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3〜5の本編

1名無しさん:2002/11/08(金) 22:26
3〜5は、2ほどスレが延びずに落ちてしまったので、1つにまとめます。

2と同じく、本来の執筆者名、書き込み日時は残しておきます。

22の本編:2002/11/08(金) 22:27
名前:ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日:02/05/31 23:18

どうしたのだろう。あれだけJRAに忠誠的だった兵士達が豊の脅し一つでたがが外れたように混乱している。
だが、蛯名はあの兵士の死で、彼等がいずれこうなる事が分かっていた。
元々統一性のない連中があそこまで団結できたのは競馬に対する憎しみのみ。
しかし、彼等を待ち受けていた現実は自分達の想像をはるかに超えた方へ進んでいたのだ。

「ユタカ、聞こえるか!」
南井がとっさに小島の持ってた無線を奪い、大声でがなり立てた。
「みーさん?」
「グズグズしてる暇は無い!今のうちにブライアンを連れてこっちに来るんだ!」
自分でも気付かないうちに、あの馬の名前が飛び出していた。
「解った、ウイナーズサークルの方行けばええんやな?」
「そうだ。みんな…待ってるぞ」
見ると、自分の周りにいた兵士達は先程までの威圧感はどこへやら、すっかり怯え、ライフルを持ったまま震えながら豊を見ている。そして、その先にはみんなが待っているスタンドが見えた。
「ブライアン…行くで」
手榴弾を握りしめ、豊はブラッドレインに飛び乗ると、手綱を扱いて合図を出した。
「ブルルッ…ブヒヒィーーン!!」
その合図に応えるがごとく、ブラッドレインは甲高く嘶き、前脚を高く挙げると、人の輪の上を高々と飛び越え、ターフを駆け抜けた。

33の本編:2002/11/08(金) 22:30
noto 投稿日:02/06/01 23:52

「貴様ら!何をしている!とっととアイツを追え!」
吉田は顔を真っ赤にして兵士らにどやしつけた。だが、その言葉に耳を傾けるものは誰もいなかった。
「貴様ら!処刑するぞ!命が惜しくなければとっとと武を撃ち殺せ!貴様…ウガッ!」
はげしくがなり立てる吉田の後頭部を、兵士が持っていたライフルの銃身が捕えた。
「…このクソ野郎!エラそうにしやがって!おい、こいつを殺ってしまえ!」
ライフルで吉田の後頭部を殴打した兵士が叫ぶと他の兵士らは一斉に吉田の周囲に集まり、吉田の体をところ嫌わず殴り付けた。
そこにはもはや、世界を股にかける馬主の貫禄など消え失せていた。

43の本編:2002/11/08(金) 22:34
名前:noto 投稿日:02/06/02 00:36

ちょこっと番外編。

「オイ!コンナ時間、ハゲノオッサンイナイヨ!」
「じゃかあしい!」
名神高速を疾走する車内で二人の男が口喧嘩をしていた。

分かってる、こんなことやってるのはほとんど無駄だってのは。
分かってる、自分の力ではどうにもなる問題じゃないというのは。
分かってる、自分の命がヤバイというのは。

でも、逃げる気にはなれない。
でも、戦わなくてはならない。
でも、でも…。

過去を振り返る。

調子が出たと思いきや落馬事故、そしていい馬にであったにもかかわらず、栄冠を手に入れられない。そして、馬主さんからの信頼を失った…。
あの悔しさはそう簡単に消えない。
「今は試練のとき」とテキは言った。
だが、試練が終わる日は分からない…。
幸い、親が調教師ということで乗り鞍には困らず、そこそこの成績こそ挙げている。だが、こんなんでいいのか?いつまでも親に頼るのか?
それは楽。食い扶持さえ困らなければそれでいい。だが、どうしたわけかそれが出来ない。

このままでは終わりたくない…。
絶対、このままでは終わりたくない…。

高橋亮は走り続ける。
隣の友のために、行方不明の友のために、過去の自分の打ち克つために。

(notoさんは番外編扱いしてますが、2のほうでは本編に入っていたので。)

53の本編:2002/11/08(金) 22:35
名前:noto 投稿日:02/06/12 15:14

「さすが豊だ。…さて、迎えに行った後はいよいよクライマックスだ。みんなで敵陣に殴り込んでここから…」
小島は皆を連れて階段へと向かうその時、彼らの目には銃を持った男数名とスーツを着た一人の男が立っていた。
「確かにクライマックスだ…裏切り者のジ・エンドというシーンでな。」
スーツを着た男はうすら笑いを浮かべて声を高らかに言った。
「クッ…いつのまに…」
「油断していましたね、みなさん」

63の本編:2002/11/08(金) 22:36
名前:衝動的に続き書きました。 投稿日:02/06/13 18:51

薄ら笑いを浮かべたまま、男は話し続ける。
「ところで、蛯名君、ミスターデザーモ、ムッシュペリエ、バトルの続きをやってもらえんかな。
デムーロ君は失格ですが、君達にはまだ資格があるんですよ。最強馬に乗る、ね。」
「今更何を言ってるんだ!馬場で何が起こってるか知らないのか?」
「ああ……。豊君もたいしたもんだな、まさかああ仕向けるとは。
でも……、反逆者は処分すればいい。馬場にいる連中は少し数が多いようだが。」
「これ以上死者を増やしてどうするんだ!」
南井が叫ぶ。
「ほぉ……、南井君、君がそんなことを言うとは思わなかったよ。」
男の声に嘲りが混じる。

73の本編:2002/11/08(金) 22:36
名前:noto 投稿日:02/06/15 04:10

「かつて、このプログラムが実施されたことがあってだね…」
男はかつて行われたプログラムの件に関して淡々と述べ始めた。
小島を始めとし、皆黙って男の話を聞く。
「その時のプログラムの勝者が…」
「ふざけるな!」
男の話をさえぎるように、南井が怒鳴りつけた。
「あのプログラムが実施されたことによって、一体何が変わったんだ!ただ前途有望な騎手を殺しただけにすぎんやないか!もし変わったというのであれば答えてみろ!」
「…まあ、あの時に関してはいろいろとまあ反省する材料は多かった。確かに間違いがあったよ。だが、それは始める時期があまりにも早すぎたということ。科学技術の発達した今であれば、充分にこのプログラムを実施する意義もあるだろう。」
「くだらない戯れ言は辞めろ!」
「…ほう、くだらない戯れ言か…。君に言われたくないよ。」
熱くなっている南井に対して、あくまでも冷淡な男の言葉。
「まあ、小島くん、南井くん。ひとまず君らは反逆者として死んでもらうよ。覚悟はいいかね?」
男は内ポケットからトカレフを取り出し、銃口を小島に向けた。
「だが、それではつまらないな…あ、これはいいかもしれん」
男は独り言のようにそうつぶやくと、小島と南井に向けて薄ら笑いを浮かべた。

83の本編:2002/11/08(金) 22:37
名前:noto 投稿日:02/06/16 23:39

「小島くん、南井くん、君らもここで"騎手"として殺し合いに加わる、というのはどうかね?」
「ふざけるな!」
男の馬鹿げた提案に南井は声を荒げて怒鳴りつけた。
「ほう。ふざけるなと。君は今の状況を踏まえて言っているのかね?」
男は銃口を南井に向けた。
「俺を殺そうとするのか?殺したければ殺せ!どうせ一度は死んだも同然だ!撃てるものなら撃ってみろ!」
なおも南井は怒鳴りつける。
「ハハハ…南井くん。ここまで来てそこまでキレイゴトを言えるとは思わなかったよ。それとも何だ?かつて殺した仲間に詫びでも入れたいのか?」
「いい加減にしろ!自分で自分の首を絞めてるのが分からないのか!」
冷淡な口調で嘲笑う男になおも南井は食って掛かる。
パンッ!…
その時、乾いた音がその場に響き渡った。
「…」
怒鳴りつづけた南井の口が止まった。
「…たかだかトカレフぶっ放したくらいで怖じ気づきやがって。さっきの威勢はどうした?ああん?」
「…フン、所詮こけおどしか。自分の手を汚して殺しも出来ないのか。」
わずかに横に向けた煙のふいた銃口を見ながら南井は吐き捨てるように言った。
「どうせ自分だけは助かりたいんだろ!殺しはすべて兵士にやらせて、そして何かあれば知らぬ存ぜぬで通してウヤムヤに済ませるんだろ!」
「貴様ぁ!」
パンッ!
2発目の弾丸が場内に響き渡ると同時に、南井の体が後ろに吹き飛んだ。

93の本編:2002/11/08(金) 22:38
名前:noto 投稿日:02/06/16 23:56

ウィナーズサークルでは豊が太らの迎えを待っていた。
しかし、すぐ来るという割には誰一人として来なかった。
「遅っそうなあ、太さんら。まさか俺のこと忘れてあのクソを叩きに行ったんちゃうやろな…」
パリーン…ガラスの割れる音が聞こえた。
音のする方へ目を向けると、1枚の窓だけが割れているのに気が付いた。周囲のガラスが割れてないところを見ると、今までのバトルで割れたガラスにしては不自然だと感じた。そう思った時、割れたガラスから乾いた破裂音が聞こえた。
「…まさか!」
豊は何かを察知したのか、トランシーバーを取り出して太に連絡を入れた。
「太さん、何があったんです?」
「来るな!」
トランシーバー越しに太の怒鳴り声が聞こえた。

103の本編:2002/11/08(金) 22:39
名前:続き書いてみました 投稿日:02/06/17 21:21

「よこせっ!」
別人の声が、いきなり割り込んできた。
「太さん!?」
「武君だな、そっちにいるのは。」
小島に銃口を押し付け、トランシーバーを取り上げて男は喋りだす。
「すぐにこちらに来たまえ、馬も連れてな。ガラスが割れてるのが見えるだろう。すぐそこだ。」
「あんた誰や!なにしたんや!」
「来ればわかる。小細工なんぞ考えないでさっさと来るんだな、さもないと……小島君も死ぬことになる。」
「小島君も?…… "も"ってなんや、あんた!!」
「早く来い!」
呆然とする豊の手の中で通信は切れた。

「さて、武君が来るまで全員、暫くおとなしくしていてもらおうか。」
男は小島の顔を見ながら、少し引きつった笑いを浮かべた。

113の本編:2002/11/08(金) 22:40
名前:更に続き 投稿日:02/06/17 21:51

蛯名は、小島の周辺にはお構いなく、倒れた南井の上にかがみこみ、声をかけた。
「南井さん、しっかり!大丈夫ですか!」
が、返事の代わりに聞こえるのは呻き声。
「動いちゃだめです!大人しくしてて下さい!!」
ちょうど三日前だ。豊に撃たれて善臣が死んだのは。
あの時も、善臣は呻き声しかあげず……銃撃戦で、蛯名が気がつかないうちに静かになった。永遠に。
あれからたった3日しか経っていないはずなのに……いったい何人の死を見る羽目になったのだろう。
「だめですよ、死んだりしちゃ……、息子さんが来年騎手になるんでしょう?楽しみにしてたじゃないですか、ねえ……。」
「立ちなさい、蛯名君」
トランシーバーを切った男の、いらだたしげな声が背中に掛かる。
「うるさい!!」
「……だめ……だ……」
覚束ない声と同時に、蛯名の手を南井がつかんだ。

123の本編:2002/11/08(金) 22:40
前:noto 投稿日:02/06/17 23:49

「大変や!太さんが死ぬかもしれん!」
豊はトランシーバーのチャンネルを変更し、待機しているスタッフに連絡を入れた。
「…分かりました!スタッフ全員そっちに行きます!待っててください!」

スタッフが来る間、ガラスの割れた窓を見つめる。
あの中で何が起こっているかは分からない。ただ、今までの状況から察するに危険な状況であることは確かである。
だが、今ここで焦ってしまっては自分も殺られることになる。焦る気持ちだけが先行する。

数分後、スタッフ数人が駆けつけた。
「お待たせしました。さあ、行きましょう!」
スタッフの一人がそう言ったとき、三発目の銃声が鳴り響いた。

133の本編:2002/11/15(金) 00:58
名前: 今更ですが50の続き 投稿日: 02/06/27 20:52 ID:3RlkXLB9

notoさんの書いた51(ここの12)の時間帯の蛯名や、南井です。
(撃たれたのだれかなぁと考えてたら遅れた……)


「南井さん……。」
「俺は大丈夫だから……、立つんだ、蛯名。」
「大丈夫じゃないでしょう?」
手足ならとにかく、身体を撃たれているのだ。大丈夫でないことぐらい子供にだって判る。
「お前さん……まで撃たれる……」
「そんな事!!」
「蛯名君、いい加減にしろ、さもないと……」
いらだたしげな声が、殺気をはらむ。
「撃ちたいんなら、さっさと撃て!俺を殺すのに、今更躊躇うこともないだろう!!」
「ほう……いいんだな。」
おしまいだ……。蛯名は思わず目を閉じる。
男の銃口は、蛯名の頭に向けられ……ふと横を向いた。
ペリエの叫びと同時に、銃声が響く。
崩れ落ちたのは、太だった。
「太さん?!なんで!!」
蛯名が叫ぶ。
「お前さんだけ殺す事もないんでね、撃つのは誰だっていい……。さあ、立つんだ。それとも……次は誰がいい?」
選択の余地はない。蛯名は南井の手を離し、ふらふらと立ち上がった。

143の本編:2002/11/15(金) 00:59
名前: noto 投稿日: 02/06/24 23:48 ID:UGsWLrWm

再開一発目行きまっしょい!

「早く行くで!」
豊はスタッフとともに太らのいるところまで駆け足で行った。
スタンドに到着すると、そこにはうずくまる南井と太の姿があった。
「みーさん!フトシさん!」
豊が慌てて二人の元へ行こうとすると、男は豊の足元にトカレフを撃ち放った。
「何のマネや!」
豊は声を荒げて怒鳴りつけた。
「大丈夫だ。急所は外してある。ただ、早く病院に連れて行かないとどうなるかは知らないが。」
薄気味悪い笑みを浮かべて男は言った。
「まあ、興奮しなさんな豊君。ところで、さきほどの騎乗見せてもらったよ。あの馬をあれほど自由自在に操れるとは思わなかった。
やはり君は天才の名にふさわしいジョッキーだよ。」
「だから何なんや。」
「豊君、私は君の才能を高く評価してるんだよ。そうカリカリしなさんな。ところで、話の続きだが、どうだ?
あの馬の乗れる権利をやろう。あの馬なら日本国内のG1はおろか、凱旋門賞も夢ではない。」
「嫌や。どうせアンタのことだから、みんなを殺すんやろ!そこまでして乗りたいとは思わんわ!
確かに俺はアイツを勝たせてやりたかった!三冠馬の名に恥じないよう、古馬G1の一つ勝たせてやりたかった!
そりゃ、できればあの時に戻りたかった!でもな、勝負の世界で生きている以上、
たられば云々とウダウダほざくわけにはいかんのや!そんな危ないマネまでして、卑怯なマネまでして勝負の
遣り直しなんかしたあない!」
銃口を目の前にしながらも豊は男に怒りつけた。
「俺もだ!俺はあの時、確かに僅差で負けた!周囲から「よくやった」とほめられたが、内心本当は悔しかった!
でもな!そういうものを乗り越えてこそ勝った時こそ本当に嬉しいんだ!その積み重ねが競馬なんだ!」
蛯名も続けざまに男に怒鳴りつける。
「ワタシモデス!」
「ミーモ!」
ペリエやデザーモもつたない日本語で怒鳴りつけた。

153の本編:2002/11/15(金) 01:00
名前: noto 投稿日: 02/06/24 23:49 ID:UGsWLrWm

「…どいつもこいつも戯れ言ばかり言いやがって!」
男は吐き捨てるように怒鳴りつけた。
「そんなに死にたいなら全員死んでもらおうか!」
「…殺っても無駄だよ…。お前らのやった…行為はもうすぐ外部に漏れるん…だからな。そう…なれば、お前ら…はもう
シャバ…に居れ…なくなるんだからな…」
苦しみながらも太は男に挑発的に述べる。
「知って…る…か?お前…らが…どんなに…口封じ…してもだ…100%…口止め…
なんか無理…なんだよ…。調教師…だけでなく…馬主…でもな…」
「ふ、フトシさんもしゃべっちゃダメですよ!フトシさんだって、息子さんが…」
「…そんなにキレイゴトをほざきたければ地獄で言ってくれ。覚悟はいいな。」
男は静かに言い放ち、兵士らに皆殺しにするように言った。
…幸四郎…幹夫さん…オヤジ…そして…みんな…俺もそっちに行く…自分の信念を貫いて殺されて、全くバカ野郎や…今そっち行くで…
豊はそうつぶやいて死を覚悟した時、部屋中に爆撃音が鳴り響いた

163の本編:2002/11/15(金) 01:01
名前: noto 投稿日: 02/06/29 05:18 ID:5Oo7I/Cw

爆撃音の瞬間、豊は銃撃の痛みに耐えるべく歯をくいしばった。
しかし、くいしばった割には痛みは全く感じない。
銃で撃たれた感触どころか、痛みという痛みは全く感じない。
どうしたんだ、と思うとまたもや爆発音がなった。
今度は!…感じなかった。
どうしたんだ、と豊は目を開くと、そこには意外な光景が映った。

173の本編:2002/11/15(金) 01:01
名前: ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 02/07/10 00:53 ID:/3BdRU0E

「な…なんやこれは」
窓越しに見えたのは無数の黒い軍事用ヘリだった。
それを見て意外な表情をしたのは豊だけではなく、男もぽかんと口を開けていた。

(おかしい…予定では最後の一人が確定したら呼ぶ筈だったのに…
それにしては時間が早すぎやしないか?)
「伍長!外の様子を見ておけ!」
「は…?でも、こいつらは…?」
「なあに、いざとなればここに仕掛けた爆弾でまとめて木っ端微塵にしてやるよ」
余裕綽々で男が兵士達を外へ追い出すと、再び豊達の方を向き、
ポケットに忍ばせていた赤いボタンを取り出した。
「何のマネや!」
「…こんな事もあろうかと、指令室に爆弾を仕掛けておいたよ。
あそこには例の赤いディスク、そして…アメリカで行われたプログラムの
データを収めた資料も置いてある」
それを聞いてデザーモの表情が一瞬強張った。

この死のゲームですっかり忘れかけていたが、元々は強い種牡馬を選ぶ為に
アメリカで一度だけ行われた種牡馬だけのプログラム。
強力な薬を打たれて暴れ回るかつての競走馬達はジャングルの猛獣の様に
互いに噛み付きあったり、蹴りあったり、死んだ相手をむさぼり喰ったりと…
結局最後の一頭も、別の相手に蹴られて足を折ったのが致命傷となり、
使い物にならないと人間の手によってあっけなく射殺された。
人間に害は及ばなかったが、それでもあの光景を目にした者たちは
しばらく馬に乗る事が出来なかった。
「ううう………うわああああああああ!!!」
自ら封印した記憶を引きずり出されたデザーモは突如大声で叫び始めた。

183の本編:2002/11/15(金) 01:02
名前: noto 投稿日: 02/07/11 00:58

「あれくらいの光景で気が動転してしまうとは…情けない。大体馬は経済動物だ。金にならなければすぐにポイ、というのがこの競馬の世界というものなのに」
男はデザーモの様子にも顔色一つ変えずにつぶやいた。
「馬ごときにいちいち感情移入してもどうしようもないだろ。それとも何だ?生まれた馬は最後まで面倒見ろとでも言うのか?…全く馬鹿馬鹿しい」
「いい加減にしろこのクソが!」
つまらないゴタクを延々とかます男に豊は怒鳴りつけた。

194の本編:2002/12/02(月) 00:30
名前: noto 投稿日: 02/07/22 02:28

「…しっかし、あいつらもハデにやってくれたなあ…」
ヘリの中の男がそうつぶやいた。
「…ホントにいいんですか?大丈夫なんですか?」
操縦席にいた別の男が返した。
「いいんだ。俺は…今、俺に出来ることは…」
唇を噛み締めながら男はまたつぶやいた。
「…分かりました。私は何も言いません。」
「…いいな…行くぞ!」

204の本編:2002/12/02(月) 00:31
名前: noto 投稿日: 02/07/25 23:44

「まあ、怒鳴りたければ怒鳴ればいい。どっちにしろ、君たちの死はもう近づいているんだよ。
いざという時のために、我々は他の団体にも手をかけている。競馬学校や地方競馬はもちろん、
欧州の競馬団体にも協力は要請している。」
「…」
「今なら間に合うよ。豊君。君は世界でも充分通用するジョッキーなんだよ。…もし君が我々の意見に耳を傾ければJRAが全面サポートの上で君に勝てる馬を提供しよう。もちろん、馬主や生産者にもこっちから通達する。世界のG1総ナメも夢ではないぞ。」
「だからイヤやゆうとるやろが!イカサマしてまで勝とう思わんと何遍ゆうたら分かるんや!ここにいる皆は確かにライバルや!でもな、同じ競馬に関わる仲間でもあるんや!見殺しに出来るか!んなことやったら、死んだ幸四郎や幹夫さん、それに他の
連中にも顔向けできんわ!殺したいなら今すぐ俺を殺せ!」
「…言いたいことはそれだけか。分かった。なら、武豊!まずはお前から処刑だ!…銃撃用…」
男が叫び終わる前に、どこからともなく何かが爆発する音が聞こえた。

214の本編:2002/12/02(月) 00:32
名前: noto 投稿日: 02/07/25 23:53

一体どこから…
男や兵士、それに豊や蛯名らもその爆発の元は分からなかった。
何せ生死をかけたこの状況で他から横やりが入るとは誰もが思わなかったからだ。
兵士らは蛯名らのほうへ目をやるが、何かを仕掛けたという気配は全く見られない。
第一、ここは本部から近い場所。自分ら以外に爆弾やら何やら仕掛けられる人間など誰もいない。一体誰が…?
そんな考えをおこす暇もなく、新たな爆発音が周囲に響き渡った。


名前: noto 投稿日: 02/07/26 00:08

「今だ!」
蛯名は持っていたライフルで兵士らに威嚇射撃を始めた。
パニック状態に陥っていた兵士らはさらに慌てふためいた。
「豊!」
蛯名は叫ぶと、豊はすぐさま反応しては兵士の一人に殴りかかってはライフルを奪い、その柄で次々と兵士を殴りつけた。
その光景に刺激されたのか、ペリエもまたその乱闘に参加しては兵士らを叩きのめした。

224の本編:2002/12/02(月) 00:33
名前: noto 投稿日: 02/07/30 01:03

…そ、そんなバカな…ウ、ウソだ…
小柄な男らに次々と倒されては呻き声をあげる兵士らを目の前にし、ひしひしと敗北感がのしかかるのが分かる。
…せ、世界が…
兵士らが1人づつ、地べたにはいつくばる。
…プ、プログラムが…
男は目の前の現実をただ呆然と傍観するほかなかった。

最後の兵士が戦闘不能になり、豊が叫んだ。
「覚悟しいやー!」

234の本編:2002/12/02(月) 00:33
名前: noto 投稿日: 02/07/30 01:19

ふと気が付くと、目の前に豊がライフルを構えている姿が見えた。
その横では蛯名とペリエが同じくライフルを構えていた。
「もうアンタに勝ち目はない。ええかげんに降参しいや」
豊は言った。
「…」
「どうなんや?降参するんかしないんかはっきりしい」
「…」
「命が惜しいなら早よ降参しい。」
「…フ…フ…フハハハハ」
男は豊の問いかけに対して黙ったかと思えば、いきなり笑い出した。
「…何が命が惜しいだ、豊くん。ホントは殺せないくせに。」
「何やと!」
「君らが倒した兵士を見れば分かるよ。誰一人息の根がとまっちゃいない。大体、ホントに殺す意志があるなら
ライフルぶっ放せばいいものの、それすらしない…見れば分かるよ。君は私を殺せない。」
「…」
「あと、これを忘れたのか?」
男はポケットからボタンのついた装置を取り出した。
「これはだな、いざという時のための自爆装置なんだ。このプログラムの計画が万が一漏れた時のためにね。これを押せば、東京競馬場は
瞬く間に火の海と化す。そうすれば、証拠は何も残らないんだ。どうせ死ぬなら、俺は自爆する方を選ぶ。
お前らが生きるか死ぬかは俺の手のうちにあるということを忘れたのか!」
男の言葉に、豊らは言葉をのんだ。

244の本編:2002/12/02(月) 00:34
名前: ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 02/08/01 08:01

男の高笑いを見ながら、ケント・デザーモは唇を噛み締め、拳を握りしめた。
手のひらに爪が食い込み、血が滴り落ちる。
今年に一度来日した頃、JRAの上層部から呼び出され、プログラムの話を持ちかけられた。
その時に聞かされたのは社台のバックアップで最強の種牡馬を決めるというものだった。
だが、あの苦い思いをもう二度と味わいたくないからという理由で一度は断ったものの、
難病の息子の治療費を全額負担する、と言われ、心が動いた。
だからこそ、一度アメリカに帰り、もう二度と開かないと決めたつもりのレポートを再び紐解き、
時間がないとせかすJRA側の期待に添える様に分厚い資料を送った。

ところが、いざ蓋を開けてみると御覧の通り人間が殺しあっている。
府中に着いた途端、「約束が違う!」と抗議をした時、悲鳴が聞こえた。
次に見たものは…兵士達に押さえ付けられながら、
飢えた獣のような瞳でうなり声を挙げているペリエの姿だった。
そして、彼の左耳には、爆弾を仕掛けられたイヤホンコントローラーが取り付けられていた。
「貴様もああなりたくないなら、おとなしくゲームに参加しろ」
そう言われ、仕方なく頷くしかなかった。
彼らにはとても感謝している。おかげで息子は満足な治療を受け、快方に向かっている。
けど…だけど……
「うわああああああああ!!!!!!!!」
突然、デザーモが叫び声と共に男に向けて南井のポケットから取り出したシグ・ザウエルを発砲した。
「死ね、死ねええっ、クソッタレがあああ!!!!」
男の身体にいくつもの丸い穴が開き、持っていた装置が手元からこぼれ落ちた。

253の本編:2002/12/12(木) 22:34
すいません、入れ忘れてる部分がありました。
ここの、3の後につながる部分です。

263の本編:2002/12/12(木) 22:34
名前: ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 02/06/18 01:14

(ちょっと話が戻ります。)

兵士達が立ち去り、あとにはボロ雑巾のような形で吉田がひとりとり残されていた。
だが、全身ボロボロになりながらも彼はまだ生きていた。
「ブラッドレイン…あいつの為にも、俺は…俺は…」
這いずりながらもその瞳は、ずっと先にいるあの馬の尻尾を見つめていた。
あの馬の行く末を俺はどうしても見届けなくてはならない。
その為だけに対する生への執念が勝ったのだ。

(馬鹿だよ、兄貴。あんたは…)
その時、吉田の耳許に聞き慣れた声がした。
(俺達兄弟を殺しといて、あんただけ生き残ろうってか?)
まさか…いや、でもそんな……声のした方を見上げると、彼の2人の弟、
勝己と晴哉がそこにいた。
「な…なぜお前達が…間違いなくあの時……」
ここ数年の間、社台グループ所有の繁殖牝馬の死亡率が異常に高くなっている事に
不安を抱いたノーザンファーム代表の弟・勝己は、兄弟を呼び、
そこで初めて兄の口からプログラムとクローンホースの存在を知った。
サンデーサイレンスそっくりの馬・ブラッドレインが将来世界のレースで
勝ちまくれば一気に社台ブランドは跳ね上がる。
うまくいけばノーザンテーストやトニービンのクローンも夢じゃない。
そう思えば多少の失敗(繁殖牝馬の処分)なんて安いもんだ。
熱く語る兄・照哉に対し、2人の弟は揃ってプログラム、クローンホースのどちらにも反対した。
名馬の兄弟や子供が期待されつつも良い成績を収める事が稀である事同様、
クローンホースもブラッドレインのような馬が完成するまで多くの繁殖牝馬を犠牲にした。
「このまま無駄な実験を続けると社台は破綻するぞ!」
だが勝己の警告も兄からすれば単なる戯れ言にしか聞こえなかった。
呆れ果てた弟達は帰ろうとしたが、「今日はもう遅いから泊まっていけ」と
兄に言われ、勧められた酒を自棄になってどんどん飲み干した。
それが睡眠薬を混ぜたものであることを知らずに……

273の本編:2002/12/12(木) 22:35
名前: ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 02/06/18 01:16

(あの後あんたは眠った俺達を乗せてずっと遠くの岬まで行って…)
(そう、そこで俺達を車ごと崖から突き落とした!)
晴哉が叫んだと同時に2人の身体はみるみる炎に包まれた。
2人は断末魔の呻き声を挙げ、皮膚が黒く焼けただれていく様子を照哉の目の前で見せつけた。
「あああ…やめろ!やめてくれええっっっ!!」
そこにいるのは幻影だというのは解っている筈なのに、
視覚、聴覚、嗅覚、触覚全てをリアルに再現されるような感覚に吉田は畏怖感におののき、
そこにあった石やら持っていたものを幻影に向かって投げつけた。
だが所詮幻影は幻影。それらはあざ笑うかのようにすり抜け、やがて、消えていった。
「ふ…ふふふ………あはははははは………!」
自分が殺したとはいえ、まさかこんな形で弟たちが復讐するとは思ってもみなかった。
何れにせよ自分はもう後がないということか!だが、只では死なない。死んでたまるか。
ふと目をやると、兵士達が乗り捨てたジープが残されていた。
吉田ははいずりながらそこまでたどり着くと、どうにか動く右手でエンジンをかけた。
「ふふふふ…ブ、ブラッドレイン…そして武豊。貴様らも道連れにしてやる!!」

283の本編:2002/12/12(木) 22:36
名前: ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 02/06/18 01:18

この感じは何だろう、スペシャルウィークに乗った時とはまた違う、懐かしい感触。
(結局あの馬と一緒にG1勝てんかったな…)
唯一自分が乗って勝ったレースはマヤノトップガンと戦った伝説の阪神大賞典、
あの馬は必死になって走ってくれた。
その後、あの馬は主戦の南井の元に戻ったものの、天皇賞2着の後、ゴタゴタがあって
次のレースでは再び豊が乗る事になった。
結局そのレースが引退レースとなり、引退後、わずか2世代の産駒を残してあの馬は遠い世界へ旅立った。
「こんな形でまた会えるなんてな、ブライアン」
あの馬は黒鹿毛で、勾玉のような星と白いシャドーロールが目印だった。
それに対しこの馬は青鹿毛、何から何まで父親そっくりの風貌にもかかわらず、
とても大人しく、優しい感じが溢れていた。
銃声に驚き、兵士の腕を噛みちぎったシーンを自分も見ている筈なのに、
今の彼にはそんな毒気は完全に抜けている様に見えた。

ふと、駆け足で走っていたブラッドレインの歩調がぴたりと止まった。
「どないしたん?ブライアン…?」
手綱を扱いてもブラッドレインは微動だにしない。その時、車の音がだんだん近付き、
目をやると、うつ伏せになるような状態で吉田がジープを運転していた。
「ふふふ…殺す、殺す……!」
狂気に捕われたその瞳には、もはや自分が造った馬とそれを奪った男しか写らなかった。

293の本編:2002/12/12(木) 22:37
名前: ピョン( ゚д゚)ヤン 投稿日: 02/06/18 01:23

「あのオッサンもしぶといな…逃げるで!」
鞭が無い代わりに手綱を鞭代わりにして叩いてみても、ブラッドレインはまだ動かなかった。
それよりも、何を思ったのかくるりと身体を反転させ、ジープに向かって走り出した。
「アホ!死ぬ気か?!」
豊は振り落とされまいと暴走するブラッドレインの首にしがみつくのがやっとだった。
いくら強化された馬とはいえ、スピードを持った鉄の箱と勝負すれば勝ち目は無い事は分かっている。
だがそれでもブラッドレインは走り続けた。ジープまであと5完歩、4完歩、3完歩……
「死ねええ!!!」
吉田は最後の力を振り絞って思いきりアクセルを踏んだ。
だがその時、ブラッドレインは大きくジャンプをし、
一旦ボンネットに着地したかと思った直後、前脚で運転席の吉田を踏み付け、
後脚でとどめを刺すかのごとく彼の頭を破壊した。
頭を失った運転手を乗せたジープはバランスを崩して横転し、轟音と共に爆発した。
こうして、クローンホースを造り出した「生みの親」は、「息子」の脚によって葬り去られた。

「お前…ごっつうおっかないな」
燃え盛る炎を見つめながら豊が呟くと、ブラッドレインはそうか?と言うかの如く嘶いた。
「おっと、こうしちゃおれん。早うみんなのとこへ行くで、ブライアン!」
再び手綱を扱くと、今度は素直に応じ、1人と1頭はみんなが待っているであろう
栄光のウイナーズサークルへと向かって行った。


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