したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

TSFのSS「Tatoo」

4luci★:2015/11/06(金) 22:51:05 ID:???0
 最初に感じたのは、背中の、首の下、肩甲骨の間の、痛痒さだった。
 不透明な水底にいるような視界に視線を漂わせ、そこを触ろうとしたが私の手はうまく動かなかった。痺れとか痛みとかそんなものではなくて、もっと物理的に。手首を縛られているとわかったのは、あいつの声を聞いてからだった。
「だめだめ、触っちゃ。彫ったばかりなんだから。我ながらうまくできたよ」
 瞬時には状況が掴めず、言葉もでない。目の前にいるあいつの誇らしげでどこか人を小ばかにした笑顔は、鬱陶しい黒髪で御簾が降りているようだった。
「どういう……?!」
 問いただそうとした私の声は、それまでとは違い女のように高い。まるで壁を彩る女人図が話しているように思えた。その違和感に再び口を噤むと、視界を遮る髪を両手で何本も抜けるほど引っ張り、許せる範囲で自身の身体を弄った。
 柔らかい肉の感触は、それが自分のものでなければ何時まででも触っていたいほど。しかしその事実に私は驚愕し、上体を起こしながらあいつを見据えた。
「驚くのも無理はないさ。ここは本当は、一年も前から見つけていてね。ほとんど調査し終わっているだよ。――ああ、余計なことはいいか。今の君に必要なことを言おう。ここに描かれているのは、古の文明が残した秘術を記している」
 話しながら近づくあいつの目には、狂気が宿っていた。仰向けにした手が、徐に私の上着の胸元を掴んだ。繋がった自らの腕でその手を払いのけようとした。けれど私の腕とあいつの腕が並んだとき、その大きさに、腕の太さに、畏怖の念が渦巻いた。
「そう、例えばあの絵。ほとんど獣人だよ。向こうは小人。そうなった要因は」
「! あっ」
 言いつつ、あいつは掴んだ腕を左右に広げた。豊かな白い乳房がまろび出た。その行為は羞恥からでたのか、それとも他にあったのかわからないが、私は必至であいつの目から隠そうとした。
「そう。君が触ろうとした、刺青だよ。特定の部位に特定の文様を彫れば、人を変え、そして意のままに操れる。俺は神にも等しい力を手に入れたんだ」
「……そして、私は女にしたのか? お前、どういう料簡なんだ? 私がお前なんぞの言いなりになるとでも?!」
「うぐっ」
 両手の親指であいつの喉を思い切り突くと、あいつは意外なほど簡単にひっくり返った。
 私はその隙に逃げれば良かったんだ。あの一瞬が、運命を決定していた。
 あいつと私はほとんど体格差が無かった。男の頃は。学問でも、スポーツでも、すべての面で私は優位だと思っていた。それが禍したんだ。
 ひっくり返ったあいつに蹴りを入れ、憂さを晴らし、そのあと元に戻る方法を聞き出す、そう思って放った私の蹴りは、あいつには効かなかった。痛みなどないかのように立ち上がり、十回以上蹴っても構わず近づいてきた。
「ぎゃっ!?」
 お返しとばかり、両足を刈り取られるように蹴られ、地面に頭を打ち付けられてから始めて蹴られたことに気付いていた。


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

※画像アップローダーはこちら

(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)

掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板