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TSFのSS「Tatoo」

1luci★:2015/10/23(金) 09:44:24 ID:???0
「あ〜、ん、あぁあ」
 辺りに嬌声が響き渡る。それが私の声だと認識することが、私の一日の始まりだった。
 かれこれ何日過ぎたのだろう? 何か月? それとも……何年?
 体重を感じながら、いつも思うことは同じだった。心を無にしても身体は感じるんだなと、そんなことを思うのもいつものこと。自分の身体なのに、圧し掛かるこいつの方が今では私の身体を隅々まで知ってるのだろう。
「ん、イクっ」
 身体の中に嫌な粘液の射出を感じた。
(どうして、こうなったんだろう……)

 私がその遺跡に興味を持ったのは、あいつの影響もあった。あいつは所謂正当な考古学に興味がなく、超文明などという一種の「トンデモ」に傾倒していた。
 荒唐無稽な読み物としては楽しいけれど、それを学問とするのはいかがなものかと、何度も衝突したのもだった。今から考えれば、既にその時からあいつの中ではターゲットは決まっていたのかも知れない。
 ただその遺跡は、いつもの「超」文明とは異なり、正史にも登場しても未発見のものだったから、発掘のために関係各所や大学への働きかけは私が積極的に行った。
 だから、失敗や実績が得られないなどということは容認できなかった。
 自分の助教授としての立場や実績、将来に焦りを感じていたのかもしれない。
 発掘のメンバーは、研究室の学生を中心にあいつと私。そしてアルバイトを雇った。
 遺物が得られたところを中心に掘った。掘り進めた。しかしその時代の地層に到達しても、遺跡は発見に至らなかった。
「俺は、この辺りじゃないと言ったよな」
 何度もあいつと議論して、この場所を決めたというのに、今更あいつの言では、もっと西の山の中腹だという。容易には承服しかねたが、学生の間でも次第に私への不満の声が大きくなっていった。
 そして、ひと月も経つと、私もそれらを無視できないようになっていた。

2luci★:2015/10/28(水) 12:34:47 ID:???0
 それは徐々にあいつに絡めとられていたことを意味していた。けれど、その時の私にはそのことがわかっていなかった。
「どうして何も出ないんだ……」
 苛ついた私は宿舎で当たり散らしていた。それをなだめるためなのか、それとも気を引くためなのか、あいつは自説を披露し始めた。
「――ということなんだ。だから……」
「なら、あの時はっきり主張すべきだろうっ」
 日本酒片手に出来上がりつつあった私は、あいつにクダを巻く。しかしあいつは意に返さない。それどころか興味深い、そして破滅への切符を手に意味ありげな笑みを浮かべた。
「実は、夜な夜なそこに行ってみたんだ。そしてこれを見つけた」
 差し出されたそれは、火焔型土器に近かった。しかし縄文ではなく、絵付けがされている。そしてその絵は、これまで見たことがないリアルな表現がなされている。
 時代的にあり得ないそれには、身体と思しき部分に奇妙な文様が描かれていた。
「こりゃ、お前……」
 渡された土器を手に、声も手も、そして心も震えた。一気に酔いも覚める
「なぁ、これを見てみろよ。この文様は刺青じゃないかと思うんだ。南方系の民族が、この地域にまで来て新たな文化を発展させた証拠じゃないだろうか」
「本物なら、な」
 極めて冷静を装い、反論をした。しかし論より証拠だった。俺は自説にも負け、証拠を前に意気消沈していたのだ。そして、俺の性で自分の目で確かめたいと強く願っていた。それもあいつの罠とも知らずに。だから、あいつの次の言葉は俺を動かすのに十分足りえた。
「今から、行ってみないか。俺の功績な
んかどうでもいいさ。君が見つけたことにすればいい。学会もその方が通りやすいし」
 今思えば、自分の手柄を他人に差し出すなどあり得ない。しかしその時の私は、敗北感と期待とアルコールでおかしかったのかも知れない。
「ああ、行ってみよう。案内と運転頼む」
 発掘に必要な道具はいつもすぐに持って出られるようにまとめていた。それを手に立ち上がると、あいつは待ってましたとばかりに満面の笑みを見せた。
「そうこなくっちゃな」

3luci★:2015/11/02(月) 23:17:34 ID:???0
 車を降りて山中を歩く。深夜ともなれば、月が出ていない限りほぼ暗闇の世界だ。その中で躊躇せず歩みを進めるあいつの後ろを、私はこわごわ進んでいた。少しでも物音がすれば心臓がバクバクとなり、どうにも誰かに見られているような気がして絶えず後ろを振り返っていた。
 日付が変わる頃、目的の場所へと着いた。
「ここかい? 伊邪那美でもでてきそうだな」
 山の斜面にぽっかりと穿たれた裂け目は、まるで黄泉平坂への門のように見えた。
「この奥に数十メートルいくと、俺が見つけた土器が散らばってる場所になる」
 ヘルメットとライト、そしてデジカメと簡単な発掘道具を持った私は、逸る気持ちを抑えきれなかった。早く行けと、私とは対照的に大きな荷物を担いだあいつを促し、足早に門をくぐる。
 内部は人が一人入ればぎりぎりの横幅と高さで、ぬめぬめと足元は悪く、何やらすえた臭いが奥から漂っていた。
 暫く無言のまま歩くと、少しばかり広い場所に出た。入ってくる前の伊邪那美云々から、それまで歩いてきたところが産道でたどり着いたところはさながら子宮のように思い始めていた。根拠などなかったけれど。
 足元を照らせばあいつが見せてくれた土器と同じようなものの破片が転がっていた。
「実はな、この左手に石組みの壁があって、前回それを壊してしまったんだ。まだ中へは入ってないんだが」
「なにしてるんだ。中に何かあったら風化してしまうじゃないか」
 あいつを静かに罵倒しながらも、私は新たな何かを見つけられるかもしれないという、子供じみた興奮の最中にいた。
 とにかく、「何か」を見つけたかった。たとえあいつが発見した場所でも、あいつより先に。
 足早に崩れた石組みに取り付くと、あいつが静止するのも聞かず、強引に侵入を果たした。後ろからあいつがついてきた。
「おおっ」
 ライトに浮かぶ壁一面に、極彩色の女人図が飛び込んできた。それを前にしたら、学者としてしてはいけないことなど、極些末な事としか思えなくなり、興奮は歓喜を呼びあいつがどこにいるのかさえ失念していた。
「見ろよ。この女人図。みんな同じように背中、いや、首の下か? 同じような刺青があるな。お前の言ってた通りかもしれん」
「そうだな。ところでこれを見てくれないか。これだけ同じ刺青をしているのに、絵柄的には男性に見えないか?」
「ん〜? ……もしここの壁画が絵巻物のように物語性をもっているなら、確かに繋がりがおかしいな。この崩れたところにヒントがあるのかも」
「ああ、やはりそこに至るか。そりゃそうか」
 そこには男が女に変身したように見えた。崩れた絵の部分には、その要因が描かれていたように思えた。そしてその要因に思い至った。それを口にしようとした瞬間。
 意志とは無関係に身体が脱力し、昏倒していた。
 冷たい、ぬめっとした土と石が、「学者としての私」の感じた最期の触感だった。

4luci★:2015/11/06(金) 22:51:05 ID:???0
 最初に感じたのは、背中の、首の下、肩甲骨の間の、痛痒さだった。
 不透明な水底にいるような視界に視線を漂わせ、そこを触ろうとしたが私の手はうまく動かなかった。痺れとか痛みとかそんなものではなくて、もっと物理的に。手首を縛られているとわかったのは、あいつの声を聞いてからだった。
「だめだめ、触っちゃ。彫ったばかりなんだから。我ながらうまくできたよ」
 瞬時には状況が掴めず、言葉もでない。目の前にいるあいつの誇らしげでどこか人を小ばかにした笑顔は、鬱陶しい黒髪で御簾が降りているようだった。
「どういう……?!」
 問いただそうとした私の声は、それまでとは違い女のように高い。まるで壁を彩る女人図が話しているように思えた。その違和感に再び口を噤むと、視界を遮る髪を両手で何本も抜けるほど引っ張り、許せる範囲で自身の身体を弄った。
 柔らかい肉の感触は、それが自分のものでなければ何時まででも触っていたいほど。しかしその事実に私は驚愕し、上体を起こしながらあいつを見据えた。
「驚くのも無理はないさ。ここは本当は、一年も前から見つけていてね。ほとんど調査し終わっているだよ。――ああ、余計なことはいいか。今の君に必要なことを言おう。ここに描かれているのは、古の文明が残した秘術を記している」
 話しながら近づくあいつの目には、狂気が宿っていた。仰向けにした手が、徐に私の上着の胸元を掴んだ。繋がった自らの腕でその手を払いのけようとした。けれど私の腕とあいつの腕が並んだとき、その大きさに、腕の太さに、畏怖の念が渦巻いた。
「そう、例えばあの絵。ほとんど獣人だよ。向こうは小人。そうなった要因は」
「! あっ」
 言いつつ、あいつは掴んだ腕を左右に広げた。豊かな白い乳房がまろび出た。その行為は羞恥からでたのか、それとも他にあったのかわからないが、私は必至であいつの目から隠そうとした。
「そう。君が触ろうとした、刺青だよ。特定の部位に特定の文様を彫れば、人を変え、そして意のままに操れる。俺は神にも等しい力を手に入れたんだ」
「……そして、私は女にしたのか? お前、どういう料簡なんだ? 私がお前なんぞの言いなりになるとでも?!」
「うぐっ」
 両手の親指であいつの喉を思い切り突くと、あいつは意外なほど簡単にひっくり返った。
 私はその隙に逃げれば良かったんだ。あの一瞬が、運命を決定していた。
 あいつと私はほとんど体格差が無かった。男の頃は。学問でも、スポーツでも、すべての面で私は優位だと思っていた。それが禍したんだ。
 ひっくり返ったあいつに蹴りを入れ、憂さを晴らし、そのあと元に戻る方法を聞き出す、そう思って放った私の蹴りは、あいつには効かなかった。痛みなどないかのように立ち上がり、十回以上蹴っても構わず近づいてきた。
「ぎゃっ!?」
 お返しとばかり、両足を刈り取られるように蹴られ、地面に頭を打ち付けられてから始めて蹴られたことに気付いていた。

5luci★:2015/11/06(金) 22:51:51 ID:???0
「――苦しいじゃないか」
「あ、うっ」
 平手で打たれたのに、目の前がチカチカして、何度も何度も打たれ続けた。
「いつまでも、偉そうに、してんじゃ、ないっ」
「! あ、つっあぅ」
 私の腕など、あいつの暴力の前では役に立たなかった。力を半減させるとか、痛みを少しでもなくそうとか、そんな努力は無意味で、打たれ続ける理不尽さに憤るが、この身は
 そのうち平手から拳に代わると、思うことは二つしかなかった。
 あいつへの、怖さ。そして、どうしたら終わってくれるのか、と。
「や、もう、やめ、くだ――」
「はぁっ、はっ、さ、最初から、言うとおりにして、いればいいんだよ。何もできないくせに、功名心だけ肥大したくそが。今回の発掘も、結局なにも出なかっただろう。いいか、君はな、俺がいなけりゃ、学者なんぞにもなれない、出来損ないだ。俺が常にヒントを与え、それを元にしなけりゃなんにもできない。はっ、エサがなけりゃ死んじまう家畜だ。そうさ、俺の家畜なんだよ。素直に飼われてろ」
「……うぅ……」
 暴力の、身体の痛みが終わったと思っていたところへ、私自信を否定され、臍を噛むしかなかった。
「ああ、家畜にはいらないな」
 言うが早いか、服をはぎ取られ丸裸にされた私は、あいつに腹を蹴られ、言葉もなく蹲るしかできなかった。
「暫く頭でも冷やせ」
「? あっ待っ」
 そう言うと、あいつは身を翻し穴から出ると、外から石を組み出口を塞いでしまった。
 私の細い指と腕ではどうにも動かせない石組みを前に、冷たい地面に倒れこんでしまった。
 何回かの睡眠の後には、痛みと冷えと空腹が絶えず私を襲った。
 死の恐怖が見え隠れし始める頃には、力なくあいつを呼んだ。称えた。そして懇願した。「出してくれさえすれば」から、「顔を見るだけでも」、それが「声だけでも」になるのは早かった。
 寒さをしのぐために膝を抱え座った。そうすると、自分の身体が女であることに気付く。大腿でひしゃげた乳房を見ると、なぜだか涙が出ていた。
 そして、更に数日が経ったように思えた。
 助けて。許して。なんでも言うとおりにする。そう思う事が、私のできることだった。

6luci★:2016/03/04(金) 23:30:11 ID:???0
 冷え切った身体を丸めて、いつの間にか微睡んでいた私の耳に不快な音が飛び込んできたのは、一体何日目の事だったのだろう。
 暗闇を照らす明かりに、喜びとか、隙をついて出ていくとか、そんなことは考えられなかった。ただ一つ、私の心を支配したのは、安堵、だった。
「はは、まだ生きてたな」
 あいつの声と臭い。それに吸い寄せられるように、私は暴力と冷えで衰弱した身体に鞭打ち、這い蹲ってあいつの足元へにじり寄り縋りついた。最早、男を倒して出ていくような体力など残っていなかったことに、その時気付いた。
「……た、助けて。なんでも――」
「何でもするって? ふぅん……なら股開け」
 見上げたあいつの身体は大きく、その目は蔑みと冷笑を湛えていた。それだけで暴力の記憶が蘇る。私は震えながら腿の裏を持ち、両足を広げ、身体とそして心も曝け出した。
「ちっ、冷てぇな。おまけに臭ぇ」
 圧し掛かりながら文句を言うあいつの顔を見ないように視線を逸らした。
「ぅぐっ――」
 私にも女性経験はあった。が、濡れていないというだけで、これ程苦痛を感じるとは思わなかった。ましてや、未使用だったのだから。
 身体の中心から裂かれているのだろうと思える程の痛み。叫び声を出しそうな口を二の腕を噛むことで何とか抑えつけた。それが反抗であるかのように。
 あいつの全てが私に収まった時、何故か「征服」という言葉が頭にこだましていた。生きたいが為に自分から身体を提供する。なんて屈辱だろう。
「あの、優越感に満ちた態度が、今はこれだ。君の生殺与奪権は俺が握ってるんだ。これからはいつでも俺の欲求に応えろよ」
 そう言うと思い切り腰を叩き付けてきた。私はあまりの痛みと肉体の衰弱からか、気を失っていた。

7luci★:2016/03/04(金) 23:31:12 ID:???0
 どのくらい失神していたのだろう。気付いた時にはすでにあいつはいなかった。周りを見ると2リッターのペットボトルの水と、四本入りの携行食、懐中電灯一本、毛布一枚、そして、右足には太さが5㎜はあろうかという鎖がついていた。もし空腹でなかったなら、鎖を見て絶望したんだろう。しかしそれよりもその時は飢餓が勝っていた。
 携行食を貪り食い、冷えた水を胃に流し込んだ。
 少しばかり満たされて、改めて鎖を見ると杭に繋がっていた。鎖の長さを測ろうと毛布をはおり立ち上がった。
「あ……」
 身体の奥からドロリとあいつの精が腿を伝わって垂れた。何度吐き出していったのか。その光景を思うとゾッとし、考えまいと首を振った。
 鎖の長さは手を伸ばしてやっと石組みの出口に届く程度だった。

 それ以来、あいつは不定期にやって来ては、私を犯し、罵倒し、暴力に及んだ。
 あいつが来なければ、私は飢えと冷えと、狂わんばかりの孤独に襲われ、あいつが来れば安堵した。しかしそれも束の間だった。犯されれば身体も心も傷つけられ、罵倒されれば尊厳が失われていく。そして暴力の恐怖は、次第にあいつへの依存が出来上がっていった。
 黙って従い、媚び諂えば、命だけは存えられる、とばかりに。
 このころには、私の慰みは二つだけになっていた。一つは壁画の鑑賞。そしてもう一つは声。とにかく声を出していた。無音というものが音の地獄なのだと初めて知った。私は考えていることを全て声にして出し、これに耐えた。
「私は、おなかが減った。あいつがこない。股を開けば食べ物が貰える。最近は、少し感じるようになってしまったかも知れない。もしかしてあいつも感づいているだろうか? ああ、おなかが減った。そういえば、この身体は本当に女なのか? これだけ犯され続けていれば――もしかして」
 独り言が私の心を掴んでいた。そう、妊娠してしまうのでは? そのことが急に怖くなり、声に出せなくなっていた。声に出したら、本当にそうなってしまうのではないか、と。
「……いや、待て。待てよ。そう、そうだ。生理もないのだから、そもそも――そんなことになりはしないはず、だ、よな?」
 しかし、そんな私の願いは、壁画の女人たちは聞き入れてくれなかった。
 何度かあいつに強引に犯された後、下腹部に違和感があった。そして、目覚めると、私は「女」になっていた。都合三度目だった。

8luci★:2016/03/09(水) 02:01:52 ID:???0
 一度目は文字通り男から女へ。二度目は犯されて。そして三度目は、女としての能力が備わった事を意味していた。その事実は私を恐怖させるに十分すぎた。このままあいつに犯され続け、受精してしまったら? どんどん変化していく肉体を目の当たりにしたら、狂ってしまうのではないか……。
 血にまみれた毛布をあいつは確認すると、私の懇願を無視して犯そうとした。それでも拒否すると、罵倒しながら殴り、蹴り、肉体を苛んだ。
 今痛くて苦しくて、それをどうにかしたくて、後々の恐怖など確率的に低いのだ、などと自分に言い訳をして、あいつを受けれていた。
 一度心が折れると、痛みや恐怖を忘れようと肉体が受ける快楽を享受していた。
 殴られたり蹴られたりする前にあいつに媚び、それを回避し、受精などしないと言い聞かせ、耳を塞ぎ、自分の嬌声だけを聞く。
 そんなことが、もう、長い間続いている。
 
「あっ、あっ、イク……うっ?!」
 恐らく三日ぶりのあいつの訪問後、すぐさま身体を合わせた。そしてあいつが放った精が身体から出、その臭いが穴の中に広がると、胃に不快感が広がり、胃液を吐き出していた。
「――あぁ? なんだ? そんなに精液が気持ち悪いのか?」
 蹲る私の髪を掴み、殴る真似をする。その行為に身を固くして答えた。
「ごごめんなさい――いつもならそんなことないんだけど……」
「……そうか。ああ、君、ついに妊娠したね」
 にやっと笑いながら残酷な事実を告げられ、目の前のあいつの顔がひどく遠くに感じた。
「まさか」
「これまでどれだけ中出ししてきたと思ってる? しかしやっとか。中々当たらないもんだなぁ」
「……そんな……」
 ショックを受けた私を余所に、あいつは私の足枷の鎖を外し、口を開いた。
「さて、ここは女人図が示すように人を異形へと変化させるための祭儀場と思えるのは、以前話したと思う。話さなかったかな? しかしね、形状的には玄室があってしかるべきところなんだ。君もわかると思うけど。ところが君を連れてくる前にかなり調査したんだけど、それらしきものは見つからなかった」
「――なぜ今そんな話を?」
 あいつは入り口を背に、服を着始めた。
「ここが発見されたとき、女人図だけではインパクトに欠けるだろう? だからやはりここは玄室でなくてはね」
「ぎゃっ」
 あいつに何かで殴られたと分かったのは、冷たい地面を頬に感じた時だった。
 倒れた私を後に、あいつは入り口から出て、手早く石を積み上げていく。
「そう。ここは多湿だろう? もしかしたら、見目麗しい今の君の姿は、屍蝋化して発見されるかもしれないな。子宮のような玄室で、子を宿した君が発見される――なんてセンセーショナルなんだ。そう思うだろう? 何年後になるか分からないが。俺の踏み台になってくれて、ありがとう! それじゃぁ、また会える日を楽しみにしてるよ!」
「――! あ、まっ――」
 思うように動かない身体に鞭打ち、這い蹲ってあいつの声を追うけれど、穴が塞がれ光が閉ざされると、静寂だけが残っていた。
 半狂乱になりながら石積みを崩そうとしても、びくともしない。爪が剥がれるだけだった。
 暫く、呆然としていたが、不意に爪の痛みと共にある考えが過った。刺青があるから女なのだと。それが無くなれば元に戻るのでは?
 しかしここには刃物はない。ないなら、鋭い石なら皮を剥げるかもしれない。そう思って手探りで鋭そうな石欠片を探した。ないと分かれば、石と石をぶつけ割って、破片を集めた。
「ふぅ……」
 適度な鋭さを持つ石器を背中の刺青に当てると、ふと、これで戻ったら腹の子はどうなるのだろうと思ってしまった。
 その思いを振り切るべく、ブツリと肌を引き裂いた。

 新たに見つけられた古墳に、鮮やかな女人図と、屍蝋化した遺体が設置され、それがこれまでの歴史の系譜から外れたものとして脚光を浴びたのは十年以上前のことだった。発見者は嬉々として論文を書きまくったが、権威者からはトンデモとして扱われ、結局、ブームが過ぎると話題にも上らなくなっていた。
 件の屍蝋は、「剥がれかけた刺青の妊婦」として大学の研究施設内に保管され、時折、学生の好奇の目にさらされている。


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