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本ストーリーの修正版を投下するスレッド
1
:
管理人★
:2005/03/30(水) 23:53:10 ID:39TnQzOk
本ストーリーの些細な間違いなどを直した、修正版を投下するスレッドです。
書き方はテンプレに従ってください。
284
:
ロイヤルストレートフラッシュ一部修正
◆eUaeu3dols
:2006/12/12(火) 20:16:17 ID:tDnvYDPc
それは島の何処からでも見えた。
マンションの屋上から曇天の夜空へと赤い柱がそそり立っていた。
煌々、轟々と迸る閃光は上空の雲を貫いていた。
その下に在る何者かを誇るかのように。
やがて閃光は消え。
↓この部分に追記。
それは島の何処からでも見えた。
マンションの屋上から曇天の夜空へと赤い柱がそそり立っていた。
煌々、轟々と迸る閃光は上空の雲を貫いていた。
その下に在る何者かを誇るかのように。
全てを睥睨し、刃向かう者に振り下ろす鉄槌を示すように。
やがて閃光は消え。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
折原臨也の禁止エリア解除装置により解除されていたC−8の禁止エリアが再起動する。
刻印が発動する。
ヤン・ウェンリーの死体も、御剣涼子の死体も、発動した刻印に砕かれる。
既に失われた命が、肉体が冒涜され、魂さえも失われる。
そして――
――シャナの刻印は、発動しなかった。
↓この部分を修正。
折原臨也の禁止エリア解除装置により解除されていたC−8の禁止エリアが再起動する。
その中にある刻印は全て発動する。
ヤン・ウェンリーの死体と御剣涼子の死体が2時間以上前に刻印に砕かれたように。
既に失われた命さえも、肉体を冒涜され、魂までもが失われる。
ならば――シャナの刻印は?
シャナの刻印は、発動しなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上です。
銃弾についての矛盾は次以降の書き手に委ねる方向で。
修正が遅くなり申し訳有りませんでした。
285
:
カウントダウン更に一部修正
◆eUaeu3dols
:2006/12/21(木) 17:55:12 ID:TeVC8iVA
「……でも、死んだ」
その女と、そのすぐ近くにもう一人男の死体が転がっていた。
女の手の中には柄だけのナイフが有り、男の胸には刃先だけのナイフが突き刺さっていた。
あの女はシャナが見逃した直後にこの男を殺して、そして自分も誰かに殺されたのだ。
(殺しておくべきだったんだ……)
↓以下の様に修正
「……でも、死んだ」
その女と、そのすぐ近くにもう一人男の死体が転がっていた。
何かに刺された男と、銃で撃たれた女。
全ての凶器は持ち去られ、何がどう転がってこうなったのかは判らない。
だけどそれでも死体の向きや手の形、形相や足跡が作る周囲の空気が朧気ながらに教えてくれる。
あの女はシャナが見逃した直後にこの男を殺して、そして自分も誰かに殺されたのだ。
(殺しておくべきだったんだ……)
――――――――――――
と修正します。何度も申し訳有りません。
286
:
No Mercy 2:King's Howling (4/28)
◆l8jfhXC/BA
:2006/12/23(土) 23:26:49 ID:5E.0R55A
名前欄のレスの一番最後に、三行開けて以下の文を追加お願いします。
「ベルガー!?」
溜まっていた息をすべて吐き出したような悲鳴が響いた。
終の真正面の食卓机。
その向こうに、床へと倒れ込むベルガーの姿があった。
両手を押さえつける胸部に、わずかに血が滲んでいる。
287
:
◆l8jfhXC/BA
:2007/01/02(火) 21:19:03 ID:AYOPCiX2
以下のレスの部分を→以降に修正お願いします。
新年早々お手数おかけして申し訳ありません。
No Mercy 2:King's Howling (10/28)
>始さんっ!続くん!終くん!余くんっ!』
→始さんっ!続さん!終くん!余くんっ!』
No Mercy 2:King's Howling (18/28)
> 情報交換の際、訪問者の片割れである古泉一樹に対して、互いに手を汚す覚悟があることと、集団に手を出さないことを言外に伝えていた。
→ 情報交換の際、訪問者の片割れである古泉一樹に対して、互いに手を汚す覚悟があることを言外に伝えていた。
> その後それとなく釘を打っておいたのだが、どうやら無駄だったらしい。
→ それをふまえて、集団に手を出さないようそれとなく釘を打っておいたのだが、どうやら無駄だったらしい。
288
:
◆685WtsbdmY
:2007/02/03(土) 00:52:28 ID:IevLOmL6
第484話「魔剣の行方」および第499話「灰色の虜囚」の
ピロテースの状態表について以下のように修正をお願いします。
第484話:魔剣の行方
(誤)[状態]: 多少の疲労と体温の低下。クエロを警戒。
↓
(正)[状態]: 多少の疲労と体温の低下、気力の消耗。クエロを警戒。
第499話:灰色の虜囚
(誤)[状態]: 多少の疲労。
↓
(正)[状態]: 多少の疲労と気力の消耗
(魔法の使用については上級のなら一回、初級のものでもあと数回が限度)。
289
:
◆5KqBC89beU
:2007/02/03(土) 02:02:52 ID:Us6r9odY
第533話:殺戮島事件 のウルペンの状態表を以下の通りに修正お願いします。
(誤)[状態]:疲労/絶望
↓
(正)[状態]:左腕が肩から焼失/疲労/絶望
290
:
大崩壊・修正点
◆eUaeu3dols
:2007/02/10(土) 22:46:47 ID:uqyY/Dqg
遅くなりましたが、大崩壊6部作における修正点です。
まずは誤字、誤表記の類について。
大崩壊/ディストピア(憎いし苦痛)
大崩壊/フォールダウン(地獄姉妹)
大崩壊/ストレイロード(正に外道)
大崩壊/デスマーチ(人生終了)
のフリウの台詞、思考より。
[『ロシナンテ』で検索し、全て『チャッピー』に変更]してください。
>大崩壊/デスマーチ(人生終了) 第11レス辺り
「で、ですが、片方を見捨てるなどと……」
「片方だけでも助けられる事を神様に感謝しなくちゃあ。俺は信じてないけどね。
それに狩りに両方とも助けられても、半死半生になってしまったらどうするんだい」
臨也は最も無難な選択肢を吊して、嗤った。
「それだと、『助かったところで二人は足手まといになっちゃう』ね」
その言葉に保胤の頭にも血が上った。
[狩りに両方とも → 仮に両方とも]
>大崩壊/デスマーチ(人生終了) 第14レス辺り
(殺せる機会は逃すべきではないでしょうね)
古泉はゆっくりと終に近寄るとまず騎士剣“真紅”を持ち上げてみた。
……残念ながら、随分と重い。……残念ながら、随分と重い。
(これは狙いがずれるかもしれませんね)
狙いがずれればあの鱗に止められてしまうだろう。
古泉は騎士剣を諦め、終の腰からサバイバルナイフを抜きはなった。
[騎士剣“真紅” → 騎士剣“紅蓮”]
[サバイバルナイフ → コンバットナイフ]
>大崩壊/ユートピア(美しい国)
>大崩壊/リベンジワード(放送禁止)
クレアの状態表をそれぞれ次のように修正してください。
具体的にはサバイバルナイフと鋏の消去です。
>大崩壊/ユートピア(美しい国)
【F-1/海洋遊園地/1日目・21:40】
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:健康。激しい怒り
[装備]:大型ハンティングナイフx2/シャーネの遺体(横抱きにしている)
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)、コミクロンが残したメモ
[思考]:この世界のすべてを破壊し尽くす。/
“ホノカ”と“CD”に対する復讐(似た名称は誤認する可能性あり)
シャーネの遺体が朽ちる前に元の世界に帰る。
[備考]:コミクロンが残したメモを、シャーネが書いたものと考えています。
>大崩壊/リベンジワード(放送禁止)
【B-6/森/1日目/23:50】
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:健康。激しい怒り
[装備]:大型ハンティングナイフx2
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)、コミクロンが残したメモ
[思考]:この世界のすべてを破壊し尽くす/目の前の奴らをCDの仲間と誤認
“ホノカ”と“CD”に対する復讐(似た名称は誤認する可能性あり)
シャーネの遺体が朽ちる前に元の世界に帰る。
[備考]:コミクロンが残したメモを、シャーネが書いたものと考えています。
シャーネの遺体は足下に置いています。
291
:
大崩壊・修正点
◆eUaeu3dols
:2007/02/10(土) 22:52:24 ID:uqyY/Dqg
次に問題のベルガーが破壊精霊に“運命”を振るう場面です。
かなり悩みましたが修正案を一つ提示します。
――――――――――――――――――――――――――――――
>大崩壊/ストレイロード(正に外道) 第7レス辺り
運命は彼の手に握られている。
素早く単二式精燃槽を連結し振り上げる。
正面から。
《運命とは切り抜けるもの》
滅びの運命を切り抜ける刃を振り下ろしそして――
#この部分を以下のように修正。
運命は彼の手に握られている。
素早く単二式精燃槽を連結し振り上げる。
正面から。
如何な破壊であれ、その辿るべき運命を切り裂けば訪れる事はない。
(だが機会は一瞬)
迫り来る破滅の運命は剰りにも強大で、彼の手の中に有る精燃槽は僅かしかない。
刃を振り下ろすその一瞬に全てを賭けなければならない。
(――十分だ)
ベルガーは破滅を前に尚も不敵な笑みを崩さない。
破壊精霊の拳が辿り着く直前に、ベルガーは運命を振り下ろした。
黒い刃が降りる。進む。ベルガーの目前に。
破壊の拳は迫る。唸る。ベルガーの目前に。
逃れ得ぬ破滅の運命を前にベルガーは片肺から音を紡ぐ。
ベルガーは運命を変える詞を舌に乗せそして――
>大崩壊/ストレイロード(正に外道) 第14レス辺り
だから、その偶然の悲劇はある意味では必然だったのかも知れない。
困惑と驚愕の声が混ざった和音が響くマンションの一室で、
ダウゲ・ベルガーの握る“運命”の刃はリナ・インバースを切り裂いて、
リナ・インバースの握る光の剣はダウゲ・ベルガーの左肺を貫いていた。
破滅の転輪が廻る。
#この部分に加筆修正
だから、その偶然の悲劇はある意味では必然だったのかも知れない。
困惑と驚愕の声が混ざった和音が響くマンションの一室で、
ダウゲ・ベルガーの握る“運命”の刃はリナ・インバースを切り裂いて、
リナ・インバースの握る光の剣はダウゲ・ベルガーの左肺を貫いていた。
あまりに唐突すぎる状況の変化はダウゲ・ベルガーから判断を奪い、
予想だにしなかった光の刃は運命を変える筈だった詞を作る言葉を生みだす吐息の根源たる肺を破壊した。
破滅を切り裂くはずだった“運命”は、破滅の“運命”となりて全てを奪う。
破滅の転輪が、廻る。
292
:
大崩壊・修正点
◆eUaeu3dols
:2007/02/15(木) 20:32:10 ID:VXZWWo2.
ベルガーが破壊精霊に“運命”を振るう場面については、
議論スレで出た意見を参考にして次のように修正します。
長らく時間をお掛けして申し訳有りませんでした。
>大崩壊/ストレイロード(正に外道) 第7レス辺り
運命は彼の手に握られている。
素早く単二式精燃槽を連結し振り上げる。
正面から。
《運命とは切り抜けるもの》
滅びの運命を切り抜ける刃を振り下ろしそして――
#この部分を以下のように修正。
運命は彼の手に握られている。
素早く単二式精燃槽を連結し振り上げる。
正面から。
如何な破壊であれ、その辿るべき運命を切り裂けば訪れる事はない。
(だが機会は一瞬)
迫り来る破滅の運命は剰りにも強大で、彼の手の中に有る精燃槽は僅かしかない。
刃を振り下ろすその一瞬に全てを賭けなければならない。
(――十分だ)
ベルガーは破滅を前に尚も不敵な笑みを崩さない。
破壊精霊の拳が辿り着く直前に、ベルガーは運命を振り下ろした。
黒い刃が降りる。進む。ベルガーの目前に。
破壊の拳は迫る。唸る。ベルガーの目前に。
逃れ得ぬ破滅の運命を前にベルガーは自ら運命を紡ぎ出す。
ベルガーは運命を変える詞を――
>大崩壊/ストレイロード(正に外道) 第14レス辺り
だから、その偶然の悲劇はある意味では必然だったのかも知れない。
困惑と驚愕の声が混ざった和音が響くマンションの一室で、
ダウゲ・ベルガーの握る“運命”の刃はリナ・インバースを切り裂いて、
リナ・インバースの握る光の剣はダウゲ・ベルガーの左肺を貫いていた。
破滅の転輪が廻る。
#この部分に加筆修正
だから、その偶然の悲劇はある意味では必然だったのかも知れない。
困惑と驚愕の声が混ざった和音が響くマンションの一室で、
ダウゲ・ベルガーの握る“運命”の刃はリナ・インバースを切り裂いて、
リナ・インバースの握る光の剣はダウゲ・ベルガーの左肺を貫いていた。
あまりに唐突すぎる状況の変化はダウゲ・ベルガーから判断を奪い、運命に抗う力を打ちのめす。
破滅を切り裂くはずだった“運命”は破滅の“運命”へと変わり果てる。
破滅の転輪が、廻った。
293
:
道は通ずる(11/12)
◆l8jfhXC/BA
:2007/02/16(金) 17:05:16 ID:eDUsQ7E.
>※メガホン、強臓式武剣”運命”が床の上に落ちています。
を
※メガホンと
強臓式武剣”運命”(単二式精燃槽四つ装填・少量消費済)が床の上に落ちています。
に修正お願いします。
294
:
名も無き黒幕さん
:2007/02/18(日) 19:45:12 ID:NiVEQTJ6
>293の修正を撤回し、以下の物を適用+追加お願いします。お手数おかけして申し訳ないです。
11レス目 マンションの状態について
>※メガホン、強臓式武剣”運命”が床の上に落ちています。
↓
※メガホンと
強臓式武剣”運命”(単二式精燃槽一つ装填・少量消費済)が床の上に落ちています。
12レス目 ベルガーの状態表
>[道具]:携帯電話、黒い卵
↓
[道具]:携帯電話、黒い卵、単二式精燃槽三つ
295
:
◆l8jfhXC/BA
:2007/02/18(日) 19:46:16 ID:NiVEQTJ6
トリップorz
296
:
◆CDh8kojB1Q
:2007/04/03(火) 17:07:30 ID:9yaTnsNo
【小早川奈津子】
[状態]気絶中、右腕損傷(完治まで一日半)、たんこぶ、生物兵器感染
胸骨骨折、肺欠損、胸部内出血、霊的パワーによる体の痺れ
[装備]ブルートザオガー(灼眼のシャナ)
[道具]デイパック(支給品一式、パン三食分、水1500ml)
[思考]意識不明
[備考]服は石油製品ではないので、生物兵器の影響なし
約九時間後までなっちゃんに接触した人物の服が分解されます
九時間以内に再着用した服も、石油製品なら分解されます
感染者は肩こり・腰痛・疲労が回復します
停止心掌は致命傷には至っていませんが、胸部にかなりのダメージを
受けました
297
:
絶望咆哮修正
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:08:25 ID:6AH3Zsjo
修正をお願いいたします。
本スレpart10 レス番号83 十行目から以下に差し替え
「……殺すまでもない。貴様は散々アマワに弄ばれ、それを決意と勘違いしたまま死ぬがいい」
鬱憤をすべて吐き出した後、最後にぽつりと付け加える。
声が小さくなったのは、自身の台詞に覚えがあったからだ。
(精霊に弄ばれ死ぬ、か)
――まるで、生前の自分だ。
熱い吐息と共に、胸中で吐き捨てる。
だが漏れる吐息に混ざらず、胸の奥にこびりついて離れない物もあった。
それは本当に経過したのか信用できない、過去の一点。彼の終着。
――死だ。死の感触。生きているはずなのに、それが彼を満たしてやまない。
まるで返しの付いた銛先の刺さるが如き、消えない棘の痛み。
それは小さな棘だが、ピタリと急所をその殺傷範囲に収めている……
(俺は……何なのだ? 生きているのか、死んでいるのか……そんな安息すら世界は俺に与えてくれないというのか?)
あるかどうか分からない。そこにあっても信用できない。故にそれらに意味はない。
ウルペンはそういった存在を知っていたはずだった。
だが解に辿り着く前に、視界が揺れる。まるで足場が消失でもしたかのように、ガクンと陥る無重力状態。
それも長くは続かない。地面に膝をつくのみならず、ウルペンは五体投地するかのように土に突っ伏した。
冷たい腐葉土の温度を感じる暇もなく、五感は異常を高らかに叫んでいる。
熱病に冒された時のように熱っぽく脈動する全身。痙攣する指先。回る世界。
心臓の鼓動は跳ねるように肥大し、肺を圧迫する。断続的に吐くだけの息は、いずれ尽きるだろうことを予測させた。
限界が来たのだ。引き攣る横隔膜を宥めようとする無駄な努力の傍ら、それを悟る。
腕を焼き落とされる重傷を負い、休憩も少し眠った程度で満足に取らず、ひたすらに動き続けた。その代償。
しかし、何故いまになって?
体の欠損には慣れているはずだった。かつて目を奪われ崖から投げ落とされた時も、彼は独力で帝都に帰還した。
叫びながら走るのをそれほど負荷だとも思わなかった。彼はいつだって叫んでいた。
そも、この島で腕を焼き切られてからすら、彼はひたすらに奪い続けていた。
だが――と、既に得ていた解答が後を継ぐ。
だが、それらはどうして成し得たのであったか?
死ぬべき所で死なず、あの決闘まで生き延びたのは何故だ?
――契約の有効性を信じていたから。
これは確たるモノであると、ずっと叫び続けていたのは何故だ?
――手に入るはずだと信じたかったから。
いまの今まで動き続けられたのは何故だ?
――他人を自分と同じ絶望に引きずり込めると信じていたから。
そう。彼は信じていた。ただそれだけ。
念じれば働く念糸のように、彼はひたすらに信じていた。
どれだけ歪んでいたとしても、それがどんどん磨り減っていっても、彼は信じていた。
信念は死体すらゾンビに変える。それが妄執だというのなら、ウルペンもまた妄執の産物だ。死してなおここにいる。
298
:
絶望咆哮修正
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:09:24 ID:6AH3Zsjo
だが、今は?
怪物領域の住人に打ちのめされ、綱渡りだった信念を完全に打ち砕かれた今は?
――無論、信じることなど出来ないに決まっている。
(……終わりか。それもいい)
ぼんやりと幕の到来を予感し、独りごちる。
頬に触れた湿った腐葉土の匂い。木々の枝間から注ぐ静かな月光。
悪くはない。彼は断じた。それほどまでには――いやむしろ分不相応なほど。決して悪くはない。
ここで、こんな終焉を迎えられるというのなら。
(――ならば、何故動く?)
他人事のように、ウルペンは未練たらしく地面を引っ掻く己の隻腕を見つめていた。
かりかりと地面を掻き続ける指。その指すら五指には足りない。あまりにも弱々しい。
無駄だとウルペンは呟いた。どこか震えを含んだ声で、呟いた。
だがその呟きも、指先が地面を抉り、捉えたともなれば絶叫に変じた。
「やめろ……! 俺を、俺を終わらせてくれぇっ!」
それでも止まらない。信じることの出来なくなった彼には、体を支配することは出来ない。
――『それ』は、そこにあったとしても信用できない。
いまのウルペンには信じることも、だが完全に否定しきることも出来ない。
無様に絶望を叫びながら、しかしその裏では希望を期待している
故に、彼を動かすのは生存本能と自殺願望。流転する二律背反。
生存本能は彼を存続させようと体を動かす。自殺願望は彼の唇から怨嗟を垂れ流す。
――やがて軍配は、生存本能に上がる。
舞台から降りようとした彼を引き戻すかのように、地を捉えた腕が支点となってウルペンの体を持ち上げた。
絶叫は懇願へすら変じた。それでも動きは終わらない。ついに腕はウルペンの上半身を起こし、手近な大木へと寄りかからせた。
動悸は収まらない。全身は弛緩し、脱力しきっている。
それでも、確かに彼が予期した確実な『終わり』が去っていく足音をウルペンは聞いた。
嗚呼、と泣くように呻く。今度こそ訪れてくれる筈だった終幕という確たるモノは、またも零れ落ちていった。
「どうしてだ……何故俺を連続させる。俺はもう終わった。終わっていい筈だ。どうして」
ぐるぐると回る疑問肯定否定。パラノイアじみた妄想が彼を脅迫する。
その果てに浮かぶのは、あの忌々しい不定の形姿。
「アマワ……お前か? これは戯れか? まさかな。お前がそんな酔狂をする筈がない」
ひたすらに心の証明を求めていた奴のことだ。これもその一環に違いない。
ならば、それを証明してやればアマワは確たるモノをくれるだろうか?
(クッ――まさか。それこそ否だ)
己の思考を嗤い、否定する。
アマワは奪っていくだけだ。何も残しはしない
――だが、それさえも信じることが出来ないのならば。
「俺は……どうすればいい。何を信じればいい?」
彼のあずかり知らぬ所でだが、かつてミズー・ビアンカは彼のことをこう評した。
死を恐れない子供、と。
彼がまだ契約の有効性を信じていた時だ。だから彼は死を恐れず、剣の達人たるミズーと互角以上に打ち合えた。
それでも信じるべき拠り所が無くなれば、彼はただの子供だ。ひとりで歩くことさえできない。
299
:
絶望咆哮修正
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:10:04 ID:6AH3Zsjo
――そして彼の泣き言に答えたのは、手を引いて歩いてくれるような存在ではなかった。
「……さあ? とりあえず死ねば?」
自問に帰ってきた返答に、だが驚くほどの気力もなく、ウルペンはゆっくりと視界を上げた。
いつの間にか、金属製の筒のような物を構えた男がほとんど目の前に立っている。
赤銅色の髪。常にやる気のなさそうだった顔は、あの時のまま無表情という絶望に凍り付いていた。
感情を含まない視線を向けながら、ウルペンはぼんやりとその顔を思い出していた。
(……契約者)
自分の意志は信じられると断言した黒髪の少女。その連れだ。名前は――ハーベイ、とか言ったか。
「……あれからずっとあんたを探してた。叫んでるなんて思わなかった」
自分自身に確認するような口調で呟きながら、その男は銃を照準し、その凶器越しに冷ややかな視線を向けていた。
どうやら叫び声を聞きつけてきたらしい。だが真に恐るべきはこの瞬間にウルペンの近くにいたという幸運よりも、その執念か。
赤髪は表情をほとんど変えないまま、だが強く睨み付けてくる。そこには一分の隙もない。
念糸の効果を知り、警戒しているのだろう。武器は例の自動的に動く腕が握っている。
金属製の筒は、ウルペンも似たような物をこの島で何度か見ていた。
ボウガンのような武器だろう――威力も速度も桁違いだが。
何にせよ、すでに照準されているのなら、念糸では対抗できない。
もっともいまのウルペンに念糸は紡げないだろう。思念の通り道たる念糸。ならば思念の無き者に使えぬは道理。
念糸は、ありとあらゆる制限を踏破してその効果を発揮する。
ただし諦観にまみれ、信じるものを打ちのめされていなければだ。磨耗しきり、心が冷えれば念糸は使えない。
(……それに、これ以上落ち延びて何になる?)
決まっている。無様を晒し、苦痛を味わうだけだ。だからウルペンは終わりを望む。
まるっきり精神を病んだ者の表情で、ウルペンは目の前の男を見た。それに救いを求めるように。
「……お前は、俺を終わらしてくれるのか?」
「ああ、殺す」
躊躇いもなく放たれた死刑宣告。赤髪の揺れない双眸からも、それが冗談で無いことを窺わせる。
故に、ウルペンは表情を変えた。万の絶望に一滴だけ混じった期待の表情を――失望のそれに。
「それでは駄目だ」
「……何が」
胡乱な目つきでこちらを見ている不死人を、ウルペンは茫洋と見つめ返す。
だがその目は焦点が定まっておらず、もはや象を結んでいないことは明白だった。
ウルペンは半ば目の前の男の存在を無視するように、ぼそぼそと呟き続ける。
「死だと……? そんなものは終わりではない。
呼吸が止まる? 心臓が停止する? そんなものが終わりか? ならば俺は何故ここにいる?
殺されるなど、もはやなんでもない。それに伴う苦痛も無意味だ……」
「てめっ……!」
ウルペンの吐き続ける言葉に、ハーヴェイは怒気を孕んだ言葉をぶつけた。
銃を握る右腕の義手も猛るように甲高いモーター音を響かせる。
悠久の時を不変の肉体で生き、感情を磨り減らした彼にとって、ここまで感情をむき出しにすることは珍しい。
それほどまでに、ウルペンの言葉は許せないものだった。
「お前があいつを、キーリを殺しておいて――何でそんな言葉が言えるんだよ!」
「あの少女、キーリというのか。あれが……貴様にとっての確たるものか?」
「そう」
間隙無く答えたハーヴェイに、ウルペンは場違いな笑みを浮かべた。
殺される者と殺す者。その間には似つかわしくない――祝福するような微笑みを。
「即答できるか。それは……羨ましいな。愛しているということか?」
「ああ」
と、これも即答するハーヴェイ。
300
:
絶望咆哮修正
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:10:50 ID:6AH3Zsjo
だが不死人はその答を返した直後、ふと何かに気付いたように瞬きを数度繰り返した。
そして、ああ――と納得するように頷くと、まるで自分に語りかけるかのような口調で告白を紡ぐ。
「俺はアイツが好きだったんだ。
面倒くさくて今まで考えないようにしてたけど、無くしてみて分かった
俺にもあったんだ。あんなナリでも、キーリは俺にとって大きな存在だった。
不死人として惑星中を彷徨ったけど、俺は、あいつが、きっと一番くらいに大切だったんだ」
普段はほとんど無口で、喋ったとしてもぶっきらぼうなこの不死人のかつて無い長口上。
知らぬ内、ハーヴェイの左拳は握りしめられていた。いまだ触覚のある肉の腕。
それほど手を繋いでいた記憶はない。だが、そこには少女の掌の感触が残留している気がした。
――そうだ。離さないように、しっかりと握っておくべきだった。
あの頼りない、だけど自分を引っ張って行ってくれそうな、そんな感覚を伝えてくる少女の手を。
――何十年も惑星を歩いて、それ以上の年月を不死の兵士として過ごして。
殺伐とした無味乾燥な日々。戦争中はレゾンデートルの為に何となく殺して、戦後はすることもなく何となく放浪した。
そうして無駄に永遠の日々を過ごしていたある日、ちょっとした目的が出来た。
かつて自分が殺した兵長の霊を、その墓地まで埋葬しに行くことになったのだ。
兵長とはそれほど仲が良かったわけではない。当然だ。自分が殺してしまったのだから。
あるのは罪悪感だけで、言ってしまえば腫物だった。
過去の清算。埋葬を引き受けたのも、そんな思いがどこかにあったからかもしれない。
埋葬した後は、いっそ自分もついでに『心臓』を引きずり出して、その場で自害しようとも思っていた。
その途中だ。あの少女に会ったのは。
第一印象は……やかましく、鬱陶しい。その程度だった。
ひょんなことから(半ば強引に)その旅に付いてきて、いざ兵長と別れようとすると泣いてしまって。
本当に鬱陶しく――それでいて放っても置けず。
そして気付けば、兵長とキーリと三人で旅をしていた。
……謝罪の対象だったラジオの憑依霊と、やたら付きまとってくる少女に対する認識が変わってきたのは、いつの頃からだろうか。
そして、いつからだったのだろう。キーリと兵長との三人旅から抜け出せなくなってしまったのは。
幸せなんてぬるま湯と同じだ。浸かっている間は暖かくても、そこから出てしまえば風邪を引く。
加えて、不死人はずっとそのぬるま湯に浸かってなんかいられない。
暖かな液体は冷えていく。不死人だけを残して、環境は早足に過ぎ去っていく。
残るのはパレードが終わった後ような紛らわしようのない寂寥感。不死の兵士に唯一有効な刃。
絶対に、後のタメになんか、ならないのに――
……いつからだろう。それにずっと浸っていたいと思い始めてしまったのは。
飢餓感すら麻痺した不死の彷徨者。
――その動く死体に最後まで残留していた感情は、彼を殺戮に駆り立てた。
301
:
絶望咆哮修正
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:11:52 ID:6AH3Zsjo
そして復讐者の告白を、被復讐者たるウルペンは聞いていた。
目の前の男が放つ少女への信頼に満ちた言葉。心地よいはずのその宣言。
(……ならば、何故だ? 何故俺は――)
上半身を寄りかからせている、手が回りきらないほどの巨木。
それに全体重を預ける心地で、ウルペンはずりずりと、まるで幽鬼がするように立ち上がっていた。
相変わらず体は壊れかけ、限界を迎えている。だが脱力していたはずの四肢に、僅かに熱が宿っていた。
それはとても小さい炎だったが、苦痛を無視できるほどには熱い。
確たる言葉に情熱を感じたか――?
――否。この熱はそんなに品の良いものではない。
ウルペンが動くのと連動して、突きつけられる銃口も移動していた。
死を吐き出す丸い淵。地獄の穴を思わせる漆黒の空間が、仮面越しにウルペンの目を捉えている。
だが恐怖は覚えない。一瞬後には脳髄が吹き飛ばされているとしても、そんなものは怖くない。
くっくっ、と心底愉快そうにウルペンは笑う。
その気に障る笑みに、ハーヴェイはトリガーを引き――
「――奴の真似事だ。お前に問おう」
――そして寸前、それを遮るように、ウルペンの口から疑問が吐き出された。
「お前は何がしたいのだ?」
「何、って――」
キーリを殺されたから。キーリがこの男に殺されたから。だからハーヴェイはここまで来た。
それは誰にでも分かることだろう。酸素を呼吸することのように、それは当たり前であるはずだった。
それはウルペンにも分かっていただろう。だが彼は問い続ける。
「お前は愛しているという。お前は信じているという。
ならばそれは失われていないはずだ。確たるものは失われてはいけないはずだ。
それなのにお前は俺に銃口を向ける。俺はその少女を奪えたのか? 結局お前は何がしたいのだ?」
「……言葉遊びは好きじゃない。
キーリは死んだ。お前が殺した。それが事実だ」
「なるほど。つまりお前は彼女の復讐を成就させるため、俺を殺したいわけだな?」
「そうなるな」
言葉が詰まることはない。
この代償行為を他人に復讐と言われたところで気にもならない。
余計なものはあの砂浜に置いてきた。だからハーヴェイに迷いは無い。
302
:
絶望咆哮修正
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:12:49 ID:6AH3Zsjo
だがその覚悟を嘲るように、ウルペンは嗤う。
「――ならば貴様の大切にしていた少女はいない」
「……何が?」
疑問符を返してくるハーヴェイに、ウルペンはさらに嘲笑を強くする。
それはとても衰弱した、弱々しい表情筋の収縮だったが――
「そうだ! 貴様が信じていないというのなら、あの少女はもういない。
俺に確かなものが何一つないというのなら、俺はあの少女を奪えていなかった!
ならば少女はどこにいった――!」
――その体には、溢れんばかりの狂気と怒りがあった。
信じるものを全て取り上げられた彼は、ただ狂うしかなかった。
意味も分からず溢れ出てくる怒りは、死に体であるウルペンにほんの僅かの動作を許した。
そしてハーヴェイはそれを察した。戦場での経験で知っている。こうなった人間は何より危険だ。
トリガーを引こうとする。だが、それより僅かに速く、ウルペンはその言葉を突き出していた。
「――そう、あの少女を殺したのは貴様だ! 俺は八年も信じていたぞ! 例えそれが手に入らないと宣告されても!
狂信もできない輩が、愛を語るなぁ!」
どこまでも身勝手なその宣告を、だがハーヴェイは聞き流した。
構わずにウルペンが動く。ともすればバラバラになりそうな関節を無視して、木の外周に沿うように右に踏み込む。
引き金が引かれる。乾いた死刑宣告に従い、鉛の死神が音速を以て飛びかかる。
――初弾は外れた。
心臓に照準されていた弾は、本来ならば移動差を含めても左肩に当たったのだろう。そして動きを止めていたはずだ。
だが、すでにそこに肩はない。焼き落とされている。
それでもハーヴェイは焦らなかった。
一歩目で避けられても、二歩目を踏み出されるよりもう一度銃を撃つ方が速い。
仮にあの乾かす糸で攻撃されても、金属製の義手に効果はない。そして不死人は核がある限り死なない。
ハーヴェイは盤石の態勢でこの勝負に挑んでいる。故に計算違いは起こり得ない。
303
:
絶望咆哮修正
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:13:44 ID:6AH3Zsjo
――そこに、不確定要素が入り込まない限りだが。
「なっ……!?」
右腕が――義手が、動かない。完全に動かないわけではないが、それでもまるで反応が遅い。
見れば、そこにはウルペンの念糸が巻き付いていた。
ウルペンに信じられるものはない。それでも彼の狂気はその異能によって道を紡ぐ。
金属に乾かす能力は通用しないし、思念の糸は普通の糸のように拘束等の働きは出来ない。
だが念糸にはもう一つの特性があった。念糸で紡いだサークルは、一時的に精霊を捕らえられる。
ウルペンは、まず相手の武器を持っている腕を落とそうとした。義手の付け根を壊死させようとしたのだ。
狂気で念糸を紡げるとはいえ、体の消耗は大きい。
駆け寄って格闘に持ち込めない今の彼にとって、その分の悪い賭けが唯一の可能性だった。
本来ならば、そこでハーヴェイの勝利は確定していただろう。
念を込めている間に、ハーヴェイの射撃はウルペンを殺すことが出来る。
だが一つの意味に硝化し生まれた精霊と、主人に仕えるという単一思念で誕生した義手の霊は、その性質が酷く似通っていた。
ウルペンは右手に念糸を繋いだ瞬間、精霊を相手にしたような反動を感じ取り――自動的に動く腕の秘密を知ることとなる。
「精霊の腕――それがカラクリか!」
念糸を逆行してくる反動は、かつての破壊精霊ほどではない。一瞬で爆死して果てるような威力ではない。
それでもボロボロの体はさらに破壊されていく。悲鳴をあげる壊れかけの体に鞭を入れ、ウルペンは逃走を開始した。
「っ、の――!」
動かない右腕から左腕に銃を持ち替える。
だが弾が放たれるよりも早く、ウルペンは木の後ろに逃げ込んでいた。
「逃がすか――!」
それをハーヴェイが追う。いかに巨木とはいえ、回り込むのに一分や二分もかかるわけではない。
一弾指の後、ハーヴェイは容易く仮面を被った黒衣の姿を捉えていた。
――こちらに向かって隻腕を突き出しているウルペンの姿を。
「――!」
その姿に悪寒を感じ、即座に引き金を引く。
だが、まともな照準がされていなかった銃弾は、今度はウルペンが装面していたEDの仮面を掠めるに終わった。
さらにウルペンが後退し、木の陰に隠れながら念糸を放つ。
体がどれほど欠損しようと、それこそ動けなくなるほどの大怪我であろうと、思念があれば念糸は働く。
大木の幹を貫通し、念糸がハーヴェイを捉えた。
ハーヴェイの左肘から先が消えた。骨と皮だけになった掌から、重い音を立てて銃が落ちる。
拾い直している暇はない――ハーヴェイはそう判断するとウルペンとの距離を詰め、拘束の解かれた義手の拳を叩き込んだ。
「ぐっ……!」
回避できずに腹部に一撃を貰い、さすがに苦しげな息を漏らすウルペン。いや、息だけではなく胃液も吐いていた。
べちゃりとした液体が喉を遡り、彼の気道を塞ぐ。膝から力が抜け、その場に崩れ落ちる。
304
:
絶望咆哮修正
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:14:26 ID:6AH3Zsjo
だが、その瞳に宿る狂った意志は全く弱らない。
臓物ごと吐き出す勢いで胃液を吐き捨て、絶え絶えに、それでもウルペンは絶叫する。
「貴様などに……殺されてやるものか!」
「やろっ……!」
倒れ込んだウルペンの顔面に、ハーヴェイの蹴りが叩き込まれる。
しかし、その打撃は本来の威力を失っていた。
胴体と繋がりっているので分かりにくいが、人の腕というのはかなり重い。
左腕が壊死し、急激に変わった体重のバランスが、ハーヴェイの打撃を不完全なものとしていたのだ。
それでもハーヴェイは不死人だ。体が損傷した状態での戦闘には慣れている。
だがあの戦争の時には付けていなかった金属製の義手が、彼の知らないアンバランスを生んだ。
本来ならば意識を刈り取っていたはずの蹴りは、ウルペンの頭蓋を揺らすに留まる。
不死人の膂力にのけぞり、脳が揺れる感覚に吐き気を覚える。
しかし吐くべき胃液もない。だから代わりに、ウルペンは血と呪いを吐いた。
「俺を殺すだけしかできない輩などに、俺は殺されてやるものか!
確かなものがない世界ならば終わってしまえ! 否、こんな盤上は俺が壊してやる――!」
もはや絶叫に使う呼気もなく、それは只の掠れ声に過ぎない。
それでも彼は呪っていた。
泣かずに逝けた男が、今は泣きながら世界を呪っていた。
――彼を突き動かした憤怒。いまならばその正体が分かる。
ウルペンはどこまでも信じたかったのだ。
我が物にはならずとも、せめてこの世界には確たるものがあると――それこそ誰にも奪えないものがあるのだと。
だからウルペンはハーヴェイに賭けた。
目の前の赤髪が愛していたと言った少女が確かなものだとすれば、この男は『喪失』でない別の理由で銃を向けているはずだ。
――だがその願いは、とても自分本位なものだ。それが他人に伝わるはずなど、ない。
もとよりそんなものは、狂人の妄想なのだ。
だが狂人だからこそ、ウルペンは止まらない。
ハーヴェイが蹴り足を引き戻し、再度の打撃を準備するのに半秒。
ウルペンは霞む視界にその蹴り足を認め、全力で念を注ぐ。
視覚は歪み、脳は揺れ、声は出ない。
それでも胸中はただ一色。燃え盛る業火の色に染まり尽している。
その色彩が噴出した。銀の実体無き糸を通り、ハーヴェイの軸足を汚染する。
倒れ込む不死人。そこにウルペンの念糸が殺到する。
月下に連続して響く炸裂音。脳、肺、心臓、肝臓、脊髄。およそ知りうる限りの人体の急所を壊死させる。
そうしてあらかた奪い尽すと、ウルペンは最後の念糸を紡いだ。
巨木の根本を壊死させ、ハーヴェイを叩き潰すように倒れさせる。
305
:
絶望咆哮修正
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:15:30 ID:6AH3Zsjo
だが、その刹那。
「……リ」
ウルペンは、声を聞いた。
確かに聞いた。小さな囁きだが、確かにウルペンはそれを耳にした。
――男が発した、キーリ、という呟きを。
復讐を果たせなかった謝罪では無く、助けを乞うような縋る言葉でもなく。
それは、そういったものを超越した種類の、不可侵の言葉だった。
不死人に霊体は、無い。彼らは動く死体。死ねば――否、『元』に戻れば消えるだけだ。
エイフラムでないハーヴェイという存在は、消える。遺言すら葉擦れの音に吸われて残らず、消える。
無論、ウルペンはそれを知らない。だが、男の希薄さは感じていた。
――だが、何故だろう。
その男の言葉は、どこまでも残響し続けて消えることがない――
(……死を目前にして、か。もしや――)
僅かな疑念が起こる。
肺も声帯も脳も。すべて破壊された状態で紡がれた言葉は。
それだけは、もしかしたら……
『未来永劫、お前は何も信じられまい』
――もっとも。
その疑念の解が如何なる物であろうが大木の倒壊は止まらず、既に狂っている男を変えられるわけでもないだろうが――
◇◇◇
306
:
絶望咆哮修正
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:17:36 ID:6AH3Zsjo
轟音と地響きが、一瞬だけその場を支配した。
ハーヴェイは死んだ。核を砕かれて、不死の兵士は死体に戻った。
だが、その義手はまだこの世界に在った。
憑依している霊は仇を取ろうとした。だが焼かれる前の完全な状態だったのなら兎も角、今のように腕だけではどうしようもない。
だから彼は銃を探した。幸い、それほど離れていないところにそれは落ちている。
だが同時に、彼はもう一つ見つけてしまった。
それは敵討ちの相手であるウルペンだった。かなり衰弱しているようで、それでも瞳の輝きだけは劣化していない。
ウルペンは片手で這いずって、義手に近づいてくる。
その動きは極めて緩慢だ。だが、その様子に義手は確かな狂気を覚えた。
義手は急いでハーヴェイとの接続を断ち切ると、まるで指を虫の足のように動かして移動し始める。
――いや、移動し始めようと、した。
パン、という乾いた音。それと同時に、義手が足場にしようとしていた土が、蟻地獄のようなさらさらの砂に変じる。
「……本来ならば、このコンディションで念糸は紡げないだろうな」
体の不調は、そのまま思念に影響を及ぼす。
だが、いまのウルペンの思考に曇りはない。五感は途切れ始めているが、それでも狂気が薄まることはない。
砂の上で藻掻いている義手の横を追い越して、ウルペンは拳銃を手に取った。
前に奪った炭化銃のお陰で、操作方法はだいたい分かる。
「精霊を殺せるのはより強い精霊だ。生憎、いま俺は精霊を持ち合わせていない。
それでも、それほど強くない精霊ならば――」
義手にほとんど銃口を押しつけるようにして、ウルペンは銃を撃った。
さほど強くない精霊ならば、傷くらいは付けることが出来る。関節等の機構を破壊すればしばらくは動けまい。
ウルペンはそう当たりを付けていたが、しかし彼が撃ったのは普通の銃ではなかった。
吸血鬼狩りにも用いられていた呪化弾頭が、義手に取り憑いている霊そのものを破壊する。
それに気付きもせず、ウルペンは残弾を全て叩き込んだ。ケーブルが断線し、フレームが歪む。
最後に弱々しいモーター音をひとつだけあげて、義手は活動を停止した。
307
:
絶望咆哮修正
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:18:39 ID:6AH3Zsjo
ウルペンは軽くなった拳銃を捨てる。遠くに投げ捨てる力はすでになく、ほとんど取り落とすようなものだったが。
体は限界を迎えていた。念糸で義手を捉えた反動で、酷く衰弱している。
だが、それでも自分は死ぬまい――いや、死ぬ前にやらなければならないことがある。
先の銃撃で破損した仮面を外し、顔を外気にさらした。
黒衣を気取る気はない。もはや自分は逆しまの聖域すら信じられない。
聖域の外で、彼は宣言する。この世界に確たるものが何一つないのなら――
「アマワ……貴様の契約すら確たる物でないのなら、俺は貴様を殺しに行くぞ。
俺に終わりが与えられないのなら、俺がこの世界をすべて殺してやる」
自分が終わらないのなら、それが最終的な目標だ。
だが、彼の言う終わりとは何か?
死ではない。圧倒的な力に遭遇することでもない。
――ウルペン自身にすら分からない。それを探しながら、ウルペンは殺戮を続ける。
「この盤上遊技も、貴様の下らない問いかけのだろう……アマワよ。
ならば、それも俺が殺す。すべて殺す。
嫌ならば出てこい。怪物領域から出てこい、アマワ……」
最早そこに明確な論理はない。ただの狂人の奇言だ。
信念を貫き通すために狂ったのでもなく、ただ矛盾と分裂に満ちた、本当の意味での狂人。
だがひたすらに狂っても、絶望すら信じることが出来なくなっても、やるべきことは変わらない。
アマワに答えを捧げよう。貴様の求める物は手に入らないのだと教えてやろう。
そのために奴を引きずり出そう。この島の参加者を皆殺しにしてでも。
(俺は虚無だ。何もない男だ)
何も信じることができない、あやふやな存在だ。
だが、それでいい。
「さあ――殺されたくないのなら、俺に終わりをもたらせるか、な?」
――この島から、俺がすべて奪った時に残る物。
それはとても不明瞭で、グシャグシャの、底抜けにグロテスクなものに違いない。
その思考を最後に、ウルペンの意識は闇に落ちた。
……だというのに、その場には哄笑が残った。
ウルペンは確かに昏睡している。それでも彼の嗤いは確かにある。
それはまるで精霊のように、どこまでも狂気に純化した、そしてあるのかどうかも分からない哄笑だった。
【017 ハーヴェイ 死亡】
【残り 44人】
【B-6/森/1日目・21:40頃】
【ウルペン】
[状態]:左腕が肩から焼け落ちている/極度の衰弱/昏睡/狂気/腹部に打撲/
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:参加者を皆殺しにし、アマワも殺す。終わりを探す。
[備考]:第二回放送を冒頭しか聞いていません。黒幕はアマワだと認識しています。
第三回放送を聞いていたかどうかは不明です。
チサトの姓がカザミだと知り、チサトの容姿についての情報を得ました。
これからは終わりを探しながら、参加者を皆殺しにするつもりです。
※【B-6/森】に破損したEDの仮面、壊れたハーヴェイの義手、Eマグ(弾数0)が落ちています。
308
:
怪物対峙改定
◆CC0Zm79P5c
:2007/04/13(金) 14:22:04 ID:6AH3Zsjo
本スレpart10 レス番号123から以下に差し替え
――瞬間が訪れるのは、いつだって唐突だ。
竜堂終が咆吼する。異形の声で咆吼する。
想像は怒りを。怒りは感情の噴出を。そして激情は変化を促した。
肌が真珠色の鱗に覆われ、瞳孔が爬虫類のそれに変わる。
圧倒的な存在感と畏怖を見る者に与える竜王の姿へと、竜堂終が化性していく。
変化は外形だけに留まらない。竜堂終はその身が感情に満たされれば、それを制御することは出来ない。
ラッカー・スプレーで塗り潰されるようにじわじわと、だが素早く。理性は荒ぶる感情に塗り潰されていく。
――霞んでいく心象風景。竜の姿を顕す時、竜堂終はただ直情に任せて破壊する。
気付くのはすべてが終わった後だ。
守りたかったはずの人達。心に残る彼らの表情。怒りはそれらを際限なく飲み込んでいく。
それは、なんという矛盾か。
復讐で喜ぶ故人は――いるのかも知れないが、少なくとも兄や茉理はそれを望む人種ではない。
それは理解している。だが理解してなお、竜堂終は彼らのために怒り、復讐を為そうとする。
ならば、せめて。せめて覚えていなくてはならないはずの彼らの笑顔を忘れてまで行う殺戮とは――なんだ?
意味など無い――それも、分かっている。
この行為は無益。残るのは疵痕だけ。炎症を掻いて誤魔化すのと同じ。ただの自傷以外の何でもない。
それでも変化は止まらない。一度始まってしまったのなら、竜堂終では止められない!
溶ける理性。穿たれた笑顔。消失する意味。
――だが全てが暗闇に沈む寸前に、見えた物があった。
最初は光だと思った。眩い光。暗闇では光を包めない。だから残ったのだろうと思った。
だがその光も霞み始めていた。その金色が黒く薄れていく。この怒りは光さえ食い尽くす――?
違う。終は直感的に否定した。これは光ではない。
ならばこの金色は何だ。万物を駆逐する憤怒に抗えているこの『強さ』は――何だ。
金色に触れるのを恐れるかのように、闇の侵攻は遅々としたものだった。
そして気付く。その金色の背後に、死んだ兄と従姉妹の顔がある。
守っているのだ。金色は、一時の激情が竜堂終から喪失させることを拒んでいる。
彼らを守るために、その身を盾にし続けている。
ならば、なおさらその正体が分からない。
兄貴は死んだ。茉理ちゃんも死んだ。ならば何だ? そうまでして竜堂終を守ろうとするモノは何だ?
――居るではないか。居たではないか。
気付くと同時、金色が振り返る。金の髪をたなびかせ、強靭な『女王』が振り返る。
彼らの旗。潰えたと思っていた旗。
だが、そうではなかった。
「……ああ、そうだ」
理解し、言葉を紡ぐ。怒りに満ちた咆吼ではない、人としての意味ある言葉を。
それを合図とするように、ささくれだったような鱗は再び人肌に戻り、針のように細められた瞳孔も丸く戻り始めた。
――まだ、ここにある。失う寸前だったが、それでも竜堂終は喪失を防いだ。
「……負けて、たまるか」
憤怒が冷めたのではない――冷ましたのだ。終単身では制御できなかったはずの竜化を、制御していた。
怒りはある。ともすれば簡単に吹き出すだろう。
だが、それでも、
(……そうだ。俺は託された)
――あの時、ダナティアが自分を止めた理由。
それが分からないほど終は愚かではない。それを伝えられないほどダナティアは無力ではない。
憎しみに任せての殺人を自分の仲間達は止めてくれた。それを無駄にする? そんなことには耐えられない。
自分が手玉に取られた所為で舞台は崩壊した。そんな失態を二度も晒す? そんなものは冗談にもならない。
彼らは憎しみの連鎖を起こすために凶行を止めたのではない。竜堂終は、竜堂終の自意識をもって敵を退けなければならない。
――そうだ。やはり彼は単身で己を制御していたのではない。
竜堂終を、その尊厳を繋ぎ止めていたのは――
「あんたなんかに――譲れるかっ!」
――遺志だ。ダナティア。ベルガー。メフィスト。彼らが竜堂終に託していった遺志だ。
目前では少年ががゆっくりとした動作で立ち上がっている。左腕は折れ、それでも退かずに立ち向かってくる。
その様はまるで不死身の怪物のよう。竜すら喰らう巨大蛇のよう。
それでも竜堂終は前進する。受け取ったものを無駄にしないためにも。
遺志とは継ぐもの。後継者を守り、正しい方向へと導くものだ。
そう――竜堂終には、遺志がある。
309
:
ペイン(私の人生)修正
◆eUaeu3dols
:2007/04/16(月) 00:03:55 ID:RMey9W1M
(1/31)〜(3/31)までを以下に差し替え
――――――――――――――――――――――――――――――
最早そこにあったのは痛みだけだった。
何も出来なかった。それが痛みの理由だ。
少女はこの世界の在り方を認めはしなかった。
だから足掻いた。走り、戦い、選び続けた。
それなのにあまりに多くが喪われていった。
それを悔いて選んだ最後の選択さえもたったの三十分で打ち破られた。
シャナはそうやって、死んだ。
「心なんて無ければ良かった」
心底からそう思う。
そうすればこんな痛みを味合わずに済んだのに。
こんなに苦しまなくて済んだのに。
――思わず嘆いたその言葉を。
声にならないその言葉を、御遣いは確かに聞き取った。
「君は心の実在を知るものか?」
唐突に響いた声も、シャナに痛み以外をもたらさない物だ。
シャナはその声を知っている。
それは彼女が辿り着けなかった全ての元凶の声だ。
この世界で皆を殺し合わせ、数多の悲劇を、悲哀を、悲痛を、悲壮を生みだした権化。
それなのに憎しみが沸き上がる事すら無かった。
ぶつける事すら出来ない憎しみに何の意味も無いのだから。
憎しみはない。
悲しいだけだ。
あまりにも辛くて、苦しくて、切なくて、痛くて、悲しいだけだ。
引き裂かれた体が痛くてたまらないのに、それ以上に引き裂かれた心が痛いだけだ。
だからただ答えた。
「知っている。わたしは心が在る物だという事を知っている」
310
:
ペイン(私の人生)修正
◆eUaeu3dols
:2007/04/16(月) 00:04:54 ID:RMey9W1M
それは問うた。
「では問い掛けよう。君はどう答える?
御遣いの言葉になんと答える?
――心の実在を証明せよ」
シャナはしばらく押し黙った。
噛み締めるように。味わうように。
焦れるようにアマワの声が響く。
「必要ならば……一つ問い掛けを許そう。その問いで私を理解せよ」
「うるさい」
聞きたくはなかった。
よりによって坂井悠二の声を借りて明らかに別物として聞こえてくる声を聞きたくなかった。
だから答えは簡潔で感情的な物だった。
「うるさいうるさいうるさい!
もしも心が実在しないというのなら、どうしてわたしはまだ痛いの!?
痛い、痛いよ!
胸も頭も何もかも! 心が無いなら痛みなんて有るわけがないのに!」
「君の体は消し飛んだ。激痛と共に」
「そうだ、そしてわたしは飛ばされた! 薄い空間の向こう側に……ここに」
コミクロンの空間爆砕はシャナを消し飛ばした。
シャナの肉体は確実に滅び命も失われた。
しかしシャナは、依然自らの存在を知覚できる事を認識する。
周囲を知覚している事を認識する。
そこは闇の荒野。
石にも、金属にも、無意味にも、重要にも。如何様にも見えるモノリスが遠方に乱立していた。
ただ荒野という荒れ果てた印象だけが強く焼き付く。
空は暗黒の黒一色。
にも関わらず視界が妨げられる事は無く、遥か遠方の無数のモノリスが、地平線が見えていた。
そこは“無名の庵”だった。
神野の支配する領域であり、アマワもまたそこに現れる。
この殺し合いを開いた黒幕の住処にシャナの魂は在った。
311
:
ペイン(私の人生)修正
◆eUaeu3dols
:2007/04/16(月) 00:08:56 ID:RMey9W1M
「そう、そして君は飛ばされた。君はまだそこに居る」
「意識が残っていたって体の痛みを感じる道理なんて無い。心が無い限り」
「君が感じる痛みをどうやって証明する」
「わたし自身が痛みなんだ! わたしの魂は痛みで埋め尽くされた!
わたしは……痛みそのものなんだ……」
それは変えようの無い事実。
シャナの魂のカタチは痛みに埋め尽くされた。
有り余る悲劇と不運、齟齬と絶望が強引に詰め込まれ、心はずた袋のようにほつれてしまった。
だからそれは歴然とした現実。
それでも尚。
「ならば君が痛めているものが心である事を証明せよ」
全てに理由を求めるアマワの餓えは満たせない。
どれだけ理屈を並べ、理論の穴を埋めて論理を積み重ねたって隙間が消える事は無い。
それが何故か、シャナにはなんとなく判っていた。
教えられて知っていた。
「千草が……悠二のお母さんが言っていた。
心の問題は客観的な言葉では語れない。
人の主観に基づく曖昧で不確かな経験でしか語れない」
「存在する物は理論で証明出来る」
「それなら心なんて存在しない」
シャナの言葉に僅かな間が惑う。
「おまえの言葉は心の実在を前提にしている」
「そう、心は在る」
その迷い無き言葉に惑いは広がる。
「……おまえの答えは矛盾している」
「心に確かな答えなんて何処にも無い」
在るわけが無い答えをアマワは求めている。
シャナはそれに気づいた。
その事が可笑しく、そんな事が全てを奪っていった事が……悲しかった。
「答えを答えと認められないおまえは永遠に悩み続けるんだ」
それがシャナの答えだった。
312
:
ペイン(私の人生)修正
◆eUaeu3dols
:2007/04/16(月) 00:14:01 ID:RMey9W1M
――――――――――――――――――――――――――――
>第11レスの脱字を訂正。
「アシュラムはパイフウが体力を回復する間の休憩所となった」
「美姫千鳥かなめを人質にして相良宗介を殺し合いに乗らせた」
「彼らは光明寺茉衣子の心を壊す一因となった」
↓この真ん中の行に「は」を追加。
「美姫は千鳥かなめを人質にして相良宗介を殺し合いに乗らせた」
>状態表修正(抜けていた単二式精燃槽三つを追加)
【X-?/無名の庵/2日目・00:30頃】
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:左肺損傷、右肺機能低下、再生中、不死化(不完全)
[装備]:PSG-1(残弾20)、鈍ら刀、コキュートス
[道具]:携帯電話、黒い卵、単二式精燃槽三つ
[思考]:往こう。
※:ダウゲ・ベルガーは黒い卵の転移効果により現れました。
シャナの名は第四回放送で呼ばれます。
アラストールはこれといって何もしなければすぐに紅世に送還されます。
シャナの名残である存在の力と、砕けたタリスマンの力が周囲に満ちています。
神野陰之が目の前に居ます。
零時になった為、アマワはギーアに阻害された状態に戻り、しばらく出てこれません。
――――――――――――――――――――――――
修正は以上です。遅くなり申し訳有りませんでした。
313
:
最強証明 前編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:24:51 ID:6AH3Zsjo
空を舞うシャナの超視覚は、すでに四人を捉えていた。
故に、その変化も見逃さない。
「……二手に分かれた。ひとりがこっちに向かってくる」
「本当? どっちを狙うの?」
「三人の方を。逃げられると厄介だから――っ」
だが判断した途端、狙ったようなタイミングで銃弾が炎の翼を掠めた。
射撃は恐ろしいほど正確。初撃からここまで迫れるとは、並みの腕ではない。
「……訂正、銃を持ってる。背後を突かれると面倒だから、先にひとりの方を――」
シャナはその視界に敵を収める。ならば、そいつは最早逃げられない。
彼女たちは言霊を口にした。自分たちを存続させる言霊を。
「殺す」
「壊す」
翼を翻し、シャナは標的を捉える。
左目に視界を開き、フリウ・ハリスコーは標的を見据える。
最大の終末達は、ちっぽけな標的に迫る――
◇◇◇
かつて人は闇を恐れた。
見通せない暗闇を。人智の及ばない何かが潜んでいそうな黒色を恐れた。
人は灯りを造った。知識の灯火は、しだいに暗闇を生活の圏内から遠ざけていった。
だが、それでも暗闇は無くならない。闇を忘れても、人は闇を恐れる。
パイフウは暗闇の森を全力で走る。そこに恐怖はない。あるとすれば怖いくらいの歓喜だった。
彼女の足取りに迷いはない。外套を脱ぎ捨てたパイフウの体は軽い。
だがそれ以上に、彼女の体を強く後押ししている物がある。
それはとてもとても古くさく――
それはとてもとても青くさく――
だが世界の何よりも強靭だった。
聞かれれば赤面してしまうほど恥ずかしい。だが、いまはそれがむしろ誇らしい。
今も昔もこれからも、これはきっと最強の武装だ。
その最強を胸中に抱き、パイフウは歓喜を吼える。
(ほのちゃんを助けられる。ほのちゃんの為に戦える)
冷徹を気取り、管理者の犬になることは我慢できた。
だが、嫌悪はあった。いくら押し込められても気に入らないことには変わりない。
いまは、それがない。
(私はいま――臆面もなくほのちゃんの為に戦えている!)
空を見上げる。輝く翼で飛行する物体は目立ったが、的は小さい。
構わずにパイフウはライフルを構えた。彼我の距離は遠いが照準は瞬時。一発だけの射撃。
観測手は居ない。だが弾丸は敵を掠めた。有り得ざる手応えにそれを感じた。感覚がひたすら鋭敏になっている――
(私は最強だ)
パイフウは一点の疑問もなくそれを信じることが出来た。
自分は死ぬ。それはきっとひどく火乃香を悲しませるだろう。
ごめんなさい。ほのちゃん。あなただけにはこの苦しみを背負わせたくなかった。
(私が殺した人達も……きっとそう。悲しんだ人がいた)
静かに、認める。
どうしようもなかったのだ。パイフウは火乃香を守りたかった。
だけどそれは彼女の都合。それを押しつけられ、殺された連中にとって知ったことではない。
(ごめんなさいとは言えない。償うことも出来ない。
これは代償なんでしょうね。悲しみは連鎖する。それが私の所までやってきた)
だから、逃れられない。パイフウはここで死ぬ。
(だから……今一度の、自分勝手を)
パイフウは跳躍した。
太い木の枝に掴まり、逆上がりの要領で一回転。幹に背を預けて、射撃体勢を取る。
――思ったよりも速い。スコープに映った大きな影を、パイフウは睨み付けた。
きっとあれは自分を殺す。
そしてきっと、あれは自分より弱い。
思わず唇の端が吊り上がり、真珠色の犬歯が覗く。
弾倉内に残っていた弾丸を全て撃ち込む。火薬が連続して炸裂する威力に銃が震える。
だが、パイフウはそれを完全にコントロールしきっていた。迫る二人組が回避の為に旋回し、僅かに遠ざかる。
パイフウはすぐにその場から飛び降りた。一秒後、影が再び接近し、樹上に銀の巨人が現れる。
タリスマンのブーストを飛行に使っているので、破壊精霊の力は再び制限されている。
それでも銀の一撃は、パイフウが足場に使っていた大樹を粉微塵に打ち砕いていた。
パイフウは走る。できるだけ火乃香達から遠ざかるように。
背後で銀の巨人が消え、再び影が上空に舞う。
(やはり、あの巨人はある程度近づかないと使えない)
どれだけ離れても使えるのなら、先程の戦闘であんな奇襲をする必要はない。
地上に降りてくれば、闇に乗じての狙撃と奇襲に秀でるパイフウの餌食になる可能性がある。
だから空の利を捨てるつもりは無いのだろう。しかし、ならば一撃でパイフウを仕留めなければならない。
(ならば一撃で殺されなければいい)
その根拠の無い自信は、無限に沸き上がってくる。
314
:
最強証明 前編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:27:43 ID:6AH3Zsjo
疑問の声が聞こえた。落ち着き払った、だがどこか苛立ちを含んでいるようにも聞こえる。
『……君は誰だ。かつてのミズー・ビアンカなのか?』
その質問に、彼女は大笑した。
誰が発した疑問なのかは知らないが、馬鹿げたことを言う。
「愚問」
彼女はパイフウ。ただのパイフウ。
現在、この島にいるどの参加者よりも強い最強者。誰にも冒せない無敵の存在。
『何故奪えない……君は心の証明なのか?』
証明せよ。心の実在を証明せよ。
問うことだけしなかった精霊は、理解できない。
――それはとてもとても古くさく――
――それはとてもとても青くさく――
どこまでも陳腐なそれは、だが世界の何よりも強靭だった。
「私から、心を奪う?」
浮かべるのは優しい笑み。火乃香のことを想うだけで、この笑みはひたすらに尽きない。
それを論理で証明することは出来ない。それでも尽きないと断言できる。尽きないのなら奪えない。
「奪いたければ触れるがいい。だけど、誰も私からは奪えない」
空を見上げる。影は直上から一気に降下。最速の加速を付けて、炎弾と破壊精霊を繰り出してくる。
パイフウは、吼えた。ライフルに新しいカートリッジを叩き込み、初弾を薬室に装填する。
――彼女は取り戻した。完全にとまではいかないが、奪われていた物を取り戻した。
「――私は、最強だ!」
◇◇◇
――それから数分後。
(……思ったよりも手間取った)
地面に着地して、無感動にシャナは呟いた。
幾度目かの突進の末、解放された破壊精霊ウルトプライドはその豪腕を標的に叩きつけた。
標的が、この世界いたという痕跡も残さずに消失する。
今の彼女にとって、殺人とは時間の経過という意味でしかない。
だがその無感動の中に、彼女は奇妙な違和感を覚えていた。
(なぜだか、勝った気がしない)
確かに『殺した』。確かに『殺されていない』。自分は負けていない。
こうしてわざわざ地面に降りて確認もしてみた。討ち損じた、という訳でもない。
だというのに、なぜだか――実感が湧かない。
(……まあいいか)
それよりも、自分にはやるべきことがある。
振り返る。そこには精霊を封じ、空虚な眼差しを彷徨わせているフリウの姿があった。
「さあ急ぐわよ――あの三人も、そして他の参加者も」
「うん……全部、壊す」
再びデモンズ・ブラッドを活性化させ、増幅した翼を具現化。破壊と殺人の申し子は空に舞い――
そして二人同時に眉をひそめた。
「……なに、あれ」
鬱蒼と木が生い茂る森。
先程まで、確かに森だった場所。
その一部分。ある箇所に生えている木々の群れが、次々と切り倒されていた。
315
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:31:45 ID:6AH3Zsjo
◇◇◇
夜の森。木の葉は彼らを上空から覆い隠し、暗闇は痕跡を見つけにくくしてくれる。
それでも死神は追跡をやめないだろう。この島から敵となる生命が消えるその時まで。
ヘイズの背後からは、途切れ途切れに轟音が追いかけてくる。
パイフウは善戦していた。この音が続いている限りは、自分たちが殺される心配はない。だが。
――演算終了。逃走成功確率12,74%
(クソっ)
先程から行っているI-ブレインの演算結果は、相変わらずろくでもなかった。
逃げれば逃げるほど逃走成功の確率は上がる。だが、それはコンマ小数点以下の微々たる物でしかない。
まるで、どれだけ足掻いても逃れられない未来を予告するように。
バラバラに逃げれば確率は跳ね上がるだろう――だが、誰もそれを提案しなかった。火乃香すらも。
パイフウと別れた後で、一番最初に走り出したも彼女だった。
(火乃香は強い――フリをしてるんだろうな、きっと)
横目で、隣を走る彼女を見やる。
パイフウという、彼女と浅からぬ縁のある女性から受け取ったコートを大事に着込んで走る表情に迷いはない。
だが、それは感情を押し込めているだけだろう。演算ではなく、直感でそれを察する。
それでも、気丈だ。そうして他人を気遣えるのだから。
思わず口許に笑みが浮かぶ。
それを見たコミクロンがぜいぜいと喘ぎながら、それでもどうにか優雅に喋ろうと無駄な努力をする。
「どう、したヴァー、ミリオ、ン。酸素、欠乏症、で、幻覚でも、見えたか」
「お前こそ、息、上がってるぜ?」
二人で、声を殺して笑い合う。それでさらに肺に負担が掛かる。
だが、誰も止まろうとはしなかった。いつしか牛歩に劣る速度になろうとも、止まることはしない。
魔界医師メフィスト、そしてパイフウ。
自分たちを生かしてくれた彼らに報いる方法は、きっとそれだけだ。
ひたすらに逃げ続けて、そして――まあ、そこから先はあとで考える。
そのためにも、逃走を完了させなければいけない。
(それでも逃げるだけじゃ、成功しない)
盲信ではなく、決意でもなく、生き残るためならば現実を直視しなければならない。
それは絶望ではない。生存への意思だ。
ヴァーミリオン・CD・ヘイズ。彼は最強ではない。
フレイムヘイズとやり合えるほどの技量はなく、破壊精霊と殴り合えるほどの膂力もない。
ならば考えろ。もとより自分は欠陥品。その欠陥品のみに許された超速演算。人食い鳩が持てる武装はそれっきりだ。
I−ブレインが稼働する。あらゆる情報、戦術、経験を統合し組み合わせ、生存へのロジックを組み上げていく。
(……クソ、足りねえ)
だが何をするにしても、戦力が足り無さすぎる。
自分の記憶容量が狭いとはいえ、それでも遭遇はつい先程。脳裏に残る残像は鮮明だ。
だから分かる。炎使いの馬鹿げた身体能力には対抗できず、最強無比の巨人には対応すら出来ない。
(……ひとつだけ分かったことがあるとすれば、あの巨人の有効範囲くらいか)
ぽつりと胸中で洩らす。独り言に使えるような酸素は、もはや持ち合わせていなかった。
演算から導き出された結果。あの巨人は制御されているようで“されていない”。
戦術、破壊対象への選別にムラがありすぎる。手近な物から破壊している感じだ。
つまり、障害物が多いところで使用するにはある程度目標に接近しなくてはならない。
(だが、それなら一番近いところにいる使用者に危害が及ばないのは何故だ?)
何者からも制御されないような存在を武器にできるはずがない。どこかで詐欺をやられている。
さらに演算を続行する。
戦闘中、巨人が奇妙な方法で移動することがあった。まるで瞬間移動でもするかのように。
だが本当に瞬間移動が出来るのならば、走ったり跳んだりする必要はない。おそらくはここに意味がある。
科学者が対照実験から見出すように、瞬間移動した瞬間と、その他の時の情報から共通点と異なっている部分を検索。
―――エラー。ほんの僅か、情報が足りない。喉を掻きむしりたくなるようなもどかしさ。
(……クソ、あとひとつ、なにかあれば――)
計算しかできないということは、解答に従うしかないということだ。
ヴァーミリオン・ヘイズ。彼自身に解答を書き換える力はない。
だからヘイズは偶然を望んでいた。緻密な計算によって戦闘を行う彼にとっては、忌むべき要因でさえあるそれを。
(……けっ。らしくもないか)
そんなものに縋るとは、情けないにも程がある。
演算を止めずに、こうなりゃぶっ倒れるまで走ってやる、と覚悟したその時。
不意に、前方の茂みから人影が飛び出してくる。
316
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:34:04 ID:6AH3Zsjo
(っ――こんな時に!)
三人は急停止した。合わせるように、人影も警戒するように拳を構える。
暗がりで不鮮明にしか確認できないが、どうやらそれは服の色のせいもあるらしい。全身黒ずくめ――
(最悪だ――思いっきりマーダーくせえじゃねえか!)
あまりにも強大なマーダーに追われていたため、遭遇戦など予期していなかった。
三体一とはいえ、ここで光や音のでる攻撃をしたら追撃者達に居所がばれる。
仮に相手が格闘の達人なら、無音で無力化できるのは剣技に秀でた火乃香しかいない。
だが、敵には無音という制限がない。銃器や魔法のような武器を持っているのだとしたら牽制しなくてはいけない。
「お前は――」
「お前ら――」
発言は同時。だが、構わずにヘイズは続けた。
「このゲームに乗った奴か!?」
「この近くで戦闘があったのか!?」
叫び合った内容から、情報を確認する。
互いにマーダーでないことが、一応は宣言された。だがヘイズ達には時間がない。
警戒は解かず、視線を逸らさないまま首を振る。生存を保証してくれる地響きはまだ続いていたが、いつ途切れるとも知れない。
「悪いが話してる暇はない。後ろから超弩級のマーダー組が追撃してきている。いまは仲間が足止めしているが――」
「どうでもいい! 戦闘があったのなら、そこに金髪の小娘がいなかったか!?」
無視するようにして叫ぶ黒ずくめ。噛み合わない会話と時間の浪費に苛立ちが募る。
「いなかったよ! とにかく今はそんな場合じゃないんだ――!」
「ヘイズ、時間の無駄よ。まだ先生が食い止めている内に、早く」
「うむ。その通りだヴァーミリオン」
コミクロンが最後にそう断じた。黒ずくめにびしりと指を突きつけ、宣告する。
その動作に黒ずくめの注意がコミクロンに向き、そしてその白衣姿を認めると、なぜか悪い目つきがさらに吊り上がった。
「貴様、とにかく道を空けろ! でないと俺様の問答無用調停装置が――」
「って――コミクロン!?」
黒ずくめが驚愕し、彼の名を絶叫する。
どうやらコミクロンに原因があるようだが――
(――おい、待て)
ヘイズは違和感に気づいた。まだこちらはコミクロンの名前を口にしていない。
ヘイズとコミクロンは最初期の頃から組んでいるが、この目の前の男に遭遇したことはない。
ならば、この黒ずくめは――
317
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:36:15 ID:6AH3Zsjo
「むう。貴様、何故この世紀の大天才の名を――ああ、俺が天才だからか」
「やっぱりコミクロンか。いや、俺――僕だ! キリランシェロだ!」
「……なんだと? キリランシェロ? 嘘を付け、リストには載ってなかったぞ」
「いまはオーフェンって名乗ってるんだよ――ていうか、クソ。こんなのありなのか?」
「つまり――」
ヘイズは会話を遮った。時間が惜しい。
「あんたはコミクロンと同郷の――魔術士か? 証明できるものは?」
「<牙の塔>、チャイルドマン教室で一緒に学んだ。チャイルドマンはキエサルヒマ最強の黒魔術士だ。
ついでに、これがその証明だ」
黒ずくめが銀色を投げてくる。ナイフを警戒したが、どうやらそれはペンダントらしい。
コミクロンがキャッチし、裏側を確認する。
「コミクロン?」
「……確かに、キリランシェロのだ。言ってることも正しいが……」
むむ、と唸るコミクロン。時間の経過に苛立ちを隠しきれなくなってきた火乃香。
――パイフウと別れてから約一分。命と引き替えの足止めも、そろそろ限界だろうとヘイズは踏んでいた。
だがコミクロンと同郷だというこの黒魔術士の協力が得られれば。
事態を好転――とまでは行かなくても、破滅を先延ばしくらいは出来るかも知れない。
「キリランシェロ――だったか? 急いでいるようだったが、ここから先には進めない。
凄腕のマーダー二人がこっちを追跡している。誰彼構わず殺しまる最悪の奴らだ。だから俺たちと――」
「――悪いが組んで逃げるっていうのはなしだ。それよりも、くそっ。誰彼構わずだと? 最悪じゃねえか!」
「アンタは何しにここへ? 目的があるんなら協力できるとは思わないか?」
相手の返答に失望を覚えながらも、ヘイズは根気強く尋ねた。
このまま逃げ続けて僅かな確率にかけるか、あまりレートの良くない博打にかけるか。
確率としては五分五分だろう。もっとも、それもこの黒魔術士の目的次第だが。
「……この近くで零時に仲間と待ち合わせをしていたんだが、付近にマーダーの痕跡を見つけて戻ってきたんだ。
いまから一時間くらい前に待ち合わせ場所に着いた。そしたらついさっき爆音と叫び声みたいなのが聞こえた。
仲間が被害にあったのかもと思って見に行こうとしたら、いまここであんたらに会ったわけだ」
一息でそう言い切ると、オーフェンは急にあれ? といって辺りを見渡した。
「そういやあの人虫、どこにいきやがった? さっきまでその辺にいたんだが」
「連れがいるのか?」
「いや、きっぱりと連れってほどじゃないんだが、そいつの知り合いがいたらしくてな。
話を総合すると、どうもアンタ達のいってるマーダーがそうみたいだが――」
「――待て。敵の知り合いがいるのか?」
ヘイズははっとして、オーフェンに詰め寄った。
オーフェンは肩をすくめるような動作をすると、頷いた。
「ああ。つっても人畜無害……いやまあ、とにかく物理的な攻撃力はない奴だが」
「んなこたどうでもいい!」
急に声を荒げるヘイズ。その変貌に、残りの三人が絶句する。
ヘイズ自身も驚いていた。自分のことなのに、そうする理由がよく分からない。
だが、胸中に怒りはなかった。あえてカテゴライズするとすれば、それは――
「そいつはどこにいる!? いや、アンタでもいい。敵について何か聞かなかったか!?」
「ちょっと、ヘイズ――」
「おい、ヴァーミリオン?」
火乃香とコミクロンの問いにも、ヘイズは答えない。
318
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:37:09 ID:6AH3Zsjo
オーフェンはしばらく考えるように虚空を見やっていた。記憶を辿る。
待ち合わせ場所で待っている間、スィリーはいつものように人生について意味のない見解を垂れ流していた。
だが巨大な咆吼が響いた時、それにスィリーは反応した。ただし、やはりいつもの軽い空虚な口調で。
『ぬう。あれはまさしく小娘魔神の雄叫び』
『小娘?』
『小娘を知らんのか? 増長し、すぐに泣き、さらに喧しく、俺様を拉致監禁しようとする残酷な生き物だが』
『……さっきいってた奴か。そいつが……近くにいる? あの叫び声はそいつのか?』
『あんな声で叫ぶのは小娘とはいわん気がする。絶対ナイフとか舐め回してるし、無駄にマッチョそうだ。
しかしまああれだな。無抵抗飛行路に干渉できる精霊が解放されたとしたら、俺も安全じゃねえしな。
逃げていいか?』
『危険なのか!?』
『お前さんには魔神のことを話した気もするが。
つっても地べたを這うしかできない哀れな生き物に期待するのも酷だあな。
とはいえ長老は言っていた。水晶眼に掴まりたくなかったら人間には近づくな、と。
まあ実際のところ近づいて水晶眼に掴まる可能性は皆無なわけだが、死んじまう可能性があるというのは洒落にならん。
――っておい黒ずくめ、急に走ってどこにいく?』
リピートされた人精霊の声に頭痛を再発させながらも、さほど長くはかけずに答える。
「……水晶眼がどうこうだとか、魔神だとか、そういう益体もない話は延々と聞いた」
「水晶眼? 魔神?」
「さあな。意味までは知らねえよ。というより、あの人虫の言うことに意味があるのかどうか――」
かぶりを振りながら、オーフェンの言葉の後半は呻き声になっていた。
だが、ヘイズはそれを聞いていない。I−ブレインが再び高速で演算を開始している。
そうして、ようやく“答え”がでる
(――繋がった)
あと少しが、繋がった。
情報が足りなかった部分に、その黒魔術士が何の気なしに呟いた単語がぴたりと当てはまる。
偶然にも。
「くっ――はははははは!」
「ちょ、ヘイズ!?」
「ヴァーミリオン!?」
壊れたように笑い出したヘイズに、火乃香とコミクロンが絶句する。
それでも笑いは止まらない。ひたすらに馬鹿馬鹿しい。こんな偶然は彼の高度演算機能ですら算出できない。
だからこそ、あの常識外なマーダー達に打ち勝てる。
「――あるぞ」
「……え?」
ぴたりと笑いを収め、唐突に冷静な呟きを発したヘイズ。
それにきょとんとする二人と黒ずくめ――確かオーフェンだかキリランシェロだかと言ったか。
彼らを見渡しながら、ヘイズは紡いだ。反撃の言葉を。
「この戦いに勝つ方法だ。俺たちは勝ち残れる」
319
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:38:25 ID:6AH3Zsjo
◇◇◇
タリスマンの力で炎の翼を増幅。飛翔し、目標を捉えるまでに一分と掛からない。
だが、シャナはこのまま突撃することを得策ではないと判断する。
吸血鬼は夜に生きる生物だ。いまのシャナは、暗くて視界に困るということはない。
その超視覚が、敵の奇妙な動作を見破っていた。
十メートル四方ほどに木が伐採され、平地となったその中心に顔までは見えないが三つの人影がある。
影の数は逃走前と同じ。僅かに危惧していた分散して逃げられるということはなかったらしい。
(たぶん、待ち伏せ)
シャナは決して自分の力を過信してはいない。
そこに油断はない。なぜならば、彼女には果たすべき目標があるからだ。
敵を、殺す。自己保存の為ではなく、他者の生存の為に殺す。
殺さなければいけない。その義務のために、彼女に失敗は許されない。
故に、彼女に油断はない。
敵もまさかこの局面ではったりはあるまい。待ち構えているということは、こちらを打ち破る自信があるということ。
おそらくはあの急造の陣地も、何かを狙ってのことなのだろう。
(なら、こっちもそれを利用する)
フリウはシャナ。シャナはフリウ。
この短時間での戦闘で、彼女たちはお互いの癖や性質を完全に把握し始めていた。
歪んだ心の合致は、それほどまでに強い。
「真上から仕掛ける。障害物がないから、おまえの破壊精霊を最大射程で使える」
「分かった」
フリウが答える。
彼女の使う破壊精霊はあくまで虚像。ただの投影ゆえに、精霊は彼女からそれほど離れられない。
かつてリス・オニキスニに師事する前。生涯で二度目の解放をした時に、彼女は精霊に引きずられていた。
先程のパイフウとの戦いで、すでに彼女たちは障害物の多いところは不利だと悟っている。
待ち伏せされているのだったら、接近戦もそれほど安全ではない。
――ならば一番の有効策は、最遠距離から最大火力を叩き込むことだ。
「上空に到達したら、翼のブーストを解いておまえに回す。一撃で決めて」
言い放つより速く、シャナは急上昇を開始する。
フリウ・ハリスコーは念糸を紡ぎ始めた。水晶眼に接続し、開門式を唱えるタイミングを計る。
ふと、フリウはシャナを右目で盗み見た。
抱えられているため、接している部分からは人の温もりを感じる。だが。
(……あたしは、この人と同じ)
この温もりは他人の温もりではない。
自分の温もりならば、信用できない。それは錯覚かも知れない。
かつてフリウ・ハリスコーは未知を下した。
信じるに足る、確たる物。それを問われ、フリウ・ハリスコーはひとの繋がりを示した。
証拠などない。だが信じられるもの。
ひとは独りでは生きられない。だが、ふたりならきっと信じられる。
シャナにはいる。多くを失ったが、それでもシャナは己が信じられる者の為に戦っている。
フリウにはいない。全てを失い、フリウ・ハリスコーは孤独だった。
(だから、あたしは何も信じられない)
気配がした。気のせいかも知れない。だがどちらも似たようなものだ。その本質は果たされるであろう未来にある。
精霊アマワ。フリウはぼんやりとその名前を繰り返した。
黒幕はきっとこいつだろう――シャナから聞いた時、フリウは確信していた。
アマワはいつも奪っていく。そしていまのフリウにそれを止める術はない。
(サリオン……アイゼン、ラズ、マリオ、マデュー、マーカス、ミズー・ビアンカ……)
もう会えない彼らの名前。そこにフリウはいくつか名を付け加えた。チャッピー、要、潤、アイザック、ミリア。
失ったものは、取り返せない。この異界に来て、フリウ・ハリスコーはすべてを失った。
信じられない……ひとりであるかぎり何も信じられない……
(だから、全部壊そう)
暗い決意と共に、知らずの内俯いていた顔をあげる。と。
320
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:39:18 ID:6AH3Zsjo
「よお」
「……」
そこには見覚えのある顔があった。
いや、顔というには語弊があるか。こちらから十センチほどしか離れていないのに、その全身象が視界に収まる。
最初に浮かんだ感情は、懐かしさというよりは単純な疑問だった。
「……スィリー? なんであんたここにいるのよ」
「さあなぁ。高度すぎて言っても小娘には理解できないかもしれんし」
羽があるというのに、相変わらず人精霊はそれを無視した姿勢で飛行していた。寸分違わず、こちらと同じ速度で。
その理不尽さ、意味の無さは相変わらずだ。
そして相変わらずなものだから、やはりかつてのように無駄な話を展開する。
「しっかしまあ、随分な挨拶だぁな。
俺を置いてった黒ずくめを追いかけてたら、何やら森林破壊活動に勤しんでる小娘を見つけてわざわざ来てやったのに。
まあ小娘だからな。ああ小娘ならしょうがないな」
うんうんとスィリーは勝手に納得すると、だがすぐに顔をしかめた。
ようやく周囲の状況に気づいたとでもいうように辺りを見渡し、言ってくる。
「ぬう。しかし小娘も飛べるようになっていたとは小癪千万。
こうして制空権まで奪われて、俺は西へ東への根無し草。まあもともと飛んでるのに根っこも何もないが」
以前と変わらず、何の益体もないことを言う人精霊は、しかしある一点で視線を止めた。
その視線を辿ろうとし、全く辿れないことで理解する。スィリーは念糸の繋がれた水晶眼を注視していた。
「……制空権の徹底的剥奪か? いや、答えんでいい。ところで俺帰ってもいいか?」
「あ――」
その言葉に。
無意味なはずの人精霊の言葉に反応するように、フリウは反射的に念糸を解こうとしていた。
――その刹那。
きゅぼうっ、というゴム地を指で擦るような音と共に、火球がスィリーを飲み込んだ。
火は一瞬で消えるが、その時にはスィリーも焼失している。
「……余計なことは考えなくていい」
耳元で、そんな声が響く。
シャナは気づいたのだろう。繋がっていた同一の存在が、同一でなくなろうとした瞬間を。
歪みで練り上げられた彼女たちの絆。強い絆。強固な絆。全てを殺害して破壊する絆。
それはあらゆる意味で、この世の如何なる物質をも破壊できる破壊精霊と同じだ。
それはもしかしたら、一番弱い。
手軽く簡単に信じることの出来る手段。だが、最強ではない。
怒りは湧かなかった。フリウは再び俯いて、念糸を繋ぎ直す。
(……あたしは、これで本当に全部なくしちゃった)
気づけば上昇は終わり、下降に転じている。
フリウ・ハリスコーは開門式を唱え始めた。シャナも翼のブーストを解除し、増幅の呪文を唱える。
再び彼女たちは同一となった。完全に息のあった動作で、その他余分なものは一切無い。
それでもフリウは自分の頬を撫でてみる。
しかし一筋も濡れていないことだけを確認すると、彼女は再び狂気に没した。
321
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:40:26 ID:6AH3Zsjo
◇◇◇
「真上から来たか」
火乃香の努力によって突貫工事で造り上げた舞台。その中心に根付いている切り株の上でヘイズは待ち構えていた。
<I−ブレイン。動作効率を100%に再設定>
抵効率で直前までひたすら演算させていたI−ブレインを一気に引き上げる。
初撃は自分が担う。失敗すれば全滅だ。
それは許されない。だからこうして周到なまでの用意を行った。
夜の静寂は空気分子の運動予測演算を容易くさせた。
舞台を整えれば、木の枝や葉がぶつかり合うことで空気分子の運動を不規則にさせることもない。
パイフウがいなければ、こんな大がかりな仕掛けは用意出来なかった。
だから失敗は許されない。支払ったものを無駄には出来ない。
ヘイズは上空を睨みやる。
木を切り倒したのは、演算の補助ともうひとつ理由があった。視界の確保。
こちらが相手を確認でき、さらには相手からもこちらを確認してくれなければならない。
双方がお互いを認識していると確認することで、奇襲という可能性は消える。
(そうすると、互いのアドバンテージは待ち伏せの罠と、突貫の勢い)
こちらの罠が相手を打ち破るか。それとも相手の圧倒的戦力がこちらを打ち破るか。
――決まっている。
(俺たちが、勝つ)
敵は炎の翼で姿勢を制御しながら降下してくる。
降りてくるのは小娘ふたりだが、その脅威は隕石が降ってくるのと然したる違いはない。
未だ、翼の光は豆粒のように遠い。だから錯覚だろうが、ヘイズには彼女たちの顔が見えるような気がした。
白い眼球を、こちらに向けた姿が。
(視線か)
巨人の瞬間移動の謎は、僅かに情報が足りずに解けなかった。
だが、オーフェンが洩らした単語。眼という単語。それがヒントになった。
銀の巨人は、常に少女の目の前にいた。目の前にしかいなかった。
これならば全ての仮定に説明が付く。少女が自分を見ないかぎり、自分が攻撃の対象になることはない。
おそらくは眼球が向いている方向にしかあの巨人は顕現も出来ないし、進むことも出来ないのだろう。
恐ろしいほどの偶然が、最後の一押しとなった。
『俺の先生曰く、起こっちまった偶然を否定するのは愚か者だってな』
そういえば全ての事情を話したとき、あの黒魔術士はそんなことを言っていたか。
(……腑に落ちないが、確かに疑ってもしょうがない)
この反撃は全てが笑ってしまうほどの偶然によって成り立っていた。
頭上の点が大きくなる。重力に引かれ加速しながら、破壊の使徒達が舞い降りてくる。
だが、ヘイズはその降下を完全に予測演算していた。
速度、炎の翼による空気の揺らぎ、そして取るであろう最適戦術。
ありとあらゆる要因を予測し尽し、仮定の未来を見ることは容易い。
なぜならば、彼はヴァーミリオン・CD・ヘイズであるからだ。
(お前達の判断は正しい。あの時点での急襲は、本来俺たちにとってチェックメイトだった。
ただ、誰も予測できないクソみたいな偶然が全てを変えた)
――彼らは知る由もないが、それは偶然ではなく必然だった。
この島の『偶然』は全てアマワの物だ。契約者たるアマワ。契約はあらゆる偶然をもってして存続される。
アマワが誰かに味方することはない。ただ、解答を提示できそうな者を存続させるだけ。
いまならば、それはシャナとフリウだった。全て破壊し殺戮の限りを尽し、それでも残るものが在ればそれは心だ。
故に、本来ならばヘイズ達を偶然は助けず、逆に破滅させる。
ヘイズ達はオーフェンと偶然にすれ違っただろうし、あるいは偶然に最強の戦闘狂と再会する可能性もあった。
だが、アマワはその時余裕がなかった。
ただひとり――最強を自ら証明する者が居たために。実在する心があったために。
シャナとフリウが近づく。水晶眼の最大射程。それはヘイズの射程より、僅かに長い。
コミクロンの魔術ならば迎撃も出来ただろうが、怪物となったシャナに防がれるのは自明の理だ。
故に、コミクロンは動かない。ただ、ヘイズだけが一直線に敵を見据えている。
「此に更なる魔力を与えよ!」
「――開門よ、成れ!」
破滅が宣告される。
音もなく、完全な破壊精霊ウルトプライドがヘイズの傍らに現れる。
破壊精霊は最寄りの物質から破壊する。この場合は、平地の中心に『ひとり』佇むヘイズから。
だが、誰も動じない。
ウルトプライドが拳を振り上げる。それでも誰も叫ばない。
322
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:41:24 ID:6AH3Zsjo
(敗因その一。俺はすでに、その巨人を一度見ている)
故に、予測演算のための情報には困らない。
拳が振り下ろされ、着弾して、ヘイズがこの世から消滅する瞬間。
その死までの予定時刻を、ヘイズは完全に予測しきっていた。
<予測演算成功。『破砕の領域』展開準備完了>
空を飛ぶ彼女達。上空から落ちてくるのならば、それはこちらに近づいてくるということだ。
銀の軌跡がヘイズを捉える直前――その僅か寸前に、射程に届く。
ヘイズは指を鳴らした。パチンという小さな音が、だが決定的に静寂を揺るがす。
指先から生じた空気分子の変動が広がっていく。それは瞬時に夜空を駆け昇り、巨大な論理回路を展開する――!
破壊を司る巨人が、消えた。
「っ!?」
彼の『破砕の領域』では、巨人に致命傷を与えることは出来ない。無論、上空の彼女たちにもだ。
だが、ひとつだけ例外があった。
彼女たちの姿勢を制御していた物。破壊精霊を宿すフリウが下を向いているために必要な物。
炎の翼が、情報解体される。
咄嗟のことだ。スカイダイビングの経験者だって即座に対応することは出来ない。そしてフリウにその経験はない。
体勢が落ち葉のようにクルクルと回転し、破壊精霊の照準が定まらない!
「くっ――!」
シャナはフリウを後ろから抱きかかえているため、破壊の視界に入ることはない。
それでもこのままでは激突死は免れない。
シャナは意識を集中させた。再び翼を作り、姿勢を制御――
(それも、予測済みだっ!)
だが前の一撃の後、ヘイズはすでに次の演算に移っている。
<――『破砕の領域』展開準備完了>
ヘイズがもう一度指を鳴らし、翼を散らす。
まるで神話にある蝋の羽の英雄のように、彼女たちの落下は止まらない。
シャナは翼を展開し続けるのは難しいと判断した。よって、その選択肢を排除。
地上ギリギリで一瞬だけ翼を構築し姿勢制御、吸血鬼の身体能力を使い、落下の衝撃とフリウの体重を支える。
フリウは目が回っていたが、それでも吐き気は堪えていた。歪む視界にヘイズを捉える。
(壊れろ!)
念じる。破壊精霊が狙いを取り戻し、再びヘイズを狙う。
ヘイズに避ける手段は、無い。
だが、やはりヘイズは動じない。避けるでもなく、じっと精霊の拳を見据えている。
(敗因その二。俺たちの方が手足の数は多い)
ヘイズに避ける手段はない。だからヘイズの代わりに、未来を書き換える者が居た。
ガサリという木の葉が擦れる音。
倒木の、葉っぱが生い茂ったたくさんの枝。そこからコミクロンの上半身が突きでている。
敵の上昇を見て取った瞬間、すぐにヘイズ以外の『二人』はその中に隠れたのだ。
コミクロンは頭の中で編んでいた、巨大な魔術構成を解き放つ。
ヘイズの論理回路と相克し、黒魔術は弱体化する。
だがそれも、構成が酷く単純で見習いでも発言できるようなものなら支障はない。
しかしシャナの反応も速い。瞬時にコミクロンとの間に夜傘を展開し、防御の体勢を取る。
だが、それも関係ない。
なぜならば、それを打ち破るのは破壊の王なのだから。
323
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:42:56 ID:6AH3Zsjo
「コンビネーション0−2−8!」
フリウはその破壊の左目の中に、ヘイズを映していた。
だが、その姿が変化する。
(……誰?)
見覚えがあるようで、ないようで、はっきりしない。
だが、すぐに気づく。見覚えはある。だが、それを生の視線で見ることは無かった。
フリウ・ハリスコー。絶対破壊者が己の視界の中にいる。
(どうして――!?)
コミクロンの使った魔術は光線の屈折。
百八十度屈折し、反射となった視線はフリウ自身を捉えていた。
破壊の王が顕現する。フリウの前に、初めてその破壊意思を主に向ける。
「――!」
慌てて閉門式を唱え、精霊を封印する。
フリウと繋がっているシャナも、視界の変化を感じていた。だが、戸惑いはない。
贄殿遮那を一振りする。瞬時に平地は炎に満たされた。
通常の炎ならば魔術に干渉は出来ないだろう。だが、シャナの炎は普通の炎ではない。
コミクロンの魔術の構成が焼き尽くされ、さらに拡大してヘイズとコミクロンを狙う。だが。
「我退けるじゃじゃ馬の舞い!」
だがフレイムヘイズの炎が魔術に干渉できるのなら、魔術もまたその炎に干渉できる。
パン――という乾いた音がして、炎が鎮火される。
「新手か!」
シャナとフリウが声の方を見やると、やはりコミクロンと同じように隠れていたオーフェンの姿があった。
魔術は防御と攻撃、そのふたつを同時に行えない。
その欠点を補うため、一方が防御を、そしてもう一方が攻撃を司る。
オーフェンの世界での強力無比な戦闘集団。宮廷魔術士<十三使徒>の常套手段。
だがその戦術は、彼らの異能が連発できないということを暗示していた。
シャナはそれをすぐに看破し、フリウと共に次の行動に移っていた。予想外。だが、まだ戦力はこちらの方が上だ。
(わたしがあの白衣を殺す。おまえはもう一度精霊を)
(わかった)
言葉すら使わず、意思の疎通が行われる。故に彼女たちの行動は最速。
「通るならばその道。開くのならばその扉――」
フリウの開門式を背に、シャナが駆け出す。左手に贄殿遮那。右手に神鉄如意。
だが、一歩目を踏み出す時にシャナは違和感を覚えた。
黒ずくめの出現は予想外。ならば。
(もうひとりは――どこだ!?)
気付き、コミクロンへと向かう速度を上げる。
その時、声が聞こえた。
「敗因その三――」
もはや空気分子の振動のことを考えなくてもよいヘイズが呟いている。
炎の余波で『破砕の領域』は使えない。だが。
「――うちのお姫様を怒らせたことだ」
鮮血が舞う。
背中を袈裟に斬られ、シャナはその場に崩れ落ちた
倒れ臥す最中、見ると虚空から騎士剣と、そして無慈悲にこちらを見下ろす少女の顔が浮いている。
火乃香だった。形見の迷彩外套を身に纏い、敵が着地した瞬間から気配を絶って忍び寄っていたのだ。
奇襲ならば、身体能力の差を零に出来る。
「――先生の、仇だっ!」
そう叫ぶ彼女の顔は、泣いているようにも見えた。
居合いの勢いは、体を両断するものだっただろう。
だが寸前に気付いたシャナは、何とか回避行動を取れていた。
傷は深いが生きている。そして生きているなら――
「――殺す!」
具象化した炎の拳が、火乃香を打ちすえようと振るわれる。
324
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:43:56 ID:6AH3Zsjo
だが、そこに標的はいなかった。
「――え?」
最初から、火乃香は二撃目を振るうつもりはなかったのだ。
すでに彼女は引き始めている――『射線上』から。
いつの間にか、コミクロンとオーフェンはヘイズの元に駆け寄っていた。火乃香も大きく迂回しながら、それに合流する。
あらかじめ計算され尽されて立案された作戦。だが、この短時間の内に――?
(不味い――!)
コミクロンとオーフェンは、すでに次の魔術構成を展開していた。
傷ついた体を無理に動かし、シャナが無防備なフリウの前に立つ。防御用に夜傘を再び展開。
「敗因その四。偶然この場にいた魔術士は、コミクロンより強力だった」
「ふっ、この天才の人脈だっ!」
騒ぐ二人を横目に――
オーフェンは力強く、真っ直ぐに指さした。眼前の敵を。自分と探し人を危険にさらす存在を。
大規模な構成を編み上げる。魔力は弱められたが、訓練による自制は損なわれいない。
だが、本来の規模でなければ威力が足りない。
その威力をコミクロンが補い、構成を編む一弾指を火乃香が稼ぐ。
「我が左手に――」
「コンビネーション――」
だが呪文を唱え始めた瞬間、フリウが開門式の末尾を唱えた。
「開門よ、成れ!」
破壊精霊が顕現する。不完全だが、それでも人を殺すには十分な力を持っている。
フリウはこの瞬間を待っていたのだ。視線をねじ曲げられる術を使う二人が動けなくなる瞬間を。
視界を得た水晶眼に、四人を映す。
ウルトプライドは咆吼をあげ、目の前の一番手近な物質を殴り飛ばした。
剣が、舞う。
「――!?」
弾き飛ばしたのは、火乃香が投擲した騎士剣だった。
それでも破壊精霊は突進するだろう。そして敵を破壊するだろう。
――だが、それは失われた未来の出来事だ。
膨大な演算の先に、小さな勝利を掴み取る。
全てを予測し、計算し尽したのはヴァーミリオン・CD・ヘイズ。
――それしかすることのできない、欠陥品の人食い鳩である。
325
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:45:56 ID:6AH3Zsjo
「――冥府の王!」
魔術が発動する。キエサルヒマ大陸でも最高峰の魔術師達が吼える。
崩壊の因子。それは破壊の王の胸部に着弾し、着弾した部分を崩壊させ、大爆発を引き起こした。
物質崩壊が破壊精霊を消し飛ばし、夜傘に傷を付ける。
それでもアラストールの皮膜は威力の大部分を削いだ。
――そして、次の攻撃は防げない!
「――5−3−8!」
コミクロンの不慣れな空間爆砕の構成は、それでも傷ついたシャナとフリウに逃げる暇を与えなかった。
空間が踊る衝撃に夜傘が完全に引きちぎられ、その主と背後の絶対者を吹き飛ばす。
――そして荒れ狂う衝撃が止むと、そこには何も残ってはいなかった。
勝敗は、決したのだ。
「……やった、のか」
ヘイズはその場に座り込んだ。I−ブレインを酷使したため、酷く頭痛がする。
誘われるように、コミクロンとオーフェンも腰を下ろした。巨大な魔術の使用は、容赦なく体力を奪う。
「――肝が冷えたぞヴァーミリオン。この天才も、二度くらいもう駄目だと思った」
コミクロンはそんなことを呟きながら、蒼白な顔を両の手で覆っていた。
オーフェンは呻く体力も惜しいのか、ただ荒く息を吐くだけだ。
黒魔術の最終形態の一、物質の崩壊。その代償は大きい。
だが、立ったままの火乃香。聞いたところによれば、彼女は大切な人を失ったばかりだという。
オーフェンにはクリーオウがいる。火乃香にはもういない。
彼女が支払ってしまった代償は、もう返ってこない。
だがその横顔を見て、オーフェンの胸中にはある言葉が浮かんだ。
(それでも絶望はしていない、か。この島にも、まだ希望は残っている)
決意を秘めた少女の表情に、思わず苦笑いを浮かべる。
――この島に神はいない。
人は疑心暗鬼に殺し合う。
だが。
「だが、絶望しない。してたまるかってんだ」
冷えた夜に、荒く白い息が立ち昇る。
それを見ながら、オーフェンは苦笑していた。
326
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:48:30 ID:6AH3Zsjo
◇◇◇
目を開けると、そこは森の中だった。
それは当たり前だろう。吹き飛ばされたのだから、背後の森の中にいるのは当然だ。
――だが、それを見ることが出来るのは不自然だ。
(――生きている? 何で?)
フリウは己の生存に驚愕していた。
あの瞬間、死ぬのは当然だと思った。破壊精霊を失った眼球の痛みを感じた瞬間。
そして目前で同一視していたシャナの体が消失した時、ならば自分も死ぬのだと思っていた。
だが、生きている。
(……そうか)
破壊精霊は、死ぬ間際まで破壊を止めない。
爆破の瞬間に、拳を振り下ろしていたのだろう。それが威力を相殺し、尚かつシャナに守られる形になったフリウを救った。
ウルトプライドの真の性質を見抜けなかった、ヘイズの冒した唯一の計算違い。
(なら、壊さなきゃ)
破壊精霊は使えない。虚像とはいえ、それは破壊精霊の力そのものだ。しばらくは回復しない。
体は動かない。両腕が折れている。罅の入っていた右腕はともかく、左腕までが折れているのは――
言葉を思い出す。シャナとフリウが同調した時の言葉を。
『もしもわたしが死んだ時、絶対におまえを道連れにしてやる』
(そうか、あの時――)
夜傘の皮膜が破れた瞬間、シャナはフリウを神鉄如意で打っていた。誓いを果たすために。
だが凶器を振り切る時間はなく、左腕を折るに留まったたのだろう。
(……絶望していたからかな)
防御が破れた瞬間、彼女たちは死を予測し、それに縛られた。
もしかしたら、荒れ狂う衝撃の渦の中でも生き延びられたかも知れない。
たとえばフリウが念糸を使えば。たとえばシャナが贄殿遮那を用いて全力で防御していれば。
……絶望していなければ。
それが――そんなものが、勝敗を分けたのかも知れない。
(皮肉なもんだよね。あの人は仲間の為に敵を殺さなきゃいけなかった。
あたしは理由もなく壊すだけ。なのに生き残ったのはあたし)
ため息をついて、俯く。
それでもフリウは壊すだろう。半身を失っただけでやることに変わりはない。全て壊す。
ひとりでは何も信じることが出来ない。だから壊してしまってもいい。
集中し、念糸を紡ぐ。
念糸に五感は必要ない。相手を目視する必要もない。
あらゆる制限を突破し、念糸は相手に触れられる。人の思いのように。
フリウは顔をあげた。茂みの向こう、自分を殺しかけた四人組全員に、同時に念糸を繋ぐ。
327
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:49:19 ID:6AH3Zsjo
「よお」
そして、既視感。
「……え」
目前に、死んだはずの人精霊が漂っている。多少焦げてはいたが。
「な、なんであんた生きてんのよ――」
「小娘はあれだな。やはり修行が足らん。飲んだくれの師匠は見つかったか?
まあ咄嗟に無抵抗飛行路に逃げ込んだんだが、最近は突然体が爆発するらしい。これはメモしとかねっと」
彼女の疑問を無造作に一蹴しながらスィリーは自分の体を探るが、そんな服装で何かを隠せるわけもない。
人精霊はこの世界でも変わっていない。スィリーに掛かれば、全てが無意味で馬鹿馬鹿しくなる。
(……ああ、そうか)
気付いて、フリウは笑った。
「む。小娘。人を嘲る奴は嘲られているのだと気付くべきだ。
ところで小娘はメモ持ってっか?」
「持ってないよ、そんなの」
「分かってはいた。小娘は所詮、役立たずだと」
「あんたに――」
言われたくない。という台詞を喉の奥に飲み込む。
「……ううん。ありがとう、スィリー」
「メモは無いぞ。まあ感謝は受け取っておくが」
憮然としている人精霊。とても懐かしい姿。
辺りは硝化の森ではない。かつての水溶ける場所ではない。取り戻したのは花ではない。
それでもフリウ・ハリスコーは取り戻した。
(信じられる……あたしは信じられる。言葉を全部覚えてる)
ミズー・ビアンカ。ベスポルト・シックルド。リス・オニキス。
チャッピー。要。潤。アイザック。ミリア。
彼らの言葉を覚えてる。彼女の人生に携わった者達の、すべての言葉を覚えてる。
彼らの生命は終わってしまった。自分が終わらしてしまったものもある。
だけど、それは無くなってなんかいない。
忘れていた。だけど、取り戻した。
(あたしはもう大丈夫だ。アマワ。お前の用意した絶望を退けられる)
まだ言葉を聞ける。元の世界に戻り、気の良いハンター達と言葉を交わせる。
そう信じることが出来る。
もうひとりではないのだから。
「それで、これからどうすんだ小娘?」
「そうだね、どうしようか」
彼女の呟きは、もう孤独に満ちてはいなかった。
腕は動かないが、頬が濡れているのを自覚する。
時刻は零時丁度。
放送が、始まる。
【023 パイフウ 死亡 094 シャナ 死亡】
【残り 45人】
328
:
最強証明 後編
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:51:14 ID:6AH3Zsjo
【D-5/森/2日目・00:00】
【奇跡ではない、だが同じもの】
【ヴァーミリオン・CD・ヘイズ】
[状態]:疲労。 軽傷。
[装備]:なし
[道具]:有機コード、デイパック(支給品一式・パン6食分・水1100ml)
船長室で見つけた積み荷の目録
[思考]:放送を聞く。残りの大集団への接触も考慮しつつ、これからどうするか考える。
[備考]:刻印の性能に気付いています。ダナティアの放送を妄信していない。
火乃香がアンテナになって『物語』を発症しました。
【火乃香】
[状態]:やや消耗。軽傷。
[装備]:騎士剣・陰 (損傷不明)
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1400ml)
[思考]:放送を聞く。残りの大集団への接触も考慮しつつ、これからどうするのか考える。絶望しない
[備考]:『物語』を発症しました。
【コミクロン】
[状態]:疲労。軽傷。
[装備]:エドゲイン君
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1000ml) 未完成の刻印解除構成式(頭の中)
刻印解除構成式のメモ数枚
[思考]:放送を聞く。残りの大集団への接触も考慮しつつ、これからどうするのか考える。
[備考]:かなりの血で染まった白衣を着ています。
火乃香がアンテナになって『物語』を発症しました。
『キリランシェロ』について、多少疑問を持っています。
【オーフェン】
[状態]:疲労。身体のあちこちに切り傷。
[装備]:牙の塔の紋章×2
[道具]:デイパック(支給品一式・パン4食分・水1000ml)
[思考]:クリーオウの捜索。ゲームからの脱出。放送を聞く。絶望しない。
0時にE-5小屋に移動。
(禁止エリアになっていた場合はC-5石段前、それもだめならB-5石段終点)
【人精霊と小娘】
【フリウ・ハリスコー】
[状態]:全身血塗れ。両腕骨折。全身打撲。だが絶望しない。
[装備]:水晶眼(眼帯なし)、右腕と胸部に包帯 スィリー
[道具]:デイパック(支給品一式・パン5食分・水1500mm)、缶詰などの食糧
[思考]:放送を聞く。ゲームからの脱出。
[備考]:アマワの存在を知覚しました。アマワが黒幕だと思っています。
ウルトプライドが再生するまで約半日かかります。
【追記】
【D-5/森】の一部分の木が伐採されています。
【D-5/森】に装備品『神鉄如意』と『贄殿遮那』が半ば埋もれています。
※神鉄如意の損傷は不明。次の書き手さんにまかせます
※シャナの装備していたタリスマンは粉々になりました。
※火乃香の装備している迷彩外套は起動しますが、
血が付着している部分と損傷している部分は透明化しないため、明るい屋内等だと視認される可能性があります。
329
:
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/07(月) 12:56:23 ID:6AH3Zsjo
どうも本スレに書き込めないので、こっちに前編後編を記した修正版を投下します。
wiki編集お疲れ様です。なお、このレスを見た方は本スレにこの旨を書き込んでくれるとうれしいです。
330
:
◆CC0Zm79P5c
:2007/05/10(木) 15:02:39 ID:6AH3Zsjo
>>本スレ715氏
すいません。お手数かけます。
それでは修正スレ
>>321
の
>ヘイズ達はオーフェンと偶然にすれ違っただろうし、あるいは偶然に最強の戦闘狂と再会する可能性もあった。
>だが、アマワはその時余裕がなかった。
>ただひとり――最強を自ら証明する者が居たために。実在する心があったために。
で切ってください。前中後編構成ということでお願いします。
で、やっぱり本スレに書き込めないのでこれを見た方、本スレにこの旨を書き込んでくれるようお願いします
331
:
名も無きヶ原の食鬼少女 ◇MXjjRBLcoQ
:2007/05/22(火) 20:01:57 ID:SHfj1tFw
修正多くて申し訳ないです。
そんなに時間をかけたつもりはなかったが、城門をぬけて見上げれば空は綺麗に晴れ上がっていた。
月は無い。並びの異なる星星が所在なく輝いて見えた。
を
そんなに時間をかけたつもりはなかったが、城門をぬけて見上げれば空にはすっかり雲が立ち込めていた
時折思い出したかのように、月影が草原に浮かび、そして消えていく。
に
4の解除式を見ながらのカーラのつぶやきを「」から『』に差し替え。
ラストの
このあと 540 大崩壊/ユートピア(美しい国)へと続きます。
を
このあと 541 大崩壊/ディストピア(憎いし苦痛)へと続きます。
に差し替え
332
:
◆CC0Zm79P5c
:2007/12/10(月) 13:41:40 ID:xsdwI8G2
◇◇◇
「どこにいるの……どこに……」
まるでそれこそが魔法の呪文だとでも言うように、天使の少女は繰り返し呟きます。
湖から這い出て、彼女は後ろを振り向きませんでした。
だって、そこには――■くんは居ないから。
だから彼女は歩き続けます。まだ見ぬ方角に。まだ■くんがいるかもしれない方角に。
ぽたり、ぽたり。
彼女の体から滴る水滴に混る、もっと粘着質な音。
曇硝子のような彼女の瞳がぎょろりと動き、首筋から零れる紅い雫を捉えます。
「……ぴるぴるぴるぴぴるぴ〜」
謎の擬音によって修復されるのは、直りきっていなかった首筋の傷。
――天使とは非常識な存在です。
棘バットを振れば真空が発生し、そこから生まれたカマイタチは人体をサイコロ状に切断してしまいます。
霧状になるまで粉砕した肉体を、ただの一声で元通りに生き返らせます。
己の感情ひとつでブリザードを引き起こし、残像が長らく残る速度で移動することもやってのけます。
だから、これは異常なことなのです。
彼女が自分の傷すら治しきれないというのは、とても異常なことなのです。
それは持っているのがエスカリボルグではないからなのか、それとも他の原因があるのか。
彼女のなかで膨らむのは自己に対しての違和感。そして■■■に対する渇望。
――少し前まで、彼女の刻印は不完全ながらもその機能を存続させていました。
ですが、天使としての力を使えば使うほど、その刻印は機能を狂わせて。
そして現在、彼女の刻印はとうとうその効力を失いました。
彼女は再び天使としての、本来の力を取り戻したのです。
そう、刻印が消え去った、その一瞬だけ。
刻印に備えられていた力は三つ。
情報の送信。参加者の能力の制限。そして禁止エリア、あるいは管理側の意思による強制殺害。
ですが、『本来搭載されていた能力』がこれだけだと、どうして言い切ることができるでしょう。
すでに、夜闇の魔王が作成した刻印には人の手が入っているのです。
魔術師ケンプファー。そして今は亡きルルティエ議長バベル。両名の手によって。
故に、歪みは相乗効果を発揮し、本来あった機能を削ります。
備えられていたはずの、第四の機能――それは、参加者の『違和感』を取り除くこと。
盤上にはいくつもの異世界から参加者が集められ、同じ世界の出身でも呼び出された時間が違う場合もあります。
そんな、滅茶苦茶な舞台に整合性をつけるための手段。
ゲームの進行を円滑にするために。殺し合いをスムーズに行わせるために。
ですがその効力はほぼ失われました。
残りかすとして僅かに発揮されたとしても、それは例えば召喚された時期を混乱させる程度になってしまいました。
だけど、三塚井ドクロの場合は違います。
バベルが仕組んだのか、それともただの偶然か。彼女の刻印は、奇跡的にその機能を発揮していたのです。
故に、彼女はちっとも変に思いませんでした。
まるで、すぐ傍に彼がいるかのような、そんな態度をとり続けました。
己の力の減退にも、エスカリボルグがないという以外では、まったく頓着しませんでした。
ですが、刻印が解除された今、その機能は失われました。
そして彼女の場合、それは致命的なことだったのです。
刻印がなくなった後も、彼女は力を使い続けます。
刻印は、すでに彼女から違和感を取り除きません。
ならば、彼女は発症します。天使の憂鬱。個性を、天使にとっては血肉にも等しい己のパーツが希薄になっていく病。
力を使えば使うほど、彼女は全盛期の力を失い、さらに消滅の時は早くなっていきます。
すでに彼女は致命傷を二度、癒しました。剣舞士を遥かに凌駕する力を振るいました。
こうして疲労も感じずに歩いていく。それだけで、彼女は己の力を失います。
だけど、『天使の少女』は探すのです。
消えかけた自分で、自分の個性を。
自分の大切な物を、この島では絶対に出合うことのできない彼を。
――これは彼女が紡ぐ、薄い、薄い、消えかけのオハナシ。
333
:
鳥が空を飛ぶために 状態修正 ◇MXjjRBLcoQ
:2007/12/27(木) 21:03:15 ID:SHfj1tFw
日付変更とクレアの欄に追記
【B-6/森/2日目/00:00】
【灯台組(出張中)】
【ゲルハルト・フォン・バルシュタイン(子爵)】
[状態]:やや疲労/準グロッキー状態(支えがあれば起き上がれる、文字や一部を動かすぐらいならできる)
[装備]:なし
[道具]:なし(荷物はD-8の宿の隣の家に放置)
[思考]:誰も死なない形でこの諍いを治める
アメリアの仲間達に彼女の最期を伝え、形見の品を渡す/祐巳のことが気になる
/盟友を護衛する/同盟を結成してこの『ゲーム』を潰す
[備考]:祐巳がアメリアを殺したことに気づいていません。
会ったことがない盟友候補者たちをあまり信じてはいません。
【風見・千里】
[状態]:風邪/右足に切り傷/あちこちに打撲/表面上は問題ないが精神的に傷がある恐れあり
[装備]:懐中電灯/グロック19(残弾0・予備マガジンなし)/カプセル(ポケットに四錠)
/頑丈な腕時計/クロスのペンダント
[道具]:懐中電灯以外の支給品一式/缶詰四個/ロープ/救急箱/空のタッパー/弾薬セット
[思考]:どうやってこの状況を打開する。
早く体調を回復させたい/BB・ED・子爵と協力/出雲・佐山・千絵の捜索
[備考]:濡れた服は、脱いでしぼってから再び着ています。
EDを敵だとは思っていませんが、仲間だとも思っていません。
【 蒼い殺戮者 (ブルー・ブレイカー)】
[状態]:精神的にやや不安定/少々の弾痕はあるが、今のところ身体機能に異常はない
[装備]: 梳牙 (くしけずるきば)、エンブリオ
[道具]:なし(地図、名簿は記録装置にデータ保存)
[思考]:不明。惰性として風見の味方をしている。
/風見・ED・子爵と協力?/火乃香・パイフウの捜索?
/脱出のために必要な行動は全て行う心積もり?
【B-6/森/2日目/00:00】
【クレア・スタンフィールド】
[状態]:健康。激しい怒り
[装備]:大型ハンティングナイフ(片方に瑕多数、もう片方は比較的まし)x2
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水2000ml)、コミクロンが残したメモ
[思考]:この世界のすべてを破壊し尽くす/目の前の奴らをCDの仲間と誤認
“ホノカ”と“CD”に対する復讐(似た名称は誤認する可能性あり)
シャーネの遺体が朽ちる前に元の世界に帰る。
[備考]:コミクロンが残したメモを、シャーネが書いたものと考えています。
シャーネの遺体は木の下に安置してあります
BBを火星兵器の類と勘違いしています。
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