したらばTOP ■掲示板に戻る■ 全部 1-100 最新50 | |

オリロワ2014 part3

1 名無しさん :2018/01/14(日) 01:05:46 ID:/mu.QANY0
ここは、パロロワテスト板にて、キャラメイクの後投票で決められたオリジナルキャラクターでのバトルロワイアル企画です。
キャラの死亡、流血等人によっては嫌悪を抱かれる内容を含みます。閲覧の際はご注意ください。

まとめwiki
ttp://www59.atwiki.jp/orirowa2014/pages/

したらば
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/16903/

前スレ
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1416153884/

参加者(主要な属性で区分)
0/5【中学生】
●初山実花子/●詩仁恵莉/●裏松双葉/●斎藤輝幸/●尾関裕司
2/10【高校生】
●三条谷錬次郎/●白雲彩華/●馴木沙奈/○新田拳正/○一二三九十九/●夏目若菜/●尾関夏実/●天高星/●麻生時音/●時田刻
0/2【元高校生】
●一ノ瀬空夜/●クロウ
0/3【社会人】
●遠山春奈/●四条薫/●ロバート・キャンベル
0/3【無職】
●佐藤道明/●長松洋平/●りんご飴
1/3【探偵】
●ピーリィ・ポール/○音ノ宮・亜理子/●京極竹人
0/3【博士関連】
●ミル/●亦紅/●ルピナス
1/3【田外家関連】
○田外勇二/●上杉愛/●吉村宮子
0/5【案山子関連】
●案山子/●鴉/●スケアクロウ/●榊将吾/●初瀬ちどり
0/2【殺し屋】
●アサシン/●クリス
0/6【殺し屋組織】
●ヴァイザー/●サイパス・キルラ/●バラッド/●ピーター・セヴェール/●アザレア/●イヴァン・デ・ベルナルディ
2/3【ジャパン・ガーディアン・オブ・イレブン】
○氷山リク/●剣正一/○火輪珠美
0/3【ラビットインフル】
●雪野白兎/●空谷葵/●佐野蓮
0/2【ブレイカーズ】
●剣神龍次郎/●大神官ミュートス
2/6【悪党商会】
○森茂/●半田主水/●近藤・ジョーイ・恵理子/●茜ヶ久保一/●鵜院千斗/○水芭ユキ
1/8【異世界】
●カウレス・ランファルト/●ミリア・ランファルト/○オデット/●ミロ・ゴドゴラスⅤ世/●ディウス/●暗黒騎士/●ガルバイン/●リヴェイラ
0/5【人外】
●船坂弘/●月白氷/●覆面男/●サイクロップスSP-N1/●ペットボトル
1/2【ジョーカー】
○主催者(ワールドオーダー)/●セスペェリア

【10/74】

51 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:08:12 ID:CdEWYDVs0
傷だらけの重い体を押してリクが山道を下ってゆくと、水の臭いが鼻をついた。
土を踏みしめる足元の感触が不揃いの砂利の感触に変わる。
ゆったりとした川の音が耳を打つ、川岸が近いのが分かった。

リクの視界に夜空と同じ色をした川が映る。
それとほぼ同時に、静かな湖畔の静寂を破る炸裂音が響く。
火の粉をまき散らしながら女が空から降り注ぎ、川岸へと着地した。

「よぅ。出迎えご苦労。とりあえずド派手に近づきゃ誰か現れると思ったぜ」

現れたのはボロボロの巫女服を纏った隻腕の女だった。
女の苛烈さを示すように、踏み込んだ足元に黄色い火花が散る。
女は傲岸不遜な態度でリクを睨むと、好戦的な笑みを隠そうともせず口元を歪めた。

彼女こそ日本最高峰のヒーロー組織、ジャパン・ガーディアン・オブ・イレブンの一人。
爆破の天使ボンバーガール。火輪珠美である。

「お互い酷い有様のようだな」
「そうだな」

1日を経過しようとするここまで、多くの激戦が繰り広げられた。
その中でリクは瀕死と言っていい重症を負い、珠美も片腕を喪った。
職業柄、互いに疵を負うこと自体は珍しくもないがこれほどの重症は珍しい。
東京地下大空洞でのブレイカーズとの全面戦争以来かもしれない。
その事実がこの戦場の壮絶さを物語っている。

そんな状態でも相変わらずな仲間の様子に、リクは呆れながらも安堵したように息を漏らす。
自分を囮にして敵を誘い出すと言うのは喧嘩早い珠美のよくやる手段である。
自らの身を危険に晒す戦術には正一がよく苦言を呈していた事を思い出す。

「お前なぁ……ここでもそんなことやってんのか。
 だが、残念だったな、来たのが俺で」

来たのは同じ組織に所属する仲間である。
敵を望んでいた珠美の期待には応えられそうにない。
だが、珠美は機嫌を損ねた様子もなく、口元を歪ませる。

「そうでもねぇさ」

白い閃光。
珠美に向かって踏み出そうとしたリクの足が止まる。
リクの足元に弾丸のような何かが撃ち込まれた。
見れば、それはロケット花火だった。
誰が撃ち放ったかなど語るまでもない。

「どう言うつもりだ?」
「そう言うつもりさ!」

警戒するようにジリと砂利を踏みしめた足元を僅かに引く。
その真意を見抜くべく、相手の様子を捉える。
珠美が喧嘩腰なのはいつもの事だが、この状況で冗談でも味方を攻撃するほど見境がない女ではなかったはずだ。
女の瞳には紅い戦意と黒い殺意が綯交ぜになって燃えていた。
本気を察するには十分な炎だった。

「俺とお前が闘う理由がない」
「理由? そんなもんが必要か!? あたしが襲う、テメェはそれを迎え撃つ。それだけの話だろ!?
 それともなんだ? 大人しく殺されてくれんのか!? あぁ!?」

餓えた狂犬のように女が吼える。
リクどうあれ珠美は問答無用で襲い掛かるだけだ。
片方がやる気である以上、戦闘は不可避だろう。

だが、珠美はやる気のない相手を倒したいわけではない。
やる気を出してもらわないと困るのは珠美の方である。

「そうだな、戦う理由がないってんならくれてやるよ。
 あたしは――――――”怪人”だ」

怪人だと、そう呼ばれた。
吐き捨てるように自虐的に嗤う。
全く持って今の珠美には相応しい呼び名だ。
その言葉の意味するところ理解できていないのか、リクは訝しげに目を細めた。

52 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:10:31 ID:CdEWYDVs0
「ハッ。笑っちまうよな、そう呼ばれちまったよ。
 そう呼ばれるだけの事をしてきたぜ、この場で何人も殺した。悪人を狩ってたって訳じゃあないぜ。
 この場で仲間だった亦紅ってガキを殺したし、元々の相棒だったりんご飴も殺した」

ここに来てヒーローは地に墜ちた。
この告白が事実だとするならば、ボンバーガールは殺し合いに応じたという事になる。

「何があった? お前が殺し合いに応じるとは俺には思えない」

リクの知る火輪珠美という女は、確かに粗暴で好戦的な女だった。
だが、理由もなく誰かに襲い掛かるような女ではない。リクはそう信じている。
その信頼を唾棄して、珠美は忌々しげに吐き捨てる。

「けッ! お前はあたしの何を信用してたってんだよ!? お仲間としての友情か? それともヒーローって肩書か?
 んなもん勝手に周りがそう呼んでたってだけだろうが! 私は元からヒーローなんてもんになったつもりはねぇ!!
 あたしは変わっちゃいねぇ! あたしはあたしのやりたいように好き勝手暴れてただけなんだよ!!」

最初から珠美は”こう”だった。
いやそもそも、ヒーローなんて呼ばれていたのがおかしいのだ。
それなのに何故、ヒーローと崇められたのか。
それなのに何故、怪人と蔑まれているのか。

「…………ヒーローと怪人、何が違うってんだ?」

心のまま気に喰わない奴をぶっ飛ばし続けてきた。
それは今も昔も何も変わらない。
なのに、なぜこんなにも苦しいのか。
そんな助けを求める悲鳴のような問いに、青年は溜息のように大きく息を吐き。

「…………オッサンならうまく説明もできるんだろうがな」

そう少しだけぼやく。
考えを言葉にするのは得意じゃない。
そういうのは、どこぞの探偵の役目だった。
だが、目の前の女が必要とするのならば答えねばならない。

シルバースレイヤーの力は世界征服をたくらむ悪の組織ブレイカーズによって齎された力である。
それでもリクはヒーローと呼ばれ、他の改造人間は怪人と呼ばれている。
これほどこの問いに答えるに相応しい存在はいまい。
その違いは何か。

「別に、違いなんてないさ」

違いなど、そんなものはないと、理想のヒーローと称えられた青年は答えた。

誰かを助ければ正義なのか、誰かを殺せば悪なのか。
そんな単純な話ではない。
正義のために誰かを殺さなければないこともあれば、悪事が人を助けることだってある。
正義など元より曖昧なモノだ。

「結局は、世間がそれを受け入れるか受け入れないかそれだけの違いだ。
 お前が変わっていないと言うのなら、それは世界が変わったんだろう」

結局のところ世界がそれをどう受け取るかだ。
彼らがヒーローと持て囃されているのは社会正義と迎合していただけの話でしかない。
そして価値観や倫理観など時代によって容易く流動する。
それこそ龍次郎が世界を支配したのならあの男の価値観が正義になるだろう。

この世に絶対の悪はあったとしても絶対の正義などない。
その時代の社会正義を守る強き者がヒーローと呼ばれ。
その時代の社会正義を乱す強き者がヴィランと呼ばれる。
それだけの話だ。
定義することなどそもそもが不可能である。

「だから俺は一つだけ決めていることがある」

虚ろで曖昧な世界の中で決して揺らがぬものがあるとするのならそれは一つだけ。

「――――自分の正義を疑わない事だ」

どの世界においても唯一変わらない物、即ち己自身を信じる。
世界中が悪と断じようとも己だけは己を疑わない。
世界などという曖昧なモノを呑み込む、一見すれば分かりづらい強烈な自我が彼にはある。

53 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:12:31 ID:CdEWYDVs0
だが、それは。
ふと珠美の頭に疑問がよぎる。
彼の言葉にのっとるならば彼の行為が”たまたま”社会正義に沿ったものであるからこそ彼はヒーローとして扱われているだけで。
もし彼の正義が社会と相容れない悪だったとしたならば、どうなるのだろうか。
ともすれば龍次郎以上の悪として世界に君臨していたかもしれない。
己の行為に疑問を持たないというのはそういう事だ。

「お前はどうだボンバーガール。お前の中にも猛る正義の炎があるだろう?
 ここで何があったかは知らない、何をしてきたかも正確には知らない。
 だが今のお前の行いは、己の正義に反してはいないのか。自らの正義に恥じるものではないのか?」
「ッ…………!」

正義を問うその言葉に。

『最後まで己の中にある正義という炎を信じられなかった、それが――――――――』

気に食わない男のニヤケ面が脳裏に蘇った。

「正義だの下らねぇことを何の恥ずかしげもなく言ってんじゃねえよ!!
 あたしはお前のそういう所が最初から大嫌いだったよ。
 自分の中の正義? ねぇよ。あたしにはそんなもんねぇんだよ…………ッ!」

信じるべき己の正義などない。
あるはずがない。
あってはならない。
そうでなければ、これまでの己の行為を受け入れられない。

「あたしは好き勝手暴れられればそれでよかったんだ、あたしはずっとそうやって生きてきて、そうやってればあたしはすっきり出来ていい気分で生きてられたんだ!」
「その割に――――今のお前は苦しそうだぞ」
「ッ! うるせぇ……うるせぇよ! 勝手に人の心情を決めつけてんじゃ――――ねぇ!!!」

女の感情が弾け真っ赤な炎が燃え上がった。
喧しいまでの炸裂音と共に火の玉のような花火が炸裂する。

それを銀の刃が断つ。
二つに分かたれた花火が線を引く様に夜を裂く。
その光景を見て、ボンバーガールが不可解そうに眉をひそめる。

防がれた。それはいい。
感情に任せた一撃だ、シルバースレイヤーならば防いで当然と言える。

不可解なのはそこではない。
氷山リクは生身のままでシルバーブレードを引き抜いた。
何故、変身しない。
そこで青年の体に足りないモノがあることに気が付いた。

「ぁあん、テメェ、リク…………ベルトはどうした?」
「敗北し奪われた。今はない」

言い訳のない簡潔な答え。
肩を落として俯いた顔を片腕で覆う。

「テメェもかよ。ったく、どいつもこいつも萎えさせんなよなぁ」

女の落胆につられるように周囲を覆っていた熱気が冷めてゆく。
揺らいでいた女の眼が、静まる波のように定まってゆく。

「ああそうだな、リク……いや、シルバースレイヤー。
 認めるよ。テメェの言うとおりだ、迷いがあるからこんなにも苛立たしいんだ。
 ――――――決めた。あたしはあたしを疑わない。今のあたしを肯定する」

ゆらりと女が陽炎のように揺らめいた。
女は崩れかかった体を、自らの意思で立て直す。
散漫な炎が一つの大きな猛炎へと変わってゆく。


「――――――全て燃やし尽くす」


もう迷わない。
それは人間性を捨てるという宣言だ。
その暗い決意をヒーローは受け止める。

54 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:13:14 ID:CdEWYDVs0
「そうか。それがお前の決断なら、見過ごすわけにはいかない。俺を覚悟を決めよう。
 お前の炎がお前自身すら焼き尽くすと言うのなら、俺が止めてやる――――」
「やってみろ! 口だけ野郎――――――ッ!」

降り注ぐ七色の流星群。
その威力は先ほどの火球とは比べ物にならない。
明確に殺す気で放たれたその流星は恐らくガトリング砲に匹敵する。

生身で防げるものではない。
切り裂いたところで爆風が身を焦がす。

それを前に、リクが右腕を伸ばして構えを取った。
伸ばした腕を回して、高らかにその台詞を叫ぶ。

「――――――――変身」

リクの体内に内蔵されたシルバーコアが回転を始める。
ベルトを奪われたからと言って変身できないという訳ではない。
ベルトはあくまでエネルギーの制御装置である。
エネルギーの根源であるシルバーコアは今も彼の胸の中にある。
彼の胸に燈る正義の炎のように常に燃え上がっている。

乱反射する銀の光が弾けて混ざる。
白銀の輝きは収束し、七色の流星を一瞬で振り払った。

だが爆炎の向こうに現れたその姿にはあらゆるものが欠けていた。
変身の基礎となる簡易素体。
装甲も薄く、腰に巻かれたベルトも風にたなびくマフラーもない。
あるのは不退転の意思を示すように握り絞められた白銀の刃のみ。

「行―――――くぞッ!!」

踏み込むその足跡から紫電が散った。
引き絞られた弓のように、一陣の銀の流星が奔る。
音すら置き去りにした超加速。
見開かれたボンバーガールの黒い瞳が自らの首を刈り取りにくる死神の姿を捉える。

だが、流星はボンバーガールを捉えることなくその脇を通り過ぎた。
ボンバーガールが躱したわけではない。
ただ、そのまま勢いを止めることなく地面に突撃して大きな砂埃を沸き立たせた。
見事な自滅である。

「………………な、ンだそりゃッ!?」

余りの間抜けにボンバーガールも呆気に取られるが、スペック自体が落ちている訳ではない。
ただ、動きを制御できていない。

ベルトなしの変身はブレーキのないF1マシンに乗るようなものである。
アクセルのみで化物マシンの速度調節など出来るはずもない。
自殺願望でもない限り、乗り込むべきではない代物だった。

自滅した間抜けをボンバーガールが振り返る。
立ち込める砂埃、その中に青白い稲妻が奔るのが見えた。
突撃にめげずシルバースレイヤーは凄まじい勢いで切り替えし、爆発めいた衝撃と共に粉塵をまき散らしと再び突撃を慣行する。

これにボンバーガールは粉塵が入ることも厭わず目を見開き、箒花火を振りかぶった。
先ほどは不意を突かれたが、来ると分かっているのならどれだけ早かろうとも対応はできる。
一瞬にも満たない交錯に集中力を燃え上がらせカウンターで首をはねるべく炎刀を振るう。

だがその炎は夜に線を引くのみで、何も捉えることなく空ぶった。
いや、正確には、捉えられなかったと言うよりも相手がここまで到達しなかったである。
今度は踏み込みが弱すぎたのか、シルバースレイヤーは自身の踏み出した足に縺れてその場に転がっていた。

「……何やってんだマヌケ。掴まり立ちもできねぇガキかよ」

落胆したように肩を落とす。
ベルトなしの変身では戦うどころか、まともに動くことすら叶わない。
これでは期待外れもいいところだ。

だと言うのに、これほどの醜態を晒そうとも。
どれだけの無様を晒そうとも。
その瞳だけは諦めの色を知ろうとはしなかった。
無様に地面に倒れながら珠美を睨む瞳。
その不撓不屈の精神が更に珠美を苛立たせた。

55 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:13:57 ID:CdEWYDVs0
「……くだらねぇくだらねぇ。なんだその様ァ!? 今のお前に何ができるってんだッ!!!」

苛烈さを具現化した女は激情のまま吼える。
激情を受け止める男は醒めた月の光のようだった。
感情を表に出さず、冷静に機械のように立ち上がる。

「お前を止める。俺にできるのはそれだけだ。
 無秩序に破壊を広げる今のお前は許しがたい」

変わらず告げる。
この男は激情を内に燃やす。
見えないからと言って燃えていないとは限らない。
己が炎で鉄を打ち、精神を研ぎ澄ます銀の断刀。

「だからッ!! 許せなきゃどうするってんだ、あぁあん!?
 マトモに戦う事もできないンな有様で、このボンバーガール様に勝つつもりかよ!」
「ああ。お前が負けることでしか止まれないと言うのならそうしよう。
 お前が死ぬことでしか止まれないと言うのならそうしよう」

覚悟を示すように輝きを失わぬ銀の刃を構える。

「加減は出来んぞ――――――――珠美。死ぬなよ」

その言葉にリアクションを返す前に。
気づけばボンバーガールの体は吹き飛んでいた。

何が起きたのか、何をされたのか。理解不能だった。
殴られたのか、蹴られたのか。それすらも判別不能。
動き出しを捉える事すらできなかった。

だがいつまでも呆けているボンバーガールではない、一瞬で結論の出ない無駄な思考を切り捨て、対応に頭を切り替える。
両手花火を噴出し体勢を立て直して敵に向かって反転する。
反撃に転じるべく足元に生み出した花火で自らを打ち出そうとしたところで、背後から蹴り飛ばされた。

「――――――なぁ!?」

衝撃に肺から息が飛び出す。
背後から蹴られた。
それはつまり、吹き飛ばされた先にすでに回り込んでいたという事だ。

早すぎる。
直前まで覚束ない動きをしていたのが嘘のようだ。
先ほどまでとは余りにも違う。
それどころかこれは――――普段のシルバースレイヤーより早いのではないか?

「ッ…………のぉ!!」

花火だけでなく踵で砂利だらけの地面を削りながら無理矢理に勢いを殺す。
炎をまき散らしながら回転花火の様に回って周囲を牽制する。
なんとか静止した。
そして目の前を見る。

そこにあったのは夜に浮かぶ赤。
白一色だった銀の騎士の外装は熱されたように赤く染まっていた。
基礎装甲では大気圏を突破する宇宙船めいた速度に耐えきれなかったのか。
断熱圧縮により赤熱した全身から煙を上げながらオーバーヒートしている。
その状態を見て、何が起きたのか珠美にも理解できた。

「まさか、テメェ…………ッ!?」
「ああ、調整が効かないつっても―――――100%は100%だろ」

シルバースレイヤー=フルスロットル。
細かい調整が効かないのならば、全力で踏み込むまでである。
最高速が出ると分かっているのならば動きを損なう事はないだろう。
出力と認識のズレを埋めるにはそれしかない。

だが、それは常に減速することなく最高速で走り続けるという事だ。
今のシルバースレイヤーはアクセルべた踏みにしてハンドル操作だけでコースを乗り切るクレイジードライバーだ。
一歩間違えば間違いなく自滅する。
いや改造人間であるとはいえ人間の知覚をはるかに超えた速度での行動など、本人にもなにをしているのか理解できていまい。
つまりこの男は、珠美ですら躊躇うようなアクセルを何のためらいもなく踏んだのだ。

珠美の背に温い汗が伝う。
氷山リクという男を見誤っていた。
こいつは想像以上にイカれてる。

56 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:15:57 ID:CdEWYDVs0
雷鳴が如き轟音が轟き、彗星の如き銀の閃光が地上を奔る。
もはや音速の域を超え雷速に迫るそれは、正しく光の矢だった。

エネルギー制御型であったからこそ、そうそう簡単にお目にかかることのできなかった、シルバースレイヤーの全力全開。
同じ組織の仲間であったボンバーガールですら始めて見る。いや正確にはその全力は見えもしない。
超反応を誇るボンバーガールですら捉えられない速度。
だが、捉えられずとも、戦うことはできる。

先読みと直感。
眼前に掲げた両手いっぱい花火を断続的に爆発させる。
設置型ならばどれだけ早かろうとも相手が勝手に引っかかる。
狙い通り、突撃してきたシルバースレイヤーを爆炎で弾き飛ばした。
弾き飛ばされたブレードが深く地面へと突き刺さる。

いや違う。弾いたのはシルバーブレードだけである。
シルバースレイヤー本体の姿はない。

瞬間、側面より衝撃。
シルバースレイヤーはブレードを投擲し、それよりも素早い動きで側面へと回り込んでいた。
その動きは正しく雷鳴。
コンマ一秒にも満たない一瞬の一人十字砲火だ。

「ぎぃ………………ッッ!!?」

骨が軋む。
ボンバーガールの体が砲弾のように吹き飛んだ。
ガードが間に合ったのは幸運以外の何物でもない。
そうでなければ内臓ごとイカれている。

だが、ガードに使った腕は痺れ、吹き飛ばされる勢いを花火で減速する事が出来ない。
回転しながら飛来する体が鋼よりも固い水面に叩きつけられ、沈むことなく凄まじい勢いで水面を跳ねる。
そして5回、6回と跳ねた所で、柱のような飛沫と共に水中へと沈んだ。

食いしばった口元から白い泡が零しながら、水中で身を捻る。
体勢を立て直して、水上に浮き上がろうとしたところで、水中から足首を掴まれた。

振り返る暇も与えられず水中へと引きずり込まれる。
水を掴むことなどできるはずもなく、もがくように掻いた腕が水を切った。
ジェットコースターのような急転直下。
クンと全身が水圧に引っ張られ、深くより深くへと水底へと沈んでいった。

水流に体を引っ張られながら、燃える手で足首を掴む赤い怪物を見る。
高温を放つ全身からゴボゴボと大量の水泡を発せながら不気味に白く目を光らせている。
その姿は珠美にとっては正しく命を奪いに来た怪人に映った。

(水中戦に持ち込もうって腹か………………!)

水中は花火を武器とするボンバーガールにとっては絶対的な不利なフィールドだ。
何より熱を持ったボディを冷却するのにも都合がいい。
思わず感心するほど、全てにおいて巧い手だ。
ボンバーガールのスペックをよく知るシルバースレイヤーの取る手としては最善手だろう。

だが、と水泡が零れる口端が凶悪に歪む。
水中ならば花火を封じられるなど、そんな常識は今のボンバーガールには通用しない。
もうリクの知る珠美ではないのだ。
この地において彼女の炎は新たな炎を取り込み次の次元へ強化された。
そのようなカタログスペック、とうに凌駕している。

水中を引きずられながらボンバーガールが手の内に巨大な花火を産み出す。
それは花火と言うよりも、長細い魚のような形状をしていた。
酸素が水中で爆ぜるように燃え上がる。

花火は水中でも炎を放つ。
それは花火に含まれる酸化剤が燃焼に必要な酸素を供給し続けるからだ。

そしてこの花火にはありったけの圧縮酸素を練りこんである。
後は火をつけてしまえば、水中であろうと燃焼を続けるだろう。

魚の尻尾に炎が生え雷の如くひた走る。
即ち、それは酸素魚雷だ。

57 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:16:54 ID:CdEWYDVs0
ボンバーガールの片手から勢いよく放たれたそれは、足元のシルバースレイヤーへと直撃する。
水中で巨大な火の花が咲き、足首を掴む灼熱の手が離れた。

酸素魚雷の直撃を受けた装甲は砕け、むき出しとなった生身からは改造人間の証である機械部分が露わになっている。
砕けた装甲の隙間から水が流れ込み、電気がバチバチと火花を散らすように漏電して水中に散った。
ダメージは甚大。無理をしてきたツケも祟って、すぐに動くことはできないだろう。

それを確認して、珠美は片腕で水を掻いて水上を目指した。
酸化剤に練りこんだ酸素はボンバーガールの体内から捻出された物である。
超人的な肺活量を誇るボンバーガールをしても水中でこれを作り上げるのはギリギリの捨て身の攻撃だった。
一刻も早く肺に酸素を取り込まねば意識が落ちる。

その焦りがある故に、確認を怠ってしまった。
砕けた仮面から覗く、その眼だけは死んでいない事を。

パチンと水中で何かが弾ける。
唸るような重低音が水中を僅かに震わせた。
それはシルバー・エンジンが回転を始めた音だ。

そもそもシルバースレイヤーの目的は水中戦に持ち込むことではない。
水中で敵を無力化? オーバーヒートした体の冷却?
そんな考えをするほどシルバースレイヤーは甘い男ではない。
敵は仕留める。それがこの男の信条だ。

シルバースレイヤーの体が白銀に発光する。
水中に引きずり込んだ目的は、逃げ場のない水の牢獄に敵を閉じ込める事にある。
漏電した状態でエンジンを全開にすればどうなるのか。
その答えがこれだ。

瞬間。雷が水中で弾けた。
エネルギーと共に漏れ出した電撃は水中を駆け巡り、水上を目指す女を捉える。
一帯へと拡散された雷を躱すすべなどなく、衝撃に開いたボンバーガールの口から大きな水泡が吐き出された。
完全に脱力し、力ない女の体が水面へと浮き上がって行く。
それを追うように、全ての力を使い果たした男の体も水中から見上げる揺れる月を目指すように浮き上がっていった。

「ぷっ…………はぁ……ッ」

女は息を切らしながら水上に浮かび、天を仰いで月を見上げた。
世界を照らす銀の光を忌々しげに睨む。
女を追うようにして僅かに離れた湖上へと男が浮き上がる。

「…………ようやく……大人しくなった、な」
「ああ、クソっ…………! 動けねぇ…………か」

悔しげに声を漏らす。
意識こそ保っているものの、全身が痺れて指一本動かせない。
回復するまで暫くはこうして浮かんでいる事しかできないだろう。

ボンバーガールの無力化に成功。制圧は完了した。
加減のできる相手ではなく、殺すつもりで戦った。
生き残ったのは純粋に珠美の運と実力だろう。

リクとしても酸素魚雷の直撃を受けたダメージは甚大である。
簡易素体の防御力ではボンバーガールの作り上げた酸素魚雷を防ぐことは叶わず。
装甲は剥がれ落ち、仮面に隠れた素顔は右半分が露わとなっている。
そして限界を超えた行動の代償のより、残った装甲も自壊を始めていた。

「負けた、か」

珠美は敗北を認める。
亦紅の遺した種火を取り込み能力を強めたにもかかわらず、碌にエネルギーを制御できていない相手に敗れ去った。
想像以上にイカれていた。
命知らずで知られるボンバーガールがそこで負けていたらどうしようもない。
敗因はそれに尽きる。

「あたしの負けよかこの力が負けたってのは少し悔しいな」

そこにどれ程の違いがあるのか。
珠美は悔し気にそんな呟きを漏らした。

58 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:18:09 ID:CdEWYDVs0
「ああ、あたしの力の源がなんなのかお前には言ってなかったか。
 いや、誰にも言ったことはなかったっけ、あれ、りんご飴の奴に寝物語で語ったことがあったっけか。まあどうでもいいか。
 ともかく、あたしの力は生まれつき持ってたもんじゃなくて、師匠から受け継いだ力でな。
 この師匠がこりゃまた強ぇ女でな、それなりに名の知れたヒーローだったんだが知ってるか?
 ま、師匠がくたばっちまったのはお前が改造されちまう前の話だからなぁ、知らねぇか」

少しだけ寂しげに昔を懐かしむように遠く空を見る。
珠美はあまり自らを語るような性格ではない。
同じ組織で戦ってきたが、珠美の身の上話はリクも初めて聞く。
それはそれで興味深くはあるが今はそんな話をしている場合じゃない。

「その辺の事情は後で聞かせてもらう、いろいろを含めてな」

湖の水に赤色が混じっていることに気付く。
電撃による衝撃か、激しい戦闘により傷が開いたのか、殺し屋によって喪われた腕の傷から大量の血液が流れだしていた。
湖が赤く染まって行き、それに比例して珠美の顔が青白くなっていく。
水中での大量出血は傷口が凝固せず出血多量による死につながる。
すぐに止血する必要があった。

「…………待ってろ、川岸まで引き上げてやる」

漏電の中心にいたシルバースレイヤーも巻き込まれていたが、ボンバーガールに耐爆性能がある様に、シルバースレイヤーにも改造人間としての耐電性能がある。
電撃によるダメージは比較的少なく、痺れによって動けないという事もない。
ゆっくりながら泳ぐことくらいはできる。
引っ張って岸まで泳いでいく必要がある。

「まあ、待て。聞けよリク」

だがそれを要救助者が制する。

「これはりんご飴にも言ってない、正真正銘、誰にも言ってない話なんだが。
 この力は実のところ花火を作る能力とそれに火をつける能力は別物なんだよ。
 可燃物を生成する力と種火を産み出す力、二つあるってことだ。
 可燃物がなんになるかは継承者によって変わるらしい。花火となるのはあたしの特性だな。師匠はダイナマイトだった。亦紅も…………きっとあいつも生きてりゃ自分の炎の形を見つけてたんだろうな」

聖火の如く引き継がれてきた力。
それは一つではなく二つの力だった。
継承者以外知ることのない門外不出の事実。
それはそれで驚きなのだが、何故それを今語る必要があるのか。

「そして種火の元となるのは自分自身さ、自分自身を炎にするって力だ。それは肉体に限らず感情であり魂だったり寿命だったりする。
 全身を炎と化して、物理攻撃を無効化した奴もいたらしい。ま、使うたび肉体を消耗していったらしいが。
 あたしは殊更感情を燃やすのに長けてたらしくてな、要するにあたしが萎えない限りは戦い続けられるって代物で、大したもんだと師匠も褒めてくれたよ」

珠美の話は続く。
その間にも湖の赤は徐々に広がって行き、リクの服を汚し始めた。
放っておけば出血多量で死にかねない。これ以上、無駄話をしている暇はない。

「おい、いい加減に、」

話を止める気配のない珠美をリクは強引に引っ張っていこうと近づく。

「使い手によって呼ばれ方は色々と変わっていたようだが、最初にこの力を覚醒させた能力者にちなんであたしら継承者はこう呼んでいる」

それを無視して爆炎の継承者は続ける。
その力の名を。


「――――――――――『爆血』と」


瞬間。リクの全身が発火した。
水中にいるにもかかわらず炎が全身に纏わりつく。
水中に混じった血液が燃えている。

59 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:19:10 ID:CdEWYDVs0
勝負はシルバースレイヤーの勝ちだが、殺し合いはどうか。
一切の容赦も躊躇もなくシルバースレイヤーはボンバーガールを殺すつもりで戦っていたが、殺すために戦ってなどなかった。
本当に殺すつもりだったのなら無力化した時点でトドメを刺すべきだったのだ。
対するボンバーガールは最初からそのつもりである。

「感情を燃やすに長けていると言ってもあたしだって他が燃やせない訳じゃない。
 まあ流石に肉体を炎と同化させるなんて芸当まではできないが、100円ライター程度のものなら、ほらこの通り」

リクは全身についた火を消そうと水中を溺れたみたいに暴れている。
だが元が血液である炎は水では消えず、服にしみ込んだ血液からは逃れようがない。
外骨格が残っていればこの程度の炎など物の数ではないのだろうが、エネルギーを使い果たした今となっては纏わりつく炎を振り払う事もできない。

「ぐっああああああああああああああああああ――――――――――ッッ!!!!」

断末魔のような声をBGMに、珠美は湖に浮かびながら水面に揺れる炎を見つめる。
心は酷く穏やかだ。
炎を見ると安心する。
師匠と出会わなければきっと放火魔にでもなっていたのかもしれない。

「勝手に担ぎ上げられて強敵と闘えるのならと入ったJGOEだったが。今思えば思いのほか悪くなかったぜ。
 人助けなんてまっぴらだったが、それなりに面白い奴らとつるめたし、それなりに面白おかしく暮らせてた。
 って―――――もう聞いちゃいねぇか」

僅かに動くようになった手でちゃぷりと水面を撫で、燃え尽きた男を見る。
焼け爛れ、焦げたように黒くなった皮膚が崩れ落ちた。
沈みゆくように月が水底に墜ちる。

「あばよヒーロー。怪人は征くぜ」

誕生を祝福するような水中の炎に彩られながら。
ここに一匹の怪人が生まれた。

【氷山リク 死亡】

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

60 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:19:34 ID:CdEWYDVs0
片腕の巫女が水中を漂う。
ぼんやりと星ひとつない空を見上げながら。
名残を惜しむ様に夜に円を穿つ月を見る。

血液を燃やして傷口は塞いだ。
放電するシルバースレイヤーの様子に気づき、電撃を受ける直前に傷を引っ掻き意図的に傷を開いた。
放電で死ななければリクならば自分を助けに近づいてくると踏んだ。
そして実際その通りになった。
氷山リクはヒーローだったから死んだのだ。

結構な時間水中に浸かっているが、血液が熱を持つ珠美は低体温症で死ぬことはない。
むしろ熱いくらいの体はには心地よいくらいだ。
体の熱とは対照的に頭は冷めている、あれほど全身を支配していた苛立ちもない。
きっと今の自分を肯定したからだろう。
仲間殺しをした後だとは思えないほど、どうしようもなく冷めていた。

徐々に感覚を取り戻しつつある手足でゆっくりと水を掻いて川岸にまで流れ着く。
そして立ち上がろうとして、意識が眩んだ。
意図的に流した物とはいえ血液が足りない。
輸血用のパックとまでは言わないが、せめて味気ない補給食やレーションなんかより肉が欲しくなる。

「…………うぷっ」

肉を連想した所で、女の死体を喰らう男の姿を思い出して吐き気がした。
気持ち悪い物を見せてくれたものだ。
だが、おかげで食欲が失せた。
口元を拭って、ふらつきながら無理矢理にでも立ち上がる。

さて、あと何度戦えるのか。
次の相手はどこに居る?
出会った相手には、悪いがこちらが燃え尽きる最期まで付き合って貰おう。

「……そういや、あいつ山頂から来たみたいだったが」

リクは山頂から下ってきたように見えた。
奴の事だ、徒党を組んだお仲間がいるかもしれない。
一先ずそこを目指すのは悪くない。
というかもともとも中央に向かう予定だったような気もする、もう覚えてないが。

女は体を引きずるように山道を登ってゆく。
もはや迷いを捨て、過去を捨て、命すら捨てた。
女に恐れる物など無い。

女は炎だった。
女は劫火だった。
女は花火だった。

花火は夏の夜に咲いて散るが相応しい。
その一瞬の煌めきを世界に刻み付けるように。

【F-7 川辺/真夜中】
【火輪珠美】
状態:左腕喪失 出血多量、ダメージ(極大)全身火傷(大)能力消耗(大)マーダー病発病
装備:なし
道具:基本支給品一式、禁断の同人誌、適当な量の丸太
[思考・行動
基本方針:全て焼き尽くす
1:山頂に向かう
※りんご飴をヒーローに勧誘していました
※ボンバーガールの能力が強化されました

61 HERO ◆H3bky6/SCY :2018/06/08(金) 01:20:17 ID:CdEWYDVs0
投下終了です

62 ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:13:57 ID:UsvTGNLY0
投下します

63 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:15:38 ID:UsvTGNLY0
緩やかな夜風が優しく頬を撫ぜる。
風は小さな氷の粒を引き連れて、遠くに飛んで消えて行った。
何かを堪えるような表情をしていた少女は、胸元に添えた手を強く握り絞める。
乾ききった瞳で、煌めいては消えて行く自らの弱さを見送っていた。

今、悪党を受け継いだ少女の胸中には鉛のような重さが沈殿し積み重なっている。
両親を失ったあの日、そしてこの地において幾度となく味わった、決して逃れられない痛み。
それを噛みしめるように感じながら、潰されるものかと強く意思を籠めて瞳を見開く。

この重さを足を止める重石にするのではなく、足を進める礎とする。
そうする事こそが父への最大の弔いであると信じている。
決して割れない氷のように固い決意。
その決意があれば、長い別れなどいらなかった。

感傷を振り切り、氷のような少女は倒れこんだ少年の脇に屈みこんだ。
意識を失っている少年の呼吸は落ち着いており、それどころか豪快に寝息まで立てている。
この様子ならば放置しておいてもあまり心配はいらなさそうではあるのだが、診療所で待たせている九十九をすぐにでも迎えに行かなくてはならない。
大人しくしていれば早々見つかるような場所でもないとは思うが、こんな状況だ彼女を一人にしておくのは心配である。
とはいえこの場に拳正を放置しておくわけにもいかない。

「ねぇ…………新田くん起きて、ねぇってば」

ペチペチと頬を叩く。
目を覚ます気配はない。

鼻をつまむ。
うーんと少しだけ苦しそうだがやはり少年が目を覚ます気配はない。

考えてみれば、こんなバカげた殺し合いが始まってから、もうじき一日が経とうとしている。
疲労もピークに達する頃合いだろう。
これまで張りつめっぱなしだった彼の道中を考えれば無理もない。

どうしたモノかと目を覚まさない少年の頬を人差し指で突く。
無理に起こす手段もないことはない。
だが、できればこのまま少しでも休ませてあげたいという気持ちもある。
ここまで彼にお世話になった借りを返すという訳でもないが、それくらいの気は使ってもいい。

「そうなると…………」

色々と我儘を押し通すのならば選択肢は一つ。
眠ったままの拳正を運んでいくしかない。
細腕とはいえ、ユキだってそれなりに鍛えている。
体格の小さな拳正くらいなら背負って行くくらいは出来るだろう。

「えっ…………と」

昔半田に教わった意識のない人間の背負い方を思い出しながら、仰向けに寝転がった拳正の体に手を添える。
両手を交差させ手首を引き、引き上た体の下に反転して滑り込むように入り込む。
そのまま背負い投げのような体勢から体を持ち上げ背に担ぐと、確かな重みが圧し掛かった。

意識のない人間はこちらに体重を預けてくれないため思った以上に重く感じる。
こうして考えるとむしろ抵抗すらしていたユキをいとも簡単に米俵みたいに抱えて走り抜けた拳正の凄さが分かる。

取り落とさぬよう何度か調整して重心を安定させた。
これなら何とかなりそうだ。
少なくとも近くの診療所まで歩いていく程度なら問題はなさそうである。

なさそう、なのだが、重さ以上に問題が一つあった。
それは触れた部分から伝わる感触。
普段からスキンシップが好きだった舞歌たちとじゃれ合ったり触れ合ったりしていたから、人とのふれあいには慣れているはずなのに。
彼女たちとは違う、少しだけ硬い男子の感触に戸惑ってしまう。

そう意識してしまうと途端に他のいらぬところまで気にかかった。
規則正しい呼吸音が耳元をくすぐる。
手元だけではなく触れ合った背から熱が伝わる。

楽しさをくれる舞歌たちの温もりとは違う。
安心するような父の温もりとも違う。
何処か溶けてしまいそうな、触れただけで火傷するそうな熱さがあった。
その熱の正体がなんであるか、それは、今は考えない。

「よし…………行きますか」

気合を入れ直して、診療所に向けて歩き始める。
今はそれどころではないし、何より、彼には彼女がいる。
燃えるような熱を氷漬けにして奥底へと沈める。
きっとこれからも考える必要はないだろう。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

64 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:16:47 ID:UsvTGNLY0
「ユッキー!」

尾行や周囲に人気がない事を確認しつつ診療所にまでたどり着き。
背負った拳正を落とさぬよう慎重に扉を開くと、慌ただしい足音と共に九十九が飛びつくようにして熱烈に出迎てくれた。

「大丈夫だった!? 怪我とかしてない!?」

九十九はユキの肩を掴むと捲し立てる様にガクガクと揺する。
その様子から彼女がどれだけ心配していたのか、どれだけ不安を感じていたのかが伝わってくるようだった。
一人きりで待っているというのは辛い事だ、その辛さはユキも良く知っている。
それでも彼女はここで信じて待っていてくれた、その気持ちは嬉しいのだが。

「ちょ、ちょっと……待って、新田くんが…………落ちるから…………!」
「あぁ、ごめん。って拳正どうしたの!? 寝てる………………? 寝てるだけ?」

そこで九十九も眠ったままユキの背に背負われる幼馴染の姿に気付いた。
一瞬、最悪の想像がよぎるが、呼吸をしている事に気づき一先ず安堵の息を漏らす。
すぐに表情を引き締めると強がるように悪態をつく。

「女の子に背負われるなんて情っけないなぁ。
 とりあえずベッドに運ぼう。重いでしょ?」

九十九が慌ただしく踵を返し、診療室へ駆けて行った。
この少女はいつだってどんな状況だって活動力に溢れている。

「一二三さん!」
「ん?」

声に診療室の扉を開いた九十九が振り返る。
待っていてくれた人に最初に伝えるべき言葉をまだ言っていない。

「ただいま」
「うん、お帰りユッキー」

そして診療室まで運んで行った拳正を九十九に手伝って貰いながらベッドにそっと寝かせる。
熱の残り香が離れていく。
汗ばんだ背に学生服が張り付いていた。

「はい、ユッキーもそこに座って」
「え」

有無を言わさず九十九に手を引かれた。
抵抗する間もなく丸椅子へと導かれ、座らされる。
その正面に棚から取り出した包帯と消毒液を両手に抱えた九十九が座った。

「よし。じゃあ脱ごうか」
「え!? いや、ちょっとさすがにそれは…………新田くんもいるし」
「大丈夫だって、寝てるし。脇腹裂けちゃってみたいだし、早く手当しないと。
 それに他にも細かい擦り傷とかもあるし、そっちも手当しとこ」
「うっ…………ぐ」

九十九の言い分は正しい。
治療道具があるのだから治療はしておいた方がいい。
勢いに圧され、あれよあれよと言う間に学ランのボタンを外されてゆく。
ここまで来るとユキも観念して、はだけた胸元だけ手で隠しながら黙って九十九の治療を受ける事にした。

「………………ッ」
「ゴメン! しみた!? けど我慢してね!」

言葉では謝りつつもまったく遠慮なく消毒を続ける。
九十九は治療に専念していて、ユキが出て行った後の事を何も聞かなかった。
父との戦いはどうなったのか、どういう決着をしたのか。
気にならない訳ではないのだろう。

どう語っても辛い結末である事を気遣っているのだろうか。
九十九が聞かないのならユキから話すべき事ではないだろう。
語るまでもなく、戻ってきたのが二人だけと言う事実が物語っている。
なら、ユキが言うべきなのは別の言葉だ。

「一二三さん。あの時、背中を押してくれてありがとう。あなたがいなければ私はきっと前に進めなかった」

父との戦いを迷うユキの背中を押してくれたのは九十九だ。
九十九がいなかったら、きっと前に踏み出せず、あの結末を迎えることはできなかった。
あのままじっとしていればきっと楽だっただろう、父をこの手にかける事も、この重さを背負う事もなかった。
けれど後悔はない。辛く苦しい道のりに向かって、踏み出せた自分を誇りに思う。

傷口にガーゼを宛がい張り付ける。
その手が止まった。

「私は……お礼を言われるようなことは何にもしてないよ。
 ユッキーが動き出せたのはユッキーが動こうって思ったからだよ」

そんな事ない、と言おうとしたところで九十九の表情が沈んでいることに気付く。

「むしろ助けられているのは私の方だよ。ユッキーや拳正にばっかり前に立たせて勢いだけで何にも出来てない。
 ここにきてから、ずっとずっとそう。若菜や輝幸くんだって……」

自らに対する負い目。九十九が弱さを見せる。
それがユキにとっては意外だった。
自分とは違って、強い人だと思っていたから。
彼と同じく彼女はは強い人だと思っていた。

65 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:17:36 ID:UsvTGNLY0
だけどそうじゃない。
彼女もユキと同じく、自分の無力を嘆き、何もできない自分を変えたくて足掻いている。
そんなただの人でしかなかったのだ。
そう気付いた。

「そうだね、そうかもしれない」

ユキは九十九の言葉(よわさ)を肯定する。
九十九に力がなく、誰かに助けられなければ生き残ってこれなかった。それは否定し様のない真実。
無鉄砲な九十九がここまで生き残ってこれたのは誰かの助けがあったからに他ならない。

「けど助けられてるのはお互い様なんだよ。私は勝手に一二三さんに助けられたって思ってる。それは本当なんだから」

それは彼女とユキに限った話ではない。
誰しも何もかもはできないのだ。
それは決して恥じる事ではない。
大切なのはそれを受け入れ、足りない自分がどう生きるかを考える事だろう。

「私たちは足りないモノだらけだ、だから助け合っていくしかないんだよ。
 助けられることは決して悪い事じゃないんだから」

一人で世界全ての善悪を背負っていた父は立派だが、ユキにはできない。
誰かに助けられて、誰かを助けて。
そうやって生きて行けばいい。
それが未熟な悪党の生き方。

「あ、れ……………………?」

その言葉がどれほどの意味を持ったのか。
不意に少女の目から一筋の涙が頬を伝って床に落ちた。

「ッ! ゴメン、何でだろ…………ははっ」

自分でも驚いた様に九十九は自らの頬を袖口で拭う。
だが、一度零れてしまえばもう止められなかった
ずっとずっと負けるもんかと堪えていたものが決壊して止まらなかった。

言葉にできない感情が涙となって溢れ出る。
もうどうしようもなかった。

「…………ゴメン……ゴメンね…………ぅう」

子供のように泣きじゃくる九十九をユキは優しく抱き寄せた。
心を落ち着けるよう静かに、その背を擦る。
九十九が落ち着くまで何度も。

「ねぇ、これから九十九って名前で呼んでいい?」
「……うん。もちろんだよ」

二人の少女は笑い合って、それから他愛のない事を話した。
日常の事。
家族の事。
友達の事。
そんな何でもない話を。

仲が悪かったわけではないが特別仲が良かったわけでもない。
こんな事がなければこうして二人きり腰を据えて話すこともなかっただろう。
そう考えると不思議な関係だった。

何かと目立つ幼馴染の世話に走り回っている印象が強いが、九十九は誰に対しても壁を作らない性格からかクラスの中心にいた。
少なくともユキの目からは誰とでも仲良くできる人に見えた。

対してユキの人間関係は自他ともに認めるくらいに狭い。
閉じた世界で生きてきた。

ルピナスはそんな私を気にせずにいてくれた。
夏実はそんな私を受け入れてくれた。
舞歌はそんな私を変えようとしてくれた。

かけがえのない親友たち。
彼らとの関係が永遠に続けばいいと本当にそう願っていた。

だが、永遠などない。
時は巻き戻らず、失ったモノは取り戻せない。
そんな当たり前の事実を知る。

だけど失ったモノは違う形で取り戻すことはできる。
それは過去をなかったことにするという事ではない。
ユキが新しい悪党になったように。
なにか新しい物は生まれるのだ。

こんな殺し合いに感謝することは何一つないだろうけれど。
きっと、何も残らない訳じゃない。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

66 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:18:27 ID:UsvTGNLY0
夜と共にガールズトークも深まった頃。
唐突に、ベッドで眠っていた少年が跳び起きた。

目を覚ますや否や野生の獣のように鋭い目つきで周囲を素早く見渡す。
ちょうど拳正の恥ずかしい昔話を吹き込んでいた最中だったので、お、バレたかな? と九十九が内心冷や汗をかいたがそうではなかった。

「きゃ…………っ!」

薬棚がガタガタと音を立て震え始めた。
次の瞬間には揺れは部屋全体にまで広がり、柱が軋みを上げる。
揺れは数秒ほど続き、徐々に小さくなり程なくして収まった。

数秒の沈黙。
完全に揺れが収まった事を確認してユキがポツリと声を漏らす。

「地震……だったみたいね」
「そう、だね」

流石は地震大国の子供たち、この程度の揺れで取り乱すでもないが、流石にこの状況下では僅かな不安が残る。

「仲いいな、お前ら」

互いにすぐ近くの相手を庇おうとしたためか、二人の少女は抱き合うような形になって固まっていた。
それに気づいてユキは離れようとしたが、九十九は逆に見せつける様に引き寄せた。

「仲いいよー」
「そうかい。そら結構なこって」

適当に返事をしながら拳正がベッドから飛び降り立ち上がる。
シッカリと両の足で立ち、固い体をほぐすように首を鳴らす。

「体、大丈夫?」
「ああ、むしろ”調子がいい”くらいだ」

片目は潰れ、全身はボロボロだが、全身の毛穴が開くような感覚がある。
その身をもって達人の域を体感したからだろう。
無理矢理に門を開かれたように次の領域が見える。

「んで、今のただの地震だったか?」

その問いかけに少女二人は首を傾げた。

「どういう意味?」
「こんな場所だからな、近くでどっかの誰かが暴れてこの家が揺れたって可能性もあんだろ」
「うーん。そんな感じでもなかったと思うけど…………」

局地的なモノというと言うよりはそれなりに深い震源から揺れる広範囲なモノだったように思える。
それに建物全体を震わすほどの規模の破壊活動があれば流石に分かりそうなものだが。

「そか、なんか妙な気配を感じて跳び起きたんだが、気のせいだってんならいいや」

感覚が開きすぎているのか、予兆のような悪い予感を感じて目を覚ましたが。
先ほどの揺れは何の変哲もない地震だったというのは拳正も同意見だ。
気のせいだったのだろうと、それ以上掘り下げるでもなく意見を取り下げる。

「予感がして跳び起きたってあんた、地震が来るって気付いて目を覚ましたって訳? 動物かいな」

野生の獣は地震が起きる直前に地震を予期して動くのだと聞いたことがあるが、先ほどの拳正の反応はそれだった。

「るせぇな。この状況で何の警戒もなく寝てられるほど太くねぇよ。
 一応敵意とか悪意とか警戒しながら寝てんだ、なんかあったら飛び起きるさ」
「はぇ〜、器用なこって」

その割にどれだけ突いても起きなかったけどなーとユキは思うが内心に留め言わないでおいた。

「よし、じゃあ拳正も起きたことだし、これからどうするか決めよう」

九十九がそう切り出す。
彼らの当面の目標は脱出手段を持っている可能性の高いユキの父親の捜索だったのだが、その目標は果たされ、そして失われた。
新たな方針が必要となる。

「まあ、とっととこんな所から抜け出してウチに帰るってのが目標だが」
「それを私達だけで成し遂げるのは難しいでしょうね」

大した力を持たない学生三人。
首輪の解除。
会場の脱出。
彼らにはそれらを成し遂げるだけの力がない。
それを素直に認める。

67 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:19:12 ID:UsvTGNLY0
「俺らだけでも、ここにいる野郎を〆てどうにかさせるって方法もあるぜ」
「それは……難しいでしょうね」

ここにいるワールドオーダーをどうにかできれば確かに全て解決する。
だが、この戦力であれをどうにかできるか、と言われれば難しいだろうし。
倒せたところで、都合よく動いてくれる相手だとも思えない。
余り現実的な案ではない。

「だろうな。ま、言ってみただけだよ。ついでに野郎を一発ブッ飛ばせたらって思っただけさ」

飄々と状況に対処してきた拳正とて、この状況に、この状況を作り出した相手に思う所がない訳じゃない。
これまでそれらしきを見せなかったのは他に優先すべきがあり、それを間違えなかったからだ。
九十九のように表立たずともその気持ちは奥底に確かにあった。

「結局は何とかできそうな奴を探して、そいつの案に乗っかるしかないってことだな」
「身も蓋もない言い方をすればそうなるわね」

方針自体はユキの父を探そうとした時と変わらない。
変わるのは誰を頼りにするかという所なのだが。

残念がら比較的普通に生きてきた拳正や九十九にこんなトンどもな状況を解決できそうな人間の心当たりはない。
この手の当てはユキに頼るしかない。
まだ放送で呼ばれていない生き残りの中で一番に浮かぶのは良くも悪くも有能な一人の女だった。

「何とかできそうな人って言ったら……恵理子さん、かな」
「恵理子さんって?」
「私の所属してる組織の幹部の人なんだけど、なんて言ったらいいのか……とにかく底が知れない人だから何とか出来るかもしれない」

ユキ個人としては苦手な人であるのだがそうも言っていられない。
父に並ぶ有能性を持つ彼女ならば、首輪の解除プランや脱出プランの一つや二つ持っていてもおかしくはないだろう。
ただ問題があるとするならば、彼女は悪党商会の後継者の座に異常なまでに執着していた事だ。
半田と共に悪党商会の後継者争いをしていた彼女がユキが悪党を継ぐと知ったらどうするのか、という一抹の不安は残る。

「他にはヒーロー連中かしら」
「ヒーロー?」
「本当にいるのよヒーローって。人助けを生業にする人たちがね」

悪党商会であるユキの立場からすれば商売敵だが、その手のしがらみを抜きで言えばこの場においては最も頼りになる人種だろう。
生き残っている可能性があるのはシルバースレイヤーとボンバーガール。
やられ役として早々に倒された程度だが、何度か戦ったことのある相手だ。
ボンバーガールはともかくシルバースレイヤーなら話は付けられるかもしれない。

「後は…………そうね、音ノ宮先輩かしら」
「音ノ宮…………なんか聞いたことあるような」
「いや、新田くんには私が説明したよね…………?」

なんで忘れてるの?という呆れ顔はすぐさま諦めの溜息に変わる。

「……まあいいわ、新田くんだしね」
「それよか、確か探偵だっけ? その先輩。なんか凄い人がいるって私も聞いたことある」

我が校の誇る美少女女子高生探偵。
探偵は謎を解く。
そうとしか生きられない連中だ。
彼女なら、探偵ならあるいは、この殺し合いの謎を解き明かしているのかもしれない。

「探偵、ね。ま、いいんじゃねぇか、当てにしてみても。
 ウチのガッコの先輩なんだろ? 助けてくれんじゃねぇの」
「うーん、無条件の善意とか、そういうの期待できるタイプでもなのよねぇ」

僅かな邂逅だったが、ユキはこの場で一度出会ってる。
ミロとのごたごたで有耶無耶のうちに分かれてしまったが、変わらぬ怪しげな雰囲気を纏っていた。

正直言って恵理子以上に苦手なタイプな上に、個人的な親交もない。
頼るべきは人としての当たり前の正義心なのだが、あの人にそれを期待してもよいものなのだろうかとう不安は残る。

「あの人。今頃、どうしてるのかしら?」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

68 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:19:38 ID:UsvTGNLY0
世界が終わったような静寂があった。
それほどの集中を続けていた少女は息を吐いてその糸を緩める。

亜理子は地面を調べるべく屈んでいた体勢から立ち上がると、スカートの端についた泥を払う。
しかし、ぬかるんだ地面を掻きわけていた白く細い指は土色に染まり、沁み込んだ土汚れまでは払った程度では落ちなかった。
汚れが目立たたないゴシック調の魔法少女服だったのは幸いであるのだが、流石にここまで汚れると一度水浴びでもしたいところなのだが、そうも言ってられない状況である。

ダム底の調査は終了した。
手元の心許無い明かりを頼りにした調査だったが、探偵の誇りにかけて見落としはないと断言しよう。
怪しげな中央の穴のみならず、周囲一帯にまで調査の手を広げたがエレベータースイッチらしきものは見つからなかった。
他にもこれと言った手がかりらしきものは見つからず、脱出に向けての進展はない。

だが、その結果に対して彼女に落胆はなかった。
これは彼女にとっては確認作業に過ぎないのだから。

この空洞がエレベーターであると断定できる材料は殆どなく、むしろ何も見つからなかったという調査結果はそうではないと裏付ける物である。だが、彼女はこれがエレベーターであると言う確信があった。
何故なら彼女には『そうである』と言う心当たりがあるからだ。

それは死亡した一ノ瀬と対話を果たした時の話である。
彼は主催者と対峙する機会を得たと語り、彼女はその詳しい経緯を尋ねていた。
その問いに彼はこう答えた。

『貴女の前から消えた直後の話だ。気付けば僕は四角い箱の中に居ました。
 窓一つなく外がどうなっていたのかは分かりませんでしたが、僅かな振動から動いていたのは確かだ。
 階数表示もボタンすらなく登っていたのかも降っていたのかも定かではありませんが、恐らくはエレベータのような何かの移動装置。
 たどり着いた先は奴の本拠地と思しき場所でした、きっと私がそこに飛ばされたのは偶然ではない、そうなるよう設定されていたのでしょう』

彼が乗り合わせた移動手段が恐らくコレだ。
主催者の下にたどり着くために用意された箱舟。
禁止エリアによる中央への誘導もこれならば納得ができる。

そうなると考えるべきは使用手段だ。
周囲に呼び出せる仕掛けがない以上、通常の手段で呼び出すことはできそうにない。
だと言うのに、何故彼は乗れたのか?
いや、そもそも何故あの時点で消えたのか?

あの時の一ノ瀬に特別な点があるとしたならば、それは死神の手によって首輪が解除されていた事だろう。
ならば首輪の解除がエレベーターの搭乗条件になるのか?
首輪を解除すれば自動的に転送されるのか?
いや、それはない。

私の前から姿を消したのは、世界を渡ると言う彼の異能の作用だろう。
あの場で転送されたのは彼が彼だったからである。

いくらなんでもあの退場の仕方をワールドオーダーが想定しているとは考えづらい。
想定しているのであれば、そもそもそんなことをさせないよう対策すべきである。

あくまであれは死神と一ノ瀬空夜という規格外の組み合わせによるイレギュラーだ。
これを正答として考えること自体が間違っている。

あれは例外中の例外。
だが、必要な要素を見極め、真偽をくみ取ることはできるはずだ。
タイミングからしてあの時点で転移が始まった事と首輪の解除があったことの因果関係は恐らくある。
首輪の解除が必須という点は正しい考察だろう。
問題は彼がその異能で『呼び出し』という過程を一足跳びでクリアしてしまったという事だ。

これを呼び出すための条件は別に何かあって、それは未だにクリアされていない。
正規の条件を解き明かす。

いや、解き明かすべくはそれだけではない。
全ての謎を解き明かし因縁も伏線も全て明かして、未練なく神様が本を閉じられるように世界の終わりのお膳立てをする。
これこそが探偵である亜理子に課せられた役割だった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

69 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:19:55 ID:UsvTGNLY0
土の地面を踏みしめる不規則な足音が響く。
ふらつく足を引きずるようにして山道を歩いているのは怪人へと墜ちた女だった。
月の光すら深い木々に遮られ、自らの足元すら朧気に闇に溶けてゆくようだ。

吐く息すら炎のように熱く、全身が高熱を帯びてたように気だるい。
整備されていない山道は踏みしめるたび体力を奪う。
まるで足に見えない重りが纏わりついたようで、足を進めるたび命が削られていくようだった。

ただ灼熱のように沸き立つ頭だけが、妙にふわふわして気分がいい。
油断すると沸き立ちすぎて意識が白む。それを強く舌を噛んで無理矢理繋ぎとめる。

口の中に広がる鉄の味を喉を鳴らして呑み込む。
曖昧にぼやける感覚の中で鋭い痛みだけが確かだった。
熱が上がるたびに余計なモノが消えて行き、神経が研ぎ澄まされてゆく。

急ぐ理由もなく、明確な目的もないのに休むこともせず。
生き急いでいるのか、死に急そいでいるのか、それすらも分からずにいる。
それなのに何故進むのか。
本人すらわからないその問い答える者など無く、目的すらわからなくなりながらそれでも足を進める。

八十八箇所を巡る僧侶のようだ。
ただ無心に頂点を目指して勾配のある坂道を踏みしめる。
人を害する血と悪意に彩られた道行であるはずなのに、心中は狂ってしまったように穏やかで、ただ白く何もない。

そうして進むうちに山頂に近いて行き、周囲を取り囲んでいた鬱蒼とした木々は目減りしてゆく。
折り重なる木々によって貼られた天上のカーテンが徐々に開かれて、女の下に月明かりが届いた。
影ばかりだった世界が輪郭を取り戻すように照らし出される。

見上げれば、そこには視界を埋め尽くすような巨大な貯水ダムが鎮座していた。
正確にはそこに在ったのはダムだったであろう何かが、だが。
ダムは既に半壊しており、コンクリート壁はまるで巨大なバーナーで焼切ったように高熱で溶解したように壊れ、ダムとしての機能を果たしていない。

その破壊跡に興味を引かれたのか、ふらふらとダムへと近づいてその破壊跡を確かめる。
どう見ても自然に壊れたモノではない。
破壊跡の様子からごく最近、恐らくは参加者の手によって破壊されたものだろう。

「よっこいせ……っと、とッ」

崩れた壁を乗り越えダムの中に侵入する。
広がっているのは乾いた苔の蔓延るただっぴろい荒野だ。
段差からの着地で僅かにバランスを崩したが、柔らかい地面を踏みしめながら立て直す。

ダムの中の水はすっかり涸れていた。
開いたドデカい穴から水が漏れ出したのではないだろう、恐らく高熱に晒され全てが蒸発したのだ。

この規模のダムであれば干ばつでもない限り貯水量は1000万m3は下らないはずである。
それが全て干からびるなど、どれ程の熱量が必要なのか。
恐らくドラゴモストロの火炎弾でも無理だろう。
炎熱を操る能力者として思わず嫉妬を覚えてしまうくらいのド派手な規模だ。

この破壊を成し遂げた相手がここにいるのなら、苦労してここまで足を運んだ甲斐もあるというモノなのだが。
見渡せどダムを破壊した相手どころか、リクの仲間らしき人影すらない。
平らなダム底、誰かがいれば見逃すはずもないのだが、周辺には誰もいなかった。

目につくモノがあるとするならば、ぽっかりと開いたどこまで続くのか分からないような四角い穴だけだった。
これ以外になにもない以上、リクがここを拠点としていた理由はこれなのだろう。
つまりは、珠美にはよく分からないが参加者にとって重要な何かなのかもしれない。

とりあえず小さな花火を一つ作って落とす。
パチパチと弾ける花火の光は吸い込まれるように落ちてゆき、その内見えなくなっていった。
手応えらしきものがまるでない、どれ程深いのか見当もつかなかった。

「…………壊しとくか」

ここが大事な何かなら壊しておくのが怪人として正しい在り方だろう。
そう考え、穴組を破壊できるだけの特大の花火を創だろうしたところで、すぐにやめた。

怪人ボンバーガールの目的は参加者を殺しつくすこと、参加者が何を目指そうと知ったことではない。
これが何であるかはどうでもいい事だ。
よくわからないモノを破壊するために貴重な感情(ちから)を使うのもバカらしい。
だからそれよりも、今優先すべきは。

70 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:20:14 ID:UsvTGNLY0
「――――――そこか」

唐突に身を翻して、適当に作った花火未満の火薬玉を周囲一帯に放り投げる。
それを一斉に炎で薙ぎ払うと、炸裂音が周囲に鳴り響いた。

「きゃ…………ッ!?」

爆炎に飲まれた何もない空間から、フリルの付いた黒い衣装の女が現れた。
いきなりそこに現れたのではなく、透明化か何かの能力で隠れていたのだろう。
それを見破ったのは直感などではなく、単純に井戸のような穴を破壊しようとする珠美の行動に動揺が見えた。
熱を帯び鋭く尖った今の知覚ならば、姿が見えているも同然だ。

「けっ、カメレオンかよ」
「く………………ッ!」

爆風に煽られバランスを崩していた女がなんとか踏みとどまる。
今の火薬玉はあくまで炙り出しに過ぎず、敵を焼き尽くすには火力不足だ。
ダメージは少なく黒衣の魔法少女はすぐさま次の行動に出た。

「――――――ジャンプ!」

魔法少女は迷わず逃げの一手に打って出た。
この場所の保持に固執せず、一足でロケットのように飛びたちダム底から離脱する。
思わず珠美ですら目を見張るほどの見事な跳躍だった。

だがそれでも、珠美なら全力で追えば確実に追いつける。
追いつけるが、珠美は追わずに夜に消えて行く黒衣を見送った。

このぬかるんだ足元であれだけの跳躍を見せた力は大したものだが、残った足跡を見るにあの大跳躍とは釣り合わない大きさだ。
あの跳躍は純粋な筋力によるものではなく、そういうスキルか支給品か恐らくは別の法則によるものなのだろう。

確かに追えば追いつけるが、今の珠美にとってはそれも決死の覚悟が必要となる。
逃げバッタにそこまでの価値を見いだせない。
どうせなら最期の相手は戦士がいい。

「……ここで待つか」

獲物に興味をなくした猫のように、泥に塗れる事も厭わずその場に倒れこむ。
乾いた地表が割れて、水を含んだ地面が染み出してきたのを背に感じる。
抜かるんだ冷たい感触が熱した体に心地いい。

焦ったように足をここまで進めてきたが、別に焦っていた訳ではない。
ただ生き急ぎ、死に急いでいるだけ。
成すべきことが決まっているから心持は凪のように穏やかだ。
自分の終わりは決めてある。

眠る様に眼を閉じる。
一日も終わろうと言う今になってようやくまともな休息を取れた気がする。
あっさりと放り出して逃げ出したが、ここが重要だと言うのならそのうち勝手に戻ってくるだろう。
その時に強いお仲間でも引き連れてくれればこれ以上ない。
それをのんびり待てばいい。

静かに穏やかに、眠るようにしてここで待つ。
愛おしい相手でも待つように、敵を待つ。

愉しい相手だといいのだが。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

71 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:20:49 ID:UsvTGNLY0
夜空より流れ星の如く魔法少女が降り注ぐ。
ざりざりと音を立て山の斜面を滑るようにして着地すると、そのままたとたと駆ける様にして山を下っていた。

魔法『大跳躍』により難を逃れることができた。
伺うように背後を振り返るが、敵が追ってくる気配はない。
追わなかったのか、追えなかったのか定かではないが、追いつかれることはなさそうだ。

それを確認して山を下る足を徐々に緩める。
月に影を色濃く落とす半壊したダム跡を見上げた。
脱出につながる重要拠点を制圧されてしまったが、あそこを保持する事自体はそれほど重要ではない。
いずれ取り戻す必要はあるだろうが、今できる調査は終えた、あのままあそこに居たとしても得るものはないだろう。

重要なのは然るべき瞬間に然るべき使い方をすることだ。
何より、あのエレベータを使うと言うのも持ちうる手段の一つに過ぎない。
いっそ切り捨て別の方法を模索する手もある。

それよりも問題なのはボンバーガールの襲撃と言う事実。
好戦的な性格であることは把握していたが、あれはそういう次元ではなかった。
ボンバーガールはヒーローとしての光の道を外れ、外道に墜ちた。
彼女は闇に向かって突き進んでいる。

それの指し示す事実は一つ。
恐らくシルバースレイヤーは敗れたのだ。
少なくともそう考えて動いた方がいい。

これは大きな誤算だ。
その可能性も考えていなかった訳ではないが、亜理子としては山頂を制圧された事よりもシルバースレイヤーの脱落の方がよっぽど痛い。
なにせリカバリーが難しい。次候補が都合よく見つかるとは限らない。

『奴』にとってはここで見つからなくても次に賭ければいいだけの話だ。
繰り返す殺し合いの中で、自分殺しがどこかで成功すればいい。
しかし亜理子からすれば、この催しは成功させなければならない。
寿命と言う有限があるとはいえリトライ可能なヤツとの違い。
成功を願う参加者に失敗を容認する主催者。なんて矛盾だ。

いや、次どころかこれと似たような殺し合いは同時に行われている可能性すらある。
根拠のない推察だが在りえる話だ。
コピー&ペーストを繰り返せしてきた膨大なリソースが奴の強みである。
リソースが足りているのなら、むしろその方が効率的だろう。

ただですら影響力の強い連中の寄せ集めである。
それがこの規模で同時多発的に消えたとなれば巻き起こされた世界的混乱の規模はどれほどか。
混乱が強まれば強まるほど、外部からの干渉を受ける可能性は下がる。
そうなるとそれこそ悪夢だ。

この悪夢を終わらせる。
この世界を終わらせる。
このお話を終わらせる。

その為に、その為の誰かを見つけなければ。
それこそが亜理子に課された急務である。
それが人の穢れを受け入れられないどうしようもなく潔癖症な音ノ宮亜理子という人間の為すべきことである。

「問題は…………」

問題は、その為にどれほど時間が残されているのか。
音ノ宮亜理子の終わり
この殺し合いの終わり。
世界の終わり。

全てはいつか終わる泡沫の夢。
その終わりよりも早く、答えにたどり着かなくては。

これは彼と誰かの物語。
その一翼を担う悪性。
あの男は、今頃何を考えているのだろうか。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

72 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:21:42 ID:UsvTGNLY0
夜の光が草木を照らし、優しく緩やかな風が草原を吹き抜ける。
ここにいるのは何者でもないただの人間と魔族である。
何者でもなく、何物にもなれる少年と女。
勇者あらざる少年が怪物あらざる女の傍らに寄り添っていた。

オデットに刻まれた聖剣による傷は深いが、勇者の力が破棄された事により再生阻害は消滅した。
微弱ながら再生は働いており、両断された胴体はギリギリのところで繋がっている。
彼女の強い生命力によるものか思った以上に状態は安定していた。
安静にしていればその内傷は癒えるだろう。

だが果たして、この混沌の世界で何事もなく安静になどしていられるのか。
少なくともこんな誰に見られているともわからない、草原で寝転がっているのはどう考えても危険だった。
勇二が運んでいければいいのだが、勇者の力を失ったただの子供でしかない勇二では大人のオデットを背負っていくことも難しい。
辛かろうが最低限動けるようになったのならばオデット自らの足で動いてもらう他ない。

「大丈夫、立てそう…………?」
「…………ええ、なんとか」

差しのべられた手を取って、オデットが立ち上がろうとした、その瞬間だった。
大きく大地が揺れた。

勇二は咄嗟にバランスを立て直し、その場に踏みとどまった。
オデットは立ち上がろうとしていた所を突かれたせいか、バランスを崩して尻餅をついた。

「ッ! 何!? 一体何が…………ッ!?」

尻餅をついたまま混乱したように空を見上げてオデットが叫ぶ。
リヴェルヴァーナでは大地の揺れは神の怒りとされている天変地異である。
神の因子を取り込んだオデットならば地を揺らすくらいは可能だが、それも局地的なものにすぎない。
このような世界全体が震撼するような規模の揺れなど、彼女にとっては世界崩壊の前兆とすら受け取れる大事態だ。
だが慌てふためくオデットの様子とは対照的に、勇二は妙にこなれた反応を示した。

「もう収まったみたいだから大丈夫だよ」
「大丈夫って……そんな! あんなに地面が揺れたのよ!?」
「いやぁ。ただの地震じゃない? そんなに大きくもなかったし大丈夫だよ」

そう言って再び倒れこんだオデットに勇二が手を差し伸べる。
余りにも落ち着き払ったその様子に、慌てている自分がオカシイのではないかと思えてしまう。

「そう、なの?」
「うん、それっと」

ポカンとしたまま手を引き上げられる。
そういう物なのだろうか?

「それよりも行こう、隠れられそうなところを探さないと」

勇二が小さな肩をオデットに貸す。
身長差がありすぎて、あまり助けになっているとは言い難いが、その気持ちに甘える。
肩に手をやり少しだけ体重を預けゆっくりと歩を進める。

「大丈夫…………?」
「…………ええ、平気よ」

歪めた表情から強がりでる事は誰にでもわかった。
やはり動くと傷に響くが、それは自らの罪科を知らせる痛みだ。
こんな事で罪の禊ができるとは思わないが、これまで犯してきた過ちに対する当然の罰として受け入れる。

自らの弱さを認めず目を逸らしそのために犯した多くの過ち。
取り返しのつく事ばかりではなく、何より死は取り返しがつかない。
失われた命を取り戻すことは、神にだってできないのだ。

取り返しがつかないからこそ、これからの事を考えなくてはならない。
何もしない訳にはいかないのだ。
足を止めることなどオデットには許されない。

「…………オデットさん」

だがオデットを先導していた勇二が張りつめた声と共に足を止めた。
自分の意識に没頭していたオデットがその原因に気付く前に、その声はあった。

「やあ」

若い男だった。
道すがら知り合いにでも出会ったような気軽な声。
夜の散歩でもしているかのように、余りにも普通にその男は現れた。

「勇者は捨ててしまったのかい?」

全身が総毛立つ。
目の前に終わりが絶望と共に立っていた。

「お前ッ、お前は…………!」

怒りに全身を震わしながら勇二が吼える。
全ての参加者の敵。
全ての人類の敵。
ワールドオーダーと呼ばれる世界全ての敵。

73 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:22:01 ID:UsvTGNLY0
「勇者と言う線と天才霊能力少年という君の線、これらが交わっただけでも僥倖だと言うのに、それを自ら破棄するだなんて。
 いや、いいよ実にいい。こちらの想定を超えるくらいでないと」

猛る勇二には取り合わず、男は誰も見ていないように独り口元を吊り上げ手を叩く。
その独善的な愉悦は誰のためでもなく、あるいは本人すら何も感じていないのかもしれない。
不気味な自動人形でも見ているような不安感に襲われる。

「……捨ててなんかいないよ」

確かに聖剣は捨てた。
だが勇者を捨ててなどいない。
勇二らしい勇者で在り続ける。
カウレスから託された願いは決して手放してなどいない。

「そうかい。なら君はそれでいいさ」

嗤うような口元とは裏腹な無機質な視線。
その行く先が少年から俯きがちに視線を落としていた女へと移る。

「だがオデット」

感情の見えない色のない声で名を呼ばれる。
それだけで言いようのない悪寒がオデットの背筋を撫でた。

「――――――――――君はいらない」

オデットの全てを否定するように世界を司る支配者は告げる。
それは死の予感ですらない、より深い終わりを予期させる絶望の具現。

オデットの全身が震える。
正気を取り戻した今だからこそわかる、あれは何か想像を絶する恐ろしいものだと。

オデットは一度、この男に手も足も出ず敗北を期している。
その上で見逃されたのた。殺すつもりなら、いつでも殺せた。
そんな相手に、聖剣によるダメージが残る中で立ち向かうことなど出来るはずもない。

敗北は必至。
何もできないまま無残に存在ごと消去されるだろう。

「そんなことはさせないよ」

だが、今は一人ではない。
オデットを庇うように、小さな、だがとても大きな背中が目の前に現れた。
震える足。恐怖は隠さず、なけなしの勇気を振り絞って。
その一歩の勇気をもって世界全ての悪意を詰め込んだような、この世の終わりの怪物に立ち向かう。

「オデットさん。僕たちにできる事はやっぱり、一つしかないと思うんだ」

声は震えながらも固い決意が込められていた。
敵を見つめる少年の黒い瞳に強い光が帯びる。
その瞳には子どもらしい純真な輝きと、数々の困難を乗り越えてきた深い強さが湛えられていた。

「みんなをこんなひどい目に合わせたお前を倒す! それが僕の勇者としての役割だ!!」

勇者として全ての悲劇の元凶であるこの男を討つ。
それが多くの過ちを犯してきた二人に出来る最大の罪滅ぼし。
失われた全てに報いる唯一の方法である。

オデットはその勇気に導かれるように顔を上げる。
他者の勇気を導く、少年の勇者。
彼女は己の弱さで多くの罪を犯した。
だからこそ、贖罪の道は示されたのならばここで奮い立ったねばならない。

奈落のような男は、その眩いまでの勇気を常と変らぬ表情のまま見送って、何の覚悟もないようなまま迎え入れる様に両手を広げる。

「いいさ。来るがいい、どちらにせよこちらのやることは変わらない」

この局面において、このワールドオーダーの役割は一つ。
参加者の排除だ。
それは合格者も脱落者も関係ない。
等しくこの大嵐を乗り越えるしかない。
乗り越えた先に世界を終わらす大業がある。

空気が静止する。
今にも弾けそうな緊張感の中。
唐突に支配者がくるくると指を回して天を指した。

「けれど、戦うのは少し待った方がいい。君たちにとって運命を分ける事になるだろう」

そこには月が浮かぶだけの夜空があるだけだ。
だが、彼が指していたのはそれではない。

声があった。
世界全体に響き渡るのは目の前の男と同じ声だ。
そう、この地において四度目の声が。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

74 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:22:37 ID:UsvTGNLY0
全てから隔絶され、全てを超越したこの世の果て。
生命の息吹を感じられない、孤独の城。
最低限の物しか置かれていない広い部屋は、開放感がある空間だというのにどこか息の詰まるような閉塞感がある。
そんな窒息しそうな息苦しい部屋の中心でソファーに浅く腰掛ける男が独り。

天上に浮かぶ照明によって、淡く照らし出された男の顔に影が落ちる。
柔らかい光を放つのは緩く回転を続ける球体だった。
釣り糸もなく宙に浮かび緩やかに自転するその様はさながら惑星のようである。

男が目を細めるでもなく、目の前に浮かぶ天球を眺める。
ミラーボールのようなこれこそが、参加者たちがいる地獄の舞台だ。
もちろんその物ではなく、情報を投影し移し出した同期転写体であるのだが。

その球体の一点を男の指がなぞる。
そこには小さなヒビが刻まれていた。

「やってくれたねぇ、剣神龍次郎」

苦言を漏らす言葉とは裏腹に、その口調は愉し気である。
最強が放った最大最期の一撃は、正しく世界を砕く一撃だった。
球体に見えるヒビは小さなものだが、世界の内核にまで届いている。
いずれその亀裂は広がってゆき世界は崩壊を迎えるだろう。

この舞台となる世界は非破壊オブジェクトとして設定してある。
世界の破壊機構であるリヴェイラが世界ごと破壊しようとしたが破壊できなかったのはそのためだ。
まさかそれを何の気も衒わない力技で突破するとは、完全に想定外の事である。

つくづく参加者たちは主催者の想定を上回る。
だが、そうでなくてはとほくそ笑む。

想定を上回らなければこんな事をした意味がない。
想定を上回ることなど想定内。
むしろ順調であると言えるだろう。

だが、舞台その物が壊されるというのはよろしくない。
果たしてこの世界はどれだけ持つか。
1年か、1日か、それとも数時間も持たないのか。
こちらとしては終了まで舞台が持てばいいのだが、終了までに壊れられるのは困る。

「まあいいさ、それなら少し予定を早めるまでだ」

浅くかけた腰を上げる。
机の上で静かに回り続ける球体を見下ろす。
そこにいる全てを不幸のどん底に陥れた元凶は本当に残念そうに呟きを漏らす。

「だが不幸なことだ、僕にとっても君たちにとっても」

言って、じき始まる放送の準備を始めるため部屋を出た。
残された孤独な世界は静かに光を放ち続けている。

そして一日が終わる。
長かった一日の終わりを告げる四度目の放送が始まった。

75 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:23:19 ID:UsvTGNLY0
【C-5 診療所/真夜中】
【新田拳正】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、右目喪失(治療済み)、額に裂傷(治療済み)、両手に銃傷(治療済み)、右足甲にヒビ(治療済み)、肩に火傷(治療済み)、右腕表面に傷
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本方針:帰る
1:帰る方法の模索

【水芭ユキ】
[状態]:疲労(小)、頭部にダメージ(大)、右足負傷、精神的疲労(小)
[装備]:クロウのリボン、拳正の学ラン
[道具]:基本支給品一式、ランダムアイテム1〜3(確認済み)、
    ロバート・キャンベルのデイパック、ロバート・キャンベルのノート
[思考]
基本方針:悪党を貫く
1:中央へと向かう
2:首輪の解除方法と脱出方法を探す

【一二三九十九】
[状態]:ダメージ(中)、左の二の腕に銃痕、鼻骨骨折(治療済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×3、、ランダムアイテム1〜4(確認済み)
    サバイバルナイフ、サバイバルナイフ・裂(使用回数:残り1回)、風の剣、ソーイングセット、クリスの日記
[思考]
1:帰る方法を探す

【G-5 山中/真夜中】
【音ノ宮・亜理子】
[状態]:左脇腹、右肩にダメージ、疲労(中)
[装備]:魔法少女変身ステッキ、オデットの杖、悪党商会メンバーバッチ(1番)、悪党商会メンバーバッチ(3番)
[道具]:基本支給品一式×2、M24SWS(3/5)、7.62x51mmNATO弾×3、アイスピック、工作道具(プロ用)
    双眼鏡、鴉の手紙、電気信号変換装置、地下通路マップ、謎の鍵、首輪探知機、首輪の中身、セスペェリアの首輪
    データチップ[01]、データチップ[02]、データチップ[05]、データチップ[07]
[思考]
基本行動方針:ワールドオーダーの計画を完膚なきまでに成功させる。
1:次の主人公候補の模索
2:データチップの中身を確認するため市街地へ
※魔力封印魔法を習得しました

【F-6 山中(ダム底中央)/真夜中】
【火輪珠美】
状態:左腕喪失出血多量、ダメージ(極大)全身火傷(大)能力消耗(大)マーダー病発病
装備:なし
道具:基本支給品一式、禁断の同人誌、適当な量の丸太
[思考・行動
基本方針:全て焼き尽くす
1:敵を待つ
※りんご飴をヒーローに勧誘していました
※ボンバーガールの能力が強化されました

【H-6 電波塔近く/真夜中】
【田外勇二】
[状態]:人間、消耗・大
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本方針:自分らしい勇者として行動する
1:ワールドオーダーを倒す
[備考]
※勇者ではなくなりました

【オデット】
状態:再生中。首骨折。右腕骨折。神格化。疲労(大)、ダメージ(極大)、首輪解除、マーダー病感染
装備:なし
道具:リヴェイラの首輪、携帯電話
[思考・状況]
基本思考:-
1:ワールドオーダーを倒す
※ヴァイザーの名前を知りません。
※ヴァイザー、詩仁恵莉、茜ヶ久保一、スケアクロウ、尾関夏実、リヴェイラを捕食しました。
※現出している人格は最初からオデットでした

【主催者(ワールドオーダー)】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、携帯電話、ランダムアイテム0〜1(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:参加者の脅威となる
1:参加者の殲滅
※『登場人物A』としての『認識』が残っています。人格や自我ではありません。

76 そして1日が終わる ◆H3bky6/SCY :2018/08/13(月) 01:23:35 ID:UsvTGNLY0
投下終了です

77 ◆H3bky6/SCY :2018/08/23(木) 00:08:34 ID:Pgd8.FQk0
第四放送本投下します

78 第四放送 -いつか革命されるこの世界にて- ◆H3bky6/SCY :2018/08/23(木) 00:09:26 ID:Pgd8.FQk0
四度目の定時放送の時間となった。
これで開始から一日が経過したことになる。
この声を聞く者は皆、この一日この地獄を潜り抜けた精鋭だ。
まずは、よくぞここまで生き残ったと褒めたたえよう。

今回は特に重要な連絡事項があるからね、殺し合ってるものは手を止めて耳を傾け、寝ているモノは起きるといい。
言いかな? それでは行くよ、聞き逃さないように。

まずはいつも通り禁止エリアの発表だ。
追加される禁止エリアは。

『F-6』
『F-8』
『H-5』
『H-7』

後はCとIのライン、3と9のラインを禁止エリアとする。
もはや動ける範囲の方が狭くなってしまったが、足を踏み外さぬようこれまで以上に慎重に行動することだ。

次に、この6時間で脱落した死亡者の発表を行おう。
死亡者は

02.アサシン
16.カウレス・ランファルト
24.近藤・ジョーイ・恵理子
42.剣神龍次郎
53.バラッド
55.ピーター・セヴェール
59.氷山リク
68.森茂
72.りんご飴

以上9名。
生き残りは8名となる。
そこにいる僕を除けば7名か。
いよいよ佳境という所か。

そしてここからが君たちに直接かかわる大事な話だ。
覚えているかな? 1時間に1人死者が出なかった場合、ランダムに首輪を爆破するというルールの事を。
この場面でわざわざこのルールを振り返ったという意味が賢明なキミ達なら分かるだろう?
そう、先ほどの6時間で1時間人の死ななかった時間帯が存在する。
まったく、これだけ死んだのに人が死ぬ時間が偏り過ぎていたようだね。

それは始まりと終わりの1時間。つまり2名だ。
2名、生存者からランダムに死亡者を抽出する。

ここまで生き残った参加者をこんな形で失うのは僕としても不幸だが。
これもまた運命か。
ではペナルティーを受ける死亡者を発表する。

40.田外勇二
63.水芭ユキ

以上2名。
処理の実行は30分後だ、0時30分に行う。
支給した時計は正確だから、それを見ながら心してその時を待つといい。
祈ったところで救われるでもないが、せめて悔いは残さぬよう。

さて、革命の時は近い。
これが恐らく最後の放送になるだろう。
キミ達の、この世界の至る結末を僕に、神に、世界に見せてくれ――――!

79 第四放送 -いつか革命されるこの世界にて- ◆H3bky6/SCY :2018/08/23(木) 00:10:04 ID:Pgd8.FQk0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


パチン、と音がした。


放送を終えたワールドオーダーが放送室の灯り落としたのだ。
役目を終えた放送室の出口に向かい、その扉を開く。

唯一の住民が消えれば自然、光の落ちた薄暗い部屋は静寂に包まれる
永遠に変わらぬような静寂。
それは不変だ。

だが永遠などありはしない。
その静寂はいつか破られる。
永劫の不変は破られるのを待つように、訪れる者を待っている。

いつか至り、終り、変わる世界のように。

いつか破られる、その時を待っている。




本を閉じる様に、パタンと扉が閉じた。

















今はまだ、訪れる者はいない。

80 第四放送 -いつか革命されるこの世界にて- ◆H3bky6/SCY :2018/08/23(木) 00:10:22 ID:Pgd8.FQk0
投下終了

81 ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:16:20 ID:9FwNdzk60
お待たせしました
最終章の第一幕を投下します

82 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:18:42 ID:9FwNdzk60

終わりを告げる声が天より響いた。

もはや聞きなれてしまったその声も、今回ばかりはその意味合いが違った。
それは聴く者の心に様々な嵐を巻き起こす凶報である。
過ぎ去った死を告げるだけだったはずの声は、死の訪れを宣告する声となった。
それは神の如きが告げる逃れようのない、運命だ。

その声は聴く者の感情に変化を齎した。
あるいは激昂。あるいは焦燥。あるいは絶望。
そのいずれもが心を散り散りに引き裂くような激情だった。
あらゆる激情で満ちた鍋はかき回され世界は混沌で満たされる。

さあ物語の終わせよう。

世界の命運をかけた革命を始めよう。

いい加減、止まった世界に飽きたなら。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

この最悪極まる催しの主催者の分身を除けば、放送を聞き終えた参加者の中で一番冷静さを保ってたのは恐らくこの少女だろう。

美少女女子高生探偵、音ノ宮亜理子。
彼女が平静を保てたのは理性と知性を司る『探偵』と言う生き物であるというのも理由ではあるだろうが。
それ以上に、先ほど告げられた最悪の通告と彼女が無関係な立場にあるのが大きいだろう。

死の運命を告げられた二人。
選ばれた一人は同じ学園に通う後輩であり多少の顔見知りではあるものの、特に深い間柄でもない。
彼女の死が亜理子の心を鈍らす要因にはなり得ない。

何より心構えをしていた。
ペナルティというルールが設定された時点でいずれ来るだろうとその可能性は常に彼女の頭の隅にあった。
それがようやく適応される段階に至った、というだけの話である。
ならば自分が当たらなかった幸運を喜んでこの件はそれで終わりだ。

それよりも、今の放送で彼女の気にすべき点は別にあった。
彼女にとって一番の問題は中央が禁止エリアに指定された事である。
それは中央は最後の舞台となる重要地点である、というこれまでの推理を覆すものだった。

これにより彼女のこれまでの推理は否定されるのか?
否である。ダム底の調査により中央が重要であることは確信を得た。その前提は翻らない。
あくまで最終地点は中央であるという前提で推理を進めるべきだろう。

そして、放送から得られて重要な情報がもう一つ。
ワールドオーダーはこの放送を”最後の”と言った。
何故今回が『最後』なのか?

残り8名。いよいよもって終わりは近い。
だが、放送ごとに地図上のエリアを狭めてきたこれまでの傾向からして、あと一回りは余裕がある。

確かに、全てのマスを埋める必要はない。
それに人数が減れば減るほどペナルティの適用率は高くなり、次を待たずして全滅している可能性は高いかもしれない。
全滅を危惧して予定を早めたと言うならば、なるほどそれは確かにあり得る話だろう。

だが、この考えは今回の事件には当てはまらない。
何故ならそれは参加者の全滅を避けたい人間の考え方だからだ。

奴にとってこの殺し合いは何が何でも一人を見出すための試みではなく。
条件を満たすたった一人を見つけ出すための振るいである。
奴にとってはこの殺し合いは全滅したって構わないのだ。
私たちにはこの殺し合いが全てでも、奴にとっては次があるのだから。

だと言うのに予定を早めたのは何故か?
これまでの違う流れが組み込まれた時、それには必ず理由がある。
全滅を避けたいのではなければ、何か別の理由があるはずだ。
それは何だ?

考えるべきは、『この殺し合い』に置いて奴にとっての最悪は何か。
それは一つ。
居たかもしれない『主人公』を逃す事だ。

83 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:19:02 ID:9FwNdzk60
全滅を許容するといってもそれは全てを完遂した結果でなければならない。
最後にまで至って初めて、『居なかった』という結論を得られるのだ。
追い求めた一人が居るかもしれない可能性がある以上、最後までこの殺し合いは完遂されなくてはならない。

故に終了を速めた。
そうなると進行不可能となる想定外の事態が起きたのか?
この状況で思い当たる可能性と言えば。

「………………さっきの地震、か?」

観測できる範囲で世界に起きた出来事と言えばそれくらいだ。
そう言えば、あれはなんだったのだろうか?

地震。地震には違いないのだろう。
日本なら先ほどの震度5程度の地震なら年に平均して5回以上は起きている。
それほど特別視するようなものではないのだが。
この孤島がなんなのかという疑問の答えによっては意味する所も変わってくる。

この”世界自体”が奴の用意した世界だと仮定するならば地震など起きるはずがない。
全てが奴の支配下である以上、意図的に引き起こしたのでなければ、起きる必要がないからだ。
起きるはずがないことが起きた。それが終了を早める要因となった可能性はあるかもしれない。

ここが私たちの世界のどこかの無人島であるとしたと仮定したとしても、地震は自然現象だ。
いくらなんでも地震が起きるかどうかまで奴が想定していたとは考えづらい。
やはり地震の影響で何かの不測の事態が起きたという可能性はあるだろう。

だが、あくまで可能性。確実性は何もない。
地震と紐付けること自体が無理矢理すぎるか…………?

ともかく、理由は不明であれ強引に一手早めたのは事実だ。
最後だからこそ盤面を大きく動かすべく動いたという推測が立てられる。

『最後』だから『最終段階』として『最終地点』にイベントを起こした。
こう考えれば中央を禁止エリアとした筋も通る。
中央の重要性は変わらない、むしろ増したと言えるだろう。

そしてそうであると言う前提で考えれば、いろいろと条件が逆算できる。
中央にあった呼び出し方が不明のエレベータ。最後に行われる中央の禁止エリア化。
そこから導き出される結論がある。

エレベーターを呼び出す条件。
それはそこが”禁止エリアである”事だ。

調査をした時点で何も起きなかったのは当然だ、条件が満たされていなかったのだから。
そしてそれ条件であるのなら、必然的に首輪の解除が必要となる。
誘導と試練と必然。
その全てが揃っている。

そうなると首輪の解除を最優先とすべきなのだが。
亜理子の頭の中には首輪の構造に関する知識はあるが、実行するための技術と道具が足りない。
その穴を埋める人材を確保する必要がある。

人数こそ減ったが禁止エリアが増え活動範囲が狭まっている以上、参加者と出会うのはそう難しくはないだろう。
だが、先ほどのボンバーガールのような危険人物と出会う可能性も高い。
そう言う輩は当然ながら避けたい、少なくとも単独で行動している間は。

誰を探すべきか。
頭の中で生き残った参加者の名を思い浮かべる。
そこからペナルティで死亡する二人を排除。
そしてワールドオーダー、ボンバーガールと言った危険人物を除外する。

そうして残ったのは自分を除けば3人。
一先ずこの3人に当たりをつける。
この中から求める人材、加えて失われた主人公候補を見繕わなければならない。

たった3人。
そこに全ての展開をうまく転がせる人材がそろっていたのなら、それこそ運命的である。
奴の思想に沿った展開でぞっとしないところだが、奴の思想通りに進むのは亜理子としても望むところだ。
何より、そうでなければ立ち行かない以上そうでなくては困る。

当たりを引けば一発逆転という博打的な状況。
ふと考えが頭をよぎる。

ともすれば追い詰められて細い糸を辿らなくてはならないこの状況もまた、筋書きの一つでしかないのだろうか。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

84 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:19:34 ID:9FwNdzk60
「………………あぁん?」

仄暗いダムの底で泥に塗れていた女の口から不機嫌そうな声が洩れた。
眉間にしわを寄せながら、深い眠りから醒める様に片目を薄く開く。
目を瞑って身を休めていたが、眠っていたわけではない、放送はちゃんと珠美の耳に聞こえていた。

彼女が不機嫌な声を漏らしたのは龍次郎とモリシゲと恵理子と言った強敵の死を知ったから、ではない。
ペナルティーの実行により見知った相手がこれから死ぬこと、でもない。
不運に見舞われたのは悪党商会(てき)の下っ端(ザコ)と同僚(ュバルツティガー)の子供(ガキ)、どうでもいい相手である。

どうでもいい相手の死など、どうでもいいことだ。
戦いがいのある強敵だって、死んでしまった以上価値はない。

深く縁のある人間は大抵死んだ。と言うより、大抵殺した。
今更、誰が死のうと動じる心など残っていない。

「あぁー…………どうしたもんかねぇ」

寝ころんだまま億劫そうに声を上げる。
それよりも珠美にとって問題なのは今いるF-6エリアが禁止エリアに指定されてしまった事である。
このままここで寝ていれば二時間後にはドカンだ。
待ち伏せを決め込んでいたと言うのに出鼻をくじかれてしまった。

移動すればいいだけの話なのだが、それすらも面倒だ。
せっかく燻った炎を高めていたと言うのに、冷や水を浴びせられたようにやる気が萎える。
体力以前に気力が湧かない。

今日は死ぬにはいい日だが、首輪が爆発して死ぬなんてのは何とも締まらない。
誰も知らぬところで、しめやかに爆発四散なんてのは御免被る。

どうせ死ぬなら派手に勝手に傍迷惑に自分らしく戦って死にたい。
それで終われるならこれ以上はない。

こんな事なら、ゴスロリ女を追えばよかったと後悔するが、今となっては後の祭りである。
こうなっては面倒でも動くしかない。
行く宛てもないが、ゴスロリ女が逃げって言った方向を適当に追ってみるかと、重い体を起こそうとしたところで、

「………………そうだ」

一つ思いついた。
本当に思いつきで、実際できるのかすら分からない。
リスクばかり高く、成功したところで何も得られないかもしれない無意味な発想。
ハイリスクローリターンこそ死にたがりの博打打ちに相応しい。
だが、成功すればきっと面白い。

そう思うだけで、少しだけ鬱屈とした胸が愉快な気持ちになれた。
それだけでやってみる価値があった。

起き上がるのを止めて、再び目を閉じる。
寝ころんだまま時を待つ。
とっくに導火線に火はついていた。

ただただ、花火が弾ける時を待っていた。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

85 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:20:33 ID:9FwNdzk60
――――――絶望。

この状況を表す表現としてこれほど適した言葉はないだろう。
死刑宣告を行った放送に置いて、最大の絶望を味わっているのはこの少年少女たちであった。。

水芭ユキ。
死神にその名が呼ばれしまった。

死刑執行を宣告された死刑囚のようだが、彼女は己が罪科に殺される死刑囚とも違う。
ただ純粋な悪意によって、理不尽なモノによって殺されるのだ。

暴威に晒されるのとすら違う。
抗う事すら許されない。
できる事と言えば、ただ坐して死を待つ事だけである。

「………………そん、な」

その不条理を嘆く様に九十九が漏らした。
だがそれ以上言葉は続かず、続くべき言葉を彼女は持たない。
ただ何もできない無力さを唇と共に噛みしめるだけである。

あの拳正ですら言葉を失っている。
爪が食い込むほどに握りしめられた拳が、その悔しさを物語っていた。

30分。
この僅かな時間で、何ができると言うのか。
出来る事と言えば、どう死ぬかを選ぶ事だけ。

見守る者たちもまた、何も出来ない己の無力を突き付けられながら。
ただ仲間の死を指をくわえて待っているだけ。

何も出来ないという絶望。
何をすべきかもわからない。

秒針が進むたびに心臓が締め付けられるようだ。
確実に死ぬと言う状況は何とも耐え難い。

足元から世界が崩れ去るような錯覚を覚える、
胸を締め付けるような恐ろしさがあった。
どす黒い感情が体中を暴れまわり、行先のない激情に叫び出しそうになる。

だがそれ以上にユキの心を占めている感情は悔しさだ。
恐ろしさよりも、ただひたすらに悔しかった。

全ての決意が無為に終わる。
悪党を受け継いだのに、父の意思を継ごうと決めたばかりなのに。
まだこれからなのに。

こんな所で終わるのか。
こんな事で終わるのか。
こんな形で終わるのか。

何も為さず、何も出来ず、何者にもなれず。


何も残さず、終わるのか。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

86 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:21:19 ID:9FwNdzk60
永遠に変わらないような静寂。
空気が凍りついたように固まっていた。
張りつめた空気は一突きするだけで全てが弾けてしまいそうな緊張感を漂わせている。

息を呑むのは怪物と呼ばれた女と、勇者と呼ばれた幼い少年だった。
二人は驚愕と絶望を綯交ぜにした表情で目を見開いて固まっていた。

そんな彼らと対峙するのはどこにでもいるような男である。
どこにでもいて、どこにもいない。
全ての元凶。
この殺し合いの主催者。
ワールドオーダーと呼ばれる一つの厄災。
男は常と変らぬ薄い笑みを張り付けながら、言葉を失い呆然と佇む二人を見つめる。

「一応誤解がないように弁明しておくと、キミが選ばれたのは僕の意思ではないし、もちろんあちらの僕の意思でもない。
 本当に誰の意思でもない。無作為に抽出した結果でしかない。運命や定め、あるいは単純な運。キミが選ばれたのはそう呼ばれるものでしかないんだ。
 ――――いや、あるいはそれを決めた誰がいて、それこそが僕の倒そうとしてる相手なのかもしれないね」

それは此処ではない何処かへ向けた呟きだった。
最悪の体現者が告げる言葉はどこまでも空虚で意味などない。
己の中に他者の存在などない男の言葉は、己自身に語りかける言葉に他ならない。

だが、それも問題なかろう。
どちらにせよ、その言葉は二人の耳に届いてはいなかったのだから。
端的に言えば二人はそれどころではなかった。

全ての希望を打ち砕く死の宣告。
覆しようのない確定した未来。
その死の運命に少年は選ばれてしまった。

田外勇二は、この世界が定めたルールによって殺される。

変えようのない運命が二人に重くのしかかっていた。
呆然自失とした二人に、自らの言葉が届いていいない事すら気にした風もなく男は嗤う。

「だが――――――キミ達は運がいい」

笑みで歪めた口元から、乾ききったこの場にそぐわぬ愉しげな声を吐いた。
蠱惑的な悪魔の声に、焦点のぶれていた瞳が導かれるようにゆっくりと定まってゆく。
二人の目線が、目の前にいる敵をようやく映した。
吐かれた言葉の意味を租借して、大きく息を呑む。

「どういう………………意味だ?」

状況は最悪も最悪。
死の運命に選ばれた不運を前にして、運がいいとはどういう事か?

「こうして、この僕と出会った事さ」

幸運どころか最悪の塊が何をほざくのか。
誰にとってもこの男と出会った事こそが最大の不幸だ。
そんな不審の色を含んだ二人の視線を微笑で流し、ワールドオーダーは自らの首元をトントンと指で叩いた。

「僕の首輪は少し特別性でね。首輪の爆破を無力化する機能が仕込まれている。
 首輪の無効化。この意味が分かるかな? この機能が適応できるのは僕の首輪だけじゃないという事さ。
 つまりは僕を殺して首輪を剥ぎ取れば、」

その説明が終わるよりも早く、オデットの姿が掻き消えた。
現れたのはワールドオーダーの背後、僅かに上空、後頭部が狙える位置。
瞬間移動したオデットが、振り上げた踵を落とす。
その動きが神の奇跡を引き起こし、振り下ろした足から落雷が放たれる。

「ッ………………ぁあッ!?」

だが、雷に打たれたのはオデットの方だった。
落雷は昇雷となって跳ね返り、直撃を受けたオデットが墜ちる。
地面へと叩きつけられた衝撃で、閉じかけていた聖剣に両断された傷口が開き血が溢れる。

「ガ、ハッ………………!?」
「不用意だねぇ。自分が今どういう世界に立っているのかも把握せず動くだなんて」

今現在、彼らをとりまく世界は『攻撃』は『跳ね返る』世界だった。
オデットはワールドオーダーとの戦いは初めてではない、敗北したとはいえその能力は把握していた。
だが、タイムリミットを切られた勇二の命に救いの手をチラつかされ、焦りから確認を怠った。
完全にオデットの失態だ。

87 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:21:40 ID:9FwNdzk60
「オデットさん!」

慌てて勇二がオデットに駆け寄る。
傷口に手をやったその指から、糸のような何かが延びた。
意思を持ったように動く白い糸が傷口を縫い合わせてゆく。

「へぇ。まるっきり力を失ったと言うわけでもないようだ。と言うより……本来の才能が目覚めたのか」

その様子を見ながら、治療を邪魔するでもなく、感心したような声を漏らす。
敵の殲滅よりも観察が重要であるかのように。

勇二の指より伸びるのは魔を滅する勇者の力で編まれた輝く光の糸ではなく霊力によって編まれた白く透明な糸である。
少年には元より神域に至る霊能力の才があった。
勇者としての力が失われたとしても、元々有していたその才能までは失われる訳ではない。

だが、如何に才があったとしても才は才でしかない。磨がねば光ることもない。
少年は退魔の大家である田外家史上、最大にして最高の才を有している。
だが、その強すぎる力は幼い身に余として父と魔女によって厳重に封印を施されていた。
少なくとも殺し合いに巻き込まれた時点の勇二は力の使い方などろくに理解していなかった。

だが、勇者としての覚醒が少年の潜在能力を開花させた。
勇者の力は失われてしまったが勇者として戦った経験までは失われはしない。
力の使い方は聖剣から学んだ。
あの経験も決して無駄ではなかったのだ。

ピンと指先の糸が途切れ、霊糸縫合が完了する。
とはいえ繋ぎ合わせただけの応急処置に過ぎない、無理をすればまたすぐさま傷が開くだろう。
いくら神の因子を持つ生命力の高いオデットであろうと、こうも短期間に重傷を重ねればどうなるのか分からない。

だがじっとしていられる状況もなかった。
目の前に巨悪が居り、なにより戦わなくては、勇二が死ぬ。
そんな状況で休んでなど居られるはずもない。

「大丈夫、僕が戦うから。オデットさんは無理しないで」

無理を押して立ち上がろうとするオデット。それを勇二が制した。
少年は強靭な意思を持って世界の巨悪に対峙する。
自らを討たんと立ち上がる少年の様を見て、ワールドオーダーは敵ではなく何か喜ばしいモノに出会ったかのように口元をほころばせた。

「だが、戦えるのかい? 君の才能は戦う事に特化しているとは思えないが」

ワールドオーダーは田外の特性を識っている。
田外のみならず、この世界に置いてワールドオーダーの識らぬことなどない。
このあまねく世界は全て彼の管理する箱庭だ。

属性は地。拘束術や結界術を得意とし、敵を滅するよりも封じる事に長けた血筋。
サポート向きの能力で単独で戦うには向いていないが。
彼の才能がその血筋によるものならば、この状況でどれほどの脅威になるのか。

「心配されなくとも、武器なら勇気があるさ!」

勇者とは恐るべき困難に対して先頭に立つ者である。
勇者の力が失われようとも、少年は勇者であった。

勇二の全身からは靄の様な白い何かがあふれ出す。
それは霊感のない人間にも可視化できるほどの規格外の霊力だ。

その姿は魔闘気を纏った魔人皇を彷彿とさせる。
魔人皇。ワールドオーダーを追い詰めた絶対強者。
霊力量だけを見れば今の勇二はそれに匹敵する。

ワールドオーダーは田外の特性も、また当然のように勇者の特性も識っている。
なにせ、勇者というシステムを創り上げたのは他ならぬ彼である。
その力はまだ誰にも発現していないモノまで全て把握済みだ。

だが、目の前の相手はどうだ?
聖剣の加護によって目覚めた神域の霊能力者。
勇者と田外。
埒外の組み合わせ。
未知の化学反応により目覚めたその力はワールドオーダーにとってすら未知である。

確かに魔人皇はワールドオーダーを追い詰めはした、だがそれだけである。
既に超えた壁だ、同程度なら問題にもならない。
その先を、果たしてこの少年は見せてくれるのか――――?

88 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:22:11 ID:9FwNdzk60
「さぁ、田外勇二――――――少年(キミ)の可能性を見せてくれ」
「ああ、見たければ見せてあげるよ――――!!!」

啖呵を切るような叫びと共に勇二が動く。
突き立てた二本指が素早く切られ、宙に印を刻んだ。
印は『式』を意味する一字。式神を形成する呪である。

普段から勇二はそうやって遊んでいた。
誰に教えられたでもなく式を産み出し、お遊び程度に行使するという日常から零れ落ちていた規格外の才能の片鱗。
普段の遊びと違うのは一点、その規模が、解放された才能が、注ぎ込まれる霊力が普段の非ではないという事だ。

完成した『式』の印が宙に赤く輝く。
その輝きを籠めた二本指が地面へと突き立てられる。
すると、地面がボコボコと沸騰したように隆起を始めた。
盛り上がった土塊が流動し次々と積み重なってゆく。
土塊は見る見るうちに型を成して、土と泥と石によって人型が生み出された。
それに縛るべき名を与える。

「来ぉい――――――てんちゃん!!」

天を衝くような巨躯が大地に顕現する。
覚醒した少年の霊力によって生み出されたそれは正しく巨人だった。
土の巨人。式神『天空』。
十二神将に数えられる最強の一画を成す式神である。

人間よりも巨大な拳が振り上げられる。
それが見上げるような高みから、無慈悲に振り下ろされた。
荒い攻撃だが、その荒さを塗りつぶして余りある圧倒的物量がある。
ただ振り下ろすだけで人間など容易く平らにしてしまうだろう。
だが、世界はそれを許さない。

岩石が破砕する音が響く。
砕け散ったのは、男を圧死させるはずの石の拳だった。
『攻撃』は『跳ね返る』。
今の世界で攻撃したところでダメージを負うのは攻撃した側である。

だが、泥人形に痛覚などない。
砕け散った片腕を気にせず、残った逆の腕を振りかぶり豪快に殴りつけた。
当然の如く結果は同じだ。
腕は砕け、辺りに粒となった土や石が舞い散った。
世界の法則は力技で超えられるものではない。

「おっと」

ワールドオーダーが飛来した小石を片腕で振り払いのけた。
石と泥の巨人が自壊した結果、辺りに飛び散った小石だろう。
確かにこれは攻撃には当てはまらない、跳ね返ることもないだろうが。

「まさか、これで僕を殺そうというつもりでもないだろう?」

もしそうだとしたならば子供の発想すぎる。
この程度の小石が当たったところで大したダメージにはならない。
そこまで期待外れではないと願いたいところだが。

痛覚のない式神には知性もないのか、両腕を失った天空は、懲りることなく今度は敵を踏み潰すべく足を振り上げた。
無駄であることを理解していない様に見えるが、これが意図したものであるならば攻撃を繰り返す事で足を釘付けにする魔人皇と同じ戦術だろう。
だが、一分の隙もなかったあの恐るべき魔人皇と違い、その巨大さ故か式神の攻撃は緩慢に過ぎる。
何もできないと思えるほどの圧力は感じられない。

「『霊力』など『存在』しない」

攻撃までの大きな隙を突き、革命の言葉を紡ぐ。
世界が変わる。
霊能力で創り上げられた操り人形は足を振り上げたまま、その全身を砂塵として崩れ去った。

「――――――――DniW」

横合いから疾風が走る。
世界が改変された今ならと、好機を逃さずオデットが放った魔法だった。
霊力ではなく魔法ならばこの世界でも通る。

89 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:22:44 ID:9FwNdzk60
「『攻撃』は『跳ね返る』」
「くっ…………!」

だが、一手遅い。
風よりも早く再び世界は改変され、飛来した魔法は術者へと跳ね返り僅かにその身を切り裂く。
糸で繋がった傷口から赤い血液が漏れ出す。

世界改変と言う規格外の能力を除けばこのワールドオーダーのスペックはそれほど突出したモノではない。
身体能力、反応速度、どれをとっても戦士としては物足りない平凡の域。
最強たるオデットを上回るパラメータなど存在しない。

だが、この男は常に一手先を行く。
それはオデットの体が蓄積されたダメージから重かったと言う理由も確かにあるだろう。
だがそれ以上に、いつどのように世界が改変されるのか。
それを知らないオデットたちと、それを操るモノとでは動き出しに大きな差がある。
このアドバンテージはどうしようもなく埋めがたい物であった。

「…………これは」

だが、戸惑いの声を上げたのはワールドオーダーだった。
周囲に舞う砂塵。
先ほど放たれた突風が崩れ落ちた天空の破片を巻き上げたのだ。

「…………砂塵。目晦ましか」

式神『天空』は霧や黄砂を呼ぶとされる土神である。
その特性を考えるに、こうして砂塵となるところまで計算の内か。

ワールドオーダーの視界から砂埃に紛れた二人の姿が見失われる。
これが逃げの手だったなら巧い手だと褒め称える所なのだが、首輪爆破の制限時間がある以上は彼らに逃亡という選択肢はない。
かと言ってせっかっくの目晦ましを無駄にするはずもないだろう。
この機に乗じて何か仕掛けてくるはずだ。

どう対応するか。
世界をどう変えるのか。
待ち構えながらワールドオーダーは僅かに思案する。

実のところ、オデットだけを殺すのであれば、ワールドオーダーは簡単に実行できる。
この世界を『魔族』が『死ぬ』世界にすればいい。
条件に当てはまるモノを即死させる、無敵ともいえる世界の革命。
ワールドオーダーと同じ人間である勇二はともかく、属性が異なるオデットの場合それで終わりだ。

しかし、ワールドオーダーはそうはしなかった。
それは慈悲や手加減などという理由ではもちろんない。
最終的に倒されることが目的だったとしても、彼は勝負に関して一切の加減をすることはない。

八百長では意味がないのだ。出来レースではたどり着けない。
双方が全てを尽くして、その上で世界の悪であるワールドオーダーを打ち倒せる者こそが相応しい。
それこそが彼の求める者。
故に彼は敵を滅ぼすべく全力を尽くす。

では何故即死させようとしないのか。
その理由は、亦紅との交戦経験に依るものだった。
今のオデットは純粋な魔族ではなく邪神を喰らいその属性を得た混じり物だ。
半人間として生き残った亦紅のように、混じり物の彼女も生き残る可能性がある。

世界の法則は絶対だが、それ以外に対しては無防備となるという弱点もあった。
能力以外が平凡の域を出ない彼だからこそ、対処には慎重が必要となる。
殺しきることが出来なければ殺されるのはワールドオーダーの方だ。
不用意に世界を決定することはできない。

ワールドオーダーの周囲を漂う粉塵が僅かに揺らいだ。
何かが来るという攻撃の予兆に他ならない。

砂塵の暗幕から氷槍が現れる。
ワールドオーダーは目の前に迫るそれを見送り、不動のまま攻撃へと身を晒した。

ワールドオーダーは世界を変えないことを選択した。
今の世界は『攻撃』は『跳ね返る』世界だ。
何が来るか不明な状況では今の世界が一番無難で確実な選択である。

氷槍がその身に直撃する。
瞬間、跳ね返る前に砕け散った。
氷が無数の粒となって散弾のようにワールドオーダーへと襲い掛かる。
だが、その全てはワールドオーダーに触れた瞬間に跳ね返った。
多少の工夫は凝らしているが、ただのその程度など世界の法則の前には意味がない。

この程度で攻略できるなど勇二もオデットも思っているはずがない。
この攻撃は本命ではないだろう。
恐らく気を逸らすための囮だ。

90 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:23:20 ID:9FwNdzk60
(…………なら本命は、どこから)

目を細め砂塵の先を凝視する。
その足元から、ピシリと音が響いた。
次の瞬間、地中から芽吹くように白い糸が伸びた。

自らに向かって迫りくる糸を咄嗟にバックステップで回避する。
だが、着地した足元からも糸が芽吹き足首へと巻き付く。
続けて四方から、地面が割れる音が響き、地中を食い破って伸びた糸がワールドオーダーの体に巻き付いた。
攻撃ではなく拘束。
全身を地面へと縫い付けられる。

「なるほど」

膨大な勇二の霊力を生かして、地中に根を張ったのか。
目晦ましは地中に霊力を通している様子を隠すためのモノ。
オデットの攻撃は足元から気を逸らすためのモノ。
恐らくどこに動いても、絡め取られていただろう。

だが、拘束される程度は想定の範囲内だ。
攻撃以外の手段で来るのは珍しくもない。
この程度の窮地など、一つ世界が革命されるだけで消える泡沫のようなものである。

それにいくら拘束したところで、攻撃ができない以上は決着がつかない。
膠着状態となれば、首が閉まるのは時間制限のある勇二の方である。

「ElCriC!」

詠唱が響いた。
結界を張り、攻撃を遮断する高位魔法。
術者を中心にして周囲を壁のような結界が取り囲む。

その内にはオデットとワールドオーダーの二人がいた。
結界魔法を敵と己を閉じ込めるための壁として使う、オデットが一度死んだあの時と同じ形だ。
だがただ一点、あの時と大きな違いがある。
それは、結界の形が円状ではなく円柱状だったという事だった。

(拘束して更に隔離を……? いや…………)

晴れ始めた砂塵の隙間から結界の形を見る。
そこで円柱の上面部分が結界に覆われていない事に気づいた。
この時点で結界魔法としては失格。隔離する壁としても用をなしていない。
つまり、これは結界でも隔離でもなく――――。

「―――――――nIar lAItNerRot」

集中豪雨。
詠唱の声と共に空から滝のように雨が降り注いだ。
局地的な天候操作。水のない所でこれほどの水魔法を扱うなど、これこそ神の御業と言える。
そう、これは結界ではなく――――水槽だった。

瞬く間に、結界の中が水で満たされてゆく。
水槽の中に水は溜まり、いずれ中は満ち満ちるだろう。
オデットは逃げられるだろうが、糸によって縛られ大地に拘束されたワールドオーダーは逃れられない。
水責めが攻撃として世界に捉えられても、濁流が『跳ね返った』ところで、意味がない。
水が溜まれば溺死するしかない。

確かにこれならば、殺せる。
勇二の案だろう。子供らしい残酷で、自由な発想である。
だが、水の牢獄が首元まで迫り、ついには下唇が濡れるギリギリのところで、

「『重力』は『反転』する」

世界が革命された。
水槽にたまった水はバケツをひっくり返したように天へとぶちまけられた。
降り注ぐ雨は空へと落ち、周囲の木々も次々に抜け落ちてゆく。
大地の表面は徐々に剥がれ落ち、建造物は自重によって崩れながら破片と共に落下する。

当然、人も例外ではない。
勇二やオデットも反転した重力に囚われる。
大地に縛り付けられたワールドオーダーを残して、全てが空へと墜ちてゆく。

「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「くっ…………勇二くん!」

飛ぶ術など持たない勇二は果てのない空へと墜ちる。
その体を瞬間移動で追いついたオデットが捕まえた。

「あ、ありがと!」

勇二を抱えた状態で、そのまま空中に静止する。
空に留まる二人に世界がひっくり返ろうとも変わらない上空特有の強い風が吹き付ける。
髪が乱れ、衣服がパタパタとはためいた。

91 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:23:51 ID:9FwNdzk60
周囲の風景が目に飛び込む。
静止したのは遥かに低い上空、見上げれば島全体を見渡せる程の高所だった。

それは異様な風景だった。
この島の全てが天に墜ちる逆しまの世界となっている訳ではなかった。
むしろそうなっているのはごく一部、この一帯だけが異常だった。
表と裏。正と負が入り混じった何て狭くて歪な世界。
これがワールドオーダーの創る世界。

全てが逆しまの世界の中、高く大地を見上げる。
剥がれ落ちた大地が次々と墜ちてくる中で、大地に縛り付けられたワールドオーダーが空を見下ろし口元を歪めていた。

「…………倒そう、あいつはここで、倒さなきゃダメだ」

この歪んだ世界を眺めて、そう改めて強く決意する。
自分の首輪を解除するためという理由だけではない。
思うがまま世界の歪ませるアレは世界に居てはならない存在だと心の底からそう確信した。

「糸を解いて勇二くん!」
「あ、そうか!」

オデットに言われ勇二はワールドオーダーを縛る霊力の糸を消し去った。
拘束を解かれたワールドオーダーの体が、反転した重力に従い落下を始める。

オデットたちは空中で静止したまま身構える。
落下に抗うの手立てのないワールドオーダーがこの状況を回避するためには世界を改変するしかない。

世界がどう変わるのか主導権は常に世界を変えるこの男にある。
次の瞬間世界がどう変わるのか余人には予測を立てる事すらままならない。
だが今なら、確実に世界を変えざる負えない今ならば、少なくともタイミングは読み取れる。

故に何が来ようと対処できるよう心構えをする二人。
だが、その予測を裏切る様にワールドオーダーは風圧に煽られる口元を歪めたままそのまま自由落下を続けるだけだった。
空中で静止するオデットたちとの距離が見る見るうちに縮まってゆく。

(まさか、このまま落下の勢いを利用して衝突するつもりなの!?)

意表を突く策だが、この男ならばやりかねない。
オデットは迎え撃つべく身を構えた。
勇二を抱え両手の塞がった状態でも魔法で撃退するだけならば口だけで事足りる。

「『人間』は『飛べる』」

だが、その直前でクンと、見えない何かに引っ張られるようにしてワールドオーダーの落下軌道が変化した。
世界が変わる。
重力は正常に戻り、世界はぐるりと反転する。

そのまま曲がりながら浮き上がるような軌道を辿るワールドオーダーの体。
それは落下ではなく自由自在に空を飛ぶ『飛行』だった。

空中戦を続けようというつもりなのか。
だがそれはオデットにとっては望む所である。

オデットの空を飛べるというアドバンテージをイーブンにされただけだ。
むしろ、それ以外の法則が存在しない今が好機である。
いかに重症であろうとも、それ以外の戦闘能力ではまだオデットに分があった。
どういうつもりか知らないが、この機を逃す手はない。

勇二を抱えたオデットは彼女たちから離れる様に飛んで行くその背を追おうとしたところで、鼻先に僅かな異変を感じた。
それは小さな砂粒だった。どうやら空から降り注いできたようだ。
それ自体は何の変哲もない砂粒である。
だが、ここは雲も見下ろそうかという遥か上空だ、そんなものが降り注いでくるはずもない。

予感を感じ、墨をぶちまけた様な空を見上げる。
世界は革命され反転していた重力は正常に戻った。
ならば先ほど空に打ち上げられた、草木や岩石が、剥がれ落ちた大地はどうなるのか。
その答えが雨霰となって降り注いできた。

「くっ!」

身を躱す。
大小様々な物体が空よりも高い宙より落下してきた。
自由落下に過ぎないが、辛うじて糸で体を繋いでいる状態のオデットにとっては、物よっては当たれば危うい。
勇二を抱えた状態で果たして的確に全て躱しきれるのか、そんな不安が頭をよぎる。
だが、そこで抱えていた勇二が自分に視線を向けている事に気付く。

「大丈夫だよ、オデットさん」

ニコリと勇二が安心させるような笑みを浮かべる。
そして自分を抱えるオデットの手を解き、トンと突き放すと空へと自らの体を放った。

「!? え、勇二く…………ん!?」

突然の勇二の行動に驚きオデットは捕まえようと手を伸ばすが、夜に飛び出した少年の体は沈むことなく浮き上がった。

92 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:24:10 ID:9FwNdzk60
「――――大丈夫! 僕も飛べるはずだから」

書き換わった世界法則はワールドオーダーを一方的に利するものではない。
重力が地球上の万物を縛る様に、世界の法則とは何人にも平等である。

「うん。流石に子供は順応が早いねぇ」

これまで書き換わった世界がワールドオーダーを利するように働いてきたように見えたのは、彼が世界が何時どのように変わるかの主導権を握ってきたからである。
人は常識によって縛られ、凝り固まった自分がある人間ほど世界に身を任せるのは難しい。
大人であればあるほど奔流のような新しい世界を理解することもできず振り回されるのみである。
だが飛び方を知らぬはずの少年は飛べる世界にあっという間に順応した。
魚が海を泳ぐが如く、夜を往く流星の如く、空を舞う白鳥の如く。
これが子供の柔軟性。

「行こう、オデットさん!」
「…………ええ!」

手を引く様に二人が空を進んだ。
光ない空に三つの星が流れる。
逃げ回る一つの光を二つの光が追いかける。
流星と違うのはその星は一直線ではなく変幻自在の軌道を辿っている事だろう。

絶え間なく空からは重力に従い降り注ぐ砂、土、石、岩、樹木。
雨のように降り注ぐその全てを避けきる事などできない。
当たっていいモノとダメなモノを見極めその隙間を縫うように飛び回る必要があった。

そんな環境下で最も早い光はオデットだった。
オデットだけが世界の法則による飛行ではなく自らの能力による飛行である。
加えて瞬間移動。障害物の降り注ぐこの状況は彼女にとって圧倒的な優位があった。

降り注ぐ障害物を超え、次を超え、逃げる相手との距離が詰まる。
この世界は自由飛行の世界、攻撃反射の世界ではない。
ならば躊躇う理由はどこにもなかった。

「――――――――ハアッ!!」

掌打を虚空に向けて一閃。
振り抜かれた腕から夜を貫くような閃光が奔る。
標的に直撃した閃光が弾け、火花が散った。

「ハハッ。惜しい惜しい!」
「くッ。邪魔な…………ッ!」

辺りに撒き散る木片越しに、愉しげに手を叩く敵を見る。
閃光が直撃したのは上空から落下してきた樹木だった。
このままのらりくらりと空中を逃げ回るつもりなのか、反撃しようなどと言う意思は感じられない。

こちらには勇二の首輪爆発までの30分という制限時間がある。
もう既に半分以上は経過しているだろう。
時間稼ぎになど付き合っていられない。

「なら、強引にでも押し通るまでよ!」

落下物など気にしている暇はない。
ならば最高火力で最短最速をぶち抜くまで。
今現在、この地において最強の火力を持っているのは間違いなくオデットである。
ギリギリのところで肉体が保っているような無茶が出来る状態ではないが、そんなことは行っていられない。

オデットが両腕に魔力を籠める。
自我を取り戻したことによりオデットは自らの意思で放つ魔法と、神の細胞により巻き起こる奇跡、その両方を”意図して”扱えるようになっていた。
これはその応用にして発展系。
『魔法』と言う現象に対して『奇跡』を付加する。

「――――――――wORra RedmUhT―――――――ッ!!」

夜を雷鳴が瞬いた。
『奇跡』を模して生まれた『魔法』に『奇跡』を纏わすという矛盾を含んだ螺旋が迸った。
撃ち放たれた雷の矢が奇跡の虹を伴って直走る。

引き起こされる相乗効果によって、その破壊力は魔王ディウスの禁術にも匹敵するだろう。
落下してくる障害物など苦ともせず、全てを消滅させながら諸悪の根源を消し去らんと雷光が奔る。

だが、雷の矢は僅かに軌道を逸らした。
ワールドオーダーの体を過ぎ去り、僅かに上方を焼切りながら遥か夜空へと消えてゆく。
過ぎ去る余波だけで肌をビリビリと痺れさせる
超人ならざる体では掠めただけで即死するほどのエネルギーだったであろう。

93 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:24:25 ID:9FwNdzk60
「くっ…………」

オデットが苦しげに息を吐く。
やはり少々無茶が過ぎた。
あまりにも強力なその攻撃を制御するにはオデットの体は傷付き過ぎていた。

「ふぅ。危ない危ない」

絶体絶命の状況から助かった直後とは思えぬほど平然とした声で飄々と呟く。
攻撃が逸れ命拾いした事を、ワールドオーダーは幸運であるとは微塵も思ってはいなかった。
彼に言わせれば幸運ではなく運命である。
オデットではワールドオーダーを世界から排除するに足る運命を持たなかった。

その考えが正しいか否か。
確かめるすべはないが事実として攻撃は外れた。

だが、何も起きなかったわけではない。
空白が生まれた。
雷の矢によって消し飛ばされたその空間に矢が辿った軌跡に奇跡の虹が残留している。
それはさながら夜空に架かる虹の橋だ。
その道を往くのは、当然、勇者の仕事である。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

仲間が決死の思いで開いたラスボスの元まで一直線に繋がるレインボーロード。
勇二が勝利の栄光へと繋がる虹の橋を一気に飛び抜ける。

「追いついたぞ、ワールドオーダー!!」

勇二がワールドオーダーを眼前に捉える。
猛る勇者。
自らを追い詰めた相手を見て、支配者は嗤った。
とても不気味な笑顔だった。

「追いついた? 違うね――――――追いつかせたのさ」

瞬間、空より月が消えた。
雲に隠れたのではない。
何故なら、ここは薄くかかった積雲より高い、遥か上空なのだから。

勇二の顔に影がかかる。
月を隠した何かが勇二の上空に存在を示した。
その影を見上げる。
そこには、降り注ぐ余りも巨大な槍があった。

「な…………ぁっ!?」

それは重力が反転した際に空に打ち上げられていた電波塔だった。
100tを超える大質量が巨大な槍となって降り注いで来る。
その落下地点に誘い込まれていた。

槍が降ることを予知していたワールドオーダーは既に槍の範囲外へと離脱を計り動いていた。
それに気付いた勇二も僅かに遅れてそれを追う。

一心不乱に空を駆け抜ける。
だが、単純に”デカすぎる”。
一息で躱せる大きさではない。

夜闇に紛れたせいで、電波塔の存在に気付くのが遅れたせいで。
最短距離を全力で飛行しても回避が間に合うかどうかというタイミングである。

空から落下する逆さまの塔。
それに巻き込まれそうになる二人。
そこから少し離れた位置にいたオデットには全体が見えていた。

ワールドオーダーは既に安全圏に離脱した。
僅かに遅れてはいるがこの調子なら勇二もギリギリだが避けきれるだろう。

だが、そこでオデットは気付いた。
ワールドオーダーの狙いに。
彼の目論む、その悪意に。

「ダメよ! 勇二くん―――――――!!」

オデットは飛び出す。
一刻を争う事態。
もう余裕がない。
勇二の行く手を塞ぐ様に瞬間移動で転移すると、向かってくる勇二を乱暴に横合いに蹴り出す。

直後、落ちてくるタワーに巻き込まれオデットは地面に堕ちていった。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

94 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:25:04 ID:9FwNdzk60
「現在に柔軟に適応する子供の強さはあったが。
 過去から未来を読み取る大人としての強かさが足りなかったねぇ」

スタリと小さな着地音を立て、ワールドオーダーが地面へと着地した。
世界を逆さまにした時点でワールドオーダーにはこの光景が見えていた。

『未来確定・変わる世界(ワールド・オーダー)』 は戦闘用の能力でもない。
にも拘らず、ここまで力が物を言うこの世界でも彼が絶対者として君臨できていたのは、その精神性に依るモノに他ならない。
過去を知り、未来を読み、伏線を張り、世界を操る。これこそがこの男の本質。
世界を歪める世界の癌。

勇二は禁止エリアに突っ込もうとしていた。
空中では地上以上にエリアの区切りが曖昧だ、ワールドオーダーは自らを誘蛾灯としてそこに誘い込む算段だった。
全ては彼の想定通りに世界は動き、概ねそうなった。
彼にとって唯一予想外だったのは、オデットが割り込んできたことか。

「いや、だがよく生きている。流石にしぶといねぇ」

そう呟く視線の先には折れ曲がった電波塔が逆さになって突き刺さっている。
そしてその傍らにゴミのように転がる何かと、それに縋る少年の姿があった。

「オデットさん! オデットさん!!」

懸命に呼びかける少年の声が空虚に響く。
その呼びかけはどう見ても無意味だった。
倒れるオデットの体には下半身が無くなっており、子供の勇二でも抱えられそうなくらい小さくなっていた。
完全に千切れた下半身は、塔の下敷きなったのか、どこにも見当たらない。
断面から覗く白い肋骨は彼岸に咲く華の様である。
周囲には磨り潰された臓物のペーストがぶちまけられ、黒とも赤ともつかない色に地面を汚していた。
もはや、どうあっても助かるまい。

「僕が…………僕が塔に気付かなかったから…………ッ!」

少年の心を後悔が苛む。
自分は何をしているのか。
これでは愛やカウレスの時と同じだ。
自分を庇ってまた人が死んでしまう。
まるで成長していないじゃないか。

「…………気にしなくていいわ」

自責の念に押し潰されそうになる勇二に向けてオデットが意外にもハッキリとした口調で告げる。
首一つになっても生き続けることができる神の因子が、一部とはいえあるからこその生命力だろう。
だが、それでも死の運命は免れない。

「私は私のために、あなたを助けたの。自分の希望を繋ぐために」
「………………希望?」

オデットは死にたくなかった。

死が恐ろしいのではない。
醜く生きるくらいなら死んだ方がましだとすら思っていた。
だけど無為に死ぬのがどうしても嫌だった。
無意味に終わるのがどうしようもなく恐ろしかったのだ。
だから聖剣による美しい死に憧れ、その為に多くの間違いを起こした。

彼女の命は父に助けられた物である。
父の嘆願がなければ彼女はあの場で父と共に処刑されていた。
それは娘に命を紡いでほしいという父の希望だった。
呪いを受けて、死よりも苦しい責め苦を味わう事となったけれど、それでも生きていれば希望は繋がる。
彼女は父の願いを背負っていていた。
オデットが死んでしまえばその希望も同時に潰える事になる。

勇者に祈りながら魔族に殺されていく無辜の民を見た。
勇者の為に死んで行った兵士たちを見てきた。
彼らは無為に死んでいったのではない、勇者に希望を託して死んでいったのだ。

人々は勇者に希望を託した。
そして希望の勇者だったカウレスは、新たな勇者を守護って死んでいった。
少年が勇者の力を破棄して勇者でなくなったとしても、この少年はカウレスが残した希望だった。

希望は繋がれる。
人から人へと繋がってゆく。
だから自分が死ぬ以上に、託され続けたこの希望が、途切れてしまうのが死んでしまう以上に恐ろしい。
そう、感じてしまった。

だから、死なせるわけにはいかない。
ここで希望を潰させる訳は行かなかった。
罪滅ぼしなどという後ろ向きな気持ちではなく、前に希望を繋ぐために、オデットは身を挺したのだ。
繋がれてきた自らの希望を託して。

95 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:25:27 ID:9FwNdzk60
「………………けど、僕は」

だが、その希望もあと僅かで確実に潰える。
ワールドオーダーを倒せなければ首輪が爆発して勇二は死ぬ。
制限時間はあとどれだけ残っているのだろうか。

ここまでやって未だに僅かの勝ち目も見えていない。
奴を倒す未来がまるで見えない。

「大丈夫。あなたは勝てる」

確信を持った声でオデットは告げた。
敵は世界そのものを操る支配者だ。
それは異能だけの話ではなく、あの男の存在がそういう物である。
二度の戦いを経て、こうして見事に殺されかかって、ようやくオデットはその本質を理解した。

「闘い方を間違えていたのよ。あいつは戦士じゃない、あいつを倒すにはあいつではなくその世界を上回らなければ勝てない」

ただの戦士では勝てない。
ただの戦いでは勝てない。
これを倒すには世界そのものに勝つだけの何かが必要だ。

「だから、あなたはあなたの世界を創りなさい」

死の淵にあるとは思えぬほど、穏やかにほほ笑む。
そして瞬間、その瞳はキッと決意に満ちた瞳に変わった。

「ッあああああああああああああ!!!!」
「お………………っと!?」

叫びを上げ上半身だけのオデットが飛んだ。

傍らで見物していたワールドオーダーに向かって飛び付つくと、そのまま体を押し込んでゆく。
その行く先は、勇二が誘導されかけた場所、禁止エリアだ。

オデットの首輪は既に他ならぬワールドオーダーによって解除されているため爆発する心配はない。
突っ込んでいったところで問題はないだろうが、それはワールドオーダーも同じである。

禁止エリアに突入したところでワールドオーダーの首輪は爆発しない。
同じく既に解除されているオデットの首輪が爆発することもないだろう。

だが――――他の首輪はそうではない。

爆発が起きた。
爆発したのはオデットが持っていたリヴェイラの首輪だった。

密着していたワールドオーダーもその爆発に巻き込まれる。
問題は、この爆発は果たして攻撃か、それとも意図しない事故として処理されるのか。
その判断は世界に委ねられた。

「――――いや、思いのほか悪くない手だったが、無駄だったようだね」

絶望を運ぶ足音。
禁止エリアから姿を表したのは無傷のワールドオーダーだった。
あの状態で爆発に巻き込まれたオデットは助かりはしないだろう。
何事もなかった様に、服を叩いて汚れを払う。

全ては終わった。
オデットの命懸けの特攻ですら傷一つつけることができなかった。
希望は途切れ、無意味に終わる。

余りにも絶望的な状況。
勇二は両手を地面に付きオデットに呼びかけていた体制のまま立ち上がれずにいた。
顔を上げる事も出来ず俯き首を垂れている。

「いつまでそうしているつもりだい? 少ない残り時間をさらに減らす行為はお勧めしないが」
「………じゃ………ない」
「ん?」

そこでワールドオーダーは違うと気付く。
勇二は絶望に顔を伏せているのではない。
地についた両手から地面の底に霊力を流し込んでいる。
まさか、オデットが特攻したのはこの時間を稼ぐため…………?

96 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:25:48 ID:9FwNdzk60
「無駄なんかじゃ――――――――ないッ!」

少年の咆哮。
それに呼応するように地の底から無数の糸が飛び出した。

「だが芸がないな。『霊力』は『触れられない』」

その手は先ほど見たばかりである。
同じ手を喰う、ワールドオーダーではなかった。
この世界では霊力で他者に干渉することはできない。
これで攻撃も拘束も不可能。
だが、攻撃を防がれたはずの勇二は表情を変えることなく告げる。

「――――そうだ。お前は咄嗟の場面で無難な世界を選ぶ」

ワールドオーダー。
世界の法則すら塗り替え支配する超越者。
だが、この男は世界の支配者であれど戦士ではない。
常に勝利に向けて最良の状況判断が出来るとは限らない。

地中から伸びる糸の勢いは止まらなかった。
そもそもワールドオーダーを狙っていない。
ワールドオーダーを過ぎ去り、遥か天へと向かって伸びてゆく。

そして糸が飛び出したのはワールドオーダーの足元からだけではなかった。
少なくとも、ワールドオーダーの確認できる視界の範囲、全ての地面から伸びる糸。糸。糸。糸、糸、糸、糸、糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸糸。
これが全て地中に仕込まれた勇二の霊力によるものだとするならば、いったいどれ程の霊力を地の底に流し込んだと言うのか。

天に向かって伸びあがった糸は周囲の糸と共に巻き上がりながら一本の太い綱のように編みこまれれゆく。
生まれた綱は更に絡み合って太い一本の柱となり、その柱が更に連なり折り重なってゆく。
それが世界各地で次々と繰り返されながら空を目指す様に真っ直ぐに伸びて行く。

「なん、だ?」

世界の支配者が始めて漏らす戸惑いの声。
天に向かう折り重なるそれはまるで大地から生まれた白い翼のようである。
翼は天に達し、幾重もの断層となって遂には天を覆い隠した。
少年の可能性が無限の白い翼となって、空も大地も何もかもを包み込む。
その異様に異常を重ねた光景に、これ以上続けさせるのはまずいと直感したワールドオーダーが世界を革命する。

「『霊力』は『消滅』する」

霊力は存在を許されない世界。
霊力で編まれた糸は世界の法則に従い消滅するはずだが、その世界は――――もう古(おそ)い。

「――――――――『無駄』だ。もうここはお前の『世界』なんかじゃない」

ヒラリと、空から一枚の白い羽が落ちた。
穢れ無き白壁は消えず、世界を囲む卵の様な白い壁はそこに在り続ける。
もはやそれは霊力などと定義されない別の何かとして成立していた。

「ここはお前を倒すために創り上げた、僕の『世界』だ」

成立した世界はもう止められない。
ここはもう確立し隔絶された別一個の世界だ。
敵が世界の法則を塗り替える支配者ならば、少年は世界その物を創り上げる。

神に至るほどの才能がいずれ至る領域。
少年は勇者と言う反則(だんかい)とこの地における過酷な経験を経て、その領域に到達した。

産まれたのは未完成の世界の卵。
未完成であるが故に、何者にもなれる少年の可能性。

「ああ……そう言えば、あの魔女の縁者だったか」

世界すら創造せしめる究極の魔女。
あれの性格からしてお気に入りの子供に手遊び程度に世界創造の瞬間を見せていても不思議ではない。
そこから世界の創り方を会得したか、恐るべき才覚。

「――――そう来なくては」

ワールドオーダーと呼ばれる男が歯を噛みしめながら、口元が吊り上るのを隠しきれないと言った風にこれまでに見たこともないような笑顔を見せた。
世界の敵と戦うのだ、世界一つ創り上げるくらいはしてもらわなければ困る。
この感覚は何年、年百、何億年振りか。
ようやく敵に出会えた。
期待に胸が震える。

ワールドオーダーの能力は戦いに向いた能力ではない。
世界と個人では、そもそも”戦いにもならない”のだから。
同じ土俵で戦える敵など居るはずもなかった。
だが、今なら。この相手ならあるいは。

97 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:26:12 ID:9FwNdzk60
「さぁ、君の世界と僕の世界で戦おう、きっといい”戦い”になる」

すっと勇二が手を掲げる。
地中から巨大な翼が八つ、羽ばたきのように開いた。
少年の可能性が具現化した、可能性の翼。
白い羽が辺りに舞う。
これは、ただ一つ、世界の敵を討ち滅ぼすと言うオーダーを実行するための世界。

「行け――――――僕の翼」

白翼がワールドオーダーを叩き潰すべく爆発めいた風切音を上げた。
圧倒的な白が迫る。
それはまるで世界その物がただ一人を抹殺せんと押し迫る様であった。

「『攻撃』は『無意味』だ」

だが、その圧力は無効化される。
攻撃とは呼べない無意味な産物となって、文字通りの羽の様な重さで男の肌を撫ぜるのみであった。

「そんな『変化』は『認めない』」

だがその革命が否定される。
再び鎌首をもたげた翼が勢いよく風を切り、ズシリとした重みに弾き飛ばされる。
ワールドオーダーの体が弾丸のような勢いで世界を取り囲む外壁に向かって飛んでゆく。

「『慣性』は『存在』しない。
 『重力』は『足元』に向かう」

壁に衝突する寸前でピタリと静止する。
世界を囲う白壁に足元から着地する。
連続改変。
これまで以上に世界を行使して戦っていた。

「『ここ』はそんな『世界』じゃない」

即座に全てが否定される。
世界は正常に戻り、ワールドオーダーの体は地面に向かって落下して行く。

「チッ」

壁際に手をやり落下速度を落としながら滑り落ちてゆく。
純白なる世界の壁に赤い線を描きながらなんとか地面へと着地する。
そこに間髪入れず、足元から再び周囲を取り囲む様に翼が沸き立った。
逃げ場などない。正しくこの世界全体が敵である。

「『攻撃』は『消滅』する」

周囲から翼が消滅する。
その隙に駆け出し、包囲から抜け出す。
これまで不動のまま敵をいなしてきたワールドオーダーが明確に追いこまれていた。

翼の消滅も一瞬。
尽きる事ない白翼はすぐさま復活を遂げると駆ける背後へと迫り、前面からも新たに翼が生まれ挟み撃ちになる。
逃げ場はない。
凌ぐには世界を変えるしかないだろう。

「『攻撃』は――――――――――」
「――――この『攻撃』は『絶対』に『当たる』」

世界を固定される。
防御も回避も許ない。傲慢で絶対的な世界の支配方法だった。
ここは勇二の世界。支配権は勇二の方が上回っている。

広がった白翼が一斉に振り下ろされた。
両腕で身を守る。
ズガガガガと断続的な音が響き、見た目にそぐわぬ重量と切れ味で体が削られていく。

「くっ。ハハッ―――――素晴らしい」

血液が巻き散る。
追い詰められながらも、ワールドオーダーは心底から愉しげだった。
彼はバトルマニアでもなければ、ましてやマゾでもない。
ただ目の前の相手が永年待ち続けた相手なのかもしれないと言う予感が彼の心を震わせていた。

これは反応を駆使し、刹那を奪い合い、肉体を凌ぎ合わせる通常の闘争ではない。
戦い方ではなく戦うルールその物を奪い合う、いわばこれは世界の奪い合いである。

優位なのは、圧倒的に勇二だった。
曖昧な指定も可能。書き換えられる法則の上限も制限もない。
この世界はワールドオーダーを殺すというオーダーを実行するためならば、それこそなんでもありの世界だった。

対して、ワールドオーダーの変えられる世界の法則は一つだけ。
連続で変えることはできるが前の世界は上書きされる。
かつてはそうではなかったが、劣化に劣化を重ねた今のワールドオーダーではこれが限界である。

カードゲームを一枚のカードで戦っているようなものだ。
瞬間的になら世界を引っくり返せるが、すぐさま革命返しをされて終わりである。
ここまでハッタリと駆け引きで何とかしてきたが、同じ土俵で戦う相手には分が悪い。

98 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:27:04 ID:9FwNdzk60
「じゃあ、攻撃に出るとしようか」

白翼を振り払って、一転。ワールドオーダーは攻勢に出る。
守備一辺倒では首輪爆破の制限時間よりも早くジリ貧で敗北するだろう。
それより前に”敵”を殺す。
それこそが戦いというモノだろう。


「――――――――――『悪意』は『攻撃』となる」


革命の言葉が奔る。
純白の世界が一変し、漆黒の悪意が世界中を埋め尽くした。

余りにもドス黒い悪意がただ一人の少年を侵す攻撃となって一斉に襲い掛かる。
世界全ての悪意を塗り固めた男から放たれる悪意は、それこそ世界そのものだ。
気の遠くなるほどの永い間、この世界を侵し狂わせ続けてきた悪意。
こればかりは例え世界を操ろうとも、そう簡単に消えるものではない。

そんな世界を歪めていた絶望を前にしても、少年は顔を上げる。
真っ直ぐと見つめる瞳。少年の手のひらに光が溢れる。
それは目の前の暗闇に相対するには余りにも小さな、そして目の前の暗闇にも負けないほどとても大きな光だった。


「―――――――――『希望』は『剣』となる」


希望の光。
それはオデットが繋いだ希望であり、カウレスが繋いだ希望でもあり、愛が繋いだ希望でもある。
そしてこの地における物だけではなく、日常において父が母が我が子に託した希望でもあった。

それは勇二に託されたモノだけではない。
勇二に希望を託した誰かもまた、誰かに希望を託されていた。
綿々と紡がれる希望。
その全てが形を成して剣となる。

少年はその手に『希望』を掲げた。
それはどんな絶望を前にしても希望を掲げられる勇気持つ者だけが手にすることのできる、勇者の剣だ。


「はぁぁぁああああああああああああああ――――――――――――――ッッ!!!」


悪意(やみ)を希望(ひかり)が一閃した。


世界を満たしていた漆黒が霧散する。
絶望が晴れる。
闇が晴れた先、残ったのは悪意の発生源である男だけった。
男はゆっくりと口元を歪める。

「見せてもらったよ。君の可能性を――――君の勝ちだ。田外勇二」

そう言って、悪意の体現者は胸元から血を吹き出した。
希望の刃は悪意を切り裂き、その先にいるワールドオーダーの体をも切り裂いていた。

血を吐きながら笑う。
これまでの様な空虚な笑みではない。
追い求めた者に達した男の満ち足りた笑みだった。

時間を操ろうと空間を操ろうと何をしようと無意味だろう。
言い訳のしようもない敗北。

少年の可能性。
人間の可能性。
希望の可能性。

人の持つ希望とは、世界を切り裂くだけの可能性を有している。
その証明を為す者。
これこそが男の求める物。
これぞ正しく――――『主人公』である。

だが、その表情はすぐさま別のモノへと変わる。
口元に常に張り付いていた笑み形が悲しみの形に変わった。
まるで、ようやく叶った積年の願いが消えてしまう事を嘆く様に。

「ああ…………だが、キミ残された時間はもう1分とないだろう。
 これほどの結論。これほどの成果でも至らない。僕はそれが悲しい」

本当に残念そうに呟いて、その場に倒れて動かなくなった。
それを見届けた勇二の体も力が抜けたようにフラリと揺れる。

限界を超えた反動。
如何に勇二が神に等しい霊力を持っていても、世界創造という偉業を成し遂げればその霊力も尽きる。

99 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:27:32 ID:9FwNdzk60
意識が霞み始めたが、気力を振り絞り踏みとどまる。
まだ倒れる訳にはいかない。

男の死と共に世界が消え始めた。
この世界はワールドオーダーを殺すために創られた世界だ。
目的を達した以上、世界は消滅するのが必定である。

この地における最大の悪は倒した。
だがそれを手放しで喜ぶにはまだ早い。

消えゆく世界の最後の力を一枚の翼に集約して、倒れたワールドオーダーの首を撥ねる。
躊躇っている暇はなかった。
血だまりに転がる首輪を勇二が急いで回収する。

首輪は得た。
ここからどうするかが問題である。

解体、解析、効果の適応。勇二にそれが出来るのか?
勇者の力も失われ、霊力が尽きた状態ではただの小学生でしかない。
爆発はしないと保証されている首輪なのだから強引にやればできないことはないだろうが、余りにも時間がない。

「…………何か、何かないのか…………ッ!?」

逆転の可能性を探して、灯りを取り出すのも忘れ暗闇に目を凝らしながら周囲を見る。
見えるのは逆さまの電波塔、首のないワールドオーダーの死体、そして。

「ワールドオーダーの…………荷物」

飛びつくように荷物に掴みかかると、ひっくり返すように中身を地面にぶちまける。
微かな希望に縋るように地面に転がる荷物を掻き分けるが、出てくるのは食料や地図といった一般参加者と変わらない物ばかりだった。
転がっている時計の針が目に入る。残り時間は1分を切っていた。

腹の底がざわつくような焦りが勇二を支配し始めた。
先ほどまでの戦いとは違う、足元から追い詰められてゆくような感覚。

このままでは終わる。
勇二の命が。
繋がれた希望が。
何もかもが終わってしまう。
それはダメだ。
それだけはダメだ。

主催者の所持品なのだ。
全てを解決する一発逆転の何か。
そんな道具があってもいいじゃないか。
一般参加者と同じだったとしてもランダム支給品が何か、何か、何かあるはずだ。

ぐるぐると廻る思考。焦る手が何かに触れた。
基本支給物ではない何か。恐らくワールドオーダーにランダムに与えられた支給品の一つ。
それが何であるかを理解した瞬間、少年は自分が何をすべきかを理解した。

己が辿る運命。
己が為すべき役割。
その全てを悟る。
それは幼い少年が固めるには余りにも過酷な決意だった。

静寂が訪れる。
全てを成し遂げた少年は祈る様に目を瞑る。

それは全てを解決するわけでもなく、少年の命も救わない。
それでもやらなくては。
ここで終わるのではなく、何かを先に繋げるために。

「…………………………………………お父さん、お母さん」



爆発音が鳴り響いた。


この世界に蔓延る巨悪を打ち倒した勇者は、報われることなくその命を落とした。
神の如き支配者も、神の因子に侵された女も、神の才を持つ少年も消え去り、この地に残ったのは朽ちた塔のみである。

何もかもが消え去り無に返る。
残る物は何一つない。





いや、希望は。



【オデット 死亡】
【田外勇二 死亡】
【主催者(ワールドオーダー) 死亡】

100 THE END -Relation Hope- ◆H3bky6/SCY :2018/11/11(日) 22:27:57 ID:9FwNdzk60
投下終了
第一幕はここまでとなります


新着レスの表示


名前: E-mail(省略可)

※書き込む際の注意事項はこちら

■ したらば のおすすめアイテム ■

キングダム 46 (ヤングジャンプコミックス) - 原 泰久

「秦」が中国統一を目指す物語

この欄のアイテムは掲示板管理メニューから自由に変更可能です。


掲示板管理者へ連絡 無料レンタル掲示板 powered by Seesaa