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本のブログ(BBS Ver.)

1korou@管理人:2005/07/10(日) 10:19:28
ここでは、最近読んだ本の話、かつて読んだ本の話など
本に関する話題全般を取り上げます。

881korou:2012/06/29(金) 09:04:54
中村航「恋するスイッチ」(実業之日本社)を読了(というか”観了”)

絵本感覚の本なので、立ち読みで5分で読み終えてしまう本。
こういう本を「読了本」に含めてしまうのはどうかとも思ったが
以前同じ作者の「星空放送局」も"観了”しているので
その印象も含めて述べれば
こういうのをこうした美しい装丁の本で出版することについて
格別意味があることと思えないというのが読後の一番の印象。
たしかに微笑ましいエピソードが書き連ねてあるのだが
じゃあ、これがプロの作家の仕事かと問われれば「否」と言わざるを得ない。
ハッキリ言って、器用で早熟な女子高校生でもこの程度の本は作れそうだ。
まあ、本当に女子高校生がこういうのを創作して出版したなら
天才童話作家とかもてはやされるかもしれないが
やはり、そこは人気作家である中村航氏の仕事ともなると
この程度では満足できない。
この本には、懐かしさと微笑ましさはあっても、哀しみとか怒りといった感情がない。
すべてプラスの感情ばかりで、いかにも作りごとの世界に思えるのだ。

美しいイラスト、絵には感銘を受けるが
肝心の物語が一面的で一方的で自己完結的で満足できない本という印象。

882korou:2012/06/29(金) 16:44:54
田原総一朗「Twitterの神々」(講談社)を読了。

もう1年半も前に出版された本であり
実際の対談は2年以上前のものを含むネット関係の対談集を
今さら読む気もなかったのだが
津田さんの話を読んでいるうちに引き込まれてしまい
ついつい他の人の対談も読んでしまった。

ホリエモンのエネルギー、佐々木俊尚氏のネット礼賛ぶりなど
改めてその人柄を見直すような対談も多かった。
旧世代に属する田原氏が
深みにはまらず話を十分に拡散させていった手腕はなかなかのものだが
もう少し突っ込んで訊いてほしかった部分もあった。
もっとも知識と興味関心が伴わないと、そういう質問は難しいのだが。

新聞などのメディアについて
佐々木さんとの対談と、最後のシンポジウムは興味深かった。
要するに、そういった旧型メディアは
今の時代にはコストがかかりすぎているのだろう。
また、現代日本には、マネジメントする人材だけが極端に少ないという指摘も頷ける。
一次情報としてのニュースを、幅広く収集した上で、そのニュースへの観点も紹介するといった
佐々木さんのこれからのメディアについてのアイデアも興味深かった。

まさに現代とはどんな時代なのか、ということを深く考えさせられる著作だった。
十分に知的刺激を味わえる本である。
2年前でも決して古びていない。

883korou:2012/07/01(日) 18:15:26
高野秀行「未来国家ブータン」(集英社)を読了。

出だしが非常に面白くて、ついつい読了することを早々と決定したが
前半はともかく、後半は思ったよりしんどい読書になった。
個性的な思考経路というのも、意外とその魅力が長持ちしないということを知った。

自分としては、根本的に「雪男」などに興味がないことが原因だろう。
ここは、この独特の感性で、ブータンそのものを観察してほしかった。
著者は、そのこともいくらか意識してくれていて
本そのものが雪男メインにならないよう工夫してはいるが
著者の行動を推進しているものが雪男である以上
どうしても、その方向の描写が目立ってしまう。
でも、これを日本の都会の書店で手にする人にとって
雪男事情などは、読んでも何の役にも立たないのだ。
話題のブータンのことは、いくらでも知りたいのだが。

そのあたりの著者と読者のすれ違いさえ除けば
なかなか面白い未知の世界の探検記である。
日本を飛び出している点で小田実の記録文学を受け継いだ流れにあり
好奇心と素朴な人間臭さで、椎名誠の旅行記を彷彿とさせるものがある。
そのへんは、定評のある旅行作家の作品で安心して読めるわけだ。

しかも奥さんが片野ゆかとは、驚き。
まあ、これは文中にそういう事実が示唆されていたから知ったのだが。

というわけで、まあオススメできる部類。
ただ、ブータンのことを手短かに知りたい人には向かない。
ぐるっとまわって、遠回りしながら深く知りたい人には最適。

884korou:2012/07/03(火) 22:22:26
1冊の本の通読ではないが、宮沢賢治「クスコーブドリの伝記」を読了。

例によって、よく分からなかった。
文章おかしいでしょう!という部分がてんこもりで
展開もそうでなくてもおかしい上に、さらに明白なミスのようなところもある。
こういう作風を認めるにやぶさかでないが
それにしても完成度が低すぎる。
宮沢賢治という名前がなければ、とっくに読むのをやめていた。
これは本当に傑作なのか?
そもそも宮沢賢治って、読むに値するのだろうか?

885korou:2012/07/05(木) 14:22:04
木内一裕「キッド」(講談社)を一気に読了。

最初から全く退屈せず、最後まで一気に読めた。
これほど夢中で読めたのは
乾緑郎「完全なる首長竜の日」以来かもしれない。

ジェットコースター小説というのはこういうのを言うのだろう。
山田悠介の小説をもっと骨格をしっかりさせた感じで
不自然なところや、あやふやなところなどを微塵も感じさせない。
主人公は20歳にしては出来すぎなところもあるが
次から次へとあまりに絶体絶命なので
そんな感想も吹き飛んでしまうほど没入して読んでしまった。

「笑っていいとも」でピース又吉がオススメしていた小説である。
たしかに、これなら途中で飽きることなく一気にいくだろう。
大したものだ、又吉。

886korou:2012/07/11(水) 08:54:32
三上延「ビブリア古書堂の事件手帖 3」(メディアワークス文庫)を思わす読了。

①を途中まで読んで止めて、②はスルーしたので
③を読了するつもりは全然なかったのだが。
なぜか、読み始めると止められず、最後まで読んでしまった。
こういう感じの文章、文体に、頭が慣れてしまったのかもしれない。
以前より抵抗なく読めてしまう。
逆に、本格的な日本語を見ると、以前より抵抗感が強くなっているのかもしれないが(それは怖い!)

①を読んだときより、作者のほうで
ミステリーとしての意識が強くなっているのを感じた。
キャラも安定していて揺るぎがなく、これはキャラ小説の読み手には安心感を与えるに違いない。
その分、曖昧模糊とした独特の魅力は失われているのも事実。
もっともシリーズ化して第3作ともなれば、曖昧模糊で書き続けるのは
不可能と言えるのだが。

シリーズ化しても人気が衰えない理由がよく分かりました。

887korou:2012/07/16(月) 10:26:34
中脇初枝「きみはいい子」(ポプラ社)を読了。

簡潔ながら独特の描写が特徴的な連作短編。
テーマは一貫して、ある郊外のニュータウン(という言葉も古いが・・)で
ひそかに進行している児童虐待についての話。
話のオチは、それでも生きていけるという希望と勇気であり
どの短編も、そこへ自然な流れで行き着いている手際のよさには
驚かされる。
たいした筆力だ。
作者プロフィールを見て分かったのだが
あの「坊っちゃん大賞」を高校生で受賞した方だった。
あれから20年弱、久々にその名前を知り、今回のベストセラーの作者だと知ったが
それならこの驚きも納得だ(かといって受賞作のほうは未読なんだが)

ただし、欠点もある。
それは市川拓司の最新作と同じことなのだが
同じテイストで次々と短編が綴られていくので
もうそのテイストはいいよということで、飽きが来ることだ。
そうでなくても児童虐待の話は、内向きで苦しくて辛いものだから
さすがに読んでいて疲れを覚えることがある。
かといって別の種類の物語を挟むのもおかしいので
これは1冊の本でどの程度のボリュームまで同質化が可能かという
編集サイドの話にもなってくるだろう。
だから、作品そのものの良し悪しとは本質的には関係ない話だ。
その意味で欠点とはいえないかもしれないが
パッケージとしての書籍というメディアが必然的に生む問題だろう(電子書籍ならこういうことは本質的な問題にはなり得ない)

文章が独特で忘れがたいものがあるので、まあ五つ星かな。
これだけのクオリティには、なかなかお目にかかれない。

888korou:2012/07/16(月) 18:58:12
森沢明夫「あなたへ」(幻冬社文庫)を読了。

来月公開される映画の原作として創作された小説。
先に脚本ができていて、あとからノベライズされたわけだが
映画の1シーン1シーンを忠実になぞる最近のノベライズとは
作成時期が違うので、そういう単純なノベライズではない。
しかも、森沢氏は他にもいろいろと小説を書いている方なので
ほぼオリジナル小説といっても良いだろう。

文章に独特のひねりとかはなく、素直で読みやすい。
それでいて、ギリギリのところで俗っぽさを脱していて
リアルさ、オリジナルなところも出ている。
人によっては、もっと深いものを求めるかもしれないが
自分には、これくらいで十分だ。
60代半ばで、50代半ばに早世した愛妻から励まされ
人生の次の一歩を踏み出していくという話の流れは
正直、自分にはムリだという感覚が強いのだが
そういう人もいるだろうなという思いもある。

年老いた男が、妻に先立たれた後、それも突然の早世で妻を喪うという運命に
どう立ち向かっていくか、という話は
やはり物悲しい。
こういう勇気ある結末の話でも、読んでいて辛い。
ただ、もうそういう運命へのシミュレーションもしておく必要はある。
誰だって、いつ何があるか分からないのだから。
その意味でのみ、自分には有益な読書だった。

889korou:2012/07/28(土) 17:19:27
とにかく暑い。読書意欲減退だ。
そんななかやっとこさ新書を1冊読了。
辻真先「ぼくたちのアニメ史」(岩波ジュニア新書)。

アニメ界の長老である辻さんが
若者向けの新書でアニメ史を語った本。
そういうテーマの著作の人選として間違いではない(どころか辻さんに書かせた企画は素晴らしいが)のだが
肝心の辻さんが、歴史を書くための整理能力に乏しく
単なる「戦後TVアニメの誕生秘話・思い出話」に終わってしまっているのが惜しい。

話そのものは随所で面白い。
特に、誰がどの仕事したかということに関しての記憶は抜群で
人を中心にアニメ史を語るとしたら
もう一手間かけて、この本の記述を整理し直すだけで
定本ができあがるのではないかと思われるくらい、よくできている。

ただ全体としてどうなのかという流れの視点に乏しい。
細かい事実をあえて捨てて、大筋で骨太に語るという発想もない。
アニメについての愛情と、それを創った人々への敬意で文章を書き切っている。
後味は悪くないが、この書名につられてアニメ史について明確なイメージを求めようとすると
確実に裏切られることになる。

微妙だけど、まあ辻さんのことを知ってもらうのも重要なので
辻さんのことをあまり知らないアニメファンにはオススメすべき本。

890korou:2012/07/30(月) 21:29:17
池上彰「池上彰の『ニュース、そこからですか!?』」(文春新書)を読了。

池上彰氏については再三書いているとおりで
今年になってからの著作で、読んで損な本は一冊もない。
昨年までは同工異曲の本だらけで食傷していただけに
この見事な復調ぶりには敬意を表さざるを得ないのである。
自分自身の勉強のためにTVの仕事をセーブすると宣言して
そのとおりの成果を出しているのだから
人としても立派だと思っている。

この著作も、かゆいところに手が届いている感じで
そうそう、こういう本も欲しかったんだと見事に潜在需要をとらえた新書になっている。
原子力発電の説明など実に的を得ているし
ソマリア情勢の説明なども類書にない分かりやすさ、明快さである。

いまさらここで推薦するのもおかしいくらい、オススメ本である。

891korou:2012/08/06(月) 09:56:40
植盛美緒「腹だけ痩せる技術」(メディアファクトリー新書)を読了。

もう書名だけで、なぜ読んだのか明白な本である。
その分だけ一般にも買い求めるには抵抗がありそうにも思えるが
今のところ、美木良介のロングブレスダイエットには及ばないものの
そこそこのベストセラーになっているのだから凄い。

内容は、単純明快、「腹をへこませましょう」だけ。
本当にそれだけである。
それだけで、腹だけ痩せていくのである。
実際、やってみて、効果はてきめんのように思える。
少なくとも、腹筋運動よりも効果があるように思える。

理屈は、脇腹にあるはずの筋肉を意識して、そこが退化しないように
そこを使って腹をへこませるということに尽きる。
その筋肉をより正しく使うために、背筋は伸ばして、なおかつ力んで肩が前方に突っ込まないように十分引いて
その姿勢で脇腹の筋肉を意識しながら「へこます」ということになる。
そういうイメージで、だらしなく垂れ下がっていた腹回りに緊張感を与えることによって
筋肉による腹部のふくらみが正常な形に戻っていくわけである。

実用書なので、その必要のない人には何の意味もない本だが
必要を感じている人には、一読の価値は十分にある本である。

892korou:2012/08/06(月) 10:05:49
誉田哲也「ヒトリシズカ」(双葉文庫)を読了。

登場人物のキャラを書き分けながら
そのキャラに依存したまま、とにかく面白さ第一にストーリーを展開する作家として
誉田哲也氏とか有川浩氏などが超人気作家となっているが
当然のことながら、そういうお決まりの流ればかりを追っては居られない職業上の理由もあって
私個人は、そういう作家のことを本質的に好きになれないのである。

しかし、ある程度の完成度に達すれば
そういう作家のものでも十分楽しめる、むしろ、読書意欲減退時期には
そういうタイプの物語のほうが良いくらいだ、というのも真実。
これは、そういう完成度に達した傑作長編である。

長編とはいえ、構成上は連作短編のようになっていて
しかも、連作っぽくなく微妙につながった短編が
徐々に物語全体の姿を見せていくという趣向の作品である。
最後のまとめ方については、不必要な部分も感じられたが
途中までの連作の「つなげ方」はなかなか見事で
誉田氏の真価を知った思いがした。

それにしても、この作品も悪女モノと言える。
今年は悪女モノの作品の読書が多いのだが、偶然だろうか。
新作でないのも混じっているが、結構、新作で話題をよんだものに悪女モノが多いように感じられるが
どういうことだろう。
そして、この作品も含めて、なかなかの傑作揃いなので
ある意味妙な感である。

893korou:2012/08/08(水) 10:48:42
坂口恭平「独立国家のつくりかた」(講談社現代新書)を読了。

何というか、これほど独特の発想をする人にはお目にかかったことがない。
ある意味、カルチャーショックと言ってもよい。
日常生活で体験する世界は、実は単なるレイヤーでしかなく
他のレイヤーを意識しながら生活することも可能だと著者は主張する。
そして、今や危機管理も何もできない政府・自治体が支配する日常においては
むしろ、そういう別のレイヤーで生活することこそ
より自然で、より人間らしく、より真摯で、より普通なのだと
著者は考え、そして実行する。
独立国家を日本の国内でつくるなんてことを
日常のレイヤーで考えれば狂気の沙汰、アホらしい子どもじみた発想でしかないが
違うレイヤーで考えれば全然おかしくない、ごくまともな発想なのだと著者は言う。、

レイヤーというのは、この著作で著者がしきりと使っているキーワードだが
結構多義にわたって使っているので、そこのところは読者のほうでうまく読みとらないと混乱してしまう。
しかし、一度意味が判ると、今度はこの著書の要約として「レイヤー」」という言葉を使わざるをえなくなることが分かり
なかなかこのあたりは適切、適当な用語がなくて苦労する。
読み始めたときには、レイヤーなんてグラフィックソフトの用語を使うなんてむしろ判りにくいぞ、と思ったりしたが
これだけの新しい発想を説明するとなると、そういう曖昧だけどイメージだけはしっかりと伝わってくる言葉を使わないと
なかなかうまく伝わらないということも分かってくるのだ。

とにかく、この発想は新しい。
しかも、時代の空気に合っている。
時代がこの発想に追いつこうとさえしている。
あとは、この発想を理解でき、しかも行動にまで移せる人材が
この国にどのくらいいるだろうか、という話に尽きる。
著者も言っているが、たしかに若い人でないと行動に移せないのも事実。
その点で、自分のような中高年者は、その成り行きをただ見守っていくしかない。

時代の潮流を感じる秀逸な「奇書」として今年一番の新書。
この思想は21世紀の現在でしか実感を感じ得ないものだと思う。

894korou:2012/08/18(土) 13:02:50
夏休みを連続10日取ったものの
こと読書に関しては、さほどの収穫はなかった。
では、さきほど読了したこの本から。

松岡圭祐「万能鑑定士Qの事件簿 ①②」(角川文庫)。
①②が続きモノということで、最初から2冊読破の予定で読み始める。
読み始めは悪くない感触で、まあ娯楽作品ならこの程度で十分かなと思い
どんどん読み進める。
沖縄のエピソードを挟んだ頃から、各章の時間の流れを作者がコントロールし始めるのだが
どことなくぎこちない。
いかにも小説を書くのに慣れていない、この人の経歴から言えば、そういうストーリーテラーの部分が
あまりに素朴で、熟練していないという印象を受ける。

②になって、話が停滞した部分になると、文章まで停滞するのには閉口した。
よほど読むのを止めようかとも思ったが、ここまで読んで止めるのはそれまでの時間が惜しいのと
何か画期的な仕掛けが最後に待っているのかも、と我慢して読み続ける。

最後は、十分に予想のつくオチで、意外感も驚きも何もなかった。
こんなのが好評で売れているのかと思うと情けない。
日本人の読書はここまで落ちてしまっているのか。

895korou:2012/08/18(土) 13:07:19
昨日は、土井隆義「キャラ化する/された子どもたち」(岩波ブックレット)を読了した。

1980年代までのアイデンティティに対比させて
それ以降のキャラ化された人格形成を取り上げた小論である。
ある意味、私の近来の主張とカブっていて
その意味で分かりやすいといえば分かりやすいが
最後のまとめが、いかにも平凡で
すなわち、決め手のないままこの種の同工異曲の文章を書く仕事を引き受けたのかと推測すると
失望感も強くなる。

着想の方向は正しいのだが
あまりに当たり前のことばかり書かれているので
読んでいて楽しくない。
大学入試の小論文対策としては問題ないが
大人が読んで楽しめる著作ではなかった。

896korou:2012/08/18(土) 13:10:14
挫折した本。
大栗博司「重力とは何か」(幻冬舎新書)。

読みやすい、分かりやすいという触れ込みだったが
それは最初の50ページ程度で
そこから先は、そもそも、たとえがどういう状況を示しているのかさえ分からず
いくらたとえられても意味がないという読書になってしまった。

こういうのを読んで
「非常に分かりやすい。重力の謎にちょっとだけ迫れた感じ」とか
書評で書く人の神経が分からない。
まあ、書くだけなら自由だからねえ。

897korou:2012/08/19(日) 21:29:09
久々に県立図書館で本を借りる。
さっそく1冊読破。
玉置宏「玉置宏の昔の話でございます」(小学館)

何気なく借りた。
まあ、気楽に読めるだろうというその1点だけで借りたようなもの。
しかし、意外ときっちりと事実をメモできている著作で
途中までは「掘り出し物」の感触十分でなかなか気分が高揚したのだが・・・

坂本九のあの歌い方を永六輔が指導したというくだりで
一気に夢が醒めた。
完璧なミスではないか。
こんなウソを堂々と書くなんて・・・他の部分もウソが混じっているのだろうか?
急に不信感たっぷりとなり、そのまま読み終えた。

おそらく、自分に関する部分は、もっと信頼しても良いのだろう。
自分に関するウソは計算ずくだから、それはそれで、別の意味で真実とも言えるのだから。
しかし、自分と関係ない歌謡曲史などの記述のウソはどうしようもない。
まして、ウソをつく意味もないので、これは伝聞をそのまま信じた初歩的なミスでしかない。

というわけで、全部真実なら宝のような本だが
そうでなさそうなので、まあ話半分として読み捨てる本。
新しい世代の人は全く読む必要ナシ。

898korou:2012/08/28(火) 22:22:22
長谷川晶一「最弱球団 高橋ユニオンズ青春記」(白夜書房)を読了。

相変わらず、なぜ高橋ユニオンズは岡山でキャンプをしたのか、という
トリヴィアにこだわっていて
この本も、そのことについて何かヒントになる記述はないかということで
県立図書館から借りて読み始めた。

結論としては何も分からなかった。
野手は「たきもと旅館」というところに宿泊し
バッテリーは「東洋館」というところに宿泊し
夜の息抜きは「キャバレー・アジア」というところであることは分かった。
旭中学校のグラウンドを借りて練習したという記載もあった。
しかし、それ以上のことは分からない。
まして、岡山を選んだ理由などまるで分からない。
同時期、大映が倉敷をキャンプ地に選んだのは
田村駒の関係で岡山に工場があったからという明確な理由が分かっているというのに。

本としては平凡なノンフィクションで、アマゾンの高評価は私には不可解である。
少なくとも、当時の永田オーナーのわがままな独裁ぶりを
生存している関係者に取材して、もっと深めるべきだっただろう。
選手だけ取材して、ノスタルジーに浸っているだけのお気楽なドキュメンタリーであることは否定できない。
もっとも、消滅球団の記録に、そこまでの厳しいリアルな追跡を望む読者は
あまり居ないのかもしれないが。

899korou:2012/08/31(金) 10:55:03
小林よしのり・中森明夫・宇野常寛・濱野智史「AKB48白熱論争」(幻冬舎新書)を一気に読了。

たまたま確保できたので、一気に読み終えた。
内容は、AKB48がいかに優れた「システム」であるかということを
戦後日本社会の様々なムーブメントと比較しながら
4人の間で確認、共有し合う、ということになろうか。
アイドル評論家の中森氏、サブカルから社会現象を読み解く宇野氏なら
こういう形は十分予想できたが
そこへ、御大小林やすのりと、どっぷりハマりきった若手社会学者の濱野氏が加わっても
同じテイストで進行していったのは
実質的にこの論客たちのかじ取りをしていた中森氏の才覚だろう。

個人的な感想として
AKB48については従来型の「やらせ」型アイドルであり、目新しい点はないと思っているので
ここでの論争には基本的にはついていけない。
そこまで、その存在に意義を認めない立場としては
あまりにも飛躍した一方的な話の連続に思えてしようがなかった。
ただし、仮に「やらせ」でないのだとしたら
こういう見方もあり得るとは思った。
結局、テレビでしかその存在を確認できない地方在住者には
その「新しさ」を確認するすべがない。
参加型アイドルは、大都会でだけ有効なのだ。

というわけで、特にAKB48について新しい知見が開かれる本ではない。
ただし、この本の内容に共感できる「入口」を持っている人には
その「入口」から予想もつかないほど広い世界へいざなってくれる本であることも間違いない。

900korou:2012/08/31(金) 16:17:18
「谷口久吉の文化巡歴」(山陽放送)を読了。

谷口久吉は、昭和戦後まもなくの岡山の財界人・文化人として
巨人のような存在の人物である。
おもに中国銀行と山陽放送でキーパースンとして重きを為し
この本にしても、山陽放送開局50周年にあたり
最も重要な人物について評伝を残そうという当時の石井社長の意志で
作成されたものである。
実際の文章は、山陽新聞の生咲さんが執筆された。

岡山のいろいろな人物が登場し
いかにも多方面にわたった谷口翁らしい伝記になっている。
谷口氏と、同時代のもう一人の巨人伊原木伍朗氏のような人こそ
今の時代に必要なリーダーといえるかもしれない。
しかしながら
もはや時代がそういう懐の深い人材を許さなくなってきている。
この本を読むことは、古き良き時代を偲ぶよすがとして愉しいわけだが
同時に、もう到達できない境地を確認するという悲しい作業でもあった。

901korou:2012/09/02(日) 16:05:48
「私の履歴書 保守政権の担い手」(日経ビジネス人文庫)を読了。

岸信介、河野一郎、福田赳夫、後藤田正晴、田中角栄、中曽根康弘という面々が
それぞれ日経の「私の履歴書」に書いた自伝を
1冊にまとめて、巻末に御厨貴氏が解説をつけた本である。
面白そうなのは読む前から分かっていたが
読後の感想を言えば、岸の文章が一番期待はずれで、その次に河野がダメ。
なぜなら、この2人が現役真っ盛りのときに執筆しているからで
現実に大きな決断、活躍をした時期は、その直後だったりする以上
自伝としての価値はともかく、現代政治史の資料としてはガタ落ちと言える。
その点、福田・中曽根は、功成り遂げた直後の自伝であるので
自伝としての要素を超えて、読ませる部分が多い。
異色なのは、やはり角さんの自伝で
これこそ昭和22年の代議士初当選までの自伝だから
政治史的には価値は低いのだが
浪花節の要素たっぷりな上、文章も悲喜こもごもで読ませる。
以前読んだことがあるはずなのだが、例によって全部忘れてしまっていて
またしても面白く読ませて頂くことになった。

それにしても、特に中曽根・福田・後藤田の文章にそれは伺われるが
この世代までの政治家には、信念を押し通す実行力があったことを強く感じる。
虚実は不明だが、たとえ虚であっても実のように見せる力があった。
正直だけど頼りない、あるいは寝業師のようで策におぼれているだけの今の政治家と比べて
随分とプロフェッショナルだと痛感した。

まあ、このメンツで面白くないわけがなく
この本を手に取るような趣向の人の期待を裏切るような本ではない。

902korou:2012/09/06(木) 15:44:15
マーティン・ファクラー「『本当のこと』を伝えない日本の新聞」(双葉新書)を読了。

外国人記者が
記者クラブなどの日本の報道の弊害を乗り越えて
独自に日本の真の姿を伝えるというストーリーはよく耳にするが
この本は、そういう話を根本から支えるジャーナリスト魂に満ち溢れた好著だった。
今年はこれという本に巡り合わないのだが
この本などは、今のところ、ベストワンのように思える。
素晴らしい出来栄えの本である。

書いてあることは、いちいちもっともで
驚くほどのことはないのだが
これほど徹底して一貫して書かれてあると、不思議なほど心を打たれる。
やはり凡人は信じ方が足りないのだろう。
信念が足りない、弱い、不足している、というか。
ファクラー氏は、実際にも行動し、発見し、報道している。
日本で活躍するジャーナリストということで
ついつい偏見に走りがちになってしまうが
ひょっとしたら、米国でも最良に属する新聞人が日本に来ているのかもしれない。

ということで、書かれている内容もタイムリーであり
文句なしのオススメの本。

903korou:2012/09/09(日) 18:30:30
鹿島田真希「冥土めぐり」(河出書房新社)を読了。

今回(第147回)の芥川賞受賞作。
「99の接吻」という短編も同時収録されている本だが、これは冒頭の会話に違和感を感じたので読んでいない。

表題作は、割合とスッキリした文章で
さほど苦労せず読み進めることができた。
最近の芥川賞受賞作に共通した独特の重苦しさがやはり感じられて
とはいえ、それをさらに突き破る才能といったものは感じることはできなかった。
酷評すれば「良くできた作文」ということになるが
言葉だけでここまで濃密に人生を凝縮できる技術に
ある程度の賞賛は与えてもいいのではないかという気持ちもある。

もう少し深い作品かと思ったが
かつての吉田知子とか、あるいは金原ひとみなどの才能と比べると
いかにも普通っぽくて語るべきものがない。
村上春樹の小説で扱われる「喪失」を、もっとストレートにストーリーそのもので表現し
ネガとポジを入れ替えた構造で、その「喪失」を昇華させているだけである。

この人は、もっと凄いものを書きそうな予感がするのだが・・・

904korou:2012/09/12(水) 08:57:22
朴三石「知っていますか、朝鮮学校」(岩波ブックレット)を読了。

竜頭蛇尾の典型のような本。
冒頭に、これから述べる内容について大学でも授業を行い
大学生のほとんどが「本当の事実を知って反省した」という記述があり
どんな「自分の知らない事実」が待っているのかと
期待大にして読み始めたのだが・・・

読めども読めども、ごく当たり前の話ばかり。
これのどこに驚きを見出せばいいのだろう?

しかも、朝鮮半島に関する記述が曖昧で
その時点で気づくべきだったのだが
朝鮮学校とは北朝鮮の学校だということを
今回初めて知った。
それは、この本に明確に記述されているのではなく
なんとなく文脈上そう判断したほうがすんなりいく、という程度であり
最後の章で、その推論が正しいことがほぼ確定でいた、という程度のことである。
本来、こういうことは一番最初にきっちり書くべきではないだろうか。
つまり「韓国は日本に黙認されている国であり、北朝鮮は日本と敵対関係にある。
よって、在日韓国人は日本人名により普通に日本の学校教育を受けられるが
在日北朝鮮人は朝鮮学校に行くしか方法がない」という風に。

事実から目をそむけている。この著者は。
それでいて、朝鮮学校が学費無償化の対象外になっていることを指摘して
読者に行動を促すという記述は卑怯である。

私見では、隣国と敵対関係にあるという事実自体が間違っているのだから
堂々とそのことを書くべきである。
そして、その文脈で無償化除外への反論を書くべきだろう。
この本のような手法では、北朝鮮を毛嫌いしている人々を、何ら説得することができない。
実に残念な本である。
こうして考えてみると、竜頭蛇尾だったことなどどうでもよい話であることに気づく。
北朝鮮のために行動しようとする人は、心すべきではないか。
志は素晴らしいのだが、手法が決定的に間違っている。
そんなことを痛切に感じさせる本である。

905korou:2012/09/12(水) 10:59:27
ショーン・タン「アライバル」(河出書房新社)を読了。

最近手にした本で、これほどインパクトのある本はなかった。
全編文字なしの絵だけの絵本であり、
しかも単に文字・言葉がないという以上の意味合いで
あえて文字が封印されているかのような作者の強い意志が感じられたからである。
サイレント映画のようでもあるが
サイレント映画は、チャップリンのような例外を除き
製作者の意志で音がないわけではなく
単に技術上の限界のために、たまたまそういう芸術の姿になったのであったが
この作品は、創作者の意志により文字が排除されている。
代わりに、意味深いショット、美しくも強烈なオブジェが満載であり
そうした作品に普段出会うことがないことが
いっそう、この作品との邂逅を劇的なものにさせているのであろう。

冒頭はなんとなく泣かせるつくりになっていて
それが「泣ける話」という伝説を生むもとになっているはずだ。
そして、小さい子のほうが早く馴れていくというエンディングも微笑ましい。
そんな絵本としてのフォーマットも感じさせながら
全体としては、現代の不条理とそれを乗り越える意志といった骨太のメッセージを感じさせる絵本でもある。

文句なし、今年最上の掘り出し物。
いや、もう十分に有名な作品なので、いまさら「掘り出し」というのもおかしいくらいだが。

906korou:2012/09/13(木) 15:50:18
樋渡啓祐「首長パンチ」(講談社)を読了。

およそ行政関係の本らしからぬPOPな表紙で
小説と見間違いそう。
内容も、堅苦しい行政の話ではなく
現役市長でありながら型破りな行動の連続で
読んでいて圧倒される、あきれる、感心するの連続だった。

前半は沖縄での体験を中心に樋渡氏の青春物語であり
後半は、佐賀県武雄市の市長としての奮闘物語(おもに医師会相手の苦闘、いや激闘か)
という構成になっている。
この市長は、現在、ツタヤに図書館運営を任せる施策により注目を浴びていますが
いやはや、この医師会との対立も相当なもの。

一言で言って面白い。エネルギーもあれば、適度なユルユル感もある不思議な感じ。
まあ、人口5万程度の小規模都市なんで
こういう感じの市長であっても、害より益のほうが多いという印象。
まさに市政に風穴をあけるという意味においては
これほどの適任者はいなかっただろう。
ただし、すべてに素人の立場で口をつっこむやり方(よって立つところは市民目線、「市民のため」)は
大都市だと通用しないかもしれない。
橋下市長でも、原発について曖昧になったし、これは仕方ないかも。
要は、小規模都市まで役所組織を硬直化させる必要はないということを
劇的に証明してみせたというところがこの本の最大の魅力だろう。

こういう首長がもっとどんどん出てきて
地方自治が活性化して、霞が関権益の弊害を打破する流れになれば
もっと日本は良くなるだろう、という希望が持てる書である。

907korou:2012/09/17(月) 18:32:55
綿矢りさ「ひらいて」(新潮社)を読了。

途中までは、これは今年最高の内容の小説ではないかと思った。
大江健三郎賞受賞なんてちょっとどうかと思ったが
そんな懸念を吹き飛ばしてしまう見事な日本語の紡ぎ方!
話そのものも高校生という設定が効果的な運びで申し分ない。

ほころびが見えたのが、やはり不自然なほど細かい同性愛描写のあたりから。
長編小説ならともかく
この長さの小説でこれほど濃厚に表現する必然性があったかどうか。
最後のあたりで挿入される「サロメ」の引用も不自然。
聖書で涙ぐむのも不自然。
そうした不自然の流れは、卒業式間際に教室内で暴走する主人公の行動の描写により
それまでギリギリでリアルを保証していた何かを
最後の最後でぶち壊す伏線となったような気がする。
最後に、彼女は電車に乗り、小学生男子に囁くかのように「ひらいて」とつぶやくのだが
直前でリアルを失ったせいで、現実味がない。
彼女は電車に乗っておらず、つぶやいてもいないように思える。

このようにこの小説は最後のほうに向けて大きく破綻している。
しかし、その破綻は、思ったより致命的でない。
不思議なことに、読み終えた瞬間は、それほど不快ではないのである。
途中までの高揚感はさすがに消え去っているが
かといって、全体としてダメという印象とは程遠い。

何故だろうか?
日本語の使い方は相変わらず個性的で、言葉の美しさも尋常でない。
それに加えて、今までは単に美しい日本語の「用法」だったのが
今回の作品では、描写が作品全体に力を与えていて
いよいよ本格的な文学になってきたという感動すら覚える出来栄えになっている。
でも、それだけで、終盤の破綻が全部帳消しになったとも思えない。
何故だろうか?

欠点も目立つが、さすがに”綿矢りさ”と思わせる作品だった。
読んで損はない。
損と思ったら、その人は一生”綿矢りさ”には縁がないだろう。
これが”綿矢りさ”の文学なのだから。

908korou:2012/09/20(木) 22:57:20
湊かなえ「白ゆき姫殺人事件」(集英社)を読了。

本の巻末3分の1程度のかなりの分量で
参考資料という形で”Twitter””週刊誌の記事””新聞記事”の抜粋が載っている
という凝った構成になっている。
しかも、そこを読まないと、事件そのものが
本文だけでは説明しきれない構成になっている。
それでいて、特に”Twitter"なんかが、HNの把握がし切れないという面もあって
非常に読みにくいという短所を持つ。
結局、ギリギリの速読で何とか話の辻褄を合わせようと
小説を読む感覚とはまるで違った感覚で読み焦ることになり
その感覚が読後に残ってしまうのが
なんとも致命的というか、この作品の決定的な欠点になっていることに
作者、編集者はどう思っているのだろうか?

情報社会の怖さを描く試みは評価されるべきだが
これでは、読者を選んでしまう。
元の話自体が、それほど読者を圧倒できるできばえではないのだから
これでは「告白」以来の読者を大幅に手放す結果になりはしないか。

というわけで、この作者の充実ぶりを知るというより
構成に難があり過ぎで、そういう内容うんぬんの議論すらできない作品というのが
今回の新作への私の評価になる。
もっと普通にじっくりと書いてほしい。
それができる人のはずだから。

909korou:2012/09/22(土) 21:53:01
内橋克人とグループ二〇〇一「規制緩和という悪夢」(文春文庫)を読了。

偶然読み始めたが、内容のあまりのリアルさと的確さが印象的で
最後まで読み切ってしまうことになった。
元々の文章は1994年から1995年にかけて文藝春秋誌上で発表されたものであり
最後に文庫化に際しての寄稿文が2001年に書かれているのだが
書かれた時代からほぼ20年近く経って
その間に起こった出来事を考えると
これほどリアルに近未来を予言した書はないのではないかと思えるほど
その指摘は、ことごとく当たっているのである。
これだけ事態が悪化することが予想されていながら
その論説に全く耳を傾けず、ひたすら一部の富裕層のための「改革」だけを行い
この国をこれほどボロボロにしていった政財界のリーダーたちの罪は大きいと痛感する。
もっとも、時代の制約をいえば、1990年代にこの改革の成果を正しく評価できる人は
さすがに居なかったのではないかと思える。
内橋さんのグループは例外的に優れていたけれど
そこまで徹底した検証は、やはり権力側としてはできなかったのではないかと思える。

となれば、罪深いのは小泉政権ということになる。
その誕生時には、バカみたいに喜んでしまった過去の自分が恥ずかしい。
小泉そのものに罪はないが、彼に政権を取られてしまった自民党の面々の罪は大きい。
もちろん、自分同様、その発足を熱狂的に迎えた国民こそ、真の張本人だろう。
となれば、その結果として悲惨なものが次々と現れても
それを引き受けて苦しむのは自業自得ということにもなる。
結局、その国民のレベル以上の国家などあり得ないのだ。

と色々推論してみて納得もするが
この本の存在を知れば、後悔も大きい。
その意味で、今読むと、なかなか辛い読書ということにもなるわけだ。

910korou:2012/09/30(日) 10:36:19
孫崎享「戦後史の正体」(創元社)を読了。

読んでいる途中から
これは今年読んだ本のベスト1になるだろうという感触があって
なかなか得難い興奮のまま読み終えることになった。

何が素晴らしいかといって
これほど徹底してある特定の視点からだけで
すでに70年近くになろうとしている戦後史の長く複雑な事実関係を解き明かそうとする
シンプルな力強さこそ
近年の類書にないものではないか。

同感しかねる部分も随所にあって、また外交だけで政治家をぶった切るのもどうかと思うが
そういった欠点を大きく補う、非常にいい意味での分かりやすさがこの本の魅力である。
やはり、ある程度の下読みというか、戦後史の基礎知識は必要かと思うが
(いかに著者が高校生程度の読者を想定して書いたと主張したとしても)
2冊目、3冊目に読む戦後史の本として最適であることは断言できる。

その特定の視点が、時代が求めていること、つまり
「どうしてこんなにふがいない日本になったのか」という疑問に答える形で提示されていることこそ
2012年の今日において、この本がベストであるという根拠だ。
タイムリー、かつ「今までなぜこの類の本が出版されなかったのか」という感動こそ
この本の真骨頂だ。

読後、やはりベスト1であることを確信した。
国民全員、読むべし。そして、日本と米国について熟考すべし、である。

911korou:2012/10/02(火) 15:05:58
小野不由美「残穢」(新潮社)を読了。

著名な方であり、近年またブームになっている作家であるが
読破した作品はこれが初めてである。
現存の作家が実名で登場する上に
全編ドキュメンタリーのような書き方なので
ノンフィクションの読後感が残るが
それとて「初見」の作家なので、まるで見当がつかない。

文字組みが大きく(老眼向き)、話の内容も明確で
著者という設定の「私」の心の動きも妥当で
全体によく分かる話である。
ホラーという設定だが、全然怖い部分がなく
ホラーの正体を極めているうちに
明治以来の日本近代史の闇にハマっていくという趣きだ。
面白い感触だが、これを読んだだけで、この作者の作風をうんぬんすることは不可能に近い。

もっと本格的なフィクションを読む必要があるのだろう。
ただ、一度「十二国記」を読みかけた印象でいえば
なかなか難しい気もする。
純粋ホラーならまだしも、ファンタジーまで入り込むと
今の自分には難しい。

ということで、ファンタジー風味のないややホラー風味の物語で満足できる人なら
この本でも十分堪能できるだろう。
ファンタジーノベルのファン、強烈なホラー小説ファンには
まるで向いていない小説のように思える。

912korou:2012/10/10(水) 22:37:13
山口幸三郎「日暮旅人の探し物」(メディアワークス文庫)を読了。

仕事で必要があって読み始め、まあまあの出来だったので何とか最後まで読了。

全体として漂う憂愁の感覚はとてもいい。
キャラの造形もまあ合格点だし、話の「小ささ」もこの構想なら適切だ。

ただし、文章は、ただ読みやすく、まあまあ誠実なだけで
実際のところ、ニュアンスが乏しくて想像力を刺激しない。
だから、ある程度続けて読んでいると、飽きが来る。
仕方ないことかもしれないが、小説なので、これはある意味致命的。

アイデアはいいので、文章に深みが出ればオススメである。
せめて「ビブリオ古書店」くらいのレベルになればいいのだが・・・

913korou:2012/10/14(日) 16:36:01
百田尚樹「リング」を読了。

ファイティング原田の活躍を中心に描く1960年代の日本ボクシングの物語である。
百田さんの著作なので、最初は小説かと勘違いしたが
これは著者自身のノスタルジーと丹念に事実を絡めて書かれた上質なノンフィクションだった。

白井義男をめぐるハワイの日系興行主の話とか
矢尾板貞雄のジム会長との確執の話とか
なかなか詳しくは知りえないエピソードが
面白くかつ分かりやすく書かれていて、大変参考になった。
こういうのが好きな人は少数派だろうけど
その少数派にしてみればたまらない内容で
熱狂的に読める本になっている。

それにしても、ボクシングというのはノスタルジーをそそる題材だな
と痛感する。
同世代の自分としては、懐かしく、嬉しく読めた。
それ以外言葉はない(誰にでも薦められる本でないのが残念だが)

914korou:2012/10/21(日) 19:09:10
百田尚樹「海賊とよばれた男(上・下)」(講談社)を読了。

久々の上下本の完読である。
同じ職場の方が推奨してくれたので、かなり気を入れて読み通してみた。
一応、小説の体裁をとっているが、実質はノンフィクションであり
出光佐三を主人公とした日本の近現代史ということで
随所でWikipediaを参照しながら読み
相当の時間を費やしつつ、ほぼ1週間にわたってかかりっきりで読んだ。

mixiに長文を記したが
やはり素材が持つ魅力が一番で
百田氏はそれを普通に小説としてアレンジしたに過ぎないのだが
結果として、非常にパワーのある小説になっている。
素材を適切に選んで、オーソドックスにアレンジして
最終的には強力なフィクションとするやり方は
冲方丁氏の最近の手法と共通するものを感じる。

まあ、万人にオススメできる良書と言えよう。

915korou:2012/10/30(火) 21:31:01
雨宮処凛「ロスジェネはこう生きてきた」(平凡社新書)を読了。

雨宮氏の著作は始めてである。
いきのいい文体で、ばっさばっさと現実を叩き切るというイメージだったが
それは、もともとのこの方の素質であって
実際には、生き辛い日常との戦いを続けて、やっと自身の素質にたどり着いたというべきだろう。
自伝スタイルで始まるこの本は
前半部分は、特に「ロスジェネ」というこだわりを抜きにしても
なかなか読ませる思春期の苦悩の告白になっている。
これほど苦しい精神の吐露は、柳美里の自伝を連想させるが
柳さんはあくまでも個人的な事情、環境による苦しさであるのに対し
雨宮さんのそれは、時代背景を伴った世代的な広がりを持つ点が異なる。
その世代的な広がりを、自身でどうやって認識していったかという経緯が
後半部分に記述されている。
前半と後半のつながりもスムーズで
奇しくも自伝としても優れた構成になっていると思う。

とにかく、1975年生まれ、その前後の生まれの人たちの
生き難さ、生き辛さがどのようなものであるのかを
感覚的、直感的に知らせてくれる本である。
今の日本の現代史を個人にレベルで語れば
こういうトーンの文章になるだろう。
鋭く、ある意味で真摯な本であるが
その分、読む人を限定する要素もたっぷりとある。

916korou:2012/11/06(火) 10:59:19
青柳碧人「浜村渚の計算ノート」(講談社文庫)を読了。

必要に迫られて読了。
書店で表紙買いに近い状態で購入を決断したものの
果たして公費で購入して大丈夫だったか後から判断することになったケース。

で、結果は上々、購入は正解だった。
やはり数学の知識が自然と入ってくる感覚などは
他の小説では味わえないオリジナリティと言えるだろう。
そして、そのオリジナルな感覚がなければ
凡庸なライトノベル風お子ちゃまミステリーで終わっていたはず。
それが「数学の雑学」というものを付け足すだけで
これほど読み飽きない作品になるのだから
その意味でも、なかなか珍しい読書体験となった。

10代の読者には無条件にOK。
大人の読者も、決して飽きさせない妙な魅力を持った本だと思う。
欠点を挙げればキリがないほど不備な内容なのに
そういう方向からコメントするのは筋違いと思わせる不思議な本である。

917korou:2012/11/07(水) 21:56:45
高橋秀実「弱くても勝てます」(新潮社)を読了。

全国でもトップクラスの進学校である開成高校で
野球部が面白いことになっている、という情報を知った著者が
実際に部活の練習時間にそこへ滞在し、監督・選手に継続してインタビューを重ねて
作られたノンフィクションである。

青木監督の何とも言えぬ突き抜けた指導ぶりが面白い。
弱いチームを指導するのだからこれしかないと確信をもって指導される姿は
この開成高校のような頭脳集団にはピッタリだったのではないか。

ただし、著作として見てみれば
事実をそのまま書くしかないノンフィクションという宿命で
最後の最後にクライマックスをもってくることができず
読後の印象が散漫な結果となった。
甲子園予選と練習試合というメリハリを考えれば
最後に甲子園予選での大番狂わせがあってほしいと思うのは
ないものねだりなのか。

野球の本というより、面白いノンフィクションそのものという趣。
野球ファンよりも、ノンフィクションの読み手にオススメする本。」

918korou:2012/11/18(日) 23:48:18
湊かなえ「母性」(新潮社)を読了。

前回の「白ゆき姫殺人事件」が期待外れだっただけに
今回こそ傑作であってほしいと期待し、見事その期待は成就したように思う。
ドロドロとした情念の連続は、デビュー作「告白」を連想させる出来栄えであったし
何よりも、母娘三代の情念の重なり合いを明快に示しつつ劇としての緊張をそこに含ませ
最後まで飽きさせずに書き切った迫力を感じてしまった。
作者の誠実さを感じる力作であり、しかも力作独特の重さを感じさせない文章を達成できている点が
素晴らしいのである。

読んでいて、これは日本社会独特の構造がもたらすストーリーかもしれないと思った。
小説を読んでいて、そこまで深い地点で思考することは稀だが
この作品の独特の深さ、暗さ、怖さは、案外世界共通のものかもしれない、でも
それをこういうストーリーで表現できるのは日本文学だけかもしれない、と思ってしまった。
その意味でも貴重な読書体験であった。

とりあえずは、今年のベストセラーから選んだら(まだ発刊直後でベストセラーかどうか不明なのだが)
ベストワンの小説に近いのではないかと個人的には思う。
湊かなえは、やはり注目度ナンバーワンの作家だと思った。

919korou:2012/11/19(月) 17:47:01
豊田義博「就活エリートの迷走」(ちくま新書)を読了。

就職活動において「勝ち組」のはずだった人たちが
その後、企業内で迷走し、戦力にならないという事態が目立ってきている、という指摘が興味深く
読み進めていったのだが
意外と読了に時間がかかってしまった。
途中から、大体の趣旨が分かってしまったというところもあるのだが
やはり、明治時代の富国強兵時代から一世紀以上延々と続けられてきた新人採用形態は
そう簡単には変革できないだろうと思ってしまうからだ。
実現性の少ない提言を読むのは気が進まない。
だから、230ページ程度の新書でありながら
読破に1ヶ月近くかかってしまった。

いつの時期から就職が難しい時代になったのか?
現在の就職活動というのはどのようなものなのか?
そういう俯瞰的な記述については、よくまとめられている。
問題の分析も鋭い。
ただし、最終章の提言については、部分的に甘いところもあるし
実現性において悲観的にならざるを得ないのである。

最終章は、むしろ
現代の企業が求めている人間像が端的に記述されていて
非常に分かり良いので
就職の話というより、企業の話として面白かった。

というわけで、本来の論旨を問えば、内容はややチェック甘め、
しかし、就職という社会現象に関する雑学という点では申し分なかった。
この本に書かれてある処方箋が、少しでも実行され、効果を上げるようであれば
それが最も良いのだが・・・

920korou:2012/11/24(土) 15:53:44
横山秀夫「64」(文藝春秋)を読了。

著者7年ぶりの大作。まさに書名と連動しているかのごとく640ページ以上に及ぶ長編である。
アマゾンでの評価は最上級で、読む前から傑作のイメージがついていた。
そして、読んでいる最中の充実度たるや、あまり過去に記憶のないほどで
いったいどういう解決をつけるのか見当もつかなくなったのだが
最後の50ページほどで、何か風船がしぼんでいくような脱力感に襲われたのも事実。
ただし、そこまでの600ページに関しては
今年度ナンバーワンという評価も納得できる出来栄えだったことも認めよう。

とにかく、作者の頭の中でだけリアルな登場人物というのは一切出てこない。
どの人物もリアルで、まるで実際に体現したかのような迫力で読者に迫ってくる。
キャラ小説の薄さは、こういう小説を読めば自ずから分かろうというものだ。
こういう個人と組織の軋轢、修羅場は、キャラなどという自明なものだけで
描き切れるものではないことを示す優れた描写の連続である。
その描写の緊張感が600ページもぎっしりと続くのだから
その重量感たるや、最近のありきたりの小説ではとても味わえないわけだ。
作者の苦悩、沈黙が、この作品で一気に噴出しているかのようだ。

だからこそ、すべての伏線にもっと止揚できた解決をつけれたはずなのに・・・作者は
最後だけ自己満足で解決をつけてしまった。
読後のモヤモヤは晴れない。家出した娘を未解決のまま終わらせていいのか?
重要な人物たち、特に500ページまで主役だった多くの人物たちが
最後には突然居なくなったかのような冷淡な扱い。
骨格はエンターテインメントなんだから、無理矢理でも趣旨貫徹してほしかった。
そこだけが残念(でもアマゾンの住人は全く気にならないようだ。不思議)

921korou:2012/12/03(月) 17:21:05
池上彰「高校生からわかる原子力」(集英社)を読了。

いろいろと”池上本”を読んできたが
分かりやすさ、知らない事実を一気に分からせてくれる有難さを
感じさせてくれる点において
この本は断然優れているように思えた。
おぼろげに固有名詞だけ知っている事実について
実際の具体的な流れを必要十分に知ることができたというその一点だけでも
この本を読んだ意義は十分にあった。

それほど分かりやすい素晴らしい啓蒙書であるにもかかわらず
それでもなおかつ「核燃料リサイクル」の話だけは
何がどうなっているのか、結局のところ理解することができなかった。
内容が、核に関する科学技術上の知識に踏み込むだけに
かなりストレートに単純化してもらわないと
素人には手に余る話であることは確かだ。
さすがの池上マジックも、ここでは無力だった。

しかし、そこ以外は、実に明快で、ほぼ全部の記述が理解可能だった。
そこから見えてくる20世紀国家のエネルギー戦略の無計画性こそ
われわれが次世代にお詫びしながら伝えていかなければならない厳粛なる事実なのだろう。
書名に反して、これは「中高年が詫びる原子力政策のこれまでの過ちの歴史」を
十二分に分からせてくれる大人必読の本なのである。

922korou:2012/12/08(土) 20:41:51
有川浩「旅猫リポート」(文藝春秋)を読了。

愛猫とのロードノベルという設定にそそられて
大体の見当がつく有川さんの小説とはいえ、あえて読み始めた。

最初のあたりは軽すぎる描写に鼻白んでしまうことも多かったが
その軽さで夫婦の毒までも表現しようとする旺盛さに意外さと好感を覚え
途中からは、主人公と猫の姿が明確な映像で脳裡に浮かぶほど熱中できた。
有川ノベルでは珍しい体験だった。
設定がよく効いているし、細かい仕掛けも効果的だ。
大きな仕掛けとか、深い心理描写とかはないので
本格派小説を好む人には物足りないかもしれないが
現代の読者には必要かつ十分な物語の仕掛け、描写になっている。
そして、読みやすさとか、小説としての分量、プロットへの好感度など
圧倒的な人気を誇る作家ならではの魅力が満載である。

主要な人物はともかく、背景となる人物が類型的でキャラだけの人物になっていることが
有川さんの小説の最大の欠点だと思うし
それは今回の好ましい素材の小説を読破した後でさえ、その懸念は払拭されない。
しかし、現代とはそういう時代なのかもしれない、という思いもある。
自分のまわりだけはきちんと理解できる世界であってほしいけど
自分とは縁の薄い、縁のない部分は、単純にキャラで把握できる程度の軽い認識でも構わない。
それで十分生きていけるから・・・・というのが現代なのかもしれない。
時代はそれに相応した文学を持つ。文学は時代の制約のなかで創造される。
そういう思いも深まった読書だった。

923korou:2012/12/09(日) 14:53:30
榎本まみ「督促OL 修行日記」(文芸春秋)を読了。

コールセンターで債権回収の仕事をしている
20代女性のブログを元ネタとした本である。
興味深い世界であり、文章も軽快でスラスラ読めるということで
そこそこのベストセラーになっているようだ。

以前読んだ「クレーマー」関係の本と比べると
イマイチ仕事の厳しさが具体的には伝わってこない。
著者本人の美容面でのハードさとか
その仕事を続けられずに辞めていく人々の話などで
間接的には伝わってくるが
電話対応でどのくらいヒドい罵詈雑言が浴びせられるのかという
現場サイドの情報が不足した文章だった。

もっとも、この種の本はもっと出ていてもおかしくないのだが
著者があとがきでも書いているように
意外など目につかない。
その意味で、これを機会に、この分野のエッセイが充実する契機になれば
この本の存在意義も増してくるはずである。

買うほどではないが、100円程度でブックオフで買うには最適の本。

924korou:2012/12/14(金) 16:49:24
横山秀夫「陰の季節」(文春文庫)を読了。

「64」があまりにも強烈だったので
同じD県警シリーズということだけで
この短編集にも手を出したという次第。
しかし、長編の圧倒的なボリューム感の後では
いかに優れた短編集であっても物足りないこと甚だしいのは
読む前から心得ておくべきであった。
結果として、松本清張賞受賞のこの佳品ですら
読み通すのに苦痛を覚えることになってしまった。

しかし、冷静に判断してみれば
実によくできた完成度の高い短編集であることは疑いない。
こういうジャンル(警察小説)でさえ、管理部門にスポットを当てれば
深い人間洞察に満ちた心理描写たっぷりに読者を魅了することができることを
おそらく日本のメジャーな文学シーンで初めて証明してみせた短編集ではないかと思う。
先にこれを読んで、「64」を読めば
完璧な満足感に浸れるに違いなかったが
まあ、なかなかそうはうまくはいかない。

この作品だけをとってみれば、文句なしにオススメ、優れた警察小説であることは
言うを俟たない。

925korou:2012/12/18(火) 10:39:19
杉井光「終わる世界のアルバム」(メディアワークス文庫)を読了。

ひょっとして凄いかも、と期待しながら読み始める。
たしかに設定がよく効いていて、独自の世界に惹き込まれる感じではある。
ただし、十分にイメージが発酵していなくて、さらにムダに饒舌な描写も多く
当初感じた設定の新鮮さほどには切実に迫ってはこない。
だんだんと設定の細部が明らかになるにつれ
小説の構造もほぼ読めてきて
そこから先は、この作品へ好意が持てたかどうか、読者としては分かれ目になる。

このレベルならまあ推せるかな、と判断した自分には
そこから先は容易だった。
最後の海岸のシーンも美しいと思うことができた。

ただ、万人を納得させる展開ではない。
決してメディアワークス文庫全般の限界ではなく
これは作者内部での発酵不十分、構想不十分によるものだ。
もっと時間があれば、もっと素晴らしい物語になっていたと思う。

このテの物語を愛好する読者層には、結構感銘を残すストーリーにはなっている。
しかし、それ以外の読者層の心をつかむには、このままでは力不足。
そんなライトな小説。

926korou:2012/12/19(水) 16:41:38
山中伸弥「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」(講談社)を読了。

自然科学の話だが、書きだしは伝記風だったので読み始めてみた。
すると、意外なくらい読みやすい(活字も大きくて目に優しい)
ニュートン別冊で少しだけ知っていた山中さんのエピソードではあるが
それ以外にも、面白い話が随所に挿入されていて
あっという間の一気読みとなった。

あまりに謙虚すぎて
研究の成果のなかに自分の功績を含めなさ過ぎるのではないかと思うが
これも本人のお人柄なのだろうと思う。
為された業績もノーベル賞ものなのだろうが
この本のように、高度なレベルの研究を
素人に分かりやすく語る能力も
ずば抜けているように思えた。
自然科学界の池上さんかも。

あまりこの種の本を書いているヒマもなさそうなのが残念だが
できれば、こういう啓蒙書、入門書の類も
いくらか書いてほしいと思った。
それだけの価値のある読書だったと思う。

927korou:2012/12/20(木) 22:17:23
石澤靖治「日本はどう報じられているか」(新潮新書)を読了。

2004年1月の発行なので
せいぜい2003年前半までの状況、約10年前の状況しか分かり得ない本ではあるが
10年後の現在も
この本で書かれていることと(驚くほど)同じ状況であることが
分かってしまう本である。
この10年、リーマン・ショックがあり、米国の勢力は減退し
日本ではますます政界が混迷を極め
東北大震災が起きたというのに
結局何も変わっていないのか?

さらに分かったことは
どこの国でもマスコミの暴走がみられること。
欧米あたりだと、修正可能な誤解、偏見のように思えるが
中国・韓国あたりだと、政府の姿勢とマスコミの論調がかみ合わず
仮に背後で政界が糸を引いているにしても
あまりにも危険な報道ぶりだと言わざるを得ない。

結局、我々はマスコミを通じてしか世界を見ることができず
そのマスコミにはロクなものがないので
世界の出来事を本当に理解することはできない仕組みになっているようだ。
本当のリーマン・ショック、本当の東北大震災、本当の中国などについて
我々は何も知らない。
大事件だろうと何だろうと、マスコミが伝えるほど大きな事件ではないのかもしれない。
しかし、マスコミ報道はウソだろうと何だろうと実体を持ち、影響力を持つ。
この10年間大きな事件がこんなにありました、とオーバーに報道されると
我々は、そうなのか、と思うしかないのかもしれない。

日本がどう報道されているか、ということより
マスコミの巨大さ、怖さを再認識させられる本だった。

928korou:2012/12/27(木) 15:46:42
池上彰「池上彰の政治の学校」(朝日新書)を読了。

最近は内容の濃い本が多い池上本だが、これは外れ。
なぜなら、政治の世界を論じる本というものは
もっと具体的で、もっと人間関係に迫っていて、もっと生々しいものなのだが
この本はそのどれにもあてはまらないし、それでいて的外れの楽しさにも欠けるからである。
抽象的で、形式的で、醒めている記述。
これで面白ければ魔法の類。
池上マジックも、さすがに万能ではなかった。

随所に出てくるブラックな記述には、時々ニンマリさせてもらったものの
大体において、記述がパサパサしていて、読後の印象が非常に弱い。
最後に「日本の政治の成熟」を指摘した点だけが
他の類書に見られないユニークさとして記憶に残るだけ。

残念な出来ではあるけれど
政治に不案内な人が読むとどうなのかしら。
意外と良かったりするのかな?そうは思えないのだが、よくわからん、というところ、

929korou:2012/12/28(金) 15:52:13
新井紀子「ほんとうにいいの?デジタル教科書」(岩波ブックレット)を、予定外に読了。

ほんのさわりだけ読んでおくつもりが、最後まで読んでしまった。
1時間強かかったが、全体に、岩波ブックレットにしては文章がこなれていて
非常に読みやすかった。
それと同時に、書いてある内容が、教育へのデジタル教材導入の適否を問うものである以上に
デジタルのメリット、デメリットを要領よくかつ丁寧にまとめてあるので
思わず読み進める結果になったのである。

いくつかの興味深い、思考を刺激する指摘が見られた。
それを逐一ここで再度思考を重ねる時間はないが
デジタル化ということになると途端に思考停止になってしまう不思議な傾向が
ここでは見られることなく
切れ味のよい、着眼点の妥当な思考が見られた。

もっとも、教育全般に関する記述はともかく
デジタルへの敵意まるだしの記述も見られ
特にハイパーテキストについての不十分な論旨には不満も大きい。
誰が小説をハイパーテキストのクリック必須で読むだろうか。
実験するほうも実験するほうだが、それを引用する筆者の神経も分からない。

そういった細かい不満もあるが
全体として教育への正しい理解が随所に感じられ
思わず「そうだ、そうだ」と納得する記述が多かった。
教育とは手間のかかるもので、効率やコストを追求することはできず
まして数量化して計測するようなものでもない。
即回答が出るクイズのような浅い学習のレベルから脱すべく
深い思索の世界へ子どもたちをいざなっていかなければならないものだ。
それが、光回線の利権と結び付いた経済政策の一貫として
教育手段のデジタル化が画策されるとなれば
著者ならずとも批判を浴びせたくなるのも当然だろう。
案外、著者の真意は、さらっと書かれたネットワークへの言及にあるとみた。

というわけで、意外とオススメの一冊。

930korou:2012/12/31(月) 18:17:21
堀井憲一郎「若者殺しの時代」(講談社現代新書)を読了。

年末のゆったりとした時間の中で読むには最適の本だった。
著者は1958年生まれで、自分とは学年が一緒だが
その同世代ならではの共感も覚えつつ
自分もしばしば試みている
1980年代〜1990年代の回想もしくはクロニクルを展開している。
もう少し整然と論理立った文章であれば
東浩紀、宇野常寛などの著作を
もっと具体的な実感と事実で肉づけした著作、という位置づけも可能だが
思いっきり週刊誌っぽい(いい意味で)テキトーな文章なので
そういう評価などもはやどうでもよく
これはこれで独立した見事なエッセイとして読むことができた。

基本は「消費社会」に「若者」が取り込まれて
今や身動きできない「状況」だ、若者が殺されている時代だ、という話なのだが
そういう基本ラインはもはやどうでもよく
クロニクルの部分だけで十分読ませる内容になっている。
それ自体が懐かしいだけでなく
この著者独特の着眼点からくる他では見られないデータなども見逃せない。

というわけで2012年の最後は独特のオモシロイ本で結びとなった。
来年は新しいスレッドにしないと、もう書き込めないことになっているので
一発目はぜひ気をつけたい。


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