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【1999年】煌月の鎮魂歌【ユリウス×アルカード】

21煌月の鎮魂歌 2 9/13:2015/03/11(水) 02:09:54
 アルカードは黙ってユリウスを見つめた。そこには何も映ってはおらず、どんな
意図も浮かんではいなかった。彼はただ真実を述べただけであり、それをユリウスに
対する担保として使おうとはしていないことが、ユリウスの鍛えられた目にはすぐに
理解できた。
 だが、感情は許さなかった。全身をめった刺しにされた母の死骸の上でジグを踊っ
ていたヤク中のぽっかり開いた口と、垢と母の血にまみれた裸足が目の前を行き来
した。異臭のするフライドチキンの骨からわずかな肉をかじりとった時の舌をさす味
をはっきりと感じた。
 ひとりスラムに放り出された幼い子供がたどる多くはない運命──狼どもの手で
さんざんおもちゃにされたあげく首をひねられるか、紳士面の変態趣味の奴らに
供される人肉になり果てるか、豚のように殺されて腑分けされ、あらゆるパーツを
金にするためばらばらにされて冷凍庫に納められるか──確かにそのどれも、
ユリウスには起こらなかった。だがそれ以上の幸運も起こらなかった。
 四歳で他人の懐を狙うことを覚え、六歳ではじめて自分のナイフを手にし、
七歳の時に最初の殺人を犯した。その時にはすでに当時一帯を支配するギャングの
使い走りとして働いており、殺人も日常の退屈な出来事のひとつにすぎなかった。
子供の手に正確に心臓をひと突きされ、何が起こったのかわからないまま死んでいく
相手の目を無感動に見つめていた。特別な感慨も衝撃もなく、ただわずかに手を
汚した返り血がわずらわしい感触を残した。相手が誰で、どういう理由で殺したのか
さえ覚えていない。たぶん密輸かヤク絡みの何かだろう。
 それから一年の間にさらに五人、二年目には八人殺していた。得物はナイフから
ロープに、そして自分で工夫した革をよりあわせた鞭に変わった。十五歳の時に
その鞭で、女を抱えてたるんだ体を震わせているボスを、女もろとも手下どもの
前で殺した。〈赤い毒蛇〉、生きているような鞭扱いで犠牲者をいたぶる、赤毛の
悪魔が誕生した瞬間だった。


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