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連作 蓬這い

1名無し物書き@推敲中?:2002/09/25(水) 20:21
大塚の自宅から三業通を抜けて駅前に出た。この近辺でも晴れやかな
部類に入るこの界隈に、以前、金の延べ棒が5000万円相当発見さ
れたというのを思い出す。あれは確か、発見者が浮浪者だったという
話だが、すぐ近くに巣鴨警察署があったので、さぞや重かったであろ
うその拾得物も、善良な発見者には届けやすかった事だろう。6ヶ月
を待たずに礼の一部をもらったのか、それとも全額を受け取る幸運に
恵まれたのかは知らない。
かっては山手線の駅前とは思えないほど、木造モルタル作りの寂れた
ゲームセンターや閉店してかなり経つ酒屋等が点在していたこの場所
も、数年前の再開発で真新しいビルが建ち、少しずつ様相を変えている。
人通りも幾分、騒がしくなっているようだった。雑踏から付かず離れず
歩き、南口のあたりの、都電の停留所まで来てのち、しばらくは立って
いた。

2名無し物書き@推敲中?:2002/09/25(水) 20:41
ズボンの右ポケットから煙草を取り出して、取り出すと火を点けた。二、三回程
軽くふかした後、深々と吸い込んで口を呆けるように開けて吐き出し、その形状を
気を遠くしながら観察する。これを数回繰り返して、ようやく待ち人が来た。彼は
右手を自身の頭の方まで上げながら会釈してきた。先に見つけられた格好となった。

3名無し物書き@推敲中?:2002/09/26(木) 19:18
上げた右手を少しずつ緩めて、ぶらりと降ろされるまでの時間には、立ち話が出来る
くらいの距離にまでお互いが近づいていた。左手には火の点いた煙草を持っていた。
改めて待ち人の顔を観察すると、向こうも同じ事をしているみたいに、こちらを凝視
している様子だった。働きかけているそれは、ほんの少しではあったが、しかし早い
動きをしている。何かこう、目線を他に動かすのが躊躇われて、しばらく観察し続け
ていた。

4名無し物書き@推敲中?:2002/09/27(金) 18:04
相手の目線は、キャメラを持ち慣れない者が焦点を捉えられないかのようにぶれ続け
ていた。何十年ぶりかに会った戦友の如き関係ではなく、つい数日前も彼と飲んでい
たから会えた懐かしさとやらで目が潤んでいるという訳でもないはずだった。しかし
その不規則な律動に何程か捉えられてしまったようで、なまなかな事では目を離す事が出来に
くい空気に包まれてしまっていた。

5名無し物書き@推敲中?:2002/09/30(月) 17:50
そうした風景に逆らう事も出来たような気がしないではなかったのだが、あえて吸引
されるままになっていた。その中心の外になにげなく映っている、まだら模様のよう
な背景は、何事もなくゆらいで、集中したそれに入り込もうともしなかった。少しづ
つ変化するようではあったが、聞こえてくる雑踏音とともにあるかのように、大した
事件は起こらない。自身のよって立つところがただ、軋みはじめているだけだった。
声を出せば、普段どおりの状況に戻れるはずだが、それを能動的にしたいとは思えず、
相手も同じ事を考えているのか、一向に声を掛けてくる様子がなかった。にらめっこ
じみた我慢くらべを自然と強いられ、しかし困惑を覚える事がなかった。

6名無し物書き@推敲中?:2002/10/04(金) 20:04
二人が、大塚のここだけを違った磁場としているかのように、たゆたっているかの
如く、時間をただひたすら流していた。見つめる事以外に使う身体器官など、持ち
合わせていないかにすら思える。注意深くしていればさまざまな事もわかるのだろう
が、自分だけではなく双方ともに、そんな心持はないと思われた。
やがて、ある程度の時が経って、息遣いがわかってくるようになった。もう磁場を
作る力が残されていないのを知らせるサインなのかも知れなかった。ここであえて
それに逆らって、頑強に見つめ続けていてもいいのだろうとも考えたが、ふと見ると、
相手の形相が苦々しく変わっているのがそれとなくわかった。しかし、今まで出そう
ともしなかったものを出してみるというのは、案外と決意のいるもののように思えて
ならなかった。

7名無し物書き@推敲中?:2002/10/05(土) 19:03
そうしきれずにいるうちに、そわそわと、肝が落ち着かないようになってきた。もし
やと感じて相手方の様子を再び伺うと、口元が、あ、あ、と、何かを発しているよう
に動いている風に感じた。しかし耳には相変わらず雑踏のもの以外は、届いてこな
かった。じれったくしているのをなんとか安心させてやりたいと思い、こちらもどう
にか努力しようとするのだが、それを声にして出す事が、なぜだか難しいのだ。ずし
りとした、澱というか、粘っこい納豆の糸のようなものが、双方の何かを縛りつけて、
離してくれないでいるのだった。

8名無し物書き@推敲中?:2002/10/10(木) 07:19
二、三回程の、そいつとの脂っこい戦いの後、すでに疲労を覚えてはいたが、やっと
の事で声を出すのに成功した。何の事もない挨拶だったが、それを出してしまった後、
急速に世界が二人の間に溶け込んできて、先程まであったはずの磁場も地面に吸い込
まれてしまったようになっていた。もう少し浮き上がった、閉ざされた世界を味わっ
ていたい気もしないではなかったが、体力がそこまでを要求するレベルには至ってい
なかったのだろう。相手方を見ると、まるで狐につままれたような表情をしていたの
だが、眼つきだけはどことなく乖離している風で、微妙に険しかった。

9名無し物書き@推敲中?:2002/10/13(日) 06:29
と、目の前に何かが現れて視界を一瞬遮った。何かと思ったのだが、よく見ると相手
の手だった。軽く笑いながら、相手は、目がぼんやりとしているようだったのでいき
なり目の前にかざしてみたのだ、と、利かん坊の子供にいい含めるかのように言った。
そして、今日はどうした、何か憑いているんじゃないのかと続けて言い、そして腕時
計を私に見せた。アナログ式の、もう何年も使っているらしいそれをすばやく見ると、
待ち合わせの時間から15分が経過していた。案外長く、しかしもっと遅い体感が残
っている気がした。いずれにしても微妙な時間に思われた。

10名無し物書き@推敲中?:2002/10/19(土) 12:38
そんな事を考えて呆けていると、これからどうするんだ、こんなところに突っ立った
ままでいいのか、と相手方が言う。お前さんが仕掛けてきたんじゃないのかと、一瞬
腹立ち混じりの、呪いの雰囲気に包まれてしまったが、丹田あたりで、我慢我慢、と
いう声がした。その呼びかけにここは素直に従う事にし、君のいいようにしてくれよ、
どこかでとりあえず一休みしようか、と言った。そう言えば待ち合わせには理由が
あったはずなのだが、それが何か、何故かその時に思い出せなかった。

11名無し物書き@推敲中?:2002/10/21(月) 18:39
何言ってるんだ、お前が呼び出したのだぞ。と、相手方、つまりKというのだが、
その男が少々怪訝な顔つきをして叫ぶように強く、言った。目の前が、はっきりと
した強い光に照らされたような印象を与えられたと思うと同時に、顔を気持分上げ
てみると、Kの容貌の、両眉の中心あたりが、そうは深くないがしかし苛立ってい
るのが分かるような皺を形づくっていた。そして、なあ、おまえは本当にどうかし
ているぞ。会った時からボケッとしやがって。どうなっているんだ。と、矢継ぎ早
に半ば呪いの様相を帯びた声色の言葉が、容赦なくぶつけられていくのだった。

12名無し物書き@推敲中?:2002/10/22(火) 18:36
その言葉に再び呆然としていた私は、次から次へとKの口から飛び出してゆくその言
葉を他人事のように聞きながら、どうしてKを呼び出したのか、しばらく考えていた
。用事、何の用事だったんだろうか。この男が得意としているものは。こちらが知ら
ない事で相手方が知っていそうなこととは。知り合いとはいえ、呼び出すに価するよ
うな悩み事とは。それとも一人でいるのが淋しくてふっと口実をつけてつい呼び出し
てしまったのかも知れない……。と、色々な事を考えてみたのだが、ついぞ浮かび上
がってくるものはなかった。そこで、何の用事で呼び出してみたか、わかるか?と、
Kに一種のカマをかけてみることにした。

13蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2002/10/23(水) 18:12
>>12
のは別の人が書いたもの。最初にトリップ入れておけばよかったな。
まさかこんなものの続きを書くのがいるとは思わなかったから。

小説以外を書くつもりはなかったが、この作品に2つの流れが出来たということに
しておいてこっちはこっちの書きたい事を書いていく事にする。
>>12はそっちでがんばれ。

14蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2002/10/23(水) 18:32
>>11の続き。というか、実は>>12もこっちが酔いながら書いていたかもしれない。
しかし覚えていない。
しかし「私」という言葉を使わないようにしていたので、それはないと判断して
別内容でいく事にする。

ほんの短い間、妙に激しいと思われたKの憤りとは対照的に、また呆けていた。そし
て発せられる言葉に適当な相槌を打ちながら、ゆっくりと思い出そうとしていた。無
数の思いつきが、交錯しながら目の前をよぎり、そして、そのうちのいくつかが暮れ
残る。はっきりと思い出そうとしてみるが、どこかに急いでいるような風が内にある
らしく、空手の達人が薪を素手ですっぱりと割るような、そんな訳にはいかなかった。
そのうちに、気が付くと手をKに引っ張られていた。何処へ行くのだろう。強い力に任
せながら、あえて流されることにしてみた。

15蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2002/10/28(月) 19:07
引きずられそうになるくらいの速度だった。Kは小柄の、中肉中背のたいした特徴が
見受けられない体格なのだが、そんな体の何処にこんな力があるのかと思えるほどの、
言いようのしれない感があった。こちらも大して体格に自信のある方ではなかったが、
長年の肉体労働の賜物と言える体力は備わっているつもりだった。Kも、そうしたい
わゆるブルーカラーと言われるような仕事にでも従事していた事があるのだろうか。
長年の付き合いだったが、そのような素振りや発言を、彼から聞いたことはなかった。

16蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2002/12/20(金) 19:18
そんなことに多少戸惑いながらも、風を頬に軽く受けているのを感じつつ、相手に
合わせて歩幅を速めながらついていった。駅前の景色が流れるように線を引いていた。
方向は新大塚の方へ向かっていた。都電の停留所あたりから254、つまり川越街道に
合流するだだっ広い道を、その方向に向かって小走りとも言えるような速さでKはこち
らを引きずりながら歩く。睨みつけるような視線だった。先程の

17蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2002/12/20(金) 19:21
そんなことに多少戸惑いながらも、風を頬に軽く受けているのを感じつつ、相手に
合わせて歩幅を速めながらついていった。駅前の景色が流れるように線を引いていた。
方向は新大塚の方へ向かっていた。都電の停留所あたりから254、つまり川越街道に
合流するだだっ広い道を、その方向に向かって小走りとも言えるような速さでKはこち
らを引きずりながら歩く。横顔を見ると睨みつけるような視線だった。先程のやりとり
で焦れたような、いらついた心持なのだろう。

18蓬這い</b><font color=#FF0000>(sxulpdxs)</font><b>:2003/05/03(土) 03:05
その態度が、捕まれている手を通して小刻みな震えとなって伝わっていた。もっとも、
怒りだけで震えているのかどうかは表情からは今一つ察知し切れなかった。確かに
いらついた表情ではあったが、先ほどまで空間感覚における共有性を持って接していた
はずだったから、Kにもこちらの在りようは理解できるに違いないのだ。それとも、そ
うした何ともいえない感触に捕らわれていた事が、かえって彼本来の有する精神とあま
りにも懸け離れていたので、それに言いようのない怒りもしくは恐怖を覚えたのかも
知れなかった。未知の事物には、人間は本能的に畏怖を抱くものだ。現に自身も、こう
した得体の知れない思いが身体に纏いついていた。

19蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2003/07/19(土) 20:22
 がかいを幾分縮めながら力強く歩いていたKをやっと止めさせたのは、一軒
の、今ではこの辺りでは数少なくなった、木の香りのする珈琲屋だった。通り
道にはそれとなくラーメン屋や定食屋も見えたのだったが、腹が減るような時
間帯であるはずなのにもかかわらず、見事なほど迷いのない歩調で乱暴にドア
を開けるとそのまま入っていった。店は、もう数十年も前に建てられたのでは
ないかと思われる高層アパートの一階部分の、商店街の並びにあった。その重
みにふさわしく、多少補修されてはいるものの、店内のあちこちになんとも言
いようのない疲弊が漂っていた。客層も若者など一人も居ず、全身に疲弊の証
を顕わにするような人達が二、三人程、よく手入れされた感じのする木製の椅
子に佇んでいた。

20蓬這い</b><font color=#FF0000>(8urSf0IY)</font><b>:2003/07/19(土) 20:23
 アイスコーヒーでいいか、とKがぶっきらぼうにつぶやくと即座に、主人と
思しき初老の、白髪混じりの口髭を蓄えたひょろっとした男に注文を、憤懣を
ぶつけるように叫んだ。周りの客があまりの大きな声に多少驚いた様子で振り
返っていたが、Kは特別気にも止めなかった。堂々と窓側の空いている席へず
んと進んで迷いなく座ると、おまえも早く座ったらどうだ、とトーンは低いが
通る声で言い放った。仕方なく言われるままにおずおず座ると、自然と下を向
いた。多少居たたまれなくなりかけたが、彼の胸中を察するとそうしてばかり
もしていられなかった。
 Kはおもむろにタバコとライターをズボンのポケットから焦れったそうに取
り出すと丸太で作ったと思しき古びたテーブルの上に放り投げ、その際にポケ
ットから飛び出した布を手で突っ込み押し込んでしまうと乱暴にタバコの箱か
ら一本取り出して火をつけた。深々と吸い込み声を気持ち出しながら吐き出す
と人心地ついた様子になったようで、表情から苛立たしさがほんの少し消えた
ように感じられた。と同時に口髭の男が冷をいかにも恭しそうに持ってきて、
アイスコーヒーお二つですね、と、にこやかに言うが早いか足早に仕事場に戻
って行った。思わず冷が旨そうに見えてすぐ口に含む。心地よい冷たさが脳天
にまで染みわたるような感触をひとしきり楽しむとKにならってタバコに火を
つけた。

21蓬這い</b><font color=#FF0000>(CW4whlvM)</font><b>:2003/09/08(月) 02:02
とりあえず、ひとしきり落ち着いた格好にはなったのだが、和らいだとはい
えKの表情は険しさを消してはいなかった。なにしろ先程の不可解な現象を不意
に体験した上に、呼び出した当の本人であるこちらが、待ち合わせの理由を一
向に思い出せないときている。Kが怒りを顕わにしたところでやむを得ない部
分があると、納得せざるを得なかった。このまま下を向き続けるのもよくない
ことだろうと思いはするのだが、機がなかなかつかめないでいた。彼を不愉快
な気持ちにさせた責任は多分にこちらにあるので、こうした一種、閉塞した状
況を打開する意思は大いにあるのだが、待ち合わせの理由を少しも思い出せな
いのでは、どうしていいのかわからなかった。いっそのことでっち上げられれ
ばよかったのだが、Kとの、普段からの近しい付き合いを考えるとこれも今ひ
とつ不調のままだった。


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