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仮面ライダーオーズバトルロワイアル Part3
1名無しさん:2013/03/01(金) 20:59:16 ID:igVY5omc0
当企画は、仮面ライダーオーズを主軸としたパロロワ企画です。
企画の性質上、版権キャラの死亡描写や流血描写、各種ネタバレなども見られます。
閲覧する場合は上記の点に注意し、自己責任でお願い致します。

書き手は常に募集しております。
やる気さえあれば何方でもご自由に参加出来ますので、興味のある方は是非予約スレまで。

したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15005/

まとめwiki
ttp://www18.atwiki.jp/ooorowa/

2名無しさん:2013/03/01(金) 21:01:42 ID:igVY5omc0
【主催者】5/?
○真木清人@仮面ライダーOOO
○インキュベーター@魔法少女まどか☆マギカ
○海東純一@仮面ライダーディケイド
○アルバート・マーベリック@TIGER&BUNNY
○"彼"@????
【監禁】1/?
○篠ノ之箒@インフィニット・ストラトス

【参加者】
※()は、そのキャラが所属する陣営

【仮面ライダーOOO(グリード枠)】3/5
●アンク(ロスト)(赤)/◯カザリ(黄)/◯ウヴァ(緑)/◯メズール(青)/●ガメル(白)

【仮面ライダーOOO】4/5
◯火野映司(無)/◯アンク(赤)/◯後藤慎太郎(青)/◯伊達明(緑)/●ノブナガ(黄)

【仮面ライダーディケイド】4/6
◯門矢士(無)/◯海東大樹(黄)/◯小野寺ユウスケ(赤)/●月影ノブヒコ(緑)/●剣崎一真(青)/◯アポロガイスト(赤)

【仮面ライダーW】7/7
◯左翔太郎(黄)/◯フィリップ(緑)/◯照井竜(白)/◯井坂深紅郎(白)/◯園崎冴子(黄)/◯加頭順(青)/◯大道克己(無)

【Fate/zero】4/6
◯衛宮切嗣(青)/◯セイバー(無)/◯雨生龍之介(白)/●キャスター(緑)/●間桐雁夜(黄)/◯バーサーカー(赤)

【TIGER&BUNNY】4/6
◯鏑木・T・虎徹(黄)/◯バーナビー・ブルックスJr.(白)/●カリーナ・ライル(青)/●ネイサン・シーモア(赤)/◯ジェイク・マルチネス(白)/◯ユーリ・ペトロフ(緑)

【魔法少女まどか☆マギカ】4/6
◯鹿目まどか(白)/◯暁美ほむら(無)/◯美樹さやか(青)/●佐倉杏子(赤)/◯巴マミ(黄)/●志筑仁美(緑)

【魔人探偵脳噛ネウロ】5/6
◯脳噛ネウロ(黄)/◯桂木弥子(青)/◯笹塚衛士(無)/◯X(緑)/◯葛西善二郎(赤)/●至郎田正影(白)

【そらのおとしもの】3/6
◯桜井賢樹(白)/●見月そはら(黄)/◯イカロス(緑)/●ニンフ(無)/●アストレア(緑)/◯カオス(青)

【Steins;Gate】4/6
◯岡部倫太郎(無)/●牧瀬紅莉栖(赤)/◯阿万音鈴羽(緑)/◯桐生萌郁(青)/●橋田至(黄)/◯フェイリス・ニャンニャン(無)

【インフィニット・ストラトス】4/6
●織斑一夏(白)/◯織斑千冬(赤)/◯セシリア・オルコット(青)/◯凰鈴音(緑)/●シャルロット・デュノア(黄)/◯ラウラ・ボーデヴィッヒ(緑)

45/65

3名無しさん:2013/03/01(金) 21:02:38 ID:igVY5omc0
【基本ルール】
形式:5陣営のグループ対抗戦
勝利条件:陣営リーダーが1人しかいない状況
勝者判定:残った陣営の終了時点でのリーダー
  報酬(1)リーダーは大量のコア・セルメダルで大きな力を得る
     (2)リーダーは自陣営から指名した参加者(人数自由)と生還できる


※本編SSの合否は、下記のルールを参考にした書き手・読み手の合議で決める
※下記のルールは、コアメダルの項(3)(4)を除き、ルールブックとして参加者に支給される

1.グループ戦について
 (1)リーダーは、陣営に対応するグリードである
 (2)リーダー不在となった際、同陣営の参加者は次放送まで無所属となる
 (3)リーダー不在となった場合、同色コアメダルを最も多く取り込んでいる無所属参加者がリーダーを代行する
 (4)リーダー代行を1人に確定できない場合、無所属を継続する
 (5)リーダーが、無所属の参加者にセルメダルを投入した場合、自陣営の所属とする

2.コアメダルについて
 (1)対応するグリード不在中に限り、同色3種の500枚のセルメダルが揃う場合、そのグリードは復活する
 (2)参加者・支給品の能力コストに使用した場合、セルメダル50枚分の効果とするが、その後一定時間使用不可とする
 (3)参加者が体内に取り込んだ場合、対応するグリードとなる
 (4)グリード化した際の能力・戦闘力・副作用は、取り込んだコアメダルの色・枚数に比例する

3.セルメダルについて
 (1)参加者・支給品が能力を発動・維持・強化する度に、消費される
 (2)能力運用に伴う消費量は、能力の強大さに比例する
 (3)「参加者が自分の欲望を実行したか」の度合いに比例し、首輪内部で増殖する
 (4)参加者の負傷時は相応量の、死亡時は全ての、所有セルメダルが首輪から放出される
 (5)首輪の蓄積可能メダル数は300枚までであり、それ以上は所在不明の金庫に転送される
   金庫に転送されたセルメダルは、会場の各地に設置されているATMから降ろすことが可能
 (6)能力使用時の消費レート目安
  ・起動コスト…約1〜5枚
  ・必殺技コスト…約7〜15枚
  ・維持コスト…維持終了まで1〜n枚、枚数はシグマ計算(1+2+3+…)的に増量
  ・強化コスト…強化回数毎に1〜n枚、枚数はシグマ計算(1+2+3+…)的に増量
※必ずしも上記の限りではなく、具体的な消費量・増加量・放出量は書き手に一任する
※書き手・読み手が把握しやすいよう、増加・消費後の所有セルメダル枚数は、端数の無い分かりやすい数が望ましい

4.首輪について
 (1)各参加者に装着され、当人が特定条件に違反した場合、機能によって死亡させる
   特定条件(1)MAP外に出る
         (2)進入禁止エリアに一定時間留まる
         (3)24時間以内に死者がでない場合、全ての首輪が機能を発動する
 (2)参加者の位置情報、所有メダル情報、発言情報を主催者に伝達する
 (3)参加者の現所属陣営の色を、ランプの発光で示す
 (4)参加者の任意で、所有メダルの放出と、周囲のセルメダルの吸引・収納を行う
 (5)ATMに認証させた場合、参加者が金庫に転送したセルメダルを引き落とせる
※具体的なセルメダルの吸引範囲、複数人とかち合った場合の取り分は、書き手に一任する

5.放送について
 (1)6時間毎に、「前〜今放送までの死亡者」「新しい進入禁止エリア」「各陣営の戦績」が告知される
 (2)各陣営の戦績は、陣営全体で見た場合の所有セルメダルとコアメダルの総数である
 (3)具体的な所有者とコアメダルの種類は、告知されない

6.ライドベンダー・カンドロイドについて
 (1)ライドベンダーは、自販機形態でMAPに点在する
 (2)セルメダル1枚の投入に対し、バイク形態への変形1回か、カンドロイド1体の提供を行う
 (3)カンドロイドは原作に登場した全種を備え、品切れは無い
 (4)ライドベンダーを破壊しても、カンドロイド・セルメダルは獲得できない

4名無しさん:2013/03/01(金) 21:03:12 ID:igVY5omc0
7.支給品について
 (1)参加者が持つ基本的な装備品は没収されない
 (2)参加者が持つ最強の武装および最強形態への変身アイテムは、当人以外に支給される
 (3)支給品の出典は、【参加作品中のアイテム】か【実在する物】の何れかとする
 (4)能力運用が個人に限定される場合、代用に足る量のセルメダルを消費すれば、それ以外の者も使える
 (5)門矢士に初期支給されるライダーカードは、クウガ〜キバ出典のものに限定する
 (6)仮面ライダーディケイドを出典とする変身アイテムの支給上限は合計10個までとする
   支給上限を越えて登場させた場合は大方NGとなるが、修正で対応可能な場合は修正すること
 (7)仮面ライダーWを出典とするガイアメモリの支給上限は15個までとする
   支給上限を越えて登場させた場合は大方NGとなるが、修正で対応可能な場合は修正すること

【スタート時の持物】
(1)デイバック…小さなリュック。下記のアイテムを収納している
(2)地図…MAPを記した地図。進入禁止エリア特定のため、境界線が引かれている
(3)名簿…全参加者の名前が列記されている。ただし、所属陣営は不明
(4)ルールブック…本ロワのルールを記した冊子。ただしコアメダルを体内に取り込んだ際の効果は未記載
(5)時計…簡素な時計。現在時刻が分かる
(6)コンパス…簡素な方位磁石。東西南北が分かる
(7)懐中電灯…照明器具。電源は尽きないものとする
(8)筆記用具…鉛筆、消しゴム、ノートのセット
(9)食料…水とパン。成人男性の三食三日分相当
(10)ランダム支給品…何らかのアイテム1〜3個
(11)セルメダル100枚…初期配給。量は全参加者で同数

【進入禁止エリア】
(1)放送終了後に設定される、参加者の侵入を禁止する区画
(2)本ロワ終了まで解除されない
(3)参加者が一定時間留まる場合、その参加者は首輪により死亡する

【時間帯】
※本ロワは、12:00から開始する
深夜:00:00〜01:59
黎明:02:00〜03:59
早朝:04:00〜05:59
朝:06:00〜07:59
午前:08:00〜09:59
昼::10〜11:59
日中:12:00〜13:59
午後:14:00〜15:59
夕方:16:00〜17:59
夜:18:00〜19:59
夜中:20:00〜21:59
真夜中:22:00〜23:59

5名無しさん:2013/03/02(土) 19:46:44 ID:7EuSpb7AO
スレ建て乙です。

グリード復活条件の「同色3種の500枚のセルメダル」ってのは「同色3種と500枚のセルメダル」の誤字かな?

6名無しさん:2013/03/04(月) 03:00:58 ID:Xko3y.OI0
>>1乙です。
翔太郎は●かな

7 ◆QpsnHG41Mg:2013/03/10(日) 18:17:27 ID:gKfDPi920
>>1乙です!

仮投下スレの方で問題なしとの判断を頂いたので、これより本投下を開始します。

8取引をしよう ◆QpsnHG41Mg:2013/03/10(日) 18:19:22 ID:gKfDPi920
「月影め……早々にやられおったか」
 放送で知った仲間の死に、ガイは憎々しげに一人ごちた。
 あの世紀王が、まさか最初の六時間でやられるとは……
 いや、ヤツが弱かっただなどとは思うまい。
 この場には、それだけ強力な敵がいるということだ。
 自分と同じ大幹部ですら容易くやられてしまう過酷な戦い。
 そう思えば、より油断するワケにはいかなくなった。
「……この戦いを生き残るには…賢く戦わねばな」
 勝利するため必要なのは如何に上手く戦うか、だと思う。
 ここでは仲間を利用し、罠を駆使し、頭を使って戦うべきだ。
 今までよりも気を引き締めてやらねばならない。
 加頭のような悪を味方に引き入れるか。
 同じ赤陣営の参加者を見付けて協力するか。
 ともかく今は、仲間となれる参加者との合流が必須だ。
 大ショッカー大首領の意思が関わっているかもしれないこの殺し合い、
 大幹部であるこのアポロガイストが無様を晒すわけにはいかない。
 仮にそうでなくとも、ゲームに勝つことに損失はない。
 多少ダメージは残っているが、これだけ休息したなら十分だろう。
 あとは誰かの生命の炎を吸収すれば体調も万全になるハズだ。
 ガイは次の出会いを求めて移動を開始した。

          ○○○

 沈鬱な空気だった。
 人のいない街を歩く二人の間に会話はない。
 アンクは元々、喋る必要がないなら喋らない。ずっとそうだった。
 弥子は、たったの六時間で大勢の人間が殺された事実に言葉をなくした。
 こんなことで一々一喜一憂していては、身がもたないとアンクは思う。
 見ず知らずの奴が何人死のうが、自分には関係ないではないか。
 これだからこの手の御人好しは理解出来ない。面倒臭い。
 かといって、いつまでもこのままでいられるのも鬱陶しい。
 アンクは苛立ちながらも立ち止まり、弥子に振り返った。
「おい、いつまでシケた面してんだ? もう放送聴いてから三十分だぞ、いい加減切り替えろ!」
「……ごめん」
 身の入らない謝罪だった。
 アンクは思った。
 このまま戦いになったら、真っ先に危険に晒されるのはコイツだ。
 そしてコイツが危険に晒されたら、間接的にアンクまで危うくなりかねない。
「…仕方ないだろ、死んだモンはもう帰ってこねぇ……今は自分が生き残ることだけ考えろ」
「仕方ないって……そんな…」
「ほとんど俺達と会いもせずに殺されたんだ、仕方ない意外に言いようがないだろ」
「…………」
 言葉を詰まらせる弥子。
 言いたい事はあるのだろうが、言い返すこともできない。
 どうしようもないし、どうしようもできなかった。
「だから今はこの先のことだけ考えろ、でないと身がもたねえぞ」
「……わかった」
 やや釈然としない面持ちでああったが、弥子は小さくうなずいた。
 それから小さく「ありがと、アンク」と言われて……
 その不可解な礼に、アンクはまたしても舌打ちした。
 オレはただ足手纏いになられちゃ鬱陶しいから言っただけだ。
 礼を言われる筋合いなどないというのに……
「あれ、アンク?」
「あ?」
 そこで思考中断。
 何かに気付いた様子で声音を切り替えた弥子。
 弥子は、アンクの顔を……その少し下をまじまじと見詰めていた。
 視線の先にあるのは、アンクの首輪、だろうか。

9取引をしよう ◆QpsnHG41Mg:2013/03/10(日) 18:20:33 ID:gKfDPi920
「なんだ、オレの首輪がどうした?」
「色、変わってる……?」
 言われて、アンクはビルの窓ガラスに映り込んだ自分に目を向ける。
 首輪のランプの色は赤だ。
 発光色には何ら変化はみられない。
 ゲーム開始から、変わらず赤に光っていた。
「………ん?」
 いや。よくみれば、ただの赤ではない。
 ランプの赤を囲む枠が"金色"になっていた。
 注意深く見ればわかる程度の違いだった。
 さっきまで銀色だった枠が、金色に変わっているのだ。
 それに対して、弥子の首輪の枠は"銀色"のままだった。
「……なるほどな」
 アンクはその意味を察した。
 あの"片割れ"が脱落したことは、放送を聴いたアンクは当然知っている。
 だが、そうなれば赤陣営のリーダーはどうなる?
 ルール上、赤のメダルの最多保持者がリーダーを引き継ぐのだ。
 今の所持メダル数を考えるに、アンクがリーダーになるのは不自然ではない。
 これは推測だが、リーダーの首輪のみランプの枠が金色になるのだろう。
 意識してみなければ気付かない些細な違いだった。
「リーダーが誰か、判別出来なきゃ困るからなぁ」
「……どういうこと?」
 首を傾げる弥子に、アンクはどういうワケか説明した。
 あの片割れの首輪の枠など弥子が気にしているハズもない。
 説明をきいた弥子は納得し、ぽむと手を叩いた。
「ってことは……確か白のリーダーも脱落したんだよね? だったら」
「そうだ。ガメルの後釜の参加者も、オレと同じになってるだろうな」
「……なるほど」
 この発見は大きい。
 リーダー変更はおそらく今後も発生するだろう。
 その時、誰がリーダーをやっているのかが分かっていると話が早い。
 そして、この事実に気付いているものもおそらくは少ない。
 比較対象が極端に少ないのだ、気付くとしたら、白の新リーダーと一緒にいる奴くらいか。
 情報アドバンテージという奴だ。
「ともあれ、今は俺がリーダーか……アイツがリーダーやるよりはやりやすいな」
 あの忌々しい"片割れ"がリーダーをやっていた時よりはいくぶん動きやすい。
 だが、そこでアンクはふいに疑問を持った。
“動きやすい? 一体、何が動きやすいってんだ?”
 果たしてオレは、この殺し合いに乗っているのか?
 映司と決着を付けること、あの片割れのメダルを取り返すこと……
 それら両方を達成したあと、オレは一体どうするつもりだったんだ?
 まだ何も考えていない。それについて考えることを、無意識にか避けていた。
“ちっ……! 何悩んでんだ、オレらしくもない!”
 どうせ参加者の大半は知らないヤツらだ。
 知らないヤツらブッ殺して、陣営優勝で帰れるならそれも悪くない。
 悪くないどころか、分かり易いぶん、自分らしくて非常にいいと思う。
 だが、それはあの気に食わない真木の言いなりになるということだ。
 それは腹立たしい、許せないとも思う。
 何より、ヤツの言いなりになって殺すというのは、気が乗らない。
 また面倒なことで頭を悩まされる。
 理不尽に苛立って、眉根を寄せる。
 そんな時、アンクは前方から歩いて来る男の存在に気付いた。
 弥子を背に隠すように身構え、やってくる男を見据える。
 白いスーツを着た、紳士的ないでたちの中年男性だった。
「……赤陣営か。どうやらわたしと同じ、仲間のようだな」
 男はそう言って立ち止まった。

10取引をしよう ◆QpsnHG41Mg:2013/03/10(日) 18:22:51 ID:gKfDPi920
 
          ○○○

 それから三人は、近くのオフィスビルのロビーにて話し合いの場を設けた。
 ガラスのテーブルを中心に、片側にアンクと弥子、反対側にガイという形だ。
 互いの自己紹介を軽く済ませ、ガイは真っ先に思い浮かぶ疑問をぶつけた。
「貴様がグリードなる怪人で、赤陣営のリーダーであることは分かった」
「だが、その"リーダー"の貴様が、青陣営の小娘を連れていることには納得がいかん」
「取るに足らないその小娘を、貴様はこれからどうするつもりなのだ?」
「リーダーとして、貴様がこのゲームをどう考えているのかを聞かせてほしい」
 それによって、ガイはアンクと共に戦うかどうかを見極める。
 殺し合いに乗るつもりがあるなら、この小娘はどう見てもただの餌だ。
 人を越えた怪人の力をもってすれば、こんな一般人など難なく殺せる筈だ。
 ガイの問いに、アンクは面倒臭そうに答えた。
「少なくともゲームに負けるつもりはない」
「ほう、それはつまり、この"殺し合い"に乗ると?」
 ガイの突き刺すような視線。
 殺し合い、という言葉を強調して言う。
 ちらと横目に桂木弥子を見れば、強張った面持ちで逡巡している様子だった。
 アンクに殺し合いに乗って欲しくはない、というような顔にみえた。
「そうは言ってない。考えてもみろ、あの真木に黙って従うのも癪だろ」
「だが、リーダーとして赤陣営を救うには、他の陣営を皆殺しにするしかあるまい」
「あぁ、だから邪魔者は殺す。だがそうでないヤツはほっときゃいい」
「ほう」と一言、ガイは弥子を見ながら言った。
「では貴様は、この小娘は殺すに値しないと言うのだな?」
「コイツに敵意はないからな。何ならメズールを倒して赤に引きこみゃ赤の頭数も増える」
「ふむ…なるほど、一見合理的な判断なのだ」
 だが……ガイは今、そういう参加者の命をこそ欲しているのだ。
 無防備な、容易く狩り取れる命を。自らの糧として吸収し、傷を癒したい。
 この小娘から、今すぐにでも命の炎を吸い尽くして体調を万全のものとしたい。
 そんなガイの思惑を何となく察したのか、アンクは冷然と言う。
「コイツには手を出すな、戦力を奪うなら殺し合いに乗った敵からにしろ」
「それだったらオレもお前に協力してやる、赤陣営を優勝させるためにな」
「いいか、それが条件だ。嫌ならお前はオレが潰す!」
 猛禽類のように鋭い目だった。
「どっちが得か、自分でよく考えろ」とアンクは続ける。
 どうやらこの男、ガイが手負いであることまで見抜いているらしい。
 動きや息の仕方から、体調が万全でないことまで見抜かれている。
 その上での脅迫。そしてこの自信……
 大した肝っ玉の男だ。
 おそらく、敵にすれば厄介な相手だ。
 そこでガイは協定の条件を、前向きに検討する。
“……確かに、強者から奪った生命力の方がより上質な糧となろう”
 この男の戦力を味方として取り込むなら?
 こいつは陣営リーダーのグリード。
 そして自分は無双龍を二頭も従えた大幹部。
 二人が組めば鬼に金棒、そうそう負けることもあるまい。
“魅力的な提案なのだ……断る方が愚かしいとすら感じる”
 事実、この協定を結ぶことで、ガイは何も損をしない。
 ただ、弥子の生命力という名の目先の利益を見逃すだけだ。
 それだけで、大きな戦力と、ひいては更なる生命力を得られるのだ。
 長期的な視野で考えて、自分のプラスを認識してからのガイの決断は早かった。

11取引をしよう ◆QpsnHG41Mg:2013/03/10(日) 18:23:32 ID:gKfDPi920
「……よかろう。このアポロガイスト、貴様と共に戦ってやるのだ」
 ――ただし。と、条件を続けるガイ。
「貴様がリーダーに相応しくないと判断した場合は……」
「そのメダルも、桂木弥子の生命もわたしが頂くのだ」
「よもや文句などはあるまいな、"リーダー"?」
 コイツがもしただの甘ちゃんだったなら、その時は交渉決裂。
 赤のメダルは全てガイが奪いとり、陣営リーダーの座も奪い取る。
 一緒に弥子の生命の炎も喰らい尽して、わたしの糧としてやろう。
 その気になれば、アンクを撃破することくらいは出来るハズだ。
「…わかった、それでいい」
「アンク……!」
 アンクの了承に、弥子が異議ありとばかりに立ち上がる。
「お前は黙ってろ、何もお前が損するワケでもねぇだろ」
「でも、この人は殺し合いに乗ってるんだよ!?」
「それが何だ! オレはこの陣営のリーダーなんだよ!」
 怒鳴るアンク。
「……オレが陣営を優勝させりゃ、赤はみんな助かる…何が不満だ?」
「そのために……赤以外のみんなを犠牲にしてもいいっていうの?」
「どっちにしろ邪魔者は殺さなきゃ生き残れねぇんだよ! さっきまでと何が違うってんだ!?」
 アンクの言葉に、弥子は言い返せなかった。
 確かにこれまで、アンクは邪魔をする敵とは戦って来た。
 敵までみんな助けてやるだなんて綺麗事を言ったことはなかった。
 だが、それでも弥子はアンクのことを信じていた。
 根は優しくていい奴なんだと、信じていたい。
 弥子は決然と言った。
「……わかった。でも、罪のない人を殺すのだけは、絶対に許さないから」
「何もお前に許して欲しいワケじゃない……気に入らないなら勝手にどっかいっちまえ…!」
 そういって、アンクは立ち上がり踵を返した。
 それに追随するように、ガイも立ち上がりアンクのあとを追う。
 事実として、赤陣営の危険人物二人が手を組んだことになる。
 二人の背中を見詰め、弥子は自分の無力に唇をかんだ。
 何の力も持たない弥子は、あの二人の決断に口出しはできない。
 勿論、アンクなりに上手く殺し合いに乗ったガイを抑え込んでくれたことは分かる。
 協定を結んでいる限り、あの男も明確な敵以外を襲うことはないことも分かっている。
 だが……弥子には、アンクが急に遠くへいってしまった気がしてならなかった。
 リーダーという立場、それを活かして得た同じ陣営の仲間。
 ただ目的を遂行するためだけに手を組んだ仲間。
 そこに、佐倉杏子との間にあったような"暖かさ"はない。
 その事実が、何も出来ない弥子に居心地の悪い疎外感をもたらした。
「それでも……ほっとけないじゃん…」
 弥子は小声で一人ごちる。
 結局、アンクについていく以外に道はなかった。
 純粋にアンクのことが放っておけないから……
 素直じゃないあのアンクを、弥子は見捨てられなかったから。
 だから、置いて行かれないように、弥子は急いで二人のあとを追った。

12取引をしよう ◆QpsnHG41Mg:2013/03/10(日) 18:23:59 ID:gKfDPi920
 
【一日目 夜】
【D-4/市街地】

【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】健康、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感、自分のコアの確保及び強化による自信
【首輪】160枚:0枚
【コア】タカ(感情A)、タカ(十枚目)、クジャク×2、コンドル×2、カンガルー、カマキリ、ウナギ
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
    超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
    大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。その後、赤陣営を優勝させる。
 1.優勝はするつもりだが、殺し合いにはやや否定的。
 2.もう一人のアンクのメダルを回収する。
 3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
 4.アポロガイストに勝手な真似はさせない。
【備考】
※カザリ消滅後〜映司との決闘からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て取り込んでいます。

【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青
【状態】健康、精神的疲労(中)、深い悲しみ、自己嫌悪
【首輪】120枚:0枚
【装備】桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)@魔法少女まどか☆マギカ、
【道具】基本支給品一式、魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero、赤い箱(佐倉杏子)
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 1.アンクとアポロガイストについていく。
 2.美樹さやかに頼み込んで佐倉杏子を復活させる。
 3.他にも杏子さんを助ける手段があるなら探す。
 4.ネウロに会いたい。
【備考】
※第47話 神【かみ】終了直後からの参戦です。

【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤陣営
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)
【首輪】70枚:0枚
【コア】パンダ
【装備】龍騎のカードデッキ(+リュウガのカード)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:参加者の命の炎を吸いながら生き残る。
 1.アンクと共に邪魔者を始末し赤陣営を優勝させる。
 2.が、もしもアンクが甘ちゃんなら始末し、陣営を奪う。
 3.ディケイドはいずれ必ず、この手で倒してやるのだ。
 4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。
※龍騎のデッキには、二重契約でリュウガのカードも一緒に入っています。

13名無しさん:2013/03/10(日) 18:24:20 ID:gKfDPi920
投下終了です。

14名無しさん:2013/03/10(日) 19:45:56 ID:pbRmsz860
投下乙です。
リーダーは色を囲む枠が金になる……少なくともグリードは代理リーダーを見分けられる程度の細工はしていて当然だろうし、
そこを画像とうまく符合させた着眼点がお見事!
プライドや目先の利益でバカを踏まないアポロさんマジ有能大幹部
そんなアポロさんを抑えるためにアンクは動いたけど、弥子との間にモヤモヤができてしまったのは心配だぜ……
放送後のやりとりと言い、これまでと言い、アンクが優しさを持っていることは弥子も理解しているから、このまま何事もないことを祈る

15名無しさん:2013/03/11(月) 17:14:34 ID:VTBBvGk20
投下乙です

確かに細工の件は上手いわあ。それを見て自分がリーダーだと知ったアンクは赤陣営の優勝狙いに動き出したかあ
だが確かに弥子との間がもやもやができてしまったのが…
そしてアポロさんもこの状況で有利になれる手を打ってるなあ

16名無しさん:2013/03/14(木) 22:15:29 ID:/4EHDFZs0
予約来てたー!
しかもすげー楽しみな組み合わせ

17 ◆QpsnHG41Mg:2013/03/15(金) 00:23:02 ID:2ArTK03c0
その期待に応えられるかはわかりませんが投下します

18運尽きる時 ◆QpsnHG41Mg:2013/03/15(金) 00:24:08 ID:2ArTK03c0
 セイバーと阿万音鈴羽を乗せたバイクが街を駆ける。
 この先で何かが待っている。運転手のセイバーには、そんな確信があった。
 バーサーカーの声が聞こえて来た次点で、鈴羽を降ろすという選択肢もあった。
 だが、バーサーカーの声はセイバーに気付くことなく、次第に遠ざかっていった。
 追い掛けるべきか逡巡したが、今はそれよりも冬木への到着を急ぐべきだと思った。
 何故かはわからないが、そうしなければならないと強く思い込んでいた。
 だから結局セイバーはバイクを停めることなく道を急いでいた。
 ――そんなセイバーの耳に入って来たのは、鐘の音だった。
 それが放送の音だと気付くまでにそう時間はかからない。
 これには流石にバイクを減速させるべきかと思ったが、どうやらその必要はないらしい。
 どういう原理か、バイクの風切り音にも妨げられず、放送の音はセイバーの耳に届いていた。
 果たして、呼ばれた名前の中に、セイバーが特別反応を示すような相手はいなかった。
 一応、キャスターという名は気掛かりではあったが、ジル・ド・レェなら元より死人。
 かつてこの手で倒した相手がもう一度死んだと言われても、心はどうとも動かなかった。
 織斑一夏も死んだらしい。つまり、警戒するべき対象が減ったというだけのことだ。
 それ以上の感動は何もない。
 立ち入り禁止エリアも問題なく記憶した。
 それはおりしも、いよいよ冬木に突入しようかという頃だった。
「……スズハ?」
 ふと振り向くと、後ろに乗っていた鈴羽が涙を流していた。
 どうして鈴羽が泣いているのか分からない程、セイバーは馬鹿ではない。
 仲間か、友達か、肉親か。大切な誰かが殺され、その名を呼ばれたのだろう。
 少し考える。ややあって、セイバーはバイクを路肩に停車させ、鈴羽に尋ねた。
「降りますか、スズハ?」
「え…」
「幸い、周囲には民家も多い。しばらく身を隠し、心を落ち着けるにはちょうどいいでしょう」
「……心配してくれてるんだ、セイバー」
 鈴羽は片手で涙をぬぐい、不器用に微笑んでみせた。
 その笑みに、セイバーは凛とした眼差しで答える。
「これくらいしかしてやれない私の不甲斐なさを呪います」
「ううん…いいんだ、ありがとう」
 嗚咽を押し殺して、鈴羽は決然と言った。
「でも、私もこのまま一緒にいくよ。今は立ち止まれないから……つらくとも、戦わなきゃ」
「本当にいいのですか」
「うん、目的地に着くまでに、気持ちは切り替えるから……」
「わかりました」と、そう答えたセイバーは再びバイクを走らせる。
 瞬く間に加速するバイク。風を裂く音が、鈴羽の慟哭を掻き消した。
 今はどれだけ泣き叫ぼうが、セイバー以外にその声は聞こえない。
 セイバーは何も言わず、目的地を目指しバイクを走らせた。

          ○○○

19運尽きる時 ◆QpsnHG41Mg:2013/03/15(金) 00:24:37 ID:2ArTK03c0
 
 おだやかに、死が近付いて来る。
 心臓の鼓動が、次第に弱まっていく。
 四肢の感覚が痺れ、徐々になくなっていく。
 所持していたメダルは、もうすぐ底をつこうとしていた。
 脳も身体も、今やもう麻痺し切っていて、ろくな思考が働かない。
 植物のように生かされた衛宮切嗣を、死神があっち側に連れて行こうとしていた。
 壊れた蛇口からちょろちょろと伝い落ちる水のように。
 虚ろに見開かれた両の瞳から、血の涙が零れ落ちる。
 真っ赤な水溜りの真ん中に伏した切嗣は、眠るように瞼を閉じた。

 全身の骨折は酸鼻の限りを尽くしたが、それよりも凄愴だったのは臓器の破壊だった。
 折れた肋骨は内臓に痛ましく突き刺さり、それでなくとも蹴り潰された内臓すらあった。
 全身の骨を元通りにしたところで、内臓が破壊されていては生き永らえることは不可能。
 それ故、アヴァロンは骨よりも優先して五臓六腑の修復から先にはじめた。
 その甲斐もあって、切嗣の内臓は徐々に回復していった。
 もっとも、それでも「かろうじて生命維持が出来る」程度だが。
 だが、そこまで回復が進んだ時点で、次の問題が立ちはだかった。
 それが……全身に負った打撲と複雑骨折による出血だった。
 体中から血を流し続けた切嗣は、最早思考することすらもままならない極度の貧血状態に陥っていた。
 最早痛みすらも感じはしまい。痛みなどという概念はとうに通過した。
 この先にあるのは、痛みなどではなく、ただの「死」それだけだ。
 アヴァロンによる回復は、ただ切嗣に生き地獄の苦しみを味わわせただけだった。
 切嗣の意識は次第に朦朧としていった。
 意識が闇に落ちようとしたその時、切嗣は闖入者の脚音を聞いた。
「衛宮切嗣ッ!」
 その名を呼ぶのは、誰の声だったか。
 少しだけ意識を覚醒させ、ぼんやりと薄眼を開ける。
 そこにいるのは、緑のロングパーカーを着た黒髪の少年だった。
 名は、たしか、フィリップといったか。死にかけの頭で、仲間の名前を思い出す。
「この傷は……いったい何があったんだ!? バーサーカーはどうしたんだッ!?」
 少しのあいだに無残な姿に変わり果てた仲間の姿に、フィリップは戸惑いを禁じ得ない。
 だが、今の切嗣にフィリップの問いに答えるだけの体力など残されていなかった。
 いや、例え体力があろうと、顎の骨が砕けているので、会話は出来ない。
 もう、どうすることも出来はしない。
 切嗣は、返事の代わりに再び瞼を閉じた。
「衛宮切嗣ッ! 意識をしっかり持つんだ!」
 もう一度、フィリップが声を荒げる。
 その声すら、今の切嗣の耳には遠く聞こえていた。
 意識を声に集中しようとすれば、激しい頭痛に見舞われる。
 無理もない。切嗣の身体は、眠りにつきたがっているのだ。
 弱り切った脳がこれ以上の覚醒を妨げているのだ。
 ふいに、切嗣の身体がふわりと浮かんだ。
 流れ出る血液の流れが止まった。
 再び薄眼を開ける。
 フィリップは、緑の怪人にその姿を変えていた。

          ○○○

20運尽きる時 ◆QpsnHG41Mg:2013/03/15(金) 00:25:49 ID:2ArTK03c0
 
 サイクロンドーパントとなったフィリップは、切嗣の身体を風で包んだ。
 見当たる限りの傷口に風を吹き付け、血の流れを抑え込み止血する。
 出来るだけ衝撃のないように切嗣の身体を浮遊させた。
 それは、言わば、風のベッドといったところか。
「少し遠いが……病院まで戻るしかない」
 脳内に刻んだマップを思い出し、フィリップは一人ごちる。
 今はともかく、出来る限り衝撃を与えずに彼を病院まで運ぶことが先決だ。
 医療技術の心得はないが、そんなものは検索次第でどうとでも調べられる。
 病院ならばあらゆる医療器具が揃っているし、ここよりはマシな筈だ。
 バーサーカーはどうしたのかとか、この傷は誰にやられたのかとか。
 そんな質問は切嗣の命を救ってからでも問題はない。
 今はともかく、命を救うことが先決だ。
 きっと、翔太郎ならそうする筈だ。
 うずまく風の中心にふわりと浮かんだ切嗣を一瞥し、
「少しつらい旅になるかもしれないが……我慢して欲しい、衛宮切嗣」
 フィリップは届いているのかどうかも定かではない言葉をかけた。

 ――だが、その前に。
 一旦脚を止めたフィリップは、切嗣の腰からロストドライバーを取り外した。
 切嗣に何があったのかは知れないが、これは今の切嗣が持っていても意味がない。
 だったら、いざという時に備えてフィリップが持っていた方が合理的だ。
 一緒に、スカルメモリもロングパーカーのポケットに入れておいた。
 その行動に、翔太郎への思いが欠片もないとは言い切れない。
 現実志向のフィリップだが、翔太郎の形見は自分で持っていたかった。

          ○○○

 眼前で起こっていることが、セイバーには理解出来なかった。
 うずまく風が、さながらトルネードのように吹き荒れている。
 気圧の乱れからか、セイバーの耳を微かな痛みが刺す。
 目的地としていた教会を目前にして、セイバーは見たのだ。
 空を飛び、風を纏って推進する緑色の異形の姿を。
 そして。
「……な…っ」
 緑色の異形が引き連れていたソレの姿を、見てしまった。
 それは。全身の骨が砕かれ、皮膚を突き破り、夥しい両の血を流し、
 顔は顎を中心にひしゃげ、廃人のような虚ろな目から血の涙を流す――
 あまりにも変わり果てた、衛宮切嗣のなれの果てだった。
「キリツグ……ッ」
 さながら、この世の如何な処刑方よりも惨たらしい肉人形。
 聖杯戦争を共に勝ち残るため契約を交わしたマスターの変わり果てた姿。
 あの何処までも冷徹な衛宮切嗣の、あまりにも印象から掛け離れた姿。
 それを怪人が、まるで玩具のように風に乗せて浮かべているのだ。
 吹き荒ぶ風に、切嗣の血が撒きこまれて飛散した。
 真っ赤な血が、ひゅんとセイバーの頬をかすめたとき、
「貴様……ッ!」
 セイバーは激情した。
 最早これ以上の会話など必要はない。
 漆黒のスーツをただちに銀の甲冑を纏ったドレスに変え、セイバーは跳ぶ。
 風を纏わせた剣を携えて、防御すらもままならぬ緑の怪人を斬り伏せ地に叩き落とす。
「ぐあっ!?」
 緑の怪人のメタリックな装甲を、セイバーの剣が裂いていた。
 血の代わりに火花が吹き出て、それはすぐに風に紛れて掻き消える。
 一瞬のうちに周囲に吹き荒れていた風のコントロールが乱れた。
 宙に浮いていた切嗣の身体がどさりと落ちて、その口から血反吐が吐き出される。
 風の止血が解除され、抑え込まれていた夥しい量の血液がぶわっと噴き出す。
 夕闇の道路に、人間一人分の身体を構成する血液が一気に撒き散らされた。
 それを横目でちらと見て、セイバーは緑の怪人に激しい剣のラッシュを浴びせる。
 風王結界によって軌道の見えない剣は、そのほとんどが緑の怪人に直撃した。

21運尽きる時 ◆QpsnHG41Mg:2013/03/15(金) 00:32:46 ID:2ArTK03c0
「風が……!」
 しかし、それも最初の数秒だけだった。
 すぐにセイバーの攻撃を読んだ怪人は、風を巻き起こし、ぶつけて来た。
 風はエクスカリバーを覆う風王結界を吹き飛ばし、その黄金の刀身を剥き出しにする。
 どうやら相手もまた、セイバーと同じように風を操る術を心得ているらしい。
 ならばとばかりに、セイバーは後方をちらりと見た。
 バイクから降りた鈴羽と目が合う。
 鈴羽の首肯を見て、セイバーは後顧の憂いを断ち切った。
 切嗣のことは、鈴羽に任せよう。彼女ならばきっと悪くはしない。
 もっとも、もうどう足掻いても切嗣の死が避けられないことはわかってたが。
 だからこそ、セイバーは帰らぬ者を偲ぶ思いを怒りに変えて剣を振るうのだ。
「ハァァァアアアアーーーーーーーーッ!!」
 飛び掛かり、思い切り振り降ろした剣怪人にぶつけ、一気呵成に押し出した。
 セイバーの剣は、緑の怪人を百メートル程後方の教会にまで押し戻した。
 その剣を振り抜いた時、怪人の身体は教会の壁に叩き付けられた。
 どごん! 派手な破壊音が響いて、教会の壁に亀裂が走った。

          ○○○

 まただ。また、ぼくは襲われている。
 理由もなく、理不尽に。あまりにも身勝手な攻撃に晒されている。
 小柄な少女の殺意に満ちた視線を受けて、フィリップの風が乱れる。
 どうして。どうしてこいつらは、理由もなく他者を襲い、他者の命を奪う。
 あの黒騎士バーサーカーも、この青騎士も。
 どいつも、こいつも……!
“こんな奴らに……ッ”
 ふつふつと怒りが込み上げる。
 フィリップがいったい、何をしたというのだ。
 今だって、ただ衛宮切嗣を救おうとしていただけだ。
 それなのに。それなのに――!
“だんだん……腹が立ってきたぞ……!”
 翔太郎を奪われた怒りが。
 燻っていた行き場のない怒りが。
 フィリップの中で、めらめらと熱を上げる。
 そこにはやはり、二度も逃げてしまった自分への憤りもある。
 相棒を失った悲しみが、少しの間を開けて、いよいよ怒りへと変わった。
“冗談じゃない……ぼくは…こんなヤツに殺されるワケにはいかないッ!”
 目の前にいる襲撃者を、サイクロンドーパントが見据える。
 乱れていた風が、フィリップの怒りに答えるように、徐々に落ち着いて行く。
 驚くほどに冷静に。驚くほどに冷徹に。風がなりをひそめた。
「む?」
 青い少女の警戒の音色。
 当然ながら油断などはしてくれまい。
 だが、構わない。油断を誘おうなどとは思っていない。
 風はやがて、フィリップの怒りに応え、猛烈な突風となった。
 地響きを響かせて、風がごうごうと吹き荒ぶ。
 明らかな「怒り」の込められた、凄絶なる局地的災害。
 青騎士は思わず両手の剣で頭を守り、立ち止まる。
 そこ目掛けて、フィリップは風の刃を吹き付けた。

          ○○○

22運尽きる時 ◆QpsnHG41Mg:2013/03/15(金) 00:33:12 ID:2ArTK03c0
 
 セイバーの声が聞こえた。
 あの聖杯戦争を共に戦った傀儡の声が。
 切嗣は、どうして彼女がここにいるのかを何となく悟った。
 おそらく彼女は、主である切嗣の召喚に応え馳せ参じてくれたのだろう。
 だが……今の切嗣に、彼女と話せることがあるだろうか?
 あの聖杯戦争を終えた切嗣が。
 自らのしもべを冷徹に裏切ったも同然の切嗣が。
 今のセイバーにかけられる言葉などあろうものか。
 否、何もない。切嗣がセイバーに言ってやれる言葉など、何一つ。
 何を言った所で、セイバーはきっと切嗣を理解しないだろう。
 今ばかりは、顎の骨が砕けていることが幸いに思えた。
 顎が砕けているのだから、何も話せない。何も話さずに済む。
 セイバーが連れて来た少女が、切嗣を背負おうとして、やめた。
 きっと彼女も、今の切嗣を動かすことの方がまずいと察したのだろう。
 そうだ。切嗣はもう、どうなったって助かりようがない。
 それなのに、アヴァロンは皮肉にも切嗣の回復を続ける。
 やめろ。そんなメダルは、無駄遣いだ。
 そんなことに使われるくらいなら――
 切嗣は、残る僅かな感覚を、左手に集中させた。
 砕けた顎で、口の中だけで紡がれる、声にもならない詠唱。
 左腕に刻まれたセイバーの令呪が輝きを放った。
“令呪を以て…命ず……セイ、バー……正義の…味方と……して、この…殺し、合い…を……とめ、ろ…”
 それが一つ目の命令。
 正義の味方になり切れなかった自分の代わりに。
 切嗣の純粋な願いに答えて、令呪が一つ、消え去った。
 声にもならぬその願いを、令呪が聞き届けた証だった。
 続けて、切嗣は最後に残った令呪に強く念じる。
“…セイバー……生還した、なら…間桐の…家か……ら……桜、ちゃんを…救ってやって……くれ”
 今はいない雁夜と交わした約束。
 彼から受け継いだ使命を、切嗣からセイバーへ。
 約束を守れなくなってしまった切嗣に出来るせめてもの償い。
 そんな最後の願いを託して、切嗣はゆるやかに瞼を閉じた。
 二画の令呪が、残されていた僅かなメダルと一緒に消え去った。
 無意味なアヴァロンの回復が切れると同時に、切嗣を強烈な疲労感が襲った。
 急激に、加速度的に意識が遠のいて行く。
 その深淵たる闇の波濤に抗う術を、切嗣は持たない。
 切嗣の運は、あの時バーナビーに出会った時点で尽きていたのだろう。
 元より死んでいた身だ。少しでも正義の味方の夢を見れたと考えれば幾らか救いはある。
 もうこれ以上、幸運は切嗣を救ってくれはしない。
 死を受け入れた切嗣は、最後に一言、口の中だけで言った。
“セイバー……あとは…任、せる……”
 全てをセイバーに託して、切嗣は逝った。
 自らの傀儡に心から何かを願ったのは、後にも先にも、これがはじめてだった。

【衛宮切嗣@Fate/Zero 死亡確認】

          ○○○

23運尽きる時 ◆QpsnHG41Mg:2013/03/15(金) 00:33:39 ID:2ArTK03c0
 
 名も知らぬ男がいま、息を引き取った。
 鈴羽は、彼の手で輝く最期の命の輝きをみた。
 あの真っ赤な輝き――それは彼の最期の足掻きだったのだろう。
 彼が何を望み逝ったかはわからないが、きっと悪人ではなかったと思う。
 最期に見た彼の瞳は、優しくあたたかいものだった。
「また、だよ」
 また一つ。
 背負うものが、増えた。
 目前にしながら、救えなかった命。
 みんなで脱出すると誓っておきながら、取り零してしまった命。
 そはらを失った哀しみ。橋田至の死を避けられなかった無力。
 それらが、鈴羽の決意をより強固なものとする。
 こんな殺し合いは、一刻も早く潰さねばならない。
 あんな……命を奪う奴らに、これ以上好きにさせてはならない。
 戦場へ向かったセイバーを見る。
 緑の怪人が作りだした竜巻の中で、二人は戦っているようだった。
 鈴羽の中の素朴な正義感が。
 悪を憎む心が。
 自分に何が出来る、と考えさせる。
「きっとあたしにも出来る筈だ……何か!」
 もうこれ以上、哀しみは繰り返したくない。
 鈴羽はいつでも戦えるように、拳銃を取り出し、構えた。
 あの風に突っ込んでいこうという気はない。自殺行為だ。
 だが、風がやんだ時、援護射撃くらいは出来る筈だ。
 義憤を胸に、鈴羽は立ち上がった。


【一日目-夜】
【B-4 言峰教会付近】

【セイバー@Fate/zero】
【所属】無所属
【状態】疲労(小)、切嗣を殺した犯人への激しい怒り
【首輪】70枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
 1.目の前の怪人を成敗する!
 2.その過程で悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
 3.バーサーカー、ラウラ、緑色の怪人(サイクロンドーパント)を警戒。
 4.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※令呪による命令を受けました。以下その内容です。
 ・正義の味方としてこの殺し合いをとめろ。
 ・生還したなら雁夜と切嗣の代わりに桜ちゃんを救え。

24運尽きる時 ◆QpsnHG41Mg:2013/03/15(金) 00:34:01 ID:2ArTK03c0
 
【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】195枚:0枚
【コア】サイ
【装備】タウルスPT24/7M(15/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
 0.父さん……。
 1.セイバーの手助けをしたい。
 2.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
 3.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
 4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
 5.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
 6.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。

【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、深い怒り
【首輪】15枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、
    {ロストドライバー、T2サイクロンメモリ、スカルメモリ}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、スパイダーショック@仮面ライダーW、トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.理不尽な暴力に対する怒り。やや自暴自棄。
 1.目の前の少女に黙って殺されるワケにはいかない!
 2.あの少女(=カオス)は何とかして止めたいが……。
 3.バーサーカーと「火野という名の人物」を警戒。また、井坂のことが気掛かり。
 4.切嗣に対する疑念。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません
※衛宮切嗣のデイバッグを回収しています。

【全体備考】
※軍用警棒+スタンガンは切嗣の遺体に装備されたままです。
※アヴァロンがどうなったかは次の書き手さんに任せます。

25名無しさん:2013/03/15(金) 00:34:30 ID:2ArTK03c0
投下終了です。

26名無しさん:2013/03/15(金) 00:55:50 ID:zqriUzkM0
投下乙!
切嗣逝ったか…
セイバーに正義の味方の使命を託すとはなぁ

27名無しさん:2013/03/15(金) 01:27:30 ID:9NrNW1ao0
投下乙です
切嗣、結局は助からなかったか……セイバー接近でアヴァロンの治癒力アップだと思ったのにぃ
それでも死に際にセイバーに正義の味方であることと、■おじさんとの約束を託したのは……切嗣自身がセイバーを信頼できるほど変わった結果だったんだろうな
ただフィリップ襲われてるの助けられるよう令呪使って欲しかった……残りのメダル数的に、このままじゃフィリップまで……
まったく、せっかく切嗣から頼りにされるようになったのにセイバーは本当に騎士王(笑)だぜ

さて……大変楽しませて頂いたのですが、一点指摘したいことがあります。
前回のSS終了時点で、フィリップは状態表で衛宮邸に向かうとされていたと思います。
対して切嗣の倒れていた場所は氏が書かれたように言峰教会内でした
切嗣は身動きもままならない瀕死の重傷だったので、この点の矛盾を解決できるよう何か補足となる描写の追加をお願いしたいです

28名無しさん:2013/03/15(金) 01:30:56 ID:ODSALLYs0
投下乙です

切嗣……結局何一つ救えなかったなお前……
他の奴らはもっと冷静に物事を考えろよ……

指摘なのですが、何故衛宮邸に向かう予定だったフィリップが言峰教会に来ているのでしょうか

29名無しさん:2013/03/15(金) 01:38:39 ID:iOPjF71M0
投下乙です

これは酷い(褒め言葉)
切嗣の切なる想いをセイバーに伝えるシーンかと思ったらまったくの…
独白で切嗣がセイバーに託していたがセイバー本人には届いていないよ…

リレー企画ですので上で言われている矛盾さえなんとかしてくださったら問題ないと思います

30 ◆QpsnHG41Mg:2013/03/15(金) 02:01:14 ID:2ArTK03c0
おっと、描写が足りなかったか…
わざわざご指摘ありがとうございます!
仮投下スレに修正版投下してきましたので確認よろしくお願いします

31名無しさん:2013/03/15(金) 06:20:37 ID:NjicCDsY0
投下乙です。
ああ……まさかこんなことになるなんて……
せめて切嗣の残した最期の想いが、誰かを救えると信じたいです。

32名無しさん:2013/03/15(金) 08:54:51 ID:qoOAvOwcO
投下乙です。むしろ自害させた方が被害少なかったと思えるのがw

33名無しさん:2013/03/15(金) 10:48:04 ID:SBUBmWl20
切嗣・・・約束は果たせきれなかったけど今までお疲れ様
フィリップの怒りは尤もだよなぁ 相棒も失って理不尽に攻撃されて
言いようのない怒りも込み上げるよ
そしてセイバーェさすが脳筋、騎士道(笑)が笑わせてくれるけど切嗣の想いを
叶えてほしい
あと一度くらい奇跡は起きてほしい OPより

34名無しさん:2013/03/15(金) 23:31:40 ID:LCAsMrrE0
同じ虚淵作品のまどマギとどこで差がついたのか

35名無しさん:2013/03/15(金) 23:43:12 ID:TERh7vb.0
まだ言われるほど差は付いていない
今は良くても後で駄目になる可能性もあるし

36 ◆QpsnHG41Mg:2013/03/16(土) 01:57:25 ID:hZUSZxKY0
毎度ながら感想ありがとうございます
感想もらっておいて非常に心苦しいのですが、切嗣はやはり生存させることにしました…
作品の修正版は仮投下スレに投下してるので、そちらの再確認をお願いします…

37 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:27:46 ID:YNwVC6KQ0
メズール、園咲冴子、後藤慎太郎を投下します。

38Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:30:19 ID:YNwVC6KQ0

真木清人によって読み上げられる定期放送。。
死者の名前、禁止エリア、各陣営のコアメダル所持数。
抑揚のない声で告げられる情報を、少女は薄暗い路地裏で聞いていた。
綺麗に切り揃えられた黒髪が、夜風に吹かれて舞い上がる。
淡い月明かりに晒され、顕になる少女の顔。
そこには、可愛らしさと美しさが絶妙に同居している。
ティーンエイジの真っ最中であるにも関わらず、大人も顔負けの色香を放っていた。
彼女のような美少女を放っておく者はいないだろう。
路地裏という場所を考えれば、暴漢に襲われるかもしれない。
だが、彼女は暴漢如きに組み敷かれる人間ではない。
いや、そもそも彼女は人間ですらなかった。
八百年前に生み出されたメダルの怪物――――メズール。
人間に擬態しているのは、人間社会に溶け込むためであった。

――――それでは皆さん、良き終末を。

放送が終わると同時に、メズールの手の動きも止まる。
彼女が手にしているのは支給された鉛筆。
もう一つの手には、参加者の名を記した名簿と会場の地図が握られていた。
グリード達には、特権として参加者の詳細名簿が配布されている。
しかし当然の話ではあるが、殺し合いが始まってからの情報までは記載されていない。
故に放送に耳を傾け、情報を得る必要があった。
死亡者には横線を引き、禁止エリアは斜線で塗り潰す。
この程度の情報は記憶できるが、念の為に書き残しておいたのだ。

(十八人……思ったよりも死んでるわね)

四文の一以上の参加者が脱落している。
メズールの想像以上に殺し合いの進行は早い。
その事実は、少なからず彼女に衝撃を与えていた。
彼女の現在地はCー6であり、顔を上げると大きなビルを一望することができる。
ネイサン・シーモアを殺害した後、彼女の前には二つの選択肢があった。
単独行動を続けるか、キャッスルドランに戻るか。
結果として彼女が取った行動は中間。
キャッスルドランに接近しつつ、その付近に身を潜めた。
メダルの破壊が可能なオーズは、グリードにとって脅威以外の何者でもない。
疲弊している今は絶好の機会だっただろう。
だが、オーズの周囲には多くの人間がいる。
桜井智樹だけならともかく、鹿目まどかや巴マミは厄介だ。
それに加えて、熱攻撃が可能な照井竜がいる可能性もある。
故に逸る気持ちを抑え、キャッスルドランの付近で踏み留まることにした。

(うちの陣営は二人だけ、人数で見るのなら一番有利なんだけど……)

青陣営で死亡したのは剣崎一真とカリーナ・ライルの二人。
一方が仮面ライダーで、もう一方がヒーロー。
非常に正義感が強い人種なため、セシリアのように簡単に籠絡することはできなかっただろう。
戦場で一番厄介なのは無能な味方という言葉もあるため、脱落していた方が都合が良かったかもしれない。
六人が脱落している黄陣営や、一時的にリーダーを失った赤や白の陣営よりは健闘している。

(……これはまずいわね)

だが、良い事ばかりではない。
例えば志筑仁美と見月そはらの両名が死亡したこと。
ある意味で予想通りだが、これで照井竜や鹿目まどかの中で自分は死亡したことになる。
何食わぬ顔で出戻り、寝首を掻くという戦法が出来なくなった。
そして最も憂慮するべき点は、既にグリードが二人も脱落していること。
ガメルはともかく、狡猾なもう一人のアンクの脱落は見逃せない。
グリードであっても、全く油断できないということだ。
詳細名簿等の特権を奪われた可能性もある。
それが正義感の強い連中に廻っていたら、少々面倒なことになるだろう。

39Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:31:08 ID:YNwVC6KQ0

(ちょっとのんびりし過ぎたかしら)

彼女は土台を整えてから攻め込む戦術を好む。
良く言えば慎重、悪く言えば臆病。
卵をじっくりと孵化させるようなヤミーの生成法からも、それが伺えるだろう。
殺し合いが始まってからも、極力目立たないように動いてきた。
その結果、焦燥感を煽られる形となる。
特に緑陣営の進展振りは脅威としか言いようがない。
コアメダルの数が全てではないが、単純計算で二倍近い差があるのは問題だ。
その数字から鑑みるに、無所属の参加者を何人か引き込んでいる可能性がある。
放送で読み上げられた緑陣営の死者は四人だったが、場合によっては帳消しになっているかもしれない。

(ウヴァの癖に生意気ね)

ウヴァは非常に短慮な性格だ。
片っ端から強い参加者を従属させていったのだろうが、今はそれが功を奏していると言ってもいい。
積極的に行動したため、盤石な陣営を築けているのだ。
殆ど動かずに静観していたメズールとは対照的と言える。
今になって、照井を引き込まなかったことを惜しく思い始めた。

(でも、一番の問題は別にあるのよね)

ウヴァの初期位置は遠く離れているため、今は無視しても問題はない。
現状で最も厄介なのは、初期位置が近かったカザリ。
メズール以上に臆病であり、権謀術数を張り巡らせるグリード。
彼の性格からして、間違いなく他陣営の乗っ取りを企んでいるだろう。
だからこそ、彼女は南ではなく北を目指した。
メズールがカザリの初期位置を知っているように、カザリもメズールの初期位置を知っている。
他のグリードに比べて力で劣り、初期位置の近い彼女は格好の獲物だった。

(私もそろそろ動く必要があるかしら……)

グリードであるというアドバンテージはもはや当てにならない。
何時までも隠れていては、ウヴァやカザリに遅れを取ってしまう。
だが、闇雲に動いては意味が無い。
情報を有効活用し、知略を巡らせる必要がある。
そうして考え込んでいると、彼女は一つの事実に辿り着いた。

(今の白陣営のリーダー……多分鹿目まどかよね)

ガメルの破壊を看取ったまどか。
確証はないが、彼女が現在の白陣営のリーダーである可能性が高い。
彼女からコアメダルを強奪すれば、白陣営を乗っ取ることができる。
おそらくウヴァやカザリは知らない、メズールだけが知っている事実。
使い方次第では、強力な武器になるだろう。

(はぁ、やっぱりオーズの坊やが邪魔ね……)

まどかだけならメズール一人でも対処できるが、彼女の周りには多くの参加者がいる。
メズールが一人で強襲を掛けても、あっという間に返り討ちに合ってしまうだろう。
しかし、だからといって諦めるには惜しい。
特にオーズは疲弊しているため、上手く行けば一気に潰すことが可能。
彼のコアメダルを奪い取れば、更に優位に立つことができる。
ならば、次の一手は自ずと決まってくるだろう。

40Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:31:35 ID:YNwVC6KQ0

仲間を集めるのだ。
一時的にでも協力できる仲間を集め、鹿目まどかとオーズを叩き潰すのだ。
そしてこれは早ければ早いほどいい。
時間が経つにつれオーズの体調は回復していくし、彼女達がキャッスルドランを離れる可能性も上がる。

(誰か居ないかしら……)

周囲を見回す。
見回して、落胆する。
そう、都合よく利用できる参加者がいれば苦労しない。

(まぁ、居ないわよね……ん?)

肩を落とした瞬間、遠方からメズールの聴覚が声を捉える。
怒気を孕んだ男の声。
しばらく聞き続けていると、声の主が近づいてきているのが分かった。
そして、声が一人なのに対して足音は二つ。
つまり男は誰かと同行している。

(接触してみようかしら)

絶対ではないが、集団で行動しているなら出会い頭に襲われる可能性は低い。
利用価値があるかは分からないが、先程積極的に動くと決めた。
照井竜の時のように、少女の外見を利用して取り入る方法もある。
接触しない理由は、無い。
その考えのもと、メズールは路地から一歩踏み出した。


  ○ ○ ○


放送を聞いても、冴子の心境に大きな変化は無かった。
彼女の知り合いで死亡したのは左翔太郎のみ。
宿敵の死に多少の溜飲は下がったが、それよりも井坂の生存による安寧の方が大きかった。

「こんなに死んでるだと……クソッ!」

だが、後藤は違ったようだ。
見知らぬ人間の死に、本気で憤怒を覚えている。
愚かな男だ、と冴子は思う。
ドーパントのような超人に声を聞かれたらどうするつもりなのか。
武器の扱いに自信はあるようだが、所詮は人間の範疇だ。
人類を越えたドーパントの前には無意味である。
冴子にはナスカメモリがあるため、いざという時も問題ない。

(まぁ、その時は貴方も殺すけどね)

弱者の皮を被っている現状は利用価値があるが、それを脱ぎ捨てるなら話は変わってくる。
足手まといを生かしておく必要はないし、後藤も牙を向けてくるだろう。
いや、そもそも現状の利用価値すら微妙だ。
こちらの言い分に聞く耳を持たず、一方的に自らの意見を押し付ける。
それだけでも苛立つのに、後藤はさらに怒りを煽るような行動を取っていた。

(知らない連中が死んで本気でキレるとか、馬鹿じゃないの)

もし井坂が死んだとしたら、冴子は本気で悲しむだろう。
だが、それ以外の参加者が死んでも悲しまない。
利用価値があるかないかの二択であり、後者の人間など路傍の石と大差ない。
井坂以外に興味が無い冴子と、全ての参加者を守ろうとする後藤。
利用価値の有無以前に、根本的な部分で彼らは相性が悪いのだ。

41Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:32:06 ID:YNwVC6KQ0

(ホントにイラつく男……さっさと別れられないかしら)

後藤に気付かれないように顔を顰める冴子。
そんな時だった。

「あの、すいません」

目の前に一人の少女が姿を現したのは。

「君は?」

突然現れた少女に、後藤は訝しげな表情を見せる。
冴子の時のようにショットガンを突き付けないのは、相手が子供だからだろうか。
しかし、ガイアメモリは子供でも使用可能な代物。
万が一の時に備え、冴子はスーツのポケットに収納したナスカメモリに手を掛ける。

「私、牧瀬紅莉栖って言います」

綺麗な黒髪を揺らしながら自己紹介する少女。
随分と礼儀正しい、と冴子は思う。
この様子ならば、悪意を持った参加者の可能性は低いか。
しかしそうだとするならば、これ以上足手まといが増えるのは避けたいところである。
情報だけ引き抜くのが理想的だが、そう上手くはいかないだろう。
後藤はそういう男だ。

「そうか、俺は後藤慎太郎、こちらの女性は園咲冴子さんだ」
「よろしくね」

後藤と会った時と同様、外面を取り繕って挨拶をする。
相手の利用価値が不明な以上、様子見をするに越したことはない。
社交辞令の笑顔を貼り付け、少女と視線を合わせる。

(……ッ!?)

合わせて、言いようのない感覚が全身を突き抜けた。
冴子が微笑むと、少女も微笑みかけてくる。
行動自体は自然そのものだが、少女の笑い方に問題があった。
年齢と不釣合いな妖しい微笑。
十代の小娘が作れるはずもない大人の女の笑い方。
老獪さすら感じさせるその笑みは、冴子にだけ向けられている。

「私、ずっと怖くて……それで逃げ回ってたんです」
「そうか、でももう安心してくれ、俺が君を保護する」

少女と後藤が会話をしているが、内容が頭の中に入ってこない。
笑みの意図を理解しようと、持てる知能を総動員させる。

(実は殺し合いに乗っている?)

だが、それならば微笑む理由が無い。
わざわざ悪意をひけらかす意味はないのだ。
ならば、同じく隠れて殺し合いに乗っている自分へのアプローチか。
初対面の少女が自分の本心を知っているわけがない。
考えれば考えるほど、思考の糸は難解に絡まっていく。

「あの、すいません」
「……」
「えっと……園咲さんですよね?」
「な、なにかしら?」

思考に耽っていたため、少女への反応が遅れる。

42Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:32:45 ID:YNwVC6KQ0

「私、ずっとトイレを我慢してたんですけど……一緒に付いて来てもらえませんか?」

気恥ずかしそうに問い掛けてくる少女。
しかし、その顔は芝居がかったものにしか見えない。

「トイレ? それなら俺が付いて行くよ」
「え?」
「……殿方が付いて行くのはさすがにまずいんじゃないかしら」

呆れ半分に指摘すると、後藤はバツが悪そうに口を噤む。

「あそこのビルで済ませてきますので、後藤さんはこの辺で見張っててもらっていいですか?」
「あ、ああ、分かった」

少女に頼まれ、慌てた様子で承諾する後藤。
それを確認すると、少女は冴子の方を振り向く。

「じゃあお願いします、園咲さん」



彼女達が向かったのはヘリオスエナジーのビル。
中央のジャスティスタワーには負けるが、非常に大きな建築物であることに変わりはない。
建物全体が紫の塗装を施されており、天井では会社の象徴である不死鳥の彫像が翼を広げている。
少女と冴子はビルの二階にある女子トイレに足を踏み入れていた。

「なんだか、変わったビルね」

周囲を見回し、額に皺を寄せる冴子。
外装にも随分と驚かされたが、内部も相当に奇抜なセンスである。
冴子が経営するディガル・コーポレーションは機能性を重視した設計だが、この社屋はまるで真逆。
とにかく外見を重視し、趣味を突き詰めたような建物だ。

「……」

だが、そんなことはどうでもいい。
一番重要なのは、目の前にいる少女の本心だ。
急いでいたにも関わらず、個室に入ろうとしない少女。
腕を組みながら、背を向けている。
先程投げ掛けた言葉も、彼女の出方を伺うための牽制に過ぎない。

「もう、いいわよ」
「え?」

少女の言葉の意図が分からず、冴子は首を傾げる。

「もう猫被らなくていいって言ってるのよ」
「ごめんなさい、何が言いたいのかよく分からないわ」
「うふふ、警戒心が強いのね、ならこう言えばいいかしら」

くるりと身体を反転させる少女。
そこに浮かべられているのは、全てを見透かしたような笑み。

「ディガル・コーポレーションの社長であり、ミュージアム幹部の――――園咲冴子さん」

少女の言葉を聞き、全身の毛が逆立つ。
ディガル・コーポレーションの社長はともかく、ミュージアム幹部の肩書きを初対面の人間が知っているわけがない。
なんで、どうして、そんな単語が次々と脳内を駆け巡っていく。

43Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:33:09 ID:YNwVC6KQ0

「貴方、何者!?」

瞬時に距離を取り、ナスカメモリを取り出す冴子。
服の裾を捲り、生体コネクタにメモリの端子を差し込む。
すると、彼女の姿は青空色の騎士に変化した。
だが、すぐに夕焼けが差し込むように青空色は深紅色へと染まっていく。
これこそが今の彼女の力――――Rナスカ・ドーパントだ。

「あらあら、そんなに警戒しなくてもいいじゃない、私に戦うつもりはないわ」
「そんな言葉だけで信用すると思う?」
「それもそうね、いいわ、貴女には見せてあげる」

告げると同時に、少女の身体が大量のメダルに包まれていく。
その様相はまるでメダルの集合体。
見る見るうちに大きくなり、やがて見覚えのある姿へと変化した。

「貴女は、真木清人と一緒に居たグリード」

最初の薄暗い空間で真木清人の傍らにいた怪人。
タコの吸盤を連想させる脚に、シャチを想起させる頭部。

「ええ、メズールよ、よろしく」

少女の声とは違う、妖艶な女性の声。
メズールと名乗った怪人は、軽い調子で挨拶をした。

「メズール、それが本当の貴女の名前ね」
「ええ、牧瀬紅莉栖は適当な名前を騙っただけよ」

最初のアプローチの時点で疑わしかったが、やはり少女は偽名を名乗っていた。
少女の外見に油断しなかったのは好判断だっただろう。

「それで、こんなところに呼び出してどうするつもりかしら?」

鉛色の剣――――ナスカブレードをメズールに突き付ける。
ドーパントの中でも上位に君臨するRナスカ・ドーパント。
彼女が振るうは、あらゆる物体を切断する名刀。
だが、それを突き付けられてもメズールに動揺は見られない。

「単刀直入に言うわ」

含み笑いすら浮かべながら、メズールは言葉を紡ぐ。

「私と組まない?」

怪人が口にした言葉に、冴子は目を見開いた。

「どういう風の吹き回し?」
「貴女なら気付いてると思うけど、このゲームで最も狙われるのは誰だと思う?」

このバトルロワイアルは各陣営同士の殺し合い。
最終的な勝利条件は、存在する陣営が一つになること。
そして陣営を消滅させる方法は、その陣営のリーダーの殺害。

44Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:33:50 ID:YNwVC6KQ0

「各陣営のリーダー、つまりは貴女ね」
「正解」
「で、まさか私に貴女を守れって言うつもり?」
「それもそうだけど……どっちかというともう一つの方が大事かしら」

冴子の首元に視線を移すメズール。
そこに巻かれている首輪には、黄色のランプが点灯している。

「貴女には各陣営のリーダーの抹殺に協力して欲しいの」

メズールの申し出を要約するなら、青陣営の優勝に手を貸せということだ。
それを聞き、冴子は逡巡を始める。
各陣営のリーダー、つまりはグリードの抹殺。
ドーパントの力を有する冴子なら、決して不可能ではないだろう。

「私は黄陣営よ、青陣営の貴女とは協力できないのではなくて?」

これは出任せだ。
陣営間の垣根を越えられることなど、冴子はとっくに気が付いている。
あえてこの台詞を吐いたのは、目の前のグリードがどの程度の知能を有しているか測るためだ。
彼女は既にメズールの認識を”警戒すべき敵”から”利用できるかもしれないパートナー”に切り替えつつある。

「随分とおかしなことを言うのね」
「……?」
「貴女の目的を当ててあげましょうか?」

またしても妖艶に笑みを浮かべるうメズール。
彼女の頭部に口はないが、あったらさぞかし愉しげに歪んでいるのだろう。

「愛する井坂深紅郎と共に元の世界に戻ること」

心臓が跳ね上がる。
動揺のあまり、思わず剣を降ろしてしまう。

「図星のようね」

してやったりとでも言いたいのか、彼女の声は弾んでいる。

「井坂深紅郎は白陣営で、貴女は黄陣営
 私にとっても貴女にとっても、この二つの陣営は邪魔なんじゃないかしら?」

メズールの理論は筋が通っている。
井坂と一緒に帰還するためには、冴子と井坂が同じ陣営に所属していなければならない。
少なくともどちらかの陣営のリーダーを抹殺する必要がある。
そして、メズールの目的も青陣営の優勝。
つまりは他の陣営の抹殺であり、二人の利害は一致している。

45Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:34:15 ID:YNwVC6KQ0

「……白と黄のリーダーが何処にいるのか知ってるのかしら?」
「もちろん知ってるわ。白のリーダーはキャッスルドラン、黄のリーダーもこの近くにいると思うわ」
「井坂先生は?」
「さぁ、そこまでは分からないわね。もしかしたら近くにいるかもしれないけど」

質問の答えを聞くと、冴子は満足気に笑みを浮かべる。

「いいわ、乗ってあげる」

そして、メズールの提案を承諾した。
同時にナスカメモリを抜き取り、ドーパントから人間に戻る。
併せるようにメズールも変身を解除し、少女の姿になった。

「ふふふ、同盟成立ね」
「ええ、よろしく、それで白と黄のどちらを先に落とすの?」
「白よ、居場所は分かってるし、リーダーの鹿目まどかは楽に落とせるわ」

メズールの返答を聞き、僅かに眉を顰める冴子。
彼女としては、先に黄陣営のリーダーを抹殺しておきたかったのだ。
リーダーが消失した場合、その陣営の参加者は次の放送まで無所属になる。
その間に井坂が他の陣営に奪われてしまった場合、それまでの苦労が水泡に帰してしまう。

「それに周りの連中も弱ってるしね……あぁ、そういえば」
「どうかしたの?」
「ふふっ……鹿目まどかの周りにね、居るのよ――――照井竜が」

照井竜。
その名前を聞いた瞬間、冴子の身体の内側に黒い炎が灯る。
井坂深紅郎に家族を殺され、復讐に燃えていた男。
そして、彼の復讐心は井坂の胸を貫いた。
彼女から最愛の男性を奪った仇であると同時に、ある意味では冴子の凋落の発端でもある。

「……いいわね、あの男も殺すわ」
「その意気よ、頑張りなさい」

そう言うと同時に身体を反転させるメズール。

「そろそろ戻らないとあの坊やに怪しまれるわ」
「……あの男はもういらない気もするけど」

最初は利用できると思ったが、今の後藤には鬱陶しさしか感じない。
協力者を手に入れた以上、彼は既に用済みなのだ。

「確かに邪魔になるかもしれないけど、既に卵は植え付けてあるわ」
「卵?」
「後のお楽しみよ、それじゃあ戻りましょう」
「……分かったわ、”紅莉栖ちゃん”」

二人の女は邪悪な笑みを浮かべ、トイレから足を踏み出した。



(私にもツキが回ってきたかしら)

メズールと肩を並べながら、冴子は思案を始める。
井坂の死後、彼女の人生は転落の一途だった。
園咲家からは追われ、気味の悪い男に保護され、変な場所に誘拐される。
そこで出会った男は融通の効かない役立たず。
だがここに来て、強力なパートナーと出会うことができた。
グリードと協力関係にあれば、相当有利な展開運びが可能になるだろう。

46Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:34:48 ID:YNwVC6KQ0

(……まぁ、いずれこのグリードも殺すけどね)

白と黄のリーダーを殺害した後、メズールはこの二つの陣営を牛耳ろうとするだろう。
つまりは冴子と井坂も自動的に青陣営に属することになる。
それでは駄目なのだ。
陣営戦で勝ち抜くことが、そのまま生還に繋がるわけではない。
生還者の最終決定権は陣営のリーダーにあるのだ。
リーダーと協力関係にあったとしても、最後には切り捨てられる可能性がある。
完璧な状況を作るには、自らがリーダーになる必要があった。

(とりあえずは協力してあげるけど)

冴子にとって重要なのは、白と黄のリーダーが死亡することだ。
そこに至るまで、メズールは繋ぎ止めておく必要がある。

(貴女達は持っているんでしょ? 参加者の情報を)

先程のやり取りで冴子は一つの事実に気付いた。
それはメズールが『参加者の詳細な情報』と『参加者の初期位置』を知っていること。
前者については、冴子の色々な情報を知っていたことから想像は容易い。
井坂の陣営を知っていたことも理由の一つだ。
後者に関しては、先程のやり取りの中にヒントがある。
白のリーダーの現在地は明言したのに対し、黄のリーダーに関しては曖昧な物言いだった。
このことから推測するに、おそらく黄のリーダーとは一度も対面していない。
にも関わらず現在地を推理できたのは、最初の転送地点を知っていたからだろう。

(紙か何かで持ってたら嬉しいけど、高望みし過ぎかしらね)

実際のところは正解なのだが、冴子はそれに気付かない。
とりあえずはメズールと協力し、少しずつ情報を引き出すつもりである。

(せいぜい私のために頑張ってね、グリードちゃん)

隣で歩く少女を見て、冴子は歪に笑った。



(この女は何時まで使えるかしら)

冴子が思案に明け暮れる一方で、メズールも密かに考え事をしていた。
その題目は何時まで冴子と協力するか。
超人的な力を持ち、頭も回り、他者を殺害することへの忌避感が無い。
戦力として見るなら、非常に優秀だろう。
だが、心から信頼できる仲間には成り得ない。
彼女は孤高の女だ。
他人と協力することはあっても信用することはない。
今は協力関係を築けているが、その内側では何を考えているのか計り知れなかった。

(今、考えても仕方ないか)

彼女の目的は井坂と帰還することだ。
少なくとも白と黄の陣営を崩壊させるまでは、良好な関係で居ることができるだろう。
今は裏切りの可能性を念頭に置き、出し抜かれないようにしていればいい。

(それにしても面白くなってきたわね……)

家族を殺された復讐心から井坂深紅郎を狙う照井竜。
井坂を殺された復讐心から照井竜を狙う園咲冴子。
お膳立てしたわけではないが、彼らは面白い状況に置かれている。
その根底にあるのは家族愛や恋愛といった”愛情”だ。

47Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:35:22 ID:YNwVC6KQ0

(さぁ、もっと見せて、私に愛の形を!)

この先に待ち構えている復讐劇を想像し、歓喜に打ち震えるメズール。
内心で笑みを浮かべ、心の躍動に身を任せる。
しばらくそうしていると、彼女はある事実に気が付いた。

(似ている……)

そう、似ているのだ。
ガメルを砕いたオーズを殺しに行くメズール。
意図したわけではないが、彼女の置かれている状況は照井や冴子と酷似している。

――――メズール、これ、あげる

一見すると協力関係にあったグリード達。
だが、その内情はメダルの奪い合いや裏切りが日常茶飯事。
同じ種族でありながら、メズールは他のグリードを信用したことがない。
しかし、ガメルだけは例外だ。
子供のように純粋で、いつも無邪気に駄菓子を食べていた。
グリード達が互いを警戒し合う中、メズールとガメルだけは常に一緒だった。
彼の消滅を知った時、彼女を満たしたのは確かな喪失感。
二人の間には、信頼関係があったと言ってもいい。

ガメルを砕いたオーズを、メズールはこれから殺しに行く。
これは、オーズへの復讐心からなのか。

(馬鹿馬鹿しい……)

思い浮かべた発想を切って捨てる。
オーズを殺すのは、ガメルの仇を討つためなどではない。
グリードにとっての危険分子を排除し、さらに一緒にいる白陣営のリーダーである鹿目まどかを殺害するためだ。
そこに無駄な感情が介入する余地は無い。

「そうに……決まってるわ」

心中で呟いたはずの言葉が口に出ていることに、メズールは気付かなかった。


  ○ ○ ○


「クソッ……やっぱり……」

目の前に聳え立つ奇抜なビルを見上げる後藤。
その表情は焦燥に染まり、半ば愚痴のような言葉が口から漏れ出ている。
彼がここまで苛立っている理由。
それは紅莉栖と名乗った少女から告げられた言葉にある。

48Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:35:53 ID:YNwVC6KQ0

(オーズが他の参加者を襲ってただと……!?)

仮面ライダーオーズ――――火野映司が、他の参加者に襲い掛かっていたという。

(どういうつもりだ、火野)

オーズドライバー。
ライドベンダー隊の武装では歯が立たなかったグリードへの唯一の対抗手段。
謂わば人類の希望。
世界の命運を握っていると言っても過言ではないだろう。
オーズの力があれば、間違いなく世界を救うことができる。
だが、その変身者である火野映司は、自らの手の届く範囲しか救おうとしない。
自らの無力に嘆いている後藤にとって、映司は羨望の対象であると同時に憎い存在でもあった。

(それが本当だったら、俺はお前を倒す)

もし後藤が連れて来られたのが少し後だったら、映司に対する感情も多少は和らいでいただろう。
しばらく後の話であるが、彼にも仮面ライダーバースとしてグリードと戦う時が来る。
後藤には間違いなく伸びしろがあった。
しかし、今の彼は大きな理想と無力感に打ち拉がれるだけの男。
同行者がグリードとドーパントであることにも気付かない。
植え付けられた卵は、胎動を続けている。

「遅くなってごめんなさい」

空を仰いでいると、彼の耳に聞き覚えのある声が届く。
そこに居たのは園咲冴子と”牧瀬紅莉栖”の二人。

「いえ、大丈夫です」

焦燥を抑えるように努め、無表情で接する。
後藤は朴念仁な男だが、そのくらいの心得はあった。

「それでトイレで冴子さんと話したんですけど、やっぱり私達でオーズを止めに行った方がいいと思うんです」

少女が後藤の目を見据えながら話し掛けてくる。
その瞳には力強さがあり、同僚の里中に近いものがあった。

「いや、駄目だ! 確かにオーズは止めなければならないが、でも君達を危険に曝すような真似はできない!」

だが、女性を危険な場所に連れて行くことはできない。
オーズに劣るとはいえ、自分は銃火器類を操ることができる強者だ。
女性や子供を守る義務がある。
そんな考えのもと、後藤は少女に捲し立てた。

「……はぁ」

少女が面食らう中、冴子が溜息を吐いたことに後藤は気付かなかった。


【一日目-夜】
【C-6 ヘリオスエナジー社の前】

【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康、強い苛立ち
【首輪】所持メダル100:貯蓄メダル0
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊としての責務を果たさないと……。
1.女性を危険な場所に連れて行くなんてとんでもない!
2.今は園咲冴子と牧瀬紅莉栖を守り、少しでも安全な場所に行く。協力者が見つかったら冴子を預ける。
3.殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
4.火野映司が本当に参加者を襲ったのなら倒す。
【備考】
※参戦時期は原作最初期(12話以前)からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
※メズールのことを牧瀬紅莉栖だと思っています。

49Mの侵略/増幅する悪意 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:36:22 ID:YNwVC6KQ0

【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】ナスカメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、スパイダーメモリ+簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW、メモリーメモリ@仮面ライダーW、IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
1.キャッスルドランに行きたいんだけど……
2.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
3.井坂と合流する。異なる陣営の場合は後で黄陣営に所属させる。
4.メズールとはしばらく協力するが、最終的には殺害する。
5.後藤慎太郎の前では弱者の皮を被り、上手く利用するべきなのだろうか。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。

【メズール@仮面ライダーOOO】
【所属】青・リーダー
【状態】健康
【首輪】195枚:0枚
【コア】シャチ:2、ウナギ:2、タコ:2
【装備】グロック拳銃(14/15)@Fate/Zero、紅椿@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:青陣営の勝利。全ての「愛」を手に入れたい。
1.キャッスルドランに行きたいんだけど……
2.白陣営のリーダーである鹿目まどかを殺害し、白陣営を乗っ取る。
3.可能であれば、コアが砕かれる前にオーズを殺しておく。
4。セルと自分のコア(水棲系)をすべて集め、完全態となる。
5.完全態となったら、T2オーシャンメモリを取り込んでみる。
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。
※自身に掛けられた制限を大体把握しました。
※冴子のことは信用してません。

※メズールと冴子はキャッスルドランに行きたいと言ってますが、後藤さんは反対しています。
 ですので、次の行き先は不明です。

50 ◆ew5bR2RQj.:2013/03/29(金) 17:37:47 ID:YNwVC6KQ0
以上です。
誤字脱字誤用等がありましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。
また今回は初投下になりますので、ルールのミスがありましたら遠慮なく指摘してください。

51名無しさん:2013/03/29(金) 17:39:44 ID:iGVBb2..0
投下乙です!
危険人物が固まって予約されたと思ったら……後藤さんが騙されてるー!?
ヤバいよ、このままじゃ後藤さんがマジで使い捨ての駒にされそうww
そして冴子とメズールの悪女コンビがこれからどう場を引っ掻き回すのかが楽しみだww

52名無しさん:2013/03/29(金) 21:17:07 ID:z.KTGVgY0
投下乙ー
頑張れ後藤さん!まどかが危機を脱するその時まで!
その後はどうなってもいいから

53名無しさん:2013/03/30(土) 00:28:30 ID:kOveM9nQ0
投下乙です

悪女コンビだと……
俺も予約の時点で嫌な予感はしていたがこれは面白い
後藤さんは騙されてるんだけどまだ枷つぃて機能してる?
それはそれで危ないんだが…

54名無しさん:2013/03/30(土) 02:39:37 ID:bD1Wg4B.0
投下乙ですー
セシリア・照井に引き続いて、冴子や後藤さんにまで煽りつけるか…!
違う陣営同士だけど冴子にとって敵である照井の存在を吹聴して同盟組んだり
白陣営のまどっちに狙いを定めたりと悪女っぷりが冴えてるなー
女二人の腹の内に気付かない後藤さんの命運はw
照井・冴子という他人が抱える「愛情」ゆえの復讐心にメズールが
わずかに自分を重ねたシーンが印象に残った
基本他人のそれを見たい、という姿勢の彼女が自分の中のそれを自覚し始めたから

55名無しさん:2013/04/01(月) 00:18:06 ID:RYeL88zk0
WIKIだけかと思ったらパロロワ辞典にまでエイプリルフールネタがw

56名無しさん:2013/04/01(月) 01:46:32 ID:gKVqwRLI0
ハイジャックされてるw
しかもベンまで出てるしw

57 ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 02:53:11 ID:l1GAF5xI0
至郎田 is God

投下します

58あいをあげる(前編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 02:56:13 ID:l1GAF5xI0
【1】


『それでは皆さん、良き終末を――』

 真木のその言葉を最後に、忌々しい放送は終了した。
 その後に訪れるのは、重苦しい沈黙。
 この場に居た三人の内誰一人として、口を開こうとはしなかった。

 放送で名を呼ばれた織斑一夏は、鈴音の思い人である。
 そして同時に、最初に殺された箒の幼馴染でもあった。
 箒もまた――いや、鈴音の親友は皆、彼を好いていたのだ。
 そんな大切な人の名を、真木はあまりにも平坦な口調で口にした。
 何の感慨も無く、ただマス目を塗る様な感覚で。
 真木清人は、鈴音が愛した人の死を告げたのである。

 カリーナ・ライルとネイサン・シーモアは、バーナビーと志を共にしたヒーローであった。
 シュテンビルドを護る正義の味方として、時には競い合うライバルとして、一緒に邪悪と戦ってきたのである。
 きっとこの場においても、二人は正義を貫こうとしたのだろう。
 ワイルドタイガーと同様に、真木への怒りと自分の胸に宿る正義を武器にして、
 主催者に挑もうとしていたに違いない――そうに決まっている。
 しかし、そんな二人のヒーローが、呆気なく死んだという。
 それが意味する事は、ワイルドタイガーの敗北であり、バーナビーの敗北でもあった。
 誰一人として死人を出させないという虎徹の覚悟は、残酷な現実の前に敗れ去ったのである。

 上記の3人を含む、18人の名前が放送で呼ばれていた。
 つまりは、およそ参加者の4分の1が命を落としたという事である。
 その内の何人が殺し合いに乗ったのか、あるいは殺し合いを打破しようとしていたのかを、
 正確に知る由など、今の伊達にはありはしない。
 しかし、何にせよ18人の参加者が死んだという事実に変わりは無いのだ。
 暢気に鴻上ファウンデーションを散策している間に、何人が悲鳴を上げたのだろうか。
 心の何処かで、伊達は死人など出るものかと甘い観測をしていたのかもしれない。

 誰一人として、沈黙を破れなかった。
 いや、正式には"破りたくなかった"と言うべきなのだろう。
 突きつけられた死者の羅列を耳に入れたその心は、沈黙を欲していたのだ。

59あいをあげる(前編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 02:59:21 ID:l1GAF5xI0

「……嘘、よ」

 そんな中、静寂の中に少女の声が零れ落ちた。
 放送前の活発な様子とは一転して、頭を垂れる彼女の様子はひどく弱弱しい。
 大切な者が呼ばれたという事実が、鈴音から活力を根こそぎ奪い取ってしまったのだ。

「アイツが死んだなんて、嘘」

 そう言って死を否定する鈴音の声は、震えていた。
 感情の氾濫を押し殺そうとしているのだろうが、彼女が今どういった心境なのかなど、二人の男には容易に把握できる。
 
「今まで無茶やってきて、それでも無事で済んでたのに。
 それなのに……嘘よ、こんなの嘘、あの眼鏡が仕組んだ罠よ、そうに決まってる」

 今にも崩れそうな意思を、自己暗示を支えにして持ちこたえようとしている。
 必死になって現実を否定する彼女の姿は、見ている側にも悲しみを植えつけた。
 同じ空気を吸うだけで、こちらまで嘆きで胸が一杯になってしまいそうである。

「……あの放送で嘘をつくメリットはありません。残念ですがその人はもう――――」
「五月蝿いッ!アンタなんかに何が分かるのよ!?」

 バーナビーの言葉が、鈴音の怒りに火を付ける。
 押し殺そうとした筈の感情は決壊し、怒号となって彼に叩き付けられる。

「アイツが死ぬ訳ないじゃないッ!今までだってそうだったのよ!
 危ない橋渡ってきたけど、何とかやってこれたのよ!
 こんな馬鹿げたゲームなんかで死んでいい奴じゃないの!」

 目に涙を溜めながら、鈴音が叫ぶ。
 一夏の死を聞いた鈴音の精神は、それだけでかなり困憊していた。
 それだけではない――口には出していないものの、鈴音の友人だったシャルロットも放送で呼ばれているのである。
 今まで平和を謳歌していた彼女にとって、思い人と友人の死という現実はあまりにも受け入れ難いだろう。
 だからと言って、このまま怒りに震える彼女を放っておけるバーナビーではない。
 鈴音の逆鱗に触れてしまったのは他でもないバーナビーだし、何より彼はヒーローなのだ。
 喪失感と不安で押しつぶされそうな人間を救うのも、ヒーローの役目なのである。
 励ましの言葉をかけようと、バーナビーが口を開こうとした――その時だった。

「――――伏せろッ!」

 弾かれた様に動き出した伊達が、バーナビーと鈴音の身体を無理やり下げさせる。
 彼の予期せぬ行動に二人は反応できず、そのまま体制を崩してしまう。
 そして三人が床に倒れ込んだ直後――窓の硝子が突如として砕け散った。
 その直後に外気から飛び込んでくるのは、これまでに感じた事の無い程の突風。
 室内に侵入してきたそれは、整えられた部屋を容赦なく蹂躙していく。
 伊達が二人を伏せさせてなければ、彼らもそれの巻き添えを食らっていただろう。

 暴風が止んでから、バーナビーは頭を上げた。
 一体何が原因で、この部屋は荒れ放題になる羽目になったのか。
 それを確認する為に、彼は窓ガラスの向こうに目を向け――その災害の生みの親を発見した。

 窓の向こうで浮遊していたのは、幼い少女だった。
 ただ何も言わずに、口元を三日月に歪めている。

60あいをあげる(前編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:02:37 ID:l1GAF5xI0
【2】


 三人にとって、その少女の姿は異様としか言い様がなかった。
 背中に生える刺々しい翼も、全裸と言ってもいい肉体も、常に笑みを絶やさぬ顔も、何もかもが彼らとは違っている。
 何故、彼女はあんな禍々しい刃を身に着けているのか。
 どういう経緯があって、あの様な身形になっているのか。
 そして、何があってこの陰鬱な場に置いて場違いな笑みを浮かべているのか。
 だがしかし、そんなものは今注目すべき事ではない。
 最も重要なのは、この少女が自分達に向けて攻撃を仕掛けてきたという事なのである。

「挨拶……にしちゃあ随分と荒っぽいな」
「僕達を殺すつもりでしたよ、アレは」

 冷静に判断するバーナビーの表情は、緊張感で強張っている。
 彼女が放った嵐は、明らかに三人を巻き込もうとしていた。
 どういう考えがあるのかは分からないが、何にせよ襲ったという事実に変わりは無い。

「どうして避けるの?おじさん達に"愛"をあげよう思ったのに」
「……愛?」

 幼女のその言葉に、バーナビーが反応する。
 彼女は"愛"とはまるで無縁の行為を行ったというのに、どうしてそんな事を言っているのか。 

「うん、私がみんなに愛をあげるの!」
「おいおい……出会い頭に襲うのが愛だってのかよ」
「だってみんながそう教えてくれたもの!井坂のおじさんや火野のおじさんが、痛くして、殺して、食べるのが"愛"だって!」
「……何言ってやがる。火野はおじさんなんて齢じゃねえし、何よりそんな事言う訳がねえ」

 井坂という男は知らないが、あの火野映司がそんな物騒な事を言う筈がない。
 恐らくは、何者かが火野の名前を騙ったのだろう。
 その男が平気な顔をして、あの幼女に誤った知識を押し付けたのだ――何とも胸糞の悪い話である。

「――何よ、それ」

 今まで黙り込んでいた鈴音が、ここに来て漸く口を開いた。
 しかし、その口調は先程とは打って変わって怒りに震えている。
 彼女の表情もまた、前方の幼女への憎しみで歪み切っていた。 

「殺すのが"愛"……?死ぬのが"愛"……ッ!?
 何よそれ……ふざけんじゃ、ないわよ……ッ!」

 震え声に反応して伊達が振り返った時には、鈴音は既にISを展開していた。
 機動力を手に入れた彼女は一瞬の内にカオスへ肉薄し、そのまま彼女の矮躯を掴みとる。
 そしてその勢いのまま、鈴音はガラス張りだった空洞を通って部屋から飛び出してしまった。
 甲龍は上方に向かっていったから、恐らく屋上に移動するつもりなのだろう。

61あいをあげる(前編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:05:25 ID:l1GAF5xI0

「何やってんだアイツ!」
「行きましょう!彼女――何をするか分からない!」

 "彼女"というのは鈴音と襲撃者の二人を指していた。
 襲撃者は言わずもなが、怒り狂った鈴音も何をするか予想できない。
 何より、分厚い窓ガラスを風力だけで破壊してみせたあの幼女が、
 鈴音一人だけを相手にするというのが一番の不安要素であった。

「無茶するんじゃねえぞ……!」

 バーナビーのNEXT能力なら、伊達を抱えたまま最上階まで難なくたどり着ける筈だ。
 それまでに、鈴音の身に何も起こってなければいいのだが……。
 不安を隠せないまま、二人は屋上に向けて移動を開始した。



【3】


 カオスを捕えた甲龍は、そのまま上空へ向かって突き進む。
 空気を裂いて突き進む鈴音が目指すのは、このビルの屋上だ。
 あそこなら、障害物を気にせずにISを操作する事ができる。
 敵も同様に自由に動けるだろうが、鈴音にとっては関係ない話だ。
 これから彼女が行うのは、戦いではなく一方的な蹂躙なのだから。

 殺すのが、"愛"なのだという。
 人間の命を弄び、挙句奪い取るのが"愛"なのだという。
 そういう主張を掲げて、この幼女は殺人を肯定しているのだ。
 それはつまり、一夏の死を"愛"などとのたまったのと同然である。

「よくも……よくも……ッ!」

 鈴音にとって、一夏の死は絶望でしかなかった。
 幼少期から思い続けてきた者が、こんな名も知らぬ土地で死んだのだ。
 遺体も何処にあるか見当も付かず、最期に誰を思って逝ったのかも分からない。
 その事実は、鈴音の意思を打ちのめすのは十分すぎる。

「じゃあ何だってのよ……一夏とシャルが殺されたのも"愛"のせいだって言うの……!?
 "愛"のお陰で死んだって、アンタは喜んでいるの……!?」

 だがこの狂人は、その絶望の権化を"愛"だと言ってみせたのである。
 心に空洞を作るこの嘆きが、"愛"なのだと。
 大切な者を奪われた怒りが、"愛"なのだと。
 狂った笑顔を浮かべたまま、嬉しそうにそれが"愛"だと主張していたのだ。

「許さない……!アイツらを笑ったアンタだけは絶対に赦さない……ッ!!」

 最早、怒りしかなかった。
 彼女の笑顔が、仲間の死を嗤っている様で。
 彼女の猫撫で声が、自分を挑発している様で。
 自分の"愛"を否定するこの女が、憎くて仕方がない。

62あいをあげる(前編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:10:07 ID:l1GAF5xI0

「殺す――――殺ころしてやるぅぅぅぅぅッッ!!」

 屋上に到達した途端、鈴音はカオスを屋上に叩き付ける。
 それだけでは終わらない――すぐさま"崩山"の狙いを定め、カオスに向けて何発も撃ちこむ。
 着弾した弾は火炎となって燃え広がり、屋上を赤色で浸食していく。
 しかし、まだ鈴音の怒りは収まってはいない。
 止めと言わんばかりに、彼女は"龍咆"を相手に発射した。
 不可視の砲弾はカオスに直撃し、彼女の表情は苦悶に歪む。
 一度のみならず、二度も、三度もカオスへ"龍咆"を叩き込む。
 あの巨大な翼といい、この女がただの人間ではないのは明らかだ。
 だから、何度も砲撃で発射し、徹底的に相手を蹂躙するのである。
 己の怒りに任せ、人情などかなぐり捨てて蹂躙を行う鈴音の姿は、傍から見れば鬼の様であった。

「これ、で…………」

 鈴音の攻撃が止んだ頃には、既にカオスは動きを止めていた。
 あれだけ攻撃したのだから、もう動けはしないだろう。
 元より殺すつもりでやったのだから、そうでなければ困るのだが。
 未だ興奮冷めやらぬ状態のまま、鈴音は元いた場所に帰ろうと踵を返す。
 しかしその時、ハイパーセンサーが一つの反応を捉えた。
 その場所は――鈴音の、丁度真後ろだ。

「それがお姉さんの"愛"なのね」

 背後から聞こえてきたのは、倒したとばかり思っていた幼女のものだった。
 痛みなどまるで感じていないかの様に元気なその声に、鈴音の背筋は凍りつく。
 全力で攻撃したというのに、彼女にはそれがまるで効いていないというのか。
 咄嗟に振り返り、カオスに反応しようとした時にはもう遅い。
 振りかぶった彼女の拳が鈴音に直撃し、彼女はまるで紙屑の様に吹き飛ばされた。
 本来のカオスならば、ここまでの破壊力は生み出せなかっただろう。
 しかし、今の彼女はアストレアに加えて、筋力が爆発的に増強していた至郎田をも取り込んでいるのだ。
 今の彼女にとっては、拳一つでISを撃ち落とすなど造作もない事であった。

「やっぱり痛いのが"愛"なのね!
 お姉さんもそう思ってたから、わたしを沢山痛い目に遭わせたんでしょ?」

 鈴音の怒りに任せた攻撃を、カオスはそう解釈した。
 彼女はカオスに沢山"愛"をくれたのだから、自分も彼女に礼をしなければ。

 地に伏した鈴音に対しが、今度はカオスが"愛情表現"を開始する。
 体制を立て直そうとする鈴音に襲い掛かるのは、無数の紫電である。
 生身の人間に当たれば一溜まりもない電撃は、シールドバリアーすら突き破り鈴音の肉体を痛めつける。
 ISのお陰である程度威力は緩和されているものの、それでも彼女の行動に支障を起こさせるのには十分であった。
 これまでに感じた事のない激痛が、絶え間なく鈴音を嬲り続ける。
 雷撃が肉体を刺激する時の痛みは、まるで体中を絶え間なく鞭で叩き付けられているかの様だ。
 全身の痛覚が泣き叫び、鈴音の精神をも削り取っていく。
 今の彼女に残っていたのは、死に近づきつつあるという実感のみ。
 いくら最新鋭の装備で武装しているとはいえ、彼女の精神はあくまで普通の少女のものなのだ。
 ただの少女の心では、"死の実感"にはそう簡単に耐えられない。

 しかし、死ぬまで続くと思われた電撃責めは、唐突に終わりを迎えた。
 カオスの所持したメダルが底を尽きたのか、それとも単に彼女が蹂躙に飽きを見せたのか。
 朦朧とする意識の中で、鈴音は瞼を開いてカオスの様子を伺おうとする。
 そうして景色を視界に入れ――鈴音は絶句した。

 そこにはあったのは、"太陽"だった。
 火炎の色は赤ではなく黒であり、全てを焼き滅ぼすと言わんばかりに燃え上がる。
 カオスの身の丈よりも巨大であろうそれは、周囲を仄暗く照らしていた。
 黒い太陽が、カオスの頭上で静止している。
 灰一つ残しはしないと猛るそれは、鈴音をじっと睨んでいる様に思えた。

63あいをあげる(前編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:15:00 ID:l1GAF5xI0


「あ、ああ……あ、あ……あ…………!」

 絶対的な死の権化が、すぐ目の前に顕在している。
 鈴音の魂を食い潰す怪物が、今まさに襲い掛かろうとしている。
 死の危機に瀕している彼女の表情に映るのは、目前の脅威への恐怖だけ。
 それに対し、今まさに死を齎さんとするカオスの瞳は、どこまでも透き通っていた。
 穢れ一つなく、そして誰よりも純粋で――だからこそ、鈴音にはそれが恐ろしかった。
 きっと彼女は、自分が悪行を為しているという自覚すらしていないのだろう。
 無邪気な悪意に、鈴音の魂は焼き払われようとしている。

「あ、あああああああぁあぁぁあぁあぁぁあぁああぁあぁぁあああああああッッ!!!!」

 恐慌状態に陥った鈴音が、"龍咆"を我武者羅に乱射する。
 狙いの定まらないそれらは、明後日の方向に飛んでいくかカオスの翼に阻まれる。
 彼女の肉体に命中した砲撃など、一つとして存在しなかった。
 死神は五体満足のまま、鈴音をじっと見つめている。

「嫌……!来ないで……来ないでよぉ……!」

 必死で逃げろと身体に言い聞かせても、傷ついた肉体はまるで言う事をきかない。
 鎌を振り上げる死神を前に、少女にできるのは絶望する事だけ。
 刃に乗せた無垢な"愛"を、小さな臓物で受け入れるしかないのである。

「お姉さんも――殺(アイ)してあげる」

 その声と共に、黒炎が鈴音に向けて放たれた。
 彼女に着弾した火炎は巨大は火柱となり、鈴音のISを焼き尽くす。
 夜空の闇は業火によって暴かれ、静寂は形容し難い程に悲痛な絶叫で掻き消される。
 やがてISは完全にその機能を停止し、鈴音を火炎から遠ざける唯一の護りは消失する。
 灼熱が華奢な肉体を嘗め回し、健康的な肌をどす黒く染め上げていく。
 先程の比ではない程の痛みを前にして、鈴音はただ獣の様に叫び続けるしかなかった。

「…………ぃ…………ち……か………………ぁ……………………―――――――――」

 やがて、総身を焼かれる彼女の口から漏れ出たのは、先に逝ってしまった愛しい者の名前。
 彼に助けを求めたのか、はたまた向こう側で待つ彼の姿を幻視したのか。
 真意は定かではないが、カオスにとってはそんな事どうでもいい話である。
 純粋に愛を届ける事にのみ執着する彼女には、愛の本質をまるで理解しない赤子では、
 その名前にどういう感情を込められていたかなど理解できる訳もないのだ。
 理解できないからこそ、歪みを歪みとしてそのまま相手にぶつけられる。
 そこには一切の後悔も、一抹の悲しみもありはしない。

 "愛"と言う名の漆黒の焔は、鈴音の魂を一遍も残さず焼き尽くしたのであった。

64あいをあげる(後編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:19:59 ID:l1GAF5xI0
【4】


 ようやく屋上に辿り着いたバーナビーと伊達を待っていたのは、絶望の権化であった。
 相も変わらず悠然と宙に浮かぶ幼女と、彼女が生やす刃に突き刺さる一つの肉塊。
 炎で徹底的に蹂躙されたその死体が誰かなど、二人には容易に理解できた。
 一目では誰なのか判断し難い程に焼かれているが、あの華奢な身体は間違いなく、二人の同行者だった少女のものだ。
 友を奪われた不幸な少女は、それをさらに上回る不幸を以て虐殺されたのである。

 凄惨な現場を目の当たりにしたバーナビーが、大きく吼えた。
 激しい怒りを伴わせた拳は、まだ己のNEXTの恩恵を受けている。
 彼は瞬く間にカオスへ接近し、渾身の一撃を叩き込もうとする。
 だがその拳は空しく宙を掻き、カオスはそのお返しと言わんばかりに彼を殴り飛ばす。
 直撃を受けたバーナビーは、鈍痛を伴わせながら伊達の近くへ飛ばされた。

「バーナビー!大丈夫か!?」
「ええ……何とか」

 NEXT能力に加え、バーナビーはヒーロースーツを着用しているのだ。
 あの一撃だけでは、彼を殺すどころか昏倒させる事はできないだろう。
 それでも彼女の攻撃は相当な威力を誇っていた様で、スーツには罅が入っていた。
 まだ年端もいかない外見でこれほどの破壊力を出せるとは――バーナビーは、その事実に戦慄する。

 既にバースへと変身していた伊達が、牽制としてバースバスターを連射した。
 しかしそれらの攻撃は、案の定カオスの翼によって阻まれる。
 あの翼をどうにかしなければ、遠距離攻撃の命中率は低いままだ。
 何とかしてあの障害を突破しなければ――そう考えた直後に、伊達はある事に気付く。
 翼に突き刺さっていた鈴音の亡骸が、何処へと消えているではないか。

「――伊達さんッ!」
 
 何かに気付いたバーナビーが、伊達に向けて叫ぶ。
 警告を聞いた伊達は、デイパックから容器を取り出し、それをそのまま地面に叩き付ける。
 割れた容器から液体が漏れ出し、やがてそれは独りでに球体の形へ変化した。
 この支給品の名は月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)――ある魔術師が使用していた魔術礼装だ。
 水銀に魔力を練り込んで精製されたそれは、所有者の命令によって盾にも剣にもなるのである。

65あいをあげる(後編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:24:33 ID:l1GAF5xI0

 月霊髄液はすぐさま壁となり、バーナビーと彼を護る様に展開される。
 そしてその数刻後、壁の外から鈍い音が響いた――何かが月霊髄液に着弾したのだ。
 恐らくカオスが砲撃と思しきものを使ったのだろうが、バーナビーにはその砲弾は全く目視できなかった。
 それならどうして、彼はカオスが攻撃してくると理解できたのだろうか。
 それは、彼女が砲撃の直前にある物を装着していたからだ。
 赤と黒を基調とした刺々しいデザインは、バーナビーには見覚えのあるものであったのである。

(あれは彼女のISの筈……どうして奴が……!?)

 そう――今のカオスは、鈴音が扱っていた甲龍を装着していたのである。
 鈴音の説明でしか聞いた事がないが、彼女が所有している甲龍は不可視の砲撃――"龍咆"という名前らしい――が可能らしい。
 何故か甲龍を装着していたカオスは、伊達達に向けてその"不可視の砲撃"を放ったのである。
 彼らは知る由も無いが、彼女は鈴音を吸収する際、待機状態となっていた甲龍をも食らっていたのだ。
 それ故に、カオスは甲龍を自在に操れる様になっているのである。

 伊達達が、改めてカオスと相対する。
 カオスの方が、依然として笑みを消してはいない。
 ついさっき一人の少女を殺したにも関わらず、だ。

「嬢ちゃんよ……これがお前の愛だって、そう言いたいんだな」
「そうだよ!痛くして、殺すのが愛なんだって皆が教えてくれたんだよ!」

 そう楽しげに話すカオスに伊達が感じた感情は、怒りではなく哀れみだった。
 きっとこの少女は、最初は本当に何も知らなかったのだろう。
 それでも"愛"とは何かという問いに答えを出す為に、彼女なりに努力したに違いない。
 だが少女の環境は、彼女が真っ直ぐに育つ事を許さずに、歪んだ知識ばかりを押し付けたのだ。
 火野の名前が出てきていた以上、彼女が歪んだのはこのゲームが始まってからなのだろう。
 つまりは、彼女を引き留められる可能性は確かに存在していたかもしれないという事なのだ。
 伊達達がビルの探索をしている間に、無垢な少女は他者の介入で悪魔となってしまった。

「……そんなものが"愛"だと……!?
 人の命を奪って、他の誰かを悲しませるのが"愛"なのか……!?」

 対して、バーナビーに湧き上がるのは怒りであった。
 彼に愛を与えていた両親は、一人の犯罪者の手によって屠られている。
 その罪人はバーナビーの目の前で、苦しむ彼らに対し無慈悲に引き金を引いたのだ。
 カオスの言い分が正しければ、それは"愛"あってこその行動という事になる。
 馬鹿げた事を言うな、と怒鳴りつけてやりたい気分だった。
 人殺しなんて邪なものに"愛"などあって良い訳がない――例えそうだとしても、バーナビーはそれを認めない。
 大切な者を奪う殺人はどこまで行っても犯罪であり、それで"愛"を語ろうなど言語道断だ。

66あいをあげる(後編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:27:55 ID:l1GAF5xI0

「そんなものが――そんなものが愛であっていい訳がない!」
「じゃあお兄さんは教えてくれるの!?"愛"ってなあに!?私に教えてよ!
 愛を、愛を!愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛をォッ!!」

 悪魔は狂った様に愛を叫び続ける。
 それを目にしたバーナビーは、さらに闘志を滾らせる。
 どうしようもない程に、この少女は狂ってしまっている。
 今この場で彼女を倒せれなければ、屍の山が築かれかねない。
 命を護る"ヒーロー"として、それだけは絶対に止めなければならない。
 バーナビーの脳裏に映るのは、無残な姿となっていた鈴音の姿。
 救えなかった命への後悔が彼を苛み、同時に必ずあの悪魔を倒せと囁き続ける。
 ワイルドタイガーの隣に立つのなら、例え命を犠牲にしてでも彼女を打倒しなければ。
 
 その時、ガシャンと何かが地面と衝突する音がした。
 それに続くように、金属の落ちる音が三つ。
 音の方に視線を向けると、そこには伊達の所持品が転がっているではないか。
 バースドライバーと三枚のコアメダル。
 これから戦闘が起ころうというのに、何故伊達は武器を捨てているのか。
 伊達は無言のままバーナビーを見据えており、彼の隣では球体となった月霊髄液が存在している。
 彼は一体何の意図があってこんな事をしたのか。
 まるで自分に全てを預ける様な真似をする必要が、どこにあるというのか。
 ――――――まさか。

「伊達さ――――」
「すまねえバーナビー、先行っててくれ」

 気付いた時には、もう遅かった。
 伊達の命を受けた月霊髄液は、落ちていた武器ごとバーナビーを包み込む。
 そして月霊髄液はそのまま、屋上を飛び出して地面へ落下していった。

67あいをあげる(後編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:30:32 ID:l1GAF5xI0


【5】


「さて、と」

 バーナビーが姿を消し、そこに残るのは伊達とカオスのみ。
 カオスの方は怪訝そうな顔つきで、バーナビーが落下した方向に目を向けている。

「……お兄さんは?」
「アイツは頭に血が上ってたからな。ちょいと途中退場してもらったんだよ」

 伊達の見る限りでは、二人だけではあのカオスを倒せないだろう。
 しかし、バーナビーの方は半ば暴走し始めてるせいでそれにまるで気付いていなかった。
 あのまま彼を好き放題させていたら、鈴音同様に惨殺されていたに違いない。
 それ故に、伊達は自身の護りを利用してまでバーナビーを逃がしたのだ。
 月霊髄液はかなり――ビルの倒壊に巻き込まれても無事で済む程度には――丈夫だと説明書きに書かれていたし、
 恐らくは無傷のまま着地できているだろう。

「おにいさんにも"愛"をあげれたのに……」

 少々残念そうに、カオスが呟いた。
 大方、バーナビーの肉体に自分の"愛"を刻み付けるつもりだったのだろう。
 そうすれば彼は"愛"を理解してくれるのだと、きっと彼女は本気で思っている。

「――じゃあ次は、おじさんの番」

 そう言ってカオスが眼をぎらつかせた、その直後。
 伊達の心臓に、カオスの翼が深々と突き刺さっていた。
 彼女は瞬く間に肉薄し、彼の急所を的確に狙ってきたのだ。
 標的が一つに絞られた以上、狙われるのは当然である――伊達自身、こうなる事は既に予測できていた。

「……覚悟、してたけ、ど……やっぱ……痛てえ、な」

 口元から血液を零しながら、伊達は目の前のカオスの顔を眺める。
 相変わらず彼女の瞳には、一点の曇りもありはしない。
 もしも、もっと優しい人間が最初にカオスに出会えていたとしたら。
 その時はきっと、彼女も"愛"の何たるかを真に理解できていたのだろう。

68あいをあげる(後編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:33:19 ID:l1GAF5xI0

 口元から血液を零しながら、伊達は目の前のカオスの顔を眺める。
 相変わらず彼女の瞳には、一点の曇りもありはしない。
 もしも、もっと優しい人間が最初にカオスに出会えていたとしたら。
 その時はきっと、彼女も"愛"の何たるかを真に理解できていたのだろう。

「せっかく、だから、よ……俺も、教えてやる……」

 カオスの翼を、伊達が片手で掴む。
 手の平が切れて血が垂れ落ちるが、彼にはもう関係のない話だ。
 いくら手が傷だらけになろうが、どの道運命は決まっているのだから。

「"愛"って、いうのは、な。もっと、暖かい、もの……なんだよ。
 大切な奴と、手繋いで……心が、暖かくなっていくのが、"愛"っていう……ヤツ、なんだ」
「あったかい……?」

 "愛"は一人では生まれない。
 他の誰かと共に歩んで、初めて"愛"というのは生まれるものなのだ。
 カオスのやっている事など、所詮は押し付けでしかない。
 無理やり渡すものは、決して"愛"ではないのだ。

「それがおじさんの"愛"なのね!ねえ、もっと教えてよ!」
「ああ……いい、ぜ。だけど、よ……続きは、別の場所で、な」

 満面の笑みで問うカオスに、伊達もまた微笑み返す。
 そして、もう片方の手に持っていたバースバスターで、デイパックからはみ出していたあるものを打ち抜いた。
 伊達に支給されていた、もう一つの支給品――爆弾である。
 火薬が詰まった物に銃弾を撃ち込めば、何が起こるかなど容易に想像できる。


        O        O        O


 死の瞬間に立ち会った時、どういう訳か時間がゆっくりと感じるらしい。
 TVか何かでそんな話を耳にした事があったが、まさか本当の事だったとは。
 手の中で炸裂した眩い光に当てられながら、伊達はそんな事を考えていた。
 爆弾は既に起爆し、あと数刻もしたら、爆風が全てを焼き尽くすであろう。
 生身の人間である伊達など、木っ端微塵に吹き飛んでしまうに違いない。
 カオスはどうかは分からないが、きっと手傷くらいは負わせれる筈だ。

(何やってんのかねぇ、俺は)

 手術を行う前は、大金を払ってまで生に執着していた筈なのに。
 まさかこんな簡単に、命を放り投げる事になろうとは思わなかった。
 尤も、自分で選んだ選択である以上、嘆く権利などありはしないのだが。

(粗末な使い方しちまったなぁ)

 バーナビーに重いものを背負わせてしまった自覚ならある。
 仲間に出会えなかった後悔だってある。
 それでも、これが最善の一手だったのだ。
 こうでもしなければ、二人とも死んでいたのである。

(……まあ、でもよ)

 真木を自らの手で止めたかったが、終わってしまった事はもうどうにもならない。、
 それに自分は、己の命を代価に別の誰かの命を救ったのだ。
 そんな"ヒーロー"として散るのも、案外――――。

「悪くはねえな」

 その言葉の、直後。
 伊達の意識は、彼の肉体もろとも閃光の中に消えたのであった。

69あいをあげる(後編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:38:19 ID:l1GAF5xI0
【6】


 伊達の時限爆弾が放つ凄まじい熱量に焼き尽くされた、ビルの屋上。
 本来ならば、この爆心地に生きている人間などいない筈である。
 しかし、そこで呼吸をしている者は、確かに存在していた。

 それは他でもない――この災厄を齎した張本人、カオスである。

 確かにエンジェロイドは恐ろしく頑丈ではあるが、それでも至近距離から爆風を浴びればただでは済まない筈である。
 しかし、カオスには甲龍を始めとするIS全てが保有する機能――シールドバリアーがある。
 鈴音諸共ISを食らったカオスは、その盾をも扱える様になっていたのだ。
 それ故に、爆弾は彼女の脅威とはならなかった――伊達の捨て身の攻撃は、ほとんど無駄に終わったという事になる。

 たった一人屋上に残ったカオスは、先程の言葉を思い返す。
 "あったかく"すれば"愛する"という事になる。
 相手を暖かくするのが、その人への愛情表現になり得る
 あの男は、確かにそうカオスに教えていた。

「……そっか」 

 今まで殺す為に炎を使う機会はあっても、暖かくする為に炎を使った事は無かった。
 だからこそ、伊達はカオスの考えを否定したのだろう。
 事実、彼は爆弾を用いてその愛を伝え方を実践しているではないか。
 これまでは、ただ殺して食べればいいと思っていたが、そうではないのだ。
 暖かくして、殺して、食べる――それこそが、本当の"愛"に繋がる。

「分かったよおじさん!私もみんなを"あったかく"してあげる!」

 カオスは満面の笑みで、"愛"教えてくれた恩人に礼を言った。
 これでまた"愛"について詳しくなれた――彼女の心は、その実感で満たされていた。
 次からは、皆にこの"愛"を教えてあげなければならない。
 道行く人を"あったかく"して、伊達が教えてくれた"愛"を伝えてあげよう。

 それにしても、どうしてあの金髪の青年は怒り狂ったのだろうか。
 カオスの考えが正しければ、あったかくした少女を見て激怒する理由など無い筈だ。
 それについても含めて、彼にまた逢えたら"愛"について聞いてみよう。
 そうすればきっと、また新たな収穫がある筈なのだから。

70あいをあげる(後編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:46:31 ID:l1GAF5xI0
【7】


 遠くで、爆発音が聞こえる。
 それがどこから炸裂したのかなど、確かめるまでもない。
 バーナビーの予想通り、伊達は自らの身を犠牲にして、自分を救ったのだ。
 本来ならばヒーローが担うべきその役目を、彼は引き受けたのである。
 目の前に、そのヒーローが存在していたにも関わらず、だ。

「……」

 伊達自身、考えがあってこその行動だろう。
 それが非難される理由などないし、むしろ賞賛を受けるべきなのだろう。
 自分の身を犠牲にしてまでも仲間を救った彼の姿は、紛れもなくヒーローのそれなのだから。

「……ッ」

 それに比べ、自分はどうだ。
 何一つ護れないで、ただ一人生き延びてしまっているではないか。
 そんな人間に、虎徹の相棒を名乗る資格が果たしてあるのだろうか?

「…………ッ!」

 何一つ救えなかった有様で、一体どういう顔で虎徹に会えばいいのだ。
 もう自分に、彼に会う資格など無いのではないか。
 苛立ちや嘆き、怒りを含めた全てがバーナビーを責め続ける。
 今の彼の心は、絶望に完全に呑み込まれていた。

 バーナビーの表情からは、既にヒーローという正義の象徴は消え去っている。
 今此処にいるのは、砕けた夢を抱えたただの敗北者。
 ワイルドタイガーのパートナー"だった"青年は、消えない後悔に延々と苛まれ続ける。
 



【凰鈴音@インフィニット・ストラトス 死亡】
【伊達明@仮面ライダーオーズ 死亡】

71あいをあげる(後編) ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:47:45 ID:l1GAF5xI0
【一日目 夜】
【E-5/鴻上ファウンデーション・屋上】

【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】身体ダメージ(中・修復中)、全身に軽度の火傷(修復中)、精神疲労(大)、火野への憎しみ(無自覚・極大)、成長中、全裸
【首輪】150枚(消費・修復中)(増加中):90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
基本:"あったかく"して、殺して、食べるのが愛!
 0.ありがとう、おじさん!
 1.みんなに沢山愛をあげて"あったかく"してあげる。
 2.火野映司(葛西善二郎)に目一杯愛をあげる。
 3.おじさん(井坂)の「愛」は食べる事。
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレア、凰鈴音、甲龍を吸収しました。
※現在までに吸収した能力「天候操作、超加速、甲龍の装備」
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。
※憎しみという感情を理解していません。
※彼女が言う"あったかい"とは人間が焼死するレベルの温度です。


【E-5/路上】

【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】白
【状態】健康、精神疲労(大)、深い悲しみと後悔、激しい自己嫌悪、NEXT能力1時間使用不可
【首輪】90枚:0枚
【コア】スーパータカ:1、スーパートラ:1、スーパーバッタ:1
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、ランダム支給品0〜2(確認済み)
    バースドライバー(プロト)@仮面ライダーオーズ、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)@Fate/zero
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止めたかった。
 0:????
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。

72 ◆qp1M9UH9gw:2013/04/01(月) 03:48:13 ID:l1GAF5xI0
投下終了です

73名無しさん:2013/04/01(月) 03:58:18 ID:olPciuBwO
投下乙です。

カオス…、とうとう全てを振り切ったんだな。精神的にも、服装的にも。もう絶望しかゴールは無いのか?

74名無しさん:2013/04/01(月) 08:42:48 ID:R4WsckfM0
投下乙です!
カオス強すぎる! 伊達さんと鈴音を一方的に殺害しただけじゃなく、ISまで取り込むとは……
二人とも頑張ったんだけど、相手が悪すぎたんだ。
それから二人を失ったバーナビーは一体、どうなるんだろう……

75名無しさん:2013/04/01(月) 15:40:57 ID:zfOul2E20
投下乙
こいつ、違う方向に解釈しやがったッ…!

76名無しさん:2013/04/01(月) 20:07:23 ID:1xJoWTIo0
◆ew5bR2RQj.氏と◆qp1M9UH9gw氏、投下乙です

悪女コンビ結成かあ。メズールは相変わらず人の感情に付けこんだ戦術が上手い
その彼女にも自分が抱いた愛の感情を意識する時が来るとは…
グリード内唯一の良好な関係にここで再び着目するってのは面白いな
あ、5103はもう喋らない方が身のためですよ

鈴音…一夏の死に凹んでたタイミングでカオスから「愛」で煽られるのは不運すぎる
マーダー化はしないで済んだものの、周りが見えなくなって結局殺されるんじゃあなあ…
伊達が人との触れ合いの大事さを説いたら「焼き殺せばいいんだ!」と解釈するカオスの発想のトンデモっぷり
さらに何も出来なかったバーナビーの無力感など、読んでて気持ちが暗くなる描写が今回も上手と感じました

それと、◆qp1M9UH9gw氏の作品で個人的に気になった点が一つ
カオスの実力の片鱗やバーナビーの興奮状態を目にしたとはいえ、実際には伊達もバーナビーもまだ万全の状態なのに
伊達がバーナビーを退場させて、相撃ち…というより一矢報いる程度の自爆攻撃のために生存を諦めるのは早計じゃないかな?と思いました
さらに応戦をするとかバーナビーを宥めるとか二人揃って撤退する方法を思考するとかも無い内にすぐ自身の死を決意していたので
ちょっと唐突な話という印象を持ちました
自分はこの点が読んでいて腑に落ちなかったので、◆qp1M9UH9gw氏または他の読み手の方から何かご意見がほしいです

77名無しさん:2013/04/01(月) 20:39:59 ID:B/n8AOKU0
別に不自然には感じないけど

78名無しさん:2013/04/01(月) 23:14:49 ID:/vy1PPAA0
投下乙です
カオスはどんどん歪んだ方向で愛を学んでいくなww
暖かくすること→爆風=愛とか、ここまで毎度のことだけどカオスは凄い曲解をしやがる
井坂にしろフィリップにしろ伊達さんにしろ、この愛の捉え方の違いは非常に面白い
で、鈴音は…運が悪かったとしか言えないなぁ…

さて、この話非常に楽しませて貰ったのですが、伊達さんのキャラについては僕も>>76さんと同じ見解です
以前まではあれほど生に執着していたという描写はあるのですが、どうしてここで突然その執着を手放したのかの描写がやや不十分かなと…
さらにいえば、手術後も伊達さんは自滅技でガメルを倒そうとする後藤さんを否定していて、それでも他に手段がないから最終手段として自滅技に打って出たけれど、それも最後まで勝つための希望は捨てていなかった筈です
火野に対しても自分の命を簡単に投げ出すことを戒めていた伊達さんが、そう簡単に勝算のない自爆に打って出るというのは些か違和感を覚えました

79名無しさん:2013/04/01(月) 23:54:14 ID:Jgagcw9Y0
乙!
残酷な現実もある、それがロワ!
相変わらず非情な話の魅せ方が上手です

伊達さんはなぁ……
腐っても伊達さんだし、やっぱバニーを生かすために自殺っていうのは考えづらいかもしれませんね
勝機がないから、今は無理矢理にでもバーナビー連れ出して逃げて、いつか必ずあの幼女も何とかしてやる!って考える方がらしいかなとは思いました
諦め悪くしぶといあの伊達さんが、いきなりベルト手放して、もう既に自分の生は諦めてるっていうのはどうにも……

80 ◆qp1M9UH9gw:2013/04/02(火) 00:11:55 ID:jE32khPI0
感想ありがとうございます。
では後日、指摘された個所を修正したものをしたらばに投下させてもらます。

81名無しさん:2013/04/02(火) 01:11:23 ID:Oni3B8rQ0
投下乙です

これぞロワの醍醐味だぜっ!
カオスのトンデモ解釈が酷過ぎるぜ(褒め言葉)原作の変化とは大きく外れたなあ…
鈴音はお疲れ様
バーナビーはこの先はどうするんだろう…

82名無しさん:2013/04/02(火) 01:30:23 ID:Oni3B8rQ0
しかし鈴音も凄まじく嫌で苦痛ある死にざまだわ…

83 ◆qp1M9UH9gw:2013/04/07(日) 00:25:20 ID:nUitHf.c0
先日拙作の修正版をしたらばにて投下しました。よろしければ確認お願いします。

84 ◆QpsnHG41Mg:2013/04/07(日) 03:11:57 ID:lhG5GJtc0
>>83
修正乙です
とても面白かったし、問題もないと思うのでもう大丈夫だと思います

それでは自分も予約分を投下します。

85 ◆QpsnHG41Mg:2013/04/07(日) 03:13:14 ID:lhG5GJtc0
 宵闇に赤い軌跡を描きながら、黒騎士がとぶ。
 憎悪の咆哮を響かせて、黄金の宝剣の数々を流星の如く射出する。
 そのどれもが一点を目掛けて殺到する、さながら煌びやかな流星群。
「……………」
 それに対峙し靡く黒髪。
 華奢な体躯には不釣り合いな重火器。
 未だ幼さを残した少女はしかし、自分へと殺到する殺意にも恐れを見せない。
 不敵に、傲岸に、不遜に。据わった眼光が、放たれた宝具の数々を睨む。
 そして、黒騎士バーサーカーが怒りの咆哮をあげる。
 寸前まで少女がいた空間には、最早だれもいなかったからだ。
 放たれた宝剣の洗礼は、その全てがアスファルトを穿っただけに過ぎない。
「――――ッ!?」
 否、もはやそんなことは問題ではない。
 攻撃が"避けられた"のではない。
 いま、自分は、攻撃を"されている"のだ。
 眼前に無数の、それこそ星の数ほどの弾丸が現れていた。
 そう、"現れた"のだ。
 何の前触れもなく、突然に、それは"現れた"のだ。
 いざ眼前の弾丸に対抗をしようとするバーサーカー。
 だが、その刹那と待たず、今度はバーサーカーの背が弾けた。
「ッ!?!?」
 眼前より迫る弾丸の数と同じか、それ以上の弾丸が背後から殺到していた。
 それは、現代人が技術の粋を結集させて開発した、神の子を殺すための殺傷兵器。
 地獄の番犬の名を冠する協力無比なガトリングの弾丸を一斉に受けたのだ。
 いかな英霊のバーサーカーであろうとも、そんなものを受けて無事では済むまい。
 バーサーカーの身体は、背後で弾けた弾丸によって前方へと吹っ飛ばされ――
「―――――――――――――――――――ッッ!!」
 そして、前方から迫っていた弾丸すべてに、自分から突っ込むハメになった。
 通常兵器を遥かに凌ぐ威力の銃撃の嵐に、前後から挟み撃ちにされたのだ。
 バーサーカーの身体が滅多撃ちにされた人形のように痙攣して、どさりと崩れ落ちた。
 だが、それでも英霊バーサーカーは戦闘不能にはならない。
 そんなことでは戦闘不能にはなれないのだ。
 すぐさま立ち上がったバーサーカーは、
「――!?」
 自分が既に取り囲まれていることに気付いた。
 ワイヤー付きのアンカーが、バーサーカーをぐるりと取り囲んでいる。
 そのワイヤーを射出したのはやはりあの黒髪の少女だった。
 この武器で甲冑を絡め取り自由を奪うつもりなのだろう。
 が、そんなものでこの狂戦士が止められるものか。
 逆にワイヤーを引っ掴んで、射出先にいるあの少女ごと手繰り寄せてやろう。
 思考ではなく、本能で次の行動を決めたバーサーカーはしかし、次の瞬間には驚愕していた。
 この手で掴もうとしたワイヤーが、既にその手からすり抜けていた。
 瞬間移動、とでもいうべきか。
 さながら"時間が消し飛んだ"かのように。
 何も力を加えなければ数秒後には進んでいるであろう位置まで、ワイヤーは一瞬で移動していた。
 もちろん、バーサーカーはワイヤーの移動の瞬間を感知してない。
 一人時間に取り残されたバーサーカーを、少女のワイヤーが絡め取った。
 ぐるり、ぐるり。何重にもなってワイヤーは絡み付き、この身を拘束する。
 脚から頭まで、何重にも何重にも巻き付いた特殊ワイヤーの強度は尋常ではない。
 最後にアンカーがバーサーカーの甲冑をロックして、彼の身動きは完全に封じられた。
「urrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrッッ!!!」
 怒りと憎しみを込めた咆哮が、少女の口元の囁きを掻き消した。
 最後に告げられた何事かの言葉に次いで、グレネードランチャーが飛来した。
 弾頭を回避する術をもたないバーサーカーは、その直撃を受けて吹っ飛んだ。
 もちろん、そんなものは大したダメージにはならない。
 が、少女にとってはそれでも十分。
 バーサーカーの落ちた先は――

86 ◆QpsnHG41Mg:2013/04/07(日) 03:13:41 ID:lhG5GJtc0
 
 ――ドボォンッ!!

 派手な水しぶきが、周囲に瞬間的に小雨を降らせる。
 バーサーカーの重い甲冑は、見滝原の街を流れる川に浮かぶ術をもたない。
 不運にも、バーサーカーが叩き落された川の水深は五メートルを越えていた。
 急な街の開発によって汚れ濁った川の水が、彼の甲冑にどろりと纏わりつく。
 水底の泥にどろりと脚を沈み込んだところで、狂戦士は怒りの雄叫びを上げた。
 憎しみにその眼を赤くギラつかせながら、バーサーカーは雄叫びを上げ続けた。

【一日目 夜】
【C-3 見滝原市に流れる川の底】

【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤
【状態】健康、狂化、身動き不能、激しい憤怒
【首輪】60枚:0枚
【装備】王の財宝@Fate/zero
【道具】アロンダイト@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:???????????????????!!
 0.令呪による命令「教会を出て参加者を殺してまわる」を実行中。
 1.川から上がる。
 1.無差別に参加者を殺してまわる。
【備考】
※参加者を無差別に襲撃します。
 但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます。
※ヴィマーナ(王の財宝)が大破しました。
※バーサーカーが次に何処へ向かうかは後続に任せます。
※GA-04アンタレス@仮面ライダーディケイドによって身動きを封じられているので、泳ぐことも歩くことも出来ません。
※憎しみに満ちた雄叫びを上げ続けています。おそらく川の上からでも聞こえます。

          ○○○

 もうすぐ時刻は"禁止エリア発動"の午後八時を回る。
 まだ三十分程時間が残されてはいるが、今から禁止エリアを通過するのは避けたい。
 Gトレーラーの運転席に座りながら、暁美ほむらは大きく迂回する道をとった。
「次は何処へ向かうつもりなのだ、コマンダー」
「アテなどないけれど、少なくとも見滝原で待っていても時間の無駄でしょう」
 助手席に座る岡部の言葉に淡々と応えながら、ほむらは考える。
 放送が始まる前、二人は見滝原に向かった。
 鹿目まどかの自宅も、見滝原中学校も探索した。
 だが、そこに目ぼしいものは何もなかったし、誰とも出会えなかった。
 ゲーム開始から既に六時間経っているにも関わらず、あそこに身を隠している者は誰もいなかった。
 魔法少女の誰かと出会えるなら見滝原だと思っていたが、どうやらそう甘くはないらしい。
 この六時間で見滝原に辿り付けなかった者は、きっとあの仁美のようにもうこの世にはいない。
 だとすれば、見滝原で待つよりも、アテがなくとも此方から仲間を探して動いた方がいい。
 少なくとも、魔法少女らの名はまだ呼ばれていない以上、彼女らも何処かで戦っているのだろう。
 放送後、そう話し合って、ほむらと岡部は見滝原を出ようとして――
 そこで、あの黒騎士バーサーカーに襲われたのだ。
「…それにしても、あの黒騎士はまだ倒してはいないのだろう? 放っておいて大丈夫なのか?」
「ヤツの身動きは完全に封じたわ。誰かが助け出さない限り、あの川底からは這い上がれない。
 そしてその"誰か"が現れない限り、ヤツはあのまま溺死するしかない……勝ったのは私たちよ」
 それがバーサーカーに対して、ほむらが下した決断だった。
 ヤツは空中に門を開き、予想だにしない攻撃を繰り出してくる強敵だった。
 戦闘センスも、あの佐倉杏子や巴マミと同等か、それ以上にズバ抜けていた。
 その上で、何度か時間停止からの砲撃を試みたが、ヤツには通用しなかったのだ。
 時間停止能力を持つほむらに負けはないが、しかしアレでは勝ちもない。
 現状の装備では、あの狂った黒騎士は倒せない。メダルの無駄遣いだ。
 だからほむらは自力での完全撃破を諦めて、ヤツを川底に沈めた。
 もっとも、あの化け物がタダの人間だなどとほむらは思っていない。
 あれで溺死してくれるならいいが、やはりそう上手くはいかないだろう。
“いつか這い上がってきた時のことも考えると、やはりもっと装備を充実させるべきね”
 この際だ。武器でも仲間でも何でもいい。
 ああいった強敵にも太刀打ち出来るだけの"力"が欲しい。
 元の世界に帰れさえすれば、もっと強力な軍事兵器だって揃えているのに……
 せっかく集めた兵器に手の届かない歯痒さに、ほむらは苛立ちを募らせていた。
 一方、岡部は最後にほむらに質問をしたあと「そうか」と言ったきり何も言わない。
 あの放送を聴いてからというもの、岡部にも何処か元気がなかった。
 仲間の死がつらいのはわかるが、こんなことでこの先大丈夫なのだろうか?
 不安は募るばかりだった。

          ○○○

87プレイ・ウィズ・ファイア ◆QpsnHG41Mg:2013/04/07(日) 03:16:14 ID:lhG5GJtc0
 
 ダルが死んだ。
 あのスーパーハカーのダルが。
 たったの六時間で、あっけなく、殺された。
 唯一親友と呼べる男の死は、岡部の心を乱す。
 今は殺し合いの真っ最中なのだ。ダルが無事である保証など最初からなかった。
 それは頭ではわかっているつもりだったのに、それでも虚心ではいられない。
 となりに暁美ほむらが居てくれなかったら、きっと岡部は泣き崩れていただろう。
 何度も自分と同じ絶望を味わって、それでも強く前を見ている彼女がいなければ。
 そこで岡部は、暁美ほむらという少女の"強さ"を思い出す。
“そうだ……オレは、こんなところで立ち止まっているワケにはいかない”
 椎名まゆりを救うと誓った。
 暁美ほむらと共にこの世界線を打破すると誓った。
 あの時、ほむらを前にしてあれだけの大見得を切ったのだ。
 まゆりを殺された絶望の中から、もう一度希望を見出したのだ。
 だったら、こんなことでへこたれていていいワケがない。
 まだ、友を本当に救えないと決まったワケでもない。
 この殺し合いを打破して、真のシュタインズゲートに到達すれば。
 椎名まゆりも、橋田至も、鹿目まどかも、暁美ほむらも――
 みんなが笑顔でいられる世界に、辿り着くことが出来れば。
“……そうだ、それが、オレの使命だったな”
 固く目を瞑って、岡部はぶんとかぶりを振る。
 目を覚ませ。現実と向き合え。何処までも戦い抜いてみせろ。
 そう心の中で自分に言い聞かせ、岡部はもう一度前を見た。
 強い眼差しだった。
 迷いなど感じさせぬ目で、岡部は前をみていた。
 そうすると、視界の端に一人の男が見えた。
 赤いコートに、深々と被った帽子が特徴的な男だ。
「…おい、コマンダー」
「ええ、私も気付いているわ」
 互いにアイコンタクトをして、ほむらは速度を落とした。
 その場に車を停めて、ほむらが一人で外に出た。
 勿論、いつでも時間停止を出来るように警戒をしながら。
 誰かと出会った時はほむらが先にいくことにしよう――そういう手筈だった。

          ○○○

 それから数分後……
 Gトレーラーのオペレーションルーム。
 内部に設置された椅子に、二人が出会った男――葛西善二郎が座っていた。
 既に概ねの自己紹介は済んでいる。互いが殺し合いに乗っていないことも明かしている。
 もっとも、ほむらはこの葛西善二郎という男を全くと言っていいほど信用していなかったが。
 あんな夜道を、たった一人で呑気に煙草なぞ吸いながら歩いていたのだ。
 警戒心が薄すぎる。ほむら達が悪人だったらどうするつもりだったのか。
「やっぱり、怪しいわ」
「ふむ……確かに少し気になる所はあるが……」
 ほむらと岡部は今、数メートル距離を取ってひそひそ声で話している。
 かろうじて葛西には聞こえない程度の距離で、二人だけで行われる作戦会議。
 ほむらは葛西を信用せず、岡部は葛西を信用したい……といった様子だった。
 横目にちらりと見てみれば、葛西はテーブルに置かれていた冊子を読んでいた。
 G3-Xのマニュアルだ。
 へー、とか、ほー、とか。
 そんな感嘆を漏らしながら、葛西は薄ら笑みを浮かべていた。
 つかつかと歩み寄ったほむらは、葛西からG3の資料を取り上げた。
「私達はまだ貴方を信用したワケじゃない。勝手な行動は慎んで貰えるかしら」
「固いねぇ……何となく見てただけじゃねぇか、そんな尖らなくたっていいんじゃねぇか」
「これは私達の貴重な戦力。信用ならない相手にその情報を隠すのは当然でしょう」
「あー、そうかい……そいつは悪かった、じゃあ今見たことは忘れるよ、それでいいだろ?」
 そういってニヒルに笑った葛西は、小さく頭を下げた。

88プレイ・ウィズ・ファイア ◆QpsnHG41Mg:2013/04/07(日) 03:17:00 ID:lhG5GJtc0
 ほむらはG3のマニュアルを岡部に渡し、葛西に向き直った。
「……ところで、貴方に一つ聞きたいのだけれど」
「オレに答えれることなら何でも答えるぜ。信用して貰わなきゃだしなぁ」
「…貴方、さっき仲間はおろか知り合いは一人もいないって言ったわね?」
「そうなんだよ、だから困ってんだ。何でオレなんかがこんな殺し合いにブチ込まれなきゃなんねぇのかね」
 参ったとばかりに帽子に手を当て嘆息する葛西。
「随分と不用心なようだけど、もしも私達が殺し合いに乗っていたら、貴方はどうするつもりだったのかしら」
「そん時ゃぁ……ま、オレももう十分長生きしたからなぁ。
 未来を次代の若者に託して逝くのも悪かねぇかもなぁ…火火ッ」
 それ程生には執着していないとばかりにさらりと言ってのける葛西。
 冗談のつもりなのかもしれないが、この状況では笑う気にはなれない。
 それとも、この状況に未だに実感を得ていないのだろうか?
 知り合いが誰一人いないから、殺し合いに現実感を得ていないとでも?
 葛西の態度は、どうにも冷め切った大人の冷やかしのように思えた。
 だが、この男から殺気のようなものは感じない。
 あるのは、ただのやる気のない中年オヤジのニオイだ。
 岡部がふいに、一歩前へ出て、強い眼差しで言った。
「そういうことを言うものじゃない。今、生きているんだ……死んだら終わりじゃないか」
「……岡部」
「岡部ではない、鳳凰院凶真だ」
 ほむらの呼びかけに、いつも通りの返答を見せる岡部。
 放送直後と比べると、随分と目に覇気が戻って来ている。
 彼も彼なりに、自分の中で何かを振り切ったのだろうかと安心するほむら。
 葛西は暫し無言で岡部の顔を見上げて、珍しく真剣な眼差しをむける。
 だがそれは一瞬で、すぐに元のニヒルな笑みを浮かべた中年顔に戻った。
「まさかこんな若者にまで説教されちまうたぁ……おじさんいよいよ老害の仲間入りちまったか?」
 葛西の皮肉に何かを言い返そうとした岡部を制して、葛西は続ける。
「でも…ありがとよ、鳳凰院? だっけか、あんたの言葉は覚えておくぜ」
 それは、皮肉屋の葛西なりの感謝の気持ちなのだろうか。
 この何事にも無気力そうな中年が、始めて見せた真剣な顔だった。
 岡部もそれを理解したようで、すっと身を引いた。
 くだらない揉め事が起こらなかったことにほむらは安堵の嘆息を落とす。
「で、貴方はこれからどうするつもりなのかしら?」
「そうだなぁ……正直、オレがいちゃ邪魔だろ?」
「そんなことはない。我々はこのゲームを打破する仲間を――」
「――おっと!」
 ふたたび口を挟んだ岡部を、葛西が右手で制する。
「アンタはそうでも、そっちの嬢ちゃんはオレのこと全く信用しちゃいねぇ……そうだろ?」
 葛西に向けられた視線。ポーカーフェイスを崩さないほむら。
 なんの感慨もない風に、ほむらは「そうね」と小さく頷いた。
 相手も気付いているのなら、下手な同調は不要だからだ。
 正直な気持ちを言ってやった方がお互いのためになる。
「私は不要な不和は避けたいの。信用出来ない人間とは行動するべきじゃないわ」
「火火ッ……! こいつぁ随分とハッキリ言ってくれるじゃねぇか嬢ちゃん!」
 そういって不敵に笑ってみせる葛西。
「その方がいっそ気持ちいいぜ」とさも愉快そうに続ける。
 ひとしきり笑ったあと、葛西は真剣な面持ちで言った。
「そーいうワケだ、悪いな鳳凰院、オレは降りさせて貰うぜ」
「だ、だが待て! こんな夜道を一人で歩くのは危険すぎる……!」
「だったらこの先の町の民家で朝が来るまでゆっくり休むさ……静かな町だぜ、ありゃ。身を隠すには最適だ」
 この田舎道ならば、目と鼻の先である空見町にもすぐに辿り付けよう。
 下手に仲間を求めて動き回るよりも、単独ならばその方が安全でもある。
 もっとも、民家に隠れているところを敵に見付けられなければ、の話だが。
「それに、おじさんもう歳でなぁ…一日中歩きまわったもんだから疲れちまってしょーがねぇ。
 実のところ、お前らと一緒にいるよりも、とっととどっかの民家のベッドで休みたいんだよ」
 暖かい布団が待ってるぜ、などと。
 この男はそんなことを冗談半分に言うのだ。
 ほむらの中での警戒心は、もう随分と小さくなっていた。
 この中年は、ただの取るに足らない一般人だ。
 何の事はない、ここで別れるというのなら、それも悪くない。
 最初から出会わなかった、でいい。その方が互いのためだ。

89プレイ・ウィズ・ファイア ◆QpsnHG41Mg:2013/04/07(日) 03:17:35 ID:lhG5GJtc0
 それから暫し互いにとりとめもない会話を交わし、葛西は車を降りた。
 発進するGトレーラーの助手席に向けて、葛西が手を振る。
「そんじゃ、見送りはここまでだ。せいぜい気をつけるこったな」
「そっちこそ。互いに生き残れることを祈っている……次に会う時は、ゲーム終了後であらんことを」
「火火ッ…そうなるといいよなぁ。んじゃ、オレもそーいう風に祈っとくとするかねぇ」
 その会話を最後に、Gトレーラーは発進した。
 どうやら葛西は岡部を気に入ったらしく、素直ではないが、心配するような顔も見せていた。
 短い付き合いだったが、両者の間には奇妙な友情のようなものが芽生えていたとほむらは思う。
 もっとも、ほむらにそんなものは理解出来ないし、必要のないものを尊重する気もないが。
 サイドミラーを見れば、随分と小さくなっていく葛西は、今もまだ手を振っていた。
 確かに、何だかんだで、いい人間ではあったのかもしれない。

          ○○○

「ほんとによぉ……気をつけてほしいもんだぜ、まだ若いんだしよぉ」
 彼方へと走り去り、もう見えなくなったGトレーラーに葛西は微笑みを向ける。
 岡部もほむらも、まだ若い。中年の葛西よりもずっと若く、未来に溢れている。
 ほむらの方はいけすかないが、岡部の方は若いなりに中々いい男だった。
 まさかこの歳になってあんなクソウザ……――
 もとい、立派なご高説をして頂けるなんて思ってもみなかった。
 嗚呼、鳳凰院クン。彼は実にいい男だったと、心の底からそう思う。
 彼のような優しい人間こそ、これからの日本に必要な人材なのだと思う。
 本当に、本当に。ああいう物分かりのいい若者は、とてもイイ。
 ……そういえば、あのトレーラーにはG3とかいうトンデモ武装が搭載されていた。
 あれは岡部が装着して戦うのだろうか? 誰でも扱える以上、岡部にとっても頼もしい戦力の筈だ。
 ところで、その誰でも使える武装は、人の領分を越えるのか越えないのか?
 越えるともとれるが、ある意味じゃあれはただの兵器。実に微妙なところだ。
 だが、しかしソレが自分のモノでない以上、邪魔なモノでしかないと思う。
 だから葛西は、あんなものとっとと壊れればいい、と思っていた。
「ま、せいぜい頑張ってくれや」
 火火っと笑いを漏らし、葛西はGトレーラーの進行方向に背を向ける。
 静かで、のどかな、何処かなつかしい田舎道。
 そんな道を、葛西は空見町に向かって歩き始める。
 夜の間は、一日歩き回らされた疲れを癒すのも悪くない。
 明るくなるまで、何処かの民家で電気を点けずに一服していよう。
 それが一番いい。下手に動き回るべからず。最も合理的な判断だ。
 クッソ重たい乖離剣の杖をつきながら、葛西は歩き出す。
 今はもう、とにかく何処かでゆっくり休みたい。
 冷蔵庫にビールでも入っているとさらにいい。
 気の利いたおつまみなんかがあると、もう最高だ。
 この殺し合いを賢く生き残るためには心の健康も大切なのだ。
「火火ッ……そうそう、"賢く"生き残らなきゃいけねぇ」
 ちょうどその時、随分と離れた後方から、派手な爆発音が聞こえた。
 別段驚きもしない。わかりきっていたことのように、後方をぼんやりと見る。
 Gトレーラーが走り去っていった方向から、火の手が上がっている。
「おいおい、だから言ったじゃねぇか……気をつけろってよぉ」
 さも残念そうに、しかし笑みを零しながら、葛西は言う。
 だが、すぐに興味を失ったように背を向けると、空見町に向かってまた歩き出した。
「ま、まだ若いんだ。火遊びなら止めはしねぇぜ」
 自分も昔はそうだった。
 小さい頃から火遊びが大好きだった。
“嗚呼、あの頃はイイ時代だったよなぁ……”
 葛西善二郎は、なつかしい想い出に浸りながら煙草をふかす。
 満点の星空の下、何処か昔を思い出させてくれる田舎道を歩きながら。
 とてもいい気分だった。
 とても、とても。

90プレイ・ウィズ・ファイア ◆QpsnHG41Mg:2013/04/07(日) 03:18:05 ID:lhG5GJtc0
 

【一日目-夕方】
【D-2/空見町】

【葛西善二郎@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】無所属
【状態】健康、上機嫌
【首輪】所持メダル210(増加中):貯蓄メダル0
【コア】ゴリラ×1
【装備】乖離剣エア、炎の燃料(残量80%)
【道具】基本支給品一式×3、愛用の煙草「じOKER」×十カートン+マッチ五箱@魔人探偵脳噛ネウロ、スタングレネード×6@現実、《剥離剤(リムーバー)》@インフィニット・ストラトス、ランダム支給品1〜4(仁美+キャスター)
【思考・状況】
基本:人間として生き延びる。そのために自陣営の勝利も視野に入れて逃げもするし殺しもする。
 1.夜の間は大人しく民家で隠れとくか。
 2.殺せる連中は殺せるうちに殺しておくか。
 3.鴻上ファウンデーション、ライドベンダー、ね。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※ライダースーツの男(後藤慎太郎)の名前を知りません。
※シックスの関与もあると考えています。
※「生き延びること」が欲望であるため、生存に繋がる行動(強力な武器を手に入れる、敵対者を減らす等)をとる度にメダルが増加していきます。
※炎の燃料をさらに5%消費しました。

          ○○○

91プレイ・ウィズ・ファイア ◆QpsnHG41Mg:2013/04/07(日) 03:18:54 ID:lhG5GJtc0
 
 暁美ほむらの念頭から、既に葛西善二郎は消えかかっていた。
 無駄なことを覚えるのは、脳の容量の無駄遣いだからだ。
 無駄なことはしない。必要のないものは切り捨てる。
 自ずとあのクズっぽい中年のことは忘れようとしていた。
 そんな、せっかく忘れようとしていた時、助手席に座る岡部が口を開いた。
「なあ、コマンダーよ……あの人は、言う程悪い人ではなかったのではないか」
「……そうね、確かに悪い人ではないかもしれないわ」
 ただ、気に入らないのだ。
 真剣に、生き残りをかけて戦うほむらは、ああいう手合いを味方に引き入れない。
 ああいう無気力な男は、いつかかならず不和を生む。
 あの男一人のために統率がとれなくなるのは馬鹿な話だ。
 岡部一人でも既に十分面倒臭いのに、そんなことになるのは非常にマズい。
 だから、本人も同行を望まないようだし、無理して同行して貰う必要もない。
 今回はなるべくしてそうなった。当然の結果だったと思う。
「…あの人は、自分の意思で同行を拒否した。だからオレも何も言わなかった……」
 岡部の真剣な声。
「だが、今後救いを求める誰かが現れたなら…信用が出来ないからと捨て置くことは、オレには出来ない」
「何が言いたいのかしら」
「オレは決めたのだ。もう決してへこたれてたまるものか、どんな時でも前へ向かって邁進してやるのだ、とな」
「……それは、立派な心がけね。その考えが逆に不要な犠牲を生まなければいいけれど」
「オレは、もうまゆりやダルのような、不必要な犠牲を出さないために、そう決めた!」
「彼のような男を味方に引き入れること自体が、貴方の目指すモノとは真逆の未来に繋がるのよ」
「そんなことは分からないだろう? 仮にそうだとしても、オレはもう、どんな時も諦めない!」
 強い、決意のこもった眼差し。
 ダイヤモンドのように澄んだ、強い眼差し。
 それをほむらに向けて、力強く言った。
「オレは友に、そう誓った」
 強い決意の意思表明。
 刹那、エンジンが異音を放った。
 不審に思う暇もなく、爆発の轟音が耳を劈き、灼熱の業火が全てを焼き払った。

          ○○○

92プレイ・ウィズ・ファイア ◆QpsnHG41Mg:2013/04/07(日) 03:20:13 ID:lhG5GJtc0
 
 不死身の魔法少女であること。
 魔力で身体が強化されていたこと。
 そして、爆発を認識すると同時に時間を停止し、車両から飛び出たこと。
 それらが幸いとなって、暁美ほむらは辛うじて五体満足のまま、車外へ放り出された。
 爆風に煽られて吹っ飛んだほむらの身体は、傍の田んぼに落ち、水と泥の飛沫をあげる。
 大量の泥と水がほむらの口から入り込み、思わずせき込む。
「……ぐ……ぅっ……げほっ、げほっ!」
 幸いにも、着地地点が田んぼだったことで、身体についた火はすぐに消えた。
 火傷によるダメージは最小限に抑えられたが、それでも皮膚が焼けたことに変わりはない。
 泥まみれになりながらも、ほむらは火傷の痛みを堪えて、田んぼから這いずり出た。
 見れば、Gトレーラーは完全にひっくり返って、真っ黒焦げに焼けていた。
 エンジン部に最も近い運転席のダメージは甚大だった。
 硝子は粉々に砕け散って、運転席は押し潰されている。
 ごうごうと燃える火の中で、ほむらは血まみれの腕がちぎれて転がっているのを見た。
 白衣だったものは、目の前でただの煤と灰になって、消えてなくなっていた。
「………。」
 何もいうことはない。
 目の前の事実を、ただ粛々と受け入れるだけだ。
 今までだって、ずっとそうしてきた。それがほむらの戦いだった。
 かつて車だった筈の小さな地獄の中から、岡部の声が聞こえる筈もない。
 おそらくは即死だろう。
 身体はとっくに焼け焦げ、原形すら残さず押し潰されていることだろう。
 車の事故で、人が原型を留めることなく死亡する話など、よくあることだ。
 岡部の生死を確認しようとはしなかった。
 ほむらが時間を停めた瞬間、岡部は止まった時の中で炎に呑まれていた。
 強い決意を宿していた目玉は火で粟立ち、表情は苦悶に歪んでいた。
 時間の止まった空間の中、今から連れ出しても助からないだろうと判断した。
 煉獄の中で苦しみもがき、あのあと彼は、すぐに逝ったのだろう。
 わざわざ無惨な遺体を確認して、自分の"傷"を増やす必要もない。
 それよりも考えるべきは。
「葛西善二郎……あの男……ッ!」
 憎々しげに、ギリリと音を立てて奥歯を噛む。
 完全に油断していた。というよりも、油断させられていた。
 おそらく、ヤツはトレーラーのエンジン部に何らかの細工をしたのだ。
 走り出せば、少しずつ火の手がエンジンに回りいつかは着火するように。
 とんだ策士だ。この殺し合いにおいて、もっとも下衆な手合いだ。
 岡部は、葛西のことを信じていたのに。信じようとしていたのに!
 ――いや、やめよう。
 そんなことは言うだけ無意味だ。
 無駄な感傷で行動をするのは愚者のすることだ。
 今はただ、やられてしまった事実を受け入れること。
 そして、これからどう落とし前をつけるか。
 それだけを考えた方がいい。
「……今からでは、もう追い付けない」
 あの男は民家でゆっくり休みたいと言っていた。
 この広大な町の中、ヤツが隠れ潜んでる民家だけをポンポイントに狙うことなど不可能。
 かといって、ヤツ一人を仕留めるために町そのものを焼き払うのはリスクが多過ぎる。
 そもそもの話、そんなことをするだけの手段もない。
 第一、メダルだってもう残り少ないのだ。
「そう……分かったわ、葛西善二郎」
 これは、高い授業料だと考える事にしよう。
 Gトレーラーと岡部の命という授業料を支払って。
 ほむらは、油断すればこうなるということを改めて教わった。
 これは、貴重な経験だ。必ず自分の糧として次に活かさねばならない。
「次に出会った時は――必ず殺すわ」
 絶対に。絶対に油断なく一撃で殺しにかかろう。
 この落とし前は、いつか必ずつけさせて貰う。
 静かな怒りに燃えながら、ほむらは月を見上げて宣戦を布告する。




【岡部倫太郎@Steins;Gate 死亡】




【一日目-夜】
【D-2 田んぼ道】

93プレイ・ウィズ・ファイア ◆QpsnHG41Mg:2013/04/07(日) 03:20:32 ID:lhG5GJtc0
 
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】ダメージ(中)、火傷、泥まみれ、全身ずぶぬれ、苛立ち
【首輪】10枚:0枚
【装備】ソウルジェム(ほむら)@魔法少女まどか☆マギカ、G3-Xの武装一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ダイバージェンスメーター【*.83 6 7%】@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、鹿目まどかを救う。
 0.岡部の死による、葛西への激しくも静かな怒り
 1.仲間と戦力及びメダルを補充する。
 2.葛西善二郎、バーサーカー、青い装甲の男(海東大樹)、金髪の女(セシリア)を警戒する。次に見つけたら躊躇なく殺す。
 3.岡部倫太郎と行動するのは構わないのだが……。
 4.虎徹の掲げる「正義」への苛立ち。
 5.泥を洗い流して着替えたい。
【備考】
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
※未来の結果を変える為には世界線を越えなければならないのだと判断しました。
※所持している武装は、GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GS-03デストロイヤー、GX-05ケルベロス、
 GK-06ユニコーン、GXランチャー、GX-05の弾倉×2です。 武装一式はほむらの左腕の盾の中に収納されています。
※ダイバージェンスメーターの数値が、いつ、どのような条件で、どのように変化するかは、後続の書き手さんにお任せします。

※GA-04アンタレスをバーサーカーのために消費しました。
※自分の支給品は盾の中に入れているので無事です。

【全体備考】
※Gトレーラーは完全に破壊されました。
※Gトレーラーの周囲には岡部倫太郎の所持していたメダル85枚が散らばっています。

94名無しさん:2013/04/07(日) 03:21:02 ID:lhG5GJtc0
投下終了です。

95名無しさん:2013/04/07(日) 20:17:10 ID:LQtkJkA6O
投下乙です。

いや〜さすが葛西。ダルや仁美といい見事な不意討ちですね。

ちなみに葛西はどうやってホムホムと狂真の二人に気付かずにエンジンに火を仕掛けたのですかね?
どうしてもわからない昆虫並みの頭脳の私に教えて下さい。

96名無しさん:2013/04/07(日) 22:06:22 ID:pINcZxFQ0
投下乙です
バーサーカー捕まったか。しばらく他の人達は安全か?
葛西も頑張るなあ

あ、>>95の疑問は私もちょっと思いました
流石に車内で燃料を零せば二人も目視で気付くだろうし、それが無理でも異臭で疑問を持つのではないかと

97名無しさん:2013/04/07(日) 23:17:50 ID:LQtkJkA6O
今さら気付いたけど、葛西って燃料を装備しているからかなり油の臭いがするんじゃない?

98 ◆QpsnHG41Mg:2013/04/08(月) 01:10:08 ID:oWnpUpkU0
いやはや当然の指摘かと思います
修正スレにその謎の真相を投下してきました
ご確認よろしくです

>>97
そりゃ剥き出しで持ってるなら臭いも漏れるでしょうけど
何も剥き出しでガソリン持ってるワケじゃないと思いますよ

99名無しさん:2013/04/08(月) 03:45:32 ID:NmCXsbHEO
いや、剥き出しじゃないとしても、灯油を装備しているから例え灯油自体を隠せても油の臭いは隠せられないと思う。

100名無しさん:2013/04/08(月) 04:07:20 ID:Qft5eVOM0
いくらなんでもそれは言いがかりでしょう。
葛西の持つ「炎の燃料」が正式に灯油だと明記されたことはないし、大体常に灯油の臭いをさせているなら今までの話の時点で他のキャラが気付かなかったことも不自然になる。
原作で常に灯油の臭いをさせているという描写もない以上、それを必要不可分の描写として指摘するのはどうかと。

101名無しさん:2013/04/08(月) 09:17:00 ID:NmCXsbHEO
確かに>>100さんの言う通りです。
細かい事をぐちぐち言ってすみません。

102名無しさん:2013/04/08(月) 15:25:34 ID:MxHDacAc0
投下乙です

葛西さんは人間の可能性を大事にする人だからなあ
人外や異能力者がいると反骨心が沸くというかなんというか
放火魔で殺人鬼だけどなw
してやられたほむらの反撃に期待……といいたいが精神的に追い詰められたキャラはこのまま坂道を転がり落ちそう

103 ◆QpsnHG41Mg:2013/04/10(水) 05:58:26 ID:q1lFltaI0
投下します

104 ◆QpsnHG41Mg:2013/04/10(水) 05:59:08 ID:q1lFltaI0
 どうやら既に参加者の三分の一は死んでいるらしい。
 想像以上に加速していた殺し合いに、加頭順は若干の焦りを覚える。
 この場にはあの大道克己をも越える脅威がまだ多くいるだろう。
 そんな中で、自分に残されたメダルはあまりにも少なすぎる。
 次の戦いで確実に誰かからメダルを奪い取らねばマズい。
 少なくとも、今唯一所持しているコアメダルが回復するまでは待とう。
 そう思い、放送後一時間程度をビルの一室で隠れて過ごした加頭は、
 トラのメダルに再び色が戻っていることに気付き安心する。
 少し心もとないがメダルはこれでとりあえずよしとしよう。
 さて次に加頭が考えるのは、ポケットの中で輝く緑色の石だった。
 一時間ほど前から気付いていたが、月の石が何かに反応を示している。
 一体何に反応を示しているのかも加頭にはわからない。
 だが、加頭はこれを何とかして自らの身体に取り込めないか考えていた。
 霊石を身体に取り込むことで力を得られる仮面ライダーもいるのだ。
 それと同じことが加頭にも出来れば……
“だが、方法が分からない……外科手術もなしに、どうやってこれを取り込めば?”
 ……いや、分からないなら今は考えるだけ無駄だ。
 今考えるべきは、どうやってセルメダルを増やすか。
 どうやって生き残り、冴子への愛を証明するか。
 最早引き下がる道はない。
 何としてでも、冴子への愛を貫かねばならない。
 加頭は次の獲物を求めて、再び街へ繰り出るのだった。

          ○○○

 それから数分後――
 加頭は今、ナスカドーパントとなって空を飛び回っている。
 体色は、青。やはり赤の身体はいつでも自由に使えるワケではないらしい。
 飛来した赤く輝く追尾弾を回避し、ナスカブレードで叩き落とし、加頭は思考する。
“最も恐れていたことが起こってしまいました……私、ピンチです”
 今し方叩き落した追尾弾による爆風に煽られながらも、空中で姿勢制御するナスカ。
 いや、止まっている暇はない。止まれば、"ヤツ"の放つ兵器の餌食だ。
 能面を張り付けて空に浮かぶ純白の天使を視界に捉えながら、ナスカは高速で飛ぶ。
 ナスカウイングを羽ばたかせて、あの天使を斬り裂いてやろうと加速する。
 そんなナスカを待ち受けるのは、あの赤き追尾弾。
 それがナスカを撹乱し、牽制し、真っ直ぐな飛行を阻害する。
 一発一発を回避し、撃墜し、少しずつヤツに接近するナスカ。
 また次の一発を回避したと思った次の瞬間。
「なッ――」
 目の前には既に、あの天使が肉薄してきていた。
 桃色の髪を揺らして、振りかぶった拳。それをパンチと認識するのに一秒もかからない。
 加頭は咄嗟にナスカブレードを盾代わりに構え、その拳を受けた。
 瞬間的にとんでもない威力がナスカの全身にビリビリと響いた。
 ぎゅんと音を立てて地面へ落下するナスカ。
 背中にアスファルトによる打撃の衝撃を受けて、全身が一瞬麻痺する。
 これが常人であったなら、既に加頭は死んでいただろう。
 死なないにしても、もう暫くはこれで動けなくなっていただろう。
 自分がNEVERで、ドーパントだったことを幸いに思う。
 見上げた空では、あの天使が巨大な砲門を構えてこっちを見下ろしていた。

105 ◆QpsnHG41Mg:2013/04/10(水) 05:59:39 ID:q1lFltaI0
 確実にトドメを刺しにかかる気だ。マズい。
 そんなことはさせるかと、ウイングで地を叩き再び空へと跳ね上がるナスカ。
 あの天使の顔が、確実にこれで終わると思っていたのだろう、僅かに歪んだ。
 これ好機にと超高速を発動させ、一瞬のうちに空へと舞い上がるナスカ。
 ただでさえコアメダルを消費して変身しているのだから、
 超高速などといったメダルを消費する技は出来れば避けたかった。
 だが、今のダメージの回復で、どの道メダルはもう尽きそうだ。
 だったら、今の隙を突いて一瞬でキメてやるしかない。
 それが出来なかったら、もうチャンスはやってこない。
 そう思ったナスカの一撃。刃にナスカの全エネルギーを集中させる。
 光迸るナスカブレードによる一閃は――
「「――ッ!?」」
 なんということだろう。
 よもや超高速すらも、あの天使は見切ったのだ。
 確実に身体を両断するハズだった一撃は、寸でのところで回避される。
 だが、しかし無断に終わったワケでもない。
 ナスカブレードは、天使の片翼を根元付近で切断していた。
 彼の天使の命とも言える可変ウイングの片方を、ナスカの全エネルギーをかけて奪い去ったのだ。
「!?!?!?」
 空中での姿勢制御に異常をきたし、フラつく天使。
 回転をやめる寸前のコマのように、彼女の身体がくるくると舞って落ちていく。
 コアメダルの力は尽きた。だが、セルメダルがまだ僅かに残っている。
「私の、勝ちだ――!」
 空中でナスカウイングを羽ばたかせ、下方へ向けて急加速。
 ブレードを構えて突貫するが、しかしその瞬間――
「あなたは今……油断した」
「なっ……」
 勝利を確信したその瞬間。
 天使が、一瞬だけ片翼を羽ばたかせ、加速した。
 ほんのワンセコンドの加速で、少女はナスカの背後へと回り込み。
 壮絶な威力を誇る拳を、ナスカの背部に叩き込んだ。
「ぐあッ!?」
 これはたまらない。
 ナスカの身体が、さっきと同じ要領で地に落ちる。
 地面に激突し、アスファルトに亀裂を生じさせ、砂埃をあげる。
 一瞬遅れて、どさりと大きな音が響いて、ナスカの後方に天使も落下していた。

          ○○○

 ポーカーフェイスの彼女にしては珍しく、その表情に苦悶を浮かべるイカロス。
 翼が片方、奪われた。大切な可変ウイングが。マスターの元へ行くための翼が。
 地面に落ちた、もう使えない片翼を見て、イカロスの顔が陰る。
「……まだ、飛べる……けど、以前のような加速は……不可能」
 その結論に達して、イカロスは大幅なパワーダウンを確信した。
 そこらの鳥よりはまだ幾分か早く、正確に飛ぶことは出来るだろう。
 だが、戦闘に必要なだけの機動力や、マッハを越える飛行はもう不可能だ。
 随分と大きなハンデを背負わされた。
 いや、それでもエンジェロイドの性能を考えればまだ十分此方が有利か。
 まだ息をしている、さっきまで青い怪人だった男にキッと視線を向け、イカロスは歩き出す。
 最初に彼に襲いかかったのはこっちだ。
 街を白い服の男が歩いていたから、何も考えずに襲いかかった。
 見月そはらもアストレアも死んだ今、思考などしていられる状況では無かった。
 私がやらなければならない。私がマスターを救わなければならない。
 その思いがイカロスを駆り立てて、緑でない陣営の参加者を襲わせたのだ。
 そしたら男は青い怪人になって応戦し――今に至るというワケだった。
 それがまさか、こんな深手を負わされることになるなどとその時のイカロスは思っていなかった。
 別に憎くはない。やられたことはもう仕方がない。
 だが、やられた借りは返さなければいけないと思う。
 加頭順を明確な敵として認識し、この手でその命を奪い取ってやろう。
 そして、ウヴァに言われたように、メダルをすぐに補充してやろう。

106 ◆QpsnHG41Mg:2013/04/10(水) 06:00:30 ID:q1lFltaI0
「メ、メモリが……」
 近くに落ちていた銀のベルトとメモリを回収しようと手を伸ばす加頭。
 そんな加頭の目の前で、イカロスはその橙色のメモリを踏み砕いた。
 パキン、という小さな音があっけなく響いて、男の顔が蒼白になった。
 ナスカメモリと呼ばれるガイアメモリの最期だった。
「わ…たしの……愛、が………」
 わなわなと震える加頭を、イカロスは無表情で見下ろす。
「……愛………?」
 無表情ながらに、小さく疑問を漏らすイカロス。
 加頭は怒りに双眸を滾らせながら、ゆらりと立ち上がった。
 漆黒の宝石のような、深い闇のような加頭の双眸。
「き……さま………」
 感情の起伏の乏しい声音に、確かに静かな怒りを感じる。

 ――その時、不思議なことが起こった。
 
 震える加頭に呼応するように、加頭のポケットから何かが飛び出た。
 半歩身を引き、身構えるイカロスを――緑色の輝きが、吹き飛ばした。
 完全に予想だにしない展開だった。
 念動力のような、不思議な力に吹き飛ばされたイカロス。
 ダメージはない。ただ、吹き飛ばされただけだ。
 だが、不思議と動けない。動いてはいけないような、厳かな空気感。
 イカロスのシステムが脳内にアラートを鳴らし、その危険を伝えている。
“……何が!?”
 宙に浮かんだ緑色の未確認物質が、吸い込まれるように、降下してゆく。
 その足元にあるのは、あの銀色のベルトだった。
 そのベルトが、さっきメモリを吸い込んだのと同じように――
 緑色の石が、ベルトに吸い込まれるようにバックルに溶け込んで行く。
 次にベルト自身が、砕け散ったT2ナスカメモリの破片を吸い寄せ、同じ様に吸収。
 ガイアドライバーは数秒間緑に発光を続け、そして次第に輝きを失っていった。
「……なにを…したの……?」
「……………」
 加頭は、イカロスの問いに答えない。
 ただ、闘志に燃える漆黒の瞳をイカロスに向ける。
 それは、加頭自身も何が起こったのか分かっていない、という方が正確だった。
 緑色の石は、ただ加頭の強い思いに応えて、勝手に行動しただけに過ぎない。
 そこに加頭の意思はないし、その答えを知る者は誰もいない。
 石の意思は如何に……?

          ○○○

 何が起こったのかわからず、加頭は茫然と立ち尽くす。
 あのイカロスも今は警戒して向こうからは手を出して来ない。
 厳かな空気が、完全な沈黙が両者の間に流れていた。
“何を……した……? キングストーン……?”
 心中で問うても、キングストーンは何も答えはしない。
 さっきまで眩く輝いていたというのに、ベルトに溶け込んでからというもの、もう輝きすら発しなくなった。
 そのガイアドライバーにも、外見上何の変化も見られない。
 だが、そこで加頭は考える。
 ガイアドライバーとは、ガイアメモリを吸収して取り込み、使用者と融合させるベルトだ。
 その特性を持ったベルトが、メモリよろしく、キングストーンを取り込んだ……?

107悪の華シャドームーン ◆QpsnHG41Mg:2013/04/10(水) 06:01:58 ID:q1lFltaI0
“まさか……”
 可能性はある。
 いや、可能性といっても、具体的に何が起こるのかはわからない。
 わからないが、しかし、変身能力を助けるベルトが、変身の源を取り込んだのだ。
 というよりも、正確にはあの不思議な石がベルトに自らを取り込ませたというべきか。
 ならば、あのベルトを使えば――もう一度、"何か"に変身出来る可能性がある。
 加頭とイカロスの睨み合い……その最中、加頭は弾かれたように動いた。
 落ちていたガイアドライバーを掴み、もう一度構える。
 その刹那だった。
「なっ――」
 違和感。
 体内に、首輪に。
 不思議な違和感を感じる。
「メ、メダル……が……」
 所持していたなけなしのメダルが、消失していく。
 三十枚は持っていたハズのメダルが、加速度的になくなってゆく。
 ほんの一瞬で、所持メダルがたったの十枚以下にまで減らされていた。
 一体何故、何にメダルを消費させられたのか?
 それについて考えるよりも先に、加頭はガイアドライバーの変化に気がついた。
 ドライバーのスロットから、一本のガイアメモリが精製され、射出されていた。
 それは、T2メモリと同じ規格の、綺麗な長方形のガイアメモリ。
 銀色のメモリの中心に、緑色で世紀王の紋章が刻まれている。
「これが……世紀王の……ガイア、メモリ……?」
 何が起こっているのか、とことん加頭には理解出来ない。
 ガイアドライバー自身にメモリを精製するシステムなどはないのだ。
 だいたい、石がメモリになるだなんて非常識も普通に考えればおかしい。
 だがしかし、加頭には妙な確信があった。
 自分はまだ戦えるという、妙な確信があった。
 ガイアドライバーを見れば、まるで自分の役目を終えたかのように――
 何十年も使い古されたガラクタのように錆び付き、バラバラになっていた。
 もはや、加頭に残されたものはこのシャドームーンのガイアメモリのみ。
 意を決した加頭は、ガイアメモリに触れ――
 次の瞬間、加頭の頭に、膨大な記憶が流れ込んで来た。
 黒い身体に、赤い複眼の太陽の戦士とともに生まれた時のこと。
 長い時間をかけて、機械による改造を経て今の銀色の鎧の姿になったこと。
 数々の怪人と幹部を引き連れて、日本を恐怖のどん底に叩き落したこと。
 そして、仮面ライダーへの、ブラックサンへの激しい闘争心。
 シャドームーンの世紀王としての記憶が、加頭に流れ込んでくる。
「これが………世紀王……シャドー……ムーン………」
 うわごとのように呟いて、そこで加頭の意識は途絶えた。
 途絶えた、というのは正確ではない。奪われた、というべきか。
 T2ガイアメモリとは、所有者の意識を奪い、暴走を始める危険なメモリだ。
 T2ナスカを媒介にして生まれ変わった世紀王のメモリは、やはりT2メモリの常識に漏れない。
 T2シャドームーンメモリは今、加頭の意識を独占し、自ら加頭の体内へと潜り込んだのだ。
 今キングストーンは、死人の身体を借りて、再び世紀王の姿を顕現させようとしていた。

          ○○○

 イカロスの目の前に、銀色の戦士がいる。
 カシャン、カシャン。奇妙な音を立てて、そいつがこっちに向き直った。
 銀色の鎧。その腹部に輝くのは、緑色に輝く宝石を収めた漆黒のベルト。
 両手に短剣と長剣を携えて、緑の複眼はイカロスをじいっと見据える。
 その複眼に宿る意思は、殺意。
 明確な、何の淀みもない百パーセント純粋な殺意。
 ただ目の前の障害を、イカロスを排除しようという意思なき意思。
「……危険………」
 こいつは、危険だ。
 意思のない災厄は、災害と何も変わらない。
 だが、だからといって逃げると言う選択肢もない。
 片翼しか使えないのは少々痛いが、エンジェロイドが遅れを取ることもあるまい。
 その双眸を赤く変化させ、戦闘モードへと移行したイカロスは、
 ただ無言でそこに佇むシャドームーンに対し構えを取った。

【一日目-夜】
【E-6 市街地】

【イカロス@そらのおとしもの】

108悪の華シャドームーン ◆QpsnHG41Mg:2013/04/10(水) 06:02:49 ID:q1lFltaI0
【所属】緑
【状態】健康、片翼、そはらとアストレアの死に動揺
【首輪】50枚:0枚
【コア】エビ、カニ(一定時間使用不可)
【装備】なし
【道具】基本支給品×2、アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:本物のマスターに会うため、偽物の世界は壊す。
1.本物のマスターに会うためにまずは目の前のシャドームーンを倒す。
2.嘘偽りのないマスターに会うために緑陣営以外は殲滅する。
3.共に日々を過ごしたマスターに会うために緑を優勝させねば。
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力について、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していません。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」だと確信しています。
※「『自身の記憶にないもの』は敵」かどうかは決めあぐねています。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。
 それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
 『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります(1マス一辺あたりの直径五キロ計算)。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です
※片翼をもがれました。今や片翼の堕天使です。
 それにともない以前のようなブッ飛んだ加速力と安定性を失いました。

109悪の華シャドームーン ◆QpsnHG41Mg:2013/04/10(水) 06:03:14 ID:q1lFltaI0
 

          ○○○

 加頭が立っているのは、瓦礫の廃墟の中だった。
 空は晴れている。太陽の日差しが暖かく、ここはさっきまでの場所とは違うことを悟る。
 私はどうしたのだ? そう思いながら周囲をぐるりと見渡してみる。
 あっちこっちから、無辜なる人々の悲鳴が聞こえる。
 あっちこっちから、ひっきりなしに煙が上がっている。
 何かの騒動の真っ最中であろうか?
 何にせよ、これはおそらく――夢だ。ただの幻だ。
 あまりにも突拍子がなさすぎるし、こんな現実は有り得ない。
 現実の自分はどうしてしまったのだろう。まさか、ここがあの世だなんてことはあるまい。
 そう思った時、加頭は妙に耳に残る機械音を聞いた。

 ――カシャン、カシャン、カシャン、カシャン。

 背後から聞こえるその音に、加頭はそっと振り向く。
 そこにいるのは、銀色の戦士……外見的特徴だけをあげるなら、仮面ライダー。
 加頭もよく知るあのダブルによく似た複眼の戦士が、そこに佇んでいた。
 そして、そいつを加頭は知っている。
 そいつが仮面ライダーでないことを知っている。
「お前は……世紀王……シャドームーン…………」
 ごくりと生唾を呑みこむ加頭に、シャドームーンは小さな首肯で答える。
 そして、両手に長さの違う剣を二本構えて、明らかな敵意の籠った眼差しを向ける。
 その眼差しに、加頭はあのシャドームーンが意図することを理解してしまった。
 否、理解したというよりは頭の中にその答えが流れ込んできた、というべきか。
 ヤツはいま、確かめようとしている。
 この加頭順が、本当に創世王の器に相応しいかどうか。
 あの月影ノブヒコ以上の資質を持つに足るかどうかを、確認しようとしている。
 何としてでも次の創世王を決しようと言う、キングストーンの深い執念。
 それを、加頭はひしひしとこの身で感じた。
 月影が死んでしまったなら、それはそれでいい。
 だが、代わりにヤツ以上の創世王の逸材を用意せねばなるまい。
 そう考えているのだ。
「……いいでしょう……私、貴方を認めさせてみせます」
 これは試練だ。
 冴子へ到達するための愛の試練だ。
 加頭の身体が、自分のイメージする最も洗練された姿へと変わる。
 それは、黄金の装甲に、赤い裏地の気高きマントを背負った姿。
 もう現実では幻の存在となってしまった、ユートピアドーパント。
 理想郷の杖を掲げて、加頭は……否、ユートピアは、世紀王に挑む。


【加頭順@仮面ライダーW】
【所属】青
【状態】健康、激しい憎悪、目的達成のための強い覚悟、シャドームーンに変身中、自我無し
【首輪】8枚:0枚
【コア】トラ(10枚目:一定時間使用不可能)
【装備】シャドームーンメモリ、超振動光子剣クリュサオル(メラン)@そらのおとしもの
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:園崎冴子への愛を証明するため、彼女を優勝させる。
0.気絶中(精神世界では意識を保っています)。
1.冴子への愛を示すために、大道克己と美樹さやかは必ずこの手で殺す。
2.T2ナスカメモリは冴子に渡すつもりだったのに……私の愛が……。
3.笹塚衛士は見つけ次第始末する。
【備考】
※参戦時期は園咲冴子への告白後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※アポロガイストからディケイド関連の情報を聞きました。
※アポロガイストから交戦したエターナルについての情報は詳しく聞いていましたが、さやかについてはNEVERのようなゾンビであるとしか聞いていませんでした。そのため魔法少女の弱点がソウルジェムであることを知りません。
※不思議なことに、月の石が発光しています。加頭もそのうち気づくと思われます。
※加頭の現在地、及び何処に向かうかは後続の書き手さんにお任せします。

※以下精神世界における思考。
 1.シャドームーンを倒して、自分のモノにする。

【全体備考】
※破壊されたT2ナスカメモリと月の石を消費しました。
※ガイアドライバーが朽ち果てました。
※E-6市街地にイカロスの片翼が落ちています。

110名無しさん:2013/04/10(水) 06:06:38 ID:q1lFltaI0
投下終了です

111名無しさん:2013/04/10(水) 09:09:44 ID:njJg.Cnc0
投下乙です!
イカロスと一緒に予約された加頭がどうなるか不安だったけど……まさかここまで立ち向かうとは!
ガイアメモリも破壊されたと思いきや、まさかシャドームーンに変身するなんて凄い! でも、メダルも残り少ないんだよね……
イカロスにせよ加頭にせよ、どうなるんだろう。

112名無しさん:2013/04/10(水) 13:32:26 ID:aGoOX4ys0
情けなさ著しい主人公オカリンの無駄死に、ICKあぼーんを彷彿とさせますねえ…w
これは死亡者名鑑が薄くなるな

ドライバーとメモリまで吸収した果てに新種メモリ誕生、月の石さんパネェな
これでシャドームーンに変身したのはいいけど、勝てる……のか?
未だ絶望的な状況を加頭はどう乗り切るのやら

では、お疲れ様でした

113名無しさん:2013/04/10(水) 13:47:46 ID:TSzkwrZY0
投下乙です

なん…だと…
まさかこんな風に新種シャドームーンとか、おま
イカロスと加頭も死んではいないが…
暴走してるのと奉仕マーダーだからなあ、死んだ方がよかったんだけどそれはそれとして先が気になるぜ

114名無しさん:2013/04/10(水) 18:41:13 ID:fcx6hDJs0
すいません、さすがにこの話はまずいと思うのですが…
オリジナル要素というのもありますが、正直理屈が全く納得できません。

115名無しさん:2013/04/11(木) 00:34:02 ID:cm4VFDps0
いやあ、さすがはもう一つのキングストーン、月の石さんマジパネエ。
BLACK世代の人間としては、月影ノブヒコは好きになれなくてねえ……何より弱く見えるのがいけない。
ここでの大暴れも楽しみです。

>>114
BLACKやRXに関する知識を前提とした話の作り方ですので、確かに不親切っちゃあそうかも。
でも、直撃世代にはマジで響くんですよねえ……。ニコ動のアレもいよいよ最終回だし。

116名無しさん:2013/04/11(木) 01:10:16 ID:Ok03MeiE0
投下

117名無しさん:2013/04/11(木) 01:12:10 ID:Ok03MeiE0
失礼、ミスりました。

投下乙…と言いたいところですが、やはり問題点を無視できません。
この話の肝はキングストーンがT2ナスカメモリとドライバーと融合して新しいメモリが生まれた点なのだろうと思いますが、
原作中にキングストーンが他の固形アイテムを吸収して進化するという描写があった記憶はありませんし、
T2ガイアメモリが外部からの刺激で変質するという設定があったとも、自分は記憶していません。
「不思議なことが起こった」という万能とご都合主義の紙一重である言葉を盾に、ご都合主義そのものの展開を行ったように感じました。
原典のRX作中においても実際にご都合主義と取れる展開はありましたが、それを免罪符に「リスペクトだ」と言われた時には、正直扱いに困ります。
原作中に見られない使用例を「キングストーンを使えば何でもアリ」で将来も通用させる土壌になるのが怖いです。

もしかしたら私の記憶が正しくないかもしれませんが、よろしければ納得のいくような理由付けをお願いできますか。

118<削除>:<削除>
<削除>

119名無しさん:2013/04/11(木) 02:15:58 ID:ubrVJYJ.0
投下乙です!
シャドームーンまさかの復活!
イカロスのチート能力も制限かかったし、月影じゃない純粋な世紀王との戦いならそこそこいい勝負なるかも?
その前にメダルなんとかせえって話だけど

個人的にはこれはこれで通してもいいと思うけど。
確かにメモリとか無理矢理な展開は否めないけど、実際ガイアメモリにはレジェンドライダーシリーズとかもあるし、それによって起こった結果は「シャドームーンへの変身能力を得た」だけだから、まだそこまでやばいことはしてないと思う。
まあ一応仮投下を通すべきだったかなとは思うけど、他所ではガイアメモリ喰ったら変身なんて(ry
失礼、その話は関係ありませんでしたね。

まぁ何にせよ、次の予約も入ってますし、これ以上続けるようなら議論スレに議題を持ち込んだ方がいいかと。

120名無しさん:2013/04/11(木) 04:39:45 ID:AzGVL0GE0
確かに議論スレのほうがいいか
これに限らずガイアメモリ化は他人との使い回しもできちゃうから、乗っとり復活の乱用とか危惧されるのも分かるし

121名無しさん:2013/04/15(月) 22:07:55 ID:HrKmgTG20
予約破棄か……楽しみにしていたから残念だ

122名無しさん:2013/04/17(水) 12:43:00 ID:jvI9NXME0
したらばの方に修正案が来てるぞ

123名無しさん:2013/04/18(木) 08:06:11 ID:Kkk3VSQM0
予約来たね

124 ◆qp1M9UH9gw:2013/04/22(月) 02:19:11 ID:oRPUTvQE0
投下します

125正義日記 ◆qp1M9UH9gw:2013/04/22(月) 02:20:53 ID:oRPUTvQE0



 放送の時間を寝過す程、ユーリ・ペトロフという男はずぼらな人間ではない。
 休息を取る際に、ちゃんと備え付けの目覚まし時計が放送直前の時間に機能する様に設定しておいたから、
 彼は放送を聞き逃す事無く、きちんと情報を手に入れられた。

 とりあえず、まだ死んではいない火野と合流すべきだろう。
 まだユーリは彼の"正義"を見極められていないし、気絶していた彼を運んでいった鹿目まどかにも会える。
 彼女が掲げた"正義"にも幾分か興味があったので、彼女とも再会しておきたい所だ。

 さて、放送によれば、ブルーローズとファイアーエンブレムが死んだらしい。
 この殺し合いに呼ばれた四人のヒーローの内、二人が命を落としたという事になる。
 まだ開始から六時間しか経っていないというのに、早くも犠牲となるヒーローが出るとは。
 果たして、あの二人は己の正義を全うできたのだろうか。
 自身に課した"正義"に殉じ、ヒーローとして散ったのだろうか。
 多少気になりはしたが、下手に詮索するつもりはなかった。
 彼らが何を残して逝った所で、ルナティックの考えに変化が生じる訳ではない。
 例え何人"ヒーロー"が死のうが、彼のやる事は一つだけしかないのだ。
 このゲームで悪逆の限りを尽くす者を、一人残らず断罪する。
 如何なる事情があった所で、罪を犯した者には裁きを与えねばならない。
 それこそが、ユーリ・ペトロフ――ルナティックの掲げる、"正義"。


          O       O       O


 ファイアーエンブレムの遺体は、案外簡単に見つかった。
 昼間の戦闘があった場所から少し離れた所に、腹に穴を空けた彼の亡骸が横たわっていたのである。
 遠くには行っていないだろうとは思っていたが、まさかこんな場所で斃れているとは思わなかった。
 こんな場所に死体があったという事は、ユーリが離脱してそう経たない内に彼は殺害されたという事だ。
 ほんの数時間前まで会話を交わしていた相手の死体を前にして、改めてこのゲームが如何に醜悪なものなのかを思い知らされる。
 真木清人とその配下であるグリードは、やはり滅ぼすべき邪悪でしかない。
 鹿目まどかは違うと言っていたが、ガメルもまた死すべき敵と同類であるのだ。
 例え今は罪を犯していなくとも、グリードである以上は何らかの罪を犯す可能性は十分に考えられる。
 張り付いた"悪"のレッテルは、そう容易く剥がせはしないのだ。

 ユーリは近くに気配を感じないのを確認すると、ファイアーエンブレムのマスクを剥ぎ取る。
 マスクの内側にあったのは、未練の張り付いたネイサン・シーモアの顔であった。
 達成感とは無縁なその表情を見れば、彼がどういう最期を遂げたかなど容易に判断できる。
 誰にやられたかは知らないが、とにかく"ヒーロー"として納得のいかない死に方をしたのだろう。
 "ヒーローにとって納得のいかない最期"と言えば、仲間に裏切られるか、仲間を助けられなかったかのどちらかだ。
 ネイサン以外の死体は周囲に見当たらなかった事から、彼の最期は恐らく前者の方だろう。

「――これが現実だ」

 半ば偽善めいた"正義"を果たそうとした結果、護ろうとした者に奪われる。
 彼らの甘さが招いた結果であり、そして彼らの"正義"の限界でもあった。
 ただ護るだけの"正義"だけでは、理想論で塗り固められた"正義"だけでは、全てを解決できはしない。
 ひたすらに"ヒーロー"として戦い続けた先にあるものは、裏切りという名の絶望だけだ。
 どれだけ綺麗に取り繕った所で、現実など所詮こんなものなのである。

126正義日記 ◆qp1M9UH9gw:2013/04/22(月) 02:22:35 ID:oRPUTvQE0

 二人のヒーローが死んだという現実に直面してもなお、ワイルドタイガー達は"ヒーロー"であり続けるのだろう。
 これ以上死人を出させはしないと決心し、今も何処かで戦いを続けているに違いない。
 その志は称えられるべきであり、彼の意思はきっと誰かの心の支えになっているのだろう。
 だが、そんな"正義"では駄目なのだ――殺人を容認しない"正義"は、この場においては危険すぎる。
 如何に己の信条を見せつけた所で、邪悪は常に相手の寝首を掻こうとその目をぎらつかせているのが現実なのだ。
 本当に殺戮を止めたいのなら、己の手を血に染めなければならないのである。

――私は、例えどんな人でも、どんな罪を犯したとしても、やり直すことが出来るって信じたい。
――人間とかグリードとか関係なしに、ちゃんと分かり合えば、みんなで手を取り合えるんだって信じたい。

 そんな事を考えていると、不意に鹿目まどかの言葉が蘇ってきた。
 どんな邪悪でも分かり合えれば、手を取り合って共に戦えるのだと、彼女はそうユーリに説いた。
 言うまでもなく、相手の思想を度外視した綺麗事である。
 綺麗事は何処まで行っても綺麗事以外の何物でもなく、叶う見込みの無い理想論に過ぎない。
 ジェイク・マルチネスを始めとする救いようの無い罪人達にすら手を差し伸べる"正義"など、
 場合によっては排除されるべき害悪にさえなってしまうだろう。
 それでも彼女は、全ての人間が傷ついて欲しくないと願い、あらゆる存在に手を差し伸べるのである。
 "ヒーロー"とは異なる"正義"――しかし、"ヒーロー"と同様に甘すぎる"正義"。
 これもまた、ユーリの求める"正義"とは決して相成れないものであった。

 まどかの決意に興味はあるし、見極める価値があると判断できる。
 しかし、"正義"を見極める事と"正義"を肯定する事は、全く以て別の話である。
 彼女の意思が如何に強固であれど、ユーリの意思もまた強靭だ。
 "悪"はどこまで行っても"悪"以外の何物でもないし、死を以て裁かねばならぬ敵でしかない。
 これまでもずっとその意思に従ってきたし、これから先もそうするつもりだ。
 例え誰の介入があろうと、自分の"正義"は決して揺るぎはしない。

 思い返されるのは、かつて"ヒーロー"だった父親の記憶。
 最初は真っ当な"ヒーロー"だった彼は、何時しか暴力で家庭を破壊する悪人となっていた。
 多くの人間から賞賛を浴びてきた存在は、「伝説」の名を冠していた"ヒーロー"は、家の中では呑んだくれの暴君以外の何物でもなかったのである。
 どれだけ強く抱いていた所で、人間の"正義"など容易く歪んでしまうのだ。
 果たして、火野映司は、鹿目まどかは、そして"ヒーロー"達は、己の"正義"を最後まで貫けるのだろうか?

127正義日記 ◆qp1M9UH9gw:2013/04/22(月) 02:26:39 ID:oRPUTvQE0

 どれだけ"正義"について思いを巡らせても、変わらない事が一つ。
 ルナティックという存在は、これからも罪人を狩り続けていくという事だ。
 あの日、父親を焼き殺したその手が正しかった事を証明する為に、ルナティックは罪を裁いていく。
 無意識の内に口から出てくるのは、まだ"ヒーロー"であった頃の父親から伝えられた、"正義"の信条。


「『悪い奴を、見逃すな』」



【一日目 夜】
【C-7/市街地】

【ユーリ・ペトロフ@TIGER&BUNNY】
【所属】緑
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)
【首輪】60枚:0枚
【コア】チーター(一定時間使用不能)
【装備】ルナティックの装備一式@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:タナトスの声により、罪深き者に正義の裁きを下す。
(訳:人を殺めた者は殺す。最終的には真木も殺す)
 1.火野映司と合流したい。
 2.火野映司の正義を見極める。チーターコアはその時まで保留。
 3.鹿目まどかの正義を見極める。もしまどかが庇った者が罪を犯したら、まどか諸共必ず裁く。
 4.人前で堂々とNEXT能力は使わない。
 5.グリード達とジェイク・マルチネスと仮面ライダーディケイドは必ず裁く。
【備考】
※仮面ライダーオーズが暴走したのは、主催者達が何らかの仕掛けを紫のメダルに施したからと考えています。
※参戦時期は少なくともジェイク死亡後からです。

128 ◆qp1M9UH9gw:2013/04/22(月) 02:27:02 ID:oRPUTvQE0
投下終了です

129名無しさん:2013/04/22(月) 10:39:36 ID:ECDPIb7U0
投下乙です!
ルナティックも何だかんだでヒーロー達の正義を認めてはいるんだろうけど……ロワって厳しいんだよな。
果たして、ルナティックの正義は貫かれるのかどうか。

130名無しさん:2013/04/22(月) 17:46:59 ID:.lcpIGdIO
投下乙です。

ルナティックの言うことももっともなんだよな。

魔女か「みんな救うしかないじゃない!」
とか傍迷惑だし。

131名無しさん:2013/04/22(月) 21:45:46 ID:jmBFroNk0
投下乙です

こいつの根底に過去へのトラウマや正義への狂気がある限りどんな発言しても不安しか感じないなあ

132名無しさん:2013/04/24(水) 08:48:45 ID:z3H53zEE0
予約きたよ!

133名無しさん:2013/04/24(水) 17:40:51 ID:tv4VeKYM0
うおおおお!!
予約二つとも超熱いところじゃん!!

134名無しさん:2013/04/24(水) 23:25:48 ID:oaJEk9yQ0
その二つか
期待大

135 ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:36:36 ID:LEJuJTns0
鏑木・T・虎徹、ジェイク・マルチネス、火野映司、鹿目まどか、巴マミ、桜井智樹、ユーリ・ペトロフを投下します。

136怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:38:14 ID:LEJuJTns0

――――怠惰。

キリスト教における「七つの大罪」の一つ。

怠ける事、だらしがない事。


そして、先延ばしにする事。


  ○ ○ ○


「そんな……仁美ちゃんと杏子ちゃんが……」

定期放送が終わり、最初に声を上げたのは鹿目まどかだった。
傍では巴マミも暗い顔をしながら立ち尽くしている。
志筑仁美と佐倉杏子。
彼女達の友人である二人の死が宣告されたのだ。

「そうか、佐倉杏子が死んだんだね、彼女のような手練の魔法少女が脱落したのは痛い損失だ」

感情が篭っておらず、抑揚のない声調。
言葉を紡いだのはキュゥべえ――――否、インキュベーター。
彼らにとって魔法少女は消耗品でしかない。
杏子との付き合いが長かったからといって、感傷を抱くことは無いのだ。

「あなたは……ホントにッ!」

悲愴から一転、怒りを顕にするまどか。
穏やかな彼女には似合わない感情。
インキュベーターに感情が無いことは知っていたが、それでも怒りを覚えずにいられなかったのだ。
放送が始まる直前、唐突に姿を現したインキュベーター。
彼に言いたいことは山ほどあったが、放送を聞き逃すわけにはいかない。
だから放送を優先し、インキュベーターの対処を保留にしたのだ。

「ガメル……」

一方で映司は自らの罪を突き付けられる。
グリードであるガメルを殺害したこと自体に罪悪感はない。
しかし、彼の死を悲しんだ少女が居た。
それは確固たる事実として、彼の心の中に根付いている。
そして、懸念材料がもう一つ。
放送で「アンク」の名前が呼ばれたこと。
死亡したのは、どちらのアンクだったのか。
今の放送では、どちらが脱落したか分からない。
もう一人のアンクの性格を考えれば、早急に脱落していることが望ましいだろう。
かと言って、今はアンクと顔を合わせたくない。
先の戦いで暴走したこともあり、映司の覚悟は更に揺らぎつつあった。

鹿目まどか、巴マミ、火野映司。
定時放送により齎された情報で、三者三様の悩みに頭を唸らせる。
その、最中。

「嘘、だろ……?」

桜井智樹の腕から、バサッとデイパックが落ちた。

137怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:38:50 ID:LEJuJTns0

「そはらとアストレアが死んだ? ハハッ、あのオッサン、なに言ってんだよ、バカじゃねーの」

ぽかんと口を開きながら、智樹は目を見開く。
手を震わせながら呆然と立ち尽くし、乾いた笑いを口にする。

「残念だけれど、この放送に嘘はないよ」
「そ、そんなはずはねぇ、だってそうだろ、あいつらが死ぬわけがないじゃん」

淡々とした声色のインキュベーターに対し、智樹は早口で捲し立てる。
信じられない現実に直面し、必死で目を背けているようだ。
見月そはらやアストレアが死んでしまったことが、智樹には信じられなかった。
彼女達が簡単に死ぬとは思えなかったし、それに殺し合いに関してもいまいち現実感を抱いていない。
殺し合いが始まってから六時間。
彼がしてきたことと言えば、エロ本を読むか、マミやまどかの胸を見ていたくらい。
龍騎に変身して戦いはしたが、すぐに変身を解いた。
最初に犠牲になった二人以外、一度も死体を見ていない。
殺し合いの渦中にいながら、彼はどこか上の空であった。。

「そうだ……そはらちゃん! いつの間にか居なくなってて……私がもっとしっかりしていれば……」

そはらの名を聞き、まどかは落胆の色を濃くする。
短い時間ではあるが、彼女も「そはら」と顔を合わせていたのだ。
――――実際は「そはら」の名を騙った別人なのだが。

「やめろよ! そんなの……そんなのあいつがホントに死んだみたいじゃねえか!」

大声を張り上げ、まどかの襟首を掴む智樹。
突然の蛮行に抵抗する間もなく、恐怖と驚愕が入り混じった表情を浮かべるまどか。
一触即発の空気が、場を支配する。

「智樹君、やめるんだ」

数秒の沈黙を経て、声を上げたのは一番の年長者でもある映司。
智樹の腕を抑え、まどかの襟首から手を引き剥がす。

「でも、あいつらが死ぬわけが――――!」
「目を背けたくなるのは分かるよ、でも事実なんだ」

何処までも残酷な答え。
そはらとアストレアが、もうこの世にいない。
真剣味のあるその声は、嫌でもそれを実感させる。
智樹は肩を落とし、へなへなとその場に座り込んだ。

「……智樹君」

崩れ落ちた智樹を心配そうに見下ろすまどかとマミ。
再び沈黙が訪れる。

「ごめん」

ゆっくりと立ち上がり、背を向ける智樹。

「ううん、こっちこそごめんね」
「まどかが謝ることじゃねえよ、それよりも……ちょっと一人にさせてくれ」

そう告げた智樹は、返事を聞くこともなくメインルームを後にした。


  ○ ○ ○


「本当に何も知らないんだな?」

智樹が出て行ってから一時間弱が経過したメインルーム。
彼のことは心配だったが、今は一人で気持ちを整理する時間だ。
殺し合いはまだ終わっていない。
不安定な精神状態で挑めば、今度は彼自身の命が失われてしまう。
そう判断して、まどか達は智樹を追い掛けなかった。

それに今の彼らにはやるべき事がある。

138怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:40:06 ID:LEJuJTns0

「だから何度も言ってるじゃないか、あくまで僕はこの周辺の監視を任されているだけなんだ」

映司の質問に対し、呆れ混じりに答えるキュゥべえ。
放送が始まったことで保留になっていたが、映司達は彼への尋問を行なっていた。

「ホントなの、インキュベーター?」
「はぁ、君もしつこいね、それにその呼び方もやめてくれないかな?」

まどかが刺のある尋ね方をする理由は、彼女の参戦時期にあった。
今の彼女は魔法少女システムの全てを知っている。
ソウルジェムの秘密、魔女の生まれ方――――キュゥべえの本性。
自分達を騙すような形で契約を交わした彼に対し、彼女は少なからず怒りを抱いているのだ。

「今の僕達は送信機みたいなものなんだ。此方から情報を送ることはできても、向こうから情報を受け取ることはできないのさ」

キュゥべえの説明によると、彼らは地図上の各施設に一匹ずつ配置されているらしい。
その仕事は参加者の監視。
彼らが直に参加者を「視る」ことで、本部にいる個体がその情報を集める。
インキュベーターの特性を理解した効率のいい仕組みだろう。
しかし、普段の彼らとは違うところがいくつかある。
その一つが、他の個体との繋がりが断絶されていること。
他の施設にいる個体と情報を共有することはできないし、本部にいる個体からも情報は送信されない。
彼らの言葉を使うなら、送信機専用の個体なのだ。

「キュゥべえは本当に何も知らないんじゃないかしら」
「油断しちゃ駄目ですよ。インキュベーターは聞かれなかったことは絶対に答えませんから」

契約に際し、彼らが嘘を吐くことはない。
その代わり、大事な情報も言わない。
自らが不利になる真実は隠し、都合のいい希望だけを振りまくのだ。

「うーん、もしキュゥべえが本当に何かを知っていたとしても、今は答えないんじゃないかな」

頭を捻りながら映司は言う。
これ以上の問答が不毛と判断したのか、彼もまどかを窘める側に回ったようだ。

「……そうみたいですね」

尻尾を枕にして寝そべるキュゥべえを見下ろし、まどかは眉を顰める。
武器を翳して脅迫することを考えたが、無限のバックアップを持つ彼らには然程効果がない。
そもそもいくらキュゥべえと言えど、脅迫などという残酷な手段は取りたくなかった。

「でもその代わり、このインキュベーターは連れ歩くことにします」

何か情報を知っているのなら、彼を連れ歩く価値はあるだろう。
そう判断し、まどかはキュゥべえを抱き抱える。

「あなたのこと、許したわけじゃないからね」
「そうか、それは残念だよ」
「そうやって何でもないことのように言って! マミさんからも何か言ってやってください!」

まどかの怒りも何処吹く風と言うように、キュゥべえが態度を崩すことはない。
その態度が、余計に怒りを助長させる。

「ごめんなさい鹿目さん。ずっとキュゥべえと一緒だったから、騙されてるって分かっても実感が沸かないの」

だが、マミはキュゥべえを責めなかった。
困ったようにはにかみ、申し訳なさそうに告げる。

「もう、マミさんったら……」

煮え切らないマミの態度に、まどかは深く溜息を吐く。
この優しさが彼女の美点であるが、今だけは少々恨めしさを覚えざるを得なかった。

139怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:40:40 ID:LEJuJTns0

「でも、契約は駄目よ」
「それなんだけど……今は契約を交わすことができなくなっているみたいなんだ。だから安心してよ、僕としては不服なんだけどね」

彼の言葉を聞き、まどかはふと疑問に思う。
異世界や時間軸の歪曲、それにインキュベーターの改変。
この殺し合いの主催者は、一体どれほどの力を持っているのだろうか。
想像も及ばない力の大きさに、彼女は改めて恐怖を覚える。

ちょうど、そんなタイミングだった。

外から耳を劈くような爆音が轟き。
遅れるように、大きな衝突音が響いたのは。

「なに、今の音……?」

唐突に鳴り響いた轟音に、まどかは恐怖心を抱く。
ディケイドやメズールのような危険人物が近づいてきたのだろうか。
マミや映司に視線を移すと、同様に険しげな表情を浮かべている。

「……行きましょう」

最初に立ち上がったのはマミ。

「もし誰かが襲われていたら助けないといけないし、それにもし危ない人でもここに入ってくるわ」

彼女達が根城にしているキャッスルドランは非常に目立つ建物だ。
地図上にも明記されているため、誰かが侵入してくる可能性は高い。
もし室内で戦闘になった場合、自衛手段のない智樹に被害が及ぶこともあるだろう。

「まどかちゃん、マミちゃん、危ないと思ったら逃げてね」

オーズドライバーを腰に装着し、窓の下を見下ろす映司。
死角になっているのか、そこから何が起きたのか把握することはできない。

「分かりました」

覚悟を決め、まどかも立ち上がる。
メインルームの扉を開け、長く続く廊下へと足を踏み入れる三人。
そうして智樹が向かった先を一瞥し、彼女達はキャッスルドランの出口へと向かった。


  ○ ○ ○


「これは……交通事故?」

キャッスルドランの扉を開き、真っ先に飛び込んできたのはタイヤ痕。
擦り付けたように黒々と刻まれたタイヤ痕は、舗装されたコンクリートの東側へと続いている。
それを目で追うと、終着点で一台のライドベンダーが横転していた。

「人が!」

そして、ライドベンダーの向こう側に倒れている男が一人。
衣服に血が滲んでおり、遠目からでも重症であることが分かる。
彼がライドベンダーの運転手だったのだろう。
道路に刻まれたタイヤ痕の濃さから、相当速度を出していたことは想像に容易い。
先程の爆音の正体はエンジン音であり、衝突音はライドベンダーが横転した音だろう。
危険人物かと警戒したが、交通事故とあっては話は変わる。
まどか達は一目散に倒れている男へと近付いた。

140怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:41:11 ID:LEJuJTns0

「だ、大丈夫ですか!?」

油の臭気が鼻を突く。
接近することで、改めて男の惨状が伝わってきた。
全身のあらゆる箇所に赤黒い傷が散見し、血に塗れていない箇所などない。
胸部の損傷は特に酷く、確実に肋骨は折れているだろう。
首から上も血だらけであり、鮮やかな黄とピンクで染められていたであろう髪は血に濡れていた。

「うぅ……痛ぇ……」

辛うじて息はあるようで、男は呻き声を上げている。
だが、一刻も早く治療を施す必要があるだろう。

「すぐに治癒魔法を掛けます! 鹿目さんも手伝って!」

ソウルジェムを取り出すと、マミは負傷した男に翳す。
彼女に続くように、まどかもソウルジェムを取り出した。

「待って」

しかし、映司がそれを止める。

「この人……ジェイク・マルチネスだ」

紙束と男の顔を見比べながら、映司は険しい声で言う。
まどかとマミが慌てて顔を覗きこむと、男の顔に錠のような刺青が刻まれていた。
映司が持っている紙束はガメルが遺した詳細名簿。
参加者のパーソナルデータと初期位置が記された代物である。
キュゥべえの尋問をしている間、並行してこれの検分も行なっていた。
その際に目に付いたのが、目の前で転がっている男――――ジェイク・マルチネス。
特徴的な風貌と危険過ぎる経歴から、彼らの記憶に留まっていたのである。

「あんなにスピードを出していたのも、悪さをして誰かに追い掛けられていたからじゃないかな」

持ち前の目敏さで、冷静に状況を解析していく映司。
彼が言葉を発する毎に、ジェイクの顔が露骨に歪んでいく。

「ジェイクさん、どうして貴方が急いでいたのか教えて下さい、そしたら――――」
「ごちゃごちゃウゼぇんだよ糞餓鬼がぁ! うだうだ言ってねぇでとっとと俺様の治療しやがれ!」

罵声と共に指先から紫色の光線を放つジェイク。
光線は映司の持つ紙束を正確に撃ち抜き、瞬く間に炎上させた。

「うわっ!」
「火野さん!!」

炎上する紙束に気を取られている内に、ジェイクは素早く距離を取る。
両者の間にある距離はおよそ三メートル。
まどか達は気付いていないが、ジェイクは先程の交通事故による負傷は一切ない。
地面に激突する直前、バリアを張ることで難を逃れていた。

「鹿目さん!」
「分かりました!」

まどかとマミは同時にソウルジェムを輝かせ、少女から魔法少女へと姿を変える。
流れ作業だったため詳細まで覚えてないが、詳細名簿にはジェイクが大罪を犯した犯罪者であると記されていた。
おそらくこの場でも殺戮を行なってきたのだろう。
人間相手に魔法を行使するのは避けたかったが、取り逃がせば新たな犠牲者が生まれるかもしれない。
相手を無力化する必要があった。

141怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:41:56 ID:LEJuJTns0

「俺も戦うよ」

そして、映司もまどかの横に並ぶ。
オーズドライバーの両端の窪みに赤と緑をメダルを差し込み、最後に黄のメダルを中央に装填。
バックルを斜めに傾け、右腰に装着された円形の機械――――オースキャナーを手に取った。
これで横一列に並んだメダルを読み込むことで、仮面ライダーオーズに変身することができる。

「変――」

腕を交差させ、次々とメダルを読み込んでいく。

赤――――タカ。
黄――――トラ。

だが、最後のバッタメダルを読み込むところで映司の手が止まった。

「火野さん?」

隣にいたまどかが訝しげな目で映司を見上げる。
そうして、彼女は気付いてしまった。
オースキャナーを握る映司の手が、僅かに震えていたことに。

「俺は――――」

幼さの中にも凛々しさを醸し出していた映司。
しかし、今の映司には凛々しさが無い。
恐怖に怯えるような顔は、母の説教に怯える幼子のようだった。

「オラアアアアアァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!」

三人の間に生じた一抹の隙。
それを見逃すほど、ジェイクはお人好しではなかった。
怒声を上げながら、全速力で疾走。
その迫力に気圧された三人は初動が遅れ、三メートルの距離はあっという間に消え去ってしまう。
映司の腰からオーズドライバーを、右手からオースキャナーを剥ぎ取るジェイク。
去り際に足元を光線で撃ち抜き、三人から距離を取った。

「ベルトが!」
「火野さん、捕まって!」

急速に膨張していくコンクリート。
熱を伴った道路は破裂し、破片が周囲へと飛び散る。
まどか達は咄嗟に横に飛ぶことで、コンクリートの破裂から逃れていた。

「ギャハハハハハ!! ざまぁねぇなぁ! ヒーローさんよぉ!」

オーズドライバーを腰に巻き、オースキャナーを構えるジェイク。

「どうしよう、このままじゃあの人がオーズに変身しちゃう」
「大丈夫、オーズに変身できるのは俺だけ――――」

過去にアンクから聞いた言葉。
今の時代でオーズに変身できるのは、封印を解いた映司だけらしい。
故にジェイクに変身されることはない。

映司は、そう思っていた。

142怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:42:32 ID:LEJuJTns0

「な……」

映司の表情が驚愕に歪む。


――――タカ! トラ!! バッタ!!!


オースキャナーが装填された三つのメダルを読み込み、軽快な歌声を奏でる。


――――タ・トバ! タトバ! タ・ト・バ!!


ジェイクの正面に三色の円が出現し、重なりあって一つの紋章となる。
それは彼の胸に取り付くと、全身を別の姿へと変貌させた。
黒を基調としたスーツを、派手な色合いの装甲が包んでいく。
鷹の頭、虎の身体、飛蝗の脚。
上から順に赤、黄、緑の色が印象的な戦士。
仮面ライダーオーズ・タトバコンボだ。

「お〜、これが最新のヒーロースーツか? なかなかスゲェじゃねーか」

満足そうに声を弾ませながら、オーズは自分自身を見回す。
実際はヒーロースーツでは無いのだが、そんなことは彼にとって些末事だ。

「そんな……オーズに変身できるのは俺だけのはずじゃ……」

一方で目の前の光景に動揺を隠せない映司。
実際に対面しても、自分以外がオーズに変身したことが信じることができなかったのだ。

――――この殺し合いを開催するに際し、真木清人は様々な支給品に細工を加えた。
例えば、ファイズのベルト。
オルフェノク以外は変身できない代物だったが、調整することで人間による変身を可能にした。
例えば、紫のメダル。
コアメダルを破壊できる性能を危惧したのか、暴走の危険性を上昇させた。
オーズドライバーに関してもそうだ。
映司のみが変身できるのを不公平と判断したのか、他の参加者でも使用できるように調整されていた。
無論、相応のメダルは要求されるのだが。

「火野さんは下がっててください!」
「一応、キュゥべえも!」

出来ることなら傷つけずに捕縛したかったところだが、オーズに変身したとなれば話は変わってくる。
相手はガメルを殺害し、多くの仮面ライダーを相手に立ち回った戦士だ。
本気で挑まなければ、自分達の命が危険に曝される。
自衛手段のない映司とキュゥべえを避難させ、まどかとマミは左右に別れた。

「とりあえず逃げられないようにしないと……」

ジェイクが交通事故に遭ったのは、おそらくバイクで全速力を出していたからだ。
誰かから逃げていたのか、何らかの目的地があったのか。
理由は分からないが、彼がここで足踏みしている暇がないのは事実だ。
オーズの力を持ち逃げされれば、より多くの被害が出てしまう。
故にここから逃亡されないように立ち回る必要があった。

「降り注げ、天上の矢!」

まどかの手に出現したのは、木の枝を連想させる弓。
頂点の花弁が開くと同時に大量の矢が装填され、一斉に上空へと解き放たれていく。
着弾点はオーズ本人を含んだ道路の東側。
これで道を塞ぐことで、逃亡を阻止することを狙ったのだ。

143怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:43:08 ID:LEJuJTns0

「はぁ〜ん、なるほどねェ」

強化された脚力で矢から逃れながら、嫌らしく笑うオーズ。
その彼の足元が黄色く光り、大量のリボンが芽吹くように地面から現れる。
これはマミの魔法。
リボンで雁字搦めにすることで、オーズの無力化を図ったのだ。

「ハハッ! 無駄無駄ァ〜!」

出現したリボンが両断される。
いつの間にかオーズの手には、華美な装飾の施された剣が握られていた。
魔皇剣・ザンバットソードだ。

「くらえ!」

マミの魔法の隙を縫うように、まどかが正面から光の矢を放つ。
先程と違って本数はないが、速い。
量よりも質を伴った矢は雷の如く宙を駆け、紫色の障壁に阻まれて消滅した。
これこそがジェイクに与えられたNEXTの一つ。
読心力はニンフに奪われたが、バリアーは健在なのである。

「お前らもしかして、ここから俺が逃げると思ってんのかぁ〜?」

まどかの視線の先で、オーズがけらけらと笑う。
彼女はかつて映司が変身するオーズを見ているが、今のオーズはまるで別の存在だと思った。
まどかから大切な存在を奪った映司だが、それも彼なりの正義に準じた結果だ。
未だに蟠りはあるが、それでも映司が良い人であるのは分かる。
しかし、ジェイクは違う。
彼はディケイドと同様、平然と誰かを傷つけることができる人間だ。
自分達が止めなければ、罪のない人々に危害が及んでしまう。

「安心しろよ、俺は逃げねぇ。テメーらに用が出来たからな」

クククッと笑いながら、オーズはまどかとマミに人差し指を突き付ける。

「テメーらは治癒能力を持ってるんだろ? だったら俺様のために使えよォ〜
 ……まっ、そう言っても使わねぇだろうな
 だったら……もうこうするしかねぇよなぁ!?」

人差し指の先端に紫光が集合し、それが一メートル程の薄い円状に広がっていく。

「この力でテメーらをボコボコにして服従させてやるぜぇッ! ギャハハハハハハハハハハハハハハハ!! たまんねぇなァ!!」

下品な笑い声と共に、円形から大量の光線が発射された。


  ○ ○ ○

144怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:43:52 ID:LEJuJTns0


時間は一時間ほど遡る。
メインルームを出た智樹は、男子トイレの個室に篭っていた。
何故、トイレなんだと言う者もいるだろう。
決して適当に場所を選んだわけではない。
トイレという空間は、彼にとって意義のある場所だった。

ある夜の日、彼の下には一体の未確認生物(エンジェロイド)が舞い降りた。
気が付いたら自らの手に鎖が巻かれていて、その先は未確認生物が嵌める首輪に繋がっていた。
ピンク色の綺麗な髪に、何を考えているのか分からない顔、たわわと実ったおっぱい。

そして、天空まで届きそうな純白の翼。

名前はイカロスと言った。

何だかんだでイカロスと暮らすようになってから、智樹の生活は激変した。
元々慌ただしい日常であったが、より過激さを増したのだ。
無駄な高スペックと非常識さを併せ持つイカロスは、息をするように次々と問題を起こす。
家が破壊されることは日常茶飯事、世界が滅亡しかけたこともあった。
その度に説教したが、イカロスの奇行は止まらない。
やがて彼の日常には学校一の変人と呼ばれる先輩に、極道(セレブ)な実家を持つ生徒会長が加わる。
そこに殺人チョップを繰り出す幼馴染が混ざれば、もう平凡な日常など訪れないだろう。

だが、変化はこれだけでは終わらない。

いつの間にか未確認生物は増えていたのだ。
貧乳でちんちくりんのニンフに、爆乳だけど馬鹿のアストレア。
未確認生物が三人になったことで、彼の日常を取り巻く破茶目茶っぷりも三倍――――いや、それ以上に上がっていた。
智樹の家は彼らの集合所のようになり、人の出入りがない日は無くなった。
ハッキリ言って、鬱陶しいと思うこともあった。

そんな彼にとって、唯一落ち着けた場所がトイレだ。
用を足すという特性上、ここに誰かが侵入してくることはない。
鍵を掛けてしまえば、まさに堅牢な城である。
彼にとって、トイレとは最後の聖域なのだ。
――――最も未確認生物達は持ち前の握力で扉を抉じ開けて入ってきてしまうのだが。

薄暗いトイレの個室。
ズボンも降ろさないまま洋式便器に腰掛け、智樹は頭を垂れている。

「嘘だ……」

消え入るほどに小さな声。
トイレの壁に反響した声は、薄闇に溶けて消える。
聞き届ける者はただ一人。
声を発した本人である智樹だけだ。

「あいつらが……死ぬわけがねぇ……」

それでも彼は呟き続ける。
狭い個室を埋めるように、ひたすら呟き続ける。

そはらとアストレアが死んだ。
彼の日常を織り成していた大事な二人がもうこの世にいない。
そんなこと、信じられるわけがない。
真木清人とかいう気味の悪いオッサンが嘘を吐いたに決まっている。
エンジェロイドの耐久力は言うまでもないし、そはらも人智を超えた殺人チョップを繰り出す女だ。
彼女達が生半可なことで死ぬわけがない。
いや、そもそも彼女達がいれば、殺し合いなんてすぐに潰してしまうだろう。
イカロスやアストレアは強いから、ディケイドやルナティックのような悪い奴を蹴散らしてくれるはずだ。
ニンフは機械に強いから、あっという間に首輪を外してくれるだろう。
もしかしたら、そはらのチョップで首輪を切断できるかもしれない。
ここには居ない先輩や会長が、知力や武力を用いて真木清人を制圧してくれる可能性だってある。
自分達に掛かれば、こんな殺し合いは簡単に『終末』を迎える。
誰一人欠けることなく、誰一人傷つくことのない、最高のハッピーエンドを掴み取れるはずなのだ。

145怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:44:37 ID:LEJuJTns0

「そうだよ……」

こうやってトイレに篭っていたら、いつものようにアストレアが扉を抉じ開けてくる。
怒って説教をするが、彼女は「ごはんごはんー!」と要求ばかりして聞く耳を持たない。
そうしているうちにそはらが現れ、下半身丸出しの彼を見て悲鳴を上げる。
一切の非が無いのに「トモちゃんのバカーッ!」とか言って、殺人チョップを繰り出してくるのだろう。

ああ、そうだ。
さっきは鬱陶しいと言ったけれども、こんな日常が嫌いじゃなかった。
いや、嫌いなんてものじゃない。
イカロスが、ニンフが、アストレアが、そはらが、先輩が、会長がいる日常。
波乱に富んでいて、平和と呼べる日が無い日常。
若干鬱陶しいと思うこともあったけど、それすらも嫌いになれない。

桜井智樹は、今の日常が好きだった。
日常を織り成す彼女達のことが、狂おしいほどに好きだった。

「……早く、来いよ」

だが、扉は開かない。
トイレの内部は静寂に包まれ、呟いた声は闇の中で霧散する。
それでも智樹は待ち続けた。
背中から翼を生やした未確認生物達が扉を抉じ開けて来るのを。

五分経ち、十分経ち、二十分経ち、三十分経ち。

扉は、開かない。
扉が、開くことはない。

それでもひたすら待ち続けて、およそ一時間が経過した頃に例の爆音が鳴り響いた。

「……なんだ?」

朦朧とする意識の中、ぼんやりとした思考で智樹はそれを聞く。
最初は理解が追い付かなかったが、しばらくするうちに一つの仮説に辿り着いた。

――――あれはイカロス達なんじゃないか?

彼女達が持ち込んでくるトラブルには、大きな音が伴うものが多かった。
原理は分からないけどとにかく強い兵器に、言語を失ってしまうほどに音痴な歌声。
イカロス達が、外にいるのではないか?
その考えに至った瞬間、智樹はトイレを飛び出していた。


  ○ ○ ○


舞台は戻って、キャッスルドランの正面道路。
火野映司とキュゥべえが見守る中、二人の魔法少女と一人の仮面ライダーが激闘を繰り広げていた。

146怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:45:39 ID:LEJuJTns0

「ティロ・ボレー!」

マミの周囲を浮遊する四本のマスケット銃が同時に火を吹く。
火薬により推進力を得た弾丸は、ジェイク・マルチネス――――仮面ライダーオーズに向かって一直線に駆けた。
オーズは強靭な脚力を用いて跳躍。
弾丸は彼の足元を通過し、あらぬ方向へと飛んでいく。
だが、マミは次の手を打っていた。
使用済みのマスケット銃を一丁手に取り、銃身を握り締める。
それをバットのように振り回すことで、宙に浮いていた残り三つのマスケット銃を打ち飛ばしたのだ。
空中にいる以上、それを回避する手段はない。
オーズはザンバットソードを振り被り、迫り来るマスケット銃を両断しようとする。

しようとして、腕が止まる。

打ち飛ばされたマスケット銃が、突如大量のリボンへと姿を変えたのだ。
抵抗できないまま黄のリボンに絡め取られるオーズ。
脱出しようと藻掻くが、彼の右手を桃色の矢が撃ち抜いた。

「ギャアアアァァァァァ――――ッ!! いっでえええええぇぇッ!!」

甲高い悲鳴と同時に、カランと金属音が鳴る。
彼の手からザンバットソードが離れ、地面へと落下したのだ。

魔法少女と仮面ライダーオーズの戦い。
まどかは苦戦すると考えていたが、予想を下回る展開を迎えていた。

オーズが余りにも弱すぎるのだ。

「クソッ! クソォッ! あのメスガキに能力さえ消されてなけりゃ、テメェらの攻撃なんか読めるのによォ!」
「やっぱり貴方、心を読む力を失っているのね」
「あっ……!」

オーズの叫びを聞き、マミは意地悪く笑う。
辛うじて地面に着していたオーズは、しまったと言うように間抜けな声を上げた。

オーズ――――ジェイク・マルチネスが圧倒されている理由。
今までの戦闘による負傷や、虎徹やニンフに対する憎悪で冷静さを失っていること。
オーズの力をまるで使い熟せていない等が挙げられる。
しかし、一番の理由は読心力を封じられていることだった。
二つのNEXT能力を授けられたジェイク。
自らが神に選ばれた人間だと信じ、幼少の頃よりこの能力に頼ってきた。
逆に言えば、今までの人生を読心力に依存していたとも言える。
戦闘から交渉に至るまで、ありとあらゆる場面で彼は読心力を活用していた。
自分で考えることを放棄し、読心力で全てを解決してきたのだ。

そんな彼が読心力を失えばどうなるのか?

考えることを放棄してきた人間が、突然物事を考えられるわけがない。
読心力を失った今、彼の思考力は誰よりも劣っている。
今までの怠惰による代償を、この場で支払わされているのだ。

「それは火野さんのベルトよ、返しなさい」
「黙れこの売女がぁ! テメェらなんか陵辱した後で売春宿に売り飛ばしてやる!」
「……ホントに下品な人」

リボンを強引に引き千切ったオーズは、口汚く少女達を罵る。
まどかとマミは表情を歪めるものの、決して挑発に乗ることはない。
数週間ほどではあるが、まどかとマミは見滝原で共闘している。
互いの魔法や癖、戦法などを知り尽くしているのだ。
そんな彼女達のコンビネーションに、今のジェイクが立ち向かえるわけがなかった。

147怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:46:32 ID:LEJuJTns0

「お〜い、何処にいるんだよ」

まどかとマミが同時に攻勢に入ろうとした瞬間、余りに間の抜けた声が響き渡った。
この場にいる全員の視線が、新たに現れた闖入者に向けられる。

――――桜井智樹だ。

「智樹君、来ちゃ駄目!」

マミが制止の声を上げるが、現状を理解していないのか智樹はすたすたと歩いてくる。
気が付いた時には、既に彼はすぐ傍にまで来ていた。

「なんで出てきたの!? 危ないから下がってて!」
「いや、なんか大きな音がしたからさ、それよりもさっきの音は――――」

「お前、もしかして桜井智樹か?」

マミと智樹の問答を遮るように、ドスの利いた声を上げるオーズ。
歓喜と憎悪と憤怒が入り混じった形容しがたい声だった。

「そうだけど……誰だよ、お前?」

あくまで軽い語調のまま問い返す智樹。
肯定の言葉を聞き、オーズは額に掌を乗せる。
そうして、

「ブッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!! こりゃあいい! 最高だぜ! いや、ホント、ギャハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

盛大に、げらげらと笑い出した。

「な、なんだよ、お前……つーか誰だよ、火野じゃないのかよ?」

狂ったように笑うオーズに気圧されたのか、智樹の顔は怯えが混じっている。
心なしか、顔色も悪いように見えた。

「いや、ハハッ、悪ぃな、お前が智樹か。えーっとよ、なんつったか? あのガキ、ニンフ?」
「お前、ニンフに会ったのか!?」
「ああ、会った会った! さっき会ったぞ」
「何処で会ったんだよ! おい!」

必死の形相で問い掛ける智樹に対し、オーズは嘲るような態度を崩さない。


「殺したよ」


そして、唐突に言い放った。

「は?」
「ニンフって奴は俺に歯向かってきたからよぉ、ぷぷっ、片腕もぎ取って、ぶっ殺してやったぜ」

笑いを堪えながら、それでも堪え切れずに吐息を漏らして、オーズは言葉を紡いでいく。

「ぷはっ! やっぱ我慢できねぇ! ギャッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

すぐに我慢が出来なくなったようで、腹を抱えながら盛大に爆笑するオーズ。
耳を塞ぎたくなるような、醜悪な笑い声だった。

148怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:47:18 ID:LEJuJTns0

「そんな、酷すぎる……」
「……ホントに最低最悪の人ね」

露骨に嫌悪感を示すまどかとマミ。
今までの生涯を振り返っても、ここまでの外道は見たことがなかった。

「ッ……この野郎ォォォォォ――――ッ!!」

激昂する智樹。
震え混じりの怒声を上げ、全速力で走り出す。
マミが制止の声を上げるが、頭が沸騰した智樹には届かない。
固く握り締めた拳を振り上げ、オーズに殴りかかった。

「はっ、バカじゃねーの」

だが、拳は届かない。
使い熟せていないとはいえ、今のジェイクはオーズの力を得ているのだ。
一歩後退することで拳を避けると、智樹の細腕を掴み取った。

「がああぁぁぁ……っ!」

オーズに腕を締め上げられ、苦悶の声を漏らす智樹。
間髪入れずにオーズは彼の背後に回ると、余った左手の指で銃の形を作る。
それを智樹のこめかみへと突き付けた。

「動くなってやつだな、へへへ」

緑の複眼でまどかとマミを見据えながら智樹を盾にするオーズ。
俗にいう人質と言うやつだ。
能力の応用で光線を放つことができるため、今の状況でもそれは成立している。
智樹は必死に抵抗しているが、オーズの握力から逃れることはできない。
攻勢を解くしかなかった。

「おぉ、いい子だぜぇ、じゃあ次はそうだなァ
 お前ら全部服を脱げ、それでひれ伏して、俺様に謝れェ!」

形勢が自分に傾いたからか、オーズは非常に上機嫌である。
一方で魔法少女達は下された命令が屈辱的だったためか、羞恥に頬を染めていた。

「ほらほら、早くしないとこいつの頭がパーン!ってなるぜ」
「離せよ! この! この!」
「ぴーぴーうっせんだよ! 少し黙ってろ!」

左手で握り拳を作ったオーズは、智樹の頭を勢いよく殴り付ける。
跳ね跳ぶように首が曲がり、空中を鮮血が舞う。
突き抜けた衝撃が鼻の粘膜を刺激し、鼻血が吹き出したのだ。
殴られた頬は赤黒く染まり、口元からも血が流れている。

「がっ……ぁぁぁ……」

仮面ライダーの拳を耐えられるほど、智樹の身体は丈夫に出来ていない。
悲鳴も上げることができないまま、悶えるように呻き声を漏らした。

「オラ、早く脱がねーとこいつの頭が――――」
「……わ、分かりました。ぬ、脱ぐから……だから智樹君に乱暴するのはやめて」

これ以上抵抗すれば、本当に智樹は殺されてしまう。
そう判断したまどかは命令を承諾する。
マミも顔を真っ赤にしながら頷き、手を震わせながらスカートに伸ばした。

149怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:48:05 ID:LEJuJTns0

「クヒャヒャ! おい智樹! 美少女たちのストリップショーだぜ! 見とけよ見とけよ〜!」

オーズに頭蓋を掴まれ、強引に正面を向けさせられる智樹。
声にならない声を上げるが、オーズには聞こえていないようだった。

無力化されたまどかとマミ。
戦う力を奪われた映司に、人質となった智樹。
外道の手に正義を抱いた者達が堕ちようとした瞬間。

「オラァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!!!」

新たな正義の戦士が、爆音を伴って戦場へと現れる。

「なぁっ!?」

ライドベンダーで跳躍しながら、鏑木・T・虎徹――――ワイルドタイガーが雄叫びを上げる。
あまりに大胆な登場に度肝を抜かれるオーズ。
智樹を掴んでいた手の力が、僅かに緩む。

「あっ、待ちやがれ!」

その隙を逃すことなく、智樹はオーズの下から離れた。
人質を失った結果、オーズに眼前に迫っているのは巨大なタイヤ。
バリアを展開する暇もなく、ライドベンダーの突撃をその身に受ける。

「グギャアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!

劈くような悲鳴を上げ、空中に放物線を描くオーズ。
ゴム毬のように何度も地面を跳ね、やがてコンクリートに叩き付けられた。

「ふぅ……大丈夫でしたか、お嬢さん方?」

激突する寸前でバイクから飛び降りていた虎徹は、悠然とした口調でまどか達に声を掛ける。
半ば曲芸のような技でも、ハンドレッドパワーを用いることで難なく実行できた。

「あ、ありがとうございます……」
「貴方は……ワイルドタイガー?」
「おっ、俺も有名になったもんだねぇ……で、アイツは?」

蹲っているオーズを指差し、虎徹は問い掛ける。
実際のところ、彼はオーズの正体がジェイクと認識して攻撃を仕掛けたわけではなかった。
ジェイクを追跡している最中、たまたま現場を発見しただけである。
持ち前の正義感から無視することもできず、ライドベンダーを唸らせて突撃したのだ。

「糞虎徹がよぉ……何度も何度も邪魔しやがって……」

膝を震わせながら、オーズはゆっくりと立ち上がる
生身なら間違いなく即死だっただろうが、オーズの装甲が致命傷を防いでいた。

「……やっぱりお前、ジェイクだったか」

先程認識していなかったと述べたが、虎徹はオーズの正体がジェイクであると予想はしていた。
道路はほぼ一直線だったし、人質を取って女の子をひん剥こうとする下衆がジェイク以外にいるわけがないからだ。

「お前なんかが仮面ライダーに変身すんな、そいつはそんなに安いもんじゃねぇ」
「どいつもこいつもよぉ……ぶっ殺してやる、ぶっ殺してやる……」

虎徹の出現で怒りが頂点に達したのか、オーズは身体を戦慄かせながら呪詛の言葉を吐き出す。
事情を知らないまどか達にも、彼らの間に並々ならぬ因縁があることは理解できた。

150怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:49:01 ID:LEJuJTns0

「アンタ達は?」
「私は巴マミです」
「か、鹿目まどかです!」
「鹿目まどかに巴マミ……もしかして暁美ほむらの友達か?」
「ほむらちゃんと会ったんですか!?」
「……ああ、でも話は後だ、アイツを先にぶっ倒す」

両の眼を鋭く尖らせ、虎徹はオーズを睨み付ける。

「ぶっ殺してやる、ぶっ殺してやる、ぶっ殺してやる……」

剥き出しになった怒りは、もはや殺意と変わらない。
最初に戦っていた時とは比べ物にならないほどの悪意が、彼女達に叩き付けられる。
それでも彼女達が怯むことはない。
二人の魔法少女と一人のヒーローは肩を並べ、偽りの仮面ライダーと対峙する。

「……あれ?」

その時、ふとまどかの耳に奇妙な音が届いた。
大量の金属が零れ落ちるような、そんな奇妙な音。


「ブ ッ コ ロ シ テ ヤ ル」


それが前兆だった。

「グガアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――――――ッ!!!!」

天地が鳴動する。
両腕を前に突き出し、獣のように雄叫びを上げるオーズ。
脚部の装甲がぐにゃりと曲がり、滑らかな装甲から生物的な脚へと変化する。
更に両腕に収納されていた三本の鉤爪が突出。
それらを喩えるならば、バッタの脚とトラの爪だ。

「お、おい、ジェイク! どうしちまったんだよ!?」

突然の変貌に困惑しながらも問い掛ける虎徹。
だが、返ってきたのは咆哮。
益々理解できず、虎徹は首を傾げた。

「暴走だ!」

智樹の手当てをしていた映司が叫び声を上げる。
その言葉を聞き、まどかの身体が僅かに強張った。

――――封印を解いた映司以外、オーズに変身することはできない。

そう告げたのは、かつての日のアンク。
だが、映司だけがオーズに変身できる理由はもう一つあった。
それは彼に備わっている欲望の器の大きさ。
彼の欲望の器は、他の人間とは比べものにならない。
その大きさを例えるならば地球。
地球規模の器を持っていながら、その中には全く中身となる欲望が伴っていなかった。

そう、それこそがオーズに変身する二つ目の条件。
大容量の欲望の器を持っていながら、それがまるで満ちていないこと。
例えるのならば、大きな盃に一滴の酒も注がれていない状態。
大きな夢を持ちながらそれを失った映司は、欲望という酒を失っていた。
地球規模の器を持て余している状態だったのだ。

さて、ジェイクはどうだったのだろう。
欲望の器という意味では、彼も中々の人間だったのかもしれない。
しかし、その器には大量の酒が満ちていた。
金、暴力、女、名誉、権力。
オーズに変身するには、俗欲に満ちすぎていた。

その結果が暴走。
器を溢れた欲望は、彼の意識を混濁に染め上げていく。

151怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:49:36 ID:LEJuJTns0

「シャアアアアァァァァァ――――――――ッ!!」

強化された脚部で地面を蹴り上げ加速。
研ぎ澄まされた鉤爪を構え、一瞬で距離を詰める。
その双眸の先に居たのは――――鹿目まどか。

「わわっ!」

反射的に光の障壁を展開し、オーズの爪を受け止める。
だが、それはあまりにも脆すぎた。
一瞬の拮抗の末、罅割れる障壁。
その衝撃でまどかは背後に吹き飛び、地面へと叩き付けられる。

「鹿目さん!」

背後に吹き飛んだまどかに視線をやるマミだが、唸り声によって現実に戻される。
言葉を発したためか、オーズが次に標的に選んだのはマミだった。

「レガーレ・ヴァスタアリア!」

マミが呪文を唱えると、オーズの足元から大量のリボンが突出する。
くぐもった声を漏らすオーズ。
それらは彼の身体に巻き付くと、一斉に締め上げて自由を奪ったのだ。

「喰らえこの野郎!」

その隙を突き、虎徹が拳を振り上げる。
今までの戦闘でヒーロースーツはボロボロだったが、右腕の装甲は健在であった。
百倍に強化された腕力を振るい、拘束されたオーズへと肉薄する。

「なっ!」

しかし、彼の姿は唐突に掻き消えた。
否、消えたのではない。
強靭な脚力で跳び上がることで強引にリボンを引き千切り、空中へ移動したのだ。

「オオオオオオオォォォォォォォ――――ッ!」

空中に跳び上がったオーズは、そのまま眼下にいた虎徹の下に急降下。
飛び蹴りの要領で、彼の胸を蹴り上げる。
その衝撃に堪えることができず、虎徹は勢いよく宙を舞った。

「ワイルドタイガー! このッ!」

額に冷や汗を浮かべながら、マミはマスケット銃を生成。
瞬時に狙いを定めて引き金を絞る。

「グルゥゥ……」

だが、オーズが眼前に展開したバリアに阻まれ、弾丸が届くことはなかった。


――――その後の戦況は半ば一方的なものだった。
まどか達の放った攻撃は大半が回避されるかバリアで防御され、たまに命中してもオーズは止まらない。
一方でオーズの攻撃は疾く、一撃一撃が非常に重厚だった。
彼らの連携は見事なものだったが、それでも暴走したオーズには敵わない。
次第に追い詰められ、身体にも生傷が増えていった。

152怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:50:23 ID:LEJuJTns0

そして、時間が訪れる。

「ヤバい、もうすぐで能力が切れる!」

身体の不調を訴える虎徹。
能力の維持時間が迫り、ハンドレッドパワーが途切れようとしているのである。
現時点でも互角と言い難いのだから、能力が切れたらどうなるかは火を見るより明らかだ。

「そんな……わぁっ!」

散弾銃のように放たれる光線を必死に避け続けるまどか。
虎徹が我武者羅に接近しようとするが、オーズは背後に跳ぶことで一定の距離を保つ。
刻一刻と、能力の期限が迫っている。

「ワイルドタイガー、ちょっといいかしら?」

そんな中、マミが思いつめたような表情で虎徹に尋ねた。

「なんだよ!?」
「……ワイルドタイガーは必殺技みたいなのって持ってます?」
「はぁ!? こんな時に何言ってん――」
「いいから! 答えてください!」

マミの勢いに気圧されたのか、虎徹は顔を引き攣らせる。

「一応あるけどよ……それがどうかしたのかよ」

彼にしては自信無さげの小さな声。
それを聞くと、マミは一瞬だけ表情を明るくして、すぐに引き締めた。

「私と鹿目さんが隙を作ります。だからワイルドタイガーは必殺技でオーズを!」
「えっ、ちょっ……おい!」

それだけ告げると、マミは背を向けて走り去ってしまう。
虎徹は彼女に向けて手を伸ばすが、爪を研ぎ澄ませたオーズが迫りつつあった。

「鹿目さん、聞いてたわね!?」
「はい! 私とマミさんで隙を作るんですね!」
「ええ、まずは私から行くわ!」

虎徹と格闘戦を繰り広げるオーズを見据えると、マミは目を瞑って体内で魔力を練り始める。
彼女の身体を黄色い光が包み込み、淡く輝き出した。

「レガーレ・ヴァスタアリア!」

この戦闘で何度も使用した魔法。
オーズの周辺から幾重にも連なったリボンが出現し、その身体を縛り付けて拘束する。

「ガルオオオオォォォォォォォォォォォ――――ッ!!」

だが、それは簡単に引き千切られてしまう。
バッタの力を宿したコアメダルは、オーズに規格外の脚力を与えていた。
硬化した脚で地面を強く蹴り、今までのように上空へ避難するオーズ。
そんな彼の頭上を、大量の矢が降り注ぐ。
まどかが魔力を集中させ、大量の矢を番えた弓を引いたのだ。
空を埋め尽くす光の矢。
それが一斉に降り注ぐ光景は、集中豪雨にも匹敵する激しさを伴っている。

153怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:51:09 ID:LEJuJTns0

「ガアアアァァァァァ――――ッ!」

頭上に両腕を伸ばし、大きな円状の障壁を展開するオーズ。
それを例えるのならば傘。
桃色の矢は紫のバリアに命中すると、煙のように霧散する。
豪雨のように降り注いだ矢は、丈夫な傘によって阻まれてしまった。

「そんな……でも、大丈夫」

無傷のまま下降していくオーズを見て、落胆の声を上げるまどか。
しかし、すぐにその声は期待の色に変わった。
何故ならば、彼女の目の前では。

――――Three、Two、One


「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ――――ッ!!」


――――GOOD LUCK MODE――――


右腕の装甲を巨大化させた虎徹――――ワイルドタイガーが、雄叫びを上げながら肉薄しようとしていたからだ。

グッドラックモード。
相棒のバーナビーの誕生日プレゼントとして、彼らのスーツの開発者が取り付けた機能。
能力が切れる直前、拳が一回りも二回りも巨大化していくのだ。
これを用いることで、特大の一撃を叩き込むのである。

未だに降り注ぐ矢の対応に追われ、オーズはバリアを張ることができない。
故に、今は絶好の好機。
ヒーローとして矜持を込めた拳が、オーズの顔面を打ち抜こうとする。

「なっ……!?」

――――打ち抜こうとして、空を切った。

咄嗟に身体を捻り、紙一重でオーズは拳を回避したのだ。
身体能力が極限にまで上昇しているからこそ可能な芸当。
勢い余って、地面に倒れ込むオーズ。
同様に虎徹も勢いを殺すことができず、拳を突き出したまま直進してしまう。
そして、装甲から光が消える。
維持時間が過ぎたことで、ハンドレッドパワーの効力が切れたのだ。

154怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:51:33 ID:LEJuJTns0

「嘘だろ……?」

呆然としながら呟く虎徹。
まどかも瞳孔を見開き、絶望感を顕にしている。
ハンドレッドパワーが途切れた以上、もはや彼らに勝機はない。
コンクリートに倒れ込んでいたオーズが立ち上がろうとする。
終わった。
まどかと虎徹の脳裏に、そんな言葉が過る。

「――――いいえ、私達の勝ちよ」

だが、マミだけは違った。
彼女の周囲を突風が吹き荒れ、手元を輝かんばかりの光の束が収束していく。
それは瞬く間に体積と密度を増していき、やがて大きな大砲へと姿を変える。

マミが立てたのは、二段構えの作戦だった。
圧倒的な機動力と防御力を持つオーズに生半可な攻撃は通用しない。
ティロ・フィナーレのような大技が必要になるだろう。
しかし、ティロ・フィナーレは連発できない。
外した場合、自分達は切り札を失うことになる。
故に彼女が思い付いたのは、切り札を二つ用意すること。
一発目が外れたとしても、二発目が相手を仕留める。
長年に渡って魔女と戦ってきたからこそ、編み出すことのできた作戦。
幸いなことに相手の戦闘に関する知能は低く、理性を失ったことで動きはより単純になっている。
裏の裏を掻いた戦法には対応できないだろうと、彼女は半ば確信していた。

彼女自身が真っ先に動くことで、自らの役目が終わったと誤解させた。
まどかが矢を連発したことで、バリアによる防御を消費させた。
虎徹の拳が視界を塞いだことで、相手に悟らせることなく必殺技を発動できた。


「ティロ・フィナーレッ!!」


彼女達三人で掴み取った勝利。
その結果が光の奔流となって、オーズの全身を呑み込んだ。


  ○ ○ ○

155怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:52:14 ID:LEJuJTns0

「ったくよぉ、酷いぜ、俺の攻撃を囮に使うなんて……」
「ごめんなさい、でもここは絶対に失敗できない場面だったから」
「マミさんもワイルドタイガーさんも、カッコよかったです!」

ぼんやりと届く声が耳朶を震わし、ジェイクの意識は微睡むように覚醒した。
真っ先に感じたのは全身を突き抜ける激痛。
同時に焼き焦がすような熱も肌を焼き、彼の全身を責め立てていく。

(ぁぁぁ……痛ェ……だりぃ……)

全身に鉛を括られたかのような虚脱感。
脳を直接ぶん殴られたような違和感と激痛。
これらは暴走の副作用なのだが、彼が知ったことではない。
身体の外も内も蝕んでいく痛みに、ただただ悶え続けていた。

「まどかちゃん! マミちゃん!」
「映司さん! と……キュゥべえも」
「その言い方じゃ僕がおまけみたいじゃないか」
「……ホントにおまけみたいなものでしょ」

暴走中の出来事は記憶に残らないため、ジェイクは何故自分が負傷しているか分からない。
苛立ちを叩き付けたくなる衝動に駆られるが、身体はまともに動きそうになかった。

「えーっと、火野だっけ?」
「はい、火野映司です、助けてくれてありがとうございました!」
「いやいや、気にすんなよ、人助けはヒーローの役目なんだから。それよりもこいつはお前のなんだろ?」
「それ、オーズの……ッ! ありがとうございます!」
「いいってことよ。その代わり、もう二度と取られたりすんじゃねーぞ、仮面ライダー」

回収しておいたオーズドライバーを差し出す虎徹。
それを受け取った映司は、深々と頭を下げた。

「和気藹々としてるのもいいけど、あそこに倒れている彼はどうするつもりなのかな?」

会話を遮るように言葉を発したのはキュゥべえ。
彼の言葉で、四人の視線がうつ伏せに倒れているジェイクへと集中する。

(クソどもが。俺様を見下してんじゃねぇ……ッ!)

一斉に突き刺さる視線が、彼には酷く不快に感じられた。

「……殺しはしねぇ、あいつは俺の世界の犯罪者だ。ふん縛って持って帰った後に法律で裁く」
「逃げたりするかもしれないし、殺した方が効率がいいんじゃないのかい?」
「キュゥべえは黙ってて。私も殺すのには反対です。どんなに悪い人だってやり直すことができるって、私はそう信じたいんです」

距離があるためハッキリとは聞こえないが、自らの処遇を相談しているのだと理解できた。

(支配するのはテメェらじゃねぇ、俺だ! テメェらみたいな下等生物が上から見てんじゃねぇッ!!)

心中で思い付く限りの悪態をつくジェイク。
しかし、それはもはや意味を成さない。
暴走によりほぼ全てのメダルを失った彼に、抵抗する術など残されていないのだ。

156怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:52:43 ID:LEJuJTns0

「ねぇ、火野さん」
「どうしたの?」

マミがキョロキョロと首を動かしながら、考え込むように顔を伏せていた映司に問い掛ける。
何かを――――誰かを探しているようだ。


「桜井君は何処に行ったの?」


その言葉を聞き、映司達は一斉に顔を見合わせた。


(桜井智樹? そういや、あのガキ、何処に……)

人質として利用し、思いっ切り殴ってやった少年。
読心力を消滅させたニンフの大切な人であり、見つけたら血祭りにあげてやると決めていた。

何処に、行った。

――――やる

そんな時、彼の脳に声が届く。
耳で聞き取ったにしてはやけに鮮明な声。
脳に直接語り掛けてくるような感覚を、ジェイクはよく知っている。

(ヒャハッ……戻ってきた、俺様の能力が戻ってきやがった……ッ!)

ハッキングにより失われていた二つ目の能力。
失った時は悲観に暮れたものだが、たった一時間で戻ってきたのだ。
これでニンフは無駄死。
あんな無様な姿を晒したにも関わらず、何も成し遂げることができなかった。
両腕を失った末に腹部に剣が突き刺さったニンフの姿を思い出し、ジェイクは心の中で嘲笑する。

――――してやる

それにしても、この声は誰のものなのだろう。
途切れるようにしか聞こえないため、何を言っているのかも理解できない。
ただ一つ分かったのは、その声が底冷えするほどに低いということ。
あらゆる負の感情を詰め込んだような怨嗟の声。


――――殺してやる


そうして、ジェイクは声の主と対面する。

157怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:53:15 ID:LEJuJTns0

「おま、え……」

桜井智樹。
その両手には、戦闘中に彼が手放したザンバットソードが握られている。

――――殺してやる

ゆっくりと、見せつけるように、剣を振り上げる智樹。
月光がその刀身を照らし、先端にこびり付いた血を衆目に晒す。
ニンフの腕を切断した時に付着した血だ。

「クソ……がッ! 舐めてんじゃ……あっ!?」

能力もない一般人が上から見下してんじゃねぇ。
そんな思いの下、彼は手を伸ばして光線を放とうとする。
しかし、何も起こらなかった。

「なん……で!?」

何度力を込めても、光線は発射されない。
心の声も聞こえなくなっている。
智樹の心を読んだことで、最後に残ったメダルが消費されたのだ。
対価がない以上、一切の能力は使用できない。
本人の言葉を借りるのならば、今の彼は能力を持たない”下等生物”と同じだった。

「や、やめろ……やめてくれ! 俺が悪かった!」

もはや形振り構っている余裕はない。
額を床に擦り付けながら、本気の命乞いをする。
無能力者に縋るなど屈辱の極みであったが、命を置いて大事なものなど他にない。

「許してくれ……な? 頼む! これからは心を入れ替える!」

だが、智樹には届かない。
彼は一切の言葉を発さず、ジェイクの耳に声が届くことはない。
返答と言わんばかりに天上へと向けられるザンバットソード。
それの威力は、他でもない彼自身がよく知っている。
素人が振るったとしても、容易く命を奪い取ることができるだろう。

「まだ死にたくねぇよぉ……!」

腕だけで地面を這いながら、必死の思いでジェイクは逃げようとする。
あまりにも無様で醜い格好。
神に見捨てられた男の最期の姿。
一メートルも進むことはないまま、とうとう魔剣が月を反射する。
透明だった刀身が、薄黒く輝いていた。


「やめろォォォォォォォォォォォ――――――――ッ!!!!」


そうして、剣は振り下ろされた。


  ○ ○ ○

158怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:53:39 ID:LEJuJTns0

振り下ろされて、ジェイクの身体に触れる直前で止まる。

「やめろ、もういいだろ」

虎徹が伸ばした腕が、智樹の右腕を掴んだのだ。

「……離せよ」
「離すかよ、そしたらお前はコイツを殺すだろ」

宙空で止まる剣。
必死に力を込めて剣を振り下ろそうとするが、両腕はピクリとも動かない。
ぷるぷるとその場で震え、醜態を晒すだけだった。

「殺しちゃ悪いのかよ……コイツはニンフを殺したんだ」
「悪いに決まってんだろ! お前はこんな下衆野郎と同じになるつもりかよ!」
「うるさい! コイツらみたいのがいるから、そはらやアストレアも……クソッ、離せよ!」

ニンフが死に、そはらが死に、アストレアが死んだ。
彼女達が自殺などするわけがない、
ジェイクのような連中の手によって、彼女達は殺されたのだ。
小煩かったり暴力的だったりもしたけれど、彼女達が殺される理由など有りはしない。

「コイツは……コイツは俺が殺さなきゃいけないんだよ! 何だよ! 何が悪いんだよ!?」

殺したのだから、殺されたとしても文句は言えない。
身勝手な理由で殺戮をしたジェイクと違い、自分には正当な理由がある。
大事な人を殺されたのだ。
ここで笑って許すことなど、出来るはずがない。

「離せよ! 離せって言ってんだろ!」

なのに、虎徹は腕を離そうとしない。
背後ではまどかも、マミも、映司も憐れむように自分を見つめている。

「なんで俺だけ駄目なんだよ!? お前らだってコイツを散々攻撃してたじゃねーかよッ!!」

顔を伏せているマミやまどかに対し、智樹は疑問を叩き付ける。
しかし、彼女達は答えない。
先程と同じ憐れみの目を向けて、堪えるように口を噤み続けている。

「ちくしょお! ちくしょおおおぉぉぉぉ――――ッ!!」

喚き声を上げながら、虎徹の腕を振り解こうと必死で暴れる智樹。
目の前にニンフの仇がいる。
あと少し腕が動けば、この手で敵を討つことができるのだ。

「わあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ!!!!」

薄雲が満月を覆い、夜空から光が消える。
漆黒の帳が幕を下ろす中、智樹の慟哭が響き渡った。


  ○ ○ ○

159怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:54:29 ID:LEJuJTns0

「……」

カラン、と音が鳴る。
智樹の手からザンバットソードが零れ落ち、コンクリートに叩き付けられたのだ。
続いて鳴ったのは、ドサッという音。
全てを諦めたかのように、智樹がその場に崩れ落ちたのだ。

「智樹君……」

手を合わせながら、不安そうに囁くまどか。
智樹の背後に立っているため、彼の顔を見ることができない。
悲しんでいるのか、怒っているのか、怨んでいるのか。
おそらく全てなのだろうと推測する。
それでも彼が殺人を犯さなくてよかったと、彼女はほっと胸を撫で下ろした。

殺したら全てが終わりなのだ。
殺された方は反省の機会を失って永遠の罪人となり、殺した方も十字架を背負い続けることになる。
そんなの、悲しすぎるではないか。

「じゃあ、ジェイクさんを――――危ないッ!」

ジェイクを拘束しようと視線を移した時、彼女は気付いてしまった。
彼の右手が持つ拳銃が、蹲る智樹に向けられていたのを。

「ギャヒャヒャヒャヒャ! クソガキが舐めやがって! 死にやがれぇぇぇ――――ッ!!」

智樹を庇おうと、まどかは手を伸ばす。
だが、その手はあまりにも遠すぎる。
映司の手も、虎徹の手も、智樹には届かない。

ジェイクの嬌笑が響き渡る。



そうして。



――――銃声が響き渡った。


  ○ ○ ○


額に風穴を開け、仰け反っていく身体。
血飛沫が周囲を飛び散り、拳銃が石畳へと落下する。
火薬の臭いが周囲を満たす中、全員の視線が背後にいた彼女へと集中した。

160怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:54:50 ID:LEJuJTns0

「マミ、さん?」

呆然と立ち尽くす巴マミ。
その手には白いマスケット銃が握られ、銃口からは白煙が立ち昇っている。

「……ごめんなさい、でもしょうがなかったのよ」

役目を終え、魔力光へと戻るマスケット銃。
粒子のように散っていくそれは風に煽られ、地面に倒れている男の方へと流れていく。
額の穴から血を流しながら、両腕を広げ、焦点の定まらない瞳で空を仰ぐ死体。
それは――――ジェイク・マルチネスのものだった。

「もし私が撃たなかったら……桜井君は死んでいたわ」

ジェイクが銃を向けていることに気付いた瞬間、マミはマスケット銃の引き金を引いていたのだ。
彼女の言葉に誰も反論することができず、黙っていることしかできない。
ジェイクが凶行に走った時、誰の手も届かなかった。
マミの放った銃弾が無ければ、代わりに智樹が死体になっていただろう。

「しょうが、なかったのよ……」

平然を装いながら、マミは言葉を紡いでいく。
しかし、その声は微かに震えていた。
必死に取り繕っている表情は、今にも泣き出しそうだった。

長年に渡って戦い続けてきたマミには、的確な判断力と覚悟が身に付いていた。
その証拠に彼女の参戦時間がもう少し遅かった場合、彼女は佐倉杏子のソウルジェムを破壊している。
いざという時に命を奪う覚悟が、巴マミという少女には備わっていた。
それに、彼女の手は既に汚れている。
知らなかったとはいえ、大勢の魔女をこの手に掛けてきた。
元の存在が魔法少女である、魔女を。

「クソッ……またかよ……」

拳を握りしめ、無力を噛み締める虎徹。
映司も同様に悔しげな表情を浮かべながら、自らの両掌を眺めていた。

「無様なものだな」

唐突に上空から投げ掛けられる言葉。
智樹以外の全員の視線がその場に集中する。
二階建ての家屋の屋根の上に立っていたのは、不気味な仮面を被った処刑人。
黒いスーツに白いマントを巻いた死神のことを、ここにいる全ての人間が知っている。

「ルナティック!?」

ガメルとの戦闘の途中に現れ、その後一時的に共闘した男。
だが、決して彼らと思想を分かち合ったわけではない。
ルナティックの掲げる正義は、罪人を殺害することで完遂するもの。
対するまどかや虎徹の正義は、罪人であっても殺害を許容しないものだ。
同じ正義でありながら、彼らは決定的に行き違っている。

161怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:55:38 ID:LEJuJTns0

「仮面ライダーオーズ――――火野映司。君には本当に失望したよ」

剥き出しになった瞳が映司へと突き刺さる。

「我を忘れて暴走した挙句、今度は自らの力を奪われる。君の正義はこんなにも軽いものだったのか?」

ルナティックの指摘に、映司は唇を噛み締めた。
彼の言うことは全て事実であり、映司自身の失態である。
本来ならば仮面ライダーである自分が矢面に立ち、悪人と戦わなければならなかったのだ。
にも関わらず、彼は暴走して他の参加者を襲撃し、さらに力を奪われてしまった。
これを醜態と呼ばずして、何と呼ぶのだろうか。

「そして鹿目まどか、ワイルドタイガー。今の光景を見ただろう
 もし巴マミがジェイク・マルチネスを殺さなければ、一人の少年の命が無為に散るところだったのだぞ?」

次の言葉を受け、三人の顔に変化が訪れた。
まどかと虎徹は奥歯を噛み締め、マミはバツが悪そうに胸を抑える。

「君達の掲げる正義などこれほどまでに弱くて脆いものだ」

仮面に隠れて表情は見えないが、声には明らかに失望の色が混じっている。
ルナティックの指摘は全てが事実であり、反論の余地はない。
溜息を吐きながら、ボウガンを取り出すルナティック。
彼に声を掛ける者は、誰もいなかった。

「……待ってください」

――――かのように見えた。

「何の用だ、火野映司」

苛立ちを隠さないような口調。
獄炎のような燃え盛る威圧感の前に、まどか達は思わず気圧されてしまう。
しかし、映司は一歩も退かなかった。

「確かに俺は失敗しました。それはどうしようもない事実です」
「何が言いたい?」
「でも、失敗するっていうのは……そんなにいけないことなんですか?」

空中で交差する二つの視線。
映司以外の人間は、固唾を呑んでそれを見守る。

「開き直るつもりか?」
「開き直りかもしれません。でも俺はたった一度の失敗も許さない貴方の正義なんて認めたくない」

炎の重圧を前にしても映司は退かず、己の信念を口にする。

「その一度の失敗で罪なき人々が血に沈むことになるのかもしれないのだぞ?」
「だったら俺がその人達を守る! 今まで失敗した分まで、精一杯守ってみせる!」

その信念は拙く、甘ったるいものかもしれない。
しかし、それが叶うのならばこれ以上に素晴らしいことなどないだろう。
失敗した誰かを見捨てる世界ではない。
誰かが失敗した時、別の誰かが手を差し伸べる。
それは非常に理想的な世界と呼べるのではないだろか。

162怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:56:03 ID:LEJuJTns0

「……綺麗事を。身の丈に合わない欲望は何時かその身を焦がすことになるぞ」

映司に向けてボウガンの矢を突き付けるルナティック。
そんな彼に向けて、映司は再び手を伸ばした。


「貴方だって最初からそんな正義を求めてたわけじゃなかったはずです、ルナティックさん――――いや、ペトロフさん!」


そうして、言葉を放つ。
世界が、一瞬凍り付いた。

「貴様……何故それを!?」

今まで鉄皮面を貫いていたルナティックが見せる初めての動揺。
背後で声が湧き上がるが、映司は険しい表情で彼を見据え続けている。

「おい、それどういうことだ……?」
「今はもう無くなっちゃったけど、参加者のデータ表の中に載ってたんです。ペトロフさんの正体がルナティックだって」

ジェイクに焼かれて消失してしまった詳細名簿。
だが、情報の一部は映司の頭の中に入っている。
ジェイクの次のページを捲った時、彼は自分が相当な衝撃を受けたことを覚えていた。
僅かな間だが同行していたユーリ・ペトロフとまどかを手に掛けようとしたルナティックが、同一人物であると掲載されていたのだ。

「っ……!」
「あ、おい、待て!」

脇目もふらずに立ち去っていくルナティック。
虎徹が声を荒げるが、あっという間に彼の姿は小さくなっていった。


  ○ ○ ○


ファイアーエンブレムの遺体を確認した後、ユーリは西方面へと歩を進めた。
あの大乱戦の際、映司を抱えたまどかが逃げたのが西だったからだ。
そうしてしばらく歩いた後、彼の耳に幾つかの音が届く。
銃声と矢を射る音、そして薄汚い罵声。
その場に駆け付けてみると、二人の魔法少女がオーズと交戦していた。
また暴走したのかと思ったが、どうやら様子が違う。
映司は奇妙な生き物と物陰に隠れているし、オーズの発する声は別人のものだ。
その声がジェイク・マルチネスのものだと気付いた時、聡明なユーリは全ての事情を理解した。

163怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:56:26 ID:LEJuJTns0

魔法少女達が優勢なのを確認すると、ユーリは急いでルナティックの衣装に身を包む。
彼らに悟られないように物陰に身を隠すと、その戦闘の行く末を見守りはじめた。
ジェイクを撃破した後、まどかや映司がどう動くのかを見極めたかったからだ。
ルナティックに変身したのは、万が一の際に加勢に加わるためである。

その後の展開は今までと変わらない。
ワイルドタイガーの乱入には驚いたが、正義を見極める対象が増えたまでだ。

「まさか、こんなことになるとは……」

くすんだ金髪を掻き上げながら、ユーリは忌々しげに表情を歪める。
処刑人という性質上、ルナティックの正体は秘匿されていなければならない。
この場においても、永遠に明かすつもりはなかった。
参加者の詳細なデータを記した支給品など、完全に予想の範疇を超えていた。

「これから、どうする」

先程は咄嗟に逃げてしまったが、彼らの正義を見極めきったわけではない。
しかし、映司やまどかに顔が割れてしまっている。
今までのように正体を隠して、彼らの様子を伺うことはできないだろう。

「私は――――」

彼が往く道は――――


【一日目 夜中】
【D-6/北西】

【ユーリ・ペトロフ@TIGER&BUNNY】
【所属】緑
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)
【首輪】60枚:0枚
【コア】チーター
【装備】ルナティックの装備一式@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:タナトスの声により、罪深き者に正義の裁きを下す。
(訳:人を殺めた者は殺す。最終的には真木も殺す)
 1.????
 2.火野映司の正義を見極める。チーターコアはその時まで保留。
 3.鹿目まどかの正義を見極める。だがジェイクが罪を犯したからまどかも裁く……?
 4.人前で堂々とNEXT能力は使わない。
 5.グリード達とと仮面ライダーディケイドは必ず裁く。
【備考】
※仮面ライダーオーズが暴走したのは、主催者達が何らかの仕掛けを紫のメダルに施したからと考えています。
※参戦時期は少なくともジェイク死亡後からです。

164怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:56:50 ID:LEJuJTns0

「まさかあの裁判官がルナティックだったなんて……」

ルナティックが去っていった方向を見ながら、虎徹は驚愕の表情を浮かべている。
あの柔和な表情を浮かべていた男が、影で多くの罪人を手に掛けていた。
その事実は、少なからず衝撃を与えていた。

「虎徹さん、とりあえず戻りましょう」
「でもアイツを放置するのは……!」
「今から追い掛けてもきっと見つかりませんし、虎徹さんもまどかちゃんもマミちゃんもボロボロじゃないですか、しっかり傷の手当てをしないと」

まどかやマミはともかく、虎徹の身体は既に多くの傷を拵えていた。
ハンドレッドパワーに使用時に多少回復したが、それでも気休めに過ぎない。
体力の消費も激しいため、今は休憩する必要があった。

「それに……多分だけどペトロフさんはまた戻ってくると思います」

何の根拠もない言葉。
だが、今はそれに縋るしかなかった。

「戻ろう、みんな」

映司の言葉を皮切りに、まどかや虎徹はゆっくりと歩き始める。
完全なハッピーエンドではない。
多くの犠牲を生み、悔恨は残ったが、それでも彼らは生きている。
命があれば、またやり直すことができるのだ。

「桜井君……」

未だに蹲っている智樹を見下ろしながら、マミは心配そうに声を掛ける。
頭を垂れ、微動だにしない智樹。
ジェイクに銃口を向けられた時ですら、彼は動こうとしなかった。
最初に放送を聞いた際、彼一人だけが現実を受け入れられずにいた。
その状況で、さらに仲間の死を突き付けられたのだ。
今の彼の内には、想像も及ばないほどの悲しみが渦巻いているのだろう。

「桜井……?」

マミの言葉を聞き、虎徹は思い出したように目を見開く。

「おい、お前、もしかして桜井智樹か?」
「……」
「イカロスのマスターの、桜井智樹かって聞いてんだよ!?」
「……ッ!?」


智樹の受難は、まだ終わらない。


  ○ ○ ○

165怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:57:23 ID:LEJuJTns0

――――怠惰。

キリスト教における「七つの大罪」の一つ。

怠ける事、だらしがない事。



そして、先延ばしにする事。



――――だが、先延ばしにすることは根本的な解決にならない。

いずれ、怠惰の代償を支払わねばならない時が訪れる。


今の、彼のように。


【ジェイク・マルチネス@TIGER&BUNNY 死亡】

166怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:57:42 ID:LEJuJTns0

【一日目-夕方(放送直前)】
【C-6 キャッスルドラン前】

【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】ダメージ(小)、混乱、暴走への恐怖
【首輪】150枚:0枚
【コア】タカ:1、トラ:1、バッタ:1、ゴリラ:1、プテラ:2、トリケラ:1、ティラノ:2
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
 0.手を伸ばして全てを包み込む
 1.皆の手当てをする。
 2.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
 3.もしもアンクが現れても、倒さなければならないが……
 4.もしもまた暴走したら……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※ガメルのコアメダルを砕いた事は後悔していませんが、まどかの心に傷を与えてしまった事に関しては罪悪感を抱いています。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっており、オーズドライバーが映司以外でも使用可能になっています。
※暴走中の記憶は微かに残っています。
※暴走中の詳しい話を聞きました。

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】白・リーダー代行
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)
【首輪】165枚:30枚
【コア】サイ(感情)、ゴリラ:1、ゾウ:1
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、ファングメモリ@仮面ライダーW、キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式×2、G4チップ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品×1、ワイルドタイガーのブロマイド@TIGER&BUNNY、マスク・ド・パンツのマスク@そらのおとしもの
【思考・状況】
基本:この手で誰かを守る為、魔法少女として戦う。
 1. 身体を休める。 
 2.ガメルのコアは、今は誰にも渡すつもりはない。
 3. キュゥべえは連れ歩く。
 4.映司さんがいい人だという事は分かるけど……
 5.ルナティックとディケイドの事は警戒しなければならない。
 6.ほむらちゃんやさやかちゃんとも、もう一度会いたいな……
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、ほむらに願いを託し、死亡した直後です。
※まどかの欲望は「誰かが悲しむのを見たくないから、みんなを守る事」です。
※仮面ライダーの定義が曖昧な為、ルナティックの正式名称をとりあえず「仮面ライダールナティック(仮)」と認識しています。
※サイのコアメダルにはガメルの感情が内包されていますが、まどかは気付いていません。
※自分の欲望を自覚したことで、コアメダルとの同化が若干進行しました(グリード化はしていません)。
※メズールを見月そはらだと思っています。
※キャッスルドランに居たキュゥべえを連れ歩いています。

167怠惰 ――Sloth―― ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:58:18 ID:LEJuJTns0

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)
【首輪】70枚:0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:頼れる"先輩魔法少女"として極力多くの参加者を保護する。
 1. 身体を休める。
 2.他の魔法少女とも共存し、今は主催を倒す為に戦う。
 3.ディケイドを警戒する。
 4.真木清人は神をも冒涜する十二番目の理論に手を出している……!
 5. 人を殺してしまった……
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、魔女化したさやかが爆殺されるのを見た直後です。

[映司、まどか、マミの共通の備考]
※真木清人が時間の流れに介入できることを知りました。
※「ガラと魔女の結界がここの形成に関わっているかもしれない」と考えています。
※世界観の齟齬を若干ながら感じました。
※詳細名簿を一通り見ましたが、全ての情報を覚えているかは不明です。

【桜井智樹@そらのおとしもの】
【所属】白
【状態】ダメージ(中)、頬に傷(応急処置済み)
【首輪】150枚:0枚
【装備】なし
【道具】大量のエロ本@そらのおとしもの、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:???
 1.???
【備考】
※エロ本は半分程読みました。残り半分残っています。

【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(大)、疲労(極大)、背中に切傷(応急処置済み)、激しい怒り、NEXT能力使用不可(残り約一時間)
【首輪】70枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(血塗れ、頭部破損、胸部陥没、背部切断、各部破損)、不明支給品1〜3
【道具】基本支給品×3、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW
    魔皇剣ザンバットソード@仮面ライダーディケイド、P220@Steins;Gate、天の鎖@Fate/Zero
    カリーナの不明支給品(1〜3)、切嗣の不明支給品(武器はない)(1〜3)、雁夜の不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
 1.智樹にイカロスのことを話す。
 2.それが終わったらニンフの下に戻り、ニンフを助ける。
 3.シュテルンビルトに向かい、スーツを交換する。
 4.イカロスを探し出して説得したいが………
 5.他のヒーローを探す。
 6.マスターの偽物と金髪の女(セシリア)と赤毛の少女(X)を警戒する。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」「そらのおとしもの」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
 ・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
   ……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』
※ヒーロースーツは大破寸前、とくに頭部はカメラ含め完全に機能を停止しています。
 そのためフェイスオープンした状態の肉眼でしかものを見れません。
※二台のライドベンダーは破壊されました。
※ジェイクの支給品は虎徹がまとめて回収しましたが、独り占めしようとしたわけではありません。


【P220@Steins;Gate】
ジェイク・マルチネスに支給。
桐生萌郁が椎名まゆりを射殺する際に使用した小型の自動拳銃。

168 ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 21:59:00 ID:LEJuJTns0
以上です。
誤字脱字、または問題点等がありましたらご指摘お願いします。

169 ◆ew5bR2RQj.:2013/04/27(土) 22:05:53 ID:LEJuJTns0
すいません、>>166
【一日目-夕方(放送直前)】を【一日目 夜中】 に差し替えます。

170名無しさん:2013/04/27(土) 23:33:46 ID:ewnXQGOcO
投下乙です。

ジェイク…、全裸で徘徊しながらいたいけな少女を襲撃し、助手にセクハラ行為を働き、果ては魔法少女達に全裸を強要させるとは、まったくなんてうらやま”パーン”
…な、なんて最低な奴だ。
だ、大ショッカーも驚きのわ、悪さだよ。ガクッ。

171名無しさん:2013/04/28(日) 00:21:26 ID:kufmcEKsO
投下乙です。

ま、因果応報だわな、この変t(ry

ただこのチームの甘さはやっぱりロワじゃ不安だな…猫かぶりは詳細名簿で多少弾けるとしても来てから狂ったのが一人紛れ込んだら余裕で壊滅するぞ

172名無しさん:2013/04/28(日) 00:24:13 ID:hvGeGDrs0
投下乙です!
前の戦いで負傷していたジェイクはやはり脱落かー ドライバ強奪には驚いた
やっぱり虎徹はチームワーク戦が映えるなぁ
そして智樹ィ!本編で送ってきた日常のようにトイレで来る筈もないエンジェロイド達を待ち続ける描写が切ない
放送できいた二人の死に加えニンフの死まで聞いてしまうとは…
虎徹から伝えられて知る会場でのイカロス像、新たな苦渋が増える…

ジェイクに止めを刺したマミさんの覚悟
悪人であっても殺人はしたくないと復讐を止めた虎徹やまどか、
暴走への恐怖で失敗を犯してしまった映司とそれぞれの姿が浮き彫りになる回でした
ユーリのあまりにも潔癖で完璧主義すぎる「正義」に対する
映司の「今まで失敗した分まで、精一杯守ってみせる」という反論が熱い
できなかった、失敗したと苦渋をなめたからこそ次は今まで以上に頑張れる筈だよね
映司が持ってた詳細名簿は消失してしまったけどユーリ=ルナティックとバレてまどか絡みは今後どうなる!?
これまでの描写を掘り下げ一つの決着を付けつつ新たな一石も投じるというボリュームのある回でした

173名無しさん:2013/04/28(日) 00:49:40 ID:1ciHOifw0
投下乙です!
やりたい放題やったジェイクもいよいよ潮時か……最期までよく暴れたよ。
マジでゲスだったけど、そんな奴でも殺すのはマミさんにとって辛いんだよね。これが後々、響かないといいけど……
タイガーはいよいよイカロスのマスターである智樹と出会って、また何か波乱が起きそうな予感!
改めて大作、見事でした!

174 ◆ew5bR2RQj.:2013/04/28(日) 03:01:41 ID:ogyiveaU0
たくさんのご感想ありがとうございます。

後々考えたのですが、一人の一存でこのロワの根幹たるシステムのコアメダルのルールを決めてしまうのは良くないと思ったので
>>163
【コア】チーター を 【コア】チーター(一定時間使用不能)に差し替えます。
繰り返しの修正、申し訳ありません。

175名無しさん:2013/04/28(日) 03:12:03 ID:HJ72Yd8I0
大作投下乙です!
ここまで悪さを働いてきたジェイクもついに逝ったか……
トドメを刺さざるを得なかったとはいえ、また人を殺してしまったマミさんはつらいだろうなぁ。
一方でルナティックもまさかの顔割れ、智樹はかなりの精神ダメージ食らってる中でさらにイカロスの話きかなきゃいけないと、波乱の展開にも期待大。
一見対主催の集まった強豪チームだけど、他のどのチームよりも不安だなぁ

さて、一点だけ気になった箇所があるので指摘させて頂きます。
虎徹が今回登場と同時に能力を使っていますが、前回のラストで能力発動、そこからすぐにバイクで移動をしていることを考えると、流石にキャッスルドランまでの移動に能力回復分の一時間もかかったとするのは時間がかかり過ぎではないかと思いました。
ジェイク自身もかなりの速度で移動していて、それに追いつくために虎徹も結構なスピードを出していたことが予測されますので、全速力で飛ばしているのに一時間以上もかかるものかなと。
虎徹が一時間かかった理由の描写があった方が良いのではないかと思ったので、今回は指摘させて頂きました。

176名無しさん:2013/04/28(日) 08:03:05 ID:1S72IxCE0
投下乙です!
こ、こいつはすげー! 全編通して話がするりと飲み込めて、大作なのに長さを感じない!
ジェイクを殺そうとするシーンの智樹が凄くいいなあ。
でもとりあえず、
ジェイクざまああああああああああああああ!!!!

177名無しさん:2013/04/28(日) 11:18:06 ID:lpeTOlkUO
さて、悪行やりたい放題のジェイクに敬意と侮蔑、略して敬蔑を評して何かしらの称号を与えてやりたいが、ただの鬼畜ロリコン親父でいいかな?被害に遭ってるのは大半美少女だし。

178名無しさん:2013/04/28(日) 19:04:57 ID:7sKVdkGs0
投下乙!
二段構えの必殺技といざと言うときの覚悟という、良くも悪くも経験値の高いマミさん、
読心に頼ったジェイク、問題を先送りにした智樹の怠惰、
暴走オーズにルナティックにとどんどん展開しておもしろかったぞー

179名無しさん:2013/04/28(日) 19:52:10 ID:18SYnRxgO
投下乙です。

今までのツケを払わされたジェイクと、只今絶賛支払い中の智樹。

過去に独り善がりを美談に仕立て上げられ絶望し、それでもやり直したいと願う映司。

180 ◆ew5bR2RQj.:2013/04/29(月) 00:24:15 ID:Evvpqo6Y0
>>175
失礼しました、以下のように修正します。
>>149
>道路はほぼ一直線だったし、人質を取って女の子をひん剥こうとする下衆がジェイク以外にいるわけがないからだ。

>人質を取って女の子をひん剥こうとするような下衆が、ジェイク以外にいるとは思えなかったからだ。
にした上で、さらに下記の文章を加筆します。

D-4での戦闘を終えた後、虎徹とジェイクはライドベンダーによる追跡劇を繰り広げていた。
初めて心の声の読めない状況下に陥ったジェイクは、無我夢中で虎徹を振り切ろうとする。
脇道への進路変更や光線による妨害等、ありとあらゆる手段を尽くした。
だが、虎徹は離れない。
どれだけ足掻いても喰らいついてくる男に、ジェイクは生涯感じたことないほどの恐怖を覚えていた。

そうして一時間が経過し、ジェイクはキャッスルドランへと辿り着く。
しかし、既に彼の精神は限界に達していた。
だから彼は運転を誤り、交通事故を起こしてしまったのだ。

「大体テメエが首突っ込んでこなきゃよぉ、俺様はあの女を侍らせて遊べてたはずなんだ……許さねぇ、ぶっ殺してやる、ぶっ殺してやる」
「お前なんかが仮面ライダーに変身すんな、そいつはそんなに安いもんじゃねぇ」

これで納得していただけましたでしょうか?

181名無しさん:2013/04/29(月) 14:25:24 ID:ZXcob/ho0
投下乙です

濃いわあ、凄く濃くて面白かったぜ
GJ!

182 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 01:45:52 ID:L8ZbK5rk0
投下します

183敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 01:49:00 ID:L8ZbK5rk0
【0】


 そこは、地獄だった。
 あらゆる生命を焼き尽くす業火が闊歩し、何処を歩いても呪詛が耳に入り込んでくる。
 ふと地面に目を向ければ、そこにあるのは焼け垂れた"人間だったもの"。
 目線を上げてみれば、黒に塗り潰された空が死の世界を見下ろしているのが見える。
 衛宮切嗣には、この景色に見覚えがあった。
 聖杯に潜む「この世全ての悪(アンリマユ)」が遺していった、絶望の残滓達。
 それが烈火へと姿を転じて、冬木の地に存在する全てを焼き尽くしているのだ。
 衛宮切嗣への最大の罰が、今まさに彼に目の前で再現されている。

 さながら夢遊病患者の様に、切嗣は地獄を進んでいく。
 自分に齎された罰から、一人でも多くの人間を救う為である。
 何処かに生きている者はいないか――それだけを考えて歩いて行った。

 不意に、前へと歩もうとする足が止まった。 
 いや、何者かに足を掴まされ、止められてしまったと言うべきだろう。
 急に動きを阻害されたのには驚かされたが、
 しかしそれは、まだ足を掴めるだけの生命力を有しているという事だ。
 僅かな希望を胸に、切嗣は足止めを行った者に顔を向け――絶句した。
 切嗣を見上げるその者は、かつて自分が罠に掛け、絶望に追いやった末に殺した男。
 あのケイネス・エルメロイ・アーチボルトが、血濡れの顔を憎悪で歪めながら、切嗣の足を万力の如く締め上げていたのだ。

――我々の尊厳を踏み躙っておきながら、今度は偽善者らしく人助けか……ッ!?――

 切嗣はかつて、この男の華々しい栄光を蹂躙し、仲間もろとも絶望の底に叩きこんだ。
 婚約者の為に全てを投げ捨てた彼を、無慈悲にも殺害したのである。
 まだ理想にしがみ付いていた頃の切嗣の罪が、彼の足元に顕在していた。

――私達を散々苦しめておいて、今更あなたに救済があると思ってるの……?――

――正義……?正義だと……!?俺の望みを汚した亡者如きがそれを語るかッ!――

 次々と現れるのは、切嗣が殺してきた者達の怨霊である。
 顔面が悪鬼の如く豹変した彼らは、切嗣に纏わりつきながら呪詛を吐き続ける。
 憎しみに塗れたそれらは、切嗣の罪を延々と苛み続けているのだ。
 怨霊の妨害で身動きがとれず、切嗣はどうにか解放されようともがき続ける。
 しかし、無数の怨念達は一つとして彼に離れようとはしない。
 それどころか、悲壮感と憎悪にまみれた呪詛がますます増えていくばかりだ。

184敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 01:52:14 ID:L8ZbK5rk0

 そうして、切嗣の身体という身体に怨霊が纏わり付いた頃、切嗣の眼が一人の女の影を捉えた。
 長髪がさながら雪の様に白いその女は、切嗣の最大の罪の一つである。
 かつて自分を信じ続けた妻を、彼は最後の最後で裏切った。
 彼女が何よりも愛していた娘も、遂には取り返せなかった。
 アイリスフィール・フォン・アインツベルンもまた、切嗣の理想に振り回された犠牲者なのである。

 アイリは無言のまま切嗣に歩み寄り、彼の首に手を掛ける。
 白い指が彼の首に絡まり――その直後、切嗣の表情が更なる苦悶に歪んだ。
 華奢な体格からは想像も付かない程凄まじい力で、首を締め上げられているのだ。

『切嗣。あなたの身勝手な願いで、こんなにも沢山の犠牲が出たのよ……自分の罪を棚に上げて、今更"正義の味方"を気取るつもりなの?』

 ゆっくりと、首を絞める力が強くなる。
 呼吸を封じられた切嗣は、次第に顔を青白くしていく。
 しかし、相手の方はそんな事まるで気にも留めずに、指に更に力を込める。
 もうその頃には、アイリの表情には鬼が宿っていた。

『お前が見捨てたイリヤの分まで、ずっと苦しめばいい。絶望の中で野垂れ死ぬのが、衛宮切嗣がすべき贖罪だ』

 彼女が吐いたその言葉には、これまでに浴びた呪いの中で最も強い怨念が籠っている様に思えた。
 裏切られた彼女の怒りは、途方もない程に凄まじい熱を帯びているのだろう。
 ここまで自分の妻を豹変させてしまうとは――こんな感情を、今までの自分は振り撒いてきたのか。

「僕、は……それ、でも……」

 意識が深い闇の中へ落ちていく中、切嗣はうわ言の様に呟く。
 例え幾つもの過去に憎まれようが、ここで斃れるつもりはない。
 今ここで"正義"を喪うという事は、士郎への裏切りを意味している。
 自分の希望となってくれた少年との記憶も、その日見た美しき月夜も――あの夜に起きた全てが嘘となってしまう。
 だから、最期に残ったこの"正義"だけは、捨てる訳にはいかなかった。
 それが今の切嗣の生きる意味であり――彼に掛けられた"責務"という名の"呪い"なのだから。

 朦朧としていた切嗣の意識が、遂に消失する。
 彼の耳が最後に捉えたのは、アイリの蔑むような呪詛の言葉。

『ならせいぜい"正義"を気取るがいい。だが忘れるな――お前の"正義"は、無数の屍で成り立っているという事をな』

185敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 01:55:15 ID:L8ZbK5rk0

【1】


 鈴羽の視線の先で繰り広げられるのは、セイバーと緑の怪人との戦い。
 現状では、風を操って戦う怪人を上手くあしらっているセイバーが優位に立っている。
 この調子なら、あと数分程度で彼女の勝利という形で戦いは終わるだろう。
 それにしても、どうしてセイバーはすぐさま怪人を斬り付けたのだろうか。
 ああまで怒りに震えている彼女の姿は、この殺し合いが始まって初めて見るものだ。
 怪人の方も、何だか我武者羅に戦っている様に思えて仕方がない。
 あの戦い方は、まるで怒りに何もかもを委ねているかのようではないか。
 一体、両者の身に何が起こったというのだろか。

(……そんな事考えている場合じゃないよ)

 戦いの事はセイバーに任せておいて、今はこの瀕死の男に意識を向けるべきだ。
 自分の目の前で、彼の命の灯火は消えようとしているのである。
 鈴羽の脳裏に蘇るのは、この地で命を落とした一人の少女。
 心拍数が減っていく彼女に、鈴羽は何もしてあげれなかった。
 あの頃のように、命が消えかかるのを黙って見てるだけだなんて堪えられない。
 今倒れている男とは接点など何も無いが、それが彼を見捨てる理由になどなるものか。
 どうにかしてでも、死の世界に引きずり込まれていく彼の手を取ってあげたかった。

 だが、彼を救うにはどうすればいい。
 医療器具など所持していないし、そもそも持ち運び可能な器具で彼の傷を癒せるとは思えない。
 教会に行けば微小ながら手段を手に入れられるかもしれないが、その施設の入り口付近が既に戦場と化している。
 男を救う手立ては、今の所何処にも存在していないのである。

 それでも何かできないかと考えている内に、鈴羽はある事に気付く。
 彼は意識を失う直前、途切れ途切れにだが「メダル」と呟いていた。
 鈴羽が試しにセルメダルを投入してみると、その男の表情が僅かにだが和らいだのである。
 原理は不明だが、彼はセルメダルを用いて傷の修復ができるのかもしれない。
 つまり、このままメダルを投入し続けていれば、彼を助けられる可能性があるという事だ。

 首輪から数枚程セルメダルを取り出し、それを男の首輪に流し込んでいく。
 どういう構造をしているのか、メダルは吸い込まれる様に首輪へ消えていった。
 するとどうだろうか、男の顔色が少しばかりだが良くなっていくではないか。

「これなら……!」

 希望への活路は、まだ閉ざされてはいなかった。
 こうしてメダルを供給していけば、きっと男を救う事ができる筈だ。
 もう二度と、そはらを喪った悲しみを繰り返してなるものか――そう心に誓いながら、鈴羽はメダルを男に施し続ける。
 どうか救われて欲しいという願いを、その胸の内に秘めて。

186敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 01:57:27 ID:L8ZbK5rk0


【2】


 フィリップは、襲い掛かってきたその少女の名を知らない。
 何の意図があって自分を剣を向けてきたのかなど、知る由もなかった。
 だが、どんな理由があったにせよ、フィリップに敵意を向けたという事実に変わりはないのである。
 怒りに震える動機など、その一つだけで十分ではないか。
 あのバーサーカーと同様に、この女も倒すべき"悪"以外の何物でもないのである。
 彼女が引き連れていたもう一人の少女も、恐らくは同様に打倒すべき存在に違いない。
 どうにしかして二人を撃破し、切嗣を救出しなければ。
 激情に支配されていたフィリップは、自分を少しも疑わずに、ただそればかりを考えて戦っていた。

 だがしかし、いくら怒りを滾らせた所で、それが実力に作用するケースは少ない。
 どれだけ憎しみを募らせたとしても、必ずしも新たな力に目覚める訳ではない。
 つまりは、フィリップが激情に身を任せた所で、セイバーとの戦闘力の差は縮まないという事である。
 現在彼が変身しているサイクロン・ドーパントは、T2サイクロンメモリとのとの適合率が高いお陰で並のドーパントよりも高い性能を保有しているが、
 当のフィリップ自身が満身創痍の状態のままでは、その性能の高さも十分に発揮する事はできない。
 それ加えて、今彼が相手をしているのは、最強の英霊と名高いあの「アルトリア・ペンドラゴン」その人なのだ。
 手負いのままそんな強敵に単騎で挑もうなど、自殺行為とほぼ同義である。

 その証拠に、フィリップは既にセイバーに追い詰められつつあった。
 彼がどう攻撃しても決定打にはならず、逆にセイバーに傷を付けられていくだけで、
 最早それは戦いというよりも、一方的な暴行とも見て取れる。
 騎士王の剣技と宝具の前では、フィリップの怒りなど何の優位性も齎さなかったのだ。

 カオスやバーサーカーの時と同様に、相手があまりにも悪すぎる。
 それに加えて、いよいよセルメダルが底を尽きそうだ。
 ここまで追い込まれたのなら、いっそこれまでの様に逃げてしまえばいいのではないか。
 命さえあればま"悪"に挑めるが、逆に言ってしまえば、命を喪えばもう二度と"悪"とは戦えないのだ。
 翔太郎の遺志を継ぐと決心した以上、こんな場所で殺される訳にはいかない。
 だが、ここで逃げたら残された切嗣はどうなるのだ。
 彼を助けようにも、その為には二人の敵を撃退する必要がある。
 今戦ってる女が切嗣に近づかせるものかと上手く立ち回っているし、彼女の仲間も常に切嗣の傍にいるのだ。
 こんな様子では、どうやっても切嗣を救い出せはしない。
 つまりは、この場から撤退するというのは、切嗣を見捨てるのと同義なのである。

(駄目だ!ここで逃げるなんて……!)

 頭に過った弱い考えを、フィリップはすぐさま振り払う。
 翔太郎の"正義"を継承するのなら、ここで安易に逃げを選んでいい訳が無い。
 例え逆境に陥っても、諦めずに自分の意思を貫かなければならないのだ。
 それに、目の前の"悪"に何もしないで逃走するだなんて、そんなのはもう沢山なのである。

 まだチャンスはある――デイパックの中で眠っている道具を利用すれば、この状況を乗り越えられる。
 フィリップは無言を貫いたまま、これまでにも何度も作ってきた竜巻を再び巻き起こす。
 戦闘の余波で砕けた道の瓦礫をも巻き込み、その竜巻は徐々に色を変えていく。
 フィリップが作りだしたのは、周囲の煤等を利用した砂嵐。

187敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:01:12 ID:L8ZbK5rk0

「またそれかッ!」

 セイバーの言葉など気にも留めないまま、フィリップは砂嵐を放出する。
 襲い掛かる砂嵐は瞬く間にセイバーの元に到達し、彼女の視界を塞ぐ。
 だがこの程度では、彼女は一瞬程度しか怯みはしない。
 しかし、フィリップにとっては"一瞬程度"だけでも十分だった。

《――SPIDER――》
「な……ッ!?」

 その電子音が鳴り響いた瞬間、突如として横側から飛来したワイヤーがセイバーに巻き付いた。
 フィリップがスパイダーショックを起動させ、彼女の動きを封じたのである。
 砂嵐を起こしたのはこの為だったか――セイバーは相手の策に歯噛みした。
 風を利用した攻撃以外にも、まさかこんな隠し玉を持っていたとは。

 エンジェロイドですら容易には脱出できなかった拘束だ。
 いくら最強のサーヴァントと謳われていようが、自力での解放は厳しい。
 そうしてできた隙を、フィリップが見逃す訳がなかった。
 すぐさま暴風を叩き付け、セイバーを後方へと吹き飛ばす。
 上手くバランスが取れない状態で強烈な烈風に煽られたが故に、
 彼女は手にしていた武器を取りこぼし、無様に地を転がる羽目となった。

 身動きを取れない相手を尻目に、フィリップは落ちていた剣を手に取った。
 奴の武器は奪い取ったし、これで第一の脅威は無くなったと言ってもいいだろう。
 激しい憤怒を顔に見せる彼女に目も暮れずに、フィリップは切嗣の元へ歩み寄る。
 横たわっていた彼の傍にいた少女の表情が、一気に緊迫の色に染まった。

「……ッ!止まれ!」

 抵抗のつもりか、少女は懐から拳銃を取り出すと、それをフィリップに向けた。
 それで警告のつもりなのだろうか――彼は拳銃をまるで気にしていないかの様に進み続ける。
 無言のまま迫って来る怪人へ、少女は躊躇なく発砲した。
 しかし、彼女が何回引き金を引いた所で、フィリップは歩みを止めようとはしない。
 一般的な拳銃では、ドーパントの肉体を傷つける事はできないのである。
 彼女の悪あがきは、超人の前では何の足止めにもならないのだ。

 どうやら彼女はそう強くもないようだし、必要以上に警戒しなくてもよさそうだ。
 何故切嗣の傍らにいるのかが多少気になりはしたが、きっと後でゆっくりと拷問でもするつもりなのだろう。
 すぐにでもこの女の手から切嗣を救出し、すぐさま此処から撤退しなければ。
 その思想を実行に移そうとして――真横から突如として襲来してきた突風に、フィリップは吹き飛ばされた。
 その風の砲弾によって彼を勢いよく弾き飛ばされ、切嗣との距離を大きく引き離される羽目となる。
 この突風を発生させたのは、他でもないセイバーである。

188敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:03:37 ID:L8ZbK5rk0

 これこそがセイバーの宝具の一つ――「風王結界」を応用して放たれる「風王鉄槌」だ。
 刀身に纏わせた風を一気に放出し、相手に暴風として撃ち出すのである。
 本来は、知名度の高すぎる「約束された勝利の剣」を周囲に晒さない為にある「風王結界」だが、
 この宝具は剣以外にも様々な物を覆う対象に選ぶことが可能だ。
 セイバーは自身の肉体を「風王結界」で覆い、そしてすぐさま「風王鉄槌」を発動させる事で、鈴羽達を敵の魔の手から救ったのである。
 腕が自由に動かせない状況で立ち上がるのに時間がかかってしまい、切嗣を奪われる寸前の所での発動となってしまったが。

 いくらドーパントの肉体といえど、「風王鉄槌」の直撃はそれなりのダメージとなる。
 暴風に晒されたフィリップは、満身創痍という言葉がよく似合う様な状態にまで陥っていた。
 やっとの思いで掴んだチャンスも、奥の手によって潰されてしまった。
 もう自分に打つ手はない――切嗣を救うのは、もう不可能なのである。

「…………すまない」

 他の者に聞こえない程の声量でそう呟くと、フィリップは風を巻き起こす。
 武器が拳銃しかない鈴羽は言うまでもなく、「風王鉄槌」を発動した影響で、
 すぐには「風王結界」を使えないセイバーにも、彼の行動を止める事はできない。
 緑の怪人が風の中へと消えていく光景を、二人は黙って見ている事しかできなかった。


【3】


 もう助からないとばかり思っていた切嗣は、いつの間にかその顔色を大分良くしていた。
 微弱だった呼吸もそれなりに回復しており、この様子ならそのまま死亡する事はまずないだろう。
 戦闘を終えたセイバーが歩み寄り、切嗣をまじまじと見つめる。
 いつの間にか傷が癒えていた彼の姿を確認して、彼女は彼の身に何があったのかを察した。
 恐らく、切嗣はその身に「全て遠き理想郷(アヴァロン)」を宿らせているのだろう。
 対象の傷を癒すその宝具は、セイバーとの距離が近づけば近づくほど治癒の性能が上昇していく。
 この性質によって、どうにか切嗣は命を繋げられたのである。

 鈴羽の話を聞けば、かなりの枚数のメダルを切嗣に与えていたらしい。
 それにしては、今の切嗣の様子は見るも無残なものである。
 治癒の機能が向上し、鈴羽によるメダルの援助があってもこの状態となると、
 どうやら彼は肉体という肉体を徹底的に破壊されていたようだ。
 宝具の加護を受けていたとしても、もしもあの怪人に切嗣を拉致されていたら、彼は絶対に助からなかっただろう。
 マスターの無事を確認して、セイバーはここにきてようやく安堵する。
 例え殺し合いを打破したとしても、マスターに先立たれててはいずれは自分も消滅する羽目になる。
 いくら分かり合えないとは言っても、一応は同じ目的を持った主従なのだ。

(それにしても……)

 目の前にいるのは、紛れもなく衛宮切嗣その人だ。
 だがしかし、何やら妙な違和感を覚えざるを得ないのは何故だろうか。
 今の彼の表情など、まるで数年もの時間が経ってしまっているかのようだ。
 セイバーの知らぬ内に、一体この男に何があったというのだろうか。

189敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:05:31 ID:L8ZbK5rk0

 今の彼の惨状にしたってそうである。
 まだ切嗣に召喚されてから数週程度しか経っていないが、彼がここまで叩きのめされる様な状況に陥るとは思えない。
 不意打ちを始めとする卑劣な行為を平気で行うこの男が、果たして
 まるで何かを人質にとられ、為す術もなく暴力の嵐に晒されたかのような――。

「セイバー、どうかしたの?」

 鈴羽のその呼びかけで、セイバーの意識は現実に引き戻された。
 鈴羽の方に視線を向けると、彼女は不思議そうにセイバーの姿を眺めている。
 切嗣の得体の知れない不可解さに、どうやら一人で考え込んでしまっていたようだ。

「申し訳ありません。切嗣の様子がどうにも気になって……」
「そうなんだ……って切嗣!?じゃあこの人がセイバーの言ってた……」

 そういえば、既に鈴羽には説明していたか。
 世界の平和の為に身を削り、外道に手を染めてまで戦い続ける存在を。
 自分のマスターであり、同時に敵対しかねない男の名を。



「ええ。衛宮切嗣――私の、マスターです」
 


【一日目-夜】
【B-4/言峰教会周辺】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(極大)、貧血、全身に打撲、右腕・左腕複雑骨折、肋骨・背骨・顎部・鼻骨の骨折、片目失明、牧瀬紅莉栖への罪悪感
【首輪】0枚:0枚
【コア】サイ(一定時間使用不可)
【装備】アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
 0.――――――――。
 1.偽物の冬木市を調査する。 それに併行して“仲間”となる人物を探す。
 2.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
 3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
 4.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
 5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
 6.セイバーと出会ったら……? 少なくとも今でも会話が出来るとは思っていない。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。
※かろうじて生命の危機からは脱しました。
※顎部の骨折により話せません。生命維持に必要な部分から回復するため、顎部の回復はとくに最後の方になるかと思われます。
 四肢をはじめとした大まかな骨折部分、大まかな出血部の回復・止血→血液の精製→片目の視力回復→顎部 という十番が妥当かと。
 また、骨折はその殆どが複雑骨折で、骨折部から血液を浪費し続けているため、回復にはかなりの時間とメダルを消費します。

190敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:07:55 ID:L8ZbK5rk0

【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(小)、安堵
【首輪】60枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】無し
【道具】基本支給品一式、スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
 1.切嗣に一体何が?
 2.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
 3.衛宮切嗣、バーサーカー、ラウラ、緑色の怪人(サイクロンドーパント)を警戒。
 4.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。

【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】110枚:0枚
【コア】サイ
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
 0.この人が衛宮切嗣……。
 1.セイバーの手助けをしたい。
 2.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
 3.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
 4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
 5.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
 6.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。


【4】


 教会から離れたB-5とB-4の境い目にて、フィリップは変身を解いた。
 いや、正確に言うのであれば、変身を解かされたと言うべきなのだろう。
 フィリップの所持メダルが完全に底を尽き、変身の維持に必要なコストを払えなくなってしまったのだ。
 変身が解かれるや否や、フィリップは地面に吸い付く様に座り込んだ。
 これまでの疲労によるものもあるが、己の不甲斐なさが彼をそうさせたのである。
 何しろ、今回で三度目の敗走となるのだ。
 逃げてはいけないと言い聞かせたばかりだというのに、早くもその誓いは破られてしまった。

 仕方ないだろうと、今一度自分に言い聞かせる。
 あの時は、もうこうするしか手は無かったのだ。
 襲撃者が強力だったのもあるが、フィリップの方も相当なダメージを受けていた。
 あんな状況では、もう逃げを選ぶ他に無かったのである。
 もっと体制を整えられてさえいれば、切嗣を救えたかもしれないというのに。
 結局、またしてもフィリップは最後まで戦い抜く事ができなかった。
 自分の命惜しさに、救えれた筈の命を見捨てたのである。

191敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:09:13 ID:L8ZbK5rk0

「すまない切嗣……僕は……君を見殺しにしてしまった……」

 置いてきた切嗣は、きっともう助からないだろう。
 見るからに瀕死の状態だったし、例えそうでなくとも、襲撃者の手によって始末された筈だ。
 自分を置き去りにしたフィリップを、果たして彼はどう思ったのだろう。
 それで良いのだと納得してくれたのか、それともどうして助けてくれないのかと恨んでいたのか。
 彼の生存がほぼ絶望的になった以上、もうそれさえ聞く事ができない。
 最期を看取れなかった後悔が、今になって押し寄せてきた。

 そんな中でも、敵から武器を奪い取れたのは、不幸中の幸いと言うべきなのだろうか。
 黄金色の刀身を有した、刃毀れ一つ無い名剣である。
 かつて切嗣が召喚したサーヴァントも、こんな美しい剣を所有しているらしい。
 彼女もまた、この殺し合いには反抗の意を示すだろうと彼は言っていたか。
 もし彼女に出会えたのなら、その時は今回の愚行を余さず告白しよう。
 身勝手かもしれないが、フィリップの贖罪を聞いてくれるのは、もうその少女しか残っていないのだ。
 もしも彼女が自分の罪を赦してくれるのなら、その時は今度こそ「仮面ライダー」に相応しい戦いをしよう。

 何度挫折を味わおうが、翔太郎の"正義"が――「仮面ライダー」の"正義"がある限り、挫けたりなどするものか。
 「仮面ライダー」の"正義"が邪悪を打ち砕くその日まで、ひたすらに前へと進み続けるだけだ。


【一日目-夜】
【B-5/西部】

【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(極大)、決意
【首輪】0枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、
    T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ロストドライバー+スカルメモリ@仮面ライダーW、約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.切嗣の分まで戦う。
 1.あの少女(=カオス)は何とかして止めたいが……。
 2.バーサーカーと「火野という名の人物」、金髪の女を警戒。また、井坂のことが気掛かり。
 3.切嗣を救いたかったが……。
 3.セイバーに出会ったら、これまでの事を正直に話す。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません
※衛宮切嗣のデイバッグを回収しました。

192敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:11:51 ID:L8ZbK5rk0
.













「――――――――――――――――あれ?」














 唐突に頭に過った疑念で、決心は半ばで停止した。
 自分は今、何か致命的な間違いをしているのではないか。
 恐るべき過ちを犯し、未だにそれに気付けていないのではないか。
 フィリップの意思とは無関係に、冷静になった彼の頭脳が記憶が蘇らせる。
 これまでに行ってきた情報交換の様子が、忠実に再現されていく。

193敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:14:13 ID:L8ZbK5rk0

「あ」

 切嗣が召喚したサーヴァントの外見なら、既に切嗣本人から聞いている。
 青色が目立つ甲冑を着た、小柄な金髪の少女だと言っていた。
 フィリップが対峙した相手も、同じ様な特徴を有していたのではないか。

「あ、ああ」

 そのサーヴァント――セイバーは、その名の通り剣を武器に戦うらしい。
 刃に風を纏わす事で、剣を不可視にするのも可能だと説明を受けた。
 そんな能力を有した者と、フィリップはついさっき戦ったばかりである。

「そんな、嘘だ」

 セイバーの切札は、"約束されし勝利の剣(エクスカリバー)"と呼ばれる宝具だ。
 黄金色に輝く刀身から放たれる光は、万物を消し飛ばせるのだという。
 フィリップが手にしているのは、思わず見惚れてしまいそうな程の美しさを備えた剣。
 その剣の刀身もまた、黄金色の煌めきを放っていた。

「ありえない、だって、僕は」

 思い返してみれば、本当に彼女は敵だったのだろうか。
 フィリップを殺す為だなんて、そんな単純な理由だけで襲ってきたのだろうか。
 血濡れの切嗣を運んでいる自分の姿を見て、思わず激昂してしまっただけなのかもしれない。
 もしそうだとすれば、ちゃんと事情を話せていば、彼女とも分かり合えたのではないのか。

「嘘だ、なんで……僕は、そんな、そんな……」

 切嗣のすぐ近くにいた少女だってそうだ。
 今にして考えれば、フィリップによる救出を妨げるのが、彼女の目的ではなかったのだろう。
 それどころか、彼女は弱り切った切嗣を保護しようとしていたのかもしれない。
 彼女も彼女なりに、切嗣を助けようとする為に傍にいたのだ。

 あの戦いに、果たして"悪"は存在していたのか。
 いいや――あの場においては、誰一人として悪意など有してはいなかった。
 強いて言うのであれば、フィリップ自身が勝手に逆恨みを抱いていただけである。
 あの闘争容認されるべき理由など、一つとしてあるものか。

194敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:16:22 ID:L8ZbK5rk0

『やっちまったな。フィリップ』

 唐突に耳に入ってきたのは、二度と聞く事は無いと諦めていた声。
 視線を前に向けると、そこには今は亡き相棒が立っているではないか。
 生前と何一つ変わらない格好のまま、フィリップを見据えている。
 だが、どうしてだろうか――彼の視線は、今までに無い程に冷ややかになっていた。

『お前は救うどころか、救おうとした奴の足を引っ張っちまったんだ』
「違う!僕はただ、切嗣を助けようと……」

 翔太郎に向けた否定の言葉は、浮かんできた疑念によって妨害される。
 本当に自分は、切嗣を救う為にセイバーと戦ったのか。
 仲間の救出なんて所詮建前で、実際には誰かに怒りをぶつけたかっただけなのではないのか。
 他の者にも自分が受けた痛みを思い知らせたかったと、本能的に考えていただけなのかもしれない。

『いい加減、自分の非を認めたらどうだ』

 別方向から聞こえてきたのは、これまた懐かしい声だ。
 声の方向に顔を向けると、そこにはフィリップの恩人――鳴海壮吉の姿があった。
 彼も翔太郎と同様に、フィリップへの視線が嫌に鋭い。

「僕が悪い……!?襲ってきたのはセイバーの方じゃないか……!」
『……自分の感情だけで全てを決める奴がいるとすれば、そいつは半人前以下だ』

 壮吉の口から出てきたのは、当然の正論であった。
 あの時、セイバーに「何者なのか」と一言聞いてさえいれば、今頃悪役の様に逃げてはいなかった筈だ。
 先に攻撃を仕掛けてきた彼女の方にも問題はあるが、怒りに身を任せて戦い続けていた自分の方にも十分非がある。
 誤解を解こうともせずに、常にセイバーを倒すべき"悪"だと信じて疑わずに行動していたのだ。
 少し冷静になれれば、僅かでも相手の気持ちを汲んであげれば、避けられた事態だったというのに。

『フィリップ……お前が「仮面ライダー」の意思を継いでくれるって、そう信じられたからこそ、俺は安心して逝けたんだぜ』
『よく考えてみろ。お前は「仮面ライダー」として戦えてたかどうか、をな』

 "正義"の名の下に、"悪"を倒して平和を守るのが「仮面ライダー」だ。
 "正義"の権化である彼らが、同じ"正義"と争うなど言語道断である。
 ならば、自己の基準で"正義"であるはずの存在を"悪"と断定し、叩き潰そうとしたフィリップは、果たして"正義"と言えるのか?
 怒りで周りを見失い、可能だった筈の和解すら放棄して襲い掛かるのは、「仮面ライダー」として許されるのか?

195敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:17:24 ID:L8ZbK5rk0

『もう分かってるだろ?フィリップ』
『半人前以下が、自分の"正義"を語る資格はねえ』

 ポケットから、ロストドライバーとスカルメモリを取り出した。
 ロストドライバーが、貴様は"悪"に加担したのだと責めているようで。
 スカルメモリが、お前に"正義"などありはしないと嗤っているようで。
 全身がわなわなと震え始め、手にしていた「仮面ライダー」の証が零れ落ちる。

 切嗣の傍にいた少女には、フィリップの姿はどう映っていたのだろうか。
 瀕死の切嗣を拉致しようとしていて、セイバーが攻撃したら無言のまま彼女に襲い掛かった。
 言葉を交わそうともしないで、少女の仲間を討たんとするフィリップのその姿は――――。







『『お前はもう、「仮面ライダー」じゃない』』







 ――――まるで、「仮面ライダー」の前に立ち塞がる「悪の怪人」ではないか。






「あ、あああ、あ、ああぁぁあぁぁあああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁああああッ!!」

 その一言で、遂にフィリップの心が悲鳴を上げた。
 抑えていた感情が決壊し、叫びとなって口外から放出される。
 自分を責める二人が幻覚である事くらい、既に理解できていた。
 しかし、例え自身が生み出した幻影だとしても、相棒と恩人の口から出てくる言葉はあまりにも重すぎる。
 ここにきて、彼の精神はいよいよ限界に近づきつつあった。

「違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!
 違うんだ……僕は……違う……違うッ!違うんだぁあぁぁああああぁぁぁぁッ!!」

 気付いた頃には、疲労など無視してそこから逃げ出していた。
 ロストドライバーとスカルメモリなど気にも留めないで、ひたすらに逃避する。
 提示された絶望に背を向けて、少年は怯えた子供の様に走り続ける。

 フィリップの後ろから吹き付けるのは、懐かしい故郷の風。
 本来なら心地よさを感じる筈のそれが、まるで背中を焼き付かせるようで。
 その風からさえも、必死になって遠ざかろうとしていた。

196敗者の刑 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:19:52 ID:L8ZbK5rk0
         O         O         O



 ゲームが始まった頃、ある一人の男が言っていた。
 姿形が違えど、その魂に正義があれば、それは「仮面ライダー」なのだ、と。
 彼の基準で考えるのなら、フィリップは「仮面ライダー」なのだろうか。
 答えは"否"――彼の在り方は「仮面ライダー」のそれとは程遠いものだった。

 自分以外の意思をまるで受け付けず、ただ自分の思うがままに暴れていた。
 フィリップ自身の精神が衰弱していたのもあるだろう。理不尽への怒りが強かったのもあるだろう。
 だが、それは決してその行為が容認される理由になどなりはしない。
 一時的にとはいえ、フィリップは背負った筈の十字架を落としてしまったのだ。
 そのたった一度の"敗北"は、彼の心をじわじわと蝕んでいくだろう。


 蟻地獄の中へ落ちていく様に。
 少年の魂は、今も深い闇の中へと沈んでいく。



【一日目-夜】
【B-5/西部】
※ロストドライバー+スカルメモリ@仮面ライダーWが放置されています。

【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(極限)、幻覚症状、後悔
【首輪】0枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、
    T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.違うんだ……ッ!
 1.あの少女(=カオス)は何とかして止めたいが……。
 2.バーサーカーと「火野という名の人物」を警戒。また、井坂のことが気掛かり。
 3.切嗣を救いたかったが、どの面下げて会いに行けというのか。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません
※衛宮切嗣のデイバッグを回収しました。

197 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:20:12 ID:L8ZbK5rk0
投下終了となります

198 ◆qp1M9UH9gw:2013/05/01(水) 02:32:15 ID:L8ZbK5rk0
抜けがあったので訂正。
>>189
>不意打ちを始めとする卑劣な行為を平気で行うこの男が、果たして

>不意打ちを始めとする卑劣な行為を平気で行うこの男が、果たしてこんな失敗をするのだろうか?

199名無しさん:2013/05/01(水) 09:02:28 ID:bO3YCMew0
投下乙です!
フィリップも切嗣もどうにか危機を乗り越えたけど……メダルがなくなった上にボロボロじゃん。
それに二人とも自分の罪に苦しむことになるなんて、悲しすぎるよ。
ここに集まった四人にどうか幸あれ。

200名無しさん:2013/05/01(水) 19:54:10 ID:YkdLerjgO
投下乙です。

フィリップが遂に限界迎えたか。

201名無しさん:2013/05/01(水) 23:30:24 ID:.zRILpgo0
投下乙〜!
切嗣の描写が圧巻だった!
しかしフィリップ、すれ違ってしまったな……
と思ったら、あー、気づいちゃったかあ
正義の為に戦う男が仮面ライダーと呼ばれるのであって、その仮面ライダーの正義にすがりついた所でライダーじゃないからなあ……

202名無しさん:2013/05/01(水) 23:48:49 ID:PZ/sWScw0
投下乙ですー
フィリップの状態表が出た所で終わらなかった!

あわわ幻覚&幻聴症状が…精神疲労も「極大」→「極限」にランクアップしてるぅ
切嗣が一命を取り留めたのが幸いっちゃ幸い(?)だけど、むしろ邪魔してしまったフィリップの戦闘は意味のあるものじゃなかったんだよな
なまじ情報交換をしていた分、冷静さを戻した瞬間が知らなかった場合よりもこたえるよなそら。
仮面ライダーとして正義vs正義など言語道断、というのがズシリときた
しかもセイバー組はメダルも消費&重症人&エクスカリバーなしという状況に追いやられてダブルパンチとな…!

改めてお疲れ様でしたー

203名無しさん:2013/05/02(木) 00:00:08 ID:cmo2wiYEO
投下乙です。

過去の罪に苦しむ切継。そう言えば、ケイネスの後に出てきた男女の怨霊、ありゃランサーとソラウかな?

204名無しさん:2013/05/02(木) 00:51:36 ID:vLOF8Kvs0
投下乙です

ここにきて過去の罪への罪悪感が一気に来たか
そしてフィリップもこれは…
ああ、ロワらしいいやらしくて素敵な展開だぜ

205名無しさん:2013/05/02(木) 07:31:15 ID:/8GgX8S.O
投下乙です

やっぱりセイバーは最優(笑)じゃないですかー

206名無しさん:2013/05/04(土) 10:30:17 ID:RCLcLkPc0
新規さんかな、この予約

207名無しさん:2013/05/04(土) 21:22:25 ID:zo/lcaBk0
そしてそのパートを予約するのか
どうなるか期待

208名無しさん:2013/05/06(月) 18:53:57 ID:LsG7XSWU0
フィリップ……、思い出せ!

そんな時のnobody's perfectだろ?

209 ◆YkrJsFGU2A:2013/05/08(水) 22:05:53 ID:rgJ4k0To0
衛宮切嗣、セイバー、阿万音鈴羽 投下します

210 ◆YkrJsFGU2A:2013/05/08(水) 22:08:29 ID:rgJ4k0To0
 セイバーは思い出していた。
 改めて記憶を掘り起こそうとするまでもなく、その光景は残酷なほど鮮明に思い出すことができた。
 高潔な騎士である彼女にとって、それはおよそ考えられる限り最大級の激情を催すに相応しい外道の行いであり、忘れることなど出来るはずもない忌まわしい所業であったからだ。
 目を輝かせて自分との決闘を楽しんでいた気高き騎士との戦に、この男は卑劣な策略でもって、その幕を強引に下ろしてのけたのだ。
 それだけならばまだいい。決して許せる行為だとはいえないが、その後彼が及んだ行為に比べればまだまだ生易しいとさえいえる。
 自分が散々利用し苦しめた二人の人間を用済みになった瞬間に殺害し、悪びれる様子の一つも見せなかったその時に――――セイバーは漸く、自らのマスターが外道であることを理解した。決して相容れることのできない、騎士である己とは決定的に異なった道を歩む者であると、とうとう心より感じたのだ。
 ……だから彼女は、主君を拒んだ。
 どうせ言葉も交わさない傀儡になんと思われようが、彼にとっては知ったことではなかったのだろうが。
 正義を志しているとはいっても、彼の正義はあまりにも非道だった。
 徹底した合理的思考のもとで成り立つ、少数を切り捨てることで多数を救う正義。
 彼にとって命の重さは不変のもので、誰の命だろうと無謬の天秤の前では所詮同じ、多数の前には切り捨てられるものなのだ。
 より多くを救うためであれば、それ以下の犠牲がどれほど出ようとも惜しまない彼の正義の在り方に、セイバーはどうしても共感することができなかった。それゆえに、彼女が自らのマスターへ抱いていた悪印象で彼を危険人物扱いしてしまったのも、決して責められることではない。
 マスター……衛宮切嗣の変わり果てた姿と、その不可解な様子に一番当惑しているのは、彼の傀儡であった彼女なのだから。
 「……じゃあ、危険なヤツなんだよね?」
 セイバーから切嗣に対しての評を既に耳にしていた鈴羽は、彼女へ思わずいぶかしむような声色を発してしまう。
 鈴羽はまだ少女と呼んでいい年齢だが、未来から来たという特殊極まる経験上、年不相応に他人を見る目は発達しているつもりだった。
 軍隊や要人護衛のSPレベルといっては大袈裟が過ぎるにしても、とりあえず一般人レベルではないと自負している。
 そこまででなくともある程度察しが良ければ気付くことは出来たろう。セイバーが自身のマスター『らしくない』負傷の仕方をしていることに違和感を覚えたように、鈴羽もまたセイバーと全く同じ点についての違和感を感じていた。
 
 「あたしには、どうも実感が湧かないんだけど……」
 「……申し訳ありません、スズハ。私も、正直困惑しているのです」
 
 セイバーは彼について散々知った風に語っておきながら確証を持てない自分の不甲斐なさに小さく詫びて、改めて考える。
 自分の知る衛宮切嗣ならば、負傷をしたとしても少なくとも行動不能に陥るほどの重傷を負うことなどとてもじゃないが考えられない。
 彼はとにかく、英霊のセイバーがある種の戦慄を覚える程まで徹底した合理主義者なのだ。仮にどれだけ危うい場面に立たされようとも、その時は速やかに離脱することで事なきを得るだろう。
 それでこその衛宮切嗣。卑劣な策謀で敵を屠る猟犬の爪牙のような冷たい意志を宿した魔術師は、戦いへの真っ直ぐな姿勢など持たない。
 そんな彼しか知らないセイバーは、結局のところ衛宮切嗣という人間について何も理解することは出来ずにいた。
 分かっているのは彼がとにかく冷徹で非情な、機械的に人を殺すことの出来る外道であるとの自分主観の事実だけだ。
 これまでただの一度も、そして恐らくはこれからも。
 切嗣と信頼を築き合ったり、互いに解り合える未来は訪れないと、あの惨劇の晩からずっと確信していた。
 ……こうしている今だってそう思っている。
 あまりにも存在の仕方が異なっている自分たちは、相容れられない。
 彼の理想の正確な形も、彼が如何にしてこうも冷たい男になってしまったのかも、彼の真意も、よくよく考えれば自分は何一つ知らないのだ。

 ” ――――王は、人の気持ちが分からない ”

 そう言って自分の下を去った騎士は誰だったろうか。
 ああ、そうだ。自分(わたし)には結局人の気持ちが分からない。
 不肖に仕えてくれた信ずるべき騎士たちの心さえ理解するに至らなかった悪徳の王に、たかだか三画の刻印以外の繋がりを持たぬ男を理解することがどうして叶おうか。叶う道理が何処にあるというのだろうか。

211Kに誓いを/ダイヤモンドは砕けない ◆YkrJsFGU2A:2013/05/08(水) 22:09:30 ID:rgJ4k0To0
 「……うぅん、こうしていても手詰まりみたいだね」
 
 鈴羽がどこかその表情に物憂げな色を帯びさせてきたセイバーの心情を察したのか、不自然なくらいに明るげな声色で沈黙の流れを断った。
 セイバーとは間違っても敵対しないように、彼女に対しては一定の警戒を払っている鈴羽であったが、それなりの長い時間を共に過ごし、仲間の死を分かち合った関係である。その間柄はとうに、『仲間』と呼んでいいほど近付いたといってもいいだろう。
 彼女に対しての警戒や万一の場合への危惧は、既にかなり薄れていた。
 少なくとも、彼女を気遣うことが出来るくらいには。
 鈴羽はセイバーの知る”衛宮切嗣”を言葉伝にしか知らない。
 だから適切な評を下すことが出来る訳もない。
 そんな軽率で無責任な言動をしては切嗣に……何より、こうして悩んでいるセイバーに失礼だ。
 それならばと、鈴羽はしばしの逡巡の後に、ある話を切り出すことを力強い意思を瞳に浮かべながら決意した。
 世迷い言と断じられても何もおかしくない、突拍子もない可能性の話だ。しかしこれ以上に噛み合わない現状を説明する為の理屈もない。何よりも、セイバーの負担を少しでも和らげられるならそれもいいかと思い、手持ちの知識を使って始めた。
 ……それに、実際に使用したこともあるし、そういう意味ではちゃんと根拠はある。あくまで突拍子がないのはセイバーや大方の参加者達の常識に基づいた場合であり、鈴羽にとっては当に立派な常識の一つだ。

 「――セイバーはさ、タイムマシンって知ってるかな?」

 そんな語り口で話の口火を切りつつ、鈴羽は再び切嗣の首輪へと自分のメダルを供給する。彼が危険人物であるかどうかは彼が眠り続けている現状、確かめる術はないが、たとえどんな理由付けがあったとしても、間違えて誰かを死なせてしまうなんてことだけはしたくなかった。
 それが彼女なりの、父親の死への向き合い方だった。
 

  ■  ■


 衛宮切嗣を苛み続ける悪夢はまだ終わりを告げては居なかった。
 悪夢とは人の心理に起因するものであるらしいが、だとすれば彼が意識を失う前に感じた絶望の程は想像も出来ないものだったに違いない。
 ――今彼が再度体験しているのは、あの呪われた杯の内部での問答の記憶であった。300人が乗った船と200人が乗った船があり、この総勢500名のみが人類最後の生き残りである。片方の船に穴が開き、助けることの出来るのは片方の船だけだ。
 切嗣はかつて躊躇うことなく200人の船を見捨てた。そこにある理屈は、彼が長年布いてきた”少数を切り捨てて多くを救う”正義。
 だがそれも、今となってはそう簡単に下せる決断ではなかった。
 衛宮切嗣の犯した最大の罪悪から月日が経ち、息子を得て、穏やかな日々を過ごし、誰も自分の前から居なくならない世界を知った男。
 単なる敵対者でしかなかった間桐雁夜の願いを背負い、正義の味方として今度こそやるべきことを全うすると決意した彼に、前と同じ機械じみた決断が下せるわけがなかった。切嗣は最早、『天秤の測り手』にはそぐわないほどにその研ぎ澄ました猟犬の牙を欠けさせていたのだ。
 しかしこれはあくまで、彼の見ている悪夢(ユメ)に過ぎない。
 所詮はただの陽炎。
 どんなに頑張っても、深層心理の再現映像にその手が届くことは決してない。
 ただ記憶の在り方のままに、自身の罪を再度体験させられる、自らの正義で大勢を犠牲にしてきた男へ科せられる最大の罰。
 切嗣にとっては紛れもない生き地獄、拷問にも等しい苦痛であった。
 敗北の報い。大層な理想を掲げて打ちのめされ、あわや再起不能寸前にまで陥る羽目になった男へと下される、『敗者の刑』がそこにはあった。 
 
 ――止めろと叫ぶ。
 こんなことは、何にもならない。
 こんなものは、正義なんかじゃない。
 それを知ってしまった彼は、必死にこれを終わらせてくれと懇願する。
 しかし彼の腕は過去に逆らうことを許さない。

212Kに誓いを/ダイヤモンドは砕けない ◆YkrJsFGU2A:2013/05/08(水) 22:10:41 ID:rgJ4k0To0
 200人の乗客をキャレコの暴風が鏖殺した。
 なおも問答は続く。
 天秤は既にあべこべだ。
 結末を知っているからこそ、衛宮切嗣は絶叫する。
 (僕は……もうこんなことは、望んでいない……ッ!!)
 どれほど泣き叫んでも悪夢が終わりの兆しを見せることはない。
 本来であればこの後に最愛の娘を自らの手で抹殺し、妻の形を模した悪魔をその怨嗟を浴びながらも殺害する筈だったが――世界はここで、再度の暗転をする。

 次に再現されるのは、夜明けの海。
 一機の飛行機が飛んでいる。
 (あれは……、まさか…………)
 忘れられるものか、この光景を。
 これは『魔術師殺し』の衛宮切嗣が真に始まった瞬間ともいうべき、母親であった人物を失う瞬間だ。
 手にはミサイルがある。
 切嗣の意思に反して動いた手は、静かにミサイルの引き金を弾いた。
 挽き潰さればらばらと落ちていく機械の鳥の残骸はまるで紙吹雪のようで、曙光の一筋が、失意の切嗣を照らす。
 切嗣は――咆哮をあげた。
 奇しくもあの時と全く同じように、心からの絶叫をあげた。
 ジェイク・マルチネスによる暴行で味わった地獄のような絶望と激痛なんてもの、この責め苦に比べればどれほど生易しいものだったことか分からない。
 それほどまでに衛宮切嗣という男にとってこの『刑』はただひたすらに過酷を極めるものであった。
 
 次に投影される光景は、凡ての始まりの地だった。
 白蝋のような肌に静脈を浮き上がらせて、殺せと懇願する少女。
 変わり果てたその姿を、見間違えることなどあるわけがない。
 ……いや、そんなコト、絶対にあってはならない。
 切嗣はかつて彼女に恋をしていた。
 思えばそれが初恋だった。
 初恋の少女は死んでいる。
 死んでいるのに、まだ生きている。
 そんな矛盾を抱えながら、少女は咽び泣いている。
 彼女は普段の元気で腕白な、向日葵のように華やかな、衛宮切嗣が子供心に恋慕の情を抱かずにはいられなかった笑顔からは想像もつかない泣き顔で、切嗣にどうか殺してくれと希う。
 自分の手では出来ないから、君が殺してくれと。
 君ならいいと、泣いている。
 
 ――――ああ、そうか。君は…………

 切嗣は度重なる報いを受けてきた。
 或いは見せられてきた。
 勝手な理想で大勢を地獄へ叩き落とし、なお偉そうに正義を語る傲慢な男に相応しい罰であったと、彼は理解できるまでに心身共に磨耗した。
 だからだろうか、この光景だけは、これまでと違っていた。

213Kに誓いを/ダイヤモンドは砕けない ◆YkrJsFGU2A:2013/05/08(水) 22:11:26 ID:rgJ4k0To0
 過去の、まだ『魔術師殺し』などという大層な通り名で呼ばれていない頃の切嗣には、彼女を殺すことは遂にできなかった。
 実力の差があったわけではない。
 殺してくれと願う彼女を殺すのは、赤子の手を捻ることよりもずっと容易いことだった。
 何しろ殺人の手段という手段を仕込んだ彼の義母(はは)でさえも畏怖の感情を抱かずにはいられない、指先だけを機械のように動かして他人を殺す技能を、彼は生まれながらの才覚として会得していたのだから。
 ならば、それが出来なかった理由は決まっている。

 ……ただ、衛宮切嗣(ぼく)がそれを拒んだのだ。
 
 人外の身に落ちさらばえてもなお、自死を選べない少女の最後の懇願を裏切って、切嗣(ぼく)は手前勝手な善意を働かせ、彼女を救うという独りよがりな善意を盾にして、彼女から逃げた。
 それが取り返しの付かない過ちであることも、彼女にとってどれほど残酷なコトであったかも知らないままに、始まりの罪を犯していた。
 
 「……解ったよ」
 
 身体が動く。
 これはあくまでただの夢だ。
 聖杯の呪いなどいっさい関与しない、幻想の世界だ。
 それなら、今度こそ遂げよう。
 長らく待たせてしまったね。
 でも、もう泣かないでくれ。
 笑っていてくれ。
 僕が君の最期の願いを、叶えるから。
 
 「ごめんよ、シャーレイ」
 
 足下に放り寄越されたナイフを拾い上げると、確かな足取りで震える彼女――シャーレイへと近付いて、切嗣は一筋の涙をその右目から流した。

 「……僕は君を、助けられなかった」

 ひゅん、と風を切る音が一つ鳴る。
 シャーレイの首筋をナイフが容易く切り裂き、切り裂かれた頸動脈から鮮血が噴き出す。頸動脈を裂かれての失血死ならば意識は朦朧としたままで、死の苦痛を幾ばくか和らげることも可能だろう。
 初恋の少女の血を浴びながら、切嗣は倒れ伏す彼女をじっと見つめる。
 虚ろな瞳と白蝋の肌で、見る影も無いほどに変わり果てた幽鬼のような姿でこそあったが、シャーレイは最期に微笑んだように見えた。
 切嗣がかつて恋した笑顔で、微笑みかけてくれたように見えた。
 それが見間違いだったのかどうか、遂に切嗣には解らなかった。
 

 …………衛宮切嗣はこうして、たとえそれが仮初めの幻想(ユメ)の中であったとしても、かつて救えなかった少女を、確かに救った。

214Kに誓いを/ダイヤモンドは砕けない ◆YkrJsFGU2A:2013/05/08(水) 22:12:04 ID:rgJ4k0To0
  ■  ■


 景色はまたも暗転する。
 切嗣が居たのは、見慣れた銀世界の中だった。
 この景色を再び目にすることに、深い感慨を抱かずにはいられない。
 何度戻ろうとしても戻れなかった、あのアインツベルンの城であった。
 
 聖杯戦争が始まるよりも前、間違いなく完成されていた魔術師殺しという怜悧な刃を錆び付かせるほどに、幸せだった時間がここにはある。
 これまで見てきた全ての光景が凄惨な血と虐に塗れたものであったからこそ、最も尊く幸せだったこの場所がひどく愛おしく思えた。
 くどいようだが、これはただの夢でしかない。
 しかしたとえ夢であるとしても、絶望を前に崩壊しかけた切嗣にとっては、どんな宝具の効力よりも心強い癒しであった。
 幼少期特有の甲高い声が聞こえて、直後に身体に僅かな衝撃が走る。
 ――そこには当たり前のように、白い白い愛娘の姿があった。
 何度も救おうとして救えなかった愛しい彼女の姿が、そこにはあった。
 いったいどうして、この再会を喜ばずにいられるだろう。
 助走をつけて抱きついてきたのにその体重は悲しいほど軽い……皮肉にもその事実が、衛宮切嗣にとある現実を思い出させた。
 (――――そうだ)
 何を忘れていたんだと、自分を思い切り殴り飛ばしてやりたい暴力的な衝動に駆られる。
 正義の味方を今度こそ貫こうと誓って、打ちのめされて。
 正義の味方にはなれないのかとまた諦めめいた感情を抱いていた。
 だが、それ以前の話だった。
 衛宮切嗣は――”父親”だったのだ。
 (僕が帰らなければ、イリヤは………ッ!!)
 『始まりの御三家』が一角、アインツベルンのホムンクルスである、切嗣の娘イリヤスフィールの価値は連中……魔術師どもにとってはとてつもなく高い。何しろ魔術回路の塊のような、幾重の魔術処置の末に完成した生命なのだ、まず間違いなく、このまま切嗣が帰らなければ彼女は、ユーブスタクハイトの思うがままに使われることだろう。
 切嗣は何度も彼女を救い出す為に森へ赴き、その度に失敗してきたが、この全盛期の肉体でならば彼女を救い出すことが出来るはずだ。
 何せそれを叶えられなかった最大の理由が、聖杯の呪いに蝕まれ、弱体化を余儀なくされたこの肉体であったのだから。
 ユーブスタクハイトがどれほど強大な魔術師だとしても、魔術師を殺すことに関してなら連中すら凌駕する自信がある。
 魔術師殺しとしての技能や力の全てを取り戻した今ならば、かつてこの肉体であの聖杯戦争を馳せていた時さながらに、自分の魔術に驕ったアインツベルンの連中の喉元を喰い敗れる。断言したっていい。
 ああ、殺そう。
 正義の味方を再度志したその時に、無益な殺生を是とする自分は捨て去ったが、イリヤを救うことを阻もうとするならば誰一人として生かしはしない。
 あの夢のように道を塞ぐ者全てを鏖殺して、姫を救い出そう。
 そこから始めよう。衛宮切嗣の贖罪を。
 
 「イリヤ、少しだけ待っていてくれ」
 とはいっても、仮にこの忌まわしい殺し合いを打破したとして、全盛期へ戻った自分が帰るのはきっと、あの第四次聖杯戦争であろう。
 だがそれでいい。あの何もかもを失う前の時間に戻ることこそが、過去に成せなかった救済を遂げるための大前提なのだから。
 そうでなくては囚われの間桐桜を救い出せない。雁夜との約束もまた、切嗣の中では決して違えることの出来ない誓いと化していた。
 自分の力でこのふざけた運命を書き換える。
 イリヤを好き勝手になんてさせてはやらないし、桜が壊され続けなければならない、そんな不条理な未来も許すものか。
 それが道理だというのならば、その運命を完膚なき迄に破壊しよう。

215Kに誓いを/ダイヤモンドは砕けない ◆YkrJsFGU2A:2013/05/08(水) 22:12:53 ID:rgJ4k0To0
 冬木の大火は起こさせない。
 衛宮切嗣(ぼく)が全てを救い出す。
 
 だから――と。
 衛宮切嗣はイリヤの細い身体を抱き締めて、はっきりと誓う。
 やはり、その身体は羽毛のように軽くて、そして暖かかった。

 「父さんは、必ず君のところに帰る」

 ――こんなところで、砕けてなんかいられない。
 

 その時、世界は崩壊した。
 彼の精神(こころ)は、確かに絶望を乗り越えた。
 『シャーレイを救うこと』と『イリヤと再会すること』は彼の心に確かに存在していたふたつの後悔である。
 死者達の怨念を幻影であるとはいえ浴びたことでその心は憔悴し、誰かを救いたいという欲望が無意識下に生まれていった。
 そしてそれは、衛宮切嗣の最初の間違いである、シャーレイを殺せなかった――彼女を救えなかったことと結びつき、彼の欲望が曲がりなりにも満たされることで、彼の首輪にはメダルが注がれた。
 むろん、愛娘との再会はあの日、聖杯を破壊した日からずっと切嗣が願い続けてきたコトである。
 まるで地獄のような悪夢を乗り越えた報酬と言わんばかりに、彼の命を癒す糧は首輪へ貯蔵され、彼を癒すために消費されていった。
 吹けば消えてしまうように儚いユメ、されどそこに切嗣は欲望を見出し、紛れもなく確かにそれを満たしたのだ。
 
 そして一度は尽きた彼の運は、まだ終わってはいない。
 鈴羽は未だ意識を取り戻さないだけでなく、全身各所に相当の重傷を負っている切嗣の回復を願って、メダルをなおも注ぎ続けている。
 悪鬼より負わされた手傷は徐々にではあるが確実に修復しつつあった。
 やがて来たる覚醒の時を今はじっと待って、切嗣は眠り続ける――
 

  ■  ■


 「……成程。確かに、それならば辻褄も合いますね」
 セイバーは鈴羽の話を聞き終えると、やがて静かに頷いた。
 鈴羽は彼女が少々激情家のきらいがあることを見抜いていたのでひょっとすると反発されるのではないかと内心ヒヤヒヤしていたものだから、彼女がこうもあっさり納得してくれたのは少々意外だった。
 鈴羽の話を大まかに纏めるならばこうだ。
 タイムマシンの大まかな概要を説明した上で、鈴主催者・真木がそれを改良し、更に汎用性の効くようにしたものを使い、何らかの力と組み合わせて用いたのではないかと打ち出した一つの仮説。
 セイバーは生まれが鈴羽や他の大半の参加者と比べて相当に前であり、その為に現代の機械については疎い。
 『時空を越えられる機械』なんてものがあると聞いたときには驚いたが、彼女は鈴羽がつまらない嘘を吐いているのではないとその目を見て理解した。それにこれまでの道中を共にしてきた仲間だ、セイバーはそれを疑おうということはしなかったろう。
 「つまり、衛宮切嗣はセイバーの知っている時間軸とは違う時間軸から来ているんじゃないかってコト。……まあ、まだ彼が危険でないとは限らないわけだけどさ。頭から疑って掛かっても仕方ないし、ね」
 鈴羽の言葉にセイバーは複雑な面持ちで沈黙する。
 やはり彼女としては、些か複雑な心境でもあった。
 時間が違うとはいっても、切嗣への悪印象は決して消えたわけではない。

216Kに誓いを/ダイヤモンドは砕けない ◆YkrJsFGU2A:2013/05/08(水) 22:13:43 ID:rgJ4k0To0
 こうしている今もセイバーの脳裏には、彼が非道な手段で好敵手とその主君たちを抹殺した忌まわしき光景が鮮明に残っている。
 (切嗣が目を覚ました時……私は、この男を受け入れることができるのだろうか……?)
 決してこれからの道のりは易しくない。
 セイバーがどれほど彼に譲歩したとしても、切嗣はセイバーに対して半ば憎悪にも等しい拒絶を示していたのだ。
 分かりあえるとは、思えなかった。
 (それよりも、切嗣が私を受け入れることなんて……)
 ぎり、と音が聞こえるほど強く歯噛みする。
 鈴羽は今度こそ口を挟むことが出来なかった。
 それほどまでに、彼女の表情は真剣そのものだったのだ。
 (……私達はこれから、どうなるのだろうか……)
 高潔な騎士にそぐわない苦悩を抱えながら、セイバーはただ、令呪という手綱を握る主君の覚醒を待つ。
 理想に破れ、それでも正義を信じる男が目覚める時、彼女たちの未来に待ち受けるのは果たして、如何なものなのだろうか。




【一日目-夜】
【B-4/言峰教会周辺】


【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(大)、貧血、全身打撲(軽度)、右腕・左腕複雑骨折(現在治癒中)、肋骨・背骨・顎部・鼻骨の骨折、片目失明、牧瀬紅莉栖への罪悪感、強い決意
【首輪】0枚:0枚
【コア】サイ(一定時間使用不可)
【装備】アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
 0.――――――――。
 1.偽物の冬木市を調査する。 それに併行して“仲間”となる人物を探す。
 2.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
 3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
 4.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
 5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
 6.セイバーと出会ったら……? 少なくとも今でも会話が出来るとは思っていない。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。
※かろうじて生命の危機からは脱しました。
※顎部の骨折により話せません。生命維持に必要な部分から回復するため、顎部の回復はとくに最後の方になるかと思われます。
 四肢をはじめとした大まかな骨折部分、大まかな出血部の回復・止血→血液の精製→片目の視力回復→顎部 という十番が妥当かと。
 また、骨折はその殆どが複雑骨折で、骨折部から血液を浪費し続けているため、回復にはかなりの時間とメダルを消費します。

217Kに誓いを/ダイヤモンドは砕けない ◆YkrJsFGU2A:2013/05/08(水) 22:14:32 ID:rgJ4k0To0
【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(小)、今後の未来への不安
【首輪】60枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】無し
【道具】基本支給品一式、スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
 1.私達は、これから……
 2.切嗣に一体何が?
 3.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
 4.衛宮切嗣、バーサーカー、ラウラ、緑色の怪人(サイクロンドーパント)を警戒。
 5.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。
※鈴羽からタイムマシンについての大まかな概要を聞きました。深く理解はしていませんが、切嗣が自分の知る切嗣でない可能性には気付いています。


【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】70枚:0枚
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
 0.この人が衛宮切嗣……。
 1.セイバーの手助けをしたい。
 2.罪のない人が死ぬのはもう嫌だ。
 3.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
 4.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
 5.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
 6.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
 7.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。

218 ◆YkrJsFGU2A:2013/05/08(水) 22:17:36 ID:rgJ4k0To0
これにて投下終了となります。
こちらでは初投下の身なので、何かあれば遠慮なく指摘してください。
個人的には切嗣が夢の中で過去の過ちを清算し、救済の欲望を満たすというあたりが大丈夫なのか悩むところですゆえ、そこもまずかったら言って下されば幸いです。

219 ◆YkrJsFGU2A:2013/05/08(水) 22:24:44 ID:rgJ4k0To0
あ、ごめんなさい。
タイトルのアルファベットが被っていたので、「Fに誓いを/ダイヤモンドは砕けない」にタイトル変更お願いします、申し訳ない。

220名無しさん:2013/05/09(木) 00:26:13 ID:xscWBf060
投下お疲れ様でしたー!
自分はしがない読み手なので、個人的には〜の部分の是非を言える立場ではないのですが、それでも面白かったです!
魔術師殺し。殺すしかできない正義の味方。でも、だからこそ救えるようになったものもある。
或いは、かつて、その願いを叶えれなかったからこそ、こういう在り方になったのか。
この再起仕方は予想外だったけど、でも、始まりを精算するというのは変わるにも進むにも大きな意味があると思う。
GJでした!

221名無しさん:2013/05/09(木) 01:52:30 ID:ssI4EU6Q0
投下乙です
どうなるかと思ったがなるほど、こういう切り口もあるのか
よかったよw
切嗣はボロボロになって士郎の存在に救われてそのまま亡くなるはずだった
思いがけない今回のロワで正義の味方をやり直す機会を与えられたが過去の過ちを清算したとは言い難かったからなあ

夢ネタは灰色だと思うけど他スレでもそれなりにあったから他の書き手から物言いが無ければいいと思います
ただ反対案が来たら素直に修正か破棄かと思います

222名無しさん:2013/05/09(木) 10:51:33 ID:Z65tfYjQ0
投下乙です!
夢ネタは問題ないと思いますよ。>>221さんが言うように、他のロワでもたくさんありますし。
それにしても、夢の中とはいえ初恋の人を救えたのは、切嗣にとって救いになったのかな?
一方でセイバーは鈴羽からの話で時期の違いに気付き始めたけど……これがどんな影響を与えるのか楽しみ。

223名無しさん:2013/05/09(木) 11:37:03 ID:.qMRLLuE0
投下乙です
他の参加者とコンタクトしたり死者と話したりしたわけではなく、あくまで切嗣個人の夢であれば何ら問題ないと思います
切嗣とセイバーがこれからどう接していくのか楽しみ

224名無しさん:2013/05/10(金) 18:39:50 ID:UIXfdJB.O
投下乙です。

そうか。目的に近付くとかエロ本を読むとかでもメダルが貯まるんだから、いい夢を見ることでも欲望は充たされるんだな。

225名無しさん:2013/05/12(日) 20:55:53 ID:LRsYgaaA0
また切嗣、セイバー、鈴羽に予約入ったよ

226 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 22:34:14 ID:ZHMKol0A0
どうも。皆さん、初めまして。
初投下させていただきます。
至らないところもあると思いますが、よろしくお願いします。

227 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 22:36:16 ID:I14SPgRA0
一言で言うなら、外道。
若くは鬼か、悪魔か、少なくとも、人間が普通に持つ感情を凡て失った、若くは初めから持っていない生き物……。

衛宮切嗣とは、そんな男だ。

妻、アイリや、娘、イリヤに向ける愛情は、彼の所業を知る者からすれば、そんなものは嫌味以外なんでもない、そう思えるほどの男だ。

確かに、セイバーは彼とそう長いこと付き合っていた訳ではない。

寧ろ、普通の人間が同じ期間付き合うより、親しくなっていない。

だから、彼の事を本当に知っているかと言われたら、頷けない。

でも、普通の人間なればこそ……。



セイバーと、同じだけの期間を、彼と過ごせば、間違いなく思うだろう。
その、余りに清廉で美しい無償の愛が、どう考えても、嘘っぱちにしか見えないことを。

228 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 22:39:05 ID:I14SPgRA0
移動した先の言峰教会。

8時ごろには、セイバー提供の二枚のコアのおかげもあって、切嗣の傷は背負って動けるようには回復していた。
其れ故にこそ、セイバーたちは切嗣を背負って、教会まで移動し、さらに治癒を待って2時間ほど時間を潰していた。

セイバーは襲撃者を恐れ、どんどん暗くなって行くあたりを睨みつけながら、切嗣の回復を待つ……。

「切嗣さんが起きたよ」

と、中の鈴羽はそう言った。
ため息をつきながら、セイバーは教会の中に戻っていく……。

その中で、セイバー、鈴羽、意識を取り戻した切嗣の三人は情報を交換していた……。

日はすでにとっぷりと暮れていて、言峰教会の中には、外部から発見されないように極力落とされた明かなふりがついているだけだった。

「あっちゃー……じゃあさっきのセイバーは失敗だったね」
「……再会できたら謝罪をしなければなりません」
「だが、仕方のないことだ。言っちゃなんだが、あんな格好でうろうろされていれば、僕だって警戒する。セイバーを責めるわけにはいかないよ」
「ま、それもそうかもね。さすがのアタシもありゃービビっちゃうよ」
「……」

和気あいあい、とはいかなくとも。
ある程度は順当に進んでいるように見える、この会合。

だが、当事者であるセイバーには、まったくそうは思えない。

大きすぎる疑念は当然、切嗣に対するものだ。
意識を取り戻した直後に問い詰めたかったが、なんと言葉をかけていいものだか迷っているうちに、心配する鈴羽の言葉を遮った切嗣の方から情報交換が提示された。
鈴羽の勢いもあって、何か言う間もなく、病み上がりの切嗣を刺激しないようゆっくりと教会まで向かった、というのが事の顛末であった。


だが……。

229 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 22:49:10 ID:I14SPgRA0
「まあ、こんなところかな。あたしたちの間で意味のある情報交換は」
「お互い危険人物のことぐらいだったね、実のある話は」
「そうだね。ねえセイバー?」
「……」
「でも、こうして志を共に出来る人に会えたのはとても心強いよ、阿万音さん」
「え?あー、確かに!そうだよね!アハハ!」
「……」

セイバーは口を挟まない。
ちらちらとセイバーの顔色を伺う鈴羽をスルーして、ただあらん方向をにらみ続けていた。
どうやら切嗣のほうもどう切り出していいか判別しかねているようで、ここまでは仮初の平穏が続いていたと言っていい。

しかし、実のある話題が尽きた今、切嗣が話すことといえばひとつだった。

「その、それより、セイバー、」
「ッ」

とうとう直接話しかけられたことに、セイバーは思わず肩を強張らせる。

本人はポーカーフェイスのつもりだったが、その表情は鈴羽や切嗣に言わせればどうみても険悪なものだった。

「ちょっと、セイバー」
「……なんですか、スズハ」
「聞いてた話とは全然違うっぽいよ、やっぱり」
「……わかっています、」
「どうすんの?」
「……」

ひそひそと鈴羽が声をかけてくるのを、セイバーは硬い表情で返事する。
そんな二人を、切嗣は無表情にうかがっている。
そちらをちらりと見て、セイバーは意を決して言った。

230 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 22:50:18 ID:I14SPgRA0







仮面ライダーオーズバトルロワイアル
第100話―――「続・敗者の刑」

231 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 22:51:38 ID:I14SPgRA0
           * ・*・ ・*・

「少しいいですか、マスター」
「……ああ」
「二人きりで話がしたい」
「ちょっと、大丈夫なの?セイバー」
「阿万音さん、少し席をはずしてくれないか?」
「うえっ!?ええ、まあ、いいけど……」

ちらちらとセイバーを伺う鈴羽に、セイバーは頷きかける。
鈴羽は小さくため息を漏らし、去り際にこう言った。

「喧嘩はしないでよ?頼むからさぁ」

セーフティをはずした銃を携えて、教会の入り口に陣取った鈴羽を見届けても、二人の間にしばらく会話はなかった。

「……」
「……」

セイバーは掴めなかった。

聞いたこの外道の行為は、自分の騎士道に則ってみても何もおかしいところはない。


まるで、正義の味方なのだ。


あえて問題点を上げるというなら、それは、この男がこんな言葉を口にすること自体がおかしい、ということ。

「セイバー、」
「……何でしょう」

切嗣が重い口を開く。
セイバーは、それを。
何故か、聞きたくないと思った。

232 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 22:54:57 ID:dUux8C7I0
「僕はね」


「……、」


「”正義の味方”になりたかったんだ」


「……は?」


この外道は、何を?


「知ってのとおり、僕は外道だ。だけど、今の僕は、やり直す機会が与えらた。だから、今回は、」

「……は??」


いったい、何を、言っている?


「、僕は、そう、イリヤを救いたい。それに大勢の人も。僕に手を伸ばしてくれる人を、僕の手が届く人を、全て、」


言葉を聞いて、何かが心の中で動き出した。

233 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 22:57:08 ID:dUux8C7I0
ぐるぐる。ぐるぐる。廻る巡る踊る、ぐぅるぐる。
それは怒り。
このあまりに身勝手な男に対する怒り。
人の気持ちを理解できなかった王者としてのものではなく、主観と現実の食い違いに抱く、まるで幼い子供のような怒り。

それは到底飲み下せないもので、受け入れがたいもので。
それでも飲み下さなければ前に進めないもので。

* * * * * * * * * * ア *ル *ト *リ *ア *王
そしてアーサー・オブ・ザ・キングは、意地っ張りだった。

234 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 22:58:03 ID:dUux8C7I0
「だからセイバー、この場は、」
「……あなたは、卑怯者です」

まるで言い訳のような言葉を止めて、切嗣は答える。

「……ああ、知っている」
「……あなたは、大罪を重ねています」
「……それも、知っている」
「……そんなあなたが、今更……何を言う……?」
「……すまない……」
「謝るなっ!偽善者め!」
「すまない……」
「イリヤ?子供?正義の味方?馬鹿にするな、笑わせるな!貴様が今まで為してきたこと!それを、たった……たったその程度のことで我慢しろというのか!私に!」
「……だがね、セイバー。僕にとって、それは、」

きりつぐは言葉を切る。一度大きく息を吸う。

そんな些細な仕草は、セイバーにとって、まるで聞き分けのない子供をあやされているかのように映って。

渦巻く怒りがうず潮のように、冷静な判断も合理的な解釈も、じわじわと細切れにしていって。

続く言葉が、完全にセイバーを崩壊させた。






「……君にとっての、騎士道のようなものだから」

235 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 22:59:40 ID:dUux8C7I0
「――ッ」


セイバーは拳を握り、振りぬいた。

激情のせいでテレフォンパンチだったものの、病み上がりのきりつぐには十分。
激しい音と、低いうめき声とともに、きりつぐの体は、腰かけていた椅子ごと大きく後ろに倒れていった。

「ちょっ……何やってんの、セイバー!」

大きな物音に、遅ればせながら慌てた顔で鈴羽が、見張りに立っていた表から入ってくる。
それが到着するよりも早く、セイバーは切嗣に馬乗りになり、胸倉を掴み上げた。

「どこまで……!」
「やめなよ、セイバー!」
「どこまで私を、騎士道を愚弄すれば気がすむというのだ、あなたは!!!!」
「……」
「やめなってば!!」

切嗣は何も言わない。
ようやく二人に辿り着いた鈴羽が、セイバーをはがい絞めにした。
だがその万力のごとき力にはかなわず、セイバーは切嗣の胸倉を離さない。

「まさかとは思いますが、贖罪のつもりだったりするのですか!?これが!!?本当にそうだとしたら、あなたは、私以上に誰のことも考えられない愚か者だ!!」
「セイバー、もうやめて!!」
「放してください、スズハ。これは私とこの男との問題です!」
「切嗣さんはもう気絶してる!!」

鈴羽の言葉に、セイバーはようやくはっとなった。

よく見てみれば、切嗣の瞳は閉じられている。
いつの間に、とも思ったが、病み上がりなのだからしょうがないことかも知れない。

236 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 23:01:48 ID:dUux8C7I0
舌打ちとともに浮かび上がっていた切嗣の上半身を投げ捨てれば、後ろの鈴羽はまた文句を言っているようだった。

「わかりましたから、スズハももう離れて」
「……まったく、何があったんだよ。時間遡航の可能性も話したじゃんか」
「それでも、この男の本質は何も変わっていません」

しぶしぶとセイバーを放した鈴羽が、少し顔を強張らせて切嗣を見る。

「本質が変わらない……まだ、容赦のない暗殺者だってこと?」
「さぁ……それはどうかはわかりません」
「だったら!」
「ですが、この男は間違いなく、また外道を働くでしょう」

この男が信念を曲げて、伸ばされるすべての手を掴もうと本当に考えていたとしても。


この男は誰だ?

衛宮切嗣だ!

卑怯者の外道、衛宮切嗣だ!

多くを救うという大義を振りかざして!

どうせまた、すぐに!

「そんな……」
「こうなると今までの話も怪しく思えますね。最初から疑ってはいましたが、スズハの手前、そんなことを言う気にはならなかった。ですが理解しましたよ。どうせ、今までの話もつまらない出まかせでしょう」
「で、でも、あの緑色の怪人……というか、人は」
「大方舌先三寸で丸めこんだというところでしょうね。抜け目のない男ですから」
「……」
「行きましょう、スズハ。どうせそいつは軽い気絶だ。もうほぼ回復もしているし、ここに置いておけば、野ざらしにしておくより襲撃者の心配も少ない」
「えっ、ちょっと待って、ここに置いていくってこと?」

セイバーとしては至極まっとうな結論だったが、鈴羽にとっては寝耳に水だ。
切嗣と合流せず、この場に置き去りにする。

外道を働くようなら殺す、そうでない場合は……。

答えが出たと思えば、いやいやしかしと自問自答が繰り返されて、決めかねていた答えがようやく出た。


この男は信用ならない。
例え今外道を取らなくても、今後はその道を選びなおすかもしれない。
ならばその時のために殺しておくべきか?



それは騎士道に反する。

ならばその時のために動向を観察すべきか?




それは……、


セイバーの我慢がならない。

237 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 23:04:20 ID:dUux8C7I0
「当然です、置いていきます」
「……なら、あたしはここに残るよ」
もう出立することを確定事項とし、自分の荷物をまとめ始めていたセイバーは、その言葉にひどく驚かされた。
「スズハ、今、なんと?」
「あたしはここに残る。切嗣さんを一人置いてはいけない」
「……その男は、必ずやスズハを不幸に陥れます」
「そんなの、わからないよ」
「……」

鈴羽の目を見つめる。
事情も深く知らされず、セイバーが勝手に行動を決めたことがそこまで気に食わなかったのだろうか?

仲間だと思っていたが、どうやら彼女とは相いれない運命だったようだ……。

「……残念です」
「……あたしもだよ」
「では、ご健勝をお祈りいたします」
「ありがとう」
「切嗣のコアは餞別です、お好きにどうぞ」
「そりゃどーも……さっきまで乗ってきたバイクは乗ってっていいよ」
「ありがとう、スズハ」

鈴羽に背を向けるセイバー。
その背中に注がれる視線を気にもせず、セイバーは教会の門をくぐり抜け。
――やがて、バイクのテールランプが、闇の中へ消えていった。

238 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 23:05:56 ID:dUux8C7I0
【一日目-夜中終了間際】*
【B-4/言峰教会】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】*
【所属】青*
【状態】ダメージ(極大)、貧血、全身に打撲、右腕・左腕打撲、肋骨・背骨・顎部・鼻骨の打撲、片目視力低下、牧瀬紅莉栖への罪悪感*
【首輪】0枚:0枚*
【コア】サイ、ライオン×1、タコ×1(一定時間使用不可)*
【装備】アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実*
【道具】なし*
【思考・状況】*
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。*
 0.――――――――。*
 1.偽物の冬木市を調査する。 それに併行して“仲間”となる人物を探す。*
 2.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。*
 3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。*
 4.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。*
 5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。*
【備考】*
※本編死亡後からの参戦です。*
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。*
※セイバー用の令呪:残り二画*
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。*
※かろうじて生命の危機からは脱しました。*
※怪我はなんとかなるぐらいに治りました。

【阿万音鈴羽@Steins;Gate】*
【所属】緑*
【状態】健康、深い哀しみ、決意*
【首輪】110枚:0枚*
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ*
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate*
【思考・状況】*
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。*
 0.この人が衛宮切嗣……。*
 1.衛宮切嗣の看病。*
 2.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。*
 3.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。*
 4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。*
 5.サーヴァントに注意する。*
 6.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。*
【備考】*
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。
※セイバーの姿はもう闇に飲まれて見えません。


【B-4/言峰教会周辺】

【セイバー@Fate/zero】*
【所属】無*
【状態】疲労(小)、精神疲労(大)
【首輪】60枚:0枚*
【コア】無し
【装備】無し*
【道具】基本支給品一式、スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】*
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。*
 1.どこかえ行く。切継のいないどこかへ。
 2.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。*
 3.衛宮切嗣、バーサーカー、ラウラ、緑色の怪人(サイクロンドーパント)を警戒。*
 4.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。*
【備考】*
※ACT12以降からの参加です。*
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。

239 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 23:10:01 ID:dUux8C7I0
さて、こうして別れてしまった三人。

志は同じだったはずだったのに。

同じ方向へ協力して歩けるはずだったのに。

それなのに、独りは闇の中へ。

独りは精神の闇の中へ。

残りは建物の中で。

さて、決してあいいれない王たちの行方はまた交わるのか。


つづく。

240 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/12(日) 23:11:04 ID:dUux8C7I0
これにて投下終了です。
ご静聴ありがとうございました。

241名無しさん:2013/05/13(月) 08:41:37 ID:.cNFKjJA0
投下乙です!
切嗣は喋れないのでは…って一瞬思ったけど、時間かけて骨折も打撲程度まで回復してるなら不可能ではないかと納得。
さて、ようやく主従コンビが出来るか?とも思ったけど、そうだよなぁ、切嗣は自分の中で傷を乗り越えただけで、現実で罪を清算したわけでも何か出来た訳でもないもんな…
そんな自己満足をひけらかされて、これまでの外道をなかったことにしろなんて言われてもセイバーは納得出来ないに決まってる。
ようやく救われて前向きな話がくるかと油断していただけに、盲点かつ見事な着眼点だったと思います。
だが正義の味方はこんなことではへこたれない。きっと切嗣ならここから巻き返してセイバーの信頼を取り戻し、正義の味方を貫いてくれる筈!…と信じたい。

242名無しさん:2013/05/13(月) 11:33:48 ID:eeCE6Vy.0
投下乙です!
ようやく切嗣も目を覚まして、セイバーと力を合わせてくれると思いきや……やっぱりそう都合よくはいかなかったか。
切嗣は正義の味方を目指しているけど、セイバーからすればそんな出来事知ったことじゃないし、納得できるわけないよね……
一応、切嗣には鈴羽がついてくれているけど、どうなるだろう。

243名無しさん:2013/05/13(月) 16:35:25 ID:sLprFupY0
すみません、気になったことが。
切嗣の怪我が治るのがいくら何でも早すぎないでしょうか?
これまでの話の状態表では回復にはかなりの時間とメダルを要するとあり、流石に無理を感じてしまいます。

244名無しさん:2013/05/13(月) 19:56:40 ID:S5r7Dq4w0
投下乙です
そうだよなあ、いくつか予想はしていたが最悪に近い展開だなあ
組めれたら心強いがバラバラかあ
仕方ないのは判るが感情的にセイバーェ……

245名無しさん:2013/05/13(月) 20:38:21 ID:wB8fLnCU0
◆BXyDW0iXKw氏、初の投下乙です。
感想を…といきたいのですが、私も>>243さんと同じことを思いました。
以前の話では骨折や血液補充が完了してから顎が治るという表記があったのに、
この段階で会話可能なレベルまでの回復がされたというのは早すぎるのではと思います。

あと、状態表での切嗣のダメージ状態が悪化していたり、鈴羽の保有メダル枚数が増えている点も指摘します。
これは「敗者の刑」の後続話におけるキャラの状態表として見るなら妥当かとも思いますが
「Fに誓いを/ダイヤモンドは砕けない」の後続話における状態表としては矛盾があるので、訂正をお願いします。

疑問点の提示ばかりになって心苦しいのですが、何か意見がもらえるとうれしいです。

246名無しさん:2013/05/14(火) 18:23:15 ID:QGSKbHDg0
とりあえず問題点をまとめてみると
・切嗣のダメージ回復のスピードがいくら何でも早すぎる?
・また、鈴羽のメダル消費量が前話と比べておかしい。
この二つ?

247名無しさん:2013/05/14(火) 18:23:16 ID:QGSKbHDg0
とりあえず問題点をまとめてみると
・切嗣のダメージ回復のスピードがいくら何でも早すぎる?
・また、鈴羽のメダル消費量が前話と比べておかしい。
この二つ?

248名無しさん:2013/05/14(火) 18:23:15 ID:QGSKbHDg0
とりあえず問題点をまとめてみると
・切嗣のダメージ回復のスピードがいくら何でも早すぎる?
・また、鈴羽のメダル消費量が前話と比べておかしい。
この二つ?

249名無しさん:2013/05/14(火) 18:23:43 ID:QGSKbHDg0
……ごめんなさい、二重投稿をしてしまいました。

250名無しさん:2013/05/14(火) 19:16:53 ID:esojGeUE0
……ちょっとこれは前作との矛盾が大きすぎるのではないでしょうか
上記の問題もそうですが、切嗣はセイバーと話すことはないと明記されていたはずでは?
前話の状態表にも記されてますし、運否天賦にもその旨を描いた描写があります

さらに原作でも切嗣とセイバーは会話していませんし、それらを一切無視して彼らに会話させるのは些か乱暴過ぎると私は思います

251名無しさん:2013/05/14(火) 21:49:44 ID:H/aeuVrk0
自分もそう思いました
実際に切嗣がセイバーと言葉を交したのならそれに至るまでの心境の変化があるはずなのですが
その描写が薄いどころか一切無しというのでは、いくらなんでも話が不自然、というか無茶な気が…
なんというか、三人が仲違いするシーンを書くためにキャラ再現を疎かにしてしまった印象を受けます

252名無しさん:2013/05/14(火) 23:31:10 ID:xLgyDFpA0
後から何度も読み直したら確かに結果ありきでキャラの表現を飛ばしたようにも思えるけど…
ハードルが高めなパートだけど、だからこそこれは変な部分が目立っというか…

253名無しさん:2013/05/15(水) 02:56:08 ID:8PsvyzX.0
頸部の回復は一番最後に行われるんじゃなかったのでないのでしょうか。
それこそ状態表に「健康」と書かれない限りは喋るのは不可能ではないかと。

254名無しさん:2013/05/15(水) 21:26:58 ID:Va02V8cM0
問題点がある以上とりあえずこの話の採用はまだ保留として
これ以降の話し合いが長引きそうなら議論スレ辺りに移行ですかね

255名無しさん:2013/05/16(木) 14:21:49 ID:2Vj0MUs20
それが妥当かと

256名無しさん:2013/05/17(金) 08:39:39 ID:QQ9Z.K.AO
なんだかんだでオーズロワももう百話か……早いな

257名無しさん:2013/05/17(金) 16:29:32 ID:EdmiI8nA0
100も投下されたのかあ

258名無しさん:2013/05/17(金) 19:52:24 ID:UVsL9mqo0
記念すべき第100話だから破棄にはなってほしくないなあ
初めての投下で指摘されて戸惑うこともあるかもだけどめげずに頑張って欲しい

259名無しさん:2013/05/17(金) 21:19:16 ID:Cn0Ps/wc0
俺も同じ気持ちだけど、とりあえず書き手氏には早く対応して欲しいかも……
リアルが忙しいかもしれないけど、書き手氏が来てくれないとどうにもならないし。

260名無しさん:2013/05/17(金) 21:39:32 ID:Z4hW0Gho0
もう週末だしリアルが忙しくともそろそろ反応してくれると思ってる
ちょっと問題点はあったようだけど基本面白い話だったから修正か反応くるの楽しみに待ってます

261名無しさん:2013/05/17(金) 21:49:32 ID:cNVSvHkg0
だよな
指摘された部分はさておき、センスは凄くいい新人さんだからこれからも頑張ってほしいな

262名無しさん:2013/05/17(金) 22:01:05 ID:AtGPIKfQ0
今更だが感想まだだったからこの辺で。
セイバー・・・まぁ、切嗣のこと認めていたとしても納得出来ないのも無理ないわな。
事実セイバーは切嗣のことを認めているし、聖杯を手にするのは切嗣が相応しいとは感じているけど、共感は一切してない訳だから。
殺し合いという状況に取る行動に関しては、ただでさえずっと警戒してた切嗣にそんな挑発されりゃ・・・つか、切嗣ももう少し言葉を選べよとw
修正で内容は少し変わるかもしれませんが、展開自体は手放しに面白かったので、初めてで混乱するかもしれませんがどうか頑張ってください、応援しています。
最後になりますが、投下乙でした!

263 ◆hGYPnjbaTY:2013/05/20(月) 00:31:15 ID:EkDN22cc0
初投下します。

264儚き憎しみに彩られた悲痛の幕開け〜獅子身中の虫〜 ◆hGYPnjbaTY:2013/05/20(月) 00:33:53 ID:EkDN22cc0
 愛する人の居ない世界に意味など無く、其処に生きる我等にも意味など無い。
 無意味な我等は、其れでも愛する人を想う。其処に意味がないと知る事にすら、意味など無く――。
 嗚呼。御前達は、気付かないのか。
 此の世界は、既に色を、温度を、失っている。
 彼の人の血で出来た紅き孤独の海に、何物も意味を失った、白く濁った沈黙の灰を浮かべた地獄。其れを御前等は、仮に世界と呼んで居るのだ。
 
 
 
「(いっそ――全部、壊れてしまえば良いのに)」
 
 
 
 先刻まで僅かに残っていた太陽の鬣も、今や漆黒の帳に覆い尽くされ、此の酷く醜く無意味な世界から、薄氷の如く刻み付けられた彼女の足跡を消してゆく。
 最早、嘗ての仲間達と再び途を交える事もあるまい。セシリアが、真の意味で彼女を無意味な世界に連れ出そうとする輩と行動を共にして居るのも、今の内だけだ。
 世界は既に欺きの上にある。なれば今更欺く事を畏れはしない。欺かれる前に欺け。セシリアを欺かんとする闇の世界の住人達を――。
 
「……夜が、訪れますわ」
 
 世界と一緒に、太陽の鬣もまた完全に色を失い、世界に漆黒の帳が下りる。
 彼の人が居なくなって、世界が意味を失ってから――初めて訪れる、独りの夜。
 傍に彼の人では無い誰かが二人程居るが、そんな者は居ないも同然。
 事実、虚空へ向けて紡がれたセシリアの吐息の如き呟きは、誰の耳にも届きはしなかった。彼奴等、宛ら彼の人の居ない世界の速度に合わせんばかりに、未だこの胸に残る彼の人の声を過去へと置き去りにせんばかりにバイクを加速させて居るのだ。虚無の如き風音はセシリアの儚き声など掻き消して余り有る。
 
 だが、其れで構わない。何も、構う事は、無い。
 其れでこそ、セシリアの魂は燃え立つ。愛する者の魂、散りて二度とは咲かずとも、捧いだ恋慕は炎の如くに。
 彼の人の声は、今もセシリアの胸に、深く突き刺さって居る。其れは、そう――例えるならば、鳴り止まぬ歓声にも似ている。今と為っては、其れだけがセシリアを此の世界に引き止め、セシリアの影を現世へと縫い付けてくれて居るように感じられる。
 セシリアは想う。この無意味な世界に其れでも意味を求めるならば。彼の人が存在した証を刻む事以外にセシリアの執れる途は無かろう。彼の人は此処に居た。此の世界に、其の脚で立ちて散った。其れを、奴原めに魅せ付けてやろう。
 其れだけが、彼の人への愛を守り抜く唯一無二の方法にして、絶対なる正義。
 
 ――否、正義で無くとも構わない。此の愛を貫けるならば、正義か否か等今更どうでも良かろう。抑々、此の虚無の世界に於いて、セシリア以外に真の正義など有り得るのだろうか。千冬は。ユウスケとか云う優男は。此奴等はきっと、イヤ間違い無く、己を正義だと確信して居るに違いない。なれば、其れに牙を突き立てんとするセシリアは悪なのか。
 悪だと云いたいならば、それでも構わない。セシリアの使命は変わらない。

265儚き憎しみに彩られた悲痛の幕開け〜獅子身中の虫〜 ◆hGYPnjbaTY:2013/05/20(月) 00:34:45 ID:EkDN22cc0
 所詮、人が自らを正義であると錯覚する為には、己以外の何者かを己以上の悪であると錯覚するより他に無い。なれば、自分等を正義と信じ、判らぬと逃げ、此の虚無のような世界に殉じようとする悪魔共と同じに下らない正義を掲げるのも癪な話ではないか。
 
 なればこそ。セシリアは、悦んで悪の汚名を被ろう。
 たった一つ世界に残された此の愛を貫く為、たとい此れからの人生、悠久の刻を修羅に身を窶す事になろうとも、其れこそセシリアの望んだ途。其れ以外に赦される途等有り得よう筈も無い。
 そう――何物も、私の世界を、変えられはしない。
 常世の全ては、愛する人に殉ずる為にある。
 亡くした物を、奪い取れ。
 血と、肉と、骨と。
 あと、ひとつ。
 
 
 
「何だ……!?」
 三人を乗せたバイクは、其れまでの景色と比べれば随分と都会化が進んだ都〜マチ〜に入ってから暫しの後、其の底は闇に染まって見えぬ深淵たる川を目前に急停車した。
 ユウスケがバイクを降りて、川の底から響く怨嗟の叫びに耳を傾ける。否、傾ける必要すらも無い。其れは宛ら、溶け出す憎悪のように、夜を食む影の様に、月を射抜かんばかりに軋む軋轢の様に。意識を向ける必要すら感じぬ程の絶叫が、此の場に居る全員の耳には届いていた。
 軋む。軋む。世界を貫く光の如くに、怨嗟の叫びは空を揺らす。
 揺れる。揺れる。埃を失い獣と成り果てた罪人の叫びが、世界を揺らし空を堕とす。
 果たして、墜ちているのは、声の主か、其れを聞くセシリアか――。
 
 千冬とユウスケはバイクから降り立ち、ガードレールに手を掛け深淵を覗き込むが、夜の闇の中に在っては深淵たる泥川の底等見える筈も無い。直ぐ様顔を上げ、二人は互いに見合った。
 奴等、今度は何をする積もりなのか。織斑一夏でも、織斑一夏に関わる何かでもない物に興味等抱けよう訳も無く、セシリアはサイドカーのシートに腰を預けたまま二人の会話を聞いていた。
 
「どうする、小野寺」
「どうするもこうするも、誰かが川底に沈んでるんだったら、助けないと!」
「……落ち着け、馬鹿者。川底で叫びを上げ続けながら、生きている輩が何処に居る。恐らく川底の奴もまた、人ではないぞ。其れでも御前は行くと云うのか」
「確かに、相手は人じゃないかも知れない。悪い怪人かも知れない。でも、そうじゃないかも知れないから……もしかしたら、助けを求めて叫んでるのかも知れないから。だったら、俺、やっぱり見捨てる何て出来ません」
「ならば、もしも悪人だったならどうする」
「其の時は、俺が、クウガとして、其奴を倒します」
「…………全く。馬鹿者が」
 
 千冬は冷たくそう言い放つと、真摯な熱意を滾らせた眼差しで語るユウスケに背を向けた。

266儚き憎しみに彩られた悲痛の幕開け〜獅子身中の虫〜 ◆hGYPnjbaTY:2013/05/20(月) 00:35:16 ID:EkDN22cc0
 サイドカーの座席から其の光景を眺め見た千冬は、宵闇に紛れ誰にも見られていないとでも錯覚したのか、千冬の顔が僅かに微笑んでいる居るのを見た。
 其の小さな笑顔は何処までも優しく〜醜悪で〜、其れがセシリアには赦せない。
 織斑一夏の居ない世界で、織斑一夏の一番の理解者だった筈の彼女が、どうして笑う事等出来るのか。其れは、彼女が本当に骨の髄までこの虚無の世界の住人に成ってしまった事の証明に他ならぬ。
 嗚呼、矢張り彼女は、もう――。
 
「だが……御前なら、そう言うと思っていたよ」
「じゃあ……!」
「どうせ止めても行くのだろう。だったら御前の好きにしろ」
「ありがとうございます……!」
 
 セシリアの落胆等露知らず。耳を聾する雷鳴すらも未だ心地が良い、最早雑音にしか聞こえぬ二人の会話の後、ユウスケが腰に手を翳し、何処からともなくベルトを出現させた。
 次の瞬間には、変身の掛け声と共に、ユウスケは赤き輝きを迸らせ何か別の物へと其の姿を変えて、闇の底へと飛び込んで行った。
 
 紅き身体に、金の角、其の姿、伝説に伝え聞く鬼の如し。
 あの優男は、人ですら無かったのだ。奴等グリードと同じで、人にすら成り切れぬ醜悪な獣。一夏を過去へ追い遣ろうとする悪魔の正体が鬼となれば、尚の事容赦は必要無い。化け物は、人に害成す存在と相場は決まって居る。
 なれば、あの悪鬼も退治せねば。それが、一夏の居た世界を守る事に繋がるのであれば。
 
「……何処までも、あの馬鹿に似ているな」
 
 ――ふと。不可解な言葉が聞こえた。
 意味が理解出来ず小首を傾げるセシリアの隣へと戻って来た千冬は、何処までも醜く赦し難い其の表情で、あの鬼が飛び込んで行った川を眺めて居た。
 
 恐らくは独り言だったのだろう。恐らくは其の言葉に大した意味等無かったのだろう。
 だが、しかし。幸か不幸か、セシリアは其の言葉を聞いてしまった。聞き逃さずに済んでしまった。あの暖かかった日々を、愛する彼に対する裏切り以外に解釈の仕様の無い、何処までも薄情で冷たい其の言葉を。
 誰に似ているのか等と、そんな事は訊こうとすら思わないし、訊きたくも無い。訊かない方が良いと、無根拠にそう理解〜ワカ〜る。
 
 セシリアは想う。
 時は常に背後から迫り、唸りを上げて眼前に流れ去るのだ。時が貴様をどれ程織斑一夏の居ない世界へ押し流そうとも、どれ程その牙を剥こうとも、前を見てはいけない。踏み留まらなければならなかった。それが、彼のたった一人の肉親と云うなら尚更だ。
 希望は背後に迫る冥々たる濁流の中にしか無いと云うのに。在ろうことか、此の女は、意味の無くなった此の地獄で、似ている、等と宣ったのだ。誰に、等と考えたくも無い。考えなくとも察しが付く。
 セシリアがこんなにも苦しんで居ると云うのに。そんな苦しみも知らず、世界の変化を躊躇いなく享受し、彼の人が居ない常世に順応し、彼の人の代わりを見付けて穴埋めをする。そんな彼女を世間は、大人と云うのかも知れない。だがセシリアは、老いさらばえ、完全無欠となったそんな大人が、どうにも赦せそうもない。
 
 殺さなければならない。彼の人の居ない世界で、此の薄情者が生きていると云う事は、理解し難く赦されざる冒涜だ。此の薄情者が今、こうして生きている事自体が、セシリアには最早怖ろしい事とすら感じられた。
 貴様等は何時か必ず、此の三千世界の血の海に叩き落とす。一歩を踏み出す勇気は今、成った。刻さえ満ちれば、今直ぐにでも殺してやりたい。此奴等は、最早一切の慈悲を与えるにも値しない塵芥だ。塵芥以下の存在だ。
 
 その罪深し、海淵の如し。
 赦せない。赦されない。赦してはならない。赦されてはならない。
 もう一度、此の薄情者に、彼の人の居ない世界の苦痛を知らしめねばなるまい。
 肉親だけで足りぬならば、此奴が微笑みを向けたあのユウスケとか云う優男から。
 今では無い何時か、そう、近い内に。私は火を噴く怪物と成り果てるだろう。
 泣き叫び赦しを請うても赦してやれぬ。其の身体が、波濤の残骸と成り果てる迄。
 
 之は粛清成リ。愛する人の光がしなやかに空を裂き、此の何処までも澄んだ蒼穹よりも尚蒼く燐く裁きの雷となりて、彼女等の命の源を断つ。
 ――嗚呼、白き吐息の如き月光が雲を貫き、此の地獄よりも儚い世界を毒して往く。

267儚き憎しみに彩られた悲痛の幕開け〜獅子身中の虫〜 ◆hGYPnjbaTY:2013/05/20(月) 00:36:08 ID:EkDN22cc0
 
 
 
【一日目 夜】
【C-3 バーサーカーの沈んだ川の前】

【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】健康、クウガに変身中
【首輪】10枚:0枚
【コア】クワガタ:1
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
 1.声の主(バーサーカー)の正体を確認し、敵なら倒し、味方なら保護する。
 2.千冬さん、セシリアちゃんと一緒に行動する。
 3.千冬さんとみんなを守る。仮面ライダークウガとして戦う。
 4.井坂深紅觔、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 5.“赤の金のクウガ”の力を会得したい。
 6.士とは戦いたくない。しかし最悪の場合は士とも戦うしかない。
 7.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。
※千冬が立ち直ったこと、セシリアを保護したことによりセルメダルが増加しました。

【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(中)、疲労(小)、深い悲しみ
【首輪】130枚:0枚
【装備】ダブルチェイサー@TIGER&BUNNY、白式@インフィニット・ストラトス、シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木に制裁する。
 1.小野寺、オルコットと一緒に行動する。
 2.鳳、ボーデヴィッヒとも合流したい。
 3.一夏の……偽物?
 4.井坂深紅觔、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 5.小野寺は一夏に似ている。
【備考】
※参戦時期不明
※白式のISスーツは、千冬には合っていません。
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。
※セシリアを保護したことによりセルメダルが増加しました。

【セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス】
【所属】青
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、精神疲労(極大)、倫理観の麻痺、一夏への依存、ダブルチェイサー(サイドカー部分)に乗車中
【首輪】5枚:0枚
【装備】ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ニューナンブM60(5/5:予備弾丸17発)@現実
【道具】基本支給品×3、スタッグフォン@仮面ライダーW、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス
【思考・状況】
基本:一夏さんへの愛を守り抜いてみせましょう。
 1.千冬とユウスケの二人だけは赦せない。三千世界の果て迄追い詰めてでも何時か必ず殺す。
 2.一夏さんが手に入らなくても関係ありません。敵は見境なく皆殺しにしますわ!
 3.一夏さんへの愛のためなら何だって出来ますの……悪く思わないでくださいまし。
 4.一夏さんへの愛のために行動しますの。殺しくらいなら平気ですわっ♪
 5.織斑先生達の前では殺し合いに乗っていないフリ。賢い生き方を、ですわ。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※制限を理解しました。
※完全に心を病んでいます。
※一応、青陣営を優勝させるつもりです。
※ブルーティアーズの完全回復まで残り5時間。
 なお、回復を待たなくても使用自体は出来ます。

268儚き憎しみに彩られた悲痛の幕開け〜獅子身中の虫〜 ◆hGYPnjbaTY:2013/05/20(月) 00:36:36 ID:EkDN22cc0
投下終了しました。

269名無しさん:2013/05/20(月) 01:37:08 ID:c/i0FNFkO
投下乙です

もうだめだこのちょろい(確信)
しかしこのままクウガVS謎スロットさんになったら果てしなき武器のウヴァ、もとい奪い合いが見れるのだろうか?

270名無しさん:2013/05/20(月) 03:09:52 ID:ntzqKUjc0
投下乙です

ちょいんさんはなあ…
脆いというか単純というか浅いというか二次創作でいい意味でぞんざいに扱われるからなあw
巻き揉まれる側にはたまらないが
ユウスケ&千冬はちょろいんさんに噛みつかれるか、それとも…

271名無しさん:2013/05/20(月) 17:42:13 ID:1MpgMows0
投下乙です。
千冬からすれば悲しみを乗り越えて立ち直るのは「大人」だから当然の話なんだけれど
一夏の存在に頼るしかなかった今のセシリアには、それで醜い人間という扱いか…
もはや一夏以外が何を行っても否定的にしか受け取れなくなったセシリアの内面が
情熱的とも取れる雰囲気で描かれていて、読んでて溜息が出る思いでした。

272名無しさん:2013/05/20(月) 19:11:43 ID:SHmg/xDsO
投下乙です。

グリード並みに、世界が色褪せて見えちゃってんなあ。


>>269
撃ち出される剣を次々とタイタンソードに変えるクウガ。
そのタイタンソードを宝具化するバーサーカー。
宝具化されたタイタンソードをまたタイタンソードに変えるクウガ。
以下延々と続く……

273名無しさん:2013/05/20(月) 22:04:39 ID:0Ic9JjTY0
>>272
そして結ばれる固い友情……

投下乙!
文章の漢字の量も相まって、セシリアがすごいヤバいことになってる!?
しかも沈んでるのはバーサーカーだし、これは面白いことになってきたぞ

274名無しさん:2013/05/20(月) 22:23:06 ID:4wWUNi7A0
投下乙です!
………と、言いたいところですが、疑問点がいくつか。
まずひとつ、ユウスケは、其奴なんて言葉は使いません。
他にも、色々とキャラクターについては突っ込みたいのですが、置いておきます。

次に>>266に、火を吹く怪物と成り果てるだろう、という記述について。
これは、セシリアのグリード化を示唆しているのでしょうか?
もしそうだとしたら、一人の書き手が、そこまで先のことを定めてしまうのはどうかと思います。

そして最後に、何より文章が読みにくいです。

少々厳しい指摘かもしれませんがこれからも頑張ってください。

275名無しさん:2013/05/20(月) 22:39:35 ID:MfKPuio60
>>274
「其奴」の読みは「そいつ」なので特に問題はないと思うのですが……

276名無しさん:2013/05/20(月) 22:54:35 ID:MAe1Skhw0
>>274
其奴=そいつ だぞ? 特に問題があるようには思えないけど。

文体のせいか怪奇小説のノリが見事に演出されているな、現代仮名遣いだけど。
「火を噴く怪物」とかも、復讐に狂ったセシリアを一種の怪物に見立てた比喩表現だと思うが。
それこそ意識しすぎじゃね?

277名無しさん:2013/05/21(火) 19:21:35 ID:4x0SZQjA0
>>274
どこが問題なのかわからないんだけど……

278名無しさん:2013/05/21(火) 21:38:28 ID:uLFPkw820
とりあえずキャラクターについて指摘するなら、具体的にどこがおかしいのかを言わないと書き手氏も対応できないと思います。

そして遅れましたが投下乙です。
三人はどこに行くのかと思いきや……よりにもよってバーサーカーの所かよw
ユウスケと千冬さんにとっては味方なんだろうけど、今のバーサーカーはジェイクのせいで敵になってるから大変だw
あとセシリアのヤバさがどんどん加速していくな……

279名無しさん:2013/05/21(火) 23:34:59 ID:HJHgKgi60
投下乙です
そういやユウスケからしたらバサカ味方だから、味方が拘束されて沈められてるとあっちゃ普通に助けちゃうよな…
バサカの襲撃フラグにセシリアの暗躍に、これは次の話が楽しみだw

280名無しさん:2013/05/22(水) 08:39:07 ID:0OVxl4jc0
ところで「儚き憎しみに彩られた悲痛の幕開け〜獅子身中の虫〜 」は通しで大丈夫?

281名無しさん:2013/05/22(水) 12:16:49 ID:zV99dJ420
問題なさそうだし通しだね
修正スレの話がまだ時間かかるかもしれないし…wikiではこっちが第100話かな

282名無しさん:2013/05/26(日) 15:57:34 ID:jnKhuo66O
予約きた!

283 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/27(月) 20:01:40 ID:vIhG1fTE0
皆さんこんばんわ。
それでは、投下します。

284 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/27(月) 20:06:46 ID:vIhG1fTE0
伊達明は、鏑木・T・虎徹にすごい似ている。

バーナビーは、そんな虎徹に、モヤモヤしていた……。

どうして、この人は、虎徹さんにこんなに似ているんだ……。

この人があの人にもっと似てなかったら、こんな気持ちにならなくていいのに……!




オーズロワ第101話
「敗者の刑〜バーナビーの場合〜」




「なあバーナビー、ちょっと休憩しねえか」
「休憩?そんなことしてる暇があるんですか」
「まあまあ、もうずっと歩いてんだし、ちょっとくらい休まねえと身が保たねえだろ?」

休憩の提案を受けたバーナビーは、釈然としないも伊達に従うことにした。
言われてみれば、あの少女との戦いから既に一時間近くも歩いているようだ。
伊達はまだしも、重たいスーツを着て歩くバーナビーが疲れていないわけがなかろう。
そこまで見越してバーナビーに休憩の提案をしてくれたのだとしたら、とても気の効くと思う。
そんな姿にまで虎徹さんを連想してしまって、バーナビーはまたモヤモヤする……。

「どうして……そんなに……似ているんだ……」
「ん?なんか言ったか?」
「……別に。何も言ってませんよ」
「そうか?変な奴だな」

思わず漏れた言葉は、どうやら伊達の耳には届いていなかったようなので、バーナビーは安心する。
もしも今の言葉が聞かれていたら……とても恥ずかしい。
きっと伊達さんは根掘り葉掘り聞いてくるからだ。

「それで?これからどうするんですか、伊達さん」

バーナビーはそこに立ち止まって、伊達に聞く。
虎徹のことを考えているとつらいので、話を逸らしたかった。

「そうだなぁ……俺ら二人だけじゃ、戦力的に無理があるってことはさっきの戦いで分かったんだ、となれば次は仲間集めかな?」
「そうですね、虎徹さんのような人ともっとたくさん合流して、巨大なチームを作れれば、きっと今度はあの少女にも……」

バーナビーの声には、苛立ちが混じっていた。
今の自分達の戦力では、カオス級の敵には勝てない……。
恐らく、そこに鈴音のようなIS使いが一人加わったとしても……。
勝てない……悔しいので……力が欲しい……。

鈴音のような犠牲を出さなくていいような力。
もう、あんな悔しい思いをするのは沢山だ……。
鈴音のことを考えると、悔しさがこみ上げる……。

必要なのは力だ……。
誰にも負けない、とても強い力……。
そしてそれを最も手っ取り早く満たす方法が、純粋な戦力の増強……つまり、仲間との合流……!

285 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/27(月) 20:10:52 ID:vIhG1fTE0
バーナビーは今、一刻も早く虎徹と合流したいと思っていた。

「ハッ……!?」

いけない……。
また、虎徹のことを考えてしまっていた。
何かあると、すぐに虎徹さんのことを想ってしまう。
これでは、まるで恋する乙女だ……恥ずかしい……。

「にしても、ドクターもロクな支給品寄越してくんねえんだもんな、もっと強い武器がありゃあ、まだやりようはあっただろうに」
「例えば、どんな武器だったらあの状況を打破出来たっていうんですか」
「そりゃあほら、ISとかさ、使ってみたいじゃない、カッコいいし」
「ISは女性にしか使えないでしょう」
「ああそっか……じゃあバーナビーが持ってるような奴、あれなんつったっけ?」
「ガイアメモリですか?」
「そうそう、それそれ。それの飛べる奴版とかさ」

それなら確かに……アリかもしれない。
あの時鈴音よりも速く飛び、鈴音を止めるだけの力を持ったガイアメモリをバーナビーが持っていたなら……。

「これじゃ、飛べませんからね」

バーナビーは、デイバッグから自分に支給されていたガイアメモリを取り出した。
Mみたいなマークが書かれた黒いガイアメモリ、その名をマスカレイドメモリというらしい。
説明書によると、使用者に超人的な力を与える地球の記憶を内包したメモリ……とのことだ。
つまり、これを使用すれば、ハンドレッドパワーが常時使用可能になるようなものということだ。

いや……。

もし、これを使用した上で、ハンドレッドパワーの重ねがけが出来れば……?

きっと、とても強くなることが出来るはずだ……。

そんなバーナビーの考えをまるで知っているかのようなタイミングで、伊達が言った。

「そのメモリと違って、ハンドレッドパワーは5分しか保たねえもんな」
「確かに、そうですね……」

こんな気味の悪いもの、使わざるおえない状況にならない限りは使いたくなかった。
それ故にこそにさっきの戦いでもこれを使うことはなかった。というか使っている余裕もなかった。
だが、これからの激化していく戦い……一つでも、戦力は多いほうがよかろう。

バーナビーは、決心した……。

デイバッグから簡易型のL.C.O.Gを取り出し、それにマスカレイドメモリを装填した。

「バーナビー、まさか……」
「戦力は、少しでも多いほうがいいでしょう」
「それはそうだが……あっ、お前!」

伊達の言葉を聞き終わる前に、バーナビーはマスカレイドの端子を自分の首筋に打ち込んだ。
これでバーナビーは、マスカレイドの力を使いこなせるようになった……。

そして、さらなる力を手に入れたバーナビーは、LCOGを握り潰した。
悪い奴に使いまわされる可能性を潰しておくためだ。

「この力で……今度こそ……」

今度こそ、鈴音を守ってみせる。
いや、鈴音はもういない。第二の鈴音を出さないためだ。
ここに鈴音という名の少女がいたことを背負って……。

しかし、バーナビーは知らない。
それが、実は最弱の下っ端メモリであることを……。
俗に言うところの、いわゆる一つのハズレ支給品という奴だ。
それに気づくのは、一体いつになるのだろうか。

夜の闇の中ーー
二人はそんな真実も知らず道路の端っこに立っていた……。


つづく。

286 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/27(月) 20:11:37 ID:vIhG1fTE0
【E-5/路上】
【D-6 夜(終了間際)】

【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】白
【状態】ダメージ(小)、伊達への苛立ち
【首輪】80枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(腹部に罅)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、マスカレイドメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止める。
 0.どうしてこの人は……ッ!
 1.伊達と共に行動する。
 2.伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ている……。
 3.今度こそ勝ちたいので仲間を集める。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。

【伊達明@仮面ライダーOOO】
【所属】緑
【状態】健康、悔しさ
【首輪】85枚:0枚
【コア】スーパータカ、スーパートラ、スーパーバッタ
【装備】バースドライバー(プロトタイプ)+バースバスター@仮面ライダーOOO、ミルク缶@仮面ライダーOOO、鴻上光生の手紙@オリジナル
    月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)@Fate/zero
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本.殺し合いを止めて、ドクターも止めてやる。
 0.バーナビー、お前……。
 1.バーナビー次第だけど、できれば会長の頼みを聞いて、火野を探す。
 2.バーナビーと行動して、彼の戦う理由を見極める。
 3.あの娘……可哀想にな。
 4.仲間を集めたい。
【備考】
※本編第46話終了後からの参戦です。
※TIGER&BUNNYの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※ミルク缶の中身は不明です。

287 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/27(月) 20:14:02 ID:vIhG1fTE0
ご静聴ありがとうございました。
今回は矛盾点もないと思います!
前回のリベンジと汚名返上の思いも込めて、リスペクトするSSからタイトルを借りました。
それでは、皆さん。感想よろしくお願いします!

288名無しさん:2013/05/27(月) 23:25:02 ID:35aHYUpE0
うーん、ちょっとこれは違うのではないでしょうか?
気になった点としてはマスカレイドメモリをめぐる一連の流れです。
まず、話の都合上今回の話で初登場していますが、『Ignorance is bliss.(知らぬが仏)』で互いの支給品を見せ合っている描写があります。
つまり、この時点で3人はマスカレイドつまり仮面舞踏会の力が使える事までは把握できる筈ですが、これだけで冷静なバーナビーが『ハンドレッドパワーが常時使用可能』という風に解釈できるものでしょうか?

あと、もう1点気になる点が、
ガイアメモリを使用する為にコネクタ処理を行うわけですが、それを伊達が容認するとはちょっと考えられないんですよね。
というのも、伊達ってOOO終盤辺りで、異常なまでに力を渇望し紫のメダルも大量のセルメダルも取り込もうとする映司、その映司に大量のセルメダルを取り込ませて新しい神を誕生させようとする会長、
その2人の言動をどちらも否定している描写があった筈なんですよね。
それを考えると、伊達だったら今のバーナビーが力を求めてガイアメモリのコネクタ処置を行うのはまずさせないのではないでしょうか?
特に伊達は登場話からバーナビーに気を回していますし、前の話でも鈴音を守れなかったバーナビーが精神的に追い詰められているのは把握しているのでなおさらです。

あと、残りのW系の変身アイテムの枠的に登場させて大丈夫なものなのでしょうか?

それから、幾らリベンジといっても全く関係無いSSからタイトルを取るのは脈略がなさ過ぎるのではないでしょうか
『敗者の刑』はボロボロで過去の過ちに苦しむ切嗣、そして致命的な過ちを犯すフィリップを象徴する話、
どう考えても今回の伊達とバーナビーには全く掠らないです。正直全くリスペクトになっていません。

289 ◆BXyDW0iXKw:2013/05/28(火) 00:57:15 ID:B4rix2n20
すみません…無神経なことをしてました…
ご指摘頂いた内容に対応した修正を仮投下スレに投下してきました!
これならきっと皆様にも満足いただけると思います!
それでわ。

290名無しさん:2013/05/28(火) 12:40:35 ID:uD4JbUu.0
仮投下のSS、問題ないと思いますよ
そして予約キター

291名無しさん:2013/05/28(火) 20:21:42 ID:GigYLClQ0
それにしても最近のペースは凄いね
この勢いが保ってくれるといいな

292名無しさん:2013/05/31(金) 18:57:31 ID:ah8WlSzQO
そういえば、バーサーカーの令呪って消滅したの?

293名無しさん:2013/06/01(土) 03:43:06 ID:zrDp.Mlc0
ジェイクの死体についてる
切嗣あたりなら奪い返せるんじゃね

294名無しさん:2013/06/01(土) 17:33:39 ID:coSO.giI0
破棄になるのか……

295 ◆hGYPnjbaTY:2013/06/06(木) 00:07:39 ID:9X.Z.7s.0
投下します

296 ◆hGYPnjbaTY:2013/06/06(木) 00:09:38 ID:9X.Z.7s.0
 届かぬ愛に火を灯す。
 星と成った彼の人を見ずに済む様に。
 哀しみに此の幼き喉を裂かれぬ様に。

「次は誰に愛をあげようかなぁ……?」

 混沌より舞い下りた無垢なる堕天翅が、夜天の夜空を滑るが如くに翔ぶ。
 胸に秘めたる想いは、血の様に赤く、されど骨の様に白く。抉り取り撒き散らした五臓六腑の如くに赤黒いが、然し其れで居て月を射抜く吐息の如くに白く清廉なる此の想いを、人は愛だと云う。
 最初に其れを教えてくれた人はもう居ない。さよならを言う時間は与えられなかった。
 
 カオスは今も、心の中で彼女にさよならを言う。さよならを言い続ける。二度とは来ない再会を夢想して、さよならを言う練習を繰り返す。たった四文字程度の其の言葉を、少女は只執拗に飾り立てる。
 其の言葉すらも無慈悲なる愛の業火に焼き尽くされたと知っていながら。其れでも少女は只執拗に磨き上げる。言葉も想いも焼き尽くされると知っていながら。
 恐ろしいのだ。恐ろしいのだ。焼き尽くされる貴女の姿が、貴女の髪が――。
 
 嗚呼。心に残る貴女の髪も、爪も。其の姿は皆宝物の様に美しく飾り立てるのに、何故貴女の身体から切り離され焼き払われただけで汚く不気味な物と成ってしまうのだろう。
 愛を求めて遥か彼方を目指し続ければ、何時かは其の答えに辿り着けるのだろうか。
 
 軋みを上げる心を潰し、少女は独り、遥か彼方へと踏み入る。
 心に潜んだ暗き影〜イ=ド〜を振り切り、数多の骨を蹴散らし、其の血肉を啜った翼を鳴らして、少女は当て所も無く翔び続ける。
 
 私に愛をくれるのならば、私は貴女の為に飛ぼう。
 譬えば此の大地の全てが混沌たる冥府の闇に沈もうとも。
 私に剣をくれるのならば、私は貴女の為に立ち向かおう。
 譬えば此の空の全てが貴女を儚き闇に呑み込むとしても。
 
「おねぇちゃんが……皆が教えてくれたことだから」
 
 人を美しいとは思わないけれど。愛を美しいとは思う。
 人が美しくなれる瞬間が在るとするなら、其れが暖かな愛の炎に焼き尽くされて倒れる刻。命の華を炎と咲かし、散って零れる姿にこそ、人は真に美しき愛の輝きを見出すのだと思う。
 之は一種の救済とも言える。仮初の平和に身を窶し、堕落してゆくのみの醜き人に与える、堕天使による黒き救済なのだ。

297 ◆hGYPnjbaTY:2013/06/06(木) 00:10:37 ID:9X.Z.7s.0
 人を美しいとは思わないけれど。愛を美しいとは思う。
 人が美しくなれる瞬間が在るとするなら、其れが暖かな愛の炎に焼き尽くされて倒れる刻。命の華を炎と咲かし、散って零れる姿にこそ、人は真に美しき愛の輝きを見出すのだと思う。
 之は一種の救済とも言える。仮初の平和に身を窶し、堕落してゆくのみの醜き人に与える、堕天使による黒き救済なのだ。
 
「でもね……まだ、届かないんだ……」
 
 雲を払い、空を貫き、其れでも幼き少女の手は真実に届かず。
 美しきを愛に譬うは、愛の真の姿を知らぬが故に。
 こんなにも幼く、こんなにも未熟だから――。
 
 当て所も無く手を伸ばす。
 其の先に待つ爆発音を少女は聞いた。
 大気が軋む。心が踊る。其れは贖罪の炎。
 不揮発性の悪意を前に、少女は首を擡げる。
 
 誰かが、此の先で戦って居る。
 駄目だ。此のカオスを差し置いて、自分等だけで好き勝手に戦い、好き勝手に散って逝く事は、赦されるべき行いでは無い。
 愛を与えるべき対象が減ってしまっては、愛を識ると云うカオスの欲望は充たされぬ。
 心在るが故に愛を欲し、心在るが故に手を伸ばす。
 愛のままに、我儘に、人を焼かねばならぬ。
 
「待ってて……直ぐ、そっちに行くから……!」
 
 仮にキャッスルドランと名付けられた仮初の楽園に、地獄の福音を鳴り響かせん。
 混沌を齎す堕天使の翼が三度地に触れし刻、彼女は愛の炎によって黒き救済〜アクタ・エスト・ファーブラ〜を与えし舞台〜オペラ〜と化すのだ。
 
 ――愆つは、愛を知らぬが故に。
 焼き尽くし、喰らい殺すは混沌少女――。

【一日目 夜中】
【D-5/キャッスルドラン付近】

【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】精神疲労(大)、火野への憎しみ(無自覚・極大)、成長中、全裸
【首輪】170枚(増加中):90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
基本:"あったかく"して、殺して、食べるのが愛!
 0.ありがとう、おじさん!
 1.キャッスルドランに向かい、みんな纏めて"あったかく"してあげる。
 2.みんなに沢山愛をあげて"あったかく"してあげる。
 3.火野映司(葛西善二郎)に目一杯愛をあげる。
 4.おじさん(井坂)の「愛」は食べる事。
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレア、凰鈴音、甲龍を吸収しました。
※現在までに吸収した能力「天候操作、超加速、甲龍の装備」
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。現在は14歳の身長にまで成長しています。
※憎しみという感情を理解していません。
※彼女が言う"あったかい"とは人間が焼死するレベルの温度です。
※キャッスルドランでの戦いによる爆発音を聞きつけました。

298 ◆hGYPnjbaTY:2013/06/06(木) 00:12:48 ID:9X.Z.7s.0
投下終了しました
タイトルは「La ragazza che vola in giù al primo paradiso provvisorio」です
かりそめの楽園へと舞い降りし少女、という意味ですが名前欄に入りきらなかったので

299 ◆hGYPnjbaTY:2013/06/06(木) 02:36:55 ID:9X.Z.7s.0
連レスすみません。
>>297

>愛のままに、我儘に、人を焼かねばならぬ。

という一文に関してなのですが、これを以下の通りに修正したいです。

>愛のままに、我儘に、罪人の群れを焼き払わねばならぬ。

よろしくお願いします。

300名無しさん:2013/06/07(金) 00:08:56 ID:PSgOAdQ60
投下乙。
キャッスルドラン組やべえな。でも智樹いるしワンチャンあるか・・・?

301名無しさん:2013/06/07(金) 12:58:13 ID:gMFzvSW.0
投下乙です!
うぎゃあ、よりにもよってカオスはそっちに向かうのか……
参加者は集中してるし、血の雨が降りそうな予感。

302名無しさん:2013/06/07(金) 15:24:00 ID:oOUBVg4s0
投下乙です

カオスはそっちに行くのはやべえw
智樹は主人公補正無いロワでこえはヤバいだろうなあ

303 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 11:45:53 ID:yvyg.n0k0
投下乙です
カオスはやばいですね…

では投下します

304 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 11:47:17 ID:yvyg.n0k0
ネウロは瘴気……つまり、謎を探して足を引きずって歩いていた。
目的地は、クウガの世界にあるという火山……。
そこにいけば、瘴気がいっぱいあると思う。
それを我が糧と出来れば、こちらのものだ。

だが……。
火山は少し遠すぎる……。
マップ上で2マスも北に進まなければならない……。
2マスというのは、つまりすごい遠いということに他ならない。
10キロ以上もあるのだから、普通に歩いていても疲れる距離だ。

今のネウロには、もうメダルがない。
体力も尽きかけだし、傷も大きいし凄く満身創痍なのだ。
もしも悪い奴に目を付けられたら、いかにネウロといえども危ない。
何故なら、ネウロには今、そんな悪人に対向する術が何一つないのだから……。

極力人に見つからないように、出来る限りは路地裏を歩いている。
もう、姿を消すような類の道具を使うだけのメダルも残ってはいない。
それ故にこそに、進行速度は悲しくなるくらい遅かった……。

305 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 11:48:11 ID:yvyg.n0k0
あの放送からもうすぐ1時間もたつのに、まだE-4すら抜けてない。
この分だと、一体火山にたどり着くまでにどれくらい掛かるかわかったものじゃない。
これだととてもまずいので、途中でメダルを補充せねばなるまいて……。

それには……仲間との合流か、謎を食らう必要がある。
いや、だが……こんな養殖の謎を食ったところで、大した回復は望めないと思う。
おそらく、謎を食えたとしても、火山にたどり着く分くらいで限界なのではないか……。
それでもないよりはマシなので、食える謎があるなら食いたいと思う。

ネウロはこんな時に傍にいないヤコが本当に役立たずだとネウロは思った。
無事再会出来たら、メダルを貰ったのち、キツ〜いお仕置きをしてやろう。

ーーそんなことを考えている時であった……。

「ぐはぁ!」

全身の傷口がまた開いた……。
血がどぱどぱと溢れ出てきた……。
身体に入った亀裂が沢山増えた……。

これは、ネウロの身体にかけられた制限……。

306 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 11:49:18 ID:yvyg.n0k0
魔人の身体を維持するために必要な一時間ごとのメダルコスト。
たった二枚しかなかったメダルが纏めて吹っ飛んで、払えなかったツケが身体に回ってきたのだ……。
だがこの魔人ネウロ、放送の時にも同じ致死毒を食らったので、今更驚いたりはしなかった。

「元気そうだなぁ、ネウロ」

ネウロがウヴァに声をかけられたのは、その瞬間だった……。



オーズロワ第103話
綿棒の刑〜イジメ、ダメ!〜



いつからツケていたのか……。
緑色の皮のジャケット……満面の笑み……ウヴァだ。
ウヴァは絶妙なタイミングで、ネウロの背後から現れた。
まさかこんな時にあの虫頭に出会うなんて……なんということだろう。

「元気そうでよかったぜぇ、ネウロォ。どうしてそんな傷だらけなんだァ?おいィ!フハハハハ!!」
「おや、あなたは……ゴミ虫さんではありませんか。私が元気ならあなたはとても元気がなさそうにみえますね?」
「ああァ〜、そうなんだよォ〜!わかるかぁ?大事な大事な仲間の月影くんが死んじまってよ〜〜ッ!今は喪に伏してるところなんだよなぁ……」
「それはそれは……ご愁傷様です」
「フッフッフ、本当になぁ?あんまり悲しいからお前からも逃げるつもりだったのに、そんな元気そうな姿を見せられちゃ〜、話しかけずにはいられないよなぁ!ハッーハッハッハッハ!!」

ネウロは笑わない。
笑えるわけがない……。
絶体絶命、というやつだ……。

307 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 11:50:32 ID:yvyg.n0k0
ルールに適応するつもりでいたが、こんな短時間で適応出来るほど真木は甘くない。
外敵の襲来が予想以上に早すぎたのだ……。

それにしても……。
何故、路地裏を歩いていたのに気付かれたのだろう……。
考えるまでもない……ネウロは、血痕を地面にのこしていた。
あの虫頭は、ネウロの血痕を辿って追いかけてきたのだと思う。
そして、暫く観察したあと、ネウロが血を吐いたのをみて、これ好機にと姿を表したのだろう……。

「ああ、そうだそうだ……」

ウヴァの姿が、緑の虫の怪人に変わる。
ネウロに迫ってくるウヴァ……。

「よくも俺の大切な仲間の月影をいじめてくれたよなぁ?ネウロ!!」

ウヴァの虫頭に電撃がほとばしる。
それがバリバリ言わせながらネウロを襲ったが、こんな身体ではよけられない。
緑色の電撃がクリーンヒットして、ネウロの身体が吹っ飛んでビルの壁にぶつかった。

「イジメはダメだぜぇ〜……でも、イジメっ子には言ってもわからんから、こうするしかないだろ?言って聞かない悪い子には体罰も必要だぜ……イジメをやる奴は心が腐ってるからな、オラァ!報いを受けろ〜〜〜ッッッ!!!」

ふざけたことを言う奴だ……。
これが綿棒をいじめた報いだと……。
あの綿棒……本当にろくなものを残していかない。
まさかこんなアホみたいな台詞を吐く奴にいいようにやられるなんて……。

いや、今はあの綿棒のこととかどうでもいい……。
服がめちゃくちゃに焦げて、全身がブスブス言っている……これはまずい……。
だが、ネウロはプライドが高いので……弱音などは吐かない……決して!

「こっちはなぁ……どうしてお前が傷だらけなのかなんざどうでもいいんだよ……だがな、仲間思いの俺は月影の仇を討たなきゃならない……分かるよなぁ?え?」

ネウロの頭を掴んで、無理矢理起き上がらせるウヴァ。
いつの間にかその手には、あの綿棒が持っていた赤い剣が握られていた……。
それが何を意味するのかがわからないネウロではない。

「月影が受けた痛みを思い知れ、ネウロ!!」

サタンサーベルが、ネウロの腕を根本から断ち切った。

308 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 11:51:46 ID:yvyg.n0k0
弱りきり、メダルすら使い果たしたネウロの身体では、創世王の剣は耐えられなかった。
腕から大量の血がどぱー!と吹き出して、ネウロの意識が一瞬朦朧とした。

だが……これほどのダメージを受けても、ネウロはまだ死ねなかった……。
それが……魔人という身体に生まれてしまったネウロの不幸……。

「ハハハ、随分としぶといじゃないか〜?」

そう笑いながら、ウヴァはネウロの頭を離した。
ずり落ちたネウロの太ももを、怪人の脚がおもいっきりふみつけた。
太ももの筋肉が断裂して、ブチブチ言いながら血を大量に吹き出して千切れた。
左腕だけでなく、右足までも失ったし、血もいっぱい出ているが、ネウロは死なない……。
いや……死亡寸前というべきか……。

「今のお前なら、俺でも楽勝で殺せるぜ〜?ならブッ殺すしかねぇだろ〜?」
「……吾輩も……堕ちたものだな……貴様のような……虫頭に……」
「あぁん?なんだって〜?よく聞こえなかった……ぜ!!!」
「ぐは……!」

バリバリバリバリバリ……!
ウヴァの緑色の稲妻がネウロの身体を突き抜けた。
口から、そして全身からおびただしい血液が噴き出る……。
腕と脚の傷口の肉が焼け焦げて、得も言われぬ異臭を放つ……。

ネウロの霞んだ目には、ウヴァの背後で尻尾を揺らしてこっちを眺めるキュウべえが見えた。
キュウべえはやはり、こんな時にも表情を崩さないし助けてもくれない……。
はじめからそんなものには期待してないが……。

だが、ネウロは命乞いなどしない。
ネウロの目には、ウヴァに対する反抗の意志が……。
そんなネウロに、ウヴァはたずねた。

「最期に一つだけ教えてくれよネウロ〜」
「……」
「さっき俺がブッ殺す前にあのノブナガにも聞いたんだが、あいつも教えてくれなかったんだよ」
「ほう……」
「なんでお前らは、死ぬってわかってるのにそんな目をしてる?」

どうやらあのノブナガも最期までウヴァに反抗して死んだらしい……。

309 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 11:52:29 ID:yvyg.n0k0
ノブナガらしいことだと思ったので、ネウロは思わずふふっと笑った。

「……昆虫は本能だけで活きているのだろう?」
「あ?」
「貴様のような虫には永遠に分からんという事だ」

ウヴァのサタンサーベルが緑色の雷をほとばしらせながらネウロの心臓を貫いた。
貫かれた心臓部から全身に激しい電気がバリバリ溢れ出したので、ネウロは体内から焼き殺された。
ネウロはもう動けない……二度と口をきくこともない……死人に口なしということだ……。



【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ 死亡】



放送を聞いたあとATMからメダルを引き落としたあとウヴァは少し迷った。
これからどこにいこうか……目的地があるわけでもないのに……。
だが、ネウロが傍にいては、逃げざるおえないだろう。
だから本当はスタコラサッサと逃げるつもりだった。

だが、すぐに逃げなくて本当に良かった。
ライドベンダーで何処かに逃げようかという時、ウヴァは僅かに残る血痕を見つけた。
路地裏の方へ続いていく血痕だ……ウヴァは、逃げる前にその正体を確認しようと思った。
殺せそうな奴ならブッ殺しておいて損はないし味方で既にそんな満身創痍なら、役立たずもいいところなので、他の陣営の奴に支給品とかを奪われる前に全部ウヴァが貰ってやろうと思った。

血痕を辿っていったら、そこにいたのはネウロだった。
何があったのかは知らないが……ネウロは酷く弱っていた……。
本当なら、ネウロとは絶対に戦わないつもりだった……。

だが……今の奴は……虫の息。
これは、絶好のチャンスだった……!

(俺は、本当にラッキーだ……ツイてるぜ……!)

放送については、特に何も思うことはなかった。

310 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 11:53:44 ID:yvyg.n0k0
自分の損になることはさして見当たらないし、むしろ特の方が多かった。
せっかく鳥頭とウスノロが死んだときに生臭女と糞猫を殺せなかったのは残念だが、しょうがない。
まだまだチャンスはあるので、これから残ったグリードもブッ殺そう。

ネウロも死んだ今、ウヴァの脅威になる者などそうはいない……。
おまけにあのイカロスも今やこのウヴァの手駒……。
ウヴァ本人もメダルをいっぱい持っている……。

この戦い、勝った……。
結局最期に勝つのはこのーー

「ウヴァ様なんだよ!ハハハハハハハハッッッ!!」

そんなウヴァを、ネウロに支給されてたキュウべぇは街角の影から何も言わず見ている。
キュウべぇが何を考えてるのかは誰にもわからない……。



【一日目-夜】
【E-4/市街地】
【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】健康、上機嫌、絶好調、大満足
【首輪】290枚:280枚(増幅中)
【コア】クワガタ(感情)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ
【装備】バースドライバー@仮面ライダーOOO、サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品×3、参加者全員のパーソナルデータ、ライドベンダー@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、
    ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)、ランダム支給品0〜4(ウヴァ+ノブナガ+ノブヒコ)
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
 1.もっと多くの兵力を集める。
 2.ネウロを始末出来たのでとても嬉しい。
 3.屈辱に悶えるラウラの姿が愉快で堪らない。
 4.緑陣営の兵器と化したイカロスに多大な期待。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※最強の敵の一角を落としたのでとても満足したのでメダルが大幅に増加しました。

※キュウべえがE-4にいます。何を考えているかは不明です。
※E-5の路地裏にひどいありさまになったネウロの惨殺死体が放置されています。

311 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 11:54:58 ID:yvyg.n0k0
ご静聴ありがとうございました。

312 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 12:14:55 ID:yvyg.n0k0
すみません……。
早速ですが、308のセリフがやっぱり気に入らなかったので、下の文に差し替えます。

弱りきり、メダルすら使い果たしたネウロの身体では、創世王の剣は耐えられなかった。
腕から大量の血がどぱー!と吹き出して、ネウロの意識が一瞬朦朧とした。

だが……これほどのダメージを受けても、ネウロはまだ死ねなかった……。
それが……魔人という身体に生まれてしまったネウロの不幸……。

「ハハハ、随分としぶといじゃないか〜?」

そう笑いながら、ウヴァはネウロの頭を離した。
ずり落ちたネウロの太ももを、怪人の脚がおもいっきりふみつけた。
太ももの筋肉が断裂して、ブチブチ言いながら血を大量に吹き出して千切れた。
左腕だけでなく、右足までも失ったし、血もいっぱい出ているが、ネウロは死なない……。
いや……死亡寸前というべきか……。

「今のお前なら、俺でも楽勝で殺せるぜ〜?ならブッ殺すしかねぇだろ〜?生かしとく理由もないからなぁ!」
「……吾輩も……堕ちたものだな……貴様のような……虫頭に……」
「あぁん?なんだって〜?よく聞こえなかったぜ……まぁいい!あの世で月影に詫び続けろネウローッ!!!」
「ぐはっ!」

バリバリバリバリバリ……!
ウヴァの緑色の稲妻がネウロの身体を突き抜けた。
口から、そして全身からおびただしい血液が噴き出る……。
腕と脚の傷口の肉が焼け焦げて、得も言われぬ異臭を放つ……。

ネウロの霞んだ目には、ウヴァの背後で尻尾を揺らしてこっちを眺めるキュウべえが見えた。
キュウべえはやはり、こんな時にも表情を崩さないし助けてもくれない……。
はじめからそんなものには期待してないが……。

だが、ネウロは命乞いなどしない。
ネウロの目には、ウヴァに対する反抗の意志が……。
そんなネウロに、ウヴァはたずねた。

「最期に一つだけ教えてくれよネウロ〜」
「……」
「さっき俺がブッ殺す前にあのノブナガにも聞いたんだが、あの野郎、既に気が狂ってたのか訳のわからんことしか言わなかったんだよ」
「ほう……?」
「なんでお前らは、死ぬってわかってるのにそんな目をしてる?」

どうやらあのノブナガも最期までウヴァに反抗して死んだらしい……。

313 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 12:16:01 ID:yvyg.n0k0
以上です!
それでは今度こそ、ご静聴ありがとうございました!

314名無しさん:2013/06/09(日) 13:06:18 ID:8n.HMhtA0
投下乙
ですが、今回前提からして違和感を感じます

まず何故クウガの山に瘴気があると感じたのかの根拠が欠けています
あと流石にそこまで死に体なら、キュゥべえをいたぶるなり、泥の指輪を噛み砕くなりして回復すると思います
キュゥべえがいなくなっているのも気になります、何処に行ったんですか?
また血痕を垂れ流したまま行動するなんて、今の瀕死のネウロに可能なんですかね

全体的に修正するべき点が多いかと思います

315 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 13:22:44 ID:yvyg.n0k0
まずクウガの山に瘴気があるという話についてですが、これは前話の考察によります。
泥の指輪も噛み砕けば瞬間的な魔力は得られますが、後々の魔力消費は増えるので不用意に消費したくないと前話で考察されています。
前の話で既に立ち上がり行動開始もしているので、今回はそこまで問題のある話でもないと思うのですが。
ですが、描写が分かり難かったなら、それは此方に責任がありますので、上記の描写と、キュウべえについての描写を加筆して仮投下スレに投下しようと思います。
それでよろしいでしょうか?

316名無しさん:2013/06/09(日) 13:36:56 ID:8n.HMhtA0
クウガの山の考察はすみませんでした、一応確認したんですけど見逃してました
指輪は極力使用したくないというのは理解してますが、それが元で死亡するのは本末転倒ではないでしょうか?
血を垂らしながらと言うのはこちらの言い方が悪かったです、すみません
止血をしないで行動するのは、おかしいのではと思ったのです

仮投下への修正投下お待ちしております

317名無しさん:2013/06/09(日) 15:22:31 ID:vGarLQrc0
流石にネウロがここまで無思慮に行動するとは…
本文中の描写からしても、隠密行動を強く意識して襲撃を警戒しているのですから
血痕程度のことに気が回らないとは考え難いですし、指輪も口に含み続けるなどして咄嗟にでも使えるよう備えるのが自然でしょう
尾行に気づかなかったことまで含めて消耗ゆえの判断力低下と考えられなくもないですが
原作中でも消耗状態でその手の描写が無かった以上、やはり違和感の強い展開と感じました

318 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/09(日) 16:03:56 ID:/uOglexU0
ご指摘いただいた内容に対応した修正案を仮投下スレにて改めて投下して参りました。
ご確認お願いします。

319名無しさん:2013/06/09(日) 19:41:54 ID:9hIGkBjY0
前のタイトルに「敗者」が入っていたのを見るに、今回も「敗者の刑」を意識したタイトルかな?

320<削除>:<削除>
<削除>

321名無しさん:2013/06/09(日) 23:32:21 ID:6v/E4c1g0
というか「敗者の刑」と今回の話全く接点無いですよね

322名無しさん:2013/06/10(月) 08:59:23 ID:69/3rCSE0
投下&修正乙です
これなら通しで大丈夫だと思います

さてネウロ…前の話までの消耗考えたら、こうなるのも無理はないことか
ウヴァさんはシャドームーン撃破してイカロス取り込んでネウロ殺して、もう敵無しじゃないかw
でも、大抵のゲームは序盤調子よすぎると後半は…ってなるから、ウヴァさん今後も大丈夫なのかは心配

323名無しさん:2013/06/11(火) 23:32:35 ID:ubl1mzes0
投下&修正乙です
俺も通しでいいかと

しかし今回で大きく話が動いたなあ
ウヴァさんは今後どうなるんだろう…
このロワは単純に力だけではダメな気がするし…碌な目に合う予感しかしねえw

324 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/13(木) 23:16:24 ID:YJUyaajU0
皆さん。こんばんわ!
暖かい感想ありがとうございます!
それでは、投下します!

325 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/13(木) 23:17:39 ID:YJUyaajU0
放送を聞いた士は……神妙な面持ちだった……。
あの剣崎が……あの仮面ライダーブレイドが……既に死んでいる……!?
奴はキングフォームになれるため、超強かったのに……。
ディケイドも苦戦を強いられたのは記憶に新しい。

ディケイドの目的は、増えすぎて融合しだしたそれぞれの世界の核となっている仮面ライダーを倒すこと……。
士自らが倒せなかったとはいえ、世界の核となってる仮面ライダーブレイドが倒されたので、ブレイドの世界は破壊されたはずであるが念のためもしブレイドのベルトを受け継いだ奴がいるなら、そいつもディケイドとして破壊するが。
あとはディケイドが頑張って他の世界を壊せばいい……今までと何も変わらない……。

ところで、残るはこの場にいるだけでもクウガと龍騎がいるから、それを倒さないといけない。
特にクウガの小野寺ユウスケは……声に出して言うのは恥ずかしいが……俺の友達だ……倒すならこの手で!!!

「いくか」

これ以上休んでるのはよくないので、士は歩き出した。
あと知り合いだと月影も死んでたが、月影は普通に敵だし勝手に倒れてくれたならそれは普通にいいことなのでオーケーだ。
士の記憶でも、月影は戦ってたらなんかいきなりやってきたダブルにボコボコにやられてたし、まあそんなところだろう。





「大丈夫かニャ……?」
フェイリスは心配してラウラに大丈夫かどうかきいた。
俯いていたラウラは……とても大丈夫じゃなさそうだった。
放送を聞いてからしばらくたったが……ラウラはやばそうだったのだ。
なにせ、一夏の名前が放送で呼ばれたのだから大丈夫なわけがないだろう……。

だが、そういうフェイリスも実は危なかった……。
ラボメンの仲間であるダルと紅莉栖の名前が放送で呼ばれたからだ……。

それ故にこそにフェイリスも結構しばらく落ち込んでたが、もう大丈夫だ、立ち上がった。
なんてったって、フェイリスは既に……大好きなパパの死を乗り越え、まゆしぃを救うと決めたのだ……。

326 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/13(木) 23:19:16 ID:YJUyaajU0
仲間の死は悲しいけど……未来に向かって歩いていくのをやめちゃいけニャい……決意は揺らがない!!!

それ故にこそに今はダルや紅莉栖の分まで生き延びなければ。
まだ生きている鈴羽や凶真とも合流して、一緒に頑張れると非常にいい。
そして悲しむのは……全てを終わらせて帰ったあとだ……。

読者諸兄に説明しておこう。
これは別にフェイリスが冷たいわけではない……。
愛ゆえにこそに、フェイリスは立ち上がったのだ……。

          ハート
これはフェイリスのこころが強かったからこそ起こりうる必然……。
だからこそ、フェイリスはラウラにそういう思いを伝えようと思った。

「ラウにゃん……辛いだろうけど、今は死んでいったみんなの分まで戦わニャいと」

ラウラはつらそうに俯いたままだったので、そのまま続けた。

「さっきラウニャンも言った通りニャ。死んでいった人が悲しむことはしちゃいけニャいから、シャルニャンたちの分までラウニャンたちが生きないと」

                              ハート 
フェイリスの心からの言葉をきいたラウラは……フェイリスの熱い想いが届いたのか、その気持ちを理解してくれ、目元の涙をぐっと拭った。

ーーーキラキラ……キラっ

銀髪の美少女の隻眼に溜まっていた涙の雫が美しく飛び散る……。

「そうだな……お前の、言うとおりだ……いつまでも……喪に伏しているわけにはいかないな……これでは、一夏にも、私の友にも顔向けができん」

顔を上げたラウラの顔には……再び覇気が宿っていた。
冷静でいながらも熱い眼差しでぐっ!とフェイリスを見つめる。

「すまない……情けない姿を見せてしまったな」
「ううん、フェイリスも気持ちはよく分かるニャ。だから一緒に戦おうニャ!」

ガシッ!
二人は握手をした……!
そして、次の出会いと進展を求めて歩き出した。


それから、すこし歩いた頃だった……遠くの方からふらりと誰かが歩いてきた。
見覚えのない長身の男だったので、フェイリスもラウラも警戒して身構えるが、そんな時、フェイリスの中のイマジンズが騒ぎ出した。

327 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/13(木) 23:20:04 ID:YJUyaajU0
ディケイドじゃねえか!あれはディケイド!ディケイドやないか!ディケイドだー!
フェイリスの頭の中で、みんなが仲間のディケイドの登場に沸き立つ。

「ディケイド……あの人がそうなのかニャ……!?」
「ん?何を言ってるんだ、フェイリス」
「ラウニャン、あの人は敵じゃないようニャ!」
「そうなのか?」

ラウラの問いにフェイリスはあれがディケイドという仮面ライダーであることを説明しようと思ったが、その前にディケイドが口を開いた。

「お前、何者だ?今ディケイドって言ったな。俺のこと知ってるのか?」
「良くぞ聞いてくれたニャ!我が名はフェイリス・ニャンニャン……この絶望の饗宴で希望を捨てずに戦うネコミミ少女!」
「……私はラウラ・ボーデヴィッヒ。ゲームには優勝するつもりだが、殺し合いには乗ってない」
「なんだと……?」

ディケイドの表情がムム……?と歪んだ。
何を言ってるんだ……そう聞きたげな目をしてると思ったので、ラウラが説明する。

「このゲームは最後に残った陣営の参加者は全員で生還出来るというルールだろう?私たちはそのルールの穴を突いて、すべてのメダルを集めて唯一の陣営リーダーとなり、可能な限りの参加者を仲間にして、みんなで脱出するのが目的なんだ」
「ほぉ、ガキにしては面白いことを考えるな」

ディケイドのガキという挑発にラウラの顔がムッとしたので、空気が悪くなる前になんとかせざるお得なくなったので、フェイリスが割り込んだ

「だから、今は一人でも多くの戦力と仲間が欲しいのニャ!ディケイド、フェイリス達に手を貸して欲しいニャ!」
「その前に俺の質問に一つ答えろ」
「なんニャ?」
「お前、なんで俺のことを知ってる?俺はお前のことなんて知らない」

その質問に、フェイリスはデイバッグから電王ベルトをまるでこれが目に入らぬかとばかりに取り出して答えた。

「このゲームから脱出するまでの間は、このフェイリスが電王として、モモタロス……ううん、モモニャン達と一緒にいるのニャ!ディケイドのことはモモニャン達から聞いたニャ!」
「……お前、何言ってる?電王は既に俺が破壊したはずだ、ここにあるわけがない」
「え……?破壊……ニャ?」

フェイリスは意味が分からなくて首を傾げるが、フェイリスの中のイマジン達も誰もその意味を理解してないらしく、きょとんとしていた。
まあ、一番意味を理解していないのはラウラだが。

ディケイドこと門矢士は、電王が今ここにいることに疑問を感じていた。
ライドブッカーから電王のカードを取り出して見てみるが、電王は確かに破壊したし、電王を破壊したことで得たカメンライドカードは今士が持っているので破壊したことで間違いないはずである。
一体どういうわけだ……何故破壊した筈の電王が今ここにいる……?謎が謎を呼ぶ……。

「モモニャンたちは、ディケイドに破壊された覚えなんてニャいって言ってるニャ。それに、ディケイドのこと、仲間だって……」
「馬鹿な……俺は既に全ての仮面ライダーの敵だ。仲間なんてものは遠い過去に置き去りにしてきた」
「でも、モモニャンやウラニャンたちがそんな嘘をつく理由なんて何処にもないニャ」
「……」
「分かったニャ……さては、ツンデレって奴ニャ?素直になれないなら、それでもいいニャ……でも、ディケイドがどう言おうと、モモニャンたちとの間にある仲間の絆は切ってもきれないーーー」

フェイリスが何かうんちゃらかんちゃら言ってるが、思考に没頭する士の耳にはもうそんな言葉は入ってきてなかった。

328 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/13(木) 23:22:05 ID:YJUyaajU0
破壊した筈の仮面ライダーが普通に生きてて、しかも未だにディケイドを仲間だと言ってるときた……なんだこれは……。
いや、相手はあの電王だ。電王といえば時間だ。もしかしたら、ここにいる電王はディケイドが破壊する前の時間から来たのかもしれない。
電王の世界の技術を真木が持っているなら、その程度の時間はどうにでも出来るはずである。
だとしたら、今ここに電王がいるからといって、既に破壊が完了した電王を改めて破壊する必要はない……。

だが……そうなると、新たな疑問が浮上する……。
ここにいるクウガは、一体どの時間軸からきたクウガなのだろう……。
別の時間からきたと考えれば、あの時クウガが士に敵意を持たなかったことにも納得できる。
そう……ともだちだ……俺達は……あの懐かしい時のまま……友だちのままだったのだ……。

だが、そんなことは関係ない……。
ディケイドは破壊者……全ての仮面ライダーを破壊しなければならない。
時間軸が違うからと言って……そんなことは関係ない……過去のクウガを破壊すれば、それより未来のクウガも破壊したことになるので問題ないはず。
だが、そうなるとわざわざこの会場で絶対にクウガを破壊しなければならない理由もないのだ……。

だってそうだろう?
どのみちこのゲームは破壊しなければならない。
そして、このフェイリスの言うように、無駄な殺生をせずにゲームを破壊する手段がある。
純粋に陣営リーダーになって、悪い奴だけ倒して、それ以外はみんなで一緒に脱出出来るならそのほうがよかろう。
士は世界のために仲間を置き去りにして破壊者になったが、何も好き好んで悪者になりたいわけではないのだから。

心配しなくても、クウガのユウスケはどうせ殺し合いには乗らない。
ならば、どの面で……と思われるのは承知の上で、ここにいる間くらいは協力してやってもいいかもしれない。
そして、ゲームを破壊して元の世界……おっと、元の世界なんて言った所で、士には元の世界などないのだった……。
では言い直そう……ゲームを破壊して、元の時間軸に戻ってから、自分と同じ時間を生きるクウガを撃破するのでも遅くはない。
どうせ勝つのはこのディケイドなのだから……いや、全ての世界のために、勝たなければならないのだから……。

329 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/13(木) 23:24:09 ID:YJUyaajU0
有言実行……ディケイドは破壊するといったら必ず破壊する。

もっとも、必要がないから今は戦わないだけで、今この会場内で破壊するべきだと判断すれば龍騎もクウガも構わず破壊せざるお得ない。
それだけの覚悟はとうの昔にできている。

「いいだろう、わかった……俺もお前らの仲間になってやる」
「本当か、ならばーー」
「ただし!」

士はやけに格好をつけた感じで大きな声で言った。
                                          仮面ライダーディケイド
「すべてのグリードは俺が破壊する。いずれ誕生する唯一無二の陣営リーダーはこの俺……  門  矢  士  だ!!!!」

「……は?」

フェイリスと……特にラウラは、唖然としていた。
士にしてみれば、わけがわからないまま戦うよりもハッキリとしたいい感じの目標が立った。
だが……いきなりやってきた第三者にいきなりこんな偉そうなことを言われたら、誰だって反感を抱くもの……。
フェイリスはいいとして……ラウラが士に反論するのは、また別のお話……。


    To Be Continue
ーーーーーつ づ く 。


【一日目-夜】
【D-4/市街地 マップ右下寄り】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】健康、苛立ち、疲労(中)、ダメージ(大)
【首輪】45枚:0枚
【コア】サイ、ゾウ
【装備】ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式×2、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜4(士+ユウスケ)、ユウスケのデイバック
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
 0.ラウラにフェイリス、お前らは俺の仲間に加えてやってもいいぜ。
 1.全てのコアメダルを集め、全てのグリードを破壊し、陣営リーダーとして生還する。
 2.「仮面ライダー」はこの場では破壊する必要はないのかもしれないが、必要があれば破壊する。
 3.殺し合いに乗った参加者はこれまで通り容赦なく破壊する。
 4.ディエンドとは戦う理由がないので場合によっては共闘も考える。
 5.セルメダルが欲しい。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※アポロガイストは再生怪人だと思っています。
※少なくとも電王は破壊する意味なしと判断しました。

330 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/13(木) 23:25:10 ID:YJUyaajU0
【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無所属
【状態】健康、深い哀しみ、ゲームを打破するという決意、戦いに対する不安、イマジンズへの信頼
【首輪】100枚:0枚
【装備】IS学園女子制服@インフィニット・ストラトス
【道具】IS学園男子制服@インフィニット・ストラトス、
    デンオウベルト&ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:仲間と共にコアメダルを全て集めて脱出し、マユシィを助けるニャ。
0.今はまだ、誰かと戦う覚悟はニャいけど……いつかはフェイリスも……?
1.この人がディケイド……呼び方はなんて呼ぼうかニャ?
2.アルニャンとセシニャンを止めなくちゃいけニャい!
3.凶真達とも合流したいニャ!
4.変態(主にジェイク)には二度と会いたくないニャ……。
5.イマジンのみんなの優しさに感謝ニャ。
6.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ!
7.ラウニャンに人殺しはさせたくニャい。とくに友達を殺すニャんて……
【備考】
※電王の世界及び仮面ライダーディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ジークが憑依しています。
※イマジンがフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみですが、
 ジークのみは特別で、その気になれば生身のフェイリスの身体も使えるようです。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依していました。
※ジークがまだフェイリスを認めていないので、ウイングフォーム及び超クライマックスフォームにはなれません。通常のクライマックスフォームまでなら変身できます。
※イマジンたちは基本的に出しゃばって口出しする気はありません。フェイリスの成長を黙って見届けるつもりです。

【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、精神疲労(大)、深い哀しみ、力への渇望、セシリアとウヴァへの強い怒り(ある程度落ち着いた)
【首輪】80枚(増加中):0枚
【コア】バッタ(10枚目):1
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×二十匹@魔人探偵脳噛ネウロ、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:グリードに反抗する仲間とコアメダルを集めて優勝し、生還する。
 1.この男はいきなり現れて何を言っているんだ……!?
 2.セシリアを止める。無理なら殺すことにも躊躇いはない。
 3.陣営リーダーとして優勝するため、もっと強い力が欲しい。
 4.もっと強くなって、次こそは(戦う必要があれば、だが)セイバーに勝つ。
 5.一夏やシャルロットが望まないことは出来るだけしたくはない。
【備考】
※本当の勝利条件が、【全てのコアメダルを集める事】なのでは? と推測しました。
※"10枚目の"バッタメダルと肉体が融合しています。
 時間経過と共にグリード化が進行していきますが、本人はまだそれに気付いていません。

331 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/13(木) 23:35:20 ID:YJUyaajU0
投下終了です!
タイトルは「破壊者と中二病が出逢う時」です。
さて話は変わりますが、実は最近中間テストがあったんですが、それで僕、理科のテストで100点をとれました!!
凄く嬉しくて、お母さんも褒めてくれたので、少し時間に余裕が出来たので、今回は比較的前の投下から短期間で一作書き上げることができました!
って、どうでもいい話ですね(笑)

とはいえ、それでもPCには触れることは許して貰えなくて、僕は携帯も高校に入るまでは買って貰えないということになってるので、いつPCに触れるかわからない以上、チャットへの参加は厳しいです……。
強制参加ってわけじゃないはずなので、申し訳ありませんが僕には気を遣わずに皆さんで話し合って下さい……あしからず。
それでわ。

332 ◆z9JH9su20Q:2013/06/13(木) 23:57:03 ID:FPa0INdM0
投下乙……と言いたいところですが、さすがに意見させて貰います。

まず、士が破壊したはずの電王を見て時間軸のズレを感じ取るという展開ですが、
時間軸のズレについては既に『誓いと笑顔と砕けた絆』で士は認識して、その上で全ライダーの破壊を続行しているため、
今更それを理由にスタンスを完全に変更するというのは無理があると言えます。

また、フェイリスが放送で紅莉栖の死を知る描写がありますが、彼女は放送で呼ばれていません。
紅莉栖が死亡したのは第一回放送の後です。

失礼ながら、これではリレーとして成り立っているとは、到底言い難いと言えます。



◆BXyDW0iXKw氏が限られた貴重なお時間を本企画のために割いてくださっているのは重々承知の上ですが、
それを理由に、このような無視できないレベルで矛盾の多い、しかも以前の作品をまるで無視したようなSSを書かれるというのであれば、それは問題があると言わざるを得ません。

チャットには参加できずとも一向に構いません。ですが、過去作を読み返し、矛盾をなくすための執筆時間も確保できないというのであれば、まずは目の前のことに集中して頂けないでしょうか?
今のペースから考えて、氏が受験を終えられた時点で本企画が完結している可能性は限りなく低いと言えます。
それなら氏も、以前から他の方からも指摘されているように、まずは実生活の課題を解決し、確実な時間と執筆環境の確保が可能となってから復帰するのでも良いのではないでしょうか?

書き手という立場には、企画の方向性を大きく決める決定力があります。その一方で、それに伴う責任もあるのです。
非リレー企画であればともかく、他の書き手氏との協力が必要なリレー企画においてのそれは、絶対に無視できるものではありません。
今回のSSは修正必須と言えますが、いつPCに触れられるかもわからない、いつ修正できるのか不明の状況下では、はっきり言って無理をされてまで参加して欲しいとは思えません。

どうしても今、この時期にこの企画に参加し続けたい、という意思があるのであれば、せめてPCをいつでも触れられるようにお母様を説得して頂けませんか?
それが無理でも、何らかの誠意ある対応をお願いしたいです。

私自身、氏に対して非常に礼を欠いた発言をしているとは思っています。
それでも、言わずにはいられなかっただけのことを氏はされたのだということを、どうかご自覚ください。

333 ◆BXyDW0iXKw:2013/06/14(金) 00:01:31 ID:wz4KjNrk0
すみません…どうやら勘違いしていたようです……。
すぐに修正して仮投下スレに投下してきます……。

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336名無しさん:2013/06/14(金) 13:33:01 ID:qAGwVffA0
PCに触れない=チャットに入れない、ではあるけど
PCに触れない=修正できない、ということではないんでは

チャットは長時間拘束されるから参加できないのも仕方ない
でも修正なら問題点を把握したら後はノートなりメモなりに手書きで書いて時間のあるときにPCに打ち込めばいいわけで
少なくとも今まで修正には迅速に対応されてる以上そこを問題として扱うのは無理があるんじゃないですかね

337名無しさん:2013/06/14(金) 17:10:17 ID:mPyQxwa60
チャットの用事が10分で済むのか3時間かかるりそうかで行けるか否かも変わるんじゃないかと
それに「今回の作品を投下します。その後でチャットに行きます」とか「修正を投下します。その後で(ry」
みたいに、長時間い続けるかは別としてチャットに行くだけなら可能なんじゃないかなー、とも

せっかく「話がある」と言われたなら、ここは時間を作ってみるのも悪くないんじゃないかとは思います
まあ、どちらにしろ外野の立場からあんまり多くの口出しはしたくないですけど

338 ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 20:49:22 ID:Lcra09Zo0
投下させてもらいます

339燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 20:50:38 ID:Lcra09Zo0
川の中はそう深くもなく、ただ若干の濁りが視界に悪い。
もし飛び込んだのがただの人間であれば、まさに一寸先は闇といったところだったかもしれない。
だが、今この水中にいるのはただの人間ではない。

ある程度視界が悪くても、クウガの感覚を持ってすればどうということにはならない。
ペガサスフォームであれば、あるいはさらに視界の確保もできただろうが、ともすれば戦闘になる可能性もあるのだ。小回りの利く形態のほうが望ましい。

そして、小野寺ユウスケは水中においてその存在を認め、確認した。

(あれは…、バーサーカー?!)

そこにいたのは、病院でグリードとの戦いの中で共闘した、切嗣と去ったはずのサーヴァントの姿。
黒き鎧には何重にも巻かれたワイヤーが絡まり、身動きを封じている。彼の装備を考えれば、今の状態で自然に浮き上がるのは難しいだろう。

そして、彼のそんな姿を見て一人の存在が気に掛かった。
バーサーカーがここで沈んでいるということは、衛宮切嗣は一体どうしたというのか。
少なくともこの付近にはいなかった。ではバーサーカーと切嗣は離れて行動しているということになる。
もし彼の身に何かあったのなら、と心中に嫌な予感が漂ってきた。


「待ってろ、すぐに助けてやるからな」

水中というのは、空気中よりも音の伝達が早い。
バーサーカーの、言葉にならぬ叫び声は大きな衝撃と共にユウスケの耳に届いている。
接近し、ワイヤーに手をかけるが、その固さは想像以上だった。
ユウスケは知らないことだが、それは対グロンギ用の武装の一つ。生半可な力だけでは引きちぎることは難しいのだ。

「くっ…、こうなれば――超変身!!」

腰に手を翳し、その体の色を変えるクウガ。
目の色が変わり、赤き体は紫の堅牢そうな鋼の鎧となる。
仮面ライダークウガ・タイタンフォーム。

例え、いかに力を加えようと切れないワイヤーであったとしても、刃物をもって斬られた場合、耐え切れるものではない。
川底に落ちていた1本の木を拾い上げると、その木の棒は大きな両刃の剣に形を変える。

そして、ユウスケはそれを振り下ろし、一刀の下にバーサーカーを拘束していたワイヤーを切断した。

340燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 20:51:32 ID:Lcra09Zo0

「よし、これで大丈夫だ。切嗣さんのところへ―――」

それが、バーサーカーの狂気を縛っていた鎖であったことにも気付かずに。

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

咆哮と同時に、全身に巻きついたワイヤーを振りほどいたバーサーカーは。
その背後に現した門、その中の剣を、ユウスケに向けて射出した。

「な…!」

味方だと思っていた存在からの、不意を撃つ形での攻撃。
幸い、門を投影してからの射出までにタイムラグがあったことが彼の命を救った。
飛んできた3本の剣をタイタンソードで弾き飛ばす。


「止めろ!俺だ、小野寺ユウスケだ!お前の敵じゃない!」
「■■■■■■■■■■■ーーー!」

動揺のままに叫ぶユウスケの声は届かず、バーサーカーはその門から取り出した1本の剣を手に、クウガに斬りかかった。
水中という環境では思うように剣を振るうことができない。対してバーサーカーは水の抵抗など何のそのと言わんばかりの連撃を繰り広げる。
元々味方だと思っていた相手からの攻撃、そして水中という環境がクウガの全力を出させないでいた。

タイタンフォームの鎧にバーサーカーの連撃が、剣の射出が突き刺さっていく。
しかし、ユウスケとて多くの世界を巡り戦ってきた戦士。そのままやられっぱなしでいるわけにもいかなかった。
長期的な観察により、バーサーカーの攻撃の癖のようなものを、微かにだが掴む。
連撃の中に大振りの一撃が混じる瞬間。
敢えて、しかしダメージは最小限に抑えられるように攻撃を受ける。
そのまま剣を掴み、残った手でタイタンソードを振りかざした。

巨大な金属音と共に吹き飛ぶバーサーカー。
ある程度距離が取れたこのタイミングがチャンスだ。

「超変身!!!」

傷だらけでヒビも入った紫の鎧は、青くスマートな肉体へと姿を変える。
水を司りし形態、ドラゴンフォーム。
タイタンフォームではまともに動けない水中でも、この姿であれば少しは話が変わってくる。
手の大剣は長い棒状の武器に姿を変える。

341燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 20:52:43 ID:Lcra09Zo0
剣の射出を持ち前の素早さで避け、眼前に迫った剣戟はドラゴンロッドで受け流す。
しかし、身軽となった反面、決定打には欠けるこの姿。いくら攻めどもバーサーカーを止めるほどのダメージは与えられずにいた。

(一体切嗣さんに何があったん…―――)

と、目の前で射出されようとしていた門の射線上、それは水面、陸上に向いたものだった。
この向きで剣が発射されれば、その先にいるのは―――

「まずい!」

ユウスケは川底を蹴り、水面に向けて飛び上がったと同時。
小さな金色の短剣のような武器が、金色の門より飛び出した。



人間であれば潜水の名人といえども限界であろう時間が経過してもまだ、小野寺ユウスケは浮上してこなかった。
それどころか、金属音やうなり声が陸上までも聞こえてくる。
あの水中にいたのは敵であったということは疑いようがなかった。

では、自分達はどうするべきなのか。
水中に飛び込んで彼の援護をする?いくら千冬とて水中での白兵戦経験などない。
下手に戦いに飛び込めば足手まといとなる可能性もある。
音と衝撃が聞こえてくるということは、まだユウスケは生きて戦っているという証。
今は彼の無事を信じて待つしかない。

「オルコット、もしもの時は頼めるか?」
「――その、ブルー・ティアーズは今ダメージを受けてまして、今しばらくは調子が……」
「そうか、だがまあ念のためだ。持っておけ」

そう言って、千冬はセシリアに30枚のセルメダルを預けた。
もし戦闘まではできなくとも、逃走くらいは可能なはずだ。

「でも、織斑先生は大丈夫なんですの…?」
「私にこいつがまともに動かせるかは分からんし、最悪この剣だけでも凌いでみせるさ」

本来なら無謀としか思えない、しかしそれができうる人だということはセシリア自身はっきり分かっていた。
だからこそ、タイミングが重要なのだ、と。そう思った瞬間だった。

342燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 20:53:19 ID:Lcra09Zo0

水面から二つの何かが飛び出すと同時、二人の目の前で大爆発を引き起こしたのは。
水柱と熱が視界を覆う中、それらから身を挺して庇った何者かが、目の前に降り立った。

「小野寺!何があった?!」
「バーサーカーです!体を縛られて沈んでいたところを助けたんですが、こっちに襲い掛かってきて。
 俺が引きつけますんで、千冬さんとセシリアちゃんは離れていて下さい!」

と、水面から飛び出した黒き鎧の騎士に対し、爆風を防いだことでボロボロになったドラゴンロッドを投げつけ気を引いたユウスケ。
そのままドラゴンフォームの脚力を生かしてバーサーカーから離れ。
バーサーカーはそんなクウガを追って駆け出した。

「待て、小野寺!!」
「知り合い、ですの…?あの黒い鎧の方と…」
「少し、な。だが何やら様子がおかしい。
 小野寺を追うぞオルコット。何か嫌な予感がする」



特に逃げる道は決めていない。
唯一指針があるとすれば、あの二人から離れられればと思っただけだ。

そこで彼をどうにか取り押さえる。その後切嗣さんの安否を確かめるのだ。
コアメダルも既に消費済み。持つ限りはどうにか離れなければ。
さっきの二人を救えたという安堵の中、僅かにメダルが増えたのを感じたのは幸いか。

ドラゴンフォームの脚力で走るクウガにも負けない速さで追いすがるバーサーカー。
速く逃げるとはいえ、直進していてはいい的だ。
現在地の森という環境を生かし、木々の隙間を変則的に移動。
そして、そんなユウスケの下には多くの武器の弾幕が降り注いでいた。

広範囲を狙った弾幕を、高高度のジャンプで避け。
バーサーカーは飛び上がった彼に、狙い済ましたかのように巨大な戟を投擲し。
恐ろしい勢いで襲い来るそれを体を反らしてどうにか避けたユウスケ。

地面に降り立ったユウスケは再び走り出し。
それを追ってバーサーカーも駆けた。



言峰教会。
未だ目覚めぬ己が主を前に、セイバーはどうするべきか思考中だった。
それは、今後の方針に限った話ではない。
もし目覚めたとき、もし鈴羽の言うことが正しかったとき、私は彼とどう接するべきなのか。

343燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 20:54:46 ID:Lcra09Zo0

共に戦う、というのであれば異論はない。
殺し合いを打破するのであれば、協力できるはずだ。
彼がかつてのような外道のような戦いをしないのであればなおさらだ。

と、そのように割り切るのが難しいほど、セイバーの中にあるわだかまりは大きかった。
彼がここでどのように戦ってきたのかは分からない。
あるいは、敵が切嗣より上手だっただけかもしれないし、怪我に関しては考えすぎなのかもしれない。

だが、万一変わっていたとしても。そんな彼を受け入れられるのか。

ともあれ、彼が目を覚ますまでは安静にする必要がある。セイバーとて切嗣の死を望んでいるわけではない。
手持ちのコアメダルを一枚、そしてセルメダルも半分ほど切嗣に預けると体は少しずつだが回復を始めた。
あとは自分が傍にいれば、更に回復効率は高まるはず―――
だというのに。

彼の傍にいるということに抵抗を覚えている自分がいた。
もし変わっていないのであればまだ問題はないはずだった。
ではもし彼が、鈴羽の言うとおり変わっているのだとしたら。
私は彼とどう接すればいいのか。
憎めるのであれば、引き離せるのであればまだそう難しくはない。
だが、歩み寄るとなるとなかなかどうして難しい。

そんなことを、この教会に他に何かないか、誰かいないかということを見回りに出ながらセイバーは考えていた。

「セイバー、どうだった?何か見つかった?」
「いえ、襲撃者、あの怪人の正体についての痕跡くらいはあるかと思いましたが、建物内からは何も。
 ただここよりは安全であろう場所は見つけました。もしもの時の為にキリツグはそちらに移動しておきたいのですが」

この建物に入るのは初めてというわけではない。しかし当然のことだが、その時は教会内を詳しく調べるなどできなかった。
教会の人間、そしてサーヴァント・アーチャーとそのマスターとの会合に使っただけなのだから。
探索の結果、地下室がこの教会にあることが分かった。そこであればしばらくは一目を避けて切嗣が目覚めるのを待てるだろう。無論それが万全といえるわけではないが、ここよりはマシだ。
セイバーは切嗣の体を背負い上げ、移動させようとした。

その時だった。

教会の窓。その中でも一際高いところに付けられたものの外から。
一瞬何かが煌くのが見えたのは。

344燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 20:55:48 ID:Lcra09Zo0

「鈴羽、伏せて!!」

咄嗟に叫ぶセイバー。
次の瞬間、窓が割れる音、そこから何かが飛び込む衝撃が響き、そこから飛び込んだ何かが地面に突き立った。


教会の床にキラキラと降り注ぐ破片の中。そこにあったのは、1本の巨大な武器。
槍のような刃の両側に三日月状の刃が付いた、所謂戟と呼ばれるもの。
幸いその何かが彼らの元に直撃することはなかったものの、もしもう少し軌道がずれていたなら、セイバーはともかく鈴羽や切嗣は一たまりもなかっただろう。

そして、セイバーはそれに見覚えがあった。

「これは…、アーチャーの武器のようだが…」

港での5人のサーヴァントが集結の際、アーチャーが矢のごとく発射した中にあった宝具に、形状が似ていると思ったセイバー。
この長距離からの狙撃のごとき射出。まさかとは思うが、この教会を狙った一撃か。

と、その時割れた窓からほんの微か、おそらくサーヴァントであるセイバーでなければ捉えることのできないであろう音が耳に届いた。

――■■■■■■■■■■■ーーー!

「バーサーカー…?!まさかこの付近に…!?」

先に撤退した時とは状況が違う。
もしここまで来られたら鈴羽だけでなく未だ目を覚まさぬ切嗣をも守りながら戦うことになるかもしれない。
ならば、距離がある今ここまで来ることがないよう迎え撃ちに行くのが最善―――
と、決断することはセイバーにはできなかった。
あの時も必要だったことだとはいえ、鈴羽、そしてあの時はまだ健在だったそはらの元を離れた時に二人は襲撃を受け、そはらは命を落としてしまったのだから。
もし戻ってくるのに時間がかかってしまい、その際またあの時のように第三者からの襲撃を受ければ。
セイバーにはそれが恐ろしかった。

「……行ってきなよ、セイバー」

そんなセイバーの思いを感じ取ったのか、鈴羽はセイバーに、背中を押すように告げた。


「スズハ…」
「私なら大丈夫、同じ轍は踏まないって。今度は切嗣さんも、私自身の命も、絶対守りきるからさ」
「……」
「どうせここまでそのバーサーカー?ってのに来られたら終わりなんでしょ?だったら可能性が高い方を選ぶべきだって思うんだ私。
 もう、そはらの時みたいにはなりたくないしさ」
「―――スズハ、もし襲ってきたものが手に負えないと分かる相手であれば、せめてあなただけでも逃げるようにしてください。
 私が戻るまでの間、少しでも生き延びる可能性が高い選択肢を、常に選んでください。それが私からのお願いです」
「了解」





数分後、教会から高速で飛び出すセイバーの姿があった。
その手には先に飛び込んできた1本の戟。
セルメダルは先に切嗣に半分使い、そして今またコアメダルを換金した、合わせて60枚あったうちの20枚をもしもの為に鈴羽に預けておいた。
今はエクスカリバーが手元にない。つまりはあのバーサーカー相手に、使いこなせなくはないとはいえ慣れない武器で、風王結界のみで戦わなければいけない。
宝具無しで戦わなければならないならメダルが多くても手に余るだけだ。
今はむしろ鈴羽、そして切嗣にメダルが必要なのだから。

「風よ!!」

手元に残ったメダル、その一部を使い足元に高圧の風を作り出す。
セイバーの華奢な、それでいて精錬された肉体を、その風圧が一気に宙に押し上げ。
地面を蹴り飛ばした次の瞬間には、セイバーの体は遥か遠くの空を舞っていた。



345燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 20:56:51 ID:Lcra09Zo0
目を覚まさない衛宮切嗣。
今その体は教会に備えられた地下室にあった。
彼の体の治癒を見守る鈴羽。
不安は尽きない。あの時にそはらを失ったときのように。

それでも、今回はセイバーが戻ってくるまで守りきろう、生き残ろうと。
鈴羽はそう心に誓った。

【B-4 言峰教会地下室】

【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】40枚:0枚
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
 0.この人が衛宮切嗣……。
 1.セイバーが戻ってくるまで、衛宮切嗣を守る。
 2.罪のない人が死ぬのはもう嫌だ。
 3.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
 4.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
 5.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
 6.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
 7.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。



【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(大)、貧血、全身打撲(軽度)、右腕・左腕複雑骨折(現在治癒中)、肋骨・背骨・顎部・鼻骨の骨折、片目失明(いずれもアヴァロンの効果で回復中)、牧瀬紅莉栖への罪悪感、強い決意
【首輪】60枚(消費中):0枚
【コア】サイ(一定時間使用不可) タコ(一定時間使用不可)
【装備】アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
 0.――――――――。
 1.偽物の冬木市を調査する。 それに併行して“仲間”となる人物を探す。
 2.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
 3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
 4.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
 5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
 6.セイバーと出会ったら……? 少なくとも今でも会話が出来るとは思っていない。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。
※かろうじて生命の危機からは脱しました。
※顎部の骨折により話せません。生命維持に必要な部分から回復するため、顎部の回復はとくに最後の方になるかと思われます。
 四肢をはじめとした大まかな骨折部分、大まかな出血部の回復・止血→血液の精製→片目の視力回復→顎部 という十番が妥当かと。
 また、骨折はその殆どが複雑骨折で、骨折部から血液を浪費し続けているため、回復にはかなりの時間とメダルを消費します。




346燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 20:58:01 ID:Lcra09Zo0
1本の巨大な斧をもって斬りかかるバーサーカー。
受け止めるのは蒼き体を、紫の鎧、タイタンフォームへとその身を変えたクウガ。
斧を受け止める剣は、バーサーカーが撃ち込んだ大量の宝具の中の一つを変化させたもの。

精錬された一撃は、タイタンフォームでなければ武器ごと吹き飛ばされていただろうと言わんばかりの威力。
それを、タイタンフォームの腕力、そしてタイタンソードをもって受け流す。

「■■■■■■■■■■■ーーー!」
「ッ…、切嗣さんはどこに…!」


ユウスケにはバーサーカーを殺すという選択肢はまだ取ることはできない。どうして彼が襲い掛かってきたのか、何者かに操られているのではないか。
その判断がつかない以上、踏ん切りがつかずにいた。
しかし、ユウスケがいかに迷おうと、バーサーカーはお構いなしに攻撃を続けてくる。

そして今、ユウスケはここにきてバーサーカーを取り押さえるのを諦めつつあった。
目の前の黒き騎士は手加減をして取り押さえられる相手ではない。それをこの身をもって実感したのだ。
殺す殺さないは後にしても、全力で戦わねば勝てない。

斧の一撃を、敢えて肩の部分で受け止める。
鎧に亀裂がが入るが、それだけ。しかし逆に言えばタイタンフォームの堅牢な鎧に亀裂が入ったのだ。
おそらくこの攻撃はタイタンフォーム以外で受けられるものではないだろう。

「おおおおおおお!!」

攻撃のために急接近したバーサーカーに対し、攻撃を受けたことで空いたタイタンソードを下から振り上げる。
その一撃はバーサーカーの身を纏った黒い霧に一瞬だけ切れ目を入れ、鎧を切り裂く。
バーサーカーはその反撃に一旦クウガから距離を取る。

空いた距離の元、ユウスケは瞬時にドラゴンフォームに変身。地面に刺さった槍を手に掴む。
そのまま一気に距離を詰め、バーサーカーの体にドラゴンロッドの連撃を叩きつける。
素早く、一撃一撃を確実に。相手に反撃の暇を与えないほどの勢いで。
宝具を射出する暇も、その手の斧を振りかざす隙も与えないように、関節部、そして先の攻撃の成果である、鎧に入った切れ目を攻撃。

パキッ

やがてバーサーカーの鎧に、さらなる亀裂が入る。
後ろに一歩下がったバーサーカー、それを見逃さず攻撃を加えようとしたところで―――
彼の手に、1本の剣が顕現する。

347燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 20:58:38 ID:Lcra09Zo0

黒い西洋剣。
それは彼自身の宝具、無毀なる湖光(アロンダイト)。
解放させた代わりに、バーサーカーの他二つの宝具は封じられ、身を包んでいた黒き霧は消滅、斧も地面に投げ出される。

アロンダイトにより補正がかかったランスロットの一撃は、ドラゴンロッドを粉砕、それだけでは止まらずユウスケの体を袈裟懸けに切り裂く。

「ガ…!」

防御力は低めとはいえ、胸部の装甲をも切り裂いて中の肉体を損傷させたその一撃。
吹き飛んだユウスケは、背中を地面に打ち付ける。
起き上がろうとしたその時、バーサーカーは駆け出し、その手の剣をクウガに向けて振り下ろした。

タイタンフォーム―――ダメだ、武器がなければ受けきれない。
バーサーカーが発射した宝具は―――今となってはほとんどが回収され、僅かに残った武器も手元にはない。
起き上がって回避―――間に合わない。



「…――姐さん、千冬さん―――」

と、諦めかけた、その瞬間だった。





振り下ろしたバーサーカーの剣を、突如目の前に現れた金髪の少女が受け止めたのは。

「………何故だ」
「■■■■!!」

バーサーカーにもその登場は予想外だったようで、意志は見えずともその動揺は見て取れた。
しかし、それ以上に、現れた少女は目の前に立つその存在に大きな動揺を隠しきれていなかった。

「―――バーサーカー。何故、貴様がその鎧を、そしてその剣を持っている?」
「■■■■■■■■■■■ーーー!」
「答えろ!答えてくれ、ランスロット!!!」

そう叫んだと同時、金髪の少女はバーサーカーに蹴り飛ばされ、後ろに大きく後退する。
怯んだ彼女の元へ、叫び声を上げながら斬りかかるバーサーカー。
対してセイバーは、バーサーカーへの動揺からか対応が遅れてしまった。

348燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 20:59:56 ID:Lcra09Zo0

「A――urrrrrrッ!!」

構えた戟は柄の部分で切断され、そのまま剣はセイバーの胸を切り裂こうと突き出され。

「うおおおおおおお!!」

次の瞬間、向かい来るバーサーカーの頭部の鎧を、紫の拳が対面から殴りつけた。
セイバーに完全に気を取られてしまったバーサーカーは、体勢を立て直したクウガの拳を正面から受けてしまったのだ。
クロスカウンターをまともに受けたことで、脳を揺らしたバーサーカーは一時的に体をふらつかせた。

「はぁ、はぁ…。あんた、セイバー…ちゃんだろ?」
「…あなたは…?」
「俺は小野寺ユウスケ。あんたのことは切嗣さんから聞いてる」
「キリツグから…?」

金髪の少女、セイバーは一瞬意外そうな表情でユウスケを見て、すぐに納得したように頷いた。

「キリツグは……、いえ、今する話ではない。それよりも、あのバーサーカーは――」
「切嗣さんに従っていたはずなんだけど、川に沈んでたのを助けたら襲い掛かられたんだ。何か知らないか?」
「な…、キリツグが彼を?!」
「セイバーさんは、切嗣さんがどこにいるか、知らないか?」

バーサーカーを切嗣が従えていた。
その事実は驚きはあったが、そこまで意外というわけでもなかった。
もし他のマスターから令呪を奪ったことで彼がバーサーカーを御しえたのなら、意志がない分彼の手駒としては最適なのかもしれない。
だが、それを他者が認識しており、なおかつ信頼関係を作っているというのは意外であった。
自分の知っている彼は、他者というものを信用しない。常に効率を選んで行動している。
情報が欲しければ、少なくともその名前や姿まで明かすことはそうそうないはずだろうし、最悪記憶操作や暗示という手段も用いたはず。
彼の言う切嗣が別人である可能性も考えたが、自分のことを知っている者は今となっては切嗣、鈴羽、ラウラという少女、そしてあの”織斑一夏”しかいない。


(キリツグ、やはり、あなたは私の知るキリツグではないのか…)

しかし、その事実に思いを巡らせる暇はない。
バーサーカー―――ランスロットは既に脳震盪から立て直し、二足での直立を果たしていたのだから。

「キリツグは――教会で襲撃を受け、重傷を負っている。今も意識がない」
「何だって?!それは本当なのか!?」
「ああ、私の仲間もいる。だから――先に向かってほしい。彼は、………彼は私が――」

短くなった戟の柄を持ち、風を纏わせて透明化させるセイバー。
しかし、そんなやる気を表すような姿勢とは裏腹に、セイバーの声は、手元は震えている。黒い鎧が一歩近付いてくる度に、彼女の足後ろに下がりそうになっている。
そんな体勢でバーサーカーの一撃を受けられるはずもなく、アロンダイトの一振りでセイバーは吹き飛ばされる。

349燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 21:00:57 ID:Lcra09Zo0

「く…」

セイバーの中には、まだバーサーカーの正体を知ったことへのショックが抜けきってはいない。
そんな精神状態で、セイバーを越える技量を持ちなおアロンダイトの補正がかかったバーサーカーは押さえられない。
だが、今この場にはユウスケがいた。
横からバーサーカーを押さえつけ、下ろされる剣を受け止める。

「な…、これは私の戦い、あなたが戦うことなど…――」
「事情は分からないけど…、そんな辛そうな顔した女の子に、戦わせられるわけがないだろ!」
「A――urrrrrrッ!!」
「こいつは俺がおびき寄せる。だから千冬さんと…セシリアちゃんを連れて、教会まで―――」

体を押さえたユウスケは、その背にバーサーカーの肘撃ちを受け力を緩めてしまう。
そのまま空いた手を打ちつけ、そのまま体から引き剥がして思い切り投げつけた。
投げ出されたユウスケを、セイバーは後ろから受け止めた。

「……確かに迷いはある、何故彼が狂気に落ちたのか、確かめたいという思いも。
 しかしそれでも、己の戦いを投げ出すことは、決してしない。それが王たる者の勤めだ」

何故彼がああなってしまったのか。そんなにも私のことを憎んでいるのか。
聞きたいことはたくさんあった。
しかし、今は戦うことに集中しなければ、きっと彼はもっと多くの犠牲者を出すだろう。
それだけは、なんとしても止めなければならない。

「切嗣不在の今、バーサーカーを制御することはおそらくできないだろう。これまでのことは忘れて、バーサーカーを倒すことだけを考えてほしい」
「あんたは、それでいいのか?」
「もし彼が狂気に落ちたのなら、かつての友として私が止めなければならない。
 だから、今だけその力を貸して欲しい」

ユウスケに断る理由はない。ただ一つ、どうしても気になってしまったことを言う。

「もちろんだけど、そんな辛そうな顔で戦おうとはしないでくれ。可愛い顔が台無しになるだろ」
「…私を女扱いは止めてもらいたい」


駆け抜けてくるバーサーカー。
クウガは、周囲に僅かに散らばるバーサーカーが回収しそこねた剣の1本をタイタンソードへと変化させ、セイバーの目前でアロンダイトを受け止める。
セイバーは、その隙に横から飛び掛り、短くなった刃をバーサーカーに叩きつける。
しかし、それも見通していたのかバーサーカーは片腕でそれを受け止める。
篭手が割れ、腕は後ろに大きく吹き飛んで体勢を崩した。

350燃ゆる剣―騎士とクウガと ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 21:01:34 ID:Lcra09Zo0

そのまま剣を地面に突き立て、クウガは後ろに下がる。
セイバーはそのタイタンソードを引き抜き、バーサーカーに振りかざす。
対するバーサーカーはその一撃を、アロンダイトで受け止めた。
しかし、相手の持っているのは竜殺しの属性を持った魔剣。そしてセイバーは竜の血を持った騎士。セイバーの斬撃は数回で見切られ、タイタンソードは消滅する。
素手になったセイバーに、ここぞとばかりに襲い掛かるバーサーカー。

その時、セイバーの手の中に風が巻き起こる。
それまでに持っていた、戟の刃部を風王結界で隠したもの。それを取り出したのだ。

向けられた刃を防ごうとしたバーサーカーは、勝手知ったるセイバーの聖剣ではない武器の間合いを見誤り、手で受け止めようとするも掴み損ねてしまう。
掴み損ねた刃は体に密着させられ―――

「風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

纏わせた風を、暴風として打ち付けた。
ゼロ距離からの風王鉄槌。その衝撃はランスロットを宙へと吹き飛ばす。
そして、

「うおりゃああああああああ!!」

宙に浮いたバーサーカーの体目掛けて、クウガは駆け、飛び上がり。
赤く燃える右足を、マイティキックをバーサーカーの胴体に向けて叩き込んだ。

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

クウガが着地すると同時、吹き飛んだバーサーカーは地面に叩きつけられる。
しかし、それでも未だ立ち上がる力を持っているバーサーカーは起き上がり。
次の瞬間、鎧の切れ目の罅が広がり、体を纏っていた黒き鎧は大きく割れ、地面に落ちた。

「……A……he……、■■■■■■■■ーーー!」

上半身の防具を失ったバーサーカー。
肉体に受けたダメージが大きかったためか、セイバーを前にしてバーサーカーは撤退を選んだ。
アロンダイトを収容し、全身に黒い霧を纏わせるとふらつく体を無理やり起こし、二人に背を向け跳び去った。

351燃ゆる剣―少女と姉と ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 21:02:37 ID:Lcra09Zo0

二人の姿が見えなくなった後、バーサーカーは地面に膝を着いた。
長期間水中に沈められていたこと、そしてセイバーとクウガとの戦闘による消耗。
逃走するだけの力は残していたものの、ここにきて限界がきてしまった。

意識を朦朧とさせる中、バーサーカーは己の中の欲望を爆発的に満たしつつあった。
セイバー―――アルトリア・ペンドラゴン。
かの王に会えたという歓喜が、心の中を埋め尽くしていたのだから。

だが、まだ足りない。
もっと戦いたい。そして、かの王に己の罪状を責められたい。
そして、己の罪を己自身で許したい。

そのために。
だが、今だけは休息を欲する肉体を押さえられなかった。
いかにセイバーに対する執着が、欲望が強くとも、己の体自体が求める生理的な欲には打ち勝てない。理性を捨て去っていればなおさらだった。

「A…t…ur……」

それでもその睡魔に抗い、前に進もうとしながらも。
バーサーカーはその意識を体の欲するままに、暗い闇に沈め、倒れた。


【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤
【状態】疲労(大)、胸部にダメージ(大)、狂化、激しい憤怒、上半身の鎧破損 、気絶中
【首輪】100枚:0枚
【装備】王の財宝@Fate/zero
【道具】アロンダイト@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:???????????????????!!
 0.令呪による命令「教会を出て参加者を殺してまわる」を実行中。
 1.意識無し
 2.目覚め次第セイバーを追う。
【備考】
※参加者を無差別に襲撃します。
 但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます。
※ヴィマーナ(王の財宝)が大破しました。
※バーサーカーが次に何処へ向かうかは後続に任せます。




バーサーカーが逃走していく姿を見送ったユウスケとセイバー。
駆けていく方向は南。セイバーとしては教会から引き離すことには成功したといえるだろう。
無論、その先にいる人間が襲われてもいいということにはならず、何よりその真名を知ってしまった今、追いたいという思いはセイバーの中には大きい。
当然ユウスケとしても放置しておくわけにはいかないと考えている。
しかしセイバーには鈴羽が、ユウスケにはセシリアと千冬という気がかりな存在がいた。
彼らを放置してバーサーカーを追うということもまた、二人にはできなかった。

352燃ゆる剣―少女と姉と ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 21:04:47 ID:Lcra09Zo0

「救援、感謝します」
「気にするなって。それより、大丈夫か?ちょっと顔色悪いみたいだけど」
「…いえ、大丈夫です」

無論、それ以上にバーサーカー――ランスロットのあの有様はセイバーに少なくない精神的ダメージを与えていた。
それでも持ち直すことができたのは、ユウスケの存在がセイバーの状況対応力をどうにか引き出させたにすぎない。

(ランスロット…)

それでも、その正体を知ってしまった今、いずれまた彼と合間見えなければいけない。
その時までに、バーサーカーとなってしまった彼の前に立つことができるのか。その覚悟を、決めておかなければならないだろう。

そう心の中で考えるセイバーを見つめるユウスケは、その姿にここに来たばかりの時に士に襲われた後の自分を見たような気がした。


「そういえば、本当なのか?切嗣さんが大怪我負って目を覚まさないっていうのは」
「ええ、しかしメダルさえあれば、傷を回復させることは可能でしょう」
「ああ、あの鞘みたいな、宝具ってやつか。あれ俺達に支給されてたやつだったんだ」
「ではあなたは切嗣の命の恩人ということになるのですね。ありがとうございます」
「いいってそんなこと。それより千冬さんとセシリアちゃんと合流して早く教会へ――――」

と、その時だった。

――――ドォォォォン

「?!何だ!」

ここよりも東に位置する市街地辺り。
そこから、何かが爆発するかのような音が響いてきたのは。

「あそこは…、まさか千冬さん、セシリアちゃん!?」

353燃ゆる剣―少女と姉と ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 21:05:39 ID:Lcra09Zo0

【B-3 森林部西端】

【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(大)、今後の未来への大きな不安、精神的疲労
【首輪】20枚:0枚
【コア】ライオン×1(一定時間使用不能)
【装備】折れた戟(ゲートオブバビロン内の宝具の一つ)@Fate/zero
【道具】基本支給品一式、スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
 1.ランスロット…
 2.鈴羽達の元に戻りたいが、ランスロットも気がかり
 3.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
 4.衛宮切嗣、バーサーカー、ラウラ、緑色の怪人(サイクロンドーパント)を警戒。
 5.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。
※鈴羽からタイムマシンについての大まかな概要を聞きました。深く理解はしていませんが、切嗣が自分の知る切嗣でない可能性には気付いています。
※バーサーカーの素顔は見ていませんが、鎧姿とアロンダイトからほぼ真名を確信しています。


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(中)、胸部に軽い裂傷
【首輪】30枚:0枚
【コア】クワガタ:1 (一定時間使用不能)
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
 1.千冬さん、セシリアちゃん?!
 2.千冬さん、セシリアちゃん、セイバーさんと一緒に行動。二人と合流後は教会に向かいたい。
 3.千冬さんとみんなを守る。仮面ライダークウガとして戦う。
 4.井坂深紅觔、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 5.“赤の金のクウガ”の力を会得したい。
 6.士とは戦いたくない。しかし最悪の場合は士とも戦うしかない。
 7.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。



時間はユウスケがバーサーカーからの逃走劇を始めたばかりのころまで遡る。

バーサーカーを引き受けて去っていったユウスケを追って、千冬はセシリアを乗せたダブルチェイサーを走らせていた。
ドラゴンフォームの脚力に加え、バイクでは追うことにできないルートを駆けていったユウスケ。
いくらバイクとて追うことなどできない。
追いつく頃には戦いが終わっていることを願って、千冬はバイクを飛ばしていた。

焦りからか、セシリアに話しかけることはできなかったため、移動中は物思いにふけるかのように無口であった。
そして、無口なのはセシリアとて同じ。しかしその心中は大きく異なっていた。

354燃ゆる剣―少女と姉と ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 21:06:48 ID:Lcra09Zo0

もしやるのであれば今がチャンス。
千冬を殺すことさえできればいい。ユウスケと合流しても誰かに襲撃を受けたと言えば、あのお人よしは信じるだろう。
問題は、彼女を殺すことができるのかどうかだった。

彼女は強い。もしブルー・ティアーズが万全であったとしてもいけるかどうかは分からない。
もし殺すのであれば、不意打ちが最も効果的だろう。
少なくとも彼女は自分のことを疑っている様子はないのだから。

それだけだろうか。
もしかすると、未だ彼女に手をかけることを恐れているのだろうか。
シャルロット・デュノアの時とは違う。
確かに彼女は、姉という存在から織斑一夏に最も近い女性だった。しかし、それゆえそこからさらに近くなることはない。
いつか越えなければならない壁であったとしても、恋敵ではない。

だからどうした。
彼女は己の弟の存在を無に化してなお、こうして生きようとしているのだ。
そんな彼女のことが許せるのか、許していいのか。

それでいいのか。

許さないことも、殺すことを心に決めることも簡単だが、それを実行に移すのは、相手が相手である以上どうしても難しかった。

「織斑先生、ユウスケさんとは、どのような方なんですの?」

己自身が沈黙に耐えられなかった。これ以上考えては覚悟が鈍るかもしれない。
だから、ふとそんなことを問いかけていた。
興味はなかった。しかし間を持たせるくらいは可能だろう。

「…あいつとはここにきて最初に出会った男だった。
 その時、あいつは仲間に殺されかけ、気絶していたな」

千冬はぽつぽつと語り始めた。
井坂真紅郎という男とユウスケの戦い。見ているしかできなかった己の無力感。
気絶した彼を連れ、病院へ向かい―――
そこで見つけた、一夏の無惨な死体。
そのタイミングで接触を図ってきた、ラウラ・ボーデヴィッヒに化けたグリード。
そして、失意のままに殺し合いに乗って一夏を蘇らせることを決め、その場にいた人間に、そしてユウスケに襲い掛かった。

話しづらそうに話した事実だったが、それを聞いたとき、セシリアの心にふと安心感が生まれた。
この人もまた、彼が死んでそう思える人間だったのだと。
今ならまだ引き戻せるかもしれない。一夏さんを生き返らせるために戦おうと。
しかしそう言われることはなかった。

355燃ゆる剣―少女と姉と ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 21:07:23 ID:Lcra09Zo0

「だがな、私は殺せなかった。誰かのために戦い、私を信じると言ったあいつに、一夏の姿を重ねてしまった」
「―――――――――――」

それから織斑先生は色々なことを言っていた気がするが、あまり覚えてはいない。
そして、次に彼女の言葉を認識したときには、あの男自身の話になっていた。

「そうそう、小野寺自身の話だったな。
 あいつも私に、自分の大切な人の姿を重ねたらしくてな。最初に会った時なんて言ったと思うか?
 『姐さん?』だぞ?」
「そして私は言ってやったんだ。『私はお前の姉になった覚えはない』とな。
 なのに、今となってはそんなアイツに、一夏を重ねているとはな」


うるさい。黙れ。
それ以上、あの男のことを一夏さんのように語るな。

なぜそこで狂ったままでいられなかったのか。
なぜあの男を殺せなかったのか。
なぜ、あなたは彼のいない世界をこんなにも受け入れたのか。

私は、こんなに苦しんでいるのに。

憎い。憎い。憎い。
殺してやりたい。

ダメだ。今はまだまずい。
もう少しだけ耐えろ。


「…随分、親しくなられたのですね。ユウスケさんと」
「そうだな。まだ出会って一日と経っていないというのにな。
 まるで――――」



「あの時のお前も、こんな気持ちだったのだろうか」




あの時。それはきっと、あの模擬戦のことを指しているのだろう。




そこに深い意味はなかったのだろう。
恋心うんぬんではなく、その人のことについて様々なことを考えるようになったきっかけという意味での例えだったのだろう。

だとしても。仮にそうだったとしても。





あの男と引き合いに出すのに、その想い出だけを持ち出すのは。
それだけは耐えられなかった。






こんな人、死んでしまえ。




OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO

356燃ゆる剣―少女と姉と ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 21:08:29 ID:Lcra09Zo0
「正直な、一夏の死を放送で改めて聞いたときは不安に思ったものだったな。
 一夏に恋焦がれたお前達が、変な気を起こしはしないか、と」

千冬はそう、冷静に告げる。
先ほどまでの口調と違い、どこまでも冷たい声で。

「お前を見つけた時は安心したものだ。
 もし一夏の死をきっかけに狂おうとしているのであれば止められる。
 生徒を殺人者にしなくても済むと、な」

セシリアは答えない。
サイドカーに乗っていたはずの彼女は、今は千冬の目の前に立っている。
そして、ダブルチェイサーは鉄くずとなって地面に転がっている。そして、千冬の左腕にはあまり軽くはない火傷があった。

「セシリア・オルコット。一つ尋ねるぞ。
 シャルロット・デュノアのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ、何故貴様がそれを持っている!!」

もしも、この時のセシリアがその銃口をこちらに向けていなければ。
もしその銃口でダブルチェイサーを撃ち抜いていなければ。
それはシャルロット・デュノアがセシリア・オルコットに託したか、あるいは何かしらの手違いで拾ったものという推測も立ったかもしれない。
しかし今の状況では、その答えは一つしか思い浮かばなかった。



「貴様、デュノアを殺したな?」

何のことはない。この少女は一夏の死を知る前から既に狂っていたのだ。

「残念ですわ織斑先生。もしあのまま狂っていてくれたなら、一緒に生き抜くこともできたかもしれないですのに。
 一夏さんのいない世界を受け入れてしまったあなたなんて、私には要りませんわ」


言うと同時、その手に構えられたアサルトライフルが発射される。
乱射される弾を、咄嗟に走って建物の陰に隠れることで避ける千冬。
と、武器を取り替えるような音が耳に届いたことに反応した千冬はさらに駆け抜ける。
先ほどまで盾にしていた建築物が一瞬で吹き飛んだ。

(ちっ、徹底的に接近させないつもりか)

いくら剣の扱いにおいてはかなりの力量をもっている千冬とて、相手が重火器を持った、それもIS装着者となっては防戦一方となる。
だからといって、このまま逃げ続けるだけではいずれ捉えられる。メダルが切れるまで持つかどうか考えてもあまりにリスクが高い。
しかし、それは自分の元にISがなければの話だ。

(……一夏)

バッグから取り出したのは、白い腕輪。
今は亡き弟が装着していた、専用のIS。
一夏専用とされたこれを私が使いこなせるかどうかは分からない。
だが、それでもやらねばならない。


(これ以上のオルコットの凶行を止めるため、力を貸してくれ――!)


と、次の瞬間、潜んでいた電柱に大量の散弾が撃ちこまれた。

357燃ゆる剣―少女と姉と ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 21:08:52 ID:Lcra09Zo0



「やりましたの?」

コンクリートの破片が巻き起こす砂埃を前に、なおも警戒をしながらセシリアは連装ショットガン「レイン・オブ・サタデイ」を構える。
普通の人間であれば死んでいるような攻撃だが、相手はあの織斑千冬。油断などできない。

少しずつ収まっていく砂煙の奥。
そこに一つの影が、姿を見せる。

「やっぱり、ですのね」

不思議はない。
元々彼女が持っていることは知っていた。
そして、彼女は織斑一夏の姉であり、あの織斑千冬なのだ。扱えたとして何の問題もない。

そこにいた千冬は、生身ではない。
白い甲冑に身を包み、巨大な翼を展開したその姿は。

かつて織斑一夏の纏っていた、第4世代型IS、白式。

今のセシリアには、苛立ちの対象でしかなかった。
彼でない者がそれを纏っている事実。
その装着者が、彼のいない世界を肯定し、なのにこんなにも彼の面影を感じさせるところがなおさら。

「オルコット、お前にはきつめの教育的指導が必要なようだな」

と、雪片弐型を構える千冬。

「苛々しますわね。私の大切な思い出を穢そうと、そんなものまで持ち出して。
 なら、思い出が綺麗なうちに消させてもらいますわ!!」

と、そういって空中へと飛翔するセシリア。
どこまでも接近戦をさせないつもりなのだろう。

(ユウスケ、あの時の私もあんな顔をしていたのだろうな)

ふと病院での凶行を思い出してそんなことを考えた。

(だが、私が立ち直れたのはお前のおかげだな。
 オルコットにはそんなやつが誰もいなかった。なら、奴を止める役割は私が担おう――)

そう考えた千冬に向けてライフル弾が迫るのを確認した後、千冬もセシリアを追って飛翔した。


空中に二つの閃光。
想う対象は同じなれど、その道は決して交わらず。
愛に飢えし少女、前に進むことを選んだ姉。
二人の戦いが、ここに始まった。

358燃ゆる剣―少女と姉と ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 21:09:57 ID:Lcra09Zo0
【C-3 市街地上空】


【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(中)、疲労(小)、左腕に火傷、深い悲しみ
【首輪】85枚:0枚
【装備】白式@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品 、シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木に制裁する。
 1.オルコットを止める。
 2.鳳、ボーデヴィッヒとも合流したい。
 3.一夏の……偽物?
 4.井坂深紅觔、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 5.小野寺は一夏に似ている。
【備考】
※参戦時期不明
※白式のISスーツは、千冬には合っていません。
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。
※セシリアを保護したことによりセルメダルが増加しました。

【セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス】
【所属】青
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、精神疲労(極大)、倫理観の麻痺、一夏への依存
【首輪】30枚:0枚
【装備】ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス、ニューナンブM60(5/5:予備弾丸17発)@現実
【道具】基本支給品×3、スタッグフォン@仮面ライダーW、ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス
【思考・状況】
基本:一夏さんへの愛を守り抜いてみせましょう。
 1.ユウスケと合流するまでに千冬を殺す。ユウスケと合流後は彼を騙した後殺す。
 2.一夏さんが手に入らなくても関係ありません。敵は見境なく皆殺しにしますわ!
 3.一夏さんへの愛のためなら何だって出来ますの……悪く思わないでくださいまし。
 4.一夏さんへの愛のために行動しますの。殺しくらいなら平気ですわっ♪
 5.殺し合いに乗ったことは千冬さんにはにはばれてしまいましたが、殺してしまえば関係ありませんわよねっ♪
【備考】
※参戦時期は不明です。
※制限を理解しました。
※完全に心を病んでいます。
※一応、青陣営を優勝させるつもりです。
※ブルーティアーズの完全回復まで残り5時間。
 なお、回復を待たなくても使用自体は出来ます。
※千冬を傷つけたことにより、セルメダルが若干増加しました





※ダブルチェイサーは破壊されました
※ユウスケとセイバーの元に届いた音はダブルチェイサーが爆破された音です

359 ◆2kaleidoSM:2013/06/14(金) 21:10:22 ID:Lcra09Zo0
投下終了します

360名無しさん:2013/06/14(金) 21:14:40 ID:iawTQGQMO
投下乙です

やっぱり王の財宝はクウガに相性抜群だったじゃないですかー!ランスロット…一体何卓の騎士なんだ…?

あ、ちょろいさんはとっとこ身の程をわきまえよw

361名無しさん:2013/06/14(金) 21:48:17 ID:jRefMITI0
投下乙です

セイバーが微妙に追い詰められてる状態で更にランスロットが絡むか…
ちょろいんさんもとうとう牙をむくし更に盛り上がってまいりました

362名無しさん:2013/06/14(金) 22:41:36 ID:FaY349TUO
投下乙です。

セイバーの心が休まる暇が無いな。

363名無しさん:2013/06/15(土) 00:12:55 ID:feYpBx6o0
投下乙です。
セイバーはいよいよバーサーカーの正体に気付いたか……で、バーサーカーもバーサーカーでボロボロになってるし
一方で、いよいよ千冬さんとセシリアも戦うか。どうなるだろう、こっちも。
あと切嗣と鈴羽は果たして無事でいられるかどうか……もしも今、危険人物がやってきたらやばいぞw

364名無しさん:2013/06/15(土) 00:24:28 ID:Pl0dhdG.0
投下乙です!
ここで一気に因縁が爆発したなぁ、すごいテンション上がる
セイバーは今の状態でも心労半端ないのにさらにバーサーカーの正体知っちゃうし、これもう分かんねえな
そしてセシリアもついに爆発しちゃったかぁ……
一夏に最も近かった千冬が何食わぬ顔で一夏を思い出として扱ってるのを見れば、こうなってしまっても仕方はないって感じはある
シャルのISでダブルチェイサーを破壊するシーンとか、マーダーだけどすごいカッコいいわ

365名無しさん:2013/06/16(日) 14:58:28 ID:IHGFFc2gO
しかしアレだな、武器呼び出すの超苦手なちょろいんがシャルのISとかその機体を選んだのは貴様のミスだってレベルじゃねーぞ!?

366名無しさん:2013/06/17(月) 02:20:08 ID:YLgkhFH20
予約の面子が嫌な予感しかしないw

367名無しさん:2013/06/17(月) 20:33:47 ID:fPHZQEiI0
予約スレ見てきた
これは…

368名無しさん:2013/06/18(火) 00:11:45 ID:2H0hrBaM0
投下乙です

>◆BXyDW0iXKw氏
おお、士にもライダーキラー以外の方針が出来たか
今まではライダー相手にしか振るわれなかったディケイドの力が、他の敵にも使われるっぽいか?

>◆2kaleidoSM氏
セイバーvsバーサーカー、千冬vsセシリアと原作の人間関係がいよいよロワでも活きてきたなあ
今すぐヤバくなりそうなのはIS戦かな。千冬さんとタイマンはさすがに無茶だぞセシリアちゃん的な意味で
一方でバーサーカーも復活したらいよいよ完全に自由だし、こっちも安心はできそうにないか

ところで表記がありませんが、作中の時間帯は夜でいいのでしょうか?

369名無しさん:2013/06/18(火) 08:58:56 ID:rVDcyeJA0
いよいよあの二人が出会う予約か……

370名無しさん:2013/06/23(日) 23:12:33 ID:LQawmdKM0
予約きたね

371 ◆WjrGhT7XsQ:2013/06/24(月) 00:41:58 ID:JbR23ECQ0
反応遅れてすみません
作中キャラの時間帯は皆夜で統一
また、バーサーカーの現在位置も作中でセイバーに言及させたので不明のままだと問題と考え加筆しておきました
不都合がないか確認お願いします

372 ◆2kaleidoSM:2013/06/24(月) 00:42:36 ID:JbR23ECQ0
トリップミスりました

373名無しさん:2013/06/29(土) 11:48:19 ID:A6/WDKFM0
新しい予約来たぞ

374名無しさん:2013/07/05(金) 21:04:34 ID:8Xnq3rUw0
そろそろ再予約の時期か

375名無しさん:2013/07/10(水) 14:36:43 ID:xCLNeN7I0
予約来てるぞ

376名無しさん:2013/07/10(水) 19:15:46 ID:zbB86lCU0
議論も来たぞ

377名無しさん:2013/07/16(火) 00:45:41 ID:W6K/x.WI0
Q: どうでもいいことだけどドクター真木を絶望させるのはどうすればいいの?

A: G・E・レクイエム

378名無しさん:2013/07/16(火) 12:51:48 ID:nwYO1sekO
>>377
終末を迎えることなくどんどん醜くなってくからな。

379名無しさん:2013/07/16(火) 16:59:49 ID:YKLpJijY0
議論スレに修正要望きてるけど、件の作者さん気付いてないんじゃない?
来て欲しいならここでも告知したほうがいいと思うけど

380名無しさん:2013/07/16(火) 22:12:40 ID:zrlUXsj.O
そもそもこっちすらもう見てるんだろうか?散々時間がないアピールしてたし

381名無しさん:2013/07/17(水) 10:05:27 ID:P4YiZz9A0
向こうの問題じゃなくてさ
投下直後ならともかく結構な期間空いてて、さらに議論スレなんていう平時は動かない場所で指摘して「作者さんが反応しないので破棄or修正させてもらいますね」は通らないだろってこと

382名無しさん:2013/07/17(水) 21:00:40 ID:Mf5F87kY0
とりあえず告知上げ
これでしばらくしても来ないのならさすがに…

383 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:04:12 ID:.FLcnv3g0
本投下させてもらいます

384シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:06:39 ID:.FLcnv3g0
「なるほどな、大体分かった」

ラウラ、フェイリスをとりあえずの仲間とした士は、この二人と一通りの情報交換を行っていた。
あわよくば破壊対象であるライダーの情報を得られればとも思ったが、士自身の出会ってきた対象の人数を考えてもそううまくはいかなかったようだ。

まず、ラウラのいた世界。
ISなる、女にしか動かすことのできないパワードスーツの普及した世界。
おそらくこのISという存在は、シンケンジャーやファイヤーエンブレムとルナティックといったヒーローのようなものであり、仮面ライダーではないのだろう。
いや、この場合ヒーローというよりはその世界の特色といったところか。
聞くと、ラウラの世界には怪人といえる存在はとりあえず発見されていないということだ。
もしかすると仮面ライダーとは無縁の世界なのだろう。

フェイリスの世界は、特に何の変哲もない普通の世界であった。
仮面ライダーも怪人もおらず、戦うヒーローや戦闘機なども存在しない。
何か隠している様子は見られたが、ライダーがいない、知らないのであれば重要なことではないだろう。

なお、ここで詳しい情報交換はこの二人もたった今のことで行ったようであり、異世界の話を聞いたラウラは驚いていた。
対してフェイリスはさして驚いている様子もなく、普通に受け入れていた。彼女の適応力の高さゆえか、あるいは他に何かあるのか。まあ関係ないが。

「ところで、一つ質問だ。お前の言うISとかいうやつ、それはあの時真木に斬りかかっていったやつの着けていたやつか?
 名前は確か―――」
「箒だ、篠ノ之箒。私の、友達…だった」
「なるほどな」

そしてラウラから聞いた情報。
セイバーという、生身でありながらそのISとやらと互角に渡り合う女の存在。
殺し合いに乗っている様子はなかったらしいが、彼女もまた別の世界の存在なのだろうか。
名前から判断するに、バーサーカー、そして既に死んだらしいがキャスターという存在とも関わりがありそうだ。
が、それが仮面ライダーと関わりを持つものなのかどうかは分からない。

そしてライダーでこそないが、士にとっては仮面ライダーとしての破壊対象であり、この殺し合いの首謀者の一人であるグリード、ウヴァ。
親友の死と、仲間の裏切り。
その直後に追った先でフェイリスと合流し、今に至るということだ。


フェイリスからはラウラの知らぬ情報として、二人の天使と全裸の変態の話を聞いた。
天使はともかく、全裸の変態とは何だろうか。少し思考した後考えないことにしておいた。
そして、天使から聞いたという情報の中にいた、桜井智樹という少年の話。
話された特徴、名前には心当たりが無いわけではなかった。
だが、仮にも襲い掛かったなどということが言えるわけもなく、あえて黙っておく道を選んだ。

385シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:08:27 ID:.FLcnv3g0
「なるほどな、大体分かった」

ラウラ、フェイリスをとりあえずの仲間とした士は、この二人と一通りの情報交換を行っていた。
あわよくば破壊対象であるライダーの情報を得られればとも思ったが、士自身の出会ってきた対象の人数を考えてもそううまくはいかなかったようだ。

まず、ラウラのいた世界。
ISなる、女にしか動かすことのできないパワードスーツの普及した世界。
おそらくこのISという存在は、シンケンジャーやファイヤーエンブレムとルナティックといったヒーローのようなものであり、仮面ライダーではないのだろう。
いや、この場合ヒーローというよりはその世界の特色といったところか。
聞くと、ラウラの世界には怪人といえる存在はとりあえず発見されていないということだ。
もしかすると仮面ライダーとは無縁の世界なのだろう。

フェイリスの世界は、特に何の変哲もない普通の世界であった。
仮面ライダーも怪人もおらず、戦うヒーローや戦闘機なども存在しない。
何か隠している様子は見られたが、ライダーがいない、知らないのであれば重要なことではないだろう。

なお、ここで詳しい情報交換はこの二人もたった今のことで行ったようであり、異世界の話を聞いたラウラは驚いていた。
対してフェイリスはさして驚いている様子もなく、普通に受け入れていた。彼女の適応力の高さゆえか、あるいは他に何かあるのか。まあ関係ないが。

「ところで、一つ質問だ。お前の言うISとかいうやつ、それはあの時真木に斬りかかっていったやつの着けていたやつか?
 名前は確か―――」
「箒だ、篠ノ之箒。私の、友達…だった」
「なるほどな」

そしてラウラから聞いた情報。
セイバーという、生身でありながらそのISとやらと互角に渡り合う女の存在。
殺し合いに乗っている様子はなかったらしいが、彼女もまた別の世界の存在なのだろうか。
名前から判断するに、バーサーカー、そして既に死んだらしいがキャスターという存在とも関わりがありそうだ。
が、それが仮面ライダーと関わりを持つものなのかどうかは分からない。

そしてライダーでこそないが、士にとっては仮面ライダーとしての破壊対象であり、この殺し合いの首謀者の一人であるグリード、ウヴァ。
親友の死と、仲間の裏切り。
その直後に追った先でフェイリスと合流し、今に至るということだ。


フェイリスからはラウラの知らぬ情報として、二人の天使と全裸の変態の話を聞いた。
天使はともかく、全裸の変態とは何だろうか。少し思考した後考えないことにしておいた。
そして、天使から聞いたという情報の中にいた、桜井智樹という少年の話。
話された特徴、名前には心当たりが無いわけではなかった。
だが、仮にも襲い掛かったなどということが言えるわけもなく、あえて黙っておく道を選んだ。

386シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:09:49 ID:.FLcnv3g0

そして士も、とりあえず出会った人物のことを話していく。
魔法少女、ファイヤーエンブレムとルナティックといったヒーロー、そして―――仮面ライダー。
無論、彼らに何をしたかまでは話さない。自分の問題であること、言う必要もないし、下手な誤解(事実ではあるが)を与えるのも得策ではない。
だが、アポロガイストとの戦いに関しては特に何を隠すわけでもなく黙っておいた。

話している際に一々目を輝かせるようなやつがいたのは気のせいと思いたい。


一通りの情報交換を終え、士は今後についての思考を始める。
グリードを全て倒し、唯一のリーダーとなって優勝するというラウラの行動方針。
なかなかに知恵の回る子供だと、素直に関心した。
しかし、この場のグリードを滅ぼすのは俺がやるべきこと。このような子供に手伝わせるべきかどうかを判断するには、まだこの少女のことを何も知らなかった。



もし、今だけでも他の仮面ライダーとも協力することができたら、どれだけ楽だったか。
いや、もう悠長にしている段階ではないのだ。ある程度の無理があろうと全てのライダーは、この手で破壊しなければならないのだ。

剣崎一真――ブレイドについては殺し合いの中で破壊することはできなかった。
しかし、ここから脱出すればまた別のブレイドが存在する世界を見つけられる可能性もある。
剣立カズマと剣崎一真、ワタルと紅渡、同一にして別のライダーが存在したように。

そう考えれば、この場の別時間軸に生きるユウスケとは、あるいは協力関係がとれたのかもしれない。
あいつはお人よしのバカだが、そのクウガとしての力は、想いは士自身も認めているものなのだから。
しかし、もう戻ろうとも、戻れるとも思わなかったが。
一度殺そうとした以上、もう和解することなど無理だろう。
ユウスケも例外なく、次に会えばこの場で破壊する。それだけだ。



「止まれ」
「ん?どうした?」

と、ラウラが士に声を掛けた。
耳をすませば、こちらに向けて歩いてくる何者かの存在を感じた。


「よお、ラウラ。やってるじゃねえか」

そんな声と共に現れたのは、緑色の服を着た茶髪の青年。

「ウヴァ…!」

だが、ラウラのその呼ぶ名、それは彼がただの人間ではないことを示すものだった。

387シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:10:24 ID:.FLcnv3g0



「そいつらが俺の陣営に入る新しいやつらか?」

上機嫌そうなウヴァが指し示すのは、士とフェイリス。
無所属である彼ら二人は、ウヴァからすればラウラが見つけた新しいメンバーのようにも見えたのだ。

「お前がグリードか」
「フン、世界の破壊者、ディケイドか。お前も俺の陣営に入りたいってか?」
「お断りだ。俺が組むのはあくまで俺の意思によるものだけだ。お前らの決めた陣営だの何だののルールに組み込まれるのはごめんだ」
「そうかよ、まあお前ならそういうと思ったが。
 だが今はお前に用はねえ。用があるのはラウラ、お前だ」

と、士の少し前にいる少女に指を向けるウヴァ。

「ああ、私もちょうどお前に話があったところだ」
「ほう…?言ってみろ」
「私は、緑陣営の優勝を目指す。お前に言われたからでもない、私自身の意思でな」
「ハハハハハ、いいじゃねえか。それが親友を殺されたお前の答えか。
 だが、分からねえな。なら何故そいつらを俺の陣営に引き入れねえ?」
「話は最後まで聞け。
 私は、全てのグリードを倒した上で”緑陣営のリーダー”として優勝する。
 そしてウヴァ、倒すグリードはお前も含めて、だ」
「何?」

それを聞いた瞬間、ウヴァの顔に何とも言いがたい表情が浮かんだ。
困惑か、怒りか、驚きか。どれなのかはラウラ達には判断がつかなかったが。
だが、好意的なものではないことは確実なようにも思えた。

「お前は不要なもの、いや、害虫だ。
 私としてはもう少し先かと思っていたが、ここで会ったのであればちょうどいい。
 ここで、お前を倒し、緑陣営のリーダーの地位を貰う」

それはグリードに対する反逆宣言。
己の陣営のリーダーすらも敵に回す、その行動。
士は、若干ながらその少女に関心を覚えた。

「お前が全部メダルを貰うってか?現実的じゃねえな。
 お前らには俺達より強めの制限かけられてるんだぜ?
 さっきだって俺に手も足も出なかっただろ」
「そうだな、だから私は仲間を集める。
 お前達を倒せる、そしてこの殺し合いに反抗しようという仲間を、な」
「……」

388シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:10:46 ID:.FLcnv3g0
ウヴァは値踏みをするかのように、ラウラを眺め。
一瞬ニヤッと笑った後、ラウラに向かって告げた。

「ああ、そういうことか。
 お前、何か自分の欲望を抑えてるだろ?」
「……っ」

ラウラには知る由もないことだが、ウヴァの生み出すヤミーは人間から誕生した後その宿主の欲望、欲求に応じた行動を取り、宿主のメダルを増幅させるもの。
そのメダルを効率よく増やすため、ウヴァ自身も積極的に前線に出て人間と関わり、その欲望を確かめ効率を上げてきた。
宿主自身の持っていた、心の奥底に潜んだ欲望からヤミーが誕生したこともある。
そういった経験から、人間の持つ欲望の方向性に対してはそれなりに多くの知識と経験を持っていた。

だからこそ、ウヴァにはそのラウラの姿や様子から彼女が抑えている欲望を持っていることも推測ができた。
ウヴァに対する、それまで以上に露骨な敵愾心、しかしその割に己の情報に対して妙に饒舌。冷静さも失っているように見える。
加えれば先の放送。

「隠さなくてもいいんだぜ?
 分かってるよ。織斑一夏のことだろう?」
「―――――」
「惚れてたんだってなぁ?
 お前が戦うって言った理由もやっぱりそいつのためなんだろ?
 残念だったなぁ、こんなに早く死んじまってよぉ!」
「っ……」
「大方そいつらの気持ちを汲んでそういう方向を選んだんだろうが、俺に言わせりゃまだまだ甘いんだよ。
 なあ、もし俺が織斑一夏を殺したやつを教えられるって言えば、どうする?」

ウヴァは笑いながら、そうラウラに告げる。

「な、何を…」
「ゲームが始まったときに一番近くにいたやつなら分かる。Xって名前のやつだ。こいつが殺したって保障はねえが、もしかしたら何かは知ってるかもなぁ。
 何ならこいつがどこにいるのか、ドクターに口利きして教えてもらってやってもいいんだぜ?
 いや、それだけじゃないぜ。ルールブックにもあったろ?『優勝したチームのリーダーは大量のコア・セルメダルで大きな力を得られる』ってな。
 あれは俺達グリードが使えばさらに強力な力にもできるんだよ。
 ここまで言えば俺が何を言いたいか、賢いお前なら分かるだろ?」


「織斑一夏を、生き返らせたくはないか?」

ラウラが息を呑む。

389シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:11:22 ID:.FLcnv3g0

「俺達グリードなら、それもできるかもしれないんだぜ?
 この俺をリーダーに据えて、優勝した後でお前の大好きな男を生き返らせて元の世界に帰る。そしてその過程で織斑一夏を殺した誰かも殺す。
 別にお前がリーダーなんざやる必要はねえ。俺の下にいりゃ悪いようにはならねえんだよ」

実際のところ、ウヴァ自身確かなことなど一つも話してはいない。
ドクターとは連絡を取る手段も無く、また自分だけにそのような特別扱いというのも考えられない以上、今言った情報が得られる可能性は低い。
そしてグリードが完全復活して大いなる力を手に入れたところで人の命を蘇らせることができるかという点もかなりハッタリを利かせている。
だが、それが可能かもしれないというところを匂わせておくだけでもこう言った人間には効果的なのだ。

「ラウにゃん…」

何かの感情にその身を震わせるラウラに、フェイリスの心配そうな声が掛かる。
ウヴァはそんな彼女を気にも留めず、答えを求めた。

「……ぁ」
「さて、どうする?ラウラ・ボーデヴィッヒ?」
「……るな…」
「ああ、聞こえねえぞ?」
「ふざけるなぁ!!」

叫び声と同時、ラウラの体を装甲が纏い、ウヴァに向かって飛び掛っていった。
IS―――インフィニット・ストラトス。
士はそれを見るのは初めてであり、フェイリスもそれが纏われる瞬間を目撃したのはこれが最初だった。

黒き装甲、肩辺りに浮遊するバックパックのような物体、その右側に備え付けられた巨大なレールカノン。
しかし、ラウラの行った攻撃はそれらの武装を生かしたものではない、腕につけられた装甲からの、いわば鉄拳。
自身のISに備え付けられたAICすらも使うことなく、彼女はウヴァに殴りかかったのだ。

向かい来るラウラの前で、その体を緑色の、虫を模した怪人の姿に変化させるウヴァ。


「そもそも、貴様らさえこんなことをしなければ!
 箒も!シャルロットも!一夏も!
 それにセシリアも道を誤ることなどなかった!!
 それを、よりにもよって貴様らが生き返らせるだと?!ふざけるな!」

ラウラの怒りの声と共にぶつけられる拳。それをウヴァは何をすることもなく、グリードの姿で受け続けた。

「一夏を殺したやつは許さない!シャルロットを殺したセシリアもだ!
 だが、それ以上に貴様らグリードは絶対に許さん!あの真木という男もだ!私が、一人残らず全員殺してやる!」

しかし、その拳の連撃にもビクともせずに受け続け。
そのうち大きく振りかぶられた一発を、何でもないように受け止めた。

「…ダメだな。
 いいか?パンチってのはこうやって出すんだよ」

と、左の手を握り締め、ラウラの体に打ち付けた。
防御機能により肉体に直接ダメージを与えることはなかったものの、その衝撃はラウラを大きく吹き飛ばした。

390シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:11:56 ID:.FLcnv3g0

「がぁ…」
「分かってるよな?今の俺がもう少し本気出せば、お前のそのバリアを破ることだってできるんだぜ?」

「フン、じゃあせいぜい頑張れよ。それでも俺には叶わないだろうがな!
 ハハハハハハハハハハハ!!」

高笑いしながらも、ラウラを見下しつつ去っていこうとするウヴァ。

未だその体に、ダメージすら与えられないこの事実。
このままあのグリードを倒すことも叶わず、ただ緑陣営の一人として戦うしかできないのか。
シャルロットの、一夏の仇も討てずに。

悔しさに、その拳を握り締める。

――――汝、より強い力を欲するか?

ふと、いつだったか聞いたそんな音が心に響く。
力、力が欲しい。
欲する思いが、その声を手に取ろうとしたその時だった。




「ちょっと待て。そこの虫頭」

それまでラウラの後ろで情勢を静観していた士が、去り行こうとするグリードを引きとめたのは。




「なるほどな。事情は大体分かった。そして、お前らグリードの習性についても何となくだがな」
「フン、今貴様には用はないと言ったはずだが」
「お前らは俺のこと知ってるんだろ?なら俺がお前を逃がす理由もないことは知っているはずだ」
「…ディケイドとの戦いは避けたほうがいいか、とも思っていたが、まあいい。少しくらいなら付き合ってやろうか?」

やれやれと言わんばかりに振り向くウヴァ。
その怪人態は未だに解かない。やはり警戒はしているのだろう。

「何より、お前のことはどうにも気にいらねえな。
 殺し合いに放り込んでおいて、上から目線でそうやって生き返らせるだの他者の命を軽々しく扱うところがな」
「生憎だが、俺は人間じゃないからな。命の価値だのなんて知らねえ。
 大体、お前に人のことが言えるのか?世界の破壊者さんよ」

と、士を指差してそう言うウヴァ。
その言葉から察するに、きっとこの怪人は士の戦う理由、世界を破壊する意味も知っているのだろう。

「世界の破壊と再生なんて名文で、罪もない”人間”を”殺している”お前だって同じじゃないのか?」

人間、そして殺しているという部分が強調されている。
それはおそらく、仮面ライダーについてほとんど何も知らないラウラ、フェイリスの二人からの印象を、そして他ならぬ士自身を揺さぶるための言葉だろう。

391シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:13:15 ID:.FLcnv3g0


「別にお前のことを責めてるわけじゃねえぜ。
 ただよ、自分の欲望を満たすために他者を蹴落とす。その何がおかしい?
 この殺し合いだって一緒だろうが。生き残りたいという欲のために他の無関係なやつを殺してでも生き残る。そして願いを叶える。
 その何がおかしい?」
「お前らと一緒にするな。
 大体、人間なんてのはな、欲望に従って生きていけばいいわけじゃないんだよ。
 望まない戦いをすることだってあるし、別の大切なもののためにもう一つを諦めなければいけないことだってある」
「ニャン…」


少女は父の友の、それぞれの命を天秤にかけ、己の欲望を捨ててでも友を救う道を選んだ。
少女は自身の想い焦がれた男の命より、この殺し合いの破壊を願った。
そしてある男は、己の友を、これまで歩んだ道のりを、自身の信念を、それら全てをうち捨てて、世界のために己の役目に殉じる道を選んだ。


「だがな、その我慢だって決して無駄なものじゃない。
 自分の中のマイナスの欲望、それに耐えた先にだって、もっと大切なものはあるんだからな。
 少なくとも俺は、そう信じてる」

だが、それにより無為になった欲望は、決して無駄なものではない。
その先に、きっとかけがえのないものがあるはずだと。
世界の破壊者はそれを信じていると言った。

「士…」
「だから、それはお前らの勝手で利用し踏み躙っていいものじゃない!」
「……貴様、一体何なんだ?」



「俺のことを知ってるなら分かるだろう?
 俺は世界の破壊者で、――――通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」



そう宣言すると同時、士はバックルとカードを取り出す。
士の眼前に翳されたディケイドのカードを、

「変身!」

掛け声と共にバックルに差し込んだ。

KAMEN RIDE

D E C A D E!!

同時に、士の肉体をマゼンダのスーツが包み、異形の体がその場に顕現する。

「ニャ…、これが、仮面ライダー…」

聞いていたとはいえ初めてみる未知なる姿に驚愕するフェイリス。
彼女を尻目に、ディケイドは腰のライドブッカーをソードモードに変形させてウヴァに斬りかかる。

それに対してウヴァは、取り出した赤き剣を掲げてライドブッカーを受け止めた。

392シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:13:48 ID:.FLcnv3g0

「サタンサーベル…」
「見ての通りだ。今の俺はシャドームーンすらも殺せるんだぜ?」
「関係ねえ!」

押し返そうとした士は、しかしサタンサーベルの剣圧に逆に推し返されてしまう。
それをあえて受け入れ下がることで体勢を立て直す士。同時にライドブッカーをガンモードにしてウヴァに射出する。
しかし、ウヴァはそれをものともせずにサタンサーベルを突き出した。
ライドブッカーの銃身で受けきることはできず、ディケイドはそのまま体を斬りつけられてしまう。、

それでもどうにか踏ん張ることに成功した士は、一枚のカードをバックルに差し込む。

ATTACK RIDE
ONGEKIBOU REKKA!

するとソードモードに変化させたライドブッカーの先端から、炎の弾が顕現。

「なら、虫には炎だ」

言うやいなや、それを振りかざしてウヴァに火炎弾を放つ。
響鬼が魔化魍を倒すための技の一つとして用いてきた攻撃。それがウヴァの体を包み込む。

が、それすらもサタンサーベルは切り裂き、ウヴァには届かない。

「チ、腐っても世紀王の剣か。やっかいだな…」
「そんなものか、ディケイド。なら期待外れだな」

そのままさらに振り抜かれたサタンサーベルを、ライドブッカーで受け止める。

今のウヴァは合計10枚のコアメダルに加え、ノブナガを倒した際に発生した大量のセルメダルを取り込んでいる。
それは、現在の彼の力が全参加者と比較してもトップクラスのものであることを示している。それは自信過剰というには強力すぎる力。
いくらディケイドとて、1対1で相手をできるものではない。

ATTACK RIDE
SLASH!

カードを差し込むと同時、ディケイドの動きが残像が残るほどの速さとなり、その剣捌きでウヴァに斬りかかる。
が、ウヴァは若干押されつつもサタンサーベルで的確に受け止めている。
ディケイドスラッシュを用いてようやく互角。

一撃、二撃と的確に受け止められ、五度の斬り付けの後カードの効果は消滅。
再度押され始める。
が、その威力を把握したのか、ライドブッカーを手で掴み取り、サタンサーベルでディケイドの胸部を切り裂いた。

「ぐ…!」

飛び散る火花、再度吹き飛ぶディケイド。
そこにウヴァの触覚から発された緑の雷撃が、ディケイド目掛けて落ちる。
それは周囲のコンクリートを爆破させ、一帯をコンクリートの煙で包む。

393シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:15:14 ID:.FLcnv3g0
「ふん、こんなものか」

再度サタンサーベルを構え、ディケイドにとどめを刺そうと近寄る。
が、

「ん?」

その体が急に止まる。
いや、止められたという方が正しいだろうか。
肉体の動きが、何かの力により強制的に止められたのだ。
さらに、砂煙の向こうから一発の砲弾がウヴァに炸裂。

「ヌ…」

ウヴァの視界の先、ディケイドの眼前、そこにはウヴァの雷撃を受け止めたラウラのISの姿があった。

「お前、大丈夫なのか?」
「あいつは、緑陣営のリーダーとなる私が倒さなければならない。
 義務でもない、恨みでもない、私自身の欲望として、な」
「――フン」


「言うこと聞かねえガキにはオシオキするしかねえよな?」

と、AICによる拘束すらも振り切ったウヴァは、ラウラと士に再度サタンサーベルを向けた。





「モモにゃん、皆、私はどうしたらいいニャン…?!」
『フェイリスちゃん?』
「士ニャンもラウにゃんも戦ってるのに、私だけこうやって見てるだけでいいニャン…?」


あの電王のパスとやらを使えば、今の自分でも変身できる。つまりは戦えるということだ。
何より、目の前にいるのはあの時まゆりを殺したやつらの一味。

しかし、それでも今の自分があそこに入って戦うことができるのか。

『気になるなら戦ってみればいいじゃねえか』
『ちょっと、先輩。女の子にそんな無理言っちゃ…』
『亀公は黙ってろ!
 そりゃ戦いが怖いってのも分かるさ。だがよ、戦うってんなら俺達がサポートしてやる。今までだってそうやってきたんだからよ。
 お前を怪我させたりは絶対にしねえし、足手まといなんかにするつもりもねえ。
 だけどな、やっぱり痛いぜ?よく考えておけ』
「戦うニャン!」
『早っ!』

もしここで迷って戦わなければ、あの時のアルニャンとセシニャンの時の二の舞だ。
それに、もし生き残るためにいつか決断しなければいけないというなら、それは今しかない。
目の前で戦っている、仲間のために。

『分かったよ、へっ、しゃあねえな。そのベルトを腰に巻いてパスを翳しやがれ』
『随分と楽しそうやないか』
『う、うるせえ!ずっと閉じ込められてたんだ、ちったあ暴れさせろ!』
「ニャッ、じゃあちゃんとポーズは決めニャイと…」

と、ベルトを巻いたフェイリスはパスを持った手を上に翳し、

「―――今ここに、フェイリスは己の真の力を解放するニャン…、変身!」

394シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:15:57 ID:.FLcnv3g0



レールキャノンは弾かれ、AICも時間稼ぎにしかならない。
レーザーブレードで斬りかかってもその先にはサタンサーベルがある。


「どうした?こんなものかぁ?」
「く…」

ウヴァが交互に繰り出す拳と斬撃。
それをかわしていくラウラの顔には強い疲労の色が見えた。

ATTACK RIDE
STRIKE VENT!

と、ラウラとウヴァの間に距離が生まれた瞬間、ディケイドの手に装着された龍の顎の手甲が火炎を噴き出す。
ウヴァは一瞬怯むも、次の瞬間には発した雷撃で炎ごと全てを吹き飛ばしていた。


FINAL ATTACK RIDE
DE DE DE DECADE!

しかし、次の瞬間。
音声と共にウヴァの目前に並ぶ大量のカード、その奥からは膨大なエネルギーが迫った。

「…!」

ウヴァに繰り出されたディメンションブラストはウヴァの体に直撃、体を構成するセルメダルを一部吹き飛ばす。
しかしコアメダルを吐き出すほどのダメージには届かない。

「こいつでもこんなものか…、甲殻だけは硬いんだな」

そのままディケイドにのみ対象を絞った雷撃を、士はどうにかかわす。
回避した先でまたも斬りかかるウヴァの攻撃を受け止める。

「フン、ならこういうのはどうだ?」

と、ウヴァは受け止められたサタンサーベルに雷撃を当てる。
赤い刀身に宿る緑色の電流は、ライドブッカーを通して士にダメージを通す。
怯んだ一瞬で、サタンサーベルを更に押し出して斬りつける。

「ガアアア!」

斬り付けられた士の悲鳴が上がり、横に吹き飛ばされるディケイド。
そのまま突きを放ちトドメを刺そうとしたところで。

――FULL CHARGE

飛来した何かがウヴァの肉体を拘束。よく見ると、体に棒状の何かが刺さっている。
とっさの襲撃に戸惑うウヴァ、その肉体にさらに赤いポインターが狙いをつけた。

395シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:16:32 ID:.FLcnv3g0

FINAL ATTACK RIDE
FA FA FA FAIZ!

二重の拘束を流石に破ることはできず、とっさに起き上がったディケイドのクリムゾンスマッシュが、横からの電王ロッドフォームのデンライダーキックが炸裂。

「グ…!」

ダブルライダーキックにより、メダルが先ほど以上に吐き出され、さらにコアメダルが一枚飛び出した。
それを咄嗟に拾い上げるラウラ。


「なるほどな、こうやって大きなダメージを与えていけばいずれはメダルを全て吐き出すということか」
「か、返せ!俺のメダルだ!」


『クォラァ亀公!俺が入ったんじゃねえか!どうしてお前が割り込んでくるんだよ!』
「だって先輩じゃ、万が一にも女の子の体に傷でもつけかねないじゃない。ここは僕に任せて休んでてよ」
『ざけんじゃねえ!』
「お前、まさかフェイリスか…?」
「どうも、始めましてラウラちゃん。戦い終わったらお茶でもどう?」
「な…、ち、近寄るな!」

「ガアアアアアアア!!」

ラウラとウラタロスの会話が繰り広げられる間に、メダルを奪われた怒りで、ウヴァは大出力の雷撃を辺り一帯に放つ。
建物を一軒丸ごと粉々にするほどの電撃。三人はかろうじてそれと、それがもたらした破壊の証を避ける。

「おい、カメ。今お前の中にあのグリードに大きなダメージを与えられる攻撃はあるか?」
「ケータッチがあるから、クライマックスフォームになれればいいんだけど、ただ今変身しちゃうとメダルがもつか分かんないんだよね。
 しかもそれで倒せなかったらもう事だし」
「なら、私が時間を作る。お前達は可能な限り強力な攻撃をぶち当てろ」

と、周囲の様子が晴れた瞬間飛び出してくるウヴァ。
狙いはおそらくメダルを持っているラウラ。

ラウラは士達から離れつつもシュヴァルツェア・レーゲンからワイヤーブレードを射出して迎え撃つ。
しかしいくら放とうとも弾かれ、かろうじて巻きついた1本は右腕に備えついた鎌で切り裂かれ拘束することもできない。
ならば、と高速で飛行しつつレールキャノンとレーザーブレードのヒットアンドアウェイで隙を伺おうと空中に飛び上がる。

が、ウヴァはサタンサーベルに纏わせた電流を、ラウラに向けて一直線に射出してきた。
一直線ならば避けるのは容易い、と思った瞬間、目の前で電撃が拡散、一気に広範囲に展開する。

どうにかAICをもって受け止めた瞬間、その横からラウラに向けて一直線に飛来した電気が直撃する。

「あああああああ!!!」

396シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:16:59 ID:.FLcnv3g0

体全体を襲う衝撃と共に、ラウラの肉体は地面に落ちる。
電撃と衝撃に打ち付けられた全身が痛み顔を歪めるラウラの元に、ウヴァが迫る。

「手癖の悪いやつだ。とっととメダルを返せ」
「渡さん…!」
「そうか。まあ言うこと聞かないやつは一人くらいいなくなってもしょうがねえよな?」

と、サタンサーベルを掲げ、一気にラウラに向けて振り下ろした。
その瞬間だった。

レールキャノンが一気に火を噴いたのは。

それはウヴァへと向けられた弾丸。しかし対象はウヴァの体ではない。
サタンサーベルを持った、その腕。

「何?!」

狙われた腕がダメージを負うことこそなかったものの、レールキャノンの衝撃は持っていたサタンサーベルを吹き飛ばした。
赤き剣が宙に浮くのを見て、そちらを振り向くウヴァ。
倒れた状態で軽い笑みを浮かべるラウラを尻目に、宙に浮くサタンサーベルをキャッチしようと走る。

―――CLOCK UP

と、それを受け止めようとジャンプしたウヴァの目の前で、サタンサーベルが消失。
その事実に動揺する暇もなく、今度は目の前に飛来した何かが、ウヴァの胸を貫いた。

「な…、ぐ、がああああ!」

何が起こったのかも認識できないまま、受身も取ることができずに地面に倒れ伏せる。
胸に刺さっているそれは、紛れもなくサタンサーベル。

「お前ら、今だ!そこの剣を狙え!!」
「おっしゃあ!来たぜ来たぜ来たぜえ!!」

――――CLIMAX FORM――――


ディケイドのクロックアップによりサタンサーベルを奪取、さらにその剣自体をウヴァに突き立てることで攻撃対象を作ったのだ。
そして、それを狙うは全てのイマジンを憑依させた電王最強形態、クライマックスフォーム。
その脚に、全てのイマジンを模した仮面が集まる。

「ま、まずい…」

今サタンサーベルを引き抜けば、そのまま多くのメダルを吐き出してしまう。だから今はこのままでいるしかない。
せめて、これを安全に引き抜き、吐き出してしまったメダルも回収できる場所まで退かなければ――――

「逃がさんぞ、ウヴァ」

と、その脚に、腕にワイヤーが絡みつき、さらに全身の動きそのものが止まる。
全身に巻きついたワイヤーブレード、そしてAICによる身体停止。

「ラ、ラウラ貴様!」

―――FULL CHARGE

叫ぶ間にも、電王の攻撃態勢は整う。

「貴様は安心して消えろ。緑陣営なら私が優勝させてやる」
「ふざけるなああああああ!!!」

ラウラの言葉に怒りを爆発させたウヴァの雷が、辺り一面に降り注ぐ。
ISが警報を鳴らし始めるのにも気に留めず、ウヴァを拘束し続けるラウラ。
雷は飛び上がった電王にも降り注ぐが、クライマックスフォームはそれでも止まらない。

397シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:18:39 ID:.FLcnv3g0

「てりゃああああ!!」

そして、繰り出されたボイスターキックは、ウヴァのサタンサーベルをさらに深く突き刺し。
それだけに止まらず莫大な威力を持ったキックと共にウヴァの体を貫き。

ラウラが離れ、電王が着地すると同時、爆風とメダルを撒き散らしながら爆散した。


「やったぜ!」
『アカン、若干浅い!』
『雷のせいでちょっと勢い落ちちゃったよ〜』
「じゃあまだ生きているということか?ゴキブリみたいなやつだ」

カポーン

と、謎の音が鳴り響くと同時、その爆風の奥から黒と緑のスーツに身を包んだ人影が現れる。

「き、貴様ら、よくも…!!そのメダルを、返せぇ!!」

多くのセルメダル、コアメダルを吐き出してしまった以上、まともに戦うのはもはや厳しい。しかしコアメダルだけは何としても取り返さなければいけない。
屈辱ではあるが、最後の抵抗として仮面ライダーバースに変身したウヴァ。
ふらつきながらもセルメダルをベルトにつぎ込むと同時、その胸に巨大な砲台が顕現する。

カポーン
――セル バースト

「!」

と、音声が聞こえた瞬間、ラウラは電王を掴み飛翔する。
それと同時に、今まで彼らのいた場所に高エネルギーの砲撃が撃ち込まれた。


「ハハハハハハハハハ!!!なるほど、こいつの力も意外と悪くはねえなぁ!」

もはや冷静さを失ったか、かつて貶めたバースの力を賞賛するウヴァ。
そこへ、

「なるほど、その力も仮面ライダーか。なら、破壊しないとな」
「―――ハッ!?」

FINAL ATTACK RIDE
DE DE DE DECADE

398シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:19:17 ID:.FLcnv3g0

と、眼前の空中にカードが列を作り出現する。
さらにその奥には、足を突き出す体勢のディケイド。

避けようにも、ブレストキャノンにより機動力の下がったバースでは避けきれない。
そしてあのライダーキックは、バースでは受けきることもできない。

(ふざけるな、俺が、こんなところで俺が―――)

ここまでは絶好調であった。
ラウラ・ボーデヴィッヒを緑陣営に引きいれ。
ショドームーンには後れをとったもののノブナガを殺すことでメダルを大量に増やし、そのまま死にかけのシャドームーンすらも殺し。
高い戦闘力を誇るイカロスをも緑陣営にすることに成功し。
あのネウロですらも殺したこの俺が、俺が。

こんなところで―――――

結局のところ、彼は増長しすぎたのだ。
その手でシャドームーンを倒し、ネウロをも殺し、さらには膨大なメダルを収め。
それがこの場における、ディケイドをも越える力になっていると、完全に思い込んでいた。
だからこそ今ならば勝てると思い込んでしまった。
ディケイドの強さはその単純なスペックだけでなく、数々の力を使いこなすことにもあるという点を見逃し、その結果奪われた一枚のメダルに執着してしまった。


皮肉にも、彼を滅ぼしたのは、増幅しすぎた自身の欲望だったのだ。




「たああああああああ!!」

カードを貫き、その奥から現れたディケイドのキックがバースの胸部に突き刺さる。
それはブレストキャノンを破壊、バースの装甲をも貫き、中のウヴァ自身をも打ち砕く。

「ガアアアアアアア!!」

衝撃で大きく後ろに吹き飛ばされるウヴァ。

「おのれ、…ラウラ・ボーデヴィッヒ、おのれ…!」

バースの変身が解除され、外骨格を消失させ茶色の肉体を晒すウヴァが、ふらつきながらも怨嗟の声を上げる。
しかし、それももはや悪あがきにすらならず。

「おのれ、ディケイドオオオオ!!――――ガァッ?!」

そのまま地面に倒れこんだと同時、肉体を構成していたメダル全てを吐き出しながら、その体は爆風の中に包まれ、今度こそ完全にその肉体は消え去った。

399シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:19:55 ID:.FLcnv3g0



『フェイリスちゃん、大丈夫?』
「だ、大丈夫ニャン、ちょっと疲れたけど、まだまだ元気ニャン!」

周囲に散らばったメダルを回収するラウラを士の後ろで、戦いで疲労した体を休息させるフェイリスにウラタロスが声をかける。

『で、どうだったよ猫女。これからも戦えそうか?』
「ニャ…、正直あの電気の中に突っ込んだときは怖かったニャ…。だけど士ニャンとラウにゃんが戦っててみてるだけってのも嫌だったニャ…」
『そうかよ。まあ俺等も無理にとは言わねえ。戦えねえからってそこまで背負い込むこともねえよ。
 お前のやりたいようにやれ』

一方、メダルを集めた士とラウラは、それら全てをフェイリスを含めて分配した。
士のメダルは、あの戦いの中で完全に枯渇してしまったが、ここに集めたメダルはそれを差し引いてなお数十倍のお釣りがくるほどの量だった。

「コアメダルが9枚に、セルメダルが……考えるのも面倒だなこりゃ。
 フェイリス、お前はこのコアメダル、欲しいか?」
「ニャ、フェイリスが持ってても仕方ニャイし、ラウにゃんが持ってるべきニャ!」
「そうか。まあ別に俺もコアメダルは必要ないしな。その代わりセルメダルを多めに寄越せ」
「コアメダルがこっちに貰えるなら別に構わん、好きなだけ持っていけ」

そうして、ラウラは緑色のメダル5枚とそれ以外の5枚のメダルをその体に収めた。
セルメダルは士に500枚、残りを240枚ずつフェイリスとラウラに分配された。

「緑のメダルはこれで5枚か。これで名実共にお前が緑陣営のリーダーだな。問題があるとすれば、陣営自体が1からのスタートとなるわけだが」
「構わない。また私の力で仲間を探すまでだ。お前もどうだ?」
「今はいい。
 お前のやり方は見守らせてもらうが、他の方法も考えたい。
 他のやつと被ったやり方なんて俺らしくもないしな。だからこっちのやり方はお前に任せた。
 それともう一つ、今のうちに聞いておきたいことがあった。
 リーダーが勝利するには、新しいリーダーが決まるまでの間に他のグリードを全滅させる必要がある。
 ここまではいいな?」
「ああ、分かっている」

そう、リーダーがただ一人の状態で、他のリーダーを全滅させれば、それでこの殺し合いは終わる。
それがこのゲームのルールだ。

「そして、それを踏まえた上で一つ聞きたい。
 分かっているとは思うが、既にグリードは二体、放送で名前を呼ばれている。
 つまり、もう既に新しいリーダーが誕生していて、そいつはグリードではない、人間である可能性もある」
「………」

放送を過ぎた今、退場したグリードに代わり新しいリーダーが生まれているのだ。
それが、アポロガイストのようなやつならばまだいいが、もし人間であったなら、ラウラは人を殺すという選択を取ることになるのだ。
もしそれが、グリードに反抗し殺し合いを打破しようとする者であったなら。


「ラウラ、そいつをお前は、殺すことができるのか?」
「…………覚悟はある」

400シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:20:24 ID:.FLcnv3g0

その言葉の奥に、僅かながら迷いがあったようにも思えたのはきっと気のせいではないだろう。
しかし、それでもその決断を下したときの言葉は、はっきりとしていた。

そのラウラの決意に、何故か自分の役割を連想していた。

「いいだろう。しばらくは付き合ってやるさ。
 と言いたいが、お前はいいのか?」
「何がだ?」
「俺はウヴァのやつが言っていたように破壊者だ。
 きっと仲間になり得るようなやつらも敵に回して、俺の役割を、仮面ライダーの破壊をしなけりゃいけない。
 そんなやつと一緒にいれば、無用な敵を増やすことになるかもしれないぞ」

現に、鹿目まどかや黄色い魔法少女達、桜井智樹といった者からは警戒されている。
仲間とするための不都合となりはしないか。それが若干気にもなった。


「生憎だが、私は仮面ライダーとやらのことをよく知らん。それより今共にウヴァを倒したお前のことを信用したい。
 それにもしお前が間違っていると感じるようなことがあれば、私が止めてやる。
 それでは不満か?」
「いや、合格だ」

と、ウヴァのいた場所に転がっていたバースドライバーを拾い上げる士。
少なくともバースとかいうライダーは破壊したといえるはず。火花を上げるこのベルトは少なくともこのまま変身が叶う状態ではないだろう。修理すればどうなるかは分からないが、別に興味もない。
ただ一つ気になったのは、バースを倒してもライダーカードが出現しなかったこと。
そういえばこのライダーは士の知識にあるライダーのどれとも異なっていた。何か関わっているのだろうか。
それとも、グリードが変身していたことが関係しているのか。
どれも推測の域は出ないが、その辺りは追々調べていけばいいだろう。
その不具合が分かっただけで収穫かもしれない。


「それと、これは私の勝手な願いだが……。
 織斑千冬という人がいる。その人はできれば私の陣営に加えたいんだ。
 あの人も、私にとっては大事な人だからな」
「なるほどな、じゃあさし当たってはその千冬とかいうやつを探すんだな」
「ああ、千冬さんは、一夏の姉だから…な」

と、その名を出したと同時、ラウラの表情に影が見えた。
その名前は、ウヴァが言っていたラウラの好きだったという男の名前。

「大丈夫か?」
「大丈夫だ、大丈夫。こんなところで立ち止まることなど、きっとシャルロットも一夏も望まないはずだからな」
「………5分だけだ」
「は?」
「5分だけ待ってやる。その間に、自分の中の気持ちにちゃんと整理をつけろ」

401シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:21:05 ID:.FLcnv3g0

と、フェイリスの腕を掴んで外に出ようとする士。

「ニャ?!士ニャンどういうことニャ?!」
「察しろ」
「それだけじゃ分からないニャ!」
『あー、フェイリスちゃん、今はあのラウラちゃん、一人にしてあげよう。ね?』
「ウラにゃん…?分かったニャ」



そうして一人になったラウラ。
いざ一人になると、様々なことが頭の中をよぎってくる。

織斑教官は、鈴は、果たして一夏の死に取り乱してはいないだろうか。
セシリアは、人を殺してはいないだろうか。

と、そこまで考えたところで、もう一夏はどこにもいないのだ、という事実が心に圧し掛かってきた。
もしかしたら、ウヴァの言うように一夏を生き返らせることもできたのかもしれない。
だけど、やつを倒した以上、もうその道は閉ざされた。
それは、一夏との完全な決別。

「…一夏」

もう、それは心に受け入れたはずだった。
あの放送を受けたとき、フェイリスを殺す可能性を、ほんの一瞬浮かばせ、しかしそれを完全に消し去らせたあの時から。
でも。


「一夏…、……一夏ぁ…」

一人になり、そして己のやるべきことを完全に定めた今は。
その瞳からあふれ出る涙は止まらず。
片目を覆った眼帯すらも、その涙を押し止めることはできなかった。



【一日目-夜】
【E-4/市街地】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】苛立ち、疲労(大)、ダメージ(大)
【首輪】300枚:200枚
【コア】サイ、ゾウ
【装備】ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式×5、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜8(士+ユウスケ+ウヴァ+ノブナガ+ノブヒコ)、バースドライバー@仮面ライダーOOO、
     サタンサーベル@仮面ライダーディケイド、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、 ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
 0.ラウラとフェイリスと同行する。
 1.全てのコアメダルを奪い取り、全てのグリードを破壊してルール上ゲームを破壊する。
 2.「仮面ライダー」とグリード含む殺し合いに乗った参加者は全て破壊し、それ以外は配下にしてやる。
 3.ディエンドとは戦う理由がないので場合によっては共闘も考える。
 4.ラウラにそこそこ関心。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※アポロガイストは再生怪人だと思っています。
※少なくとも電王は破壊する意味なしと判断しました。
※仮面ライダーバースは”破壊”しました。バースドライバーが作動するかどうかは不明です

402シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:21:26 ID:.FLcnv3g0

【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】疲労(大)、深い哀しみ、ゲームを打破するという決意、戦いに対する不安、イマジンズへの信頼
【首輪】300枚:0枚
【装備】IS学園女子制服@インフィニット・ストラトス
【道具】IS学園男子制服@インフィニット・ストラトス、
    デンオウベルト&ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:仲間と共にコアメダルを全て集めて脱出し、マユシィを助けるニャ。
0.今はまだ、誰かと戦う覚悟はニャいけど……いつかはフェイリスも……?
1.ラウニャン、大丈夫かニャ…?
2.アルニャンとセシニャンを止めなくちゃいけニャい!
3.凶真達とも合流したいニャ!
4.変態(主にジェイク)には二度と会いたくないニャ……。
5.イマジンのみんなの優しさに感謝ニャ。
6.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ!
7.ラウニャンに人殺しはさせたくニャい。とくに友達を殺すニャんて……
【備考】
※電王の世界及び仮面ライダーディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ジークが憑依しています。
※イマジンがフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみですが、
 ジークのみは特別で、その気になれば生身のフェイリスの身体も使えるようです。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依していました。
※ジークがまだフェイリスを認めていないので、ウイングフォーム及び超クライマックスフォームにはなれません。通常のクライマックスフォームまでなら変身できます。
※イマジンたちは基本的に出しゃばって口出しする気はありません。フェイリスの成長を黙って見届けるつもりです。

【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑・リーダー代行
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、深い哀しみ、力への渇望、セシリアへの強い怒り(ある程度落ち着いた)
【首輪】300枚:20枚
【コア】バッタ(10枚目)、クワガタ(感情)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×二十匹@魔人探偵脳噛ネウロ、、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:グリードに反抗する仲間とコアメダルを集めて優勝し、生還する。
  0.一夏……
 1.士、フェイリスと行動する。
 2.セシリアを止める。無理なら殺すことにも躊躇いはない。
 3.陣営リーダーとして優勝するため、もっと強い力が欲しい。
 4.もっと強くなって、次こそは(戦う必要があれば、だが)セイバーに勝つ。
 5.一夏やシャルロットが望まないことは出来るだけしたくはない。
  6.Xというやつは一夏を―――?
【備考】
※本当の勝利条件が、【全てのコアメダルを集める事】なのでは? と推測しました。
※"10枚目の"バッタメダルと肉体が融合しています。
 時間経過と共にグリード化が進行していきますが、本人はまだそれに気付いていません。
※コアメダルを、その体に取り込みました――――――――――――











(このままでは済まさん…!)

コアメダルだけとなったウヴァは、しかしそれでも意識を失ってはいなかった。
彼自身の生に対する執着心か、あるいは虫のしぶとさの表れか。

403シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:21:56 ID:.FLcnv3g0

これで、これまでに増やしてきた戦力も、メダルも全てチャラになってしまった。
いくら自陣営が優勝するにしても、それが自分の優勝にならないのであれば意味がない。
しかし、こうなってはもはやどうしようもない。

そう、思っていた。

(ん…、あ、あれはまさか―――)

そうしてラウラの中を漂っていたウヴァは、ある事実に気付いた。
ラウラが取り込んだメダルの1枚、おそらく自分を倒す以前から取り込んでいたバッタメダル。
それが、ラウラの体内で肉体と融合しようとしている、という事実に。

(これは…、そうか、これならまだ俺にもチャンスはある―――!)

そう、もしもこのメダルがラウラの体に完全に馴染めば、彼女自身がグリードとなる。
そして、その力に溺れ、なおかつセルメダルが十分集まりさえすれば。
きっと、またグリードとしての肉体を取り戻せる。
復活さえできれば、今ラウラが持っている緑メダルの全ては俺の総取りだ。

こうなれば今の状況はそこそこ好都合だ。
少なくとも確認している限り唯一メダルを破壊できる手段を持つオーズと、ラウラと同行するディケイドは敵対している。
メダルに意志が残っていることに気付かれさえしなければ、破壊される可能性は低い。


(そうだ、俺はまだついている!こんなところでは終わらんぞ!
 ハハハハハハハハ!)

もし、ラウラが力に、欲望に溺れることがあるとするなら、いつだろうか。
決まっている。織斑一夏への想いだ。
ああは言っているが、今だにその恋が消えたわけではないことは、ウヴァには分かった。
そして、それを増幅させるものがあるとすれば。

一夏を殺した人間と―――Xと相対したときだろう。


(せいぜいあがいてみろ!その欲望の中でな!ハハハハハハハハ!!)

そうして、復活を望むウヴァは、誰に聞こえることもなくラウラの中で笑い続けた。



「ラウラ・ボーデヴィッヒか。なるほどね」

それは、ウヴァが爆散した衝撃で飛ばされたもの。
参加者全員のパーソナルデータ。

その中の、ラウラのページを眺めながら、彼らの戦いを眺めていたインキュベーターは呟く。

404シン・レッド・ライン/欲望と想いと世界の破壊者 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:22:17 ID:.FLcnv3g0

「やっぱり感情というものは理解できないなぁ。どうしてこうも非効率的な道ばっかり選ぶんだろう?」

ともあれ、ウヴァはいなくなり、新しい観察対象を探した方がいいのだろうかと考える。

「ん?この項目…、『VTシステム』?なんだろう、これ」

彼女のIS、シュヴァルツェア・レーゲンの説明の中にあったその単語。
それが何を意味するのかを確かめるため更に読み込もうとしたインキュベーター。
しかし。

「あれ?もう移動するんだね。こうしちゃいられない。早く追いつかないと」

インキュベーターはそれっきり、そのデータ集を拾うことも未練を残すこともなく。
去っていくラウラ、士、フェイリスの後を追いかけた。


誰もいなくなったその場で。
ラウラのデータが記された一ページが、ただはためき続けた。


【ラウラ・ボーデヴィッヒの備考・追記】
※取り込んだコアメダルは、緑メダルは全て取り込みましたがそれ以外はいくら取り込んだかは不明です。
 その中の一枚には、ウヴァの意識が残っています。
 また、メダルを取り込んだことでグリード化が若干進行しました。
※シュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムが取り付けられている可能性があります。

【ウヴァ@仮面ライダーOOO 自律行動不能】


※E-4に参加者全員のパーソナルデータが放置されています。
※キュウべえがE-4にいます。士達の観察を目下の行動方針とした様子です。

405 ◆2kaleidoSM:2013/07/18(木) 01:24:31 ID:.FLcnv3g0
投下終了です
仮投下から一応問題点は見直したのですが、もしまだ問題がありましたら指摘お願いします

あと、>>385はミスなので無視してください
分割が必要となった際は>>399から分割でお願いします

406 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:15:20 ID:SNifzT2c0
投下乙です、感想は投下終了の際に。
こちらも投下します。

407Lの楽園/骸なる月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:16:37 ID:SNifzT2c0

【[→ side:E →]】


「……ふうん」

 放送が終了して数秒程度の空白の後、カザリは興味深そうに息をついた。
 彼のその様子に、大樹は苛立ちを交えた視線を送っている。
 何しろ、このグリードは昼間からまるで行動を起こそうとはしないのだ。
 こうしている間にも、一体幾つの戦いが勃発し、そして幾つの"お宝"が持ち主を変えていることか。
 長期戦を見据えているつもりなのだろうが、こうも動こうとしないとは思ってもみなかった。
 こんな事なら、いっそカザリとは別行動をとるべきだったのである。
 時間の浪費という痛手を再認識し、大樹は顔を顰めた。

「さてと、それじゃあ僕達もそろそろ動こうか」
「……その台詞はもっと前に聞きたかったね」

 大樹の不愉快そうな声を耳にしても、カザリの余裕は崩れる気配を見せない。
 彼は支給された携帯電話を、いつもの様にいじっているばかりである。
 リーダーのその様子を目にして、彼の苛立ちはさらに増幅していった。
 放送が正しければ、現状最も有利なのは緑陣営で、黄陣営の倍以上のメダルを所有しているのだ。
 圧倒的に不利な状況だというのに、一体何が彼に余裕を滾らせているのだろうか。

「そんなにイラつかないでよ。勝つ見込みはちゃんとあるんだしさ」

 カザリはそう言ったが、大樹としてはその言葉を信用できなかった。
 この現状を前にして、そうまで断言できる根拠とは一体何なのだろうか。
 一度問い質してみたかったが、どうせ携帯の時の様に適当にはぐらかされるのが目に見えている。
 手中を見せないリーダーに対する不信感は、依然として募り続けるのであった。

「じゃあ行こうか、泥棒さん」

 これまでの様に、カザリがライドベンターの後部座席に乗り込んだ。
 一体何が悲しくて、こんな人を泥棒扱いする様な奴と相乗りしなくてはならないのか。
 所属する陣営を間違えただろうか――溜息と同時に漏れ出るのは、後悔ばかりであった。


【[→ side:A →]】


 振るった拳は全て空を切り、自慢の超能力も敵の歩みを止められない。
 まるで心を読んでいるかの様に彼は攻撃を躱し、お返しと言わんばかりに拳を振るうのだ。
 傷だらけとなった加頭に対し、彼の目の前に君臨する敵――シャドームーンは未だ無傷。
 銀の装甲は輝きを失わず、緑の複眼は依然として加頭を見据えている。
 ただ直立しているだけだというのに、シャドームーンの威圧感は絶大なものであった。
 流石は創世王と名乗るだけの事はある――加頭は目前の脅威に対し、思わず息を呑む。

(……だが、ここでやられる訳には……)

 彼を倒さなければ、自分はもう二度と現世には戻れないだろう。
 ここで負ければ己の精神は消失し、肉体はキングストーンの操り人形となるに違いない。
 愛して止まない女とも、もう二度と再会できはしないのだ。
 その可能性が頭を過っただけで、心の底から闘志が湧き上ってくる。
 彼女への愛を証明するまでは、まだ二度目の死を迎える訳にはいかない。
 ましてや、精神世界で誰にも知られずに消滅するなど以ての外だ。
 己の"愛"をキングストーンに見せつけ、一刻も早くこの世界から脱出しなくては。

「必ず手に入れますよ、あなたを」

 理想郷の杖を強く握りしめ、加頭は再び創世王へ立ち向かう。
 更なる覚悟を決めた彼を、シャドームーンは無言のまま迎え撃つ。
 精神世界での戦いは、さらに熾烈さを増していくのであった。

408Lの楽園/骸なる月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:18:40 ID:SNifzT2c0

【[→ side:E →]】


 地上で佇む相手一体を補足し、それに向けて「Artemis」を発射。
 放たれた光弾は、一つ残らずシャドームーンへと襲い掛かる。
 その瞬間、彼の腰にあるバックルから翠色の輝きが放出された。
 「Artemis」がその光に触れると、どういう訳か「Artemis」は消失してしまうのである。
 相手へ飛び込んだ光弾は全て翠色の光の手に掛かり、全て役目を終える事なく消滅する。
 放った「Artemis」は一つも敵には届いておらず、当然彼は無傷のままだ。
 この一連の流れを、今回の戦闘でイカロスは何度目にしただろうか。
 どれだけ「Artemis」を放った所で、彼には通用しないのはもう明らかだ。

 相手の腕が動き出した瞬間、イカロスはシャドームーンの反撃を察する。
 すぐさま移動を開始し、敵の攻撃の回避と御に神経を集中させた。
 彼は攻撃を加えると、お返しと言わんばかりに手から光線を放射してくるのである。
 その破壊力は凄まじいもので、コンクリートなど呆気なく破壊されてしまうのだ。
 事実、幾度もの攻防の末に、辺り一帯は瓦礫だらけとなっている。

 「Artemis」とシャドービームの撃ち合いは、終わる気配を見せない。
 このままでは、どちらかのメダルが切れるまで戦いは続くであろう。
 イカロスとしては、これ以上メダルを浪費したくはなかった。
 まだマスターにすら出会っていないというのに、こんな所で戦う力を失う訳にはいかない。
 しかし、だからと言って今戦っている相手を野放しにしておくのも危険だ。
 仮に奴を見過ごしたとしたら、そう遠くない内にマスターを傷つけるかもしれない。
 そういう可能性を考慮に入れると、やはり奴は此処で倒すべき敵という判断ができる。

 遠距離攻撃が通用しないのであれば、接近戦に持ち込むまでだ。
 今出せる最大出力の速度で相手の元に肉薄し、己の拳を敵に叩き込む。
 成功する確信は無いが、メダルを節約したい以上、今選べる手段はこれしかない。

 出力を一気に引き上げ、勢い良くシャドームーンに向かって急降下する。
 相手はそれに対抗せんとばかりに破壊光線を乱射するが、イカロスは「Aesis」でその猛攻を防御する。
 彼女が展開する防御壁の前では、あのビームも何ら意味を齎さないのだ。
 これならば、思いの他簡単に勝利できるのではないだろうか。
 僅かな油断を孕みながらも、イカロスは堅く握りしめた拳を敵の顔面目がけて突きだした。

「――――――――!?」

 突き出した拳は、標的には届かない。
 イカロスの一撃を遮ったのは、他でも無いその標的であった。
 彼は凄まじい勢いで放たれた彼女の拳を、その手で受け止めてみせたのである。
 呆気なく阻止されたという事実は、イカロスに動揺を与えるのには十分であり、
 同時にその動揺は、シャドームーンが付け入るには十分すぎる隙を作り出してしまった。
 イカロスが次の行動に移る前に、シャドームーンの足が動く。
 その蹴りはがら空きになっていた彼女の腹部に命中し、そのまま彼女をふっ飛ばした。
 上手く受け身を取れなかった彼女は、そのまま無様に地面を転がる羽目となる。

 生身の人間が食らえばそのまま腹を貫かれんばかりの一撃であったが、エンジェロイドの頑丈さを以てすれば致命傷は避けられる。
 だがしかし、そのエンジェロイドであっても今受けたダメージは堪えるものがあった。
 事実、攻撃を受けたイカロスは逆流した胃液を地面にぶちまけてしまっている。

409Lの楽園/骸なる月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:20:49 ID:SNifzT2c0

 ――――カシャン。

 痛みに悶えるイカロスの耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのある金属音。
 その音を感知した直後、横方向から凄まじい衝撃が襲い掛かった。
 彼女はそのまま弾き飛ばされ、またしても地に伏してしまう。
 痛みに耐えながら立ち上がろうとするイカロスを、シャドームーンが見逃す訳がないのだ。
 彼は持ち前の瞬発力を生かして瞬く間に彼女に肉薄し、そのまま脇腹に向けて蹴りを叩き込んだのである。

 二度の打撃によって、イカロスの全身が悲鳴をあげる。
 これ以上奴の攻撃を食らうのは危険だと、ひたすらに警鐘を鳴らしていた。
 接近戦を挑むのは止めにして、ここは一旦空中へ逃げ出すのが賢明だ。
 そう考えたイカロスが、空中へ飛び立とうと背中の翼を広げる。
 そこまでは良かった――並の相手であれば、それでこれ以上の追撃は回避できたであろう。
 だが、イカロスが対峙しているのは決して並の相手などではない。
 例え操り人形同然であったとしても、相手は創世王と謳われたあのシャドームーンなのである。

「えっ――――」

 飛行を試みようとした直前、妙な浮遊感がイカロスを襲う。
 何が起きたのか理解する前に、彼女の身体は地面に叩き付けられた。
 激突した痛みに顔を歪ませる暇も無く、再びイカロスは宙を浮く。
 そして再び落下――先程とは違う地点に頭から激突する。
 シャドームーンが振り向き際にイカロスの足を掴み、鞭を鳴らす様に彼女を叩き付けたのだ。
 その動作は一度ならず、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も繰り返される。
 それが数えるのも億劫になる回数になった頃に、シャドームーンは思い切りイカロスを投げ飛ばした。
 勢いよく彼女の身体は民家の壁に激突し、そのまま地面に倒れ込む。
 いくら頑丈なエンジェロイドと言えど、これ程の暴力を受けては無事では済まされない。

 ――――カシャン。カシャン。カシャン。カシャン。

 後ろから聞こえてくるのは、シャドームーンの足音。
 あの悪魔が一歩ずつ、こちらへと近づいてきているのだ。
 逃げようにも、傷ついた今の身体では起き上がるのにさえ時間がかかる。
 相手がほぼ無傷である以上、逃走はもう間に合わない。
 そして案の定、動作を起こす前に翼を掴まれた。

「あ、が……ッ」

 ぶちぶち、と。
 シャドームーンが力を加えると、イカロスの背中からそんな音が聞こえてきた。
 片方しかない彼女の翼が、今まさに引き千切られようとしているのだ。
 悶える様な痛みに苛まれながらも、イカロスはどうにか敵から逃れようともがく。
 しかし、翼を掴まれてしまっている以上は、どう足掻こうが創世王からは逃れられない。
 背中が焼ける様な感覚が数秒続いた後、イカロスの身体は急に前へと倒れ込む。
 彼女を引っ張っていた力が消失した――とどのつまり、イカロスの翼がもがれてしまったからだ。
 両翼を喪失したという事実を前に、イカロスはただ茫然とする他なかった。

410Lの楽園/骸なる月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:23:36 ID:SNifzT2c0

 シャドームーンの猛攻は、まだ止まらなかった。
 前と同じ様にイカロスを蹴り飛ばすと、今度は彼女の方向に向けて片手を掲げる。
 その手から翠色の光が迸ったかと思うと、そこから同色の光線――シャドービームが発射された。
 「Aesis」を張らせる隙すら与えずに、その光線はイカロスの片腕を食い千切ってしまう。
 これがシャドービームの威力――例えエンジェロイドの外殻であっても、容易く破壊できてしまうのだ。

 両翼を奪われ、片腕すらも破壊された。
 全身を苛む激痛は判断を鈍らせ、意識さえも朦朧とさせる。
 そしてそれと同時に、戦う気力さえも徐々に喪失していった。

 男はやはり無言を貫いたまま、手にしたクリュサオルを構える。
 あと少し時間が経てば、あの剣はイカロスを引き裂く為に振るわれるだろう。
 感情は読めないが、彼が纏う雰囲気は殺気に溢れていた。

 しかし、一方のイカロスには、戦う気力などもう残ってなどいなかった。
 今の自分に出来る事があるとすれば、ただ処刑の瞬間を待つ事くらいだ。
 そして、その先に待ち受けるのは、"死"という結果以外には存在しない。

「……ます……た、ぁ……………………」

 せめて、この命が尽きる前に最愛の人と出会いたかった。
 偽りの無い世界で、本物のマスターと再会したかった。
 だがそれも、今となってはもう叶う見込みの無い望みである。
 もうこの"欲望"は、どう足掻いた所で満たされはしないのだから。
 万事休すとなってしまった以上、ただ迫り来る"死"を受け入れる事しかないのだ。

 そうして、無慈悲にも刃は振るわれた。
 クリュサオルがイカロスの柔肌を切り裂き、そこから大量の血が噴き出る。
 イカロスが最期に目にしたのは、銀色の装甲を血で濡らしたシャドームーンの姿であった――。



【[→ side:A →]】


 精神世界は、言うなれば加頭の心象を具現化したものだと言っていい。
 それ故に彼は、破壊された筈のユートピアメモリを使って戦えるのである。
 当然この世界の主である以上、その強さも彼自身の心境で変化する。
 その証拠として、強い覚悟をその身に秘めた現在の加頭は、シャドームーンと互角に戦えていた。

 思うに、それまでの加頭にはまだ覚悟が足りていなかったのだろう。
 表面上は戦う意思を見せていても、心の何処かで恐怖を感じていたのかもしれない。
 だが今は違う――現在の彼の心には、最早恐怖の一片もありはしなかった。
 そこにあったのは、創世王に自分の"愛"を証明させる為の意思と覚悟だけである。

 シャドームーンの銀の装甲にはそこら中に傷が付いており、かなり疲労しているのが伺える。
 ユートピア・ドーパントの肉体も同様で、この戦いの激しさを嫌でも想像させられた。
 お互いに相当なダメージを負っている以上、どちらが負けてもおかしくない勝負である。

 一体この状況に至るまで、何時間戦ってきたのだろうか。
 憔悴した頭で、加頭はこれまでの戦いを思い返す。
 正確な時間は分からないが、とにかく長い時間を戦闘に費やしたのは理解できる。
 空へ目を向けると、何時の間にか太陽は姿を隠しており、その代わりと言わんばかりに満月が煌めいていた。
 つまりは、昼から夜になるまでの間ずっと戦い続けていたという事である。

411Lの楽園/骸なる月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:24:44 ID:SNifzT2c0

 もしや現実世界でも、これ程の時間が経過してしまっているのだろうか。
 仮にそうだとすれば、それは由々しき事態である。
 数時間だけでも殺し合いの状況は激変しているだろうし、何より愛する園咲冴子の身に何があってもおかしくはない。
 それに、数時間も精神世界で戦っているという事は、即ち現実世界では何もしていないのと同義であり、
 結局この場でどう戦おうが、冴子の陣営にはそれといった恩恵が齎されないのだ。
 彼女に尽くすと宣言した以上、この芳しくない結果は卑下すべきものである。

「あなたとの勝負、これで終わらせます」

 満月を背景に仁王立ちするシャドームーンに、そう宣言する。
 最早これ以上、この空間で時間を潰している訳にはいかないのだ。
 次の交戦で相手の息の根を止め、キングストーンの力を手に入れてみせる。
 相手の方も加頭の意思を読み取ったのか、臨戦態勢をとった。

 先に動き出したのは、加頭の方であった。
 勢い良く跳躍し、そして揃った両脚をシャドームーンに向けて突き出す。
 彼の周りでは炎が猛り、雷が踊り、竜巻が暴れ狂う。
 加頭は必殺の一撃を以て、シャドームーンを葬るつもりなのだ。

 対するシャドームーンもまた、加頭と同様に跳躍する。
 そして彼と同じタイミングで、翠色の光を纏わせた両脚を加頭へ向けた。
 これこそがシャドームーンが持つ最強の技――シャドーキックである。
 エネルギーを充填させた両足による蹴りを以て、創世王は加頭の必殺の一撃に対抗する。

 お互いが持つ最上級の技が、今ぶつかる。
 そして同時に、これが二人の最後の勝負となるだろう。
 打ち負けた方に齎されるのは、"死"の一文字だけだ。
 
 同時に突き出された互いの両足が、遂に激突する。
 足に纏わせた強大なエネルギーが触発し、その瞬間光となって周囲を巻き込んでいく。
 その激しい光に、当事者であった加頭も飲みこまれ――――彼の意識は、そこで消失した。

412Lの楽園/骸なる月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:26:01 ID:SNifzT2c0

【[→ side:E →]】


 気付けば、景色は一変していた。
 先程までいた廃墟は何処へと消え、広がるのは閑散とした住宅街。
 周囲を見渡して、ようやく加頭は自分が現実世界に帰還できた事を認識した。

「――勝てたようですね」

 お互いの蹴りがぶつかった直後の記憶は、どう頑張っても思い出せない。
 エネルギーが衝突した際、その衝撃が自分を襲ったのは覚えているが、
 そこから先に何が起こったのかは全く記憶にないのである。
 だが、加頭はそれについて深く考えるつもりなど毛頭無かった。
 今の彼に必要なのは、シャドームーンに勝利したという事実だけだからである。
 遂にキングストーンを屈服させた――その歓喜に、加頭は打ち震えていた。

 加頭の目の前に存在していたのは、血まみれになったイカロスの亡骸であった。
 意識をキングストーンに奪われる前に交戦していた彼女が、いつの間にか死んでいる。
 不可解な出来事に首を捻るが、血に濡れた自分の身体を目にして事情を察した。
 恐らく自分は、意識を奪われた後もこの女とまるで機械の様に戦っていたのだろう。
 どの様な戦いをしたかは知らないが、結果として勝利したという訳である。

 意識が無い状態でも戦っていたから、メダルもそれ相応に消費しているのだろうと考えたが、
 どういう事なのか一枚も消費されてはいなかった。
 キングストーンは何を起こすか分からない奇怪な道具と聞いたが、これも所謂「不思議な事」の一種なのだろうか。
 試しにクオークスの能力を行使してみると、加頭の首輪の中にあるセルメダルが数枚消滅した。
 この結果を見るに、メダルが減らないのは加頭が精神世界で戦っていた時だけの話のようである。
 さしずめ、試練を受けている加頭への、キングストーンからの特別サービスと言った所か。

 現実世界では、まだそれほど時間は経過していなかったようだ。
 未だ鮮血が流れ出ているイカロスの死体が、その証拠である。
 自分が予期していた最悪の可能性が的中しなかった事に、加頭は深く安堵した。
 まだ間に合う――まだ最愛の人に尽くすチャンスは無数に残されている。

 今度は自分がシャドームーンとして、参加者達に死を振り撒こう。
 だが、月影ノブヒコの様に下賤な野望の為に戦うつもりはない。
 ただ愛した人に振り向いてもらいたい――その思いだけを胸に、加頭は闘争に赴くのだ。

「今度こそ、私の"愛"を証明してみせます。だから――待っていて下さい、冴子さん」

 その言葉を最後に、加頭は踵を返しこの場から離れていく。
 向かう場所は、自身が意識を失った――つまりナスカ・ドーパントとしてイカロスと戦っていた場所だ。
 一旦あそこに移動して、何処かに落ちているT2ナスカメモリを探さないといけない。
 冴子への"愛"の象徴とも言えるあのメモリは、何としてでも自分が保有しておきたかった。

413Lの楽園/骸なる月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:26:57 ID:SNifzT2c0




 そう――少女の死体を残して、立ち去ろうとしていたのだ。




「再起動……」




 事切れたとばかり思っていた少女の声が、聞こえてくるその瞬間までは。




 加頭の耳が捉えたのは、本来なら聞こえる筈の無い参加者の声であった。
 自身の判断が正しければ、斬り伏せられた彼女の生命活動は、既に停止している筈である。
 再び踵を返してイカロスの姿を目にした時には、もう彼女の肉体に変化は起きていた。

「システム確認……オールレッド。
 自己進化プログラム『Pandora』起動」

 イカロスの身体が、眩い光に包まれていく。
 その異様な光景を前にして、加頭は思わず手にしたクリュサオルを落としてしまう。
 そんな馬鹿な――目の前で繰り広げられているのは何なのだ。
 死亡した筈の彼女の身に、一体何が起こっているというのだ。

 輝きを増した光はやがて天へ伸び、巨大な光の塔となる。
 まるでそれは、天がイカロスだけを照らしているかの様であった。
 そして、その光が収束した頃――加頭の目の前には、新たな脅威が立ちはだかっていた。

 欠けた片腕は元に戻っており、翼は修復されるどころか一対から二対となっている。
 身体には傷一つ無く、その姿はまさしく天から舞い降りた天使そのもの。

 加頭がキングストーンの力を得た様に、彼女もまた力を得ていたのだ。
 それこシャドームーンに匹敵するような、莫大な力を――――。




「タイプα、Ikaros。バージョンⅡ――起動します」

414Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:29:16 ID:SNifzT2c0

【[→ side:E →]】



 本当に、これでいいのか。
 こんな簡単に生を諦めてしまって、本当に良かったのか。



 血に濡れたイカロスの脳内に響くのは、そんな自問自答。
 直後に走馬灯の様に流れるのは、空見町で過ごした頃の記憶。
 愛した人や"本物の"仲間達と過ごした、かけがえのない日常が鮮明に映し出される。
 空見町で過ごした日々が、次々とイカロスの頭を駈け巡っていった。
 辛かった瞬間も、悲しかった瞬間も、喜んだ瞬間も、全ての記憶が浮かんでは消えていく。

 守形英四郎がマスターに協力していた記憶が蘇る。
 何を考えているかよく分からないが、マスターからは信頼されていた。


 五月田根美香子がマスターに理不尽な暴力を振るう記憶が蘇る。
 マスターは、そはら以上に彼女を恐れていた。


 ニンフがマスターにツッコミを入れる記憶が蘇る。
 最初は敵だった彼女も、今ではすっかり日常に馴染んでしまった。


 見月そはらがマスターに制裁を与える記憶が蘇る。
 毎回彼に激怒しながらも、最後は幸せそうに笑っていた。


 駆け巡る記憶のどれもが日常の一部であり、かけがえの無いものであった。
 この日常がずっと続いていれば、どれだけ良かっただろうか。
 戻りたかった――"本物の"仲間が待つ日常に、帰りたかった。

415Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:30:20 ID:SNifzT2c0


 本当に、これでいいのか。
 こんな簡単に生を諦めてしまって、本当に良かったのか。




(……私、は)


 こんな所で、一人ぼっちで心臓の鼓動を止めたくない。


(私は……生きたい……)


 マスターの家で"本物の"ニンフに会いたい。


(生きて……マスターと一緒に帰りたい……!)


 マスターと一緒に、もう一度空見町の夕焼けを見たい。


(生きたいッ!私は――マスターと一緒に生きていたいッ!)


 生きて元の世界に帰り、また本物の"仲間"がいる日常で笑い合いたい。
 過去の記憶は感情を増幅させ、やがてその感情は生への渇望へと変化する。
 生まれかけた絶望は霧消し、それもまた生きる為の活力へ転換された。

 生きたい――自分の望みを叶える為にも、まだ生きていたい。
 本来であれば、それは叶わぬ望みであった。
 だが、彼女の増幅された欲望は、一つの奇跡は起こしたのだ。
 第二世代のエンジェロイドに搭載された進化のプログラム――その名も『Pandora』。
 本来厳重なプロテクトが掛けられたそれは、持ち主の強い感情に呼応して起動する。
 欲望が頂点に達したこの瞬間、イカロスによって『Pandora』を縛る鎖は解き放たれたのである。

 こうして、イカロスは死の淵から生還したのだった。
 『バージョンⅡ』という更なる力を得て、彼女は再びシャドームーンの前に立ち塞がる。

416Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:31:47 ID:SNifzT2c0

          O          O          O


 本能的な危機感を感じた加頭は、すぐさま新たな力を行使する。
 戦いの末に勝ち取ったその力とは、シャドームーンへの変身能力だ。
 詳細は掴めないが、すぐにでも変身しなければならないと本能が警鐘を鳴らしている。
 きっと今の彼女は、シャドームーンの力を以て全力で挑まねばいけない程の強敵なのだ。
 僅かでも気を抜いてしまえば、その瞬間に命を奪われてしまうだろう。

「動作テスト――開始」

 イカロスの声と同時に、加頭が放つのはシャドービーム。
 翠色の光線は、今度こそイカロスの命を奪い取らんと直進する。
 これまでならば、それは「Aesis」によって簡単に防がれるだけの一撃だ。
 シャドービームは見当違いの方向へ流れ、無関係な施設を破壊するだけに留まるのである。

「Aesis-Ⅱ――伝達に支障、反応速度に4,6fの遅れ。修正します」

 だがそれは、イカロスがバージョンⅡへ進化する前の話だ。
 性能が著しく上昇した今の「Aesis」は、ただ防御するだけに留まらない。
 防がれた光線が「Aesis」に触れた瞬間、それは逆方向へ直進――つまりは反射されたのだ。
 シャドービームはそのまま加頭へと襲い掛かり、見事彼に着弾する。
 高威力のビームの直撃を受け、加頭は弾かれる様に吹き飛ばされた。
 シャドームーンに変身していたから良かったものの、変身していなければ即死していただろう。

 遠距離攻撃が通用しないのなら、接近戦を挑むまでだ。
 シャドームーンが出せる最大速度で、イカロスへ肉薄する。

「デュアル可変ウイング、動作テスト開始」

 しかし、瞬きした瞬間には、既にそこにイカロスの姿はなかった。
 もうその頃には、彼女は加頭の背後に回り込んでいたからである。
 シャドームーンを凌駕するスピードを前に、加頭は驚愕せざるを得なかった。

「良好。可動装甲テスト、モード=クローズ。
 装甲32%減少――旋回性能312%上昇――さらに加速」

 イカロスの拳が、加頭に向けて突き出される。
 彼は間一髪の所で、その攻撃を腕で受け止めた。
 殴られた箇所から広がる痺れから、加頭は彼女の一撃の重さを思い知る。
 この攻撃もまた、変身していなければ無事では済まなかっただろう。

417Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:32:30 ID:SNifzT2c0
「加速――加速――加速――加速――加速――加速――加速」

 目にも止まらぬ勢いで、イカロスがパンチを乱打する。
 加頭も応戦しようとするが、相手の速度の前では防戦一方になるばかりだ。

「加速――加速――加速――加速――加速――加速――加速」

 その勢いはさらに熾烈に、破壊力はさらに強大に。
 その頃には加頭の防御も解かれており、全身にイカロスの拳が叩き込まれていた。
 彼は抵抗すらままならないまま、暴力の嵐に晒され続けるだけであった。

 最後の一撃は、加頭の腹部に吸い込まれるように命中した。
 これまで以上の力を籠められたそれの威力は、戦車砲が直撃したのかと錯覚しそうになる程。
 加頭は後方に吹っ飛ばされ、そのまま民家にぶち当たる。
 彼の身体を受け止めた壁には、大きなクレーターが一つ出来あがっていた。

「ば、馬鹿……な……ッ!?」

 あり得ない――こんな話があっていいのか。
 シャドームーンに変身しておきながら、何故ここまで打ちのめされているのだ。
 圧倒的な性能を誇る筈の創世王が、何の間違いがあって地に伏しているのだ。
 力を過信していたからか――いや、シャドームーンの力は凄まじいのは確かである。
 こうなってしまったのは、単純にイカロスがその性能を遥かに上回っていただけの話。
 認め難いが、今の彼女は創世王の力だけでは止められないのである。

「――動作テスト、終了。通常……起動します……」 

 耳に飛び込んできたその言葉に、加頭はまたしても驚愕する。
 あれだけの出力を出しておきながら、まだ動作テストの段階だったと言うのである。
 テスト段階を乗り越えた通常段階は、一体どれ程の能力を誇っているというのだ。

「私は……生きる……」

 うわ言を呟く彼女の瞳に宿るのは、殺意。
 紡がれる言葉はの内容は、さながら恋する乙女の様だが、彼女はこれから目の前の敵を殲滅するつもりなのだ。

「本物のマスターに会いたい……だから……死ねない……!」

 空へ飛翔し、最後の一撃と言わんばかりにイカロスが構えたのは、禍々しい色合いをした弓矢であった。
 相手に向けられた矢の先端には、彼女の髪と似た色の火の玉が揺らめいている。
 それを目にした加頭は、直感で理解する――あの矢が直撃すれば、自分は確実に死ぬ。
 例え百戦錬磨のドーパントであろうが、あれを受ければ塵一つ残りはしないだろう。
 イカロスが持つ恐るべき兵器を前にして、加頭はまたしても息を呑む。

418Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:33:59 ID:SNifzT2c0

「……ピンチ、ですね」

 これまでの人生で、今この瞬間が最も生命の危機に瀕している。
 打つ手が無ければ、自分は二度目の"死"を体感する羽目になってしまうだろう。
 この絶体絶命を絵に描いた様な状況を打破する策は――既に手に入れている。

 自分はキングストーンの力を取り込みながらも、意識を保っているのだ。
 つまりは、今の自分はこの秘石の力をコントロールできるという事である。
 奇跡を起こすキングストーンの加護があれば、この状況さえ覆せる筈だ。
 そうだ――今の加頭の肉体には、奇跡の権化が眠っているのである。
 例えどれだけ戦力差があろうが、キングストーンにはそれを乗り越えれるだけの可能性があるのだ。
 そんな力をこの身に宿して、一体どうして絶望する必要があろうか。

 そして、イカロスは何の躊躇いもなく矢を放った。
 身震いしてしまいそうな程の威圧感が、こちらに迫ってきている。
 膨大なエネルギーの塊が、今まさに加頭の命を刈り取ろうとしている。
 しかし、彼の心が恐怖に囚われる事などあるものか。
 奇跡を勝ち取った今の自分なら、迫り来る絶望すら跳ね除けれる。
 否――跳ね除けれられない訳がないのだ!

「シャドーフラッシュッ!」

 その掛け声と共に、シャドーチャージャーから翠色の光が放射された。
 その光に照らされたエネルギーの塊は、その動きを鈍らせる。
 シャドーフラッシュが障壁の役割を果たし、矢の行く手を阻んでいるのだ。
 しかし、矢の勢いは凄まじく、妨害を受けても着実にこちらへと近づきつつある。
 あれを退けるには、まだ力が足りない――そう判断した加頭は、シャドーチャージャーから放たれる輝きをさらに強める。
 しかし、それでもまだ、迫り来る"死"を止める事は叶わない。
 もっと強い光を、更に激しい輝きを放たなければこちらが打ち負ける。
 ありったけのメダルを消費して、最大の出力で迎え撃たねばならない――!

「ぐ、う、お、オオオオオオオオオ――――――!」

 加頭の叫びと同時に、キングストーンの輝きは最大限に達する。
 目と鼻の先にまで迫ったエネルギーの塊は、その暴力的なまでの力を拡散させようとしていた。
 少しでも気を抜けば、あれは加頭の命を奪い取ろうと襲い掛かるだろう。
 シャドーフラッシュによって威力が削がれているものの、それでも保持しているエネルギーは凄まじい。
 だが、このまま光を浴びせていれば、きっとエネルギーを全て消失させれる筈だ。
 勝機はまだある――まだ、"死"は絶対のものにはなっていないのだ。

 ――だが、運命の神はどこまでも非情であった。

 何の予兆もなく消失するのは、加頭の切り札であったシャドーフラッシュ。
 彼が所持していたメダルが底を尽き、能力の行使が不可能となってしまったのだ。
 障害を失ったエネルギーの塊は、そのまま加頭へと直進する。
 容赦なく襲い掛かるそれが、銀色の装甲に触れたその瞬間――彼の視界を、眩すぎる光が覆った。

419Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:34:50 ID:SNifzT2c0


          O          O          O


 イカロスが放った『APOLLON』は、その場に存在する全てを平等に焼き尽くした。
 膨大な熱量が大地を覆ったその瞬間は、まるで太陽が顕在したかの様。
 その"太陽"は闇を暴きながら、瞬く間に世界を喰い尽くしていく。
 いくら威力が削がれていたと言えど、それでもその破壊力は絶大なものである。
 建物が、街路樹が、道路が、その莫大な力に呑み込まれて消失していった。
 僅かな時間で、その場に存在していた物は残らず灰となったのである。

 戦場が焼野原と化しても、イカロスは臨戦体制を解こうとはしない。
 彼女の眼下に、まだ敵の存在が確認できたからである。
 片腕が吹き飛び、銀色の装甲は煌めきを失ってしまっているが、奴は『APOLLON』の直撃を受けてもなお生きていたのだ。
 イカロスが視認した直後に怪人の変身は解除され、ぼろぼろになった衣服を着た男がその場に現れる。
 「見るも無残」という言葉が、あれ程似合う姿もそうはないだろう。
 今のイカロスであれば、今の彼など素手でも容易く殺せる筈である。
 そう考え、すぐさま敵へ向けて急降下しようとして――飛行機能が、突如として停止した。
 今この瞬間を以て、彼女が所持していたメダルが全て消費されてしまったからである。

「あっ……」

 まだ敵は残っているのに、こんな時にメダルが底を尽いてしまうだなんて。
 こんな場所で落ちる訳にはいかないのに、そんな事お構いなしに大地へと落ちていく。
 あと僅かな距離まで行けば勝利を掴めるというのに、どうして身体は言う事を聞いてくれないのだ。

 地面までそれなりの距離があるが故、
 今意識を失えば、確実に相手はこちらに止めを刺しに来る。
 だから、こんな時に身体が動かなくなるなんて事態が起こって良い訳がないのだ。
 それなのに、何故こんな、示し合わせた様なタイミングで――。

「どうし、て…………」

 その言葉の直後に、イカロスは頭から地面に激突した。
 抱いた未練などお構いなしに、イカロスの視界は暗転するのであった。

420Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:35:50 ID:SNifzT2c0
【[→ side:A →]】


 全身が痛みを訴え、意識も朦朧としている。
 左腕の感覚は既に無く、片目が潰れたせいで視界が狭い。
 それでも、死人同然の状態でありながらも、加頭は生きていた。
 残ったメダルを総動員してシャドームーンの力を行使し、『APOLLON』からその身を護ったのである。
 払った代償は大きいが、加頭は敵の最大の一撃から生き延びたのだ。

 今、彼の目の前には意識を失った敵が倒れている。
 大方、メダルを使い果たして力を行使できなくなったのだろう。
 どういう身体の造りをしているのか、上空から落下しても彼女は息絶えてはいなかった。
 こちらは満身創痍の状態ではあるが、「NEVER」の身体能力なら今のあの女など容易く始末できる筈だ。
 これ以上ない好機だ――このチャンスを逃す訳にはいかない。

 ぼろぼろの身体を引き摺りながら、加頭は敵へと近づいていく。
 一歩ずつゆっくりと、それでも確実に彼女との距離を縮めていく。
 そうして、あと数歩で標的の元に辿り着こうという所で、加頭は唐突に足を止めた。
 彼の表情は驚愕の色に染まっており、その瞳はイカロスを捉えてはいない。

 加頭の目に映っていたのは、一人の女性の姿であった。

 生涯で最も愛したと言っても過言ではない女が、彼の目の前で微笑んでいたのである。
 気付いた時には、既に彼の足はその女へ向けて動き始めていた。
 倒れた相手など見向きもしないで、それまで以上に覚束ない足取りのまま、加頭は最愛の人の元へと歩み続ける。

「…………冴子……さん…………」

 自分の愛の示したいが故に、加頭は殺し合いに乗った。
 これまでの戦いは、全て彼女の為にあったと言ってもいい。
 その愛を捧げるべき人が、彼のすぐ先で手を差し伸べていた。

「……私を……認めて、くれる……の……です、か…………」

 彼女は加頭の意を汲み、共に戦い抜く事を決意してくれたのである。
 嗚呼――己が心中に秘めた"愛"は、今この瞬間に証明されたのだ。
 彼女の傍らで戦えるという願いの成就に、どれ程の歓喜が伴うかなど想像に難くない。
 加頭順の抱えた欲望が、遂に満たされる時がやってきたのである。

 ほとんど言う事を聞かない身体に身体に鞭打って、加頭は歩み出す。
 あと少しで、あの手が届く距離にまで近づける。
 僅かな力を振り絞りさえすれば、求めて止まない"愛"を手に入れられるのだ。
 全身は鉛を背負っているのかと思う程に重く、意識もはっきりとしない。
 それでも、何としてでもあの手を取らなければならないのである。
 彼女が差し出した手を掴んで、初めて加頭は彼女の隣に立つ権利を得られるのだから。

421Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:36:33 ID:SNifzT2c0


 後三歩。
 消えかかる意識をどうにかして持ちこたえながら、大地を踏みしめる様に歩む。


「…………わた……し、は…………」


 後二歩。
 倒れそうになりながらも、残り僅かな体力を振り絞ってまた一歩進む。



「あなたの……為、に………………」


 後一歩。
 限界に近い身体と精神に鞭打って、最後の一歩を踏み出した。


「…………さえ、こ………………さ……ん…………」


 遂に、最愛の人の元に辿り着いた。
 霞のかかった様な視界に、手を差し出す彼女の姿が映る。
 ただそれだけで、身体の痛みが癒えていく様な気さえした。
 これまでの人生は、この瞬間の為にあったとさえ思えてしまう。


 さあ、最後はあの手を取るだけだ。
 それさえすれば、自分の悲願は達成される。
 あの手を掴んだ時、改めてこの思いを言葉にして伝えよう。
 「感情が籠っていない」と笑われそうだが、それでも構わない。
 この胸に溢れんばかりの"愛"は、自分の言葉に乗せて届けたかった。


 彼女の手を握りしめ、紡ぎ出すのは愛の言葉。
 あまりにも安直だが、それでも強い感情の籠った一言。






「…………愛……して……い、ま…………す……………………」






 思いを伝えたその瞬間、加頭の意識は消失した。



 最後に感じた手の触感は、温もりに溢れていた。





【[→ side:E →]】

422Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:37:40 ID:SNifzT2c0

 カザリ達が見つけたのは、傷だらけになった天使であった。
 周囲の荒れ様からして、恐らく激しい戦闘の末に気を失ったのだろう。
 あのエンジェロイドにここまでダメージを与えたのだから、相手はきっと相当な強者に違いない。
 そう考察した直後に、イカロスのすぐ近くに服が落ちている事に気付く。
 かつては白かったであろうそれは、今ではぼろ切れ同然の有様となっている。
 それを目にした瞬間、カザリは事の真相を察した。

 不死兵士と謳われる「NEVER」にも、弱点は存在する。
 彼らは一定以上のダメージを受けると、肉体を維持できなくなってしまうのだ。
 損傷を受けすぎた肉体は塵へ返り、蘇った戦士は二度目の死を迎えるのである。
 着ていた服がそのまま残っているという特異な状況から、「NEVER」が死亡したのだと推測できる。
 このゲームに参加している「NEVER」は大道克己と加頭順の二人で、白い服を着ているのは加頭の方だ。
 イカロスと加頭がこの場で戦い、結果加頭の方が消滅した――こんな所だろう。

「凄い……!これこそ僕の求めていた物じゃないか……!」

 唐突に耳に入ってきた声の方に目を向けると、見覚えの無い石を持った大樹が目を輝かせていた。
 彼が反応するという事は、あれは所謂「お宝」というヤツなのだろう。
 無邪気な子供の様な表情をした今の大樹からは、不機嫌さはまるで感じられなかった。

「キングストーン!まさかこんな所でお目にかかるなんて……僕は本当にツイている!」

 大樹がキングストーンと呼んだその石からは、特に何も感じられない。
 カザリとしてはあんな石ころの何処に価値があるのか全く見当も付かないが、
 きっと大樹にとってはコアメダルと同等の価値がある物なのだろう。
 支給された者に捨てられなくて良かったなと、大喜びする大樹を鼻で笑った。

「……ん?」

 白い服の上で、月光を反射して煌めく何かの存在を察知する。
 近寄って確認してみると、それがカザリが最も欲している物である事が判明した。
 コアメダル――しかも、彼と同系統の猫科のメダルである。
 まさかこんな所で手に入るとは、どうやら自分は運命の女神という奴に好かれている様だ。
 カザリは一切の戸惑いも無く、そのメダルを自身と同化させた。
 するとどうだろうか――コアメダルを一枚得ただけだというのに、これまでに無い程の力が沸いてくるではないか。
 この時のカザリに知る由はないが、彼が取り込んだのは八百年前のオーズが使用したとされるコアメダルである。
 通常のコアメダルより遥かに強大な力を内包したそれを取り込んだのだから、彼がこれまでに無い力の滾りを感じるのは当然である。

 コアメダルを回収すると、カザリはイカロスの元に移動した。
 かなりダメージを受けている様だが、エンジェロイドならメダルでこの傷も回復できるだろう。
 それにしても、どうして肉体は傷だらけなのに翼は汚れ一つ無いのだろうか。
 多少気になりはしたが、それほど詮索する必要性は無いとカザリは判断した。

「さてと、それじゃ早い所、この娘を安全な場所に移してあげないとね」
「……何を言ってるのか判断しかねるね。情でも沸いたのかい?」
「まさか。使い物になるから助けてあげるんだよ」

 そう言うと、カザリはイカロスを担ぎ上げた。
 相当深い眠りに就いているのか、彼女が目覚める気配は見られない。
 激しい戦闘を繰り広げたせいで、相当疲労しているようだ。
 まるで僕らとは正反対だなと、カザリは心中で呟いた。

「……やれやれ。また待機とはね」

 不満気な大樹を尻目に、カザリは徒歩で目的地へと歩み始めた。
 最強の兵器を手に入れた幸運に、口角を釣り上げながら。

423Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:39:01 ID:SNifzT2c0
          O          O          O


 あの放送で得られた情報は、カザリにとっては実に不愉快な物だった。
 タイムマシンに詳しい橋田至の死も中々の痛手ではあるが、何よりもあのウヴァが自分より優位に立っているのが何とも苛立たしい。
 どういう経緯であの単細胞が率いる陣営がトップに躍り出たかは知る由も無いが、どうせ暴れ回ったり脅したりでメダルを奪い取ったのだろう。

(まあいいさ。今はせいぜい御山の大将気取ってなよ)

 間違いなく今のウヴァは調子に乗っている。
 自分の勝利は目前だと、根拠の無い自信を胸に秘めているに違いない。
 馬鹿が――この戦いにおいては、そういう奴が最も足をすくわれやすいのだ。
 こんな序盤から暴れていては、奴は大方ゲームの終盤では疲労してしまっているだろう。
 疲れ果てたリーダーなど、他陣営の者にとっては葱を背負った鴨も同然だ――どうなるかなど、想像するまでもない。
 自分の力量を弁えずに行動すれば、いずれは惨めに死ぬ運命にあるのである。
 尤も、あの馬鹿にそれが理解できるとは到底思えないのだが。

 このゲームに必要なのは、単に強い"だけ"の仲間ではないのだ。
 確実に相手の寝首を掻ける狡猾な仲間こそが、このゲームを優位に働かせる。
 「FB」にのみ従う桐生萌郁の様な、他の陣営でありながら自身に利益を齎す者など、これ以上無い程の逸材だ。
 ああいう者を有効活用した陣営こそ、このゲームに勝利できるのである。

(そういう意味じゃあ加頭順も利用価値があったんだろうけどねぇ……仕方ないか)

 自陣営の参加者である園咲冴子を第一とする加頭は、カザリにとっては扱いやすい参加者の一人だった。
 彼が戦闘の末死亡したのは実に残念ではあるが、イカロスと共倒れしなかっただけまだ良いとしよう。
 今も眠り続けている「空の女王」を保護できただけでも、十分幸運なのだから。
 どういう経緯があったかは知らないが、彼女の首輪の光の色は赤ではなく緑となっている。
 どうにも信じ難いが、ウヴァは彼女を緑陣営に引き込むのに成功していたのだ。
 少しは頭を使っているのだなと、カザリは僅か彼への評価を改める。

(ま、結局僕のモノになるんだけどね)

 イカロスの桜井智樹に固執する一面を突けば、あの虫頭でも籠絡自体は容易い。
 しかし、裏を返してしまえば、彼女は智樹の存在一つでその在り方を簡単に揺らがせてしまうという事だ。
 あの男の事だから、どうせこの女に大した事は言ってないに違いない。
 頭脳面では彼に勝るカザリにならば、今の彼女を利用する術など無数に考えられる。

 今は不利だとしても、結局は最後に勝てればそれで良い。
 この場に存在するいあらゆる欲望を道具にし、この戦いに勝ち残ってみせようではないか。
 美談の様な正義も、心を揺さぶる愛情も、自分が王の座にたどり着く為のパーツでしかないのだ。

「命賭けで頑張りなよ――僕の為に、ね」

424Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:39:39 ID:SNifzT2c0

【一日目 夜】
【E-6 北東】
※加頭の基本支給品、ガイアドライバー@仮面ライダーW、超振動光子剣クリュサオル(メラン)@そらのおとしものは消滅しました。

【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】緑
【状態】健康、気絶、そはらとアストレアの死に動揺
【首輪】0枚:0枚
【コア】エビ(放送後まで使用不可能) 、カニ(放送後まで使用不可能)
【装備】なし
【道具】アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:本物のマスターに会うため、偽物の世界は壊す。
 1.本物のマスターに会いたい。
 2.嘘偽りのないマスターに会うために緑陣営以外は殲滅する。
 3.共に日々を過ごしたマスターに会うために緑陣営を優勝させねば。
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力について、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していません。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」だと確信しています。
※「『自身の記憶にないもの』は敵」かどうかは決めあぐねています。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
 『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります(1マス一辺あたりの直径五キロ計算)。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です
※『Pandora』の作動によりバージョンⅡに進化しました。

【カザリ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】90枚:0枚
【コア】ライオン×1、トラ×2、チーター×2、トラ(10枚目)(放送後まで使用不可能)
【装備】ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(左腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品、詳細名簿@オリジナル、天王寺裕吾の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:黄陣営の勝利、その過程で出来るだけゲームを面白くする。
 1.イカロスを保護する。
 2.メズールが居ると思しき場所へ向かい、青陣営を奪う。
 3.「FB」として萌郁に指令を与え、上手く利用する。
 4.笹塚に期待感。きっとゲームを面白くしてくれる。
 5.海東に興味を抱きながらも警戒は怠らず、上手く利用する。
 6.タイムマシンについて後で調べてみたい。
 7.ゲームを盛り上げながらも、真木を出し抜く方法を考える。
【備考】
※対メズール戦ではディエンドと萌郁を最大限に利用するつもりです。一応青陣営である萌郁は意外なところで切り札にもなり得ると考えています。
※10枚目のトラメダルを取り込みました。

425Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:42:13 ID:SNifzT2c0


【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【所属】黄
【状態】健康、上機嫌
【首輪】20枚:0枚
【コア】クワガタ:1
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、支給品一覧表@オリジナル、不明支給品("お宝"と呼べるもの)、キングストーン@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:この会場にある全てのお宝を手に入れて、殺し合いに勝利する。
 1.今はカザリに協力し、この状況を最大限に利用して黄色陣営を優勝へ導く。
 2.チャンスさえ巡ってくれば、カザリのメダルも全て奪い取る。
 3.他陣営の参加者を減らしつつ、お宝も入手する。
 4.天王寺裕吾の携帯電話(?)に興味。
 5.“王の財宝”は、何としてでも手に入れる。
 6.いずれ真木のお宝も奪う。
【備考】
※「555の世界」編終了後からの参戦。
※ディエンドライバーに付属されたカードは今の所不明。
※キングストーンは現在発光していません。




【[→ side:A →]】


 果たして、加頭が最期に見たのは何だったのか。
 幻覚なのは誰にでも理解できるが、それを生み出したのは何者だったのだろう。
 彼自身の脳が生み出したのか、はたまたキングストーンの効力の一つなのか。

 何にせよ、加頭は二度目の死を迎えた。
 彼が愛した女がそれに気付くのは、次の放送が終わってからだろう。
 詳細は定かではないが、恐らく彼女は加頭の死に涙を流しはしない。
 欠片も愛していない男など、女にとってはどうでもいい存在でしかないのだから。

 彼が秘めた深い"愛"を知る者は、もう何処にもいない。
 少なくとも、このゲームにおいては彼の"愛"が語られる事はないだろう。


 命懸けの献身は、何の意味も齎しはしなかった。
 加頭順の"愛"は、もう誰にも届かない。




【加頭順@仮面ライダーW 死亡】
※T"ナスカメモリがE-6の何処かに放置されています。

426Lの楽園/砕月 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 02:49:00 ID:SNifzT2c0
投下終了です。

427 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/18(木) 03:10:36 ID:SNifzT2c0
改めて、◆2kaleidoSM氏、投下乙です。

ウヴァさん……調子に乗った所から急転落とは、ある意味原作再現というか……ww
でも○になった後も何かやらかしそうな予感がするなぁ……どうなる事やら。
ラウラも自分の気持ちを整理できたと思いきや、何やら怪しげなフラグが。
もやしのチームはメダルも大量にゲットしてかなり強化されたけど、まだ不安が残るチームだなぁ……。

428名無しさん:2013/07/18(木) 09:41:59 ID:0UfBN9ro0
お二人とも投下乙です
◆2kaleidoSM氏
ウヴァは絶好調かと思いきや、調子に乗ったツケがここで回ってきたかww
だけどただでは終わらず、●になってラウラを乗っ取ろうとするけどできるのかな?w
士達も今のところは順調そうに見えるけど、これからどうなるかな……

◆qp1M9UH9gw氏
加頭は冴子への愛に生きようとしたけど、ここで無念の敗北か。冴子自身も加頭のことなんて気にしないだろうし、色々と可哀想……
でも、克己達や笹塚にとってはよかったのかな? 
ボロボロになったイカロスはカザリと海東の二人に見つかっちゃったし、これからどうなるかな……
一歩間違えたら、都合のいい駒にされそうw

429名無しさん:2013/07/18(木) 15:22:17 ID:PSrEkwQ60
投下乙です

なんだかんだで強いウヴァを下した3人だったがウヴァもしぶといなあ
確かに怪しげなフラグが立った上に他にも不安様子が多いからなあ

加頭、シャドームーンを乗り越えてイカロスを倒したと思ったらこれは酷い
もっともこいつが生きてたら生きてたで周りが迷惑するからなあ
そしてイカロスはカザリと海東に確保されて…

430名無しさん:2013/07/18(木) 20:19:04 ID:KZvUv79k0
お二方とも投下乙です

◆2kaleidoSM氏
おぉ、ラウラやフェイリスに響く説教を、と士が士しながら遂に初のライダー破壊を……
断末魔が鳴滝なウヴァさんはやっぱり調子になったら●になるまでテンプレ、これはカザリに爆笑されるまで時間要らないね
一方でVTシステムに目をつけるQBと面白いクロスオーバーになりそうな布石も打たれると面白さてんこ盛り、お見事!
さてライダー破壊を一先ずは受け入れたラウラ達だけども、実際にそういった状況に直面したらこのチームどうなることやら……Xのことも含めて不安要素一杯

◆qp1M9UH9gw氏
同じく熱いバトルなユートピアVSシャドームーン、加頭ムーンVSイカロスの愛を求める者同士の戦いだけどこっちはもっと直接的に気が沈む結果に
折角ボコにしたのに復活したVer.2イカロスにフルボッコとかね、うん知ってた
加頭の終わり方が、この時点の彼ならこれ以外ないだろう、という(結局救いのない)死に様で、それを描ききったのはさすがの一言
その上前話で●になったウヴァさんと引換なカザリのノリノリ具合で、イカロスは今後ももう……おぉう……

431名無しさん:2013/07/19(金) 01:09:40 ID:E6AIttus0
投下乙です。

上げて上げて上げて、落とす。うん、これでこそウヴァさんです
一夏が死んだ悲しさ、戦いへの不安を抱えながらも少しずつ歩み出すフェイリスとラウラに安心できそう
……と思ったら、X関係の煽り文句だのウヴァ反逆フラグだの暴走フラグだのラウラ側に問題山積みかー…

加頭がキングストーンの力を完全制御、からのイカロス覚醒とバトルが見所の連続だ
最後に敗者となった加頭にとっての幸せは結局幻想でしか得られないというのは、なんというか哀れ
イカロスはマーダーとして突き進む決意を固めて、しかもカザリがご執心。凶悪グループの強化きたか?

432名無しさん:2013/07/19(金) 01:45:21 ID:xmXKW6a6O
投下乙です。

ウヴァさんが○になって、残すはメズールとカザリとなったね。今のところ優勢なのはカザリだけど正直どうなるかわからないな。トップだったウヴァさんがロストやガメルと同じく○になったし、メズールも上手く対主催陣営に潜り込んでいるしね。

433名無しさん:2013/07/27(土) 11:08:46 ID:XXMhG01s0
あ、予約来てたか
その二人か

434 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/30(火) 02:31:52 ID:/nnnn.S20
投下します

435上を向いて歩こう ◆qp1M9UH9gw:2013/07/30(火) 02:33:28 ID:/nnnn.S20
【1】


 井坂にとって、最初の放送は朗報以外の何物でもなかった。
 何しろ、忌々しい仮面ライダーの片割れである左翔太郎の死が、真木の口から語られたのだ。
 自分の前に立ち塞がるであろう敵の一人が消えたと聞いて、喜ばない道理などあるものか。
 半身を失ったWなど、今の自分なら赤子の手を捻るように殺せてしまうだろう。

「彼らも生き残っていましたか。いやはや、まだまだ楽しみは尽きませんねェ」

 あの放送では、これまで戦ってきた相手――小野寺ユウスケやカオス――の名は呼ばれてはいなかった。
 つまりは、まだ彼らの力を堪能し、そして食らうチャンスが残されているという事である。
 彼らと次に会ったその時こそは、戦いに勝利しその力をじっくりと堪能させてもらうとしよう。
 ガイアメモリとは全く異なる超常の力とは、果たして如何なる原理で機能するものなのか。
 それを想像するだけで、思わず表情に光悦感が滲み出てしまいそうだ。

(……おっと、その後も考えねばなりませんね)

 "その後"というのは、この地に存在する力を全て喰らい終えた時を指している。
 いくら此処で欲望を満たしても、最終的にこのゲームから生還しなければ意味がない。
 未知の力には大いに興味があるが、一番大切なのは元の世界での目的を果たす事なのだ。
 脱出だろうが優勝だろうが、とにかくこの殺し合いから生きて帰らなければならないのである。

 仮に優勝を目指す場合、井坂は自分が属する陣営を優勝させなければならない。
 そうするとなれば、やはりリーダーのグリードに従って他の参加者を殲滅するのが最も手っ取り早いのだろう。
 しかし、その「リーダーのグリードに従う」というのが井坂にはどうにも気に食わない。
 腹の内を読めない者に従うのには不安が残るし、何より「最終的な生還者はリーダーが決める」というルールがあるのだ。
 仮に優勝したとしても、自陣営のリーダーの一言で生首が宙を舞う可能性だってあるのである。
 そんな危険要素を抱えた選択肢を選ぶほど、井坂は博打好きではないのだ。

 とはいえ、それで優勝への道は閉ざされたという訳ではない。
 リーダーに従うのが嫌なら、自分がリーダーに成り代わればいいだけの話だからである。
 グリードを見つけ次第狩ってしまえば、容易く陣営の王の座に就けてしまうのだ。
 主催の刺客である以上、奴らも並大抵の相手では敵わない様な実力者なのだろうが、今の井坂だってT2ガイアメモリの恩恵を受けている。
 今まで以上の力を得ているのだから、こちらも遅れを取る事は無い筈だ。

 もう一つの手段である脱出は、優勝よりも遥かに難易度は高くなるだろう。
 何しろ、手の内を見せていない主催の目を掻い潜りながら、首輪の解除を始めとした様々な面倒事を解決しなければならないのだ。
 脱出を目指す者はそれなりに存在するだろうが、だからと言ってそれが成功率の上昇に繋がる訳でもない。
 それに彼らと共闘しようにも、自分の危険性を仮面ライダー達が広めているだろうから、拒絶される可能性が高い。
 井坂にとっては、脱出という手段は他の参加者以上に厳しいものとなっているのである。

 とはいえ、やはり真木が完全に信用ならないのもまた事実。
 もしもの場合に備えて、首輪の解除方法くらいは把握しておいても損はないだろう。
 仮に敵対されようが、この情報を握っていれば上手く相手を利用できるかもしれないからだ。
 セルメダルを吸収する技術にも大いに興味があるし、これの謎は是非とも解いてみたい。

「……そういえば」

 放送直後の同行者の様子を思い返す。
 彼は放送が終わった直後に天に向かって慟哭し、井坂には一人にして欲しいと懇願していた。
 自分の気持ちに整理を付けようとしていたようだが、あの様子ではそれにもかなり時間がかかりそうだ。
 赤の他人ならまだしも、ガイアメモリを育てている真っ最中の彼があのままでは困る。
 流石にこれ以上油を売っている訳にもいかないし、ここは一つ、医者らしく彼を診てやる必要があるだろう。

436上を向いて歩こう ◆qp1M9UH9gw:2013/07/30(火) 02:35:16 ID:/nnnn.S20

【2】


 案の定、龍之介は未だに頭を垂れたままだった。
 井坂を前にしても微動だにせず、ただ絶望感に打ちひしがれるばかりである。
 慕っていた男――「青髭の旦那」だったか――の死に、相当参ってしまっているようだ。

「キャスターさんの死でかなり困憊している様ですね」
「…………」
「お気持ちは分かります。慕っていた師を喪うというのは実に耐え難い」
「…………」

 井坂の言葉に、龍之介は反応を示さない。
 下を向いているから表情を伺えないが、きっとこの世の終わりの様な顔をしているのだろう。
 普段の無気力な彼からは想像も付かない様な深い落胆から、彼にとってキャスターが余程重要な人物だったかが把握できる。
 やはり、彼一人だけでは元に戻るのにかなり時間を費やしてしまいそうだ。
 井坂としては、早く彼に立ち直ってもらいたいのだが。

「どうです?そのキャスターさんの話、私に聞かせてはくれませんかね?」

 何はともあれ、龍之介の心境を理解しない事には始まらない。
 改めて彼と向き合い、その心に何を抱えているのかを見定めるのである。
 少しばかりの沈黙の後、口を開いたのは龍之介の方であった。

「すっげぇCOOLだったんだ……旦那は…………」

 それから、龍之介はぽつぽつとキャスターとの思い出を語り始めた。
 儀式殺人の場での出会い、初めて目にした奇怪な魔術、そして彼の「COOL」な趣向の数々……。
 これまで青髭の話など片手間程度にしか聞いていなかったが、こうしてしっかりと耳に入れていると、如何に彼が異常な存在だったかが理解できる。
 なるほど、道理で龍之介の様な凶悪犯から感銘を受ける訳だ。

「ひでえよ旦那……オレに"最高のCOOL"ってヤツを見せてくれるんじゃなかったのかよォ……」

 龍之介の話によれば、キャスターは彼の目の前で何か大それた事を為すつもりだったらしい。
 それが実行されようとする直前にこのゲームに連れてこられたが故に、一体何をするつもりだったのかは龍之介も知らないそうだが、
 異常者の思いつきという大前提がある以上、恐らく碌なものではないのだろう。
 尤も、井坂としてはそんな事どうでもいい話なのだが。

「……そうですか。それなら話は早い」

 何はともあれ、龍之介の事情は把握できた。
 この情報さえあれば、彼を立ち直らせるのは容易い。

「あなたが敬愛したその青髭の旦那……さぞやその"最高のCOOL"をお披露目したかったのでしょうねェ」
「うん……あの時の旦那すっげえ張り切ってたし……」
「ではその"最高のCOOL"、君が代わりに行うというのはどうでしょうか?」
「……は?」

437上を向いて歩こう ◆qp1M9UH9gw:2013/07/30(火) 02:42:49 ID:/nnnn.S20


 ここに来て、龍之介が今まで伏せていた頭を井坂に向けた。
 今の彼の表情は、何を言っているのか分からないと言わんばかりである。
 鋭い者ならこの時点で気付きそうなものだが、どうやら彼はそうではないらしい。
 それならば、井坂自身が龍之介に教えを説く必要があるだろう。

「死んだ彼の遺志を継ぐのですよ。話を聞くに、あなたはキャスターさんの師であり仲間だったのですよね?
 それなら、彼の思いを汲んであげられるのは弟子であり同時に相棒である君しかいない筈です」

 異常者と意思を交わせるのは、同じ異常者しかいない。
 キャスターの思惑を理解できるのは、彼の仲間であった龍之介だけなのだ。
 そして、そのキャスターの目的を継げるのもまた龍之介以外にありえないのである。
 生粋の殺人鬼が持っていなかった"最終目標"――井坂はそれを、龍之介に与えたのだ。

「でも……旦那が何するかなんて……」
「何も再現する必要はありません。自分で考えた中で"最高のCOOL"を実践すればいいんですよ。
 君の熱意が本物なら、きっとキャスターさんも満足してくれるでしょう」

 そう指摘されると、龍之介はデイパックから本を一冊取り出した。
 どういう運命の導きか、螺湮城教本はキャスターの相棒であった彼の手の中にある。

「大事なのは内容ではなく目的に見合うだけの熱意――つまりは、君の言っていた"覚悟"なのです。
 覚悟さえあれば、君にもきっと"最高のCOOL"を演出できるでしょう」

 今は亡き師に思いを馳せているのか、龍之介の視線は螺湮城教本に釘付けになっている。
 これまで虚ろだったその瞳には、少しずつではあるが活力が戻りつつあった。

「そんな事……オレ……できるかな……」
「できますとも。もし一人が心配なら、私が協力してあげましょう」
「……先生」 

 井坂に向けられた龍之介の顔は、既に仲間の死を悲しむ者のそれではなかった。
 大きな決心をしたような今の彼の表情からは、彼が"覚悟"を決めた事を意味していた。
 これから自分が何をするべきかを見定め、そしてそれを達成してみせるという"覚悟"。
 今の彼の瞳には、これまでには無かった強い意志が感じられた。

「……オレ……まだ旦那みたいにはなれないけどさ……それでもやってみるよ」
「そうですか。その決意、青髭さんもきっと喜んでいるでしょう」

 そう言って、井坂は龍之介に微笑んでみせた。
 それに釣られたのか、龍之介も小さく笑ってしまう。
 その笑顔には、嘆きなど何処にも見当たりはしなかった。

438上を向いて歩こう ◆qp1M9UH9gw:2013/07/30(火) 02:46:12 ID:/nnnn.S20
【3】


 龍之介が自信を取り戻したのを見て、井坂も胸を撫で下ろす。
 ここで腐ってしまっては、体内のガイアメモリが育つ前に命を落としてしまうだろう。
 雨生龍之介の死因は、「生命力減衰による衰弱死」でなくてはならないのだ。
 まだ彼には希望を――生への渇望を抱いてもらわなければ困るのである。

 これから先、龍之介が理想を求めたが故に何人もの参加者が被害を被るだろう。
 彼が定めた"目的"はそのまま殺人に直結するのだから、当然と言えばそうである。
 だが、それで何人の犠牲が出ようが井坂にとっては知った事ではない。
 最終的に龍之介の体内に眠るメモリが手に入ればいい話であり、その過程で誰がどう死のうが関係ないのである。
 自分の目的の為なら他者の命を平然と踏み躙る――井坂深紅郎とは、そういう男なのだ。

 とはいえ、龍之介の"覚悟"が行き付く先が気にならないかと言うと、それは嘘になる。
 彼の様な稀代の殺人鬼には少しばかり親近感が沸いていたし、彼なりの「最高のCOOL」にも興味がある。
 まだ生命力を吸い尽くすまで時間はあるし、今はゆっくり彼の成長を見届けるとしよう。

(尤も、結末は同じなのですがね)

 どう足掻いた所で、龍之介は生き残れない。
 インビジブルメモリに生命力を提供し終えた後に、自分でも理解できないまま息絶えるのだ。
 そして最後に、井坂がそのメモリの力を食らって更なる力を得るのである。
 前回は仮面ライダーの介入のせいで果たせなかったが、今はその邪魔な敵もいない。
 今度こそ、インビジブルメモリの力を我が物にしてみせようではないか。

 メモリを植え付けられた龍之介は、まだ何も知らない。
 自分がメモリの養分となっているなど露とも思わずに、これからも元気にはしゃいでいるのだろう。
 間接的に自身を苦しめているのが同行者である事など、最後まで気付かないに違いない。

「では龍之介君、そろそろ移動しましょうか」
「そうだね……でも先生、中央ってもう禁止エリアだったんじゃ……」
「正確には二時間後ですが……まあ同じ事でしょうね。さて、何処に行きましょうか……」

 中央部は禁止エリアに指定されてしまったし、次の目的地を新たに探さなくてはならない。
 別にどこに移動しても良いのだが、ここは他の参加者と出くわす可能性が高い、名有りの施設を目指すとしよう。
 シュテンビルトなる都市に行ってみるのもいいし、教会の近くにあった衛宮邸に向かうという選択肢もある。

 何処へ向かえば新たな異能と巡り合えるのか――そして、その異能とは如何なるものなのか。
 身の内で暴れ回るこの興奮は、まだ龍之介には悟られてはいない。

439上を向いて歩こう ◆qp1M9UH9gw:2013/07/30(火) 02:47:35 ID:/nnnn.S20


【一日目-夜】
【C-5 南部】

【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】白
【状態】肩にエンジンブレードによる斬り傷
【首輪】50枚(増加中):0枚
【装備】T2ウェザーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、DCSの入った注射器(残り三本)&DCSのレシピ@魔人探偵脳噛ネウロ、大量の食料
【思考・状況】
基本:自分の進化のため自由に行動する。
 1.インビジブルメモリを完成させ取り込む為に龍之介は保護。
 2.T2アクセルメモリを進化させ取り込む為に照井竜は泳がせる。
 3.次こそは“進化”の権化であるカオスを喰らってみせる。
 4.ドーピングコンソメスープに興味。龍之介でその効果を実験する。
 5.コアメダルを始めとする未知の力に興味。特に「人体を進化させる為の秘宝」は全て知っておきたい。
 6.そろそろ生還の為の手段も練っておく。念の為首輪も入手しておきたい。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※ウェザーメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※ウェザーメモリの残骸が体内に残留しています。
 それによってどのような影響があるかは、後の書き手に任せます。
※二人が何処へ向かうかは次の書き手にお任せします。

【雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】白
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、深い悲しみと決意、生命力減衰(小)
【首輪】50枚(増加中):0枚
【コア】コブラ
【装備】サバイバルナイフ@Fate/zero、インビジブルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO、螺湮城教本@Fate/zero
【思考・状況】
基本:旦那が言っていた「最高のCOOL」を実現させる。
 0.先生……オレ、頑張ってみるよ。
 1.しばらくはインビジブルメモリで遊ぶ。
 2.井坂深紅郎と行動する。
 3.オレに足りないものは「覚悟」なのかも……?
【備考】
※大海魔召喚直前からの参戦。
※インビジブルメモリのメダル消費は透明化中のみです。
※インビジブルメモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※雨竜龍之介はインビジブルメモリの過剰適合者です。そのためメモリが体内にある限り、生命力が大きく消費され続けます。
※アポロガイストの在り方から「覚悟」の意味を考えるきっかけを得ました。
 それを殺人の美学に活かせば、青髭の旦那にもっと近付けるかもしれないと考えています。
※キャスターが何をするつもりだったのかは把握していません。
※二人が何処へ向かうかは次の書き手にお任せします。

440 ◆qp1M9UH9gw:2013/07/30(火) 02:47:50 ID:/nnnn.S20
投下終了です

441名無しさん:2013/07/30(火) 21:01:51 ID:IV.rjcOE0
投下乙です。
龍之介はどうなるかと思ったけど、井坂先生のおかげで何とか立ち直ってくれたか……死亡フラグが立ってるけどw
にしても龍之介はあとどれくらい生きていられるのかな。井坂先生は励ましてくれるけど、助けてくれる気は最初からないし。

442名無しさん:2013/07/30(火) 23:20:33 ID:NlA2vWpMO
投下乙です。

恩師の死に絶望する龍之介。恩師の遺業を継げと励ます井坂。そして二人は再びそれぞれの目的の為歩み出すのだった。
ナンテイイハナシナンダ。

443名無しさん:2013/07/31(水) 18:51:11 ID:qEAuYgo6O
投下乙です。

いい熱血話ですね。
元気になった結果、被害者が増える点を除けば!

444名無しさん:2013/08/01(木) 19:02:59 ID:YUyvxgYw0
投下乙です

前話で龍之介が掴んだ『覚悟』の大切さを説き、医師としての役目を全うして若者を導く井坂先生……
師匠の非業の死を受け入れ、それを乗り越えていく覚悟を固めた龍之介の今後に期た……いできるわけねぇだろ!
このまま殺人鬼タッグがサラマンダーで終わるわけないし、龍之介が死ぬまでにいったい何人被害者が増えてしまうんだ……

445名無しさん:2013/08/01(木) 19:04:14 ID:c4xl4PW60
投下乙です

ウン、イイハナシダナア…
なのになんでここまで寒々しいんだろう…w

446名無しさん:2013/08/02(金) 01:51:37 ID:yyqoKsR6O
イイハナシカナー?(井坂先生に都合の)イイハナシダヨー

447名無しさん:2013/08/02(金) 10:01:07 ID:ZxytqGzQ0
予約来てた
その組み合わせかあ

448名無しさん:2013/08/03(土) 23:16:57 ID:e03bWkqw0
ある方が玩具を使ってあの名シーンを再現してくれたので、その方に許可を得て支援画像を貼らせていただきます。
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0243.jpg

450名無しさん:2013/08/03(土) 23:37:21 ID:d5hJvQp.0
あ、上のアドレスはミスなのでもう一度
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0244.jpg_uYcQYQu6okJv6HA5O3Uq/up0244.jpg

451名無しさん:2013/08/04(日) 16:50:47 ID:Xt2L5Ea60
支援画像乙です
これはwww

452 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 21:48:42 ID:4Yml4Ta.0
投下します。

453 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 21:51:55 ID:4Yml4Ta.0

 最初に結論を述べてしまうと、葛西善二郎の仕掛けた罠は不発に終わった。
 一本の煙草は雑草による支えからあっさりと抜けて、ガソリンの中へと落下。じゅっ、という貧相な音と共に煙草の火は消され、後はガソリン漬けになった煙草の残骸がぷかぷかと浮かぶだけであった。
 タンクの中に取り込まれた酸素量の僅かな不足、トレーラーの上下運動による想定以上に早い煙草の落下、葛西の“遊び心”によって生じた罠の作動の不確実性。これらが原因となり、気体の引火よりも煙草の鎮火が先に起こったのだ。
 こうして幸運にも罠は無力化され、岡部とほむらの二人は一命を取り留めることとなった。

 E‐2エリアの健康ランドに立ち寄った二人は、建物の入口付近に放置された青緑色の自転車を発見した。それがかつて阿万音鈴羽の愛用していた代物であると岡部が気付くまで、さほど時間は要しなかった。
 そして自転車以上に二人の視線を釘づけにしたのは、入口の自動ドアの硝子が明らかに外的な作用によって無残に叩き割られている様。
 決して穏やかでない事態が此処で起こったのは確実だろう。そして自転車の所有者である鈴羽が何らかの形で巻き込まれたかもしれないと想像するのも、難しい話ではなかった。
 しかし、そう考えたところで二人に出来る事はこれといって無い。この騒動が何時起こったか、当事者が何処へ向かったかの情報を何も持たない状況では動きようがないからだ。
 ゆえに二人は建物内の探索しか出来る事がなく、その探索も目ぼしい物も見つからず空振りに終わる羽目になった。払拭できない不安要素のせいで、岡部の口から思わず溜息が出る。
 しかし仲間の命に関わるとはいえ、過度に気に病むべきでもない。健康ランドの訪問は寄り道であり、ほむらの提案した『桂木弥子魔界探偵事務所』への移動が今の目的だから。
 Gトレーラーの側に立つほむらの方を見ると、鈴羽の自転車をディバッグに収納し終えていた。左手に持つ“盾”と同様、ディバッグには四次元空間を構成する技術が施されているようだ。
 ディバッグの方に入れたのは、重要でないアイテムが“盾”の中身の一部を占めたせいで必要な時に必要な物が取り出せなくては困るとの判断らしい。
 しかし万が一の場合は、バイクも自動車も運転出来ない岡部の逃走手段として自転車を、あるいは自転車の入ったディバッグごと渡すことも考えると告げられた。
 そんなことを語るほむらに向い、礼を一つ言った後でちょっとした台詞を吐いてみる。
「しかし改めて思うが、コマンダーも案外良い趣味をしているではないか」
「あの、嫌らしく笑っているように見えるのは何故かしら?」
「『魔界』。日本社会における活動拠点の名に含めるには些か不自然な二文字だ。だが? この惚けきった世界に自らの名を轟かせんとする異端者の発想とするならば、強ち間違いではないと言える。
察するにこの桂木弥子という女……この鳳凰院凶真と目指すベクトルは重ならずとも、胸の内だけに抑えきれぬ反骨精神という点では考えを共有できると見えるな」
「……」
「生真面目一辺倒な振る舞いがまるで助手のようだと感じていたが……この二文字に惹かれて進路を決める判断力、お前にも意外と物好きな一面があったようだな、コマンダーよ。
この鳳凰院の目をもってしても見抜けぬとは、一生の不覚……。いや、アイツの性根には完全に“匿名掲示板愛用者の秘めたる魂(ネラー・スピリット)”が染みついていたことを考えると、不意に垣間見える二面性まで含めて助手に似ていると言うべき所か?」
「…………」
「俺だ。コマンダーとの会話の中で、この俺から通名を頂戴するに相応しい特筆すべき人間性を確認できた。フッ。だから言っただろう、俺の審美眼には一寸の狂いも無いと。
何? ああ、勿論わかっているさ。今から新たなるラボメン・コマンダーと共に、この異界の深淵部へと」
「冗談を言うだけの人間に用は無いの。置いていくわね」
「んん? あ、おい、待てぃ!」
 実際は沈んだ気分を切り替えたいという目的もあっての厨二病的言動だったのだが、これが原因で協力関係を反故にされるなど笑えない。というか、今のはちょっと空気が読めなかっただろうか。
 急いでトレーラーの助手席に乗り込みながら、弁明の言葉を考える岡部であった。

454 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 21:53:06 ID:4Yml4Ta.0

 二人を乗せたGトレーラーが健康ランドを後にし、南下を始める。
 しかし、ここでも敢えて結論から述べてしまえば、彼らの進んだ先では他者との遭遇は叶わない。午後八時を数十分過ぎた時点で、南西側にいる参加者は誰一人としていないためだ。
 即戦力となる人間や自身の身を守るための手段を求める二人にとって、望ましい結果と言うのは厳しい部分があるだろう。
 もしも葛西善二郎の仕掛けた罠が実際に猛威を振るったならば、違った結末もあり得たのだろうか。
 一級の破壊力の爆風が直撃するのだから、最悪の場合はそのまま二人とも業火に焼き殺されるだけ。最善でも、時間停止能力を持つほむら一人が爆風の中から命からがら脱出するのが限界だ。
 それでも、仮に最善のパターンが実現した場合なら、手痛い損失と同時に得られるメリットも存在する。手負いの身体を以て証明できる葛西善二郎の危険性の把握と、彼の排除という一つの行動方針。
 もしもそんな未来が実現したならばどうだろうか、一人の生命の喪失と引き換えに新たな武器を得られたならばどうだろうか……などという仮定には、意味など無いのだろう。
 だらしない表情で偽装された葛西の残虐性にも、彼が密かに仕掛けた罠にも、罠が不発に終わり一命を取り留めたことにも気付けず仕舞い。無数に存在する未来の可能性の中で、実際に選ばれたのはこの一つだけ。他の可能性が行き着く先を観測する術を持つ者は誰もいないのだから。
 損得ゼロの現状でさえ幸運の上に成立していると自覚できぬまま、呑気にも二人は進む。ただそれだけの話だ。



 探偵事務所に到着した二人は、事務所内に入った後も用心のため部屋の照明を付けず、支給品の懐中電灯の光だけを頼りに内部を調べ始める。
 程なくして、窓際の真っ赤な机が注目の対象となった。正確に言えば一番下の引き出しに収納されていた新聞の束と、机上のパソコンに保存されたデータである。ほむらがパソコンのデータの閲覧を申し出たので、岡部は新聞の方を読むことになった。
 新聞の日付の断続性を見る限り、どうやら机の主が興味をそそられた記事の集まりだろうかとぼんやり考える。
 そのまま漫然と読むわけではなく、ほむらに提示されたある条件を念頭に置いて紙面に目を通す。そして数分後、条件に該当する記事を発見した。
「『女子高生探偵桂木弥子、またもお手柄』か」
 この部屋の主である桂木弥子が探偵として称賛を浴びる内容だ。なんと、殺人事件を名推理によって解決に導いたとのことだ。探偵といえば不倫調査や人探しのような地味な仕事をする職業だとイメージしていただけに、空想世界での物語そのままの“名探偵”の実在には嘆息させられた。
「おお、脳噛ネウロという男は桂木弥子の助手らしいぞ。この記事ではちらっとしか触れられていないが」
 しかし岡部が注目したのは彼女の華やかな活躍ではなく、その記事の一節だった。参加者名簿に記載された名前の一つである『脳噛ネウロ』が、岡部の注目した点だ。パソコンの画面に向かい合うほむらにも、この発見を伝える。
 さらに別の新聞を読み進めて数十分、二度目の発見に至る。
「怪盗X……こいつ怖すぎだろ……」
 名簿では『X』と記載されているが、同一人物の可能性は高い。手元の記事によると、彼の手によって既に多くの命が失われたとのことであり、その手口も被害者の遺体を“箱”詰めにするという極めて猟奇的なもの。こんな危険極まりない奴と同じ空気を吸っている現状に、思わず身震いする。

455 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 21:54:44 ID:4Yml4Ta.0
「“箱”……? 岡部倫太郎、ちょっとこれを見てもらえる?」
 何かに思い当たる節があるらしいほむらに呼ばれ、窓際まで移動する。モニターの画面んを覗き込むと、そこには彼女が現在目を通している最中である何かのレポートが表示されていた。
 ゆっくりと読み進める内、そのレポートはある家族が何者かの手によって皆殺しにされたという凄惨な事件の報告書だと分かる。そしてその文中の一節を読んだ瞬間、ほむらがわざわざ岡部を呼び寄せた理由を察する。
「被害者は“箱”にされていた……!? じゃあ、これは怪盗Xの仕業か!」
「そういうことでしょうね。といっても、これは十年ほど前の事件らしいわ」
 岡部が見た記事の日付よりもずっと前から、この人物は凶行に及んでいたようだ。殺人を継続して行う期間という点でも、その手口の残虐性という点でも、怪盗Xは筋金入りの危険人物であると推測がついてしまう。
 だが、ほむらが岡部に伝えたいのは怪盗Xについてだけではないようだ。
「この事件では、父親と母親と長女が亡くなったそうよ。そして長男だけは犯行時間に家にいなかった。その長男の名前が、笹塚衛士」
「何っ!?」
 岡部がネウロとXの名を見つけたように、彼女もまた参加者の一人である『笹塚衛士』の名を発見したわけだ。なぜ随分と前に起こった事件の詳細、それも民間には流出しそうにないデータがパソコンに保存されていたかは疑問だが、今は問題ではない。
 ほむらの課した条件は、『参加者名簿に記載された名前を、この事務所内で発見できた資料でも発見できないか』であった。この条件は、多少の時間をかけることで達成されたと言える。
 そして条件はもう一つ。こちらは、岡部の方だけが満たすことができた。
「コマンダー、俺は桂木弥子も怪盗Xも今初めて知った。そっちはどうだ?」
「私も同じよ。全然聞いたことが無いわ」
 岡部の読んだ新聞では、桂木弥子の活躍も怪盗Xの凶行も『また』という一節と共に報じられていた。この二名はごく最近になってから世間で名を馳せたわけではなく、むしろかなり以前から有名だったとわかる。しかし、これほど特殊な人物が大きな見出しと共に紹介されているにも関わらず、岡部もほむらも全く思い当たる節が無い。
 つまり、ほむらの課したもう一つの条件はこれらの新聞記事で満たされたと言えるだろう。『事務所内の資料の中で、有名なはずなのに自分達の記憶にない事柄を発見できないか』という条件が。

「なるほど……となると、やっぱり」
「む。コマンダーよ、何か思いついたのか」
「ええ。ちょっと、これを見てもらえる?」
 要求した二つの条件が満たされ、ほむらの中で何かが真実性を帯びてきたようだ。自分のディバッグからほむらが取り出したのは、参加者全員に支給された会場の地図だった。
 窓際に置かれたデスクの上に地図が広げられる。ほむらの右手の懐中電灯で光を当てられ、もう片方の手の人差し指で地図の南西が指し示される。

456 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 21:55:44 ID:4Yml4Ta.0
「ここが今私達のいる場所、つまり桂木弥子の職場とその周辺よ」
 指が地図を垂直になぞり、北西の辺りで止まる。
「こっちは見滝原、私達にとっての故郷」
 次は、北東を指す。
「ワイルドタイガー達のいた街、シュテルンビルト」
「待て。となると秋葉原がここにあるのは……」
「あなた達にとって馴染みのある場所だから、と見るのが妥当ね」
 地図上に点在する円状の地形。その内の四つにおける共通性が明らかとなり、同時にほむらがこの場所を訪れて確かめようとした考えを察した。
「円状に切り取られた町並みは全て、この殺し合いの参加者に関係のある場所ということか……」
「ええ。そして把握できる限りで言えば、見滝原では私を含めて六人、ワイルドタイガーの街でも彼を含めて六人……といった具合に、町一つにつき複数の参加者が所属している。言い方を変えれば、地図上の町に従って、参加者は複数人のグループに分類できるはず」
「となるとグループの数は……外側にある大型の円の個数のみとすれば、八つ。大小全てを可能な限りカウントすれば、二十近い数になるのか」
「そして、これらの町は参加者の出身の……あなたの言葉を借りれば、世界線における元々の状態ほぼそのままで存在しているも同然だと考えられるわ」
「……とんでもないことをしでかすな」
「尤も、ミスリードの可能性も否定はできないのだけど」
 断言は出来ないと告げられてもなお、岡部の口から嘆声が一つ漏れた。
 曰く、この仮説はワイルドタイガーとの情報交換を終えてから思いついたとのことだ。先程は『魔界』の二文字に興味を抱いたのかなどと岡部は茶化したが、実際の興味の対象は『探偵事務所』の五文字だったそうだ。探偵事務所という施設ならば相応の資料が悪寒されていそうだと目星をつけ、ゆえに名簿と地図の対応という仮説を検証できるだろう場所だと踏んで次の目的地に選んだのという。
 ちなみに、桂木弥子に請け負った依頼や関わった事件の事後報告書を製作する習慣が無かったことは誤算だったという。探偵事務所ならあって当然だと思っていた報告書がほむらの本命だったからだ。女子高生ならではの忙しさからか、人気に釣り合わぬ人員不足のためか、まさか解決さえ出来れば以後の出来事には興味が無いとでもいうのか。おかげで新聞やパソコンのデータという資料としては不確かな代物に頼らざるを得なくなり、当初は不安があったそうだ。
 彼女の話を聞き終えた岡部が抱いた感想は、この現実離れしたともいえる状態の舞台への驚き。そして、ほむらの発想力への関心であった。



457 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 21:56:25 ID:4Yml4Ta.0

 提示された仮説を頭で噛み砕いて理解するための時間を、どちらからということもなく取り始める。
 中央のソファに向かい合って座る二人の声も、外からの音も聞こえない静まり返った空気。およそ数十秒に渡って続いた沈黙の末に、岡部が声を上げる。
「とりあえず二つだ。気になったことがある」
 部屋のソファに腰かけたまま、岡部が小さく右手を挙げる。
「ええ。言ってみて」
 同じくソファに腰かけたままに、ほむらからの了承。この一言が合図となって、二人による仮説の再分析が開始される。
「まず一つ目だ。真木清人が用意したこの殺し合いの舞台では、別の世界線での地形が再現されている。本物かどうかは知らん。だが、こんなことを成し遂げるトリックは一体何だ?」
 岡部の問いかけた内容は、『この環境をどうやって用意したか』。
 直径およそ40キロメートルに及ぶこの島(と思われる有限の大地)をどこで見つけたのかという問題もある。しかし今は、その島の上に配置された幾つもの円状の地形を用意するような手段を問題としたい。
 数時間前に訪れた見滝原は、地形から建造物、中に置かれた物品に至るまでかなり高い精度で再現されていたというのがほむらの話だ。おそらく他のエリアでも同じことが言えるのだろう。
 本物の見滝原をそのまま運び込んできたとでもいうのか、はたまた本物の見滝原に何から何まで似せた町を開拓したのだろうか。どちらも、手法としては無茶が過ぎる印象が否めない。
 それに、こんな訳のわからない形の舞台であることに果たしてどんなメリットがあるというのだろうか。

 しかし、ほむらの方はさほど深刻そうな顔を見せずに返答する。
「やり方として思いつくものはあるわ。最初にあなたと行った情報交換では省いてしまったけど、改めて説明するべきね」
 そう言ってほむらが語り始めたのは、魔法少女の討つべき敵こと魔女の話だった。曰く、魔女が人間を襲うために活動を始める時、『魔女の結界』と呼ばれる異次元の空間を創造し、その中に人間を閉じ込めるのだという。
 魔女との戦いの中で幾度となく『魔女の結界』内に身を投じたほむらにとって、少なくとも得体の知れない空間が目の前に現れること自体は驚きこそすれ感覚としては許容できるそうだ。
「信じがたい話だけど、真木清人は魔女を支配下に置いたと考えるべきでしょうね」
 あの男は理性なき魔女をも意のままに操ったか、それとも魔女の持つ能力を模倣することに成功したのか。どちらの手段を取ったか不明だが、ほむらの持つ知識に基づいて考えれば魔女の存在が鍵だという結論が出る。
「でも、まだ疑問は残る」
 『魔女の結界』はいつも現実世界そのままではなく、むしろ摩訶不思議とさえ言える光景ばかりであった。しかし、この舞台においては現実世界ほぼそのままに再現された空間が創造されている。その部分が、ほむらの知る魔女のやり方としては不自然と感じられた。もしかしたら、魔女とは別の手口ということもあるかもしれない。
 手口の詳細が掴めないのだから、この形式であるメリットなど見当もつけられそうにないのが実情だ。 
 そうして話が行き詰ったところで、岡部とほむらの知る限りの知識ではこれ以上の掘り下げを行うことはできそうにない。
 よって結論は、『魔女の力が関係していると思われるが、確証は持てない』。
 話を聞き終わった岡部もひとまず納得することにした。

458 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 21:57:02 ID:4Yml4Ta.0



「では次だ。さっきの話では、参加者の一つのグループに付き一つの世界線を共通しているという結論を出した。だが、必ずしもそうではない、グループ内でも別の世界線を使っている可能性もある……と思う」
 二つ目の疑問は、『世界線に基づいて分けたグループ毎に、さらに細分化したグループを作れるのではないか』。
「最初の情報交換で、バイト戦士……阿万音鈴羽を紹介したな? だが、あいつは俺の世界線には存在しないはずの人間なんだ」
 阿万音鈴羽。
 α世界線では岡部から見て数十年後の未来で生まれ、その後タイムマシンによる時間遡行を経て現代に現れた少女。β世界線においても、ほぼ同様の経緯で岡部の前に姿を現した。
 しかし、岡部が最後に到達したシュタインズゲート世界線においては、阿万音鈴羽は存在しないはずなのだ。
 より正確に言えば、彼女は現代ではまだ生を受けていない。そしてタイムトラベル理論の鍵となる電話レンジと中鉢論文が岡部の手で処分されたため、未来においてもタイムマシン完成は恐らく実現されず、したがって時間遡行も不可能だ。
 つまり、岡部の主観では阿万音鈴羽の現段階での存在は有り得ない。有り得ないはずなのに、今、何処かで生きている。ただの同姓同名の他人かもしれない。もしくは真木清人が独自にタイムマシンを完成させて、数十年後の未来から彼女を連れ去ってきたのかもしれない。
 しかし。
「今までの……俺の通ってきた世界線、そうでなければ全く未知の世界線から来たという可能性があるのではないか? そしてそれが事実ならば、紅莉栖もダルも、指圧師もフェイリスも。それに、まゆりもだ。ラボメン全員について、バイト戦士と同じことが言えるのではないか? ……と考えたんだが、どうだろうか」
 世界線に基づいた大まかなグループ分けと細かいグループ分け。記号を用いて説明し直せば、以下の通りだ。
 まず大まかな分類をする。仮に岡部や紅莉栖らが所属する世界線をAとすると、それに対してほむらやまどかが所属する世界線がB、ワイルドタイガーらヒーローが所属する世界線がCになる。
 次に細かい分類をする。世界線Aを例に取れば、岡部の世界線の表記は小文字のaを付けてAaだ。それに対して紅莉栖の世界線はAb、鈴羽の世界線はAc、まゆりの世界線はAdである。
 といった具合に、世界線による分類は二段階に分けられるのではないだろうか。

「……こればっかりは、本人に会わない内には断言は難しいでしょうね」
 岡部の話を聞いてから数秒後、ほむらからの返答はやや歯切れの悪いものだった。
 まず、人体の物理的な時間遡行を行うタイムマシンの存在が岡部の話中で述べられた点。真木清人がそのマシン、またはそれに準ずる科学技術を応用したとすれば、同世界線上での時間軸の違いで説明がつく。これは岡部自身も示唆した可能性の一つだ。
 そしてほむらが言った通り、この件は二人の会話だけでは結論の出しようがない。この会場で本人を探し出して本人に聞かない限り証明できないわけだ。もし彼女が「私はα世界線の人間だ」と言えば当たりであり、「私はシュタインズゲート世界線における未来の人間だ」と言えば外れとなるが、生憎と鈴羽はここにいない。
 よって結論は、『可能性の一つとして有り得るが、実証しない内は断言できない』。
 当然といえば当然ながら、暗い部屋で二人籠っての会話では限界がある。二つの質問でそう実感した岡部には、低い唸り声を上げるしか出来なかった。
 ほむらはと言えば、何かを考え込むように俯いたままだ。聞きたいことはないかと尋ねたが、今は特に無いとのことだった。

 結局、今回の会話でわかったことは『まだまだわからないことだらけだ』という事実だけであったようだ。

459 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 21:58:06 ID:4Yml4Ta.0



 調べ物だ考え事だと時間を費やす内に、気付けば時刻はとっくに九時を過ぎていた。
 自分達以外に誰もいないこの一箇所だけに留まり続けたところで、好ましい成果は得られないだろう。そう判断した二人は資料の閲覧を打ち切り、事務所から出発することにした。
 まず考えるべきは次の目的地だ。協力できる他人の発見と有益な情報の入手を最優先事項として、どの方向が最善か。
 禁止エリアがあるとはいえ人の流れがある程度集中するであろう中央部。岡部にとっての古巣である東側の秋葉原。ここから更に南の沿岸に停泊する謎の大型船オズワルド。ざっと思いつくのはこの程度だが、向かうメリットが各々にありそうだと言える。

 そして協力者探しにもいくらか具体的な指針がある。
 まず、それぞれの“大切な人”を何としても保護すべきであることは基本中の基本。
 それ以外の絶対条件として、主催者へ反抗の意志を持つ人物。
 望ましい条件として、身を守る戦力や有益な情報を持つ人間。
「それともう一つ、大事な条件がある」
 重い声で岡部が告げる。ほむらの両目は暗闇にも慣れてきたため、腕を組む彼の姿の真剣さも視覚的に感じられた。
「世界線理論以外の考え方が出来る人物。俺はそんな人物と会っておきたい」
 そう告げた口調も真剣そのもの。この男はふざけた振る舞いをする時も真剣と言えば真剣な口調をするが、今回は別物だろう。
 続きを促し、耳を傾け始めたほむらの反応を見て、岡部は語り続ける。
「俺達の今の持論は、ここが複数の世界線から人や物をかき集めたことによって成り立っている空間であるということだ。何より目の前でそうだと思える事態がいくつも起こっているのだから、そう言うに値する。……だが本来ならば、この考えは俺の知る世界線理論と矛盾している。なぜなら」
「世界線から世界線への“物理的な”移動は不可能だから。ということね」
「……理解が早くて助かる」
 ぴしゃりと言い当てるほむら。本当に、頼りがいのある奴だと思う。

 世界線変動。
 世界の様相に何らかの作用を及ぼすような特殊な出来事が生じた場合、その結果によって世界の様相が変化し、新たな世界が再構築される。これが世界線変動と呼ばれる現象である。
 問題は、実際には複数の世界線が並立して実態を持つことは有り得ないという点だ。世界の再構築は、以前までの世界が変化した結果として成立するものだ。つまり、前の世界線変動率に則った世界が一旦分解、見方を変えて言えば消滅しなければ新たな世界線変動率に則った世界は構築されないとも言える。一つの世界は、一度に一つの世界線しか(語弊のある表現かもしれないが)使用できないのだから。
 複数の世界線が並立して使用される状況が有り得ないため、異なる世界線の人間が同じ場所に存在することも不可能となる。シュタインズゲート世界線に生きている岡部はα世界線の人間と接触出来ないし、β世界線の人間に関しても同様だ。
 岡部の持つ“運命探知(リーディングシュタイナー)”は世界線変動の影響を逃れるための能力である。しかしその対象は岡部の脳内に蓄積された記憶情報だけ。肉体の方は、世界線変動による再構築のために一度は分解される羽目にならざるを得ない。
 ゆえに『異なる世界線の人間同士が一つの空間内で“物理的に”共存している』状況は、世界線理論に基づけばそもそも実現不可能なのである。

460 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 21:58:57 ID:4Yml4Ta.0

「しかし理論的に無理だと理屈を捏ねて立ち止まるのは得策ではない。大切なのはまず目の前の現実を受け入れることだ。だから俺は俺の考えを切り捨てていないし、お前にもそのまま伝えた」
 感覚としてはすでに遠い過去、タイムマシンの存在を非論理的として受け入れようとしなかった紅莉栖に向けて対して似たような主張をした気がする。
 現実として目の前に広がる光景は世界線理論の常識とはかけ離れた有様だ。自らの知識で理解できる範囲の限界を突き付けられたことになるが、だからといってお手上げだなどと言っても始まらない。認めたくないと目を背けても何も生まれない。
 ならば、たとえ理解できなくともまず納得することから始めなければならない。その上で、どのように理解するか考え始めればよいだけの話だ。
 世界線理論の例外を認める持論は、そのためのツールの一つだと言える。
「……俺達のいる現状は、世界線理論では、あるいは世界線理論だけでは説明しきれない。この状況を理解するためには、他の世界線の人間から新たな視野を得る必要があるだろう」

 岡部が喋り終えて数秒後、ほむらの声が室内に響く。
「……この世界の構造の解明自体は、すぐに目に見えた結果を出す行動とは言い難いわ。まず私達が速やかに手に入れるべきは、直接的に自分の身を守るための手段よ」
 自分の提案を却下されたかと思い、つい眉を顰めてしまう岡部。しかしそんな彼を前に、でも、と付け加えられる。
「今すぐに結果が出せないとしても、あの男の手口を少しでも明らかにすることは得策ね。逆に言えば、あの男についてわからない点の数だけ私達は遅れを取ることになる。そういう意味では、私は賛成よ」
 真木清人の持つ技術力は、はっきり言えば桁外れだ。幾つもの世界線における数多の技術を悉く網羅していると言っても過言でないことは、現段階でも二人には実感できる。
 そんな奴を相手に、ただ純粋な戦闘能力だけを以て挑んだとしても勝ち目があるとは言い難い。仮にあと一歩のところまで真木を追い詰められたとしても、いきなり飛び出たトンデモトリックで一発逆転されました、なんて話になっては困りものだ。
 確実に真木に勝利し脱出を成功させるためには、真木清人の手の内を暴き、奴の優位性を少しでも潰さなければならない。世界線の物理的超越のトリックも、その一つに含めて良いだろう。
 そのため、ほむらは岡部の提案に対し、長期的な視野でのメリットという点で賛成を表明した。
「ああ。それに、やはりこの殺し合いをあの男一人で運営しているとは思えない。さっきコマンダーが言った魔女の他にも、必ず協力者がいるはずだ。この状況を作り出せるような技術を持つ人間がいて、そいつが真木のような唾棄すべき性質の持ち主だとしたら、協力者の候補として考えていいだろう。そういう奴に心当たりが無いか、これから他の参加者にも聞いていきたいと思う」
 具体的な未知の技術の持ち主が必ずしも参加者だけとは限らない。この舞台の外側にいる人間が該当するかもしれないのだ。
 ならば、真木の保有するトリックの内容を明らかにすると共に、そのトリックの持ち主と一致する人物と結びつける形で真木ら主催者側の勢力図も明らかにすることは不可能ではないはずだ。
 長期的なメリットが期待できる根拠としては十分だろう。
 二人の間で同意が得られた。よって、岡部の提案もまた方針の一つとして採用だ。

461 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 22:00:43 ID:4Yml4Ta.0



 話し合いの末に決定された次の目的地へ向けて、Gトレーラーが速度を上げて進む。その運転席でハンドルを握りながら、ほむらは思考する。
 岡部倫太郎という男は議論のし甲斐がある相手だ。何も議論という形式を楽しむ趣味はない。ただ、時間の構造に詳しい彼が相手となると、下地となる共通認識がある程度固まっているだけに話がスムーズに進むものだ。それに発想の閃きに関しても目を見張るものがある。協力相手としてはなかなか悪くない。
 ふと、首輪の中のセルメダルの総量がいくらか増えていたことに気付く。探偵事務所での仮説の実証に加えて、岡部の取り柄の再確認が出来たためだろう。尤も、増えた枚数はそれほど多くないのだが。
 今回の移動の中で、協力者との合流など分かりやすい収穫を得られなかったのは惜しいと言えば惜しい話だ。それでも、一応は幾らか代替的な結果が出せただけでも妥協しておこう。
 などと考えていた時、助手席の岡部が話しかけてきた。

「ところでコマンダーよ。差支えなければ、一つ聞いていいか?」
「え? ええ」
「なんというか……お前がどういう人間なのか、と思ってな」
 さて、どういう意味だろうか。
「お前は世界線理論の飲み込みが随分と早かったな。話としては簡単とは言いにくいし、それに正直、実感が湧かないと言われても当然だと思っていた」
 岡部が不思議がるのは当然だが、ほむらが岡部の語った話を容易に把握できたのも当然だ。
 ほむらの持つ魔法少女としての能力は時間操作、二つに分ければ時間停止と時間遡行。このうち後者を用いて、鹿目まどかを救うためだけに何度も何度も何度も何度も同じ時間を繰り返した――岡部の言葉を借りれば、世界線を移動し続けてきたのだから。
 自分自身の経験として身に染みているのだから、その延長線上にあると言える世界線理論の理解など難しい話ではない。
 世界線理論の例外に関しても同様だ。ワイルドタイガーのような大幅にズレのあると思われる世界線はともかく、自分のいた世界線に近似のそれから来た仲間がいる可能性については感覚的に理解出来た。
 岡部にとって“まだ”存在しないはずの阿万音鈴羽が不自然さの根拠となるなら、ほむらの根拠は“もう”存在しないはずの巴マミだ。
 ほむらにとって過去の時間軸におけるマミが来た可能性か、または現行より以前に訪れた世界線――ほむらの言葉で言い換えれば、以前に経験した“周回”におけるマミが来た可能性のどちらかだろうと考えれば済む話であった。
 気になる点があるとすれば、仮にマミが別の“周回”から来たとすれば、もしかしたらまどかもまた別の“周回”から来た可能性があることだった。ここに連れて来られた彼女は魔法少女の力を得ているかもしれない。ほむらの持つ能力について詳しく聞かされたあとかもしれない。もしそうならば、まどかの状態に合わせて自身の動き方も変わってくるかもしれない。
 はっきりとした結論は出せないながらも、数十分前は岡部の前でそんなことを考えていたのだった。
 ともかく、こうして自分の頭で方針を練られる程度には、岡部の話は理解できていた。ほむらの積み上げた経験と岡部の積み上げた経験に似通った部分の多さが、その理解を成立させていたのだ。

462 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 22:01:31 ID:4Yml4Ta.0

「いや、別に理解力があるのは良いことだ。ただ、少し気になったんだ。コマンダーは鹿目まどかという子を救いたいようだな。見れば分かる。それにお前の言葉を聞く限り、世界線を変えることがその条件となるのだろう。だが、世界線を意図的に変えるのは容易ではないぞ。俺の知る限りでは、タイムマシンを使うしか方法はない。魔法少女の力は、詳しくないから分からないが……」
 ただし、ほむらは岡部に対して何から何まで包み隠さず話したわけではない。詳しく言えば、魔法少女としての特殊能力について教えたのは時間停止能力のみ。時間遡行能力を持つことを今の岡部は知らないし、ほむらが時間のループを経験していることも知らない。
 情報を隠した理由は簡単。自ら明かす理由が思いつかなかったからだ。
 ほむらの経験では、時間遡行能力とその行使によって知った未来に起きる出来事を伝えたところで、事態が改善した試しは無い。さやかや杏子、マミはそもそも信じてくれなかった。まどかは信じてくれたが、それでも根本的な問題の解決には繋がらなかった。
 そのため、ほむらは他人に真実を明かす意欲を失った。他人とは必要な限りで協力すれど、決して信頼も依存もしないと決めたのだ。
 ほむらの経験の中で培われたその信条が、岡部に対しての情報の秘匿となった。岡部の頭脳は信用に値するが、だからといって彼個人を信頼し過度に肩入れする理由にはならない。今は協力関係であろうと結局は他人なのだ。
 言わば、ほむらにとって“まどかを救うための時間遡行”は他人を踏み込ませまいと決めた領域。正直に言って、出来れば無闇に触れられたくない部分でもあった。

「なあコマンダー。お前はどうやって世界線を越える……そのまどかという子を救うつもりなんだ?」

 だから。

「――それは、あなたに話さなければいけないことなのかしら?」

 つい、突き放すような冷たい言い方をしてしまっていた。
「う……。いや、別に強制する気はない。聞かれたくないことだったら、下手に聞いてしまってすまなかった」
 少し萎縮しつつ、岡部は自らの発言を取り下げた。悪気があったわけではないのだろうが、この話題はタブーだと理解してもらうしかない。
 彼と慣れ合いをする気はないのだから、必要最低限の距離感があるのは当然だ。

 黙々と運転を続けるほむら。黙りこくる岡部。
「……まあ、無理に話せという気はない」
 そんな沈黙を突然破ったのは、またもや岡部の言葉。話の続きのようだ。
「だが、その、あれだ。もしも俺に話してみたいと思えるようなことがあったら、その時は俺も聞くつもりだとだけ先に言っておく。俺自身の経験から言えるのだが、自分一人で解決できずにどん詰まりになった時は、そのことを他人に話してみると案外と物事が好転することもある」
 どうやら、強制でも興味でもなく提案として、ほむらの心情に寄り添おうとしているのだと思われる。あくまでこちらの意思が第一と伝えてくる辺り、適度な距離感というものを岡部も探ろうとしているのが分かる。
 余計なお世話だと言おうかとも頭の片隅で考えたが、そのまま続きを聞いてみる。

463 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 22:02:09 ID:4Yml4Ta.0
「それに……そう、コマンダーほむらはラボメンナンバー009。新米とはいえ、俺が直々にスカウトした立派なラボメンだ。未来ガジェット研究所創設者にしてラボメンナンバー001であるこの鳳凰院凶真、忠実なる総勢8人の部下のためならこの身から無限に湧き上がる力をもっての助力に躊躇などしない……。お前が窮地に陥った時こそが俺の真価の見せ所だ。IQ170の頭脳と灰色の脳細胞を誇る首魁に仕えられた幸運、いや、“運命石の扉(シュタインズゲート)の選択”を存分に喜ぶが良い! フゥーーハッ」
 ぎろり、と横目で睨む。ひぃっ、と情けない悲鳴が聞こえてきた。と言っても、睨んだ理由はただ単に騒がしくて運転に集中できないというだけだ。
 こうして何度も接すると分かるが、彼はやはり善人の部類なのだろう。話の途中でいつの間にか始まったおどけた振る舞いも、彼なりの対人手段ということか。
 そんな彼の今の言葉は、少なくとも葛西善二郎に唱えた理想論やワイルドタイガーの掲げた信念とはまた違った感触だった。ラボメンだから力を貸す、と岡部は言った。つまり全ての人々へ平等に突き付ける正義感というより、身内としての気遣いになるのだろうか。
 まどかを救うためだけに他者全てと距離を隔ててきた身には、どこか新鮮とも言えるような感覚だった。嬉しいとか喜ばしいといったような感情は特に抱かない。
 だからといって、今回は特に不愉快とも感じられなかった。自分と似た境遇ゆえに多少の説得力があるから、だろうか。
 まあ、とりあえず今はこのくらいの返事をするのが丁度良いか。
「そうね。考えておくわ」



【一日目-夜中】
【F-2/桂木弥子魔界探偵事務所付近】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】ダメージ(中)
【首輪】25枚:0枚
【装備】ソウルジェム(ほむら)@魔法少女まどか☆マギカ、G3-Xの武装一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ダイバージェンスメーター【*.83 6 7%】@Steins;Gate、阿万音鈴羽の自転車@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、鹿目まどかを救う。
 1.仲間と戦力及びメダルを補充する。主催者に関係しそうな情報も得たい。
 2.バーサーカー、青い装甲の男(海東大樹)、金髪の女(セシリア)を警戒する。次に見つけたら躊躇なく殺す。
 3.岡部倫太郎と行動するのは構わないのだが……。
 4.虎徹の掲げる「正義」への苛立ち。
 5.まどかのことについて誰かに詳しく話す気はない。
【備考】
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
※未来の結果を変える為には世界線を越えなければならないのだと判断しました。
※所持している武装は、GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GS-03デストロイヤー、GX-05ケルベロス、
 GK-06ユニコーン、GXランチャー、GX-05の弾倉×2です。 武装一式はほむらの左腕の盾の中に収納されています。
※ダイバージェンスメーターの数値が、いつ、どのような条件で、どのように変化するかは、後続の書き手さんにお任せします。
※GA-04アンタレスをバーサーカーのために消費しました。
※どこに向かうかは後続の書き手さんにお任せします。

464 ◆SrxCX.Oges:2013/08/15(木) 22:03:33 ID:4Yml4Ta.0

【岡部倫太郎@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】85枚:0枚
【装備】岡部倫太郎の携帯電話@Steins;Gate
【道具】無し
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、今度こそまゆりを救う。
 1.ラボメン№009となった暁美ほむらと共に行動する。
 2.協力してくれそうな人物を探す。主催者に関係しそうな情報も得たい。
 3.ケータロスを取り返す。その後もう一度モモタロスと連絡を取り、今度こそフェイリスの事を訊く。
 4.青い装甲の男(海東大樹)と金髪の女(セシリア)を警戒する。
 5.ほむらはどうやって鹿目まどかを救うつもりなのだろうか。
 6.俺は岡部倫太郎ではない! 鳳凰院凶真だ!
【備考】
※参戦時期は原作終了後です。
※携帯電話による通話が可能な範囲は、半径2エリア前後です。
※どこに向かうかは後続の書き手さんにお任せします。


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以上で投下を終了します。作品タイトルは「暗【わからない】」です。
疑問点や問題点、その他ご意見などありましたらお願いします。

465名無しさん:2013/08/16(金) 01:10:07 ID:KRud3WmI0
投下乙です

これは両方の原作知らない人には厳しいか? 特に原作絡みの謎とか
俺も読んでみてすげえと思うと同時に??、??と同時にすげえと思ったw
考察が進んで打開に1歩近づいたがまどからの状況を考えたら困難は多いんだよなあ
頭のいい考察組がいるのは心強いが…
それと二人の付かず離れずの雰囲気が凄くいいわ

466名無しさん:2013/08/16(金) 07:58:49 ID:9LrrQqW2O
投下乙です。

えっと、葛西の罠について何ですけど、ガソリンの中に火付いたタバコが落ちたのなら引火するような気がするのですけど?

467名無しさん:2013/08/16(金) 10:19:05 ID:XMr9ww4.0
上の描写にもある様に絶対に引火する訳でもないと思うが

468名無しさん:2013/08/16(金) 19:31:34 ID:PsULSGKw0
投下乙です

読み応えのある考察話に、似通った経験の二人の距離感がたまらない
ずっと孤独だったほむほむも、オカリンから身内扱いされてまんざらでもない様子なのが読んでてニヤニヤしちゃう
そして会場作成にはそうか、魔女という可能性もあったのか……円形のあれはてっきりあの錬金術師しかありえないと勝手に思っていたけれど確定じゃないし、”彼”の正体を含めて主催陣の底が知れなくなって行くぜ……

葛西の罠は不発なおかげで葛西もほむほむに追われるなんて事態は消えたし、(ついでに弥子の事務所で経歴を知られることもなかったし)
ラボメン二人にとって損得0な状況は、結局長生きしたい葛西おじさんにとっては都合良く回ってるのかなぁ……

>>466 横レスですが雑談スレの>>307->>308のような意見もありますし、今回は特に問題ないのではないでしょうか?

469名無しさん:2013/08/16(金) 23:06:25 ID:9LrrQqW2O
>>468

確かにその通りでした。自分の思慮不足でした、すみません。

470名無しさん:2013/08/19(月) 19:21:50 ID:l0eCd72Q0
投下乙です。
運よく、二人は葛西の罠の犠牲になることはなかったか……
そのおかげか考察は順調に進んでいるな。二人はこれからどうなるだろう。

471名無しさん:2013/09/05(木) 16:11:57 ID:dvA/BFn60
予約キター

472名無しさん:2013/09/05(木) 19:15:05 ID:skfTXCdk0
その組み合わせは…

473名無しさん:2013/09/13(金) 04:47:38 ID:IYAwV6A60
専用したらばに仮投下きてるね
確認しとくと良いやも

474 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:39:59 ID:wRxqYHXQ0
投下します

47559【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:41:09 ID:wRxqYHXQ0

【1】


 たったの六時間で、十何人もの明日が奪われた。
 本来ならば明るかったであろう彼らの未来は、半ば強制的に閉ざされたのだ。
 克己の拳が堅く握りしめられ、同時にわなわなと震え出す。
 彼の内に秘められた感情は、殺し合いを開いた真木への怒りであり、同時に犠牲者の続出を食い止められなかった自分自身への怒りであった。
 もしも、アポロガイストをあの場で仕留める事ができていたのなら。
 もしも、財団Xの刺客を警察署で葬れていたのなら。
 不条理に未来を破壊される者が、一人は減っていたのかもしれない。
 所詮ifの話であったとしても、思考を巡らしても何の意味も齎さない空絵事であったとしても、そう考えずにはいられなかった。

 とはいえ、そのまま後悔し続ける克己ではない。
 救えたかもしれない命を救えなかった悔しさは、数分後には主催者打倒の為の強い意志へ転じていた。
 ここで挫けてしまっていては、それこそ死んだ者達に申し訳が立たないではないか。
 見据えるべきは未来である――主催を打倒する為にも、こんな場所で立ち止まるつもりは無い。

 問題なのは、同行者であるさやかの方だ。
 彼女は放送が終わった後、目に見えて動揺していた。
 無理もない――死んだ志筑仁美は、さやかの親友の一人だったのだから。

「……よしっ」

 そう掛け声を上げて、さやかが立ち上がった。
 彼女の表情からは、既に悲しみは感じ取れなかった。

「もういいのか?」
「うん、あたしはもう大丈夫」

 失礼な言い方だが、立ち直るのにはもう少し時間がかかると思っていた。
 だが、どうやら克己の心配は杞憂に終わったようである。
 その証拠に、今のさやかから負の感情らしきものはまるで感じられない。

「仁美が死んで悲しいし、さっきだって泣いちゃいそうになったけどさ……でも、今はまだ泣く時じゃないよ」

 泣く時は、真木達を倒して全てを終わらせた後。
 その瞬間までは、前を向いて戦おうと決めたのだ――さやかはそう克己に宣言した。
 無理をした様には見えなかったから、恐らくその意思は本物なのだろう。
 克己がそうであったように、さやかも懸命になって明日を求めているのだ。
 彼との戦いの記憶は、彼女を確かに変えているである。

「それにさ、あたしがクヨクヨするばっかりじゃ、何時まで経っても克己に追いつけないしね」

 そう言って笑いかけるさやかに対し、克己も僅かに微笑んでみせた。

47659【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:42:14 ID:wRxqYHXQ0

【2】


 桂木弥子は、心の何処かで楽観視してたのかもしれない。
 この殺し合いもきっと、いつもの様にあの魔人――脳噛ネウロが解決してくれるのだと。
 何しろ彼は、死ぬ姿がまるで想像も付かない程に強いのだ。
 人知を超えた存在が、人知の範疇にある人間に支配できる訳が無い。
 今回もいつも通りに、ネウロが真木の「謎」を喰って一件落着になるのである。

 そう信じ込んでいたから、目の前の光景が猶更信じられなかった。
 弥子の視線の先にあったのは、最強であった筈の魔人の、見るも無残な屍骸。
 片腕と片足が欠損し、全身が火傷だらけとなったその死体は、彼が如何に無様な最期を遂げたかを物語っている。
 思わず弥子はネウロへと駆け寄るが、それでも彼は何の反応も示しはしない。
 どんな生物であろうが、死んでしまってはただの肉塊――「死人に口無し」とはよく言ったものだ。

「嘘、だよ」

 口から衝いて出た言葉は、否定である。
 目の前に真実があるにも関わらず、弥子はそれを認めようとしない。
 信じがたい光景から目を背ける彼女の行動は、一種の現実逃避と言えた。

「嘘だよ……!だって、そんな……あり得ないよ……。ネウロが……こんな……」

 余程混乱しているのか、出てくるのは曖昧な言葉ばかり。
 その様子からは、彼女のショックが相当なものである事が、容易に理解できるだろう。
 そんな弥子の姿を、アンクは苛立ちの籠った表情で見つめていた。
 あの様子を見るに、死んでいる男は弥子の関係者なのだろう。
 ショックなのは分かるが、だからと言ってずっとこのまま嘆いていられても困る。

「……いつまで嘆いてやがる。そろそろ行くぞ」
「ま、待ってよ……このまま置いてくの……?」
「当然だ。死んだ奴に今更何しようってんだ」

 死者は生き残りに何の得も与えはしない。
 強いて言うのであれば、強い喪失感を与えるだけだ。
 それこそ「死人に口無し」と言うやつで、アンクは無意味な肉の塊などに何の興味も示さなかった。
 ある程度知り合った仲ならまだしも、初対面の他人であれば尚更沸き上がるものがない。

「そいつが誰だろがな、死んだらもう無価値なんだよ。
 それともなんだ、お前が背負っていればそいつは生き返るのか?」

 そんな訳がない――もしそうなったとしたら、どれだけ幸せだろうか。
 だが、そんな奇跡は決して起こり得ない事は弥子だって理解できている。
 だからもう、ネウロは弥子に何も語りかけなどしない。
 如何に魔人であれど、生と死の境界を乗り越えれはしないのだ。

47759【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:43:15 ID:wRxqYHXQ0

 弥子はただ、黙りこくる事しかできなかった。
 アンクの言う事はもっともだ――死者は何も与えないし、何も齎さない。
 死を嘆く暇があるのなら、前を見据えて歩くべきなのだ。
 だが、それを知っていてもなお、歩き出す事に躊躇してしまう。
 最も頼りにしていた魔人の死を目にした瞬間、弥子の自信は粉々に砕け散った。
 彼でさえ打ち勝てない様な強大な敵を、一体どうやって倒せと言うのか。
 そして、その強大な敵さえ監獄めいた空間に閉じ込めれてしまう主催者に、勝てる見込みなどあるのか。
 粉砕された自信から生まれた不安は恐怖、あるいは絶望となり、弥子を浸食していく。
 気付いた頃には、彼女の意志は脆弱なものとなり、自分一人の力だけでは立ち上がれなくなってしまっていた。

「立ち上がる気力も無いのか?」
「……」
「……だったらずっとそうしてろ」

 そう呆れ気味に言って、アンクは踵を返した。
 こうやって見捨てるような素振りを見せれば、どうせこの女は勝手に着いてくる。
 このまま嘆いていたところで埒が開かない事くらい承知しているだろうし、
 自分が進めば彼女もまた歩き出すのだろうと、そうアンクは認識していた。
 もしそれでも立ち上がらないのであれば、弥子の意思とはその程度のものだったという事。
 アンクとしては、彼女が立ち上がろうが立ち上がらなかろうがどちらでも構わなかった。
 着いて行きたいなら勝手に来ればいいし、来ないのならそこまでだ。
 別に、同情しているからこんなチャンスを与えているという訳では断じてないのである。

「……ほお?つまりお前は、この女を見捨てたという訳か」

 ――この場にいたのが二人だけならば、結末は違っていただろう。
 心に傷を負いながらも、それでも弥子はアンクを追いかけた筈だ。
 だが、此処にはまだもう一人の男が存在している。
 一切の情など持ち合わせない邪悪が、アンクの仲間として同行している。
 その男が、果たしてアンク達の行動を見過ごすだろうか――答えは、"否"だ。

「……では、この女の命の炎を奪っても構わんのだろ?」

 いつもと変わらぬ口調、しかし底冷えする様な殺意が込められた声。
 振り向けば、ガイが居た筈の場所に赤い怪人が立っているのが見えた。
 彼から滲み出ている殺気は、他でもない弥子へと向けられたものである。

47859【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:45:14 ID:wRxqYHXQ0

【3】


 どうしてこの男は、桂木弥子を連れているのだろうか。
 アンクと行動を共にしている内に、アポロガイストにはそんな疑問が浮き出ていた。
 当初は「合理的な判断」だと言って流したが、よくよく考えてみれば妙な話である。
 何かしらの特殊能力がある訳でもないし、仮に彼女を赤陣営に引き込んだとして、一体何のメリットがあるのだろうか。
 陣営戦に何ら恩恵を齎さないこの女を同行させているアンクは、胸中で何を考えているのだ?

 浮き出た疑問は、やがて疑念へと姿を変貌させる。
 もしやアンクは、お情けであの小娘を保護しているのではないか。
 陣営の人数など所詮建前でしかなく、実情は弥子が心配だから同行しているのかもしれない。
 そう思うと、途端にリーダーが信用ならなくなってくる。
 本当にこの男は、赤陣営の長を名乗る資格を有しているのだろうか。

 だからこそ、この機会を逃す訳にはいかなかった。
 丁度アンクが弥子を見捨て、前へ進もうとしていたこの瞬間。
 もし此処で自分が彼女を殺そうとしたら、アンクはどの様な反応を示すのか。
 本当に弥子を陣営の頭数程度にしか思ってないのだとしたら、彼女の死に対し何の感情も抱かない筈だ。
 しかし、逆にアンクが動揺したのであれば、それはつまり弥子を仲間と認識していたという事である。
 アポロガイストが求める"リーダー"とは優勝だけを目指す合理主義者であり、
 仲良しごっこに興じる者など、断じて"リーダー"として認める訳にはいかないのだ。

「……なんだと?」

 アポロガイストの言葉を聞いたアンクが、怪訝そうな表情を彼に向けてきた。
 その顔は、唐突に弥子を殺すと宣言したが故のものなのだろう。
 本人にとっても、それは予想外の事態に違いない――やはりこの男は、弥子を仲間と認識しているのだ。

「何故その様な顔をする?貴様、この女の事などどうでもいいのではなかったのか?」
「どうせそいつは他の奴に殺される。別に今殺す必要は無いだろ」

 アンクのその返答を聞くやいなや、アポロガイストは嘲る様に笑ってみせた。
 もっともな事を言っている様に見えるが、このリーダーは弥子を殺されるのを防ごうとしているのだ。
 大方、突き放す様な素振りを見せれば彼女も仕方なく着いてくるだろうと思ったのだろう。
 なんとも甘い発想だ――戦場に立つべき"リーダー"に相応しいとは、とてもじゃないが思えない。

「ほお……?邪魔者は殺すのではなかったのか?随分と甘いのだなぁ、"リーダー"?」
「"リーダー"の命令に文句があるって顔してるな、お前」
「ああそうだ、大いにあるとも!大体、何故貴様はこんな碌な使い道も無い小娘を生かしているのだ!?」
「……ッ!そんな事お前には関係の無い話だろうが!」
「"関係ない"だと!?何もできん餓鬼を連れているだけでどれだけの負担が出ると思っているのだ!」
「もう黙ってろ!"リーダー"の命令に逆らうんじゃねえッ!」

 アポロガイストが反論する度に、アンクの不快感が表面化していく。
 この男は適当な理由を付けて納得させようとしている様だが、その程度で弥子の存在を容認するアポロガイストではない。
 やはりアンクは、弥子に対し少なからず仲間意識を持っていたのである。
 これで確信できた――この男と一緒に殺し合いを勝ち抜くなど、土台無理な話だったのだ。

「フン、どうやら貴様……やはり"甘ちゃん"だったようだな」
「誰が甘ちゃ――――テメェまさか!?」
「察しがいいなアンクよ、貴様の想像通りだッ!」

 アンクがリーダーに相応しくないと判明した以上、彼に服従する必要などあるものか。
 最早この男は、自分が生き残る為に邪魔な障害でしかないのである。

「言った筈だぞ!貴様が"甘ちゃん"だったのなら、そこの小娘諸共始末するとな!
 約束通り……貴様の命の炎も!そしてリーダーの座も!全て奪わせてもらうぞ!」

47959【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:47:11 ID:wRxqYHXQ0

 放出された殺気を感じ取ったのか、アンクも臨戦態勢に移ろうとする。
 彼がどんな武器を所有しているのかは知らないが、どんな装備だろうがパーフェクターの前では無意味である。
 何しろ、パーフェクターで命の炎を吸い取ってしまえば決着は付いてしまうのだ――恐れる必要など、何処にもない。
 心中で余裕を含みながらもパーフェクターを取り外し、アンクから命の炎を奪い取ろうとした、その瞬間。
 どこからともなく現れた大量の毛髪が、アポロガイストの腕に巻き付いてきた。
 見ると、その毛髪は弥子から生えているものではないか。

「あ、あかねちゃん!?」
「ぬお!?なんだこれは……!?」

 アポロガイストが知る由も無いが、弥子には「あかねちゃん」なる生命(?)が支給されている。
 彼女は他人の毛髪と融合する事で毛髪を増幅させ、同時にそれを触手の様に操れるのだ。
 アポロガイストの行動に憤りを示した彼女が、弥子の毛髪と勝手に融合しアポロガイストを妨害しているのである。

 あかねちゃんの毛髪はアポロガイストの手にまで届き、遂にパーフェクターをはたき落す。
 あらぬ方向へ飛んでいったパーフェクターに気を取られている内に、アンクはアポロガイストと距離を取る。
 アンクが向き直した頃には、既にアポロガイストを拘束していたあかねちゃんの毛髪は切り裂かれていた。

「貴様……!よくも私のパーフェクターを!」

 余計な横槍を入れられた事によって、アポロガイストの怒りが頂点に達する。
 パーフェクターが使えない以上、戦闘に持ち込むしか無くなってしまった。
 あれは自分の最強の武器であり、同時に自身の命を繋げる生命線なのだ。
 それを奇襲で奪い取るなど、彼にとっては許し難い所業なのである。

「下賤な毛髪で私に触れおって……赦さんぞ小娘……ッ!」

 アンクを始末した後で弥子の命の炎を頂くつもりであったが、予定は変更だ。
 手始めにこの無礼な小娘を切り裂いてから、その後でアンクからリーダーの座を奪い取る。
 アポロフルーレを取り出し、今もへたり込む弥子をその刃の錆にせんと襲い掛かった。
 しかし、横からアンクに飛びかかられ、アポロガイストの行動は失敗に終わる。

「ええい、どこまでも迷惑な奴なのだ!貴様は一体何なのだ!?」
「俺が何なのか、だと……!?ハッ、見たけりゃ見せてやるよッ!!」

 そう咆哮をあげる様に叫んだ途端、アンクの肉体が変異を遂げる。
 たった一秒もしない内に、彼は鳥を連想させるような赤い怪人へと変貌していた。
 まだ「もう一人の自分」が何処かで眠っている今、自分が全身をグリード態に変化できるか不安であったが、
 どうやらその心配は杞憂だったようだ――泉信吾の肉体を利用すれば、「もう一人の自分」の力を借りずともグリード態になれる。

「来るなら来いッ!ぶっ潰してやるッ!」
「それが貴様の真の姿か……ならば私も、これを使わざるを得んな!」

 アポロガイストは小箱を取り出すと、民家の窓にそれを向ける。
 小箱が映された窓からベルトが出現し、独りでに彼の腰に巻き付いた。

「変身ッ!」

 その掛け声と同時に、カードデッキをバックルに装填する。
 するとづだろうか、アポロガイストは瞬く間に赤い装甲を身に纏ったではないか。

「仮面、ライダー……!?」

 鎧を纏ったアポロガイストを見て、アンクが驚嘆する。
 用いた道具の種類は違えど、その風貌は「仮面ライダー」を想起させるものであった。
 アポロガイストもまた、映司や翔太郎と同じ力を得ていたのである。

「怪人はライダーに滅ぼされるのが似合っているぞ!」
「テメェも怪人だろうがッ!」

 両者の殺気がぶつかり合い、いよいよ戦いが勃発しようとしている。
 そんな中、アンクはまだ近くにいた弥子の姿をちらと見る。
 怪物となった彼を見つめる彼女の表情は、恐怖で引き攣っていた。
 今この場で戦闘を行えば、間違いなく彼女はその巻き添えを食らうだろうだろう。

「……すぐ戻るから大人しくしてろ」

 そう弥子に告げると、アンクは翼を広げ、龍騎に変身したアポロガイストに飛びかかる。
 彼は両手で龍騎を捕獲すると、そのまま何処かへと飛んでいく。
 二人の姿が建物の隠れて見えなくなるのに、そう時間はかからなかった。

48059【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:49:13 ID:wRxqYHXQ0


【4】


 どうすればいいのだろう。
 残された弥子の脳内は、その一言で埋め尽くされていた。
 アンクがアポロガイストと戦闘している中、自分は一人放置されたまま。
 戦っている仲間の助けになりたいが、自分に戦えるだけの力などありはしない。
 ただこうしてじっとしているのが関の山で、それは誰にとっても何の利益も齎さない行為である。
 噛み切り美容師の事件から、自分が何も変わっていない事を痛感した。
 アポロガイストの言う通りなのだ――アンクの為にしてやれる事が、何一つとして見つからない。
 自分は結局役立たずの小娘でしかなく、彼にとって不要な存在なのだろうか。

 そう悲観的になっている時であった――弥子の視界に、見覚えのあるスーツを着た男が姿を現したのは。
 その漫画に出てきそうな奇抜な格好は、紛れもなく"ワイルドタイガー"のものだ。
 堂々と真木に反抗してみせた"正義の味方"が、彼女の前に現れてくれたのである。

 だが、どうも様子がおかしい。
 弥子の視線の先にいる"ワイルドタイガー"の足取りが、実に弱々しいものとなっているのだ。
 やがてその足取りのまま弥子の元に辿り着いた彼は、彼女のすぐ近くにあったネウロの亡骸を見つめ始める。
 弥子の存在などまるで気にも留めないで、彼はじっと死体を見つめ続けていた。

「何だよ、これ。ちょっと待てよ、なんで……なんで死んでるんだよ」

 ネウロの遺体の前で、"ワイルドタイガー"が膝を付く。
 その様子は、まるで彼がネウロの存在を知っているかの様であった。
 この男にとって、魔人の死とはそれほどまでに堪えるものなのか。
 さながら旧知の友を喪ったかの様な態度に、弥子はただただ困惑する。

「大層な台詞吐いた癖に……なんだよそれ……格好悪すぎるだろ……」

 死体の様子からして、恐らくネウロは為す術も無く惨殺されたのであろう。
 あらゆる人間を超越していた魔人が、こんな無様な最期を遂げたなど、弥子にだって到底信じられない。
 だが、目の前の光景は紛れもなく現実のものであり、認めざるを得ない事実である。
 例えそれが、どれだけ残酷なものであったとしても、だ。

「だったら……本気になった俺が……馬鹿みたいじゃないか……」

 その嘆きを聞いた所で、弥子はようやく気付く。
 目の前の"ワイルドタイガー"が、真木に宣戦布告した"ワイルドタイガー"では無い事に。
 今弥子の目の前にいるのは、"ワイルドタイガー"の皮を被った偽物。
 そんななりすなしが可能であり、なおかつネウロを知っている者など、この地には一人しか存在しない。

「もしかして……X……なの?」

 返答の代わりと言わんばかりに、"ワイルドタイガー"は顔を弥子の方に向けた。
 バイザーを開けたマスクの奥にあったのは、ぐにゃぐにゃと形を変えている異形である。
 不気味に変質を続けている彼の顔は、まさしく彼が怪盗Xである事の証明であった。

48159【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:50:29 ID:wRxqYHXQ0

             O            O            O


 ネウロが死んだ。
 どこの誰かも知らない奴に、いつの間にか殺されていた。 
 あれだけ尊大な台詞を吐いておきながら、一人で勝手に死んでいたのだ。

 だが、そんな惨めな奴に負けた自分はどうなる。
 生まれて初めて全力で戦い、最初に敗北を喫した相手が、その程度の男なのだとしたら。
 彼の打倒が目的の一つとなりつつあった自分が、なんと愚かな事だろうか。

 今弥子を殺してしまえば、彼女諸共ネウロを「箱」に出来てしまえる。
 だがどうしてだろうか、目的の達成まであと僅かの所まで来ているというのに、少しも気分が高揚しない。
 それどころか、ネウロの死を知った瞬間、気分がどん底にまで落ちていくのを感じた。
 そんな自分の感情を鑑みて、Xは気付いた――自分はもう、ネウロの中身を見るだけでは満足できない事に。
 彼をこの手で打ち倒した上で「箱」にしなければ、自身の欲望は満たされないのだ。
 自分を打ち負かした男にリベンジする事で、初めて 自分は目的を達成できたと言えるのである。
 だが、それに気付いた頃には手遅れだった。
 ネウロはいつの間にか死亡し、Xだけが取り残される形になったのである。

 思えば、目が覚めた直後はなんと清々しい気分だったのだろう。
 新たな目標を見つけた瞬間、世界がこれまでとはまるで違う様に思えた。
 ATMからメダルを調達し、生まれ変わった様な感覚でこの地を駆けようとしていたのだ。
 そうなる筈だったのに、それなのに――どうして、こうなった。

「あ、あの」

 絶望の淵に沈むXに、弥子が何か言いたげな様子だった。
 何を考えているかなど見当も付かないが、とりあえず聞くだけ聞いてみよう。

「何さ、言いたい事があるならハッキリ言いなよ」
「え、えと……その……お願いが……あるの……」

 弥子曰く、仲間が襲われているから力になって欲しいらしい。
 自分の力ではどうにもならないし、頼れるのはこの場にいるXしかいない、という事だ。
 何故犯罪者である自分にそんなお願いをするのか、一瞬不可解に思ったが、少し前の彼女との邂逅を思い出して納得する。
 既に殺人を行っている身であるが、自分は決して殺し合いに乗っている訳ではないのだ。
 あくまで自分の欲望に従っているだけであり、真木の言いなりになるつもりなど在りはしないのである。
 そういう事情を知っていたからこそ、弥子はXに頭を下げれたのだろう。
 本人が殺し合いに対し否定的なら、自分の願いを聞き入れてくれるかもしれない――そんな僅かな可能性に賭けたに違いない。

48259【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:51:13 ID:wRxqYHXQ0
「……嫌だよ。なんでオレが厄介事に首突っ込まなきゃならないのさ」

 いつもの調子であれば、乗っていたかもしれなかった。
 だがしかし、最低な気分になっている今となっては、そんな依頼を受ける気力など何処にもない。
 「箱」の事も、自分の正体の事も、今この瞬間だけはどうでもよくなっていた。
 今はただ、誰にも関わらずに一人で時間の経過を待っていたかったのである。
 しばらく時間が経てば、きっと受けたショックも和らいでいる筈だ。

 拒絶された弥子は、目に見えて項垂れていた。
 自分の様な犯罪者に協力を頼む辺り、相当切羽詰っていたのだろう。
 だがそんな事、自分にとっては関係の無い話である。
 とにかく今は、何事にも干渉するつもりは無かった。

 そんな時、道端に放置されていた白色の物体を、Xの視線が捉えた。
 確かあれは、アポロガイストが所有していたものである。
 「もう一人のアンク」から奪い取った詳細名簿に、パーフェクターについての記述があった。
 アポロガイストが所有している道具であり、それを使えば人間から生命力を吸収する事が可能らしい。
 彼はパーフェクターを使用する事で、僅かな寿命を永らえさせている――そういった内容が、詳細名簿には書かれていた。

 弥子もXの視線の先にあった物に気付いた様で、それに駆け寄って手にしてみる。
 彼女はそれをまじまじと見つめると、その後にXへ問いを投げかけてきた。

「これを使って、"命の炎"ってものを奪うんだよね?」
「よく知ってるね。確かにアンタの言う通り、そいつは生命力を奪い取る事ができる」
「それなら、他の人に生命力を分け与える事もできるんじゃ……」

 それを聞いて、Xは弥子の目的を察した。
 恐らく彼女は、パーフェクターを利用してネウロを蘇生させるつもりなのだ。
 確かに傷を治癒できる量のメダルと"命の炎"があれば、それは可能かもしれない。 

「出来るだろうね。でもさ、誰から生命力を供給するっていうのさ?」

 Xの言う通り、蘇生させようにも、生命力をどこから調達するのかが問題である。
 ネウロを生き返らせるのにどれだけの"命の炎"が必要なのかは不明瞭だが、
 例えどれ程の量であったとしても、"命の炎"を奪い取る対象の存在が必須なのだ。

 この場にいるのは弥子とXだけで、他の人間の気配は全く感じない。
 他の場所に移動して他の参加者から奪うという手もあるにはあるが、
 生命力を奪う以上、対象やその仲間とトラブルが起こるのは間違いないだろう。
 そんな状況で、一体どうやって"命の炎"を調達するというのか。

 そう内心で嘲け笑っていた、その時であった。
 弥子が、何か決意をした様な表情でXに向けてこう言ったのである。



「ねえ、X。もしも私が"命の炎"をネウロにあげるって言ったら……私のお願い、聞いてくれる?」

48300【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:54:53 ID:wRxqYHXQ0

【5】


「……本気で言ってるの?それ」

 Xのその質問に、弥子は首を縦に振ってみせた。
 彼女の宣言は、彼にとっても予想外なものであった。
 自分の命を削りかねないというのに、彼女には何の躊躇いも無かったのである。
 ネウロに操られる人形だとしか認識していなかったが、一体どこにそんな勇気があるのか。

「死ぬかもしれないんだよ?大体、生き返るかどうかも分からないんだし」
「それでも、やってみる価値はあると思うの」

 もし成功したら、その時はアンクの助力をして欲しい。
 付け加える様に、弥子はそう言ってみせた。

「なんで……そこまでしてネウロを生き返らせようとしたいのさ」

 Xだって、今ネウロが蘇ってくれたらどれだけ幸福だろうか。
 だが、そんな都合の良い話なんて滅多に起こらないのが世の常であり、
 そんな命懸けのギャンブルに挑むなど正気の沙汰ではない。
 どの様な意思が、彼女をそこまで駆り立てるのだろうか。

「……私……今までずっとアンクや杏子さんの後ろを歩くばっかりで……これまで何もできなかった……」

 ぽつりぽつりと、弥子が理由を述べていく。
 確かに、これまでの弥子はアンク達に護られてばかりで、彼らの為に何一つ貢献できていない。
 杏子の肉体を復活させる事だってまだ未達成だし、そもそもあれはXにソウルジェムを渡されていなかったら不可能た。
 結局の所、弥子はまだ誰かの役に立っていないのである。

「だから……もし誰かの為にできる事があるなら……私……それに賭けてみたいの」

 殺し合いの犠牲者が出る度に、何もできない自分が嫌になって。
 そんな、何の役にも立ててない自分を変えたかった。
 そして今、弥子の目の前にはその願望を叶えるチャンスがある。
 例え賭けの範囲の話であったとしても、誰かの為になれるなら、その可能性に縋りたい。

「…………やっぱり信じられないよ……ネウロが……ネウロが、死んじゃうなんて……そんなの、認めたくないよ……!」

 そして何より――ネウロに死んでほしくなかった。
 あんなサディズムの塊の様な魔人だが、それでも一緒にいて悪い気はしなかった。
 突然転がり込んで、いつの間にか弥子の日常の一部になっていたのである。
 辛い事もある――というか辛い事ばかりある生活だが、それでもその"日常"が壊れてほしくなかったのだ。

「それに……私なんかがいるより……ネウロが生きてた方が……きっと、皆の為になると思うの……だから、ね」

 無理やり作った笑顔から紡がれた言葉は、震えていた。
 やはり彼女は、これから起こる事に恐れを抱いている。
 だがしかし、彼女が言った事は紛れもなく本心であり、本気で自分の命を賭けるつもりなのだ。

「……ふーん、そっか」

 ゆっくりと、Xが立ち上がる。
 まるで幽霊の様に緩慢に、弥子がいる方向へ顔を向ける。
 バイザーの奥にあったのは――口元に三日月を浮かべた"X"の顔だった。

「だったら、アンタの御言葉に甘えさせてもらうよ」

 その瞬間、Xは持ち前の瞬発力で弥子に飛びかかる。
 何が起こったのか理解する前に、彼女の意識は暗転するのであった。

48400【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:55:54 ID:wRxqYHXQ0

【6】


 弥子のいた場所から少しばかり離れた場所で、龍騎とアンクの勝負は繰り広げられていた。
 ここならば巻き添えを食らう者がいないからか、アンクも存分に戦う事ができる。

 ドラグセイバーによる斬撃を、アンクは手にした「aegis=L」で受け流す。
 シナプスで製作された防具だけあって、耐久力は一級品のものだ。
 これがあるお陰で、アンクは未だ斬撃を食らわずに済んでいるのである。
 アンクの方も、クリュサオルで龍騎の装甲に傷を付けようとするのだが、彼の立ち回りも中々のもので、一向にダメージを与えられない。
 流石は大組織の幹部だけの事はある――実に気に喰わないが、敵の実力を認めざるを得なかった。

 このままでは埒が明かないと判断したのか、龍騎は一旦後退し、カードデッキからカードを一枚取り出す。
 そして、黒い剣が描かれたそのカードを、左腕に取り付けられたガントレット――ドラグバイザーに差し込んだ。

 -SOWRD VENT-

 これまで太刀一本でアンクと戦っていた龍騎が、ここで二本目の太刀を召喚した。
 今まで獲物としてきたドラグセイバーと色違いのそれは、仮面ライダーリュウガが使う剣である。
 本来ならば龍騎が使用する武器ではないのだが、ドラグブラッカーとの契約によって使用可能になったのだ。

 二刀流になった事により、龍騎の攻撃は激しさを増した。
 流石にアンクも余裕が無くなってきたのか、徐々に防戦一方となってくる。
 しかし、ただ攻撃に晒され続けるのを容認する程、アンクは我慢強くは無い。
 一瞬の隙の内に火球を龍騎に向けて発射し、彼を吹き飛ばす。
 そうする事で、アンクは敵と距離を取る事に成功するのであった。

「フン……流石グリードといった所か」

 龍騎が、そんな事を言いながら起き上がる。
 彼のその様子からして、まだ余力は十分残っているようだ。
 だがそれはアンクの方も同じで、この程度ではほとんど疲労していない。

 このまま戦い続けていれば、恐らく先に音を上げるのは龍騎の方だろう。
 明確な根拠は無いが、今のアンクにはそう思えてしまう程の自信があった。
 何しろ、火災現場跡でメダルを拾ってから、すこぶる体の調子が良いのである。
 今のコンディションならば、どんな局面だろうが切り抜けられる筈だ。
 そんな慢心とすら言える感情が、アンクにはあったのだ。

 何にせよ、アンクはこの戦いで負けるつもりなど毛頭ない。
 陣営を奪われない為にも、必ず勝利しなければならないのだ。
 だがそれは、龍騎とて同じ事である――彼も陣営を手にする為に、全力でアンクを潰しかかっている。

48500【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:58:11 ID:wRxqYHXQ0

 -AD VENT-

 龍騎がカードをバイザーに差し込んだと同時に現れるのは、真紅の東洋龍――ドラグレッターである。
 咆哮を上げると、龍はアンクに向けて、口から火炎弾を発射した。
 アンクはグリードとしての身体能力とイージスを駆使する事で、どうにか直撃を回避する。
 火炎弾は全て地面と衝突し、それらは爆発して周囲を煙で満たしていった。
 アンクの視界も同様に煙で充満しており、それを利用した奇襲を警戒した彼は、空へと飛翔する。

 -FINAL VENT-

 その電子音が鳴り響いた直後、アンクは目を見開いた。
 彼の視線の先にあったのは、自身と同じ目線になる位置まで浮遊する龍騎と、二体の東洋龍である。
 赤と黒の双龍は、宙に浮かんでいく龍騎の周りを飛んでいる。
 そして、アンクが瞬きしたその瞬間――龍騎の渾身の蹴りが炸裂した。
 滞空している今のアンクに、それを回避する術はない。
 真正面から受け止める以外に、彼に出来る事は無いのである。
 構えた「aegis=L」が、龍騎の必殺の一撃と激突する。
 ダメージは受けなかったものの、生じた衝撃までは吸収できず、バランスを崩したアンクは弾き飛ばされる様に地面に衝突した。

 手放してしまった武装を取り戻す為と、アンクは起き上がろうとする。
 しかし、彼が立ち上がるより早く、目の前に現れた龍騎の腕が、彼の肉体を貫いた。
 肉体の内部を弄られ、激痛がアンクの全身を駆け巡る。
 元々高い龍騎のスペックに、アポロガイストの戦闘技術が加わっているのだ。
 腕の力だけでグリードの肉体を貫く事は、彼には十分可能なのである。

「……ほお?グリードの肉体とはこうなっているの――かッ!」

 龍騎が勢い良く腕を抜き取ると、セルメダルが周囲に飛び散った。
 アンクの体内を弄っていた龍騎の左手には、二枚のメダルが握られている。
 それら二枚はいずれも、鳥類の絵柄が目立つ赤色の物であった。

「……!?俺のメダル……返せ……ッ!」
「返せと言われて返す奴がおるか、馬鹿者め」

 嘲る様にそう言ってみせると、龍騎は首元にメダルを放り投げる。
 どうやらライダーの装甲の上からでも首輪は機能してくれるようで、
 二枚のコアメダルはそのまま龍騎に吸い込まれていった。

「雌雄は決したな……どうだアンクよ、命乞いをすれば助けてやらん事もないぞ?」
「ッ!ふざけんな!誰がテメェなんかに媚びるかッ!」
「だろうな――では、潔く死ぬがいいッ!」

 龍騎が、手にしたドラグセイバーを振り上げる。
 この一撃でアンクの脳天をかち割り、とどめを刺す気でいるのだ。
 だがしかし、腕を振って軌道をずらせば、攻撃の回避は十分可能である。
 何が「雌雄は決した」だ。戦いは始まったばかりではないか。
 必ず勝ってみせる――まだこんな場所で、呆気なく消滅するする訳にはいかない!

48600【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 01:59:33 ID:wRxqYHXQ0

 アンクが右腕を振るおうとした、その瞬間。
 龍騎の影が、何の前触れもなく消失した。
 いや、消失したのではない――何者かによって殴り飛ばされたのである。
 龍騎の代わりにアンクの傍にいたのは、この場にいる誰もが知る存在であった。

「貴様は確か……ワイルドタイガーか!」
「覚えてくれてたか、そりゃ嬉しいぜ」

 殴り飛ばされた龍騎が、その男の名前を呼んだ。
 "ワイルドタイガー"――この殺し合いにおいて、堂々と真木に反抗してみせた命知らずだ。
 こんな都合の良いタイミングで現れるとは、流石"ヒーロー"を自称するだけの事はある。

「なんだ貴様は……私に二人ががりで戦いを挑むつもりか?」
「……ああ、それなんだけどよ」

 そう言うと、"ワイルドタイガー"は龍騎に向けてある物を見せつけた。
 反れたその白い物体は、龍騎――もといアポロガイストの生命線となる道具である。

「そ、それは、パーフェクターではないか!今すぐそれを私に渡すのだ!」
「やっぱアンタのか。返してやってもいいぜ……ただし、一旦お前が身を引くってのが条件だけどな」
「……!?お前何勝手に決めてんだ!?」

 "ワイルドタイガー"が出した交渉に、アンクが思わず動揺する。
 まだ十分戦えるというのに、あえて相手を逃すなど馬鹿のやる事だ。
 それなのに、一体この男は何を考えているのだ。
 "ヒーロー"の立場であれば、此処は加勢するのが普通ではないのか。

「……良かろう、今日の所は見逃してやるのだ」
「よし、交渉成立ってワケだな」

 アンクの事などお構いなしに、"ワイルドタイガー"がパーフェクターを放り投げる。
 投げられたそれは、くるくると身を回しながら龍騎の元に渡るのだ。
 パーフェクターが彼の頭上近くまで近づいたその瞬間――鳴り響いたのは、一発の銃声だった。
 飛んできた弾丸はパーフェクターに見事直撃し、ばらばらになった欠片が地面に散らばる。
 アンクが自身の武器であるシュラウドマグナムで、龍騎の手に渡りかけていたパーフェクターを破壊したのだ。

 一瞬だけ、世界を沈黙が支配した。
 交渉を行った二人は、ただ茫然とする他無かった。
 ただ一人――銃口を龍騎に向けたアンクだけが、冷静に敵の姿を見据えている。

「ぱ、パぱ、ぱ、パぱパ、ぱぱ、ぱぱぱパ、パ、パパぱ、ぱ、パ、パパ、ぱ」

 アンク達の事などお構いなしに、龍騎は突然"ぱ"の一文字を連呼し続ける。
 恐らく"ぱ"から続く単語を言いたいのだろうが、驚愕のあまり呂律が回っていないのだ。
 しばらくすると"ぱ"の連呼は止み、僅かな静寂を挟んだ後に、龍騎は叫ぶ。

「パーフェクターがぁああぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 パーフェクターが、アポロガイストの生命の源が、破壊された。
 彼はこれを使って相手の生命力を吸い取り、短い寿命を延ばしているのだ。
 これが破壊されたという事は、つまりもう生命力の吸収は不可能となったという事である。
 もう寿命を延ばせない――これまで朧気だった"死"が、現実味を帯びた瞬間であった。

 落ちた破片を拾い集め、必死になって元の形に戻そうとする。
 そんな事で復活する訳もなく、パーフェクターはすぐにばらばらになってしまう。
 数回ほどそういう無駄な作業を繰り返した後に、龍騎は顔をあげてアンク達を見据えた。
 彼の表情は仮面に隠れて窺い知れないが、怒り狂っているのは間違いないだろう。

「よくも……よくもパーフェクターを破壊してくれたなッ!」

 龍騎にとって、アンクは仮面ライダー以上に憎たらしい存在となっていた。
 これまで自分の人生を支えてきた道具を破壊されたのだから、無理もないだろう。

48700【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 02:00:33 ID:wRxqYHXQ0

「最早あの小娘の事などどうでもいいッ!貴様が一番腹立たしいぞ、アンクッ!」
「そいつはありがたい話だな」

 パーフェクターを破壊したのは、アンクがそれに対し危機感を抱いていたからである。
 臨戦態勢に移った際に、アポロガイストはパーフェクターを頭部から外していたのだ。
 それを見れば、あの道具が戦闘面で役立つものだと判断するのは容易である。
 だからこそ、彼にさらなる力を与えるであろうパーフェクターを再度使用させる訳にはいかなかったのだ。

「俺を無視して話進めるからそうなるんだ……で、どうするんだ?タイガーの方は知らんが、俺はまだ戦えるぞ」
「……ッ!今日の所はここで勘弁してやるのだ……!」

 パーフェクターを破壊され、更に二対一という人数差。
 流石にこの状況で戦うのは無理と判断したのか、龍騎はあっさりと負けを認めた。
 こういう場面で冷静になれる辺り、間抜けそうに見えても組織の幹部なのだろう。

「だが忘れるな!私は貴様らにとって大迷惑な存在である事を!次に会った時こそが、貴様らの最期となるのだッ!」

 古典的な悪役の台詞を吐いて、龍騎は鏡の世界に逃げ込んだのであった。


【7】


「……礼は言わねえぞ」

 アポロガイストが去った後、沈黙を破ったのはアンクであった。
 その言葉は、他でもない"ワイルドタイガー"へと向けられたものである。

「いやいいって、そんなもん最初から求めてねえよ」

 アンクの無礼な発言に対し、彼は不快感さえ混じらせずにそう言ってみせた。
 最初の会場で思った通り、この男は映司の様に無償で人助けをする奴なのだろう。
 命を賭ける場面が訪れたとしても、平気で自分の命を天秤にかけるに違いない。

「アンタの連れの桂木弥子って娘に頼まれてな。
 困ってる奴を助けるのは"ヒーロー"として当然だろ?」
「……またアイツか」

 どうやらこの男が来たのも、弥子の差し金らしい。
 映司の件といい、どうもあの女は横槍を入れるのが好きなようだ。
 尤も、彼女のお陰で窮地を救われた事があるのもまた事実。
 その点については、あの甘い女を少しは褒めてやってもいいかもしれない。

「俺はアイツの所に戻る。お前は……好きにしろ」

 本来ならば、主催の打倒を狙う"ワイルドタイガー"はアンクにとっては邪魔者だ。
 一応優勝を狙うつもりでいる以上、彼は早めに排除しておくべき存在だろう。
 だが、もし仮に"ワイルドタイガー"を始末したとしたら、弥子は何と言うだろうか。
 きっと酷く怒るだろうから、また下らない事でストレスを溜める羽目になりかねない。
 だから、不本意ながら助けられた礼として、一度は見逃してやってもいいだろうと考えたのだ。
 別に情が沸いた訳ではない。これも考えあっての行動なのである。

 アンクは踵を返し、翼を広げ飛翔しようとする――が、彼が空へ羽ばたく事は無かった。
 "ワイルドタイガー"の拳が、彼の身体を背中から貫いていたからである。

「ガッ……ァ……!?」
「こうやって腹をブチ抜けば、コアを取り出せるんだろ?
 ……コア一枚にセルを五十も使ったんだし、これ位のお釣りは貰わないとなァ」

 その言葉で、アンクは事の真相に気付く。
 この男が都合の良いタイミングで来れたのは、最初から待ち伏せをしていたからだ。
 それまで飛び込もうとしなかったのは、コアメダルを奪う方法、あるいはタイミングを見計らう為か。
 交渉を行ったのも、本当は手っ取り早く戦闘を終わらせたかったからに違いない。
 何にせよ、アンクは騙されたのだ――"ヒーロー"の皮を被った怪物の存在に、気付けなかった。

 "ワイルドタイガー"が手を引っ込めると、急激に全身から力が抜けていった。
 グリードとしての姿は保てなくなり、元の泉信吾の肉体に戻ってしまう。
 今体内に存在するコアメダルは四枚――ウナギとカマキリの二枚を奪われてしまったのである。

「殺しはしねえさ、あの娘から"助けてくれ"ってお願いされてるしな」

 「助けてくれ」と頼まれたが、それは決して無事を保障する訳ではない。
 馬鹿げた屁理屈であるし、そんなふざけた解釈をした"ワイルドタイガー"を今すぐ殺してやりたいが、
 力を奪われた今となっては、どれだけ殺意を抱いても無駄な話である。

48800【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 02:01:33 ID:wRxqYHXQ0

「じゃあなアンク、生きてたらまた会おうぜ」
「待て……待ちやが……れ……ッ!」

 どれだけ願えど、"ワイルドタイガー"との距離は遠くなっていく。
 おまけに、奴は落ちていたクリュサオルと「aegis=L」、そして先程の攻撃で放出されたセルメダルをしっかり回収しているのだ。
 幾ら怒気を孕めようが、最早何の意味も無い事は重々承知だが、それでも激怒せずにはいられない。

「許さねえぞ……ワイルド……タイ、ガー…………ッ!」

 "ワイルドタイガー"が去った今、残されたのは屈辱感に悶えるアンクのみ。
 スーツの内側でほくそ笑む怨敵の本性には、まだ彼は気付けない。



【一日目 深夜】
【E-4 路上】

【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、覚悟、屈辱感、仮面ライダーへの嫌悪感
【首輪】130枚:0枚
【コア】タカ(感情A)、クジャク:1、コンドル:1、カンガルー
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
    大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。その後、赤陣営を優勝させる。
 0.ワイルド……タイ、ガー……ッ!
 1.優勝はするつもりだが、殺し合いにはやや否定的。
 2.もう一人のアンクのメダルを回収する。
 3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
【備考】
※本編第45話、他のグリード達にメダルを与えた直後からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て「泉信吾の肉体」に取り込んでいます。

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】疲労(中)、鏑木・T・虎徹の姿に変身中
【首輪】220枚:0枚
【コア】タカ(感情L):1、カマキリ:1、ウナギ:1
【装備】ベレッタ(8/15)@まどか☆マギカ、ワイルドタイガー1minuteのスーツ@TIGER&BUNNY
    超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品一式×4、詳細名簿@オリジナル、{“箱”の部品×28、ナイフ}@魔人探偵脳噛ネウロ、アゾット剣@Fate/Zero、
    ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、佐倉杏子の衣服、ランダム支給品0〜1(X:確認済み)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
 1.今は『ワイルドタイガー』として行動する。
 2.下記(思考4)レベルの参加者に勝つため、もっと強力な武器を探す。
 3.バーサーカーやセイバー、アストレア(全員名前は知らない)にとても興味がある。
 4.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
 5.阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
 6.殺し合いそのものに興味はない。
【備考】
※本編22話終了後からの参加。
※能力の制限に気付きました。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※アゾット剣は織斑一夏の支給品でした。
※タカ(感情L)のコアメダルが、Xに何かしらの影響を与えている可能性があります。
 少なくとも今はXに干渉できませんが、彼が再び衰弱した場合はどうなるか不明です。

48900【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 02:03:41 ID:wRxqYHXQ0

【一日目 深夜】
【?-?】

【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(小)、ダメージ(中) 、精神疲労(大)、絶望
【首輪】60枚:0枚
【コア】パンダ、タカ(十枚目)、クジャク:1
【装備】龍騎のカードデッキ(+リュウガのカード)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:参加者の命の炎を吸いながら生き残る……筈だったのだ……。
 1.???
 2.リーダーとして優勝する為にも、アンクを撃破して陣営を奪う。
 3.ディケイドはいずれ必ず、この手で倒してやるのだ。
 4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。
※龍騎のデッキには、二重契約でリュウガのカードも一緒に入っています。
※パーフェクターは破壊されました。

49000【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 02:08:30 ID:wRxqYHXQ0






































『……たまえ』



『起きたまえ』



『君の貪欲な脳は、その程度で諦めるのか』



『我を滅ぼした頭脳は、こんな所で生存を放棄するというのか』



『膳立ては既に出来ている……後は君が目覚めるだけだ』





『さあ起きたまえ、脳細胞(ニュートン)の申し子よ――――!』







【8】

49100【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 02:09:30 ID:wRxqYHXQ0



 ――弥子達は、パーフェクターを用いれば蘇生が可能ではないかと推測したが、それは相当難しいだろう。

 外部から与えられた傷が原因で死亡したのだから、その傷を修復しない限りは、いくら生命力を与えようが瞬く間にそれは減衰していく。
 射殺されたのなら銃痕を消し去り、胴を断ち切られたのなら泣き別れになった肉体を繋げねばならないのだ。
 もしそういった手当をしなければ、仮に"命の炎"を吹き込んで蘇生させたとしても、死の瞬間の苦痛を味あわせた末に再び死亡させるのがオチである。
 そんな事情もあって、仮に"命の炎"を与えたとしても、本当の意味で生き返るのは、死体がほぼ損傷のない状態の者か、自己再生能力を持った者だけなのだ。
 だが、仮に自己再生能力を持っていたとしても、死んでいる以上「死亡してしまう程の傷」を負っているのは間違いない。
 その傷を癒すには、再生能力の高さは勿論、大量のメダルが必要不可欠になってくる。
 それ故に、"命の炎"を用いての蘇生はかなり厳しいと断言してしまってもいいのだ。

 さて、ネウロの制限は少々特殊で、所持しているメダルの枚数がそのまま魔力の量に換算される。
 セルメダルを百枚所持していればDRを叩きのめした頃と同程度に、十枚所持していれば衰弱しきった状態になるのだ。
 メダルを失えば失うほど、ネウロは弱体化していくという訳だ。
 だがこれは、逆に言えば"メダルが百枚を超えれば強化されていく"という事でもある。
 当然、魔力が増えるほど戦闘能力、そして再生能力も上昇していく。
 命の炎を与えられた後にネウロに渡されたセルメダルは、弥子の120枚とXの30枚、そしてコンドルのコアメダルが一枚。
 総数200枚に匹敵する量のメダルは、ネウロに著しい魔力の増幅を促した。
 無残なまでの肉体の損傷は見る見る内に回復し、戦う為の気力が湧き上がる。
 しかし、ネウロの復活を約束させるのにはまだ足りない――さらに傷を癒す必要があった。

 だが、どういう運命の吹き回しなのか。
 偶然にも彼を発見したのは、治癒魔法に特化した魔法少女である美樹さやかだった。
 瀕死の状態にあったネウロを見つけた彼女は、すぐさま駆け寄って治療を行う。
 それによって肉体の再生はさらに加速し、その結果――――。

「……意識が戻った!」

 意識を取り戻してから最初に耳にしたのは、聞き覚えのない少女の声であった。
 眼を開いてみると、青髪の少女が自分に何かしているのが見える。
 穴の開いた胸部で淡い青色の光が煌めいており、そこの痛みは徐々に引いてきている。
 察するに、この光は怪我を治癒する効果があるらしい。

 段々と、これまでの記憶を思い出してきた。
 自分は確か、ウヴァにいいようにやられた末に体内から焼き殺されたのである。
 思えば、自嘲したくなる程に無様な最期であった。
 あのような馬鹿に命を刈り取られるなど、過去最大級の失態だ。
 あの虫頭だけは、次に出会ったら徹底的に拷問してやらねば気が済まない。
 二度と自分に歯向かえない奴隷に仕立て上げれば、鬱憤も多少は下がるだろう。

 それにしても、どうして自分はこうして現世に存在していられるのだろうか。
 特に自分から何かした訳でもないというのに、一体何が起こっているのか。

 周囲を見渡してみると、黒いジャケットの男が目に入ってきた。
 それ以外にも、男のすぐ傍で横たわっている少女が一人。
 その金髪の少女は、ネウロが地上にやって来てから、恐らく最も長い時間を過ごした者だった。
 大方、空腹のあまり行き倒れてしまったとか、そういう下らない事情があったのだろう。
 あの娘が次に目覚めたのなら、どんな暴言で責めてやろうか。
 そんなとりとめも無い事を、考えている最中だった。

「……脈が無い。こいつはもう死んでる」

 そんな言葉が、耳に入ってきた。
 横たわる弥子の脈が、既に消えていると。
 治癒を行っていた少女の手が止まり、表情に嘆きが浮かび上がる。
 男の方も、自分の無念さを体現する様に顔を顰めてみせた。

49200【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 02:12:17 ID:wRxqYHXQ0

 だが、ネウロとしては二人の反応などどうでもいい。
 弥子の脈が無いというただ一点だけが、彼の心を大きく揺さぶっていた。


 桂木弥子が、死んだ。
 もう二度と、口を開く事は無い。


 弥子がそうであった様に、ネウロもまた楽観視していた。
 自分の助手がそう簡単に死ぬとは思えないなどと、高を括っていたのだ。
 だが、現に弥子は死んだ事で、それが甘い推測である事を思い知らされた。

 治癒された筈の心が痛む。
 その痛みは、ウヴァに惨殺された屈辱感と、弥子の死を知った喪失感から来るものか。
 自身の奥の手を封じられたXは、こんな感覚を味わっていたのだろうか。

 そうか、ようやく理解できた。
 この失意が、この苦しみこそが――――。




「――――これが、敗北か」





【一日目 深夜】
【E-4 住宅地】
※脳噛ネウロの左腕と右足が本人の近くにあります。

49300【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 02:16:07 ID:wRxqYHXQ0

【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】15枚:0枚
【コア】ワニ
【装備】T2エターナルメモリ+ロストドライバー+T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW、
【道具】基本支給品、NEVERのレザージャケット×?−3@仮面ライダーW 、カンドロイド数種@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
 0.重傷を負った男(ネウロ)から詳しい話を聞く。
 1.さやかが欲しい。その為にも心身ともに鍛えてやる。
 2.T2を任せられる程にさやかが心身共に強くなったなら、ユニコーンのメモリを返してやる。
 3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡す訳にはいかない。
 4.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
 5.園咲冴子はいつか潰す。
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピア・ドーパント撃破直後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※仮面ライダーという名をライダーベルト(ガタック)の説明書から知りました。ただしエターナルが仮面ライダーかどうかは分かっていません。
※魔法少女に関する知識を得ました。
※さやかの事を気に掛けています。
※加頭順の名前を知りません。ただ姿を見たり、声を聞けば分かります。
※仮面ライダーエターナルブルーフレアのマキシマムドライブ『エターナルレクイエム』は、制限下においてメダル消費60枚で最大の範囲に効果を及ぼします。
 エターナルレクイエムの『T2以外の全てのガイアメモリの機能を永久的に強制停止させる』効果は、最大射程距離は半径五キロ四方(エリア四マス分)となります。
 また発動コストにセルメダル10枚が設定されており、それ以上メダル消費の上乗せをせず使用すると、半径二千五百メートル四方(エリア一マス分)に効果を及ぼします。
 なお、参加者個人という『点に対して作用する』必殺技としての威力は、メダルの消費数を増減させても上下することはありません。
 メダル消費量で性能に制限を受けるのは、あくまでMAPの広範囲に『面として作用する』ガイアメモリの機能停止に関する能力だけです。

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】20枚:0枚
【コア】シャチ(放送まで使用不可)
【装備】ソウルジェム(さやか)@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW、ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
 0.傷だらけの人(ネウロ)を治す。
 1.克己と協力して悪を倒してゆく。
 2.克己やガタックゼクターが教えてくれた正義を忘れない。
 3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
 4.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
 5.マミさんと共に戦いたい。まどかは遭遇次第保護。
 6.暁美ほむらや佐倉杏子とは戦わなければならない。
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのか、また濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVERに関する知識を得ました。

49400【ひづけ】 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 02:18:48 ID:wRxqYHXQ0
【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、右肩に銃創、右手の平に傷、全身に火傷(以上、全て再生中)
    疲労(極大)、左腕&右足切断、弥子の死に対する動揺
【首輪】60枚(消費中):0枚
【コア】コンドル:1(放送まで使用不可)
【装備】魔界777ツ能力@魔人探偵脳噛ネウロ、魔帝7ツ兵器@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす。
 0.???
※DR戦後からの参戦。
※ノブナガ、キュゥべえと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
 現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」を使用しました。
※制限に関しては第84話の「絞【ちっそく】」を参照して下さい。



【9】


 目覚めて早々、自分は死ぬのだな、と思った。
 もう目を開けるのさえ億劫で、瞼を閉じればすぐに眠りについてしまうだろう。
 もし眠ったとしたら、きっともう二度とは目覚めない事も理解できていた。

 恐らく、気絶させられた後に、パーフェクターで"命の炎"を根こそぎ奪われたのだろう。
 それを行ったのは他でもないX本人である事など、推理しなくても分かっている。

 後悔なんて、ある訳ない――なんて事は決して無く。
 やりたい事は山ほどあったし、それを成し遂げれなかった悔しさだって相当のものだ。
 だが、それら以上に大きかったのは、ただ一つの事柄への不安であった。
 "命の炎"が奪った後、Xはどうしたのだろうか。
 もうこの場にいない彼は、果たしてネウロに"命の炎"を与えたのか。 
 今はただ、そればかりが気がかりであった。

 頭を僅かに動かして、ネウロの方に目を向ける。
 そこにあったのは、僅かではあるが呼吸をしているネウロの姿だった。
 ああ、良かった――Xはちゃんと、約束を果たしてくれたのか。

 本当なら、ネウロが目覚めるまで起きていたかった。
 一言だけでもいいから、彼と言葉を交わしたかった。
 だが、そんな意思などお構い無しに、身体は睡眠を欲し続ける。
 きっとあと数分も経たない内に、自分は睡魔に負けるのだろう。
 名残惜しいが、そればっかりはどうにもならない運命であった。

「……ネウ、ロ」

 思い出されるのは、ネウロとの最後の会話。
 お前の日付はいつになったら変わるのかと、淡々とした口調でそう言われた。
 あの言葉は、今まで受けたどんな暴言よりも自分の心に重く響いていた。

「私の、日付……変われた、かな?」

 この瞬間に、自分はあの頃から少しは変われただろうか?
 自分の中にある時計の針を、1ミリでも動かせれただろうか?
 それを知る術がないが、変わっていれば嬉しいな、と。
 自分の行いが、僅かでも希望となってくれれば幸せだ、と。
 それだけを願いながら、弥子は深く長い眠りに就く。



 ――――それっきり、彼女が目を開く事は無かった。




【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ 死亡】





※桂木弥子の遺体の傍に以下の支給品が放置されています。
 「基本支給品一式、桂木弥子の携帯電話+あかねちゃん@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)@魔法少女まどか☆マギカ、
  魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero、赤い箱(佐倉杏子)」

495 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/14(土) 02:19:29 ID:wRxqYHXQ0
投下終了です。

496名無しさん:2013/09/14(土) 02:49:41 ID:42xMs8P.0
投下乙です
まさかのネウロ復活!けど代わりに弥子がここでリタイアするとは…
Xのせいでタイガーの悪評も拡がりそうだ
そしてかっこいい感じになってたアポロさんもこれはピンチだなw

497名無しさん:2013/09/14(土) 09:36:25 ID:bJ/2eJPA0
投下乙です。
ここでネウロが復活した! だけど、弥子が死んじゃったからネウロにとって必ずしも良かったってわけじゃないんだよね……
克己とさやかの二人がネウロの力になって欲しいです。
その一方で、タイガーの評判が下がってしまいそうw アンク……
あとパーフェクターを破壊されたせいで、これからのアポロさんがピンチになりそうw

498名無しさん:2013/09/14(土) 16:48:23 ID:oJwAsnfI0
投下乙です

ネウロ復活! だが弥子が死んだのが予想外に痛い事になりそう
今後のネウロの行動は…
そして本人がいない所でタイガーがw

499名無しさん:2013/09/14(土) 21:12:46 ID:RqYcLfy60
投下乙です
なんでタイトルが59?と読みながら思ってたけど、日付変更のことだったのか。面白いアイデア
状況に恵まれたおかげでまさかのネウロ復活、ただし代償は弥子の命
対主催の希望の星が甦ったという意味では万々歳だろうけど、ネウロにとってはそう単純な話でもないよなあ
アンクは…折角の10枚目タカ他諸々が取られるし気に掛けてた弥子は死ぬし、こっちも前途多難な感じ?

500名無しさん:2013/09/15(日) 09:10:11 ID:jRAWDM6cO
投下乙です。

最初はあんこちゃん復活フラグに見えたが、まさかネウロ復活フラグだったとは、…これは新しい!!

501名無しさん:2013/09/15(日) 18:29:29 ID:bBG7pkME0
今回の月報分
110話(+ 5) 40/65 (- 2) 61.5 (- 3.1)

502名無しさん:2013/09/16(月) 18:23:46 ID:hWz.yz520
読み返して気付いたのですが、時間表記は夜か夜中のどちらかで
少なくとも深夜ではないはずでは

503 ◆qp1M9UH9gw:2013/09/16(月) 23:51:24 ID:ooTeiQzY0
感想ありがとうございます。
>>502
うっかりしていました。時間帯は全員「夜」でお願いします。

504 ◆LuuKRM2PEg:2013/10/03(木) 23:57:25 ID:T9/hoVjg0
これより予約分の投下を開始します。

505夢の終わり ◆LuuKRM2PEg:2013/10/03(木) 23:58:09 ID:T9/hoVjg0
 衛宮切嗣は未だに夢を見続けていた。
 心を蝕む絶望によって生まれた悪夢を乗り越えた彼は、虚無の世界を歩いている。光も闇もない灰色に染まった世界の中を。
 辺りを見渡しても泥のように粘りつく暗闇は見えない。どれだけ進んでも世界を照らす輝きは見つけられなかった。
 漆黒の鎧を纏ったジェイク・マルチネスという男から与えられた痛みは、気が付いたら随分と和らいでいた。かつて『魔術師殺し』と呼ばれた頃のような行動ができる状態ではないが、日常生活を送ることだけはできる。もっとも、ほんの少しでも無理をすればすぐに傷口が開くことに変わりはない。
 だが、今はそんなことなどどうでもいい。正義の味方として一刻も早く誰かを救いたいと、切嗣は望んでいた。衛宮士郎との約束を果たす為にも。
 彼と出会ったあの日のことは今でも決して忘れることができない。聖杯戦争の舞台にされてしまった冬木市が、この世全ての悪〈アンリ・マユ〉によって焼かれてしまった。町で平穏な日々を過ごしていたはずの人々だって、灼熱に飲み込まれた。
 あの日の出来事は今でも切嗣を責め立てている。いや、本当なら街が燃え尽きた時点で切嗣の心は砕け散ったはずだった。しかし、燃え尽きた世界の中でたった一人だけ生き残った少年を救うことができた。
 それは切嗣にとっても救済となっていた。夢も希望も全て失ったはずの彼にとって、少年はたった一つの希望となっていた。
(君はこんな僕を信じてくれた。だから僕はもう誰かを裏切るつもりはない。士郎の為にも、そして僕自身の為にも……僕は立派な『正義の味方』になってみせる)
 世界を救うという大義名分の元に大勢の人達の信頼を裏切り続けたことで、切嗣の心は確実に擦り減っていた。目的を果たす為に心を鋼鉄のように冷たくしたが、それでもいつも心のどこかで罪悪感を抱いていた事に変わらない。例えどんな目的があろうとも、手段がそれを正当化させるなんて有り得ないのだから。
 信じていた人達だけでなく、自分自身すらも裏切った。本当なら、その報いは死を持って受けなければならなかった。だけど、何の因果か安らかな死すらも許されず、あの真木清人によって殺し合いの駒にされてしまう。
(これは僕自身への罰だ。かつて、僕はたくさんの人を殺した……例え僕がまた死ぬことがあったとしても、その罪は永遠に消えたりしない。それに、ここに来てからも僕はまた罪を犯した……たくさんの人を助けられなかった)
 正義の味方になろうと誓っても、切嗣はそれを叶えられなかった。
 見せしめにされてしまった少女達を助けられず、間桐雁夜を見殺しにしてしまう。それにあのジェイクやグリード達だって今もどこかで誰かを殺しているかもしれなかった。
(僕がもっとしっかりしていれば、人質にされたあの少女を助けることだってできた。それにバーサーカーだって野放しにすることはなかった……僕は何をやっているんだ)
 本当なら今すぐにでも動きたかったが身体が言う事を聞いてくれない。だから、ここで悔むしかなかった。そんなことをしたって、どうにもならないとわかっているのに。
 切嗣は夢の世界を彷徨い続ける。その最中、灰色の世界が歪み始めた。
 切嗣の目前に一つの風景が映し出される。



 そこは見慣れた衛宮邸の食卓だった。
 暖かい料理が大きなテーブルの上に置かれていて、その周りにはとある家族が囲んでいた。誰もが笑みを浮かべていて、団欒と言う言葉が相応しい一家だった。
 食卓で食事をしているのは切嗣本人だった。それに失ったはずのアイリスフィールとイリヤスフィールもいる。そしてあのセイバーや、大きくなった士郎までもがいた。
 みんな、楽しそうに食事をしていた。イリヤスフィールとアイリスフィールも楽しそうに話をしていた。アイリスフィールと顔を合わせた士郎はほんの少しだけ緊張しているように見える。
 切嗣も、家族に囲まれて幸せそうに微笑んでいた。

506夢の終わり ◆LuuKRM2PEg:2013/10/04(金) 00:03:00 ID:2H4Eq.do0
 それは切嗣が追い求めていた理想の一つだった。
 士郎と出会ったあの日からたくさんの人達と出会い、別れることのないまま共に過ごしてきた。もしもそこにイリヤスフィールとアイリスフィールの二人がいたら、どれだけよかったか。
 ないものねだりとわかっていても、そんな夢のような光景を切嗣は何度も望んでいた。それが、ここではないどこかの世界では実現していた。
 それを切嗣は呆然と見守っていた。
 どれだけ望んでも手に入れられなかった幸福を、もう一人の自分自身は持っている。それを羨ましいとは思ったが、だからといって嫉妬するわけでもない。むしろ、心のどこかでは満足していた。
 どこかの世界では、ああやって家族みんなで過ごすことができる。もしかしたら、これから殺し合いを打ち破ってイリヤスフィールを助けられれば、また家族みんなで笑いあえるのではないか。
 有り得ないと知りつつも、切嗣の中でそんな希望が芽生えていく。もう、アイリスフィールはこの世にいないと言うのに。
 それをずっと見つめたかったが、またしても世界が歪んでいく。すると、幸せな光景は一瞬で灰色に飲み込まれてしまった。
 そしてまた、切嗣の目前に一つの風景が映し出される。



 先程の食卓とは打って変わって、そこは冷たい夜風が流れる公園だった。
 士郎と約束を交わした夜のように穏やかな月の光は差し込んでこない。ただ、凍てつくような寒さに満ちた夜だった。
 そこに備え付けられたベンチに士郎が座っていた。しかし、そこにいる士郎は酷く落ち込んだような表情で俯いている。まるで何かに追い詰められたような様子だった。
 そんな士郎を切嗣は支えたかったが、ここからでは言葉は届かない。どれだけ士郎の名を呼んでも何も変わらなかった。
 どうすればいいのかと考えていると、士郎の前にイリヤスフィールが現れる。彼女は無邪気に笑いながら士郎に抱きついてくるが、士郎は未だに落ち込んでいた。
 二人の会話は断片的にしか聞こえて来ないので詳しい状況は分からない。だが、セイバーやバーサーカーなど、サーヴァントのクラス名は聞き取れた。つまり、二人はマスターとなって聖杯戦争に参加している。そう切嗣は確信した。
 息子と娘が敵同士になっている事実に驚愕する暇もなく、士郎は泣きそうな表情でイリヤスフィールを突き飛ばした。それに士郎は後悔するが、イリヤスフィールはそんな士郎の頭を優しく撫でる。
「わたし、シロウが何したってシロウの味方をしてあげるの」
 そう言いながら、イリヤスフィールは天使のような笑みを士郎に向けてくれた。



 イリヤスフィールの笑顔は、かつて理想を遂げようとして何度も折れそうになった切嗣を支えてくれたアイリスフィールの笑顔に、とてもよく似ている。
 そこで士郎は何も答えられなくなった。喜んでいるのか、驚いているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか……イリヤスフィールの言葉を聞いた士郎が何を考えているのか、切嗣にはわからない。ただ、どんなことがあっても二人は強い絆で結ばれていることだけはわかった。
 士郎だって本当はイリヤスフィールを大切にしたいはずだった。だけど、心が乱れたせいでそれどころではないかもしれない。
 それでもイリヤスフィールは士郎に道を示してくれた。後は、士郎がどの道を歩くのかを決めるだけだ。
 切嗣は士郎の答えを待つ。だが、士郎が口を開いた瞬間、またしても世界が歪んでいき、二人の姿が見えなくなった。
 導いた答えを知ることはできなかったが、切嗣は決して悲しまない。むしろ穏やかな気分になれた。
 アインツベルンに囚われの身となったイリヤスフィールは士郎と出会えた。彼女は憎しみを背負っていなかったのだ。
 アハト爺に幽閉されたイリヤスフィールは切嗣のことを恨んでいたかもしれない。例えそうだとしても、当然の報いだと切嗣は考えていた。理由はどうあれ、愛する娘を見捨ててしまったのだから。
 だけど、彼女は息子の士郎を恨んでいない。本心はわからないが、少なくともイリヤスフィールの表情からは影は感じられなかった。もしかしたら、二人は実の家族のように暮らしているかもしれない。
 切嗣はそう強く願った。
 すると、そんな切嗣の願いに答えるかのように……世界はまた歪み、一つの風景が映し出される。

507夢の終わり ◆LuuKRM2PEg:2013/10/04(金) 00:03:59 ID:2H4Eq.do0
 そこは燦々と輝く太陽に照らされた、平和な通学路だった。
 戦争とはまるで無縁なその道にはたくさんの未来ある子ども達が歩いている。みんな、幸せそうな表情を浮かべていた。
 その中には、ある少年と少女もいる。それは士郎とイリヤスフィールだった。
 その世界の二人は聖杯戦争とは無縁の毎日を送っていて、たくさんの友達と一緒に幸せな毎日を過ごしていた。
 イリヤスフィールも普通の子どもと同じように学校へ通っていた。彼女も素敵な友達と出会い、楽しそうに遊んでいる。その中には、イリヤスフィールと瓜二つの姿をした褐色肌の少女もいた。
 そしてその世界には、アイリスフィールもイリヤスフィールの母親として生きていた。



 今度の風景はすぐに灰色に飲み込まれてしまう。
 しかし切嗣は確信した。士郎もイリヤスフィールも幸せに生きていることを。
 もしかしたら、道の途中で挫折して絶望を味わうかもしれない。しかし、それに負けたりなどせず、真っ直ぐに毎日を生きていた。
 イリヤスフィールを抱き締めた毎日は決して無駄ではなかった。士郎と誓ったあの月夜までの五年間は、決して呪いにならなかった。
 父親としてこれ以上、嬉しいことはなかった。
(僕は絶対に生きて帰らなければならない。イリヤや士郎を見守らなければならなくなった。それに、雁夜との約束……囚われの身となった桜ちゃんを救う。それは僕にしかできないのだから)
 真木清人を倒して、こんなふざけた殺し合いを打ち破ってみせる。
 そして、イリヤスフィールや桜が普通の少女として過ごせるようにする。そして、士郎の本当の家族も死なせたりしない。
 もしも時間を巻き戻すことができなかったとしても、やることは変わらない。みんなを助けて、聖杯戦争を止めてみせる。
 その為にも戦わなければならなかった。
(士郎。もしかしたら、僕は君が望んでいるような『正義の味方』にはなれないかもしれない……許してくれなんて言わない。どれだけ失望されようとも当たり前だ。だけど、どうか優しさだけは失わないでくれ)
 それが身勝手な願いなのは切嗣自身も理解している。
 あの夜、士郎はこんな自分を信じて夢を受け継いでくれたと言ってくれた。それを忘れたことは一度だってない。
 だけど切嗣はこれからまたこの手を血で染めて、士郎との誓いを裏切ろうとしている。士郎がそれを知ったら、失望することを知った上で。
 しかしそれで罪のない人々の幸せと笑顔を守れるのなら、どんな汚名でも喜んで背負うつもりだ。その途中で失敗することがあっても挫けたりしない。信じてくれたみんなを嘘吐きにさせない為にも。
 そんな揺るぎない想いを胸にした切嗣は再び歩を進める。この世から一つでも多くの闘争を潰して、より多くの人を幸せにしたいと願いながら。
 灰色の世界の遥か彼方より一筋の光が見える。切嗣が一歩進む度に、その輝きが大きくなっていく。
 やがて光が世界の全てを満たすまで、それ程の時間は必要なかった。




508夢の終わり ◆LuuKRM2PEg:2013/10/04(金) 00:04:48 ID:2H4Eq.do0
 言峰教会からセイバーが去ってから大分時間が経った。
 周囲にバーサーカーと言う敵が接近しているから、立ち向かう為にセイバーは教会から出ている。彼女が戻ってくる気配はないのが不安だが、信じるしかない。
 本当ならセイバーの様子を見に行きたいが、阿万音鈴羽はただの人間だ。並みの兵士より強さしか持たない鈴羽が行くなど、自殺するに等しい。
 そんな鈴羽は今、教会の地下室でセイバーのマスターである衛宮切嗣と共に隠れている。セルメダルを投入し続けたおかげで切嗣の呼吸は大分落ち着いてきて、顔色も良くなっていた。
 鈴羽は安心した。油断できないことに変わりはないけど、目の前にいる人が無事でいることが嬉しかった。一刻も早く完治して欲しいが、それはまだ時間がかかるかもしれない。
「切嗣さん、お願いだから死なないで……あたし、目の前でまた誰かが死ぬなんて耐えられないから」
 切嗣の手を握り締めながら鈴羽は祈る。
 セイバーは切嗣のことを信頼してはならない危険な男だと言っていた。でも鈴羽にとっては関係ない。どんな人間だろうと、同じ世界で生きているのだから助けたかった。
 セイバーの言うように、もしかしたら最後に裏切られる危険があるかもしれない。でも、そんな恐れを抱いたせいで助けられるはずの人を見殺しにしたら、絶対に後悔してしまう。
 そんなのは嫌だった。
(そういえば、切嗣さんはどうしてこんな怪我をしちゃったんだろう。セイバーが言う通りの人だったら、ここまで痛めつけられるような失敗をしないはず。やっぱり、セイバーが知っている切嗣さんとは別人なのかな……?)
 不意に鈴羽は考える。
 もしも主催者である真木清人が本当にタイムマシンを持っていて、参加者を別々の時間軸から集めることができるのなら、セイバーの知らない時間軸の切嗣を連れてくることだって可能かもしれない。
 だとしたら、ここにいる切嗣は何か特別な体験をしたのかもしれない。それも、自分の信念すらも変えてしまうほどに強い影響を与える出来事だ。
 これはただの仮説に過ぎないし、全く別の答えがあるかもしれない。切嗣を襲った相手が並の戦術が通用しない程に強かった可能性もある。グリードやサーヴァントのような怪物が徒党を組んで切嗣を痛めつけたかもしれない。
 だが、ここでそれを考えても仕方がなかった。現場に居合わせたわけではないのだから、真相は本人に聞かないとわからない。
 そういう意味でも切嗣には早く目覚めて欲しかった。バーサーカー以外にも危険人物がいる以上、一つでも多くの情報は手に入れないと足元を掬われるかもしれない。それにセイバーがそんな強い相手に襲われたら、どうなるかわからなかった。
(セイバー……お願いだから無事でいて。もしもセイバーに何かあったらあたしだけじゃなく、そはらだって悲しむから……)
 セイバーが一刻も早く戻ってきてくれる事を鈴羽は願う。
 彼女だってかなり強いが、いくらなんでも限界があるかもしれない。しかもセルメダルと言う名の制限もある以上、連戦になったら危険だ。メダルが0になった隙を突かれたらいくらセイバーでもどうすることもできない。
 もっとセイバーにメダルを持たせればよかったかもしれないが、そうしたら今度は切嗣が危なくなってしまう。だから仕方がないのかもしれないが、今になって新しい不安が芽生えた。今更どうにもならないけど、やっぱり気になってしまう。
 その時だった。
「……ぁ……っ」
 蚊の鳴くような声がどこからともなく聞こえてくる。
 あまりにも弱々しい声だが、鈴羽の耳には確かに届いた。
 男の唸り声を聞いたことによって鈴羽は顔を上げる。すると、目の前で眠っていたはずの男が瞼を開けていた。
「……気がついたんですね、切嗣さん!」
 衛宮切嗣がようやく目を覚ましてくれたことで、阿万音鈴羽の表情は自然に明るくなる。
 しかしだからといって、彼が危険な状態であることに変わりはないし、戦える状態などではない。全て遠き理想郷(アヴァロン)はその深い傷を治しているが、セイバーが離れたせいで勢いは落ちている。その発動に必要なメダルも無限ではない。
 それでも、今だけは喜んでいた。また、人の死を見なくてよかったと、彼女は思っていたのだった。



【一日目 夜中】
【B-4 言峰教会地下室】

509夢の終わり ◆LuuKRM2PEg:2013/10/04(金) 00:06:16 ID:2H4Eq.do0
【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】40枚:0枚
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
 0.切嗣さんは気がついてくれた?
 1.セイバーが戻ってくるまで、衛宮切嗣を守る。
 2.罪のない人が死ぬのはもう嫌だ。
 3.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
 4.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
 5.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
 6.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
 7.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
  8. セイバーが心配。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。




【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(大)、貧血、全身打撲(軽度)、背骨・顎部・鼻骨の骨折(現在治癒中)、片目失明(いずれもアヴァロンの効果で回復中)、牧瀬紅莉栖への罪悪感、強い決意
【首輪】25枚(消費中):0枚
【コア】サイ(一定時間使用不可) タコ(一定時間使用不可)
【装備】アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
 0.……ここは?
 1.偽物の冬木市を調査する。 それに併行して“仲間”となる人物を探す。
 2.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
 3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
 4.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
 5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
 6.セイバーと出会ったら……? 少なくとも今でも会話が出来るとは思っていない。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。
※かろうじて生命の危機からは脱しました。
※顎部の骨折により話せません。生命維持に必要な部分から回復するため、顎部の回復はとくに最後の方になるかと思われます。
 四肢をはじめとした大まかな骨折部分、大まかな出血部の回復・止血→血液の精製→片目の視力回復→顎部 という十番が妥当かと。
 また、骨折はその殆どが複雑骨折で、骨折部から血液を浪費し続けているため、回復にはかなりの時間とメダルを消費します。
※意識を取り戻す程に回復しましたが、少しでも無理な動きをすれば傷口が開きます。また、顎部はまだ回復していないので話すことができません。

510 ◆LuuKRM2PEg:2013/10/04(金) 00:06:59 ID:2H4Eq.do0
短くなりましたが、以上で投下終了です。
矛盾点や疑問点などがありましたら指摘をお願いします。

511名無しさん:2013/10/04(金) 17:10:03 ID:ussS2XFU0
投下乙です

キリツグが見ていた夢は何かのフラグ臭くて怖いというかそれとも打開の何かのフラグか…
それはそれとして夢に影響されたキリツグの今後の行動は果たして…
体がある程度回復して意識を取り戻したしここからどうなるか期待

512名無しさん:2013/10/05(土) 03:12:56 ID:LVHuZKsUO
投下乙です。

どう足掻いても絶望フラグ。
しかも、この後のセイバー再会イベントを考えたらもう確実に…。

513名無しさん:2013/10/05(土) 22:07:42 ID:1dRuXW0E0
投下乙です
長らくダウンしてた切嗣もようやく復帰か
でもセイバーも疑ってるし今忙しいし、まだ先は長いかな

一つ指摘を。夜中の時点でウヴァは確実に脱落済なので鈴羽は無所属では

514 ◆LuuKRM2PEg:2013/10/06(日) 17:43:42 ID:RkMIKySE0
ご指摘ありがとうございます。
修正させて頂きます。

515 ◆qp1M9UH9gw:2013/10/08(火) 22:33:08 ID:TgNxKoxI0
投下します

516 ◆qp1M9UH9gw:2013/10/08(火) 22:35:15 ID:TgNxKoxI0



【1】


 橋田至が、死んだらしい。
 ラボメンの一人であった彼が、故人となったというのだ。
 放送で嘘をつく必要性など無いし、きっと真実なのだろう。

 まゆりに続いて、また一人ラボメンが命を落とした。
 たったの六時間の内に、萌郁の“世界”に暗い穴が二つ空いたのだ。
 本来ならば、彼女はその事実に嘆いていただろう。
 手を差し伸べてくれた者達の死に、言い様の無い痛みを覚えた筈である。
 だが今の萌郁には、生憎その痛みを感じる余裕さえありはしなかった。

「なんで……どうして……!?」

 放送を終えたにも関わらず、萌郁は未だに少女を探し出せてはいなかった。
 昼の時点でカンドロイドが一度少女を発見したようだが、彼女が到達した頃には既に少女はおらず、
 代わりに妙な格好をした男の死体が横たわっているだけだったのである。
 それ故に、今も少女と合流できておらず、カンドロイドと共に探索を続けているのが現状だ。

「捨てられる……FBに捨てられる……FBに捨てられる……!」

 少女が発見できなければ、FBから与えられた指令を果たせない。
 それはすなわちFBに対する裏切りと同義であり、彼女を失望させかねない行為だ。
 FBはいつもの様に優しく接してくれているが、その調子がいつまで続くか分からない。
 もし唐突にメールが途絶えたら、もしFBに見捨てられてしまったとしたら。

「嫌、嫌、嫌、嫌、嫌……!」

 FBからの否定は、世界そのものからの否定だ。
 世界から拒絶される恐怖など、想像するまでもない。
 もしそんな時が来たとしたら、それが意味するのは萌郁の死だ。
 自分の世界を失って絶望しない程、彼女は強くできていない。

 全身が震えてもなお身体が動かす萌郁のその様は、まるで迷子の子供の様であった。
 頭の中にあるのは、FBが探す少女の特徴と、FBから見放される恐怖だけ。
 かつて居場所を与えてくれた仲間の事を考えている暇など、今の彼女には無いのだ。
 "一部"を削られるより"全て"を失う方が、もっとずっと恐ろしいのだから。

 そんな萌郁を、運命の女神が見かねたのか。
 震える彼女の目の前に、探索に向かわせていたタカカンドロイドが飛んできた。
 これはつまり、この機械が再び少女を発見できたという事である。
 またしても見逃す訳にはいかない、今度こそ彼女に合流しなければ。
 FBの――引いては自分自身の為に。

517謀略の夜 ◆qp1M9UH9gw:2013/10/08(火) 22:36:01 ID:TgNxKoxI0

【2】


 園咲冴子は思考する。
 どうして過去の自分は、弱者の皮を被ろうなどと考えてしまったのか。
 そして、何故よりにもよって、こんな使えない男を利用しようと思ったのか。
 考えど考えども、出てくるのは後悔の念と溜息ばかりである。

 上手くいく筈だったのだ。
 弱者を装う事で集団に潜り込み、彼らを利用する事で身の安全と情報を入手する。
 そして、相手が用済みになったら裏切り、確実に参加者の数を減らしていく。
 これこそがゲームで勝利を掴む為の最良の手段だと、当初はそう高を括っていたのだ。

 しかし、現実は全く異なるもので、今の冴子はその作戦に自分の首を絞められていた。
 最初に利用すると決めた同行者――後藤慎太郎の存在が、その大きな原因である。
 過剰なまでに自分の力を誇示し、一丁前に無力な人間を護るなどとのたまうこの男は、ただ冴子に苛立ちを募らせるばかりで、利益となる事など何一つしてくれないのだ。
 当の本人は、それが冴子の為になると本気で思い込んでいるようだが、実際はその真逆であり、彼の行動は彼女にとって害悪以外の何物でもない。
 一秒でも早く別れてしまいたいのだが、現在の冴子が"何も知らない弱者"を演じている限りは、あの強者気取りは彼女にお節介をかけ続けるつもりなのだろう。

 そしてその役立たずは、現在進行形で冴子達の障害となっている。
 冴子と協力者であるメズールはキャッスルドランへ移動したいのだが、後藤がそれに断固として反対しているのだ。
 あの施設には、井坂が所属している白陣営のリーダーの鹿目まどかが居る可能性が高い。
 今から彼女の元を強襲すれば、白陣営を一時的に消失させる事ができるのだ――このチャンスを逃す訳にはいかない。
 しかし、冴子達の事情など露とも知らない後藤は、彼女達の安全を気にしてオーズから離れようとしているのである。

「確かに火野が……オーズが暴れてるのなら止めるべきだ。
 だが……だからといって、君達を危険に晒す訳にもいかない」

 民間人の安全を優先しての考えだろうが、冴子からしたら余計なお世話である。
 三人の中で最も無力なのは、ただ正義感が強いだけの後藤だというのに。
 もし冴子かメズールのどちらかがその気になってしまば、この男など三秒で亡骸にできてしまえるだろう。
 大体、碌な武装も所持していない癖によくも「オーズを止める」などと言えるものだ。
 そのオーズとやらは、あの忌々しいダブルと同じ"仮面ライダー"と同種と聞くではないか。
 そんな相手に、ショットガン一丁で立ち向かうなど馬鹿としか言いようがない。

「ですけど、そのオーズをどうにかしないともっと沢山の犠牲が……」
「駄目だ!俺には君達を護る義務がある。君達の安全が第一だ」

 どうしてこうも、この男は頑固なのだろうか。
 正義感が強いのは結構だが、それを無理やり押し付けないで欲しいものだ。
 いっその事、ここでナスカに変身して一思いに殺してしまおうか。
 同行しているメズールには既に正体が割れているし、此処で本性を現してもデメリットはほとんど無い。
 無意識の内に、隠し持っていたナスカメモリに手が伸びる。
 このメモリを肉体に差し込めば、ものの数秒で後藤の息の根を止められるだろう。

518謀略の夜 ◆qp1M9UH9gw:2013/10/08(火) 22:40:39 ID:TgNxKoxI0

「……分かってくれ。君達に危害を及ばせる訳にはいかないんだ」

 他人の為だと言いながら、自分が定義した正義を押し付けるだけの無能。
 超人同士の闘いになどまるで付いていけないであろう、真の弱者。
 自分の感情を押し殺してまで接する程の価値が、果たしてこの男にあるのだろうか。
 そんな問い、考えるまでも無い――そんな訳がないと即答できる。
 こんな役立たずをこれ以上生かしてやる情など、冴子には残されてはいない。
 メズールが何を考えているかは知らないが、もう我慢の限界だ。

「――行ってあげて下さい」

 ナスカメモリを握りしめ、接合部をコネクタに叩き込もうとするその直前。
 冴子の心で成長を続けていた殺意という名の蕾が、今まさに開花しようとしたその時。
 同様に弱者を装っていたメズールが、後藤の意に反したのである。

「私達を護ってくれるのはありがたいです。でも、そのせいで誰かが犠牲になるなんて……そんなの堪えられません」
「だが……!だからと言って君達まで危険に晒したら本末転倒だ!」
「私達だって逃げる事くらいできます!馬鹿にしないで下さい!」

 保護対象に強く反抗されて、後藤は僅かながらも動揺していた。
 自分に護られている弱者は、常に自分の意思に従うのだとばかり思っていたせいだろう。
 この反応一つだけでも、後藤が翳す正義の傲慢さが容易く見て取れる。

「……お願いします後藤さん、オーズを止めて下さい」

 どうやらメズールは、このまま後藤をオーズの元に向かわせるつもりらしい。
 こんな役立たずが仮面ライダーに関わっても何の意味もないと思うが、そこは彼女なりの思惑があるのだろう。
 少なくとも、その発想は冴子には理解し難いものではあるのだが。

「後藤さん、"紅莉栖ちゃん"がこう言ってるんですし、行ってあげたらどうです?」
「しかし……君達が……」
「私達の事は心配しないで下さい。それに、貴方だってオーズを止めたい筈でしょうし」

 理解し難い発想ではあるが、メズールとは同盟を結んだ間柄だ。
 彼女の意にそぐわない行動は"まだ"控えるべきだし、ここは相手に同調するとしよう。
 こうやって下手に出る事自体、今となっては不愉快極まりないのだが、そこはもう耐えるしかない。

「行って下さい――きっと、あなたの助けを待ってる人がいる筈です」

 メズールのその言葉が決め手となったのか、後藤はしばらく黙りこくる。
 そして、しばらく思案するような素振りを見せた後、二人を見据えてこう言った。

「キャッスルドランへは俺一人で向かう……君達は此処で隠れていてくれ」

 それだけ言い残して、後藤はキャッスルドランの方向へ走り出した。
 一度も振り返る事なく闇の中に消えた彼には、背後で"非力な女性"が溜息をついている事など知る筈もない。

519謀略の夜 ◆qp1M9UH9gw:2013/10/08(火) 22:43:07 ID:TgNxKoxI0


【3】


 地図では目と鼻の先にあるように思えるが、それは単に地図の縮尺が小さいからであり、実際にキャッスルドランへ辿り着こうとなると、それなりの時間が必要となる。
 少なくとも、徒歩では移動だけで相当な時間を費やしてしまうだろう。
 ライドベンターがあればかなり時間を短縮できただろうが、それが見当たらない以上、後藤は今は自分の足に頼るしかなかった。

 内心で成長を続けるのは、焦りである。
 自分が未だそれらしい"正義"を行えていないという事実が、それの成長に拍車をかけているのだ。
 世界を救うという大義名分を背負っておきながら、後藤はまだそれに見合った活躍をしていない。
 せいぜい弱者一人の護衛役になれた程度であり、それだけで満足できる程、彼は謙虚ではなかった。

 ――どうして、自分には"何も無い"のだろうか。

 火野映司は、オーズドライバーを用いてオーズに変身し、ヤミーを倒していた。
 "牧瀬紅莉栖"から聞いた"ヒーロー"なる存在は、超能力を駆使して悪と戦うのだという。
 後藤にはそういった"ヒーロー"の様な超能力を所持していないし、強力な兵器も支給されてはいない。
 一応ショットガンなら支給されたが、グリードを始めとする未知の相手に通用するかは不明である。
 か弱い一般人を危険から護る為なら、こんな銃よりも超常の力の方が役立つのは言うまでもない。
 そういう意味では、後藤は映司や"ヒーロー"達よりも遥かに劣っていた。

 どうして自分には、護る為の力を持っていないのか。
 弱者を救いたいという意思は同じなのに、何故自分だけが何の力も与えられないのだ。
 力さえあれば、もっと多くの参加者を、より安全に護れるというのに。
 強い意志を持つ自分ならば、グリードの様な馬鹿共を一体でも多く葬れる筈なのに。

(……どうして、お前なんだ)

 オーズドライバーは、何故火野の手に渡ったのだ。
 世界を救いたいと願っている自分ではなく、あの素性の知らない男が力を手に入れた理由とは一体何だ?
 たまたまその場に居合わせていたからか?
 それとも、単にヤミーと戦ってみたかったからか?
 そんな下らない理由で、あの男がオーズになったとしたのなら。
 そして、その結果暴走して人を殺めているというのなら。

(オーズになるのは……俺が相応しいんだ)

 ――その力を、後藤慎太郎という正義漢が奪い取っても、仕方のない話で済むのではないか?


【一日目-夜】
【C-6 路上】

【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康、さらに強い苛立ち、映司への怒り、力を持つ者への嫉妬?
【首輪】100枚:0枚
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊としての責務を果たさないと……。
 1.キャッスルドランに向かう。
 2.今は園咲冴子と牧瀬紅莉栖を守る。協力者が見つかったら冴子達を預ける。
 3.殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
 4.火野映司が本当に参加者を襲ったのなら倒す。
 5.もし力を得られるのだとしたら……。
【備考】
※参戦時期は原作最初期(12話以前)からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
※メズールのことを牧瀬紅莉栖だと思っています。

520謀略の夜 ◆qp1M9UH9gw:2013/10/08(火) 22:46:26 ID:TgNxKoxI0
【4】


「あんな男、殺しておけば良かったのに」
「駄目よそんなの。勿体ないじゃない」

 後藤が去った後、屋内の空気は一変していた。
 冴子は不愉快そうに眉を顰めており、メズールは妖艶な笑みを浮かべている。
 これこそが彼女らの本性であり、後藤に見せた顔は偽りのものでしかないのだ。

「あの坊やは"正義"に恋してるのよ。それこそ、盲目になる程に」
「要するに自分に酔ってるだけって事でしょ?……ホント、気持ち悪い男ね」

 不快感の籠った声で、冴子が文句を垂れた。
 それを見たメズールは、彼女が抱えたストレスの大きさを察する。
 きっと後藤と同行している間、彼女はずっと苛立っていたのだろう。
 もし自分が合流していなければ、次の放送で呼ばれる名が一つ増えていたかもしれない。

「何にせよ、彼を利用しない手は無いわ」

 対象が概念であれど、後藤が抱く感情もまた"愛"の一種。
 "愛"に飢えたグリードが、それを黙って見過ごす訳がない。
 彼に植え付けられた"卵"は、もう既に孵化しかかっている筈だ。
 卵が孵ったその瞬間に何が起こるか――想像に難くない。

「それで、これからどうするのかしら?まさか黙って待つつもりじゃないでしょうね」
「……確かに、これ以上付き纏われるのは面倒ね」

 これ以上後藤に拘束されると、殺し合いを有利に進めるのが難しくなる。
 ここは彼を置いて別の場所に移動し、独自に行動を取るべきだろう。
 少なくともメズールはそのつもりだったが、どうやら冴子もそのつもりらしい。
 その証拠に、彼女は後藤が消えていった方向をじっと睨みつけている。

「先に聞いておくけど、貴方の正体をアイツは知らないのよね?」
「そんな事、坊やとの会話を聞けば一目瞭然じゃない」

 後藤慎太郎は、今まで保護していた二人の正体を知らない。
 "牧瀬紅莉栖"の実態は、真木清人の仲間であるグリードの一体。
 そして園崎冴子の本性は、「ガイアメモリ」を売り捌く死の売人。
 双方共に善意とは無縁の悪人である彼女らには、怪人としての姿を持ち合わせている。
 仮に今からキャッスルドランを襲撃したとしても、後藤の目に映るのは二体の怪人だけだ。
 尤も、どうやら冴子はその時点で後藤を殺すつもりだろうし、そんな事は何の問題にもならないのだが。

「行きましょうか、私達の"愛"の為に」

 後藤の頑固さのせいで若干状況が変わってしまったが、順調な事に変わりは無いのだ。
 全て予定通りに事は進んでいるのだ――何も不安がる様子などありはしない。
 二人はそれまで被っていた弱者の面を剥ぎ取ったまま、ヘリオスエナジー社を離れていく。
 自分達を縛り付けた無能の言いつけなど、守る訳も無かった。

521謀略の夜 ◆qp1M9UH9gw:2013/10/08(火) 22:52:19 ID:TgNxKoxI0


       O       O       O       


 メズール達にミスがあるとすれば、彼女らを付け狙う影に気付けなかった事か。
 二人を発見した桐生萌郁は、既に二人の姿を携帯電話で撮影し、それをFBの元に送っている。
 さらに現時点でも、彼女はFBの命によってメズール達を追っているのだ。
 そして萌郁すら知らない事だが、現時点でのFBの正体はメズールの天敵の一人。
 彼女らの知らない内に、既にもう一つの卵は胎動を始めている。
 その卵が孵った瞬間に何が起こるかは――それはまた、別の機会に。

【一日目-夜】
【C-6 ヘリオスエナジー社】

【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】ナスカメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、スパイダーメモリ+簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW、メモリーメモリ@仮面ライダーW
    IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
 1.キャッスルドランに向かい、鹿目まどかと後藤慎太郎を始末する。
 2.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
 3.井坂と合流し、自分の陣営に所属させる。
 4.メズールとはしばらく協力するが、最終的には殺害する。
 5.後藤慎太郎の前では弱者の皮を被り、上手く利用するべきではなかった。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。

【メズール@仮面ライダーOOO】
【所属】青・リーダー
【状態】健康
【首輪】195枚:0枚
【コア】シャチ:2、ウナギ:2、タコ:2
【装備】グロック拳銃(14/15)@Fate/Zero、紅椿@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:青陣営の勝利。全ての「愛」を手に入れたい。
 1.キャッスルドランに向かい、鹿目まどかとオーズを始末する。
 2.鹿目まどかを殺害し、白陣営を乗っ取る。
 3.可能であれば、コアが砕かれる前にオーズを殺しておく。
 4. セルと自分のコア(水棲系)をすべて集め、完全態となる。
 5.完全態となったら、T2オーシャンメモリを取り込んでみる。
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。
※自身に掛けられた制限を大体把握しました。
※冴子のことは信用してません。

【桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】140枚(増加中):0枚
【装備】アビスのカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、桐生萌郁の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1(確認済)
【思考・状況】
基本:FBの命令に従う。
 0.やっと、見つけた。
 1.ラボメンと会った場合は同行してもらう。
 2.アビソドンはかわいい。アビスハンマとアビスラッシャーはかわいくない。分離しないように厳しく躾ける。
【備考】
※第8話 Dメール送信前からの参戦です。
※FBの命令を実行するとメダルが増えていきます。

522 ◆qp1M9UH9gw:2013/10/08(火) 22:52:40 ID:TgNxKoxI0
投下終了です

523名無しさん:2013/10/08(火) 23:48:22 ID:vaUwjjzI0
投下乙です
5103の正義感を恋に例えるってのは面白い。まさにメズールならではの発想という感じ
そんな5103の行き先には映司&対主催軍団、そしてカオス来訪間近。遅れてやってくる冴子さんはとうとう殺意MAX
……うーむ、もはや可哀想になってくるレヴェル。葬式の準備でもするべきか

524名無しさん:2013/10/08(火) 23:51:39 ID:IL3asw3k0
投下乙です。
後藤さんがいい感じに利用されてるな……と思ったら、悪女二人も狙われている。
うーん、これはまた波乱が起きそうな予感……

525名無しさん:2013/10/09(水) 19:14:54 ID:3mOwoo/I0
投下乙です

うん、俺も5103の正義感を恋に例えるってのは面白いと思った
良い様に踊らされた後藤さんの行く先には…
悪女コンビも下手したら巻き込まれそうだしいい具合に騒動が起こりそうw

526名無しさん:2013/10/11(金) 13:14:06 ID:PYLlePmA0
投下乙です

波乱の予感だなあ
5103のショットガンが火を吹くときは近い

527名無しさん:2013/10/11(金) 18:14:54 ID:xP8/xf9g0
>>526
どう考えても誤砲さんフラグなんだよなぁ…

528名無しさん:2013/10/11(金) 19:11:29 ID:PS/CekNMO
>>527
×フラグ

○ 元 か ら

529名無しさん:2013/10/12(土) 02:55:04 ID:Qq1VqD5A0
伊坂先生……

530名無しさん:2013/10/16(水) 19:21:14 ID:QwnWTq6I0
>>528
×伊坂

ギャレン「よくも小夜子を!」


〇井坂

アクセル「よくも家族を!」

531名無しさん:2013/10/16(水) 19:22:20 ID:QwnWTq6I0
間違えた>>529

532名無しさん:2013/10/18(金) 15:30:28 ID:KjvdEHO60
あ、予約来てた

533名無しさん:2013/10/31(木) 13:39:17 ID:tMTUoUrg0
あ、新しい予約が来てるぞ

534 ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:29:50 ID:USxVgwlU0
投下開始します

535最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:31:20 ID:USxVgwlU0



【1】


 セイバーとユウスケが向かった先にあったのは、鉄屑となったダブルチェイサーだけであった。
 バイクを預けていた千冬と、それに同行していたセシリアの姿は、何処にも見当たらない。
 この時点でユウスケは、自身の頬に脂汗が滲み出るのを抑えられなかった。
 一体どんな経緯でダブルチェイサーが破壊され、二人は姿を消してしまったのか。
 それを少し考えただけでも、恐怖と焦りを感じずにはいられない。

「俺は千冬さん達を探す。セイバーちゃんは先に教会に戻ってくれないか?」

 此処に二人がいないという事は、彼女らが何処かに移動した証拠だ。
 この場で何が起こったかは定かではないが、とにかく今は二人を探さなければ。

「承諾しかねるな。二人に何があったか分からない以上、一人で出向くのは危険すぎる」
「確かにそうかもしれないけど、教会には切嗣さん達がいるんだろ?だったらどちらかが戻らないと」

 ユウスケの言う通り、教会では鈴羽達がセイバーの帰りを待っている。
 彼女達の安全の為にも、なるべく早くあの場所に戻る必要があるのは確かだ。
 しかし、自分から危険を犯そうとしている者を見逃す程、セイバーは他人に無関心ではない。

「だが……やはり一人は危険すぎる。二人を攫った相手が分からない以上、こちらも二人で行った方が――」
「でもさ、教会だってそれは同じだろ?此処は二手に分かれた方がいいと思うんだ」

 こちらの言葉を遮って、ユウスケは反論してみせた。
 どこでどんな参加者が行動しているか不明瞭であるが故、教会に隠れていても襲われる可能性があるのは明らかだ。
 状況の不確定さで言えば、千冬達の探索と教会の様子は同格であり、そう考えれば、セイバーが教会への移動を優先する理由にはなり得るだろう。

「大丈夫だって。俺、"仮面ライダー"だし」

 そう言って、ユウスケは親指を立ててみせた――サムズアップと呼ばれる動作である。
 セイバーは"仮面ライダー"が何たるものなのかを知らないが、その言葉には妙な説得力を感じた。
 同時に、彼の決心はセイバー一人の言葉は揺るがないほど堅いものだと判断できた。

「……分かりました。ですが、決して無理をなさらぬよう」
「分かってるさ。必ず千冬さん達を連れて帰ってくる」

 セイバーは念の為にと、スパイダーショックをユウスケに渡しておく。
 その贈り物に感謝したのを最後に、ユウスケは踵を返して立ち去っていった。
 その場に残されたのは、大破したダブルチェイサーとセイバーだけである。

536最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:34:11 ID:USxVgwlU0


           O           O           O


 千冬達の不在を知った際のユウスケは、これまでに無い程の焦りを見せていた。
 あの様子から見て、彼にとって"千冬さん"という女は余程大切な存在なのだろう。
 口ではセイバーの助力を不要だと言っているが、実際には猫の手だろうが借りたい気分に違いない。

 焦りは警戒心を鈍らせる。
 鈍った警戒心は戦局での判断を誤らせ、そしてそのミスは死に直結する。
 もし今のユウスケが、殺し合いに乗った相手に出会ってしまったのだとしたら。
 その時彼は、戦況を切り抜ける事が可能なのだろうか?
 それに、セイバーからしてみればセシリアという少女にも疑念が残る。
 自分が一度もその娘を見ていないのもあるが、果たして本当に彼女は護るべき存在なのか。
 弱者の皮を被った悪鬼が存在している可能性を、セイバーは捨てきれないでいる。
 仲間となり得る者の同行者に疑いなどかけたくないのだが、彼女の直感がそう教えているのだ。

 胸中で渦巻くのは、不安だ。
 自分の制止を振り切り一人捜索に向かったユウスケは、無事に帰ってこれるのか。
 そして、教会で待っているであろう衛宮切嗣に、自分はどう接すればいい。
 様々な不安が頭を過ぎるが、何よりセイバーにとって大きな負担となっているのが、ランスロットの存在だ。
 "湖の騎士"とまで呼ばれたあの完璧な戦士が、如何な経緯でバーサーカーと名を変えて獣の如く暴れ回る事となったのか。
 未来への不安は重い足枷となり、同時にセイバーの心をすり減らしつつある。

 セイバーが進むべき道――教会への戻る為の通路の先は、暗闇に包まれている。
 それはまるで、今の彼女の心境をそのまま表しているかの様であった。


【一日目 夜】
【C-3 市街地】
※破壊されたデブルチェイサーが放置されています。

【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(大)、今後の未来への大きな不安、精神疲労(中)
【首輪】20枚:0枚
【コア】ライオン(放送まで使用不能)
【装備】折れた戟(王の財宝内の宝具の一つ)@Fate/zero
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
 1.ランスロットが気がかりだが、今は鈴羽達の元へ戻る。
 2.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
 3.衛宮切嗣、バーサーカー、ラウラ、緑色の怪人(サイクロンドーパント)を警戒。
 4.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
 5.ランスロット……。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。
※鈴羽からタイムマシンについての大まかな概要を聞きました。深く理解はしていませんが、切嗣が自分の知る切嗣でない可能性には気付いています。
※バーサーカーの素顔は見ていませんが、鎧姿とアロンダイトからほぼ真名を確信しています。

537最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:36:52 ID:USxVgwlU0

【2】


 六二口径連装ショットガン――「レイン・オブ・サタディ」の弾丸が次々に飛来する。
 標的となっている千冬は、持ち前の戦闘技術を駆使しそれを回避していく。
 彼女にとっては、その銃撃を避ける事など造作もない事だ。
 使いこなせてない武装による銃撃など、何処に逃げれば着弾しないか容易に判断できる。

「――私も甘く見られたものだな」

 飛んでくる銃弾を回避し終えた後に、千冬は相手を睨み付ける。
 その態度が余程気に喰わなかった様で、相手――セシリアは歯軋りで不快感を示してみせた。
 彼女のその酷く歪んでいる表情は、千冬にとって初めて目にするものだ。
 そこから読み取れるのは、怒りや憎悪といった負の感情ばかりである。

「今のお前が私に勝てると、本当に思っているのか?」
「当然ですわ。貴方の様な軽い女に、私の愛が負ける筈ありませんもの」

 その言葉に根拠がまるで無いのは、誰の目から見ても明らかだ。
 ISを用いた戦闘技術において、千冬とセシリアの間には天と地ほどの開きがある。
 にも関わらず、自身の専用機ではなくシャルロットのISを使用して千冬を撃破しようとするなど、無謀としか言いようがない。
 しかし、セシリアはその無謀を無謀と思わないどころか、"愛"を以て勝利してみせるなどと息巻いているのだ。
 彼女が言う"愛"が誰に対するものかなど、千冬にはもう検討が付いている。

「解せんな。そこまで一夏の事を慕っておきながら、どうして凶行に走った?」
「そんなの決まってますわ!貴方みたいな人から、一夏さんへの愛を護る為ですのよ!」

 親の仇を見据える様な目で、セシリアはそう答えた。
 当然と言えば当然の反応だが、やはり嘆きを覚えずにはいられない。
 生徒の心情を理解してやるのが教師の役目だというのに、今ではその生徒に憎悪を抱かれてさえいるのだ。
 この有様では、もう教師を名乗る資格など無いのかもしれないと、思わず自嘲したくなってしまう。

 もう話す事は無いと言わんばかりに、セシリアはショットガンを乱射してきた。
 狙いの甘いそれらを千冬は容易く避けながら、千冬は思案する。
 セシリアは自身の問いに対し、"一夏への愛"を守護する為に殺し合いに乗ったと言っていた。
 彼女は故人への好意の為に、他の全てを犠牲にしようとしているのである。

 セシリアに重なるのは、かつて殺し合いに乗ろうとしていた千冬の姿。
 あの時は支えてくれる人――ユウスケがいたからこそ、道を誤らずにすんだ。
 きっとセシリアには、そういった者が何処にもいなかったのだろう。
 言うなれば、彼女は千冬が歩んでいたかもしれない可能性の一つが具現化したものなのだ。
 彼女の気持ちが痛い程分かるからこそ、同情してしまいたくなるからこそ。
 同じ末路を辿りかけた者として、千冬はセシリアを救わなければならないのだ。

「そうやってお前は立ち止まるつもりなのか……それを一夏が望んでいると思っているのか?」

538最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:40:45 ID:USxVgwlU0

 そこで、またもやセシリアの動きが止まる。
 表情にはこれまで以上に不快感が露見しており、彼女が相当頭にきている事が伺える。
 だがしかし、その程度で狼狽えてしまう千冬ではない。

「それの何がいけませんの……?私は貴方みたいに、一夏さんを忘れる様な人でなくてよ」
「私が言うのも難だがな、お前がやっているのは"逃避"以外の何者でもないぞ」

 その瞬間、セシリアの形相に鬼が宿った。
 近接用ブレード――「ブレッド・スライサー」を取り出し、千冬へと襲い掛かる。
 我武者羅な軌道を描くその斬撃は、セシリアのイメージとはあまりに程遠い。
 それを自身に装備された「雪片弐型」で難なく受け流す事は、千冬にとって何の苦にもならなかった。

 故人への愛に固執し続けるという事は、つまり現実を見ていないという事で。
 そんな妄執に囚われてしまっていては、前に進む事すらままならない。
 道を間違えた子を正せるのが、大人である自分の役目だ。
 教え子を正す為に、教師である千冬はその"愛"を否定する。

「"逃げ"ですって!?一夏さんの愛を護るのが"逃げ"と言いたいのかしら!?
 この感情を"逃げ"と仰るだなんて……貴方はどこまで私を怒らせれば気が済むの!?」
「それが逃げだと言っているんだ!お前は愛を盾にして"今"から目を逸らしてるだけだ!」
「一夏さんのいない"今"なんていりませんわ!あの方をお慕いする気持ちさえあれば、例えこの世が滅びようが構わない!」
「馬鹿者がッ!まだそんな世迷言を言うつもりかッ!」

 力任せに打ち付けるブレードを受け止めながら、千冬はセシリアに言葉を紡ぐ。

「お前が本当に一夏を愛しているというのなら、今から逃げずに前を向けッ!」

 例えどんなに残酷であっても、目の前にある現実から目を背けてはいけない。

「アイツの遺志を受け継いで、このふざけたゲームを打ち砕いてみせろッ!」

 一夏が望むのはきっと、妄執に彩られた世界ではなく、現実で生きていく事なのだから。

「自分で這い上がるのが無理なら、私が手を掴んでやる!」

 今度は自分が、海の底にいるセシリアの腕を掴む番だ。

「だから――――眼を開けてくれ、セシリアッ!」

 しかし、如何な言葉を届けても――セシリアの表情に変化は無かった。
 接近戦は不利と認識したのか、彼女は千冬と距離を取り、再びアサルトライフルを数発撃ち込む。
 だがその弾丸も、やはり千冬に回避される運命にあった。

「貴方の命令に従うだなんて、御免ですわ……!」
「……ここまで言っても聞く耳を持たんか。ならば――」

539最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:44:24 ID:USxVgwlU0

 千冬が持つ「雪片弐型」の切っ先が、セシリアへと向けられる。
 それはつまり、その刃を以て彼女を打倒するという宣言であった。 
 己へ向けられた刃を目にしたセシリアは、思わず吹き出してしまう。

「何のつもりかしら?貴方が私に傷を付けた事などこれまでに一度も――」

 千冬を嘲笑おうとした瞬間に、セシリアは気付いてしまった。
 これまでに彼女が、一度たりとも攻勢に出ていない事に。
 彼女がこれまで行ったのは防御か回避だけであり、セシリアに刃を振るおうとはしていなかったのだ。
 だが、今の千冬は違う――本気で自分を撃墜させるつもりなのだ。

 「雪片弐型」の刀身が、白い光を帯びていく。
 「白式」の唯一にして最強の能力である「零落白夜」が発動した合図である。
 エネルギーを全て無力化する白い刃に、セシリアは何度敗れた事か。
 あの特殊能力の恐ろしさを、彼女は嫌というほど理解していた。

「こ、来ないで……来ないでェ!」

 近づくなと言わんばかりに放った弾丸は、一つ残らず空を切った。
 セシリアの抵抗など最初から無い物と言わんばかりに、千冬は彼女へ肉薄する。
 あの刃で切り裂かれたら最期、全てが一巻の終わりだ。
 機体にあれを直撃させる訳にはいかない――それなのに、セシリアは千冬の動きを止められない。

「今度こそ眼を覚ましてもらうぞ――この一撃でッ!」

 セシリアが望んだのは、停滞であった。
 ただこの身にある"愛"だけを抱きしめ、その足を止めた者。
 手放す事も求める事も放棄し、そこで立ち止まってしまった。

 千冬が選んだのは、前進であった。
 喪失した"愛"に慟哭し、それでも明日へ進もうとした者。
 差し伸べられた手を掴み、踏み出す事を選んだ。

「織、斑――千冬ゥゥゥウゥウゥゥウゥウウゥウッ!」
「織斑"先生"だろうがこの馬鹿者がッ!」



 進まぬ者が、進む者に勝てる訳が無い。
 煌めきを放つ刃が、セシリアを切り裂いた。




【3】

540最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:46:42 ID:USxVgwlU0

 仮面ライダークウガの形態の一つに、「ペガサスフォーム」というものがある。
 この形態になると五感が著しく強化され、広範囲の探索が可能となるのだ。
 ユウスケはこのペガサスフォームを頼りにする事で、千冬達の探索を行ったのである。

 ペガサスフォームの存在もあって、ユウスケが千冬達を発見するのにそう時間がかからなかった。
 だがしかし、探していた二人を発見するや否や、彼は困惑する事となる。
 それもその筈――ユウスケの視線の先にあったのは、跪くセシリアと、そのすぐ近くに立つ千冬の姿だったのだから。

「ユウスケか。よく此処まで来れたな」
「千冬さん……これって一体どういう……」

 この短い時間の間で何が起こったのかを聞かなければ、話は始まらない。
 そう考えたユウスケは、千冬へ事情を問いかけたのだが――それがいけなかった。
 千冬が彼の方を向いたという事は、つまりセシリアから視線が外れたという事で。
 その僅かな隙を見逃さなかったセシリアは、勢いよく千冬に飛びかかった。
 戦闘が終わり安堵していた千冬の油断もあってか、あっと言う間に形勢は逆転する。
 次の瞬間には、セシリアが所持していた拳銃の銃口が、既に千冬に突き付けられていた。

「そこから一歩でも近づいてみなさい!織斑先生の命はありませんわよ!」

 それを耳にしたユウスケは、思わず愕然となった。
 セシリアが銃を千冬に突き付けているのもそうだが、何故自分に脅しをかけているのだ。
 護ると誓った筈の弱者から、どうして殺意を向けられねばならないのか。
 僅かな逡巡の後、ユウスケの脳をは恐るべき仮説を打ち出す。
 最初からセシリアは、自分達に害を加える為に近づいたのではないか。
 彼女は無害な善人として振る舞いながらも、身の内では猛り狂う殺意を抑え込んでいたのだ。
 そして、何らかの方法で千冬を殺そうと襲い掛かり、結果返り討ちに遭ってしまったのである。
 納得のいく――むしろそれ以外にあり得ない話だったが、それでもユウスケには受け入れ難かった。
 セシリアは千冬が担当するクラスの生徒の一人で、殺し合いに乗る様な奴では無いと聞いている。
 その教え子の少女が、どうして教師に殺意を向ける必要があるのだ。

「何やってるんだ!?どうしてこんな事――」
「あなた如きに説明する義理などありませんわッ!早く此処から引きなさい!」

 怒鳴る様に言いつけるセシリアの表情は、ユウスケの知る物とは一変していた。
 彼女の整った顔立ちが、今ではまるで鬼が宿っている様ではないか。
 状況をまだ完全に飲み込めないでいるユウスケは、ただ戦慄する他なかった。

「セシリア貴様……!どこまで堕ちるつもりだッ!」
「何度も言わせないでくれませんこと!?私は一夏さんの為だけに生きているの!貴方達の事なんてどうでもいい!」

 支えとなるのは、今やこの身の内にある一夏への"愛"だけ。
 だが、それだけで十分なのだ――セシリアにとっては、それ一つだけで事足りてしまう。
 他の何者にも替え難いこの感情だけは、何を犠牲にしてでも守り抜かねばならない。
 その為ならば、如何なる対価でも払ってみせようではないか。

541最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:49:22 ID:USxVgwlU0

「ああ、そうですわ……ユウスケさん、貴方が身代わりになるのはどうかしら?
 片方が命を投げれば、もう片方はまだ殺さないで差し上げますわよ?」
「な……ッ!何考えてるんだ!そんな事して何になるっていうんだよ!」
「……貴方、自分が何をしているのか理解できてませんの?
 私の世界にずけずけと踏み入っておいて、よくもそんな口が利けますわね?」

 銃口を千冬に向けたまま、セシリアはそう言って嗤ってみせた。
 一夏への愛を侮辱したこの二人は、彼女にとって憎悪の対象でしかない。
 特に、真正面から自分を否定した千冬は、絶望させてから殺さなければ気が済まなかった。

「……分かった。俺が人質になるから、千冬さんは見逃してやってくれ」
「ユウスケ!?何を馬鹿な……死ぬ事になるんだぞ!」

 セシリアの言い方からして、彼女が人質を殺す気なのは明らかだ。
 それなのに、ユウスケはその役目を自身が引き受けようとしている。
 千冬の心臓の鼓動が早くなり、冷や汗が滲み出てくる。
 想起させられるのは、病院で目にした無残なまでに破壊された弟の死体。
 今此処でユウスケを見捨てれば、あの瞬間と同じ絶望を味わう事になってしまう。

「いいんです千冬さん。俺は大丈夫ですから」
「大丈夫な訳がないだろ!馬鹿な事を言うんじゃない!」
「俺にだってちゃんと考えがあります。だから心配しないで下さい」
「だが……!」

 どうしてこの二人は、一々癇に障る会話をするのか。
 そうやって苛立ちながらも、セシリアは彼らのやり取りを眺めていた。
 実を言うと、彼女は二人を生きて返すつもりなど毛頭無かった。
 元より、人質の方を殺した直後にもう片方も射殺する気でいたのである。
 彼らがどんな決断をしようがどうでもいい話であり、セシリアが望むのは相談の早期決着だけ。
 二人の会話など、片手間程度に聞いておけばいいのだ。

「私の事はどうなってもいい!だから早くセシリアを――」
「……嫌です!千冬さんを死なせる訳にはいきません!」
「馬鹿者が!お前が死んだら本末転倒だろうがッ!」
「それでも――それでもッ!俺は誰かが悲しむ所を見たくないんだ!俺は――――」






「誰かの笑顔を、これ以上奪われたくないんだ!」
『俺の仲間は、誰一人としてやらせねえ!』







「………………………………えっ?」

542最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:53:22 ID:USxVgwlU0

 その時、確かにセシリアは見てしまったのだ。
 自分を説得するユウスケの姿に、最愛の人の影が重なる瞬間を。
 憎むべき存在だった男に、掛け替えの無い人の面影を感じてしまった。
 唯一無二と思い込んでいた"愛"は、この瞬間に在り方を変えたのだ。
 代替がきかなかった筈の感情が、代替がきく感情へと形を変えていく。
 そんな感情は、最早セシリアにとって支えになり得ない。
 支柱を喪った彼女の世界は、瞬く間に崩れ去っていく。

「ぇ……そんな……なんで……?」

 自分の一夏への愛は、千冬達と同様に軽いものだったのか?
 結局一番愛していたのは自分自身で、一夏への愛など現実から逃げる理由でしかなかったのか?
 ならば、もしそうなのだとしたら――自分は一体何の為に、これまで戦ってきたのだ?

「嘘……そんな……そんな事……今……どうして……!?」

 "一夏への愛"があったからこそ、今までセシリアは躊躇なく他者を襲う事ができた。
 愛という名の狂気に身を任せ、自分を騙しながらも殺意をぶつけてこれたのである。
 だが、その愛すら千冬達と同様に軽いものだと分かった今、何を支えにして生きればいいのだ。
 生きる為の支えが――現実逃避の理由が何処にも見当たらない。
 このままでは、自らの手で砕いた心が、元の形に戻ってしまう。
 思い出してはいけない、気付いてはいけない事実が、蘇ってしまう。

 これまで目を伏せてきた現実が、嫌でも意識を駆け巡っていく。
 フラッシュバックするのは、シャルロットを撃ち殺した瞬間の光景。
 一方的な殺意を向けられながらも、それでも彼女はセシリアを止めようとしていた。
 どうしようもない程シャルロットは善人で、そんな彼女を殺した自分がどうしよもない程愚かで。
 そして同時に、初めて他者に与えた"死"に激しい恐怖を抱いてしまった。
 人は頭を撃たれただけで死ぬ――首輪の力が無くても、簡単に人は殺せてしまう。
 そう考えると、周りにあるもの全てが血濡れの凶器に見えてきて。
 血に濡れて倒れる自分の姿が脳裏に浮かんで、それが現実になる事があまりに恐ろしくて。
 そして何より、そんな恐怖をシャルロットに与えた自分が、あまりに罪深く思えてしまった。

 善良な人間を殺した以上、自分もきっと誰かに狙われる。
 同じ親友を殺されたラウラに、あるいは名も知れぬ正義の味方に、"死"を与えられる。
 いつ狙撃され頭を撃ち抜かれるか分からないと思うと、恐怖で一歩も動けなくなってしまう。
 だからもう、狂うしかなかったのだ――狂気で恐怖を緩和させる事でしか、自己を保てなかったのだから。

543最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:54:49 ID:USxVgwlU0

「なんで……どうして……嫌……こんなの……!?」

 だがもう、狂う事は許されない。
 崩壊したセシリアの世界には、恐怖を払拭するものが何処にも無いのだから。
 曇りの消えた視界に映るのは、いつ"死"が襲い掛かるかも分からぬ空間。
 そこには一片の安らぎも存在せず、体内でのたうち回るのは恐怖だけ。
 今となってはもう、歩く事すらままならない。

「どうして……なんで…………?」

 どうして、狂気を晴らしてしまったのだ。
 ずっと狂ったままでいれば、甘い夢の中で生きていけたのに。
 例え狂人と罵られようが、この世界で歩く事ができたというのに。





「救われたくなんか……なかったのに…………」





 自分も"一夏のいない世界"の住人なのだとしたら。
 自分の周り全てに"死"の気配が漂っているというのなら。
 それならもう、いっそ――――――。

544最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:55:57 ID:USxVgwlU0



【4】


 コンクリートが、赤色に染まっていく。
 流れ出る血は頭部を中心に広まっていき、地面を浸食していく。
 思考を司る頭を撃ち抜かれたのなら、普通の人間は生きていられない。
 今地面に倒れ伏した者は、既に心臓の鼓動を止めている。


 今もなお地面に広がる血液は――セシリアの頭部から流れ出ていた。


 彼女は自らの手で、拳銃を自らに向けて発砲したのだ。
 とどのつまり、自分の意思で死を選んだである。
 自分が犯した罪を抱えたまま生きていくには、彼女の心は弱すぎたのだ。
 海から引き摺りだされた魚は、地表ではものの数分で息絶えてしまう。
 狂気の奥底で眠っていたセシリアも、それと同じ事が言えたのである。
 千冬とユウスケは、そんな事を露とも知らぬままセシリアを救ってしまった。
 救われてしまったら最後、彼女に残された道は一つだけだというのに。

 千冬の叫び声が、何度も木霊している。
 何度名前を呼んだところで、死者は帰って来ないというのに。
 それでも彼女は遺体の身体を揺さぶりながら、ひたすらに名前を叫び続ける。
 今の彼女の心境を一言で言い表すのだとすれば、"絶望"が最も相応しいのだろう。

「なんだよ、これ」

 気付いた頃には、全てが手遅れだった。
 千冬の顔からは笑顔が消え、セシリアに至っては命が潰えている。
 ユウスケの目の前で、無残にも砕け散った二つの光。
 救えた筈のそれらを、"仮面ライダー"は救えなかった。

「なんで……こうなるんだ……」

 もしも自分がもっと早く動けていれば、悲劇は回避できたかもしれない。
 スパイダーショックを起動させ、セシリアを拘束してさえいれば、彼女の自殺は止めれただろう。
 そうすれば、千冬も今の様に泣き叫ぶ事など無かった筈だ。
 だが、今目の前に広がる景色は、そんな願望とは真逆の絶望的なものとなっている。
 そこにユウスケが求めるものなど何一つ無く、それを払拭する力など彼には無い。
 今の彼には、ただ目の前に横たわる"結果"に絶望する事しか出来ないのである。

「どうしてこうなるんだよォ……ッ!」

 小野寺ユウスケは、"笑顔"を護る事が出来なかった。
 だが、それは彼を責め立てる理由にはならないだろう。
 何故なら――最初からこの場所に、"笑顔"なんて在りはしなかったのだから。




 星の光が照らす世界で、慟哭ばかりが響き渡る。
 虚空を見つめるセシリアの頬には、一筋の涙が伝っていた。




【セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス 死亡】





【C-3 市街地】
【一日目 夜中】
※基本支給品×3、ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ニューナンブM60(4/5:予備弾丸17発)@現実、
 スタッグフォン@仮面ライダーW、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトスが放置されています。

545最期の詩-Blue tears- ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:57:09 ID:USxVgwlU0

【C-4 北西】
【一日目 夜】
※基本支給品×3、ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ニューナンブM60(4/5:予備弾丸17発)@現実、
 スタッグフォン@仮面ライダーW、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトスが放置されています。

【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(中)、精神疲労(大)、胸部に軽い裂傷
【首輪】30枚:0枚
【コア】クワガタ:1 (次回放送まで使用不能)
【装備】なし
【道具】スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
 0.なんでこうなるんだよ……ッ!
 1.千冬さんと共に教会に向かう。
 2.千冬さんとみんなを守る。仮面ライダークウガとして戦う。
 3.井坂深紅郎、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 4.“赤の金のクウガ”の力を会得したい。
 5.士とは戦いたくない。しかし最悪の場合は士とも戦うしかない。
 6.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。

【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(大)、疲労(中)、左腕に火傷、深い悲しみ
【首輪】60枚:0枚
【装備】白式@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品 、シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木に制裁する。
 0.????
 1.鳳、ボーデヴィッヒと合流したい。
 2.一夏の……偽物?
 3.井坂深紅郎、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 4.小野寺は一夏に似ている。
【備考】
※参戦時期不明
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。

546 ◆qp1M9UH9gw:2013/11/06(水) 02:57:57 ID:USxVgwlU0
投下終了です。ユウスケ達の位置は>>545が正式なものです

547名無しさん:2013/11/06(水) 09:54:49 ID:VYR68n7A0
投下乙です

どうあがいても絶望じゃないですかありがとうございます
救われることに耐えられないあたり、ほんと繊細というか豆腐メンタルというか……
さぁーて、生徒を守れなかった教師と笑顔を守れなかった戦士、今後どうなるかなー

549名無しさん:2013/11/06(水) 19:09:16 ID:W5wcVSqE0
投下乙です。
セシリアは救われる……と思ったら、その直後に今まで犯した罪の重さに耐えきれなくなったか。
こうなるのも仕方がないけど本当に無常だな。残された二人も重い物を背負うことになっちゃったし。
千冬さんとユウスケはこれからどうなるだろう。

550名無しさん:2013/11/07(木) 17:39:13 ID:vCx.cUFM0
投下乙です
正気を取り戻す→罪悪感と向き合う→心がへし折れる→自殺の流れは、なんと言うか、ひたすら哀れという印象
決して強い人間ではない,セシリアにとっては発狂による思考停止が最も楽な道で、
普通に考えて最善の手段であるヒーローの説得が、今のセシリアにはむしろ最悪の対処方法という皮肉
本文中でも触れられてるけど、最早何をどうやってもハッピーエンドには至れなかったんだからやるせないわあ…

551名無しさん:2013/11/07(木) 22:36:12 ID:mfxL1q8M0
投下乙です

濃いわあ…
なるほど、確かに救われる方が辛いわなあ
そして千冬さんとユウスケは…

552名無しさん:2013/11/09(土) 03:44:04 ID:fx/CcM5c0
投下乙!
セシリアは弱かったんだなぁ……
ユウスケと千冬は強いから立ち直ることができたけど、既に人を殺めてしまったセシリアはもうどうしようもなかった
自分に出来たから相手にもそれを強いるってのは残酷だよね
最後にこうして二人の前で自殺したのは、弱かった彼女にできた最後の足掻きにすら見えてしまう
強いこの二人がこれからどうするのか、非常に気になります

553名無しさん:2013/11/10(日) 13:51:35 ID:l6j3O2DQO
投下乙です。

罪を犯してしまったのなら、自分も周りも死の恐怖に覆われてるのなら、さっさと死ぬしかないじゃない!

554 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 20:57:07 ID:pUe12Jus0
投下乙です。
セシリアやめとけ千冬姉に勝てるわけ……と思ったら案の定。
さてここからが本番、どうなるのかと思ったら……これは予想外、でもどんな展開よりも納得。
セシリアは結局、本質は繊細なただの女の子だったのだと。
色々ブッ壊れていたけど、その壊れていたことにきっちり筋が通って愛を感じましたが、さて、残された二人は……

話は変わりますが、自分も予約分が完成したので、これより投下を開始します。

555 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:01:20 ID:pUe12Jus0
「イカロスが――ニンフを殺そうとした、だって……っ!?」

“イカロスのマスター”、桜井智樹であるということを鏑木・T・虎徹に確認された後。
 彼から伝えられたイカロスのあまりに信じ難い所業を、驚きのままオウム返ししていた。
 そんな馬鹿な。確かにイカロスは非常識な未確認生物だが、その本質はスイカを可愛がったりヒヨコを買って育てたりすることを好む、心優しい女の子だ。
 たとえ出自がどうであれ、そんなイカロスが、大切な仲間であるニンフを殺そうとするなんて、あるはずがない――そう思った智樹に、さらに驚愕すべき情報が伝えられる。
「最初に会った時は、殺し合いに乗るのがマスターの命令だって言って、いきなり俺を攻撃してきたんだがな」
「俺の……命令っ!?」
 自らのスーツの陥没痕を見下ろす虎徹の言動に、智樹は目眩すら覚える衝撃に見舞われる。
 虎徹の言っていることにあまりにも突拍子がなさ過ぎて、脳の理解が追いついていないのだ。
 智樹ほどではなくとも、虎徹の言葉はその場にいた他の三人にも、同じく動揺を与えている様子だった。
「待ってください。桜井君はそんな人じゃ――っ!」
「そいつはわかってるよ」
 ニンフから聞いた、と虎徹は智樹を庇おうとしたマミを制する。
「だからあの子は、騙されていたんだ。ジェイクみたいな、悪意を持った誰かに。俺を襲ったすぐ後、ニンフがあの子に、それをちゃんと気づかせたんだ」
 良かった、とは誰も胸を撫で下ろさない。
 虎徹が口にしたイカロスの凶行について、未だ詳細が語られていないからだ。
 案の定。虎徹の口から「なのに」という語句が続けられる。
「あの子は――イカロスは、そのニンフを『偽物』だと思っちまったんだ」
「――――は?」
 間の抜けた声は、誰の物だっただろうか。
「何でもイカロスの記憶の中じゃ、ニンフにゃ羽が生えてなかったらしい」
 エンジェロイドと直接の面識を持たないマミ達三人が虎徹の言葉の意味を図りかねている中、当然というべきか、智樹だけはそれを正しく解していた。
「……どういうことだよ」
 だというのに、だからこそか。自分でも、声が震えていることが智樹にはわかった。
「それはもう、昔の話じゃないか! あいつは、ニンフはっ、毟られた羽が生えたってあんなに喜んでいたのに……イカロスだって知ってるはずだろ!?」
「ニンフだってそう言ってたさ。でもイカロスのメモリーなんちゃらがどうのって、ともかくイカロスの記憶の中と目の前のニンフが違ってたのを、自分を騙したマスターと同じ『偽物』だと決め付けて攻撃しちまったんだそうだ」
 その後のことはわからない、と口にしている本人も、まるで納得した様子ではない。又聞きとなった智樹は尚更だ。こちらの様子を伺った虎徹は、そこで小さく頭を下げた。
「すまない。俺が最初にあの子と会った時に、止めていられりゃ良かったんだ。あの子を、マスターに言われたからって何でも従ってるんじゃねぇって突き放していなけりゃ……」
 謝罪をされたが、虎徹に何の落ち度もないことは智樹とてわかっている。だが、それでもどうしてそんなことになってしまったのかと思わずにはいられない。
 そはらが、アストレアが、ニンフが、そして、イカロスが。かけがえのない日常を織り成す大切な彼女達が、同じく日常への帰還のためにひたすら苦難に立ち向かっていた中、怠惰にエロ本を読み耽っていた己への罰なのかと、自責の念が重さを増して来る。
 皆が苦しみ、悩み、戦っている中。自分は呑気に、何をやっていたのか……っ!
「おっさんのせいじゃ……ねぇよ」
 重苦に苛まれる中、ようやくそれだけの言葉を絞り出した智樹の肩に、ふと柔らかい掌が添えられた。
「あなたのせいでも、ないわよ」
 まるで心の内を見透かしたかのようなタイミングで、そんな言葉をかけてくれたのはマミだった。
 あるいは誰からでも見て取れるほど、智樹の疲弊した精神は外面に現れていたのかもしれない。
 そして――折角言葉をかけて貰ったというのに、智樹は何も彼女に言えなかった。
 それはあるいは、イカロス達の現状が、本当に智樹のせいではなかったとしても。

556虚言!! ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:02:45 ID:pUe12Jus0
 相手があの、智樹自身殺したいと願った吐き気を催す下種だったとしても。命を結ぶために魔法少女になり、本当はジェイクさえも殺さずに場を収めようとしたこの優しい少女の手をたった今汚させたのが、言い逃れのしようもなく智樹のせいだったからかもしれない。
 たとえどんなことであれ、それが事実だとしても。「俺のせいじゃないよな」なんて、マミに対してだけは言ってはならないのではないかと、智樹はそう感じていたのだ。 

「時間軸のズレ――か」

 気まずい静寂が続いた後。そんな重苦しい雰囲気を変えるためか、智樹と虎徹の情報交換を聞いていた映司が、そんな単語を口にしていた。
「ああ、ごめん。実は鏑木さんが来る少し前、桜井君が席を外していた間にさ。マミちゃんとまどかちゃんから、そういう話を聞いていたんだ」
 何でもマミとまどかの記憶の齟齬から、彼らはあの眼鏡が時間の流れにも干渉できるのではないのかと推測していたらしい。
 イカロスの記憶と実物のニンフが異なっていたというのも、おそらくはそのせいなのだろうと。
 だから、騙されたばかりだったイカロスが、ニンフを偽物だと思ってしまったのも必然で、智樹の知る誰が悪いというわけでもない。
 強いて言うなら――そんなきっかけを用意した、偽物の桜井智樹と、このバトルロワイアルの主催者こそが、憎むべき邪悪なのだ。
「でも――だったらやっぱり、俺達もイカロスちゃんに気をつけた方が良い。特に、桜井君は」
「俺が?」
 映司の緊迫感を滲ませた言葉の真意に、智樹はまたも理解が追いつかず、そう素っ頓狂に聞き返すしかなかった。
「イカロスちゃんの知らない、羽の生えたニンフちゃんを知っているということは……桜井君も、イカロスちゃんとは別の時間から連れて来られているということになるよね」
 あっ、という声は、二人の少女のもの。対し智樹と虎徹は、未だ映司の言わんとしていることを把握できずにいた。
「だとすると、桜井君もイカロスちゃんから見れば、ニンフちゃんと同じ……偽物だと思われてしまう可能性が高い」
 深刻な表情の映司がそこまで告げてくれて、智樹と虎徹もようやく合点が行った。
「俺が……偽物」
「そうか、なまじ偽物の智樹がいるってもう知っているから……クソッ!」
 怒涛の衝撃に翻弄されたかのように押し黙る智樹と、その代わりと言わんばかりに理不尽な現状への怒りに吠える虎徹。
「この先イカロスちゃんと合流しても、そのすれ違いをどうにかしないと……きっと大変なことになる。もしもの時は俺が力を貸すから……桜井君は、危険な真似だけはしないで欲しいんだ」
 考えの纏まらない智樹は、そんな映司の言葉にも黙ったままだった。
「……とにかくだ。イカロスのことはきちんと伝えたぞ、智樹」
 その宣言と共に、まどかから癒しの光を浴びていた最中だというのに虎徹はすっくと巨体を起き上がらせ、

「――俺はニンフを助けに戻る」

 その決定的な言葉を発した。

「――っ、ニンフ!?」
 弾かれたように顔を起こした智樹と同様、虎徹以外の誰もが、驚愕に染まった表情を見せている。
 ――ただ一つの例外を、除いて。

「ニンフという参加者は、ジェイク・マルチネスが殺害したと言っていなかったかい?」
 無感情に、ただ事実のみを確認しようとする白い小動物――キュゥべぇの問いかけに、虎徹は鋭く力強い視線で応じる。
「ジェイクの奴は、途中で逃げ出したんだ。確かに人間やNEXTでも死んでるような傷だったから、ジェイクがそう思っても無理はねぇが……ニンフが言っていたんだ。エンジェロイドは、そう簡単に死にはしねぇってな」
「――!」
 虎徹の言葉に、智樹も勢いよく立ち上がっていた。

557虚言!! ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:04:23 ID:pUe12Jus0
「俺も連れて行ってくれ、おっさん!」
 ニンフが生きているかもしれない。そんな話を聞いて、こんなところで落ち込んでじっとしているだけなど智樹には耐えられない。
 会いたい。かけがえのない、大切な友達に。
 そんな智樹の様子を見て、嬉しそうに口元を歪めた虎徹も、応と小さく頷く。
 頷き返した智樹と共に一歩を踏み出そうとした彼を、後ろから引き止める手があった。
「ダメだよ、タイガーさん……! あなたが一番傷だらけなのに……」
「そんなもん、気にしてられっかよ」
「いけません」
 まどかの制止を振り切ろうとする虎徹を、今度は正面からマミが邪魔をする。
「気持ちはわかります、ワイルドタイガー。でも鹿目さんの言う通り。今のあなたじゃ、ミイラ取りがミイラになってしまう可能性もあるわ」
「ミイラって……どういう意味だよ!?」
 虎徹にそう返されて、ハッとしたようにマミは黙り込む。
 その光景がどういう意味なのか、智樹の理解が追いついてしまう一瞬前に――



 ――それは、突然やって来た。



「!?」

 最初に認識できたのは、轟音と共に鉄砲水のように全身を叩いた何かだった。
 全身に襲いかかった余りに強いその勢いに、智樹は一瞬たりとも踏み止まることができず吹き飛ばされる。視界が夜の闇ではなく灰色の靄に埋め尽くされたこともあり、上下の感覚を見失って混乱の淵に叩き落とされる。
 それから足首や肩に激痛を覚え、それが地面に激突し跳ねていたためだと気づいたのは、転がって勢いが弱まった時だった。
 ようやく仰向けに倒れ込む形で止まった智樹は、まず衝撃に息を詰まらせた。次いで巻き起こった粉塵を吸い込んだことで咳き込み、同様に粘膜を刺激されたことで涙と鼻水を零す。
 そんな状態から何とか周囲の様子を伺える程度に回復した智樹が面を上げれば、他の四人も程度の差こそあれ、突然の猛威に吹き飛ばされていた。
 前触れなく爆撃でも受けたかのようなこの状態に、智樹は心当たりがあった。
(これはまるで……)
 彼女達の。
 そこまで思い至った智樹が視線を走らせれば、先程五人が密集していた真横の爆心地に、それはいた。

 歪な三日月のように歪んだ口元。全裸に近い煤汚れた身体から、直接生えた刃のような翼。
「ごはんだ……」
 智樹達から不意に視線を外し、そんなことを口走ったその金髪の少女は、見覚えこそないが見紛う余地もなく――

「エンジェロイド……!」

 いや――見覚えが、ない……?

558虚言!! ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:06:33 ID:pUe12Jus0
 緊迫した声音で呟いてから、ふとした違和感を覚えた智樹だったが、当の少女は答えない。
「あれがイカロスちゃん……っ!?」
「違う。ニンフでもねぇ」
 翼の生えた少女、ということで連想したのだろう映司の疑問に虎徹が答えるが、その間も少女はある一点を凝視し続けている。
「何を……見ているの?」
「ごはん……」
 マミの問いに答えたわけではないだろうが、再び少女は呟いた。
 その視線の先に転がっているのは、智樹達同様に吹き飛ばされたモノ。
 力なく四肢を投げ出した――ジェイク・マルチネスの亡骸。
「ごはんごはん……ごはんごはんごはんごはん!」
 狂ったようにその単語を繰り返した少女の翼が、息を吐ききったと同時に伸長し――緩く湾曲した軌跡を残して、ジェイクの死体に突き刺さった。
 狂気に満ちた行為に目を見張る智樹達を無視して、少女は酷薄な笑みを浮かべる。
「ねぇしってる? 食べることも、愛なんだよ……?」
 その言葉を合図に天使の翼が拍動すると、ジェイクの死体が絞んだ。
 そこに突き刺さった切っ先が脈打つたびに、さらにジェイクは体積を減らして行く。
「人を……食べてるの……っ!?」
 恐怖を孕んだまどかの声に、残りの四人も慄然とした。
 なまじ美しい天使の似姿をしているためか。人型のエンジェロイドが、啜るかのように人間を捕食するという光景は、猟奇的でありながらどこか幻想の美を伴っており、目にした者に一層の悍ましさを掻き立てていた。
 ジェイク・マルチネスだったモノが、完全に消失するまでに要した時間はほんの数秒。混乱と畏怖に打たれていた五人が動きを忘れていた間に、少女は大の男一人を見事平らげた。
 その姿に、智樹達は新たな違和感を覚える。
 初めに見た時よりも、少しだけ彼女が大きくなったような、そんな違和感を。
「私、また大きくなれたの?」
 誰が何を言ったわけではないが、彼女はまるで智樹達の心を読んだかのような言葉を、実に嬉しそうに吐いた。
「やったぁ! ねぇしってる? 大きくなるのも愛なんだよ!」
 それをはいそうですか、と受け流せる者はこの場にいなかった。
「何なんだよ……何なんだよおまえはっ!?」
 忽然と現れた、混沌そのものが具現化したような狂気の天使に、耐え切れなくなった虎徹が叫ぶ。
「私? 私は第二世代エンジェロイドタイプε(イプシロン)・「Chaos(カオス)」だよ」
 そこでふと何か引っかかったように、カオスと名乗ったエンジェロイドは一拍の間を置き――それから行儀良くお辞儀をした。
「よろしくね、おじさん!」
 その声の元気の良さと、礼儀正しく頭を下げた様子から――もしかすればイカロスのように、非常識なだけで実は、悪い奴じゃないのではと。
「カオス……おまえがっ!」
 エンジェロイド達との付き合いが長い智樹はそんな可能性を見出したが、虎徹の焦燥に駆られた声にその楽観は掻き消される。
「ご存知なんですか?」
「ニンフから聞いた。一番ヤバいエンジェロイドだって……!」
 映司に答えながら、慌ててファイティングポーズを虎徹は構える。
 智樹も覚えがない名前だったが、一先ずは警戒を解くべきではないと判断して、痛みを圧して立ち上がる。
 二人のやり取りに危険性を見出した魔法少女二人もまた、戦闘態勢へと移行し。
 それらを見渡したカオスは、嬉しそうに微笑んだ。

559虚言!! ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:08:25 ID:pUe12Jus0
「みんな、私に愛をくれるの?」
 戦意を持った集団に包囲されたにしては、あまりに不可解なカオスの物言いにまたも智樹達は取り乱される。
「どういう意味、なの……?」
 まどかの疑問の発露に、カオスはきょとんとした表情を向けた。
「しらないの、おねぇちゃん? 痛いのが愛なんだよ?」
 ――痛いのが、愛。
(あれ……これ、って……)
 その言葉に、智樹は聞き覚えがあった。
「痛いのが……愛?」
「そっかぁ、しらないんだ。じゃあ……私がおしえてあげる」
 旋風。
 カオスを中心に生じたそれは、瞬く間に全てを飲み込む竜巻に成長した。
「――みんなに、愛をあげるね」



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



「うわぁあああああああああ……って、あれ?」
 大自然の猛威に成す術なく巻き上げられた智樹だったが、宙空に投げ出される直前何者かに力強く繋ぎ止められ、引き寄せられていた。
「大丈夫、桜井君!?」
 引き寄せられた先にいたのは魔法少女姿のマミ。彼女は黄色のリボンで智樹と自身、さらに竜巻にも動じず就眠に耽るキャッスルドランの首を繋いで、暴風の脅威を凌いでいた。
 竜巻の中、一つ一つが恐るべき凶器と化した礫や金属片もマミは光の障壁で遮断し、抱き寄せた智樹と共に安全圏まで離脱する。
「た、助かった……サンキューマミ」
「気にしないで。それに少なくともあなただけは、あのままじゃ間違いなく死んでいたもの」
 彼女の視線を追えば、同じくマミのリボンで竜巻から引き抜かれた影が二つ。それを目にしたマミが、苦々しく表情を歪める。
「火野さんは助けられなかった……まだ変身してなかったけれど、オーズの力で切り抜けてくれることを祈るしかないわね」
 マミが呟いた直後、巻き上げられていた塵芥に、歪な両翼の影が映った。
「――来るっ!」
 呟くや否や、マミはリボンを消失させ、智樹を抱えたままで自由落下を開始した。
「あははははははははは!」
 竜巻が消え去る前、力尽くでその壁を突き破ったカオスがその姿を現す。
 不可解な言動に躊躇う余地など、もう残されてはいない。彼女は明確な害意を持って、こちらに襲いかかって来ている。
 それを迎撃すべくマスケット銃を召喚したマミは落下しつつも弾幕を展開するが、移動する標的を追う速度を緩めぬまま、エンジェロイドは連続する銃弾を容易く躱す。
「鹿目さん!」
「はいっ!」
 マミが呼びかける前から、先に着地していたまどかは、既に矢を番えていた。

560虚言!! ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:10:43 ID:pUe12Jus0
 引き絞られた弓から放たれた光矢は智樹達の脇をすり抜け、回避したカオスの頭上にまで登って行く。
「レガーレ・ヴァスタアリア!」
 その瞬間、マミの操る魔法のリボンが、カオスを拘束せんと出現する。
「こいつも喰らっとけ!」
 エンジェロイドを戒めるのに、虎徹がジェイクのディパックから確保しておいた支給品、天の鎖(エルキドゥ)を追加する。
 それぞれオーズに、またニンフに即破られた程度の縛りでも、重ね合わせをすればカオスの超音速飛行を止めるだけの効力はあった。
 絡め取られたカオスは空中に縫い止められ、急な制動に慣性のままその身をがくんと振られながらも、一度は完全に停止する。
「クスクスクス……」
 だが、彼女は蜘蛛の巣に掛かった哀れな獲物のような、蹂躙されるだけの弱者ではない。
 刃のような翼はさらにその鋭さを増して拘束を脱し踊り、加え無数の鎌鼬が迸る。ほんの一秒程度でリボンも鎖も引き裂かれ、用を為さぬ残骸へと成り果てる。
 だが、その隙があれば十分だった。
「――桜井君。耳を塞いでて」
 智樹への囁きと同時。再び彼らを追って降下し始めたカオスの目に映ったのは、洞のような大穴。
「ティロ……」
 大地に叩きつけられるまでほんの数秒と言ったところで、大砲を召喚したマミは、きっとカオスを睨んでいた。
 智樹がマミの忠告を実践した瞬間、まどかが声を張り上げる。
「降りそそげ、天上の矢!」
「――フィナーレ!」
 無数の矢はその途方もない密度で点から面と化し、一切の逃げ場を塞いでカオスを叩き落とさんとする。
 さらにその矢から身を守る意味でも放たれた膨大な魔力の光が、強力な槌としてカオスを狙い打つ。
 二人の魔法少女による上下からの波状攻撃は、確かにエンジェロイドの姿を挟み込み、夜を染める白光で掻き消した――



 ――はずだった。



「おい……あれはジェイクの……」

 着地した智樹とマミを受け止めた虎徹の呆然とした声で、智樹は眩さに瞑っていた瞼を持ち上げる。

「クスクスクス……」

 天にあったのは、変わらず健在なカオスの姿。
 そして智樹の目に映ったのは彼女の展開した、紫色の障壁だった。
「……バリアじゃねぇかッ!」
「そんな……でも!」
「あれが前方に張られているなら、鹿目さんの矢を防げないはずなのに……」

561虚言!! ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:11:46 ID:pUe12Jus0
 見ればカオスには、一切の変化がないわけでなかった。
 大事なところに申し訳程度の隠しがあっただけだったはずが、いつの間にか赤と黒を基調とした刺々しい甲冑でその手足を覆っていたのだ。
 さらによくよく見てみれば。紫色のバリアとは別に、無色の球状の殻がまるでイカロスのイージスのように彼女を包み込み、守護しているではないか。
「あっちのバリアで防がれたの……?」
「もうおしまい?」
 クスクスという笑声を漏らすまま、カオスは無邪気に尋ねて来る。
「そっか……じゃあ、こんどは私のばんだね」
 誰が何を答えたわけでも、それを推察するだけの間があったわけでもないのに、一人で納得したカオスの姿が、忽然と消えた。
「きゃあっ!」
 まず、まどかが吹き飛んだ。
 突然四人の目の前に現れたカオスは、手も足も、翼どころか目に見える何かを起こしたわけでもないのに、まどかを勢いよく吹き飛ばしていたのだ。
「このぉっ!?」
 それに対し拳を叩き込んだ虎徹だったが、装甲された掌に受け止められ、子供が玩具を振り回すようにして投げ飛ばされる。
 ハンドレッドパワーが発動していないとはいえ、いくら重傷の身だとはいえ。あのワイルドタイガーが、まるで赤子の手を捻るように。
 瞬く間に二人を退けたカオスは、智樹とマミに対峙する。
「桜井君、下がって!」
 マスケット銃を召喚し構えたマミだったが、カオスの振るった鋭利な翼に容易く銃身をスライスされ。呆然とする間にまどか同様、不可視の衝撃に吹き飛ばされて行く。
「マミ!」
「みんなに、ちゃんと愛をあげるけど……おねぇちゃんたちやおじさんは、あとからだよ」
 絶望的な戦力差に叩きのめされ、先程ジェイクを退けた三人は這い蹲るしかできずにいた。
 映司も離脱させられた以上、残されたのは戦力を持たない智樹ただ一人。
 そこでカオスは、自身を振り向いた智樹に対し問いかけた。
「はじめはおにいちゃん……やっぱりおにいちゃん、おにいちゃんだよね?」
 外見は智樹と同じか、それより少し上という年頃のカオスは、しかし智樹をおにいちゃんと呼んだ。
 そこで智樹は、竜巻に巻き込まれる前に引っかかていた思考に、ようやく確信を持つことができた。
「おまえ……エンジェロイドだったんだな」
 あぁ、くそ。
 違う、大事なことはそこじゃない。
 やっぱり俺が向き合ってなかったから。何もしていなかった間に。
 可哀想なこの子は、また可哀想なことになっているじゃないか……!
「……ちみっこ」



「かわいそう……? わたしが?」
 突然胸の内を読み取られ、一瞬愕然とはしたが。エンジェロイド相手なら、今更驚くことでもないと智樹は向き直る。
 同じくカオスも。「可哀想」という意味を今は説明する気がない智樹の心境を読んだのか、改めて酷薄な笑みを張り付かせていた。
「わたしもエンジェロイドだから……おねえさまたちみたいに、サクライ=トモキと愛をしりたいっておもってたの」
 うねうねと、鋭い切っ先で智樹を翼が覆い囲む中。智樹は恐れず一歩前に出た。

562虚言!! ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:13:21 ID:pUe12Jus0
 そして――
「――コラ!」
 智樹はこつんと、カオスの頭を叩いていた。
 以前このちみっこが、同じことを言って現れた時のように。
 それが意外なことだったのか、カオスは智樹を包囲していた翼を引っ込めた。
「痛いのが愛とか、そんなわけないって前に教えただろ。だいたい皆をいじめちゃいけないじゃないか」
 きょとんとした様子のカオスに、智樹は努めて優しく語りかける。
 智樹の中には、上靴を貰って嬉しそうにはしゃぐ、あの時のカオスの笑顔が蘇っていた。
 この子も他のエンジェロイドと同じように、悪い子じゃない。ただ純粋で、その分思い込みが少し強いだけで。
 ちっちゃい子なんて皆そうだ。だったら周りの人間が、間違った時は止めてやらなくちゃいけないのだ。
「おまえも前に、俺が上靴あげたらわかってくれたじゃないか。痛いのじゃなくて、そういうのが愛なんだって……」
「……うそつき」
「えっ?」

「おにいちゃん、うそつきだ……っ!」

 ドスッ。

 腹の方から聞こえた音に、智樹は視線を巡らせた。
 それが何の音なのか、本当は容易に予想できるはずなのに。
 直視しても、その光景が真実だとは、どうしても考え難かった。

「私にうわぐつはかせてくれたの、おねぇちゃんだもん! おにいちゃんなんかじゃない、仁美おねぇちゃんだもん!」

 カオスが見せたのは、神聖不可侵なるものを穢されることへの、強い拒絶と嫌悪の感情。
 その感情はそのまま……彼女の行動に反映されていた。

「ちみ、っご……っ」

 言葉が濁ったのは、溢れてきた血塊で喉を詰まらせたためだ。
「うそつきのおにいちゃんなんか、きらいっ!」
 カオスの鋭利な翼が、智樹の腹から背中に抜けていた。

「智樹ッ!」
「桜井君!」

 立ち上がった虎徹とまどかが、その惨劇を前に悲鳴を上げる。助け出そうと駆け寄って来るが、カオスの展開したバリアによって逆に弾き返される。
 カオスが翼を捩る。ブチブチと、草を千切るような不快な音が生じ……肉を内からまさぐられ、骨を割られ、熱を奪われる不快な感覚が、智樹の中を上がって来る。

563虚言!! ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:15:48 ID:pUe12Jus0
「うそつき。きらい。だけど……」

 直後。血液と共に流れ出て行っていたはずの熱が、自らの内に再補充され――逆に収まりきらず、自らが破裂していくような錯覚さえ智樹は味わう。
「あっ、がぁああああああああああああっ!?」
「……そんなおにいちゃんにも、愛をあげる」

 智樹の傷口から漏れる血の煮立つ音は、さながら彼女の愛の産声か。
 地獄の責め苦にも勝る苦しみに思考を塗り潰されそうになりながら、智樹は辛うじてまだ、生きていた。
「痛くして……あったかくして……殺して食べるのが、愛なんだよ」
 そんな智樹に、カオスは優しく訴えてくる。
「おねぇちゃんやみんなが教えてくれて、私がじぶんで見つけた愛なの。おにいちゃんだって、うそつきだけど、さっき私のために痛くして(ぶって)くれたんでしょ?」
 あぁ、くそっ、くそ! 何てことだ。
 やっぱりちみっこは、可哀想なだけの良い子じゃないじゃないか……っ!
 誰だよこんな変なこと吹き込んだ奴は!
「変なことじゃないよ! みんな、みんないっしょうけんめい、いろんな愛の形を教えてくれたの!」
 ほら見ろ良い子だから、誰かが教えてくれたことを疑いもせずに信じてるじゃないか!
 教えられたことで食い違いがあったら、それがなくなるように自分で必死に考えて、結局全部真に受けて……!
 それでこのまま、勘違いして。善行のつもりで皆から恨まれることを続けるなんて……不憫過ぎる。
「お……ぃ、ちみ……っご」
 それを智樹は見逃せなかった。
 自分がここで死ぬということは、よく考えなくてもわかっている。ニンフを助けに行けず、イカロスを止めてやることもできないまま、死ぬ。
 だが、それなら。これ以上、何かを先延ばしにできないほど時間が限られているなら。
 せめて、この子だけでも。

 ――ドスッ。

 虎徹がザンバットソードで、カオスの展開したバリアを引き裂いたと同時。
 カオスのもう片翼が、智樹の胸に突き立っていた。
「……さよなら、おにいちゃん」

 この子だけでも、止めたい。

 そんな願いを最期に、桜井智樹はこの世を去った。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○

564虚言!! ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:16:55 ID:pUe12Jus0

「桜井……君?」
 ダメージから回復し、状況を確認したまさにその時。
 カオスの翼に吸収され、跡形もなくなってしまったその人の名を。巴マミは、呆然とした調子で呟いた。
「そんな……嘘。桜井君……っ!」
 嘘だ。嘘だ。そんなのって……
 絶望に沈む寸前に、マミを救ってくれた彼が。勝手に諦めていたマミを、独りぼっちではなくしてくれた彼が。
 死――
「いやぁあああああああああああああああああああああああああ!?」
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 マミが絶叫する間に、ザンバットソードを振りかぶった虎徹がカオスに斬りかかる。彼女は防ごうと召喚した青龍刀が半ばまで断ち切られたのを見てそれを手放すと、ビームの弾幕を展開し、その隙に虎徹から距離を取る。
 散弾のようにばらまかれたビームを回避しきれず、さらに負傷した虎徹をまどかが支える。彼は本来とてもまどかが支えきれるような重量ではないが、そんなことを気にしていられるほどマミに余裕はなかった。
「――許さないっ!」
 憎い。恨めしい。智樹を惨たらしく殺した、あのカオスというエンジェロイドが。
 そんなマミの激情に導かれるまま、憎悪に乗った魔力が収束し収斂し、直撃さえすれば二重のバリア越しだろうとあのエンジェロイドを撃滅し得る、巴マミ最強の魔砲が顕現する……はずだったが。
「……どうしてっ!?」
 現実に呼び出せたのは、先程カオスに防がれたただの魔砲。
 あの切り札を使うには今はセルメダルの数が足りないのだ、という事実にマミが思い至った時には、魔砲は逆にカオスの放ったビームに撃ち抜かれ爆発四散していた。
「――っ!」
 さらにメダルを無駄遣いしてしまった。そんな苛立ちに身を焦がしたマミの前に、カオスが姿を現す。
「つぎは、おねぇちゃんのばん……」
 先程智樹を差し貫いた、両翼の先端がマミに迫る。
 咄嗟に繰り出した防御用のリボンも勢いを減衰することなく切り裂き、そのまま切っ先はマミの眼前にまで到達する。
「――?」
 額と胴を貫く寸前、突如としてカオスの翼はその刃を止め、直進ではなく一度撓み、それからマミを払い除けた。
「……くぅっ!?」
 それでも、先程食らった不可視の衝撃にも劣らぬ威力。幾つかの腱や筋肉が断裂し、骨が罅割れていてもおかしくないほどだ。
 魔法少女だからこそ死なずに済んでいるが、もしただの人間であればこれだけでリタイアだった。
「……どうしてだろ?」
 そこに追撃が加わっていれば、魔法少女といえど無事では済まなかっただろうが……その頃カオスは、自身の翼端を眺めていた。
「どうしておねぇちゃん、させなかったのかなぁ……?」
 カオスがそんな呟きをしている間に立ち上がろうとするが、ジェイク戦からマミに蓄積されたダメージはそれを阻害していた。
 虎徹も今は、まどかから治癒魔法を施されていてもマミと似たような状態だ。カオスと戦うには、もう少し回復する必要がある。

《――プテラ! トリケラ!! ティラノ!!!――》

 ハスキーな電子音が聞こえて来たのは、そんな窮地の最中だった。

《――プッ・トッ・ティラッノザ〜ウル〜ス!!!――》

565虚言!! ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:18:07 ID:pUe12Jus0
 歌声の直後、戦いで温まっていた夜気が再び冷たさを取り戻す。
 その両足で大地を砕きながら着地したのは、凍てつく古の暴君だった。

「――桜井君はっ!?」

 今更、というべきか。
 いや……彼が竜巻で吹き飛ばされてから、まだ何分と時は経っていないのだ。映司の戦線復帰は、充分に迅速だと言える。
 たった、それだけの間に……自分達は、彼を喪った。

「桜井君は……」

 伝えようと半身を起こしたマミは、そこで言葉を途切れさせた。
 負傷のせいではなく……ただその先の言葉を、どうしても紡ぐことができなかった。

「……そんな。俺は、また……っ!」

 嗚咽するマミの様子からその先の言葉を察したオーズは、一瞬だけ立ち尽くしながらも、改めてカオスに対峙する。

「させない。これ以上は、この俺が!」

 仮面ライダーオーズ・プトティラコンボの力は、間違いなく今のマミ達の中では最強だ。無論いくつかの面ではマミ達が凌駕する要素もあるだろうが、それでも紛い物であるジェイクへの苦戦度から考えれば、他の三人が共闘していても彼一人の方が強い可能性さえある。
 それでも、相手はそのジェイクの異能を身に付け、マミの見積もりでは基礎的な能力面でもオーズと同等以上、さらにいくつ隠し玉があるかもわからないような強敵だ。
 回復次第自分も戦線に加わるつもりだが、その時間稼ぎを本当に彼一人に任せて大丈夫なのか。
 他に手段がない以上、そうするしかないとしても、彼の身を案じずにはいられない。
(気をつけて……火野さん)
 マミは仲間の無事を祈り、自身の傷を癒すことに専念し――



「――――――――火野のおじさん?」



 ようとして、底冷えするほどゾッとする声を聞いた。

 プトティラの放つ冷気が生温く感じるほどの絶対零度でありながら、その身を焼き尽くすほどの獄炎として燃えている――カオスの憎悪にあてられて。

 マミだけでなく、もちろん名指しされたオーズも身を固くする中で――カオスはこれまで以上に、壊れた三日月の笑みを浮かべていた。

566虚言!! ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:19:29 ID:pUe12Jus0

「……逢いたかった」



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 桜井智樹の死因は、カオスとの時間軸のズレというただ一点に集約されると言って良い。

 もし、カオスが主催者に連れ去られるのがもう少しあとの時間軸からであったなら。カオスにとって最も大切な、愛をくれた者との思い出は、智樹との物になっていたのだから。
 しかし。“この”カオスに初めて本物の愛を与えたのは桜井智樹ではなく、志筑仁美なのだ。
 このカオスが決して忘れまいと、永遠に大切にしようと決意したのは、彼女との思い出なのだ。
 智樹の知るカオスを止めるなら、最善に近いはずだった説得の言葉は……智樹を知らないこのカオスにとっては、彼女の最愛の記憶を冒涜するものでしかなかったのだ。

 そんなすれ違いが、桜井智樹を殺した。

 ――それでも智樹は、死の瞬間にもカオスのことを諦めなかった。

 そして彼女の過ちを止めたいと願った智樹が自己進化プログラムPandora(パンドラ)に吸収されたことで、彼の良心に基づくストッパーがカオスに設けられた。
 とはいえパンドラの性能が低下していることも相まって、例えばマミを殺そうとしたのを傷つけるだけに止めるような、本当に最低限の制限しかカオスに与えられてはいなかったのだが……

 ……だが。カオスに芽生え始めた無自覚な道徳は、カオスに潜む無自覚な悪意に踏み潰される。
 
 それを“愛”だと信じたカオスが理解できないまま心に刻んだ、大切な者を奪われた憎しみ。
 それを抱いたカオスが聞いたのは、仁美を奪った仇敵の名。

 仮面に素顔を隠したその男が、つい先程見た若者だとは気づかずに。ただそう呼ばれていたからと、彼を“火野映司”だと純粋な彼女は信じて疑わない。
 口調ももちろん、何より声が違う。だが仮面越しに加工されている形跡が聞き取れる声だから、記憶と違うのだとカオスは勝手に納得する。
 何故なら“火野”と呼ばれたのだから、きっと眼前の紫の怪物は“火野映司(仁美の仇)”に違いないのだ。

 それを疑うだけの判断力がカオスにあるのなら、そもそもここまで歪みはしない。

 こうして。一人の悪が吐いた嘘によって、智樹(うそつきのおにいちゃん)の願いは踏み躙られることになる。



【桜井智樹@そらのおとしもの 死亡】

567神様なんかじゃないんだよ ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:21:03 ID:pUe12Jus0
「あいたかった……あいたかった……あいたかった……」
 詳細名簿に載っていたのとは随分と差異のある容姿で、可笑しそうに肩を震わせ呟くカオスに、本来それを他者に齎すプトティラと化した映司でさえ、底知れぬ不気味な恐怖を覚えていた。
 直接戦闘の内容は目にしてはいないとはいえ、ジェイクの変身したタトバを制圧した三人が、傷一つ付けられないまま数分で蹴散らされているカオスの強大さは、容易に想像することができる。だから戦場に駆けつけた映司は暴走の危険があれど、タトバでは太刀打ちできないと見て最強のプトティラコンボを解禁したのだ。
 クスクスと笑うカオスが何も仕掛けてこない隙に、オーズは大地からメダガブリューを召喚する。そうして得物を構えた時に、ちょうどカオスが口を開いた。
「私、決めてたの……火野のおじさんには、誰よりも目一杯、愛をあげるって……!」
(どういうことなんだ……!?)
 何故この子は、俺のことを知っている……?
「もしかして……私が大きくなったから、私のことがわからないの?」
 そんな映司の胸中を読んだかのように、カオスがそんな疑問を零す。
「だったら、思い出させてあげる……! 火野のおじさんが教えてくれた、愛をあげて!」
 次の瞬間、カオスが消えた。
 同時にオーズが本能的に盾として構えたメダガブリューに、超音速の刃が突き立つ。
「――っ!?」
「愛を! 愛を! 愛を愛を愛を愛を、愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を!」
 ティラノサウルスの力を持つ、強靭な両足。
 加え三本目の足ともなる、逞しい尻尾。
 それが、超電磁砲の如きカオスの突進を止められず、押されるがままにオーズは運ばれて行く。
「愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛をぉっ!!」
 メダガブリュー自体は、未だ離れないカオスの鋭い翼にそれだけの圧を加えられ続けても、罅の一つも入りはしない。しかし大型恐竜をも凌ぐ膂力のプトティラの両腕は、既に最初の衝突の時点で押し負け、胸部のオーラングサークルに斧の硬い側面を減り込ますことを許していた。
 大地に三本の溝を刻みながら、オーズはカオスの飛翔する勢いのまま、音速超過でビル壁に着弾。一瞬、前後からその身に掛かった絶大な圧迫感に完全に息を詰まらせた後、壁を突き破って地面の掘削を再開させられる。
「こ……のぉっ!」
 机や椅子を破砕し撒き上げながら、今度は内側から外壁を突き破ろうかというその寸前。頭部の翼を開帳したオーズは、プトティラの冷気の力を全開にする。
 まず両翼の羽ばたきで逆向きの推進力を生み出し、カオスの勢いを相殺する。続いて己の足と尾を氷結させ、接触していた床に縫い付ける。加えてカオスの両翼をも凍らせ床と一体化させることで、それ以上の前進を完全に食い止めた。
「クスクスクス……」
 それから渾身の力でメダガブリューを押し返し、凍らせ損ねた翼の一部を払い除けたオーズだったが、カオスはそれを意に返さず笑っていた。
「言ったでしょ? おじさんの教えてくれた愛をあげるって……!」
 次の瞬間、カオスの両翼を包んでいた氷塊が融解、さらにはそのまま蒸発する。
 氷の戒めを脱するため、カオスが両翼に灯したのは無数の黒い火の玉。巻き添えを避けようとカオスが少し距離を取れば、それはそのまま、自らの動きを止めてしまったオーズへ一切の容赦なく降り注ぎ始める。
 メダガブリューや放出を続けた冷気で迎撃を試みたオーズだったが、防ぎきれない。数発の着弾を許してしまい、軽くはないダメージをその身に刻む。
「……くっ!」
 だが、火炎弾はオーズ自身の拘束を弱めていた。強靭な尾で溶け残った氷を粉砕したオーズは皮翼を羽叩かせ、飛翔。驟雨の如き火の矢から逃れる。
「――逃がさない……!」
 カオスもまた禍々しい両翼を広げ、飛び上がったオーズを追う。
「あははははは!!」
 追随してくるカオスから、再度火の玉が射出されてくる。さらにはジェイクが使っていたのと同様の、紫色のビームもその弾幕に加えられる。
 横殴りの豪雨かと錯覚するような猛攻は、室内という制限された空間内でそう何度も凌げるほど生温くはない。
 故にカオスの攻撃で開いた穴から、オーズは夜空へと身を躍らせた。
 炎上し始めているビルから、すぐにカオスが追って来ることはわかっている。だからオーズは身を翻すその前から、メダガブリューを振り被っていた。
 予想の通り。叩き落とした戦斧の先に、忽然とカオスの歪んだ美貌が現れる。メダガブリューはカオスを包んでいた無色透明な障壁を叩き割って、紫水晶のような刃を天使の白皙へと走らせる。

568神様なんかじゃないんだよ ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:23:01 ID:pUe12Jus0
 だが、バリアによって勢いを弱めていたその一撃は容易く刃状の翼に受けられ、カオスに傷を与えるには至らない。
 直後。不可視の衝撃に右脇の下から殴り掛かられて、オーズはその巨躯を木葉のように吹き飛ばしていた。
「――っ!?」
 何の支えもない空中では、その不意を衝いた一撃に踏み止まることはできなかった。
 隙を晒しては拙い、とオーズは再度翼を最大展開して体勢を立て直す。だがそこに容赦なく、天からの一撃が落とされる。
「ぐぁあああああああああああっ!?」
 ビリビリと残る痺れは、その攻撃の正体が電気による物であることを示していた。明滅する視界の中、オーズは装甲された拳を振りかぶって迫るカオスの姿を認識する。
 落雷の後遺症で、すぐには俊敏な動きを望めない。メダガブリューや尻尾で対応するのは困難だ。
 だが。オーズ自身が動けずとも、カオスを迎え撃てる武器は残っている。
「ぃやぁあっ!」
 プトティラコンボの両肩に備え付けられたトリケラトプスの角。伸縮自在のワイルドスティンガーが、二振りの神速の槍と化してカオスに放たれる。
 これにはカオスも瞠目し、おそらくは意識の埒外から襲いかかった攻撃はカオスを見事貫き――は、しなかった。
「――こっちだよ」
 霞のように掻き消えたカオスの声が、衝撃と共に降りて来た。
 こちらを遥かに凌ぐ速度で攻撃を回避し、そのまま背後に回っていたカオスが再度繰り出した火の雨を諸に食らい、オーズはまたも体勢を崩す。

「……速すぎるっ!」

 何とか持ち直し墜落を逃れたオーズは、彼我の圧倒的な差にそんな不平を漏らしていた。
 最高速度はもちろん、瞬間的な加速力でも、カオスの機動性はプトティラコンボの数段以上も上を行く。
 それ以外の能力も、その豊富さも手数もオーズの最強コンボを軽く上回っている。辛うじて同等以上と見込めるのは、純粋な膂力ぐらいか。
 それすらも、超音速の勢いを上乗せされた突進には押し負ける。カオスを相手取るには、オーズは余りにも速さが足りない。
 このままではいいように翻弄され、嬲られ続けるばかりだ。

 不意に、凄まじい轟音が鳴り響く。微かに振り返って見れば、先程カオスに叩き込まれたビルが炎上し、崩落し始めていた。
 内部で超常の力を持った二人が争い、さらにオーズを狙い外れたカオスの攻撃を連続して被弾していたのだ。そうなるのも当然の結末と言うべきか。
 
「クスクスクス……」

 その光景に手を止めたのは、カオスも同じだった。予期せず訪れたインターバルに、オーズは必死に対抗策を考える。
 だが、名案など浮かばない。プトティラの能力は、その尽くが通じなかった。未だ試していない二つの必殺技も、外してしまえばただのメダルの無駄遣いにしかならない上、速度差を突きつけられた現状、カオスに命中させられるビジョンが全く見出せない。この悪魔のような天使を、ここで確実に食い止める方法がわからない。
 それでも自分が食い止めなければならない。オーズの力を持つ自分が、皆のために。
 オーズが無意味な思考を錯綜させ、得物を持ち直す間にも、忍び笑いを漏らし続けるカオスは何かを仕掛けて来る様子はない。だがそんな状態でもカオスの不気味な迫力に、オーズも攻め入ることができずにいた。
 この恐るべき敵と空中で対峙し続けているだけで、否応なしに精神を摩耗する。気づけば息遣いが荒くなっていた頃に、変化が訪れた。
「ねぇ……」
 カオスの怪しく輝く双眸が、改めてオーズの姿をはっきりと捉える。
「これがおじさんの、“愛”だよね」
 直後。
 立ち上って来た炎の柱に、オーズの全身が呑み込まれた。

569神様なんかじゃないんだよ ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:24:11 ID:pUe12Jus0
「うあぁあああああああああああああああああっ!?」
 熱い。熱い。仮面ライダーに変身していてなお、無視できないほどの灼熱の奔流がオーズを舐ぶる。
 その膨大な熱量の正体は、ビルの炎上を利用し、ウェザーの能力を駆使したカオスの生んだ火災旋風。
 鉄すら沸騰させる超高温の、愛の炎である。
(熱いのは、まだわかるのが……っ!)
 グリード化が進行し、五感を失って行く中で。あれだけ愛おしく感じた自らに残る人間の部分が、こんなにも恨めしく思えるとは。 

 オーズはメダル消費を厭わず、プトティラの冷気を再度全開にすることで炎の勢いを弱める。さらに翼と尻尾で突風を起こし、少しでも熱波に抗おうとする。
 一秒一秒が嫌というほど長く感じられる灼熱地獄の中、一瞬ごとに確実に消耗しながらも……オーズは何とか、異常気象の猛威を制した。

「……っ!!」

 そして――灼熱の竜巻を突破したオーズは、見た。
 カオスの掲げた掌の上の、黒い“太陽”を。

「――あったかく、してあげる」

 カオスの投げつけたそれは、衰弱しきったオーズに逃亡を許さないまま、その姿を黒で塗り潰した。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 物々しい音を立てて、何かが地面に墜落する。
 アスファルトに罅を走らせ横たわったのは、装甲の半分以上を黒焦げさせた紫の怪物。
 変身こそ解除されていないものの、完全に痛めつけられ、暴君としての威容を失った仮面ライダーオーズ・プトティラコンボの姿だった。
 最早まともに抵抗する力が残っているかも疑わしい獲物へと、死の天使は悠然と舞い降りて来る。
「待って!」
 カオスの鼻先を横切ったのは、桃色の光矢。
 唯一戦線復帰が可能だった、まどかの放った威嚇射撃だった。
「もうやめて……火野さんが、死んじゃう……っ!」
 まどかでは、カオスとプトティラの繰り広げる空中戦に介入するのも容易ではなかった。
 まどかだけでは、また路傍の石のように蹴散らされ、何の助けにもなれなかった可能性だって高かった。
 そしてまどかは、まだ心の中で映司を避けていた。
 それでももっと早くに駆けつけるべきだったのだ。彼一人に押し付けるべきではなかったと、まどかはオーズの惨状を見て後悔する。
 そんなまどかの痛切な訴えにも、カオスは涼しい表情で答えるだけだった。
「だって、それがおじさんの教えてくれた“愛”だから」

570神様なんかじゃないんだよ ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:25:49 ID:pUe12Jus0
「こんなことが愛なんて……そんなの絶対おかしいよ!」
「じゃあ、後でおねぇちゃんの愛を教えて。私しりたいの。いろんな愛の形を!」
 答えるや否や、急加速したカオスはそのままオーズを思い切り踏みつける。体重そのものは軽くとも、その力が常軌を逸していることは既に痛感している。
 追い打ちに呻くオーズの角を掴み、カオスは無理やり彼を立ち上がらせる。
「でも、今は火野のおじさんのばん」
「まどか……ちゃん」
 そこで意識を取り戻したらしいオーズは、カオスの怪力に軋みながらも、何とかその仮面をまどかに向けた。
「皆と一緒に……逃げて」
「――できませんっ!」
 ああ、この人は、きっと。
 本当に……本当に、優し過ぎるから。
「俺は……大丈夫だから。早く!」
 その言葉が嘘じゃないとまどかに示すためか、オーズはその強靭な尾の一振りでカオスを追い払う。
 だが戦闘態勢に入る前に、カオスの放ったビームを浴びて、オーズは再び無様に地を舐める。
 仰向けに倒れ、いよいよ立ち上がることもできなくなった様子のオーズに対し。カオスは処刑人の刃のように、その翼を振り仰ぐ。
「――だめぇーっ!」
 それ以上は見ていられず、まどかは駆け出していた。
 カオスもまどかが飛び出してくることなどわかっていただろう。しかしまどかの力で、オーズを救い出すなど間に合わないとタカを括っていたに違いない。
 だが実際は、まどかはオーズに重さなどないかのように軽々抱え、カオスの一撃を回避させることに成功していた。
 自らの右足を、刻まれることを代償に。
「――っ、まどかちゃん!」
 ほんの少し、切っただけだと言うのに。
 悲鳴に近い声で心配してくる映司に、まどかは苛立ちを覚えた。
「どうして……」
 限界に近いはずの身体で再びまどかを庇おうとするオーズに、まどかは詰問の声を投げる。

「どうして火野さんは、そんなに優しいのに……っ。どうして、自分の心配はしないんですか!?」

 まどかの糾弾に虚を衝かれたように、一瞬オーズの身が固まる。
「殺し合いを止めるのも……あの子と戦うのも! どうして全部、自分だけで辛いことを抱え込もうとしているんですか!?」
 殺し合いを止めたい。カオスの脅威を防ぎたい。
 確かにそれは、まどか達も等しく抱えた願望だ。だが、映司は……
 彼自身が己を守るために戦うことを欲したからではなく、それを望む誰かの為に、その身を捧げている。
 そんな、人にあるまじき歪みを抱えているのだ。

「あなたは神様なんかじゃないんだよ!?」

 誰かがそれを望んでいるから。誰かがそれを欲しているから。
 そのことに映司自身がどう思おうと、彼は都合の良い願望器として、そんな勝手な人々のために事を成そうとする。

571神様なんかじゃないんだよ ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:27:15 ID:pUe12Jus0
 そんなもの、在るべき人の生き方ではない。

「……比奈ちゃん達みたいなこと、言うんだね」
 まどかの言葉に、映司は力なく苦笑していた。
「ごめんねまどかちゃん。でも、ありがとう。
 ガメルを砕いた俺なんかを、心配してくれて」
 その言葉に、まどかは息を詰まらせた。
 あるいは彼という仮面ライダーの、怪人性を見せつけられて。
「おはなしはおしまい?」
 オーズが向き直ったのを見て、カオスがそんな疑問の声を投げかけて来た。
「……待っててくれたんだね」
「まどかおねぇちゃんの愛が、わかるとおもったから」
 オーズの冗談めかした問いかけに、カオスはそう素直に答えた。
「……でも、わからなかったの。だから、あとで教えて!」
「――っ、あなた……!」
 カオスもまた、身勝手過ぎる。
「どうして火野さんにこんなことするの!? こんなに優しい火野さんが、あなたに何をしたって言うのっ!?」
「火野のおじさんは、私に“愛”を教えてくれたんだよ!

 ―― 仁 美 お ね ぇ ち ゃ ん を 殺 し て ! ! 」

「!?」
 予想だにしなかったカオスの告白に、まどかもオーズも完全に硬直した。
「愛を! 愛を! 愛を愛を愛を愛を、愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を……っ!?」
 そんな隙を見逃さず、そのまま襲いかかって来ようとしたカオスもまた、突如として停止する。
「……嘘。仁美ちゃんを、火野さんが殺したなんて……」
 弱々しく、まどかは否定の言葉を紡ぐ。
 だが、完全にあり得ないとは言い切れない。むしろそれには、ピタリと符合する面もあるのだ

 放送の後。マミから、仁美があの戦いの近くに居たということをまどかは聞いていた。
 またプトティラとして暴走していた間の映司の記憶は、不確かな部分が多いという。
 彼の暴走の一部始終を、まどか達は知らない。
 いやそもそも、あのプトティラコンボの強大な暴力なら。例えば虫を踏み潰していたのと同じように、知らぬ間に仁美の命を奪っていても――おかしくは、ない。

 もちろん。そんな馬鹿げた可能性は、“もしかすれば”というレベルのものだということは、まどかとてわかっている。
 それでも。今、自分を庇おうとするこの存在は。ガメルだけでなく、親友さえも奪い去って行ったのではないかと。
 そんな疑惑が生まれたことに、呆然としたまどかに対し。ギギギ……と、石像の動くような音を立ててカオスの顔が向けられる。
「おねぇちゃん……仁美おねぇちゃんを、知ってるの……?」
 知っているも、何も。

572神様なんかじゃないんだよ ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:28:10 ID:pUe12Jus0
 仁美ちゃんは、大事な、私のお友達――
「っ!?」
「教えて! 仁美おねぇちゃんのことを!」
 気づいた時には、まどかはカオスに捕らえられていた。
「まどかちゃ――!」
 あれほど執着していたオーズに一瞥すら残さず。まどかの両肩をがっしりと掴んだカオスは、そのまま上空へと飛び立つ。
 それを追おうとオーズが頭部の皮翼を展開するが、襤褸切れのようになったそれでは空を舞うに能わなかった。損傷の度合いから見ておそらく、先のカオスの最大火力を受けて一命を取り留めるために、あの大翼を盾として差し出していたのだろう。
 その結果、オーズは攫われたまどかに手を届かせる術を失った。
 それを知っていたのだろうカオスは、邪魔が届かないようにまどかを空へと連れ去ったのだ。

「そっかぁ……おねぇちゃんが、仁美おねぇちゃんの言っていたお友達なのね」
「あなた……仁美ちゃんと、どんな関係なの……?」
 納得する様子のカオスに、肩の痛みに耐えながらまどかは恐る恐る問いかけていた。
 それを合図にカオスは上昇を止めて、上を向いていた顔をまどかに向き直した。
「仁美おねぇちゃんは、私に愛をくれたんだよ!」
 カオスは実に嬉しそうに、仁美との思い出をまどかに語ってくれた。
 痛いのだけが愛だと思っていたカオスに、色々な愛の形があるのだと教えてくれたこと。
 その中で、カオスの愛を探すのを手伝ってくれたこと。
 裸足のカオスに、上靴を履かせてくれたこと。
 大きくなるのも愛だと教えてくれたこと。

「それでね! そばにいるとあったかくて、はなればなれになって痛いのが愛だって! 火野のおじさんに殺されて、私に教えてくれたの!」
 
 そこで――嬉々として語っていたカオスの笑顔に生じた変化に、まどかは気づいた。

「あなた……」
「仁美おねぇちゃんとはなればなれになって、私、とっても痛かった! でも、それで愛を見つけたの!」
「泣いてるの……?」
「だから……仁美おねぇちゃんが教えてくれた愛を、みんなにあげるの! そうすれば……おねぇちゃんが教えてくれた愛を、ずっと感じていられるから!」

 笑顔のまま、止めどなく涙を流すカオスに。
 まどかが覚えた感情は、映司に覚えた物と近似した――憐憫の情だった。

(そっか……この子も)

 きっと、ガメルと同じ。
 
 あまりにただ純粋で。仁美のことを、愛していて。
 だけどそこに、映司のように歪みを抱えてしまった……道を誤りそうになっている、迷子なのだ。

573神様なんかじゃないんだよ ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:29:29 ID:pUe12Jus0
 
(……止めなきゃ)
 ううん、止めたい。
 まどかの大事なお友達のことを、こんなに思ってくれているこの子を。
 だってこのままじゃ、カオスはあんまりにも可哀想だ。

「……おねぇちゃんも、おにいちゃんと同じこと言うんだね」
 特に他意はなく。ただ「へー」と言った様子で、カオスが呟いたのに対し。
「ねぇ、カオス」
 決意を固めたまどかは、彼女に言い聞かせるように話しかけた。
「仁美ちゃんのこと、あなたに教えてあげる」

「ホント!?」
 表情を輝かせたカオスに、まどかはしっかりと頷き返す。
「だから……」



「じゃあ――おねぇちゃん、食べていい?」



「――えっ?」

 一瞬、思考が途絶した間に。

 カオスの両掌が、まどかの両肩を握り潰した。

「――っ!」
 悲鳴を押し殺したまどかに、カオスは小首を傾けながら優しく囁いてくる。
「だいじょうぶだよ……食べるまえにいっぱい、いっぱい愛してあげるから……それからおねぇちゃんの中の、仁美おねぇちゃんの思い出を、ちょうだい――?」
「ぃ……や……」
「――鹿目さんっ!」

 頼もしい呼び声と共に、黄色いリボンがまどかを包む。
 カオスをも拘束したそれは、これまで同様一瞬しかその効果を発揮しない。だがその一瞬の隙に、まどかはカオスの手から引き抜かれていた。
 マミのリボンに引き寄せられた先で、まどかはマミを乗せて跳躍していたオーズに抱きとめられる。

「良かった、まどかちゃん……っ!」

574神様なんかじゃないんだよ ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:30:45 ID:pUe12Jus0
 マミと合流後、飛行能力を失くしたプトティラからタトバコンボに変身し直したオーズは、そのバッタの跳躍力でビルを昇り、そこからさらに高度を稼ぐことで遥か上空のまどか達をリボンの捕捉圏内に捉えることに成功したのだ。
 だが。まどか達を抱えたオーズが落下するよりも、カオスの方がずっと速い。
 カオスの接近に気づいたまどかとマミは魔導障壁を重ね掛けし、それを砕け散らせながらも拳の直撃を防ぎきる。
 それでもカオスから手渡された慣性が、高空からの落下を加速させる。魔法少女や仮面ライダーといえど、無事では済まない勢いで。

 ――ダメ。
 ――このままじゃ、死ねない。まだあの子を救っていないのに。

(――ガメル、力を貸して!)

 コアメダルの力を引き出していることは知らずとも。まどかは今度こそ救いたい者を救うべく、救いたかった、自分を救ってくれた者に祈る。

(わかった〜!)
(えっ……?)

 頭の中で、予想だにしなかった声が聞こえた気がした。

「よおぉぉぉぉっしぃオーライオーライっ!」

 落下地点で待ち受けていた虎徹の声が聞こえた。彼はその大柄な肉体で以て、自らをクッションにしようとしていたのだ。
 本来なら、それでも四人揃って激突死するはずだった衝突は――落下していた三人の重さが不自然に軽減されたことで、自然落下以下にまでその威力を下げていた。
 
 それでも軽くはない衝撃に、全員が目を回しながらも。まずは生き残ったという事実を噛み締める。

「いたたた……」

 折り重なった四人の一番上にいたまどかは、未だ両腕が力なく垂れたままながら、真っ先に起き上がった。そんなまどかの下へ、不意に近づいて来た小さな影があった。

「あなたは……無事だったんだね」

 現れたのは、ライブモードのファングメモリだった。
 カオスが襲来してから、最初に繰り出した竜巻に巻き込まれた際。まどかは実は、ディパックの中身を幾つか零してしまっていたのだ。
 先程カオスに捕まった際にファングメモリが助けてくれなかったのは、そういう理由のためだ。
 もっとも、カオス相手ではファングメモリが居ても――と考えていたところ。
 不意に夜空を仰いだファングメモリが、まどかの頭上目掛けて跳躍したのだ。

 瞬間。夜は白光に切り裂かれる。
 降り注いだのは四条の稲妻。何とか起き上がったばかりだったまどか達に、立ち直る暇すら与えず放たれたカオスの追撃だった。

575神様なんかじゃないんだよ ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:31:56 ID:pUe12Jus0
「――皆!」

 感電し倒れ伏せた三人を見渡し、唯一無事だったまどかは声を張って呼びかける。
 その足元でショートするのは、駆けつけて早々、身を挺してまどかを守護したファングメモリだ。
 ファングメモリが身代わりになってくれたことで、まどかのみ自由を得ていたが――未だ両肩の治癒も完了していない以上、できることなどほとんどない。
 だというのに――

「ごめんなさい……」

 ちりちりと。まどかの肌を炙る熱波は、真上に出現した黒い“太陽”から届いて来るもの。
 まどかのソウルジェムを絶望に染め上げようとするそれは、真上にまで降りてきていたカオスが再度顕現させた、特大のドス黒い火の玉だった。

「ひとりひとり……いっぱい愛してあげるつもりだったけど。もう、メダルがなくなっちゃいそうだから……」

 言うなれば、今まではまだ遊んでいたということか。
 だが、もう。それもやめて、一気に纏めて焼き払おうと。

 ――ダメだ。あれはもう、防ぐ術がない。
 あの邪悪な炎の洗礼を浴びれば、誰一人として助からない。
 
 逃げないと――そこまで考えたところで、まどかはさらなる絶望に足首を掴まれる。
 他の三人は、まだ……自力で逃げられないのだ。

(そんな……!)

 彼らを置いて逃げる? そんなこと、できるはずがない。
 連れて逃げるにしても、三人同時は困難だ。そもそも、今から肩が動くまで回復させているようでは、カオスの攻撃から逃げ切れない。
 だけど、まどかにあれを防ぐ術はない。逃げないと確実に死んでしまう。
 ああ、ダメだ。迷っている間にも、逃げ切るための猶予が消えて行く……!

 嫌だ、死にたくない。だけど、マミや映司達にも死んで欲しくない――――!
 でも、死んでしまったら……もう、カオスを――

「あ……っ」

 そこでまどかは、思い至った。
 思い至って、しまった。

576神様なんかじゃないんだよ ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:34:08 ID:pUe12Jus0
 ここから最も多くの者を、救済するその解答に――!



 ――鹿目まどかは、火野映司とは違う。
 それを枯らした映司と違って、まどかには自分への欲がある。当たり前に自らの身を案じ、恐怖を感じることができる。物事を考える時に、自分の我侭を挟むことだってある。
 それは恥ずべきことではなく、人間として生きるために、当たり前に備わっているべき欲望なのだ。

 だが、それでも。
 自分の欲望も、我侭な恐怖心も持ち合わせていながら。
 それでもまどかは、たとえそれがどんなに自分にとって辛い道であっても。
 それが最善の答えであるなら、それしか手段がないのなら。自分の意志で、どんな不幸をも選択できる強さを持っている。
 救済の魔女となる少女は――そんな強さを持ち合わせてしまって、いたのだ。



「――ガメル。もう一度、力を貸して」

 最初はただ、力持ちになっただけだと思っていたのだが。どうやら少し違ったらしい。
 ただこの場では、とにかく今までできたことができれば良い。
 成すべきことを解し、それを実行する決意を固めたまどかは躊躇わず、身を沈める。
 同時、カオスがその暗黒の太陽を投擲せんと構えた。
「――ごめんなさいっ」
 だがそれが放たれるより――低い体勢でまどかの放った回し蹴りが、這い蹲っていた三人を蹴り飛ばす方が一瞬、早かった。
「!?」
 まどかに蹴り飛ばされた三人は、各々が驚愕の色を表情に彩る。華奢な少女の足では動かしようもないほどのオーズや虎徹の巨体もまた、重さがないかの如く、軽やかに飛んでいた。
 ――カオスの放った獄炎から、充分逃れられる速度で。
「――っ!」
 密集していた標的が散らばってしまったが、カオスは既に射出を終えてしまっていた。望んだ効果を得られないことに、腹立たしさをカオスはその表情に刻む。
「――大丈夫だよ」
 だが、一人だけ。
 カオスの攻撃から、最早逃れるタイミングを逸してしまった者が残っていた。

「鹿目さんっ!」
「まどか!」
「まどかちゃんっ!」

 マミが、虎徹が、映司が。彼女に救われた三人ともが、命の恩人に呼びかける。
 手遅れかもしれなくとも、そこから逃げてくれと。生きることを、最後まで諦めるなと。

577神様なんかじゃないんだよ ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:35:04 ID:pUe12Jus0
 だが、眼前に迫る絶対の死と向き合っても。まどかは動じず、自らを飲み込もうとする黒炎に向き合っていた。
 ――いや、動じていない、わけではない。
 やはり怖い。死ぬのは怖い。死ぬのは嫌だ。嫌だ。嫌だ。
 せっかくガメルが助けてくれた命を、こんなところで散らすなんて申し訳がなさ過ぎる。
 だけど――

(ごめんね、ガメル)
 まどかはもう一度、胸中で彼に謝罪する。
(私はこの子を、見捨てられない――)

 そしてまどかは、自らを殺す者へと微笑みかけた。

「――私の記憶を、あなたにあげる」

「やめろっ……、やめてくれぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

 その悲痛な声で。オーズが、映司が未だ満足に身動きできない中、必死の思いで手を伸ばしている姿が想像できた。
 初めて出会った時は、正義を成そうとする彼から純粋なガメルを守ろうとして……逆に、ガメルに助けられてしまったけれど。
 最後はガメルのように純粋な者から、そのオーズを守って……今度こそ死ぬなんて。何やら数奇な巡り合わせだと感じてしまう。

 映司が正義の人であることは、もう嫌というほどわかっている。何度も彼には助けられた。
 だけど自分を蔑ろにする彼は、その功績を無視して正義の重荷を全て背負い、どこまでも己を傷つけてしまう。
 彼が助けを求める誰かの手を掴むとしても。自分のために手を伸ばさない彼の手は、誰にも掴むことができないのに。
 それでも、願わくば――彼の命だけでなく、そんな歪な火野映司の魂にも、救済が訪れんことを。

「鹿目さん――っ!」

 マミさんは、すっごく頼りになる素敵な先輩だけど。本当は、とっても寂しがり屋の女の子なのを知っている。
 折角また、あの悲劇も乗り越えて、手を取り合えたのに。また一人にしてしまって、本当にごめんなさい。

「おいよせ、まどかぁっ!」

 ワイルドタイガーさんは……真木への宣戦布告に、また泥を塗ってしまってごめんなさい。
 だけどきっと、あなたみたいに本当に強い人なら――皆を救えると、信じてる。

 そして最期にまどかはもう一度、哀れな天使に意識を向けた。
 お望み通り、記憶をあげる。
(仁美ちゃんの代わりに……)
 亡くなってしまった、カオスの慕う親友の代わりに。
 この子の、心の中で。
「私がめっ! って、してあげる……!!」

 その言葉が、発せられたと同時に。
 天使の放った地獄の業火は、鹿目まどかの全身をその魂(ソウルジェム)ごと喰らい尽くした。



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】

578 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:38:11 ID:pUe12Jus0
 オーズの力を纏ったまま、映司は必死に手を伸ばしていた。
 映司より弱いのに、映司達を救うために今まさに業火に焼かれんとする少女へと、それ以外の何も望まず手を伸ばす。

 脳裏に蘇るのは、映司の欲望を枯らしたあの日の、あの場所。
 異郷の地で、最初に仲良くなったあの少女が、爆炎に焼き尽くされたあの悪夢。
 あの子に届けられなかった、俺の腕。
(届けっ、届けよ……っ!)
 あの時、自分にオーズの力があったなら。きっとあの子は死なずに済んだ。

 自分に関する欲望を失った映司の今の欲望は、力だった。

 どんな場所にも、どんな人にも、どんなに遠くても届く手。手を届かせるための、力。
 あの日の悲劇を繰り返さないための、強い力。

 ――アンクと出会ったことで、それは叶ったはずだった。

 仮面ライダーオーズの、絶大な力。それがあれば、もう手を届けられない相手なんていない――そのはずだったのに。
 映司の力は、足りなかった。
 カオスの圧倒的な力に踏み潰されて、今は一歩たりとも動くことができない。
 その場で這い蹲っているだけでは、どんなに手を伸ばしたってあの子には届かない。
 オーズに変身していても、あの日と全く変わらないまま。たったこれだけの距離なのに、映司は焼かれるあの子に手を届かせることができない。
 嘘だ。こんなのは嘘だ。
 この力でも、届かないなんて……!

「やめろっ……、やめてくれぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!」

 喉を枯らし、絶叫する。あの日の再現だけはやめてくれと、心の底から懇願する。
 だが、全てはもう遅いのだ。
 カオスの手を離れた炎は、最早カオス自身にも止められまい。
 まどかはその場から動かない。今から動いたとしても、もう絶対に逃げ切れない。
 誰かがその手を掴んで、助け出さないといけないのに――映司の手は、もう決して届かない。

 そして。あの日、あの地のあの子のように。
 鹿目まどかという少女は、炎の中に呑み込まれた。
 一瞬の後、カオスの放った巨大な火球は膨張し、破裂。天を焦がす火の柱となった後、周りの大気を押し退けながら霧散する。

「あっ……ああ……っ」

 その、跡には。

579 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:39:26 ID:pUe12Jus0
 元が何者だったのかもわからない、黒炭の塊だけが横たわって。

 鹿目まどかは、この世界から完全に焼滅していた。

 再び闇を取り戻した中でチリンと輝く三つの円は、まどかの持っていたコアメダル。
 持ち主が消失したことで排出されたそれが眼前に転がって来たことに、映司はようやく自由になり始めた身体を仰け反らせた。

「あっ……あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

 その現実に、映司は何の意味も成さない叫びだけを迸らせる。

(俺は……
 俺はあの子に、手を届かせてやれなかった!
 俺はあの子に、何もしてやることができなかった!)

 あの子と仲良くなったガメルを砕いて心に傷を負わせ、暴走した自分を止めるために危険に晒して。
 ジェイクにまんまとオーズの力を奪われてはまた戦線に立たせ、カオスとの戦いでも助けてやることができず。
 知らぬ間に親友の命を奪ったかもしれない挙句、挙句。力を持ち、助ける側のはずの映司を庇って――死なせた。
 こんなザマで――こんなザマで、よくも失敗するのがいけないことなんですかなどと。

「あっ……あぁ、あぁあああああああああああああ……っ!」

 悲嘆。後悔。絶望。
 それらの感情に胸中を塗り潰された映司の――オーズの耳に、ざくりと言う音が聞こえる。

 視線を上げれば、カオスがジェイクの時のように。その翼をまどかだったのだろう炭の塊に突きつけて。
 散らばっていたまどかの、妙に多いセルメダルを首輪が吸うと共に。カオスは翼を脈打たせ、まどかの残滓を吸収した。

「……ごちそうさま」
「……いい加減にしやがれ」

 呟いたカオスに対し、怒りに声を震わせたのは虎徹だった。

「何が愛だ! よくも智樹とまどかを……てめぇがやってんのは、ただの人殺しじゃねぇか!?」

 これまでに、きっと何人もが、何度もカオスにぶつけて来た否定の言葉。
 それは禅問答のように、同じやり取りをただただ再現するだけだ。

「だってみんなが教えてくれたんだもん! 痛くして、あったかくして、殺して……」

580 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:40:30 ID:pUe12Jus0
 もうやめてくれ。何度も何度も。
 もうこれ以上聞きたくもない、そんな狂った理屈。

「……食べて、大きくなるのが、あっ……」

 だが。
 そこで初めてそのやり取りに、変化が生じた。

「愛っ……だって……みんな、が……」

 言葉を吐き出すのが、徐々に苦しそうに、辛そうに。
 三日月のような壊れた笑顔ではなく。ただの女の子が煩悶するような表情で、カオスは――
 涙を、流し始めていた。

「愛、なのに……どうして。どうしてこんな、こんな……嫌な気持ち、なの?」
「――ッ、今更勝手なこと言ってんじゃねぇ!」
 怒りに駆られ立ち上がった虎徹の怒号に、怯えたようにカオスは身を竦める。本来虎徹など、まるで気に留める必要などないほどの力の差があるはずだというのに。
「痛いのが、愛だけど……あったかいのが、愛だけど……本当に、この痛さなの? 本当に、このあったかさなの?」
 突然訪れたカオスの変化に、三人はそれぞれ、驚き、訝しみ、怒りを見せる。
「……おねぇちゃんの記憶、よくわかんないよ」
 自らの頭を抱えたカオスは小さくそれを左右に振ると――オーズの方を向き直って来た。
「ねぇ、火野のおじさん。これで良いんだよね? 私の愛、これで――」
「えぇ、それで良いのよ。――カオス」
 慈しむような声は、三人の誰が出したものでもなかった。
 だが、それは全員に――特にオーズには酷く聞き覚えのある物だった。
「あなたの愛は、あなただけのもの。あなたがそうだと思ったら、その愛のままに生きれば良いの。それを私に見せて?」
 カオスと対峙する三人から見て左側に、それは居た。

「私はそれを、愛してあげる」
「グリード……ッ!」
「メズール!」

 現れたのは、水棲系のグリード。 
 愛欲の化身、メズールだった。

 グリード。この殺し合いの、根幹を成す存在。
 智樹やまどかを、死なせた諸悪の根源となったモノ――

 そこまで認識した時、オーズの視界が紫に染まった。

581 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:41:21 ID:pUe12Jus0
 全身の血が凍り付いて、身体の奥底から破壊衝動が湧き上がって行くこの感覚。
(――暴走っ!?)
 メズールを目にしたことで、グリードを破壊したいという欲望が刺激され――それがまた、紫のメダルの暴走を促したのか。
 タトバに変身する際、少ないメダルを補うためにと首輪に放り込んだ二枚を除く、三種一枚のコアメダルが再びオーズの体内から現出する。
 最早映司の意思すら関係なく、メダルは勝手にオーズドライバーに収まり、勝手に飛行したオースキャナーがそれを読み取る。

《――プテラ! トリケラ!! ティラノ!!!――》

 天敵が顕現しようとしているにも関わらず、メズールと――見知らぬもう一体の赤い怪人は、悠然とその場に立ち尽くすのみ。
 対して、最早抗いようもなく意識を塗りつぶされつつある映司は。せめて今度こそグリードを砕けるようにと、祈りを捧げるしかできなかった。

《――プッ・トッ・ティラッノザ〜ウル〜ス!!!――》

 あの子に手は、届かなかったけれど――
 誰かを直接、助けられる力でないのなら。 
 せめて……グリードだけでも、砕いてくれ。

 ――そして、火野映司の祈りと暴走した欲望を糧にして。

 凍てつく古の暴君が、戦場に再臨する。



 この火野映司は、まだ知らない。
 ∞(神)をも超える○○○(オーズ)の器に選ばれながら、○(一人)の力で何もかもを解決しようとする彼は。
 どれだけの力があったとしても。一人の手が届く距離には、限界があるのだということを。
 たとえ神であろうと、自らを助けようとしない者を救うことはできないのだと。
 それでも――たとえ、ただの人であろうと。彼の欲する力、どこまでも届く腕を、手にする方法があるということを。
 火野映司は、まだ……気づいては、いない。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 後藤と別れた後、キャッスルドランを目指すメズールと冴子は――メズールが放送前に使っていたライドベンダーを使って、キャッスルドランに先行していた。
 暴走した後藤が起こすだろう騒動を利用して、漁夫の利を得るためには……当然ながら、介入するタイミングを伺うために、予め待機しておく必要があったからだが。
 二人が到着した時点では、既にキャッスルドラン付近で争乱が起こっていた。

582 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:43:02 ID:pUe12Jus0
 巻き込まれないように事態を観察していた二人だったが、どうやらオーズ達と戦っている参加者は規格外の戦闘力を有している様子だった。
 最初は「……危険だけど、あの坊やよりは使えそうね」程度の感想だったメズールだったが、その参加者の正体に気づき――狂喜した。
 第二世代エンジェロイドタイプε・「Chaos」。
 青陣営が誇る、最強の鬼札。
 運用次第では、彼女単機で他の陣営を殲滅し得る可能性すら秘めた戦略兵器。
 そして――参加者の中でも、指折りの“愛欲”の持ち主だった。

 あの子を手に入れたい、なんとしても。
 青陣営優勝のためにも、その愛を味わうためにも。

 やがて――白陣営のリーダー、鹿目まどかがカオスにより殺害され、戦いが一段落したのを見届けて。
 メズールは、乱戦の中に身を投じた。



 じりじりと、恐竜か異形の怪物を思わせる仮面ライダーが、こちらに近づいて来る。
「紫のコンボ……でもそれも、カオスさえ味方につければ恐るるに足りないわね」
 そうでなくとも、既にオーズは満身創痍。
 暴走による再変身で、プトティラの外観こそ傷一つなくなってはいるが、変身者である火野映司は既に限界。
 さらには支給品である第五世代IS「紅椿」の存在まで考えれば、むしろ今こそがオーズを討つ千載一遇の好機。
 ……とまぁ、メズールはそんな風にでも考えているのだろう。
(……気に食わないわね)
 相方の余りのツキっぷりに、Rナスカ・ドーパントに変身したまま冴子は鼻を鳴らしていた。
 自分があの無能の愚か者を相手に時間を浪費し続けていたというのに、自分というパートナーを得たことを含め、メズールの恵まれ具合は正直気に障る。
 とはいえ、今はそんなことにイラついてばかりいるわけには行くまい。
 何しろメズールがここで有利に事を進めるだろうことはほぼ確実。既に鹿目まどかが死亡し、白陣営が崩壊した以上、あのダブルのエクストリームとも遜色しないオーズのプトティラコンボや、明らかにイカレているカオスが潰し合う戦場に積極的に出て行きたいとは思わなかったが……できるなら、そうと悟られぬようにメズールの妨害をしなければまずい。
 あのカオスを懐柔されてしまっては、この先メズールと雌雄を決する上で著しく不利になるのは考えるまでもなかったからだ。
(最悪の場合は……ここで)
「さて、行きましょう? 私達の“愛”のために」
「ええ、そうね。邪魔者はここで……纏めて!」
 思惑を胸に伏せたまま、冴子はメズールに並び立つ。

 ――その秘めた心の声を、聞き取れる者がいるとも知らずに。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○

583 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:44:18 ID:pUe12Jus0
「鹿目、さん……」
 逝ってしまった。智樹に続いて、大切な後輩が。仲間が。友達……が。
 マミの中に残されたのは、深い悲しみと、大きな寂寥感と……
「……許せない」
 二人を奪った、仇への強い憎しみだ。
「カオス……ッ!」
 しかし。今、あれに立ち向かっても返り討ちだということは、マミも充分理解していた。
 それも良いかもしれない、などと。いっそまどか達のところへ逝ってしまう方が良いのではと、そんなことを考えもしたが。
 ……まどかに救われた命を無意味に捨てるなんて裏切り、できるはずがなかった。

 だがそうなれば、マミの前には絶望しかない。
 再び暴走したオーズ。それでも、いっそグリードやカオスを倒してしまえるならまだ良いが……映司の体力的に考えて、それは到底叶わぬ話だ。
 だが、それほどに消耗したオーズだろうと。同じく満身創痍の上、メダル不足のマミと、能力切れの虎徹だけで止めることは不可能だ。
 折角まどかに救われた命だというのに。ここで三人とも、散らすしかないというのか。

「――っ、くぅ……!」

 悔しさに、また涙が溢れた。
 立ち上がる気力を作り出せない。生き残りたいという欲望が、余りにも達成困難な現状を前に姿を隠してしまっている。
 ジェイクとの戦いから数えて、三度目の戦いの幕が切って落とされそうだというのに……マミはただ、現実の壁を前に泣き続けるだけの無力な少女と化していた。
 そんなマミの胸の内が、不意に何かに満たされる感覚に見舞われた。

「……マミ。おまえは逃げろ。それで先に、D-4エリアに向かってくれ。ニンフもその辺りにいるはずだ」
「ワイルドタイガー……!?」

 蹲り、泣き続けていただけのマミの首輪に、近くまで歩み寄った虎徹は自身の首輪から放出したセルメダルと……いつの間に回収していたのか、まどかの形見となった白のコアメダルを注ぎ込んでいた。

「俺の能力に、セルメダルは大して必要ない。治癒魔法も使えるおまえが持っておいた方が良い」
「待って……あなたはどうするの? 火野さんは!?」
「火野の奴は……俺がぶん殴ってでも助け出してやる!」

 思わず起き上がったマミの前で、虎徹はそう巨大な拳を掌で受け止めていた。

「無理よ! わかってるでしょ!? 私達じゃカオスどころか、オーズにだって……」
「大丈夫だ。もうちょいしたら、俺の能力が戻る」
 そう言って虎徹は、マミを置いて戦場の方へと一歩前進する。
「ダメよ。そのハンドレットパワーがあったって、ジェイクのオーズにっ」
「実はな。俺の能力はちょっと特別なんだ」
 なおも食い下がったマミに対し、虎徹はこちらを振り返りもせず、親指で己を示した。

584 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:46:14 ID:pUe12Jus0
「発動できる時間を削れば、その分効果が増す。ガブティラコンボだかなんだかにだって、ヨユーで勝てるパワーぐらい出せるんだよ。そいつで映司をかっさらって逃げて、後からマミ達と合流する。それで文句無いだろ?」
 ……ガブティラコンボというのは、わざとなのだろうか。
 いや、重要なのはそこではないが……確かに虎徹の言うことには、筋が通ってはいる。
「早く行ってくれ。いい加減ニンフを一人にし過ぎた。やっこさん達が互いに夢中な今のうちに、頼む」
 そう言われては、マミも従うしかなかった。
「……ワイルドタイガー。これ以上、私に寂しい思いをさせないでね」
「任せろ」
 背を向けたまま手を振る虎徹の姿をもう一度だけ目に焼き付けて、マミは彼の言葉の通りに踵を返した。

 ――彼は、覚えていないのだろうか。
 カオスが襲ってくる寸前の、一触即発だったあの言い争いを。
 マミが、ニンフの生存を疑問視しているということを――

 虎徹の意見が本心なのか、それともマミを逃がすための方便なのか。マミにはまるでわからない。
 ただ……
 この状況でも、マミのようにやるべきことを投げ出さなかった彼の背中を。マミは、あれが責任のある大人の物なのだろうと感じていた。

(どこまで嘘を吐いているのかわからないけれど……死なないでよ、タイガー!)
 
 その背中を、もう一度見られる時を心底願いながら。
 智樹と。まどかと。亡くしてしまった者達の笑顔を思い浮かべ、また涙を溢しながら、マミは全力で疾走する。 
 その先がどうなっているのかわからない、夜の中を。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



「嘘吐いちまったなぁ……」

 マミが走り去った後、虎徹はそうぼやいていた。
 とはいえ、マミが考えていたニンフの生死については……虎徹は疑いなく、ニンフが生きていると信じていたのだが。

「もうちょいっつっても、まだ三十分近くはあるんだよなぁ……」

 溜息と共に、虎徹はマミに伝えた作戦の根幹を揺るがす真実を、誰にともなく暴露した。

「それに能力の効果だって、自分の意思で制御できているわけじゃねーし……」

585 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:47:19 ID:pUe12Jus0
「なのにマミと一緒に逃げなかったなんて、君はわけがわからないよ」
「うわびっくりしたァっ! ……っておまえ、見ないと思ったら生きてたのか」
「なかなか危なかったけどね。身を潜めさせて貰ってたよ」
「はー良いご身分だことで……死んじまったんだぞ、まどか」
「確かに大きな損失だけど、バトルロワイアルである以上は想定の範囲内だ」
「……へーそーですか」
 気に入らねえ。

 足元に現れた白い小動物と言葉を交わしながら、改めて虎徹は自分の戦力を確認する。

 前に見た機動兵器に身につけて、空を飛ばんとするグリード。
 暴走した仮面ライダーオーズ・プトティラコンボ。
 それと自力で飛行する赤い怪人に……最大の関門、エンジェロイド・カオス。
 いくらザンバットソードや天の鎖があるとはいえ、これらの入り乱れる戦場に飛び込むにしては、はっきり言って不足も良いところだろう。
 そもそもマミに言った通り、やっこさん達は互いに夢中で……ほとんど敗残兵の体なワイルドタイガーなど、意識すらしていないだろう。
 だが、だからと言ってここで映司を見捨てて逃げるなど、最初から虎徹の選択肢にありはしない。
 虎徹は証明してやらなければならない。映司の奴に、あいつがルナティックに言った正義が正しいと。

 そして何より……苦しむ若者に、手を差し伸べてやらないなんて。
 
 レジェンドに憧れた自分の、妻の愛してくれたヒーロー像に背くような真似、できるわけがあるか。

「さぁ――」

 ここまで。そしてこれから実際に戦い出せば、どんなに力不足だろうと。不格好だろうと。せめて登場シーンぐらいは、格好良く決めようじゃないか。
 いつもの最高に格好良い決め台詞で、自身を鼓舞して。
 どんなに無様でも、マミとの約束だけは違えない誓いとして。
 
「――ワイルドに吠えるぜ!」

586 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:48:10 ID:pUe12Jus0
【一日目 夜中】
【C-6 キャッスルドラン付近】


【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、背中に切傷(応急処置済み)、激しい怒り、NEXT能力使用不可(残り約三十分)
【首輪】20枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(血塗れ、頭部破損、胸部陥没、背部切断、各部破損)、魔皇剣ザンバットソード@仮面ライダーディケイド、天の鎖@Fate/Zero
【道具】基本支給品×3、不明支給品1〜3 、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW、キュゥべぇ@魔法少女まどか☆マギカ
    P220@Steins;Gate、カリーナの不明支給品(1〜3)、切嗣の不明支給品(武器はない)(1〜3)、雁夜の不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
  0. 映司を助け出し、一緒に逃げる。
 1.それが終わったらマミとニンフに合流する。
 2.シュテルンビルトに向かい、スーツを交換する。
 3.イカロスを探し出して説得したいが………
  4.他のヒーローを探す。
 5.マスターの偽物と金髪の女(セシリア)と赤毛の少女(X)を警戒する。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」「そらのおとしもの」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
 ・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
   ……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』
※ヒーロースーツは大破しています。特に頭部はカメラ含め完全に機能を停止しているため、フェイスオープンした状態の肉眼でしかものを見れません。
※ジェイクの支給品は虎徹がまとめて回収しましたが、独り占めしようとしたわけではありません。


【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、精神疲労(極大)、プトティラコンボに変身中、紫メダルの影響で暴走中
【首輪】170枚:0枚
【コア】タカ:1、トラ:1、バッタ:1、ゴリラ:1、プテラ:1、トリケラ:1、ティラノ:1 、プテラ:1(一定時間使用不能)、ティラノ:1(一定時間使用不能)
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
 基本:――――――――――
 0.目の前の参加者達を皆殺しにする。
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっており、オーズドライバーが映司以外でも使用可能になっています。
※暴走中の記憶は微かに残っています。
※暴走中の詳しい話を聞きました。

587 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:49:04 ID:pUe12Jus0
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、深い悲しみ、カオスへの憎しみ
【首輪】70枚:0枚
【コア】サイ(感情)、ゴリラ:1、ゾウ:1
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:???
 1. ここから離れる。
 2.他の魔法少女とも共存し、今は主催を倒す為に戦う?
 3.ディケイド、イカロス、カオス、メズール(と赤い怪人)を警戒する。
 4.真木清人は神をも冒涜する十二番目の理論に手を出している……!
 5. 人を殺してしまった……
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、魔女化したさやかが爆殺されるのを見た直後です。
※どこまで虎徹の指示に従うかは、後続の書き手さんにお任せします。


[映司、マミの共通の備考]
※真木清人が時間の流れに介入できることを知りました。
※「ガラと魔女の結界がここの形成に関わっているかもしれない」と考えています。
※世界観の齟齬を若干ながら感じました。
※詳細名簿を一通り見ましたが、全ての情報を覚えているかは不明です。


【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】精神疲労(極大)、火野への憎しみ(無自覚・極大)、成長中、全裸、甲龍装備中
【首輪】180枚:90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
基本:???
 0.???
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレア、凰鈴音、甲龍、ジェイク・マルチネス、桜井智樹、鹿目まどかを吸収しました。
※現在までに吸収した能力「天候操作、超加速、甲龍の装備、ジェイクのバリア&読心能力」
※鹿目まどかのソウルジェムは取り込んでいないため、彼女の魔法少女としての能力は身につけていません。また双天牙月を失いました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。現在は17歳前後の身長にまで成長しています。
※憎しみという感情を理解していません。
※彼女が言う"あったかい"とは人間が焼死するレベルの温度です。
※智樹、及びまどかを吸収したことで世間一般的な道徳心が芽生える素地ができましたが、それがどの程度影響するかは後続の書き手さんにお任せします。
※まどかを記憶ごと吸収しましたが、「Pandora」の機能が低下していること、まどかの死体の損壊が酷いことから断片的にしか取り込めず、また詳細は意識しなければ読み込めません。
※火野映司を“火野のおじさん”(=葛西善二郎)と誤認しています。
※読心能力で聞き取った心の声と、実際に口に出した声の区別があまりついていません。

588 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:51:06 ID:pUe12Jus0
【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康 、Rナスカに変身中
【首輪】100枚:0枚
【装備】ナスカメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、スパイダーメモリ+簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW、メモリーメモリ@仮面ライダーW
    IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
 1.メズールがカオスを手に入れる邪魔をバレないようにする。
 2.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
 3.井坂と合流し、自分の陣営に所属させる。
 4.メズールとはしばらく協力するが、最終的には殺害する。
 5.後藤慎太郎の前では弱者の皮を被り、上手く利用するべきではなかった。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。


【メズール@仮面ライダーOOO】
【所属】青・リーダー
【状態】健康、グリード体に変身中、カオスを目にして興奮中
【首輪】195枚:0枚
【コア】シャチ:2、ウナギ:2、タコ:2
【装備】グロック拳銃(14/15)@Fate/Zero、紅椿@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:青陣営の勝利。全ての「愛」を手に入れたい。
  0. この機にオーズを始末する。
 1.そのためにもカオスが欲しい。
 2.鹿目まどかが死んだ隙をついて、白陣営を乗っ取る。
 3.セルと自分のコア(水棲系)をすべて集め、完全態となる。
 4.完全態となったら、T2オーシャンメモリを取り込んでみる。
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。
※自身に掛けられた制限を大体把握しました。
※冴子のことは信用してません。
※カオスやプトティラに気を取られ過ぎて、白のコアメダル三枚をマミに持ち逃げされたことに気づいていません。


【全体事項】
※智樹の支給品だったエロ本がC-6エリアに散乱しています。
※ファングメモリは消滅しました。
※まどかの支給品の内、ファングメモリ以外の何が竜巻で吹き飛ばされ、何がカオスの攻撃で消滅したのかは後続の書き手さんにお任せします。

589 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:51:52 ID:pUe12Jus0



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○




 乱戦の中、介入するタイミングを選べることは、当然ながら絶大なアドバンテージとなる。
 故にメズール達は自身の有利を信じて疑わず、慢心により巴マミの逃亡を許してしまうなどの隙を作ってもなお余裕を感じていた。
 ……しかし。この戦いに介入するタイミングを見計らっていたのが彼女達だけではなかったということに参戦するまでに気付けなかったのは……それらの慢心など、比にならないほどの致命的なミスであると言えるだろう。



『FBへ。
 言われた通り、気づかれないように尾行を続けています。
 バイクに乗られた際は焦りましたが、言われた通りにカードデッキで変身して走ってみたら簡単に追いつけました。
 でも今、例の女の子……メズールが、怪人に変身しました。
 確か、最初に真木清人と一緒に居た、グリードだったと思います。
 他にも何人かの参加者がそこに居て、どうやら戦いになるみたいです。
 どういう様子なのかは写真を送付しますので、次は何をすれば良いのか、教えてください』

 送信。



【一日目 夜中】
【C-6 キャッスルドラン付近】


【桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】青
【状態】健康 、仮面ライダーアビスに変身中
【首輪】140枚(増加中):0枚
【装備】アビスのカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、桐生萌郁の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1(確認済)
【思考・状況】
基本:FBの命令に従う。
 0.FBの指示を待ちつつ、メズール達を見張る。
 1.ラボメンと会った場合は同行してもらう。
 2.アビソドンはかわいい。アビスハンマとアビスラッシャーはかわいくない。分離しないように厳しく躾ける。
【備考】
※第8話 Dメール送信前からの参戦です。
※FBの命令を実行するとメダルが増えていきます。
※キャッスルドラン周辺で対峙する参加者達の様子を撮影し、FBにメールで届けました。
送付された写真には少なくとも、メズールとRナスカの姿は写っています。

590 ◆z9JH9su20Q:2013/11/10(日) 21:55:35 ID:pUe12Jus0
以上で投下完了です
>>555はミスでタイトルが漏れてしまいましたが、>>566までと同じ「虚言!!」になります。
また>>578から>>589は、「Out of the frying pan into the fire.(一難去ってまた一難)」となります。

拙作に何か問題点等ございましたら、ご指摘のほどよろしくお願いします

591名無しさん:2013/11/10(日) 22:06:41 ID:w59YCdqc0
投下乙です!
カオスが現れてどうなるかと思いきや……まさか、こんな惨劇が幕を開けるなんて。
智樹は参戦時期の違いのせいでカオスに殺されるとは……つーか、そらおと勢って参戦時期の違いで悲劇が起こることが多いな〜
まどかも頑張ったんだけど、ここで死んでしまうか。彼女の遺志を継いだ三人がこれからどうなるか……行く先に幸あれ。
で、冴子とメズールは乱入したけど、同時にオーズも暴走したから生きていられるかどうか? 覗いている萌郁さんや、戦場に近付いている後藤さんにも似たようなことが言えるけど。
こんな混沌とした状況でワイルドタイガーは生き延びれるかな……?

592名無しさん:2013/11/10(日) 22:07:30 ID:NaNc3xhE0
投下乙
カオスチートすぎるけど、見ていて痛々しいな

593名無しさん:2013/11/11(月) 00:34:51 ID:dspjgTsU0
投下乙。
智樹ィ…そらおと勢はことごとくかみ合わんなあ
そしてまどかぁ…ここで死んでしまうとは
次の白リーダーはどうなるんだろうなあ
で、なおもカオス(NOTそらおと)な状況下で、ワイルドタイガーはどう戦うのか…

594名無しさん:2013/11/11(月) 12:36:13 ID:mZUc3ZBQO
投下乙です。

トラウマ直撃
もうやめて!映司の欲望はとっくに0よ!
紫メダルからしたら、それこそが映司を器にした理由だけど。

愛を愛するお年頃なカオスは、メズールには魅力的だなあ。

595 ◆z9JH9su20Q:2013/11/11(月) 19:41:44 ID:WaL1ARDE0
皆様、感想ありがとうございます。
ところで申し訳ありません、推敲不足で【全体事項】に白陣営消滅の件が漏れていました。
他に誤字脱字等があればそれも合わせて修正しておきたいので、本作がwikiに収録しても問題ない場合は、近日中に自分でやっておこうと思います。

それと合わせて、これは完全な我侭で、また議論スレで申請すべきことかもしれませんが、
もし許されるなら、本作の一分割目「虚言!!」のタイトルを「時差!!」に変更したいのですが、よろしいでしょうか?

596名無しさん:2013/11/11(月) 20:15:17 ID:2eaaRTYk0
大丈夫だと思いますよ >タイトル変更

597名無しさん:2013/11/11(月) 21:35:14 ID:jcm6LRsM0
投下乙です

既に上で言われているがそらおと勢はとことん噛み合わなくて悲劇ばっかり起きてるなあ
まどかは残念ながらここで退場かあ。頑張ってたのに…
ああ、どんどんヤバい奴が来てる中でワイルドタイガーは止められるのかあ…

598名無しさん:2013/11/11(月) 23:12:24 ID:FuGQhhwo0
投下乙!
前の話に続いてこの話も絶望感がスゴいなぁ
カオスはもう誰も止められないんじゃないかってくらい強くなったし、頼れる映司は暴走、悪女コンビ参入に、さらにカザリ海東と萌郁さんも出てくるとか……
しかしここで智樹は脱落かぁー
ここからなんかやってくれるんじゃないかと思ってたけど、まさに時系列の問題が悪かった
ニンフといいホントに悪い方向に進んでばかりだなぁ、残ったイカロスとカオスはもうどうしようもない気がする
そしてまどかも脱落
最後に三人を助けたのはいいけど、三人とも希望に進んでるようには見えないんだよなぁ
カオスに吸収されたことで、少しは彼女に影響を与えてくれるといいけど……
そして最期の台詞はあの台詞かww
二重の意味で続きが気になる

タイトルですけど書き手さんが変更したいのなら問題ないのではないでしょうか
僕らにはどうこうする権利はないと思います

599名無しさん:2013/11/12(火) 20:54:00 ID:obvVpS4w0
投下乙!
この化物だらけの状況にショットガン一丁で介入する
5103はライドベンター隊の鑑

600名無しさん:2013/11/12(火) 21:56:27 ID:scRVw6IM0
乙です
参戦時期と誤解がここまでの大事に…
マミさんと映司には色々と直撃するような死者ばかりでなんとも悲惨…

こんな憎悪と欲望の渦巻く空間に一人突っ込む後藤さんに果たして明日はあるのか

601 ◆qp1M9UH9gw:2013/11/17(日) 01:50:08 ID:SqbiUASs0
投下します

602Rの流儀/砕かれた仮面 ◆qp1M9UH9gw:2013/11/17(日) 01:52:52 ID:SqbiUASs0

【1】


 衛宮切嗣本人のイメージとは打って変わって、彼の住処――衛宮邸は純和風の屋敷である。
 気付いた頃には、フィリップはこの年季を感じさせる家の入口まで足を進めていた。
 そう言えば、切嗣は「何かあったら衛宮邸にまで来るように」と言っていたか。
 無意識の内に此処を目指していたのは、恐らく切嗣のその提案のせいなのだろう。

「馬鹿言わないでくれ……僕は…………」

 どうして今更になって、切嗣の指示に従っているのだ。
 今の自分は、彼の仲間を――セイバー達を襲った裏切り者だというのに。
 デイパックの中には、セイバーが武器として扱っていた剣が隠されている。
 愚かにも彼女を敵だと勘違いしていた際に、隙を突いて奪い取った物だ。
 言うなれば、この剣は自分が裏切り者である事の証である。
 これを所持している限り、フィリップという存在が赦される事はないのだろう。
 いや、仮にこの剣を返した所で、彼女らが自分を認めるかどうかは定かではない。
 "仮面ライダー"の名に泥を塗った者に、再び正義を語る資格など果たしてあるのか。

 衛宮邸の目の前に来ても、家の内部に入り込む勇気が出てこない。
 自分の様な人間が、切嗣の仲間として堂々と足を踏み入れていいのだろうか。
 それに、仮に衛宮邸を訪れたとして、そこから先どうするべきなのかが分からない。
 切嗣達が来るまで待って、土下座して許しを乞えればいいのか?
 手紙とエクスセイバーを置いておき、いずれ来るであろう切嗣の仲間に自分の無実を説明すればいいのか?
 様々な考えが思い浮かぶが、どれもすぐさま否定したくなるものばかりである。
 そんな事したって、自分が赦される保証など何処にもありはしないというのに。

『今度はそうやって言い訳か?つくづくお前らしくねえな』

 語り掛けてくるのは、翔太郎の幻影。
 そうだ、分かっているのだ――自分が切嗣達と出会うのを恐れている事くらい。
 彼らが赦す赦さないかなど言い訳でしかなく、結局は自分の感情が一番の原因になっているのだ。
 次に切嗣に出会ってしまったら、今度こそ自分の心が折れてしまうような、そんな確証の無い恐怖があって。
 そんな自分があまりにも無様で、思わず笑みさえ零れてしまう。

 そうやって途方に暮れていると、何かの音が近づいている事に気付く。
 後ろから聞こえてくるは、バイクのエンジン音だ。
 それも一台だけではなく、恐らくは二台は接近して来ている。
 もしその二人が殺し合いに乗った者だとすれば、フィリップは一巻の終わりだ。
 セルメダルが残っていない現状では、ドーパントに変化して逃走するという手段も使えない。
 そうなればもう、黙って自分の死を受け入れるしかないのである。

 バイクのエンジン音が鳴り止み、次に耳に入ってくるのは。
 どうか真木の意に反する者であって欲しいと願いながら、フィリップは振り返る。
 彼の視線の先にいたのは、一組の男性であった。
 片方は赤いジャケットを身に着けているせいで、嫌でも目立ってしまう。

「……待て。そいつは敵じゃない」

 赤いジャケットの男がそう言って、同行していたもう一人の男を静止させる。
 見ると、その男の片手には既に一丁の拳銃が握られているではないか。
 だがフィリップにとっては、そんな事は重要ではない――彼が注目していたのは、赤いジャケットの男だ。
 あのよく目立つ色の服装は、彼が風都で幾度となく目にしているものである。

「照井竜……!?」

 フィリップの仲間であり、同時に風都を護るもう一人の"仮面ライダー"。
 照井竜――仮面ライダーアクセルが、フィリップの目の前に現れたのだ。

603Rの流儀/砕かれた仮面 ◆qp1M9UH9gw:2013/11/17(日) 01:55:39 ID:SqbiUASs0


【2】


 衛宮邸の居間にて、情報交換は行われる事となった。
 その際、フィリップは随分とばつの悪い表情を浮かべていたが、その理由を照井と笹塚が知る事は無いだろう。
 
 フィリップがこれまで歩んできた道のりは、過酷の一言に尽きた。
 この世に唯一の相棒を喪ったばかりか、その後に幾度も敵の襲撃に遭ってきたのである。
 仮に彼の事を何一つ知らない者であったとしても、その経歴には同情せざるを得ないだろう。
 それは照井も同じ事で、ひどく困憊しているフィリップの姿に息を呑むばかりであった。

「それは、大変だったな」

 大切な人の命を奪われた彼に何を言った所で、その心を癒す事はできない。
 それが分かっていたからこそ、照井はただその一言しか返せなかった。
 笹塚も同意見なのか、彼はこの場に置いては無言を貫いている。

「左が死んだ気持ちは痛い程分かる。さぞ辛かっただろうな」
「……すまない照井竜。気遣わせてしまって」
「いや、構わない。俺も似た様なものだからな」

 不器用ながらも、照井は彼なりに慰めようとしているのだろう。
 しかし、フィリップがそれに対し感じたのは、感謝ではなく疑念であった。
 今言葉を交わしている照井からは、何か言い様も無い違和感を感じるのである。
 姿形は何処も変わっていないと言うのに、何故この様な感情を抱くのだろうか。

「しかし、ウェザーメモリが吸収されただと?奴は俺の目の前で変身していたぞ」
「それは恐らく……彼もこれを手に入れたんだと思う」

 フィリップはそう言って、T2サイクロンメモリを照井達の視界に映させた。
 照井はそれだけで事情を把握したのか、苦虫を噛み潰した様な表情になる。
 笹塚の方は無表情のままで、何を考えているのかさっぱり読めはしなかった。

「T2ウェザーメモリ……奴も手にしていたのか……」

 T2ガイアメモリ――メモリ自らが適合者を選ぶ、言わば"運命のガイアメモリ"。
 この特殊なガイアメモリも、支給品という形で参加者達に配布されていた。
 そして、この地においても適合者を探し求め、相応しい者の手に渡っていったのだろう。
 丁度フィリップが、回収され損なったT2サイクロンメモリを偶然発見したように。

 T2ガイアメモリの中には、確か天候の記憶を内包したもの――T2ウェザーメモリもあった筈だ。 
 もしそれがこの地にも存在しているのだとしたら、井坂の手に渡っていても何らおかしな話ではない。
 ウェザーメモリを使い手であった彼が、参加者の中で最もT2ウェザーメモリが相応しい存在なるのは必然的と言えた。

「まさか、君は井坂に会ったのかい?」
「ああ。お陰でアクセルドライバーが使い物にならなくなった」
「アクセルドライバーを……!?なら君は、どうやって奴から生き延びたんだ?」
「お前と同じで、これを使ったんだ」

 その言葉と共に見せつけられたT2アクセルメモリを前に、フィリップは目を見開いた。
 彼もまた、フィリップと同様にメモリを引き寄せていたのである。
 "仮面ライダー"の証を破壊され、ドーパントの力に頼らざるを得なくなった。
 奇しくも、風都の仮面ライダー二人は同じ状況に立たされていたのである。

「俺は……これで良かったと思っている。仮面ライダーアクセルでは奴には勝てなかった。
 だがガイアメモリ……無限の進化の可能性を秘めたこれなら、井坂を倒す力を手に入れられるかもしれない」

 それが真実だと言わんばかりの顔で、照井はそう断言してみせた。
 一方のフィリップは、それに対しただ困惑する他無かった。
 同じガイアメモリを使っている自分が言うのも難ではあるが、T2とは言えガイアメモリの乱用は危険すぎる。
 それをさも当然の様に扱い、その力に絶対的な信頼を寄せているなど、かつての照井からは考えられない事だ。
 しかし、フィリップが疑問を抱いたのはその点ではない。
 今の照井には、そのガイアメモリの件以上に引っかかる部分が存在しているのである。

604Rの流儀/砕かれた仮面 ◆qp1M9UH9gw:2013/11/17(日) 01:57:41 ID:SqbiUASs0

「ちょっと待ってくれ。どうしてそこまで井坂に執着しているんだ?」

 ――何故彼は、ここまで井坂の打倒に固執しているのだろうか?

「確かに奴は倒すべき敵の一人だけど……他にもやるべき事があるじゃないか」

 正義の名の元に戦う"仮面ライダー"にとって最大の敵となるのは、主催者である真木とその配下であるグリード達だ。
 井坂も悪人のカテゴリーに分類されるべき人間ではあるが、彼はあくまでこのゲームの参加者の一人である。
 それだけではない――"仮面ライダー"ならば、この地に連れてこられた者達を護るという使命だってある筈だ。
 にも関わらず、今の照井は井坂の打倒という一つの目標しか目に入ってない様に感じられる。

「知った事ではないな。俺は井坂を"殺す"為だけに生きる……そう誓ったんだ」

 照井の口から出てきたのは、信じ難い言葉であった。
 彼は何の大義名分も翳そうともせずに、井坂を殺すと言ってのけたのだ。
 正義の為ではなく、ただ個人の欲求に従って殺人を犯すと宣言したのである。
 照井のその姿はまるで、井坂への復讐の炎がまだ燃えている頃に逆戻りしたかの様だった。

「何を言っているんだ……!?井坂に復讐するだなんて、どうして――――ッ!」

 フィリップが最後まで言葉を紡げなかったのは、照井の瞳の奥にあるものを目にしたからだ。
 彼の瞳の内側に見えるのは、激しく燃え盛るドス黒い炎である。
 負の感情を糧にして勢いを増していくその炎は、かつて照井が宿していたもの。
 井坂への憎しみ――既に捨て去られた筈のそれが、何故か蘇っていたのだ。

「そんな……君は憎しみを捨てたんじゃなかったのか……!?」
「憎しみを捨てただと……?お前の方こそ、何を寝ぼけた事を言っている」

 フィリップが抱いていた違和感は、照井が宿す激情によるものだったのだ。
 これまで彼が認識していた"照井竜"とは、憎悪を振り切り"仮面ライダー"の正義に目覚めた男の事だ。
 しかし、今フィリップが対峙している"照井竜"は、まるで憎悪に突き動かされる獣の様ではないか。

「駄目だ照井竜!考え直すんだ……憎しみの力で井坂に勝てる訳が無い!」

 時間軸の関係上、フィリップは照井が井坂を打倒する瞬間を目撃している。
 憎しみを捨て去り、純朴な正義の為に戦ったからこそ、彼はウェザー・ドーパントに打ち勝つ事ができたのだ。
 今の憎悪ばかりを孕ませた照井竜では、恐らく何度挑んだところで勝利は掴めはしない。
 "悪"を打ち砕けるのはあくまで"正義"であり、決して憎しみではないのだから。

605Rの流儀/砕かれた仮面 ◆qp1M9UH9gw:2013/11/17(日) 02:01:12 ID:SqbiUASs0

 フィリップとしては、照井を止めたい一心での発言だったのだろう。
 しかし、その言葉は彼の怒りに燃料を注ぎ込むばかりであった。
 説得に対する答えとして返ってきたのは、机に叩き付けられた照井の拳である。

「言わせておけばどこまでも勝手な事を……知ったような口を利くな……ッ!」

 わなわなと震える拳を目にして、フィリップは確信した。
 現在の照井が抱える憎悪は、これまでの比ではないという事を。
 彼の憎しみの業火は、最早そう簡単には消えない程激しさを増してしまったのだ。

「俺はお前と一緒に戦う事はできん……仲間を集めるなら他所を当たってくれ」
「待て……待ってくれ!君は"仮面ライダー"だろ!?そんな自分の都合ばかりを考える男じゃなかった筈だ!」

 立ち上がり部屋を出ようとする照井を、どうにか引き留めようと試みる。
 "仮面ライダー"の名を捨てるのなら、風都に一人残された鳴海亜希子の事はどうなるのだ。
 今も"仮面ライダー"達の帰還を待っているであろう彼女の意思さえも、彼は踏み躙るつもりなのか。

「仮面ライダーごっこは……もうお終いだ」

 照井から返ってきたのは、その一言だけだった。
 しかし、それだけでもフィリップの心を突き刺すのには十分すぎた。
 照井に突き放された彼は、頭を垂れて項垂れるばかりである。
 一方の照井は、そんなフィリップの様子など気にも留めずに、笹塚に移動する旨を伝える。
 笹塚もそれに従い立ち上がろうとするが、何か思いついたのか、上がろうとしていた腰が途中で静止した。

「……地球の本棚」

 その時、笹塚は此処に来て初めて表情に笑みを見せた。
 それもただの笑みではない――獲物を見つけた肉食獣を思わせる、震えあがる程冷酷な笑みである。

「照井。お前には悪いが……こいつは連れていくべきだ」

606Rの流儀/砕かれた仮面 ◆qp1M9UH9gw:2013/11/17(日) 02:05:49 ID:SqbiUASs0

【3】


 結論から述べると、フィリップは照井達と同行する事となった。
 笹塚曰く「井坂との戦いを楽にする為」らしいが、果たして何処まで本当なのか。
 彼の目論見が何なのかなど、フィリップには見当が付いている。
 恐らくは、照井から聞いたのであろう「地球の本棚」の存在に目を付けたのだ。

 本来ならば、そんな裏が見えているその要求に首を縦に振るべきではないのだろう。
 しかし、フィリップは甘んじてそれを受け入れた。
 理由は他でもない――"仮面ライダー"である事を捨ててしまった照井竜の存在だ。

(……君は、"仮面ライダー"でなければならないんだ)

 本当に井坂を倒したいという意思があるのなら、必要となるのは正義の意思だ。
 憤怒や怨念等といった負の感情を溜め込んでいては、その先に待っているのは破滅だけである。
 "仮面ライダー"の力こそが、照井竜という男に活路を見出す事が出来るのだ。

 例え仮面が砕けてしまったとしても、また破片をパズルの様に組み合わせて、再び仮面を造り上げればいい。
 仮面とは――"仮面ライダー"の正義の心とは、きっと何度でも作り直せるものなのだから。
 そして何より、それで照井がまた"仮面ライダー"になれたとしたら、
 きっとフィリップも、胸を張って再び"仮面ライダー"を名乗れるような、そんな気がしたのである。

 入口まで移動したフィリップは、照井達に続いてそのまま門を出ようとする。
 その時、フィリップの瞳が唐突に奇妙な光景を映し出した。
 翔太郎や鳴海壮吉のものとは違う、今度は視界全体を覆う幻影である。

 漆黒の空間の中で、紅蓮の炎が燃え盛っている。
 そして、その火炎の世界の中心に、一人の戦士が佇んでいた。
 人型のシルエットに、不気味に輝く青い複眼。
 その戦士から感じ取れるのは、身の毛も弥立つ程の――――。

「何をしている?早くしろ」

 照井のその声で、フィリップは現実へと引き戻された。
 見ると、訝しげな表情でこちらを見据えているではないか。
 何の変哲のない場所をじっと見つめている姿は、さぞ奇怪に感じられただろう。

「……すまない」

 ただそう謝って、フィリップは照井達の後に続く。
 置き手紙を書く暇など、その時には残されてはいなかった。



【一日目 夜中】
【B-5 衛宮邸】

【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(極大)、幻覚症状、後悔
【首輪】0枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、
    T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 1.照井達と行動を共にする。
 2.復讐に燃える照井を放っておく訳にはいかない。
 3.あの少女(=カオス)は何とかして止めたいが……。
 4.バーサーカーと「火野という名の人物」を警戒。また、井坂のことが気掛かり。
 5.切嗣を救いたかったが、どの面下げて会いに行けというのか。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません
※T2サイクロンメモリはフィリップにとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。

607Rの流儀/砕かれた仮面 ◆qp1M9UH9gw:2013/11/17(日) 02:07:20 ID:SqbiUASs0

【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】白
【状態】激しい憎悪と憤怒、覚悟完了、ダメージ(大)、疲労(大)
【首輪】50枚(増加中):0枚
【装備】{T2アクセルメモリ、エンジンブレード+エンジンメモリ、ガイアメモリ強化アダプター}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:全てを振り切ってでも井坂深紅郎に復讐する。
 1.フィリップ達と行動を共にする。
 2.何があっても井坂深紅郎をこの手で必ず殺す。でなければおさまりがつかん。
 3.井坂深紅郎の望み通り、T2アクセルを何処までも進化させてやる。
 4.他の参加者を探し、情報を集める。
 5.誰かの為ではなく自分の為だけに戦う。
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。
※T2アクセルメモリは照井竜にとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。
※笹塚、フィリップと情報交換しました。

【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康、加頭順への強い警戒、照井への確信的な共感
【首輪】70枚(増加中):0枚
【コア】イマジン
【装備】44オートマグ@現実
【道具】基本支給品、44オートマグの予備弾丸@現実、ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(右腕)@魔人探偵脳噛ネウロ、煙草数種類
【思考・状況】
基本:シックスへの復讐の完遂。どんな手段を使ってでも生還する。
 1.照井と行動を共にする。
 2.目的の達成の邪魔になりそうな者は排除しておく。
 3.首輪の解除が不可能と判断した場合は、自陣営の優勝を目指す。
 4.元の世界との関係者とはできれば会いたくない(特に弥子)。
 5.最終的にはシックスを自分の手で殺す。
 6.もしも弥子が違う陣営に所属していたら……。
【備考】
※シックスの手がかりをネウロから聞き、消息を絶った後からの参戦。
※殺し合いの裏でシックスが動いていると判断しています。
※シックスへの復讐に繋がる行動を取った場合、メダルが増加します。
※照井を復讐に狂う獣だと認識しています。
※照井、フィリップと情報交換しました。

608Rの流儀/砕かれた仮面 ◆qp1M9UH9gw:2013/11/17(日) 02:07:38 ID:SqbiUASs0
投下終了です

609名無しさん:2013/11/17(日) 03:34:14 ID:QRzzaXVE0
投下乙です
遂に合流したフィリップと照井。今はそれぞれの見ているものが違っていても、まるで共に堕ちる未来を暗示するかのようなフィリップの見た幻……現実になる時は来てしまうのか
しかしそらおと組ほどではなくとも参戦時期の違いはやっぱり噛み合わない……悪堕ちはして欲しくないけど、そもそもそれまで持つのか不安になってしまう
笹塚は大分復讐鬼としての色に染まっちゃってまぁ……唯一ストッパーになり得た弥子ももう死んでるし、こいつはいよいよ止まんねーぞ
でも君達、色々危ないからその近くからは離れた方が良いと思います、割と全速力で(キャッスルドランの方を振り返りながら)

610名無しさん:2013/11/17(日) 06:41:56 ID:7V0dWPyw0
投下乙です
今のフィリップにこの展開はキツいなぁ…
これでエクストリームの事まで知られたらどうなるか

611名無しさん:2013/11/17(日) 16:20:02 ID:lJT6V0ng0
投下乙です

参戦時期の違いや出会う前までの嫌な経験があるからなあ
こうなるのは仕方ないといえば仕方ないが凄く痛いぜ。よく書いた、これぞパロロワの醍醐味だぜ
いっそうそのまま危険に巻き込まれてしまった方がいいのかもしれない

612名無しさん:2013/11/17(日) 23:48:29 ID:n6Vy/Hn2O
投下乙です。

なまじ憎悪を振り切った照井を知ってるだけに辛いな。

613名無しさん:2013/11/18(月) 01:52:15 ID:sCr28RTc0
投下乙!
あー、そっかー。フィリップは映画の後から参戦なんだよなー。
ここのところ辛い話が続くなぁ

614名無しさん:2013/11/18(月) 12:28:28 ID:JqF882j.O
投下乙です

この二人がこんなことになってるのを見ると、ライダー勢で一番マシなのは新しくパートナー見付けられた克己ちゃんなんだよなぁ…

615名無しさん:2013/11/21(木) 03:38:24 ID:.uz/rhsM0
投下乙です。

とうとう照井と合流したなフィリップ。
これは幻となったサイクロン&アクセル フォームのフラグか!?

616名無しさん:2013/11/23(土) 19:18:13 ID:jLP18v6g0
あ、予約来てた

617 ◆z9JH9su20Q:2013/11/24(日) 21:12:02 ID:twhAMJXA0
予約分の内容を仮投下してきました。
主催やロワの真相についてかなり冒険した内容になっているので、ご意見頂ければ幸いです。

618 ◆z9JH9su20Q:2013/11/27(水) 23:37:12 ID:.SstUajs0
これより予約分の本投下を開始します。

619明かされる真実と欲望と裏の王 ◆z9JH9su20Q:2013/11/27(水) 23:39:30 ID:.SstUajs0

 まともな感性の持ち主であれば、陰気な印象を覚えるだろう薄暗い部屋。
 無数に並ぶ小モニター郡に映るのは、閉鎖された空間内で繰り広げられる生存競争の様相。
 その微かな光源で照らし出されたのは、それを囲む者全てが対等の関係であることを示すため、円環の形に並べられたテーブル。
 そこはかの名高いアーサー王伝説において、アーサー王とその騎士達のためにキャメロット城に設けられていたという、円卓に由来する様式の議場だった。

 ただ……数えられるその席は、誉れ高き伝説の半分にも満たぬ、六つ。
 また伝承と異なるのは、部屋そのものの光度に反するかのような華美なまでの荘厳さ。
 それもそのはず。並べられた六つの席に腰掛けるべきは、忠義に生きる滅私の騎士達などではなく、誰より強欲であるべき“王”たる者達なのだから――



「――また、白陣営が消滅したね」

 表示装置の群れを中心に据えた、円卓を囲む六つの玉座。
 しかし今、内五つの玉座に腰を置く者はいない。
 それは資格を有する者が未だ現れていない、という意味ではなく。単純にそこに座るべき者達が今、各々の思惑のために席を外しているからに過ぎない。
「今度は代理リーダーも簡単には現れそうにないかな? これからの趨勢に大きな影響が出そうだね」
 来たるべき時が訪れれば、六人の王が一堂に会することを知る彼――紫の玉座に腰掛けた真木清人は、それ故傍らに侍る白い小動物の声を聞いても、何ら焦りを覚えなかった。
 そう、五つ――いや、正確には六つだが……の陣営の内一つが一時消失したという、此度のバトルロワイアルにおける重要事項のはずの出来事も、当事者はともかく、彼らのほとんどは所詮一時的な変化に過ぎないと、気にも留めないことだろう。簡単に動じるような輩では、“王”の座に相応しいとは言い難いのだから。
 そんなことを取り留めなく思いながら、真木は眼鏡越しに、一人の参加者がその全てを燃やし尽くし、終焉を迎える様を眺めていた。
「祝福すべきことです」
 感じたままに淡々と、真木は胸の内をインキュベーター――ではなく、腕に座らせた人形に向けて呟いた。
 白陣営の現リーダーが参戦していた戦いについては、言われるまでもなく真木もまた、キャッスルドランのインキュベーターを介して送られてくる映像をつぶさに見守っていた。真木がその動向に興味を惹かれている参加者達が集っていた上、さらにそれに釣られたグリードが複数乱入する可能性さえある、現状最も注目すべき戦場であったからだ。
「鹿目まどかのソウルジェムが魔女を産む前に失われたのは、本来大きな痛手なんだけどね」
 嘆息する様子の――実際はグリード以上に感情を持たず、こちらに合わせたコミュニケーションのための素振りに過ぎない動作を見せたインキュベーターは、真木を振り向きもせずに続ける。
「それでも君の願う終末か、もしくは“彼”らの欲望が結実する瞬間にまた一つ、大きく近づいたんだ。確かに感情があれば、僕も君のように喜んでおくべきなんだろうね」
「いえ……世界の終わりにはまだ程遠い。今のは心優しい鹿目君が呪いを振り撒く醜い魔女となる前に、希望を齎す魔法少女のままでその魂を完成したことへの、単なる感想です」
「そうかい。でも出会い方が違っていれば、君こそ彼女を魔女にするために躍起になっていたかもしれないよ? それも世界を終わらせる有力な方法の一つだったろうからね」
 互いに挑発し合うような言葉を吐きながらも、感情のないインキュベーターは無論、真木もまた話し相手に何かを感じてはいなかった。
 むしろ、何かを感じ入っているとすれば――と、真木は再び送られてくる映像に集中する。

 真木が今、齎すべき世界の終末以外に、最も関心を寄せている対象。それは――

 真木と同じ、紫のメダルを体内に宿す因縁の相手・火野映司でも、
 真木が姉以外で初めて情を抱いた伊達明に似通った雰囲気を持ち、開幕の場において正面から反抗の意思を示したヒーロー・ワイルドタイガーでも、
 真実を何も知らぬまま、己が欲望のために彼らを屠らんと戦場に現れたグリード・メズールでもない。
 無論、そこに映し出されていない伊達明でもなく。
 真木が今、最も興味を惹かれている、奇妙な親近感を覚えている参加者とは――

620明かされる真実と欲望と裏の王 ◆z9JH9su20Q:2013/11/27(水) 23:41:55 ID:.SstUajs0

 終わりを迎えた後、微かに残っていた鹿目まどかの痕跡すら喰らい尽くしたエンジェロイド――カオスだった。



 ――このバトルロワイアルが開始された時点では、真木はカオスに対し、特別な興味など抱いてはいなかった。
 せいぜいが強大な戦力を持つエンジェロイドの中でも、彼女は特に純粋であるが故に不安定であり、比較的多くの参加者に終わりを齎す見込みがある、程度の認識でしかなかった。
 そんな真木の心境に変化が生じたのは、カオスが彼女と――志筑“仁美”と出会ったためだ。

 カオスは“仁美”のことを、実の姉のように慕い、愛していた。“仁美”もまたそんなカオスの純粋さに、愛を返していたように真木には見えていた――例えあの“仁美”が、魔女の口づけにより狂った、本来とは異なる精神状態の彼女だったとしても……その時の二人の間に偽りはなかったはずだ。
 そしてカオスに対する真木の奇妙な執着が決定的となったのは、“仁美”がとうとう正気に戻り――未確認生物(エンジェロイド)であるカオスを拒絶する醜い彼女になってしまうことのないまま、葛西善二郎によって焼き殺され、終わりを迎えた後のことだった。

 それというのも。姉と慕った“仁美”を炎の中に喪いながらも、美しい思い出として完成された彼女の教えを健気に守ろうとし続けるカオスの姿は。
“仁美”という名の姉が醜くなる前に焼き殺し、美しい思い出のままで終わりを迎えさせた真木清人自身に、酷く重なって見えたからだ。

 物語がENDマークで完成するように、人もまた死で完成する。だから世界もまた、これ以上醜くなる前に終わりを迎えなければならない――そんな真木の終末思想も、姉である真木仁美の教えから辿りついた答えであることを考えれば――本当に今のカオスは、真木によく似ている。

「彼女はまるで、グリードのようですね」

 だから、どうしても気にかけてしまう。
“愛”という欲望のために、世界の何もかもを喰らい尽くそうとしている彼女が、どんな終わりを迎えるのかを。
 一度は終わりを迎えかけた、グリードである真木は……どうしても。

「カオスを君の作りたがっていた、メダルの器にでもするつもりかい?」

 そんな真木の心境を読んだかのように、インキュベーターは言う。

「わかっているだろうけど。あの会場の中で一つの世界を終わらせることができる何かが誕生したとしても、その作用は外にまでは波及しない。そういう仕組みだからね」
「もちろん、わかっていますよ」人形さえ見ていれば、今更真木が動揺することなどそうはない。「メダルの器が生まれ易い状況にあるというのは、単なる副産物です。今回重要であるのは、あくまで参加者のグリード化が進行し易くなるということなのですから」
「彼らにとっては、ね」
 多分に含みを持たして、インキュベーターは真木の言葉を引き継いだ。
「君にとってはそうじゃない。むしろ新たなグリードの誕生なんて願い下げだろう?」
 自分達にとってはどうなのか、をインキュベーターは直接口にはせず、しかし言外に仄めかしていた。
 真木とインキュベーター。主催陣営の中でも、彼らしか知らない秘密を共有する立場同士、ということを強調するかのように。
 もっとも――知識を授けられたのが両者だけということで。この獣の姿をした狡猾な異星人が、その情報を他の者――例えばあの最も強い“悪意”、即ち奪うという欲望を持つ“彼”辺りとの交渉材料に用いていないという保証は、どこにもないのだが。

「――おや」

621明かされる真実と欲望と裏の王 ◆z9JH9su20Q:2013/11/27(水) 23:43:09 ID:.SstUajs0

 そんな時。不意に、インキュベーターが素っ頓狂な声を発した。

「海東純一に動きがあったよ。どうやら衛宮切嗣と間桐雁夜が接触した時の記録を解析しているようだね」

 先の声は、記憶と認識を共有している監視用の個体を通じてそれに気づいたという合図、だったのだろう。

「ということはやはり、彼の目的は……」
「“我々”の誰かと成り代わること、ですか」

 インキュベーターの続けただろう言葉を先取りしてから、真木は己の手の甲に視線を落とした。

 そこに刻まれているのは、刺青のような紫色の痣。

 プテラノドン、トリケラトプス、ティラノサウルス。三種類の絶滅動物の顔を模した図柄が、金色の円環に詰め込まれたその印は――
 モニターの中で咆哮する、仮面ライダーオーズ・プトティラコンボのオーラングサークルに刻まれたそれと全く同じ、円形の紋章だった。

 関連する知識のある者がそれを見れば。聖杯戦争に参加した魔術師に与えられる、令呪なる聖痕を連想することだろう。

 そして、その者達が抱くそんな印象は――正しい。

 真木の――さらには本来、残る赤、黄、緑、青、白の玉座に腰掛けているはずの五人に宿った、オーズの対応色のコンボと同型の紋章は、まさしく令呪であった。

「――もちろん、英霊を使役する際に用いられる正規の物とは異なるけれど。君達が宿したそれもまた、聖杯から授けられた令呪であることに変わりはない。なるほど聖杯戦争に関する知識の足りない彼の立場なら、切嗣が雁夜から令呪を強奪した実例を参考にするというのは悪くない手だろうね」
「マルチネス君が衛宮君から令呪を譲り受けることができたのは、参加者としての特例でしたからね。海東君からすれば、参考にはならないでしょう。良い判断です」
 確認された情報を元に、インキュベーターと真木は一先ず海東純一の動きを評価する。明確に獅子身中の虫と化した男の危険度を、改めて推し測るために。
 ただ、真木の答えはすぐに下されたが。
「――まぁ、私が彼のことを気に留める必要はないでしょう」
 真木の“紫”の令呪は、六つの令呪の中でも特殊だ。単純な支配欲を満たさんとする純一からすれば、無用の長物にしかならないだろう。
 そして――海東純一の擁するカリス程度の力では、仮に挑んで来たとしても真木に太刀打ちすることなどできはしない。
 また、ならばと彼が他の“王”と成り代わったところで……結局のところ、真木にとってそれは大して意味を持たないのだから。
「彼を警戒すべきなのは他のどなたかでしょう。海東君程度に終わらされるようでは、被害者の欲望もその程度だったというだけの話です。その程度の者には、あの――」
 そうして真木は、人形に向けていた視線を持ち上げた。

 薄暗い部屋の最上。真木の見つめる先にあったのは、まるで見えざる手に掲げられたかの如く中空に浮き続ける、巨大な黄金の器。
 それは注がれるべき欲望の結晶を待ち続ける、奇跡の大聖杯だった。

「“欲望の大聖杯”を手にする権利など、最初からあるわけがない」

622明かされる真実と欲望と裏の王 ◆z9JH9su20Q:2013/11/27(水) 23:44:26 ID:.SstUajs0



 ――――“欲望の大聖杯”。



 その使用権を獲得することこそが、このバトルロワイアルの“主催者”と言われる頂きに立つ者達――各陣営のグリード達の上に立つ、裏の“王”達の目的だった。
 


      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 全ての始まりは、真木自身が一度終わりを迎え、道半ばで完成してしまいかけた時だった。

 オーズ達との最終決戦に敗れた後。発生した時空の裂け目に飲み込まれ、別の時間軸へと飛ばされ消滅する運命にあった彼を、預言者を名乗る男が回収したのだ。
 曰く、彼は世界を破壊する――しかしその実、再生のための破壊などという、真木とは相容れない使命を帯びた悪魔を始末するための、世界を渡る旅の途中だったのだそうだ。

 彼に協力を要請され、別の世界の鴻上と協力体制を築き異世界への旅を再開した真木達は、やがてとある世界に辿りついた。それがあのカオス達、エンジェロイドのいる世界である。
 その世界の“シナプス”という場所には、石版(ルール)という、世界一つを容易く書き換える力を秘めた恐るべき願望器が存在していた。預言者はそれを使い悪魔を始末する手段を得ようと考えていたが、ここで同行していた別の世界の鴻上が彼を出し抜き、先に石版を使ってしまった。
 そして鴻上は、彼自身の世界には作用し得ない石版を用いて、預言者との旅の過程で知ったもう一つの願望器である“聖杯”の概念を基とした、より高次の願望器を創造したのだ。

 そうして生まれた欲望の大聖杯は、その時誕生に立ち会った者達が認識し得た全ての世界――特に預言者の訪れて来た世界や、さらにそれらの世界線が異なる並行世界全ての“欲望”と接続し。起動すれば比喩ではなく、文字通り無限のセルメダルを抽出することができるという代物だった。

 欲望とは、即ち感情の根源。その全てをセルメダルという力として取り込むことにより、かつて鴻上が語った通りに∞(神)をも超える○○○(オーズ)の力を手にすることが可能となるのだ。

 ――少なくとも。信仰もまた、感情の一側面であることから考えれば。この大聖杯の力を手にすることは、本来聖杯の存在した世界にいた、信仰をパワーソースとする全盛期の“神”霊をも凌ぐ存在となれる可能性は、極めて高いと言えるだろう。



 その力があれば、鴻上の願う欲望による世界の再生も容易く実現できたはずだったが――鴻上の欲望から生まれた大聖杯は、彼の思惑には収まりきらなかった。

 まず、魔術師達の求める聖杯を基に創造されたその大聖杯は、その機能に色濃く影響を受けていた。
 聖杯の使用権を得るためには、聖杯によって呼び出されたサーヴァント(従者)を殺し合わせ、そのサーヴァント達を贄とする必要があったのだ。

 ただ。そのサーヴァントや、贄というのが――今度は鴻上の影響によって本来の聖杯戦争で召喚される英霊達の一側面や、その魂ではなくなっていた。

623明かされる真実と欲望と裏の王 ◆z9JH9su20Q:2013/11/27(水) 23:45:06 ID:.SstUajs0

 此度のサーヴァントたるは英霊ではなく、グリードという名の怪物。捧げるべき供物は高貴なる六つの魂ではなく、怪物に喰われ集積された貴賎なき数多の欲望。

 欲望の大聖杯の起動条件。それは五体のグリード達に加え、接続した無数の世界の中から聖杯が彼らの配下として選び召喚した六十名の参加者によるバトルロワイアルを行い、会場で最後に残ったグリードへセルメダルという形で集束・蓄積された参加者達の欲望のエネルギーを、直接大聖杯に注ぐこと。

 即ち、命の危機に晒すことで参加者達の欲望を増幅し。それをセルメダルという形に変換して奪い合わせ。最後に首輪に蓄えられたそれをグリードに取り込ませることで用意した欲望の蠱毒を生贄とすることが、欲望の大聖杯降誕という儀式を締め括る行程だったのだ。



 ――もっとも、この知識を鴻上や預言者は得ることはできなかった。それが、聖杯が創造主(鴻上)の思惑を超えたもう一点。

 この大聖杯の使用権は、他の参加者は無論、最後は哀れな贄となるだけの運命であるグリード達にも存在しない。

 それを手にする資格があるのは、聖杯が無数の世界からグリードを使役するに足る、その欲望を司るグリードをも超越した欲望を持つと見初め選び出した者。裏リーダー、あるいは裏の王と仮に呼んでいる、同色のグリードに対応する令呪を宿した各陣営の真の所有者(マスター)のみである。

 唯一このバトルロワイアルで利益を得る立場にある裏の王達は、一画限りの令呪とともにこの大聖杯に関する知識を授けられ、聖杯の誕生と共に各世界から呼び寄せられた。
 会場内のバトルロワイアルは彼らが聖杯の獲得権を巡るための代理戦争。言うなれば各陣営一つ一つをサーヴァントとみなした、彼らによる聖杯戦争なのだ。

 だが鴻上は、その裏リーダー権――令呪を得ることができなかったのである。

 おそらく裏リーダーの中には、彼の強欲さには及ばない者も何人かいることだろう。少なくとも真木はそれに該当するはずだ。
 彼はただ、該当し得ただろう陣営の競合相手が悪過ぎたのだと真木は推測している。
 加えてさすがの鴻上も、何の罪もない多くの参加者を我欲のために犠牲にできるほどの呵責の無さは持ち合わせていなかったかもしれない。聖杯は当人の意思を無視して適合者に令呪を授けているが、当然乗り気である方がその欲望も強まるのだろう。その点が競合相手に遅れを取ってしまった要因なのだろうと予測がつく。

 何にせよ、こうして鴻上の目論見を外れ、彼の生んだ欲望の大聖杯は自らの起動のため勝手に動き出し始めてしまった。ある意味いつものことなのだが。

 裏リーダーとは別に、大聖杯は感情を持たない観察者としての性質と外部との遮断技術の両面において優れたインキュベーター達を監督官役に適していると判断して呼び出し、彼らにも裏リーダー同様の知識を与え協力を要請した。
 宇宙の熱的死を回避すべく、大聖杯起動時のおこぼれを求めたインキュベーター達はこれを承諾し、裏リーダーやその配下、海東純一のようなスカウトして来た運営スタッフと共に、万全の状態でバトルロワイアルを決行する準備に協力した。

 その過程で、彼らが外部からの介入を防ぐべく会場周りに展開した遮断フィールドをも無視して移動できる力を持つ預言者を、いざという時のために始末すべきだとインキュベーター達が提案し、裏リーダー達の何人かがそれに賛同したことで、発端の一人であった彼は亡き者となった。
 鴻上は捕らえられ、事態を把握しきれないままに会場へ参加者宛の手紙を用意するなどしたが、一部の裏リーダーに気に入られていることもあって生き延びた。とはいえ当然、バトルロワイアル運営に関しての発言権はなく、また手紙の内容も――参加者から信頼されるために、敢えて偽った部分もあるのだろうが――真実からは遠い物となっているのだが。

 当初は五体のグリード達も、裏リーダーと同時期にそれぞれの時間軸から呼び出され各自面識があった。しかし後のことを考慮し、開始直前にアルバート・マーベリックの能力で殺し合いの真相に関する記憶を消去・調整され、何も知らぬまま裏リーダー達の代理戦争たる舞台へ登って行った。

624明かされる真実と欲望と裏の王 ◆z9JH9su20Q:2013/11/27(水) 23:46:22 ID:.SstUajs0

 やがて。あらゆる準備が完了し、遂にバトルロワイアルは開始された。
 全ては選ばれし六人の王の、さらなる勝利者がその欲望を満たすために――



「――その資格を最初から持っていない君が言うのも、おかしな話だろうけどね」

 大聖杯を改めて目に収め、これまでの過程を振り返っていた真木に対し。先程呟いた言葉への感想を、インキュベーターが漏らしていた。

「本来これは、五つの陣営によるチーム戦だ。もう少し生き残れたなら、火野映司が紫のグリードとして会場に存在するようになるだろうけれど……紫の属性は無。聖杯に注ごうにも、折角集めた欲望を消してしまうのでは、願望器は機能できない」

 他の陣営裏リーダーから令呪を奪えば、それを補うことができるかもしれないが――バトルロワイアルの趨勢を無意味にしてしまわないようにか、正規の聖杯戦争とは異なり、聖杯の作用で令呪を宿した者同士で相手を害することはできなくなってしまっており、それも困難だ。
 まぁ、そうでもなければ裏リーダーは召喚された時点で一堂に会す以上、単純に武力に優れた裏リーダーがバトルロワイアル開始前に全ての令呪を掌握してしまうことは明白。当然の措置と思うべきなのだろう。
 しかしそれ故に、真木が全能の願望器として聖杯を手にできる可能性は極めて困難。いや、ほぼ不可能と言い切っても間違いない。

「――それでも私と、あなた方にとっては問題ない。そうでしょう?」

 そもそも、存在する意味すらないと思われる無陣営の裏リーダー。
 だが、それでも。対応するグリードが性質上、本来大聖杯起動の鍵にすらならずとも――紫の令呪は、現に真木の手の中にある。

 無論、他の主催陣営の者達もその理由を訝しんではいるが。紫というイレギュラーの真実を授けられているのは、先述の通り、真木とインキュベーター達だけ。
 故に両者は共謀者なのだ。無論信頼という感情など、人外である両者の間には無縁の代物であったが……白い獣は、真木の確認に頷いてみせた。

「そうだね。だから僕らもまどか達や――適齢期こそ過ぎているとは言え、観測史上最高の素質を持っていた椎名まゆりを犠牲としてでも、欲望の大聖杯をどんな形だろうと起動させることを優先した。
 だから清人。君がどんな終わりを望もうと構わないけれど、それだけは達成して貰わないと、僕らが困るということだけは覚えておいて欲しいな」

 インキュベーターは懇願するようでいて、その実恫喝のつもりなのだろう言葉を残して退室して行く。
 ここまで来て今更頓挫させるなど、決して許しはしないと。

「……当然です」
 人形にすら目を向けず、真木は独り言ちた。
 あるいはカオスに向けた興味を疑われたのだろうか。だとすれば舐められたものだ。

「例え一度失敗に終わっていようとも……私のそれは欲望などではありません。崇高なる唯一の使命なのです」

 だからこそ、鴻上に比べれば抱える欲望は劣ろうと。真木は紫の陣営の所有者として聖杯に見初められたのだ。
 自らの欲望さえ否定する真木だからこそ。他の欲望に誑かされ、目的を見失うことのない真木だからこそ――紫(無)の王に相応しいとして。
 伊達や知世子と出会いながら、使命を優先した真木が今更新たに関心を抱いたの存在の出現程度で止まることなど、あるわけがないのだ。

625明かされる真実と欲望と裏の王 ◆z9JH9su20Q:2013/11/27(水) 23:47:09 ID:.SstUajs0

 むしろ、“個”として隔絶された支給品のインキュベーターや、カオスといった興味深い存在の終わりを見たいからこそ――
 そして。姉の人生を終わらせ思い出として完成させたあの日から、私には――

「――他の選択肢など、あるはずがない」

 真木清人が、己の使命を自覚したと同時に。



 どこかで《終わり》がその巨体を運ぶ歩みを、ほんの少し、だが確かに早めた――そんな気配がした。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


 盤面に残された駒の数は37。
 世界に適応できずに、盤面から零れ落ちた駒達の欲望を食らって、彼らは進んでいく。
 自らは血を流すことなく、この世全ての欲を我が手に収めんとする傲慢なる王達のために。
 何も知らぬ哀れな贄達は、ただその時の到来を早める手助けをする。し続ける。

 交わり結びつく彼らの欲望の果てに待つのは、勝利を得た“王”が掴みし黄金の杯が湛える、無限大をも超える可能性(オーズ)の力か。

 それとも――








          ――――またどこかで、メダル《欲望》の散らばる音がする――――

626明かされる真実と欲望と裏の王 ◆z9JH9su20Q:2013/11/27(水) 23:48:24 ID:.SstUajs0

【一日目 夜中(?)】
【???】

【真木清人@仮面ライダーOOO】
【所属】無・裏リーダー
【状態】健康、左手の甲に令呪(紫)保有
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
 基本:世界に良き終末を。
  1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
【備考】
※原作最終回後の参戦です。恐竜グリードと化してはいますが、参戦時期の都合から何枚の紫メダルを内包しているかは後続の書き手さんにお任せします。
※カオスに親近感を覚えています。
※無陣営に関するイレギュラーの真実を知っています。



【全体備考】
※主催陣営の共通目標は、【欲望の大聖杯】@オリジナルの起動です。
 現在明らかになっている起動条件はバトルロワイアルで優勝し、生存者全てのセルメダルを取り込んだグリードを“欲望の大聖杯”に捧げることです。
※各陣営には、グリードに対する令呪を持つ裏リーダーが存在します。
 現在判明している、裏リーダーについての共通事項は次の通りです。

1.裏リーダーは“欲望の大聖杯”が接続した世界(参戦作品の世界)から直接、各陣営の所有者に相応しいと選定されて、本人の意思とは無関係に聖杯に召喚された者達。裏リーダーの証として、対応色グリードに対する一画のみの令呪(デザインは仮面ライダーオーズの各同色コンボの紋章と同一)と、バトルロワイアルや大聖杯の真相に関して一定の知識を“欲望の大聖杯”から授けられている。
2.欲望の大聖杯が起動した際、願望器としての使用権を得られるのは優勝した陣営の裏リーダーのみである。
3.裏リーダー同士は、互いを害することができない(詳細は後続の書き手さんにお任せします)。
4.裏リーダーは会場内に直接立ち入ることができない。

※“欲望の大聖杯”から、無陣営裏リーダーの真木と監督官役のインキュベーターにのみ明かされたさらなる秘密があります。その内容については後続の書き手さんにお任せしますが、少なくとも真木、及びインキュベーターの目的を達成することに合致したものになります。
※真木以外の残る五陣営の裏リーダーの正体、及びその担当陣営は後続の書き手さんにお任せします。ただし海東純一、鴻上光生、インキュベーター及び名簿に載ったバトルロワイアルの参加者は少なくとも現在、どの陣営の裏リーダーでもありません。
※鳴滝@仮面ライダーディケイドは既に死亡しています。
※上記備考欄の内容について、グリード達はマーベリックのNEXT能力により関連する記憶を全て失っています。彼らが元々はどの程度までバトルロワイアルの真相を知っていたのかは、後続の書き手さんにお任せします。

627 ◆z9JH9su20Q:2013/11/27(水) 23:52:00 ID:.SstUajs0
以上で投下完了です。
仮投下を通してはありますが、また何か問題点等ございましたらご指摘の程よろしくお願いします。

628名無しさん:2013/11/28(木) 00:24:46 ID:tC15Tduo0
投下乙です!
これが隠された真のチーム戦・バトルロワイアル…!
すっげえなあ、欲望の大聖杯に六人の裏リーダーかぁ!
他の五人の裏リーダーは一体誰なんだろうなあ
改めて、投下乙です!

629名無しさん:2013/11/28(木) 15:26:25 ID:snbek7Ls0
投下乙です。
なるほど…聖杯戦争の応用を、ロワが団体戦であることの理由付けとしたか。
オーズとfate、ディケイドにそらおとなど原作のクロスがきちんとロワの土台として成り立ってて上手い。
この構図だと主催陣の方も一枚岩とはならないだろうし、これから色々と起こりそうで期待。

630名無しさん:2013/11/28(木) 18:11:45 ID:AhyrRW/o0
投下乙です
これはオーズロワの名前に相応しい開催理由だわ
それでいてちゃんとクロスされてる
そしてこの目的ならQBも介入して他の主催者らも興味津々になるわなあ
更にロワが終わるまで何が起きてもおかしくない
良いと思います

631名無しさん:2013/11/28(木) 19:52:10 ID:BLr3Xy6gO
投下乙です。

「願いが呪いに変わる前に、魔法少女のまま終わる世界」っていうまどかの願いは、真木の思想に似てるんだな。

まゆりも因果の収束点なのか。

そして、ストーキング能力を危惧されて始末されてた鳴滝。
これもディケイドって奴の仕業なんだァァァ!

632名無しさん:2013/11/29(金) 22:25:48 ID:KKI1XjCU0
「おのれ、ディケイドォッ!!!」

633 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 12:51:26 ID:4f4Jn/KQ0
投下します。

634 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 12:51:48 ID:4f4Jn/KQ0

「あのー! 俺達悪い奴じゃないからさ。せっかくだし、一緒に話してみない?」
「ちょっ、伊達さん! わざわざ大声で言わなくても」
「いやー、向こうもとっくにこっちに気付いてるでしょ。だからとりあえずこっちからアピールだけはしとこうと思ってさ。あ、俺は伊達明で、こっちはバーナビーな!」
 迂闊だったか、とユーリは心中で毒づく。
 周囲への警戒が些か散漫になってしまったためか、この一軒家の屋内に入るまでに姿を見られてしまったのだろう。一人で行動方針を練り直すはずが、こうして他者の接近を許している。
 そして接触を呼び掛けられたのに何の返答をしないことは、高い確率で不信に繋がりかねない。だからと言ってこのまま二階の一室に身を潜めたとして、見つからないとは限らない。
(まあ、相手が彼であっただけでも救いか)
 不幸中の幸いと言うべきか、接触を図ってきた人物の一人はバーナビー・ブルックスJr.、人間性には信頼の置ける相手である。
 彼に同行している伊達明という名の男が善良なら問題なし、危険だとしても今はバーナビーが抑止力となっている。
 ならばこのまま二人に接触したところでさほど問題は無い……とは言えない。
(いや、今のままでは衝突は避けられない)
 今のユーリの姿は、蒼と黒の仮面と衣装に包まれた『ルナティック』のものだ。映司達の前から去ってこの家に入ったはいいが、魔の悪いことに殆ど時間を経ずに二人が入ってきたためである。
 このまま彼らと接触したところで、シュテルンビルトにおける敵対関係が再現されるだけだ。

「……出てきませんね」
「だな。しゃーない、こっちから行くか」
 着替える時間はもう残されていない。面倒事を回避できる姿での接触が無難であり最良だったのだが、選択肢から外すしかない。
(ならば、取るべき道は一つか)
 考え方を変えよう。
 何も逃げる必要はない。こうして巡り会えたのも何かの縁として、彼との問答に臨むのも悪くない。



「誰かと思えば、今度は君とはね」
「!? お前は」
 二階への階段を昇ろうとした時、突如声が響き渡る。未だ姿こそ現さないが、聞こえてくる方向から考えて声の主はおそらく上方か。
 驚愕と、恐らく怒りを滲ませた声と共にバーナビーが階段を一気に駆け上がる。
「どこだ!? どこにいるルナティック!!」
「こんな所で君達と話したところで無意味だろうが、まあ良いだろう」
 せわしなく周囲を見回り怒号を上げるバーナビーを見るに、挑発的な態度を露わにする男との関係は良好なものではないのだろう。

 と、そこまで考えたところで伊達はバーナビーに声を掛けた。
「はいストップストップ」
「……何ですか」
「盛り上がってるところ悪いけどさ。今話してるルナ……って人、どちらさん?」
 言われて怪訝そうに伊達を見つめるバーナビーだが、すぐに伊達の今の状態に気付いたようだ。
 同行者が知らない誰かと言い争いをする様を黙って眺めるのはどうにも居心地が悪いので、少しでも説明が欲しいところである。
「あいつはルナティック。シュテルンビルトの犯罪者だけを何人も殺している……要は犯罪者です」
「……へえ。でもルナティックなんて名前、名簿に無かったような」
「奴も本名の方で記載されているんだと思います。そのせいで僕もあんな奴がいるとは考えていませんでした」
「成程ねえ。で、バーナビーはこう言ってるけどさ、それで合ってるー?」
「その男の価値観に従えば、今の説明は決して間違ってはいない。尤も、短慮な捉え方だとは付け加えさせてもらうがな」
 相変わらず声だけで返事をするルナティックにも確認を取り、説明の内容が間違いでないことを理解する。どうやら対応が面倒そうな相手と遭遇してしまったようだ、と思うとつい眉を顰めてしまう。

635 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 12:53:40 ID:4f4Jn/KQ0

 そんなやり取りの最中、足を踏み入れた一室に備え付けられた梯子が目に入る。手を掛けて登った行き先は、この家の屋上だった。
 そして、ようやく探し求めた者の姿を前方に捉える。
 月に照らされて悠然と立つその身を包むのは、バーナビーのとはまた違った趣の衣装だ。その衣装とお揃いの仮面も、どんな手品か掌に翳した炎も、何もかもが蒼の容貌はルナティックという男の異様に存在感を際立たせていた。

「わざわざ誘導とは、随分なお気遣いしてくれるねえ」
「いいえ。ただ障害の無い場所の方が戦いやすいというだけでしょう」
「で、あーいう奴ってやっぱ捕まえちゃった方がいいの?」
「……一応、様子を見ましょう」
 家中を歩き回っていた二人にいつでも刃を向けられただろうに、彼がわざわざ目の前に姿を現した真意はわからない。逃げる気配も襲い掛かる気配も見せずに悠然と佇む姿が、また奇妙に映る。
 一先ずバーナビーの提案通りに相手の出方を伺うことにするが、お互いに押し黙ったままというのも少し辛い。などと思っていると、バーナビーが一歩前に出るのが見えた。
「さっきは短慮と言ったな。お前のやることの説明なんてあれで十分だ」
「それが短慮だと言っているのだよ。罪人は、命を以て自らの過ちに報いるべき。法に縛られ、悪を見逃すことを善とする君達の愚鈍な正義など、必要とされるべきではないのだよ」
「……うっわ、過激だな」
「何があろうと殺しはしない。それが僕達ヒーローの正義だ。お前なんかに口出しされる筋合いは無い」
 ルナティックと言う男の冗長な語り口は、横で聞いていても良い印象は受けない。
 直接の口論の相手となっているバーナビーは尚更だろうに、挑発に乗せられる様子は見せない。これも彼の冷静な性質ゆえか。

「ほう。十を超える犠牲が生まれたこの状況で、まだそのようなことを言うのかね、君は?」
「っ、それは……」
「私の正義を否定しておきながら、満足な結果を出せていない。滑稽だよ」
 しかし、痛い所を突かれてしまうと途端に反論に窮する。
 その苦々しい呻きをよそに、ルナティックはまた語りかける。

「ああ。そういえばワイルドタイガーにも出会ったよ。相変わらず、君と同じようなことを言っていた」
「な……っ! それはいつだ、どこで会った!?」
「おい、そんな取り乱すなよ」
 次に述べられたのは、バーナビーの無二の相棒の行方であった。
 聞いた途端に冷静さを無くし、驚愕を露わにして身を乗り出そうとするバーナビーの肩を咄嗟に掴んだ。一応の平常心は取り戻したようだが、それでも息を呑む気配が白のマスク越しにも伝わってくる。
 しかしルナティックはと言えばタイガーの所在を教えることなく、嘲笑混じりに話を続ける。
「真木清人に向けて威勢の良い宣言をしておきながら、現に救えなかった命があるというだけならまだ良い方だろう。
 彼は罪人を討つ絶好の機会を得ておきながら、その身を取り押さえるだけで討とうとはしなかった。その結果、再び自由を得たその罪人はまた不要な犠牲を生み出そうとしていたよ」
「……そんな、ことが」
「結局、彼はその場にいた少女が罪人を討った。いや、責任を少女に押し付けたと言うべきか?
 ……救う価値の無い者にまで手を伸ばし、その限られた力の使い道を誤り、真に救われるべきを切り捨てる。
 もう分かるだろう? これが、君達ヒーローの正義の醜い正体だ」
 話を聞きながら拳を握りしめる姿から、きっとバーナビーも同じことを考えているのだろうと伊達は察しをつける。
 ルナティックを介して知らされた悲劇の顛末は、紛れも無くワイルドタイガーの正義が抱える負の側面が招いた結末だ。
 戯言と否定できないのは、具体的な日時や場所の情報を欠いて尚、二人はルナティックの話に真実性を感じているからだ。
 それこそ、『あの娘』に敗北を喫するという苦い経験を経た今だから。

「…………ふむ、反論は無しか。ならばこれ以上君達と交わす言葉は無い。私もすべきことがあるのでね、今回は失礼させてもらう。
 ああ、伊達明と言ったか。生憎だが、君がそのヒーローと並ぶ限り、私と君の道が交わることは無い。仲良くしようなどという提案は、謹んで辞退させてもらう」
 興味なさげに一瞥し、そのまま背を向けようとするルナティックの姿を見ても、バーナビーは威勢よく飛び掛かる様子を見せない。それほどに糾弾の言葉が重く響いたのだろう。
「……おいおい。まさか、わざわざこんな話をしに来たってわけかよ」
 こうして自らの正義の正当性を主張するためだけに。もしそうだとしたら、彼の目論見は成功だったと言わざるを得ない。

636 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 12:54:45 ID:4f4Jn/KQ0

 ……だが、生憎ここで話を終わらせるわけにはいかない。
「待った。俺の話は終わってないけど?」
 ぴくりと反応しこちらを向き直したルナティックの姿を確認し、言葉を続ける。
「なーんかクドい言い回しだけど、つまり人を殺した奴は皆死ぬべきだってこと? そうすることが罪の無い人を守るためで、でもって罪滅ぼしにもなる……って話?」
「その解釈で構わない。尤も、罪を自ら償おうというのならまた話は変わるがな」
「ふうん」

 成程。今の返答とこれまでの話で、何となくではあるがルナティックという男の動き方が掴めてきたような気がする。
 ならば、今ここで彼に伝えることは決まった。不思議そうにこちらを見つめるバーナビーに、
「いきなり殴るとか勘弁な」
 と前置きした上で、改めてルナティックの方を見て、思うままに告げる。
「そんじゃ、話を聞いた上で改めて言わせてもらうけど……あんた、やっぱり俺と一緒に来る気ない?」



 殴らないでほしいと言われたばかりなのに、伊達の顔面を殴り飛ばしたい衝動が湧き上がる。それほどまでに、伊達の提案は度し難い内容であった。
「……僕は言いましたよね。あの男は犯罪者だと。なのに奴を受け入れるというんですか、貴方は!?」
「ああ、聞いた。でも今はそうも言ってられないし」
「だからって!」
「……もし『あの娘』みたいのとまた出くわした時、俺達だけじゃやれることには限界があるだろ、実際さ」
 両手で肩を掴み激昂のままに伊達に異を唱えたが、強ち間違ってはいない反論を受けてまた言葉に詰まる。
 確かに、戦力としてはジェイクやアンドロイドをも凌ぐだろう『あの娘』と今また戦う羽目になったとしても、勝てる見込みは薄いのは否定できない。
 そして仮に運良く『あの娘』を一度屈服させることが叶ったとして、真木を打倒するまで拘束した状態を維持出来るとも限らない。また逃がすようなことになったらそれこそ本末転倒だ。
 ルナティックを突っ撥ねない伊達に対し、自らの正義の決定的な正当性を主張する材料をバーナビーは得ていないのだ。

 ……だから、伊達がルナティックに共鳴するのも仕方が無いと?
「成程。君はヒーローの正義よりも私の正義に理解を示したと受け取っても良いということか?」
「まあ……とりあえず、あんたの言うことにも一理あるっちゃあるな。何も関係無い人を死なせるわけにもいかないってのは俺も同じだし」
「伊達さんっ!!」
 変わらぬ平坦な声でまた発せられた肯定の意思。
 バーナビーのマスクを一瞥し、しょうがないなと言わんばかりに肩を竦める様を目にし、また感情が一気に噴出しそうになる。
「なんですか、それは」
 伊達明という人間に否定されても仕方が無いほどに、結局ヒーローの正義など弱く脆いものでしかなかったのか。
 ワイルドタイガーの正義は、こんな所で潰えるというのか。
「……常に他者と行動を共にするというのは些か気が向かないが、君の方が私を追うという形なら何も拒絶はしない」
「あっそう」
 そんなことを認めてしまえば、今のバーナビーの根幹は、もう――

637 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 12:56:00 ID:4f4Jn/KQ0

「つーわけで、あんたと俺でお互いに利用しあうってことで」
「……何?」

 それは、ルナティックも予想していなかっただろう言い回しだった。
「利用って……あなたはルナティックに従うつもりだったんじゃ」
「ん。そう聞こえた? 違う違う。俺らのやりたいことのために、途中まででも手を組めたらいいなーってだけよ。関係ない人と守りたいって所は同じっぽいしさ」
「だったら」
「君は私の正義ではなく、そこのヒーローの正義を信じるというのか? 悪を野放しにするのが正しいと、そう言うつもりか?」
 先程とは一転して、僅かに苛立ちを滲ませた声で尋ねられても伊達は怯まない。
「……やっぱちゃんと言っといた方がいいか」
 困ったように視線を泳がせた時間は短く、すぐに真っ直ぐルナティックを見据えた。

「別に悪い奴を自由にさせて大丈夫っていう気は無いけど、あんたみたいにすぐ死ねってのも違うんじゃないかあって思うよ、俺」
「他者の命を奪ったなら、自らの命を以て贖うべき。自らの罪深さを理解させるためにはこれこそ必要ではないか?」
「だったら、間違いは間違いだって相手がちゃーんと理解できるように伝えなきゃダメでしょ。一方的に『アナタは罪を犯しました、ハイお終い!』って……あんたは満足するだろうけどさ」
「む……」
「ちゃんと時間をかけて、何が良くて何が駄目かって自分で考えて、それで他の人にも教えてもらえば、人って“正しい”答えを出せるもんじゃないの?」
 つっても後藤ちゃん犯罪はしてなかったけどさ、と小さく呟くのが耳に入った。
 無関係の者が被害者となる可能性を看過しない点で伊達とルナティックの価値観は共通である。しかしある一点において極刑には難色を示している。
「加害者が更生する可能性を摘み取るべきではない……ということですか?」
「そーいうこと」
 ヒーロー達の信じる法律がこの社会で必要とされる、ごく当たり前の動機であった。
 自信ありげに笑みを浮かべる伊達の顔を見て、安堵にも近い感情を――同時に生じる仄かな苛立ちも把握しながら――確かに覚える。

 ……しかし、このまま二つ返事で肯定できるほどバーナビーを取り巻く環境は優しくない。
 実際、バーナビーとて伊達の考えに全く思い至らなかったわけではなかった。それにも関わらず口に出すのを躊躇ってしまったのは、この主張が抱える欠点に気付いていたからだ。
「そう言って、君は罪も無き者の命を脅かすつもりか?」
「いや、そうさせないように俺とバーナビーで」
「守る、と口で言うのは簡単だろう。だが、それに足るだけの力が果たして君にあるのか? ……君の力で、今後一切の不要な犠牲を出さないと、今。ここで。君は私に誓えるのか?」
 同じく欠点を見逃さなかったルナティックから遂に問われたのは、正当性ではなく可能性の問題。あくまで現実に即した考えであることを要求している。
 もしもこの理想論が実際には到底実現する見込みの無いと明らかになったとしたら、その時点で机上の空論に成り下がる。ルナティックの言葉を借りれば、偽善だ。
 その厳しい条件を課された中、何と答えるのが正解だろうか。

(……こういう時、虎徹さんなら)
 固唾を呑むバーナビーの前で、何かを考え込む伊達。
 頭に思い描くのは、ワイルドタイガーならきっと示すだろう解答。
 ここで望む答えは得られるのだろうか。それは彼の答えと等しいものだろうか。
 不安にも近い鬱屈を抱えるバーナビーの前で、伊達の口が開かれた。

「わからん」
 強い視線で前方を見つめながら、全く翳りを感じさせない声で。伊達は明確に『不明確』を宣言した。

638 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 12:56:47 ID:4f4Jn/KQ0

 その一言を聞き、唖然としたまま言葉を失うバーナビーとルナティック。そんな二人を気にせず伊達は続ける。
「悲しいけど、別に俺だって何でも上手にやってきたわけじゃねえよ? しかもこんな状況だし。また誰かを助けられないことが絶対に有り得ない、とは言い切れないわ」
「……成程。つまり君は自らの非力を認めるというのだな?」
「まあ、俺医者だし。自分のやれることの範囲を弁えないとやってけないわけで。……その上で、やりたいことをやってかなきゃって話」
「では何故だ? 君の正義が必ずしも貫けぬと理解していながら、何故拘る? 自らの分を弁えられる私の正義に従うのが妥当であるものを」
 伊達の姿勢はつまり、自らの限界を指摘されたところで素直に認めるというものだ。それを嘆き悔やみこそすれ、限界なんて存在しないのだと偽らない。
 こうして自らを強者ではないと定義しておきながら、伊達の芯の部分は決してルナティックに迎合しない。
「そんなの決まってるでしょ」
 その根拠を示すために、にやりと笑った伊達は右の親指で自らの胸を指した。
「俺がそうしたいって思うから」
 ……そんな仕草に、ああ、まただ、と感じたのを自覚する。

「見ての通りのダンディーな大人が夢みたいなことだけ言ってられないのもわかるけど。悩める若者とか子供をほっときたくないとか、やっておきたいことがあるってのも本物だしさ。
 だから、ギリギリまで俺の気持ちに従いたいし、ギリギリのギリギリまで手を尽くしたい。うちの社長っぽく言えば、『人は欲望によって動かされる生き物なのだよ! すぅばらしぃい!!』……みたいな?」
 両手を広げた大袈裟な挙動を見せ、しかし持論をしっかり述べている様を前にして、バーナビーは取り留めも無く思う。
 伊達明という人間は、ワイルドタイガーに似ていると。
「……成程。私はどうやら思い違いをしていたようだ。君を何より突き動かすのは正義や使命感と言うより、君個人が抱く感情、いや欲望と言うのが相応しいか」
「それが一番大事だからね。俺、自分を泣かせるような真似だけはしない!! って決めてるんで」
 恐るべき悪党を前にしても堂々とした態度を崩さず、少なくとも言い負かされることなく自らの主張を言い遂げた姿が。
 危なっかしい行動で足手まといにならないかと不安にさせて、なのに肝心な時にはバーナビーに指針を見せてくれる頼もしさが。
 どうしても、かつて並び立った相棒の姿を重なってしまう。
 そして……二人の会話を聞く内に、気付いたことはもう一つ。

「……やはり、私には君もまた十分に独り善がりに見えるよ。遵守されるべきこの世の理に逆らわないと言いながら結局は己の欲が第一など、開き直りではないのか?」
「って言われてもねえ。自分に嘘吐いて『これが正しいんだ』とか頭で無理矢理納得したって、そんなのただの誤魔化しじゃん?」
「――……っ!」
「頑張っても駄目なら駄目と受け入れて、その上で次に失敗しないように努力する。そういうのが駄目とは思わないしさ」
「…………あんたは……!!」
「つーわけで、俺はあんたの正義? ってやつはあんまし好きじゃないわ。
 でもまあ、とりあえず最悪の結果は避けるためにしばらく手ぇ組まない? どうせ後で揉めるかもしれないけど、とりあえず……あのー?」
 何度目かの既視感、それと新たな感覚を抱きながらバーナビーの視界に映るのは、協同体制を三度持ちかける伊達。
 一方でなぜか何も言葉を発することなく、表情の読み取れない仮面越しにこちら側をじっと見つめるルナティック。
 その彼の背後には夜の街。人々の活気が取り除かれ、光の消えた夜の街が――

「――――伊達さん、あれは!!」

639 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 12:57:22 ID:4f4Jn/KQ0



 驚愕を露わにしたバーナビーの指差す方向へと振り向いた時、眼前に広がっていた光景は、相変わらずの真っ暗な街並みだった。
 いや、違う。
 広大な黒一色の中で、ただ一条の赤い光が灯り、爛々と煌めいていた。
 光源はおそらく遥か向こうであるにも関わらず視認可能なことからも、その大きさが伺える。
 ……あの地で、建造物と思しき何かが巨大な火柱へと変貌しているのだ。

「おい、あれってまさか……」
 呆気に取られた様子の二人だが、すでにユーリの注意は彼らへ払われていない。
 すぐさま思考へと没頭する。あの業火が燃え盛る地と、恐らくあの場所にまだ留まっているであろう火野映司達の行く末について。
 建物一つを焼き尽くすほどの熱量。建物一つを焼き尽くす必要のある状況。建物一つを焼き尽くした果てに残される、あるいは消え去る存在。
 誰が、何のために、どうしたのか。今、何が引き起こされようとしているのか。
「――あっ、待てっ!!」
 その解答に辿り着くや否や、最早バーナビー達に目もくれずに空中へと飛翔した。



 そもそもユーリがバーナビーとの接触を決意したのは、純粋な興味のためであった。
 『ルナティック』の正義を否定した火野映司は、取り返しのつかない過ちを経ても自らの芯を曲げようとしなかった。彼の理屈は、果たして妥当と言えるのだろうか。
 そんな疑問に至ったタイミングでの、バーナビー達との遭遇である。半ば状況に流されたも同然だが、ヒーロー相手ならば同じ問いを投げ掛けるのも悪くない。そう考え、接触を図ることに決めた。
 その結果は、あまり芳しいものではなかったが。
 バーナビーは今までと同じく『ルナティック』の提唱する裁きを拒み、しかし現状に対して満足に対応出来ていない事実を指摘されると黙り込むだけ。
 確か火野映司の同胞に当たる人物だったか、伊達明もほぼ同様だ。彼の場合、さらに一歩踏み込んで、自らの限界を認めながらも己の欲望を優先したいから拒絶すると言った。
 少なくとも火野よりは現実的な分相応の考え方だが、無駄な足掻きを続けようとする時点で結局は同類に過ぎないか。
 どうやら満足に値する答えは得られそうにないと察し、いい加減会話を切り上げようかと思い至った、その瞬間のことだった。伊達明の口が誤魔化しは良くないと吐いた直後のことだった。

 ほんの一瞬の瞬きのために、瞳を閉じる。そしてもう一度開いた瞬間に、それはユーリの前に現れた。
 あまりに突然に、唐突に。
 ユーリを見つめる二人の一歩後ろに立つ、赤を纏った男の姿が。
 仮面で目元を隠し、口元には嘲るような笑みを浮かべた壮年の男の姿が。

 全ての原点とも言うべき『パパ』が、ユーリの前に“また”姿を現した。

 伊達もバーナビーも視界の外に追いやり、彼の巨躯に釘付けになる見開かれた双眸。
 反駁するはずだったのに、金縛りにでもあったかのごとく硬直してしまった口。
 伊達の声が耳に入ることで一層際立った、目の前の光景の非現実性。
 無理矢理に動かした口からようやく絞り出した怨嗟の声。
 『パパ』の口が歪むと共にざわつき始めた心。
 突如、顔面に奔った焼けるような痛み。
 膨れ上がっていく憤怒とも憎悪ともつかぬ感情。それが言葉として、あるいは蒼炎として放出されようとする寸前。

 バーナビーの叫びを皮切りに事態は一変し、新たな行動を余儀なくされる。その結果、今回は何も聞けず終いだった。
 空を駆けるユーリの視界から既に『パパ』の姿は忽然と消え失せ、何処にも見当たらない。

640 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 12:58:35 ID:4f4Jn/KQ0

「……私の正義は変わらない」
 『ルナティック』の正義は、何があろうと揺るがない。
 自らの罪を認めぬ卑劣な悪は一人として見逃されるべきではなく、永遠に排斥されることによってのみ裁きは達成される。
 ゆえにヒーローの偽善も、火野映司や鹿目まどかの綺麗事も、伊達明の感情論も、『ルナティック』の前では取るに足らない言説に過ぎない。
 ユーリが『ルナティック』として掴み取った正義には、迷いなど一片たりとも存在しない。
「それなのに、何故」
 全てが始まったあの日から、『あの男』は何度となく眼前に現れては不遜に問い掛け、疾うに死した罪人の分際で確かな信条を悪戯に揺さぶる。
 そんな蛮行が、またも繰り返された。
「あんたも奴らが正しいと言うつもりか」
 『ルナティック』への反発の言葉に重なるように現れた彼は、やはりユーリの対極の側から糾弾をするつもりだったのだろうか。
 伊達明の肯定した火野映司や鹿目まどかの綺麗事が、本当は正しいと。
 『パパ』が暴君から優しい父親に戻る日を待つことなく罰を与えたのは、間違いであったと。

――貴方だって最初からそんな正義を求めてたわけじゃなかったはずです、ルナティックさん――――いや、ペトロフさん!

 ……『ルナティック』の正義など、所詮ユーリ・ペトロフの罪を誤魔化すための代物に過ぎないと?

「――違う…………!!」
 掻き消すように次々と思い起こすのは、こんな殺し合いを仕組んだ外道共の姿。シュテルンビルトの街に蔓延る悪辣極まる犯罪者共の姿。守るべき家族を罵り傷付け続けた『パパ』の姿。
 平穏に生きる人々を嘲笑い、害悪を撒き散らした奴等の所業に対して赦しは必要か。希望ある未来を永遠に奪われた者がいるのに、罪も無き人々が身を削ってまで奴等に希望ある未来など用意してやる必要があるのか。
 答えは決まっている。否。
 ディケイドもグリードも真木清人もまだ見ぬ罪人も、『パパ』も。悪い奴は一人として見逃されるべきではない。そんな奴等に肩入れする者もまた同類だ。そして彼等に齎すべき相応の報いは、死以外の何物でもないのだ。
 これが真理。これが使命。
「そうだ」
 これこそ、ユーリの求める理想の正義の形ではないか……!!

 こうして、何度目なのか数える事すら億劫になるほど行ってきた正当化のプロセスを“また”完了させた。
 ユーリの眼には、今度こそ一片の迷いも無い。

 燃え盛る紅焔は、悪が暴威を振るっている証。『ルナティック』の正義の正当性を世界に、悪に、火野映司に証明する絶好の舞台が用意された合図。
 そういえばと、今もあの地に残っているだろう火野達に正体を知られてしまったことを思い出す。
 こうなってしまっては以後の円滑なやり取りは困難だろう。先程別れた伊達達も来るだろうことを考えると、二度と素顔では歩き回れない場合も有り得るだろうか。
 勿論、必要以上に情報が漏れないのが理想的だ。しかし、もしそうならなったとしたら?
「……だとしても、構うものか」
 広がる大地に未だ邪悪が蔓延るというのに今更面子など気にしていられない。法に制約された仮初の身分など、今後の行動に課される窮屈さと比べたとしても惜しくはない。
 ゆえにユーリは止まらない。怖気付かない。

 正義。ただそれが在るだけで、ユーリ・ペトロフ――『ルナティック』は戦える。
 たとえ何を突き付けられたとしても、この道を阻めやしないのだ。
 暴言も甘言も。些細な懸念も。呪いの如き幻影でさえも。
「何人も、己の犯した罪から逃れることは出来ない」
 仮面の下の素顔に刻まれた火傷の跡の――消えない痕(しるし)の、疼きも。

641 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 12:59:51 ID:4f4Jn/KQ0



 ルナティックに少しばかり遅れて、バーナビー達もまた行動を開始した。
 いちいち階段を下りる手間が煩わしいので、伊達の身体を抱えて屋上から跳躍。一気に地面に着地、脚に衝撃が伝わるが些細なことだ。伊達を下ろしてそのまま走り出す。
 程なくして伊達がライドベンダーを発見および入手、後部座席に跨って伊達に運転を任せ、火の手の上がる現場へと急行する。
 到着を待つ間にバーナビーは内心で引き起こされた惨事に憤り、せめて目的地での被害者がまだゼロであってくれと祈り、頭では人命の救助と敵の制圧を迅速に完了させるための戦略を練る。
 一人のヒーローとして出来る最低限の責務を静かにこなし、余計な作業になど勤しまない。
 そうであるべきはずなのに。バーナビーの意思とは無関係に、余計な思考がこびり付いて離れない。

――……これ以上の殺人は一切許さねぇ! 誰も殺さないし誰も殺させない! その上でお前をふんじばって、法律で裁く! それが、俺のする戦いだ!

 脳裏で反芻されるのは、開幕の場でのワイルドタイガーの宣言。
 この台詞が意味する通り、彼の正義は皆が生還してこそ達成される。10人いるなら10人を守り、65人いるなら65人を守り通すのであり、迎えるべき未来には犠牲者など“一切”想定していない。
 たとえ何人かの犠牲を許してしまったとしても、悔しさを受け止めた上で残された“全ての”人々を守ると改めて誓うのが常である。
 そんな彼のことだから、きっとルナティックに対しては『今度こそ残された人達をみんな守ってやる』と、問われた通りのことを誓ってみせたのだろう。堂々と、いっそ愚直なほどの真っ直ぐさと共に。
 理想に向けて一切の妥協をせずに邁進し、絶望の未来に怖気づかない。熱く滾る精神が第一であり、可能か不可能かの次元で話をしない姿勢こそがワイルドタイガーの正義なのである。

 しかし、実際にバーナビーの前に立っていたのは伊達明であった。
 そしてルナティックからの問い掛けに対する彼の解答は、確かにこれから先も失敗を犯すのかもしれないが、その可能性を承知しても尚諦めないというものだった。
 それはつまり、今後の失敗の可能性を完全には否定しないことを意味していた。
 強敵との戦いに敗北する可能性も、救いを求める命の全てを救い切れない可能性、罪を犯した者を正しい償いの道へと導けない可能性も、決して否定はしなかった。

 これが、既視感にも近い感覚を味わい続けたバーナビーが、新たに気付いた一つの事実。
 伊達明はほんの少しだけ、ワイルドタイガーとは違っていた。
 失敗する可能性を事前に視野に入れるか入れないかという一点において、伊達の姿勢はワイルドタイガーとは異なっていた。
 赤の他人である以上は差異の存在など当たり前であるはずなのに、気付いた時点で感じたのは純粋な驚きであった。

 そして、伊達の意見に明確に同調を示せなかったのは、やはりワイルドタイガーのあの直向きな正義とは僅かでも別物だったから。
 彼がその衰えた身体と能力で“一切の”犠牲を認めないために戦うと決めた以上は、相棒として並び立ち、支え、付き従うのがバーナビーの責務である。
 ワイルドタイガーの正義はタイガー&バーナビーの正義であり、つまりバーナビーの正義なのだから。
(虎徹さんが決めた道だから、僕は)
 ……たとえ、それが机上の空論に限りなく近い理想論と感じられたとしても。
 ワイルドタイガーに二度目三度目の敗北を味わわせないために。ワイルドタイガーが悔恨に打ちひしがれる惨めな姿をこれ以上目の当たりにしない、想像したくもないために。

 燃え盛る紅焔を視界に入れる度に、もうすぐ激戦が繰り広げられるのだろうとの予感が生まれ、身が引き締まる思いがする。
「なあバーナビー」
 しかしそれとは別に、伊達明の後姿を見ながら。
 ほんの少しの差異を持っていながらも、本当にワイルドタイガーにそっくりな伊達明の大きな背中を見ながら。
「時間ないから今の内に言っとくけどさ。あのルナティックってのに言われたこと、別に気にすることないと思うぞ? 俺達は俺達で出来ることをやる。それで十分だろ」
「…………そうですか」
 その何気ない気遣いに彼との類似性を感じ、不可能なんて無いとは言ってくれない僅かにズレた励まし方に相違性も感じながら。
 暈してしまいたくなる現実をはっきりと浮き彫りにすることが出来てしまう人なのに。それなのに誰かのために戦い、そして確かな成果を得るかもしれない未来を思いながら。
「……っ」
 無意識の内に、小さく歯軋りをした。

642 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 13:00:52 ID:4f4Jn/KQ0

 自分の内側に存在する靄は抱くべき使命感にそぐわないもので、生じた原因すら不明瞭である。そのために尚更、いい加減にしてくれ、早く取り除きたいと思わずにいられない。
 そんな願望を抱き続けるバーナビーの頭が、下らないもどかしさから自分を解き放ってくれるはずの方法としてまず思い浮かべたのは。
「……早く、虎徹さんに…………」
 それもまた、やはり使命感にそぐわない願望。



 伊達明は平々凡々な人間である。
 同時に医師でありバースであり、今はバトルロワイアルの参加者でもあるのだが、どの側面においても彼は成功だけを収めてきたわけではない。
 数少ないなどと到底言えない挫折を経て、悔恨と共に現実のどうしようもない側面を痛感した彼は、自身が決して全能の神でも無敵のスーパーヒーローでもないと自覚している。
 そして自覚があるから、自分に一切の不可能なんて無いと断言することなど不可能だった。ワイルドタイガーの相棒には申し訳ないが、誤魔化しは出来なかった。
 しかし、それは伊達明が辛い現実の前に心折られた世捨て人であることを意味しない。
 最早望みの達成が不可能、過度の深入りは最悪の結果になると判断を下すその瞬間まで、伊達は最大限の尽力を続けるのであり、そこに逃げ腰な態度は無い。
 撤退を口にするタイミングに誤差があるのだとしても、その心は伊達もワイルドタイガーも変わらないのだろう。

 そんな伊達がルナティックの正義を否定しないまでも全肯定しなかった根拠は、己の欲望以外に具体的なものがもう一つ。
 想起されたのは、守ってやると約束した少女を蹂躙し、伊達に敗走を選ばせるほどの実力を持った『あの娘』の姿。澄んだ瞳を輝かせ、常軌を逸した価値観を嬉々として語る『あの娘』の声。

――そうだよ!痛くして、殺すのが愛なんだって皆が教えてくれたんだよ!

 既に犯した罪、加えてこの先にも犯すだろう罪を考えれば、彼女は紛れもなく加害者の側にいる。ルナティックの理屈に従えば、彼女は討たれるべきなのだ。
 そう理解しながらも、しかし、と考えずにはいられなかった。
 恐らく、彼女の凶行は悪意によるものではなかったのだろう。別の悪意ある何者かに善行だと吹き込まれて、そのまま信じた結果として彼女は破滅へと歩まされたのだ。
 そんな理由で罪を犯した幼い子供は、グリードのような和解の余地の無い邪悪と同列に扱われ、ごめんなさいを言う機会も与えられずに最期を迎えるのが正当だろうか。
 『あの娘』の姿を見た瞬間に、この胸で間違いなく抱いてしまった憐憫の情は、そんな理屈で打ち消せるのだろうか。
 ……悩み苦しむ一人の隣にまた他の誰かがいる時、何が起こるかよく知っているのに?

 そんな疑問が、ルナティックの正義を全肯定しなかったもう一つの根拠となった。

 その後に燃え盛る紅焔を目にした瞬間、真っ先に連想されたのは『あの娘』の存在。
 伊達の持つ限られた情報量の中であんな惨状を生み出し得る者の正体について考えれば、やはり彼女が一番の候補となってくる。そしてこの予想が的中すれば、この先で待っているのは彼女との再戦だ。
(……参ったな)
 一度目の敗北を喫した時から伊達は新たな戦力を得ていない。頼もしい仲間は見つけられず、妥協案として考えたルナティックとの一時共闘も破談になる有様だ。
 悲しいことだが、伊達はまた負けてしまうのかもしれない。

(でもまあ、逃げるわけにはいかないっしょ)
 そんな暗い可能性があったとしても、伊達明は引き下がらない。暗い可能性に取り込まれかけて尚、僅かでも明るい未来を紡げる可能性が残っているおちうだけで。
 もしも『あの娘』の手にした凶器が一秒後に罪の無い誰かの命を奪おうとするなら。最早こちらの説得が『あの娘』の心に届かないと確定したなら。その時には伊達も全てが手遅れであると認めるべきなのだろう。
 しかしその時が訪れていない限りは、ただ前に踏み出すのみ。他の誰でもない、伊達明自身の心に従って。
「諦める理由なんて、無いはずだもんな」

 あの時『あの娘』に教えられなかった大切なことを、今度こそ教えたいから。

643 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 13:02:08 ID:4f4Jn/KQ0

●▼◆

 三人の目指す先に待つのは、彼らの正義/使命/欲望に深く関わる者達。

 狂い、嗤い、殺戮の限りを尽くし、しかし今更になって過ちというものを知らされんとする少女。
 愚かしいほどに全ての他者の救済を望み、しかし叶えられず慟哭し絶望の中に沈められんとする青年。
 自らの身体も掲げた正義も無残に傷付けられ、しかし未だ屈することなくその拳を振るわんとするヒーロー。

 彼らが一堂に会した時、其処に齎される結果は果たして――



【一日目-夜中】
【D-6/路上】

【伊達明@仮面ライダーOOO】
【所属】無(元・緑陣営)
【状態】健康、ライドベンダーを運転中
【首輪】84枚:0枚
【コア】スーパータカ、スーパートラ、スーパーバッタ
【装備】バースドライバー(プロトタイプ)+バースバスター@仮面ライダーOOO、ミルク缶@仮面ライダーOOO、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)@Fate/zero、ライドベンダー
【道具】基本支給品、鴻上光生の手紙@オリジナル
【思考・状況】
基本.殺し合いを止めて、ドクターも止めてやる。
 1.キャッスルドランに向かい、残された人を助ける。
 2.バーナビー次第だけど、できれば会長の頼みを聞いて、火野を探す。
 3.バーナビーと行動して、彼の戦う理由を見極める。
 4.可能ならばあの娘(カオス)も救ってやりたい。
 5.仲間を集めたい。バーナビーにメモリは使わせなくて済むように。
【備考】
※本編第46話終了後からの参戦です。
※TIGER&BUNNYの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※ミルク缶の中身は不明です。

644 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 13:02:31 ID:4f4Jn/KQ0

【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】ダメージ(小)、伊達への苛立ち、ライドベンダーに同乗中
【首輪】80枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(腹部に罅)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、マスカレイドメモリ+簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止める。
 1.キャッスルドランに向かい、残された人を助ける。
 2.伊達さんと共に行動する。
 3.早く虎徹さんに会いたい。
 4.伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ているけど少しだけ違う。
 5.今度こそ勝ちたいので仲間を集めるが、いざという時はガイアメモリを使う。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。
※マスカレイドメモリをそれなりな強いアタリ支給品だと思っています。

【ユーリ・ペトロフ@TIGER&BUNNY】
【所属】無(元・緑陣営)
【状態】ダメージ(中)
【首輪】55枚:0枚
【コア】チーター
【装備】ルナティックの装備一式@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:タナトスの声により、罪深き者に正義の裁きを下す。
(訳:人を殺めた者は殺す。最終的には真木も殺す)
 1.キャッスルドランに向かい、罪人に相応しき裁きを下す。
 2.火野映司の正義を見極める。チーターコアはその時まで保留。
 3.鹿目まどかの正義を見極める。だがジェイクが罪を犯したからまどかも裁く……?
 4.人前で堂々とNEXT能力は使わない。既に正体を知られたことへの対応はまだ保留。
 5.グリード達と仮面ライダーディケイドは必ず裁く。
【備考】
※仮面ライダーオーズが暴走したのは、主催者達が何らかの仕掛けを紫のメダルに施したからと考えています。
※参戦時期は少なくともジェイク死亡後からです。

645 ◆SrxCX.Oges:2013/11/30(土) 13:03:03 ID:4f4Jn/KQ0
以上で投下を終了します。タイトルは「UNSURE PROMISE」です。
疑問点や矛盾点、その他ご意見やご感想などあればよろしくお願いします。

646名無しさん:2013/11/30(土) 13:41:10 ID:6U4KyNik0
投下乙です

ああ、だからこそこの三人かあ
それぞれの正義/使命/欲望がまた絡みつつも交わらないがそれでも…
いいわあ、こういうの濃い人間の濃厚なドラマが読みたかったんだよ
GJ!

647名無しさん:2013/11/30(土) 16:28:03 ID:sNBqLzIQ0
投下乙です。伊達さんKAKKEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!
医者であり仮面ライダーでありながら、思い上がることなく弁えた上で、それでも自分を泣かせるような真似はしない。鈴音を死なせてしまったことを悲しみながらも、その一方で加害者であるカオスのことも思いやれる優しさ。これはもう格好良すぎですわ、それでこそ伊達さん!
伊達さんだけでなく、『ルナティック』が自分の罪から逃れようとするユーリの仮面という掘り下げもぐいぐい心情に訴えかけてくるし、面倒臭い(失礼)バーナビーと合わせて、少年時代にそれぞれの形で親を喪ってしまったタイバニキャラの大人になりきれてない部分の描写はさすが定評のあるSrx氏、お見事。すごく面白かったです。
この三人が駆けつけてくれるなら、強キャラだらけの戦場で孤軍奮闘中の虎徹にも希望の光が見えてきた。どうなるキャッスルドラン!?
……あ、5103? 伊達さんと出会うことで原作同様に成長できる……と良いね、うん。

648 ◆z9JH9su20Q:2013/12/02(月) 20:13:43 ID:XtVSYaQg0
◆SrxCX.Oges氏、投下乙です。
伊達、バーナビー、ユーリ。登場人物全員がその内面まで丁寧に描写されていて、読み進めるのがとても楽しい良作でした。
それぞれの思う相手のいる戦場に向かう三人、彼らの参入でキャッスルドランがどう変わるのか非常に楽しみです。


トリップを出させて貰った本題といいますか、今更ですが>>626にて、以前削っておくと宣言した全体備考の「裏リーダーは会場に直接立ち入ることができない」という部分を消し忘れていることに気づきました。
wikiの「明かされる真実と欲望と裏の王」から、該当する一文を削除させて貰いましたのでこちらでもご報告致します。

649名無しさん:2013/12/06(金) 01:35:37 ID:hW.pHE9M0
その組み合わせの予約が来てるなあ

650名無しさん:2013/12/15(日) 19:38:40 ID:g6kJcaos0
雑談スレにも貼りましたが
明日12月16日午前0時より、パロロワ企画交流雑談所・毒吐きスレ9
(ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/lite/read.cgi/otaku/8882/1385131196/l30)にて
オーズロワ語りが開催されます
あのキャラを、あの話を語りたいというその欲望、解放しろ

651 ◆z9JH9su20Q:2014/01/04(土) 23:47:59 ID:CaplnaSQ0
これより投下を開始します

652 ◆z9JH9su20Q:2014/01/04(土) 23:50:34 ID:CaplnaSQ0

 エンジェロイドは、夢を見ない。

 そもそも彼女達には、「眠る」という機能が搭載されていないのだから。

 故に衝撃により気絶したとはいえ、イカロスは夢によって惑わされ、前後不覚に陥るということはなかった。
 再生された意識は淀みなく、直前の状況認識と接続される。
 後一歩まで追い詰めたとはいえ、敵対者は未だ健在な状況での――まるで、初めて智樹(マスター)のところに落ちた時のように――落下という過負荷による、一時的な回路停止。
 だが危機的な状況に抱いていた焦燥は、伏せていた瞼を開くよりも前に霧散する。
 それは内蔵した時計機能で機能停止から既に二時間近くが経過していることを知ると同時に、気絶直前と比べても機体自体には何ら損傷が増えていないことを確認し、予測された脅威には現状、晒されていないと判断できたから――だけではなかった。

「――!!」

 我が身の危機など――遥かに優先すべき、何より大切な繋がりの消失を前にしては。イカロスにとって意に留める価値などない、あまりに瑣末な事項であったからだ。



「――――――――マスター?」



 覚醒と共に身を起こし、己が首元へと手を伸ばす。
 既にその事実を認識できているとしても。その知らせは、落下の衝撃で自らの機能が狂っただけなのだと縋るように。

 だが、そんな簡単に壊れることのできない外殻(カラダ)であることが、イカロスの不幸だった。

 伸ばした指先が、狙い通りのモノに触れた時――『空の女王(ウラヌス・クイーン)』は、それを知らしめられた。

 殺し合いに招かれる以前から、イカロスの身に着けていた首輪。
 それに備えられていた、彼女と彼の繋がり。
 例え、数メートルの距離で視覚には映らなくなるとしても。帰るべき場所への道標として……“鳥籠”に向けて、確かに引かれ伸びていたはずのその鎖が。
 ――だらん、と。片側(イカロス)とは接続されたままなのに、もう片方との結びつきを解除され、垂れ下がっていたのを確認できてしまったのだから。

「インプリティング……」

 言葉にできない、と。そう思ったのに。
 この胸の中に渦巻く感情は、この心では処理できるはずがないのに。

「……消失……」

 だけれどエンジェロイドタイプα「Ikaros」の機能は、イカロス自身の心の在り様とすら無関係に、その事実を宣言させた。

653 ◆z9JH9su20Q:2014/01/04(土) 23:51:58 ID:CaplnaSQ0

「……ッ!!」

 そんな言葉は、聞きたくもなかったのに――他ならぬこの唇で、紡いでしまうだなんて。
 それを口にすることで、それが真実なのだと――偽りの世界に残された、最後の希望を断ち切られたということを、自ら認めなければならないなんて。

「いや……」

 こんな――こんなのって、あんまりだ。

「いや……っ」

 インプリティングの消失。
 それが起きたのは、この殺し合いの最中。
 この符号が意味することに気づけないほど、イカロスの電算機能は低くない。



『私の鳥籠(マイ・マスター)』は――桜井智樹は。



「いや……ッ!」



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――死んだ。



「いやぁああああぁああああああぁぁああああああああああぁああああああああああああああああぁああ!?」

 どことも知れぬ民家の中、イカロスの慟哭が夜を裂いた。
 感情機能が鈍化されていてなお、御しきれぬ想いが表出する。

 それを口にする二人の参加者との戦いを経て、やっとわかったのに。この胸に抱いていた感情が、“愛”と呼ばれる物だということに。

 自分は智樹(マスター)のことが、大好きなのだということに。好きで好きで、たまらないのだということに。

 もう一度、会いたかった。ただその傍に、静かに寄り添って居たかった。
 彼と一緒に、本当の居場所に帰還して――これまで通り、楽しむ彼に仕えられれば、それで良かったのに。
 イカロスの望みは、たったそれだけのささやかな物だったというのに――たったそれだけの欲望が満たされることはもう、永久にないのだ。

654 ◆z9JH9su20Q:2014/01/04(土) 23:53:42 ID:CaplnaSQ0

 生きていたって。もう二度と、彼に出会うことはできない。
 ダイダロスのように、他の誰かのように。夢の中で彼と逢瀬を重ねることさえも――エンジェロイドであるイカロスには、決して許されない。

「やだ……やだぁ……っ! どうしてっ、ますたぁあ……っ!!」

 その喪失感に。最愛の人を失ったという悲哀に、イカロスはただただ押し潰される。
 その泥沼から抜け出す術を、イカロスは持ち合わせていない。それほどまでに、彼女にとって桜井智樹は全てだったから。

 何より大切だった鳥籠(帰るべき場所)を奪われて、どうして一人だけで立ち直ることができようか。
 誰かが手を差し伸ばさなければ、哀切に重さを増すばかりの翼に引きずられ、彼女はいつまでも沈み続けるしかないのだ。
 
 建造から7000万年の永きを経て、未だ史上最強のエンジェロイドの名を欲しいがままとする『空の女王』。
 そんな高性能過ぎる外殻があっても、悲しみという重荷を一人だけでは支えられないほどに内側(ココロ)が脆弱であることが、イカロスという少女の悲劇だった。



 ――そして。彼女を見舞う悲劇は、まだ終わらない。



「目が覚めたんだ」

 人間なら目を腫らす程に泣いても、エンジェロイドであるイカロスにそんな変化は起きなかった。
 それでも延々と泣き続けていた彼女は、自分しか居なかった部屋に投げ込まれた声にも何ら関心を引き起こされなかった。
 最早生き残ることすらどうでも良い。今すぐ死んでしまったって構わない、もう意味などないのだから。

「……その様子だと、やっぱり桜井智樹は死んじゃったみたいだね」

 残酷な確認にちょっぴりだけ恨めしさを覚えながらも、イカロスは心の中でだけ肯定する。
 だから、もうイカロスは自分の命に価値を見出していなかった。
 だって智樹には、もう――

「じゃあさ……もう一回、彼に会うために頑張ってみたくない?」
「――!?」

 そこでイカロスはようやく、声の主へと顔を向けた。

 視界に収まったのは、軽佻浮薄が服を着て歩いているような姿形の青年。
 そんな印象にそぐわぬ少し思いつめたような表情だった彼は、イカロスの反応に気を良くしたのか、よく似合う軽薄な笑みをその顔に刻んだ。

655 ◆z9JH9su20Q:2014/01/04(土) 23:56:09 ID:CaplnaSQ0

「泣き止んでくれて嬉しいよ。おかげで話ができそうだ」



 ――重荷に沈んで行くしかできなかった天使でも、無理やりにでもその手を掴まれれば、そのままではいられない。

 たとえ伸ばされたのが善意による物ではなく、打算に満ちた欲望塗れの腕だったとしても。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 イカロスを回収し、萌郁との距離を離し過ぎず、かつ『APOLLON』の被害を受けていない龍騎の世界の民家の一つに上がり込んですぐの頃。
 介抱しようと横たわらせたイカロスの、その首輪。ランプの色が紫になっているのに気づいて、カザリは盛大に噴き出していた。
「あっはっはっは! 何これ、ちょっと傑作過ぎるんだけど……くぷぷっ」
 発見した時点ではイカロスは緑陣営だったのが、今では紫色が表す通り無所属へと変化している。
 それはつまり、緑陣営のリーダーであるウヴァの脱落を意味していた。
 大方イカロスを手中に収めたことで調子に乗り、そのまま慢心して見極めを誤り果てたのだろう。かつてカザリ達に対する数の不利を、ただメズール達を復活させただけで埋められたと勘違いし、そのまま下調べもせず紫のオーズに挑んで墓穴を掘った時のように。つい先程のカザリの予想よりもずっと早い自滅は、実にウヴァらしいと言える。
「何を笑っているのかな?」
 訝しむような海東に、カザリはそのことを教えてやった。
 最も優位に立っていた陣営の、余りに呆気ない消滅の報に驚いたような彼に、カザリはにんまりしながら告げてやる。
「言ったでしょ? 勝つ見込みはちゃんとあるんだって。バカみたいに最初から暴れてたって、ウヴァみたいに消耗したところを潰されるだけだよ」
 そういう意味じゃ、僕に負けられた君は運が良かったねと。カザリはこちらの指示に不満を溜め込んでいた海東へと、言外に仄めかす。
「この娘みたいな、そんなバカをリーダーにしちゃった可哀想な参加者も助けてあげなくちゃ……ね?」
 もちろん。助けてやるのは、そうすることがカザリにとって得な者であれば、だが。
 萌郁のような諜報戦にも運用でき、なおかつ敵の意表すら突き得るというカザリ好みの人材とは異なるが――最強の兵器かつ、ある一点を突けば扱い易い精神構造であるイカロスは、自陣営に組み込む価値は充分にあるとカザリは判断していた。

 さて、とそこでカザリは思考を巡らせる。
 折角ウヴァが期待に応えてくれたのだ。篭絡前にセルメダルを補充して戦力を回復させるのは避けたいが、眠っている隙に陣営だけでも変更させておくべきだろうか。イカロスのことだから例えば桜井智樹との生還のためにウヴァに従っていたとしても、目覚めると既に黄陣営に組み込まれた後だったとなれば、諦念を抱かせて攻略し易くなるかもしれない。
 だが、迂闊な真似をして叛意を招くのも避けておきたい――と、カザリの中の慎重な部分が告げている。
 月見そはらやエンジェロイドと言った他の関係者の詳細名簿を熟読し掛け合わせれば、イカロスにとって最優先要素である桜井智樹がどんな人物であるのか、彼自身のプロフィールに直接記載されてはいないさらなる詳細についても、ある程度予想を組み立てることが可能だ。
 そこから読み取れる情報に従えば、勝手に黄陣営に組み込むというエンジェロイドの意志を無視するような行為は、彼女達の自立を願う智樹を否定することにも繋がりかねない。

 ――それは、実によろしくない。桜井智樹はエンジェロイド達にとって、唯一無二の聖域(鳥籠)なのだから。
 それを冒涜するとなれば、カザリはおそらくウヴァよりも情けない死に様を晒すことになる。
(――ちぇ。ムカっと来るなぁ)
 あの単細胞のことだから、どうせ無所属と化したイカロスを見て深く考えずに行動したら上手く行ったのだろう。だがこちらは逆に、冷静に考えを重ねる時間がある分、ウヴァが成功してみせたイカロスの引き抜きが意外に綱渡りであることに気づいてしまって、こうも考え込まされてしまっている。

656 ◆z9JH9su20Q:2014/01/04(土) 23:57:58 ID:CaplnaSQ0

 実際、もしもイカロスが自陣営のグリードを気に入らなければ、下克上という選択肢は自然と出てくるはずなのだ。大半の参加者とは違って、それを容易く成せるだけの力がイカロスにはある。また、グリードなどより自身が優勝陣営のリーダーとして決定権を持つ方が、よほど智樹の安全に繋がるということも、成り代われるということに気づければすぐに思いつくことだろう。安易にイカロスを引き込んだ時点で、どの道ウヴァの脱落は半ば約束されていたと言って良い。
 そう考えると、無防備に眠っているからといって、カザリでも彼女には安直に手出しできなかった。
 やはり自らより圧倒的に強い存在を配下に置くというのは、よくよく考えてみれば不安要素が出てくる物だ。
 いくら扱い易い要素があるとは言え、長期的な視線に立った場合。『空の女王』運用のリスクは、実は決して小さくない。

 だが、カザリはグリード。欲望の塊である。
 綱渡りだろうが、危険を理由に力への欲望を諦めるつもりも――ウヴァより優れているという自身のプライドを手放すつもりも、微塵も存在しなかった。
 チェスにおける最強の駒である女王も、己の矜持も、そして自らの優勝も――全て欲張り手に入れてこその、王である。

(まっ、しばらく目覚める様子はないし。もう少し考えさせて貰うとしようかな)

 このゲームはまだ、ようやく序盤から中盤へ差し掛かり始めた時期。イカロスの確保など、要所となる介入は当然必要なことだが、まだまだ慎重であるに越したことはない。
 桐生萌郁からのメールが届いたのは、そう考えたカザリが猫のように伸びをした時だった。
「――見つけたんだ」
 最初に飛び込んできた文面を見てほくそ笑んだカザリだったが、添付されていた同行者の写真を見て真顔に戻る。
 メズールと同行しているのは園咲冴子。元ミュージアム幹部の危険人物であり――カザリが率いる黄陣営の一人。

 少しばかり面倒だな、とカザリは感じた。

 おそらく冴子にはナスカメモリが支給されていることだろう。上位ドーパントに変身できる彼女と共同戦線を敷くことができれば、メズール打倒の実現にまた一歩近づける。
 だがここで問題となるのは、冴子が“黄陣営である”という点だ。
 もし冴子が同行者の正体に気づかないままでいるとすれば、萌郁を送り込んだところで共闘するのは難しいが……逆に気づいていて相互に利用し合っている関係であるのなら、青陣営が有利となるのを冴子が黙って見過ごすとは考え難い。
 そこに表面上青陣営である萌郁が合流した場合、冴子が萌郁を警戒、最悪の場合害することは容易に想像ができる。
 だからと言って萌郁が冴子と協力体制を作れるように工夫をしたとしても、露骨な真似をすればあのメズールが背後から糸を引く何者かの存在に勘付かないわけがない。最悪、黄陣営の間者であることが露呈して、カザリが萌郁に見出している一番の価値が消失する可能性すらある。
 そもそも冴子からして疑い深い性格なのだ。「私は黄陣営の協力者です。青のリーダーを倒すために力を合わせましょう」などと青陣営の萌郁に伝えさせたところで、信じて貰えるとは考え難い。
 総じて言えば、折角メズールの近くに黄陣営の参加者と萌郁を置けたというのに、合流させることに旨みはない。メズールの近くに黄陣営の参加者という毒を潜ませることには知らぬ間に成功したと言えるが、こちらの息がかかっていない上、元より扱い難い冴子では活躍に期待するのも難しい。
 故に、一旦合流は見送るようカザリは萌郁に伝える。引き続き監視を続け、もしも見つかってしまった時は怖くて様子見していたのだと素直に言えば良いと。

 返信してすぐ後に、また萌郁からメールが届いた。
 メズール達がライドベンダーに乗って移動を開始するようだが、周辺に他のライドベンダーがなく、どう追いかければ良いのかとのことだった。
 一瞬逡巡した後に、カザリはデッキを使って変身すれば徒歩でも問題なく追いつけるはずという答えを、引き続き何かあれば報告して欲しいという念押しとともに返す。

657 ◆z9JH9su20Q:2014/01/04(土) 23:59:15 ID:CaplnaSQ0

「それで? まだ待機なのかな?」
 メールでのやり取りが終わったのを見計らって、海東が確認を投げてくる。
 適当な布を盗んで翠色の宝玉を丁寧に磨いている彼に、肯定を返したカザリはまた思考に沈む。
 安全にイカロスを手にれるために。黄陣営を優勝させるために。そして真木達主催者を出し抜くために。



 暫らくの時間が過ぎた後、カザリはそういえばと再びイカロスの方に目を向けた。
 確認したかったのだ。真木が嵌めたのとはまた別の首輪と繋がった、途切れた鎖の伸びた方向を。
「こっちは好都合、だね」
 イカロスの鎖が向いた先。つまりはその鎖のもう片端を握る、桜井智樹の居所。
 それはここから見てちょうど北側――メズール達のいるのと同じ方向を指し示している。
 キングストーンとやらの入手で誤魔化せているとはいえ、そろそろ海東の機嫌もある程度とっておきたい。イカロスを引き込んだ後は、彼の欲望通り動き出すことも思慮に入れよう。
 その時は、智樹とイカロスが鉢合わせした時の対処法を考えておかなければならないが。

 二人が鉢合わせた時、について考えを巡らせて、はたと気づいた。
(そういえば……当人同士が違う時間から連れて来られてても、繋がってるんだね。それ)
 例えば自分と後藤慎太郎のように、同じ世界からでも違う時間から連れて来られている参加者達がいる。イカロスと桜井智樹もまた、その例に該当する組み合わせだ。
 それなのにインプリティングとやらは繋がっていることを少しばかり不思議に思ったカザリだったが、気に留めるような事柄ではないと、それで見切りをつけるはずだった。
 重力に逆らって伸びていた鎖が、その瞬間、だらんと垂れたのを目に収めていなければ。

「――!?」 

 慌てて手を伸ばす。イカロスの地肌から少し浮かせてみるが、その鎖が特定の方向に引っ張られている様子はない。
 その事実から導かれた解答に、カザリは小さく息を呑んだ。

「インプリティングが解除されている……!?」
 
 それは即ち、桜井智樹とイカロスの繋がりが消失したということ。
 さらに噛み砕けば――イカロスとそれで繋がっていた、もう片方が欠落したということ。
 つまり、桜井智樹が――死んだということ。

(……まずくない? これ)

 目覚めた時、イカロスはどう動くだろうか。
 八つ当たりに暴れ出すだけなら、まだ良い。セルメダルの尽きているらしい今の彼女など、カザリならば一瞬で制圧できる。
 危惧すべきなのは――智樹の死を知ったイカロスが、全ての欲望を消失してしまう場合だ。
 エンジェロイドの中でも、イカロスはもっとも桜井智樹に依存している。彼を失えば、生き残ろうという意志さえ喪失してしまう可能性がある。

 如何にカザリが知恵者を自負していようと――何の欲望も抱いていない、糸の切れた人形を舌先三寸で操ることは不可能だ。

658 ◆z9JH9su20Q:2014/01/05(日) 00:00:54 ID:G5CfrNrQ0

 加頭順という、黄陣営のために使えた有力な駒と引換に手にしたはずの最強兵器が、物言わぬガラクタと化す。その可能性に気づいたカザリは、そんな最悪の事態を避けるために頭をフル回転させた。
 やがて何らかの糸口が掴めそうな、そんな引っかかりを思考の中で見つけた時。突然の電子音にカザリは身を縮こませた。
 慌て過ぎたのか、着信音を目覚ましにしてしまわないようになどとよくわからない考えでイカロスを横たえた部屋から退出してから、カザリは天王寺裕吾の携帯電話を取り出す。
 
 キャッスルドランに辿りついたという萌郁からのメールには、メズール達が他の参加者同士の戦いに乱入したということが記されていた。状況を撮影したという添付ファイルを見て、カザリはまたも思案すべき事項を抱えてしまったことを知る。
(ヤバいね……)
 写真で確認できたのは、いずれも強大な戦闘力を持つ者達だ。グリードであるメズールに、上級ドーパントであるRナスカ。
 さらにはそれらを歯牙にもかけないであろう、紫のオーズ。
 本来、少なくとも物理的には破壊不可能であるコアメダルを砕けるという特性を秘めた、紫のメダルで変身するコンボ。しかも火野映司が積極的にグリードの殲滅を狙って来ることも予想できる以上、カザリとしても保身のために最優先で処理したい難敵の一人だ。しかし、コアメダルがたった六枚の現状では太刀打ちすることも困難だろう。

 そして、そんなオーズすら霞むインパクトをカザリに与えたのは、眠り続けるイカロスと同じエンジェロイド――カオスだ。
 青陣営の一員でもあり、歪んだ愛を求める少女。カオスが仮に何の変哲もない人間の小娘であったとしても、メズールなら彼女を放ってはおかなかっただろう。
 しかも現実のカオスは、イカロスと並ぶ参加者最強の兵器だ。その力を利用できると考えたのなら、紫のオーズの前に身を晒すという一見無謀なメズールの行動も納得できる。

 そしてメズールは手に入れるつもりなのだ。その“愛”ごと、カオスという最強戦力(エンジェロイド)を。
 それが成功するかはわからない。電子メールというタイムラグの生じる指示で、人と接するのが不得手な萌郁に邪魔させるのは困難だ。どうやらメズールの正体を知った上で同行していたらしい冴子が、メズールの一方的に得する事態の進行を座して見ているとも考え難いとはいえ、楽観視するわけにはいかない。
 仮にカオスが、グリードとして潤沢なメダルを保有するだろうメズールの制御下に置かれたなら――カザリが今使える手札で、対抗できる望みは極めて薄い。

 ならばやはり。今、手に入れないという選択肢はない。
 カオスに勝るとも劣らぬ最強の鬼札――最悪の事態への対抗策となる、『空の女王』を。

「――――――――マスター?」

 そのための障害となる要素に関して巡らせていた思考を再度引っ張り出したタイミングで、そんな声が聞こえた。
 いやいやと、弱々しく紡がれていた否定の声が、やがては魂切る絶叫へと変化する。

「……うるさいなぁ」
「ちょっと君は黙っててよ」

 女の悲鳴が厭わしげな海東が、文句を言いに行ってやるとばかりに立ち上がろうとするのをカザリは慌てて制止する。彼が絡むとただでさえ頭を悩まされる話が一層ややこしくなる。
 延々と泣き続ける天使の声を壁越しに聞きながら、何かないのかとカザリは頭の中だけでなく改めて詳細名簿を引っ張り出し――
 偶然開いた参加者の項目が目に入ったことで、閃いた。

(――そっか。桜井智樹は死んだんだから……)

 イカロスもそれに気づいているというのなら。それを利用しないという手はない。
 そこまで思い至った時、カザリの中で目的を達成するためのロジックが、カッチリと組み上がった。
 後は、イカロスにそれが通じるか――即ち話を理解できる状態にあるか、否か。それで勝負が決まる。
 覚悟を固めたカザリは扉を開けて、悲嘆に打ち拉がれるイカロスへと言葉を投げ――そして勝利を確信した。

659 ◆z9JH9su20Q:2014/01/05(日) 00:02:26 ID:G5CfrNrQ0


      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 バサリ、と天使の翼が展開される。
 それに伴った烈風が頬を打つのを感じながら、カザリは北西の方向を見据えていた。
「君の鎖が最後に示していた方向から考えると……今、戦いが起きていることからも、桜井智樹はキャッスルドランで命を落とした可能性が高いだろうね」
 あれから少し後――話を終え、小屋の外に出たカザリ達だったが。そんな言葉にも、棒のように立つイカロスは、表立った反応を見せなかった。
 だが……その胸の奥に、更なる憎悪を点火したという手応えを、カザリは確かに感じ取る。
「まぁ、推測でしかないけれど……僕も、彼を殺した犯人探しには協力するよ。君の大切な人の仇は、必ず討とう」
「マスターは……」
 そこでイカロスが、小屋から出て初めて口を開いた。
「きっと、復讐なんて望んでいない」
 躊躇を滲ませた語調に、カザリはもう一押しかなと判断する。
「……でも、君は?」
 からかいたいという気持ちを抑えて、努めて真摯にカザリは問いかけた。
 自分で考えて、自分で感じたことに従って、自分で決めること――それがエンジェロイドに、桜井智樹が常々口にし続けて来たことだった。
 それに即した誘導は、イカロスの迷いを呼ぶことはあっても、不興を買うという心配はまずありえない。
 後は――その迷いさえ、こちらにとって都合が良くなるよう晴らしてやるだけだ。
「どうせ、『やり直す』んだから。どうするのか、どうしたいのかは……君の、好きな方で良いんじゃないかな?」
 その言葉が、確かにイカロスを揺らがせたのを見て……カザリはほくそ笑みながら、いつもの台詞を口遊んだ。
「その欲望、解放しなよ」
 そしてそれが、決定打となった。

「……デュアル可変ウィングシステム、安全装置(セーフティ)解除」
 夜の闇の中でも、星空よりも眩く。地に堕ちた天使は輝きを漏らす。
「モード・『空の女王(ウラヌス・クイーン)』……バージョンⅡ、発動(オン)」
 束ねられていた長髪は量を増して解け、頭上に出現した光輪の下で靡く。
 黒く縁どられていた装束はデザインを一新し、薄桃の色素を帯びた純白の衣へと変貌する。
 そして輝かんばかりに美しい両翼は、二対四枚へとその数を増やす。
 そんなイカロスの変身に、カザリはようやくだとほくそ笑む。
「任務(ミッション)再確認。最終目標、本バトルロワイアルからの生還。その達成のための、現段階での設定目標――黄陣営の優勝」
 事務的に、電子的に読み上げるイカロス。その一節一節が耳朶を叩くたびに、カザリは勝利の手応えから歓喜に打ち震える。
「勝利条件。各敵対陣営リーダーの撃破、及びその間の自陣営リーダーの防衛」
 本来不要なはずの、淡々とした任務の確認は――己の欲望を満たすため、今一度、嫌悪した過去である『兵器』に戻ることを決意した彼女の、宣誓の言葉だった。
「今回の私の任務は、青陣営現リーダー、水棲系グリード・メズール。第二世代エンジェロイド・カオス……及び、仮面ライダーオーズ・火野映司。以上三名の参加者の……排除」
 現状では唯一、顔が判明している敵陣営リーダーであるメズール。イカロス以外ではまず対抗できない危険人物のカオス。そしてカザリの天敵であるオーズ。
 まずはこの三名を『空の女王』の圧倒的戦力で始末して貰えれば、それだけでもイカロスにセルメダルを300枚も分け与えた価値はあったと言えることだろう。
 無論――たったそれだけの利用で終わらせるつもりなど、毛頭ないのだが。
「それが終わるか、メダルが足りなくなったら一度戻ってきてね。その後の方針についても、また話し合いたいから」
 飛び立とうとするイカロスを呼び止め、カザリは更なるオーダーを追加する。
「君も嫌だろうし、積極的に他の参加者を攻撃する必要はないよ。ただ障害になるのなら、それも排除してくれて構わない」

660 ◆z9JH9su20Q:2014/01/05(日) 00:05:09 ID:G5CfrNrQ0

 メズールやカオスを打倒するまでなら、例えばもしそこに正義に燃えるヒーロー達が居合わせたとしても、共闘することができるだろう。
 だがそのまま、暴走しているとはいえ火野映司を殺害しようとすれば妨害を受けることは必至。そこで諦められては、カザリとしては意味がない。
 しかし。そこで、自分の都合に付き合わせようとするよりも――
「――判断は、君に任せるよ」
 彼女の意思を尊重している、と――桜井智樹と同じであるという風に装う方が、よほど効果的だろう。 
「はい……リーダー」
 案の定――イカロスはそう答えた。
 はい、リーダー……と。カザリを自身を導く者であると、認める返事で。
「――出撃します」
 言葉を残し、その伝達する速度よりも速く飛翔したエンジェロイドは、瞬く間に見えなくなった。
 説得に多少の時間を要しはしたが、結局イカロスの機動性を鑑みれば大した遅れにはなりえないことだろう。最高速度の一割も出さずとも、目的地に到着するのに一分も掛かるまい。
「……僕らのリーダーは、とんだペテン師だね」
 イカロスの飛び去って行った空を見つめていると、背後から海東に悪態を吐かれた。
「泥棒の君に言われたくはないな」
 上機嫌なカザリは余裕綽々とした調子で、そんな口撃に応じることとした。
「それに僕は、彼女にはそんなに嘘を吐いたつもりはないよ」
 そんなにはね、と心の内だけで付け足しながら、カザリは彼を振り返る。

 実のところイカロスを口説き落とすこと自体は、直前の閃きのおかげであっさり成功した。
 予想の通り、桜井智樹を喪ったイカロスはあのままなら使い物にはならなかった。少なくとも、欲望のない者の扱い方などカザリは知らなかった。
 だが、それなら――こちらから餌となる欲望を、用意してやれば良かったのだ。
 もちろん、グリードであるカザリ自身は人間やエンジェロイドの心情を持っているわけでも、理解しているわけでもない。
 しかし、似た例を参考にすることはできる。

 詳細名簿で偶然カザリが開いた項目。それは暁美ほむらのページだった。
 同時に、カザリは海東から得た情報で、彼女の同行者であることが判明している岡部倫太郎についても思考を結びつけることができた――彼らの、共通点についても。

 この二人はそれぞれ、今のイカロスと同じように大切な人間を喪った。しかしそれでも、彼らの欲望は枯れてしまうことはなかった。
 何故なら――彼らには、時間遡行という『やり直し』の手段が存在したから。だから絶望に心が折れず、欲望を手放すことなく抱き続けることができた。

 カザリはそれを、イカロスにも応用したのだ。
 殺し合いの参加者だけでも、タイムリープを可能とする者達がいる。それを捕らえて来た真木達主催陣ならなおさら、それ以上に時間を支配する技術を持っているはずだ……と。

 であれば。生き残り、その技術を手にすれば……桜井智樹達と共にイカロスが過ごしていたあの日々へ戻ることが、やり直すことができるのだと、イカロスに伝えたのだ。
 事実――智樹とイカロスの連れて来られた時期がそれぞれ違うのだから、イカロスは自分が連れ去られた直後に戻るだけで、健在の仲間達の輪に戻れるのだとカザリは教えてやった。

 まだ、やり直せるということ。それはイカロスの、最後の希望となり――そして彼女の欲望を復活させた。

 そうなれば後は簡単だ。生きて帰るためにはいずれかの陣営に属する必要がある。だから黄陣営においでと、メダルを恵んであげれば良い。
 ――だが、そこで思考を止めてしまっては、どこぞの虫頭と同じだろう。いずれはイカロスの謀反を招く可能性が残ってしまう。
 だからカザリは、イカロスを陣営に組み込む前にリーダーにならずとも自身が生還できると思わせ、かつリーダーになることは不利益なことであると思わせるように注意した。
 ただ、そのために嘘を弄したわけではない――このことについてはむしろ、カザリが感じている疑惑をそのまま正直に、イカロスに伝えただけだ。
 
 ――ルールブックに示された事項だけでは、優勝したグリード以外にあまりにも得がない、ということを。

661 ◆z9JH9su20Q:2014/01/05(日) 00:06:33 ID:G5CfrNrQ0

 そもそも真木の目的は世界の終末。そのための手段として、暴走するメダルの器を求めていたことをカザリは知っている。
 要するに、バトルロワイアルの優勝報酬というのはただの餌。それにまんまと誘き寄せられたグリードを、真木達が罠にはめようとしているのは明白。
 だからこのバトルロワイアルで勝利し生還したところで、実はカザリも他の参加者同様、真木の野望を退けるまで安全とは言えない立場にいるということをイカロスに伝えた。
 利用されているのは自分も同じ。それなら他の参加者とも手を組んで、可能な限りの人員を黄陣営に抱き込んで優勝し――そのまま真木達を打倒し生還する。それが自分の目的だと。
 そして――その時に、最強のエンジェロイドであるイカロスの力を頼りにしたいと、そう伝えたのだ。

 今の時点では、イカロスもそこまでは考えてはいなかったらしい。だが決して彼女は愚鈍なわけではない。カザリの言葉の信憑性を論理的に見極めることは、そうしようと思えば可能であった。
 優勝した後について生じる疑問や不安は妥当な物であり、それを解消するために戦力を提供できるイカロスを切り捨てることはまずないと――相互利益の関係になるとして、カザリを信じる根拠に据えても問題がないかどうかを判断する程度の電算能力は、イカロスにもあるのだ。

 ――そしてカザリは、イカロスの信を勝ち得た。

 共に、真木の使命とやらに振り回される被害者同士、手を取り合えるとして。

(ま。本当は僕は、別に迷惑だなんて思っていないんだけどね……このゲーム)

 そんなには、ということは。当然嘘を吐いていないというわけではない。
 真木との対決を予感していることも、その際にイカロスの力を欲していることも真実ではあるが――そもそもカザリも、真木とは最終的に道を違えることを承知の上で歩みを共にしていたのだ。
 その際に先手を打たれ、こんな首輪を嵌められてしまったというわけだが……それでも、一気に他のグリードのメダルを奪う機会に恵まれたのは好都合。
 そもそも最初からこのゲームを楽しんでいる身だ、自らを被害者だなどと憐れむつもりもない。
 このゲームに巻き込まれたがために最愛のマスターを喪ったイカロスに吐いた嘘の一つは、そんなカザリ自身の心境だった。
 だってそうだろう。智樹が死んで好都合なのだと、この事態を楽しんでいるのだなどと、そんなこと恐ろしくて言えるものか。
 ――今は、まだ。
 真木達を打倒し、全てのメダルの力を取り込み、イカロスを超える力を得るまでは――カザリは女王様のご機嫌取りに終始するつもりであった。

(――そういえば、あれは何だったんだろうね?)

 イカロスのご機嫌取り、の中で。奇妙な様子を見せた時があったなとカザリは振り返る。
『やり直し』の方法を提示した後に聞かれた、イカロスが最初に出会った、赤陣営だった『偽物』の桜井智樹のことについてだ。位置から考えると、もう一人のアンクが何らかの支給品を使い彼女を騙していたのだろうことが推測できた。カザリはそのことをイカロスに伝えて、他のグリード達は自分と違ってイカロスを騙そうとする者ばかりなのだと吹き込むのに利用させて貰ったが。
 その後、ニンフも違う時間から連れて来られていたということを確認して来たイカロスは、少し後に吹っ切るまで、智樹の死を受け入れた時とはまた別の消沈を見せていた。
 あの消沈の意味は、何だったのだろうか――?

「――それで? キャッスルドランでの戦いは、全部彼女に任せるのかい?」
 カザリは思考に沈んでいたところを、海東の問いかけで正気に戻される。

662 ◆z9JH9su20Q:2014/01/05(日) 00:07:55 ID:G5CfrNrQ0

「大雑把には、そうだね。僕や、メダルの足りない君じゃ女王様には足手纏いだよ」
 それはカザリなりに、冷静に判断した結果だった。
 事実として、今のカザリがプトティラやエンジェロイドの戦いに巻き込まれては一溜りもない。特にカオスの性質を考えれば、中途半端な戦力を伴うことは危険だとすら言えるはず。
 だったら最初から、最強であるイカロス単機に向かわせる方がよほどつけ込まれる隙もなく、安全だと考えられる。
 既に萌郁にも、ミラーワールドに潜んでの事態の監視を行うようにと伝えてある。これでイカロスがどれほど暴れても、彼女が巻き込まれる可能性は少ないはずだ。
「やれやれ、結局はまた待機か……君が僕にもメダルをくれれば、あの子の足手纏いってことはないんだけどね」
「自惚れ過ぎじゃない? それに……そうしたら君、僕を狙うでしょ。乱戦の中ならなおさら……さ?」
 カザリがキャッスルドランの戦いをイカロスのみに任せた、もう一つの大きな理由。それはやはりこの男に、背後から撃たれる危険を避けたかったからだと言える。
 イカロスもディエンドも、その真価を発揮するには余りにメダル喰らい過ぎる。消耗を恐れ慎重を期しているために、余分なメダルを貯蓄できていないカザリの身体を構成するセルを提供できるとすれば、どちらか一人だけが限界となる。
 となれば、移動速度や、純粋な戦闘力――そして、弱体化した隙を衝いてくるか否かと言った危険性の有無から考えても、自然と選択肢は一人に絞られる。
 特にイカロスでも、エンジェロイドを相手にするなら出し惜しみは禁物だ。セルメダルは、与えられるだけ渡しておいた方が良い。
 しかし、女王の勝利を約束する代償として、300枚もこの身から喪失したことはカザリの力を確実に削いでいる。
 そこからさらに、我が身を削って海東に力を与えようものなら――間違いなく、この危険な男を御しきれなくなる。
 もしかすれば、海東の隠し札次第では今の時点でも危ういかもしれない。
「でも、安心しなよ。僕らもただぼけっと待っているわけじゃないからさ」
 だから、身体を構成するセルメダルを失くすほど弱体化するといった、グリードの性質について海東に勘付かれてはならない――と、カザリはその危機感を忘れず、しかし楽しむ心を持ち合わせて、彼と言葉を交わす。
「僕らは彼女から逃げ延びてきた参加者を狙うことにするから。それならメダルの少ない君でも大丈夫でしょ?」
 言いながら、カザリはライドベンダーからカンドロイドを購入する。監視用と受信用のペアとなるバッタ五セットと、その半分を戦場に向かわせるためタカを五つの計十五基。
 萌郁を含めれば、キャッスルドランから逃げ延びた者を監視するには十分。取り込むにせよ、討ち取るにせよ……この戦いで真の勝利を掴むのは間違いなく、この自分だ。
「……猫というより、ハイエナみたいだね、君」
「知らないの? ライオンも結構するんだよ、そういう賢い狩りの仕方」

 未だ弁えぬ海東に、そろそろ見せつけてやらなければならないかとカザリは考える。

 群れを指揮して獲物を屠る、獣王の狩りというものを。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 イカロスにとっては、カザリは偽りの世界の住人――そのはずだった。
『APOLLON』を向けたあのニンフも、記憶にない偽物のはずだった。
 イカロスの記憶にないここは、偽物の世界のはずだった。
「…………さ……い」
 だけど。イカロスに、生きた"本物の"マスターと再会できる方法を教えてくれた親切なカザリは、そうではないことまで――知りたくなかったことまで教えてくれた。
 最初に出会った赤陣営のマスターは、やはり偽物だった。そのことについては、そのために随分と悩まさせられたけど、良かったと心底想う。
 あれが、違う時間の"本物の"マスターではなくて。"本物の"マスターはイカロスの知っているままの、優しい彼であったことを知ることができて。

663 ◆z9JH9su20Q:2014/01/05(日) 00:09:02 ID:G5CfrNrQ0

「ごめんな……さいっ」
 だけど。カザリの言葉は、イカロスの愚かさを知らしめてもいたのだ。

 カザリの言葉を――許可がなければシナプスにも近づけず、ましてエンジェロイドであるが故に石版(ルール)を起動させることもできない、『やり直し』のできないはずのイカロスの最後の希望を信じるのであれば。
 時間操作の技術が存在することを、認めるのであれば。

 ――ニンフについて導き出された答えも、認めなければならない。

 あのニンフは――イカロスを気遣ってくれた、自身の記憶と齟齬があるから『偽物』だと思っていたあのニンフは。
 イカロスが最終兵器で撃った、あのニンフは。

 少し先の未来から連れて来られた、だけれど同じ日々を過ごした――"本物の"ニンフだったのだ。

「ごめんなさい…………っ!」
 許しを請う言葉は、自然と口から溢れていた。
 ――何て我儘なんだろうと、自分でもそう思う。
 それでもイカロスは、自らの愚かさが傷つけてしまった友人に、この言葉が届いているはずもない彼女に謝らずにはいられなかった。

 きっと、もっとよく話を聴いていれば。そんな誤解も抱くことなく、ニンフを傷つけることもなかったかもしれない。
 だが、イカロスはそうしなかった。マスターにいつも怒られていたのに早合点して、思い込んだまま行動した。
 そして、見当違いなことを続けているうちに――マスターを守れず、喪ってしまった。

 謝罪の言葉を、ニンフだけでなく。無能なエンジェロイドがみすみす死なせてしまった、最愛のマスターにも捧げる。

 それだけでは何の意味もないことを、自覚しながら。

 イカロスが苦しむのは、当然の罰なのかもしれない。だけれど、イカロスの弱い心はそれに耐えられなかった。
 だから、虫のいい話だとわかっていても、全てをチャラにできるという怪物の誘惑には逆らえなかった。
 それを――都合の良い救いを、信じたいと思ってしまったから。

(ニンフと、仲直りして……それから、二人で……!)
 エンジェロイドを、特に自分を評価しているカザリのことだ。頼めばきっと、カザリはニンフを黄陣営に引き入れてくれるはず。
 そうすれば、"本物の"ニンフと二人で『やり直せる』。
 カザリ達、黄陣営の仲間と共に。マスターを死なせた、こんな事態を引き起こした真木清人達を……殺して。その技術を奪い取って。あの輝ける日々に帰還することができる。
 マスターも、そはらも。いつかの明日に仲間の輪に入ったのだろう、アストレアが死んだこともなかったことにできる。
 それが――既に一つの命を奪ったイカロスに許される、たった一つの贖罪の方法なのだ。

 欺瞞に満ちた救済を求めて、天使は飛翔する。

 やり直せる、まだ手が届く、と――諦めることができない欲望という、呪縛に囚われて。

664 ◆z9JH9su20Q:2014/01/05(日) 00:09:56 ID:G5CfrNrQ0

 その純白の翼を、新たな血の色で染めるために。




【一日目 夜中】
【D-6 市街地】


【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】黄
【状態】健康、飛行中、智樹の死に極めて強いショック
【首輪】295枚:0枚
【コア】エビ(放送後まで使用不可能) 、カニ(放送後まで使用不可能)
【装備】なし
【道具】アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
 基本:生きて、"本物の"マスターに会う。(訳:優勝後、時間操作の技術を得て全部なかったことにする)
 0.――やり直すんだ。
 1.キャッスルドランに向かい、メズール、カオス、オーズを撃破する。
 2.ニンフと仲直りしたい。
 3.共に日々を過ごしたマスターに会うために黄陣営を優勝させねば。
 4.目的達成の障害となるものは、実力を以て排除する。
【備考】
※22話終了後から参加。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力について、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していません。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります(1マス一辺あたりの直径五キロ計算)。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です
※『Pandora』の作動によりバージョンⅡに進化しました。
※桜井智樹の死で、インプリティングが解除されました。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」という考えを改めました。
※カザリの言葉を信じたいと思っています。そのため、最終的に大体のことはやり直せるから気にしないつもりです。

665 ◆z9JH9su20Q:2014/01/05(日) 00:11:24 ID:G5CfrNrQ0

【カザリ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】75枚:0枚
【コア】ライオン×1、トラ×2、チーター×2、トラ(10枚目)(放送後まで使用不可能)
【装備】ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(左腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品、詳細名簿@オリジナル、天王寺裕吾の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1、バッタカンドロイド×5
【思考・状況】
 基本:黄陣営の勝利、その過程で出来るだけゲームを面白くする。
 1.イカロスを利用し、キャッスルドランに集まったメズール達を始末する。
 2.キャッスルドランから逃げ延びて来た参加者を監視。場合によっては合流、もしくは撃破する。
 3.「FB」として萌郁に指令を与え、上手く利用する。
 4.笹塚に期待感。きっとゲームを面白くしてくれる。
 5.海東に興味を抱きながらも警戒は怠らず、上手く利用する。
 6.タイムマシンについて後で調べてみたい。
 7.ゲームを盛り上げながらも、真木を出し抜く方法を考える。
【備考】
※対メズール戦ではディエンドと萌郁を最大限に利用するつもりです。一応青陣営である萌郁は意外なところで切り札にもなり得ると考えています。
※10枚目のトラメダルを取り込みました。
※身体を構成するセルメダルから300枚をイカロスに渡しました。残数は200枚です。


【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】20枚:0枚
【コア】クワガタ
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、支給品一覧表@オリジナル、不明支給品("お宝"と呼べるもの)、キングストーン@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
 基本:この会場にある全てのお宝を手に入れて、殺し合いに勝利する。
 1.今はカザリに協力し、この状況を最大限に利用して黄色陣営を優勝へ導く。
 2.チャンスさえ巡ってくれば、カザリのメダルも全て奪い取る。
 3.他陣営の参加者を減らしつつ、お宝も入手する。
 4.天王寺裕吾の携帯電話(?)に興味。
 5.“王の財宝”は、何としてでも手に入れる。
 6.いずれ真木のお宝も奪う。
【備考】
※「555の世界」編終了後からの参戦。
※ディエンドライバーに付属されたカードは今の所不明。
※キングストーンは現在発光していません。



【全体備考】
※龍騎の世界からキャッスルドランへ向けて、カザリのタカカンドロイド×5がカザリのバッタカンドロイド×5を運んでいます。
※天王寺裕吾の携帯電話から桐生萌郁の携帯電話へ、戦いの最中はミラーワールドへ避難しておくようにという内容のメールが送られました。

666 ◆z9JH9su20Q:2014/01/05(日) 00:13:47 ID:G5CfrNrQ0
以上で投下完了です。
タイトルは「呪いをかけられた天使」でお願いします。
また何か問題点等ございましたらご指摘の程よろしくお願いします。

667名無しさん:2014/01/05(日) 11:57:18 ID:yT4pAFAs0
あけましておめでとうございます
投下乙です

カザリは最高に近い形で女王の駒を得たかあ
失敗の可能性もあったが勝負運が強いわ
イカロスは…そうか、放送以外でマスターの死が判る例外だったわ
だからマスターに会える方法、自分の間違いに気が付けたがもうニンフは…
た、お前もキャッスルドランに向かうのかよおっ

668名無しさん:2014/01/05(日) 14:15:06 ID:p08SBk5o0
投下乙です

イカロスがようやく得られた希望はカザリの欲望ありきのものかい
智樹の死に加えて偽物理論が崩れた=ニンフを傷つけたと知ったせいで、もう選択肢は一つしか無い。うーん、報われない
なにより「智樹の死を受け入れたくない」ことが前提で自分を保ってる辺り、カオスよりも救われる可能性に乏しいんじゃないかな、この子
一方カザリと海東は(あと萌郁も)乱戦を避けるという安全策を取ったおかげで当面は安全だけど、メダル不足は響きそうか?

669名無しさん:2014/01/07(火) 01:15:05 ID:1aNqWnSg0
予約がきてるな
どちらが先に誤射するのか…

670名無しさん:2014/01/07(火) 02:44:03 ID:XzCjVE1M0
投下乙です。

イカロスを仲間にし、メズール達へ攻め立てるカザリ。
まさか、緑のリーダーのウヴァさんが○になり、白陣営も潰れて早々、もう青と黄の陣営が激突するとは!?
果たして生き残るのはメズールとカザリどっちだろうか?

671 ◆2kaleidoSM:2014/01/12(日) 22:55:44 ID:Drfl3uLQ0
投下します

672今俺にできること ◆2kaleidoSM:2014/01/12(日) 22:58:25 ID:Drfl3uLQ0
巴マミは走っていた。
激しい戦いと、それに身を投じている者達のいる場所に背を向けて。

そこには、桜井智樹を、鹿目まどかを殺したカオスがいるというのに。
今だそこで戦い続ける者もいるというのに。

それが、それだけ彼女の心に負担を強いていたか。

桜井智樹。
彼がいなかったら、きっと巴マミという少女は己を見失ったままあるいは狂気の道へと堕ちていたかもしれない。
優しくて、友達思いで。
それでいてあの時友達を殺したというジェイクに対しては怒りも露にしていた。
そんなごく普通の少年。

鹿目まどか。
ずっと共に戦ってきた、魔法少女の後輩。
彼女もまた優しくて、強くて。
それでいて、己自身で経験したことではないが錯乱した自分を迷わず倒すほどの強い意志を持っていた。

大切な存在で、こんなところで死んでいいような人じゃなかった。
だけど、彼らはもういない。

自分の目の前で、あのカオスに殺されていった。
彼女に対する憎しみが落ち着いたところで、巴マミを襲ったのは強烈な虚無感、後悔、そして悲しみだった。

もう誰も失うことがないように得て、自分なりに磨いてきた力が、肝心な時に役に立たない。
己のリボンが、誰の命を繋ぎ止めることもできていない。
むしろ、マスケット銃が人の命を奪ったほどだ。

「結局私、一人ぼっちね……」

どれほどの距離を走ったかという頃、思わずそう呟いた瞬間足から力が抜けた。
涙を流そうとすると、脳裏をよぎるジェイクの頭を撃ち抜いた瞬間のあの手ごたえ。

これは人を殺した自分への罰なのだろうか、と。
そう思ってしまったら泣くことすらできなかった。

確かにあれは咄嗟のことだった。あそこで撃たなければ、智樹君が撃たれていただろう。あの場ではそれしか選択肢はなかった。
本当にそうだろうか?
もしあそこでオーズドライバーを回収したと同時に、彼の支給品を取り上げる、あるいはリボンで拘束していれば、あそこで殺すことはなかったのではないか?
もっとベストな選択もあったはずなのに、油断して、気を抜いて。
そんな自分への罰なのだろうか。

673今俺にできること ◆2kaleidoSM:2014/01/12(日) 22:59:41 ID:Drfl3uLQ0

火野映司は言った。失敗することは悪いことなのか、と。

だが、取り返しの付かないものもある。
例えばその失敗が人の命を奪ったとき。どれだけ悔い改めようと、省みようと、それはもう二度と帰ってはこないのだ。
そう、あの場で消えていった三人の命のように。


「私には…、誰も守ることができないの…?」

もし彼女の近くに誰かがいれば。
桜井智樹でもいい。鹿目まどかでもいい。
ワイルドタイガーでも、火野映司でも。
美樹さやかでも、暁美ほむらでも。

もし彼女の近くにいたなら、巴マミはここまで思いつめることはなかっただろう。
しかし、今の彼女はどうしようもなく一人だった。

鹿目まどかも桜井智樹も死に。
火野映司は狂気に落ち。
それを止めるために戦うワイルドタイガーに手を貸すこともできず逃げるしかなかった今の彼女には。

それらの事柄は重すぎたのだ。

止むことのない自責の中で、思考が堂々巡りを始めて。
走ることもできなくなった巴マミ。

そんな彼女の元に。

「おい君!大丈夫か?!」

彼は現れた。



マミ自身の心理に、一刻も早くジェイクのことを忘れたいという意志があったこと。
桜井智樹、鹿目まどかの死に心が平静でなかったこと。
そして、懐疑的であったとはいえ、もし万が一、彼の言ったとおりニンフが生きていたなら、死んでしまった桜井智樹のことを、何と伝えればいいのか。

そういった心理状態が、知らず知らずのうちに、マミを虎徹の言った場所から離れた場所へと向かわせてしまっていた。
それが果たして巴マミにとってよかったのかどうかは分からない。

ただ言える事。
それは、その結果が巴マミと後藤慎太郎を引き合わせたのだということ。

674今俺にできること ◆2kaleidoSM:2014/01/12(日) 23:00:54 ID:Drfl3uLQ0



例えその心に強い焦りや嫉みに近い思いが燻っていようと。
それでも目の前で少女がじっと蹲っているのを無視できるほど、後藤慎太郎という男は欲望に忠実には生きていなかった。

「あなたは…?」
「俺は後藤慎太郎、殺し合いには乗っていない。君を保護する」

ひとまず構えつつ走っていたその手の銃を下げ、少女へと駆け寄る。
顔色も悪く、体のあちこちには激しい戦いにでも巻き込まれたかのような汚れが目立つ。

「わ…私は巴マミと言います…」
「マミちゃん、か。一体何があったんだ?」

そういえば、この先には火野映司が暴走している場所だったはず。
まさかとは思うが、まさかオーズに襲われたのだろうか。

と、そんな心配はある意味では的中していた。

「後藤、さん?もしかして映司さんのお知り合いの…?」
「…!あいつを知っているのか?!」
「映司さんは…あそこで…自分を見失って…暴走を…」

やっぱりか―――!

そう思ったときマミの向かってきた方角だろうその先を、睨むように見据えていた。
思わず立ち上がり、その先へ向かおうと歩を進める。

「え、あの、ちょっと…!」

しかしその傍からはただならぬ様子にも見えた後藤を、マミもまた思わず呼び止めていた。

「君は向こうの方向へ行ってくれ!牧瀬紅莉栖と園咲冴子という二人がいるから、彼女達と合流するんだ!」
「いえ、私のことじゃなくて、あなたはどうするんですか?!」
「火野のやつを止める。やっぱりあいつにオーズはふさわしくなかったんだ…!」

後ろの言葉は、後藤にしてみれば思わずこぼれ出たような言葉だったが、それはいくらマミでも流すには強烈な意味を持った言葉だった。
思わず後藤を引き止めていた。

「ちょっと…、待ってください!」
「何だ!俺は急いでいるんだ!用があるなら早く済ませろ!」
「あなたは映司さんの仲間なんですよね?オーズがふさわしくないってどういう―――」
「あんな奴が俺の仲間なわけがない!あいつが勝手にオーズドライバーを使ってオーズになっただけだ!
 あいつなんかより、俺の方がオーズにふさわしいんだ!」

映司の仲間という認識に気を悪くしたのか、怒鳴るように叫ぶ後藤。
その様子は、火野映司より聞いていた後藤慎太郎という男の印象とは、また大きく異なっていた。
少なくとも、彼がオーズにふさわしくないなどという言葉を投げかけるとは思わなかった。

675今俺にできること ◆2kaleidoSM:2014/01/12(日) 23:02:00 ID:Drfl3uLQ0
(まさか…、彼も時間軸が…?)
「ま、待ってください!」

彼女の直感が、この彼をあの場所へと向かわせることはまずいと告げていた。
それに、オーズの力を求めているということは、今は彼は何かしらの力をもっていない、ないしオーズには及ばない可能性が高い。

「何だ!俺は急いでるんだ!」
「あそこは危険です!グリードと、カオスというとても危険な子もいるんです!」
「だからだ!俺ならもっとオーズをうまく扱える、グリードだって倒せるし世界だって守れるんだ!」

危険だ、と思った。
火野映司と後藤慎太郎の間にどんな確執があり、どうやってそれを乗り越えてきたのかは分からない。
だが、今の彼を暴走している火野映司と引き合わせることがどれだけまずいか。それはマミにも分かった。
それが火野映司のためにも、後藤慎太郎のためにもならないということが。

止めなければならない。
そう確信したマミは咄嗟に後藤の手を掴む。

「ダメです…!今のあなたが行ってもできることは…」
「っ…!五月蝿い!!」
「きゃ…」

その言葉に思わず強く反応し、マミの手を強く振り払う後藤。
力が入りすぎた影響で、手を振り払うと同時にマミの体を突き飛ばしてしまった。

悲鳴を上げて地面に倒れこむマミ。

「あ…、す、すまない。大丈夫か?」

さすがにやりすぎたと感じたのか、謝ると同時にマミの近くに駆け寄る後藤。
そんな後藤に対してマミは顔を伏せたままだ。

と、次の瞬間、後藤の腕に黄色い何かが結びついた。

「…?!な、これは…」

それは手錠のように手首に絡みつき、後藤の手を縛り上げる。
特にきつく拘束されているわけではないが、後藤の力で引き千切れるものでもなかった。

突如手を拘束した何かを解こうと慌てて手を動かそうとする後藤に対し、マミは顔を伏せたまま言う。

「…あそこで今映司さんが戦ってる存在は、その十倍の拘束をたった数秒で破りました。
 身も心もボロボロな映司さんが戦ってるのは、それほどまでに強い存在なんです…」
「君は…一体…」
「私は魔法少女。希望の力で、絶望を生む存在から多くの人々を守ってきた。
 でも、こんな力があっても私は…、友達も助けてくれた人も、誰も救えなかった……!
 殺した相手を前に、そこで戦う人を残して逃げることしかできなかった…!」

気が付いたら吐き出していた、自分の感情。
救えなかった者に対する強い後悔。そして逃げるしかなかったその罪悪感。
どれだけベテランの魔法少女として戦ってきた巴マミであっても、その精神はヒーローの域などには達していないのだから。
気がつけば、その眼からは、一人でいた頃には全然流れなかった涙が溢れていた。

676今俺にできること ◆2kaleidoSM:2014/01/12(日) 23:02:35 ID:Drfl3uLQ0


そんな、目の前で己の無力さに嘆く少女を見て。

――――俺は何をしているのだろう

ふと後藤はそんなことを考えていた。

平和のためこの殺し合いを止めるといいながら、あの野球帽の男も取り逃がし。太った少年を助けることもできず。
冴子さんや紅莉栖ちゃんを、特に殺し合いに乗った人物と遭遇したわけでもないのに同行したというだけで守った気になって。
オーズや、それ以外のヒーローなる存在が力を持っているということに嫉妬し。

なのに実際に力を持って戦っていたのはこんな子供だった。

冷静になって考えてみれば、俺は何もしていない、できていないのではないかと。
世界平和のためなどと大層なことを言っておきながら、こんな少女が戦っている間、自己満足に浸っていただけではないのか。

何が、「俺の方がオーズにふさわしい」だ。
力があっても、何も守れなくて泣いている少女が目の前にいるというのに。

では、今俺が目の前で泣いている少女に対して、何ができるというのだろうか。

(俺は――――)






「マミちゃん、あそこで何があったのか、詳しいことを教えて欲しい」

マミの心が落ち着き、手のリボンを外してもらったところで後藤はまずそう問いかけた。
まず何をするにも必要なことだ。そもそも自分は向かうといいながら、火野映司が暴走したということしか知らないのだ。


マミの話した情報。

ジェイク・マルチネスという悪との戦い。
奪われたオーズドライバー、オーズに変身したジェイクと暴走するオーズ。
戦いが終わって、一息ついたところで襲い掛かったカオスなる少女。
激戦で死に往く仲間達、そしてそんな彼らの前に姿を現したグリード。そして、火野の暴走。
そして、そんな中で一人戦うワイルドタイガー。

それが、巴マミの話した、あの場で起こった全てだ。
しかし驚いたことに火野の暴走はそれが初めてというわけでもないという。

ジェイクなる悪がオーズに変身したということと合わせて、後藤の脳裏に一つの可能性がよぎった。

677今俺にできること ◆2kaleidoSM:2014/01/12(日) 23:03:48 ID:Drfl3uLQ0
(火野でなくてもオーズには変身することができる…、だが暴走したのは悪だったからとして、火野は何故暴走している?
 もしかして、オーズには誰でも変身することができる代わりに暴走しやすくなる調整でもされているのか…?)

実際に見てみなければ何もいえないが、もしその可能性があった場合、自分に使いこなせるのだろうか…。
少し慎重になる必要があるかもしれない。
そう考えられたのは、少しでも冷静になれたおかげなのかもしれない。
そういったところは目の前の少女に感謝すべきだろう。

グリード、エンジェロイドなる存在、そして火野映司が戦っているらしいあの場所。
そんな場所に、こんなショットガンだけ持っている自分が行ってどうにかなるのだろうか。

いや、まずはこの少女を安全な場所まで移動させることが先決。園咲冴子と牧瀬紅莉栖の元へ――――

と、そう思ったところで、暗い空に流れ星のような一陣の光が走った。
こんなところで流れ星が?と後藤は一瞬疑問に思ったが、それにしては光が消えるのが遅い。
いや、そもそも流れ星とは上から下に流れるものだろう。
なのにあの光は明らかにどこかへ向かっているかのようで。

「あれは……まさか…、エンジェロイド…?」

エンジェロイド。
あの場所で暴れているカオスという者と同じ存在。
しかし、マミの話ではそのエンジェロイドは一人が放送で名を呼ばれ、もう一人は先に言ったジェイクという男に殺された可能性が高いという。

なら、あそこに向かっているのは―――

「イカロス……?!」

マミにはその答えの想像がついた。

まずい。
あそこでは桜井智樹が死んでいる。そしてその仇であるカオスがいる。
エンジェロイドの戦闘力の高さはカオスと戦って十分に理解した。
だからこそ。
もし今そこで、桜井智樹の骸を見た、彼と最も親しかったエンジェロイドがその仇を目の当たりにすれば。
そして、もし二人のエンジェロイドがぶつかり合えば。
そこにいる周りの人間は―――

「映司さんとワイルドタイガーが危ない…っ!」

走り出そうとするマミ。
その手を、後藤が掴み引きとめた。

678今俺にできること ◆2kaleidoSM:2014/01/12(日) 23:04:38 ID:Drfl3uLQ0
「待つんだ。俺が行く」
「後藤さん…?!ダメです!今あそこにいくのは――」

ああ、それは自分自身がよく分かっている。俺が行っても戦力にならないことくらい。
だから、せめて今の俺にもできることをしよう。

「分かってる。だから、せめて火野とそのワイルドタイガーって人くらいは助けられるように手助けをする。
 火野が暴走してるなら、引っ叩いてでも目を醒まさせてやるさ」

それくらいのことはできるはずだ。
世界を救うために悪を倒すことは今はまだできなくても、目の前の少女を安心させるために人を助けることくらいならできるはずだ。

「だから、マミちゃんは紅莉栖ちゃんと冴子さんの元に行ってくれ。いずれ火野達を連れて戻る」
「…じゃあ、せめてこれを」

そう言ってマミが差し出したのは一枚のコアメダル。
持っていた3枚の白いメダル。その中でもあの場所で散っていった後輩の魔法少女がずっと大切に持っていた一枚。
何の役にも立たないかもしれないが、それでもせめてあの子の込めた想いが彼を守ってくれれば。そんな願いから渡した、一枚のコアメダル。

「…ありがとう」

そう一言お礼だけを言い残して、後藤はエンジェロイド、グリード、そしてオーズの入り混じった戦場へと一人駆けていった。
自分には何ができるか、もしかしたら何もできないかもしれない。それでも自分が向かうことで、一人でも救える者がいるなら。
それもまた、自分の求める世界平和のための第一歩になるのではないかと、そう思えたから。



「………」

巴マミは、そう言う後藤を見送る。
もしかしたら、ここで彼を追うという選択肢はあったのかもしれない。
だがここで戻れば、一人残って戦うワイルドタイガーを裏切ることにもなりそうな気がして。
結局彼の姿が見えなくなるまで、立ち上がることはできなかった。

「鹿目さん……、後藤さんを、火野さんを、ワイルドタイガーを…お願い…」

きっと彼が行くより自分が行ったほうが、戦力的にはいいのかもしれない。
だけど、今の彼ならあるいは、火野さんを助けてくれるかもしれない。

そう小さな望みを、あの白いコアメダルに託してマミは一人祈った。

そして後藤の指した方、牧瀬紅莉栖と園咲冴子のいるらしい方を目指そうとして。

(あれ…?)

何故だろうか。
牧瀬紅莉栖というその名に。
聞き覚えがあるような気がして。
心の中に、よく分からない、言いようのない不安が膨れ上がっていたのは。

それが気のせいなのか、それとも何か記憶の奥でその名を聞いたことがあるせいなのか。
巴マミにはまだ分からなかった。

679今俺にできること ◆2kaleidoSM:2014/01/12(日) 23:05:51 ID:Drfl3uLQ0
【一日目-夜中】
【C-6 路上】


【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康、若干の気持ちの焦り
【首輪】100枚:0枚
【コア】サイ(感情)
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊として、できることをやる
 1.キャッスルドランに向かう。
 2.今は園咲冴子と牧瀬紅莉栖を守る。協力者が見つかったら冴子達を預ける。
 3.殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
 4.マミちゃんのために、火野映司とワイルドタイガーを助ける
 5.今は自分にできることを…
【備考】
※参戦時期は原作最初期(12話以前)からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
※メズールのことを牧瀬紅莉栖だと思っています。
※巴マミからキャッスルドランで起こった出来事を一通り聞きました
※オーズドライバーは火野でなくても変身できる代わりに暴走リスクが上がっているのではと考えています

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、深い悲しみ、カオスへの憎しみ
【首輪】70枚:0枚
【コア】ゴリラ:1、ゾウ:1
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
 基本:???
 1. ここから離れる?
 2.他の魔法少女とも共存し、今は主催を倒す為に戦う?
 3.ディケイド、イカロス、カオス、メズール(と赤い怪人)を警戒する。
 4.真木清人は神をも冒涜する十二番目の理論に手を出している……!
 5. 人を殺してしまった……
  6. 後藤さん…
  7. 牧瀬紅莉栖という名前に聞き覚えが…?
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、魔女化したさやかが爆殺されるのを見た直後です。
※どこまで虎徹の指示に従うかは、後続の書き手さんにお任せします。
※もしかしたら虎徹から牧瀬紅莉栖のことを聞いたかもしれません。
  聞いていなければ、嫌な予感は気のせいである可能性もあります。

680 ◆2kaleidoSM:2014/01/12(日) 23:08:22 ID:Drfl3uLQ0
投下終了します
もし問題点などあれば指摘お願いします

681名無しさん:2014/01/12(日) 23:33:13 ID:KFhUn/QY0
投下乙です!
予約のメンツから心配されもしたけれど、むしろ5103が原作の後藤ちゃんみたいに成長したしマミさんも少しだけ精神安定したかな?
でも後藤さんは結局装備不足であの魔境に殴り込み……うーん、伊達さんと合流ワンチャンあるのかな?

最後に、展開にはそれほど影響しないと思うのですが、一点だけ。マミさんが智樹を死体をイカロスが見ればと言っていますが、確か智樹ってマミさんの前で跡形もなくカオスに吸収されたんじゃなかったかなーと。
なので、マミさんがその点を危惧するのは変な気が。智樹の敵とイカロスの邂逅がヤバいと感じる自体は変な話ではないと思いますので、心配するのは変わらないと思うのでご一考頂ければ幸いです。

682 ◆2kaleidoSM:2014/01/13(月) 01:52:12 ID:HNoBS35Y0
指摘ありがとうございます
智樹の死体の下りについては修正したものをしたらばに後ほど投下させていただきます

683名無しさん:2014/01/13(月) 12:19:44 ID:IPqG4ieQ0
投下乙です

後藤があのまま突入せずに違う事実に気が付いたのは大きいなあ
原作の後藤になる可能性も出てきたが、さて
上で言われてる様に伊達さんと合流ワンチャンあればいいが、合流してもこれから集まる面子を考えたらそれでもヤバいんだよなあ…

684名無しさん:2014/01/13(月) 12:46:10 ID:OX62wVTwO
投下乙です。

誰でもオーズになれると知ったらベルト奪うんじゃないかと心配しましたが、暴走の可能性を冷静に考えられてよかった。
いかりのボルテージが上がってる悪女コンビに狙われそうで恐い。

685名無しさん:2014/01/14(火) 00:20:13 ID:ssDC4/0o0
誤砲さ……後藤さんだこれ!?

686名無しさん:2014/01/14(火) 20:42:39 ID:PZHkx6OY0
今回の月報分。◆2kaleidoSM氏の投下作はまだ修正待ちということでカウントしてません。
118話(+ 4) 37/65 (- 0) 56.9 (- 0.0)

687名無しさん:2014/01/15(水) 21:46:12 ID:Y8cMPx5g0
予約来てるじゃん!
楽しみだわー

688名無しさん:2014/01/15(水) 22:13:23 ID:sDkbXm1.0
来てる修正案を今日で通すなら、月報はこっち
119話(+ 5) 37/65 (- 0) 56.9 (- 0.0)

689 ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:18:20 ID:9JB.m9mM0
投下します

690This Illusion ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:21:09 ID:9JB.m9mM0
ブゥン、ブゥン

言峰教会。
冬木において迷える人を導くためにあるものであり、しかしそこで神父についているのは冬木の聖杯戦争を監視する人間であることも多い。
だが、少なくとも今この場にあるそれは、誰を導くこともせず、また導くことのできる者も存在しない。

今その前にいたのは、西洋剣をまるで剣道のような型で振るう、一人の女性だった。

織斑千冬。
彼女はただ一心に、まるで邪念を取り払おうとしているかのように棒を構え、宙に向かって振り下ろし続けている。
もし何者か、ここへ近寄ろうとするものがいれば、そしてその者に戦いの心得がなければ、彼女の発する覇気のような何かに怖気づいたかもしれない。
そういう意味では、一心不乱であったとはいえ見張り役は果たしているといえるかもしれない。



「お前のせいではない。私の責任だ…」

それは、そこよりもしばらく前になる時間。
セシリアの亡骸を地面に横たえた千冬が、搾り出すように発した第一声。

全ては遅すぎたのだ。
セシリア・オルコットという少女が、あの学園で見せたあどけない少女として生きる術は。
シャルロット・デュノアという、他の誰でもない、自身の仲間を殺してしまったことでもう閉ざされていたのだということを。
織斑一夏が仮に生きていたとしても、いつかはぶつかることになったであろう壁だったということを。


これはユウスケの責任ではない。彼の咎などでは、断じてない。
私が背負っていかなければいけない業だ。

だからお前が気負う必要はない、と。
自分を無理やりにでも奮い立たせてユウスケと共に言峰教会を目指した。

そうして、中にいた者達と一通りの情報交換を済ませた後、今に至る。




見張りを買って出たのは、ずっとユウスケの傍にいると、中々に聡いあの男は自分が無理をしているということに気付いてしまう可能性があった。
だから、こうして彼のいない場所で少しでも己の気持ちを落ち着ける必要があった。

そして、何となく始めたのがこの素振りであった。

剣というものはいい、と思った。
これを振るっている間は無心になることができる。
前を見据えて、剣先に意識を集中させ、そして目の前を一刀の元に断ち切るように振り下ろす。
そして目の前に仮想した何かが斬れたことを確信した後またこれを振り上げ、下ろす。この繰り返しだ。
作業としては簡単なものだが、邪念を取り払うにはうってつけだ。

思えば、これは篠ノ之箒の実家の道場で練習したものだったな。
あいつもよく、暇さえあれば学園内の道場で剣を振るう姿を見たものだな、と。

「む……」

そんなことを考えていたら、剣筋がずれたのを感じ取った。
今の一太刀は、目の前で仮想したものを断つことができなかった。

691This Illusion ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:22:24 ID:9JB.m9mM0

「……ふぅ」

剣を下ろし、一呼吸したところで。
何者かの近づく気配を感じ取った。



「―――何を期待していたのだろうな、私は。
 今更分かり合うことなど、できるはずもなかったというのに」

言峰教会の屋根の上。
見晴らしはそこそこで、何者かが近づいてきたら即座に発見することができる位置。

セイバーはそこでふと、そう呟いていた。
この数時間の殺し合いの中、様々な出来事があった。

ラウラ・ボーデヴィッヒとの戦い。
織斑一夏の襲撃、守ることができなかった見月そはらの命。
自分の知らない衛宮切嗣。
そして、バーサーカーの正体。

まだ心の中で整理のつかないものも多く。
だから、今は一人になりたかった。

迷いは続き、解決の糸口は見えず。
それでも立ち止まっているわけにはいかない。
だからこそ、気持ちの整理も今のうちに終わらせておかねばならないのだから。



と、下を見下ろす。
そこに人の気配があったことは前々から察していた。無論、自分とは別の外の見張り役だ。
だからこれまでは特別意識を割いておくこともしなかった。

ただ、何かを振っているかのように風を切る音が耳に入れば、さすがに何か起こったのかと気になる。
視線を下ろしたセイバーの目に入ってきたのは、ユウスケの同行者――確か織斑千冬という名だったか――が剣を振るっていた姿。

所謂剣道というやつだろうか。
日本に伝わる剣を用いた武道の形。無論平和な時代に作られたそれは実戦用の剣術といえるほどではないが。
しかし彼女のそれはセイバーの目から見ても、彼女の太刀筋、振り下ろす際の姿勢、形は見事なものだった。

そんな彼女を、しばらく何の考えがあったわけでもないがじっと眺めていたセイバー。
すると、あるタイミングで剣筋が乱れ、その一定の動きを取っていた動作が止まった。
それからは剣を下ろし、一呼吸ついている様子だった。

「迷い……か?」

そういえば、彼女もユウスケのようにまた自分と出会う前に切嗣と何かしらのやり取りがあったのだろうか。
もし何かしらのやり取りがあったなら、彼女は切嗣に対してどのような印象を持ったのか。

微かに気になったセイバーは、念のため周囲を見回しておく。
特に近づいてくる者も付近には感じられない。
アサシンのような者でもいれば話は別だが、少なくとも参加者の中にはいない様子だ。
ならば、少しくらいは大丈夫だろう。

屋根を降りるセイバー。
その気配を感じ取った千冬がこちらを向く。

「見事な太刀筋です」
「…褒められるようなものでもないさ。こんなもの、ただ自分の中の弱さを隠すために振るっていたにすぎん。
 剣の腕ばかりあっても、誰も助けることなどできなかった」

そういった千冬の表情は暗い。剣を再度構えようという気配が見られなくなったのは自分が現れたせい、というわけでもないだろう。


「チフユ、では少々手合わせをお願いできますか?私にも剣は覚えがあります」
「ふむ…、いいだろう。……しかしこれでやるのは危険だな」

そう言って千冬は教会の中に入り、箒の柄の部分だけを2本持ち出してきた。
うち1本をこちらに放り投げる。

「剣道は分かるのか?」
「私の剣は実戦用のそれです。だからルールなどに拘らず、思うままに打ち込むといい」
「そうか。なら遠慮はせぬ…ぞ!」

その言葉を皮切りに、千冬は構えるセイバーの体に棒を打ち込んだ――――

692This Illusion ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:24:00 ID:9JB.m9mM0


「切嗣さん、大丈夫ですか?」
「……ん…、…ああ。体はだいぶ楽になってきた…」
「良かった、声出せるようになったんだね」

その頃、教会奥の地下室。
切嗣の体の傷が治るのを見守っていたユウスケ、鈴羽の前で、ようやく切嗣は声を発することができた。

体の傷自体は峠を越えた。じっとしている限りは命に別状はないだろう。
無論、体に残ったダメージ自体は大きく、未だ歩くこともままならない状況ではあるが。

また、切嗣の傷の治癒のためにここにいるメンバーは多くのメダルを彼に使った。
だから今彼らの手元にあるのは最低限のメダルしかない。またそれだけの量のメダルをもってしても切嗣の体の傷はまだ大きい。
コアメダルが使用可能になる放送までの間に、もし殺し合いに乗った者の襲撃を受けてしまえば厳しい戦いを強いられることになってしまうだろう。

「すまない…、僕なんかのために…。君たちまで危険に晒してしまって…」
「そんなこと、怪我人の気にすることじゃないですよ。俺達のことより、切嗣さんは体を休めることに専念してください」

既に皆の間での情報交換は一通り済ませてある。
だからこそ、話せるようになったからといってセイバー達を呼び戻す必要まではない、というのは切嗣の談だ。

「本当にいいんですか…?セイバーちゃんと話さなくても。切嗣さんのこと、かなり心配していたように見えましたけど…」
「いいんだ。僕と彼女の間で話すことなんて、何もないんだ」
「……その結果が小野寺ユウスケ達が来るまでの間のアレ?」
「………」

鈴羽の言葉に口を噤む切嗣。

「俺達が来るまでの間って…、何かあったの?」

自分達のいない間に何かあったのかと気になったユウスケが、ふと鈴羽に聞いていた。


「ううん、何もなかったよ」
「じゃあ、どうして?」
「本当に何もなかったんだよ。
 普通知り合いって、こんな場所で会えばさすがに何かこう、『お前無事だったのか〜』的なことって普通言うものじゃない?
 でも、何もなかったんだよ。そんな一言の、ありふれた挨拶みたいなのもさ」

鈴羽はセイバー視点での切嗣という人間についての印象は聞いていたし、だからこそセイバーが切嗣に対してどう話しかければいいのかを掴みあぐねているのは何となく分かった。
そして切嗣はあの時はまだ話すことができていなかったことは事実だが、それでも自分が話しかけたときは何かしらのコミュニケーションを取ろうとする意志は見て取れた。
しかし、切嗣はセイバーがやってきたのを確認したとき、最初の一目を認識した後極力セイバーを視界に入れないようにしていたように見えたのは、果たして気のせいだろうか。

何となく、鈴羽には切嗣がセイバーを意図的に認識しないようにしているようにも見えたし、セイバーもその事実を察してしまったことは分かった。
時間にしてほんの十数分ほどだろうか。しばらく経った後セイバーは諦めたかのように、ここを出て行ったのだが。

「まあたったそれだけの時間だけどさ、あの時の私の居心地の悪さったら無かったよ本当」
「なるほど…、セイバーちゃんが俺達を入り口で出迎えたのはそういうことが…」
「………」

そして、それらのことが決定的になってしまったのが。
あの時の情報交換だろう。



693This Illusion ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:26:22 ID:9JB.m9mM0

「これで3本、ですね」
「…まさか、1本も取ることができないとはな…」

千冬の額の目と鼻の先で止められた棒。
僅かながらに息を切らせ、顔から一筋の汗を流す彼女に対し、棒を突きつけた金髪の少女は呼吸を乱すことすらしていない。

完敗だった。

1本目は、少女の実力を測り損ね。
2本目でさらに力を入れたがそれでも届かず。
3本目で己の出しうる限りの全力を出して彼女に打ち込んだ。

今の彼女のように、寸止めができたかどうかすら分からないほどに踏み込んで、それでも届かなかった。

「私も、まだまだだな…」
「いえ、あなたの踏み込みは見事なものでした。特に3本目のあの気迫。
 剣技であなたの右に出る者はそうはいないでしょう」
「ふ、いくら見事でも勝てなければ意味はない。
 もしお前が敵だったら、私は3回死んでいるということだぞ」
「私がもしあなたを殺す気で攻めようとしたなら、あなたは逃走を選ぶはずだ。
 それができるほどには、あなたは自分の、そして相手の腕を測れるのではないですか?」
「…果たしてそうかな?」

褒められているのか貶されているのかよく分からないような言い方。
どう反応すればいいのか困ってしまった。

「それで、迷いは晴れましたか?」
「そこまで見抜いた上での、この稽古か。あまり愉快ではないな」
「剣筋の迷いは心の迷い。強き太刀筋は、強き意志なくしては出すことはできません」
「まだ迷いは晴れないが、少なくともお前と打ち込んでる間くらいは忘れることができたさ。それだけは感謝しよう」
「それでいいのです。迷いを消せずとも、一時的にでも己の中から取り除かなければならないときもあるのですから」

「そうか、なら私からも言わせてもらうが。お前こそ何かに悩んでいるんじゃないのか?」
「………」

それは率直な感想だった。
一本目、二本目の時の時点で、千冬は既に悟っていた。セイバーの剣技は自分とは違う次元にいるものだと。
だからこそ、千冬は全力を出したのだ。その神懸かったほどの腕に、自分がどれほど追いつけるのかを試したくて。

そう、セイバーの剣技はそれほどまでに優れたものだった。

「もしお前が私に対して、剣のみの心で打ち込んでいたなら、もう3打ほど前には勝敗を決していたはずだ。
 お前はそれほどには強いはずだ」
「…それは買い被りすぎです」
「お前こそ、迷っているんじゃないのか?」
「………」

千冬には何となく察しはついていた。
おそらくはあの情報交換の時が原因だろう。



ユウスケ、千冬の二人が教会に辿り着いて間もない頃。
切嗣のいる地下室に駆けていったユウスケとそれを追った千冬、セイバー。
体の傷は大きいものの、意識を取り戻していることにユウスケは安心していた。

誰にやられたのか、ということについてユウスケが問いかけたところで、切嗣は自分が放送を聞き逃していることに気付いた。
ここで、お互い何があったのかということについての情報交換を、まとめて行うこととなった。
が、その時切嗣はまだ話すことができなかったことが問題となった。

筆談も体の様子から厳しく、一同が頭を悩ませていた時。

694This Illusion ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:27:58 ID:9JB.m9mM0

「…キリツグ?」

セイバーが驚いたように反応した。
しかし他の皆にはなぜセイバーがそんな反応をしたのか分からなかった。

その時セイバーが言うには、サーヴァントとマスターの間にはパスが繋がっており、それを通して念話を行うことも可能なのだという。
つまり、切嗣の言葉をセイバーが代弁することで切嗣側からの会話も可能なのだという。

セイバー自身もそれを思いつきはしたが、切嗣が自分に頼るとは思えなかったため選択肢から外していた。
だからこれで言葉が聞こえたとき、一番驚いたのはセイバーだった。

ともあれ、一番の問題点だったことも解決したことで情報交換自体は滞りなく行われた。
切嗣を襲ったバーナビーらしき人物、そしてその者に奪われた令呪、人質として連れ去られた少女。
その少女が牧瀬紅莉栖という人物であるらしいということも阿万音鈴羽の情報から知ることができた。

基本的にはセイバーの役割は切嗣の言葉を受け、それを伝えることにあった。
だからこそ、セイバーに対して念話を行う際、切嗣はセイバーに話しかけるのではなく、その場にいる皆に話すように言葉を伝えていた。

やがて語るべき情報も無くなり、セイバーの役割も終わった。
そこまで切嗣は会話において、全くセイバーという個人を意識した言葉を発することはなかった。
中継している言葉は、これまでの自分が知らない切嗣なのに、切嗣の自分への対応は全く変わることがなく。

だから、ほんの少しでもセイバーは期待したのだ。
もしかしたら、ここまで念話での中継を行った自分に対して、労いの言葉の一つくらいはかけてくれるのではないか、と。
「ありがとう」か、あるいは「よくやってくれた」、そんな言葉の一つくらいならば、交わしてくれるのではないかと。

だが、情報交換を最後に、切嗣が念話でも話しかけてくることはなく。

その事実にそれまで張り詰めていた気持ちが解れたと同時。
自分でも分からない、言いようの無い感情が心の中を埋め尽くして。

やがてセイバーは静かに地下室を出て行った。



ユウスケ、そして千冬には何があったのかよく認識できていなかった。
その後、鈴羽が切嗣に対して行った問いかけでどうにか把握できたという按配だ。
しかしセイバー不在の状況で切嗣に対して問いかけても切嗣には会話する手段がない。

ゆえに切嗣の傷が癒えるまでそこについてを聞くことはできなかった。
そして、今彼は傷が一通り癒えて話せるようになった。

「さっきも言った通りだよ。彼女とは今更分かり合えるとは思わない。
 僕は彼女には随分と非情に扱ってきた。セイバーが知っている以上のことを、きっと彼女のまだ知らない未来でやるだろう。
 実際僕はそうやってきたからね」
「でも、それと今この場での彼女とは……」
「僕は、かつて彼女のあり方が受け入れられなかった。
 彼女と共に戦って5年の年月を経た今でも、結局その思いは変わらなかった。
 きっと彼女は僕のことを理解しないし、僕にも彼女のことはずっと理解することはできないんだろう。
 君たちに迷惑はかけない。だから、そのことは放っておいてくれないか」
「あの緑の怪人がフィリップっていう仲間だったのに、そのことを問い詰めなかったのはそれが原因?」

切嗣を運ぼうをした緑の怪人―――フィリップに攻撃を仕掛けるという失敗をしたセイバーに対しても、何一つ言うことはなかった。
本来ならば何かしら責めるか、あるいはそんな失敗気にするなといった旨のことを言うものなのだろうが。

「そもそも、僕には彼女の失敗を責める資格がない」

情報交換の中で聞いたこと。
間桐雁夜を殺したと思われる織斑一夏が、鈴羽達を襲い、その結果月見そはらという少女が命を落としてしまったという。
それはアストレアから聞いた名だ。
もしあの時、あの存在の異常性、危険性に気付けていれば、間桐雁夜と同じく避けられた犠牲のはずだ。
それに気付けないほど、感覚も衰えてしまったのだろうか。

695This Illusion ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:31:24 ID:9JB.m9mM0
それだけではない。
先の放送で呼ばれた名の中には、アストレアと、彼女と共に行った左翔太郎もいたという。
あの場で見送った二人が、共に名を呼ばれた。
もしかつての切嗣であれば、顔色を変えるほどのことでもなかったのだろう。
しかし今の彼にはその犠牲は重く圧し掛かっていた。

あの牧瀬紅莉栖の時に、自分の迷いがこんな大事を引き起こしたという事実のように。

「…切嗣さんは、どうしてそんなに自分を追い詰めてるんですか?」
「自分を追い詰める?僕がかい…?」
「だってそうじゃないですか。守れなかったものを全部自分の失敗だって思い込んだり、セイバーちゃんと話す資格がないとか言って拒絶したり。
 まるで、自分を無理やり何かの型にでも当てはめようとしてるみたいで…」
「型に当てはめる、か…」

言われてみれば、守るもののために戦うといいながらそんな根本的なところはあの頃のままだったのかもしれない。
だが、そう言われたからといって、すぐさまやり方を、考え方を変えることができるほど、衛宮切嗣は器用ではなかった。
そもそも、器用だったならもっといい選択をすることもできたのかもしれないのに。

「僕は、かつて色んなものを失ってきた。
 かつて好きだった、だけどある事故で人じゃなくなった子を殺せなかったせいで多くの人が死んだ。
 だから、それ以来僕は十を救うために多くの一を切り捨ててきた。大切な人も、親も」
「親も……?」
「ああ、守れなかった彼女を犠牲にするわけにはいかない、と。そんな思いばっかり大きくなって、気がついたら自分の手は血まみれだったさ。
 僕と彼女じゃ、生き方自体が違いすぎるんだよ」

そう呟く切嗣の瞳は、どこか遠くを見ているようで、それでいて寂しそうだった。



「キリツグがあなた達に話しかけるのを見て、そして彼のこれまでの歩みを聞いて確信できました。彼は私の知っているキリツグではない。
 しかし、それでも彼は私を見ることはなかった」

鈴羽に言ったことがある。
切嗣は、危険人物が人質を取ったとすれば、その人質ごと危険人物を排除するような男だ、と。

しかし彼は、バーナビーなる者に遭遇した際、人質のためにバーサーカーの令呪を渡したのだという。
バーサーカーの令呪と、人一人の命。言っては何だが、切嗣にとって本来ならそれは天秤にすらかからないような比較だ。
一体彼に何があったのか。
鈴羽の言ったように時を越える術があり、自分の知らない未来で何かしらの体験を経た切嗣であるというのだろうか。

そんなことを、問うことも窺い知ることも、セイバーにはできなかった。

「…今更分かり合えるとは思っていません。しかし、ああも変わったキリツグに、尚も気に留められることがないというのは、中々に堪えるものがあります」
「それが剣の迷いの理由か」

無論、千冬には二人の間にどれだけの確執があるのは分からない。
しかし、それは彼らにとって簡単に埋められるようなものではないのだろう。

「いえ、私の迷いはそれだけではないのでしょうね。
 さっきユウスケに襲いかかったバーサーカー、彼もまた、私のかつての友でした」

バーサーカーとは自身の理性を失うことで戦闘能力を引き上げるもの。
彼――ランスロットほどの英霊であるなら、バーサーカーなどにならなくても十分に戦い得る強さを持っていることは自分がよく知っている。
しかし彼は狂気のサーヴァントとして呼ばれた。
そして、あの時の彼は怨嗟の声で自分の名を呼んだ。

「私は、己のマスターのことも、かつての友のことも理解することができていなかった」

王は人の気持ちが分からない。
かつてそう言われたことを思い出す。

ああ、確かにその通りなのかもしれない。
ランスロットの気持ちも知らず、己がマスターにも見限られ。
挙句切嗣を助けようとした者へと攻撃を仕掛けたのだ。

そんな自分に、他の者が救えるというのだろうか。
そはらの時のように失うだけではないのか。

そんな負の感情ばかりが自分の中に生まれ出てくる。

「……まあ、どうせお前一人で考えさせても解決せんだろうしな。
 まあ私から言ってやれることはないが、どうせだ。少しくらいは話に付き合え」

ユウスケの前じゃ言いづらいこともあるしな、と。
そう付け加えて。

696This Illusion ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:34:12 ID:9JB.m9mM0
「そういえば、お前はボーデヴィッヒと会った、と言ったな。あいつは、どうだった?」
「ええ、戦士としてはなかなかに優秀な力量と判断力を備えていました。今は若さゆえの先走りが気になりましたが、それも経験を積んでいくことで解消されるでしょう」
「…いや、そういうことを聞いているのではないのだがな」

セイバーとラウラが交戦した、という話は既に聞いている。
殺し合いに乗っていないというセイバーが戦った、ということはおそらくラウラから襲い掛かったということだ。
生徒を信じないなど、教師失格ではあるがセシリア・オルコットの件もあり先入観からの判断は危険、と考えての推察だ。

「何者か、守りたい者がいたから戦う、と。確かにそう言っていました。
 鋭い刃のようで、しかしその心には触れれば壊れてしまいそうな脆い一面も感じたように思います」
「そうか、デュノアと共に行ったなら、無差別に他の者を襲うことはない、と思いたかったが…」

そのシャルロット・デュノアもまた、セシリアの手にかかった。
アイツは今、それに心を乱され道を誤っていないか。それが心配だった。

「…全く、自分の生徒のことだというのに、いざという時に限ってあいつらがどうしているのか全然分からないものだな」
「チフユ?」
「いや、私にも偉そうなことは言えないな。私だって、分からないことだらけだよ。
 オルコットの想いも、抱えてしまった闇も全然測れず、その結果あいつを自殺にまで追い込んでしまった。
 ボーデヴィッヒのことも、お前から話を聞くまでは全くどう動いているのかすらも想像がつかなかった」

人の気持ちなど、人には完全に測ることなどできない。
理解したつもりであっても、いざという時には悪い方にばかり、物事が進んでいく。

「いや、私は自分自身の気持ちすらも分かっていなかったものだ。
 弟が死んだということを知ったとき、自分でもどうしていいか分からず、グリードの言った言葉などに惑わされてしまった」

苦い記憶を掘り起こしたかのように表情を変える千冬。

「まあ、確かにお前は人の気持ちが判ってなかったのかもしれんな。
 私とて同じだから、そこについてどうこうは言えないだろう。
 だからこそ、言わねば分からぬこともあるんじゃないのか?」
「言わねば分からぬこと、ですか」
「ああ、彼がどんなことを考えているのかなんて分からないだろうが、それは向こうだって同じだろう。
 私は、それを言う前に失ってしまったが、お前の話す相手は、まだいるんじゃないのか?」

だからこそ、話せるときに言いたいことを伝えなければならないのだと。
彼が許せないなら、そうはっきり伝えて拒絶すればいいし。
共に行きたいのなら、そう伝えて同じ道を歩めばいい。

だがそこで黙っていては、何も変わらないのではないか。

「…………」
「などど、まあこんなロクに長生きしてきたわけでもない女の話だ。
 せいぜい話半分くらいにでも聞いておけばいいさ」
「いえ、少しは気が紛れた気がします。
 ありがとうございました」

そう言って、セイバーは教会の中へと入ろうとして。
ふと千冬はセイバーに向けて話しかけていた。

「もし迷いが無くなったなら、その時はもう一度手合わせを頼めるか?
 自分でも迷いだらけの相手に負けたとは思いたくないのでな」
「いいでしょう。ですが、私も負けませんよ」
「何、今度こそ1本くらいは取ってみせるさ」



697This Illusion ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:35:38 ID:9JB.m9mM0

「切嗣さん、だったら尚更、セイバーちゃんとは話すべきじゃないですか?」

ユウスケは、切嗣の目を見据えてはっきりとそう言った。

「言っただろう、今更セイバーと話すことなんてないと」
「そうやって考えることも受け入れることも止めていて、切嗣さんは本当に守りたいものを守れるんですか?!」
「――――君に何が分かる」

その声には、切嗣の怒りにも似た感情が篭っていたようにも感じられた。
しかし、ユウスケは引かない。

「大体、あれはいずれ使い捨てなければならない。そういう存在なんだ。
 そんなものに思い入れを持つ必要など、ない」
「そんな…」
「第一、僕がどうしようと君には関係ないだろう。何故そこまで僕に干渉する」

切嗣には不可解だった。
この青年が、何故こうも自分達の関係に口を出すのか。
彼には全く関係ないはずなのに。

「だって、切嗣さん辛そうじゃないですか。まるで何かに耐えてるみたいで。
 俺は、他の人がそんな顔をしてるのなんて見たくない。
 俺は、皆の笑顔を守るために戦っているんですから…!」
「笑顔を…守る…?」


「俺も、かつて守りたかった人を守れませんでした。
 その人のためなら、どんなにも強くなれる、と。そう思ってたのに。一番守りたかった人を、守ることができなかった。
 でも、その人は最後にこう言ったんです」

『私の笑顔のために戦ってあんなに強いなら、 世界中の人の笑顔のためだったら貴方はもっと強くなれる』

だからこそ。
誰も大切なものを失うことがないように。皆が笑顔でいられるように。
例え自分ひとりが闇に落ちることがあっても、誰かを笑顔にしたいと。

その時心に誓ったのだ、と。

「だから、俺は切嗣さんにも、セイバーちゃんにも、俺は笑顔でいて欲しいんです」
「笑顔…か。それは、僕には守ることができなかったな」

自分には、命でしか人を数えることができなかった。
1と10を秤においたとき、迷わず1を選ぶ。その一が、どのような人間だろうと。たとえ自分の大切な存在であっても。

しかし彼はきっと違うのだろう。
1と10を選べと言われたとき、きっと彼は迷わずその両方を選ぶ。11を助けようとする。
その代償に、自分の命が天秤にかけられたとしても。

だが、彼はきっと後悔しないのだろう。
彼は11の笑顔を守れたのだから。

698This Illusion ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:42:06 ID:9JB.m9mM0
自分にはきっと選べない。

どうしてだろうか。
全てを救う正義の味方などいないと、そう思っていたはずなのに。
自分の手の届くものは、それだけは全てを守ろうとする目の前の青年が、まるで正義の味方のように思えてきた。

だからこそ、これは聞いておきたかった。

「じゃあ、君は一人で皆のために戦って、辛いと感じたことはなかったのかい?
 もしかしたら命ある限り終わることのないかもしれない戦いを、一人続けていくことが」
「確かに一人だったら、俺もどうなってたか分かりません。
 でも、俺には皆が、一緒に戦ってくれる仲間がいました」

ワタルがいて。
剣立カズマがいて。
芦河ショウイチが、八代淘子さんがいて。
ヒビキさんが、アスム君がいて。

光写真館のみんなが、海東大樹が。

そして。

――――コイツが人の笑顔を守るなら… 俺はコイツの笑顔を守る!

そう言ってくれた優しき通りすがりの仮面ライダーもいた。

そして今は、千冬さんがいて、セイバーちゃんや切嗣さんもいる。
できることなら、士の笑顔も守りたい。

「…………」
「仲間…か。僕にとって、仲間はいずれその時が来たら殺さなくてはならないものでしかなかった。
 君のように、心を通わせて共に戦う仲間なんて、作ろうとは思えなかった」
「なら、今から作っていきましょうよ。今の切嗣さんならきっとできるはずです。
 世界は、そんなに悪いことばっかりじゃないんですから」

距離を置くことなく、相手を共に戦う仲間だと受け入れる。
己一人で全てを背負うのではなく、天秤にかけるべきものでもなく。

自分の命を預けるものとして。

「僕に、できるだろうか?」
「できますよ、セイバーちゃんだって、あんなに気にしてくれてるんですから」

そう言ってユウスケは、右手の親指を上に向けて立てた。
その時彼の浮かべた笑みは、不思議と美しいものに感じた。


これまでに守れなかったものを守るためにやり直す。それもいいかもしれないと、そう思った。
かつて助けられたことで自分の心を救った、息子のように。




思えば、何故セイバーをあそこまで拒絶したのか。

彼女の有り方が受け入れられない。確かにその通りだ。
彼女とは考え方が違いすぎる。それも大きい。

だが違う。
本当の理由、それは彼女の有り方に大きな憤りを感じてしまった自分を受け入れるわけにはいかなかったのだ。
彼女が伝承通りの男であれば、事務的なものであれ、受け入れることはなくても最低限、必要に応じた会話はしただろう。
今更アーサー王のあり方に思うところなどないのだから。いずれ切り捨てるときが来ても、何も感じないはずだ。

しかし、彼女は女、それも、まだ少女のような外見であった。
そして、そんな彼女を王に祀り上げたアルトリアの環境に大きな憤りを感じてしまった。
それは決して抱いてはいけない感情。そんな思いが自分の中にあることを認めれば、自分はきっとセイバーを駒として見ることができなくなる。
アイリや舞弥に対して想いを抱いてしまった自分に、さらにそんなものを背負うことはできなかったから。

だから、彼女との意思疎通を、相互理解を完全に拒絶することでその思いを封じ込めた。

699This Illusion ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:45:24 ID:9JB.m9mM0
では、今の自分にその関心は、決して受け入れられないものなのだろうか。

「キリツグ」

セイバーが部屋に入ってきた。
自分の名前を呼んではいるが、その声色は返事を期待しているようには感じられなかった。

それでも話しかけた。そうまでして言いたいことがあったのだろう。

「私にはあなたの生き方は理解し得ないだろうと思っています。それはキリツグとて同じでしょう。
 しかし、理解はできずともあなたの力となることはできるはずだ。力なき者を守り、この殺し合いを打破する力となることは」

その通りだ。
僕は英雄が嫌いだ。戦いを肯定し、人々の命を失わせるその概念が。
しかしそれ以上に、今の僕はこの殺し合いというものが許せない。

「ああ、そうだな」
「――――!」
「僕には、君のあり方を理解することはできないし、納得もできない。君の生き方を受け入れるなど、もっての他だ。
 だけど、――――――その剣の腕は、あてにさせてもらいたい。だから」


「マスターとして衛宮切嗣が命じる。セイバー、この殺し合いを終わらせるために、その力を貸してほしい」

それは、令呪を介したものではない。命じると言っても、実質懇願にすぎない。
だから強制力などない。セイバーが嫌といえば、拒否することもできる。その程度のものだ。

「――――――」

セイバーは、そんな自分を驚いた顔で見て。
しかし次の一瞬で顔を引き締め。

「―――それは、私とて同じだ。かつてランサーに対して行ったことは決して忘れはしない。
 それでも、あなたが弱き者を守りこの殺し合いを終わらせるというのなら、私も貴方の剣となろう」
「ああ、頼んだよ。セイバー」

それが、セイバーにとっては聖杯戦争始まって初めての、切嗣にとっては聖杯戦争後数年越しの。

一組の主従の、初めての会話だった。

【一日目 真夜中】
【B-4 言峰教会】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(大)、貧血、全身打撲(軽度)、背骨・顎部・鼻骨の骨折(軽)(現在治癒中)、片目視力低下(いずれもアヴァロンの効果で回復中)、牧瀬紅莉栖への罪悪感、強い決意
【首輪】25枚(消費中):0枚
【コア】サイ(一定時間使用不可) タコ(一定時間使用不可)
【装備】アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
1.偽物の冬木市を調査する。 それに併行して本当の意味での“仲間”となる人物を探す。
2.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
4.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とグリード達を警戒する。
6.セイバーはもう拒絶する必要はない?
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。
※顎部の骨折により話せません。生命維持に必要な部分から回復するため、顎部の回復はとくに最後の方になるかと思われます。
 四肢をはじめとした大まかな骨折部分、大まかな出血部の回復・止血→血液の精製→片目の視力回復→顎部 という十番が妥当かと。
 また、骨折はその殆どが複雑骨折で、骨折部から血液を浪費し続けているため、回復にはかなりの時間とメダルを消費します。
※意識を取り戻す程に回復しましたが、少しでも無理な動きをすれば傷口が開きます。

700This Illusion ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:46:21 ID:9JB.m9mM0
【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(大)、今後の未来への若干の不安、精神疲労(中)
【首輪】5枚:0枚
【コア】ライオン(放送まで使用不能)
【装備】折れた戟(王の財宝内の宝具の一つ)@Fate/zero
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
 1.衛宮切嗣に力を貸す。彼との確執はこの際保留にする
 2.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
 3.バーサーカーを警戒。
 4.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。また、己の迷いを吹っ切ったら千冬と再度手合わせをする。
 5.ランスロット……。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。
※鈴羽からタイムマシンについての大まかな概要を聞きました。深く理解はしていませんが、切嗣が自分の知る切嗣でない可能性には気付いています。
※バーサーカーの素顔は見ていませんが、鎧姿とアロンダイトからほぼ真名を確信しています。


【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】0枚:0枚
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
1.これからどうしよう?
2.罪のない人が死ぬのはもう嫌だ。
3.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
4.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
5.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
6. セイバーはもう大丈夫かな?
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(中)、精神疲労(中)、胸部に軽い裂傷
【首輪】10枚:0枚
【コア】クワガタ:1 (次回放送まで使用不能)
【装備】なし
【道具】スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
 1.まずはどうするか考える。
 2.千冬さんとみんなを守る。仮面ライダークウガとして戦う。
 3.井坂深紅郎、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 4.“赤の金のクウガ”の力を会得したい。
 5.士とは戦いたくない。しかし最悪の場合は士とも戦うしかない。
 6.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。

【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(中)、疲労(中)、左腕に火傷、深い悲しみ
【首輪】10枚:0枚
【装備】白式@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品 、シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木に制裁する。
 1.鳳、ボーデヴィッヒと合流したい。
 2.一夏の……偽物?
 3.井坂深紅郎、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 4.小野寺は一夏に似ている。
  5.セイバーが迷いを吹っ切ったら再戦したい。
【備考】
※参戦時期不明
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。

※教会メンバーは一通りの情報交換を終えました

701 ◆2kaleidoSM:2014/01/22(水) 00:47:17 ID:9JB.m9mM0
投下終了します
おかしなところなどあれば指摘お願いします

702名無しさん:2014/01/22(水) 01:31:29 ID:gYAniZK20
投下乙です。

とうとうセイバーと切継が仲直り!!こんな展開は未来永劫ないぞ!

704名無しさん:2014/01/22(水) 15:43:52 ID:fUJmh0U20
投下乙です

キリツグの参戦時期からして型破りだったからなあ
そしてまだ少しぎくしゃくしてるがセイバーとの和解とか今まで何人のフェイトファンが夢想しただろうか?
それが今、例え今後の展開次第でまた壊れる事があるとしても、和解するとかすげえぞお
今までの不安の雲が晴れる様な対主催チームの誕生だ

705名無しさん:2014/01/22(水) 20:14:33 ID:HbTBEKco0
投下乙です

ついに切嗣とセイバーの対話が実現したか
相手の考えを完全に認めたというわけではなく、しかし共通の目的のために歩み寄るというのは「らしい」感じ
他のメンバーもそれぞれ二人の潤滑油となっていたり思いをぶつけあったりと見せ場が用意されていて嬉しい
メダル消費があるとはいえ、結構な頼もしさのある集まりだなあ

706名無しさん:2014/01/23(木) 00:34:44 ID:B00Oznfw0
投下乙!
ありえなかった「もしも」がかなうのもパロロワの醍醐味!

707名無しさん:2014/01/27(月) 22:12:57 ID:8Mdb0Z6I0
遅れながら投下乙です。
切嗣がなぜセイバーを避けたのか、その心理まで掘り下げて、これまでの溝を埋めきれない二人を新たな仲間達が引き合わせる。
この切嗣なら、きっとセイバーとの対話を見られるだろう、という夢を叶えて貰えてずっと読んできた身としては感慨深いです。
改めて傑作乙でした。

話は変わっちゃいますが、予約きてるゥ!

708名無しさん:2014/01/29(水) 09:43:01 ID:CRlFpEE20
泣けた…良い話です。

709名無しさん:2014/02/02(日) 19:35:41 ID:SRJszv1s0
予約破棄か……残念

710名無しさん:2014/02/24(月) 16:20:19 ID:sbdJtBms0
再予約キター

711 ◆qp1M9UH9gw:2014/03/03(月) 02:47:56 ID:KgIpH9sE0
投下します

712死【ろすと】 ◆qp1M9UH9gw:2014/03/03(月) 02:49:38 ID:KgIpH9sE0

【1】


 月の綺麗な夜だった。
 ノイズのかからない視界から見る世界は、相も変わらず美しい。
 他の同行者達が居る民家の外周で、一人星を眺めていたアンクは、夜空の星々にそんな感想を抱いた。
 見張りをするという名目で民家を出たが、当然そんな気配りだけが目的ではない。
 今はとにかく、しばらくの間一人でいたい気分だったのだ。
 夜風を浴びながらアンクが考え込むのは、同行者――桂木弥子の死の件だった。

 もし帰ってきた自分を目にしたら、あのお人好しはきっと心配するのだろう。
 アポロガイストはどうなったかなどと問う前に、まず怪我は痛まないかと聞いてくるに違いない。
 会って数時間程度しか経ってないが、弥子がそういう人間である事くらい把握できていた。
 そして、それが必ず起こるやり取りなのだと、自分はそう想定していたのだろう。
 そう思い込んでいたのだ――既に事切れた弥子の姿を目にする、その瞬間までは。
 自分が目を離している内に、いつの間にか彼女は死んでいた。
 目立った外傷が見当たらないせいで、一時はまだ生きているのではないかと錯覚しそうになるが、どれだけ呼んでも返事が来ない事が、桂木弥子の死の証明となっていた。
 その代わりと言わんばかりに、死人だった筈の男が――脳噛ネウロが呼吸をしていた。
 弥子が絶大な信頼を寄せていた彼が、どういう訳か蘇生していたのである。
 それを目にした瞬間、アンクは直感的に悟ってしまったのだ。
 弥子もまた、仮面ライダー達と同様に自分の命を代価にしてしまった事に。

(……気に喰わねえ)

 人は死ぬ。命ある者は決して死から逃れられない。
 どれだけ寿命を延ばそうが、その身に命が存在する限り、死の概念も同時に存在し続ける。
 その一方で、グリードであるアンクには死の概念というものが無い。
 意識を持っただけのメダルが、命を持たない存在が、どうして死ぬ事が出来ようか。
 例え意識を内包したコアメダルが砕けたとしても、それは一つの物体が壊れてしまっただけに過ぎないのだ。
 死なないという事実は、生に固執し続ける者にさぞ羨望の眼差しで視られる事だろう。
 だが、アンクはそれに対し優越感を抱いた事など一度として無い。
 彼にとっては、自分が命無きモノである事は卑下すべき要素なのである。

 アンクが求めているのは、命。

 生きとし生ける全ての存在が持って当たり前のものを、彼は求めてやまない。
 歪んだ五感を持たない、純粋に目の前にある欲望を満たせる命が欲しい。
 ただのモノとしてではなく、一個の生命として存在していきたい――それこそが、アンクの欲望。
 それが欲望であるが故に、彼は仮面ライダーに怒りを覚えたのだ。
 自分が求めるものを簡単に放り投げ、それを正当化している彼らの生き方が許せない。
 それの価値がどれほどのものか知っている癖に、どうして容易く投げ捨てられる。
 例え相応の理由があったとしても、命を捨て去る彼等を許容出来る程、アンクは寛大ではなかった。
 そしてそれは、弥子とて同じ事。彼女もまた、仮面ライダー達と同様に自分の命を投げ捨てた。 
 アンクにはそれが、どうしても許せない。

 気に喰わない事はもう一つ――弥子の亡骸の表情が笑みを見せていた事だ。
 これから死に行くというのに、彼女は何故か微笑んでいたのである。
 もう一人のアンクと戦って死んだ男も、満足しきった表情で死んでいたか。
 命を奪われる事がどういう意味なのか、それを知らない彼等ではあるまい。
 それなのに、どうしてそんな幸せそうに笑っていられるのだ。命を落とすという事が幸福に繋がるとでも言いたいのか。

 募る苛立ちは舌打ちとなり、外界へ放出される。
 それでもなお、この感情は収まる気配を見せようとしない。
 胸の内側から滲み出る不快感は、いつまで燻るつもりなのだろうか。

713死【ろすと】 ◆qp1M9UH9gw:2014/03/03(月) 02:51:05 ID:KgIpH9sE0

 そんな時であった。
 アンクの目の前に、突如としてアイスキャンディーが出現した。
 正式には、何者かが横からアイスを彼の目の前に突き出したと言うべきか。
 視線を横へ向けると、そこにはレザージャケットの男が立っていた。
 ネウロの傷を治療していた美樹さやかの同行者で、大道克己という名の男である。

「何の用だ」
「俺も夜風を浴びたくなってな」

 食うかと言わんばかりに見せつけられたアイスキャンディーをふんだくる。
 恐らくは民家の冷凍庫から持ってきたのだろうが、再び自分の好物にありつけるとは、面白い偶然もあったものだ。
 口にしたアイスキャンディーは、何だかいつもより冷たく感じられた。

「ネウロが目覚めたぞ」
「それがどうしたってんだ」
「話してみてもいいんじゃないか?お仲間の知り合いだったんだろ」

 アンクが弥子の元に戻ったのとほぼ同時に、ネウロは再び意識を闇に沈めてしまった。
 今克己達が民家にいるのも、気絶したネウロと弥子の遺体を安全な場所に安置する為である。
 三人でとりあえず情報交換を行った後、アンクが見張り番を引き受け現在に至ったのだ。

「……それよりメダルだ。俺がアイツに渡したメダルを返せ」

 そう言われると、克己は色彩を失ったコアメダルをアンクに差し出した。
 カンガルーが彫られたそれは、元々アンクが取り込んでいたものである。
 ネウロの回復に必要なのだとさやかに懇願され、仕方なく渡していたのだ。

 それから少しの間、会話が交わされない時間が続く。
 克己の手にはアイスキャンディーが握られていたが、彼はそれを食べようとする素振りを見せない。
 黙って何をするつもりなのだとアンクが疑問を抱いた矢先、克己が問いを投げかけてきた。

「……あの娘の事、引き摺ってるのか」
「引き摺ってねえ」

 アンクの即答に対し、克己は苦笑いを浮かべる。
 相手の見透かした様な態度に、アンクは僅かに目を細めた。

「あいつが自分の意思で命投げたんだ。俺の知った事じゃねえ」

 不愉快ではあるが、あくまで弥子自身が選んだ結末だ。
 その不満を他人にぶつけるなんて、そんな醜い真似をするつもりはない。

714死【ろすと】 ◆qp1M9UH9gw:2014/03/03(月) 02:54:51 ID:KgIpH9sE0

「随分な言い様だな。何がそこまで気に喰わないんだ?」
「お前には関係の無い話だろ。他人の事情に首突っ込んでくるな」

 アンクが取った辛辣な態度に、克己は小さく溜息をついた。
 呆れられている様だが、余計な詮索を避ける為には仕方ない行動である。
 これ以上苛立ちの種を増やせば、いつそれらが爆発するか分かったものではない。

「お前が何も言わない以上、俺から言える事も無い……。
 だがな、誰かの為に命を張った奴の気持ち。もう少し考えてやってもいいんじゃないか?」

 これが返答だと言わんばかりに、アンクは不機嫌そうに眉を顰めた。
 克己の方も察したのか、まだ手をつけてなかったアイスを彼に渡すと、民家の中へ戻っていく。
 食べる気が無いのなら、最初から渡しておけばよかったものを。
 そう心中で毒づきながら、時間経過で少し柔らかくなったアイスを頬張った。

(俺はまだ何も満たせちゃいない……ここで消える訳にはいかないんだよ)

 この先何が起こったとしても、自分の目標は変わりはしない。
 映司と全ての決着を付けた上で、元の世界に帰還するのが自身の行動方針。
 その為ならば、あらゆる犠牲を払ったとしても構わない。
 その為ならば、克己達を騙すという手段も選ぶだろう。
 その為ならば、弥子の様なお人好しだって、この手にかける覚悟が――――。

『なあ、アイスもっとくれよ』
『ふざけるな、もう十本やっただろ。何本食う気だ』
『そーだそーだ、私なんて一本しか貰ってないのに!』

 脳裏を駆けたのは、杏子が「箱」にされる前の記憶。
 まだ弥子も含めて三人で行動していた頃の、些細なやり取り。

「……馬鹿馬鹿しい」

 今更になって、どうしてあのどうでもいい会話を思い出すのだ。
 単なる記憶の一ページでは、何の感慨も抱けはしないというのに。
 まさか、克己の言う通り、弥子達の死を引き摺っているとでも言いたいのか。
 それこそ馬鹿げた話だ。いくらお人好しの輪に囲まれていたとしても、そこまで毒されているものか。
 そう思って、己の無意識を蔑みの言葉で否定したとしても。
 何故なのだろうか――居心地の悪さは、未だに燻り続けていた。

715死【ろすと】 ◆qp1M9UH9gw:2014/03/03(月) 02:55:44 ID:KgIpH9sE0

【2】


 二階の寝室のベッドに横たわる少女は、一見すればただ眠っている様にしか見えない。
 傷一つ無いその顔を見れば、いずれは瞼を開けるのだろうと錯覚しそうになってしまう。
 だが、少女の――桂木弥子の瞳が開かれる瞬間は、もう永遠に来ないだろう。
 命を落とした人間が、自分の意思で動く事などあり得ないのだから。 

 亡骸が安置されたベッドのすぐ横に、美樹さやかはいた。
 頭を垂れるその姿は、まるで弥子に赦しを乞いている様である。
 事実、さやかの心中は彼女に対する罪の意識で一杯になっている。
 救えなかったという事実は、想像以上に彼女の重荷と化していた。
 自分達がもう少し早く現場に駆けつけれていれば、弥子は死なずに済んだかもしれない。
 その可能性が僅かなものであったとしても、可能性があったという事実は変わらない訳で。
 絶対に救えなかった命と、もしかしたら救えたかもしれない命では、重圧が段違いで。
 考えれば考える程、"もしも"の話が頭を過って仕方がないのであった。

 もう人が死んでしまったという事実は、さやかとて認識している。
 真木からの放送で、親友の仁美を含めた十数人が亡くなっているのは承知の上だ。
 しかし、さやか自身が死体をはっきりと直視するのは、これが初めてだった。
 目の前の遺体は、見ただけではとてもじゃないが死んでいるとは思えない。
 触れた際の冷たさを感じて初めて、もう弥子の命は消えている事を思い知るのである。
 それだけではない。これから先何度さやかが話しかけようが、この娘は返事をしないのだ。
 何十回、何百回、何千回、数えきれない程名前を呼んでも、もう一人でに唇が開く事は無い。
 家族が呼んでも、恋人が呼んでも、親友が呼んでも、相棒が呼んでも、ずっと黙ったきり。
 もう桂木弥子という少女は永遠に還らない――それが、"死ぬ"という事なのだ。

 甘く見ていた。
 今にして思えば、これまでの自分は"死"に対する覚悟が足りてなかったのだ。
 放送から立ち直るのが早かったのも、きっとそこに理由があったのだろう。
 自分の中で"死"というものが未だに漠然としていて、明確なイメージを持てていなかった。
 頭では理解できていても、心では理解できていなかったのである。
 すぐ目の前に提示された"死"に触れてみて、初めてそれが分かった。

 眼で見ればこんなにも近い距離なのに、その僅かな間には永遠に近い隔たりがある。
 自分がこの地で呼吸をしている間は、1ミリもこの距離を埋める事はできない。
 それこそが"死"だ。そうでなければ"死"とは言えない。

 立ち上がり、弥子が眠る部屋を出る。
 此処でずっと考え事に耽っていては、これまで以上に落ち込んでしまいそうだ。
 主催の掌の上にいる今、意気消沈して自分から心を折ってしまっては元も子もない。
 それに、同じ屋根の下には弥子の知り合いである男――脳噛ネウロもいるのだ。
 ほとんど関わりのない自分よりも、彼女の死は大きく響いている筈である。
 そんな彼がいる横で、いつまでも項垂れている訳にはいかない。

716死【ろすと】 ◆qp1M9UH9gw:2014/03/03(月) 02:57:44 ID:KgIpH9sE0

 とりあえず場所を移そうと、一階のリビングに足を進める。
 リビングにそれといった用事はなく、単なる気分転換程度のつもりだった。
 が、いざ一階に降りて来た所で、さやかは異変に気付く。
 リビングから騒がしい音が聞こえてくるのだ。知らない者の声さえ耳に入ってきている。
 謎めいた怪異を前に、自然と彼女の警戒心は強まっていく。

 そうして辿り着いたリビングで待ち受けていたのは、化物の群れであった。
 決して比喩ではない。魔物同士が狭いリビングの中で殺し合っているのだ。
 そしてその殺し合いの渦中にて、椅子に座る男が一人。
 弥子の知り合いである男は、昔を懐かしむ様な表情で魔物共の戦いを傍観していた。

「……へ?」

 間抜けな声は、男に丸聞こえであった。


       O       O       O       


「えっ……えっと……何、これ……!?」
「魔界777能力――『禁断の退屈(イビルステーション)』。単なるゲーム機だ、警戒しなくてもいい」

 ゲーム機だと言われても、それで安心できる程さやかは呑気ではない。
 そもそも、今繰り広げられる地獄絵図のどこにゲームの要素があるのか。
 当のネウロ本人は特に操作をしている訳でもないし、一体どういうルールでこのゲームは進んでいるのだ。
 そんな事を考えている間にも、すぐ隣にいた魔物が刃物で刺されて倒れた。

「実に懐かしい光景だ。昔を思い出す」
「な、懐かしいって……これ日常風景だったの?」

 もしこれが日常茶飯事だとすれば、魔界は修羅すら震え上がる様な地獄ではないか。
 そんな魔界の光景を悠々と眺めているこの男は、もしかして魔界でも名の知れた者なのかもしれない。
 魔界からやって来た謎を食う魔人――脳噛ネウロ。
 アンクが弥子から聞いた話によれば、圧倒的な力を持つ最凶のドSらしい。
 そして桂木弥子は、どういう訳かこの魔人と繋がりを持っていた。

「飽きた。貴様の方も、もう少し良い反応を期待したのだがな」

 何が気に喰わなかったのか定かではないが、ネウロはつまらなそうにそう呟いた。
 膝に置いた「禁断の退屈」のスイッチを切ると、部屋中にいた魔物の群れも一斉に消失する。
 騒がしい魔物が一掃され、リビングはしばしの間静寂を取り戻す。

「吾輩の身を案じているのか」

 先に口を開いたのは、ネウロの方だった。
 さやかは彼を心配しているから、その問いには首を縦に振るべきなのだろう。
 だが、ネウロは彼女の返答を求めていないようで、そのまま口を動かし続ける。

717死【ろすと】 ◆qp1M9UH9gw:2014/03/03(月) 03:01:26 ID:KgIpH9sE0

「……確かに、ヤコの死の責任の大部分は吾輩にある」

 その場に居合わせたアンク曰く、弥子は自分の身を犠牲にしてネウロを助けたらしい。
 どうすればそんな真似ができるのかを知る由は無いが、そこは今はそこを重要視する時ではない。
 焦点を当てるべきなのは、ネウロの代わりの弥子が死んだという点なのだから。

「今回ばかりは、完膚無きまでの"敗北"だ。完全に吾輩の負けだ」

 文字通り、ネウロは全てを喪った。
 プライドをウヴァによって破壊され、相方は自分の為に命を捧げた。
 一度死を迎えた事でメダルも底を尽き、挙句の果てにインキュベーターにさえ見捨てられる。
 それを敗北と言わずして、何と言えばいいのか。

「負けたって……それじゃあもう」
「何を勘違いしている。"今回は敗北した"と言った筈だ。
 本来なら一度の敗北も許されんが……まあいい、次に勝てばいいだけの話だ」

 さやかの予測に反して、ネウロは落ち込んでなどいなかった。
 それどころか、既に今後の展望を考えようとさえしていたのである。
 ネウロの意思の強さに感心させられるが、同時に弥子の死をあまり重大視していない様で。
 さやかにはそれが、彼女に対し失礼ではないかと思えてしまう。

「弥子さんが死んじゃって、悲しいと思わないの?」
「……吾輩は人の身ではないのでな。生憎とそういう感情には疎いのだ」

 ネウロは人間を超越している事は、アンク――弥子の話から知ったらしい――から既に聞かされている。
 切断された筈の左腕が接合され、さやかの目の前で動いているのがその証拠だ。
 NEVERでも魔法少女でもない純正の人外には、人間の価値観は通用しないのだろうか。

「勘違いするな。悲壮感とは異なるが、吾輩とてヤコの死に思う事はある。
 ……いや、ヤコだけではない。貴様ら人間には一人残らず価値があるのだ。
 その価値を理解せずに養殖の"謎"の餌にする真木達には……吾輩なりの"おもてなし"をしてやらねばな」

 ネウロはそう言って口元を歪めてみせたが、さやかには彼が笑っている様には見えなかった。
 単なるサディストの台詞にしか聞こえないそれが、彼女には違った意味を持つ様に聞こえたのである。
 言葉の裏に隠れている感情は、悲しみでも愉悦でもなく、きっと怒りだ。
 この魔人は殺し合いに乗った連中どころか、この殺し合いを開いた真木達にさえ怒りを示している。
 その感情はある意味で、ネウロの弥子に対する評価を分かりやすく表現していた。
 弥子にとってネウロがそうであった様に、彼もまた弥子に信頼を寄せていたのだろう。

「ところで、吾輩からも聞きたいのだが……貴様、ヤコに負い目を感じているな」

 心臓が一度、大きく跳ね上がった。
 人間の感情をそれほど理解していないネウロにさえ、見透かされてしまったというのか。
 それほどまでに、自分の今の状態は分かりやすいものだったのだろうか。
 首を軽く縦に振り、その憶測は間違っていない事を示した。

718死【ろすと】 ◆qp1M9UH9gw:2014/03/03(月) 03:08:16 ID:KgIpH9sE0


 負い目を感じているに決まっている。
 つい先程まで、それで弥子の亡骸の前で悔んでいたくらいだ。
 どれだけ妥協しようとも、やはり悔しいものは悔しいのである。

「悔しくない訳ないよ。もしかしたら助けれたかもしれないのに……」
「……そうか」


「――貴様と似た様な台詞、ヤコも言いそうなものだ」


 たった一言呟いた、ネウロのその言葉に。
 さやかは初めて、無意識の内に滲み出たであろう悲しみを読み取った気がした。
 超然とした態度を取っていても、その身は弥子の喪失の影響を受けている。
 その瞬間だけは、魔人がただの人間にさえ見えてしまった。

「まあいい。そう思うのなら、失敗しない為の工夫を怠るな。そうする事で人間は進化してきたのだからな」

 ただそれだけ言い残すと、ネウロはリビングを後にした。
 去り行く彼の背中を、さやかはじっと見つめている。
 ぼろぼろのスーツを着た彼の後ろ姿に、一抹の人間らしさを覚えながら。






【一日目 夜】
【E-4 住宅地】

【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感
【首輪】130枚:0枚
【コア】タカ(感情A)、クジャク:1、コンドル:2、カンガルー:1(放送まで使用不可)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
    大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。その後、赤陣営を優勝させる。
 1.優勝はするつもりだが、殺し合いにはやや否定的。
 2.もう一人のアンクのメダルを回収する。
 3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
【備考】
※本編第45話、他のグリード達にメダルを与えた直後からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て「泉信吾の肉体」に取り込んでいます。

【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】15枚:0枚
【コア】ワニ
【装備】T2エターナルメモリ+ロストドライバー+T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW、
【道具】基本支給品、NEVERのレザージャケット×?−3@仮面ライダーW 、カンドロイド数種@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
 1.さやかが欲しい。その為にも心身ともに鍛えてやる。
 2.T2を任せられる程にさやかが心身共に強くなったなら、ユニコーンのメモリを返してやる。
 3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡す訳にはいかない。
 4.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
 5.園咲冴子はいつか潰す。
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピア・ドーパント撃破直後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※仮面ライダーという名をライダーベルト(ガタック)の説明書から知りました。ただしエターナルが仮面ライダーかどうかは分かっていません。
※魔法少女に関する知識を得ました。
※さやかの事を気に掛けています。
※加頭順の名前を知りません。ただ姿を見たり、声を聞けば分かります。
※制限については第81話の「Kの戦い/閉ざされる理想郷」に続く四連作を参照。

719死【ろすと】 ◆qp1M9UH9gw:2014/03/03(月) 03:09:48 ID:KgIpH9sE0

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】10枚:0枚
【コア】シャチ(放送まで使用不可)
【装備】ソウルジェム(さやか)@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW、ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
 1.克己と協力して悪を倒してゆく。
 2.克己やガタックゼクターが教えてくれた正義を忘れない。
 3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
 4.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
 5.マミさんと共に戦いたい。まどかは遭遇次第保護。
 6.暁美ほむらや佐倉杏子とは戦わなければならない。
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのか、また濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVERに関する知識を得ました。

【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(大)、疲労(極大)、右肩に銃創、右手の平に傷、悲しみ?
【首輪】50枚:0枚
【コア】コンドル:1(放送まで使用不可)
【装備】魔界777ツ能力@魔人探偵脳噛ネウロ、魔帝7ツ兵器@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす。
 1.これからの事を考える。
※DR戦後からの参戦。
※ノブナガ、キュゥべえと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
 現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」を使用しました。
※制限に関しては第84話の「絞【ちっそく】」を参照。

720 ◆qp1M9UH9gw:2014/03/03(月) 03:10:57 ID:KgIpH9sE0
投下終了です。弥子の支給品の記入を忘れていたので、wiki収録の際に修正しておきます

721名無しさん:2014/03/03(月) 14:04:43 ID:h0FQjoRg0
投下乙です
参戦時期が絶妙だから色々アンクは切ないな
弥子や杏子(厳密にはまだ死んでないけど)の分も原作みたいに「生きて」欲しいが...?
後まださやかが杏子に対して敵意を持ってるのも少し怖いかも

722名無しさん:2014/03/03(月) 14:52:21 ID:eJrDodAE0
投下乙です

三人の今の状態をよく書けてるなあ
ここにきてアンクとさやかの参戦時期が重要になってきた感じだなあ
ネウロもとりあえずは落ち着いたかな? 小康状態なだけかもしれないが

723名無しさん:2014/03/03(月) 19:55:33 ID:Q8bge8Fg0
そういえば杏子のソウルジェムっていまは誰が持ってるんだ?

724名無しさん:2014/03/03(月) 19:56:12 ID:Q8bge8Fg0
ってああ、弥子が持ってたのか。

725名無しさん:2014/03/03(月) 21:53:41 ID:iGnr5tG2O
投下乙です。

次の問題は、さやかが杏子を回復してくれるかかな。

726名無しさん:2014/03/03(月) 22:03:37 ID:YqYkIqGk0
投下乙です
さやかが弥子のようなキレの良いツッコミをしてくれないで凹むネウロが切ない……

727名無しさん:2014/03/03(月) 22:06:52 ID:zoIj4.dIO
>>725
ぶっちゃけ正義の基準がマミさんから克己ちゃんに変わっただけだし敵視したまんまならしない気が…まあアンクの伝え方次第か

728名無しさん:2014/03/04(火) 01:29:41 ID:U4jrCwxc0
投下乙です
いいなあ、こういうほろ苦い雰囲気の話
各々の噛み締めた喪失感がどんな進路に繋がるか楽しみ

729名無しさん:2014/03/04(火) 23:11:33 ID:bQFFdYhQ0
投下乙です
それぞれの内面について、曖昧に濁さず
しかし詳しく踏み込みすぎずな距離感の心理描写がしんみりときました

730 ◆qp1M9UH9gw:2014/03/06(木) 03:19:22 ID:0nvzOrKw0
状態表に間違いがあったので訂正を。
時間帯が【一日目 夜】と表記されていますが、正しくは【一日目 夜中】です。

731名無しさん:2014/04/01(火) 02:28:48 ID:VAX0qxlE0
wikiがニーサンに乗っ取られたww

732名無しさん:2014/04/01(火) 12:41:42 ID:8XNHcnLg0
ニーサンwww

733名無しさん:2014/04/02(水) 19:44:39 ID:J9XfR0kg0
4月馬鹿ネタは笑わせてもらったわw

734名無しさん:2014/04/02(水) 23:32:47 ID:qfT1Y2cg0
唐突な全裸AUOで大草原不可避

735名無しさん:2014/04/07(月) 22:12:44 ID:9ELU1kkk0
予約キター

736名無しさん:2014/04/07(月) 22:57:16 ID:IyAvkTgE0
あのパートの予約がきたか!もやし達まで来るとかどうなるんだw

737名無しさん:2014/04/12(土) 23:45:26 ID:OZXvz2.Y0
破棄だが新しい予約も来てる

738 ◆qp1M9UH9gw:2014/04/17(木) 03:10:30 ID:H637yrtw0
投下します

739さらばアポロガイスト!男の涙は一つだけ! ◆qp1M9UH9gw:2014/04/17(木) 03:13:10 ID:H637yrtw0

【1】


 ふと気付けば、ガイの視界は黒一色に染まっていた。
 漆黒が四方を取り囲む空間の中で、彼は一人立ち尽くしていたのだ。
 あらゆる方向を向いてみても、ガイの景色に黒以外の色が混ざる事は無い。
 此処は何処なのか。何が原因でこんな場所に飛ばされたのか。
 置かされた状況にひどく困惑した直後、ガイが背後から感じ取ったのは他者の気配。
 弾かれたように振り返ってみれば、そこにいたのは彼の同僚であった。
 明かりの無い空間にも関わらず、ガイは死神博士の相貌をはっきりと確認できた。

『残念だ、アポロガイストよ』

 悲しげにそう呟いてみせた死神博士を、ガイは訝しげに見つめる。
 一体何が"残念"なのかと問い詰めようとした所で、急激に視界がぐらついた。
 地震でも起きたのか錯覚する程に眩暈は酷いもので、思わずその場に座り込んでしまう。

『まさかパーフェクターを破壊されてしまうとはな……あれ無しではお前は生きてけまい』
『我ら大ショッカーの技術を用いても、あれを復元するのは不可能なのだよ』

 横から聞こえてきた声は、月影ノブヒコのものであった。
 死神博士と同じく大ショッカーの大幹部である彼が、何故こんな場所に。
 そう考えている間にも、ガイを苛む眩暈はさらに激しくなっていく。

『お前に残された寿命は残り僅か……だが、我々ではもうどうする事もできんのだ』

 死神博士のその言葉を聞いた瞬間、ガイは自分の身に何が起きたのかを悟った。
 パーフェクターを破壊された事で命の炎を吸えなくなり、そのせいで生き長らえる事が不可能になってしまったのだ。
 つまり、この眩暈の原因は命の炎の枯渇であり、その果てにあるのは"死"以外に在り得ない。

『もういいですかな?死神博士。これ以上情けをかける必要もない』
『うむ。では頼んだぞ、シャドームーンよ』

 眩暈に耐えながらも視線を移してみれば、ノブヒコの本来の姿――シャドームーンが立っているではないか。
 緑色の双眸はじっとガイを見つめており、同時に刺々しい程の殺気が感じ取れた。
 頭で深く考えずとも、彼がこれから何をするつもりなのかが嫌でも理解できる。

『死にぞこないに大幹部は務まらない……そう思わないか?アポロガイストよ』

 ガイに向け翳された右手から、瞳と同じ緑色の光が迸る。
 この技はシャドービーム――至近距離から当てれば、確実に相手を絶命させれる。
 立ち上がる事さえままならない今のガイでは、どれだけ足掻こうが回避など不可能だ。

「やめろ……やめるのだ……ッ!」

 如何に懇願しようが、シャドームーン達は無言を貫いている。
 それはつまり、彼らがガイの要求を呑むつもりは一切ないという意思表示だ。
 最早"死"は必定であり、それを覆す方法はもう何処にもありはしない。
 数秒後に齎されるであろう絶命の一撃に、最大限まで高ぶるのは死の恐怖。
 湧き上ったそれは絶叫となり、否応なしにガイの口から飛び出すのであった――――。

740さらばアポロガイスト!男の涙は一つだけ! ◆qp1M9UH9gw:2014/04/17(木) 03:14:07 ID:H637yrtw0
         O          O          O


「やめろおおおおおおお……お…………お、お?」

 声を上げた瞬間には、もうガイの前からシャドームーンの姿は消えていた。
 彼だけではない――死神博士も消え失せ、空間も一般的な家屋へ移っている。
 数刻ほどの空白の後、ガイは自分がそれまで夢の世界にいた事に気付いた。

「何時の間に……私は……」

 アンクから撤退した後、休息を取ろうと民家に潜り込んだのだが、どうやらそこでうたた寝をしてしまったらしい。
 居眠りなどするつもりは無かったが故、これは予想外の事態である。
 幸い放送の前に目覚めれたが、しかし時間を無駄にしてしまった事に変わりは無い。

 手で額を拭ってみると、尋常ではない量の冷や汗が手に付着する。
 睡眠の最中に観た悪夢は凄まじいもので、今でもあの死の瞬間が鮮明に思い出せた。
 思い返す度に恐怖が蘇り、身体が震えそうにさえなってしまう。

「おのれアンク……それもこれも奴のせいなのだ……ッ!」

 居眠りで時間を潰してしまうのも、あの様な悪夢を見る羽目になってしまったのも。
 全てアンクが――パーフェクターを破壊したあの男が発端なのだ。
 奴にさえ出会わなければ、無様に冷や汗を流す事も無かったに違いない。

(パーフェクター……あれが無ければ私は……ッ!)

 改造手術を受けたアポロガイストには、致命的な弱点が一つある。
 それは、改造時点で残された寿命が僅か一か月と極めて短い事だ。
 捨て駒として扱われる戦闘員ならまだしも、アポロガイストは幹部級の怪人。
 たったの一か月程度の寿命だけでは、幹部としての活躍など見込めはしない。
 そんな欠点を解決する為に作られたのが、彼の頭部に取り付けられたパーフェクターである。
 それには命の炎――言い換えれば生命力を奪い取る効果があり、アポロガイストはこれを使う事で、寿命を延ばし今日まで生き長らえれていたのだ。
 命の炎を奪い続けている限り、彼が寿命によって息絶えるのはまずあり得ないと言ってもいいだろう。
 だが、そのパーフェクターはアンクの手によって破壊されてしまった。
 もう"命の炎"を吸う術は無く、無限に延ばせる筈だった寿命はもう手に入らない。
 それまでぼやけていた"死"の概念が、確固たる形を持って顕在した瞬間であった。

 これまでは、自分は死なないという確信めいた感情があった。
 何度仮面ライダーに敗れようが、必ず生き残れるという自信。
 自分は決して死にはしないという、そもそも己の死について考えてなかったが故の慢心。
 だがその自信は、パーフェクターの喪失と、悪夢という形で体験した"死"によって脆く崩れ去ってしまった。

「許さんぞアンク……!貴様は必ずこのアポロガイストが直々に引導を渡してやるのだ……ッ」

 それもこれも、全てアンクに責任がある。
 必ずやアンクをこの手で抹殺し、その上で陣営を奪い取らなければ。
 そう目標を立てる事で自らを奮い立たせ、未だ続いていた身体の震えを止める。

 「善は急げ」ならぬ「悪は急げ」だ。
 早く此処から出発し、行動を開始しなければ。

741さらばアポロガイスト!男の涙は一つだけ! ◆qp1M9UH9gw:2014/04/17(木) 03:14:46 ID:H637yrtw0
【2】


 ウェザー・ドーパントに変身している井坂の前にあったのは、地面に突き刺さった一振りの大剣と、腹部をそれに食い破られた少女の遺体である。
 具体的に何が起こったのかを推し量るのは出来ないが、遺体の損傷具合からして相当凄まじい戦闘があったのだろう。
 それの近くにあった原型を留めていない死体も、その過程で出来たものに違いない。

 井坂は大剣の柄を掴み、地面に刺さったそれを抜き取ろうと試みる。
 が、いくら力を加えてみても、剣は一向に持ち上がる気配を見せなかった。
 ドーパントと化し超人となった肉体でも、この黄金の剣を抜き取る事は叶わない。
 こうなると、剣そのものに何らかの細工が施されていると考えるしかないだろう。
 見惚れる様な美しいそれを手に入れられないのは残念だが、現状でどうにもならない以上諦めるしかあるまい。

 大剣から少女の亡骸に視線を移動させた後、すぐさま彼女の首元に向けて手刀を振るう。
 瞬く間に彼女の首は跳ね飛ばされ、首輪と生首が地面に転がった。
 かつて少女に嵌められたその首輪を拾い上げ、井坂は満足げに笑みを浮かべる。
 嵌められた首輪を解析する為にも、何処かに参加者の死体の一つでも転がっていないかと探していたが、ここに来てようやくそれに巡り合えた。
 原型を留めていない死体からも首輪を回収しておいたので、これで所持している首輪は二つになる。
 一つあれば十分ではあるが、もしもの時に備えて複数個持っておいても損はないだろう。

「あ、先生先生!その娘ちょっと貸してよ!」

 変身を解いた直後に、はしゃいだ声が飛んでくる。
 ふと見れば、龍之介が瞳を輝かせている姿が目に入ってきた。
 彼の視線は井坂ではなく、彼のすぐ近くを転がっていた頭部に注がれている。
 龍之介の意図を理解した井坂は、生首の毛髪を掴み上げ、そのまま龍之介に放り投げた。

「サンキュー先生!これでもっともっとスッゲーやつが作れるかも!」
「随分と意気込んでますね。何を作るつもりなのですか?」
「コイツで最ッ高にCOOLなアートを作るんだ!今ならトビきりの上物が作れるって、俺の直観が言ってるんだよ!」

 これだけじゃないんだと、龍之介は井坂に"素材"を差し出してきた。
 それは紫色の瞳の眼球だったり、頭蓋骨の欠片だったり、先程の少女のものであろう腕だったり。
 常軌を逸するグロテスクな素材達を、彼は嬉々としながら井坂に紹介していく。
 真人間であれば咀嚼物を吐き出しかねないそれらをアートと称する辺り、流石としか言いようがない。

「成程、それが君の見つけた"最高のCOOL"というヤツですか?」
「そんなんじゃないよ。これはその、アレだよ、旦那への墓代わりってヤツ?
 旦那は俺に色んな事教えてくれたしさ、ちゃんと弔わなきゃ失礼かなって」

 死者を弔う為に死者を冒涜するとは妙な話であるが、これも彼なりの美学に基づいたものだろう。
 井坂にとって「旦那」など心底どうでもいいのだが、それで龍之介の気が良くなるのなら放任するとしよう。
 それが彼が前進する気力を見せる物であれば、出来る限りの協力はしてあげたいものだ。
 まだ龍之介には、生き残るだけの気力を常に持ってもらわなければ困るのだから。

「それでさ、作ったアートの前で、旦那がしたかった"最高のCOOL"ってヤツを成し遂げてやるんだ!
 旦那、きっと喜んでくれるだろうなァ……そうだ、先生も協力してくれない?」
「勿論ですとも……と言いたい所ですが、その前にやるべき事を済まさなければなりませんね」

 そう言うと、井坂は龍之介に背を向ける。
 自分の丁度後ろから、何者かの気配を感じたのだ。

「そこにいるのは分かってます。隠れてないで出てきたらどうです?」

 井坂がそう呼びかけてみると、物陰から現れる影が一つ。
 白いコートを着たその男とは、これで二度目の遭遇となる。

742さらばアポロガイスト!男の涙は一つだけ! ◆qp1M9UH9gw:2014/04/17(木) 03:16:12 ID:H637yrtw0
【2】


「いやはや、また御会いするとは奇遇ですねェ」

 視線の先にいる紳士服の男とは、数時間前に出会ったばかりだ。
 面倒な相手と出くわしてしまったと、ガイはばつの悪い表情を浮かべる。

「調子づきおって……お前の相手をするほど暇ではないのだ」

 口ではそう言ったものの、それで彼等が引くとは想定していない。
 何しろ、最初に遭遇した時点で襲い掛かってきた男なのだ――今回も牙を剥いてくるに決まっている。
 憎きアンクを打倒する為にも、セルメダルは可能な限り温存しておきたいのだが。

「誰かと思ったらあのエラソーなオッサンじゃん。何やってんの?」
「相変わらず口の利き方を知らん小僧だ、そんな事私の勝手であろう。分かったなら早く道を開けるのだ!」
「そうですよ龍之介君。人には人の事情があるのですから」

 そう言って龍之介を宥めながら、井坂は一歩前に出る。
 その手にはガイアメモリが握られており、これから彼が何をするのかも予測できた。
 井坂に出会った時点で確定してしまった未来であり、なおかつガイにとっては最悪の展開。

「まあ、貴方の都合なんてどうでもいいのですがね」

――WEATHER!!――

 起動したガイアメモリは一人でに浮遊し、そのまま彼の耳元に吸い込まれていく。
 メモリが完全に体内に吸収された頃には、既に井坂の肉体はドーパントのものに変異していた。
 ガイがウェザー・ドーパントを目にするのは、これが二度目である。
 ただ、あの時はリュウガの横やりが入ったせいで戦わず終いだった為、刃を交えるのは初となる。

「ここで会ったのも何かの縁です、ちょっと私の相手をしてくれませんか?T2ウェザーメモリの力、もう少し調べておきたいのですよ」
「貴様……この大ショッカーの大幹部たる私を実験台扱いするつもりか?」
「まあ、そういう事になりますね。察しが良くて助かります」
「舐めおって……ッ!小物如きで変身した所で、純正の改造人間である私に勝てるものか!」

 「アポロチェンジ」と嘯くと、ガイの肉体が戦闘用――アポロガイストのそれへと変化する。
 象徴たるパーフェクターは喪われているものの、戦闘行為自体には何ら支障はない。
 この姿で目の前の怪人に対処する事も、当然ながら可能であった。

「おや、仮面ライダーに変身しなくても良いのですか?」
「貴様などライダーの力を使うまでもない!このアポロガイストの力だけで十分なのだッ!」

 こうは言ったものの、アポロガイストとして戦うのにはちゃんとした理由がある。
 以前出会った際に、井坂は龍騎とリュウガの戦闘を目にしているのだ。
 手の内を知られている以上、龍騎に対し既に何らかの対策が練られている可能性は十分考えられる。
 それ故にガイは、井坂のまだ知らぬアポロガイストとしての能力で戦うべきだと判断したのだ。

「これはこれは、随分と舐められたものですねェ。まあいいでしょう、頑丈である事を祈りましょうか」

 ドーパントとなった井坂からは一切の恐怖を感じ取れない。
 それどころか、半ば慢心にさえ似た余裕さえ持っているではないか。
 舐められているも同然な態度を取られ、武器を持つアポロガイストの指に力が籠る。

「言いおったな……後悔しても知らんぞ!大ショッカーのアポロガイストの名前、その身に刻み付けてくれるわッ!」

 そう意気込んで、アポロガイストは自らを鼓舞する。
 未だ脳裏にこびり付く悪夢を振り払い、意識を戦闘に集中させる為だ。
 しかし、如何に戦意を高めようと自己暗示をかけたとしても。
 一度染み込んでしまった死への恐怖は、そう易々と取り除けはしないのだ。

743さらばアポロガイスト!男の涙は一つだけ! ◆qp1M9UH9gw:2014/04/17(木) 03:17:15 ID:H637yrtw0

【3】


 この殺し合いの原因となった主催者達は、舞台の駒達の情報を全て把握している。
 何時に誰と出会い、何時に何処へ向かい、何時に誰と戦い、そして何時に死んだのか。
 ゲームが開始された後の行動は、何から何まで主催者に見透かされてしまっている。
 だから、井坂とアポロガイストの闘いの幕が切って落とされた事さえも、彼らは知っていた。

「アポロガイスト……彼は確か、コアメダルと融合していたよね?」

 インキュベーターがそう問うと、隣にいた真木は抑制のない声で「そうです」と答えた。
 いつも通り彼の視線は白い小動物ではなく、肩にちょこんと座った人形に向けられている。

 そう――アポロガイストの肉体は既に、コアメダルと融合を始めていた。
 何時頃から融合を始めていたかは定かではないが、既に彼とメダルはかなり同化している。
 この調子なら、そう遠くない内にアポロガイストはグリードに変貌するだろう。

「融合してまだ時間は経ってませんが、彼の欲望は十分な程に大きい」
「首輪のお陰だね。通常ならここまで早くグリードは生まれないよ」

 首輪には、コアメダルと肉体の融合を促進する効果がある。
 これがあるお陰で、本来数日経たなければ発生しないグリード化が早期段階で起こるのだ。

「"生まれる"……あまり喜ばしい言葉ではありませんね」
「終わりの始まりと考えればいいさ。それよりアポロガイストの事だけど、井坂深紅郎と戦って生き残れるのかな?」
「それは彼次第でしょう。彼の欲望が運命を決めると断言していい」

 そう、全てはガイの欲望次第なのだ。 
 首輪にはコアメダルと肉体の融合を促進する効果があるが、実はもう一つ機能がある。
 それは、参加者がメダルと融合している場合、その欲望の大きさによって、肉体に強い影響を与えるというものだ。
 彼等が激しく求めれば求めるほど、融合している肉体は何らかのアクションを起こす。
 コンドルメダルと融合した怪盗Xが、感情の爆発によって自身の一部をグリードさせたように。
 人を助けたいと望んだ鹿目まどかが、コアメダルの力を僅かだが引き出していたように。
 そしてそれは、コンドルメダルと肉体が融合しているアポロガイストも例外ではない。

「彼がもっと激しく、もっと強く望めば……予想だにしないケースが誕生するかもしれません」



【4】


 戦闘が始まって数分後、その場に立っていたのは井坂一人であった。
 アポロガイストの方はと言うと、傷だらけの状態で地べたに這い蹲っている。

 二人の戦いは、終始井坂がアポロガイストを圧倒していた。
 ガイが逆転の兆しを見せた場面は数あれど、それら全ては井坂の強さを証明する為の引き立てにしかならず。
 どう挑もうと、彼はウェザー・ドーパントという強敵の噛ませ犬にしかなり得なかったのである。

「あれだけ息巻いておきながら、実に無様ですねェ。アポロガイストの力を見せてくれるのではないのですか?」

 アポロフルーレを杖にして立ち上がるガイを見据えながら、井坂はそう挑発する。
 それが未だ残る闘志に火を付けたのか、アポロガイストは今一度目の前の敵に挑みかかった。
 が、そうして振るわれた剣も呆気なく躱されてしまい、その代わりと言わんばかりに井坂はガイの顔面を掴み上げる。

「ぐおっ……貴様……やめ――――」
「止めませんよ、勿論」

 その言葉と同時に、ガイの顔面を掴む井坂の手が赤く染まっていく。
 掌が著しい程の熱を帯びたのだ――あらゆる天候を操る彼には、この程度造作もない事である。
 その高熱の手に顔を掴まれたアポロガイストの口からは、形容し難い程の悲鳴が漏れ出ていた。
 彼の悶絶を数秒ほど耳にした後、井坂は空いていたもう一方の腕でアポロガイストの腹を殴りつける。
 カマイタチを伴ったその一撃は、彼を後方に吹き飛ばすのには十分すぎた。

744さらばアポロガイスト!男の涙は一つだけ! ◆qp1M9UH9gw:2014/04/17(木) 03:17:37 ID:H637yrtw0

「うおおおお!先生やっぱスゲー!」

 賞賛を送る龍之介を尻目に、井坂は顔を抑え悶えるアポロガイストに詰め寄る。
 そして、未だ敵の接近に気付かない彼の横腹を、何の躊躇もなく踏みつけた。

「弱すぎる……正直がっかりですよ、貴方には」

 井坂が知るアポロガイストという男は、果たしてここまで歯ごたえのない相手だったか。
 こんな弱者が、龍之介と対峙した「大幹部」の名に恥じぬ男だというのか。
 思えば、今井坂が見下ろしている男には、以前感じた様な覇気がまるで感じられない。
 まるで大切なものを何処かに落としてしまったかの様で、それが戦闘にさえ支障をきたしているのだ。

 井坂から見れば、アポロガイストもまた魅力的な力の一つであった。
 何の道具の力も借りずに怪人に姿を変える術など、興味を持つなと言う方が無理である。
 そして、その怪人の力量は如何なるものか、実に探求心をそそられたのだが……今となっては興冷めだ。

「もう結構です。ここでお別れとしましょうか」

 アポロガイストに止めを刺す為、掌に紫電を纏わせる。
 超高電圧の一撃をまともに喰らえば、改造人間とて一溜まりもない筈だ。
 一抹の失望を感じながらも、井坂は敵の命を刈り取らんと電撃を放ったのだった。


          O          O          O


 死ぬ。
 あと数秒もしたら、井坂は電撃を叩き込むつもりだ。
 見るからに電圧が高そうなそれをまともに浴びたら、命を保っていられる保証はない。
 運が良ければ瀕死で済むが、悪ければそのまま自分は落命するのだろう。

 そういえば、この情景はつい先程見た悪夢と驚くほど似通っている。
 相手こそ違うものの、右手に光を迸らせる点などそっくりではないか。
 嫌でも悪夢を思い出させる光景を目の当たりにしたせいで、また全身が震えだす。

(……たい。私は……)

 そう、自分は死ぬのだ。これまで想像した事もない"死"が、すぐ目の前まで近づいてきている。
 しかもこれは悪夢の中の出来事ではなく、れっきとした現実の話だ。 
 今此処で命を落とせば、この世界からアポロガイストという男の魂は消滅する。
 もう二度と身体を動かせず、それどころか思考する事さえ出来なくなるのだ。

(死にたくない……私は……死にたくなどない……)

 怖い、怖い、怖い。
 全身がさらに激しく震え、恐怖で他の感情が塗り潰されていく。
 こんな場所で死にたくない。まだ仮面ライダーを一人も狩っていないのに。
 こんな無様に死にたくない。まだアンクに何も仕返しが出来ていないというのに。

(こんな場所では死ねんのだ……私はまだ……死んで終わらせる訳には……ッ!)

 恐怖は極限まで増大し、今や脳を埋め尽くしてしまっている。
 死にたくない。死を回避できるなら何をしたって構わない。
 ディケイドをこの手で倒す為に、そしてこの先も大幹部で在り続ける為にも――。

(私は――――生きなければならんのだッ!)

 生きたい。
 死ぬのが恐ろしくて仕方がない――だから生きたい。
 大ショッカーの幹部として戦いたい――だから生きたい。
 仮面ライダーにとって大迷惑な存在で在り続けたい――だから生きたい。
 いや、生きたいのではない。生きなければならないのだ。

 全身の震えが収まっていく。
 恐怖は鳴りを潜めていき、代わりと言わんばかりに激しい欲求が沸き出てくる。
 何としてでも生き残れと、この殺し合いを生き延びてみせろと。
 命を繋げと轟き叫ぶ、その欲望の名は「生存本能」。
 「死にたくない」の反対は「生きたい」であり、彼がその原始的な欲望を滾らせるのは当然だ。
 そして、湧き起こる欲望はコアメダルと激しく引き合い、アポロガイストの肉体に変化を及ぼす。
 激しい欲望によって奇跡を起こそうとしているのだ。

745さらばアポロガイスト!男の涙は一つだけ! ◆qp1M9UH9gw:2014/04/17(木) 03:25:04 ID:H637yrtw0

          O          O          O


 アポロガイストの周囲に、突如として熱風が巻き起こる。
 熱風に煽られた井坂は思わず仰け反り、雷撃もあらぬ方向に飛んでいく。

「ぬっ……何が……ッ!?」

 動揺を隠しきれない井坂が、アポロガイストの姿を見据える。
 そして、ゆっくりと立ち上がる彼の全貌を目にし、さらに驚愕した。
 今井坂の目の前にいたのは、アポロガイストとも龍騎とも異なる新たな異形だったのである。

「待たせたな……ここからが本番なのだ」

 声からして、目の前にいるのがアポロガイストなのに間違いはない。
 だがあの姿は――鳥類をモチーフにした様な赤い怪人は一体何なのだ。

 井坂が知る由も無いが、この姿はアポロガイストが今しがた手にした力である。
 コアメダルと肉体との融合。それが極まった瞬間に発生するのが「グリード化」だ。
 対象の肉体の状態に関係なく、その身は欲望の化身へと姿を転じてしまうのだ。

「これまでの私とは一味違うぞ――――受けてみろォッ!」

 アポロガイストは火球を成形し、井坂を燃やし尽くさんと一直線に進んでいく
 それに対し井坂は、竜巻を巻き起こす事で火球の軌道を逸らした。
 あらぬ方向に進んでいく熱の塊を尻目に、彼はアポロガイストの様子を観察する。
 これまでに火球など使ってこなかったというのに、どうして突然あんな攻撃をしてきたのか。
 井坂に再び湧き上がるのは好奇心――相対する謎の力を前に、欲望が湧き上っていく。

「ちょっと驚きましたよ。一体どこにそんな力が?」
「貴様には分からまい……これこそが私が手に入れた新たな力!」

 アポロガイストが、グリード態から本来の怪人態へ変化する。
 グリード化の影響を受けてか、かつてパーフェクターが配置されていた箇所には、パーフェクターを象った真紅の物体が取り付けられていた。
 そして、以前と違う点はもう一つ――今のアポロガイストには、大幹部の名に相応しい威厳が備わっていたのである。



「たった今名を改めよう……死に怯えていたかつての私は死んだ。
 今此処に立っているのは『ハイパーアポロガイスト』……!
 貴様らにとって!更に!更に!!さァらァにィッ!大ッ迷惑な存在なのだッ!」



【一日目-夜中】
【D-4 北東】
※キングラウザーにかけられたハッキングはまだ解除されていません。
 何時までハッキングの効果が持続するかは不明です。

【全体考察】
・首輪には「コアメダルと融合した参加者の欲望によって何らかのアクションを起こす」という機能があります。

746さらばアポロガイスト!男の涙は一つだけ! ◆qp1M9UH9gw:2014/04/17(木) 03:27:18 ID:H637yrtw0

【全体考察】
・首輪には「コアメダルと融合した参加者の欲望によって何らかのアクションを起こす」という機能があります。


【ハイパーアポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(小)、ダメージ(中) 、精神疲労(大)
【首輪】60枚:0枚
【コア】パンダ、タカ(十枚目)、クジャク:1
【装備】龍騎のカードデッキ(+リュウガのカード)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:生き残る。
 1.ウェザー・ドーパント達に対処する。
 2.リーダーとして優勝する為にも、アンクを撃破して陣営を奪う。
 3.ディケイドはいずれ必ず、この手で倒してやるのだ。
 4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。
※龍騎のデッキには、二重契約でリュウガのカードも一緒に入っています。
※パーフェクターは破壊されました。
※クジャクメダルと肉体が融合しました。
 グリード態への変化が可能な程融合が進んでいますが、五感の衰退にはまだ気付いていません。

【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康、肩に斬り傷
【首輪】50枚:0枚
【装備】T2ウェザーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、DCSの入った注射器(残り三本)&DCSのレシピ@魔人探偵脳噛ネウロ、大量の食料
【思考・状況】
基本:自分の進化のため自由に行動する。
 0.アポロガイストに対処する。
 1.インビジブルメモリを完成させ取り込む為に龍之介は保護。
 2.T2アクセルメモリを進化させ取り込む為に照井竜は泳がせる。
 3.次こそは“進化”の権化であるカオスを喰らってみせる。
 4.ドーピングコンソメスープに興味。龍之介でその効果を実験する。
 5.コアメダルを始めとする未知の力に興味。特に「人体を進化させる為の秘宝」は全て知っておきたい。
 6.そろそろ生還の為の手段も練っておく。念の為首輪も入手しておきたい。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※ウェザーメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※ウェザーメモリの残骸が体内に残留しています。それによってどのような影響があるかは、後の書き手に任せます。

747さらばアポロガイスト!男の涙は一つだけ! ◆qp1M9UH9gw:2014/04/17(木) 03:27:30 ID:H637yrtw0


「なんかスッゲー事になってんなぁ……にしてもいつ終わるんだろ、コレ」

 傍観者となっていた龍之介が、不満げに呟いた。
 最初の頃は興奮しながら観戦していたものの、そろそろ決着をつけて欲しいのが本音であった。
 アートの作製に取り掛かる為にも、井坂には早くアポロガイストを始末して欲しいのだが。
 手に持った少女の生首――井坂に頼んで譲り受けたものだ――に目を向ける。
 所々に傷が付いてしまっているものの、顔の造形は見る者を魅了する程美しい。
 水色の毛髪も同様に汚れてしまっているが、その感触は今まで触れたどの髪より上質だ。
 これでどんなアートを造ろうか、想像を巡らせるだけで思わず笑みが零れてしまう。

「ホント綺麗だよなぁ……ああ……早く作りたいなぁ……」



【雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】白
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、深い悲しみと決意、生命力減衰(小)
【首輪】70枚:0枚
【コア】コブラ
【装備】サバイバルナイフ@Fate/zero、インビジブルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO、螺湮城教本@Fate/zero、アートの素材
【思考・状況】
基本:旦那が言っていた「最高のCOOL」を実現させる。
 0.何かスゲェ事になってる……。
 1.しばらくはインビジブルメモリで遊ぶ。
 2.井坂深紅郎と行動する。
 3.オレに足りないものは「覚悟」なのかも……?
 4.拾った死体でアートを造ってみたい。
【備考】
※大海魔召喚直前からの参戦。
※インビジブルメモリのメダル消費は透明化中のみです。
※インビジブルメモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※雨竜龍之介はインビジブルメモリの過剰適合者です。そのためメモリが体内にある限り、生命力が大きく消費され続けます。
※アポロガイストの在り方から「覚悟」の意味を考えるきっかけを得ました。
 それを殺人の美学に活かせば、青髭の旦那にもっと近付けるかもしれないと考えています。
※キャスターが何をするつもりだったのかは把握していません。
※「アートの素材」とは紅莉栖とニンフの死体の一部です。

748 ◆qp1M9UH9gw:2014/04/17(木) 03:29:42 ID:H637yrtw0
投下終了になります。
ちょっと修正。
>>744
激しい欲望によって奇跡を起こそうとしているのだ。

これ以上に無い程激しい欲望によって、今まさに奇跡が起きようとしている――。

749名無しさん:2014/04/17(木) 12:35:09 ID:iHrt5Ixw0
投下乙です!
パーフェクターなくして気持ちが既に死んでたアポロさんだったが、生への欲望からグリード化して克服かぁ 鳥型なのはショッカーグリードを思い出す
でもグリードだからある意味命を手放しているのがそのハイテンションに反して皮肉
龍ちゃんはぼけっと観戦決め込んでるけれど絶校長(大ショッカー学園的に)なアポロさん相手に伊坂先生はどこまで対抗できるかだなぁ

ところで指摘ですがアポロ

750名無しさん:2014/04/17(木) 12:37:27 ID:iHrt5Ixw0
途中送信申し訳ないです
アポロさんと融合しているというコアメダルが地の文と状態表で一致してないので、どちらかで統一された方がよろしいかと思います

751名無しさん:2014/04/17(木) 19:13:24 ID:gbFj9C4MO
投下乙です。

ニンフのパーツは、やっぱり人間とは具合が違うんだろうな。
アポロガイストがハイパー迷惑な存在になって、無事にアートが作れるのか心配。

752名無しさん:2014/04/17(木) 21:30:09 ID:BwmD6AEA0
投下乙です

アポロさん、まさかグリード化して克服かあ
上で言われてる様にある意味命を手放しているんだよなあ…
そして龍ちゃんは逃げた方がいいんだがどうなるかなあw

753名無しさん:2014/04/19(土) 23:30:15 ID:cRoGlItY0
投下乙です!

アポロさんグリード化し始めちゃったか
しかも鳥類だし、またアンクを狙う理由が一つ増えたのか
井坂先生もT2にメモリの残骸にDCSとまだ抱えてるものあるし
どうなるんだろう

754 ◆qp1M9UH9gw:2014/04/21(月) 03:42:30 ID:ga5qHEME0
感想ありがとうございます。

拙作を指摘された箇所の修正を加えた上でwikiに収録しました。
あと、首輪の新機能の点が若干妙だったので、「コアメダルと肉体の融合速度は欲望の大きさに比例する」に変更します。

755名無しさん:2014/04/27(日) 23:33:06 ID:imeKzY8k0
おお、再予約きた

756 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:43:03 ID:9I6gYcYQ0
大変申し訳ありませんが、予約分のSSが予想以上に長くなってしまいましたので、日を跨いで分割で投下したいと思います
特に中盤以降は仮投下を通した方が良い内容だとは思うのですが、さすがに長すぎる仮投下になってしまうと感じたので、まずその必要のなさそうな部分だけ本日こちらに投下させて貰います。
タイトルはまだちょっと考え中なので、全体の本投下完了の際にということでご了承頂ければと思います。
それでは投下、第一弾開始します。

757 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:45:46 ID:9I6gYcYQ0

 ――あの人の声が、聞こえない。
 まだ、答えを聞けていないのに。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



「オォォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
 野獣のような雄叫びを放ち、紫の異形が二体の怪人へと突撃して行く。

 暴走した仮面ライダーオーズプトティラコンボ。半日前には五人もの参加者を圧倒した猛威が、再びバトルロワイアルに顕現していた。
 しかしその動きは前回の暴走時はおろか、資格者でもなかったジェイクが見せたタトバコンボの暴走と比べても、幾分精彩を欠いている。
 再変身によりオーズの外傷こそ消え去ったが、直前までカオスによって蹂躙されていた事実に変わりはない。故に変身者である映司の理性が消え、ただ破壊衝動のみに動かされているのだとしても。身体の内側に蓄積されたダメージが、着実にその力を衰えさせていたのだ。
 さらにその前進の勢いを、針と球の形をした赤い光が削いで行く。
 始まりの場所で真木に挑んでいた少女が使っていた機動兵器――何たる皮肉か、真木の手先であるメズールに渡ったそれが展開され、手にした大剣を揮うたびに発されるビームを赤い怪人の放つ光球と共に、死の雨として降らせていた。

 毎秒数発の着弾のたび確実にその動きを鈍らせながら、それでも決して歩みを止めようとしないオーズの背を、虎徹は必死に追いかける。
「おい映司、無茶すんな!」
 脇を掠めるビームの余熱に顔を歪めながらも、虎徹はオーズが盾となってできた空隙を縫って弾幕の中を進んで行く。
 もしビームや光球の直撃を許せば、一部の装甲が申し訳程度にへばりついただけになったスーツ以外、一切身を守る物がない虎徹では一溜りもないだろう。
 しかし二人がかりでも完全に足止めしきれないオーズを前に、二体の怪人はまだ散開しなかった。
 カオスが何故か沈黙している今は、おそらくオーズに近づくまたとないチャンスだ。
 守るべき若者を壁役にしてしまっている事実に自身への苛立ちを覚えながらも、虎徹は遂にその背を捉えた。
「落ち着け、暴走なんかしてる場合か!」
「――グゥアァッ!!」
 後ろからその肩に手をかけた虎徹だったが、オーズは乱雑に身を揺するだけでその手を跳ね除ける。
 さらに出現した両翼に煽られ、体勢を崩したところに尻尾による痛烈な一撃を受けた。
「っ……!」
 咄嗟に構えたザンバットソードが、剣腹に受けた尾の直撃で虎徹の握力を振り切り、どこかへ飛んで行ってしまった。
 さらに旋回する尾が胴を叩き、今度は虎徹自身が弾かれる。
「がぁ……ってて……ッ!」
 まだ張り付いていた胸部装甲の一部が、この一撃で脱落することと引換に、衝撃の大部分を肩代わりしてくれた。そうでなければ虎鉄はこの一撃を以て挽肉となり、乱雑に地べたへと撒き散らされていたことだろう。
 しかし命の代価に、砕けた具足の一つで釣り合いはしない。さらなる代償として距離と時間を要求された虎徹は元来た道を押し返され、倒れ伏したまますぐには起き上がれずにいた。
 かつてなく強烈な一撃ではあったが、それだけが再起を阻害する理由ではない。虎徹自身、連戦に次ぐ連戦で疲弊しきっていたのだ。
 マミの前では心配させまいと平気な素振りでいたが、さすがに痩せ我慢にも限度はある。

758 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:46:42 ID:9I6gYcYQ0

 それでも、音を上げないのが鏑木虎徹という男――ワイルドタイガーというヒーローだった。

 立ち上がれない。間に合わない。それでもマミとの約束を違えるつもりはない。
 だから虎徹は、息をするのも苦しい中で叫んだ。
「おい! 止まれっ、映司!」
 同じく正義を志す若者。年下のくせに頼りになって、しかも昔のバーナビーと違い生意気でも嫌味でもない良いヤツに。
 苦しいのはわかる。辛いのもわかる。同じ思いを虎徹だって味わったのだから。
 だが、だからこそ言うのだ。
 こんなところで、自分を捨てるんじゃないと。

 だがその呼び声は、届かない。

「オォォォアァアアアアアアアアッ!!!」

 大地を尻尾で叩いた反動で加速し、大翼を広げたオーズは、虎徹の手が届かない彼方へと飛翔。
 弾幕を突き破って、遂にメズールをその戦斧の間合いに捉える。
「甘いわよ」
 だが飛べるのは、Rナスカも紅椿を装着したメズールも同じ。オーズ渾身の打ち込みを回避し、この一撃のために晒された隙を、容赦せずに上空から狙い撃つ。
「映司ィッ!!」
 ジェイクやカオスとの戦いでまどかが見せた、魔法の矢にも引けを取らぬ圧倒的な密度の集中砲火。
 ただその一発一発の威力が段違いで、オーズの装甲を傷つけるに足るだけの物。その、一斉射撃を受けてしまったとあっては……
 暴力的なまでの輝きに、視界を焼かれた虎徹は齎された結果を直に見届けることも叶わない。
「――っ、どういうこと!?」
 戸惑いの声は、赤い怪人――Rナスカ・ドーパントの発した物。
 惨劇の前に、呆けて絶句するしかなかったはずの虎徹は――予想だにしていなかった現実を前に、一層言葉を見失っていた。

「……どうして、彼を庇うの?」

 紅椿を纏い、浮遊するメズールの詰るような、しかし同時に遠慮するような、そんな困惑した問いかけ。
 その矛先にいるのは、紫と無色、二重の障壁を展開してオーズを守護した存在。
 彼女こそ。最前までオーズを痛めつけ、少年と少女の命を奪った張本人――カオスだった。

「……わからないの」

 メズールの問いかけに、カオスはそう小さな声で答えた。

「わからない……けど、きっと……まだ、これがほんとうに“愛”なのか、教えてもらってないから」
「そのことなら、私が代わりに答えてあげたでしょう?」
 カオスの答えに、メズールが諭すように語りかける。
 対してカオスは、ここまでずっと思い詰めたようでいた表情を初めて変化させ、不服げな顔を作った。
「おさかなさんは、わたしがほしいだけだから……ちゃんとこたえてないって言ったの、聞こえてるんだよ?」
「!?」

759 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:48:52 ID:9I6gYcYQ0

 カオスの告白には、メズールだけでなく虎徹も驚愕を覚えた。
 おそらく、カオスが語ったメズールの思惑は真実だろう。だがメズールがそれを悟らせるような言葉を口に出すなど、そこまで粗忽なはずもない。
 ただ、虎徹は事ここに至って、先程から続くカオスの奇妙な言動の理由に察しがついていた。
(心を読んでんのか……!)
 ジェイクの死体を喰らったカオスが、奴のNEXT能力だったバリアを使用していたのは散々目にした。
 同じ理屈で、ジェイクのもう一つの能力である読心能力をもカオスは獲得していたのだろう。智樹を殺害する際等に見せた奇妙な独り言はその実、相手の心の声との対話だったのだ。
 だとすれば今の態度からも察するに、カオスがメズール達と結託するような最悪の事態は回避できるかもしれない。そう考えたところで、知らず虎徹は一度、深く息を吐いていた。

 だがその息も途切れぬ間に、鋭く飛翔する影があった。

 それは、またも悩み耽る表情に戻り沈黙したカオスでもなければ、強大な戦力を秘めた彼女の動向を警戒し、様子見していたメズール達でもなく。
 絶体絶命の危機をカオスに救われた、仮面ライダーオーズであった。

「――ッ!!」

 その心が暴走に呑まれていたために、読心で思考を読めなかったからか。それまでは髪一つに掠ることすら許さなかったカオスの頭部を、オーズはその体ごと旋回させた尾の先で確かに捉えた。ちょうど振り返ったその顔面に不意打ちとして決まった一撃は、展開されていたシールドバリアーを叩き割ってカオスの痩身を独楽の如く吹き飛ばし、手近なビル壁へと直撃させる。被弾したビルは、まるで内部から発破をかけられたかの如く盛大にガラスとコンクリートを砕き、散らせる。そうして生まれた歪な口が閉じるかのように、粉塵と瓦礫は瞬く間に彼女の姿を呑み込んでしまった。
「おい、映司ッ!?」
 自身を庇った者への不意打ち。本来のオーズ――映司ならば決して行わないだろう蛮行すら、暴走している今では、手近な位置にカオスが居たからという以上の意味はないのだろう。オーズはつい先程自身を散々弄んだ相手に一矢報いた感慨もなく、続いてメズールの駆る紅椿へと肉薄する。
 だが、それまでにオーズは消耗し過ぎていた。カオスが庇ったのも最初から完全にではなく、途中から割り込んだ形であったために負傷し、彼女らの会話の最中にはこのような真似をする余力がなかったのだろう。そしてプトティラコンボにしては動きが鈍いという事実は、今も変わりない。
 元より、空中戦は見るからに紅椿の方が特化しているのだ。接近しなければならないプトティラからメズールは最大加速で距離を取り、なおかつ新たな弾幕を展開する。
 しかしオーズは構わず、いっそ痛ましいまでに愚狂な突進を繰り返して、新たな傷をその装甲の上に刻んで行く。

 さらに間を置かず、虎徹に恐怖を想起させる壊れた笑声が、瓦礫の中から漏れ出した。

「……そっか」

 怖気の走るまま視線を巡らせれば――燃え続ける炎に照らされた一角で、天使を埋めたガラスやコンクリの破片が、その声に震えたようにカタカタと鳴っていた。

「やっぱりこれが、“愛”なのね?」

 確認の声の、その直後。
 自身に覆い被さっていた人造物の残骸を吹き飛ばし、狂乱の天使は再び、その一糸纏わぬ姿を出現させた。

 乳白色の頬の片側には、今も殴打された痛ましい青痣が残っている。だがその事実をまるで意に介さず、彼女は精一杯見開いた目をオーズに向けた。
「ならやっぱり、もっと愛をあげなくちゃ――!」 
 向けられた敵意にオーズが反応した瞬間には、既にカオスも距離を詰めていた。
 そうなれば、先程の対決の再現。不可視の衝撃に体勢を崩されたオーズを、至近距離からカオスの放つ無数のビームと火炎弾とが嬲り尽くす。
 しかし暴龍は死地にあって、なお退かず。数多の閃光にその身を貪られながらも遮二無二距離を詰め、手にした戦斧を横薙ぎに振り抜いた。

760 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:49:53 ID:9I6gYcYQ0

 だが結局それは、万全からは遥かに程遠い一撃であった。メダガブリューによる反撃をカオスは容易く見切り、浮いて躱し、体ごと沈むと共に、装甲された拳を振り下ろす。
 硬い激突音を残し、オーズは大地へと打ち落とされる。しかし、あわや激突という寸前で皮翼を羽ばたかせ持ち直し、何とか追撃のビームを回避することに成功した。

 ――何かが妙だ、とその時虎徹は感じた。
 しかし察しの悪い虎徹では、その正体が今までのパターンであればオーズに回避可能な攻撃ではなかったからだということに気づけない。
 カオスの追撃が、一瞬の躊躇によって外れたのだということに。
 
 ただ別方向からオーズを襲った真紅の閃光に目を奪われ、押し殺した悲鳴を上げるしか虎徹にはできなかった。
「何にしたって、ここで仕留めさせて貰うわよ……オーズ!」
 メズール、そしてRナスカの追撃だった。連携こそなくとも、オーズ包囲網は間違いなくこれまで以上に苛烈さを増している。
 このままでは、いよいよ映司は殺されてしまう。
 そう認識した瞬間、虎徹はデイパックに手を突っ込んでいた。
「ホントは確実に逃げられる時までとっておきたかったけどよぉ……ッ!」
 温存し続けて、映司を死なせてしまっては意味がない。
 ちょうど、オーズが大地に墜落させられた瞬間、虎徹はそれを掴み取り――死力を振り絞って立ち上がった。
「喰らいやがれぇええっ!」
 投げつけたのは、醜悪な仮面のような兜。
 虎徹に支給されていた魔界777ツ能力(道具)の一つ、『虚栄の兜(イビルフルフェイス)』だった。
「――何ッ!?」
 この局面での、無力と侮っていた虎徹の参入にメズールやRナスカが警戒し、投擲物からも距離を取る。万が一にも、隙を作られたところをオーズに衝かれまいとしたのだろう。

 だが何のことはない。これの能力はただの――

 煙幕である。

「なっ!?」
「――しまった!」

 ただの煙幕だが、虚栄の兜のおどろおどろしい外見が効いたのか、彼女達が警戒してくれたのが逆に助けとなった。
 距離を取り、煙の中にこちらの姿を見失った隙に、虎徹は倒れ伏したオーズに駆け寄ることができた。

「逃げるぞ、映司!」
 オーズの外見は、先程カオスに敗れた時と比べればまだ無事と言える状態だ。しかし実際に蓄積されたダメージはその時から引き継がれ、いよいよ危険な域に達していることだろう。 だがその分、暴走していようが、能力抜きだろうと虎徹に抗う力も残されていないはず――――などと思っていたのだが、虎徹は自らの楽観さを思い知らされる。
「ヴ……グ、オォオオオッ!!」
 何とオーズは再び飛翔しようとして翼を拡げ、そのついでとばかりに『虚栄の兜』が展開した煙幕を自ら吹き飛ばしてしまっていた。
「何やってんだよ……何やってんだよ、映司!」
 予想外の、しかも助けようとする相手からの妨害行為に、思わず虎徹の足も止まってしまった。だが数瞬も経たぬ間に、呆けている場合ではないと正気に返る。
 もう出涸らしのはずの力をそれでも振り絞り、未だただ本能のまま戦い身を投じようとする仮面ライダーに虎徹は再度歩み寄ろうとして――頭上から迫った赤い光球に気づき、咄嗟に転がって直撃を躱す。
「ちょろちょろと!」
 あんな、何の威力もない煙幕で焦らされてしまった屈辱からか。苛立ちを隠しもしないナスカが、手にした剣を虎徹に向ける。

761 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:50:50 ID:9I6gYcYQ0

「ガァアアアアアッ!!!」
 だが追撃の光球が放たれる前に、虎徹に意識を向け過ぎていたナスカの不意をオーズが突いた。
 どこにまだそんな力が残されていたというのか。飛び上がり、さらには両肩のワイルドスティンガーを伸張させて間合いを狂わす。剣を盾にし直撃こそ躱したナスカだったが、微かに掠めただけで弾かれ、接触した表皮に凍傷を負わされては虎徹などという雑兵、最早意識してはいられなくなっている。
「――こぉのっ!」
 怒りのままに、ナスカは再度光球を乱射する。当然のようにメズールもまた、そこの援護に加わり――あるべきはずの物がない違和感をまたも覚えるが、虎徹はそれを解消するよりもオーズの救出を優先した。
「映司っ!」
 いよいよ暴れ回るだけの勢いを失い、二体の怪人に翻弄されるばかりとなった今なら捕まえられる。そう考えた虎徹はオーズに向けて、右ガントレットのワイヤーガンを発射した。
 同時に左のワイヤーガンを、ある要因からたまたま目に付いた建物に引っ掛ける。そして双方が対象を捕縛した瞬間、虎徹は一気に左右を引き戻した。
「アァ――アアアアアアアアッ!!!」
 その途中、状況の変化に気づいたオーズが拘束されていない両手を使って、ワイヤーを振り解こうと試みた。
 だが腕力だけでは、その戒めを引きちぎれない。それはワイヤーの強度というよりも、オーズの消耗の度合いを示していた。
 こうしてようやく、オーズを虎徹は手元に取り戻すことができたわけだが……それでもオーズの手には、まだメダガブリューがあった。
「おい、止せっ!」
 虎徹の制止は、やはり意味を為さない。
 自らの身を抉りながらも、オーズはメダガブリューでワイヤーを断ち切り。
 そして。
「やめろよ映司ッ!」
 度重なる虎徹の制止は、擦り切れるような悲鳴となっていた。
 何のことはない。オーズが最も近くにいた虎徹に狙いをつけて、メダガブリューを振り下ろしただけだ。
 おそらくスーツが万全でも両断されていただろうが、たまたまこの場所が目に付いた要因――すぐ傍で煌めいていたザンバットソードを引き抜き、メダガブリューを迎え撃ったおかげで虎徹は危機を免れていた。
 オーズが押してくる刃と、虎徹が押し返す剣は一進一退。両者の力は拮抗している。
 重傷かつ能力切れの虎徹でも膂力が釣り合うほどに、オーズは傷ついていたのだ。
 それなのに、彼は戦いを止めようとしない。
「違うだろ……違うだろうがよぉ、映司! おまえの力は、こんなもんのための力じゃないだろうがっ!」
 剣と斧での鍔迫り合いの中、虎徹は思わず叫んでいた。
「俺をぶった斬るのがおまえの欲望か、えぇっ!? 俺だけじゃねぇ、あそこの悪党どもだってそうだ! 俺達は、誰かを傷つけるために戦ってるんじゃないはずだろうがっ!?」
 虎徹とて聖人君子などではない。悪を憎む気持ちは拭いようもなく心の内に存在している。
 あの病院の惨劇を生んだ殺人者を、イカロスを騙した偽物のマスターを。牧瀬紅莉栖を殺したジェイクを、智樹とまどかを殺したカオスを。
 今この瞬間こそ、予期せぬ仲間割れにメダルの温存でも図っているのか様子見に落ち着いているものの、問答無用でこちらを殺そうとして来た怪人二人も。
 その所業は、虎徹の胸に憤怒の炎を灯して余りある。
 そんな黒い熱情のまま、彼らを思いっきりぶちのめせたのなら、その時はどれほど爽快なことだろうか。
 しかし――

「俺達はルナティックとは違う……そう言ったのはおまえじゃねぇか映司……!」

 ――それは結局、ただの暴力なのだ。

 ルナティックのような、法もモラルも無視してただ冷徹に制裁を加えるという手法もなるほど、悪党を恐怖させ、一定の抑止力を生むことは間違いない。
 だがそれは、結局のところ私刑以外の何物でもなく。尤もらしい理由を付けて暴力の行使に酔う犯罪者と、本質的には変わりがないのだ。

762 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:52:04 ID:9I6gYcYQ0

「俺達の力は、悪を裁くための力でも、何かを壊すための力でもねぇ……誰かを助けるための力だ、そうだろ!?」

 あの日。自分の命を、それ以上に心を救ってくれた憧れのヒーローの姿が、貰った言葉が、想起された。

「おまえはついさっきだって、俺を助けてくれた」
「ヴ……」
 虎徹の感謝の言葉に、オーズから伝わってくる圧力が、微かに緩んだ気がした。

 もちろん、映司も虎徹も、何もかもを守れたわけではない。
 ルナティックの言う通り、虎徹の力が足りず、ここに来てから守りきれなかった命は数多くある。
 挙句ジェイクによって智樹を殺されかけ、マミに責任を押し付けてしまった時には、自身の正義の脆弱さを痛感させられたと思いもした。
 だが、その時……

「それにおまえが言ったんだ……失敗するのが、本当に許されないことなのかってよ」

 歳ばかり食っても落ち目だのなんだの言われ、大人らしいことの一つも言えない虎徹に代わって、真っ直ぐに――あるべきヒーローの正義を。
 おかげで虎徹は、自分が言い訳していたことに気づかされた。
 あそこでジェイクを殺す必要は、あの局面にさえ至らなければ、実際のところなかったのだ。ただ油断して、充分な拘束を怠ったことが虎徹の失敗だった。

「失敗したからって、自分のやりたいことを諦める理由なんてないんだっておまえが言ってくれたから……俺は、自分の正義を見失わずに済んだ」

 結局のところ、至らなかったのは自分達の信じる正義ではなく、虎徹自身の能力であり判断だったのだと。
 あの、レジェンドが示してくれた正義は、決して色褪せたりすることなく尊いままなのだと。
 それを映司が、気づかせてくれた。

 なのに……

「――ウォオオオッ!!」
 まるで虎徹の口から告げられた自身の言葉を否定するかのように、オーズが咆哮する。
 辛うじて存在していた拮抗が崩され、押し切られる。転がった虎徹は即座に起き上がるだけの余力がなく、しかしオーズも最早俊敏な動きなどできず。
 ただ、ゆっくりとメダガブリューを振り被り、一歩ずつ躙り寄ってくるのに対して――虎徹は口内に拡がった鉄の味を吐き出し、振り返りもせず叫んだ。

「……なのにおまえが、失敗したからって諦めてるんじゃねーよッ!!」

 今まさに振り下ろされるところだった戦斧の動きが、止まった。

「おまえが言ったんだ! 今まで失敗した分まで、危険に晒される皆を精一杯守ってみせるって! だったら失敗したからって、こんなところで命を捨ててるんじゃねぇっ!」
「ウ……オ、オォォォ……ッ!」
 オーズが、たじろぐ。
 ただ闘争本能に従っていた先程までとは、明らかに違う戸惑いの挙動。
 予測できていたわけではない。だが、言葉を届かせるには今しかないと、虎徹は理屈ではない部分で感じていた。

763 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:53:46 ID:9I6gYcYQ0

 だから、訴える。今この瞬間、全力で――立ち上がり、向かい合う。
「おまえの力で、まどか達の分も皆を守ってみせろ、火野映司!」

 それは、命令などではなく激励。
 神在らざる火野映司に対する、己を捨てるなという鏑木虎徹からの願いであり、祈りだった。

「……おまえの力は、俺のよりもずっとずっと、すげーんだからよ」
 虎徹は少しだけ悔しく思いながら、羨望を込めてそれを吐き出した。

 そして――完膚なきまでに絶望して、なおその現実に抗い、生まれた祈りは。
 確かに、虎徹の伝えたかった相手に聞き届けられた。

 ――紫色の装甲が、粒子となって溶けて行く。
「あ……りがと。鏑木、さん……」
 オーズの仮面が消え去り、言葉を、自身を取り戻した映司の口から、そんな想いが告げられた。
 対して虎徹は、本当は叫び出したいほど嬉しかったのを隠し、不敵に口角を持ち上げた。
「いいってことよ。気にすんな」
 そんな虎徹に向けて、一歩。彼自身の意思ではなく、ただ重力に引かれて映司が前進する。
「でも……ごめんなさい……逃げ、て……っ!」
 絞り出すようにそれだけを言い残し、映司が虎徹に倒れかかって来た。
 最早変身は完全に解除されていたが、精根尽き果て昏倒した彼の体は重かった。普段ならどうということはないが、今の虎徹にはただ受け止めるのもいくらか苦になった。
 だが、映司もこの状況においてそんなことのために謝ってきたわけではないのは、さすがの虎徹も理解していた。

 ――悪意が、降りてくる。
「……まさか、紫の暴走を止めるなんてねぇ」
 二体の怪人は相も変わらず、殺意を放射するままに――放っておいても死にそうな状態だと言うのに仮借なく、虎徹達を見下ろして来ていた。
「とはいえオーズの坊やは暫く気絶しているみたいだし……タイガーの坊や、あなたも死にかけね?」
「それでも、補充できるぐらいはメダルは残ってるんでしょう?」
「――ったく、人のことをATMみたいによぉ……」
 映司を抱きとめたまま強がってみせたが、いよいよダメかもしれない、と虎徹でさえ思い始めていた。
 本当にもう、無理だ。虎徹一人でだって、何十メートルと走れないほどに限界だ。彼女達と戦って倒すのはもちろん、映司を連れて逃げ延びるだけの余力だって残っていない。向こうはその機動性で接近し、生身の二人を撫でてやるだけで命を摘み取れる。
 いや、仮にこちらが装備体調共に万全だとしても。結局、あいつがいる限り……
 ――と、そこで虎徹はようやく。違和感の正体である、あるべきものがなかったことに気づいた。
 それは、映司に向けられた、彼女からの敵意。

「……どうして?」

 違和感の正体――二体の怪人の間から、驚き距離を取る彼女達が見えていないかのように割って入った天使の。
 その、驚愕に染まりきった顔を、虎徹は確かに目撃した。

「どうして、“火野”のおじさんじゃないの――――?」

764 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:54:18 ID:9I6gYcYQ0

      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○


 ――頬っぺたが、ズキズキする。
 その実感に、カオスはニタリと笑みを浮かべていた。

 やっぱり、これが“愛”なんだ。
 
 問答無用に“火野”のおじさんからぶたれ、痛くして貰ったおかげで、カオスの迷いは晴れていた。

 だから、さっきまでと同じように、おじさんに“愛”をあげることにした。
 だって、仁美おねぇちゃんと一緒に、この人が“愛”を教えてくれたから。
 この人が、仁美おねぇちゃんを殺したのだから。

 痛くして、あったかくして、殺して、食べてあげなくちゃ。

 ――コラ、と叱りつけるような内からの声も、カオスの“愛”という欲望の前には掻き消される。

 そうして火野のおじさんを殴り飛ばした時、今度聞こえた声は一つだけではなかった。

 ――やめろ!
 ――ダメだよ

 一つだけなら聞き流せた声は、二重奏となったことでその主張を大きくした。
 驚き、身の竦むような思いをしたカオスは火野のおじさんを撃つのが遅れてしまい、結果として“愛”を届け損ねてしまった。
 その後も、火野のおじさんを痛くしてあげようとするたびに、頭の中で二つの声が、まるで窘めるように響いてくる。

 ――どうして?

 ――これが、“愛”なんだよ?

 そう思いながらも、まるでいけないことをしてしまっているかのような、肌の粟立つ感覚にカオスは苛まれ続ける。
 それは失せたはずの迷いをもう一度呼び覚まし、二体の怪人のように躊躇いなく愛【痛み】を火野のおじさんに与えることを邪魔していた。

 そして、もう一つ。

(――死ねぇっ!)

 カオスと同じように、火野のおじさんを痛くしようとしている二体の怪人から聞こえる“声”の冷たさが、彼女の中の疑問を大きくしていたのかもしれない。

 目の前で繰り広げられている光景が、本当に“愛”なのか、という疑問を。
 お姉様達がシナプスを裏切るほどに価値を見出した、仁美おねぇちゃんが一緒に探そうと言ってくれたあの“愛”は、本当にこんな、心地よくないものだったのだろうか、と――

 ……そして。いつしか、おじさんにぶって貰う前と同じように。困惑のためにただ見守るだけにまでなっていた矢先、その衝撃的な光景が飛び込んで来た。

765 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:55:51 ID:9I6gYcYQ0

 火野のおじさんが着ていた変な服や仮面が消えて、その下にあった素顔が晒された。

 なのにそこにあったのは、野卑な笑みのよく似合う、野球帽を被った中年男性のそれではなく。
 柔和に整った顔立ちをした、若い青年の憔悴しきった顔だった。

「――――――――え?」

 どういうこと、なのだろうか。
 どうして、“火野”と呼ばれていたこの人が、“火野”のおじさんではないのだろうか?
 この人を痛くしてあげるたび、聞こえる声を無視できていたのは。
 仁美おねぇちゃんを殺した、“火野映司”だと思ったから、なのに……

「どうして、“火野”のおじさんじゃないの――――?」

 認識した途端、押さえつけていた感情が溢れ出す。
 それはこれまでのように、カオスに活力を与える熱情ではない。むしろその逆、まるで胸に穴が開いたかのように力が抜けていく悪寒に襲われる。
「何……? 何なの、これ……っ!?」
 あの海の底とは、また別種の冷たさ。あたかも氷点下の世界に立たされたかのような体の激しい震えに、戸惑いの声が漏れた。
 この気持ちは何なのか。その正体がわからないままにカオスは、重圧に潰されて行く。

 ――思い出して。

 最早周囲の様子すら見えていないカオスへ、不意に声が聞こえた気がした。

 ――仁美ちゃんが、あなたに何を言ったのか。

(仁美……おねぇちゃん!)

 ああ、そうだ。
 寒いなら、暖かくすれば良いんだ。
 あの心地よい暖かさを思い出せば、それはきっとカオスの震えを止めてくれる。
 縋るようにカオスは、仁美と過ごした記憶を辿って行く。

 ――「愛」が痛いものとは限りませんわ。だって愛は、心地よいものだったりもしますもの

 愛を求めていたカオスに、彼女は初めて、真摯に向き合ってくれた。
 
 ――「愛」というものには、絶対にではありませんが、共通する事があります
 ――それは、その人の傍にいたい。その人に傍に居て欲しい。
 ――それに何より、その人に笑顔になって欲しい、という想いです
 ――「愛」に確かな形は有りません。けれど、大好きな人の傍に居ると、とても温かい気持ちになりますの

766 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:56:59 ID:9I6gYcYQ0

 そんな風に、たくさん、カオスに“愛”のことを教えてくれた。
 教、えて――

 ――残念ですけど、「愛」は教えることの出来るものではありませんの
 ――「愛」は、心で感じるものなのです

「…………あ、れ…………?」

 ――「愛」は、教えられるものではない。

 どうして、忘れてしまっていたのだろう? どうして、気づくことができなかったのだろう?

 この“愛”は、カオスが縋る感情は――本当の意味では、仁美が教えてくれたというわけではないということに。
 仁美が説いた「愛」とは、別物かもしれないということに。

「あ……あぁ、あぁぁぁぁぁ……っ!?」

 ――それは違う! そんなものは愛じゃない!
 ――殺すのが"愛"……? 死ぬのが"愛"……ッ!? 何よそれ……ふざけんじゃ、ないわよ……ッ!
 ――そんなものが――そんなものが愛であっていい訳がない!

 仁美を喪ってからというもの。出会った皆が皆、そう言ってくれていたのに。

 ――痛いのが愛とか、そんなわけないって前に教えただろ。だいたい皆をいじめちゃいけないじゃないか
 ――こんなことが愛なんて……そんなの絶対おかしいよ!

 なのに。
 カオスはあの時、仁美を失った時に感じたのを、“愛”だと信じて。
 それを、仁美が教えてくれたのだなどと、勝手に思い込んで――考えもせずに。
 皆にも“愛”を教えてあげると嘯いて、痛くして、あったかくして、殺して、食べて――
 だけど誰も、そこに「愛」を感じてはいなかった……?

 ――何が愛だ! よくも智樹とまどかを……てめぇがやってんのは、ただの人殺しじゃねぇかっ!?

「ちがっ、ちがうの! わたし、わたしそんなつもりじゃ……っ!?」

 そこでカオスは、再び現実を直視する。
 カオスを目にして恐れの色を滲ませる鏑木のおじさんと、カオスに気づくことができないほどに消耗した“火野”のおじさんではなかったおにいちゃん。
 心地よい暖かさなどから程遠い、二人の傷ついた姿を。
 彼らを傷つけたのが、言い逃れのしようもないほど、誰の仕業なのかということを。

(――ごめん)

 さらにそこで、誰にも聞こえないはずだった彼の懺悔が、カオスにだけは聞こえた。聞こえてしまった。

(桜井君、まどかちゃん……守って、あげられなくて……ごめん……)

 …………ああ。

 その、悲痛の極まった声色に。
 今更になって、少女は過ちというものを知らしめられた。

 ああ。
 わたし、わたし、なんてことを……

「ごめ……んなさい……」

 そして、それは処理能力の限界を超えた、感情の奔流による回路の強制停止を招いて。

 カオスの意識は、自責の念に押し潰されて、消えた。

767 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:58:14 ID:9I6gYcYQ0



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 突然、一人で取り乱し始めたと思ったのも束の間。謝罪の言葉を残して、涙を零しながらカオスが昏倒し、地に墜ちた。
 果たして彼女に何が起きたのか、それを理解できる者はこの場にはいなかった。
「何だってんだよ……」
 現れてからここまで一切の会話が成立せず、自分達を嵐のように振り回し続けた天使の最後まで理解できない言動に、虎徹は思わず愚痴を零した。
「――好機!」
 同時、彼女の参入に距離を取っていたメズールが動いた。
 一度は諦めた、カオスを今度こそ手に入れるため。
 そして、一切の邪魔がないこの瞬間に、身を守る手段すらない映司と虎徹を始末するために。
 目の前に倒れ込んだカオスへ向け過ぎていた意識を戻した時には、もう遅い。
 放たれる雨月のレーザーを回避する猶予は、虎徹には残されていない。

 ――――そう、虎徹には。

 励起された分子が基底状態へ遷移し、レーザー光が発振されるまでの僅かなタイムラグ。直線上の死を確定させる一刹那前、横合いから一条の銀が飛来した。

 高速移動の残像を帯として残すその円環は、紅椿の持つ雨月の刀身に直撃。それだけで傷つけることこそ能わなかったが、その威力はISの出力と機体制御をして手元を狂わせる。
 結果、放たれた紅の閃光は、虎徹達を逸れて見当違いの位置を融かし、穿っていた。
 そして、銀の弾丸は一発だけではない。

「これは……っ!?」

 続く連射が、紅椿の機体を襲う。
 シールドバリアーがあるとはいえ、被弾し続けて良いわけではないと判断したメズールは一先ず、機首を翻し回避行動に移る。
 同時、そのメズールを盾とした弾幕の死角から、映司と虎徹、さらにはカオスまでもを諸共狙い、Rナスカが飛翔する。
 だがその紅い翼の背後に、蒼い炎を纏う死神の影が差す。
 背後から浴びせられた殺気にナスカが回避行動を取った直後、超高温の蒼い炎の矢が寸前まで彼女の居た空間を貫いて、射線上の大地に突き立ち燃え上がらせた。

768 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 00:59:19 ID:9I6gYcYQ0

 思わぬ横槍に、仕切り直しとばかりに距離を取る二体の怪人。
 その機を逃さず、彼女達と虎徹達との間へ盾となるように割って入ったのは、すらりとした長身を赤いパワードスーツで包んだ青年。
 あまりにも自身にとって都合の良いタイミングで現れたその姿を、虎徹は信じられない気持ちで見上げていた。
 その様子に気づいたのか。仮面越しに顔半分だけを振り返らせた彼は、努めて平静にしながらも、再会の喜びを隠しきれていない声で虎徹に告げた。

「――助けに来ましたよ、虎徹さん」
 その声を、この自分が聞き違えるわけがない。
「……バーナビー」
「まったく……ボロボロじゃないですか。しっかりしてくださいよ」
 目の前に立つのは、間違いない。
 シュテルンビルトが誇るキングオブヒーロー、バーナビー・ブルックスJr.だ。
 万事休したはずの窮地に、再会を求めて止まなかった相棒が駆けつけてくれた。
 さらに、ライドベンダーから降り、奇妙なデザインの銃を構えた男と――宙空にあってメズール達を牽制するルナティックの姿を確認し、状況の変化を悟った。
「……ははっ」
 この殺し合いが始まってから初めて、安堵による脱力を覚えた虎徹は映司を抱えたまま、尻餅を着いた。
「……っ、この娘は!?」
 そんな虎徹と、周囲の様子を伺っていたバーナビーは、傍らで倒れ伏した少女の姿に驚きの声を上げる。
 そこに心配の色がほとんど含まれていなかったことに、虎徹は暫しの間、バーナビーの発言の意図を読みあぐねた。
「まさかその娘を、もう止めちまってるなんてな」
 そんな戸惑いの最中、銃口をメズール達から外さないまま、助けに来てくれた者達の中で、唯一虎徹の見知らぬ東洋系の男がこちらに歩み寄って来た。
「さっすがだぜワイルドタイガー!」
「ええと……あんた誰?」
「俺? 俺は伊達明。そこの火野映司の仲間で、今はバーナビーと一緒にあんた達を助けに来た味方ってわけ」
 精悍な顔に人の好い笑顔を浮かべた伊達は自己紹介の後に、一旦銃を下げる。
「火野の馬鹿だけならともかく、あんたも随分ボロボロになってるみたいだからな。この先は俺達に任せといてよ」
 そう言って背負っていた大きなミルク缶を地面に投げ出すと、伊達は首輪からセルメダルを一枚取り出し、同時に奇妙な箱を腰の前へ持って行く。
 それがベルトとしてひとりでに彼に巻き付いた時、虎徹もさすがに気づいた。
「あんた……」
「変身!」
 コイントスの要領で跳ね上げたセルメダルを左手でキャッチし、それをドライバーに挿入した伊達は、虎徹を確信させる言葉を吐いた。
 右手でドライバーに備えられたダイヤルを勢いよく回した伊達の体を、カポンという小気味良い音を合図に、ベルトから生成されたパーツが装甲して行く。
 瞬く間に伊達明は、緑と黒を基調とし、赤い線の入ったパワードスーツに身を包んだ姿へと変身していた。
「仮面ライダーだったのか!」
「そ! 仮面ライダープロトバース。ただいま参上……ってね」
 大きく両肩を回すその姿に、虎徹は頼もしいものを覚える。
 ジェイクはともかく、映司の変身したオーズの力は目の当たりにしている。同じ仮面ライダーなら、プロトバースもそれに匹敵する戦力を秘めているはずだ。
「さーて……三対二で悪いけど、ちゃっちゃとやっつけさせて貰うぜ」
「……舐めたことを言ってくれるわね、バースの坊や」
 既知の仲だろう伊達が睨み合うメズールだが、その口調は苦々しい。自分達の不利へ戦況が傾きつつあることを、彼女も悟っているのだろう。
「……鹿目まどか達はどこだね、ワイルドタイガー?」
 ――高揚していた虎徹に冷水が掛けられたのは、その時だった。

769 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 01:01:28 ID:9I6gYcYQ0

「姿が見えないが……君とオーズが守り、無事に逃げ果せさせたと理解して構わないのかね?」
「それは……」
 言い淀んだ虎徹に、ルナティックが仮面に覆われた顔をカクン、と落とすように傾けた。
「それともまさか……私にあれだけの啖呵を切っておきながら、結局はそこの罪人どもの魔の手から、彼女達を守れなかったなどとは言わないだろうねぇ?」
「……一つ、訂正させて貰っても良いかしら?」
 そんなルナティックの詰問に虎徹が返す言葉を見つけられなかった時、意外な人物が割り込んで来た。
「鹿目まどか達を殺したのは私達じゃないわ。そこにいるカオスって小娘よ」
「貴女――っ!?」
 告発したのは、ルナティックと宙で対峙してたRナスカ・ドーパントだった。
 思わぬ発言だったのか、相方を糾弾するような鋭い声をメズールが発し、バーナビーとプロトバースは弾かれたようにカオスへと視線を巡らせる。
「――ほう?」
 ナスカに向けていた顔を虎徹に戻したルナティックは、仮面越しにこちらの表情を凝視し――納得したかのように、鷹揚に頷いた。
「……所詮は君達の正義など、惰弱な物に過ぎないということか」
 少しばかり、寂しげに聞こえた呟きをルナティックが漏らす。
「ならばやはり、私はタナトスの声に従うこととしよう」
 夜の中――虎徹達よりも離れた場所にいる彼にはカオスの頬を濡らす物が見えず、また譫言のように何事かを呟いているということなど、知る由もなかった。
 次の瞬間、気絶したカオスへと構えられたボウガンには、既に蒼い炎の矢が装填されていた。
 
「罪深き少女よ。君を闇の呪縛から解き放ち、償いと再生の道へと導こう」

 宣告と同時。引き金にかけられた指が、押し込まれる。
「まずいっ!」
「――ハァッ!」
 バーナビーが叫んだ瞬間、Rナスカも動いた。
 幾度となくオーズを苦しめた光球を複数発生み出し、射出。軌道は曲線を描き、密集した虎徹達とルナティックの双方へと襲いかかる。
 そしてその時には既に、動き出していた影があった。
 彼が掃射した光弾は虎徹達とルナティックに向かっていた光球を迎撃し、そのほとんどを撃墜。僅かな撃ち漏らしは、ルナティックは自力で、虎徹達はバーナビーに押し倒されることで回避に成功する。
 そして押し倒される中で、ルナティックの放った矢からカオスを庇い、彼が直撃を受けるまでの一連の流れを、虎徹は確かに目撃していた。
「伊達!」
「っ、つぅ……思ったより効いちゃったねぇ」
 可燃物の含まれていないのだろうプロテクトスーツに、それでも未だ蒼い炎を纏わせたまま――矢としての直撃を受けた部分の装甲を微かに窪ませたプロトバースが、そんな強がりの声を発していた。
 ……この間追撃がなかったのは、既にルナティック達にそんな余裕がなかったためか。
 不意打ちを働こうとしたナスカへとルナティックは報復の矢を放ち、回避されて撃ち合いとなっていた。しかし一進一退の攻防に割り込んで来たメズールの紅椿のシールドバリアーに炎を弾かれ、逆に猛烈な勢いで攻め立てられ始めていた。
「――あの娘は殺させないわ!」
 叫ぶメズールの気迫とは裏腹に、手の空いたナスカはどこか冷淡な様子で再度光球を放つ。それをプロトバースが迎撃している隙に、能力を発動したバーナビーが「お借りします」の一言で抜き取っていったザンバットソードを片手に挑みかかり、追い払う。
 その頃にはプロトバースを包んでいたルナティックの炎も消えていたが、彼はカオスを気にして回避ができずに再びの被弾を許し、結果として片膝を着くまでに追い込まれていた。
「ああ……っ! おい、大丈夫かよっ!?」
 早々に痛めつけられたプロトバースに姿に、思わず虎徹は心配の声を発した。対して「大丈夫大丈夫」と思ったより元気に掌を振る様子に安堵を、続いて心配したことへの気恥かしさを覚えた。

770 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 01:02:23 ID:9I6gYcYQ0

「……ったく、何やってんだ」
 そいつ庇ってばっかでいきなりボロボロじゃねーか、と。誤魔化しのため思わず虎徹が漏らした野次に、プロトバースに変身したまま伊達は反駁した。
「何って、決まってんでしょーが。それともあんた……おいおいがっかりさせんなよワイルドタイガー。俺、バーナビーからあんたのこと、スゲー奴だって聞かされてたのによ!」
 思わぬ反論の勢いに、虎徹は知らず鼻白んだ。
「あんた、俺の嫌いな自分を泣かすタイプの人間か!?」
 そんな虎徹の様子を確認した上で、悠長に待つことはなく。立ち上がったプロトバースは、さらに畳み掛けるように訴えかけてきた。
「それともあんたは平気なのか!? 自分の間違いに気づいて、背負った荷物が重過ぎて自分を泣かせちまってる女の子に、なんッも手を差し伸べてやらねーでさ!」

 伊達から浴びせかけられた、その言葉。
 それは虎徹に、既にこの世を去ってしまった探偵の片割れに諫められたことを。彼に自分が止めると約束した、カオスと同じエンジェロイドの『あの娘』のことを思い出させていた。

「確かにこの娘はやっちゃいけねぇことをした。その罪は消えない」
 そう認める伊達の声は、どこか震えていた。
 もしかすれば彼もまた――カオスから誰かを守ることができなかった、その苦い記憶を噛み締めているのかもしれない。

「でもだからってな、折角それがいけないことだったって知る機会を得たのに、やり直しを許さず問答無用で殺しちまうのが正義か?
 違うだろ。罪は消えなくたって、死んだり傷ついたりすることばっかりが償いなんかじゃないはずだ」
 それでも伊達は、映司や虎徹達ヒーローが信じるのと同じ理念を、迷いなく虎徹に説いた。
「――この娘にそれが許されるチャンスを守るためなら。火野じゃあないけど、ちょっとは危ない目にだって遭いに行くさ」

 続いた伊達の言葉に、虎徹は頭を冷やされる思いだった。

(――ああクソ、俺はまた同じ間違いをするところだったのかよ)

 思えばカオスがまどかを殺した直後、自らの行いに初めて疑問を呟いたあの時。
 虎徹はイカロスにしてしまったのと同じ失敗を、カオスにもしてしまったのではないか。
 無論、あの時のイカロスと、その時点でのカオスとでは、積み重ねた悪逆には大きな差があったが、それでも。

 ごめんなさい、と。

 気絶しても泣き続け、譫言のように尚も謝り続ける、カオスの姿を見れば――決して歩み寄ることのできない邪悪だと断ずることは最早、虎徹にもできなかった。
 思えば智樹とまどかだって、カオスに対して憎悪とは程遠い感情を抱いて向き合っていたのだから。

 虎徹自身の心情としては未だ、カオスの所業への憎しみは消えていない。
 それでも、ただ断罪されるべき存在としかカオスを見なさないのは、彼らの願いに対する裏切りにも繋がるのではないか……そんな風に感じている自分も、今は確かに存在していた。
 そんな感情に気づくのが、万が一にもカオスを見殺しにした後だったとしたら。きっと、正義より私怨を優先してしまった虎徹の心は、今度こそ折れてしまっていたかもしれない。

「ああ、そうだな……確かに、本当にこの子がやり直せるかはともかくだ。その機会すら奪っちまうのを黙ってみていたとしたら、俺はきっとどこかで後悔してたんだろうな」
 自分の命だけでなく、心まで救ってくれた男に、虎徹は小さく頭を下げた。
「礼を言うぜ」
「気にすんなって。ホントのところは俺がそうしたかったから、そうしただけなんだしさ」
 そう答えたプロトバースは改めて手にした銃――バースバスターを持ち上げると、虎徹に背を向けて戦場の方へと向き直った。
「二人だけだとちょっと不利――だけど、あんまりルナティックを自由にしてたらその娘を狙って来る。悪いけど巻き込まずに済む保証がないから、二人を連れて離れておいてくれないか?」

771 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 01:03:16 ID:9I6gYcYQ0

 その伊達の提案に、折角合流したばかりのバーナビー達と別れなければならないことへの抵抗や、彼らばかりに戦いを任せる申し訳なさは感じたが――逡巡の後に、虎徹は頷いた。
「わかった。悪ぃがライドベンダー借りてくぞ!」
「応、持ってけ持ってけ!」
 バーナビーを押し退け、迫ってきていたナスカへバースバスターの弾幕を展開し足止めしながら伊達が頷く。
「さーて……時間、稼がせて貰いますか」

 映司とカオス、気絶した二人を連れてライドベンダーへと向かう虎徹の背で、伊達はバーナビーと共に凶悪な敵との激戦を繰り広げる。
 限界が近い故とはいえ、虎徹の牛歩のような行進を一切責めることすらなく、黙々とその身を盾にしてくれている。

 そんな彼から、確かに託されたもの。
 仲間である火野映司と、伊達明が救いたいと願っているカオスと。
 二人を確実に守り通すのが、今の自分の役目であるとして。
「頼んだぞ、伊達明――それに、バーナビー!」
 そして――限界まで戦い抜いたヒーローは、仲間達との約束を果たすため、戦場からの離脱を開始した。

 ――伊達にとっての、カオスのように。
 自らが助けたいと願った――あの天使が間もなく、この地に舞い降りるということも知らずに。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



「――チィッ!」
 鋭い舌打ちは、空を舞うルナティックの物。らしくないその余裕のなさが、彼と敵対者の戦力差がどれほどのものであるか、実に雄弁に物語っていた。
 ルナティックの能力は飛行を可能とするが、それはあくまで応用であり変則使用、本来の用途とは異なる。それで相対しなければならないのは、元より空中戦に秀でたインフィニット・ストラトスだ。
 まして相手は、量産性を度外視し、極限まで性能を追求した第四世代の専用機、紅椿。
 未だ第三世代の実験が続けられる世界に出現した、オーバーテクノロジーそのものとも言うべき最強の機体を相手に、ルナティックの不利は免れない。
 生半可な威力の炎は、ISの標準装備であるシールドバリアーで容易く遮断されてしまう。直撃しさえすればそのシールドも突破し得るだろう、クロスボウを利用し威力を上げた炎の矢は、空中では特に予備動作からあっさり見切られ、機動性で遥かに勝る紅椿を掠めることすら難しい。
 ならば地に足を着け、確実に狙いを付けるべきかと問われれば、答えは否。足を止めるということは的になるということであり、結局のところ炎を操る以外は常人の範疇でしかなく、仮面ライダーなどと比べ遥かに打たれ脆いルナティックでは反撃の機会を窺う機会すらない、自殺行為にしかなり得ない。
 故にこれもまた悪戯な時間稼ぎにしかならず、不利と理解していても、何とか足を止めずに済む空中での戦いに臨むしか彼に選択肢はなかった。

「……苦戦してるねぇ」
 いくらNEXTが進化した人類といえど、相応の武装がなければ、未来の兵器を相手にしては分が悪い。
 そんな様子を横目にしたプロトバースは共闘する形となった相手の不利を確かに認識したが、残念ながら今すぐ助けに行くことはできない。
 彼らが相手取る怪人もまた、飛行能力と強力な遠距離攻撃を誇る難敵だ。
 自在に宙を舞い、上空から光球の連射に徹して来られた場合には、今のプロトバース達の戦力ではジリ貧だった。
 そうならないのは、その戦法ではセルメダルの消費が著しいと判断したためだろう。プロトバースとしても、バースバスター連射によるメダル消費を抑えられる接近戦は望むところではある。が、狙い撃つべき隙を晒せばいつ光球に蹂躙されるかもわからない以上、プロトバースはあくまで援護に徹するのが正解と言えた。
 代わり最前線に立つバーナビーは、虎徹から譲り受けたザンバットソードを手にナスカと切り結ぶ。単純な剣技に関しては、伊達の見立ててではどちらも専門ではないためか同程度。となれば単純に、より身体能力に勝る方が優位に立つ。

772 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 01:04:25 ID:9I6gYcYQ0

 通常時なら、パワードスーツの助けを借りたところで、常人の延長に過ぎないバーナビーではナスカ・ドーパントには遠く及ばない。
 しかし、NEXT能力である『ハンドレット・パワー』発動中の彼ならば、人外の怪人とも互角以上に渡り合えている。むしろナスカが凍傷で本調子とは行かない分、上回っているとすら言える。
 得物であるザンバットソードも、ナスカの手にした長剣に比べてよほど優れているのか、打ち合うたびに刃毀れするのは向こうばかりだ。
 これなら、接近戦に徹すれば勝機はある。しかしその接近戦までバーナビーが持ち込むには、光球を迎撃する相方が必要となる。ルナティックには悪いが、せめて隙を作るまではもう少しだけ、一人で持ち堪えて貰わなければならないだろう。
 そう思った次の瞬間、ナスカの動きが急激に加速した。
「――がっ!?」
 高速移動の霞となったナスカが、対応しきれていないバーナビーを前後左右から滅多打ちにする。
 特殊合金を採用したヒーロースーツは、その攻撃にも易々突破を許しはしない。しかし打撃となったその滅多打ちによって生じる衝撃までは、如何に高性能なスーツと言っても、完全には防ぎ切ってくれない。
 そして先程の戦闘でカオスに傷を付けられた腹部を狙われては、バーナビーが発するのは苦鳴だけでは済まなくなる。
 それに気づかれる前に、悟られぬようという意も込めてバーナビーが膝を着いた頃には、ナスカはISに匹敵するスピードでの、そのさらに上を行くアクロバティックな動きを止めた。
 トドメを、刺すつもりだ。
「――やらせるか!」
 目まぐるしく立ち位置の変わる剣戟の最中や、先程までの高速移動中に、完全に近接されていてはバーナビーを巻き込む恐れがあり、下手な援護はできなかった――が、今なら話は別だ。どちらかといえば大雑把な乱射が持ち味の伊達でも、誤射の心配なくナスカを攻撃できる。
 だがそれをナスカは読んでいたのか、逆に光球でバースバスターの光弾を迎撃して来た。
 エネルギー弾同士、互いの威力を相殺され、バースの援護射撃はバーナビーを救うには至らない。
 しかしプロトバースの仮面の下、伊達明の顔は不敵な笑みを浮かべていた。
「よぉーし、結果オーライ」
 バースの銃撃を防ぎ、油断していたナスカが気づいた時には、既にその銀色の液体はバーナビーとナスカの間にまで移動していた。
「――Scalp(斬)!」
 マニュアルを嫌った伊達が、救えなかった少女に代わりに読んで貰い、教えられたその呪文。伊達は一瞬にも満たない刹那、脳裏を掠めた感傷を意図的に忘却し、ただその文言だけを鋭く詠唱する。
 そうして紡がれたプロトバースの号令と同時に、水銀球の一部がくびれて細長い帯状に伸び上がり、次の瞬間には唸り上げて紅の怪人に襲いかかっていた。
 ウォーターカッターと同等の切断力を持つ一撃が、水銀が一人でに動くという目の前の異様に面食らっていたナスカへと直撃する。どうやらヤミー達同様に強固らしい皮膚は浅く切り裂かれるに留まったようだが、その分モロに運動エネルギーを手渡されたナスカは思いっきり吹っ飛ばされた。
 手が出せないままバーナビーが追い詰められた際、状況を覆せるかもしれないと起動させておいた月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)による一撃が、綺麗に奇襲として決まってくれた。
 プロトバースに変身しての戦闘行為と、月霊髄液の運用を合わせれば伊達のメダル消費も馬鹿にならないが、その点は到着前に鴻上会長から託されたコアメダルを首輪に投入したことである程度改善されている。まさかここでいきなり映司と再会するとは思わなかったが、意識も覚束無い様子だった彼に託す前に自分で使わせて貰ったのは正解だったか、と伊達は判断した。何しろ、おかげでバーナビーの危機を救えたのだから。
「それじゃあ、水銀ちゃんが時間を稼いでくれてる隙に……」
 ヤミーやグリード同様の怪人であるなら、あんな程度で倒せるわけはないだろう……という伊達の予想通り、ナスカは撥ね飛ばされた勢いの割にはあっさりと、しかしまだダメージが抜けきっていない様子で立ち上がる。
 その隙を、月霊髄液に追撃を畳み掛けさせることで遅延させる。
 ナスカならば、単調極まる月霊髄液の攻撃に順応するのにそう時間は要すまい。だが単調とはいえ、攻撃速度自体は放たれてからの回避を許すほど遅くはない。無視し続けるわけにも行かず、暫くは対処を余儀なくされることだろう。
「バーナビー、ちょっとだけ持ち堪えといてくれ!」
「ちょ、伊達さん!?」
 その間にプロトバースは、抗議するバーナビーを置いて反対方向へと駆け出した。

773 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 01:05:57 ID:9I6gYcYQ0

 向かった先で繰り広げられていたのは、ルナティックと紅桜の繰り広げる、一方的な空中戦の様子だった。
 いよいよ追い詰められたルナティックに対し、手にした大剣の片割れを振り翳した紅桜を前にして。伊達はまずは一枚、セルメダルをカポンとプロトバースドライバーに装填した。

 ……バースにはCLAWsと呼ばれる、戦闘支援ユニットシステムがある。
 バースドライバーにセルメダルを一枚投入することで物質転送機能が作動、選択したユニットが転送・装備され、局面に応じてユニットを換装しながら戦闘を行うことが可能で様々な局面に対応できるようになる汎用性の高い機能だ。
 伊達自身、より長い期間運用して来た完成品のバースと違い、試作機であるプロトバースでは二種類の武装しか呼び出せないが――今はその二つがあれば、事足りる。

《――クレーン・アーム――》
 低い声で響いた電子音声の直後、右肩のカプセルから転送された巨大な機械が、バースの右腕をすっぽりと包み込む。
 名前の通り、クレーンの付いたアームユニットを装備したプロトバースは、その先端にあるワイヤー付きフックを射出した。
 あらゆる攻撃を防ぐはずのISのシールドバリアーが、何故だか拘束攻撃には反応しないという性質を持つこと。そしてトドメのために、動きが単調になっていたのが幸いだった。まさに振り下ろされるところだった大剣が動くより先に、その腕をクレーンアームは絡め取り、軌道をズレさせる。
 結果、放たれたエネルギー刃はルナティックを逸れ、彼の命を救うことに成功していた。
「選手交代と行こうぜ、ルナティック!」
 何が起こったのかを二人が理解するより早く、プロトバースは声を張り上げる。
「こっちは俺が引き受ける、からおまえはバーナビーの援護を頼むわ」
「……協力の申し出は、謹んで辞退させ貰うと言ったはずだが?」
「あっ、そういうこというわけ? 早く助けに行かないと、バーナビーの無辜の命が危ないんだけど」
 確認したわけではなかったが、そちらの様子を伺った瞬間ルナティックがすぐに発進したことを見るに、やはり月霊髄液のみによる足止めは不十分だったらしい。
 だがバーナビーも回復している今なら、ルナティックが光球を迎撃する役割を引き受けてくれれば拮抗状態に巻き戻せる。厄介な加速能力も、単体では不十分とはいえ、月霊髄液が壁となれば多少は抵抗できるはずだ、と伊達は読んでいた。
「勘違いするな」
 こちらの思惑をどこまで見抜いたのかは、ともかく。そんな在り来たりな言葉を残してルナティックが去っていったことに、仮面の奥で伊達がつい苦笑した直後、プロトバースを浮遊感――いや、右腕ごと全身を引っ張られるような感覚が襲った。
「邪魔ばかりしてくれるわね、バースの坊や」
「意地悪したくなる年頃なんだ、悪いね」
 メズールとの会話の最中、今度は強烈な遠心力を伊達は覚える。
 恐るべきは紅桜の出力か。平然とバースを持ち上げながら、さらに音速飛行を開始する。
 林立する建物に叩きつけようとする相手の意図を、ワイヤーを巻き上げることで距離を狂わし回避しながら、プロトバースは一気に紅桜本体との距離を詰めて――被弾する。
 容易く壁にぶつけさせてはくれず、それが成ったところで労力に見合う成果がないということに気づいたメズールが、雨月のレーザーで直接プロトバースを狙って来ていた。
 だが、暴走したプトティラの猛威に晒されても易々とは破壊されなかったバースの装甲だ。如何に紅椿の砲撃とはいえ、何発か無事に耐え得るだけの強度は持ち合わせている。
 プロトバースならばそうして反撃の機会を作れるからこそ、ルナティックと相手を交代することを選択したのだ。
 だから被弾する度セルメダルを排出しながらも、無謀とは思わないプロトバースはその内の一枚を力強く掴み、躊躇いなくバースドライバーへと挿入する。
《――ブレストキャノン――》
「……後藤ちゃん直伝の戦法だ」
 胸部に射撃用ユニット・ブレストキャノンが出現した時には、ワイヤーを完全に巻き戻し終えたプロトバースは紅椿との距離を消失させ、その巨大な砲口を相手に密着させていた。
 両足も絡めさせて攻撃を抑えつつ、まだ空いている左手で続々、セルメダルをセットして行く。
《――セルバースト――》
 バースドライバーにセルを一度に二枚投入した場合は、『セルバースト』の電子音声と共に瞬間的に通常出力の290%ものエネルギーを解放するセルバッシュモードが起動する。
《――セルバースト――》
 これにより、バースは攻撃ユニットの威力を大幅に強化し、俗に言う必殺技の発動を可能とするのだ。

774 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 01:06:40 ID:9I6gYcYQ0

《――セルバースト――》
 そして――この機能に置いて真に特筆すべきは、セルバッシュモードを複数回連続で起動させることで、ブレストキャノンの威力をさらに高めることも可能であるという点だ。
「ちょ……っ!」
《――セルバースト――》
 上擦ったメズールの声と、振り下ろされた大剣による直接攻撃のダメージを無視して、四回目のセルバッシュモードが発動。
 これで出力は最大。しかも威力の減退・回避のしようもない、ゼロ距離からの接射である。
 ISのシールドバリアーを前に、生半可な攻撃が無意味であることは知っている。
 しかも展開装甲を備え、シールドの出力を上げることができる紅桜相手なら、出し惜しみはなしだ。

 至近距離から浴びせる、最大火力の一撃。これで一気に勝負を決める!

「――鈴音ちゃんの友達の形見、これ以上悪用なんかさせねえよ」
「は、放しなさ……!」
「ブレストキャノン……シュートッ!!」
 メズールの懇願のような命令をかき消して、バースの主砲が火を噴き――煌く竜巻のようなエネルギーの奔流が、紅椿の機体を呑み込んだ。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


 結論から言えば、最大出力のブレストキャノンの直撃でも、紅椿を撃墜するには至らなかった。
 自らクレーンアームの先端を焼き切ってしまったプロトバースは無様に落下し、その衝撃に暫く身体を痺れさせた……が、その間に追撃はなかった。

 確かに、完全体グリードクラス相手にはダメージこそ入れられても撃破には及ばないブレストキャノンの火力では、最強のISたる紅椿を撃破するにはやはり威力が不足していた。
 しかし対グリードでの使用で得られる効果と同じように、ダメージが一切通らなかったわけでもないのだ。

「くっ、シールドが……っ!」
 展開装甲まで防御に回したシールドバリアーは突破され、装着者の命そのものは『絶対防御』の機能で守られていたが……紅椿自体は、機体に少なくない打撃を受けてはいた。
 最大出力のブレストキャノンを防ぐという過度の負荷は、シールドバリアーの発生装置を一時的なシステムダウンへ追い込んだ。紅椿の機体そのものも、限界に近い駆動とビームから直接浴びせられた熱量により、異常な温度上昇でオーバーヒート手前にまで痛めつけられていた。
 無論、自己修復機能を持つIS、その最高峰である紅椿ならこれだけでは致命的とまではならないダメージだが、プロトバースが体勢を立て直すまでの時間を稼ぐには充分。何よりこれで、厄介な防御は暫くの間無力化できた。
 空も飛べないというのに、単独で紅椿に挑むのは無謀というより他ないと思ったバーナビーの心配など、どこ吹く風か。伊達明はあっと言う間に、見事な戦果を打ち立てた。

 やはり彼はとても心強い、頼りになる同行者だ。細かい部分は抜けているが、大局的な判断に対しては常に最善手に近いとバーナビーも思う。
 たとえ伊達が、折角再会したばかりのタイガー&バーナビーを、再び引き裂くような選択をしたのだとしても。あの状況では、虎徹のために従うしかないではないか。

 そんな、戦いに没頭しきれない心理状態にありながらも、バーナビーもまた自身の受け持った敵を追い込んでいた。
 ハンドレッド・パワーにより、剛力と速度を両立させたバーナビーの猛攻は正面からならナスカ・ドーパントすら圧倒し、その力を少しずつ削いで行く。
 無論、超加速されればバーナビーのさらに数倍、音速すら突破するナスカに対しては一気に防戦以下へ追い詰められるが、その時には伊達の残した月霊髄液がカバーする。
 能力発動中のバーナビーならば、音速程度に反応できないわけではない。ただそこに予測困難なアクロバティックな動きが加わることで対処が困難になる。
 ならば、同じく音速程度になら反応できる月霊髄液がその動きをある程度固定する壁となってしまえば、バーナビーでも超加速を凌ぐことが可能となるのだ。
 厄介な光球については呉越同舟というべきか、加勢したルナティックが先程の伊達と同じ役割を見事に果たしている。仮に彼を狙ったところで、月霊髄液の反応速度と攻撃速度の方が超加速したナスカの移動スピードを上回っている分、捕捉するのは容易い。

775 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 01:07:28 ID:9I6gYcYQ0

 このまま押せば、勝てる。その手応えが、バーナビーの戦意を後押しする。
 一人一人では各個撃破を余儀なくされる強敵を前に、今こそ伊達が提案した通りの共闘の形とはなっている。しかしそれはバーナビーとルナティック、お互いにとって本意ではない。この敵を制圧した後には、今度はルナティックとの対立が避けられないものとして待ち構えているはずだ。
 ナスカはもちろん、ルナティック相手にも、NEXT能力を欠くわけにはいかない。そのための猶予は、決して長くはない。
 何より重傷の虎徹達を、いつまでも放っては置けない。そんな焦りもまた、バーナビーの攻めを苛烈な物へと変化させていた。

 そして何合目の激突か。ザンバットソードが、遂にナスカブレードを両断する。

 得物を失い、こちらの攻撃に対処できなくなったことを悟ったナスカの動揺を、バーナビーは見逃さない。
 鋭く突き出した蹴りの一撃を、ナスカの腹部へと炸裂させる。
 ハンドレッド・パワーで強化された一撃でも、ナスカを無力化するには至らない。だが同時に月霊髄液の斬撃が叩き込まれ、さらにルナティックによる追撃まで合わされば、いよいよナスカも膝を着いた。
 変身こそ解けていないが、このまま制圧できる。そう考えたバーナビーが、次の敵対者となるだろうルナティックの様子を密かに伺おうとした、まさにその瞬間。
 視線を巡らせたことで、バーナビーは偶然にも彼女の接近に気づくことができた。

「あれは……」

 最初に視界に収めた時、異常な速度で移動する光点にしか見えなかったその詳細が、秒も経たぬ間により鮮明となる。
 それはともすればあの娘(カオス)のような、美しい天使の似姿をしていた。
 二対四枚の大翼で夜空を翔け、輝く円冠を頭頂に戴いたその少女は、浮遊する装甲を伴ってこそいるが、殆ど生身に等しい姿のまま、インフィニット・ストラトスすら遥かに凌駕する――スーツの補助とハンドレッド・パワーの効力、そのどちらかでも欠けていれば視認すら許されなかっただろう速度で、こちらに近づいて来ていたのだ。

「――後ろだっ!」

 その翼が輝きを増し、少女の口が何事かを呟いたのを目撃した時。バーナビーは相手が不倶戴天の敵であることすら忘却し、警告を発していた。
 しかし遅い。
 一筋の彗星の如く飛来する天使から分かたれた無数の流星は、大地を穿つ裁きの礫と化して、さらなる勢いで降り注ぐ。
 惑星の重力すら振り切りかねないその速度に、ルナティックが反応できたわけではない。ただバーナビーの警告に従い、姿勢を変えようと推進力たる炎の勢いを増しただけだったが、それが紙一重ほどの頼り無さで彼の命運を左右した。
 全く別の目的で射出された火球が、誰も意図しなかった結果を齎す。それは高空から魚を狙う鳥の如くダイブして来たその筒の照準をほんの少しだけ狂わす、囮の熱源として機能したのだ。結果狙いを逸れたその攻撃はルナティックの脇を通り抜け、その衝撃波だけで彼を切り裂いて打ちのめし――吹き飛ばしたことで、続いた爆発から遠ざけた。
 ルナティックの零した火炎に反射的に食らいついたミサイルは、その高熱に当てられたために誘爆し、炸裂していた。
 先に衝撃波によって吹き飛ばされ、距離を稼いでいなければ。余波だけでルナティックを四散させていただろう勢いの爆風が、凄まじい加速を与え彼を家屋の一つに叩き込む。
 その結末を見届けるより先に、銀の膜がバーナビーの視界を覆った。
 あの速度を前に、本当に自動で反応できたのかは定かではない。もしかすると、伊達の指示があったのかもしれない。
 何にせよ――彼自身にも向かって来ていたその小型ミサイルからバーナビーを守るために、月霊髄液が防壁を展開していたのだ。

 空間圧作用兵器『龍咆』の直撃すら凌ぎ切った、天才魔術師が誇る最強の魔術礼装。
 その防御が、水の膜より容易く穿孔された。

「――――――ッ!?」

 悲鳴すら、バーナビーには上げられない。
 水銀による障壁を半ば蒸発させる勢いで破裂させたミサイルは、その際に得た摩擦熱で起爆に至る。
 それは直前に、月霊髄液を貫いた弾頭部でバーナビーの腹部をスーツ越しに殴りつけ、接触した装甲の亀裂を一層深く刻んだ後のことだった。
 破城槌で腹を叩かれたような、そんな衝撃に息を詰まらせていたバーナビーの全身を、至近距離からの爆発が強襲し――一切容赦のない閃光と轟音と衝撃の直撃は、彼の意識に一切の抵抗を許さず刈り取るのに、充分過ぎる威力を発揮した。

776 ◆z9JH9su20Q:2014/04/28(月) 01:11:44 ID:9I6gYcYQ0


本日分の投下は以上になります。
残りの部分についてはまた明日以降、まずは仮投下スレの方に投下しますのでよろしくお願いします。
ちなみにwikiへの収録は自分で行うつもりですが、今回は>>757->>766が一分割目、>>767->>775が二分割目となります。

777名無しさん:2014/04/28(月) 05:12:14 ID:6g5yf1Ck0
投下乙です
虎徹と伊達さんが格好良い!カオスも正気に戻ってきたけどここでイカロス登場かぁ…
続きも楽しみに待ってます

778名無しさん:2014/04/28(月) 07:49:42 ID:eJwQhsJc0
投下乙です
漸くカオスは気づいてくれたか...
そしてバーナビーヤバそうだ

779名無しさん:2014/04/28(月) 13:42:02 ID:lLwv1Dn60
投下乙です

おおおおおおっ、どうなるか気になるパートだと思ってたら上手く書き切ってるう
俺も続きが気になるぜ
だが次で死人が出るかも…

780 ◆z9JH9su20Q:2014/04/29(火) 14:12:31 ID:BDYGKTUY0
皆様感想ありがとうございます!
まだ全てではありませんが、先程続きの一部を仮投下してきましたので、確認して頂けると幸いです。

781 ◆z9JH9su20Q:2014/04/29(火) 23:14:35 ID:BDYGKTUY0
お疲れ様です。
予約分、残りも全て仮投下完了しましたので、ご意見頂けると幸いです。

783 ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:12:47 ID:DOogWjbc0
これより、仮投下した内容の本投下を開始します。

784欲望交錯-Dの襲来/竜城騒乱- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:16:57 ID:DOogWjbc0



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


 とことんツキに見放されたまま、屈辱的な敗北を迎えるしかない。
 天から放たれた四条の光が戦況を一変させたのは、冴子がそんな度し難い現実への憤怒に、身を滾らせていた最中の出来事であった。

 下手をすればメズールとの協力関係を白紙に戻しかねなかったが、カオスを餌として差し出したやり取りのおかげで敵三人の連携を妨害し、あまつさえ仲間割れで消耗させ一気に有利へと戦力比を傾けるなど、冴子の選択そのものに不備はなかったはずだった。
 だというのに、結局のところ冴子は追い詰められている。一人一人が相手ならば、ゴールドメモリを使い熟す冴子が負けることなど、決してない程度の敵だというのに。
 冴子の目的は白陣営の消滅。オーズ達の誰かが持ち逃げしただろう白のコアメダルを放送までに奪わなければ、この戦いの意味すらなくなるというのに。
 仲間割れさせたはずだというのに、揃いも揃ってこちらの策通り踊っていたはずだというのに、結局は足止めを受けるどころか追い込まれてしまっている。何たる理不尽か。

 いつだってそうだった。
 どれだけ冴子が耐え忍び、成果を上げても――父は妹ばかりに愛を注いで来た。
 そんな父の支配を打ち破ろうと手を取り合った井坂は、冴子の気持ちに応じてくれた直後、貰い物の力を使う小物に足元を掬われて、冴子を孤独に追い詰めた。
 この戦いだってそうだ。冴子がどれほど巧みにルールの穴を見抜き、それを踏まえた上で必勝法を練っても、不運にも遭遇した思い上がりの酷い役立たずに数時間以上も拘束され、何も成すことができなかった。
 いつだって世界は、冴子の努力に報いなどしない、理不尽な仕組みそのものだった。
 だというのに――

「……友軍の無事を確認」

 大地を砕き、震撼させ、土塊と砂利を逆向きの大瀑布として巻き上げるという、まるで撃ち込まれた砲弾のような派手な登場を見せた女は、バーナビーが落としていった数十枚のセルメダルを首輪で自動吸入しているナスカに一蔑をくれるなり、そんなことを機械的に呟いた。
 見れば、首輪に灯るランプの色は黄。ナスカに変身した冴子と、同じ陣営の参加者だということがわかる。
「作戦内容を同陣営参加者の保護から、リーダーからのオーダー実行に移行します」
 淡々と呟く内容から、どうやら彼女が真っ当な陣営戦を意識し、素直にリーダーに従っている参加者であることが窺い知れた。

 なるほど、と冴子は周囲の様子を再確認する。
 冴子を追い詰めていた二人の男が、急遽生死も不明な状態に追いやられたのは、彼女が同陣営の冴子を守るために介入したかららしい。
 勝利を目の前にしての転落を味わった彼らに冴子は微かな共感を覚えたが、同情する気は毛程も湧いて来なかった。

「っ、はぁ……イカロス、貴女、黄陣営――っ!?」

 同じく、眼前のエンジェロイド――イカロスによる武力介入を受け、無傷とは済まなかったメズールが、展開装甲の半分と機体左翼を消し飛ばされた紅椿を立て直しながら、襲撃者を確認して驚愕の声を漏らした。
 メズールと交戦中だった仮面ライダーは右腕を覆っていたユニットが砕け散り、未だ地を這い身悶えしてはいるが、逆を言えばまだ意識を保ったままに変身を維持していた。

 冴子と戦っていた二人とは違い、ISや仮面ライダーの装甲に守られた彼らは、一撃だけで戦闘不能にまでは追い込まれていなかったようだ。それでも、もう一度同じ攻撃を耐えられるようには見えなかったが。

785欲望交錯-Dの襲来/竜城騒乱- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:17:39 ID:DOogWjbc0

「レーダー感度不良。索敵範囲が大幅に制限されています。攻撃目標……仮面ライダーオーズ・火野映司、第二世代エンジェロイド・タイプε(イプシロン)カオス、位置特定に失敗」
 聞いてもいないのに、状況理解に役立つ情報をべらべらとよく喋る女だと、冴子はイカロスに対し侮蔑と感謝を同時に覚える。
 おかげで突然の介入にも、状況把握だけは付いて行く――が、予測された結論が正しいとすれば、対処法までは追いつかない。
 冴子の覚えた嫌な予感を証明するかのように、イカロスはぎらつく紅瞳を同じ色のISに向けた。

「青陣営リーダー、水棲系グリード・メズール……捕捉、成功」
「――ッ!!」
 押し殺した悲鳴は、メズールから。
 漏れないように口腔に止めた舌打ちは、冴子から発されていた。
 予想の通り――黄陣営リーダーの忠実な駒と化しているらしいイカロスがこの戦場に現れた理由の一つは、敵対陣営リーダーの抹殺だったのだ。

 イカロスがその翼を広げる素振りに、メズールは反射的に紅椿の機首を翻し、逃走に入る。
「攻撃開始」
 だが、その速度の差は余りに絶対的だった。
 アクセルトライアルやレベル3に達したナスカの超加速を大きく上回り、音速の倍に届く紅桜の最高速度。それにイカロスは、充分な加速時間の足りないはずの初動で追いついた。
 メズールが咄嗟に盾として展開した増設の装甲は、華奢に見えた拳の一振りで粉砕される。仮にシールドバリアーが残っていたとしても、齎される結果に差異など生じなかったろうと思わせるに足る、凄絶な一撃だった。
 メズール自身に届いた拳の威力は、最後の守りである絶対防御によって防がれた。だが紅椿自体が持ち堪えることはできず、直撃の勢いのまま機体が宙を滑る。

「――『ArtemisⅡ』発射」
 攻勢を緩めぬまま、イカロスは翼から四発の輝く魔弾を放つ。
 厳密にはそれは、ナスカ達の放つようなビームではなく。先程冴子以外の四人を襲ったのと同じ、第一宇宙速度以上の超々音速で放たれているミサイルだ。
 自身の最高速の約十倍で迫る、複数の永久追尾弾を防ぐ、あるいは躱すための手段など、中破した紅椿には残されていない。
 紅椿は一瞬の後に爆炎に呑まれ、メズールごと粉砕され消滅する――そのはずだった。

 しかし、着弾の寸前に紅椿が突如として、光の粒子へ分解される。量子空間へと格納され、待機状態へと移行したのだ。
 当然、身を投げ出したメズールにアルテミスの群れが躊躇せず食らいついた……が、その身体に激突し貫通しても、爆発することなく過ぎ去って行く。
 アルテミスの内一基が、確かに捉えたはずの標的の健在に急な軌道変更が間に合わず、メズールの真後ろにあった一際高いビルに直撃。中腹に龍の首を生やした異形の建造物はたったの一発で根元の半分を抉り飛ばされ、傾き出す。
 残る三基のアルテミスは落下するメズールを追い、無事に方向転換。相変わらず常軌を逸した超音速で獲物を追う。
 逃げ惑うメズールだが、紅椿に乗っていて逃れられない相手を撒けるはずがない。追いつかれるまで一瞬の猶予も存在しなかった。
 だが再び、アルテミスの弾頭はメズールの体をすり抜けて、彼女の影となっていた路面に着弾し、下の地盤ごと爆砕するに留まった。

 その際、メズールの体が液状化している事実に冴子は気づいた。

(オーシャンのメモリ……と、似たような能力ってわけね)

 オーシャンメモリは、物理攻撃に対し絶大な防御性能を発揮する、液化能力を持ち合わせている。
 どうやらメズールというグリードは、同様の特殊能力を身につけていたらしい。
 それによってアルテミスの直撃をすり抜けさせ、一先ずは死を回避したようだが、果たしていつまで持つことか。
 例えば先程は紅椿で防いだ、バースのブレストキャノンのような……純粋な高エネルギーで蒸発させられれば、メズールとて一溜まりもないはずだ。
 そして、おそらくイカロスにはそれを成せるだけの力がある。詳細名簿を持ち、参加者の能力を把握しているメズールがああも必死に逃げ惑うのが何よりの証拠だろう。
 そんなメズールの、みっともないほどに足掻く姿を見て、嘲笑う気持ちの一つも湧いて来ないほどにイカロスは圧倒的だった。

786欲望交錯-Dの襲来/竜城騒乱- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:19:01 ID:DOogWjbc0

 傍から見比べるだけでも、万全だった時のオーズはおろか、カオスすら遥かに凌駕するその驚異的なスペック。殺し合いの公平性など、凡そ無に帰してしまう理不尽なまでの戦闘力。

 そんな理不尽が、同じ陣営として現れたのが何故なのかを、冴子は知らない。
 空の女王を黄陣営に引き込めたのが、偶然などではなく。
 冴子を愛した一人の男の、命をも捨てた献身あってのものだということを。

 そんなこと、考えもしないし――例え全てを知ったところで、命を救われたことに、感謝を覚えることすらないだろう。

 何しろ黄陣営のリーダーに忠実に尽くす大戦力というのが、下克上を目論む冴子にとっては、厄介な障害にしか成り得ないのだから。
(……っ、ここでイカロスを敵に回すのは避けたいのだけれど……!)
 そのために、冴子はメズールに手を貸すことを躊躇っていた。
 イカロスという一大戦力と敵対しないためというなら、このタイミングでメズールを切り捨てるという選択肢もないわけではないが、しかし。それでも可能な限りその事態は避けたいと冴子は考えていた。
 まず、おそらくは彼女ほど都合の良い協力者はこの先、二度と得られないだろうということ。
 それにイカロスは冴子を黄陣営として救ったが、この場所にオーズやカオス、メズールがいたことを彼女に教えたのが黄陣営のリーダーだというのなら、既に自身の目論見はそいつに見抜かれていることを前提にすべきだと冴子は判断していたからだ。ならばこの先の直接対決に向けても、メズールの戦力は惜しい。
 メズールとの共同戦線を維持するためにはイカロスを撃破できればそれが一番だが、真っ向対決で敵う相手ではない。
 勝算があるとすれば、メダルルール。持久戦に持ち込み、イカロスのメダルを消費させ尽くせばあるいは――
 だがそれまで、冴子が戦線に加わったところで果たして持ち堪えられるのか?

 低い成功率を前に冴子が二の足を踏む間に、アルテミスを被弾していた巨大なビルが崩れ落ちる。轟音と、それによって舞い上がった砂塵にメズールが姿を潜めると、イカロスもアルテミスで追撃することなく高度を上げ、全体を俯瞰しようとする。
 そこで天使が、見えない筒のような物を抱える素振りを見せた時――予想外のことが起きた。

 ……突然、地響きのような、唸り声が聞こえて来たのだ。

「な……何?」
 瓦礫の山から響くのは、巨獣の雄叫び。伝わってくる圧倒的な存在感に、イカロスさえ手を止めた。
 ぶうんという、何かが大気を叩く音。
 それが煙幕のように視界を覆っていた粉塵を切り払い、暗闇の中に蠢く巨躯を月光で照らし出す。

「嘘でしょ……?」
 余りにバカバカしい光景に、冴子は恐怖するより先に呆れ、知らず声を漏らしていた。

 胴体に比して異様に小さな翼で、文字通り城塞程の大きさを誇る巨体を浮遊させ――敵意に満ちた瞳を向けてくる、それは。

 ビルの一部の、装飾として鎮座していた奇妙な竜――キャッスルドランだった。

(……あれ、生きてたの?)
 そういえばカオスが暴れていた頃からここまでずっと、いびきを掻いていたようにも思うが、まさか。
 あんな文字通りの大怪獣を生かしたまま、会場に設置していた真木清人の思考が、冴子には一切理解できなかった。

 大きく変化し続ける戦況に冴子の理解が追いつけなくなった、その一瞬の隙に。

787欲望交錯-Dの襲来/竜城騒乱- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:19:47 ID:DOogWjbc0

 キャッスルドランの放った竜の息吹の一つが、彼女の目前に迫っていた。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


「――だぁあああああもう! 何がどうなってんだよっ!?」
 夜空を煌々と照らす戦いに、プロトバースに変身したまま伊達は思わず叫び出す。
 突然降って来たミサイルにも驚いたが、クレーンアームを盾にすることで何とか凌ぎ切った。しかし、それでもすぐには起き上がれなかったほど強烈な一撃だった。推測ではあるが、その破壊力はオーズのタトバキックにも比肩するほどだろう。
 それを豪勢に乱射する天使に対し、相対する巨大なドラゴンは被弾するたび確かな痛痒を垣間見せながらも、ダメージと呼べるほどの怯みを覚えてはいない。

 殺し合い、と言いながら大半の相手に一方的な殺戮になってしまう戦力を有した者がいることは、あの娘(カオス)との接触時に学んでいたが、地図にも載っている施設がそのレベルの戦力と、独立した自我を持って参加者を攻撃し始めるとは想定外にも程があった。

 仕掛けたのは確かにこちら――あのイカロスという娘だ。彼女の流れ弾があの竜の寝座となっていたビルをへし折ってしまったからこそ、キャッスルドランも目を覚ました。
 快適な惰眠を妨げた者達に、警告代わりの息吹――高エネルギーの弾丸を放ったキャッスルドランに対して、イカロスがそれをバリアで反射し、反撃してしまったことから彼らは互いを敵と認識し、他の者達を無視した戦いを始めてしまったのだ。
 竜と天使の織り成す、まるで神話そのもののような戦いには、プロトバースといえど単身で介入することはできない。

 しかし逆を言えば、今は少なくともプロトバースは彼女達の意識外の存在となっていた。
 少なくともイカロスは、キャッスルドランを無視して参加者と殺し合う余裕はない。キャッスルドランはそもそも、イカロスしか敵と認識していない。

 その隙にプロトバースは、アルテミスの直撃を受けてから沈黙していたバーナビーの元に辿り着いていた。
「バーナビー! おいしっかりしろ!」
 仰向けに倒れていた彼のヒーロースーツは、無残にも破壊されていた。被弾箇所である腹部を中心に、正面側の装甲はそのほとんどを砕かれ、爆ぜ飛んでいた。
 その下のバーナビー自身の肉体も当然、無傷とは行かない。大小無数の掠り傷に水膨れ、その程度では済んでいない火傷と、数々の傷に蝕まれている。
「虎徹……さん?」
 だがアルテミスⅡが体の芯に直撃したにしては、その程度で済んだことは僥倖と呼ぶに相応しいほどの軽傷だと言えた。
「悪い、俺だ」
 頭を打っている可能性も高いかと脳裏に不安を過ぎらせた伊達だったが、勢いよく上体を起こし、痛みに呻いてから状況を尋ねて来る様子に、単純に気絶前後の記憶の混乱だと診察を下す。
 月霊髄液とヒーロースーツによる防御、そしてバーナビー自身の能力により、百倍にまで強化されていた耐久性と回復力。それだけの要素が重なって、ミサイルの直撃という脅威でも一時的な失神程度に被害を抑えてくれていたらしい。
「……立てるか?」
 しかし胸を撫で下ろすのは一瞬。それ以上の猶予を、伊達は自身に許さなかった。

 イカロスとキャッスルドランから自分達が意識外とはいえ、互いに有する火力が火力だ。先程吹き飛ばされたナスカの例もある。いつ流れ弾を貰わないとも限らない以上、悠長にしては居られない。
 何とか、という返事を残したバーナビーに頷き返し、プロトバースは混沌を極めて来た戦場を見渡す。
 先程のイカロスの言葉からすれば、おそらく。ワイルドタイガー達が避難するための時間稼ぎという、最低限の目標は達成した。
 可能であればグリードは倒し、危険人物を制圧しておきたいのが本心だが、この状況での深入りは危険だ。
 伊達は医者であり、まず自分が生きていなければ誰かを助けることなどできないということをよく理解している。欲を掻いて己の命を無くしてしまっては、結局何の欲望も満たすことのできない、本末転倒にしかなり得ない。

788欲望交錯-Dの襲来/竜城騒乱- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:20:45 ID:DOogWjbc0

「俺達も退くぞ」

 故に、撤退の二文字を口にする。噛み付こうとしたバーナビーを無視して、プロトバースはさらに続ける。
「ルナティックは俺が助けに行く。メズールはともかく……あっちの姉ちゃんの方も、できるんだったら、な」
 無理だったら逃げるけどね、と伊達はバーナビーに告げる。
「だから守ってやれないで悪ぃけど、先に一人で行けるか、バーナビー」
「……伊達さん」
 神妙な面持ちの彼が今、NEXT能力を発動できない状態にあることはわかっている。
 ヒーロースーツも損壊し、月霊髄液も失われた。できれば使って欲しくないガイアメモリを除けば、扱いの難しい“あのカード”しか、バーナビーの身を守れる代物は残っていない。
 本来ならば、プロトバースが傍に立って護衛すべき状況だと言える。
 ただ、キャッスルドランにせよイカロスにせよ、現状予想される脅威からの攻撃からは、最早プロトバースが付いていようと巻き込まれた時点で生身の人間は終わり、と見れる物だ。
 それならばバーナビーの護衛に就くのではなく、これ以上の犠牲者を出さない――ワイルドタイガーの宣言に則った救助活動を申し出る方が、結果的に救われる命の期待値は高まり、バーナビーも大人しく戦線から離脱してくれるだろうと伊達は考えた。

「…………わかりました」
 数秒の逡巡の後、キャッスルドランの咆哮に掻き消されそうになる声で、バーナビーが了承の意を見せた。
「よし。じゃあ気をつけてな」
 それを受けたプロトバースが立ち上がり、踵を返した直後のことであった。

「――仮面ライダーだな?」

 ぶっきらぼうな問いかけの直後、返事も待たれず背中を斬りつけられたのは。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


「ニャニャ、あれは何事ニャ!?」

 一行の中で最初に気づいたのは、フェイリスだった。
 しかしここまでの言動から、彼女が言うことの大半は聞き流すのが賢明と学んでいたために、事態を悟るのにさらに暫しの間が必要だった。

「冗談なんかじゃないニャ! 大変なことになってるニョにィ!」
 執拗に急かされてからようやく、ラウラも士も真っ暗な夜の街の彼方で、巨大な篝火が燃え盛っていることに気がついた。
 光源は地平線の向こう、距離は一エリア分近く開いているか。相当に大きな物、例えばビルなどが燃えているのだということが伺える。

 耳を澄ましてみれば、心なし爆音や怒号も響いて来ている。かなり規模の大きい戦闘が、あそこで行われている可能性は高い。
「……様子を見てくるか」
「そうするか。まあ俺だけで充分だけどな」

 告げると同時、士がカードを取り出し、瞬く間にディケイドへと変身していた。

「あそこは見る限り、かなり派手にやり合ってる。フェイリスは連れて行かない方が良いだろ」
「私にはそのための護衛に残れ、とでも言うつもりか?」
 首肯するディケイドに、ラウラは噛み付く。
「戯けたことを。もし向かった先にいるのが、さっきのウヴァのような強敵だったら一人の手では負えんだろうに」
「そうでもない。もうメダルはじゅーぶん集まった。何ならおまえらとウヴァにまとめてかかって来られても、今の俺なら十秒あれば楽勝だ」
「ほう? 大した自信だな」
「ああ。何しろ俺は全てを破壊する……悪魔だからな」

789欲望交錯-Dの襲来/竜城騒乱- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:21:27 ID:DOogWjbc0

 議論は平行線だった。だがリーダーとなる身として彼の独断行動を制したいラウラとしては、そのためにまだ使える札がある。
「魔界の凝視虫(イビルフライデー)を使えば良い。おそらくギリギリの距離だが、見える。不用意に接近するより、まずは状況を把握すべきではないか?」
 そう言ってラウラは自身に支給された瓶を見せたが、ディケイドはそっぽを向いた。
「単に覗くしかできないそいつだけじゃ、間に合わない可能性があるだろ? しかも見えないかもしれないってんだったら、やっぱり俺が行くべきだ」
 告げると同時、ディケイドは一枚のカードを取り出していた。
「ま、どーしてもっていうならそいつも使えば良い」
《――ATTACK RIDE INVISIBLE!!――》
「俺はもう行くけどな」
 テンションの高い電子音と、最後まで聞く耳を持たなかったディケイドの捨て台詞を最後に、その姿がラウラの視界から消えた。

 ウヴァとの戦いで見せた高速移動――違う、そんな気配などない。純粋に不可視化したのだ。
 そんな手を使うとは、強気な言葉と裏腹にこれから向かおうとしている戦場の危険性について決して見くびってはいないのかもしれない。
 あの士ですらそこまで警戒する危険地帯となると、彼が言うように支給品が強力だろうと本来非戦闘員であるフェイリスを連れて向かうのは避けるべきか。
 となると――こうなっては半ば仕方ないことでもあるが、おそらく三人の中でも最も腕が立ち、実戦経験豊富な士が不可視化した状態で斥候を務めるというのは最善手だろう。

 ……その考えは認めるとしても、もう少し態度を考えて欲しいものだ。
「ツカニャン、勝手だニャ」
「ああ、全くだ」
 でないとこんな風に、良く思われるわけがないというのに。
 もしくはフェイリスの言うように、インビジブルを使ったのは単にラウラを撒くことが目的だったのかもしれないが――
「――ッ!」
 そこで閃くものがあって、ラウラは魔界の凝視虫を一匹瓶から解き放ち、ディケイドが向かっているだろう火事の現場へ向かわせた。
「うぉぉぉ……な、なかなか気持ち悪いニャ……」
 虫のような手足の生えた眼球に、既に容器越しに目にしていたはずのフェイリスがそう漏らす。確かに、動きが加わったおぞましさは瓶に詰められている時の比ではないが。
「それでも、役に立つからな」
 答えながらラウラは、フェイリスをのことを見ていない。視覚は既に、凝視虫から転送されて来る映像に上書きされていた。
 そのことを、ラウラの正面に回り込んで確認したらしいフェイリスは、感心したような素振りを見せた。

「……ラウにゃん」
 その後、ポツリと呼びかけられて。やや沈み調子の声に、ふざけてはいない様子だと感じたラウラは相手をすることとした。
「何だ」
「ツカニャンのこと……疑ってるニャ?」
 予想外に核心を、直球で衝いて来た。

 暫し返答に窮したラウラを見兼ねてか、フェイリスはいつもの調子で変なポーズを取り、痛い台詞を口にする。
「黙ってても無駄ニャ! 遥か遠き前世において、混乱の渦に包まれていた地上を救うため、自ら神の座(ソレスタル・グレード)を降りた慈悲深き者(ベネポレント・ワン)から未来永劫授けられたフェイリスの魔眼、真眼(サイクロプス)の前では何人たりとも隠し事などできないのニャ!」
(……魔眼はリーディングシュタイナーではなかったか?)

 思わずツッコミそうになったラウラだったが、下手なツッコミで脱線させると尚更頭が痛くなるということと――フェイリスの言う通り、胸の内は既に見抜かれていると思い当たり、素直な肯定を返すこととした。
「そういうことに……なるな」
「どうしてニャ? 確かに態度は悪いけれど、あれはただのツンデレニャ!」
 本人が聞いたらそれこそ逃げ出しそうな評価を口にするフェイリスの言葉に、しかし思い当たる節のあるラウラは頷いた。

790欲望交錯-Dの襲来/竜城騒乱- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:21:57 ID:DOogWjbc0

「ああ。私もあいつを信じたい」
 共にウヴァと戦い、その打倒のために大いに活躍してくれただけでなく。その後のラウラの弱さを労わってくれた門矢士という男を、ラウラは悪人だと思いたくないのだ。
「それでも、士自身が自分のことを、破壊者などと呼んでいた」
 そんな自分と共に居れば、手を取り合うべき相手とまで敵対することになるぞと、警告までして来た。
 だからこそ、もし本当に、士が道を誤っているとラウラから見ても判断できる時が来ればこの手で止める、そう約束した。
 だがここに至って彼は、その姿を晦ました。

「――姿を隠してまで私達から離れるのは、もしかすれば何か疚しさを感じているからではないか、と……そんな疑いの気持ちがあるんだ」
 穿ち過ぎかもしれない。だが彼を信じたい仲間と思うからこそ、ほんの少しの疑惑でも見逃せなかった。
 それを晴らしたいと、願うから。
「……大丈夫ニャ」
 そんなラウラを安心させるように、フェイリスは寄り添った。
「ツカニャンは確かに悪ぶってるけど、あれは凶真みたいなキャラ作りニャ。ちょっと真性なところもあるけれど、本当に自分が悪いと思うことなら間違ってもしないはずニャ。
 人類の自由と平和を守る正義の戦士、仮面ライダーなのに世界の破壊者なんて二つ名なのにも、きっと何かやむを得ない事情があるはずニャ」
「……随分、知ったように言うんだな」
 だが、励まそうとしてくれているのはよくわかる。士ができる限り、自分達を危険から遠ざけようとしているのだということも。
「当然ニャ! 何故ならフェイリスには“機関”との戦いの中、悲劇を越えて開眼した、真実を見通す天帝眼(プロヴィデンス・アイ)が備わっているのにゃ!」
「真眼(サイクロプス)じゃなかったのか!?」
 舌の根も乾かぬ内の設定改変に、ついラウラもツッコミを入れてしまう。そのまま解説に入るフェイリスの厨二病は全く理解が追いつかない。
 だが――次々と友を、想い人を失ったラウラの傍に立って、次は何を失うのだろうと臆病になっているのを、懸命に支えようとしてくれていることは、理解できる。

 一夏を中心に繋がった学園の仲間や、関係を修繕できた黒ウサギ隊の部下達のように。
 フェイリスとの間にあるのも、士との間にあると信じたいのも――そんな、仲間達に抱くのと同じ感情だということを、ラウラは静かに自覚しつつあった。
 だが……きっと大丈夫、そんな仲間がラウラを裏切るはずがない、と強く思えないのは。
 フェイリスと出会う前に、ラウラを裏切り、シャルロットの命を奪っていった彼女の存在が、知らぬ間にトラウマと化しているからかもしれない。

 ――――そしてそのトラウマは、再発することとなる。

「な……っ!」

 ラウラの網膜に焼き付けられたのは、余りにも非現実的な光景。
 荘厳な城を背負った紫色のドラゴンと、四枚の翼を背負った白い天使の繰り広げる、階級差などという概念もないほどに体格差の大きな空中戦。特に天使の方は、あれだけ地肌の露出が多い装備でどのISをも凌ぐ飛行速度を発揮している。

 まずそれに目を奪われたのは間違いなかった。だがその後ラウラは、その華々しい戦いの影に隠れた、地上での争いの方に目を奪われていた。
 そこにいたのは、ウヴァが最期に変身していたバースという仮面ライダー。いや、微妙に細部の彩色は異なるが、ほぼ同一の存在だと見て良いだろう。
 問題なのは、ウヴァと異なり負傷者を庇うようにして戦う彼に、容赦なく斬りかかるディケイド――門矢士の姿だった。

「――止せ、やめろっ!」
 知らず、上擦った声が出る。
 だが士の言った通り。覗くことしかできない凝視虫越しでは、彼を止めることなどできやしない。
 ラウラの視界に自身が捉えられていることを、知っているのかすら怪しい状態だ。
「――くそっ!」
「ニャニャッ!?」
 凝視虫との視界共有を解除すると同時、説明する間も惜しんだラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを展開し、フェイリスの身体を抱え込む。ライドベンダーはウヴァを倒した後、士との交渉で明け渡してしまっていたというのもあるが、こちらの方が確実に速く、使い慣れている以上は問題ない。
 ただ、一気に加速するとフェイリスの負担が大き過ぎる。現場への到着は、最高速を発揮してとはいかないだろう。
「ラウニャン、いったいどうしたニャ!?」
 脇に抱えられたことの抗議と、純粋な疑問の混じった声音にラウラは直接は答えず、ただこれで察してくれと願いながら――ここにいない“仲間”であるはずの男に、届くはずもなく祈っていた。

「早まるな、士……っ!」

791欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:23:57 ID:DOogWjbc0



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


 別に、門矢士――ディケイドには、ラウラ達の前でインビジブルを使ったことに、何かの疚しさがあったわけではない。
 ……少なくとも、その時点ではそうだった。

 ただ純粋に、一エリア隔てた距離からでも確認できた戦闘の規模から、ラウラ達を巻き込むわけにはいかず。かと言って――今の自分にそんな資格があるのかはともかく、仮にも仮面ライダーの名を背負う者としては見過ごすこともできずに先行しただけであり――自信はあれど、驕らず警戒していたから、この能力を使って近づいたに過ぎない。

 結果、キャッスルドランと撃ち合う天使の姿を目撃し、それだけでは状況を掴みきれないからとさらに接近した結果――意図せず、発見してしまっただけだった。
 自身の破壊対象――仮面ライダーを。

 約束を交わしたラウラには悪いが、ここで見逃せば破壊する前に殺害されてしまうかもしれない、と――このバトルロワイアルでは、仮面ライダーだからと言って自身以外に倒されずに居てくれるとは限らないことを既に知ったディケイドは、仮借なくライダーを破壊することを最初の行動として選択した。

 九と一を天秤に載せられ、十の全てを救う選択肢を見つけ出せなかった敗北者である悪魔には――己に架せられた使命に従うしか、できなかった。



「外見は同じだが、色が違う――ネガの奴らみたいなもんか」

 一瞬、既に破壊したバースの別個体ではないかと考えもしたが、細部の相違点から種類自体が違うと結論したディケイドは、まずは攻撃を加えることとした。
「いきなり何すんだよ!?」
 ディケイド到着前から既に消耗していた色違いのバースは武器もなく、ディケイドの容赦ない斬撃に晒される度に傷ついていく。しかしある一定以上は決して後退しようとせず、半ば捨て身で突撃してでもこちらの足止めをしようとして来た。
 だが甘い、とディケイドは上から思い切り背中を打ち付け、崩れたところに膝を合わせる。転がったバースを踏みつけながら、ライドブッカーをガンモードへと変形させた。
 これで、変身者がどんな人物であるか見定める。そう思いながらディケイドは銃口を下に向け。

「――ったく、何やってんだバーナビー! さっさと行けって!」

 自身の危機より、まず他者の無事を優先したその声に一瞬、追撃の手を止めた。
 ……ようやく本物に出会えたか、という複雑な感慨によって。
 確認は済んだ。これなら昼間の戦いのような手の込んだ真似をしなくて良い――そのはずなのに、少しだけ胸に凝りが残るのは、意識して無視をする。
「そんなこと、できるわけないでしょう……っ!?」
 満身創痍の若い男が、体に張り付いたパワードスーツの破片を零しながら立ち上がっていた。やり取りから、彼が何を考えているかは明白だ。
「やめておけ」
 だからディケイドは、半ば無駄と悟りながらも忠告しておくことにした。
「俺の狙いは仮面ライダーと、殺し合いに乗るような輩だけだ。そうでないなら……邪魔しない限りは見逃してやる」
「ふざけるな……っ!」
 ディケイドの宣告に対し、案の定というべきか、バーナビーは侮るなと憤慨する。
「伊達さんはやらせない……僕は、ワイルドタイガーのパートナーだっ!」
 叫びと共にバーナビーが取り出した物に、ディケイドも覚えがあった。

《――MAS……》
「こいつの意志ぐらい、尊重してやれ」
 奏でられた電子音(ガイアウィスパー)は途中まで。その先は、銃撃によって葬られた。

792欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:25:08 ID:DOogWjbc0

 バーナビーが取り出したのが、ガイアメモリという変身アイテムだということはディケイドにもわかった。
 だが対応するベルトもなく、外観からして明らかに仮面ライダーの使うそれとは別物だと気づいた時点でライドブッカーを用いて撃ち抜き、破壊した。
 僅かに爪の先を掠めていった光弾の曳を、バーナビーは茫然と見送る。その手の中で、辛うじて形を留めていたメモリが砕け散り、破片となってすり落ちる。
 おそらく、こちらに対抗し得るほぼ最後の戦力だったのだろうが、妙にでしゃばられても困る。もし下手に傷つけでもしたら……伊達というこの仮面ライダーに申し訳が立たない。

 そんな隙を見せ過ぎたか。バースはディケイドの足を掴み、無理やり引き倒そうとしていた。
 無理に抵抗せず、引かれるまま前転し拘束から抜け出したディケイドと、踏みつけから脱したバースが起き上がるのは同じタイミングだった。
「バーナビー! この怖ーいお兄さんはどうやら俺が目当てらしいから、引き付けるのは任せとけ!」
「でも!」
「大丈夫だ! さっきは不意打ちされちまったが、正面からなら負けやしないって! だからおまえはルナティック達を連れて先に行けっ!」
 思わぬ名前を聞いたが、だからと言って会話をする気にはならなかった。ソードモードに戻したライドブッカーで、ディケイドは再び無言のままに切りかかる。

 正面からなら負けない、というのは何の根拠もない言葉だが、不意打ちに比べれば対処し易いのもまた事実のようだった。先程のように、揮う剣先全てがバースを貫くわけではなく、多くは掠めるに留まり、また躱される。
 バースのおおよその性能は先の戦いで把握しているが、ウヴァとは比べ物にならないほど使い慣れている分、重傷の身でありながら強さが底上げされているように感じる。
 それでも、数多くのライダーを狩って来たディケイドとの差は歴然。わざわざ弱らせるためだけに、カードを用いるほどではない、が……

「……言うだけのことはあるか」
 無感動に呟くと同時、幾許かの億劫さを覚えたディケイドは、一気に仕留めんとばかりの勢いで続く一撃を繰り出した。だが片手の大振り、それに伴う隙を見逃すバースではない。
「捕まえたぁ……っ!」
 予備動作の大きい一撃は、振り切る前に組み付かれ、当然のように押さえ込まれた――ディケイドの、想定通りに。
「そうか」
 そしてバースの仮面に、真っ赤な刀身が突き立った。

 何のことはない。空いた手でデイパックから取り出したサタンサーベル――本来の大ショッカー大首領である士にも所有権のあるその魔剣で、バースのカメラアイを叩き割ったのだ。
「ぐぁああっ!?」
 突然の目潰しに、バースからの拘束が緩む隙を見逃すほどディケイドは微温くない。力を込めて脱出し、振り回し、蹴り飛ばす。
 転がる過程で、サタンサーベルはバースの仮面から外れて飛んだ。切り裂いた敵の血を、その先端から垂らしながら。
「うわあああああああっ!!」
 絶叫しながら、バーナビーが飛び掛かって来た。どこか奇妙なまでの壮絶な気迫に、しかし本質的に自分達と近しい物を感じながらディケイドは、彼を無造作に手で払う。
 それでバーナビーは、車に跳ねられたようにして飛んで行った。

 ……加減を間違えたかもしれない、とは思ったが。今更心配して駆け寄るわけにもいかず、ディケイドは努めて淡々とカードを取り出す。
 このまま一気に、破壊する。

《――FINAL ATTACK RIDE DEDEDE DECADE!!――》

 ディケイドとバースの間に、十枚のカード状エネルギーが出現する。バースが蹌踉めくと、それに合わせて随時位置関係を補正する――必殺技の永久追尾機能は、破壊者としての運命を受け入れたことで付与された物だ。

793欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:26:10 ID:DOogWjbc0

「悪く思うな」
 馬鹿げた使命に、結局バーナビーを巻き込んでしまったことを謝罪するつもりで、ディケイドはらしくない言葉を呟いた。それが、正しく理解されるとは思えないまま。
 理解されないなら。身勝手な悪魔だと思って貰ったまま、破壊できる。

 しかし。

 欠けた仮面の奥から素顔を覗かせたバース――伊達は、皮肉げな笑みを浮かべて、ディケイドの頼みを拒絶した。

「むーり。だってあんた、俺の嫌いな……自分で自分を泣かすタイプだからね」
「……っ!」

 動揺ごと握り潰すようにして、ディケイドはトリガーを引き絞った。

「――伊達さあああああああああああああああああああああああああああああああああああああんっ!!」
 バーナビーの絶叫も虚しく、ライドブッカーから放たれた光はカードを潜るたびに太く、力強く。光の柱となったビームがバースの上半身を呑み込んで、消し去った。
 残った下半身も、照射の続くディメンショブラストから叩き込まれたエネルギーの奔流に耐え切れず、爆発。仮面ライダーの肉体を、一つ残らず破壊する。

 ただ一つの例外として、爆発の勢いのままに転がって来たバースのベルトにまでは、ディケイドも手を伸ばさなかった。

「あぁ……っ!」
 その結末に崩れ落ちるバーナビーが、呆けた声を漏らす。目の前で同行者の命を断たれたという絶望が、彼の端正な顔を歪め、目元を濡らし始めていた。
 悲しみを前にして、自身を取り囲む現実を忘れ果てたようなバーナビーの姿に、伊達の残した言葉がディケイドの――士の中で反響する。

 ――見透かされた、という後味の悪さが、士の胸を満たしていた。

 忘我のまま力が抜け、ライドブッカーを構えていた手が下がる。仮面ライダーの破壊を成したはずだというのに、外から取り込んだ以外のメダルは一枚たりとて増えやしない。

 世界の滅びと、それを破壊する唯一の方法。その詳細までは、伊達が見通していたということはないだろう。
 だが、そのために――士が意に沿わぬ使命に屈する以外に世界を救う術を見出せず、その遂行のために破壊者となったことを――伊達は少なくとも、士が敗北者であることを見抜いていた。
 憎まれる悪魔、最期は倒される敵役であらねばならない身の上で――哀れまれた。
 その事実に怒りを覚えるとすれば、矛先を向けるべきは伊達ではなく。見抜かれるような甘さを捨てなかった自分にあると、士は拳を握り込む。
 そんな甘さが、受け入れたはずの使命の遂行を危うくさせ、寄り道に過ぎないこの馬鹿げたゲームの破壊すら滞らせているのではないかと、自らを責め立てる。

 メダルは確かに集まった。たった今バースから吐き出された物を含めれば、既に首輪の許容量を超えているほどだ。
 だがいくら戦力が整ったところで、本当にこのままで、伊達のような――人類の自由と平和を守る偉大なる仮面ライダー達を、滅びの運命から救うことができるのか?
 こんな使命とやらに頼るしかない、自分のような情けない敗北者が?

(……だが、だとしてもだ)

 この使命は、自分にしか、仮面ライダーディケイドにしか背負えない。
 ならば、迷うのは無駄でしかない。使命を放棄するという選択が残された時間は、最早ないのだから。
 こんな手段しか残されていない自身への憐憫も、誰にもできないはずの使命を完遂できるか資格を問うことも、やめだ。

794欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:26:48 ID:DOogWjbc0

 そうして感傷を振り払ったディケイドのすぐ近くに着弾したのは、上空で天使に弾かれたキャッスルドランの放つ魔皇力の塊だった。
 キバの世界最強モンスターを兵器化した怪物の息吹は、今のディケイドどころか失われているコンプリートフォームに変身していても、直撃を許せば無傷で済む保証がないほどの威力を秘めている。
 それを容易く弾く天使の力に驚愕を禁じきれないまま、バーナビーが巻き込まれていないか確認しようと視線を巡らせたディケイドは、因縁ある相手の接近に気がついた。

「――おまえもここに居たのか」

 進路を読み、立ち塞がるようにして告げたところ、前進を止めた怪人は憎々しげな声を漏らした。
「ディケイド……っ!」
 昼間に遭遇したグリード、メズール。
 これまた随分と消耗した様子ではあるが、戦場を離脱する素振りを見せない。
 いや、違う。一度自身への関心が希薄になった隙に逃亡しかけて、再び戻ってきたのだ。
 何が彼女を惹きつけたのか――その正体は、すぐ見当がついた。
「――目当てはこれか」
 ディケイドが拾い上げたのは、三枚のコアメダル。
 バースが首輪の中で保有していた、タカ・トラ・バッタのコアメダルだった。
 改めて手に取り眺めたところ、バッタこそ使用済みのために色が抜けているが、三枚とも微妙に他のコアメダルとは装飾が違う、ということにディケイドは気づいた。

「……それを渡しなさい」
 メズールの要求に、ディケイドは一言も返さない。
「自分のコアじゃないから、バースが持っている間はわからなかった……だけど、今は感じるのよ! そのコアは、他とは違う! 私に完全体以上の力をくれるって!」
 感情的な物言いは、その身を苛む焦燥からか。
「その力さえあれば、イカロスにだって負けない! それで私は手に入れるの! イカロスの、カオスの、誰も彼もの愛を、全部っ!」

「愛、か……」
 言えた義理ではないか、と思いながらも。ディケイドは月並みに反論した。
「愛っていうのは、こんな殺し合いを開く側とは無縁だと思うんだがな」
「そんなことないわ。極限状態に追い詰められた欲望は、より一層強くなる。愛だって例外じゃない、私はそれに満たされたいの」
「随分身勝手な欲望だな。それで人が死んでも良いってことか」
「ええ。味わうために殺すなんて、生き物は皆そうしてるでしょう? 第一あなたに言われたくないわ」

 おまえと違って好きでやっているわけじゃない、という言葉を飲み込む。それは自分自身が破壊された後まで、決して口にしてはならないものだからだ。
「……まあ良い。これでも俺も、一応は仮面ライダーだ。人を襲う化物を、ここで退治しといてやるとするか」
「吠えるわね。確かに警戒していたけれど……昼間の体たらく、忘れているわけじゃないわよ?」
 言葉と共に、メズールの全身が液体へと変化する。
「結局貴方じゃ、私を破壊することはできないわ。二重の意味でね」

 メズールの余裕は、昼間の乱戦で、イリュージョンで作った分身二体を翻弄した実績から生じる物だろう。
 その時のディケイドは、液状化という反則的な能力を持つメズールに一切有効打を与えられず取り逃がした。ならば直接対決でも、少なくとも負けはないと高を括っているのだろう。

 増長して大胆になった分、彼女が他の参加者に齎した被害がより甚大な物になっていた可能性に思い当たり、メズールにというより、これまた自身の甘さを突きつけられかねない現状に覚えた怒りから、出し惜しみせず選んだカードをディケイドライバーへと投げ込んだ。
 妨害に放たれた高圧水流は、身を捻ることで直撃を躱し、背を盾にしてバックル付近を守りきって操作を完了させる。

《――FINAL ATTACK RIDE FAFAFA FAIZ!!――》

795欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:27:39 ID:DOogWjbc0

 そのままの勢いでメズールへと向き直ったディケイドライバーのトリックスターから、カウンターの要領で赤い円錐状のポインターが高速射出される。
 それは油断し直進して来ていたメズールの回避を許さず、鋭い先端でその液化した体を固定した。

「なっ……!?」
 今更上がる戸惑いの声には、耳を貸さない。
「動けない……っ!」
 当然だ。先のウヴァならともかく、進化した世紀王にすら抵抗を許さない拘束を外す力など、メズールに備わっているはずがない。そのことは先の交戦時に確認済みだ。
 動けない獲物を前に駆け出し、高く跳び上がったディケイドの体が、爪先から彼女を固定する円錐の底面に吸い込まれ――さらに加速した巨大な砲弾としてポインターの先端から発射され、メズールを蹴り抜き、貫いた。

「カ……ハ……ッ!」

 かつて、ゲル化能力を持ったバイオライダーを正面から打ち破ったファイズの必殺技、クリムゾンスマッシュ。
 多くのカードを取り上げられ、大幅に制限された今のディケイド激情態でも問題なく使用できたそれは、やはり液化能力を持つメズールを捉えることに成功していた。

「んあ、ぐぅっ……どうして、あの時は……っ!?」

 着地したディケイドの背後で蹌踉めくメズールの零した疑問は尤もだが、答えは簡単だ。あの不甲斐ない戦いぶりもまた、全ては士の甘さに起因していた。

 もしもあの時、能力の割れたメズールを本気で倒しに掛かって、すぐ手の空いた分身二体がさらに戦線に加わっていれば――あれ以上はどう工夫して手を抜いてやっても、純粋に頭数の足りなくなる魔法少女やヒーローが、ディケイドを抑えきれなくなっていたことは間違いない。
 そうなれば、ディケイドは龍騎をその場で破壊しなければならなくなっていた。そうせねば不自然であり、もし見逃す素振りを見せれば、マミ達が勝手にこちらの事情を汲んで、歩み寄ろうとする余地が生まれていた可能性すらある。
 それは、ディケイドの使命にとって不都合だった。

 だがそれでも。いくら士が手段を選んでいられないと、破壊者の使命を受け入れたとは言え……オーズやアクセル、伊達のような当事者や、ウヴァやアポロガイストのような悪党ならともかく。

 偶然デッキが支給されただけの無関係な少年であると判明した桜井智樹を、一時的とはいえ殺害するまでの徹底は、できなかったのだ。

 破壊者の使命を完了することで再生すると確定しているのは仮面ライダーの世界とその住人であり、関係ない世界の住人かもしれない智樹が対象に含まれている保証は一切ない。
 そんな状況で殺せるわけ、ないではないか。

 つまるところ、メズールがディケイドと遭遇し、あれだけの時間交戦しながらも生き延びることができたのは。仮面ライダーの関係者にこちらが手を抜いていることを悟られぬまま、歩み寄りの余地なく敵対するしかない悪魔であると認識された状態でわざと敗走するための演出に、ディケイド側から利用したからに他ならない。
 ――とはいえ、士自身が素直という言葉から縁遠い性格であったために、あの時は全てをはっきり意識してやっていたわけではなかったが。それでも智樹を殺めることを忌避し、加減していたのは間違いない。

 そうでなければ、威力に乏しいマミ達の妨害を無抵抗に受け入れ攻め手を緩めることはなかった。
 そして何より、こちらからそうなるように意図していなければ。
 変身すらしていない照井からの、クロックアップしている側から見れば停止しているに等しい妨害で、永続的なホーミング機能を有する攻撃が標的を外したことに説明がつかない。

796欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:28:36 ID:DOogWjbc0

 そんな不自然な戦いの流れに、しかしこの用心深いグリードが何ら疑問を抱かなかったというのだから、あの芝居は上出来だったと言えるのだろう。

「嘘でしょ……っ!?」

 そしてその手心という枷を取り除いた結果が、増長を一瞬で破壊されたこの哀れなグリードの姿だ。
 それでもどうにかしてあの時破壊しておくべきだったと、己の浅慮にディケイドは今更ながらの苛立ちを覚える。

「私の、コアが……っ!」

 そんな感情に整理をつけて振り返えれば、メズールは悲嘆に暮れた声を漏らしていた。
「そんな……私まだ、全然、満たされてない……っ!」
 必殺技の直撃を受けて体が崩れ始めているが、まだ絶命には至っていない。
 こんな状態でも、元がかなり強力な怪人だ。生身の人間一人を殺すぐらいの力は残っている可能性もある。
 だからここで、今度は確実にトドメを刺す。

「――ガメルの仇も、まだ取れていないのに……っ!」
「知るか」
 ライドブッカーの一閃は、メズールの股間から頭頂までを駆け抜けた。

 途中、硬い何かを砕く感触がするが、ディケイドは意に止めず一気に切り捨てる。
 それが判明したのはメズールが絹を裂くような悲鳴を残し、ただのメダルの塊へと解けた後のことだった。
 大量のセルメダルは即座に首輪に飲み干され、ほとんどが体内からATMへと転送される。
 剣の先を撫で上げるディケイドの眼前に残されたのは、昼に自身の手から奪われたのを含む青のコアメダルが六枚。
 それを拾い上げようと手に取った時にようやく、両断されたコアメダルが一枚あることにディケイドは気づいた。

 確かコアメダルは、物理的に破壊することができないのではなかったか?

 そんな説明書きを思い出したが、続けて自身が何者であるかに思い至り、一人納得した。

「なるほど……結局俺は、破壊者だということか」

 かつて剣の世界でも、決して死なない怪人であるアンデッドを何体か爆殺した経験がディケイドにはあった。
 こと、実体を破壊できないという概念(ルール)は、世界の破壊者の前では意味を為さないのかもしれない。
 それにしても、己の力でコアメダルを破壊できるということ――その事実を知れたことは、今後の方針を決める上で大きな収穫となるかもしれない。

 そんな風にディケイドが己の戦果を分析していた、ちょうどその時。悪魔の頭上で展開されていた戦いにも、終わりが訪れようとしていた。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


 予想外に手こずった、というのがイカロスの抱いた感想だった。

 イカロス本体のバージョンアップに伴い、威力が格段に強化されたアルテミスでも、キャッスルドランに与えられるダメージは微小だった。
 これでは連射してもメダルの枯渇を早めるだけと判断したイカロスは、ヘパイストスの一撃で葬り去るのが最善手であると理解する。
 しかし、キャッスルドランの放つ火球や、肩の辺りに生やした塔を誘導ミサイルとして放って来る攻撃はアルテミスを凌ぎ、今のイカロスをして無防備に受けるには危うい威力。大幅に索敵範囲を制限された今の状態では遠距離からの砲撃は信頼性が低過ぎ、近距離で撃つ必要があることもあって、隙の大きい対艦砲の使用には機を伺う必要があった。

 幸いキャッスルドランは、エンジェロイドと比べるまでもなく鈍重だった。正面に立って火球を誘い、それをイージスで反射するたび着実に弱らせることに成功した。

797欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:29:17 ID:DOogWjbc0

 途中、下で他の参加者同士が交戦していることがレーダーで感知できたが、最初にキャッスルドランからの攻撃の余波に巻き込まれ、吹き飛ばされていた園咲冴子の反応はその付近にはない。援護を急ぐ必要はないとイカロスは判断する。
 参加者の反応がとうとう一つ消えた頃には、キャッスルドランもその猛威を衰えさせていた。

 それを見て取ったイカロスは格段に勝る機動性で敵を攪乱し、狙い通りに惑わされた隙に背後へ回る。
 キャッスルドランが鈍重になった巨躯を振り向かせた時には、イカロス本人より長大な超々高熱体圧縮対艦砲の砲身が、既に顕現し終えていた。
「『HephaistosⅡ』……」
 チャージには更に数秒を要する。その間にキャッスルドランが火球を放ったが――もう遅い。
「……発射」
 空の女王は無慈悲に、蓄えた破滅を解き放った。

 迸ったのは、圧縮された超高密度の指向性エネルギー。大気中で減退しても、有効射程距離が地球の直径程の超極大を誇るといえば、その紫の光にどれほどのエネルギーが秘められているのかを察することができるだろう。

 いくら制限されているとはいえ、その洗礼をわずか数百メートルの距離で浴びることとなったキャッスルドランの運命も、また。

 射線上にあった火球を掻き消した殲滅の光が、その輝きを何ら衰えさせることのないまま、キャッスルドランの半身を呑み込んだ。
 堅牢な城塞の壁が灼熱の衝撃に晒され、一枚一枚が強固な盾そのものと言うべき鱗の群れごと、分厚い筋肉と脂肪の塊が突き破られる。被弾箇所は瞬時に炭化し蒸発、その輪郭を怒濤となった閃光の中に溶け込ませて行く。

 竜を屠った莫大な光の束はそのまま、星空を貫いて遥か宙まで還って行く柱となるはずだった。だが途中、天蓋に激突したことでその収束を解れさせ、夜天を稲光のように白へと染め上げる。

 それが進化したヘパイストスすら受け付けない、会場を覆う結界だという事実を、イカロス当人はそれほど意に止めなかった。
 ただ、そういうものがあるのだと――照射を終えたヘパイストスを格納しながら、淡々と受け止める。
 目の前では、巨体の半分近くを削り取られたキャッスルドランが、最期の痛哭が涸れると同時に絶息していた。

「――敵性戦力の沈黙を確認」
 イカロスの確認と同時、半分を失ってもなお巨大な肉と岩の塊が、重力に掴まれ落ちて行く。落下の瞬間、周辺の大地が波打って揺れ、押し潰された家屋から巻き起こった粉塵が波濤と化して全方位に拡散した。
 衝撃波に等しい大音声が響く中でも、イカロスのレーダーは本来の標的を逃してはいなかった。
 いや、正確に言えば。キャッスルドランを射殺す寸前に起こった――その消失を、見過ごさなかった。

「殲滅対象の反応消失を確認。原因との接触を試みます」
 メズールを代わりに葬ってくれただけならば、問題ない。だがもしその参加者が無所属で、青のコアメダルと一体化していれば意味がなくなる。
 もし代理リーダーとなってしまっていたのなら、イカロスはその参加者――メズールの呼称によれば、ディケイド――を、改めて抹殺しなければならない。
(ディケイド……)
 確か、フェイリスが口にしていた名前だった。
 彼女は今も無事だろうか、などと。不要なはずのことを考えながら、目標地点に自然落下より速く着地したイカロスの前に立つのは、赤紫の装甲に身を包んだ戦士だった。
 シャドームーンや、写真で確認したオーズとの類似性を感じるその姿――仮面ライダーだと、推定できる。

「メズールを撃破したのは……あなた?」
 そうだ、と。イカロスの問いかけに、何を隠すでもなくその仮面ライダー――ディケイドは答えた。
 証拠と言わんばかりに、ディケイドは手に持った青いコアメダルを数枚、イカロスに晒す。
 どうやら、彼は無陣営のままで――コアメダルとの一体化は、していないらしい。
 それなら、攻撃する必要はない。よかったと、そう結論付けようとした時だった。

798欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:30:17 ID:DOogWjbc0

「そのコアメダル……割れている?」
「ああ。どうやら壊せるらしい」
 ことも無さげに告げるディケイドに対し、イカロスはその事実を重く受け止めた。
 何故、オーズを殲滅しなければならないのかを。
「……どうして?」
「あん?」
「どうして、あなたはメズールを倒したの? 自衛の……ため?」
「奴はグリードだぞ。それ以外に理由が要るか?」

 ぶっきらぼうなその返答は、イカロスの心に痛みを生んだ。
 だけど、これも忘れなければ。無視しなければ、イカロスの願いは叶わなくなる。
 だから。痛くても、大丈夫――まだ、やり直せるから。
 最後には今からイカロスのすることも、全部をなかったことにできるのだから。

「――仮面ライダーディケイドを、仮面ライダーオーズと同理由による危険因子と判断」
「……そうか」
 イカロスの声が硬くなり、さらにそこから紡がれた宣言を聞いて、目前の仮面ライダーも漂わせていた呑気さを掻き消す。

「――だいたいわかった」
 次の瞬間には、こちらの目的への理解を示す言葉とともに、ディケイドの闘志が漲り出す。
 闘争の予感に、しかし最強のエンジェロイドは何の緊張もせず、気負いもせず。
 ただ、一瞬脳裏を掠めた鳥籠の笑顔に、後ろ髪を引かれるような躊躇いを感じながらも、今だけは振り切って。
「……殲滅します」

 宣告とともに、イカロスがその身に備えた兵装を解放し――その轟きが世界の破壊者と、『空の女王(ウラヌス・クイーン)』の激突する合図となった。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


《――ATTACK RIDE CLOCK UP!!――》

 天使――おそらくメズールの言っていたイカロスの翼が輝きを増したと同時、ディケイドもまた予めバックルに差し込んでおいたカードをライドさせ、自身の能力を発動していた。

 キャッスルドランを一撃で殺した光景は、ディケイドも直接目の当たりにした上で、さすがに戦慄を覚えていた。コンプリートフォームが使えるならともかく、全ての仮面ライダーを破壊する激情態をしても、たった一撃でキャッスルドランを殺すことなど困難を極める。ましてや、あれほどの火力はとても捻出できない。
 その上で、超音速の飛行能力。もしも敵であるなら、かつてないレベルの脅威であると予想できた。

 万が一に備え、最も汎用性に富む強力なカードを予めバックルにセットし、最終工程を除いて使用準備を完了していたが――懸念は杞憂に終わらず、闘争の火蓋は切って落とされた。

 イカロスからの先制攻撃として四枚の白翼から放たれた光の弾丸が、クロックアップの発動を合図にして大幅に動きを鈍らせ、表面の加工まで悠然と確認できる円筒となる。
 だがそんな、クロックアップによって時間流を隔絶された状態から見てなお、そのミサイルはディケイドの半分近くの速度を叩き出していた。

「マジかよ」
 驚きながら、バックステップで距離を取りつつ、ディケイドはコアメダルを首輪に叩き込む。その中で割れていたシャチのコアだけは、吸い込まれることなく地に落ちた。
 追い縋ってくる追尾ミサイルを、ライドブッカーのガンモードでディケイドは逐次撃墜する。爆風もまた今のディケイドよりは遅く、注意している限り脅威には成り得ない。
 そのことを確認する隙に、時間操作への信頼が慢心となったことも手伝って――少しの間、ディケイドは注意が疎かになった。

「――何っ!?」

799欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:31:45 ID:DOogWjbc0

 だから、ミサイルを全基撃ち落としてからイカロスが目前まで迫って来ていたことに気づいた時は、心底からの驚愕を味わうこととなった。

 通常時のおよそ千倍にまで加速された体感時間の中、クロックアップしているわけでもないイカロスがこれだけの距離を移動しているということ、それ自体が尋常ではない話だった。ミサイルもそうだが、果たしてどれほどのスピード――それを可能とするエネルギーで動いているというのだろうか。

 ……それでも、まだ倍以上こちらの方が速い。その事実を認識し、右側へ回り込むようにして動いて背後を取ろうとしたディケイドは、三度目の驚愕に打たれた。
 何しろイカロスの紅い双眸が、ディケイドの動きを追って来ていたのだから。
 あろうことか、体の向きすらディケイドを追い、緩慢ながらも方向転換しようとして来ている。

 この敵は、クロックアップにすら付いてくる――しかも、感知可能というレベルの話ではなく、ある程度小回りを効かせて追って来ている。

 イカロスはバージョンアップ以前から第一宇宙速度を超える、音速の二十四倍、秒速八キロメートル以上のトップスピードを発揮できていた。
 無論、それは充分な加速距離があって初めて叩き出せる最高速ではあるが、その状態で飛行可能ということは、相対的に秒速八キロメートル以上で動く周囲の世界を、対処できる程度の余裕を以て認識できていたことに他ならない。

 そこからさらに格段の進化を遂げたバージョンⅡのイカロスならば、クロックアップによって第三宇宙速度以上の移動速度に到達した今のディケイドの挙動にも反応し、ある程度なら追い縋ることすらできるというのは、実のところ決して奇妙な話ではないことなのだ。
 だが、奇妙ではないことだとしても――やはりそのスペックは常軌を逸していると言わざるを得ない。

 つまりは彼女は、常時からクロックアップにも迫る戦闘速度を叩き出せるということなのだから。

 先程の砲撃からも、出力そのものが桁違いであることをディケイドは理解していた。故に、下手をすれば捕まりかねない接近戦は早々に放棄して、ガンモードのライドブッカーでの遠距離攻撃に主軸を置いた戦闘を開始する。
 だがディケイドが発砲した瞬間に、イカロスはその全身を六角形の集合したような球状のシールドに包み込んだ。
 そのシールドに触れた途端、ライドブッカーから放たれた光弾が、反射されて戻って来る。

「――っ!」
 予想外にも自らの銃撃を肩に受けて、ディケイドは無様に転がった。
 ディケイドとイカロスは今、別の時間流の中にいる。だからイージスの反応が微かに狂い、寸分過たずとは行かなかったが――それでもディケイドという的を完全に外れはせず、反射できている。

 明らかに狙い澄まされた、カウンターの一撃だった。

(ちっ……牽制で正解だったっていうことか)
 これでいきなり必殺技など放っていれば、盛大に自爆するハメになるところだった。何か少し狂っていれば実現したかもしれない恐怖の可能性に、ディケイドは舌打ちする。
 幸いイカロスからの追撃はなく、あくまでバリアの中に篭っている状況であることから、ディケイドは撹乱目的に移動を続けながら思考を巡らせる。
 このバリアは、有体に言って厄介だ。破る手段がないとは限らないが、失敗のリスクを考えるとあまりに危険過ぎる。
 当然、こんな高性能な防御手段に相応のメダル消費が設定されていないはずはないが……クロックアップの持続時間の方が、あのバリアを維持できなくなるよりも前に確実に終わりを告げる。

 それなら、と――ディケイドは攻撃を加えず、攪乱のために動き回りながら、状況を打開するためのカードを一枚取り出していた。

800欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:32:53 ID:DOogWjbc0

 ただ、これもまた少しばかり博打であるという不安を、確かに覚えながら。



 ――速い。

 今や加速性能においてもアストレアをも凌いだ、最速のエンジェロイドであるイカロスⅡ。目の前の仮面ライダー・ディケイドが披露したのはそれをさらに大きく上回るスピードと、この世界の物理法則を嘲笑うような加速力だった。
 しかしこの敵が高速移動に移行する直前、ディケイドがシナプスのカードにも似た何かのカードをベルトに読み込ませていたことと、レーダーが突如感知した特殊な粒子の反応を見るに、これはディケイドの標準スペックから叩き出される機動性ではなく、一時的に発動できる何らかの特殊能力に依るものだとイカロスは分析していた。
 そうであれば、使用に際した時間制限、最悪でも単純なメダル消費のことを考えれば、クロックアップとやらはそう長持ちしない……はずだ、と推測する。

 故に、まずは守りを固める。完全に捉えきれないならば、まずは守りきる。そして動きが鈍ったところを、一息に仕留めれば良い。
 制限されたレーダーでも、辛うじてこちらの三倍近い速さの敵影を追うことはできていた。その機体を包む粒子の反応が消失した瞬間、捉える。

 互いの速度と防御に、双方が攻めあぐねたのは当人達の感覚で言えばともかく。標準時間に直せば、ほんの一秒にも満たない極短時間の膠着でしかなかった。
《――CLOCK OVER――》
 それまでにディケイドは、その高速移動状態を終了していた。

「――――――――!」
 
 粒子反応の消失を検知した瞬間、イカロスは可変ウイングを展開し、フルスロットルで飛翔する。
《――ATTACK RIDE――》
 こちらからの攻撃も遮ってしまうイージスは解除。自身の展開していた防壁の消失を確認すると同時に、新たなアルテミスを四基発射する。
 仮にもう一度あの超加速状態に移られたとしても、最早逃げ場を残すことのないよう、イカロス自身と合わせて包囲し追い詰める。

 捉えた、と確信したその瞬間。
《――TIME!!――》
《――HIBIKI!!――》
《――KIVA!!――》

 ――イカロスの認識が、明らかに断絶した。

 ある一瞬にも満たない刹那に、ロックオンしたはずの敵を一瞬、見失う。
 それがどこに行ったのかをレーダーが再補足するのに、やはり刹那も要しはしなかった。
 だがその刹那を境にイカロスの得た情報は余りにも多く、奇妙なほど唐突だった。

 残り少ないセルメダルを惜しまず放ったアルテミスⅡが、全基撃墜され。
 レーダーが再補足した敵の反応は瞬間移動したかのように座標が変化し、前方に四つ、左右に一つずつ――全く同一の物が、同時に存在している。
 そして、あのベルトから発せられる電子音の残響を拾ったと同時。左右から、未知の力による拘束を受けた。

 ――いや、片方は完全な未知ではない。あのキャッスルドランが放っていたのと、運用法こそ違うが同種のエネルギーを感知できる。
 もう片方は完全に知らぬもの。何かの力を帯びた円盤がイカロスの右脇腹に埋め込まれ、その動きを縛ろうとしていた。

 だがその二重の拘束以上に、イカロスをその瞬間止めたのは困惑だった。

「……ジャミングッ!?」

 イカロスの前方には、アルテミスを迎撃したと思しき火器を構えたディケイドが、四人、いた。
 さらに左右にも、それぞれ異形をした紫の戦槌と、赤い二本の撥を構えたディケイドがそれぞれ、一人ずつ。
 ……ついでに言えば、本来空高くにある月とは別の朧月が出現していたのだが、そのことにはイカロスの意識が向けられることはなかった。

801欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:34:15 ID:DOogWjbc0

 明らかに異常な光景を前にして真っ先に想起されたのは、ニンフが得意とする電子戦による攪乱。
 だが直後に、イカロスはその可能性を否定する。

 電子戦を仕掛けられれば、それこそニンフが相手だってイカロスはそれを感知できる。そのイカロスがバージョンアップしてなお、ハッキングの痕跡すら発見できない。
 これはジャミングではなく――この敵が持つ能力で作り出された、実体を持った現実だ。
 正体は不明ながらも、この拘束によりイージスの展開も、反撃用のアルテミスの発射口すら封じられていることを認識した瞬間、イカロスはさらに出力を上げる。
 二重の拘束は緩くはないが、今のイカロスなら外せないような代物ではない。機体の各所から軋みを上げながらも、マスター以外に施された忌むべき戒めを脱して行く。

《――FINAL ATTACK RIDE DEDEDE DEN-O!!――》

 その左目に、投槍の要領で叩き込まれたライドブッカーが突き刺さらなければ、確実にそれには成功していたことだろう。
 眼球の貫かれる不快な感触と、伝達された衝撃に頭を跳ね上げた直後。剣は分解されて光の網となり、イカロスの全身をさらに捕縛。動きが鈍った隙に、左のディケイドが持つ稲妻を纏ったハンマーに備えられた魔眼の輝きが一層増す。加え右脇腹の円盤を太鼓のように撥で叩かれて異様な振動を体内に送り込まれ、機体の各所に浸透させられれば、一度は脱しかけた元二つの拘束までも、その効力を一層強固な物とする。

 そうして三重となった戒めは、進化した空の女王すら完全に制圧した。

《――FINAL ATTACK RIDE KUKUKU KUUGA!!――》

《――FINAL ATTACK RIDE AAA AGITO!!――》

《――FINAL ATTACK RIDE DEDEDE DECADE!!――》

 さらに――拳状の魔鉄槌の指が開かれて行くに従って生じる重い鉄の塊を引きずるような音と、撥が太鼓を叩いて奏でる演奏とが支配していた月夜に、新たな電子音の合唱が加わる。
 身動ぎ一つ困難な中、何とか首と右目だけを動かして、視界を音源へと向けてみれば――イカロスに投擲したためにライドブッカーを手放したのを除いた三人のディケイドが、揃って攻撃態勢に入る様子が確認できた。

 一人は腰を落として姿勢を低くし、その右足に燃え盛る烈火を携え。
 一人は大地に出現した六本角の竜のような紋章の輝きを、その両足に吸い込んで。
 残る一人とイカロスの間には、十枚の高密度エネルギーのプレートが展開される。

 それぞれの準備が済んだ時、四人のディケイドは揃って高く跳んだ。

 同時、右側からイカロスを延々打ち付けていた打撃が止む。
 だがそれは、それで終わったというわけではなく――むしろ最後の一撃のための、タメとして生まれた空隙だった。

「――ハァアアッ!!」

 まず右側のディケイドが、二本の棒を揃えて太鼓越しにイカロスを殴打し、内部へとダメージを浸透させる。

「――やぁああああああっ!!」
「――フンンンッ!!」

 続いて炎を纏ったディケイドの跳び蹴りが正面から着弾したのと、左側面からイカロスを謎の力で拘束していたハンマーが、背中へ向けて打ち込まれたのは全くの同時。先の音撃打で内から蝕まれ、脆くなっていたところに鉄槌を受けた翼が根元からへし折れ、キックを受けたイカロスの左足がボロクズのように千切れ飛ぶ。

802欲望交錯-天使と悪魔- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:35:07 ID:DOogWjbc0

 ただの打撃でアルテミスのような威力を発揮する猛威はしかし、単発では終わらない。

 さながら流星群の如く、続々と襲来するディケイドの爪先は続いてイカロスの右肩を捉えた。ハンマーが後方に吹き飛ばされるという逃げ道を塞いでしまっている分、驚異的な破壊力が被弾箇所へと集中し、外殻の耐久値を突破。ディケイドは右腕をもぎ取った勢いのまま、先に一撃を浴びせたディケイド共々流れるようにしてイカロスの背へと抜けて行く。

 やはり、これは幻などではなく――実体と攻撃力を併せ持った分身なのだと理解したイカロスの左眼窩を、ライドブッカーの辿った軌跡をなぞるようにして飛来した次のディケイドの踵が粉砕し、通り過ぎる。
 着弾のたびに機体の一部と大量のセルメダルを撒き散らしながら、顔を砕かれた余波でハンマーの拘束を外れ吹き飛ばされるイカロスが、最後にその目に焼き付けたのは。獲物の移動に合わせ際限なく追加される輝きで視野を圧す、十枚を遥かに超えたエネルギーゲートを潜り抜けた最後のディケイドの蹴り足が、自身の胴へと過たずに吸い込まれる瞬間だった。

 衝撃とともに、徹底的なまでに破壊されたイカロスはほぼ全てのメダルを放出し、痩身をくの字に曲げて吹っ飛んで行く。
 六人並んだ悪魔に見下ろされながら、蹂躙された天使は地を滑り、理解の追いつくよりも先に瓦礫の山に抱き止められた。

 ――何が起きたのか。

 何をされたのか。

 クロックアップとは異なるアプローチでの、時間への干渉。耐久値以外、オリジナルと同スペックの分身の複数召喚。
 そうして単純に増えた手数からの、時間停止中に成功した多重の拘束を含む一斉攻撃。

 そんな反則地味た特殊能力の重ね合わせなど、初見で理解しきれるはずがない。
 ただイカロスは、最強を誇った『空の女王』は、自身が敗北したという事実だけを理解し――そんな現実を、受け入れられずにいた。

「ぃ……ゃ……」

 まともな発声すら、満足にできはしない。
 視界の片方は潰れたまま、それでもシナプスよりもずっと開けた空へと、イカロスは残った左手を伸ばす。

 まだ届くはずだった。遠くへ、二度と会えない場所へ行ってしまったあの人に――最愛の、桜井智樹(マスター)に。
 ニンフとも仲直りできたはずだった。そはらやアストレアと一緒に、帰ることができたはずだった。
 ただ、最強の兵器としての力で、全ての敵を倒せば良かっただけなのに。

 こんな、こんなすぐに……こんなにも呆気なく。もう、届かなくなるなんて。

(マス……ター…………)

 星の煌きを捕まえるようにして閉じられた掌に、しかし掴めた物は何もなく。

 その手が地べたに投げ捨てられたと同時に、右目に残っていた赤い輝きも、瞬かずに消え失せた。



 戦略エンジェロイド・タイプα「Ikaros」――大破。

803欲望交錯-対立と別離と胸の穴- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:36:16 ID:DOogWjbc0



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


 要した時間だけで言えば、ディケイドがイカロス相手に繰り広げたのは紛れもない秒殺劇だった。
 だが紙一重の攻防だったと、賭けに勝ったことにディケイドは胸を撫で下ろしていた。

 あのバリアを張ってからというもの、こちらから手が出ない代わりにイカロスも攻撃して来なかった。そこでディケイドはバリアは内外の双方に作用している――つまり、攻撃時には解除する必要がある類の防御であると推測し、クロックアップ中に攻勢を仕掛けず、クロックオーバー直後の隙を敢えて晒すことで、イカロスにバリアの解除を促したのだ。

 当然、クロックアップ状態での攻撃に対し、カウンターで展開できるようなバリアを張らせないという早打ちでイカロスを仕留めるのは、本来のディケイドには不可能だ。
 だがカメンライドなしで他の仮面ライダーの能力を使える激情態ならば、一気に仕留める態勢に持っていくことができる。
 もし、こちらの能力発動よりイカロスが早ければ。あるいは読みが外れ、バリアを解除されなければ。おそらくは逃げる隙すら与えられないままディケイドの敗北していただろうが、結果としてアタックライド・タイムの発動は、紙一重の差でイカロスに先んじた。

 如何にイカロスの反応性がクロックアップした者に追いつくほど優れているとしても、存在する世界の時間ごと停止させられてしまっては対処できる道理はない。無防備のままで固定してしまえば、ディケイドの勝利は確定したも同然だった。
 もっとも、時間が停止した存在には、時を止めた張本人からの干渉も無効であるため、解除後には別の物理的な拘束が必要となった。凍りついた時の中で、解除と同時に即発動できるよう準備したドッガハンマーと音撃鼓による二重拘束が破られそうになった時には心底肝が冷えたが、それでも最終的に勝ちは拾った。

 その後の様子を見守るが、メダルの枯渇のせいか衣を変えたイカロスは天に伸ばした手を落としたっきり、動く様子がなくなった。撃破した、と見て良いだろう。
「……使用済み、か」
 イリュージョンを解除し、イカロスの吐き出していった色のない二枚のコアメダルを拾い上げたディケイドは、そう嘆息した。
 そのコアメダル二枚分の余力があったと思われるイカロスが落としたセルメダルは、実際のところ三十枚を下回っていた。向こうも勝負を焦っていたのかもしれない。

 そういうこちらも、タイムからの一連の行動だけで一気に百枚以上のセルメダルを消費していた。グリード二体と、何故かコアメダルを三枚も有していた伊達を破壊した後だったから良かったものの、それ以前に遭遇していればと考えるだけでゾッとする。

 ディケイドはそう思いつつもさらにイカロスへ一歩近づき、オーメダルや己の部品以外にもう一つ、イカロスの落とした物を回収する。
「このカードは……」
 アタックライド・テレビクン。
 以前迷い込んだ世界で一度だけ手にしたことのある、ディケイド専用のライダーカードだ。
 あの時は効果も知らないままとりあえず使ってみたが、その火力はディケイドの扱える全カードの中でも疑う余地なく最強の一枚。
 失われていたと思っていたが、まさかこんなところで支給品として配られているとは想像もしていなかった。
 思わぬ拾い物に意識を奪われるのも数秒。改めて悪魔は、自身の粉砕した天使に目をやる。

 手足が吹き飛び、翼は折れ、顔の半分ごと左目を喪失し、胴に大穴が空いている。
 明らかな致命傷。最早彼女にはピクリとも動く気配は残されていない。
 それでもイカロスはまだ、爆散せずに原型を留めてはいた。

「……念には念を入れておくか」
 仮に生きているとしても、おそらく余力は先のメズール程にも残っていないだろうし、放置してもすぐ事切れるかもしれない。それでも用心するべきかと、ディケイドはテレビクンを収納したライドブッカーをガンモードに変形させる。

「――士っ!」
 叱責するような声が追いかけて来たのは、ちょうどその時だった。
「……ラウラか」
 若干の後ろめたさを覚えながらも、ディケイドは振り返る。
 ちょうど、着地したシュヴァルツェア・レーゲンが土煙を上げて停止し、脇に抱えていたフェイリスを下ろして――改めてこちらを、睨みつけてきたところだった。

804欲望交錯-対立と別離と胸の穴- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:37:09 ID:DOogWjbc0

 互いに闘志はない。敵意もない。――今は、まだ。
 それでも武装解除しないままに、共闘し絆を結んだはずの二人は向かい合っていた。
「……正直に聞かせろ」
 未だ害意はなくとも、怒気は滲ませたラウラが詰問する。
「さっきおまえが襲っていた、仮面ライダーはどうした?」
「ああ、悪いな。そいつならもう破壊した」
 軽い調子での返答に、ラウラの憤怒は一層膨れ上がった。
「ふざけるな! 確かにおまえを信用すると言った! だがあの仮面ライダーは明らかに人を庇おうとしていたんだぞ!?」
「ああ。そりゃそうだろ。人類の自由と平和を守る――それが仮面ライダーの使命だからな」
「なら、どうして……!?」
「……言ったはずだ」
 理解できない、と言った様子のラウラに、士は変身したままで良かったと無意識に感じながら、答える。

「俺は破壊者……おまえの仲間になるような奴らも敵に回すことになる。
 全ての仮面ライダーを破壊することが、俺の……仮面ライダーディケイドの使命だからな」

「――ふざけるなぁああっ!」
 絞り出すような怒声は、少女二人のどちらが発した物でもなかった。

「何が使命だ! 貴様が伊達さんを殺したことの、何が人類の自由と平和に繋がると言うんだっ!?」
 声の主は、重傷の身を引きずるようにして近づいてきたバーナビー。
 外聞もなく泣き腫らした跡を隠しもしない美丈夫は、壊れたプロトバースドライバーを握り締めながら、さらにディケイドの罪を糾弾する。
「貴様は仮面ライダーなんかじゃない。ただの人殺しだ……っ!」
「……そうかもな」
「僕は、タイガー&バーナビーのバーナビー……ワイルドタイガーの相棒の、ヒーローだ。
 ヒーローは悪人を絶対に許さない。貴様が何をしようとしているのか知らないが、これ以上の殺人は一切許さない! 誰も殺さないし誰も殺させない! その上で貴様を逮捕して、法で裁く……っ!」

 聞き覚えのあるフレーズは、怒りに震えると同時、まるで何かに縋るようで。
 外傷以上に痛ましい姿のまま突撃しようとするバーナビーだったが、ラウラに動きを制されて足を止める。
 まるでディケイドからバーナビーを庇うように立つ、彼女の姿を目にした瞬間。何がそれほどまでに衝撃的だったのか、愕然とした表情を浮かべた彼に一蔑もくれないまま、ラウラはディケイドと対峙する。
 しかし未だに敵意はないまま。それどころか怒りさえ、鳴りを潜め始めている。
 ただ、微かな煩悶を刻んだ表情で、少女はディケイドを見つめていた。

「……アルニャン?」
 それでも決心したように、ラウラが口火を切ろうとした瞬間だった。
 それまで周囲の剣幕を前に、一人状況理解が追い付いていなかったこともあって所在なさげに黙っていたフェイリスが、ディケイドの背後に何かを見つけていた。
「酷い怪我ニャっ!」
「――っ、待てフェイリス!」
「ゆ、許してくれ……っ!!」
 飛び出したフェイリスを呼び止めようとしたラウラに、突如許しを請うたバーナビーが崩れ落ちた。

 必然、そちらに注意を逸らされたラウラの制止を逃れたフェイリスが向かってくるのを、それ以上イカロスに近づけまいとディケイドはその身で遮った。
「ツカニャン離すにゃ!」
「断る。危ないだろおまえ……色々と」

805欲望交錯-対立と別離と胸の穴- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:37:43 ID:DOogWjbc0

「関係ないニャ! アルニャンが大怪我してるニャ! 仲間だったフェイリスには、放っておけないニャ!」
「アルニャンって……名前全然違うだろうが」
 フェイリスの出会った参加者の中に、アルニャンと呼ばれる天使の姿をした少女がいるらしいことは聞いていたが、どうやら彼女がそうであったようだ。
 では、イカロスとは他の誰かの名前だろうかと考えたが、アルファーという名が名簿になかったことから、門矢士にとっての仮面ライダーディケイドと同じように、アルファーという呼称こそイカロスの別称なのだろうと結論付けつつ、続ける。
「悪いが、あいつを助けさせるわけにはいかない。あいつは乗っていたからな」
 泣き崩れているバーナビーとラウラの様子を確認したディケイドはさらに、イカロスを振り返り――ここまで痙攣の一つもなかったことを確認して、続ける。

「それにもう……とっくに死んでいる」
 諦めさせるための言葉を告げ、引き止める理由がなくなったと手放すと同時、フェイリスは悟ったようにこちらの顔を、仮面越しに伺ってきた。
「ツカニャンが……アルニャンを殺したニャ?」
「……そうだ」
 一瞬だけ、言葉に詰まった。
「おまえの仲間だった奴を破壊したのは、俺だ」

 衝撃にフェイリスの瞳が開かれるのを、抱き合うような至近距離でディケイドも目撃する。
 最早こうなっては決別することは承知の上だったが、それでも一度は共に戦った仲間である少女を傷つけるような言葉を吐かねばならないことに躊躇を覚えた事実に、とことん自身の甘さを思い知らされる。
 疾うに捨てたと思っていたのに、九つの世界を巡っていた時のようにこうなってしまったのはきっと、ここに呼ばれてから一番最初に遭遇したのが彼だったせいなのだろうが……

「……まぁ、ある意味では俺も乗っているようなものか」
 改めて、わかった。
 バーナビーの激昂を叩きつけられては、嫌でも悟らざるを得なくなる。
 呆然とした様子のフェイリスから離れた隙に、ディケイドは伊達とイカロスの落とした使用済みのコアメダルを三枚、首輪から排出させる。
「ラウラ!」
 泣き崩れるばかりで話をしようともしないバーナビーを前に困惑していたラウラは、投げ渡したそれに不意を衝かれる形になりながらも、何とかその手に掴み取る。
 全てのコアメダルを明け渡すことは、この先の戦いを考えればできない相談ではあったが、この程度ならラウラに渡してしまっても支障はないはずだろう。
「……どういうつもりだ」
「手切れ金だ。受け取っておけ」
 ラウラ達はユリコとは違う。自分は彼女達の傍に、いるべきではない。
 最も多くの参加者を救える可能性があるのが、ラウラ達の選んだ道だ。なのにそこに賛同する人間を減らす自分はいない方が良い。

 決別を告げられた際、ラウラが浮かべただろう表情はわざと視界に収めず、そのままディケイドは横たわったままのイカロスの残骸へと歩を進める。
 思えばラウラ達と行動を共にしたのには、ただ目的達成のための効率を求めただけではなく。ユリコと一緒に居たのと同じで、士自身が孤独に耐え切れなかったのが何より大きい。
 そうして仮初とは言え、仲間と共にいるという心地の良さに甘えて長居をし過ぎ、結果余計に傷つける羽目になった。
 そんな甘さは、ここで完全に捨ててしまう。
 その第一歩として、あの天使の死体は完全に破壊する。

「……させられないニャ」
 そんなディケイドの背に掛けられたのは、固い決意を秘めた声。
「アルニャンをこれ以上傷つけるのも、これ以上ツカニャンが悪者みたいになるのも、フェイリスは仲間として見過ごせないのニャ!」

 ――こちらの気持ちなど、知りもしないくせに。

 デンオウベルトを構えたフェイリスが、ディケイドの前に立ち塞がろうとしていた。

806欲望交錯-対立と別離と胸の穴- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:38:17 ID:DOogWjbc0



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


 ――逃げなくては。

 園咲冴子は深手を負った身体を、そんな思いで動かしていた。

 キャッスルドランが目覚めてすぐの攻撃で、あっさり吹っ飛ばされてしまっていた冴子だったが――死亡はもちろん気絶に追い込まれることなく、その後の事の顛末を見守っていた。
 とはいえ、流れ弾が掠めただけで既にダメージを蓄積していたナスカの変身は解除され、挙句メモリはブレイクされてしまっていた。
 掠めただけで、疲弊していたとはいえ上級ドーパントを一撃で戦闘不能に追い込むキャッスルドランの攻撃力は、その巨体に見合った凄まじいものだった。
 そのキャッスルドランを問題とせず葬ったイカロスはやはり規格外だったが、プロトバースとメズールをまるで寄せ付けず、イカロスさえも秒殺したディケイドはさらに危険だ。万が一にも敵対すれば、おそらく冴子に生存の目はない。

 何を考えているのかわからないが、明確に『仮面ライダー』と『殺し合いに乗った者』を殺すと口にしていた。後にメズールだけでなくイカロスまでああも手酷く殺害したことから、その言葉に嘘はない仮借のなさを伺うことができた。

 であれば、冴子が乗っていることを寸前まで敵対していたバーナビーとやらに告げられてしまわぬように……気づかれる前に、この場を離れなくては。
「……屈辱、ね」
 言い逃れようのない敗走の体に、冴子は歯軋りする。
 だが冴子は、矜持を貫くためには結果が必要であり、そのために手段を選んではいられないと考えている。
 それでも井坂を亡くした時と同じ以上の先行きの暗さが、冴子の足を遅らせていた。

「せめて、これを使うべきかしら……?」

 意識を向けるのはデイパックの中。冴子の初期支給品だったスパイダーメモリ。
 ドーパント化すれば、今よりは体も楽になる。何より単純に、いざという時咄嗟に戦える力を確保できているのとそうでないのとでは雲泥の差が生じる――それがゴールドメモリとは比べるべくもない、旧式の量産型だとしても。
 ないよりはマシ、贅沢は言っていられない……正直言って生身のままでは、ここから無事に逃げ果せるのかすら怪しいのだから。

 そんな風に、使用へと思考を傾けかけていたその時だった。
 冴子が自身の足元に、黄色のメモリを発見したのは。
「これは……」
 一見すると、Wが使うのに酷似したガイアメモリ。
 しかしそこに刻印されたアルファベットは、N。色もまた、つい先程ブレイクされたあのメモリと非常に似通っている。
《――NASCA!!――》
 導かれるようにそれを手に取り、ボタンを押してみれば。それは予感通りのガイアウィスパーを奏で、一人でに冴子の体内へと侵入して来た。
 そして空色の騎士に変化した肉体は、さらに夕焼け色へと染まり――Rナスカ・ドーパントへと、冴子は再びの変身を果たしていた。

 T2ガイアメモリには、自らを適性の高い運命の人物へ導く能力がある。
 アポロガイストのデイパックから抜け出し、加頭順を介してイカロスとの交戦に至ったナスカメモリもまた、その後イカロスが冴子の近くに行く未来を予感し、彼女とシャドームーンの死闘の後、カザリによって運ばれるその翼の中に潜り込んでいた。
 そして後は、機を見てその中から離脱し、冴子の近くへと舞い降りていたのだ。

 そんな旅路を知る由もない冴子であったが、失われたはずの力が更なる質を以て自身に充満するのを感じ取り、落ち込んでいた気持ちが多少は晴れ渡るのを実感していた。
「――まだ、ツキに見放されたわけじゃないわね」
 体力こそ消耗したが、それさえ回復すれば冴子自身の能力は更なる増大を見せている。飛行能力を使えば、あれほど億劫に感じた逃走も捗るだろう。
 ついでに散々苛立たせてくれたバーナビー達をこの勢いのまま殺害できれば実に爽快だろうが、それでもさすがにディケイドと今敵対するような真似は自殺行為とわからなくなるほどにはトリップしていなかった。
 故に憂鬱を脱した高揚を抑え、平静さを取り戻す。

807欲望交錯-対立と別離と胸の穴- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:39:25 ID:DOogWjbc0

「あら」

 そうして過不足ない視野を取り戻した結果、偶然にも自身の近くに二振りの魔剣が転がっていることに気づいた。
 ザンバットソードと、サタンサーベル。それぞれアルテミスとプロトバースが爆発した際に所有者の手から飛ばされていたものだが、まさか揃って放置されていたとは驚きだ。
 どちらもナスカブレードを凌ぐ業物。使う使わないはともかく、他人に回収されるよりは手元に置いておきたい。ディケイド達がまだ言い争いに夢中な間に頂いておくとしよう。
 どちらかといえば損失の方が大きいが、それでもまだ、冴子の運気が尽きたわけでもないようだ。
 
 そう――諦めるのはまだ、早い。

(井坂先生……)

 彼との再会――そして二人で築く、未来と栄光は。

 夢想しながら茜色の翼を拡げ、Rナスカは戦場からの離脱を図る。その夢をいつか、現実の物とするために。
 偶然にも――飛び立ったその先で、愛しい彼が戦っている最中だなどということを、今はまだ知らないままで。



 ――しかしその飛翔は、誰にも気づかれなかったというわけではなかった。



 ユーリ・ペトロフ――ルナティックは冴子と違い、至近距離でのアルテミスⅡの炸裂によって昏倒していた。

 肉体の耐久性はあくまで人間の域を出ず、スポンサーの付いたヒーローに支給される高性能スーツではなく、あくまでユーリお手製のコスチュームでは優れた防御力を期待できるはずもない。撃墜された後にまで一命を取り留めたこと自体が、彼の掴み取った奇跡に近い幸運だと言えた。
 そんな状態から意識を回復したとしても、正気に帰るとまでは言えず。重傷の身を衝き動かすに足りる情念よりも、押さえ込んでいたはずの異なる感情が噴き出して、深刻なダメージで視界の霞む彼の状況理解を一層妨げていた。

(鹿目まどかは……死んだのか)

 つい先程は、意に止めず流すことに成功したその事実。
 悲しむべき犠牲であると同時、ルナティックの正義を証明する何よりの根拠だと、悪を裁く力に変えたはずの少女の死。
 だがこの胸に喪失感が生じたのは、甘かろうとも心優しい少女の死を悼む心からだけでも、彼女が愚かであろうと救うことができなかった無力感からだけでもなかった。

 この胸にぽっかりと空いた穴を生んだのは――そう。
 失望、だ。

(馬鹿な……)

 いったい自分は、何を望んでいたというのか。鹿目まどかに、火野映司に、鏑木・T・虎徹に。
 自身の正当性を、彼らに見せつけに来たのではなかったのか。それが叶わず、彼女に己が過ちを認めさせることができなかったからか?

 混乱する思考を表すかのように、未だ焦点の合わない視界の中に、突如として朱が差し込む。
 ――まただ。
 また、あの男だ。
 こちらが目を回し、それに釣られて思考が混乱しているのを良いことに、信義までもを揺さぶろうと姿を現す。

「……いつまで続けるつもりなんだ、あんたは」

 その言葉は、誰に向けて吐いたものか。

808欲望交錯-対立と別離と胸の穴- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:39:56 ID:DOogWjbc0

 ……関係ない。『パパ』の幻影など。鹿目まどかの死に感じた失望など。
 悪い奴らは裁かれるべきだ。例え積極的には人を害していなかったのだろうと、殺し合いの始まりを止めようとしなかったあのグリードも、それに与したまどかも同罪であり、その死は当然の報いでしかない。火野やワイルドタイガーが彼女を救えなかったのもまた、その偽善が辿り着くべき当然の帰結に過ぎない。
 
 綺麗事が実現しなかったことに、何の失望も感じる必要はない――悪を裁き無辜の人々を救えるのは、ルナティックの掲げる正義だけなのだから。
 私は何も、間違ってなどいやしない。

 そうしてつい先程終えたばかりの正当化のプロセスをまた、ユーリはルナティックとして完了し、忌まわしき幻を霧散させる。
 ユーリの記憶で、誰より誇らしい正義の味方として輝いていたその姿を、知らず知らずに投影していた者達の敗北への失望も、その事実に目を背けたままに蓋をする。

 未だ視力は完全回復とは行かないが、ほんの一分前と比べてもかなり快方に向かっている。この調子ならば問題ないはずだ。
 むしろ、聴力の方が不全であることに気づいたのは今になってのことで、さらに起き上がった時にようやく痛みを覚える。
 肋骨に罅が入っているようだと分析しながら、近場に投げ出されていた愛用のボウガンを拾う際、視界の隅を黄昏色の影が横切ったのを、ルナティックは確かに目撃した。

「……逃がさん」
 気絶する直前まで戦っていた、明確に殺し合いに乗った悪――Rナスカ・ドーパントの飛翔する姿を見て、ルナティックは呟きと共に浮遊する。
 他に大きく動く気配はない。他に逃さずに済む者がいないというなら、このルナティックの手でわからせてやらねばなるまい。
 何人も、己の犯した罪からは逃げられないのだということを。
 向かった方角はほぼ同じ。おそらくは彼らを狙うナスカの向かう先にいるのだろう、ワイルドタイガーに連れられたあの少女にもまた、遭遇次第裁きを下す。
 使命感という炎に燃えるまま、正義の処刑人は――裁きを下すべき悪魔との接近に今は気づくことがないまま、遠くない未来に罪を犯すだろう怪人の追跡を開始した。



【一日目 真夜中】
【C-5 平地】

【ユーリ・ペトロフ@TIGER&BUNNY】
【所属】無(元・緑陣営)
【状態】ダメージ(極大)、肋骨数本骨折、疲労(大)、怒り、微かな寂しさ、一時的な視力聴力低下、混乱中、Rナスカを追って飛行中
【首輪】45枚:0枚
【コア】チーター(放送まで使用不能)
【装備】ルナティックの装備一式@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:タナトスの声により、罪深き者に正義の裁きを下す。
(訳:人を殺めた者は殺す。最終的には真木も殺す)
 1.罪人(冴子)を追い、相応しき裁きを下す。
 2.火野映司の正義を見極める。チーターコアはその時まで保留。
 3.だが彼はまどか達を守りきれなかった……?
 3.人前で堂々とNEXT能力は使わない。既に正体を知られたことへの対応はまだ保留。
 4.グリード達と仮面ライダーディケイド、カオスは必ず裁く。
【備考】
※仮面ライダーオーズが暴走したのは、主催者達が何らかの仕掛けを紫のメダルに施したからと考えています。
※参戦時期は少なくともジェイク死亡後からです。
※巴マミが生きていることを知りません。
※気絶していたため、キャッスルドランでのイカロス襲来以後の出来事を把握していません。
※ナスカが自分達の防衛線を突破して、映司達の追撃に向かっていると考えています。

809欲望交錯-対立と別離と胸の穴- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:40:45 ID:DOogWjbc0

【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、ディケイドへの恐怖心、Rナスカに変身中、飛行中
【首輪】60枚:0枚
【装備】T2ナスカメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、スパイダーメモリ+簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW、メモリーメモリ@仮面ライダーW、IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド、魔皇剣ザンバットソード@仮面ライダーディケイド、サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
 0.今は撤退する。
 1.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
 2.しかし、そのためにはどうすれば良いのか……?
 3.井坂と合流し、自分の陣営に所属させる。
 4.後藤慎太郎の前では弱者の皮を被り、上手く利用するべきではなかった。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。
※T2ナスカメモリは園咲冴子にとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○




「……本気か?」
「本気ニャ」

 ベルトを巻きつけ、いつでも変身に移れる態勢のフェイリスを相手に、ディケイドは驚愕を隠せずにいた。
「イマジンの皆は言ってくれたニャ。フェイリスが守りたいって思った時が、戦うべき時ニャんだって。
 フェイリスは今、思うのニャ。例えツカニャンと戦うことになっても、大切な仲間を皆、守りたいって!」

 その瞳に灯る意志は揺るがない。
 ラウラならともかく。いくらアルニャンことイカロスを破壊したとは言え、まさかフェイリスが。そんな動揺を隠せないままにディケイドは続ける。
「――そいつは乗っていたんだぞ?」
「それでもニャ!」
 フェイリスは全力で、語尾こそふざけていようが、本気で叫んでいた。
「それでもアルニャンは、ベーニャンと一緒にフェイリスの傍に居てくれたニャ!
 何の役にも立たないフェイリスの傍に、何の見返りも期待しないで一緒に居てくれたニャ! ラボメンの皆みたいに!」
 ラボメン――元の世界での、フェイリスのかけがえのない仲間達。
 そんな仲間と重ねるほどに、彼女はイカロスを大切に思っていたというのか。

「勘違いしてベーニャンを撃った後でも、例え殺し合いに乗った後でも! フェイリスのことを殺さなかった、守ってくれたニャ!
 そんなアルニャンがこれ以上傷つくところなんて、見たくないのニャ!」
 ふーっ、と。猫のように威嚇してくるフェイリスに、ディケイドはどう対応したものか考えあぐねる。
「それに……ツカニャンだって大事な仲間ニャ」
「……おまえ達とのチームは、ついさっき解消したつもりだったんだがな」
「関係ないニャ! 一度仲間として運命を共にした以上、フェイリス達の魂はずっと絆で繋がっているのニャ!
 虫頭からラウニャンを助けてくれて……フェイリスの代わりに、アルニャンを止めてくれたツカニャンが、これ以上無理をして罪に手を染めるのなんて見たくないのニャ!」
「わかったような口を……」
「わかるニャ! ツカニャンは無理してるニャ! そんな苦しそうなの、黙って見ていられないニャ!」
 ディケイドの反論を、フェイリスは勢いのまま封じ込む。まるで仮面に隠されたその表情を、見て取っているかのように。

810欲望交錯-対立と別離と胸の穴- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:41:23 ID:DOogWjbc0

「……乗ってしまっていたアルニャンをツカニャンが倒して止めたというのは、とってもとっても悲しいけれど、仕方のないことなのニャ。
 本当はフェイリスがやらなくちゃいけないことだったけれど、それがフェイリスにはできなかったのニャ。
 そのことを責めるつもりはないニャ……でももう死んでいるアルニャンをこれ以上、撃ったりする必要はないはずニャ! それは、ツカニャンが自分を追い詰めるためにしようとしているだけニャ!」

 ……こちらの気持ちも知らないくせに、と言ったのは訂正する。

 だがわかっているなら、黙っていてくれというディケイドの密かな気持ちを知る由もなく、フェイリスは続けた。
「どうしてツカニャンが破壊者なんてやらなくちゃいけないのか、フェイリスにはわからないのニャ。
 だけどツカニャンは、自分でも悪いと思っていることができるほど強い人間じゃないのニャ。だからきっと、その使命を何も知らないフェイリスが止めるべきじゃないとは思うニャ。
 それでも今フェイリスが止めようとしていることは、その使命には関係ないはずなのニャ」
 
 フェイリスの続ける言葉に、ディケイドはいよいよ何も言い返せない。
 伊達に続いて、フェイリスにまで見透かされているという事実に、ただ沈黙することしかできないのだ。

「……だからお願いなのニャ、ツカニャン。アルニャンをこれ以上傷つけるのは、やめて欲しいニャ。
 それで、できればフェイリスに……友達との、アルニャンとのお別れをさせて欲しいのニャ」

 縋るような訴えと、それを退けられたならば、戦ってでも望みを叶えようとする強い覚悟が見て取れる。
 ……おそらくあのイマジン達のことだ。今のフェイリスになら、喜んで力を貸そうとすることだろう。
 対イカロスのために強力なカードを消費した状態で、さらに死体蹴りだけのためにクライマックスフォームのある電王と戦い、消耗するような事態は避けたい。

「……好きにしろ」

 だから――これは、もう自分には許されない、友と友のままで別れを告げられるという機会を、フェイリスからまで奪いたくはないなどという感傷ではなく。
 単に、こうする方が合理的という判断なのだと。自身にそう言い聞かせ、ディケイドは矛を収めることとした。
「……ありがとう、ツカニャン」
 感謝の気持ちに表情を輝かせ、イカロスへと向かって行ったフェイリスを無視して、デイパックの中に入れておいたライドベンダーを取り出し、セルメダルを一枚用意する。
 長居は無用だ。今は素顔を晒したくないという理由で変身は解かないが、いつまでも維持し続けていては無意味なメダル消費も大きくなって来る。

「待て……っ!」
 バイクモードへ変形させたのを見て、ディケイドを呼び止めたのはラウラだった。
「何を勝手に行こうとしている! 私はまだ納得していない。おまえが間違っていると感じたなら私が止める、そう言ったはずだ……っ!」
「……そうだったな」
 しかしディケイドはラウラを振り返らず、突き放す言葉を選択する。

「何なら俺で練習しておくか? いつか、グリードじゃないリーダーを殺さなくちゃいけない時のために」
「――ッ!」
「もっとも、仕掛けてくるなら俺も黙ってやられたりはしないがな」
 息を詰まらせるラウラに、さらに挑発を重ねる。

 意地が悪いとは自分でも思う。だがここで止まるようでは、ラウラの目指す勝利は絵空事で終わってしまう。
 ディケイド自身、ここで終わるつもりはないが。最終的に失われるものが異なるとはいえ、自身の達成しなければならない使命と似通った罪を背負おうとしているラウラにもう一度、その覚悟を問い質さなければならないと感じていた。
 必要があるなら、手を汚せるか。一度は仲間と思った相手でも、殺すことができるのか。
 それができないなら――咎を背負うのは自分だけで良い。これ以上、彼女達に戦いを強要しない。
 自分一人でこの殺し合いを破壊して、ラウラ達を解放するための手段を模索すれば良いと。決して言葉にはしないが、無意味に傷つけた贖罪として、そう静かに決意していた。

811欲望交錯-対立と別離と胸の穴- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:42:22 ID:DOogWjbc0

 果たしてディケイドの見守る中、ラウラがおずおずと口を開く。
「わた、しは……」
「……これはどういう状況だ?」
 今更になって全く新しい人物が現れたのは、ラウラの言い淀んだその瞬間だった。

 何者かと一瞬警戒したが、姿を見せた相手は特に誰かへの害意も感じられない、一人の若い男だ。
「……誰だ」
 ディケイドの誰何に、足を止めた男は一先ず争いの終わった状況であることを悟ったらしく、手にした銃を向けることもなく素直に答えた。
「俺は後藤慎太郎。殺し合いには乗っていない……ワイルドタイガーや、火野映司と言った男を知らないか? この近くで戦闘に巻き込まれていたはずだったんだが……」
「ワイルドタイガー?」
 火野映司という名前には覚えがない。だが開幕の場で真木に啖呵を切っていたその男の名は、ディケイドもよく記憶している。
「俺が来た時には見当たらなかったな。そこにいる奴にでも聞いたらどうだ?」

「……いや、そいつが言っているのは私のことじゃない」
 後藤に目を向けられたラウラが弱々しく首を振り、自身よりも後藤に近いはずのバーナビーを指し示すように見下ろして、言う。
「我々が来た時点で居たのはこの男ぐらいだが……先程からこんな調子でな」
 未だ、何かに打ちのめされたように黙り込むバーナビーに、同じように打ちのめされた様子のラウラはそれでも気丈さを装い、告げる。
「許してくれと言われても、何のことだかわからん以上は何とも言えん。それにこの後藤という男の質問にも答えてやってくれないか?」
 促されて、嗚咽を詰まらせたバーナビーは……震えながらも、ようやく意味のある言葉を吐き出した。

「……僕は、僕じゃ虎徹さんには釣り合わない」
 悲嘆の滲んだ声で、いきなり何を言い出すのかとその場の誰もが思っただろう。
「僕は守れなかった……伊達さんも、鈴音ちゃんも、誰も……っ!」
「――――――何?」
 バーナビーの告白の意味を、ディケイドとラウラが理解したのと同時。
「アルニャ……ン?」
 ずぶりという、酷く容易く肉を裂く音と共に。
 溺れるようなフェイリスの声と、大量のメダルが溢れ吸い込まれるのが聞こえて来た。
「――っ!?」
 まさか。そんな拭い難い戦慄と共に、ディケイドは振り返った。

「……モード・『空の女王(ウラヌス・クイーン)』」

 ラウラ、後藤、バーナビーと、他にばかり注意を回していたその隙に。
 ディケイドは己が、取り返しのつかない過ちを犯した事実を悟る。

 血に塗れた左手が、フェイリスの胸を貫いている様を、ディケイドは確かに目撃した。

「バージョンⅡ――再起動」

 そして――悪魔の甘さを断罪する、天使の冷徹な宣告が、その瞬間完了した。
「……ッ、フェイリスゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ!!」
 絶叫は、視野を圧す輝きによって掻き消された。

812欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:43:40 ID:DOogWjbc0


      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○




 何も見えなかった。
 何も聞こえなかった。

 それほどまでに、イカロスの機体は破壊されていた。
 自己修復は、機能していない。シャドームーンから受けたよりも遥かに甚大なダメージは、それを成すために必要なイカロスのメダルを根刮ぎ奪い去っていた。

(マスター……)
 辛うじて、可変ウィングコアは健在で――意識だけは残っている。

 だがそれも、いつまで持続するのかわからない。
(……認め、られない)
 それでも、まだイカロスの命が消えていないのなら。
 もう届かないなどと、諦めることはできない。

(まだ、死ねない……死にたく、ない……!)
 ここで死んだら、もうニンフと仲直りできなくなる。
 もうマスターと、会えなくなってしまう。
 まだ優勝して、真木を倒して、その技術を手に入れれば――全部に手が、届くのに。

 手が届く可能性が、どんなに極少でも存在する限り――イカロスの抱く欲望と言う名の呪いは、彼女に諦めることを許しはしなかった。
(メダル、を……!)
 これもダメージによる障害で、識別機能が働かなくなっていたが……ディケイドだけでなく、複数の参加者が接近して来ていることは、辛うじて生きていたレーダーでわかっている。
 こちらから接近する余力はない。動けてせいぜい、目の前に素手の一撃を繰り出せるだけ。
 だからイカロスは待った。微動だにせず、完全に機能を停止している体で。一度だけ許される機会にメダルを奪える相手が、手の届く範囲に近づいてきてくれるのを。

 可能性の低い望みだということはわかっている。
 もし……もしも接近したのが、今の機体状況で倒せるはずのない、ディケイドやそれに準じる強敵であれば。あるいは、誰も近寄らず、そのままイカロスの意識が消失してしまえば。
 そして、運良く一撃でメダルを奪える相手だとしても、その時に手に入ったメダルがイカロスを修復するのに足りなければ、間違いなくディケイドにトドメを刺されてしまう。
 それでも、可能性がゼロでなければ……諦められなかった。

(私は、もう一度……っ!)

 ――わかっている。マスターがそんなこと、絶対に望まないはずだということは。

 きっとイカロスの所業を、彼が許してはくれないのだということを。
 それでもこれは――イカロスが、自分で決めたことだから――――!

 そんなイカロスの切望を、運命が聞き届けたというのか。
 レーダーは、一人の参加者の接近を感知していた。
 立ち止まって、何事を呟くかのような間を置いた後、もう一歩。その参加者は――セルメダルを運ぶ器は、イカロスの間合いに踏み込んだ。

「―――――――っ!!」
 同時、イカロスは残された全ての力を振り絞り、跳ね上がって――その手を、突き出した。

813欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:44:42 ID:DOogWjbc0

 接触した掌は、寒天のように対象の肉体を貫いた。途中、拍動する臓器に触れたが、勢いのまま繋がった管を引き千切り、破裂させる。
 今イカロスが貫いたのはきっとただの人間で、だからこれだけのことで即死したのだろう。放出された大量のセルメダルを浴びるように吸い込みつつ、獲得した瞬間から即自己修復に消費する。

 飛び出したセルメダルは、カザリから譲り受けた量に匹敵する膨大な枚数だった。望外なまでの幸運に見舞われたイカロスは未だ放出され続けるメダルを呑み干しながら、さらに自己修復機能を高めるために『空の女王』を発動する。
 攻撃と機動の要である、可変ウィングの復元を最優先。合わせてレーダーの識別機能を取り戻し、最優先排除対象――ディケイドを瞬時にロックする。

「『ArtemisⅡ』――発射」
 攻撃までに、修復の間に合った砲口はたったの三門のみ。それでも、悠長に完全回復を待ってディケイドに対処の隙を与えるわけには行かない。
 放たれた三基のミサイルの内、一基はそれでも撃墜されたのを確認。しかし残る二発が、ディケイドに着弾したのを――機能を回復した右目で見届ける。
 正確には一発は、ライドベンダーを盾に防がれていた。だが最後のアルテミスⅡが、ライドベンダーの爆発に振り飛ばされたその肩口に食らいついて、炸裂。肩部装甲が爆ぜ、一部の支給品を零し、セルとコアの混合された大量のメダルを吐き出しながら、ディケイドがさらに大きく吹き飛ばされる。

 さらに現状を整理。他の参加者は三人。突然の事態に思考の追いついていないらしい彼らと交戦する可能性も踏まえつつ、イカロスはまず先制攻撃よりも自己修復を優先する。
 引き続き二対の翼、さらに状況認識のための聴力、上下に千切れかけるほどの大穴の空いていた胴体を優先的に修復しつつ、左手に刺さったままだった用済みの死体を投げ捨てる。
 そのまま最善の戦術を組み立て、次の行動に移行する――半分だけ蘇った視界が、端を過ぎった物に気づいていなければ、何の淀みもなくそうなるはずだった。

「えっ……?」

 しかし現実のイカロスは、気づいてしまった。
 桃色の髪が――ちょうど自分が、投げ捨てた死体と同じ方向に、流れて行ったのに。

「そんな」

 どうして、彼女が。
 その情報を否定するように、嫌々と首を振っても――イカロスの視線の先で、胸に赤黒い孔を開けた人物の亡骸は、その容姿を変えはしない。
 服装こそ、あのメイド服とは違っていても。

「フェイリス――ッ!?」

 たったイカロスが手にかけたのは。あの時イカロスに、最後の良心を想起させた涙の主である――フェイリス・ニャンニャンその人だった。


 
《――KAMENRIDE HIBIKI!!――》
 理路整然とした思考など決して許しはしないと言わんばかりの激痛に、意識を奪われるその瀬戸際で抗しながら。ディケイドは何とか掴んだ一枚のカードをディケイドライバーに投げ込んでいた。
 瞬間、ベルトを残してその姿が世界の破壊者ディケイドから、音撃戦士響鬼へと変身を遂げる。

「――つぁッ!」
 気を込めることにより爆発的に高められた治癒力は、ディケイドから肉体そのものを変化させる響鬼へ変身したことによって、骨が露出するほどの大怪我となっていた左肩の傷までもを瞬く間に塞ぎ、修復する。
 あらゆるアタックライドカードをカメンライドなしで使用可能となった激情態だが、例えばクウガペガサスの超感覚のような身体能力に由来する能力の行使には、やはりカメンライドを必要とする。
 響鬼の爆発的な治癒力もまた、カメンライドでなければ得ることのできない能力であった。

814欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:46:29 ID:DOogWjbc0

「――ッ、はぁ――っ!」
 響鬼の肉体を再現したことにより、自身を苛んでいた痛みが遠退き、致命に近かった傷も一先ず塞がった。
「逃げろ、おまえらっ!」
 だがそこで一息吐いている場合ではないとして、ディケイドは響鬼へのカメンライドを解きつつ起き上がる。

 世界の破壊者としてどう振舞わなければならないとか、そんなことは頭の片隅に追いやられてしまっていた。
 ただ今は、フェイリスに続く犠牲をこれ以上生まないためにどうするのか――それだけを考えて、知らず知らずの内に叫んでいた。

 しかし、直撃こそ何とか避けたが、完全な回避は不可能だったアルテミスから受けたダメージで、行動不能になっていた間にもっと絶望的になっていると思われた戦況は――イカロスがその翼と胴体をほぼ修復し終えているということ以外、四人ともが固まっているという奇妙な状態で停滞していた。

 だがディケイドの呼びかけが引き金となってしまい、フェイリスの死体に呆然と隻眼を寄せていたイカロスが正気に返る。
 同時、ラウラがシュヴァルツェア・レーゲンを飛翔させ、ディケイドは次のアタックライドカードをディケイドライバーに挿入する。
《――ATTACK RIDE BLAST!!――》
 本体だけでなく、複数の虚像となって現れたライドブッカーの銃身からも実体として放たれた無数の光弾が、イカロスの射ち出したアルテミスの群れと正面から激突。ミサイルは弾幕の壁を突破しきれずに、何もない宙空での爆発を連続させるに留まる。

 しかしその余波である颶風ですら、クロックアップ中とは異なり、弱ったディケイドに抵抗を許さず吹き飛ばすのに充分なだけの威力を持ち合わせていた。
 苦鳴を漏らしながら、爆風に煽られるままにディケイドは地を転がる。その状態でも我武者羅にライドブッカーでの射撃を続け、追撃を何とか防ぎきる。
 その間に、まずシュヴァルツェア・レーゲンはその機動性を活かして距離を稼げた。
 おそらく未だ修復中の状態とはいえ、イカロスが本気で追えば容易く捕捉されてしまう程度の距離でしかないが――今の彼女の狙いは確実に、一番の脅威であるディケイドに絞られている。

 ただのショットガンで介入できる戦いではないと悟ってくれたのだろう。後藤もまた、重傷の身であるバーナビーに寄り添いながらも撤退を開始しようとしていた。
 その事実に違和感を覚えつつも、正体を特定している猶予はないと考えたディケイドだったが、また迎撃の遅れたアルテミスの炸裂に至近距離から巻き込まれ、地を舐める。
 更なる追撃を予感してすぐに顔を持ち上げたが、しかし次のアルテミスは飛来して来てはいなかった。

 イカロスは、右腕の復元を合図とし、上空へと舞い上がっていた。

 ディケイドを、後藤とバーナビーを、地を這う全てを見下すようにして飛ぶ天使の手に、刺々しい形状の、禍々しい色をした弓と矢が出現する。
 矢の先端に灯った焔から、御しきれずに漏れ出す圧倒的な熱量の余波が地上を炙るのを感じ、あれこそイカロスの切り札であるとディケイドは悟る。
 迎撃――いや、駄目だ。例のバリアが展開されている以上、こちらの攻撃は届かない。おそらく解除された瞬間に合わせてこちらの最大火力を放ったとしても、適切な迎撃タイミングを逃し、打ち負ける。

「……どうしてだ」
 攻撃の無為を悟ったディケイドは、しかし裁きの矢が放たれるまでの猶予の間にイカロスへと言葉を叩きつける。
 ラウラ達が逃れるための時間を、ほんの一瞬でも多く稼ぐため――そして何より、内に秘めた怒りを抑えておくことができなかったから。
「どうしておまえを庇ったフェイリスを殺した!? あいつはおまえの友達だったんだろうがっ!?」
「……私だって……殺したくなんか、なかった……っ!」
 絞り出すようなイカロスの声から、言外に非難の色をディケイドは感じ取る。

 あなたのせいだ、と。

「だけど……大丈夫。まだ、やり直せる……!」
 そのことに怒りを覚えるより先に、不可解な言葉がイカロスから発された。

「……何?」
「やり直せる、から……あなたもフェイリスも、死んだのをなかったことにできる。
 だから、安心して」
 イカロスを包むバリアが、消失する。

815欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:47:32 ID:DOogWjbc0

「……今は、私に殺されて」
 まるで、ディケイドの使命の醜悪さだけを取り出し凝縮したかのような呟きと共に。矢尻を摘んでいたイカロスの指が、手放される。
《――ATTACK RIDE MACH!!――》
 同時にディケイドは、ブラストから次のカードへと切り替えた。



 最終兵器『APOLLON』を放ったと同時、ディケイドの動きが加速した。

 だが交戦の最初に見せた高速移動に比べると、その2%にも満たないほどに、遅い。精々音速程度にしか届いていない。
 そんなことではイージスを再展開するまでにイカロスの懐に潜り込むことも、直撃を躱したところで『APOLLON』の効果範囲から逃れきることも、決してできはしないだろう。

 既にイージスの絶対防御圏内にその身を潜めたイカロスは、透明な殻の向こうで彼が走るのをそう無感動に観察していた。

 アルテミスの着弾で吐き出した、コアを含む大量のメダルの回収に向かうでもなく。当然イカロスに向かって来るでも、身を翻して遠くへ逃げようとするでもなく。
 イカロスの真下、フェイリスの亡骸を拾い上げると同時、再び踵を返して駆け出した。

 今更メダルの散らばった場所に戻ろうとするその行動を訝しみながらも、その意味をイカロスが推察するより先に、解き放たれた最終兵器が猛り狂った。

 イージス越しに眺めていた景色が、一片の余地も残さず紅蓮の炎に塗り潰される。
 ビリビリと感じる震えは、三度目となる太陽の投下に会場そのものが震え、悲鳴を発しているのだろう。
 破壊の濁流が暴れ続けている間は、事を成した本人のイカロスをして何の情報も視認できない――それほどの猛威の中、しかしレーダーは確かな戦果をイカロスに伝えていた。

 仮面ライダーディケイド――反応、消失(ロスト)。

 おまけ程度に、他二人の参加者の反応も掻き消えていた。――放送直前に交戦したのとよく似た機動兵器の少女は、『APOLLON』が炸裂するより前にレーダーの索敵範囲から脱していた以上、おそらく逃しているだろうけれど。

 ただ、イカロスすら脅かすディケイドという障害を排除できただけで、これはもう十分な成果と言って差し支えなかった。

 そう、そのためなら……彼女の犠牲だって、とても意義のあるものだったはずなのに。

「……フェイリス」
 それでもイカロスは、その名を呼ぶ声が震えるのを、堪えることができなかった。

 わかっているのだ。自分の欲望に従ってその命を奪っておいて、なのに本当はしたくなかった、自分だって辛いなどとのたまうのがどれほど身勝手であるのかなど。
 だとしても、自らの手で彼女の命を絶ってしまったという事実は、イカロスが自身を苛むのに十分過ぎる罪となってその心に突き刺さっていた。
 ディケイドに言ったように割り切るのが、本当にすぐできてしまうだけの心の強さがイカロスにあったのなら――そもそもこんな行為には、及ばずとも済んだのだ。

 罪に手を染めるたび、その心に感じる重さが増すのは無視できない。
 それでもイカロスは、願わずにはいられない――都合の良過ぎる、自身の救済を。

「……マスター」

 せめてもう一度、彼と出会うために。

 悲しみは悲しみとして抱えたまま、それでも自分で選んだ道をやり遂げるために。その途中で、何度自分を泣かすことになったとしても。
 イカロスは未だ葛藤を抱えたままに、等しく焼き払われた地上を見下ろした。
 セルメダルの残量は残り少ない。自己修復に必要な分まで考えると、実質枯渇していると見なせる心許なさだ。

 メダルが足りなくなれば帰投しろとカザリは言っていた。しかし一方で、ディケイドがコアメダルを保有していた事実をイカロスは記憶している。
(コアメダルは破壊できない……から、探せば見つかる……はず)
 おそらくそれで、イカロスの完全回復と、今後の戦闘に必要なメダルは十分に確保できるだろう。

 問題はその後。カザリと合流するか、それとも引き続き単独でオーズとカオスを探し出し、殲滅するか。
 右足を先に修復し終えたイカロスは、未だ熱を持った大地へとゆっくりと着地しながら、考える。

816欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:48:40 ID:DOogWjbc0

 この呪いを解くには――どちらの方が早いのだろうか、と。



【一日目 真夜中】
【C-6 キャッスルドラン付近跡地】

【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】黄
【状態】ダメージ(大・回復中)、左目及び周辺部分破損(修復中)、疲労(大)、智樹の死に極めて強いショック、フェイリスを殺してしまったことへのショックと罪悪感
【首輪】50枚(消費中):0枚
【コア】なし
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
 基本:生きて、"本物の"マスターに会う。(訳:優勝後、時間操作の技術を得て全部なかったことにする)
 0.――やり直すんだ。
 1.まずは残ったコアメダルを探す。
 2.その後はカザリのところに戻る? それともカオスとオーズを探す?
 3.フェイリス、ごめんなさい……
 4.ニンフと仲直りしたい。
 5.共に日々を過ごしたマスターに会うために黄陣営を優勝させねば。
 6.目的達成の障害となるものは、実力を以て排除する。
【備考】
※22話終了後から参加。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していませんでしたが、ディケイドについては本人を目にした限りの情報を得ました。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります(1マス一辺あたりの直径五キロ計算)。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です
※『Pandora』の作動によりバージョンⅡに進化しました。
※桜井智樹の死で、インプリティングが解除されました。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」という考えを改めました。
※カザリの言葉を信じたいと思っています。そのため、最終的に大体のことはやり直せるから気にしないようにするつもりです。
※『APOLLON』使用を境にレーダーからの反応消失をイカロスが確認できたのは、ディケイド、バーナビー、後藤の三名についてだけです。それ以外の周辺参加者の安否については後続の書き手さんにお任せします。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○




 後藤慎太郎は生きていた。

「何だ……ここは」
 イカロスがディケイドに襲いかかった直後、たまたま無理なく回収できる位置に転がって来た――本人は知らないが、彼と非常に深い縁を持つ――ディケイドの落とした支給品を回収しつつ、後藤は怪我をしている金髪の――火野映司達の行き先を知っている可能性が高いという男の下に辿り着くことに成功していた。

 しかしその直後、イカロスの放った攻撃が明らかにディケイドだけでなく、後藤達の命まで脅かす段になった時。金髪の青年が咄嗟に取り出した支給品が輝いた直後、後藤と彼はその支給品――奇妙なカードに吸い込まれて、気づいた時には見覚えのない空間に連れて来られていたのだ。
「僕の、支給品です」
 傍らで座り込んでいる青年が、後藤の疑問に答えた。

「何でも、『智樹の社窓』という別の空間に行けるカードだとかで……本当かどうかも疑わしかったし、何の役に立つのかと思っていたのですが。さっきみたいな状況から逃げるのに役立つだろうから大事にしておけって、伊達さんに言われて持っていたんです」
 項垂れたままの彼が、何かに相当打ちのめされているということは、初対面の後藤から見ても察することができた。
「伊達さんを守ることはできませんでしたが……それでもあの人が、とても大切に思っていた後藤さんを助けられて、良かった」
 力なく自嘲する青年の言葉に、後藤はしかし理解が追いつかない。

「その伊達というのは……誰だ?」
「――えっ?」
 今度は彼が、理解できないといった様子で聞き返してきた。

817欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:49:09 ID:DOogWjbc0

 彼らは知らなかった。伊達明と後藤慎太郎が、全く別の時間軸から連れて来られているのだということを。
 そしてこの空間――かつて『智樹の社窓』と呼ばれたシナプスカードの中で彼らを待ち受けている、運命も。



【一日目 真夜中】
【???(シナプスカード(智樹の社窓)内)】

【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】健康、若干の気持ちの焦り、バーナビーの言動に対する戸惑い
【首輪】100枚:0枚
【コア】サイ(感情)
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式×6、橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)、バースドライバー@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊として、できることをやる
 1.現状を把握し、バーナビーと情報交換する。
 2.今は園咲冴子と牧瀬紅莉栖を守る。協力者が見つかったら冴子達を預ける。
 3.殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
 4.マミちゃんのために、火野映司とワイルドタイガーを助けたいが……
 5.今は自分にできることを……
【備考】
※参戦時期は原作最初期(12話以前)からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
※メズールのことを牧瀬紅莉栖だと思っています。
※巴マミからキャッスルドランで起こった出来事を一通り聞きました。
※オーズドライバーは火野でなくても変身できる代わりに暴走リスクが上がっているのではと考えています。
※バースドライバーが作動するかどうかは不明です。


【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、無力感、ディケイドへの憎しみ、ラウラへの罪悪感、後藤の言動に対する戸惑い
【首輪】10枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(前面装甲脱落、後背部装甲中破)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、シナプスカード(智樹の社窓)@そらのおとしもの、プロトバースドライバー@仮面ライダーオ

ーズ(破損中)、バースバスター@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止める。
 1.現状の確認。
 2.後藤さんと情報交換したい。
 3.虎徹さんと行動を共にしたいが、自分では彼に釣り合わないのではないか?
 4.伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ているけど少しだけ違った。
 5.ディケイドは許さない。
 6.ディケイド、イカロス、Rナスカ(冴子)を警戒。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。
※ArtemisⅡの直撃で大量のメダルを吐き出しました。
※バーナビーの最後の支給品はシナプスカード(智樹の社窓)でしたが、ランダム支給され智樹も死んでいる現状で、原作通りの空間であるか否かは後続の書き手さんにお任せします。

818欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:49:59 ID:DOogWjbc0



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 桐生萌郁がその異変に気づいたのは、鏡越しに見つめていた戦いが一段落した後のことだった。
 本当はメズールが倒された時点で報告しようとしていたが、流転し続ける戦況を前に、そういえばと携帯の充電を気にかけてその時まで待ったのだ。
 そうして、何が起こったのかを文章に纏め、メールを送信しようとして――できなかった。

「……あれ?」
 圏外、のようだ。
 ついさっきまでは平気だったのに、と萌郁は場所を移動して再送信を試みる。
 FBの指示通り、ミラーワールドに身を置いたまま。

 二度目は、まだ苛立ちで済んだ。
 さらに見晴らしの良い場所に移動しての三度目には、耐え難い焦燥と化していた。

「どうして……っ!?」
 届かない。届けられない。
 FBとの繋がり――萌郁にとってたった一つの寄る辺が、絶たれた――?

「――っ!」
 悲鳴はまだ、声にならない。
 必死に走る。仮面ライダーに変身して遙かに強化された脚力で、電波の届く場所を求めて駆け巡る。
 ――ミラーワールドの中では、外側の世界からの電波が届かないという可能性に萌郁が気づいたのは、出口である鏡を目にした時だった。

 外に出れば、状況は変わるかもしれない。
 そんな希望と、しかしミラーワールド内に待機するように、というFBの言いつけを破ることへの躊躇いがせめぎ合う。
 だがそれでも、最終的には、FBと繋がりたいという欲求が勝った。

 怒られるかもしれない。だけれどこのまま切り離されて怒られることすらなくなる方が、嫌だ。
 決心を固め、駆け出したその瞬間――
 鏡界面が、朱に塗り潰された。

「――っ!?」

 透明な壁に隔絶された先の光景は、まるで焼却炉の覗き穴。否、それ以上の紅蓮が猛り、狂い、吹き荒れる。
 蓋をしていたようだった鏡が割れた時は、そのまま焔に呑み込まれるのではないかと思ったが、これまで監視中に覗き込んでいた鏡が巻き込まれた時と同様。まるでテレビの画面が割れただけであるかのように、その向こう側での出来事は萌郁には波及して来なかった。

 いや、正確には。
 向こう側の出来事は、そこにいない萌郁にだけは、影響していなかった。

「………………えっ?」

 変化に気づいたのは、灼熱に焼かれまいと閉じていた目を開けた直後。
 割れた鏡という、ミラーワールドの出口の消失。だけどそれだけではない。

819欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:51:12 ID:DOogWjbc0

 街が丸々、消えていた。
「何、これ……」
 建物も、道も。
 街灯も、草木も。
 何一つ残らず、焼け焦げ荒廃した大地だけが萌郁を中心に、地平の果てまで広がっていた。

 わずかに残った獲物に貪欲に食らいつき、燃焼を続ける焔と――傍らに寄って来たアビソドン以外、萌郁の他に動くものはなかった。
 突如として眼前に展開した死の世界。しかし萌郁を絶望させたのは、厳密には異なる要因だった。
「かが……鏡! 鏡は、どこっ!?」
 この世界の出口。元の世界へ帰るための扉。
 いくら見渡せど、先程まで掃いて捨てるほどあったそれは灰一つ残さず、地に降誕した太陽によって焼き尽くされていた。

 そんな――そんな!
 帰れない。FBと繋がれる場所に、戻れない。
 萌郁にとって世界そのものであるその空間から、本当に世界ごと切り離された。
 その事実に気づいたと同時、絶叫が喉の奥から迸る。

 ――これは、罰なのだろうか。
 FBの言いつけを破ろうとした自分に下された、何より重い罰。

 そんな考えに思い至って、どうか覆して下さいと、その決断を下した存在に萌郁は縋る。
 だがそんな願いを聞き入れる者など、ミラーワールドのどこかにいるとは思えない。
 それでも萌郁は崩れ落ちたまま、誰にも聞こえないはずの悲鳴だけを、ただひたすらに張り上げていた。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 文字通り脱兎の如く、ラウラ・ボーデヴィッヒはシュヴァルツェア・レーゲンを駆る。
 決別したはずのディケイド――門矢士に言われたように、ただひたすら危険から逃れようと。
 ISの機動性をフルに引き出し、音速以上にまで加速した直後に、背後から凄まじい輻射熱と膨張した大気圧がシュヴァルツェア・レーゲンを襲った。
 シールドバリアーのおかげでダメージこそ受けなかったものの、それでも機体が流され、そのまま墜落することを余儀なくされる。
 これまたシールドバリアーのおかげで無傷で済んだが、大地に突っ込む形で停止したISで再飛翔するのではなく。最終兵器『APOLLON』の余波が収まるまで耐えた後、待機形態へ戻したラウラは自分の足で起き上がり、爆心地を振り返った。
「士……」
 隻眼を窄め、自らを逃がすためにその場に残った仮面ライダーの姿を脳裏に浮かべる。

 これがイカロスの攻撃であり、おそらく逃れる術など残されていない以上――彼は敗北したのだろう。
 彼のおかげで生き延びることはできたが、フェイリス同様にラウラを置いて、逝ってしまったのだ。シャルロットや鈴音と、同じところに。

 その下手人の姿を、ラウラは脳裏に強く描き出す。
 最強のエンジェロイド・イカロス。彼女はこの先、ラウラが優勝を目指す上で最も強大な壁の一つとして立ち塞がることだろう。
 ディケイドが一度は追い詰めたが、彼を失った現状、正面からでは勝ち目がない。
 それでも必ず、彼女を倒し、勝利を掴み取らなければならない。
 それが犠牲にしてしまった者達への、何よりの手向けにもなることだろう。

820欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:52:09 ID:DOogWjbc0

「――待っていろ」

 固い決意を秘めて、緑陣営のリーダーである少女は歩き出した。新たな仲間を引き込み、イカロスやそれを有する黄陣営に対抗する戦力を揃えるために。
 そして、己の欲望を満たすため――自らの陣営を、優勝させるそのためには。

 どれほどラウラの心が摩耗していようと、立ち止まっている暇などこの身には許されてはいないのだった。



【一日目 真夜中】
【???】

【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑・リーダー代行
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、精神疲労(大)、深い哀しみ、力への渇望、セシリアへの強い怒り(ある程度落ち着いた)、フェイリスの死に強いショック
【首輪】285枚:0枚
【コア】バッタ(10枚目)、クワガタ(感情)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ、スーパーバッタ(放送まで使用不可)、エビ(放送まで使用不可) 、カニ(放送まで使用不可)
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×19匹@魔人探偵脳噛ネウロ、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:グリードに反抗する仲間とコアメダルを集めて優勝し、生還する。
 0.士、フェイリス……
 1.新たな仲間を探す。
 2.イカロスはいつか倒す。
 3.セシリアを止める。無理なら殺すことにも躊躇いはない。
 4.陣営リーダーとして優勝するため、もっと強い力が欲しい。
 5.もっと強くなって、次こそは(戦う必要があれば、だが)セイバーに勝つ。
 6.一夏やシャルロットが望まないことは出来るだけしたくはない。
 7.Xというやつは一夏を―――?
【備考】
※緑のコアメダル7枚と融合しています。
※時間経過と共にグリード化が進行していきますが、まだ完全なグリードには至っていません。そのため未来のコアメダルの力は引き出すことができません。
※シュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムが取り付けられている可能性があります。
※士は既に死んだと思っています。


















「――――この俺が、最後の勝者になる時をなぁ」

821欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:53:47 ID:DOogWjbc0

 彼女の物ではない一人称を用いたラウラはそこで歩みを止めて、我慢できないとばかりに噴き出した。

「くっはっはっは……本当にありがとよ、士、バーナビー、イカロス! おかげで思ったより早く出て来られた……」
 夜空を仰いだ野卑な笑みは、ラウラ・ボーデヴィッヒ本来の物ではない。
 またその右目の色も、本来の真紅とは真逆の緑色に――瞳孔だけでなく、虹彩までもが不自然に染まり、光芒を漏らしていた。
 そう――彼女の肉体を今、操っているのはラウラ・ボーデヴィッヒの意思ではなく。

「……まぁ、俺の実力あってのことだがな」
 彼女と融合したクワガタのコアメダル――そこに宿っていたグリード、ウヴァの精神だった。

 参加者であるアンクが泉信吾にそうしているように、グリードには人間に寄生し、支配する能力が備わっている。

 とはいえアンクでも、複数のコアメダルを保有している状態で仮死状態の人間でなければ乗っ取ることなどできないが……ウヴァは他のグリードとは実力が違う。以前にもコアメダル一枚だけになってしまったことがあったが、その時も生きた人間の意識を完全に乗っ取り、自由に操ることができていた。
 ましてやラウラのように、複数枚のウヴァのコアと融合している状態ならば、その影響力は一層増していた。こうなるのは最初から、時間の問題でしかなかったのだ。
 そしてこれこそが、ラウラの逃亡時にディケイドの覚えた違和感の正体。ウヴァではなく本来のラウラなら、後藤達を置き去りにせず、またディケイドだけに戦いを任せて撤退するという選択肢を、ああも瞬時に選択はしなかったはずなのだ。

 それでもヤミーを作るのと同じように制限がかけられていたのか、あるいは軍属経験から生じる彼女の精神力か。なかなかウヴァにも付け入る隙を見せてくれないラウラだったが……先程一気に瓦解した。

 自身を気遣ってくれた、頼れる仲間だと思った士が殺人に手を染め、さらにこれからラウラのしようとしていることも同罪だと突きつけた上で決別を言い放ち、加え畳み掛けるようなタイミングでバーナビーから鈴音の死を告げられ、トドメに目の前でフェイリスを、彼女が仲間と信じ庇ったイカロスに殺された。
 一夏の死に加え、前の二件で憔悴していたラウラにとって、セシリアの凶行を思わせるその悲劇はトラウマを再発させるに十分だった。結果揺らいだ意識の隙を衝き、遂にこのウヴァが肉体の支配権を獲得するに至ったというわけだ。

「とはいえまだグリードとして復活したわけじゃないが……人間の体ってのも悪くない」
 とんとん、と。ラウラの爪先で軽く地面を蹴ってみる。
 その感触、音色。くすんだ世界に生きてきたグリードにとってはその鮮明な五感自体が素晴らしい体験であるが、ウヴァはその快さについてばかり言ったわけではなかった。
「何しろ……確かアンクの奴が、人間の身体が足りないコアの代わりになるとか言っていたしな」
 事実ドクター真木や火野映司も、たった五枚、あるいは三枚だけのコアメダルでも、完全体の恐竜グリードに変貌していた。
 ラウラの体ごとグリードとして復活できれば、ウヴァの実力はただ蘇るよりも更に目覚しいものとなるかもしれない。

 しかも、先程ディケイドから渡された、ウヴァも知らないバッタのコアメダル――これらの力まで手に入るということを考えれば、セルこそ大半を失いはしたものの、ディケイド達に撃破された時以上にウヴァが強大な存在となるのは確実だろう。
 となればさっさとラウラの欲望を刺激し復活したいところだが、一方でウヴァが支配権を握った現状で、ラウラの感情を強く刺激し過ぎては足元を掬われてしまう可能性も高い。Xとの接触は、積極的に狙うべき事柄ではないかもしれない。
 つい先程ディケイド達に敗れた時のように、急いては事を仕損じることもある。グリードとしての完全復活は、もっと機を伺っても良いことだろう。

(それに……逆に考えれば、このピンチにはチャンスもある)
 後藤慎太郎の首輪を見た時、青陣営であったはずの彼のランプは紫色となっていた。
 それはつまりメズールの脱落を意味しており、残る目下最大の敵はイカロスを取り込んだ黄陣営ということになる。

 一見すれば、敵の戦力は強大無比。一度の崩壊もなく、バトルロワイアル開始からあのカザリが慎重に蓄えてきただろう陣営の力は侮り難い。
 しかし、今のウヴァには全く勝算がないわけではない。
 何故なら一時緑陣営だったイカロスが黄陣営になっているということは、カザリはウヴァが脱落したと認識しているはずなのだ。
 例えラウラが代理リーダーであると見抜かれても……中身がウヴァであり、彼女が知り得るはずのないカザリの情報を握っていることまでは、悟られる道理がない。

822欲望交錯-復活と衝撃と終焉の火- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:54:13 ID:DOogWjbc0

(例えばカザリおまえ……今、セル足りないんじゃないか? イカロスはメダル喰らいだからなぁ)
 身体を構成するセルメダルの多寡は、コアメダル程ではなくともグリードの戦闘力を左右する重要な因子となる。
 カザリが弱っているという事実を知るのは、メズールも散った今、ウヴァだけであるはずだ。
 イカロスは確かに強大だが、加減知らずのあのエンジェロイドがあの調子で暴れるほど、相対的にカザリの骨肉たるセルが削られて行くことになり、やがては両者揃ってまともな戦闘力を発揮することができなくなる。そうして弱り果てたところを叩き潰せば良いのだ。士のように甘さを見せず、確実にトドメを刺して。

 この情報アドバンテージを握り、しかもカザリの意表を衝ける現状は、決して先行きの暗い物ばかりではない。
「とはいえ、カザリやイカロスが消耗するまでにやられちまっちゃあ意味がない……ここはまた、適当な奴らを仲間にして、士みたいに働いて貰うとするか」
 現状は、これまでのラウラのようにして振る舞い、新しい仲間となる者達を引き込んでいけば良い。
 その上で役立たずは隙を見て処分し、メダルをこの身に蓄えて行く。第三世代のISを使えるならば余程の相手でなければ遅れは取らないだろうし、危険な相手からも逃げ延び易い。

 そう、俺はまだツイている。
 ここに来る前オーズにやられても、ここに来てからディケイドにやられても、こうして蘇ったのだ。ならばこのまま死なない限り、ウヴァに負けはない。
「最後に笑うのは……そう、このウヴァだ!」
 ラウラの口を使ってそう宣言し、高笑いを残しながら、ウヴァは栄光が待つと信じる未来に向けて歩んで行った。



 ――たすけて、という。

 ウヴァに奪われた身体の奥から発された、声にならぬその願いは――彼女の傍から離れて行ってしまった仲間達に届くはずもなく。
 ただ、欲望渦巻く嘲笑によって掻き消されていた。



【一日目 真夜中】
【???】


【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】&【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー代行
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、ウヴァが精神略奪中、上機嫌(ウヴァ)
【首輪】285枚:0枚
【コア】クワガタ(感情)、バッタ(10枚目)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ、スーパーバッタ(放送まで使用不可)、エビ(放送まで使用不可) 、カニ(放送まで使用不可)
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×19匹@魔人探偵脳噛ネウロ、、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:緑陣営の優勝のため動く
 0.まずはイカロスの近くから離れる。
 1.グリードとして復活したい。
 2.そのために手っ取り早くはXに会いたいが、下手に刺激するとラウラに乗っ取り返されるかもしれない?
 3.再スタートだが、黄陣営に対抗するために仲間を集めなければ。
 4.イカロス筆頭にヤバい相手と出会ったら、今は逃げに専念する。
【備考】
※緑のコアメダル7枚と融合しています。
※時間経過と共にグリード化が進行していきますが、まだ完全なグリードには至っていません。そのため未来のコアメダルの力は引き出すことができず、またその秘めた力に気づいてもいません。
※シュヴァルツェア・レーゲンにVTシステムが取り付けられている可能性があります。
※士、バーナビー、後藤の三人は死んだと思っています。
※クワガタの感情コア(ウヴァ)によってラウラの精神が乗っ取られました。但しラウラの精神状態次第では、十分乗っ取り返せる可能性があります。
※ラウラの現在位置は後続の書き手さんにお任せします。

823欲望交錯-白紙の明日へ- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:55:22 ID:DOogWjbc0


      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 建物も、道も。
 街灯も、草木も。
 何一つ残らず、焼け焦げ荒廃した大地だけが広がる、かつてキバの世界だった場所。
 その中心に一人、膝を着いたままの男がいた。
 他でもない――この世界において唯一無事である彼こそ、この地に大破壊を齎した惨禍が本来獲物としていた張本人。
 仮面ライダーディケイド、門矢士だった。

『なぁおい、ディケイド。フェイリスの奴は……』
 ディケイドの手にしていたのは、デンオウベルトとケータロス。
 その中に潜んでいるイマジン達の声が、今はこの二つのアイテムの所有者となったディケイドにも届いていた。
「……連れて来れなかった。死ぬことのないミラーワールドには、死体を持ち込むことができないようだな」
 あの最終兵器による破壊が、解き放たれるその寸前。ディケイドはフェイリスの遺体ごとイマジンズを回収後、破壊されたライドベンダーのサイドミラーからイカロスが存在しているのとは別の世界――ミラーワールド内へと避難し、その猛威を躱していた。
 イカロスの攻撃もミラーワールドまで追っては来れず、ディケイドはあの最終兵器による被害を飛沫を浴びるほども受けることなく、こうして命を拾っていたのだ。

『そんな……ネコちゃん、やっぱり死んじゃったの!?』
 だがフェイリスは、やはり息を引き取っていた。心臓を貫かれて即死、だったのだろう。
 その死体だけはミラーワールドへ運び込むことができず、あの炎の顎に捕らわれ、炭も残さず掻き消えた。

『無理もない。あんな怪我したら、人間や助かりっこないで』
 そんな現実を嫌だと叫ぶリュウタロスに、キンタロスが悲しみを滲ませつつも諭すようにそう告げる。
『ちっくしょーがっ!! 許せねぇあの手羽先女! フェイリスはあいつのことを、最後までダチって思ってたんだぞ!?』
『先輩と同じ意見だなんて癪だけど……僕もいくら女の子とは言え、イカロスちゃんのことはちょっと許せそうにないかな……』
 義憤と憎悪を滲ませて、モモタロスとウラタロスが続ける。
『こうなりゃ仇討ちだ! おまえら、皆であの手羽先女ぶっ倒すぞ!』
『ふむ……良かろう。その進言、聞き届けてやろう』
『手羽先!? おまえ寝てたんじゃ……どういう風の吹き回しだ』
『まず、常から不敬だがよりにもよってあの女と同じような呼び方をするのはやめろお供その2』
『まだ降格させられてたのかよって違うそうじゃねぇ! おまえどういうつもりなんだよ!?』
『私はフェイリスという娘の、その心意気に感心したまで。それを裏切り蛮行に及んだあのイカロスという女、見過ごすは我が誇りが許せんのだ』
『お、おぉし見直したぜ手羽先! よーしディケイド、おまえ次にあいつと会ったら俺達で変身して……』
「断る」

 勝手に盛り上がっていたイマジンズの提案を一刀両断し、ディケイドは首を振った。
『何でだよ! おまえあの女をほっとくつもりか!?』
「そんなわけあるか。あいつは次に見つけたら……俺が潰す」
 デイパックにデンオウベルトとケータロスを押し込みながら、ディケイドは続ける。
「だからおまえらは首を突っ込むな……これ以上、俺の戦いに」
 さすがにミラーワールドに置いていくわけには行かないが、いつまでも彼らと同行する気にもなれない。

 いや、そもそも――これ以上誰とも、行動を共にしようとは思えなかった。
「結局、俺は破壊者だ……仲間を作ったって、そいつらまで破壊してしまう」

 ラウラは無事だと信じたいが、それでも負う必要のない傷を心に与えてしまった。
 そしてフェイリスは、ライダー大戦の世界で共に戦ってくれたワタルやアスムのように死んでしまった。
 いや……ディケイドが使命さえ完遂すればまだ救える少年二人と違い、フェイリスの死はもう、覆ることはない。
 例え殺し合いの最中だろうと、世界の破壊者としての使命を捨てるわけには行かない。だがその使命がある限り、ディケイドの周りは敵だらけだ。

824欲望交錯-白紙の明日へ- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:55:58 ID:DOogWjbc0

 そんな旅に付き合わせては、その誰かはいつか、必要もないのに命を散らすことになる――それでは、士が使命を受け入れた意味がなくなってしまう。
 例え、士自身が使命を終える前に死んでしまえば全てが水泡に帰すとしても、それだけは認められない。

 世界の再生には、全ての仮面ライダーを破壊し終えたディケイド自身が最後に破壊される必要がある。
 そうして士の命と引き換えに、ディケイドが破壊してきた者達を含めた全ての世界とその住人達は復活し、滅びの現象からも解き放たれる。
 この使命を完遂すれば、最終的に犠牲になるのはたったの一人。仮面ライダーディケイド――門矢士だけで済むというのに。

 その過程で無関係な者達まで危険に晒し、死なせてしまっては、自身の覚悟は滑稽なものでしかなくなってしまうでないか。

 こんな事情を、他の仮面ライダー達に伝えられるはずがない。誰かが不条理な犠牲になる世界を認めず戦う彼らはきっと、士も含めて世界を救う方法を模索しようとするに違いない。
 だが、最後のチャンスだった旅を終えた今、そんな悠長に構えている時間はない。だから彼らに歩み寄りの余地を感じさせ、徒に使命の遂行を妨げぬよう――迎え撃つしかない悪魔と思われ、最期まで悪魔と信じられたまま討たれることだけが、この先にディケイドが辿るたった一つの道のはずなのだ。

 なのに……

(おまえのせいだぞ……ユウスケ)
 昔のままの――旅の途中から連れて来られた彼のせいで、あの日々を思い出してしまったから。

 仲間恋しさに、ここまでの戦いでディケイドはずっと余計な迷いを、甘さを、躊躇いを抱えてしまっていた。

 ようやくそのことを、フェイリスという出てはならないはずだった犠牲を目にして自覚できた。
 だから立ち上がったディケイドは、もう一度。己に架した使命を宣誓する。

「仮面ライダーは全て破壊する……そして奴らの分も、俺がここにいる全ての悪を叩き潰す……!」

 そのためのメダルは、二体のグリードを破壊したことで確実に貯蓄できた。例え出口が近くにないミラーワールドからの脱出までに相当量を消費したところで、まだ十分お釣りが残るほどに。
 ならばいよいよ、ディケイドに徒党を組む必要などどこにもない。セルメダルさえ潤沢ならば、結局のところ今のディケイドに破壊できない者など存在しないのだから。
 イカロスだって、あそこで自分が甘さを捨て切れてさえいれば、フェイリスを殺される前にトドメを刺せていたのだ。

 だからこれからは、一人で戦う。世界の再生も、バトルロワイアルの粉砕も、全て一人で成し遂げる。
 この先二度と、甘さを生む仲間などを作りはしない。

(……そうだ。バトロワイアルの最中だろうが、時間はない。共闘の必要などない……ここにいるライダーは全て、ここで破壊する!)
 オーズを、アクセルを、龍騎を、そして、クウガを。
 一人たりとも逃しはしない。
 それは、あの天使もだ。

 ……イカロスに感じているのが、ただ人命を奪う脅威への怒りでも、フェイリスを殺された憎しみだけでもないことに、士自身は目を背けている。
 最後には全てチャラになるからと、それしか手段がないからと。私欲と使命の差はあれど、今誰かを理不尽に傷つけることを正当化している彼女に対する、同族嫌悪もあるのだということを。
 悪を討つのに、そんな私情を挟むまいという、深層心理が蓋をする。
 そして自身の行いが他者からどう見えるのかを理解して、またも躊躇ってしまうことのないように、敢えてそこから目を逸らす。

(こいつらは……次に適当な奴にあったら、渡しとくか)

825欲望交錯-白紙の明日へ- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:56:33 ID:DOogWjbc0

 デイパックの中に背負う、デンオウベルトに意識を配る。

 仲間は作らないと言ったが、会場に戻ってすぐ野晒にするというのも危険だ。破壊する必要のない仮面ライダーは殺し合いを打破しようという者達の心強い味方となることだろうし、せめて誰かに預けられるまでは連れて行くしかない……と。覚悟を完了しながらもまだほんの少しだけ、引っ掛かりを残してしまった世界の破壊者が、辺り一帯を吹き飛ばされたミラーワールドからの出口を探し、歩き出した瞬間だった。
 閉じた世界から切り離され、望まぬ世界に取り残された女の悲鳴を、彼の耳が拾ったのは。



【一日目 真夜中】
【C-6 ミラーワールド内キャッスルドラン付近跡地】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】苛立ち、疲労(大)、ダメージ(大)、左肩に傷跡、フェイリスへの罪悪感、覚悟完了、仮面ライダーディケイド(激情態)に変身中、ミラーワールド内に侵入中
【首輪】120枚(消費中):350枚(250枚)
【コア】ゾウ、シャチ、ウナギ、タコ、スーパータカ
【装備】ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】バースバスター@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜8(士+ユウスケ+ウヴァ+ノブナガ+ノブヒコ)、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)、アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド、デンオウベルト&ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
 基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
 0.こいつ(アビスの変身者)どうした……?
 1.全てのコアメダルを奪い取り、全てのグリードを破壊してルール上ゲームを破壊する。
 2.「仮面ライダー」とグリード含む殺し合いに乗った参加者は全て破壊する。
 3.仲間はもう作らない(被害者を保護しないわけではないが、過度な同行は絶対しない)。イマジンズは適当な参加者に出会い次第預ける。
 4.ミラーワールドからの出口を探す。
 5.イカロスは次に出会えば必ず仕留める。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティック、バーナビーは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※アポロガイストは再生怪人だと思っています。
※既に破壊した仮面ライダーを再度破壊する意味はないと考えています。少なくとも電王は破壊する意味なしと判断しました。
※仮面ライダーバース、仮面ライダープロトバースは殺し合いの中で”破壊”したと考えています。
※()内のメダル枚数はウヴァのATM内のメダルです。士が使うことができるかどうかは不明です。
※ディケイドにコアメダルを破壊できる力があることを知りました。
※もう仲間は作らないという対象の中に、海東大樹を含むか否かは後続の書き手さんにお任せします。
※現在、インビジブル、FARディケイド(ディメンションブラスト)、FARファイズ(クリムゾンスマッシュ)、クロックアップ、タイム、イリュージョン、FARキバ(ドッガ・サンダースラップ)、FAR響鬼(音撃打 豪火連舞)、FAR電王(デンライダーキック)、FARクウガ(強化マイティキック)、FARアギト(ライダーキック)、FARディケイド(ディメンションキック)、KR響鬼、ブラスト、マッハのカードを使用済みのため、一度変身を解除するまでこれらのカードは再使用できません。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依していました。

826欲望交錯-白紙の明日へ- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:57:03 ID:DOogWjbc0

【桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】健康 、FBとメールが繋がらないことへの極度の混乱と恐怖、仮面ライダーアビスに変身中、ミラーワールド内に侵入中
【首輪】75枚:0枚(消費中)
【装備】アビスのカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、桐生萌郁の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1(確認済)
【思考・状況】
 基本:FBの命令に従う。
 0.FBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFBFB……
【備考】
※第8話 Dメール送信前からの参戦です。
※FBの命令を実行するとメダルが増えていきます。
※ミラーワールド内ではFBにメールが届かず、また届きません。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 火野映司は目を覚ましたのは、直前までの戦いの気配などと縁遠い、静寂の中でのことだった。

「目ぇ、覚めたのか」
「……鏑木さん」
 ベンダーモードのライドベンダーに背を預け、座り込んでいる虎徹に声を掛けられた映司は、まずは辺りの様子を見渡して、続いて既視感を覚えた。
「ここは……」
「地図だとクスクシエってところ、みたいだが……また酷く壊されてんな。何か布団はあったから、おまえら休ませるのにちょうど良いかって思ったんだけど」
「キャッスルドランの辺りほどじゃ、ないでしょうけどね……」
 映司の声が、本人も気づかないまま消沈する。馴染み深い景色の手酷く荒らされた様を見て平気でいられるほど、今の映司に余裕はなかった。
 そうした気持ちに釣られ、視線までもが下がった時、ふと虎徹の言葉の重要な意味を流してしまっていたことに気づく。
「おまえ……ら?」

 そうして改めて、今度は低めに巡らせた視界の中に――離れた位置に敷かれた布団の上に、三人目の参加者の姿を見つけ出し――思わず驚愕の声を発した。
「――っ、この娘は!?」
 そこで深い眠りに落ちていたのは――先程自分達を散々蹂躙してくれたあのエンジェロイド、カオスだった。

「そいつはな……伊達の奴から託されたんだ」
「伊達って……伊達さんから!?」
 虎徹の口から出た予想外の名とその内容に、映司は思わず鸚鵡返しした。

 そんな映司に、虎徹は何があったのかを説明してくれた。

 相変わらず頼りになる伊達の活躍を聞いた映司の表情を見取ってか、虎徹は降参とばかりに肩を竦める。
「ったく、すげー奴だぜあいつはさ。こいつのことまで助けてやりたいだなんて……俺もそう思わなくちゃ、いけなかったのにな」
「何を言ってるんですか。実際こうして、鏑木さんも助けてるんじゃありませんか」
「そりゃー言われてからだし……それに多分、最初から俺じゃなくてあいつだったら、全部上手くやってたんじゃねーかってぐらい、その……」
 どこかしょげた様子の虎徹に苦笑しながら、映司は首を振る。
「そんなことないですよ。伊達さんは凄い人だけど、鏑木さんだって立派な人です」
「……ほんとにぃ?」
「はい。だって鏑木さん、伊達さんでもできなかったことをやってみせたんですから」
「……何のことだよ?」
「俺の暴走、止めてくれたじゃないですか」
 心底からの感謝と尊敬の念を込めて、映司は頭を下げる。

827欲望交錯-白紙の明日へ- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 01:58:46 ID:DOogWjbc0

「あの時は、本当にありがとうございました。おかげで俺、まだここで死んじゃいけないんだって思い出せましたから」
「……そうか。いや、あそこじゃなくても死んだらダメだけどな」
 照れるような虎徹の何気ない一言に、映司はそうですね、と当たり障りのない返答をする。
 ……これ以上、虎徹にまで余計な心配は掛けない方が良いだろう、と判断してだ。

「……けどまぁ、伊達や俺がどう思っているからってだ。おまえまで無理して付き合う必要はねぇぞ、映司」
 そんなことを考えていた映司に、虎徹が声に硬さを戻して告げる。
「俺だって、何にも感じてないわけじゃない。……もっと付き合いの長かったおまえなら、なおさらだろ」
 そんな虎徹の言葉に、映司は思わず一瞬、口を噤む。

 恨む気持ちがないといえば、嘘になる。

 智樹もまどかも、いいやあの二人だけではなく、誰も。誰一人、死んで良いわけがなかった。
 カオスの手にかかったのは、あの二人だけではないだろう。命こそ奪われずに済んでも、映司や虎徹のように暴行を受け、マミのようにその心を傷つけられた者もいるはずだ。
 そのことに対する割り切りなど、簡単にできるはずがない。

 だが。

「そうもいきませんよ。たった一度の失敗も許さないような正義なんて認めたくないって……そう言ったのは、俺ですから」
 口に出した欲望(ユメ)を、諦めるな。
 そう訴える虎徹の言葉は、今のカオスの姿を見たことで一層強く、映司へと働きかけている。
「伊達さんや鏑木さんの言うように。この娘が間違いを知って、やり直せる可能性があるとしたら……俺はその、助けにならなくちゃいけないんです。
 ……まどかちゃんも、この子を見捨ててはいませんでしたしね」
 
 まどかの最期の言葉と、彼女を“食べて”しまったカオスの変化。まどかの記憶がわからないという、その嘆き。
 そこからカオスが、「ごめんなさい」と口にするまで至ったというのなら。
 無邪気故に歪んでしまっていた彼女に過ちを悟らせたのは、きっと――まどかなのだという予感が、映司にはあった。

 そうだとしたら、せめて。
 あの子に手を届けることができなかった罪滅ぼしには、決してなりはしないとしても。
 気づかせた後、きっとまどかが担うはずだった、己の罪に悔やみ、苦しむカオスを見守る役目ぐらいは――まどかに救われ、カオスにこれが正しいのかと尋ねられた自分が、代わりに成し遂げなくてはならないはずだ。
 そんな義務感が、映司の中に生じていた。

 ――ある意味では、欲望が生んだ呪いのように。

「まどかだけじゃない……智樹の奴も、そんな感じだった」
 そんな映司に同調するように、虎徹が映司の間に合わなかった少年の最期を伝える。
「こいつのことを叱って、そんなの間違ってるってぞ! って……もう悪いことしないように、教えようとしていたんだ。多分、こいつに刺された後にもな」
「じゃあ……なおさらですね」

 たとえどんなに憎かろうが、勝手に苦しんでおけと見捨てるわけには行かない。
 映司の心情がどうであれ、映司がそうなって欲しいと願った明日は――もっと、寛容な物であるはずだ。
 ましてやそれを、あの心優しい少年と少女も望んだのなら。
 この先、どうしても言葉が届かない、グリードと同じような怪物でしかないと証明されるまでは――カオスにも平等に、やり直す機会は与えられるべきだ。

828欲望交錯-白紙の明日へ- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 02:00:16 ID:DOogWjbc0

(本当は、おまえにもそうすべきなのかな……アンク)
 不意に映司は、長くを共に過ごした彼のことを思い出す。
 彼が考えを改めてくれるなら、映司だって戦いたくはない。
 だが、コアメダルを全て砕き、バトルロワイアルそのものをノーゲームとするためには……アンクのコアもやはり、砕くしかないのだろうか。
 不意に生じた、今のこの場には相応しくない迷いを振り切って、映司は虎徹に向き直った。

「そのためにも、改めてよろしくお願いします。鏑木さん」
「おう。とはいっても、誰がこの件を預かるのかはまぁ、この娘本人が起きてからだろうけどな。いくらごめんなさいっつってるからって、まだ俺達が勝手に盛り上がっているだけかも

しれないし……ってああクソ、バーナビー達と落ち合う場所決めてなかったなぁ……」
「集合場所といえば……マミちゃんは先に、ニンフちゃんのところに向かったんですよね?」
 そういえば智樹と同じぐらいに、虎徹がそこに直行したがっていたことを思い出した。
 そんな映司の抱いた疑問を察したように、虎徹は力なく苦笑した。

「なのにこんなところで止まっているのは、まぁ……さすがに俺もちょっと、休憩欲しくてな……」
 らしくない発言だが、おそらく傷の治りが早まっている映司以上に今の虎徹は重傷だろう。そこに加えて気絶者二名も抱えていては、さすがのワイルドタイガーもニンフの下まで強行

軍とは行かなかったか。
「とはいっても、マミが先に着いたたらなら治療してくれているはずだ。それならニンフも多分、大丈夫なはず……」
 そんな予想を裏付けるかのように、一瞬気を失いそうになりながらも、虎徹は気合で踏み止まる。
「眠ってくれてても、良いんですよ?」
「馬鹿言え。そんなことできる状況かっての」
 ヒーローとしての矜持を見せる虎徹の言い分に、映司は少しばかり苦笑しながら立ち上がる。

「少し、休んでてください。俺はちょっと、その子の服になるもの探してきますから」
 クスクシエなら、着る物には困らないだろうと……さすがにエンジェロイドとはいえ、女の子が裸でいるなんていけないだろうと考えた映司は、適当に服を見繕う。
 予備をいくつか自身のデイパックに入れた後、残った一組を手に戻る。勝手に着させるのもさすがに憚られたから、掛け布団代わりに彼女の上に一先ず一枚置いた。
「……ん」
 その時少しだけカオスの表情が和らいだのは、直接は夜風に晒されることがなくなったからか。
 羨ましいな、と……徐々に人間から離れ、その感覚を消失して行っている身である映司は、自分より余程人間のような反応を見せたカオスへと、複雑な心境で微笑みを浮かべる。

 ――どんなに悪い人だってやり直すことができるって、私はそう信じたいんです

 ふと、ジェイク・マルチネスの処遇を巡った言い争いで、一人の少女が漏らした言葉を思い出す。
 結局ジェイクは何も省みることのないまま、その願いを踏み躙って逝ったが。あの子がやり直して欲しいと願ったこの娘(カオス)には、叶うことならちゃんとやり直して欲しい、と

……全く状況は変わっていないはずだというのに。映司は自分の立場や義務感とは別の、密かな望みをその時、抱いた。



 ――キャッスルドランの方角に、太陽よりも大きな火の玉が出現したのは、その直後のことであった。



【一日目 真夜中】
【D-5 クスクシエ跡地】

829欲望交錯-白紙の明日へ- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 02:00:49 ID:DOogWjbc0

【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、精神疲労(大)、まどか達への罪悪感、カオスへの複雑な心境、伊達達への心配
【首輪】70枚:0枚
【コア】タカ、トラ、バッタ、ゴリラ、プテラ、トリケラ、ティラノ 、プテラ(放送まで使用不能)、ティラノ(放送まで使用不能)
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、カオス用の替えの服(クスクシエから回収したものです。種類、枚数は後続の書き手さんにお任せします)
【思考・状況】
 基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
 0.あの方角は……!
 1.虎徹、カオスと同行する。
 2.カオスがやり直せるのか見守りたい。
 3.ある程度回復したらD-4エリアに向かい、マミとニンフに合流したい。
 4.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
 5.もしもアンクが現れたら、やはり倒さなければならない……?
 6.もしもまた暴走したら……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっており、オーズドライバーが映司以外でも使用可能になっています。
※暴走中の記憶は微かに残っています。
※暴走(一回目)中の詳しい話を聞きましたが、その顛末全てを知る者が残っていなかっため、不明瞭な部分が残っています。二回目については詳細を全て虎徹から把握しました。
※真木清人が時間の流れに介入できることを知りました。
※「ガラと魔女の結界がここの形成に関わっているかもしれない」と考えています。
※世界観の齟齬を若干ながら感じました。
※詳細名簿を一通り見ましたが、全ての情報を覚えているかは不明です。


【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極限)、背中に切傷(応急処置済み)、カオスへの複雑の心境、バーナビー達への心配
【首輪】15枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(両腕部ガントレット以外脱落)、天の鎖@Fate/Zero
【道具】基本支給品×3、不明支給品0〜2 、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW、キュゥべぇ@魔法少女まどか☆マギカ、P220@Steins;Gate、カリ

ーナの不明支給品(1〜3)、切嗣の不明支給品(武器はない)(1〜3)、雁夜の不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
 基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
 0. バーナビー……!
 1.映司、カオスと同行する。
 2.ある程度回復したらD-4エリアに向かい、マミとニンフに合流したい。
 3.できればシュテルンビルトに向かい、スーツを交換する。
 4.イカロスを探し出して説得したいが………
 5.他のヒーローを探す。
 6.マスターの偽物と金髪の女(セシリア)と赤毛の少女(X)を警戒する。
 7.カオスがやり直せるか見守る。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」「そらのおとしもの」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
 ・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
   ……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』
※ヒーロースーツは大破し、両腕のガントレット部分以外全て脱落しています。
※ジェイクの支給品は虎徹がまとめて回収しましたが、独り占めしようとしたわけではありません。
※虎徹の不明支給品の一つは 『虚栄の兜(イビルフルフェイス)』でしたが、使用されたことで消滅しました。

830欲望交錯-白紙の明日へ- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 02:01:33 ID:DOogWjbc0



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 エンジェロイドは、夢を見ない。
 彼女達にはそもそも、眠るという機能が搭載されていない。

 なのに、彼女がこうして眠っているのは――第二世代である彼女が、第一世代にとって禁忌であった夢への干渉能力を与えられていたからなのか、それとも何人もの“人間”を吸収しその性質を取り込んで自己進化して来てからなのか、あるいはその両方か。正確なところはわからない。

 わからないままではあるが、カオスは今、夢を見ていた。

 まるで罪の意識から逃れるかのように、彼女の望んだ景色を。
 それは柔らかく暖かい笑顔を湛えた、あの人のいる世界。
 正しい「愛」を知るために辿る、鹿目まどかの記憶の中の、志筑仁美との思い出。

 まどかと、仁美と――カオスの知らない、青い髪のお友達と、三人で仲睦まじく過ごす毎日。
 ただ一緒にご飯を食べて、一緒に遊んで、お喋りして――たったそれだけで、とても幸せな日々。
 遠くから見つめているだけで、温かな気持ちになることができた。

 愛しい人ともう一度、夢の中だけでも逢うことができるということ。

 それが、自身の姉である天使がどれほど求めた救済であるのかも知らないままに、カオスは奇蹟のような思い出を眺めていた。

 だけど今はまだ、ただ見守るだけ。
 きっとそこは、カオスの踏み込んではいけない世界。
 きちんと正しく「愛」を学ぶまでは、まだ傍に行ってはだめな場所だ。

 でないとまた、“愛”だと思って相手に嫌がられることしてしまうかもしれない。
 もし、そうなってしまったらこの幸せを、損ねてしまうから。
 だからカオスはただひたすら、その思い出の観客となるに留めていた。

 しかし、そんなカオスの気遣いとは裏腹に。
 前触れもなく、宝物であるべき光景に、瑕疵が走る。

 途端に、その美しさは劣化する。仁美の顔は何かに喰い破られたようにして隠れ、見えなくなる。
 これでは、わからない。カオスの知らない志筑仁美も、カオスの勘違いしていた、本当の「愛」も。

(もっと、見せて!)

 そう願っても、カオスの中の“まどか”は、それ以上鮮明な記憶を読み取らせてくれない。

 現在の自身の電算能力だけでは、これ以上取り込んだ記憶を解析することができないのだということをカオスは理解した。

 そうして消沈し、夢の中だけに向けていた意識を緩めた時に……ふと、どこからか聞き覚えのある名前が齎された。

831欲望交錯-白紙の明日へ- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 02:02:18 ID:DOogWjbc0

 ――ニンフ。

 電子戦用エンジェロイドタイプβ(ベータ)。
 それに特化した彼女の電算能力は、万全であれば第二世代であるカオスをも上回る。

(ニンフおねぇさまに、手伝って貰えたら……)

 でも。
 カオスはかつてニンフに、とても痛くなることをしてしまった。
 痛いのは、多くの人にとっては「愛」ではなくて嫌なことなのだということは、今のカオスにも理解できている。
 そんなことをしたカオスのお願いを、おねぇさまは聞いてくれるだろうか?

 聞いてくれないかもしれない、という。そんな心配が鎌首をもたげる。
 ニンフだけではない。あのおにいちゃんもおじさんも、おねぇちゃんも、皆、皆。許してはくれないのではないか。そんな不安が蘇る。
 仁美おねぇちゃんも、勘違いしてお友達に酷いことをした悪い子のことを、嫌いになるんじゃないか――と。そんな恐怖が蘇る。

 ――そんなの、嫌だ。
 嫌だから、カオスはちゃんと、今度こそ見つけないといけない。仁美の説いた、本当の「愛」を。

 そのために必要なことを、他に頼める相手もいないのだ。
 もしこの先、出会うことがあれば――許して貰えなくたって、頑張ってお願いしてみよう。
 きちんと、これまでのことを謝って。
 他の皆もそうだけれど、せめて……ニンフおねぇさまにだけでも。



 そのお願いすべき相手がもう、この世にいないのだということも知らないで。
 何も知らず、だからこそ識ることを欲する天使はまだ、微睡みの中にいた。



【一日目 真夜中】
【D-5 クスクシエ跡地】


【カオス@そらのおとしもの】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】精神疲労(極大)、“火野”への憎しみ(無自覚・極大)、ダメージ(小)、頬に青痣、罪悪感(大)、成長中、就寝中、全裸(クスクシエにあった服を被せられている)
【首輪】100枚:90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
 基本:「愛」を知りたい
 1.ニンフおねぇさまに力を貸して欲しい、けれど……
 2.“火野”のおじさんに、もう一度会ったら……
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレア、凰鈴音、甲龍、ジェイク・マルチネス、桜井智樹、鹿目まどかを吸収しました。
※現在までに吸収した能力「天候操作、超加速、甲龍の装備、ジェイクのバリア&読心能力」
※鹿目まどかのソウルジェムは取り込んでいないため、彼女の魔法少女としての能力は身につけていません。また双天牙月を失いました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。現在は17歳前後の身長にまで成長しています。
※憎しみという感情を理解していません。
※智樹、及びまどかを吸収したことで世間一般的な道徳心が芽生える素地ができましたが、それがどの程度影響するかは後続の書き手さんにお任せします。
※まどかの記憶を吸収しましたが、「Pandora」の機能が低下していたこと、死体の損壊が酷かったことから断片的にしか取り込めておらず、また詳細は意識しなければ読み込めません。
※読心能力で聞き取った心の声と、実際に口に出した声の区別があまりついていません。

832欲望交錯-白紙の明日へ- ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 02:02:53 ID:DOogWjbc0

【全体備考】
※青陣営が消滅しました。現在リーダー代行は現れていません。
※キャッスルドラン@仮面ライダーディケイドが死亡しました。
※『APOLLON』により、キバの世界全体が焦土になりました。巻き込まれた伊達明、フェイリス・ニャンニャンの死体、智樹の支給品だったエロ本等は完全に消滅しています。また、該当エリア内のミラーワールドでも施設が消失するなどの影響が出ています。
※カザリが放っていたタカカンドロイド&バッタカンドロイド達は少なくともイカロスより後にキバの世界に到着しましたが、『APOLLON』発射時にキバの世界にいたカンドロイドは全滅していると考えられます。具体的に何機残っているのかは後続の書き手さんにお任せします。
※キバの世界跡地のどこかにコアメダル(サイ、ウナギ、タコ、スーパートラの四枚)があります。
※マスカレイドメモリ@仮面ライダーW、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)@Fate/Zero、ナスカメモリ@仮面ライダーWは破壊されました。
※ミルク缶@仮面ライダーOOO、グロック拳銃(14/15)@Fate/Zero、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、紅椿@インフィニット・ストラトス、キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ(支給品)、メズールのランダム支給品が破壊されているのか、どこかに残っているのかは後続の書き手さんにお任せします。
※キャッスルドランにいた監視用インキュベーターの安否は後続の書き手さんにお任せします。
※シナプスカード(智樹の車窓)はキバの世界跡地付近にあると思われますが、具体的に会場内のどこにあるのかは後続の書き手さんにお任せします。
※会場を覆う結界が確認されました。結界は少なくとも内側から制限下最大出力の超々高熱体圧縮対艦砲『Hephaistos?』による攻撃を受けても影響がありません。
※ミラーワールド内に侵入可能な仮面ライダーのミラーワールドにおける活動制限時間は、DCD出典である本ロワ内では特に決まっていませんが、ミラーワールド内だと加速度的にメダルを消費し、変身状態でなければ脱出はできないものと思われます。
※結界に防がれた『Hephaistos?』、及び『APOLLON』の影響は会場の広い範囲で観測できたと思いますが、具体的には後続の書き手さんにお任せ致します。
※ディケイドによって、シャチのコアメダル(メズールの感情コア)が破壊されました。青のコアメダルは残り8枚です。



 かくして、一つの長い戦いは幕を閉じた。

 数多の思惑と事情が交錯した結果、都合六名の参加者が脱落し、二つの陣営が消滅し、残された者達に多大な影を残した一連の激闘も、バトルロワイアル全体から見れば所詮、たった一つのエピソードに過ぎない。
 それでも一つの区切りとなったこの戦いは、来たるべき終わりの到来をまた一歩、確かに早めたことだろう。

 ――――しかし、いつか訪れることが確定していても。

 まだその形は、定まっていない。

 いつか訪れる、終末/未来/明日の形を本当に決定づけるものは――斯くあって欲しいと望む、たった一つの想いだけ。

 それを抱く誰かが選択される、その最後の瞬間まで――戦いは、続いて行く。

 明日はまだ、白紙(ブランク)のまま。



【伊達明@仮面ライダーOOO 死亡】
【メズール@仮面ライダーOOO 消滅】
【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate 死亡】

833 ◆z9JH9su20Q:2014/05/03(土) 02:03:51 ID:DOogWjbc0
以上で投下完了です。
タイトルは、今回の本投下分はご覧の通りで、前回時点で未定だった一分割目の>>757->>766が、『欲望交錯-足掻き続ける祈り』
二分割目の>>767->>775が、『欲望交錯-ギルティエンジェル-』で行こうと思います。
また何か問題点等ありましたらご指摘よろしくお願い致します。

834名無しさん:2014/05/03(土) 09:59:41 ID:1onmQV5.0
投下乙です
無茶苦茶話動いたなぁw
伊達さんとフェイリスは最期まで自分を貫き通したか...
ともかく素晴らしい一話を書いた書き手さんに敬礼!

835名無しさん:2014/05/03(土) 13:27:06 ID:x4cbpzVMO
投下乙です。

キャッスルドランでの戦いが、ようやく一段落か。ていうか、キャッスルドラン自体が死んだが。

ウヴァはしばらく静観かな。こうなると、セミ並みに潜伏するぞ。
自分と鏡合わせなイカロスを目の当たりにした士は、また仮面ライダーと遭遇。
カオスはすっかり年頃に成長して。黒歴史と折り合いをつけられるのか。

836名無しさん:2014/05/03(土) 14:14:54 ID:JJrrt4Sk0
投下乙です!
映司の暴走も止まり、一安心かと思ったら伊達さんとフェイリス・・・
映司は身体的にも精神的にも極限状態だし士も覚悟決めちゃったし、災難は続きそうだなぁ
伊達プロトはウヴァバースの時と同じくカード化しないのね
そしてイカロスの規格外さにビックリ
キャッスルドランを倒して、ディケイドの能力フルに使ってギリギリ倒せるってこわい
ラウラはウヴァに呑まれちゃったか、スーパーバッタコアも持ってるしグリード態になったらウヴァの時代再来しそう
とても濃く、素晴らしい長編でした
とても面白かったです

837名無しさん:2014/05/04(日) 10:29:37 ID:4QNNknlk0
投下乙です
この人数を扱いきった技量に感服です
展開が次々と動いて息つく暇も無く楽しめました

一切の自重をやめたディケイドのなんと圧倒的なことか…
伊達を討ち、メズールを倒し、進化したイカロスすら敗北させるその強さに
そして激情態となってからも、その内面を皆の知っている門矢士としてきちんと描いているのが嬉しい限り
「使命であって欲望ではないから、伊達を殺してもセルメダルは増えない」という点が何とも物悲しい

伊達を通じて繋がった二人、前を向いて進もうとする映司と虎徹、もう救われる目も無そうなイカロスなど
次のリレーが楽しみになる要素も多く残されているのがお見事でした

838名無しさん:2014/05/04(日) 11:42:29 ID:I1Af.ZFQ0
投下乙です

パロロワ見てると純粋にこの人数を書き切る書き手とか凄くて敬意を覚えるわあ
それも確かにこの展開の妙もいいわあ
本当に乙です

839名無しさん:2014/06/05(木) 15:23:52 ID:aqQSLupg0
みんな間違えてるけど、翔太郎のバイクの名前は「ダブルチェイサー」じゃなくて「ハードボイルダー」が正しい

840名無しさん:2014/06/06(金) 12:15:35 ID:fsy2wcxM0
ダブル本来のバイクは確かにハードボイルダーだけど、ここで翔太郎とフィリップに支給されていたバイクはダブルチェイサー@タイバニなんですがそれは

841名無しさん:2014/06/15(日) 00:23:49 ID:P9ZhU8D20
これは恥ずかしい

842名無しさん:2014/06/25(水) 21:32:39 ID:4gU0yyiY0
ヤッター予約着てる!!

843 ◆SrxCX.Oges:2014/06/29(日) 21:12:09 ID:7PDE7qB20
投下します。

844 ◆SrxCX.Oges:2014/06/29(日) 21:14:06 ID:7PDE7qB20

 家屋の影に身を潜めながら、Xは遥か向こう側の様子を伺う。
 その先でX以外の一組の男女の視線も浴びながら、脳噛ネウロは双眸をゆっくりと開ける。
 暫くの後、首を僅かに動かして傍らで語りかける者達へと意識を向ける。
 肢体を惨たらしく、致命的と言えるほどに欠損させたまま、それでも僅かに息遣いを始める。
 彼の取る些細な仕草のその全ては、「生きている」という事実の証明である。
 そう、彼――脳噛ネウロは今、確かに生きている。死の世界から現世へと連れ戻された末に、生きるという行為を再開したのだ。
「……っは、」
 その光景が意味するのは即ち、桂木弥子が自らの死と引き換えに決行した“命の炎”の譲渡が無事に成功したという事実であり、永遠に喪われたとしか考えられなかった脳噛ネウロとの再戦の機会が用意されたという結果。
 Xの誓った下剋上が果たされる可能性は、未だ潰えていない。
「ははっ、あはははははあっ……!」
 周囲に聞かれないようにと声を抑えるよう努めるくらいの警戒心をXはは持っている。それでもなお、自らの口から笑い声が零れ出るのは止められず、哄笑の形にしないようにするのが精一杯だ。
 じゃら、じゃらじゃら、じゃらじゃらじゃら。
 自らの内側でセルメダルが次々と生み出されては散らばり、衝突し合う耳障りな金属音が頭蓋に反響する。
「あははははあはあははあはっっ、戻ってきた…………!」
 人間を完全に超えた正真正銘の怪人、脳噛ネウロとの決着。その悲願へと繋がる未来を前にして、怪物強盗Xは昂奮に呑み込まれ、その意識が歓喜の絶頂へと達さんとし――

 ――しかし。

「はっはははっ、はっ……」
 笑い声はいつしか乾き始め、やがて止まる。
 じゃらじゃらじゃら、じゃらじゃら……じゃら。
 セルメダルの生産も、ぴたりと停止する。
「あーあ……こーいうことじゃないんだけどなあ」
 Xの呟きには、少なからず失望の感情が含まれていた。
 その原因にも、Xはとっくに見当をつけている。痛いほどに願った宿敵の生還がいざ叶えられてみて始めて意識した、自らの理想と眼前の現実との間に存在する齟齬のせいだ。
「そんなボロッボロのあんたを倒したって、なーんの意味もないっての」
 そもそも、あのネウロがなぜ一度は死を迎えたかと言えば、大方Xとの死闘で手負いとなった所に何者かにハイエナの如く追い打ちをかけられたためというところなのだろう。
 こうして復活を果たした脳噛ネウロではあるが、既に彼は無敵でも無敗でもなくなってしまっているのだ。
 そして復活を果たしたとはいえ未だにダメージの癒えきっていない状態の彼ならば、Xよりも早く彼を討ち取った何者かと全く同じように勝利を飾ることは容易だろう。
 これでは駄目なのだ。今なら余裕で倒せそうだ、なんてシチュエーションには何の価値も無い。
 弱体化を余儀なくされたままの、死によってその英名に箔ではなく傷を付けたままの今の脳噛ネウロを倒したところで、Xの欲望は満たされやしない。
 Xの抱かされた途方の無い敗北感を拭い去るためには、「Xただ一人だけの力で」「最強の魔人である」ネウロを完全に打ち負かす以外に方法は無い。
 脳噛ネウロの“中身”を探るための、脳噛ネウロに勝利するという過程。その両方が叶えたい欲望であるのには違いないが、今のXの意識はむしろ後者へと比重を置き始めているのだ。

「だからさ、」
 結局、遥か向こうで横たわる脳噛ネウロに視認できるように接近することも、彼の耳に届くように声を掛けることもなく。
 Xは、ネウロに背を向けた。
「……せめて次に会う時までにはさ、前より強くなっててよね?」
 ネウロとの再戦に相応しい時は、断じて今ではない。
 全身のダメージを余すところなく癒し、Xが超えたいと願った魔人としての矜持と実力を取り戻したネウロこそがXと戦うに値する。
 だから、その時を迎えるまで暫しの別れが必要だ。
 再会がどれだけ先になるかは分からない。しかしXが敗れさえしなければ、そしてネウロもまた敗れさえしなければ、いつか必ず訪れるに違いない。
 手痛い“敗北”を知るXは、同じ轍を踏まないことを心に決めている。ならば、形が異なるとはいえ同様に“敗北”を知ったネウロもまた、同じ考えに基づいて手を打つはずだ。
 だから、何の心配もなく離れられると言うものだ。
「じゃあまたねネウロ。精々今くらいは楽しんでみなよ。弱い弱い人間の目線ってやつを、さ」

845 ◆SrxCX.Oges:2014/06/29(日) 21:15:20 ID:7PDE7qB20



「……そういえば」
 と、ネウロの下を離れようとしたXは思い出したかのようにもう一度振り向く。
 その視線の先にあるのは、最早二度と目覚めぬと確定した桂木弥子の亡骸。
 自分よりネウロの命が繋がれる方が有意義だ、と死を前にした彼女は言った。
 全くその通りだと思う。
 魔人のネウロとただの少女でしかない弥子では、その価値が段違いなのは日の目を見るより明らかだ。
 Xにとってもネウロの存命は望ましいことで、恐らくバトルロワイアルの打破を狙う者達にとっても――Xにとってはさほど興味のない観点だが――ネウロが居た方が心強いに違いない。
 ゆえに、Xは桂木弥子の死という事実に対して特に感慨を抱く余地を見出していない。
 それでも気になる点があるとすれば、命を譲り受けた張本人ことネウロが弥子の死に何を想うか、の疑問である。
 確か二人は少なくとも形式上は一組のペア、所謂「二人で一人の探偵」とでも言ったような関係であったはずだ。
 その片割れが死んだということは、つまりネウロは自らの半身を失ったも同然と言うべきであり、

「……いやいやいや、アホくさ」
 その先まで考えようとしたところで、Xは己の考えの馬鹿らしさに苦笑する。
 脳噛ネウロは人間よりも遥か上方に君臨する存在だ。取るに足らない人間一人の命を悲しむほど感傷的な性質など、持ち合わせているはずが無い。
 そんな彼のことだ。女が死んだ、それがどうしたと憮然とした表情を取る程度には不遜な男に決まっているのだ。
 結局、脳噛ネウロもまたXと同じように弥子の死に感慨も抱かないのだろう。
 所詮は桂木弥子などただの有象無象の一人、形だけのパートナー以上の価値など持たない、持つわけがないのだから。
「ま、考えるだけ無駄だったな」
 自らの下らない空想を鼻で笑い飛ばし、今度こそXは足を踏み出した。



 Xが次に目指したのは、「鴻上生体研究所」のある北方面であった。
 と言っても、その施設に大して拘りがあると言うわけではない。当面の間ネウロから距離を置きたかったこと、戦力増強も兼ねて他の参加者を発見したかったこと、そんな漠然とした方針を満たすために、先刻に一度興味を抱いた研究所を再び目的地に設定したに過ぎない。
 ゆえに進行方向上にまた別の施設を見つけたとしても、ちょっと寄り道してみようという発想を放棄する理由も無かった。
 こうしてXは「音撃道場」なる施設に到着し、冷え切った土の上で身じろぎ一つ出来ずに横たわっていた少女の亡骸と対面することとなる。
 青の目立つその容姿から、少女の名がカリーナ・ライルであることはすぐに判断できた。
「えーと……NEXTのブルーローズ、だっけ?」
 詳細名簿の記述によると、カリーナ・ライル――通称ブルーローズは、今のXが姿を借りているワイルドタイガーと同じく超能力者NEXTであるという。曰く、氷を自由自在に操れるとのことだ。
 この記述の中でXの興味を惹くのは、やはり彼女の持つNEXT能力とやらである。
 果たして、彼女の能力はどういった原理で発動するものであるのか、それはXにも再現可能なのか。
 もしXにも模倣が可能であったなら、それはかの魔人に対抗する新たな手札と成りうるのではないか。
「ま、とりあえず確かめてみるか」
 あっけらかんと言った後、カリーナの遺体に両手を伸ばす。いつも通りのやり方で、その肉体を刻み、崩し、磨り潰す。
 こうして青の少女から完成させたのは、日常的に見慣れた形状の真っ赤な“箱”。カリーナ・ライルという名の生命の“中身”が詰まった情報の塊。
 そしてまた、いつも通りに“箱”をまじまじと見つめてはくるくると手で回し、その中に収められたカリーナの“中身”を閲覧する。

846 ◆SrxCX.Oges:2014/06/29(日) 21:16:47 ID:7PDE7qB20

「……なんだよ、わかんねえじゃん」
 幾らかの時間を経て、Xは心底つまらなそうに言葉を吐き出し、“箱”を無造作に投げ出した。
 人間を超えた新人類NEXTなどと御大層な肩書きを背負わされたカリーナに寄せた浅からぬ期待とは裏腹に、蓋を開けてみればその肉体の有り様は人間と大差ないように感じられた。
 結局カリーナの“箱”から得られた情報は他の“箱”でも同様に得られる肉体の構造についての情報のみであり、本命であったNEXT能力のメカニズムの解明は叶わず終いとなってしまった。
「まあ、あの杏子って子の時もそーだったし? 仕方ないっちゃ仕方ないんだろーけどさ」
 思い返せば、ワイルドタイガーの一つ前に成り済ます対象とした赤の魔法少女も似たようなものだった。魔法少女と定義された彼女の肉体を解体したところで、その神秘の力に関する情報が得られたわけではない。
 人を外れた者であるからといって、その特異性が必ずしも肉体に表出されるとは限らないということなのだろうか。
「ちぇっ、つまんねーの」
 Xが得られたのは、期待外れの結論ただそれだけ。
 他に得る物も無いと判断したXは、それきり音撃道場を後にすることにした。
 その場に一つ、“箱”だけを残して。

「――まさかあんたの“中身”も実は大したことありませんでした、なんてこと……あるわけないよね?」

 この場にいない彼への疑問も一つ残され、しかし解答は未だ示されない。



 結局Xは、誰と出会うこともないまま無為に時間を過ごす羽目となっていた。気が付けばあと数十分程で二度目の定時放送を迎える頃である。
「とりあえず放送は聞くとして……次どうしようか」
 街灯の光を頼りに地図を眺めながら、Xは今後の方針を考える。
 ここに至るまでの道中、幸運にも禁止エリアに足を踏み入れることはなかったが、それにしても放送の情報をまたもや聞き逃すなんてことは望ましくない。
 まずは一旦どこかで身を落ち着けて放送を待つのは確定として、考えるべきはその後だ。
 尤も、確固とした目標を持っているわけではない以上、今まで通りとりあえず誰かと遭遇できそうな目ぼしい施設でさえあれば十分なのだが。
「……ま、ここでいっかな」
 地図上での進行方向上にある目印を指でなぞる。その名前にはさほど重要そうな利用目的が見いだせないが、特に無視する理由があるでもないなら十分か。
 これで誰とも会えなかったら残念であり、誰かと会えたら幸運な話であるというだけだ。一度目の放送の内容やらまだ見ぬ“中身”を知りたい以上、出来れば後者であってほしいことには違いないが。
「それじゃ、もうしばらく歩いてくか」
 このペースならば、放送が終わって五分か十分もあれば到着可能だろうか。
 情報収集にしても先手必勝にしても、次に相対するのがこちらを警戒しない善良な気質の人間ならば有難い話だ。
 そんなことをぼんやりと考えるXの先には、闇の中に隠れてまだ見えぬ目的地。その施設の名は、「言峰教会」と言った。

847 ◆SrxCX.Oges:2014/06/29(日) 21:17:59 ID:7PDE7qB20



【一日目 真夜中】
【B-4/市街地】

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】無(元・緑陣営)
【状態】健康、鏑木・T・虎徹の姿に変身中
【首輪】300枚:0枚
【コア】タカ(感情L):1、カマキリ:1、ウナギ:1
【装備】ベレッタ(8/15)@まどか☆マギカ、ワイルドタイガー1minuteのスーツ@TIGER&BUNNY
    超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品一式×4、詳細名簿@オリジナル、{“箱”の部品×27、ナイフ}@魔人探偵脳噛ネウロ、アゾット剣@Fate/Zero、
    ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、佐倉杏子の衣服、
    ランダム支給品0〜1(X:確認済み)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
 1.今は『ワイルドタイガー』として行動する。
 2.次こそは必ずネウロに勝つ。今はネウロの完全な復活を待って別行動。
 3.第二回放送を待つ。その後は言峰教会に立ち寄ってみる。
 4.ネウロほか下記(思考5)レベルの参加者に勝つため、もっと強力な武器を探す。
 5.バーサーカーやセイバー、アストレア(全員名前は知らない)にとても興味がある。
 6.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
 7.阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
 8.殺し合いそのものに興味はない。
【備考】
※本編22話終了後からの参加。
※能力の制限に気付きました。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※タカ(感情L)のコアメダルが、Xに何かしらの影響を与えている可能性があります。
 少なくとも今はXに干渉できませんが、彼が再び衰弱した場合はどうなるか不明です。

【全体備考】
※カリーナ・ライルの死体は“箱”にされました。

848 ◆SrxCX.Oges:2014/06/29(日) 21:18:47 ID:7PDE7qB20
以上で投下を終了します。タイトルは「再【りとらい】」です。
疑問点や矛盾点、その他ご意見ご感想ありましたらよろしくお願いします。

849名無しさん:2014/06/29(日) 22:33:12 ID:vpiMU.Eg0
投下乙です!
カリーナェ……四人目の■になっちゃたか……
さすがにXもNEXT能力は模倣できなかったか、能力パクられなかったのだけはカリーナとしても幸いなのか
弥子の死については、ここで自分にとってのアイと繋げられなかったことが何か影響があるのか楽しみですね
さてロスアンコア持ちで一夏やそはらを殺したXが言峰教会行きか……冷静に考えたら返り討ち待ったなしだけれど、メダル不足な対主催チームはワイルドタイガーコスのXの奇襲を受けたら……怖や怖や

850名無しさん:2014/07/04(金) 00:46:57 ID:A1iPE79o0
投下乙です!
おじさんの格好で箱にするとは、これまた酷い・・・
本当Xは行く先々でえげつないことするな

851名無しさん:2014/08/30(土) 10:32:05 ID:lUnvRb6UO
予約きた。

852名無しさん:2014/08/30(土) 13:29:24 ID:sD6RBp3c0
ホントだ
きてた

853名無しさん:2014/09/15(月) 13:00:15 ID:g6eQEiE.0
今回は投下ゼロですが、月報です

話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
124話(+ 0) 34/65 (- 0) 52.3 (- 0.0)

855名無しさん:2014/10/08(水) 17:05:40 ID:jtt4YkzM0
予約来てる

856 ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:01:27 ID:SJ9FOn.s0
投下します。

857Gの啓示/主はいませり ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:02:49 ID:SJ9FOn.s0

「ふははは! どうした、その程度か!?」
「……くっ!?」

 ハイパーアポロガイストと、ウェザー・ドーパント。
 コアメダルの力を獲得しグリードとのハイブリットとなった改造人間と、T2に進化したドーパントの対決は、悪の組織の大幹部に趨勢が傾いていた。

 先程までは、死の恐怖に囚われ本領を発揮できなかったアポロガイストを寄せ付けなかったウェザー・ドーパントだったが、彼より遥か格上の仮面ライダーエターナルともある程度互角に戦えたアポロガイストとの間にはその実、戦力に大きな開きはない――むしろ、本来は先程までの展開とは、逆とすら言えるような力関係にあった。
 無論、T2となったことでその差を埋め得るほどにウェザーの能力も向上していたが、アポロガイストの果たした強化によってそれは帳消しとなった。

 欲望を有する人間の身体は、欲望の結晶であるコアメダルの代用品として機能する――たった三枚、同系統のコアに限れば二枚だけしかない今のアポロガイストでも、グリードとしては完全体に近い。そこにアポロガイスト自身の能力が加われば、T2ウェザーを圧倒して余りあるのだ。
 そうなれば精神の安定したアポロガイストが巻き返すというのは、実に自然な展開であると言えた。

 鞭のように撓ったウェザーマインは、巨大なガイストカッターを盾に防がれ、その防具を絡め取ることすらできずに弾かれる。
 ウェザーが体勢を崩した隙を見逃さず、アポロガイストは赤く荘厳な片翼を拡げると、そこに三つの火球を灯した。
 ウェザーがその事実を視認したと同時。放たれた火球は、咄嗟に紡いだ風の障壁に軌道を逸らされた。しかし、防壁はその構成要素である大気を相応な量貪られ――続く弾丸を阻めるだけの防御力を、喪失してしまった。

「グゥッ!?」
「ははははは! 所詮は我が大組織にも招き入れられぬような、小物怪人ということか!」
 アポロショットの着弾によってウェザーの身体が吹き飛ばされ、無様に転がる様に気を良くしたアポロガイストが再び哄笑してする。

「やっべーじゃん……」
 そんな想定外の光景に、雨生龍之介は生首を抱えたまま狼狽えていた。
 ガイアメモリなる、キャスターの魔術にも比肩する怪異を操る井坂とて、決して無敵の存在でないことは龍之介も承知している。
 それでも、気象を意のままに操るという異能の超人が弱いわけがない。そのウェザー・ドーパントがこうもあっさりと、あの中年男に圧倒される展開は予想外だったのだ。
「このままじゃ、この娘でアート作れないなぁ……」
 もしも井坂がこのまま倒されることがあれば、次は龍之介の番だ。アポロガイストは、一度ならず敵対したこの自分を見逃すような人種にはとても思えない。
 となれば――消沈していた自分に、目標を示してくれた井坂への恩義もある。加勢して、巻き返して貰わなければならないと龍之介は考える。
 とはいえカードデッキを失った今の自分が割って入ったところで、精々が捨て身の囮になるぐらいしか有用な働きができそうにないことは明白だ。生き残って最高のCOOLを実現せねばならない龍之介に、そんな選択肢はあり得ない。
 青髭の残した螺湮城教本を使えば生身で戦いに挑むよりはずっと役に立つかもしれない。それでも龍之介の変身したリュウガに蹴散らされる怪魔達が、今のアポロガイスト相手にどこまで有効か疑問視せざるを得ない以上、迂闊な介入は危険だ。

「どうしよっか……」
 逡巡のまま呑気に呟く間にも、アポロガイストは着実にウェザーを追い詰めて行く。
 しかし、まさにトドメとして振り下ろされたアポロフルーレに切り裂かれる寸前、それを揮う腕自体を掴むことでウェザーは防御に成功し、遂にその苛烈な攻めを中断させるに至った。

858Gの啓示/主はいませり ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:04:02 ID:SJ9FOn.s0

「大組織、ですか……そこにはあなたから見て、この私以上の力を持った怪人とやらが、大勢いるとでも?」
「当然なのだ! 無数の悪を取り込んできた我が大組織、貴様ら如きでは及びもしない精強な兵で溢れている!
 そして彼らを統べる大幹部の一人こそが、このハイパーアポロガイストなのだぁっ!!」
 言い終えるか否か。半ば不意打ちのタイミングでアポロガイストが蹴り上げた爪先に対し、自ら彼の腕を解放したウェザーはバックステップで距離を稼ぎ、空振りさせる。
 それで致命的な隙を晒すようなアポロガイストではなく、即座に体勢を整えたが、その間にウェザーもまた彼に相対する余裕を取り戻していた。
「それは……実に興味深いですねぇ」
 問答を交わし、刺激された好奇心を活力へと変換したウェザーは、昂ぶりを以てアポロガイストに対抗する。
「そんな力がガイアメモリ以外にも溢れていたとは……全く、世界は広い!」
「ふん、訂正してやる。広いのではない、多いのだ。我々の支配してきた、貴様らの知らない異世界がなぁっ!」
 ウェザーの放った鎌鼬を、アポロガイストは翼で起こした突風で相殺する。
「私の知らない……別の世界、ですか?」
「そうだ。本来交わるはずのなかった数々の異世界……融合を始めたその全てを支配することが、我ら大ショッカーの宿願! その大義を阻む貴様らは、ここで成敗してやるのだ!」

 アポロガイストが唱える異世界という概念に、しかし龍之介もウェザーも疑って掛かることなどしない。
 思えばキャスターもまた、別の場所――龍之介が住んでいるのとは別の世界からやって来た、悪魔の一種だったのだ。彼が呼び出す魔物はさらに別の世界の住人。今更異世界の実在を疑う理由はない。

 ただ、それらを並行執筆しているのだろう神様はやっぱり凄いんだなと、ズレた感想を龍之介は抱いていた。

「パラレルワールド……いいえ、メモリを使わない仮面ライダーやあのカオスというお嬢さんのことを考えれば、多元宇宙論が適切でしょうか」
 ウェザー・ドーパントこと井坂はその知識量故か、龍之介からすれば難解な単語を一人得心したように呟いていた。
「成程、異世界とは。これまで彼らの噂一つ知り得なかった理由に、合点が行きましたよ」
 納得した様子のウェザーは、再度目の前の戦いに集中する。
「でしたら、それら異世界に存在する特異な力も、いずれは全て平らげなければなりませんね……メダルシステムによってその垣根が取り払われるというのであれば、間違いなく可能なはず。こんなところで躓いている場合ではない、早速蒐集しなければ。
 貴方をハイパーアポロガイストとやらにした力も例外なく……ね!」
「ふん、やってみるが良いのだ!」

 再度激突する二体の怪人。アポロガイストの突然な強化への戸惑いを、新たな欲望を抱いたウェザー・ドーパントもようやく消化できたようで、その戦いぶりに迷いの色はない。

 ――それでも地力は、ハイパーアポロガイストが上回る。

 井坂の苦境を覆すには、やはり龍之介の参戦が不可欠だろう。
 しかし、ドーパント化している伊坂と生身の龍之介とでは、戦いに身を投じるリスクが違い過ぎる。そのことが今なお、龍之介に二の足を踏ませている。
 未だ旦那を弔うためのアートの、材料を拾っただけ。最高のCOOLはおろか、手向けの品を作る前に、あんな偉そうな中年男にこの命を消費させられてしまう事態は避けたいのだが……

859Gの啓示/主はいませり ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:06:22 ID:SJ9FOn.s0

「……ありぃ?」

 そこで何か重大な見落としをしている気がして、龍之介は自身が危機的状況に直面しているという事実を忘れ、抱えていた生首に視線を向けた。
 本当に、吸い込まれそうな美しさをしている女の子だ。血や泥で汚れていなければ、さぞかし龍之介のイマジネーションを活かす絶好の素材になってくれただろう、が……
「……この娘、もう殺されてるじゃん」
 今更になって冷静さを取り戻した殺人鬼は、そも己が何であるのかを思い出した。



 雨生龍之介は、殺人鬼である。そうなったのはひとえに、“死”という事象への好奇心が昇華された結果だ。

 龍之介の興味があるのは終わりの瞬間に濃縮された“生”であり、“死”に至る過程そのものだ。
 それを見るための手段が殺人であり、それを重ねる毎に龍之介は他人の人生を学んできた。そうして身に付けた生と死、世界に向けた哲学だからこそ、青髭の旦那にも感心して貰えたのだ。
 
 ……断じて、自分達が死体弄りを愛好する変質者だから、などではなかったはずだ。

「あっちゃー……俺、空回りしてたんだなぁ」

 既に殺され終えた残骸、消費され終えた命の残滓などを見て、どこに龍之介の学びたい“生”の縮図があるものか。

 ましてやキャスターからあれほど浪費の美学を説かれたというのに、よりにもよって彼に向けて既に他人に殺され終えた死体を用いたアートを墓代わりに捧げるなど、ゴミ箱を漁って拵えた料理を差し出すようなものだ。これではむしろ、敬うべき彼を愚弄するような行為ではないか。

 何より――感情の鮮度がない死体で作った芸術品など、キャスターの教えと、それから生じた彼への憧憬を、自ら全否定するかのような代物である。

 だのに、彼の死を乗り越えようという気持ちばかりが逸っていたのだろう。墓代わりのCOOLなアートを用意する、ということばかりに思考を支配されていた龍之介は、自分達の哲学における基礎中の基礎を忘れてしまっていたのだ。

 ようやっとそのことに思い至った龍之介は、間近で繰り広げられている激闘のことも今は忘れて、生首を手にしたまま踵を返した。

「ごめんねぇ……先生が首輪欲しいみたいだったから、切り落としちゃったのは勘弁してくれよな。これ以上変なことする前に、ちゃんと綺麗に返すから」
 死体に語りかけるようにして、龍之介は謝罪する。
 厳密に言えば、犠牲者である少女達ではなく――その殺人を成した、捕食者の方にだが。

 細かい部分は荒削りだが、黄金の大剣で貫かれ大地に縫い止められた天使という構図は、まるで一幅の絵画のような洒落たアートだ。これを作った殺人者のセンスには、龍之介も感じる部分がある。
 そんな彼、あるいは彼女が、自分の作品に後からやってきた赤の他人の手を加えられたと知ったら、あまり良い顔をしないだろう。少なくとも俺はそうだったと、龍之介はこの殺し合いに招待される直前、留守の間に破壊された工房の惨状を目の当たりにして覚えた義憤と悲嘆を思い出す。
 理解せず壊したのとは違う、もっと良くしようとしただけだと言い訳しても――結局は他人の殺人を尊重しない行為であり、キャスターが言うところの嫉妬に駆られた獣と本質は相違ない。無理解にして無神経な痴れ者だ。

860Gの啓示/主はいませり ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:08:07 ID:SJ9FOn.s0

 獣は獣でも、龍之介は優雅なハンターである豹だ。他人の殺人のおこぼれを貰うなんて、醜いスカベンジャーの真似事は美学に反する。
 華奢な遺体の手前にその頭部を、できる限り丁寧に安置した龍之介はもう一度、ごめんと小さく呟く。
 誰が残したのかも知れない死体を、それでも同じ殺人者として、これ以上荒らされてはならないと感じた龍之介はそれから改めて、激突する二体の怪人に向き直った。

「そうさ……俺は最高のCOOLを目指すんだ」
 井坂によって示された、己の目標。そのための覚悟を、龍之介は振り返る。
「そんで旦那みたいな、本物の芸術家になる……だったらこんなとこで、あんなおっさんの好きにさせるなんて」
 巧拙は問わない。自分の作品か、他人の作品かも問題ではない。
 ただ、龍之介の中にある殺人者の矜持として。精魂込めて生み出されたアートが踏み躙られるなどという蛮行を、自身への危険を恐れて見過ごすなどという真似は――
「――COOLじゃないよな!」
 覚悟を決め、迷いを投げ捨てた龍之介は、サバイバルナイフを取り出しながら声を張り上げた。
「先生! そいつ、ちょっと遠くへ飛ばせる!?」
 戦闘への関わりを立っていた龍之介の突然の指示に、ウェザーは一瞬だけ虚をつかれた様子になる。しかし、その声に込められた確かな意志を感じ取り、頷きを返した。
「すみませんねぇ。彼が場所を変えて欲しいとのことです」
 敵対者に向き直って告げると同時、ウェザーはそれまでと比べても一際大きな竜巻を繰り出す。
 暴力的なまでの風圧はアポロガイストを数歩後退させるほどだ。しかし踏み止まった彼は勢いが和らいだ瞬間を見逃さず、出現した赤い翼で切り裂いてみせた。
「貴様らの都合など、断固拒否なのだ――ぁっ!?」
「それは我々の台詞ですよ」
 勝ち誇ったアポロガイストに激突したのは、その体自体を巨大な砲弾としたウェザー・ドーパントだ。
 竜巻にアポロガイストが気取られていた隙に、背面に向けてより圧縮した大気の噴流を放出することで加速した彼の突進は、己の翼に一時視界を塞がれていたアポロガイストの隙を的確に突いた。その様はあの夜青髭の水晶玉を通して見た、例の少女騎士の打ち込みに通じるものがあった。
 アポロガイストの足が地から離れた瞬間に、雷と嵐がウェザーの両手から迸り、動きを鈍らせると同時にその身を運んで行く。

「ヒュー! さっすが先生!」

 この一連の行動も、アポロガイストに与えたダメージとしてみれば薄い。それ故にメダルの消費ペースを考えて、これまでは決行には至らなかったのだろうが、その気になれば井坂もやられっぱなしというわけでもないのだ。
 二体の怪人を追いかけながら、龍之介は月光を鈍く照り返す刃を己の手首に押し当てる。
「っ……!」
 明らかに狂っていたとは言え、中学生ぐらいの女の子が耐えた行為だ。男の子には意地があるんだよと内心で呟き、みっともない悲鳴を押し込める。
 全力疾走で上昇する心拍は、浅い傷口から噴き出す血の勢いを後押しし、龍之介の意識を少しばかり遠ざける。

 ――だが、負けない。
 今の龍之介には、芸術家としての“覚悟”がある。

861Gの啓示/主はいませり ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:09:34 ID:SJ9FOn.s0

 己に降りかかる不利益を無視して、もう少しだけ移動を続ける。
 散乱し、天使を彩る朱いコントラストとなった死肉を、彼らの餌として荒らしてしまうわけにはいかなかったからだ。
 それを用いなかった不足は、一層放出される勢いを増した、己の血でのみ補えば良い。

「待っててよ先生……今、手ぇ貸すからさぁ!」

 アポロガイストから再びの逆襲に遇い、押されているウェザー・ドーパントを目撃した龍之介が傷口より溢れさせた血の一滴が、地に落ちる前に破裂する。

 真っ赤な卵を割るようにして生まれ落ちたのは、瞬く間に膨張した青黒い触手の集合体――怪魔だ。
 龍之介の呼びかけに応えた海魔は、一歩進むたびに刻まれる血痕から一匹、また一匹と生誕し、瞬く間に百鬼夜行と称するに相応しい物量へと膨れ上がる。

 ――全ては、彼の目指す最高のCOOLのため。

 悪魔に魅入られた若き芸術家は今、魔界の眷属を従えて。本当の意味では初めて、闘争の中に身を投じようとしていた。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 ――奈落のように黒いその“影”は、あたかも獲物を感知した肉食獣のように、夜闇に溶け込んだままもそりと身を起こしていた。

 軋むのはその身を包む鎧ではなく、肉体そのもの。万全から程遠い体は、未だ休息を欲していた。
 それでも、その身を動かす欲望は、それ以上の停滞よりも、行動を求めていたのだ。

 ――そのために足りない力は、憎しみで駆動させる。

 衰弱し、萎えた足での歩みはたどたどしい。半壊した己の鎧を支えきれてすらいない姿は、押せば折れてしまいそうなほど貧弱な、紛れもない敗残兵のものだった。
 それでも一歩、また一歩。執念がその足を動かし続ける。
 自らを誘う地を目指し、本来の勢いを見せかけだけでも取り戻しながら、邁進し続ける。
 狂気に理性を明け渡し、ただ浅ましい欲望に殉じるしかなくなった彼は、死の瞬間まで本能のままに歩むしかないのだから。
 どんな有様でも戦いに縛り付けられたこの存在は、紛れもなく――狂戦士と、そう呼ぶ他になかった。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 汚泥の上で、アポロガイストは幾つかの疑惑に駆られていた。
 ウェザーという名の怪人との戦闘に乱入して来た、異形の戦闘員達。オニヒトデの怪人にしても醜悪なそれらの物量は目を見張るほどであったが、単体の戦力は所詮戦闘員並でしかない怪魔の軍勢など、大幹部にとって物の数ではない。
 ここは一つ格の違いを示し、瞬く間に殲滅して見せよう――そんな思惑とは裏腹に、足元全てが腐肉の泥濘に変わり果てるほどに屠ってみせたところで、異形達が戦場に雪崩込んで来る勢いは一向に弱まる気配を見せなかった。

862Gの啓示/主はいませり ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:11:21 ID:SJ9FOn.s0

「お疲れのようですね」
 怪魔の群れが成した壁の向こうから、まるで彼らを従えるように振舞うウェザーの声が投げかけられる。
 対峙するハイパーアポロガイストの体には、怪魔どもの乱入以前に比べ遥かに多くの傷が刻まれていた。
 怪魔程度に容易く傷つけられるようなハイパーアポロガイストではない。しかし多勢に無勢な状況下、ウェザーの持つ多彩な攻撃への対処が不完全となったことが原因だ。
 それも、目隠しになる怪魔ごと攻撃されては、如何なハイパーアポロガイストとて満足に対応できるわけがなかったのだ。
 
 もっとも、見た目ほどのダメージは存在しない――自身の状態を、“感覚”を頼りにしてアポロガイストはそう診断する。
 問題なく継戦可能なほど、グリード化によるパワーアップの恩恵を受けるハイパーアポロガイストに対し、怪魔どもはまるで恐れを知らぬように――否、事実そんな感情のない下等生物なのだろうが、途切れることなく攻め続けて来る。
 少なくない同胞を巻き添えにしたウェザーに反撃する素振りも見せず、一貫してアポロガイストを狙う様子から、彼らが何者かの意志で統率されているのは明らかだった。

 故に、おそらくはあの小僧が何らかの道具を用いて召喚・使役しているのだろうことは、既にアポロガイストにも推測できていた。

「ふん……多勢で少数を襲うなど、恥を知らぬ輩と戦っているせいなのだ」
 日頃自分が何をしている組織の所属なのかは棚上げして、ウェザーの攻撃に対処する。更に纏わり付いてくる怪魔どもを翼で薙ぎ払いながら、アポロガイストは疑問を走らせる。

(何故だ……何故、奴のメダルが尽きんのだ!?)
 一向に衰えない怪魔の軍勢を前にして、アポロガイストが最初に抱いた違和感の正体はそれだった。
 道具を介している以上、この怪魔の軍勢の使役には龍之介のセルメダルが行使の代価として設定され支払われているはずなのだ。
 アポロガイストとウェザーが絶命させた怪魔の数は、合計すれば既に三桁に迫る。一匹を呼び出すのに一枚の消費だとしても、見渡す限りを埋め尽くす異形の軍勢は、戦死者と合わせれば遠からず三百にも及ぶだろう。
 参加者を等しく縛るメダルルールが存在する以上、セルメダルだけでは到達できぬ数。よしんば補えるほどのコアメダルを持っていたとしても、呼び出す時点で消費するだろうに、ここまで戦力投入をハイペースで保ち続ける必要はないはずだ。
 しかし現実には、未だ更なる勢いで増え続ける怪魔の軍勢の勢いは留まることを知らず、亡骸から新たな個体が生み出され続けている。このままでは、逆にこちらのメダルが枯渇する。
 となれば怪魔を殲滅するよりも、ウェザーか術者である龍之介をまず叩くことが定石。どちらを狙っても同じく怪魔が妨害するなら、より脆くリターンの大きな龍之介に狙いを絞るべきだろう。

 だが、そのような結論にはアポロガイストはとうに至っており、その上で苦戦を続けていた。
 理由は単純――見つからないのだ、雨生龍之介が。

(ええいっ、奴め、どこに行っているのだ!?)
 龍騎とリュウガでの戦いで見せた透明化能力を使い、身を潜めていることは予想できる。
 しかし周辺には、怪魔の体液が撒き散らされ、透明化していようとその足取りは掴める……はずなのだが、何度か飛翔し見渡してみても、未だ補足することが叶わない。

863Gの啓示/主はいませり ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:13:04 ID:SJ9FOn.s0

(くぅっ、これはもしや鳥目という奴なのか!?)
 それが、二つ目の疑問。

 グリードの力を得て新生してからというもの、自らの戦闘能力の増大を確信してはいたが、ほんの少しだけ――違和感がそこに生じていた。
 明確に意識したのは、怪魔発生のカラクリに気づいた後のこと。力任せに薙ぎ払うのではなく、冷静に効率良く対処しなければならないと、ハイパー化してからの高揚が初めて収まった後改めてウェザーの姿を目にした際に……その姿が、少し褪せて見えたのだ。
 一度気になってしまえば、それまで意に止めなかった事柄にも注意が向かうことになる。
 自らの視覚が曖昧となっていることに気づくのに、そう時間は必要なかった。

 偉大なる大ショッカーも、黎明期には改造人間を作った際、ベースとなった生物由来の弱点まで再現してしまったと聞いている。
 同じようにグリード化に伴って、ベースとなった鳥類の弱点である鳥目、つまり夜盲症を獲得してしまったのではないかとアポロガイストは推察していた。
(実際の鳥類は夜目が効くものも多いというのに、何たることなのだ!)
 そこまでの知識を有していながら、たかが『鳥類の弱点』が付与されてしまった、などと……自身に起こった変化の重大さに気づかないまま、アポロガイストは思考を巡らせる。

 この状態では、龍之介の発見は困難。ウェザーの居所ははっきりしているのだが、怪魔の妨害を受けながらでは手痛い反撃を許すことは明白だ。
 アンクやディケイドとの決着も控えている。リスクとリターンを見極めて、戦略的撤退を選ぶべきかと、判断の天秤が傾きかける。
(いや待て、危機に怯えるなど……そんな私は死んだのだ!)
 だが復活した大幹部の矜持は、あれだけ大見得切った後、井坂達に不利に追い込まれて撤退することを躊躇させていた。

 どの道、無防備に飛んでいてはウェザーの攻撃を受け、怪魔の群れの只中に撃墜されてしまう可能性もある以上、暫くは様子見に徹するしかないのだ。
 いずれにせよ、思惑通りには行かない展開にアポロガイストは歯噛みする。

「██▅▅▅▅▅▅███████▀▀▀▀▀█████▃▃▃▅▅███ッ!!」

 戦況を一変させる狂戦士が現れたのは、その直後の出来事であった。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 復活した後、バーサーカーが目指したのは南東だった。

 セイバー達と交戦したのは北部だったが、バーサーカーを覚醒させたのはC-4から届く魔力行使の余波であったからだ。
 一里以上の距離を隔てても伝わる膨大な魔力――宝具の解放以外にあり得ないそれは、バーサーカーにサーヴァントの存在を認識させ、惹きつけるのに十分だったのだ。
 途中、その悍ましい魔力の質は、かの王が持つ清廉なそれとは全く異なる性質のものであると理解しながらも――一度戦場を認識した以上、狂戦士は進路を変えられなかった。
 ただ、自らを惑わした魔力の発生源を破壊し、改めて騎士王との再会を求めるのみ。

 見敵必殺。たったそれだけのシンプルな思考の下に狂戦士は、戦場へと姿を現した。
 待ち受けていたのは蠢く魍魎。その中で争う白と赤の二体の怪人。
「何者だっ!?」
 突然の乱入者に誰何の声を上げる彼らが何者であるのか、バーサーカーは知らない。
 ただ悉く、この手で殺すべき者どもであることだけは知っている。
 令呪によって授けられた命を果たすため、何よりこの身を駆動させる狂気のための贄であると――!

864Gの啓示/主はいませり ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:14:35 ID:SJ9FOn.s0

 多勢に無勢。しかし怖気づく心などあるはずもない。
 バーサーカーはどす黒い魔力に塗れた手を戦利品の宝物庫の中へと伸ばし、この戦場に相応しい武器を掴み取る。

 ――抜き放たれたのは、縦も横も、バーサーカー自身より遥か巨大な一本の柱。
 当然握れるはずもないバーサーカーの掌に、魔力によって吸い付けられたその柱の正体は、柄だった。
 更に空間越しに隠されたその全容が明らかになるに従い、敵陣の中、二体の怪人が息を呑む音が静かに響いた。
 月下に晒されたのは、その翡翠の刃を赤黒い葉脈のような魔力に侵された、神造の剣。
『約束された勝利の剣』ほど尊くはなく、『無毀なる湖光』ほどに美しくはなく。ただただ、山でも斬ろうかというほどひたすらに巨大な、メソポタミアの女神の戦刃だった。

 バーサーカーの誇る宝具能力、『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』はあらゆる武器を自身の宝具として扱えるという破格の代物だ。しかし狂化した今の彼では、真名の詠唱を伴う宝具の全力解放ができないという欠点が存在する。
 故に、仮に『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』の中に騎士王が担う伝説の聖剣が収められていたところで、これら魍魎を一撃で灼き尽くすその真なる輝きは解き放てない。

 しかし、彼が武器と認識できるものであるなら――その中でたまたま、名を呼ぶ必要があるのなら、真なる力を解き放てないというだけで。
 振り回すだけで良いのであれば――身体構造上扱えるはずのない巨神の武具だろうと、武器と認識できた以上、彼は小枝の如く自在に操ってみせるのだ。

「██▅▅▅▅▅▅███████▀▀▀▀▀█████▃▃▃▅▅███ッ!!」

 咆哮、そして片腕での一閃。
 長大な横薙ぎの一振りは、軌道上に存在した全ての怪魔を血霧に変えていた。

 とはいえ、文字通り大振りに過ぎた一閃は、二体の怪人に触れることも能わず、見事に回避されてしまった。
 それぞれの方法で空を駆り、身構える異形の戦士達に対し、バーサーカーは振り切った剣を引き戻しながら、自らの斬り拓いた戦場へと突撃した。
 そこでは既に、一太刀で切り捨てられた百を超す怪魔の屍から、倍する数の新たな怪魔が生まれ出でようとしていたが――
 その先頭を踏み潰しながら、バーサーカーは跳躍する。
 斬山剣(イガリマ)の重量まで加味された踏み込みに、直接蹂躙された個体だけでなく、周辺の怪魔も衝撃で弾け飛ぶ。だがそれは、副次的な結果でしかなかった。
 元より斬山剣を抜き取ったバーサーカーの目的はただ一つ、この場所で跳躍できる足場を確保すること。百を超す異形を切り捨てたのは、そのついでに過ぎなかったのだ。

「██▅▅▅█▀▀▀▀▀▀▀▀▀████!!」
 怪魔の群れを眼下に、宙にあるバーサーカーは彼方を見据え、その巨大な剣を投擲する。通常の投剣と何ら変わらぬ勢いで射出された翠刃は、落雷をも遥かに凌ぐ大音声で大地に激突し、表面を抉りながら滑って行く。
 更に『王の財宝』の宝具射出能力で追加の攻撃を加えようとしたバーサーカーだったが、斬山剣を投擲したのとは別の方向にその矛先を向け直す。
「無視とは舐めてくれたものだなッ!」
 赤い翼を生やした怪人が、バーサーカーの背後から仕掛けて来ていた。
 既に『王の財宝』を射出できない間合いに入り込んだ怪人に対し、バーサーカーは咄嗟に手にした宝剣の一つで迎撃する。打ち込みを防ぐが、足場のない空中では持ち堪えられずバーサーカーは墜落を余儀なくされる。
「ぬぉっ!?」
 しかし、その際に一閃。翼もなく、ただ落ちて行くだけだと油断していた怪人の隙を見逃さなかったバーサーカーの一撃が、その首筋へと旋回していた。
 さすがに、そう容易く首を落とされる怪人ではない。しかし黒き一閃は、回避の遅れた彼のデイパックを切り落としていた。

865Gの啓示/主はいませり ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:16:15 ID:SJ9FOn.s0

 デイパックを回収しようとする怪人に対し、更にバーサーカーは『王の財宝』より宝具を射出して牽制を行う。後退を余儀なくされた怪人のデイパックと共に、バーサーカーは地の獄へ――怪魔に埋め尽くされた死地へと、成す術なく落ちて行った。



「……愚かな奴なのだ」
 自らの保身よりも、たまたま目に付いただけの他者への攻撃を優先した狂戦士に対し、微かな畏怖と侮蔑を滲ませてアポロガイストは呟いた。
 事実、バーサーカーは既に『王の財宝』の射角変更が間に合わず、一本の剣だけを頼りにして魔物の大海嘯へと呑み込まれなければならなくなっていた。
 無論、この狂戦士は怪魔の群れ程度に早々敗れはしないだろう。しかしアポロガイストが先のウェザーにされたように、諸共攻撃すれば一溜まりもあるまい。
 そのウェザーはバーサーカーによる巨剣の投擲を回避した後、血相を変えてその着弾点へと飛んで行った。ならば背後から攻撃される心配もないだろうとバーサーカーに挑んだアポロガイストだったが、念のためにとそちらにも目を配ろうとして――諦める。やはり、夜目が効かなくなっているらしい。
(ええい、あやつの姿も見辛いのだ)
 元より黒い上、妙な靄でその詳細を隠蔽しているバーサーカーの姿はこの暗闇の中では、今のアポロガイストには労せず見つけられるものではない。
 何とか怪魔達の血潮が噴き上げられるのを頼りに位置を見定め、特大の一撃を浴びせてやろうとして――

「――何ということだぁああああああっ!?」
 背後から響いたウェザーの慟哭に、思わず何事かと振り返った。
 酷く狼狽した声は、敵対者であるアポロガイストにも動揺を生むに十分だったのだ。
 しかし未だ舞い上がる粉塵と立ち込める闇は、アポロガイストに彼らの捕捉を許さない。少なくとも、瞬時に状況を悟らせはしなかった。
 さらに目を凝らすべきか、無視してまずはバーサーカーを葬るべきか。
 その逡巡が、更に事態を悪化させた。

「――っ、何!?」
 突如として迸った双つの閃光が、大群の一角を蒸発させた。
 しかしそれは余りに禍々しい、瘴気のような赤黒い奔流の束。
 それを放ったのは考えるまでもなく、バーサーカーしか存在しない。
 しかし、いったいどんな武器を持ち出したのか。そう疑問に思ったアポロガイストが目にしたのは、あり得ない光景だった。
「馬鹿な……っ! 何故、貴様がそれをっ!?」
 アポロガイストが目にしたのは、新たな兵装を手にしたバーサーカー。
 しかしそれは、先程まで彼が手に執っていた、御伽噺に出てくるような剣や槍や斧などではなく――近未来的な、機動兵器。
 アポロガイストに支給されていながら、使用することのできなかったパワードスーツを、バーサーカーは甲冑の更に上から纏っていたのだ。
 その支給品こそは、第三世代インフィニット・ストラトス『打鉄弐式』。アポロガイストが持て余したその機動兵器を、こうもあっさり扱えるということは、まさか――
「まさか、貴様……女なのか!?」
 的外れな驚愕の声を、アポロガイストが漏らす。

「██▅▅▅▅▅▅██████ッ!!」

 理性を奪われている以上、それに憤ったわけではないだろうが。アポロガイストの錯乱の直後、狂戦士は応えるように咆哮した。
 そして青白い機体を赤黒く染め上げた打鉄弐式の推進力を全開にしたバーサーカーが、鳥類系のグリードと化したアポロガイストに対し、彼の領域での闘争を挑み掛かった。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 最後に覚えているのは、視界の全てを埋め尽くす翠、そして衝撃。
 闇の淵から帰還したばかりの、茫洋と霞む意識の中、最初に目に付いたのは赤色だった。
「うわぁ……」
 視界を染めたそれを、凝視する。
(綺麗だなぁ……)
 混じりけのない、艶やかな赤。
 輝くほどに鮮やかな、ずっと求めていた原初の赤。

866Gの啓示/主はいませり ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:18:32 ID:SJ9FOn.s0

 ――あぁ、これだ。

 たちまちに理解して、仰向けに倒れたまま龍之介は淡く微笑んだ。

 自分が探していたものは――最高のCOOLに必要な物はこんなところにあったのだと、悟る。

「そっかぁ……そりゃ、そうだよなァ……」
 思い返せば。どうして自分が殺人鬼になったのかを考えてみればこんなこと、至極当然の答えであった。
「けど……それじゃあ意味、ないよなぁ……」
 声を出すのが、妙に億劫になっていた中。至福と思われた心に一抹の不安が生じる。

 そうだ――このままでは、意味がないのだ。

 何か、何か抜け道はないものか。まだ身体が動かない分も思考を巡らせる龍之介の頭に、地を誰かの足が踏み締める音が直接響いてきた。
「お、おぉぉぉ……なん、ということだ……」
 聞こえて来た嘆きの声は、心配になるほどの衝撃と悲しみに打ちのめされていた。
「――何ということだぁああああああっ!?」
「……先、生?」
 慟哭の主に問いかけてみたところ、取り乱していた声はピタリと止み、続いて彼が駆け寄って来るのがわかった。
「龍之介くん!? 喋れるのですか……っ!?」
「あー、うん。何かちょーっとしんどいけどね……」
 左手には青髭の魔本を持っている。だから空いた右手で井坂に応えようとして、それが動かないことに気がついた。
「あれ……」
 不思議に思ったところで気がついた。視界が右半分、消えてしまっていることに。
 そして思い出した。あの黒騎士から、馬鹿みたいにデカイ剣を投げつけられていたことを。
 あれに巻き込まれていたのだとしたら、なるほど……この血と言い、多分己は無事ではないのだなということを、龍之介は察した。

「龍之介くん……良いですか、今は口を閉じて、安静にしておきなさい」
 何とか平静さを取り戻したらしい井坂の指示に、龍之介は素直に従うこととした。
「止血したら早急にここを離脱します。アポロガイストとあなたの怪魔達があの黒騎士を足止めしている内に……」
「アポロの、旦那……」
 しかし、続いて井坂が何気なく漏らしたその名前に、龍之介はふと閃く物があった。
「なぁ先生、アポロの旦那、異世界がどうのって言ってたよな!?」
「龍之介くん、静かに……っ!」
「んで先生、パラレルワールドって! パラレルワールドってあれだよな? 別の世界で、この世界とあんま変わんなくて……他にも自分がいるかもしれないって奴!」
「――ッ! ええ、そうです。その通りです。ですから……」
「そっか……そっかぁっ! なーんだ……あは、はははははっ!」
 博識な井坂から保証を得られた龍之介は、己が無事ではないのだろうということすらも忘れ、激しく哄笑した。
 まるで指示に従わない龍之介に、井坂が狼狽と苛立ちを感じているのが伝わって来る。
 恩人を困らせてしまったことは申し訳なく思う。だが、こうも沸き立つ感情に晒されては、仕方がないではないか。
 
「先生……見つけたよ、俺。俺だけの最高のCOOLを」

 ――遂に自分は、答えを得たのだから。

「……それは、喜ばしいことですね」
 喋るな、とは井坂ももう言わなかった。
 聞き届けられない注意ばかりで立ち尽くすよりは、手を動かそうと考えたのだろう。
 それでも、ちゃんと会話に応じてくれたことが嬉しくて、龍之介は滔々と語り出す。

「俺さ……元々は“死”っていうのがどんななのか、知りたかったんだ。それを死ぬ前に知りたいから、これまで殺してきたんだけど……」
 貧血と思しき気怠さに負けず語っていると、不意に伊坂の手が止まった。
 止血してくれると言っていたが、処置が終わったのだろうか――そんな疑問を感じるも、未だ冷めやらぬ興奮に押し流され、それよりも答えを伝えることを優先した。

867Gの啓示/主はいませり ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:19:34 ID:SJ9FOn.s0

「……やっぱり、他人の命はその人のもんでさ。俺自身の“死”について知るためには、結局想像の材料にしかならなかったんだよね」
 だから、満たされなかった。
 だから、殺し方に新鮮味がない程度のことで飽きが来て、もっと強い刺激を求め続けた。届くはずのない真理に近づけようと、空白を埋めるために無数の贄を積み上げた。
 だが――そんな逃避も、もう終わる。

「でもさ、わかったんだ。俺にとって一番COOLな殺しの獲物」
 唯一無二、揺らぐことのない絶対の目標を、雨生龍之介は見出したのだから。
「俺の“死”を知りたいなら――やっぱり、“俺”を殺すのが一番だってさ」

「…………君は、自分の生きているうちに“死”を知りたかったのでは?」
 井坂の、純粋な疑問に満ちた問いかけに――案外鈍いなと内心苦笑しながら、龍之介は多大な疲労感も忘れ、朗らかに告げた。
「うん。だからさ……パラレルワールドの俺がいるじゃん、って」

 井坂が息を呑んだのが、龍之介にも気配だけで伝わった。
 感心して貰えたようだ、と手応えを覚えながら、急に意識が遠退き始めたことに焦り、一気に捲し立てる。
「俺の“死”を生きているうちに知りたいなら、別の世界の俺を殺せば良いんだって……この怪我と、先生とアポロの旦那のやり取りで気づけたんだ」
 きっとこれが、覚悟の対価。
 ただ、まだ光明だけ――掴み取るのは、これからだ。

「先生、俺やるよ。絶対にこのゲームを生き残って、別の世界に行く方法を手に入れる」

だから――井坂には、まだ力を借りないと。

「先生、言ってくれたよね……協力してくれるってさ。
 先生も他の世界に行きたいみたいだし、そのついでで良いんだ。俺も連れてってくれよ」
「え、ええ……ですが、まずは治療が優先ですよ」
「うん……お願い……」
 そこまで口伝できたことで、続いていた興奮が落ち着き――意識を繋ぎ止めていた糸が、切れたように感じた。
 しかし、暗く沈んで行く意識の中でも、龍之介は安心しきっていた。
 伊坂はドーピングコンソメスープだって使いこなす、最高にCOOLなお医者様だ。
 彼が居てくれたから、自分はこの答えにたどり着くことができた。
 それならきっと、彼は自分を助けてくれるだろうと、疑う余地なく信じていた。
 それが運命というものだろうと、龍之介は思っていたから。
 だって――もしも自分が神様なら、遂に目標を見つけた雨生龍之介を退場させるなんてつまらない脚本、書きはしない。
 ここまで面白おかしく導いてくれた天上の主が見せる采配を、龍之介は信じていた。

(あぁ……主は、いませりぃ……っ!)

 雨生龍之介が、心底から偉大なる演出家を讃えた、その直後。
 彼の左手が握り続けていた、青髭の遺した魔道書――『螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)』が、立ち上る魔光を解けさせた。
 その効果を発動させ維持するための代価、セルメダルが尽きたのだ。

 独自の魔力炉を持ち、発動する限り怪魔を召喚し続ける『螺湮城教本』はキャスターが使役していた時と同様に、使用者が負担するコストは驚くほど少ない。何匹の怪魔を召喚しようが、桁違いの大海魔を召喚しようが、負担するのは『専属の魔術師』である魔道書を使役する維持コストだけで構わなかった。
 それが、ハイパーアポロガイストをして驚愕させた物量を生んだカラクリ。
 しかし、その破格なコストパフォーマンスを以てしても。雨生龍之介が、この魔道書の使役を許された時間は終わりを告げた。

 確かに、維持のコストとして要求されるセルメダルの量はシグマ算で増大して行く以上、バーサーカーからの攻撃で大部分のメダルを流出させた後では、どれほどの良燃費だろうと枯渇は時間の問題ではあった。
 しかし、まさに今積年の夢を叶える手掛かりを掴み、かつてない勢いで欲望を満たし、セルメダルを補填していた龍之介が、それでも短時間で賄えなくなった理由は――実は、至極単純なものだった。
 それは単に、セルメダルの生産が必要量に達する前に、止まってしまったがため。

 ――命を消費し終えた残骸が、生きる者だけが持ち得る欲望を満たすなど、土台不可能な話なのだから。

 雨生龍之介は、未来への希望という至福に満たされた中――眠るようにして、安らかに息を引き取っていた。

 覚悟と命との交換で、生涯をかけて追い求めた答えを授けること。それが今回の脚本を担当した者が決定した、死の芸術家の迎える結末だった。



【雨生龍之介@Fate/Zero 死亡】

868Gの啓示/遺された覚悟 ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:23:19 ID:SJ9FOn.s0



 龍之介の亡骸から排出されたのは、Iのイニシャルが刻まれたガイアメモリ。
 彼の生命力全てを吸い出し、完成に至るはずだったインビジブルのメモリである。
 しかし、その前に寄生先であった龍之介は死に絶えてしまい。不完全な状態のまま苗床を失ったメモリを、仕込んだ張本人であった井坂はそっと拾い上げた。

「――――」

 井坂の胸を占める感情。これは……そう、喪失感と呼ばれるものだ。

「……馬鹿な」

 インビジブルメモリを完全になるまで育て上げる、という目論見の失敗を嘆く気持ちは、確かにある。
 しかし、そうではないのだ。この心境の原因は。
「龍之介くん……」
 安らかな――きっと、数多の死を観察してきたという龍之介も目にしたことがないほど、満ち足りた表情で絶息した青年の死にこそ、井坂は惜しむべき喪失を感じていた。

 龍之介など、このインビジブルメモリに与える、ただの餌でしかなかったはずの存在だ。
 ほんの半日、行動を共にした程度で得られた愛着など、井坂自身の力への欲望の前では無に等しいはずだというのに……

(いえ……わかっていますとも。似ていたのですね、思った以上に)

 この青年は、井坂自身に。

 死の瞬間に凝縮された、雨生龍之介という命の縮図。そこで彼が語った殺人鬼の出発点は――久しくその飢餓感を忘れていた井坂の出発点と、見事に重なっていた。
 自己の存在と、死と。向けられていたベクトルこそ異なっていようと――
 二人の源泉たる欲望は等しく、真理を解き明かしたいという知識欲だったのだ。

 起源を同じくする怪物の喪失を、残された片割れが惜しんでいる。
 そんな感情が己にあるという事実に戸惑いながら、井坂は青年の形見となったメモリをただただ握り締めていた。

「██▅▅▅▅▅▅███████▀▀▀▀▀█████▃▃▃▅▅ッ!!」

 急襲は、その直後。
 咆哮が届いた時点で、空いた手でウェザーのメモリを自身に挿入し直した井坂だったが、第二世代のドーパントへと進化を果たしてなお打ち込まれた斬撃に持ち堪えられず、その場から弾き飛ばされる。
 それでも危なげなく着地しながら、ウェザーは腕を下ろして襲撃者を睨めつける。

「……折角珍しい心地だったのですが、のんびり感傷にも浸らせてくれませんか」

 咄嗟に丸め盾にしてみたが、ただの一撃でズタズタとなったウェザーマインを投げ捨て、ウェザー・ドーパントとなった井坂は苛立ちを吐き出す。
 その視線の先では、それを握ったままだった龍之介の遺体ごと、青髭の魔道書を砲撃で吹き飛ばす黒騎士の姿があった。



 井坂は知る由もないが、たった今消滅した『螺湮城教本』が龍之介の手で発動していたからこそ、本来なら更なる魔力を発する神造の乖離剣を持つ稀代の犯罪者はバーサーカーに認識されず、また既に戦場を見据えていたからこそ、近場を通り過ぎていた怪物強盗もこの狂戦士と遭遇せずに済んでいた。
 そしてその濃密な魔力の放出にだけ照準を絞っていたバーサーカーは、インビジブルによる隠蔽など容易く無視して、龍之介への正確な攻撃を可能としていたのだ。
 結果として、バーサーカーを――死の担い手を龍之介のもとへ一直線に招いてしまったのは、危険を承知で『螺湮城教本』の魔力を解放した、他ならぬ彼自身の覚悟であった。

869Gの啓示/遺された覚悟 ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:24:56 ID:SJ9FOn.s0

 しかし、仮にそんな事情を理解していたとしても――ウェザー/井坂からすれば、この狂戦士が贄であり同胞であった青年を殺した仇であることに変わりはなく。
 故に、この手で葬り去ることに、一切の躊躇いは存在しなかった。
 弾かれる寸前に回収しておいた、龍之介のもう一つの形見であるコブラのコアメダルを首輪に投入しながら、ウェザーは敵愾心をそのまま言葉にする。

「せいぜいその力……堪能させて貰いましょう――ッ!」
「█████████████ッ!!」

 湖の騎士と、気象の魔人。
 星の記憶から現出した怪物同士の激突が、ここに開始された。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



「……計画通り、なのだ」
 そんな激突を離れた空から見下ろしほくそ笑むのは、つい最前までバーサーカーと矛を交えていた赤い怪人――ハイパーアポロガイストだ。
 インフィニット・ストラトスを纏ったサーヴァント――神秘と科学の融合した戦闘力を前にしては、ハイパー化したアポロガイストでも苦戦を免れなかった。
 それでも相手は満足な理性もない、再生怪人レベルの狂犬だ。本気で倒す気でかかれば十分に勝機を見出すことはできただろうが、元より戦線離脱を考えていた状況だったのだ。通りすがりの同陣営の馬鹿を相手に消耗するのでは割に合わない。
 まさにそう考えていた時、怪魔の群れが姿を消したのだ。これ幸いと上手くウェザーの方まで飛行し狂犬の相手を押し付けることに成功したアポロガイストは、己の見事な立ち回りの成果にひとしきり満足した後、南へと向き直っていた。

 そこに待つ、自らが決着をつけるべきと見定めた宿敵の内の、一人の男を想起しながら。

「待っていろアンク……貴様のメダル、全てこのハイパーアポロガイストの物としてやるのだ!」

 一対の大翼を羽ばたかせ、新生した悪の大幹部は――その身に課された悲劇的な宿業に気づかぬまま、意気揚々と戦線を離脱して行った。



【一日目-真夜中】
【C-4 南西】

【ハイパーアポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(中)、ダメージ(大) 、精神疲労(中)
【首輪】75枚:0枚
【コア】タカ(十枚目)、クジャク:1 、パンダ(次回放送まで使用不可)
【装備】龍騎のカードデッキ(+リュウガのカード)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:生き残る。
 1.リーダーとして優勝する為にも、アンクを撃破して陣営を奪う。
 2.ディケイドはいずれ必ず、この手で倒してやるのだ。
 3.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。
※龍騎のデッキには、二重契約でリュウガのカードも一緒に入っています。
※パーフェクターは破壊されました。
※クジャクメダルと肉体が融合しました。
 グリード態への変化が可能な程融合が進んでいますが、五感の衰退にはまだ気付かず、夜目が悪くなった程度にしか思っていません。

870Gの啓示/遺された覚悟 ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:26:24 ID:SJ9FOn.s0

「――ハァッ!」
 ウェザー・ドーパントの気合と共に打ち出された、絨毛のように空間を埋め尽くす真空の刃。常人が巻き込まれれば解体を免れないほどの猛威に対し、バーサーカーは一切躊躇せずに突撃する。
 ドーパントの力は魔術とは別の概念に拠って立ち、対魔力スキルの影響を受ける代物ではない。それ故、如何に名工の拵えた甲冑を纏うバーサーカーでも、防御を選ばなければ少なからず負傷を強いられるのが必定だ。
 しかし殺意の群れは、バーサーカーを守護する打鉄弐式に届きもせずに逸らされて行く。
 咄嗟に放たれた電撃もまた、バーサーカーを中心に張られた透明な殻に弾かれ、破壊力を大気中へと散らせて行く。

 全力の迎撃を牽制とすら受け取らずに、後退の暇すら与えない超音速で間合いを詰めたバーサーカーはその勢いのまま、手にした宝剣を横薙ぎに一閃した。
 これもまた、物理的な守りに乏しいウェザーの頼みの綱である風の防護壁を、打鉄弐式の推進力で突破し、その肉にまで届かせる。

 ――それで決着、とはならなかったが、戦いは一方的な様相を呈していた。

 インフィニット・ストラトスとは本来、宇宙開発を目的に開発されたマルチフォーム・スーツだ。その装着者を守るための防御機構の根底は、過酷な宇宙環境に適応することを念頭に設計されている。
 戦闘用に転用されたとはいえ、その根幹となる技術はブラックボックスであるがために、そのままの形で流用されている。故にISの展開するシールドバリアーは特に、自然現象として起こり得る脅威にこそ強い耐性を有しているのだ。
 限りない宇宙へと飛び立つ前、最初に克服すべき仮想的として、既に殆どを攻略された地球の気象を繰り出すウェザーの能力は、致命的なまでにISとの相性が悪かった。
 シールドバリアーを突破する上で最も容易な手段は、ビーム兵器で実用化されたIS戦で未だ超電磁砲やパイルバンカーが投入されていることからも伺えるように、単純に強大な物理力にある。しかし気象攻撃に能力の割合を多く割いているウェザーには、やはりそれが乏しいのだ。
 数少ない大技も、他の攻撃では牽制すらできない以上、直撃させられるタイミングなど創造する余地がなかった。

 だが、そんな相手の苦境を慮るような心など、狂戦士に残っているはずがない。

「██▅▅▅▅▅▅███████▀▀▀▀▀█████▃▃▃▅▅ッ!!」

 肩部のウイングスラスターを魔物のように蠢かせ、刹那で音を置き去りにする急加速。打鉄弐式の本来の性能さえ凌駕したその強引な機動こそ、この機動兵器が既に神話の英雄が担う伝説へと昇華された証。
 バーサーカーの魔力で限界以上の性能を振り絞らされた打鉄弐式は、先程の突撃で打ち上げられた怪人を追って空を翔ける。
 距離を詰めながら、その僅かな平穏も惜しいと、砲弾の勢いでバーサーカーが投擲した宝剣を、ウェザーは辛うじて風で弾いた。しかしその隙に間合いを詰めたバーサーカーは、次に抜き取った大斧を振り被る。
 紙一重で回避し、二撃目を落下中だった宝剣を掴んで盾にしたウェザーだったが、英霊の筋力と機動兵器の推進力、そこから生み出された超絶の破壊力に宝剣は脆くも砕け散り、致命傷こそ避けるものの、流星の如く大地へと叩きつけられる。
「ガっ――あッ!?」
 驚異的な体表硬度がなければ、既に微塵に帰されていたほど無数の斬撃を受けた上で、この一撃。ウェザーが苦鳴を漏らすのも仕方のないと言える結果だ。
「██▅▅▅▅▅▅█████▃▃▃▅▅ッ!!」
 そんな隙を見逃さず、バーサーカーは倒れ伏したウェザーに対して容赦せず追撃に入り、両腰に備えられた双つの砲へと赤黒い輝きを充填する。
 放れた破壊を、咄嗟にウェザーは横跳びでの回避を試みる。しかし完全には叶わず、地の底まで中ぐりするような黒霧の奔流に、左の上半身が巻き添えを受ける形となる。
 バーサーカーの魔力で本来の威力から底上げされた荷電粒子砲は、連戦で消耗していたウェザー・ドーパントの変身を遂に解除させ、井坂にその生身を露出させた。排出されたウェザーメモリがT2でなければ、これでメモリブレイクされていたほどのダメージだった。

871Gの啓示/遺された覚悟 ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:27:59 ID:SJ9FOn.s0

「██▅▅▅██▃▃▅▅▅█████▃▃▃▅▅ッ!!」

 そうして貧弱な獲物に成り果てた敵に対し、バーサーカーは出力増強の弊害で連射性能を削いでしまい、未だ冷却の終わらぬ《春雷》を畳み、代わりに『王の財宝』の一斉発射で追撃を加える。
 夜気を揺るがす轟音に、バーサーカーの甲冑すら白く染め上げるような閃光の炸裂。小規模の噴火のようにして土砂が巻き上がる様は、絨毯爆撃にでも晒されたかのようだった。
 身を守る術を失くした、井坂深紅郎という人間個人に対して振舞うには、過剰というのも控え目な猛攻であった。

 しかし、それほどに自制のない破壊衝動を無分別に解き放っているからこそ、バーサーカーに狂気と令呪を介して与えられた欲望は加速度的に満たされ、消費されたセルメダルを補填していた。メダルが増えれば増えるほど、サーヴァントが本来持つ回復力が連戦で負った傷を癒し、疲れを取り除いて、狂戦士を本来あるべき殺戮機械へと修復して行く。

 そして、宝具の斉射を受けた大地を覆う土煙が晴れた後――残されていたのは穿たれ、削られ、生命の残滓すら焼き尽くされた大地だけ。
 赤い怪人こそ逃してしまったが、見敵必殺という命令を一通り果たしたバーサーカーは勝利の余韻に浸ることもなく、次の行動に――彼自身の、欲望の達成のための行程に移る。

 一連の戦いで英雄王の蔵から投擲し射出した全ての武具を回収し終えると、既に身体の一部と化した打鉄弐式の機首を翻した。
 見据える方角は北。その先に待つのはセイバーと合間見えた戦場。更に言えば――彼女が姿を見せ、バーサーカーを遠ざけようとした、彼女の拠点があると思しきその方角。
「……Ar……thur……」
 そちらに向かえば、きっともう一度再会することが――かの王に断罪されるという悲願が叶うことだろう。
 仄かな期待に満たされながら、湖の騎士は次なる闘争を求め、同じく真黒く染まった空を駆けて行った。



【一日目-真夜中】
【C-4 北西】

【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤
【状態】疲労(中)、胸部にダメージ(大)、狂化、上半身の鎧破損中、打鉄弐式で飛行中
【首輪】70枚:0枚
【装備】王の財宝@Fate/zero、打鉄弐式@インフィニット・ストラトス
【道具】アロンダイト@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:???????????????????!!
 0.令呪による命令「教会を出て参加者を殺してまわる」を実行中。
 1.セイバーを探す。
 2.北へ向かう。
【備考】
※参加者を無差別に襲撃します。
 但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます。
※ヴィマーナ(王の財宝)が大破しました。

872Gの啓示/遺された覚悟 ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:30:21 ID:SJ9FOn.s0

 バーサーカーが蹂躙し、荒涼とした夜風が吹きつけるだけとなった破壊の跡地。

 寸前までの喧騒が夢幻のように、静まり返った大地に穿たれた大穴。その傍らに前触れもなく、陽炎のようにして現れた男が荒い息を上げるのを見咎める者は、幸か不幸か一人もいなかった。

「……危ないところでした」

 呟いたのは、バーサーカーの目を欺き通した敵対者――井坂深紅郎だった。

 激情に駆られていた戦いの途中から、井坂もさすがにウェザーのバーサーカーに対する不利を認めていた。しかし超音速の打鉄弐式を前にしてはウェザー・ドーパントといえど満足に撤退することすらできず、遂には変身解除にまで追い詰められてしまっていた。
 ウェザーに再変身する猶予もなく、このままでは死ぬ。そんな局面に追い詰められ、『王の財宝』による無差別攻撃を受ける寸前に至った井坂は、覚悟を決めることとした。

 即ち――この窮地を脱するべく、インビジブルメモリを使用する決断を下したのだ。

 手元に残されていた、最後のメモリ。一度使えば、死ぬまで使用者の体内から取り出すことができなくなり、命を吸い続ける呪いのメモリ。

 龍之介が魔道書を扱えたように、メダルルールの庇護下にあれば過剰適合者を餌にする手間を挟まず井坂の物とすることができるとわかったのは、放送を越えてからの話だ。
 それでも、最早再調整は不可能。本来ならば、こういった形で回収できたとしても完全に成長するまでは決して自身に挿そうなどと思いもしなかった。

 しかし、寸前までこの悪魔の苗床となっていた青年のことを思い出した井坂は――宝具による爆撃に晒されるその寸前、契約の証であるガイアウィスパーを唱えさせた。
 ウェザーには及ばずとも、インビジブルもまたドーパントとして超人的身体能力を変身することで獲得できる。そのため、『王の財宝』による乱雑な制圧射撃を、大部分は幸運に救われながら命だけは無事に回避することに成功した。
 その後透明化を保ったままじっと息を潜めていたこちらを発見することができず、撃破したとバーサーカーが勘違いしてくれたおかげで、井坂は一命を取り留めることができた。

 その余命を、大幅に削ることを代償に。

 だが……それでも構わない、と井坂は考えていた。

「……龍之介くんの生命力を吸った分、完成のために私を吸い尽くす必要はないはずだ。
 それなら、無駄な余命などくれてやる」

 龍之介は道半ばにして果てた。

 しかし彼は――死を背負う危険を“覚悟”していなければ、たどり着けなかっただろう自らの求める答えに至る道を、死の間際に見出した。

「龍之介くん……君はある意味、メモリを完成させるよりも私の役に立ってくれました。君のおかげで、大切なことを私は思い出せた」

 述懐しながら、井坂は己の胸に手を当てる。服越しに、五つの生体コネクタの内一つに触れながら、遠い過去を振り返る。
 ウェザーのメモリを手にする以前は、もっと自分は我武者羅だったはずだ。
 この肉体が負荷に蝕まれるのも躊躇わず、ガイアメモリという力の真実を追求しようと、あの夜見た恐怖の帝王に一歩でも近づこうとしていたはずだ。
 だが、多彩な能力を持ち、井坂の欲求をある程度満たすこのメモリとの出会いがどこか余裕を生み、自身を鈍らせていたのではないかとも思えて来る。
 過剰適合者を経由した結果、インビジブルの入手を仮面ライダーによって阻まれた過去がありながら。このバトルロワイアルに参加させられる前、テラー・ドーパントの攻略において切札となるケツァルコアトルのメモリを、またも過剰適合者を介して手に入れようと画策していたのは、適性の低いメモリを使うリスクを恐れてのことではないのかと。

 そう考えてみれば。最早慎重ですらなく、ただ臆病になっていただけの自分では、この殺し合いで散々な戦績となるのも当然ではないかと思えて来た。

 内容以上に、物事を成し遂げるのに必要なのは“覚悟”――単なる方便のつもりだったが、己の同類がそのまま現実にしてみせたことが、井坂の脳裏に強く焼き付いていた。

873Gの啓示/遺された覚悟 ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:31:24 ID:SJ9FOn.s0

「認めましょう。今のままの私では到底足りない。あの恐怖の帝王に挑むための力が」

 カオスにも、アポロガイストにも、バーサーカーにも。井坂は遅れを取り続けた。
 そんなことでは、井坂が最大の標的とするテラー・ドーパントに敵うはずがない。
 究極の力で満たされるという井坂の最終目標には、このままでは到底及ばない。

「ならば、もっとリスクを背負ってでも……私は更なる力を手にしましょう! そのためならば、どんな不利益も厭わない覚悟を持って」

 結果道半ばで果ててしまうのであれば、それもまた受け入れよう。
 覚悟がなければ、そもそもその道にすらたどり着けないのだから。
 成功か、破滅か――元よりそんな方向性でしか生きられない欲望を、井坂深紅郎という怪物は抱えていたのだから。

「――ありがとうございます、龍之介くん。君のことは忘れませんよ……きっとね」

 最後に、もう一度だけ――自らに大切なことを思い出させてくれた同胞に、礼を告げてから。井坂深紅朗は、歩みを再開した。
 傍らに寄り添う者が居ない事実を、やはりこれまでになく寂しく感じながら。



【一日目-真夜中】
【C-4 北西】

【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】無所属(元・白陣営)
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、肩に斬り傷、強い“覚悟”、生命力減衰(小)
【首輪】40枚:0枚
【コア】コブラ(次回放送まで使用不可)
【装備】T2ウェザーメモリ@仮面ライダーW、インビジブルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、DCSの入った注射器(残り三本)&DCSのレシピ@魔人探偵脳噛ネウロ、大量の食料、首輪×2(牧瀬紅莉栖、ニンフ)
【思考・状況】
基本:自分の進化のため自由に行動する。
1.更なる力を得るためならリスクは厭わない。
 2.T2アクセルメモリを進化させ取り込む為に照井竜は泳がせる。
 3.次こそは“進化”の権化であるカオスを喰らってみせる。
 4.ドーピングコンソメスープに興味。
 5.コアメダルを始めとする異世界の力に興味。特に「人体を進化させる為の秘宝」は全て知っておきたい。
 6.そろそろ生還の為の手段も練っておく。
【備考】
※参戦時期はおそらく34話終了後です。
※ウェザーメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※ウェザーメモリの残骸が体内に残留しています。それによってどのような影響があるかは、後の書き手さんにお任せします。
※インビジブルメモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※複数のメモリの力を吸収するための研究の成果で、インビジブルとウェザーの力を両立し、同時使用を可能としています。


【全体備考】
※螺湮城教本@Fate/Zeroが破壊されました。
※紅莉栖とニンフの死体は全パーツD-4北東に安置されています。



【支給品紹介】
・打鉄弐式@インフィニット・ストラトス
 アポロガイストに支給。
 更識簪専用機。量産型ISである打鉄の後継機であり発展型、第二世代型。リヴァイヴの汎用性を参考に全距離対応型として組み上げられている薄青色の機体。機動性を重視しており、その機体速度はブルー・ティアーズと同程度。武装は八連装ミサイルポット《山嵐》、速射荷電粒子砲《春雷》二門、対複合装甲用超振動薙刀《夢現》と前述通り汎用性に富む。
待機形態はクリスタルの指輪。

・『千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)』@Fate/Zero(?)
『王の財宝』内に納められた宝具の一つ。
 メソポタミア神話に登場する、戦いの女神ザババが持つ「翠の刃」。
「斬山剣」という別名を持ち、その名の通り、刀身は山をも斬れそうなほどに大きい。
 なお、この宝具は厳密にはFate/Zero本編に登場した宝具ではない。

874 ◆z9JH9su20Q:2014/10/10(金) 22:33:17 ID:SJ9FOn.s0
以上で投下完了です。

875名無しさん:2014/10/11(土) 13:05:18 ID:4RWrwzmo0
投下乙です
ここで龍之介退場か
井坂先生の今後が気になるね

876名無しさん:2014/10/11(土) 19:53:41 ID:1kkTC4wE0
投下乙です
アポロガイストの果たした進化に対して、井坂もまた精神的な進歩
マーダーをただ強いだけの悪役で終わらせないストーリーの運び方が面白い
アポロがハイブリット怪人化、井坂がインビジブルゲット、ランスロットもISゲットで
龍之介が脱落してもお釣りが出る現状、まだまだ対主催も安全とは言えないか

877名無しさん:2014/10/11(土) 21:13:12 ID:3YbS7g/60
投下乙です

確かにただのマーダーで終わってないというか悪党として一皮むけた感じだぜ
別の場所の大乱闘もまだ終わってないのにこれは対主催らが可哀そうw

878 ◆z9JH9su20Q:2014/10/11(土) 23:35:48 ID:kUqDAMog0
皆様感想ありがとうございます!
ところで申し訳ありません、ブラーンギーとサバイバルナイフについてどうなったかを触れ忘れていたので、前者は破壊、後者は井坂が回収したという形で加筆した上でwikiに収録させて貰いました。
以後気をつけます……

879名無しさん:2014/10/12(日) 00:04:35 ID:z8k2DxIAO
投下乙です。

原作ではウェザーの能力が多彩過ぎて他のメモリの能力が出てこなかったから、先生には色んなメモリを取り込んでほしいな。

880名無しさん:2014/10/14(火) 15:40:54 ID:Ix9NPsw60
龍之介の覚悟にはグッときたぜ
そして嘘から出たまことのように先生へと受け継がれるその思い……!
マーダーしかいないのに熱い展開ってどゆこと?!
投下乙

881名無しさん:2014/10/27(月) 23:01:44 ID:nb42Nua60
おお、予約来てる!
もやしと一緒って照井大丈夫かw?

882名無しさん:2014/10/30(木) 22:55:00 ID:ql0/w2cg0
>>881
そもそも今の照井は仮面ライダーと認識されるかどうかすら怪しいんじゃないだろうか
肉体的にも精神的にも仮面ライダー捨ててるし

883名無しさん:2014/10/31(金) 19:16:55 ID:WGyN0CjI0
照井も大概だけどフィリップもやばそう
もやしとフィリップの信念は水と油だし
参戦時期的に面識が一方通行なのもどう転ぶか

884名無しさん:2014/11/02(日) 22:49:57 ID:f0kpyLPU0
破棄か、残念……
でも一旦ってことだし、再予約楽しみにしよう

885 ◆z9JH9su20Q:2014/11/28(金) 21:51:23 ID:p.Hfm4A.0
予約分の仮投下を行ってきました。
またも冒険した内容となってしまいましたので、ご意見頂ければ幸いです。

886名無しさん:2014/11/29(土) 18:22:19 ID:5Btu8oMU0
仮投下キター

887 ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:02:28 ID:Io9mv/lw0
これより、予約分の本投下を開始します。

888陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:03:41 ID:Io9mv/lw0



 硬貨を模した円盤が、ひっくり返る。

 海東純一の前で、縁っていた環を残した円の裏面が表となった時。寸前までなかったはずの、赤い紐で結ばれた金と銀の鈴がいつの間にか鎮座していた。

 盤の動きが停止したのに合わせ、軽やかな金属音を鳴らしたのは、第四世代インフィニット・ストラトス『紅椿』――その、待機形態だった。

「お疲れ様です」
 支給されていたメズールの脱落に伴って放置され、遠からず最終兵器『APPOLON』の攻撃に巻き込まれ消滅するはずだったこのISを、時空を越えて会場から回収するという任務を終えた同志に向けて、純一は張り付いた笑顔のまま労いの言葉を送った。

「全くだ」
 そんな純一に、疲弊感を隠そうともせずに答えるは、橙と黒を中心としたローブのような衣類に身を包む、奇天烈な風体の人物だった。
「あの中で気取られず、他を巻き込まずに回収するのは我でも骨が折れた」
 気位の高い物言いだが、どこか舌っ足らずな発声。決して低身長ではない純一も見上げねばならない背丈でありながら、体躯そのものは十にも満たぬ幼子のそれだ。
 小さな頭を覆う、背まで伸びた白銀の髪の上には黄金の王冠を載せているが、不釣り合いに大きいがために一動作ごとにずれ動く。金色の骨のような篭手で包まれた右手には、如何にも童話の中の魔法使いが持っていそうな木の杖を、指の長さが足りないがため必死に掴んでいた。

 全体的にアンバランスな印象を覚える、しかし雪の妖精のように美しい童女。その紅玉の瞳は、自らの回収した代物から純一へと視線の注ぐ先を変えた。

「……とはいえ、貴様も立会ご苦労であった」
「いえ、それが私の役目ですから」
 爽やかな印象を打ち消す、やはり張り付いたような笑顔のままで、純一は彼女――否、彼に答えた。
「実働を任されているガラさんに比べれば、何でもないようなことです」
「そうか」
 笑顔で告げる純一に対し、異邦の少女――の姿をした、古の天才錬金術師ガラの態度は実に素っ気ないものだった。しかし気にするような事柄ではないとして、純一は貼り付けた笑顔のままで受け流した。

 今現在、主催側の運営スタッフとして純一に任されている役割。それはエリア管理委員会での実績に基づいた、会場への干渉に対する監視役だった。

 バトルロワイアルが開始された後、場合によっては主催側が進行のために干渉する必要が生じることも想定された。故に、隔離された時空にある会場とこの主催陣本拠地を、聖杯の力を借りずに繋ぐための装置が設けられた。それが備えられているのが、この大小様々な円盤の設置された一室となる。

 表と裏とで、別々の時空を繋ぐこの円盤を自在に操れるのは、主催陣営の中でもそれを作ったガラだけだ。
 そんなガラの独断を防ぐためには、監視が必要となる。彼がこの円盤に近づく際には、いざという時にインキュベーターだけでは抑止力足り得ないとして、どの裏リーダーの配下でもない純一が常に立ち会うこととなっていた。
 そうして、ガラが密かに会場から、参加者の誰にも気づかれないよう苦心しながら回収した紅椿を、純一が手に取ろうとした時だ。

 連なったセルメダルを、まるで触手のように操ったガラが、純一に先んじてそれを掴み取っていた。

889陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:04:56 ID:Io9mv/lw0

「これは我が届けよう」
 告げてから、高い位置にある幼い美貌を微かに歪めて、ガラは艶然と微笑む。
「気を悪くするな。ただ、“青”の王は人間嫌い……特に、男が嫌いであろうからな」
「ガラさんは、本来男性だったとお聞きしていますが?」
「それでも、今の器の性別は……見ればわかろう?」
「なるほど……しかし、それでは困ります」
 ガラの意図を察した純一は、この茶番に乗させて貰うこととした。

「今回は青陣営裏リーダーの開始以前からの要望で、会場から紅椿を回収しました。そこまでは確かに私も見届けましたが、それがあるべき場所に収まるまでを確認しなければ、監督不届きとなってしまいます」
 無論、会場内に支給されたアイテムを回収するなどという行為は――純一も、他人のことは言えないが――如何に裏リーダーの一人といえども、否、むしろだからこそ“名目上”禁忌となっている境界を、一歩越え兼ねない振る舞いだ。
 そのため、紅椿を所有する参加者の死後、誰も回収せず、そのまま放置すれば確実に破壊されたと思われる状況下でのみ、回収が許されるという条件が引き換えとして提示された。
 そして現実は青の裏リーダーが狙った通りのシチュエーションとなり、紅椿はガラを介してその手元に届けられるはずとなっていた。

「私も、ガラさんが件の“王”に紅椿をお渡しされるまで、同行させて貰いましょう」
「仕事熱心な男よ……ふむ、仕方ない。よかろう」
 面倒そうに、深々と溜息を吐いたガラが杖で床を突いた次の瞬間、大量のセルメダルが津波のようにして押し寄せてきた。

 瞬く間に、巨人の手のようになったセルメダルの流れはガラと純一を拾い上げると、走るより速くその身を運び始める。
「おまえが奴に会うのは、初めてだったな」
 メダルの生む漣が、周囲の聞き耳から遮断してくれる中で。ガラは純一に、芝居の終わりを告げる呟きを漏らす。
「ええ。是非お会いしたいと思っていたのですが……」
「そうか。だがあれは、人を選ぶぞ?」
 ガラがそんな誂うような、憐れむような物言いで返答したところで、目的地に着いた。

 金の円環の中に、三種類の海洋生物――シャチ・ウナギ・タコと、オーズのシャウタコンボのオーラングサークルと同じ紋章が刻まれた扉の前に、純一とガラは立っていた。

「……入るぞ」
「…………あー、がっくん!」
 断定口調で告げながらも、扉が開かれるまで待機していたガラへの返答には、幾許か奇妙な間が存在していた。
「うん、いいよいいよ! どうぞー」
 軽い調子の女の声を合図に、扉が開かれる。床を揺るがす歩みを再開したガラが微かに嘆息していたのを、純一は見落とさなかった。



 純一が足を踏み入れた室内は、暗闇に覆われていた。薄闇越しに辛うじて見える用途不明の機器の数々はまるで、中世の魔女の儀式部屋のようにも思えた。
 それらに目を奪われていたところ、二人が踏み入ったのを感知したかのようにパッと照明が点き、純一の網膜を白く灼いた。

「おー、もう取って来たんだ。仕事早ーい!」

 明順応を果たし、視力を回復した頃には、純一達の前にテンションの高い様子の女性が立っていた。

890陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:05:29 ID:Io9mv/lw0

 先程ガラと言葉を交わした声の主。純一は彼女と初対面でこそあったが、既にその姿を見知っていた。故に、微かな驚愕を覚えていた。

「貴女は……篠ノ之博士ですね?」
 問いかけたが、確認するまでもない。目の前にいるのは青と白のワンピースや垂れ気味の瞳が愛嬌を感じさせる、長髪の女性。目を通した資料に載っていたのと寸分違わぬ、篠ノ之束その人だ。
 真木達に監禁されていたと思われた彼女の、あまりにあっけらかんとした登場に一瞬ばかり面食らってしまったが――既に状況のほとんどを掴むことに成功した純一は、彼女が会話に応じてくれるのを待つこととした。
 しかし――束は不機嫌を隠そうともしない表情で、目を窄めて純一を睨めつけてきた。

「はあ? 誰だよ君は」
「これは失礼致しました。私はエリア管理委員会次官の、海東純一と……」
「別に聞いてないよ」
 思いっきり聞かれましたが。
「私の知り合いにそんな気持ち悪いスマイルの人はいないんだよ。今はようやく手元に戻ってきた紅椿の様子を一刻も早く見たいのに、いきなり出てきて貴重な時間を浪費させようなんて、君はいったいどういう了見なのかな」
「それは……申し訳ありません、このような対応で」
 さすがの純一も、一方的過ぎる物言いに苛立ちを覚えた。しかし感情を顕にする愚を犯さず、いつも通り心中と表情とを完全に切り離して礼儀正しく謝罪してみせたが、束の表情にはなおも変化はなかった。
「そこまで言ってやるな、束」
 しかし純一が下手に出ているとは言え、明らかに険悪なものになりつつある雰囲気を察したガラが苦笑しながら仲裁を買って出た。

「その男もまた、“我が”同志なのだ」
「……ふーん。まぁ、がっくんがそう言うならわかったよ」
 不承不承、という様子ではありながらも。先の物言いから想像できないほど容易く譲歩を見せた束の様子に、純一はまた微かな驚きに打たれる。
「くーちゃん、ちょっとお願いー」
「はい、束さま」
 束の呼びかけに対し、部屋の隅で佇んでいた少女が応じた直後。
 その銀髪の少女は、ずっと閉じていた両目を見開いた。白目が黒色に、黒目が金色に染められた異形の双眸を。
「――ワールド・パージ」
 そして、それだけを呟いた。
 目に見えて何かが変わったわけではない――満開の花のような笑顔を、束が浮かべたこと以外は。
「それじゃ改めて。これで自由にお話できるよ。くーちゃんのおかげだね!」
 ぱちぱちぱちぱち、と擬音を発しながら拍手する束がくーちゃんと呼ぶ少女の謎めいた行動に、どんな意味があるというのか。自身に応えてくれた少女の頑張りを、踊り出さんばかりに喜んだ束の様子をまたも純一が訝しむことしかできずにいると、ガラが補足をしてくれた。
「そこのインキュベーターの目を気にしなくとも良いということだ」
 純一達を監視していた異星の白い獣を、ガラはその小さく柔らかそうな顎を使って指し示す。
「他に電子機器があろうと無駄だ。生体同期型のIS『黒鍵』の前ではな……そして魔術的な手段であれば、我に悟られぬ細工をするなど不可能なことよ」
「つまりつまり、今この部屋は文字通り、世界から隔絶(ワールド・パージ)されたわけなのだ。これで出歯亀の心配はナーッシーング!」
 テンションの高い束がまとめたところで、純一も理解できたと反応を示した。
「成程、では――」
「ああ。ようやく本音で話せるな? 同志達よ」
 ガラの含み笑いの後、純一と束も同様の笑みを浮かべた。

891陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:06:24 ID:Io9mv/lw0

 己の欲望のために何もかもを踏み躙ろうとする者特有の、底冷えする笑みを――

「……“欲望の大聖杯”を掴むのは、今グリードを保有する“王”の誰でもない。我らの内、最後に残ったその一人が、真のオーズとなるのだ――っ!」
 そうしてガラは、高らかに宣言した。



 ――そう、そのために純一はガラと結託していた。

 純一とガラは、大聖杯に令呪を与えられなかった。真のオーズ――大聖杯を掴んだ、∞(神)をも超える存在になる資格を、見初められなかったのである。
 ただ、儀式の円滑な運営を補助せよと、その権利を得た王達によって小間使いとして召喚され、裏方として関わっているに過ぎない。

 しかし――それは、現時点での話。
 大聖杯を掴む者が誰であるのかは、まだ確定していない。
 そして、その資格である令呪とは、本来所有者から奪うことのできる代物なのだ。

 それを知るからこそ、彼らは今は真のオーズ候補者達に媚を売る者のようにして振る舞いながら――いずれ来る簒奪の機会を狙って、牙を研いでいたのだ。



「――しかし、篠ノ之博士が青の裏リーダーだったとは驚きです」

 本音で語って良い、などと言われても。現裏リーダーどもと同じく、いずれは出し抜かねばならない相手に本心を見せるわけもない。
 故に笑顔の仮面を被ったまま、束の手の甲にシャウタ柄の令呪を見つけた純一は、当たり障りのない会話を始めていた。
 とはいえ裏リーダーの中に、真っ当な勝利を早々に諦め、ガラ達と同じく勝者の令呪を奪おうと目論んでいる同志がいるとは聞いていたが。それが青陣営の裏リーダーで、しかもそれが篠ノ之束だということは先程まで伏せられていたのだから、驚いたというのは本心だ。

「この分では、私がドクター真木達から与えられていた情報の大半はアテにならないのでしょうね……貴方と同志であるということは、光栄ですが」
 事実としてあの時、篠ノ之箒に語った情報に嘘を混ぜたつもりは純一にはなかった。あの時点では、純一は真木らに束は拉致された一被害者だと思い込んでいたのだ。
 しかし蓋を開けてみれば、被害者どころか発端である真木とも対等な地位――スタッフや支給品となる道具をかき集めた、主催陣営の根幹を成す裏リーダーの一角であったのは、流石に予想外であった。

「まぁ、奴らからすればおまえに正確な情報を渡す旨みもないだろうからな」
 ぞんざいな扱いだ。もっとも、どんな好待遇だろうが純一が裏切るのは確定していたのだから、その判断も間違っているとも言えないのだが。

「まぁマッキーもねー……結構天才だけどほら、私ってば超天才だしー? 比べられたら嫌だから、あんまり本当のこと言いたくなかったんじゃないかな」
 待機形態の紅椿を早速何かの端末で解析しながらなはははと笑う束の様子を見るに、箒が彼女に対する人質というのも、どこまで信じて良いかわかったものではないように思えた。

「そんなおまえでも、開始早々読みが外れて焦っていたな」

 ガラが小さく失笑して漏らした言葉に、束は一瞬固まった後、変わらぬ調子で喋りを再開した。
「あれはねー。白式持ってるいっくんが、あいつにいきなりやられちゃったのは流石の束さんも予想外だったよ」
 表情は笑っているが、目と声が笑っていない。それが織斑一夏の死によるものなのか、ガラに揶揄されたせいなのかまでは純一には探れなかった。

892陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:07:19 ID:Io9mv/lw0

「だって生体兵器って言っても、あの遅れてる世界の技術での産物だし。一応ちーちゃんよりは基礎スペック高く作れてるみたいだけど、こっちじゃ骨董品のバズーカ以下の攻撃力しかないんじゃあ初見でISに勝てるわけない……って思ってたら、いっくんが気づく前に奇襲であっさりだよ? 観察するんじゃなかったのかーって思わずポルポルしちゃったよ」
 ポルポルとかどんな擬音語だ、というのはさておき。どうやら一夏の、少なくともあの時点での死は。束にとっても想定外、意図を外れた結果であったらしい。

「しかもあの後、素人のはずのあいつが普通に白式使えていたし……やっぱり緑のが全部仕込んでたんだろうね。調子乗ってくれちゃってさぁ」
 隠しもしない憎悪を滲ませて、束は表情を険しくした。
 ――織斑一夏の早すぎた死に、あるいはとある“悪意”の関与を嗅ぎ取って。
 ああ――おそらくはこういう時に人質が必要だったのだろうなと、純一は何となしに察した。そしておそらく、ある程度は有効だったということも。
 彼女に対して消えかけていた類の関心が、ほんの微かに蘇った。

「その件については、おまえも人のことを言えまい」
「んー? だって私が有利になるよう仕込んだのはグリードにだけだよ? 一参加者にまでそんな依怙贔屓して良いんだったら、いっくんがあんなのに殺されてるわけないじゃん」
 ガラが再度束を諌めるようなことを口にするが、彼女はその言葉をあっさりと流した。
 ただ、明朗な印象通り。喋ることが好きなのか関連した事柄について、裏の事情をベラベラと喋ってくれるのは、未だ情報不足であることを知ったばかりの純一には有り難かった。

 現時点での話題によると――本来ISの扱いにおいて素人であったXやメズールがそれぞれ、実戦で通用するレベルでの扱いを可能としたのには、カラクリがあったということらしい。
 推測すると開幕までの準備期間中に、各陣営の裏リーダーの手で特別に訓練を受けさせられていた、というのが真相だったようだ。
 無論その記憶はマーベリックのNEXT能力で消失しているが、体に染み付いた技術はある程度残っていた、ということなのだろう。

 しかし他の参加者とは別枠としてある程度自由だったグリードや、支給品となった物品の数々はともかく、聖杯の力で時を停止させられていた参加者への干渉は容易ではないはずだ。せいぜい、緑の裏リーダーが密かに干渉したと思しきX一人が、束以外の全裏リーダーやその配下が手を取り合ったところで干渉できる限界だろう。

「でもわざわざ特訓してあげて、束ちゃんの最高傑作まで調整して貸し出してあげてたのにねー。普通の銃でも殺せる奴一人始末しただけとか、一ミリも戦力にならなかったなあの魚」

 そもそも、ISとは人が乗って初めて真価を発揮する代物だ。
 グリードというメダルの塊を引っ付けていたところで、その性能は無人機の場合と同様。万全を願うのは高望みだったのだろう……等と自分で解説しながらも、束は不満を隠そうともしない。

「まぁ、世界そのものの技術水準が違い過ぎたからねー。さすがにバージョンⅡのIkarosには敵わないにしても、紅椿なら本領発揮しなくたってあの状態のオーズを仕留めるぐらいならできたろうに、全く。挙句ディケイドに突っ込んで死ぬし」
「あの詳細名簿は、戦力面の把握にはそこまで役に立ちませんからね」

 ただ聞いているだけなのもつまらないので、純一もわかる話題には相槌を打ってみることにした。
 あの詳細名簿は、純一も目を通したことがある。確かに主催陣が把握できた範囲ではあるが、簡易な人物説明から詳細な背景、プロフィールについて余すことなく記載されている。
 しかし、その情報をグリードが活かせるように作られた結果、欲望に関わりの薄い部分については記載が控えめとなっている。参加者の戦闘能力についてはその最たるものだ。

 例えばイカロスはビームやミサイルなどの強力な兵装を持ち、国の一つや二つ軽く殲滅できるほどの戦略兵器であるとか、カオスはエンジェロイドでも唯一イカロスに匹敵する戦闘力を持ち、他の兵装や生物を取り込むことで更なる自己進化が可能であるとか。

 セイバーはビル群をも一瞬で蒸発させる光を放つ聖剣『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を保有した最優のサーヴァントで、バーサーカーはそのセイバーすら上回る基礎能力に加え、更なる力を与えるエクスカリバーの姉妹剣の担い手であるとか。

 門矢士こと仮面ライダーディケイドは全ての仮面ライダーを破壊する悪魔とされ、事実数多の世界を渡って来た彼を止められる者はここまで存在しなかった、だとか……大雑把な危険度はわかるが、その詳細が欠けているのである。

893陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:07:59 ID:Io9mv/lw0

 例えばカオスやバーサーカーは同格とされる者達と比べて、大規模高火力の武装がないことが一目見ただけでは把握し難い。一見すればカオスも国家単位の攻撃規模を持った戦略兵器であるように読み取れたり、バーサーカーは全ての面でセイバーを超えていると誤解を招くことだろう。

 故に、例えばウヴァが存命していた頃は、バーサーカーが凄まじいビーム攻撃をして来る最強のサーヴァントだと誤解し怯えている姿が確認できていた。実際のバーサーカーは第四次聖杯戦争においては、相性の問題もあるがアーチャー・ランサー・ライダー、消耗を度外視した場合はキャスターにまでと過半数を相手に敗色濃厚な中堅止まりのサーヴァントであり、高位の英霊とはいえ最強と呼ぶのは憚られる存在だ。更に言えば単なる身体強化の『無垢なる湖光(アロンダイト)』の攻撃では、対グリード特攻を持つメダガブリューすら受け付けない完全体のウヴァを打倒することは困難――狂化スキルの影響で搦手を使われる心配もなく、ウヴァ自身からすればむしろカモと呼ぶべき相手であったにも関わらず、だ。

 そんな詳細がわからない解説に踊らされたがために、束のグリードであったメズールも最初の交戦でダメージを受けなかったなどと油断して、液状化能力を攻略できるディケイド相手に挑発するなどという墓穴を掘る羽目になったのだろう。昼間のディケイドが――理由は純一には不明ながら――明らかに手を抜いていたということも、いくらグリードとはいえ参加者の身分ではわかるはずもない。



「……とはいえ、束よ。どの道メズールが終盤を待たずに脱落することは、貴様も想定済みだったのだろう?」
 ガラの問いに、「んー」と束はなおも渋い顔をする。
「まーそれはね? 明らかにグリード単体の戦力じゃ緑が突出してるし、予め代理リーダーが仕込まれている赤が始まる前から有利だったりで、まともにやるよりはがっくん辺りと手を組んで漁夫の利を狙うべきってのは明白だったし。でも一応は普通の優勝も最低限狙おうと思ってこれ渡してたから、魚の不甲斐なさがね……まさか代理リーダーも作れないなんてさ」
 待機形態の紅椿を見せて嘆いてみせる束の様子にほとほと疲れたのか、ガラは呆れたような溜息を吐いた。

「そこまで考えてそれでも青を有利にしておきたかったのであれば、ブレイバックルに細工なぞしなければ良かったのだ」
 ただ、そのために口にした内容が余りにも無茶であったために、束もたちまち反発する。
「それは別の問題だよ。反抗されるのわかり切っているんじゃ戦力に勘定できないし……っていうかあれを野放しにしてたら確実に失敗するもん、この聖杯戦争」
 そうして束は、もう一人――主催陣の干渉が原因で、不当な脱落を遂げた参加者について言及した。

 その名は、剣崎一真――純一達の持つそれと極めて近いライダーシステムの、仮面ライダーブレイドに変身する男だった。



 まだ、参加者達の時が止まっていた頃の話だ。
 主催陣営は水面下で牽制し合いつつ、参加者の情報収集や支給品の選定を行っていた。

 そして、参加者の情報が集まるに連れて、殺し合いを破綻させかねないいくつかの問題も浮上して来た。
 その内、会場からの脱出に直結するような異能は既に聖杯によってメダル制限とは別個に枷を設けられていたため、単純に問題となったのは参加者間のパワーバランスにあった。
 特に魔人ネウロ、イカロスにカオスというエンジェロイド、仮面ライダーディケイドなどは、この聖杯戦争において他とは隔絶した戦闘力を誇っていた。
 その力で儀式そのものを瓦解されるのはもちろん、一方的な力ですぐに決着してしまってもセルメダルを参加者の欲望に馴染ませることができず、聖杯の起動条件を満たせない可能性がある。故にこれら規格外の参加者には、主催陣営の手が及ぶ範囲での対策が必要とされたのだ。

 そして――そんな規格外の参加者の中でも、制限されたディケイドや、あのスーパータトバの上位互換とも言える戦力を発揮し、なおかつ確実に殺し合いに反抗して儀式を破綻させるものと危険視されたのが、剣崎一真だった。

 無制限の時間停止という、対人戦においておよそ反則的な能力。それを含めた多彩な特殊能力を操るのは、世界を破壊する不死の邪神すら一刀の下に滅する力を持った、仮面ライダーブレイドキングフォーム。

894陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:08:29 ID:Io9mv/lw0

 しかもそれを纏う剣崎自身が、単純な力量ならキングフォームにも匹敵する最強のアンデッド――純一が同化を目論むほどに強力な死神、ジョーカーアンデッドの力を持つ。
 その力を殺し合いの阻止に向けられては、高確率で儀式は破綻する。故にその存在は主催陣営から何より危惧された。

 しかし、“欲望の大聖杯”の起動条件を満たすためには、聖杯が選んだ参加者である剣崎達を殺し合いの前に始末することはできなかった。

 剣崎に限らず、厄介な参加者については首輪で爆破できれば簡単なことだったかもしれない。しかし見せしめに用いるダミーとは異なり、参加者の首に既に巻きついている本物のそれは聖杯が用意した物であり、様々な情報を開示してくれはすれど、未だ聖杯を手にしていない主催陣営の意志で自由に起爆することはできなかったのだ。

 規格外の参加者の内、ネウロは聖杯の力によって放っておいても窒息死することが明らかになった。ディケイドは殺し合いを促進する存在になり得るということで、カードの大部分を奪って弱体化させるに止めた。エンジェロイド達もまた、その不安定な精神性からむしろディケイド同様に儀式の完遂に役立つために微調整で良いと結論づけられたが、剣崎一真だけはそれだけではいかなかった。
 
 ブレイバックル、あるいは一部のラウズカードを取り上げれば、戦力の絶対性を奪うだけなら十分だったかもしれない。しかしキングフォームがなければ代用されるだろうジョーカーの力だけでも参加者中最上位に迫り、周囲の人間にも影響する強靭な精神性を持つために、あるいは精神の不安定を理由に見逃されたエンジェロイド達がその代理を果たしてしまう恐れもあった。
 ジョーカーの力さえも剥奪できれば良かったのだろうが、前述の通り支給品ならともかく参加者に干渉するのは容易ではなく、まして星の集合意思が生み出した最上のアンデッドの力を抑制する手段も、人間に戻す技術も彼らは持ち合わせていなかった。

 危険性を認識した上で、ブレイバックルを没収して参戦させるしかないと、話が纏まりかけていた頃だ。一計を案じた真木が、打開策を皆に提示したのは。
 真木が示した対策が、ブレイバックルに細工を施した上での剣崎の暗殺だった。
 
 剣崎を人間に戻すことはできない。しかしブレイバックルという人造物に細工を加えることならできる。そういった発想の逆転だった。

 こうして真木達は、剣崎を仕留めるためにブレイバックル、それを通してキングフォームに罠を潜めた。同じカードは変身中一度しか使用できないよう設定することでタイムスカラベとロイヤルストレートフラッシュの同時使用の阻止と合わせてその能力の万能性を損なわせ、更に融合係数に強固な制限をかけることで出力を低下。加え変身の負担を大幅に増加させ、トドメに変身してから一定時間が経過することでバックルが自壊するように仕掛けた。
 これで、状態の把握できていない初戦において普段の力が出せないまま戦いを長引かせ、弱り果てた剣崎が生身を晒すというお膳立ては整った。

 消耗したジョーカーアンデッドなら倒せる者も少なくはなかったが、最終的に刺客として配置されるのは理性のないバーサーカーが選ばれた。初戦で死に至って貰わなければ通じない策だが、序盤にカオスを接触させては彼に懐柔されてしまう危険性があり、シャドームーンやグリードでは警戒して交戦を避ける可能性が高いためだ。

 そこまでの準備を重ねた結果、目論見通り剣崎一真は初戦で敗北した。アンデッドである以上ラウズカードに封印されているだけだろうが、解放する手段はこの殺し合いに関与していない以上、脱落に変わりはない。

 細工の副作用か、消え去るはずだったキングラウザーが会場に残り続けていることは想定外だったが、大した要素ではない。後は計画通り、ではあるのだが――そんな解体待ちの爆弾を持たされれていた青陣営は、他より頭数が少ない状態でのスタートを強いられていたのに同義だったのだ。成程そうして見ると、早々に真っ当な勝敗に見切りをつけたのが青の裏リーダーであることは自然な成り行きにも思えた。

895陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:08:58 ID:Io9mv/lw0

「――ま、最初にがっくんを誘ったように、ここからは私も他の令呪を狙うスタンスで割り切っていくよ」
 それでも未練を見せていたことに不快感を示された束はようやく譲歩して、その感情を引っ込めた。



「……それで? 新顔くんにも背景を説明してみたけれど、今回は他に何かお題はあるのかな?」
「うむ……所詮はただの顔合わせであったからな」

 束の確認に対し、ガラは鷹揚に頷いてみせた。

「今の時点では、何色の令呪を奪うかも決まっておらぬからのう」
「仰る通りです。暫くはこのまま、殺し合いの進行を見守りましょう」
 純一も頷きつつ、今後の展望を提案する。

 純一達の目的は、最終勝利者となる裏リーダーが聖杯を獲得する寸前に、その令呪を強奪することだ。
 一度令呪を得てしまうと、制限によって他の裏リーダーには攻撃を加えることができなくなる。またその後のことを警戒されると考えれば、決行はまさに終盤、一度きりに限られる。
 それまではせいぜい、決戦に向けた各陣営への工作と、そのための情報収集ぐらいしかできることはない。現時点ではまだ、どの陣営が優勝するかも定かではないのだから。

 故に、そこで解散となった。



「よーし! それじゃそれじゃ、紅椿の修理始めちゃおっかなー!」
 でもただ直したのを渡しても、箒ちゃんも嬉しくないだろうなー、などと。天真爛漫にすら見える勢いではしゃぐ束は、紅椿の鈴を鳴らしながら部屋の奥に消えていった。
「……監視については、まだ暫く誤魔化しておけます。実際のお二人の動きに合わせて調整できる内に、ご退室を」
 異色の双眸を開いたままの少女は、言外に早めの退場を促していた。

 この十代前半の少女については、束の付き人であることしか純一にはわからない。
 ただ、いずれは主人と聖杯を取り合うガラや純一のことを、快く思っていないということは理解できた。
 ここは表面上にこやかな態度のまま、純一もガラを促し、退室しようとした。

「待て」
 しかし小さな声で、歩み寄ったガラに耳打ちされた。
「例の件は、どうなっている?」
 高い位置から見下ろすガラの紅玉の視線に、純一はだからここまで切り出さなかったのか、と察しを付けた。
「成程……確かに、魔術の心得のない私だけでは解析できませんでしたからね。こちらに記録を纏めてあります」
 呟いて純一は、合流する事前に確保しておいた資料の一つを取り出した。
「天才錬金術師であるガラさんの智慧、是非ともお貸しください」
 意味深な単語を口にしたことを咎めるような視線をしていることに気づき、内心ではしてやったりと思いつつも焦った表情を純一は作る。
 暫しの後、嘆息したガラが目を瞑った一瞬の隙に、純一はもう一人の銀髪の少女に目配せをする。
 あくまで一瞬のこと。こちらの視線に彼女が気づいているかは定かではない。しかし険しくなっていた表情を見て、証人を確保した手応えを悟り、密かに拳を握り込んだ。

896陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:09:41 ID:Io9mv/lw0

 これで、後に反故にされる可能性を下げることができる。ガラといえど純一や束まで同時に敵に回したくはない以上、今のやり取りをあの少女に聞かせたことは、肝心の令呪の移植で出し抜かれる事態への牽制になるはずだ。

「……良い。では約束通り、今度は我が事を進めておく」
 足元を揺るがせながら、ガラが去って行く。

 純一が入手してきた、衛宮切嗣が間桐雁夜から令呪を奪った過程を、魔術的な見地から解析するために。

(愛娘をあんな風に扱われ、会場内での己の行動すら利用される……同情するよ、魔術師殺し)

 その背を見送りながら、哀れな道化である男の姿を思い出した純一もまた、失笑を殺しながら歩みを再開した。
 緩慢な終わりの到来を少しでも早めるべく、自ら迎えに行こうとするように。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


「束さま」
 研究所でもある自室の最奥。束が紅椿を解析にかけていると、目を開いたままで銀髪の少女が駆け込んで来た。
「あー、ありがとくーちゃん! がっくん達は帰ったの?」
 束の返答に、銀髪の少女――クロエ・クロニクルは、心なし苛立ちを含めた声音で答えた。
「はい。ですがあの者ども、束さまを置いて……」
「あー、うん。どうせ令呪の移植について勝手に事を進めてるんでしょ?」
 図星だったのか、すぐさま驚いた顔を浮かべたクロエの素直さに、束は明るく微笑みかける。
「どの道魔術の専門家としては、ここにはがっくん以上の人は居ないだろうしねー。元々その点であっちにアドバンテージがあるのはわかっていたし。がっくんは分野こそ違っても、私でも一目置くぐらいの天才だもんね。
 でも束さんはもっと凄いのだ! とっくに私なりのやり方で、他の色の令呪を手に入れる準備ぐらいできちゃってるんだよー!」
 ブイブイ、と続けていると、やがてクロエは驚きに固まっていた表情を和らげてくれた。
「流石です、束さま」
「いえーい、もっと褒めて褒めてー……うん、くーちゃんはやっぱり怒ってない声の方が、私は好きだよ」

 ガラ達との関係も、あくまで互いに、共通の敵の手の内を探り、その戦力を削るために結成した形だけの同盟であることを、束は十分に理解していた。
 何かしら提供できる情報と交換に、相手が掴んだ情報を引き出すギブアンドテイクのドライな関係。それを弁えている――というより、ほぼ全ての人間に執着のない束にとっては自然に近い認識だったために、彼らが自分を除け者にして何かしようとしていたのだとしても気にはならなかった。

「それでねくーちゃん、紅椿どうしちゃおっか? そんなに時間がないから大したことはできないだろうけど、どうせ直すならシナプス辺りの技術を組み込んでも面白そうじゃない?」
「ええ、とても」
 クロエと言葉を交わしながら、自身の最高傑作――大切な一人っきりの妹に、時が来れば届けるためのプレゼントをどう仕上げるのかを、束は夢想する。
 異世界の技術というのは、十二分に束の関心を引いた。束が世界の何十年先を行く頭脳を持とうと、出発点としては現在持ち得る知識を基準にしてしまう。遥かに進んだ技術に触れることができたのは、今の世界を楽しくないと思っていた束にとってはそれだけで幸運だったのだ。

 ましてや、数多の並行世界への干渉すらその一端。無限大をも超えると言われる“欲望の大聖杯”の力を手に入れれば、もっと楽しくなるだろう――そう考えた束がこの聖杯戦争なるイベントを歓迎したのは、至極当然のことだった――そのための生贄候補の中に、織斑姉弟がいたとしても。

897陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:10:10 ID:Io9mv/lw0

 無関係だった箒を牽制として捕らえられたのは失態だったが、既に解放の計画は準備してある。彼女にはいざという舞台の時まで、もう暫く待っておいて貰おう。

(ところでさーマッキー……別にブレイド倒すのに使うの、ディケイドでも良かったよね?)

 やがて――インキュベーターへの『ワールド・パージ』を解除すべく、目を伏せたクロエの様子を確認した束は一人。それまでとは異なる思考を展開していた。
 このタイミングが訪れるまで保留しておいた、重要な問題を。

(バックルを壊す必要もなかったよねー……何ならデメリットを上手く調整してから、バーサーカーに使わせても良かったんだし。キングフォームはどうせ本人かバーサーカー以外じゃ使えないんだろうから、別段困る物でもないよね)
 一見すれば、自壊機能を積み込むことも、何もおかしくはない……の、だが。

 真木清人は――この殺し合いに関わる存在の中でも、最古参たる人物だ。
 即ち今は亡き“預言者”と最も通じ――主催陣営の誰よりも、並行世界についての知識を持つ存在。

 そして、本来なら勝利条件――というより聖杯を使用できる理由が存在しない、無所属こと“紫”陣営の裏の王という、存在そのものが不可解な立場に就いている。

(何を企んでいるのかな?)

 その全容を知る術はない。しかし不足した情報を埋める手段なら――ある。
 もう一人、いるのだ。裏リーダーよりも古くから、“預言者”と関わりのあった存在が。
 その情報源を残すために、束もかの者の処刑には反対したのだから。

(当然……マッキーの監視も厳しかったし、がっくん達と共有するべき情報なのかは手に入れてから判断したかったもんね。今の今まではまだ青陣営があったから私も会場の監視に気を払っていたけど……今なら話は、別だよね?)

 青陣営が消滅し、放送までに復帰する様子はない。紅椿の回収も完了した以上、暫くは束も暇ができた。
 逆に、他の裏リーダーはまだまだ会場の監視に忙しいはずだ。今なら彼らの目を盗んで、バトルロワイアル開始以前では困難だった行為も達成し易いはず。
 この殺し合いの発端となった人物の一人――鴻上光生との、接触が。

「ねえくーちゃん、ちょっとお使いを頼まれてくれないかな?」
 そこまで考えたところで束は、目を閉じたまま自分に追従しているクロエに声をかけた。
 娘として拾ったこの少女に与えたのはその名前と、生体同期型のIS『黒鍵』。その能力を持ってすれば、鴻上の握る真木との秘密を暴くことも容易い。
 実際に役立つ情報なのかはわからないが、それは手に入れてから判断すべきこと――

「――くーちゃん?」
 そこまで考えたところで、束は異常に気がついた。
「……失礼しましたっ、束様」
 クロエは母想いの良い娘だ。束の頼みとあれば、少々堅苦しい言い回しでも喜んで飛びついてきてくれそうなものなのに――
「……何なりと、ご申し付けください」
 そんな彼女が、束の言葉を聞いていなかった。
「んー……」
 慌てた様子を目撃した束は、クロエに関する記憶を検索していた。
 これは珍しい事態だ。非常に珍しい。初めて料理させた時に、促しても失敗作を束の前に出すのを躊躇っていた時以来だ。
「やっぱいいや」
 だから、娘に何か辛いことがあったのだろうと、母として束は考えた。

 おそらく――監視端末用のインキュベーターに『ワールド・パージ』を仕掛けた際。そのネットワークを介して、会場内の情報を取得してしまったのだろう。
 クロエの精神に影響を与え得る人物……ラウラ・ボーデヴィッヒの身に、何かあったのかもしれない。

898陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:11:41 ID:Io9mv/lw0

 操作していた端末を閉じ、腰を折った束はクロエの顔を覗き込む。
「大丈夫かにゃー? くーちゃん」
「は、はい……束様」
 頷く愛娘を、束は優しく抱き寄せた。
 急な包容に驚く様子が伝わってきたが、柔らかい力加減を心がけたまま、手放さない。
「よかったぁ……でも、やっぱり堅いよくーちゃんはー。束さんのこと、ママって呼んでくれても良いんだよ?」
 戸惑う彼女を温めるようにしながら、束は耳元で優しく囁いた。
「ママはずっと、くーちゃんの傍にいるからね?」
「……束、さま……っ!」
 感極まったクロエの声。それでも改められない呼称に「かったいなぁ」と思わず脱力しながらも、束はその胸を貸し続ける。

 ――お使いを頼むのは、また後にしようと考えながら。
 青陣営の女王は、偽りの母娘の愛に浸っていた。



【一日目 真夜中(?)】
【???】


【篠ノ之束@インフィニット・ストラトス】
【所属】青・裏リーダー
【状態】健康、左手の甲に令呪(青)保有、真木清人の真意に若干の興味
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】紅椿@インフィニット・ストラトス、他不明
【思考・状況】
 基本:面白そうだから、“欲望の大聖杯”を手に入れてみる。
  0:クロエが辛そうだから慰める。
  1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
  2:1と並行して、自身が聖杯を獲得できる準備を進める(青陣営を優勝させるか、令呪を消費・放棄して他色の令呪を奪う)。
  3:期を見てクロエを鴻上光生に接触させ、“預言者”に関する情報を集めておきたい。
  4:箒に紅椿を返す前に、異世界の技術で強化改造してみるのも面白いかもしれない。
【備考】
※同じ天才として、今のところガラと真木の名前は覚えているようですが、純一のことは笑顔の気持ち悪い奴としか記憶していません。
※剣崎の暗殺に関連して、真木が何らかの企みを進行させていると予想しています。
※素人のXが白式を満足に扱ったことから、一夏の死に緑陣営の裏リーダーの関与を疑っています。



【クロエ・クロニクル@インフィニット・ストラトス】
【所属】不明
【状態】健康、精神的ショック(中)
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】黒鍵@インフィニット・ストラトス
【道具】不明
【思考・状況】
 基本:束さまに尽くす。
  0:束さま……
  1:束さまに尽くす。
  2:あの子……
【備考】
※ラウラ・ボーデヴィッヒがウヴァに精神を乗っ取られたことを知りました。

899陰謀と計略と不実の集い ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:12:02 ID:Io9mv/lw0


【ガラ@仮面ライダーOOO】
【所属】不明
【状態】健康、イリヤスフィールの身体に憑依中
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】不明
【道具】不明
【思考・状況】
 基本:真のオーズとなるため、“欲望の大聖杯”を手に入れる。
  1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
  2:1と並行して、自身が聖杯を獲得できる準備を進める(優勝陣営の令呪を奪う)。
【備考】
※器にはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Zeroを利用しています。



【海東純一@仮面ライダーディケイド】
【所属】不明
【状態】健康
【首輪】なし
【コア】不明
【装備】カリスラウザー&ラウズカード(♡A〜K、ジョーカー、ケルベロスA)
【道具】不明
【思考・状況】
 基本:全ての世界を支配するため、“欲望の大聖杯”を手に入れる。
  1:バトルロワイアルを完結させ、“欲望の大聖杯”を起動する。
  2:1と並行して、自身が聖杯を獲得できる準備を進める(優勝陣営の令呪を奪う)。
【備考】



【全体備考】
※主催側に【篠ノ之束@インフィニット・ストラトス】が存在しています。また、束が青陣営の裏リーダーでした。
※主催側に【クロエ・クロニクル@インフィニット・ストラトス】が存在しています。
※主催側に【ガラ@仮面ライダーOOO】が存在しています。
 またその器として、主催側に【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Zero】が存在しています。
※参加者の首輪は、ルールに明記された特定条件を満たさない限り、主催陣営にも任意の起爆はできません。
※紅椿@インフィニット・ストラトスが主催陣営に回収され、バトルロワイアル会場から失われました。
※主催陣営は“欲望の大聖杯”を起動させるには、参加者の欲望にセルメダルを馴染ませる必要があるのではと考えています。そのためにどの程度の期間を見ているのかは後続の書き手さんにお任せします。

900 ◆z9JH9su20Q:2014/11/30(日) 00:16:40 ID:Io9mv/lw0
以上で投下完了です。
全体備考でガラについての項目を仮投下時から少しだけ変更しています。
仮投下を通してありますが、内容が内容だけに問題があると思われた際にはご意見頂けると幸いです。

901名無しさん:2014/11/30(日) 13:23:51 ID:CGKa4XSQO
投下乙です。

またしても、博士キャラが裏王。
全く、マッドサイエンティストにはろくなのがいないな!
他の裏リーダーにも、人質とられてる奴がいるのかな?

真木の狙いは、ブレイバックルの破壊。
何だろ。リモートで剣崎アンデッドを使うつもりなのかな?
ディケイドは、アンデッドも殺せるしな。ラウズカードが残らない。

zeroのイリヤは、合法じゃなくてガチ幼女。
このロワの切嗣は散々だが、イリヤの状況を知らないからこそ、士郎の事だけ考えて素直に正義の味方を目指せてるのは皮肉。

902名無しさん:2014/11/30(日) 14:21:01 ID:F4lkpkHk0
投下乙です

あの基地外兎め
聖杯戦争に興味持たずにそのまま何もしなかったいいものを…
でもそいつにそれは無理だろうなあw

さて、大きな矛盾は無い様に見えるが仮面ライダーは詳しくないから詳しい人に見て貰わないと…

そしてイリヤ、しかもその時期のイリヤとは…
切嗣にとってこれは…
原作切嗣ならともかく今の切嗣には…

903 ◆qp1M9UH9gw:2014/12/05(金) 03:12:38 ID:1fxt4f4Y0
投下します。

904正義失格者 ◆qp1M9UH9gw:2014/12/05(金) 03:13:33 ID:1fxt4f4Y0

【1】


 車窓から見えるのは、黒一色だけ。
 星一つ無い闇の中を、列車は独り突き進む。

 本来、この空間は桜井智樹の抱える欲望を具現化した場所であった。
 しかし、桜井智樹が死した今、この世界が何かを映し出す事は無い。
 欲望が消え失せた世界に残るのは、何一つ存在しない"無"だけである。

 車窓の先を凝視した所で、何かが進展する訳でもない。
 しかし、バーナビーはじっと窓の外を見つめ続けていた。

 結論から言うと、後藤慎太郎は伊達明の外見さえ把握していなかった。
 伊達に関する事をどれだけ話してみても、彼は首を傾げるばかりである。
 どれだけ熱心に説明を重ね、どれだけ丁寧に解説を行っても。
 後藤から返ってくるのは、「そんな男は知らない」という一言だけだった。

 伊達が狂っていた、という訳ではないだろう。
 後藤の話をしていた時の彼の瞳が、狂人のそれだとは思えない。
 そしてまた、後藤も脳に異常を負っているという事も考え難かった。
 伊達の名前に疑問符を浮かべる彼の瞳は、嘘をつく者のそれではない。

 だからこそ、途方に暮れる他なかった。
 これ以上何を話したところで、後藤に変化が起こる筈も無い。
 「伊達さんがとても大切に思っていた後藤さん」は、この場にはいないのだから。

 窓の向こうに見える無の世界と同じ様に。
 伊達と後藤の関係など、最初からありはしなかった。

「バーナビー、少しいいか」

 バーナビーが捉えたのは、向かい側に座る後藤の声だった。
 窓に映る漆黒から、彼へと視線を移す。
 虚ろな眼を通して見えた後藤の姿は、酷く輝いて見えた。

「……何ですか」
「もう一度聞きたいんだが、本当に俺はその伊達明という男と知り合いだったのか?」
「伊達さんからは、そう聞いてますが」

905正義失格者 ◆qp1M9UH9gw:2014/12/05(金) 03:14:32 ID:1fxt4f4Y0

 力ない返事を貰った後藤は、口元に手を当てて熟考し始めた。
 大方、どうにかして伊達の記憶を掘り起こそうとしているのだろう。
 存在しないものを探した所で、無意味だというのに。

 車窓を眺めていた内に、バーナビーはある事に気付いていた。
 それは、後藤が伊達とは異なる時間軸から連れて来られているという事だ。
 皮肉な話ではあるが、この列車で後藤と会話を交わした事でようやく確信がついた。
 どういった手段を用いたかは知らないが、真木は時間軸に干渉しているのだ。
 突拍子も無い発想だが、これなら伊達との会話で生じた季節感のズレについても説明がつく。

 「他者の記憶を操作する」という、既に死んだ能力者が関与しているという発想を除けば。
 現状を納得のいく形で呑み込むには、そう考えるしかなかった。

(でも、それを言った所でどうなるっていうんだ)

 どれだけ理屈をこねくり回した所で、後藤は伊達の事を全く知らない事に変わりは無い。
 だとすれば、もうこの話はその時点で終わっている。
 今バーナビーの目の前にいる男は、後藤であって後藤ではないのだ。
 無力感に打ちひしがれた今の彼では、その結論に辿り着くのがやっとだった。

「その伊達という男は、俺を何と言っていた?」

 熟考を止めた後藤が、そう問いかけていた。
 それに対し、バーナビーは少しばかり記憶を辿った後、

「立派に成長した、愛弟子だと」
「……そうか。一度、会ってみたかったな」

 それを最後に会話は途絶え、沈黙が列車を支配する。
 二人は押し黙ったまま、車両の進行に身を任せるばかりであった。

 列車の窓からは、相も変わらず何一つ見えなかった。
 死んだ世界が、鮮やかな色を宿す筈も無い。

906正義失格者 ◆qp1M9UH9gw:2014/12/05(金) 03:16:04 ID:1fxt4f4Y0

【2】


 二人が元の世界に送り返されたのは、その数分後であった。
 列車を包む闇が急に晴れた瞬間、気付けば会場に戻っていた。
 シナプスのカードは既にバーナビーの手元にはなく、それはつまり、あの無の世界には二度と移動できないという事を示していた。

「虎徹さん達の所には、貴方が行ってくれませんか」

 元の世界に戻って早々、バーナビーはそう後藤に提案してきた。
 曰く、火野さんを知っている貴方の方が、彼の傍にいるべきだ。貴方の様な人なら、きっと虎徹さんの力になれると。
 どうして急にそんな要求をしてきたのかと疑問に思ったが、バーナビーが殺し合いに乗る様な悪人には見えない。
 後藤は渋々ながらも、彼の提案を受け入れる事にした。

 そうして今、バーナビーはヘリオスエナジー社に向かい、後藤は火野達の元に足を進めている。
 列車に揺られていた時間はそう長くはないので、彼等もそう遠くには行ってない筈だ。
 暴走していたらしい火野に対する焦燥感を抱えながらも、彼は真っ直ぐ走り続ける。

(伊達明、か)

 そんな中、後藤の心中で紡がれたのは、自分の未来の師匠らしい男の名前だった。
 バーナビーによれは、その男と自分との間には固い絆があったのだという。
 正直に言うと、記憶にない男との関係を語られ、終始困惑するしかなかった。

 普通であれば、狂人の戯言だと一蹴する様な戯言である。
 しかし、後藤は一概にそれを否定する事が出来なかった。

 その理由は、後藤が拾ったバースドライバーにある。
 どういう偶然か、伊達もまた同型のベルトを所有していたというのだ。
 師匠と名乗る男と同じ武器を拾ったという事実に、後藤は妙な縁を感じざるを得なかった。

 立ち止まり、バースドライバーを取り出してみる。
 所々傷ができているが、後藤が持つバースドライバーは今も正常に起動できる。
 それはつまり、彼もまたオーズの様に変身して戦えるという事を意味していた。

 かつて伊達が変身していたバースに、今度は後藤が変身する。
 そしてその初代バースは、二代目バースの師匠を自称している。
 偶然にしては、やや出来過ぎているようにさえ思えた。

 後藤の耳に何者かの声が飛び込んできたのは、そんな時だった。
 「頑張れよ」という男の低い声は、どういう訳かベルトから聴こえてきた気がした。
 ベルトが意思を持って激励を送る筈がない。これは所詮幻聴に過ぎない。
 それでも、所詮幻聴に過ぎないと考えていても。

「……当たり前だ」

 返答せずには、いられなかった。

907正義失格者 ◆qp1M9UH9gw:2014/12/05(金) 03:16:54 ID:1fxt4f4Y0

【3】


 とにかく、今は独りになりたかった。
 誰もいない場所で、誰にも触れられないままでいたかった。

 思い返す。この殺し合いの場で、自分が何をしてきたのか。
 伊達の背中に嫉妬し、同行者の少女を救えず、挙句伊達を目の前で喪ってしまった。
 バーナビー・ブルックスJr.が今まで為してきた事が、果たしてプラスに働いた事があったか。
 答えは否。皆を護るヒーローの看板を背負いながら、彼はあまりに多くの物を取り零してしまった。

 消えた命は戻らない。欠けた思いは直らない。
 逝ってしまった物の中に、取り返しのつく物など一つもありはしなかった。
 ヒーローの肩書きを持つのなら、猶更その意味は重くなる。

 悔やんでも悔やんでも、己の犯した怠慢という罪は消える事は無い。
 どれだけ謝罪を重ねても、鈴音と伊達が、同僚のヒーローが、罪も無い命は帰って来ないのだ。

 自分が憧れる相棒に同行者を重ね、身勝手な理由で怒りを覚える。
 それがどれだけ愚かな行為で、ヒーローにあるまじき行為なのか。
 嫉妬の対象であった伊達が跡形も無く消滅した事で、ようやく気付く事が出来た。

 思えば、伊達明の生き様は正しくヒーローのそれであった。
 最期まで他者の救済の為に動き、そして散っていった男。
 もし彼がいなければ、バーナビーは鴻上ファウンデーションで死を迎えていただろう。

 にも関わらず、バーナビーは伊達の温情にただ苛立つだけだった。
 その席にいるのはお前ではないと、内心で怒りを募らせるばかり。
 そうして、そんな下らない感情を昂ぶらせたまま――バーナビーの目の前で、伊達は爆散した。

 もしも自分が、伊達に対しもっと素直でいたのなら。
 もしも自分が、伊達の優しさに素直になれたのなら。
 こんな最悪の形でない、別の結末があり得たのではないのだろうか?
 鈴音や伊達と共に戦っていたという、最良の展開も望めたのではないか?

 目先の感情に振り回され、無力感に打ちひしがれた弱者。
 こんな人間が、ワイルドタイガーの隣にいていいのか。
 何も護れなかった男に、本物のヒーローの相棒になる資格などあるのか。

 だが、バーナビーには分かってしまう。
 鏑木・T・虎徹という男は、そんな事を気にする様な男ではない事に。

908正義失格者 ◆qp1M9UH9gw:2014/12/05(金) 03:18:52 ID:1fxt4f4Y0

 きっとワイルドタイガーは、あのお人好しのヒーローは。
 絶望するバーナビーさえも、快く受け入れてくれるのだろう。
 「んな事気にするな」と、いつも通りの笑みを見せてくれるに違いない。

「そんなの……許されていい訳が無い」

 だからこそ、バーナビーは戻らない。戻れない。
 ヒーローになれなかった愚者は、虎徹の隣に並び立つべきではないのだ。
 何より、今から我が物顔して彼の相棒を務めるのは、バーナビー自身が許さない。

 後藤には神社で落ちあうと話したが、恐らくバーナビーが彼と顔を合わせる事はない。
 ヘリオスエナジー社で身を縮める二人を神社の目の前まで送った後、彼は独り去るつもりなのだから。
 今の自分は、虎徹の相棒には相応しくない。きっと自分の存在が、虎徹の正義を挫いてしまう。

 伊達の話を聞く限りでは、後藤慎太郎は正義感に溢れた男なのだという。
 バーナビーが出会った後藤は伊達すら知らない時期から連れて来られた様だが、根本的な性格に変化はない筈だ。
 少なくとも、今こうして挫けている弱者よりかは、彼にはヒーローの素質がある。
 彼ならきっと、ワイルドタイガーの脚を引っ張らずに戦える筈だ。

「虎徹さん、僕は――――」

 貴方のパートナーとして、殺し合いを止めたかった。
 今となっては叶えようがない願いを口ずさんだ後、逃げる様にその場を後にする。

 そこにいたのは、復讐鬼でも道化でも、ましてやヒーローでもなく。
 己の無力に押し潰された、一人の弱者であった。

909正義失格者 ◆qp1M9UH9gw:2014/12/05(金) 03:19:35 ID:1fxt4f4Y0

【一日目 真夜中】
【D-5 北東】

【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】健康、若干の気持ちの焦り、バーナビーの言動に対する戸惑い
【首輪】100枚:0枚
【コア】サイ(感情)
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式×6、橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)、バースドライバー@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊として、できることをやる
 1.火野達を探し、合流する。
 2.殺し合いに乗った者と野球帽の男(葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
 3.マミちゃんのために、火野映司とワイルドタイガーを助けたいが……。
 4.今は自分にできることを……。
 5.伊達明とは一体……?
【備考】
※参戦時期は原作最初期(12話以前)からです。
※メズールのことを牧瀬紅莉栖だと思っています。
※巴マミからキャッスルドランで起こった出来事を一通り聞きました。
※オーズドライバーは火野でなくても変身できる代わりに暴走リスクが上がっているのではと考えています。
※バースドライバーが作動するようです。

【一日目 真夜中】
【C-6 南西】

【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、無力感、ディケイドへの憎しみ、ラウラへの罪悪感
【首輪】10枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(前面装甲脱落、後背部装甲中破)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、
    プロトバースドライバー@仮面ライダーオーズ(破損中)、バースバスター@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止めたかった。
 1.園咲冴子と牧瀬紅莉栖の保護。
 2.今はまだ、虎徹さんに会いたくない。
 3.伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ているけど少しだけ違った。
 4.ディケイド、イカロス、Rナスカ(冴子)を警戒。特にディケイドは許さない。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。
※シナプスカード(智樹の社窓)は消滅しました。

910 ◆qp1M9UH9gw:2014/12/05(金) 03:19:54 ID:1fxt4f4Y0
投下終了です

911名無しさん:2014/12/05(金) 20:34:53 ID:oigyEFaY0
投下乙です

無力感や焦りが見え隠れして危うい二人だがこのままだと…
この二人の先のいいイメージが沸かないなあ
それだけ俺から見て危ういわ…

912名無しさん:2014/12/05(金) 23:36:19 ID:14.rm8yM0
投下乙です。
智樹とホモ達の添い寝やらの地獄絵図が展開されるかと思ったら、特にそんなことはなくて良かったぜ!
しかしよく似たポジションのはずの二人なのに心の中は色々と対照的になったものだ……この後のバーナビーはどうなることやら
5103も心は本編バース時代に近づいてるけど体は鍛えたりないし知識もマニュアル読めてなくてまだまだ戦力的に不安

最後に気になった点を バーナビーが冴子達の保護をと言っていますが、マミさんへの言及がありません
後藤さんが伝えないのも変かと思いますのでその周辺だけはご修正願えればと思います

913 ◆qp1M9UH9gw:2014/12/10(水) 03:15:19 ID:K/9VZwEY0
感想ありがとうございます。

>>912
修正したものをwikiに収録しました。ご確認お願いします。

914名無しさん:2014/12/10(水) 18:41:14 ID:TaPc7OBs0
>>914 修正お疲れ様です。wiki収録版を拝見させて貰いました。自分はもう何も問題ないと思います。

915名無しさん:2014/12/28(日) 00:23:30 ID:moIiwYjoO
予約キタ

916 ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 00:55:14 ID:Bh8AFAV60
皆様あけましておめでとうございます。
予約分、投下します。

917Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 00:57:23 ID:Bh8AFAV60



「上手く行ったみたいだね」
 地下室を出たセイバーに、最初に声を掛けて来たのは鈴羽だった。
 付きっきりで切嗣の看病をしてくれていた彼女だったが、先程は二人きりの方が話し易いだろうと、ユウスケと共に席を外してくれていたのだ。

「ええ、皆のおかげです。感謝しています。スズハ、ユウスケ」
「良いってそんなの」
「そうそう。セイバーちゃんの笑顔が見られただけで十分だって」
 鈴羽に同調するユウスケに、セイバーは少しばかり柳眉を逆撫でる。
「……ユウスケ。私を女扱いするのは控えて欲しいと言ったはずです」

 言葉にも冷ややかさを込めたつもりだったが、顔にも声にも、思ったより険を出せなかったのは彼が心底から自分達の歩み寄りを喜んでくれていることと――彼の言う通り、油断すると口元が綻んでしまうほど、今のセイバーが喜びに満ちていたからかもしれない。
 手を取り合うことすらできないと諦観していた運命共同者と、それでも最低限、互いを信頼するに至れた事実。
 それは盟友の変貌に揺らいでいたセイバーにとって、一角の安らぎを得るに十分だったのだ。

「ごめん、そういうつもりじゃなかったんだ」
「だったらセイバー相手のちゃん付けはやめてみたら? 小野寺ユウスケ」
 バツが悪そうに謝罪するユウスケに、やれやれと言った様子で鈴羽が助言する。
「そうするべきでしょうね」

 彼の純真さを好ましく思いながら、セイバーもこの際だからと鈴羽に同調する。
「こう見えても私は貴方よりも年長です。女性として扱われていることを抜きにしても、ユウスケの呼び方は些か礼に欠けています」
「うっ……ごめん、セイバー……さん」
 戦場では未だ洗練され切っておらずとも、サーヴァントと並ぶ勇猛さを見せたというのに。たったこれだけのことで困窮した様子のユウスケが可笑しく思え、微かに破顔する。

「……うん。やっぱり衛宮切嗣との会話は、達成すべきことだったみたいだね」
 そんなセイバーの横顔を見た鈴羽が、感慨深そうに頷き、喜びを漏らす。
「こんなにセイバーが雑談に乗ってくれるなんて、思いもしなかったよ」
「……私とて、仲間と言葉を交わす意義は十分に弁えているつもりですよ、スズハ」
 幾分皮肉を込めた返答と共に、セイバーは表情を引き締める。王たる身でありながら浮つき過ぎただろうか――そんな不安が鎌首をもたげた。
「あっ、まだ引っ張るんだね……」
「ええ。今の関係もあくまでこの殺し合いを終わらせるため、相互に妥協し合ったに過ぎません。
 私に彼を理解することはできないでしょうし、切嗣からも私を理解することも、受け入れることもできないと、はっきり宣言されました」
「そんなことないさ」
 それでも、これからの共闘に支障は出さないから、どうか安心して欲しい――そう続けようとしていたセイバーを静かに、穏やかに、しかし力強く遮ったのはユウスケだった。

「切嗣さんも、セイバーちゃ……さんも、本当は同じもののために戦っている、よく似た人同士なんだ。俺はそう感じたから、二人にちゃんと話し合って欲しいって思った」
「私と切嗣が、似ている……?」
 思わぬ言葉に面食らったセイバーに、ユウスケは穏やかな表情のまま、力強く頷く。

918Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 00:59:00 ID:Bh8AFAV60

「切嗣さんもセイバーさんも、誰かの悲しむ顔を、一人でも多く笑顔に変えたいって願って、戦っていたはずだ。
 でも二人とも優しいから、そのために辛いことを自分一人で抱え込もうとしてしまう……だけどきっと一人じゃ、そんな重荷とは戦えない。
 だから仲間が必要なんだ。同じ願いのために戦える仲間が……皆を守る切嗣さんを、セイバーさんを、お互いが守り合うことのできるように」

「……成程」
 本質的には部外者であるユウスケの言葉を、しかしセイバーは無躾とは受け取らなかった。
 むしろよく見ている、と――出会って間もないセイバーや切嗣のことを、真摯に案じていると感じていた。
 だからこそセイバーも、相応しい態度で答える必要があると考えた。

「確かに、私は国を救いたかった。故国に生きる全ての者の幸せを――貴方の言葉を借りるのなら、皆の笑顔を守りたかったのでしょう」
 そのために、人(アルトリア)としての己を捨てることになるとしても。

「そして切嗣も、そんな理想を実現できる、『正義の味方』を目指したのでしょう」
 例えその手段と筋道が、対極に位置する物と成り果てても。

 己という個ではなく、国や世界という多のために心を殺し、戦い続けた。
 言われてみれば。聖杯の寄る辺で巡り合った英霊と魔術師の主従の在り方は、確かによく似通っていた。
 それでもセイバーは、主君との間に横たわる決して越えられない一線を幻視した上で、努めて冷淡に告げた。

「……ですが、それとこれとは別の話です。仮令その原点が同じであれ、今の彼は私を、英雄という概念を憎んでいる。
 私達は、理解し合うことも許容し合うこともできない。それでも――いえ、それ故に。ただ、この不条理を破るための剣と担い手として在れるだけで、この上ない最良の関係に至れたのです」
「……嘘だよ。セイバーさんは、本当にそれで満足したって顔をしてないんだから」
「……っ!」

 見透かしたような物言いに、しかしセイバーは返答を詰まらせてしまった。
 
「ねぇ、セイバー。衛宮切嗣も……セイバーがいないところで、これからは心を通わせた仲間を作っていきたい、って言っていたんだよ」
 そこでユウスケに加勢するようにして口を挟んだのは、それまで事態の推移を見守っていた鈴羽だった。
「君と衛宮切嗣の間に確執があったことは私も理解している。だけれど、衛宮切嗣にもそれまでの関係を顧みて、改善しようとする意志があることだけは認識して欲しい。
 ……事情を知らないあたし達がこれ以上踏み込むのも、失礼が過ぎているかもしれないけどね」
「それでも。俺や……鈴羽ちゃんは、もしそのせいで辛そうな顔をしているんだとしたら。セイバーさんに、諦めて欲しくないって感じてるんだ」

 ユウスケの訴えに、途中目を配られていた鈴羽は静かに頷くことで同調した。
 そんな二人の熱弁は、何より切嗣の秘めた願いは。普段のセイバーであれば、何より好ましく受け取っていたかもしれない。

「同じ願いのために戦える、心を通わせた仲間、か……」

 しかし、今のセイバーにとっては、両手を挙げて歓迎できる内容ではなかった。

「ですが……その願いは、共に理解し合えるものなのだと。私などには不相応なものでなかったと、果たして断言してしまって良いのでしょうか」
「セイバー……?」
 様子を伺うような鈴羽の声。彼女達に、恥じるべき弱さを見せびらかしてしまっている。そう自覚しながらも、セイバーの脳裏には、狂気に堕ちた忠勇の騎士の姿が蘇っていた。

919Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 00:59:50 ID:Bh8AFAV60

「バーサーカー……サー・ランスロットはかつての朋友でした。同じ夢を見た仲間だと、信じていました。
 しかし、それは私の思い違いだったのではないかと、今更ながらに知らしめられたのです」

 未だに残響するのは、最も信頼し、袂を分かとうとも心根が通じ合っていると信じた彼から浴びせられた、怨嗟の声。
 あの呪詛のような叫びを耳にして、変わらぬ同志として彼との絆を誇示するなど、仮令どれほど愚鈍な身でも不可能だった。

「狂気に囚われたはずの彼が、私にばかりその矛先を向けるのは……それだけ彼がこの私に、救うばかりで導かなかった王に対しての憎悪を抱えているからに他ならないでしょう。
 故に思うのです。人の心がわからないばかりに、友と呼んだ者にそれほどの恨みを抱かせた私などの願いが――本当に、正しいものだったと言えるのか、と」

 そう、自問せずにはいられなかった。
 それが、王たる装いに相応しくない振る舞いであると、察しながらも。
 そもそもの出自そのものが誤りであったなら――国を滅ぼす妄執には最初から、その装いを纏う資格すらなかったのではないかと。
 不意を衝いて溢れた弱音には、そんな自身の正当性への不安が表れてしまっていた。

 そしてそれは、セイバーが答えを切望する問題であることもまた、間違いなかった。
 だからこそ、思わず口を衝いて出てしまったのだとしても。取り繕うことなく、本心から向き合わずにはいられなかった。

 ……バーサーカーがかつての友であると告げた瞬間、ユウスケの表情にも微かな翳りが差したのを、セイバーは見逃さなかった。
 それはセイバーや切嗣ではなく、彼自身と――この場にいない他の誰かに向けられた感情であることも、その視線から読み通せた。

 彼にも、心当たる節があるのだ。それもおそらくは、セイバーと同じくまだ解決していない命題が。

 故に剣の英霊は、その聖緑の瞳で、若き勇者に是非を問うた。
 そんな自分が、真に理解し合える仲間を得ることなどできるのか。それに相応しい、王たる器を持ち合わせていると、言えるのか。
 
 偽りなく、答えてみせよと。



 息が詰まるほどの静寂の中――果たしてユウスケは、口を開いた。

「…………言えるさ」

 即答、ではなかった。
 その言葉が吐き出されるまでの重苦しい沈黙。その全てはユウスケがセイバーの問いかけに真摯に向き合い、熟考したために生み出されたものだった。
 彼にとっても、痛みを伴わずには向き合えないはずの命題に確かに向き合い、しかし確かな形で言い放たれた返答に、セイバーは思わず問い返していた。

「何故?」

 それが場を取り繕う見え透いた嘘などでないことは、彼の眼差しが物語っている。痛みに耐えながらも輝きを褪せさせることのない、強い瞳が。
 彼は、セイバーの苦悩を理解した上で、答えたのだ。

920Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:00:49 ID:Bh8AFAV60

「私は失敗しました。なのに、ユウスケ。貴方は何故、それを間違っていないなどと言い切れるのですか?」
 それでもたった一言だけでは、セイバーにはとても信じられない解答だった。どうしてそんな結論に至れたのかと、疑問に思わずにはいられなかった。

「だって、俺の戦う理由も……セイバーさん達と、同じだから」

 対して彼は、微かな笑みと共に答えた。

「皆の笑顔のために戦うことは、姐さんが最後に俺に託してくれた望みは、あいつが認めてくれた俺の戦う理由は! ……絶対に、間違ってなんかいない。
 ――例え、失敗することがあったって。それでも誰かを救けたいと思ったことが自体が、間違いだったはずなんてない。俺は、そう信じてる!」

 自分と同じ、セイバーや切嗣の願いを信じていると。自分に使命を与えてくれた人物を、その望みを肯定してくれた者を信じているのだと。
 己の犯した過ちを見据えて、どれほどの痛みを忍び耐える必要が出てきても。己の弱さを理由に、それを裏切ることこそできはしないと。

 小野寺ユウスケは、血を吐くような思いで胸の内を吐露していた。
 そんな真っ直ぐな言葉に、セイバーは再び瞠目していた。

「人は愚かで、失敗してしまうこともあるかもしれない。もしかしたら、もっと理不尽な理由で苦しむこともあるかもしれない……
 それでもヒトは、そんな現実だって受け入れて――自分の意志で進んで行ける、強さだって持っているんだ」

 ――――嗚呼、そうだ。
 そうだったのだ。

「――それが、貴方の信念であるが故に、か」
 そんなユウスケの返答を咀嚼するに連れ、セイバーは鬱屈していた心が澄み渡って行くのを感じていた。

「ですが、好ましい――いえ、私に必要な解答でした」

 かつて少女(アルトリア)だったセイバーが、そうであったように。眩いほどに貴き心を、この若き英雄は持っている。
 皆の笑顔のために、この身一つの犠牲で足りるならばという、余りにも寂しい孤高の覚悟を。
 荒削りで傷だらけだろうと、純粋な信念を、祈りを胸に戦い続けるその姿を、セイバーは尊く感じていた。

 そうだ――仮令、どのように無惨な結末であれ。

 ――――多くの人が笑っていた。
     なら少女(わたし)の願いはきっと、間違いではなかった。

 セイバーはただ、誰かにそれを、肯定して貰いたかった。
 何故ならそれが彼女の芯。それが彼女を支える全て。
 それこそがあの日、選定の剣に託した祈り。
 そして完全に果たされなかった以上、完遂こそを聖杯に焼べると定めた望みだ。

921Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:02:06 ID:Bh8AFAV60

「そうだ。あの時確かに、彼は私に賛同してくれた。今こうして道を違えてしまったとしても……あの日の私達の心根は、確かに通じていた」
 仮令辿り着いた結末が、どんなに悲しい対立でも。信望する騎士達と並び立ったという黄金の日々まで、貶め捨ててしまう必要はないはずだ。
 今がどんなに変わり果てても。あの日の貴さは、決して色褪せはしないのだから。

「そして、共に戦った誰も彼もと、矛を交えたわけでもなかった」
 忠勇のうちに散ったガウェインが、使命に殉じたギャラハッドが、その最期に何を胸に懐いたのか。
 少なくとも、至らぬ王を戴いたことを後悔し、未練を残しながら果てなかった――とは、セイバーが断ずることはできない。
 しかし……至らぬは予言された滅びの萌芽を見落とした、この身の不明。彼らが信じ仰いでくれた我が理想には、何の誤りもなかったのだ。
 己が願いを、そこに集う人々を疑うというのは。我が騎士達の最期を、誤った理想のために果てた愚者として、辱めることに他ならない。

「――私はただ、怯えていただけだったのでしょう。切嗣が、第二のランスロットになってしまいはしないかと。信頼した結果、裏切られるのが恐ろしかった」
 だから意固地になっていた。やっと関係が向上したからこそ、これ以上崩れてしまうことのないよう、切嗣の胸の内を知らされてさえも、踏み込むことを恐れていた。
「ですが……貴方の言葉で、そんな怯懦も振り切れました」
 そんな臆病な態度こそ、セイバーが描く王道には相応しくないものだ。

「言葉を交わす意義を弁えていると口にした以上は、端から理解できない、これ以上歩み寄れないなどと、自ら線を引くのも愚かなことなのでしょうね。
 彼がそれを望むのであれば……私は満足しているなどと言わず、もう少しだけ。その気持ちに向き合ってみます。同じ願いのために戦う我がマスター、切嗣と」

 無論、必要以上に馴れ合うつもりもありませんが、とは付け足すものの。かつての外道ならともかく、弱き者のために自らを差し出した今の切嗣には、警戒は無用かもしれない。
 切嗣達とのこれからの関係は、何の予言にも縛られてはいないのだから。

「ありがとうございます、スズハ……ユウスケ」

 背を押して貰えた礼に対し、鈴羽は軽く流してみせた。
 対照的に、照れたようにして頭を掻くユウスケは、やはり年齢相応の純朴な青年に見えた。
 それでも、セイバーを見放さず、失敗を恐れず踏み込んできた勇猛さを知る今ならば――その笑顔は、頼りないものなどではなく。とても眩しく、尊い物に見えた。
「しかし――貴方の口から、人が愚かなどと飛び出すのは少々意外でした」
 だからこそ引っかかっていたことを、何となしにセイバーは尋ねることとした。
「ああ、ごめん。これ、友達の受け売りだから……」
 照れくさそうに、しかし誇らしげに。ユウスケは頭を掻きながら、友のことを口にする。

「そいつも、自分は人の気持ちがわからないなんて言っていたけど……本当は誰よりも、他の誰かを想い遣っている奴なんだ。
 そいつが人の気持ちがわからないなんてこと、絶対にないって俺には断言できる。もちろん、セイバーさんのこともね」

「……良き友に恵まれたのですね、ユウスケ。貴方がそこまで礼讃する方なら、私も一度はお会いしたいものです」
「うん……セイバーさん達にも、きちんと紹介するよ。きっと」

 何か引っかかっているかのように、歯切れの悪い返答ではあった。
 それでもその瞬間――彼の瞳に希望の炎が灯った様を、セイバーは確かに目撃した。

922Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:03:31 ID:Bh8AFAV60

      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 ――さくりという、砂礫を踏み分ける音。

 夜気に程好く冷まされ、心地良い足音を奏でる大地を歩き続けながら。
 しかし身を守る物もなく横たわった彼女は、一人で寂しく、凍えてしまっていたのだろうかと――勝手な罪悪感が、こみ上げて来る。
 ただ、最後に見た時から少しも変わっていなかったことには……僅かながら、安心した。

「……すまなかったな、オルコット」

 ほんの数刻前、逃げるように置き去りにしてしまった教え子の亡骸を前にして――織斑千冬は、ようやく、謝罪の言葉を口にできた。



 ――話は、数十分前に遡る。



 見張りがてら素振りをするのにも千冬が飽き始めた頃、セイバーが教会の中から姿を現した。

 千冬が出迎えたところ、あれからセイバーは複雑な関係にあったらしい衛宮切嗣と、一先ずとはいえ――それでも表面上だけではない、和解が叶ったと告げられた。
 そのことについて、後押ししたことの礼を言われ。用は済んだからと見張りに戻ったセイバーの、ほんの微かに――もしかしたら単なる錯覚だったのかもしれないほど、小さく緩んだ歓喜の表情に釣られたようにして。千冬もあれからやっと、自嘲以外のために頬を緩めた。
 
 これで、彼も――少しは、気が楽になっただろうか。

 笑顔を守るために戦うと言った彼は。目の前で一つ――いや、二つの笑顔を失ってしまった彼は。
 新たに一つ、もしかしたら二つ、存在しなかったはずの笑顔を生み出せたのなら。更にそこに、失ったはずの内一つまで、取り戻すことができたのなら。
 決して戻ることのない一つが存在するとしても――過去ばかりではなく、これからに目を向けて。
 少しは自責の念を、弱めてくれてはいないだろうかと。

「あぁ……私も、そうしなければな」

 この痛みを忘れることは。セシリア・オルコットの教師として、彼女が想ってくれた一夏の姉として。生涯あり得ないし、あってはならないことだろう。
 ずっとこれから、抱え続けて生きていく痛みであり、重さだ。
 それでも――ロクに長生きしたわけではなくとも、教職を預かる程度には大人であるべき身だ。いい加減向き合った上で、折り合いをつけなければ。
 まだこの地には、今度こそ守り抜くべき教え子達が――ラウラ・ボーデヴィッヒと鳳鈴音がいるのだから。

「死んでいたら許さんぞ……馬鹿者どもめ」

 生きていて欲しい、どんな形であれ。
 生きてさえいれば、今度こそ。必ず救って、笑顔を取り戻させてみせる。

 織斑千冬は、そう――改めて決意した。

923Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:05:37 ID:Bh8AFAV60

 そんな決意によって、折れかけていた背筋にピンと、一本の支えが戻る。
 
 潰されそうだった重荷を、背負えるだけの力が戻ったことで。

「――――っ、何を……やっている」

 ある程度気持ちの整理ができた千冬は、そこまで至ってようやく、己の失態に気づいた。
 教え子達を救えなかったことに次ぐほどの、大きな過ちを。

「……どんな大馬鹿者だ、私は」

 呟き、余りの度し難い間抜けさに臨界点を超えて呆れてしまいそうになる感情を、何とか活力足り得る怒りに止める。
 あの状況から立ち上がるだけでも、自分には精一杯だった。きっと、一人だけだったなら、まだ立ち上がれていなかったほどに。
 だが、それでもあってはならない愚挙だった。

 見張り役をセイバーに預け、千冬は一度教会内に戻り……地下室に集っていた三人の前で、告げた。

「突然すまないが……今から私は一度、C-4に戻る」
「……どうして? 織斑千冬」

 目配せの後、疑問の声を上げたのは、阿万音鈴羽だった。
 本来、こういう場で主導権を握そうなのは年長者である切嗣だろうが、喋れるようになったとはいえ彼は未だ重傷の身だ。その代理なのか、真っ先に鈴羽が口を開けていた。
 ……彼については、既に全てを察しているような表情だった。

「……オルコットの支給品を、一刻も早く回収しなければならない」



 こうして――千冬は再び、C-4エリアの……野晒しにされたままだった、セシリアの遺体の前にいた。

 そう……千冬達は死したセシリアと、彼女の支給品を全てそのまま、野晒しにしてしまっていたのだ。

 ISの火力は、従来の携行兵器を遥かに凌駕する。仮に悪用されれば、例えば言峰教会程度の建築物なら、地下室含め跡形もなく消し飛ばされてもおかしくないほどだ。
 それでもメダル量に不安があるとはいえ、仮面ライダーにISの操縦者、そしてサーヴァントの集ったこの面々なら――ISが本来、簡単に扱える代物ではないことも考慮すれば、実際にはそこまでの脅威とはならないと思われる。

 しかしそれは、充実した戦力があるチームだからこそ言えること。
 単なる固定砲台に近い運用でも、鈴羽の仲間のような一般人――あるいは自分達以上にメダル不足に悩まされている者からすれば、この上ない脅威として君臨する。
 おそらく、参加者の中でもISを最も習知している千冬は、だからこそ責任を以て対処しなければならなかった。

924Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:06:10 ID:Bh8AFAV60

 だが、一刻も早く、セシリアの死――それも、絶望の果ての自殺などという、考え得る限り最悪の幕引きから目を背けたかった千冬には、そんな務めも果たせなかった。

 何という惰弱。

 当然、反発されもした。千冬だけでなく、戦力の分散によって教会に残る面々にまで危険が及ぶ可能性があると。
 当然、蔑視されもした。危険があったわけでもなく、ただ弱さだけが理由でこれだけの過失を犯したことを。

 しかし――

「――だったら、俺も行くよ」

 彼は、そう言ってくれた。

「それなら千冬さんが一人で行くより安全だし……何もしなかったのは、俺も同じだから」

 違う……断じておまえに咎などないと、千冬は首を振った。
 それでも彼は、千冬が焦っているもう一つの――きっと、より強く望んでいる理由まで見通した強い眼差しで制して、助けてくれた。

 ――だから彼は今、千冬の、傍にいる。

「準備できたよ、千冬さん」

 クウガに変身していたユウスケが、そう呼び掛けて来た。
 ライドベンダーから降りた後――出発前、衛宮切嗣から分譲されたセルメダルを使い変身したユウスケは、素手にも関わらずその身体能力であっという間に、用意してくれていた。
 少女一人がちょうど、すっぽり収まるような穴を。

「……そうか」

 その間に、本来重要度が最も高かった支給品の回収は終えた。
 これが全てかはわからないが、目当てだったブルー・ティアーズとラファール・リヴァイブ・カスタムⅡの二機のISは、無事に確保することができた。
 ……回収する際、まだ凝固しきっていない血液が指先に付いたが、今は無視した。
 軽くなったセシリアの亡骸を抱え上げ、運ぶ。ユウスケの用意した穴にそっと横たえると、最後にもう一度だけ謝罪をする。

「……すまなかった」

 それだけの言葉を最後の別れとして、埋葬する。
 これ以上、彼女が穢されることのないように。

 ISの回収と同等――否、それ以上に千冬が望んでいたこと。
 守りきれなかった教え子に、せめて死後の安息を与えたかった。
 一度は逃げてしまったのだとしても、だからこそ。身勝手だとは、理解していても。
 せめて、この程度の務めだけは。

925Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:08:34 ID:Bh8AFAV60
 
「――付き合わせて、悪かった」

 幾許の感傷の後、もう十分だ、と。
 おまえはよくやってくれたと、微笑みかけるよう意識しながら振り返った千冬だったが――振り返った先にいるユウスケは、未だクウガに変身したまま、心此処にあらずと言った様子だった。
「……小野寺?」
 仮面のように変わったその表情は、正確には窺い知れない。
 だが、どこか緊張感を張り詰めているのだろうことが、千冬にも理解できた。
 その正体までは推察できず、沈黙している千冬の前で――彼の腰に埋まった霊石が、高音域の唸りを上げ、瞬く間にその姿を、翠色へと染め上げていた。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 言峰教会の地下。衛宮切嗣は、阿万音鈴羽と共に在った。

 外部の警戒は、優れた身体能力や直感力を有するセイバーが受け持ってくれている。放送を超え、コアメダルが再び使用可能になるまでは『全て遠き理想郷<アヴァロン>』の恩恵に預かれない切嗣の面倒は、鈴羽が受け持ってくれていた。

 そう……今切嗣は、聖剣の鞘の加護を得ていない。
 C-4エリアに向かうというユウスケと千冬のために、自身が持ち合わせていたセルメダルの全てを提供したからだ。

 切嗣自身が小康状態に入った以上、『全て遠き理想郷』を常に発動し続ける必要が薄れ――ならばどの道完治に足りぬメダルなら、今は戦う力に回すべきだと判断したため。
 そして何より、そのメダルは――ユウスケのおかげで生じたものだったからだ。

 彼らの取りなしで、セイバーと言葉を交わせたことで。諦めかけていた真っ当な『正義の味方』に立ち返る、最初の一歩を踏み出せた。それが本人も予期し得なかった喜びとして欲望を充足させ、メダルを増量させたのだ。
 その分をユウスケ達に返すという名目で、切嗣は彼らに僅かばかりの、しかし貴重なメダルを贈与した。色の抜けたコアも一枚、おまけのプレゼントとして。

 感謝を貰えたが、それを送りたかったのはそもそもこちら側だというのに……随分と、得をしてしまったように感じる。

「……すまなかったね」
 故に切嗣は、鈴羽に謝罪を述べた。
「……何のこと? 衛宮切嗣」

 唐突に放たれた言葉に、鈴羽はやや不審そうにこちらを伺って来た。
 ただ、その顔はあの時から変わらず、心なし暗い影を差していた。
「……織斑千冬のことさ。君にばかり嫌な役を押し付けてしまった」
 つまるところ、憎まれ役を。
 聖剣を失ったとは言え、自分達にはセイバーがいる。故に千冬の申し出をユウスケの同伴を条件に認めた切嗣だが、その理由が眉を潜めるような代物であったことは認識している。
 ISを放置してきたという千冬が、その状況下で被った精神的ダメージは想像するに余りある。そんな彼女の前で、ユウスケがセシリアの遺体から物品を奪い取ることができなかったのだろうということも。
 しかしそれでも、愚行は愚行だ。自分達や、その他の参加者まで危険に晒す危険性があるとすれば、笑って許されるようなことではない。
 それを糾弾する役を担ってくれたのが、鈴羽だった。
 その役目は、不和を被る危険性がある。無論、彼らがそのことで恨みを持ったとしても、引きずるような人間ではないと切嗣は信じている。それでも、怪我人である切嗣が負うリスクを少しでも減らそうとしてくれたのだと、切嗣は鈴羽の献身に感謝していた。

926Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:09:34 ID:Bh8AFAV60

「そんなんじゃないよ……いや、確かにそれもあるけど」
 だが……返って来た答えは、予想とは異なった物だった。
「衛宮切嗣。あたしもね……父親が、ここで死んだんだ」
 衝撃の告白は、切嗣の脳に空隙を与えていた。

「だから、弟を亡くしたっていう織斑千冬の悲しみは共感できる。その級友の暴走っていうのも、父さんの仲間……ラボメンの誰かがもし、って考えたら……彼女がどんな心境だったのか、あたしにも想像はできるんだ。
 だから、あたしが言いたかった。それだけだよ」

 責務を果たせていなかったことを当人が自覚しているのなら。既に散々泣いた後に甘えを許すのはチームのためにも、本人のためにもならないと。
 千冬にも、それこそユウスケにも。早い段階でその咎を糾弾する者が必要だったと、鈴羽は判断したのだろう。
 引き返すまでに時間をかけず、置いて来た物を背負い直して、歩いて行けるように。

「そうか……それは失礼した」
 謝罪の後、切嗣は付け足した。
「きっと、通じてるさ」
「……どうだろうね」
 返答は、どこか重たい。
 鈴羽の表情が沈んでいたのは、つまりそういうことだろうか。

「阿万音鈴羽。僕にも、娘がいるんだ」

 ふと、口を衝いて言葉が出ていた。

「だけど、色々事情があってね。もう長い間顔も合わせていないし、連絡の一つも取れなかった。もしかしたら僕も、彼女には死んだと思われているかもしれない」
 自身がどの時間軸に帰還するのか、よくよく考えてみれば確証はない。
 肉体年齢通り、聖杯戦争中になるのかもしれない。しかし精神と同じく、それから五年の後なのかもしれない。
 仮に後者だとすれば、自身にとってだけでなく――イリヤスフィールにとっても、もうずっと放ったらかしにされている状態かもしれない。

「ただ、仮にそう思われているとしたら。あの子――イリヤも。君のように強い決断をしながら、誰かを本当に想いやれる娘に育っていてくれたらと、僕は父としてそう思うんだ」
 本心ではある。しかしアインツベルンの魔術師どもに囲われている以上、その望みがどれほど薄いものであるかは、切嗣は重々承知している。
 それでも敢えて、口にした。すべきだと思った。

「……それだけだよ」
 最後に付け足した切嗣の様子を見て、少しした後……鈴羽は淡く、微笑んだ。
「思ったより、不器用なんだね」
 名すら知らぬ男の心を、勝手に想像した切嗣に対し。彼女は、どうやら怒りは覚えなかったようだ。
「待たせちゃってるなら、早く迎えに行ってあげなきゃ駄目だよ。衛宮切嗣」
「ああ。もう、一分一秒だって無駄にはしないさ」
 もう、あの娘には随分と待たせてしまったのだから。

 再会に向けて。今は体が動かなくとも、できることはある。
 切嗣はこれまでに集まった情報を再度精査し、方針の練り直しを始めることとした。

927Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:10:20 ID:Bh8AFAV60


      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 クウガに変身していたユウスケは、常人離れした能力を持つ千冬にも見えないものが見え、聞こえないものが聞こえていた。
 基本形態であるマイティフォームの時点で、人類を遥かに超えた超感覚を持つのだから、それも当然のことだ。

 そして――クウガには更なる超感覚を有する、緑の形態が存在する。
 殺し合いの舞台で聞こえるはずのない、しかも覚えのある羽撃きの音を拾ったユウスケは、その正体を解き明かすためにペガサスフォームへと超変身していた。
 結果、鮮明に拾えたその羽撃きは。詳らかになったその翼は――
「――グリード……っ!」

 それは、紛れもなく。千冬やイカロスを騙し、皆の心を弄んで死に至らしめようとした、あの邪悪な怪人の翼だ。
「……何?」
「あいつです。病院で戦った……!」
 放送で呼ばれたと思っていた宿敵の存在を告げられ、千冬もまた疲れの滲んでいた表情を厳しくする。
 ……本当なら、辛いことに耐え続けてきた彼女には、もっと違う顔をして欲しかったのに。
 そんな苛立ちが加わって、一層激しく敵意を燃やすユウスケの心境を知ってか知らずか――赤いグリードの飛翔する姿は、瞬く間に緑のクウガの視界からさえ、消え失せてしまった。

「……逃がすかッ!」

 ――放送の前後、奴の軌跡を追った結果。放送で呼ばれた翔太郎達の乗っていたダブルチェイサーが、放置された状態で発見できた。
 今にして思えば、翔太郎やアストレアの命を奪った邪悪が何者だったのか、推理することは簡単だった。

「待て、小野寺!」
 また新たな犠牲者を生みかねない怪人の追跡を開始しようと、ライドベンダーに跨ったクウガ――ユウスケを、千冬が呼び止める。
「冷静になれ……奴は死んだはずだ。放送でその名が呼ばれたのだからな」
「千冬さん……」

 千冬が語るのは、れっきとした事実――しかし、そこには穴がある。
 何故ならあのグリードは、自ら名乗ることをしなかった。グリードが既知の存在である参加者とも巡り会えておらず、ここまで出会った誰も正確な名前を知らなかったのだ。
 ただ、始まりの空間で緑のグリードがウヴァと呼称され、更に各陣営に似た系統の名前があることから赤のグリードが“アンク”であると類推したに過ぎない。
 そして、アンクの名が呼ばれた放送までの間、首輪のランプが紫色になっていたことから半ば確信していたことではあるが――しかしもう一つ、当時から引っかかる事柄があった。

「……でもそれは、どっちのアンクのことか結局、わからなかったじゃないですか」

 そう――“アンク”の名は、名簿に二つ刻まれていたのだ。
 それも、どちらも赤陣営に。

 もしかすれば、だが――あれは名簿の不備などではなく、実際にアンクが二体存在していたのではないかと、ユウスケは考えたことがあった。
 あの時はその可能性を追求しようとはしなかったが、未だ存在する“アンク”をこの目で確かに認めてしまった今、その可能性を否定することはできない。

928Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:11:50 ID:Bh8AFAV60

「あいつを放っておいたら、また翔太郎やアストレアちゃんみたいな犠牲者が出てしまうかもしれない。逃すわけには……ッ!」
 ――セイバーには、過去の失敗も背負って、命ある限り進み続ける強さの大切さを説いた。
 それは、アギトの世界でユウスケの友が教えてくれた答えの一つであり、セイバーに、彼女の友が変貌したことを理由に、友と共有していた理想を諦めて欲しくなかったからだ。
 だが、過ちを受け入れても、己の正しさを信じて進むというのは。救えなかった重みを忘れて良いなどというわけでは、断じてない……!

 エンジンに火を灯す。途端に脈動する鋼鉄の騎馬の嘶きを遮るように、千冬が声を張り上げた。
「だからと言ってだ! 独断で我々が奴を追えば、セイバー達の混乱の元になる!」
「だったら……千冬さんは、先に言峰教会に戻っていてください」
 教会までは、決して短い距離ではない。夜道を、しかも殺し合いの中、いくら実力者とは言え千冬一人で歩かせるのはユウスケにも気が引けた。
「――あいつは、俺が!」
 しかし、それでもだ。この夜の中、あのグリードを今追えるのは、緑のクウガの力を持つ自分しかいないかもしれないのだ。
 次の笑顔を奪われる前に、奴を倒せるのは、その脅威を知る自分しか。

「単独行動は危険だ!」
 それでも千冬は制止する。我が身ではなく、ユウスケを案じて。
 そうして止められた内に、いよいよクウガはペガサスフォームの聴力でも、アンクの存在をロストする。
 まだ会話も決着がついていない状況で、だ。
 切嗣が、その身を削るに等しい痛みに耐えて分譲してくれたメダルを惜しみ、クウガへの変身を解除する。それからユウスケは、一度大きく深呼吸をした。

「必ず戻ります……だから、行かせてください」
 そうして、訴える。
「もう……あんな奴のために、誰かの笑顔が奪われるのを見たくない。これ以上見過ごすなんて、俺にはできないんですっ!」
「小野寺……」

 素顔を晒したユウスケの頼みに、千冬はまた、何かの痛みを堪えるような表情になった。
 それから、彼女も大きく溜息を吐いた。
「……これ以上言っても聞かんのだろうな、おまえは」

 その声に含まれていた煩悶の残滓を嗅ぎ取って、ユウスケの罪悪感が刺激される。
「……ごめんなさい」
「男があれだけ啖呵を切っておいて、今更謝るな……全く、この馬鹿者が」
 不意に零した謝罪に対し、硬い調子で一喝した後――柔らかな苦笑を漏らした千冬は、続ける。

「良いだろう、行って来い。余計な心配などするな。私も、セイバーもいるのだ。おまえはおまえが欲する望みのまま、やり切って来い」
「……ッ、ありがとうございます!」
「いざという時にも伝言は残す。だから、やり終えたらすぐに戻って来い」
 無理をするな、とは千冬は言わなかった。
 危険性はユウスケも承知の上で、千冬もそれを理解している。大凡、ユウスケに無理をするなという言葉が無意味であることも。
「……それだけは、約束しろ」
 だから、無理はしても帰って来いと――たったそれだけの願いを、千冬からユウスケは託された。

929Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:12:50 ID:Bh8AFAV60

「……はいっ!」
 ほんの一時とは言え、別離を堪える千冬の声が震えるのが、ユウスケにもわかった。
 だからこそ。応えるユウスケは、彼女の不安を吹き飛ばせるような力強い声を意識した。

 一夏や、セシリアや。大切な人の多くを失った千冬の笑顔がこれ以上、翳ってしまうことがないように。
 無理をして作らなくても、また笑うことのできるように。

 この約束もまた、姐さんのそれと同じで――違えるわけにはいかない。

 そんな決意と共に、ユウスケはライドベンダーを発進させた。



「私達の分も、任せたぞ……ユウスケ」

 悪を追う若い戦士の背を見送りながら、千冬はその名を密かに呟いた。
 弄ばれた一夏や、箒やセシリア達の分も。こんなことに巻き込まれたために傷ついた彼らの仇は、本来ならば千冬が討つべきだ。
 しかしこれ以上、セイバー達に迷惑を掛けるわけにもいかないのもまた事実。せっかく捕捉したとはいえ、二人揃って奴を追いかけることはできない。
 故に千冬は、ユウスケに任せた――弟によく似た彼になら、と。
 きっと自分達の無念も、彼なら晴らせるものと千冬は信じた。

 ……本当ならこれは、ユウスケがやらなければならないことではないはずだ。
 アンクを追尾し、撃破すること。行うべき必然性は高いが、放送までメダル残量に心許無いこの時点では、絶対ではない。
 やらなければならないことではない。それでも、それが彼が『やりたいこと』なのだ。

 世界中の皆の笑顔を守る――姐さんと呼ぶ女性との約束を守ることが、ユウスケの。
 まるで自分を――姉の名を守ると意気込んでくれていた、一夏と同じように。

「……少しだけ、中てられてしまいそうだな」
 妙なことを口にする自分に苦笑しながら、千冬は踵を返した。
 ユウスケは約束してくれた。必ず帰って来ると。
 そして、約束とは相互に交わすものだ。彼だけに、果たすべき責務を押し付けるわけではない。
 千冬も一刻も早く教会に戻り――彼の帰る場所を、守り通さなければ。

 警戒を怠らないまま走る千冬は、ペースを落とさぬまま現状を再確認する。
 ユウスケの手前心配無用とは言ったが、必ずしも楽観視はできない。何しろ反対方向に飛んで行ったとはいえ、グリードが近辺に居たのだ。密かにどんな脅威が迫っているか、知れた物ではない。
 それでも彼や自身、そしてセイバーならばそれぞれ切り抜けられるとも千冬は考えている。しかし、重傷の衛宮切嗣や、何ら超常の力を持たない阿万音鈴羽まで守りきるとなれば……

 そこでふと千冬を意識を向けたのは、ポケットに潜めたイヤーカフスとネックレストップ……教え子達の形見である、ブルー・ティアーズとラファール・リヴァイブ・カスタムⅡだ。

930Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:13:56 ID:Bh8AFAV60

 ISは女性にしか装備できず、また専用の訓練なしで容易く扱える代物でもない。故に切嗣には扱えないし、おそらくはあのセイバーでも候補生達ほどの戦力さえ発揮できないだろう。
 それでも重戦車レベルを遥かに超えた火力を持った固定砲台と、その攻撃力にすら耐え得るシールドバリアーを持った防護服としてなら、十分に運用できる。
 その力で、誰かの命を――笑顔を、守ることができるかもしれない。

「――いざという時は借りるぞ、二人とも」
 守れもしなかったくせに。その力を宛てにさせて欲しい、などと。
 無恥な頼みを詫びるように呟いたその直後、だった。

「――■■■■■■■■■!!」

 千冬の頭上を、黒く染まった一機のISが通り過ぎて行ったのは。

「――ッ!?」
 遅れて襲来したのは、音速超過の衝撃波。耳の奥で脳が圧迫されるような不快感と、烈風と化して身を叩く空気の塊に煽られた千冬は、持ち堪えるために一瞬だけ目を閉じた。
 次に目を開いたその時には――既に黒いISは、その姿を眩ませていた。

「今のは……!」
 機体色は異なるが、あれは千冬も知っているインフィニット・ストラトスの一種だ。
 その色の違いについても、説明するための答えは既に狂気の咆哮が残してくれていた。

「バーサーカー……ッ!」
 
 今でこそ取り戻したこのガントレット――白式が、あの狂戦士の手に在った時と、たった今千冬の頭上を過ぎて行った打鉄弐式の変わり果てた色合いは、完全に一致していた。
 何があったのかは知らないが、ユウスケとセイバーに撃退されたという後に、バーサーカーは新たなISを入手していたのだ。
 そこまで思考が結びついた瞬間、千冬は白式を展開する。

 バーサーカーが纏っていたIS、打鉄弐式にステルス機能は搭載されていない。いくら夜とはいえ、あの一瞬で飛行するISを見失うということは考え難い。
 千冬が見失った理由は、バーサーカーが低空飛行に移ったか、それともメダル消費を厭い、そもそもISの展開そのものを中断したか。

 どちらにしても、ただの移動中、大した意味もなくあり得ることでもあり――同時に、地上に存在する敵を発見し、攻撃するためにも取り得る行動だ。
 千冬がバーサーカーに発見され、攻撃対象として見据えられてしまった可能性は十分にあった。

「――私の近くにはいない、か」

 しかし、それは杞憂で終わったようだ。
 凡そ十秒に渡って白式のハイパーセンサーによる索敵を行ったが、反応はなかった。セイバーより伝え聞いた情報によれば、バーサーカーには敵の油断を誘うため身を潜めるといった搦手を扱う術がないという。仮に発見されていたのであれば、いくら大幅に索敵範囲を制限されているとはいえ、十秒以上も千冬に向かって接近する気配がないことはあり得ない。

 となれば、千冬の頭上を過ぎ去ったその直後に、バーサーカーがこちらの視界から消えるような挙動を見せたのはただの偶然だろうが――これは。
「向かう先は……同じか!」

 見失う直前、バーサーカーが目指していた方角が、自身と一致していたことに千冬は思い至る。
 ――バーサーカーがかつての友であったというセイバーの告白を、彼女は同時に思い出していた。

931Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:14:40 ID:Bh8AFAV60

 おそらく、狂戦士の狙いはセイバー。ユウスケとの戦いの際に介入したセイバーがどこから来たのかということを思い出し、再戦を望んで教会を目指しているのだ。

「全く……運が良いのやら、悪いのやら」
 知らず、千冬は呟いていた。
 もしも、全く見当違いの方角に進まれていたら。追えばセイバー達を浮き足立たせ、無視して教会に戻れば――ユウスケの願いを、無視することになっていただろう。
 だが奴の狙いが教会だというなら、戻ったついでに対処ができる。そういう意味では好都合だ。

 しかし、どういうカラクリかバーサーカーはISを完全に我が物としてしまえている。元よりバーサーカーがセイバーと同格と言うなら、それがISを装備したことで得るアドバンテージは計り知れない。少なくとも単純に、空を飛ぶ術のないセイバーでは立体的なバーサーカーの攻めに抗しきれないだろう。
 セイバーですら、それなのだ。他の者では言わずもがな。
 最強の機動兵器を手に入れた、狂気の英霊を打倒できるとすれば――それは世界最強のIS操縦者、『ブリュンヒルデ』織斑千冬を置いて他にいまい。

 ――但しそれも、満足なIS戦を繰り広げられれば、の話だろうが。

(セルメダルの残量を考えれば……教会までこのままというわけにもいかんな)

 残りは切嗣から分譲された分を含めて二十枚。先手で襲って来られた際は、如何に千冬とて白式抜きでバーサーカーに対抗できるわけはないが……維持コストで要求される枚数が加算されていくことを考えれば、接敵の気配のないうちから無為に展開し続け消費するアソビはない。
 ただ、もう一つ。切嗣から念のためにと譲渡された、今は無色のコアメダルがある。放送を超えれば、その代替効果の分のメダルも勘定に加えられる。
 故に千冬は、今は白式を再び待機形態に収納し、駆け出した。決して油断せず、僅かな気配も見逃すまいと神経を研ぎ澄まさせながら。

 選んだ手段は、メダルを温存するための、放送までの徒歩によるバーサーカーの追走。仮にISを用いて教会を襲撃していれば、それに伴う轟音は聞き逃しようがない。その時にはそれから白式の機動力でセイバー達と合流し、放送まで持ち堪えれば良い。あるいは、単純に追いついてしまった時も。
 夜闇のどこかに潜んだバーサーカーに、気取られ攻撃される可能性にこそ常に備えながら――ただ、その時まではこの足一つで駆けて行く。

 ――ユウスケとの約束を、果たすために。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 教会の屋上で監視役を務めながら――セイバーはあの後、ユウスケが口にした言葉を思い出していた。

 ――そいつが、俺の友達に言っていたことなんだけどさ。どんなに夢のような、あり得ないことでも……信じるもののために戦えること。それが王の資格だって。

 故に今のセイバーは、紛うことなき王の器の持ち主であると、ユウスケは言ってくれた。
 だから心配は無用だと。切嗣とも――そしてきっと、バーサーカーともやり直せると。

 彼が語る言葉は余りに綺麗で、現実から乖離したただの絵空事かもしれない。
 ――だからこそ実現してみせたいと、セイバーは感じていた。
 自分にはそれができるはずだと、ユウスケや鈴羽が信じてくれたから。

932Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:15:16 ID:Bh8AFAV60

(信じるもののために戦うこと。それが、王の資格であるというのなら……
 ランスロット。貴方がどれほど私を恨もうと、憎もうと。それに押し潰される惰弱な心では、それこそ貴方達の忠勇を踏み躙る裏切りだ。
 仮令一時だけでも、友として在ったからこそ――貴方の信じてくれた王として応じることこそが、私が貴方に尽くせる、最大限の礼節と信じよう)

 ユウスケはああ言ってくれたが、バーサーカーと化した以上、ランスロットと言葉を交わすことはできないだろう。
 暴虐の獣として無辜の人々に血を流させる彼は、最早討伐するより他にはない。
 しかし、ならばかつての友であるからこそ。これ以上、その誇り高き手を穢させないためにも――そして、消滅の際、狂気から解放される瞬間に、もう一度だけでも言葉を交わすためにも。

 ――――湖の騎士は、この騎士王の手で裁く。

 そして剣の英霊は、旧友に抱いていた葛藤の全てを振り払う覚悟を決めた。
 少なくとも、その罪は背負ってみせようと。

 その上で、彼らの嘆きを無為にはしない。聖杯の力で、予言されていた滅びを回避する。歴史を修正する。
 カムランの丘の戦いは、起こさせない。
 決意を新たにしたその瞬間。

(――それで良いのか?)

 内なる声が、セイバーに疑問を投げかけた。
 不意に生じた、己の願い――否、目的に問いかけられた是非。
 どんな理由で生じたのかもわからない、しかし何かを見落としていないかと、決定的な掛け違いを示唆するようなその訓告。
(――良いに決まっている)
 それをセイバーは、意図的に黙殺しようとした。
 セイバーが欲するのは、民の笑顔。自らの王政でそれを生むことができていたのなら、後はそれを儚く散らすことのないように。より相応しい結末を――聖杯の力で、導いてみせる。
 叛逆を防ぎ、国を救う。それが王としてセイバーが成すべき責務。
 そのための手段としてこその聖杯。この願いは完璧に正しく、何の疑念の余地もない。およそ邪悪な暴君や敵対者でもなければ、誰もが同じ答えに至るはずの清廉な願いだ。
 静止したカムランの丘で得た、悠久の時の中で、幾度も幾度も確かめた答えなのだ。
 始まりの祈りさえ、正しいものであるならば。そこに、間違いの介在する余地など――――ない。

 そうして自らの正当性を確認したセイバーは、改めてユウスケと千冬が帰還するまでの警護に全霊を傾けようとする。
 しかし、なおも。無視したはずの引っかかりは、微かな疼きとなってセイバーに張り付いていた。



 ――――それは、孤独なカムランの檻より解き放たれた時空の果てで。少女の祈りの正当性を知ったことで、英霊として抱く願いとの間に生じた、齟齬への違和感。
 新たな仲間に祈りを肯定されたセイバーは、まだ気づかない。己の願いが、その貴き祈りを手折る暗君にして暴君の望みであることを。



 無視できる程度ながら、新たな心理の枷を嵌められながらも。油断なく周囲を警戒するセイバーの緑瞳に、一瞬だけ。遥か南方に存在する、同色の光輝を纏った人影が掠め。
 それと全くの同時――二度目の放送を告げる荘厳な鐘の音が、どこからともなく響き始めていた。

933Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:15:54 ID:Bh8AFAV60


【一日目 真夜中(放送直前)】
【C-4 南】


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(小)、精神疲労(小)、胸部に極軽度の裂傷、ライドベンダーに搭乗中
【首輪】20枚:0枚
【コア】クワガタ:1 (次回放送まで使用不能)
【装備】なし
【道具】スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
 0. アンク(ハイパーアポロガイスト)を追い、南に向かう。
 1.解決したら、B-4に戻って千冬、切嗣達と合流する。
 2.井坂、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 3.“赤の金のクウガ”の力を会得したい。
 4.士とは戦いたくないが、最悪の場合は戦って止めるしかない。
 5.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。



【一日目 真夜中(放送直前)】
【C-4 北】


【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(小)、疲労(小)、左腕に火傷
【首輪】20枚:0枚
【コア】タコ(一定時間使用不可)
【装備】白式@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品×4、シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ、ニューナンブM60(4/5:予備弾丸17発)@現実、スタッグフォン@仮面ライダーW、ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木を制裁する。
 0. 教会方面に向かうバーサーカーを追う。放送までは無理に仕掛けない。
 1. 落ち着いたら、ユウスケがどうしているのかをセイバー達に伝える。
 2.鳳、ボーデヴィッヒと合流したい。
 3.井坂深紅郎、門矢士、一夏の偽物を警戒。
 4.ユウスケは一夏に似ている。
 5.セイバーが迷いを吹っ切ったら再戦したい。
【備考】
※参戦時期は不明ですが、少なくとも打鉄弐式の存在は知っています(開発中か実戦投入後かは不明です)。
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。
※ブルー・ティアーズが完全回復しました。

934Lost the way ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:16:55 ID:Bh8AFAV60

【一日目 真夜中(放送直前)】
【B-4 言峰教会 屋上】


【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(中)
【首輪】20枚:0枚
【コア】ライオン(放送まで使用不能)
【装備】折れた戟(王の財宝内の宝具の一つ)@Fate/zero
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いを打破し、騎士として力無き者を保護する。
 0. 目に入った人影(X)と放送の双方に注意を払う。
 1.衛宮切嗣に力を貸す。彼との確執はこの際保留にし、彼が望むならもう少し向かい合っても良い。
 2.悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
 3.バーサーカーを警戒。いざという時は全力で戦うことこそが、彼に対する最大の礼儀。
 4.ラウラと再び戦う事があれば、全力で相手をする。また、相応しい時が来れば千冬と再度手合わせをする。
 5. 聖杯への願い(故国の救済)に間違いはないはず。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※アヴァロンの真名解放ができるかは不明です。
※鈴羽からタイムマシンについての大まかな概要を聞きました。深く理解はしていませんが、切嗣が自分の知る切嗣でない可能性には気付いています。
※バーサーカーの素顔は見ていませんが、鎧姿とアロンダイトからほぼ真名を確信しています。
※切嗣と和解したこと、及びユウスケ達に自身の願いを肯定されたことでセルメダルが大幅に増加しています。



【B-4 言峰教会 地下室】


【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(大)、貧血、全身打撲(軽度)、背骨・顎部・鼻骨の骨折(軽)(現在治癒中)、片目視力低下、牧瀬紅莉栖への罪悪感、強い決意
【首輪】0枚:0枚
【コア】サイ(一定時間使用不可)
【装備】全て遠き理想郷@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】なし
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
1. 放送、及び千冬達の帰還に備える。
2.回復後、偽物の冬木市を調査する。それに併行して本当の意味での“仲間”となる人物を探し、『ワイルドタイガー』のような真木に反抗しようとしている者達の力となる。
3.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
4.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
5.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とグリード達を警戒する。
6.セイバーはもう拒絶する必要はない?
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用されている可能性を考えました。
※意識を取り戻す程に回復しましたが、少しでも無理な動きをすれば傷口が開きます。
※セイバーと和解したことでセルメダルが増加しましたが、その分をユウスケ達に分譲したため、120話以降からほぼ回復していません。


【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】健康、深い哀しみ、決意
【首輪】0枚:0枚
【装備】タウルスPT24/7M(7/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
1.放送、及び千冬達の帰還に備える。
2.罪のない人が死ぬのはもう嫌だ。
3.知り合いと合流(岡部倫太郎優先)。
4.桜井智樹、イカロス、ニンフと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
5.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。


【全体備考】
※C-4にセシリア・オルコットの遺体が埋葬されました。

935 ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 01:19:41 ID:Bh8AFAV60
以上で投下完了です。
>>917->>926までが前編、>>927->>934が後編となります。
今年もよろしくお願いします。

936名無しさん:2015/01/01(木) 12:00:09 ID:ExHpPJ020
投下乙です。
基本的には会話のみの内容ながら、密度たっぷりで読み応えがありました。
誰かの経験談がまた誰かの苦悩を取り除く手助けになる、善人キャラならではの関係性の安心感。
特にどちらかと言えば若年でありながら、強者の心の支えになろうと立ち回れるユウスケが格好よく
そのおかげか、セイバーと千冬も戦士でありながらどこかヒロインらしさのようなものも感じられて面白い。
ロワだから難しいのは分かるけど、それでも各々が課題を乗り越えるのを見届けたくなる話でした。

一つ気になった点を。>>927
> そう――“アンク”の名は、名簿に二つ刻まれていたのだ。
> それも、どちらも赤陣営に。
と、ロストアンクだけでなくもう一人の方のアンクも赤陣営だと言い当てているという内容ですが
過去作では、配られた名簿は各参加者の所属陣営は記載されていない仕様となっているので
今回の作品での描写は矛盾しているのではないかと思います。

937 ◆z9JH9su20Q:2015/01/01(木) 13:14:58 ID:Bh8AFAV60
>>936 ご感想及びご指摘ありがとうございます!
ご指摘された件については仰る通りです、完全に私の過失でした。
名簿に所属陣営が記されているような描写についてはwiki収録時に削除する形で対応させて貰えればと思います。

938名無しさん:2015/01/02(金) 01:41:38 ID:dYUoTxrs0
投下乙です

うん、これはまた濃厚なSSだぜ
そしてこういうロワ内でのキャラ同士の積み重ねは見ていて飽きなくていい
セイバーと千冬は似てるとは思ってたが以外としっくりとしてたなあ

939 ◆z9JH9su20Q:2015/01/02(金) 11:59:04 ID:RUj0jqZ.0
皆様ご感想ありがとうございます!
新年早々恐縮ですが、◆SrxCX.Oges氏の仮投下を拝読させて頂いたところ、自分のルール解釈に不安な点が生じたので議論スレに書き込みを行いました。
ご意見を頂けると幸いです。

それともう一点、>>934で切嗣が青陣営所属のままだったので、そちらについてもwiki収録分を修正させて貰ったことをこちらで報告致します。
新年からミスの連続で皆様には大変なご迷惑をおかけしてしまっており、申し訳ございません。
この分の埋め合わせもできるよう精進して参りたいと思いますので、今後とも宜しくお願いします。

940 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:28:33 ID:TNZiMdL.0
投下します。

941 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:28:59 ID:TNZiMdL.0

 世界は、突然に崩壊した。
 視界を埋め尽くす荒廃した光景、しんと静まり返った空気、手元には鳴らない携帯電話。
 広大なようで、実の所現実世界から隔離された閉鎖空間であるミラーワールドの中で、桐生萌郁は他の何もかもとの交信を絶たれていた。
 誰もいない。数少ない知り合いのラボメンもいない。怪物同然の戦鬼達もいない。
 FBも、いない。独りぼっちの桐生萌郁を世界と繋ぎとめてくれた親愛なるあの人が、いない。

「嫌だっ、嫌ぁああっ……!」
 闇雲に走る。適当に文面を作成する。送信ボタンを押す。圏外。
 闇雲に走る。適当に文面を作成する。送信ボタンを押す。圏外。
 萌郁はひたすらに、狂ったように同じ行動パターンを繰り返す。
 その行為が異次元の世界で無意味でない保証があるかなど、わからない。いや、わかりたくないと言うべきか。
 これが無意味であり最早手の打ちようが無いと確定したら、桐生萌郁の世界は終わる。FBとの関係の切断がそのまま、萌郁は永遠に孤立したままになってしまう。
 ……嫌だ、そんなことなど考えたくない。

「あっ……」
 息を激しく荒げながら何十回目かのメール送信の操作を行おうとした瞬間、脚がもつれて体勢が崩れ、身体が無様に地面と激突する。
 アビスの鎧を纏っていたため痛みこそ小さいものの、それでも衝撃の影響は確かにあった。握っていた携帯電話が右の掌から離れてしまう。
 暗闇の中、液晶画面の光が視界で跳ねる……自分の手の届かない場所へと行ってしまいそうになる。
 距離にすれば精々50センチメートル。たったそれだけの距離が、萌郁には果てしなく遠い。
 携帯電話だけは、失くしては駄目なのだ。FBとの繋がりを、こんな自分が他者とまともに交信するための唯一の道具を奪われたら、桐生萌郁はどうやって生きて行けばよい?
 だから、たった50センチの距離を必死に埋めるため、萌郁は地に伏せたまま手を伸ばす。
 指先が、パープルの本体に触れる。
 やっと、世界に帰る鍵を取り戻せる。
 そう安堵した瞬間だった。

「アビスか。だったら倒さなくてもよいか」
 いつの間にか誰かが目の前に立っていて、そいつは携帯電話をひょいと拾い上げた。
 桐生萌郁にとってどれほどの価値がある代物なのか、まるで分かっていないかのように。
「私の、かえせ――」
 声すらろくに出せない萌郁にしては珍しく、焦りと衝動的な怒りが綯交ぜになった要求が口から出てきた。いや、出てきそうになって、飲み込んでしまった。
 突然現れた第三者の姿を、その眼で確かに見てしまったから。

「おい、早くここから出た方がいいぞ」
 マゼンダ色の装甲を纏った仮面の戦士――ディケイド。
 彼が、萌郁の目の前にいた。

「いつまでもミラーワールドにいたらメダルを無駄に食うだけだ。出口は……探せばどこかにあるだろ」
 銀色の装甲のライダーを焼き払い、青のグリードを斬り伏せ、遂には大火力を誇る天使すらも一度は完膚なきまでに叩き潰したディケイド。
 手当たり次第に人々を襲っていたようにしか見えず、萌郁自身がミラーワールドの中にいたために語る言葉さえ聞き取れず、萌郁からすれば結局「理解不能の凶悪なモンスター」との印象しか持ちようのないディケイド。
 奴が、目の前に立っていた。

「おい。俺の話を聞いてるのか?」
 FBとの繋がりを絶たれ、FB以外との繋がりを構築しようとしなかった桐生萌郁は対峙する。
 自らの選んだ行動の果て、誰の助けも期待できない境遇に陥った上で、萌郁はディケイドと対峙する。
 世界の破壊者と、一対一で。

 彼女がその先に待つ凄惨な結末へと想像が行き渡るのも、さほど時間はかからなかった。

942 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:29:45 ID:TNZiMdL.0

「ぁっ……あ……来るなああああああっっ!!」

 悲痛に叫びを上げながら、萌郁は駆けだしていた。

 駆けて、駆けて、逃げる。
 逃げる方向にミラーワールドからの出口があるかなど、頭になかった。ディケイドから距離を取れればどうでもよかった。
 しかし必死の逃走をどれだけ続けようと、それは意味を成さない。当然だ。萌郁が走るのと全く同じ方向に、ディケイドも萌郁を追って走るのだから。
 振り向いた先で存在感を放つ恐怖の象徴に、視界が滲み始める。
 しかし、ディケイドの姿は程なくして見えなくなった。二者の間に割り込むようにアビソドンがその巨躯で飛び込んできたのだ。
 萌郁の苦しみを汲み取ってか、はたまた獣の本能か。ともかく、今の萌郁の唯一の味方となった怪物は自らの鋭い牙と角を以てディケイドに襲い掛かる。
 あれの行動でディケイドを抑えきれれば、萌郁が逃げる十分な時間を稼いでくれれば非常に嬉しい話だった。

 勿論、そんな淡い期待はすぐに実現不可能と思い知らされる。
 片手に持った剣でアビソドンの攻撃を受け流し、カウンターの要領で蹴りを叩き込む。怯んだところに、さらに剣で追撃する。それが数回繰り返される。
 たかだか10秒未満の中で見せたディケイドの攻勢が、たったそれだけで恐怖に竦みきった萌郁には暗い未来――アビソドンの敗北を想起させるのに十分だった。
 ここまで追い詰められたところで、ようやく萌郁は一枚のカードの存在を思い出す。
 腹部のバックルに手を伸ばし、目当てのカードを引き出した。一刻も早くと、カードをバイザーに装填しようとする。微かに震えた手ではスムーズにはいかないが、それでもどうにか完了させた。

――FINAL VENT――

 仮面ライダーアビスの最大威力での攻撃を発動させるカード、ファイナルベント。
 電子音性を合図にアビソドンが雄叫びを上げ、まさしく泳ぐように空中を荒く舞い始める。
 ディケイドから十分に距離を取ったところで、その鋭利な角を標的まで一直線に向ける。突貫の準備は、整った。
(早く、行って……!)
 終わりの名を冠するカードは、本来なら確実に止めを刺せる終盤の場面でこそ使用するべき一手だ。
 しかし、そんなセオリーは今の萌郁にとって心底どうでもよいことだった。一秒でも早く目の前の悪魔を消し去りたい、ただその一心で萌郁は切札の使用に踏み切った。

 ……そしてその判断は、当然の如く失敗という結果に繋がる。

――FORM RIDE FAIZ ACCEL――

 獲物と見定められていながら、ディケイドは一切臆することなくカードをバックルに装填する。
 赤い光に包まれたディケイドの身体が、銀の装甲に身を包んだ見知らぬ戦士のものへと変わる。直後、胸部装甲の展開と同時に身体に走るラインが赤から銀へ、複眼が黄から赤へと変化する。
 エンジェロイドとの戦闘の最中にも見せた、別の仮面ライダーへの変身能力の類だろう。その能力を行使した意味を考える余裕は、残念ながら今の萌郁には無い。
 何があろうと知ったことかと言わんばかりに、アビソドンが自らの得物を以てディケイドを仕留めんと飛び出す。
 二者の距離は、僅かな時間のうちに埋まる。角は空気を切り裂き、ディケイドの身体へと迫る。

――START UP――

 今まさに貫かれるはずだったディケイドの身体。それが、瞬きする間もない時間で萌郁の前から消えた。
 標的を失ったアビソドンは無様にも地面に突っ込み、勢いのまま無意味に大地を抉り取っいく。
 なぜ。どうしてこうなった。
 混乱の極致となった萌郁の脳がそれでも必死に事態を理解しようとした矢先、その脳は思い切り揺さぶられた。
 遅れて、自らの顎に生じた激痛を萌郁は理解する。
 この時になってようやく、銀のライダーとなったディケイドが眼前に立つのを認識できた。
「悪いが、このままお前を連れて行く」
 ディケイドが何事か喋った内容を、十分には把握できなかった。
 把握するよりも先に、萌郁の意識が暗転したのだから。

943 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:30:35 ID:TNZiMdL.0



 アクセルフォームのファイズが有する超加速に物を言わせて、アビスを一撃蹴り上げて気絶させる。残された制限時間の限りでミラーワールドからの脱出口を求めて駆ける。
 時間切れで変身解除となったら、続いてガルルフォームのキバへと変身し、指折りの脚力に任せて再び走る。
 速度に秀でたライダー達の姿を借りながらの脱出は、追ってきたアビソドンの眼がディケイドの後姿を捉えたその時に終了した。
 アビスの身体を抱えたまま、ディケイドはビルの窓ガラスへと飛び込む。その一秒後、鏡面から飛び出した身体は現実世界の大地に降り立った。
 こうして現実世界への帰還を果たした士は、鏡面の向こう側に映るアビソドンの恨めしそうな姿を一瞥し、しかしそれ以上の興味を持つことなく視線をアビスへと移した。
 気を失って身動きしない身体を抱えたまま、空いた手を腹部へと伸ばしバックルからカードデッキを抜き取る。即座に変身が解除され生身の姿が露わとなった。ぐったりと士の腕に身体を預けるのは、眼鏡をかけた若い女だった。

「……変な手間をかけちまったか」
 ミラーワールド内部で偶然発見したアビスと接触し、一先ず見境無く襲い掛かってくる類の相手ではないだろうと確認したため脱出を提案した矢先の、逃走と迎撃であった。
 閉鎖空間に閉じ込められたために冷静さを失っていたのかと考えたが、今ではもう一つの可能性にも既に行き着いている。

 門矢士が、ディケイドだから。破壊者として暴虐を尽くす姿を目撃されたから。
 もしそうだとしても何も不自然なことではないだろうと、士の頭は冷静に受け止めていた。
 課せられた使命を果たす過程は誰にも理解されない。有無を言わさず戦意を向けるのだから、恐怖されてもおかしくはない。
 士が誰からも警戒されるのは、ごく自然な話だった。

「おい、出てくればいいだろ」
 例えば、こうして士に銃口を向けられてようやく建物の陰から姿を現した男のように。

「……ディケイド」
「お前、俺を知ってるのか?」
「小野寺ユウスケから聞いた。今の君が変わってしまったということも」
 現れたのは、若い少年が一人だけだった。
 士からすれば初対面の相手であったが、向こうは既にこちらを知っているようだ。どうやらどこかでユウスケと出会い、話を聞いたのだと思われる。
 そうであるならば、彼が士に向ける瞳に警戒の色を含ませているのも、破壊者としての名で士を呼んだのも頷ける。
「だったら話は早い。答えろ。お前は、仮面ライダーなのか?」
 投げ掛けられた士からの問い。
 それを受けて幾何かの逡巡を見せながらも、少年は意を決したように自らの名を名乗った。

「僕はフィリップ、そして仮面ライダーダブル…………だった」
「だった?」
「今は仮面ライダーじゃない、というだけだ」
 答えは肯定、しかし過去形。
 士はその真意を考え、いくつかの仮説を思い浮かべる。
 一つは仮面ライダーへの変身に必要な能力を失ったとの意味。
 もう一つは、いつかの照井竜のように仮面ライダーとしての自己認識を捨てたという意味。
 そして、少なくとも後者の場合は彼の意思に関わらず士は彼を仮面ライダーであると判断し、破壊しなければならない。
 正確な判断が、求められている。

「……そうか。お前の言葉を信じるとすれば、俺はお前を倒す必要は無いな」
「仮面ライダーなら破壊する、ということか……? 教えてくれ、そんな戦いに何の意味がある?」
「それが分かったら、俺を止めようとでも言う気か?」
「……その話の前に、その女性を僕達に預けてほしい。君に事情が無いなら、彼女は僕が保護させてもらう」
 フィリップの目当ては、どうやら横たわっている女性のようだ。
 知り合いなのか赤の他人なのかは不明だが、保護と言ったところを見るに少なくとも害する意図は無いのだろう。
「何だ。それなら別に構わん。連れていけ」
 すぐ後ろのビルの壁面に女性の身体を運んで持たれかけさせ、安静な姿勢にさせる。
 その士の様子を見て、とりあえず安全であると認識したのだろう。士から目を離さないままではあるが、フィリップが士の方へと歩みを進めてくる。

944 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:31:22 ID:TNZiMdL.0

「力ずくで、な」
 そして士は、踏み出されたフィリップの足元にライドブッカーの弾丸を撃ち込む。

「……君は」
「まあ、これも必要なことだ。悪く思うな」
 言いながら、二発目のために銃口を向け直す。
 その時には既に少年の手に緑色の物体が握られていた。その小さな箱型は、照井竜やバーナビー・ブルックスJr.も所持していたガイアメモリだろう。
 そして次に彼が取った行動は、照井竜のように媒介となるツールの使用ではなかった。

――CYCLONE――

 緑のガイアメモリは、少年の首筋に直接押し当てられていた。
 直後、彼の身体が緑の異形へと変貌する。
 その姿を一目見ただけで、士には瞬時に判別出来た。彼の肉体は怪人のそれであり、仮面ライダーではない。わざわざ怪人の姿で応戦するのを見るに、仮面ライダーでなくなったという言葉には変身ツールの紛失の意が含まれているようだ。

 ……勿論、全てはこの少年の言葉と行動をそのまま真実と受け止めるなら、の話であるが。

 そして事実を確認した士が取るべき行動は決まっている。
「仮面ライダーなら誰かを傷つけない……とでも思ったか?」
「……狙いはその女性か、それとも僕か!?」
「自分で確かめてみろ、“元”仮面ライダー」
 挑発的な態度を取り、少年に敵意を向ける。
 名の知らぬ女性の身柄をかけての、緑の怪人となった彼との戦闘。それが今の士の選択だ。

 理由は一つ。門矢士が、“仮面ライダー”を探し求めているから。



「なあ、やっぱりこんなの引き受ける必要無かったんじゃないのか?」
「……俺に」
「質問するなって言われてもな。実際無駄だろ、これは」
 火蓋が切られたサイクロン・ドーパントとディケイドの攻防――と言っても、サイクロン・ドーパントの防戦一方なのだが――を見つめながら、笹塚は照井に語りかける。
 いかなる原理か鏡の中から飛び出したディケイドを発見した時点で、こちらに気付かれる前に逃げるかまともに相手にせずにやり過ごすかを考えた照井達であったが、ただ一人フィリップだけは別の案を提示した。
 ディケイドとの対峙、および素性の知れない女性の保護である。
 女性の保護に関しては、彼女が目覚めた後で情報交換を行えるメリットがあると言った。その後に面倒まで見なければならない羽目になるかもしれないと考えれば気が進まないのも事実だが、そちらは最重要事項ではない。

 問題は、照井が明確にディケイドの標的とされている点だった。
 以前の戦闘での口振りから判断するに、ディケイドは“仮面ライダー”を特に優先的に倒すことを方針としているようだ。しかし奴の考え方を全て把握しているわけでもない以上、照井が仮面ライダーの力を失ったと知ったところでディケイドが納得するかは不明と言わざるを得ない。
 ゆえに、フィリップの策を実行すれば照井は手傷を負わされる可能性が高く、また彼女との情報交換がその不利益を見込んでまで実行するに値するメリットのある物かと言われれば、答えは否。

 そうしてフィリップの案を却下しようとした頃には、ディケイドもいよいよ照井達の気配に気付いてしまった。さてどう撒くべきかと考える照井に、フィリップはなおも食い下がった。
 ディケイドは自分が引き付ける。その間に二人で女性を確保し、すぐに自分を回収して撤退すればいい。そのためにも、笹塚には少量で構わないのでセルメダルを貸してほしい。
 結局、照井達はフィリップの提案を呑むことにした。セルメダルこそ消費するが、それでも速やかな撤退が目標ならば……と、フィリップに付き合うことにしたのである。

「あのフィリップって奴、自分で体張るのは結構だけどな」
「だけど、何だ?」
「あの女を保護しようってのも、要は単なる善意じゃないのか? そんなものに、俺達が付き合ってる場合なのかよ」
「……分かっている。何かあったら、俺がけじめをつける」

 笹塚の指摘したことは、実の所照井にも思うところがあった。
 自らの意思で“仮面ライダー”の正義を放棄した照井とは異なり、相棒を喪ってなおフィリップの正義感は消えていないことは再会の際の会話からも明らかだ。
 そのフィリップが提案した「正体不明の女性の保護」は、題目こそ情報収集だが、その実は単なる正義感に拠るものなのではないか。
 彼との付き合いは短くないのだ。その程度、笹塚よりも想像するに容易い。

945 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:32:08 ID:TNZiMdL.0

 それでもなお照井がフィリップの案を呑んだのは、フィリップ自身が最前線に出るために照井の不利益が小さいことを評価したためか。
 はたまた、十二分の実力を持つディケイド相手に打って出る度胸を買ったのか。
「まさかとは思うが……今になってあいつに肩入れしようってわけじゃ」
「黙っていろ」
 ……亡き翔太郎が遺した正義が果たされるのを見届けたいと、心のどこかで望んでいるでもいうのか。
 最後の可能性だけは無いだろうと思っているが、それでも照井の判断を客観的に見ればそのように受け取られてもおかしくはない状態にあった。

 そもそも、照井達がキャッスルドラン周辺まで移動してきたこと自体もフィリップの提案が発端だ。
 何らかの爆発の類だったのだろう、夜空の暗さの中でひときわ異彩を放った強い輝きを視界に収めた三人の中で、真っ先に現地への急行を提案したのがフィリップであった。その際に照井と笹塚に述べた理由付けもまた、今回とほぼ似たようなものだ。

(俺は……また繰り返してはいないか?)
 これでは、同じではないか。
 シュテルンビルトで鹿目まどかの願いを聞き届け、ディケイドやオーズとの戦いに割り込んで。そして、照井の本懐とは何ら関わりの無い理由で手傷を負わされたあの経験。
 ここでフィリップに付き合って時間を費やすこともまた、あれと同じような話ではないのか。
 そして、この先もまたフィリップは照井に今回のような提案をしては、あれこれと理由を付けて突き合わせるのではないだろうか。

 戦力増強のために引き込んだフィリップが、フィリップの中で今も熱を持つ仮面ライダーの正義が……結局、照井の枷となっていくのではないか?
 仮面ライダーごっこは、もう終わったのに?

「……あ−、そろそろ行っとくか? これ以上やるとフィリップがヤバそうだ」
「何?」
 疑念に囚われようとしていた照井の意識は、笹塚の呼びかけで現実に呼び戻される。
 見ると、随分と距離が開いた先でサイクロン・ドーパントがディケイドに斬りつけられていた。
 実力差が明白である以上、確かにこれ以上戦わせるのは本当に危険かもしれない。
 何より、ディケイドとの距離がこれだけ開けば十分か。
 ……とりあえず、今は面倒事だけ片付けておくのが手っ取り早い。

「だったら、いい加減切り上げさせてもらうか」
 胸に巣食う歯痒さを、振り切ってしまうために。
 赤のガイアメモリのスイッチで、心の揺らぎを一度リセットする。

――ACCEL――



 フィリップが笹塚から借り受けたセルメダルの枚数は必要最小限の量に過ぎない。
 サイクロン・ドーパントへの変身状態の維持コストを賄うだけならともかく、固有の能力の発動コストに枚数を充てる余裕はほとんど無い。
 そのため、サイクロン・ドーパントの本領である風を操る能力を迂闊に使うことが出来ず、強化された肉体のみを武器としての戦闘を強いられていた。
 そのことは当然ながら、フィリップが不利な状況に陥るのに十分な理由となっている。
 セルメダルの節約のためかディケイドも能力発動のキーとなるカードを使用することなく戦っているが、それでもなおフィリップを守りの体勢に追い込むほどに攻撃の勢いが苛烈だった。

 そして、今また剣がフィリップの胸部を斬りつける。
「ぐぅっ……!」
 浅い傷に留まってくれたが、それでもダメージには変わりない。
 呻くフィリップの隙を突いて繰り出されたディケイドの肘打ちも命中し、体勢を崩し地面に膝を付く。
 そんなフィリップを見下すディケイドの双眸には、敵意以外のいかなる感情が秘められているのか読み取ることは出来ない。
「……こんなことを、している場合じゃないだろう、ディケイド……!」
「生憎、俺にも俺なりの責務ってのがあるからな」
 怒りを滲ませたフィリップに対しての、不遜なディケイドの言葉。それがまた、フィリップの中の不可解と苛立ちを増大させる。

946 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:33:03 ID:TNZiMdL.0

 相棒の死と共に、フィリップの仮面ライダーダブルとしての姿は失われた。
 照井竜は、仮面ライダーアクセルの力も正義も自ら放棄してしまった。
 人々の命が脅かされている中で、人々を守るべき仮面ライダーがいない。
 それでも戦わねばならない責任があるというのに、自分達は一体何をやっているのだろう。
「君は……」
 目の前の戦士は、今のフィリップが願っても得られない“仮面ライダー”の名を冠したディケイドは、どうしてこんな所でフィリップと戯れているのだろう。
 為すべきことは、他にいくらでもあると言うのに……!

「君が誰かを守らないなら、僕が守る……!」
 突き出した右の掌から、真っ直ぐに吹き荒ぶ突風が発生する。
 今の今まで控えていたサイクロン・ドーパントの能力の発動に、今このタイミングで踏み切ったのだ。
 勿論、風一つでディケイドを倒すことなど不可能だ。精々数秒の間動きを止めるくらいしか出来ない。
 しかし、それで十分だ。

――ACCEL――

 向こう側から響いた電子音声と共に、赤い影が飛び出した。
 アクセル・ドーパントと化した照井竜が、笹塚と共に女性の下へと駆ける。
 二人がこの行動こそ、フィリップの策が達成に近づいている証拠である。

 わざわざフィリップが単身でディケイドに挑んだのは、何のことはない陽動作戦である。
 穏やかに事を収めることが叶わない可能性に備え、まずフィリップが一人でディケイドと接触し、戦闘になったら守りに徹しつつ少しでもディケイドを女性から離れさせる。
 ある程度の距離を稼げたと感じたらディケイドの足止めに集中し、そのタイミングを見計らって照井と笹塚が女性の保護に向かう。
 他者の保護に消極的な照井達の不満を小さくするために考え出した策だが、少なくとも今の瞬間の時点では上手くいっているようだ。

 しかし、この策には欠点もいくつか存在する。
 ディケイドがフィリップとの応戦に執着する保証が確実ではなかった点。
 そもそもフィリップが倒されてしまっては元も子もないために危険な戦いを強いられる点。

 そして、何よりもう一つ。
「なるほどな」
 フィリップの狙いが陽動に過ぎないとディケイドに気付かれる可能性が、決して低くは無い点。
 照井達がいよいよ姿を見せたことに対してディケイドがさして驚いた反応を見せていないのを見るに、この危惧はどうやら的中してしまっていたようだ。もしかしたら、最初に会った時点で既に見透かされていたのだろうか。
 それでも、フィリップは引き下がるわけにはいかない。
 もう一度や二度能力を使うくらいのセルメダルなら残されている。たとえディケイドが銃を使って照井か女性を撃とうとしたところで、風で手元を狂わせるくらいは可能なはずだ。
 フィリップへの攻撃を重視するつもりなら、それこそ防いでみせるまでだ。
 ディケイドが次に取る行動に備え、一瞬の動きも見逃さぬよう注視するフィリップ。それに応えるようにディケイドが見せたのは、二枚のカードだった。

(トランプ……?)
 一見するとなんの変哲も無いトランプのカードが二枚、ディケイドの左手に握られていた。
 走る照井の方をちらりと一瞥し、それと同じくしてディケイドの左手が微かに動き始めるのをフィリップの目が捉える。
 カードを投擲するつもりなのか。しかし、普通に考えればカードが人間の身体に当たったところで殆どダメージにはならない。
 それでも、ディケイドがその行動を取ろうとしたことに言い知れぬ不安感を抱かずにはいられなかった。

 もう一度、ディケイドの身体に向けて風を発生させる。
 狙い通り、手から離れたカードが、あらぬ方向へと飛ばされていく。
 どんな目的があってのことか知らないが、少なくともカードが何者かの身体に襲い掛かることはなくなったはずだ。
 そのことを認識し、小さく安堵したフィリップ。
 しかし、そんな安堵は容易く消されることとなる。

947 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:33:21 ID:TNZiMdL.0

 照井からも女性からも離れて行ったはずの二枚のカード。
 それが、空中で旋回し再び彼ら目掛けて滑空し始めた。

(自律型!?)
 カードに仕組まれていた機能に気付いた頃には、もう遅い。
「照井竜っ!」
 今更フィリップが追い付けないとあっては、頼みの綱は照井達だけだ。
 名を呼ばれた照井竜は、移動を止めて既にエンジンブレードを構えている。
 その刀身で、飛来したカードを受け止める。その瞬間、カードは小規模な爆発へと変貌した。
「くっ……」
 咄嗟にエンジンブレードの刀身で受け止めたことで、二人ともダメージは避けられた。しかしその代わりに、行軍を止められる羽目になる。
 たった一秒程度のタイムラグ、それが文字通り致命的な隙となる。
「あっ――!」
 回転しながら空気を切り裂くカードが、女の身体へと迫る。
 フィリップとの距離は、遠い。今更何をしようと防ぎようが無い。
 照井達は、動かない。ブレードを振るったところで正確に叩き落とすのは困難だ。

 跳べ、跳んでくれ。

 フィリップの脳裏に過った願いは、つまり身体を張って照井が女性を庇えとの命令に等しい。
 それが身勝手だとしても、願わずにはいられなかった。
 何も救えぬ自分が嫌だから、せめて照井が“仮面ライダー”であってくれと、フィリップは必死に願い続ける。
 そして、その想いに応えるようにもたらされた結末は、



『もー! ワケわかんない! なんでディケイドはあいつ等と戦ってるのさ!?』
『僕に聞かないでよ……正直、ディケイドもディケイドでバースとかいうライダー倒したりして様子がおかしいとは思ってたけど、一体何考えてるの?』
『アカンわ、ワイらでディケイドと力合わせようと考えとったが、こりゃあそんなこと言ってる場合やないぞ』
『おいディケイドォー! テメーのやるべき使命ってこんなことじゃねーだろ! とっととここから出しやがれ!』
『あ、桃の字。上開いたで』
『なんと? よし、こいつはチャンス! 俺達でまずディケイドをふんじばって……』
『センパイ。今の僕達じゃ無理だってば。ていうか、ディケイドが自分でディバッグを開けたってことは、多分……』
『そりゃあお前、ベルトを取り出して、その後、お、お、おおおぉぉぁぁぁああああーーーーーっ!?』

948 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:36:19 ID:TNZiMdL.0



「とんだ茶番だったな」
 目の前で起こったいっそ間抜けですらある光景を前にして、笹塚が小さく呟いた。

 女性を狙って飛んでいた一枚のカード。
 それが、今まさに衝突寸前となったところでぴたりと静止した。
 勢いを失ったカードははらはらと漂いながら地面へと力なく落下し、小さな爆発を起こして消えた。
 その一連の流れを見届けたディケイドは、茫然と立つフィリップを横目に腹部のバックルを展開して変身を解除する。
 生身の人間――門矢士としての姿を晒したのは、もう戦闘の意思が無いということなのだろう。
 この時になってやっと、フィリップは彼が最初から女性を傷付ける気など無かったのだと察した。
 フィリップの応戦も、照井の急行も、何もかもただの徒労であったわけだ。

 ……何だ、それは。
「…………ディケイド、君は一体何の意味があって、こんなふざけた真似を……!」
「受け取れ」
 義憤のままに食って掛かろうとしたフィリップに構わず、士はディバッグから取り出した何かを放り投げてきた。
 一つは機械的な外見のベルト、二度目が硬質なケース、そして三度目が真っ赤な携帯電話だ。
 慌てて受け取ったフィリップだが、その意図が分からずまたも呆気に取られる。
 いや、正確にはその道具一式の使用意図が推測できたからこそ、士がフィリップに渡した意図が余計に分からない。
「これは……」
「仮面ライダー電王に変身するためのベルトだ。お前も“仮面ライダー”だったなら、大体分かるだろう?」
「なぜ、僕にこれを渡すんだ?」
「お前なら、まあ相応しいだろうと思ったからだ。少なくともそいつ等とは気が合うだろうしな」

「……俺達を試したのか?」
 声を上げたのは、様子を伺っていた照井だった。
 問われた士は照井の方へと顔を向け、大した問題では無いかのように言ってのけた。
「まあ、そう取ってもらっても構わない」
「だったら、今の戦いで俺達を倒そうという気は無いということか?」
「……この場に“仮面ライダー”はいないからな。そういうことになる。だったら、今はお前らに“仮面ライダー”を譲ってやる」
 その一言で今度こそ、本当は最初から士に敵意が無かったことを確信した。
 全ては、フィリップ達の人間性を観察するための演技だったのだ。その目的は……認めるに値する人間に、仮面ライダーの力を譲り渡すこと。
 そしていかなる因果か、三人の中でベターと認められたのは目的をろくに果たせなかったはずのフィリップであった。

 士の行動の意図は分かった。だからこそ、フィリップには門矢士という人間がますます分からない。
 仮面ライダーを付け狙う、暴力的な人間性に変わり果ててしまったのではなかったのか? この行動は話に聞く人間像とぶれていないか?
 仮面ライダーという名の重みを理解はしているのか? ならば、なぜその名を持つ者を討とうとする?
 士の本質は、正義なのか? 悪なのか?
 何のために、今も仮面ライダーを名乗っている?

「君は……君にとっての“仮面ライダー”とは、一体――」

「それじゃ、もう用も無いしさっさと行かせてもらう」
「待て、君はこれからもこんなことを……」
「それが俺の責務だからな……まあ、喧嘩を売ったことだけは謝っておく」
 フィリップの質問も静止も空しく、士は撤退の一手を打つ。
 先程は投擲に使っていたトランプのカードが、今度はまるで巨大な板のような形となって士の身体に重なる。
 その大きさを保ったまま、また回転しながら空の中へと消えていく。士の姿は、既にどこにも無かった。あのカードに張り付いたといったところなのだろうか。
 ともかく、門矢士はベルト一式と女性の身柄だけを残して消えてしまった。それだけが、事実として残された。

「……何だっていうんだ」
 殆ど状況に流されるまま辿り着いた結末に、フィリップは徒労感をたっぷり含ませながら嘆息した。
 一先ず、今自分が得たものくらいは確認しておこうと考えた。混乱の収まらない頭は、その後でゆっくり落ち着ければいい話だ。
 そんな言葉を頭に並べながら、フィリップは渡されたベルトを目の高さまで翳し、

『何で今度は僕達を投げ捨てるの!?』
『僕に聞かないでってば……』
『ああぁぁーーっ! 誰か俺に分かるように説明しろお!』

 けたたましく重なる声色に、またも呆気に取られることとなった。

949 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:36:52 ID:TNZiMdL.0



 フィリップ達が士と言葉を交わすのを視界の端に収めつつ、笹塚は一人黙考していた。
 懸案は今回その身柄を巡って一悶着を起こす羽目になった眼鏡の女性――桐生萌郁のことである。
(あんまりバレてほしくないこともあるからな)
 笹塚は萌郁という人間と既に面識があったにも関わらず、今に至るまで彼女に関する情報の一切を照井とフィリップに明かしていない。
 その理由は簡単。下手に話したせいで、知られたくない部分にまで触れられるのを避けたためだ。

 桐生萌郁とは、黄陣営のリーダーであるカザリ扮するFBの指示に従い、それでいて「自分が本当は誰に従っているか」という肝心な部分に盲目的な、ある種の哀れな使い走りである。そしてこの会場に連れられてから最初に受けた指令に従い、彼女は笹塚(の複製)を殺害している。
 これが笹塚と萌郁、そしてカザリ扮するFBの三者の関係である。
 さて、笹塚と萌郁の関係については知られたところでまだ許容範囲内だ。
 仮に萌郁の前で笹塚の存命を明らかにしたとして、その時はシナプスカードと言うカラクリを明かせば一応の説明は付き、話はそれで終わりだ。精々フィリップ辺りから情報の隠匿を非難される程度だろう。
 危惧したのは、萌郁とFBの関係が露呈すること。より正確に言えば、万が一にもFBが照井達の追及を受ける羽目となった挙句、そのグリード・カザリとしての正体、そして笹塚と関係を有していた事実を知られる可能性があることだった。
 明確に所属陣営の優勝を狙う者、あるいは今の笹塚自身のような特別な事情を持つ者でない限り、真木清人の手先であるグリードと積極的に関わる理由は無い。それはフィリップや照井にも同じく言えるはずだ。

 そんな奴と笹塚が関係を持っていると知られたら、どうなるか?
 情報提示などで上手く立ち回れば、少なくとも照井とは共闘関係を維持できるかもしれない。しかし下手を打てば、場合によっては障害と見なされた挙句に対立へと発展しかねない。そうなれば、笹塚は頼れる味方のどちらかを切り捨てざるを得なくなる。
 照井という理解者を手放す気は起きず、かと言って今後のバトルロワイアルの展望次第では今カザリに倒れられても困る。
 シックスへの復讐が最優先であるからこそ、手駒となりうる存在を下手に奪われては困るのだ。
 結局、萌郁が照井達を追及されることは不都合な事態への第一歩となりかねない。ゆえに、ここで回避しなければならない。

(じゃ、ちょっと拝借するか)
 とは言え、方法は簡単。照井達に必要以上の情報を与えなければよい。
 具体的には、照井達が士に注意を向けている今の内に萌郁が持っている携帯電話を預からせてもらう。
 そうすれば、今はFB本人への追及は手掛かり無しとして見送りとなるはずだ。
(いいだろ? 一回やられた時点で、アンタはどうせ手駒失格だしな)
 これだけ変化し続ける状況にいながら大した動きも出来なかった萌郁に心中で言い訳を述べつつ、手元に持っている携帯電話に手を伸ばす。

(って、無いのかよ……)
 伸ばそうとしたところで、今の萌郁が携帯電話を手に持っていないことにようやく気付く。
 照井達の目を盗みつつ、それとなく衣服のポケットもディバッグの中も調べてみるも空振り。
 受信機となるアイテムを彼女が手放すとは思えない。だとすれば、大方何者かに先に奪われたのだろう。
 そして一番の候補となる人物は、彼女と最後に接触したディケイド――門矢士だ。
 その当の本人である士はと言えば、たった今いかなる原理か巨大化したトランプと共に姿を消した。こうなっては、彼が携帯電話を持っているのかどうかすら最早確かめようがない。
(まあ、結果オーライか)
 結局FB自身への追及が行われないなら、話は同じことだ。
 強いて言うなら、自分の手元に置いておけば任意のタイミングでカザリと再接触が図れたはずだったというのが惜しいことか。

 ……惜しいと言えば、萌郁が持っていたはずのアビスへ変身するカードデッキも預かることができたなら良かったのだが、それこそ言っても仕方が無い。
(俺も欲しいんだがな、ああいうの)
 カードデッキの存在を一度思い起こした笹塚の思考は、続いて“仮面ライダー”へ向かい始める。
 エターナル、ディケイド、そして今は亡きアクセル。笹塚の知る限り最強の存在である魔人には及ばずとも、怪物強盗と同等かそれ以上の力を持つ超人。
 それは今更手に入れられない先天的な要素の結果ではなく、今まで見た限りでは専用の装備によって人間の肉体が変化したものだ。
 今も何やら呟いているフィリップが持つベルトも、どうやら仮面ライダーに変身するためのツールらしい。
 あれが自分の物になれば良いのに、と恨めしく思わずにはいられない。

950 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:37:31 ID:TNZiMdL.0

 ディケイドの価値観なぞ知る由も無いが、ともかく笹塚は彼の御眼鏡に適わなかったためにベルトを譲り受けられなかったようだ。
 理不尽な話である。
 目的のための覚悟の強さなら、笹塚は他者に決して劣りはしないと自負している。
 そして、その達成のために生まれる力への渇望の切実さも。
 にも関わらず、笹塚には今もお鉢が回ってこない。
 肉体的な条件によっては使用にリスクがある可能性も予想はつくし、実際に不適合であると言われたら笹塚とて一応の諦めがつく。しかし、その条件の可否を確かめる機会すら得られないのでは不満も溜まるものだ。

 照井やフィリップの口振りを聞く限り、“仮面ライダー”の名を背負うには相応の気質や品位のようなものが求められるらしい。
 それこそ、笹塚には興味の無い話であった。
「別にいいだろ、誰がどう使おうが」
 力は所詮力。生み出した者が込めた意味やら願いやらに持ち主が束縛されるなど馬鹿馬鹿しいことだ。
 このように考えるのは、結局笹塚の住む環境に“仮面ライダー”が存在しなかったための無関心に根付くものかもしれない。だからと言って、照井達の価値観を改めて考察する理由など、笹塚にありはしない。

 ゆえに、笹塚の中で欲望は静かに育ち続けている。
 俺にも力を寄越せと。
 俺を、“仮面ライダー”にしろと。

 独善的な黒い炎は、静かに燃える。



 デルサー軍団の大幹部ジェネラルシャドウの愛用したトランプの力により、士は戦場からの離脱を果たした。
 士が地に足を着けると共にトランプは掌サイズに縮小し、空中へと霧散していく。
 支給された枚数がスペードのAからKで13枚。爆弾代わりに使った2枚も抜けば、残りはあと10枚。
 先程の戦闘が長引かせる意義の無い内容であったことを考えると、消費が3枚で済んだのは妥当なラインだろうか。

「ライダーじゃないなら、今はあいつ等と戦ってもらうのがマシだな」
 肉体的な変身を遂げた結果という意味での“仮面ライダー”は、あの場には一人もいなかった。しかし、正義感の持ち主としての“仮面ライダー”なら、フィリップが最も近いと言える。
 これが士の出した結論だった。
 そしてこの結論を出すために、士は彼等との交戦に踏み切り、敵視されるべき立場であることを敢えて利用して彼等の敵役を演じることに決めたのだ。
 全ては“仮面ライダー”を探し出すために。

 ただ単に言葉を交わすだけで人間性を判別する選択肢も確かにあった。そのような穏健な手段を取らず、むしろ傍目にはただ面倒で、体力やメダルの消費をも伴う手段を取ったことにも理由はある。
 一つは、フィリップ以外にも姿を見せない者達がいることに薄々感づいており、彼等の出方も伺いたかったこと。
 もう一つは、より確実な信頼感を得るためにも、士の求める素質を言葉ではなく行動で見せてほしかったこと。
 最後の一つは、友好的な関係の兆しを下手に作ってしまって再び余計な温情を胸中に生むのを避けたかったこと。

 そして観察に徹し破壊者として打倒する選択をしなかったのは、仮面ライダーの力を失った者を倒した場合に世界再生の条件が達成されるか、前例が無いために確信できなかったため。
 中途半端な見込で事に及んだものの当てが外れ、フィリップを本来の手段で倒すことが永遠に叶わなくなり世界崩壊が確定するなどという可能性だけは避けねばならなかった、というのが実情である。
 もしも彼らがいつの時か本来の姿を取り戻したなら……その時には、改めて破壊に向わねばならないのだから。

 観察対象となった人間としては、フィリップ以外にも二人が確認できた。
 その一人が、かつて仮面ライダーアクセルであったはずであり、しかし今は怪人のアクセルとなった照井竜。
 アクセルがフィリップの協力者として姿を現したことは、一瞬だが士を驚かせた。
 それでも躊躇うことなく、士はトランプに爆弾機能を持たせて射出した。身動きのできない人間に脅威が迫った時、彼がどのような行動を取るのか見るべきと考えたためだ。
 士の見てきた仮面ライダー達の大抵は、同じ状況に置かれたら咄嗟の判断で他人を守ろうとしただろう。もしも照井か、あるいは同行者していた男が同じ行動を見せたら、その者の人柄を士は認める気でいた。それを試すための一撃である。
 勿論そのような者に手傷を負わせるのは本意ではないので、爆弾の威力は最小限となるよう意思を込めて、ではあったのだが。
 そして結果は、士を少なからず落胆させるものだった。

951 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:38:07 ID:TNZiMdL.0

「仮面ライダーではない……そういう意味だったのか?」
 士は確かに目撃した。トランプ爆弾が女に迫るのを前にして、照井竜の身体がほんの一瞬、しかし確実に躊躇いを見せたのを。
 身を乗り出せば、女を庇うことも不可能では無かったはずだ。それにも関わらず、照井は動こうとしなかった。動けなかったのではなく、動こうとしなかった。
 何もその判断が醜悪だと断ずるつもりは無い。自分の怪我に構わず他者を守れ、と要求するのは些か酷な話ではあるだろう。
 ただ、あの女性を保護するための作戦に身を投じ、他者の負傷の可能性に悲痛な叫びを上げたフィリップ程には“仮面ライダー”らしくない、と感じただけの話だ。
 もしかしたら、自分を危機に晒してまで身を挺して他者を庇うことを馬鹿らしいと思ったのだろうか。あの逡巡が、“仮面ライダー”の名を捨てたと言う証明であったのだろうか。
 そうだとすれば。やはり照井竜に“仮面ライダー”の力を渡すのは、まだ、好ましくない。

 こうして観察を兼ねての戦闘を終えた士は、フィリップが最も“仮面ライダー”として妥当だろうと考えるに至り、“仮面ライダー”の資格を譲渡するに至ったである。
 デンオウベルトだけを渡し、成り行きで預かることとなったアビスのデッキを手元に残したのは、単に相応しい者の人数が一名きりであったからという理由だけではない。
 電王なら、万が一ベルトが悪しき心の持ち主の手に渡ってもイマジンがストッパーとなると期待したためだ。逆に、モンスターという独立した別個の戦力を持つアビスは暗殺の用途にすら使用可能であり、悪用された時が恐ろしい。
 せっかく渡したアイテムが正体不明の人物――たとえば、照井の傍にいた素性の知れない男のような――の手に渡った時のリスクを、特に保護の必要がある人物がいる状況では避けねばならなかったのだ。
 こうして一人は破壊する必要の無い“仮面ライダー”になる資格を得た。そのことは士に若干の満足感を与えながらも、焦燥を拭い去るほどのものにはならない。

 緑の怪人となったフィリップ、赤の怪人となった照井竜。
 二人の姿が示すのは、ダブルとアクセルという二人の仮面ライダーが一時的に、もしくは永遠に失われた事実である。
 数多くの命が奪われただけでなく、世界を救うために存在し続けなければならない仮面ライダーまで世界から姿を消されてしまった。
「やらかしたな、俺も」
 間違いなく、士の怠慢のツケであった。
 理解していたつもりではあったが、こうして新たにミスの結果を見せつけられるとやはり苦々しい感覚がある。

「……だったら、もう誰もやらせるわけにはいかない」
 全ての敵に一人で立ち向かう覚悟は、とっくに決めている。
 ならば、自分に敵意が集中する状況を自ら積極的に完成させていく必要もある。

 そんなことを考える士がディバッグから取り出したのは、二枚の青のコアメダル。メズールを撃破した際に散らばった五枚のコアメダルのうち、ある懸念から士は二枚だけ首輪ではなくディバッグに収納していたのだ。
「こいつを取り込めば、俺が次のリーダーってわけか」
 陣営のリーダーが脱落した場合、以後該当する陣営と同色のコアメダルを多数所有していた無所属の参加者が次期リーダーに着任する。陣営戦のこのルールに従えば、メズールの身体から排出された青のコアメダルを総取りすれば士が青陣営のリーダーになるのは明らかな話であった。
 そのことを理解した上で、敢えて士はセルメダルの代用に必要最低限な枚数しか青のコアメダルを取り込まなかった。
 ラウラの編み出した必勝の策を、下手に打ち崩さないように。

「悪いな、ラウラ」
 可能な限り多くの者を救済できるリーダー討伐の策に基づけば、士が青陣営のリーダーになれば必然的に士とラウラは対立せざるを得なくなる。
 士からすれば彼女の方針を尊重こそすれ阻害する理由も無い以上、敢えて士はリーダーの立場に就くことを避けたのだ。
 甘い。見通しが、甘い。
 フェイリスが死に、ラウラが傷付き、仮面ライダーが敗れた。それなのにラウラのリーダーとしての立場の尊重しようと……彼女が敵意に晒され、手を汚さんとするのを容認しようなどと考えては、それこそ無責任だ。全てが後の祭りとなってしまった今、最早士は彼女に、いや他の善意ある何者にも余計な負担をかけさせるわけにはいかない。
 ならば士が取るべき手は一つ。害意を持つ者達全ての目を、士に向けさせる。

952 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:38:42 ID:TNZiMdL.0

「お前の作戦は、果たされない」
 ちゃりん、ちゃりん、と金属音が二度響き、青のメダルが士の首輪に吸収される。直後、首輪のランプが放つ光は紫から青へと変化した。
 この瞬間を以て、門矢士が青陣営の次期リーダーに確定した。
 これで士を倒さない限り、ラウラもグリード共もバトルロワイアルでの勝利が叶わない。バトルロワイアル自体に反発する者以外の全員が、無視の許されない倒すべき標的として士を追わねばならなくなった。
 そして士は、バトルロワイアルでの勝利を目指す気など無い。リーダーでありながら、青陣営に貢献する気もゲームをまともに進行させる気も一切持っていない。
 即ち士がリーダーとして君臨し続ける限り、バトルロワイアルが正規の方法で完遂される瞬間など訪れやしないのだ。
 これが庇護されるべき人々に刃を向けさせないための士なりの働きであり、ゲームの完遂を望む全ての愚者への反逆にして嫌がらせ。
 もう後には引けない。このゲームが終わりを迎えるのはただ一つ――他でもない、ゲームを運営する者達が士の手で討ち取られる時だけだ。

 こんなふざけたゲームの齎す恩恵など、知ったことか。
 世界を救う鍵である仮面ライダーも、見境なく人々を脅かす悪も、全ての元凶である真木清人も、全て士の手で潰す。
 痛みも罪も、この門矢士が背負っていく。

「……誰にも倒されるなよ。仮面ライダー」
 想起するのは、今しがた別れたばかりの元・仮面ライダーの姿。
 今の彼が敵を倒すための戦いへ積極的に身を投じる必要は無い。ただ、守護者であってくれればいい。
 被害者である弱者の命も、正義の行使のために託した力も、道を踏み外しかける者から失われようとしている正義も、彼に守ってもらいたいと士は願う。

 つい先程こちらの都合で迷惑をかけて、更にいつか彼を倒すための再会すら考える側の立場からこのような願いを抱くのは、やはり身勝手なのだろう。それでも、士の手の届かない僅かな部分に関して正義の戦士を頼るくらいの自由は、許されてほしいと思った。
 紛れも無く、世界の救済を欲する一人として。

「それじゃ……っと」
 感傷的な気分を入れ替えるように大きく息を吐きだし、士は一歩踏み出した。
 が、その一歩はふらりとよろめいた。
 どうやら連戦による疲労の蓄積は、いよいよ隠せない段階に来ていたようだ。
 俺が死ぬのはまだ先だからな、と誰に聞かせるでもなく呟き、士は一先ずの休息の場を求めて今度こそ歩き出した。



 ディケイドから渡されたデンオウベルトに宿っていたのは、イマジンという一種の精神体だ。
 ベルトを装着した上で彼らと精神を一体化させることで、電王――かつてディケイドやクウガと並び立って戦ったあの仮面ライダーへの変身が叶うらしい。
 イマジン達との対話を終え、引き出した情報――電王への変身や、フェイリスやラウラや岡部倫太郎といった知己の人物について――を照井達に話したところで、笹塚に問われた。
「で、そのベルトをどうする? 誰が使うんだ?」
「それは……」
「俺やフィリップにはガイアメモリがある。だったら……」
 電王のベルトがれっきとした戦力である以上、誰かが使用するべきだ。
 フィリップと照井が別の道具で戦えるとなれば、笹塚が使用するのが必然的な流れだろう。
 そこまで冷静に考えを纏めたところで、フィリップと笹塚の目線が交錯した。

953 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:39:24 ID:TNZiMdL.0

「……!」
 笹塚の双眸に宿った、暗く、それでいて嬉々とした光。
 一瞬で自らの顔が強張るのを、フィリップは実感した。

「…………いや、君は使わない方がいい」
「は?」
「彼等イマジンと息を合わせられないと、電王としては戦えないらしい。彼等も……本来の変身者以外とは気が合わなそうだと言っている」
「……やってみないと分からないと思うけどな」
「いざという時のことを考えると、当てに出来るか分からない力を持たせるわけにもいかない……本当に拙い時まで、使うのは待ってくれないか? それまでは僕と照井竜で対処する」
 捲し立てるような口調になっているのが、喋っているフィリップ自身にも実感出来てしまう。
 それほどまでに、笹塚に電王の力を託すことへの恐れにも似た感情が一瞬で成長していた。
 話を聞き終えた笹塚は、納得したのかしていないのか分からないような表情で、そーかい、とだけ言ってまた煙草を吸いだした。
 ほっと息をついたフィリップに、照井が近寄ってくる。そして、そっと耳打ちした。

「やはり、“仮面ライダー”は大切か」
 ……見透かされていたか。
 照井竜がフィリップの真意を見抜いたのは、フィリップの表情が分かりやすかったか、はたまた照井もまた似た感情を抱いていたのか。
 肯定も否定も口に出すことも出来ず、言葉に窮するフィリップを見かねたのか、照井は小声で言った。
「気持ちはわからなくもない。だが、俺達は俺達の目的のために動いているんだ。それだけは忘れるな……お前の我儘に付き合うのも、限度があるぞ」
 それだけ言って、照井はフィリップから離れて行く。
 どうやら照井は、フィリップの中の“仮面ライダー”への執着にも気付いているようだ。その心情を決して褒め称えることもなく、むしろ妨げとならないよう警告される。
 これが、今のフィリップと照井の間にある距離の大きさだった。

 フィリップの数歩先に立つ二人の中に、“仮面ライダー”の正義は無い。
 それを理解しているために、今の照井と進んで行動する笹塚衛士が“仮面ライダー”となることに、本能的な部分での拒絶感が湧いたのだ。
 そして一応はそれらしい理由を付けることで、フィリップの管理下に置くこととさせてもらっている。

 しかし、こんな誤魔化しがいつまで通用するのだろうか。
 爆心地まで同行させたことも、ディケイドとの交戦に協力させたことも、電王の力を取り上げたことも。
 全ては苦し紛れの言い訳で照井達に協力させただけだ。一応のメリットの提示が可能だったからこそ今まで問題は生じていないが、この先も無理を重ね続けてはいつか限界が来るのは容易に想像が付く。
 その時にはいよいよ、彼を繋ぎ止めるのは不可能となるのだろう。

「……そんなことはさせない」
 “仮面ライダー”がいなくなった今だからこそ、自分が頑張らなくてはならない。
 正義を忘れた戦士達、蔓延る数知れぬ悪、恐らく救うべき対象である女性、解決しなければならない問題は沢山ある。
 そのための意思は今も胸にあり、そして、そのための力も――

『良かったじゃねえか、フィリップ。守る人もいて、力も手に入れて、今のお前はまさしく“仮面ライダー”だぜ』
 彼の声が、聞こえた。

『で、その程度じゃお前のミスは帳消しになんかならねえって分かってるよな? 結局何もしちゃいないも同然のお前が、また“仮面ライダー”を名乗ろうってのは烏滸がましい話だろ?』
 容赦の無い糾弾が、フィリップの耳に突き刺さる。
 聞こえない振りをすることなど、不可能だ。

『――――“仮面ライダー”の力が照井達に相応しくないって言ってるけどな、お前にも不釣り合いなんじゃねえのか?』
 否定など、できなかった。

「買い被りすぎだ。僕は、そんな器じゃない」
 否定の言葉を向ける先は、耳に聞こえる声の主では無く。先程フィリップを“仮面ライダー”と認めた、門矢士だった。
 彼からの評価がどうであれ、フィリップは自身を“仮面ライダー”の器だとは思えない。そうありたいとの願望があっても、これまでの醜態とは合致していないのが現実だった。
 話を聞く限り、電王として戦ったイマジンとその契約者は立派な戦士であると言える。
 今のフィリップは、そんな彼等には到底釣り合わない。照井や笹塚と同じく、フィリップもまた電王に、“仮面ライダー”に変身するべきではないのだ。
 だから、ディバッグの中に収納したベルトを次に取り出すのは、きっと自分よりずっと電王の力を継ぐに相応しいと思える人間に会えた時になるだろう。
 イマジン達には悪いが、それが彼らに対する礼儀だ。今はそうとしか、考えられそうになかった。

954 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:40:16 ID:TNZiMdL.0

『こうして力の無い誰かを守っていれば、“仮面ライダー”を演じられるからか?』
「……そうだとしても、だ」

 余計なことを考えたくない。
 そんな望みすら、今は叶いそうにない。



 桐生萌郁が所持していたはずの携帯電話は彼女の手元から消え、しかし士の手にも笹塚の手にも渡っていない。
 ならば一体どこへ消えてしまったと言うのか。その答えは至って簡単。
 ミラーワールドの中に置き去りにされてしまっただけだ。
 アビスに変身した萌郁が士に気絶させられた際に手放してしまい、士はすぐにアビソドンの追撃を受けたためにいちいち携帯電話に気を回す余裕などなく、結局地面に落下したまま今もミラーワールドの大地に横たわっている。

 そして、今後この携帯電話が誰かの手に渡ることは恐らく有り得ないだろう。
 萌郁のようにこの携帯電話を必要とする者は、ミラーワールドに入るための手段を既に持っていない。
 士のようにミラーワールドに入る手段を持っている者には、わざわざ携帯電話を回収しに行くためだけに手間をかける理由が無い。
 仮に何者かがミラーワールドに入る機会があったとしても、回収される見込みは無いに等しい。広大なフィールドの中にぽつんと佇む携帯電話は、まさしく砂漠に落とした針一本。その地点を正確に探し当てろという方が無理な話だ。
 結局、桐生萌郁の携帯電話というアイテムは廃棄されたも同然なのである。

 話題は変わるが、桐生萌郁が現在に至るまでの間に他者と直接対面した回数は極端に少ない。まともにコネクションの構築が出来ないという意味では不利な事実だ。
 しかし不幸中の幸いと言うべきか、他者から敵意や殺意を向けられる決定的な行動に手を染める機会にも殆ど恵まれていない。
 この点も一因となっているのだろう。例えば門矢士、例えばフィリップ、そして例えば岡部倫太郎。それぞれに思惑の違いはあれど、数名とはいえ萌郁の生存を望んでいる他者がいるのが事実となっている。
 つまり、萌郁は今後の立ち回り次第で今からでも独自に仲間を作ることが可能であると言える。

 しかしそれが、FBとの繋がりを断ち切られ、絶対的な心の拠り所を奪われた萌郁にとってどれほどのプラスになるのだろうか。
 それは、目覚めた彼女が自身の現状を認識しないうちにはまだ語れない。

955 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:41:19 ID:TNZiMdL.0

【一日目 真夜中】
【C-5 路上】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】青・リーダー代行
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、左肩に傷跡、フェイリスへの罪悪感、覚悟完了
【首輪】90枚:350枚(250枚)
【コア】ゾウ、シャチ、ウナギ、タコ、スーパータカ
【装備】ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】バースバスター@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、ジェネラルシャドウのトランプ(残り10枚)@仮面ライダーOOO、
    ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド、アビスのカードデッキ@仮面ライダーディケイド、
    キバーラ@仮面ライダーディケイド、首輪(月影ノブヒコ)、ランダム支給品1〜7(士+ユウスケ+ウヴァ+ノブナガ)
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
 1.ゲームを破壊する。そのためにもゲーム自体をルール通りに完遂させない。
 2.「仮面ライダー」とグリード含む殺し合いに乗った参加者は全て破壊する。
 3.仲間はもう作らない(被害者を保護しないわけではないが、過度な同行は絶対しない)。
 4.イカロスは次に出会えば必ず仕留める。
 5.ダブルとアクセルが「仮面ライダー」として復活した時は、今度こそ破壊する。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※アポロガイストは再生怪人だと思っています。
※既に破壊した仮面ライダーを再度破壊する意味はないと考えています。
※仮面ライダーとしての能力を失っている人間を破壊することには、現状では消極的です。
※仮面ライダーバース、仮面ライダープロトバースは殺し合いの中で“破壊”したと考えています。
※()内のメダル枚数はウヴァのATM内のメダルです。士が使うことができるかどうかは不明です。
※ディケイドにコアメダルを破壊できる力があることを知りました。
※もう仲間は作らないという対象の中に、海東大樹を含むか否かは後続の書き手さんにお任せします。

956 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:41:58 ID:TNZiMdL.0


【一日目 真夜中】
【C-5 路上(キバの世界のエリア内)】

【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】無(元・緑陣営)
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、幻覚症状、後悔
【首輪】5枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、
    T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12@Fate/Zero、デンオウベルト+ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。"仮面ライダー"でありたい。
 1.照井達と行動を共にする。
 2.保護した女性(萌郁)から話を聞く。
 3.復讐に燃える照井を放っておく訳にはいかない。
 4.あの少女(=カオス)は何とかして止めたいが……。
 5.バーサーカーと「火野という名の人物」を警戒。また、井坂のことが気掛かり。
 6.デンオウベルトは自分以外の相応しい人物に使ってほしい。
 7.切嗣を救いたかったが、どの面下げて会いに行けというのか。
 8.ディケイドの目的は一体……?
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。
※T2サイクロンメモリはフィリップにとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依しています。
※萌郁の保護を達成したことでセルメダルが少量増加しました。

【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】激しい憎悪と憤怒、覚悟完了、ダメージ(大)、疲労(小)
【首輪】50枚:0枚
【装備】{T2アクセルメモリ、エンジンブレード+エンジンメモリ、ガイアメモリ強化アダプター}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:全てを振り切ってでも井坂深紅郎に復讐する。
 1.フィリップ達と行動を共にする。
 2.何があっても井坂深紅郎をこの手で必ず殺す。でなければおさまりがつかん。
 3.井坂深紅郎の望み通り、T2アクセルを何処までも進化させてやる。
 4.他の参加者を探し、情報を集める。
 5.誰かの為ではなく自分の為だけに戦う。
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。
※T2アクセルメモリは照井竜にとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。
※笹塚、フィリップと情報交換しました。

957 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:42:31 ID:TNZiMdL.0

【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康、加頭順への強い警戒、照井への確信的な共感
【首輪】60枚:0枚
【コア】イマジン
【装備】44オートマグ@現実
【道具】基本支給品、44オートマグの予備弾丸@現実、ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(右腕)@魔人探偵脳噛ネウロ、煙草数種類
【思考・状況】
基本:シックスへの復讐の完遂。どんな手段を使ってでも生還する。
 1.照井と行動を共にする。
 2.目的の達成の邪魔になりそうな者は排除しておく。
 3.首輪の解除が不可能と判断した場合は、自陣営の優勝を目指す。
 4.元の世界との関係者とはできれば会いたくない(特に弥子)。
 5.最終的にはシックスを自分の手で殺す。
 6.戦力、特に“仮面ライダー”への渇望。
 7.もしも弥子が違う陣営に所属していたら……。
【備考】
※シックスの手がかりをネウロから聞き、消息を絶った後からの参戦。
※殺し合いの裏でシックスが動いていると判断しています。
※シックスへの復讐に繋がる行動を取った場合、メダルが増加します。
※照井を復讐に狂う獣だと認識しています。
※照井、フィリップと情報交換しました。

【桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】健康、気絶中
【首輪】50枚:0枚
【装備】無し
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済)
【思考・状況】
 基本:FBの命令に従う。
 0.気絶中。
【備考】
※第8話 Dメール送信前からの参戦です。
※FBの命令を実行するとメダルが増えていきます。

【全体備考】
※門矢士が青陣営の次期リーダーとなりました。これに伴い、元・青陣営で現在無所属となっている参加者は第二回放送を以て青陣営に復帰します。
※桐生萌郁の携帯電話はミラーワールド内部に放置されています。

・支給品紹介
【ジェネラルシャドウのトランプ@仮面ライダーOOO】
月影ノブヒコに支給。全13枚支給。
『オーズ・電王・オールライダー レッツゴー仮面ライダー』に登場したジェネラルシャドウが武器として愛用したトランプ。
カッターや爆弾の他、目眩ましや飛行手段など多岐に渡る能力を持つ。
本来はジェネラルシャドウ本人の使用によって能力が発動するものと思われるが、本ロワ内ではセルメダルの消費により誰でも本人と同様に使用することが可能となっている。

958 ◆SrxCX.Oges:2015/01/04(日) 12:46:26 ID:TNZiMdL.0
以上で投下を終了します。今回は前後編とします。
>>941-948が前編「被制約時のアイソレーション」、
>>949-957が後編「流転過程のアイソレーション」です。

ご意見ご感想などあればよろしくお願いします。

959 ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 15:50:43 ID:1NWjpEYQ0

投下お疲れ様です。
相変わらず面倒臭い士を、面倒臭いキャラのままなのにどうして面倒臭いのかを、実に明瞭に描写されているのはお見事です。
“仮面ライダー”の名を巡るおまわりさんと探偵チームも、これまでに氏が描かれて来られたSSと同じく思想の交錯が非常に明快で、なのに読み応えのある状態で描写されてこちらも流石。
FBと切り離されてからディケイドに恐怖する萌郁さんもその焦燥感がよく伝わってきました。

電王の力を託されたフィリップですが、今の彼にはやはり重い……ほぼ勝ち星0のサイクロン・ドーパントに頼るよりは、電王の方が良いとは思うんだけど……
もし笹塚さんが念願叶って電王ベルトを手に入れたらウラタロスと勘違いされる展開がありそうですね、中の人的に。
さて青陣営のリーダーと化した士……己の怠慢を悔いて修羅の道へ向かう一方で、やはり誰より仮面ライダーを信じたいと思っているその想いの結末はどうなるのか。フィリップが薄々事情があることに勘づきそうで……
そしてFB依存症の萌郁さんはここから自立することができるのか? 実に先が楽しみになりました。

素晴らしい一作、改めて投下乙です! それでは続いて、自分も予約分の投下を開始します。

960明日のパンツと再起と差し伸べる手(前編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 15:52:05 ID:1NWjpEYQ0
 


「――は? どうして私が、あんたの手伝いなんかしなくちゃいけないのよ」

 一世一代の哀訴嘆願に返って来たのは、明確な拒絶だった。
 けんもほろろ、というのであればまだ良かったかもしれない。単に取りつく島がないだけなら、まだ作ることができたかもしれないからだ。
 だがそこに込められた感情は、混じり気のない純粋な怒り――絶対零度でなおも燃え盛るその言葉は、カオスに向けられた徹底的な否定だった。

「あんたは、トモキを殺した……っ!」
 ニンフの口から吐き出されたのは呪詛。カオスを苛む無尽の刃が、言霊に載って突き刺される。
「トモキを……私の、私の――っ!」
 ――愛していた人を。

(…………あぁ)

 ニンフの悲しみを、苦しみを――そしてカオスに向けられた、かつて己が“愛”と呼んだドス黒い感情を。カオスは、心の底から理解できていた。
 これほど忌まわしき記憶なのに、今でも鮮明に思い出す、志筑仁美の燃え尽きる瞬間。
 彼女を喪ったその痛み――彼女を奪った、“火野映司”への熱く黒い衝動は、未だ翳ることはない。

 もし、“火野映司”に何かを懇願されたとしても。カオスは絶対に、それを受け入れない。その願いごと、踏み躙ってやりたいという想いに駆られ――その欲望に、従うことだろう。

 だから。ニンフから向けられたこの否定の感情が、覆しようのない物で。
 カオスの望みは、断ち切られて当然なのだという現実を、受け入れるしかなくて――

「――ごめんな……さい……」
 それでも掠れる声のまま、カオスは赦しを請うていた。
「……して……おねがい…………ゆるして……っ!」

 いなくなってしまえば良い、悪い子だって。否定されるのは、辛い。
 それは、孤独に繋がるから。

 もう……一人は、嫌だ。
 暗くて、冷たくて、寂しくて……もう、一人は嫌だ。

 一人では――愛さえも、苦しみなのだから。

 だから、お願い……許して――っ!

「しらなかったの……しらなかったの! わたし、わたしわるいことだって、しらなくて……!」
「あら。私はきちんとお教えしましてよ? カオスさん」
「――――――――――――え……っ?」

961明日のパンツと再起と差し伸べる手(前編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 15:53:28 ID:1NWjpEYQ0

 その声は。
 カオスが聞き違えるはずのない、その声は。

「愛は教えることのできないもの……確かにそう言いましたのに。貴女は私に教えられた“愛”などと言い訳して、自分から大勢の人を傷つけて……殺したのではありませんか」
 はっとカオスが面を上げた時――ニンフの傍らに立っていたのは、紛れもなく。
 カオスの最愛の人――志筑仁美だった。

「――――っ!!」

 ただ……カオスに向けられたその眼差しには、あの時感じた温かみなどどこにもなく。ニンフと同じ、極寒の憎悪が燃えていた。
「ニンフさんの愛する智樹さんを。そして、私のおともだちを……まどかさんを……っ!」
「あっ……う、うぅぅぅ……っ!」

 ――言い逃れなぞ、できるはずがない。
 仁美が口にしたのは――全て、真実だったのだから。
 何よりカオスが――仁美の言葉を否定できるはずが、ないではないか。

 例え、仁美が――カオスを憎悪し、その存在を否定しているのだとしても。

「――消えなさい。皆の仇っ!」
 仁美から叩きつけられた拒絶。それと同時に、ニンフの口から『超々超音波振動子(パラダイス=ソング)』が迸り――――



「――――わぁああああああああああああああああああああああっ!?」

 絶叫と共に、カオスは蓄えてきた力を解放した。
 雨風が荒れ狂い、火炎が猛り、雷光が迸る。刃と化した翼が疾走し、周囲一体を切り刻む。
 そして二重のバリアを展開して、否定を拒絶し返した。

「はぁ……はぁ…………うぅっ……!?」

 メダルを消費して落ち着いた次の瞬間に、甘い庇護に包まれたままのカオスはまたもその胸に痛みを覚えた。

 誰かを傷つけては、ダメなのに。
 よりにもよって……仁美やニンフを、自分を否定しようとしたからと言って、自分は……!

 仁美の教えを破って、仁美の友達を傷つけて、殺して……仁美に怒られることを、拒絶して。

「わたし……わるいこだ……」

 きっと、誰も彼もに嫌われる、悪い子。
「愛」を知る資格もない、「愛」を向けられる資格もない。皆から嫌われて、暗くて冷たくて寂しい気持ちのまま、独りぼっちで……
 ……だけどそんなの、耐えられない。

962明日のパンツと再起と差し伸べる手(前編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 15:54:37 ID:1NWjpEYQ0



   姉と呼ぶ二人の少女は、カオスの中には存在しない。
   だから彼女が夢に見たその二人は、彼女達自身ではなく――許されるはずがないという、カオス自身の罪悪感と、その重荷に対する恐怖が形となったものだった。
   夢と現と――未熟な判断力から、あらゆる境界が曖昧な彼女にとってそれは、この上ない責め苦で。  



「――大丈夫っ!?」

 だから。
 その人が心配して、駆け寄って――手を、握ってくれていなければ。
 きっと……カオスはそのまま、壊れてしまっていたに違いなかった。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


「おい待て、映司っ!」
 キャッスルドランの方で起きた爆発。体を押さえ込んでいた余波が静まった途端、弾かれたまま飛び出した映司を止めたのは、虎徹の声だった。
「どこ行くつもりだ!」
「あそこには、伊達さん達がっ!」
 自分達を助けに来て、代わりに戦ってくれたという彼らがいるはずの地で、途轍もない破壊が起きた。
 伊達や、それ以外にも誰かの命が脅かされているかもしれない。その内の一つだけでも手が届く可能性があるのなら、今すぐに駆けつけなければという衝動に衝き動かされた映司を、必死の形相で追い縋った虎徹が捕らえる。
「落ち着け! ……気持ちはわかるけどな、今更行ったって着く頃には全部終わってんだろ」

 ――おまえの手は、届かない。

 暗にそう言われている気がして、映司は思わず反発していた。
「……でもっ!」
 抵抗を受けた虎徹はしかし、静かに座った目で映司を見据える。

「……あの娘を置いて行くつもりか?」
 虎徹が顎を使って背後を――眠りに落ちたままのカオスを指し示した。
 言葉にされてようやく。沸騰していた思考が、急速に冷やされて行く。
 その様子を見て取った虎徹は、深い溜息の後、改めて言葉を紡いだ。

「何もないんだったら、俺だって今すぐ駆けつけたいさ。でもな、俺達は伊達の奴に託されたんだ。助けたいあの娘のことを俺達になら託せるって、あいつが俺やおまえを信じてくれたんだ。だったらおまえも、仲間のことを信じろよ、映司。
 ……一人だけで何もかもに手を出そうとしたって、どうにもなんねえぞ」
「そう……ですね」

 ――俺は、その手が欲しかった。

 脳裏を掠めた言葉を飲み込んだまま、映司は虎徹の言葉に引き下がる。

 どこまでも、どんな場所にも届く腕。世界中の誰もを助けることのできる力。
 叶ったと思っていたそれは、まやかしだった。

 結局、映司の手の届く範囲には限りがある。その現実に変わりはなかった。
 ましてや何かを抱えたままでは、届く距離は限られる。

 そして今抱えた何かは、届くか否か、あるのかどうかも不確かなもののために、捨てられるようなものではなかった。
 智樹と、まどかと、伊達と。たくさんの人々の想いが籠められた、重く、重く、重い荷物。

 沈黙を続ける映司の肩を、励ますように虎徹がぽんと叩く。彼に促されるまま、かつてクスクシエだった場所へ向けて一歩踏み出し――

963明日のパンツと再起と差し伸べる手(前編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 15:56:02 ID:1NWjpEYQ0

 その瞬間、悲哀に満ちた絶叫が響き渡って。
 同時に、目指した場所が吹き飛んだ。

 いきなりの閃光に二人は目を潰され、吹き付ける烈風から反射的に身を庇う。
 ただ、体力的な問題、はたまた別の要因からか。ともかく立ち直るのは、映司の方が早かった。

「――っ!」

 気づいた時には、駆け出していた。
 それはきっと――あの娘が、泣いていたから。
 恐怖に怯え、押し潰されそうになっていたから。

「――大丈夫っ!?」

 だから映司は、考えるより先に、彼女の手を取っていた。
 もう――後悔したくは、なかったから。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


 繋いだその手は、あたたかくて。
 暗くて冷たいままだけれど、そこだけは凍えてなくて、寂しくなくて。
 この胸に覚えた安らぎを、カオスは知っている。

 ――――私と一緒に、あなただけの「愛」を探しに行きましょう?

 あの時カオスは、初めてこのあたたかさを知ったのだ。
 このあたたかくて、だけど大きくてゴツゴツした掌は、ずっと離したくないと思った、あの人の手ではなくて。

 でも――すごく、ほっとした。

 自分ではない、他の誰かに。この存在を、受け入れて貰えたような気がして。
 そうしてカオスは、自身の手を包むようにした掌の、その根元の腕を視線でなぞるようにして面を上げて――表情を、凍り付かせた。
 ひゅ、と。気道が縮小したかのような呼吸音が漏れる。

「あっ……あ、あぁ……っ!」
(うん?)
 訝しむようにして、震えるカオスの顔を覗き込むその人は。
 火野と呼ばれていた――カオスの傷つけた、青年だった。

「あ、あぁあああああああああああっ!?」
 思わず首を振り、仰け反る。開いた距離に呼応して、握っていたその手が解放される。
「ごめんなさいごめんなさい! ごめんなさいごめんなさい! ごめんなさいごめんなさい……っ!」
 遠くへ逃げる気力さえも、湧かなかった。頭を抱え耳を塞ぎ、目を閉じて。その場に蹲ったまま、カオスはそれだけを連呼する。
 
「そんな、そんなつもりじゃなかったの! あれがっ、愛だって……!」
 痛くして、あったかくして、殺して、食べて。
 それを、“愛”だと思っていた。
 愛。それはイカロスとニンフに、エンジェロイドにとって絶対であるシナプスを裏切らせたもの。
 シナプスよりも価値のある――きっときっと、この世で一番素敵なもの。
 それをカオスは、知りたかった。そして皆に、あげたかった。
 ――きっと喜んで、笑顔で褒めて貰えると思ったから。

「それでわたし、おにぃちゃんを……おねぇちゃんを……っ! うぅっ……みんな、みんなを……っ!」
 痛くして、あったかくして、殺して、食べた。
 それは、とっても酷いことだった。
 誰も喜ばない、してはいけないこと。

 ――それを、このおにぃちゃんにはたくさん、たくさん、してしまった!

964明日のパンツと再起と差し伸べる手(前編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 15:57:05 ID:1NWjpEYQ0

 顔を隠した彼のことを。仁美を奪い、“愛”を教えてくれた“火野映司”だと思い込んで、張り切って。
 目一杯体を傷つけて。智樹おにぃちゃんとまどかおねぇちゃんを殺して、その心も痛くした。
 悪い子だって、怒られる。嫌われる。いなくなれって、思われる。

 そう思われて、仕方がないことはわかっている。それだけのことをカオスはしたのだから。
 夢の中でそれを認めて、きちんと謝ろうと決めていた。だけど、続いた悪夢がそんな決意を壊してしまった。

 ――己の罪と向き合う勇気を挫かれたカオスは、ただひたすらに、他者から拒絶される恐怖に怯えていた。

(……勝手な)
「ひ……っ!」
 知らず聞こえた声に、縮み上がる。そこには、静かな怒りが込められていたから。
(でも……)
「……反省してるの?」
 次の瞬間聞こえた声には、優しい色が含まれていた。
 恐る恐る、カオスはその顔をズタズタになった布団の上から覗かせた。
「……はんせい?」
 変化への戸惑いもあり、鸚鵡返しするカオスに対して、彼はゆっくりと頷いてみせる。
「そう。自分のしたことを思い出して、良くなかったことがあったらそれを認めて、もうやらないようにしようって思うこと。
 ……今の君は、反省してるんだよね?」

 穏やかで、だけどどこか力強い目で。
 じっとカオスを見つめるその人の瞳に物怖じしながらも、逃げられないとカオスは悟る。
 怖かった。また、罪を認めることが。認めた後のことが。

(――頑張って)

 だけど、ふと。
 誰かに、背中を押された気がして。

 ゆるゆると。カオスは顎を引いていた。

「そっか……」
 それを見取った彼もまた、一度小さく頷いて。
(……この娘はちゃんと、悔やんで、苦しんでるんだ)
「――辛かったね」
 そんな言葉を、柔らかく吐き出した。

 ――その、たった一言で。

 カオスの胸の奥から、何かが、溢れ出た。

「うっ……うぁ、あぁあああぁ……ぁ…………っ!」
 涙を流すのは、何度目だろう。だけれど今度は、咽び泣くたびに、心が軽くなっていく。伸し掛っていた重圧が、消えていく。
 海の底のような、ゆっくり熱を奪われていく冷たさも、氷点下の世界のような、肌を刺すような寒さも、薄れていく。

965明日のパンツと再起と差し伸べる手(前編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 15:58:02 ID:1NWjpEYQ0

(……任しといた方が、良さそうだな)
 不意に新しい声が聞こえて、カオスは少しだけ面を上げた。
 その様子を見て、話を続けて良いのかと考えたらしい青年が再び口を開いた。

「自分のしたことがとんでもない間違いだったって、後から気づいて。どうして良いかわからなくなって、すっごく怖かったと思う。
 けど、どんなに間違えた人でも。きっと、やり直せる。本当に困っている人には、手を差し伸べてくれる人がいる」
「手……?」
「そう。手を」
(桜井くんや、まどかちゃんみたいに……)

 口から出たわけではない。しかし確かに聞こえたその名を聞いて、カオスは戦慄する。
「わたし……でも、わたし……おにぃちゃんと、おねぇちゃんを……こ、ころ……」
「……そうだね。それは、とっても悪いことだ」
「――っ!」
 声が硬くなる。俄かに滲む否定の色に、カオスの身が竦む。

「だけど。きっと二人は、君に手を取って欲しいって思ってたんだと思う」

 そうして彼は、その傷だらけの掌を、もう一度――カオスへと、伸ばした。

「――だから今度は俺が、手を伸ばすよ」

「――――――あ……っ」
 
 差し伸べられた、手。
 一度は繋いだ、だけど今はあまりに眩しいそれに、畏れすら抱いてカオスは問う。

「わたし……ゆるしてもらって、いいの……?」
(許す、か……)
「……わからない。そういう価値は、俺には決められない。
 でも……どうしようもないって思った時でも、少しのお金と明日のパンツがあれば、人は生きていける。
 だから、きっと大丈夫。そんなに思い詰めなくても、何とかなるよ――辛い時には俺や、他の誰かが、きっと傍にいるから」
(うん……マイペンライだ)

 ……最後の言葉の意味は、わからなかったけれど。
 笑顔で語る彼に、おずおずと、微かな恐怖は残しながらも。
 ――カオスはもう一度、その手を取った。

 それに青年は、嬉しそうに頷いた。
「とりあえず、服を着よっか。パンツさえあればって言ったけど、パンツだけでもダメだよね……女の子が裸でいるなんて、いけないから」

 ――女の子が裸足で歩くなんて、いけませんことよ

 彼女を彷彿とさせる言葉を聞いて。喜びと、切なさと。幼い心では、境界の曖昧な雑多な感情が、綯交ぜのまま溢れ出て。
 カオスはまた、滂沱と涙を流していた。

966明日のパンツと再起と差し伸べる手(後編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 15:58:48 ID:1NWjpEYQ0

      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


 暫く泣き続けた後。幾許か落ち着いたカオスは、映司の言葉に従って服を着ることになった。
 先程布団代わりにかけていた服は、辺りの残骸や敷き布団と共にズタズタになってしまっていたので、映司は事前にディバッグに入れておいた予備の服を手渡すこととした。
 その際、そもそもクスクシエに居候していたのは男性陣だけで、女性用のパンツは置いていなかったことに気がついた。
 パンツさえあれば生きていけると言った手前だ。肝心のパンツなしでは締まらない。

「うーん……鏑木さん、パンツ持ってないですか?」
「何で俺が持ってるって思うんだよ……」
 当然ながら渋い顔をする虎徹の様子に、映司は事態を重く受け止める。
「弱ったな、カオスちゃんの明日が……」
「いや女の子が裸じゃダメなのはわかるけど、服あるんだろ服。今も一応隠しあるんだし大丈夫じゃないのか?」
「ぱんつ、ないの……?」

 途端、不安の滲んだ顔で、服を抱いたまま全裸のカオスがまたも泣き出しそうな声を漏らした。
 流石にパンツを求める女の子の不安を無下にはできないのか、虎徹が痛む体に鞭打ってどこかにないものか、一層荒れたクスクシエの跡地を探索しに行こうとする。
 ただ、おまえのせいで何かややこしくなってんぞ、という捨て台詞に対しては、クスクシエの衣類を管理しているのは知世子さんだから俺に言われても、と当惑するしかなかった。

 どの道、女性の下着はクスクシエには置いていない。先程カオスの予備の服等を回収した時点でもそれははっきりしている。
 ……と、そこで映司は他に回収した物品を思い出し、そこで発想の転換ともいうべき閃きを覚えた。

「あ、そうか……これ、はい」
 ディバッグから目当ての物を取り出した映司は、それをカオスに差し出した。
「俺の分と思って、取っておいたパンツ。あ、ちゃんと洗濯はしてあるから綺麗だよ」
「いいの……?」
「うん。他の種類のがまだ何枚かあるから、あげるよ」
「――って、それトランクスじゃねーか!」
 映司が取り出した柄物のパンツを巡るやり取りを見て、虎徹が思わずといった様子で叫んでいた。
「そうですけど。でもトランクスを履く女の人って、意外といますよ?」
 パンツを愛する映司にとって、そのぐらいはリサーチ済みだ。
「いや……ええー」
 今度は虎徹が困り果てたような顔をして、やがて言葉を消していった。

 確かに映司の一張羅ということで、このトランクスは本来、紛れもなく男性用だ。
 しかし仮にも一張羅として選んだ逸品。自然の美しさをイメージした華やかな花柄にアクセントの切り替え水玉が存在感たっぷりのデザインで、映司好みの大きめなシルエットだ。仮に女性のルームウエアに使うとしても、そのまま流用できると自負している。確かにウエスト的にはやや大きく、ちょっとぶかぶかかもしれないが……

「――それが、いい」
 ふとカオスが、口を開いていた。
「おにいちゃんの――ぶかぶかなぱんつが、いいの」
 ぎゅっ、と。着替えの服を握るカオスの手に力が籠る。
「それは、「愛」だって……わたしの、かんちがいじゃなくて。仁美おねぇちゃんが、言ってたから……」

「……」
 今度は何を指して、愛を謳っているのか。それはわからない。
 ただ、彼女が他人の『心の声が聞こえる』能力を身につけているということは、先程虎徹から聞いた。きっと自分がパンツについて巡らせていた思考の何かが、彼女の琴線に触れたのだろう。

967明日のパンツと再起と差し伸べる手(後編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 16:00:13 ID:1NWjpEYQ0

 それよりも、映司にとって聞き逃せない名前が、彼女の口から溢れていた。

「カオスちゃん……辛いことかもしれないけど。ちょっと、質問しても良いかな?」
 事実上、その内容は既に透けてしまっているのだろうとは思いながらも、映司は尋ねた。
 数秒に渡る逡巡の後、こくりとカオスが頷くのを見て、映司は続ける。
「……仁美ちゃんは、“火野映司”に殺されたんだよね?」
「…………うん」
 長い沈黙の後に、カオスは再び頷いた。
 忌まわしき記憶を辿って、震える声で肯定する。
 少し、胸を締め付けられたような心地を覚えながらも、映司は静かに思考する。

 そんなはずはない、とは断言できない。数字としてどんなに極小でも、巻き添えにした可能性はある。映司が暴走していた際の全ての顛末を知る者は、あの時いなかったのだから。
(……でも、鏑木さんの話だと……)
「……おにぃちゃんじゃ、なかった」
 揺らいだ覚悟の隙間を縫うように、カオスが呟いた。

 先程よりももっと、弱々しく震えている――罪の意識が滲み、怯える声音で。
 映司はその姿に、一瞬安堵を覚えてしまった自分が無性に腹立たしく思えた。

「……おにぃちゃん、どうして“火野”のおじさんじゃないのに、“火野映司”ってよばれてたの?」
 それから面を上げたカオスは、心底からの疑問を紫紺の瞳に籠めていた。
「どうして、って言われても……それは、俺が火野映司だからとしか……」
「――じゃあ、このひとは?」

 小首を傾げて尋ねるカオスから、仄かな紫電が散り。
 次の瞬間、彼女と映司の間に、見知らぬ男が立っていた。
 深く被った黒い野球帽。その影から覗く下卑た笑みが印象的な、赤いコートの中年男だった。
「――っ、誰だ!?」
 突如とした出現に対し、虎徹が驚愕とともに誰何を放つ。

 それに男は、こう答えた。
「火火ッ……じゃあ俺の事は、火野映司とでも呼んでくれ」
「あぁ!? 何見え透いた嘘吐いて……!」
「鏑木さん。多分この人は、カオスちゃんが見せてくれてるだけです」

 苛立ちを隠そうともせずに拳を構えようとした虎徹に対し、前後の状況から得られた推論を映司は伝えた。
 言われた虎徹がカオスに目を向ければ、彼女はこくりと頷く。

 ――後に知ったが、これはカオスが元来保有していたアンチ知覚システム『Medusa(メデューサ)』と呼ばれる、幻覚を見せる機能による投影なのだという。
 
 真相を知り、「驚かせんなよ……」と力なく呟いた虎徹は、その場に腰を下ろした。元々限界だったのに、自分達のせいでろくに休めなかったのだから無理もない、と映司は思う。

「――この人が、“火野”のおじさんなんだね?」
 中年男を見据えたままの映司の問いかけに、カオスは「うん」と首肯を返した。
「……じゃあこいつが、仁美って子を殺した犯人か」
「名簿で見ました。葛西善二郎っていう人です」
 ジェイク・マルチネスにも匹敵する、極めて危険な経歴の大犯罪者。
 彼の時と同様、危険過ぎる経歴は映司の記憶に焼き付いていた。

968明日のパンツと再起と差し伸べる手(後編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 16:00:56 ID:1NWjpEYQ0

「成程……マジモンの犯罪者、俺の敵ってわけか……ッ!」
 説明を受けた虎徹が放つ静かな声に、座ったままでも強い義憤に燃えているのが映司にもわかった。
 ――それは、掌を破れそうなぐらい強く握り締めた、映司も同じだからだ。

「よくも映司の名前を騙って、やってくれやがったな……ッ!」
 
 虎徹が呻くようにして吐き出した憤怒に、映司も素直に頷けた。
 とはいえ――名前を騙られたことなんて、もうとっくにどうでも良い。
 ただ、一人の少女を殺し、一人の少女を苦しませ狂わせた男が、どうしても映司は憎かった。
 その時――

「葛西――善二郎…………っ!」
 怒りに燃えている映司ですら、ゾッとするような声が聞こえた。
 それは仇の名を知り、憎悪を再点火したカオスの漏らした呟きだった。

 その感情に呼応したように翼が巨大化する。漏れているだけの力の余波が、映司や虎徹に圧を掛ける。

「――カオスちゃんっ!」
 思わず叫んだ瞬間、カオスの瞳に灯っていた鬼火が勢いを弱めた。
 映司と虎徹の、微かな恐怖を孕んだ視線を浴びて、カオスが僅かに身を竦める。
 その元凶であり、彼女もあまり視界に入れたくなかっただろう男の幻は、現れた時と同様一瞬にして霧散していた。
「あっ……ご、ごめ……」
「……いや、良いんだ。酷いことをされた時、その誰かを憎いって思っちゃうのはどうしようもないよ」
 それは生命として、心として正常な反応だ。

「にくしみ……」
 初めて自らの感情の名を知ったかのように、カオスはしみじみと呟いていた。
「でも、それに負けちゃいけない。憎いって気持ちに呑まれたら、歯止めが効かなくなる。そのために、誰かを平気で傷つけるようになってしまう」
 ビクリと、カオスが身を強ばらせる。
 その反応に少しだけ安心しながら、映司は続けた。

「もう、誰かが傷つくのは嫌でしょ?」
「……うん」
 頷いてくれたのが、妙に嬉しかった。
「じゃあ、憎むなとは言わない。だけどその気持ちに負けちゃダメだ。憎しみのまま間違いを犯したら、それはずっと連鎖して……ずっと誰かと、傷つけ合うことになってしまうから」
「だからって、野郎は野放しにはしねぇ……大丈夫だ、必ず捕まえる。おまえが我慢する分も、法の裁きはしっかり喰らわせてやる」
 虎徹の援護射撃に映司は頷き、最後に言うべきことを告げた。

「もう憎しみに負けないって、約束してくれるかな?」
 映司の問いかけに対し――カオスは緩慢ながらも、確かに頷いた。
「……良かった」
 その反応に、映司は心の底から破顔した。
「あぁ……にしても本当に、ロクでもない奴みてぇだな」
 カオスが約束を聞き入れてくれたことに安堵した傍、彼女を誑かしたのだろう葛西への怒りがまだ虎徹は収まらぬ様子だった。
 もっとも、それは映司も同じか――

「……ちがうの」

969明日のパンツと再起と差し伸べる手(後編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 16:02:10 ID:1NWjpEYQ0

 忌まわしい影を消し去ったカオスは、まだ震えたままの声で続けた。
「このおじさんにされたことを、“愛”だと思ったのは……わたしなの」
 また、こちらの胸の内を読んだのか。さめざめと泣くような声で、カオスは己の罪を告白する。
「あのひとだって、愛だって言ったわけじゃないのに……それを愛を教えてもらったってかんちがいして、いろんなひとにまちがってるって言われたのに……わたし……」
「……正直なんだね」
 嗚咽する少女に、褒めているのか、慰めているのか――それとも、あるいは。ともかく感情の種類が判別しないまま、映司は思ったことを口にしていた。

 そう――きっと彼女は、無垢で在り過ぎたのだ。
 あの胡散臭い中年男の言い分をつい先程まで丸呑みしていた辺り、今も――詳細名簿で微かに見た面影のある幼い少女の、無垢で純粋な精神なのだろう。
 清濁併せ持つ器のできていない幼い子供に、世の理不尽や悪意を受け止めろというのは酷な話だ。
 理不尽を。悪意を。事実として、彼女は受け止められなかった。

 ――だから、反転させたのだ。

 向けられたのが悪意ではなく愛ならば。それを浴びることが喜びだと誤認できれば、弱い彼女の心でも、耐えられたのだ。
 世界ではなく、自己を変革することで。彼女は苦しみに蓋をした。
 それだけが、その時彼女に許された救いだったから。

 それでも――――孤独にだけは、耐えられなかった。

 故に手当たり次第に他者と関わり、けれど歪んでしまった認識でしか、もう、接することができなくて――そしてその幼い心に見合わない強大な力があったから、悲劇を生んだ。
 それを繰り返して、ますます歪んだ認識を悪化させて。もう救いの目もなく、破滅に向かって転がり落ちていくしかなかったはずのカオスを――少年と少女が、止めてみせた。
 彼と彼女が、どこまで意図していたのかはわからない。けれど彼らは、カオスの歪んでしまった認識を、内から正してみせたのだ。
 自らの命と、引換に――

(……ごめん、そんな役目を押し付けて)

 救いたかったのだと思う。だけど死にたくはなかったはずだ。
 本当は傍に居て、彼女が歪みを正すのを見守りたかったはずだ――映司の、代わりに。

 ――思考を巡らせていたのは、数秒にも満たなかっただろう。
 だがその間に、前触れなく。嗚咽が、止んでいた。
「……おにぃ、ちゃん――?」
 何事かと訝しんだ映司へと代わりに投げられたのは、気遣うような声だった。
 
 ――何が、心配させたのだろうか。
 少しだけ振り返ってみてもその要因はわからなかったが、何でもないよと映司は微笑んだ。

「――カオスちゃんが知りたかったことって、すごく難しいことだったもんね」
 代わりに、最前の告白に答えることとした。少しでも彼女が、やり直せる助けになればと思って。
「愛って何なのか……多分、何が正しくて何が間違ってるのか、本当の答えなんてないんじゃないかってぐらい、難しいことだと思う。迷っちゃって、間違えちゃうことがあるのも当然なんだ」
「……おねぇちゃんも」
 続けようとしたところ。カオスが息を飲み、何事かを呟いた。

「……おねぇちゃんも、おんなじことを言ってた」
 なのに、わたし……と。また泣き出してしまいそうなカオスに、映司はきつい言い方になってしまわないよう注意しながら、自分の言葉が彼女の感情に流されてしまわないよう、強く言う。

970明日のパンツと再起と差し伸べる手(後編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 16:03:48 ID:1NWjpEYQ0

「確かに、君の間違いはとっても酷いものだったけど……でも、それは俺も同じなんだ」
 内戦の時も、このバトルロワイアルの中でも。
 映司は間違えて、とんでもない失敗をして……取り返しのつかないことを引き起こしてしまった。
 その罪は、消えないだろう。いつまでも、いつまでも――それこそ、永遠に。
「だからきっと、君に言えることがある」
 また顔を上げて映司を見据えていたカオスの、吸い込まれるような瞳に真っ向から対峙して。先駆者として、伝えるのだ。

「愛でも何でも、欲しいって思うことは悪いことじゃない。だけど、難しいこと、大事なことほど、こうしたいっていうのを実現するのには時間がかかる。
 だから、焦っちゃいけないんだと思う。焦ると間違えちゃうし、失敗しちゃったからって諦めて蓋をしたら、きっと凄く後悔する」
 実感を込めて――というのは、少し異なるか。

 結局のところ、それをいけないと比奈や後藤、皆が言っているから、良くないことだと思っているというだけで。
 それでも、そんな風に言われる自分と同じ風に、彼女にもなって欲しいとは思えなかった。

「大切なのは、その欲しいって気持ちをどうするか、だよ。
 ……今でも、好きなんでしょ? 仁美ちゃんのこと」
 きっと、カオスの始まりである少女のことを、映司は口にする。
「……うん」
 怯えたように頷くカオスに、安心して欲しいと望みながら、映司はもう一度微笑みかけた。
「その時に思ったこと、感じたこと――こうなって欲しいって気持ちを、忘れないでね」
「…………っ、うん……っ!」

 また、涙を湛えて頷く少女の姿に。映司はまたも心底から、深い安堵を覚えていた。
 
 この娘には、言葉が届く。
 和解の余地は、ある。
 それを確信できたことが――不謹慎とは思っていても、映司にはたまらなく嬉しかった。

 ……まどか達の犠牲は、無意味ではなかった、などとは言わない。彼女達の死は理不尽そのもので、必然性などどこにもなかった。
 そもそも――必要な死など、世界のどこにもありはしない。絶対に。映司が少年と少女を無駄死にさせたという事実は、覆らない。何が、あってもだ。

 それでも、あの二人の願いは――無駄ではなかった。

 この地での戦いが始まって、初めて。誰かの望みが結実するだろう予感に、心の奥が仄かに温まるのを映司は感じていた。

「ねぇ……映司おにぃちゃん」
 名前を呼ばれて、見てみれば。カオスはまた、疑問の浮かんだ表情で映司を見ていた。
「うん、どうしたの?」
「映司おにぃちゃんも……よくないって言われてるなら、はんせいしないの……?」
 返って来た言葉には、どこまでも純粋な疑問と――心配とが、等分に込められていた。

「そっか……聞こえてるんだったね」
 迂闊だった……いや、思った時点で聞こえるなら、そういう問題でもないか。
 もっと根本的なことで。どうせ隠せないのなら――せめて旧来の仲間以外には、などと。取り繕っても、仕方なかったのだ。

「カオスちゃん、ありがとう……でも、ごめんね」
 彼女には散々偉そうに、講釈を垂れてみたけれど。
 嗚呼、思えば、なんてことはない――自分にも全然、できていないことじゃないか。

「――さぁ、早く服を着て。そのままじゃ寒いでしょ?」
 彼女ではなく、自心を――はぐらかすようにして、映司はカオスを急かす。
 こうなって欲しくはないという気持ちを強くし過ぎて、逆にも彼女を心配させてしまわないように。

971明日のパンツと再起と差し伸べる手(後編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 16:05:02 ID:1NWjpEYQ0

 幸か、それとも不幸か。そのために思考の比重を切り替えるべき題材は、もう目の前に迫りつつあった。
「もう、日が変わっちゃうよ」
 そう。もうすぐ一日目が終わる。
 たった半日で、余りに多くを取り零した一日目が。

 迫る第二回目の放送――明くる日を、映司は嫌でも意識せざるを得なくなっていた。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○
 


 映司が懐いたのと同じ確信を、虎徹もまた獲得していた。
 まだまだ迷うだろう。間違えるだろう。傷つくだろう。傷つけるだろう。
 それでもカオスには、やり直そうという意志がある。
 紛れもなく加害者だが、被害者でもあったカオスには……まだ、更正の余地がある。自分や映司や伊達が、それを許す環境になってやれる。

 ちゃんと時間をかけて、何が良くて何が駄目かって自分で考えて、それで他の人にも教えて貰えれば、今度はきっと正しい答えに辿り着ける。
 たった一人でも――あってはならなかった犠牲の果てでも、ようやく誰かを『救ける』ことができそうだという事実に、虎徹も確かな喜びを覚えていた。

 だが……たったこれだけのことに満たされるなという声が、内から虎徹に囁く。
 それは、支払った犠牲に釣り合うか否か、という意味ではない。釣り合わないことは先刻承知している。
 問題なのは、過去ではなくこの先のことだ。

 それは、『あの娘』のこと。

 カオスと同じエンジェロイド――最愛のマスターである智樹を喪った、イカロスのこと。

 キャッスルドラン付近を呑み込んだ火の玉を生んだ主――きっと彼女だという予感が、虎徹にはあった。……単純に、カオスすら遥か凌ぐあんな大破壊ができる存在の候補が、他には思い浮かばなかっただけではあるのだが。
 彼女はきっと、もういよいよ被害者から加害者に転んでしまったのだ。その行く末に、不安が拭えない。

 カオスに改心のきっかけを与えたのは、自分でも映司でもない。
 それなのにカオスさえ差し置いて、最強のエンジェロイドだと謳われるイカロスを、無事に止めることができるのか――

(――って、何を弱気になってやがる、鏑木・T・虎徹。オレがやるしかないんだろうが)
 あの時、もしも今カオスに映司がしたように、イカロスにも虎徹が歩み寄っていれば――イカロスがニンフを撃つことは、なかったかもしれない。
 今のイカロスの暴走には、虎徹に責任などないと、智樹は言ってくれた。
 それでも、ヒーローとして。被害者から加害者に転落してしまいそうで、苦しんでいる女の子に肩を貸す責任は、まだ残っているはずなのだ。
 このバトルロワイアルを打破し、被害者を守りきること。それがシュテルンビルトのヒーロー・ワイルドタイガーの最後の仕事――楓の一人の父親として胸を張って帰るためにも、中途半端に終わらせるわけには、絶対にいかない。
 イカロスを止めることも、必ずやり遂げなければならない責務の一つだと虎徹は自分に課していた。

 そう――半端には終えられないのだと、虎徹は視線の注ぐ先を変える。

 名前の縁や最初に手を掴んだのが早かったのもあって、カオスの興味は映司に向いていた。虎徹自身、あの爆発を見てからというものどうしてもイカロスの泣いている顔がチラついていたという事情もあり、余り構ってやれてはいなかったが。

 カオスだって、まだやっとスタートラインに立っただけだ。この子からも目を離しちゃいけないことは、虎徹も重々承知している。
 ただ……『心の読める』彼女とのやり取りを聞いている内に、虎徹は火野映司という青年にもまた、危うい物を感じていた。
 紫のコンボの暴走だけではない。もっと根本的な、何か。

972明日のパンツと再起と差し伸べる手(後編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 16:05:53 ID:1NWjpEYQ0

 一見しっかりしていて、だけど大事なところに欠損がある若者。
 こんな奴をどこかで見たことがあると思って、すぐに虎徹は答えを見つけた。

(昔のバニー、か……)
 あるいは今も、かもしれないか。

 方向性は違う。きっとそうなった時期も違う。
 だけど彼の時間は、彼の言う『酷い間違い』を犯した過去のまま、止まっているのだ。

 誰の人生でも、迷いに立ち止まってしまうことがある。虎徹自身、つい最近でも能力の減退に気づいてから引退を決意するまでの間は、立ち止まってしまっていたと思っている。
 それでも、その時の虎徹はベテランのヒーローであり、一児の父であり。かつてレジェンドと出会う前だった、悲観的な少年とは違っていた。
 ついさっき、映司自身が語ってみせたように……迷った時でも、焦らずに答えを見つけ出し、実現に向けて歩み出すことができた。

 だが、彼の直面した問題はそんな比ではなくて。若者には、それが耐えられなかったのではないか?
 幼少の頃、両親を亡くした日に囚われてしまったに止まったバニーと、同じように。

 そんな過去に縛られていた相棒の出会った頃よりは、付き合い易い若者だと思っていたが……もしかしたら、バーナビーやカオスと同じぐらい。こいつからも目を離してはいけない奴なんじゃないかという疑惑が、虎徹の中で燻っていた。

 ――そこで。映司に着替えを促されたカオスが、不安を帯びた視線を虎徹に向けて来た。

 二人の会話は聞いていたが……こっちの声も聞かれちまったかな、と考えた虎徹は、わかってるよと頷いた。

 シュテルンビルトのヒーローは、ただ犯罪者を倒すだけの存在じゃない。
 悪を捕らえ、法で裁き、罪を贖わせ――そして、人として再生する機会を与えるものだ。
(――大丈夫だ。俺が、俺達が何とかする)
 火野映司は悪人ではない。むしろその対極に近しい存在だ。
 だが、もしも彼もまた歪んでいるというのなら――その歪みが、彼を蝕むというのなら。
 それを何とかするのも、ワイルドタイガー達ヒーローの役目なのだ。

 そんな虎徹の想いが、文字通り伝わったのだろうか。小さく頷き返したカオスはようやく、衣服を身につけ始めた。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○       ○○○



 着替え終えたカオスは、まだ躊躇いがちながらも、確かな想いを籠めた目で、映司を見つめ返していた。
「わたし……しりたいの。もっと、愛のことを……仁美おねぇちゃんのことを」
 それは、映司が先程伝えた言葉を受け取って、必死に考えてくれた答えだった。
 これからどうしたいのか。自分の欲望は何なのか……それを改めて他人を伝えるための、関わるための第一歩。

 そのためにしたことは、間違っているけれど……と呟くカオスは、続ける。
「だから……だから、ニンフおねぇさまに、あいたい」
「ニンフに?」
 どういう意味なのか。そんな疑問が口を衝いて出たのだろう、虎徹が素っ頓狂な声を漏らしていた。。
「ニンフおねぇさまは、でんしせんようエンジェロイドだから……てつだってもらえたら、きっとまどかおねぇちゃんからもらった思い出が、もっとよくわかるとおもうの……」

 手伝って貰えたら、というカオスの言葉。
 彼女の犯してしまった罪を考えれば、それは酷く難しいもののように映司には思えた。
 それでも、その望みの切実さだけは、確かに理解できたから。

「そうか――ちょうど俺達も、そうするつもりだったんだ」
 虎徹の言葉に、相槌を打って映司が続く。
「一緒に行こう」
「でも……いっしょだと、きっと……」
「大丈夫。言ったでしょ? 辛い時には、傍にいるって」
「ああ。まぁそりゃ難しいだろうけど……俺からも頼んでみるさ」

 予想通りなら、ニンフの傍にはマミもいる。確かにカオスとの同行は、波乱を避けられないことだろう。

973明日のパンツと再起と差し伸べる手(後編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 16:07:26 ID:1NWjpEYQ0

 それでも、困難だからといって見捨てるぐらいなら――最初から、手を差し伸べたいなんて思いやしないのだ。

 またも泣き始めた少女の姿に、しかし今度は哀切も怒りも覚えることなく――泣き止むまでその傍にいようと、映司は素直に思えた。



(見捨てるぐらいなら――最初から、か……)
 あの日掴んだ、魔人の腕を思い出し。
 一瞬だけ生じた逡巡に、しかし答えは下せなかった。



【一日目 真夜中】
【D-5 クスクシエ跡地】


【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(大)、ダメージ(極大)、精神疲労(大)、まどか達への罪悪感、カオスへの複雑な心境、伊達達が心配、葛西への怒り
【首輪】70枚:0枚
【コア】タカ、トラ、バッタ、ゴリラ、プテラ、トリケラ、ティラノ、プテラ(放送まで使用不能)、ティラノ(放送まで使用不能)
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、カオス用の替えの服(クスクシエから回収したものです。種類、枚数は後続の書き手さんにお任せします)
【思考・状況】
 基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
 0. アンク……
 1.虎徹、カオスと同行する。
 2.カオスがやり直せるのか見守りたい。
 3.放送後D-4エリアに向かい、マミとニンフに合流したい。
 4.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
 5.もしもアンクが現れたら、やはり倒さなければならない……?
 6.もしもまた暴走したら……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっており、オーズドライバーが映司以外でも使用可能になっています。
※暴走中の記憶は微かに残っていて、また話を聞いたことで何があったかをほぼ把握しています。
※真木清人が時間の流れに介入できることを知りました。
※「ガラと魔女の結界がここの形成に関わっているかもしれない」と考えています。
※世界観の齟齬を若干ながら感じました。
※詳細名簿を一通り見ましたが、どの程度の情報を覚えているかは不明です。
※仁美を殺した“火野映司”が葛西善二郎であることをを知りました。

974明日のパンツと再起と差し伸べる手(後編) ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 16:08:30 ID:1NWjpEYQ0

【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、背中に切傷(応急処置済み)、カオスへの複雑な心境、バーナビー達への心配、葛西への怒り
【首輪】20枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(両腕部ガントレット以外脱落)、天の鎖@Fate/Zero
【道具】基本支給品×3、不明支給品0〜2 、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW、P220@Steins;Gate、カリーナの不明支給品(1〜3)、切嗣の不明支給品(武器はない)(1〜3)、雁夜の不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
 基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
 1.映司、カオスと同行する。
 2.放送後D-4エリアに向かい、マミとニンフに合流したい。
 3.できればシュテルンビルトに向かい、スーツを交換する。
 4.イカロスを探し出して説得したいが……
 5.他のヒーローを探す。
 6.マスターの偽物と金髪の女(セシリア)と赤毛の少女(X)、及び葛西善二郎を警戒する。
 7.カオスがやり直せるか見守り、力を貸してやりたい。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」「そらのおとしもの」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
  ……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』
※ヒーロースーツは大破し、両腕のガントレット部分以外全て脱落しています。
※ジェイクの支給品は虎徹がまとめて回収しましたが、独り占めしようとしたわけではありません。
※“火野映司”こと葛西善二郎の顔を知りました。
※カオスに更正の可能性を与えられたことでセルメダルが増加しました。


【カオス@そらのおとしもの】
【所属】無(元・青陣営)
【状態】精神疲労(大)、葛西への憎しみ(極大)、罪悪感(大)、成長中
【首輪】55枚:90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪、映司のトランクス及びスペインフェアの際の泉比奈のクスクシエ従業員服(着用中)
【思考・状況】
 基本:「愛」を知りたい
 1.ニンフおねぇさまに力を貸して欲しい、けれど……
 2. 映司おにぃちゃん、タイガーおじさんといっしょにいる。
 3. 葛西のおじさんに、もう一度会ったら……
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレア、凰鈴音、甲龍、ジェイク・マルチネス、桜井智樹、鹿目まどかを吸収しました。
※現在までに吸収した能力「天候操作、超加速、甲龍の装備、ジェイクのバリア&読心能力」
※鹿目まどかのソウルジェムは取り込んでいないため、彼女の魔法少女としての能力は身につけていません。また双天牙月を失いました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。現在は17歳前後の身長にまで成長しています。
※智樹、及びまどかを吸収したことで世間一般的な道徳心が芽生える素地ができましたが、それがどの程度影響するかは後続の書き手さんにお任せします。
※まどかの記憶を吸収しましたが、「Pandora」の機能が低下していたこと、死体の損壊が酷かったことから断片的にしか取り込めておらず、また詳細は意識しなければ読み込めません。
※読心能力で聞き取った心の声と、実際に口に出した声の区別があまりついていません。
※“火野”のおじさんが葛西善二郎であること、また彼に抱く感情が憎しみであることを知りました。

975 ◆z9JH9su20Q:2015/01/04(日) 16:11:53 ID:1NWjpEYQ0

以上で投下完了です。
何か問題点等ございましたらご指摘の方よろしくお願いします。

また、本日はパロロワ企画交流雑談所・毒吐きスレ10(ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/8882/1403710206/l50)にてオーズロワ語りが行われています。
ご興味のある方がいらっしゃいましたら、是非ともご参加頂ければと思います。

976名無しさん:2015/01/04(日) 20:00:57 ID:ro3N3bmoO
投下乙です。

智樹やまどかの代わりにカオスを見守る事になった、映司と虎徹。
ならば映司の代わりに、映司が助けたいと思った人を助けてくれる人も、きっといる。

977 ◆SrxCX.Oges:2015/01/05(月) 19:12:26 ID:jjwd4RmU0
投下乙です。
オーズという作品の代名詞とも言える行為「手を繋ぐ」の、ここぞとばかりの活かし方が上手です。
カオスに罪は罪だと誤魔化さず伝えて、そして何かを教えてあげられる映司の達観ぷりが格好いい。
悪いことも汚いことも全部受け入れて成長するよう導ける姿、相変わらず作品での映司の再現率が高い。
カオスを見守る映司、その二人を見守る虎徹という関係性がどう実を結ぶか期待です。

それと別件で一つ。
先日投下した拙作についてですが、先程読み返してみた結果少し考えが変わったので
誠に勝手ながら前編のタイトルを一部変更し、また分割する境目の部分を>>947>>948の間に変更することを報告致します。

978名無しさん:2015/01/05(月) 21:25:03 ID:MGH3NKO.0
投下乙です

こういうのもいいわあ…
再現率が凄まじい上にこの場面でこうみたいなのが巧みだわ

979名無しさん:2015/01/06(火) 00:27:42 ID:.gO7SFtY0
お二人共投下乙です
もやしも照井も完全に覚悟決めちゃってるなぁ
笹塚さんも密かに変身ツール狙ってるし、もしもチャンスが出来たら…

映司とおじさんに支えられるカオスが良い!放送後はどうなるか不安だけど

980名無しさん:2015/01/06(火) 23:28:25 ID:36ETOHGY0
なんだ、最近のこの予約ラッシュは…!

981 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:34:14 ID:tCxKJwOI0
これより、◆VF/wVzZgH.氏の作品の代理投下をさせて頂きます。

982悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:38:42 ID:tCxKJwOI0
ガチャリと、音を立ててドアが開く。
そこから現れたのは美樹さやかと、今正に傷が治りつつある──新しい服に着替えたらしい──脳噛ネウロであった。
まさに化け物級という例えが相応しい程の速度で治っていく彼を見て、大道克己はニヤリと口角を吊り上げる。

「ハッ、ある程度予想しちゃいたが、想像以上に化け物だな、アンタ」
「当たり前だ、貴様のような中途半端と同等に扱うな、我が輩は生まれつき魔界の住人、魔人だぞ」

克己の皮肉に一切怯まず返したその言葉に最初は“人間”であった"さやかと克己は眉を潜め、しかしそれに構うことなくネウロは真っ直ぐにこの場にいるもう一人の“化け物"の元へと歩を進める。

「アンク、と言ったか。貴様がヤコの荷物を持っているな、寄越せ」
「フン、渡しても良いが、中身は大したもんじゃないぞ。それとも、案外お前も、こいつと同じようにお友達の遺品くらいは持ってたいって口だったか?」
「笑わせるな、御託は良い、さっさと寄越せ」

半ばふんだくる様にアンクからデイパックを受け取ったネウロはまさかこの用途でお前を頼ることになるとは、などとぼやきながら、ヤコの携帯を取り出した。

「携帯?そういえばここって電波通るのかな……っていうか何その髪の毛のストラップ!趣味悪!」

思わずさやかがそんな言葉を口走ってしまうのも無理はない。
その携帯についていたのは──何故かとても毛並みの良い──毛の束であったのだから。
一風変わった、などと説明づけるのも困難なほど、それは異様なストラップであった。

「ほう、やはりそれが普通の反応か。そういえばヤコ以外にお前を見せるのは初めてだな、“アカネ"?」
「……アカネ?誰?」
「何を言っている、目の前にいるだろう?」

さやかはキョロキョロと周りを見渡すがアカネなる人物は見当たらない。
克己とアンクはしかしもう勘づいているのか、意味深な笑みを浮かべていた。

「ちょっとネウロ、適当なこと言って私のこと惑わそうとしてるなら……ってえぇ!?」

周りの状況にいまいちついていけていなかったさやかが声を荒らげようとして、しかし目の前の光景に言葉を失う。
そこにあったのは、先程趣味が悪いと称した髪の毛が、怒り狂っているかの様に乱舞している姿だったのだから。
感情があるのだとすれば、先程のさやかの「趣味悪い」という発言に怒っているのだろうか、そう考えれば少し可愛いものである。

「だから言ったろう?“目の前にいる"と。さて、アカネ、怒るのも結構だがそれより今は貴様に聞きたいことがある」

乱舞するのを抑えて、髪の毛──ネウロ曰く「アカネ」──がネウロの次の言葉を待つ様に沈黙する。
その様子を見て、ネウロは携帯のメールフォームを開きながら、囁く様に言った。

──ヤコの死の瞬間の状況と、下手人の特徴を教えろ、と。

それを受けてプチプチと慣れた様子で──しかしアポロガイストに少し切られた分少しぎこちなく──携帯のボタンをプッシュしだすアカネを見て、克己は思わず感嘆の声を漏らす。

「ほう、腕がくっついたと思えば今度は生きてる髪の毛か、とことん常識破りだな」
「弥子から聞いて知ってはいたが……、ああまで自在に動けるとはなぁ」
「二人とも、驚かなさ過ぎでしょ……、髪の毛が動いてんだよ?」
「死体がこうして動いてるんだ、今更髪の毛が動いたところで驚きようが無いだろ」
「それはそうなんだけど……」

983悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:39:32 ID:tCxKJwOI0

言われてしまえばその通りなのだが、しかしさやかには納得することが出来なかった。
特殊な技術や魔法によって死体が動くからといって、魔人の力で髪の毛が動くことはそうまで何ともないことなのだろうか。
不可思議がどんどん当たり前になっていくことへのモヤモヤを上手く消化する事も出来ぬまま悶々とするさやかだが、そんな時、ネウロがほうと声を上げた、かと思えばいきなりクツクツと笑い出した。

「どうした、何かわかったか?」
「クク、アンク、貴様確かワイルドタイガーにメダルを奪われた、といったな?」
「……あぁ、野郎、俺がグリードだからか、最初の会場の時とはまるで別人だったぜ」
「フン、仕方あるまい?実際、他人なのだから」
「ハァ?」

意味がわからない、といった顔をするアンクに、ネウロは画面を見せる。
そこには確かにワイルドタイガーのアーマーの特徴、及び“彼”の正体、怪物強盗サイの名と、彼の行った行為が如実に書かれていた。
──ネウロがアカネを弥子に持たせた理由に今回の様な、弥子が死んだ際に自身が下手人を特定し“お仕置き"する為というのがあるのかは定かではない。

だが結果として彼女は弥子殺害の瞬間において唯一の目撃者であり、用心深いサイを以てしてその存在を把握する事は叶わなかった。
あろうことか彼はこの髪の毛を単なる護身用にネウロが持たせた魔界道具だとでも思ったか、全く確認することなくアンクの下に向かってしまったのである。

──無論、悪戯好きでネウロに挑戦を挑み続ける彼の事である。アカネの存在に気づいた上で、ネウロに下手人は自分だと伝えるために敢えて証拠を残した可能性も、否定できないが。

「フム、怪盗サイ……、予想はしていたがなるほどあの子虫め、どうやら本当にきついお仕置きをせねばならない様だ……」

そして彼に対し、ネウロは、サディスティックな笑みを浮かべながら、心の奥で今まで感じたことない様な深い怒りを感じていた。
自身がこの地上で熱心に調教したボロ雑巾、桂木弥子。
以前にも一度弥子を人質に取られた際それを殺した場合にどうなるか、などとサディスティックに笑っていたが、今はそれが実現してしまったのである。

その笑みにその時の様な愉悦は感じられず、それ以上の復讐の炎が燃えたぎる。
そんな彼に呼応するかの如く、手に持った携帯についている髪の毛、アカネも逆立つ。
彼女にとって弥子は大切な友達だった。

言葉も通じないのに遊んでくれた、トリートメントしてくれた、勉強を教えた──何気ないことだが、しかし確かに彼女の不思議な日常の中心に、弥子はいた。
それをどんな理由があったにしろ殺したサイへの怒りは、彼女を燃えさせるに十二分だった。

「怪盗サイ……か、とことん舐め腐りやがって……!」

そしてメダルを奪われたアンクもまた、怒りに燃える。
ワイルドタイガーの姿を驕っていた事など、アンクにとってはどうでもいいが、杏子を箱にして殺した際に奴は、俺は殺し合いに乗っていない、と言った。
それならば捨ておいてもよいとも思ったが、自身に直接手を出しメダルを持って行き、弥子をも殺した現状では話が違う。

奴がネウロに狙いを定めてそれを超えるために自身のメダルを使おうとしているというのなら、それを利用してやる。
ネウロと共に行動していれば、奴は変装など捨ておき戦闘を仕掛けてくるだろう、不意打ちを用いようが、それは確実に訪れる。
なればその時こそ自身を欺きメダルを奪った大罪のツケを払わせる時である。

再生能力が人間離れしているだかなんだか知らないが、所詮グリード態になった自分には遠く及ぶまい。
メダルを取り返し、この状況で好き勝手やったツケを払ってもらわねば、自身の気が済まぬ。
鳥の王たる彼もまた、今この状況では自身のために外道に怒りを燃やすのだった。

984悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:40:10 ID:tCxKJwOI0

「怪盗サイ、許せない……!タイガーを、ヒーローを何だと思って……!」

そして、サイという存在を少しでも聞いていたさやかは、何よりそんな犯罪者がワイルドタイガーの名と姿を驕っているという状況に怒りを示していた。
最初の場で主催者に対しああまで真っ直ぐに敵意を示した英雄、ワイルドタイガー。
昔にテレビで見ていたヒーローそのものの様な彼の事を貶めようとする悪の存在が、さやかには許せなかったのだった。

「そうカッカするな、さやか。にしても怪盗サイか、少し興味深いな」

意識外から降ってきた様な声に、さやかはハッとする。
カツリ、と一歩進んで声の主、克己がニヤリと笑った。

「常人離れした回復力、身体能力、そして顔を変幻自在に変えられるその特異性……、NEVERにいれても良い程の飛び抜けた能力だ」
「はぁ?何言って──」
「あくまで“能力は"だ。美術品を盗む程度ならともかく、自身のルーツに近いものを感じた人間をミンチにして箱に詰める様なイカレ野郎、俺の仲間にはいらん」

今度はふざける様子も無く、克己は言い切った。
彼が仲間であるNEVERに求めるものは、死人であること、以上に自身が持っていない個性を持つ事である。
確かにサイの個性は強烈だが──サイ自身は自分が分からないからそれを探すための犯行だといいきっているらしいが、正直これ以上強烈な個性は中々無い──しかしそれは克己の求める個性ではない。

財団の男──加頭順──やヴィレッジのプロスペクトと同様に、憎むべき敵とすら言えるサイを、その能力は買っても彼の内面を評価する気にはなれなかったのであった。
それを受けてさやかも溜め息をつき、全くめんどくさい奴、などと思いながら口を開く。

「確かに、凄い能力だよね、文字通りの化け物。この力を手に入れてなかったら……こんな体になってなかったら、戦おうなんてとても思えな──」
「ほう、サイが化け物だと?」

背筋が凍る思いがした。
びくんと跳ねながら振り向けば、そこには目を見開き耳まで裂けているのではと思うような邪悪な笑みを浮かべたネウロがいた。
いつの間に、などと思いながらさやかはしかしネウロの言葉に疑問を投げかけていた。

「だって、化け物でしょ、どう考えても……。怪力も回復力も、変装能力もそうだけど、何より他の人間なんてどうとも思ってない様な身勝手な犯行……!化け物じゃなかったら説明がつかないでしょ?」
「フム、なるほど。サイに対する考えは最初の頃のヤコのそれに似ているな……、まぁいい。それよりも、奴はどうなろうと化け物ではない。礫器とした、人間だ」
「はぁ!?言うに事欠いてアンタ一体何を……!」

さやかは思わず声を荒らげる。
化け物ではない、というだけで納得が出来なかったが、それどころか、言うに事欠いて人間とは!
まるで理解できない、といった様子で彼女は怒りの表情を浮かべていた。

「フム、貴様は何か勘違いをしているようだ……。丁度いい機会だし、ついでに貴様に聞いておこう。
“貴様にとって、人間とは何だ?"」
「は……?」

985悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:41:34 ID:tCxKJwOI0

理解が出来なかった。
いや、勿論質問されたことが何かは分かっている。
だがそれでも理解できない、そしてわからない。人間とは何かなど、人間の定義など。

問いに困惑し答えが見つからず模索するさやかを尻目に、ネウロはしかしその様子に満足げな表情を浮かべた。

「それだ、サヤカよ。人間とは自身が分からないこと、出来ない事に対して、必死に努力できる。強い向上心と、そしてそれを成し遂げられる強い意志を持っている。
それこそが我が輩の食料、謎を生み出す原料であり、魔人に無い、人間の利点だ」
「そんな、でもだからって……」
「……何度も言う様に、我が輩は魔人だ、魔界の住人だ。魔人は生まれついて身体能力や頭脳に大きな個体差が生じる。
故に努力を早々に諦め、上には敵わないと悲観し続ける人生を送る。だが人間は違う、個体差などたかが人生の千分の一、或いは万分の一にも満たぬ程度の努力でたやすく覆る。だから人間は面白いのだ」

思わず熱く語るネウロに、さやかは言葉を継げない。
物理的に口を挟む瞬間が無いのではない。
ただ純粋に、ネウロの、魔人なる存在の語る“人間"について、何も自分が付け加える事も、批判する事も出来ないのである。

「故にサヤカよ、怪盗サイは人間であり──、そして同時にお前も、人間なのだ」
「な……、でも私は──」
「異論は認めぬぞ、サヤカ。一体何が人間でないというのだ、悪を倒さんと努力が出来、外道に怒る事が出来、他者の為に悲しむ事が出来る。どれも我が輩の見た、“人間”そのものだ」

言葉が、出なかった。
私が……人間?
そんな筈無い、だって……だって、こんな体なんだよ?

魂は小さい石ころになっちゃったし、痛みだって消しちゃえる。
こんな私が……人間?

俯き思考するさやかを構うことなく、ネウロはまたも笑う。
サディスティックないつもの笑みでなく──例えるなら小動物を見守る様な──どこか喜びのこもった、笑みを。

「悩め、サヤカよ。そうしてあのどうにも役に立たぬだろうと見限っていた我が奴隷は、我が輩が目を見張るほどに成長して見せた。
貴様はヤコともサイとも違うが……しかし確かに人間だ、我が輩が保証してやろう」
「そんな事……」
「悩め、そして自分で納得の出来る答えを見つけられる様、望む自分になれる様努力をするが良い。そうして努力し奮闘する姿、見ていて実に好ましい。
我が輩を驚かせてみろ、サヤカ。貴様は、人間は確かに、それができる可能性を秘めている」

986悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:42:15 ID:tCxKJwOI0

我が輩からは以上だ、と言い残して、ネウロはそのままクルリと背を向けた。
さやかに色々言うだけ言っておいて後はほっぽらかしである、文句の一つでも言いたい気分だ。
だがそんな気持ちがすぐに消え失せるほど、ネウロに言われた言葉は衝撃であった。

人間とはなんぞやなどと、哲学めいた問いは、当たり前ながらさやかは一度も自身に問うた事が無かったのだ。
この体になった時点で、他の、“普通の”人間と異なった時点で、自身は人間ではないのだとそう漠然と思っていたのである。
だがネウロにああ言われた瞬間、その反論は露と消えてしまった。

魔法少女だとか元人間の死人だとかではなく、生まれついての、完全な“人ならざるもの”から見れば、自身もまだ人間だという。
自分は果たして未だ人間なのか。だが少しでも人間と異なってしまったと後ろめたい感情を抱いた時点で、自分は人間だと胸を張れないのではないだろうか。
いや或いはこうして悩み答えを模索する行為それこそがネウロの定義する“人間”ではないのか。

またも頭を痛める彼女だが、そんな彼女を横目に、ただひたすら二人のやりとりを見ていた克己は、思考する。

(よりよい自分になる為に、努力する事が出来るのが人間、か……)

先程のネウロの言葉の中に幾度と無く出てきた、努力という単語。
それを考えるなら、果たして自分は人間であると言えるのだろうか。
確かに自分は明日を目指して生きている。

しかしそれは自分でも分かっている程にただの足掻きであり、運命への無駄な抵抗だ。
明日新しい何かを探したいだとか自身の可能性を追い求めるだとかの努力は、当の昔に置いてきた。
それだけでなく、今も確実に、自分から大切な何かが消えていく気がするのだ。

この徐々に消え行く記憶が、自身の最後の足掻きすら奪った場合、自分は問うまでもなくただの化け物へと成り果てる。
段々と確実に心が化け物になっていく存在を、人間であると胸を張って言える筈も無かった。
だが、と克己はふと思う。

これを口に出せば、きっとさやかは言うのだろう──お袋の様に──お前は人間だ、と。
自分自身、まだ自分が化け物に成り果てたと言うつもりは無い、最後の瞬間まで、残った“人間”に縋らせてもらう。
だが、何故か思うのである。さやかと自分には、超えようの無い人間と化け物の壁があると。

(さやか、もし、もし俺が正真正銘化け物になったなら、その時はお前に──)

その思いは、未だ頭を痛める少女には、届かなかった。

987悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:42:51 ID:tCxKJwOI0



さやか、克己の両者から少し離れた地点で、アンク、ネウロの二人は壁に背中を預けていた。
元々疲労の大きい二人だ、休める内は少しでも休んでおきたい気持ちが強いのだろう。
そんな中、アンクは笑い飛ばす様に口を開いた。

「ハッ、人間だどうだ……下らないな」
「そういえば貴様も生まれついての“化け物”だったか、アンク」
「フン、自分が化け物だろうと人間だろうと興味は無い」

アンクの言葉には嘘は含まれていない。
ただ、彼は命に興味があるだけなのだ、それさえあれば自分が人間だろうと魔人だろうと全く関係ないと、彼は考えているのである。

「そういえば、あの女に随分と入れ込んでる様だが……、魔女については教えなくていいのか?」
「……何故我が輩が知っていると?」
「杏子のソウルジェムを随分熱心に見てたんでなぁ」

先の弥子のデイパックを受け取った後一応他のものも目認はしていた。
その時確かに魔界の障気の詰まったビンと同じくらいにその赤い石の事も目に留めていた。
だがそれを含めてもデイパックを見たのは時間にして二秒。

その中で自分の目先を追えるとは──。

「なるほど、流石の鳥目、という奴か、だが貴様は勘違いしている。我が輩がサヤカにショックを与えない為に魔女化の事実を話さなかったと思っているな?」
「……」

沈黙。
肯定なのかはともかくネウロは続ける。

「我が輩は俗に言うドSだ、だが我が輩遊べる玩具は長く遊ぶ趣味でな、一気に負荷を掛けて玩具を壊す趣味は無い。
元々不安定なサヤカの心を適度に痛めつけ、それが治って前より強くなればまたギリギリの負荷をかける」
「ハッ、あいつの心はどこまで行っても魔女の真実には耐えられないと思うがな」
「なれば所詮そこまでだった、という事だ。我が輩とて壊れた玩具で遊ぶ趣味は無い。だが、人間としての在り方をああまで考えるのはサイ以来だ、実に興味深い」

またもどこか嬉しげに笑ったネウロは続ける。

988悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:43:56 ID:tCxKJwOI0

「もちろん我が輩が無理に負荷をかけるまでもなくこの場では様々な負荷が心にかかるだろう、魔女化についても、案外早く知る事になるかもしれん、その時に奴の心が壊れても……我が輩の知ったところではないがな」

冷たい言葉、だがその表情には一体どうなるのかという様な期待が浮かんでいた。
期待していなかったが故に自然の流れに任せ結果長期的な成長を見せた弥子。
彼女の成長も目を見張るものがあったが、この場で流れに任せているわけにも行かない。

成長を望めると考えたさやかには、多少強引だろうが負荷をかけ、その進化が見たい。
そうネウロが考えてしまうほど、今のさやかは可能性に溢れていた。

「フン、まぁあの女がどうなろうと、俺には関係ない、それより──」

アンクが言うより早く、ネウロはデイパックより杏子のソウルジェムを取り出す。
その表情を見て、アンクはまたニヤリと笑って、しかし瞬時にそれを止めた。

「見て分かったとは思うが、このソウルジェムは少し黒ずんでる」
「フム、時間経過でほんの少しずつ黒ずんでいってる、と言いたいのだろう?」
「……フン、お前も中々の目をしてるらしい」

そう、そのソウルジェムは、ほんの少し、ほんの少しだが、杏子が死んだその時より、ネウロが確認したその時より、黒ずんでいる。
ネウロが先程目を奪われたのは、正にその少し黒ずむ瞬間を見てしまったからに他ならない。
そして、ソウルジェムが少しずつでも黒ずんでいくというのは何を意味するかといえば──。

「問題は、魔女がこの状況で現れるのか、だな」

そう一番大きな問題はそれである。
杏子の意識がソウルジェムの中で目覚め、この状況に絶望して行っているのか、或いはメダルの供給が無い故に時間経過で黒くなっているのかは分からないが──。
しかし現状確かにソウルジェムが黒ずんで行っているというのは事実であった。

そしてそれだけならともかく、ソウルジェムが完全に黒に染まったとき、現れる魔女が、この場でどう扱われるのか、それが頭を悩ます要因なのである。

「魔女が出現するのにもやはり相応のメダルが必要なのか、あるいは魔女だけは特別扱いで時間経過で無条件に出現するのか……」
「どっちにしろ、杏子は戦力になる。完全に黒に染まるその瞬間まで、これは割らないでおきたい。
……それに何より、試してみたい事もあるしな」
「フム、首輪無しで蘇生することが出来るのか、出来た場合メダルの制限等はどうなるのか、か」

989悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:46:33 ID:tCxKJwOI0

そう、この場には、ネウロの様な特殊な状況を除いても、通常の生命活動に必要不可欠な部分、首を落としてもそのあとに蘇生する事の出来る存在が、それこそわんさかといる。
魔法少女もその一例だが……、何より、本体が一枚のコアであるとも言えるグリードもその一つなのだ。
もしも首輪を無くしてメダルシステムの呪縛から解き放たれるなら、出来る奴は望んでやるべきだといえる。

しかしそもそもの話、この場そのものにメダルシステムを使用しないと能力を行使できない様な制限がかかっていた場合はこの限りではない。
寧ろメダルが首輪から供給されず、常にメダル残数0の状況を強いられるのである。
これでは生き返り損である。

故に、杏子という身近にある存在を用いて、一度試してみたいのだ、首輪が無い場合に、参加者の扱いは一体どうなるのか。
制限がなくなりより強い味方になるならそれでよし、メダルシステムの弊害で何もできない一般人に成り下がるなら──。
首輪が再度調達できるまで、残念だがまたソウルジェムの中で眠っていてもらうしかあるまい。

冷酷な判断だが利己的に生きるグリードらしい判断である。
だが一方でこの作戦はハイリスクハイリターン、つまり当たればおいしい作戦とも言える。
杏子がこの場にいて選択の余地を与えたならば、きっと迷わずこの作戦を実行しただろうことを付記しておく。

それをも踏まえてアンクがこの作戦を考えたかは、本人に聞いても確かなところは出ないだろうが。

「だが、貴様も分かっての通り、サヤカは頼れまい?」

現状、一番身近にいる、強力な回復能力を持つ参加者である、さやか。
彼女の力を使って杏子を治すのは、メダルが足りないのはもちろん、本人の強い拒絶があった為に選択肢から外されていた。
それでも彼女がソウルジェムを割ろうと強く主張しないのは、アンクより聞いた杏子のこの場でのスタンスが、主張が、自身の想像しているものとあまりに異なっていたからである。

飄々と、何のことも無いように人の命を見捨てる彼女と同一人物と思えないほど、聞いた限りのこの場での杏子の行動は余りに見返りを求めておらず。
……まさに彼女が否定した、巴マミのような“正義の魔法少女"然した行動といえる。
そして彼女の最後も、アンクと弥子を逃がすために青年に変装したサイと戦い、敗北し箱詰めにして殺されるという、何とも酷たらしいものであったこと。

990悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:47:17 ID:tCxKJwOI0

それが、サイに対し怒りを抱いていた現状、さやかに杏子への少しの同情を生んでいたのも、その一因である。
しかし、さやかは自分の見た彼女の冷酷さを、彼女に与えられた痛みを、彼女自身の憧れる先輩への侮辱を、断じて忘れるつもりは無い。
それにこの場での行動もアンク達をだまし、サイと組もうとしたところで交渉が決裂し、死んだだけなのかもしれないと現在も疑っているのである。

これらの理由から何時でも破壊できるソウルジェムを所持することは構わないが、杏子の回復は率先しては御免だ、という彼女のスタンスが成ったのであった。

「あぁ、杏子からあいつへは随分ご執心な様子だったが、さやかからはそうでも無かったらしい」
「……本当にそれだけだと思うか?」

だがここで疑問が浮かぶ。
アンクが杏子から聞いた話によれば、随分と杏子はさやかに入れ込んでおり、この場でも一番と言っていいほど心配していた。
無論、さやかも言っていたように双方のファーストコンタクトの印象が最悪だったとも、杏子は言っていたが、果たしてそれだけの理由で、双方の相手への考えが、ここまで異なるものだろうか。

「我が輩、何度も言うが人間ではないのでな、人間の感情の些細な機微はよくわからん。だが──」
「そんなお前を以てして、この二人の感情の行き違いは無視できない、と」

ネウロは何を言うでも無く沈黙で肯定する。
実際の所、アンクも、今までにもこの場に来てから幾つか違和感を感じる瞬間を経験している。
そもそも片割れの自分が未だ生きていることや、映司の攻撃的すぎる自分への態度。──これに関してはアンクとて唐突すぎたが故違和を感じたが、将来的にそうなる事には何も感じていないが──。

そして、他でもない現在会話しているネウロの話にも、アンクは少し違和感を覚えた。
中でも特に大きい差異は、弥子の話ではサイは未だ逃げ回り続け世間を騒がす怪物の筈が、ネウロの話ではシックスなる謎の人物にその身柄を拘束され、長いこと経つのだと言う事だ。
これや、さやかと杏子の感情の行き違い、これらを踏まえて導き出されるのは──。

「やはり、連れてこられている瞬間が異なっていると考えるのが普通か」

参加者毎に、連れてこられた時間軸に差が生じていると考えるのが、妥当だろう。

「そうだとすれば、真木の奴、厄介なことになってやがるな」
「あぁ、だが関係ない。奴が時間を自在に操れるとしても、そのどれの時間軸でも、我が輩は奴を砕くまで」

991悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:49:22 ID:tCxKJwOI0

ふざける様子も無く言いきったネウロに、アンクは何が気に入らなかったか鼻で笑い飛ばす。
それを気にする様子も無しに、問題は山積みだな、としかしどこか楽しそうな表情を浮かべるネウロは言葉を続ける。

「取り敢えず、今の段階でこれに気づけたのは大きい。これの対策は後々じっくり考えるとして……」
「あぁ、今はともかく、行動、だな」

もう充分といわんばかりに壁から体を離した両者は、そのまま克己たちの元へ歩きだす。
今後の方針を、考える為に。



四人は、今後の方針について語り合っていた。
ネウロとしては障気を一旦吸えた為、メダル消費が落ち着き、腰を据えて話し合う時間が出来た今のうちに今後について大まかにでも決めておきたかったのだ。
何気なく自分の行きたい方向を話しつつ、ネウロはその裏で思考する。

(アンク……頭も回るが何よりも……、グリードであり多量のメダルを持っている、か)

彼が思考するのは先程も話していたアンクの事。
会話していて思ったが、彼はかなり頭が切れる。それこそネウロも油断ならぬ程に。
だが彼がそれ以上に思うのは、彼の体が結局メダルで構成されている、という事である。

992悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:50:02 ID:tCxKJwOI0

(現状は裏切る理由もないから我が輩に楯突く意味はないと分かっているだろうが……しかしいつかは対処せねばならぬな)

ネウロが危惧しているのは、彼のスタンスである。
彼は対主催か、殺し合いに乗っているのか、と問うた際、こう答えた。
負けるつもりは無い、と。

先程確認して思ったが、間違いない、彼の首輪の赤に金の丸印がついているのは、リーダーの証だろう。
彼は自分の持っているメダルの詳細を語ろうとはしなかったが、恐らく現状赤系のメダルを一番多く持っているのはこのアンクであるという自分の推理は、間違っていないはずだ。
そしてここで彼のスタンスが問題となってくる。

現赤リーダーが負ける気はない、と言っているのだ。
リーダーでないなら死にたくない、程度の意味で済むが、自分の陣営について負けたくないなどと言うならば、積極的に殺し合いには乗らないだけで、先を見据えればゲームに乗る可能性を秘めているといえる。
もしもこの男が敵に回ったならば、その時は自分も頭脳面で裏をかかれぬ様油断は出来ない。

頭脳対決、という面で言えば、彼が地上に来てから最強の敵になりうる可能性が確かにあるのである。

(それに何より……、こいつの体は大量のセルとコアのメダルで出来ている。非常食、というわけには行かないだろうが、戦力増強の際に選択肢の一つとして捉えておく必要があるか)

そう、何よりも、彼の体を構成しているセルメダルと、コアメダル。
それを手にする事が出来れば、当たり前だが自身の戦力はこれ以上無く増大し、メダル切れの心配は、長い事せずに済むのである。
故に場合によっては卑怯と罵られようと彼はアンクを殺しメダルを補充する算段を立てていた。

現に、ネウロの首輪の中にあるコンドルメダル。
それはアンクのものであるとネウロは分かっているが、アンクに易々と渡すつもりは無い。
敵になりうるかもしれない存在の戦力を増やす様な愚策を、彼が簡単に取るわけも無かった。

(アンクよ、我が輩貴様にも進化の可能性を見いだしているのだ、あまりがっかりさせる様な結果には、ならない事を祈るぞ……)

そんな自分勝手な思考を重ねるネウロの横で。

(とでも、やはりネウロは考えているだろうな……、俺は一体どうするか……)

と、思考するのは克己である。
彼もまた、今のアンクの不安定なスタンスに頼って仲間だ何だとのたまうつもりは無い。
ネウロが自分と同じようにアンクのメダルを補給源として考えるだろう事まで、予想済みである。

問題は、自分はその状況が訪れた際、どうするか、である。
自身もさやかも、どちらかといえばメダルを食う性質(タチ)である。
このまま時間経過でメダルが切れ死ぬなどというのは勘弁願いたい。

993悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:50:46 ID:tCxKJwOI0

だが、だからといって弥子の死に複雑な表情を見せていたアンクをただのメダルの塊として殺せるほど、克己は悪魔ではなかったのである。
理想としては、なるべく殺したくはない。
だがそれで自分が死ぬなどというのは論外だ、未だ自分は何も成し遂げていない、何も残せていない。

そんな現状で死ぬのだけは、克己は絶対に嫌だった。

(悪く思うなよ、アンク。グリードとしてこの場に呼ばれた以上、今のお前の体は魅力が多すぎる)

苦しいながら自分を納得させる様な考えを抱いた克己の正面で。

(……とでも、こいつらは考えてるんだろうが、そう簡単に殺されてたまるか)

思考するのはアンクである。
こいつらが、正確にはさやか以外の二者が自分をメダルの補給源として捉えているだろう事は容易に想像がつく。
だが、アンクとて生き延びてやり遂げたい事があるのだ。

こいつらにどんな事情があるにせよ、自分の身に比べれば最早比べるまでもなかった。

(それに、俺の体はちょっと特殊でな……、他と違って“俺”は“右手だけ”なんだぜ)

そう、それが今の状況でアンクの持ちうる最大の切り札。
ネウロは見たところ、人間の可能性をこれ以上無い程までに評価している。
なればそれを利用するまで。

自身の右手以外の体は、泉信吾というまるっきりの人間である。
無論、メダルが同化しつつある現状まるっきりとは言い切れないかもしれないが、それでもメダルの塊である自分などよりはよっぽど人間であり、ネウロの言う人間の定義に当てはまるだろう。

(もちろんこれはその時まで教えないがな……、色々考えてるのがお前らだけだと思わない事だ)

簡単に消えてたまるか。
その一心で周りの人間への殺意を見抜かれない様に三者が抱く中で。
彼女だけは、美樹さやかだけは、純粋に周りの人間を仲間と信じていた。

いや、正確に言えば、それを考えるより大事な事を考えているために、そこまで考えが回っていないのかもしれないが。

(私が人間……、でもそれでも今の私が、恭介に胸を張って人間として想いを伝えられる?)

994悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:51:45 ID:tCxKJwOI0

相も変わらず彼女の悩みの種は先程のネウロの言葉であった。
自身を人間として認めると言い切ったネウロ。
その言葉に甘えたいのは山々だが、しかしそれで自分に納得が出来るかといえば、それは話が違うのである。

(それに佐倉杏子も……、私が戦ったあんたと、ここにいるあんたは別人だって言うの……?)

アンクが語った、佐倉杏子の活躍。
それを語る彼の顔はどこか不機嫌そうだったが、その話の中身に嘘は感じられなかった。
彼の言うように、自身が見た彼女とこの場にいる彼女が別人のような性格で、自身の尊敬する魔法少女である巴マミと同じように正義を信じているのなら、協力したい。

だが、それでも。
そのマミの死を嘲笑うような言葉を吐いた彼女を、さやかはすぐに許すことは出来ず。
例えそれが、姿と語った名前だけが同じの全くの別人だったとしても、彼女には、まだそこまで杏子のことを信頼できなかったのであった。

悩み、答えを探す努力こそ人間だとネウロは言った。だがさやかには、幾ら探してもこれらの疑問に対しての答えが見つかる気がしなかった。

(私は、私の答えは──)

彼女の中の日付は、未だ変わらず。
むしろやっと秒針が動き出した段階であった。



「フム、これで大体の事は話し終わったか、では行くぞ」

と、四者四様の思考を済ませ、表面上滞り無く進んだ会話が一段落し、彼らはすくと立ち上がった。
少し遅れてさやかが立ち上がりそれに続く。
答えが見つからずとも、少なくとも今ただ立ち止まっているわけには行かない。

少しでも、ちょっとずつでも、歩きださなくては。
と、そこで、かねてより気になっていた疑問が、ふとさやかの口をついた。

「ね、ねぇ、ネウロ」
「ム、何だサヤカよ」
「あのさ、あんたって魔人の素性で出来るだけ隠しておきたかったんじゃないの?何で私たちには最初からオープンなのさ」

今まで聞くタイミングも無かった上、それ以上の問題に悩んでいた為切り出せなかったその疑問を、今さやかはやっと口にしたのであった。

「フム、大した理由は無い。こうして首輪をつけられ我が輩の能力に制限を掛けられ、ヤコも死んだ現状だ。元の世界と違いのんびりと自分を偽るほどの暇が無くなったというだけの事」

我が輩には時間がないのだ、と小声で付け足してネウロは未だ治りきらない箇所の傷をさする。
現状のメダル総数の関係か、或いは自身の体そのものが地上に対応しきれなくなっているのか、──或いはヤコの命の炎だけでは、魔人の体には足りなかったのか。
どちらにせよ、ネウロに残された時間はあまりない。

主催を倒すまで持つかどうか……、持ったとして、その後また弥子の後続の探偵を探しその助手として活動するには、自身は有名になりすぎてしまったのもあり、もうそこまでの時間は残されていないのだ。
究極の謎が無くなるかもしれないのは非常に、非常に残念だが、しかしこの場で自分の素姓を隠してのんびりやっていれば即ち死に直結すると、そう判断したのである。

(覚悟しろ、真木よ、我が輩はこれから貴様を倒すのに全力をかける。魔人を、我が輩を本気にさせた罪、しかと思い知るが良い)

995悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:53:02 ID:tCxKJwOI0

故に、全力だ。
この事件を最後に自分の魔力が枯れはてようと、信頼が出来ない人間に自身の正体がばれようと、真木が何の謎も持たないと分かったとしても。
最早関係ないのだ、彼は今、真木を倒す為だけに全力を尽くす。

それが、ネウロの、覚悟だった。

「そ、そうなんだ」

凄味のこもったその言葉に、さやかは思わず怯む。
しかし決して面白半分に言ったわけではない彼に対し、さやかは心強さを覚える。
本気になった魔人が、味方になった。これが心強くなくて何だというのか。

「質問はないな?……では、行くぞ」

濃くなりつつある闇に、一歩進む。
その闇は深く最早先は見えなくなりつつあり──。
しかし彼ら彼女らの歩く先には、確かな光明が差していた。



【一日目 真夜中】
【E-4 道路】


【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感
【首輪】130枚:0枚
【コア】タカ(感情A)、クジャク:1、コンドル:2、カンガルー:1(放送まで使用不可)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品×5(その中からパン二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
    大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。その後、赤陣営を優勝させる。
 1.優勝はするつもりだが、殺し合いにはやや否定的。
 2.もう一人のアンクのメダルを回収する。
 3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
 4. サイへの殺意、次に会ったときは容赦しない。
 5.ネウロ、克己への警戒、簡単には殺されない。
 6. 杏子を復活させられる人材とメダルを準備したい。
【備考】
※本編第45話、他のグリード達にメダルを与えた直後からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て「泉信吾の肉体」に取り込んでいます。
※ネウロ達の考えに薄々勘づいています。その時が来たら自分の右腕以外の体は実際は人間である事を示し覚悟を鈍らせようと考えています。
※映司関連の内容も話したはずですが、上記の翔太郎、アストレアについての考察、及びプトティラの暴走について話したのか、そもそもどのような関係だと話したのかは後続の方におまかせします。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。佐倉杏子と美樹さやか、桂木弥子と脳噛ネウロには確実に発生していると考えています。自身と映司に関してはどう考えているか不明です。

996悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:53:35 ID:tCxKJwOI0

【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】15枚:0枚
【コア】ワニ
【装備】T2エターナルメモリ+ロストドライバー+T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW、
【道具】基本支給品、NEVERのレザージャケット×?−3@仮面ライダーW 、カンドロイド数種@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
 1.さやかが欲しい。その為にも心身ともに鍛えてやる。
 2.T2を任せられる程にさやかが心身共に強くなったなら、ユニコーンのメモリを返してやる。
 3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡す訳にはいかない。
 4.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
 5.園咲冴子はいつか潰す。
 6.人間……か。
 7.悪く思うなよ、アンク。俺も簡単にくたばるわけにはいかない。
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピア・ドーパント撃破直後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※『仮面ライダー』という名をライダーベルト(ガタック)の説明書から知りました。ただしエターナルが仮面ライダーかどうかは分かっていません。 また、『仮面ライダー』であるオーズやダブルのことをアンクから聞いたのか、また聞いていた場合それについてどう感じたのかは不明です。
※魔法少女、グリード、ネウロ関係に関する知識を得ました。
※さやかの事を気に掛けています。
※加頭順の名前を知りません。ただ姿を見たり、声を聞けば分かります。
※制限については第81話の「Kの戦い/閉ざされる理想郷」に続く四連作を参照。
※アンクをメダル補給の為に殺す事に躊躇しています、がこの場において有効な戦術である事が否定しきれない為その時が来たら感情を殺すつもりです。
※アンク、ネウロが魔女について知っている事は知りません。


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】10枚:0枚
【コア】シャチ(放送まで使用不可)
【装備】ソウルジェム(さやか)@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW、ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
 1.人間……って何なの?私は人間?それとも……?
 2.克己達と協力して悪を倒してゆく。
 3.克己やガタックゼクターが教えてくれた正義を忘れない。
 4.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
 5.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
 6.マミさんと共に戦いたい。まどかは遭遇次第保護。
 7.少なくとも、暁美ほむらとは戦わなければならない。佐倉杏子は……?
 8.怪盗サイへの強い怒り。ヒーローを何だと思って……!
 9. 佐倉杏子、あんたは一体……?
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのか、また濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVER、グリード、ネウロ関係に関する知識を得ました。
※アンク、ネウロが魔女について知っている事は知りません。
※佐倉杏子の、アンクから伝え聞いたこの場での活躍と、自身の見た佐倉杏子の差異に困惑しています。

997悩【にんげん】◇VF/wVzZgH. 代理投下 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:54:06 ID:tCxKJwOI0

【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、右肩に銃創(治りかけ)、右手の平に傷(治りかけ)、悲しみ? 本気、新品同然の服
【首輪】40枚:0枚
【コア】コンドル:1(放送まで使用不可)
【装備】魔界777ツ能力@魔人探偵脳噛ネウロ、魔帝7ツ兵器@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、弥子のデイパック
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす……がお仕置きの方が先だな。
 1.さやかに興味、悩め人間よ。
 2.怪盗サイに今度会ったときはお望みどおり“お仕置き”してやる。
 3.アンクをメダル補充の為殺す準備も必要……か。
 4. 佐倉杏子を復活させられる人材とメダルを準備したい。
【備考】
※DR戦後からの参戦。
※ノブナガ、キュゥべえ、アンク、克己、さやかと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
 現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」「禁断の退屈」を使用しました。
※制限に関しては第84話の「絞【ちっそく】」を参照。
※弥子のデイパックには以下の支給品が入っています。
 「基本支給品一式、桂木弥子の携帯電話+あかねちゃん@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)※黒ずみ進行度(中)@魔法少女まどか☆マギカ、 衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero、赤い箱(佐倉杏子)」
 なお、現在あかねちゃんは通常通り動いています。
※杏子のソウルジェムがほんの少しずつ濁っている模様です。進行のタイミングや、杏子の精神が目覚めて絶望しているのか、この場での制限か何かなのかは現状不明です。また、濁り切ったとき魔女が現れるのか、現れるとしてメダルが必要なのかは不明です。
※魔界の障気の詰まった瓶@魔人探偵脳噛ネウロは空になったので捨てました。また、その障気を吸った為体の維持コストもリセットされました。
※体の維持が少しずつ困難になってきています。メダルの枚数の為なのか、最早メダル関係無しに体が限界なのか、弥子の命の炎ではネウロの体にパワー不足が生じているのかは不明です。
※現状魔人としての素姓を隠すつもりはありません。能力がばれようが何だろうが、この殺し合いを潰す為の努力は惜しみません。
※コンドルメダルはアンクだけでなくここにいる全員に秘匿中です。
※アンクが赤陣営リーダーだと睨んでいます。
※服装は民家からパクッ……借りて返さないものに着替えました。
※参加者毎に参戦時期の差異が生じることに気づきました。佐倉杏子と美樹さやか、桂木弥子と自身には確実に発生していると考えています。アンクから聞いた映司の情報によってはノブナガと映司にはそれ以上のものが発生していると気付いているかもしれません。

【全体備考】
ワイルドタイガーに変装し弥子を殺害したのがサイだと知りました。
今後どこに向かうのかは後続の方にお任せします。二手に別れるのか、四人で行動するのかも不明です。

998 ◆z9JH9su20Q:2015/01/09(金) 22:54:44 ID:tCxKJwOI0

以上で代理投下終了です。

それでは感想の方を。成程アンクとネウロ、オーズロワでも屈指の頭脳派による多方面への考察回。
首輪がメダルによる制限においてどのような役割を果たすのか、魔女の誕生にメダルは必要なのか。言われてみれば未だ不明瞭な大変気になるポイントで、彼らが目を付けないわけがありませんね。
また互いの思考の読み合いについても、アンクが非常食としてネウロ・克己に狙われてしまうのもある意味仕方のない展開か。それを予想しているアンクにも泉刑事が人質とある意味札はあるが切れるかどうか。
そしてそんな腹黒な男どもに囲まれているにも関わらず、一人レゾンデートルに恋にと悩んでしまうさやかの純真さがコメントに悩んでしまうところ。そんな普通な少女だからこそネウロもまた興味を抱いたわけですね。
各自の心理をしっかり描かれているのに加え、考察の正否やさやかや克己の届く答え、杏子の運命、そしてネウロに残された時間の限りと、続きが気になる要素も目白押しの読めて楽しいSSでした。
最後になりましたが◆VF/wVzZgH.氏、執筆お疲れ様でした。

999名無しさん:2015/01/09(金) 23:33:13 ID:YBfTTpcsO
代理投下乙です。

大道→徐々に人間でなくなっている
さやか、杏子、あかね→見た目は死体、頭脳は人間
ネウロ→魔人
アンク→命未満
なんてこった。
まともな人間はお兄ちゃんだけか。

アンクの首輪はお兄ちゃんにはまってるから、分離すれば首輪が外れたことになるんだよな。
ロストを取り込んでない状態で分離しても、右手しかないからどうしようもないけど。

1000名無しさん:2015/01/10(土) 20:00:09 ID:.1W6u7XY0
次スレ立てました
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/14759/1420887387/

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