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Pacific―第一次深海戦争―
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人理定礎値 EX
特異点聖杯:"非理法権天"AD.1941 第一次深海戦争 パシフィック
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「――女の話をしよう。
生まれた時から、女は暴力のみを存在理由とされていた。
無敵、最強。非は理に勝たず、理は法に勝たず、法は権に勝たず、権は天に勝たず。
これぞ絶対。究極の暴力装置とは彼女以外にありえない!
これぞ至極。百年の時を経て再臨しても尚、やはり彼女に並ぶ者はなし。
しかし誰もが見落とした。
彼女は誰よりも和を望んでいる。であれば、過去の惨禍を知りて何を思うか。
語るまでもないだろう。なぜならこの女は、民を救うために生み出された鋼なのだから」
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西暦二〇十五年の世界に、平和な海はない。
始まりはある平々凡々たる日の事だった。
世界中のありとあらゆる海域へ突如として出現した、異形生命体――深海棲艦。
彼らは同族を除く全ての船へ見境なく襲い掛かり、軍艦から小さなボートまで例外なく沈め尽くした。
シーレーンは大損害を蒙り、世界中の国々は事実上海の向こうとの交流が不可能な状態へと陥る――所謂鎖国だ。
航空機を飛ばそうものならば深海の艦載機を前に撃墜され、挙句奴らは通常の兵器では倒せない。
発達した輸送手段に頼り切りであった現代人類にとって、それがどれほど致命傷であったかは言うまでもないだろう。
やがて数年の時が経ち、人類はある存在を作り上げた。
素体は燃料。弾薬。鋼材。ボーキサイト。その他諸々。
注入するのは今より百年近くも前に勃発した人類史最大の戦争にて散り果てた、鋼の魂。
深海棲艦が怨念から生まれ来るものだというのなら、それに対抗し得るのは同じ艦の魂を宿したモノだけだ。
誰かがそう語り、そして事実その通りになった。
彼女たちだけが深海の民と戦えた。彼女たちだけが深海の民を殺せた。彼女たちだけが、海を守る力を持っていた。
人は、彼女たちを『艦娘』と呼んだ。
彼女たちは今も、自分達の戦友だったかもしれない怨霊たちと戦い続けている。
いつしかこの戦いは、こう呼ばれるようになった。――そう、深海戦争と。
艦娘も、深海棲艦も、時には無謀に海に繰り出した人間も、等しく戦いの中で散った。
各個の戦力でこそ艦娘は優勢だが、深海の領土は膨大であり、数もあちらの方が圧倒的に格上である。
そこで彼女達を率いる『提督』は、深海棲艦の停泊する領域……『泊地』の攻略こそが最も有効な策だと判断。
深海棲艦にしてみれば堪ったものではない。
鎮守府本丸の中でも指折りの練度で鍛え上げられた鋼の乙女達が一斉に、砲と機銃を振り翳してやって来たのだ。
当然、勝利できる道理はない。泊地を守る姫は討たれ、停泊していた深海棲艦は逃れたものを残して全滅した。
それは華々しき勝利。泊地掃討作戦の成功に国は沸き立ち、誰もが惜しむことなく功労者の少女達を讃えた。
「思えば……この戦さえ無ければ、こうはならなかったのかもしれませんね」
足下に転がる、『かつて提督と呼ばれていた男』の遺骸を悲痛な眼差しで見下ろして、戦艦・大和は呟いた。
その利き腕は血糊で汚れている。そして、遺骸の背には丁度こぶし大の孔が空いていた。
「掃討した深海棲艦泊地の海底より出土した、正体不明の『器』。
第二次大戦よりも遥か昔の時代に水底へ破棄され、数百年の時間、海に漂う思念と魂を吸い上げ続けた“聖遺物”」
かの昔、彼方の地の聖人が己の血と称した葡萄酒を振る舞ったとされる、人類史上最高の神秘。
――だが、これはあくまでも偽典の聖杯だ。
聖杯神話に語られる幾つもの物語に共通しているように、真実の聖杯には程遠いまがい物。
大方、古い魔術師達が結託して製作し、紆余曲折の末に封じられたもの、と大和は聞いている。
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それでも、これに願望機としての効力があることは間違いない。
この手で殺めた『提督』の秘書艦だったことが、大和へとその調査結果を知る機会を与えた。
艦娘とはミリタリーの概念より生み出される存在ではない。
元を辿れば、魂という胡乱げなものに由来したオカルト的存在だ。
そんな彼女達を生み出す軍部が持つ叡智は本物であり、その彼らがこれを願望機と見做したという事実は覆らない。
これは聖杯。あらゆるものの願いを叶え、導く奇跡の象徴に違いないのだ。
しかし、まだこれは不完全だ。
聖杯を起動させるには、魂が必要である。
英霊の座より呼び寄せられる英霊の、その御霊が必要である。
正式なる聖杯戦争ならば合計七つ。
封印の余韻がまだ著しく残り、また器そのものの劣化も進行しているこの器を用いた聖杯戦争なら――それ以上か。
「申し訳ありません、提督。しかし、私には使命があるのです。
この体がまだ物言わぬ鋼であった頃、最初に賜った使命が。
あの日願われた勝利を取り戻すために、この大和。国賊と成らせていただきます」
きっと明日には、戦艦・大和の名は軍部へ逆賊として通達されるだろう。
提督殺しなど前代未聞だ。更に、この手で殺したのは彼だけではない。
“器”の防衛設備は全て破壊した。邪魔立てする者は殺した。
……そこに艦娘が混じっていなかったのは、少しだけ幸いだった。
最後、短い間ではあったが敬愛した士官へと、静かに敬礼をする。
次に踵を返してから、戦艦大和が振り返ることはなかった。
「終わったか、マスター。ならば疾くずらかるぞ、血腥くて敵わん」
「ええ。行きましょう、キャスター」
部屋の外で待っていたのは、魔術師の肩書きがまるで似合わない、小柄な少年だった。
その並んで歩く姿は年の離れた姉弟にすら見える。
しかし、この異常な状況に置かれ、キャスターの少年はまるで堪えた様子を見せてはいない。
「お前は出版社。そして俺は作者だ。何度も言うが、作家に肉体労働を求めるなよ。
俺はあくまで綴るだけの英霊に過ぎないのだから、必然的に全てお前の手腕次第、ということになるのを忘れるな」
「心得ています。これは私の戦――あの時代に成し遂げられなかったコトを遂げるための、私だけの戦争なのですから」
「そうか。ならば」
厭世家らしい、どこか嫌味な声色。
可愛らしいのは外見だけで、彼の内面は断じて夢あふれる子どもなどではない。
声も、子どものものとは言い難いソレだ。
生前に望むものを得られなかった英霊の末路といえば、しっくり来るだろう有様。
他人に好かれる気など毛頭なく、しかして自分を愛しているわけでも全く無い。
それどころか、世の中の全てを嫌っているようにさえ見えるが。
――彼は、全力で物事へ挑むものを決して笑わず、見捨てない。
「俺は、お前の人生を書き上げよう。戦艦大和よ」
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神代は終わり、西暦を経て人類は地上でもっとも栄えた種となった
我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの
人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図
これを魔術世界では『人理』と呼ぶ
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深海戦争の時代に、聖杯が舞い降りた。
しかしこの聖杯は、言うまでもなく正規のものではない。
粗悪品もいいところの欠陥品へ、深海の怨念と海に揺蕩う魂をありったけ注ぎ込んだ自壊しかけの願望機。
それでも形と構造だけは一丁前であるから、ひとたび起動されればこれは正しく願いを叶えるだろう。
――聖杯(しんかい)基準での“正しさ”で。持ち主の望むところを的確に見抜き成就させるに違いない。
だがその先に待ち受けるのは、絶望だ。この聖杯は決して希望を与えない。絶望という形でしか物事を見られない。
だからこの聖杯が満たされれば、人類史上最悪の災いが起こるのは必至だ。
深海棲艦に支配され、彼らの狂おしき情念が溶け出した海水を――彼らが姿を現し始めるよりも前から浴び続けた器。
しかし、それを知るものはまだどこにもいない。
聖杯を発掘し調査した軍部も、そこまでの事実には辿り着けていなかった。
よしんば辿り着ける筈だったとしても、聖杯が強奪されたことで永遠にそうはならなくなってしまった。
大和の願いが叶えば、日帝の敗北という歴史が変わり、戦後世界の情勢は正史のものと百八十度異なる道へ進む。
彼女でない他の誰かが聖杯を獲ったとしても、過剰な歴史改変と深海の怨念が、必ず時空に特大の特異点を作り出す。
そうなれば、人類は滅ぶだろう。
聖杯発動が成った時代からどれほど後になるかはさておいて、人類史の寿命は確実に狭まる。
生き残れる者は一人もいない。これでは本末転倒。地獄の釜を開いた大和は、それを未だ知らない。
――いや。あるいは……
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これは禁断の儀式、聖杯戦争――ならぬ、深海聖杯戦争。
それは同時に、汚染聖杯による人類滅亡を阻止するための偉大な戦でもある。
これは、“海”を取り戻す物語。怨念に包まれた海色の戦争が、今幕を開ける。
【クラス】
キャスター
【真名】
ハンス・C・アンデルセン@Fate/EXTRA CCC
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力EX 幸運E 宝具C
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
高速詠唱:E
魔術詠唱を早める技術。
彼の場合、魔術ではなく原稿の進みに多少の恩恵がある。
ただし、良作に仕上がるかどうかはわからない。
道具作成:C
宝具を応用した詩文で多少の作成が可能。
【保有スキル】
無辜の怪物:D
本人の意思や姿とは関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を表すスキル。
彼の場合は、『読者の呪い』。
童話が有名になりすぎ、彼本人の性格が童話作家のイメージによって塗り潰されてしまっている。
彼の手足は、彼を代表する童話のイメージに侵食されている。
洋服で隠してはいるが、その下の肌は人魚の鱗やマッチの火傷、凍傷に侵され、喉は喋るごとに激痛を刻む始末。
人間観察:A
人々を観察し、理解する技術。
ただ観察するだけでなく、名前も知らない人々の生活や好み、人生までを想定し、
これを忘れない記憶力が重要とされる。
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【宝具】
「貴方のための物語(メルヒェン・マイネスレーベンス)」
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
彼が書いた自伝「我が生涯の物語」の生原稿。
この書の1ページ1ページが作家アンデルセンを愛する人々から供給される魔力によって“読者の見たがっているアンデルセン”の姿を取り、分身となって行動できる。
だがこの宝具の真価は、この本を白紙に戻し、観察した人物の理想の人生・在り方を一冊の本として書き上げることで発揮される。その本の出来が良ければ宝具として成立し、相手を本に書かれた通りの姿にまで成長させることが出来る。
効果の度合いは原稿が進むほどに高まり、数ページ程度ではほんの偶然しか起こせないが、脱稿すれば対象を“最高の姿”にまで成長させることが可能となる。
全能にも思える宝具だが、実際は使いどころが難しい。
執筆に長い時間がかかる、彼自身のネガティブな人生観と作家としてのプライドが都合のいい展開を許容できない、やる気を刺激するような人物でなければ駄作になりかねない、といったリスクがあるためである。
相応の準備期間と彼の眼鏡に適うほどの興味深い対象でなければ、“その人間にとって究極の姿”に至ることは不可能。
【weapon】
なし
【人物背景】
世界三大童話作家の一人。
根暗で厭世家な詩人で、他人に好かれる気がなく、また、自分にも価値を見出せなくなっているため、人生を楽しむ、という考えが欠如している。彼は聖杯に何も求めていない。
根は面倒見がいいのか、頼られれば応えるし、作家らしく几帳面なのでアフターケアも万全。
彼自身は厭世家となってしまったが、かつて夢想し理想とした社会の姿から「正しく生きよう」「全力で事を成し遂げよう」とする人間の努力を決して笑わない。
少年の姿で召喚されているのは、「少年時代が最も感受性が高かった」から。
そもそも魔術師ではなく作家であるため、攻撃手段として魔術を使うことはできず、戦闘能力は皆無。彼が魔術を行使する際は、彼が執筆した童話になぞらえた一文を詠唱として用いる。
作中では「裸の王様」を元にした『顔の無い王』に近い不可視の効果の付与、「みにくいアヒルの子」を元にした敵の遠くへの弾き飛ばし、「雪の女王」を元にした能力の強化などを行なっている。
彼の作品を元にしたサポートスキルを多数備え、サポート面は非常に優秀。
【マスター】
大和@艦隊これくしょん
【マスターとしての願い】
大日本帝国を、第二次世界大戦へ勝利させる。
それが、彼女の誓った最初の盟約であるのだから。
【weapon】
艤装。
海上戦でなければ真価は発揮できないが、最強の戦艦である彼女には些末なことでしかない。
事実、生半可なサーヴァントでは大和には勝利できないだろう。
【人物背景】
大日本帝国の手で開発された、伝説と呼んでも誤りではない戦艦。
――が、深海棲艦に対抗すべく少女の形に当てはめられて再臨させられたもの。
横須賀鎮守府最高練度の艦娘。
【方針】
完全な状態となった聖杯を入手する
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【ルール】
「艦隊これくしょん」の世界観をベースとした聖杯戦争リレー小説企画です。
あくまでもベースにしているだけなので、当作を把握していなければいけないということではありません。
しかし設定のあまり固まっていないブラウザゲームということもあり、wikiや各種資料、本編での描写などでどういった世界観で艦娘、そして深海棲艦とは何なのかを理解することは結構簡単にできると思います。
募集する主従は「通常の七クラス」にプラスして「エクストラクラス」を募集します。
ただし、ルーラーのサーヴァントだけは既に決定済みですので避けていただけると助かります。
採用枠数は厳密には定めていませんが、大体二十枠前後に収めようとは思っています。
※募集の締め切りはとりあえず10月いっぱいを予定していますが、延長になる可能性もあります。
【舞台設定】
日本の横須賀市で、時代設定は二〇十五年現代です。
聖杯の影響で横須賀周辺には高度な人払いが施され、原則外からNPCが入ってくることは不可能な状態です。
そしてマスター以外の横須賀市民には、その異常を認識できません。ただし、サーヴァントが行う虐殺やその被害についてはしっかりと認識します。
深海聖杯戦争への参加資格として、掌に収まる程度の小さな『古びた錨』が必要です。
錨を手に入れたマスターは横須賀に召喚されます。召喚されたマスターは聖杯によって『横須賀市の住人』としての役割をあてがわれます。
横須賀からの脱出を企てるのは自由ですが、基本、ルーラーが黙っていません。
【サーヴァント、マスターについて】
マスターが死亡した場合、サーヴァントは消滅します。
逆にサーヴァントが死亡した場合、マスターは消滅しませんが、それで元の世界へ帰れるというわけでもありません。
また、令呪を全損した場合も裏切りの危険性が高まるだけで、特にそれが原因で死亡、ということはありません。
主従のズガンは可としますが、オリキャラのみでお願いします。
他になにか分からないことがあれば遠慮せず質問してください。
【時刻区分】
深夜(0〜4)
朝(4〜8)
午前(8〜12)
昼(12〜16)
夕方(16〜20)
夜(20〜0)
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続いて候補作を一作、投下いたします
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少女が歩むのは花の旅路。
いずれ現実を知り、苦悩するのが定めであろうとも。
世界の全てが海色に溶けようとも――この少女騎士(リリィ)は希望に溢れている。
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その『錨』を越谷小鞠が見つけたのは、まったくの偶然だった。
小鞠は魔術師ではない。
それどころか、魔術なんてものがこの世にあるとすら信じていないごくごく普通の女の子。
人と違うところといえば、ドが付く田舎に住んでいることと……歳の割に細(こま)い体をしていることくらいのもの。
だから彼女が『錨』を拾ったのは紛れも無い偶然の結果なのだ。
その悪魔じみた偶然がなければ、小鞠は一生、魔術だの聖杯だのといった単語とは無縁に暮らしていたことだろう。
しかし、小鞠は出会ってしまったのだ。
深海の怨念がべっとりと染み付いた、その『錨』に。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……、」
幼く可愛らしい顔貌を不安と恐怖で歪ませて、越谷小鞠は見慣れない町並みを息を切らしながら駆け抜けていた。
通行人の体とぶつかることも多々あったが、いちいち謝っているだけの精神的余裕さえ今の彼女にはない。
だってまず、歩道を走っていて人とぶつかるということ自体が、小鞠にとっては珍しい事だったから。
――ここ、どこ。走ったせいで喉が傷んで声にできず、心の中で彼女はそう問うた。
道はアスファルトで舗装されて、道路には自動車が何十台と行き来している。
コンビニが、スーパーマーケットが、雑貨屋がドラッグストアが病院が、そこかしこに立ち並んでいた。
一般的な価値観で都会と呼べるかどうかは別としても、小鞠の住む村に比べれば立派な大都会に見える。
どうして自分がこんな場所にいるのか、小鞠にはさっぱり心当たりがなかった。
記憶にあるのは、学校の大掃除に付き合わされてくたくたになって帰宅しようとしていたところまで。
迷いようもない何度も通った道であるのに、気付けば彼女はこの見知らぬ街へ迷い込んでいた。
「何でなのん……」
普段は出さないようにしている訛りが無意識に口から漏れてしまうほど、小鞠は狼狽している。
無理も無いだろう。
彼女が今着ている制服は、旭丘分校のものではなかった。
横須賀市立××中学校と、ご丁寧に袖口に刺繍までしてある。
言うまでもなく、小鞠は横須賀などという街に縁はない。
行った覚えもないし、第一前後の流れがあまりにも不自然だ。
学校帰りに遠く離れた知らない街へ迷い込むなんて、それはまるで、この前妹から聞かされた怪談のようで……
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「ひぃっ」
よせばいいのに自分で記憶を掘り返し、余計に顔を青褪めさせる小鞠。
よぎった想像を払拭すべく、乳酸で痛む足を押して走り出すが、その行動はことごとく裏目に出た。
ぜぇぜぇ肩で息をしながら走り続けること五分弱。気付けば人気のない、裏路地めいた場所。
がっくりと脱力して地面へへたり込み、小鞠はぐすぐすとべそをかき始める。
――そもそも、なんでこんなことになったのよ……。
考えても答えは出てこない。今日はいつも通り登校して、こき使われて、それからそれから……
「…………あ」
そういえば、教室の中で誰かの落とし物を拾っていたんだった。
天啓めいたものを感じて、小鞠は鞄の中にとりあえず押し込んだまま忘れていた『それ』を取り出す。
古く錆びた、小さな錨。捨ててしまおうかとも思ったが、形が形だ。
ただのゴミかどうかは自信がなかったため、後で皆の中に持ち主がいないかを聞いてみようと結論を出して、それからすぐ掃除に戻ったのだったと記憶している。
――見れば見るほど気味の悪い、錆びて煤けた錨。
「お、おまえだろっ。おまえ、呪いのアイテムだろーーーーっ!!」
地面へ投げ出した錨を指差して、涙目で震えながら詰問する。
ことオカルトが絡むと突拍子もない早とちりをしがちな小鞠だったが、この時ばかりはその認識で合っていた。
彼女が偶然拾ったこの錨は、正真正銘呪いの聖遺物(アイテム)。
深海の呪いがべっとりとこびりついた、隔離された横須賀へと導く招待状だ。
見ていて哀れになるほど怖がっている彼女は、しかし自身の置かれている状況が、想像より数段優る最悪なものであることには気付いていない。これはいつものドタバタ騒動のように、何かきっかけあって元通り、とはいかない次元の話なのだ。
「うぅ、なんか変な模様まで手に浮かんでるし……もうやだっ……」
深海聖杯戦争。
願望機を巡る争いに巻き込まれた証として、彼女の右手には、赤々とした三画の刻印『令呪』が顕れていた。
模様は見ようによっては花のようにも見え、そこそこ綺麗ではあるが、しかし状況が状況だ。
……どうしよう。
途方に暮れ、ぼうっと空を見上げる。
――その時、小鞠はごく当たり前の、こういう時に一番大事なことへ気が付いた。
「! そうだ、お巡りさん! お巡りさんなら、きっとお家まで帰してくれるわよねっ!」
実に安直。
横須賀の学校の制服を着ていることなどについてはどう説明するのかなど、一切考えてはいなかったが。
とりあえず小鞠は希望を見出し、地面を蹴るようにしてもう一度走り出した。
あまり超人じみた体力の持ち主ではないが、田舎育ちなだけはあってひ弱でもない。
何よりも、八方塞の現況に活路が見えたという喜びが彼女を大きく後押ししていた。
しかし、少女、越谷小鞠の受難はまだ終わりそうにもなく。
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「わぶっ!?」
「……あぁ……? 痛えじゃねぇか、どこ見て歩いてんだコラ」
「あ……ご、ごめんなさいっ……!」
「おい、待てや。誰も行っていいなんて言ってねえだろ」
路地から飛び出る際、柄の悪い青年に思い切りぶつかってしまったのだ。
しかもぶつかった相手は、見るからに虫の居所が悪いようであった。
小鞠のあずかり知らないことだが、この青年は今、ちょっとした条例違反で切符を切られたばかりだった。
その矢先に不注意で衝突してきた少女がいるのなら、どうするかなど言うまでもなかろう。
背丈も小さく、いざとなれば気弱な小鞠は、八つ当たりのターゲットにするにはもってこいである。
「とりあえず、財布出せ。そしたら許してやるよ」
「え……」
「何意外そうな顔してんの? “今ならそれだけで勘弁してやる”って言ってんだぞ」
年も身長も上の異性に恫喝されている小鞠の姿は、心なしかいつもよりも更に小さく見える。
ふるふると小さく体を震わせて脅える彼女を、通行人は憐憫の目で見ながら、しかし誰一人助けようとはしない。
学校で習った通りに大声で助けを呼ぼうにも、これだけ密接されていれば逆に危険だ。
もし従わなければどうされてしまうのか。……それから先を考えるのが怖くて、小鞠は静かに財布を取り出した。
震える手で、青年にそれを差し出す。
相手は乱雑に財布を奪い取ると、中身を改め始めた。
額が予想より少なかったのか不満気な表情をしていたが、丁度いいストレス発散にはなったのだろうか。
奪った財布を懐に仕舞うと、後は何も言わずに立ち去ろうとする。
どこの街でも当たり前に横行しているであろう、胸糞の悪い光景だった。
周りの大人達も、自分が巻き込まれるのを恐れて手出ししないのだから、これでは公開処刑と変わらない。
ぐすっ。小鞠が遂に堪え切れず、鼻を啜った――その時だ。
「待ちなさい」
凛とした――しかしまだ幼さを残した声が、去ろうとする悪輩を怖じることなく引き止めたのだ。
その声は、小鞠の背後から聞こえていた。
べそをかいて震える少女の頭にぽんと手を置くと、毅然とした面持ちで彼女を庇うように前に出た人物。
彼女を一言で表現するならば、“可憐”に尽きた。
金髪を黒いリボンで纏め上げた、コスプレイヤーと見紛うような格好。
下手な容姿ですれば滑稽でしかないだろうそれは、しかしこの異国情緒漂う少女にはこの上なく似合っている。
「な……なんだてめえ。も、文句でもあんのかよっ」
「言うまでもありません。
女性、それも子女から金品を巻き上げるなど――恥を知りなさい!」
「チッ……おい、一体どこの国のお嬢さんだか知らねえがよ……!」
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衆人環視の中で、多少見た目が美しいとはいえ異性に罵倒されたことで逆上したのか。
青年は少女の胸倉を掴み上げた。
しょせん単なるコスプレ女。
どれだけ凄んだところで、男がちょっと脅してやれば簡単に折れる程度の器に決っている。
そう思っていたのだが、伸ばした手は簡単に少女の細腕で掴み取られ、そのままぐるりと捻られた。
こんな少女の、どこからこんな力が出るのか。疑問符が浮かぶほどに彼女の力は強く、力押しではびくともしない。
予期せぬ逆襲に遭ったことと、これまで黙って傍観していた通行人たちからクスクスと笑い声が聞こえ始めたこと。
それらの要因が重なって、いよいよ気恥ずかしくなったのか、青年は小鞠の財布を乱暴に空いた方の手で軽く投げ捨てると、捻り上げる力が緩んだのを見計らって脱兎の如く逃げ出していった。
「まったく。何時の時代にも、ああいう輩は居るものですね――と。お怪我はありませんか、“マスター”?」
周囲からは、この奇矯な、それでいて勇気ある少女を讃える拍手がいつしか巻き起こっていた。
同時に見て見ぬふりをするのみだった自分達を民は恥じる。
次は自分がああしてみたいと、年端もいかない娘に憧れをさえ覚える者もあった。
そんな空気に満更でもなさそうにしながら、少女は小鞠をこう呼んだ。――“マスター”と。
初対面の相手にするには不可解な呼称。しかし小鞠は、それすらどうでもよく思えるほどの感情に支配されていた。
綺麗というよりかはまだ“可愛い”と称するのが正しいだろう顔立ち。
お人形のようにシミ一つない肌――けれど何よりも、自分より大きな、怖い男の人に果敢に立ち向かうその姿が。
「――か」
「?」
まだまだ夢見がちな女の子、越谷小鞠の目には、とてもとても眩しく、何より――
「かっこいい……!!」
“格好よく”写っていた。
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鞄の中にあった見覚えのない学生証に目を通すと、小鞠は至って簡単に、自分の家へと辿り着くことができた。
……もちろん、“元の世界の”越谷小鞠の家ではなかったが。
それでも家族構成はまったく同じ。
騒がしくも憎めない妹と、怒ると怖いが家族思いな母と、寡黙で頼れる兄が、いつも通りに小鞠を待っていた。
遅れたことに小言を言いつつも優しく出迎えてくれた母に少し謝って、家族団欒の夕食を摂る。
普段通りの自分でいられたか今ひとつ自信がなかったが、どうにかそれをやり過ごして。
――自分の部屋へ戻る……もとい部屋を“訪れ”て、そこでようやっと小鞠は一息つく。
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「セイバーさん、居ますか?」
「はい、居ますよ。……やっぱり、聖杯が用意した日常には慣れませんか?」
「まあ、そうですね……いっそ、私の知る夏海達と完全に違ってでもいてくれたら割り切れたかもしれませんけど……」
わずかな時間を共にしただけだが、この『越谷家』では確かに小鞠の知るままの家族達が暮らしていた。
会話の内容こそ少し違ったけれど、それでも一人ひとりの性格から癖まで、そっくりそのまま一緒だった。
これでは、偽物とはいえ蔑ろにできない。小鞠の胸中を察してか、少女……セイバーも静かに唇を噛んだ。
「あ、セイバーさんが気にすることじゃありませんよっ!
元はといえば、私が不用意にあんな怪しい物拾っちゃったのが悪いんですし……」
小鞠はセイバーに助けられてから、家へと向かう道中で自分の置かれている状況を聞かされた。
聖杯戦争。
どんな願いでも叶えることのできるという、魔法のようなアイテムを巡ったその名の通りの『戦争』。
どうやらセイバーの話によると、その参加条件となっているのが小鞠の拾った『錨』なのだという。
――余計なお世話だ、と思わずにはいられなかった。
自分には戦争をしてまで叶えたい願いなんてないし、第一今のままでも十分幸せな暮らしを送れていたのに。
「でも安心してください。マスターは私が護ります。それで必ず、本当のマスターの家へと帰してみせますから」
「セイバーさん……!」
「あ……えっと、自分で名乗っておいて何なんですけど」
表情を輝かせて見上げる小鞠に、セイバーは少しばつが悪そうに言った。
「実は私、まだ剣士としては半人前なんです。なので、“セイバー・リリィ”とお呼びください」
「セイバー……リリィ、さん?」
「はい。改めてになりますが、これからよろしくお願いしますね。私のマスター、コマリ」
【クラス】
セイバー
【真名】
アルトリア・ペンドラゴン(リリィ)@Fate/Unlimited Codes
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運A+ 宝具B
【属性】
秩序・善
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【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。
しかし、勘がいいのも考え物。
とにかく目に付く人の悩みを敏感に感じ取ってしまうため、会う人会う人、つい手助けをしてしまう事に。
魔力放出:A
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
いわば魔力によるジェット噴射。
強力な加護のない通常の武器では一撃の下に破壊されるだろう。
花の旅路:EX
彼女は華々しき旅路を歩んだ幼い姫騎士である。
【宝具】
『勝利すべき黄金の剣』
ランク:B(条件付きでA+) 種別:対人宝具
カリバーン。
本来は王を選定するための剣。
対人宝具の『対人』は敵ではなく、これから所有するものに向けられたもの。
その持ち主が王として正しく、また完成した時、その威力は聖剣に相応しいものとなる。
本来、カリバーンは式典用のもの。
これを武器として用い、真名を解放すればエクスカリバーと同規模の火力を発揮するが、その刀身はアルトリアの魔力に耐えられず崩壊するだろう。
【人物背景】
理想の王になるため、日々研鑽する浪漫の騎士。
まだ半人前なので少女らしさを払拭できず、その心も夢と希望で満ちている。
諸国漫遊時のパーティーは義兄であるサー・ケイとお付きの魔術師マーリンで、
たいていアルトリアのお節介から始まり、マーリンのひやかしで大事になり、ケイが尻ぬぐいをするというものだった。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを聖杯戦争から脱出させる。
【マスター】
越谷小鞠@のんのんびより
【マスターとしての願い】
本当の家へ帰りたい
【weapon】
なし
【能力・技能】
なし
【人物背景】
のどかな田舎の村で暮らす中学二年生。
しかし体つきが非常に幼く、身長はおよそ130に満たないくらい。
色々と細い(こまい)ことから、愛称は『こまちゃん(本人非公認)』。
【方針】
リリィさんと一緒に頑張る。
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以上で投下終了となります。
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投下&新企画乙です
早速ですが自分も投下させていただきます
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聖杯によって、現状 横須賀市 は静かに、しかし着実に『聖杯戦争』という異常自体に陥っていた。しかし、その異変はまだ、表だって騒がれはしていない。そこにすむ人々の大部分はそれに気づくこともなく、平穏な日常を送っていた。
「やだ……もうこんな時間。帰らなくちゃ」
「ええ……まだいいだろ。もっと遊ぼうよ。せっかく知り合ったんだからさー」
深夜の公園を歩く、ふたりの男女もその異変を知らない一般人であった。
胸元を強調するような服装をしている、若干『遊び馴れている』と感じる若い女性。"ギャル"という人種であろうか。
「今日はもう遅いし……う、うちに泊まるかい?家賃二十万もする良い部屋なんだぜ?」
その女を必死に誘おうとしている男は、不良と聞かれたらそうでもなく、異性の気を引こうと必死に着飾ったことが見てとれる『チャラ男』であった。
しかし、女の派手な化粧で着飾った顔には、自分を引き留めようとする男に対して『めんどくさい』と感じていることは明らかだった。
相手を気遣うような事を言っているが、そのね視線はずっと自分の胸元を覗いていることに女はだいぶ前から気づいていたし、それに付き合う気はなかった
そもそもこの男とは知り合ってまだ数時間もたっていない。
何かおごるからと、ぎこちなく自分をナンパしてきたので少し魔が差して、からからかい半分に付き合っただけだった。
「いや私たちまだそこまで親しくないし、とりあえず今日はごちそうさま」
「じ、じゃあ家まで送っていくよ。夜道はぶっそうだし」
男のしつこいアプローチに若干の鬱陶しさを感じながらも、返事を変えそうとして、立ち止まった。
「おい兄ちゃんよぉー……女がイヤがってんだろォー。てめーだけで帰れよ」
ふたりは眉を潜めた。如何にもな柄の悪い男たちが絡んできたのだ。黒シャツにスキンヘッドの男が、虫か何かを払うように『シッシッ』と手を降っていた。シャツからみえ隠れするタトゥーが、否応なしに威圧感を感じてしまう
「女は俺達がちゃーんと……おいしく頂きますってか?」
「ギャハハハハ!!最高じゃんそれ!!」
太った体型のモヒカン男の言い回しに、何が面白いのか爆笑する金髪ピアスの男。女は予想外の自体に不安になり、横目で連れの男を見た。
「え……え……?」
男は固まっていた。
「兄ちゃん、とりあえずサイフとケータイ置いてきな。テメーはそれで見逃してやらあ」
「……はい」
何の蝶々もなくサイフとスマートフォンをスキンヘッドに差し出していた。その顔には恥じている様子はなく、諦めだけがあった。
「うわwwwwだっせwwww」
「へへ……貰っとくぜ」
さっきまで必死に食らいついていた女を守ろうともせず、その順丈な態度に男たちが爆笑した。女も呆れて侮蔑と軽蔑の眼差しを男に向ける。
「あんたってサイテー……」
「何いっているんだ!!僕がケンカしてケガすることを望んでいるのか!?」
「……は?」
「そ……そんな女だとは思わなかった!!見損なったよ!!」
女の額に青筋が浮かぶ。
あろうことか保身のために自分を売った矢先にこれである。不安よりもめらめらと怒りが湧き出てくる
「ははは、まー自己正当化しねーと、やってらんねーよな」
スキンヘッドもその物言いに苦笑していた。外見からして大した相手ではないと思っていたが、こうも弱腰だとは
「じゃあテメーはさっさと消えな!!」
モヒカンが男の襟首を掴み上げた。
弱者をいたぶる優越感を感じているのか、残虐な笑みを浮かべている。
情けない悲鳴をあげる男を尻目に、欲望にたぎった視線の中に微かな憐れみを含めたスキンヘッドが言った。
「なぁねーちゃん。こんな弱っちいヤローの精子なんか受け止めてやる必要ねーぜ」
ふと、そこで怪訝そうに眉を上げた。
いましがたやり取りを見ていた女が、固まっているのだ。口をあんぐりとあけ、自分達の背後を見ながら。
「あ?どうし……」
それが、スキンヘッドの男の最後の言葉となった。
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一瞬のうちに自体は急変した。すくなくとも、割と早期に異変に気づいていた女にも何が起こったのかわからないほどには。
呆然とするふたりの眼前に、それはいた。
異様な風貌の男だ。
がっしりとした骨太の体格に、溶接工のような服装をした怪人。
さきほどまでふたりを恐喝していた男たちは、その怪人の足元で屍を晒していた。
恐らく彼らも何が起こったのか理解できないままに死んだのだろう。
その顔には溶け合うようにして犬の死体が溶接されていた。
それに気づいた女が悲鳴を上げた。
男はどうかわからないが、すくなくとも女はすぐにこれをしたのがこの怪人だとわかった。左手にアーク切断機、右手に比較的新鮮な(腐敗していない)犬の死体を持っていたから
ジャリ、怪人のブーツが地面を擦った。
「大丈夫か?」
そう問いかけてきたのは、怪人ではなかった。女は再度目を疑った。
怪人と肩を並べるように現れたのは、西洋鎧で全身を固めた女(スカートを着用していたのと声で判断)だったからだ。
その手には、人ひとり簡単に切り裂けるような処刑斧を携えていた。
自分の常識に真っ向から喧嘩を売るような自体に、女は固まる。
「あ……あの!!ありがとうごまっ、ごまいざした!!」
しかし男は違った。今回ばかりは
恐喝してきた悪漢を殺害した相手に、警戒よりも感謝の念を感じたのだ。
臆病な男はいいように男たちに従ってしまったが、やはり内心では相当悔しかったのかもしれない。男たちの不可解な死に明らかな喜びを感じていた。
怪人は立ち尽くし、鎧の女は兜越しに男を一別した。
「僕たち困ってたんです!!救ってくれてありがとうござい」
「うるさい」
そしてズバッ!!と首を跳ねた。
技術ではなく、純粋な筋力のみで振るわれた処刑斧は遺憾なくその切れ味を発揮し、男は死んだ。
ゴロゴロと地面に転がる生首には、何が起こったのかわからないといった驚愕の表情が張り付いている。
切断された大動脈から、一呼吸おいて鮮血が噴水のように吹き出る。側にいた女の顔にも飛びちり、悲鳴が上がった。
「なぜこんなことをするのか?理由は単純だ」
「こんなゴミどもがのさばるから社会が汚れる。だからそいつらを殺せば社会はよくなる。生きて人に迷惑をかけるクズよりも殺して生ゴミにした方がずっと有益だ」
「ゴミが人間的に成長するまでに何人の人間が被害にあう?
精液は出してもまたすぐ溜まるし、金を使えばなくなるんだぞ?
そんか輩があちこちで性交し子種をばらまいてみろ…恐ろしいことになると思わないか?」
男たちの死体を、彼女は軽く足で小突いた。まるで汚物をよせるように
-
「例えば……貧乏なくせに無計画に大家族を作り、国の保証にたかるような連中がいるだろう?
節度ある性生活を送る真っ当な納税者がその連中の尻拭いをしているこの世はおかしくないか?
誰も悪者になりたくないからがまんしているだけではないのか?」
足元の転がる生首を拾い上げる。
眼球が裏返り、白目を向いて口を開ける生首は妙に滑稽な表情だった。
「この男を殺したのはゴミを容認したからだ。女も満足にゴミから守れないならそもそもデートなどすべきではないのだ」
その生首を女に差し向けて、彼女は静かに問いかけた
「それを踏まえて、この男を殺した私を君は責めるかね?」
「せ……攻めません……!!」
女は鎧の女を肯定した。首を何度も横に降る。
「彼が私を売ろうとしたのは腹が立ったし…」
その答えに満足したのか、それまで緊張していた場の空気が弛緩した。
「そうか、ならいい……ところで、なぜお前は胸の開いた服を着ている?」
「え?」
瞬間、突如豹変した鎧に蹴り飛ばされた。
鳩尾に打ち込まれ、耐えきれずにその場で嘔吐する女。涙をにじませながら見上げると、それまでの穏やかな雰囲気など消し飛んでいた。
「とぼけるな!!お前はお前で自分の女体を見せびらかしていたんだろう!!
そもそもお前もおかしいのだ、ケーキをそとに放置しハエが寄ってきたら文句を言う女がなァ〜〜〜〜〜〜!!!」
激昂したように女を糾弾する。その声は狂気に染まっていた。兜から覗く視線は、路上の汚物を見るような冷たいものだった
「お前はお前でこの男が安全かどうかに気を回すべきだった!!しかしどうでもよかったのだろう?この淫売がっ!!」
衝動のままに、先客の血に染まった斧を振り上げる。
「つまりィお前もこのゴミどもと同類ということだ〜〜!!」
ズバッ!!なんの弁解もする猶予もなく、女は男と同じく首を飛ばされた。
◆◆◆◆◆
「また一歩、正しいことができたな。バーサーカー」
公園の処刑から数時間語、早朝。
鎧を脱いだ少女は、マンションの自室にて側にたつ怪人ーーバーサーカーに話しかけた
「……」
バーサーカーは答えない。もっとも、彼が此方の問いかけに答えることなどマスターとなってから一回もないのだが
『ガーディアンズ』
自己を極限まで鍛え、そのパワーを用いて、理想とする正義と友愛を実現する、暴力をもって暴力を排除する中学生騎士団である
かつては有志によるボランティア集団だったが、新リーダー就任により方向性が大きくかわり、不良の落書きを消す集団から落書き前に処刑する集団へと変貌した。
そしてその集団を率いていた元リーダーが鎧の女ーーネメシスである
最初は彼女も面食らったものだ。ガーディアンズとしての活動合間に偶然見かけた『古びた錨』を落とし物かと拾った瞬間、まったく土地勘のない都会で暮らす羽目になってしまったのだから。ご丁寧に自宅や身分までも偽装されて……
ネメシスが横須賀市の住民として割り当てられた役割は、横須賀市立××中学校の生徒である。
もっか、彼女はきちんと通っていた。
役割とはいっても、仮病による欠席などはネメシスにとって眉を潜めるべきものだからだ
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「さて、と……」
ネメシスは眼前に山住となったステッカーに目を止めた。それは『GUARDIANS』と印刷されていた
ガーディアンズの目下の活動内容はとてもシンプルだ。
『GUARDIANS』のステッカーの張られた相手を処刑する。それだけである
新リーダーによって販売されたステッカーは分かりやすく言えば「こいつは悪いやつだから死んだほうがいい」という証明書であり、それを張られたものはどんな人物だろうが殺害する。
突如として参戦してしまった聖杯戦争だが、ネメシスはここ横須賀でもそのガーディアンズの正義を貫くつもりである。引き当てた英幽は狂戦士『バーサーカー』と言えども、ネメシスと同じく正義を執行する立場のものであったのは幸いだ。聖杯を狙うなら、恩義ある新リーダーに捧げるのも悪くはない
コツコツと闇夜に紛れて活動していたのが効をそうしたのか、ネットではすでにネメシスのことや、意図的に流したガーディアンズの情報がちらほらとみえ始めていた。
「ここ横須賀に我らガーディアンズの正義を広めて見せる」
【クラス】
バーサーカー
【真名】
犬溶接マン@Hitman
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具C
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
狂化:B
バーサーカーの全ての行動原理は「犬の死体を悪人の顔に溶接する」ことに特化している
【保有スキル】
精神汚染:A
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
【宝具】
『ドッグウェルダー』
ランク:B 種別:対人宝具
バーサーカーの「犬の死体を悪人の顔に溶接する」 という能力が宝具となったもの
属性:悪のサーヴァント、悪と分類されるNPC、敵マスターと対峙した場合、高確率で犬の死体を顔に溶接することができる。判定が出た場合相手は死ぬ。同ランクの幸運で対処可能
【人物背景】
溶接工のようなコスチュームを着込み、アーク切断機と犬の死体を持っているヒーロー。分類としてはヴィジランテに当たる。
能力は「犬の死体を悪人の顔に溶接する」こと。相手は死ぬ。
犬の死体は野良犬を罠に掛けて調達しており、必要に応じて予備も持ち歩く。
ヒーローである。
もう一度言うが、ヒーローである。ヴィランではない。
繰り返すが、あくまでもヒーローである。
素顔を見せるどころか喋ることすら一切なく、時にヒーローやチームメイト相手にすら襲い掛かるという完全なキチ……怪人のような有様でもヒーローである。
ちなみに活動拠点はゴッサムシティ。
つまりバットマンが活躍する裏で、彼も活躍している。犬を悪人に溶接して。
あと、彼が持っているのは切断機であって溶接機ではなく、溶接棒もないのだが、何故か犬の死体を溶接できる。
溶接した犬の死体も原型を留めているため、もう何かそういう超能力なのかもしれない。
【サーヴァントとしての願い】
????
【マスター】
ネメシス@血まみれスケバンチェーンソー
【マスターとしての願い】
聖杯によって正しいことをなす(今のところは新リーダーに献上する)
【weapon】
『斧』
巨大な斧。一撃で首を跳ねることができるほどの切れ味
『鎧』
ガーディアンズとしての正装。
至近距離からの小型ミサイル直撃にも一回だけは耐えられるくらいの防御力
【能力・技能】
『改造死体』
分かりやすく言えばゾンビ。怪力で中々しぶとく、物理的に破壊でもしないと無力化は難しい。
【人物背景】
与えられたルールにガチガチになるタイプ。例外や特別扱いを酷く嫌う。
当初は町の掃除や独居老人の家を訪問したりなどの「ふつう」のボランティア活動を有志で行う善良な学生だったが、訪問しようとしていた老人のガス自殺に気づかず漏電による引火で巻き込まれる形で爆死。その後死体安置所から新リーダー「藍井ネロ」に引き取られ改造死体として復活し、以降は新生ガーディアンズメンバーとともに忠実な手下となる
母が男遊びに激しく、家に男が来ている間は夜中でも家に入れてもらえず、本人の語りから推測するにその時に性的ないたずらをされた可能性もある。この経験からやがて「汚い奴らを殺せるルールがあればいい」といった過激な思想を持つに至る。
【方針】
ガーディアンズとして活動し、ステッカーの概念を拡散し横須賀に正義を知らしめる
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投下終了です
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詳しくは管理人に連絡の方でだけど。
企画主さんが諸事情で企画続けられなくなったそうだから、投下しようとしている人はご注意を。
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