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TSFのSS「ターニング・ポイント」

1luci★:2016/11/01(火) 00:21:20 ID:???0
 そのニュースは大きくなかった。ただ、いくつかの共通点があって多少スキャンダラスではあったものの、海外と日本に渡るために次第に関心を失っていった。金持ちと呼ばれる人種が、数人死亡しただけの話だったのだから。

「ぷっ、ふうぅぅ――」
 高遠歩が培養機器から解放されると、まずはガラスに自らの姿を映した。そこに映る姿は、二週間前に培養機器に入る前とは大きく違っていた。
「……ん、成功、かな」
 長い睫毛を瞬かせながら、自身を見てみる。身長は160に満たないだろう。髪は肩に着くほどになっている。つんと上を向いた必要にして十分な胸。くびれたウェスト回りはちょっと腹筋が出ている。張った腰は女性らしさを強調していた。恐らく多くの男性が振り向くだろう容姿。自分の姿でありながら、高遠はすこし高揚した。
 とある生化学研究所の一研究室。そこには人が数人入れるほどのアクリル製水槽、培養槽と、それに繋がる様々な機器が所せましと配置されている。そこに割と小柄な、裸の女性が立っているのは少し奇異な感じがする。
 そもそも高遠は男性だった。ある遺伝子疾患を患っていたために、自分の研究を極める前にこの世からいなくなりたくなかった。彼は、自分の研究成果と既存の技術を用いて延命することを考えたのだ。
 その技術がトランスセクシャルだった。
 最近ではある程度の富裕層では、そういう遊びが流行っていた。無限増殖細胞を使用し、自らの性別を反転させ、反対の性別のセックスを楽しむ、そんな遊びだった。
 無限増殖細胞、言ってみればガン化した細胞を用い、性遺伝子を一気に書き換える。XYからXXに、そしてXXからXYに。もちろん、不道徳という観点から公にはなっていないが。そして危険も当初はあった。暴走すると一気にガン化して死亡に至った。
 しかし高遠の研究がそれを安全なものにしたのだ。
 そして今回自分に対して行ったものは、自身を実験台としてすべての遺伝子を作り替える、脳細胞までも。
「さて、まずは培養の経過、と、あれ?」
 機器に接続されているPCのモニターを見ると、予定していた日付と二週間もずれがあった。
「おかしいな、急速培養は二週間で終わるはずなのに……」
 裸の背筋をしならせモニターを見て、人差し指を唇にあて小首をかしげる仕草は、女性っぽいとしか言いようがなかったが、本人は気付かなかった。
 二週間も無断欠勤していながら、培養機器が放っておかれている状況は普通ではなかった。自然とデスクのある部屋へ行こうとした。けれど、時刻はすでに22時を回っている。不用意に裸で飛び出して警備員と鉢合わせになれば、自己の証明ができない。遺伝子を作り替えているとは言え、多くは元々の男性体から受けついている。指紋も同じであることは動物実験の段階でわかってた。わかっていたが、それでも。
 手近にあった白衣を羽織り、研究室の扉を開け、廊下に頭だけだして確認する。誰もいない。
 ひたひたと素足で走ると、胸が揺れて乳首が擦れる。あまりいい感じはしない、などと思いながら上階の自室へ至った。


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