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( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
1同志名無しさん:2013/04/02(火) 14:49:14 ID:HP9PWHYU0
のんびり投下したいです。

2同志名無しさん:2013/04/02(火) 14:52:15 ID:HP9PWHYU0
まとめ:文丸さん
→ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/parallel_world/parallel_world.htm

前スレ
→ttp://jbbs.livedoor.jp/internet/13029/storage/1339066327.html(創作板)
→ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/16305/1355121544/-100(小説板Ⅱ)

3同志名無しさん:2013/04/02(火) 14:54:54 ID:HP9PWHYU0
産業でわかるあらすじ
 ・新ジャンル「チートバトル」
 ・『拒絶』を拒絶する戦い
 ・うんこ

前スレはそのうち埋めます
また今回から、各話ごとのプロローグ的なアレはないです

4同志名無しさん:2013/04/02(火) 14:56:29 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ´ー`) 【全否定《オールアンチ》】
→なにも受け付けない《拒絶能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【暴君の掟《ワールド・パラメーター》】
→『拒絶』化してしまった、それまでは『拒絶』ではなかった少女。
  _
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
 
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
 
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
 
 
.

5同志名無しさん:2013/04/02(火) 14:57:31 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
○前回までのアクション
 
( ´ー`)
→襲来
  _
( ゚∀゚)
/ ,' 3
从 ゚∀从
→応戦
 
( ・∀・)
(゚、゚トソン
→戦線離脱
 
 
.

6同志名無しさん:2013/04/02(火) 14:58:13 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
从 ゚∀从「う……らぎられ…?」
  _
( ゚∀゚)「……。」
 
 
 ハインリッヒはそこで、ジョルジュのほうを見た。
 彼は険しい顔こそしているものの、言葉を発そうとか、そんな様子は見られなかった。
 そのため、その事実はどうであれ、ハインリッヒは少し訝しい気持ちになった。
 
 
( ´ー`)「『開闢』の専属ドクター、ジョルジュ=パンドラ」
            キリヒラ
( ´ー`)「未来を『開闢』くことができなくなったから、次は『革命』にまわったってか。ケッサクだねぇ」
  _
( ゚∀゚)「『拒絶』のお前は、感情なんか籠めてしゃべらねえ。そんな挑発に乗ると思うか?」
 
( ´ー`)「おーおー怖い怖い。もう解析されちまったか」
 
 
 ネーヨが、嘲るような様子でジョルジュに言った。
 だが彼の言葉は正しかったようで、ジョルジュはまるで涼しい顔をしていた。
 
 
 ――ジョルジュは。
 
 
 
.

7同志名無しさん:2013/04/02(火) 14:58:50 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
从;゚∀从「え、いや、〝同僚〟……ちが…、……裏切り……?」
 
( ´ー`)「へッ」
 
/;,' 3「は、ハイン―――!」
 
从;゚∀从「なんだ、クソジ」
 
 
 
 
从 ゚∀从「―――――え」
 
 
 
 
 ――ハインリッヒは、さっきの今だからだろうか
 二人のやり取りを見ていて、すっかり動揺してしまっていた。
 
 それを見て、ネーヨがにんまりと笑う。
 その笑みは、視覚的に見ればなんてことのないふつうの笑みであったが
 どこか、限りなく邪悪なそれのように見えた。
 
 そのことが、その場にいる彼ら―― 『革命』の者に、戦慄を与えた。
 そして、ネーヨは鼻で笑ったかと思うと、〝動いた〟。
 
 先ほど見せたような瞬間移動でもなければ、のしのしと歩いてくるわけでもない。
 言い換えるならば、ネーヨは、〝走った〟。
 
 
.

8同志名無しさん:2013/04/02(火) 14:59:25 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「……肩」
 
从;゚∀从「イ゙っ――」
 
 
 
 ネーヨは、涼しい顔のまま、走った。
 そのときの、脚が地を蹴る――〝砕く〟――音は、やはり彼らにも威圧感を与えるものだった。
 
 ハインリッヒに迫ると同時に、ネーヨがつぶやく。
 直後、ハインリッヒは、ネーヨにそのとき咄に向けた左肩に、異変を感じた。
 
 
 
 ごりっ――と云う音が鳴った。
 
 
 
 
 
从; ∀从「―――ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙アアアッ!!」
 
 
 
( ´ー`)「……膝」
 
从;゚∀从「ッ!!」
 
 
.

9同志名無しさん:2013/04/02(火) 14:59:59 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 ネーヨの〝つぶやき〟は止まらない。
 次にそう言ったのを聞いた瞬間、ハインリッヒは全身の肌が冷たくなった。
 
 
从; ∀从「―――ギッ……――――!!」
 
 
 ネーヨは、ハインリッヒの左足の膝を、
 膝から先が本来曲がるべきでない方向に向くように蹴った。
 
 今度は、めり、と云う音が聞こえた。
 大きな木材が、重量に耐えかねて折れてしまったときのような音だった。
 
 
 
/;。゚ 3「は、ハインリッヒ――」
 
 アラマキが、己にかかっている負荷をも忘れて、半ば枯れた声で呼びかける。
 だが、声量的に大きいその声よりも、ネーヨの声は重くのしかかってきた。
 
 
 
 
( ´ー`)「……心臓」
 
从; ∀从「――ッ!」
 
 
 
.

10同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:00:32 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 思わずハインリッヒはちいさく悲鳴をあげた。
 あげずには、いられなかった。
 
 膝を折られ――いや、骨折ではない。症状的には、脱臼が近い。
 そうして立っていられないようになったハインリッヒは、思わず地に倒れこむ。
 
 その姿を真上から見下ろしたネーヨは、次にそうつぶやいてから、足を、彼女の躯の上にあげた。
 つまさきが空に向けられている。かかとで、「それ」を踏み潰すつもりなのだろう。
 
 
 そうわかると、ハインリッヒは泣きそうになった。
 
 
 
从; ∀从「あッ……―――ァァアアアああああああああああああ!!」
 
( ´ー`)「うるせーよ」
 
 
 
 そして、そのままかかとでハインリッヒの
 
 
 
.

11同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:01:07 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
从; ∀从「――ガ……。」
 
 
 
 
 ――心臓を踏み潰そうとするのを、ゼウスが妨げた。
 持ち前の初速で二人のもとに向かったかと思えば、その勢いを以てハインリッヒを横から蹴り飛ばした。
 
 
 
( ´ー`)「……なんだ、ゼウス」
 
( <●><●>)「……」
 
 
 
 

 
 
 
/;,' 3「け……〝蹴り飛ばした〟?」
  _
( ゚∀゚)「最善手だ。……さすがは、ゼウス。もう【全否定】を理解しやがった」
 
/;,' 3「なに?」
 
 
 
.

12同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:01:40 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 ハインリッヒは、トップスピードに乗ったゼウスに横から蹴られたことで、十メートルほど飛ばされた。
 彼が本気で蹴っていれば、骨が砕けていただろう。
 そのことを踏まえると、彼は彼女を攻撃するつもりで蹴ったわけではなさそうだった。
 
 その一連の動きを見届けて、ネーヨは、目の前に立っているゼウスをにらみつけた。
 ゼウスの表情は、いつもと寸分も違っていなかった。
 
  _
( ゚∀゚)「もしあそこでプロメテウスの足を押さえようとしていたら、一緒にぺちゃんこになってたぜ」
 
/ ,' 3「………?」
 
 
 二人が膠着状態に入ったのを見て、ジョルジュは言い始めた。
 距離こそ空いているが、耳を澄ませば、彼らには互いの声が聞こえた。
 
 二人のもとに向かおうとして、そしてゼウスの動きを見てぴたりと止まったアラマキ。
 ジョルジュは、彼に歩み寄りながらそれを続けた。
 
  _
( ゚∀゚)「『英雄』の蹴りは『拒絶』しなかったようだが……おそらく、もう元に戻してやがる」
  _
( ゚∀゚)「だとすると、だ。もし今、あいつがプロメテウスの足を押さえにかかってたら――」
 
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「そのゼウスの力をも『拒絶』して、『英雄』もろとも、踏み潰してた……ってところだな」
 
 
 
 
.

13同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:02:12 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 

 
 
 
( ´ー`)「今の俺に敵うやつはいねぇ。おめえの今の行動がそれを証明している」
 
( ´ー`)「……だってのによ」
 
( ´ー`)「どーして、ジャマすんだ?」
 
( <●><●>)「……」
 
 
 ネーヨが、単刀直入に訊いた。
 決して嘘を言っているわけではない――
 どれも真実だらけの言葉を前に、ゼウスは黙るしかなかった。
 
 
( ´ー`)「それか、あれか」
 
( ´ー`)「『同盟だから』……とか、ぬかすつもりか?」
 
( <●><●>)「………フン」
 
( ´ー`)「フン、じゃねえよ。答えろ」
 
( <●><●>)「逆に、こちらが問いたいものだ」
 
( ´ー`)「なに?
 
 
.

14同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:02:43 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 ネーヨが目を細める。
 一方のゼウスの顔は、依然けわしかった。
 
 
( <●><●>)「なぜ……」
 
( <●><●>)「なぜだ、プロメテウス」
 
 
 
 
 
 
( <●><●>)「どうして、よりにもよって貴様が……『拒絶』になったのだ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

15同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:03:20 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「……」
 
( <●><●>)「……」
 
 
 ネーヨはそう問われて、開きかけだった口が、きゅっと閉まってしまった。
 口角は――伸びている。気を悪くしたとか、そういうわけではなさそうだ。
 
 しかしそれでも、あきらかに、
 その瞬間、ネーヨは、さきほどまでとは違う雰囲気を漂わせた。
 
 
 
( <●><●>)「『拒絶』にボスたる存在がいることは、わかっていた」
 
( <●><●>)「だが、あらゆる意味において、貴様だけはその候補にはあたっていなかったのだ」
 
( <●><●>)「ネーヨ=プロメテウス……、貴様は―――」
 
 
 
.

16同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:03:52 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「やめようぜ、そういうの」
 
( <●><●>)「!」
 
 
 ゼウスが続けて言葉を紡ごうとしたのを、
 ようやく開いた口で、ネーヨは妨げてきた。
 
 同時に、一歩前に踏み出していた足を元に戻す。
 完全に、体の向きをゼウスのほうに向けた。
 
 
 
( ´ー`)「おめえの言いたいこたぁ、手にとるようにわから」
 
( ´ー`)「……だけどよ、『開闢』が動いてたのは、もうずっと前の話」
 
( ´ー`)「……いま、俺たちは、互いに別の人間となってんだよ」
 
 
 
( ´ー`)「『拒絶』のプロメテウスに、『革命』のゼウス」
 
( ´ー`)「……そして俺は、おめえの知っているプロメテウスでは、」
 
 
 
 
.

17同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:04:28 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
 
 「ない」。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その瞬間、ゼウスの胴体が引きちぎられた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

18同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:05:01 ID:HP9PWHYU0
 
 
  _
( ;゚∀゚)「ぜッ――ゼウス!!」
 
 
( <○><○>)「ッ………!」
 
 
 
(   ー )「いいか、よく聞け、おめえらァ!」
 
  _
( ゚∀゚)「!」
 
 
 
 ゼウスは、下半身は五メートルほど離れた場所に、
 上半身はその場に横たわるかのように、落ちた。
 
 どさっ、という音を残して。
 
 
 
 続けて、ネーヨは大きな声を出した。
 彼が大きな声を出すなど、ジョルジュにとっては考えられないような出来事だった。
 
 同時に、ネーヨは地面を思いっきり右脚で踏む。
 直後、その場で交通事故でも起こったかのような轟音が響いた。
 
 踏み込んだ場所が砕かれ、岩石の集合体のようになった土が盛り上がる。
 それに右脚を呑まれたままの状態で、ネーヨは続けた。
 
 
 声の相手は、『革命』の皆だ。
 
 
 
.

19同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:05:38 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
            アンチ
(   ー )「俺は、『拒絶』 ッ!」
 
 
(   ー )「ただ、能力者を嫌う!
       世界を嫌う!
       運命を嫌う!
       自分を嫌う!
       なにもかもを嫌う!」
 
 
(   ー )「憎悪、殺意、怠惰、腐敗、幻滅、落胆、狂気、恐怖、絶望、そして―― 拒絶!」
 
 
(   ー )「人間の持つ、あらゆる負の感情の、集合体!」
 
 
(   ー )「そんな〝最悪の精神体の具現化〟! そいつが、俺だッ!!」
 
 
 
 
(   ー )「すなわち――」
 
 
(   ー )「 『オールアンチ』!!」
 
 
 
 
.

20同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:06:13 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
(   ー )「理性、感情、抑制――その、全てを捨てた男!」
 
 
(   ー )「ただの生物と成り下がった男の、望むことはたった一つ!」
 
 
 
 
(   ー )「〝満たされる〟こと!」
 
 
 
 
 ――― その瞬間
 
  『革命』 の皆は、背筋がぞわり、とした。
 
 
 
 
 
( ´ー`)「【ご都合主義】も、【手のひら還し】も、【常識破り】も」
 
( ´ー`)「その、全てを駆逐したおめえたちに、俺が挑む!」
 
( ´ー`)「俺がいま望むことは―――」
 
 
 
.

21同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:06:45 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   おめえたちの心を、 『 拒
.                  絶 』 で、すべて埋め尽くすことだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

22同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:07:19 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
 
 
    ブーンは自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
 
 
 
 
 
                第二部 : 拒絶
 
 
 
            第三十四話 : vs【全否定】Ⅱ
 
 
 
 
 
 
 
.

23同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:07:57 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 

 
 
 
( ;゚ω゚)「……ッ…!」
 
 
 その瞬間、内藤武運は身震いした。
 
 自分が戦うわけではないとわかっているのに。
 ネーヨの声を聞いて、心の底から、恐怖を感じた。
 
 
 
 ――また、一方で
 
 
 
( ;゚ω゚)「………つ、ついに……」
 
( ;゚ω゚)「ついに……はじまってしまったのか、お……っ!」
 
 
 
.

24同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:08:28 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 それまでは、『現実』を知っておきながらも、どこかしら現実逃避していたふしが見られた。
 確かに、いま、我々は『拒絶』と戦っているのだ、という実感こそしていたものの
 それでもどこか、「こうなること」に対しての現実味をもてないでいた。
 
 それは、内藤がこの世界の人間ではないこと。
 この世界は、自分が創りだした世界であること。
 その世界に住まうのは、同じく創作上の存在であること。
 
 
 それらの要因すべてが、彼から現実味をある程度奪い上げていたのだ。
 しかし。
 
 
 
( ´ー`)「次は……じーさんにすっか」
 
/;,' 3「っ! ……ほう」
 
( ´ー`)「安心してくれ。今すぐ殺そうってハラじゃ、ねえからな
 
/;,' 3「その慢心が、いつまで続くかわかればい」
 
 
 
( ´ー`)「ん?」
 
/ 。゚ 3「イ゛ッ」
 
 
 
( ; ω )「ッ!」
 
 
 
.

25同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:08:58 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 いま、目の前に広がっているのは、あきらかに戦いだ。
 物語のボスに、力としては心もとない主人公サイドの登場人物たちが戦いを挑む、無謀な地獄絵図だ。
 
 いままで、幾度となく、「このこと」は危惧してきた。
 【全否定】にだけは、絶対に、相手をしてはいけないのだ。
 
 
 
 【ご都合主義】も、その「絶対に相手をしてはいけない人物」だった。
 『現実』――つまり、いま自分がこうして生きている概念的フィールドを掌握していた男なのだから。
 
 【手のひら還し】も同様である。
 『因果』――事象として自分たちをつないでいる連続的反応を、狂わせるのだから。あの少女は。
 
 【常識破り】に至っては、その最たるものだ。
 『真実』――『現実』や『因果』がどうであれ、概念的に存在するそのコタエをも一蹴される以上は。
 
 
 
.

26同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:09:35 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 だが。
 それでも、【全否定】だけは。
 ネーヨ=プロメテウスという男だけは、相手取ってはならない。
 いままで――パラレルワールドに迷いこんでから、内藤はずっとそう思ってきた。
 
 
 それを、防げなかった。
 
 
 
/;,' 3「がああああああああああああああッ!!!」
 
( ´ー`)「あれ。そーいやおめえ、はなから左腕ねえんだな」
 
( *´ー`)「おお。ってことは、もう〝両腕が使えなくなった〟のか!」
  _
( ;゚∀゚)「……、………ッ!!」
 
/;,' 3「―――ア゙ア゙ア゙ア゙アアアアアアッッ!!」
 
 
 
( ;^ω^)「………な、…んだって……?」
 
 
 
.

27同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:10:08 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 いま、ネーヨの口から、あまりにも残酷な声が聞こえたような気がした。
 それは決して、アラマキの放っている絶叫に掻き消されることはなかったものだ。
 
 心臓が、硬くなったような感じがする。
 ポンプの作用がうまく働いていない、というほうがいいかもしれない。
 硬直寸前の心臓が、なんとか血液を送ろうとして、結果、内藤は息苦しさなどを覚えた。
 
 ――目は、背けたい。
 だが、背けてはならない。
 
 それが「現実」を甘受すること――では、ない。
 目を背けてしまっては、『拒絶』を甘受することにつながってしまうから――
 
 
 
( ;゚ω゚)「 ッ ! ! 」
 
 
 
 直後、内藤は、この拒絶を甘受したくなった。
 胃の底から、酸の強い液体を吐き出した。
 
 
 
.

28同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:10:47 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( *´ー`)「こーいつが噂の〝だるま〟か! こりゃーいい眺めだ!」
 
( ; ω )「―――ゲ――……」
 
 
 ネーヨのそのラフな服装には、派手な色がついていた。
 単色でもっとも人間に吐き気を促す、どす黒い赤色が。
 それも、一目見ればそれが飛沫であったことがわかるような模様で、だ。
 
 ネーヨは、右手に何か、太いものを持っている。
 太い、棒状の、ごつごつとした表面のものだ。
 
 それがなにかは、情景を見るまでもなくわかった。
 その棒の断面は、ネーヨの服にある模様と同じ色をしている。
 断面の中央には、白い円形のものが。
 
 
 
 
 アラマキの右腕が      
 
 
 
 
.

29同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:11:24 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
/ 。゚ 3「          」
 
 
 
 その瞬間、アラマキはこの上ないほど、目を見開いた。
 
 それまでは開いているのかすらわかりづらかった眼が、完全に開ききっている。
 眼球の成す円形が窺えるほどだ。
 眼球に張り巡らされた血管が浮き出ており、その焦点はあってない。
 
 口も、同様に、完全に開ききっていた。
 張った顎骨から、彼の顎の形状が肉眼でもよく窺える。
 詩的な表現をするなら、それはその口から魂が抜けていくような情景であった。
 
 
 それを見て、ネーヨはけらけらと笑った。
 普段寡言で笑うことも少ないネーヨが、見るからに満面の笑みをこぼしている。
 その光景が、彼をよく知るジョルジュとモララーにとっては、あまりにも異様な光景に見えた。
 
 
 
 
 いや、実際にこれは、異様だった。
 
 あまりにも異様すぎる、光景だった。
 
 
 
.

30同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:11:59 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
从 ;∀从「わあああアアアアアアアアアアッ!!」
 
 
 ハインリッヒは、ゼウスに〝助けてもらった〟。
 
 少し遅れつつも上体を起こしたのだが
 そのときに見た光景が
 
 
 
 
/ 。゚ 3
 
 
( <  ><○>)
 
 
 
 
从 ;Д从「―――アアアアアアアアアアアアアアアアア!!! アアアアアッ!!」
 
 
 
 両腕をまるまる失ったアラマキ。
 
 下半身をまるまる失ったゼウス。
 
 
 
 
 同志の、異型だった。
 
 
 
.

31同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:12:33 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( *´ー`)「お、まだまだ」
 
/ 。゚ 3「      力゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙アッ!!!」
 
 
 
 ――続けてネーヨは、アラマキの脚に着目した。
 アラマキの右腕を捨てて、そのまま己の右手を振りかざした。
 
 
 照準は――アラマキの左足の、付け根。
 アラマキが抵抗をする間もなく、狙ったどおりの場所に、ネーヨの拳が入った。
 
 
 瞬間、めり、という音が聞こえた。
 しかし、ネーヨの腕は、なんの抵抗も受けなかったかのごとく、するりと〝通った〟。
 彼の拳の勢いにあわせて、アラマキの左足付け根から下はあさっての方向に飛んでいった。
 
 
 何が起こったのか把握できないまま。
 アラマキの視界は、ぐらり、と動いた。
 
 ――いや、「視界」としては既に、その機能を失っていたのかもしれない。
 とにかく、片足を〝失った〟ことでバランスを崩したアラマキは、そのまま地に倒れこんだ。
 依然、眼も口も開かれたまま。
 
 
.

32同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:13:15 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( *´ー`)「右脚だけ置いといてやろうかなァ?」
 
/ 。゜3
 
( *´ー`)「でも、人を正味の〝だるま〟にするなんて、滅多にねえことだかんな」
 
( *´ー`)「記念だ、右脚ももらうか」
 
/ 。゜3
 
 
 地に倒れこんだアラマキの、右脚付け根。
 ネーヨはそこに標的を絞り、かかとを振り下ろした。
 
 ネーヨは、己の『拒絶』――【全否定】で
 物理的に発生する力の抵抗を『拒絶』しているため、アラマキの右脚は〝すっ〟ともげた。
 
 
( *´ー`)「ぶゎっはははははは!! 〝だるま〟だ〝だるま〟!」
 
从 ;Д从「―――ヤアアアアアアアアアアアああああああああああああああ!!!」
 
 
 
 アラマキは、四肢を失った。
 
 
.

33同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:13:48 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
  _
( ;゚∀゚)「……プロメ、テウス………?」
 
 
 ジョルジュは一応、彼がやってきた時点で距離はある程度とっていたが、
 その行動と光景、そして彼の態度を見て、更に数歩、じりじりと後退した。
 
 
 あまりにも、異様すぎたのだ。
 
 
 自分も「マッド・サイエンティスト」の揶揄に恥じぬ、狂った研究を続けてきたが
 そんな過去を持つ彼にしてみても、この光景は異常としか思えなかった。
 人の腕や脚をもぐ、まではあったとしても、自分は決してそれで〝笑う〟ことはない。
 
 
 だが。
 
 
 
( *´ー`)「あーっはっはっはっはっはっはっは!!
.       すげえ、サッカーボールじゃねえか! ぶっはははは!!」
 
 
 
 ネーヨは〝笑っている〟のだ。
 それが、狂人が前提の『拒絶』だとわかっていても、おかしいとしか思えなかった。
 狂気を目の当たりにして吐き気を覚えることは、過去にそうそうなかったというのに、だ。
 
 
.

34同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:14:20 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
从 ;Д从「――――アアアアアア―――ッ!!」
 
( *´ー`)「……次は、おめえだな」
 
从 ;Д从「 ッ!!?」
 
 
 ジョルジュでさえ吐き気を覚えるほどの光景を見て、
 ハインリッヒは発狂寸前となっていた。
 
 
 アラマキの恐ろしさは知っている。
 【則を拒む者】として、嘗て、今のように痛めつけられたことがある。
 
 ゼウスの恐ろしさも知っている。
 【連鎖する爆撃】を前に、てんで歯が立たず、一方的な『恐怖』を植えつけられた。
 
 
 だが。
 その二人が、あっという間に、ヒトの原型を壊された。
 
 
 
 目の前に〝瞬間移動〟してきた、この男に。
 
 
 
.

35同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:14:51 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( *´ー`)「どう可愛がってやろうかなァ」
 
从 ;∀从「    ヵ゛ 」
 
 
 ハインリッヒに逃げる隙も与えず、ネーヨはすぐさま彼女の首根っこを捕らえ、持ち上げた。
 体躯のちいさなハインリッヒが、体躯の大きなネーヨに軽々と持ち上げられる。
 
 先ほどまで適応させていた『拒絶』は解除しているのだろう、
 ハインリッヒは首をきりきりと痛めてくるネーヨの握力を、この上なく恐ろしく思えた。
 
 
从 ;Д从「あああああああああああ! あああああッ!!
.      あああああああああああああああああああああっ!!!」
 
( *´ー`)「おーおー、安心しろ。スグに殺しやしねーっての」
 
 
 ハインリッヒはがむしゃらに四肢をじたばたさせる。
 それはまるで、子供が必死に足掻いているような光景にも見えた。
 それが滑稽に思えて、ネーヨはまだ何もしていないのに、笑った。
 
 
.

36同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:15:26 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
从 ;Д从
 
 
 どうせなら、モララーに殺されるほうがよかった。
 あのときワタナベに素直に殺されるべきだった。
 ショボンに成す術がないまま朽ちていきたかった。
 
 仲間割れのときに殺されたかった。
 ゼウスの放つ爆撃のなかで焦げ死んでおくべきだった。
 アラマキを前にヒートの助力を頼まないほうがよかった。
 
 
 
 
 生まれてこなければよかった。
 
 
 
 
 ――ハインリッヒが突如としてそう思った理由は、実に簡単だった。
 ネーヨに〝殺すつもりはない〟からだ
 
 
 
.

37同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:15:59 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( *´ー`)「情にゃあ興味ねえしよ。どうしてくれようか」
 
从 ;Д从「八゙アアアアアアァァぜえええええええええええええ!!!」
 
( ´ー`)「うるせえよ」
 
从 ;%,;从「  ッ ! !  」
 
 
 ハインリッヒが「離せ」と泣き喚く。
 それを鬱陶しく思ったネーヨは、空いている左手、親指以外四本を
 開きっぱなしの彼女の口の中に突っ込んだ。
 
 そして、ハインリッヒの顎を掴み、思いっきり下に引っ張った。
 ゴリ、という音が、骨を伝って自分の耳にはっきりと届いた。
 直後にやってくる、電気が走ったかのような痺れと痛み。
 
 
 ハインリッヒは、顎をもがれた。
 だが、これだけではなかった。
 ネーヨは、もいだ顎を、ハインリッヒの目の前に突きつけてきた。
 
 
.

38同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:16:44 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
从 ;%,;从「!!!」
 
( *´ー`)「おっほ! クチから下がねえっつー顔もなかなか見ごたえあるな!」
 
 
 ハインリッヒは、目を瞑っておくべきだった、と後悔した。
 ――いや、後悔する精神的余裕すら、なかった。
 
 目の前に突きつけられた顎が、グロテスクすぎたためだ。
 耳のほうに伸びていた顎骨の両端、はがされた肉、皮。
 滴り落ちる血の雫に、むき出しとなった歯の並び。
 
 しかも、それが自分のものだ、とわかっているのだ。
 彼女にとっては、死を自ら選びたくなるほど、その苦痛はひどいものだった。
 
 
( *´ー`)「オンナは顔が命、ってムカシよく聞かされてよォ」
 
( *´ー`)「そのたびに言ってやったんだ、『ツラの皮が厚い奴が』ってなァ」
 
( *´ー`)「……おめえも、ツラの皮、厚いのか?」
 
从 ;%,;从「!?!!」
 
 
 
 今度は、顔面を覆っている皮に手を出した。
 
 
 
.

39同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:17:18 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
 
 
                                びりっ
 
 
 
 
 
 
( *´ー`)「おお! こりゃーいい眺めだ!!」
 
 
从;:。,ァ'i;゙*リ
 
 
 
 皮膚、として顔面を覆っているそれは、
 もがれた顎の部分から額にいたるまで、きれいにちぎられた。
 
 赤黒として、湿っぽさが感じられる、肉。
 筋肉、その筋が編み物のように張り巡らされている。
 
 上唇に隠れていた歯はくっきりと見えていたが、その白はやがて赤に侵されていった。
 瞼が消えたため、ハインリッヒのぱっちりとした目、瞳――は、もはやただの眼球となった。
 
 
从;:。,ァ'i;゙*リ
 
 童顔だったハインリッヒは一転
 ただの人体模型のようにグロテスクな女へと変わった。
 このときになって、ハインリッヒは抵抗するのをやめた。
 
 
.

40同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:18:04 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( *´ー`)「ぶはは……、…。」
 
( *´ー`)「おい、なんか反応しろよ」
 
( *´ー`)「鏡見るか? 目をつぶそうか? 今度は肉をはがそうか?」
 
 
 
从;:。,ァ'i;゙*リ
 
 
 
( ´ー`)「……ああ。顎がねえから、クチ利けねえのか。トチったな」
 
( ´ー`)「おもしろくねえじゃねーか」
 
 
 
从;:。,ァ'i;゙*リ
 
 
 
( ´ー`)「……抵抗しろよ」
 
从;:。,ァ'i;゙*リ
 
 
.

41同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:18:36 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 ハインリッヒは、気絶したのか、脳が生命活動を停止させたのか。
 それこそわからないが、とにかく、ハインリッヒは動かなくなった。
 それを、ネーヨは、この上なくつまらなく思った。
 
 いわば、ハインリッヒはヒーローでもなければ、能力者でも、まして人間でもない。
 ネーヨにとっての、使い捨ての玩具となっていたのだ。
 
 肉を、剥ぐ。
 皮を、剥ぐ。
 骨を、剥ぐ。
 気を、剥ぐ。
 命を、剥ぐ。
 
 本人に拒絶心を植え付けることで、自分の心に潜む拒絶を押し付けることができて
 それによる拒絶で顔を歪ませる相手を見て、自分は心から満悦に浸ることができる。
 
 相手に異様すぎる暴力を振るうことは、間接的に自分を満たすことになるのだ。
 つまり、自分を満たすために食糧となる牛や魚を殺すのと同義である。
 
 違うところは、牛や魚は食という生理的欲求であるのに対して、
 こちらは拒絶、満悦という心理的欲求であるという点だ。
 
 
 
 言い換えれば、形として残らない欲求なのである。
 食欲は一時的であるとは言えゴールがあるのだが、
 快楽にゴールは―――
 
 
 
.

42同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:19:07 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
从;:。,ァ'i;゙*リ
 
( ´ー`)「萎えちまった」
 
( ´ー`)「あとは……」
 
 
  _
( ;゚∀゚)「……」
 
 
 
( ´ー`)「………お。」
 
 
 ネーヨは、壊れた玩具をその場に落とした。
 四肢のうち半分壊れた二つが、歪な形になる。
 顔は地面についたせいで、砂が顔に張り付き、更にグロテスクな様となった。
 
 だが、それはもうハインリッヒではない、ただの「ゴミ」だ。
 ネーヨが彼女――いや、「それ」に気を払うことはさっぱりなくなっていた。
 同僚の娘だから、という感慨も、この時は既に消えうせていた。
 
 
 次の標的は――ジョルジュ=パンドラ。
 白衣を風にはためかせ、ネーヨからは距離をとっており、顔はもう歪ませている。
 
 ネーヨは、笑った。
 
 
.

43同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:19:45 ID:HP9PWHYU0
 
 
  _
( ;゚∀゚)「チッ!」
 
( ´ー`)「やっぱ、メインディッシュはこうでねえとな」
 
 
 ネーヨと目があった瞬間、ジョルジュは逃げた。
 ジョルジュの足は、速い。
 いや、動作の一つひとつが、速いのだ。
 少なくとも、ハインリッヒの首元を一瞬で締め上げられるほどには。
 
 そんなジョルジュは、一目散に駆けた。
 逃げた。
 目の前の「拒絶」を、拒絶しようとした。
 
 その様――「拒絶」を拒絶しようとする様――を見て、ネーヨは震え上がった。
 気持ちよかったのだ。自分に抗ってみようとしてくれる、彼が。
 だから、彼はその行動に最大限の感謝を示すべく、瞬間移動した。
 
            ム シ
 物理法則を、『拒絶』。
 
 
.

44同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:20:19 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「よう、パンドラ。しばらく」
  _
( ;゚∀゚)「て、手品みてーなコトに使いやがって……!」
 
        コ  レ
( ´ー`)「【全否定】のこッか?
      んな、大それたことにしか使っちゃいけねえって制約はねぜ」
 
( ´ー`)「むしろ、俺の『拒絶』から逃げようとすんだから、それを防ぐって意味じゃあ最大の使い方だ」
 
  _
( ;゚∀゚)「そりゃーどうも…。」
 
 
 ジョルジュはそこで、逃げるのをやめた。
 まだ、広場内から抜け出せていない。
 ふと首を回せば、そこには異型と化した三人の同志を見ることができる。
 それをしなかったのは、拒絶を目の当たりにしたくなかったからだ。
 
 諦めて、ネーヨと対峙した。
 が、構えをとり、臨戦態勢に入っているところが、彼らしくないと言えた。
 平生の彼ならば、ポケットにでも手をつっこみ、不敵な笑みをこぼすところだ。
 
 いかにも警戒している、というのが伝わり、更にネーヨは快楽を感じた。
 こうして、抗ってくれようとしてくれるだけで、快楽を感じるのである。
 
 そして、ジョルジュ――玩具が、快楽を与えてくれないほど壊れてしまったら、捨てる。
 心が拒絶で埋め尽くされた末に、殺す。もしくは、物としてそこらに放置する。
 それが『拒絶』としての、欲求の満たし方だった。
 
 
.

45同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:20:49 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「どーだぁパンドラ、この眺めは。最高だと思わねえか」
  _
( ;゚∀゚)「最近、俺ぁ近視でよ。よく見えねーや」
 
( ´ー`)「じゃあ目の前に突きつけてやろうか?」
  _              ウチケ
( ;゚∀゚)「フン。冗談でさえ『拒絶』しちまうってわけか」
 
( ´ー`)「おめえも味わえよ。この、絶景を」
 
 
 そう言って、ネーヨは再び、瞬間移動。ジョルジュの背後についた。
 そしてジョルジュが反応しきれないうちに、彼の首根っこを捉える。
 殺しはしない。ハインリッヒのときと同様、持ち上げるのだ。
 
 が、ジョルジュの背は、平均的とは言えハインリッヒよりは高い。
 結果、背伸びせざるを得ない状況になった、といったところで済んだ。
 
 なにをされているのかわからないジョルジュは、抵抗しようとした。
 が、それよりも、ネーヨのほうがはやかった。
 空いている左手で、ジョルジュの頭を鷲づかみにし、無理やり視線を広場のほうに向けた。
 
 
 ジョルジュは、いま自分が何をされようとしているのか、がわかった。
 
 異型と化した同志たちを、無理やり網膜に焼き付けさせようという考えなのだ。
 
 
.

46同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:21:38 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
  _
( ;゚∀゚)
 
 
 
 
( <  ><○>)
 
 「魔王」「全知全能」のはずのゼウスが、下半身を引き裂かれ、地に突っ伏す様。
 
 
 
/ 。゜ 3
 
 「武神」「国軍最強の戦士」のはずのアラマキが、四肢をもがれ、〝だるま〟と化した様。
 
 
 
从;:。ァ'i;゙*リ
 
 「英雄」「レジスタンス」のはずのハインリッヒが、顔を文字通り壊され、人外になった様。
 
 
 
 
 
 ――― どれもが、拒絶に満ち溢れていた ―――
 
 
 
.

47同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:22:17 ID:HP9PWHYU0
 
 
  _
( ; ∀ )「………ッ…。」
 
( ´ー`)「目に焼き付けろ。そんために、おめえは最後まで残しといてやったんだ」
  _
( ;゚∀゚)「……!」
 
 
 瞼の上から皮膚を引っ張られているため、目を閉じることはできない。
 それでもその異様すぎる光景は見たくないがため、
 ジョルジュはなんとか、眼球だけでもあさっての方向に向けて、目をそらそうとした。
 
 それを見たネーヨは、苛立った。
 すぐさま、左目を潰した。
 
  _
( ; ∀゙)「――ッ!!」
 
( ´ー`)「目ェ背けてんじゃねえよ。甘受しやがれ、クソが」
 
 
 眼球は、一般人が思っているよりも、ずっと硬い。
 少なくとも、俗にいう「目潰し」で目を潰せないほどには硬いのだ。
 かなり強い弾力で、だからこそ、転んだりして目を打っても、潰れたりなどはしない。
 
                ム シ
 だが、ネーヨはそれを『拒絶』した。
 ジョルジュの眼球は、まるでそれが豆腐であるかのように、あっさり潰された。
 
 
.

48同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:23:04 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 『拒絶』しないで――力ずくで眼球を潰すこともできたが、ネーヨはそうはしなかった。
 そうすると、目の反対側にある骨が砕けるからである。
 へたに衝撃を与えて気絶、死亡などされては困るのだ。
 
 片目になったジョルジュの、躯の向きを四十五度変える。
 その眼球ひとつで広場全てを納められるように、だ。
 そうすれば、どこに眼球を向けても、視界のどこかには同志の様が見受けられるようになる。
 
 
( ´ー`)「どうだ。これが、『拒絶』だ」
  _
( ;゚∀゙)「―――ッ……。…!」
 
 
 再び、その光景――地獄絵図を見せ付けられる。
 目を背けたくても、やり場がない。
 目を閉じたくても、閉じる猶予がない。
 
 そして徐々に、ジョルジュは震えるようになった。
 その光景があまりにも異様すぎたから、だけではない。
 
 
                                    カ ワ
 嘗ての同志であったネーヨ=プロメテウスが、ここまで豹変ってしまったから、である。
 
 
.

49同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:23:54 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「苦しいか。死にてえか。拒絶してえか」
  _
( ;゚∀゙)
 
( ´ー`)「どれもこれも、原因はおめえにあんだ」
  _
( ;゚∀゙)
 
 
 
( ´ー`)「そうだろ? ……パンドラ」
 
( ´ー`)「あんとき……おめえは、裏切った」
 
( ´ー`)「ヘーラーも、カゲキも、ゼウスも……おめえのせいで、消えちまった」
 
 
 
( ´ー`)「そして……俺もだ」
 
 
.

50同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:24:53 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「もはや人間じゃーありえねえチカラを持った、ゼウス」
 
 
( ´ー`)「今の俺を……も、超える、最強の『能力者』、ヘーラー」
 
 
( ´ー`)「国軍を動かす地位と権力を持った、カゲキ」
 
 
( ´ー`)「それに、俺とおめえ」
 
 
( ´ー`)「……考えうる限り、最強の面子がそろった、自警団『開闢』」
 
 
 
 
   「それを、おめえは………潰したんだ。」
 
 
 
.

51同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:25:30 ID:HP9PWHYU0
 
 
  _
( ; ∀゙)「……………ッ…!!」
 
 ネーヨが、淡々と、声を潜ませて、言う。
 それが、今までの奇行のどれよりも、ジョルジュにとっては恐ろしかった。
 なによりも拒絶したいもの――だった、のだから。
 
 
( ´ー`)「……で、この絶景」
 
( ´ー`)「こいつを引き起こしたンも、おめえだ」
 
( ´ー`)「そうだろ?」
 
( ´ー`)「おめえが俺たちを裏切ったりしなけりゃ」
 
( ´ー`)「俺がこーなることも」
 
( ´ー`)「『拒絶』どもが動くことも」
 
( ´ー`)「『革命』が生まれることも、なかった」
 
 
( ´ー`)「おめえが、全ての惨劇を招いたんだ」
 
 
.

52同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:26:18 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
  _
( ; ∀゙)「      ……、……‥‥ ‥ 。 」
 
 
 
( ´ー`)「よく考えたら、おめえは害悪もイイとこだな」
 
( ´ー`)「『開闢』っつー、サイコーの自警団を一晩にして潰すし」
 
( ´ー`)「『拒絶』っつー、サイアクの連中を面白半分で生み出すし」
 
( ´ー`)「アニジャを、利害一致を掲げて利用するしな」
 
( ´ー`)「俺は、あいつは言うほどきれーでなかった。口数の少ねえ男は、きれーじゃねえぜ」
 
( ´ー`)「……でも。あいつは、おめえと『拒絶』の両方に関わっちまったから、殺すしかねえ」
 
( ´ー`)「どれも、おめえの勝手な興味、好奇、娯楽、趣味、生業で、メチャクチャにされたんだ」
 
 
  _
( ; д゙)「  ・ ・ ・   ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・    、        」
 
 
 
( ´ー`)「答えろよ、パンドラ。」
 
( ´ー`)「どうなんだ、おい。」
 
 
.

53同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:26:50 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 ただでさえ、ゼウス、アラマキ、ハインリッヒの皆が異様なまでに
 いたぶられているのを見て、精神体はぼろぼろになっていたのだ。
 加え、内藤と同様、【全否定】だけは相手してはならない、とわかっていた。
 
 その【全否定】は嘗ての同志で、また今ネーヨが列挙したことはどれも『真実』だ。
 モララーにしかごまかすことができない、『真実』。
 つまり、ジョルジュはそれを甘受するしかない。
 
 一方で、【未知なる絶対領域】では、どう足掻いても、【全否定】に勝つことはできない。
 防御として使う以外には、相手を『パンドラの箱』に閉じ込めて殺す――と
 およそ能動的には使うことのできない《特殊能力》であるのだから。
 そしてネーヨは、その『パンドラの箱』をこじ開けることができる。
 
         ゼ ロ
 勝機は『絶望的』。
 物理的にも、精神的にも、勝機は『絶望的』だ。
 
 
 戦闘という面において、自分がネーヨに勝つことはありえない。
 また、様々な『真実』が、目を閉じても耳を塞いでも、己を攻撃してくる。
 ここでネーヨが口を閉ざしても、ジョルジュの体力は一方的に削られていく。
 「絶望的」以外に相応しい言葉が見つからないほど、まさに「絶望的」だった。
 
 
 
.

54同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:27:21 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「……」
  _
( ; д゙)      
 
( ´ー`)「………」
  _
( ; д゙)        
 
( ´ー`)「…………イった、か。」
 
 
 
 ――ジョルジュは、気絶していた。
 とうとう、精神体が、耐え切れなくなったのだ。
 
 
 そうとわかったネーヨは、ハインリッヒのときと同様、彼をその場に捨てた。
 もう使い道がなくなったのだから。
 玩具で遊ぶ人が、使えなくなった玩具を捨てるのは、当然だ。
 それに、思いいれがない限りは。
 
 そして、ネーヨに、「思いいれ」 なんてものはこれっぽっちもなかった。
 過去のネーヨは〝死んだ〟のだから。
 
 
.

55同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:27:53 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 ゼウス。
 アラマキ。
 ハインリッヒ。
 ジョルジュ。
 
 『革命』の面々は、ものの一瞬で、みごとに全滅してしまった。
 それも、物理的に痛めつけられて、ではない。
 皆、精神的に痛めつけられ、再起不能となっていたのだ。
 
 ゼウスが、その好例だ。
 彼の場合、あわよくば、上半身だけでも動くことくらいはできたはずである。
 
 だが、そうしない。
 〝できない〟のだ。
 
 
( ´ー`)「……さあて」
 
 
 ネーヨは、ぐるり、と躯の向きを変えた。
 遠くのほうに隠れている、〝二人〟のほうに目を向ける。
 そのうちの一人――は、震え上がった。
 
 
 
( ´ー`)「……これも、おめえが描いてたシナリオだった、ってか?」
 
 
 
 
 
( ´ー`)「『作者』……さんよ」
 
( ; ω )「………ッ。」
 
 
 
 
.

56同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:28:28 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 ネーヨの涼やかな眼が、しっかりと内藤を捉える。
 内藤は逃げ出したりはせず、彼の視界に刻まれるがまま、となった。
 
 
 『作者』だからこそ
 〝設定〟に関しては、ほかの誰よりも知り尽くしているのだ。
 
 
 その〝設定〟から推測すれば
 今ここで内藤が逃げ出すと、ネーヨは、いくら内藤が相手でも、躊躇いなく攻撃する。
 
 
 そのため、内藤は、「動かないこと」が最善だ、という考えに至った。
 
 
 
( ´ー`)「……不思議な気持ちだ」
 
( ´ー`)「ほんとうなら、おめえにも拒絶を味わってもらうところなんだけど、よ」
 
( ´ー`)「なんでか、そんな気分にはなんねえんだわ」
 
 
.

57同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:29:05 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「おめえは、『能力者』じゃねえどころか、抗う術すら持っちゃいねえ」
 
( ´ー`)「つまり、おめえに何かしても、満たされるこたァねえ」
 
( ´ー`)「だから、気がノらねえのか」
 
 
( ´ー`)「久々に、うめえ酒を呑ませてもらった」
 
( ´ー`)「『開闢』のとき以来だわ。いい酒飲み、会ったことなかったからな」
 
( ´ー`)「そんな情が、未だに俺んなかに巣食っていやがんのか」
 
 
 
( ´ー`)「それとも、だ」
 
 
 
 
 
( ´ー`)「〝おめえが『作者』だから〟、俺はおめえをいたぶろうと思えねえのぁ」
 
 
 
 
.

58同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:29:37 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ; ω )「……?」
 
( ´ー`)「ま、んなもん、知らねえ。どうでもいいんだけど、よ」
 
 
( ; ω )「……」
 
( ;^ω^)「………。」
 
 
 内藤が、顔をあげる。
 ネーヨは、こっちに近寄ってこようとはしない。
 それは、内藤にとって幸福だったのか、不幸だったのか――
 
 
 ネーヨは、閑話休題とばかりに、俯いてかぶりを振った。
 そして、もう一度顔をあげ、内藤に話しかける。
 距離はあるが、しかし声はしっかりと耳に届いていた。
 
 
 
.

59同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:30:10 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「……もう、満たされる術はなくなった」
 
( ´ー`)「はえーよな。つい少し前に、動いたばっかだってのによ」
 
( ´ー`)「モララーやワタナベらと違って、俺はカンペキな『拒絶』を手に入れちまった」
 
( ´ー`)「だから……その分、味気なくなっちまうんよ」
 
( ´ー`)「わかるだろ。ゲームとかで、敵のレベルを低くしても、楽しいンは最初だけってヤツだ」
 
( ;^ω^)「……。」
 
               コイツ
( ´ー`)「最初は……【全否定】さえあれば、毎日が快楽で満たされるって思ってた」
 
( ´ー`)「けどよ。そんなのは、ほんの数日だけだ」
 
( ´ー`)「毎日、さまよったぜ。満たされるモンはねえかな、ってな」
 
( ´ー`)「で、『パンドラの箱』に閉じ込められてたショボンと出会った。ありゃーいつだっけな。忘れちまった」
 
( ´ー`)「そこからは、四人の――いや、三人の『拒絶』と行動をともにした」
 
 
( ´ー`)「同志や仲間、なんてモンじゃねえ」
 
( ´ー`)「ただ、そうしときゃあ、いつか満たされる日がくるんじゃねえか、って」
 
( ´ー`)「非論理的じゃああるが、そう思ってたんよ」
 
 
( ´ー`)「そんな日が続いたが、だからといって俺を心の底から満たしてくれるやつァいたか」
 
( ´ー`)「結論から言うと、さっぱりだった」
 
 
.

60同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:30:47 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「ほかの『拒絶』をものの見事に駆逐したんだ」
 
( ´ー`)「ちったァ、俺を楽しませてくれる、満たしてくれる――そう、期待したんだがよ」
 
( ´ー`)「結局、このザマだ」
 
( ;^ω^)「…。」
 
 
( ´ー`)「余計に『拒絶の精神』が膨れ上がっただけで終わっちまった」
 
( ´ー`)「……ここまで全て、おめえの書いたシナリオだった、ってか?」
 
( ;^ω^)「………」
 
 
 内藤が、重い口を、開く。
 
 
( ;^ω^)「……いや」
 
( ´ー`)「!」
 
 
( ;^ω^)「確かに、僕は……『作者』だ」
 
( ;^ω^)「でも……この世界を動かしてるのは、僕じゃないお」
 
 
.

61同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:31:17 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「……ほう」
 
( ´ー`)「そう言えるだけン根拠、あんのか?」
 
( ;^ω^)「当然」
 
 
 
( ;^ω^)「僕の創った『世界』」
 
( ;^ω^)「それに、あんたはおろか、『拒絶』すらいなかったんだから」
 
 
 
( ´ー`)「…!」
 
 ネーヨは、眉をぴくりと動かした。
 少なからず動揺した――ところだったのだろう。
 
 しかし、彼が動揺を表にするなど、平生ではまず考えられないことであった。
 そう考えると、内藤の今の言葉は、ネーヨの想像を大きく上回っていたものだったようだ。
 
 
.

62同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:31:50 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「……そか」
 
( ;^ω^)「?」
 
 
 ――が、眉はすぐ元に戻った。
 いつも通りの涼しい顔つきで、ちいさく、ぽつりと呟く。
 その姿がどこか、哀愁で満ちていたように思われた。
 
 
 
 
( ´ー`)「……じゃあ。ハナシは、ここまででいいか」
 
( ^ω^)「!」
 
 
 
 内藤は、背筋がぞわりとした。
 
 
.

63同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:33:01 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ´ー`)「いっぺん、試してみたかったんよ」
 
 
( ´ー`)「〝俺は、ほんとうに全てを否定できるのか〟」
 
 
( ´ー`)「……ほんとうに『全否定』なんざしたら、世界の規律が崩壊しちまう」
 
 
( ´ー`)「だから今まではセーブしてたんだけどよ……」
 
 
 ネーヨが、ポケットに手を突っ込む。
 少々前かがみになったせいで、顔に影ができた。
 
 
 
(   ー )「満たされることのない『世界』」
 
 
(   ー )「はたして俺は、そんなもんまで、『拒絶』できンのか」
 
 
(   ー )「俺の『拒絶』と、おめえの『世界』」
 
 
 
 
 
 
(   ー )「勝負といこうぜ……『作者』。」
 
 
 
.

64同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:33:53 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
( ;^ω^)「……、……?」
 
 
 
 内藤は当初、彼の言わんとする意味がわからなかった。
 一瞬、やはり自分も殺されるのか、と思ったのだが
 どうやら、それはただの杞憂に過ぎなかったようなのだから。
 
 
 しかし、そんな疑問も、結果論的に言えば、
 誰に言われるでもなく、解決されることとなった。
 
 
 
 ネーヨは、とんでもないものを『拒絶』したのだ。
 
 
 
.

65同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:34:23 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
 
(   ー )「『拒絶』は、自分の内的干渉にしか発動できねえ」
 
 
(   ー )「だが……」
 
 
(   ー )「広義的に捉えりゃあ、『拒絶』のハバは広がるんじゃねえか?」
 
 
 
 
.

66同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:35:00 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
(   ー )「『いっぺん死んだら、生き返らねえ』」
 
 
 
(   ー )「『いっぺん四肢を失ったら、戻らねえ』」
 
 
 
(   ー )「『いっぺん胴体を引き裂かれたら、戻らねえ』」
 
 
 
(   ー )「『いっぺん顔を壊されたら、戻らねえ』」
 
 
 
(   ー )「『いっぺんめんたま潰されたら、戻らねえ』」
 
 
 
 
 
(   ー )「んなもん―――」
 
 
 
.

67同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:35:41 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
( ´ー`)「……知らねえよ。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

68同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:36:23 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 直後。
 
 
 
 
 血が大量に流れ
 
 胴体から引きちぎられた四肢や下半身
 
 顎や顔の皮などで溢れていた広場が
 
 〝元に戻った〟。
 
 
 
 
.

69同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:36:53 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
( ;^ω^)「……。」
 
( ;^ω^)
 
( ^ω^)
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「―――ナアアアアああああああああっ!!?」
 
 
 
 
 
从 Д从
 
 
( <  ><  >)
 
 
/  3
 
  _
(  д )
 
 
 
.

70同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:37:30 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
从 Д从
 
从 Д从「……」
 
从 ゚Д从「………?」
 
 
 
( <  ><  >)
 
( <●><●>)
 
( <●><●>)「…?」
 
 
 
/  3
 
/ 。' 3「!」
 
/ ,' 3「……?」
 
 
  _
(  д )
  _
(  ∀ )「……ン…。」
  _
( ゚∀゚)「………!?」
 
 
 
.

71同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:38:20 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
 【全否定】。
 己を満たしてくれないこの『世界』を―――『全否定』した。
 
 
 
( ;゚ω゚)「(―――戻した!!!)」
 
 
 
 ――内藤がそのことに驚いたのには、理由があった。
 大きく分けて、二つ。
 
 うち、一つ。
 
 
( ;゚ω゚)「(負傷――完治!)」
 
( ;゚ω゚)「(百歩譲って、それはいいとしても、だ!)」
 
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「………なんで……位置関係まで、戻ってるんだお……?」
 
 
 
.

72同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:39:03 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
 ゼウス、ハインリッヒ、アラマキ、ジョルジュ。
 『革命』の面々の立ち位置は、彼らが攻撃を受ける前。
 元の場所に、立っていた。
 
 
 それは、「戻った」とは少し違った。
 言うなれば、「時を巻き戻した」――だった。
 一戦を交える前の状態に、戻ってしまっていたのだ。
 
 
 そしてそれが、内藤が驚いた、第二の点。
 〝ネーヨが、時の流れを拒絶した〟ということ。
 
 
 それもそうだろう。
 【全否定】であろうと―――『時』には、決して抗えないのだ。
 嘗て、アニジャに対し、ネーヨ本人が言ったように。
 
 
 
.

73同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:39:50 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
(   ー )「…………成功、だ。」
 
( ;^ω^)「ッ!! ま、まさか、あんた―――ッ!!」
 
 
 
 「復活した」四人はきょろきょろして、現状を把握しようとしている。
 その間に、内藤は声を張り上げて、訊いた。
 
 
 ――そして、帰ってきた答えに、なにより「拒絶」を抱いた。
 
 
 
 
(   ー )「この『世界』は、おめえがつくったわけじゃねえ」
 
 
(   ー )「となると、ひょっとすると――って、思ったわけよ」
 
 
(   ー )「『たとえ世紀の喧嘩師でも、時には抗えない』――。」
 
 
 
 
 
( ´ー`)「――……抗って、やったぜ。 ………『作者』」
 
 
 
.

74同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:40:21 ID:HP9PWHYU0
 
 
  _
( ;゚∀゚)「ッ! お、おい内藤!!」
 
 
( ;゚ω゚)
 
( ;^ω^)「――! なんだお!」
 
 
 現状を真っ先に把握したジョルジュが、慌てた様子で内藤を呼びかけた。
 我を失っていた内藤であったが、すぐに還ってきては、応じる。
 
 
  _
( ;゚∀゚)「ね、ネーヨのやつ、なにをしやがった!!」
 
 
 落ち着いて、冷静に、落ち着いて―――
 そうして答えようと思っていた内藤であったが、このときばかりは、落ち着いてなど、いられなかった。
 
 自然と、声が、速く、大きく、荒くなる。
 頭が沸騰しそうなほど、思考回路はいま、オーバーヒートを起こしていた。
 そう考えると、声を発せただけまだよかった、と言えた。
 
 
.

75同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:40:53 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
( ;゚ω゚)「や――やりやがった!」
  _
( ;゚∀゚)「や……りやが、った…?」
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「〝進化〟ッ!」
 
 
( ;゚ω゚)「『拒絶』できないはずの『時間軸』まで、『拒絶』しやがった!」
 
 
 
  _
( ;゚∀゚)「時間……だと……?」
 
( ;゚ω゚)「つまり―――」
 
 
 
.

76同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:41:39 ID:HP9PWHYU0
 
 
 
 
 
 終わらない。
 
 永久に続く、拒絶。
 
 悪夢、絶望を軽く凌駕した――拒絶。
 
 
 
 終わることのない『世界』で
 
 これから、絶え間なく続く 「拒絶」 が、幕を開けようとしていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 今からはじまる 「拒絶」 に、終わりなど―――ないのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

77同志名無しさん:2013/04/02(火) 15:44:14 ID:HP9PWHYU0
今回投下分
>>4-76 三十四話

78同志名無しさん:2013/04/02(火) 23:25:10 ID:3E5oG0Hk0
やべぇ俺の中でデミそことエクソダスとみずパラが争ってる。乙。

79同志名無しさん:2013/04/02(火) 23:33:03 ID:HP9PWHYU0
>>74 訂正
× ( ;゚∀゚)「ね、ネーヨのやつ、なにをしやがった!!」
○ ( ;゚∀゚)「ぷ、プロメテウスのやつ、なにをしやがった!!」

いま気づきました。ごめんなさい

80同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:11:57 ID:gGtCieYA0
 
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ´ー`) 【全否定《オールアンチ》】
→なにも受け付けない《拒絶能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【暴君の掟《ワールド・パラメーター》】
→『拒絶』化してしまった、それまでは『拒絶』ではなかった少女。
  _
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
 
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
 
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
 
 
.

81同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:12:31 ID:gGtCieYA0
 
 
 
○前回までのアクション
 
( ´ー`)
→『世界』を『拒絶』
 
( <●><●>)
→下半身をちぎられ気絶
 
/ ,' 3
→四肢をもがれ気絶
 
从 ゚∀从
→顔面を壊され気絶
  _
( ゚∀゚)
→左目を潰され気絶
 
 
.

82同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:13:10 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
(   ー )「おめえが『作者』で」
 
(   ー )「俺らが『登場人物』だから」
 
(   ー )「必然的に、おめえには敵わねえ―――」
 
 
 
( ´ー`)「そんなもん、知らねえよ。」
 
( ´ー`)「んな『世界』、俺が『拒絶』してやった」
 
 
 
( ´ー`)「……俺の名は、オールアンチだ」
 
( ´ー`)「覚えといてくれよ……おめえら。」
 
 
 
.

83同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:13:53 ID:gGtCieYA0
 
 
 
( ;゚ω゚)「(ありえない!!)」
 
 
 内藤はその『拒絶』された『世界』を目の当たりにして、
 ただそれを否定することしかできなかった。
 
 この『世界』が、内藤が『作者』として手がけたのと同一のものであるならば
 そこでは必然的に、内藤が「設定」として設けたルールが絶対であるはずなのだ。
 
 今回の場合では、それが「時には抗えない」だった。
 だからこそ、内藤は、ただかぶりを振るうことしかできなかった。
 
 
( ;゚ω゚)「(【全否定】の、唯一のデメリット!)」
 
( ;゚ω゚)「(〝全否定できない〟ことこそがすべて!)」
 
( ;゚ω゚)「(時だとか運だとか刺激だとか、そういうものに対しては『全否定』はできない……のに!)」
 
 
 『全否定』とは、文字通り、対象を完全に自分のなかからシャットアウトすることである。
 たとえば運を『全否定』すれば、つまり以降の自分は全て運と無縁な存在となる。
 
 生に運は決してほどけないほど複雑に絡まっているため、その運を完全に無視してしまえば、
 自分は世界の基軸と完全に食い違う存在となってしまい、消滅するか即死するか――
 とりあえず、なにか、現実ではありえないようなことが起こってしまう。
 
 時を『全否定』できない理由は、嘗てネーヨ自身がアニジャに言っていた。
 ネーヨがその知識を持っていたのは、その掟を知っているように内藤が設定づけたためである。
 
 概念的、抽象的、形而上の問題となるが、とにかく、
 ネーヨがこのたびの『拒絶』をしたのは、内藤の視点からすれば「ありえなかった」。
 
 
.

84同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:14:23 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「(これも……パラレルワールドの影響なのかお!?)」
 
( ;゚ω゚)「(『英雄』は急成長するし、モララーは恋心をいだくし……)」
 
( ;゚ω゚)「(……だとしたら……)」
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「僕は……帰れないのかお…?」
 
 
( ; ω )「元の世界に……帰れないのかお?」
 
 
 
 
.

85同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:15:07 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 

 
 
 
从;゚∀从「な、なにが……。」
 
( <●><●>)「……」
 
从;゚∀从「ゼ、うす。なんか言ってくれよ」
 
( <●><●>)「………」
 
从;゚∀从「ゼウス?」
 
 
 ネーヨが感慨深いものに浸っているのか、だんまりとしている。
 身の危険を感じなかったハインリッヒはそれを機に、ゼウスの元に向かった。
 彼は、ハインリッヒの声こそ聞こえていたが、しかし答えるつもりはまるでなかった。
 
 ハインリッヒがゼウスの元に向かうのを見て、ジョルジュも、アラマキも。
 皆、ひとつの場所に集っていった。
 今しがた起こった「不可解」を前に、「戦闘狂」としてのプライドなど、まるでなかった。
 
 
/;,' 3「儂は……四肢をもがれたよーな気がするんじゃがの…。」
 
从;゚∀从「………」
 
 
 当時の地獄絵図を思い出し、ハインリッヒは軽い眩暈を起こした。
 ふらっと揺れ、倒れそうになるのをなんとか踏みとどまる。
 
 
.

86同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:15:38 ID:gGtCieYA0
 
 
 
( <●><●>)「……パンドラ」
  _
( ゚∀゚)「なんだ」
 
( <●><●>)「いまいち解せない」
 
( <●><●>)「奴は……我々を〝回復させた〟のか?」
 
 
 【全否定】のことは知っているが、わからなかったのはそれをした理由と、そのからくりだ。
 前者はどうとでもこじつけできるとして、後者はどうしてもわからなかった。
 
 ネーヨの《拒絶能力》は、あくまで「否定」。「拒絶」。
 否定も拒絶も、自分が好まないあることを拒むという意味合いのものだ。
 つまり、自分が対象となったものを無視する、打ち消す――それが、スキルではないのか、と。
 
 ジョルジュはうつむいて、ゆっくり、かぶりを振るった。
 彼がポケットに手を突っ込む姿を見られるのは、これが最後かもしれない。
 彼の表情を見てふと、ハインリッヒは思った。
 
 
.

87同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:16:37 ID:gGtCieYA0
 
 
  _
( ゚∀゚)「それに関しては、もう内藤が言っている」
 
( <●><●>)「?」
  _
( ゚∀゚)「〝進化〟しちまった――そんなところだろう、とよ」
 
/ ,' 3「進化…!」
 
  _
( ゚∀゚)「俺ぁ、この手のことを研究してるから、よくわかる」
  _
( ゚∀゚)「『時間軸』は、絶対の存在なんだ」
  _
( ゚∀゚)「いくら【全否定】のプロメテウスでも……抗えない」
  _
( ゚∀゚)「……〝本来は〟」
 
 
/ ,' 3「本来は、ちゅーと……」
  _
( ゚∀゚)「ああ。」
 
 
  _
( ゚∀゚)「プロメテウスは、その『世界』の掟さえ、『拒絶』しやがった」
 
 
.

88同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:17:26 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 そして、ゼウスの呼吸が深くなった。
 彼も、ジョルジュと同じ考えに至ったのだ。
 
 ネーヨの【全否定】。
 本来は、自分への干渉をシャットアウトするスキル。
 しかし、その概念的ルールをも――拒絶した。
 
 となると、彼がいまからする行動は一つ。
 彼は、「満たされたい」のだ。
 それも、心の底から、充足に満たされたがっている。
 
 
 【全否定】の概念的な制限は、いま、取り払われた。
 いま、彼の充足への探究心を妨げる存在は――ない。
 
 
  _
( ゚∀゚)「……ゼウスよ」
 
( <●><●>)「なんだ」
  _
( ゚∀゚)「どうやったら、逃げれそうだ」
 
( <●><●>)「逃げる、か」
 
 
 ゼウスは、ふッと笑った。
 
 
 
 
( <●><●>)「そんな方法があれば、既に私はここにいない」
 
 
 
.

89同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:17:56 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 

 
 
 
( ´ー`)「………。」
 
 
 ネーヨは、いま自分が『拒絶』できた『世界』を見て、悦に浸っていた。
 ついに自分は、『拒絶』できないものまで『拒絶』してしまったのだ。
 この『真実』が、あまりにも清々しく、またそれだけで既にある程度の充足感を得ていた。
 
 呼吸が、ゼウスとは違った意味で、深くなる。
 いま自分がこうして立って、息を吸って、光景を見て、香を感じ、風を聞き、躯でそれを受け止めている
 この、『世界』を前に感じられるその全てが、どれも心地よく思えた。
 
 風情だ。風流だ。趣き深い。
 ――気づけば、そんなセンチメンタルな領域にまで、彼の思考は達していた。
 それほど、この『真実』が気持ちよかったのだ。
 
 
( ´ー`)「……で」
 
 
 ネーヨは、一歩を踏み出す。
 玩具――は、一箇所に固まっている。
 
 嘗ての同輩で、人類最強のステータスを誇るゼウス。
 『革命』のなかでトップクラスの能力を持つハインリッヒ。
 単純な破壊力とその武術なら、ゼウスをも凌ぐアラマキ。
 世界の規律と完全に矛盾する存在を生み出すジョルジュ。
 
 彼らを視界に納め、一歩一歩を確かに踏み出しながら
 ネーヨは、ついにこのときがきた――と、拳を握りしめていた。
 
 
.

90同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:18:35 ID:gGtCieYA0
 
 
 
( ´ー`)「俺は、このときを待っていた」
 
 
 『革命』の面々が、その恐るべき『拒絶のオーラ』を察して、一斉にネーヨのほうに向いた。
 それまでは、彼は己の持つ『拒絶のオーラ』は完全に『拒絶』していた。
 また、今の場合、一緒に気配も『拒絶』していた。
 
 そのため、彼がその両方を一気に解放した瞬間
 異臭――では到底形容が追いつかないほどの、恐ろしい空気がその場に流れた。
 
                  オノレ
( ´ー`)「いつか、『世界』に『拒絶』を知らしつける……」
 
 
 モララーとワタナベとショボンが三人横に並んでいても、味わうことのないであろう『拒絶のオーラ』。
 生理的、心理的にではなく、もはや物理的に彼に近づくことはできない――
 そう思わざるを得ないほど、彼の持つ『拒絶』は桁外れのものとなっていた。
 
 「『拒絶』の最大の武器は、その『拒絶のオーラ』」。
 ジョルジュの言っていたことが、このときになってようやく、現実味を増した。
 目の前にその好例がいては、認めざるを得ないだろう。
 
 
 
( ´ー`)「ついに……俺は、満たされる。」
 
 
 
 ――このオーラには、逆らえない。
 
 
 
.

91同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:19:08 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 

 
 
 
从;゚∀从「なッ――なんだ、コレ!」
  _
( ゚∀゚)「『拒絶のオーラ』だ! さっき話しただろ!」
 
/;,' 3「……さすがの儂でも、戻したくなるのォ。」
 
( <●><●>)「……。」
 
 
 アラマキが言ったその表現は、決して誇張ではなさそうだった。
 顔色がみるみるうちに青くなっていく。
 元々しわだらけの顔だったが、加えて顔がしかめられていた。
 
 このなかで冷静でいられたのは、ジョルジュとゼウスだけだった。
 ゼウスは、自分の心に生まれるこのマイナスの感情を、
 同じくらいの強さを持つ抵抗の心で打ち消すようにしている。
 つまり、意識せずとも、堪えていた。
 
 
  _
( ゚∀゚)「今からは、絶対に気を抜くな」
  _
( ゚∀゚)「気を抜いた瞬間、あいつの『拒絶』に呑まれる」
  _
( ゚∀゚)「過ぎ去った時を『拒絶』する術を身につけてしまった以上――」
 
 
  _
( ゚∀゚)「一度呑まれたら、生きたまま地獄がはじまると思え」
 
 
.

92同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:19:40 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
( ´ー`)「―――おせえ。」
 
 
  _
( ;゚∀゚)「ッ!!」
 
/;,' 3「跳べ!」
 
 
 ―――ジョルジュが皆にそう言ったあと、気がつけば、真上からネーヨが飛び降りてきていた。
 物理法則を『拒絶』することで宙に瞬間移動をして、奇襲を仕掛けてきたのだ。
 右の拳を握りしめ、彼らが集まっていた場所の中央にそれが下りるように、それを振り放つ。
 
 最初に、彼らの間にできたネーヨの影に気づいたのは、ジョルジュとアラマキだった。
 ジョルジュは、自分の視界に偶然にも影ができたから。
 アラマキは、視線をうつむけていたから、いち早くネーヨの奇襲に気づくことができた。
 
 ゼウスを髣髴とさせる奇襲を見せられジョルジュが動転したとき
 アラマキは彼とは対照的に、落ち着いて、「跳べ」と命令した。
 本能的にかそれを聞いてかは定かでないが、その場にいた四人は後退するようにその場から飛び退いた。
 
 
.

93同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:20:12 ID:gGtCieYA0
 
 
 
从;゚∀从「さ……避けれ、た…?」
 
( ´ー`)「……ほー。」
 
 
 ――ネーヨの奇襲は、ほんとうに一瞬だった。
 
 頭上三メートルほどのところから、重力によって落下速度が加速された状態で現れたのだ、
 高速戦闘を旨とするハインリッヒとゼウスが避けられたのはいいにしても、
 そうでないジョルジュとアラマキは、彼の奇襲の右拳は喰らうことが必至ではなかったのか。
 
 ふとそう思うも、その理由はなんとなくではあるが掴めていた。
 後退したとき、〝身体が軽かった〟のだ。
 ハインリッヒはそれを反芻してから、アラマキのほうを見た。
 彼は「間に合った」と言いたげな顔をしていた。
 
 
( ´ー`)「……まさか。」
 
( ´ー`)「例のナントカってスキルを、そーやって使うたァな」
 
( ´ー`)「………アラマキ=スカルチノフ。」
 
/ ,' 3「則を拒む者、よ」
 
 
.

94同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:20:42 ID:gGtCieYA0
 
 
  _
( ;゚∀゚)「(重力かなにかを『解除』して、身体を軽くしたってのか……!)」
 
 
 ジョルジュの咄嗟の解析は、しかし的中していた。
 
 主にカウンターの用途で使われることが多い【則を拒む者】が
 まさかこのような用途で使われるとは――
 ジョルジュは解析が終わってから、ふとそう思った。
 
 
 
 そしてそれは、内藤も一緒だった。
 
 
( ;^ω^)「……。」
 
( ;^ω^)「(やっぱり……〝進化〟してやがるお、どいつもこいつも……。)」
 
( ;^ω^)「(〝一瞬だけ重力を『解除』して後退の補助をする〟――)」
 
( ;^ω^)「(んな発想、本来のアラマキなら考えることすらないのに)」
 
 
 
 そう思って、内藤はため息を吐いた。
 もう、わけがわからなくなっていたのだ。
 
 目まぐるしく変わり行く、このパラレルワールドが。
 
 
.

95同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:21:19 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 

 
 
 
( ´ー`)「おら、かかってこいよ」
 
 ネーヨが言う。
 
 
( ´ー`)「いま、俺は『拒絶』を解除してる」
 
( ´ー`)「今なら、俺にダメージを与」
 
 
 
 
 ――直後、ゼウスがネーヨの背骨に右脚を放った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 そして、ゼウスは顔面の右半分が砕かれた。
 
 
 
 
 
.

96同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:21:50 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
( r#゙゛><○>)「ッ!」
 
( ´ー`)「……なんちって。」
 
  _
( ;゚∀゚)「なに!?」
 
 
 
 ――ネーヨは、途中でゼウスに遮られこそしたが、こう言いたかったのだ。
 「いまは『拒絶』を解除している。今ならダメージを与えることができる。だから、かかってこい」と。
 
 そのセリフを途中まで聞いて、言わんとすることを理解したゼウスは
 ネーヨが慢心に浸ったがゆえに生まれたチャンスだと思い、不意打ちで彼にダメージを与えようとした。
 後退したとき、ゼウスは偶然、ネーヨの背が見える位置に立った。
 
 ネーヨが慢心に浸って呑気にしゃべっていて、『拒絶』は解除されている上に、
 不意打ちの名手である自分がその背後に立っている。
 ゼウスは、この上ない、そして唯一のチャンスだ――と、思ったのだ。
 
 
 
 結論から言うと、それは『嘘』だった。
 それ――つまり、『俺は「拒絶」を解除している』ということが。
 
 
.

97同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:22:55 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 ゼウスはその『嘘』にまんまと騙されて、彼に攻撃してしまった。
 ほんとうは、いま彼はあらゆる負荷を『拒絶』しているため、殴っても蹴っても、彼は怯まない。
 
 ゼウスの不意打ちを予測でもしていたのか、彼の蹴りを受け止めたと同時に
 ネーヨは、左の裏拳でゼウスの左の頬骨を打ち砕いた。
 
 
 
 ――これが、今の一瞬で起こった一部始終だった。
 
 
 
( *´ー`)「ぶっはははははは!! あのゼウスが、俺に騙されるたァーな!!」
 
( r#゙゛><○>)「くッ…!」
 
从;゚∀从「(ゼウスが……喘いでやがる……!?)」
 
 
 
 〝ゼウスが、はじめて苦痛に喘ぎ、顔を歪ませ、声を荒げた〟。
 アラマキやハインリッヒとの戦いでは常に涼しげな様子でいて
 ワタナベにやられるときも、決してここまで劣勢を感じさせるような声は発しなかったゼウスが。
 
 
 そんな、「人外」のゼウスが。
 いま、明らかに〝焦った〟。
 
 
 
.

98同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:23:28 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 ハインリッヒは虚を衝かれるも、冷静にそれを見つめなおす余裕など、彼女にはなかった。
 ゼウスは不意打ちが失敗したのを見て、すぐさま後退――いや、逃げようとした。
 だが、ネーヨが、せっかく〝釣れた〟彼をそうやすやすと逃がすはずもなかった。
 
 
( *´ー`)「逃がさねえぜ、ゼウス」
 
( r#゙゛><○>)「…!」
 
 
 ゼウスはさながらとんぼ返りでもするかのように一瞬で引き返したが
 しかし、それでも「瞬間移動」には敵わなかった。
 
 ネーヨに背を向け逃げるゼウスの背後に現れては
 ネーヨは、ゼウスの足首を掴んだ。
 
 そして、ネーヨはそれを引っ張る。
 当然、物理法則によって、ゼウスは転ばざるを得ない。
 転倒しそうになって重心が浮くのを見て、ネーヨは足首を持ち上げた。
 
 ふわり、とゼウスが浮く。
 その隙に、ネーヨは手早く、空いているほうの足首も掴む。
 ネーヨが両手で、ゼウスの両足首を握っている状態となった。
 
 
 
 そして、右足は右方向に、左足は左方向に
 ネーヨは、思いっきり引っ張った。
 
 
 
.

99同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:23:58 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 結果、ゼウスは胴体を横に二分割するようにして引き裂かれた。
 
 
 
 
 
 
 
 
.

100同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:24:28 ID:gGtCieYA0
 
 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
   Parallel World → No.35
 
 
                 vs "ALL UNTI" III
 
 
 
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 
 
.

101同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:25:10 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
   第三十五話 「vs【全否定】Ⅲ」
 
 
 
 
( r#゙;:,;'´   _,.
       ",,li'、○>)
 
 
 
从 ゚∀从
 
 
 
/ 。゚ 3
 
 
  _
( ゚∀゚)
 
 
 
 
.

102同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:25:41 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 彼らは、硬直した。
 まるで、ミシン目の入った紙でもちぎったかのように
 きれいに、ゼウスは真っ二つに〝引き裂かれた〟のだから。
 
 骨だの、内臓だの、脳だの、お構いないで、だ。
 そのため、その引き裂かれたゼウスの断面には、
 人体模型などで見られるような臓器などの様子が、鮮明に残っていた。
 
 当然、頭蓋骨も真っ二つだ。
 ふと頭に目を向ければ、脳の断面図が見受けられた。
 そしてそれは、人間ならば、決して見たくないであろう地獄絵図だった。
 
 
 また、彼らの場合、それにも増して、これは見たくない光景であった。
 それも当然だろう。
 
 戦闘能力としては最強のゼウスが、
 ただの雑魚にしか見えなかったのだから。
 
 
 
 【全否定】、ゼウスという人外を――否定。
 
 
 
.

103同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:26:15 ID:gGtCieYA0
 
 
  _
( ;゚∀゚)「チッ――」
 
( ´ー`)「おめえも逃がさねえよ」
 
 
 その様を見て、ジョルジュはつい先ほど見せられた惨劇を思い出した。
 白衣を翻して、ゼウスと同様に退散の手をとる。
 
 が、それが無駄であることは、誰よりもジョルジュがよく知っていた。
 だがそれでも、逃げるという選択肢をとらなければ、『拒絶』に呑まれるような――
 そんな気がした、のである。
 
 
从;゚∀从「テメェ―――!」
 
 そして、惨劇を見たくないのはハインリッヒも一緒だった。
 彼女は、『革命』のなかで唯一、メンタル面が弱いのだ。
 若い女性で、加えて『英雄』として育ってきた彼女は、「惨劇」を知らなかったためである。
 
 ジョルジュを助けるべく、それこそ無駄とわかりつつも、彼女はネーヨに無謀にも立ち向かった。
 アラマキはそれを止めたかったが、しかし足がすくんで、動けなかった。
 戦争では、如何なる惨劇を見せ付けられても涼しい顔をしていたのに。
 そんな国家最強の戦士でさえ、この信じがたい、恐るべき惨劇は甘受できなかったのだ。
 
 
.

104同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:26:50 ID:gGtCieYA0
 
 
  _
( ;゚∀゚)「来るな――」
 
( ´ー`)「……へえ」
 
从;゚д从「あ―――。」
 
 
 瞬間移動でジョルジュの背に立っていたネーヨは
 立ち向かってくるハインリッヒの声と気配と足音を聞いて、振り返った。
 そのときのネーヨの顔は、悪魔のそれと形容するのがもっとも相応しかった。
 
 顔に、影が映えて。
 口角が裂ける勢いで吊りあがっていて。
 その細い目の向こうには、限りなく黒に近い瞳が広がっていた。
 
 
 ネーヨは踵を返して、無謀にも突っ込んできたハインリッヒの右腕を掴んだ。
 このときにして、ハインリッヒは「近づきすぎた」と思った。
 腕を掴まれたハインリッヒを見て、今度はジョルジュが彼女を救おうとする番となった。
 
 このとき、ジョルジュがとろうとした救済策は、彼女と同じように飛び掛る――ものではなかった。
 近寄ってしまえば、ハインリッヒもろとも殺されてしまう。
 そのため、使おうと思ったのは、足ではなく――【未知なる絶対領域】だった。
 
 
.

105同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:27:29 ID:gGtCieYA0
 
 
 
.  パンドラズ ・ ワールド
 【未知なる絶対領域】。
 
.                                 パンドラズ・エリア
 絶対不可侵の『領域』をつくるという点においては、【 絶 対 領 域 】と差異はない。
 変わっている点は、モララーとの戦闘のときに、既に遺憾なく発揮している。
 
 概念論、物理法則、因果律のどれもから独立した存在、『領域』。
 それを「自由なかたちで」「自由な動きで」――すなわち、自由自在に扱うことができる。
 それが、進化したジョルジュ=パンドラの《特殊能力》、【未知なる絶対領域】だった。
 
 
 彼が真っ先に思いついた方法は、「前方に進む『領域』」を生み出すこと。
 波のように進むそれを、ネーヨとハインリッヒの二人に向けて放つ。
 
 ネーヨは、アラマキが心筋の動きを停止させようとしたときに既に明らかになっているのだが、
 おそらく、あらゆる能力を『拒絶』している。
 
 すると、ジョルジュのこの『領域』も当然効かないはずだ。
 しかし、ハインリッヒには、モララーのときと同じように、通じる。
 そのため、モララーのときのように、彼女は『領域』に押し出されるのだ。
 
 ――つまり。
 ネーヨとハインリッヒとを、無理やり断つことができる。
 
 
  _
( ;゚∀゚)「……ッ!」
 
 
.

106同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:28:09 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 そううまくいくことを信じて、ジョルジュは『領域』を放った。
 三メートル四方、傾斜なしの地面と垂直に交わるようなそれを、百キロ毎時、七時の方角に。
 
 腕を、突きつける。
 この所作を挟む理由は、至極単純。
 アラマキやハインリッヒが『解除』、『優先』の対象を違えないようにそれを口にするのと同じものだ。
 能力の誤作動を、防ぐため。
 
 「あの男」がいない限り、猶予さえあれば、ジョルジュはこの能力を誤作動することはない。
 冷静に、落ち着いて、沈着に、ハインリッヒを救出に出た――
 
 
 
 『領域』に押し出されるように、風が先行して動く。
 それを肌で感じたネーヨは、この上ない悪魔のような笑みを浮かべた。
 
 
 
 
(   ー )「………馬鹿め」
 
 
  _
( ;゚∀゚)「…?」
 
 
 
 
.

107同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:29:52 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 ―――能力が、誤作動したのか?
 
 
 
 違った。
 
 
 
 誤作動したのは、ジョルジュの思考だった。
 
 
 
 
 
 
 
 ハインリッヒは、確かに『領域』に押し出され、
 
 
 ジョルジュの目論見どおり、ネーヨと距離をとることに成功した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 〝掴まれていた右腕を残して〟。
 
 
 
 
 
.

108同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:30:23 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
从ii! ∀从「!!!」
 
  _
( ;゚∀゚)「―――あ」
  _
( ;゚∀゚)「ああああああああああああああああああああ!!!」
 
 
 
 ジョルジュは「そのこと」に気づいて、慌てて『領域』を解除した。
 ハインリッヒはどさり、と地に落ちる。
 しかし、このときには既に、遅かった。
 
 ネーヨがハインリッヒのほうに歩み寄りながら、しかしジョルジュに向けて声を放つ。
 ちいさな声のはずなのに、やはり、その声は心に重くのしかかってきた。
 
 
 
 
(   ー )「おおかた、『領域』で俺と『英雄』をふるいにかけよーとでもしたんだろうが」
 
 
(   ー )「結果として、おめえは守れなかったわけだ、同志を」
 
 
 
 
 
( ´ー`)「……バーカ」
 
 
 
.

109同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:31:24 ID:gGtCieYA0
 
 
 
从ii! ∀从「ああああああアアアアアアアアアアアアアアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッ!!!」
 
 
 ハインリッヒは、五体不満足に陥ったことなど、一度もない。
 ――というより、アラマキがただ異例なだけで、一般的な思考を持つ人間が
 四肢のうち一つだけでも失えば、しばらくの間は精神が狂ってしまうのが常だ。
 
 ハインリッヒは、肩――根元からずぼっと抜けた右腕を左手で触れて、
 またいつものように右腕を動かそうと意識したりして、そして、叫んだ。
 
 
 動かない。
 神経が届かない。
 意思が伝わらない。
 
 ない。
 右腕がない。
 動かせない。
 
 頭を掻こうにも右腕に感触がない。
 痺れている、ギプスをしているなんてものではない。
 「ない」。
 
 ただ、肩のところにまで来た脳の信号だけがむなしく消滅する。
 流れ出る血、溢れてくる痛みなんかよりも
 ハインリッヒは、ただ「右腕がない」ということが何よりも苦痛だった。
 
 
.

110同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:31:54 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 だが、ハインリッヒにとっての苦痛は、それだけではなかった。
 
 
 ネーヨが、歩み寄ってくる。
 
 
 自分から右腕を奪い、今まで一度も、ほんとうに一度も味わったことのない恐怖――
 「拒絶」を、植えつけた男、ネーヨ=プロメテウス。
 
 
 彼の足音が、消えかかっていた意識のなかで唯一、反響していた。
 
 
 その、彼が音を刻む足が、死の宣告以上に恐ろしいもののように思えた。
 
 
 
 
 ――まだ、これ以上の「拒絶」が、自分を待っている。
 
 
 その確実性のある予想が、更にハインリッヒに「拒絶」を植えつけた。
 
 
 彼女は泣き叫びながら、しかしなんとかして、逃げ出した。
 
 
 
.

111同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:32:24 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
/;,' 3「重力を……『解除』ッ!」
 
 
 四肢を奪われたばかりのアラマキは、その恐ろしさを知っていた。
 少なくとも、失った瞬間、意識が全壊したほどには、恐ろしい。
 だからこそ、彼はジョルジュと同じように、ハインリッヒを逃がそうとした。
 
 真っ先に思いついたのは、「宙に逃げる」。
 重力を数秒だけ『解除』して、ハインリッヒを遠くへ逃がす。
 空中でのすばやい移動手段がないハインリッヒにとっては、それはただの足掻きにしかならないのだが
 それでも、このままみすみす見捨てるよりは、よっぽどましなように思われた。
 
 
 
 所詮は、足掻きだったわけだが。
 
 
 
 
从ii! ∀从「ア゛ア゛ア゛ア―――…?」
 
 
 ハインリッヒが、飛ばされた事実を、空気が薄くなったのを感じてから察する。
 そして、アラマキが自分を逃がしてくれたのか――と、かろうじて理解した。
 重心を前方に預け、少しでも地上にいるネーヨから逃れようとする。
 直後、そのハインリッヒに、影ができた。
 
 
.

112同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:32:57 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 
 
从ii!゚∀从「…………あ」
 
 
 
(   ー )「迎えにきたぜ。感謝しな」
 
 
 
 両手を絡ませたネーヨは、それをハインリッヒの背中に振り下ろした。
 
 
 
 
 
 ――所詮は、足掻きだったのだ――
 
 
 
.

113同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:33:30 ID:gGtCieYA0
 
 
 
/;。゚ 3「ぐ……ぬゥ!!」
 
 
 アラマキの誤算は、ネーヨの反射神経だ。
 
 そもそも、ジョルジュの『領域』を見てからハインリッヒの腕をもぐことを咄嗟に考えたネーヨが
 アラマキの能力で宙に飛ばされたハインリッヒを見て、
 即座に「打ち落とす」という発想を浮かべないとは考えにくかったのだ。
 
 このときは既に、もうハインリッヒに重力を『入力』している。
 通常の則に従い、背中をひどく強く殴られたハインリッヒは、隕石のように、落下した。
 
 
 
 この光景は、アラマキとハインリッヒ、両方に覚えがあった。
 
 
 
 
 
   从;゚∀从『石に―――』
 
   / ,' 3『……勝った』
 
   从; ∀从『っギィ!』
 
 
 
.

114同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:34:03 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 ――ここで、出会いのときを思い出したのは
 彼自身が、ここで命を落とすのを予想していたからなのだろうか。
 
 ――気がつけば、ハインリッヒは地に打ち付けられていた。
 胴体が切断されていないのを見ると、彼は物理的にハインリッヒを攻撃したようだ。
 一度目のゼウスのときのように、切断しないのか――
 そう思ったアラマキだが、彼がそうしない理由は、彼の動きを見ていたら、わかった。
 
 
 
( ´ー`)「じーさんは特別メンタルがつえーみたいだったから、おめえにするわ」
 
从ii!゚∀从「            え    」
 
/;。゚ 3「―――!! ま、待――ッ」
 
 
 
 ネーヨが、彼女の背に右脚を〝重しとして〟載せる。
 そしてネーヨは、ハインリッヒの両足を、付け根から―――
 
 
 
 
 
.

115同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:34:39 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
从 ゚∀从「                                  
 
( ´ー`)「で、左も――」
 
/;,' 3「させん!」
 
( ´ー`)「お」
 
 
 先ほど、ゼウスが彼女を助けたときのように。
 アラマキも見よう見真似で、彼――彼女に、飛び掛った。
 彼女を地面と並行に蹴ることで、遠くに逃がすのだ。
 
 予想でもしていたのか、ネーヨが視線をそちらに遣る。
 迎撃態勢はとらないが、視線が彼を射抜く。
 
 
 
( ´ー`)「……こいつァ、おもしれ――」
  _
( ;゚∀゚)「跳べ!」
 
( ´ー`)「――なに?」
 
 
.

116同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:35:16 ID:gGtCieYA0
 
 
 
/ ,' 3「!」
 
 
 そのとき、アラマキは跳んだ。
 見たのだ。砂煙が、「なにか」に押し出されている様を。
 
 
 ――ジョルジュは、ネーヨがハインリッヒから手を離したのを見て、もう一度。
 先ほどと同じように動く『領域』を、放ったのだ。
 
 それを見た上でジョルジュの言葉を聞いて、アラマキはとにかく跳んだ。
 ネーヨは浮いていた口角を沈めた。
 〝ハインリッヒが押し出されていく様を見ながら〟。
 
 
( ´ー`)「……。」
  _
( ;゚∀゚)「飛ばすぞ!」
 
( ´ー`)「……うぜってェんだよ」
  _
( ;゚∀゚)「!」
 
 
 ジョルジュは、もう一度腕を前方に振ろうとした。
 彼の、アラマキに向けて放った言葉から察するに、
 「次はお前に『領域』を放つ。だから、逃げろ」――そう言いたかったのだろう。
 
 だが、ジョルジュは『領域』を飛ばすことはできなかった。
 〝背後に立っていた〟ネーヨに、両方の肺を指で貫かれたのだ。
 
 
.

117同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:35:50 ID:gGtCieYA0
 
 
  _
( ;゚Д゚)「―――! ――――ッ!!」
 
( ´ー`)「肺に穴を開けてやった。数分、そーやって酸素を求めてな」
  _
( ; Д )「!!!」
 
 
 ジョルジュは、胸に両手を伸ばし、服を鷲づかみにして、がくん、と膝をついた。
 口を大きく開き、遠く離れていても聞こえるほど、大きく息を吸う。
 
 しかし。
 吸えども吸えども、酸素はすぐに穴から抜けていく。
 
 躯をコンクリートで固められて海に沈められたような錯覚。
 違うのは、空気を吸っているという実感はするのに、酸素は得られないことだ。
 
 
 
 
 ――常時窒息状態。
 通常の窒息状態よりも長い時間、酸素を求め、彼はもがくことしかできなくなった。
 
 
 
.

118同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:36:24 ID:gGtCieYA0
 
 
 
/;,' 3「な――ッ!!」
 
(   ー )「おめえはパンドラのまぬけ面を拝んどきな」
 
/;,' 3「っ!」
 
 
 一瞬だけ、ネーヨがアラマキの背後に現れては、そう言い残す。
 アラマキが即座に振り返ったが、次の瞬間には、ネーヨは再び瞬間移動をしていた。
 
 
 次に彼が現れたのは、両足と右腕を失ったハインリッヒの、前。
 アラマキは、もう目をそらすことしかできなかった。
 
 
 
 
 ハインリッヒは、残された左腕だけを必死に使って、なんとかネーヨから逃げ出そうとしていたのだ。
 
 
 
.

119同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:36:54 ID:gGtCieYA0
 
 
 
从ii!;Д从「ひァっ…   。 !」
 
( ´ー`)「鬼ごっこ……にしちゃあ、おッせーな。足が自慢の『英雄』じゃねーのか?」
 
从ii! Д从「……ッァ!!」
 
 
 ハインリッヒは、顔面を涙と、涙に張り付いた土でいっぱいにしている。
 もう、既に「拒絶」の限界をかいま見た――つもりだったのに。
 いま、その限界の更に上を、見ている。体感している。そこにいる。
 
 もし、自分の声帯がもっと頑丈だったなら、張り裂けそうなほど悲鳴をあげていただろう。
 もし、自分の左腕の力がアラマキやゼウスほどあれば、地面を思いっきり殴っていただろう。
 もし、自分に四肢が残っていれば、地面をのた打ち回り破壊活動に勤しんでいただろう。
 
 
 
 ―――どれも、拒絶心を体内に生み出してしまったがゆえの狂気じみた思考だった。
 
 
 
.

120同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:37:48 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 そして、ハインリッヒの左腕はもぎとられた。
 
 
 
 
 
 
 
.

121同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:38:21 ID:gGtCieYA0
 
 
 
从ii! Д从「  ア  」
 
 
 
 神経がつながっていた感覚が、消えた。
 
 動くのは、首と、せいぜい、腰くらい。
 
 いつものように、立って、走って、跳んで。
 
 そんな動作をしてくれる四肢に力を、信号を送るが
 
 しかし、なんの反応も、感覚もない。
 
 動きたいのに、動けない。
 
 躯を拘束されたとは違う。
 
 
 
 酸素を求め苦しみもがいているジョルジュと一緒で
 
 「そこにあるのにできないもどかしさ」、そんな感じだった。
 
 
 
.

122同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:38:54 ID:gGtCieYA0
 
 
 
( ´ー`)「サッカーでもすっか」
 
从ii!;Д从「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
.       ああああああああああああああああああああああああああああ
.       あああああああああああああああああああああああああああああああああああ
.       ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
 
 
 
 四肢を失ったハインリッヒを待っていたのは、
 まるで彼女をボールと見立てたのか、
 彼女を、殺さないように優しく蹴ってくるネーヨの足だった。
 
 抵抗できない。
 ただ、漠然と、意識だけが残っている。
 
 抵抗する術のないまま、ハインリッヒは、蹴られ、転がっていく。
 四肢はない――〝だるま〟。
 蹴られるがまま、物理法則に従って転がる。
 
 
 途中で何度か、ハインリッヒは吐い
 
 
 
 
 
.

123同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:39:37 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 

 
 
 
(  ゜ω゜)
 
 
 
 たのは、内藤も一緒だった。
 
 顔面をかきむしったため、爪痕が残っている。
 血が若干にじんでいる。
 
 心なしか急激に老けたような面構えだ。
 髪はぼさぼさになり、口は常に半開きだ。
 
 目は見開いている。
 四肢を失ったときのアラマキと同じように、血管が眼球に張り巡らされていた。
 
 
 
 彼は今、戦闘――?――に、背を向けている。
 
 
 
.

124同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:40:09 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 ここまで――とは、思っていなかった。
 いや、ただの予想としては、この戦いが始まる頃からついていたはずだ。
 ネーヨ=プロメテウスがいる限り、『拒絶』と戦うということはつまり「これ」を予期していたはずだった。
 
 ならば、最初から『拒絶』を相手に逃げていればよかったのか。
 ――いや、違った。
 元々は、『拒絶』のほうから申し入れをしてきた戦いなのだ、これは。
 
 
 
 
   ( ・∀・)『俺はいま、モーレツにおまえらを殺したい。〝満たされたい〟。
          だけど、それだと他の「拒絶」との約束を
          破っちまうから、今回は忠告にきただけ、さ』
 
 
 
 
 今は、失意の果てに――「拒絶」に自ら呑まれた果てに――
 倒れた、『拒絶』イチの好戦家、モララー=ラビッシュ。
 
 
 思えば、彼との出会いが全ての始まりだった。
 
 
 
.

125同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:40:46 ID:gGtCieYA0
 
 
 
  フェイク・シェイク
 【 常 識 破 り 】を最初から躊躇いなく見せて、彼ら――『革命』――に危機感を植えつける。
 逃げ道、選択肢はない――そう知らしつけたところで、『拒絶』を拒絶する戦いを強制する。
 
 そのため、モララーに目をつけられてしまった時点で、もうこの未来は確定していたのだ。
 ならば、回避する方法はあったのだろうか――
 
 
 そう思ったところで、内藤ははッとした。
 そもそも、最初に『拒絶』に触れたのは、ほかならぬ――
 
 
 
 
(  ω )「(僕が……奴らを、招いたのかお……?)」
 
 
 
 
 内藤武運。 己なのだ。
 
 
 
.

126同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:41:25 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 むろん、最初からモララーは隠れてそこに潜んでいたため、
 「自分が口にしたから」彼らがやってきた、というわけではない。
 しかし、ここがパラレルワールドで、自分が『作者』である以上、内藤はそれを疑わざるを得なかった。
 
 
 
 ――もし、このパラレルワールドの進行に、自分の意識が干渉していたら――
 
 
 
 そこまで思って、内藤はかぶりを振った。
 惨劇から目を背けて、もうだいぶ、落ち着いてきていた。
 
 
 
 
(  ω )「(そんなはずはないお。望んでもない展開がきた以上、ありえないお)」
 
 
(  ω )「……ワルキューレ。」
 
 
 
.

127同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:42:23 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 ――黒髪の少女を脳裏に浮かべながら、内藤はそうつぶやいた。
 
 
(  ω )「(僕の意識が『世界』に干渉するなら、〝彼女〟が僕の前に現れるはずはなかったんだお)」
 
(  ω )「(なのにああして出会って、しかもフラグまで立てられた以上……この仮説は、はずれ)」
 
 
 自分もこの『世界』の一部でありながら、あくまで客観的視点を以て、内藤は考えていた。
 いつまでたっても「自分は作者だ」という意識が脳から離れないのだ。
 
 
(  ω )「(それに……【全否定】。 あれの進化も、おかしい)」
 
(  ω )「(概念的に、おかしいんだお。 『時』まで『拒絶』するのは)」
 
(  ω )「(……でも、奴は『拒絶』した)」
 
(  ω )「(じゃあ………、)」
 
 
 
 
 
( ^ω^)「……パラレルワールド。」
 
 
( ^ω^)「ここは、僕の知っている『世界』じゃあ、ない」
 
 
( ^ω^)「……僕は、もう……この『世界』から、脱出できないのかも……しれない。」
 
 
 
 
.

128同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:43:08 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 内藤は、悟った。
 
 
 逃避でも、諦めでも、絶望でも、拒絶でもない。
 
 
 〝悟った〟のだ。
 
 
 
 
从'',;:;Д゙リ「ああああああああああああああああ
         ああああああああああああああああああああああああ
         あああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 
  _
( ; Д )「――カ―――ぁ――――っ―――」
 
 
 
 
 
( ^ω^)「………」
 
 
 
.

129同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:44:11 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 
 ―――僕が、作者なら
 
 
 ―――ここで、このパラレルワールドは
 
 
 ―――絶望、失意、拒絶にまみれたまま
 
 
 ―――終わらせるんだろうなぁ……
 
 
 
 
 
 
 
( *´ー`)「あーっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!
.       イイ、イイぞ!! もっと鳴け、喚け!!」
 
 
 
 
(   ω^)「……。」
 
 
 
 
.

130同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:44:43 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(  ω )「…。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

131同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:45:17 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 …………ごめん……。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

132同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:45:50 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

133同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:46:20 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 答えたのは、少女だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

134同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:46:51 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   「………あ、あの。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

135同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:47:22 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 
(  ω )「…?」
 
 
( ;^ω^)「! な、なん――」
 
 
 
 
 
 
 『拒絶』に、ついに呑まれそうになったとき。
 
 
 内藤の肩を、叩く者がいた。
 
 
 
 
 
 
 
 
.

136同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:47:55 ID:gGtCieYA0
 
 
 
 
 
(;*゚ー゚)「………は、…はじめまして……、……じゃなかった」
 
 
(;*゚ー゚)「……ナイトー、……?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 パラレルワールドは、まだ動いている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

137同志名無しさん:2013/04/05(金) 01:50:29 ID:gGtCieYA0
>>4-76   三十四話
>>80-136 三十五話

毎回毎回言い忘れるんだけど、閲覧注意だからねこれ
三十五話にもなって言うことじゃないからもう触れないけど

138同志名無しさん:2013/04/05(金) 20:13:32 ID:taVVw2IcO
前スレブックマークしてたから新しいの気付かなかったわ
乙ー

139同志名無しさん:2013/04/05(金) 20:48:34 ID:lPr07p.20
あれ、しぃ最初から居なかったんだ。乙ー。

140同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:12:11 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ´ー`) 【全否定《オールアンチ》】
→なにも受け付けない《拒絶能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【暴君の掟《ワールド・パラメーター》】
→『拒絶』化してしまった、それまでは『拒絶』ではなかった少女。
  _
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
 
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
 
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
 
 
.

141同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:12:55 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
○前回までのアクション
 
( ´ー`)
→『世界』を『拒絶』
 
( <●><●>)
→横に二等分され死亡
 
/ ,' 3
→惨劇を前に金縛り状態
 
从 ゚∀从
→四肢をもがれ「サッカーボール」化
  _
( ゚∀゚)
→肺に穴を開けられ常時窒息状態
 
( ^ω^)
(*゚ー゚)
→接触
 
 
.

142同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:13:42 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
 
 
 
 拒絶に、ついに呑まれかけた
 
 
 戦ってもないのに拒絶に呑まれそうになった
 
 
 
 ――そんな内藤を現実の世界に呼び戻したのは、口を利いたことのない少女だった。
 
 
 
 
 
 
.

143同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:14:15 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ;^ω^)「あんたは……」
 
(;*゚ー゚)「………シィ。ファミリーネームはないわ」
 
 
 そこで内藤は、記憶を遡らせた。
 この広場に至るまでの、経緯を、鮮明に。
 
 
 いまは、ネーヨと『革命』が戦っている。
 その前は、トソンが『拒絶』化した。
 
 その原因はモララーを止めにきたことであるし、
 止めに、という以上、モララーはそれほど暴れていた。暴れそう、だった。
 
 
 その、前。
 あの、混沌のうねりのような空間で――
 
 
( ^ω^)「……シィ……!」
 
 
 
 ――ここで内藤は、二つのことを思い出した。
 一つが、彼女が自分を介抱してくれていたこと。
 
 そしてもう一つ。
 〝シィはジョルジュ以外の人間に近づくことはない〟ということ。
 
 
.

144同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:14:45 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 内藤の知り得ないことではあるが、シィはほかに、とある『不運』な男には近づくことこそあった。
 しかし、そんな例外を除いて考えると、だ。
 
 
   (*゚ー゚)『……パンドラ』
     _
   ( ゚∀゚)『ん……、ん?』
 
 
 あのとき、ジョルジュが不審に思ったように
 彼女が、ほかの人間に接触を試みることは、ない。
 
 
 
 それ、なのに。
 
 
 
(;*゚ー゚)「ちょっと、……イイ…かしら」
 
 
 彼女はいま、内藤に、明らかに自分から進んで、接触を試みている。
 そのことが、内藤にとっては奇妙以外のなにものでもなかったのだ。
 
 
 だが、今は非常事態――を通り越して、もはや〝非情事態〟だ。
 彼女が唯一心を開く男、ジョルジュなんか、生き地獄を喰らっている。
 彼女がそれを見て取り乱さないのもなかなか不思議な話であったが、
 今の内藤はその点を衝くほど、精神に余裕がなかった。
 
 そんな事態であるからこそ、彼女は恐怖心などを捨てては
 こうして、内藤というまったくの他人と言葉を交わそう、と決意したのだろう。
 そう思うと、内藤も、あれこれと野暮なことを考えないようになった。
 
 
.

145同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:15:16 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ;^ω^)「ど……どうしたんだお」
 
(;*゚ー゚)「どうして……あなたは、助けにいかないの?」
 
( ; ω )「ッ!」
 
 
 ――いきなり、シィは内藤の弱い部分を衝いた。
 決して、悪意や他意などはない。
 シィは、そういった、ヒトの暗い部分を持ち合わせていない少女だ。
 いまの質問は、ただ純粋に疑問に思ったがために出たものなのである。
 
 しかし、それでも内藤にとっては、厳しい質問となった。
 即答は、できるのだ。
 「自分は能力的に戦うことができない」と。
 
 だが、それを即答することは、彼にはできなかった。
 まず、自分の無力さを再認識させられるため。
 次に、同志を捨てるという罪悪感に苛まれるため。
 また、個人的な抵抗もあったのだ。
 
 
 あの、拒絶の渦巻く戦渦に飛び込みたくなかった、と。
 
 
 それが、あまりにも身勝手な考えのように思えて、
 そんな自分がまた惨めにも思えて―――
 
 
.

146同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:15:51 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ;^ω^)「……ごめんお」
 
(;*゚ー゚)「…? どうして謝るの?」
 
 
 シィが無意識のうちに追撃をかける。
 ただでさえネーヨのせいで精神が崩壊寸前だというのに――
 と心中で内藤は毒づくが、しかし悪気がないのはわかっているので、口にはできない。
 
( ;^ω^)「なんでもないお。で、あんたはどうしたんだお」
 
(;*゚ー゚)「………。」
 
 
 内藤は、この世界の『作者』。それは、疑う余地はない。
 しかし、その余地が生まれてしまうような出来事が、ここ二日で連続して起こってきた。
 
 たとえば、能力を忘れる。
 人物名を忘れる、なにをしていたのかを忘れる。
 ――記憶の喪失。
 
 たとえば、掟が破られる。
 ハインリッヒが進化したり、アラマキが新たな発想をしたり、ネーヨが『世界』を『拒絶』したり。
 ――前提の覆敗。
 
 
 
 ――そしてそれが、今も起こっていたのだ。
 というのも、内藤は
 
 
( ;^ω^)「(……シィ……。えっと、どんなやつだっけ……?)」
 
 
 
 シィという人物を、ほとんど知らなかった。
 
 
 
.

147同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:16:23 ID:9WBx39Jg0
 
 
         ラスト・ガーデン
( ;^ω^)「(【最期の楽園】……確かに、そんな能力を創った覚えは……ある)」
 
( ;^ω^)「(でも……あれ? 原作に、出したっけ? ボツネタだったかお?)」
 
 
  フリー・フリクション
 【 不 協 和 音 】のときでも、似たようなことは起こった。
 その能力名を聞いても、名前をはっきりと思い出せなかったのだ。
 
 しかし、今回は違う。
 その、能力の時点で、既に疑問符を
 打ち立てないといけないようなほど、記憶が機能していないのだ。
 
 そして内藤は、キャラの設定はともかくとして、
 その能力の設定に関しては、決して忘れることはないであろうほど
 それぞれの記憶が、脳裏に蓄積されているのだ――平生では。
 
 
 それが、この有様だ。
 内藤は「拒絶」に加えてもうひとつ、なんともいえないマイナスの感情が胸中に浮かんだ。
 
 
 
(;*゚ー゚)「あ、あのね、ナイトー」
 
( ;^ω^)「! な、なんだお」
 
 
.

148同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:16:56 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
(;*゚ー゚)「あなた、〝なんでもお見通し〟なの……よね?」
 
( ;^ω^)「……あー」
 
 
 
     _
   ( ゚∀゚)『……! なぜ、そこまで知ってやがる』
 
   (;^ω^)『僕の前じゃ、なーんでもお見通し』
 
 
 
 内藤は、あの空間での会話を思い出した。
 あそこには、シィもいたのだ。それも、自分を介抱していた。
 話は聞かれていない、と思うほうが難しかった。
 
 あのときはああ言ったものの、自分にそんな能力など備わっていない。
 ただ「『作者』である」ということを婉曲的に表現しただけなのである。
 それを本気でとられると、面倒なことになる。内藤は、そう思った。
 
 
( ;^ω^)「それが、どうしたんだお」
 
(;*゚ー゚)「私……ちょっと、気になることが、あって」
 
( ^ω^)「気になること?」
 
 
.

149同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:17:29 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 そのとき内藤は、どきッとした。
 『作者』だからこそ、ふと思ったことだ。
 
 
 なにか、逆転の布石を見つけたのか――?
 
 
 内藤の集中力が研ぎ澄まされていく。
 目の前にいる少女、シィに、その集中力が注ぎ込まれる。
 彼女の眉の動きから鼻孔の僅かな動きまで、目に入ってきた。
 
 内藤の様子が変わったのを察したのか、シィは少し言葉を詰まらせた。
 前述のとおり、シィはジョルジュ以外の男に口を利くことはないのだ。
 内藤の、食いかかってくるかのような様子にたじろいでしまうのは、仕方がなかった。
 
 
(;*゚ー゚)「なにかが……」
 
( ^ω^)「なにかが?」
 
 
 
 
(;*゚ー゚)「〝なにかが迫ってくる〟」
 
 
 
.

150同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:18:05 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ^ω^)
 
( ^ω^)
 
( ;^ω^)「……はい?」
 
 
 内藤は、少し黙った。
 彼女の言う「気になること」を検証するためである。
 
 数秒の沈黙――この間も、ネーヨの笑い声と『革命』たちの苦痛に喘ぐ声は飛び交っている――を
 挟んで最初に内藤が放てた声といえば、それしかなかった。
 彼女の言った「気になること」が、思いのほか的外れなものだったためである。
 
 当初内藤は、この絶望的な戦いにおける、逆転の兆しに気づいたのかとばかり思っていた。
 ネーヨのクセだとか、ネーヨの異変だとか、そのようなものであるのか、と。
 しかし、言われたかと思えば、「なにかが迫ってくる」だ。
 内藤は少し、思考がまわらなくなった。
 
 
( ;^ω^)「どういう意味?」
 
(;*゚ー゚)「それをあなたに〝見通して〟もらいたかったのよ」
 
( ;^ω^)「あ、ああ……そうなの。」
 
 
.

151同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:18:38 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 シィの精神年齢は、幼い。
 ジョルジュが研究するようなことに関してはある程度精通しているのだが、
 それ以外のこと――常識や一般教養など――に関しては、まるでさっぱりである。
 
 こんな事態、それもジョルジュも襲われている惨劇を前にして、
 よくそんな違和感を感じたなあ、と内藤は半ば呆れた。
 
 しかし、だからといって丸投げはしなかった。
 これは言い換えれば、〝こんな事態でも気になるほど〟の強烈な違和感なのである。
 内藤がそれに気づいていない以上、内藤の知り得ない違和感なのか、視点が違うからなのか。
 
 惨劇から目を背けるためにも、この惨劇を打開するためにも
 内藤は今一度、彼女に言われるがまま、それを〝見通して〟みようかと思った。
 
 
( ^ω^)「……具体的には、どんなものが迫ってくるか、言えるかお?」
 
(;*゚ー゚)「わかってたら、そう言う」
 
( ^ω^)「(こいつ……)」
 
 
 ――純粋と残酷は、紙一重だ。
 内藤は、ふとそう思った。
 
 
.

152同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:19:09 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
(;*゚ー゚)「………でも」
 
( ^ω^)「お?」
 
(;*゚ー゚)「なんて言うか……」
 
 
 
(;*゚ー゚)「心臓の鼓動が、すごく強くなってて」
 
(;*゚ー゚)「…………苦しい。」
 
 
 
( ^ω^)「……苦しい、か」
 
 
 内藤は、腕を組んだ。
 苦しい――まあ、この状況から考えるに、おそらくはそれは
 ネーヨのせいで心に植えつけられた拒絶心のことなのだろう。
 
 視線をゆっくりおろしながら、そう推理する。
 
 
( ^ω^)「(……ん?)」
 
 
.

153同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:19:41 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ^ω^)「(でも……それだったら、やつが『拒絶のオーラ』を解放した時点でそうなるはず……)」
 
( ^ω^)「(それに、それが拒絶心だとしたら〝なにかが迫ってくる〟ってのは……?)」
 
 
 やはり、『作者』としての思考の補正は、もうかかっていなかった。
 真っ先に浮かんだ「これだろう」という推理が、穴だらけだったのだ。
 
 
(;*゚ー゚)「今まで、感じたことがないわ。……パンドラが、死にそうだから……?」
 
( ^ω^)「……」
 
 内藤は、ジョルジュのほうを見ない。
 見てしまえば、せっかく今、こうして落ち着けているのが、
 また「拒絶」に呑まれる段階にまで戻ってしまうからだ。
 
 背後から伝わる、心を壊してしまいそうなほどの「拒絶」。
 それを肌と触角のようなもので感じながら、内藤はシィを見つめていた。
 
 
 
( ^ω^)「……たぶん、それは違うお」
 
(;*゚ー゚)「違う…?」
 
 
.

154同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:20:11 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ^ω^)「ネーヨは……〝殺さない〟んだお」
 
( ^ω^)「あいつは……っていうか、『拒絶』は、相手に拒絶を植え付けて、
      もがき苦しむ様を見てはじめて満たされる。
      ……だから、殺すことはない」
 
( ^ω^)「『パンドラが死ぬ運命にあるから違和感を感じる』……それは、ないと思うお」
 
(;*゚ー゚)「………そう、なの。」
 
 
 内藤の言葉には、説得力があった。
 そして、実際にそれは事実だ。
 シィも、自分の予想を消さざるを得なかった。
 
 
(;*゚ー゚)「でも、なにか、ヘン」
 
(;*゚ー゚)「なんだか……なにか、コワいものが、すぐそこにまで来てる……」
 
(;*゚ー゚)「そ、そんな感じがするの。」
 
( ^ω^)「……。」
 
 
.

155同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:20:44 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 内藤はもう一度、シィの言葉を咀嚼した。
 嘘や勘違い、思い過ごし、自意識過剰――
 少なくとも、そういった類のそれではないのだろう、ということだけはわかった。
 
 確たる根拠はない。
 しかし、なんとなく、そう思った。
 
 
( ^ω^)「……」
 
( ^ω^)「(なにかが、迫ってくる……か)」
 
 
(;*゚ー゚)「そこで、なんだけど……」
 
( ^ω^)「お?」
 
 
 再びその〝なにか〟の正体を考えてみようとすると
 シィはなにか案でも用意していたのか、それを持ちかけようとしてきた。
 
 
.

156同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:21:21 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
(;*゚ー゚)「ここから……逃げ出すって、ダメ…?」
 
( ^ω^)「逃げ出すって……一人で?」
 
(;*゚ー゚)「みんな連れて、に決まってるでしょ」
 
( ^ω^)「うーん」
 
( ^ω^)
 
(;*゚ー゚)
 
( ^ω^)
 
 
 
( ;゚ω゚)「―――バァーカ言っちゃだめだお! どぉーやって逃げ出すって――」
 
(;* ー )「ラスト・ガーデンッ!」
 
( ^ω^)「――!」
 
 
 
 ――そこで、内藤ははッとした。
 彼女、シィも、戦闘能力こそないものの、『能力者』なのだ。
 
 
 【最期の楽園】。
 『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
 
 
 つまり――「瞬間移動する」能力。
 
 
.

157同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:21:57 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( *´ー`)「あはは――……ハハ。」
 
从'',;: Д゙リ
 
( ´ー`)「………飽きたな」
 
 
  _
(  Д )「       力゙         。     」
 
( ´ー`)「おうおうパンドラ。もうしまいか? ホネのねえやつだな」
  _
(  Д )「                        。  」
 
( ´ー`)「……チッ。おもしろくねえヤローだぜ」
 
 
 
 
( ;^ω^)「……、」
 
 
 そのことを思い出してから、見たくこそなかったものの、
 内藤はチラリ、とその惨劇をもう一度だけ見た。
 
 ネーヨの、鼓膜を劈くような笑い声は、ほとんど枯れている。
 玩具だったハインリッヒとジョルジュが、またも「拒絶」に呑まれたからだ。
 声をかけても、蹴り上げても、睨みつけても、反応を示さない。
 
 死んではいないが、ほぼ死んだも同じ。
 そんな物を相手にして、ネーヨの心が満たされるはずもない。
 
 
.

158同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:22:30 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 ネーヨは、『世界』をも『拒絶』する術を身につけた。
 玩具が使い物にならなくなったら、もう一度使えるような『世界』にするのだ。
 
 本来なら、そんな『世界』が繰り返されて、そのたびにネーヨが満たされる。
 性欲にも、薬物乱用にも勝る、快楽の頂点。
 「拒絶」という、マイナスの感情によって引き起こされる副作用。
 それが、ネーヨを包み込む。
 
 それに際して、満たす側の『革命』の皆は、蝕まれていく。
 今でこそ、『世界』がリセットされたら元に戻るようになっているようだが
 それでも記憶は継続されていることを考えると、いつまでもそうなるとは到底思えない。
 
 
 ―――そうなってからでは、間に合わない。
 いま――まだ根底にある精神体が生きている、今。
 今でないと、間に合わない。
 
 
 ネーヨという、史上最悪の『拒絶』から逃げ出すのは。
 
 
 
 
( ;^ω^)「……!」
 
(;*゚ー゚)「な、ナイトー…?」
 
( ^ω^)「………シィ」
 
 
.

159同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:23:05 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
 
 内藤は、頭を思いっきり下げた。
 
 
 
( ;゚ω゚)「頼む! 力を、貸してくれ!」
 
(;*゚ー゚)「……へ? チカラって、能力…のこと?」
 
( ;゚ω゚)「そーだお!」
 
( ;゚ω゚)「らすとがーでん……、要は、瞬間移動する能力だお?」
 
(;*゚ー゚)「そ、そうだけど……」
 
 
 
( ;゚ω゚)「(どうして、気づかなかった!)」
 
( ;゚ω゚)「(走って逃げ出せないのなら……)」
 
( ;゚ω゚)「(能力を使って逃げ出せばいいんじゃないかお!)」
 
 
 
( ;^ω^)「(なにも、ここは、特殊能力なんてものがありえない『世界』……じゃ、ない)」
 
( ;^ω^)「(そう………)」
 
 
 
 
 
( ^ω^)「パラレルワールド、なのだから……っ!」
 
 
 
 
.

160同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:23:35 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
 
 
 
    第三十六話
 
               「vs【全否定】Ⅳ」
 
 
 
 
 
 
.

161同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:24:18 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
 そう思うと、希望が見えてきた。
 
 どのみちネーヨの場合、逃げたという『現実』をも無視して、追いかけてくるだろう。
 彼の場合、シィの【最期の楽園】と違って、「ポイント特定」などのような、位置を知っておく必要はない。
 ただ「玩具が逃げた」ということを『拒絶』すれば、半自動的に彼らが逃げた先に瞬間移動できるのだから。
 
 
 しかし。
 結果論がそうであったとしても、
 たった一瞬だけでも、隙ができる。
 
 また、ネーヨの『拒絶』を、微力ではあるが拒絶することができる。
 それは『拒絶』の面々にとって、一番面白くないことなのだ。
 
 もともとが精神体の『拒絶』。
 ネーヨはそれの代名詞である以上、その精神体を揺さぶることができれば、あるいは――
 
 
 そう思い至ると、シィの能力を使って逃げるというのは、
 現状でいま自分がとることのできる、もっとも合理性の高い「逃げ道」であるように思われた。
 ――そもそも、逃げる手段があった、という時点で、それは大きな発見だったのだ。
 
 
 
.

162同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:24:55 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
(;*゚ー゚)「いま? いますぐ?」
 
 逃げることが許された――シィの場合、逃げだしたい対象は
 ネーヨではなくまた別の存在にあるそうなのだが――シィは、催促するかのようにまくし立ててきた。
 
 が、内藤はすぐに快い返事をしない。
 苦い顔をして、うつむいた。
 それを見て、シィも同じく、一瞬明るくなった顔を、暗くさせた。
 
 
( ;^ω^)「……いま逃げたところで、だ」
 
( ;^ω^)「四肢を失ったハインリッヒに、
.      戦意を失ったアラマキに、
.      酸素を失ったパンドラに、
.      命を失ったゼウス」
 
( ;^ω^)「……とてもじゃないけど、すぐにネーヨに捕まって、
.      今度は、シィ、あんたまでひどい目に遭わされてしまうのがオチだお」
 
(;*゚−゚)「………。」
 
 
.

163同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:25:36 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 『現実』を再認識して、シィは口をきゅっとしぼった。
 やはり、見た目は成人女性のように思われても、中身はまだ子供なのだ。
 
 
( ;^ω^)「……でも」
 
 
 そして、中身はまだ子供だからこそ。
 この、内藤の、希望をちらつかせるような言葉に、おもしろいほど食いつくことになるのだ。
 
 
 
(*゚ー゚)「!」
 
( ;^ω^)「ネーヨがもう一度『世界』を『拒絶』して、時をリセットしたとき」
 
( ;^ω^)「……たぶん、あと一度くらいなら、やつらも精神体を残してくれる」
 
( ;^ω^)「となったら、そのときに一斉にワープするのが、最善だお」
 
(*゚ー゚)「じゃ、じゃあ――」
 
 
 シィの目が、打って変わって輝きを見せる。
 その輝きに、もう一度『現実』――どうせネーヨはすぐ追ってくる――を
 突きつけることはできなかったが、代わりに苦笑だけ浮かべて、内藤はうなずいた。
 
 
.

164同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:26:06 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ;^ω^)「だから……」
 
( ^ω^)「〝用意〟を………頼むお」
 
(*゚ー゚)「用意…?」
 
 
( ^ω^)「僕が、戦場を見張っておく」
 
( ^ω^)「ネーヨが『世界』を『拒絶』した、そのとき。僕が、合図する」
 
( ^ω^)「そしたら……」
 
(*゚ー゚)「……すぐに、能力を使えってこと…かしら?」
 
 
( ^ω^)「そうだお。ただ、これには問題がある」
 
( ^ω^)「やつらを勝手に転送するのはいいとして」
 
( ^ω^)「ただでさえ、『拒絶』に呑まれて、精神体が半壊の状態なんだお」
 
( ^ω^)「そんななか、いきなり正体不明の現象でワープなんかさせられてみろ」
 
 
( ^ω^)「そのショックのせいで、僕たちがあいつらにトドメを刺しちゃう可能性、だって……ある」
 
 
.

165同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:26:39 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
(*゚−゚)「…!」
 
( ^ω^)「だから、『世界』が『拒絶』されてみんなが復活したとき……」
 
( ^ω^)「僕が、大声であいつらに呼びかけるお」
 
( ^ω^)「……『逃げるぞ』、って。」
 
(*゚−゚)「で、でも、そんなこと言ったら、アイツが……!」
 
( ^ω^)「そう。だから、これは賭けだお」
 
(*゚−゚)「賭け?」
 
 
 
( ^ω^)「ネーヨが、僕たちの目論見を見破って、あんたを殺すか」
 
( ^ω^)「僕たちが、ネーヨの追跡を振り払って、どこか安全地帯に逃げ切るか」
 
 
 
( ^ω^)「……成功したって、ちょっと猶予が生まれるだけの、ハイリスクローリターンな賭け」
 
( ^ω^)「そんなメリットの薄い賭けが、唯一、現状を打破できる、最善の一手」
 
( ^ω^)「ベットは、己の命。ドロップは、許されない」
 
( ^ω^)「………乗るかお?」
 
 
.

166同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:27:12 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
(*゚−゚)「……」
 
 
 この間も、ネーヨは次にアラマキを標的にしたようで
 彼に、着々と「拒絶」を植えつけていっている。
 
 悩んでいるうちにネーヨがもう一度『世界』を『拒絶』してしまえば、
 この賭けに参加する資格すら剥奪されることになる。
 
 だが一方で、安請け合いできる賭けでもない。
 つまりこの作戦は、内藤とシィの息が、完全に合っていないとまず勝てないのだ。
 加えて、内藤と『革命』の誰か――ならともかく、相手はシィだ。
 内藤としても、安易に乗ってはいけない賭けなのである。
 
 一つひとつの判断が重大で、かつ難しい。
 こんな局面で彼女にこのような負担をかけるのを、内藤は申し訳なく思った。
 
 
 
 
 しかし、彼女は彼女で、覚悟はあったようだ。
 ちいさな手をきゅっと握り、彼女は大きくうなずいた。
 
 
(*゚−゚)「………乗る」
 
 
 
.

167同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:27:48 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ^ω^)「……決まりだお」
 
(*゚−゚)「……」
 
( ^ω^)「僕が『逃げるお』って言ったら、躊躇いなく、
      ネーヨ以外のみんなを、どこか安全そうな場所に転送してくれお」
 
(*゚−゚)「………うん。」
 
 
 今度はちいさくうなずく。
 目の前でシィがおどおどしているからこそ、内藤は却って平静を保つことができていた。
 そうと決まれば――と、内藤は、惨劇の繰り広げられている戦場に目を向ける。
 
 
 
( ;^ω^)「(あとは、僕ががんばれば………)」
 
 
 
从'',;: Д゙リ
  _
(  Д )
       _,.
( r#゙;:,;'´  ",,li'、○>)
 
 
 
 
( ; ω )「(僕が………がんばれば……!)」
 
 
 
.

168同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:28:22 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 

 
 
 
( ´ー`)「……」
 
/ ,゛3
 
( ´ー`)「………」
 
/ ,゛3
 
 
 
 ―――アラマキは、ものの五秒ほどで、気を失った。
 最初は、四肢をもぐのも飽きたからと、目、耳、鼻を壊した。
 ネーヨの当初の予定では、そこから彼は「無」の世界を恐れ、苦痛で喘ぎ叫ぶはずだったのだが
 しかしどういうことか、アラマキはそんな予想を大きくはずれ、ただ静かに、その場に倒れたのであった。
 
 これでは、満たされるどころか、逆にフラストレーションが溜まる。
 自分の放っている「拒絶」が、まるで大したものでないと言われているかのように思える。
 それが腹立たしくて、先ほどまで心地よい気分だったのが、今ではそれはすっかり消えてしまっていた。
 
 ネーヨは、歯を食いしばる。
 アラマキの気を失った顔が、まるで自分を嘲っているかのように見えるのだ。
 彼の胴体を横から思いっきり蹴ったが、抵抗を『拒絶』していたため、蹴ったという感触はしなかった。
 
 豆腐を切ったかのように、すッとアラマキの胴体が切断される。
 むなしく転がる下半身を見て、ネーヨは余計にいらいらが募った。
 いや、今回の場合は、どちらかというと虚無感のほうが近かった。
 
 
.

169同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:29:08 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ´ー`)「……なんだろうな、このむなしい感じ」
 
 
 ひとり、ぼそっとつぶやく。
 どうして、自分は今、こうしてむなしさを感じているのだ。
 
 己の持つ『拒絶』は、【全否定】。
 言い換えれば、完全に自分の願望を押し通すことができるスキルだ。
 たてつくことのできない、言わば絶対の存在。
 それを有している以上、自分は最強で、だからこそ満たされることができるはずだ。
 
 それなのに。
 今、自分の胸に渦を巻いているのは、あきらかな負の感情である。
 
 虚無感。喪失感。
 敗北感。劣等感。
 
 ひょっとすると、拒絶を押し付けることで生まれるのは、
 快楽ではなくまた別の負の感情ではないのか――
 
 ふと、ネーヨはそんなことを思った。
 
 
.

170同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:29:40 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ´ー`)「起きろよ、くそじじい」
 
/ ,゛3
 
 抵抗の『拒絶』を解除して、蹴る。
 アラマキの上半身は、物理的に転がった。
 それを追いながら、ネーヨは続ける。
 
 
( ´ー`)「なんだ、さっきのはただの買いかぶりだったってのかァ?」
 
( ´ー`)「なんで、ソッコーで拒絶に呑まれるわけよ」
 
/ ,゛3
 
 相手を拒絶で埋め尽くすのが目的ではあるのだが、違う。
 一瞬で気を失わせて、それで満たされるわけでは、決してないのだ。
 
 ショボンもワタナベもモララーも、言わば、その〝過程〟を楽しんでいたわけである。
 泣き喚き、狂い、叫び、祈り、絶望する。
 ジェットコースターに近いその感覚が、彼ら『拒絶』を満たすのだ。
 
 少なくとも、今しがたのアラマキは、
 ネーヨの欲しているそれとはまるでかけ離れていた。
 
 
.

171同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:30:10 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 自分の有する拒絶が、自分の拒絶するそれを生み出してしまう。
 これは、ネーヨの持つ拒絶があまりにも強すぎるからこそ起こってしまう、パラドックス。
 心の底から満たされようとするならば、決して避けることのできないパラドックスだ。
 
 つまり、中途半端に快楽を得ることこそできるものの、
 完全に、心の底から満たされるのは不可能だ――
 そんなことに、ネーヨは今さら、気づいてしまった。
 
 ハインリッヒを弄んでいたときも、楽しかったものの、
 それは久しぶりの快楽から成るもので、決して心の底から、
 まるで洗われるかのような気持ちに浸れたわけではない。
 
 
 ――あれ?
 
 ――俺はいままで、何をしてた?
 
 
 
( ´ー`)「……こんなハズじゃ、なかったんだけどなァ」
 
 
.

172同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:30:47 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 ネーヨは、頭を掻いた。
 ゼウスはうっかり殺してしまったし、その他の面々もあっという間にこのザマだ、と。
 
 モララーたちを駆逐したのは、ただのまぐれだったのだろうか。
 しかし、三連続で続くことを、まぐれとは言わない。
 そう考えるとやはり、ネーヨはどこか、物足りなく思った。
 
 
( ´ー`)「『革命』以上のエサなんざ、探すのすら面倒だしなァ」
 
( ´ー`)「もう『拒絶』はアレ以外全滅」
 
( ´ー`)「……結局、こいつらをいたぶれるだけいたぶらねえと、元がとれねェ」
 
( ´ー`)「面倒なことになったぜ……ったくよォ」
 
 
 取らぬ狸の皮算用。
 百聞は一見に如かず。
 案ずるよりも産むが易し。
 
 この現状をもっとも端的に表現するいい言葉が、浮かばない。
 そんな混沌とした心情が、先ほどからある負の感情とともに浮かんできた。
 
 
.

173同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:31:23 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ´ー`)「つまんねえ」
 
( ´ー`)「つまんねえ」
 
( ´ー`)「つまんねえ」
 
( ´ー`)「俺は、今すぐ、この星をぶち壊すことだってできんだぜ」
 
( ´ー`)「なんで、こんな『世界』に俺はひれ伏さなければなんねえんだ」
 
( ´ー`)「満たせよ。さっき、俺はおめえの上に立ったハズだぜ」
 
( ´ー`)「満たせよ」
 
( ´ー`)「さあ」
 
 
 
 ネーヨは、右腕を大きく上に掲げ、それを目で追っては、言った。
 
 
 
 
( ´ー`)「オールアンチだ。」
 
( ´ー`)「もう一度、このエサどもを蘇らせろ……『世界』。」
 
 
 
.

174同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:31:56 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
 
 ―――稲妻が、走った。
 
 
 
(;*゚−゚)「――っ!」
 
( ;゚ω゚)「あんたら、起きろ!」
 
( ´ー`)「ッ!?」
 
 
 『世界』が変わる――戻る。
 ネーヨの言いなりになって、元に戻る。
 
 
 その瞬間、聞き覚えのある声が、空間を支配した。
 
 
 右手を挙げたその所作をとたんに取り払い、ネーヨは声のしたほう、背後に振り返った。
 そこには、内藤とシィが、いつの間にか現れていた。
 ――どうやって、ここまできた。
 
 アラマキたち、『革命』の面々は、もう元の状態に戻っている。
 ゼウスは生き返っているし、ほかの三人は健康体に回復している。
 そんな状態になった彼らは、ぽかんとした状態で、内藤――と、シィを見ていた。
 
 
.

175同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:32:38 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ´ー`)「……なにが―――」
 
 
 さすがのネーヨもこのことには思考が追いつかない。
 どうしたんだ、そう思った次の瞬間、ネーヨの顔は豹変った。
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「逃げるお!!」
 
 
 
 
( ´ー`)「―――…なに?」
 
 眉間に少ししわができた
 なにをしようとしているかはわからないが、
 とにかくそれはネーヨにとっては面白くないことだった。
 
 ――逃げる、だと?
 へたに面白くないことをされると、余計に負の感情が積みあがるので、阻止しなければならない。
 ネーヨは現状を把握するよりも優先して、二人の動きを止めにかかった。
 
 
 いや、かかろうと、した。
 
 
 
.       ラスト・ガーデン
(;* − )「【最期の楽園】ッ――!」
 
 
 
.

176同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:35:38 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ´ー`)「―――ッ!」
 
 
 ネーヨはその瞬間、目を疑った。
 〝消えた〟のだ。
 先ほどまで、目の前にいた連中が、皆。自分だけを残して。
 
 さすがに理解が追いつかない。
 突如としてその場に現れた内藤とシィ。
 手段などあるはずもないのに、逃げることを宣言した内藤。
 そして、次の瞬間に消えたという、この事実。
 
 しかし、先ほどの内藤の「逃げる」という言葉と現状とを
 照らし合わせて見れば、存外早く、その答えは見つかった。
 このときばかりは、ネーヨは自分のこの沈着な人格をありがたく思った。
 
 眉間にしわを寄せ、黒い影をはやし、
 口角を吊り上げ、食いしばった歯を見せ、不敵に笑う。
 
 
 
(   ー )「……! 〝瞬間移動〟か!」
 
 
.

177同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:36:08 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
 
 ネーヨは、拳を構えた。
 
 
 ――面白くなってきやがった。
 
 
 そう思いながら、彼は『拒絶』した。
 
 
 自分も瞬間移動することで、出会いがしらに誰かを殴り殺そうと思ったのだ。
 
 
 そしてネーヨは、彼らの逃げた先――に、瞬間移動した。
 
 
 
 
.

178同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:36:39 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 

 
 
 
( ;^ω^)「うまく行っ――」
 
 
 そして、ネーヨが瞬間移動したのは、
 内藤たちがシィの能力でその場を逃げ出してから、ほんの一秒後の出来事だった。
 
 『革命』の面々が「わけがわからない」と言いたげな顔をしているなか
 現状を知っている内藤は、安堵の息をつこうとしていた。
 ひゅー、と、情けない息を吐き出そうとする。
 
 
 
 
 次の瞬間、ネーヨが、目の前――ちょうど、ハインリッヒのまん前――に現れた。
 
 
 
 
.

179同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:37:14 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
(   ー )「――ッ。」
 
 
( ;^ω^)
 
 
 
 
 やはり、所詮はただの足掻きだったか――
 
 そう思うのも束の間、彼は現れたと同時に、拳を振りぬいた。
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「―――、――ッ!!」
 
(   ー )「オラアアッ!!」
 
 
 
.

180同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:37:48 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―――そして、その右拳は、からぶった。
 
 
 
 それも当然だろう。
 
 
 
 彼らは、〝転んでいた〟のだ。
 
 
 
 シィの能力が、未完成だったからがゆえに―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

181同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:38:25 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
(   ー )「―――なに?」
 
( ;゚ω゚)「――今だ!!」
 
从;゚∀从「 『優先』 ッ!」
 
 
 確かに、やつらのいた場所に瞬間移動したはず。
 しかし、どうして俺は、からぶってしまったのだ。
 
 ――そんなことが頭に浮かんだがゆえに生まれた、一瞬の隙。
 それを衝くべく最初に動いたのは、ハインリッヒだった。
 転がっている状態から、持ち味の脚で、ネーヨのわき腹を狙う。
 
 半ば、クセのようなものだった。
 【正義の執行】による『優先』は、現在は使えないのに。
 あのネーヨが隙を見せた、というのを知った瞬間、無我夢中で、ハインリッヒは『英雄の優先』を発動した。
 
 が、ネーヨに一瞬隙が生まれたからといって、彼はそれをやすやすと受けるほど、甘い男ではない。
 彼女の正義の鉄拳が自分に触れる前に、彼も半ばクセのように『拒絶』を発動した。
 
 
(   ー )「知るかァァッ!!」
 
 
 そして、
 
 
 
.

182同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:38:57 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―――ネーヨの胴体は、真っ二つに切断された。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

183同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:39:30 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
 
 
从;゚∀从
 
 
 
( ;゚ω゚)
 
 
 
(   ー )
 
 
 
 
 
 
 
 
 
( ´ー`)「――――え――
 
 
 
 
.

184同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:40:02 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「にッ逃げるぞ!!」
 
(;*゚ー゚)「ら、ラスト・ガーデンッ!」
 
从;゚∀从「ちょ―――」
 
 
 
 
 
 
( ; ー )「な――に―――……?」
 
 
 
 
 
 
 ネーヨの上半身は、切断部から大量の血を流しつつ、物理法則に従って、地面に落ちた。
 その頃には既に、彼らは再びワープ――元いた場所に、逃げていた。
 
 
 ネーヨの意識は、朦朧としてきた。
 
 
 
 
.

185同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:40:32 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 

 
 
 
 
 場所は戻って、ゼウスの屋敷の前方に広がる広場。
 やはり転んだ彼らは、起き上がりながら、
 今の一瞬にいったい何が起こったのかを、確かめることにした。
 
 どうやってネーヨから逃げるか、とか
 どうやってネーヨを倒そうか、とか
 このときの彼らには、そのような考えはまったくなかった。
 
 
从;゚∀从「―――待て! ちょ、なにが――」
 
/;,' 3「なんじゃ、なにがあったんじゃ!」
 
( ;゚ω゚)「言う! 言うから、ちょーっとダマってろ!」
 
 
 このときばかりは、混乱してもしかたのない現状だった。
 つい先ほどまでは、拒絶に呑まれて気絶していた。
 
 そんななか、気づけば自分は立っていて、気づけば瞬間移動させられて、
 気がつけばネーヨがやってきて、気がつけばネーヨは胴体を切断されたのだ。
 第一声に「なにがあった」以外を出すほうが、難しかった。
 
 
.

186同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:41:04 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ;^ω^)「……まず、あんたらはみんな、拒絶に呑まれた」
 
( ;^ω^)「それを面白く思わなかったネーヨは、また、『世界』を『拒絶』した」
 
( ;^ω^)「それを見計らって、シィが能力を発動して――さっきの場所に瞬間移動したんだお」
 
( ;^ω^)「……で、案の定ネーヨが瞬間移動で後を追ってきたわけだけど……」
 
 
 そこまで言って、内藤はハインリッヒのほうを見た。
 彼女も、その視線がなにを意味するのか、わかっているようだ。
 
 言うまでもないだろう。
 あの、ネーヨ=プロメテウスが。
 【全否定】ゆえに、なんの負荷も受け付けないはずのネーヨが。
 
 
 明らかに、大ダメージを負ったのだから。
 それも、ハインリッヒの蹴りで。
 
 
.

187同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:41:45 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ;^ω^)「ハインリッヒ! あんた、いったいどーやって攻撃したんだお!?」
 
从;゚∀从「ど、どうやって、って……」
 
 
 幸い、まだ根底に潜んである精神体は壊れていなかったようだ。
 リセットされることで、呑まれていた拒絶から解放されたハインリッヒは、言葉を濁した。
 
 今回の、ネーヨが攻撃を『拒絶』したにも関わらず『拒絶』できなかった、
 その事実のからくりが、内藤は、どうしても知りたかったのだ。
 
 本来ならば、あり得ないことなのである。
 誰も、ネーヨの【全否定】には抗えない。
 それなのに、ハインリッヒの今しがたの蹴りは――抗ってみせた。
 
 内藤は、ハインリッヒはこの瞬間を狙って、その攻撃をしたのか――
 などと深読みをしていたが、実際は、当然ながらそういうわけでもなかった。
 ハインリッヒも自分で何が起こったのかがわからず、首を傾げていたのだ。
 
 
.

188同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:42:21 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
( ;^ω^)「【全否定】を拒絶する、なにかの手がかりになるかもしれないんだお!
.      なにか、ヒントが――」
 
从;゚∀从「し、知るか! 私だって、わかんねーよ!」
 
( ;^ω^)「んな無責任な!」
 
从;゚∀从「だってよ、間違えて『優先』発動しちまったってのに、効いた――」
 
 
 
 
从 ゚∀从「―――……あれ?」
 
/;,' 3「――ッ! わかった、わかったぞブーン君!」
 
( ;^ω^)「え、あ、え?」
 
 
 ハインリッヒは、そう言葉を並べていると、「なにか」に引っかかった。
 なんだ、と思うと、今度はアラマキが、言葉を荒げた。
 
 
.

189同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:42:57 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
/;,' 3「よう思い出してみい! こやつの『優先』は、今は『劣後』になっとる!」
 
 
/;,' 3「あやつは、いわば蹴りにかかっておった『劣後』を『拒絶』したんじゃ!」
 
 
 
 
 
 
 
/;,' 3「マイナスとマイナスとがかち合えば、そりゃープラスになるわい!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

190同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:43:36 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
 
( ;^ω^)「え……『劣後』?」
 
 
 
 
 
 
 その瞬間。
 
 
 内藤の脳裏を、ある声がよぎった。
 
 
 
 
 
 
 
 
                           クルワセ
   『てめえらが知ってる「因果」を、全部「 異常 」てやる』
 
 
 
 
 
 
( ^ω^)「――――、」
 
( ;゚ω゚)「ああああああああああああああああああああああああああッ!!!」
 
 
 
 
 
.

191同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:44:13 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
  _
( ;゚∀゚)「なんなんだ、さっきから!」
 
( ;゚ω゚)「――やりやがった!」
  _
( ;゚∀゚)「……?」
 
 
 
 
 ―――全てを理解した内藤は
 
 まるで「あの少女」の代弁でもするかのように
 
 広場全体に反響するような大きな声で、言い放った。
 
 
 
 
 
 
.

192同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:44:46 ID:9WBx39Jg0
 
 
 
 
 
 
 
 
        イレギュラー・バウンド
( ;゚ω゚)「【 手 の ひ ら 還 し 】ッ!!」
 
 
 
 
 
        从 ー 从
 
 
 
 
                        クルワセ
( ;゚ω゚)「あいつ……【全否定】まで『 異常 』せやがったッ!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

193同志名無しさん:2013/04/07(日) 11:46:41 ID:9WBx39Jg0
>>4-76.    三十四話
>>80-136.  三十五話
>>140-192 三十六話

194同志名無しさん:2013/04/08(月) 14:30:24 ID:sdq20ZhI0
1話から一気読みしてきたぜ
続きが待ち遠しいな

乙おつ

195同志名無しさん:2013/04/10(水) 11:14:16 ID:0xRJGXAM0
転ぶのも劣後になったのもこのためかよ……すげーな

196同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:27:05 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ´ー`) 【全否定《オールアンチ》】
→なにも受け付けない《拒絶能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【暴君の掟《ワールド・パラメーター》】
→『拒絶』化してしまった、それまでは『拒絶』ではなかった少女。
  _
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
 
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
 
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
 
 
.

197同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:27:37 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
○前回までのアクション
 
( ´ー`)
→胴体が切断される
 
从 ゚∀从
→胴体を切断する
 
(*゚ー゚)
→能力を発動
  _
( ゚∀゚)
( ^ω^)
( <●><●>)
/ ,' 3
→逃亡に成功
 
 
.

198同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:28:09 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
( <●><●>)「……【手のひら還し】だと?」
  _
( ゚∀゚)「『劣後』? どういうことだ」
 
( ;^ω^)「あ。えっと、……」
 
 
 そのときになって、またも話がややこしくなった――と内藤は思った。
 いま、それを逐一話している時間的猶予など、残されているはずもない。
 この、ネーヨに一矢報いることができた今のうちに、次の策を練らなければならないのだ。
 
 だが、ゼウスもジョルジュも、完全に注意がそちらに向かっていた。
 彼らを無視して先に進むのは不可能だろう。
 『革命』のブレイン二人がつっかかっているから、だ。
 
 しかし、どうやって説明すればすぐに終わるか。
 混乱に近い状態の内藤がその情報処理に費やす時間は、平生より大きくなるだろう。
 
 
 
 内藤が言えることは、ひとつだけだった。
 「あの少女」が―――
 
 
.

199同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:28:47 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
.                      テノヒラガエシ
   从   从『「優先」を「劣後」に 「 反 転 」 させました』
 
 
 
 
 
 『因果』を拒絶し
 
 
 
 
 
   从 ー 从『「ああすればこれがこうなります」。そんな「因果」は、クソ喰らえだ』
 
 
 
 
 
 『異常』を植えつけてきた
 
 
 
 
 
   从'ー'从『こっからは常識の通じない世界だぜ』
 
 
 
 
 
 
 ―――イレギュラー・バウンド、ワタナベ。
 
 
 彼女が、この局面においてイレギュラーを引き起こした。
 
 
 
 
 
.

200同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:29:35 ID:IoG3pGAU0
 
 
  _
( ゚∀゚)「……じゃあ」
  _
( ゚∀゚)「『英雄の優先』は、今は――」
 
( ^ω^)「……『対象に優先される』、いままでのとは真逆の効果となってるんだお」
 
从 ゚∀从「………。」
 
 
( <●><●>)「……なるほど」
  _
( ゚∀゚)「しかし――これは、いいぞ! 勝機が見えてきた!」
 
 
 戦闘の場に居合わせていなかったジョルジュとは違い、
 実際に当時その場にいたゼウスは、それを聞いて全てを把握した。
 
 一方のジョルジュは当時のことこそ知らないものの、
 それでも今回のからくりを納得することはできたようだ。
 先ほどまで拒絶に呑まれていたというのに、もう元に戻っていた。
 
 
 それは、『世界』がリセットされたからなのだが――
 
 
 
.

201同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:30:08 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
从;゚∀从「わッ――私がヤれ、ってか!?」
 
(   ω )「そいつはできないお」
 
从 ゚∀从「…え?」
 
 
 ハインリッヒは、話の流れからして、自分が戦場に立たされるのかと思った。
 現在のネーヨに、唯一負荷を与えることのできる、自分が。
 
 しかし、それだけは嫌だった。
 四肢を奪われ、死以上の拒絶を植えつけられて、
 未だに戦意が残っているというのもおかしな話だろう。
 
 自分が、それもひとりでネーヨと戦うのは――
 なんて思っていたところ、それを否定したのは、意外にも内藤だった。
 その双方の面において、ハインリッヒはきょとんとした。
 
 
从 ゚∀从「でき、ねえ…?」
 
/;,' 3「しかしじゃな、現にこやつは――」
 
 
 
( ^ω^)「『劣後』は『拒絶』しない――」
 
/ ,' 3「――!」
 
 
.

202同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:30:44 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
( ^ω^)「『全否定』なんて名前だけど」
 
( ^ω^)「『拒絶』の対象は、取捨選択できるんだお」
 
( ^ω^)「現に、最初……」
 
 
 
   ( ´ー`)『一応、同僚のムスメってことだからな。いっぺん、おめーの攻撃、受けてみたかったんよ』
 
 
 
( ^ω^)「奴は、一度、ハインリッヒからの攻撃をわざと喰らってたお」
 
从;゚∀从「……」
 
/;,' 3「じゃあ……」
 
 
 
( ^ω^)「これで、ネーヨはひとつ、学習した」
 
( ^ω^)「〝『英雄の優先』は『拒絶』してはならない〟と」
 
(   ω )「……もう一度、チャンスがあるなんて思わないほうがいいお」
 
 
.

203同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:31:29 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 ネーヨの拒絶の手から逃げ出せた――どころか、こうして彼に一矢報いることができた。
 それも、ちいさなものではなく、胴体切断というかなり大きな負荷である。
 加えて、ネーヨの『拒絶』を――二度も立て続けに破った。
 
 
 賭けには、大勝ちしたのだ。
 
 だが、それでもやはり、倍率はちいさかったようだ。
 
 
 勝機。
 ハインリッヒの『劣後』で、ネーヨを押し込む。
 そんなものなど、現実には存在しなかった――
 
 
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「バーカ。誰が、『劣後』を使うと言った」
 
 
 
 
.

204同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:32:00 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
从;゚∀从「……え?」
 
/;,' 3「なに? ……それ以外に、方法などないじゃろうに!」
 
( ;^ω^)「……? ほかに、勝機なんて―――」
 
 
 
 一瞬浮かんだ希望が、呆気なく沈んだ、その挫折感。
 ただのぬか喜びが彼らの壊れかけの心に追撃を図ろうとした。
 
 そんななか、ジョルジュだけは、あっけらかんとした様子で、そう言った。
 今回ばかりは、内藤も、彼がなにを考えているのか予想だにできなかった。
 
 
 
 『作者』が知識において『登場人物』に負けるなど――
 
 
 
( <●><●>)「時間はない。はやく言え」
  _
( ゚∀゚)「モララーんときと一緒だ」
 
 
  _
( ゚∀゚)「……壊してしまうんだよ。あいつの、『拒絶の精神』を」
 
 
 
.

205同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:32:33 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 モララー=ラビッシュ――。
 この広場の傍ら、トソンの近くで彼も倒れている。
 様々な『真実』によって、ついに彼は、『拒絶の精神』を崩壊させてしまった。
 
 それと、一緒。
 そこまで言えば、続きを言わなくとも、彼らに「方針」は伝わった。
 
 
 
 とにかく、精神的な攻撃を続ける――
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「バァーカなのはあんただお!」
  _
( ゚∀゚)「……なに?」
 
 
 ジョルジュが眉間にしわを寄せる。
 内藤も負けないように声を張り上げた。
 
 
 
( ;゚ω゚)「あいつの『拒絶』は、モララーなんかの比にゃあならない!」
 
( ;゚ω゚)「モララーのときはたまたまうまくいったけど……今回ばっかりは、そんなラッキー、起こるはずねーお!」
 
 
 
.

206同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:33:07 ID:IoG3pGAU0
 
 
  _
( ゚∀゚)「それはなんでだ?」
 
( ;゚ω゚)「あいつの『拒絶』は強大で、強固で、強靭!」
 
( ;゚ω゚)「こっちからなにをしようと、涼しい顔で――」
  _
( ゚∀゚)「だからこそ、勝機なんだよ」
 
( ;゚ω゚)「―――、」
 
 
( ;^ω^)「……え?」
 
  _
( ゚∀゚)「考えてみろ」
  _
( ゚∀゚)「あんたが焦るほどには、あいつの『拒絶』は、デカすぎる」
  _
( ゚∀゚)「……そんなあいつは、『拒絶』できなかったんだぜ」
  _
( ゚∀゚)「こんな、ショボい、さっきまで拒絶に呑まれてた『英雄』の……蹴りを」
 
( ^ω^)「!」
 
 
.

207同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:33:38 ID:IoG3pGAU0
 
 
  _
( ゚∀゚)「俺の予想で言えば………」
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「現時点で、あいつの『拒絶の精神』は、もうズタズタだ」
  _
( ゚∀゚)「自我も半壊してるだろうよ」
 
 
 
 ――そのとき、ほかの皆は顔色を変えた。
 はッとしたような顔に、なった。
 そのなかには、内藤も、どうしてか、混じっていた。
 
 
 
/ ,' 3「高く積み上げた本、と一緒じゃな」
 
从;゚∀从「……一応、聞いてやる。なんだそれ」
 
 
 アラマキは、咳払いをする。
 
/ ,' 3「高く積み上げた本は、その重量から、崩そうにもなかなか崩れない」
 
/ ,' 3「じゃが、いっぺん崩してしまえば、一気に本の塔全体が崩壊する」
 
 
 
/ ,' 3「……儂らは、ようやく導火線に火を点けることができたんじゃ」
 
 
.

208同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:34:10 ID:IoG3pGAU0
 
 
  _
( ゚∀゚)「そういうことだ。わかったか、内藤」
 
( ;^ω^)「……!」
 
 内藤が、苦い顔をする。
 言い負かされたから、とか云うわけではない。
 
 
 そのことに気づかなかった自分が、わからなくなったのだ。
 
 
 
( <●><●>)「しかし、導火線に火が点いたからといって、すぐに爆発するわけではない」
 
( <●><●>)「貴様は、どうやってその火を、本体に届くまで残すつもりなんだ」
  _
( ゚∀゚)「………」
 
( <●><●>)「答えろ、パンドラ」
 
 
 威圧するように、ゼウスが促す。
 しかしこれは、彼がジョルジュを嫌っているから、ではない。
 
 このままもたもたしていると、せっかく点けることのできた火も、
 すぐにネーヨに鎮火されるのが目に見えているからだ。
 
 それは、言われずともジョルジュも理解していた。
 提案者の彼は、当然そのことも考えていた。
 ただ、言うのが忍ばれただけだ。
 
 
.

209同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:34:43 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「……」
  _
( ゚∀゚)「んなもん、一つしかねーだろ」
 
 
 一つ。
 ゼウスが、眉を数ミリ、落とす。
 
 
  _
( ゚∀゚)「俺たちが、拒絶に呑まれないように、精神体で抵抗する」
 
 
 
 
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「 『拒絶』 を、拒絶するんだ。」
 
 
 
 
 
 
 
.

210同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:35:18 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「―――ッ!」
 
 
 
 ――今まで、何度もでてきた言葉。
 
 「『拒絶』を、拒絶する」。
 
 現実の世界で、この話に割り当てようと思っていた、キャッチコピーだ。
 
 
 
 だが、このときのジョルジュのそれは
 
 どうしてか、今までのそれとは違って、なにか、特別な意味を帯びているかのように思えた。
 
 
 
 心に、突き刺さったのだ。
 
 まるで、自分が、その言葉に魅了でもされたかのような―――
 
 
 
 
 
 
.

211同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:36:17 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 そう感じた理由を、即座に内藤は解析した。
 
 当時のこの話の中軸を担うフレーズ、それが今になって輝いた。
 
 それの意味するところは、一つしかない。
 
 
 
  『拒絶』 を拒絶する戦い。
 
 それが、終わりに差し掛かっている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 この戦いは、もう、クライマックスなのだ―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

212同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:36:54 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
-----------------------------------------------------------------------
 
 
 
    ブーンは自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
 
 
    第二部  第三十七話
 
 
    「vs【全否定】Ⅴ」
 
 
 
-----------------------------------------------------------------------
 
 
.

213同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:37:31 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 

 
 
 
 
   「だああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアッッ!!!」
 
 
 
( ;゚ω゚)「!?」
  _
( ;゚∀゚)「なっ――」
 
 
 
 内藤が感慨深いものに浸った次の瞬間、
 その場に、爆音に近い雄たけびが聞こえた。
 
 ほんとうに、爆音そのものだった。
 無の状態から、一気に空気が震えた。
 ゼウスでさえ、その唐突さと音量に反応を示したほど、それは凄まじい爆音だった。
 
 
 
从;゚∀从「き――きやがった!!」
 
 
 
 
 
 
(;#´ー`)「…………ずいぶんと、ナメてくれたじゃねーか……!」
 
 
 
 
 
.

214同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:38:14 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 ――ネーヨ=プロメテウスが、遅ればせながらも、還ってきた。
 
 『拒絶』の再来。
 
 むろん、誰一人として、それを歓迎する者はいなかった。
 
 
 
 早くも忘れかけていた絶望が、蘇る。
 
 そのとき、彼ら――特にハインリッヒが、身震いをした。
 
 
 
 しかし、また同じ展開が待っているのか――
 
 などと思う者は、いなかった。
 
 それは、彼の様態を見ればわかった。
 
 
 
 
  _                カ ワ
( ;゚∀゚)「……ずーいぶんと、豹変っちまったな」
  _
( ;゚∀゚)「お前、そんな、顔怖かったっけ?」
 
 
 
.

215同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:39:01 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
(;#´ー`)
 
 
 ――ネーヨの顔面の筋肉は、引きつっていた。
 左の目じりが、筋肉の硬直ゆえ、ヒクヒクとしている。
 同様に左の口角が吊りあがっており、そこから大きな犬歯が見える。
 
 筋肉は、膨れ上がっていた。
 少し前、「あの男」を始末しようと思ったときに見せたそれと、同じだった。
 肩から肺まわりから腕、脚――
 
 とにかく、一通りの筋肉が、いっそうぶ厚くなっていた。
 それは、ネーヨが『拒絶』であるなどと云うものを抜きにしてでも、畏怖を感じざるにはいられなくものだった。
 そして、その腕も、目じりのようにヒクヒクと震えているのだ。
 
 
 
 ところが、ハインリッヒが彼に与えた負荷は、どこにも見られなかった。
 
 
 
.

216同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:39:58 ID:IoG3pGAU0
 
 
  _
( ;゚∀゚)「(やっぱり……モララーと違って、こいつは回復できたか……!)」
 
 
 ジョルジュはそこに、僅かばかりの希望を見出していた。
 モララーの左目の傷と同じように、あわよくば、己の『拒絶』が適用外になるのではないか、と。
 
 しかし、その点においては、内藤の言葉が正しかった。
 モララーとはまるで別物なのだ、ネーヨ=プロメテウスの『拒絶』は。
 いくらネーヨがプライド――以外の的を射た表現が存在しない心情――の塊と言えど、そううまくはいかなかった。
 
 ネーヨが、のし、のし、と、迫ってくる。
 足音だけで相手に恐怖心と拒絶心を同時に植えつけられるのは、ネーヨだけだろう。
 そう思うほど、彼の足音には、彼の憎悪がたっぷりと籠められているように思われた。
 
 
(;#´ー`)「………まさか……」
 
(;#´ー`)「この、俺が、ほんとうに……ダメージを負うたァ、なあ……っ!」
 
 
 ネーヨが、苦しそうにしゃべる。
 物理的なダメージは『拒絶』したものの、精神的なダメージは『拒絶』できなかったようだ。
 対象を『拒絶』する大本、『拒絶の精神』が、ダメージを負ったのだ。当然だろう。
 
 
 
.

217同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:40:31 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 しかし、それでも、致命傷というわけにはいかなかったようだ。
 彼は、明らかに『異常』を見せているものの、それと命とは直接リンクしていないと見受ける。
 
 
 ただ、ようやくまともなダメージを与えることができた――程度のものであった。
 
 
 
(;#´ー`)「そうこなくっちゃ、なあ」
 
(;#´ー`)「モララーたちを駆逐しただけ、あるわ」
 
(;#´ー`)「俺は……おめえたちを、甘く見すぎていた」
 
(;#´ー`)「だから、その非礼を……詫びさせてくれ」
 
 
  _
( ;゚∀゚)「……なに…?」
 
 
 
 
.

218同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:41:08 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 ネーヨが、頭を、顔に影ができるようになるまで下げる。
 そして、ヒクついていた腕や目じりを止めて、ちいさく
 
 
 
( ;# ー )「すまねえ、な。」
 
 
( ;# ー )「正直言うと、俺ぁ、飽きていた」
 
 
( ;# ー )「認めるぜ。 俺は、もう〝負けもイイところ〟だ」
 
 
( ;# ー )「……だから…………」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(;#´ー`)「………死んでくれ。」
 
 
 
 
 
 
 
.

219同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:41:45 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 次の瞬間、ハインリッヒの頭部は爆発した。
 
 
 
 
     ., _
   .;' _., ゙ ,
ル';。’*`',゜
 
 
 
  _
( ;゚∀゚)「―――ッ!?」
 
( ;# ー )「…。」
 
 
 
 そして、今度はジョルジュが        
 
 
 
 
/;,' 3「なッ―――」
 
( <●><●>)「下がれッ!!」
 
 
 
.

220同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:43:02 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 この、唐突な戦闘に、ハインリッヒ、ジョルジュは、立て続けに殺された。
 その動きの一つひとつに、戸惑いや躊躇いなんてものはない。
 
 「すぐに殺したら満たされない」
 そんなものをまるで気にしていないかのような、速すぎる動きだった。
 
 それの意味するところは、ひとつ。
 ネーヨは、終わらせようとしたのだ。
 自分の『拒絶』が通じなかった、この戦いを。
 
 
 
 彼は、負けを認めた。
 
 言い換えれば、『革命』の皆は、勝ったのだ。
 
 この、『拒絶』を拒絶する戦い、に。
 
 
 
 
 勝ったのに―――
 
 
 
( ;# ー )「逃がすかアアアアァァッ!!!」
 
(#'゙<○><  >)「くッ―――     
 
/;,' 3「ゼウス!!」
 
 
 
.

221同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:43:56 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 

 
 
 
( ;゚ω゚)「ど……どうなってるんだお!?」
 
(;* − )「……っ。」
 
 
 ネーヨが現れた途端、シィは咄嗟に、内藤に飛びついた。
 内藤も内藤で、その瞬間に、ネーヨから逃げ出した。
 わからないこと続きで、思考回路が停止したのだ。
 
 わきに抱えたシィを引きずりながら、なんとか逃げようとする。
 その間に考えていたことは、ネーヨの異常行動について、だった。
 
 
 
( ;゚ω゚)「(ネーヨは……認めた! 己の『拒絶』が、通じなかったことを……!)」
 
( ;゚ω゚)「(そんなことを認めたら、己の『拒絶』を否定するのと同義!)」
 
( ;゚ω゚)「(んなもん、フツーだったら自己の否定! すぐに『拒絶の精神』は崩壊する……ハズなのに!)」
 
 
 
 ネーヨは、なぜか、急に謝った。
 そして、妙なことを口走った。
 
 負けだ、と。
 
 
 
 そのときに想起させられたことと言えば
 嘗て、彼ら『拒絶』が、『革命』の面々に戦いを申し込んだ――
 
 
 
.

222同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:44:29 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
   ( ^ω^)『……で、なんだお』
 
   ( ´ー`)『こっちとしてもな、あの二人を仕留めるような連中を野放しにするわけにはいかねえんだよ。
         他の「能力者」は放置して、ちとおめえらを優先させてもらうぜ』
 
   ( ´ー`)『………モララーでさえ手こずるようなら、俺が出る、ともな』
 
 
 
   ( ;・∀・)『じょ、冗談キツいぜ。俺が負ける、とでも?』
 
   ( ´ー`)『同じことをショボンやワタナベにも言えんぞ。
         不可能を可能にする奴らなんだ、「負ける筈がない」と思う方が不可能だな』
 
 
 
   ( ´_ゝ`)『あんたに暴れられると、なにが起こるかわからんからな……俺はとめておくぞ、一応』
 
   ( ´ー`)『俺を相手に〝なにか〟を起こさせた時点で、あっちの勝ちだ。
         そん時は俺は殺されてるだろうよ』
 
 
 
 
.

223同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:45:38 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 そして、先ほどのネーヨの言葉。
 つまり、彼は認めたのだ。
 「〝なにか〟を起こされた」ということを。
 
 また当時、ネーヨは言った。
 「〝なにか〟を起こされることは、殺されることと同義」と。
 
 
 
 しかし、現状はどうだ。
 ネーヨは負けを認めて引き下がるどころか、
 当の『革命』の面子を、抹殺にかかっているではないか。
 
 
 
 
( ;^ω^)「……っ!」
 
 
 ――そこで、内藤ははッとした。
 思えば、簡単なことだったのだ。
 
 ネーヨは、『革命』に、己の『拒絶』を拒絶された。
 そんななか、ここで『革命』を抹殺すると、どういうことになるのか。
 
 
 
 
 『拒絶』を拒絶する存在を、拒絶する。
 
 
 
 
.

224同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:46:51 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
( ;^ω^)「………、」
 
 
( ;゚ω゚)「…………ッ!」
 
 
 
 
 ――気づいた。
 これは、小説なんかではないのだ。
 
 
 「勝負がついたから、戦いは終わる」
 そんなもの、小説の『世界』でのみ起こる出来事なのだ。
 
 
 パラレルワールドはパラレルワールドでも、限りなくリアリティを兼ね備えている『世界』だ。
 そんなきれいごとが横行することなど、それもネーヨに限っては、ありえなかった。
 
 
 それに気づくことができたのは、
 目の前にそのネーヨが立っていたときのことである。
 
 
 
 
 
.

225同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:47:52 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
(;#´ー`)「………『作者』。」
 
( ;゚ω゚)「―――ッ」
 
 
 いつの間に―――。
 内藤がこの『世界』に迷いこんでから、幾度となく抱いていきた言葉。
 しかしそれでも、内藤はそう思わなければならなかった。
 
 内藤は、シィを連れて後退しながら、慌てて戦場だった場所に目を向けた。
 状態は――言うまでも、なかった。
 
 ゼウスも、ジョルジュも、アラマキも、ハインリッヒも
 皆、急所を大破された状態で殺されている。
 それを見て、内藤の眼のまわりの筋肉に力が籠められた。
 
 ネーヨの、こちらに近寄ってくる足音が聞こえる。
 内藤ははッとして、よりスピードをあげ、彼から逃げようとする。
 これが、内藤にできる、唯一の「拒絶」だった。
 
 
(;#´ー`)「……っ。」
 
( ;゚ω゚)「……、……?」
 
 
.

226同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:48:51 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 ふと、ネーヨは視線を、内藤から外す。
 なにかに気づいたようなしぐさを見せた。
 
 細い目を一瞬だけ、数ミリ開く。
 その視線の先には――
 
 
 
(;*゚−゚)
 
 
 
 
(;#´ー`)「ああ……忘れてた。」
 
(;#´ー`)「真っ先に、おめえを殺すべきだったのによ。」
 
 
 
( ;゚ω゚)「!! ちょ―――」
 
 
 
 
 ――ネーヨは内藤のまん前に瞬間移動して、シィの頭部を鷲掴みした。
 そのまま、シィの頭は、スイカでも割られたかのように、飛散した。
 
 
 
 
.

227同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:51:02 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
( ;゚ω゚)「――! シィっ!!」
 
 
 内藤の服に、血や、脳の残骸などが、付着する。
 内藤の引っ張っていたシィの躯から、重みがすッと抜ける。
 するッと己の腕から落ちたシィを見て、内藤は涙がこぼれそうになった。
 
 
 
(;#´ー`)「…………。」
 
 
 
( ;゚ω゚)「……ど………どう、して……」
 
(;#´ー`)「………………?」
 
 
 
.

228同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:51:52 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「どうして……殺したんだお?」
 
(;#´ー`)「…………」
 
 
( ;゚ω゚)「あんたは、負けたんだ!」
 
( ;゚ω゚)「ハインリッヒから、致命的なダメージを食らった!」
 
( ;゚ω゚)「つまり、『拒絶』できなかったってことだ!」
 
( ;゚ω゚)「あんたは、己を……『拒絶』を押し通すのに、失敗したんだお!」
 
 
(;#´ー`)「……。」
 
 
( ;゚ω゚)「なァーにが、『全否定』だ!」
 
( ;゚ω゚)「結局、否定できてないじゃねーかおッ!」
 
( ;゚ω゚)「【全否定】なんてスキルまであるのに、あんたは、己を、『拒絶』を、押し通せなかったんだ!」
 
( ;゚ω゚)「それは敗北……すなわち、死だ、と、あんたは認めていたお!」
 
( ;゚ω゚)「そして今、あんたは確かに、認めた! 己の、敗北を!」
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「『拒絶』を拒絶する戦いに、敗れたんだお!」
 
( ;゚ω゚)「『拒絶』の代名詞、ネーヨ=プロメテウス!!」
 
( ;゚ω゚)「おまえは、負けたんだ!!」
 
 
 
.

229同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:52:46 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
( ;# ー )「………うるせえ。」
 
( ;゚ω゚)「……ッ」
 
 
 ネーヨが、ちいさく吼える。
 思わず、内藤はたじろいだ。
 
 
 
(;#´ー`)「なんで、俺が、んなもんを……甘受しねえといけねえんだよ」
 
( ;゚ω゚)「なッ―――、あんたは……!」
 
(;#´ー`)「ンなもん、知るかよ」
 
( ;^ω^)「――ッ」
 
 
 ネーヨの手が、内藤の胸倉に触れる。
 服を引っ張られ、内藤はネーヨに引き寄せられた。
 ネーヨのぶ厚く膨れ上がった胸板にぶつかる。
 
 その筋肉量と、
 溢れんばかりの『拒絶のオーラ』を間近で受けて、
 内藤は思わず、失神しそうになった。
 
 
.

230同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:54:02 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
(;#´ー`)「おめえ、俺が誰だか、わかってんのか?」
 
( ;^ω^)「……っ…。」
 
 ネーヨが顔をずいッと近づける。
 鼻息さえ顔にかかる距離だ。
 内藤は拒絶心ゆえ、心臓が文字通り張り裂けそうになった。
 
 
 
(;#´ー`)「『拒絶』を拒絶させてしまった?」
 
(;#´ー`)「負けた? 敗れた? 敗北した?」
 
(;#´ー`)「どうして殺したってか?」
 
(;#´ー`)「一貫性がない?」
 
(;#´ー`)「『全否定』しきれてなかった?」
 
 
(;#´ー`)「んなもん、」
 
(;#´ー`)「全部、全部だ」
 
(;#´ー`)「んなもん……  知らねえよ。」
 
 
 
.

231同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:54:39 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
(;#´ー`)「もう一度、名乗ったほうがいいのか?」
 
(;#´ー`)「そうだな。いいじゃねーか。冥土への、俺からの土産だ」
 
(;#´ー`)「受け取れ、『作者』。」
 
 
 そう言って、ネーヨは内藤の胸倉から手を外した。
 乱暴に、放り投げるように、押す。
 内藤は数メートル後退して、ふらつきながら、直立した。
 
 
 
 
           アンチ    スベテ
(;#´ー`)「俺の『拒絶』は、『拒絶』だ」
 
 
        スベテ.    ム シ    ウチケ
(;#´ー`)「『拒絶』を、『拒絶』し、『拒絶』してやる」
 
 
 
(;#´ー`)「ヒトの持つ最悪の感情、拒絶の、代名詞」
 
 
 
 
 
 
(;#´ー`)「俺の名は―――オールアンチ。」
 
 
 
 
.

232同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:55:57 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 何度言ったか、
 何度聞いたか、
 何度恐れたかわからない、その口上。
 
 ――なのに。
 このときのそれは、どこか、寂寥感で溢れていた。
 そして、内藤がその理由を知る由など、なかった。
 
 
 ネーヨが、静かに、目を瞑る。
 内藤は、どきりとした。
 
 
 なにもかもが、終わる予感。
 リアリティなど皆無に等しい、空間。
 嫌な予感が的中する、という予感。
 
 
( ;# ー )「……あっという間、だったぜ。」
 
( ;# ー )「もうちっとばかし、長引くもんだと思ってたが……」
 
( ;# ー )「………いや。」
 
( ;# ー )「人外の域に達したやつらが戦ったら、得てしてこーなるわな」
 
( ;# ー )「俺も、その領域にいたんだがな……失念してたぜ」
 
( ;# ー )「〝人外〟……いや。」
 
 
 
 
 
(;#´ー`)「………〝欠陥〟の領域に足を踏み入れてた、ってのに……よ」
 
 
 
.

233同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:57:58 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   「…………終わりだ。」
 
 
 
 
   「『拒絶』も、『世界』も、『作者』も……」
 
 
 
 
   「終わらせてやる。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

234同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:58:29 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

235同志名無しさん:2013/04/13(土) 06:59:01 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   「逃げるのか?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

236同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:00:02 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
( ; ω )
 
( ;^ω^)「………え……?」
 
(;#´ー`)「――なんだと?」
 
 
 
 ネーヨがこの『世界』を終わらせようとしたとき
 
 ネーヨの背後から、なにか、声が聞こえた。
 
 それを不審に思ったのは、ネーヨと内藤、両人だった。
 
 
 
 当然だろう。
 
 もう、この場には、本来ならば「誰もいない」はずなのだ。
 
 『革命』の皆は殺され、シィまであやめられてしまった。
 
 ネーヨは『世界』をリセットしていないため、彼らが蘇るはずは―――
 
 
 
 
 
 
 
( <●><●>)「また………逃げるのか?」
 
 
 
.

237同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:00:58 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
( ^ω^)「―――、」
 
( ;゚ω゚)「!!? なにィィィイイイイッ!?」
 
(;#´ー`)「――ッ!」
 
 
 
 
 
 
 その瞬間、二人の思考は止まった。
 
 〝存在してはならないはずの人物がいたから〟だ。
 
 
 
 
  _
( ゚∀゚)
 
从 ゚−从
 
/ ,' 3
 
 
 
(;*゚−゚)「……? …?」
 
 
 
.

238同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:01:33 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「ちょ、待て、あ、―――ッ!?」
 
(;#´ー`)「まさか――」
 
 
 ゼウス、ジョルジュ、ハインリッヒ、アラマキ、――シィ。
 殺されたはずの皆が、その場に、立っていた。
 
 そんなことは、起こり得てはならない。
 一度死んだものは、蘇らないのだ。
 それは、言うまでもない。
 
 今までは、ネーヨが『世界』をリセットしていたから、蘇っていた。
 蘇って――― もう一度、拒絶に、呑まれて。
 
 
 
 しかし。
 今のネーヨは、決して、『世界』を『拒絶』していなかった。
 だとすると、彼らが蘇る術は、ないはずなのだ。
 
 そのため、内藤はもう一度、目を見開いた。
 一方のネーヨは、がばッと、ある方向に目を遣った。
 
 
 
(;#´ー`)「(まさか――― モララーか!?)」
 
 
 
.

239同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:02:15 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
( メ∀ )
 
( 、 トソン
 
 
 
(;#´ー`)「(………違う……あいつじゃあ、ねえ)」
 
(;#´ー`)「(なら、どうして―――)」
 
 
 
 死者を、蘇らせる。
 そのような手品ができるのは、この場にいる者で考えると、モララーしかいない。
 『あいつらは死んでいない』とでも『嘘』を吐けば、それでいいのだから。
 
 しかし、彼は、ネーヨが登場してから少しして、
 徐々に尽きつつあった『拒絶の精神』がついに尽きて、その場に倒れてしまっている。
 そしてそれは依然変わっていないため、彼がなにかした、わけではなかった。
 
 
 内藤も内藤で、現状を解析しようとする。
 面食らったため、ネーヨよりもそれがはじまるのはだいぶ遅れた。
 が、落ち着いては改めて現状を把握し、その実態を解き明かそうとする。
 
 しかし。
 解析なんて、する必要などないではないか。
 どっちにしろ、自分にとってはプラスのことなのだから――
 そんな考えが脳の片隅にあったため、解析しようと努めても、なかなか集中できなかった。
 
 
.

240同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:03:24 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 内藤が、なにが起こったのか、をいつまで経っても言わなかったせいか
 なにが起こったのかがわからないネーヨは、やり場のない憤りを感じ、ただ大声を発した。
 
 
(;#´ー`)「ちょっと、待てや」
  _
( ゚∀゚)「……なんだ」
 
 
 しかし、応対したジョルジュは彼とは相対的に、落ち着いている。
 それがどこか憎らしく思え、ネーヨは、更に眉間にしわを寄せた。
 
 
 ――彼が顔に露骨に情を見せるのは、にわかには信じられない話だった。
 ネーヨといえば、なにが起ころうとも、まずそれを顔に出したりはしない男だったのだ。
 常に涼しい顔でいて、常に心を無にしていて、常に事象を『拒絶』していて――
 
 しかし、いまのネーヨは、どうみても、
 心の中の黒い感情を『拒絶』できていないように見受けられた。
 
 それが、ジョルジュの言う『拒絶の精神』の損壊に当たるのだろうが――
 しかし、だからといって、モララーのときのようにここから勝てるだろう、
 とは、少なくとも『革命』のその他の三人は思うことができなかった。
 
 
 
.

241同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:03:55 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
(;#´ー`)「……どーして、おめえらが、生きてンだよ」
  _
( ゚∀゚)「……。」
 
(;#´ー`)「俺は、まだ、『世界』を『拒絶』しちゃいねえぜ」
 
(;#´ー`)「………それどころか、終わらせてやろう、なんて思ってたトコだ」
 
 
(;#´ー`)「…………どうして、みんな、生き返ってンだ?」
  _
( ゚∀゚)「………。」
 
 
 ジョルジュは、黙る。
 
 わからないから答えられないから、答えたくないから答えないのか。
 そのどちらかまではわからないが、しかし応対すらしないというのを見て、
 ネーヨの苛立ちは余計に積もることになった。
 
 彼は、プライド――のようなものの塊なのだ。
 極度のわがままで、自尊心の高さは随一だし、自我が揺らぐことは、まずない。
 あらゆる面において、彼の精神体は、強いのだ。
 
 それは、彼の『拒絶』にも現れている。
 【全否定】という、内藤が認める「トップクラスの能力」からも、それがわかるだろう。
 それほど、彼の精神体は、それこそモララーなんかの比にはならないほど、強いのだ。
 
 そんな自分の精神体――『拒絶』が、弄ばれている。
 それが、彼にとって、何よりも悔しく、辛く、苛立ち、急き、焦り、そして拒んで然るべきことだった。
 
 
.

242同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:04:30 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
(;#´ー`)「答えろ」
  _
( ゚∀゚)「……。」
 
 
 ジョルジュは、黙る。
 
 
 
(;#´ー`)「答えろ」
  _
( ゚∀゚)「……。」
 
 
 答える姿勢を見せない。
 
 
 
(;#´ー`)「……答えろ」
  _
( ゚∀゚)「……。」
 
 
 どころか、彼の眼差しを、しかと受け止めていない。
 
 
 
 
( ;# ー )「…………。」
 
 
 
.

243同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:06:01 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 ネーヨは次第に、眼差しに宿す力を緩めていった。
 眼光が弱まり、その視線からは、『拒絶のオーラ』があまり感じられなくなってきた。
 
 呼吸が荒げる。
 歯をきりきりと軋ませる。
 肺の上下が大きく、深くなる。
 
 うなり声に近いため息のような息を吐く。
 握りしめた拳を、ぷるぷると震わせる。
 口角を気味の悪いほど吊り上げる。
 
 だんだんと、ネーヨの「怒り」が、腹の底から込みあがってきた。
 それは、彼の様態を見れば手に取るようにわかることだった。
 
 
 
 突如としての『革命』たちの復活。
 その謎の現象を、解き明かせない。
 
 どころか、それを知ろうにも、自分に知る手段がないのを見てか、
 事情を知っていそうなジョルジュは、彼にその答えを言おうとはしない。
 
 その双方の面において、苛立ちは溜まる。
 だんだんと、ネーヨという強靭な狂人が、壊れつつあった。
 
 
 
.

244同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:08:31 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
 
 ―――そして、「怒り」がかたちに成った。
 
 
 
 
 
 
 
( ;# ー )「答えろッつってんだろ!」
 
 
            キョゼツ
( ;# ー )「俺は、『全否定』は発動してねえ!」
 
 
 
( ;# ー )「どーして、てめえが、のこのこと生き返ってやがンだ!!」
 
 
 
 
 
 
 
(;#´ー`)「答えやがれ、パンドラアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
 
 
 
 
 
 
.

245同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:09:49 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
  _
( ゚∀゚)
 
  _
( ゚∀゚)「………」
 
  _
( ゚∀゚)「言えることは……ひとつ。」
 
 
 
 ――それまで黙っていたジョルジュが、ちいさく、口を開いた。
 
 すっかり取り乱してしまっているネーヨが、それを見て、言葉を止めた。
 彼の口の動きに注視し、聴覚を彼の言葉に捧げる。
 
 
 それを見たジョルジュは、笑いも怒りも嘲りもせず、続けて、口を動かした。
 
 
 
(;#´ー`)「……」
 
  _
( ゚∀゚)「たったひとつ、言えることは…………」
 
 
 
 
 
 
.

246同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:10:21 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                    残念だったな。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

247同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:11:30 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
(;#´ー`)「………なんだって……?」
 
  _
( ゚∀゚)「……、……。」
 
 
 
 ――確かに、声が聞こえた。
 
 しかし、方角と声色と声量からして、
 
 いまの声は、ジョルジュのものではなさそうだった。
 
 そのため、ネーヨと同じ境遇にいる内藤は、首を傾げた。
 
 
 
 
( ;^ω^)「い、いまの声は………?」
 
(;#´ー`)「……あ?」
 
 
( ;^ω^)「………」
 
( ^ω^)「……」
 
(   ω )「………、……?」
 
 
 
 
.

248同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:12:06 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(     )「あんたの失策は、〝これ〟を己のスキルと〝勘違いしていた〟ことだ。」
 
 
 
 
 
 ――― 聞いたことの、ある声。
 
 
 
 
 
 
 
 
.

249同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:12:42 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(  ゝ )「………いや。それよりも、根本的なものがあったな。」
 
 
 
 
 
 ――― 聞く者を、まるで
 
 
 
 
 
 
 
 
.

250同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:13:22 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(   _ゝ )「あんたがしでかした、一番の『不運』は――― 」
 
 
 
 
 
 ――― そう、 『不運』 にしてしまうような
 
 
 
 
 
 
 
 
.

251同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:13:58 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「―――……あッ…! ああああああああああああああああああああああッ!!」
 
 
( ;゚ω゚)「まッ……まさか!!」
 
 
 
 
 ――そのときになって、その声の正体が、わかった。
 
 ジョルジュの右腕兼、『拒絶』のお墨付き。
 
 ジョルジュの研究所から出て、ネーヨに殺されかけた――
 
 
 
 
 
 
 
 
.

252同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:14:47 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「『不運』にも、俺をしとめ損ねたこと……だ。」
 
 
 
 
 
 
       アンラッキー
      【 7 7 1 】
 
 
 
      この世でもっとも『不運』な男、アニジャ=フーン ―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

253同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:15:26 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
(;#´ー`)「―――ッ!」
 
 
(;#´ー`)「………アニジャ……っ…!」
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「もう『拒絶』はウンザリだったんだがな……事情が変わった。」
 
 
( ´_ゝ`)「これも一つの『運命』だ。………甘受しようぜ、旦那。」
 
 
 
 
 
 ―――突如として現れたのは、『不運』を携える男、アニジャ=フーンだった。
 
 いつものように、暗く、ゆったりとした語り口で。
 
 彼の近くにいるだけで、自分にどうしようもない『不運』が襲い掛かってきそうな――
 
 
 
 
.

254同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:16:59 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 ネーヨが全身の筋肉を強張らせる。
 しかし一方のアニジャは、ジョルジュと同じように、ただ沈着のままでいた。
 それがあまりにも『異常』なことのように思えて、
 傍らにいた内藤は、だんだん現状を把握できないようになってきた。
 
 
 いま、なにが起こったのだ。
 
 
 まず、ネーヨが『世界』を終わらせようとしたとき、誰かが声をかけた。
 その誰か――は、死んだはずのゼウス。
 ゼウスのみならず、ジョルジュ、シィなど、ネーヨに殺されたはずの皆が、蘇っていた。
 この謎が、まず、解けていない。
 だというのに、立て続けにやってきた謎、それがアニジャの存在だ。
 
 
 
 
 どうして、ネーヨはなにもしていないのに蘇ったのか。
 
 どうして、アニジャがここにいて、ネーヨと対峙しているのか。
 
 
 
 
 ――今の内藤には、わかる術などないものばかりだった。
 
 
 
.

255同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:17:55 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
(;#´ー`)「アニジャあああああああああアアアアアアアアッ!!!」
 
( ´_ゝ`)「…ッ」
 
 
 ――しかし、内藤がそのことを考えるよりも、前。
 
 痺れを切らしたのか、「怒り」が我慢の限界にきたのか
 
 ネーヨは、アニジャの姿を見納めるやいなや、すぐに彼に飛び掛った。
 
 
 
 ゼウスやジョルジュのいたとされる『開闢』にいたというだけあって、
 ネーヨの戦闘力は、折り紙つきだ。
 少なくとも、『武神』のアラマキをうならせるほどには、力には覚えがある。
 
 そんな彼が、アニジャに飛び掛る。
 つまり、その場ですぐ戦闘がはじまる、というわけだ。
 しかし、アニジャは厄介な能力――?――こそ持っているものの、
 「戦闘狂」と比べると、彼の戦闘能力は、まるで赤子のようなものだ。
 
 
 
 
.          ムシ
 『不運』をも『拒絶』できる【全否定】に、アニジャが勝つ術はない。
 
 
 内藤は、このまま、すぐにアニジャは殺されてしまう、と思った。
 
 
 
 
.

256同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:18:27 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
  _,.
r l!,,_ `*,.>゙)
 
 
(;#´ー`)「………ッ。」
 
 
( ;゚ω゚)「!? ……!?」
 
 
 
 
 
 ―――そして、アニジャの首は、すぐさま胴体から外れた。
 ネーヨが、彼の首を狙って殴りかかったのだ。
 
 
 ――のこのことやってくるくらいなら、対抗策など用意しているはずではないのか。
 そんな内藤の予測を悪い方向で裏切ったアニジャは、そのまま、地に横たわった。
 
 
 飛散する血液や肉、骨などを見て
 ただでさえ謎が積もっている内藤に、更に重しが載せられた。
 内藤はもはや、思考を放棄しているに近い状態だった。
 
 
 
.

257同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:19:18 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
 ―――そして
 
 思考を放棄していたから、こそ、次の声に意識を傾けることができた。
 
 ちいさい、千切れてしまいそうなほどちいさい、その声に。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                   カ  ッ  ト
              「 『 撮 り な お し 』 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

258同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:20:51 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
(;#´ー`)「……なに?」
 
 
 
 
 ――「カット」。
 その言葉が聞こえたとたん、ネーヨはあることに気がついた。
 
 
 〝自分以外の皆の立ち位置が、元に戻った〟のだ。
 
 
 この、〝元に戻った〟こと。
 加えて、「カット」という、フレーズ。
 その両方を見て、久々に、内藤は『作者』としての記憶を掘り下げることができた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 〝思い出した〟のだ。
 
 なにかにつけて『時間軸』を『撮りなおし』しては、
 
 『夢幻』に続く『世界』を創りだしてしまう、凶悪な〝少女〟の存在を―――
 
 
 
 
 
 
.

259同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:21:30 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「!!! ――――、――ッ!!」
 
 
 先ほどから大きな声を立て続けに出していたため、
 内藤は、叫びたくても、声を出すことができなかった。
 
 しかしそれでも、わかる。
 〝見つけてしまった〟のだ。
 
 広場の、奥。
 最初からそこにアニジャがいたのであろう後ろに、
 ちょこんと隠れている、背の低い少女、を。
 
 
 
 『作者』としての記憶が、フラッシュバックでもするかのように脳裏に浮かび上がってくる。
 一つ二つではなく、立て続けに、大量の記憶が。
 
 それだけでは、ない。
 内藤が先ほどまで抱いていた、疑問。
 
 「どうして、彼らは蘇ったのか」。
 それに、完璧な答えを見つけることが、ようやく、できた。
 
 
 
.

260同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:22:11 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「まッ―――待て!!」
 
 
( ;゚ω゚)「い、いまのいままでのアレは、ぜ、ぜんぶ!」
 
 
( ;゚ω゚)「ぜんぶ、あんたの仕業だったのかお!!」
 
 
 
 
 
.

261同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:23:02 ID:IoG3pGAU0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(#゚;;-゚)
 
 
 
 
 
 
 
 
            エン・ドレッサー
( ;゚ω゚)「………【夢幻の被写体】!」
 
 
 
( ;゚ω゚)「ディ=カゲキ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
.

262同志名無しさん:2013/04/13(土) 07:27:42 ID:IoG3pGAU0
文丸さんに二十三話〜三十六話をまとめていただきました。しめて13話分
未読の方はそちらを

>>196-261 三十七話

263同志名無しさん:2013/04/13(土) 21:16:40 ID:cBAu9TlM0
インフレバトル物なのにこのテンポの良さ! 往年のDBを彷彿とさせるなあ
一話一話に読み応えあって好きだ


乙おつだぜ!

264 ◆wPvTfIHSQ6:2013/04/14(日) 18:09:50 ID:7uSNRQBc0
作者です。いま、とんっでもないことに気づきました
過去に何度か「アンチ」を「unti」と表記してきましたが
ほんとうは「anti」と、まんまローマ字読みが正しい表記でした

何人かは「あれ、なんでウンチなん?」って気づいてたと思うけど、その通りです
ほんっとうに、ごめんなさい。恥ずかしいです。ごめんなさい
訂正箇所は、また時間がとれたらチェックして文丸さんの掲示板で報告していきます

265同志名無しさん:2013/04/14(日) 21:50:29 ID:FCd5fmNs0
気付けてよかったなwww

266同志名無しさん:2013/04/14(日) 23:51:00 ID:fR8qt11g0
俺も同じ間違いしたことある
今日から君もunti仲間(unit of unti)だ!

267同志名無しさん:2013/04/16(火) 14:26:54 ID:3jvnWDfQO
266レス一気に読んでしまったよ 
 
ストックあるなら続き投下頼む

268同志名無しさん:2013/04/17(水) 22:18:14 ID:h.xctiBEO
何か意味持たせてうんちにしてのかと

269同志名無しさん:2013/04/17(水) 22:18:23 ID:h.xctiBEO
何か意味持たせてうんちにしてたのかと

270同志名無しさん:2013/04/17(水) 22:20:17 ID:h.xctiBEO
ごめん連投した

271同志名無しさん:2013/04/18(木) 12:21:36 ID:6BVmStO60
もう前までのようなストックはない
38話はできてるけど、一応週一(土日)投下にシフトするつもりです

272同志名無しさん:2013/04/18(木) 17:30:31 ID:p0q25FWA0
untiワロタ
甘受しな

273同志名無しさん:2013/04/19(金) 08:05:09 ID:a1bLMWog0
今更気づいたんだけど流石兄弟のフーンって
不運と掛けてるのかな

274同志名無しさん:2013/04/19(金) 18:43:08 ID:KxrUKXLQ0
そうでしょうな

275同志名無しさん:2013/04/20(土) 09:54:29 ID:nSKXVWdg0
土日に投下するつもりだったけどちょっとまだ割り切れないところがあるからやっぱり待ってて

あとちょっと相談したいんだけど、
この作品のボツ能力とかカマセ能力たちにバトロワさせる番外長編考えてるけどどうだろう

276同志名無しさん:2013/04/20(土) 13:59:57 ID:LUuUieAc0
すごく見たいよ

277同志名無しさん:2013/04/20(土) 23:25:56 ID:bPorZyMIO
答えは決まってるだろ、今すぐ書くんだ

278同志名無しさん:2013/04/21(日) 06:57:56 ID:uEdQb3D.0
期待して待ってる

279同志名無しさん:2013/04/23(火) 23:10:03 ID:Z1.msoC20
前スレ使い切らないの?

280同志名無しさん:2013/04/23(火) 23:36:37 ID:pkUbVbM60
埋めようとは思うんだけど
なにに使おうかね

281同志名無しさん:2013/04/24(水) 08:08:50 ID:UI4iPdqU0
ギリギリまで本編で使うってのが一番だと思ったけど
もう無理だしなぁ

282同志名無しさん:2013/04/25(木) 08:39:17 ID:cgjaj6MI0
アニジャいたらカット失敗するんじゃね?

283同志名無しさん:2013/04/25(木) 08:50:19 ID:TfEYyInU0
>>281
なんかオマケで埋めようかなとは考え中

>>282
失敗してもカットの場合は不発になるだけだから、
続けて発動していけば『不運』が一度や二度起こっても大丈夫 って解釈でお願いします

284同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:18:31 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
  ・はじめに
 
 
  作者はイメージソングを流すことを推奨しておりますが
  YouTubeに原曲があげられてなかったので、URLは貼っていません。
 
  該当する歌を私的に持っていれば問題ないのですが、
  持ってない場合は代わりの動画や音声を探していただくことになります。
 
  別になかったら楽しめない、とかじゃないので
  「そこまでして聴こうとは思わない」と思っていただいても、まったく問題ありません。
 
  ただ、歌詞・メロディ・雰囲気と三拍子そろってこのお話にぴったりな歌なので
  作者としては各自で用意していただくか、「弾いてみた」系の動画で代用していただくことを推奨しております。
 
 
 
 
 
 
.

285同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:19:04 ID:4yU0H10g0
 
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ´ー`) 【全否定《オールアンチ》】
→なにも受け付けない《拒絶能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【暴君の掟《ワールド・パラメーター》】
→『拒絶』化してしまった、それまでは『拒絶』ではなかった少女。
  _
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
 
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
 
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
 
(#゚;;-゚) 【夢幻の被写体《エン・ドレッサー》】
→『夢幻』に続く『世界』を創りだしてしまう少女。
 
 
.

286同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:19:44 ID:4yU0H10g0
 
 
 
○前回までのアクション
 
(#゚;;-゚)
→『撮りなおし』
 
( ´_ゝ`)
→登場
 
( ´ー`)
→動揺
 
 
.

287同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:20:39 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
(#゚;;-゚)
 
 
 ――無地のセーターは、サイズにあっていないのか、ぶかぶかだ。
 指先が少し見える程度で、セーターの丈は彼女の股を覆うほどにある。
 
 顔には複数の絆創膏が見受けられ、
 またその華奢な躯を見る限り、身体は弱いのだろうと思わせられる。
 
 
 しかし。
 そんな少女を見て、内藤は
 
 
 
 
( ;゚ω゚)
 
 
 
 彼女のどこを見たのか、眼球が飛び出しそうなほど目を丸くし、彼女を凝視していた。
 
 
 
 
.

288同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:21:10 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 ――このとき、内藤の思考回路には、様々な障害物があった。
 まず、死んだはずのゼウスたちが、ネーヨの手を借りずに蘇ったこと。
 ネーヨが『拒絶の精神』を崩すという、信じられない光景も見た。
 
 突如として現れたアニジャといい、彼の発した言葉といい
 ただでさえ、内藤は、情報処理が追いつけていない現状にある。
 
 そんななか、彼女が現れた。
 そのせいで余計に、内藤はわけがわからなくなった。
 
 人間は、一瞬に処理できる情報量には限りがあるとされている。
 内藤の場合、最初の二つが重なってきた時点で、既に処理が滞るようになってしまった。
 
 
 
从 ゚−从「………?」
 
 
 顎をもがれ、顔面を剥がされ、四肢を奪われ、頭を爆発させられた。
 そんな、幾度もの「拒絶」を受けて、ハインリッヒは半ば、放心状態にあった。
 
 しかしそれでも、まだ自我は残っている。
 『英雄』としての補正か、それともただの偶然か。
 
 そのため、彼女でも、気づくことはできた。
 いま、この場に充満している、『異常』を漂わせている空気に。
 
 
.

289同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:21:41 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 そのため、そちらのほうに、ハインリッヒも視線を向けた。
 内藤が凝視し、ネーヨが動揺し、『革命』のほかの皆が黙認している――元凶に。
 
 身体を向けると同時に淡い風が吹いて、彼女の左目にかかっていた白い髪を流す。
 数秒両眼が見えたが、それも束の間、すぐに左目は長い髪に隠れてしまった。
 
 
 
 しかし、それは右目だけを見ていても、わかった。
 「元凶」を見ると、ハインリッヒは、目を見開いたのだ。
 
 だが、それは内藤のと同じものではない。
 まったく別の理由で、彼女は見開いたわけである。
 
 
 
从 ゚−从
 
(#゚;;-゚)
 
从 ゚−从
 
 
 
从 ゚∀从「……………え?」
 
 
 
.

290同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:22:12 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 最初はそれを把握できずただ放心状態のままであったが
 やがて意識が覚醒し研ぎ澄まされていくと、それの正体を掴むことができた。
 おぼろげだった思考から、それの存在意味を推し測る
 
 までもなく、彼女は、その少女を見て、反応を示した。
 
 
 
从 ゚∀从「―――あ――っ」
 
 
 ハインリッヒが、震えながら、右足を前に向ける。
 その所作を見たのか、少女も、それまで無愛想なままだったのが一変、
 歳相応と言える柔和な笑みを溢れんばかりに浮かべて、同様にハインリッヒのほうに駆け出した。
 
 内藤とネーヨも含む周りの皆は、それを見届けていた。
 許容だとか妥協だとか、と云うものではない。
 彼らも同様、情報処理が追いついていなかったのだ。
 
 
 
 やがて、二人は抱き合った。
 
 
 
.

291同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:22:48 ID:4yU0H10g0
 
 
 
从 ;∀从「ッ―――でぃ! でぃイイ!!」
 
(#^;;-^)「……!」
 
 
 背の低いハインリッヒと、更に背の低い少女。
 ハインリッヒは彼女を抱き上げるように背中を反る。
 抱き上げられた少女も、歓喜を表現しているのか、足をぱたぱたとさせた。
 
 
 情報処理が追いついたのか嫌気が刺したのか、
 その光景を見かねた男、アラマキが、彼女たち以外のつくる静寂を破った。
 
 
 
/ ,' 3「……なにが、あったんじゃ」
 
 
 
 ぽつり、と一言。
 それを見て、次に我に返ったのは、内藤だった。
 
 ハインリッヒと少女が抱き合うのを見て、
 若干の霧が残っていた記憶が、完全に鮮明になったのだ。
 
 
 
.

292同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:23:19 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ;^ω^)「――……じーさん。」
 
/ ,' 3「な、なんじゃ」
 
 
 ネーヨは、まだ呆然としている。
 内藤は今のうちに、彼女――セーターの少女の正体を告げておく必要があった。
 
 
( ;^ω^)「昨日……ハインリッヒと戦ったときのこと、覚えてるかお?」
 
/ ,' 3「……むろん」
 
( ;^ω^)「思い出すんだお。あのとき、僕が言った―――」
 
 
 
 
 
 
 
   ( ;^ω^)『〝カゲキ三姉妹〟が揃ってないだけましだけども……
.         じーさん、最悪だお』
 
 
   ( ;^ω^)『そこの、カゲキ三姉妹の次女、ヒート。
.         扱う能力は――【大団円《フィナーレ》】ッ!!』
 
 
 
 
.

293同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:23:54 ID:4yU0H10g0
 
 
 
/ ,' 3「……〝カゲキ三姉妹〟……?」
 
 
 内藤は、うなずいた。
 
 
( ^ω^)「【劇の幕開け】」
 
( ^ω^)「【大団円】」
 
( ^ω^)「……そして、あと一人、末っ子の『能力者』」
 
( ^ω^)「それが……彼女」
 
 
 
( ^ω^)「【夢幻の被写体】」
 
 
 
.

294同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:24:33 ID:4yU0H10g0
 
 
 
/ ,' 3「ど、どんなコムスメなんじゃ」
 
 
 ――あのときの戦いを思い出し、アラマキは少し声を詰まらせた。
 『英雄』となり反則じみた補正を受ける、ハインリッヒ。
 そんな彼女が勝つしかないような『脚本』を手がける、ヒート。
 
 この二人だけでアラマキは為す術がなかった、というのに
 更にもう一人、『英雄』を補佐する『能力者』がいる、というのだ。
 アラマキとしては、動揺しないほうが難しかった。
 
 そしてあのとき、内藤は内藤で、「彼女」の存在を、恐ろしく思った。
 その理由は、至極単純。
 
 
 
 
 ディ=カゲキは、「悪魔」なのだ――
 
 
 
 
( ^ω^)「……『エン・ドレッサー』」
                        カ ッ ト
( ^ω^)「平たく言えば、『世界』を『撮りなおし』する……そんなもの。」
 
( ^ω^)「……そして―――」
 
 
 
.

295同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:25:04 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
( ^ω^)「原作最強の《特殊能力》」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

296同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:25:42 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
/;,' 3「!?」
 
(;#´ー`)「………あんだと?」
 
/ ,' 3「!」
 
 
 内藤の言葉があまりにも予想外すぎて、アラマキは思わず動じてしまった。
 だが、動じたのは彼だけではなかった。
 
 ネーヨ=プロメテウス。
 パラレルワールド最強クラスの『拒絶』、彼もまた、動じてしまったのだ。
 
 それがあまりにも奇妙な光景のように思えて、
 アラマキは思わず、ネーヨの顔をまじまじと見てしまった。
 
 
 
( <●><●>)「……話が、見えませんね」
 
( ;^ω^)「僕も見えてないお!
.      でも、僕がわかってる範囲で現状を言うなら―――」
 
 
 
 
 
( ;^ω^)「さっきまで幾度となく巻き戻った『時』」
 
( ;^ω^)「……それを引き起こしたのは、ネーヨ……あんたじゃない」
 
 
 
( ^ω^)「ディ。そこにいる、ハインリッヒの……妹だった、ということだお」
 
 
 
 
.

297同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:26:17 ID:4yU0H10g0
 
 
 
(;#´ー`)「―――なに?」
 
( ´_ゝ`)「そうだ」
 
(;#´ー`)「ッ…」
 
 
 内藤が、そう言ったところで
 向こうのほうにいたアニジャが、こちらのほうに歩み寄ってきた。
 それを見て思わず、ネーヨは臨戦態勢に入ってしまった。
 
 ――死んで、ない。
 それどころか、ピンピンしている。
 そんなアニジャが、ネーヨや内藤のいる場所に向かってきた。
 
 
 
( ´_ゝ`)「……俺が、ここに戻ってきた理由」
 
( ´_ゝ`)「それは、あいつの前に……あんたを、封印する必要ができたからだ」
 
(;#´ー`)「………ほォーう。おもしれえじゃねえか」
 
( ´_ゝ`)「笑ってられるのも今だけだぞ、旦那」
 
(;#´ー`)「なんだと?」
 
 
 
 
( ;^ω^)「(…?)」
 
( ;^ω^)「(どうして……この二人が、競り合ってるんだお…?)」
 
 
 
.

298同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:26:53 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ´_ゝ`)「まだ、気づかないのか?」
 
(;#´ー`)「………?」
 
( ´_ゝ`)「いま、そこの『作者』とやらが、言ったではないか」
 
( ´_ゝ`)「〝時を巻き戻していたのは、旦那ではない〟……と」
 
(;#´ー`)「……、……。」
 
 
 
( ´ー`)「…………っ!」
 
 
 
 そこで、ネーヨの顔が豹変った。
 しかし、「怒り」や「拒絶」が爆発したのではなく――
 
 
 
 
( ´ー`)「‥‥‥‥‥待て。」
 
 
 
 
 ―――「無」に帰したような顔に、なったのだった。
 
 
 
 
.

299同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:27:26 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「……旦那にあのことを聞けていて、よかったよ」
 
( ´_ゝ`)「あれを聞いていなかったら、俺は、このことを思いついていなかった」
 
 
 
 そこでアニジャが、声を低くする。
 思い出すのは、一時間も経っていない過去のこと。
 
 バーボンハウスで、ネーヨと二人で話していたときのことだ。
 
 
 
 
                  イ マ
   『けどよ、それは〝現在を生きるから〟抗えねえんだ』
 
   『やつらがここを去るときに残した言葉、そいつが全てよ』
 
   『たとえ世紀の喧嘩師でも………』
 
   『〝時〟には、抗えねえ』
 
 
 
.

300同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:28:00 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ´ー`)「……あ………。」
 
( ´_ゝ`)「〝時〟を『拒絶』してゼウスたちを蘇らせるのは……二重の意味で不可能だ」
 
( ´_ゝ`)「ひとつ。『拒絶』を、外部の対象に適用させることはできない」
 
( ´_ゝ`)「そして、もうひとつ。」
 
 
 
 
 
   『俺たちは、ふつーの人は、〝現在を生きている〟たァ言ったよな』
 
   『言ったな』
 
   『つまり、だ』
 
   『その〝現在〟を踏み外すと、〝なにも存在しない次元〟へ直行するんよ』
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「もしほんとうに『拒絶』しちまうと、旦那、あんたは……今頃、〝消えてる〟んだ」
 
 
 
 
.

301同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:28:31 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ;^ω^)「でッでも!」
 
( ´_ゝ`)「?」
 
 
 ネーヨ――ではなく、内藤が、その話に加わった。
 「時には抗えない」。それは、なによりこの『世界』を創った内藤本人がよく知っている。
 彼がこういう持論を用いて、「時」に関する設定を盛り込んだのだから。
 
 思わぬところからの声に、アニジャは少しぽかんとした。
 しかし、話を無視する――などというつもりはなかったようだ。
 
 
 
( ;^ω^)「ハインリッヒといい、ジョルジュといい……あんたといい」
 
( ;^ω^)「誰もかれもみんな、〝進化〟してるんだお!」
 
( ;^ω^)「だから、あるいはその可能性も―――」
 
 
 
 ――しかし。
 代わりに、アニジャはため息を吐いた。
 
 
 
( ´_ゝ`)「……どうやら、俺は、『作者』だからといってあんたを買いかぶっていたようだ」
 
( ;^ω^)「なんだって……?」
 
 
 
.

302同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:29:02 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ´_ゝ`)「まあ、混乱するのもおかしくはないが……」
 
( ´_ゝ`)「そこで、あの子供だ」
 
( ´_ゝ`)「【夢幻の被写体】……だっけか。」
 
( ´_ゝ`)「ほんとうは、やつが……時を巻き戻していた」
 
( ;^ω^)「えっと、……ああ。そう、…だお。」
 
 
( ´_ゝ`)「時に『作者』」
 
( ;^ω^)「え、な…なんだお」
 
( ´_ゝ`)「いま、あんたは【夢幻の被写体】を〝最強〟と言ったが……その理由は、なんだ?」
 
( ;^ω^)「んなもん、言うまでもないお」
 
 
 
.

303同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:29:32 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ;^ω^)「ふつうは、どんな『能力者』でも〝時〟には抗えない」
 
( ;^ω^)「……でも。」
 
( ;^ω^)「ディ=カゲキ。……やつは、その掟を大きく破ることができるんだお」
 
 
 
( ;^ω^)「エン・ドレッサー」
 
( ;^ω^)「〝時〟を、それまでの〝時間軸〟のなかのある一点に戻してしまう《特殊能力》」
 
( ;^ω^)「この能力がある限り……ディを、殺すことはできない」
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「……一方で。」
 
( ´_ゝ`)「【全否定】……やつは、〝ほんとうは時に抗えていなかった〟」
 
( ´_ゝ`)「……とすると、どうなる?」
 
( ;^ω^)「どうなる、って………」
 
 
 
.

304同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:30:06 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
( ;^ω^)「ネーヨが〝時〟を抗えなくて」
 
 
( ;^ω^)「ディが、〝時〟を操れて……」
 
 
( ;^ω^)
 
 
( ^ω^)
 
 
 
 
 
 
 
 ――――え?
 
 
 
 
 
 
.

305同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:30:36 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
( ;´ー`)「………待て……待て!」
 
( ´_ゝ`)「つまり、そういうことだ、『作者』」
 
( ´_ゝ`)「この、ディ=カゲキ」
 
( ´_ゝ`)「言い換えるなら―――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
        ダンナ
( ´_ゝ`)「 『拒絶』 を拒絶できる、唯一の 『能力者』 ……というわけだ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

306同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:31:09 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――― 『終焉』 の音がした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

307同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:31:40 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「―――あああああああああああああああああああああ!!! …げほっ!」
 
 
 
 
 
 内藤は、その可能性に、気がついた。
 
 彼の勘違い、それは「【全否定】は進化した」ということだった。
 
 
 
 
 〝進化していなかった〟のだ。
 
 そして、進化していなかったからこそ
 
 ネーヨは内藤の描いた設定――この『世界』の概念――に従い
 
 〝時〟を『拒絶』することは、できない。
 
 
 
 
.

308同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:32:14 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
   (   ー )『満たされることのない「世界」』
 
 
   (   ー )『はたして俺は、そんなもんまで、「拒絶」できンのか』
 
 
   (   ー )『俺の「拒絶」と、おめえの「世界」』
 
 
   (   ー )『勝負といこうぜ……「作者」。』
 
 
 
 
 
 
 
 内藤の『世界』とネーヨの『拒絶』との、勝負。
 
 
 
 
 
 
.

309同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:32:44 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
   (   ー )『この「世界」は、おめえがつくったわけじゃねえ』
 
 
   (   ー )『となると、ひょっとすると――って、思ったわけよ』
 
 
   (   ー )『「たとえ世紀の喧嘩師でも、時には抗えない」――。』
 
 
   ( ´ー`)『――……抗って、やったぜ。 ………「作者」』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 内藤は―――勝っていたのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
.

310同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:33:17 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「……俺は、頃合を計っていた」
 
( ´_ゝ`)「ネーヨの旦那を倒すには、ただ【夢幻の被写体】をぶつければいいわけではない」
 
( ´_ゝ`)「むしろ、無策で彼女を放り込めば、先に彼女が拒絶に呑まれ、結果負ける」
 
( ´_ゝ`)「……なら、どうすればいいか」
 
( ´_ゝ`)「どうにかして、『拒絶の精神』に……」
 
 
 
( ´_ゝ`)「少しでも、ほんの少しでもいい。」
 
( ´_ゝ`)「ダメージが、欲しかった。」
 
 
 
( ; ー )「!!!」
 
 
 
 ネーヨが、それまでの彼とは決して思えないほど、動揺の色を見せる。
 冷や汗が地面に滴り落ちた。
 これで、もう三滴目だった。
 
 
.

311同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:33:50 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「……『不運』だったな。」
 
( ´_ゝ`)「ディ……とか言ったか」
 
( ´_ゝ`)「あの娘がいる限り………」
 
 
 
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「あんたは、永久に、満たされないこの『世界』を生きることとなる」
 
 
 
 
 
 
 
 
.

312同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:34:24 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 

 
 
 
 ――動いたのは、次の瞬間だった。
 ネーヨが、アニジャの首を、先ほどと同じように吹き飛ばしたのだ。
 
 その動作は荒く、醜く、無様で、
 拳に籠められていた力以外は、当初のそれに比べてひどく劣ったものとなっていた。
 
 あまりに一瞬――〝瞬殺〟。
 その動きを見れば、彼らは嫌でも、わかるのだ。
 〝ネーヨが、ついに本気をだした〟――と。
 
 ネーヨは、アラマキと違って、武道などは極めていない。
 ただ、圧倒的なステータスで、相手を圧倒して今まで戦ってきたのだ。
 
 アラマキを大きく凌駕する破壊力に、ハインリッヒを大きく凌駕するスキル。
 この二つを以てすれば、武道なんてものがなくとも、九分九厘、彼は戦いに勝利する。
 
 
 
 そんな彼が〝怒ったら〟。
 
 言うまでもなく、ただ闇雲にそのチカラを振り回す、モンスターとなるだろう。
 そのスタートダッシュが、つまりアニジャの〝瞬殺〟だった。
 
 
 
.

313同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:34:58 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
( # Д )「がああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 
(#゚;;-゚)「……?」
 
从;゚∀从「っ―――」
 
 
 アニジャを殺した直後。
 ネーヨは迷いなく、ハインリッヒ――に抱かれているディのほうに飛び掛った。
 ジェット機でも飛んできたのか、と疑わざるを得ない動き。
 ハインリッヒが反応しきる前に、彼女たちは、ネーヨの先制を許してしまった。
 
 一瞬で右腕を大きく振りかぶり、もう一瞬でそれを振り下ろす。
 瞬きする間も与えず、ネーヨは、その二人をとたんに粉末状にした。
 
 
 
 しかし、そのままネーヨが快進撃を続けることはなかった。
 次――誰でもいい。誰かを、〝瞬殺〟しようと思って方向転換したとき。
 ネーヨの網膜に映る『世界』は、景色を変えた。
 
 先ほどまでいた場所に、立ち尽くしていたのだ。
 つまり、『世界』が――リセットされた。
 それを身を以て実感して、ネーヨは頭の中が真っ白になった。
 
 
 
.

314同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:35:34 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( # Д )「!!?」
 
 
( ;^ω^)「効くわけないお! 【夢幻の被写体】は、〝殺されたらオートで発動する〟!」
 
( ;^ω^)「能力そのものを対策しない限り、ディを殺すことはできない!」
 
 
.                   スキル
( ;^ω^)「……そしてあんたの『拒絶』は、〝他人には効かない〟!!」
 
( ;^ω^)「カンゼンに、あんたを封印できるんだお!」
 
 
 
 内藤は少し溜めてから、言った。
 
 それを聞いたハインリッヒは、あることに気がついた。
 「あっ」と声を漏らしてから、彼女は、殺されたばかりとは思えない落ち着いた様子で、言った。
 
 
 
从 ゚−从「………、」
 
从 ゚∀从「……じゃあ、それって」
 
 
 
 
.

315同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:36:05 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
       オールアンチ
从 ゚∀从「【 全 否 定 】の ……文字通り〝アンチ〟じゃねえかよ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

316同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:36:41 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
(  ゚ω゚)「!」
 
( # ー )「!」
 
 
 アンチ。
 特定のものを拒み、絶するもの。
 ピンポイントで対策するものや唯一それに優位にたてるもの。
 
 ――その対象にとっては、とんでもないとしか言いようがない存在。
 
 
 
(  ゚ω゚)「………アンチ……!」
 
 
 
 『アンチ』。
 この言葉もまた、内藤の脳に、ズシンと響いた。
 
 今まで、幾度となく放ってきた言葉、『アンチ』。
 だというのに、また、内藤は、その言葉に、輝きのようなものを感じた。
 
 
 
.

317同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:37:13 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―――今まで、形こそ違えど、さまざまな『アンチ』を見てきた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

318同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:37:45 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
   (´・ω・`)『 「現実」 とは、時に残酷だ! 惨事だ!
.         災厄だ! 最悪だ! 皮肉だ! 理不尽だ!
.         卑怯だ! 不平等だ! そして、拒絶だ!』
 
 
 苦しい現実を、アンチ。
 
 
 
 
 
.

319同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:38:15 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
   从'ー'从『全部、そう全部だ。
..        巻き戻してやる。
..        跳ね返してやる。
..        入れ替えてやる。
..        「反転」 させてやる』
 
 
 醜い因果を、アンチ。
 
 
 
 
 
.

320同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:38:45 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
   ( ;∀;)『ギャッハハハハハ!! んな 「嘘」 に騙されてんじゃねーよ!』
 
   ( ;∀;)『 「真実」 はいつだって外見と中身が違うんだよ! ギャッハハハ!』
 
 
 
 悲しい真実を、アンチ。
 
 
 
 
 
.

321同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:39:27 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―――そして、今。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

322同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:39:58 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
( # ー )「て……てめえええエエエエエエエッ!!!」
 
 
( ´_ゝ`)「ッ」
 
       カ ッ ト
(# ;;- )「『撮りなおし』!」
 
 
( # Д )「―――ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!?」
 
 
 
 
 
 
.

323同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:40:33 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――― この世で最大の『アンチ』が、繰り広げられている ―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

324同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:41:23 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
 
   ( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
 
 
     第二部 「拒絶」
     第三十八話 「vs【全否定】Ⅵ」
 
 
    → Image Theme Song of Part Second "Anti"
 
    『 in the Mirror / Acid Black Cherry 』
 
 
 
 
 
 
 
.

325同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:41:54 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
( # ー )「チッ―――!」
 
 
 ――さすがのネーヨにも、学習能力は備わっている。
 ただ闇雲に襲い掛かろうとするのは、やめるようになった。
 
 『拒絶』の『アンチ』として降臨した少女、ディ=カゲキ。
 彼女を殺そうとこそ思うが、しかし複数回に渡りそのことごとくを「拒絶」されたのを見てもなお、
 続けて彼女を殺そうとは思うことができなかったようだ。
 
 
(#゚;;-゚)「……。」
 
 ディが、ちいさく震える。
 それを見て、ハインリッヒは、彼女の前に出た。
 
 その表情は凛としたもので、
 『革命』である以前に一人の姉である――
 そう思わせるようなものであった。
 
 
从 ゚∀从「……紹介するよ」
 
从 ゚∀从「私の……妹、だ。」
 
 
.

326同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:42:26 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 ネーヨに、ちいさく、囁きかけるかのように言う。
 それを聞いて、ネーヨは反応を見せた。
 しかしその声は、ネーヨとは思えないほど、実に荒いものであった。
 
 
( # ー )「フザけんのも、程々にしろよ……!」
 
( # ー )「『カゲキ』の名を持つ女は、この世に二人しかいねえ!」
 
( # ー )「一人がてめえの親で、一人がてめえだッ!」
 
( # ー )「俺は知らねえぞ! ディ=カゲキなんてヤツぁ!!」
 
 
 恫喝。
 近くの木々を鳴かせるほど、その声は重く大きなものであった。
 それを聞いて、まだ幼さの残る少女が耐えられるはずもない。
 
 ディはちょこんと、ハインリッヒの服を引っ張った。
 その手は、震えていた。
 
 
(#゚;;-゚)「………。」
 
从 ゚∀从「……大丈夫、だから」
 
 
.

327同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:43:22 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 ハインリッヒが宥める一方で、ネーヨの声は続く。
 
 
( # ー )「なんだ、エンドレッサーなんてよォ!!」
 
( # ー )「〝時間軸〟を操るだァ!?」
 
( # ー )「どーして……なんで!」
 
 
( # ー )「俺は、オールアンチだぞ!」
 
( # ー )「全てを、否び、拒む者だ!!」
                             オレ
( # ー )「なんで……てめえみてえなガキに、『拒絶』が通じねえんだ!!」
 
 
(# ;;- )「…………。」
 
从 ゚∀从「……おい」
 
(#´ー`)「なんだ! まただるまにされてェか!!」
 
 
.

328同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:43:54 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 ――だるま。
 この言葉を聞いたとたん、ハインリッヒは、四肢の骨の髄から震え上がった。
 
 やはり、最強の『拒絶』だ。
 この局面においても、相手に「拒絶」を植えつけることをやってのける。
 妹の手前で虚勢を張っているハインリッヒの、その偽りを打ち砕きにかかった。
 
 
 平生では、ハインリッヒのメンタルは脆弱だ。
 しかし、このときは「平生」ではなかった。
 
 姉なのだ。
 すぐ後ろに守るべき存在がいる限り、
 ハインリッヒは、この程度では心が折られることはなかった。
 
 
 
从 ゚∀从「つまり……」
 
从 ゚∀从「時間だとか、そんなもんは……『全否定』できねーってことだよな?」
 
(#´ー`)「………、……」
 
从 ゚∀从「――……?」
 
 
 ハインリッヒは純粋に疑問を持ってそう質問をしたのだが、しかしネーヨは返答に窮した。
 特に他意はなかったため、ハインリッヒはどうしたのだ、と思った。
 
 そして、その疑問を解消したのは、ネーヨではない男となった。
 『不運』を携える男、アニジャ=フーンだ。
 
 
.

329同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:44:29 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ´_ゝ`)「……そうじゃ、ないんだ」
 
从 ゚∀从「なに?」
 
 
(#´ー`)「………ダマれ。」
 
 
( ´_ゝ`)「『全否定』。」
 
( ´_ゝ`)「それは、相手を消すんじゃなくて、自分がそこから逃げるスキルだ」
 
( ´_ゝ`)「……だから、どんな対象であれ、『拒絶』するだけならなんだってできる」
 
 
(#´ー`)「……そのクチを、閉ざせ。………命令だ」
 
 
( ´_ゝ`)「そうだろ? ……『作者』。」
 
( ;^ω^)「お……え?」
 
( ´_ゝ`)「? 間違っていたか?」
 
( ;^ω^)「あ、いや、その……。合ってる、お」
 
从 ゚∀从「………?」
 
 
.

330同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:45:10 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ´_ゝ`)「……つまり、だ」
 
( ´_ゝ`)「結論を言おう。『英雄』よ、その質問の答えはノーだ」
 
从 ゚∀从「……?」
 
 
 ハインリッヒは、想定していなかったほうの答えが返ってきたため、少したじろいだ。
 その理由も、至極もっともなものであった。
 
 
从 ゚∀从「じゃ、じゃあ、……なんで」
 
 
 
 
 
 
从 ゚∀从「時間を、『全否定』しねえんだ?」
 
 
 
 
 
.

331同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:45:47 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( # ー )「………てめえら……また殺されてえのか……?」
 
 
( ´_ゝ`)「その理由も、答えてやろう」
 
( ;^ω^)「! どッ、どうしてそれを――」
 
( ´_ゝ`)「なあに。ここに来る前に、本人から聞いたのでな」
 
( ^ω^)「!」
 
 
 
 アニジャはそう言って、顔にうっすらと負の感情を漂わせながら、視線を落とした。
 
 あれは、ネーヨからの逃走劇が始まる、前。
 
 アニジャが【全否定】を封印する術を思いついたときのことだ。
 
 
 
 
 
.

332同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:46:20 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
   ( ´ー`)『けどよ、それは〝現在を生きるから〟抗えねえんだ』
 
   ( ´ー`)『やつらがここを去るときに残した言葉、そいつが全てよ』
 
   ( ´_ゝ`)『たとえ世紀の喧嘩師でも………』
 
   ( ´ー`)『〝時〟には、抗えねえ』
 
 
 
   ( ´ー`)『一方で、こんな説もある。〝時間の流れは川の流れと似ている〟ってな』
 
   ( ´_ゝ`)『あ、ああ』
 
   ( ´ー`)『この時の流れってのは、川で表現すんのはお門違いってこった』
 
   ( ´_ゝ`)『――え?』
 
   ( ´ー`)『俺が表現すんなら、そうだな』
 
   ( ´ー`)『時の流れってのは、弾丸だ』
 
 
 
   ( ´ー`)『俺たちは、ふつーの人は、〝現在を生きている〟たァ言ったよな』
 
   ( ´_ゝ`)『言ったな』
 
   ( ´ー`)『つまり、だ』
 
 
 
 
 
   ( ´ー`)『その〝現在〟を踏み外すと、〝なにも存在しない次元〟へ直行するんよ』
 
 
 
 
.

333同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:46:50 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
从 ゚∀从「―――! ってことは……!」
 
( ´_ゝ`)「ああ。」
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「旦那は、『全否定』できないんじゃない」
 
( ´_ゝ`)「〝『拒絶』したくない〟ってところだ」
 
( ´_ゝ`)「『拒絶』したら、そこに自我はいなくなる」
 
( ´_ゝ`)「そして、『拒絶の精神』はその自我にあるんだからな」
 
( ´_ゝ`)「一度〝現在〟を踏み外すと………〝なにも存在しない次元〟へ直行する」
 
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「……そして旦那は、その一線の一歩手前で……踏ん張っている」
 
 
 
 
 
 
 
.

334同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:47:43 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( # ー )「ガアアッ!!」
 
( ;´_ゝ`)「……っ!」
 
 
 話しすぎたか。
 そう思った直後、アニジャの目の前に、鬼のような形相を浮かべたネーヨが立ちはだかった。
 その瞬間、思わず、アニジャは仰け反った。
 
 目の前に在る『拒絶』。
 自分の体内にある拒絶心が自分から飛び出したかのような、錯覚。
 【夢幻の被写体】がいる限りは――とは思いつつも、
 やはり免疫がついたと言えるほどメンタル面は強まっていなかった。
 
 
 
 怖いものは、怖いのだ。
 
 
 
( # ー )「………やっぱり……」
 
( # ー )「てめえは……はなっから……俺をつぶすハラで来てたんじゃねえか……!」
 
( ´_ゝ`)「……説得力こそないが、あのとき言った言葉が全てだ。他意――」
 
( # ー )「よく……ぬけぬけと、言えるぜ。ボケが」
 
( ;´_ゝ`)「……グ。」
 
 
.

335同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:48:13 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 アニジャの胸倉を掴み、持ち上げる。
 長身のアニジャだが、つま先を伸ばさないと地に足をつけることができなくなった。
 内藤のときと一緒で、アニジャも、やはり恐怖と錯覚するほどの拒絶を感じた。
 
 ディは、動かない。
 彼女も心に拒絶を抱えているのだ。
 いたずらに『撮りなおし』することでネーヨの神経を逆撫でするのは
 却って自身の体内に潜む拒絶心を増幅させることにつながるのでは、という直感を胸に抱いていた。
 
 
( # ー )「なにが、弟を殺すから、だァ?」
 
( # ー )「日頃から俺たちのなかにいたんだから、よォーく、わかってんだろ」
 
 
( # ー )「敵にまわすべき相手と、そうでない相手との見分け方だ」
 
( # ー )「〝少なくとも、『拒絶』の連中だけは敵にしてはいけない〟」
 
 
( # ー )「……違うか?」
 
( ;´_ゝ`)「俺は、誰にも、敵意を向けてなどいない」
 
( # ー )「じゃあ、今すぐそこのガキを始末しろ」
 
( ;´_ゝ`)「……それは、できない」
 
( # ー )「なんだと?」
 
 
.

336同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:48:46 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 自分の首を絞めるような彼の手に、キリキリと更に力が籠もる。
 それに更なる苦痛を感じるアニジャだが、しかし自我だけは手放すつもりはなかった。
 たとえ恥を晒すことになっても、プライドを捨てることになっても。自我、だけは――と。
 
 
( # ー )「てめえ、自分で自分の言ってること、わかってんのか?」
 
( ;´_ゝ`)「でたらめなことは言わないようにしてるぞ」
 
( # ー )「俺も、『拒絶』の一人だ」
 
( # ー )「『拒絶』に敵意を向けてないのに、あんのクソガキを連れてきた、ってか」
 
( # ー )「どォーいう神経してやがんだ、てめえ」
 
( ;´_ゝ`)「つまり、あの娘を連れてきたのは敵意以外の動機からなるってことだ」
 
( # ー )「ほォォ〜〜。どういう意味だ」
 
 
 
( ;´_ゝ`)「……俺は」
 
 
.

337同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:49:30 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「あんたに、消えてもらいたくないんだよ」
 
 
 
( ´_ゝ`)「ここで……この戦いを、終わらせたいんだ」
 
 
 
 
 
 
 
.

338同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:50:26 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 アニジャのそのときの声は一瞬、その場の空気を支配した。
 ちいさな声だったのに、その場にいた者全員の耳にそれは残った。
 それほど、ちいさいのに、しかし重いものだったのだ。
 
 
 
( # ー )「………」
 
( ;^ω^)「………」
  _
( ゚∀゚)「………」
 
 
 先ほどまで声を荒げていたネーヨを黙らせたほどには
 アニジャのその声は、確かな重みを帯びていた。
 
 そして、その重みを感じたのは、なにもネーヨだけ、ではなかった。
 内藤も、ジョルジュも、ゼウスも、アラマキも。
 最初から黙っていた者に、更なる重しを載せにかかったのだ、この声は。
 
 
.

339同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:51:05 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ´_ゝ`)「……もう、充分だろ」
 
( ´_ゝ`)「あんたは……見てきたはずだ」
 
( ´_ゝ`)「〝拒絶する〟ことの、末に見えるものを」
 
( # ー )「……。」
 
 
 
( ´_ゝ`)「〝拒絶〟を選んだ者の未来には、〝なにもない〟じゃないか」
 
( ´_ゝ`)「ショボンも、ワタナベだってそうだ」
 
( ´_ゝ`)「ヤツらは、『現実』だの、『因果』だのを拒絶しようとしていた」
 
( ´_ゝ`)「それに敵うようなスキルも、手にしていた」
 
( ´_ゝ`)「そのスキルは本物で、確かに、みごとにそういったものを否定することはできていた」
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「だが、『現実』はどうだ。『因果』は、どうだった。」
 
 
 
.

340同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:51:41 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
   从 ゚∀从『なにが〝現実を受け入れる〟だあ? 受け入れてねえじゃねーか』
 
   从 -∀从『……「自分が死ぬ」と云う 「現実」 を……な』
 
   (´゙ω゚`)『あ――――』
 
 
 
 
   ( ;^ω^)『ッ!』
 
   从;Д;从『――カァァッ―――ああああっあッ!! ―――〜〜!!』
 
   ( ;^ω^)『……! 「反転」 不可の〝即死〟技かお!』
 
 
 
 
 ―――ネーヨもアニジャも知る由のない、「未来」。
 
 しかし。
 
 〝還ってこなくなった〟のを見れば、それは見るまでもなく明白だった。
 
 
 
 
.

341同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:53:03 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ´_ゝ`)「結果として、現実じゃあ、〝拒絶できなかった〟んだ」
 
( ´_ゝ`)「『因果』に従って、『現実』のままに、二人は、死んだ」
 
( ´_ゝ`)「……つまり、そういうことだったんだ」
 
( # ー )「なにが……イいてェんだ……!」
 
 
 
 ネーヨが、怒りをかみ殺したような声で、訊く。
 相対的に冷静さを増したアニジャは、大きく息を吸って、ゆっくりそれを吐いた。
 
 
 そして、
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「拒絶なんてものは」
 
 
( ´_ゝ`)「ただの情けない足掻きにすぎなかった、ってことだ」
 
 
 
 
.

342同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:53:38 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ´_ゝ`)「ショボンなんかが好例じゃないか」
 
( ´_ゝ`)「ヤツのスキルは、カンペキに『現実』を拒絶している」
 
( ´_ゝ`)「自分の思い通りに『現実』を操れるんだから」
 
( ´_ゝ`)「……しかし。結局ヤツは、『現実』に呑まれて、死んだ」
 
 
( ;^ω^)「………モララーも、だお」
 
( ´_ゝ`)「ん……そうなのか?」
 
 
 声を発した内藤に、アニジャが応じる。
 内藤はようやく現状を呑み込めたようで、その声に動揺は見られなかった。
 
 
 
( ;^ω^)「モララーも……〝死んだ〟」
 
( ;^ω^)「【常識破り】なんて、『真実』を押し隠すために存在するかのようなスキルを持って」
 
( ;^ω^)「モララーにトドメを刺したもの……それは、ほかでもない『真実』だお」
 
( # ー )「!」
 
 
.

343同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:54:15 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ;^ω^)「おかしいお。ヤツは、『真実』を拒絶できる男なのに、『真実』に殺された」
 
( ;^ω^)「『フェイク・シェイクはまだ死んでない』んだから、対抗手段はあった筈……なのに」
 
 
 そこで、一呼吸置く。
 すると、自分がいまいかに緊張しているか、がわかった。
 
 一度意識しだすと、頭から離れない。
 頭を空っぽにするかのように意識をネーヨに向けて、話に戻った。
 
 
 
( ^ω^)「………それを見ても、やっぱりわかることはあるお」
 
( # ー )「………、」
 
 
( ^ω^)「拒絶……何度も言われたように、それはつまり精神体だお」
 
( ^ω^)「その、個々の精神体が、やれ現実だの、やれ真実だの、」
 
( ^ω^)「そんな、この世の規律に対抗した結果が……それだ」
 
 
 
.

344同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:54:53 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
( ^ω^)「なにかを拒絶しようと思う心なんて、脆弱なものなんだお」
 
 
( ^ω^)「だからこそ……僕たちは、涙を流す」
 
 
( ^ω^)「……拒絶したくても、できないものを前にして」
 
 
 
 
 
 
 
 
.

345同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:55:46 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
(#´ー`)「………。」
 
 
 
 ――そのとき、ネーヨは、顔をあげた。
 
 怒りで影が映えていた彼の、その目には――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
※テーマソングここまで
 
 
 
.

346同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:56:18 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
( ^ω^)「……ネーヨ」
 
(#´ー`)「やっと、俺の名を呼んだな」
 
( ^ω^)「おっ」
 
 
 
 そうだったっけか。
 
 意外なことを衝かれて、内藤は少し気まずさを覚えた。
 頭を掻いて、しかしその手はすぐにおろす。
 
 
 そして、ネーヨに、視線を真っ向からぶつけた。
 もう、彼から逃げよう、とは思わなくなっていた。
 
 
 
.

347同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:57:03 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ^ω^)「わかったお?」
 
( ^ω^)「アニジャは……あんたを拒絶しにきたんじゃあない」
 
( ^ω^)「……その、拒絶そのものを拒絶しにきたんだ」
 
( ^ω^)「だから………」
 
 
 
 
 
( ^ω^)「……もう、終わりにしよう」
 
 
 
 
 
 
.

348同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:58:03 ID:4yU0H10g0
 
 
 
( ´ー`)「………。」
 
 
 ネーヨの顔から、なにかが、すぅーっと抜けていくのがわかる。
 毒素が抜けたような顔をして、ネーヨは、ふぅ、と息を吐いた。
 それを見て、内藤は、ほッとした。
 
 いま、明らかに、空気が変わったのだ。
 依然無味無臭、無色で無音。
 
 しかし、それまでこの場を支配していた混沌のうねりのような『拒絶のオーラ』が
 いま、確かに、消えたのである。
 
 
 内藤は、胸を撫で下ろす。
 視認こそしていないが、ほかの皆も、おそらく、胸を撫で下ろしていることだろう。
 図らずも、内藤の顔面に安堵の色が浮かんできた。
 
 ネーヨに、歩み寄る。
 ネーヨの表情に、変わりはなかった。
 
 
 
 ――終わったんだ。
 そう思うと改めて、内藤に、ある実感が生まれた。
 
 
 
 
 ―――僕は、生きている。
 
 
 
.

349同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:59:01 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
( ´ー`)「……。」
 
 
( ^ω^)「……終わったんだお」
 
 
( ^ω^)「全てを拒絶するあんたでさえ、全てを拒絶できるわけではなかった」
 
 
( ^ω^)「もう……終わったんだ」
 
 
( ´ー`)「…。」
 
 
( ^ω^)「…。」
 
 
( ´ー`)
 
 
 
 
 
(   ー )
 
 
 
 
 
 
.

350同志名無しさん:2013/05/02(木) 01:59:52 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

351同志名無しさん:2013/05/02(木) 02:01:03 ID:4yU0H10g0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                  知らねえよ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

352同志名無しさん:2013/05/02(木) 02:01:46 ID:4yU0H10g0
>>284-351
今回投下分

353同志名無しさん:2013/05/02(木) 07:39:22 ID:uBP5Bkng0


354同志名無しさん:2013/05/02(木) 11:52:59 ID:kLIsii6.0
内容もレスも恋空とか上地きゅん並みに真っ白だな
厨二の痛さが出てて良いじゃないか

※テーマソングここまで

355同志名無しさん:2013/05/02(木) 16:20:33 ID:yUm0kJSQ0
スキルは拒絶できたんたんじゃなかったっけ、乙

356同志名無しさん:2013/05/10(金) 22:30:58 ID:PPaIGnlo0
まだか

357同志名無しさん:2013/05/15(水) 23:03:31 ID:2khxFlsk0
>>355
【全否定】が他人に干渉することはできない
誰か他人が死んだからといって、その死を無視して蘇らせるのは不可能、ってな感じです

>>356
しばらくおやすみいただくのでその間ほかのを読んでてほしいです
この板のダウナーとか創作のシックスセンスギフトとかが面白いよ

358同志名無しさん:2013/05/16(木) 16:59:11 ID:E/2mLhHg0
否定できないんかーい

359同志名無しさん:2013/06/24(月) 09:42:39 ID:nXW./Uao0
まだかのぅ

360同志名無しさん:2013/06/24(月) 11:31:40 ID:cMYINZaE0
先に39話だけ投下するか第二部ぜんぶ書ききってから投下するか悩んでる

361同志名無しさん:2013/06/27(木) 12:31:08 ID:8.fu.DBg0
最近面白いのが少ないから39話読みたいっす!

362同志名無しさん:2013/06/27(木) 17:46:14 ID:MOX/1l6g0
39お願~い

363同志名無しさん:2013/06/27(木) 22:29:55 ID:8gMcwh6A0
40話までできた
でもなんか自信が持てないからやっぱりもうちょっとだけ待って

364同志名無しさん:2013/06/29(土) 23:12:33 ID:KKqcHyFM0
わかった待ってる!

365同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:08:10 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
○登場人物と能力の説明
 
( ^ω^)
→この世界の『作者』。
 
/ ,' 3 【則を拒む者《ジェネラル・キャンセラー》】
→あらゆる力及び力の法則を『解除』する《特殊能力》。
 
从 ゚∀从 【正義の執行《ヒーローズ・ワールド》】
→『英雄』が負けない『世界』を創りだす《特殊能力》。
 
( <●><●>) 【連鎖する爆撃《チェーン・デストラクション》】
→相手の手負いを『連鎖』させる《特殊能力》。
 
( ´ー`) 【全否定《オールアンチ》】
→なにも受け付けない《拒絶能力》。
 
( ・∀・) 【常識破り《フェイク・シェイク》】
→自然のうちに『嘘』を混ぜる《拒絶能力》。
 
(゚、゚トソン 【暴君の掟《ワールド・パラメーター》】
→『拒絶』化してしまった、それまでは『拒絶』ではなかった少女。
  _
( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域《パンドラズ・ワールド》】
→存在してはならない『領域』を創りだす《特殊能力》。
 
( ´_ゝ`) 【771《アンラッキー》】
→『不運』を引き起こすが、『能力者』でも『拒絶』でもない男。
 
(*゚ー゚) 【最期の楽園《ラスト・ガーデン》】
→『楽園』を『保守』し、そちらにワープする《特殊能力》。
 
(#゚;;-゚) 【夢幻の被写体《エン・ドレッサー》】
→『夢幻』に続く『世界』を創りだしてしまう少女。
 
 
.

366同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:08:40 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
○前回までのアクション
 
( ^ω^)
→説得
 
( ´ー`)
→     
 
 
.

367同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:09:10 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
( ^ω^)「―――え?」
 
 
(     )「知るか。」
 
 
( ^ω^)「いや、ちょ――」
 
 
(   ー )「どうして俺が、んなもんを甘受する必要があんだ?」
 
 
( ;^ω^)「――ハ!? あんた、何を言って―――」
 
 
( ´ー`)「知らねえよ。殺すぞ」
 
 
( ;゚ω゚)「―――……ッ!?」
 
 
 
 
 ――ネーヨは、すぐそこまで歩み寄ってきていた内藤の胸倉を、掴みあげた。
 
 
 
.

368同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:09:43 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
从;゚∀从「でッ―――でぃ!」
 
 
(#゚;;-゚)「う…うん、」
 
 
 
 
 一瞬、誰もが、確信した。
 
 ネーヨが改心し
 
 このたびの戦いは、終わったのだ、と。
 
 
 
 
 
.

369同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:10:13 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
( ;´_ゝ`)「………なに?」
 
 
(   ー )「やっぱり……」
 
 
 
 
 
 再び『撮りなおし』された『世界』。
 
 『作者』の胸倉を掴んだ『拒絶』はアンチされ
 
 もう一度見ることになる光景を前にして、ネーヨは口角を吊り上げた。
 
 
 
 
 
.

370同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:10:45 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
.            オ レ タ チ      オメエ
(   ー )「所詮、『登場人物』が、『作者』に刃向かうってのは、無理だったのか」
 
 
( ;^ω^)「な、なにを急に……」
 
 
(   ー )「……薄々、勘付いていたんだ」
 
 
(   ー )「あのとき……おめえが、バーボンハウスに、乗り込んできたとき」
 
 
(   ー )「俺は、妙な、胸の昂揚を、感じた」
 
 
 
 
 
(   ー )「………〝拒絶〟だ」
 
 
( ;^ω^)「なんだって……?」
 
 
 
.

371同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:11:15 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
(   ー )「おめえたちが、俺を見て感じるのと、一緒のモンだ」
 
 
(   ー )「ただ、形のない、混沌のうねりだけが、胸中に生まれる、この感じ」
 
 
(   ー )「忘れもしねえ」
 
 
(   ー )「〝あのとき〟に感じたものと、一緒だ」
 
 
( ;^ω^)「あの……とき?」
 
 
 
(   ー )「パンドラが……」
 
 
 
 
 
 
 
 
( ´ー`)「………パンドラが、俺らの仲間を殺したときだ」
 
 
 
 
 
 
.

372同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:11:48 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
从;゚∀从「!」
 
( ´_ゝ`)「…ッ?」
 
/ ,' 3「……。」
 
 
  _
( ゚∀゚)
 
 
 
(   ー )「……思えば」
 
(   ー )「〝俺を俺にした〟のも……おめえなんだよな」
 
(   ー )「つくづく、すげえわ」
 
(   ー )「ほんッとうに、てめえは、『拒絶』の、天敵なんだかんなァ」
 
 
(   ー )「………アニジャの件も、だ」
 
(   ー )「〝アンチ・オールアンチ〟を連れてきたのは……てめえの、右腕だ」
 
(   ー )「とッことん、徹底して、てめえは、俺を、拒絶しにかかる」
 
(   ー )「その度胸………」
 
 
 
.

373同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:12:18 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
( 。ー )「あのときにも………見せて、ほしかった」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

374同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:12:50 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「!!?」
 
 
( <●><●>)「――ッ!」
 
 
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「………ね、……ネーヨ………?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

375同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:13:22 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
(   ー )「ああアアアァァァァァアアアアああああッっはっはっはっはッハッハッハッハ!!!」
 
 
 
 ―――内藤とゼウスは同時に異変を察知したが、
 二人とも一緒のことに気づいた、わけではなかった。
 
 ゼウスがなにを異変と見受けたのかはわからない。
 だが、内藤が見受けた異変の正体は、わかる。
 
 
                     ピエロ
(   ー )「俺は、選ばれなかった 道化 だ!」
 
 
 
 『作者』だからこそ―――
 無根拠ながらもふと勘付くことのできた、直観。
 
 
 
 
(   ー )「んな『世界』に縛られるくらいなら――――」
 
 
 
 
 
 
.

376同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:13:52 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
   ( ´_ゝ`)『旦那は、「全否定」できないんじゃない』
 
 
   ( ´_ゝ`)『〝「拒絶」したくない〟ってところだ』
 
 
   ( ´_ゝ`)『「拒絶」したら、そこに自我はいなくなる』
 
 
   ( ´_ゝ`)『そして、『拒絶の精神』はその自我にあるんだからな』
 
 
   ( ´_ゝ`)『一度〝現在〟を踏み外すと………〝なにも存在しない次元〟へ直行する』
 
 
   ( ´_ゝ`)『……そして旦那は、その一線の一歩手前で……踏ん張っている』
 
 
 
 
 
.

377同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:14:23 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 ―――ネーヨが、消える。
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「ッ!! やめろ、それだけはやめるんだ!!!」
 
 
(   ー )「俺はこの『世界』なんざ甘受しねえッ!!」
 
 
( ;゚ω゚)「ンなことしたら、あんたが消えちまうんだお!!?」
 
 
(   ー )「『世界』を拒絶できねえッてんなら―――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
( ´ー`)「――……消えたほうが、ましだ」
 
 
 
 
 
 
 
 
.

378同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:14:57 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「           
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

379同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:15:31 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   「オールアンチ」
 
 
 
   「拒絶に満ちたこの『世界』を」
 
 
 
   「すべて……すべて、だ」
 
 
 
 
 
 
 
.

380同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:16:06 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                   拒 絶 す る 。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

381同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:16:45 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

382同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:17:20 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
    ――― 拒 絶 を 拒 絶 す る 戦 い  ◆
 
 
                      ◇  終 幕 ま で ―――
 
 
 
 
 
 
 
               === 第三十九話 ===
 
 
.                     ALL ANTI
.             「  v s 【 全 否 定 】 Ⅶ 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ―――― 残り、
 
 
 
 
.

383同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:17:53 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
   第三十九話  「vs【全否定】Ⅶ」
 
 
 
 
( ;゚ω゚)
 
 
 
 消えた。
 
 
 それまで、拒絶、威圧、恐怖、窮境、
 そういったものを感じさせてきたからこそ、わかることだ。
 
 ネーヨがそれまで放っていたそれらが、
 この瞬間、ぱたりと、途絶えた。
 
 
 
.

384同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:18:27 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 既に、触れられていた。
 
 ほんとうに、『世界』を『拒絶』すれば
 
 その人は、その『世界』から、消えてしまう。
 
 
 
 因果律からも
 
 空間座標からも
 
 異次元からも  異世界からも
 
 
 
 影も形も  生きた証も
 
 体臭も  口臭も  湿気も  拒絶も
 
 なにもかも
 
 
 
.

385同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:19:14 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 嘗てネーヨは、『運命』を『全否定』できないことを嘆いていた。
 その理由は、至極単純だ。
 
 
 自分が『世界』の上で生きることにおいて、『運命』は決して切り離すことのできないものであるからだ。
 必然という言葉は、『運命』を前に、無力になる。
 必然が必然になるのも、『運命』が先行しているのだ。
 
 
 もし『運命』を『拒絶』してしまえば、自分は『世界』と完全に矛盾した存在になってしまう。
 矛盾。つまり、「存在できない」「存在してはならない」存在になる。
 それを、誰よりも――内藤よりも、ネーヨは、理解していた。
 
 
 【全否定《オールアンチ》】の最大の弱点は、「『全否定』できない」ところにある。
 だからこそ、『世界』を操る者が出てきてしまえば、ネーヨはそのスキルを甘受して且つ勝利しなければならない。
 そして、ディの【夢幻の被写体《エン・ドレッサー》】を甘受すれば、ネーヨは負けが確定してしまう。
 
 
 まさしく『アンチ・オールアンチ』なのだ。
 
 
 
.

386同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:19:47 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 ディが登場した時点で、ネーヨの負けは確定した。
 ネーヨは、ディの能力を甘受しなければならない。
 だが、一方でネーヨは、是が非でも、甘受するわけにはいかなかった。
 
 
 それを甘受するということは、己の『拒絶』の敗北を認めること。
 『拒絶』が生の源となっている以上、それを甘受すれば、死につながる。
 意識の崩壊、自我の断絶、本能の自決。
 なんらかの精神的ダメージにより、ネーヨは、死ぬしかなくなるのだ。
 
 
 
 
 逃げる手段は、「それ」しかなかった。
 
 
 
 
从;゚∀从「待て!! どこいきやがった!!」
 
/ ,' 3「また瞬間移動……か?」
 
 
.

387同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:20:19 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 元の話に戻ると。
 【全否定】のネーヨが、もし『世界』を『全否定』すれば、
 矛盾し存在することのできなくなった自身は、その場で消える。
 
 今までのネーヨにとって、その制約はいわば、大きな足枷だった。
 どんなものが相手であれ、多少はその何かを甘受しなければならないのだから。
 
 
 だが、そんな制約が、今回に限り、彼にとっての、大きなメリットとなった。
 目の前に存在する拒絶すべきものから、逃げられる。
 文字通り、拒絶できるというのだから。
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「……やりやがった、か」
  _
( ゚∀゚)「……」
 
( <●><●>)「……詳しく、話してもらおうか」
 
 
.

388同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:20:55 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 ネーヨは、極度のわがままだ。
 戦闘力ではゼウス、武術ではアラマキ、サポートではハインリッヒに劣るネーヨだが
 有する《拒絶能力》はさることながら、なによりも彼らに勝るものがあった。
 それが、彼のわがままさなのだ。
 
 たとえ甘受しなければならないものがあったとして、
 嫌だと思うようなものがそれに当たったら、それがなんであろうと、ネーヨは『拒絶』する。
 
 半ば、小学生よりも精神力の弱い男なのだ、ネーヨは。
 実際は、【全否定】などという最強の『拒絶』を容易く扱うのを見ればわかるように
 その有する精神力は他の追随を許さない絶対的な強さを誇っているのだが
 その本質は、精神力の強さが逆転して本能に逆戻りしている、パラドックスじみたものとなっていた。
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「詳しく、もなにもないだろう」
 
( ´_ゝ`)「………旦那は、逃げたんだ」
 
( ´_ゝ`)「この、辛くて、耐え難い世界から」
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「奴は、逃げ出したんだ」
 
 
 
.

389同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:21:33 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 「嫌だから、したくない」
 「苦いから、食べたくない」
 「暑いから、冷房はつけたい」
 
 「頭が痛くなるから、勉強はしたくない」
 「汗を掻くと気持ち悪いから、運動はしたくない」
 「目が疲れるから、本は読みたくない」
 
 
 精神的な抵抗があっても、しなければならないものはしなければいけないし
 精神的な嫌悪があっても、苦くとも栄養バランスを考えれば食べざるを得ず
 精神的な希望があっても、環境や電気代を考えれば冷房は我慢しなければならない。
 
 生理的な苦痛が襲っても、学は生きるうえで必要だし
 生理的な不快が襲っても、身体を鍛えないと生きられないし
 生理的な刺激が襲っても、目や耳を使わないと生きていけないのだ。
 
 
 
 
从;゚∀从「………逃げ……た…?」
 
( ´_ゝ`)「その娘がいる限り、ネーヨの『拒絶』は絶対的なものではなくなる」
 
( ´_ゝ`)「そんな、ディ=カゲキという目の前の存在を拒絶するために、消えたんだよ」
 
 
.

390同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:22:05 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 ハインリッヒが、顔を顰める。
 認めたくなかった――のではなく、信じたくなかった、ようだ。
 自然のうちに握られていた拳に、より力が籠められる。
 
 ハインリッヒは、もとより、『英雄』だ。
 具体的な功績をあげたとか、ではなく、
 「ヒーローでいることが約束された」存在なのだ。
 
 そんな身分だからか、自然と、『英雄』の名に相応するような考えが、身に染み付いていた。
 正々堂々、がモットーなのは、もう言うまでもないことだろう。
 
 
 
 このとき、『英雄』のそんな意識が、彼女の拒絶心を増幅させつつあった。
 
 
 
从;゚∀从「………」
 
从;゚∀从
 
从;゚∀从「あんなわがままヤローに、」
 
从;゚∀从「それも、もういない奴にこんなこたァ言ってもしかたないんだけど、よ」
 
( ´_ゝ`)「……なんだ、『英雄』」
 
 
.

391同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:22:57 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
从; ∀从「………ず、ずりイじゃねーのか、それは! 逃げる、って!」
 
从; ∀从「な、なんで、自分の思い通りにならないからって……その全てを、放り投げるんだよ!」
 
从; ∀从「なにもかもが思い通りになんて、ならねえに決まってるじゃんか! それが『生きる』ってことだろ!」
 
 
 
从; ∀从「いや、『生きる』に限った話じゃねえ! すべて、すべてだ!」
 
从; ∀从「誰かと殴りあうってことは、絶対にどちらかは、負けるんだ!」
 
从; ∀从「じゃ、じゃあ、喧嘩するってことは、自分の負ける可能性を受け入れるってことだ!」
 
 
 
 
 
 
从; ∀从「あいつ、俺の蹴り、受け止めたじゃねーか! で、痛みも感じたじゃねーか!」
 
从; ∀从「『甘受』できるんだよ、あいつは!!」
 
 
 
 
.

392同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:23:37 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
从; ∀从「いくらバケモノみたいだからって、強いからって、自分が可愛いからって……『拒絶』だから、って」
 
从; ∀从「人間なんだろ! 生きてンだろ! な、なんで、なんで逃げるんだよ!」
 
从;゚∀从「なあ!!」
 
( ´_ゝ`)「……あいつらは、人間じゃない。『拒絶』という名の、精神体だ」
 
从;゚∀从「変わンねーよ! 拒絶なんて精神を持てんの、人間だけじゃねーか!」
 
( ´_ゝ`)「理屈としてはそうだが、『拒絶』に、そんな理屈、感情論は通じな……」
 
从;゚∀从「なんでそんなこと言えんだよ!」
 
( ´_ゝ`)「曲がりなりにも、俺は『拒絶』の陣営に混じっていた」
 
( ´_ゝ`)「およそ精神異常者ですら感じ得ないであろうことを、常時感じているようなやつらだ」
 
( ´_ゝ`)「……人間であることに違いない、ということに目を瞑るとしても」
 
 
 
( ´_ゝ`)「それでも、あいつらは『亜種』だ。俺たちと、同種ではない」
 
( ´_ゝ`)「アンチに、まともな奴はいないんだよ」
 
 
.

393同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:24:32 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
从;゚∀从「じゃ、じゃあてめえは知ってんのか!」
 
( ´_ゝ`)「なにを、だ」
 
从;゚∀从「『拒絶』の……アンチの!」
 
 
 
从;゚∀从「アンチだからこその、その……人情味に溢れた、姿!」
 
 
 
( ´_ゝ`)「……あんたはさっきから、何が言いたいんだ」
 
从;゚∀从「『拒絶』の……少なくとも、俺の見てきた連中は、みんな、いい意味で『人間』をしてやがった!」
 
从;゚∀从「ショボンも、ワタナベも、モララーも……みんな、だぞ!」
 
 
 
从;゚∀从「ショボンは最期で、自我もプライドもなげうってきた。きったない人間だったよ」
 
从;゚∀从「ワタナベも、へらへら笑う奴だった。その笑顔が、奴という人間味を示してた」
 
从;゚∀从「モララーも、ショボンとワタナベの死を、悲しく受け止めていた。まるで、友だちが死んだかのように、な」
 
( ´_ゝ`)「………」
 
( ´_ゝ`)「……時に、落ち着け。どうやらあんたは、混乱していると見た」
 
从;゚∀从「……、………ッ」
 
 
.

394同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:25:06 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
从;゚∀从「………お前は、向こうに混じっときながら、あいつらのこと、なんも見てないじゃねーか」
 
( ´_ゝ`)「なぜ、そう言える?」
 
从;゚∀从「見てたんなら、なんで……」
 
从;゚∀从「あの拒絶ヤローが、消えた……ってのに、そんなに落ち着いていられンだよ!!」
 
从;゚∀从「お前、あいつらとツルんでたんじゃなかったのか!」
 
( ´_ゝ`)「確かに、一緒にいた。だから、俺はこの戦いを終わらせたい、とも思った」
 
( ´_ゝ`)「あんたの後ろに、その娘がいるのがいい証拠だ」
 
从;゚∀从「……、」
 
(#゚;;-゚)「…?」
 
 
                   スベテ
( ´_ゝ`)「………旦那が『世界』を甘受するか、拒絶するか」
 
( ´_ゝ`)「俺としては、前者を望んだ。それは、言ったはずだ」
 
( ´_ゝ`)「だが……結果として、奴は後者を選んだ」
 
( ´_ゝ`)「しかたのなかったことなん―――」
 
从;゚∀从「しかたなく、ねえ!」
 
 
.

395同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:25:48 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( ´_ゝ`)「………」
 
从;゚∀从「お、俺は、あいつが、だいッ嫌いだ」
 
从;゚∀从「さっきまで、散々、拒絶という拒絶を、植えつけられた。
.       いま、こうして立っていられるのが不思議なほどだ」
 
 
 
从;゚∀从「だからこそ、俺は……勝ちたかった」
 
从;゚∀从「たとえ、オールアンチを突破できなくても、だ」
 
从;゚∀从「いくら俺がやられても、最期の最後まで、這いつくばって見せたかった」
 
从;゚∀从「あいつの拒絶を拒絶すっことで、勝ちたかったんだよ!」
 
从;゚∀从「こっちは、いくら嫌なことがあっても、逃げずに、戦ってきた!」
 
 
 
从;゚∀从「………なのに!」
 
从;゚∀从「ネーヨは、たった一人嫌なやつが出てきただけで、逃げやがった!」
 
从; ∀从「………悔しく、ねえのかよ!!」
 
 
 
.

396同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:26:25 ID:s2sNBMOk0
 
 
  _
( ゚∀゚)「そこまでだ」
 
从;゚∀从「てめッ………、」
 
 
 ジョルジュが傍らから入り、ハインリッヒの口元に右手を突きつけて、制止した。
 その厳格な顔つきと威圧感とが、ハインリッヒの口を縫いつけた。
 
 口を閉じて、ハインリッヒは、口の中がからからだったことに気がついた。
 乾いた喉がこすれあう。気持ち悪い感じがした。
 晴れているのに、身の回りに、雨が降った後であるかのような湿気を感じた。
 
 
  _
( ゚∀゚)「なにをごたごたヌカしてやがる、『英雄』。やつはもう、いないんだ」
  _
( ゚∀゚)「なに、殴りあったことで友情でも芽生えたか? そんなクセえ『劇』、おウチでやってくれ」
  _
( ゚∀゚)「俺たちの、目的。それは、『拒絶』を拒絶することだ」
  _
( ゚∀゚)「それを、忘れちゃあいないだろうな」
 
从;゚∀从「………」
 
 
.

397同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:26:59 ID:s2sNBMOk0
 
 
  _
( ゚∀゚)「お前の言いたいことは、わかる」
  _
( ゚∀゚)「納得できないんだろ?」
  _
( ゚∀゚)「一方的に拒絶を植えつけてきて、こっちがやり返そうとしたら、逃げやがった」
  _
( ゚∀゚)「ただの、ガキだ。それが、気に食わないんだろう。更なる拒絶が生まれるんだろう」
 
从;゚∀从「……」
 
 
  _
( ゚∀゚)「だが」
  _
( ゚∀゚)「それは、避けようのなかった事実」
  _
( ゚∀゚)「最初から定められていたルートだったんだ」
 
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「『拒絶』と戦うことが決まった時点で、この結末も、決められていた」
  _
( ゚∀゚)「それが、『拒絶』を拒絶する戦いだった、ってことだ」
 
 
 
 
.

398同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:27:32 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
从;゚∀从「なんで……なんだよ、それ!」
 
从;゚∀从「おい、どういうことだ、テメエ!」
  _
( ゚∀゚)「……」
 
从;゚∀从「『拒絶』をつくったのは、テメエだろ!」
 
( ´_ゝ`)「それは、違う」
 
从;゚∀从「――……?」
 
 
 まくし立てるようにハインリッヒが詰め寄ると、アニジャが横からそれを制してきた。
 ジョルジュが言ったように、彼女はいま、興奮している。
 水をさされたことで、つい、喉が詰まってしまった。
 出掛かっていた、流れるように出ていたそれまでの言葉の続きが、胃のほうに引き返していった。
 
 
 
( ´_ゝ`)「こんな話を、〝これ〟を前提にしてこんなことを言うのもおかしな話だが……」
 
( ´_ゝ`)「『拒絶をつくったのはジョルジュだ』」
 
( ´_ゝ`)「これは、違うぞ」
 
从;゚∀从「は……ハア? なに言ってんだ、ボケ」
 
从;゚∀从「こいつは、自分で、言った。白状した」
 
从;゚∀从「ショボンやモララーたちを、『拒絶』にしたのは俺だ、と」
 
 
从;゚∀从「パンドラの箱をつかって……だ」
 
 
.

399同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:28:06 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( ´_ゝ`)「ああ。行動を起こしたのは、確かにジョルジュだ」
 
从;゚∀从「………なにが、言いたい」
 
( ´_ゝ`)「簡単なことだ」
 
( ´_ゝ`)「この、『拒絶』を拒絶する戦い。それを、最初に創りあげたのは―――」
 
 
 
 
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「確かあんただったよな」
 
 
( ´_ゝ`)「……『作者』とやら」
 
 
 
 
 
.

400同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:28:40 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
( ;^ω^)「……」
 
 視線が内藤に向けられる。
 『登場人物』が、『作者』をにらむ。
 内藤はその光景にいささか奇妙なものを感じつつ、しかしそれを口にはしなかった。
 
 
 
( ;^ω^)「……」
 
( ;^ω^)「『拒絶』……アンチ……。」
 
( ;^ω^)「これが、没ネタ……現実世界での没ネタってのは、もうみんな知ってると思うお」
 
 
 うなずきは、しない。誰も。
 しかし、求めても、いない。誰も。
 
 静まった空気を見て、それが肯定を表していることを内藤は察した。
 そのため、彼は、険しい顔つきのまま、続けた。
 
 
 
( ;^ω^)「じゃ、じゃあ。質問だお」
 
( ;^ω^)「……考えたこと、あったか?」
 
 
         コ レ
( ^ω^)「 『拒絶』編 が、没になった理由を」
 
 
.

401同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:29:13 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 既に、幾度となく言われてきたこと。
 〝なぜ、この話は、編集者には認められなかったのか〟。
 
 内藤はこの話を、彼らの強さを表現するために持ち出してきた。
 そのため、彼らは意識せずとも、その理由を、覚えていた。
 
 
从;゚∀从「………」
 
从;゚∀从「ただ、強すぎるから……だろ?」
 
( ^ω^)「ああ、そう」
 
从 ゚∀从「それが、どうし――」
 
 
 
 
( ^ω^)「それが、一点」
 
 
 
.

402同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:29:52 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
从 ゚∀从「―――え?」
 
/ ,' 3「待て。それが理由なんじゃろうて」
 
(  ω )「違う」
 
( <●><●>)「ほかに理由など――」
 
 
 〝ただ、強すぎるから〟。
 それは、当然、あった。
 
 もう、幾度となく言われてきた、その強さ。
 【常識破り】、【ご都合主義】、【手のひら還し】、【暴君の掟】、【運の憑き】、【全否定】。
 内藤のこの「理由」を持ち出されなくとも、自然のうちに理解することすらできるだろう。
 
 その理由が至極適当すぎて、ほかの理由が存在するなど、考えるはずもない。
 黙っていたアラマキとゼウスでさえ、口を挟まずにはいられなかった。
 
                      オカ
(  ω )「あんた達に、『拒絶』の狂しさを説明するために。それを先に、言っていた」
 
( ^ω^)「……わかりやすかったでしょ?」
 
 
.

403同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:30:35 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
从 ゚∀从「………言え」
 
 ハインリッヒが、威圧するように、言う。
 内藤としても、それは言われるまでもなかった。
 
 
( ^ω^)「強すぎるから……」
 
( ^ω^)「それは、物語を続けるがために懸念されたんだお」
 
( ^ω^)「主人公たちが勝てなかったら、それはとても人に見せられる物語とは言えない」
 
从 ゚∀从「……」
 
 
 
( ^ω^)「そして、もう一つ」
 
( ^ω^)「『拒絶』編が没になった理由」
 
( ^ω^)「そのとき、編集者に、これは連載することができない、と言われた理由」
 
 
 
 
( ^ω^)「今のあんたがそれだ、ハインリッヒ」
 
从 ゚∀从
 
 
.

404同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:31:15 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 静かに、言い放った。
 指を突きつけもせず、睨みもせず、具体的な言葉を並べもせずに。
 そのため、ハインリッヒは、ただきょとんとするしかなかった。
 
 
从 ゚∀从
 
从 ゚∀从「………」
 
 
 内藤の言わんとすることが今一飲み込めず、少し、呆然とした。
 ネーヨの消えた今、ほかに音を発するものは存在しない。
 ハインリッヒの前髪を揺らす風の音さえ、聞こえた。
 それほど、その一瞬は、静かだった。
 
 
从 ゚∀从「……」
 
从 ゚∀从「なんだよ」
 
从 ゚∀从「ハッキリした答えを言いやがれ、デブ」
 
( ^ω^)「ハッキリ? 言おうか?」
 
从 ゚∀从「言え」
 
( ^ω^)「んなもん、言うまでもない」
 
 
 
.

405同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:31:37 ID:iQbM/8Os0
おお!リアルタイム!!

支援

406同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:31:54 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
( ^ω^)「後味が、悪すぎるから」
 
 
 
 
 
 
 
.

407同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:32:39 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
从 ゚∀从「…ハ?」
 
从 ゚∀从「後味だと? なんの話だ?」
 
( ^ω^)「あんたは、今でこそ強がっているものの、心の底には、拒絶心が残っている」
 
从;゚∀从「ッ」
 
 強がっていることが、あろうことか内藤に見抜かれたため、図らずも動揺してしまった。
 それをなるたけ察させないよう、強気にハインリッヒは振舞った。
 
 
( ^ω^)「その理由は、なんだ?」
 
从;゚∀从「それこそ、言うまでもねーわ、ボケ」
 
( ^ω^)「なんだってんだお」
 
从;゚∀从「あいつが、」
 
 
从 ゚∀从「ネーヨが……正々堂々戦わず、途中で逃げた、から」
 
 
.

408同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:33:15 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( ^ω^)「それを、『読者』に見せてみろ。……どうなる?」
 
从 ゚∀从「…?」
 
从 ゚∀从「……、……」
 
 
 
从;゚∀从「………………。」
 
 
 ハインリッヒは、「そのこと」に気がついた。
 頬を伝う一筋の汗が、それを雄弁に物語っている。
 
 ハインリッヒも、気づいてしまった。
 これは、「描くことのできない物語」だったのだ。
 
 
 
( ^ω^)「ネーヨが、ボスが【全否定】である以上、」
 
( ^ω^)「で、【全否定】だといつでも逃げることができる以上」
 
( ^ω^)「どうしても、たとえ追い詰めることができても」
 
( ^ω^)「〝この結末〟を避けることは、できなかった」
 
从;゚∀从「…!」
 
 
.

409同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:34:12 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( ^ω^)「『読者』に、絶望を与える」
 
( ^ω^)「それを、最後の最後でひっくり返したら、確かに面白い」
 
( ^ω^)「でも、それが、できない」
 
( ^ω^)「つまり、」
 
( ^ω^)「読み終わっても、」
 
( ^ω^)「話が終わっても、」
 
( ^ω^)「誰も報われない、それこそ拒絶に満ちた、最悪な話と、なってしまう」
 
 
 
 
( ^ω^)「そう………言われたんだお」
 
 
 
.

410同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:35:01 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
/ ,' 3「言われた……か」
 
 アラマキが、ちいさく、言う。
 その声は、内藤には届いていなかっただろう。
 それは、声が小さかったから、というのもある。
 
 しかし、それ以外に。
 いま、内藤の記憶は、混乱していた。
 そんな要因もまた、彼の聴覚を弱まらせていたのだろう。
 
 
 
从;゚∀从「んなもん!」
 
从;゚∀从「死闘の末、ネーヨに純粋な心が芽生えて、」
 
从;゚∀从「円満に解決、戦いが終わる――で、いいじゃねーか!! なに言ってやがんだ!」
 
(  ω )「それをご都合主義っつーんだお!!」
 
从;゚∀从「!」
 
 
 
 
 
从;゚∀从「………ご都合、主義……!」
 
 
 
 
.

411同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:35:42 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 書き手によって、都合のいいように展開を迎えさせることを、ご都合主義と言う。
 そのことは、ハインリッヒが『劇』に通じていて、
 またそうでなくても、嘗てそのスキルを使っていた『拒絶』がいたのもあって、
 それに関してはすぐに、彼女は飲み込むことができた。
 
 
   从 ゚∀从『ご都合主義ねぇ』
 
   ( ^ω^)『あんたならわかるかお、ハインリッヒ』
 
   从 ゚∀从『知ってるも何も、ウチの世界じゃ、んなもんはご法度なんだよ』
 
 
 
 しかし、彼女が圧倒されたのは、その言葉の意味に圧倒されたからではない。
 内藤の言葉に、それ以上に重いものが籠められていた、ように感じられたからである。
 そして、なぜそれが重かったのか、については、すぐに予測を立てることができた。
 
 
 
 内藤は、『作者』 なのだ。
 
 
.

412同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:36:38 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
(  ω )「だから、ボツになったんだお!」
 
(  ω )「だから、現実では、報われる話を代用したんだお!」
 
从;゚∀从「ま、待てよ! 曲りなりにも、テメエ、『作者』だろ!」
 
从;゚∀从「じゃーなんで、そんな見せられねえような話を、考えたんだよ!」
 
(  ω )「なんで、だと?」
 
(  ω )「んなもん、あんたらに言われる筋合い、まるでないお!」
 
(  ω )「あんたらは『登場人物』だ! 『作者』じゃない!」
 
(  ω )「物語を創ることが許されるのは、『作者』だけだ!」
 
 
 
( ;ω;)「あんたらが口を出せる権利なんて、ない!」
 
 
.

413同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:37:35 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
从;゚∀从「……、……。」
 
(  ω )「この戦いのなかで、だァーれが、一番拒絶心を抱いたと思ってんだ!!」
 
(  ω )「報われないことがわかったからボツになったのに、」
                       ム シ                   アンチ
(  ω )「そんな事情なんざ『拒絶』されて、この『世界』じゃあ、『拒絶』が動いてやがる!」
 
(  ω )「……僕に、なにをしろって、……言うんだよ」
 
 
 内藤が、ぽつり、ぽつりと言い終えたかと思うと、彼は、その場にくずおれた。
 一筋だけ垂れた彼の涙は、ようやく、乾いた土の上に落ちた。
 
 『拒絶』たちの持つ力は、確かに、凄まじいものであったようだ。
 既に皆が目の前から消えたというのに、未だに、彼らを拒絶の呪縛から解き放とうとしていない。
 それが、内藤を、ハインリッヒを、皆を、苦しめていた。
 
 嘗て編集者がボツにした、と言われたのは正しかった。
 皆に、報われない気持ちのみをばら撒くだけの戦いとなってしまったのだ。
 
 
.

414同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:38:11 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 まず、ショボンを倒した。
 あらゆる『現実』を操られたにも関わらず、
 彼を凌駕する『ご都合主義』、【正義の執行】で倒した。
 
 次に、ワタナベを倒した。
 あらゆる『因果』を拒まれたにも関わらず、
 そもそもの因果関係が拒まれている【則を拒む者】で倒した。
 
 続けて、モララーを倒した。
 あらゆる『真実』を隠されたにも関わらず、
 彼の心を覆っていた鎧を、信頼を壊すことで倒した。
 
 最後に、ネーヨを倒した。
 あらゆる『拒絶』を拒絶されたにも関わらず、
 その更なるアンチの存在により、その他一切のアンチを拒絶することで倒した。
 
 
  アンチ
 『拒絶』は、拒絶した。
 
 しかし、彼ら『革命』は、結果として、負けた。
 
 拒絶心を、拒絶することができなかったのだから。
 
 
.

415同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:38:43 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 『拒絶』を拒絶することはできても
 
 
 拒絶を拒絶することが、できなかったのだ。
 
 
 
 
 
.

416同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:39:15 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

417同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:39:47 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
从;゚∀从「……は、ハ」
 
从;゚∀从「な、なんだよ、それ」
 
从;゚∀从「私たちは、負けた……負けたのか?」
 
从;゚∀从「連中を、みんな倒したのに、負けたのか?」
 
 
 
(  ω )「……」
 
 
 
从;゚∀从「冗談だろ? なあ、おい」
 
从;゚∀从「おい、なんか言えよ、クソジジィ」
 
从;゚∀从「テメエ、〝勝った〟じゃねーか。その破壊の拳でよお」
 
从;゚∀从「倒した、だろ? 殺しただろ? 勝っただろ?」
 
 
 
/ ,' 3「……」
 
 
 
.

418同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:40:20 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
从;゚∀从
 
 
从;゚∀从
 
 
从;゚∀从「……か、…勝った……」
 
 
从;゚∀从「勝った……勝ってる……!」
 
 
从;゚∀从「この戦いに、私たちは……勝った!」
 
 
从;゚∀从「勝ったんだろ!? きれいさっぱり、終わったんだろ!?」
 
 
从;゚∀从「な、なあ! 答えてくれ!」
 
 
从 ;∀从「答えてくれ! なあ!」
 
 
 
.

419同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:40:56 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「………」
 
从 ;∀从「なあ! 違うのか?」
 
从 ;∀从「た、助けてくれ! お、襲われる! 拒絶に!」
  _
( ゚∀゚)「……」
  _
( ゚∀゚)「精神療養に一番効果的な療法は、日にち薬だ」
 
从 ;∀从「やめろ! そ、その前に、死ぬ! 死ぬ!!」
  _
( ゚∀゚)「落ち着け。……ついに、拒絶心が氾濫したのか?」
 
从 ;∀从「違う! 勝った! 勝ったんだ、私たちは! 『革命』は!」
 
从 ;∀从「まだあいつらに呪われてる? 嘘だ、嘘だ! 嘘だ!!」
 
从 ;∀从「お、おい、ネーヨ! 出てこい!! どこだ!!」
  _
( ゚∀゚)「あいつは、いない。消えたんだ。」
 
从 ;∀从「違う! ありえない! 隠れてるだけだ! 嘘だ!!」
  _
( ゚∀゚)「……」
 
 
.

420同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:41:28 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 ハインリッヒの精神は、ついに崩壊を向かえた。
 ネーヨが消えてから崩壊するなど、異端としか思われなかった。
 異端としか思えないほど――拒絶の力は、凄まじかったのだ。
 
 ハインリッヒは、虚勢が一般人の内藤に見抜かれてしまうほど、精神的に不安定だった。
 『拒絶』との連戦のせいで、立ち直れなくなるほど、後遺症を残してしまうほど、心を、痛めた。
 それを払拭するには、彼と――ネーヨと、正々堂々戦って、勝って、
 彼女が言うところの「円満に」全てを終わらせるしかない。
 
 だが、それは、不可能だ。
 避けようのない現実だ。甘受するしかない。
 
 そう言われた途端、彼女のなかの何かが崩壊し、
 さながらダムのように、そのひびから、禍々しいものが溢れ出てきたのであった。
 
 
  _
( ゚∀゚)「……お前は、もう、逃げられないんだよ」
  _
( ゚∀゚)「『拒絶』の呪縛から、それも永遠に……な」
 
 
 
从 ;∀从「……」
 
从 ;∀从「………う、嘘……。」
 
 
 
.

421同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:42:36 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
从 ;Д从「あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああああああ
.      あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 
 
 
 
.

422同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:43:06 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

423同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:43:40 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                「 嘘だぜ。 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

424同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:44:12 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
( <●><●>)「―――ッ」
  _
( ゚∀゚)「っ…」
 
 
 
 ハインリッヒが、拒絶に完全に呑まれてしまいそうになった時。
 背後、それもずっと遠くから、ちいさく、短く、速く、そんな言葉が聞こえてきた。
 それに、ハインリッヒ以外の皆が、反応した。
 
 反応せざるには、得られなかった。
 その声が示すところの光景は、紛れもない『異常』となってしまうからである。
 見るものがアニジャであろうと、アラマキであろうと、「それ」が異常な光景であることに、違いはなかった。
 
 
 
/ ,' 3「……っ」
 
( ;´_ゝ`)「い、今、何て言った……?」
 
 
 
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「………『嘘』?」
 
 
 
 
 
.

425同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:44:44 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 ハインリッヒも、皆の反応に気づいた。
 そして、皆が、「それ」のほうに振り向いた。
 
 
 彼らは、悪寒と興奮を同時に感じた。
 
 
 
 
 
 
 
 ネーヨがそこに、横たわっていたのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

426同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:45:14 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
   「嘘だ。ああ、『嘘』だ。」
 
 
   「あっ、いっけね。どんな『嘘』か、言ってなかったな」
 
 
 
 
 
( <●><●>)「……! 貴様――ッ」
 
 
( ;´_ゝ`)「ど、どうして、あんたが……ッ!」
 
 
 
.

427同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:45:46 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
   「ああ、悪かったな。俺、嘘を三つ、ついてた」
 
 
   「一つ、俺は死んでないし、気絶してもない」
 
 
   「一つ、旦那は『全否定』していない」
 
 
   「一つ、」
 
 
 
 
.

428同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:46:23 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
( メ∀ )「『旦那が消えたのは全否定を使ったからだ』」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

429同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:46:59 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「―――ッ!!?」
 
 
( ;゚ω゚)「も―――モ………っ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「 モララーッ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

430同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:47:42 ID:s2sNBMOk0
ちょっと休憩して引き続き投下

431同志名無しさん:2013/06/30(日) 17:49:49 ID:iQbM/8Os0
wktk

432同志名無しさん:2013/06/30(日) 18:43:27 ID:B5OC4.m20
やっぱいいなモララー

433同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:16:49 ID:s2sNBMOk0
拒絶編、最終話投下します

434同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:17:53 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
   拒絶するものは、『真実』。
 
 
 
   『真実』と『嘘』は表裏一体。
 
 
 
   『現実』と『因果』に先行する『真実』を拒絶する。
 
 
 
   あらゆる『真実』を台無しにする、『拒絶』一の好戦家。
 
 
 
 
 
 
 
.

435同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:18:29 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
( メ∀ )「―――ギャッハハハハハハハッ!!!」
 
 
 
 
   モララー=ラビッシュ
 
 
   【常識破り】が、そこに立っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

436同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:19:22 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
从 ;∀从「――――、」
 
从;゚∀从「―――ッ……、」
 
 
 
从;゚∀从「なッ―――てめえ!!」
 
从;゚∀从「ど、どうしてテメエが――」
 
 
 モララーは、〝死んだ〟。
 トソンの『拒絶』化からはじまった、一連の『真実』に、殺された。
 
 『拒絶』とは、その元となるのは主の精神体である。
 その精神体が崩壊――機能停止を望んだことで、モララーは、死んだ筈、だった。
 
 しかし、目の前でモララーが立っているのを見て、
 中身が空のモララーを蹴り飛ばしたハインリッヒは、呆然としていた。
 いや、混乱といったほうが近かったかもしれない。
 先の今で、思考が追いついていけずにいるのだ。
 
 
 
.

437同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:20:03 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
( メ∀ )
 
 
 
 
 
  _
( ;゚∀゚)「仕留めきれて……いなかっただと?」
 
( ;゚ω゚)「ま、まずあいつを倒すんだお!!」
 
/;,' 3「くッ―――」
 
 
 内藤に言われた時点で既に、彼らは飛び出していた。
 アラマキ、ゼウスの二人が、先陣を切った。
 揺らめく影のように、力の入っていないような立ち方をするモララーに向かって。
 
 
.

438同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:20:49 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
( メ∀ )「まあ、聞けよ」
 
( <●><●>)「ッ――」
 
 
 だが、一度倒せたとは言え、モララーは『拒絶』なのだ。
 それも、ショボンやワタナベを淘汰できる実力の持ち主である。
 その戦闘における力は、『革命』の面子を見ても、遜色のないものとなる。
 
 それを、開口一番で思い知らされた。
 先ほどまでそこで揺らめいていたモララーは、彼らが飛び掛った瞬間、消えた。
 
 どこに現れるのか、と、悩むことはなかった。
 彼は、すぐに姿を現したのだ。
 ゼウスの、頭の上に。
 
 言うまでもなかった。彼の、スキルだった。
 その瞬間移動は、まさに【常識破り】なものだ、と言えた。
 
 
 すぐさま、ゼウスは膝を折り、迎撃の態勢にでる。
 しかし、思考相応で発動するそのスキルに、敵う筈もない。
 ゼウスが膝を折ったと同時に、再びモララーは消えた。
 「聞けよ」と、一言だけを残して。
 
 
.

439同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:21:23 ID:s2sNBMOk0
 
 
                   アンラッキー
( ;^ω^)「いいか、この場には【 7 7 1 】がいるぞ! モララーッ!」
 
( メ∀ )「へ〜?」
 
( ;゚ω゚)「―――ッ!!」
 
 
 彼の、出し惜しみなくスキルを使う様を見て、内藤もいよいよ、忘れかけていた拒絶を思いだしてきた。
 顔には、陰りができている。
 
 紛れもなく、『拒絶のオーラ』にセーブをかけていないときの顔と一緒だった。
 「本気を出している」モララー、と。
 
 ゼウスの頭上から、次に彼が移ったのは、内藤の目の前であった。
 ぬッと顔を寄せてきて、内藤の喉が、きゅッと閉まった。
 彼の残された左目は、ぎょろッと剥いている。
 そのことが余計に、彼に恐怖心を煽った。
 
 
 出し惜しみをしない様を見て戦慄を覚えたのは、ほかの皆も一緒だった。
 彼は今まで、出し惜しみ、手加減ばかりをしていた男だ。
 本気を出したのは、彼の『拒絶の精神』が危ぶまれたときだけ。
 
 精神体が万全な状態で放たれる、本気の【常識破り】。
 それに関しては、彼らは無知以外のなにものでもなかった。
 それだけ、それに対する恐怖は増幅されていった。
 
 
.

440同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:22:04 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 モララーは、内藤の目の前から、先ほどのように再び瞬間移動しようとはしない。
 彼の出し惜しみのない様を見て、ほかの皆も、迎撃するのを諦めざるを得なくなったのだ。
 本気を出されては、闇雲に突進しても、勝つ見込みなどまるでないためである。
 
 そのため、モララーは瞬間移動をしなくなったのだろう。
 しかし、理由はそれだけではなかったようだ。
 彼は、内藤に、用があったのだ。
 
 
( メ∀ )「おい、おまえ」
 
( ;゚ω゚)「ななッ、は、はい!」
 
 
 内藤をじろッと睨みつけて、問う。
 内藤は、ただ、敬礼するかの如く直立しては、恐怖に戦くことしかできなかった。
 
 
( メ∀ )「一つ、取引がある」
 
( ;゚ω゚)「なッ――……なんですかお!?」
 
( メ∀ )「これで、最後だ」
 
( メ∀ )「最後に―――」
 
 
 
.

441同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:22:52 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 内藤は、耳を疑った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

442同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:23:26 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
( メ∀・)「俺たちと〝正々堂々〟戦え」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

443同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:24:20 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                                         第四十話
 
                                        「vs【全否定】Ⅷ」
 
.

444同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:24:59 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 

 
 
 
 その言葉に耳を疑ったのは、内藤だけではなかった。
 アラマキ、ハインリッヒ、ゼウスが驚いたのも当然だった。
 加えて、
 
 
( ´_ゝ`)「……なんの気の迷いだ、モララー」
 
( メ∀・)「んー?」
 
 
 アニジャ=フーンもまた、彼の言葉を聞き返さずにはいられなかった一人であった。
 
 
 
.

445同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:25:38 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( ´_ゝ`)「……あんたたちは、『拒絶』は。」
 
( ´_ゝ`)「旦那が消えたことで、勝ちが、決まった」
 
( ´_ゝ`)「戦いとしては全敗だったとしても……結果としては、勝つことが、できていた」
 
( ´_ゝ`)「なのに、だ」
 
 
 
 
( ´_ゝ`)「なにが……今更になって、正々堂々だ」
 
( メ∀・)「……」
 
 
 
.

446同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:26:25 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 アニジャが、半ば恫喝するかのように問う。
 声としてはちいさかったのに、それには重みがあった。
 威圧感によく似た重みが、モララーにのしかかった。
 アニジャからそういったオーラが漂うなど、平生では考えられなかった。
 
 アニジャは現状では、『革命』の味方でも『拒絶』の味方でもない。
 だからこそ、本来ならば関係ない筈なのだ。
 モララーが「正々堂々」という言葉を使うことにも、また未だに戦おうとすることにも。
 
 だというのにこうして声を重くさせてまで口を挟んだ理由がわからない、そんな者はここにはいなかった。
 加えて、そのことについて言及しようとする者も、いなかった。
 空気が、そうするのを防いだ。
 無条件でアニジャの「怒り」が正当化される空気と、なっていた。
 
 
( ´_ゝ`)「なんだ。物理的な戦いで全敗したのが、それだけ悔しいってか」
 
( ´_ゝ`)「人を嘗めるのも、いい加減にするんだな」
 
 
 そして、それは正当化されて然るべきだった。
 アニジャはそれまで『拒絶』サイドの人間だった、だからこそ誰もがそのときまでは気づけなかったことだ。
 
 
 
 
 アニジャも、拒絶に呑まれかけていた男の一人だったのだ。
 
 
 
.

447同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:27:16 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( メ∀・)
 
( メ∀・)「………理由が、ほしいか」
 
( ´_ゝ`)「……」
 
 
 アニジャは、応えない。
 だが、その視線が、答えを物語っていた。
 
 元々細い目が、更に細くなる。
 目の下の筋肉に力が入る。
 若干痙攣が如くぴくぴく動くさまが、遠くからでもわかる。
 
 拒絶を我慢する必要がなくなった今だからこそ、
 アニジャもあるがままの姿になったのだ、と見ていいだろう。
 モララーは、そのような姿を見せ付けられてもなお黙ろうとするような男ではなかった。
 
 
( メ∀・)「……」
 
( メ∀・)
 
( メ∀-)
 
 
 
( メ∀・)
 
 一度俯いたかと思えば、モララーは顔をあげた。
 そのときになってはじめて、わかったことがあった。
 ――いや、このときになってはじめてそうなっただけなのかもしれない。
 
 
 モララーの瞳が、鏡のように反射するようになったのだ。
 
 
.

448同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:27:53 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( メ∀・)「………」
 
( メ∀・)「最初は……」
 
( メ∀・)「ネーヨの旦那を消すことで、おまえらの息切れを狙った」
 
( メ∀・)「発散しきれてない拒絶心を爆発させて……それで、勝ちを狙った」
 
( メ∀・)「案の定、それで『英雄』が早速、壊れた。いや、壊れようと、した」
 
( メ∀・)「でも、だ」
 
( メ∀・)「ふと、気づいちまったわけよ」
 
( メ∀・)「『これでいいのか』……?」
 
( メ∀・)「確かにそうすれば、確実に、勝ちをもぎ取れる」
 
( メ∀・)「ゼウスや白衣は生き残るかも知れんが……サイアク、相討ちには、なる」
 
( メ∀・)「ただでさえこっちのスキルが一通り拒絶されてんだ、圧勝なんて捨ててる」
 
( メ∀・)「でも」
 
( メ∀・)「倒れてるフリをしてた間、ずっと考えてたわけよ」
 
( メ∀・)「で、気づいた」
 
 
 
 
( メ∀・)「ぜんッぜん、満たされねえ」
 
 
 
.

449同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:29:24 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( メ∀・)「なんでだ?」
 
( メ∀・)「俺を破滅に追い詰めた白衣をはじめとして、」
 
( メ∀・)「俺に貫手を見舞いやがったジジィも」
 
( メ∀・)「俺の取引の役に立たなかったゼウスも」
 
( メ∀・)「ショボンを殺し、ワタナベを利用して旦那にも勝った『英雄』も」
 
( メ∀・)「その全員を一度に葬れるこの上ないチャンスだった、ってのに」
 
( メ∀・)「まっっっったく、満たされそうになかったんだ」
 
( メ∀・)「でも、答えは、すぐに出てきた」
 
 
           ホンキ
( メ∀・)「俺が『大嘘』を見せれねえのと一緒。」
 
( メ∀・)「ンなことしたって、全く報われねえんだよ、これだと」
 
 
 
.

450同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:29:57 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
( メ∀・)「俺が負けたって『真実』は、消えないんだ」
 
( メ∀・)「同志が根絶やしにされたって『真実』も消えないし、」
 
( メ∀・)「旦那でさえ拒絶されたっつーな『真実』も消えない」
 
 
 
( メ∀・)「もし、さっきのままで、おまえらの自爆が決まっても、だ」
 
( メ∀・)「そっちが息切れすんのと一緒で」
 
( メ∀・)「こっちも、そんな『真実』に呑まれて、自爆するリスクがあった」
 
( メ∀・)「これで勝っても―――俺まで、同じ末路を辿ることになんのは目に見えてやがる」
 
 
 
.

451同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:30:30 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
( メ∀・)「一度は、負けた。」
 
 
( メ∀・)「だから」
 
 
( メ∀・)「勝ちたいんだ」
 
 
( メ∀・)「小細工なんてなしで、おまえらに勝ちたいんだ」
 
 
 
 
 
 
 
        ホンキ
( メ∀・)「『真実』で、おまえらに勝ちたいんだ」
 
 
 
 
 
.

452同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:31:04 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
( ^ω^)「………っ!」
 
( メ∀・)「それが、『拒絶』としての、理由」
 
( メ∀・)「で、だ」
 
( メ∀・)「俺は、決して人に誇れるような人生を歩んでこなかった」
 
( メ∀・)「しょぼい家に生まれて、しょぼい盗みを働いて」
 
( メ∀・)「しょぼい裏切りをかっ喰らって、しょぼい箱に閉じ込められて」
 
( メ∀・)「だから、いつの間にか、俺は、自分に期待なんてしない男になっていた」
 
( メ∀・)「筋肉はないし、だから体重も軽いし、メンタルなんて豆腐だ」
 
( メ∀・)「自分より強い奴が現れても、『真実』を狂わせてりゃあ、勝ってた」
 
( メ∀・)「『勝った』ってのは『嘘』なんだが、でも俺は、それでいいや、って思ってた」
 
 
( メ∀・)「でも、どうして、だろうなあ」
 
( メ∀・)「今まで、ほかの『能力者』どもを潰してた時には感じなかったことだ」
 
 
 
 
( メ∀・)「おまえらにだけは、負けたくない」
 
( メ∀・)「……うらやましく思えちまうんだよ、おまえたちが」
 
 
 
.

453同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:31:36 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
/ ,' 3「儂……らが、か」
                    ゼ ロ
( メ∀・)「勝率なんて、『絶望的』なのに」
 
( メ∀・)「勝てないとわかってて、立ち向かってくる」
 
( メ∀・)「で、勝っちまった」
                      ジツリョク
( メ∀・)「小細工なんてなしで、『 真 実 』で勝ちやがった」
 
( メ∀・)「それが、たまらなくうらやましいんだ」
 
( メ∀・)「小細工なしで、蟻ごときが恐竜に勝つ?」
 
( メ∀・)「ははは。俺も、勝ってみてえ」
 
 
 
( メ∀・)「嘘ばっかついてぽっかり空いてった穴を、埋めてみてえなあ」
 
( メ∀・)「死ぬ前に、いっぺんだけで………いい」
 
( メ∀・)「からっぽになった俺の心を、幸せで埋めてみたい」
 
 
 
 
( メ∀・)「それが、嘘偽りのない、俺の真実、だ」
 
 
 
.

454同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:32:09 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( ´_ゝ`)「―――ッ……。」
 
( メ∀・)「今ので……問題ないか? アニジャ」
 
( メ∀・)「と、」
 
 
 
 
 
 
 
 
( メ∀・)「旦那」
 
 
 
 
 
 
 
.

455同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:32:46 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( ;^ω^)「……え?」
 
 「旦那」。
 アニジャとモララーがネーヨに対して使う、二人称。
 それを聞いて、内藤を含めその場にいた人間は、どきっとした。
 
 彼が呼びかけられるということは、つまり、彼は覚醒している、ということだ。
 少なくとも、死んでいるわけでは、決して、ない。
 彼に意識が戻っている、というのがわかって、ぎょっとせざるにはいられなかった。
 
 忘れかけていた拒絶心が蘇ってきた、と言うべきだろう。
 そのため、このときから、呼吸が極端なまでに深くなってしまった。
 
 
 
 モララーもアニジャも、伏しているネーヨに目を向ける。
 最初の数秒は、反応がなかった。
 その様はまるで、屍のようでもあった。
 
 だが、その更に、数秒後。
 そろそろ、内藤たちの呼吸がつらくなってきた頃。
 ネーヨは、ぱらぱらと砂を落とすそれ以外の音を完全に消した状態で、のっそりと立ち上がった。
 
 
.

456同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:33:26 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 それを見て、ハインリッヒは数秒、無呼吸状態になった。
 目が見開かれ、眼球が飛び出そうになる。
 いや、むしろ、飛び出したがっているかのように思われる。
 
 起き上がったネーヨからはやはり、威圧感が感じられた。
 ぶ厚い筋肉で覆われた巨躯は、その肩書きやスキルを無視しても、
 彼らに自身を直視させなくさせるような威圧感を備えているように思われた。
 
 同じく太い首を、上下に捻る。
 それに乗じて数度、関節の鳴った音がした。
 そのまま、ネーヨは、視線をこちらに向けた。
 
 
 
 こちら――モララー、のほうに。
 
 
 
( メ∀・)「…」
 
( ´ー`)「…」
 
 
 ネーヨは、モララーを頭からつま先まで、凝視する。
 嘗め回すように、視線を数往復させる。
 
 モララーは微動だにしない。
 どころか、威風堂々たる様を見せている。
 
 それがどこか、奇妙に思えた。
 それまでと同じ、『拒絶』の一人のモララーなら
 少なくともこのような様子は見せていなかっただろうに、と。
 
 それを見かねたのか、違うのか。
 ネーヨは閉じていた口を、漸く、気だるげに開いた。
 そのときに聞こえた息を吸う音がどこか、この上のない威圧感を放っているように思われた。
 
 
.

457同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:33:59 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
( ´ー`)「…………」
 
( ´ー`)「………モララーが『嘘』で俺を消した、ってのは、わかっていた」
 
 
 
( ´ー`)「なんで、邪魔をしやがった、モララー」
 
 
 
( メ∀・)「悪ィな、旦那」
 
( ´ー`)「答えろ。返答次第じゃ、ただじゃ済ませねえぞ」
 
( メ∀・)「信じたくなかっただけさ」
 
( ´ー`)「……?」
 
 
( メ∀・)「旦那が自決を決めたら、『拒絶』の負けを嫌でも認めないといけない」
 
( メ∀・)「それが、嫌だった」
 
( ´ー`)「俺たちは、全員、負けた。もう、拒絶しようのない『真実』だ、甘受しやがれ」
 
( メ∀・)「できないね、そりゃあ」
 
( ´ー`)「『真実』を拒絶してえのはわかるが、おめえは――」
 
( メ∀・)「まだ、負けちゃあいない」
 
( ´ー`)「……おめえは、何が言いたい」
 
 
.

458同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:34:30 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( メ∀・)「負けは、自分で認めてはじめて、負けなんだ」
 
( メ∀・)「今、『英雄』たちは、負けを認めないままに、死ぬところだった」
 
( メ∀・)「一方で、俺も、負けを認めないまま、死ぬところだっただろう」
 
 
 
 
( メ∀・)「それが、嫌だった」
 
 
 
.

459同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:35:04 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
( メ∀・)「俺は、」
 
 
( メ∀・)「負けを認めてねえのに、負けたくなんかない」
 
 
 
 
 
 
.

460同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:35:34 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
( メ∀・)「ご都合主義だって言われても」
 
 
( メ∀・)「手のひら返しだって言われても」
 
 
( メ∀・)「常識破りだって言われても」
 
 
 
 
 
 
.

461同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:36:06 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
( メ∀・)「それだけは、絶対に嫌だ」
 
 
( メ∀・)「俺の心が、拒絶してるんだ」
 
 
 
 
 
 
.

462同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:36:46 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
( ^ω^)「…!」
 
 
( ´ー`)「……、」
 
( メ∀・)「今の答えじゃあ、ただじゃ済まないかな?」
 
( ´ー`)「………」
 
 
 モララーが、ネーヨの顔を、覗き込むように見る。
 『拒絶』のモララーには見ることのできた、嫌な笑いは、そこには見られなかった。
 常にふざけているようなモララーの、お調子者と思えるような仕草は、見られなかった。
 『真実』を面白半分に笑って一蹴するモララーの不届きな態度は、感じられなかった。
 
 
 モララーは今まで、『真実』を隠して、生きてきた。
 自分が負けそうになっても、知らぬ存ぜぬで押し通し、【常識破り】で切り抜けてきた。
 彼が笑って駆逐した【無私の報せ】などと呼ばれた『能力者』にも、何度か、殺されているのだ、『真実』としては。
 
 だがモララーは、そんな『真実』、まるで受け止めようともしなかった。
 もし受け止めていたら、格下にも程がある『能力者』が相手だったのだ、
 持ち前の高尚なプライドはずたずたにされ、あるいは、そのまま死に直結していたかもしれないだろう。
 
 
 それが、モララーなのに。
 今の言葉には、どれをとっても、彼の本音しか感じられなかった。
 モララーが、本来なら受け止めたくないのであろう筈の『真実』を、ぺらぺらと話していた。
 そのことが、ネーヨにとっては、にわかには信じられなかった。
 
 そのため、ネーヨは、大きな声を、出さなかった。
 モララーが見てくる目の前ので、ネーヨは、小さく、言った。
 
 「合格だ」、と。
 
 
 
.

463同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:37:19 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
( ^ω^)「!」
 
从 ゚∀从「ッ!」
 
( ´_ゝ`)「じゃ、じゃあ……」
 
 
 
 
( ´ー`)「乗ったぜ、その話」
 
 
 
 
( <●><●>)「!」
 
/ ,' 3「なに…?」
  _
( ゚∀゚)「プロメテウス、お前……」
 
 
( メ∀・)「……!」
 
 
.

464同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:37:54 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 モララーの顔から、陰りが、抜けていく。
 それに気づくことのできた者は、いなかった。
 皆が、ネーヨを見ていたためだ。
 
 そのため、この瞬間、
 モララーの心から、少し、
 『拒絶』だからこそ抱いてしまう拒絶心が、すぅーっと抜けていった、
 そのことに気づくことのできた者も、いなかった。
 
 
 ネーヨが、嘗てのような涼しい表情で、
 しかし、その内面には熱いものを抱えて、
 『革命』の面子に、その顔を、見せた。
 
 それを見ることで、彼らの心に植えつけられつつあった、
 自爆を誘っていた拒絶心も、すぅーっと抜けていった。
 そのまま、この戦場でばらけていた『革命』の面子は、やがて一箇所に、集まっていった。
 
 
 
 
 左方に、アラマキ、ゼウス、ハインリッヒ、ジョルジュ。
 右方に、ネーヨ、モララー。
 
 
 
 今ここに、戦いの構図が、できあがった。
 
 
 
.

465同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:38:25 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
( ´ー`)「………小細工は、なしだ」
 
/ ,' 3「よいのか? そんなことを言って、ハンデを設けての」
 
/ ,' 3「負荷を『拒絶』せぬおぬしなど、一瞬でチリになってしまいそうなんじゃがのぅ」
 
( ´ー`)「ご心配、どうもありがとうよ」
 
( ´ー`)「だがな、一応言っといてやる」
 
( ´ー`)「俺は―――」
 
 
 
 
 
 
( ´ー`)「小細工なしのタイマンが、一番強えんだ」
 
 
/ ,' 3「奇遇よの。儂もじゃ」
 
 
 
 
 ネーヨが、走った。
 
 
 
 
.

466同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:39:04 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 

 
 
 
 その瞬間、最後の戦いははじまった。
 
 
 『革命』と『拒絶』の、全面戦争だ。
 しかし、前者が四人なのに対して、後者は二人。
 元々アニジャは『拒絶』サイドの人間だったが、今は抜けており、
 この場にいるもう一人の『拒絶』、トソンは、未だに動ける気配を見せない。
 
 つまり、正々堂々、小細工なしの戦いである以上、
 この四対二の構図は、自分たちにとって不利以外のなにものでもなかった筈なのだ。
 それは、ネーヨでなくとも、提案したモララー自身でさえ、気づけた筈である。
 
 それなのに、どうしてモララーはそれを提案し、ネーヨはそれに賛成したのか。
 その理由は、考えるだけ野暮と言われるほど、実にシンプルで、馬鹿正直で、情けないものだった。
 
 
 
 二人とも、納得して、負けたかったのだ。
 
 
.

467同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:39:38 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( ´ー`)「――ッ」
 
 
 ネーヨが本気で駆け出すと、その地面には、窪みができる。
 その分、速く、力強い走りとなる。
 
 モララーにもハインリッヒにもゼウスにも劣るその走りだが、
 しかし威圧感においては右に出る者がいないのが、彼の、小細工を介さない走りだ。
 
 そして、アラマキに手前三メートルまで迫ったところで、ネーヨは右腕を振りかぶった。
 速くはない。アラマキなら、彼が手前五メートルまで迫ってきたところで、避けるか反撃に出ることは可能だった。
 
 だが、彼はそうはしなかった。
 彼は、腰を低く落とし、ネーヨ同様に右腕を後ろに引き、構えたのだ。
 今の彼から、能力を使ってカウンターを試みよう、とする様子は、窺えない。
 
 
 
 
 『破壊』を司る、『武神』の拳。
 
 それと、ネーヨの渾身の一撃とが、かち合った。
 
 小細工なしの「力」と「力」が、ぶつかり合った。
 
 
 
.

468同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:40:24 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
( ;´ー`)「――ッ!」
 
/;,' 3「ぬおッ――」
 
 
 そして、直後に、二人は腕を引いた。
 肩が胴体から引きちぎれるかのような錯覚に、両者ともが見舞われたのだ。
 半ば本能的に、二人はその場を飛び退いた。
 
 拳に、確かに残る感触。
 それは、アラマキが、未だ嘗て感じたことのない感触だった。
 ネーヨの拳に肩を持っていかれそうだったという、そんな感触である。
 
 それは、ネーヨも同じだった。
 建物を拳一つで壊すほどの力の持ち主で、
 また屈強な躯からわかるように防御力にも優れる筈のネーヨもまた、
 今しがたアラマキが感じたそれと似たようなものを、感じた。
 
 肩が、もがれそうになったのだ。
 肩が拳のぶつかり合いに耐え切れず、その任務を放棄しそうになった。
 それが、にわかには、信じられなかった。
 
 未だ嘗て、このような力の持ち主と、出会ったことがなかったのだ。
 この拳の、『破壊』における力は、ゼウスをも超える。
 ネーヨは、そう思った。
 
 
.

469同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:41:07 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( ´ー`)「―― チッ。」
 
 しかし、過去に例を見ない馬鹿力だからと気を抜くネーヨではない。
 そういう相手だったのだ、と割り切っては甘受することで、思考を放棄し、すぐさま次の行動にでる。
 アラマキも飛び退いたことで二人に距離ができたので、追撃を喰らうことは、なかった。
 
 
 
 ――と考えることは、できなかった。
 〝アラマキからは〟追撃を喰らうことはないだろうと思えど、決して、油断などしない。
 
 右前方から、「影」が迫るのが見えたのだ。
 逆光のせいでそれは影に見えたのだが、しかし逆光はそのはためく白衣まで隠すことはしない。
 ネーヨは即座に、それがジョルジュであることを把握した。
 同時に、自分と向かい合う位置にいたアラマキもまた、駆け出していた。
 
 真正面と右前方の、二方向。
 逃げるとすれば、左後方から真後ろまでの角度内。
 後ろには、誰も敵はいない。
 ネーヨが行動できる範囲は、その四十五度に絞られた。
 
 
 
 ――からと言って、その方角に逃げる男ではなかった。
 彼はなんの迷いなく、左の拳を後ろに引いた。
 そのまま、彼の左の拳は、ジョルジュの右足へと放たれた。
 
 
.

470同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:41:46 ID:s2sNBMOk0
 
 
  _
( ゚∀゚)「…」
 
( ´ー`)「嘗めんなよ」
 
 
 脚と腕では基本的に脚のほうが力は勝るのだが、この時に限っては、腕が勝った。
 要因としては、ネーヨは地上で踏ん張っていたのに対し、ジョルジュは宙にいたこと。
 そして、彼の蹴りよりも、圧倒的にネーヨの殴りのほうが力が上回っていたこと。
 この二点が、ジョルジュの蹴りを文字通り一蹴することになった。
 
 ネーヨが小さく吐き捨てた直後、アラマキが射程圏内に入った。
 ネーヨは左腕を〝右前方〟からやってきたジョルジュに放ったため、
 結果的に、〝真正面〟からやってきたアラマキに左肩と背中を見せざるを得ない状況となっていた。
 
 この状況でアラマキの攻撃を受けるのは必至。
 防御しようものなら、ゼウスやハインリッヒに見られる軽い身のこなしが要求される。
 しかし、ネーヨに、そのような体術は備わっていない。
 このとき、アラマキの先制が、約束された。
 
 フックのように、曲がった軌道に乗った拳が、ネーヨの左肩に命中した。
 踏ん張っていなかったため、威力はがくっと落ちているが、それでも彼の左拳の威力を下げるほどの力はあった。
 現に、めり、と云う音が聞こえたのだ。
 幸先のいいスタートになった、とアラマキは思った。
 
 思った直後、アラマキは左頬に強い衝撃を受けた。
 顎が、めり、と云う音を立てた。
 彼は宙に浮いていたため、踏ん張ることができず、そのまま右方向に飛ばされた。
 
 なにがあったのか。考えるまでもなかった。
 ネーヨは、右方向に突き出していた左の拳を、左方向に振り放ったのだ。
 その裏拳が、アラマキの左頬に、クリーンヒットした。
 
 ネーヨは、アラマキからの先制攻撃を受けることを前提にして――
 つまり、カウンターを、見舞った。
 ただ、それだけの話だった。
 
 
.

471同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:42:31 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
/ ,' 3「『解除』ッ!」
 
( ´ー`)「――!」
 
 左方向に鋭いベクトルで飛ばされた、アラマキ。
 およそ数秒ほどの猶予はできるだろう、その隙にならジョルジュを相手取ることができそうだ。
 そう思ったネーヨだったが、しかしアラマキは自分から五メートルも離れなかった。
 
 ネーヨから貰った裏拳の「慣性」を、『解除』したのだ。
 一瞬宙でぴたりととまったかと思えば、重力に従ってその場に落ちる。
 体勢は不恰好なままなので、着地する前に地を蹴ってそれを整える。
 結果、ネーヨとアラマキは至近距離のままに違いなかった。
 
 本来は、飛ばされていた。
 そのうちに、ジョルジュを相手取ろうと考えていた。
 しかし実際は、飛ばされなかった。
 そのため、ジョルジュを相手取る時間的猶予をもらえなかった。
 ネーヨの計算は、狂った。
 
 その隙を、ジョルジュの鋭い右脚が衝いた。
 槍のように素早い蹴りが、がら空きになった胸に向かう。
 左手には、アラマキがいる。
 
 またもや、ネーヨに防御の手段はなかった。
 ネーヨは、そのぶ厚い胸板で、ジョルジュの蹴りを受け止めた。
 
 
.

472同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:43:39 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 砲撃を受けたような衝撃だった。
 三十センチ弱の砲丸が直撃してきたような痛みだった。
 さすがに胸板の厚いネーヨでも、その衝撃で心臓に負荷がかかるのは避けようがなかった。
 
 ネーヨの体勢が、後方に崩れる。
 しかし、それでも、先ほどのアラマキのようにきれいに吹っ飛ぶことはなかった。
 ただ〝転びそうになった程度〟だった。
 
 転びそうになった、つまり、〝転んではいない〟。
 足はまだ、地についているのだ。
 つまり、ネーヨはまだ、踏ん張りが利く。
 
 足が地から離れる前に踏ん張っては、目の前で捉えたジョルジュの脚に、右フックを放った。
 この蹴りで多少でも吹っ飛ぶだろうと考えていたジョルジュにとってはそれは大きな誤算で、
 右膝で、真正面からネーヨの右拳を受けてしまうことになった。
 
 右膝が、砕けたような音が聞こえた。
 脱臼か、骨折か。後者だとしたら、複雑骨折は否まれない。
 とにかく、この瞬間から、ジョルジュの敏捷性には期待が持てなくなった。
 
 しかし、その犠牲があったからこそ、あらたな機会が生まれた。
 アラマキの体勢を、完全に整えることができたのだ。
 一方のネーヨは、後方に倒れようとするところである。
 体勢からして、優勢にたっているのは誰か、考えるまでもない。
 
 このときになってようやく、ネーヨは苦悶を顔に浮かべた。
 アラマキの、下から突き上げるような右拳がネーヨの背中に決まったのは、その次の瞬間のことだった。
 
 
.

473同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:44:20 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( ; ー )「―――ッ!」
 
 
 『開闢』一の巨漢であり、最強の『拒絶』であったネーヨが、今まで味わったことのないダメージだった。
 その数ある肩書きを無視しても、決して無視できぬはその巨躯と筋肉量。
 
 攻撃にも防御にも適したぶ厚すぎる筋肉を見ればわかるように、
 たとえ彼が【全否定】を解除していても、無防備なままであったとしても、
 並大抵の攻撃なんかじゃあ、彼は決してダメージなどは受けつけないのだ。
 
 その、デフォルトにして最強を誇る肉体こそが、ネーヨ=プロメテウスの「強さ」だった。
 ゼウスのように、頭脳と肉体の両方が噛み合ってはじめて「強さ」となるのではない。
 ただ、そこに存在しているだけで既に、彼の追随を許さない「強さ」は出来上がっているのだ。
 
 そんなこと、自分自身がよく知っている。
 少なくとも、ジョルジュの「槍」を受け止められるほどには、自分は「強さ」を持っているのだ。
 
 そんな彼が、ダメージを受けた。
 それは、受け止めたくなくても必ず受け止めなければならない負荷と『真実』だった。
 だからこそ、彼は露骨に、苦悶に満ちた表情を浮かべてしまったのだ。
 
 
.

474同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:44:53 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 だが、苦悶を浮かべたのは、ネーヨだけではなかった。
 アラマキも同じく、驚愕と苦悶を足して二で割ったような顔をしたのだ。
 
 彼の『破壊』を司る拳の破壊力は、自賛なく知っている。
 現に、自分より何倍も大きな体積を誇る流星を、いとも簡単に砕いてみせた。
 この世でゼウスに対抗できた数少ない人間であり、そんな彼の「強さ」を支えていたのは、
 今までの自殺に近い修行を耐え抜いてきたからこそ身についた肉体だった。
 
 そういった意味では、ネーヨとアラマキは似通っていた。
 アラマキにはゼウスを凌駕する武術と経験が備わっているが、
 どちらも力を先行させて戦うスタイルをとる人間であることには違いないのだから。
 
 だからこそ、アラマキも、驚いた。
 手ごたえが、あった――いや、ありすぎた。
 本来与えられていたであろう筈の威力の、三分の一も伝わったような気がしなかったのだ。
 
 それは、ネーヨの圧倒的なフィジカルが、全て吸収した。いや、反発した。
 アラマキはその持ち前の能力で反射じみた〝ワザ〟を使うが、
 ネーヨのフィジカルは、それを自然体でやってのけたような――そんな感じだった。
 
 そして、そんな手ごたえをコンマ一秒のうちに噛み締めた上で、アラマキは認めた。
 目の前にいる男が、【全否定】なんかに頼りきった男ではないことを。
 そして、
 
 
/ ,' 3「(……これが、最後となる……のか)」
 
 
 
.

475同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:45:24 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『拒絶』との邂逅が、この戦いを以て終わってしまうことを。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

476同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:46:08 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 

 
 
 
从;゚∀从「『イッツ・ショータイ……ッ」
 
( メ∀・)「 『嘘』だ。 」
 
从;゚∀从「―――ッ!」
 
 
  ホンキ
 『真実』のモララーを一言で表すならば
 この世の中で、もっともゼウスに近い戦闘力を持つ男。
 そうなるのではなかろうか――ハインリッヒは、動悸じみた鼓動を心臓に預けながら、思った。
 
 まず特筆すべきは、その機動力だ。
 ゼウスは、人外と言うべき運動神経を持ち合わせており、人外に似つかわしい動きを見せる。
 それは、彼の「強さ」を支えている人外なるその頭脳が彼をそうさせていた。
 
 理屈こそまるで違うものの、モララーの機動力も、人外たるものだった。
 ゼウスよりもハインリッヒのようが速く、そのハインリッヒは【正義の執行】による補正を受けられる。
 その補正を受けたハインリッヒにやや劣るだろうか、と言うほどの速さを、モララーは持っているのだから。
 
 彼らによる戦闘においては初速こそが全てと捉えられるのだが、
 その分を差し引いても、モララーの機動力は厄介にして強力以外のなにものでもなかった。
 まして、【正義の執行】の補正をモララーによって解除されてしまっているため、
 現在の情勢で言えば、モララーの動きにかろうじてゼウスが対応できている程度だった。
 
 彼の「強さ」を支えているのは、他ならぬ拒絶心。
 ここにきて、『拒絶』の「強さ」に直面しなければならないとは――
 
 
.

477同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:46:39 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 また、機動力だけではない。
 ゼウスの場合、その軽やかな身のこなしは、
 身体中の関節と神経を自在に操る術を持つからこそできる芸当なのである。
 つまり、彼が人外相当の人間だからこそ、その身のこなしができるのだが、
 
 モララーの場合も、これまた理屈こそ異なるものの、同じく身が軽かった。
 彼の場合も、こちらは機動力とリンクしてくるのだが、やはり『拒絶』による補正が大きいのだ。
 
 幼少期に培った脚が、『拒絶』化によってより強力になった。
 だからこそ、彼もまた人外じみた「強さ」を手に入れることができたのであった。
 
 
( <●><●>)「   」
 
 ハインリッヒが、なんとか自分もモララーの高速戦闘に対応しようと
 【正義の執行】をはじめようとするが、モララーはそれを許さない。
 その隙を衝いてゼウスは彼の左のほうから飛び掛った。
 その形作られた手刀が抉らんとするのは、彼の心臓以外にはない。
 
 だが、『拒絶』とは、いわば常に死と隣り合わせなる存在。
 危険の察知に関しては、右に出るものはいなかったようだ。
 モララーは右膝を数度だけ曲げて、すぐに脚の筋肉を硬直させた。
 固まった筋肉によってばねの作用が生じたモララーは、そのまま一メートルほど飛び上がった。
 
 物理法則に『嘘』をついているのか――
 と思ったゼウスであったが、しかしそのすぐあとに、
 彼が立っていた地面にひびができていたのを見て、納得した。
 
 ただ単純に、脚の力が強かった。
 だからこそ、彼にここまでの機動をさせるのだ。
 
 
.

478同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:47:14 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 しかし、宙に浮いてくれたとなれば、それはそれで好都合だった。
 宙では、スキルなどを使わない限り、物理法則に愚直なまでに従わざるを得なくなるのだから。
 
 ゼウスは手刀を形作っていた右手はそのままに、
 構えをとっていた左手を平手にして、地面に当てた。
 それは軽いブレーキではあったが、
 飛び掛っていた彼の横への勢いを「高度」に転換するのには充分なブレーキだった。
 
 スピードが出ている自転車の前輪のブレーキを一瞬でかけてしまえば後輪が浮くのと、一緒の原理となる。
 ただし違うのは、ゼウスの場合スピードが出すぎていたため、
 後輪となる脚がそのまま宙に向かってしまうということだ。
 
 だが、それでよかった。
 ブレーキによって勢い余ったゼウスは半ば逆立ち状態になったのだが、それがゼウスの狙いだった。
 未だ勢いの残っている左足に能動的に力を加えることで、更に加速させる。
 上下の逆となった踵落としが、モララーの腹に向かった。
 
 そしてゼウスが手刀から踵落としへと攻撃をシフトしたのは、コンマ数秒という瞬間である。
 ゼウスの踵に蹴りやらなにやらで迎え撃つ程度の猶予など、与えられなかった。
 だからモララーに与えられた唯一の選択肢は、腰から下を折り曲げることである。
 
 空中で座るかのような体勢をとったことで、ゼウスの蹴りを免れることはできた。
 だが、このような体勢になってしまえば、無防備もいいところだ。
 このまま着地しようとすれば、無防備のまま、真後ろに立つゼウスに隙を晒すことになる。
 
 
 ならば、モララーのとるべき行動はなにか。
 自分も同じく躯を回転させ、後方に位置することになるゼウスに蹴りを見舞うことであった。
 
 
.

479同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:47:44 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 鉄棒の逆上がりをするが如くついた勢いを逆手にとった。
 より身体を円形にさせることで加速させ、攻撃を外し無防備となっているゼウスの正面を視界に収めた。
 たかだか数メートルあるかないかの至近距離。
 
 補正を受けていないハインリッヒ以上の力を持つその脚で、
 ゼウスを後頭部から救い上げるように蹴りを放った。
 
 体勢の都合上防御をとる手が届かず絶対無防備となる後頭部。
 これで初撃はもらった、とモララーが思っていたのは、
 『英雄』となったハインリッヒが横からモララーを蹴飛ばすまでの間である。
 
 
( メ∀・)「―――ッ!」
 
 
 この一瞬間の間、モララーの意識は完全にゼウスに向いていた。
 それまでは【常識破り】でハインリッヒの強化を防いでいたモララーだったが、
 一度ダメージを食らってからは、【常識破り】でハインリッヒの【正義の執行】を打ち消そうが、相違ない。
 
 また、存在が「強さ」となっているネーヨと違い、モララーの場合、攻撃が通れば〝脆い〟。
 空地問わず敏捷性に長けるということは、それだけその他の力を犠牲にしている、ということである。
 ゼウスのように、移動のシステムを根本から改竄しない限りは、それは避けては通れぬ道となる。
 モララーの場合、とにかく体重が軽いことが仇となった。
 
 
从 ゚∀从「『英雄』の降臨だ、のろま!」
 
.

480同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:48:20 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 モララーには、筋肉がさほどついていないのだ。
 スリムに見える筋肉の内に繊維が凝縮されているだけである。
 ワタナベと一緒で、彼の場合、拒絶心が脳に来す強化が筋肉に影響を与えていることになるのだ。
 
 つまり、防御に関してはほかの誰よりも脆かった。
 それが、スキル・機動力・戦闘力のどれをとっても圧倒的な力を見せるモララーの、数少ない弱点だった。
 
 その、まるで中身にものが詰まっていないかのような錯覚をさせる軽さは、
 そのまま彼のスキル、【常識破り】を彷彿とさせるものでもあった。
 それが、モララーにとっては、この上なくつらかった。
 
 
( メ∀・)「『英雄じゃない!』」
 
从 ゚∀从「――…ッ」
 
 
 いくらモララーといえど、その持ち前の敏捷性を唯一上回る、
 『英雄』たる補正を受けたハインリッヒは厄介な存在だった。
 そのため、この戦いに公平を持ち出すつもりもないモララーだが、この点に関してだけは未だにスキルを用いていた。
 
 蹴り飛ばされ、地に投げ出される前に体勢を整え、地に足を当てる。
 その反動で再度モララーは宙に投げ出されたが、華麗に回転して、両足で見事に着地した。
 その間にモララーは、ハインリッヒにかかっていた補正を打ち消した。
 
 
 『ハインリッヒは【正義の執行】を始めていない』という『嘘』を『混ぜる』ことで。
 
 
.

481同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:48:52 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 補正を失うと、ハインリッヒの持つ力は全体的に落ちる。
 身体の軽さも、力の入り具合も、なにもかも。
 
 世界から『優先』されることに慣れているハインリッヒにとって、
 補正すら受けることを許さない【常識破り】は、まさに天敵とも呼べた。
 相手がネーヨだったならば、彼の『拒絶』が他人に干渉できない分、まだ戦えてはいたのだから。
 
 しかし、正義のヒーローは、目の前の悪を無視することは、絶対にしない。
 正義は正義なりの答えを見つけるために、戦いを続けるのだ。
 
 ゼウスとハインリッヒが隣り合うようにして、五メートルほど向こうに立っているモララーと対峙する。
 ハインリッヒはさて置いて、ゼウスがいるため、モララーはへたに動くことができなかった。
 また同時に、ゼウスも、モララーの敏捷性は知っていたため、同じくへたに出られなかった。
 
 そのため、口を利く猶予が生まれた。
 ハインリッヒは遠慮なく、口を開いた。
 
 
从 ゚∀从「―――正義を拒絶するのか、てめえ」
 
( メ∀・)「ハン。なにが、正義だ」
 
从 ゚∀从「……なに?」
 
 
.

482同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:49:22 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 反応を見せた今の間に、無言でハインリッヒは『劇』を再開させた。
 いつも宣言をしているのは、志気を高め、その志気を力へと転換させるためである。
 モララーを相手取るときのように、そのような余裕がないときは、
 アラマキの【則を拒む者】と同じく、無言で能力を展開するのである。
 
 モララーは、それに気がついただろうか。
 ゼウスが不意を衝こうとしていないのを見て、彼も口を開いてきた。
 だが、それでも細心の注意を払っていたため、口数は少なく、声も硬かった。
 
 
( メ∀・)「正義ってのはつまり、善悪で言うところの善だ」
 
( メ∀・)「おまえは、善なのか?」
 
从 ゚∀从「………」
 
 
( メ∀・)「……少なくとも」
 
( メ∀・)「おまえが正義かどうかは別として、だ」
 
 
 
 
 
( メ∀・)「モララーは、悪じゃないぜ」
 
( メ∀・)「俺にとっての最善を、尽くしてくれてンだ」
 
( メ∀・)「俺にとっちゃあ、『モララー』って男は正義のヒーローだよ」
 
 
 
.

483同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:49:53 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
从 ゚∀从
 
从 ゚∀从「……」
 
 
从 ゚∀从「………こんなところで、正義について語らおう、ってか?」
 
从 ゚∀从「テメエ、自分の立場、わかってんのか」
 
( メ∀・)「……ああ、そうだな。そうだ」
 
 
 モララーの言葉を聞いて、ハインリッヒは一瞬、面食らったような顔をした。
 眉が数ミリ持ち上げられ、同時に瞼も数ミリ持ち上げられた。
 口が点のようになったし、構えが数ミリ垂れもした。
 
 彼らのような「戦闘狂」にとっては、その数ミリが生死を分けさえする。
 ハインリッヒはすぐにその数ミリを整えた。
 顔に至っては、それまで以上に険しく厳しいものとなった。
 
 モララーは、数ミリのずれの時点で彼女の動揺を察知していた。
 だが、彼の好んでいた不意打ちはしようとしなかったようだ。
 彼女の挑発を涼しい顔で受け止めた上で、モララーは、体勢を低くした。
 
 
 その構えは、戦闘の再開を示唆していた。
 つまり、この数分間による話が終わった、ということだった。
 
 しかし、終わったものは話だけではなかった。
 戦闘が再開することで、同時にもうひとつ、終わりを告げられたものがあった。
 
 
.

484同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:50:28 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( メ∀・)「(………なんつーか)」
 
( メ∀・)「(亀の甲より年の功、とはよく言ったもんだな)」
 
 
 
 
 
 
   / ,' 3『死の予感ってのは、やっぱ、するもんなんじゃな』
 
 
 
 
 
 
( メ∀・)「(……認めるぜ)」
 
( メ∀・)「(人間ってのは、死ぬ直前になれば、その予感がする)」
 
( メ∀・)「(でも、まあ、いいや)」
 
 
 
( メ∀・)「(人間として、死ねるなら―――)」
 
 
 
.

485同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:50:58 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 モララーの顔が、柔和になった。
 
 
 それを見たゼウスが、彼の鳩尾を、手刀で抉りかかった。
 
 
 次いでハインリッヒが、開いた傷口を右脚で蹴りかかった。
 
 
 モララーは柔和な笑みを浮かべたまま、茂みのほうへと、飛ばされた。
 
 
 血潮を、振りまきながら。
 
 
 
 
 
 
.

486同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:51:42 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 そしてモララーは、
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

487同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:52:13 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

488同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:52:45 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 

 
 
 
 俺は、この暴力の腕を買われたものだ、と思っていた。
 ブレインとなるリーダーに最強の『能力者』のタッグなのだ、
 自分がそこに加わるとなると、自然と戦闘員としてなのだ、と考えるだろう。
 
 だが、それは半分正解で半分はずれだった。
 リーダー、『能力者』ともに戦闘員など欲する必要のないレベルの戦闘力を持つから、というのものあったのだろう。
 しかし、ただそれだけ、というわけではなかった。
 
 最初に俺がそのリーダーと拳を交えた時のことは、あまり覚えていない。
 だが、俺が一方的に負けたとはいえ、向こうも無事にはすまなかった。
 左肩を粉砕し、右脚の腿と脛をも粉砕してやったと記憶している。
 
 そんな殴り合いが終わったのちに、俺は奴に、勧誘を受けた。
 自警団として、裏社会を統べるのはどうか、と。
 それが、俺の戦闘力が買われたがゆえのものではないのは今言ったとおりだ。
 だとすると、どうして自分よりも弱い存在を仲間に引き入れるに至ったのかが不明となる。
 
 馴れ合うつもりはないし下に就くつもりもなかったため、もしそれを命じてこようものならその場で死ぬつもりだった。
 それを向こうも想定していたのか、黙りなどせず、奴はその理由を答えた。
 そのときの、たった、ほんとうにたったひとつの言葉が、俺を揺さぶったのだ。
 
 
 
   「貴様の精神力の強さには、敵わなかった。」
 
 
 
.

489同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:53:16 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 

 
 
 
 私が己を人間だと認めてしまった出来事は、今まで一度しかなかった。
 そしてそれは、最初で最後の一度だ、と信じていた。
 
 しかし、一度でも認めてしまわざるを得ないということは、自分は人間だ、ということにほかならない。
 それを痛感してしまったのは、あの男の存在だった。
 
 成り行きとは言え敵と手を組むことになった。
 相手は、人間の混沌とも呼べるべき存在、『拒絶』――アンチだ。
 全てを忌み嫌う奴らには、苦戦を強いられてきた。
 もし、躊躇いもなくあるがままの実力を振るえるようなのであれば、即死以外の道はなかっただろう。
 
 だが、そんな『現実』を相手に、私が動揺をしたことはない。
 悲惨な『因果』を突きつけられても、『真実』が歪められても、同様に、だ。
 
 私が己を人間だと認めてしまう――動揺してしまう。
 それは、あの瞬間だった。
 『拒絶』を統べるとなれば、それ相当の混沌を背負っている、人間かどうかすら疑わざるを得なくなる人間となるだろう。
 普通なら自爆しかねないその混沌たる精神を持つことなど、人間には到底不可能だろうからだ。
 
 そう考えるならば、確かにあの強靭な精神力を持つ男がそれに当たることに関しては合点がいった。
 世界中のほかの誰でもない、あの男だからこそ、その精神を涼しい顔で持つことができていたのだ。
 だが、私がそれでも「動揺」してしまったのには、理由がある。
 
 そもそも――
 それほどまでの精神力を持っていたのに『拒絶』に呑まれてしまったなど、考えられなかったのだ。
 つまり、過去に、それほどの悲惨な、拒絶したくなる出来事を抱いている、ということになるのだが、
 
 
 
 もしあの男が『拒絶』に呑まれるとするなら、やはり、あの事件以外にはありえないのだろう。
 
 
 
.

490同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:53:50 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 

 
 
 
 『能力者』なんて人外が世界を支配するような腐った世界でも
 おそらくナンバーワンを誇る実力を備えた自警団が崩壊するなど、考えられなかっただろう。
 最強の頭脳を持つ者に最強の能力を持つ者、最強の精神を持つ者や最強の権威を持つ者、
 そして、この世の真理解明をこなせる俺が就いていたのだから。
 
 きっかけは、簡単だった。
 その最強の五人衆のうち一人が〝死んだ〟のだ。
 
 ――――なんてこの世の誰もが抗えない最強の《特殊能力》を持つ女。
 だが、能力なんてものは、所詮、ツールなのだ。
 どんな最強であれ、それが適用されるか否かは所有者次第。
 つまり、最強だから死なない、というわけでは、決してなかった。
 
 殺した俺が言うのだから、間違いない。
 
 これが原因で、世界で最強にして最小の自警団は、解体が必至となった。
 今はあの男が一人で裏社会を統べているようだが、嘗てほどの絶対的な力などあるはずもない。
 
 ほかの面々は、皆、消えてしまった。
 最強の能力を持つ者は死に、最強の精神を持つ者はその精神を狂わせてしまった。
 そして、
 
 
 
 最強の権威を持つあの女。
 あのアマの暴走を、俺は止めなければならなくなった。
 
 
 
.

491同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:54:22 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 

 
 
 
 俺の振るった拳は、空を「殴り」、「爆音を」鳴らした。
 が、いくら音を鳴らしても勝ちにはならない。
 
 アラマキの、低くさせた姿勢から放った水平蹴りが、俺の左わき腹を抉る。
 筋肉の繊維が、ぶちぶち、と音を立てて断たれゆくのが、実感できた。
 それを実感として実感し得たところに、俺は自分の敗北を確信した。
 
 次に、俺の顔面に、パンドラの膝蹴りが決まった。
 後ろに仰け反るかと思いきや、俺の後頭部に張り付くように『領域』が張られていたため、
 力の行き場を失ったその勢いが、全部ダメージとして顔面に蓄積された。
 
 鼻の骨は当然として、顔面がへこみかねないように顔面の骨が砕けた。
 同時に、その負担が首に重く圧し掛かってきた。
 
 パンドラ自身の逃げ道確保のために奴は『領域』を解除した。
 この隙に体勢を整えたかった、のだが、同時に、背後から『英雄』、ハインリッヒがやってきた。
 『劇』における主人公は、奴だ。
 主人公に相応しきパワーを得た奴は、俺の背中、
 先ほどアラマキから貰った一発が残っている部位に、槍のような蹴りを見舞ってきた。
 
 背骨は、まだ折れない。
 だが、負担が、あまりにも大きすぎる。
 立つことすらままならなくなるだろう、それほど、ダメージは思いのほか蓄積されていた。
 
 それに怯んでいる間に、モララーを下したゼウスが持ち前の初速を生かして接近し、
 手刀で、アラマキが開いた傷という名の突破口を抉りにかかった。
 背骨を掴まれかねない勢いだったが、そこに至る前に、俺は爆発に呑まれた。
 
 
 心地よさすら感じ得てしまう『爆撃』だった。
 この熱さ、臭い、痛み、痺れ、忌み、拒絶。
 
 そのどれもが、新鮮だった。
 生きている、と実感できた。
 
 
.

492同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:54:53 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
   「………ガ……。」
 
 
 力なく、無意識のうちに唇と唇の間から漏れた声。
 乾いた、ひび割れ、かすれ、潤いの感じられない、苦痛に満ちた音。
 
 最初は、持ち前の圧倒的な力で押そうと考えていた。
 だが、もう、さすがの俺も、息切れがつらくなってきつつあった。
 
 
 いつもなら、なにも考えずに「知らねえよ」なんて、言っていた。
 だが、今は、言いたくなかった。
 
 言ってしまえば、いま感じている生きている実感ってものが、消えてしまう。
 俺はもう少し、この実感を、味わっていたかった。
 
 なんの抵抗もやりがいも目標もなく、ただ漂うかのように惰性に過ごしてきた日々。
 それに対する退屈に対してさえ、俺は目を背けて生きてきた。
 全てを『拒絶』して、まさに空白、虚無としか呼べない人生だった。
 
 
.

493同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:55:24 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 だが俺は今、その鎧を、脱ぎ捨てた。
 すると、だ。
 
 この薄汚れた大気。
 気持ちの悪い湿気。
 自分を束縛する重力。
 鼓膜を刺激する雑音。
 動くたびに鳴る関節の軋む音。
 動くたびに感じるその部位の重さ。
 
 そんなものが、途端に身に降りかかってきた。
 今まで、捨てていたものだ。
 そのどれもがつらく、煩わしく、面倒で、邪魔で、不必要なものだ、と思っていた。
 いや、その大半は正しい。あっても、ただ邪魔なだけだ。
 
 しかし、不必要では、なかった。
 こういったものを拒絶せずに甘受するからこそ、生きている、と実感できた。
 そして、その実感があるから、人は、生きていく上で、嫌なことがあっても生きていけるのだ、とわかった。
 
 俺が己の精神を捨ててからの毎日に、そのようなものはなかった。
 常に空の胃のなかのものを吐き出したり、破壊行為を繰り返したり、
 ただ叫んだり、のた打ち回ったり、頭を抱えたりと狂気を晴らしていた日々だった。
 
 その日々が俺に与えたものは、そんな俺に相応しいと思われた、なんとかというスキルだ。
 だが、そのスキルは、そういった日々によって得られた賜物、というわけではなかった。
 代償として、俺は、人間として持っているべき様々なものを捨てていた。
 
 
 
 
 死ぬ前に、その過ちを正すことができた。
 
 
 
.

494同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:56:00 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

495同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:56:33 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 

 
 
 
(メ; ー )「・・・・・。」
 
 
/ ,' 3「……終わり、じゃ」
 
(メ; ー )「・・・・・・・・。」
 
 
 ネーヨが、地に倒れた。
 山であるが如くなかなか倒れなかったネーヨが、満身創痍になって、ついに倒れた。
 
 流血が所々で起こっている。
 その巨躯のあちこちが抉られており、
 一般人ならば死んでいなければおかしい程の負荷がかかってあった。
 
 倒れたネーヨを、アラマキが上から見下ろす。
 足を持ち上げ、ネーヨを踏み潰しては、とどめを刺そうとする。
 ネーヨは、そのときになるまで、一度も、【全否定】を使おうとしなかった。
 
 使っていれば、このような結末には至らなかっただろう。
 しかし、使わなかった。
 だから、こうなることは半ば必至だった、とも言えた。
 
 
.

496同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:57:20 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
/ ,' 3「おぬしら『拒絶』たちとの〝戦争〟……」
 
/ ,' 3「それも、ここで、終わりとなろう」
 
/ ,' 3「………甘受するのだ、ネーヨ=プロメテウス」
 
(メ; ー )
 
 
 アラマキも、この「戦争」で、様々な拒絶を植えつけられた。
 
 ショボンにはその『拒絶』の恐ろしさを植えつけられた。
 ワタナベには『因果』の拒まれる恐ろしさを植えつけられた。
 モララーには圧倒的戦闘力に襲われる恐ろしさを植えつけられた。
 
 だが、こうして、ここに立っている。
 そして、ネーヨを下し、いま、生殺与奪の手綱を握っている。
 
 アラマキは――『革命』の面々は、勝ったのだ。
 正々堂々、真正面からぶつかりあって、彼らは、勝ったのだ。
 
 一方の『拒絶』の面々は、負けてしまった。
 正々堂々、真正面からぶつかりあって、彼らは、負けてしまった。
 
 
 
 勝敗が、ついた。
 この瞬間、今度こそ、「『拒絶』を拒絶する戦い」は、終わりを告げた。
 
 
.

497同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:57:52 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
/ ,' 3「……」
 
/ ,' 3「殺生……御免。」
 
 
 アラマキが、目を細め、膜の張られたような視界を迎え入れる。
 〝こうなる〟ことは、戦争をする上では避けては通れない道なのだ。
 個人の意思など関係なく、最後は、必ず何らかの命が消え去る。
 そしてアラマキは、殺生を好むような男ではなかった。
 
 ネーヨは、最期の言葉を遺そうとしない。
 もう、あるがままの自分を全て出し切ったがために、言い残すことがなかったのだろう。
 満身創痍であり、苦痛以外感じられないような様子ではあるが、しかし、後悔を残している様子は見られなかった。
 
 なにも遺そうとしないネーヨを見て、アラマキは、目を完全に閉じた。
 ネーヨの首の上に、足を置く。
 首でさえ表面がかたく、ナイフを頚動脈に当ててもそう簡単には切れないであろう強度を持っていた。
 
 しかし、それもナイフだったらの話。
 アラマキならば、ネーヨが無抵抗のままならば、
 ここで足に力を入れるだけで、首は胴体から外れる。
 過去の功績と現在の罪悪、未来の道程の全てを命とともに失うのだ。
 
 
 それがどこか、惜しいように思われた。
 
 
.

498同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:58:26 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 だからだろうか。
 アラマキがネーヨを完全に断とうとすると、
 ゼウスが背後から歩み寄ってきては、肩に手を置いた。
 
 こうなることを予想していたのか、
 それとも心がこの上ないほど落ち着いていたのか。
 アラマキは冷静に、ゼウスのほうに顔を向けた。
 
 
/ ,' 3「……なんじゃいの」
 
( <●><●>)「…」
 
/ ,' 3「生憎、こやつに遺言はないと見た。仏心か、ゼウス」
 
( <●><●>)「私が、あるのだ」
 
/ ,' 3「……なに?」
 
 
 すると、アラマキの載せている足には目もくれず、
 ただ全てを甘受しようとしているネーヨに、目を遣った。
 互いの視線はかち合ってはいないが、しかし心眼がかち合っているように思われた。
 
 
.

499同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:59:01 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( <●><●>)「……プロメテウス」
 
(メ; ー )
 
 
(メ; ー )「………おめえが慈悲たあ、珍しいじゃねえか」
 
(メ; ー )「〝二人目〟が死ぬってのに、抵抗でもあんのか?」
 
( <●><●>)「違う。が、慈悲であることは否定しない」
 
(メ; ー )「―――なに?」
 
 
 その言葉に、アラマキたちは勿論、ネーヨでさえ、驚いた。
 冷血非道がこの上なく当てはまる残虐な男、ゼウスが放った言葉とは思えなかったのだ。
 
 彼は、仏心だの、慈悲だの、同情だの、そのようなものを一切持ち合わせない男である。
 そんな彼が、相手がネーヨだからといって、そういったものを胸に抱くはずがない。
 
 
 しかし、確かに言った。
 これは慈悲である、と。
 
 
 
.

500同志名無しさん:2013/06/30(日) 19:59:34 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( <●><●>)「貴様に、ひとつだけ、伝えなければならないことがある」
 
(メ; ー )「……ほう?」
 
 
 伝えなければ。
 それを聞いて、アラマキは、彼を殺すのを少し遅らせることにした。
 同時に、ネーヨも、失いかけていた聴力を取り戻して、ゼウスの言葉に耳を傾ける。
 
 
( <●><●>)「貴様の恨んでいるであろう三人」
 
( <●><●>)「……生きているのだぞ、三人とも」
 
( <●><●>)「私も」
 
( <●><●>)「パンドラも」
 
( <●><●>)「そして、カゲキ―――いや」
 
 
 
 
 
 
 
 
( <●><●>)「ハデスも、だ」
 
 
 
 
 
 
.

501同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:00:08 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
(メ;´ー`)「―――ッ」
 
  _
( ゚∀゚)「……!」
 
 
 
 
 
 
( <●><●>)「……まだ、己の過去に決着をつけてない」
 
( <●><●>)「その過去に立ち向かおうとせず、ただ逃げるだけ逃げて、そして死ぬのか」
 
(メ;´ー`)「……」
 
 
( <●><●>)「立ち上がれ、プロメテウス」
 
( <●><●>)「たとえ、己にトラウマを植え付けている過去であれ―――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
( <●><●>)「無様に抗ってみるのも、悪くないものだぞ」
 
 
 
 
 
 
.

502同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:00:47 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
(メ;´ー`)
 
(メ;´ー`)「…………」
 
 
(メ;´ー`)「気が変わった。俺も、一つだけ、聞いておきたいことがある」
 
( <●><●>)「なんだ」
 
(メ;´ー`)「おめえじゃねえ。モララーに、だよ」
 
/ ,' 3「モララー……?」
 
 
 モララーは殺したのではないのか。
 アラマキが抱いた疑問はそれだった。
 戦っていたゼウスとハインリッヒに確認をとる前に、まず視線をそちらに向けた。
 
 ――蹴り飛ばされたあと、モララーは、そのまま倒れたままで、動こうとしなかった。
 それがフェイクで、そのまま不意を衝いてくることが予想されたが、
 しかし、それが実行に移されるとは予想だにしなかった。
 
 
 モララーが、ありのまま、真実の姿で戦っていたからだ。
 
 
 以降、戦っていた二人がネーヨとの戦いに加わっても、
 モララーが起き上がって、襲い掛かってくることはなかった。
 だから、ゼウスもハインリッヒも、彼の生死については知らなかった。
 そのため、二人も、アラマキに続いて、そちらのほうを見た。
 
 
.

503同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:01:26 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 モララーは、起き上がらない。
 生きているのか、死んでいるのか、それすらわからない。
 
 だが、ネーヨには、同じ『拒絶』として通じ合うものがあったのだろう。
 こちらの話を聞いているかの確認がとれていないのにも関わらず、
 倒れこんだまま、ネーヨは、口を開き、息も絶え絶えのまま、大きな声を発した。
 
 
(メ;´ー`)「モララー」
 
(メ;´ー`)「………あのとき、俺を『嘘』で消したままにしておけば、俺たちは、勝っていた」
 
(メ;´ー`)「ただ、正々堂々戦いたかっただけで、せっかくの勝機を捨てるやつじゃあねえだろ、おめえは」
 
 
 
(メ;´ー`)「冥土の土産に、聞かせろ」
 
(メ;´ー`)「おめえを唆したのは、いったいなんだったんだ」
 
 
.

504同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:02:09 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
从 ゚∀从
 
/ ,' 3
 
( <●><●>)
  _
( ゚∀゚)
 
 
 
( ´_ゝ`)
 
(#゚;;-゚)
 
(*゚−゚)
 
( ;^ω^)
 
 
 
 
( メ∀ )
 
( メ∀ )「…………………。」
 
 
.

505同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:02:45 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
( メ∀ )「はァァ〜〜〜〜。」
 
( メ∀ )「言いたくなかったから、こーして死んだフリしてたのに」
 
( メ∀ )「やっぱ、あんたにだけは敵わねえわ、旦那」
 
 
 
( メ∀ )「で、えーっと、あんだっけ?」
 
( メ∀ )「ああ。どーして、逃げ切らなかったってか?」
 
( メ∀ )「言いたくないなー。でも、言わねえとだめなんだよなー」
 
( メ∀ )「くっそ恥ずかしいから、一度しか言わねえぜ」
 
( メ∀ )「『モララー』の最期の言葉だ、聞いてくれや」
 
 
 
 
 
 
 
 
( メ∀ )「俺を唆したのは、おまえだ、『作者』とやら。」
 
 
 
 
 
 
.

506同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:03:17 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
( ;^ω^)「―――え?」
 
 
 内藤が、急に、視線を集める。
 
 
(メ;´ー`)「……ほう」
 
(メ;´ー`)「俺をはめた罰だ、理由も言え」
 
( メ∀ )「やァ〜っぱ、敵わねえわ。言っちゃう?」
 
(メ;´ー`)「『ネーヨ』の最初で最期の命令だ。言え」
 
( メ∀ )「はァァ〜〜〜。じゃ、耳を塞いでてくれよ?」
 
( メ∀ )「特に、『作者』とやら、おまえにだけは聞かれたくないんだからな」
 
( ;^ω^)「…………………………。」
 
 
 
( メ∀ )「本題。」
 
( メ∀ )「ついさっき、言ってたよな、『作者』よ」
 
 
.

507同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:03:58 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
   ( ^ω^)『「読者」に、絶望を与える』
 
   ( ^ω^)『それを、最後の最後でひっくり返したら、確かに面白い』
 
   ( ^ω^)『でも、それが、できない』
 
   ( ^ω^)『つまり、』
 
   ( ^ω^)『読み終わっても、』
 
   ( ^ω^)『話が終わっても、』
 
   ( ^ω^)『誰も報われない、それこそ拒絶に満ちた、最悪な話と、なってしまう』
 
 
 
 
.

508同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:04:32 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
( メ∀ )「おまえの言うとおり、〝最後の最後でひっくり返したら〟」
 
 
( メ∀ )「そうしたら、俺も、報われるのかなあ」
 
 
( メ∀ )「……そう、思ったから。 俺は、正々堂々の戦いを、持ち込んだ」
 
 
 
 
 
 
.

509同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:05:19 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
(メ;´ー`)「おめえが、トソン以外を信じたってか」
 
(メ;´ー`)「『真実』を忌み嫌い、信頼なんて鼻で笑う男だろーが、おめえはよ」
 
(メ;´ー`)「……その程度じゃあ、俺のハラは膨れねえな」
 
 
( メ∀ )「えぇ〜〜〜? まだ言うのかあ?」
 
(メ;´ー`)「おめえは、まだ『嘘』をついている。わかんだよ、感覚で」
 
(メ;´ー`)「アニジャに似たようなこと言ってたが、肝心の〝根拠〟にはまだ、触れてねえだろうが」
 
( メ∀ )「しょうがないなあ。ばれちゃったか。ほんっとに、しょうがないなあ」
 
( メ∀ )「じゃ、『作者』、鼓膜破って、俺の声が聞こえないようにしてくれ」
 
 
 
( メ∀ )「……あんとき。」
 
( メ∀ )「トソンが、『拒絶』化しちまったときだ」
 
( メ∀ )「俺、言ったよな。覚えてないか? 『作者』」
 
( メ∀ )「って、思い出してほしくねえから死んだフリしてたんだった。あ〜〜、いやだなあ」
 
 
 
 
.

510同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:05:53 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
   ( ・∀・)『……「作者」、とか言ったな』
 
   ( ^ω^)『お』
 
 
 
   ( ・∀・)『その話、信じるよ』
 
   ( ^ω^)『…!』
 
 
 
 
 
 
.

511同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:06:53 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
(  ゚ω゚)「―――ッ!!」
 
 
( メ∀ )「あ、思い出した?」
 
 
( メ∀ )「そう、それだよ。」
 
 
( メ∀ )「実は俺、おまえを、あれ以来ずっと信じてたんだ」
 
 
 
 
 
 
 
 
( メ∀・)「……信じてて、よかった」
 
 
 
 
 
 
.

512同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:08:14 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
( メ∀・)「なんだろうなあ、この気持ち」
 
 
( メ∀・)「ぼろ負けしてンのに、拒絶心が氾濫、どころか、一滴もわいてこねえ」
 
 
( メ∀・)「……、」
 
 
( メ∀・)「………あー」
 
 
 
 
 
 
 
 
( メ∀・)「夕日って………きれいだったんだなあ。」
 
 
 
 
 
 
 
.

513同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:09:30 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
( ^ω^)「夕……日……?」
 
从 ゚∀从「あっ……」
 
 
 
 ――そのときになるまで、ほかの誰もが気づかなかったこと。
 それは、経過した時間だった。
 
 
 気がつけば、もう、夕方になっていた。
 
.

514同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:10:08 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 今朝がたからはじまった、『拒絶』との戦い。
 朝に、ゼウスとワタナベが対峙した。
 次いで、ハインリッヒとショボンが対峙した。
 ご都合主義にも程がある【ご都合主義】は、単純にして強力なスキルだった。
 
 でも、ご都合主義に勝るご都合主義、ヒーローが、彼を下した。
 
 
 ショボンを倒した次に、ワタナベが、ゼウスを背負って、ハインリッヒと対峙した。
 実質無敵で実質不死身の実質必勝、【手のひら還し】。
 ともすれば、【ご都合主義】にも勝ってしまいかねないスキルだった。
 実際、ご都合主義が手のひらを返したせいで、ハインリッヒはすぐに負けた。
 
 でも、物理法則のほうが手のひらを返してしまったため、彼女も敗れた。
 
 
 ワタナベに勝って、内藤は『拒絶』の本拠地、バーボンハウスに向かった。
 その間に、モララーがやってきては、その実力をほかの三人に見せ付けた。
 そのまま帰ってきたモララーは、内藤と鉢合わせをした。
 その結果、ネーヨはただの気まぐれか、『拒絶』と『革命』との全面戦争を提案した。
 
 結果、常識を破ってやってきた【常識破り】に、苦戦することになった。
 あらゆる真実を――それこそ、己の死でさえ台無しにしてしまうため、
 考えてみれば、「勝つことができない」のは明らかだった。
 それでも『革命』の皆は、無様な姿を見せつつ、抗った。
 
 だが、そんな彼を止めにやってきた暴君、トソンの存在が、局面を変えた。
 彼女がモララーの脆い鎧を砕いたため、戦局ががらりと変わったのだった。
 心の乱れが身体の乱れをきたし、命の乱れにまで至った。
 
 味方を裏切るなんて常識破りな展開が、彼を殺したのだ。
 
 
 
 
.

515同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:10:49 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 そして、やってきたのは、最後の戦い。
 あらゆるものを全て否定する男が、そのスキルを携えて、やってきた。
 
 殴っても、蹴っても、能力を発動しても、能力を適用しても。
 泣いても、笑っても、怒っても、拒絶で心が満たされても。
 拒絶の代名詞、ネーヨには、そのどれもがまるで効かなかった。
 
 だが、ハインリッヒのご都合主義な能力が手のひらを返したことでネーヨの拒絶の鎧を突破した。
 そんな常識破りな展開が、こうして、絶望しか見えなかった彼らの戦いを、最終局面へと持っていったのであった。
 
 
 
 
 
 
 そして、今。
 
 
 
 
 
.

516同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:11:27 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
/ ,' 3「もう……そんな時間になっておったのか」
 
 
( <●><●>)「………ふん」
 
 
 
 
 長いようで短かった、しかし短いようで長かった一日が、終わりを告げようとしていた。
 
 
 赤々と燃えている夕日が、戦ったあとの彼らを、優しく、照らしていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

517同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:12:47 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

518同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:13:18 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 

 
 
 
(-、-トソン
 
(-、-トソン
 
 
(-、-トソン「………、……ん」
 
(-、-トソン
 
 
(゚、゚トソン
 
 
 
 
 
(゚、゚トソン「……え?」
 
 
 
 
.

519同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:13:53 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 トソン=ヴァルキリアが目を覚ましたのは、ただの偶然だった。
 現在、その場にて、彼女の眠りを妨げ得た音は存在していなかったのだから、当然といえるだろう。
 
 音はおろか、静寂がうるさいとすら表現できる空間。
 トソンは、鈍痛が響く脳を、眠気の解消とともに認知した。
 いつから眠っていたのか、なんのために眠っていたのか。
 
 それすら、思い出せない。
 だが、体調というか、感覚というか、なにかが平生と違っていたことには気がついた。
 
 心臓の向こうに心があったとして、その心に澱みが感じられたのだ。
 粘着性があり、濃度が高く、臭いすら感じられそうな液体。
 それが、心の器に注がれていた。
 頭を傾けたときに感じる鈍痛は、あるいは、この液体が原因なのかもしれない。
 
 そんな澱みがあるがゆえに、なにか、精神が研ぎ澄まされているような実感がする。
 意識していないのに集中で脳が冴えており、しかし集中力を使うがゆえの疲れは生じない。
 拳を握り締めればその拳のほうが握力に耐え切れず崩壊してしまうような――
 それほど、自分のなかのなにかが、劇的ではないにせよ、変わっていたように思われた。
 
 
 
 そして、気づく。
 横たわっていた自分の近くに、同じく横たわっては血を流す男の姿に。
 
 
 
.

520同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:14:29 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 上体をゆっくり起こしながら、そちらに目を向ける。
 長めの髪やフード、服の裾が、風に流されるようになびく。
 
 
 その男は、満身創痍だった。
 そもそも生きているのだろうか。そんな印象を、持たされた。
 
 
 となると、いまいち情勢が飲み込めなくなる。
 確か自分は、戦いの場にいたはずだ。
 
 
 この男は無傷だったし、傷を負うような男でもない。
 もっとも、どうしてか、この男が死んでいる、とは思えなかったのだが、逆に、死んでいない点が妙となる。
 
 
 加えて、この不思議なまでの体調の変化が気になる。
 特に、意識せずとも集中された状態になっているのが不快で嫌だ。
 
 
 声を発そうとした。
 だが、乾いた喉が、声をつくりだそうとするのを拒む。
 
 
 いつもより大きめの声を出そうと、腹に力を入れる。
 すると、ようやく、喉の乾きが織り成す門を破ることができた。
 
 
 
.

521同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:15:15 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
     「 なにか……あったんですか? 」
 
 
 そして、もう一言。
 
 
     「 それとも…… 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
     「 もう、終わったのですか? 」
 
 
 
 
 
 
 
 
.

522同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:15:52 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 それを聞いた男は、振り向きはせず、驚きもせず
 
 
 ただちいさく、風に流されるような声で、応えた。
 
 
 
 
 
     「 ああ……終わった。終わったよ。 」
 
 
     「 もう…… 」
 
 
 
 
 
.

523同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:16:44 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
     「 もう、終わったんだ。 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

524同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:17:16 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

525同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:17:49 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

526同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:18:21 ID:s2sNBMOk0
 
 
 
 
 
 
      ( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
 
 
                   第二部  「拒絶」編  完結
 
 
 
 
 
.

527同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:23:11 ID:s2sNBMOk0
さっさと次の話を書きたいせいで最後らへんテンポがはやくなりすぎた、ごめん
とりあえず、以上で約束どおり、第二部「拒絶」編は完結。疲れたけど楽しかった

だけど、40話まで『拒絶』の話が続いたものの、あくまでこれは一つのエピソードに過ぎない
つまり、これからは、『拒絶』とは無縁の話になります

次章の簡単な予告編はできてるから、風呂あがりにでも投下する
とりあえず、ここまで読んでいただき、ほんとうにありがとうございました。催促とかつっこみとかのレス、嬉しかったです

528同志名無しさん:2013/06/30(日) 20:36:02 ID:nZ5d1Ug20
お疲れー!
面白かったよ!!
ネーヨ仲間になるかとも思ったけど、流石にそれはないのか?

529同志名無しさん:2013/06/30(日) 21:15:08 ID:s2sNBMOk0
やっぱ予告編はもっとプロット練ってからにする・・・
第三部の投下予定日時ですが、はっきり言って全くの未定です
導入と見せ場とオチ以外のプロットがほんとうに白紙なんで。今年中は無理かもしれないレベル

で、第三部投下する前に番外編を二本、三本ほど投下したいなあ、と・・・
スレ立てするかここで投下するかすら未定ですが待っててください

>>528
いまのパーティにこれ以上ゴツいのはいらない!

530同志名無しさん:2013/06/30(日) 21:18:01 ID:s2sNBMOk0
目次忘れてた
>>365-429  第三十九話  「vs【全否定】Ⅶ」
>>434-526  第四十話    「vs【全否定】Ⅷ」

531同志名無しさん:2013/06/30(日) 21:19:54 ID:iQbM/8Os0
乙!

いやぁ、満腹満腹

532同志名無しさん:2013/06/30(日) 22:56:56 ID:26i6/kL60


533同志名無しさん:2013/07/01(月) 01:07:52 ID:Ts2aP4GY0
風呂長いな。逆上せるなよ

534同志名無しさん:2013/07/01(月) 01:54:37 ID:Ts2aP4GY0
ヤダーキャーハズカチィぃい

535同志名無しさん:2013/07/01(月) 17:13:01 ID:Cj0TiF2I0
ネーヨスキル一切使ってないのか
相当手抜いてるとしか思えん
皆フルで使いまくってるってーのに

536同志名無しさん:2013/07/02(火) 23:16:14 ID:BK9b/gAQ0
乙!
おもしろい。

537同志名無しさん:2013/07/03(水) 12:54:40 ID:F85I2ab.0
ハインの叫びで笑ってしまった

538同志名無しさん:2013/07/04(木) 18:48:40 ID:cYGjswK2O
遅れ馳せながら読み終わったわ、とんでもなく長かったぜ

539 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:03:40 ID:nXO.fptE0
てす

540 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:04:42 ID:nXO.fptE0
番外編一本できあがったので投下します
麻雀ネタなので知らない人は楽しめないかも

541 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:05:47 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
 
 
  ( ^ω^)は自らのパラレルワールドに迷いこんだようです
 
          第二部 → 拒絶編  《 番外編 》
 
 
 
     ◆  マイナス一話  「 拒絶の雀が鳴くようです 」
 
 
 
 
.

542 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:06:41 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
 アニジャが席を突然立ったのは、そろそろ夕闇が裏通りから視界を奪う頃であった。
 バーボンハウスへの道も同様に暗くなるため、この時間帯になると
 常連――『拒絶』たち――以外がここに来ることはまず不可能になる。
 
 その視界のことを憂慮したのか。
 しかし、いままでに関して言えばそのようなことはなかった。
 蜘蛛の巣のように張り巡らされた裏通りだが、彼はその主要なルートをだいたいは把握しているからだ。
 たとえ暗くなろうが酔っ払おうが、彼が裏通りに迷い込むことは、そうなかなかなるものではなかった。
 
 だからこそ、彼が席を立ったのはほかの理由によるものだと思った。
 いつものように無心のままグラスを磨いていたトソンは、そこが気になった。
 
 
(゚、゚トソン「どうしたのです」
 
( ´_ゝ`)「……ん」
 
 黙ってバーボンハウスから出て行こうとするのを、トソンは止めた。
 対するアニジャは、いつものような沈着さ以上の能天気さを見せながら、顔だけをこちらに向けた。
 その顔は、どこか赤みを帯びていた。
 
 
(゚、゚トソン「もうお帰りとは、珍しい」
 
( ´_ゝ`)「ちょっと……久々にアルコールがまわったみたいでな。 風に当たってくる」
 
(゚、゚トソン「悪酔いですか。 それはそれで、珍しい」
 
( ´_ゝ`)「『不運』だっただけだろうよ。 おえ……」
 
 
.

543 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:08:11 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
(゚、゚トソン「……」
 
 ただのアンラッキーだ。
 そう言い残して、アニジャは鐘の音だけを残して去った。
 
 ほかに店内に残っているのは、いつもの面子だった。
 顔を見るでも、声を聞くでもなく、ただ空気を見るだけでわかる。
 とても人間が発するものとは思われない禍々しいオーラを漂わせている「人外」たちだ。
 
 彼らは、アニジャが席を外したことはまるで気にも留めないで、
 いつものように酒を呑んでは頭が狂しくなるようなやりとりを交わしていた。
 顕著だったのが、ワタナベだった。
 
 
从'ワ'从「あっひゃひゃははひひゃらほら!!」
 
( ・∀・)「なあ……酒って踊りながら呑むもんじゃねえから……」
 
从'ー'从「なんだよー」
 
( ・∀・)「いや鼻から呑むもんでもねえから……」
 
从^ワ^从「あっひゃらほららあああっはははははひゃ!!」
 
 
(゚、゚トソン
 
(゚、゚トソン「…」
 
 
.

544 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:09:27 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
 酒癖の悪いのはワタナベだけではないが、彼女の場合は特例だった。
 ただでさえ「人外」じみた思考を持つ『拒絶』のなかでも、更に飛び抜けて思考回路がねじれているのだ。
 『拒絶』のオーラに耐性を持つトソンでも、ワタナベのその酒癖の悪さには圧倒されるものがあった。
 モララーにいたっては、自分が呑もう、呑もうとする酒に逐一なにかいたずらをされるため、たまったものではなかった。
 
 
(´・ω・`)「これだから彼女と酒を呑むのは嫌なんだ」
 
从'ー'从「あァァん? 眉毛引っこ抜くぞビチうんこ野郎!」
 
(´・ω・`)「すまないが、これはアイデンティティーでね」
 
 そう言うと、ショボンはワタナベに背を向けて、ようやく出されている酒に口をつけた。
 彼もワタナベと同じくらい酒癖が悪いのだが、今日はまだそんな調子ではなかったようだ。
 だが、その一因がワタナベにあったというのを見ると、彼はワタナベよりはまだ酒癖がましなのかもしれない。
 
 ショボンが自分に興味を示してくれなくなったので、ワタナベは気を取り直して再び有頂天になった。
 重力の向きを『反転』させては「天井に立ち」、零れ落ちる酒にかかっている重力をも『反転』させてはそれをグラスに注がせた。
 曲芸じみたそれにスキルを使っているのを見て、モララーは更に呆れ返った。
 いまワタナベが手にしている酒は、元はモララーが呑むつもりだったものなのだ。
 
 
 
( ・∀・)「おまえよぉ」
 
( ・∀・)「遊ぶんはいいけどよ、ヒトの酒を邪魔するもんじゃねーだろ?」
 
 
.

545 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:10:38 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
从'ー'从「ケンカ売ってんですかあー!!?」
 
 モララーの挑発的な言葉を見て、ワタナベはその『反転』を消し、元通り地上に足をつけた。
 酒がまわっているとは言え、元はと言えば「戦闘狂」。
 それも、《拒絶能力》というとんでもない次元の強さを誇るそれを握っている。
 モララーの言葉は、その戦闘狂の魂を呼び起こさせるのに充分なものであった。
 
 
( ・∀・)「ほぉ〜〜ッ! おまえ、俺とヤるってのか!」
 
 モララーも椅子から腰を上げ、首の関節の音を鳴らしながら立ち上がった。
 両手はわき腹に当てている。 ワタナベを見下しているというのを、態度で示していた。
 「戦闘狂」で言えば、それはモララーのほうがより上だ。
 
 そのため、元の発言が意図して挑発的に放ったものではなかったとしても、
 ワタナベにこう言われた以上はモララーもそれに乗るしかなくなるのだ。
 もしくは、それを読んだ上でワタナベはわざとそう言ったのかもしれない。
 
 
从'ー'从「やーん! いくら払ってくれんの??」
 
( ・∀・)「むしろカネくれてもやりたかねーわ、おまえだけとは」
 
从'ー'从「あっそ死ね」
 
 
 モララーの正面ではなく「背後」に立っていたワタナベは、掌底をモララーの背に向け放った。
 自分が立っていた位置と対称点とを入れ替えた――『反転』させたからこそできたワザだった。
 そして、それに音は伴わなかったため、完全な不意打ちとしてそれは機能していた。
 
 
.

546 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:11:17 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
 ――そして、ワタナベは勢い余って転んだ。
 
 
 
 
从'ー'从「………ありゃ?」
 
( ・∀・)「………」
 
( ;∀;)「―――ぎゃっはははははははは!! お、おまえ、俺がガチで動こうたあ思ったのか!!」
 
( ;∀;)「んなもん、『嘘』に決まってんだろ、うーそー!!」
 
从'ー'从「うっわ、きも! ドヤ顔すんな死ね」
 
( ;∀;)「ぎゃっはははは!! ハハハハ! ………はは!」
 
 
(-、-トソン「……」
 
 
 トソンは、磨いていたグラスを置いた。
 これで、磨き終えたグラスは七つになり、ついにすることがなくなった。
 
 
 
.

547 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:13:02 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
(´・ω・`)「なにをしているのかと思えば……くっだらない」
 
从'ー'从「ボクねえ、誰に言われるのは構わないんだけど、
      てンめえにだけは言われたくねえんだよなア、そーゆーの!!」
 
(´・ω・`)「それ、昨日も言ってなかったっけ。 それも、モララーに」
 
( ・∀・)「いや、アニジャだ」
 
(´・ω・`)「興醒めだ。 それよりも………」
 
从'ー'从「よぉーーーし、ブッコロ」
 
 
 「す」と言い終える前に、ショボンは肘を曲げ手を上にちいさくあげた。
 無視を快く思わないワタナベを無視して、耳の横で指を弾く。
 これは、彼がスキルを発動するときにたまに見られる所作だった。
 
 ショボンが操る『現実』には、なかなか興味が惹かれる。
 それは、ベクトルの似通った狂気を胸に抱くモララーだからこそ感じることであった。
 そして乾いた音が店内に鳴り響いたかと思うと、テーブル席のうち一つがまるで別のものに変わった。
 それを見て、最初は彼がなにをしたのか、誰もわからなかった。
 
 光沢の黒だったテーブルが、一面緑色になっている。
 中央に円形のなにかが、また四方に横に長い枠がある。
 それを見て、最初に反応を示したのが、意外にも、ネーヨであった。
 
 
.

548 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:13:51 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
( ´ー`)「………ほう。 こいつぁ、おもしれえ」
 
从'ー'从「あーー、ネーヨちゃんやっと起きた!」
 
( ´ー`)「耳をかじられた時は、さすがにシメてやろうかと思ったんだがよ。
      それは、そうと―――」
 
 
 ネーヨは、ショボンが創りだしたその『現実』を甘受する。
 そしてそれは、実に興の深い『現実』であった。
 だからこそ、それまで外部からの干渉を『拒絶』していたネーヨが反応を示したとも言えるだろう。
 
 ネーヨが興味深そうな顔をして言ったところで、ショボンは席を立った。
 『絵空事』が『現実』になったテーブルに移動して、ようやく彼は応えた。
 
 
 
(´・ω・`)「『世紀の喧嘩師でも、時には抗えない』だっけ?」
 
(´・ω・`)「冗談じゃない。 運にも抗えないものなんだよ、こんなのって」
 
(´・ω・`)「たとえば、麻雀………とか」
 
 
 
──────────────────────────────
 
※「麻雀」
 
 みんな大好き麻雀。
 知らない人のために用語はその都度解説します。
 
.

549 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:15:02 ID:nXO.fptE0
 
 
 
( ・∀・)「ふーん…。 思ってたよりは、イキな計らいだな」
 
(´・ω・`)「なんだと思ってたんだい?」
 
( ・∀・)「六発装填されてる拳銃でロシアンルーレットかなー、とは思ったね」
 
(´・ω・`)「それなら、飽きた」
 
( ・∀・)「あっそ。 そーと決まればさっさとやろうぜ」
 
( ´ー`)「おもしれえ。 点死でやるぞ」
 
( ・∀・)「………点死?」
 
( ´ー`)「千で一回死ぬ」
 
( ・∀・)「………賭けは、やめとこう」
 
从'ー'从「わ〜〜い、ナベちゃんそれがいい」
 
( ・∀・)「賭けはナシだ、ナシ!!」
 
(´・ω・`)「………ふうん」
 
 
 
 思いのほか乗り気だな――。
 ショボンはそう思いつつ、スタートボタンを押して牌を出した。
 ネーヨ、モララー、ワタナベがそれぞれ席に就いて、サイコロを振ることでそのゲームははじまったのであった。
 
 
.

550 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:17:09 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 サイコロを振り、それで順番を決める。
 結果、ショボンが親になった。
 このとき、カウンターから見ていたトソンは嫌な予感がした。
 『拒絶』のなかで唯一彼女だけが麻雀を知らないのだが、それでも、不吉なものを感じた。
 
 
(´・ω・`)「僕から……。 マ、当然だね」
 
( ・∀・)「いいからさっさとしろ」
 
(´・ω・`)「先にルールを確認しておきたいんだけど、どうする?」
 
( ・∀・)「東風アリア」
 
( ´ー`)「半荘ナシナシ」
 
( ・∀・)
 
( ´ー`)「半荘ナシナシ」
 
( ・∀・)
 
( ・∀・)「……よし、そうしよう」
 
 
 
──────────────────────────────
 
※「東風アリアリ」
 
 親が一周したらおしまい。
 また、簡単にアガれるお手軽ルール。
 ポケモンで言うところの見せ合いなし33(ガブリアスはいない)。
 
※「半荘ナシナシ」
 
 親が二周したらおしまい。
 また、アガるには運と実力が必要となる本格ルール。
 ポケモンで言うところの見せ合いあり63(ガブリアスはいる)。
 
.

551 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:18:27 ID:nXO.fptE0
 
 
 
(´・ω・`)「やれやれ。 鳴けないんだね」
 
( ・∀・)「いいからさっさとしやがれ」
 
(´・ω・`)「することないよ。 アガり」
 
( ・∀・)「いいからさっ    ――――え?」
 
( ´ー`)「は?」
 
从'ー'从「ふええ?」
 
 
 「アガり」。
 そう言ったかと思うと、ショボンは配牌の十四を公開した。
 その十四は、きれいに整頓されていた。
 
 
 
 
(´・ω・`)「大四喜、字一色、四暗刻、天和。 四倍役満だ」
 
 
 
 
──────────────────────────────
 
※「鳴く」
 
 つまりポンとかチー。
 ポケモンで言うところの相手の雨乞いをこちらが利用するアレ。
 
※「大四喜+字一色+四暗刻+天和」
 
 いろんな役満(すごい役)の複合体。
 ポケモンで言うところのバトルタワーを爪ドリルのみで勝ち上がるくらい頭がおかしい。
 
.

552 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:19:22 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
 その瞬間、場が静まり返った。
 そして同時に、ワタナベ、モララー、ネーヨの三人は痛感した――「思い出した」。
 
 この世のすべての事象、あらゆる概念、その他一切のものを自由に操る男。
 「ご都合主義」以外でこの男を指し示すのが不可能と思われるほど、「ご都合主義」が似合う男。
 
 
         エ .ソ ラ ゴ ト
 人呼んで 【ご都合主義】。
 それが、この男、ショボン=ルートリッヒだった。
 
 
 
 
(´・ω・`)「なあに、きょとんとしている。 これが『現実』さ」
 
(´・ω・`)「さあ。 十九万二千点だ、払え」
 
 
 
.

553同志名無しさん:2013/08/04(日) 21:20:47 ID:bq0.LDRk0
麻雀知ってるけどポケモンの例えがさっぱりわかんねぇww

554 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:21:13 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
 
从'ー'从「―――払うのはお前だよ、ばぁぁ〜〜か」
 
(´・ω・`)「…なに?」
 
 
 禍々しいオーラを漂わせながらショボンが言ったかと思うと、ワタナベがそう返した。
 そのときのワタナベの漂わせていたそれも、ショボンに負けず劣らず邪悪なものであった。
 彼女は配牌のうち「二つ」を手に取り、中央に叩きつけながら言う。
 その牌二つには、「東」と書かれてあった。
 
 
(´・ω・`)「ッ―――」
 
 
 
 
 
从'ー'从「おら、チョンボだ」
 
从'ー'从「てなわけで、満貫払いしていただきまーす!!」
 
 
 
 
──────────────────────────────
 
※「東」
 
 いわゆる字牌、風牌。
 ポケモンで言うところの珠並に需要がある。
 
※「チョンボ」
 
 いわゆるルール違反。 でもばれなかったら大丈夫なケースもある。
 ポケモンで言うところの道具重複のようなもの。
 
※「満貫払い」
 
 細かい計算がいろいろあるけど、とりあえず痛い。
 ポケモンで言うところの乱2並に威力がある。
 
.

555 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:22:50 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
 「大四喜」という役には、東南西北の四つの牌が必要となる。
 当然、いま彼女が叩きつけた「東」もそのうちの一つである。
 
 また一方で、同じ牌は四つしかない。
 つまり、東南西北の牌を三つずつ集めることで成る「大四喜」は、成立しなくなるのだ。
 それどころか、今のショボンの牌では、なにも役ができていない。
 この状態で牌を公開しアガりを宣言した以上、チョンボが適用されてしまう。
 
 しかし、そんな筈は、ない。
 そう思ったショボンが、先ほど自分が見せ付けた配牌を見ると、目を疑った。
 あきらかに二つ、見慣れぬものがそこにあったのだ。
 
 
(´・ω・`)「……なんだ、これは……」
 
从'ー'从「さぁー?? なんでしょーね!」
 
 
 萬子の三と筒子の七――という、これらの役とまるで関係のない牌が、かつて「東」のあった場所にあった。
 ショボンはそれを指で前にずらしながら、明らかに邪悪な顔をしてみせた。
 
 
 
──────────────────────────────
 
※「萬子」
 
 つまり、数字を統括するマーク。
 ポケモンで言うところの炎タイプ。
 
※「筒子」
 
 つまり、数字を統括するマーク。
 ポケモンで言うところの水タイプ。
 
.

556 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:23:48 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
从'ー'从「あれれ〜? 知らないよぉ〜?」
 
(´・ω・`)「………!」
 
(´・ω・`)「まさか貴様……ッ、」
 
 
 
(´・ω・`)「牌を〝入れ替えた〟な……!?」
 
 
 
 その言葉に、ワタナベはにんまりと、不吉な笑みをこぼした。
 口が裂けかねないほどに、口角を吊り上げる。
 このとき、先ほどの【ご都合主義】のそれと同じように、皆はまたも、「思い出した」。
 
                                        テノヒラガエシ
 この世のすべての事象、あらゆる概念、その他一切のものを『 反 転 』させる女。
 なにが起こっても「手のひら還し」を行ってくる、ある意味において『拒絶』を体言する女。
 
 
               イレギュラー・バウンド
 誰が呼んだか 【 手 の ひ ら 還 し 】。
 それが、この女、ワタナベ=アダラプターであった。
 
 
 
 
从'ー'从「え〜〜、なに急に激おこぷんぷん丸なのお?」
                          クルワセ
从'ー'从「―――てめえの言う『現実』を 『 異常 』 てやっただけじゃねーかよ」
 
 
 
.

557 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:24:40 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
( ・∀・)「おうおう、チョンボだチョンボ。 ギャッハハハハハ!」
 
(´・ω・`)「……なるほど、そういうことか」
 
( ・∀・)「?? どったの?」
 
(´・ω・`)「チョンボはきみだ、ワタナベ」
 
从'ー'从「ふええーーー!!?!?」
 
( ・∀・)「おいおい、見苦しいぞ」
 
从'ー'从「だよだよー! これだから童貞なんだ!」
 
(´・ω・`)「いいか、よく見てくれたまえ」
 
从'ー'从「どれどれえ?」
 
 
 そう言うと、ショボンは右手を伸ばして、ワタナベの叩きつけた「東」の牌に親指をのせた。
 同様に、手元にある二つの「『異常』られた」牌にも親指をのせた。
 そして、それを、親指の腹で磨くがごとく、擦りはじめた。
 
 面白半分のモララーとワタナベは、笑いながらそれを見ていた。
 だが、笑っていたのは最初だけで、ショボンが指をのけた瞬間、彼らの顔は真剣味を帯びた。
 
 
.

558 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:25:25 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
 
(´・ω・`)「ほら。 やっぱり〝描かれていただけ〟だった」
 
 
 
 そう言いながらショボンが見せてきた両手親指の腹は絵の具のようなもので滲んでおり、
 一方で卓上にあったその問題の牌は、ワタナベがチョンボを指摘する前のものになっていた。
 
 【ご都合主義】。
 『ワタナベの入れ替えた牌は実は絵の具によって細工されたものであった』
 ―――ショボンは、先ほどまで在った「現実」を、そんな『現実』につくり変えた。
 
 当然、ワタナベは牌に細工などしていない。
 ただ、ショボンの牌と自分の牌を入れ替えただけなのだ。
 そのため、本来ならばこの牌に絵の具など塗られているわけがない。
 つまり、ショボンによって「そういうことになっていた」とされてしまったのだ。
 
 それを見てモララーとワタナベから笑みが消えるのも、無理がなかった。
 ワタナベは当然のこと、いよいよ、モララーも面白くなくなってきたようだった。
 
 
( ・∀・)「おいおいショボン、キチガイはそこまでにしようぜ」
 
(´・ω・`)「なんだって?」
 
( ・∀・)「『そもそも牌を配ってすらいない』のに、脳内麻雀か?」
 
(´・ω・`)「…!」
 
从'ー'从「あれれ〜? ………あれ? ハ?」
 
 
 ―――先ほどまで目の前に並べられていた牌は、
 元のようなまだ配られていない状態になっていた。
 
 
.

559 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:27:11 ID:nXO.fptE0
 
 
 
(´・ω・`)「貴様……」
 
从'ー'从「テメエ、なーにシケたことしてやがんだよ」
 
( ・∀・)「??」
 
从'ー'从「元に戻せよ。 せっかくボクも一向聴だったのによ」
 
( ・∀・)「元に戻す?」
 
 少し、悩む素振りを見せた。
 そして、モララーは、手を叩いた。
 
 
( ・∀・)「……ああ! あれ、おまえらどうした? 酔ってんのか?」
 
(´・ω・`)「なに?」
 
 
 
( ・∀・)「『さっき南場三局目が終わって俺がダントツトップ』だぜ、今」
 
( ・∀・)「ちょっと寝ぼけてたか?」
 
 
 
──────────────────────────────
 
※「南場」
 
 半荘における後半戦。
 ポケモンで言うところのイワヤマトンネルで回復アイテムが減って焦りが見えてきた頃。
 
.

560 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:28:40 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
从'ー'从「……!」
 
 
 なにかに気づいたワタナベは、とっさに雀卓中央に表示されているデジタルの数字列、得点に目をやった。
 最初は皆二万五千からはじまったのに、気がつけばそこは
 モララー以外の皆の表示が数千なのに対し、モララーだけが九万オーバーとなっていた。
 
 時間に関しても、麻雀をはじめたのはつい先ほどの筈なのに、気がつけばもう数十分経過していた。
 いくら人間的な感覚のない彼らであっても、時間的感覚は人並みに持っている。
 そのため、今自分がいる世界が『異常』られていることには容易に気がついた。
 
 また、やはり同様に、気がついたことがあった。
 これもやはり――いや、〝こうするからこその〟モララーなのだ。
 
 
 この世のすべての事象、あらゆる概念、その他一切の『真実』を台無しにしてしまう男。
 万物に先行する『真実』と表現されている形而上のそれに『嘘』を『混ぜる』男。
 
 
             フェイク・シェイク
 自他共に認める 【 常 識 破 り 】。
 それが、この男、モララー=ラビッシュであった。
 
 
 
                   ホンキ
( ・∀・)「やーっぱ、俺が『真実』だしちまうとこーなるよなァ?」
 
( ・∀・)「これだから、『常識破り』なナイスガイって言われるんだ」
 
 
 
.

561 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:29:27 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
从'ー'从「……っ」
 
(´・ω・`)「『それはないね。 きみこそ寝ぼけてるんじゃないの?』」
 
( ;-∀・)「誰がねぼ……ッ!」
 
(´^ω^`)「おはよう」
 
( ;・∀・)「チッ! 面倒だ!」
 
从'ー'从「ふええ〜?」
 
 
 ――ショボンが呪文が如くそう言うと、
 「いつの間にか卓上に突っ伏して寝言を言っていた」モララーはがばッと起き上がった。
 突っ伏していたため、「目の前に並べられていた」自分の配牌は大きく崩れていた。
 
 モララーがまさか、と思い時計を見ると、元通り「モララーが『嘘』を吐く前」の時間を針は示していた。
 すなわち、自分はショボンの言う『現実』に踊らされた、ということ。
 これは、二重の意味で面白くなかった。
 
 
.

562 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:30:12 ID:nXO.fptE0
 
 
 
( ・∀・)「――なーんて」
 
( ・∀・)「今の、当然ぜんぶ『嘘』だよな?」
 
(´・ω・`)「なにがウ……、……『また寝言』かい?」
 
( -∀-) Zzz
 
(´・ω・`)「ふう」
 
( -∀-)
 
( ・∀・)「なーんちゃって。 『もう開始から三時間経ってる』とは言え、まだ眠かねえな」
 
(´・ω・`)「時間に『嘘』ついたところでなにも、」
 
从-ワ-从「ぐーすかぴー」
 
(´・ω・`)
 
( ・∀・)「あらあら。 じゃあ、俺の勝ちってことで終わらせる?」
 
( ・∀・)「『最後の最後で八連荘と国士無双十三面のトリプル役満が決まった』ことだしな」
 
( ・∀・)「おやおや、点棒が足りないな。 別にツケでもいいよ」
 
 
.

563 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:31:37 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
(´・ω・`)「それはおかしいね。 『どう足掻いても僕しか勝てない』って『現実』しかないんだから」
 
(´・ω・`)「きみの言った戯言は、現実的に、物理的に、生理的に倫理的に宇宙航空学にありえないよ」
 
( ・∀・)「『嘘みたいな常識破りな運が俺を支援してくれていた』ってのに?」
 
(´・ω・`)「親、僕だったでしょ? 『僕、天和しか成立しないから』きみに如何なる運が降りかかろうがねえ、」
 
( ・∀・)「え、親? 『親は俺だった』だろ?」
 
(´・ω・`)「だったらトソンに聞いたらいい。 彼女は、一局目からずーっと僕のソリティアを見ていたのだから」
 
( ・∀・)「………。」
 
 
(´・ω・`)「てなわけで、だ」
 
(´・ω・`)「トソン。 きみはわかっているだろう?」
 
(゚、゚トソン「……ネーヨさんが黙っているってことくらいしか」
 
(´・ω・`)「ああ、そうだ。 ネー……、……え?」
 
(´・ω・`)
 
( ´・ω・)
 
 
.

564 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:32:51 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
(  ー )「………………」
 
 
 
(´・ω・`)
 
( ・∀・)
 
从'ー'从「……はッ! ボク、寝ちゃってた! ここはどこ!?」
 
从'ー'从
 
 
(  ー )「…………」
 
 
从'ー'从「やだ〜、ネーヨちゃん、どーしたの……」
 
从'ー'从「ね、ね。 はやくJK輪姦しに街に繰り出そうぜ! ほら!」
 
( ´ー`)「……おめーが輪姦、ってか」
 
从'ー'从「やった、起きてた! 起きてたよ、みんな!」
 
( ・∀・)
 
(´・ω・`)
 
从'ー'从「あれれ〜?」
 
 
.

565 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:33:31 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
( ´ー`)「……特別ルールを設けようじゃねえか」
 
(゚、゚トソン「(ほっ)」
 
 
 ワタナベに飄々とした態度で接されたネーヨは、うつむけていた顔をあげた。
 その顔に思いのほか陰りが生えていなかったことに、トソンは安堵を得た。
 それはモララーもショボンも一緒だったのだが、彼らはそれを顔に出そうとはしなかった。
 
 頬杖をつきながら、ショボンとモララーを視界に収めるようにしてそう言った。
 陰りというよりもむしろ気味の悪い笑みを浮かべており、それがまたしても不吉に思われた。
 
 
(´・ω・`)「ルール?」
 
( ・∀・)「半荘ナシナシ以外に、なにか?」
 
( ´ー`)「サマ禁止に決まってるだろボケ」
 
 
 
──────────────────────────────
 
※「サマ」
 
 イカサマの略。
 
.

566 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:34:24 ID:nXO.fptE0
 
 
 
( ・∀・)「えー? イカサマなんて、し」
 
( ´ー`)「サマがばれたら、罰ゲーム。 くそマズいもんをイッキだ」
 
( ・∀・)「くそマズいもんって?」
 
( ´ー`)「トソンに任せる」
 
( ・∀・)
 
(゚、゚トソン「雑巾ならあります。 さっき牛乳拭いたやつ」
 
( ・∀・)
 
                                ジツリョク
( ・∀・)「よーしおまえら、イカサマはなしだ。 『 真 実 』で行こう!」
 
从'ー'从「トソンたんの愛のシロい汁? 飲みた〜い!」
 
(´・ω・`)「やれやれ。 情けないね、フェイク・シェイクの名が廃る」
 
( ・∀・)「なに言ってんだ。
       殺し合いには手を抜いてもいいが、ゲームには全力だ。 そうだろ?」
 
(´・ω・`)「全面的に同意だ。 ……じゃあ、はじめるか」
 
 
.

567 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:35:31 ID:nXO.fptE0
 
 
 
─────────────────────────────────────
 
 
 
                             ,
    |_ i――  くノ ノ7               ノ |   ヽ
   ーT .|ー┐  ∠、「工]            ノ   ! /  \
.   -十´.|―┘  小 |      /Τヽ.      /    
     _.| └―‐  | L_ノ   し' ノ    /  /  _  
                          /| ̄ ̄i ̄ ̄_     i.  \ ヽヽ
                        /  | ̄ ̄i ̄ ̄_   _,, +-‐フ \
                      /    | ̄ ̄i ̄ ̄    ノ  ノ
                            ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                       ノ
                      | ̄ ̄|
                ┌┐  |二二|     
                └┘  └―‐――┐  
                              /    ノ        、
                         ハ ヽ \ /   く      ├   ,―、 -― ゛ -┼‐
                          /     ヽ   σ‐    ノ  (_ .   9
 
─────────────────────────────────────
 
 
.

568 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:37:01 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 イカサマ禁止のルールを定めるのは、いわば必然だ。
 ボクはいいとして、ショボンを野放しにしていると、ゲームとして成り立たなくなる。
 全てを思い通りにされてしまえば、それはゲームではなく、ショボンによる一方的な搾取となるのだから。
 
 ある程度なら、その恩恵をボクに適用させることもできるけど、ショボンのことだから、
 ボクの妨害を受けることのない『現実』を適用させてくる。
 もしボクの認知できない、予測できないところで都合のいい展開を強いられると、それでショボンの圧勝が確定される。
 
 上っ面だけなら【ご都合主義】に似た【常識破り】にも、対策は必至となるだろう。
 【ご都合主義】になくて【常識破り】にある特性には「『嘘』を暴く」作用があるが、それは麻雀では特に意味を成さない。
 あれは、いわばスキルを不死身にして無敵にさせるための、防御力のあるものだ。
 たとえば自分がツモる運命にある、もしくは既に持っている東を【ご都合主義】に奪われたくがないために
 『これは南だ』という『嘘』をついたところで、そうなると南が五個に対して東が三個だけなんて事態が起こるため、そのうちそのイカサマはばれる。
 
 禁止されたイカサマを〝如何に相手にばれずにするか〟が重要となるこのルール下で、
 〝ばれる可能性が一パーセントでもあるイカサマ〟など、できない。
 この雀卓を囲っているのは、その一パーセントを百パーセントにしてしまう連中なのだから。
 そして実際に、この卓にボクが就いている時点で、
 〝僅かな可能性で証明されてしまいかねないイカサマ〟は自ずと封印されてしまったことになる。
 
 理由、そんなもの、言うまでもない。
 この四人のなかで唯一、ボクは人の心を読めるのだから。
 
 
.

569 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:39:08 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 だが、まだ心は読んでいない。
 というより、〝読めない〟。〝騙されそうで〟。
 
 麻雀は元より、スキルを使った戦闘においては天才的な連中ばかりが相手なのだ。
 特にショボン。 ショボンはどうせ、自分がマークされていることを誰よりも先に自覚し、意識するだろう。
 だが、ショボンは絶対にイカサマをしない筈はない。
 奴は、なによりも「自分が負ける」なんて現実を好まない。
 だからこそ、自分が警戒されていることを自覚した上で、それを対策し自分が勝てるような『現実』を適用させてくる。
 
 たとえば、配牌にあった不要な二枚を『僕の目が悪かっただけで
 実はこれらはドラだった』なんてご都合主義な『現実』をつくったり。
 
 たとえば、牌そのものには手を出さなかったとしても、ボクたちが鳴くことでツモの順番が変わり、
 それによって自分が欲する牌を引き寄せる、なんてワザを見せてくるかもしれない。
 
 詰まるところ、たとえボクがショボンの言う『現実』を『絵空事』に還せるからといっても、ショボンが最強であるのには変わらないのだ。
 他人の意思をも操れるなど、『拒絶』内ではおろか世界中を捜してもいないだろう。
 「すべてを思い通り操る」、「人の意思を自分の意思として扱う」。
 そんなワイルドカードを二枚も持っている時点で、ショボン優勢は変わらない。
 
 なら、どうすればいいのか。
 ボクが牌を自在に入れ替えることで、先にアガればいいのか。 アホか。 それもだめだ。
 〝手を使わずに牌を入れ替えることができる〟なんて、ショボンほどではないにしてもチートなことには違いない。
 
 そしてそれは、〝ばれない〟のだ。
 誰も、トソンたんだって山のなかを覗くことはできないし、
 もし入れ替えをしてそれを指摘されても、しらを切ることができるのだから。
 
 つまり、ショボン同様にボクもマークされていることになる。
 あいつと違って自分に有利な展開を招くことこそできないが、まあ、うん。
 
 
.

570 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:41:30 ID:nXO.fptE0
 
 
 
从'ー'从「(……へっちょ)」
 
 
 牌を起こして、ぱっと見た。 へちょかった。          コイツラ
 筒子の染め手ならいけるかもしれないが、メンバーが『拒絶』な時点で手が読まれる打ち方はできない。
 モララーやネーヨちゃんなら振り込まないよううまく立ち回るだけになるかもしれないが、ショボンはゼッタイになにかをやってくる。
 
 『ワタナベはこの局ではどう足掻いても筒子がやってこなくなる』だったり。
 『山のなかにある筒子は実は自分のぜんぶ牌だった』とか。
 ばれないイカサマでボクの攻め手を妨害してくるだろう。
 それでボクが手のひら還して手を変えようとしたら、ロン。 はっきりとわかんだよね。
 
 ホンイツにチンイツは無理。
 ほかにこの手で狙えそうなのは、せいぜいリーチかけての三色くらい。
 山からなにか牌を失敬するのも手といえば手なのだけど、それをするとショボンにイカサマがばれるかもしれない。
 もし、ボクが失敬した牌がショボンの当たり牌だった、
 加えてショボンが『その牌は二順後にツモる』なんて『現実』を適応させていたとすると、『現実』は『異常』られる。
 
 もっとも、そうしたとして、困るのはあいつも一緒なんだけど。
 死なばもろとも、な感じで道連れにされちゃあたまらないというのを考えると、これはリスキーだ。
 山から牌を失敬するのは、厳しい。
 
 ――じゃあ、ボクはどうやって勝てばいいのさ!
 とりあえず、ボクはショボンが【ご都合主義】を展開させているのを読んで、奴の言う『現実』を真逆なものにさせておいた。
 もし奴が自分に有利になるような展開を仕組んでいたとしたら、これでショボンは脱落確定。
 もし奴がなにもスキルを使っていなかったとしても、スキルを使ったら脱落するし
 スキルを使わないショボンは敵じゃないし、一番ローリスクハイリターンだ。
 やったねナベちゃん!
 
 
.

571 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:43:05 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
 残るは、モララーとネーヨちゃん。
 モララーはモララーで、やっぱりマークはしとかないとだめだ。
 麻雀においては【ご都合主義】の劣化だとは言え、チートアイテムには違いない。
 
 しかし、モララーにはボクの【手のひら還し】は通じない。
 『俺はここにいる』という例の『嘘』の鎧をかぶれば、
 それをそのうち脱ぐことで、その間に受けていた自分への制約を全部取り払える。
 
 たとえば、ボクが、モララーの言うイカサマのための『嘘』を「嘘」に還してやったとしても、
 そのあとにモララーが『嘘』の鎧を脱げば、ボクの妨害は全くの無駄になってしまう。
 しかも、これはただの懸念じゃなくて、ほんとうに起こりうる可能性がおそろしく高い。
 
 モララーは、『真実』を病的なまでに忌み嫌うのだ。
 あるがままの、ありのままの、ありていの自分でなにかに臨むはずがない。
 だとすると、ある意味においてはボクはショボン以上にモララーに妨害をしておかなければならない。
 でも、妨害しても、たぶん意味がない。 どころか、もっと別のなにかが『異常』られてしまうかもしれない。
 心の声を聞こうにも、モララーは心に常に嘘の鎧を着せている男だ、読めるものはせいぜい今晩のおかずの話くらいだろう。
 
 対モララーに関しては、妨害よりも先にボクがアガることが要求される。
 幸い、対モララーだけを考えるなら、ボクがいくら山から牌を失敬したところで問題らしき問題は見られない。
 奴の【常識破り】は相手のスキルを解除するスキルじゃないんだから、ボクの【手のひら還し】を『嘘』にすることはできない。
 それに、ショボンと違ってモララーの場合スキルの対象となるのはボク自身なのだから、
 ボクが膜みたいに『反転』を機能させておくと、それだけで充分モララー対策にはなる。
 
 どちらかと言えば、こいつが自分自身に『嘘』を吐くのが怖い。
 『俺は世界で一番のラッキーボーイだ』なんて言っただけで、ショボン以上に都合よく牌が集まるかもしれない。
 これに関しては、ボクからは妨害できない。 やつがツモるたびに、
 その牌とボクの持っているゴミ牌とを入れ替えてやることくらいでしか。
 
 
.

572 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:44:39 ID:nXO.fptE0
 
 
 
从'ー'从「(きっちいなぁ〜〜)」
 
 だいたいの方針が定まってきたところで、置いておいたネーヨちゃん対策を考えた。
 ネーヨちゃんの場合、物理法則を無視した「ゼロ秒行動」で堂々とイカサマをしてくるかもしれないが、
 まあ、日頃の酒に対する執着や拘りを麻雀にも見せていたのを見ると、ネーヨちゃんに限ってはイカサマはないだろう。
 
 ネーヨちゃんにはあらゆる妨害が効かないが、妨害をする必要のない打ち方をしてくれるのであれば問題ない。
 それよりも、ネーヨちゃんの場合、このメンツのなかで一番強そうだからなあ。
 見るからに好きな役はダマテンチートイツって感じ。
 スジ引っ掛け引っ掛けでスジに従った待ちをしてきたり。
 字牌の地獄単騎から別の字牌の地獄単騎に乗り換えてきたり。
 
 それに、教科書的な打ち方、騙すための打ち方含めて
 合理的な打ち方というものを知り尽くしているだろうから、
 途中でイカサマをすることで妙な打ち方になったら、それを指摘されるかもしれない。
 というより、今回の麻雀におけるネーヨちゃんの方針はソレだろう。
 
从'ー'从「(まじきっちいわぁ〜〜)」
 
从'ー'从「(これだから、年寄りクソジジィは。 ボクみたいなぴっちぴち女子○生のほうがゼッタイいいっての)」
 
(´・ω・`)「さあ、切ったよ。 ツモってくれ」
 
从'ー'从「およよ〜?」
 
 
 ここにきて、ボクは未だに自分の方針が決まっていないことに気がついた。
 それはそうと、なんでこのしょぼくれはこんな牌切ってんの?
 
 
.

573 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:45:43 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 

 
 
 
 僕は牌を手前の淵に当て、歪だった十四牌を整列させた。
 左手を端に当て、右手の親指を右端から左端まで擦らせる。
 そのまま牌を起こす。
 
 目に飛び込んできたのは、平生の僕が持つにはありえない牌の羅列である。
 つながっていない、独立した牌が多く、聴牌まで持っていくのにあと何手いるかわからない。
 平生ならば、この配り終えた段階で僕はアガっている。
 〝そういう現実なんだから〟仕方ない、そう言って金を荒稼ぎしたこともある。
 
 だが、今回は違った。
 「カモ」になるなにも知らない凡人どもとは違って、
 目の前にいるのは、こちらのことを知り尽くしている連中だ。
 僕が圧勝するという『現実』に見向きもせず、駄々をこねる連中。
 
 当然、持っているスキルが使えるのであれば、先ほどのような水掛け論じみたスキル合戦がはじまる。
 それではゲームにならない、ということで、スキルを含めたイカサマの禁止が発令されたのだ。
 僕としては、初手がどうの、攻め方守り方がどうのよりも、こちらのほうが重要なのだ。
 
 ここで、馬鹿正直にイカサマ――はいいとしても、スキルを封印する馬鹿はいない。
 要は〝ばれなければ、使っていい〟というルールなのだ。
 ならば、如何にしてこいつらの目を欺きつつ、僕に有利な『現実』をつくりだせばいいのか。
 それが何よりも重大な問題で、そして唯一の問題である。
 
 
.

574 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:47:21 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 理牌はしない。
 今まではする必要がなかったし、今もする必要がない。
 敵に情報を与える理牌なんて、するだけでお粗末だ。
 理牌をするメリットは、せいぜい適当な並べ方をして相手を欺く程度。
 こんなもの、並べ替えるまでもなく、ぱっと見ただけでどんな牌がきているのかわかる。
 
(´・ω・`)「(……みごとにばらばらだな)」
 
 どうやら、【ご都合主義】を展開させなかっただけで、ここまで悪い手が舞い込んでくるようだ。
 ほんとうは、今まで「現実」を変えずに麻雀を打ったことがなかっただけなのだが。
 しかし、やはり今回は、配牌の段階ではスキルを使うことはできなかった。
 
 スキルのない、正々堂々の勝負。
 それはつまり、現実的で具体的な打ち方が要求される、ということだ。
 もし最初からツモ切りをしていたら、【ご都合主義】を使ったことがばれるだろう。
 また、ツモ切りでなくともツモってすぐに牌を切れば、それはそれでツモの内容を操作した、という推測に繋がる。
      コイツラ
 僕も『拒絶』も、麻雀に関しては素人ではない筈だ。
 だから、ある程度のはやさなら疑われはしないだろう。
 
 だが、僕は別だ。
 僕の【ご都合主義】は、ある意味においては最強の、ジョーカーだ。
 麻雀というゲームにおいて、「すべてを自分の思い通りにする」というスキルほど強いイカサマのツールはない。
 
 僕の場合、既定事実を変える以外にも、未来の進行を変えることもできる。
 ツモの内容を変えずとも、ほかの三人が鳴くような展開をスキルで強要させることで、僕が望む牌を呼び込める。
 しょぼい、あまりにもしょぼい初手だが、ここから五順目でリーチをかけ、そのまま一発で振り込ませることくらいならばできる。
 
 しかし、この『拒絶』の面子を前に、五順目なんてラグはあまりにも遅すぎる。
 思えば、「イカサマにおいて最強」なのは僕だけではないのだ。
 
 
.

575 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:49:19 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 ワタナベも、モララーも、ネーヨでさえ「誰にもばれずにイカサマができる」。
 ワタナベは、先ほど僕に見せ付けてきたように、牌の入れ替え。
 初手で全ての牌がばらばら、という事態に陥っても、それを天和の手に変えることができる。
 逆に言うと、ワタナベのイカサマはその程度のものなのだが、問題はイカサマの手段ではなかった。
 
 彼女のスキルは、「対象を選ばない」。                       クルワセ
 僕のように牌や展開に限定されたスキルではなく、彼女は相手のスキルさえ『異常』ることができる。
 たとえば、僕が望みの牌をツモれるような『現実』を仕込んだとしても、
 その『現実』を『絵空事』に戻して――〝還して〟くるのだ。
 
 僕が誰にもばれずに『現実』を操作できたと安堵している間に、ワタナベがイカサマをする可能性は、充分高い。
 ――いや、そもそも、彼女に限らない。
 僕はいわば、この三人の皆から、マークされているのだ。
 
 たとえ僕のスキルがばれやすいものだからといって、展開をも抑制し調整することができる以上、
 ほかの誰よりも【ご都合主義】が一番強力であるのには変わらない。
 配牌前に『僕以外のみんなは罰ゲームが怖いからとスキルを使わなくなる』
 なんて【ご都合主義】な展開を強要させることすらできるのだから。
 
 もちろん、一度その『現実』を適用させられてしまえば僕の圧勝は免れなくなるのだから、これもマークされていただろう。
 ワタナベが、そんな『現実』を『絵空事』に還したか。
 モララーは、『俺はショボンの言う「現実」を甘受する』なんて『嘘』の鎧をかぶって凌いだか。
 ネーヨなんて、「んなもん、知らねえよ」なんて一言で一蹴してきたかもしれない。
 実際のところ、僕は一つ目、ワタナベのカウンターが怖かったため、そのような『現実』はつくっていない。
 そんな、〝マークされやすいところで〟スキルを使うと、僕が負けるのは目に見える。
 
 
.

576 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:51:30 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 皆が【ご都合主義】をどう対策してくるか。
 それに関しては、未知数だ、だからこそ〝こいつらが予測し得る場面でのスキルの発動は封印された〟も同然となる。
 いや、イカサマ禁止のルールが採用された時点で既に封印されていた、とも見ることができる。
 
 しかし、そんな封印を『拒絶』できる『現実』を、一つだけ、もう適用させておいた。
 『僕にとって都合のいい予測不可能な展開が、そのうちに起こる』。
 この『現実』ならば、ワタナベの妨害を受けようとも、いくらでも対策がとれるのだ。
 
 もし、『現実』の内容を真逆のベクトルに『反転』させられたなら。
 僕が適応させておいた『現実』は『僕にとって都合の悪い予測可能な展開が、すぐに起こる』となる。
 もし実際にそうなったとしても、それは「予測可能」なのだから、いくらでも対処のしようがある。
 
 そして、もし実際にそうなったら、ワタナベは僕のイカサマを警戒してスキルを使ってきたということになるのだから、
 彼女がこの一局に対してスキルを使ってくるという可能性は非常に高くなることになる。
 つまり、そうなっただけで、僕はワタナベに対して優位に立てることになるのだ。
 
 一つだけ、ばれようにもばれることのできない『現実』をつくった。
 あとは、ほか三人のイカサマの手口とその対策を考えなければならない。
 
 ワタナベのすり替えは――なんとでも対策がつく。
 この卓に僕が就いているだけで、ワタナベはすり替えが封印されているも同然だ。
 『ワタナベはすり替える牌を間違えてしまう』なんて展開をつくれば、一発。
 もっとも、この『現実』でさえ『反転』させられてしまいそうなものだがね。
 
 もしワタナベが『反転』を常時機能させていたことがわかったら、
 彼女にとってメリットとなるような『現実』を一つ適用させるだけで彼女は落ちる。
 二順目からベタオリの開始、なんてまぬけな光景を見ることができるかもしれない。
 しかも、もしそうなっても国士無双とかチャンタを狙っているとしか思われない――つまり僕の干渉はばれないだろうし、一石二鳥だ。
 
 
.

577 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:52:37 ID:nXO.fptE0
 
 
 
(´・ω・`)「(皆が牌を立てて三秒……そろそろ切るか)」
 
 僕がこの局でとるべき戦法。
 それはずばり、〝牽制〟だ。
 
 一見イカサマをすると思わせられるような打ち方をして、動揺を誘う。
 あわよくば、乗り遅れないためにと便乗してスキルを使ってくる奴が出てくるかもしれない。
 もしそうなれば、『そいつのイカサマがあっさりとばれる』展開にして終わりだ。
 この術をとることができる以上、便乗はつまり危険な行為となるから誰もしてこないだろうが。
 
 ここで長考をするのはタブーだ。
 どんな手にするか、ではなく、〝どんなイカサマをするのか〟を考えているのか、と思われるに違いないからだ。
 この一局を勝つための最優先事項は、「疑われない」こと。
 疑惑の目を他家にそらすことで、安全にイカサマをして、ちゃっかりアガったりなんてできる。
 
 かといって、素直に定石どおりに手を進めるわけにはいかない。
 最速でも五順はいる配牌なのだ、その隙、僕の見抜けないうちに誰かにイカサマでアガられてしまうかもしれない。
 せめて三連荘は続けないと話にならない。 だとすると、教科書麻雀もイカサマも長考もできなくなる。
 
 
 こんな状況でできる有効な一打は、〝コレ〟しかなかった。
 僕は涼しげな顔で、ドラの乗っている筒子の五を切った。
 
 
.

578 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:53:09 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 

 
 
 
( ´ー`)「(初手三向聴……わるかねえな)」
 
 腹減った。
 
 
 
.

579 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:55:32 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 

 
 
 
( ・∀・)「初手ウーピンねえ」
 
(´・ω・`)「おや、鳴くかい?」
 
( ・∀・)「俺は基本鳴かない主義でね。 さあ、ワタナベだぞ」
 
从'ー'从「ふええ〜〜」
 
 
 これは予想外の一手だった。
 ショボンのことだから、ウーピンの暗刻でも握ってそうなものだったけど。
 また一方で、ボクの十三牌のうち八個が筒子であるというのもボクを驚かせた一因だ。
 
 筒子で一、二、三、四と一個飛んで六がある。
 とにかく、ここで鳴いて一、二、三の順子にして染め手にする、なんてできなくもない。
 そうすると、手が早くなる。 ほかのみんなが加速しはじめる頃にアガれたりもできる。
 
 ――なーんて思ったかショボン! へいへい、聴こえてるう?
 おそらく、これはショボンが『現実』を操作したのだ。
 配る段階でボクの手元に筒子が多く来るようにした上で、初手がドラのウーピン。
 ボクに鳴かせ染め手を狙わせることで、後々ボクに筒子が来なくなるように操作する。
 
 なるほど、その手は思いつかなかった。
 純粋に麻雀面における心理戦を強いてくるとは思わなかった。
 まして、イカサマ禁止の緊迫したゲーム、この一戦目は様子見としての要素が強い。
 その隙を衝いて早アガりするのはある意味では理に適ってる。
 
 その二択を、ボクに強要してきたのだろう。
 ですけど残念。 この一局はベタオリすることに決めているのですよ、ショボンさん。
 
 
.

580 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:56:19 ID:nXO.fptE0
 
 
 
(´・ω・`)「おや? ツモらないのかい? チー?」
 
从'ー'从「んこ!」
 
 ショボンの持つスキルも厄介だが、一番厄介なのは誰よりも捻くれたこの性格かもしれない。
 ひょっとするとこのゲーム、こいつにだけは負けちゃうかもね。
 
 
从'ー'从「はいはいツモりましたぁ、ナベちゃん! だけどクソツモだったから切る!」
 
( ・∀・)「そういうのはツモを見てから言ってくれよ…」
 
( ´ー`)「指の感覚でわかんだろうよ」
 
( ・∀・)「触ってないから言ってんだよ…」
 
( ´ー`)「感じるものがあったんだろうよ」
 
 
 ツモった牌と配牌のなかの筒子の九とを【手のひら還し】で入れ替えながら、ボクはそれを切った。
 それを見てモララーは鳴いた。
 
 
.

581 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 21:59:21 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 

 
 
 
从'ー'从「鳴かねえ主義なんじゃねえのかよう!」
 
( ・∀・)「うっそでぇぇ〜〜〜〜っす!!」
 
 
 おそらく、ショボンとワタナベは、ってか俺以外のみんなは、配牌時にはなにもスキルを発動していない。
 こいつらは二人とも、自分が警戒されまくっていることを自覚し、それに縛られている。
 俺も当然警戒されているのだろうが、俺がこの皮をかぶっている限り、こいつらの妨害を受けることはない。
 
 で、俺の方針は最初から決まっていた。 二つ、二つだ。
 一つが、ホンロウと見せかけたトイトイ。
 もう一つが、俺のイカサマを見抜いてきたところをハメる。
 
 クズだった俺の初手がいい感じになるような『嘘』をついて、牌をそろえる。
 筒子の九に索子の一に、萬子の九に。
 で、こいつらを鳴いたあとはローワンとスーソウのシャボ待ち。 いいねえ、さいっこうだねえ、相手を欺くって。
 
 たぶんイカサマはばれないと思うけど、ばれたらばれたで即座にそのイカサマを隠すための『嘘』を吐く、もしくは暴く。
 そうすることで、俺をサマ呼ばわりした奴を蹴落として、即牛乳だ。
 ここでイカサマを証明するために自分の牌とかを見せてきたら、満貫払いのおまけつき。
 
 俺は、誰と戦うにしても、なにで戦うにしても、ノーガードにして攻め一筋だ。
 【常識破り】こそがオーバーパワーなのを、とくと見せてやろうじゃないの。
 
 もっとも、一番警戒すべきなのは旦那だ。
 おそらく、旦那は小細工なしで強い。
 俺らが「旦那はスキルを使わない」と思って警戒を欠いている隙にイカサマしてくる可能性だって無きにしも非ず、だが、
 俺の方針のうち前者は、ふっつーの戦法だ。 簡単に見抜かれて、ヤオチュー牌で待ちを組んでくる可能性もある。
 
 旦那がアガる目安は、たぶん五順。
 五順以内に、俺はアガる。
 マーク筆頭のショボンを親からおろして、俺の快進撃がスタートするのだ。
 
 
.

582 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 22:00:03 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 

 
 
 
( ´ー`)「(……ホンロウかな?)」
 
( ´ー`)「(後づけできねえんだし……たぶんホンロウだな?)」
 
 
.

583 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 22:00:44 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 

 
 
 
(゚、゚トソン「………。」
 
 
 
( ´ー`)「ま、のんびりやろうや」 コト
 
(´・ω・`)「そういや、賭けはどうするんだい? ピンピンかな?」 コト
 
从'ー'从「わーい、おにんにんがビンビ……」 サッ
 
( ・∀・)「あ、ポン」
 
从'ー'从「はぁ!? てめえブッコロすぞ!!」
 
 
 
(゚、゚トソン
 
 時々、思うことがある。
 「人外」同然の『拒絶』というのは、自分たちが思っている以上に、実は人間的なんじゃないか、と。
 
 
.

584 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 22:01:48 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
 人間の持てる最悪の感情、拒絶。
 それの具現化として《拒絶能力》を握り、その代償として人間的な感情が破壊され、
 人外なる戦闘力と人外なる思考回路を抱き、人外としての暮らしを強いられる。
 
 精神障害者以上に精神障害者で、妖怪以上に人外。
 生きているも死んでいるも同然で、しかし生きているからこそ病的なまでに「満たされること」を求めてしまう。
 避けようのない目の前の使命、生きるための義務のためだけに心を削って。
 
 生まれつき目の不自由な人が空の青さを認知できないのと一緒で、
 精神の回路が狂ってしまった『拒絶』が人並みの幸福だとか、人情味だとか、そんなものを得られる筈がない。
 それは、なんらかの現実や因果や真実が生み出した、いわば悲劇で、ただ自分の運命を呪うしかなくなるのだ。
 
 神のいたずら、というものがほんとうにあったとしたら、
 『拒絶』とは神が悪ふざけをしたことで生まれた、哀れな被害者だ。
 同情するにできない、「可哀想な」人間たち、それが『拒絶』だと思っていた。
 
 
 でも。
 今、目の前で戯れている四人は、
 
 
 
(´・ω・`)「これは」
 
( ・∀・)「ぽん」
 
从'ー'从「あってめえ!!!」
 
 
 
 確かに、「人間」をしていた。
 
 
.

585 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 22:02:54 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 感情の歪みがやがて現実だの、因果だのそんなものまでをも歪ませてしまうようになった彼らだけど。
 それでもやっぱり、豊かな、穏やかな感情は持っていて、
 でもその感情体を上から拒絶の膜で覆われているだけなのかもしれない。
 
 その霧を取り払えば、ひょっとすると、
 ふつうの人間以上に泣いて、笑って、怒って、幸せを感じたりするのかもしれない。
 
 もし、彼ら『拒絶』がふつうの人間として互いに知り合っていたら。
 まわりの人間が羨むほど、憎いほど、仲のいい関係になっていただろう。
 結束も、絆も、愛情も、なにも介されていない筈なのに、どうしてそう見えてしまうのだろうか。
 
 感情が欠如することで生まれた凹凸が、そのほかの『拒絶』のそれにうまく噛みあうのだろうか。
 だから、結束だとか、そんな建前的なものよりもよっぽど頑丈なのだろうか。
 
 
 そのうち、ただの『能力者』を殺すだけでは飽き足りなくなるだろう。
 そこらの『能力者』なんかよりもずっと強い――彼らを「満たす」ことのできる人が現れないと、
 『拒絶』はきっと、もっと大きなもの――いや。 きっと、この星を破壊するだろう。
 
 ただ惰性的、いや、惰性以下で、死同等の苦痛とともに生きるよりは、
 星を破壊するというこの上ない「ストレス解消」に手を出すほうが、のちのことも考えなくて済むし、きっと、楽だ。
 
 そうなる前に、もし、この世に彼らを満足させられるほどの『能力者』がいたなら。
 彼らが暴走する前に、その暴走を止める意味合いをもって、やってきてほしい。
 
 
 たとえ、そんな『能力者』と戦うことによって、この平穏が崩れてしまうことになるとしても。
 
 
.

586 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 22:03:39 ID:nXO.fptE0
 
 
 
(゚、゚トソン「…ん?」
 
 無意識のうちに俯いていた。
 彼らの声と無機質な牌の音とで満ちていた店内に、新たな音が舞い込んできた。
 
 断末魔のような、木の扉があげる音。
 扉上部につけたチャイムが鳴らす音。
 そして、外部の世界から流れ込んでくる、雨の音。
 
 まさか、この時間帯に来客か。
 そう思ったけど、やってきたのは――いや。
 〝帰ってきた〟のは、アニジャさんだった。
 
 
( ´_ゝ`)「……ふう」
 
(゚、゚トソン「おかえりなさい。 どうしたのです」
 
( ´_ゝ`)「雨が降ってきたからな。 今夜は朝までいることにするよ」
 
(゚、゚トソン「雨……珍しい」
 
( ´_ゝ`)「なに、ただの『不運』だ」
 
(゚、゚トソン「アンラッキー……」
 
(゚、゚トソン
 
(゚、゚トソン「あ」
 
 
.

587 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 22:04:21 ID:nXO.fptE0
 
 
 
( ´_ゝ`)「なんだ、麻雀やってるのか」
 
从'ー'从「ファック!! てめえ、ホンロウじゃなかったのかよ!!」
 
( ・∀・)「ん?? なんのこと?」
 
( ´_ゝ`)「あとで誰か代わってくれ」
 
(´・ω・`)「終わったら、ね」
 
( ´_ゝ`)「おう」
 
 
 アニジャさんが引き返してカウンター席に就こうとする。
 その間に、彼らは二局目をはじめようとしていた。
 牌を卓真ん中にできた穴に押し入れ、スイッチを押して。
 
 私は嫌な予感しかしなかった。
 アニジャさんが席に腰を下ろす前に、私は耳打ちをした。
 
 
(゚、゚トソン「あ、あの……アニジャさん?」
 
( ´_ゝ`)「?」
 
(゚、゚トソン「もうちょっと、風に当たろうとか思わないですか?」
 
( ´_ゝ`)「いや……だって、雨が……って、なんで?」
 
(゚、゚トソン「だ、だって……」
 
 
.

588 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 22:05:04 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 私が四人のほうを見ると、アニジャさんも見た。
 段取りがスムーズに進んでいるようで、もうみんな、牌を切り始めていた。
 一見すると、ただ和やかに麻雀を楽しんでいるだけのように見えただろう。
 
 だが、先ほどの局とは、まるで空気が違っていた。
 まず、モララーが口を小さく開いたのだ。 「なんだこれ」、と。
 その顔には、焦燥かなにかが張り巡らされていた。
 
 
( ´_ゝ`)「…?」
 
(゚、゚トソン「い、いまならまだ、間にあ…」
 
 
从'ー'从「……は? なんで裏めるん?」 コト
 
( ´ー`)「………チッ」 コト
 
( ・∀・)「あー、これ萎える。 白二連続」 コト
 
(´・ω・`)「…………、………」 コト
 
 
( ´_ゝ`)「なにか?」
 
(゚、゚トソン「いや、だから、その……」
 
 
.

589 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 22:05:43 ID:nXO.fptE0
 
 
 
从'ー'从「ファック! ……いや、まじで死ね」 コト
 
( ´ー`)「……………チッ」 コト
 
( ・∀・)「白三連続……?」 コト
 
(´・ω・`)「………どういうことだ……。」 ボソッ
 
 
( ´_ゝ`)「よくわからんが……不穏な空気っぽいから、そうするよ」
 
(゚、゚トソン「あ、もう遅いかも…」
 
( ´_ゝ`)「え?」
 
 
从'ー'从「……………死ね」 コト
 
( ´ー`)「…………………チッ」 コト
 
( ・∀・)「今度は發…?」 コト
 
(´・ω・`)「………なに?」 コト
 
 
 
( ´_ゝ`)
 
( ´_ゝ`)「……もしかして」
 
 
.

590 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 22:06:37 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 その後、牌をとっては一秒せずに切るという流れが繰り返された。
 アニジャさんも、私の言いたいことを理解したのか、口数がなくなった。
 黙って、後ろめたい気持ちのまま、その四人のやり取りを見る。
 
 やがて、その後ろめたさは最高潮まで達した。
 ついに、狂しくなってきたのだ。
 
 
 
 
从゚ワ゚从「うひゃひゃひゃひゃ!! 切ってなかったら純正九連! うひゃひゃ!!」
 
从。ム。从「うっひゃひゃひゃひゃおろろおえっぷげろしゃぶりん!!! ひゃひゃひゃ!!!」
 
 
( ・∀・)
 
( ・∀・)「………河で大三元ができてる………」
 
 
(´゚ω゚`)「――――あああああアアアアアアアアアアアアア!!?」
 
(´゚ω゚`)「おい、酒エエ!! 酒だせ、おらあああああッ!!!」
 
 
 
.

591 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 22:08:54 ID:nXO.fptE0
 
 
 
 
       アンラッキー
 ――― 【 7 7 1 】。      アンラッキー
 この麻雀にどうしようもない 『 不 運 』 が降りかかった―――
 
 
 
( ´_ゝ`)
 
( ´_ゝ`)「………ただの『不運』……?」
 
(゚、゚トソン「おそらく……麻雀に『不運』が起こった、んでしょうね。
.      ネーヨさん、モララーにも『不運』が起こってるから………」
 
( ´_ゝ`)「トソン。 俺、たまには雨にも打たれることにす――」
 
( ・∀・)「待て」
 
( ´_ゝ`)「――るのは、遅かったなあ……。」
 
 
 
从;ー;从「てめえだけはまじでブッコロす!!!」
 
(´゚ω゚`)「おらあああああケツ出せ、ケツ!!」
 
从;ー;从「ボクの! ボクのチューレン還せやこの野郎おおおあああああ!」
 
(´゚ω゚`)「―――! 『予測可能な悪い展開』って、テッメエのことかあああああ!!」
 
 
.

592 ◆wPvTfIHSQ6:2013/08/04(日) 22:09:39 ID:nXO.fptE0
 
 
 
(゚、゚トソン「アニジャ……さん?」
 
( ´_ゝ`)
 
( ´_ゝ`)「………『不運』だ……。」
 
 
 そう言い残した直後、アニジャは、まあ、みんなにぼこぼこにされた。
 それでも生き長らえたのは、私が彼の生命力だとか防御力を高めてあげたから。
 ……だったら、いいなあ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   ◆マイナス一話  「拒絶の雀が鳴くようです」
 
   おしまい
 
 
.

593同志名無しさん:2013/08/04(日) 22:12:18 ID:nXO.fptE0
咲の連中が裸足で逃げ出すレベルの能力麻雀ものが書きたかっただけです
マイナス二話のタイトルは「从 ゚∀从とアンダードッグ・ヒーローのようです」を予定してるけど投下・タイトルともに未定

594同志名無しさん:2013/08/04(日) 23:32:22 ID:RuceNEh20
きてたー!
麻雀わからんけどドタバタぶりが楽しかったよ

595同志名無しさん:2013/08/04(日) 23:32:32 ID:bq0.LDRk0


596同志名無しさん:2013/08/20(火) 17:51:16 ID:90Uw6.r2O
ポケモンの例えがわからんかった!

597<党中央検閲済>:<党中央検閲済>
<党中央検閲済>

598同志名無しさん:2013/09/22(日) 12:25:32 ID:BH2kP3wo0
うふふふまってるよー

599同志名無しさん:2013/09/28(土) 20:42:34 ID:rE9hHYC60
次はハインメインかな?

600同志名無しさん:2013/09/28(土) 23:33:18 ID:wMIPl4yc0
たぶんマイナス二話書く前に本編入ると思う
もう四話分書き進めてるし

601同志名無しさん:2013/09/29(日) 01:47:06 ID:c1Jlm5aQ0
そんなに書きだめが!
楽しみにしてますねー!

602同志名無しさん:2013/10/15(火) 00:51:25 ID:gfq.c90w0
まだかしら

603同志名無しさん:2013/10/15(火) 17:13:50 ID:3fm3RQYo0
モララーイケメンやん

604同志名無しさん:2013/10/26(土) 23:48:44 ID:oAwaXUdc0
まだ・・・かな

605同志名無しさん:2013/10/27(日) 00:35:12 ID:s4ecM0XY0
そういえば拒絶はまだ一人残ってるんだよな…

606同志名無しさん:2013/11/09(土) 06:02:17 ID:4RK9JCSQ0
そろそろ続きが来ると信じて…!

607同志名無しさん:2013/11/09(土) 23:17:29 ID:1U.kL2rA0
ttp://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1383992366/
VIPに四十一話投下してきた
読者数考えたらこっちで投下するほうがいい気がするけどどっちがよさげですか

608同志名無しさん:2013/11/10(日) 01:01:25 ID:QF.kQOSE0
こっちのがいいな

609同志名無しさん:2013/11/14(木) 09:17:09 ID:mlmZrl6s0
文丸さん以外にまとめてる人いないかな?
41話読みたいけど読めない…

610同志名無しさん:2013/11/14(木) 19:27:47 ID:9fD1a/Xs0
>>609
そのうちこっちで投下しなおすんでそれを待ってもらえるなら
もしくはログ速を使うか

611同志名無しさん:2013/12/06(金) 03:54:09 ID:kepatYhg0
まだかしら

612同志名無しさん:2013/12/09(月) 18:04:49 ID:VSCruZx20
まつよ!

613同志名無しさん:2013/12/14(土) 18:11:01 ID:TYviO8ZQ0
>>609
ttp://boonzone.web.fc2.com/mizupara.htm
ミスタップが起こりそうにない配置なのでスマホの方は文丸さんよりこっちのほうがいいんじゃないかな
あと投下ではワルキューレを『信者』と表記してたけど、諸事情で『選択』に変わりました。ごめんなさい

614同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:52:46 ID:.txmPNuY0
疲れるまで投下します

615同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:53:18 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 ○登場人物と能力の説明
 
 
 ( ^ω^)
 →この世界の 『作者』 。
 
 (゚、゚トソン 【暴君の掟 《ワールド・パラメーター》 】
 → 『選択』 を自称する少女。
 
 
.

616同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:53:50 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 
     ◆  第四十二話  「vs【暴君の掟】Ⅱ」
 
 
 
 
( <●><●>)「お断りします」
 
( ;^ω^)「ど、どーしてだお!」
 
( <●><●>)「私にそのようなことをするメリットがない」
 
(゚、゚トソン「……」
 
 
 この世に、完全だの、絶対だのといった言葉は存在しないそうだ。
 昔から教訓めいた事としてそれは語り継がれてきた。
 実際に、完全だの、絶対だのといった存在はこの世にないのかもしれない。
 
 だが、あえてこの世にそういったものが存在していたとするなら。
 おそらくは、この男にそのうちの大半が当てはまるのだろう。
 それほど、目の前にいる男は、完全で、絶対という言葉が似合う男だった。
 
 
 その名をゼウス、裏社会を統べる全知全能のこの男は。
 
 
.

617同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:54:22 ID:.txmPNuY0
 
 
 
  「人外」 という言葉がもっともよく似合う男だった。
 その体型からは物理的に放つことのできないであろう力を放出し、
 およそ人間とは思えない頭脳を有しては、人間にはできない動きを見せる。
 
 また、人間とは感情を有することが一番の特徴であった筈なのに、
 この男は、人間のなかでももっとも有する感情が少ないであろうとすら思われるほど
 非情で、非道で、冷酷で、冷淡で、無情で、無慈悲で、仏心の持てない男なのだ。
 
 動けば、物理法則を無視するが如き瞬間移動を見せる。
 そのまま、鋭利な刃物と貸した手を相手の急所に食い込ませ、即座に勝負を決める。
 それは瞬殺ではなく、もはや 「即殺」 。
 これは、彼の化け物じみた才能と能力だからこそ成すことのできる動きであった。
 
 出会えば、一撃を喰らうことは避けられない。
 その一撃を喰らえば、一般人や特に抜きん出た力を持たない 『能力者』 程度なら即死になる。
 もし、辛うじて生き長らえたとしても、彼の追撃と有する 《特殊能力》 が、それを許さないだろう。
 
 誰が呼んだか、【連鎖する爆撃 《チェーン・デストラクション》 】。
 多少でも負傷を与えることができたならば、その相手に無限に 『爆撃』 を見舞うことができる、
  「即殺」 を旨とするゼウスに似合った、まさに超高速戦に適したとも呼べる能力で、
 彼がその戦闘力とこの能力を持っている限り、五分、三分と戦いを長引かせることは普通ならば不可能なのだ。
 
 加えて感情がない。
  「殺す」 ということに関しては、この上ない人材だ。
 それが、ゼウスという男であった。
 
 
( <●><●>)「世界の崩壊…… 『選択』 ……」
 
( <●><●>)「そんなものを私が相手取る必要など、ない」
 
 
.

618同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:54:59 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ;^ω^)「世界が崩壊するってことは、つまり自分の命が奪われるってことだお!」
 
( <●><●>)「この星が崩壊を迎えるということは、即ち己の死を迎えるということ。
          『選択』 の存在に関係なく、それは甘受しなければならないものでしょう」
 
( ;^ω^)「それは自然的に起こるなら、の話だお。
.       『選択』 が、意図的に世界を壊そうとしていたなら――」
 
( <●><●>)「そもそも、私が嘗て、 『拒絶』 と戦うために彼らと手を組んだ理由、わかっているのです?」
 
( ;^ω^)「………え?」
 
 
 突如として放たれた質問。
 予想していなかったため、思わず内藤は黙った。
 
 
( <●><●>)「私が、直接的に狙われたから」
 
(゚、゚トソン「…」
 
( <●><●>)「 『能力者』 狩りの一環だろうと、私は彼らに直々に命を狙われた」
 
( <●><●>)「また、相手は私一人では到底敵うことのない規格外たち」
 
( <●><●>)「このような状況だったからこそ、私は手を組まざるを得なかったのです」
 
 
                   ワルキューレ
( <●><●>)「……しかし、 『 選 択 』 など、私にはなんの関係もありませんね」
 
 
.

619同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:55:38 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ;^ω^)「間接的だろうと直接的だろうと、 『選択』 によって世界が崩壊する!」
 
( ;^ω^)「つまり、彼女たちが、間接的にあんたをも殺そうとしてるんだお!」
 
( <●><●>)「私を狙うならいいでしょう。 しかし、相手方の標的が世界、だとしたら。
         やはり、私がメリットもなく戦う意味はない」
 
( ;^ω^)「でも――」
 
( <●><●>)「それに」
 
( ;^ω^)「ッ!」
 
 
( <●><●>)「星ひとつを壊すなど、並大抵の者にはできない」
 
( <●><●>)「もし、仮にその 『選択』 たちが世界を壊すことに成功する、とするなら」
 
( <●><●>)「どの道、私が相手になったところで、まるで歯が立たないでしょう」
 
( <●><●>)「星に勝つということは、星以上の力をその単身に宿していることになるのだから」
 
 
.

620同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:56:10 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(゚、゚トソン「それは違いますよ」
 
( <●><●>)「………」
 
 
 それまで黙っていた元 『拒絶』 のトソンが、口を挟む。
 いきなりの干渉だったため、ゼウスもすぐに反応は見せず、出方を窺った。
 
 見て呉れに限って言えばただの少女に過ぎない。
 だが、その内側には、眠った狂気と醒めたスキルが宿されている。
 ゼウスとて侮ることのできない相手だったため、ゼウスは様子を窺ったのだ。
 
 
(゚、゚トソン「第一、説明がいちいち粗いです」
 
( ;^ω^)「ぼ、僕が悪いのかお?」
 
(゚、゚トソン「当然。 そもそも、 『選択』 の目的はこの星を破壊することではありません」
 
( ^ω^)「え……?」
 
( <●><●>)「……」
 
 
.

621同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:56:41 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 内藤の反応を見て、今までずっと勘違いしていたのか、とトソンは呆れた。
 焦っていたこと、加えてトソンの話によってパニックを引き起こしているだろう
 ということくらいははじめから予想できていたのだが、実際にそうだったとなると扱いに困ったのだ。
 
 
(゚、゚トソン「 『選択』 、ワルキューレ」
 
(゚、゚トソン「私も、一応それに属するのですが……彼女たちには、ある共通点があります」
 
( ^ω^)「……共通、点。」
 
(゚、゚トソン「簡単です」
 
 
 
                ワルキューレ
(゚、゚トソン「彼女たち、 『 選 択 』 は〝選ばれている〟」
 
(゚、゚トソン「あらゆる点において、 『運命』 を味方につけているのです」
 
 
 
.

622同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:57:13 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ^ω^)「…… 『運命』 」
 
 ぽつり、と内藤が言葉をこぼす。
 このとき網膜に浮かんでいたのは、少女、ですらない。
 ある一人の男だった
 
 とにかく、運命に見放されたとしか言えない男。
 周囲に無差別に無意識に運の歪みをもたらす、 『能力者』 でも 『拒絶』 でもない男。
  『拒絶』 との戦いが終わってから、彼はどこに行ったのだろう。
 ふと、内藤はそんなことを思っていた。
 
 
(゚、゚トソン「―――同じ運命ではありますが、違います」
 
( ^ω^)「…?」
 
 
 網膜に浮かべていた人物像が見られたのだろうか、トソンが否定した。
 
 
(゚、゚トソン「とにかく、〝優遇されている〟のです。 それも、目に見えないなにかによって」
 
(゚、゚トソン「例の 『英雄』 のように〝意識して優遇されている〟のではなく、
.       時の流れが目に見えないように、同じく存在の時点で既に優遇されている」
 
(゚、゚トソン「言い換えれば、 『運命』 を自分に引き寄せるだけの力が、彼女たちには、ある」
 
 
.

623同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:57:45 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ^ω^)「………??」
 
(゚、゚トソン「……」
 
 
(゚、゚トソン「べ、別にここはどうでもいいのです。 問題は……」
 
 
 
 
 
      ワルキューレ
(゚、゚トソン「 『 選 択 』 の皆が集うと、 『運命』 の歪みが発生する」
 
                ラグナロク
(゚、゚トソン「それが……… 『 崩 壊 』 。」
 
 
 
 
 
 
 
 
.

624同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:58:23 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( <●><●>)「―――成る程」
 
( ^ω^)「! わかったのかお?」
 
( <●><●>)「自然の法則をみだりに乱したりしては、異常が起こる。 わかりますよね?」
 
( ^ω^)「…? ま、まあ」
 
( <●><●>)「たとえば、外来魚なんかがそれです。
         本来の食物連鎖の環境が、たった一匹の魚によって乱され、法則が変わる」
 
( <●><●>)「 『選択』 とやらが、すなわちその 『運命』 における外来魚なのです」
 
( ^ω^)「???」
 
( <●><●>)「………」
 
 
         ワルキューレ
( <●><●>)「 『選択』 は、 『運命』 を自分に引き寄せる体質的な力を持っている」
 
( <●><●>)「つまり、不当に、 『運命』 を改竄する力を持っているというのです」
 
( <●><●>)「不当に 『運命』 の形が歪められる、ということ」
 
 
(゚、゚トソン「そして、単体だったり数人が並んだところではその歪みは小さいものの……」
 
(゚、゚トソン「もし、皆が集ってしまえば、まず間違いなく、 『運命』 は崩壊する」
 
(゚、゚トソン「その瞬間、世界の規律が崩れてしまい、そのまま破滅への一途を辿るのみ、となってしまうわけです」
 
 
.

625同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:59:00 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ^ω^)「…………なんとなく、わかった」
 
 なんとなく、とは言ったが、いまの説明で、内藤はその全貌を理解した。
 もともと自分が練った設定というだけあって、このことを理解するのにはさして苦労しなかった。
 
 だが、それでも声が落ち込んでいて、 「なんとなく」 だのと言った理由は、
  『拒絶』 との戦いを控えていたときと同様で、とにかく気が気でなかったためである。
 
 前回はゼウスたちが殺されることが一番の懸念だったのだが、
 今回は、この星が破壊されることが、一番の懸念となる。
 
 数人の命と、一つの星。
 思いいれなどがあったとしても、やはり後者のほうが圧倒的に懸念にしては重すぎた。
 だからこそ、認めたくない一心で、しかし認めなければならないその現状を受け入れるがために、
 そんな、晴れやかでない調子で応えるしかなかったのだ。
 
 
 
( <●><●>)「………そして」
 
( ^ω^)「なんだお?」
 
( <●><●>)「今の説明を聞けば、おわかりいただけたと思います」
 
( ^ω^)「なにが?」
 
( <●><●>)「私が手を貸すメリットが、まるでないということですよ」
 
 
.

626同志名無しさん:2014/01/05(日) 19:59:33 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(゚、゚トソン「……」
 
( ;^ω^)「だから、え、ええと……!」
 
 
 それでも内藤は、説得をやめようとしない。
 戦うということにおいて、ゼウス以上の心強い味方は存在しない。
 前述のとおり、純粋な戦いならば、ゼウスの上を行くものは存在しないためである。
 
 ゼウスを圧倒的に上回るスキルを持つ 『拒絶』 も、ただ戦うことに関しては上につくことはできないだろう。
 彼らの場合、必ず、戦いのどこかに手加減が必要となるからだ。
 圧倒的過ぎる力の代償に、満たされることが必要となっていた。
 
 そういった意味で、感情を制御できるゼウスは、なんとしてでも味方にしておきたかったのだ。
 自分が直々にこうして頼めば、あるいは手を貸してくれる、と内藤は思っていた。
 思っていた、だけに、内藤は、退くに退けない状況にあった。
 
 
 しかし、トソンは違った。
 内藤がゼウスに対して持っている信頼を、トソンはまるで持っていないのだ。
 どうしても共闘を好ましく思えないのなら、そこまで強要する必要もない、と。
 
 
(゚、゚トソン「そうですか」
 
( ;^ω^)「と、トソン!?」
 
 
.

627同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:00:03 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ;^ω^)「そうですか、って、こいつがいなかったらたぶん 『選択』 は止められないお!」
 
(゚、゚トソン「止める気がなければ、どれだけ力があろうと一緒。
.       むしろ、ただの足手まといになるだけの、お荷物です」
 
( <●><●>)「私がお荷物、か」
 
(゚、゚トソン「? 事実を言ったまでですが」
 
( <●><●>)「事実とは、なにをも」
 
 
 直後、ゼウスが動いた。
 
  「不意打ち」 だ。
 ゼウスの常套パターンにして、 「即殺」 に繋がる必勝パターン。
 ゼウスを前にしている場合、一瞬の気の許しが死に直結する。
 その理由が、この不意打ちに集約されていた。
 
 人間でありながら、小型の虫を彷彿とさせる初速。
 停止させておいた、新幹線を映してあるビデオをいきなり再生させたような。
 物理法則を完全に凌駕しかねないその動きで、トソンの胸、心臓の部位を抉りにかかった。
 
 
.

628同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:00:41 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 だが。
 
                 ワルキューレ
(゚、゚トソン「一応、私も 『 選 択 』 なのです」
 
( <●><●>)「   ……。」
 
 
 
 
(゚、゚トソン「散々隙を見せてやっているのに傷ひとつつけられないようでは、
.       『選択』 と戦うにおいて、全くのお荷物としか表現のしようがありませんね」
 
(゚、゚トソン「こんな攻撃……避けるまでも、ない」
 
 
 
 
( ;゚ω゚)「  ―――…ッ!?」
 
( ;゚ω゚)「ゼウスの手刀を……受けて〝無傷〟だと!?」
 
 
 トソンは、避けるどころか、胸を張って、その攻撃を受け止めた。
 心臓が抉られるかと思いきや、それ以前にゼウスの手刀は食い込みすらしていなかった。
 
 
.

629同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:01:13 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( <●><●>)「……」
 
( <●><●>)「なんだ、この能力……スキルは」
 
( ;^ω^)「ど、どうしたんだお?」
 
 
 負け惜しみでもなく、言い訳でもなく。
 ただ純粋にゼウスは、彼女の躯に、違和感を感じていた。
 
 自分の攻撃が全く効かなかったことが恥ずかしかったのではない。
 それは、確かな違和感だったのだ。
 
 
( <●><●>)「〝この世に存在する硬度ではない〟」
 
( <●><●>)「貴様、なにをした」
 
 
 そう言いながら、ゼウスは手を退く。
 手が形成していた刃物は、若干曲がっていた。
 
 
.

630同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:01:47 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 それに対してトソンは、
 自慢するでも卑下するでもなく、
 ただそれが当たり前であるかのように、言った。
 
 
(゚、゚トソン「いまのあなたの手刀……
.       ざっと、真空を作り出しかねない程の威力と速さがありましたね」
 
 
 
 
 
 
 
 
           ワールド・パラメーター
(゚、゚トソン「だから、 【 暴 君 の 掟 】。」
 
 
(゚、゚トソン「私の躯、今は〝ダイヤモンドの百七十倍は硬い〟ですよ」
 
 
 
 
 
 
 
.

631同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:02:25 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ^ω^)「―――ッ!」
 
( <●><●>)「意味が、わからないな」
 
( ^ω^)「いや、待て!」
 
( <●><●>)「……もしかして、ご存じがありましたか」
 
( ^ω^)「違う! 〝思い出した〟!」
 
 
( <●><●>)「…?」
 
(゚、゚トソン「……思い出した?」
 
 
 
 
( ^ω^)「【暴君の掟】!」
 
( ;^ω^)「拒絶するものは――忘れた!」
 
( ^ω^)「でも、いい! 概要は、たった今、思い出した!」
 
 
 
 
( ^ω^)「つまりは〝単位操作〟!」
 
( ^ω^)「トソンはたった今、衝撃を受ける部分の硬度の〝単位〟を、改竄したんだお!」
 
 
 
.

632同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:03:01 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( <●><●>)「単位……」
 
(゚、゚トソン「………。」
 
 
 久々に見られた、内藤の解析。
 それまで忘れていたものを、実物を見ることで思い出したのだ。
 その言葉から、あやふやで確信の持てなさそうな不安は見出せなかった。
 
 つまり、これでこその 『作者』 なのだ。
 トソンは肯定も否定もしないが、内藤の発言の様子を見る限り、おそらくは、正しい。
 だからこそ、トソンも、する意味のない肯定はするだけ無駄、と考えたのだろう。
 
 
( ^ω^)「たとえば、パスカルっていう、圧力を現す単位がある」
 
( ^ω^)「十パスカルの圧力を相手に与えてもどうにもならないけど、
      このとき、トソンは……〝パスカルを別の単位にする〟んだお」
 
( ^ω^)「別の単位、って言うけど、その参照先の単位は、自分で適当にでっち上げる。
      たとえば、 『トソン』 という新しい単位をつくって、一トソンで五十七万八千パスカルと定義したりして……だ」
 
( <●><●>)「!」
 
 
 
 
( ^ω^)「そうすれば、あら不思議!」
 
( ^ω^)「軽く突き飛ばしただけなのに、
      ダンプカーが突っ込んでくるよりもとんでもない圧力が、
      相手にとたんに襲いかかってくるわけだお!」
 
 
 
(  ゚ω゚)「究極の恣意性を持つスキル!
        ……それが、ワールド・パラメーターッ!」
 
 
 
.

633同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:03:37 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 
(-、-トソン「………合格。」
 
( ;^ω^)「トソン?」
 
( <●><●>)「…」
 
 
 内藤が言い終えると、トソンは踵を返して、帰路の方角に向かった。
 風に、後ろで束ねた髪を委ねる。
 目を閉じ、静かにクールに去っていく様を見て、内藤は急にどうした、と思った。
 
 ゼウスは屋敷の入り口に立っているままだ。
 内藤が、その手前で、あたふたとしている。
 
 が、トソンは、もう先に帰ろうとしていた。
 ゼウスに対する用が、全てなくなったからだろう。
 内藤とて彼女をほうっておくわけにはいかないため、否応なく彼女の後を追いかけるしかなかった。
 
 残されたゼウスは、二人の後ろ姿を見送った。
 特になにか、これといった感情があったわけではない。
 ただぼうっと、意味もなく、背中を見送っていた。
 
 揺れる後ろの髪まで見えなくなったときに、ゼウスは屋敷に引き返した。
 そのまま、若干顔を俯けて、ちいさく口を開いた。
 
 
 
 
( <●><●>)「………」
 
( <●><●>)「ワルキューレ……か」
 
 
.

634同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:04:26 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 

 
 
 
( ;^ω^)「―――ケーッキョク、ゼウスは諦めたのかお!」
 
(゚、゚トソン「そもそも、たまたまこの前まで関係があったから頼ってみただけだろうに」
 
( ;^ω^)「じゃあ、どうするってんだお!  『選択』 の件は!」
 
(゚、゚トソン「………そもそも、逆にあなたがそこまで 『選択』 のことを気にかけるのが気がかりなのですが」
 
( ^ω^)「えっ……?」
 
 
 唐突に言われ、内藤は一瞬どきっとした。
 彼が直接戦うわけではないとはいえ、本来ならばゼウスのように全くの他人、部外者であるのだ、内藤は。
 だが、それでもこうしてトソンに付き添って、 『選択』 との戦いを想定してくるというのは、理由なしにしては奇妙なことだった。
 
 しかし、だからといって、これといった事情があるわけではないのだ。
 そもそも、トソンが 『選択』 を止めたがる理由もわからないのだが、
 内藤は内藤で、この件に付き合いたい理由は、たった一つの些細な点しかなかった。
 
 今まで、幾度となく考えてきたこと。
  『選択』 は、 『拒絶』 と一緒で、避けては通れない関門であるのだ。
 パラレルワールドから抜け出すには、これらの関門を潜り抜けなければならない。
 これらを放置してこの世界から脱出するのは、不可能ではないにせよ、内藤個人としては、できなかった。
 だからこそ、先にこういった要素を全て取り去らなければならなかったのだ。
 
 
.

635同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:05:02 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 ――それを理由として言うと、トソンは微かに口角を吊り上げた。
 トソンが笑う姿は想像だにしていなかったため、内藤は少し奇妙な気持ちになった。
 風に髪を流させる麗しい横顔を見せたまま、トソンは言った。
 
 
(゚、゚トソン「……変に責任感があるのね」
 
( ;^ω^)「………責任感、かお……?」
 
(゚、゚トソン「もしほんとうに帰られる、脱出できるなら、さっさとそうすればいい」
 
(゚、゚トソン「もっとも、そのパラレルワールド云々の話がもはやおとぎ話ですが、ね」
 
( ;^ω^)「パラレルワールドの話はほんとうだお。 それはそうと……」
 
( ;^ω^)「目の前の問題は、ほうっておくわけにはいかないお」
 
(゚、゚トソン「ほんとうにそれが、理由かしら」
 
( ;^ω^)「………え?」
 
 
 
(゚、゚トソン「あなたは、この世界から抜け出さない理由をこじつけたいだけじゃないの?」
 
 
.

636同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:05:40 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ;^ω^)「……え?」
 
(゚、゚トソン「………なんでも、ありません。 次に行きましょう」
 
( ;^ω^)「つ、次、って……?」
 
(゚、゚トソン「言うまでもありません。 『英雄』 ですよ」
 
( ;^ω^)「あいつがどこにいるのか、知ってんのかお?」
 
(゚、゚トソン「これでも、バーテンです。 情報通なのですよ」
 
( ;^ω^)「客、 『拒絶』 の面々しかいなかったのに?」
 
(゚、゚トソン「…… 『レジスタンス』 くらい、私だって知ってます」
 
( ;^ω^)「あ、ああ……」
 
 
 トソンが少しふくれっ面を見せながら言った、 「レジスタンス」 。
 そういえば、ハインリッヒは 『英雄』 である以前に第三勢力の長でもあったな、と内藤は思い出した。
 彼女と話がしたいのであれば、まずレジスタンス本部に向かえばいいのだ。
 
 そんな簡単なことに気づかなかった自分が鈍感なのか、トソンの機転が利いたのか。
 わからないが、とにかくは行き先が決まっただけでよし、とした内藤だった。
 
 
.

637同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:06:25 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 

 
 
 
(゚、゚トソン「……なんだと?」
 
   「お、お許しください!」
 
 
 ハインリッヒは、戦闘狂である以前に、一人の政治家――的存在である。
 この悪政を正すために結成された 『正義』 の集団、 「レジスタンス」 。
 その頂点に 『英雄』 として位置し、今もなお悪政に立ち向かう――裏でクーデターを狙っているのだ。
 
 表向きには市民の強い味方ということになっているため、その窓口はゼウスの統べるそれとは違ってひどく広い。
 ホームページなんかが掲載されているほどで、 『英雄』 に会えるかどうかは別として、コンタクトを取るだけなら簡単なのだ。
 トソンも当然そのことを知っていたようで、ゼウスの協力が期待できなくなった今、こうしてレジスタンス本部へと足を運んでいた。
 
 焦り制止を促す内藤を無視し、トソンは建前上の本部に入るやいなや 「ハインリッヒを出せ」 の一点張りを見せた。
 最初は愉快犯かただの熱狂的なファンだろうと思ったのだろう、受付係は優しく引取りを促した。
 
 しかし、トソンとてこう扱われることはわかっていた。
 そのため、ハインリッヒに会わせることができないと聞いた瞬間、トソンは隣にあった壁を粉砕した。
 嘗てのゼウスやネーヨがしたそれとは違う、まさに 「爆散」 。
 鼓膜が吹き飛びかねないような爆音とともに、そこにあった壁は〝消えて〟しまった。
 
 
 【暴君の掟】によって、トソンの放った拳の威力が数千倍に跳ね上がったのだ。
 ポップコーンでも弾けたかのように、殴られた箇所は砕かれた。
 
 
.

638同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:07:17 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 トソンのその動きを見てテロリストか何かだと判断した受付は緊急ベルを鳴らした。
 騒ぎを聞きつけた警備員や戦闘員らしき人物もわいてくる。
 それを煩わしく思ったトソンは、時間も 『操作』 して、その場にいた〝敵〟を蹴散らした。
 
 ここで皆を〝爆殺〟しなかったのは、トソンのせめてもの仏心だろう。
 皆、重い一撃をもらったことで気絶し、地に倒れていっただけだ。
 騒がしいのを嫌うトソンは、あくまで 「彼女の思う」 穏便なかたちで話を進めようとしたのだ。
 
 唯一残しておいた受付係に、トソンが視線を遣る。
 一瞬のうちに味方が倒れてしまった現状を見て、これはただ事ではない、と判断した。
 つか、つか、とトソンが歩いてくるのを見て、その顔が露骨に歪み、涙も情けなく流す。
 それを好機と見たトソンが、 「これが最大の譲歩だ」 と言ってから、もう一度ハインリッヒとの面会を要求した。
 
 しかし、好機には違いなかったのだが、そう都合よく事は運ばなかった。
 受付係はトソンに刃向かう気力などまるであらず、このまま押せば無理やりにでも面会が叶いそうな雰囲気でこそあったが、
 そもそも、受付係とて、〝席を外しているハインリッヒ〟に客人を通すわけにもいかなかったのだ。
 
 
   「だから、 『英雄』 は只今、席を外しておりまして!」
 
(゚、゚トソン「……なるほど、こういう時はそう言うように、とマニュアルに書かれてあったか」
 
   「ほッ――ほんとうです!! あ、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
 
 
 受付係が言うのを聞いて、トソンは相手の首を〝優しく〟絞める。
 アヒルが喉を絞められたときのような声を出して、受付嬢はもがいた。
 
 辛うじて息ができるように加減してはいるが、それでも苦痛は続く。
 ただ隠しているだけなら、十秒もすればじきに吐くだろう、そう思った上での〝交渉〟だった。
 
 
.

639同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:07:56 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 だが、十秒経っても二十秒経っても、吐こうとしない。
 それどころか、意識が遠退いてきたのか、受付係は声すら出さなくなりつつあった。
 
 ――ほんとうに出ていってるのか。
 そう信じて、トソンはとりあえず、首を離した。
 解放されたとたん、受付係は床にくずおれては大きく息を吸って、自分が今生きていることを確かめた。
 
 その動きを見届けた上で、トソンが彼を見下ろした。
 受付係は身体を震わせた。
 
 
(゚、゚トソン「……窒息死がいいか?」
 
   「ほ、トうに、イナいん……です! 」
 
(゚、゚トソン「肺にちいさな穴を空けたら、気持ちいい窒息死が体験できるが」
 
   「ゆ、るし―――」
 
 
 
 
   「なにしてるの?」
 
 
.

640同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:08:30 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ;^ω^)「……?」
 
(゚、゚トソン「誰だ」
 
 
 内藤も、トソンも、受付係も、声のした方向を見た。
 向こうのほうから、騒ぎを聞きつけたようで、また誰かがやってきたのだ。
 
 だが、結果論的に言えば、〝彼女〟は内藤もトソンもよく知る人物だった。
 低い背に合わないぶかぶかのセーター、そして今は大きい兎のぬいぐるみなんかも引きずって持っている。
 彼女の姿を見納めたとたん、受付係は叫んだ。
 
 
   「――ッ!! お嬢さ――」
 
(゚、゚トソン
 
( ;^ω^)
 
 
 
 
 
(#゚;;-゚)「…?」
 
 
 
 
.

641同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:09:08 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(゚、゚;トソン「―――ッ!」
 
(  ゚ω゚)「……でぃ?!」
 
(#゚;;-゚)「………あ。」
 
 
 ―――ディ=カゲキも、こちらに気づいた。
 
 
 
 
   「逃げなさい! はやく!」
 
(#゚;;-゚)「しりあいだよ、この人ら」
 
   「………え?」
 
 
 避難を促す受付係を、ディはその一言で黙らせた。
 受付係にとっては、予想外以外のなにものでもなかっただろう。
 
 突如として本部にやってきた謎の少女が、いきなり 『英雄』 との面会を望む。
 追い返そうとすると破壊活動がはじまり、戦闘員たちは一瞬で皆倒された。
 その上、残虐性を胸に抱いているようでもあるのだ。
 そんな、テロリスト同然の少女――と付き添い――と 『英雄』 の幼い妹が知り合いと、どうして予想できようか。
 
 
.

642同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:09:40 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(#゚;;-゚)「……どうしたの? あそびにきたの?」
 
( ;^ω^)「あ、遊びにきたわけじゃなくて、その……」
 
(゚、゚トソン「……あんた、あの時の……?」
 
(#゚;;-゚)「こわいおねえさんとは、あそびたくない」
 
(゚、゚トソン「………、……ッ」
 
( ^ω^)
 
 
 ディに言われたとき、トソンは多少動揺した。
 内藤が知る由はないのだが、トソンは当時のことを思い出したのだ。
 
 モララーと公園の道を歩いていたところ、ディがやってくる。
 短気なモララーはあっさりと彼女を殺したのだが、 『異常』 なことが起こった。
 それまで経過していった時間が、巻き戻されてしまったのだ。
 
 これは、のちの最大の 『拒絶』 との戦いで、存分に使われた。
 内藤曰く 「原作最強」 の 《特殊能力》 、【夢幻の被写体 《エン・ドレッサー》 】。
 
 その 「最強」 を胸に宿すディが、目の前にいる。
 トソンの動揺はおかしくないものなのだが、しかし彼女が動揺を禁じ得なかったのはそれだけではなかった。
 ただ、 「怖いお姉さん」 と称されたのが胸に刺さったのだ。
 
 
.

643同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:10:10 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(゚、゚トソン「………、……内藤!」
 
( ;^ω^)「わァーったお! ちょっと、ディ!」
 
(#゚;;-゚)「なに?」
 
 内藤が言われるがまま前に出て、しゃがみこみディと視線を合わせる。
 ディは、内藤に対しては、まったく恐怖だとかそういったものを抱いていないようで、すぐに話に応じた。
 
 
( ;^ω^)「僕たち、ハインリ…… 『英雄』 に、会いたいんだよねー」
 
(#゚;;-゚)「 『英雄』 ?」
 
( ;^ω^)「そ、 『英雄』 。 ヒーロー。 」
 
 
 内藤が、ディをぐずらせないように細心の注意を払うのには理由があった。
 彼らは確かに面識こそあるが、それは最後の戦いにて場をともにしていた程度。
 ディのほうは彼はハインリッヒの知り合い、ということでもう打ち解けているようだが、
 しかし彼女のあらゆる面における恐ろしさのせいで、内藤のほうが打ち解けられずにいた。
 
 打ち解けていない内藤からのぎこちない言葉に、
 打ち解けたディは無垢な意識のまま、即答した。
 
 
(#゚;;-゚)「 『英雄』 なら、いまはいないよ」
 
(#゚;;-゚)「いま、でかけてる」
 
 
.

644同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:10:41 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(゚、゚トソン「…!」
 
   「――ほら! 言ったとおり!」
 
(#゚;;-゚)「うるさい」
 
   「ご……メ、ンナサイ」
 
 
(゚、゚トソン「……ほんとうに、いなかったのか」
 
( ;^ω^)「じゃあ、どこに行ってるかわかる?」
 
(#゚;;-゚)「うん」
 
( ;^ω^)「よかったお。 お兄さんに言ってほしいお」
 
(#゚;;-゚)「おじさんになら、いいよ」
 
 
(゚、゚トソン「………ム。」
 
( ^ω^)「お……オジサン…?」
 
 
.

645同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:11:29 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(#゚;;-゚)「 『英雄』 なら、たぶん、〝あのひと〟といるの」
 
( ^ω^)「〝あの人〟?」
 
(#゚;;-゚)「おいしゃさん」
 
(゚、゚トソン「……医者?」
 
( ^ω^)「なにか、あいつ病気でもしてたのか?」
 
(゚、゚トソン「……」
 
 
 
(゚、゚トソン「どんな医者だった?」
 
(#゚;;-゚)
 
 
( ^ω^)「どんな医者だった?」
 
(#゚;;-゚)「おとこのひと」
 
( ^ω^)「男……ほかには?」
 
(#゚;;-゚)「かっこよかった」
 
( ^ω^)「イケメン……いや、そうじゃなくって…」
 
(゚、゚トソン
 
 
.

646同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:12:01 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(#゚;;-゚)「……あ!」
 
( ;^ω^)「思い出したかお!?」
 
(#゚;;-゚)「おやつたべるの」
 
( ^ω^)「おやつ……」
 
 
 時計を見ると、時刻は十五時になろうとしていた。
 毎日の楽しみなのだろう、ディは来た方角へ帰ろうとした。
 
 
( ^ω^)
 
( ^ω^)
 
( ^ω^)
 
 
 
 
( ;^ω^)「待った待った! ディ! でぃーちゃーん!!」
 
 
.

647同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:12:35 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(#゚;;-゚)「……なに」
 
( ;^ω^)「オジサンに、そのお医者さんのこと、もっと詳しく言ってほしいなあ…?」
 
(#゚;;-゚)「だから、せがたかくって、かっこいい」
 
( ;^ω^)「そんな視覚的なことじゃなくて、えっと…」
 
(#゚;;-゚)「しかくてき?」
 
( ;^ω^)「あ、えっと……」
 
(#゚;;-゚)「とにかく、ばいばい。 そっちのこわいおねえさんも、ばいばい」
 
(゚、゚トソン「!」
 
 
.

648同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:13:08 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 ディはちいさく手を振ると、今度は制止にも応じずに奥のほうへと消えていった。
 残されたトソンと内藤はしかたなく、受付係の怯えた視線を気にも留めず、このレジスタンス本部から出て行った。
 これ以上あの場に留まっていては、向こうの戦闘員などを蹴散らした以上、やがて面倒なことになりかねない。
 
 また、ディの機嫌を損ねると、能力が発動されて時間を巻き戻されかねない。
 数分前などであればともかく、数時間、数日前――最悪の場合、一週間前の戦いの時間にまで戻されると、たまったものではない。
 両者一致のもと、内藤もトソンもその場から去り、歩きながらこれからどうするかを考えようとした。
 
 
(゚、゚トソン「……」
 
( ^ω^)「ハインリッヒも、諦めるかお?」
 
(゚、゚トソン「 『拒絶』 の皆とあなたたち以外で私より強い人は知らない」
 
( ^ω^)「で、でも、だからといって……」
 
(゚、゚トソン「ほかに、心当たりがあれば別だけど」
 
( ;^ω^)「じっ、自慢じゃないけど僕顔狭いお!」
 
(゚、゚トソン「……」
 
( ;゚ω゚)「――ほんとだって! あと、パンドラくらいしか知らないお!」
 
 
.

649同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:13:46 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
( ;゚ω゚)
 
(゚、゚トソン
 
 
( ;^ω^)
 
(゚、゚トソン
 
 
( ^ω^)
 
(゚、゚トソン
 
 
 
 
 
( ^ω^)「……もしかして、〝おいしゃさん〟って―――」
 
(゚、゚トソン「………ジョルジュ=パンドラ……?」
 
 
 
 
.

650同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:14:24 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 ―――瞬間、二人は顔を見合わせた。
 
 
(  ゚ω゚)「ま――まっちがいない!!」
 
(  ゚ω゚)「奴しかいねーお! ハインリッヒが個人的に会いそーな〝医者〟!」
 
(゚、゚トソン「まあ、白衣は確かに医者っぽいけど……それだけであいつになるのか?」
                                               アンタラ
( ;^ω^)「いいか? ハインリッヒはなにからも 『優先』 される、言ったら 『選択』 みたいな存在だ!
.      病気になんざかかるわけねーお! たぶん!」
 
( ;^ω^)「それに、そもそも、第三勢力のボスが医者にかかってるだなんて、トップシークレットだお!
.      いくらディが幼くとも、そんなダイジなことをそう簡単にばらすハズもない!」
 
 
(゚、゚トソン「………」
 
( ;^ω^)「…………た、試してみる価値はある、……と、思うお」
 
(゚、゚トソン「試す?」
 
( ;^ω^)「だから―――」
 
 
 
 
 
          「ほんとうに、ハインリッヒがパンドラと会ってるのかどうか―――」
 
 
 
.

651同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:14:59 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
   「………」
 
   「確かに、妹は預かった」
 
   「………」
 
   「ほんとうなら、私たちはここでおさらばするところなのだが……」
 
   「………」
 
 
 
   「どうしたい、お前たち」
 
   「シュール……トール。」
 
 
 
.

652同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:15:35 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
   「 『目』 を 『芽』 に換えるとかおもしろくね?」
 
   「神経を疑うな。 気味が悪くて見てられるか」
 
   「芽に換えたあと、引っこ抜くのさ。 きっと、本来の痛さ相当のかゆさに見舞われるぜ」
 
   「ああ、悪寒が走る。 やるんなら私と姉貴抜きでやってくれ」
 
   「……私は、わりと興味があるけどな」
 
   「あ、姉貴」
 
   「じゃー、きっまりー!」
 
   「いやあ、楽しみだねえ、白衣クン?」
 
   「………」
 
   「なあに、ちょちょいのちょいでおちゃのこさいさいのさいさ」
 
   「………」
 
   「ああ、この怯えに怯えてる顔。 たまンねえ、濡れるわ」
 
   「やるんならやるでさっさとしろ」
 
   「せっかちはモテませんぜトールさん」
 
   「……」
 
 
.

653同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:16:09 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
   「………」
 
 
   「悪く思わないことだ」
 
   「この、私から、妹を………何年間も。 何十年間も、ずっと奪ってきた神罰だと思え」
 
   「―――といっても、口も利けないだろうがな、そんな状態じゃ」
 
   「………」
 
 
   「ヒートは……まだ目覚めないか?」
 
   「あー、ムリムリ。 脳にチューブつけられてたんだぜ、それも頭蓋骨に穴開けて」
 
   「むしろ、目覚められたほうが厄介よ。 ぎゃああああ!ってなるんだろうから、さ」
 
   「そうか。 じゃあ、こいつら殺して……帰るか」
 
   「よし、じゃあ………」
 
 
 
   「………待て」
 
 
 
.

654同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:16:52 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
   「? どしたの」
 
   「誰か、来る」
 
   「???」
 
   「………確かに。 誰か、来るな」
 
   「それはいいんだけど……な、なんだ、この禍々しい空気」
 
   「確か、前にも似たようなオーラ感じたよな。 それも、ちょうどここらへんで」
 
   「そ、そうそう、それそれ! いやあ、あちきもそれが言いたかった」
 
   「御託はいいが……さて、どうしようか」
 
   「どうするって?」
 
   「迎え撃つ?」
 
   「いや……私は、この感じ、嫌だな」
 
   「さんせーい。 あちきもさっさと帰ってごはん食べたい」
 
   「そうだな。 せっかく、十数年ぶりに妹と再会したんだ。 そうするか」
 
   「こいつらどーする?」
 
   「歓迎会に血の臭いを持ち込むのは嫌だな」
 
   「じゃ、そーするか」
 
   「さんせーい」
 
 
.

655同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:17:45 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
.

656同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:18:16 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
              運 命 が 狂 い 始 め て い た 。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                                           To be continued ...
 
.

657同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:18:49 ID:.txmPNuY0


658同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:19:21 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 ○登場人物と能力の説明
 
 
 ( ^ω^)
 →この世界の 『作者』 。
 
 (゚、゚トソン 【暴君の掟 《ワールド・パラメーター》 】
 → 『選択』 を自称する少女。
 
 
.

659同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:20:08 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 
     ◆  第四十三話  「vs【暴君の掟】Ⅲ」
 
 
 
 
  「原作最強」 を言わしめた【夢幻の被写体】ではあるが、
 しかしそれは 「必ず勝つことができない」 という点において
  「最低でも引き分け以上には持ち込める」 からこそ 「最強」 なのだ。
 
 内藤は【夢幻の被写体】とは別にもう一人、 「原作」 における 「最強」 を認めていた。
 もっとも、いまとなっては 「原作」 の範疇には属さなくなっているのだが――
 
 ジョルジュ=パンドラの持つ【未知なる絶対領域 《パンドラズ・ワールド》 】。
 あらゆる法則や因果から矛盾し、独立された存在。
 質量の持たない物質を操ることができるその 《特殊能力》 は、確かに 「ありえない」 ものであった。
 
 物を殴ったときに拳が痛みを感じるのは、対象が少なからず質量を持ち合わせているからである。
 どのような虫を殴ろうがはたこうが蹴ろうが、その虫の持っていた質量が、該当箇所に感触という抵抗を与える。
 だからこそ、その虫を殺そうと考えた人はなんらかの認識を得ることができるというものなのだ。
 
 
 
 その質量を、完全に消した。
 つまり、 「絶対という言葉は絶対存在しない」 というパラドックスを打ち破る、唯一にして絶対の存在なのである。
 
 
 
.

660同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:20:41 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 たとえば、戦闘力が最強と設定付けられていたゼウスと対峙したら、どうなっていただろうか。
 もし、互いが本気でぶつかり合ったとするならば、勝敗は出会った瞬間に決していた。
 ジョルジュがゼウスを 『パンドラの箱』 に閉じ込めれば、あとは何らかの形でゼウスは抵抗なく死ぬしかなくなるのだ。
 
 取り入れることのできる酸素がなくなり、絶命。
 何らかの精神的異常が発生して、絶命。
 寿命が訪れて、絶命。
 自決。
 
 ――確実に相手を絶命させることができる、わけではなく、その前に自分が別の要因で死ぬかもしれない。
  『パンドラの箱』 から抜け出す能力が存在するかもしれないし、
 そもそもジョルジュの洞察力と瞬発力を総合的に上回る敏捷性を持つ者が相手ならば必ず勝利になるとは限らない。
 そういった意味ではやはり【夢幻の被写体】が最強となるのだろう、内藤はそこを考慮したのかもしれない。
 
 問題は、
 なにがどうであれ、
 ジョルジュも強い、ということだ。
 
 
 
 
 
 ―――トソンが圧縮された時間のなかからジョルジュの研究所を見つけたとき。
 その時間におけるジョルジュは、その 「強さ」 から信憑性を根こそぎ奪いかねない恰好で倒れていた。
 それも、どこかで見覚えのある少女と一緒に。
 
 
 
.

661同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:21:13 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 最初に気づいたのは内藤だったが、しかし状況に希望は見出せなかった。
 内藤の読んだとおり、ハインリッヒが会っていた 「医者」 とはジョルジュであった。
 例によってジョルジュは白衣を纏っていたが、その白衣の大部分を占めていた色は赤だった。
 
 引き裂かれたりした跡はないのだが、巨大なもので殴られた痕がところかしこに見受けられた。
 とても人間の拳で殴られたとは思えない、その打撲痕。
  『開闢』 という自警団においてゼウスと常に同じ次元に立っていたこの男の息が浅いのを見ると、
 その打撃の威力はよほど深刻なものと見ても間違いはないだろう。
 
 ハインリッヒもハインリッヒで、同様のダメージが見受けられた。
 彼女の場合、体躯はジョルジュよりかなり小振りなものの、彼女には【正義の執行】がある。
  「主人公補正」 が、それも今となってはゼウスを大きく上回るほどに付加されたそれがあった筈である。
 しかし、それでもなお、ジョルジュと何ら変わらぬダメージが察せたことに、内藤は驚きを禁じ得なかった。
 
 なんとかして起こしてやろうと試みるが、今までの戦いでもなかなか
 見られなかったそのダメージ量を前に、内藤はどうすればいいかがわからなくなった。
 そもそも、今まではゼウスの屋敷にあった謎の液体によって治癒されていたのだ。
 そのゼウスが協力を引き受けてくれない今となっては、もはや手の打ちようはない。
 
 抱えていたハインリッヒの躯をゆっくりと再び地に委ねて、内藤は立ち上がった。
 顔には困惑と動揺と不安の色がびっしりと塗りたくられていた。
 
 
( ;^ω^)「………うええ……。」
 
( ;^ω^)「なんで……こいつらが、え、……。」
 
( ;^ω^)「この世でもっとも負荷を受けづらい筈の二人なのに……」
 
 
 
( ;^ω^)「まさか……もう、 『選択』 が………?」
 
 
 
.

662同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:22:03 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
(゚、゚トソン「内藤、こっちだ」
 
( ;^ω^)「あ、トソ……、……え、いまなんて呼ん――」
 
 
 内藤が呆然と立ち尽くしていると、研究所の奥のほうからトソンが歩いてきた。
 無愛想な顔つきのまま、カツカツと音を立ててこちらにやってくる。
 そして、内藤の反応は気にも留めず、ジョルジュとハインリッヒを両肩にそれぞれ担いだ。
 
 細腕にして人間二人を何となしに担ぐのに一瞬戸惑ったが、
 そもそもこの 『世界』 にはそのような奴らしかいなかったな、と内藤は自己解決した。
 そんなどうでもいい戸惑いがために、内藤は本来の聞くべきことを一瞬聞きそびれた。
 ツカツカと再び奥のほうへ歩いていくトソンを追いかけ、内藤は声をかけた。
 
 
( ;^ω^)「なにかあったのか?」
 
(゚、゚トソン「……ん。」
 
( ^ω^)「…?」
 
 
.

663同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:22:35 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 トソンが先に、遅れて内藤が足を踏み入れたその部屋は、ほかとは少し様子が違っていた。
 寂れている景観で観葉植物すら置かれていない点は共通しているのだが、
 ここには、ほかでは見られなかった水槽らしき装置が並べられている。
 内藤に訪ねられたあと、遅ればせながらにして、トソンは顎でこの水槽にコンタクトを遣った。
 
 なかにはホルマリン漬けのそれのように液体中をぷかぷかと浮かんでいる何かが入れられているものもある。
 それが人間らしき物体であることに気づいて、内藤の心臓は一瞬浮遊感に見舞われた。
 が、やはりそんな内藤の動揺には目もくれず、トソンはそのうちの一つ、空いている装置のほうに足を向けた。
 それを見て我に返った内藤はやはり彼女のあとを追うのだが、その最中で、内藤はあることに気づいた。
 
 ゼウスの屋敷に治癒を施す装置があったのなら、それは同じくジョルジュの研究所にも設置されているのではないか。
  『開闢』 のドクターがジョルジュだったのだから、可能性としては濃厚だろう。
 だとするとこの水槽は――
 
 
(゚、゚トソン「この水……治癒効果があるみたい」
 
( ^ω^)「…!」
 
 
 トソンがそう言うと、ふたを開けてあった二つの水槽の片方にジョルジュを、もう片方にハインリッヒを投げ入れた。
 呼吸できなくなるのでは、と懸念したが、数秒経ってもなにも変化は起こらず、
 それどころか、気泡が鼻から水面に向かって浮かび上がってゆく様が見受けられた。
 
 水中で呼吸したら、それがふつうの水だったならばもがいたり溺れる筈だ。
 しかしそれがなく、また二人はまだ死んでない以上、これはふつうの水ではない――治癒効果を持った液体、となるのだろう
 そう考えると、トソンの言葉にも合点がいった。
 
 
.

664同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:23:38 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 ただそうなると、気になるのは、どうやってトソンがそれを調べたか、だ。
 トソンのような聡明な者が、無鉄砲にも自らが実験台となってこの液体に浸かったとは思われない。
 内藤がその点を問うと、 「そこらを走っていた鼠で試した」 と表情を変えずに言った。
 さらっと言うあたりに、また躊躇をしないあたりに、 『拒絶』 の面影が感じ取れた。
 
 こぽこぽと気泡の成す音が聞こえる。
 その間、内藤とトソンの間には痛いほどの沈黙が綴られた。
 トソンはどうとも思っていないのだが、内藤にとってはあまりにも気まずすぎる沈黙だ。
 二人に共通する話題―― 『選択』 のことについて何か話そうと思ったりもしてみたが、
 トソンの性格を考えると、一言二言交わしただけで終わるな、と思い、できなかった。
 
 トソンの思考には、今一ついていけないところがある。
 それは、 『拒絶』 の一員だったところを踏まえればむしろ納得がいくのだが、
  「 『拒絶』 でないのに 『拒絶』 と一緒にいた」 ことや 「 『選択』 なのに 『選択』 の暴走を止めたがっている」 ことに、未だに合点がいかない。
 
 それを聞くのは野暮なのであろうが、聞かなければならない。
 だが、いま聞くのは難しそうにも思え、内藤はただ悶々とするばかりになった。
 
 
 トソンと内藤が黙って水槽を見ていると、二人のうち片方、ジョルジュのほうに変化が訪れた。
 それまで水中を漂うが如く安置されていたジョルジュが、急に動きを見せたのだ。
 
 目をぱちりと開き、近況把握に数秒。
 何者かにやられ自分がこの水槽に押し込められた、そんな一連の動きを察したのだろう。
 まの抜けていた顔にとたんにジョルジュらしさが戻ってきた。
 そして、
 
  _
( ゚∀゚)「……」
 
 
 水槽を思いっきり殴っては、水槽から脱出してきた。
 
 
.

665同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:24:12 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 そこら一帯に治癒効果を持っているであろう液体が飛散、流出する。
 それにまるで気を払わず、ジョルジュは水槽から飛び出しては、地に足をつけた。
 
 突然の行動に、トソンは無反応だったのに対して内藤は眼を丸くさせた。
 その理由の一つは言うまでもなく水槽の破壊にあるのだが、
 もう一つはこの短時間であの負傷が治癒されたとはとてもではないが思えなかったためだ。
 
 大破、が似合うダメージだった。
 それを、高々数分、数十分で治す効果が、この液体にあるとは思えない。
 というのも、ハインリッヒのほうにはまるで回復の兆しが見えないのだ。
 
 ジョルジュは立って、トソンと対峙する。
 今にも戦闘が勃発しかねないその様子は、内藤に不安を与えた。
 
 だが、戦闘がはじまることはなかった。
 ジョルジュが、ちいさく言葉を発するだけだったのだ。
 
  _
( ゚∀゚)「……なんでお前がここにいるんだ?」
  _
( ゚∀゚)「検体ナンバーゼロ、トソン……えっと、ナントカ」
 
(゚、゚トソン「さあ」
 
 
.

666同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:24:50 ID:.txmPNuY0
 
 
 
  『拒絶』 とは、ジョルジュがつくりだした存在だ。
 言い換えれば、ジョルジュの知らない 『拒絶』 はいない。
 だが、それでもジョルジュは、彼女のことは知らなかった。
 
 それは、彼女がほんとうは 『拒絶』 ではなかった、ということで解決した。
 だが、それでも依然、 「トソンは何者なのか」 という謎が解決できていない。
 ジョルジュにとって、トソンは一番の不確定因子となるのだ。
 
 
( ;^ω^)「パンドラ!」
  _
( ゚∀゚)「ん……お前もだ。 どうしてこんなところにいるんだ」
 
( ;^ω^)「そんなことはどうだっていいお! ……大丈夫なのか、あんた!」
 
  「んー?」 としか、ジョルジュは返さない。
 だが、そんな態度をとれているのを見れば、決して危篤にさらされているわけではないのだな、とはわかる。
 その点においては安心したのだが、それでもまだ万全の状態に戻っているとは思いがたい。
 内藤の懸念は、まだ取り払われることはなかった。
 
 だが、その懸念は、驚愕へと変わった。
 ジョルジュは、着ている赤みを帯びた服を白衣ごと掴んでは破り捨てた。
 それはどうとも思わなかったのだが、そのあとの光景が、あまりにも異様過ぎた。
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「損傷……せいぜい二割程度、か」
 
 
 
 ジョルジュの肉体が、常人のそれとは違った色彩、構造を有していたのだ。
 
 
.

667同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:25:20 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(  ゚ω゚)
 
(゚、゚トソン「……お前、 『人間』 か?」
  _
( ゚∀゚)「なに?」
 
 
 所々に、継接ぎに似ていなくもない大きな傷が見られる。
 サイボーグが如く鉄板が貼られた場所もあるし、
 その痩身に見合わない筋肉が張り巡らされている。
 
 その肉体は、とても 「人間」 のそれとは思えなかった。
 かといって、 「人外」 と呼ぶに相応しいようなものでもない。
 中途半端で、また、異端で、また、狂おしくて。
 
 内藤がジョルジュのその肉体を見て最初に思った言葉。
 それと、放たれた言葉とが、完全に一致していた。
 
 
(゚、゚トソン「その、鉄板だの、手術跡だの……」
  _
( ゚∀゚)「それがどうした」
 
(゚、゚トソン「お前……、」
 
 
 
(゚、゚トソン「………〝改造人間〟……だった、のか?」
 
 
.

668同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:25:58 ID:.txmPNuY0
 
 
 
  「改造人間」 。
 ジョルジュの容姿を一言で表すのに、もっとも相応しい言葉だった。
 
 そして内藤は、その情報を〝知らなかった〟。
 パラレルワールドの所為だとは知りつつも、まるで疑ったことすらなかった。
 立て続けに発生する驚愕に、内藤は心なしか眩暈がしてきた。
 
  _
( ゚∀゚)「話す必要がないな」
 
(゚、゚トソン「……」
 
(゚、゚トソン「そっちの 『英雄』 よりも手っ取り早く回復したのは?」
  _
( ゚∀゚)「それも話す必要がないが……お察しの通りだ」
 
(゚、゚トソン「改造人間……だから、治癒速度が段違い、と」
  _
( ゚∀゚)「その通り」
 
 
 直後、ジョルジュはトソンを 『パンドラの箱』 に押し込めた。
 
 
.

669同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:26:37 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(゚、゚トソン「ふん。 へたな不意打ちね」
  _
( ゚∀゚)「……ほう」
 
(  ゚ω゚)
 
(  ゚ω゚)「?」
 
 
 ――が、トソンはそれを察知して、能力の対象外の位置へ移動していた。
 結果、彼女が 『パンドラの箱』 に入ることはなかった。
 
 
(゚、゚トソン「顔の筋肉の動き。 それにはまるで変化がなかった。
.      ……うまいポーカーフェイスだこと」
 
(゚、゚トソン「でも、右腕の筋肉が、膨張した。 数ミリ分ほど。
.      例の 『箱』 をつくるための所作というか、クセなんだろうけど」
 
(゚、゚トソン「そんな前兆を見せるなんて、はじめっから避けてくれって言ってるようなものだ。
.      あまり、私を侮らないでほしい」
 
 
 トソンのスキル、【暴君の掟】によって圧縮された時間のなかで、トソンはその僅かな変化を察したようだ。
 そして、ジョルジュが自分に 『パンドラの箱』 を使おうとしているのをも察して、逃げた。
 おそらく、そういうことなのだろう――と、内藤は無理やり納得した。
 
 
.

670同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:27:19 ID:.txmPNuY0
 
 
  _
( ゚∀゚)「なーに言ってんの。 『避けてくれ』 って言うためにわざとわかりやすくしてやったんだぜ」
 
(゚、゚トソン「…!」
 
 
 ――よけいなこと言うなお!
 
  _                                  コイツ
( ゚∀゚)「ちょっと試してやっただけだ。 なるほど、 『英雄』 よりは遣えるみたいだな」
 
(゚、゚トソン「………そういや、そいつは」
  _
( ゚∀゚)「まあ待て。 いま、治してやっから」
 
(゚、゚トソン「?」
 
 
 そう言うと、ジョルジュはハインリッヒの入っている水槽のほうに近づき、
 様々なレバーやスイッチ、モニターなどが備えられている基盤に触れた。
 少しすると水槽の底から気泡が大量に溢れてきた。
 地獄の釜と形容するのが相応しそうなほどには、沸騰に似たそれが数分の間続いた。
 
 地震でも起こっているかのように、水槽をはじめこの部屋が揺れ始める。
 内藤が混乱しそうになる直前で、その揺れは収まった。
 いったいなにがあったのだ、と思うと、ようやく、ハインリッヒも目を開いた。
 
 衣服の破れなどには何ら変わりが見られないが、しかし嘗て見受けられた傷は見られなくなっていた。
 なにが起こっているのかわからない、把握できない。
 そう言いたげな顔をしたため、ジョルジュは呆れた顔をして、その水槽を破壊した。
 先ほどのジョルジュのときと同様に、液体は流れ出て、ハインリッヒも遅ればせながら水槽から出てきた。
 
 
.

671同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:27:57 ID:.txmPNuY0
 
 
 
从 ゚∀从「……? …?」
  _
( ゚∀゚)「……治癒能力が高かったら、コレとの相乗作用で、ちゃっちゃと回復するものなんだがな」
 
从 ゚∀从「?」
  _
( ゚∀゚)「とにかく……お前ら全員、この部屋から出て行け」
 
从 ゚∀从「あ、おい……」
 
 
 ジョルジュが言うと、彼は一足先にこの部屋から出て行った。
 残された三人も、ほかにすべきことがわからなかったため、仕方なくジョルジュの後についていった。
 ジョルジュはそのまま、三人をソファーとガラステーブルのある部屋に案内した。
 この研究所では似つかわしくない部屋だったため、おそらくは来客用なのだろう、とわかった。
 
 不遜な態度でジョルジュが一人がけのソファーに腰を下ろす。
 同じく、トソンも半ば不遜な態度で腰を下ろした。
 内藤とハインリッヒは、なにがどうなっているのかがわからないまま、二人がけのソファーに座った。
 
  _
( ゚∀゚)「……なにしにきた」
 
(゚、゚トソン「その質問に答えるためにこちらから質問をさせてもらう。
.      いったい、誰にやられたんだ」
  _
( ゚∀゚)「……ってことは、ある程度の予測はついてんのか?」
 
(゚、゚トソン「…」
 
 
.

672同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:28:52 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 不覚の質問にトソンは言葉を詰まらせた。
 それを見て、ジョルジュはそれが肯定を意味すると確信した。
 そのためか、ジョルジュは、若干苦い顔を浮かべた。
 
  _
( ゚∀゚)「……、まあいいだろう」
  _
( ゚∀゚)「別に、経緯から話す必要もないんだが、そうしたほうがよさそうだな」
 
(゚、゚トソン「…」
 
  _
( ゚∀゚)「相手が何者かは、わからねえ」
  _
( ゚∀゚)「だが……これだけは言える」
 
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「やつらは、 『人外』 だ」
  _
( ゚∀゚)「 『拒絶』 と同様か、それ以上の……な」
 
 
 
.

673同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:29:25 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 

 
 
 
从 ゚∀从『……なに?』
  _
( ゚∀゚)『お前の妹、ディ=カゲキを、俺に貸してほしい』
 
从 ゚∀从『……ハ?』
  _
( ゚∀゚)『ディ=カゲキ。 【夢幻の被写体】だ』
 
从 ゚∀从『寝言言ってるつもりなんなら、許してやる』
  _
( ゚∀゚)『拉致じゃなくて、あくまで平和的解決を望んでんだ。 答えろ』
 
从 ゚∀从『てめえ。 殺されてーか』
  _
( ゚∀゚)『まあ、落ち着け。 こっちも、なにもタダでいただこうとは思っていない』
 
从 ゚∀从『カネで買うってか? ふざけんのも――』
 
 
  _
( ゚∀゚)『ヒート=カゲキ』
 
从 ゚∀从『     』
  _
( ゚∀゚)『やつと交換、でどうだ』
 
从 ゚∀从
 
 
.

674同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:29:56 ID:.txmPNuY0
 
 
  _
( ゚∀゚)『単刀直入に言おう』
  _
( ゚∀゚)『ヒート=カゲキの命は、俺が握っている』
 
从 ゚∀从『………ひー……と?』
  _
( ゚∀゚)『―――あの日。 お前とゼウス、あとジジイが戦った日』
 
从 ゚∀从『!』
 
  _
( ゚∀゚)『ゼウスによって、ヒートは 「爆撃」 を喰らった』
  _
( ゚∀゚)『まあ、ほっとけば、死んでいただろうな』
  _
( ゚∀゚)『そこを、俺が、助けてやった。 今は、後遺症まで完治させた状態で安置してある』
 
从 ゚∀从『………』
  _
( ゚∀゚)『……どうだ? 応じるか?』
 
从 ゚∀从『……』
 
 
.

675同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:30:31 ID:.txmPNuY0
 
 
 
从 ゚∀从『いくらだ』
  _
( ゚∀゚)『?』
 
从 ゚∀从『いくら出せば、お前は応じる』
  _
( ゚∀゚)『カネなんざ腐るほどある。 欲しいのは、ディ=カゲキだけだ』
 
从 ゚∀从『地位か、権力でも欲しいのか?』
  _
( ゚∀゚)『あいにくだが』
 
从 ゚∀从『………返せよ』
  _
( ゚∀゚)『?』
 
 
从 ゚∀从『…………ヒートを、……返せ……よ』
  _
( ゚∀゚)『だからこうして、平和的に取引を申し出てやってるんだ』
 
从 ゚∀从『………てめえ………ぶっ殺すぞ』
  _
( ゚∀゚)『………やれやれ。 やっぱり応じてくれねえか』
 
 
.

676同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:31:11 ID:.txmPNuY0
 
 
 
  _
( ゚∀゚)『しかたない。 この話はなかったことにするか』
 
从 ゚∀从『…………帰れると、思っ      』
 
从 ゚∀从
 
 
  _
( ゚∀゚)『あー、うるせえうるせえ』
  _
( ゚∀゚)『ちっくら 「箱」 のなかで黙っててもらうぜ』
  _
( ゚∀゚)『マ、俺が研究所に帰ったら解放してやるよ』
  _
( ゚∀゚)『俺としてもお前に死なれちゃあ困るからな』
 
从#゚Д从
  _
( ゚∀゚)『おーおー、怒ってる怒ってる』
 
 
.

677同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:31:48 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 

 
 
 
( ^ω^)
 
(゚、゚トソン
  _
( ゚∀゚)
 
从;゚∀从
 
 
( ^ω^)「……あの」
 
( ^ω^)「やっぱり、経緯はなしでいいです」
  _
( ゚∀゚)「そう?」
 
( ^ω^)「あんたらを打ちのめした連中の話だけで」
  _
( ゚∀゚)「ここからがまた長いんだけどなァ……」
  _
( ゚∀゚)「……で、なんだっけか。 俺らを打ちのめした連中、の話だけでいいんだな?」
 
( ^ω^)「はい」
  _
( ゚∀゚)「調子狂うなあ…」
 
 
.

678同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:32:38 ID:.txmPNuY0
 
 
  _
( ゚∀゚)「……あのあと、俺がここについて、 『英雄』 を 『箱』 から解放した」
  _
( ゚∀゚)「これからどうしようか、と考えてたら、 『英雄』 がここにまでやってきた」
 
( ^ω^)「!」
  _
( ゚∀゚)「〝なんとなく、こっちだと思った〟だとよ。 ふざけてやがる」
  _
( ゚∀゚)「もっとも……そこまでは、いい」
  _
( ゚∀゚)「問題は、やってきたのは、こいつだけじゃなかった」
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「あとから、三人の女がやってきた」
 
 
 
.

679同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:33:39 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
( ^ω^)「!」
 
(゚、゚トソン「……女」
 
 
 内藤とトソンは、その言葉に反応した。
 その反応を見て、ジョルジュは更に反応した。
 
  _
( ゚∀゚)「……で」
  _
( ゚∀゚)「お前らがここにきた理由も、それか?」
 
(゚、゚トソン「厳密に言えば、違う。 『英雄』 に会いにきたつもりだった」
 
从 ゚∀从「……私か?」
 
(゚、゚トソン「――だが。 結果論的に言うと、理由は重なっていたようだな」
  _
( ゚∀゚)「……おもしれえ。 話してくれや」
 
(゚、゚トソン「………かまわない、けど」
 
 
.

680同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:34:12 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ^ω^)「…」
 
(゚、゚トソン「…」
 
( ^ω^)「…」
 
(゚、゚トソン「…」
 
( ^ω^)
 
(゚、゚トソン
 
( ^ω^)「?」
 
(゚、゚トソン「はやくしろ」
 
( ^ω^)
 
( ^ω^)「え?」
 
( ^ω^)「あ、え? 僕?」
 
(゚、゚トソン「ほかに誰か?」
 
( ^ω^)「いや、その……流れ的に……」
 
(゚、゚トソン「……」
 
( ^ω^)「……」
 
(゚、゚トソン
 
( ;^ω^)「―――わァーったお! チクショイ!」
 
 
.

681同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:35:20 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ;^ω^)「えっと、どこから説明すればいいのやら」
 
( ;^ω^)「その、 『拒絶』 がもとは僕がつくった元ネタ、ってのはわかってるおね?」
  _
( ゚∀゚)「…」
 
 
( ;^ω^)「それと、いわば同じ境遇の存在」
 
( ;^ω^)「あまりにも強すぎる、 『人外』 な連中」
 
( ;^ω^)「で…… 『運命』 を改竄する体質的なものを持ってるんだお」
 
( ;^ω^)「もし複数人集まったら、 『崩壊』 が起こる」
  _
( ゚∀゚)「……」
 
 
( ;^ω^)「そ、そんな連中なんだお!」
 
( ;^ω^)「で、名前が………」
 
 
 
 
 
 
トル゚〜゚)「ワルキューレ……か?」
 
 
 
 
.

682同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:35:53 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
( ^ω^)「あ、そうそう……」
 
( ^ω^)
 
 
トル゚〜゚)
 
( ^ω^)
 
 
( ;゚ω゚)「……!!?」
  _
( ;゚∀゚)「―――どけ!」
 
 
 ――突如として、背後から音がした。
 いや、これを音、と表現してはならない。 立派な、肉声なのだから。
 低く、中性的な声色で、訛りや雑音のようなものは聞こえない。
 
 問題は、そのような声を発する者が本来ならばこの場にいなかった、ということだ。
 トソンでさえ、もう少し高めの声を発する。
 いなかった――つまり、その声の主は外部から唐突にやってきた、ということ。
 
 
 唐突。
 それだけならば、よかった。
 もし、ここに敵意がはらめば、それは立派な敵襲となる。
 
 敵意の有無。
 それは、次の瞬間の攻防に全てが映っていた。
 
 
.

683同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:36:32 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
トル゚〜゚)「〝また 『壁』 か〟」
  _
( ;゚∀゚)「お前ら! 今すぐ逃げろ!!」
 
( ;^ω^)「な、なん……――ッ!?」
 
 
 次の瞬間の攻防。
 本来は存在し得なかった筈の声を放ったのであろう少女が、自分の体長ほどの槌を振りぬこうとしていた。
 槌の軌道の先は内藤の頭部を通過しており、
 槌が振りぬかれてしまえば、内藤の頭部は吹き飛ばされていたと思われる。
 
 だが、その軌道は途中で妨げられていた。
 〝目に見えない壁のようなもので〟槌が振りぬけなくなっていたのだ。
 といのも、少女の襲来を見た瞬間、ジョルジュは反射的に軌道になり得そうな箇所に 『壁』 を張っていた。
 
 そして、ほかの皆もその事の 『異常』 性に気づいた頃。
 ジョルジュが今までには発さなかったような大きな声で、避難を警告した。
 だが、この一瞬で反応できるのは、できてせいぜいトソンくらいだ。
 一般人であり凡人の内藤が、その声に反応できるわけがない。
 
 その一瞬が、命取りだったのだろうか。
 突如としてやってきた謎の少女は、無表情のまま、槌を構えなおした。
 言い換えるならば、〝構えなおさせる隙を与えてしまった〟のだ。
 
 
トル゚〜゚)「まっ」
 
トル゚〜゚)「今更 『壁』 なんざ張っても……」
 
 
 
 
トル゚〜゚)「〝あとの祭り〟ですから」
 
 
.

684同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:37:10 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
( ;^ω^)「――――ッ!!」
 
从;゚∀从「逃げ  」
 
 ハインリッヒが立ち上がったところで、少女が槌を振りぬいた。
 その軌道には先ほどの 『壁』 があったのに、〝槌はその 『壁』 をすり抜けた。〟
 
 
イル#゚Д゚)「おらッ!!」
  _
( #゚∀゚)「ドラァッ!」
 
トル#゚〜゚)「―――ッ…」
 
 
 ジョルジュは〝槌がすり抜けることを知っていた〟ようで、
 すかさずその槌の軌道に 『壁』 を張った。
 音を鳴らさず、衝撃も出さず、槌の軌道が遮られる。
 
 この距離では槌の攻撃が効かないと見た少女は、後方へ跳躍した。
 その動きは、一般人や並大抵の 『能力者』 ではまず不可能なものであった。
 
 
           ワルキューレ
 つまり――― 『 選 択 』 。
 
 
.

685同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:37:43 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
イル#゚Д゚)「キャオラッ―――」
 
( ;^ω^)「止まれ、ワルキューレ!  『トール』 !」
 
イル#゚〜゚)「――ッ!」
 
 
 ――内藤はジョルジュの後ろのほうから、ひときわ大きな声で叫んだ。
  「トール」 と叫ばれたのを聞いて、その少女は止まった。
 走っているところで石に足をとられたかのような光景だった。
 
 内藤の言葉に、周囲が静まり返る。
 その一瞬は、彼らにとっては大きすぎた一瞬だった。
 
 少女は、見た目に関して言えば、そこらの人間と変わりはなかった。
 赤く、癖の強いセミロングで、十代相当の容姿をしている。
 ただ、手に持っている大きな槌が、彼女を 「人外」 と成り立たせていた。
 
 その重量は、先ほど振りぬいたその二回を見た――〝聞いた〟だけである程度の察しはつく。
 轟音に近いその音から察するに、数キロ、数十キロの次元では収まらない。
 彼女が万全の状態でそれを振りぬいたなら、おそらく象程度なら簡単に吹き飛ばすか、爆散させるだろう。
 それほどの威力を、槌、ひいてはその身体に宿していると思われた。
 
 だからこそ。
 内藤も、トソンも、いままでの話とこの光景を統合させることで、確信に至った。
 
 
 間違いなく、この少女は、ワルキューレだ。
 
 
.

686同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:38:19 ID:.txmPNuY0
 
 
 
トル#゚〜゚)「……おい」
 
( ;゚ω゚)「はッはい!」
 
トル#゚〜゚)「どうして……私の名前を知っている…!」
 
( ;゚ω゚)「え、あ、その……」
 
( ;^ω^)「(………あれ……。 どうして…だ?)」
 
 
 内藤はそのとき、無意識のうちに 「トール」 と叫んでいた。
 トール――この敵襲の少女の名を、内藤は、知っていた。
 だが、それがどうしてかは、本人にもわからなかった。
 
 〝元々は、知らなかった〟のだ。
 だが、この局面に至るやいなや、いきなり、記憶の深度が大きくなった。
 原理はわからないが、内藤は意識せずとも、この少女の名を〝言い当てる〟ことができた。
 
 なにはともあれ、トールが隙を見せた今がチャンスだ――
 内藤は、〝先ほど引っかかった、トールが放った一つの言葉〟を武器に、
 内藤にしかとることのできないスタイルで――〝言い当てる〟ことで、時間を稼ぐことにした。
 
 
( ^ω^)「―――あんたの能力、見極めさせてもらった! トール!」
 
トル#゚〜゚)「………ッ!」
 
( ;^ω^)「(ひえええええええッ! あっれ、誰だコイツ!)」
 
 
.

687同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:38:53 ID:.txmPNuY0
 
 
 
トル#゚〜゚)「貴様…… 『相手のことを知る』 ことができるのか」
 
( ;^ω^)「だったら、もう一度言ってやろうか? あんたの名は、トールだ!」
 
トル#゚〜゚)「…………。」
 
 
 図星だったようで、トールは、言葉を詰まらせた。
 そこまではいいのだが、内藤は咄嗟に浮かんだ 「トール」 という名前以外、
 彼女に関しての情報は何一つ握れていない。
 そのため、内藤も内藤で、言葉を詰まらせるしかなかった。
 
 おそらく、ジョルジュとハインリッヒが戦ったのは、このトールだ。
 だから、彼らからトールの戦い方、スタイルを聞くことができれば、あるいは能力だけでも思い出せるかもしれない。
 そう思うのだが、しかし本人が目の前にいて、そのようなことができる筈もない。
 
 だから内藤は、ただハッタリをかますしかなかった。
 こうして時間を稼いでいるうちに、ほかの三人がなにかしてくれることを祈って。
 
 
( ;^ω^)「そして――― 『あとの祭り』 !」
 
トル#゚〜゚)「!」
 
( ;^ω^)「ずばり、それこそがあんたの 《選定能力》 ――違うかお!?」
 
トル#゚〜゚)「………貴様。」
 
( ;^ω^)「(やった! 合ってた!)」
 
 
.

688同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:39:33 ID:.txmPNuY0
 
 
 
トル#゚〜゚)「どうして……私の名、能力、あと…… 『選択』 のことを知っている」
 
( ;^ω^)「え、え!? ―――そーゆー能力なんだお!」
 
トル#゚〜゚)「ほう…」
 
( ;^ω^)「えっと…………そッそう!」
 
 
 
               カンニング・ペーパー
( ^ω^)「――― 【 消えゆく記憶 】 ッ!!」
 
( ^ω^)「そいつが、僕の名だ!」
 
 
 
 
 
 
 
( ^ω^)「(……決まっ)」
 
イル#゚Д゚)「キャオラッ!!」
 
(  ゚ω゚)「―――ぎゃああああああああああああ!!」
 
 
.

689同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:40:03 ID:.txmPNuY0
 
 
 
  _
( #゚Д゚)「ドラァ!!」
 
イル#゚Д゚)「          
 
 
( ;゚ω゚)「!? !?」
  _
( #゚∀゚)「ハインッ!」
 
从#゚∀从「ッ――!」
 
 
 内藤がトールに襲われそうになった時、ジョルジュが動いた。
 いや、もとから動いていたのかもしれない。
 だが、それが目に見えたのは、そのときだった。
 
 飛び掛っていたトールに、ジョルジュが掛け声とともに右手を伸ばす。
 すると、トールは空中で停止した。
 それが 『パンドラの箱』 ――つまり【未知なる絶対領域】によるものだということはすぐにわかった。
 
  『パンドラの箱』 が決まったのを見て、待ち構えていたと言わんばかりにハインリッヒが飛び出した。
 絶対不可侵の 『箱』 になにをするのか、と思ったが、次の瞬間、ハインリッヒは〝トールの腹を脚で貫いた〟。
 
 
.

690同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:40:41 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(  ゚ω゚)「!!?」
 
トル; 〜)「  ッ!」
 
 
 ハインリッヒの脚は〝 『箱』 から脱出していた〟トールの腹に〝刺さった〟。
 敏捷さもさることながら、そのオーバーパワーな様を見て、内藤は一つ目の驚きを得た。
 二つ目の驚きは、そもそも〝トールが 『箱』 から脱出していた〟ということだ。
 
 ひょっとすると、ハインリッヒが攻撃する瞬間を見計らって
 ジョルジュが 『箱』 からトールを解放しただけなのかもしれないが、
 この切羽詰った高速戦闘のなかで、ピンポイントで息が合うとは思えない以上
 おそらくはトールが〝自力で〟 『箱』 から脱出したことになるのだろう、内藤はそう考えた。
 
 
 三つ目の驚き。
 それは、いつの間にか背後に立っていたトソンが、背後からトールを殴ったことだった。
 殴られたトールは、文字通り 「爆散」 した。
 
 
(  ゚ω゚)「!!?!?」
 
( 、 トソン「ッ」
 
トル Д)
 
 
.

691同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:41:21 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 肉片――と表現することすら躊躇われるほど粉末状になって、躯が飛散した。
 血や組織液などは全て飛沫となって、スプレーが如くそこらに噴出される。
 
 ジョルジュの 『パンドラの箱』 からはじまって、
 ハインリッヒの槍以上の蹴りで腹に穴が開き、
 強化されたトソンの拳がトールの胸を爆散させた。
 
 この連携を、一般人の内藤が目で追うのには無理があった。
 内藤が目を白黒させ終え、最初に目に入ったのは、地面に倒れる元人間の頭部と下半身のみである。
 それがトールであるとわかるには、髪色と槌が必要であった。
 
 
 内藤が眼球を剥き出しにしているのを見て、トソンは俯けていた顔をあげた。
 目の前で即死したトールを見て、深くも浅い息を吐いた。
 
 
(゚、゚トソン「……呆気なかったけど……」
 
(゚、゚トソン「内藤。 ほんとうに、こいつが 『選択』 なのか?」
 
(  ゚ω゚)
 
( ;^ω^)「―――僕に聞くなお。 こいつらに聞け、こいつ――」
 
 
.

692同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:41:54 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 内藤が、ジョルジュとハインリッヒのほうに顔を向けた。
 だが、その前に、二人が口を開いた。
 
 
 
  _
( ;゚∀゚)「落ち着くな!」
 
从;゚∀从「こいつ―――〝生き返るんだぞ〟!!」
 
 
 
(゚、゚トソン「―――え?」
 
トル゚〜゚)「はい。」
 
(゚、 トソン「     ッ!」
 
 
 
 トソンは、背後から槌で殴られた。
 
 
 
.

693同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:42:35 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
( ;^ω^)「トソン――!?」
 
トル゚〜゚)「けっこー痛かったなあ」
 
トル゚〜゚)「マ、そんなこと言っても、〝あとの祭り〟だけど」
 
( ;^ω^)「…!」
 
 
 
( ;^ω^)「(〝あとの祭り〟……!)」
 
 
 
(、 ;トソン「……ぐ………ッ!」
 
トル#゚〜゚)「仕上げッッ!」
  _
( #゚∀゚)「ドラァッ!!」
 
 
 なんとか生き長らえた――そもそも、この打撃を受けて
 生きていられるとは思われなかったのだが――トソンに、トールがとどめを刺そうとした。
 させまいと動いたのがジョルジュで、やはり、トールの槌が振りぬかれることはなかった。
 
 トールが構えを変えて、今度は上段の構えが如く柄を握り、上から振り下ろした。
 それを防ぐために更なる 『領域』 を張ろうとしたが、今度は槌が遮られることはなかった。
 
  _
( ;゚∀゚)「ッ!」
 
( ;^ω^)「トソン!」
 
 
.

694同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:43:42 ID:.txmPNuY0
 
 
 
トル゚〜゚)「……できあが」
 
(゚、゚トソン「り?」
 
 
 トールの頭が爆散した。
 
  _
( ゚∀゚)「!」
 
(  ゚ω゚)「―――?!」
 
 
 
 
(゚、゚トソン「……この研究所に〝水槽〟がなかったら、完治にコンマ三秒はかかったでしょうね。
.      もっとも……あったから、コンマ一秒足らずで完治したわけだけど」
 
(゚、゚トソン「これで……そろそろ生誕から四世紀は経ちましょうか」
 
 
 
 
 
  ワールド・パラメーター
 【 暴 君 の 掟 】 。
 
 トソンの喰らった負傷が自然治癒で完治できるように、時間が 『操作』 された。
 
 
 
.

695同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:44:25 ID:.txmPNuY0
 
 
 
トル#゚〜゚)「貴様……ぁぁ………!」
 
(゚、゚トソン「……なぜ、生きていられる」
 
トル#゚〜゚)「………、……」
 
 
 トソンが質問をしたとき、トールはその隙を衝いて再び殴りかかろうとした。
 だが、そうしても徒労になる気がしたためか、トールは構えようとした槌をおろした。
 戦闘に発展しそうになかったため、今度はジョルジュもハインリッヒも応援に入る姿勢を見せなかった。
 
 
トル#゚〜゚)「……」
 
(゚、゚トソン「 『領域』 ができても、負傷ができても、ぜんぶ……」
 
 
 
 
(゚、゚トソン「 『あとの祭り』 の一言で済ませているみたいだけど」
 
 
 
 
.

696同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:45:03 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(  ゚ω゚)「!」
 
(゚、゚トソン「……内藤?」
 
(  ゚ω゚)「………お……〝思い出した〟!」
 
トル#゚〜゚)「思い…?」
 
 
 キーワードは、 「あとの祭り」 だった―――
 
 
 
 
 
(  ゚ω゚)「トール!」
 
(  ゚ω゚)「あんたの 《選定能力》 、それは………!」
 
 
 
 
 
 
 
.

697同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:45:33 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
      アフター・カーニバル
(  ゚ω゚)「   【荒野祭】   ッ!」
 
             ケッカ
(  ゚ω゚)「あらゆる 『因果』 を、すべてなかったことにする能力!!」
 
 
 
 
 
 
 
                                           To be continued ...
 
.

698同志名無しさん:2014/01/05(日) 20:46:05 ID:.txmPNuY0


699同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:28:31 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 ○登場人物と能力の説明
 
 
 ( ^ω^)
 →この世界の 『作者』 。
 
 (゚、゚トソン 【暴君の掟 《ワールド・パラメーター》 】
 → 『選択』 を自称する少女。
 
 从 ゚∀从 【正義の執行 《ヒーローズ・ワールド》 】
 → 『レジスタンス』 を率いる 『英雄』 の少女。
    『英雄』 が負けない 『世界』 を創りだす 《特殊能力》 の持ち主。
   _
 ( ゚∀゚) 【未知なる絶対領域 《パンドラズ・ワールド》 】
 →元 『開闢』 にいたマッド・サイエンティスト。
   存在してはならない 『領域』 を創りだす 《特殊能力》 の持ち主。
 
 トル゚〜゚) 【荒野祭 《アフター・カーニバル》 】
 →体長相当の槌を持つ 『選択』 の少女。
 
 
.

700同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:29:15 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 
     ◆  第四十四話  「vs【暴君の掟】Ⅳ」
 
 
 
 
 
 
トル゚〜゚)「………ッ」
 
 
 
 
从 ゚∀从「アフター……」
  _
( ゚∀゚)「………後夜祭、か」
 
(゚、゚トソン「……」
 
 
 
 
.

701同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:29:52 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 
 
(  ゚ω゚)「負傷を受けたことも!」
 
(  ゚ω゚)「 『箱』 に閉じ込められたことも!」
 
(  ゚ω゚)「殺されたことでさえ!」
 
 
 
 
 
 
(  ゚ω゚)「全て、すべてを!」
 
(  ゚ω゚)「 『そんなこと言っても、あとの祭り』 ―――で済ませてしまうんだお!!」
 
 
 
 
.

702同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:31:09 ID:.txmPNuY0
 
 
 
从;゚∀从「ど…どういうことだ」
 
( ;^ω^)「だから、さっき殺されかけたでしょ!? トソンに殴られて!」
 
( ;^ω^)「その、 『殴られた』 という完了した出来事を……白紙に返すんだお!」
 
从 ゚∀从「!」
 
 
( ;^ω^)「つまり、 『そもそも殴られていなかった』 ということになる!」
 
( ^ω^)「同じ理屈で…… 『箱に閉じ込められた』 時は、 『そもそも箱はつくられていなかった』 ことにしたんだお」
 
トル゚〜゚)「………。」
 
 
 
( ;^ω^)「で、例によって無に帰す定義は恣意的!」
 
( ;^ω^)「ただの概念的結果であろうがなんであろうが、
.      トール視点で消せるのであればなんだって消せるんだお!」
 
 
 
 
                ケッカ
( ;^ω^)「すべての 『因果』 を台無しにするスキル! それが、アフター・カーニバル!!」
 
 
 
.

703同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:31:57 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
从 ゚∀从「――― 『因果』 ……っ」
 
 
 そのとき、ハインリッヒの網膜には、トールとは違う、別の少女の面影が浮かんだ。
 だが、その面影はすぐにあぶくになって、消えた。
 
 
 
トル゚〜゚)「……」
 
 一方のトールは、内藤にスキルの全貌を言い当てられて、きょとんとしていた。
 戦意が失せた、と言ったほうがいいのだろうか。
 それとも、内藤を不確定因子と見て、迂闊に動こうとしていないだけか。
 
 ただ、周囲を「戦闘狂」の三人に囲まれた時。
 トールは、全てを諦めたような顔をした。
 
 
 
トル゚〜゚)「……あー」
 
トル゚〜゚)「やっぱ、単独じゃあ大した力も出ないんだな」
 
 
.

704同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:32:28 ID:.txmPNuY0
 
 
  _
( ゚∀゚)「群れないと勝てないってか。 確かに、そうだな。 数は、力だ」
  _
( ゚∀゚)「だからこそ………いま、殺す。」
  _
( ゚∀゚)「〝あいつらまで来る〟前に」
 
( ^ω^)「(〝あいつら〟……!)」
 
 
トル゚〜゚)「あー、私、殺されちゃうのかー…」
  _
( ゚∀゚)「悪く思うなよ」
 
トル゚〜゚)「はぁ〜あ。 こうなるんだったら……」
 
 
 
 
トル 〜)「 『こんなところに来ないほうがよかった』 」
  _
( ;゚∀゚)「――ッ!」
 
 
 
トル ゚〜)「 『今更そんなこと言っても……あとの祭りだけど、な』 」
  _
( ;゚∀゚)「逃がすか!」
 
 
 
.

705同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:33:00 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 ジョルジュはすかさず右手を伸ばし、 『パンドラの箱』 をトールに合わせて展開させた。
 だが、そのときには既に「あとの祭り」となっていた。
 先ほどまでトールがそこにいたのが一転、跡形もなく消えてしまったのだから。
 
 
 【荒野祭】――
  『自分がここにやってきた』 という 『因果』 を消した。
 
 その応酬としてか、彼女によってできた戦闘の跡もあらかた消えてしまった。
 ある 『因果』 を消すと、その連動としてそれに関わったほかの因子にも変化が訪れるのであろう。
 ジョルジュたちが溜めていた戦闘による疲労も、あらかた消えてなくなっていた。
 
 
 トールが消えてから、数秒間もの間を、沈黙が漂った。
 そしてトソンが、口を開く。
 
 
(゚、゚トソン「……白衣」
  _
( ゚∀゚)「なんだ」
 
(゚、゚トソン「私たちが来る前にヤってたのって……」
 
 
 ジョルジュは、黙って肯いた。
 
 
.

706同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:33:32 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(゚、゚トソン「……やっぱり」
  _
( ゚∀゚)「つーことは……お前たちの目的っつーのは」
 
 今度は、トソンが黙って肯いた。
 いまの一瞬の攻防の間に、多少の信用を築くことはできたようだ。
 その信用の根底に横たわっているのは、互いが有する圧倒的な力。
 
 力こそが全てを語るこの世界において、彼らのそれは
 互いを多少を信頼させるには充分な力を持ち合わせていたようだ。
 それを見て、内藤は少し、ほっとしたような気分になった。
 
 
(゚、゚トソン「質問がある」
 
(゚、゚トソン「なぜ奴らは、あんたたちを………襲撃にかかったんだ」
  _
( ゚∀゚)「…」
 
(゚、゚トソン「 『選択』 の目的……それは、なんだったんだ」
 
 
 
 
(゚、゚トソン「どうして、今になって奴らは動き始めたんだ」
 
 
 
.

707同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:35:18 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 それこそが、一番の謎だった。
  『選択』 とは、ここ数日で生まれた連中ではない。
 トソンが知る限りもっと前から存在していて、その力を有していた。
 
 トソンが今になって 『選択』 に干渉しようと思い至ったのは、
 彼女が身の拠り所としていた 『拒絶』 が崩壊してしまったからだ。
 だが、そのちょうど同じタイミングで、『選択』 たちも動き始めていた。
 ただの偶然か、必然だったのか。 それが、トソンは知りたかった。
 
  _
( ゚∀゚)「敵襲する相手にそんなことを言うほど馬鹿なのか? その 『選択』 ってのは」
 
(゚、゚トソン「……」
  _
( ゚∀゚)「だが……これだけは、言える」
 
 ジョルジュは、体勢を変えた。
 直立していたのを、右脚に体重をかけ、不遜な態度になった。
 そして表情も、気だるそうなそれになった。
 
 
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「ヒート=カゲキ」
  _
( ゚∀゚)「奴もまた、 『選択』 かもしれねえってことだ」
 
 
 
 
.

708同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:35:49 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(゚、゚トソン「――」
 
( ;^ω^)「なッ―――」
 
 
 
(゚、゚トソン「………誰だ、そいつ」
 
( ;^ω^)「――ああもう、調子狂うなあ!」
 
 
 ヒート=カゲキ、その名をトソン以外の三人はよく知っていた。
  『英雄』 をこの上なくご都合主義なる存在に仕立て上げる、陰の功労者。
 またの名を 「脚本を脚色る脚色家」 で、ゼウスが認める 「カゲキ姉妹で一番厄介な 『能力者』 」 。
 
 【大団円 《フィナーレ》 】と呼ばれるその能力を持つ少女こそが、ヒートだ。
 かつてのアラマキ、ハインリッヒ、ゼウスの三つ巴の戦いの際に、ゼウスに殺され――かけていた。
 ゼウスに胴体を貫かれ、そのまま 『爆撃』 に見舞われたため、当時の皆は彼女が死んだものだ、と思っていた。
 
 それが、狂わされた。
 ヒートは、生きていたのだ。
 このことを知った時に最も動揺したのは、言うまでもなく、姉の
 
 
从 ∀从「……」
 
 
 ハインリッヒ=カゲキであった。
 
 
.

709同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:36:22 ID:.txmPNuY0
 
 
 
( ;^ω^)「とにかく、ハインリッヒの妹だ!」
 
(゚、゚トソン「あっそ。 それで?」
 
( ;´ω`)「……」
 
  _
( ゚∀゚)「いきなり、チャイムも鳴らさずにやってきた 『選択』 」
  _
( ゚∀゚)「あいつらの目的は、俺の見たところ、たった一つだ」
 
 
 
 
 
  _
( ゚∀゚)「ヒート=カゲキの、奪還」
 
 
 
 
 
.

710同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:36:53 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 ――ジョルジュとハインリッヒのところに、 『選択』 がやってきた。
 そして、彼女たちは、二人に襲い掛かった。
 ヒートを、奪ってゆくために。
 
  _
( ゚∀゚)「とても、意味もなく、単体での力もない奴をさらってく意味なんざねえ」
  _
( ゚∀゚)「だが……奴らが 『選択』 つーな連中の一人だったとすれば、あるいは……」
  _
( ゚∀゚)「いきなり、俺のところに押しかけてきたのにも、納得がいく。
      ……奴らは、ずっと、同じ 『選択』 であるヒートを、追っていたんだ」
 
 
 ジョルジュ=パンドラの研究所は、一般人には見つからないような場所にある。
 ぱっと見ただけでは生い茂っている木々がそれを隠すし、
 近づいても擬態の施された入り口に気づくには幾分時間がかかる。
 
 しかし、それでも 『選択』 は見つけ出したのだ、この場所を。
 トソンのように気が狂うほどの時間を費やさない限りは見つけられそうにもない、この場所を。
 
 
  _
( ゚∀゚)「俺は、足跡なんざ残さねえ。
      こんなチンケなところを、ピンポイントで突き止められるはずもねえんだ、……本来は」
 
  「本来は」 。
 そう強調して、ジョルジュは仮定を打ちたて始めた。
 
 
.

711同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:37:32 ID:.txmPNuY0
 
 
  _
( ゚∀゚)「……確か、 『選択』 は運命を改竄する、とか言ったな?」
 
(゚、゚トソン「……あまりにも連中が強すぎて、運命が、磁石にひかれる砂鉄のようについて行く」
  _
( ゚∀゚)「つまり、改竄じゃねえかそんなもん。 ……オーケー、だったら納得がいく」
 
( ^ω^)「な……納得?」
 
 
  _
( ゚∀゚)「 『選択』 同士はひかれあう、って仮定だ」
 
 
 
( ^ω^)「―――ッ!」
 
(゚、゚トソン「ひかれ……!」
 
 
.

712同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:38:36 ID:.txmPNuY0
 
 
  _      アンチ
( ゚∀゚)「 『拒絶』 にも、似たような現象があった。
      あいつらの場合はにおい染みたオーラだったわけだが……」
  _
( ゚∀゚)「そのオーラの、一段上の次元で、そいつが撒かれてるっつーわけだ。
      人間が赤外線を認知できない、しかし虫けらどもはそいつができる。
      それに似たような感じで、俺らには認識できない香りみてーなものが、あるのだろう」
 
( ;^ω^)「……」
 
 ジョルジュは、主に人間―― 『能力者』 を対象に研究を行ってきた、マッド・サイエンティストだ。
 天才的な頭脳と長年の研究の積み重ねが彼に与えたものが、その観察力と発想力であった。
 なにか不可解なことが起こっても、すぐさま対象を解析することで追究を完了させる。
 
 内藤が既知の事実を思い出すのに対し、ジョルジュは未知の事実を突き止める。
 内藤はなにかヒント、思い出すきっかけが必要だが、ジョルジュには、それが必要ない。
 そこに、徹底的なまでの頭脳の違いが感じられた。
 やはり、ジョルジュも、 『人外』 と呼ぶに相応しい天才なのだ。
 
 
(゚、゚トソン「におい………か」
  _
( ゚∀゚)「感じねーか?」
 
(゚、゚トソン「意識してなかったんだ。 言われてすぐに、わかるわけがない」
  _
( ゚∀゚)「分節させるんだ。 そうすりゃあ、俺の仮説を試せる」
 
(゚、゚トソン「………」
 
 
.

713同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:39:15 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 勝手な推測で打ち立てられた仮説を、仲間でもないトソンが信じることはなかった。
 まだ、彼の観察力に対してはわずかばかりの信頼も寄せていないのだ。
 むしろ、呆れた、と言わんばかりの様子で、トソンは出口に向かって歩き始めた。
 
 ただ呆然と立ち尽くしていたハインリッヒに、あたふたとしていた内藤。
 その二人の代わりに、ジョルジュが口を開いた。
  _
( ゚∀゚)「どこに行くんだ」
 
(゚、゚トソン「決まっているだろ」
 
(゚、゚トソン「……〝潰しにいく〟。 『選択』 、どもを」
  _
( ゚∀゚)「おうおう、怖い怖い。 ……で?」
 
(゚、゚トソン「……なんだ」
 
 ジョルジュは一歩詰め寄った。
 
  _
( ゚∀゚)「なんで急に、そんなせわしく動こうって気になったんだ」
 
(゚、゚トソン「……」
  _
( ゚∀゚)「連中は、今すぐ始末しねーといけねえってのか?」
 
(゚、゚トソン「ああ」
  _
( ゚∀゚)「………ッ」
 
 
.

714同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:39:48 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 嫌味のつもりで言った筈が、トソンが即答したことで、ジョルジュは少し面食らった。
 トソンは歩みを止め、振り返った。
 
 
(゚、゚トソン「話によると、現時点で、 『選択』 は四人、固まっている」
 
(゚、゚トソン「………もう、ここから先は、いつ世界が滅びるかがわからない次元だろう」
  _
( ゚∀゚)「ほー。 なんでわかるんだ?」
 
(゚、゚トソン「なんとなく」
 
( ^ω^)「…!」
 
 
 やはり、 『選択』 にしか感じることのできない〝なにか〟がある――
 内藤は、半ば悔しさを抱く反面、そう、確かな推理をも抱くことができた。
 ジョルジュにとってもそれは同じようで、先ほどまでの気だるそうな表情が一変、
 かつて 『拒絶』 を相手取っていた頃の彼に見られたそれになった。
 
 一方、帰ってきた筈の妹が、一瞬にしてあぶくと散ったハインリッヒ。
 彼女は既に失意の果てに立っていることになるのだが、
 しかし誰一人として、彼女に気を留めようとはしなかった。
 
 
.

715同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:40:20 ID:.txmPNuY0
 
 
  _
( ゚∀゚)「マ、それはいいとして、だ」
  _
( ゚∀゚)「……俺と 『英雄』 が手を組んでも倒せねえ連中だぜ、奴らは」
  _
( ゚∀゚)「お前みたいな奴に 『選択』 を止められるたア思えねえが、な」
 
(゚、゚トソン「勘違いするな。 私が、一人で彼女たち皆を相手取るとは言っていない」
  _
( ゚∀゚)「……なに?」
 
(゚、゚トソン「持ち前の観察力はどうした。 ……トールとやらが、言っていただろう」
 
 
 
 トールが去ってから、十分以上が経っている。
 逃げたふりをして反撃――というわけでないことは、ほぼ確かになった。
 だからこそ、トソンは悠長に、言った。
 つい先ほど、去り際にトールが残した言葉、を。
 
 
   トル゚〜゚)『……あー』
 
   トル゚〜゚)『やっぱ、単独じゃあ大した力も出ないんだな』
 
 
.

716同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:42:39 ID:.txmPNuY0
 
 
  _
( ゚∀゚)「……それが、どうした」
  _
( ゚∀゚)「多勢に無勢、の話をしていただけだろう」
 
(゚、゚トソン「違う……と、私は見ている」
  _
( ゚∀゚)「ほう、今度はお前が仮説を語るか」
 
(゚、゚トソン「……さっきは、 『選択』 が集えば運命にひずみが生じて世界が崩壊すると言ったが……」
 
( ;^ω^)「(言ったの、僕! 僕だお!)」
 
 
(゚、゚トソン「それは、 『選択』 がもつ体質的な力もあるのだろうけど……
.      もう一点、あると見ている」
  _
( ゚∀゚)「というと?」
 
(゚、゚トソン「相乗作用だ」
  _
( ゚∀゚)「……!」
 
 
.

717同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:43:21 ID:.txmPNuY0
 
 
 
(゚、゚トソン「彼女たちが、自分に、砂鉄みたいな運命を引き寄せる力があるとするなら」
 
(゚、゚トソン「当然、複数いる 『選択』 が複数一箇所に集まると、
.      引き寄せる力の大きさも、より膨大なものとなる」
  _
( ゚∀゚)「当然だな。 そこからひずみが生じて世界の崩壊、ってのがお前の考えなのだから」
 
(゚、゚トソン「そして、膨大になったその運命は……
.      そのまま、その場に集まっている 『選択』 たちの力と、変わる」
  _
( ゚∀゚)「別に、考えられないことじゃあ、ない。
      だとすると…………、………」
  _
( ゚∀゚)「………ちょっと、待てよ」
 
 トソンの話をなんとも思っていなかったジョルジュだが、
 その瞬間、ジョルジュの脳に一点の引っかかりができた。
 トソンの話を整理していると、どうしても一つ、引っかかることができたのだ。
 
 その姿を割り出す前に、トソンが口を開いた。
 余分な時間をジョルジュに取らせるつもりはなかったようだ。
 
 
 
(゚、゚トソン「 『選択』 の力が強まると、その分余計に、運命を改竄する力が強まる。
.      すると、更に自分を強化させる力もまた、増幅される」
 
(゚、゚トソン「 『選択』 が集ってしまえば、倍々に連中の力は、高まってしまう、と見ていいだろう」
 
 
.

718同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:43:55 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 その結論を聞かされて、ジョルジュは合点がいった。
 そして同時に、事の重大さにも気づいた。
 内藤もまた、彼と同様だった。
 
  _
( ゚∀゚)「………」
 
(゚、゚トソン「別に、証拠や検証結果なんてものは、ない」
 
(゚、゚トソン「だが……私は、なんとなくだが、そう思う」
 
(゚、゚トソン「誰にも信用されなくていい。 だから、無理強いはしないのです」
 
从 ゚∀从「………!」
 
 
(゚、゚トソン「………以上の一連の流れを見て、あなたたちはどうしますか」
 
(゚、゚トソン「 『選択』 の侵攻を、食い止めるか。
.      それとも、信じられない、ほっておけばいい――」
 
(゚、゚トソン「そう考えて、ゼウスのように……一蹴するか」
 
 
.

719同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:44:39 ID:.txmPNuY0
 
 
  _
( ゚∀゚)「……ゼウス……?」
 
( ;^ω^)「あいつは、話に乗らなかったんだお。
.      なんでも、どうして自分が〜〜とか、なんとか」
  _
( ゚∀゚)「カァー。 あいつらしいわ」
 
( ;^ω^)「あ、あんたは……パンドラは! ………この話、乗るかお?」
 
 現状、 『選択』 に戦いを挑むのにトソン一人だけでは、あまりにも心細い。
  『拒絶』 としての補正、 『選択』 としての補正。
 その両方を得ているトソンではあるが、数の暴力には敵わないと内藤は見ているのだ。
 
 圧倒的な戦力となるゼウスが協力してくれなかっただけで、内藤の懸念が一気に膨れ上がった程である。
 そのため、彼と同等の戦力になるであろうジョルジュには、是非協力してほしいのだ、内藤としては。
 だが、彼も、ゼウス同様に利己主義であり、己にメリットのない戦いをするような男ではない。
 だから、今断られたら――というのが、内藤の今抱いている危惧であった。
 
 
 しかし。
 ゼウスとジョルジュとで、現状において唯一違う点が、あった。
 
  _
( ゚∀゚)「乗るに決まってるじゃねーか」
 
( ^ω^)「!」
  _
( ゚∀゚)「こちとら、 『英雄』 に使うつもりだった交渉材料を盗られてンだ。
      トソンとの共闘は気が進まねえが……願ったり叶ったりだ」
 
 
 彼には、れっきとした 「メリット」 があったのだ。
 
 
.

720同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:45:57 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 

 
 
 
 ある港町では、今日も貿易や商業が盛んに行われていた。
 その地域にとっては珍しい果物や武器、香辛料などが、高値で取引されている。
 宿も多く、この国にしては比較的警察が機能しているためか、治安はよかった。
 
 しかし、治安がいい代わりに、ここらは物価が高かった。
 多くの金が一日にそこらを動き回るため、景気がいいとも言うのだが、
 移住民が住むには厳しくなるインフレーションが、この町の特徴でもあった。
 
 移住民はまず最初に金を持つ者に仕えて稼ぐのが定石とされているが、
 当然雇う側もそれを理解しており、服装から移住民と判断できた者に対しては、足元を見ようとしてくる。
 そういった因果か、この町には、裏で人身売買、平たく言えば奴隷――制度が、確立されていた。
 
 表向きの景気のよさ、華やかさに惹かれてやってきた貧しい移住民は、
 今まで以上に過酷な日々を強いられることになる、町。 それが、ここだった。
 アラマキ率いる王国、ゼウス率いる裏社会、ハインリッヒ率いる第三勢力。
 その三つ巴から少し離れている代わりに、ここではここで、弱肉強食の世界が繰り広げられていたのだ。
 
 
   「………腹減った」
 
 ――露店に置かれている見慣れない果実を見下ろして、少女はそう言った。
 黄色が太陽の光で輝いて見えるその果実は、少女が三枚だけ持っている銅貨、しめて十枚は必要となるものである。
 もともとこの町の特質を知らずにやってきた彼女は、そのインフレーションをただのぼったくりだと感じていた。
 
 
.

721同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:46:39 ID:.txmPNuY0
 
 
 
彡ミ ゜ハ゜)「どうだ、お嬢ちゃん。 銅貨二枚ほど、マケてやろうか?」
 
   「いや、いいよオッチャン……はあ。」
 
 
 割り引かれたところで、買えないのだ。
 それを言うわけにもいかず、少女は残念そうな笑みを浮かべてその露店を去った。
 背後から飛び交ってくるように聞こえる、市場の声。
 それが、いまの彼女には自分を嘲る罵声のように聞こえてきた。
 
 〝人捜し〟の道中でこの町に来たのはいいのだが、
 その人より自分自身の安否が先に怪しまれるようになってきた。
 
 宿に止まろうにも、どれだけ破格の店でも銀貨三枚ほどは必要となる
 職を持たず、今まで行く先々で稼いできた金もほとんど底をついていた彼女に、
 宿で一夜を過ごすような 「贅沢」 は、許されないものとなっていた。
 
 
   「また、力試しとかあれば……」
 
 今までの稼ぎの七割は、己の腕によるものである。
 地元の力自慢が集まっては喧嘩し一位を決める、というお祭りがたまに見られるのだが、
 そういった企画を見つけては、たとえ賞金が少なかろうと参加して一位をとるのが、彼女のやり口であった。
 
 誰かの下に就くのは放浪する身としては抵抗があるし、もらえる賃金も少ない。
 だからこそ、そういった賞金を稼ぐことが彼女の生きる道だったのだ。
 だが、この町には、そういった野蛮な行事は、軽く聞き込みをしたところではなさそうだった。
 
 
.

722同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:47:28 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 徐々に、港の市場から離れていく。
 喧噪も耳に入ってこなくなり、少し、精神的に落ち着けた。
 だが、空腹は進む一方だ。 素もぐりして魚をとるしか、ないかもしれない。
 
 ここに来る途中で、髭をいやらしく生やし贅肉を腹に蓄えた中年に
 売春をして稼いではみないか、と三度ほどは誘われたのだが、彼女には生憎そういった気はなかった。
 プライドが拒むわけでも、ただ生理的に無理なわけでもないのだが、
 簡単に金を手に入れることが、彼女から数少ないやりがいを奪うことであるかのように感じられたのだ。
 
 妹を失ったのはいつのことか覚えてはいないが、しかし、死んではいない。
 姉妹に通じる第六感的なものではあるが、彼女はそれを信じては疑わなかった。
 だからこそこうして、長い間定住する家を持たずに世界各地を旅しているのだ。
 
 折られたトタン板で伸びきっていた髪を切って、
 雨水が溜められた土管で身体中の垢を落として、
 各所で捨てられているぼろ衣を目ざとく集めては衣服や寝具として使う。
 
 華やかそうに見えるこの町の裏には、そんな悲惨な現状があった。
 そのうち九割が華やかさという疑似餌に釣られた移住民であるのだが、
 この少女もまた、そういった生活を強いられつつあった。
 
 
   「カネ、稼げねーかなァ……」
 
 ホームレスがそこらに見られる場所を歩きながら、少女は三日ぶりに、そう独り言を漏らした。
 生命力の高さが彼女を未だに生かしていたのだが、彼女にとっては、それが半分苦痛でもあった。
 一般人から強盗などをする心も持ち合わせていないため、しばらくは
 この町に留まることを決めて雇われの身になることも視野に入れつつあったこの日。
 
 少女は、背後から背中をとんとんと叩かれた。
 
 
.

723同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:48:30 ID:.txmPNuY0
 
 
 
   「?」
 
ハソ ゚ー゚リ「きみ、一人? 親はいないの?」
 
 ここらでは珍しい、きちんとした身なりを整えている女性であった。
 髪も綺麗なブロンドで、仄かにシャンプーの香りが漂ってきた。
 少女が数日ぶりに嗅いだ、いいにおいだった。
 
 
   「親はいないよ」
 
ハソ ゚−゚リ「あら……。 きみ、ここらじゃ見ない顔だけど」
 
   「旅、してるからね」
 
ハソ ゚ー゚リ「旅かぁ。 女の子なのに、大変だね」
 
 少女が久しぶりに話す、社交的な女性だった。
 もともと警戒とは無縁な少女ではあるが、それにも増して彼女には好感が持てた。
 同じ女性だから、というのもあるのかもしれない。
 
 
ハソ ゚ー゚リ「で、名前はなんて言うの?」
 
   「名前だけは明かしてないんだ、流浪の身だから」
 
ハソ ゚ー゚リ「あらカッコイイ。 じゃあ、名前はいいや」
 
 
.

724同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:49:16 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 存外物分りのいい女性だったようで、深くは追求してこなかった。
 その代わりに、女性は本題とも言わんばかりに、話を換えてきた。
 
 
ハソ ゚−゚リ「仕事、ないの?」
 
   「ないよ」
 
ハソ ゚−゚リ「生活できるの?」
 
   「ちょっと厳しいかな」
 
ハソ ゚−゚リ「仕事、ほしい?」
 
   「少しは」
 
ハソ ゚ー゚リ「じゃあ決まりだね」
 
   「へ?」
 
 
 瞬間、少女の口に布状のものが当てられた。
 ただのハンカチだとは思うが、しかしどこか湿っていた。
 少女は条件反射で抵抗しようとするとしたが、しかし〝抗えなかった〟。
 
 鼻と口を覆うようにあてがわれた、湿ったハンカチ。
 状況を理解して、少女は、はじめて危機を察した。
 この湿ったものの正体は、おそらくは、睡眠薬だ。
 
 
.

725同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:49:49 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 

 
 
 
   「………!」
 
 目を覚ましたときに目の前に広がっていたのは、殺風景な事務所だった。
 所々汚れた壁に、驚くほど家具や調度品がない。
 ただ自分が座っている椅子、向かいにある事務机、あとテレビくらいしか目に入るものがなかった。
 
 何事だと思って動こうとしたが、しかし動けなかった、
 手首は後ろ手錠、足首は椅子の足とともに手錠に填められ、
 胴体には頑丈なロープが背もたれと一緒に巻かれており、口には猿轡がされてあった。
 
 明らかな敵意を感じ、前方、事務机のほうを見た。
 最初は寝起きゆえまだ覚醒しきっていなかった眼だが、ようやく視界が安定してきたのだ。
 ブロンドの髪の人物が、革張りのソファーに腰掛けて、少女のもがく様を見ている。
 少女が起きたことを確認し、その人物――先ほどの女性は、立ち上がった。
 
 
ハソ ゚−゚リ「起きるの、早すぎだっての」
 
   「―――……ッ!」
 
ハソ ゚−゚リ「三十分は効く薬よ? よくまあ、半分で起きられたわ」
 
   「……〜〜……ッ…!」
 
ハソ ゚−゚リ「あ、拘束具? ムリムリ、外せないって、あんたには」
 
   「………………」
 
 
.

726同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:50:57 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 迂闊だった――
 少女は、そう反省した。
 まだこの町がどういうところなのかを理解していなかったのに、
 油断しては、裏通りで裏通りにしては似つかわしくない人物に歩み寄ってしまったのだ。
 
 女性の顔が、蝋で固められたかのように無表情に見える。
 それどころか、冷酷さ、残酷さ、無情さが窺える。
 抵抗したくてもできない、その謎の感覚に狼狽しながらも、少女はそれでもなお、抵抗した。
 
 すると女性は見かねたのか、苛々を見せつつ握っていたリモコンのボタンを押した。
 そこにあるテレビを操作するものだろう、ボタンに連動してテレビに電源が入った。
 少女がそちらに気を取られると、女性は先ほどよりも明らかに低い声で、不機嫌そうに言った。
 
ハソ ゚−゚リ「今から、三つ、選択肢をあげる。
        その三つがどんなもんなのかを見せてあげるから、黙って見てなさい」
 
 そして、ボタンを押す。
 ビデオがあらかじめ入れられていたようで、ある映像が流されはじめた。
 
 映されたのは、四肢が見るからに細い、女性。
 米俵二個分に相当しそうなほどの重そうな荷物を、泣きそうな顔をしながら持ち運んでいる。
 また、右の足首に鉄の輪が填められており、そこから鎖で伸びた先に鉄球がある。
 逃走を防ぐための器具だ――少女は、瞬時に理解した。
 
 
ハソ ゚−゚リ「選択肢その一、奴隷」
 
ハソ ゚−゚リ「主の〝モノ〟として、一生を道具として過ごす」
 
 
.

727同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:51:28 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 奴隷、その言葉に少女は反応した。
 徐々に、状況が理解できはじめていた。
 
 そんな少女を無視して、女性は続けた。
 その二、と言って、ボタンを押す。
 次の映像に切り替わったらしく、空気ががらりと変わった。
 画面が暗くなったかと思えば、悲鳴に近い女性の喘ぎ声が聞こえてきた。
 
 映っている女性の伸びている右の足首には、やはり逃走を許さない器具が填められている。
 が、加えて、四肢と胴体が完全に固定され、体勢を変えることが許されていなかった。
 その上を腹の出た中年が乗っているのを見て、少女はやはり、瞬時にこれがなにを示すのかを察した。
 
 
ハソ ゚−゚リ「選択肢その二、性奴隷」
 
ハソ ゚−゚リ「昼は奴隷として働き、夜は眠る時間を全て性欲処理に務める」
 
 
.

728同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:52:00 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 つまり、奴隷から夜の睡眠すらをも奪い取ったもの。
 それを判断して、これが選択肢ではなくただの段階であることに気がついた。
 
 苛々が徐々に晴れてきたのか、女性は再び無表情になって、リモコンを操作した。
 最後の一つ、三つ目の選択肢のその様子を、女性は拘束している少女に見せ付けた。
 
 その映像を見せられた最初は、それがなにを映しているのかがわからなかった。
 しかし、それを理解した瞬間、少女は凄まじい吐き気に見舞われた。
 
 またもや映されたのは女性なのだが、その四肢がなかったのだ。
 当然自身は裸で、また回りにいる男達も皆、裸である。
 当初女性は泣き叫んでいたのだが、見かねた男性がその口に自身の性器を突っ込んだ。
 
 せわしく動く、腹の出た中年たち。 抵抗するにできない、達磨となった女性。
 それを見せられて、少女は目を逸らそうとした。
 だが、なぜか〝力が入らず〟、それを拒まれた。
 苦々しい顔をする少女に一瞥を与えて、女性はまた、口を開いた。
 
 
ハソ ゚−゚リ「選択肢その三、玩具」
 
ハソ ゚−゚リ「達磨になって、一日中、変態豚どもの相手をする。 昼も、晩も」
 
 
.

729同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:52:33 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 背筋が凍った、という表現がもっとも相応しかった。
 少女は、この上ない恐怖とおぞましさに、眼圧が急に高まり、目の前が真っ暗になった。
 眼球が潰れそうになり、眩暈にも立ち眩みにも近い暗転で意識が飛びそうになる。
 
 テレビを消したところで、女性はカツカツ、とヒールの音を鳴らしながら歩み寄ってきた。
 少女の額を鷲づかみするかのように頭部を捉え、グイ、と視線を自分と合わせた。
 
 
ハソ ゚−゚リ「ここまで見ても泣かないなんて、うざったいムスメだこと」
 
ハソ ゚−゚リ「………わかった? つまり、仕事ってのは……奴隷、よ」
 
   「………!」
 
 奴隷を見てはきたが、まさか自分にそれが強いられる時が来るとは。
 少女はやはり抵抗しようと思ったが、未だに四肢に力が入らない。
 この、謎の現象さえ克服できたなら、少女はすぐさま抵抗するのだが。
 
 それを、視線を捉えたのか、ぎこちない動きで判断したのか。
 女性は手を自分のわき腹に当ててから、今少女がもっとも知りたがっているであろうことを言い始めた。
 
 
ハソ ゚−゚リ「さっきから、抵抗しようとしてる? 残念、できないよ」
 
ハソ ゚−゚リ「あたしが、あんたを押さえつけてるから」
 
 
 
ハソ ゚−゚リ「 《特殊能力》 で――ね。」
 
 
.

730同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:53:08 ID:.txmPNuY0
 
 
 
   「―――ッ!」
 
  《特殊能力》 。 確かに女性は、そう言った。
 既存の法則に捕らわれない、不思議な力。
 自己強化をはかったり、因果律を操作したり、なにかを操ったり。
 そういった、この世界でエリートになるための第一条件、それが 《特殊能力》 だ。
 
 そして少女は、その言葉に過敏に反応した。
 それを見て、女性は、少し驚いたような顔をした。
 
 
ハソ ゚−゚リ「まさか、能力とか、言ってわかるんだ。
        へェ〜、伊達に旅してるわけじゃなさそうね」
 
ハソ ゚−゚リ「じゃあ、あたしも知ってるかしら?
        ここらじゃあ、裏の連中にはちょっとは名が知られてるんだけど」
 
 
 
 
               ネイティブ・ネイティス
ハソ ゚−゚リ「…………    【豪】    。」
 
ハソ ゚−゚リ「それが、王たるあたしの名だ」
 
 
 
.

731同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:53:39 ID:.txmPNuY0
 
 
 
   「…………ッ」
 
 
 【豪 《ネイティブ・ネイティス》 】―――。
 自らを 「王」 と名乗ったその女は、続けた。
 
 
 
ハソ ゚−゚リ「〝郷に入っては郷に従え〟という言葉があってね。
        一言で言えば………あんたはあたしに〝逆らえない〟のよ」
 
ハソ ゚−゚リ「圧倒的力を前に、愚民どもは平伏す。
        無意識のうちに、無自覚のうちに、無考慮のうちに」
 
ハソ ゚−゚リ「ガードを無視して 『畏怖』 を相手に押し付ける 《特殊能力》 。
        つまり…………最強よ。」
 
 
  『畏怖』 を相手に植え付けることで、相手から抵抗の気力を削ぐ――
 精神面に干渉するその能力を、この女は持っていた。
 
 少女が拘束器具を外そうと思っても外せなかった理由。
 それは、 「彼女から拘束器具を外させる気力を奪ったから」 。
 そして実際に、少女は、〝本来ならばできていた〟筈のそれが、できなかった。
 
 つまり、この 《特殊能力》 は本物――
 少女にとっても、この女が 『能力者』 であることには疑いなくなった。
 
 
.

732同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:54:12 ID:.txmPNuY0
 
 
 
ハソ ゚−゚リ「おかげで、この町にきてバカみたいに稼がせてもらってるわ。
        ここらには 『能力者』 に詳しい奴らは少ないし、稼ぎを邪魔する連中もいない」
 
ハソ ゚−゚リ「まあ……せいぜい、自分の 『不運』 を嘆くことね」
 
ハソ ゚−゚リ「ただでさえよそ者、それも貧乏人には容赦のない町だってのに、
        このあたしに目をつけられるなんて、ほんっとうに 『運命』 から見捨てられたようなものよ」 
 
   「     …!」
 
 
 
  『不運』 。 『運命』 。
 その言葉に、少女は反応した。
 
 
ハソ ゚−゚リ「……さて」
 
ハソ ゚−゚リ「今の話は、褒美よ。 能力のことを知っていたことに対する、ね」
 
ハソ ゚−゚リ「もう、あきらめはついたかしら? じゃあ、選択をしてほしいんだけど」
 
   「…………」
 
ハソ ゚−゚リ「……聞いているのか? おい――」
 
 
 
 ――― 少女は〝立ち上がった〟。
 
 
.

733同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:54:45 ID:.txmPNuY0
 
 
 
ハソ ゚−゚リ「―――……」
 
 
 続けて、少女は手と足の錠を壊し、ロープもちぎった。
 いや、〝立とうとしたら自然と壊された〟と捉えたほうがいいだろう。
 壊す、ちぎる素振りを、少女は、まるでしていないのだ。
 
 
ハソ;゚−゚リ「ッ!? ンな――ッ!」
 
   「……ふぅ……!」
 
 
 そして、仕上げと言わんばかりに、少女は猿轡を引き剥がした。
 はずそうとはまるでせずに、ただ口にあてがわれていた部分を掴んで引っ張っただけで、ちぎれたのだ。
 
 相当な腕力があっても普通はありえないであろう、その動きを
 少女は事もあろうか、直立のまま、顔色を変えず――むしろ涼しい顔をして――こなしてみせた。
 さすがの女も、その 『異常』 な様を見て、狼狽を禁じ得なかった。
 
 ただでさえ、人間が持ち得る力的に不可能であり、
 またその動きは【豪】によって制限されているのにも関わらず、成し遂げたのだ。
 
 二重の意味において、不可能。
 それが目の前で繰り広げられたことに、反応しないほうが難しかった。
 
 
.

734同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:55:22 ID:.txmPNuY0
 
 
 
ハソ;゚−゚リ「あんた――何者なんだッ! ど、どうして―――」
 
   「えぇー、オレぇー?」
 
ハソ;゚−゚リ「――まさか、あんたも 『能力者』 なのか……ッ!」
 
   「うーん、 『能力者』 なのかな? わかんないや」
 
ハソ;゚−゚リ「う……… 『動くな』 ッ!」
 
 
 女が、制止を、右腕の所作を交えながら言い放った。
 【豪】を使って、少女の動くという動作を封じにかかったのだろう。
 
 だが、少女は止まらなかった。
 一歩ずつ、一歩ずつ、女に向かって歩を進めていった。
 それが、女にとっては不可解極まりなかった。
 
 
ハソ;゚−゚リ「 『能力も使わせない』 !」
 
 その不可解が、少女の持つ 《特殊能力》 によるものだと考えた女は、
 今度は少女が使っているかもしれないその能力を使わせまいとした。
 だが、少女は、ただ不敵に笑むだけだった。
 
 
.

735同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:55:57 ID:.txmPNuY0
 
 
 
ハソ;゚−゚リ「ど―――どうして……ッ!」
 
 先ほどまでの優越感が、嘘のように消えていく。
 怖いものでも見たかのように、熱が身体から抜けていく。
 ―― いや、このとき実際に、 「怖いもの」 を見ていたのだ。
 
 
   「いやー、オレたち、使う能力って〝似てる〟んだな!」
 
   「え、なに、〝相手の精神に働きかけて動きを制限する〟んだっけ?」
 
   「それ、オレのんとほとんど一緒じゃん! やだなー、ぱくんないでよ」
 
 
 
 少女の顔に、影が生える。
 口角が、裂けたかのように大きく吊りあがる。
 
 やがて、両手の拳を合わせ、指の関節を鳴らし始めた。
 露骨に、戦意を女に示しつけた。
 女にとっては、それが地獄の遣い魔のそれのように見えた。
 
 
.

736同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:56:28 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
   「でも、オレは、あれだ。 そんなんじゃ、ないから」
 
   「畏怖とか、郷に入っては云々とか」
 
   「オレは、ただ……」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
(*゚∀゚)「動きを押さえつけるんじゃ、ない」
 
(*゚∀゚)「動きを、させなくさせるだけだから」
 
 
 
 
 
 
 
.

737同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:57:03 ID:.txmPNuY0
 
 
 
ハソ;゚−゚リ「―――ッ!」
 
 事の重大性を察し、女はプライドなど放り投げて、一目散に逃走を図った。
 幸い、この建物や近辺の土地勘をまるで知らない少女に対して、自分は知り尽くしている。
 この部屋から抜け出すことができれば、逃げることができる。
 
 女のこの考えは、正しかった。 これそのものを否定することは、できないだろう。
 が、 「実現できない」 ということに関しては、机上論だとして嘲ることしかできなかった。
 
 
(* ∀ )「あれれ、 『走れるの?』 」
 
ハソ; − リ「―――ア゛……?」
 
 
 出入り口手前に差し掛かったところで、女は転んだ。
 つまづくものがあったわけでもなければ、緊張により足が絡まったわけでもない。
 
 これを、女の視点から、なるたけ論理的に整理した上でわかりやすく文字におこしたなら。
 彼女の考え得る限り、このような言葉になっていただろう。
 〝走り方がわからなくなった〟。
 
 足を動かすことはできるし、もがくこともできる。
 だが、立ち上がって逃走を再開させることは、できなかった。
 なぜか、〝どうすればいいかわからなくなった〟のだ。
 ただ、切羽詰って、じたばたし、息を荒げることしかできなかった。
 
 
.

738同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:57:46 ID:.txmPNuY0
 
 
(*゚∀゚)「さすが、フーゾクとか取り扱ってるお偉いさんだ。
     息遣い、やっらしー」
 
 
 
 
(*゚∀゚)「………だから、 『息もしないでくれ』 」
 
 
 
 
ハソ;゙д゙リ「――――!?」
 
 その瞬間、女に異変が走った。
 少女の言葉に従って、なぜか〝息ができなくなった〟のだ。
 
 生まれもって生物なら誰しもが行う、呼吸。
 それが、この瞬間から、できなくなった。
 無酸素空間に放り込まれたかのような、息苦しさだった。
 
 やがて、逃げる、もがくことを忘れ、ただ本能的に酸素を求めるようになった。
 その動きが、少女にとっては、この上なく滑稽に思われた。
 
 
.

739同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:58:19 ID:.txmPNuY0
 
 
 
ハソ;゙д゙リ「ガ――あンデ――」
 
(*゚∀゚)「え、 『なんで』 って?」
 
(*゚∀゚)「息ができない理由?
     歩けない理由?
     自分の能力が効かない理由?」
 
ハソ;゙д゙リ「―――、―― 」
 
 
 返事は、こない。
 もうそろそろ死ぬか、そう思って、少女は女の代わりに出入り口から外に出た。
 そこからは廊下が伸びていたが、適当にそこらの壁を壊せば屋外に出られるだろう。
 
 面倒な茶番につきあわせたものだ――そう思って、少女は顔だけを後ろに向けた。
 助けを求めるような視線を、女が遣わせてくる。
 だから、しかたないと思い、少女は、口を開いた。
 
 
(*゚∀゚)「……まー、あれだ。 アンタも、教えてくれたし」
 
(*゚∀゚)「冥土の土産だ、とっときな」
 
(*゚∀゚)「オレの能力は………………。」
 
 
 
.

740同志名無しさん:2014/01/05(日) 21:59:04 ID:.txmPNuY0
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  「ナレッジ・ブレイカー」 。
 
 
 そう言い残して、少女は隣の壁を殴り壊した。
 
 
 
                                           To be continued ...
 
.

741sage:2014/01/05(日) 22:03:16 ID:.txmPNuY0
>>615-656  第四十二話  「vs【暴君の掟】Ⅱ」
>>658-697  第四十三話  「vs【暴君の掟】Ⅲ」
>>699-740  第四十四話  「vs【暴君の掟】Ⅳ」

四十一話は↓
ttp://boonzone.web.fc2.com/mizupara_041.htm(byグレーゾーン)

742同志名無しさん:2014/01/05(日) 22:04:06 ID:.txmPNuY0
生まれてはじめてこんなミスした…

743同志名無しさん:2014/01/06(月) 02:23:40 ID:qD.8YC8A0
あけおめ、今年もよろしく

744同志名無しさん:2014/01/07(火) 16:12:59 ID:YGkPW5fA0
よろしくオナシャス

745同志名無しさん:2014/01/20(月) 21:23:06 ID:9Z9M3PvE0
まってましたよろです!

746同志名無しさん:2014/01/20(月) 22:53:10 ID:R5rhNqxU0
今原稿何個あんの?

747同志名無しさん:2014/01/20(月) 23:08:45 ID:Hc2VIDms0
>>746
書く気のある(年内更新の希望がある)奴に絞るなら6、7個
それ以外も含むなら10個前後

748同志名無しさん:2014/01/22(水) 20:04:19 ID:w3KDRUJg0
わーお

749同志名無しさん:2014/03/05(水) 16:42:31 ID:N38LcxH20
まだかなー

750同志名無しさん:2014/03/10(月) 13:37:03 ID:0.5v6rKM0
щ(´Д`щ)カモ-ン

751同志名無しさん:2014/03/16(日) 03:56:24 ID:YGni8Kks0
面白いですね、遅いけど乙!

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