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†BUSIDOU † 〜武士としての生き様〜

1武士さん:2011/06/27(月) 20:10:52
これは荒廃せし世界に生きる一人の武士の物語である。
これから彼が何をし、どのように生きるのか・・・
それをなるべく忠実に再現したいと思う。
なお、この小説は「りれい」小説なので
気軽に書き込んでください。
                    BUSIDOU製作部一同

10武士さん:2011/06/27(月) 20:30:02
第9話 町田市の境で

砂の大地に、所々剥がれたアスファルトの舗装路
朽ち果てたコンクリートの建物は窓ガラスも無く、監視所としての機能も失われていた
そして、辺り一帯を取り囲んでいる錆びかけた鉄条網に掛かる看板には、
あからさまな赤い髑髏マークと共に、こう記されていた

〔これより先、立ち入りを禁ずる   町田市〕

これを静かに見下ろしている1人の少女は、恐ろしく場違いな雰囲気を醸し出していた
長い黒髪が乾いた風になびき、手に握られた携帯電話のストラップ人形が儚く揺れる
「また来たのか」
後ろからしわがれた男の声がした
年は丁度成人を向かえたぐらいで、見た目はごく普通の青年だ
男はゆっくりと少女の隣まで歩み、眼前に広がる荒廃した風景に目を向けた
「何度でも来るわ、あなたがうんと言うまでね」
少女は男の顔を見ずに言った
何故だろう。若々しいその姿とは裏腹に、顔は疲れたような表情のせいか
幾らか老けて見え、それでいて瞳は強い光を放っている
「何度来ようと無駄だ。どの道もう、俺にも止められない」
男はポケットからひしゃげたタバコの箱とライターを取り出し、一服し始めた
「今までだって、止めるチャンスはいくらでもあったはず。でもあなたは、何もしなかった・・・」
少女は初めて男の顔を見てそう言い放った
「ああ、しなかったし、しようとも思わなかった。・・・これ以上の話し合いは無駄だ」
男は煙をひとつ吐くと、相変わらず鉄条網の向こう側を見ながら言う
「直に大規模な戦闘が始まる。俺達は町田市民族として、奴等に屈するわけにはいかない・・・」
戦後も長い間この東京の一角で繰り広げられてきた内乱
政府にも見放されたこの地区で、ひたすらに自由を求める町田市民族と、
彼等を劣等種として地上から排除せんとするナシスト達との戦いが止むことはなかった
男の古びた腕時計は、もう午後5時を回っている
町田市民族がナシ党の本陣に夜襲を掛けるまで、もうあまり時間はない
「ここも危ない、もう帰れ。お前は町田市民族でもなければ、今はもう俺の恋人でもない。この戦いには関係ない・・・」
「あなた、死ぬ気でしょ?」
少女は半分叫ぶように言った
「私、諦めないから。あなたがどうしても戦うって言うんなら、絶対に止めてみせる」
「無駄だ。言ったはずだろ、もう誰にも止められない」
「そんなことない!勇気さえあれば、止められるって信じてる!周りの人も、きっとわかってくれる!」

       《・・・そう教えてくれた人が・・・いたから・・・》

少女は意を決したように振り向くと、足早にこの場から去っていった
「忠告はした・・・」
男は結局、少女の顔を一度も見なかった
見てしまったが最後、自分の気持ちが揺らいでしまいそうな気がしたから
民族のため戦いに身を投じる気が、失せてしまいそうな気がしたから・・・



午後7時08分。ゴールデンタイムのバラエティ番組を遮り、突如として緊急放送が流された
町田市で大規模な戦闘が開始された、と

11武士さん:2011/06/27(月) 20:36:52
第10話 友として

PM6時40分・・・
「・・・お客さん、お客さん!!」
「・・・・むっ?」
駅員が呼びかける声で我に帰る武士
「この電車はこのまま車庫に向かうので早く降りてください」
気がつくとここは終点の真木羽
「・・・承知した」
よろめきながら電車を降りた武士
そして先ほどの出来事を思い出す
「・・・気晴らしに少し歩くか。」
そう決めると駅をでて、大通りに沿って歩く。すると
ぐぅ〜  武士の腹がかわいい悲鳴をあげた
「(腹が減ったな・・・どこかで食べるとするか)」
そう思い、近くにいい食事処はないかとあたりを見渡す
『ふあーすとふうど』はあまり好みではないので、和風の店に入ることにした武士
店に入ろうとした、その時
「な〜にやってんだよ、こんなトコで」
声の先には市民がいた
「おぬしこそ何を?」
「ん?ちょっと買うもんがあってな。ところで飯食ってねえんだろ?一緒に食おうぜ〜!」
そういうと武士が目をつけていた店を離れようとする
「おい・・・拙者は・・・」
「わかってるって!和食がいいんだろ?あの店より安いトコあんだよ。そこ行こうぜ」
そしてしばらく道を進んだ所に一軒の居酒屋が見えてきた
「ここ、ここ!」
学生で居酒屋というのは少し入りづらいものだが
何のためらいもなく入っていく市民
「いらっしゃい!!」

12武士さん:2011/06/27(月) 20:37:48
第11話 夜の語り

店内はイメージ通りの普通の居酒屋だった。
店には4〜5人の客がはいっておりにぎやかな話声が響いていた。
椅子に腰掛けると座は畳仕立てになっていた。
「これはよい。」
ふと店内を見回すと、掛け軸が店内のはじに掛かっていた。
その下には短刀が飾ってあった。
「拙者、この店気に入ったぞ。」
「だろ。たまたまおまえがいたからここに連れてきてやったんだぞ。感謝しろよ。」
武士は市民に
「ここには来た事あるでござるか?」
と聞いてみた。
「ああ。いちおバイトしたことあるから店の様子は知ってたけど。」
「なるほど。」
しばらくすると注文したものが出てきた。
武士は刺身を注文した。特に好物は鮪。
「うむ・・・なかなかうまいでござる。」
武士は刺身にしたつづみをうっていると
「なあ、何でおまえこんな時間に大通りにいたんだ?」
武士は先ほどまでの出来事を市民に話した。
「なるほどねぇ。つまり君も彼女お互いの事が好きだと言うことか?」
「いや・・・ぅ〜ん・・・」
武士はしばらく黙り込んだ。
「その子に会った時彼氏とかはいなかったの?」
「その時はいなかったが、もしかしたらいるかもしれん。」
そして市民はこう言った。
「俺は町田に住んでるが今までいろんなことがあった。」
「今のお前のように悩み苦しんだ時もあった。特にお前は女を前にするとろくな会話すらできない。」
「だがなそれが何や。お前はお前のやり方で今ある壁を乗り越えるだけや。」
武士の心にその言葉が響いた。
「どうしても吹っ切れなければいつでも相談しろよ。できる限りのことはやったるで。」
「すまぬ・・・。拙者のために。」
武士はこの時生まれてはじめて酒を口にしたくなった。

13武士さん:2011/06/27(月) 20:38:55
第12話 星空を見上げて

市民の言葉が武士の心の何かを突いた。
武士はしばらくただ呆然としていた。
「お、もうこんな時間か。」
店の時計をみるとすでにPM9:00をまわっていた。
「ごちそうさま。」
店長が返した。
「また来いよ。」
「お会計は3670円です。」
ふと武士は財布をみた。
「拙者金がない・・・」
電車の乗り越し料金などで残金は800円足らずであった。
すると市民が
「心配するな。俺が全部もってやる。」
「だがな、俺は強欲だから貸した金のことは忘れねぇぜw。」
武士はこう言った
「大丈夫だ。おぬしからの貸し、必ず返す。」
やっぱり市民は頼り?になる。
ガ ラ ガ ラ
店の戸を開けると夜空には星が輝いている。
「美しい。よきかな。」
しばし見入っていると
「今日は空が澄んでる。この季節の星はきれいでいい。」
「拙者も星は好きだ。見ていると心まで浄化される。」
「俺はもう家帰るで。気いつけろよ。」
そういうと市民は去っていった。
「達者でな。」
武士も自分の帰路についた。
「はぁ〜。拙者はこれからどうすればいいでござるか。」
小言をいいながら歩を進めていくと次の駅が見えてきた。
「もうこんなところか。」
駅前はまだ人々が行き交い、ネオンがひかり、活気に満ちていた。
武士は歩を進め続けた。
そして踏み切りに差し掛かったその時、武士の足がピタリと止まった。

14武士さん:2011/06/27(月) 20:39:31
第13話 崩れていく平和

7〜8分はたっただろうか
武士の足は一向に動く気配がない
何か考え込んでいるようだった
「・・・」
「(なぜこの踏切は開かぬ。それに・・・)」
なにかただならぬ気配を感じていた
「(この怪しげな空気はなんだ、志野々目駅からか?)」
武士は摺り足で駅へ急いだ
駅はいつものように活気がある
しばらくして突然後ろから肩をたたかれた
「何奴!?」
「おいおい、何警戒してんだ?」
後ろにいたのは、同じクラスの小竹と茶髪と隣のクラスの柿本だった
「お主らは、こんなところで何をしておる?」
武士は悪い胸騒ぎがしていながらも悟られまいと話しかけた
「補修が終わってさぁ、ボーリングに行って来たんだよ。」
「どう?一緒に電車で帰んない?」
武士は市民の貸しを思い出した
「拙者、今金がない・・・」
3人はため息をついた
「わかった。また今度ね」
そう言うと3人は改札を越えていった
「(何もなければよいのだが)」
そして武士も胸騒ぎを押し殺し家に向かって歩き出した
100メートルぐらい離れて心配になり一度振り返った、その時・・・
(ドド〜ン)
鈍い爆発音のようなものが駅から聞こえてきた

15武士さん:2011/06/27(月) 20:40:03
第14話 救出!脱出!そして・・・

ドドーン!!
周りに響き渡る鈍い爆発音・・・
そして駅のほうから黒い煙がわき出てきた
「・・・!あやつらを助けなければ!!」
一目散に駅へと駆けていく武士

武士の目に映った光景はまさに地獄絵図だった
逃げ惑う人々、崩れゆく建造物・・・
「(ほんの数分前までは、あんなに活気溢れていたというのに・・・)」
そんなことを考えながら友人の姿を捜す武士
「(外ではない・・・ならば!)」
急ぎ足で駅の入り口に向かう武士。すると
「君!!ここは危険だ!下がってなさい!!」
と警察らしき人が声をかけてくる
「中に友がいるのだ!通してくれ!!」
武士は強引に通ろうとするが
「ダメだ!友人の救出は我々にまかせて・・・」
「ええい!!やむをえん!」
そう言い武士は警察官の急所を思い切り蹴った!
「はぐっ!!むぉぉぉぉ・・・」
なんともなさけない声をあげ、倒れる警察官
「すまぬ・・・だがこちらも退けんのだ・・・!」
と言い残し駅の中へ走っていく武士・・・

「ごほっごほっ何も見えんではないか・・・」
駅の中は煙が充満していて、ほぼ何も見えない
「小竹殿〜!茶髪殿〜!柿本殿〜!!」
構内にすごいでかい武士の声が響きわたる・・・
すると
「お〜い!こっちだ〜!!」
と聞きなれた声が聞こえた
「市民殿か!?」
「そうだ〜!!みんな無事だぞ〜!!」
ホッと一息ついて
「今いくぞー!!」
と返事を返し、声の方向へ向かっていく武士
すると市民や茶髪の姿が見えてきた
不思議とこのあたりは煙も少なく、全員の姿がしっかりと確認できた
「皆のもの無事か?」
武士の問いに小竹が答える
「おれらは無事だけど・・・市民が・・・」
よく見ると市民の膝からは血が凄い勢いで流れていた
「大丈夫か!?」
「なに・・・ちっと擦りむいただけだよ。」
「無理はいかん!すぐに脱出しよう!!」
そう言って立ち上がろうとした時だった
ガラガラガラッ!!
武士が来た道を天井が音を立てて崩れ去った
「うそだろ〜!?」
柿本がアンビリーバボーといった顔で声をあげた
「(くっ・・・ここまでか・・・)」
武士もあっけなくあきらめかけたその時
「・・・ホームだ。ホームに向かおう」
この局面を打破した男。それは市民だった
「よし!みんな走れ!ここも危ないだろうからな!」
市民が大きな声で皆に呼びかける
小竹、茶髪、柿本・・・次々と走り去っていく
市民もそれに続こうとするが足のせいで思うようにいかない
「乗れ!!」
勢いよく市民を担ぐとすごい速さで走る武士
「お、おい・・・」
何か言いたげな市民
どうせはずいから下ろせ的なセリフであろうと
「申したいことがあるなら、生き残ってから申せ!!」
と返しておく
「ああ・・・そうだな」
それから一切の会話もなくホームに着いた一行
「これからどうすりゃいいんだ!?」
あせりながら茶髪が言う
「そこのはしごから線路におりろ。後は道なりに行けば外にでられる・・・」
市民が疲れたような声で答える
「「「よっしゃ〜!!」」」
それを聞くと3人は元気よく線路におり、走っていく
「ふっ・・・元気なやつらだのう・・・なあ?」
笑いを浮かべながら市民に話をふる武士
しかし市民は黙ったままだ
「・・・?どうかしたのか?」
不思議そうな表情をうかべながら市民のほうへ顔を向ける武士
その時・・・

ドド〜ン!!

武士は爆発によって崩れた駅の瓦礫を見つめていた
そこは確かに先ほどまで3人がいた場所だった・・・

16武士さん:2011/06/27(月) 20:40:33
第15話 つらき現実

どこからであろうか。何かが崩れる音が依然続いている
「馬鹿な・・・みんな!みんなぁ!!」
武士は目の前で起きた出来事を受け入れられずにいる
「小竹殿!!茶髪殿!!柿本殿!!」
返事は返ってこない
武士の声だけがむなしく響きわたる
「くそっ!くそぉぉぉ!!」
武士が涙を流しながら言う
それもそうだ。目の前で友人を失ったのだから
「お前のせいじゃねえよ」
張り詰めた空気を市民の声が切り裂く
涙を拭きながら市民のほうを見る武士
「あいつらが悪いんだ。この計画は駅にいる人間すべてが死ななければいけなかった」
市民が背を向けながら言う
「なのにあいつらは生きてた。ここで俺の顔を見られたら元も子もない」
武士は市民が何を言っているのかわからなかった
「まだわからないのか?この事件は・・・俺が巻き起こしたんだよ」
「空言をぬかすな!おぬしがそのようなこと・・・」
「しないっていいてえのか?忘れんな、俺は町田民族だぜ」
呆気にとられる武士をよそに市民は続ける
「いや正確には『俺ら』か。今頃町田を中心に各地で戦闘が始まってるはずだ」
思わぬ衝撃の連続に思考がついていかない

「・・・お前にゃこの場にいて欲しくなかったよ」
場の空気が変わった
「(空気が・・・重い・・・!)」
武士は気づいた
この空気。これは自分に向けられている・・・殺気
「例外はねえ・・・この場に存在する以上、お前でも・・・殺す」
そう言うと長めのサバイバルナイフを取り出す市民
「ほら・・・お前も抜けよ。・・・どうした、怖いのか?」
武士は震えていた
武者奮いとは違う。真の意味で恐ろしかった
震える声で武士が言う
「もう・・・退けんのか?」
ほんの一瞬空気が緩んだ。市民にも迷いがあったのかもしれない
「どの道逃げ道はねえんだ。俺らの運命は『死』だよ」
そういうと間合いをつめてくる市民
「死なせはせんよ・・・拙者がな」
武士は背中に担いだ袋から竹刀を抜き、構える

この戦いがキッカケで武士は更に悲しく厳しい戦いに巻き込まれていくのだった・・・

17武士さん:2011/06/27(月) 20:41:04
第16話 奇跡

じりじりと市民殿が近づいてくる
武士は思った、甘い考えを捨て覚悟を決めねばと
「(市民殿の構えにスキはない・・・どうする)」
牽制しあってから5〜6分が過ぎようとしていた
しびれを切らし先に動いたのは市民殿だった
「はぁぁぁぁ」
ナイフを向け一直線に走ってくる
「むむ・・・」
武士は紙一重でコレを避け距離をとった
上着には数本の切傷が入っていた
「よく避けられたな、しかし次は!」
武士の目つきが変わった
「お主に・・・次はない!」
そう言うと武士は目にもとまらぬ速さで市民殿の右手のナイフを叩き落した
武士の目は鋭さをさらに増していく
市民殿の視界に映る無数の白い閃光
自分がやられたと気づいた時にはすべてが終わったあとだった
市民殿はその場にうつ伏せに倒れた

「・・・」
武士はボーっと暗闇をみている
脱出のことなんて到底考えられない
その時、かばんが光っていることに気がついた
携帯が何かを受信したようだ
ソレを見てようやく武士は理解した
市民殿を担ぎ一目散にその場をあとにした

18武士さん:2011/06/27(月) 20:41:34
第17話 市民の決意

「ん・・・」
まぶたをあけると白い天井が目にはいる
「(この独特の匂い・・・病院?)・・・はっ!」
勢いよく上体を起こす・・・がその瞬間身体に痛みがはしる
「っつ〜・・・」
「気がついたか」
ベットのかたわらには武士がいた
ようやく前後の記憶がはっきりしてくる
「まいったね〜・・・生き残っちまったか」
冗談っぽく言う市民に武士は
「話せ。なぜあのような行為にいたったのか」
真剣な顔で市民にたずねる武士
そこで市民は枕元に置いてある自分の携帯に気づく
「・・・俺の携帯、見たか?」
「ああ・・・そのおかげで我々はこうして生き残っている・・・」


『あと5分で一斉爆破だ。言い残すことがあるなら今のうちに送っとけよ。』
市民の携帯が受信したメールにはそう書かれていた
「一斉爆破だと・・・?それに・・・なんだこの市民殿が死ぬと決め付けているかのような文章は!」
「これじゃ市民殿は捨て駒にされているようではないか!」
武士は怒りで気が狂いそうになった
そこでもう一つ受信メールがあることに気づく
それは市民の携帯から市民の携帯へのメール
『下水道』
そう書かれていた
「これは・・・まさか?」
チラッと市民のほうを振り返る武士
「こやつ・・・こうなることを知ってて逃げ道を残しておいておいたというのか」
「こうしてはおれん!さっさと脱出せねば・・・!」
武士は市民を肩に担ぎその場を後にした・・・


「まあこんなところか・・・」
一通りの説明を終える武士
それを聞くと何かを決断したような表情になる市民
「・・・あの時駅にいた人間は全員無事だ」
「なんだと・・・?」
驚きを隠しきれない武士
「それは真なのか!?では茶髪殿達も生きておるのだな!?」
「ああ・・・今はな」
市民は続ける
「お前には話しとくよ・・・どうせもう退けないとこまで来ちゃってるしな」
市民の決断・・・それは

『一族との決別』

19武士さん:2011/06/27(月) 20:42:07
第18話 町田市民族本部

「(・・・すまない)」
今しがた一通のメールを送り終わった携帯電話を閉じながら、男は心の中で謝罪した

夜襲が効いたらしく、今のところ町田市民族側に軍配が上がっている
出来れば不意打ちなどしたくはなかったが、奴等が相手ではそうも言ってはいられない
ナシスは小国の軍隊並みの軍事力を有している。少しでも気を抜けば一瞬にして戦局は悪化するのは確実だ

いつも通り、自衛隊は戦闘には介入せず周辺の区の警備に取り掛かるだろう
国は憲法九条がどうのと言っているが、早い話が、怖いのだ
と言っても、国民世論は二部に分かれているので叩きが怖いわけではない
ナシスが相手となれば当然自衛隊側にもそれなりの被害が出るからだろう
ただでさえ資金と人員が不足している状態では、確かにわからない話ではない

男は苦笑した
あくまで一般市民である自分達が―つい先程も一人―我が身を犠牲にして戦っているというのに、
国は豊富な軍事力を持ちながらも損害を恐れ、指を咥えて静観を決め込んでいる
そんな国を無意識のうちに認め、擁護している自分は、一体何なのだろう
町田市民族でありながら、日本国民でもある。そんな狭間でまだ迷っている自分に、少々嫌気が差した

男は意識を眼前に戻し、東京都の地図にぽつんと張られた一枚の赤いシールを見つめた
野戦テントの天井に吊り下げられた黄色っぽい電灯に照らされ、それは独特な雰囲気をかもし出している
JR真木羽駅・・・今回の作戦を成功させるためには、どうしてもこの駅を爆破する必要があった
例えどんな犠牲を払おうと、同じ町田市民族である同士を殺すことになろうとも
罪悪感は無かった。だが、何ともいいようのない虚無感が体を支配している
今こうして自由を手にしようと戦っている最中なのに、またしても可笑しな話だ

だが問題は無い。全てが予定通りに進んでいる
そうやって自分を納得させようとしたが、逆に新たな問題を思い起こさせる結果になった
「あいつ、本気で俺達を止める気なのか・・・」
不意に脳裏に浮かんできたのは、黒髪の少女の姿だった
忠告はした、と言ったものの、忠告など聞くような性格でない事はわかりきっている
ただならぬ不安に襲われたその直後、テントの外に誰かの気配を感じた
間もなく、見慣れた人懐っこい笑顔が湯気の立つカップを2つ持って入ってきた
「少しは休んだらどうです?」
両手に物を持っているので敬礼は割愛するものとしても、許可もなしにずかずかと入り込み、
挨拶もしないで唐突に上の者に・・・この俺に話し掛けてくるのは、いつものこと
無礼といってしまえばそうなのだが、憎めない人間というのは、どこにでもいる
この男の戦闘能力などといったものよりも、そういった天性の才能の方が、よほど羨ましく思えた
「ああ・・・。だが前線では戦いの真っ最中だってのに、ゆっくりなんざしてはいられないが・・・」
普段からあまりゆっくりしたことなどなかったが、それを無理矢理この戦いのせいにしている
そういう自分勝手なところが彼女を呆れさせた理由なのか、と再び苦笑した

結局ひとつも迷い事が消えることはなく、一旦眠って全てを忘れようと思い、コーヒーを飲み干す
・・・コーヒーなど飲んだら眠れなくなるじゃないかと気が付いたときには、もう手遅れだった

20武士さん:2011/06/27(月) 20:42:38
第19話 いざ町田

「ナシス・・・それがおぬしらの敵でござるか」
自分に確認するかの様に言う武士
(ナシス・・・?どこかで聞いたような・・・)
まあ思い出せなかった
「ああ。そしてそいつらは十中八九政府の命令で動いている」
「なんだと!?ではおぬしらは・・・」
「と言っても一部の議員の独断だがな。俺らが勝つにはそいつらを抑えなきゃならねえ」
考えがあまかったと武士は思った
市民達は武士の想像をはるかに上回る敵を戦っていたのだ
「・・・勝算はあるのか?」
「ある。うちにはすげえ軍師がいてな。その人の作戦通りにやれば、まあ勝てるだろうな」
武士はあのメールを思い出していた
(おそらくあのメールの差出人が市民のいう軍師なんだろうな・・・ならばその作戦とは)
「その作戦にはどれだけの犠牲者がでるというのだ?」
市民が暗い表情を浮かべながら言う
「最後の全面戦争を入れると双方にかなりの死者がでるだろうな・・・」
「・・・・・」
武士は黙り込んでしまう
いや、怒りを抑えるのに必死なのだ
(多くの犠牲を払っての勝利にどんな価値があるというのだ・・・!!くそっ・・)
「だがな・・・ナシスの兵隊のほとんどは一般人だ。関係のない人まで犠牲にするなんて間違ってる」
「・・・!」
武士は驚いた
てっきり市民はこの作戦に賛成していると思っていたからだ
現に参加していたわけだし
市民は続けて言う
「それに知り合いが血ぃ流すの見たくねえんだよ。だから・・・」
「あいつらを止めに行く!」
握りこぶしを作りながら言った市民
「うむ、拙者もお供させてくれ。おぬしだけを行かせたりはせぬ!」
武士も立ち上がりながら、それに同調する
一応主人公は武士です
「ああ、できれば来させたくないが・・・一人じゃ心細いからな〜」
と少しふざけた調子になる市民
(うむ!いつもの市民殿だ!)
「では、町田へ参ろう!!」

21武士さん:2011/06/27(月) 20:54:07
第20話 束の間の一時

「っとその前にまずは怪我治せよな」
聞き覚えのある声に武士はハッと振り向いた
病室の扉にはよりかかった柿本がいた
(どことなく元気はなさげだが仕方ないか・・・)
「柿本殿、無事でよかった」
「茶髪殿と小竹殿は大丈夫なのか?」
柿本は下をうつむいた言う
「小竹は頭を打ってまだ意識が回復しない。」
「茶髪は病院までは一緒だったんだけど、突然居なくなっちゃったんだ」
柿本の言葉に驚いたのは武士だけだった
市民は何やら少し考えるようなそぶりを見せたのを武士は見逃さなかった
「きっと大丈夫さ」
ベッドに寝てる市民が怪訝そうな顔をして言った
武士はその意味がまだわからなかった
「取り合えず柿本殿、話は後だお主も病室へ」
柿本は武士に言われるまま市民の病室を後にし
「市民殿も怪我を治すことだ、担当の先生は1週間で退院出来ると言っている」
武士はもやもやを胸にしまい病室の扉を開け出ていった
廊下で見舞いに来た沖田と笹塚とすれ違ったが二人は気づかなかったようだ
病院を出て駅へ行こうとして思いバス停へ向かって歩いていく
(そういえば電車はとうぶん無理だな)
50メートルぐらい歩いたところで突然雨が降ってきた
(・・・誰かが・・・泣いておるのか・・・)
一人で雨に濡れながらバス停で待っているとその時
「あの・・・風邪ひきますよ」

22武士さん:2011/06/27(月) 20:55:15
第21話 戸惑いの雨

そこには一人のおばあさんが立っていた。
「拙者はだいじょうぶでござる。」
「何をいってるの、体が震えてるわよ。」
武士は知らぬ間に武者震いをしていた。
その震えは雨のせいで震えているのか、はたまた・・・
「こんなところにいると、風邪をひくわよ。」
「だいじょうぶでござる。」
武士はふと時刻表をみた。
次のバスはいまから三十分後、武士はふとため息をついた。
(拙者はこの現実でどうすればいいのだろう。)
すると
「何をそんなに悩んでいるの?」
武士は事のあらましを話した。

「そう・・・そんなことが。」
深い沈黙がながれた。
「わたしもね、息子がこの事で入院しているらしいのよ。丁度あなたの同じくらいの歳でね。」
「どこの病院かはわからないけどきっと生きてると信じてる。」
「そうであったか・・・」
「あの事以来息子とは音信普通、今どうしているのやら。」
しばらく沈黙があたりを制した。
そして武士が
「息子さんの手がかりなどはあるでござるか?」
すると
「ええ・・・。私が大事にしている写真が。」
そうするとおばあさんは鞄の中から一枚の写真を取り出した。
「これよ。」
するとそこには驚くべき人物が写っていた。
「こ、これは!」

23武士さん:2011/06/27(月) 20:57:11
第22話 雨の中の嵐

写真にはおばあさんと小さな男の子が満面の笑みで写っていた
しかし幼いながらどこか見覚えのある顔
「これは・・・小竹殿ではないか!」
武士の放った一言におばあさんが物凄い勢いで聞き返してきた
「この子を知ってるの!?今どこにいるかわかる!?ねえ!?」
「お、落ち着いてくだされ御婦人殿。」
勢いに耐えられなかった武士はおばあさんをなだめる
するとおばあさんは不安そうな顔でこう聞いてきた
「あの子は・・・大丈夫なんですか・・・?」
「無論でござるよ。今この先の病院に入院おりますよ」
武士はこれ以上心配させまいと即答した
すると安心して気が抜けたのか、おばあさんは涙をながし
その場に座り込んでしまった
「よかった・・・本当によかった・・・!」
武士は鼻をいじりながら
「さあ、顔を見に行ってあげてくだされ。小竹殿もそれを望んでいるはず・・・」
「ええ・・・ありがとうね」
そう言うと軽くおじぎをして病院のほうへと急ぎ足で向かっていった
そんなおばあさんの後姿を見て、武士は自分の祖母のことを思い出していた

〜これを話すと長いので今回はカットさせていただきます〜

「・・・小竹殿がうらやましいな」
パッパー!
「そこの君、乗んないの??」
ふと我に返ると目の前にはバスが来ていた
武士が感傷に浸っている間に到着していたようだ
「君!聞いてるのか?乗るの?乗らないの?」
運転手は少しキレ気味である
「の、乗るでござる!」
武士はあわてて返事をする
残金を確認しようと財布をあけながらバスに乗り込もうとしたその時だった
ドンッ
「んがっ!?」
「きゃあ!?」
突然背中に強い衝撃を受けた武士
当然前に倒れこんでしまう
「つつ・・・な、なにごとだ・・・?」
階段にぶつけた足を押さえながら後ろを向くと1人の少女が尻餅をついていた
右手で肩にかかるくらいの茶髪をかき分けながら左手で腰を抑えている
事態を把握した武士はすぐに謝罪の言葉を言おうとした
「す、すまぬこt「いった〜い!何やってんのよ〜!!」
武士の声をかき消すほどの大声で非難の声をあげる少女
「そn「ああ〜!!ズボン濡れちゃったじゃんよ〜!どうしよう・・・」
「・・・・・」
何も言わせてもらえない武士
だから丸くなったとか言われるのだ
すると少女がキッと武士を睨みつけてきた
「あんたがボーっと突っ立ってたせいだからねっ!!」
少女は武士の財布を踏んだのにも気づかず
1人バスの中に入っていった

24武士さん:2011/06/27(月) 20:59:22
第23話 バス武士
 
落ちた財布を拾い上げ武士は金を払いバスに乗った
中を歩いていくと先ほどの少女が赤い顔をしてこちらを見ている
(なんなんだ、そんなに見つめられると拙者まで恥ずかしくなるではないか)
取り合えず話しかけてみようとする武士
「あn「さっきはごめん!」
またもや言えなかった
「今日は運がなくて気が立ってたんだ」
「友達と大喧嘩するし、地下鉄であんなことが起きるし、突然雨が降ってくるしさ〜もう最悪」
地下鉄の言葉を聞いた瞬間、悪夢が頭をよぎった
「う〜ん?どうかした?」
顔を覗き込んでくる少女に対し武士は目線を逸らした
「・・・いや、それは災難であったな」
「拙者も電車で帰るはずだったのだが・・・」
武士は初めて最後まで話せた
「実はさぁ、ぶつかったのがあんたみたいな人でほっとしたわ」
「最近治安悪いからさぁ〜もし変な奴だったら連れてかれて何されるかわかんないじゃん?」
(む、よくしゃべる方だな)

「次は〜白川シーサイド駅前〜白川シーサイド駅前〜」

武士があわててボタンを押そうとしたが先にランプがついた
少女が押していたのだ
「え?あんたもここで降りんの?」
少女はかなり驚いてるようだ
「うむ、ここからちょっと歩いたとこに拙者の家がある」
次に話す言葉がなかなか見つからん武士に対し少女はどんどん話してきた
「いつもは電車って言ってたけど、どこのガッコー行ってんの?」
「もしかして工業高校?私服だからゼッタイそうでしょ」

バスが止まり二人は降りた
バス停にはたくさんの人が並んでいた

「貴女の申すとおり工業高校に行っておる」
少女の質問はとまらない
「もしかして同じ学年に茶髪っていない?私そいつの友達なんだw」
武士は柿本殿の言葉を思い出していた
消息がわからない今、期待させるのは・・・
「・・・ぃや、そんな方は存ぜぬ」
少女は残念そうな顔をしている
「そっか〜ガッコーつっても広いもんね」
「私はあっちだからここでお別れ〜あんた携帯ぐらい持ってるっしょ?ならアド教えてよ!友達になろな」
武士は強引にメアドを取られた
「私のはコレだからメールしてねwそんじゃね〜」
少女は上機嫌でその場を後にした

25武士さん:2011/06/27(月) 20:59:54
第24話 仁義の果てに

(なんと気の強い女性だ)
と武士は思って帰ろうとした時
「・・・むっ!?」
(右手には拙者の携帯・・・じゃあ左手のは・・・)
武士は考えるより先に行動した
雨は一応やんでいたため全力で走って少女の後を追った
少女はジャスコムの信号機で停まっている
追いついた武士は
「ゼェゼェ・・・携帯をお忘れですぞ・・・ゼェゼェ」
少女はハッと気がついた
「いっけな〜また忘れちゃったwありがとね」
息切れもだいぶなくなり普段の素振りの成果がでたようだ
「では、拙者はこれよりジャスコムへ買い物に行ってまいる」
武士は夕飯のことを考えていなかった
「じゃあ、私も行く」
(!?)
武士にとっては予想外であった
(う〜む・・・。まさかこのような展開になるとは・・・)
二人はジャスコムへ向かう
その間も少女と話を続けた
「私もこの近くに住んでるんだけど、あまり見かけないね」
武士はとっさに答える
「拙者、あまり寄り道は好みではないので」
ジャスコムに入ると冷房が寒いくらいに感じ
(これは寒すぎる!)
「なんかここ冷房効きすぎてない?」
「うむ、拙者も寒いくらいだ」
家に冷房が無いなんて言えなかった
かごをとり、買い物をはじめる
「ねえねえ、ここで何買うの?」
目では食材を探しながら武士は
「夕刻の膳の食材を買っておる」
少女は再び驚き
「自炊してるんだ!えっら〜い」
 
「37「それ以上言う必要はないでござる」
店員が値段を言う前に武士は金を既に置いていた
ジャスコムを出たとき雨はやんで人通りが多くなっているようだ
「そろそろ帰るは、またお話しようね」
そう言うと少女は自分の家の方向に歩き出した
「・・・ま・・・待ってくだされ、まだそなたの名を聞いておらん」
少女は振り向き
「私は弓坂」
そう言うと弓坂は歩き始めた

26武士さん:2011/06/27(月) 21:01:03
第25話 長き一日の終わり

(さて・・・だいぶ遅くなってしまったな)
携帯を見るとすでに10時を回っている
武士は重い食材を両手に持ちながらも急ぎ足で家へと向かった

ガチャ
「ただいま帰ったでござる―――誰もおらんか・・・」
武士の両親は毎日遅くまで仕事をしている
その為炊事、洗濯などといった家庭の仕事はすべて武士が行っている
武士が寝たころに帰ってきて、武士が起きるころには出かけている
それが両親の日課であった

「ふう・・・」
食事と風呂をすませた武士は自分の部屋の畳に寝転んでしまった
(今日は色々な出来事があって、いささか疲れたでござるなぁ)

黒髪の少女との出会い・・・
駅の爆発・・・
市民殿との戦い・・・
小竹殿の怪我・・・
茶髪殿の謎の行動・・・

その時武士の携帯が震えた
いつも「まなーもーど」にしているのだ
『さっそくども〜>▽< いきなりなんだけどさ、キミの名前知らないことに
 今気づいちゃったんだよね〜 ̄▽ ̄; だからよかったら教えてくれないかな?
 ってゆうか私の名前聞いといて教えないなんてことないよねぇ??笑 』
(・・・もう1つあった)
強気な少女、弓坂との出会いだ
(そういえば名乗っていなかったな・・・すぐに送ってやらねば)
ピッピッピッ
          [送信しました]
「本当に・・・長い1日であった・・・」
メールを送り終えると武士はそのまま目を閉じて寝てしまった

27武士さん:2011/06/27(月) 21:12:18
第26話 夢魔の亡霊

気づくと武士は何か薄暗い部屋にいた。
するとそこには茶髪が立っていた
「よ、武士。久しぶり。」
「茶髪殿、今どこへおるのか?」
「それは言えないな。とぉーいとこさ」
武士は聞きたいことがたくさんあったが順番に聞くことにした。
「お怪我はないでござるか?」
「あぁ。かすり傷一つなかったけどな。」
「それはよかった。」
(茶髪殿と市民殿間には何かある・・・聞き出さねば)
「どうかしたか?」
「いや、なんでもないでござる。」
武士はふと弓坂との出会いを話していた。
「はっはっは。相変わらずだなアイツは。」
「拙者はいささかあのような少女は苦手でござる。」
「武士・・・お前に頼みたいことがある」
「なんでござる?」
「弓坂にこれを渡してくれ」
茶髪から小さなお守りを渡された
「それともう市民に関わるな。待っている未来は苦痛と不幸だ。」
(?)
「だから巻き込めないんだよ・・・オ・・マ・・エ・・・・ハ・・・」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

武士は目がさめた。
そこは自宅の布団の上だった
夢だったのか・・・
手に小さなお守りが握られているのに気が付くのに時間はかからなかった

28武士さん:2011/06/27(月) 21:24:11
第27話 運命の赤い糸?

「・・・夢・・・ではないであろうな・・・」
時計は7時を回っている
相当疲れていたせいか目覚ましをセットするのを忘れてしまったのだ
「これでは素振りや寒風摩擦をしている余裕はないか・・・」
武士はお守りを置き足取り重く朝食の準備にとりかかった

「黙想・・・ご馳走様でした!」
食事を終えた武士は真っ先に携帯に向かう
昨日弓坂とのメールの直後すぐに寝てしまったからだ
(もしあの後返信が来ていたら・・・またまた申し訳ないことを・・・)
案の定メールはきていた
しかしそれは弓坂からのメールではなかった
『おう、起きてる?昨日の1件で今日は休校になったぞ!
 だから大木町にでも遊びに行こうと思うんだけど・・・
 お前も一緒にどうかな〜と思ってさ!』
柿本からのメールだ
(拙者遊びに行くなんて気分じゃ・・・いやみんなそうなのだろうな)
柿本は、いつも小竹と茶髪と一緒にいた
その為小竹の意識は戻らず、茶髪は行方不明
悲しいはずが無い・・・
「・・・拙者も行くとしよう」
武士もいじられていたとはいえ、比較的多く彼らと共に行動していた
返信を終えるとすぐに着替えて家を後にした

「おっきたきた!」
現地に着くとすでに2人がいた
二人とな?
「むっ・・・小竹殿意識が?!」
「へへっ?びびったべ?w」
武士の問いに柿本が即答する
「武士のびびった顔も見れたし」
「うっし!じゃあさっそくカラオケでも行くか!」
「か、からおけでござるか!!」
武士は歌うのが苦手・・・というより恥ずかしいのであった
その為昔からカラオケに着いていくことはあっても歌わずじまいであった
「問答無用!さっさと行くぞ!」
そういうとすごい速さで走っていってしまう小竹
柿本もそれに続く
「む〜まあいい!やるだけやってやろうではないか!」
武士もとうとうあきらめて2人の後を追った

「いや〜歌った歌った!」
時計を見ると午後1時近く
武士がここに着いたのは9時ちょうどぐらいだったので4時間近く歌ったことになる
ちなみに武士が歌った曲は・・・主題歌と昭和初期の演歌
「腹が減ったな。そろそろ飯にするか」
柿本が提案する
「賛成〜!んじゃその辺のファーストフードにでも入るか!」
そう言うと小竹はチラッと柿本の方を見る
「よ〜いドン!」
小竹の合図で一斉に走り出した!
・・・武士を残して
「ど、どういうことだ、小竹殿!!」
「ビリはジュースおごりな!ほら急げよ武士!」
それを聞いた武士は物凄いスピードで2人を追いかける
しかしゴールがすぐそばだった為、武士が最高速に達する前に2人はゴールしてしまった
「はぁ・・・はぁ・・・俺らの勝ち〜!!」
小竹は卑怯なことをしたにも関わらず勝ちを主張した
「・・・ず、ずるいぞ小竹殿・・・!」
武士も反論するが柿本の一言で諦めざるをえなくなってしまう
「負けは負けだ・・・潔く引くのも武士としての生き様だと思うが?」
「・・・・・」
武士は言い返せなかった
「じゃあジュース頼んだぜ、武士!!」
武士は落ち込みながらも店内へと向かう
その時だった

「あ〜あんたは!」
大声にびっくりしながらも振り返る一同
「やっぱりそうだ〜!昨日はメール返せなくてごめん!」
弓坂であった
とっさに武士も謝ろうとするが
「こt「あんたブシって呼ばれてるんだ〜!なんでなんで??」
またも遮られる武士の言葉
相変わらずである
弓坂の問いには小竹が答えた
「こいついつも竹刀持ってるんだ。それにこんな口調だろ?こりゃ武士しかないって!」
「へ〜・・・うん、確かにそんな感じ!」
首を何度も縦に振り必要以上に納得してみせる弓坂
「じゃあ!これからブシ君って呼ぶねっ!」
「いや、それはちょっと・・・」
武士がボソッと非難の声をあげる
「なによ〜!私のネーミングセンスにケチつける気!?」
キッと武士を睨みつける弓坂
((君づけにしただけだろ))
小竹と柿本が心の中で同じことをつぶやく
彼女の威圧感に負けてしまった武士は
「・・・それで結構でござる・・・」
とあっさり認めてしまった

29武士さん:2011/06/27(月) 21:26:41
第28話 波乱の予感

2時になろうとしていた
「待ち合わせの〜あっ!!!こっちこっち〜」
弓坂は誰かに手を振っている
すると入り口から2人の少女がやってきた
「ごめん、16秒遅れたわ」
赤い髪の少女が言う
「いや〜話してたからぜんぜん暇なんて思わなかったw」
弓坂は即答した
来る言葉がわかっていたようだ
(む、赤と緑と茶か派手な少女たちだ)
武士は小竹があきれた顔しているのに気がついた
赤い髪の少女が
「弓坂!この人たちを紹k「ああ〜!!」
周りの声を掻き消すほど緑の髪の少女が驚いてる
「何でタケ君がここにいんの!病院でくたばったって聞いたのに・・・」
負けじと小竹も
「病み上がりなんだ低調に扱えよ!」
口喧嘩が始まる寸前に弓坂が間に入った
「スト〜ップ!!あんたたち知り合いなの?」
小竹が先に
「知り合いも何も中学の同級生だもん」
緑の髪の少女も頷いている
弓坂は驚きの他に何か企んでいるようだ
「じゃ話は早いじゃん!紹介して〜w」

成り行きで自己(人物)紹介が始まった
「え〜っと、俺が小竹であっちが柿本、竹刀持ってるのが武士」
小竹は淡々と紹介した

緑の髪の少女がまえに出てきて
「うちは鮎沼、赤いのが荒川「物みたいに言わないでほしいわ」、
 あと彼女が弓坂ね「私はオマケか!」   」

30武士さん:2011/06/27(月) 21:29:13
第29話 さらば女性陣

「じゃあさ!これも何かの縁ということで・・・レッツカラオケ!!」
鮎沼が元気よく提案する
「うんうん、いこいこ!」
弓坂もそれに同意する・・・が小竹が口を挟む
「待て待て!俺ら行ったばかりだっての!!他んとこ行こうぜ?」
「ったく相変わらずノリ悪い・・「んだとコラ!?」
鮎沼の嫌味はしっかり小竹の耳に届いたようだ
また2人の周りに険悪な空気が流れ始めた
「なによ〜!!」
鮎沼も小竹も負けず嫌いなのだろう
決して退こうとしない2人
周りの人間はただ見守ることしかできなかった

「・・・俺はそろそろ失礼するよ」
この空気を断ち切ったのは柿本だった
武士もこれはチャンス!とばかりに便乗する
「申し訳ない、拙者も用事があるので・・・」
「え〜!!もう帰っちゃうの〜!?」
弓坂が不満げな声をあげた
小竹と鮎沼も一時休戦したのかこちらのほうを向く
「マジかよ〜男1人じゃ心細いな〜・・・」
小竹が頭をかきながら言うのに対して鮎沼
「うんうん、タケ君も一緒に帰りなさいw」
「いちいちしゃしゃり出て来んな、バカ鮎!!」
「むっか〜!言ったわね!!」
またケンカを始める2人
弓坂はそんな様子を見てゴホンッと咳払いをしつつ
「え〜っと・・・じゃあブシ君と柿本君、またね〜!」
そう言うと女性陣(1名除く)は、態度は違えど手を振って見送ってくれた
そんなみんなに武士達(1名除く)も手を振り返す
「この場にいづらくなって帰った確率78%ってとこね・・・」
そんな一言が聞こえたような気がした武士であった

「これから市民のお見舞いに行こうと思うんだが・・・お前も行くか?」
駅に着いたところで柿本が言った
武士にとってこの願い出はこの上なくありがたいことであった
「うむ、拙者も行こうと考えていたところでござる」
なにせ昨日の今日だ
武士は市民が心配でならなかった
「決まりだな。見舞いの品は途中で買っていくとしよう」
そう言うと足早に改札を抜けていく柿本
「お、おい!待って下され!」
武士は急いで切符を買うと後を追うように改札を抜けていった・・・

その頃・・・病院―――――
医者たちが廊下を息をきらしながら走り回っている
「見つかったか!?」
「いえ・・・どこに行ったというんだ・・・まったく」

部屋のカーテンがそよ風でゆれている
心地よい光が部屋のベッドに射している
しかしそのベッドに患者の姿はない
部屋の名札には『梨元』と刻まれていた

31武士さん:2011/06/27(月) 21:32:01
第30話 決意そして・・・

武士と柿本は何も知らずに病院についた
なぜか市民の病室が慌しい
「どうかなさったのか?」
武士は医者の一人に聞いてみる
「今朝この病室の梨元さんって患者が逃げ出したんです」
そう言うと医者は行ってしまった

「これからどうする?」
柿本は不安そうである
「うむ、市民殿の性格からすると町田へ向かったのでござろう」
武士はうすうす市民が逃げ出すことを予想はしていた
茶髪殿には止められたが拙者は今、市民殿の力になりたい
すまぬ
「拙者これより市民殿を追うが、柿m「おう、俺も行くし!」
ずいぶん早い決断だった
(いいのか柿本殿・・・)
「では、一緒に行「聞いちゃった、町田行くんだって〜」
武士が振り向いた先には小竹と弓坂と鮎沼がいた
「ずっる〜い、こっそり行っちゃおうなんて!」
鮎沼の言葉に小竹は思った
(おいおい、どんな場所だか知ってて言ってんのかよ・・・)
「まぁ、素直に言うわ!私たちも一緒に行く!」
「俺はゴメンだね、これ以上危ないことに首突っ込みたくねぇもん」
鮎沼と弓坂の決意は硬かったが小竹はそうでもなかった
「あんた・・・それでも男なの?」
「鮎沼殿・・・退くのも勇気、心は拙者達と共にあり。では、小竹殿行って参る」
「ああ、幸運を」
小竹を病室に残し四人は旅立っていった


××××××××××××××××××××××××××××××××
ナシス司令部
男たちが反撃作戦の会議をしていた
薄暗い部屋に白熱灯の光、タバコの煙が立ち込めている
「反乱軍の奴らが決意を見せつけるため地下鉄を爆破したそうだが死傷者が少ない、所詮は臆病者の集まりということさ」
「我々の情報によると現場近くの病院で爆破実行者が入院しているという、だから病院を完全に破壊する」
一人の男が話を聞き飛び込んできた
「まて、あの病院には数千人の人が入院している、それを「うるさい!」
ドン!
銃声と共に飛び込んできた男は倒れた
「邪魔だ!この死体を片付けろ!」
二人の兵士が死体を引きずっていく
「作戦は本日22:00時に決行する」

32武士さん:2011/06/27(月) 21:32:31
第31話 軍指令の思惑

夕日はいつもと変わらない、橙色の光で地面を染めていた
風は煙草の煙が揺れる程度で肌に心地良い
「指令」
後ろから少し怯えたような声がした
振り返るまでもない、金魚の糞とは彼の為にあるような言葉だ
どうしようもない気の弱さとは裏腹に、仕事はきっちりとこなしてくれる
「さっきのことか?」
ほんの数分前のことだ。総帥の側近・・・極点的タカ派といわれる参謀長のあの男が
同士に向かって何の躊躇いもなく銃を放ったのは
「いくらなんでも、あれはやりすぎでは・・・」
この男が、上に直接進言できるほどの根性を持っているわけはないが、
俺に言ったところでどのみち何の解決にもなりはしない
軍指令の自分とて、そんなあからさまな批判などをしたら
本当の意味で首が飛ぶかもしれない。いや、あの男なら絶対にやる
「死体を見て怖気付いたか?」
表情は真面目に、内心は意地悪くニヤつきながら言ってやった
自分が楽しんでいると言えばそうだが、このぐらいの態度が
この男にとっては生かさず殺さずで調度いいのだ
「い、いえ、そういうわけでは・・・ですが、俺は総帥の理想に憧れて隊に入りました
奴等、俺が言えることではありませんが、大した度胸も無いくせに
卑怯な手ばかり使ってきます。・・・できれば正攻法でそれを討ちたいんです」
「手段に気を使って理想を実現できないんじゃ意味がないんだよ
参謀長、あれで作戦の悪魔っつわれた人だ。信用しとけ」
兵達は「あの人は狂っている」とよく陰口を叩いているが、まんざら冗談でもない
作戦の立案に関しては本当に狂ったように目の色を変えると聞く
だが、実際あの人が立てた作戦が失敗に終わったと耳にしたこともない
参謀長といいこの部下といい、普段がどうであれ仕事はこなす人物は信用に値する
「・・・じゃあ、本当に病院は爆破されるんですね」
「当り前だ。総帥も補佐官も、この作戦に賛成していらっしゃる
やつらに対する見せしめとして有効な手段だ、ってな・・・」
正直、自分も今回の作戦は無謀だと思っているが、立場的に部下の前でそうは言えない
それに、参謀長とて総帥のお墨付きがなければ作戦を実行できないので
作戦に反対することは総帥に反抗することになる
「心配すんな、お前が心配しなくても総帥の理想は達成される
・・・大きな声では言えんが、もうすぐ新兵器も実践配備されると聞いた」
それ以降、部下は黙り込んでしまった
自分なりに必死に心の整理をしているのだろう

話をしているうちに日が沈み、いつの間にか風も止んでいた
少し安心した。風がなければ爆破による火災もあまり延焼しないだろう
自分にそう言い訳をした気がする



もう後戻りはできない

33武士さん:2011/06/27(月) 21:33:22
第32話 双頭銃騎

「この先は一般人は立ち入り禁止だ」
鉄条網に囲まれた場所
ここは捨てられた町、町田
その門に立つ2人の兵が1人の男に注意する
「・・・・・」
しかし男は耳を貸そうとせず、なお歩みを止めない
「止まれ!これ以上近づくと撃つぞ!!」
しびれを切らせた兵士達は男に銃を向ける
それでも男は止まろうとしない
「くっ!やむを得まい、撃て!」
兵の1人がそう指示した瞬間だった
パパンッ
男が手に持った二丁の拳銃から放たれた弾丸は兵の銃の銃口をとらえた
そして銃口を塞がれたことで行き場を失った圧力が銃を暴発させる
ドガァァンッ!!
「くっ・・・!」
銃を失った兵は後ずさりする
「死にたくなかったら大人しくしてろ・・・」
男は兵達に一言残して、門を抜けようとした
しかしその時、門の奥から1人の男が出てきた
「相変わらず騒がしいやつだな。ただでさえ武器が不足してるってのに・・・」
疲れたような顔をしている男はタバコに火をつけながら言った
それに対して二丁拳銃の男は頭をかきながら言葉を返す
「しょうがねえだろ〜?通行証はお前に預けたままだったんだからよ」
その言葉を聞くとフッと軽い笑みを浮かべる男
「どうやら亡霊じゃなさそうだな・・・【双頭銃騎】梨澄・・・」
「これまた懐かしい呼び名なこった・・・まっ帰ってきたってコトだな」
そう言うと互いに拳をあわせる2人
「・・・まさか生きて帰ってくるとはな。しかも任務を成功させた上で」
「ああ、お節介なバカのせいで生き残っちまった」
市民はにやけながら男の問いに答えた
「そうか・・・よく帰ってきた・・・!」
男は勢いよく門のほうへ振り返る
すると門の奥には何人もの兵達が立っていた
「英雄の凱旋だ!一同敬礼っ!!」
男がそう言うと兵達は一斉に敬礼をした
市民はそんな様子を複雑な表情で見ながら、奥へと消えていった

34武士さん:2011/06/27(月) 21:39:27
第33話 命を賭ける理由

「・・・なあ武士」
「む?どうかしたか柿本殿?」
武士達は今病院の近くの喫茶店にいた
町田へどの様な道のりで行くかを話し合うためである
現在町田は戦争状態にあるため、そこへの電車・バス等は止められていた
しかし柿本が気にしていたのはそこではなかった
「こいつら本当に連れていくのか・・・?」
「まだそんなこと言ってんの?行くって言ったら行くの!」
柿本の後ろの席に座っている鮎沼が答えた。隣には弓坂もいる
武士は頭を抱えながら2人に問いかけた
「なぜ町田に行きたいのだ?拙者達と違いそなたらには命を賭ける理由がなかろう」
柿本も武士の言葉を聞き、うなづく

「・・・私には理由がある」
これに対して言葉を発したのは弓坂だった
「茶髪は必ず町田にいる・・・だってあそこは・・・」
「弓坂殿・・・」 
弓坂は目に涙を浮かべながら、いつになく大声で自分の気持ちを訴えた
(何か・・あるでござるな・・・)
武士はあえて追求はしなかった
柿本は2人の様子を気にしつつ話を続けた
「理由はわかった。だが俺達が連れ戻そうとしているのは爆破事件の主犯だ。
 最悪俺達と戦うことになるかもしれんが・・・それでも共に行くのか?」
「・・・・・」
弓坂はそれを聞くと黙り込んでしまった

武士達が追っている市民は爆破事件の主犯
どんな理由があろうとそこは紛れもない事実である
市民を助けようとする者と仇のように思っている者
目的地は同じでも目的にはとてつもなく大きな違いがあった

「それでも・・・一緒に行く・・・!」
弓坂は意を決したかのように返事を返す
「私達は『シミン』って人のことよく知らない。だから会って話をしてみたい。
 それでいてあんなk「一発ぶん殴る」」
鮎沼は両手に握りこぶしを作り燃えた
武士と柿本はそんな弓坂と鮎沼の話に真剣に耳を傾ける
しかし2人が次に聞いたのは信じられない一言
「・・・半分くらい作り話なんだけど、どうかな??」
「「ハァ!?」」
弓坂はケロッとした表情で2人に笑みを見せ、言う
それを聞いた柿本は呆れながらもどこか納得したように言った
「お前の気持ちはよくわかった・・・もう俺は否定しない。後は武士だが・・・?」
3人が武士に視線を向ける
武士はため息をつきながら答えた
「拙者は何度も止めたでござる。怪我をしても文句は申さないでくだされよ」
「やった〜!ありがとブシ君♪」
武士の腕に抱きついてお礼を言う弓坂
武士は照れ隠しに咳払いをするが大した効果はなかった
「さて!まとまったところで話を戻すよ!!みんな座って座って!」
パンパンッと手の平を叩いてみんなを静める鮎沼
「よし、この地図を見て下され!」
鮎沼の合図をきっかけに武士は地図を広げながら弓坂から離れた

「そういえばお前はなんで行くんだ?」
柿本の突然の問いに鮎沼はあわてながら答えた
「え、えっと・・・行かなきゃいけない気がしたってゆ〜か・・・」
「? 妙なやつだ」
柿本はあえてそれ以上の詮索はしなかった

35武士さん:2011/06/27(月) 21:39:58
第34話 悪夢の始まり


「一瞬にして一個師団をも壊滅させる兵器だぁ?」
先程からずっと、鉄条網越しに荒廃した大地を見詰めていた男は、
持っていた双眼鏡を下ろして表情一つ変えずに言った
「ええ。噂なんスけどね、ナシスが作りだしたって話を、最近ちらほらと・・・」
その傍らにいるもう一人の男は、そう言い終わらないうちにあくびを一つ噛み殺した
既に当りは大分暗い上に、隣に立っている上官は隊内では生真面目男で通っている
そんな男が余所見などするわけはないので、声を立てて大あくびでもしない限りはばれないだろう
「馬鹿な・・・奴等にそんな技術があるなるわけなかろう。くだらん与太話だ」
「しかし、ナシスが戦車を製造してるって噂が流れたときだって、誰も信じてませんでしたよ」
未だにどのような経路で戦車等の兵器の製造技術を入手したのかはわかっていない
結果として対応は遅れ、ナシスは陸上自衛隊にもある程度の被害を与えうるほどの陸上戦力を手にした
こうして政府には憲法九条の他にも自衛隊を出し難い原因が増えたわけだ
航空自衛隊の対地攻撃能力など最初から期待されていないことも浮き彫りとなった
「それとこれとは話が別だ。いいから任務に集中しろ」
再び上官は双眼鏡を覗いた
男は覇気のない声で「はっ・・・」と応えると、自分も双眼鏡を手に取った

こんなことをしていて意味があるのかというと、大いに意味がある
実際、自衛隊の最新の装備があれば、こんな大人数−手の空いている隊員の多く−で
暗視装置付の双眼鏡を手に周囲を監視する必要など無い
しかし、少なくとも周辺の住民は、自衛官が真面目に仕事を
している姿があるだけでも、不安感がかなり払拭されるのだ
したがって、ほとんどの隊員は双眼鏡を覗くだけで、その先の景色など意識してはいない
本当に真面目に仕事をしてもらわないと困るのは、本来の監視員と、車両の中で装置とにらめっこをしている数名のみだ

「・・・ん?あれは?」
しばらくして、上官が唐突に呟いた
「何かあったんスか?」
男は適当に双眼鏡を左右に振りながら言った
さっき一羽の鳥が横切った以外には、特に変わったことは無い
「この近所に、青果店かなにかがあったか?」
思わず男は「はい?」と気の抜けた声で聞き返した
いくらなんでも、いきなりこの上官の口から「青果店」とはどうしたことだろう
「あそこに落ちているのは・・・リンゴか?何故こんな所に・・・」
男は急いで上官の見ている方向に双眼鏡を向けた
確かに、リンゴのような果物がひとつ、砂地の上に落ちているのが確認できた
「それらしい木はありませんし、トラックの荷台から落ちたのでは?」
「あんな所をトラックが通らないだろう。ちょっと拾ってきてみろ。許可する」
男は短く返事をすると、言われた通り鉄条網を乗り越えてその果物に近付いた

近くでよくよく見てみると、それはリンゴではなかった
どうやら梨のようだ。ヘタの部分を上にして、砂に少し埋まるような形で落ちている
「・・・腐ってるようにも見えないな。何でこんな所に・・・」
ぶつぶつとそう呟きながら男はその梨を拾い上げた







 「大変です!自衛隊創設以来最悪の事態が・・・」
 
 「どうした、何があったというのだ!?」
 
 「町田市南西部で監視に当たっていた部隊が・・・全滅しました」
 
 「馬鹿な!?町田市の監視をしているのは、不測の事態に備えて全て戦車を含む機械化部隊の筈だろう!?」
 
 「いえ・・・車両等に一切被害はありません」
 
 「なに?」
 
 「兵員のみが・・・全て死亡しました。しかも、外傷等は無かったそうです」
 
 「・・・どういう、ことだ・・・?」

36武士さん:2011/06/27(月) 21:40:30
第35話 マンドラゴラ

こんなにも複雑な気持ちは生まれて初めてだった

つい先程発生した「事故」に関する報告書が入った鞄を片手に、男はあの吐き気がするような部屋へと足を進めていた
まさかこんな形であの兵器の正体を知るとは思わなかったし、兵器の正体そのものについては未だに信じられない
その兵器が誤って漏洩し、運悪くその餌食になった自衛隊員達には申し訳ないが、
これでもう実験の最終段階である捕虜を使っての生体実験をやらずに済んだのだ
罪悪感を感じる暇もなく、自分の知らない間に実験が終了したのは有難い
だが、ある種の安堵感のようなものまで感じている自分には、少々嫌気がさした
この兵器が、これから何百、何千もの人間を葬り去るのだろうから・・・

色々と考えている内に、気が付けば部屋の前に立ってドアをノックしていた
「入れ」
珍しく冷静で、それでいて興奮を隠し切れていないような参謀長の声が返ってきた
部屋の中はいつもの緊張感溢れる嫌な空気と共に、期待と興奮の入り混じった
総統を除くナシスのトップ達の顔が並び、例え様の無い異様な雰囲気に包まれていた
「さあ指令、早く掛けて下され、さあ」
急かすようにそう言ったのは、何を隠そうあの兵器を開発した研究所の所長だった
参謀長と共に一番興奮しているのもこの人だろう。どうやら暑いらしく、
いつもは全て閉め切っている白衣のボタンが、今は全開になっていた
たんまりと蓄えられた鬱陶しい口髭が、汗で一層の輝きを帯びた禿頭と対照的だ
促された椅子に座り、男は厳重にロックされた鞄を開けて報告書の束を取り出した
「えーそれでは例の音響兵器に関する報告ですが・・・」

音響兵器
まるでB級映画に出てきそうな響きだが、実際に使用されてしまったので信じざるを得ない
この「植物音響兵器」、開発番号L0L1-tαは、高性能且つ生産性に優れた対人兵器として開発が進められた
見た目は梨の実に酷似しており、ある程度過酷な環境にも数週間は耐えるが、自ら繁殖活動を行うことはできない
外観上での梨との相違点は裏側に直接毛状の根が生えていることのみで、
その部分は完全に地面に埋まってしまうので普通の梨と全く見分けはつかない
それに、その根の存在を確認した瞬間には、近辺の生物という生物は死滅しているだろう
この植物は自らの一部が著しく傷付けられると瞬間的に収縮運動を開始し、その際に致死性を含む特殊な音波を発する
つまり、地面から拾い上げて細い毛状根の一部を切断したり、車両等で「実」の部分を
轢き潰してしまうと、その時点で周囲の生物の生存率は絶望的となる
当然だが、特殊な防音加工を施した車両や建造物で無い限り、内部の生物も問題なく死滅する
研究所が言うにはまだ試作品のため、致死性音波の到達範囲は100mにも満たないが、
そのお陰で今回の事件に一般市民の犠牲者は一人も出なかった
無論、上層部の人間はそんなことは気にもしていないが・・・

「・・・以上が、音響兵器に関する報告です」
報告書を読み終えると、ほとんどの人間が満足げな表情を浮かべていた
研究所の所長に至っては頭と同じぐらい目が爛々と輝いている
参謀長が身を乗り出し「素晴らしい・・・すでに実戦投入が可能ではないか!」と半ば叫ぶように言うと、
それをきっかけに全員が封を切ったように各々の感想を吐き出し始めた
「漏洩は、怪我の功名といったところか・・・」
「国も事故原因が判明するまでは動けんだろう」
「しかし、同士討ちの危険性も孕む。配備は特に慎重に行わないといかんな」
それまで沈黙に包まれていた室内が途端に騒がしくなる
いい年をした大人達が、まるで新しい玩具を与えられてはしゃいでいる子供の様だが、
この光景が滑稽だとは思えない。むしろ、戦慄のようなものを覚えた
「このことは、私から一村(ひとむら)総統に報告しておく。ご苦労だった!」
珍しく上機嫌になった参謀長が強引に手を取って握手をしてきた
指令は「どうも」となるべく嬉しそうに応えたが、多分表情は思いっきり強張っていたに違いない

酒でも飲んで全て忘れたい気分だったが、あと十数分後には病院爆破の指揮も執らなければならない
今日はとことん嫌な一日になりそうだった

37武士さん:2011/06/27(月) 21:41:30
第36話 予知

「はぁ・・・」
武士が地図を見ながらため息をつく
「町田に行くには陸路しかない・・・が」
「駅は閉鎖されてて道路も警備が厳重・・・」
「どうやって行けばいいのよ〜!!」
柿本、弓坂、鮎沼の順に発言する
行くと決めてすぐに行ける場所ではないと今更ながら実感する4人
「カッキー何かいい案ないのぉ?」
鮎沼が柿本に話をふる
「・・・カッキーとは俺のことか?」
「あんた以外に誰がいるのよー?」
柿沼はそれ以上つっこむことなく鮎沼の問いに「ない」と答えた
・・・・・
長い沈黙が続く
「・・・も〜みんな固くなりすぎ!!こうなったら私の歌で・・・」
しびれを切らした鮎沼が立ち上がって言った
「あ、私も歌う〜♪」
弓坂もそれに便乗する
彼女もまた重い空気に耐えられなかった人らしい
そんな2人を見て、ため息をつく柿本
「それでわ!チャーミングなコンビでお送りします1曲目!赤いベンチ〜♪」
いつの間にか喫茶店にいる客達がこちらのテーブルを見ていた
あれだけ騒げば当然なわけだが
注目されて顔を下げる武士と柿本
そして逆に興がのってくるチャーミングコンビ
その時だった
バチッ

「(・・・なんだ?急に空気がかわt・・・)なっ!?」
武士は目の前の普通じゃない様子に思わず声をあげてしまう
先ほどまであれほど賑やかだった店内が一転して静寂に包まれている
目に映るすべてのものが止まっているのだ
「こんなことが・・・ありうるものなのか・・・?」
状況が呑み込めない武士はただ立ち尽くしていた
その時、ドアの開く音が店内に響き渡った
武士はとっさに音の方を向く
そこに立っていたのは黒いコートを羽織った男
サングラスを着けている為顔は見えない
『じきに病院でナシスによる爆破事故が起こる・・・』
呆然としている武士に男が語りかける
この響くような声・・・心に直接語りかけられている様な感じであった
『今ならまだ止められる・・・急いで爆破を阻止せよ・・・』
「ど、どういうことだ?病院が爆発?」
思考が追いつかない武士は、男の言ったことをただ繰り返すことしかできない
『敵の数は10人弱、少数精鋭だ。恐れずに・・・自分の信じた道を行け・・・』

バチッ 
「ま、待たれよ!!」
「ど、どしたのブシ君??」
歌を中断し、ビックリした顔で武士のほうを見る弓坂
時の流れは元に戻っているようだ
「え〜っとぉ・・・今日はここまで〜!」
なんとなく事態を察した鮎沼はギャラリーに言う
それを聞いて彼女らを見ていた客達はそれぞれ自分の席へ戻っていく

「どうしたんだ?急に」
柿本が武士に聞く
弓坂と鮎沼も頷きながら武士の顔をみる
武士は頭を抑えながら言う
「病院だ・・・詳しくは後で話す!病院へ急ごう!!」
そう言うと武士は走って外へ出て行ってしまった
女子2人も顔を見合わせて頷き、武士の後を追って走る
「ったく・・・なんなんだあいつは?」
柿本も立ち上がり3人を追おうとした・・・しかし
彼の前に1人の女性が立ちはだかった

「お会計がまだですが・・・?」
「!!」

38武士さん:2011/06/27(月) 21:42:14
第37話 おかしい?

病院に向かって走る一行(柿は支払い中)
武士は先ほどの出来事を思い返していた
(先ほどのアレは一体・・・まるでDIOの『世界』の様だった・・・)
「はぁ・・・はぁ・・・着いたぁ〜!」
息をきらしながら言う鮎沼
病院は喫茶店から大して離れていないので1〜2分ほどで着いてしまった

「別に変わった様子はないけどね〜」
弓坂の言うとおり、別段変わった気配はない
しかし武士は警戒心をより強めていた
(病院独特のにおい・・・薄暗い廊下・・・確かに一見何も変わっていないが・・・)
もうすぐ爆破される場所とは思えない空気に不自然さを感じとったのだ
――不思議とその時の武士に先ほどの男の言葉を疑う気持ちはなかった
「別れて捜したほうがよさそうだね」
階段の前で足を止めて弓坂が言う
「相手はナシスの少数精鋭と聞いた。1人では危険でござる!」
「あ〜大丈夫だよっ!見つけたらすぐ連絡とればいいわけだし・・・それじゃ!」
武士の制止も聞かず、先に行ってしまう弓坂
「んじゃ見つけたら連絡をくれでござる〜」
武士の声真似をしながら言った鮎沼。彼女も弓坂の後を追って走っていく・・・
「・・・はぁ」
思わずため息がでてしまう武士
それもつかの間、頬をはり気持ちも切り替えて地下の駐車場へと向かう

(しかし・・・警察はまだでござるか?)
武士は喫茶店をでてすぐに警察に連絡をとっていた
爆弾と言うと本気にしてもらえなさそうなので『強盗』と嘘をついたのだが・・・
(やはり嘘ではまずかったのか?しかしなぁ・・・何か・・・引っかかる)
「ナシス・・・もし政府をも動かせる組織だったとしたら・・・」

武士の感は当たっていた
水面下で蠢くソレは一個人では太刀打ちできないほど巨大なものだったのだ

39武士さん:2011/06/27(月) 21:43:12
第38話 遭遇

「ふう・・・余計な時間をくったな・・・」
武士達が病院に入って1〜2分が過ぎた頃、柿本が到着した
しかし柿本が病院に入ろうとすると入り口に立っていた男に止められてしまった
「すまないが今日の診療は終わりだ。お引取り願おう」
深くかぶっている帽子からチラつかせるその顔は柿本たちと同世代に見える
「俺と同じ年くらいの男女が来なかったか?」
柿本がそう言うと男の様子が変わった
「・・・お前もあいつの仲間だったか・・・」
そして柿本の顔面めがけて拳を振り下ろす!
「くっ!」
紙一重で回避してすかさず距離をとる
「そうか・・・お前、ナシスだな?」
「・・・!一般人であるお前がなぜ知っている!?」
柿本の指摘に驚く男
柿本が続ける
「それだけじゃない・・・爆弾はどこに仕掛けた?」
「くっ・・・そこまで知っているやつを生かしてはおけんぞ!!」
計画を知られていると確信した男はすごい形相で柿本に殴りかかる
柿本は直線的に向かってくる男に対し、半身で構えた
そして―――

パァーン!!
男の右拳をかわし、その瞬間自分の拳を男の顎に突き刺す!
クロスカウンターになった右ストレート
声もあげずに崩れ落ちる男

「ハァ、ハァ・・・まともにやり合っちゃ確実に不利だからな・・・」
息を切らせて柿本が言う
同世代に見えるとは言え相手は少数精鋭
まともに戦っては不利とみた柿本はあの一瞬で作戦をたてていた
あえて相手を揺さぶることで冷静さをうばったのだ
「しかしこうもうまくいくとは・・・お前も短気すぎるぞ・・・」
そういい残して柿本も病院の中へと急ぐ

院内は先ほどと変わらぬ光景
薄暗いロビーに診断待ちの人々がいる
そして独特のにおい
柿本はそれらに気をとめながらも別のことを考えていた
(さっきのやつの言葉・・・やはりそうなのか?)
先ほどから抱いていた疑問

『狙われているのは・・・武士?』

40武士さん:2011/06/27(月) 21:44:07
第39話 紙一重
 
柿本はエレベーターに目も振らず階段を駆け上った
(間違いない・・・ナシスの狙いは梨元の命じゃない・・・)
「くっそぉ・・・武士のやつ目立つからな・・・」
折り返し折り返しただひたすら階段を上る
武士たちのことだ唯一の手がかりに向かうはず
そう、梨元のいた病室を目指して
 
 
武士は一人
ロビーから順にフロアを上がっていった
これといって不振な人物は見つけられない
「ここまでは特に何もなかったでござる・・・」
弓坂と鮎沼からの連絡はない
不安に駆られながらも武士は辺りを見回し考えた
(何故ナシスはわざわざこの病院を?人を殺すなら駅でもよいはず・・・なぜ・・・)
「そうか!市民殿でござるか!」
武士はひらめくと同時に階段へと走る
「お、良かった」
階段の踊り場で武士は柿本と合流した
「チャーミングコンビは?」
柿本が尋ねる
「フロントで別れたでござる。柿本殿には連絡を頼みたい、拙者は市民殿の病室へ」
武士は走っていく
「おい!待て!敵の狙いは・・・もう聞こえてねぇし!」
もう病院の規則なんてどうでもよい
携帯片手に柿本は武士の後を追った

41武士さん:2011/06/27(月) 21:51:27
第40話 辛き現実
 
梨元の病室の扉
武士は恐る恐る開く
すると中にベッド横の窓から外を眺める青年がいた
「お主は・・・」
多少差異はあるが確かにその人物だ
「ハァ・・・ハァ・・・武士?どうし・・・た・・・」
柿本もその人物をみて安心と不安の混じった妙な間隔を味わった
「茶髪殿・・・」
青年は振り向いた
「警告してあげたのにまったく・・・市民に関わるなと・・・お節介なんだから」
ただ、昔と違うところは髪が金髪になりナシスの軍服を着ている
「病院ごと双頭銃騎を爆破しようとしたのに爆弾が届いた時にゃいないとわ残念」
金髪の前髪をかき上げベッドに腰掛けた
「茶髪殿!いったいどこへ?それよりその格好は何でござる」
武士が近寄ろうとするのを柿本が止めた
「あれはナシスの軍服・・・」
柿本が鋭いまなざしで金髪の青年を睨んだ
「さすがカッキー、相変わらず物知りだね。あの時、地下鉄爆破さえなければ『友達ごっこ』を続けられたのにな」
不気味な笑みを浮かべた
金髪が陽の光で透き通った様に輝く
「あの電車にゃ、ナシスの細菌兵器サンプルが乗ってたが。まさか双頭銃騎が自爆覚悟で阻止するとは予想外だったぜ」
武士はようやく理解出来た
「つまりお主はナシスからのスパイだと?市民殿を監視するための」
背中の竹刀に手を掛けた
「ま、そうゆうこっと。おおっと、竹刀から手ぇ離しな。病院の爆弾を爆破すんぜ?」
青年の手には小型のスイッチが握られていた「お前達は知り過ぎたんだよ。参謀の命令通り皆殺させてもらう」
金髪の青年は軍服からハンドガンを取り出し武士に狙いを付けた
「やめて!」
柿本と武士が扉の方に振り向くと弓坂と鮎沼立っていた
「どうして?どうしてよ茶髪・・昔はあんなに・・・」
弓坂は目に涙を浮かべた
無理もない
幼馴染はある意味家族みたいな物だ
「あんなに優しかったのに?今時あんなお人好しな性格が素の奴がいると思ったか?バーカ」
その言葉を聞いた瞬間
弓坂は泣き崩れた
鮎沼が駆け寄る
「馬鹿な弓坂から殺してやるよ。その絶望から救ってやろうハッハッハ」
銃を構え引き金を引いた
「やめるでござる!」
武士は瞬時に金髪めがけ飛び掛かった
(間に合わぬ・・・)
 
ドンッ。。。
ガシャーン。。。
「くっ・・・誰だ」
飛来したコップが手の銃をはじき飛ばした
「馬鹿はお前だ。悪魔に魂を売ったかバカヤロウ!」
コップを投げたのは小竹だった

42あなたを、犯人です:あなたを、犯人です
あなたを、犯人です

43武士さん:2011/06/27(月) 21:54:54
41話 形勢逆転?

「タケ君、どうして・・・」
驚いた表情を浮かべる鮎沼。が小竹は問いかけに答えずに鮎沼と弓坂に走り寄った
「何ボーっとしてんだ!早くこっち来い!」
そして二人の手をつかみ、その場から退避しようとする
それとほぼ同時に金髪が銃を拾おうと手を足元に伸ばす・・・が
「させん!」 キィーン!!
武士の一振りが金髪より速く銃を弾き飛ばした
「ちっ・・・」
なす術がなくなった金髪は窓に背を向ける形で距離をとる
武士は金髪に剣先を向けて言った
「お主の負けだ。爆弾をどこに仕掛けたか答えてもらう」
「ハッ・・・ハッハッハッハッ・・・」 途端に笑い出す金髪
「どうせ知っても止められねえからな、教えてやるよ」

その部屋にいた誰もが金髪の言葉に耳を疑った
『お 前 ら 目 の 前 だ よ』

44武士さん:2011/06/27(月) 21:59:34
第42話 戦略的撤退
 
武士達はまじまじと金髪の『方』を見つめる
「………いや…俺の後ろ見ても窓だから…夜景はきれいだけど・・・」
「そうでござったな…」
改めて武士達は金髪を見た
いたって変哲もない軍服だ
手に握ってるスイッチが目に止まる
「小型のC4だよ。特注品の一部屋ぐらいは吹っ飛ばせる奴さ」
武士は4人の先頭に立った
「殺らせはせん。拙者がいる限り誰もな」
「言うと思ったよ。ホレ」
金髪はスイッチを武士に投げた
「うをっ!?」
「武士〜絶対落とすな〜!」
柿本は叫ぶ
武士は飛び付いた
ガシャン。。。
武士がキャッチしたと同時に金髪がガラスを破り窓から飛び出した
「町田へ行くなら彼女達は置いてこい。でないと…死ぬぞ」
慌てて小竹と柿本は窓から下を見るが
金髪の姿は無かった
二人は振返ると武士が爆弾のスイッチを―
「やめr――」
カチッ。。
シュボッ。。。
「ただのじっぽライターでござる…」
「あの野郎…」
「おい・・この銃・・・」
引き金を引くと銃口からお花が出た
「アイツ・・・ほんとに刺客か?」
「見舞いにきたんだろ・・・」
痛感した
そして町田に向かう事を決意した

45武士さん:2011/06/27(月) 22:00:40
第43話 旅立ち
 
天高く日昇る
昼下がりの午後
『町田へはバスで行き手前で降り徒歩で境界を越える』
柿本の提案は合理的だった
町田には海が無いため海路は×
空路はかなり危険である
残りの陸路だが
先日の駅爆破の影響で国鉄私鉄共に全線運転を見合わせている
電車での交通機関は完全に麻痺だ
『お前達は残れ』
小竹の言葉が冷たく厳しく突き刺さる
彼女達を想ってだろうか
はたまた本当に足手纏いだと感じたのだろうか
今は確認する術も無く
二人は取り残された
『私情は邪魔でござる』
確かに金髪が対峙した時
取り乱したのは彼女達だけだ
でも友達だから
必ず分かり合えるから
心の中で想ってしまう
人間として仕方無い事ではないのか
「行こう鮎、私達も町田へ。まだ走れば間に合う」
「でも………」
「私、島野君にまだ…伝えてないから…」
「そう…なら決まりぃ!」
彼女達は武士達を追い走り出した
目標を持つ事は悪くない
目標達成のために手段を選ばなくなる
達成までは何としても生きようとする
硬い誓い

46武士さん:2011/06/27(月) 22:01:31
第44話 結束
 
バス停で佇む5人の影
「本当にいいんだな?」
「「うん」」
小竹の問いに二人は答えた
その決意に嘘偽りはない
目を見れば誰にだって分かる
「じゃあ全員に聞きたいでござるがお主らの武器は?」
武士は問うた
「頭脳と体術かな、後は臨機応変に」
柿本が最初に答えた
「「頼れる物は拳のみぃ!」」
小竹と鮎沼が同時に答えた
「ちょっとぉ!同じ事言わないでよ!」
「こっちの台詞だぜ!」
喧嘩が始まるのはいつもの事だ
もう慣れた
「弓坂殿は?」
弓坂は羽織っている上着の背中の部分をそっとあげた
すると二本のナイフがホルダーに入っている
「短剣二刀流でござるか?」
「昔…あの人が教えてくれたから…」
プシュー
バスが到着した
5人は乗車口から乗り込む
「ぬ?」
(あれはまさか!?間違いないでござる)
武士が見つけたのは
いつかの女子高生だった

47武士さん:2011/06/27(月) 22:02:03
第45話 追跡

武士は虚ろな目で女子高生を見つめていた
(間違いないでござる。あの娘は・・・)
「ブシ君・・・キミはいつでもマイペースだねぇ」
我に返り横を見ると弓坂が白い目で武士を見ている
武士は慌てて何かを言おうとしたが言葉がでてこなかった

しばらくバスは走り続け、客は次々と減っていく中
柿本はある疑問を抱いていた
(あの女子高生・・・ここまで乗ってきているということは町田市民か?ならば・・・)
しかし女子高生は武士達が降りる予定だった場所より3つほど手前で停車ボタンを押した
バスが止まり、女子高生が降りていく
(気のせいか・・・いや違う。俺の考えが正しければ・・・)

「待った待った!俺達も降ります!」
言葉を発したのは小竹。鮎沼が小竹を責め立てる
「こんのアホタケ!私達が降りるのは―――」
「いやいいんだ。ここで降りよう。説明は降りてからだ」
鮎沼を制する柿本。残る2人も困惑しながら下車する

48武士さん:2011/06/27(月) 22:07:52
第46話 政府軍ナシ党拠点
 
堅牢な造りの建物
町田民族の反乱軍とは比べ物にならない食生活
ここには誰一人として飢えてる人物などいない
一面石造りの廊下を真っ直ぐ歩く
歩きなれた道だが今は少し違う
「自分の道を進む…か」
昔読んだ本を思い出した
幾度となく敬礼を交わす軍人の横を通る
目指す場所こそナシスの中枢
自分の取れる道こそ二つに一つ
死か逃
絨毯の汚れは特に目立たない
参謀は奇人だ
誰も作戦室に近寄ろうとしないからであろう
――――トントン
「入れ」
中から声がした
低く冷たい声
無性に腹が立つ
「入ります」
部屋の中は情報でいっぱいだ
衛兵が二人立っている
「報告を聞こう」
大きな椅子に座りこちらに背を向けている人物こそ参謀本人だ
「作戦は――――」
ふと考えた
決断の時
金色の髪の青年は答えた
「作戦は失敗した」
「そうか…」
参謀が振り向く
目で人を殺すとはこういう事だろう
目を逸らすと
間違いなく潰される
「本当に双頭銃騎を殺るつもりがあったのか?」
「さぁな。反乱軍の方が真実に近いようだ。俺は俺のやり方でいくさ」
椅子に座った男は微動だにしない
「命令に従わない働き蜂はいらん…そう教えたはずだが?」
青年に銃を向ける
おそらく背中の衛兵もそうだろう
「俺は階級が上がり剣を捨てた…だが再び手にする時が来たのかもしれないな」
青年は瞬間的に袖に入っていたダーツを衛兵に投げる
よろけた合間を縫い部屋から脱出する
背から低い声がした
「貴様一人で何が出来る?」
「料理と洗濯くらいかな、いずれまた」
青年は部屋を後にした
真実を求めるため

49武士さん:2011/06/27(月) 22:08:24
第47話 柿本の策

女子高生の後を追う武士一行
しびれをきらせた鮎沼がとうとう疑問をぶつける
「そろそろ聞かせてよ〜なんであの子を追ってるの?」
振り返ることなく柿本が言う
「おかしいと思ったんだ」
何が?と誰が尋ねる間もなく柿本は続ける
「町田の周辺では絶えず戦闘が行われているんだ。そんな場所へ民間人はどう帰る?」
「町田市民かそうでないかを見分けるための通行証のような物もあると聞いたけど・・・」
弓坂が話にわって入る。柿本は「その通り。だがな」と言って説明を再開する
「リスクがでかすぎる。通行証を確認できる距離まで敵の接近を許すことになるのだから」
そう言い終えて一息つく柿本。動きながら流暢に話すのにも限界がある
「つまりだ、町田市民には安全な帰路が別に与えられてるんじゃねぇかってことだ」
代わりに答えたのは小竹。彼はまだまだ体力に余裕がありそうだ
柿本も同意する
「そう通常ルートを正門とするなら、裏門にあたる道があってもおかしくないはずだ」
「それであの女子高生殿を追跡してるでござるか。彼女を町田市民だと仮定して・・・」
不安そうな顔で武士が言う。柿本は皆のほうに顔を向けて
「確率の低い賭けだけどな。たまにはいいんじゃないか」
そう言って笑った

50武士さん:2011/06/27(月) 22:09:01
第48話 戦場へ続く道

入る前は完全にただの廃墟だと思っていた建物
武士達は今、その建物の地下通路にいる
坑道を思わせるその道は必要最低限の灯りが点っていて薄暗い
それでいて足元はしっかりと舗装されている
淡々と進む女子高生を見失わないようについて行く
「こんなとこ一人で歩きたくないよ〜・・・」
鮎沼が小声でつぶやく
確かに女子供が通るには不気味な道で、とても安全性は感じられない
途中いくつも分かれ道があった。他の場所にも繋がっているのだろうか
そんなことを各々が考えているうちに目の前の女子高生が足をとめた

「・・・この先へ何か御用ですか?」
少女の落ち着いていて、かつ強い声が通路に響き渡る
その言葉は完璧に武士達に向けられたものだった
ちらっと柿本を見ると彼は両手をあげてため息をついた
他の3人を見る。全員うなづいた
意を決して武士が女子高生のほうへでていく
「・・・!!・・・あなたは・・・」
明らかに女子高生が動揺した

51武士さん:2011/06/27(月) 22:10:40
第49話 再会

互いが対峙した時間はそう長くない
しかし武士にはこの数秒が果てしなく長く感じた
眼前の女子高生にとっても同様であろう
静寂―――そして女子高生が口をひらいた
「…どうして…どうしてこんな所にいるんですかっ!」
一同は呆然としてしまった。女子高生は目に涙を浮かべながら続ける
「すぐに引き返して下さい!私…てっきり侵入者かと思って…」
あながち間違いではないよ、と誰もが思った
しかし誰もそれを言葉にしなかった。できなかった
直後、背後から現れた何者かが女子高生の口をふさいだからだ
すぐにぐったりとしてしまう女子高生。薬品でも嗅がされたのだろうか
「何者でござるか、お主!!彼女に何をした!?」
激昂する武士。対面にいる人物は女子高生を抱えながら答えた
「私は反乱軍所属、御崎 里緒。彼女には眠ってもらっただけよ」
女子高生を壁にもたれかけさせ、こちらに顔を向ける女性兵士里緒
街で彼女とすれ違えばほとんどの男性は振り返るであろう
そんな美貌に迷彩柄の戦闘服が妙にマッチしている
次々と変わる展開に頭がついていかない武士達
品定めするかのように一人一人を見た里緒は
「さて…迷子ではないわよね?侵入者を排除するのが私の仕事なの」
そう言って迷彩服に身を包んだ女性は武士達に槍を向けた

52武士さん:2011/06/27(月) 22:11:18
第50話 再会Ⅱ
 
「そなたにも都合があろうが拙者達とて引く訳にはいかぬ。邪魔をするなら斬って捨てる」
武士は刀を構えた
冷たく鋭い切っ先が里緒を向く
「剣術使いか、上等!!」
武士は突進した
槍は柄の部分が長い
つまりは密着されれば隙が大きい
キンッ キンッ キンッ
刀の峰で槍の軌道を変え
紙一重で避け近付いて行く
武士が得意とする間合いに入り
刀を振った
その時
「待て!!」
ガギィッ
刀と槍が交叉した瞬間互いの武器が砕けた
折れた刃先が互いの顔の前で止まる
暗闇から一人の男が現れた
紛れもない
「市民殿…」

53武士さん:2011/06/27(月) 22:13:46
第51話 降り続く雨
 
果てなき思いは費えた
政府軍の思想に不信感を持ち
それでも闇に身をゆだねている
今は参謀に見つからぬよう姿を隠す
それしか出来ない
隠して幾人もの兵士を反乱軍に入るよう促し
民間人を密出国させてきた
もう体はボロボロで立って歩く気力さえない
いまさら自分だけ逃げて反乱軍に保護されるのは癪だ
梨澄と以前のように仲良くなるというのは虫が良すぎると分かっているからなおさら
小耳にはさんだ
ラジオでの放送だったか
日本国は事実上政府軍を支援している
だが
国際連合は政府が独裁者になるのを牽制して
反乱軍を支援するらしい
どの道反乱軍が勝てば今は政府軍を辞めたとは言え俺は元高官
処刑は必至だ
ならば今出来る事は…………
雨音が絶え
金髪の青年がテントから表を見る
雲が割れ光の筋
七色の虹が架かる
希望が少し見えてきた昼下がりの午後

54武士さん:2011/06/27(月) 22:14:39
第52話 変革の刻
 
「市民殿…」
「やっぱり来たようだな」
梨澄は冷たい視線で武士達を見つめた
明らかに肝の座った'人殺しの眼'だ
「何も言わず俺に力を貸せ」
4人は困惑した
しかし一人の男は冷静だった
「拒否すればどうなるでござる?」
梨澄は両手に銃を構える
「ならばここで死んでもらう」
「拒否はせぬ、拙者達の願いも市民殿、お主達と同じ『平和』でござるからな」
ピリピリと張り詰める空気が和らぐ
先に武器をしまったのは武士だ
続いて梨澄もホルダーに銃を入れる
「斬りつけてくるんじゃないかと心配したが、いささか拍子抜けだったな」
「この刀じゃ無理でござろう」
リーネとの戦いで武士の刀は真っ二つに折れていた
長年使っていた刀
玉鋼の鍔
折れて罅だらけでも輝きを失わない刀身
いまや短くなってしまっているが
綺麗な乱れ刃
無名刀にしてはなかなか良い刀だった
「この近くに誰か刀匠はおらぬでござるか?」
「探してみよう」
武士達は梨澄達に連れられトンネルを進んだ

55武士さん:2011/06/27(月) 22:16:06
第53話 闘いへの秒読
 
先ほどの位置からどれくらい歩いただろう
優に一時間は歩いた
くねくね曲がった道を梨澄を先頭に女子高生を抱えた御崎が続く
目の前の大きな扉から光が漏れる
「うおっ!!」
小竹が声を出した
恐らく他の皆も同じであろう
拙者とて例外ではない
扉の先
大きな空間
昔小説でみた地底遺跡のような感じがする
「ジオフロント…」
柿本が呟いた
「その通りだ、柿本」
梨澄が御崎に何かを促した
「お前達、こっちに来な」
すると御崎は女子高生を抱え
弓坂と鮎沼を連れて行く
「どこへ連れて行く!!」
小竹が梨澄に問う
「心配するな、彼女達は女子寮へ連れて行かせる。男は入れないしこの基地の一番安全な場所だ」
武士達は弓坂達と別れ梨澄の後についていった
 
 
 
〜ナシス軍指令本部〜
部屋には煙草の煙が広がる
だが誰も咳き込む者はいない
「作戦が失敗したからには反乱軍に梨澄が戻ったのは明白だ」
「幸い我々には数の利がある」
「奴等の基地への入口は大体検討が付いている」
将官達の意見がまとまりつつある
「では決まりだ。反乱軍は殲滅する。今すぐ」
金のモールを下げた参謀が決定をくだした

56武士さん:2011/06/27(月) 22:19:11
第54話  混迷に
 
梨澄に連れられ武士達は作戦室へ入った
中には数人の男達がいた
「それが君の友人かね?」
「そうです」
梨澄が答える
「私は基地司令補佐の沖田少将だ。歓迎するよ」
沖田と呼ばれる軍人が手を差し延べ
「こちらこそよろしくでござるよ」
武士は不安に満ちた心を抑え握手した
「それと梨澄!心強い味方が出来たぞ」
沖田が梨澄に言い放った
そして沖田の指差した方向を見る
反乱軍とは違った純白の制服を身に纏い
金刺繍の入った帽子を脇に抱えた軍人が二人立っていた
片方は金髪で眼はスカイブルーの女性士官だ
「国連軍より査察を命じられました第三戦闘機隊先任の菊池 杏子少佐と佐藤 柑子大尉です」
「国連が我々に協力してくれる」
沖田はうれしそうにしていた
しかし武士の心中は穏やかでなかった
このままでは全世界が巻き込まれてしまう…と
ドドォォォォォン
地鳴りと共に照明が点滅した
砂壁が崩れ粉状に舞う
「入口の防衛ラインが突破されました!」
一人の兵士が叫ぶ
悪夢の始まりだった
「パイロットは縮こまってな!ここは地下だ」
梨澄が挑発する
「いえ、結構。腕には自信がありますし、ここで死んでは…鬼が赦しませんから」
梨澄は一瞬見た
菊池は梨澄より大型のハンドガンとナイフを持っている
「武士!お前は武器を探して女子寮の方へ行け!頼んだ」
梨澄が叫んだ
「承知」
武士達は武器庫へ案内されて行った
「怪我しても助けないぜ?少佐殿」
「結構、結構」
菊池は煙草に火を点け
他の兵士と共に突破された入口へと向かった

57武士さん:2011/06/27(月) 22:20:00
第55話 新しい剣
 
兵士に連れられ武器庫へと走った
武器庫と言っても
ただの闇市のようだ
闇商人が自分のスペースで武器を並べているが値札がついてない
「ここで武器を探せ」
兵士はそう言い残すと去って行った
小竹と柿本は短剣と銃を見に行った
武士は刀を探そうと思った時
(――――――――)
「誰でござるか!?」
(――――――――)
声が…
声が聞こえた…
確かに…
暗闇へと進むとある商店に辿り着いた
汚いテントに骸骨の置物
洗練された趣味とは言えない
「……来たようじゃの」
「貴女は!?」
武士は驚いた
そこにいたのはなんといつぞやの老婆であった
「あんたの欲しいものは分かっておる。刀じゃの?」
「あ…えぇ、はい」
老婆は一本の刀を差し出した
「あんたなら、使いこなせるじゃろう」
武士は刀の柄を外し刀身の銘を見る
『まさしみず』
 
(――――――――)
「これは…妖刀でござるな…」
振り向くと老婆の姿はなかった
そこはただの石壁
「お〜い、武士!いくぞぉ!」
小竹の声は響く
刀を握り締め走った

58武士さん:2011/06/27(月) 22:20:43
第55話 崩壊への序曲
 
徐々に政府軍の侵攻部隊がフロアを下げてくる
いくら入り組んだ地下基地とは言え
虱潰しに来られれば制圧は時間の問題だ
武士達は女性寮地区へ急ぐ
入口付近にバリケードがあり、沖田が指揮を執っている
「一般の女子供老人は非戦闘員だ戦わせるわけには…」
「沖田殿!拙者達も加勢するでござる」
「すまない…」
武士達もバリケードの奥へと入った
地鳴りが大きくなる
押されているな
そう考えざるを得ない
市民殿なら防衛しきれると信じているが…
市民殿は地下入口の数もいない…
「誰か来たぞ…」
数人の人影が見える
だんだん大きくなっていく
「市民殿!」
「梨澄!」
それはほぼ同時だった
菊池に背負われて帰って来た梨澄
死んでしまったのだろうか…

59武士さん:2011/06/27(月) 22:23:23
第56話 最悪
 
「ったく…来た早々手荒い歓迎痛み入るけどありえねぇな!!オイ!!」
菊池は梨澄をバリケードの向こうに投げ飛ばした
泥と血に塗れた白い軍服を肩にかけた菊池と数人の怪我人と後方を警戒する佐藤がバリケードを越えてきた
「お主、市民「貴様ぁ!!」
武士の言葉を遮って御崎が槍を突き付けた
素気無く菊池は手の甲で御崎の槍を払い落とした
「二つ名がついてる優秀兵士だかなんだか知らねぇが、無感情で部下の命を虫けらみたいに切り捨てられちゃたまんねぇよ。昔のアイツ見てるみたいでな!!」
「それが戦争よ!!勝つためならいくら死のうと関係ないし、皆自分から命を捧げるわ」
御崎が突っ掛かる
「人の命は平等で決して軽くはない!!ましてや使い捨てなんてもってのほかだ!!戦争はゲームで人は玩具の駒じゃねぇんだぞ!!」
菊池は気絶している梨澄に照準を定めた
「待って!!」
梨澄の所に先ほどの女子高生が駆け寄った
「どけぇ!!」
「どきません!!」
女子高生は梨澄に覆い被さる
菊池はそのまま引き金を引いた
「なかなかの腕だね侍ボーイ」
武士は菊池の持っている銃の引き金の付根を切断した
破片が宙を舞う
その時だ…
バリケードに一番近い兵士が何か音を聞いた…
不気味な音…
数秒後
その兵士は体中すべての血を吐いて即死した
「まさか!?アレか…」
菊池は尻餅をついた


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