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交換小説スレ

1あの男:2016/10/06(木) 23:22:30 ID:P5uMtoZg
やっぞ

>>2からスタート

21/2:2016/10/11(火) 18:42:05 ID:SdAaggvs
青でも黒でもない空間、どこかもわからない空間で彼は浮かんでいる。

「………か」

掠れきった声がする。

「……し…」

彼は不機嫌さを隠すことなく吐き捨てる。
「三千世界(そうぞう)しい」
聞こえるはずのない声、内容も意味も目的もなにもかも不鮮明だが、それが彼にはたまらなく不快だった。
ふと目を向けると天井が見える。そして目覚まし時計の鳴る音がする。そう彼は目が覚めたのだ。
今日の昼にはこんな夢忘れているだろうな…などとぼんやりと思考を動かしながら彼は支度し家を出る。

32/2:2016/10/11(火) 18:42:29 ID:SdAaggvs
「……」
彼の名前こそ吠與驚異。彼のことを多く知る者はいなかったが、彼もまた他人の多くは知らなかった。
取り留めもない物思いに耽りながら歩を進める。なんてことはない此処に書く必要もないようなことだ。
進み続けていると唐突な爆音がし、アスファルトを思い切り踏みつけつつ足を止める。赤信号を伴った道路とその上を走る自動車の音であった。
彼はひかれてはたまらないと思い目の前の道路に意識を向ける。
「赦されてェ…」
彼は自分に言い聞かせるように呟き、そのまま赤が青になるのを大人しく待っていた。

4あの男:2016/10/11(火) 22:03:21 ID:PtaTtfeQ
――――なんてことない日常。ただの日常だった。

そんなもの、たった今、目前の「一撃」がその全てを屠った。
そういえばそうだったな。日常なんてほんの些細な一突きで形状を維持できない。酷く脆くて、そう、

「儚い」

と、聞き覚えのある声が、空気を押しのけてやってきた様に吠與は知覚したが、それもまた儚い。吠與は目の前の災禍に躰を屈め、冀わくは『奇蹟』様が死神(あのやろう)の邂逅を阻止給わらんことに必死で、とにかく必死なのだ。

(もうお終いだッ!! 助けッ…)

静止。吠與は周囲がセメントのように凝固したのを感じた。死の直前の所謂走馬灯か、智覚五感に潜伏している拡張機能の覚醒か。
いや、どちらにしても吠與の命は無いだろう。諦念(レジグナチオン)という終わりが全身を覆い尽し、アスファルトに臥すのみ。
――否、どれにも該当しない…!? 正に奇蹟様の気紛れか。それにしても一体どういうことだろうか、本当に世界は『動力を殺害されている』。

「…全く、本当に此処は三千世界(そうぞう)しいな」

頭上。人声?

「あっ」

同時期、世界は自転を赦された。即ち、動。
気になる吠與はと言うと、青光の信号機を背に、堂々と…聳立!

(あれ…俺、生きて居る。渡れたのか、いつの間に!?)

トン。左肩に重量。

「よォ、吠與」
「アッ、田丸君…」

吠與、脳の残念な処理能力が事態の呑み込みにノーを突き付けて居る。結局、何も起こらなかった。それが解で在って、それ以上は理解からぬ。理解ったところでどうすることも出来ないし、「関わるなかれ(ノータッチ・デプロイメント)」の信号の多さが、彼の大脳を説明するに十分だ。それで良い。


――――なんてことない日常。ただの日常だった。頼む、そうであってくれ。

5あの男:2016/10/11(火) 22:04:01 ID:PtaTtfeQ
改行多いと省略されるな。反省。

61/4:2016/11/01(火) 18:36:00 ID:7JBQaiw6
「田丸…君、これは、一体…?」
非日常への疑問が絶えることなく湧きあがり、
大脳新皮質が軋みシナプスが狼狽する。

「質問は…後だ」
少年は構える。左腕を引き半身で向かい合う。


「僕だよッォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」

言語と形容するには余りにも粗暴で乱雑な音が何者かから発せられ、
と、同時「田丸」と呼ばれた少年に襲い掛かる。

72/4:2016/11/01(火) 18:36:52 ID:7JBQaiw6

「三下(わずらわ)しいンだよォッ!!愚物がァ!」

単純に掌底を殴打(ぶっこ)む。

衝撃、瞬間、

化物の皮下から虹色の光が発せられ、巫山戯たランタンのように周りを出鱈目に照らす。
一通り色の洪水が起こると、やはり塵は塵に、そこには何事も残らなかった。


「…田丸…君、あれは…なに…?」
辛うじて吠與は再度尋ねる。

83/4:2016/11/01(火) 18:39:21 ID:7JBQaiw6

『人類識別番号計画』

「えっ…」

「星はあるべき場所に、大陸はあるべき場所に、国はあるべき場所に、そして「人」もあるべき場所に
あらゆる物質を構成する素粒子に至るまで全てに番号を付け座標を固定する。それが人類識別番号計画だ」

「さっきの奴は…そうだな、計画実行のための兵隊であり、計画者の偽物(イミテーション)だ。
行き成りこんなこと話したって俄かに信じがてえとは思うがよ」

田丸は言葉を探しながら話を続ける。

「大方、固定の前段階の動力殺害を俺に邪魔されたから排除しに来たんだろうな。
まぁ偽物はあの程度の強さだ。殴りゃ死ぬ。倣ってオリジナルも大したこたァねぇと思うがね」
カラカラッと笑い彼は笑顔を見せる。

94/4:2016/11/01(火) 18:40:00 ID:7JBQaiw6
吠與は聞きなれない単語、全く未知の流れ、現在あらゆる事由を理解したくなかったがこれだけは口をついて出た。

「狂ってる…」

自分が認識している現実との乖離に思わず呻く。

「そう狂ってる、俺達の物差で測ればな。だがな物差じゃあ化物は切れねェし殺せねェ」

「吠與」
田丸が向き直る。

「お前が此処に居合わせたことも何かのあやかもしれねェ」
「近いうち…また会うかもな」

彼はどこか愉快そうに背中を向け去って行った。

101/3:2016/12/02(金) 01:59:34 ID:CPfLuebI
夜。自室にて吠與在り。
静かなる夜(こと)、迚もかくても豎子与に謀るに足らずに落ち。脳髄たるや曾てなく冴え冴えと懊悩せしめん。

「朝のアレは夢ということか?」

吠與の曰くは今朝の奇怪な出来事が猶猶悩ましいという嘆きだ。
而して「アレ」と代名詞(あらわ)す以外は実に凡夫窮まりない日常であったが故、その異質さが何より際立つ。

「本当(げ)に、虚像(ゆめ)か?」

「!?」

正に意表。知覚外からの奇襲。背後、その影在り。
吠與が振り向くと、そこに居たのは中華三昧(チャイナ)った装飾を凝らした武装兵隊が顕現していた。

112/3:2016/12/02(金) 01:59:51 ID:CPfLuebI
「天地万物逆旅(たしかめた)くはないか? 色相世界(ほんもの)か、魚目燕石(にせもの)か」

「ど、何方様で」

「識別番号(ナンバー)、739(ナサク)。格物致知(ドゥユアンダスタン)?」

「ナン…バー!?」

「唉(ああ)、傭兵部隊(ならずもの)だ」

「ヒッ」

吠與は身構える。

「まあ寝待月(ま)て。俺はお前の楚歌(てき)ではない。硝煙弾雨(あらそ)おうなんて気は更更皆無だ」

相変わらず吠與と言う男は疑問符を頭上に浮かべることしか出来ず、立ち尽くすだけだ。

「俺は過去、『彼奴ら』に識別番号を生殺与奪(あたえ)られた。だが、動力殺害(ファーストフェイズ)終了直前にある人に助けられた」

「…! それってまさか…」

123/3:2016/12/02(金) 02:00:23 ID:CPfLuebI
「唉、俺はお前と貉(おな)じ、欠陥座標(アントポス)だ。マルマルには感謝している。此処に来たのも同じ境遇の奴がいるとマルマルから聞いてやって来た」

「アン…トポス? いや、それよりマルマルって、ひょっとして田丸君のこと!?」

「そうだ。田丸丸夫はマルマルと呼称(よば)れている」

(田丸君って一体何者なんだ…)

「閑話休題(ところで)、俺が来たのは他でもない。お前に頼み事があって此処へ来た」

誰しもこの状況で頼み事と聞いて苦艱を推し量らぬ者は居ない事と同じくして吠與少年の顔面は一気に険しくなる。

「俺は、お前の座標能力(トポロジー)に全てを乾坤一擲(か)けた。だから…共に跳梁跋扈(たたか)ってくれ」


――ああ、これは悲劇の幕開けだ。

13『修行!?吠與、非日常(かけぬけ)る』  1/3:2017/02/15(水) 17:57:13 ID:ECavktlo
月。爛々と望月(かがや)くなか声(オト)響く。

「修行ぉ〜!?」

「確固不抜(そう)だ」 

頓狂に響く吠與に739(ナサク)は眉一つ動かさずに応答する。

「今天(いま)、一つの囲局(てん)を除いて俺とお前は貉(おな)じ。百世不磨(めざ)めているか、夢幻泡影(めざ)めていないかだ」

「つまり、だ 唉、お前には四書五経(まな)んでもらう。力を。そしてその打(つかいかた)を」

「それで…修行と」

14 2/3:2017/02/15(水) 18:01:20 ID:ECavktlo
「即是(これから)とある場所へ直往(い)き修行をしてもらう」

「時は疾走い。猶予はまだ幾許かはあるがやはり烏兎匆匆(もったい)ない。急げ吠」

一方的に言い放ち且つ準備を迫る。動揺はしているものの少しづつ飲み込んでいく。斯様な理不尽にも幾分は慣れたか。

必要…と思われるものをまとめ、鞄に押し込む。

「これならば羮に懲りて膾を吹く(昼には着く)。マルマルも向っているはずだ」

リンと冷える空気の中、変わり者二人が並ぶ。急ぐ様子で闇夜へと歩を進めた。


――時は移り 朝、学校にてホームルーム。少々ざわつく教室に出席をとる声がする。

15 3/3:2017/02/15(水) 18:02:25 ID:ECavktlo
「〜良知君、礼場君、和井田君。以上出席を取り終えます」

「欠席は二名。吠與君と田丸君ですか。よくない、これはよくないですねぇ」
 
「連絡は特になし。単なる遅刻ならいいのですがもしなにか事故に巻き込まれていたら…」

「もし二人の欠席についてなにか知っている人がいれば私のところへ来てください。」

と教師であろう男はホームルームを締め号令をかける。

(にしても…田丸君はともかく吠與君も無断欠席ですか…)

(どちらとも両親は不在。一体どこに連絡したらいいのやら)

(この良くない状況、あえて謂うなれば、“バッドガイ“といったところでしょうかねぇ…)

16『激闘!ナイスガイ先生VSオンドルーン』 1/6:2017/04/08(土) 22:17:06 ID:1A7paGIo
朝、陽光刺眼の天日たるや、天地を押し照りて蛙を渇かす。
井蛙、未だ深黒晦冥にして、その顛末(ひかり)の一端を窺見ること能はず。

「手前先生、いらっしゃいますか」

彼はナイスガイ。ナイスガイ先生と呼称(よ)ばれている。

「オウ、どうした?」

彼は手前先生。テメ先と呼称(よ)ばれている。

「私のクラスなんですが、次のHRの時間、頼んでもよろしいですか?
 少し『急用』ができてしまいましてねぇ」

「分かった。俺に任せろッ」

「ええ、すみません。頼みましたよ」

(さて、どうしたものか…私の予想(バッドガイ)が外れていれば良いのですがね…)

予想 (バッドガイ) 、とは即ち対面(てき)との交戦。ナイスガイはその天命を識っている。
生徒の居場所は皆目見当も付かぬが、徒ならぬ胸の騒めきが彼の足取りを一層疾走(はや)める。

「ん? 彼らは…」

172/6:2017/04/08(土) 22:17:51 ID:1A7paGIo
二人、居た。
それは確かに見覚えのあるカタチをしている。探していた生徒だ。
ナイスガイは心なしか疑雲に覆われながらも一先ず安堵した。

「途端に絶妙なタイミングで姿を現す。なんたって私はナイスガイですからッ!
 君達、こんなところで何をして居…」

「僕だよッーーーー!!!!」

「!?」

奇声と共に確かに生徒であったカタチから、忽ち奇怪な化け物(オデュ獣)へと変貌を遂げた。

「君は→ココッ←!!!!」

怒号(ドゴォ)!
突然(いかり)の拳(フィスト)。化け物(オデュ獣)の何たるや正に座標を固定せんとする拳(ぶっこみ)だ。
正に顔面消失の絶命直前、ナイスガイは緊急回避(バックステップ)により難を逃れる。

「吠(ほう)、なるほど! トラップですかッ
 詳しい事情は分かりませんが、生徒の身に危険が迫ろうと言うのならば…
 貴方には相応しい『報復』を受けて頂きましょうッ」

『報復』。それが意味するものとは、詠…唱?
否、その名は――社会構築。

「右に茜鳳蝶 左に黒鶫 桜花絢爛の宴 陽台の夢にて麗しく踊れ
 ――骸架の三十九『鳳蝶桜蘭幕』」

馬鹿轟音(バゴオォン)!
怒り、狂い、爆ぜる、暴君。愍然たる血潮は舞散り、塵芥諸共麗しく桜吹雪の様だという。
俗世の民衆共なれば死屍累々必至の惨たらしい煙幕。濛々と立ち籠める黒煙の中で影が一人、浮かぶ。
――無傷。全くの無傷だ。

183/6:2017/04/08(土) 22:18:22 ID:1A7paGIo
「オモシロッ オモシロッ」

カラカラッと朽ち果てた嗤いが耳朶を貪る。

「なるほど、子供騙し(トリックスター)程度では意味すら持たない、と。
 では、これでどうでしょうッ! ――骸架の五十二『膅中粉骨万力』」

構築破棄(インスタント・コンストラクション)だ!
念力による握撃で、身体内部の臓物全てを握り潰す凶悪な打(いちげき)!
人は内臓を鍛えられない。即ち、大ダメージといった単純明快且つ絶対真理の超必殺。
その上、だ。
あの骸架構築なしの上級構築術式を魅せつける程、彼の実力が相当なものである事は当然の帰結。
打(これ)を顔面(まとも)に喰らって耐えられるはずが――否、無傷。

「ダメだよッーーーー!!!!」

「!! …これは、中々に強敵(てごわ)いようですねぇッ」

途端、虚を穿つ両手刀がナイスガイに驀進(ストレート)。両肩に打(ダークネス)。

「ファックス」

「がああああああああああッ!!」

両腕切断。四肢中二肢大破。確死級致命傷。
号哭と共に血飛沫が目紛しく風景共々朱く染め上げる。

「ん゛んッ! セカイ獲得れるッ! 君の座標は…これだよッー!」

ナイスガイに成す暴(すべ)は無い。捥がれた両腕を口に穿孔(ぶっこ)まれる。
窒息死。失血死。ショック死。ナイスガイをバッドダイに仕上げていくには十分な程度だ。
だが、未だ眼は死んでいなかった。如何せん、それも乎(また)夢の中の夢か。
既に動力殺害の真っ只中では、ただ『座標』あるのみ。

(躰が言うことを聞かない!? 何故ですッ!
 ナイスガイは絶対に屈することはありませんッ…絶対に…!!)

194/6:2017/04/08(土) 22:18:37 ID:1A7paGIo
刹、目前に顕現ったのは、黒。
ただひたすらに黒い。死を具現化したと例えれば実(げ)にそうである。

「あ、貴方は…!?」

『情けない…骸架の称を佩く者が無様な五臓六腑(すがた)を曝すとは。
 …さて、Q(クエスチョン)、だ。目前の怪物に対して勝機は在るだろうか?』

『否』

『冥府行。』

咄(ズォン)。

「待ッ…!」

底の見えぬ断頭台(やいば)が天(点)を、断(たつ)。

死(ぶっぱ)。

良く似ている。薄気味悪く笑う斬首の鳴動は冥界の烏に。
悲痛な哀哭が虚しみを帯びて谺する深淵の先、彼は何を見た?
而して、それは咆吼を嘯きながら迫りくる黒(おわり)に対面(であ)った時のことであった。

ナイスガイ

ああ、ナイスガイ

ナイスガイ

辞世の句である。
直後(のち)、絶命に歿した。

205/6:2017/04/08(土) 22:18:55 ID:1A7paGIo
「どうだ? 手羽先ウィルスが効いてきただろうう? んんッ??
 アッ!? 死ン者った! 儚いッ! 人間儚いッ! …………何故?」

小刻みに震え出す。化け物(オデュ獣)とは、正に瞋恚の化身と云う異だ。
況や、狂気なる科学者(クリミナル・ウィザード)をや。

「否、そんなはずは無い。『儚いッ!』俺の見込んだ座標が
 『ニンゲン儚いよねッー!!』ウィルスに耐えられぬはずが無い。
 『雑草ッ!』奇妙(おか)しい。『ニンゲンってさぁッー!』第三者の介入か?
 『儚いよねッー!!』……本当は殺したくなかった。」

静かなる忿怒に躰を委ね、あの出鱈目な虹色を垂れ流し乍ら、風景を穿ち尽くして居る。
そして、愚弄者(ポリュフェモス)の如く同化(とけだ)した。
暫しの虚、顛末をじっと観測した黒(もの)はこう告げた。

『案ずるな。じき慣れる。骸架同胞よ。
 ――全ては一の為に、一は一の為に。
 “ジ・アブソーブ“』

死神装束《すなわち、エンジェルの対極に立つ》った者は、一齣の暗に消ゆ。

216/6:2017/04/08(土) 22:19:07 ID:1A7paGIo
――僻地(は)て。荒野に二人、居る。
彼らは無作為な風と共に無自覚に転がり続けて居る雑草がタンブル・ウィードと呼称ばれていることに気付いて居るか?
否、二人は既に修行のスタートラインに到着して、居た。

「彼方前方に拱手傍観(み)えるミナミア山脈を千キロ。唯我独尊(ただひたすら)に、僑軍孤進(はし)れ。」

「出来るわけないだろッ」

「焉んぞ来者の今に如かざるを知らんや(そのうち出来る)。維摩一黙(だま)って不撓不屈(や)れ、吠」

嗚呼、吠與の曰く何たる苦艱か!
一方、砂煙より先ほどから二人に近づく者在り。
その影は既にカタチを成し、視認できるまでに接近して居た。

「オウ、早速やってンじゃねェか。まずはテメーの座標能力(トポロジー)を調べねェと何も始まンねェからな」

「田丸君!?」

22あの男:2017/04/09(日) 20:47:31 ID:1YuXUjoc
6レスに分けたが、一部省略されてしまった
読みにくくてすまん

今更だが改めて読み返すと1話と2話が全く繋がってなくて草
俺はてっきり車に轢かれる展開だと勘違いしたんだろうな

23感想男:2017/04/10(月) 01:09:34 ID:WquDMpNk
たまたま携帯で見てたから省略が無効化されとったぞい
にしても大作だった 個人的には →ココッ← とか 打(ダークネス) とか 死(ぶっぱ) がかなり好き
8年ごしくらいに実際にファックスが打たれてるのも感動した
タンブルウィードの概念が刻まれているのも面白かった

24あっ繋がってる:2017/04/10(月) 01:12:03 ID:WquDMpNk
接合部に関してはアバウトでいいんじゃないかな それも一つの考えだ

25オンドルーンの本を読ませてあげる:2017/04/10(月) 20:16:02 ID:3FuxfX3.
こんなに長くなる予定はなかったんだがな
ナイスガイの死はオデュ史上あまりにも名シーン過ぎるので長くなってしまった

打(つかいかた)の汎用性の高さに喉を鳴らしざるを得なかった
個人的には何処にでも使える

次は貴様(あなた)だ…

26『行軍!?吠與赴く』:2017/10/22(日) 13:52:19 ID:1lWf0TaA
修行とはなにか…?


 魂を鍛える行い…


それすなわち尊きもの…


引用『歌劇"閃光"序幕:ピカの語り』より

271/8:2017/10/22(日) 13:53:21 ID:1lWf0TaA
ミナミア山脈に連なる男、吠與在り。現在この雪山に約25.5cmのスタンプを押そうと試みているのは吠與のみである。
友待つ雪――夏季に溶けられず残滓(のこ)った硬雪をトマトを踏み潰すが如く足で砕きながら吠與は行軍する。
彼の引く橇(そり)もまたゆるりと彼を追いかける。

「ン゛ッ」

薄霧の中から突然の怨(ボイス)、いい加減慣れたか吠與驚異。
出会っちまった災難(ハードラック)に凍った鼻毛を抜きつつ振り向く不遜(ロマン)で応える。

「ダメだよッーーーー!!!!」

「Mephistopheles(やかま)しい!」

欲望を満たさせることなく希望を奪うことしかできない出来損ないの悪魔へ裏拳を打(ダークナイト"神砕き")。

282/8:2017/10/22(日) 13:53:51 ID:1lWf0TaA

「モン゛…ンン゛ッ…」

「500キロ追加だッ!」

躯(カタチ)を現世に留めようとしている化物へ追撃の橇を俯瞰(うえ)から鉄槌(ぶっこ)む。爆音、雪煙が上がる。
重力的加速――地球から直輸入された暴力装置を存分に振るい、潰す。化物にとって今日は少々重力が強かったか。
雪煙が晴れるのを待ったのち橇の上で吠與は黙々と食料を補給する。
行軍を続けるためにはエネルギーがいる。そのため人体に存在する孤島、ランゲルハンスは体躯に活力を込めようとαへ伺いを立てる。

これが彼の狂(クルイ)、ホリックだ。朝も夜も無い螺旋の時間が 永劫に近い刻、繰り返す。
閑話休題(で)、だ ホー(苦艱を乗り越えんとする者に対する敬称)人物吠與が如何様にして此処に立つか?


時は遡る

293/8:2017/10/22(日) 13:54:40 ID:1lWf0TaA
――ミナミア山脈 Odysseaレーススタート地点


739(ナサク)の提示に呆然としている吠與にマルマルは言葉をかける。 

「安心しろ、お前は初級(ローテック)だ」

三つの橇(そり)をマルマルは持ってきていた。

「本来は橇を背負ってもらうがお前はロープか何かで引いてもいい」

「だが橇は壊すなよ。ぶッ壊しちまったらこの修行の意味がねェからな」

304/8:2017/10/22(日) 13:55:16 ID:1lWf0TaA
「は…」「アアそれと、だ」

焦る吠與の言葉を遮りマルマルは続ける。

「食料や水分、装備なんかの持ち込みもお前はOKだ。橇の上の保温箱に物資を乗せていくといい。箱開けッ放しにして迂闊に凍らすんじゃねェぞ」

「基本的に一本道だから迷うことはねェとは思うがもし迷ったら危険そうな、困難そうな方へ行け。大体そっちが正解だ」

「田丸君達は…?」

「俺と739は先に行ってゴールで待ってるぜ。一応レースだからな」

「ンじゃ・・・・流れ解散だ。吠與、死ぬなよ」

「吠、柳の下にいつもDS(でうす)はいない。気を戒驕戒躁(ひきしめ)ろ」

315/8:2017/10/22(日) 13:55:37 ID:1lWf0TaA
そう言葉を残し2名は彼方へと消えていった。
呆然と現状を確認する吠與。マルマル達の言葉が無作為に頭を廻っていた。

「逃げッ―」吐きかけた言葉を飲み込む。
この時点で吠與の思考は戻りつつあった。此処から逃げたところで何もない。襲い掛かってくる化物への対抗手段を得なくてはならない。
田丸君や739は守ってはくれるだろうが片時も離れず常に守ってもらうことなんてできない。
この修行と呼べるかわからない程無茶苦茶なことをすれば力を得られるのではないか…非日常への対抗策は非日常の中でしか得ることはできない。
吠與は腹を決め近くの山小屋へ向かい装備を整え始めた。夜明け前には装備を揃え終わり橇に積み、スタートラインに立つ。そして出発する。
吠與の修行が始まった。
日の入りの少し前なので周辺ははまだ薄暗い。しばらく歩いていたら日の入り、辺りに光が満ちる。

「――光だ!!」

周囲の雪に朝日が反射し今までにないほど壮麗な景色が浮かび上り、大きな感動に吠與は声を上げる。

326/8:2017/10/22(日) 13:56:12 ID:1lWf0TaA
「僕だよぉーッ!!!!!!!」

これは世の摂理か。

狂気なる科学者(クリミナル・ウィザード)の大義(エスノセントリズム)から生み出された偽物(イミテーション)が
反乱分子である吠與を排除するため強襲(おそいかか)る。

「ッ!!!!」

接敵。吠與は怯えながらも橇に積んである武器でもたつきながら臨戦態勢をとる。
俄か知識、山小屋で説明書を読んだだけという余りにも浅瀬でチャプついている武器素人(ニュービー)の吠與でも流石に引き金を引けば
弾丸が何とかしてくれることぐらいは分かる。
対応が遅れたのが幸いしたのか十分に引きつけることができ、イズマッシュのスマッシュ(12ゲージ)がぶち込まれ銃声が三千世界(なりひび)く。

337/8:2017/10/22(日) 13:56:47 ID:1lWf0TaA
「ン゛ッ!」

動きを止められふらつく。吠與は弾丸が抉った化物の傷にやけくそ気味に手榴弾を投げ込んだ。

ズグッ(吠與驚異的命中音)。

デッドボール。爆発する魔球だ。

直後爆発し化物は粉微塵になる。大撤退するが間に合わず衝撃に備えきれていない吠與も吹っ飛ばされた。

348/8:2017/10/22(日) 13:57:20 ID:1lWf0TaA
「何とかなったか…」

武器を用いる。人類を地球(ほし)の頂点に押し上げた要素はやはり何時であれTierが高い。
しかし忘れてはいけない。武器はこの場においては有限だ。いずれは肉体のみで相対しなければならない。
1000kmを踏破する中でその瞬間は確実に来る。吠與はどんな戦場が待っているのか恐怖を深めながらゴールへと橇を引き始めた。


私窩子乍(しかしながら)、だ。2521時間後(吠與の体感時間。実際は5日間程か)彼は戦闘狂(ワーカーホリック)の領域に身を掠らせることになる。

35メフィストフェレスはやかましかった…?:2017/10/22(日) 14:52:34 ID:ts92uVn6
三千大千世界(おもしれ)え…ッ
「重力が強かった」「ホー」「DS(でうす)」等の古文書の概念が刻まれているのがまた良い
イズマッシュのスマッシュ技がありなむ事から吠は遠距離型に地を固めるのだろうか
サイガ12S EXP-01――法執行機関向け――制裁、打(つかって)け。
こっから吠が徐々に覚醒していく展開になるのか、見ものであった
世は満悦した

36感想男:2017/10/22(日) 22:51:55 ID:1lWf0TaA
書くために久しぶりにwikiとか林檎とか見て面白かった
オデュ文は書いてて愉しい

37『決戦!マルマルVS偽物(イミテーション)』 1/11:2017/12/30(土) 16:32:47 ID:3kc0akF.
頂とは、常に一つしかなく。
青年マルマルは、そこに誰も居ないことを確認し、歓喜の第一声を挙げた。

「ッシャッ、非想非非想天(いちばん)乗りだッ」

踏(サクッ)。
次いで、また一つ、雪に烙印を捺すものが現した。
実(げ)に最鈍(おも)そうな中華三昧(よろい)を表皮とする二等兵。名は739(ナサク)。

「ほう、マルマル、今回はお前の初転法輪(か)ちだ」

「よお、俺はたった今到達したばかりだ。だが勝ちは頂いたっ」

マルマルは、前回覇者の傭兵にニヤリと煽りを加え立てる。

「よもや二河白道(みち)は違えど此処まで接戦になるとはな」

382/11:2017/12/30(土) 16:33:08 ID:3kc0akF.
…それにしても、静かだ!!
ミナミアの非想非非想天(てっぺん)は静を纏い、澱みなき青が全てある。
――否。

パァアン…

「…! 西方浄土(にしのほうがく)にて約186.41 マイル…恐らく声(じゅうせい)だ」

実(げ)に幾許か、微かな空気の震え。
それは、聞くに堪えない悍ましき憎悪の雄叫びに等しい。
奇しくも、その異変を先に感知したのは739(ナサク)のほうである。

「まさか、吠與(あいつ)か!?」

マルマルの顔面は、見る見るうちに焦燥へとカタチを歪ませる。

「回向発願心(む)かうぞ、マルマルッ」

「ああッ」

393/11:2017/12/30(土) 16:33:24 ID:3kc0akF.
(頼む、耐えていてくれ…ッ!)

『嫌な予感』ほど必中(ガー不)なものはないだろう。
最早、苦虫は幾度となく彼らの奥歯で噛み潰されることに異議を唱えないでいる。
そうして彼らも騙し騙し生き長らえてきたのだ。
戦場の歴。今はそれだけがこの地を這う足を運ぶ動機そのものになっていた。

その一方、吠の名を馳せる少年は金輪際訪れないであろう窮地に立たされていた。

「ンッ、ニンゲンッ」

偽物(イミテーション)だ。
おおよそ44時間前から視界から消えることはなく、生と死を繰り返す、永劫。
そんな異常が、彼に影響を及ぼさないはずがなかった。
吠與は、ほとんど狂っていた。

404/11:2017/12/30(土) 16:34:05 ID:3kc0akF.
「いい加減しつけぇッ」

迅雷放銃(イナズマッシュ)ッ!
横殴りの大弾雨がニセモンを一気通貫(バコ)ついている。
静止(生死)不能。手を緩めれば、死ぬ。必ず死ぬ。
意識が朦朧とする最中、ただただ「セイ」を繋ぎ止めることだけをやっている。
否、『やってのけている』。

「まだまだッ」

「ンッニンゲンッアッ死ン者っニンゲンッアッ死ン者ニンゲンッアッ死ニンッアッ」

絶えることのない死体(イミテーション)とあの虹色(でたらめ)の応酬により、
辺りは既に丸五日夜が明けていない。要するに、光だ。
ふと、吠與は他愛のない過去を思い出していた。

415/11:2017/12/30(土) 16:34:24 ID:3kc0akF.
トリシネート 36%、テトラセン 3%、硝酸バリウム 40%、硫化アンチモン11%、カルシウムシリコン10%

おじさんは、毎日毎日同じ言葉を、まだ幼い吠與に向かって話しかけていた。
吠與はその1%も理解ができなかった。
そういや、あのおじさんは誰だったか。火薬臭くてあまり好きではなかった。
――雷管は好きか? おじさんは吠與に問いかけた。
やっぱセンターファイア式は火力が違うね。あの焦げ付いた手の痺れが良いんだよ。
ほお、キョイも興味があるのか。ほれ、撃ってみろ。愉しいぞ、きっと。

パァンパァン――

リン化水素の悪臭と度し難き死の閃光に躰を委ねる少年は一人、浮かぶ。

「はは…」

笑…?

「はは、愉、しい」

それは、吠與が邂逅(めざ)めた一つの感情だった。

426/11:2017/12/30(土) 16:34:56 ID:3kc0akF.
「僕だよッーーーー!!!!」

突如、背後から化物が顕現する。
既に襤褸雑巾の如く疲弊しきった吠與は、振り向くことすら出来ず。

(後ろにも居ンのかよッ…クソ、避けらン…ねェッ!)

死(ぶっぱ)、来ますッ! 残り2センチッ!

「吠與ゥッ!」

間一髪、咆号諸共ぶっ込みを加える。
贋物(イミテーション)は耐えられるはずもなく、途端に灰燼と化す。

「田丸君!?」

437/11:2017/12/30(土) 16:35:16 ID:3kc0akF.
「危ねェところだったぜ。ケガは無ェか吠與」

「ああ、なんとか…でも、どうしてここが…」

「唉、声がしたのだ。吠の危機が迫っているのを感じた」

「お前ら…ありがとう。おかげで俺は」

「俺は」の次の言葉を発しようとした吠與は、
その手に持つ武器がとうの昔に玩具以下の鉄の塊であったことに気が付いた。
ではあの銃弾は一体何処から――?

「僕だよッーーーー!!!!」

またしても狂科学者の咆哮。

「しつけェ野郎だなァおい!」

448/11:2017/12/30(土) 16:35:36 ID:3kc0akF.
「マルマル、全力の、打、だ。你明白了吗(Understanded)?」

「完全把握(わー)ってる! 往くぞッ! 喰ゥらいなァッ! 『速拳(ラピッドファイア)』!」

最速い。
凡そ第三宇宙速度の拳と言えば理解が早いか。
火を見るよりも明らかに火を纏う。それが、マルマルの『打(こぶし)』。
故に必中。

「駄目だよッーーーー!!!!」

否、回避完了。

「避ッ!? そんなはずが…ッ!」

こいつ、明らかに以前より「成長している」。
マルマルは確信と同時に強烈な不快感を催した。

(貉じ打は通用(とお)らねェってか!?)

459/11:2017/12/30(土) 16:36:08 ID:3kc0akF.
「咄(チッ)、乾屎橛(クソ)がッ もう一段、火力上げるしかねェッ」

「骸架の五十二――」

(詠…唱…? 十六面楚歌(まず)い、何か、来航(く)るッ!)

739の確証的、気付き。

「流觴曲水(かわ)せ、マルマルッ」

「『膅中粉骨万

「ウッ千世界(セ)ェッ!!」

マルマル怒涛の疾風殴打。
化物(でたらめ)の顔面に掌底がメリメリと込み入る。

4610/11:2017/12/30(土) 16:36:24 ID:3kc0akF.
「んッ 消えるッ!…アッ、僕じゃないッーー!!!!」

消滅。即ち偽物が偽物と認識(わか)ったという気付き、だ。
そして、あの出鱈目な虹色を糞尿の如く撒き散らし、死んだ。

「…やった、やったよ田丸君! あいつを退けたぞ!」

「ああ、所詮は偽物(イミテーション) だ。
 ちッとばかし殴打ればこんな雑…魚ッ! ゴバッ」

途端、マルマルの口から老婆のトマトが如く血潮が吐瀉物(ふきで)る。
恐らくは五臓六腑(なかみ)を恐ろしく天上天下(シャカ)つかせたのだろう。

「た、田丸君ッ!?」

倒れこむマルマルを、ボロ雑巾同様の躰を無理矢理ねじ込ませ、なんとか持ち抱える。
その間も、ドクドクと血流が大袈裟に流れ落ちる。
そのあまりの現実に、吠與は既に自責の念で潰れかかっていた。

4711/11:2017/12/30(土) 16:36:43 ID:3kc0akF.
「すまねぇ…しくじッ…ちまッ…た…」

「田…丸…クソッ、マルマルゥッーーーー!!」

「吠! 光風霽月(おちつ)け。まだマルマルは救世闡提(たす)かる」

「けどッ、こんな状態じゃあマルマルは、死っ…」

致死量の赤は辺り一面を拡張し続けている。

「吠、修行は中止だ。 俺に蒼蠅驥尾に付して千里を致す(ついてこ)い」

「ついて来いったって、何処に」

「名医が居る。俺はその街を大図書館(し)っている」



「西へ約310.69 マイル。水都、”ウェストボートブリッジ”」

48苦虫は潰される、潰され続ける:2017/12/31(日) 01:08:13 ID:UwVNM4oA
迅ッ! 4から10まで至ったか…
マルマルの ウッ千世界(セ)ェッ!!と 喰ゥらいなァッ! の小さい ゥ と 完全把握(わー)ってる!が特に好き
吠與は最早普通に戦力(つよ)く育ったな 偽ドルーンも成長しているのが面白かった

49『邂逅!?病院にて』1/12:2018/08/25(土) 02:34:17 ID:NOO5v3Qk
――水都、“ウェストボートブリッジ” 北東区画・海神Ⅵ 中央病院

本塔401号室、マルマルの体は静かにベッドの上に横たわっていた。

「田丸君…ごめん僕のせいで…」

吠與は呟く。そこには戦闘中の鬼気迫るホリキシカルな姿はなく、容易く毟り取られてしまう雑草のようにくたびれた少年がいた。

不意に扉が開き、閉じた部屋に空気が入る。

「回々(もど)ったぞ、吠」

「あっ…」

739(ナサク)がするりと病室に入ってくる。

502/12:2018/08/25(土) 02:35:35 ID:NOO5v3Qk
「医者は…なんて、マルマルは助かるの!?」

「光風霽月(おちつ)け。まずはそれでも足食(くっ)ていろ」

鮸膠(にべ)も無く言い、739は売店で買ったであろう焼き菓子の入った袋を吠與へ押し付けた。

「で、だ マルマルの状態についてだが、医者に任せておけば間違いなく救世闡提(たす)かる。
 そんなに心配するな、マルマルは渇しても盗泉の水を飲まず(きじょう)だ。常人とはくぐった修羅場の数が違う」

739は自信があるようだ。確信を含めた表情で吠與に語る。

「是个(それにしても)…」

「この程度で済んで幸いだった、最近敵方の襲撃続きで空空漠漠(いそが)しかったとはいえ変わらず静功の鍛錬は万古不易(つづ)けているようだな」

513/12:2018/08/25(土) 02:36:39 ID:NOO5v3Qk
「この程度って…」

吠與は驚きだろうか、焦燥だろうか、はたまたあきらめだろうか、複雑な表情を浮かべ739の方を見た

「この程度だろうとも。もしお前に打(あ)たっていたら臓腑がジュースになった後全身が弾け飛んでいたぞ」

「吠、確かにお前は先の修行で以前とは比べ物にならないくらい強くなった。
私窩子乍(しかしながら)、だ あくまでこの修行は初歩に過ぎない
一字不説(ほんのさわり)だ。己のために四書五経(まな)ぶこと連なる山の如くに有る」

吠與は自らの苦艱ゲージが高まる様を口内の苦虫と共に眺めていた。
と同時にマルマルの打たれ強さについては気になっていた。常人が弾け飛ぶ一撃、一体どのように耐えて見せたのだろうか。

524/12:2018/08/25(土) 02:37:48 ID:NOO5v3Qk
そんな吠與の様子を見て739が口を開く

「『獅子転球』、静功における奇経八脈の一つ、衝脈。それを利用した防御技術らしい。
仔細はアイツが元気になったら提耳(き)くといい、流星光底長蛇(いいきかい)だ」

「…そうしてみる」

沈黙が流れる。吠與はこの間にでもマルマルが起き上がりいつものやかましい声を聞かせてくれはしないだろうかと思っていた。

「こうしていても夜に影を探すようなもの(きがめいる)だけだ。マルマルは俺が見ている、外に出て気分転換でもしてこい」

739に促されるままにフラフラと立ち上がり吠與は病室の外に出る。ここにいると罪悪感で押しつぶされるような感覚に陥るからであろうか。

535/12:2018/08/25(土) 02:38:23 ID:NOO5v3Qk
水都、“ウェストボートブリッジ”

水の都と言う名の通り海沿いに位置しておりまた河川も多く存在する。豊かな海の幸と河川を利用した水上庭園、

それらの活躍により国内有数の観光都市として人々に記憶されている。

ウェストボートブリッジ内でも最大の規模である中央病院では患者の精神的健康の向上のため敷地中に大規模な水上庭園を有していた。

吠與の足も多くの人と同様に壮麗な水上庭園へと自然に引き寄せられていた。

吠與は芝生に座り込みそれを眺める。噴水がおこすキラキラとしたしぶきと植えられている花々の芳香が吠與を迎えていた。

546/12:2018/08/25(土) 02:39:39 ID:NOO5v3Qk
「やぁまた会いましたね」

ふと声を掛けられる。視線を向けると杖をついた白髪の老人がそこに佇んでいた。

まるで見たことのない顔、聞いたことのない声だった。

「失礼ですが人違いではないですか…?」

誰だ?吠與は困惑しつつ老人の顔を見ながらもう一度自分の記憶の中で探していた。老人は見事な白髪、眉やひげまで真っ白だった。

「人違い?いやはやお恥ずかしい…年は取りたくないものですな。ところで吠與さん 此処、水都に来るのは初めてですかな?」

「え、ええ…まぁ」

557/12:2018/08/25(土) 02:40:45 ID:NOO5v3Qk
「ウェストボートブリッジにようこそチョップ」

「は?」

馬鹿轟音(バゴオォン)!

噴水が真っ二つに両断された音だ!周りに大理石の破片と目的を失った哀れな水流が飛び散る。

かろうじて横跳びで良反応(ダッジ)していた吠與は唖然とした表情で老人を見る。

目が合った。

このとき吠與は老人の目に尋常ではない情が込められていることに今更ながら気が付いた。

568/12:2018/08/25(土) 02:41:31 ID:NOO5v3Qk
「何というか…ああ、恐れなければならないものはたった一つ。恐怖心そのものであり…」

「あなた!正気ですか!?いったい何を…」

「小手調べは終わりにしよう。君は吊られた男(ハングドマン)の首吊り死体(ストラップ)になるといい

――骸架の九『金絲刺』」

「!!!!」

粒の世界に#FFD700と定義された絲々による味見(ハラス)が吠與驚異を脅かす。

579/12:2018/08/25(土) 02:42:30 ID:NOO5v3Qk
1フレーム以下の幕間、吠與は瘋(おもいだ)す。狂気とは凶器であると、空手だったものにはサイガ12S EXP-01――法執行機関向け――

それは当然のごとく武装(にぎら)れ、指は引金に暴(あ)り。

「寝てろ」

開幕(はな)った散弾(ジャッジメント)は絲共をねじ伏せる打(Action is eloquence)。

「どうやら君を侮っていたようだねスティック」

怒風(ドオッ)! 杖による刺突(リベリオン)。

5811/12:2018/08/25(土) 02:43:43 ID:NOO5v3Qk
「遅ェッ!」

――刺突?あまりにも無礼(なめ)げ。直径18.4ミリの火と風による制裁に怯えるべきなのだ。弾丸による“圧”、杖を弾き抉りそして穿つ。

「不満は…灼熱の夏となり、秋と呼べるものは到底…」

「何を言っているんだ!?お前は誰なんだ!一体何のつもりだ!」

「私が何者であるかという問いにはただ一言“貴い人”だ。天皇陛下とは友人関係にある」

「え?」

「それにしても君…ああ吠與さんだったかな、農民には気を付けなければならんよ。彼奴らは道理というものを理解していない」

5911/12:2018/08/25(土) 02:44:43 ID:NOO5v3Qk
「どういう…」

「――骸架の十七『多根樹灯篭』」

地中からぶちまけられた爆炎が我が物顔で跳梁跋扈(はいまわ)り最後に見た色を血(あか)と定義付けようと戯(す)る。

「迅雷放銃(イナズマッシュ)ッ!」

応戦、両者の放つ強制力が相殺(ぶつか)り、地形はぐずりだしたかのように黒煙を返答(あげ)る。

6012/12:2018/08/25(土) 02:45:13 ID:NOO5v3Qk
「ッ!」

吠與は煙を吸い込まないよう息を止める。数秒後――黒煙が晴れた刻には、老人の姿はすでに消えていた。

「Shiting!(糞が!)」

何一つ理解(わ)からないふざけた現実に直面し、吠與は汚い言葉で大気を躾ける。口内で静観を決め込んでいた苦虫は遂に噛み潰された。

61感想マン:2018/08/25(土) 02:49:16 ID:NOO5v3Qk
名前欄の9/12の次が11/12なってるけど10/12として読んでくれ

申し訳ねえ!

62感想男2号:2018/08/25(土) 02:51:52 ID:NOO5v3Qk
書くために久しぶりにwikiとか林檎とか見て面白かった
オデュ文は書いてて愉しい

63所感男、口内に苦虫を飼う:2018/08/25(土) 11:42:31 ID:A1qxB55s
非想非非想処(やべ)えぐれえ三千大千世界(おもしろ)かった。
遂に公家おじさんが具現ったか…!
強キャラ感あり余剰る登場シーンにニヤケ面が止まら…ねェッ!
骸架教団の層の厚さが今後の展開に深みを与えていくであろう。
マルマルの経絡を利用した防御技術もなかなかに興味深(От любопытства кошка сдохла)い。
「私窩子乍」「Shiting」等、今回も随所にOdysseaのリスペクトを感じられとても良かった。
あの無礼げであった西船橋がヴェネツィアよろしく壮麗な水上都市として再構築されているのも良かった。

君子豹変す(それにしても)、だ。
1話から読み返したがあまりにも文章能力(オデュ豪)が上がりすぎて、居るぞ?
次の俺の回は稚拙な文章(拙文(まずい文章)がついてこれるかぁ?)で大変申し訳ねェ…

64あの男:2018/08/25(土) 15:41:12 ID:NOO5v3Qk
読んでもらえて実に恐悦至極い 10ヶ月も空けてすま…ねぇッ

漢の漢語録からなんか使おうと思ったけどサイトが崩御(し)んでた どうして…

65あの男:2018/08/25(土) 15:51:03 ID:NOO5v3Qk
今見たら生きてた odysseawikiのリンクが死んでただけだった 新しいのに変えとくわ

66気付いたら、死んだ。:2018/08/25(土) 18:31:13 ID:A1qxB55s
Odyssea大氷河期時代が余りにも長かったようだな…

67『予備軍!?新たな識別番号(ナンバー)現る!』1/8:2019/10/09(水) 21:15:49 ID:XJty5EVg
長針が0、短針が4。
程なくして大脳が記憶を斑消に喰い散らかし、夢と名の付いた糞尿を垂れ流す時間帯となる。

「吠與、大覚醒(お)きろ。出発の時間だ」

あまりにも重すぎる瞼によって踏み潰された根性骨が複雑骨折を繰り返し、
幾度も”落ち”そうになる寸の手前で強引に捻り開け眼球に光を宛がう。

「…今何時? まだ外は真っ暗だけど」

小覚醒(まぶたをこすりながらおもむろにからだをおこし)た吠與は、未だに昨日の道化(おか)しな老人が脳裏をよぎっていた。
それはたった数分の戦闘ではあったが、確実に”傷”の残滓はあった。
だが、老人のことについてはまだ皆には話していない。
あまりにも唐突(ぶっきら)に開幕まり、唐突(ぶっきら)に終幕わった。
それだけに話す気にもなれなかった。
如何せん、ただの耄碌(アルツハイマー)の暈けにしておくには聊か奇妙な点が多すぎるが。
何にしても切り替えてく、「しかない」ようだ。

682/8:2019/10/09(水) 21:16:12 ID:XJty5EVg
「我々は贋作(イミテーション)に狡兎三窟(お)われている身だ。
 これ以上貉(おな)じ場所に屠所の羊(とど)まることはできない。
 これからウェストボートブリッジ駅に向かい、次の目的地までは列車で移動する」

既に行先は決まっている。『学園都市サウザンドリーフ』だ――と739は云う。
私窩子乍(しかしながら)、いつまでも追われ続ける訳にはいかない状況になってきていた。
実(げ)に厄介なことに贋作(イミテーション)は死ぬ度に喰らった打(わざ)を憶え、『アップグレード』を繰り返す。
ただ贋作共を殺し続けるだけでは我々が次第に不利を壁際(せお)い、いずれはPolyphemus(はいぼく)する。
座標固定(そう)なる運命(まえ)に多くの共闘者を聚蚊成雷(あつ)め、本体を屠るしかないということだ。
次の行先であるサウザンドリーフであれば強大な能力者、或いは同じ境遇の――

「って、そういえば田丸君は」

「俺ならここに居るぜ?」

「!」

マルマルは既に完治していた。
今までの戦闘が別世界線(な)かったかのような完膚っぷりだ。

「水都(ここ)に名医が居たというのもあるが、驚異的な自然回復能力は『獅子転球』のおかげだ。
 マルマル、吠與にこの打(わざ)を四書五経(まな)ばせてくれるか?」

「ああ、もちろンだ。
 けど、コツを掴むまでは手前(てめえ)の躰そのものを理解る必要があるっつーか。
 色々準備が必要なンだけどよ。ま、移動しながらやっていくか」

693/8:2019/10/09(水) 21:16:31 ID:XJty5EVg
夜明け前。
未だ太陽は間抜けなことに地球の裏側を照らしたままの素人(ニュービー)でいるようだが、
社会(にんげんども)は馬鹿みたいに黄色(きいれ)ェ線の入ったトレインの『始発』を始動に3kの手堅いコンボをあしらう。
『ウェストボートブリッジ駅』。実に三千世界(さわが)しいこの駅は同市内最大規模を誇る巨大ターミナル駅だ。

――雷都、『ハーバー・ライスフィールド・スワンプ』往きが参ります。

と聞き拷問(な)れた吐瀉(ゲロ)ったれなファッキンワードが構内を嬲り周る。
なんと無情にも学園都市サウザンドリーフ往きは43日に一度しか出ない。
それを逃したら次は暗転(な)い。

「おい、今ハーバー何とかって言ってたが、サウザンドリーフ行きはいつ来るんだ? どこにもサウザンドリーフ行きが無ェぞッ」

「…いや、マルマル、”この列車”で問題ない。これはサウザンドリーフ行きということに”なる”。」

「は? 何言ってンだ」

――まもなく、学園都市、『サウザンドリーフ』行きが発車します。黄色い線の――

「ああ? なんなンだよ急に行先変えやがって。急いで乗るぞッ」

(――固有座標(トポロジー):第739番『一別雨ノ如死』(ヴァニタス・ヴァニタートゥム)。
 対象とするAとBが「ある条件」を満たした状態である時、邂逅する機会を永久に消滅(うしな)う。
 マルマルは大枠は識っているだろうが、対象が人間”以外”にも適用されることは把握っていないだろう。
 だが、今はそれを暴露(はな)すタイミングでは無い、か…)

704/8:2019/10/09(水) 21:16:50 ID:XJty5EVg
一同は運命(いきさき)が捻じ曲がった列車に乗り込む。
とりあえず間に合った、と吠與が一息を付いた束の間、

(なんだ…? 隣の車両がやけに三千世界がしいが…)

何か異様な雰囲気が立ち込めていた。
阿鼻叫喚(ギャアギャア)と喚き散らす乗客に、空中(エリアル)を跳梁跋扈(ダンス)する血潮、既にただ事ではないであろう事がおっ開戦(ぱじ)まっていた。

「まさか、贋作(イミテーション)かッ!」

「途(みち)を開闢月代曾我(あ)けろ。俺が荒神箒(かたづ)ける。三界首枷(じょうきゃく)は他に散れ」

739は稗浮塵子(パニッカー)共を散らせ、視界を開かせる。
すると血濡れた路に見覚えのない人影が一人、浮かぶ。
赤に預ける倨傲はただ邁往をし、前に顕現する者は殺害し這い擂っているらしい。

「赤口、赤口、赤口、赤口…」

「おい、行住坐臥(と)まれ」

「……ハァ、赤口っていうのはなァ、この上もなく大きな罪悪なンだ。大罪人ということだ。
 それはつまり全人類が罪を犯したという凶(コト)…穢(オレ)はそれが赦せないッッ」

(こいつ、何言ってンだ…?)

長髪に頭を垂れ、学生であろうか「HI-HI(ハイテック=ハイ)」の字を掌る紋章から窺える。
その衣は骭に至り袖腕に至る(くっきょう)な青年は小気味悪く震えながら9つのビニール傘を背に箙う。
如何程にも形容し難いその狂気は、幾重にも積み上げた大犯罪の血吐瀉(ゲロカス)であるということは登場人物の全員が完全把握(わか)っていた。

715/8:2019/10/09(水) 21:17:10 ID:XJty5EVg
「貴様何故乗客を大虐殺(ころ)し廻っている?名は何だ?」

「――識別番号(ナンバァ)、436(シイザル)」

「は、今ナンバーって…」

「訂正(いやッ)、最早識別番号では欠番(な)い!
 穢(オレ)はHT-HI(ハイテック=ハイ)在学、HH(ホンマイッショウ)落下傘部隊特別訓練生だァ!
 ――通称『予備軍(クラウドゼロッ)』」

「あ、なんなんだ? 予備軍だァ? この人殺しがよォ」

「ハァ…?」

学生は信じられない!という顔面をした。
顳顬の血管は著しく膨れ上がり、額には幾重にも皺を重ねていく。

「ハァーーッ…赤口赤口、今日は”赤口”ォッ!
 ……赤口っつー六曜(ひ)はよォ、こういう凶(こと)って決まってンだろうがッ。
 突突(きさま)らも突突突(とっとと)突突突突(し)ィねやッッ!!
 ――自由ノ太刀『九突鋭鋒(ここのつのきれあじ)』 」

死突王(ビュオウッ)!
コンビニで買ったであろう凡庸なビニール傘から同時間に九つの「突」を創生し、矛盾(アンチトマス)を世界に提起する。
その突(トツ)は王(ただひとつのいただき)であり死を戎衣と成(す)る。

「!! Shiting(クソがッ)、滅多矢鱈(よ)けらン――」

726/8:2019/10/09(水) 21:17:28 ID:XJty5EVg
斬空(ザクッ)。鈍痛が空間表象を貪る。
マルマルの躰中心から九つの血塗られた石突きが大車輪(どでけ)え風穴を覗かせていた。

「一二三四五六七八九(=ヒトツ)。終命(お)わりだァ」

マルマルから滴る血溜りがボタボタと専有面積を拡大していく。

「怏怏ァ、血湧肉躍(たのし)いねぇえ…赤口(つみぶか)いンだよ貴様らはッッ。
 さて、だ。次はァっと…じゃあ右の赤口(おまえッ)。
 ――束縛ノ太刀『沙翁丸(さおうまる

「いいや、俺で幕引(おわり)だ」

否、CANT(詠キャン)。

「…! 九傘(トツ)が抜けねェッ。
 キサマッ、わざと風穴(くら)ったのか」

「今だ、法執行(や)れ!吠與!」

『迅雷放銃(イナズマッシュ)ッ!!』

吠與の必殺技!
全視界は白く焼け爛れ、場内を法光(EXP-01)で葬り憎を駆逐するただひとつの『裁き』。
当然、――法執行機関向け――。

737/8:2019/10/09(水) 21:17:47 ID:XJty5EVg
「「痛ってえええええええええええええッ嗚呼あああああっ!」」

雷光が地を這いずり廻り、生をなめずるかのように死(ナイフ)をチラつかす。
pokeに堪え切れた座席シートは黒煙を煙々と吐瀉(は)き出し、凄惨な車両(すがた)を晒す。
マルマル諸共法執行された雷撃により学生は全身に黒い熱傷を負い、九傘は襤褸雑巾が如く朽ち、崩れ落ちた。

「た、田丸君、大丈夫!?巻き添えで喰らっちゃったけど…」

「…俺のことは奴隷大農園(きにすン)な。風穴雷撃ぐれェ”慣れている”からな。
 で、だ。このワケ理っ解ンねぇ糞野郎はどうする?」

学生は電撃を諸に喰らい過ぎたためか、だらりと項垂れ、既に楯突く気力は残っていないようだった。

「貴様、目的は何だ? 何の大義でこんなことをした? 回答(こた)えによってはこの場で命を絶つことになるが」

「………ッコウ…赤口、赤口!赤口ォッ!嗚呼、 HH(ホンマイッショウ)様ァァ!!」 

破闇慈(パァンッ)!!
学生は僅かに残された脚力を使役し車窓を貫穿、谷底の認識(み)えない無間奈落へと自ら下落した。

「…リバー・ドア・リバー・ブリッジ。この奈落の谷から落ちて助かる人間は居ねェよ」

「とりあえずは、天網恢恢疎にして漏らさず(かいけつ)、と視て良さそうだな」

(…だが、全く腑落(お)ちぬ。結局乗客を殺害し廻っていたのは何故だ?
 そもそも436(ヤツ)が本当に識別番号(ナンバー)であれば『固有座標(トポロジー)』を発動せずにここで容易く絶命わらせるか…?)

748/8:2019/10/09(水) 21:18:03 ID:XJty5EVg
朝明け。広大な沼地越しから見える日差しがより一層強まってきた。学園都市サウザンドリーフはもうすぐだ。
ふと、吠與が座席に目をやる。
すると、今まで全く気付かなかったがそこに一人の乗客が佇んでいた。
白いワイシャツに金色長髪のその青年は、先程の顛末を全て見届けていたのだろうか、全く気配がなかった。
青年はじっと吠與を見た後、少しばかりか目元が微笑んだ。

「君の『銃線』、良い光(すじ)してるね」

「え? じゅう…何ですか?」

『まもなく、サウザンドリーフ、サウザンドリーフーー』

場内アナウンスが響いた。
吠與が一瞬他に気を取られたその瞬間、座席の青年は既に姿を消していた。

751年2ヶ月越しの感想男:2019/10/09(水) 21:45:13 ID:XJty5EVg
随分と遅くなっちまった。すまねェ、すまねェ…
予備軍だの赤口だの大昔のネタを脳ミソの底から引っ張り出してきたが奴らは記憶えているか――?
たまにふと思い出してそいつらで話を展開させるのは本当に楽しかったし中々に感慨深いものがあった

76 1年2ヶ月越しの返信男:2019/10/14(月) 21:16:58 ID:TPmC3OjQ
全人類の緋想天(おもしろ)かった!
六曜とかの電辞書出身の奴らは最早 輩(ともがら)と呼べようか
一二三四五六七八九(=ヒトツ) 壁際(せお)い、いずれはPolyphemus(はいぼく)する こいつらの言い回しがOdyい
沙翁丸(シェイクスピア)は法おじさんに並ぶ可能性を感じる

77『潜入!?新天地その名は学園都市』:2020/02/28(金) 20:48:28 ID:t9.cVYYY
早朝。
会話、電子音、駆動音、その他諸々雑音(カクテルパーティ)共をBGMとし彼らは学園都市サウザンドリーフに並び降り立つ。

「わぁ…」

吠與は感嘆の声を上げる。田舎育ちではないとはいえどこのような大都会に来るのは初めての経験であったからだ。
兄弟姉妹、皆皆よ、照覧あれ眼前には高層ビルの群れが千葉(せんよう)の如し。

「弁東西(こっち)だ、蒼蠅驥尾に付して千里を致す(ついてこ)い」

739が道を示す。

「急急如律令(いそぐひつようがある)。谷底より多段傘男(ヤツ)の健体か重体か、願わくば死体が浮上(あが)れば間違いなく前覆後戒(けいかい)される」

「要するに谷下に流れる河が奴をここに運ぶまでがタイムリミットってわけか」

マルマルは不敵に微笑む。

78あの男:2020/02/28(金) 20:49:04 ID:t9.cVYYY
「ンじゃ確認すっぞ。今回の目的は二つだ」

「一つは同じ志を持つものを探し出す。つまりは仲間を増やす」

「そして二つ目が…」

739が懐から何かを人数分取り出し歩みを進めながら配っていく。

「頼まれていた梟首(しな)だ」

マルマルにそう告げる。

小さな透明な板。吠與はゲームのメモリーカードを思い浮かべた。

「おおきたきた。この短期間でよく準備したな」

「朝飯前だ。1時間あればChokhmah(それなり)に。1日でBinah(そこそこ)。1週間あればDa'at(かなり)だ」

「頼もしいこった」

79あの男:2020/02/28(金) 20:49:25 ID:t9.cVYYY
「739さん、田丸君これは…?」

吠與は透明な板を太陽に透かしながら興味深げに尋ねた。

「DIA(指向性情報集積装置)と呼ばれている」

「ぶっきらぼうに言っちまえば情報が入ってる端末にこれを差し込みゃ知りたい情報を取れるわけだ」

「そんなことしたらバレるんじゃ…?」

「敵の急所は我が急所(ああ)」

「間違いなくバレるだろうな」

表情を変えることなく2人は率直に述べる。

80あの男:2020/02/28(金) 20:50:07 ID:t9.cVYYY
吠與が口を開く前にマルマルは肩を組み、なにやらしたり顔で告げる。

「どうせ贋作(イミテーション)共に四六時中追い回されてンだ。追手が多少増えたところで変わんねェって」

どうやら励ましているつもりのようだ。

「話を戻すがもう一つの目的は情報だ。学園都市ほどの機関となれば少なからず贋作(イミテーション)共や他の識別番号(ナンバー)に関する情報を持ってンだろ」

マルマルは目的の総括をする。濁乱や緊張を微塵も感じさせない堂々とした語り口だ。

「で、だ マルマル?」

「問題ねェ」

739に応えマルマルは人数分のサングラスと免許証のようなカードを取り出した。

「偽造した入区証だ。顔写真は無論ホンモノだが個人情報は出鱈目、名前も偽名だ。今のうちに覚えとけよ」

「んでこっちはグラサン型映像記録装置だ。とりあえず気になったところを視とけ。あとで何かに使えるかもしれねェ」

「通信機能はつけてねェぞ。認可外通信妨害術式をすり抜けられるような上等な物にしたらトラックに載せてく羽目になるからな」

81あの男:2020/02/28(金) 20:51:02 ID:t9.cVYYY
「七縦(じゅうぶん)だ」

吠與は二人の手際の良さに舌を巻く。いつの前にこんなもの用意していたのであろうか…?

そんな話を歩きながらしているうちに大通りへと出る。案内板によるとウイングメモリアルロードというらしい。

「ここで二手に分かれるぞ。俺と吠與は”学園区”。739は”企業区”だ」

ここ学園都市、『サウザンドリーフ』はいくつかの都市からなり、全域がビルで埋め尽くされている複合都市圏(メトロプレックス)だ。

それがまるで数え切れぬほどの葉のようだ、というのが名の由来になっている。

その中でも今回吠與達が降り立った位置は学園区と企業区の境目に当たる。複数の学園の学生達の能力を教育し競わせ、そして”採点”をして振るい分けていく学園区。

学園区に資金を提供し学園都市を卒業した学生の就職先や関係者の合同体である企業区。どちらも学園都市の中心たる区域だ。

82あの男:2020/02/28(金) 20:51:32 ID:t9.cVYYY
「二手って…!739さんは大丈夫なの?」

聖夜爆裂疾風(たの)もしい装備があるとはいえやはり危険とも思える作戦(ドラフト)。その中でさらに分散というスナーク狩り(リスク)を負うことに吠與は狼狽した。
私窩子乍(しかしながら)…だ、マルマルと739は顔を見合わせた後笑みさえ浮かべてみせた。

「おいおい!739(コイツ)ほど潜入と離脱に向いてる座標能力者(つかいて)を俺は知らねえぜ?何ら問題はねェな」

大げさな身振りでマルマルは語る。そして真面目な顔をして吠與に向き合った。

「むしろ心配されるのは俺達の方だ。いいか吠與ヤベェと思ったらすぐに逃げろ、命あっての物種だ。
学生区じゃあの傘野郎みたいな風紀委員(はねっかえり)が楚歌(うようよ)してやがる。気ィ張っていけ、引き際を見誤るなよ」

気迫こもる声に吠與も任務への恐怖を抑え応える。

「大丈夫…だよ。覚悟はできてる。」

「よし、ではまた後程伏魔殿(おちあ)おう。死せる仲達を走らせ続けろ(しぬなよ)二人共」

739はそう言い残し人込みへ紛れ、そして消えた。

83あの男:2020/02/28(金) 20:51:55 ID:t9.cVYYY
「俺達も行くぞ」

サングラスをかけ吠與達は歩き始める。そしてマルマルは任務内容を大まかに小声で伝える。

「いいか吠與、俺たちは学園都市に取材しに来た記者だ。適当に部活を取材してるふりして頃合いを見てフけるぞ
目指すは管理室だ。管理室に着くまでできるだけ戦闘は控えるぞ、着いたら居る奴ら全員ノして情報をいただく。
落ち合う場所は此処だハーバー・ライスフィールド・スワンプ駅前、座標4、12の92 ここに隠れ家がある」

「仲間の方は739が担当する。企業区の方で協力してくれそうな奴にあたりを付けてるはずだ。
まァ有力な学生を勧誘(さら)うのは流石にまじぃからな。そうなると奴らも本気で追ってくる」

学生である自分達が言うのもアレだがとマルマルは付け加えつつ来客党用入区関所前に着く。

「入区証出しとけ。とちるなよ」

おそるおそる吠與は受付機械像前に並ぶ。ギリシア様式の彫刻が並ぶ風景はどこか威圧的でありまた荘厳であった。そして吠與達の順番が来る。

「今日取材予定を入れていた円(まどか)だ。こっちはウィンクラー」

淀みなくマルマルは偽名を告げる。

「円様とウィンクラー様ですね。入区証の提示をお願いします。」

機械から電子音声が流れスキャナーが光る。吠與はばれないようにと祈るようにそっと偽造カードを置く。

84あの男:2020/02/28(金) 20:52:25 ID:t9.cVYYY
「認証しました。ようこそ学園都市へ」

「どうも」

無事受付を抜け吠與はほっと息をつく。第一段階クリアだ。

「なんだありゃ、学園都市の奴らは随分悪趣味だな。彫刻に喋らせて何が楽しいのかねェ」

マルマルは減らず口をききながら進む。そして第三十三校舎前に着くと黒い帽子をかぶった長身の男に呼び止められる。

「これはこれは!取材にいらした円様とウィンクラー様ですね。今日は遠路はるばるお越しいただきましてありがとうございます」

「そういう手…貴方は?」

「申し遅れました。私(わたくし)、罪罰 魃と申します。近しいものからは”バツバツ”と呼ばれております。以後お見知りおきを」

慇懃に一礼をし、言葉を続ける。

「僭越ながら今日は学園の案内係を務めさせていただきます。さあ部室棟まで案内いたしますよ」

そう告げられた吠與達はバツバツと名乗った男についていく。

85あの男:2020/02/28(金) 20:52:54 ID:t9.cVYYY
「(うさんくせェ野郎だな…)」

一先ず潜入に成功したものの自由に動くためにはこの男を撒かないといけない。タイミングを逃さぬようマルマルは気合を入れなおした。

「それで今日は部活取材とのことでしたがどこへ行くのかは決められているのですか?」

「まぁ…適当に運動部と文化部を見回って面白そうな活動をしている部を特集しようかと…」

マルマルは答える。我ながらいい加減な記者だ。

「素晴らしい!ではまず生徒会を取材しませんか?
正確に言えば部活ではありませんが全ての部活の予算を管理し運営する職務を行う場でもあるため色々な内情をお話しできると思いますよ」

「ああ、じゃあまずはそこに行こうかな。お前もそれでいいか?」

86あの男:2020/02/28(金) 20:53:21 ID:t9.cVYYY
吠與は頷きバツバツについていこうとし…「ちょっと待ってください!」

いつの間にか近くにいた少女が大声を上げる。皆驚いたように立ち止まる。

「あの!取材ということならば”図書部”を取材してくれませんか!」

「おやおや…誰かと思えば貴方でしたか」

「この小む…方は?」

ギリギリ言い直したマルマル

「ああこの方はサンク=メリット氏、図書部の部長ですよ。図書部に取材とは一体どういう…」

「あのうちは弱小ですけれどもやる気はあります!取材してもらってうちの良さを広めてもらって部員を獲得したいんです!
お願いします退屈はさせません!」

バツバツの言葉を遮り繰り返し頭を下げる少女。Where is thy lustre now?(嫌な予感がマルマルを貫いた との意であろう)。

「そうですねぇ…」

バツバツは少し考えこむ。

87あの男:2020/02/28(金) 20:54:26 ID:t9.cVYYY
「でしたら円様には生徒会をウィンクラー様には図書部を取材していただくという形でよろしいでしょうか?」

ここまでくれば吠與にも状況のハードラック(まず)さがよくわかる。

ザ・糞軍師シリーズ(ぶんさんからのこりつ)は死への飛翔へと同義だ。しかし断るにはあまりに不自然だ。

「分かった俺が生徒会へ行く。ウィンクラーはそっちを頼むぞ」

何事もないようにマルマルは受ける。内心は大きい舌打ち(V5)をしているだろう。

「う、うん」

動揺を隠しつつ頷くがやはり顔に少し焦りが見えるか吠與驚異。

「ありがとうございます!!こっちです来てください!」

少女に引きずられるように吠與は連れていかれる。

88あの男:2020/02/28(金) 20:54:59 ID:t9.cVYYY
「では…貴方は私と」

「…ああ」

…マルマルはバツバツについていく。

マルマルは現状況を分析する。イレギュラーな状況だがむしろチャンスとも言える。バツバツを撒くよりあの小娘を撒く方が遥かに容易だろう。

それに加え連れていかれたのが吠與だというのも幸いだ、もし逆だったら吠與は死んでいたかもしれない。

「(吠與、手前ェなら大丈夫だ…!)」

自分に言い聞かせるようマルマルは心の中で呟いた。

89あの男:2020/02/28(金) 20:55:21 ID:t9.cVYYY
「えっとですねぇ図書部の活動としましては…」

「ちょ、ちょっと待って…!」

引きずられながら立ち止まろうとする。

「周りに人もいて危ないからゆっくり行こうよ、ね」

「あ…ごめんなさい…」

「取材に来てくれたことがすごいうれしくて…えへへ」

改めて吠與はサンク=メリットと呼ばれていた少女を観察する。第一印象としてはなにやら不思議な格好をしている少女だということだ。

ゴスロリ…?であろうかあまり詳しくないが黒いフリフリの服と言えば多分そうだろう。それを彩るオレンジの髪。かなり目立つ方であろう。

「そういえばまだ自己紹介してませんでしたね、改めましてサンク=メリットです。高等科の一年生です!今日はよろしくお願いします!」

90あの男:2020/02/28(金) 20:55:46 ID:t9.cVYYY
元気よく喋る少女。人懐こい印象を受けるが油断しないようにしなくては… 吠與もそれを受け自己紹介する。

「フーゴー=ウィンクラーです。こちらこそお願いします」

「フーゴー=ウィンクラーさんですか…う〜ん」

なにやら考え込む。そしてすぐ答える。

「じゃあクララで!」

「は?」

吠與は思わず驚嘆の声を上げる。

「ウィンクラーさんだと堅苦しいしかわいい呼び方がいいな〜って…」

気恥ずかしい笑みを浮かべ期待するように目を向ける。

「わ、わかりました好きに呼んでください」

相手の要望をおとなしく聞いておいた方が後々やり易いだろうと考え承諾する。

どうせ仮初の名前だ。好きにあだ名でもなんでもつければいい。

91あの男:2020/02/28(金) 20:56:06 ID:t9.cVYYY
「やった!私のことはメリーって呼んでくれると嬉しいです」

「メリー?」

「…私ちょっと自分の名前が苦手で…名字の方もメリットだとなんか ん〜って感じだし」

「わかりましたじゃあメリーさん」

「呼び捨てにしてくださいよー メリーさんだとお化けみたいじゃないですかあの追いかけてくるやつ」

「わ、わかりましたよ!じゃあメリー」

名前を呼び捨てるとなんだかとても親しいようだなと思い今度は吠與が気恥ずかしい笑みを浮かべる。

「えへへありがとうございます… っと着きました!ここが図書部です」

どう呼ぶかなんてやり取りをしていたらいつの間にかに着いていたようだ。メリーの手によって扉は開かれ吠與の取材が始まった。

92あの男:2020/02/28(金) 20:56:26 ID:t9.cVYYY
―― 一方

生徒会室へと歩みを進めるバツバツへついていくマルマル。

ここまでの道のりで目立つものと言えば男の肖像だ。そして肖像に描かれている99という数字。

目を走らせると色々なところに飾られていることがわかる。

教師か、創立者か…?と思ったが服は学ランだ。学園都市で優秀な成績を収めた者への讃美か…?

しかしそれにしても異常だ。まるで肖像の彼が此処の支配者のようにマルマルの目に映った

「しかし面白いものですね記者というのは」

唐突にバツバツは立ち止まり神妙な顔をして振り返る。

「何がですか?」

怪訝に思いつつマルマルも立ち止まる。

93あの男:2020/02/28(金) 20:56:50 ID:t9.cVYYY
「何といいますかね…そんな糞ダセえサングラスをかけるような、ディスコ時代のサンタ以下のセンスを持つ輩でもなれるものなのかと思いましてね」

「あ?」

なんだこの馬鹿、喧嘩売ってんのか…?

理性でいろいろなものを抑えながらマルマルは言葉を考え絞り出す。

「それは…ちょっと…来客に対しておかしくないか?」

「おかしいのはあなたですよ円さん。私は生徒会で書記を担当しておりましてね人の仕事を無暗に増やすのはどうかご遠慮いただきたい」

「どういうことだ…?」

「書記の業務にですね日報の作成というものがあるんですよ。そこに侵入者2名捕縛、生徒会権限で処刑と記入しなくてはいけない、各種書類も添えて」

「手前ェ…」

「おやおや…怒らせてしまいましたか?これは失敬」

神妙な表情はいつの間にかに嘲笑へと変わっていた。

94あの男:2020/02/28(金) 20:57:17 ID:t9.cVYYY
「手前は仕事なんざしなくていいぜ。ここで寝てろ」

「心の駒に手綱許すなと言いますが、素晴らしい表現だと実感できますね。やはり何事も経験ということでしょうか」

「ほざいてろ…!」

――奇経八脈、帯脈。二十九難

「ほう!これはこれは」

「これで手前はここから脱兎(に)げられねェそれに増援(たす)けもこねェぞ?」

体を一周するように巡る帯脈。そこから気を放ち場に結界を張る。

逃走防止、人払い。マルマルは目の前の無礼(ふざけ)た馬鹿を確実に仕留めるつもりだ。

95あの男:2020/02/28(金) 20:57:44 ID:t9.cVYYY
「いやはや顔に似合わず随分と親切なのですね貴方は」

「あ?何言ってんだ手前ェ」

「ここ学園都市は実力至上主義。あらゆる行動が自らの得点に絡んできます。私一人で貴方の相手をすることは他の人間に差をつけることができるとてつもない幸運なのですよ」

「ンなことか寝言は寝て言えや」

「そんな貴方も幸運だ。私の方で良かったですね」

「寝言は寝て言え…ッつったよなァ!?」

廊下が馬鹿轟音(くだ)ける戦の鐘の音。初対面の人間、全くもって関りない人間同士が死合うような因縁をどのように抱くのであろうか…?

この両名が証明(The Living End)であろう。マルマルのバツバツへの戦闘(しゅざい)が始まった。

96あの男:2020/02/28(金) 20:58:04 ID:t9.cVYYY
「ささ、好きなところに座ってください!」
 
教室約二つ分程の空間に甘い匂いが漂う。柔らかそうな色とりどりのソファー、パチパチと楽し気に音を上げる暖炉、そして並び立つ本棚。思いかけず立派な室内に驚嘆しつつ適当なソファーを選び座った。

「紅茶をいれてお菓子を持ってきますからクララさんはそれまで適当にくつろいでいてください。あっ本も興味があるものがあればお好きに読んでくださいね」

矢継ぎ早に言葉を浴びせかけ台所があると思われる方へメリーは向かう。吠與は言われた通り面白そうな本を探す、ほどなくして背表紙が気になった一冊を取り机の上に広げた。

タイトルは現代学園史といういかにも龍安寺の石庭(かた)そうな本だった。少しでも情報を集めなくてはとパラパラとページをめくる。内容はサングラスに記録されるはずだ。



――学園都市の環境として懸念されていたのは泡沫組織の乱立による…


…転機が訪れたのは偶然にもHT-HI第99期生入学式からであり、アガスティアの葉と呼称された反体制組織を鎮圧することで顕著に…


…『99』この祝福されし完成は創立以来学園都市を完全統合したとして知られる唯一の人物である本間一…

97あの男:2020/02/28(金) 20:58:20 ID:t9.cVYYY
「できました!」

「うわぁ!」

突然声をかけられ読みふけり始めていた吠與は飛び上がった。

「わぁっ す、すみません…」

つられてメリーも驚く。

「夢中になる本をもう見つけたんですね」

少しうれし気にのぞき込んでくる。

「一体どんな…ってソレ学園史じゃないですか」

「え…まぁ変だよね…」

「いやよくそんな固そうな本を最初に選んだなぁ…って私も読んだことありますけど寝ちゃいそうでしたよ」

98あの男:2020/02/28(金) 20:58:36 ID:t9.cVYYY
「ま、まぁとにかく」

怪しまれないように話題を変えようとする。

「これすごくおいしそうだね!」

並べられた焼き菓子を指して吠與は言う。少し白々しいか…?などと思っていたが

「ほ、本当ですか…!?昨日焼いたやつの残りなんですけどもしよければ…」

部屋に入った時の甘い匂いはこれかと一人納得する。一つ手に取りつつ口に入れる。

「おいしい!」

口に入れるとサクサクとした触感から始まり、そのあとクランベリーだろうか?甘みとほのかな酸味で楽しませてくれる。

「ありがとうございます!一人で食べるのもいいですけど誰かと食べるのも幸せなんですよ〜 紅茶との相性も抜群ですよ」

といいつつ自分もつまむメリー。ふと目を上げ何かに注目する。

99あの男:2020/02/28(金) 20:58:59 ID:t9.cVYYY

「最近ソレめっちゃ流行ってますよね、ちょい悪ってやつ?」

唐突に言われ混乱する吠與。

「グラサンですよグラサン」

「あ、ああこれのことね。いやまぁその流行にのっとこうかなーって」

「何ですか〜それ」

クスクスと笑い声が響く。

「私にもちょっとかけさせてくださいよ」

メリーが急に手を伸ばす。

「いやこれは…」

吠與の心の中で警報が鳴り響く。吠與自身かけている感じや見た目からではわからないが相手がもし直に触れれば内蔵カメラを察知できる人間だったのならばかなりまずい事態になる。

100あの男:2020/02/28(金) 20:59:23 ID:t9.cVYYY
「いいじゃないですか避けないでくださいよ」

右手が伸びてくる。思わず吠與は手首をつかんでしまう。

「ぐぬぬ…」

メリーはくやしそうな表情を浮かべていると思えば急にいたずら気な表情に変わった。

「それならこうだ!」

空いている左手でわき腹をくすぐってくる。

「ちょっ…やめっフフッ」

くすぐられ思わず笑ってしまう

「いまだ!」

左手を伸ばしグラサンをつかもうとするが吠與は寸前のところで左手首を捕まえた。


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