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本ストーリーの修正版を投下するスレッド
332
:
◆CC0Zm79P5c
:2007/12/10(月) 13:41:40 ID:xsdwI8G2
◇◇◇
「どこにいるの……どこに……」
まるでそれこそが魔法の呪文だとでも言うように、天使の少女は繰り返し呟きます。
湖から這い出て、彼女は後ろを振り向きませんでした。
だって、そこには――■くんは居ないから。
だから彼女は歩き続けます。まだ見ぬ方角に。まだ■くんがいるかもしれない方角に。
ぽたり、ぽたり。
彼女の体から滴る水滴に混る、もっと粘着質な音。
曇硝子のような彼女の瞳がぎょろりと動き、首筋から零れる紅い雫を捉えます。
「……ぴるぴるぴるぴぴるぴ〜」
謎の擬音によって修復されるのは、直りきっていなかった首筋の傷。
――天使とは非常識な存在です。
棘バットを振れば真空が発生し、そこから生まれたカマイタチは人体をサイコロ状に切断してしまいます。
霧状になるまで粉砕した肉体を、ただの一声で元通りに生き返らせます。
己の感情ひとつでブリザードを引き起こし、残像が長らく残る速度で移動することもやってのけます。
だから、これは異常なことなのです。
彼女が自分の傷すら治しきれないというのは、とても異常なことなのです。
それは持っているのがエスカリボルグではないからなのか、それとも他の原因があるのか。
彼女のなかで膨らむのは自己に対しての違和感。そして■■■に対する渇望。
――少し前まで、彼女の刻印は不完全ながらもその機能を存続させていました。
ですが、天使としての力を使えば使うほど、その刻印は機能を狂わせて。
そして現在、彼女の刻印はとうとうその効力を失いました。
彼女は再び天使としての、本来の力を取り戻したのです。
そう、刻印が消え去った、その一瞬だけ。
刻印に備えられていた力は三つ。
情報の送信。参加者の能力の制限。そして禁止エリア、あるいは管理側の意思による強制殺害。
ですが、『本来搭載されていた能力』がこれだけだと、どうして言い切ることができるでしょう。
すでに、夜闇の魔王が作成した刻印には人の手が入っているのです。
魔術師ケンプファー。そして今は亡きルルティエ議長バベル。両名の手によって。
故に、歪みは相乗効果を発揮し、本来あった機能を削ります。
備えられていたはずの、第四の機能――それは、参加者の『違和感』を取り除くこと。
盤上にはいくつもの異世界から参加者が集められ、同じ世界の出身でも呼び出された時間が違う場合もあります。
そんな、滅茶苦茶な舞台に整合性をつけるための手段。
ゲームの進行を円滑にするために。殺し合いをスムーズに行わせるために。
ですがその効力はほぼ失われました。
残りかすとして僅かに発揮されたとしても、それは例えば召喚された時期を混乱させる程度になってしまいました。
だけど、三塚井ドクロの場合は違います。
バベルが仕組んだのか、それともただの偶然か。彼女の刻印は、奇跡的にその機能を発揮していたのです。
故に、彼女はちっとも変に思いませんでした。
まるで、すぐ傍に彼がいるかのような、そんな態度をとり続けました。
己の力の減退にも、エスカリボルグがないという以外では、まったく頓着しませんでした。
ですが、刻印が解除された今、その機能は失われました。
そして彼女の場合、それは致命的なことだったのです。
刻印がなくなった後も、彼女は力を使い続けます。
刻印は、すでに彼女から違和感を取り除きません。
ならば、彼女は発症します。天使の憂鬱。個性を、天使にとっては血肉にも等しい己のパーツが希薄になっていく病。
力を使えば使うほど、彼女は全盛期の力を失い、さらに消滅の時は早くなっていきます。
すでに彼女は致命傷を二度、癒しました。剣舞士を遥かに凌駕する力を振るいました。
こうして疲労も感じずに歩いていく。それだけで、彼女は己の力を失います。
だけど、『天使の少女』は探すのです。
消えかけた自分で、自分の個性を。
自分の大切な物を、この島では絶対に出合うことのできない彼を。
――これは彼女が紡ぐ、薄い、薄い、消えかけのオハナシ。
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