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オリロワ2014 part3

1 名無しさん :2018/01/14(日) 01:05:46 ID:/mu.QANY0
ここは、パロロワテスト板にて、キャラメイクの後投票で決められたオリジナルキャラクターでのバトルロワイアル企画です。
キャラの死亡、流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。

まとめwiki
ttp://www59.atwiki.jp/orirowa2014/pages/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16903/

前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1416153884/

参加者(主要な属性で区分)
0/5【中学生】
●初山実花子/●詩仁恵莉/●裏松双葉/●斎藤輝幸/●尾関裕司
2/10【高校生】
●三条谷錬次郎/●白雲彩華/●馴木沙奈/○新田拳正/○一二三九十九/●夏目若菜/●尾関夏実/●天高星/●麻生時音/●時田刻
0/2【元高校生】
●一ノ瀬空夜/●クロウ
0/3【社会人】
●遠山春奈/●四条薫/●ロバート・キャンベル
0/3【無職】
●佐藤道明/●長松洋平/●りんご飴
1/3【探偵】
●ピーリィ・ポール/○音ノ宮・亜理子/●京極竹人
0/3【博士関連】
●ミル/●亦紅/●ルピナス
1/3【田外家関連】
○田外勇二/●上杉愛/●吉村宮子
0/5【案山子関連】
●案山子/●鴉/●スケアクロウ/●榊将吾/●初瀬ちどり
0/2【殺し屋】
●アサシン/●クリス
0/6【殺し屋組織】
●ヴァイザー/●サイパス・キルラ/●バラッド/●ピーター・セヴェール/●アザレア/●イヴァン・デ・ベルナルディ
2/3【ジャパン・ガーディアン・オブ・イレブン】
○氷山リク/●剣正一/○火輪珠美
0/3【ラビットインフル】
●雪野白兎/●空谷葵/●佐野蓮
0/2【ブレイカーズ】
●剣神龍次郎/●大神官ミュートス
2/6【悪党商会】
○森茂/●半田主水/●近藤・ジョーイ・恵理子/●茜ヶ久保一/●鵜院千斗/○水芭ユキ
1/8【異世界】
●カウレス・ランファルト/●ミリア・ランファルト/○オデット/●ミロ・ゴドゴラスⅤ世/●ディウス/●暗黒騎士/●ガルバイン/●リヴェイラ
0/5【人外】
●船坂弘/●月白氷/●覆面男/●サイクロップスSP-N1/●ペットボトル
1/2【ジョーカー】
○主催者(ワールドオーダー)/●セスペェリア

【10/74】

31 勇者 ◆H3bky6/SCY :2018/03/31(土) 17:51:36 ID:IGpGfdUc0
「…………気づいていたの?」
「なんとなく、ですけど。ごめんなさい。強引なことをしてしまって……!」

そこで、何故かミリアの方が頭を下げた。

「安心してください、って言うのも変ですけど、兄は気づいてないと思います。
 私も兄に言う気はありませんし、オデットさんをどうこうしようと言うつもりもありません」
「なら、どうして……?」

責めるつもりはないというのなら、何故わざわざ正体を暴いたのか。
単なる好奇心だけで暴くにしてはあまりにも互いにとってリスクが高すぎる秘密である。
相手の意図がつかめず戸惑うオデットとは対照的に、ミリアは少しだけ照れくさそうに笑った。

「オデットさんと仲良くなりたかったから、ですかね」

きっとそれは嘘ではないのだろう。
だが、全てでもない。
納得がいかないと言った風なオデットの表情を読み取ったのかミリアは取り繕うように言葉を重ねる。

「せっかく一緒に旅をしているのに、秘密を抱えたままじゃあ寂しいじゃないですか。
 ほら、一人くらい事情を知ってる人間が近くにいた方がいいと思うんですよ。
 そりゃあ今のご時世簡単に開かせる秘密じゃないとは思いますけど、ここに味方がいるってことを知っておいてほしかったんです」

言い訳でもするように矢継ぎ早に捲し立てる。
呪いによる飢餓により常に苦しそうな表情を浮かべるオデットの助けになろうにも、自らの正体を隠して距離を取っているのでは助けようがない。
だからオデットの正体を知っている事を知ってもらうため、要するにミリアらしくもない強引さは自らの正体を隠し続けるのも辛かろうと言う彼女の
優しさからの行動だったという事だ。
それは何ともオデットの知るミリアらしい。
その気遣いが本物だと理解できるからこそ、分からなくなる。

「……私は魔族よ? あなたは私に復讐したいとは思わないの?」

魔族である自分を受け入れられるのか。
余りにも不躾なその問いを投げてしまった。
故郷を理不尽に奪われたのは勇者だけではなく、彼女も同じであるはずなのに。
彼女には自分(まぞく)を恨み、殺すだけの理由がある。
その問いを受けたミリアは笑顔を曇らせ僅かに俯く。

「……私は、兄ほど魔族を恨んでるわけじゃないんです。
 いえ…………恨んでるか恨んでないかなら恨んでいるのは間違いないんですけど。
 けどその怨みはオデットさんに対してのモノじゃない。それに…………」

そこで一度、言っていいのか迷うように言葉を詰まらせる。
だがそれも一瞬、はっきりとした口調で言った。

「復讐なんて、そんなの何の意味もない」

復讐に燃える自らの兄を否定する言葉が少女から吐かれる。
ありふれたような陳腐な言葉にも聞こえるが、復讐するに足る理由を持つ彼女が言うのであればそれも違ってくる。

「世界の平和のためには勇者の力が必要で、兄は勇者です。
 それを理解しているのに、私は兄に戦いをやめてほしいと思ってる。
 闘いなんて、勇者なんて、他の人がやればいい、そう思います」

それが少女の、どうしようもない本音だった。
ミリアはその本音をどうしようもなく身勝手で醜い願いだと思っているようだった。
何処か苦し気にキュッと眉を寄せているが、オデットは失望するでもなく眩しい物を見る様に目を細める。
そこで少女は暗い顔になってしまった事に気付き、取り繕うように何時も通りの笑顔で努めて明るい声を上げた。

「とにかく! 私はオデットさんの味方ですから。困ったことがあったら兄に言えないようなことでもなんでも相談してください。
 私じゃ頼りにならないかもしれないですけど、一人で抱えず話す事で楽になることもあると思いますから。
 魔族であるオデットさんがどうして勇者である兄さんと旅をしているのか、その理由は気になりますけど、それについては今は聞きません。
 いつか話せる日が来たら話してくださいね!」

そう言ってミリアは背後に咲き誇る花にも負けぬ笑顔をオデットに向けた。
眩しすぎてオデットは直視できず、思わず目をそらす。

戦いを嫌う、本当にやさしい少女。
彼女は”私たち”とは違うのだ。
そんな彼女もオデットの”本当”を知ってしまったらどうなるのだろうか。
今の言葉のように見方で居続けてくれるのだろうか。
そう思えばオデットは語る事が出来なかった。

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32 勇者 ◆H3bky6/SCY :2018/03/31(土) 17:52:37 ID:IGpGfdUc0
「ぐ……………あッ!!」
「兄さん……ッ!!」

闇を引き連れた鋭い斬撃が勇者を切り裂いた。
倒れた勇者の下に慌てて駆け寄った魔法使いが癒しの光を放つが、その顔色がみるみる青ざめたものになってゆく。

「どうして!? 傷が、治らない…………!」

回復魔法を休むことなく唱え続けるが、傷が全く塞がらない。
袈裟に切り裂かれた傷口からは暗黒のような煙が沸き立つように上がり、その斬撃がただの斬撃ではない事を知らしめていた。

「よもや勇者が本当に生きていたとはな」

勇者の前に立ち塞がったのは、魔王の右腕ともいえる魔王軍の大幹部、暗黒騎士だった。
闇の巫女の予言により、新たなる勇者の出現を予期した魔王ディウスは、勇者の生まれるとされる里へと自ら赴き里ごと全てを滅ぼした。
のみならず、慎重で用心深い魔王は聖剣の眠る聖地へと先兵を遣わせ聖剣を封じるべく策を打ったのである。
決して敵を侮らない念入りで周到な魔王の先手を取った抜かりない対策と言えるだろう。

だが、魔王軍の耳に届いたのは、聖剣封印の知らせではなく、先兵を率いるガルバイン敗走の知らせだった。
何の間違いかと思ったが、その後に続く知らせを聞くうちに疑惑は確信へと変わる。
黄金の聖剣を持つ勇者は生き延びていた。
魔王を殺しうる唯一の人間が生き延びたと言うのは魔王軍にとって最大の脅威である。
故に、事実確認とその排除のため魔界最強の剣士、暗黒騎士が動いたのだ。

「ふん。だがどちらにせよこれで終わりだな」

息の虫となった勇者へ止めを刺すべく、魔剣を片手に暗黒騎士が歩を進めた。
背後に近づく死の気配を感じながらミリアは回復の手を止めず、兄を庇うようにして覆いかぶるように身を寄せる。
だがそんな抵抗は無意味だ。暗黒騎士の一刀は兄妹を仲良く切り裂くだろう。

だが、その前にフードの女が立ち塞がった。
フードの下の顔を見た暗黒騎士が兜の下の眼を見開く。

「? …………!? そうか、お前か……!」

目の前の相手が何者であるか認識し、暗黒騎士は愉しげに喉を鳴らして笑った。
これは騎士にとっても完全に予想外の再会であった。

「クククッ……そうか、生きていたのかオデット。
 なるほど勇者に与して我らに復讐でも果たそうとでも言うつもりか!?」
「私は別に…………そんなつもりじゃ」

オデットは気圧される様に眼をそらす。
煮え切らないその反応に暗黒騎士は吐き捨てる様に笑い、剣を収めた。

「まあいい。ここは引こう、あの方の御判断で見逃した貴様を私の一存で殺すわけにもいかん。
 だが、貴様も知っていよう。我が魔剣に斬られた者は呪いにより死に絶える、わざわざトドメを刺さずとも勇者の命運は既に尽きた」

暗黒騎士の持つ漆黒の剣。
魔界に蔓延る呪いを凝縮させた魔剣だ。
この魔剣でつけられた傷は治らず。
この魔剣でつけられた傷は身をむしばむ。
傷一つで死に至る、呪いの魔剣である。

「しかし、貴様のようなものが勇者と共にあったとは、笑い草だなぁオデット」

魔族を殺す勇者と共にあった同族を嘲笑いながら、暗黒騎士は去った。
取り残されたのは自らを偽る魔族と何もできない魔法使い、そして朽ち果てた勇者。
ここに居たり勇者は一度目の死に至った。

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33 勇者 ◆H3bky6/SCY :2018/03/31(土) 17:53:51 ID:IGpGfdUc0
魔界最強の剣士の強襲を受け、未熟な勇者は敢え無くその命を落とした。
これで彼らの冒険は終わり、とはならなかった。
死亡したのは勇者である。
人類の希望はそう簡単に潰えてない。潰えることを許さなれていない。

現れた光の賢者の導きにより、二人の少女は勇者の復活に一縷の希望を託し死者を蘇生することができるという命の宝玉を求めて旅に出た。
苦難の道のりだった。
女二人、導き手である勇者を失った旅は様々な苦難があったことは想像に難くない。
広大な海を越え険しい山を越え、幾多の苦難を乗り越えた先に、孤島に聳え立つ月牙の塔へとたどり着いた。
その頂点に存在する賢人の試練を乗り越え宝玉を手にし、遂に勇者の蘇生を果たしたのだ。

そして勇者が蘇った夜。
彼らは小さな港町にある宿に泊まり身を休めることとなった。
普段は同部屋になることも少なくないが、田舎町にしては大きな宿屋で魔王軍との戦争の影響か客も少なくそれぞれ個室を取ることができた。
無駄遣いに厳しいミリアも復活祝いの今日ばかりは寛容だった。

一人部屋でベッドに寝転がっていたカウレスは眉根を寄せ苦しげに目を開いた。
身を起こす。
死を経験し蘇生した直後という事もあるのかどうにも気分が悪い。

そもそも勇者は眠らない。そんな無駄な機能は勇者には必要がない。
確かに眠れば体力と魔力が全快すると言う特性を持つが、状態異常まで治る訳でもない。
眠れないのなら無理に眠ろうとするより、外の空気を吸った方がまだマシだろう。
枕元に立てかけていた聖剣を背負い、部屋を出たところで廊下の窓辺で一人佇むオデットを見つけた。

「眠れないのか、オデット」
「……カウレス」

美しく夜に浮かぶ赤い瞳がカウレスを捉えた。
彼女は目を合わせることに恐れるように深くフードを被り直す。
そのフードの端から覗く横顔が、淡い光に照らされ儚げな美しさを引き立てる。

「月を見ていました」
「月?」

オデットが窓の外に視線を戻す。
その視線を追うようにカウレスも空を見上げた。
夜の帳が落ちた雲一つない空に、ぽっかりと浮かぶ蒼い月がある。

「月は好きです、私の故郷では月があまり見えなかったですから」

彼女の生まれた魔界の空は常に暗雲に覆われ月も太陽もない。
日のない世界で生きてきた彼女にとって太陽は少し眩しすぎる。
優しい月の光くらいがちょうどいい。

「故郷か…………」

傍らの勇者がポツリと呟く。
遠くを見つめるようなその瞳に沈むような暗い炎が宿る。
その炎が彼の原動力だ。
自身すら焼き付く煉獄の炎。
魔族を殺して、殺しつくす黄金の聖剣を担う勇者。

「そう言えば、まだちゃんとお礼を言っていなかった。また君に助けられたようだオデット。改めて感謝している」
「そんな、勇者は人間(わたし)たちの希望ですから、助けるのは当然の事です。魔王は倒なければなりませんから」

言って、オデットは自分で呆れてしまう。
人間の希望などどの口が言うのか。
けれど魔王は倒さねばならない。
この呪いを解くために。

「魔王、か…………オデットどうして君は、そこまで魔王討伐に拘っているんだ」

その問いにオデットが驚いたように眼を見開いた。

「…………意外ですわ。魔族を狩ること以外興味のない人だとばかり」

余りにも予想外で、思わず率直すぎる感想を口していた。
それなりに共に旅をして長いが、そのようなことを聞かれたのは初めての事だったからだ。
今更といえば今更過ぎる問いである。

34 勇者 ◆H3bky6/SCY :2018/03/31(土) 17:54:33 ID:IGpGfdUc0
「失礼だな…………だがいや、その通りだ。
 正直、魔王討伐に使えるのならばキミの事情など知っても知らなくてもどちらでもいいと思っていた。その考えは今も変わらない。
 ただ、知っても知らなくてもいいのなら、知っておいてもいい。そう思っただけさ」

死を超えたからか、それとも命を救われた事によるものか。
それは些細なようで、大きな変化のようにも感じられた。

カウレスは魔族への復讐と関わりのない事には対して興味のない人間だった。
だからこそ、魔族であるオデットが取り入ることができたし、正体を詮索されることもなくここまでやってこれたのだ。

「…………私の事情なんて別段今の世の中では珍しい話でもありません。
 魔王に父を殺され、このような悲劇をもう繰り返してはならないと、そう思っただけです」

曖昧に言葉を濁す。
多くを語ればボロが出る。
この魔族を恨む苛烈な勇者に正体を知られる事だけは何としても避けなければならない。

その言葉をどう受け取ったのか。
カウレスは正面からオデットを見た。
不思議な瞳だ、燃えて濁っているようで純粋で澄んでいる。

「……君は僕に似ている」
「それは…………喜ぶべき言葉なのでしょうか?」

どう受け取っていいものか判断に迷う。
彼に限ってまさか口説いている訳でもあるまい。
魔族であるオデットが勇者に似ているなどと笑えない冗談である。

「どうだろうね。他の勇者ならともかく僕の場合は褒め言葉にならないかもしれない」

歴代の他の勇者がどう在ったのかは分からないが、カウレスは勇者と言うよりも復讐者だ。
少なくとも本人はそう自覚している。
そんな相手に似ていると言われても名誉であるとは言えないだろう。

「ただ、君の同行を許したのは魔界の内情に詳しいという話を信じたからじゃない。君が僕と同じ目をしていたからだ。
 僕と妹から全てを奪った魔族を僕は絶対に許せない。君はどうだオデット? 君は一体何を許せないでいる?」
「そんな、私は…………」

否定しようとして言葉に詰まる。
ミリアのように復讐は無意味だとまでは思わないけれど、それでも復讐など考えたこともない。
ただこの身を蝕む呪いを何とかしたいだけ。
それは嘘ではない。
だが、本当の事でもないのかもしれない。

果たして本当に、あの時何も恨まなかったのか?
復讐を考えなかったというのは、誰も恨まなかったという事ではないのではないか?
同類は同類を知る。カウレスはオデット自身すら理解してない昏い炎を見抜いていた。

「……そう、ですね。私は許せないでいるのかもしれません。
 けれど、それでも復讐を望んでいる訳ではないのです」

オデットは戦いは嫌いだ。
身勝手に戦う魔族たち(あいつら)のようになりたくなどない。
復讐だと言うのならば、そう生きることこそが彼女の復讐なのだろう。
頑なに人を喰らわなかったのも、諦めて死を選ばなかったのもそれ故なのかもしれない。

闘争を好む魔族らしからぬ性格となったのは人間との共存を願った父に育てられたからこそである。
オデットの父は人族と魔族の共存を願い、オデットもその願いの助けとなってきた。

だがそれは父の願いだ、彼女の願いは父に支えになることであり共存ではない。
父はそのために働き処刑までされた。
何故父が人間を助けようとするのか、オデットには理解できなかった。

人間界に落ち延びてからは、辛いだけの日々だった。
その地獄のような日々の中で美しく咲き誇る花を見た。
穏やかな日々を生きる人々の暮らしを見た。
人間界に落ち延びてから辛いだけの日々だったけれど、この世界で確かに美しいモノを見た。
父の願いが、今なら少しだけ分かるような気がした。

「私が望むのはこの大地の平和。
 そこに嘘はありません…………それだけは信じてもらえますか?」
「ああ、君を信じよう。オデット」

空を見上げる。
そこには丸い月が浮かび、冴え冴えとした光が二人を照らしていた。

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35 勇者 ◆H3bky6/SCY :2018/03/31(土) 17:55:53 ID:IGpGfdUc0
そして運命は大きく変わる。
何者かの悪意に弄ばれるように、殺し合いへと巻き込まれた。

拉致されたのは正真正銘の異界である。
見たこともない衣服を着た多くの人間。
見たこともない材質で作られた建造物たち。
魔法ではない謎の力を使う世界の支配者。
そして同じ舞台に立つ、魔王。
嘗てない異常事態である事は明白だった。

そしてこの地における初戦。
人類最凶の暗殺者との戦闘において醜い裏切りにあいオデットは瀕死の傷を負ってしまった。

普段のオデットは呪いによる飢餓を、強靭な理性と信念、そして聖剣による恐怖心でようやく押さえつけている。
だが、ここに聖剣はなく、瀕死にまで追い込まれたことにより理性が崩壊し魔族の本能が顔を出した。
彼女を咎めるモノは何もない。
そうして初めて人の肉を口にする。

あれ程嫌だったのに。あれ程我慢してきたのに。
どれ程に気高い理想を掲げようとも、所詮魔族は魔族。
一枚剥げばそんなものだと。自らに対する深い失意と絶望。
尤も、あの時はそんなものを感じる理性もありはしなかっただろうが。

それは決してやってはならない事だ。
そう自らに誓いを立てた。
自分がそんなことをしてしまうなど彼女にとってはどうしても受け入れがたい。

だから――――自分ではない他に理由を求めた。
己ではなく己の中に凶悪イメージを仕立て上げた。
ちょうどいい事に、そのイメージを押し付けるのに都合がいい存在がいた。
それは先ほどまで戦っていた、人を殺す事を何とも思わない凶悪なダークスーツの男。
この男ならば、冒涜的行為を行ってもおかしくはない。

血肉を喰らい取り込むという儀式的な行為も都合がよかった。
そう言った経緯があるのならば、内側にあの男が入り込むこともあるだろう、そんな自らを騙す”納得”を得た。
そうして本来のヴァイザーとも違う、自らに襲い掛かってきた男という凶悪なだけの人格に身を任せた。

だが、それも一時的なモノである。
肉体が回復すれば、精神も回復し正気を取り戻すこともあったかもしれない。
だがそうはならなかった。

決定的だったのが第二放送である。
魔王――――ディウスの死を知った。
ディウスが死んでも呪いは解けないという事実を突き付けられたのである。
唯一と言っていい希望が潰えたのだ、心が潰れるには十分な理由だった。

そこからは転がる様に堕ちていった。
人を害し、神すらも喰らい、これまで抑え付けていた衝動を晴らすように暴れまわった。

魔の頂点である邪神の肉は魔族にとっては劇薬だった。
肉体を明確に変質させ、属性に変化と安定を齎した。
もはや後戻りのできない領域で、別の自分が安定してしまった。

そうして、人類最高の暗殺者の手により再び死に瀕して。
そこで自らの醜さを自覚した。

何か恐ろしい物から逃げる様に、訳も分からず駆けだした。
駆ける両足は野太い血管が浮き出て、異常なまでに肥大している。
へし折られた首は異常な筋肉で支えられていた。
その肉体は可憐な少女の物とは呼べない。

36 勇者 ◆H3bky6/SCY :2018/03/31(土) 17:57:03 ID:IGpGfdUc0
死を拒絶するように、生を求めるように、暗闇の中で光を求めるようにひた走る。
目的地などない疾走。
それは逃避なのか暴走なのか、分かる者などいない。

肉体は変質し、精神は分裂し、魂は穢れ落ちた。
オデットと呼ばれる少女の面影などどこにもない。
もはや正気であるのかすら疑わしい。
いや、とっくに狂っているのだろう。

それはいつから。
魔王の死を知った瞬間からか。
佐藤道明に爆破され瀕死に追い込まれた時からか。
それとも、父を失ったあの日からか。

二度の死に瀕して、彼女は自らの醜さを知った。
生きるためには他者を侵し、生きるために他者を喰らう。
高潔だった魂は醜く爛れた。
高潔であったからこそ、彼女はその醜さに耐え切れない。
もはや目を背ける事すら許されない。

生きることは斯くも醜い。
ならば。
ならば、死は美しいのだろうか。

彼女にとっての死のイメージは美しい黄金だ。

これまで幾度も死を予感したことはあった。
飢餓で死にかけたこともあった。
魔王に処刑されそうになった事だってある。
だが、あの出会いは、そのどれよりも色濃くその印象を塗り替えた。

花弁のように舞う光の粒子。
黄金の剣を持つ勇者。
何故、勇者と旅をしたのか。
解呪という目的があったとはいえ、それ以上のリスクを犯しながら何故旅をつづけたのだろう。
出会ったあの瞬間から、あの黄金に、きっと惹かれていたのだろう。

私を縛る心地のよい恐怖。
死を忌諱するからこそ安堵する。
醜い生を塗りつぶす美しい死。
あの輝きが傍らにあれば、私はきっと正気(まとも)でいられたのに。

どれ程の間、理性なき疾走を続けていたのか。
主催者の手により首輪の縛りから解放されたのは幸運だろう。
そうでなければ、禁止エリアで誰にも知られることなく下らない結末に陥っていた。
いや、あるいは、そちらの方が幸運だったのかもしれないが。

そして明かり一つない夜の暗闇の中、視界の端に浮かぶような淡い光が見えた気がした。
考えるよりも早く足はそちらに向いていた。
光を追い求める。

まるで燃え盛る炎に群がり自らの身を焼く羽虫のようだ。
忌まわしくも懐かしい黄金色に誘われるようにしてたどり着く。
そうして、欠けた何かを埋める様に、太陽よりも眩しい黄金の光に飛び込んだ。

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37 勇者 ◆H3bky6/SCY :2018/03/31(土) 17:58:02 ID:IGpGfdUc0


そうして、一撃の下に両断された。


自ら襲い掛かったのでは殺意感知も意味がなく、攻撃の瞬間を狙われては瞬間移動も意味はない。
反射的に振るわれた黄金の刃は当然のように熱したナイフでバターを切るが如き滑らかさで胴体を中心から両断した。
腹部は脇腹の端だけが辛うじて繋がり、折れた枝木のようにくの字に曲がった体は、断面から鮮やかなまでに赤い血液と共にその中身を辺りにぶちまけていた。
神の再生力により両出された肉と肉が、再び繋がりを取り戻そうと蠢くが、聖剣による一撃はその再生を許さない。

「…………………」

勇二は足元を一瞥する。
咄嗟の事で驚いたが、勇二には怪我一つない。
邪神の肉を喰らった魔族など、聖剣使いの恰好の獲物でしかない。

転がるのは全身が醜くも爛れた黒い角の生えた怪物だった。
張りつめた筋肉には血管が浮き出ており、女性的な特徴は見て取れない。
ただ赤い瞳だけが美しく煌々と輝いていた。

「そうだ…………オデットさんを探さないと」

呆けていた頭を切り替える。
勇二からすれば、襲い掛かってきた怪物を撃退したに過ぎない。
怪物から視線を切ると、聖剣を背に担ぎ直して踵を返した。
自らを庇い死んでいった彼に報るためにも最後に残ったカウレスの仲間を探す。
家族も仲間も失った勇二の目的はそれくらいしか残っていなかった。

今しがた自らが両断した怪物が探し人であるなど知る由もない。
カウレスから聞き及んでいた特徴とはあまりにも違う。
そもそも特徴を伝えたカウレス自身が魔族だと把握していなかったのだ。
変質した今となっては認識しようもない。
このような怪物がオデットであるなどと思うはずもないだろう。

勇二は怪物を顧みることなくその場を後にする。
オデットを照らしていた光が遠ざかって行き、追いすがることもできず暗闇に取り残される。
これまでの報いを受ける様に一人無様に死を迎えるのだろう。

「もしかして、オデットさん……………?」

だが、どうしてそう思えたのか。
立ち去ったはずの勇二が引き返し、倒れたオデットを見下ろしていた。

余りにも変わり果てたオデットの姿。
だがそれでも、もしやと思う事が出来たのは人も魔も共に暮らし差別も区別もしない勇二だからこそなのかもしれない。
驚きの表情を浮かべるオデットを見て、勇二は確信を得た様に声を上げた。

「やっぱり! いま回復を……!」
「………………待、って」

慌てて傷を治そうとする勇二をオデットが制する。

「…………分かるでしょう………………?」

勇者として覚醒した勇二は他者に対する回復魔法を習得している。
だが、勇者の力は魔を殺す為だけのもの。
ただの魔族であった頃ならまだしも、邪神の属性を得た今のオデットにとっては毒にしかならない。
忠告の意味を理解し手を止めた様子を霞む瞳で確認して、オデットが呟くように漏らした。

「そう……彼方が、勇者なのね」

暴走に次ぐ暴走を重ねてきたオデットだったが、驚くほど心持は穏やかだった。
見紛うはずもない震えるような黄金の剣を前にして、沸き立つような熱狂は一瞬で醒めていた。
心暗い所を強制的に照らされるような畏怖と羨望が心を満たす。

黄金の聖剣を持つ者、その意味するところを彼女が理解できなはずがない。
だって、旅をしたのだ、勇者と。
共に旅をしたのだ。

「……………………カウレスは……どうしたの?」

オデットは自らの知る聖剣の使い手の所在を尋ねた。
目の前の少年は聖光に包まれ聖剣を使いこなしている。
それは聖剣の所有権が移譲されているという事だ、
その指し示す意味はつまり。

「…………カウレスお兄ちゃんは、僕を護って死んでしまったよ」

その結末を聞いて、オデットは少しだけ悲しむように眉根を寄せて、安心したように息を漏らした。

「そう、それは…………よかった」

復讐に囚われ復讐にしか価値を見いだせない少年だった。
そんな彼が何か別のモノに命を投げ出すほどの価値を見いだせたのならば、それはきっと良い事だったのだろう。

今更になってカウレスと言う少年の素顔が見えた気がした。
カウレスがオデットの真実を知らなかったように、オデットもまた彼を見ていなかった。
復讐に囚われていただけで、きっと心優しい少年だったのだ。
そんな事を想う。

38 勇者 ◆H3bky6/SCY :2018/03/31(土) 17:59:25 ID:IGpGfdUc0
「さぁ…………トドメを、刺して」

自ら首を差し出す力は残っていないがせめて潔く。
かつての父のように静かに目を閉じる。
取り繕いではなく、心の底から穏やかに死を待つ。

これまで数々の醜態を晒してきた自分はきっと世界一醜い。
綺麗事をほざいていただけに余計に性質が悪い。
そんな自分を自覚してしまったのだ、いっそ消えてしまいたい。

それなのに他者を食い物にしてまで、死にたくないと願ったのは何故なのか。
何のために醜くもここまで生き延びたのか。
今際の際に立たされた今になってわかる。

生に固執していたのではない。
死に固執していたのだ。

聖剣。
魔族を殺す黄金。
私を殺す黄金。

私の恐怖。
私の死神。
私の覚悟。
私の決意。
私の希望。
私の天敵。
私の黄金。
私の運命。
私の死よ。

彼女の死はあの瞬間、あの出会いから決まっていた。
この黄金の剣こそ彼女の死だ。
他の死に方は嫌だった。
どうかその聖剣で殺してほしい。

「―――――嫌だ」

だがその望みを、勇者ははっきりとした口調で拒絶した。

「…………私の命を奪う事を気にする必要はないわ。
 私が、襲い掛かって返り討ちにあっただけなんだから…………。
 馬鹿な魔族が死ぬ…………それだけの話よ」

襲い掛かったのはオデットの方である。
自業自得だ、同情の余地はない。
それに勇者に魔族が切り殺される。
故郷ではありふれた光景が、この地でも繰り返されただけの話だ。
それだけの話だ。

「そんなのは嫌だ。絶対に僕は殺さない。絶対に助ける」

だがそれでも、勇者は拒絶する。
世界にありふれた悲劇を否定する。

「どうして……あなたは勇者なのでしょう……?
 私は魔族よ…………勇者は魔族は、斃さないと」

勇者とは人族の希望にして魔族の絶望。
魔族を殺す決戦兵器の名だ。
勇者ならば殺すべきだ。
その言葉を否定するように、勇二は悲しげに首を振る。

「それがなんだって言うんだ! 魔族であることは、そんなに悪い事なの…………?」

勇二にとって妖怪や幽霊は家族のようなものだだ。
勇二は人間でありながら、退魔の名家田外の人間として妖怪や幽霊に囲まれて育った。
それは魔族でありながら、人間と共に暮らしたオデットのように、当たり前にそこにいるモノだった。

勇二にとっては同級生のいじめっ子も悪い幽霊も何も変わらない。
いい人間がいればにいい妖怪もいる。
人間を襲う妖怪もいれば、妖怪を食い物にする人間もいる。
それだけの当たり前の事なのに。

それなのに、オデットは魔族が殺されるべき悪しきモノののように語り。
勇二の持つ聖剣も魔族は滅ぼすべき悪だと語り掛けてくる。
それが勇二は嫌だった。
どうしようもなく腹が立つ。

「勇者がなんだ、魔族がどうした…………!
 僕はオデットさんを助けたい、オデットさんを殺したくなんかない!
 だから助けるんだ! 誰にも文句は言わせない!!」

勇者ではなく勇二としての言葉を叫ぶ。
愛も、カウレスも勇二を庇って死んでしまった。
勇二の力が足りなかったから助けられなかった。
大事な人を助けれない悲劇はもう御免だ。

勇二らしい勇者。
カウレスの最後の言葉を何度も思い返して、その言葉の意味を、ずっとずっと考えていた。
勇気をもって自らの意思で選択する。
もう、聖剣なんかには従わない。

「無理よ…………私はもう…………………助からない」

体は殆ど二つに分かれ、色んなものと共に血も体から流れ出している。
こうして喋れているのが不思議なくらいだ。
わざわざトドメを刺さずとも死を待つだけの女である。
もう余命は幾許も無いのだ、せめて望みの死をくれてやるのが慈悲だろう。

39 勇者 ◆H3bky6/SCY :2018/03/31(土) 18:00:26 ID:IGpGfdUc0
「そんなのは認めない」

だが、慈悲などない。
慈悲のために救うのではない、救いたいから救うのだ。

「けど…………どうやって」

聖の頂点である勇者には魔の頂点である邪神を救うことはできない。
勇者の一撃は再生を許さず、都合のいい回復薬もない。
ならば、とれる選択など一つしかなかった。
勇二は聖剣を地面に突き立て告げる。



「――――――――――――聖剣を破棄する」



剣から手を放す。
個人で世界を革命出来るだけの力の所有権を破棄する。
歴代勇者が猛毒と知りながら誰一人として捨てる事の出来なかった力を、勇二は何のためらいもなく放棄した。
勇二の勇者に聖剣はいらない。

「あぁ……………ッ」

勇者の力が粒子となって舞い上がり、闇に溶ける様に消えて行く。
オデットの死の象徴が霧散していく。
それまるで儚くも散りゆく花吹雪のようだった。
オデットは倒れこんだまま、名残惜しげに光の残滓を見送った。

そして黄金が徐々に色あせて行く。
聖剣は化石のように色を失いついに名残も残さず灯は消えた。

耳鳴りがするほど静かな、肌寒い夜。
乾いた風が吹いた。
夜の帳が落ちる。

「さあ、僕は踏み出したぞ。オデットさんも諦めて僕に助けられろ!」

傲慢に勇者が告げる。
あと一歩の勇気を求める。

勇者とはなんだ。
世界を救う力を持つ者の事か。
困難に立ち向かう者の事か。
巨悪を討つ者の事か。
そのどれもが正しく、そのどれもが違う。

「私自身が多くの人に迷惑をかけたわ。あなたにだって襲い掛かった、今更助かったところで」
「…………それなら僕も同じだよ。いろんな人に迷惑をかけた」

オデットの返事など待たず、言いながら霊力による糸で分断された体を縫合する。
勇者の力が消滅したことにより回復魔法は使えなくなったが、同時に再生阻害も消滅した。
これほどの深手、神の力を得たオデットの生命力をもってしても、生き残れるかは五分だが。
体は繋げた、後はオデットの再生力に任せるしかない。

「だから一緒にやり直そうよオデットさん。死んじゃうなんてそんなのは逃げてるのと同じだよ」

あぁ、とオデットがあきらめた様に息を漏らす。
余りにも正しく、余りにも眩しい、余りにも残酷な存在。
自信の勇気で他者を救うのではなく、他者にも勇気を求める勇者。
その勇気を以て、他者に勇気を与えられる者。
それが勇二の示す勇者の形。

「そう…………今回の勇者は、厳しいですのね」

ふと空を見上げる。
そこには当たり前の様に月が浮かんでいる。
いつかと同じく傍らには勇者がいる。
あの時とは違う勇者とあの時とは違う異界の月を見上げていた。

【H-5 草原/真夜中】
【田外勇二】
[状態]:人間、消耗・大
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本方針:自分らしい勇者として行動する
1:ワールドオーダーを倒す
[備考]
※勇者ではなくなりました

【オデット】
状態:再生中。胴体両断。首骨折。右腕骨折。神格化。疲労(大)、ダメージ(極大)、首輪解除、マーダー病感染
装備:なし
道具:リヴェイラの首輪、携帯電話
[思考・状況]
基本思考:-
1:勇二に助けられる
※ヴァイザーの名前を知りません。
※ヴァイザー、詩仁恵莉、茜ヶ久保一、スケアクロウ、尾関夏実、リヴェイラを捕食しました。
※現出している人格は最初からオデットでした

40 勇者 ◆H3bky6/SCY :2018/03/31(土) 18:00:48 ID:IGpGfdUc0
投下終了です

41 名無しさん :2018/04/29(日) 19:23:18 ID:9WVM2ZhU0
遅ればせながら投下乙

42 ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 00:52:11 ID:CdEWYDVs0
投下します

43 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 00:53:22 ID:CdEWYDVs0
「なぜ氷山リクなのカ、だって? オカシナことを聞くネ。

「何故も何も決まっているだろウ。それは彼が特別だからだヨ。

「ふゥむ。それは理論の順序が逆だネ。
 特別性の惑星型怪人に選ばれたから彼が特別なんじゃない、特別だから特別な惑星型怪人の素体として選ばれたのサ。
 そうじゃなきゃわざわざ拉致なんてさせないヨ。

「まぁ基本的にはそうだネ、むしろ志願者で基準を満たしたキミの方がようなのがよっぽど特殊ダヨ。
 普通は志願された所でこちらの望む基準値を満たせないからサ。
 プロトタイプには志願を募ったガ、元から使い潰すつもりだったからネ。

「なに? 本人にいう事ではなイ? 隠し事はしない性質なのサ。正直モノだろウ?

「心配せずとも被験体の中でも能力(パラメータ)だけならばキミがトップだろうサ。
 あぁもちろん大首領は除くヨ? あの人はちょっとワタシから見てもイロイロとオカシイからネ。

「ふゥむ。キミ、ホントにカレの事嫌いだネ。まあいいけど。仲良くされるよりマシだしネ。

「彼が【基礎】に選ばれたのは優秀さではなく、適性の問題だヨ。

「第三世代型の特性は理解しているネ? 魔術的特性というヤツだ。

「いやいや、彼に魔術の才能なんてないよ、皆無ダといっていい。
 彼が魔術を使うのではなくて、彼はいわば触媒、使われる方だヨ。

「例えば、一般的に美を司る惑星と言えば金星とされているよネ?
 けれド、生命の樹(セフィロト)では金星の属するネツァクが意味するのは勝利ダ。
 美を司るのは第6セフィラのティファレトであり、ティファレトが指し示す惑星は太陽となっていル。
 つまりは解釈により指し示す結果が変わるんだヨ。これは観測学とも量子学とも違う、科学にはないファジーさダ。だから採用した。

「話はズレてはいないさ、そういう曖昧さを呑み込むのが資質というヤツなんだヨ。曖昧なのキライだろキミ?

「彼は曖昧さも呑み込む、それこそ恐ろしいくらいにネ。
 後にも先にもワタシが被験体に恐怖を抱いたのは大首領と彼くらいのものサ。

「なに? そうだよ彼は恐ろしい。
 あの二人はある意味で似た者同士だからネ。掲げる方向性が違うだけで根本は一緒なのサ。
 そこを理解しておかないとそのうち痛い目にあうかもしれないヨ?」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

44 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 00:54:04 ID:CdEWYDVs0
この街の全ては燃え尽きた。
度重なる大規模戦闘により街影は崩れ落ち、積み重なった屍の山は塵すら残らない。
最後には業火のような一人の女によって終焉を迎えた。
凄絶な生存競争の果てに残った勝者は、勝利の美酒に酔うでもなくギリと奥歯を鳴らし不愉快そうに顔を歪める。

彼女は苛立っていた。
どうしようもなく暴れたくなる衝動が消化不良で燃えカスのように燻っている。
だが彼女が不愉快そうにしているのは、その実珍しい事ではない。
いつの間にかカラッとしたお祭り女として通っていたが、昔から常にイライラしている火薬庫のような女だった。

ありのまま炎のような激情を燃やす女だった。
そんな彼女にとって世界はいつだって不満だらけだ。
嫉妬、僻み、嫉み、妬み、やっかみ。
有能であれば爪弾きにされる世界。
出る杭は打たれると言うが、しかし彼女は打たれないほど苛烈であり熾烈だった。
売られた喧嘩はその尽くを返り討ちにして来た。

だが、陰湿なジメジメとした湿気った奴らはそれすらもしない。
真正面から来ればいいのに、それが更に彼女を苛立たせる。
渡る世間はバカばかり、何もかもが気に食わなかった。
底に溜まった鬱屈とした感情を晴らすのは夏の祭りと喧嘩だけ。
そんな生き方をしていた。

なのに、それが変わってしまったのはいつからだったか。
いつの間にか師匠のようなものができ、相棒のようなものができ、仲間のようなものができ、ここに来て弟子のようなものまで出来た。
炎のような激情はいつの間にか安定を得たように静まり、心は平穏を悪くないモノとするようになっていた。

だが、その全ては燃え墜ちた。
全てを薪のようにくべて、今の火輪珠美という劫火がある。
その劫火は自身まで巻き込んで、全てが灰のように燃え尽きるまで消えることはないだろう。

片腕で器用にパワーバーの包みを解き、豪快に噛みしめる。
知らず噛みしめた口元が歪む。
全てが消えた。
原点回帰というヤツだ。

戦い。
そう、戦いだ。
全てが燃え尽きた跡に残った物などそれしかない。
いや、最初から彼女にはそれしかなかったはずだ。
それを何を勘違いしたのか。

味わいたいのは、燃え上がるような夜。
全てを忘れさせてくれるような絶対強者だ。
理由があって戦うのではなく、戦うために戦う相手を模索する。

だが、生き残りの中でボンバーガールを満足させてくれるほどの強敵が果たしてどれだけ残っているのか。
前回までの放送を思い出し、生き残りを頭の中で一人一人確認していく。

候補として真っ先に浮かぶ筆頭は龍次郎だ。
力と暴虐の化身。理不尽と破壊の権化。
あの龍とならば、きっと消し炭になるような灼熱の戦いができるだろう。
次いで連想されるのはモリシゲ、恵理子と有名どころの悪党どもと続いて、そして。

「…………そういや、あいつも生き残ってるんだったか」

バリボリと咀嚼する口元から蒼い火花が散って、放り投げたパワーバーの包み紙が燃える。
ここに来てとんと話を聞かないからすっかり忘れていた。

ジャパン・ガーディアン・オブ・イレブンの同僚にして実質上のリーダー。
白銀の断刃。シルバースレイヤー。氷山リク。
仲間と言う立場上、本気で戦りあったことはないが、きっと戦えばそれなりに面白い。

45 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 00:56:28 ID:CdEWYDVs0
「さて、と」

奴らはどこにいるのか。
どこに行けば出会えるか考える。
少なくともこの市街地にはいないだろう。
街ごと死んでいるかのように、どこにも生命の息吹が感じられない。
もう生きた人間はいないだろう。
仮に何者かが息を潜めているとしても、隠れ潜んでいるような小物には興味はない。

そうなると生き残った参加者はどこに集まる?
もはや人の集まる市街地を目指すなんて段階ではない。
この閉鎖された空間で最終的な目的地があるとするならば、それはこの会場の外に他ならない。
彼女自身にとってもはや脱出などもはやどうでもいいが、出口を目指す輩を待ち伏せると言うのは悪くない。

だが、肝心なその出口が分からない。
そもそも存在するのかも怪しいが、問題は本当に出口が存在するかではなく、出口を目指す参加者がどこを目指すかなのかである。
その予測がたてられれば待ち伏せもできるというものなのだが。

「…………あー、わっかんねぇな」

そんなもの珠美に分かるはずもない。
残念ながら頭を使うのは苦手だ。
頭を掻こうとして片腕がない事を思い出し、少しだけ虚しくなった。

「よし、なら――――――中央だ、中央にしよう」

深い考えはない。なんとなくだ。
頭ではなく直感に頼る。
あえて言うなら、真ん中の方がそれらしい。
ただそれだけの理由である。

だが、珠美の直感はよく当たる。
外れていたとしても一番高い所から花火を打ち上げて待てばいい。
そうすればきっと誰かが見つけてくれる。
見つけた奴を倒して行けば、きっとそのうち終わりが来るだろう。

「それじゃあ、いつものやり方でいくとするか」

握り締めた拳から火花を弾けさせる。
市街地から中央の山脈までは湖に挟まれているため、大きく迂回する必要があるのだが。
彼女の場合そんなことをする必要もない。

夜空に向かって花火が打ち上げられる。
その花火は断続的に爆発を繰り返しながら、湖の上を飛翔するように美しい軌跡を描く。
それは不吉なまでに美しい、流れ落ちる星の涙のようだった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

46 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 00:58:37 ID:CdEWYDVs0
それは切り取られたような四角だった。

この小さな世界の中心に聳える山の頂点にその四角はあった。
山頂にて開かれた鉄扉の先には、深淵へと繋がるような深い深い穴が口を開けていた。

扉を開けたリクは懐中電灯を取り出し、中を照らしながら落下しないよう慎重に穴を覗き込んだ。
広がる暗黒は吸い込まれそうなほどに深く、照らし出した白い光が暗闇に溶けるように消えて行く。
奥底が見える気配すらない。わかったのは光が届かないほど深い、という事だけである。

このままいくら照らしたところで無駄だろうと奥底の調査に見切りをつけ、リクは懐中電灯の光を側面へと移した。
無機質な壁面が淡く光を照り返す。
つるつるとした壁で覆わた壁からは粗雑に掘られたという印象は感じられない。
むしろ、こんな場所にあるとは思えないほど機械的ともいえる程、妙に整っていた。

その横合いから何かが放り込まれた。
亜理子がその辺に落ちていた砕けたダムの破片を拾い上げ放り投げたのだ。
落下する破片を視線で追うが、闇に飲まれて行ってすぐに見えなくなった。
その意図を察して眼を閉じ耳を澄ませる。
たが、数十秒待つが反響音は何一つ返ってこなかった。

「…………返ってこないわね」
「音が返ってこないほどに深い穴って事か?」

同じく聞き耳を立てていた少女にリクが問う。
その問いに亜理子はつれない態度で肩をすくめる。

「単純に音が届かないほど深いのか、緩衝材のような音を吸収する何が敷かれているか。それとも、物理的に繋がっていないのか。
 可能性だけなら何とでも」
「物理的に…………? 不思議の国にでも繋がってるってのか?」
「あら意外にメルヘンなのね。けれどウサギ穴には見えないわね」

不思議の国の少女と同じ名を持つ少女はくすりと笑う。
こんな所に開いているのだから不思議の国どころか地獄に繋がる奈落の底の方が連想しやすい。

「けど結局、ほんとに何なんだこれ? 井戸やダムの底の排水溝って訳じゃなさそうだが、こんなところに落とし穴なんて事もないだろ?」
「どう見ても自然にできた穴でもないのだから、何らかの役割を果たしていると考えるべきでしょうね」

穴の周囲の泥をつまみ、指ですりつぶしながら探偵は答える。
問われた所ですぐに断言することはできない。
探偵とはいえ一見ただけで超速理解とはいかないのである。
今の時点では推察と考察を重ねるしかない。

「この穴は最初からこの島にあって、殺し合いの邪魔になるから奴が封じていたという可能性は?」
「支給品として鍵が支給されている以上それはないわ、明らかに見つけてほしがっている」
「にしては見つけ辛過ぎだろ……」

そもそもダムの水の下に隠されていたのだ、ご丁寧に鍵までかけて、だ。
簡単に見つけられるものではない。
むしろこうして見つけられてのが偶然と幸運の産物である。

「そうね。こんな所にあるのは、見つけてほしい。けれどいきなり見つけられては困る。最悪見つけられなくてもいいから、かしらね」
「訳が分からん」

禅問答のようだ。
見つけてほしいが見つけられなくてもいい?
どういう事なのかリクには理解できなかった。

「そう難しい話じゃないわ。見つけられないようなのはいらないってこと」
「……なにか試練、のようなものか? それを乗り越える人間を待っている?」

その言葉に探偵は見つからないように少し笑う。
同じヒーローであるナハトリッターもそんな風に例えていた。

47 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:00:36 ID:CdEWYDVs0
「そうね。それに近いかもしれない」

探偵は同意する。
ヒーローはより一層首を傾け。

「つまりは、ここは出口かもしれない、ってことか?」

試練を乗り越えたモノが到達する最終地点。
不思議の国ではなく、見慣れた日常の国へと繋がる扉。
大胆すぎるこの予測を探偵は肯定こそしないものの否定もしなかった。

「だが、わざわざ奴が脱出口なんて用意すると思うか?」
「ええ、それはありえるでしょう。だって脱出手段はこれに限らずいくつか用意されているのですから」

女子高生探偵は当然のことのように余りにも想定外なことを言う。
その態度に、女の底意地の悪さを感じヒーローは怪訝な顔で眉をひそめる。

「とりあえず、詳しく聞こうか」
「そうね。私がここに来るために使った支給品なのだけど」

そう言って亜理子が取り出したのは『電気信号変換装置』通信先に転送するアイテムである。
龍次郎の元からリクの元まで亜理子が通信バッチ越しに現れたのはこれのおかげなのだが。

「例えば、外に繋がる携帯電話でもあれば、それだけで脱出は出来るとは思わない?」

それは青天の霹靂ともいえる発想だった。
通信先に転移できるという性能が適用されるのならばその通りである。
あっさりと脱出に対する具体的な脱出方法が提示されてしまった。

「だが、こんなところに電波がつながってるとは…………」

思えない。
そう言いかけて、雪兎が電波塔を気にかけていたことを思い出す。
どこかに電波は繋がっている、あの才女はそう言っていたのではなかったか。

「少なくとも、ここいるアイツと外にいるアイツ。それぞれ連絡を取り合っているのは間違いない、それに関してはここにいるアイツと接触したときに確認済みよ。
 仮に連絡手段が携帯電話でなくとも、その手段さえ奪ってしまえば脱出はできるの。
 そして、あの男がこの程度の穴に気付かないはずがない」

先ほどの鍵と扉の関係と一緒だ。
なにせ全てを用意したのはあの男自身なのだ。
わざわざ支給品として用意した以上、これは意図して開けられた穴である。

「なら仮にここもそうだとして、まさか飛び込めってこたぁないだろうな」

改めて穴を覗きこむ。
今のリクが落下すれば間違いなく死ぬ高さだ。
いや高さが分からない以上、万全の状態だって躊躇う高さだ。

「さてどうかしらね。何だったらあなたが飛び込んで確かめてみる?」
「いや、止めておく。判断するには材料が足りない」

リクは勇敢であるが愚かではない。
この状況で飛び込むのだとしたら、それは勇気ではなく蛮勇だ。
まだ、万策が尽きたわけではない。
まだこれが出口であると決まったわけではないし、一か八かを試すような状況ではないだろう。

「脱出口じゃなかったとしても何らかの手がかりであるのは間違いないわ。
 一応聞くけど、これがなんだが心当たりはあるかしら?」

探偵ではなく超常に通じたヒーローからの意見を求める。
と言われてもリクに思い当たる物など無い。
出るとしたら当たり前の発想くらいのものだ。

頭の中でイメージする。
縦に長い穴。何処かに繋がる道。四角。

「トンネル……いや、エレベーター…………か?」
「エレベーター……なるほど、その発想はなかったわ」

その呟きに少女は感心したように頷く。
それを皮肉だと感じたのかリクは口をとがらせる。

48 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:03:37 ID:CdEWYDVs0
「なんだよ」
「いいえ、褒めているのよ。恐らくは”それ”よ」

妙に確信を得たような言葉だった。
むしろ言ったリクの方が不可解そうである。
知識として構造を知るからこそレールもロープもないただの穴がそれだとイメージとして繋がらなかった。
期待した方向性とは違うが素人ゆえの発想だと言える。

「こんな所にか?」

山頂のダムの底。
そんなところにあるエレベーターなど、誰が使うと言うのか。

「こんな所だからよ。
 これがエレベーターだとしたなら、なにか呼び出す方法があるはず。いえ、むしろ彼は…………どうやって」

ぶつぶつと小さな声で呟きを漏らす。
思考に入り込んでいるのだろうか。
仕方なくリクが周囲が見るが少なくともスイッチらしきものは見当たらなかった。

「ともかく周囲を調べてみるか、なにか見つかるかもしれないし、」

唐突に、そこで言葉が途切れた。
会場の外と思しきはるか遠方の空が白んだ。
何事かと二人が視線をやろうとしたところで、足元がグラいた。

「なんだ…………!?」

地面が大きく揺れていた。
二人は咄嗟に倒れないよう体勢を低くして身構える。
一瞬、足元の山が噴火するのかと思ったが、どうやらこの孤島全体が揺れているようである。
リクは何が起きるのかと油断なく周囲を警戒するが、程なくして揺れは収まった。

「……地震、かしら?」
「と言うより、何かが落ちたような……」

距離が離れすぎていて明確ではないが、まるで遠くで巨大な何か、それこそ太陽でも落ちたかのような衝撃だった。
山頂という高所にいた二人だけに見えた物もしれないが、直前の閃光も気がかりだ。

「……夜明けにはまだ早いぜ」

まだ日も変わっていない夜も深い時間帯だ、太陽など昇るはずもない。
だが、一瞬だがあれほど世界を照らす光など、そうそうあるモノではない。
太陽。亜理子の頭に直前に出会った彼女を焼き尽くそうとした太陽が如き怪人を思い返される。

「………………まさかね」

ありえない想像を振り払う。
太陽の怪人と大首領が戦っているのはのこの孤島の東端辺りのはずである
光源はどう見積もっても島を超えた遥か先だった。
あれが戦闘の余波だとは考えづらい。

「おい、あれを見ろ」
「今度は何…………?」

何かを発見したリクが声を上げる。
今度の異変は先ほどの光があった北東とは逆の南東からだった。
亜理子が若干うんざりしながら振り返るとそこには煌めく七色の光があった。
先ほどの全てを塗りつぶすような圧倒的な光ではないが、水面に映える色取り取りの光は無視できない確かな存在感を示している。

「あれは…………花火かしら?」

打ち上げられた花火は一筋の流星のようだ。
煌びやかな光の帯は市街地から河を越えこの山に向かって伸びている。
断続的なその光はただの花火であるとは考えずらい。
何より、こんな状況で花火を上げるバカなど居るはずもない。

「心当たりがある。仲間だ」

だが、リクにはそのバカに心当たりがあった。
すぐに連想できなかったが、リクの発言に亜理子も思い至る。
JGOEのメンバーは一般に向けてプロフィールが公開されている。
その中に一人花火を操る花火使いがいたはずだ。

49 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:05:32 ID:CdEWYDVs0
「ボンバーガールね」
「ああ、恐らく間違いない」

頭痛を堪える様に額に手をやり首を振る。

「慎重を要するこの状況で、見つけてくれと言わんばかりの派手な移動方法を取るって……あなたのお仲間はそこまで考えなしなの?」
「返す言葉もないな。だが、頼りになる女だ。できれば、合流したい」

恐らくは相手の存在に気付いているのはこちらだけだ。
合流するにはどこかに行く前に迎えに行く必要がある。
だが、事件解決の手掛かりとなり得るこの場の調査を放置するわけにもいかない。

「迎えには俺一人で行こうと思う、あんたはここで調査を続けてくれ。
 俺はそっち方面ではあまり役に立てそうにないしな。枠割分担と行こう」
「そうね…………」

女子高生探偵は口元に手を当て考え込む。
確かにリクにその手のスキルは期待しておらず、探偵とは違うヒーローとしての発想力が欲しい場面でもない。
ここで戦力を分けるのは非常にリスクが高いが、役割分担と言うのは正しい方針である。
であるのだが。

「その方針自体に異議はないわ。けれど駄目、あなたを行かせるわけにはいかない」
「何故だ?」
「単純に、あなたに死なれると困るのよ」
「俺に…………? あんたの護衛役がいなくなるのが困る、って事じゃなくてか?」

戦力分散は別行動した場合の当然のリスクだ。
特に襲撃を受けた場合亜理子一人では対処できない。その護衛として残れと言うのならまだ分かる。
そういう意味では合流が果たせれば日本の誇るヒーローがもう一人戦力に加わる大きなメリットがあるのだが、それでも許可できない理由があった。

「ええ、貴方に死なれるのが困るのよ。だから今にも死にそうなあなたを行かせる訳にもいかないわ」
「それは俺が道中で誰かに襲われるかもってことか?」
「それもあるし、たどり着いた先に居るのが敵っていう可能性もあるわ」
「それは珠美じゃないかもって意味か? それとも……」

別の意味を含んでいるのか。
そう問うようにリクの視線が強まり、一瞬不穏な気配が二人の間に漂う。
その視線を亜理子は軽くあしらう。

「可能性の話よ」
「だからって、ここにいれば安全って訳でもないだろ」

戦場と化したこの場でどこに居たって危険地帯である事には変わりない。
実際の所、万全のシルバースレイヤーならともかく、重傷を負っている今のシルバースレイヤーは護衛としては心許無い。
先ほど亜理子を襲った太陽の怪人のような輩に襲われれば二人とも成すすべなく死ぬだけである。

「そうね、確かにそれはその通り。けど動かないほうが安全っていうのは道理でしょ?
 ともかくあなたにはやって貰わないといけない役割があるの、それまで死なれては困るわ」
「役割…………?」

そう言えばと、その言葉に先ほどの通信越しに漏れ聞こえていた亜理子と龍次郎の会話を思い出す。
完全に聞こえていたわけではないが、リクを何かに利用したいと言う話だったか。

「あんたは俺に何をさせたいんだ? ワールドオーダーを打倒するためだ、ってんなら協力はするが……」
「正しく”それ”よ」

確信を得たりと強い語調で探偵は言う。
それと言うのが何を指しているのか、リクはすぐさま理解した。

「それって…………つまりは、俺にヤツを倒してほしいってことか?」

ええ、と魔法少女の衣装を着た女子高生は頷きを返す。
だが、それは亜理子に促されずとも行う大前提である。

「言われなくともそのつもりだが。そこまで言うからには何か理由があるってことなんだな?」
「ええ。察しがよくて助かるわ」

聞き手の理解の速さに女子高生探偵は満足げに頷く。
ヒーロー組織の長だけあって頭の回転は悪くない。
と言うより先ほどまでの相棒が脳筋すぎた。
優雅さすら感じさせる所作で探偵はスカートを翻させる。

50 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:06:21 ID:CdEWYDVs0
「あなたには――――主人公としてラスボスを倒してもらいたいのよ」

その上で世界が終わらないことを証明する。
何ともバカらしい話だが、これこそがワールドオーダーを倒す唯一の方法。
そして亜理子の見立てでは属性として主人公たる資格を持っているのがシルバースレイヤーだ。
それらの推理を簡単にまとめて、リクへと聞かせる。

「……なるほどな。完全に話を理解できたわけじゃないが、あんたのやりたいことの大筋はわかった」

世界の終わりだとかいう話は懐疑的ではあるのだが。そこは問題ではない。
理解できたのはその話が真実であろうとなかろうと彼のすることは変わらないという事だ。
ワールドオーダーを討つ。シルバースレイヤーのなるべきことはそれに尽きる。

「あんたは俺が死ぬことを危惧してるようだが、俺があんたの言う主人公だってんなら、死ぬはずがないってことじゃないのか?」

リクが死に主人公不在となりワールドオーダーの目論見が失敗してしまう事を亜理子は危惧しているようだが。
ちょっとお遣いに出たくらいで死んでしまうような輩にはそもそもその資格がない。

「それは違うわ。この場では因果関係が逆なのよ、主人公だから死なないんじゃない。死ななかったから主人公なの。
 もちろんイコールではないし生き残ればそれでいいという訳でもない。少なくとも、私にはきっと資格がない」

俯きがちに目を伏せる。
自分には主人公というポジティブなイメージにそぐわないという後ろ暗さのような感情が彼女の中にはあのだろう。

「結局、その資格ってのは”それらしい”ってことだろ?
 あんたから言わせれば俺が一番”それらしい”。それはいいさ、そういう物だろう」

主人公に明確な基準などない。
ないが故に、こればかりは主観的な見解を基にするしかない。

「だったらなおさらだ。ここで動かないようじゃ俺じゃない、だろ?」

保身に走り動かないなどと言う選択肢は正義の味方の選ぶ選択ではない。
彼らしさが失われてしまえばそれこそ意味がないだろう。
世界を終わらせるに足る正義の味方でなければならない。
そうでなければ担ぎ上げるに値しなくなる。

「意外と口が回るのね、シルバースレイヤー」
「それは納得したと受け取っていいのかな? 探偵のお嬢さん」

ふふんとリクは自信ありげに息を吐き、諦めた様に亜理子は溜息を零す。
それはリクの意見を肯定するものだろう。

「よし。じゃあとりあえず、調査に使えそうな武器以外の道具はあんたに預ける」

荷物から取り出した工具セット等々を亜理子へと次々手渡してゆく。
亜理子がその処理に手間取ってる間にリクは気が変わって引き止められない内に出立する。
むろんそんな手が通用する相手でもなく、立ち去ってゆくその背に声がかかった。

「けれど忘れないで、もうどれだけ生き残ってるのか分からない状況であなたが死ぬと言うのはワールドオーダーに対する勝ち目がなくなる事に等しい。
 そのことを肝に銘じておいて、シルバースレイヤー」

【F-6 山中(ダム底中央)/真夜中】
【音ノ宮・亜理子】
[状態]:左脇腹、右肩にダメージ、疲労(中)
[装備]:魔法少女変身ステッキ、オデットの杖、悪党商会メンバーバッチ(1番)、悪党商会メンバーバッチ(3番)
[道具]:基本支給品一式×2、M24SWS(3/5)、7.62x51mmNATO弾×3、アイスピック、工作道具(プロ用)
    双眼鏡、鴉の手紙、電気信号変換装置、地下通路マップ、謎の鍵、首輪探知機、首輪の中身、セスペェリアの首輪
    データチップ[01]、データチップ[02]、データチップ[05]、データチップ[07]
[思考]
基本行動方針:ワールドオーダーの計画を完膚なきまでに成功させる。
1:エレベーター(?)を調査する
2:データチップの中身を確認するため市街地へ
※魔力封印魔法を習得しました

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

51 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:08:12 ID:CdEWYDVs0
傷だらけの重い体を押してリクが山道を下ってゆくと、水の臭いが鼻をついた。
土を踏みしめる足元の感触が不揃いの砂利の感触に変わる。
ゆったりとした川の音が耳を打つ、川岸が近いのが分かった。

リクの視界に夜空と同じ色をした川が映る。
それとほぼ同時に、静かな湖畔の静寂を破る炸裂音が響く。
火の粉をまき散らしながら女が空から降り注ぎ、川岸へと着地した。

「よぅ。出迎えご苦労。とりあえずド派手に近づきゃ誰か現れると思ったぜ」

現れたのはボロボロの巫女服を纏った隻腕の女だった。
女の苛烈さを示すように、踏み込んだ足元に黄色い火花が散る。
女は傲岸不遜な態度でリクを睨むと、好戦的な笑みを隠そうともせず口元を歪めた。

彼女こそ日本最高峰のヒーロー組織、ジャパン・ガーディアン・オブ・イレブンの一人。
爆破の天使ボンバーガール。火輪珠美である。

「お互い酷い有様のようだな」
「そうだな」

1日を経過しようとするここまで、多くの激戦が繰り広げられた。
その中でリクは瀕死と言っていい重症を負い、珠美も片腕を喪った。
職業柄、互いに疵を負うこと自体は珍しくもないがこれほどの重症は珍しい。
東京地下大空洞でのブレイカーズとの全面戦争以来かもしれない。
その事実がこの戦場の壮絶さを物語っている。

そんな状態でも相変わらずな仲間の様子に、リクは呆れながらも安堵したように息を漏らす。
自分を囮にして敵を誘い出すと言うのは喧嘩早い珠美のよくやる手段である。
自らの身を危険に晒す戦術には正一がよく苦言を呈していた事を思い出す。

「お前なぁ……ここでもそんなことやってんのか。
 だが、残念だったな、来たのが俺で」

来たのは同じ組織に所属する仲間である。
敵を望んでいた珠美の期待には応えられそうにない。
だが、珠美は機嫌を損ねた様子もなく、口元を歪ませる。

「そうでもねぇさ」

白い閃光。
珠美に向かって踏み出そうとしたリクの足が止まる。
リクの足元に弾丸のような何かが撃ち込まれた。
見れば、それはロケット花火だった。
誰が撃ち放ったかなど語るまでもない。

「どう言うつもりだ?」
「そう言うつもりさ!」

警戒するようにジリと砂利を踏みしめた足元を僅かに引く。
その真意を見抜くべく、相手の様子を捉える。
珠美が喧嘩腰なのはいつもの事だが、この状況で冗談でも味方を攻撃するほど見境がない女ではなかったはずだ。
女の瞳には紅い戦意と黒い殺意が綯交ぜになって燃えていた。
本気を察するには十分な炎だった。

「俺とお前が闘う理由がない」
「理由? そんなもんが必要か!? あたしが襲う、テメェはそれを迎え撃つ。それだけの話だろ!?
 それともなんだ? 大人しく殺されてくれんのか!? あぁ!?」

餓えた狂犬のように女が吼える。
リクどうあれ珠美は問答無用で襲い掛かるだけだ。
片方がやる気である以上、戦闘は不可避だろう。

だが、珠美はやる気のない相手を倒したいわけではない。
やる気を出してもらわないと困るのは珠美の方である。

「そうだな、戦う理由がないってんならくれてやるよ。
 あたしは――――――”怪人”だ」

怪人だと、そう呼ばれた。
吐き捨てるように自虐的に嗤う。
全く持って今の珠美には相応しい呼び名だ。
その言葉の意味するところ理解できていないのか、リクは訝しげに目を細めた。

52 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:10:31 ID:CdEWYDVs0
「ハッ。笑っちまうよな、そう呼ばれちまったよ。
 そう呼ばれるだけの事をしてきたぜ、この場で何人も殺した。悪人を狩ってたって訳じゃあないぜ。
 この場で仲間だった亦紅ってガキを殺したし、元々の相棒だったりんご飴も殺した」

ここに来てヒーローは地に墜ちた。
この告白が事実だとするならば、ボンバーガールは殺し合いに応じたという事になる。

「何があった? お前が殺し合いに応じるとは俺には思えない」

リクの知る火輪珠美という女は、確かに粗暴で好戦的な女だった。
だが、理由もなく誰かに襲い掛かるような女ではない。リクはそう信じている。
その信頼を唾棄して、珠美は忌々しげに吐き捨てる。

「けッ! お前はあたしの何を信用してたってんだよ!? お仲間としての友情か? それともヒーローって肩書か?
 んなもん勝手に周りがそう呼んでたってだけだろうが! 私は元からヒーローなんてもんになったつもりはねぇ!!
 あたしは変わっちゃいねぇ! あたしはあたしのやりたいように好き勝手暴れてただけなんだよ!!」

最初から珠美は”こう”だった。
いやそもそも、ヒーローなんて呼ばれていたのがおかしいのだ。
それなのに何故、ヒーローと崇められたのか。
それなのに何故、怪人と蔑まれているのか。

「…………ヒーローと怪人、何が違うってんだ?」

心のまま気に喰わない奴をぶっ飛ばし続けてきた。
それは今も昔も何も変わらない。
なのに、なぜこんなにも苦しいのか。
そんな助けを求める悲鳴のような問いに、青年は溜息のように大きく息を吐き。

「…………オッサンならうまく説明もできるんだろうがな」

そう少しだけぼやく。
考えを言葉にするのは得意じゃない。
そういうのは、どこぞの探偵の役目だった。
だが、目の前の女が必要とするのならば答えねばならない。

シルバースレイヤーの力は世界征服をたくらむ悪の組織ブレイカーズによって齎された力である。
それでもリクはヒーローと呼ばれ、他の改造人間は怪人と呼ばれている。
これほどこの問いに答えるに相応しい存在はいまい。
その違いは何か。

「別に、違いなんてないさ」

違いなど、そんなものはないと、理想のヒーローと称えられた青年は答えた。

誰かを助ければ正義なのか、誰かを殺せば悪なのか。
そんな単純な話ではない。
正義のために誰かを殺さなければないこともあれば、悪事が人を助けることだってある。
正義など元より曖昧なモノだ。

「結局は、世間がそれを受け入れるか受け入れないかそれだけの違いだ。
 お前が変わっていないと言うのなら、それは世界が変わったんだろう」

結局のところ世界がそれをどう受け取るかだ。
彼らがヒーローと持て囃されているのは社会正義と迎合していただけの話でしかない。
そして価値観や倫理観など時代によって容易く流動する。
それこそ龍次郎が世界を支配したのならあの男の価値観が正義になるだろう。

この世に絶対の悪はあったとしても絶対の正義などない。
その時代の社会正義を守る強き者がヒーローと呼ばれ。
その時代の社会正義を乱す強き者がヴィランと呼ばれる。
それだけの話だ。
定義することなどそもそもが不可能である。

「だから俺は一つだけ決めていることがある」

虚ろで曖昧な世界の中で決して揺らがぬものがあるとするのならそれは一つだけ。

「――――自分の正義を疑わない事だ」

どの世界においても唯一変わらない物、即ち己自身を信じる。
世界中が悪と断じようとも己だけは己を疑わない。
世界などという曖昧なモノを呑み込む、一見すれば分かりづらい強烈な自我が彼にはある。

53 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:12:31 ID:CdEWYDVs0
だが、それは。
ふと珠美の頭に疑問がよぎる。
彼の言葉にのっとるならば彼の行為が”たまたま”社会正義に沿ったものであるからこそ彼はヒーローとして扱われているだけで。
もし彼の正義が社会と相容れない悪だったとしたならば、どうなるのだろうか。
ともすれば龍次郎以上の悪として世界に君臨していたかもしれない。
己の行為に疑問を持たないというのはそういう事だ。

「お前はどうだボンバーガール。お前の中にも猛る正義の炎があるだろう?
 ここで何があったかは知らない、何をしてきたかも正確には知らない。
 だが今のお前の行いは、己の正義に反してはいないのか。自らの正義に恥じるものではないのか?」
「ッ…………!」

正義を問うその言葉に。

『最後まで己の中にある正義という炎を信じられなかった、それが――――――――』

気に食わない男のニヤケ面が脳裏に蘇った。

「正義だの下らねぇことを何の恥ずかしげもなく言ってんじゃねえよ!!
 あたしはお前のそういう所が最初から大嫌いだったよ。
 自分の中の正義? ねぇよ。あたしにはそんなもんねぇんだよ…………ッ!」

信じるべき己の正義などない。
あるはずがない。
あってはならない。
そうでなければ、これまでの己の行為を受け入れられない。

「あたしは好き勝手暴れられればそれでよかったんだ、あたしはずっとそうやって生きてきて、そうやってればあたしはすっきり出来ていい気分で生きてられたんだ!」
「その割に――――今のお前は苦しそうだぞ」
「ッ! うるせぇ……うるせぇよ! 勝手に人の心情を決めつけてんじゃ――――ねぇ!!!」

女の感情が弾け真っ赤な炎が燃え上がった。
喧しいまでの炸裂音と共に火の玉のような花火が炸裂する。

それを銀の刃が断つ。
二つに分かたれた花火が線を引く様に夜を裂く。
その光景を見て、ボンバーガールが不可解そうに眉をひそめる。

防がれた。それはいい。
感情に任せた一撃だ、シルバースレイヤーならば防いで当然と言える。

不可解なのはそこではない。
氷山リクは生身のままでシルバーブレードを引き抜いた。
何故、変身しない。
そこで青年の体に足りないモノがあることに気が付いた。

「ぁあん、テメェ、リク…………ベルトはどうした?」
「敗北し奪われた。今はない」

言い訳のない簡潔な答え。
肩を落として俯いた顔を片腕で覆う。

「テメェもかよ。ったく、どいつもこいつも萎えさせんなよなぁ」

女の落胆につられるように周囲を覆っていた熱気が冷めてゆく。
揺らいでいた女の眼が、静まる波のように定まってゆく。

「ああそうだな、リク……いや、シルバースレイヤー。
 認めるよ。テメェの言うとおりだ、迷いがあるからこんなにも苛立たしいんだ。
 ――――――決めた。あたしはあたしを疑わない。今のあたしを肯定する」

ゆらりと女が陽炎のように揺らめいた。
女は崩れかかった体を、自らの意思で立て直す。
散漫な炎が一つの大きな猛炎へと変わってゆく。


「――――――全て燃やし尽くす」


もう迷わない。
それは人間性を捨てるという宣言だ。
その暗い決意をヒーローは受け止める。

54 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:13:14 ID:CdEWYDVs0
「そうか。それがお前の決断なら、見過ごすわけにはいかない。俺を覚悟を決めよう。
 お前の炎がお前自身すら焼き尽くすと言うのなら、俺が止めてやる――――」
「やってみろ! 口だけ野郎――――――ッ!」

降り注ぐ七色の流星群。
その威力は先ほどの火球とは比べ物にならない。
明確に殺す気で放たれたその流星は恐らくガトリング砲に匹敵する。

生身で防げるものではない。
切り裂いたところで爆風が身を焦がす。

それを前に、リクが右腕を伸ばして構えを取った。
伸ばした腕を回して、高らかにその台詞を叫ぶ。

「――――――――変身」

リクの体内に内蔵されたシルバーコアが回転を始める。
ベルトを奪われたからと言って変身できないという訳ではない。
ベルトはあくまでエネルギーの制御装置である。
エネルギーの根源であるシルバーコアは今も彼の胸の中にある。
彼の胸に燈る正義の炎のように常に燃え上がっている。

乱反射する銀の光が弾けて混ざる。
白銀の輝きは収束し、七色の流星を一瞬で振り払った。

だが爆炎の向こうに現れたその姿にはあらゆるものが欠けていた。
変身の基礎となる簡易素体。
装甲も薄く、腰に巻かれたベルトも風にたなびくマフラーもない。
あるのは不退転の意思を示すように握り絞められた白銀の刃のみ。

「行―――――くぞッ!!」

踏み込むその足跡から紫電が散った。
引き絞られた弓のように、一陣の銀の流星が奔る。
音すら置き去りにした超加速。
見開かれたボンバーガールの黒い瞳が自らの首を刈り取りにくる死神の姿を捉える。

だが、流星はボンバーガールを捉えることなくその脇を通り過ぎた。
ボンバーガールが躱したわけではない。
ただ、そのまま勢いを止めることなく地面に突撃して大きな砂埃を沸き立たせた。
見事な自滅である。

「………………な、ンだそりゃッ!?」

余りの間抜けにボンバーガールも呆気に取られるが、スペック自体が落ちている訳ではない。
ただ、動きを制御できていない。

ベルトなしの変身はブレーキのないF1マシンに乗るようなものである。
アクセルのみで化物マシンの速度調節など出来るはずもない。
自殺願望でもない限り、乗り込むべきではない代物だった。

自滅した間抜けをボンバーガールが振り返る。
立ち込める砂埃、その中に青白い稲妻が奔るのが見えた。
突撃にめげずシルバースレイヤーは凄まじい勢いで切り替えし、爆発めいた衝撃と共に粉塵をまき散らしと再び突撃を慣行する。

これにボンバーガールは粉塵が入ることも厭わず目を見開き、箒花火を振りかぶった。
先ほどは不意を突かれたが、来ると分かっているのならどれだけ早かろうとも対応はできる。
一瞬にも満たない交錯に集中力を燃え上がらせカウンターで首をはねるべく炎刀を振るう。

だがその炎は夜に線を引くのみで、何も捉えることなく空ぶった。
いや、正確には、捉えられなかったと言うよりも相手がここまで到達しなかったである。
今度は踏み込みが弱すぎたのか、シルバースレイヤーは自身の踏み出した足に縺れてその場に転がっていた。

「……何やってんだマヌケ。掴まり立ちもできねぇガキかよ」

落胆したように肩を落とす。
ベルトなしの変身では戦うどころか、まともに動くことすら叶わない。
これでは期待外れもいいところだ。

だと言うのに、これほどの醜態を晒そうとも。
どれだけの無様を晒そうとも。
その瞳だけは諦めの色を知ろうとはしなかった。
無様に地面に倒れながら珠美を睨む瞳。
その不撓不屈の精神が更に珠美を苛立たせた。

55 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:13:57 ID:CdEWYDVs0
「……くだらねぇくだらねぇ。なんだその様ァ!? 今のお前に何ができるってんだッ!!!」

苛烈さを具現化した女は激情のまま吼える。
激情を受け止める男は醒めた月の光のようだった。
感情を表に出さず、冷静に機械のように立ち上がる。

「お前を止める。俺にできるのはそれだけだ。
 無秩序に破壊を広げる今のお前は許しがたい」

変わらず告げる。
この男は激情を内に燃やす。
見えないからと言って燃えていないとは限らない。
己が炎で鉄を打ち、精神を研ぎ澄ます銀の断刀。

「だからッ!! 許せなきゃどうするってんだ、あぁあん!?
 マトモに戦う事もできないンな有様で、このボンバーガール様に勝つつもりかよ!」
「ああ。お前が負けることでしか止まれないと言うのならそうしよう。
 お前が死ぬことでしか止まれないと言うのならそうしよう」

覚悟を示すように輝きを失わぬ銀の刃を構える。

「加減は出来んぞ――――――――珠美。死ぬなよ」

その言葉にリアクションを返す前に。
気づけばボンバーガールの体は吹き飛んでいた。

何が起きたのか、何をされたのか。理解不能だった。
殴られたのか、蹴られたのか。それすらも判別不能。
動き出しを捉える事すらできなかった。

だがいつまでも呆けているボンバーガールではない、一瞬で結論の出ない無駄な思考を切り捨て、対応に頭を切り替える。
両手花火を噴出し体勢を立て直して敵に向かって反転する。
反撃に転じるべく足元に生み出した花火で自らを打ち出そうとしたところで、背後から蹴り飛ばされた。

「――――――なぁ!?」

衝撃に肺から息が飛び出す。
背後から蹴られた。
それはつまり、吹き飛ばされた先にすでに回り込んでいたという事だ。

早すぎる。
直前まで覚束ない動きをしていたのが嘘のようだ。
先ほどまでとは余りにも違う。
それどころかこれは――――普段のシルバースレイヤーより早いのではないか?

「ッ…………のぉ!!」

花火だけでなく踵で砂利だらけの地面を削りながら無理矢理に勢いを殺す。
炎をまき散らしながら回転花火の様に回って周囲を牽制する。
なんとか静止した。
そして目の前を見る。

そこにあったのは夜に浮かぶ赤。
白一色だった銀の騎士の外装は熱されたように赤く染まっていた。
基礎装甲では大気圏を突破する宇宙船めいた速度に耐えきれなかったのか。
断熱圧縮により赤熱した全身から煙を上げながらオーバーヒートしている。
その状態を見て、何が起きたのか珠美にも理解できた。

「まさか、テメェ…………ッ!?」
「ああ、調整が効かないつっても―――――100%は100%だろ」

シルバースレイヤー=フルスロットル。
細かい調整が効かないのならば、全力で踏み込むまでである。
最高速が出ると分かっているのならば動きを損なう事はないだろう。
出力と認識のズレを埋めるにはそれしかない。

だが、それは常に減速することなく最高速で走り続けるという事だ。
今のシルバースレイヤーはアクセルべた踏みにしてハンドル操作だけでコースを乗り切るクレイジードライバーだ。
一歩間違えば間違いなく自滅する。
いや改造人間であるとはいえ人間の知覚をはるかに超えた速度での行動など、本人にもなにをしているのか理解できていまい。
つまりこの男は、珠美ですら躊躇うようなアクセルを何のためらいもなく踏んだのだ。

珠美の背に温い汗が伝う。
氷山リクという男を見誤っていた。
こいつは想像以上にイカれてる。

56 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:15:57 ID:CdEWYDVs0
雷鳴が如き轟音が轟き、彗星の如き銀の閃光が地上を奔る。
もはや音速の域を超え雷速に迫るそれは、正しく光の矢だった。

エネルギー制御型であったからこそ、そうそう簡単にお目にかかることのできなかった、シルバースレイヤーの全力全開。
同じ組織の仲間であったボンバーガールですら始めて見る。いや正確にはその全力は見えもしない。
超反応を誇るボンバーガールですら捉えられない速度。
だが、捉えられずとも、戦うことはできる。

先読みと直感。
眼前に掲げた両手いっぱい花火を断続的に爆発させる。
設置型ならばどれだけ早かろうとも相手が勝手に引っかかる。
狙い通り、突撃してきたシルバースレイヤーを爆炎で弾き飛ばした。
弾き飛ばされたブレードが深く地面へと突き刺さる。

いや違う。弾いたのはシルバーブレードだけである。
シルバースレイヤー本体の姿はない。

瞬間、側面より衝撃。
シルバースレイヤーはブレードを投擲し、それよりも素早い動きで側面へと回り込んでいた。
その動きは正しく雷鳴。
コンマ一秒にも満たない一瞬の一人十字砲火だ。

「ぎぃ………………ッッ!!?」

骨が軋む。
ボンバーガールの体が砲弾のように吹き飛んだ。
ガードが間に合ったのは幸運以外の何物でもない。
そうでなければ内臓ごとイカれている。

だが、ガードに使った腕は痺れ、吹き飛ばされる勢いを花火で減速する事が出来ない。
回転しながら飛来する体が鋼よりも固い水面に叩きつけられ、沈むことなく凄まじい勢いで水面を跳ねる。
そして5回、6回と跳ねた所で、柱のような飛沫と共に水中へと沈んだ。

食いしばった口元から白い泡が零しながら、水中で身を捻る。
体勢を立て直して、水上に浮き上がろうとしたところで、水中から足首を掴まれた。

振り返る暇も与えられず水中へと引きずり込まれる。
水を掴むことなどできるはずもなく、もがくように掻いた腕が水を切った。
ジェットコースターのような急転直下。
クンと全身が水圧に引っ張られ、深くより深くへと水底へと沈んでいった。

水流に体を引っ張られながら、燃える手で足首を掴む赤い怪物を見る。
高温を放つ全身からゴボゴボと大量の水泡を発せながら不気味に白く目を光らせている。
その姿は珠美にとっては正しく命を奪いに来た怪人に映った。

(水中戦に持ち込もうって腹か………………!)

水中は花火を武器とするボンバーガールにとっては絶対的な不利なフィールドだ。
何より熱を持ったボディを冷却するのにも都合がいい。
思わず感心するほど、全てにおいて巧い手だ。
ボンバーガールのスペックをよく知るシルバースレイヤーの取る手としては最善手だろう。

だが、と水泡が零れる口端が凶悪に歪む。
水中ならば花火を封じられるなど、そんな常識は今のボンバーガールには通用しない。
もうリクの知る珠美ではないのだ。
この地において彼女の炎は新たな炎を取り込み次の次元へ強化された。
そのようなカタログスペック、とうに凌駕している。

水中を引きずられながらボンバーガールが手の内に巨大な花火を産み出す。
それは花火と言うよりも、長細い魚のような形状をしていた。
酸素が水中で爆ぜるように燃え上がる。

花火は水中でも炎を放つ。
それは花火に含まれる酸化剤が燃焼に必要な酸素を供給し続けるからだ。

そしてこの花火にはありったけの圧縮酸素を練りこんである。
後は火をつけてしまえば、水中であろうと燃焼を続けるだろう。

魚の尻尾に炎が生え雷の如くひた走る。
即ち、それは酸素魚雷だ。

57 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:16:54 ID:CdEWYDVs0
ボンバーガールの片手から勢いよく放たれたそれは、足元のシルバースレイヤーへと直撃する。
水中で巨大な火の花が咲き、足首を掴む灼熱の手が離れた。

酸素魚雷の直撃を受けた装甲は砕け、むき出しとなった生身からは改造人間の証である機械部分が露わになっている。
砕けた装甲の隙間から水が流れ込み、電気がバチバチと火花を散らすように漏電して水中に散った。
ダメージは甚大。無理をしてきたツケも祟って、すぐに動くことはできないだろう。

それを確認して、珠美は片腕で水を掻いて水上を目指した。
酸化剤に練りこんだ酸素はボンバーガールの体内から捻出された物である。
超人的な肺活量を誇るボンバーガールをしても水中でこれを作り上げるのはギリギリの捨て身の攻撃だった。
一刻も早く肺に酸素を取り込まねば意識が落ちる。

その焦りがある故に、確認を怠ってしまった。
砕けた仮面から覗く、その眼だけは死んでいない事を。

パチンと水中で何かが弾ける。
唸るような重低音が水中を僅かに震わせた。
それはシルバー・エンジンが回転を始めた音だ。

そもそもシルバースレイヤーの目的は水中戦に持ち込むことではない。
水中で敵を無力化? オーバーヒートした体の冷却?
そんな考えをするほどシルバースレイヤーは甘い男ではない。
敵は仕留める。それがこの男の信条だ。

シルバースレイヤーの体が白銀に発光する。
水中に引きずり込んだ目的は、逃げ場のない水の牢獄に敵を閉じ込める事にある。
漏電した状態でエンジンを全開にすればどうなるのか。
その答えがこれだ。

瞬間。雷が水中で弾けた。
エネルギーと共に漏れ出した電撃は水中を駆け巡り、水上を目指す女を捉える。
一帯へと拡散された雷を躱すすべなどなく、衝撃に開いたボンバーガールの口から大きな水泡が吐き出された。
完全に脱力し、力ない女の体が水面へと浮き上がって行く。
それを追うように、全ての力を使い果たした男の体も水中から見上げる揺れる月を目指すように浮き上がっていった。

「ぷっ…………はぁ……ッ」

女は息を切らしながら水上に浮かび、天を仰いで月を見上げた。
世界を照らす銀の光を忌々しげに睨む。
女を追うようにして僅かに離れた湖上へと男が浮き上がる。

「…………ようやく……大人しくなった、な」
「ああ、クソっ…………! 動けねぇ…………か」

悔しげに声を漏らす。
意識こそ保っているものの、全身が痺れて指一本動かせない。
回復するまで暫くはこうして浮かんでいる事しかできないだろう。

ボンバーガールの無力化に成功。制圧は完了した。
加減のできる相手ではなく、殺すつもりで戦った。
生き残ったのは純粋に珠美の運と実力だろう。

リクとしても酸素魚雷の直撃を受けたダメージは甚大である。
簡易素体の防御力ではボンバーガールの作り上げた酸素魚雷を防ぐことは叶わず。
装甲は剥がれ落ち、仮面に隠れた素顔は右半分が露わとなっている。
そして限界を超えた行動の代償のより、残った装甲も自壊を始めていた。

「負けた、か」

珠美は敗北を認める。
亦紅の遺した種火を取り込み能力を強めたにもかかわらず、碌にエネルギーを制御できていない相手に敗れ去った。
想像以上にイカれていた。
命知らずで知られるボンバーガールがそこで負けていたらどうしようもない。
敗因はそれに尽きる。

「あたしの負けよかこの力が負けたってのは少し悔しいな」

そこにどれ程の違いがあるのか。
珠美は悔し気にそんな呟きを漏らした。

58 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:18:09 ID:CdEWYDVs0
「ああ、あたしの力の源がなんなのかお前には言ってなかったか。
 いや、誰にも言ったことはなかったっけ、あれ、りんご飴の奴に寝物語で語ったことがあったっけか。まあどうでもいいか。
 ともかく、あたしの力は生まれつき持ってたもんじゃなくて、師匠から受け継いだ力でな。
 この師匠がこりゃまた強ぇ女でな、それなりに名の知れたヒーローだったんだが知ってるか?
 ま、師匠がくたばっちまったのはお前が改造されちまう前の話だからなぁ、知らねぇか」

少しだけ寂しげに昔を懐かしむように遠く空を見る。
珠美はあまり自らを語るような性格ではない。
同じ組織で戦ってきたが、珠美の身の上話はリクも初めて聞く。
それはそれで興味深くはあるが今はそんな話をしている場合じゃない。

「その辺の事情は後で聞かせてもらう、いろいろを含めてな」

湖の水に赤色が混じっていることに気付く。
電撃による衝撃か、激しい戦闘により傷が開いたのか、殺し屋によって喪われた腕の傷から大量の血液が流れだしていた。
湖が赤く染まって行き、それに比例して珠美の顔が青白くなっていく。
水中での大量出血は傷口が凝固せず出血多量による死につながる。
すぐに止血する必要があった。

「…………待ってろ、川岸まで引き上げてやる」

漏電の中心にいたシルバースレイヤーも巻き込まれていたが、ボンバーガールに耐爆性能がある様に、シルバースレイヤーにも改造人間としての耐電性能がある。
電撃によるダメージは比較的少なく、痺れによって動けないという事もない。
ゆっくりながら泳ぐことくらいはできる。
引っ張って岸まで泳いでいく必要がある。

「まあ、待て。聞けよリク」

だがそれを要救助者が制する。

「これはりんご飴にも言ってない、正真正銘、誰にも言ってない話なんだが。
 この力は実のところ花火を作る能力とそれに火をつける能力は別物なんだよ。
 可燃物を生成する力と種火を産み出す力、二つあるってことだ。
 可燃物がなんになるかは継承者によって変わるらしい。花火となるのはあたしの特性だな。師匠はダイナマイトだった。亦紅も…………きっとあいつも生きてりゃ自分の炎の形を見つけてたんだろうな」

聖火の如く引き継がれてきた力。
それは一つではなく二つの力だった。
継承者以外知ることのない門外不出の事実。
それはそれで驚きなのだが、何故それを今語る必要があるのか。

「そして種火の元となるのは自分自身さ、自分自身を炎にするって力だ。それは肉体に限らず感情であり魂だったり寿命だったりする。
 全身を炎と化して、物理攻撃を無効化した奴もいたらしい。ま、使うたび肉体を消耗していったらしいが。
 あたしは殊更感情を燃やすのに長けてたらしくてな、要するにあたしが萎えない限りは戦い続けられるって代物で、大したもんだと師匠も褒めてくれたよ」

珠美の話は続く。
その間にも湖の赤は徐々に広がって行き、リクの服を汚し始めた。
放っておけば出血多量で死にかねない。これ以上、無駄話をしている暇はない。

「おい、いい加減に、」

話を止める気配のない珠美をリクは強引に引っ張っていこうと近づく。

「使い手によって呼ばれ方は色々と変わっていたようだが、最初にこの力を覚醒させた能力者にちなんであたしら継承者はこう呼んでいる」

それを無視して爆炎の継承者は続ける。
その力の名を。


「――――――――――『爆血』と」


瞬間。リクの全身が発火した。
水中にいるにもかかわらず炎が全身に纏わりつく。
水中に混じった血液が燃えている。

59 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:19:10 ID:CdEWYDVs0
勝負はシルバースレイヤーの勝ちだが、殺し合いはどうか。
一切の容赦も躊躇もなくシルバースレイヤーはボンバーガールを殺すつもりで戦っていたが、殺すために戦ってなどなかった。
本当に殺すつもりだったのなら無力化した時点でトドメを刺すべきだったのだ。
対するボンバーガールは最初からそのつもりである。

「感情を燃やすに長けていると言ってもあたしだって他が燃やせない訳じゃない。
 まあ流石に肉体を炎と同化させるなんて芸当まではできないが、100円ライター程度のものなら、ほらこの通り」

リクは全身についた火を消そうと水中を溺れたみたいに暴れている。
だが元が血液である炎は水では消えず、服にしみ込んだ血液からは逃れようがない。
外骨格が残っていればこの程度の炎など物の数ではないのだろうが、エネルギーを使い果たした今となっては纏わりつく炎を振り払う事もできない。

「ぐっああああああああああああああああああ――――――――――ッッ!!!!」

断末魔のような声をBGMに、珠美は湖に浮かびながら水面に揺れる炎を見つめる。
心は酷く穏やかだ。
炎を見ると安心する。
師匠と出会わなければきっと放火魔にでもなっていたのかもしれない。

「勝手に担ぎ上げられて強敵と闘えるのならと入ったJGOEだったが。今思えば思いのほか悪くなかったぜ。
 人助けなんてまっぴらだったが、それなりに面白い奴らとつるめたし、それなりに面白おかしく暮らせてた。
 って―――――もう聞いちゃいねぇか」

僅かに動くようになった手でちゃぷりと水面を撫で、燃え尽きた男を見る。
焼け爛れ、焦げたように黒くなった皮膚が崩れ落ちた。
沈みゆくように月が水底に墜ちる。

「あばよヒーロー。怪人は征くぜ」

誕生を祝福するような水中の炎に彩られながら。
ここに一匹の怪人が生まれた。

【氷山リク 死亡】

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

60 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:19:34 ID:CdEWYDVs0
片腕の巫女が水中を漂う。
ぼんやりと星ひとつない空を見上げながら。
名残を惜しむ様に夜に円を穿つ月を見る。

血液を燃やして傷口は塞いだ。
放電するシルバースレイヤーの様子に気づき、電撃を受ける直前に傷を引っ掻き意図的に傷を開いた。
放電で死ななければリクならば自分を助けに近づいてくると踏んだ。
そして実際その通りになった。
氷山リクはヒーローだったから死んだのだ。

結構な時間水中に浸かっているが、血液が熱を持つ珠美は低体温症で死ぬことはない。
むしろ熱いくらいの体はには心地よいくらいだ。
体の熱とは対照的に頭は冷めている、あれほど全身を支配していた苛立ちもない。
きっと今の自分を肯定したからだろう。
仲間殺しをした後だとは思えないほど、どうしようもなく冷めていた。

徐々に感覚を取り戻しつつある手足でゆっくりと水を掻いて川岸にまで流れ着く。
そして立ち上がろうとして、意識が眩んだ。
意図的に流した物とはいえ血液が足りない。
輸血用のパックとまでは言わないが、せめて味気ない補給食やレーションなんかより肉が欲しくなる。

「…………うぷっ」

肉を連想した所で、女の死体を喰らう男の姿を思い出して吐き気がした。
気持ち悪い物を見せてくれたものだ。
だが、おかげで食欲が失せた。
口元を拭って、ふらつきながら無理矢理にでも立ち上がる。

さて、あと何度戦えるのか。
次の相手はどこに居る?
出会った相手には、悪いがこちらが燃え尽きる最期まで付き合って貰おう。

「……そういや、あいつ山頂から来たみたいだったが」

リクは山頂から下ってきたように見えた。
奴の事だ、徒党を組んだお仲間がいるかもしれない。
一先ずそこを目指すのは悪くない。
というかもともとも中央に向かう予定だったような気もする、もう覚えてないが。

女は体を引きずるように山道を登ってゆく。
もはや迷いを捨て、過去を捨て、命すら捨てた。
女に恐れる物など無い。

女は炎だった。
女は劫火だった。
女は花火だった。

花火は夏の夜に咲いて散るが相応しい。
その一瞬の煌めきを世界に刻み付けるように。

【F-7 川辺/真夜中】
【火輪珠美】
状態:左腕喪失 出血多量、ダメージ(極大)全身火傷(大)能力消耗(大)マーダー病発病
装備:なし
道具:基本支給品一式、禁断の同人誌、適当な量の丸太
[思考・行動
基本方針:全て焼き尽くす
1:山頂に向かう
※りんご飴をヒーローに勧誘していました
※ボンバーガールの能力が強化されました

61 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:20:17 ID:CdEWYDVs0
投下終了です

62 ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:13:57 ID:UsvTGNLY0
投下します

63 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:15:38 ID:UsvTGNLY0
緩やかな夜風が優しく頬を撫ぜる。
風は小さな氷の粒を引き連れて、遠くに飛んで消えて行った。
何かを堪えるような表情をしていた少女は、胸元に添えた手を強く握り絞める。
乾ききった瞳で、煌めいては消えて行く自らの弱さを見送っていた。

今、悪党を受け継いだ少女の胸中には鉛のような重さが沈殿し積み重なっている。
両親を失ったあの日、そしてこの地において幾度となく味わった、決して逃れられない痛み。
それを噛みしめるように感じながら、潰されるものかと強く意思を籠めて瞳を見開く。

この重さを足を止める重石にするのではなく、足を進める礎とする。
そうする事こそが父への最大の弔いであると信じている。
決して割れない氷のように固い決意。
その決意があれば、長い別れなどいらなかった。

感傷を振り切り、氷のような少女は倒れこんだ少年の脇に屈みこんだ。
意識を失っている少年の呼吸は落ち着いており、それどころか豪快に寝息まで立てている。
この様子ならば放置しておいてもあまり心配はいらなさそうではあるのだが、診療所で待たせている九十九をすぐにでも迎えに行かなくてはならない。
大人しくしていれば早々見つかるような場所でもないとは思うが、こんな状況だ彼女を一人にしておくのは心配である。
とはいえこの場に拳正を放置しておくわけにもいかない。

「ねぇ…………新田くん起きて、ねぇってば」

ペチペチと頬を叩く。
目を覚ます気配はない。

鼻をつまむ。
うーんと少しだけ苦しそうだがやはり少年が目を覚ます気配はない。

考えてみれば、こんなバカげた殺し合いが始まってから、もうじき一日が経とうとしている。
疲労もピークに達する頃合いだろう。
これまで張りつめっぱなしだった彼の道中を考えれば無理もない。

どうしたモノかと目を覚まさない少年の頬を人差し指で突く。
無理に起こす手段もないことはない。
だが、できればこのまま少しでも休ませてあげたいという気持ちもある。
ここまで彼にお世話になった借りを返すという訳でもないが、それくらいの気は使ってもいい。

「そうなると…………」

色々と我儘を押し通すのならば選択肢は一つ。
眠ったままの拳正を運んでいくしかない。
細腕とはいえ、ユキだってそれなりに鍛えている。
体格の小さな拳正くらいなら背負って行くくらいは出来るだろう。

「えっ…………と」

昔半田に教わった意識のない人間の背負い方を思い出しながら、仰向けに寝転がった拳正の体に手を添える。
両手を交差させ手首を引き、引き上た体の下に反転して滑り込むように入り込む。
そのまま背負い投げのような体勢から体を持ち上げ背に担ぐと、確かな重みが圧し掛かった。

意識のない人間はこちらに体重を預けてくれないため思った以上に重く感じる。
こうして考えるとむしろ抵抗すらしていたユキをいとも簡単に米俵みたいに抱えて走り抜けた拳正の凄さが分かる。

取り落とさぬよう何度か調整して重心を安定させた。
これなら何とかなりそうだ。
少なくとも近くの診療所まで歩いていく程度なら問題はなさそうである。

なさそう、なのだが、重さ以上に問題が一つあった。
それは触れた部分から伝わる感触。
普段からスキンシップが好きだった舞歌たちとじゃれ合ったり触れ合ったりしていたから、人とのふれあいには慣れているはずなのに。
彼女たちとは違う、少しだけ硬い男子の感触に戸惑ってしまう。

そう意識してしまうと途端に他のいらぬところまで気にかかった。
規則正しい呼吸音が耳元をくすぐる。
手元だけではなく触れ合った背から熱が伝わる。

楽しさをくれる舞歌たちの温もりとは違う。
安心するような父の温もりとも違う。
何処か溶けてしまいそうな、触れただけで火傷するそうな熱さがあった。
その熱の正体がなんであるか、それは、今は考えない。

「よし…………行きますか」

気合を入れ直して、診療所に向けて歩き始める。
今はそれどころではないし、何より、彼には彼女がいる。
燃えるような熱を氷漬けにして奥底へと沈める。
きっとこれからも考える必要はないだろう。

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64 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:16:47 ID:UsvTGNLY0
「ユッキー!」

尾行や周囲に人気がない事を確認しつつ診療所にまでたどり着き。
背負った拳正を落とさぬよう慎重に扉を開くと、慌ただしい足音と共に九十九が飛びつくようにして熱烈に出迎てくれた。

「大丈夫だった!? 怪我とかしてない!?」

九十九はユキの肩を掴むと捲し立てる様にガクガクと揺する。
その様子から彼女がどれだけ心配していたのか、どれだけ不安を感じていたのかが伝わってくるようだった。
一人きりで待っているというのは辛い事だ、その辛さはユキも良く知っている。
それでも彼女はここで信じて待っていてくれた、その気持ちは嬉しいのだが。

「ちょ、ちょっと……待って、新田くんが…………落ちるから…………!」
「あぁ、ごめん。って拳正どうしたの!? 寝てる………………? 寝てるだけ?」

そこで九十九も眠ったままユキの背に背負われる幼馴染の姿に気付いた。
一瞬、最悪の想像がよぎるが、呼吸をしている事に気づき一先ず安堵の息を漏らす。
すぐに表情を引き締めると強がるように悪態をつく。

「女の子に背負われるなんて情っけないなぁ。
 とりあえずベッドに運ぼう。重いでしょ?」

九十九が慌ただしく踵を返し、診療室へ駆けて行った。
この少女はいつだってどんな状況だって活動力に溢れている。

「一二三さん!」
「ん?」

声に診療室の扉を開いた九十九が振り返る。
待っていてくれた人に最初に伝えるべき言葉をまだ言っていない。

「ただいま」
「うん、お帰りユッキー」

そして診療室まで運んで行った拳正を九十九に手伝って貰いながらベッドにそっと寝かせる。
熱の残り香が離れていく。
汗ばんだ背に学生服が張り付いていた。

「はい、ユッキーもそこに座って」
「え」

有無を言わさず九十九に手を引かれた。
抵抗する間もなく丸椅子へと導かれ、座らされる。
その正面に棚から取り出した包帯と消毒液を両手に抱えた九十九が座った。

「よし。じゃあ脱ごうか」
「え!? いや、ちょっとさすがにそれは…………新田くんもいるし」
「大丈夫だって、寝てるし。脇腹裂けちゃってみたいだし、早く手当しないと。
 それに他にも細かい擦り傷とかもあるし、そっちも手当しとこ」
「うっ…………ぐ」

九十九の言い分は正しい。
治療道具があるのだから治療はしておいた方がいい。
勢いに圧され、あれよあれよと言う間に学ランのボタンを外されてゆく。
ここまで来るとユキも観念して、はだけた胸元だけ手で隠しながら黙って九十九の治療を受ける事にした。

「………………ッ」
「ゴメン! しみた!? けど我慢してね!」

言葉では謝りつつもまったく遠慮なく消毒を続ける。
九十九は治療に専念していて、ユキが出て行った後の事を何も聞かなかった。
父との戦いはどうなったのか、どういう決着をしたのか。
気にならない訳ではないのだろう。

どう語っても辛い結末である事を気遣っているのだろうか。
九十九が聞かないのならユキから話すべき事ではないだろう。
語るまでもなく、戻ってきたのが二人だけと言う事実が物語っている。
なら、ユキが言うべきなのは別の言葉だ。

「一二三さん。あの時、背中を押してくれてありがとう。あなたがいなければ私はきっと前に進めなかった」

父との戦いを迷うユキの背中を押してくれたのは九十九だ。
九十九がいなかったら、きっと前に踏み出せず、あの結末を迎えることはできなかった。
あのままじっとしていればきっと楽だっただろう、父をこの手にかける事も、この重さを背負う事もなかった。
けれど後悔はない。辛く苦しい道のりに向かって、踏み出せた自分を誇りに思う。

傷口にガーゼを宛がい張り付ける。
その手が止まった。

「私は……お礼を言われるようなことは何にもしてないよ。
 ユッキーが動き出せたのはユッキーが動こうって思ったからだよ」

そんな事ない、と言おうとしたところで九十九の表情が沈んでいることに気付く。

「むしろ助けられているのは私の方だよ。ユッキーや拳正にばっかり前に立たせて勢いだけで何にも出来てない。
 ここにきてから、ずっとずっとそう。若菜や輝幸くんだって……」

自らに対する負い目。九十九が弱さを見せる。
それがユキにとっては意外だった。
自分とは違って、強い人だと思っていたから。
彼と同じく彼女はは強い人だと思っていた。

65 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:17:36 ID:UsvTGNLY0
だけどそうじゃない。
彼女もユキと同じく、自分の無力を嘆き、何もできない自分を変えたくて足掻いている。
そんなただの人でしかなかったのだ。
そう気付いた。

「そうだね、そうかもしれない」

ユキは九十九の言葉(よわさ)を肯定する。
九十九に力がなく、誰かに助けられなければ生き残ってこれなかった。それは否定し様のない真実。
無鉄砲な九十九がここまで生き残ってこれたのは誰かの助けがあったからに他ならない。

「けど助けられてるのはお互い様なんだよ。私は勝手に一二三さんに助けられたって思ってる。それは本当なんだから」

それは彼女とユキに限った話ではない。
誰しも何もかもはできないのだ。
それは決して恥じる事ではない。
大切なのはそれを受け入れ、足りない自分がどう生きるかを考える事だろう。

「私たちは足りないモノだらけだ、だから助け合っていくしかないんだよ。
 助けられることは決して悪い事じゃないんだから」

一人で世界全ての善悪を背負っていた父は立派だが、ユキにはできない。
誰かに助けられて、誰かを助けて。
そうやって生きて行けばいい。
それが未熟な悪党の生き方。

「あ、れ……………………?」

その言葉がどれほどの意味を持ったのか。
不意に少女の目から一筋の涙が頬を伝って床に落ちた。

「ッ! ゴメン、何でだろ…………ははっ」

自分でも驚いた様に九十九は自らの頬を袖口で拭う。
だが、一度零れてしまえばもう止められなかった
ずっとずっと負けるもんかと堪えていたものが決壊して止まらなかった。

言葉にできない感情が涙となって溢れ出る。
もうどうしようもなかった。

「…………ゴメン……ゴメンね…………ぅう」

子供のように泣きじゃくる九十九をユキは優しく抱き寄せた。
心を落ち着けるよう静かに、その背を擦る。
九十九が落ち着くまで何度も。

「ねぇ、これから九十九って名前で呼んでいい?」
「……うん。もちろんだよ」

二人の少女は笑い合って、それから他愛のない事を話した。
日常の事。
家族の事。
友達の事。
そんな何でもない話を。

仲が悪かったわけではないが特別仲が良かったわけでもない。
こんな事がなければこうして二人きり腰を据えて話すこともなかっただろう。
そう考えると不思議な関係だった。

何かと目立つ幼馴染の世話に走り回っている印象が強いが、九十九は誰に対しても壁を作らない性格からかクラスの中心にいた。
少なくともユキの目からは誰とでも仲良くできる人に見えた。

対してユキの人間関係は自他ともに認めるくらいに狭い。
閉じた世界で生きてきた。

ルピナスはそんな私を気にせずにいてくれた。
夏実はそんな私を受け入れてくれた。
舞歌はそんな私を変えようとしてくれた。

かけがえのない親友たち。
彼らとの関係が永遠に続けばいいと本当にそう願っていた。

だが、永遠などない。
時は巻き戻らず、失ったモノは取り戻せない。
そんな当たり前の事実を知る。

だけど失ったモノは違う形で取り戻すことはできる。
それは過去をなかったことにするという事ではない。
ユキが新しい悪党になったように。
なにか新しい物は生まれるのだ。

こんな殺し合いに感謝することは何一つないだろうけれど。
きっと、何も残らない訳じゃない。

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66 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:18:27 ID:UsvTGNLY0
夜と共にガールズトークも深まった頃。
唐突に、ベッドで眠っていた少年が跳び起きた。

目を覚ますや否や野生の獣のように鋭い目つきで周囲を素早く見渡す。
ちょうど拳正の恥ずかしい昔話を吹き込んでいた最中だったので、お、バレたかな? と九十九が内心冷や汗をかいたがそうではなかった。

「きゃ…………っ!」

薬棚がガタガタと音を立て震え始めた。
次の瞬間には揺れは部屋全体にまで広がり、柱が軋みを上げる。
揺れは数秒ほど続き、徐々に小さくなり程なくして収まった。

数秒の沈黙。
完全に揺れが収まった事を確認してユキがポツリと声を漏らす。

「地震……だったみたいね」
「そう、だね」

流石は地震大国の子供たち、この程度の揺れで取り乱すでもないが、流石にこの状況下では僅かな不安が残る。

「仲いいな、お前ら」

互いにすぐ近くの相手を庇おうとしたためか、二人の少女は抱き合うような形になって固まっていた。
それに気づいてユキは離れようとしたが、九十九は逆に見せつける様に引き寄せた。

「仲いいよー」
「そうかい。そら結構なこって」

適当に返事をしながら拳正がベッドから飛び降り立ち上がる。
シッカリと両の足で立ち、固い体をほぐすように首を鳴らす。

「体、大丈夫?」
「ああ、むしろ”調子がいい”くらいだ」

片目は潰れ、全身はボロボロだが、全身の毛穴が開くような感覚がある。
その身をもって達人の域を体感したからだろう。
無理矢理に門を開かれたように次の領域が見える。

「んで、今のただの地震だったか?」

その問いかけに少女二人は首を傾げた。

「どういう意味?」
「こんな場所だからな、近くでどっかの誰かが暴れてこの家が揺れたって可能性もあんだろ」
「うーん。そんな感じでもなかったと思うけど…………」

局地的なモノというと言うよりはそれなりに深い震源から揺れる広範囲なモノだったように思える。
それに建物全体を震わすほどの規模の破壊活動があれば流石に分かりそうなものだが。

「そか、なんか妙な気配を感じて跳び起きたんだが、気のせいだってんならいいや」

感覚が開きすぎているのか、予兆のような悪い予感を感じて目を覚ましたが。
先ほどの揺れは何の変哲もない地震だったというのは拳正も同意見だ。
気のせいだったのだろうと、それ以上掘り下げるでもなく意見を取り下げる。

「予感がして跳び起きたってあんた、地震が来るって気付いて目を覚ましたって訳? 動物かいな」

野生の獣は地震が起きる直前に地震を予期して動くのだと聞いたことがあるが、先ほどの拳正の反応はそれだった。

「るせぇな。この状況で何の警戒もなく寝てられるほど太くねぇよ。
 一応敵意とか悪意とか警戒しながら寝てんだ、なんかあったら飛び起きるさ」
「はぇ〜、器用なこって」

その割にどれだけ突いても起きなかったけどなーとユキは思うが内心に留め言わないでおいた。

「よし、じゃあ拳正も起きたことだし、これからどうするか決めよう」

九十九がそう切り出す。
彼らの当面の目標は脱出手段を持っている可能性の高いユキの父親の捜索だったのだが、その目標は果たされ、そして失われた。
新たな方針が必要となる。

「まあ、とっととこんな所から抜け出してウチに帰るってのが目標だが」
「それを私達だけで成し遂げるのは難しいでしょうね」

大した力を持たない学生三人。
首輪の解除。
会場の脱出。
彼らにはそれらを成し遂げるだけの力がない。
それを素直に認める。

67 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:19:12 ID:UsvTGNLY0
「俺らだけでも、ここにいる野郎を〆てどうにかさせるって方法もあるぜ」
「それは……難しいでしょうね」

ここにいるワールドオーダーをどうにかできれば確かに全て解決する。
だが、この戦力であれをどうにかできるか、と言われれば難しいだろうし。
倒せたところで、都合よく動いてくれる相手だとも思えない。
余り現実的な案ではない。

「だろうな。ま、言ってみただけだよ。ついでに野郎を一発ブッ飛ばせたらって思っただけさ」

飄々と状況に対処してきた拳正とて、この状況に、この状況を作り出した相手に思う所がない訳じゃない。
これまでそれらしきを見せなかったのは他に優先すべきがあり、それを間違えなかったからだ。
九十九のように表立たずともその気持ちは奥底に確かにあった。

「結局は何とかできそうな奴を探して、そいつの案に乗っかるしかないってことだな」
「身も蓋もない言い方をすればそうなるわね」

方針自体はユキの父を探そうとした時と変わらない。
変わるのは誰を頼りにするかという所なのだが。

残念がら比較的普通に生きてきた拳正や九十九にこんなトンどもな状況を解決できそうな人間の心当たりはない。
この手の当てはユキに頼るしかない。
まだ放送で呼ばれていない生き残りの中で一番に浮かぶのは良くも悪くも有能な一人の女だった。

「何とかできそうな人って言ったら……恵理子さん、かな」
「恵理子さんって?」
「私の所属してる組織の幹部の人なんだけど、なんて言ったらいいのか……とにかく底が知れない人だから何とか出来るかもしれない」

ユキ個人としては苦手な人であるのだがそうも言っていられない。
父に並ぶ有能性を持つ彼女ならば、首輪の解除プランや脱出プランの一つや二つ持っていてもおかしくはないだろう。
ただ問題があるとするならば、彼女は悪党商会の後継者の座に異常なまでに執着していた事だ。
半田と共に悪党商会の後継者争いをしていた彼女がユキが悪党を継ぐと知ったらどうするのか、という一抹の不安は残る。

「他にはヒーロー連中かしら」
「ヒーロー?」
「本当にいるのよヒーローって。人助けを生業にする人たちがね」

悪党商会であるユキの立場からすれば商売敵だが、その手のしがらみを抜きで言えばこの場においては最も頼りになる人種だろう。
生き残っている可能性があるのはシルバースレイヤーとボンバーガール。
やられ役として早々に倒された程度だが、何度か戦ったことのある相手だ。
ボンバーガールはともかくシルバースレイヤーなら話は付けられるかもしれない。

「後は…………そうね、音ノ宮先輩かしら」
「音ノ宮…………なんか聞いたことあるような」
「いや、新田くんには私が説明したよね…………?」

なんで忘れてるの?という呆れ顔はすぐさま諦めの溜息に変わる。

「……まあいいわ、新田くんだしね」
「それよか、確か探偵だっけ? その先輩。なんか凄い人がいるって私も聞いたことある」

我が校の誇る美少女女子高生探偵。
探偵は謎を解く。
そうとしか生きられない連中だ。
彼女なら、探偵ならあるいは、この殺し合いの謎を解き明かしているのかもしれない。

「探偵、ね。ま、いいんじゃねぇか、当てにしてみても。
 ウチのガッコの先輩なんだろ? 助けてくれんじゃねぇの」
「うーん、無条件の善意とか、そういうの期待できるタイプでもなのよねぇ」

僅かな邂逅だったが、ユキはこの場で一度出会ってる。
ミロとのごたごたで有耶無耶のうちに分かれてしまったが、変わらぬ怪しげな雰囲気を纏っていた。

正直言って恵理子以上に苦手なタイプな上に、個人的な親交もない。
頼るべきは人としての当たり前の正義心なのだが、あの人にそれを期待してもよいものなのだろうかとう不安は残る。

「あの人。今頃、どうしてるのかしら?」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

68 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:19:38 ID:UsvTGNLY0
世界が終わったような静寂があった。
それほどの集中を続けていた少女は息を吐いてその糸を緩める。

亜理子は地面を調べるべく屈んでいた体勢から立ち上がると、スカートの端についた泥を払う。
しかし、ぬかるんだ地面を掻きわけていた白く細い指は土色に染まり、沁み込んだ土汚れまでは払った程度では落ちなかった。
汚れが目立たたないゴシック調の魔法少女服だったのは幸いであるのだが、流石にここまで汚れると一度水浴びでもしたいところなのだが、そうも言ってられない状況である。

ダム底の調査は終了した。
手元の心許無い明かりを頼りにした調査だったが、探偵の誇りにかけて見落としはないと断言しよう。
怪しげな中央の穴のみならず、周囲一帯にまで調査の手を広げたがエレベータースイッチらしきものは見つからなかった。
他にもこれと言った手がかりらしきものは見つからず、脱出に向けての進展はない。

だが、その結果に対して彼女に落胆はなかった。
これは彼女にとっては確認作業に過ぎないのだから。

この空洞がエレベーターであると断定できる材料は殆どなく、むしろ何も見つからなかったという調査結果はそうではないと裏付ける物である。だが、彼女はこれがエレベーターであると言う確信があった。
何故なら彼女には『そうである』と言う心当たりがあるからだ。

それは死亡した一ノ瀬と対話を果たした時の話である。
彼は主催者と対峙する機会を得たと語り、彼女はその詳しい経緯を尋ねていた。
その問いに彼はこう答えた。

『貴女の前から消えた直後の話だ。気付けば僕は四角い箱の中に居ました。
 窓一つなく外がどうなっていたのかは分かりませんでしたが、僅かな振動から動いていたのは確かだ。
 階数表示もボタンすらなく登っていたのかも降っていたのかも定かではありませんが、恐らくはエレベータのような何かの移動装置。
 たどり着いた先は奴の本拠地と思しき場所でした、きっと私がそこに飛ばされたのは偶然ではない、そうなるよう設定されていたのでしょう』

彼が乗り合わせた移動手段が恐らくコレだ。
主催者の下にたどり着くために用意された箱舟。
禁止エリアによる中央への誘導もこれならば納得ができる。

そうなると考えるべきは使用手段だ。
周囲に呼び出せる仕掛けがない以上、通常の手段で呼び出すことはできそうにない。
だと言うのに、何故彼は乗れたのか?
いや、そもそも何故あの時点で消えたのか?

あの時の一ノ瀬に特別な点があるとしたならば、それは死神の手によって首輪が解除されていた事だろう。
ならば首輪の解除がエレベーターの搭乗条件になるのか?
首輪を解除すれば自動的に転送されるのか?
いや、それはない。

私の前から姿を消したのは、世界を渡ると言う彼の異能の作用だろう。
あの場で転送されたのは彼が彼だったからである。

いくらなんでもあの退場の仕方をワールドオーダーが想定しているとは考えづらい。
想定しているのであれば、そもそもそんなことをさせないよう対策すべきである。

あくまであれは死神と一ノ瀬空夜という規格外の組み合わせによるイレギュラーだ。
これを正答として考えること自体が間違っている。

あれは例外中の例外。
だが、必要な要素を見極め、真偽をくみ取ることはできるはずだ。
タイミングからしてあの時点で転移が始まった事と首輪の解除があったことの因果関係は恐らくある。
首輪の解除が必須という点は正しい考察だろう。
問題は彼がその異能で『呼び出し』という過程を一足跳びでクリアしてしまったという事だ。

これを呼び出すための条件は別に何かあって、それは未だにクリアされていない。
正規の条件を解き明かす。

いや、解き明かすべくはそれだけではない。
全ての謎を解き明かし因縁も伏線も全て明かして、未練なく神様が本を閉じられるように世界の終わりのお膳立てをする。
これこそが探偵である亜理子に課せられた役割だった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

69 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:19:55 ID:UsvTGNLY0
土の地面を踏みしめる不規則な足音が響く。
ふらつく足を引きずるようにして山道を歩いているのは怪人へと墜ちた女だった。
月の光すら深い木々に遮られ、自らの足元すら朧気に闇に溶けてゆくようだ。

吐く息すら炎のように熱く、全身が高熱を帯びてたように気だるい。
整備されていない山道は踏みしめるたび体力を奪う。
まるで足に見えない重りが纏わりついたようで、足を進めるたび命が削られていくようだった。

ただ灼熱のように沸き立つ頭だけが、妙にふわふわして気分がいい。
油断すると沸き立ちすぎて意識が白む。それを強く舌を噛んで無理矢理繋ぎとめる。

口の中に広がる鉄の味を喉を鳴らして呑み込む。
曖昧にぼやける感覚の中で鋭い痛みだけが確かだった。
熱が上がるたびに余計なモノが消えて行き、神経が研ぎ澄まされてゆく。

急ぐ理由もなく、明確な目的もないのに休むこともせず。
生き急いでいるのか、死に急そいでいるのか、それすらも分からずにいる。
それなのに何故進むのか。
本人すらわからないその問い答える者など無く、目的すらわからなくなりながらそれでも足を進める。

八十八箇所を巡る僧侶のようだ。
ただ無心に頂点を目指して勾配のある坂道を踏みしめる。
人を害する血と悪意に彩られた道行であるはずなのに、心中は狂ってしまったように穏やかで、ただ白く何もない。

そうして進むうちに山頂に近いて行き、周囲を取り囲んでいた鬱蒼とした木々は目減りしてゆく。
折り重なる木々によって貼られた天上のカーテンが徐々に開かれて、女の下に月明かりが届いた。
影ばかりだった世界が輪郭を取り戻すように照らし出される。

見上げれば、そこには視界を埋め尽くすような巨大な貯水ダムが鎮座していた。
正確にはそこに在ったのはダムだったであろう何かが、だが。
ダムは既に半壊しており、コンクリート壁はまるで巨大なバーナーで焼切ったように高熱で溶解したように壊れ、ダムとしての機能を果たしていない。

その破壊跡に興味を引かれたのか、ふらふらとダムへと近づいてその破壊跡を確かめる。
どう見ても自然に壊れたモノではない。
破壊跡の様子からごく最近、恐らくは参加者の手によって破壊されたものだろう。

「よっこいせ……っと、とッ」

崩れた壁を乗り越えダムの中に侵入する。
広がっているのは乾いた苔の蔓延るただっぴろい荒野だ。
段差からの着地で僅かにバランスを崩したが、柔らかい地面を踏みしめながら立て直す。

ダムの中の水はすっかり涸れていた。
開いたドデカい穴から水が漏れ出したのではないだろう、恐らく高熱に晒され全てが蒸発したのだ。

この規模のダムであれば干ばつでもない限り貯水量は1000万m3は下らないはずである。
それが全て干からびるなど、どれ程の熱量が必要なのか。
恐らくドラゴモストロの火炎弾でも無理だろう。
炎熱を操る能力者として思わず嫉妬を覚えてしまうくらいのド派手な規模だ。

この破壊を成し遂げた相手がここにいるのなら、苦労してここまで足を運んだ甲斐もあるというモノなのだが。
見渡せどダムを破壊した相手どころか、リクの仲間らしき人影すらない。
平らなダム底、誰かがいれば見逃すはずもないのだが、周辺には誰もいなかった。

目につくモノがあるとするならば、ぽっかりと開いたどこまで続くのか分からないような四角い穴だけだった。
これ以外になにもない以上、リクがここを拠点としていた理由はこれなのだろう。
つまりは、珠美にはよく分からないが参加者にとって重要な何かなのかもしれない。

とりあえず小さな花火を一つ作って落とす。
パチパチと弾ける花火の光は吸い込まれるように落ちてゆき、その内見えなくなっていった。
手応えらしきものがまるでない、どれ程深いのか見当もつかなかった。

「…………壊しとくか」

ここが大事な何かなら壊しておくのが怪人として正しい在り方だろう。
そう考え、穴組を破壊できるだけの特大の花火を創だろうしたところで、すぐにやめた。

怪人ボンバーガールの目的は参加者を殺しつくすこと、参加者が何を目指そうと知ったことではない。
これが何であるかはどうでもいい事だ。
よくわからないモノを破壊するために貴重な感情(ちから)を使うのもバカらしい。
だからそれよりも、今優先すべきは。

70 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:20:14 ID:UsvTGNLY0
「――――――そこか」

唐突に身を翻して、適当に作った花火未満の火薬玉を周囲一帯に放り投げる。
それを一斉に炎で薙ぎ払うと、炸裂音が周囲に鳴り響いた。

「きゃ…………ッ!?」

爆炎に飲まれた何もない空間から、フリルの付いた黒い衣装の女が現れた。
いきなりそこに現れたのではなく、透明化か何かの能力で隠れていたのだろう。
それを見破ったのは直感などではなく、単純に井戸のような穴を破壊しようとする珠美の行動に動揺が見えた。
熱を帯び鋭く尖った今の知覚ならば、姿が見えているも同然だ。

「けっ、カメレオンかよ」
「く………………ッ!」

爆風に煽られバランスを崩していた女がなんとか踏みとどまる。
今の火薬玉はあくまで炙り出しに過ぎず、敵を焼き尽くすには火力不足だ。
ダメージは少なく黒衣の魔法少女はすぐさま次の行動に出た。

「――――――ジャンプ!」

魔法少女は迷わず逃げの一手に打って出た。
この場所の保持に固執せず、一足でロケットのように飛びたちダム底から離脱する。
思わず珠美ですら目を見張るほどの見事な跳躍だった。

だがそれでも、珠美なら全力で追えば確実に追いつける。
追いつけるが、珠美は追わずに夜に消えて行く黒衣を見送った。

このぬかるんだ足元であれだけの跳躍を見せた力は大したものだが、残った足跡を見るにあの大跳躍とは釣り合わない大きさだ。
あの跳躍は純粋な筋力によるものではなく、そういうスキルか支給品か恐らくは別の法則によるものなのだろう。

確かに追えば追いつけるが、今の珠美にとってはそれも決死の覚悟が必要となる。
逃げバッタにそこまでの価値を見いだせない。
どうせなら最期の相手は戦士がいい。

「……ここで待つか」

獲物に興味をなくした猫のように、泥に塗れる事も厭わずその場に倒れこむ。
乾いた地表が割れて、水を含んだ地面が染み出してきたのを背に感じる。
抜かるんだ冷たい感触が熱した体に心地いい。

焦ったように足をここまで進めてきたが、別に焦っていた訳ではない。
ただ生き急ぎ、死に急いでいるだけ。
成すべきことが決まっているから心持は凪のように穏やかだ。
自分の終わりは決めてある。

眠る様に眼を閉じる。
一日も終わろうと言う今になってようやくまともな休息を取れた気がする。
あっさりと放り出して逃げ出したが、ここが重要だと言うのならそのうち勝手に戻ってくるだろう。
その時に強いお仲間でも引き連れてくれればこれ以上ない。
それをのんびり待てばいい。

静かに穏やかに、眠るようにしてここで待つ。
愛おしい相手でも待つように、敵を待つ。

愉しい相手だといいのだが。

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71 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:20:49 ID:UsvTGNLY0
夜空より流れ星の如く魔法少女が降り注ぐ。
ざりざりと音を立て山の斜面を滑るようにして着地すると、そのままたとたと駆ける様にして山を下っていた。

魔法『大跳躍』により難を逃れることができた。
伺うように背後を振り返るが、敵が追ってくる気配はない。
追わなかったのか、追えなかったのか定かではないが、追いつかれることはなさそうだ。

それを確認して山を下る足を徐々に緩める。
月に影を色濃く落とす半壊したダム跡を見上げた。
脱出につながる重要拠点を制圧されてしまったが、あそこを保持する事自体はそれほど重要ではない。
いずれ取り戻す必要はあるだろうが、今できる調査は終えた、あのままあそこに居たとしても得るものはないだろう。

重要なのは然るべき瞬間に然るべき使い方をすることだ。
何より、あのエレベータを使うと言うのも持ちうる手段の一つに過ぎない。
いっそ切り捨て別の方法を模索する手もある。

それよりも問題なのはボンバーガールの襲撃と言う事実。
好戦的な性格であることは把握していたが、あれはそういう次元ではなかった。
ボンバーガールはヒーローとしての光の道を外れ、外道に墜ちた。
彼女は闇に向かって突き進んでいる。

それの指し示す事実は一つ。
恐らくシルバースレイヤーは敗れたのだ。
少なくともそう考えて動いた方がいい。

これは大きな誤算だ。
その可能性も考えていなかった訳ではないが、亜理子としては山頂を制圧された事よりもシルバースレイヤーの脱落の方がよっぽど痛い。
なにせリカバリーが難しい。次候補が都合よく見つかるとは限らない。

『奴』にとってはここで見つからなくても次に賭ければいいだけの話だ。
繰り返す殺し合いの中で、自分殺しがどこかで成功すればいい。
しかし亜理子からすれば、この催しは成功させなければならない。
寿命と言う有限があるとはいえリトライ可能なヤツとの違い。
成功を願う参加者に失敗を容認する主催者。なんて矛盾だ。

いや、次どころかこれと似たような殺し合いは同時に行われている可能性すらある。
根拠のない推察だが在りえる話だ。
コピー&ペーストを繰り返せしてきた膨大なリソースが奴の強みである。
リソースが足りているのなら、むしろその方が効率的だろう。

ただですら影響力の強い連中の寄せ集めである。
それがこの規模で同時多発的に消えたとなれば巻き起こされた世界的混乱の規模はどれほどか。
混乱が強まれば強まるほど、外部からの干渉を受ける可能性は下がる。
そうなるとそれこそ悪夢だ。

この悪夢を終わらせる。
この世界を終わらせる。
このお話を終わらせる。

その為に、その為の誰かを見つけなければ。
それこそが亜理子に課された急務である。
それが人の穢れを受け入れられないどうしようもなく潔癖症な音ノ宮亜理子という人間の為すべきことである。

「問題は…………」

問題は、その為にどれほど時間が残されているのか。
音ノ宮亜理子の終わり
この殺し合いの終わり。
世界の終わり。

全てはいつか終わる泡沫の夢。
その終わりよりも早く、答えにたどり着かなくては。

これは彼と誰かの物語。
その一翼を担う悪性。
あの男は、今頃何を考えているのだろうか。

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72 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:21:42 ID:UsvTGNLY0
夜の光が草木を照らし、優しく緩やかな風が草原を吹き抜ける。
ここにいるのは何者でもないただの人間と魔族である。
何者でもなく、何物にもなれる少年と女。
勇者あらざる少年が怪物あらざる女の傍らに寄り添っていた。

オデットに刻まれた聖剣による傷は深いが、勇者の力が破棄された事により再生阻害は消滅した。
微弱ながら再生は働いており、両断された胴体はギリギリのところで繋がっている。
彼女の強い生命力によるものか思った以上に状態は安定していた。
安静にしていればその内傷は癒えるだろう。

だが果たして、この混沌の世界で何事もなく安静になどしていられるのか。
少なくともこんな誰に見られているともわからない、草原で寝転がっているのはどう考えても危険だった。
勇二が運んでいければいいのだが、勇者の力を失ったただの子供でしかない勇二では大人のオデットを背負っていくことも難しい。
辛かろうが最低限動けるようになったのならばオデット自らの足で動いてもらう他ない。

「大丈夫、立てそう…………?」
「…………ええ、なんとか」

差しのべられた手を取って、オデットが立ち上がろうとした、その瞬間だった。
大きく大地が揺れた。

勇二は咄嗟にバランスを立て直し、その場に踏みとどまった。
オデットは立ち上がろうとしていた所を突かれたせいか、バランスを崩して尻餅をついた。

「ッ! 何!? 一体何が…………ッ!?」

尻餅をついたまま混乱したように空を見上げてオデットが叫ぶ。
リヴェルヴァーナでは大地の揺れは神の怒りとされている天変地異である。
神の因子を取り込んだオデットならば地を揺らすくらいは可能だが、それも局地的なものにすぎない。
このような世界全体が震撼するような規模の揺れなど、彼女にとっては世界崩壊の前兆とすら受け取れる大事態だ。
だが慌てふためくオデットの様子とは対照的に、勇二は妙にこなれた反応を示した。

「もう収まったみたいだから大丈夫だよ」
「大丈夫って……そんな! あんなに地面が揺れたのよ!?」
「いやぁ。ただの地震じゃない? そんなに大きくもなかったし大丈夫だよ」

そう言って再び倒れこんだオデットに勇二が手を差し伸べる。
余りにも落ち着き払ったその様子に、慌てている自分がオカシイのではないかと思えてしまう。

「そう、なの?」
「うん、それっと」

ポカンとしたまま手を引き上げられる。
そういう物なのだろうか?

「それよりも行こう、隠れられそうなところを探さないと」

勇二が小さな肩をオデットに貸す。
身長差がありすぎて、あまり助けになっているとは言い難いが、その気持ちに甘える。
肩に手をやり少しだけ体重を預けゆっくりと歩を進める。

「大丈夫…………?」
「…………ええ、平気よ」

歪めた表情から強がりでる事は誰にでもわかった。
やはり動くと傷に響くが、それは自らの罪科を知らせる痛みだ。
こんな事で罪の禊ができるとは思わないが、これまで犯してきた過ちに対する当然の罰として受け入れる。

自らの弱さを認めず目を逸らしそのために犯した多くの過ち。
取り返しのつく事ばかりではなく、何より死は取り返しがつかない。
失われた命を取り戻すことは、神にだってできないのだ。

取り返しがつかないからこそ、これからの事を考えなくてはならない。
何もしない訳にはいかないのだ。
足を止めることなどオデットには許されない。

「…………オデットさん」

だがオデットを先導していた勇二が張りつめた声と共に足を止めた。
自分の意識に没頭していたオデットがその原因に気付く前に、その声はあった。

「やあ」

若い男だった。
道すがら知り合いにでも出会ったような気軽な声。
夜の散歩でもしているかのように、余りにも普通にその男は現れた。

「勇者は捨ててしまったのかい?」

全身が総毛立つ。
目の前に終わりが絶望と共に立っていた。

「お前ッ、お前は…………!」

怒りに全身を震わしながら勇二が吼える。
全ての参加者の敵。
全ての人類の敵。
ワールドオーダーと呼ばれる世界全ての敵。

73 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:22:01 ID:UsvTGNLY0
「勇者と言う線と天才霊能力少年という君の線、これらが交わっただけでも僥倖だと言うのに、それを自ら破棄するだなんて。
 いや、いいよ実にいい。こちらの想定を超えるくらいでないと」

猛る勇二には取り合わず、男は誰も見ていないように独り口元を吊り上げ手を叩く。
その独善的な愉悦は誰のためでもなく、あるいは本人すら何も感じていないのかもしれない。
不気味な自動人形でも見ているような不安感に襲われる。

「……捨ててなんかいないよ」

確かに聖剣は捨てた。
だが勇者を捨ててなどいない。
勇二らしい勇者で在り続ける。
カウレスから託された願いは決して手放してなどいない。

「そうかい。なら君はそれでいいさ」

嗤うような口元とは裏腹な無機質な視線。
その行く先が少年から俯きがちに視線を落としていた女へと移る。

「だがオデット」

感情の見えない色のない声で名を呼ばれる。
それだけで言いようのない悪寒がオデットの背筋を撫でた。

「――――――――――君はいらない」

オデットの全てを否定するように世界を司る支配者は告げる。
それは死の予感ですらない、より深い終わりを予期させる絶望の具現。

オデットの全身が震える。
正気を取り戻した今だからこそわかる、あれは何か想像を絶する恐ろしいものだと。

オデットは一度、この男に手も足も出ず敗北を期している。
その上で見逃されたのた。殺すつもりなら、いつでも殺せた。
そんな相手に、聖剣によるダメージが残る中で立ち向かうことなど出来るはずもない。

敗北は必至。
何もできないまま無残に存在ごと消去されるだろう。

「そんなことはさせないよ」

だが、今は一人ではない。
オデットを庇うように、小さな、だがとても大きな背中が目の前に現れた。
震える足。恐怖は隠さず、なけなしの勇気を振り絞って。
その一歩の勇気をもって世界全ての悪意を詰め込んだような、この世の終わりの怪物に立ち向かう。

「オデットさん。僕たちにできる事はやっぱり、一つしかないと思うんだ」

声は震えながらも固い決意が込められていた。
敵を見つめる少年の黒い瞳に強い光が帯びる。
その瞳には子どもらしい純真な輝きと、数々の困難を乗り越えてきた深い強さが湛えられていた。

「みんなをこんなひどい目に合わせたお前を倒す! それが僕の勇者としての役割だ!!」

勇者として全ての悲劇の元凶であるこの男を討つ。
それが多くの過ちを犯してきた二人に出来る最大の罪滅ぼし。
失われた全てに報いる唯一の方法である。

オデットはその勇気に導かれるように顔を上げる。
他者の勇気を導く、少年の勇者。
彼女は己の弱さで多くの罪を犯した。
だからこそ、贖罪の道は示されたのならばここで奮い立ったねばならない。

奈落のような男は、その眩いまでの勇気を常と変らぬ表情のまま見送って、何の覚悟もないようなまま迎え入れる様に両手を広げる。

「いいさ。来るがいい、どちらにせよこちらのやることは変わらない」

この局面において、このワールドオーダーの役割は一つ。
参加者の排除だ。
それは合格者も脱落者も関係ない。
等しくこの大嵐を乗り越えるしかない。
乗り越えた先に世界を終わらす大業がある。

空気が静止する。
今にも弾けそうな緊張感の中。
唐突に支配者がくるくると指を回して天を指した。

「けれど、戦うのは少し待った方がいい。君たちにとって運命を分ける事になるだろう」

そこには月が浮かぶだけの夜空があるだけだ。
だが、彼が指していたのはそれではない。

声があった。
世界全体に響き渡るのは目の前の男と同じ声だ。
そう、この地において四度目の声が。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

74 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:22:37 ID:UsvTGNLY0
全てから隔絶され、全てを超越したこの世の果て。
生命の息吹を感じられない、孤独の城。
最低限の物しか置かれていない広い部屋は、開放感がある空間だというのにどこか息の詰まるような閉塞感がある。
そんな窒息しそうな息苦しい部屋の中心でソファーに浅く腰掛ける男が独り。

天上に浮かぶ照明によって、淡く照らし出された男の顔に影が落ちる。
柔らかい光を放つのは緩く回転を続ける球体だった。
釣り糸もなく宙に浮かび緩やかに自転するその様はさながら惑星のようである。

男が目を細めるでもなく、目の前に浮かぶ天球を眺める。
ミラーボールのようなこれこそが、参加者たちがいる地獄の舞台だ。
もちろんその物ではなく、情報を投影し移し出した同期転写体であるのだが。

その球体の一点を男の指がなぞる。
そこには小さなヒビが刻まれていた。

「やってくれたねぇ、剣神龍次郎」

苦言を漏らす言葉とは裏腹に、その口調は愉し気である。
最強が放った最大最期の一撃は、正しく世界を砕く一撃だった。
球体に見えるヒビは小さなものだが、世界の内核にまで届いている。
いずれその亀裂は広がってゆき世界は崩壊を迎えるだろう。

この舞台となる世界は非破壊オブジェクトとして設定してある。
世界の破壊機構であるリヴェイラが世界ごと破壊しようとしたが破壊できなかったのはそのためだ。
まさかそれを何の気も衒わない力技で突破するとは、完全に想定外の事である。

つくづく参加者たちは主催者の想定を上回る。
だが、そうでなくてはとほくそ笑む。

想定を上回らなければこんな事をした意味がない。
想定を上回ることなど想定内。
むしろ順調であると言えるだろう。

だが、舞台その物が壊されるというのはよろしくない。
果たしてこの世界はどれだけ持つか。
1年か、1日か、それとも数時間も持たないのか。
こちらとしては終了まで舞台が持てばいいのだが、終了までに壊れられるのは困る。

「まあいいさ、それなら少し予定を早めるまでだ」

浅くかけた腰を上げる。
机の上で静かに回り続ける球体を見下ろす。
そこにいる全てを不幸のどん底に陥れた元凶は本当に残念そうに呟きを漏らす。

「だが不幸なことだ、僕にとっても君たちにとっても」

言って、じき始まる放送の準備を始めるため部屋を出た。
残された孤独な世界は静かに光を放ち続けている。

そして一日が終わる。
長かった一日の終わりを告げる四度目の放送が始まった。

75 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:23:19 ID:UsvTGNLY0
【C-5 診療所/真夜中】
【新田拳正】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、右目喪失(治療済み)、額に裂傷(治療済み)、両手に銃傷(治療済み)、右足甲にヒビ(治療済み)、肩に火傷(治療済み)、右腕表面に傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本方針:帰る
1:帰る方法の模索

【水芭ユキ】
[状態]:疲労(小)、頭部にダメージ(大)、右足負傷、精神的疲労(小)
[装備]:クロウのリボン、拳正の学ラン
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3(確認済み)、
    ロバート・キャンベルのデイパック、ロバート・キャンベルのノート
[思考]
基本方針:悪党を貫く
1:中央へと向かう
2:首輪の解除方法と脱出方法を探す

【一二三九十九】
[状態]:ダメージ(中)、左の二の腕に銃痕、鼻骨骨折(治療済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、、ランダムアイテム1〜4(確認済み)
    サバイバルナイフ、サバイバルナイフ・裂(使用回数:残り1回)、風の剣、ソーイングセット、クリスの日記
[思考]
1:帰る方法を探す

【G-5 山中/真夜中】
【音ノ宮・亜理子】
[状態]:左脇腹、右肩にダメージ、疲労(中)
[装備]:魔法少女変身ステッキ、オデットの杖、悪党商会メンバーバッチ(1番)、悪党商会メンバーバッチ(3番)
[道具]:基本支給品一式×2、M24SWS(3/5)、7.62x51mmNATO弾×3、アイスピック、工作道具(プロ用)
    双眼鏡、鴉の手紙、電気信号変換装置、地下通路マップ、謎の鍵、首輪探知機、首輪の中身、セスペェリアの首輪
    データチップ[01]、データチップ[02]、データチップ[05]、データチップ[07]
[思考]
基本行動方針:ワールドオーダーの計画を完膚なきまでに成功させる。
1:次の主人公候補の模索
2:データチップの中身を確認するため市街地へ
※魔力封印魔法を習得しました

【F-6 山中(ダム底中央)/真夜中】
【火輪珠美】
状態:左腕喪失出血多量、ダメージ(極大)全身火傷(大)能力消耗(大)マーダー病発病
装備:なし
道具:基本支給品一式、禁断の同人誌、適当な量の丸太
[思考・行動
基本方針:全て焼き尽くす
1:敵を待つ
※りんご飴をヒーローに勧誘していました
※ボンバーガールの能力が強化されました

【H-6 電波塔近く/真夜中】
【田外勇二】
[状態]:人間、消耗・大
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本方針:自分らしい勇者として行動する
1:ワールドオーダーを倒す
[備考]
※勇者ではなくなりました

【オデット】
状態:再生中。首骨折。右腕骨折。神格化。疲労(大)、ダメージ(極大)、首輪解除、マーダー病感染
装備:なし
道具:リヴェイラの首輪、携帯電話
[思考・状況]
基本思考:-
1:ワールドオーダーを倒す
※ヴァイザーの名前を知りません。
※ヴァイザー、詩仁恵莉、茜ヶ久保一、スケアクロウ、尾関夏実、リヴェイラを捕食しました。
※現出している人格は最初からオデットでした

【主催者(ワールドオーダー)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、携帯電話、ランダムアイテム0〜1(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:参加者の脅威となる
1:参加者の殲滅
※『登場人物A』としての『認識』が残っています。人格や自我ではありません。

76 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:23:35 ID:UsvTGNLY0
投下終了です

77 ◆H3bky6/SCY :2018/08/23(木) 00:08:34 ID:Pgd8.FQk0
第四放送本投下します

78 第四放送 -いつか革命されるこの世界にて- ◆H3bky6/SCY :2018/08/23(木) 00:09:26 ID:Pgd8.FQk0
四度目の定時放送の時間となった。
これで開始から一日が経過したことになる。
この声を聞く者は皆、この一日この地獄を潜り抜けた精鋭だ。
まずは、よくぞここまで生き残ったと褒めたたえよう。

今回は特に重要な連絡事項があるからね、殺し合ってるものは手を止めて耳を傾け、寝ているモノは起きるといい。
言いかな? それでは行くよ、聞き逃さないように。

まずはいつも通り禁止エリアの発表だ。
追加される禁止エリアは。

『F-6』
『F-8』
『H-5』
『H-7』

後はCとIのライン、3と9のラインを禁止エリアとする。
もはや動ける範囲の方が狭くなってしまったが、足を踏み外さぬようこれまで以上に慎重に行動することだ。

次に、この6時間で脱落した死亡者の発表を行おう。
死亡者は

02.アサシン
16.カウレス・ランファルト
24.近藤・ジョーイ・恵理子
42.剣神龍次郎
53.バラッド
55.ピーター・セヴェール
59.氷山リク
68.森茂
72.りんご飴

以上9名。
生き残りは8名となる。
そこにいる僕を除けば7名か。
いよいよ佳境という所か。

そしてここからが君たちに直接かかわる大事な話だ。
覚えているかな? 1時間に1人死者が出なかった場合、ランダムに首輪を爆破するというルールの事を。
この場面でわざわざこのルールを振り返ったという意味が賢明なキミ達なら分かるだろう?
そう、先ほどの6時間で1時間人の死ななかった時間帯が存在する。
まったく、これだけ死んだのに人が死ぬ時間が偏り過ぎていたようだね。

それは始まりと終わりの1時間。つまり2名だ。
2名、生存者からランダムに死亡者を抽出する。

ここまで生き残った参加者をこんな形で失うのは僕としても不幸だが。
これもまた運命か。
ではペナルティーを受ける死亡者を発表する。

40.田外勇二
63.水芭ユキ

以上2名。
処理の実行は30分後だ、0時30分に行う。
支給した時計は正確だから、それを見ながら心してその時を待つといい。
祈ったところで救われるでもないが、せめて悔いは残さぬよう。

さて、革命の時は近い。
これが恐らく最後の放送になるだろう。
キミ達の、この世界の至る結末を僕に、神に、世界に見せてくれ――――!

79 第四放送 -いつか革命されるこの世界にて- ◆H3bky6/SCY :2018/08/23(木) 00:10:04 ID:Pgd8.FQk0
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パチン、と音がした。


放送を終えたワールドオーダーが放送室の灯り落としたのだ。
役目を終えた放送室の出口に向かい、その扉を開く。

唯一の住民が消えれば自然、光の落ちた薄暗い部屋は静寂に包まれる
永遠に変わらぬような静寂。
それは不変だ。

だが永遠などありはしない。
その静寂はいつか破られる。
永劫の不変は破られるのを待つように、訪れる者を待っている。

いつか至り、終り、変わる世界のように。

いつか破られる、その時を待っている。




本を閉じる様に、パタンと扉が閉じた。

















今はまだ、訪れる者はいない。

80 第四放送 -いつか革命されるこの世界にて- ◆H3bky6/SCY :2018/08/23(木) 00:10:22 ID:Pgd8.FQk0
投下終了


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