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講義と演習「代数系入門」

1приезд(☆4) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2004/04/21(水) 01:15
第一章 整数
§1 集合
よく区別で切るものの集まりを集合と言うことにしましょう.
大きな自然数の集まりは集合とはいえない,
百万以上の自然数全部の集まりは集合といえる程度の.
それ以上の議論はいわばスレ違いということで.

集合を構成する個々のメンバーをその集合の元といいます.
集合は普通ローマンの大文字,元は普通ローマンの小文字で書きます.

xが集合Sの元であることを
x∈S
と書きます.

xがSの元でないことを
x∉ฺS
と書きます.

ボールドのN,ボールドのZ,ボールドのQ,ボールドのR,ボールドのC
はそれぞれ自然数全体の集合,整数全体の集合,有理数全体の集合,
実数全体の集合,複素数全体の集合を表します.
ボールドは出ないのでローマンと区別がつきにくいですが
文脈で判断してください.紛らわしいときはいちいち断ります.

140Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/02/21(月) 06:11:07
§8 2つの整数論的関数
すべての正の整数で定義され,実数値または複素数値を取る関数を整数論的関数といいます.
この節では2つの整数論的関数を紹介しましょう.
一つ目はオイラー関数φです.φ(n)はnと互いに素である正の整数の個数であると定義します.
たとえば,φ(1)=1,φ(2)=1,φ(3)=2,φ(4)=2,φ(5)=4,φ(6)=2,φ(7)=6,φ(8)=4です.

この定義は次のように言い換えることも可能です.
§3補題B(>>72)によるとa≡b(mod n)なら(n,a)=(n,b)ですので,
nを法とするある剰余類のある元がnと互いに素であるとすると,
その剰余類のほかのすべての元もnと互いに素です.
このような剰余類を,nを法とする既約剰余類といいます.
φ(n)はnを法とする既約剰余類の個数と一致します.

各既約剰余類から代表元を1つずつとって得られるφ(n)個の整数の組を
nを法とする既約剰余系といいます.
nを法とする完全剰余系からnと互いに素なφ(n)個の整数を選べば,
それが即ち既約剰余系です.
また与えられたφ(n)個の整数が既約剰余系であるための必要十分条件は,
それらのうちのどの2つもnを法として合同でなく,どれもがnと互いに素であることです.

141Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/02/21(月) 06:11:52
定理10 n=p_1^(α_1)…p_n^(α_n)をnの標準分解とすると
φ(n)=(p_1^(α_1)-p_1^(α_1-1))…(p_n^(α_n)-p_n^(α_n-1))=n(1-1/p_1)…(1-1/p_n).
とくに
φ(p^α)=p^α-p^(α-1),φ(p)=p-1.

定理10の証明
まず,αが2以上の整数のとき(p^α,k)>1となる1以上p^α以下の整数kはp^α以下のpの倍数であり,
p^α=p・p^(α-1)よりその個数はp^(α-1)個.よってφ(p^α)=p^α-p^(α-1).
(p,k)>1となる1以上p以下の整数kはpのみであるのでφ(p)=p-1.

142Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/02/21(月) 06:12:13
一般のケースを証明するために次の補題Eを示す.

補題E (m,n)=1ならばφ(mn)=φ(m)φ(n).

補題Eの証明 S,T,Uをそれぞれ法m,n,mnに関する完全剰余系,S*,T*,U*を法m,n,mnに関する
既約剰余系とする.S,Tが完全剰余系であることから,
任意のUの元zに対してz≡x(mod m)となるSの元xが一意に存在し,
z≡y(mod n)となるTの元yが一意に存在する.
また(m,n)=1を仮定するなら定理9(>>134)が成り立つので,
任意のS×Tの元(x,y)に対してz≡x(mod m)∧z≡y(mod n)を満たすUの元zが一意に存在する.
即ちzにz≡x(mod m),z≡y(mod n)をみたす(x,y)を対応させる写像をUからS×Tへの写像fと
定めると,このfは全単射である.
このfをU*に制限したものf|U*を考える.(z,m)=d>1とすると(z,mn)≧dとなるので
とz∈U*なら(z,mn)=1だが,このとき(z,m)=1かつ(z,n)=1でなければならない.
また(z,mn)=d>1で(z,m)=1だとすると(z,n)≧dでなければならないので
(z,m)=1かつ(z,n)=1ならば(z,mn)=1.
即ち(z,m)=1かつ(z,n)=1であることは(z,mn)=1であるための必要十分条件である.
よってz∈U*ならf(z)=(x,y)とすると(x,m)=1かつ(y,n)=1即ちf(z)∈S*×T*.
逆に(x,y)∈S*×T*であるなら(x,m)=1かつ(y,n)=1であるがf(z)=(x,y)となるUの元
zに対して(z,m)=1かつ(z,n)=1となるので(z,mn)=1即ちz∈U*となる.
以上よりf|U*も全単射となる.(補題Eの証明了)

143Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/02/21(月) 06:12:35
定理10の証明(つづき)
n=p_1^(α_1)…p_n^(α_n)がnの標準分解ならp_1^(α_1),…,p_n^(α_n)は対毎に素だから
補題Eを繰り返し用いて
φ(n)=φ(p_1^(α_1))…φ(p_n^(α_n)).
さらに,先に証明したn=p^αのときの定理10を用いれば
φ(n)=(p_1^(α_1)-p_1^(α_1-1))…(p_n^(α_n)-p_n^(α_n-1)).
p^α-p^(α-1)=p^α(1-1/p)なので
φ(n)=p_1^(α_1)…p_n^(α_n)(1-1/p_1)…(1-1/p_n)=n(1-1/p_1)…(1-1/p_n).■

えと,例えば,φ(720)=φ(2^4・3^2・5)=2^4・3^2・5(1-1/2)(1-1/3)(1-1/5)
=(2^4・3^2・5・1・2・2^2)/(2・3・5)=2^6・3=192.です.

144Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/02/21(月) 06:12:58
次はメビウス関数μです.まず,μ(1)=1とします.nが素数の平方で割り切れる場合は
μ(n)=0,n=p_1…p_kと標準分解できるときはμ(n)=(-1)^kと定義します.
たとえば,μ(1)=1,μ(2)=-1,μ(3)=-1,μ(4)=0,μ(5)=-1,μ(6)=1,μ(7)=-1,μ(8)=0です.

定理11 n>1ならばΣ[d|n]μ(d)=0,ただしdはnのすべての正の約数を渡る.

証明 nの標準分解に出てくる指数が1の素因数がp_1,…,p_kであるとする.
nの正の約数dのうち,平方因子を含むものについてはμ(d)=0であるから
指数が1の素因数のみからなる約数dについてだけ考えればよい.
指数が1の素因数のみからなる約数はp_1,…,p_kからいくつかを選んで積を作ったもの
であるので,μ(1)=1も考慮に入れて
μ(n)=1+C(k,1)(-1)^1+…+C(k,k)(-1)^k.
二項定理によるとμ(n)=(1-1)^k=0.■

145Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/02/21(月) 06:13:18
一章八節の問題
1. 1から100までの整数nについてのφ(n)とμ(n)の数表をつくってみよ.
2. 任意の正の整数nに対してΣ[d|n]φ(d)=n
3. (整数論的関数の反転公式). F(n)を整数論的関数とし,G(n)=Σ[d|n]F(d)とおく.
   このときF(n)=Σ[d|n]μ(d)G(n/d).
4. 任意の正の整数nに対してφ(n)=Σ[d|n]μ(d)n/d.
5. nを1より大きい整数とする.1,…,nのうちnと互いに素な数の和はn・φ(n)/2.
6. 整数論的関数θが乗法的であるとは,θ(1)=1で,(a,b)=1ならθ(ab)=θ(a)θ(b)
   が成り立つことをいう.
  (a) μは乗法的.
  (b) θ_1,θ_2が乗法的ならばθ_1(n)・θ_2(n)=θ(n)と定義されるθも乗法的.
  (c) θを乗法的,n=p_1^(α_1)…p_k^(α_k)を標準分解だとすると
   Σ[d|n]θ(d)=(Σ[β_1=0,α_1]θ(p_1^(β_1))…(Σ[β_k=0,α_k]θ(p_k^(β_k)).
7. F(n)を整数論的関数とし,G(n)=Σ[d|n]F(d)とおく.このとき
   Fが乗法的であるための必定十分条件はGが乗法的である.
8. m_1,…,m_kを対毎に素な正の整数,それらすべての積をm,1以上k以下の各整数iに対して,
   M_i=m/m_iとおく.
   整数x_1,…,x_kがそれぞれm_1,…,m_kを法とするある完全剰余系を動けば
   M_1x_1+…+M_kx_kという形の数全体は法mに関する完全剰余系であることを示せ.
   この形の数がmと互いに素であるためには,x_1,…,x_kがそれぞれm_1,…,m_kと互いに素
   であることが必要十分であるを示せ.
   上の事実からφの乗法性を導け.

146Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/02/24(木) 22:00:14
§9 オイラーの定理とフェルマの定理
前管理人にとっての二年越しの宿題がいまここに完結します.
「東大」「才能」「数学」
http://school2.2ch.net/test/read.cgi/kouri/1061202039/82
で僕が提出した問題を,長助くんが回答した
「東大」「才能」「全教科」ver2.0
http://school2.2ch.net/test/read.cgi/kouri/1061993330/362-367
のなかに出てきた定理
「東大」「才能」「全教科」ver2.0
http://school2.2ch.net/test/read.cgi/kouri/1061993330/956
を,9くんが
「東大」「努力」「全教科」ver3.0
http://school2.2ch.net/test/read.cgi/kouri/1063602221/22
でスレ上の投下問題にしてしまって,スレ上では未解決のままの定理です.

147Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/02/24(木) 22:00:37
補題F m>0で(a,m)=1とする.x_1,…,x_φ(m)が法mに関する既約剰余系
であるなら,ax_1,…,ax_φ(m)もそうである.

補題Fの証明 i≠jのときax_i≡ax_j(mod m)とするとm|a(x_i-x_j).
(a,m)=1なので定理4(>>74)よりm|(x_i-x_j)即ちx_i≡x_j(mod m)となり
x_1,…,x_φ(m)が既約剰余系であることに反する.よって
ax_1,…,ax_φ(m)はどの2つをとっても法mに関して合同でない.
さらに(a,m)=1,(x_1,m)=1,…,(x_φ(m),m)=1なので定理4系(>>76)より
ax_1,…,ax_φ(m)はどれもmと互いに素である.■

148Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/02/24(木) 22:01:00
定理12(オイラー) mが正の整数で(a,m)=1ならばa^φ(m)≡1(mod m).

定理12の証明 x_1,…,x_φ(m)が法mに関する既約剰余系とする.
補題Fによってax_1,…,ax_φ(m)もそうである.
したがって,ax_1≡x_σ(1)(mod m),…,ax_φ(m)=x_σ(φ(m))(mod m)となる
{1,…,φ(m)}から自身への全単射σが存在する.
>>119よりa^φ(m)x_1…x_φ(m)≡x_σ(1)…x_σ(φ(m))(mod m)
右辺はx_1…x_φ(m)と一致するので
a^φ(m)x_1…x_φ(m)≡x_1…x_φ(m)(mod m).
再び定理4系(>>76)によって(x_1…x_φ(m),m)=1.
一章六節問題2(>>125)よりa^φ(m)≡1(mod m).■

149Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/02/24(木) 22:01:27
定理10(>>141)より次の,フェルマの小定理とよばれる系が成り立ちます.

系(フェルマ) pが素数で(a,p)=1であるならa^(p-1)≡1(mod p).

オイラーの定理,フェルマーの小定理が成り立つことを,実例で確かめましょう.

(13,30)=(13,2・3・5)=1,φ(30)=φ(2)φ(3)φ(5)=1・2・4=8.
13^φ(30)=13^8=169^4=(5・30+19)^4≡19^4=361^2=(12・30+1)^2≡1(mod 30).

(8,11)=(2^3,11)=1,
8^10=64^5=(5・11+9)^5≡9^5≡(-2)^5≡-32≡1(mod 11).

フェルマの小定理のステートメントは「pが素数ならばa^p≡a(mod p)」でも
いいですね.p|aであったらもちろんa^p≡a(mod p)だから,仮定の(a,p)=1を消すことが
可能ってわけです.

150Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/02/24(木) 22:01:49
一章九節の問題
1. 一章六節の問題8(>>125)を用いてフェルマの小定理を証明せよ.
2. フェルマの小定理からオイラーの定理を導け.
3. m>1,(a,m)=1とする.合同式ax≡b(mod m)の解はx≡ba^(φ(m)-1)(mod m)で与えられる.

151AM:2005/03/02(水) 11:18:29
代数系入門再開します。
もういちど初めからノートとって演習問題をこなしていこうと思います。

152AM:2005/03/03(木) 21:38:43
第一章§1読了

疑問
>>6の問題1における「どんな集合Xに対してもΦ⊂Xが成り立つ」ことに関して
「S⊂T」を「Sの元が皆Tの元であること(>>2)」と定めた場合、
「元を一つも持たない特殊な集合Φ(>>3)」に関して
「Φ⊂X」とはどういう意味なのか?

回答待ちで§2へ移行。

153Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/03/03(木) 21:57:02
>>152
えと
一般的に,
命題「p⇒q」はpが偽であれば,真です.

詳しくは集合位相スレにあるはずです。
リンク先は後でかきます。今移動車中なので。

154AM:2005/03/03(木) 23:04:39
>>153
  「Sが要素を持っていてかつそれらが全て集合Tの元(=p)」⇒「S⊂T」
なので
  「Sが要素を持っていない(pが偽である)」⇒「S⊂T」は真
ということですか?

155Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/03/03(木) 23:45:46
>>154
Φ⊂X

x∈Φ⇒x∈X
は,論理的に同等で(包含関係の定義だから)
x∈Φは偽だから
x∈Φ⇒x∈X
は真,したがってΦ⊂Xは真です.

まだ移動中。

156Мечислав(☆9) </b><font color=#FF0000>(DTxrDxh6)</font><b>:2005/03/04(金) 00:20:34
>>AM
「集合・位相入門」輪読会
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/study/4125/1078049875/18
参照です。

157AM:2005/03/04(金) 21:20:56
>>155-156
ありがとうございます、理解できました。
>命題「p⇒q」はpが偽であれば,真です
を知りませんでした。

159Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 05:56:08
第二章 群
§1 写像
S,S'を集合とする.
Sの各元にS'の1つの元を対応させる対応のことをSからS'への写像という.
fがSからS'への写像であることをf:S→S'と書く.
このときSをfの定義域,S'をfの終集合という.
始集合という用語もある.S~を集合,SをS~の部分集合とし,
SからS'への写像を考えるとき,S~を始集合,Sを定義域とするのである.
定義域,S'をfの終集合という.
fをSからS'への写像とする.
fによってSの元xが対応するS'の元をxにおけるfの値またはfによるxの像と呼びf(x)と書く.
写像fによるxの像がf(x)であることはx|→f(x)と書く.

160Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 05:56:48
例1 Nの各元nにそれぞれ2n∈Nを対応させれば,
この対応はNからNへのひとつの写像となる.

例2 正の整数nに対してnの約数の個数τ(n)を対応させる整数論的関数τ(c.f.>>106),
約数の総和σ(n)を対応させる整数論的関数σ(c.f.>>107),
nと互いに素なn以下の正の整数の個数φ(n)を対応させるEuler関数φ(これも整数論的関数c.f.>>140)
は皆Z^+からZ^+への写像である.
素数の平包因子を持つ場合μ(n)=0,n=p_1p_2…p_kと標準分解できる場合,
μ(n)=(-1)^kを対応させるM"obius関数はZ^+からZへの写像である.

例3 Rを実数全体の集合とする.
Rのある部分集合からRへの写像は実変数の実数値関数である.
Sを集合とする.SからRへの写像をS上で定義された実数値関数という.
Cを複素数全体の集合とする.
Cのある部分集合からCへの写像は複素変数の複素数値関数である.
Sを集合とする.SからCへの写像をS上で定義された複素数値関数という.

161Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 05:57:14
例4 S,S'を集合,bをS'の元とする.
Sの任意の元にbを対応させる写像,
即ちSの任意の元xに対してx|→bで定めたSからS'への写像をSからS'への値bの定値写像という.

例5 加法
          R×R∋(a,b)|→a+b∈R
はR×RからRへの写像である.
乗法
          R×R∋(a,b)|→ab∈Rも
R×RからRへの写像である.
Sを集合とする.S×SからSへの写像をSにおける二項演算,S上の二項算法などという.

S,S'を集合,fをSからS'への写像とする.
Sの元x,yに対し,x≠yならばf(x)≠f(y)であるときfをSからS'への一対一対応の写像,
SからS'への単射などという.

162Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 05:57:39
UをSの部分集合とする.
          f(U):={x'|f(x)=x'となるUの元xが存在する}={f(x)|x∈ U}
をUのfによる像という.
f(S)を単にfの像という.

f(S)=S'のときfをSからS'の上への写像,SからS'への全射などという.
fがSからS'への全射かつ単射であるとき,fをSからS'への全単射という.

fがSからS'への全単射であるならS'の各元x'に対してf(x)=x'となるSの元xがただ1つ存在する.
実際,fは全射であるならS'の元x'に対してf(x)=x'となるSの元xは存在するし,
もしx'=f(x)=f(y),y∈ Sであるならfが単射であることからx=yが言えるからである.

例6 Sを集合とする.
Sの各元xにx自身を対応させる写像
          I:S∋x|→x∈S
は,すべてのSの元xに対してI(x)=xなるSの元xがあるから全射であり,
I(x)=I(y)ならばx=yであるから単射である.
即ちIはSからS自身への全単射である.
IをSの恒等写像といい,I_SとかId_Sと書いたりする.

163Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 05:58:01
例7 Sを集合,S'をSの部分集合とする.S'の各元xをx自身に対応させる写像
          f:S'∋x|→x∈S
は,f(x)=f(y)ならばx=yなので単射である.
これをS'からSへの自然な単射という.

164Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 05:58:26
例8 RからRへの写像f_i,(i=1,2,3,4)と
R':={x|x∈R,x≧0}からRへの写像f_5を次のように定める.
          f_1:R∋x|→x+1∈R
          f_2:R∋x|→x^3-x∈R
          f_3:R∋x|→2^x∈R
          f_4:R∋x|→x^2∈R
          f_5:R∋x|→x^2∈R'

165Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 05:58:46
x∈Rに対してf_1(x-1)=x,x-1∈Rであるからf_1は全射,
f_1(x)=f_1(y)ならばx+1=y+1となるのでx=yとなりf_1は単射.よってf_1は全単射.

f_2'(x)=3x^2-1=3(x-(1/√3))(x+(1/√3)),f_2(0)=0,
f_2((1/√3))=(1/3√3)-(1/√3)=-2/3√3,lim[x→∞]f_2(x)=∞,f_2(x)は連続.f_2(-x)=-f_2(x).
以上よりf_2は全射.
f_2(0)=f_2(1)よりf_2は単射ではない.

f_3(x)=-1を満たすxはないのでf_3は全射ではない.
f_3(x)=f_3(y)ならば2^x=2^y即ちx=yとなるのでf_3は単射.

f_4(x)=-1を満たすxはないのでf_3は全射ではない.
f_4(-1)=f_4(1)よりf_4は単射ではない.

R'の各元xに対してf_5(√{x})=x,√{x}∈Rであるのでf_5は全射.

166Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 06:00:28
Sを有限集合とする.
fがSからSへの単射であるならfは全射でもある.
実際,S={x_1,…,x_n}であるとするとi≠jならf(x_i)≠f(x_j)であるので
集合{f(x_1),…,f(x_n)}の元の個数はSの元の個数と一致する.
即ちf(S)はn個の元からなるSの部分集合であるからSそのものと一致する.

167Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 06:00:44
S,S'を集合,fをSからS'への全単射とする.
このとき,
S'の各元x'にはf(x)=x'となるSの元xがただ1つあるが,
このx'にxを対応させる対応
          S'∋x'|→x∈S
はS'からSへの写像となる.
この写像をfの逆写像といいf^(-1)と書く.
f^(-1)も全単射である.
実際,Sの各元xに対してf(x)はS'の元であるのでSの元f^(-1)(f(x))があるが,
f^(-1)の決め方によりf^(-1)(f(x))=xである.したがってf^(-1)は全射.
また,f^(-1)(x')=f^(-1)(y')であるとすると,
f(x)=x',f(y)=y'を満たすSの元x,yがあって,
x=f^(-1)(x'),y=f^(-1)(y)であるので,
x=yである.よってx'=f(x)=f(y)=y'となりf^(-1)は単射となる.

168Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 06:02:00
例9 R^+を正の実数全体の集合とする.
RからR^+への写像fを
f(x)=2^xと定めると,fはRからR^+への全単射となり,
f^(-1):R^+→Rは対数関数x|→log_2xである.
実際,R^+の各元xに対してRの元log_2xがあって,
f(log_2x)=2^(log_2x)=xとなるのでfは全射,
またf(x)=f(y)なら2^x=2^yとなりx=yとなるのでfは単射となる.
fは単射であるので先のlog_2xについて,f^(-1)(x)=log_2xとなる.
詳しくは解析学の成果を用いねばならない.

169Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 06:03:41
S,S'を集合,fをSからS'への写像とする.
S'の各元x'に対して
f^(-1)(x'):={x|x∈S,f(x)=x'}をx'のfによる逆像という.
¬(x'∈f(S))ならf^(-1)(x')=Φである.
U'がS'の部分集合であるとき,f^(-1)(U'):={x|x∈S,f(x)∈U'}をfによるU'の逆像という.
この意味でのf^(-1)は2^{S'}:={B|B⊂S'}から2^S:={A|A⊂S}への写像と見ることができる.

f:S→S'を写像とし,U⊂Sとする.
このとき対応U∋x|→f(x)∈S'は写像であるが,
この写像をfのUへの制限といい,f|Uと書く.
f:S→S',f_1:S_1→S_1'を写像,Ssubset S_1,S'subset S_1'とする.
Sの任意の元xに対してf(x)=f_1(x)であるときf_1はfのS_1への拡大であるという.

170Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 06:06:28
f:R→S,g:S→Tを写像とする.
対応R∋x|→g(f(x))∈Tは写像であるが,
これをfとgの合成写像といいg○fと書く.

例10 f:R→R,g:R→Rをそれぞれ,
f(x)=x^2,g(x)=x+1とすると,(g○f)(x)=x^2+1,(f○g)(x)=(x+1)^2.

補題1
(1) f:R→S,g:S→Tがともに単射であればg○f:R→Tも単射である.
(2) f:R→S,g:S→Tがともに全射であればg○f:R→Tも全射である.

証明.
(1) (g○f)(x)=(g○f)(y)であるとするとg(f(x))=g(f(y)).
gが単射であるからf(x)=f(y).fが単射であるからx=y.
(2) zをTの任意の元とするとgが全射であることによりg(y)=zなるSの元yが存在する.
このときfが全射であることによりf(x)=yとなるRの元が存在する.このとき
(g○f)(x)=g(f(x))=g(y)=z.■

171Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 06:08:09
補題2 f:R→S,g:S→T,h:T→Uを写像とすると,
h○(g○f)=(h○g)○f.

証明. h○(g○f)も(h○g)○fもRからUへの写像であり,
Rの任意の元xに対して
(h○(g○f))(x)=h((g○f)(x))=h(g(f(x))),
((h○g)○f)(x)=(h○g)(f(x))=h(g(f(x))).■

f:S→S'を写像とするとf○I_S=f,I_{S'}○f=fである.
実際,f○I_SもI_{S'}○fもSからS'への写像であり,
任意のSの元xに対して,
          (f○I_S)(x)=f(I_S(x))=f(x),(I_{S'}○f)(x)=I_{S'}(f(x))=f(x).
またfが全単射のときはf○f^(-1)=I_{S'},f^(-1)○f=I_Sである.
実際,f○f^(-1)はS'からS'への写像であり,
任意のS'の元x'に対して
          (f○f^(-1))(x')=f(f^(-1)(x'))=x',
f^(-1)○fはSからSへの写像であり,
任意のSの元xに対して
          (f^(-1)○f)(x)=f^(-1)(f(x))=x.

172Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 06:09:11
補題3 f:S→S'を写像とする.
g○f=I_Sかつf○g=I_S'をみたすS'からSへの写像gが存在するなら
fは全単射でありg=f^(-1)である.

証明. f(x)=f(y)であるとするとg○f=I_Sよりx=yとなるのでfは単射.
f○g=I_S'よりS'の各元x'に対してf(g(x'))=x'でありg(x')はSの元であるのでfは全射である.
補題2よりf^(-1)=I_S○f^(-1)=(g○f)○f^(-1)=g○(f○f^(-1))=g○I_{S'}=g.■

173Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/05/31(木) 06:12:56
二章一節の問題
1.f:S→S'を写像とする.次のことを示せ.
(a) U⊂S,W⊂Sならば
          f(U∪W)=f(U)∪f(W),
          f(U∩W)⊂f(U)∩f(W),
fが単射ならば等号が成立する.

(b) U'⊂S',W'⊂S'ならば
          f^(-1)(U'∪W')=f^(-1)(U')∪f^(-1)(W'),
          f^(-1)(U'∩W')=f^(-1)(U')∩f^(-1)(W').

(c) U⊂Sならば
          f^(-1)(f(U))⊃U.
fが単射ならば等号が成立する.
(d) U'⊂S'ならば
          f(f^(-1)(U'))⊂U'.
fが全射ならば等号が成立する.

174Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/06/15(金) 03:53:41
§2 群とその例
Gを空でない集合とする.Gに1つの2項算法が与えられたとする.
この2項算法による(a,b)の像をa*bと書くことにする.
この算法が次の3つの条件を満たすとき,Gと*のペアを群という.

G1 すべてのGの元a,b,cに対して,
          (a*b)*c=a*(b*c).
が成り立つ.
G2 すべてのGの元aに対して,aに無関係なGの元eで次の条件を満たすものが存在する.
          e*a=a*e=a.
G3 すべてのGの元aに対して,
          a*b=b*a=e
をみたすGの元bが存在する.

175Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/06/15(金) 03:54:33
Gと*の組(G,*)を群というのだが,特に必要がなければ群Gと言ったりもする.
群の算法を表す記号は加法の記号a+bや乗法の記号a*bあるいはabを用いる.
乗法記号を用いるとき乗法群,加法記号を用いるとき加法群といったりする.
以下一般論では,記号を簡単にするため乗法群を用いる.
G2におけるeをGの単位元と言う.eの代わりに1と書いたりもする.
G3におけるbをaの逆元という.
単位元は1つしかない.実際eもe'も単位元であるとすると,e=ee'=e.
aの逆元は各aに対して1つしかない.実際bもcもaの逆元であるとすると,
b=be=b(ac)=(ba)c=ec=c.
aの逆元をa^{-1}と書く.
aa^{-1}=a^{-1}a=eであるから(a^{-1})^{-1}=aである.
加法群においては,単位元を0,aの逆元を-aと書く.
習慣として加法群においては,その算法が交換律を満たすものとする.
即ちa,bをの加法群Gの任意の元であるとするとa+b=b+aが成り立つものとする.
一般に乗法群において,ab=baが満たされるときaとbは可換であるという.
Gの任意の2元が可換であるときGを可換群またはAbel群という.

176Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/06/15(金) 03:57:23
例11 Z,Q,R,Cはそれぞれ普通の加法に関して可換群である.
証明 a∈Z,b∈Zならばa+b∈Z,
a∈Q,b∈Zならばa+b∈Q,
a∈R,b∈Zならばa+b∈R,
a∈C,b∈Zならばa+b∈C.
Cは加法についてG1を満たす.
Cの元0は加法の単位元である.0∈Z⊂Q⊂R⊂C.
a∈Cに対して-aは逆元である.
a∈Zならば-a∈Zであり,
a∈Qならば-a∈Qであり,
a∈Rならば-a∈Rであり,
a∈Cならば-a∈Cである.
Cの任意の2元はCの加法について可換である.■

177Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/06/15(金) 03:59:20
例12 Q^*:=Q-{0},R^*:=R-{0},C^*:=C-{0}
はそれぞれ普通の乗法に関して可換群をなす.
Q,R,Cは乗法に関して群をなさない.
証明 a∈Q,b∈Zならばab∈Q,
a∈R,b∈Zならばab∈R,
a∈C,b∈Zならばab∈C.
Cは乗法についてG1を満たす.
Cの元1は乗法の単位元である.
1∈Q⊂R⊂C.
a∈C^*に対して1/aは逆元である.
Cの任意の2元はCの乗法について可換である.
a∈Qならば(1/a)∈Qであり,
a∈Rならば(1/a)∈Rであり,
a∈Cならば(1/a)∈Cである.
0∈Q⊂R⊂Cの逆元があるとし,
bとすると0b=b0=1.このようなCの元bは存在しない.■

178Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/06/15(金) 04:01:56
例13 a∈R,b∈Rとする.
複素数α:=a+ibに対し,その絶対値を
          |α|:=√(a^2+b^2)
で定義する.
T:={α∈C;|α|=1}は乗法に関して可換群をなす.
証明 a_1∈R,a_2∈R,b_1∈R,b_2∈R,α_1=a_1+ib_1∈ T,α_2=a_2+ib_2∈ Tとすると,
          |α_1α_2|
          =|(a_1a_2-b_1b_2)+i(a_1b_2+b_1a_2)|
          =√((a_1a_2-b_1b_2)^2+(a_1b_2+b_1a_2)^2)
          =√(a_1^2a_2^2+b_1^2b_2^2+a_1^2b_2^2+b_1^2a_2^2)
          =√(a_1^2(a_2^2+b_2^2)+b_1^2(a_2^2+b_2^2))
          =√((a_1^2+b_1^2)(a_2^2+b_2^2))
          =1
となるので乗法はTにおける算法である.
Tの乗法はCの乗法であるので結合律を満たす.即ちTはG1を満たす.
|1|=|1+i0|=√(1^2+0^2)=1より1∈Tであるので,1はTの単位元である.即ちTはG2を満たす.
α_1=a_1+ib_1∈ Tに対して,
1/α_1=a_1-ib_1∈T.TはG3を満たす.
また,Tの乗法はCの乗法であるのでTの任意の2元は可換である.■

179Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/06/15(金) 04:02:43
例14 {1,-1}は乗法について可換群をなす.
証明 1*1=(-1)*(-1)=1,1*(-1)=(-1)*1=-1となるので乗法は{1,-1}における算法である.
{1,-1}の乗法はCの乗法であるので結合律を満たす.即ち{1,-1}はG1を満たす.
1∈{1,-1}であるので,1は{1,-1}の単位元である.即ち{1,-1}はG2を満たす.
1^{-1}=1,(-1)^{-1}=-1であるので{1,-1}はG3を満たす.
また,{1,-1}の乗法はCの乗法であるので{1,-1}の任意の2元は可換である.■

180Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/06/15(金) 04:03:34
例15 集合{e}はee=eと算法を定めれば可換群をなす.
証明 (ee)e=ee=e,e(ee)=ee=eより{e}はG1を満たす.
ee=ee=eよりeは{e}の単位元である.よって{e}はG2を満たす.
e^{-1}=e.{e}はG3を満たす.
ee=eeより{e}の任意の2元は可換である.■
例15の{e}を単位群という.

181Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/06/15(金) 04:06:10
有限個の元からなる群を有限群という.有限群の元の個数をその群の位数という.
例16 Xを空でない集合とする.
GをXからXへの全単射全体の集合とすると,
Gは写像の合成に関して群をなす.また,
Xが3元以上からなるならGは非可換.
証明 補題1(>>170)より写像の合成はGの算法である.
補題2(>>171)よりGはG1を満たす.
I_XはGの単位元である.よってGはG2を満たす.
f∈Gの逆元はf^(-1)∈Gである.よってGはG3を満たす.
{a,b,c}⊂ Xとする.
f∈Gを
          f(a)=b,f(b)=c,f(c)=a,¬(x∈{a,b,c})ならばf(x)=x,
g∈Gを
          g(a)=c,g(c)=a,¬(x∈{a,c})ならばf(x)=x
とすると,
(g○f)(a)=b,(f○g)(a)=aとなるのでこの群は非可換である.■

182Мечислав(☆12) ◆QRDTxrDxh6:2007/06/15(金) 04:08:02
例15のGを集合X上の対称群といいS(X)と書く.
S(X)の元を置換という.
Xがn元からなる集合のときS(X)をS_nと書き,
n次対称群という.
S_nは有限群で,その位数はn!である.実際,X={1,2,…,n}とすると,
X上の置換は例えば
          (1,2,…,n),(4,7,2,1,…)
などと表される.左の置換はI_Xを,右の置換はσ(1)=4,σ(2)=7,σ(3)=2,σ(4)=1,…となるS_nの元σを,それぞれ表すものとする.
即ちS_nの位数は,異なるn個のものを1列に並べる順列n!に等しい.

183はじめまして:2010/07/15(木) 09:55:21
114の(3)の答えってどうなるか教えてくださいー(>_<。)

185Je n'ai pas de nom!:2012/05/02(水) 20:59:29
腹へったな。。。


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