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藍物語(投稿・感想・雑談専用=隔離)スレ

479『星灯(下)』 ◆iF1EyBLnoU:2014/12/20(土) 19:43:38 ID:9HL3f1e.0
 『●風丸、起きろ。私の声が聞こえるだろう。さあ、眼を覚ませ。』
そうか、『狗神』もあくまで通称、直接呼びかけるには真の名を。
小さく呻いて、女性が両膝を着いた。 まずい。狗神が眼を覚ましたら俺の手には負えない。
思わず短剣を抜こうとした俺の右腕を、温かい手が背後から止めた。
「駄目、待って。」 耳元で囁く声。すい、と俺の右隣に立ったのはSさん。
小声で何事か呟くと、夜景に存在感が戻ってきた。
続いて足下、乾涸らびた犬の糞が青い炎に包まれる。結界を解いたとしたら、もう狗神を。
唸り声。獣が敵を威嚇するような、太く低い声が空気を震わせた。
『そう、御前の怒りは尤もだ。しかし御前が憎んだ人間たちの血筋はとうに絶え果て、
今の御前はただ、何の関わりも無い人間たちを苦しめているだけ。
そして、人間の身体を渡り歩く内に、人間の深く温かい情に触れ、
御前の憎しみの形はぼやけている。最早誰を、何故憎んだのかも憶えているまい。
もう十分だ、全てを忘れ共に森へ帰ろう。我らが故郷、○×原の、あの懐かしい森へ。』
女性の身体が通路に頽れると同時に、大きな白い影が眼に入った。
並んで立つ、巨大な体躯。四つ足の白い獣。 犬? いやこの大きさは、きっと狼。
「本当に有り難う御座いました。私たちは取るに足らぬ、卑しい存在ではありますが、
あなたが私たちに徳を施した事を、護り神様はきっと、お喜びになりますよ。では、これで。」
次の瞬間、二つの白い影は消えた。すぐに駆け寄り、女性を抱き起こす。
近づけた頬にかかる、絶え絶えの吐息。もしかしたら。
「まだ、息があります。」
「狗神が自分から離れていったから、肉体の急激な崩壊は免れた。でも急がないと。
早く運んで頂戴。車はすぐ其処のバス停。車の中で病院と、それから『上』に電話する。」

『星灯(下)』 了


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