- 1 名前:ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 2006/02/08(水) 23:24:04
- 本編のその後の話を補完するため、スレを分けました。
では、どうぞ。
- 7 名前:ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 2006/02/27(月) 01:41:57
- 「そうだ、隼人くんにお土産を持ってきたんだ。ちょっとでいいから見てくれないかな」
話題を変えようと太は持ってきた紙袋を隼人に渡した。 訝しげな表情をして開けてみると、そこには一本の鞭と手紙が入っていた。 「この前、府中に行ったらPRコーナーの中であいつのバッグを見つけてな、 それが中に入ってたんだよ」 太の話もそこそこに、隼人は急いで手紙を開ける。 そこには『隼人へ、』と、丁寧な文字で始まる文が綴られていた。 長く綴られていくごとに急いで書いたのか、乱れていく文章の中に、 はっきりとした2行の文が目に飛び込んだ。 『もし俺がいなくなったら、この鞭をお前に託そう。 この鞭を俺だと思え。俺はいつでもお前の側にいる……』
- 8 名前:ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 2006/02/27(月) 01:45:38
- 手紙の上に、一つ、また一つと、丸い球が落ちて文字を滲ませていく。
いつか流れ星に兄が戻って来るようにと願った事があった。 生きては戻ってこなかったが、使い込まれた一本の鞭に、兄の想いが込められている。
…そうだ、自分の夢は兄と一緒のレースを走る事だったじゃないか。 最後に会った時の兄もまた、自分と一緒のレースを走りたいと言ってた―――
「兄ちゃん…兄ちゃ……ん……」 鞭を抱き締める隼人の表情は、まるで本物の兄と再会できたかのように、泣きながらも笑っていた。 それを見て太一ももらい泣きをする。そんな息子の肩を抱き、太の目にもまた、光るものがあった。
数日後、 「おはようございます!」 傷も癒え、すっかり元気になった隼人の明るい声が、競馬学校に響いた。 右手に兄の形見である鞭をしっかりと握りしめ、これから先に見える道へと新たな一歩を歩み始めた。
- 9 名前:ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 2006/04/15(土) 01:18:26
- 中山競馬場に場所を移したジャパンカップダート。
外国馬招待がない為か、9頭立ての淋しいメンツになった上に客入りも少なかったが、 それでもパドックは活気に溢れていた。 当日の一番人気は先日武蔵野ステークスを制し、 ダートのビッグタイトルを狙うアグネスデジタル。 以下同レース2着のイーグルカフェ、 新設されたジャパンブリーダーズカップ覇者のレギュラーメンバーと続き、 昨年の覇者・ウイングアローは休養が長引いた影響か4番人気に落ちていた。
南井克巳は大きく息を吸い込み、ゆっくりとパドックをまわる馬達を見つめた。 鹿毛、栗毛、芦毛…若駒、古馬…牡馬、牝馬… メンコをつけた馬、しっぽに赤いリボンをつけた馬、たてがみを綺麗に編み込んだ馬… どの馬も個性的で面白い。 そしてふと、あの日から先の事を思い出す。
- 10 名前:ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 2006/04/15(土) 01:19:07
- 南井が目を覚ました時、目の前に大勢の泣き笑う顔が見えた。
中でも息子は、自分の手を掴んでおいおいと泣いている。
本当なら生きているだけでも嬉しい事なのに、なぜか南井の心は晴れなかった。 あの惨劇を二度も味わい、しかも生き残った。 これは苦しみを忘れるな、という事なのだろうか? ―――やれやれ、閻魔様も自分を見放したか。 この先も自分は死んでいった仲間達の上に生きていく事になるのだろう、 と、溜息をついた。
- 11 名前:ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 2006/04/15(土) 01:20:49
- 退院し、まず先に訪れた場所は北海道だった。
零細牧場はもちろん、大きな生産牧場も大きなダメージを受けており、 どこも再建に向けて頑張っていた。 あれだけ安泰だといわれていた社台ファームも、吉田三兄弟が全員死亡し、 繁殖牝馬もあの実験の弊害か、3分の2に減っていた。 (そういえばブラッドレインを生み出したプラントは、証拠隠滅の為か跡形もなく消えていた) 「これからは、我々も挑戦者の気持ちで戦うのみです」 残されたスタッフ達は基本に立ち返り、より一層の団結を誓いあっていた。
そして種牡馬バトルに参加させられた4頭の馬も無事に帰還し、のんびりと過ごしている。 だが、エリシオだけは時々思い出したように西の空に向かって悲しい鳴き声をあげているという。
- 12 名前:ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 2006/04/15(土) 01:21:24
- 栗東に帰る前に、南井はナリタブライアンの墓の前に立ち、両手を合わせ、しばし思いに耽った。
誰が手向けたのだろう、線香と大きな花束が添えられていた。 ブライアンを生み出した早田牧場は、もしもの為にとパシフィカスが遺した卵子を社台に奪われ、 口封じの為にオーナーも殺された。 そのパシフィカスの卵子とサンデーサイレンスの遺伝子を掛け合わせた馬が…ブラッドレインだった。 サラブレッドの称号はないものの、いわばブラッドレインもブライアンの「弟」みたいなものだ。 この2頭が遠い天界で同じレースを走る事を祈りつつ、南井は北の大地を後にした。
- 13 名前:ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 2006/12/01(金) 23:41:22
- 「……先生、南井先生」
ぼんやりと馬達を見ている南井の背後に、誰かが声をかけた。 振り返ると、アグネスの冠名でお馴染みの渡邊孝男が優しい表情で小さく手をあげた。 「…ああ、渡邊さん。いつぞやは…ありがとうございました」 南井は長い事言いそびれた礼を言うと、深々と頭を下げた。 彼の存在なくては、自分達の命がなくなるどころか、尾形の野望が達成されかねないところだった。
「さっき小島先生とも会ったところだよ。ケガの方もだいぶ良くなったみたいだね」 「ええ、おかげさまで」 そんな他愛のない話をしたのち、ふと、渡邊が口を開いた。 「ところで…豊くんはどうしてるのかな?」 彼の名を聞き、南井の表情が曇る。あのプログラムのサンプルに選ばれ、生き残ったふたり… そのうちのひとり、蛯名正義の見舞いには先日行ったが、もうひとり…武豊とはまったく会っていない。 「退院したとは聞きましたが…トレセンにも来てないし、京都の家にも戻ってないみたいです」 「そうか…元気だといいけどな……」 (省略されました・・全てを読むにはここを押してください)
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