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善子「Black Sheep」

1名無しさん@転載は禁止:2017/05/10(水) 01:37:40 ID:JFf8Mvsk
ああ、この手の人間か。


最初に思ったのはこんなことだった。

運動ができて勉強ができて、人付き合いも上手で友達もたくさん。

いわゆる典型的なリア充というやつで、それは私とは正反対の人種だった。

どうせ私のようなインドアで社交性のない人間とは馬が合わないのだろう。

そして得てして私のような人間はこのタイプの人間を嫌悪する。

こういう人のありかたが人間のあるべき姿だとわかっているし、この人自身とてもいい人だと思う。

でもだからこそ自分の人間としての不完全さが浮き彫りにされているような気分にもなった。

私みたいな社会に適合できない人間モドキとは住む世界が違うのだ。

だから私は、この人とはある程度仲良くはなれても、深い友好関係を築くことはないだろうと思った。

しかしこの人のそれは度を越していた。

484名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:16:09 ID:XYyqDd8o
善子「でもその一方で曜さんは悩んでたわ。自分が一緒にいることで、千歌さんを苦しめてるんじゃないかって」

善子「千歌さんのためにしてきたことが、千歌さんを傷つけているんじゃないかって」

千歌「そんなことない! そんなこと思ったことないよ!」

千歌「曜ちゃんは小さいころからずっと一緒で、私が困ってたら助けてくれて……」

千歌「何もない普通の私なんかのそばにずっといてくれた!」

善子「……へえ」

千歌「だから私は」

善子「それ、一度でも曜さんに言ってあげた?」

千歌「え……」

485名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:16:33 ID:XYyqDd8o


善子「あなた、曜さんが何かを成すたびに喜んでいたけど、だんだん笑わなくなって悲しい顔をしていたそうじゃない」

善子「曜さんはね、千歌さんにそんな顔をさせてしまったことをずっと悩んでいたみたいよ」

千歌「それは、違うよ……私は、曜ちゃんと一緒になにかをできないのが悔しくて……」

千歌「曜ちゃんを妬んだりとか憎んだりとか、そんなこと思ってたわけじゃない!」

梨子「そ、そうだよ! 千歌ちゃんは、曜ちゃんと一緒に何かをやりたいって、今一緒にスクールアイドルができて嬉しいって」

梨子「それで、スクールアイドルをやり遂げて、曜ちゃんと向き合える時がきたら、その気持ちをちゃんと伝えようって……」

善子「『その時』と言わず、ちゃんと機会を作って気持ちを伝えていたら、曜さんは傷つかずに済んだのにね?」

千歌「……っ」

善子「結局あなたは曜さんの優しさに甘えていただけですよ」

千歌「うぅ……」

486名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:18:36 ID:XYyqDd8o

善子「まあでも、私にはちょっと信じられないわ。あなたが曜さんと一緒で嬉しいなんて」

千歌「ど、どうして!? 本当のことだよ!」

善子「……そのわりにはあなた、曜さんのことなにもわかってないし、ぞんざいに扱うわね」

善子「一緒にスクールアイドル始めてくれて、最初についてきてくれたのは曜さんなのに」

善子「そんな曜さんを差し置いて、あなたは梨子さんばかり大切にしていた」

梨子「そ、そんなことない! 千歌ちゃんは曜ちゃんだって大切に思ってたよ!」

487名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:18:51 ID:XYyqDd8o
善子「いいや千歌さん、あなたは曜さんのことをそれほど大事には思ってないわ」

千歌「ち、違うよ、私は本当に、曜ちゃんが……」

善子「覚えてる? 私たちが東京でライブして、0票で帰って来た日のこと」

千歌「……」

善子「あの日、みんなが沈んでいる中あなたは一人だけ明るく振る舞っていたわね」

善子「でも本当はあなたも悔しかったし悲しかった。みんなを不安にさせないためにその気持ちを隠していた」

善子「結局あの日は梨子さんがあなたを慰めて、本音を話させたんだっけ?」

梨子「……それが、なんなの?」

488名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:19:41 ID:XYyqDd8o
善子「いや、それ自体は別にどうでもいいの。同じグループのメンバーなんだし。心配し合って手を取り合うのは当然」

善子「私もそこを責めるつもりはありません。千歌さんが本音を話すことができて、Aqoursは再スタートを切ることができた」

善子「むしろあの日、あんなことがあって良かったと思ってるわ」

善子「……でもね、覚えてる?」

千歌「え……」

善子「あの日大会が終わって0票を知らされてから、曜さんはずっとあなたを心配して声をかけていたわよね?」

千歌「!!」

善子「でもあなたはそれを無視した。悔しくないとか嘘をついて、あげく最後には曜さんの呼びかけに答えもしなかった」

千歌「そんな、違う私、そんなつもりじゃ……」

善子「……ねえ、さっきも言ったけど、私はあの日の出来事を本当に素晴らしいと思ってる」

善子「海岸で抱き合うあなたたちはドラマのワンシーンみたいに美しかった。とても感動したわ」

489名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:20:30 ID:XYyqDd8o
善子「でもおかしくない?」

善子「だって千歌さん、曜さんが心配して声をかけた時は嘘をついて明るく振る舞っていたのに」

善子「梨子さんが一言声をかけたらすーぐ泣いて本音を話しちゃうなんて」

千歌「……っ!!」

善子「梨子さんも曜さんも、どちらも千歌さんのことを案じていたのは変わらない」

善子「なのに梨子さんの時だけ随分対応が違うじゃない?」

千歌「ぁ……」

善子「ちょっと教えてほしんだけど……それあなたの中でどういうふうに帳尻があってるのかしら?」

善子「大切と言っていたわりには随分ぞんざいな対応するのね?」

千歌「あぁぁぁ……」ガクガク

490名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:21:36 ID:XYyqDd8o
梨子「善子ちゃんやめて! これ以上はいくらなんでも……」

善子「あなたたちこそ被害者ぶるのはやめなさい。曜さんの気持ちを知ろうとしないで、優しさに甘えて」

善子「傷ついてることも知らずに、トドメをさしたのはあなたたちよ?」

梨子「そんな、だって曜ちゃん、そんなこと一言も……」

善子「曜さんのせいって言いたいわけ?」

善子「曜さんはね、自分の気持ちを打ち明けたら、あなたたちが気を遣って過ごさなきゃいけなくなるって思った」

善子「あなたたちを傷つけないために! あなたたちが幸せに笑っていられるために!」

善子「ひとりで気持ちを抱えて、自分だけが傷つくことにしたのよ!」

491名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:22:34 ID:XYyqDd8o
善子「……こんなことになっても、曜さんはまだあなたたちのことが大好き」

善子「どれだけ傷ついたって、それが自分だけで済むならって一人でずっと泣いていたのよ!」

善子「そんな優しい曜さんに、よくもそんなことが言えたわね!!!」

梨子「っ……!」

千歌「うっ、ひぐっ、うぅぅ……ぐすっ……っ」

善子「……あの日、曜さんは泣いていたわ」

善子「千歌さんをまた傷つけてしまったって。私なんか千歌ちゃんのそばにはいない方がいいんだって」

千歌「や、やめて……」

善子「私なんかいなければよかったんだって、泣いていましたよ?」

492名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:23:21 ID:XYyqDd8o
千歌「わ、わたし……あぁ、曜ちゃん……曜ちゃん!」ダッ

善子「どこに行くんですか?」ガシッ

千歌「決まってるよ! 私、曜ちゃんに謝らなきゃ! 今までのこと全部! それで」

善子「それでまた、許してもらうのね」

千歌「……え?」

善子「謝れば曜さんは絶対に許してくれるわ。そしてまた笑顔で学校にきて、スクールアイドル続けてくれる」

善子「今までのように傷つきながら、そしてその傷を笑って誤魔化しながらね」

千歌「ぁ……」

善子「……いいわ、行けばいいじゃない。それで曜さんに許してもらいなさい」パッ

千歌「う……あぁ……」

善子「良かったですね千歌さん! 曜さんを犠牲にすれば、あなたたちはまた仲良し3人組に戻れますよ!」

493名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:24:12 ID:XYyqDd8o
千歌「あ、あぁぁ私、なんてことを……曜ちゃんを……うぅ」ガクッ

梨子「ち、千歌ちゃん!」

千歌「うぅぅ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」グスグス

梨子「……善子ちゃん! なんてことを言うの!」

梨子「こんな、わざわざ千歌ちゃんを責めるような、まるで千歌ちゃんが悪者みたいな……!」

善子「何言ってるの梨子さん。私はただ曜さんについて聞かれたから教えただけ」

善子「本当のことしか言ってないわ」

善子「曜さんの親友だって言いながら、曜さんのこと何一つ理解できていなかったあなたたちに文句を言われる筋合いはない」

梨子「……っ」

善子「むしろ感謝してほしいわ。大切な親友の心境を教えてあげたんだからね」

494名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:24:50 ID:XYyqDd8o
梨子「……それでも」

梨子「それでも! 千歌ちゃんにこんなこと言う必要はなかった! よそ者で、千歌ちゃんと曜ちゃんの仲を引き裂いた私ならともかく」

梨子「千歌ちゃんは、本当に曜ちゃんを想ってたよ!」

善子「……呆れた。まだそんなこと言うの?」

善子「それが本当だったらこんなことにはなってないって、さっきも言ったでしょう?」

善子「千歌さんは曜さんの優しさを無下にしてずっと踏みにじってきた。今まで曜さんが傷ついてきた分、傷つく必要があるわ」

善子「だって、曜さんだけが不幸になって、曜さんを傷つけ続けたあなたたちが幸せになるなんて、そんなの通らないもの」

梨子「……狂ってる」

495名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:26:41 ID:XYyqDd8o
善子「狂ってる? 曜さんの優しさにつけこんで幸せになろうとしたあなたたちがそれを言うの?」

梨子「……っ」

善子「私からすれば、あなたたちの方が狂ってるわ」

梨子「……わからないよ、こんなの」

梨子「曜ちゃん、ずっと私たちといて、毎日一緒にお弁当食べて、時々おかずを分けてくれたりして」

梨子「衣装だってすごいもの作って、誰にでも優しくて、いつだって笑ってて……」

梨子「曜ちゃんがどんなこと思ってたかなんて、わからないよ……!」

善子「わからない? 当たり前でしょう?」

善子「梨子さん。あなたに曜さんの気持ちがわかるわけがないわ」

496名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:28:31 ID:XYyqDd8o

善子「――だってあなたは所詮、千歌さんに救われただけだもの」


梨子「……ぁ」

善子「千歌さんのために曜さんが犠牲にしてきた13年を、あなたが理解できるはずがない」

梨子「そんな……私、曜ちゃん……」グスッ


善子「さて、曜さんの気持ち、少しでも理解できた?」

善子「曜さんの痛み、少しでも理解できた?」

善子「あなたたちが曜さんを傷つけた。曜さんをあんなふうにした」

善子「いいですか? 全部、ぜーんぶ、あなたたちのせいです」

善子「優しい曜さんが何も言わないから、私が代わりに言ってあげます」

善子「あなたたちは――」


「なに、してるの」


善子「……え」

善子「(この、声は……)」

497名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:29:04 ID:XYyqDd8o
善子「(そんな、そんなはずない! あの人がこんなところにいるわけがない!)」

「ねえ善子ちゃん」

善子「嘘、嘘よ、なんで……」




曜「私の親友に、なにしてるの……!」


善子「……曜さん」

498名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:30:12 ID:XYyqDd8o
遅れましてほんとうに申し訳ありません
いつも読んでくれてる方々ありがとうございます

499名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:39:56 ID:pB3n/Ing
これは辛い…
善子ちゃん……

500名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 09:30:50 ID:Ty1aVyXY
すごい

501名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 15:25:19 ID:wfZ1ZO4E
曜ちゃん…

502名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 17:48:18 ID:/2aC0QpI
血が出る展開じゃなくて良かった

503名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 19:13:53 ID:vdf.DERM
前々から思ってたけどこのSSセリフがかっこいいというかすごい引き込まれるな

504名無しさん@転載は禁止:2018/02/25(日) 00:26:30 ID:qayoIONU
続き気になるなぁ

505名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:19:37 ID:PTBv.v2w
善子「曜さん、どうして……」

曜「さっき遅れて学校に来たんだよ。千歌ちゃんと梨子ちゃんが屋上に行ったって聞いたから来てみれば」

曜「……善子ちゃん。二人にひどいこと言ったね」

善子「(聞かれてたのね……)」

善子「(けどそれは事実。許せなかったとはいえ二人を傷つけたのは変わらない。というかそれが目的だった)」

善子「(でも、私は……私は……)」

曜「どいてよ善子ちゃん」スッ

善子「……っ!」

曜さんはなにも言えないままでいた私を冷たく睨みつけて、それから足早に私の前で崩れ落ちている二人の下に向かった。

いつもの優しい曜さんの面影なんてまるでなくて、冷酷に、けれど激しい怒りを抱えている。

こんな曜さんを見るのは初めてで、私はただ叱られる子供のように身をすくめるしかなかった。

506名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:19:57 ID:PTBv.v2w
曜「……千歌ちゃん、梨子ちゃん」

千歌「え、あ、ようちゃん……?」

梨子「どうして、ここに? 今日は休みなんじゃ……」

曜「さっき来たんだ。それで二人のこと探しててね」

千歌「あぁ……、曜ちゃん、ごめんね、ごめんなさい、私、ずっと曜ちゃんのこと傷つけて……」グスッ

曜「そんなことないよ。私は千歌ちゃんと一緒で、ずっと楽しかったし嬉しかった」

曜「千歌ちゃんが『曜ちゃんすごいね』って言ってくれるだけで、私は幸せなんだから」

千歌「う、うぅ、曜ちゃん……!」グスグス

507名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:20:14 ID:PTBv.v2w

梨子「曜ちゃん、私も謝りたい……曜ちゃんのこと無自覚に傷つけて、千歌ちゃんと二人の仲を邪魔して……」

曜「そんなこと思ってないよ。梨子ちゃんがいたから、私たちスクールアイドル始められて、千歌ちゃんだって一生懸命頑張れたんだから」

曜「梨子ちゃんが浦の星に来てくれてよかったって思ってる。私ね、梨子ちゃんのこと、大好きだよ」

梨子「よう、ちゃん……ごめんね……」グスッ

曜「謝らないで? 梨子ちゃんは何も悪いことしてないんだから」

曜「千歌ちゃんも泣かないでよ。悲しいことなんて何もないんだよ」

508名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:20:29 ID:PTBv.v2w
善子「(……ああ、そうやって)」

善子「(そうやってあなたは、許してしまうんだ……)」

善子「(自分が傷つくことなんて構わずに、誰かが悲しまないように、自分以外の人が笑えるように)」

善子「(そうやって全部背負いこんで、それでもこうして笑顔でいようとして)」

善子「(私はそれが許せないから)」

善子「(曜さんの優しさを食い物にするやつらが許せないから!)」

善子「(これ以上、曜さんに傷ついてほしくなかったから……)」

509名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:20:41 ID:PTBv.v2w

曜「……って」

善子「……え」

曜「謝ってよ善子ちゃん。二人に謝って!」

曜「ひどいこと言ったのを、ちゃんと謝ってよ!」

善子「……!」

善子「(なんで、どうして)」

善子「(その二人の方がよっぽど曜さんにひどいことをしてるのに)」

善子「(なんでまだその二人に優しくするの)」

510名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:20:58 ID:PTBv.v2w
善子「(……認めない。たとえ曜さんの言葉でも)」

善子「(私は、絶対に……)」

善子「(絶対に……)」

善子「……」

曜「どうしたの? はやく謝って」

善子「……せん」

曜「……聞こえないよ。もっと大きい声で」

善子「……ません」

曜「二人にも聞こえるように!」




善子「謝りません!!!」

曜「!!!」

511名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:21:12 ID:PTBv.v2w
善子「だって私は間違ってない!!!」

善子「曜さんが悲しんでることなんて知らないで、のうのうと笑って過ごしてたこの人たちを許せない!」

善子「曜さんの気持ちを踏みにじった千歌さんも! 居場所を奪った梨子さんも!」

善子「そのことを理解すらしていない二人を、私は許さない!」

善子「謝るのはこの人たちでしょう!? 曜さんを除け者にして、二人だけでわかり合って」

善子「曜さんのことたくさん傷つけた! だから」

曜「善子ちゃん!!!」パシン!

善子「……っ!」

512名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:21:24 ID:PTBv.v2w
善子「(たぶん、本気で叩かれた気がする)」

善子「(あの曜さんがこんなことまでするくらいに、私は許されないことをしたのだろう)」

善子「(でもこれでいい。これは、私が許せなかっただけ。それだけの話。誰に許しを請うつもりもない)」

善子「(曜さんに嫌われたって、見捨てられたって構わない)」

善子「(曜さんを傷つけるもの、不幸にするもの全部、許さないって決めたんだから)」

善子「(だから……)」

善子「たとえ曜さんの言うことでも、私は謝らない!」

曜「……善子ちゃん」

513名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:21:37 ID:PTBv.v2w
曜「善子ちゃん、私前に言ったよね」

曜「私は善子ちゃんが、誰かを傷つけちゃいそうなら止めてあげるって」

曜「……これはきっと私が弱くて、善子ちゃんに頼りすぎちゃったから起こったこと。だけど」

曜「それでも私は、二人を傷つけたことは許せないの! だから……ちゃんと、謝ってよ」

善子「……いいえ、いいえ! 私は許してもらおうなんて思わない!」

善子「だって! ここで許したらまた曜さんが傷つくんでしょう!?」

善子「私はどんなことがあっても曜さんを守るって決めたもの!」

善子「誰にも理解されなくたって! たとえ曜さんにさえ理解されなくたっていい!」

善子「私は絶対謝らない!!!」

曜「善子ちゃん!」バッ

善子「……っ」

514名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:22:00 ID:PTBv.v2w
「そこまでよ、二人とも」

善子「え……」

曜「ま、鞠莉ちゃん……」

鞠莉「曜、その手を降ろしなさい。後輩を叩いちゃだめよ」

鞠莉「善子も落ち着いて。ちょっと興奮し過ぎ」

善子「マリー……」

鞠莉「……これ以上は、もうやめて」

515名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:22:52 ID:PTBv.v2w
今回はここまで
いつも読んでくれてる方々ありがとうございます
おそらく次でバッドエンド√ラストです

516名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 12:35:03 ID:w9HD2us.
乙です
このルートはよっちゃんが可哀想すぎる…

517名無しさん@転載は禁止:2018/03/01(木) 01:19:32 ID:5uhHFNps

善い子だなー

518名無しさん@転載は禁止:2018/03/01(木) 23:00:03 ID:npVoDsYg
愛 だよなあ…

519名無しさん@転載は禁止:2018/03/02(金) 23:53:06 ID:7IhkXmEk
曜ちゃんは確かに自分はこれでいいんだって感じで嫌なことでも黙って受け入れそう

520名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:23:13 ID:4.ZUo67I


曜「邪魔しないでよ鞠莉ちゃん! 私たちはいま……」

鞠莉「曜」ギロ

曜「っ……」

鞠莉「……そんなことよりも、あなたにはやることがあるでしょう?」

曜「!! 千歌ちゃん! 梨子ちゃん!!」

千歌「うっ……うぅ……ひぐっ、うう……」

梨子「……」グスッ

鞠莉「曜。二人を連れて理事長室まで来てちょうだい。話があるわ」

曜「……うん」

521名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:23:30 ID:4.ZUo67I

鞠莉「善子」

善子「……はい」

鞠莉「あなたのことは、あの子に頼んであるから」

善子「(……あの子?)」

ルビィ「善子ちゃん……」スッ

善子「ルビィ……あんたも来てたのね」

ルビィ「……うん」

鞠莉「あとは任せるわ。曜。ちかっちと梨子を連れてついてきて」

曜「……うん。二人とも立てる?」

梨子「……私は大丈夫、だけど」

千歌「う、ぐすっ、ひっ……うぅ……」

曜「……肩貸すよ。行こう千歌ちゃん」

千歌「うぅ……ようちゃん、ごめんね……ごめんなさい……」グスグス

曜「……」

鞠莉「……行くわよ」

522名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:23:46 ID:4.ZUo67I

バタン

善子「……」

ルビィ「あの、善子ちゃんごめんね。鞠莉ちゃんに気づかれて、足止めはしたんだけど……」

善子「いいえ。むしろいいタイミングだったわ。やることはやったから」

ルビィ「……そっか。やったんだね」

善子「……うん」

ルビィ「大丈夫?」

善子「後悔は、してない。私はきっと、ずっとこうしたかったんだとすら思ってる」

善子「……許せなかった。あの人たちを。それが、間違っていることでも……」

ルビィ「善子ちゃん」ギュ

善子「……」

ルビィ「間違ったことでも、それが善子ちゃんの選んだことなら、ルビィは褒めてあげる」

ルビィ「つらかったね。がんばったね」

善子「……うん……うん……っ!」グスッ

523名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:24:24 ID:4.ZUo67I
ルビィ「これからどうなるかはわからない。もしかしたら、もうAqoursはダメかもしれないけど……」

善子「……ごめん」

ルビィ「ううん。私は善子ちゃんを責めないよ」

ルビィ「でも、善子ちゃんはこれからどうしたい?」

善子「……先のことは何も考えてなかったわ。私はきっと施設送りだろうけど、もうどうなっても構わない」

善子「ただ、これからも曜さんが傷つかないでいられるようにしてあげたい、かな」

ルビィ「うん。善子ちゃんのしたいようにするといいよ。私も手伝うからさ」

善子「……ルビィ、ありがとう」


そこから先のことはよく覚えてない。

やることをやって緊張の糸が切れてしまったのか、私はぷっつりと意識を失ったそうだ。

私はその後お母さんに迎えに来てもらって、気づいたら家のベッドで横になっていた。

524名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:24:40 ID:4.ZUo67I
あとからルビィがうちに来ていろいろ教えてくれた。

私はマリーから3日の自宅謹慎言い渡された。そして来月から3ヵ月、東京の特別施設で検査をしなければならない。

2年生の3人は学校に来ていないらしい。

千歌さんは部屋で一人でずっと泣いていて、食事にもあまり手をつけていないそうだ。

梨子さんも部屋に閉じこもって、名前を呼んでも生返事しかしないらしい。

曜さんは最初は学校に来ていて、そんな様子の2人を励まそうとしたけどやがて諦めて、とうとう学校にも来なくなってしまったようだ。

要の3人を失ったAqoursがまともに活動などできるはずもなく。

私たちは地区予選を辞退した。

必然的に浦の星を存続させる方法はなくなり、統廃合はほぼ決定してしまったらしい。

525名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:24:53 ID:4.ZUo67I
善子「……失礼します」


謹慎が明けて、私は理事長室に呼びだされた。

今までのこと、屋上でのこと、そしてこれからのことを話し合うとのことだ。

私一人では心細いだろう、ということでルビィもついてきてくれた。


鞠莉「あなたを責めるつもりはない。これは監視を怠った私のミス」

鞠莉「だけどこんなことが起こってしまった以上、あなたの検査は避けられない。少しの間東京に行ってもらうわ」

善子「……はい」

ルビィ「善子ちゃんは、どうなるんですか?」

鞠莉「検査結果次第ね。指数が高く疾患が重度と判断されればそのまま向こうで施設通い」

鞠莉「良い結果なら帰ってこられるかもね」

ルビィ「そう、ですか……」

526名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:25:05 ID:4.ZUo67I
鞠莉「あと2年生については私が今動いてる。それぞれのお宅に訪問してるけど……相変わらずね」

鞠莉「ちかっちも梨子も、まともに会話すらしてくれない。『私が悪いです』の一点張りでね」

鞠莉「ちかっちのほうは幼馴染みの果南が行っても、何も話してくれなかったみたい」

善子「……」

鞠莉「……確かに、あの子たちは曜のことを考えているようで考えられていなかった」

鞠莉「善子の話を聞いてもちかっちと梨子に非がある部分は少なくないと思う」

鞠莉「でも、あなたもあの二人が全部悪いだなんて思ってないでしょう?」

善子「……」

527名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:25:19 ID:4.ZUo67I
鞠莉「ちかっちと梨子が曜を理解できていなくて、知らず知らずのうちに追いつめる形になってしまっていたのは事実」

鞠莉「二人が恋仲になってしまったことも、曜がショックを受けた原因」

鞠莉「それが決定打になったみたいだけど、曜自身二人を祝福したい気持ちは確かにあった」

鞠莉「何より、誰かが恋人同士になることが悪いことなわけがない。人が人を好きになっただけなんだから」

鞠莉「あなたもそこは、分かってたはずよ」

善子「……はい。それでも私は、私は……」

鞠莉「……まあ、私たちは理屈じゃないものね」

鞠莉「気持ちはわかるわ。だからといって許されるわけではないけれど……」

528名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:25:33 ID:4.ZUo67I
鞠莉「それとね、曜のことなんだけど」

善子「……!」

鞠莉「あの子もだいぶ精神的に参ってるわ。というか、本格的に壊れちゃってるかも」

善子「え……」

ルビィ「それって……」

鞠莉「普通に会話はできるんだけど、ちかっちの名前が出ると大泣きし始めてね」

鞠莉「全く話が通じなくなっちゃう。あの屋上でのことがあった日はちゃんとしていたんだけど」

鞠莉「ちかっちと梨子に謝りながら、ひとりぼっちはやだ、って泣きながらずっとつぶやいてる」

善子「……」

鞠莉「……近いうち、検査に回されるかもね」

善子「そう、ですか」

529名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:26:03 ID:4.ZUo67I
鞠莉「それと、Aqoursの活動は休止。私たち3年はもうスクールアイドルを続けないわ」

ルビィ「えっ……」

善子「……」

鞠莉「後輩が苦しんでるのに、先輩の私たちがアイドルやってるわけにはいかないから」

鞠莉「あなたたちが悩んでること。悲しんでること。気づけたはずなのに……」

鞠莉「私は、私たちはなにもできなかった。後輩を助けられなかった」

鞠莉「だから、私たちはここでおしまいにすることにしたの」

530名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:26:18 ID:4.ZUo67I
ルビィ「あの!!!」

鞠莉「うん?」

ルビィ「わ、私は、花丸ちゃんとスクールアイドル、続けたいです……」

ルビィ「もしかしたら、みんな元気になって、元通りになって、そうしたら……」

ルビィ「……その時、戻ってこられる場所があればいいなって、思うんです」

鞠莉「それはもちろんオッケーよ。あなたたちは何も悪いことしてないもの。3年生もできるだけ手伝ってあげる」

善子「ごめんね、ルビィ。私のせいで……」

ルビィ「違うよ! 善子ちゃんを責めたいわけじゃないの。ただ……」

ルビィ「ただルビィは、みんなも、善子ちゃんも戻ってきてくれるって、信じたいから……」

善子「……」

531名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:26:36 ID:4.ZUo67I
鞠莉「色々な手続きは私とダイヤの方でしておくわ。何か困ったらいつでも言って」

鞠莉「私たちはいつまでも、あなたたちの先輩なんだからね」

ルビィ「はい」

善子「……はい」

鞠莉「はぁ……それにしても、あの子たちは本当にダメね」

鞠莉「自分の気持ちはちゃんと伝えなきゃダメだって、バカな先輩たちがダメな見本を見せたあげたのに」ポロポロ

鞠莉「善子、ルビィ。あなたたちはこうなっちゃダメよ?」


――

理事長室をから出ると、中からマリーの泣き声が聞こえてきた。

私が巻き起こしたこと。二年生が壊れてしまったこと。

Aqoursがバラバラになってしまったこと。

それら全てを嘆いて、悲しんでいるのだと思う。私は引き起こした張本人だから慰めの言葉なんて言えない。

いっそ思いっきり責めてくれたのなら楽になれるのだけど、みんなは優しかった。

私はあの時のことを後悔はしていない。でも千歌さん達を傷つけたことが許されるとも思っていない。

あの人たちには確かに怒りがあったけれど、同時に大事な先輩でもあった。そんな矛盾に似た思いが私にはあったから。

私は奇妙な達成感と罪悪感でいっぱいになりながら、検査に送られる日を待った。

その間ルビィと花丸は、何もなかったかのように私に接してくれた。

532名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:26:56 ID:4.ZUo67I
――

東京に向かう日は、あっという間に来た。


ルビィ「善子ちゃん、体調には気を付けてね」

善子「うん。ありがと」

花丸「寂しくなるずらね」

善子「……ごめんね」

花丸「ううん。でも、必ず帰ってきてね」

ルビィ「花丸ちゃんと、待ってるからね」

善子「……うん」


ルビィと花丸に見送られて、私は3か月の施設通いに向かった。

施設、とはいってもほぼ学校のようなもので、校舎もあり学年も分かれている。

普通の高校と違うのは専用の設備があることくらいで授業なども普通に行われるし、寮暮らしになること以外生活に大きな変化はない。

私はここで普通に授業を受けつつ、検査と経過観察によって今後のことを決められる。

ここに残って治療を受けるか、浦の星に戻るか。

533名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:27:12 ID:4.ZUo67I

「善子、あなた結局ここに戻ってきたのね」

「やー! よっちゃん久しぶり〜! 元気してましたか〜?」


中学の頃、こっちの施設に通っていたときに仲良くしていた友達がいて、幸い一人で寂しいということはなかった。

むしろ気心の知れた仲間がいて気が紛れた。まあ、この二人以外は変な人の方が多いのだけど。

私と同じように疾患を持っている二人は、私がここに戻ってきた経緯については同情してくれた。

私たちには、よくあることだから。

理解してくれる、というのは思った以上に私を安心させてくれた。

ルビィと花丸といるときとはまた違う安心感。

辛かったね。

大丈夫だよ。

そんな優しい言葉をかけてくれる二人が、いつも私を心配してくれたルビィと花丸と重なって見えて、なぜか涙が出そうになった。

534名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:27:26 ID:4.ZUo67I
こっちに来てからも2年生、特に曜さんのことは気になった。

けれど私にはどうすることもできないのも事実で、そこはマリーやルビィ達に任せるしかなかった。

でも、これでよかったのかもしれない。

あの人たちと同じ土地にいる、ということが心の負担になっていて、正直耐えられそうになかった。

ここにいる間は、千歌さんと梨子さんへの憎悪と後ろめたさ、曜さんへの罪悪感を忘れられる。

それは罪から目を背ける卑怯なことだけど、私にはもうどうしようもなかった。

あんな別れ方をしたからもう会ってくれないかもしれないけど、今でも曜さんを慕う気持ちは変わらない。

でも結果として私は曜さんを守るどころかもっと傷つけてしまって、そのことだけがただ悲しかった。

結局私には、みんなを不幸にすることしかできないんだ、と。

友達二人に励まされながらもどこか上の空で、諦めに似た無気力が私を覆っていた。

そんなふうに大人しくしていたからか、私の精神状態は特に異常なし、経過良好と見られ、3か月も待たずに浦の星に戻ることになった。

535名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:28:08 ID:4.ZUo67I
友達二人がささやかなお別れ会を開いてくれて、帰り際には見送りにまで来てくれた。

「よっちゃん、また来てね! いつでも待ってるよ!」

「戻ってきちゃダメな所なんだけど……でもまた会おうね」

短い間でも私を元気づけて一緒にいてくれた二人との別れを惜しみながら、私はあの場所へ帰る。

幸せな思い出と、それと同じくらい大きな悲しみが残る浦の星へ。



その帰り道に、私のスマホに一件のメッセージが入った。

差出人は……


「曜さん……?」


――善子ちゃん、明日会えない? うちに来てくれると嬉しいな

536名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 03:28:55 ID:4.ZUo67I
すみません、思ったより長くなりそうなので分割します
次こそバッドエンド√ラストです
いつも読んでくれてる方々ありがとうございます

537名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 04:10:07 ID:Qz/RGLfY
おつ
待ってる

538名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 10:30:20 ID:gLRwfHSA
待つ

539名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 12:20:19 ID:ni1LdnH.
乙です
相手のことを想って行った行動がこうも辛い結果になるなんて人同士が分かり合うのって難しい…

540名無しさん@転載は禁止:2018/03/06(火) 15:21:49 ID:OgtDL81w
友達二人ってまさかお花ちゃんたちか
どうなるかドキドキする

541名無しさん@転載は禁止:2018/03/07(水) 00:57:12 ID:bAT4JM3E
おつ

542名無しさん@転載は禁止:2018/03/07(水) 01:14:19 ID:84HlhgXQ
ようちゃんも、こわれてしまったのか…

543名無しさん@転載は禁止:2018/03/11(日) 18:00:50 ID:LQqOODKE
一気に読んでしまった…
こういう誰も悪くないはずなのに関係が壊れてしまう話めっちゃ好き
バッド√ラスト楽しみ

545名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 06:43:35 ID:ZoJ3UmI.
すみません、少し見直しするので夜に投稿します

546名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 08:09:16 ID:b3KFj2Vw
待ってるぞ

547名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 12:49:23 ID:bRavJmV6
待ってます

548名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:20:19 ID:ZoJ3UmI.

コンコン

善子「曜さん。善子です。入りますよ?」

ガチャ

曜「ああ、善子ちゃん……久しぶりだね」

久しぶりに会った曜さんはずいぶんとほっそりとしていて、以前の元気で明るい彼女とはまるで別人だった。

曜「ごめんね、急に呼びだしちゃって。昨日東京から帰って来たばかりなんでしょ?」

善子「ううん、大丈夫。私も会いたかったから」

曜「そっか……」

549名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:20:38 ID:ZoJ3UmI.



曜「善子ちゃん」

善子「……はい」

曜「ごめんね」

善子「……え?」

曜「私あの時、混乱して善子ちゃんに強く当たっちゃって。謝りたかったんだ」

善子「な、なに言ってるの! そもそも私があの二人にひどいことを言ったから……」

曜「それでも。はたいちゃったのはやりすぎだったと思うから。だからごめんね」

善子「……どうして」

曜「え?」

550名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:20:51 ID:ZoJ3UmI.

善子「どうしてそんなに、優しいんですか」

善子「どうしてそうやって、何もかも許してしまうんですか」

善子「辛いこと、許せないこと、そういうもの全部抱え込んで」

善子「自分が我慢すればいいって、それでみんなが喜んでくれるって」

善子「曜さんはこんなに苦しんでいるのに!」

曜「……」

善子「私はそれが許せなかった! 曜さんが、じゃない。曜さんの優しさに甘えて、傷つける人たちが許せなかった!」

善子「だから……」

曜「善子ちゃん」

善子「……っ」

551名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:21:04 ID:ZoJ3UmI.

曜「善子ちゃんの言う通り、私は周りのみんなが、千歌ちゃんが笑ってくれるなら、私自身はどうなってもいいって思ってた」

曜「果南ちゃんにはさ、一人で抱え込むなって、もっと頼りなよって言われたこともある」

曜「私もね、何度か助けてもらおうって思ったことはあるんだけど、やっぱり自分ひとりでも何とかなるかな、とも思えて」

曜「それなら、そんなことで他の人に迷惑かけちゃだめだなって思っちゃうんだ」

曜「私は、一人で大丈夫だって」

善子「……」

552名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:21:19 ID:ZoJ3UmI.
曜「……善子ちゃんは、いつも私の心配をしてくれたよね」

曜「私が苦しいとき、つらいとき、いつだってそばにいて元気づけようとしてくれた」

曜「善子ちゃんに迷惑かけないように、私も善子ちゃんを頼りすぎないようにしてたけど」

曜「……ごめんね。それが善子ちゃんを傷つけていたんだよね」

善子「そんな! そんなこと……」

曜「初めて会ったときさ、善子ちゃんが疾患を抱えてるって知って、私が力になって助けてあげようって思ってたのに」

曜「逆に私が、善子ちゃんを追いつめて、悪化させる原因を作っちゃったんだ」

曜「だからあれは、私のせいなんだ」

553名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:21:36 ID:ZoJ3UmI.


曜「ごめんね善子ちゃん。こんな情けない先輩で……」グスッ

曜「ずっと、謝りたかったの……いつも心配してくれた善子ちゃんを、傷つけちゃったこと」グスグス

善子「(……ああ、そうか)」

善子「(私もまた、私が嫌う人たちのように)」

善子「(曜さんに、許されていたんだ)」

善子「(その優しさに甘えて、曜さんを食い物にしていたんだ)」

善子「……」

554名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:21:49 ID:ZoJ3UmI.
善子「……曜さん」ギュ

曜「善子ちゃん……?」

善子「あなたは強い人だから」

善子「どんなに辛いことがあっても、それを受け止めて、笑顔でいられる人だから」

善子「そんなあなただから、私は幸せになってほしいと思ったんです」

善子「これからは、私があなたを守りますから」

善子「もう、一人で泣かないで」ギュ

555名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:22:12 ID:ZoJ3UmI.
曜「善子ちゃん……」

善子「はい」

曜「私やっぱり、千歌ちゃんと梨子ちゃんは大切な友達だと思ってる」

曜「だから、どんなことがあっても、あの二人を傷つけたことを肯定することはできない」

善子「……」

曜「だからね、私は善子ちゃんにこう言うよ」



曜「私を守ろうとしてくれて、ありがとう」

善子「……っ!」ポロポロ



その言葉が、私にはなによりも愛おしく思えて、涙が止まらなかった。

こんなことになってまだ、こんな私に、そんな言葉をくれるなんて。

きっと誰よりも辛いはずなのに。友達を傷つけた私が憎くて仕方無いはずなのに。

私を許してくれる曜さんは、そんな気持ちさえも包んで、溶かして。

また一人で泣いて、傷つくのだろう。

笑顔でい続けるのだろう。


そんなあなたが、私は大好きなんです。

556名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:22:27 ID:ZoJ3UmI.
――


曜「じゃあね、善子ちゃん。気をつけて帰ってね」

善子「はい。曜さんも……ゆっくりやすんで」

善子「また一緒に、学校行きましょう」

曜「うん! 頑張るよ」

善子「じゃあ」

曜「またね!」

曜さんは笑顔で私を見送ってくれた。

以前のような明るく優しい、私の大好きな笑顔で。




それが、私が見た最後の曜さんの笑顔だった。

557名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:22:43 ID:ZoJ3UmI.
その翌日、曜さんは自室で亡くなった。

リストカットによる自殺だそうだ。

部屋には遺書が残されており、ご両親やAqoursのみんなへの感謝、そして謝罪が書かれていた。

私が見たのは、手首を見なければどこにも傷なんてない。いつもの優しくて綺麗な顔立ちをした曜さんだった。

だから、少し呼びかければすぐにでも起き上がって、あの笑顔を見せてくれるように思えた。

でも、そうはならない。

彼女はもう目を覚ますことはないし、大好きな飛び込みをすることもない。

歌うことも、踊ることも。

私の大好きな、あの優しい笑顔を見せてくれることも、もうあり得ない。

信じられなかった。

だってこんなに、綺麗な顔をしているのに。

558名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:23:19 ID:ZoJ3UmI.
ルビィと花丸は泣いていた。

マリーとダイヤさんは悲痛な表情で俯いて、果南さんは怒っていた。

梨子さんは魂が抜けたような顔をして、千歌さんは葬儀に来なかった。

私は、ただ立ち尽くしていた。泣くこともなく、怒ることもなく。

いろんな気持ちがありすぎて、どの気持ちが一番かわからなかったから。

また一緒に、学校へ行こうって言ってくれたのに。

ありがとうって、言ってくれたのに。

559名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:23:38 ID:ZoJ3UmI.
曜さんの煙が上がった。

その日は雲一つない晴天で、煙の白がよく映えた。

まるであなたの瞳のように、綺麗に澄んだ青空でした。

ああ、もうあなたに会うことはないんですね。

もう私の名前を、呼んではくれないんですね。


その時になって、ようやく私は曜さんとのお別れを実感して、少しだけ泣いた。

その後のことはよく覚えていない。

心ここにあらず、という感じで、残り少ない浦の星での学校生活を過ごした。



そして、2年が過ぎた。

560名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:23:52 ID:ZoJ3UmI.
浦の星は予定通り春に廃校し、私たちは沼津の高校へ通学することになった。

私はもともと沼津に住んでいるから不便なことはない。

もう浦の星に行くこともないと思うと少し寂しいけれど、同時に安堵もしている。

あそこには、幸福と不幸の両方の思い出があるから。

ルビィと花丸とは相変わらずで、3年になっても同じクラスで3人一緒にいた。

私の疾患はもう完全になくなってしまったようで、心が空になったみたいにむなしさが溢れていた。

私の中の強い衝動は完全に消えてなくなってしまって、怖いくらい静かになった心には、何も残らなかった。

きっと曜さんが最後にくれた言葉が、そしてお別れが私の中の化け物を消してくれたのだろう。

静かすぎて逆に不安にもなったけど、曜さんからの贈り物と考えると、この空虚さも悪くないと思えた。

561名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:24:26 ID:ZoJ3UmI.
千歌さんと梨子さんについては知らない。本当に何も知らない。

私の耳に二人のことは届いてこなかったし、ルビィと花丸も何も言わなかったから。

ただまあ、なんとなく予想はつく。

きっと元に戻らないくらい壊れてしまっているのだろう。

あの後に2人で会ったのか、会話をしたのかは知らない。

でも曜さんの死を知った2人が、まともでいられるはずはないから。

まあ、私の思惑通り、相応の傷を負ってはくれたのだろう。

今はその事実にすら、悲観もしないし感慨も湧かない。

562名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:25:12 ID:ZoJ3UmI.
――梨子の部屋


――曜ちゃんに謝りに行ってきます。それで仲直りして、今度は曜ちゃんが寂しくないように、ずっと一緒にいてあげようと思います。

――梨子ちゃんごめんなさい。勝手にいなくなってしまうこと、許してください。


梨子「……いってらっしゃい、千歌ちゃん」ガサッ

梨子「私ももう少ししたらそっちに行くよ」

梨子「曜ちゃんにもちゃんと謝る。それでもし許してくれるなら」

梨子「私も、一緒にいても、いいかな……」グスッ

梨子「う、うぅ……ひぐっ、うぇ、ぐすっ……」

梨子「千歌ちゃん、曜ちゃん。ごめんね。私がここにこなければ、二人はずっと仲良しのままだったのに……」

梨子「ごめんなさい……ごめん、なさいっ……」

563名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:25:25 ID:ZoJ3UmI.
そして、瞬く間に私たちは卒業を迎えた。


鞠莉「卒業おめでとう、3人とも」

ルビィ「あっ! 鞠莉さん!」

花丸「久しぶりずら〜」


私たちが卒業式を終えて3人で帰ろうとしていたところに、マリーが来てくれた。

今日に合わせて海外の大学から帰ってきてくれたらしい。


善子「そんなわざわざ来てくれなくてもいいのに」

鞠莉「ふふっ、まあそう言わずに! ちょっとしたプレゼントをあげようと思ってね」

ルビィ「プレゼント?」

鞠莉「3人とも、浦の星の校舎に行かない?」

564名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:26:28 ID:ZoJ3UmI.
廃校になった浦の星は校舎自体はまだ残っていて小原家が所有している。

だから小原家のマリーの許可さえあればまだ入ることはできる。

最後の思い出に浦の星を見て回るといい、というマリーの計らいだった。

鞠莉「まあその後にパーッとお祝いでもしましょ!」

花丸「お祝い! 楽しみずら!」

ルビィ「えへへ、そだね!」

鞠莉「さ、鍵は空けたから好きに見て回るといいわ。私はここで待ってるから」

善子「ありがとうマリー」

鞠莉「ううん。いってらっしゃい。それと善子」

善子「?」

鞠莉「これを――」

565名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:26:51 ID:ZoJ3UmI.
――

花丸「図書室、懐かしいな〜」

ルビィ「最後はずっといたもんね、私たち」

善子「……そうね」

花丸「……これであらかた回ったずらね」

ルビィ「戻ろうか?」

2人はあえて、部室と屋上だけは避けて校舎を回った。

Aqoursの思い出が強く残る場所は避けてくれたのだろう。最後まで優しいな。

善子「ねぇ、2人とも」

ルビィ「ん?」

花丸「ずら?」

善子「先に戻っててくれない? 少し1人で回りたいの」

566名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:27:43 ID:ZoJ3UmI.
善子「……」

静まった校舎を一人で歩く。

少しだけ感傷的になって、窓から外を見る。

夕日が浦の星を、内浦を照らしている。

この時間は、ちょうどAqoursの練習をしている時間だったかな。

もう来ることもないと思っていた場所。だけど、来たら来たでやっぱり思い出がよみがえってきて。

少しだけ、悲しくなる。

もし、全部うまくいっていたら。私が真っ当な人間であったなら。

そんな意味のないことを考えてしまう。

気がつくと目の前には、屋上に続く階段があった。

Aqoursの思い出がたくさん詰まっている場所だ。

そして、私がすべてを壊した場所。

567名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:28:14 ID:ZoJ3UmI.
善子「……」

屋上へ続く階段を登ろうとした、その時。

「善子ちゃん!!!」

善子「……ルビィ?」

ルビィ「ま、待って……善子ちゃん……」ハァハァ

善子「どうしたのよ、そんな息切らして」

ルビィ「善子ちゃん、善子ちゃん……」

善子「……なんて顔してんのよ、何かあったの?」

ルビィ「善子ちゃん……」

善子「?」

ルビィ「行かないで」ギュ

善子「……!」

ルビィ「どうか、いなくならないで……」

568名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:28:55 ID:ZoJ3UmI.
ルビィ「2年前のあの日、Aqoursが終わってしまった日」

ルビィ「お姉ちゃんたちはバラバラになって、曜さんも、千歌さんも梨子さんもいなくなって」

ルビィ「ルビィには、もう花丸ちゃんと善子ちゃんしかいない」

ルビィ「もう、誰にもいなくなってほしくないの……」

善子「……」

ルビィ「ルビィね、怖かったの。善子ちゃんが東京に行ったとき」

ルビィ「もしかしたら、善子ちゃんは戻ってこないんじゃないかって」

ルビィ「浦の星でできたたくさんの友達が、みんないなくなっちゃうって」

569名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:32:29 ID:ZoJ3UmI.
ルビィ「卒業したら、確かに私たちはバラバラになっちゃうけど、会えないわけじゃない」

ルビィ「たまに休みの日とかに予定合わせてここに帰ってきて、花丸ちゃんと3人でごはん食べに行ったり」

ルビィ「20歳超えたら、お酒とかも飲んで……大人になっても、そうやってずっと一緒でいたいって思うの」

ルビィ「ねぇ、そんなことを考えてたのは、ルビィだけなの……?」

善子「……そんなこと、ないわ」

善子「私だって、あんたたちとそうやって生きていきたいって思う」

ルビィ「じゃあ、どうして」

ルビィ「どうしてそんな、悲しそうな顔してるの……?」

570名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:32:48 ID:ZoJ3UmI.


善子「……そっか。バレてたか」

ルビィ「わからないと思った? ルビィが、善子ちゃんのことを。なにもわからないって」

ルビィ「バカにしないでよ! 善子ちゃんが考えてることなんか全部わかる! 2年前からずっと!」

ルビィ「ぜんぶ、わかるんだから……」グスッ

善子「……そうね。あんたはずっと、私を理解してくれていたわね」

善子「あんただけは、私の心をわかってくれた。それにどれだけ救われたか」

ルビィ「……」

善子「感謝してるわ。あんたに会えて本当によかった」

571名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:33:05 ID:ZoJ3UmI.
善子「なにも、突然こうしようって決めたわけじゃないのよ。いつかやろうって思ってた」

善子「それが今日、いろんなことが重なって、今やらなきゃって思ったの」

ルビィ「それって、さっき鞠莉さんからもらってた手紙と関係あるの?」

善子「ああ、これ? そうね。これがきっかけなのかも」

ルビィ「何が書いてあるの……?」

善子「これね、私宛ての曜さんの遺書なんですって」

ルビィ「え……?」

善子「今日までマリーがあずかっててくれたみたい。律儀よね」

572名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:33:45 ID:ZoJ3UmI.
善子「……私ね、思いだしたの。いろんなこと」

善子「浦の星に来たけど塞ぎ込んでたこと。みんなに会えて、アイドル始めたこと」

善子「そのおかげで毎日が楽しくなったこと。幸せな気持ちになれたこと」

善子「……好きな人ができたこと」

善子「ねぇ、私、本当に幸せだったの。Aqoursのみんなが、曜さんがいればなにもいらなかった」

善子「幸せ過ぎて嬉しくて、だからそれが壊れたとき、私は耐えられなかった」

善子「だから、私はAqoursを……」

ルビィ「……」

573名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:34:03 ID:ZoJ3UmI.
善子「でも、あんなことをしたのに誰一人として私を責めなかった」

善子「そんな優しい人に囲まれながら、あんたみたいな友達がそばにいながら、私はとうとうまともな人間になれなかった」

善子「どこまで行っても私は、人間モドキでしかなかった」

善子「そんな私が、このままのうのうとあなたたちと一緒に、生きていていいわけがない」

善子「いつか絶対に、あなたたちをまた不幸にする」

ルビィ「そんな……」

善子「だから、こうしなくちゃいけないの。そう決めたの」

ルビィ「そんなのどうだっていい!」

善子「!」

ルビィ「やめてよ! そんなの、そんなの勝手だよ!!!」

善子「ルビィ……」

ルビィ「ルビィ言ったよ!? 善子ちゃんの味方だって! 善子ちゃんを応援して、支えてあげるって! そう決めたって!」

善子「……」

ルビィ「善子ちゃんみたいな人が、一生懸命幸せになろうって頑張ってて、ルビィはそれが本当に素敵だって思った」

ルビィ「だから善子ちゃんが選んだ道を、最後まで見届けたいって……」

善子「……じゃあ、ルビィ」

574名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:34:33 ID:ZoJ3UmI.
善子「私が決めたこと、最後まで応援してくれる?」

ルビィ「ぁ……」

善子「あなたは私を一番理解してくれた。それは同じ疾患者で、そういう疾患をもってるから、というのもあるけど」

善子「それ以上に、あなたは私を心の底から親友だと思ってくれていたから」

善子「だから、私が今どれだけの決意で言ってるのか、わかるわよね?」

ルビィ「ずるい、ずるいよ、そんなの……」

善子「……ごめんね、あなたには最初から最後まで、つらい思いさせてばかり」

善子「結局あなたにも、なにも返せなかったわね」

善子「こんなこと言うの、ずるいと思うんだけど……」



善子「あなたは私の、最高の親友よ」

ルビィ「う、うぅぅぅ……ぐすっ、よしこ、ちゃん……っ」グスグス

575名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:35:22 ID:ZoJ3UmI.

善子「最後に、あなたと話せてよかった」

善子「どうか、花丸と一緒に幸せに生きてね?」

ルビィ「うぅ……うん……」

善子「花丸にも謝っておいて」

ルビィ「わかった」

ルビィ「ごめんね善子ちゃん。こんなみっともないことしちゃって」

善子「ううん。嬉しいわ」

ルビィ「本当はまだ、納得できてないけど……」

ルビィ「でも、善子ちゃんが、決めたことなんだもんね」

善子「……ええ」

ルビィ「じゃあ私は、頑張ルビィって、言わなきゃね」ニコッ

善子「……ありがとう」

ルビィ「いってらっしゃい、善子ちゃん」

576名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:35:53 ID:ZoJ3UmI.
善子「……」

――

鞠莉「これを――」

善子「これは?」

鞠莉「曜の遺書よ」

善子「……え、でも遺書はもう」

鞠莉「実は曜はもう一つ遺書を書いていたの。あなた宛てにね」

善子「……!」

鞠莉「あなたが卒業したら渡すようにって、曜のお母様からあずかっていたの」

鞠莉「もちろん中身は読んでないわ」

善子「……ありがとう、ございます」

鞠莉「確かに渡したわ。曜の最後のメッセージ。しっかり受け止めてね」

――

577名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:36:31 ID:ZoJ3UmI.
善子ちゃんへ

これを読んでいるということは、もう私はいなくなってしまっているでしょう。

まずは、あんな形でお別れになってしまったことを謝らせてほしい。ごめんなさい。

あの日善子ちゃん言われたこと。確かにその通りだと思う。

私は昔からいろんなことが一人でできて、辛いこととかも一人でなんとかしてしまえる。

だから誰かに頼らないで、私が頑張れば誰にも迷惑はかからない。みんなに心配かけなくていいって一人で背負いこんじゃう癖がある。

苦しいと思うことはもちろんあった。

でも、それを嫌だと思ったことは一度もないんだ。

私は、みんなが笑っている顔がすき。千歌ちゃんの元気な笑顔も、梨子ちゃんの優しい笑顔も。

善子ちゃんの幸せそうな笑顔も。

それを守るためなら、私がどれだけ苦労したっていいって思ってた。

でもそうすることで、善子ちゃんを傷つけてしまうとは思ってなかった。

バカだよね?

一番私を心配してくれた善子ちゃんを傷つけないようにしてたのに、それが一番善子ちゃんを追いつめてたなんて。

私ね、今まで善子ちゃんみたいに本気で心配してくれる人なんていなかったんだ。

もちろん果南ちゃんや千歌ちゃんは心配してくれた。でも、あんなに本気で怒ってくれたのは善子ちゃんだけ。

ううん。そうじゃないね。善子ちゃんを本気で怒らせるくらい、私はバカなことをしてたんだ。

だから善子ちゃんがああいうことをしたのも、千歌ちゃんと梨子ちゃんが壊れちゃったことも私のせい。

私は私の生き方が正しいってずっと思ってたけど、大切な人たちを傷つけてしまうなんて思ってもみなかった。

もうこれ以上、誰も不幸にしたくない。だからこうするしかないと思ったんだ。

大丈夫! 辛いのは慣れてるから!

578名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:37:14 ID:ZoJ3UmI.


……なんて、冗談。

これはね、辛いことじゃないの。私がそうしたいからそうするの。

自分のしたいようにしてみようかなって思って、こうするんだ。

辛くなんかないよ。むしろこれは自分勝手なわがまま。

善子ちゃんはわかってくれるよね? 私はもうたくさん我慢してきたんだから。

初めてのわがままくらい、許してくれるよね?



……ごめんね。悲しませちゃうこと、わかってるよ。

一緒に学校行こうって約束、破っちゃってごめん。

私を守るって言ってくれて、嬉しかった。

いつでも私のことを心配してくれて、嬉しかった。

善子ちゃんと出会えて、本当によかった。


私にこんなことを言う資格なんてないけど、善子ちゃん、どうか幸せに生きてください。

私の分も、きっと笑顔で生きてください。

本当にありがとう。大好きだよ。


渡辺曜


――

善子「……」パラッ

――


そうだ

最後になっちゃったけど、ひとつだけ

579名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:39:36 ID:ZoJ3UmI.
 
 
「卒業、おめでとう」

580名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:39:54 ID:ZoJ3UmI.
――屋上

ギィ……

善子「……」


屋上にはたくさんの思い出がある。

Aqoursの練習場所としてたくさんの時間を過ごしたんだから、まあ当然か。

インドアの私には練習は辛かったけど、それと同じくらい楽しかった。

笑顔があったから。

たくさんの幸せな笑顔があったから。私は頑張れた。

楽しかった。

人間モドキの私が、真っ当な学生生活を送れるなんて……

これ以上の幸せなんかなかった。

そうだ。ここにはたくさんの幸福があるんだ。

581名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:40:19 ID:ZoJ3UmI.
善子「……」スッ

私はゆっくりと柵の外側へと移動した。

ここからは内浦の町が一望できる。

……ここにも、たくさんの思い出があった。

といってもやっぱりAqoursの思い出ばかりだけれど。

淡島神社で走りこみしたっけ。今はもう走れないだろうな。

合宿もやったなあ。海の家手伝って、曜さんの料理もおいしかった。

町の人と協力してスカイランタン作って、PVも作って。

あそこで寄り道したり、あそこに遊びに行ったり……

……

……ああ、なんだ。私……



善子「幸せ、だったのね」ポロポロ

582名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:40:42 ID:ZoJ3UmI.
後ろをふり向けば、Aqoursで過ごした楽しい思い出。

前を向けば、たくさんの幸福な景色。

ああ、ここにはすべてがある。

満たされている。

胸の真ん中あたりがポカポカして、とても幸福な気持ちだった。

だから。

だから私は、その場所から一歩踏み出すことが、何も怖くなかった。

583名無しさん@転載は禁止:2018/03/15(木) 20:41:09 ID:ZoJ3UmI.
その瞬間、私は地面へと吸い込まれていく。

完全な自由落下。

最後の瞬間。

全ての意識が鮮明になって、逆さまになりながら内浦の町へと目を向けた。


善子「……美しい」


思い出だけが輝いていて、美しかった。

……。

これで、終わる。

ようやく終わるんだ。

あはは、最初から、こうするべきだったんだ。

そうしたら誰も、千歌さんも梨子さん、曜さんも、不幸にならないですんだ。

……どうしてこうなったのかな?

最初からこうなるって決まってたのかな?

私は何がしたかったのかな……

もういい。

もういいわ。

もうやるべきことなんてない。

ここに忘れものなんてない。

いや、これはもう忘れものなんかじゃなくて、いらないものだ。

なにも、いらない。

欲しがってはいけないんだから。


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