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オリロワ2014 part3

28勇者 ◆H3bky6/SCY:2018/03/31(土) 17:49:59 ID:IGpGfdUc0
人間界に放り出されたオデットはどこにも定住することなく彷徨い続けていた。
オデットは頭部に生える角を除けば、比較的人間に近い外見をしている。
角は隠せばいいし、得意の幻術を駆使すれば、身分を隠して人里に隠れ住む事も出来ただろう。
だが、彼女は人里には近づくことすらできなかった。

彼女にかけられた呪いは、人間でしか飢えを癒せぬ『人喰らいの呪』である。
人間を庇った罪人に対して相応しい罰だろう。
このような呪いを受けて人里など居られるはずもない。
飢餓状態で食べられない御馳走をちらつかされる様なものである、そんなのは拷問でしかない。

父の保護していた人間たちの話によれば、人族の間では魔族は人間を喰らうなどと言い伝えられているらしい
確かに魔族の中には戦意高揚のため人肉を喰らう者や特殊性癖を持つ者もいるが、基本的に人など喰わない。
誰が好き好んで人の肉など喰らうのか。
確かに理性のない魔物や魔獣は人を喰らう。だがそれは人間界の野獣も同じ事である。
だからこそ呪いとして成り立つのだろうが。

人を喰らうなんてオデットは嫌だ。
食肉としての好みの問題ではなく、人との共存を目指した父の信念を汚すようで。
何より、自分のために身勝手に命を犠牲にするような醜い存在になりたくはない。
だからこうして出来る限り人に出会わぬよう、隠れ潜むように暮らしていた。

本当に人しか喰えないのならオデットも生きるために覚悟を決めるか、潔く死を選ぶか選択できた。
だが、この呪いの最悪な所は他の物が食えなくなるわけではないという所だ。

この呪いは人以外のモノが食べられなくなる呪いではない。
何かを食べれば栄養は摂取することはできる。
ただ、どれだけ喰おうとも飢えと乾きが癒せない。
何を食べても美味いとは感じられれず、何を食べてもすぐに吐いた。
潔く死ぬこともできず、醜くも生き永らえるだけの呪い。

満足に食事もとれず、いつしか頬はこけ肉体は枝木のように痩せ細ってしまった。
魔界の宝石とまで称えられた美しさは今や見る影もない。
今はまだ我慢を続けられるが、いずれ限界を迎えるだろう。
そうなれば、人を襲い喰らうのだろうか。
理性のない魔物たちのように。

もう一度、魔王に会う必要があった。
魔界に戻りい訳じゃない。
父の居ない魔界に戻ったところで居場所などない。
もうオデットの居場所などどこにもないのだ。

ただ、この呪いだけは解く必要がある。
魔王のかけた強力な呪いを解呪できる術者などいない。
いるとしたらそれは呪いをかけた魔王だけだろう。

だが、あの無慈悲な魔王がこの呪いを解くことはないだろう。
ならば術者である魔王を殺すしかない。
そうすれば呪いが解ける可能性はあるだろう。

だが、今更魔界に戻りあの魔王城までたどり着くなどオデットには不可能だ。
たどり着く前に殺されるのがオチだろう。
辿り着いたところで、あの魔王に何ができるというのか。

そうして、明確な目的もないまま、どれ程の日々を彷徨うようにして世界を渡り歩いたのか。
遂に我慢も限界を迎えようとしていた。

そもそも何故こんな我慢を続けているのか。
生きるための殺生は肯定されるべきである。
人だって家畜を喰らう、魔族だってそうだ。
その行為と何ら違いはないはずだ。
誰に対しての物なのか、言い訳めいた言葉が頭の中を支配する。

その道すがら揺らぎから現れた魔物に襲われたのだろう、行商人の死体が転がっていた。
死体。既に死した肉の塊。
極限の飢餓の中、その死体へ向かって無意識のうちに足が動く。
殺すのではなく、すでに死した肉を喰らう。
それくらいなら。
それくらいなら許されるのではないか?
それが自身の信条と生きていくための行為が釣り合いの取れるギリギリのラインだった。


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