■掲示板に戻る■ ■過去ログ 倉庫一覧■
ベルトルト「君の願いが、叶ったよ……エレン」
-
※盛大な死ネタ盛り込み
※ベルトルトが可哀想すぎる展開
※続きそうだけれど、続かない。ぶちっと切れる
※でも一応完結している
※そして一気に完結させる
※11巻までの展開含む
"
"
-
エレン・イェーガー
彼の母親の死について、僕は知っている
僕が蹴り上げた門の破片が彼の家にぶつかり、倒壊した家は彼の母親の足を潰した
母親が逃げられなくなり――その場に巨人が現れ、その人を捕食
僕が知っている
その人の死に際の情報を纏めると、たったの二行
僕が奪った、何万分の一の命
「可哀想だと、思ったよ」
今、考えてみても
この言葉は、妥当だと思う
だって他に、どう思えばいいと言うのだろうか
-
いや、僕の感想なんていらない
僕にとって、膨大な罪の欠片でも
彼にとっては、実の母親の死だ
己の無力さを実感したエレンは、巨人への恐怖を乗り越えて
巨人に立ち向かう事を選ぶ
だから
「お前たちが苦しんで死ねるよう、努力するよ」
巨人である僕に向けられた、その言葉は
筋が通っていると思った
-
その時の事を、僕は思い出しながら地面に横たわる
戦った
僕は戦って、戦い続けた
僕は「超大型巨人」と名付けられた人類の敵に扮し、攻撃を加え
人類は抵抗し続けて、懸命に生きる為に僕を殺そうとした
結果、僕は多くの人類を葬った後に
もう指先の一本も動かしたく無い程に疲弊した体を、ぴったりと地面に添える事となったのだ
色んな箇所から蒸気が出て、僕の体の破損状態を伝える
その割には、蒸気の上がる量がひどく少ない――僕の体の疲弊状態が分かる
そんな僕の目の前に
エレンが破損したブレードを手に、辛うじて立っていた
顔から、頬から、腕から、足から
血が流れている彼は、憎しみを灯した瞳でこちらを睨んでいる
――あぁそんな憎々しげに見なくても、君の気持ちは分かっているよ
体同様に、砕かれた心で淡々と思った
-
エレンは立っている
僕は伏せている
たったそれだけで
どちらに軍配が下ったのか、わかるだろう
――僕は、死ぬのかな
霞がかった思考は、どんな展開をも受け入れてくれる
僕は今、そんな状態だ
エレンは、一方の手のブレードを杖代わりに体を支え
フラフラになりながらも……一歩一歩と、こちらの方へと体を進めてきた
ふぅ、ふぅぅ
と音を立て、吐き出される息にすら彼の感情があって
なおかつ、向けられている瞳にも殺意が籠っているので
これから僕がされる事は、容易に想像できる
――僕は、彼に惨殺される
出来るだけ惨めに
むごったらしく、バラバラに
"
"
-
――あぁ、これで終わりか
僕はもう、体の痛みすら感じない
頭の中にある血液が、流れすぎてしまったのだろう
あれ、でも巨人の体って肉体が再生するんだから
血も再生するはずなのに、なんでだろう
瞳全体は霞んで、体力も抜け落ちてしまったのに
無駄な思考はゆっくりと回転する
でも、何故か
エレンだけはしっかりと見えた
見えると言っても、足元だけだったり
ブレードの先がチラチラ見えると言う程度だったが
それでも彼の存在だけは、揺れる脳みその中で認識できていた
ざりっと地面を踏みしめる音が、目の前でする
僕の視界の中に、彼の足が揃った
現実味の無い風景は、まるで気が抜けた風景を見る様に無感動だったが
そんな僕が、現実に引き戻される瞬間がついにやってくる
-
頭の天辺を掴まれ、無造作に持ち上げられた髪の毛
僕の全体重が掛かり、頭皮が痛い
「……ぐっ」
体重が掛かり、頭が痛いのに
体重を軽減させる為、筋肉を動かそうとしているのに
僕の体は自分の意思でピクリとも動かせなかった
そんな僕の前で、エレンは僕に向けて声を放つ
「よぉ、散々皆を殺してくれたな――裏切り者」
僕を嘲笑する様に彼は笑う
今更だが、裏切り者と言う言葉が……僕の心に突き刺さる
そんな僕の髪の毛を持ち上げ、彼は自分の顔の前に運ぶと
ゆっくりと、その唇を動かし始めた
まるで、昔見た猿の人形の様だ
両手を動かして、ネジが回る限り狂った様にシンバルを叩く――あの人形
何故か、そう思った
-
なぁ、知っているかベルトルト
お前がさっき、最後の抵抗で手を払ったよな
そこにはさ、サシャが居たんだよ――分かるよな、お前が全員薙ぎ払った隊列だ
その時お前の足元にはさ、アルミンも居たんだぜ?
これはまだ、望みはあるけれどさ
だが見渡す限り……生きている人間が見えないんだよ、どう言う事なんだろうなこれは
あとな、三日前の巨人の攻撃
あれは効いたらしい、ジャンとコニーの班が行方不明さ
そして、なぁ……お前
ついさっき、噛み締めた物が何か知っているか?
…………ミカサだよ
すげえなおまえ、主席を倒しやがった、ははは
乾いた様に、壊れたように
回る笑い声
でも僕は、ソレに応える事は出来ない
-
体も動かないし、心もゆるゆると死んでいくのが分かる
――もうすぐ聞こえなくなる
そう思っていた
でもその一歩手前で
僕の体が、大分修復されていると……唐突に感じる
死ぬと思っていたけれど
もしかして生きられるギリギリのラインだったのか?
どうやら様々な感情によって、高揚した心の所為で
目測が狂っていたらしい
――生きられる、の?
降ってわいたその希望は、恐怖しか与えなかった
僕はもう、諦めたい
この命を惜しむ時間もないまま、諦めたいのに
そんな事を知ってか知らずか、エレンはもう一度笑い声をあげた
-
アニはまだ水晶の中、ライナーも遠くへ追っ払ってまだ戻ってこない
お前……信用していたか、仲間を
必ず戻ってくるから持ちこたえろよ、とか言ったのか?
それともライナーは、何があってもお前の所に駆けつけるとかでも言ったか?
きめぇ、きめぇよお前ら
何で友情なんか持ってんだよ、巨人は巨人らしくさぁ
知性なんて持たずに野を徘徊するのがお勧めだ
お前らはでっけぇ害虫だ、人間に楯突くだけが取り柄の――ただの癌細胞でしかない
そんなお前に、信用する家族がいると思うのか?仲間が得られると思うのか?
ざーんねんでしたぁ!今ここには誰もいませーん、あはははは
-
まるで演劇でも演じている様に、彼が両手を広げたので
掴まれたままの髪の毛が、ぐりんと横に移動した
その所為で
僕の体制はうつ伏せだった姿勢から、仰向けへと変わる
たった今まで、血のしみこんだ地面しか見えていなかったのに
今度は空が見えた
地面は黒いし、鉄くさいし
所々が赤黒く、汚い物だったのに
目の前に広がったのは
青々と輝いた、空
青く、ひたすらに青く
しみの一つすらもない
綺麗な青空
-
雲は一つもなく
その下で戦争を行っていた様には、まるで見えない綺麗な青空
こんなに人が死んだのに、こんな綺麗な空が広がっているだなんて
いささか信じられない
――あぁ綺麗だ、綺麗だ
見えた、視界に余計な物が入っていない青空に心奪われる
僕の心が、少しだけ生きる力を取り戻した
取り戻して、しまった
本当に、この世界は皮肉がお好きらしい
戦争を仕掛けた奴に
こんな綺麗な物を見せて、悲しくさせるなんて
-
サシャ
この空の上に、もう君はいるのかな
ねぇミカサ
君はまだ昇らずに、エレンの傍にいるのかい?
僕がついさっき、殺してしまった君達は
僕の視界に、黒髪と歪んだ瞳が入り込んでくる
底なし沼の様な、絶望の様な……訓練兵時代に人を前向きにさせていた、あの綺麗な瞳ではない
僕が壊した
僕が歪めた瞳
彼の目が、爬虫類の様にギョロギョロと
僕の顔や体……いや
喉元やうなじ、心臓があるだろう胸の奥
大切な臓器がるだろう腹部を、値踏みする様に見る
その顔が、ニタァと歪んだ
-
あぁ、何処を掻っ捌くか決めたのか
彼が前に言っていた言葉を、思い出す
――お前たちが苦しんで死ねるよう、努力するよ
そして過去に、刃物が体の中を勢いよく通り抜けた時の事も思い出た
あれはエレンを連れて行こうと、行動した瞬間だったな
ミカサによって、首の三分の一を切断されたのは
あの時は……
…………あぁ、だめだ
あの時の痛みを、思い浮かべてしまった
生き残れるのではと言う望みが、辛うじて得られる辺りまで再生していた僕の体は
未だに再生を続けている
もう、生き残れると思える範囲にまで
-
生きれるんだ
僕は生きられるんだよ、エレン
その僕を殺すの?
何処を切られて殺されるの?
それは痛い事なのに、それを他人にするの?
苦しむ様に、内臓を少しづつ破損させていくのかい
それとも顔の皮膚でもすこしづつ削ぎ落としていくつもり
あぁ、怖い怖い怖い怖い
怖いよエレン
体が回復してきた事で、僕の瞳にも光が戻ってきた事だろう
僕の恐怖や絶望を感じ取ったのか
エレンが笑った
「殺されてくれるよなベルトルト、俺たち敵なんだから」
敵同士は、殺しあう物だから
「お前は俺の、仇なんだから」
-
僕は殺した、たくさんの人を
ぼくはころしました、かれのははおやを
ぼくは
ぼくは、たにんのいしにそうしか、のうがない
だから、すこしでも
かれに、いいことを、してあげたい
「もう……ぼくには、つぐなう、みちしかのこってない……だろう」
声を発する度に、歯がカタカタと鳴る
無くなった歯の間から、息が変な方向に漏れた
せっかく再生したのに、震えるしか能がないなんて
僕の体って、本当に無能だ
-
「その言葉を聞けて、安心したよ」
そう言うと、彼は優先的に再生させたその腕を振り上げて
僕へと振り下ろした
僕の、足に向けて
まず、骨の辺りまで一気に刃が進む
それが一瞬何かにぶつかった感触がすると、勢いに任せて骨や筋肉を薙ぎ払った
“勢い”が体外に飛び出す
痛みは、最初から
刃がぷつりと、肌を破壊した瞬間から感じた
でも声が出たのは、すべてが終わってから
血が流れ、神経が外気に触れ
鈍痛と鋭痛が同時に押し寄せてきて、ひっと息を飲んだその後
-
「ぎゃああああああああ!!」
僕は絶叫した、口を大きく開けて
息が体中からなくなる程
開けた口の端が、伸びすぎの所為かぷつりと切れた
「あああああああ、がああああああ!!」
でも声は止まらない
痛い、痛い痛い痛い痛いよ、助けて、痛い痛い
その思考だけが頭の中を占拠する
のたうち回る、と言うのがまさにそうなのだろう
僕は自由になる腕をぶんぶん振りまわして
体制を仰向けからうつ伏せへ、うつ伏せから仰向けへ
そしてもう一度、うつ伏せになり
次いで地面を掴む様に、指を突き立てた
相変わらず、切断された足は痛い
でも声はようやく収まってきた、と思ったその傷口を……エレンはブーツで踏みつけた
-
「がああああああああ!!」
「これが俺の気持ちだ、ベルトルト」
僕の絶叫に、正気に戻ったのか
エレンは、ぽつりと声を漏らした
「受け取ってくれよ」
そのまま、エレンは踵を返して僕に背を向ける
そしてゆっくりと、歩を進めた
え、あれ、おかしい
その考えが、僕の涙に染まり切った瞳の奥にぽつりと揺れる
でも相変わらず、痛みの所為で声は漏れ続けていたけれど
なんで、足だけしか、切り落としていかないんだ
-
いたい、いたい、いたい
なんで、ぼくは、いきたい
だれか、たすけて
そばにいてえれん、たすけてよ
ぼくはいきたいんだ、たすけて
えれん
い……
「いかないで」
その声が漏れた瞬間、地鳴りが僕の体を揺らした
え、なに、これ
あぁ、そうだよね
ここは、へきがいだもんね
きょじんのひとりくらい、いるよね
-
ゆっくりと、巨人が僕の体に近づいてくる
そして美味しそうな餌を見つけた、とばかりににたぁと笑った
えれん
えれん、たすけて
きみならできる、たすけて
それでなければ、そばにいて
ぼくはいきたい
ぼくは………い、きた
声も、想いも
誰にも届く事なく空を切る
巨人が、もう近くに
あぁ、もう
――――駄目だ
-
ひっ、と喉の奥が痙攣する
恐怖する
よだれが落ちている
あぁ
餌は僕、だ
――捕食される
いやだ、いきたい、ぼくは
僕の体に、巨人の指が巻き付く
餌の事を一切考えていない力加減に、僕の体はへしゃげた
肋骨、肺、内臓
あ、そこあたり、潰れた
だって、僕の口からは、勢いよく血が出て
でも、まだ息はある
しぶといな、きょじんのからだって、やつは
-
うでが変な方向に痙攣する
痛い痛い痛い痛い
くわれる
絶望に染まった僕の顔は、まるで背中をそらせる様な形で持ち上げられたまま
その口の前に晒される
歯が、みえる
息がかかる
少しでも、楽しい事を考えるんだ
少しの間だけ辛抱しなきゃ
もうすぐだ、もうすぐ痛みが終わる
僕の命と共に、その歯に押し潰され……
パキッ
僕の命が終わる音は
まるで、少し硬いビスケットを割った様な音だった
-
………………
…………
……
…
-
「おーい、ベルトルト」
「ライナー、アニっ待って!」
それから
「ベルトルト、ナイフは持ったか?」
「ほら、置いて行くよ」
なんども
「もう駄目だ、これは」
「蘇生できない」
なんども
「ベルトルト」
なんども
「あぁ、死んじゃった」
-
僕は
――苦しい死を、迎える事になる
-
言霊、と言う物がある
簡単に言うと声や言葉自体に力が宿り、実現させる力
僕は、エレンの言葉によって
苦しむ死を
何度も、何度も受けてきた
転生を繰り返す度に、その言葉の効力によって
生まれる度に、苦しんで死んだ
ある日は殺人事件に巻き込まれて
ある日は身に覚えのない逆恨みで
ある日は偶発的な天災によって
ある日は難病を発症して
ある日は事故によって
ある日はある日は
-
あぁ、もう生まれるのが怖い
死ぬ時は、いつも……もう生まれません様に、なんて神様に祈るんだ
けれども、僕はどこかで
どこかの世界で、生き続けている
生まれないと、死なないからなのかな
「これで、47回目だよ」
今回の僕の人生は、幼少からの監禁生活だった
ストーカーに誘拐され、孕まさせられた母の元に僕が生まれ
狭い地下の部屋に、何日も何ヶ月も何年も
そして、僕は生まれた理由を奪われつくして
自由への飢餓を、最大限に感じさせられて死んだ
死んだ後は、僕はこの運命をたどる事となった物を思い出す
あるいは、生きている間にその記憶がある事もあった
僕は、僕は
もう、魂の死を迎えたいと言うのに
-
いったいどうすればいい
いや、方法はある
この悲運な運命を辿る呪いを、解除する方法は知っている
けれども無理だ、出来ないよ
――抗わなければ、この運命を辿るだけだと言うのに
僕は努力しようとは、どうしても思えない
無理だよエレン
君が僕を見つけたら、君は僕をきっと殺しに来る
だからこの方法を試そうだなんて思えない
――解除の方法は、エレン・イェーガーの魂に懺悔し許される事
君に許されるなんて事、僕は信じられない
-
そんな事は出来ないんだ、無理なんだ
僕は
でも、だって
弱虫で、僕は
がくん、と体が引っ張られる
――魂とは、地球をめぐる水の様だ
本人の意思とは関係なく
姿を変え、世界をめぐる
あぁ、僕は、また
嫌な運命を……
おぎゃー、おぎゃあ
「元気なお子様ですよ」
-
また死んだ
死んでしまった
あぁ、48回目の悲惨な人生
今度はヤンデレなストーカーによって、知らない因縁によって刺された
まさかのストーカー連続二案件
――家族は大丈夫かな、家族も巻き込ませてしまっていたけれど
あ、またひっぱられ……
-
(……あれ)
ふとした瞬間に、僕は思いだした
僕は辛い死を受け続けている、事実を
――でも、なんでこんな日に……いや、こんな日が何であるの?
ここは結婚式の会場だ
綺麗に着飾った花嫁さんは……僕のお嫁さん
僕は
人並みの、幸せな人生を送っていた
あぁ、でも駄目だ
言霊は絶対だ
きっと僕は、この生活を壊してしまう
僕はこの人を不幸にしてしまう
幸せにする、なんて言ったのに
「え、どうしたの」
「ごめん」
-
席を立つ、駆け抜ける
幸いにも式はまだ始まっていない、籍もまだ入れていない
僕は堅実に貯蓄もしていたので、賠償などの足しにでもして貰えるだろう
走らなきゃ、走らなきゃ
僕の酷い「死」が、僕を捕まえるまでに
それまでに
「なぁ」
走り抜けていた途中、誰かに擦れ違い
その誰かに声を掛けられた
「死にたいのか?」
-
その言葉に惹かれ、僕の足はピタリと止まる
その人をじっと見返してみると、その人もジッと僕を見つめていた
「死にたいのか?」
「そうだけど」
再度、聞かれて僕はゆっくりと返答をする
――なんで分かったのだろう、なんで理解できたのだろう
唐突に、掛けられるはずの無い言葉を掛けられた
僕の奥を、見透かした様な言葉
彼は、ゆっくりと踵を返しながら
こっちに来い、とだけ呟いた
-
――誰だろう
体格はいいけれど、普通のサラリーマンの様に見える
僕は彼を観察しながら、ゆっくりと彼の後を追った
大きめの背広をピシッと来たその人は、裏路地を進んで行く
その途中で、この沈黙の間を埋める様に話し始める
「驚いたぞ。俺は取引先に勤めている、あんたの結婚式場に向かっていた所だったんだ」
取引先、だったのか
僕は「せっかく来てくれたのに、申し訳ありません」と言おうとしたが
申し訳なくさそうな「あぁ」と間の抜けた相槌しか漏らせなかった
「でも、あなたは見た事が無かったと思うのですが」
「まぁお前と良く会っていたのは俺の親父だ、かなりよぼよぼだからな――代わりに俺が来た」
そうだったのか
と返した時だった、前を歩く彼の足がピタリと止まる
僕の足も、ピタリと止まった
-
彼は――ゆっくりと視線を下に向けて、そこに無造作に置いてあった木箱を見降ろす
僕もそちらに視線を向けると
彼は無造作に、その木箱の蓋を蹴り飛ばした
蓋は勢いよく飛んでいき、壁にぶつかって大きな音を立てる
中に、入っていたのは
ロープ、アイスピック、包丁
睡眠薬、それに――拳銃
それらが無造作に詰め込まれていた
僕の目が、大きく見開かれる
その僕にを目の前に、彼はゆっくりとその木箱の中に手を突っ込んだ
びくり、と僕の体が動く
「どれがいい、絞殺か、銃殺か?それとも手を切り落として、失血死でもするか?あぁ――その前に」
自殺と他殺、どっちがいい?
普段使わない、そんな単語が僕の前に羅列する
そんな事を言われても、急には理解が出来なかった
-
「あなたは……殺し屋か何かですか?」
「いや?俺はな――ただのしがない、自殺志願者だ」
自殺、志願者
その単語が、僕の脳裏に浮かんだ
同時に、出会ったばかりの僕に
そんな事を言う彼が、信じられないと思った
まだ、その筋の人と言われた方が信憑性がある
「俺の今回の人生はほぼ決まりだな、お前を殺して俺は捕縛される」
「え?」
貴方が、僕を殺す?
「本当は――結婚式会場に乗り込んでお前を殺し、大量殺人犯になるのもいいかと思っていたが」
運命ってのは分からないな
と呟く彼
分からないのは、君の方だよ
-
「なんで」
「少しでも幸せを感じる死が、必要なんだ」
お前には、そう言って彼は、僕にアイスピックを手渡した
そして
「お前の好きなタイミングでいい、俺の心臓はここだ。ひと思いに頼む」
胸に、そのアイスピックの先をピタリと合わせて呟いく
その位置は、彼の言うとおり
心臓があるであろう、場所で
途端、その行動の意味が分かり
僕の手がガタガタと動き出す――のに、彼の会わせた照準は全然動かさせてくれない
「な、んで」
付いて出たのは、疑問
その疑問に、彼は疑問で返す
先程と同じ質問で
-
「――お前は、死にたいか?」
彼の眼が、僕を捉えた
-
恐怖を絡め取り
行動を制限させる様な、威圧感のある瞳
その瞳で、じっと僕を見つめると
呆れた様に息を吐きだしてから、拳銃へと手を伸ばした
「お前、死のうとしていたんだろ――なんだ、今までの死でも思いだしたのか?」
なんで分かるの
声は、声にすらならなかったが……理解して貰えたらしい
彼はふっと笑うと「わかるさ」と呟いた
「相変わらずだな、ベルトルト。まだお前は自分で決断できないのか?」
そう言いながら、もう隠す必要は無い
と言う様に
満面の笑顔でこちらへと顔を向けた
あぁその顔
その表情
思いだした
-
「俺もな、一緒のくだらない輪廻を繰り返してきた。この輪廻はまだ続くだろう――そこで仮説を立ててみたんだ」
どんな運命にも、正面から取り組むその姿勢
それが弱さでもあるし、彼の強さでもある
変わらない、彼らしさを前に
僕は嬉しさを、あまりにも感じすぎて
だからこそ、悲しくなる
「一度でもいい、僅かでもいい――幸せな死を迎えようベルトルト。そうしたら俺たちは、言霊の効果では無い死を得る事になる」
そこから少しでも、運命が歪むかもしれない
だがこれは、仮定ですらない
言うならば思いつきだ
「俺は運命を変える機会を、待っていたんだ」
でも、希望があるのなら
さぁ
-
「もう一度言う、お前のタイミングで良い。俺を殺せ。俺はどんな痛みにも耐えて、お前を一撃で殺してやる」
「ラ、ぃナー」
涙で、視界が良く見えない
また手が震える
でも
そうだ
僕は一人じゃ無かった、彼もまた僕と同じ――
「あ、あぁああぁあああ!」
ぐさりと、不快な弾力が僕の手に伝わる
倒れゆく彼の顔が、ちらりと見えた――その瞳は笑っていた
-
「また……あおぅ」
ガウン!
僕の今回の人生は、ここまでだ
-
今回の人生は
僕はライナーに出会えた、と言う「一人では無かった」と言う幸せの中で死んだ
エレンの「苦しんで死ね」とは違う死だ
ねぇエレン、僕は少しだけ君の言霊から外れたよ
これから、どんな人生が待っているのかな
僕は初めて
この暗い呪いの中に、希望を見る事が出来た
49回目の人生は終わった
次の、記念すべき50回目の人生はどうだろう
ベルトルト「君の願いが、叶ったよ……エレン」【終】
-
エレンの「お前達が苦しんで死ねるように……」のくだりで思いついた
カルラさんの苦しい死に方を、味あわせる為に頑張ったエレンの話
からの、輪廻転生の業に苦しむベルトルトの話
簡潔に書いているので、おかしい部分があっても気にしないで下さい
-
乙
アルミンとミカサがやられたらエレンさんは執念深そう
-
輪廻して苦しみ続けるってかなりきついな。
エレンにとっては憎い敵だが、報われて欲しいと思ってしまった。
乙、面白かった
-
G・E・Rみたいだな
怖い
-
乙よかった。
何となく文体に見覚えがある気がするんだが、他に何か書いてる?
-
>>46 元に戻れないくらいに、敵に執着しそうですね
>>47 50回も転生させておいてなんですが、かなりきついかと
>>48 G……?後半部分は天使禁漁区からヒントを貰いました
>>49 乙をありがとうございます!作品は下に書きますね
-
しがない文字書きなので
見覚えあるんだったら、それは他の人の可能性が大じゃないかと思う
書き散らしているので、とりあえず完結しているの書いていきます
上が新たに完結した物
○ベルトルト「君の願いが、叶ったよ……エレン」
○「ベルトルトとユミルの……」
○ライナー「俺はクリスタと結婚したい」
○ベルトルト「いっただっきまーす」
○エレン「俺はユミルが好き」
○ユミル「ミドルなライナー」
○エレン「短編を」ライナー「三編」ベルトルト「纏めて載せるよ」
○リヴァイ「大人しくしろ」ユミル「嫌だぁ!離せよ!!」
○ユミル「は?人が二人に分裂する薬……?」
見てくれていた作品があったら、PCの前で喜ぶ
-
!!
上げてしまっている、ごめんなさい
-
…えーと、全部読みました。でもってどれも保存済みだったりする自分がいます…
-
ガウンが銃声なのはわかるけどなんか負けたwww
解脱は無理そうな感じが良かった。乙!
-
>>53 ふぁっ!?え、えー…っと、暇人ですね?嘘だよこのやろー、どう表現したらいいかわかんないよ!嬉しい!
>>54 何仕掛けていない処で笑ってるんですか、そしてコメ見て確認したら当方も笑った
-
>>55 実はベルユミスレの437だったりするんだw
描いてみようと思って手を出してみたものの、挫折しそうw
-
あぁころころもにゅの人か。どうりで。
リヴァイとユミルのやつ好きだ
-
>>56 無理だけはしなくて大丈夫ですよ!それにしても別スレでまでコメントをつけてくれるとは、あなたが神か
>>57 はい、ころころもにゅもにゅの人です。文章に癖あるんですか、自分では改行あたりくらいかと思っていたのですが
-
また上げた
文章を更新した後は、いつも間違えるorz
"
"
■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■