したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

善子「Black Sheep」

1名無しさん@転載は禁止:2017/05/10(水) 01:37:40 ID:JFf8Mvsk
ああ、この手の人間か。


最初に思ったのはこんなことだった。

運動ができて勉強ができて、人付き合いも上手で友達もたくさん。

いわゆる典型的なリア充というやつで、それは私とは正反対の人種だった。

どうせ私のようなインドアで社交性のない人間とは馬が合わないのだろう。

そして得てして私のような人間はこのタイプの人間を嫌悪する。

こういう人のありかたが人間のあるべき姿だとわかっているし、この人自身とてもいい人だと思う。

でもだからこそ自分の人間としての不完全さが浮き彫りにされているような気分にもなった。

私みたいな社会に適合できない人間モドキとは住む世界が違うのだ。

だから私は、この人とはある程度仲良くはなれても、深い友好関係を築くことはないだろうと思った。

しかしこの人のそれは度を越していた。

415名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:42:59 ID:w1dbAgJE
曜「ちか、ちゃん……」

善子「……!」

曜「……すき」グスッ

善子「曜さん……」

善子「(こんな状況になって、ようやく曜さんは自分の想いを口にした)」

善子「(何年も温めてきた、大きな大きな想いを)」

善子「(もう決して、報われることのない想いを)」


きっともう、ずっと前から限界だったんだろう。いや、限界なんてとっくに超えていた。

脆くて危うい、そしてなによりも強い優しさで成り立っていた曜さんの心は、今日完全に終わってしまった。

――ああ、この人はもうダメだ。

私にはわかった。誰よりも人を壊してきた私は、曜さんがどれだけ壊れてしまったかを把握してしまった。

ずっと傷ついて、それを隠して笑顔でい続けて、自分を犠牲にしてみんなの幸せを願って。

そして最後には壊れてしまった、この哀れで愛しい先輩を、私は……


――天使のようだと思った。

416名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:43:16 ID:w1dbAgJE
――曜の家の前

善子「……」ガチャ

梨子「善子ちゃん!」

善子「……帰ってなかったのね」

千歌「その、曜ちゃんのことなんだけど……」

善子「……話すことはありません」

千歌「な、なんで!? だってあんな……」

千歌「あんな曜ちゃん、今まで一回も見たことないよ……」

梨子「千歌ちゃん……」

千歌「ねえ善子ちゃんお願い。何か知ってるなら……私にできることがあるなら教えてよ……」

善子「……」ギリ

梨子「……善子ちゃん?」

善子「明日、昼休みに屋上に来てください」

善子「そこで全部、教えてあげます」

417名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:43:53 ID:w1dbAgJE

――善子の家

善子「ただいま……」

善子母「あらおかえり。今日は早いのね」

善子「晩ごはん、今日はいらない」

善子母「……そう。食べたくなったら言ってね?」

善子「……うん。ありがとう」

418名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:44:06 ID:w1dbAgJE
――善子の部屋

善子「……」ドサッ

善子「う……うぅ……」グスッ

善子「どうして……どうして……」


どうして、こうなってしまったんだろう。

私はただ、曜さんに幸せになってほしかっただけだった。

本当にそれだけだった。

だって曜さんは、私を人間にしてくれた。

人間になれない、どうしようもなく救いようのない人間モドキの私でも、真っ当に生きられるんだって教えてくれた。

あの人のためならどんなことだってしようって思えた。

「でも、あなたは何もしなかったわ」

真っ暗な私だけの空間。声のする方に振り向くと、私がいた。私とおんなじ顔をした、邪悪な笑みを浮かべる私がいた。

善子?「曜さんを助けたいと思いながら。曜さんを幸せにしたいと思いながら。曜さんを守りたいと思いながら」

善子?「結局あなたは何もしなかった」

419名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:44:22 ID:w1dbAgJE
善子「ち、違う! 私は……」

善子?「何も違わないわ。日に日に傷ついて弱っていく曜さんを見て、あなたはただどうにかなるように願っていただけ」

善子?「曜さんからもらうだけもらって、何も返さないままじゃない」

善子「違う私は、本当に……」

善子?「誰かを幸せにできると思った?」

善子「あ……あぁ……」

420名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:44:38 ID:w1dbAgJE
善子?「たくさんたくさん、傷つけてきた。壊してきた。ダメだって思いながら、抗えなかった」

善子?「そして、それで構わないって思った」

善子「違う!!!」

善子?「大好きなものが、大好きな人が壊れていくのがたまらなく好きだった。どうなっていくのか見たくてしょうがなかった」

善子「黙れ!!!」

善子?「私一人だけが、楽しかった!」

善子「黙れ!!!!!!」

善子?「本当は、曜さんが傷ついて壊れていくのを見るのが楽しかったんじゃないの?」

善子「黙れ!!! 殺すぞ!!!」

目の前の私の髪を掴んで、思い切り地面に叩きつけた。

何度も何度も叩きつけた。加減なんて一切しなかった。本気で壊そうとしたから。

久しくこんなことはしていなかった。する必要なんてなかったし、そうしようなんて思いもしなかったから。

だから、久しぶりの何かを壊す感触に、私は、ワタシハ……

421名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:44:55 ID:w1dbAgJE
……いつからだろうか。

幼い頃。それこそまだ花丸と一緒に幼稚園に通っていた頃。

私は自分が、本当の天使だと思った。

お母さんが私を天使みたいだって言ったから。

みんなが笑顔をくれて、私の周りにいる人はみんな幸せだったから。

みんな私をたくさん愛してくれたから。

だから私もみんなを愛した。

「私本当は天使なの!」

みんなを愛してみんなに愛される。そんな私は本物の天使なんだと疑わなかった。

422名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:45:10 ID:w1dbAgJE
「そうじゃないって気づいたのは、いつだったかな」

また背後から声がした。振り向くと幼い姿の、幼稚園の頃の私がいた。

よしこ「私、みんなをたくさん愛したよ」

よしこ「みんなのことが大好きで、喜んでもらえることはなんでもやった」

よしこ「みんな笑ってて、幸せそうで……」

よしこ「でも突然、それら全てを壊してみたくなった」

よしこ「いま愛してくれるみんなを、例えば思いっきり嫌いになってみたらどうなるんだろう」

よしこ「傷つけて傷つけて、思いきり壊してみたらどうなるんだろう」

よしこ「思い始めたら止まらなくて」

よしこ「一度壊してみたら、とてもとても気持ちよくて」

よしこ「私、本当は、壊すために愛していたのかなって……」

423名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:45:39 ID:w1dbAgJE

よしこ「ねえ、今もそうなの?」

善子「違う! 違う! 私はもうあの頃の私じゃない!」

善子「今度こそ、今度こそ誰も壊さずに、誰も不幸にしないままで、みんなを愛して、みんなに愛されるって決めた……」

善子「そう決めた! だから、だから……」



善子?「だから私を押しのけて、あなたが生まれた」


善子「っ……!」

頭を掴んで地面に叩きつけたままだった私が、おもむろに顔を上げて睨んできた。

その眼差しにすくんだ私は、頭を離してよろよろと後ずさった。

424名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:45:59 ID:w1dbAgJE
よしこ「ねえわたし。覚えてる?」

よしこ「わたしたち、大好きな人たちをたくさん傷つけてきたね」

よしこ「わたし、みんながだいすきだったよね」

よしこ「……ようさんが、だいすきなんだよね」


善子?「……愛されたかった?」

善子「……愛され、たかった」

善子?「おこがましいのね。醜い人間モドキのくせに」

善子「……そう、ね」

よしこ「わたしたち、どこで間違えちゃったのかな……」

よしこ「……それとも、最初から間違いだったのかな」

善子「……わからない」

善子?「わからないまま、みんなを壊して……それで」

善子「なにを、してたのかしらね……はは」

425名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:46:12 ID:w1dbAgJE
よしこ「……ねえ」

よしこ「これから、どうしたい?」

善子「……?」

よしこ「もう、今度こそわたしは幸せにはなれないよ」

善子?「曜さんが壊れてしまったからね」

善子「……」

よしこ「なにが、できるかな?」

善子?「何を望むのかしら」

426名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:46:33 ID:w1dbAgJE
善子「私は……」

私はこの学校で曜さんに出会った。

最初は相容れないと思った。私とは正反対の、不幸なことなんか何もなくて、毎日が幸せな人なんだと思った。

でも違った。曜さんは私が考えているよりももっともっと素晴らしい人で……

文字通り完璧な人だった。誰もが羨み憧れ心を寄せる、太陽のように眩しい人。

私のような人間モドキがあの人と一緒にいられるなんて奇跡みたいだった。

本当に幸せだった。何もかも輝いて見えた。

こんな私でも、真っ当に生きられるんじゃないかって、この人のそばでならそれができるって思えた。



でも救えなかった。

私は何も出来なかった。



失ってしまった。

427名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:46:45 ID:w1dbAgJE
もうあの人が私に笑いかけてくれることはないだろう。

だから、今までのことを思いだしていた。

――善子ちゃん

名前を呼んでくれるだけで心が弾んだ。

――善子ちゃん!

一緒にいるだけで胸が高鳴った

――善子ちゃん!!

お話するだけでドキドキが止まらなかった。

――善子ちゃん!!!

その笑顔だけで、私は救われた。

428名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:48:16 ID:w1dbAgJE
善子「曜さん……」


私のすきなひと。わたしの、たいせつなひと。


善子「……」


また笑ってほしかった。愛されたかった。

それはもう叶わないけれど、今も心の底からそう思ってる。

じゃあ今の私に、できることは……


善子「……あなたは、どうしたい?」

よしこ「わたし?」

善子「うん。なにがしたい?」

よしこ「うーん……」

この子はかつての私。私の一番最初の姿。

だからこの子の願いこそが、私の最初の願い。一番の願い。

私は、その願いを……

429名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:48:53 ID:w1dbAgJE
しこ「……あのね、わたし」

よしこ「わたし、今度こそ、ちゃんと、みんなに、だれかに、愛してもらえることがしたい」

よしこ「できれば、ようさんに愛してほしいけど、わがままはいわないよ」

よしこ「どんなことだっていいよ。いいことでも、わるいことでも」

よしこ「そうしたら、わたしはきっと」

よしこ「きっと……」

よしこ「……」





よしこ「だれかに愛されたまま、ぜんぶおわることができるとおもうの!」

430名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:50:51 ID:w1dbAgJE
善子「それが、私の願いなの?」

よしこ「うん!」

善子「……そっか」


きっとこれは幸せな夢だったんだろう。

私が普通の人間みたいに、笑って、友達を作って、部活動がんばって……

そして、好きな人もできた。

振り向いてもらうことはできなかったけど、それでも幸せだった。

毎日が楽しくて、思い切り夢中になれた。

短い夢の中で、私はきっと幸せだった。

だから……

431名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:51:10 ID:w1dbAgJE
善子?「私は、これでいいの?」

善子?「これで私は救われるの?」

……いや、私に救いなんてきっとない。

私の救いは、この幸せな夢の中にしかない。

曜さんがいてくれる、この夢の中だけいにある。

それがなくなった今、もう何もいらない。

止まれないまま、全てを壊して、壊して壊して壊し続けて……

432名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:52:30 ID:w1dbAgJE
よしこ「できる?」

よしこ「こんなことになっても、わたし、さいごにだれかに愛してもらえる?」

善子「なんだ、そんなこと……」

善子「そんな、こと……」グスッ

善子「う……うぅ……」グスグス

よしこ「……私たちはやっぱり、醜い人間モドキだね」

善子「……うんっ……!」グスッ

善子?「幸せな夢は、ここでおしまい」

善子?「壊してしまいましょう。私たちを不幸にするもの全部」

433名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:52:53 ID:w1dbAgJE
いつの間にか幸せになっていいって、勘違いしてたんだ。

これは幸せな夢の中のできごと。

目が覚めて現実に戻る時が来たの。

私はここでしか生きられない。

こんな地獄でしか生きられない。

よしこ「……だいじょうぶ?」

善子「……ええ、でも少しだけ泣かせてほしいの」

善子?「夢の中とはいえ、この場所を、この人たちを大切にしてきたものね」

善子「うん。でも……」

でも、これでおしまい。

失うんじゃない。ただ元に戻るだけ。

浦の星での津島善子は、全部夢だったの。

さあ、起きなさい。目を覚まして。

『私』に戻りましょう。



おやすみなさい。津島善子。

434名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 03:53:41 ID:w1dbAgJE
めっちゃわかりにくいですけどなんとなくで感じ取ってくれれば。
いつも読んでくださる方々ありがとうございます。

435名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 04:34:31 ID:91CohO9E
読んでてめちゃくちゃ辛い…
みんな誰かと一緒にただ幸せになりたかっただけなのに…
辛すぎる……

436名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 05:28:47 ID:9sE7ebVY

盛り上がって参りましたな

437名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 09:27:33 ID:ZAzs4bNA
脳内会議すき

438名無しさん@転載は禁止:2018/02/05(月) 23:37:00 ID:Ae/ZV.B.
待ってた!乙
よぴこ…。

439名無しさん@転載は禁止:2018/02/06(火) 01:53:18 ID:a/JHaSjw
つらすぎる…

440名無しさん@転載は禁止:2018/02/08(木) 04:40:39 ID:t68qN6bE
善子「……」

シャッ

善子「まぶし……」


―――

善子「おはようお母さん」

善子母「あら早いのね」

善子「うん。なんか今日は調子がいいの」

善子母「そう。元気になったみたいで良かったわ」

善子「うん。ありがとう」

――

善子「(すごく、すごく気分がいい)」

善子「(こんなに気持ちのいい朝は初めてかも)」

善子「(ずっと眠れない夜が続いてたけど……今日は本当によく眠れた)」

善子「ほんとに、目が覚めたみたい」

441名無しさん@転載は禁止:2018/02/08(木) 04:40:58 ID:t68qN6bE
ハッシャシマス――

善子「(一人で登校、か。久しぶりかも)」

善子「(ずっと……)」

――善子ちゃん!おはヨーソロー!

――善子ちゃんおはよー!

――おはよ。朝から元気ね

善子「(みんなが、いたのに……)」

善子「……」

善子「……ひっ…………」ガタガタ

善子「(大丈夫。もう、決めたの。私は……)」

442名無しさん@転載は禁止:2018/02/08(木) 04:41:15 ID:t68qN6bE
――学校

果南「よ、善子ちゃん!!!」

善子「……果南さん?」

果南「……千歌に聞いたんだ。その、曜のこと」

善子「あぁ……」

果南「……ごめん。私、善子ちゃんに頼まれたのに、結局……」

善子「いいんです。私も果南さんに押しつけて、自分では何もしなかったから」

果南「そんな……」

善子「大丈夫。これからは私がやります」

善子「私が、やるべきでした」

果南「……」

443名無しさん@転載は禁止:2018/02/08(木) 04:41:39 ID:t68qN6bE
果南「(なんだろう、善子ちゃん今日はいつもと違うような)」

果南「(昨日までとはまるで反対で……)」

果南「……なんであんなに、すがすがしいような顔してるの……?」


善子「(……以前の私だったら、果南さんも普通に壊しちゃってたかな)」

善子「(完全に昔みたいに戻ったわけじゃないみたい。自分でも、わからないけど)」

善子「ま、いいか」

善子「(私のやることは、変わらない……)」

444名無しさん@転載は禁止:2018/02/08(木) 04:41:56 ID:t68qN6bE
善子「(その後は誰にも会わなかった。登校時間をずらしたのもあるけど……)」

善子「(マリーに見つからなかったのは幸いだと思う。あの人は鋭いから何か言われそうだし、最悪病院に引きずられていたかもしれない)」

善子「(ルビィと花丸は同じクラスだから会わざるをえないけど、会話は最低限にした)」

善子「(もし話すことで私の気が変わって、二人を壊そうとしてしまったら、私でも抑えられないから)」

善子「(昼休みまでは絶対にアクシデントがあってはいけないから、なるべくいつも通りの私でいるようにした)」

善子「(そんな心配とは裏腹に、びっくりするぐらい時間は穏やかに過ぎていった)」

善子「(むしろよく眠れたから授業も頭に入ってきたし、いつも以上に調子がいいと思った)」


善子「(そして……)」

445名無しさん@転載は禁止:2018/02/08(木) 04:42:39 ID:t68qN6bE
――昼休み


善子「(……時間だ。行こう)」



「待って」


善子「……」

「どうしたの? 今日はあんまり話してくれないね」


ルビィ「善子ちゃん」

446名無しさん@転載は禁止:2018/02/08(木) 04:43:08 ID:t68qN6bE
短いですけどここまで
更新できるときにしておきます

447名無しさん@転載は禁止:2018/02/08(木) 05:08:17 ID:MsxlWiyI
乙です
待ってますよ

448名無しさん@転載は禁止:2018/02/08(木) 11:54:19 ID:ifKl5f/g
いよいよ正念場か

449名無しさん@転載は禁止:2018/02/09(金) 01:53:10 ID:j8SBSq7E

このあたりがルート分岐点かな

450名無しさん@転載は禁止:2018/02/09(金) 04:41:03 ID:3PRfHXQE
ついにルビィちゃんが動くか
ところでこれ読んでる人は

つらい(本当につらい)
つらい(歓喜)

のどっちなんだろ

451名無しさん@転載は禁止:2018/02/11(日) 05:01:08 ID:JnDioNjs
――数か月前・理事長室

ルビィ「かじょーせー……?」

鞠莉「イエス。過剰性。それが善子の疾患の正体よ」

ルビィ「ご、ごめんなさい、よくわからないです……」

鞠莉「そうね、簡単に言うと……」

鞠莉「あの子は自分の心にブレーキをかけられない」

鞠莉「ある方向に過剰に心が動くから、自分で自分をコントロールできないの」

鞠莉「これは禁止されているからやってはいけない。これをやると皆が悲しむ、みんなが傷つく」

鞠莉「そういうことって、普通の人はやってはいけないことだって判断できる。だから実行には移さないわよね」

ルビィ「……はい」

鞠莉「でもあの子は違う。強烈なエゴが心と身体を突き動かすの。倫理とか自分の意思とか、そういうのを全て吹き飛ばしてね」

鞠莉「気づいたらそれをし終わっている。そんなレベルで自分を制御できない」

鞠莉「心の過剰な動きに身体を支配される。それがあの子の『過剰性』よ」

452名無しさん@転載は禁止:2018/02/11(日) 05:01:34 ID:JnDioNjs
ルビィ「善子ちゃんは、それが原因で……」

鞠莉「ええ。小学校高学年あたりからその兆候が見られて、中学1年の頃に爆発した」

鞠莉「その結果あの子は施設送り。中学の3年ほぼ全てをそこで過ごしたわ」

鞠莉「それから中学卒業と同時に疾患の改善が認められて今に至る。という感じよ」

ルビィ「なるほどわかりました……でも、2つほどいいですか?」

鞠莉「何かしら?」

ルビィ「その『過剰性』、確かに厄介な疾患ですけど冷静に考えればそれほどじゃない」

ルビィ「自分をコントロールできない人なんていくらでもいます。どうして善子ちゃんだけ特別異常な扱いをされてたんですか?」

ルビィ「……あんな適応指数、その疾患にしては高すぎます」

453名無しさん@転載は禁止:2018/02/11(日) 05:01:56 ID:JnDioNjs
鞠莉「そうね。理由はいくつかあるわ」

鞠莉「確かに自分をコントロールできない人はいくらでもいる。私たち疾患者の心は自動的で、こういう状況ならこうするしかない、っていうふうにできている」

鞠莉「ルビィの場合だと相手の気持ちに敏感過ぎる。だからその気持ちが気になってなにも言えなくなる。そんな具合にね」

ルビィ「……はい。今は、大分改善しましたけど」

鞠莉「善子の場合、コントロールできないとはいってもその方向性、どこに心が向かうかが問題なの」

ルビィ「方向性……」

鞠莉「あの子は過剰に他人を傷つける方向に心が向かってしまう」

鞠莉「他人を傷つける恐れのある凶暴性。善子はそれが異常に強かった」

鞠莉「それに関係してでしょうね。性格も突然豹変することもあったらしいわ」

鞠莉「普段は明るく優しいけど、突然残虐で冷酷な性格になることがあったみたい」

鞠莉「善子は『過剰性』に伴う二重人格も患っていた。そんな複雑な心の構造をしている。だから……」


ルビィ「だからあんな、適応指数95なんて数字が……」

454名無しさん@転載は禁止:2018/02/11(日) 05:02:55 ID:JnDioNjs
ルビィ「……もう一つ。善子ちゃんはそんな状態から、どうやって今の状態に?」

ルビィ「今の善子ちゃんはいたって普通の女子高生。変な言動は目立つけど根は真面目で心優しい女の子だよ」

ルビィ「そんな凶悪な一面があったとはとても……」

鞠莉「特別施設に入れられて治療を受けていく中で、あの子なりに考えたんでしょうね。どうすればいいのかって」

鞠莉「本当はあの子もひどいことすることは望んでない。でも心と身体が言うことを聞かない。そんな現状をどうにかしたいって」

鞠莉「どうすれば自分を抑えられるのか。誰も傷つけないですむのか。自分にできることを考えたらしいわ」

鞠莉「それであの子が思いついたのは、自分の疾患を利用することだった」

ルビィ「疾患を、利用? そんなことが……」

鞠莉「私も聞いたときは少し驚いたわ。そんなことできるのかって」

鞠莉「善子は自分の『過剰性』は消せないと思った。だから心の向かう方向を無理やり変えた」

鞠莉「『誰かを傷つけること』から『誰も傷つけず、平穏に過ごすこと』にね」

455名無しさん@転載は禁止:2018/02/11(日) 05:03:32 ID:JnDioNjs
鞠莉「つまり今の善子は『みんなを傷つけないで、平穏に過ごそう』と過剰に思いこんでいる状態ってこと」

ルビィ「無理やり、自分を抑えてるってことですか……」

鞠莉「そうね。善子は試行錯誤の末それができるようになって、今のように普通の人らしい性格になった」

鞠莉「いうなれば今の善子は、第3の人格ってところかしら」

ルビィ「第3の人格……」

鞠莉「でも善子の中の『過剰性』が消えたわけじゃない。何かの拍子にあの子の心が誰かを傷つけようとしてしまうかもしれない」

鞠莉「そこで、あなたにお願いがあるの」

ルビィ「……なんですか」

456名無しさん@転載は禁止:2018/02/11(日) 05:04:18 ID:JnDioNjs
鞠莉「善子が変な気を起こさないように、様子を見ててほしいの」

鞠莉「事情を知っててクラスメイトで、人の気持ちに敏感なあなたは適任だと思う」

ルビィ「そんな、善子ちゃんを疑うようなことを、ルビィにやれって言うんですか」

鞠莉「……気が進まないのはわかる。私も友達を監視するようなことを生徒に、ルビィにさせたくなんてない」

鞠莉「でも善子は私たち疾患者の中でも特別なの。あなたも噂は聞いたことはあるでしょ?」

ルビィ「……」

鞠莉「お願い。善子をまた昔みたいにならないためにも、協力してほしいの」

ルビィ「……はい」

457名無しさん@転載は禁止:2018/02/11(日) 05:05:11 ID:JnDioNjs
わかりにくいかもしれませんがルビィの回想です
短いですけど明日も更新します

458名無しさん@転載は禁止:2018/02/11(日) 05:24:19 ID:f9Ce9ARE
ルビィちゃんがどう動くかで話が大きく変わりそう…

459名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:13:19 ID:Ag7zBYWg

――

ルビィ「今日はいつもと違って調子良さそうだね? 顔色もよくなったし」

ルビィ「なにかいいことでもあったのかな、善子ちゃん?」

ルビィ「……じゃないねぇ、なんか初めまして、みたいだよ」

善子「ふふ、そうかもね」

ルビィ「善子ちゃん、これからどこかに行くの?」

善子「ちょっと、ね。」

ルビィ「……」

ルビィ「(ああ、鞠莉さん。善子ちゃんは、もう……)」

460名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:13:58 ID:Ag7zBYWg
ルビィ「……善子ちゃんは、決めたの?」

善子「決める?」

ルビィ「これから、どうするのかなって。善子ちゃん、顔は冷静でも心が穏やかじゃないよ」

善子「……あんたが何を知ってるっていうのよ」

ルビィ「わからないけど……でも、これからとっても大事なことをしに行くんでしょ?」

ルビィ「善子ちゃんの……ううん。Aqoursの今後を大きく変えるような、そんなこと」

善子「……相変わらず察しがいいのね。その通りよ」

ルビィ「……そっか」

461名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:14:30 ID:Ag7zBYWg
善子「あんたはどうするの」

ルビィ「うん?」

善子「もうわかるでしょ? 今の私は、あんたの知ってる津島善子じゃない」

善子「どうせマリーから言われてるんでしょ? 私を監視するようにって」

ルビィ「……」

善子「マリーはきっと、私がこうなることをずっと恐れてた」

善子「あんたは人の心に敏感だから、私がこうなったらすぐにわかる」

善子「だからあんたはいつも私のそばにいた。いつでも私を止められるように。マリーにすぐに知らせられるように」

ルビィ「……」

善子「どうする? マリーに報告しに行く? それとも私を止める? もし邪魔するなら……」


ルビィ「止めないよ」

462名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:15:07 ID:Ag7zBYWg

善子「……は?」

ルビィ「私は善子ちゃんを止めない。鞠莉さんに報告もしない。むしろ逆」

ルビィ「善子ちゃんを応援するよ。頑張ルビィっ、てね」

善子「……正気? 私がどんな人間だったか知ってるでしょ?」

ルビィ「話には聞いてるよ」

善子「だったら……!」

ルビィ「でも、Aqoursを始めてからの善子ちゃんのことはもっと知ってる」

善子「……!」

ルビィ「言ったでしょ? 私はなにがあっても善子ちゃんの味方だって」

ルビィ「それは今も変わらない。ううん。これから先だって変わらない」

ルビィ「鞠莉さんに言われたって、私は善子ちゃんの邪魔は絶対にしない」

463名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:15:31 ID:Ag7zBYWg

善子「どうして……?」

ルビィ「……私たちみたいな人間モドキは、幸せにはなれない」

ルビィ「それは私たちが他人と自分を不幸にする疾患を持ってるからとかじゃなくて……」

ルビィ「……きっと『そうなるようにできている』から」

ルビィ「私たちは絶対に、幸せになれない道を歩かなきゃいけない。そんなふうにできている」

ルビィ「理屈とかじゃない。もっと大きな流れ……運命みたいなもので決まってるの。善子ちゃんなら、なんとなくわかるでしょ?」

善子「……ええ」

ルビィ「でも、善子ちゃんはキレイな心を持ってた」

ルビィ「私と同じで絶対に幸せになれないのに、どうして? って思ったよ」

464名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:15:49 ID:Ag7zBYWg

ルビィ「でもね、善子ちゃんと関わっていくうちにわかった」

ルビィ「善子ちゃんは強い心を持ってる。一度決めたらそこに向かおうとする、過剰なくらい強い決意がある」

ルビィ「幸せになろうって思ったんだよね? 幸せにしたいって思ったんだよね?」

善子「でも、私は何もできなかった。結局こんなことになって……」

ルビィ「それでも、ルビィはすごいと思った。ルビィは諦めたから。幸せになる勇気なんてなかったから」

ルビィ「だからね、私は……」

465名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:17:09 ID:Ag7zBYWg
ルビィ「私は、善子ちゃんが選んだ道に最後までついていくよ。それがいいことでも、わるいことでも」

ルビィ「それで善子ちゃんを応援して、支えてあげる。それが私の決めたこと」

善子「……それで、いいの? 絶対に後悔するわよ?」

ルビィ「それでもいいよ。これから先何があっても、たとえ善子ちゃんに壊されたって、後悔なんてしない。恨んだりしない」

善子「……意味、わかんない」

ルビィ「知らなかった? 私善子ちゃんのこと、けっこう好きなんだよ?」

善子「……はは、もの好きね」

ルビィ「そんなことない。善子ちゃんは素敵な子だよ」

466名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:17:44 ID:Ag7zBYWg
善子「そんなこと言ってくれるのは、後にも先にもあんただけよ」

善子「でもありがと。ちょっとだけ、嬉しい」

ルビィ「ちょっと、かぁ」

善子「ちょっと、よ」

ルビィ「……ねえ善子ちゃん、『Black Sheep』って言葉があるんだけど、何のことか知ってる?」

善子「……私みたいな人間のことよ」

ルビィ「……」

善子「ありがとルビィ。もう行くわ」スタスタ



ルビィ「……」

ルビィ「『私たち』だよ……」

467名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:18:03 ID:Ag7zBYWg
――屋上前

善子「……」

善子「(まさかルビィがあんなこと言ってくれるなんて)」

善子「(もし、昔の私にルビィみたいな理解者がいてくれたら……)」

善子「(……いや、きっと壊してたわね。他の人と同じように)」

善子「(じゃあなんで今、私はルビィに何もしないの……?)」

善子「(昔の私と今の私で、何が違うんだろう……)」

468名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:18:19 ID:Ag7zBYWg
――善子ちゃん

善子「(……そうだ。私は、曜さんがもう悲しまないように)」

善子「(あの人に二度とあんな顔させないために、こうなったんだ)」

善子「(今の私には目的がある。大切に思える人がいる)」

善子「(……こんなことしたって、きっと誰一人幸せにならない。どころか、不幸になるだけ)」

善子「(でも決めたから。私を、曜さんを不幸にするものは全部壊すって)」

善子「(正しいとか正しくないとか、いいこととかわるいこととか、どうだっていい)」

善子「(そう決めた。だから)」ガチャ

469名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:18:33 ID:Ag7zBYWg
千歌「あっ、善子ちゃん!」

梨子「善子ちゃん……」


善子「お待たせしました。千歌さん。梨子さん」


善子「(今日ここで、全部終わらせる)」

470名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 04:18:51 ID:Ag7zBYWg
今回はここまで
いつも読んでくれる方々ありがとうございます

471名無しさん@転載は禁止:2018/02/12(月) 09:24:10 ID:Td7FrpCQ
あぁ…

472名無しさん@転載は禁止:2018/02/17(土) 04:21:47 ID:bUy1R/6w
不謹慎だがわくわく

473名無しさん@転載は禁止:2018/02/20(火) 15:44:15 ID:Yja6eC..
遅れてすみません
明日深夜更新予定です

474名無しさん@転載は禁止:2018/02/20(火) 21:10:46 ID:1NTZDdB2
待ってます

475名無しさん@転載は禁止:2018/02/22(木) 06:23:21 ID:CgRVzVx2
すみません、もうちょい推敲したいので遅れてしまいます
金曜深夜には必ず

476名無しさん@転載は禁止:2018/02/22(木) 12:50:43 ID:W1eSGX8s
待ってますよ

477名無しさん@転載は禁止:2018/02/23(金) 22:46:36 ID:DOvpBdJk
ぼちぼち金曜の深夜だな

478名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:12:43 ID:XYyqDd8o

千歌「善子ちゃん、あの、曜ちゃんのこと教えてくれるって」

善子「ええ。もちろん教えますよ。そのためにきたもの」

善子「全て包み隠さず教えることを約束するわ」

梨子「じゃあ、千歌ちゃん」

千歌「……うん。単刀直入に聞くけど、今曜ちゃんに何が起こってるの……?」

善子「……そうね、まず初めに言っておくけど」

479名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:13:25 ID:XYyqDd8o
善子「曜さんはもうダメです」

善子「私たちが何をしても、もう以前の明るくて優しい曜さんには戻らないわ」

千歌「……え?」

梨子「ま、待ってよ! それってどういう……」

善子「言葉通りの意味よ。曜さんはもうAqoursに戻ってこれない。私たちとまともに会話すらできないかもしれない」

善子「そういう意味で終わりってことです」

480名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:13:49 ID:XYyqDd8o
千歌「な、なんで……?」

善子「ん?」

千歌「曜ちゃんはどうして、こんなことに……」

善子「限界が来たから」

千歌「え?」

善子「曜さんは疲れたんです。苦痛しかない毎日に。報われない人生に」

千歌「苦痛……? 疲れたって、どういうこと?」

善子「……本当に、何も知らないのね」

481名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:14:09 ID:XYyqDd8o
善子「千歌さんあなた、本当に曜さんの幼馴染みなの?」

善子「今日までの曜さんを見て、何も気づかなかったの?」

千歌「え、えっと、最近体調崩してるみたいだから、無理してるのかなとは思ってたけど」

善子「(……やっぱり、その程度の認識か)」

善子「(曜さんがずっと悩んでたことなんて知らないで、自分はのうのうと楽しく過ごしてたってわけね)」

善子「(ああ、本当に、腹が立ってきた……)」

千歌「ねえ善子ちゃん。善子ちゃんは曜ちゃんがどうしてこうなっちゃったか知ってるんでしょ? 教えてよ!」

482名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:15:12 ID:XYyqDd8o
善子「(よくもまあそんなことが言えたわね……)」ギリ

善子「……じゃあ、教えるわ。よーく聞きなさい」

善子「曜さんがあんなふうに壊れた原因はね……」

千歌「……」

梨子「……」



善子「あなたたちのせいよ」

483名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:15:52 ID:XYyqDd8o
千歌「……え?」

梨子「私たちの……せい?」

善子「あなたたちが曜さんを除け者にして、二人だけで幸せそうに過ごして」

善子「それをずっと曜さんに見せびらかしてきたから、曜さんはああなった」

千歌「そ、そんな! 私たちそんなつもりじゃ……!」

善子「あなたたちにそのつもりがなくても、実際曜さんは悲しんでいた」

善子「最初は私も気にしてなかったわ。千歌さんと梨子さんが仲良さそうにしてるのを遠巻きに眺めてただけで、大した意図はないんだろうと思った」

善子「あなたたちが3人で仲良く話してるところも見てたしね」

484名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:16:09 ID:XYyqDd8o
善子「でもその一方で曜さんは悩んでたわ。自分が一緒にいることで、千歌さんを苦しめてるんじゃないかって」

善子「千歌さんのためにしてきたことが、千歌さんを傷つけているんじゃないかって」

千歌「そんなことない! そんなこと思ったことないよ!」

千歌「曜ちゃんは小さいころからずっと一緒で、私が困ってたら助けてくれて……」

千歌「何もない普通の私なんかのそばにずっといてくれた!」

善子「……へえ」

千歌「だから私は」

善子「それ、一度でも曜さんに言ってあげた?」

千歌「え……」

485名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:16:33 ID:XYyqDd8o


善子「あなた、曜さんが何かを成すたびに喜んでいたけど、だんだん笑わなくなって悲しい顔をしていたそうじゃない」

善子「曜さんはね、千歌さんにそんな顔をさせてしまったことをずっと悩んでいたみたいよ」

千歌「それは、違うよ……私は、曜ちゃんと一緒になにかをできないのが悔しくて……」

千歌「曜ちゃんを妬んだりとか憎んだりとか、そんなこと思ってたわけじゃない!」

梨子「そ、そうだよ! 千歌ちゃんは、曜ちゃんと一緒に何かをやりたいって、今一緒にスクールアイドルができて嬉しいって」

梨子「それで、スクールアイドルをやり遂げて、曜ちゃんと向き合える時がきたら、その気持ちをちゃんと伝えようって……」

善子「『その時』と言わず、ちゃんと機会を作って気持ちを伝えていたら、曜さんは傷つかずに済んだのにね?」

千歌「……っ」

善子「結局あなたは曜さんの優しさに甘えていただけですよ」

千歌「うぅ……」

486名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:18:36 ID:XYyqDd8o

善子「まあでも、私にはちょっと信じられないわ。あなたが曜さんと一緒で嬉しいなんて」

千歌「ど、どうして!? 本当のことだよ!」

善子「……そのわりにはあなた、曜さんのことなにもわかってないし、ぞんざいに扱うわね」

善子「一緒にスクールアイドル始めてくれて、最初についてきてくれたのは曜さんなのに」

善子「そんな曜さんを差し置いて、あなたは梨子さんばかり大切にしていた」

梨子「そ、そんなことない! 千歌ちゃんは曜ちゃんだって大切に思ってたよ!」

487名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:18:51 ID:XYyqDd8o
善子「いいや千歌さん、あなたは曜さんのことをそれほど大事には思ってないわ」

千歌「ち、違うよ、私は本当に、曜ちゃんが……」

善子「覚えてる? 私たちが東京でライブして、0票で帰って来た日のこと」

千歌「……」

善子「あの日、みんなが沈んでいる中あなたは一人だけ明るく振る舞っていたわね」

善子「でも本当はあなたも悔しかったし悲しかった。みんなを不安にさせないためにその気持ちを隠していた」

善子「結局あの日は梨子さんがあなたを慰めて、本音を話させたんだっけ?」

梨子「……それが、なんなの?」

488名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:19:41 ID:XYyqDd8o
善子「いや、それ自体は別にどうでもいいの。同じグループのメンバーなんだし。心配し合って手を取り合うのは当然」

善子「私もそこを責めるつもりはありません。千歌さんが本音を話すことができて、Aqoursは再スタートを切ることができた」

善子「むしろあの日、あんなことがあって良かったと思ってるわ」

善子「……でもね、覚えてる?」

千歌「え……」

善子「あの日大会が終わって0票を知らされてから、曜さんはずっとあなたを心配して声をかけていたわよね?」

千歌「!!」

善子「でもあなたはそれを無視した。悔しくないとか嘘をついて、あげく最後には曜さんの呼びかけに答えもしなかった」

千歌「そんな、違う私、そんなつもりじゃ……」

善子「……ねえ、さっきも言ったけど、私はあの日の出来事を本当に素晴らしいと思ってる」

善子「海岸で抱き合うあなたたちはドラマのワンシーンみたいに美しかった。とても感動したわ」

489名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:20:30 ID:XYyqDd8o
善子「でもおかしくない?」

善子「だって千歌さん、曜さんが心配して声をかけた時は嘘をついて明るく振る舞っていたのに」

善子「梨子さんが一言声をかけたらすーぐ泣いて本音を話しちゃうなんて」

千歌「……っ!!」

善子「梨子さんも曜さんも、どちらも千歌さんのことを案じていたのは変わらない」

善子「なのに梨子さんの時だけ随分対応が違うじゃない?」

千歌「ぁ……」

善子「ちょっと教えてほしんだけど……それあなたの中でどういうふうに帳尻があってるのかしら?」

善子「大切と言っていたわりには随分ぞんざいな対応するのね?」

千歌「あぁぁぁ……」ガクガク

490名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:21:36 ID:XYyqDd8o
梨子「善子ちゃんやめて! これ以上はいくらなんでも……」

善子「あなたたちこそ被害者ぶるのはやめなさい。曜さんの気持ちを知ろうとしないで、優しさに甘えて」

善子「傷ついてることも知らずに、トドメをさしたのはあなたたちよ?」

梨子「そんな、だって曜ちゃん、そんなこと一言も……」

善子「曜さんのせいって言いたいわけ?」

善子「曜さんはね、自分の気持ちを打ち明けたら、あなたたちが気を遣って過ごさなきゃいけなくなるって思った」

善子「あなたたちを傷つけないために! あなたたちが幸せに笑っていられるために!」

善子「ひとりで気持ちを抱えて、自分だけが傷つくことにしたのよ!」

491名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:22:34 ID:XYyqDd8o
善子「……こんなことになっても、曜さんはまだあなたたちのことが大好き」

善子「どれだけ傷ついたって、それが自分だけで済むならって一人でずっと泣いていたのよ!」

善子「そんな優しい曜さんに、よくもそんなことが言えたわね!!!」

梨子「っ……!」

千歌「うっ、ひぐっ、うぅぅ……ぐすっ……っ」

善子「……あの日、曜さんは泣いていたわ」

善子「千歌さんをまた傷つけてしまったって。私なんか千歌ちゃんのそばにはいない方がいいんだって」

千歌「や、やめて……」

善子「私なんかいなければよかったんだって、泣いていましたよ?」

492名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:23:21 ID:XYyqDd8o
千歌「わ、わたし……あぁ、曜ちゃん……曜ちゃん!」ダッ

善子「どこに行くんですか?」ガシッ

千歌「決まってるよ! 私、曜ちゃんに謝らなきゃ! 今までのこと全部! それで」

善子「それでまた、許してもらうのね」

千歌「……え?」

善子「謝れば曜さんは絶対に許してくれるわ。そしてまた笑顔で学校にきて、スクールアイドル続けてくれる」

善子「今までのように傷つきながら、そしてその傷を笑って誤魔化しながらね」

千歌「ぁ……」

善子「……いいわ、行けばいいじゃない。それで曜さんに許してもらいなさい」パッ

千歌「う……あぁ……」

善子「良かったですね千歌さん! 曜さんを犠牲にすれば、あなたたちはまた仲良し3人組に戻れますよ!」

493名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:24:12 ID:XYyqDd8o
千歌「あ、あぁぁ私、なんてことを……曜ちゃんを……うぅ」ガクッ

梨子「ち、千歌ちゃん!」

千歌「うぅぅ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」グスグス

梨子「……善子ちゃん! なんてことを言うの!」

梨子「こんな、わざわざ千歌ちゃんを責めるような、まるで千歌ちゃんが悪者みたいな……!」

善子「何言ってるの梨子さん。私はただ曜さんについて聞かれたから教えただけ」

善子「本当のことしか言ってないわ」

善子「曜さんの親友だって言いながら、曜さんのこと何一つ理解できていなかったあなたたちに文句を言われる筋合いはない」

梨子「……っ」

善子「むしろ感謝してほしいわ。大切な親友の心境を教えてあげたんだからね」

494名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:24:50 ID:XYyqDd8o
梨子「……それでも」

梨子「それでも! 千歌ちゃんにこんなこと言う必要はなかった! よそ者で、千歌ちゃんと曜ちゃんの仲を引き裂いた私ならともかく」

梨子「千歌ちゃんは、本当に曜ちゃんを想ってたよ!」

善子「……呆れた。まだそんなこと言うの?」

善子「それが本当だったらこんなことにはなってないって、さっきも言ったでしょう?」

善子「千歌さんは曜さんの優しさを無下にしてずっと踏みにじってきた。今まで曜さんが傷ついてきた分、傷つく必要があるわ」

善子「だって、曜さんだけが不幸になって、曜さんを傷つけ続けたあなたたちが幸せになるなんて、そんなの通らないもの」

梨子「……狂ってる」

495名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:26:41 ID:XYyqDd8o
善子「狂ってる? 曜さんの優しさにつけこんで幸せになろうとしたあなたたちがそれを言うの?」

梨子「……っ」

善子「私からすれば、あなたたちの方が狂ってるわ」

梨子「……わからないよ、こんなの」

梨子「曜ちゃん、ずっと私たちといて、毎日一緒にお弁当食べて、時々おかずを分けてくれたりして」

梨子「衣装だってすごいもの作って、誰にでも優しくて、いつだって笑ってて……」

梨子「曜ちゃんがどんなこと思ってたかなんて、わからないよ……!」

善子「わからない? 当たり前でしょう?」

善子「梨子さん。あなたに曜さんの気持ちがわかるわけがないわ」

496名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:28:31 ID:XYyqDd8o

善子「――だってあなたは所詮、千歌さんに救われただけだもの」


梨子「……ぁ」

善子「千歌さんのために曜さんが犠牲にしてきた13年を、あなたが理解できるはずがない」

梨子「そんな……私、曜ちゃん……」グスッ


善子「さて、曜さんの気持ち、少しでも理解できた?」

善子「曜さんの痛み、少しでも理解できた?」

善子「あなたたちが曜さんを傷つけた。曜さんをあんなふうにした」

善子「いいですか? 全部、ぜーんぶ、あなたたちのせいです」

善子「優しい曜さんが何も言わないから、私が代わりに言ってあげます」

善子「あなたたちは――」


「なに、してるの」


善子「……え」

善子「(この、声は……)」

497名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:29:04 ID:XYyqDd8o
善子「(そんな、そんなはずない! あの人がこんなところにいるわけがない!)」

「ねえ善子ちゃん」

善子「嘘、嘘よ、なんで……」




曜「私の親友に、なにしてるの……!」


善子「……曜さん」

498名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:30:12 ID:XYyqDd8o
遅れましてほんとうに申し訳ありません
いつも読んでくれてる方々ありがとうございます

499名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 04:39:56 ID:pB3n/Ing
これは辛い…
善子ちゃん……

500名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 09:30:50 ID:Ty1aVyXY
すごい

501名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 15:25:19 ID:wfZ1ZO4E
曜ちゃん…

502名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 17:48:18 ID:/2aC0QpI
血が出る展開じゃなくて良かった

503名無しさん@転載は禁止:2018/02/24(土) 19:13:53 ID:vdf.DERM
前々から思ってたけどこのSSセリフがかっこいいというかすごい引き込まれるな

504名無しさん@転載は禁止:2018/02/25(日) 00:26:30 ID:qayoIONU
続き気になるなぁ

505名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:19:37 ID:PTBv.v2w
善子「曜さん、どうして……」

曜「さっき遅れて学校に来たんだよ。千歌ちゃんと梨子ちゃんが屋上に行ったって聞いたから来てみれば」

曜「……善子ちゃん。二人にひどいこと言ったね」

善子「(聞かれてたのね……)」

善子「(けどそれは事実。許せなかったとはいえ二人を傷つけたのは変わらない。というかそれが目的だった)」

善子「(でも、私は……私は……)」

曜「どいてよ善子ちゃん」スッ

善子「……っ!」

曜さんはなにも言えないままでいた私を冷たく睨みつけて、それから足早に私の前で崩れ落ちている二人の下に向かった。

いつもの優しい曜さんの面影なんてまるでなくて、冷酷に、けれど激しい怒りを抱えている。

こんな曜さんを見るのは初めてで、私はただ叱られる子供のように身をすくめるしかなかった。

506名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:19:57 ID:PTBv.v2w
曜「……千歌ちゃん、梨子ちゃん」

千歌「え、あ、ようちゃん……?」

梨子「どうして、ここに? 今日は休みなんじゃ……」

曜「さっき来たんだ。それで二人のこと探しててね」

千歌「あぁ……、曜ちゃん、ごめんね、ごめんなさい、私、ずっと曜ちゃんのこと傷つけて……」グスッ

曜「そんなことないよ。私は千歌ちゃんと一緒で、ずっと楽しかったし嬉しかった」

曜「千歌ちゃんが『曜ちゃんすごいね』って言ってくれるだけで、私は幸せなんだから」

千歌「う、うぅ、曜ちゃん……!」グスグス

507名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:20:14 ID:PTBv.v2w

梨子「曜ちゃん、私も謝りたい……曜ちゃんのこと無自覚に傷つけて、千歌ちゃんと二人の仲を邪魔して……」

曜「そんなこと思ってないよ。梨子ちゃんがいたから、私たちスクールアイドル始められて、千歌ちゃんだって一生懸命頑張れたんだから」

曜「梨子ちゃんが浦の星に来てくれてよかったって思ってる。私ね、梨子ちゃんのこと、大好きだよ」

梨子「よう、ちゃん……ごめんね……」グスッ

曜「謝らないで? 梨子ちゃんは何も悪いことしてないんだから」

曜「千歌ちゃんも泣かないでよ。悲しいことなんて何もないんだよ」

508名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:20:29 ID:PTBv.v2w
善子「(……ああ、そうやって)」

善子「(そうやってあなたは、許してしまうんだ……)」

善子「(自分が傷つくことなんて構わずに、誰かが悲しまないように、自分以外の人が笑えるように)」

善子「(そうやって全部背負いこんで、それでもこうして笑顔でいようとして)」

善子「(私はそれが許せないから)」

善子「(曜さんの優しさを食い物にするやつらが許せないから!)」

善子「(これ以上、曜さんに傷ついてほしくなかったから……)」

509名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:20:41 ID:PTBv.v2w

曜「……って」

善子「……え」

曜「謝ってよ善子ちゃん。二人に謝って!」

曜「ひどいこと言ったのを、ちゃんと謝ってよ!」

善子「……!」

善子「(なんで、どうして)」

善子「(その二人の方がよっぽど曜さんにひどいことをしてるのに)」

善子「(なんでまだその二人に優しくするの)」

510名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:20:58 ID:PTBv.v2w
善子「(……認めない。たとえ曜さんの言葉でも)」

善子「(私は、絶対に……)」

善子「(絶対に……)」

善子「……」

曜「どうしたの? はやく謝って」

善子「……せん」

曜「……聞こえないよ。もっと大きい声で」

善子「……ません」

曜「二人にも聞こえるように!」




善子「謝りません!!!」

曜「!!!」

511名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:21:12 ID:PTBv.v2w
善子「だって私は間違ってない!!!」

善子「曜さんが悲しんでることなんて知らないで、のうのうと笑って過ごしてたこの人たちを許せない!」

善子「曜さんの気持ちを踏みにじった千歌さんも! 居場所を奪った梨子さんも!」

善子「そのことを理解すらしていない二人を、私は許さない!」

善子「謝るのはこの人たちでしょう!? 曜さんを除け者にして、二人だけでわかり合って」

善子「曜さんのことたくさん傷つけた! だから」

曜「善子ちゃん!!!」パシン!

善子「……っ!」

512名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:21:24 ID:PTBv.v2w
善子「(たぶん、本気で叩かれた気がする)」

善子「(あの曜さんがこんなことまでするくらいに、私は許されないことをしたのだろう)」

善子「(でもこれでいい。これは、私が許せなかっただけ。それだけの話。誰に許しを請うつもりもない)」

善子「(曜さんに嫌われたって、見捨てられたって構わない)」

善子「(曜さんを傷つけるもの、不幸にするもの全部、許さないって決めたんだから)」

善子「(だから……)」

善子「たとえ曜さんの言うことでも、私は謝らない!」

曜「……善子ちゃん」

513名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:21:37 ID:PTBv.v2w
曜「善子ちゃん、私前に言ったよね」

曜「私は善子ちゃんが、誰かを傷つけちゃいそうなら止めてあげるって」

曜「……これはきっと私が弱くて、善子ちゃんに頼りすぎちゃったから起こったこと。だけど」

曜「それでも私は、二人を傷つけたことは許せないの! だから……ちゃんと、謝ってよ」

善子「……いいえ、いいえ! 私は許してもらおうなんて思わない!」

善子「だって! ここで許したらまた曜さんが傷つくんでしょう!?」

善子「私はどんなことがあっても曜さんを守るって決めたもの!」

善子「誰にも理解されなくたって! たとえ曜さんにさえ理解されなくたっていい!」

善子「私は絶対謝らない!!!」

曜「善子ちゃん!」バッ

善子「……っ」

514名無しさん@転載は禁止:2018/02/28(水) 06:22:00 ID:PTBv.v2w
「そこまでよ、二人とも」

善子「え……」

曜「ま、鞠莉ちゃん……」

鞠莉「曜、その手を降ろしなさい。後輩を叩いちゃだめよ」

鞠莉「善子も落ち着いて。ちょっと興奮し過ぎ」

善子「マリー……」

鞠莉「……これ以上は、もうやめて」


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板