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仮面ライダーオーズバトルロワイアル Part2
1名無しさん:2012/06/25(月) 23:25:37 ID:H2v4rYt20
当企画は、仮面ライダーオーズを主軸としたパロロワ企画です。
企画の性質上、版権キャラの死亡描写や流血描写、各種ネタバレなども見られます。
閲覧する場合は上記の点に注意し、自己責任でお願い致します。

書き手は常に募集しております。
やる気さえあれば何方でもご自由に参加出来ますので、興味のある方は是非予約スレまで。

したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15005/

まとめwiki
ttp://www18.atwiki.jp/ooorowa/pages/1.html

2名無しさん:2012/06/25(月) 23:27:33 ID:H2v4rYt20
【主催者】
【真木清人@仮面ライダーOOO】

【参加者】
※()は、そのキャラが所属する陣営

【仮面ライダーOOO(グリード枠)】5/5
◯アンク(ロスト)(赤)/◯カザリ(黄)/◯ウヴァ(緑)/◯メズール(青)/●ガメル(白)

【仮面ライダーOOO】5/5
◯火野映司(無)/◯アンク(赤)/◯後藤慎太郎(青)/◯伊達明(緑)/◯ノブナガ(黄)

【仮面ライダーディケイド】6/6
◯門矢士(無)/◯海東大樹(白)/◯小野寺ユウスケ(赤)/◯月影ノブヒコ(緑)/●剣崎一真(青)/◯アポロガイスト(赤)

【仮面ライダーW】7/7
◯左翔太郎(黄)/◯フィリップ(緑)/◯照井竜(白)/◯井坂深紅郎(白)/◯園崎冴子(黄)/◯加頭順(青)/◯大道克己(無)

【Fate/zero】6/6
◯衛宮切嗣(青)/◯セイバー(無)/◯雨生龍之介(白)/●キャスター(緑)/●間桐雁夜(黄)/◯バーサーカー(赤)

【TIGER&BUNNY】6/6
◯鏑木・T・虎徹(黄)/◯バーナビー・ブルックスJr.(白)/◯カリーナ・ライル(青)/◯ネイサン・シーモア(赤)/◯ジェイク・マルチネス(白)/◯ユーリ・ペトロフ(緑)

【魔法少女まどか☆マギカ】6/6
◯鹿目まどか(白)/◯暁美ほむら(無)/◯美樹さやか(青)/◯佐倉杏子(赤)/◯巴マミ(黄)/◯志筑仁美(緑)

【魔人探偵脳噛ネウロ】6/6
◯脳噛ネウロ(黄)/◯桂木弥子(青)/◯笹塚衛士(無)/◯X(緑)/◯葛西善二郎(赤)/●至郎田正影(白)

【そらのおとしもの】6/6
◯桜井賢樹(白)/◯見月そはら(黄)/◯イカロス(赤)/◯ニンフ(無)/◯アストレア(緑)/◯カオス(青)

【Steins;Gate】6/6
◯岡部倫太郎(無)/◯牧瀬紅莉栖(赤)/◯阿万音鈴羽(緑)/◯桐生萌郁(青)/●橋田至(黄)/◯フェイリス・ニャンニャン(無)

【インフィニット・ストラトス】6/6
●織斑一夏(白)/◯織斑千冬(赤)/◯セシリア・オルコット(青)/◯凰鈴音(緑)/◯シャルロット・デュノア(黄)/◯ラウラ・ボーデヴィッヒ(無)

58/65

3名無しさん:2012/06/25(月) 23:29:31 ID:H2v4rYt20
【基本ルール】
形式:5陣営のグループ対抗戦
勝利条件:陣営リーダーが1人しかいない状況
勝者判定:残った陣営の終了時点でのリーダー
  報酬(1)リーダーは大量のコア・セルメダルで大きな力を得る
    (2)リーダーは自陣営から指名した参加者(人数自由)と生還できる

※本編SSの合否は、下記のルールを参考にした書き手・読み手の合議で決める
※下記のルールは、コアメダルの項(3)(4)を除き、ルールブックとして参加者に支給される

1.グループ戦について
 (1)リーダーは、陣営に対応するグリードである
 (2)グリード不在中に限り、同色コアメダルの最多保有者がリーダーを代行する
 (3)リーダー不在中に限り、同陣営の参加者は無所属となる
 (4)リーダーが、無所属の参加者にセルメダルを投入した場合、自陣営の所属とする

2.コアメダルについて
 (1)対応するグリード不在中に限り、同色3種の500枚のセルメダルが揃う場合、そのグリードは復活する
 (2)参加者・支給品の能力コストに使用した場合、セルメダル50枚分の効果とするが、その後一定時間使用不可とする
 (3)参加者が体内に取り込んだ場合、対応するグリードとなる
 (4)グリード化した際の能力・戦闘力・副作用は、取り込んだコアメダルの色・枚数に比例する

3.セルメダルについて
 (1)参加者・支給品が能力を発動・維持・強化する度に、消費される
 (2)能力運用に伴う消費量は、能力の強大さに比例する
 (3)「参加者が自分の欲望を実行したか」の度合いに比例し、首輪内部で増殖する
 (4)参加者の負傷時は相応量の、死亡時は全ての、所有セルメダルが首輪から放出される
 (5)首輪の蓄積可能メダル数は300枚までであり、それ以上は所在不明の金庫に転送される
 (6)能力使用時の消費レート
  ・起動コスト…約1〜5枚
  ・必殺技コスト…約7〜15枚
  ・維持コスト…維持終了まで1〜n枚、枚数はシグマ計算(1+2+3+…)的に増量
  ・強化コスト…強化回数毎に1〜n枚、枚数はシグマ計算(1+2+3+…)的に増量
※具体的な消費量・増加量・放出量は書き手に一任する
※書き手・読み手が把握しやすいよう、増加・消費後の所有セルメダル枚数は、端数の無い分かりやすい数が望ましい

4.首輪について
 (1)各参加者に装着され、当人が特定条件に違反した場合、機能によって死亡させる
   特定条件(1)MAP外に出る
       (2)進入禁止エリアに一定時間留まる
       (3)24時間以内に死者がでない場合、全ての首輪が機能を発動する
 (2)参加者の位置情報、所有メダル情報、発言情報を主催者に伝達する
 (3)参加者の現所属陣営の色を、ランプの発光で示す
 (4)参加者の任意で、所有メダルの放出と、周囲のセルメダルの吸引・収納を行う
 (5)ATMに認証させた場合、参加者が金庫に転送したセルメダルを引き落とせる
※具体的なセルメダルの吸引範囲、複数人とかち合った場合の取り分は、書き手に一任する

5.放送について
 (1)6時間毎に、「前〜今放送までの死亡者」「新しい進入禁止エリア」「各陣営の戦績」が告知される
 (2)各陣営の戦績は、陣営全体で見た場合の所有セルメダルとコアメダルの総数である
 (3)具体的な所有者とコアメダルの種類は、告知されない

6.ライドベンダー・カンドロイドについて
 (1)ライドベンダーは、自販機形態でMAPに点在する
 (2)セルメダル1枚の投入に対し、バイク形態への変形1回か、カンドロイド1体の提供を行う
 (3)カンドロイドは原作に登場した全種を備え、品切れは無い
 (4)ライドベンダーを破壊しても、カンドロイド・セルメダルは獲得できない

7.支給品について
 (1)参加者が持つ基本的な装備品は、没収されない
 (2)参加者が持つ最強の武装および最強形態への変身アイテムは、当人以外に支給される
 (3)支給品の出典は、【参加作品中のアイテム】か【実在する物】の何れかとする
 (4)能力運用が個人に限定される場合、代用に足る量のセルメダルを消費すれば、それ以外の者も使える
 (5)門矢士に初期支給されるライダーカードは、クウガ〜キバ出典に限定する

4名無しさん:2012/06/25(月) 23:29:57 ID:H2v4rYt20
【スタート時の持物】
(1)デイバック…小さなリュック。下記のアイテムを収納している
(2)地図…MAPを記した地図。進入禁止エリア特定のため、境界線が引かれている
(3)名簿…全参加者の名前が列記されている。ただし、所属陣営は不明
(4)ルールブック…本ロワのルールを記した冊子。ただしコアメダルを体内に取り込んだ際の効果は未記載
(5)時計…簡素な時計。現在時刻が分かる
(6)コンパス…簡素な方位磁石。東西南北が分かる
(7)懐中電灯…照明器具。電源は尽きないものとする
(8)筆記用具…鉛筆、消しゴム、ノートのセット
(9)食料…水とパン。成人男性の三食三日分相当
(10)ランダム支給品…何らかのアイテム1〜3個
(11)セルメダル100枚…初期配給。量は全参加者で同数

【各種画像資料】
(1)MAP
ttp://ux.getuploader.com/OOOrowa/download/20/OOOrowa_MAP_clock02.jpg
(2)カウントザメダルズ
ttp://ux.getuploader.com/OOOrowa/download/14/OOOrowa_countthemedals.jpg

【進入禁止エリア】
(1)放送終了後に設定される、参加者の侵入を禁止する区画
(2)本ロワ終了まで解除されない
(3)参加者が一定時間留まる場合、その参加者は首輪により死亡する

【書き手ルール】
(1)SS投下前に、予約専用スレッドでトリップ付きの予約・投下宣言を行う
(2)SS終了まで生存した参加者は、最終的な状態を以下のテンプレートで明記する

【日数-時間帯名】
【エリア名/具体的な所在地】
【キャラ名@出展作品名】
【所属】現在所属している陣営
【状態】肉体・精神的な状態
【首輪】所持メダル枚数:貯金メダル枚数
【装備】携帯しているアイテムの名称
【道具】デイバックに収納しているアイテムの名称
【思考・状況】
基本:方針・最終目的
1.最優先事項
2.優先度が1以下の目的
3.優先度が2以下の目的
【備考】
※上記に当てはならない事項

【時間帯】
※本ロワは、12:00から開始する
深夜:00:00〜01:59
黎明:02:00〜03:59
早朝:04:00〜05:59
朝:06:00〜07:59
午前:08:00〜09:59
昼::10〜11:59
日中:12:00〜13:59
午後:14:00〜15:59
夕方:16:00〜17:59
夜:18:00〜19:59
夜中:20:00〜21:59
真夜中:22:00〜23:59

5名無しさん:2012/06/26(火) 13:29:47 ID:RQ2Gt4kI0
スレ立て乙です

6 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:16:39 ID:7Y2l9fFI0
スレ立て乙です!
これより予約分の投下を開始します!

7 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:17:01 ID:7Y2l9fFI0
 二人乗りの自転車が、深閑とした車道を走り抜けていく。
 ペダルを踏み込む阿万音鈴羽の足取りには一切の淀みがない。今よりもずっと未来の世界でレジスタンスの戦士として戦っていた過酷な日々と比べれば、たかが女子中学生一人を乗せた自転車を運転する事くらいは造作もない事だった。
 自転車の荷台に乗る見月そはらが、鈴羽を退屈させない様にと“非現実的な実話”の数々を聞かせてくれるのも面白かった。何でも、桜井智樹という一人の少年を中心に集まったエンジェロイドとかいうロボットの少女達が居るらしいのだが、そのロボット達がまた常識など考えるだけ無駄だと思い知らされるような馬鹿げた事件を立て続けに起こしてくれるのだという。その日々が面白可笑しくて、いつも困らされてはいるが、その反面とても楽しい日々を送っているのだと、そはらは語る。
 そはらの話の中に出て来たダイブゲームもシナプスのカードも、どれも荒唐無稽で信じるに値しないように思われるが、ここまで非現実的な現実を見せ付けられた後では今更否定する気も起きまい。結局は鈴羽も楽しんでそはらの話に耳を傾けていた。
 そんな他愛もない話がいつまでも続くかと思われた矢先、そはらは話を一旦中断させると、前方に見える大きな建物を指差した。

「――あっ! 鈴羽さん、あれです、健康ランド!」

 そはらの指差す方向を見遣れば、なるほど確かに健康ランドと書かれたネオンの看板がでかでかと掲げられている。聞くところによれば、健康ランドとは様々な形式の風呂にプール、ゲームセンターから食堂まで、多種多様の娯楽を取り入れた公衆施設なのだという。
 
「へええ、あれが健康ランドかあ……」

 話を聞くからに楽しそうなその施設を目の前に、そはらは瞳をキラキラと輝かせる。
 当然ながら、鈴羽は健康ランドを知らない。ディストピアとなった未来にはそんな娯楽施設は存在しないし――否、存在はするのだろうが、意思を失って得られる“平和”と引き換えに、死と隣り合わせの“自由”を選んだ鈴羽にとってはそんな娯楽など無縁の世界だ。

「あの、鈴羽さん。実は私も健康ランドって言った事なくって……良かったら、セイバーさんと合流したら、あそこで少し休憩していきませんか?」
「見月そはら、気持ちはわかるけど、今は殺し合いの真っ最中なんだよ? そんな事してる場合じゃ……」

 苦笑交じりに言いかけて、しかしその言葉は途中で止まる。
 確かに今は非常時だ。ゆっくり身体を休める余裕などある訳もないのだが、それでもそはらの気持ちは分かる。鈴羽とて見知らぬ娯楽施設に興味がないといえば嘘になるし、いずれこの時代からも去らねばならぬ身としては、今の内に立ち寄っておきたいという気持ちもある。
 そはらの言う通り、セイバーと合流すれば今後の行動の方針を話し合う場も必要となるだろう。数秒程黙考して考えるが、その時はやはり全員が落ち着いて冷静に判断を下せるだけの状況が必要になるのだとも思う。そう考えれば、そはらの提案は全く悪いものではなく、寧ろ合理的なものなのではなかとすら思えて来た。

「……ま、まあ……君の言う通り、セイバーと合流出来たら今後の事も話し合いたいからね、少しくらいなら健康ランドで身体を休めるのも悪くはないかもしれないね!」

 そう、少しくらいなら、だ。これは決して自分に甘えている訳ではないし、何よりも、突然殺し合いに巻き込まれた戦場すらも知らない中学生に、気を張りっ放しにしろというのも酷な話だ。色々考えたが、やはり健康ランドでの休息は必要と思われた。
 そんな鈴羽の心中での葛藤を知ってか知らずか、そはらはクスリと微笑んだ。

「ありがとうございます、やっぱり鈴羽さんって優しいですね」

 その微笑み一つで、何となく全てを見透かされているような気がして、そはらは若干の面映ゆさを覚えた。

 やがて、二人の乗った自転車が健康ランドの正面口の駐車場へ到着した。
 駐輪場は……と考えるが、どの道此処は殺し合いの場なのだから、律儀にそんな事を気に掛ける必要もない。全面が硝子張りの自動ドアの真正面に自転車を停めた鈴羽は、そはらを先にその場に降ろす。
 それからぐるりと辺りを見渡すが、セイバーの乗っていたトライドベンダーは見受けられず、セイバーの気配もない。今頃セイバーは襲撃者との戦闘中か、或いはもう敵を撃破して此方に向かっている最中だろうか。セイバーよりも遅れて到着しては格好悪いから、と考えていたが、少しばかり無駄に急ぎ過ぎたかな、という気もしないでもなかった。

8 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:17:40 ID:7Y2l9fFI0
 
「セイバーさん、まだ来てないみたいだけど……大丈夫かな」
「大丈夫だよ。きっとセイバーは負けない――っていうか、セイバーが負ける姿なんて想像出来ないでしょ?」

 常人ならば考えも及ばないような非常識な戦法を思い付き、しかも極めて実現困難なそれを見事に実行せしめ敵を出し抜いて見せたあのセイバーが、そう簡単に負けるとは思えまい。仮に敵がどんな強敵であったとしても、彼女のあの図太さならば存外楽に切り抜けられるような気がする。
 つまるところ、鈴羽はセイバーの心配を全くしていなかったのである。
 呆れ笑いにも似た笑いと共に鈴羽が言った言葉を、そはらも少しばかり真剣に考えてみた様子だったが、すぐに納得して首肯した。そはらの仲間にも尋常ならざる戦闘能力を秘めたエンジェロイドなる存在が居るらしいし、その手の非常識にはもう慣れているのだろう。

「それじゃあ、私達は先に中に入って待ってます?」
「そうだね、入口のあたりで隠れて待ってればすぐに気付くだろうし」

 入口に鈴羽の自転車が停めてあるのだから、既に中で鈴羽が待っている事には気付くだろう。セイバーが入口から入って来たなら、自分達も姿を現して合流すればいいのだ。
 おりしも二人が健康ランドへ入ろうとした時、二人の影が自動ドアのセンサーに触れるまでもなく、その硝子の扉は自動で開いた。健康ランドの内側から、二人の知らぬ第三者が現れたのだ。
 中から悠然と歩み出たのは、白い無地のTシャツを緩く着こなし、その上からマントを羽織った黒髪の少年。歳の頃は、鈴羽と同じくらいに見える。当然鈴羽の知り合いにそんな人物はいないが、どうやらそはらの知り合いという訳でもないらしかった。

(何、コイツの雰囲気……)

 少年が一歩近寄る度に、嫌な威圧感が鈴羽に重くのしかかる。
 上手く言葉には言い表せないが、この少年が纏った雰囲気は異質だ。そはらのような一般人のそれとは違うし、かといってセイバーのような武人ともまるで違う。見知らぬ相手の不気味な雰囲気に気圧された鈴羽は、それ以上近付くなと言外に告げるように、そはらを庇って身構えた。
 必要以上に警戒されている事に気分を害したのか、少年はやや不服そうに憮然とするが、すぐに二人を安心させるようにと笑顔を浮かべて自らの名を名乗ってくれた。

「そんな慌てんなよ。俺は“織斑一夏”っていうんだ、殺し合いには乗ってない」
「そっか、良かった……! 私達も殺し合いには乗ってないんです、これからここで人を待――」
「見月そはらッ!」
「――へっ!?」

 一夏と名乗った相手に容易に気を許したそはらを咎めるように、鈴羽は声を荒げる。
 突然の怒号にも似たその声に驚いたそはらは、びくんと身を縮こまらせながら、不安そうに鈴羽を見た。優しく穏やかな少女に怒鳴りつけてしまった事に若干の呵責を覚えながらも、鈴羽は油断なく一夏から視線を逸らさぬまま告げる。

「……あんまり簡単に相手を信用して、ぺらぺら話し過ぎない方がいいよ」
「おいおい、警戒するのは分かるけど、それはあんまりな対応じゃないか? 俺はただ自分の名前を名乗っただけなのに」
「織斑一夏。君が本当に悪意を持ってないというなら、少しはその気配を何とかした方がいいと思うよ」

 言いながら、デイバッグからキャレコ短機関銃を取り出し構える鈴羽。
 この男が放つ雰囲気は、凛冽な氷のように冷たく剣呑だ。これは、現代に来てからというもの久しく感じる事のなかった戦場の気配だ。にも関わらず、この男の表情はその凄烈さとは裏腹に笑顔のままである。その不自然な温度差が、鈴羽に直感的な警戒心を与えたのだ。
 とはいっても、鈴羽も現時点ではまだ一夏を敵だと断じた訳ではないし、これはあくまで牽制に過ぎない。もしかしたら鈴羽と同じように、過去に何らかのつらい境遇があって、常に感覚を研ぎ澄ますように癖が付いてしまっただけの“生まれ付いての戦士”なのかもしれない。
 相手に敵意がない事さえ分かれば本当に射撃をするつもりなどないし、その時は謝罪をしたっていい。兎にも角にも、今は安全を確保するまで油断は許されない状況なのである。

9 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:17:57 ID:7Y2l9fFI0
 
 ――ひゅん、と風が吹く音が聞こえた。

 数メートル隔てて前方に居た筈の一夏が、まさしく風と呼ぶに相応しい速度でもって、刹那のうちに鈴羽の間合いへ踏み込み、その手にある獲物を鈴羽目掛けて突き出したのだ。
 が、その一撃は当たらなかった。鈴羽は何を考えるでもなく、ほぼ純粋な条件反射で真っ直ぐに突き出された一夏の肘を下方から叩き、最小限の力でその軌道を大きく逸らした。結果、危うく鈴羽の心臓を突き刺していたのであろうアゾット剣と呼ばれる短剣は、狙いを大きく外して鈴羽の肩の上を通過していくに留まった。
 そして回避の成功と反撃は同時。一夏の突き出した短剣が鈴羽の傍らを通過していく頃には、既に鈴羽の短機関銃の銃口が一夏の腹部に押しつけられていた。

「へえ、思ってたより凄いじゃん。牽制とはいえ今の一撃をかわすなんてさ。そこらの警官だったら死亡確定コースなんだけど」
「君が何者かは知らないけど、あたしを並の人間と同じだと思わない方がいいよ」
「流石、俺の殺気に気付いただけの事はあるね。俄然アンタの“中身”にも興味湧いてきたよ!」

 瞬間、もう取り繕う必要も無くなったのか、一夏の放つ殺気と威圧感が格段に増した。
 藪蛇だったか、とも一瞬思うが――否、元よりこの男が殺意を持って接近してきたのであれば、遅かれ早かれこうなっていた筈だ。この男に騙され心を許し油断し切っていた所を後ろから殺されるよりは幾らかマシか。

(……いや、どの道この状況はよろしくないな)

 一夏が本性を露わしたその瞬間から、背筋を伝う悪寒は止まらない。嫌な汗が頬を伝う。数多の戦場を生き抜いて来た鈴羽の戦士としての本能が、この男は危険だと、鈴羽の手には余りある程の強敵だと、けたたましいくらいに警鐘を鳴らしたてているのだ。
 この全身を突き刺すような鋭い殺気。あのセイバーと比べても遜色のない速度から繰り出される攻撃。こいつの一挙手一投足が、今の鈴羽達にとっては「死」そのものと言っても過言ではない。もしも一手でも遅れを取れば、鈴羽もそはらもまず間違いなくここで殺される事だろう。
 
「――……ッ!!」

 今や明確となった一夏の殺意を前に、鈴羽は躊躇いもなく――というよりも躊躇えば殺される、その確信があった――キャレコの引鉄を引いた。未来の戦場ではとうに聞き慣れた短機関銃によるフルオート射撃音が、鈴羽の至近距離で鳴り響く。
 一夏は防御も回避もしなかった。鈴羽の突然の斉射に対応する事もなく、その身体は無数に放たれた弾丸によって穿たれ後方へと吹っ飛んでゆく。たかだか総弾数五十のキャレコの弾切れに掛かる時間はほんの数秒。その数秒で放った五十もの弾丸は、一夏の身体だけでなくすぐ後方の硝子張りのドアをも穿ち粉々に粉砕した。大きな硝子が一斉に割れて砕ける甲高い粉砕音が、音鈴羽の耳を聾する。
 驚愕して眼を剥き、口元を抑えて立ち尽くすそはらを後目に、鈴羽はキャレコの弾倉を予め支給されていた予備のものと交換した。奴が放つ嫌な気配はまだ消えていない。冷たく鋭いあの殺気は、衰えるどころか寧ろより一層濃厚な悪意となって鈴羽の肌を刺す。
 鈴羽の第六巻が、これ以上此処に居るべきでないと結論付けた。
 戦士である自分が“またしても”逃げざるを得ないというのは非情に業腹ではあるが、ここで二人揃って殺されるというのが最悪の結果だという事くらいは分かる。ここは先程のセイバーの言葉に従って、今すぐにそはらを連れてここから離脱しよう。
 セイバーに合流さえ出来れば、あとはどうとでもなるのだ。

「見月そはら、コイツは危険だ! すぐに此処を離れよう!」
「えっ……で、でも……っ」

 驚愕と当惑でろくに動けなくなったそはらの腕を引っ掴んだ鈴羽は、倒れ伏した一夏に油断なくキャレコの銃口を向けたまま、今はとにかくそはらを無理矢理にでも連れ出さんと走り出した。
 駐車場の一角に設置されていた自販機の前に立った鈴羽は、首輪から取り出したメダルを叩き込み、中央のボタンを叩く。鈴羽のセルメダルを受け入れたライドベンダーは、がしゃんと音を立てて、まるで変型機能を売りにしている子供向けの玩具のようにバイク形態へと変型し始めた。
 鈴羽は此処へ来てすぐにルールブックを読み、ライドベンダーやカンドロイドといった特殊ルールについても知悉していた。二十余年後の未来にも斯様な道具は存在しないし、当然鈴羽は些かその存在を訝ってもいたのだが、そんな事はやはり考えるだけ無駄なのだろう。
 目の前で形を変えたライドベンダーにいざ跨ろうとする鈴羽だったが――

10 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:18:19 ID:7Y2l9fFI0
 
「折角面白い奴と出会えたんだ、逃がす訳ないじゃん」
「――ッ!!?」

 その刹那、耳元で囁かれた声が、鈴羽には冷たい死神のそれに聞こえた。
 奴は、織斑一夏は、あれだけの一斉射撃に襲われてもなお深手を負わず、どころかダメージを受けたという様子すら見せずに、ほんの一瞬で数十メートルの距離を飛び越えて鈴羽の後方を陣取ったのだ。
 振り向き様にキャレコを突き付けようとする鈴羽だが、既に後ろを取られた状態からでは余りにも遅すぎる。キャレコの銃口が一夏を捉えるよりも先に、高く蹴り上げられた一夏の爪先が鈴羽の手をしたたかに打ち付け、握っていたキャレコを遥か上空へと蹴り飛ばした。数十メートル真上へと跳ね上がってから自由落下して来たキャレコを片手でキャッチした一夏は、今度はその銃口を鈴羽の額に突き付け、小さく「チェックメイト」と呟いた。

「……クッ!」
「さ、どうする? もう次の手がないなら、そろそろアンタの中身も見せて貰っていいかな」

 一夏の問いに答える事が、鈴羽には出来なかった。
 今の戦力ではどう足掻いてもこの男に勝てない。五十発近くの弾丸をその身に受けて傷一つ付けられないような相手を、一体どうやって倒せばいいというのだ。このままではこの人間とも化け物ともつかない殺人鬼の手によって此処で二人揃って確実に殺される。何か手は、と考えるが、考えれば考える程に敗色濃厚な現状に、絶望すら覚える。
 未来で散った父――橋田至――の想いを、その命と引き換えに鈴羽を現代へと送り出してくれたワルキューレの仲間達の命を背負った鈴羽は、こんな所で死ぬ訳にはいかないというのに――!

「す……鈴羽さんから、離れて下さい……っ!」

 そんな時、震える声で一夏に銃を突き付けたのは、鈴羽に保護されるべき一般人、見月そはらだった。
 いけない、見月そはらではこの男には絶対に勝てない! そう思い冷や汗がどっと吹き出るが、しかしだからといって額にキャレコを突き付けられ殺生与奪を握られた状態にある鈴羽に、今のそはらを止める事など出来はしない。
 動けぬ鈴羽を後目に、一夏は興味なさげにちらとそはらを一瞥し、自分の頭部に銃を突き付けられているというのに微塵も臆さず嘯いた。

「俺にそんな銃は効かないよ」
「なら……確かめてみますか」

 精一杯の胆力で以て不敵にそう告げ、一夏の頭部に向けた銃口の狙いを正すそはら。
 そはらの眼に宿る強い意思の光はまごう事なき本物だ。ただのハッタリなどではない、撃たねば鈴羽が殺されるというなら、決然と引鉄をも引いてみせよう。それだけの決意が、そはらの背中を後押しする。何よりも、こんな理不尽な相手に、優しい鈴羽が殺される事がそはらには我慢出来ないのだった。
 命を賭けるのはこれが初めてではない。かつて、大切な友達の一人――ニンフを空のマスターから解放した時だって、いつ爆発するかも知れない爆弾を前にして、それでもそはらは友の為死の恐怖をも振り切って、そして智樹や仲間達と共に見事ニンフを救ってみせたではないか。
 あの時はちっとも怖いだなんて思わなかった。友達への強い思いが、恐怖すらも忘れさせてくれた。だから今だって、鈴羽の命が懸かっているなら不可能な事なんてない筈だと、自分に言い聞かせる。

 とは言ったものの――未だ手は震えている。脚も、きっと声も震えていた筈だ。
 何を考えているのかも、人間かどうかも分からない一夏は怖い。どんなに強がってみせても、怖いものは怖いのだ。あの時は一緒に居てくれた、誰よりも心強いたった一人の友達が今はそばに居てくれないからだろうか。
 否、それでももう退けない。痛い思いをするのは嫌だし、死ぬのはもっと嫌だけれども、目の前で仲間が殺されてしまう恐怖と比べれば、それは絶対に耐えられない程の恐怖とはなり得ない筈だ。

(そうだよね……智ちゃんだったら、きっとこうするよね?)

 今はいないが、あのどうしようもなく馬鹿で変態なアイツなら、きっと「友達の為に」こうしている筈だ。そう思えば、少しだけ勇気が湧いて来る。。
 もしかしたら、エンジェロイドのいる非日常の毎日がそはらの心を強くしてくれたのかも知れない。少し前の自分だったなら、とっくに挫けて居たかも知れない。自分でも自分がこんなにも馬鹿な行動に出る人間だなどとは思ってもみなかったが、それも「誰に影響を受けてこうなったのか」を悟ってしまえば、嫌な気はしなかった。
 状況に釣り合わぬ強い意思を宿したその瞳に何かを感じたのか、一夏は鈴羽にキャレコを突き付けたまま、訝しげにそはらの目を覗き込んで来た。

11 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:18:35 ID:7Y2l9fFI0
 
「へえ……その眼は自分がこれから死ぬだなんて思ってない奴の眼だ。何処からそんな自信が湧いてくるのか知らないけど、アンタにも何かあるみたいだね」
「別に……私には、何もありません。でも、私は、今の私よりももっと危ない状況に何度も立たされて、それでも一度も挫けなかった友達を知ってるから……!」
「ふーん。その友達ってのも気になるけど……じゃあ、まずはアンタの“中身”から見てみようかな?」
「見月そはら――ッ!!」

 意味も分からない一夏の言葉の次に響いたのは、鈴羽の絶叫だった。
 そはらは、何の反応も示す事が出来なかった。気付いた時には鈴羽が叫んでいて、そして気付いた時には、両手に鈍い痛みが走って――その手に握り締めていた筈の拳銃が、先程の鈴羽の短機関銃よろしく真上に跳ね上げられていた。
 脚でやられたのか、腕でやられたのか、はたまた別の何かでやられたのか。この一瞬で何をされたのかさえそはらには分からなかった。

(嗚呼、私、死んじゃうんだ)

 何が起こったかは分からないが、それでも直感的にそれを悟ってしまう。
 時間の流れがスローになったかのような錯覚の中で、そはらは自分を襲う死を待ち受けるが――次の瞬間、そはらの間合いに踏み込んでいた一夏が、吹っ飛んだ。
 そはらのデイバッグから飛び出た赤い何かが、まるでそはらを守るように鋭い体当たりを敢行して、寸でのところで一夏の身体を弾き飛ばしたのだ。
 大きく体勢を崩した一夏が振り抜いていたアゾット剣の刃は、狙い通りにそはらの身体を切り裂く事はなく、そのデイバッグの肩ベルトのみを裂くに留まった。そはらの肩が軽くなって、寸前まで背負われていたデイバッグがぼとりと音を立てて後方の地面に落ちる。
 すっかり毒気を抜かれて声も出ないそはらに、それを拾い上げるだけの余裕はない。呆然と立ち尽くすそはらが一拍遅れてようやく認識出来たのは、支給されていた赤いカブトムシことカブトゼクターが、獅子奮迅たる勢いで一夏に体当たりを仕掛けてゆき、二人から敵を遠ざけてくれている場面だった。

「大丈夫、見月そはら!?」
「は、はい……私は何とか、カブトゼクターが庇ってくれたから」
「良かった……! まさかアイツに助けられるなんて思いもしなかったよ!」

 鈴羽の視線の先で、カブトゼクターは今も一夏を翻弄し、一夏の侵攻を掣肘してくれている。一夏は手にした短剣で、短機関銃で、あらゆる手段をもってカブトゼクターに攻撃を仕掛けるが、カブトゼクターは小さな光の翼を羽撃かせ、器用に空中で回避を続ける。
 当然、その光景をただ指を咥えて眺めていた訳ではない。鈴羽はすぐにライドベンダーに跨って、エンジンを掛ける。オートマチックのバイクはそれ以上の予備動作を必要とせず、今すぐにでも走り出さんとエンジンを振動させる。
 セイバーのトライドベンダーに比べれば幾分か劣るが、離脱するには十分だろう。

「乗って、すぐに!」

 緊迫した鈴羽の声にただ従って、そはらは取り落としたデイバッグを回収する間もなく鈴羽の真後ろの座席に飛び乗った。ぐっとしがみ付き、ちらと後方を振り向けば、一夏を翻弄するべく空中を飛び回るカブトゼクターは次第に動きを見切られつつあるのか、その動きから数秒前ほどの余裕は感じられなくなっていた。徐々に追い詰められている。子供が動きの遅い蝶などの昆虫を捕獲する時に、じわじわと追い詰めてゆくそれによく似ていた。
 ライドベンダーが発進する。持ち主の命を守るため戦場に飛び出た小さな勇者に、胸中で謝罪と感謝の言葉を告げながら、そはらは凄まじい勢いで吹き荒ぶ疾風を肌で感じた。鈴羽が、発進直後からフルスロットルでライドベンダーを飛ばしているのだ。絶叫マシンもかくやという勢いで最高速度に達しようとするライドベンダーは、周囲のあらゆる景色を置き去りにし、周囲のあらゆる音を掻き消した。
 一時はどうなるかと思ったが、これで助かったか。さしものあの一夏と言えど、この加速力で逃げ続けられれば、追い付く事など出来はしまい。ほっとと胸を撫で下ろしたそはらは、最後にもう一度だけ後方へと振り向き――そして、見た。
 もう今は随分と小さくなりつつある一夏が、カブトゼクターとの格闘の片手間に、片腕に握ったキャレコ短機関銃を此方へ向けていた。正確に的を絞ってキャレコを突き付けている訳ではない。一夏が此方を見た訳でもなければ、その行動自体から殺意を感じる訳でもない。
 狙いすらも曖昧なキャレコの銃口とそはらの視線が交差したのは、ほんの一瞬の事だった。

12 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:18:55 ID:7Y2l9fFI0
 


 つい数分前まで戦場だった健康ランドの正面駐車場にて、一夏――の姿を奪い取った怪盗X――は、面白くもなさそうに置き去りにされたデイバッグを拾い上げた。
 中を確認するが、目ぼしいものは何もない。さっきの女が落とした拳銃の予備マガジンと大量の弾丸が詰められた箱が二つ。それから、用途の分からない無機質な銀のベルトにナイフが一本。武器に困っている訳でもないXからすれば、戦利品としては実にくだらないものばかりであるが、かといって別段それが残念という訳でもなく。

「まあ、結局逃げられちゃったんだし、今回はこんなもんか」

 仕留めたならまだしも、今回はただ逃げられただけだ。仕方ないとあっさり諦める。
 一応最後にキャレコによる射撃も試みたが、それも特別深い考えがあってやった事ではない。あの赤いカブトムシに邪魔をされた所為で十分に的を絞る事は出来なかったし、仮に命中していたとしても、ただの殺人行為に意味などないし嬉しくもない。
 Xはただ、純粋に自分という存在のルーツが知りたいだけだ。その謎の答えに辿り着く為に他者を殺し、その死体を箱に詰めて“細胞レベルで観察”して始めて意味があるのであって、ただの殺戮に美学があるなどとは微塵も思ってはいない。

「あの子はちょっとだけ面白そうだったんだけどな」

 思い浮かべるのは、鈴羽とか呼ばれていた女の方だ。Xの攻撃には殆ど反応出来ていなかったが、それでもあの女は――ここではXの能力は制限されているとはいえ――Xの殺気を見破ったのだ。少なくとも、Xを前にしてただ殺されるだけの“まともな”一般人とは格が違う。
 人間の域を出てはいなかったが、そんな彼女でもいざバラしてみれば自分のルーツに近付くヒントを得られるやもと思いもしたのだが、結果はこの通り。失敗だ。

 ちらと、足元に散らばる機械の残骸を見遣る。
 数ミリから数センチ程度の小さな部品が幾つも合わさってあの赤いカブトムシ型のメカを形成していたようだが、このメカもバラしてみれば特に面白い特徴も見当たらなかった。念の為にこれ以上細分化出来なくなるまで完全にバラしきってみたが、面白いと思えたのは空を飛んでいた間だけで、こうなってしまえばただの鉄クズだ。

 退屈そうに、Xは足元に散らばった“かつてカブトゼクターだった部品”の数々を蹴飛ばして散らす。ちょうどその時、Xの超常的な聴覚は遥か彼方から接近して来る猛獣の雄叫びを聞きとった。
 バイクの駆動音と共に雄々しき獣の咆哮を上げながら、何かが急接近して来る。かなりの速度だ。つい今し方Xの聴覚に届く範囲に入って来たと思っていたら、その尋常ならざる移動速度でもって、今はもう随分と近くに接近してきている。あと数秒もあれば獣はこの場所へと辿り着き、Xと鉢合わせる事になるだろう。
 若干の期待を胸に、Xは急迫する音へと向き直り、意識を傾けた。

 やがて現れたのは、巨大な機械仕掛けの虎だった。大きく咆哮を上げながら、Xの前方で荒々しく跳ねた虎は、その前足――否、前輪をアスファルトに食い込ませ、停車する。それは虎ではなく、巨大な虎のように見えるバイクだった。
 虎のバイクを操る黒いスーツに身を包んだ金髪の少女は、Xの姿を見咎めるや、何を言うでもなく凝然と周囲を見渡す。
 粉々に砕かれた健康ランドの硝子張りの正面窓。置き去りにされた阿万音鈴羽の自転車。それらを順繰りに見て、次にXの足元に目を向ける。足元に散らばる機械部品の数々は、元々外装部分だった赤いパーツを見れば、元の形を知る者ならばそれが何のなれの果てであるのかは容易に想像がついたのだろう。
 それらを見て一つの結論に至ったのであろう少女は、その双眸をきっと鋭く尖らせて、まずは質問を投げてきた。

「名を聞くより先に一つ問いたい。此処に二人組の少女が来た筈だが」
「ちょっと一悶着あってね。もうとっくに逃げて行ったよ、あっちの方に」

 既に少女はXを疑って掛かっているのだろう。当然だ、普通に考えれば誰だってXを訝る。
 ここでも織斑一夏っぽく振る舞って難を逃れるべきかとも一瞬思ったが、この状況から完全に言い逃れるのは、不可能ではないのだろうが流石に面倒臭い。諦めたXは、特に隠し立てをするでもなく正直に答え、彼女らが走り去って行った方角を指差した。

13 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:19:21 ID:7Y2l9fFI0
 
「彼女らを襲ったのは貴様か」
「まあ、そうなるのかな」

 そう答えた途端、少女が発する敵意がごうと膨れ上がった。
 義憤の炎に燃えるその双眸で真っ直ぐに睨み付けられれば、まるで此方が度し難い程に悪辣な殺人鬼であるかのように錯覚してしまう。もっとも、それもあながち間違いではないのだが。
 知られたからにはここで少女を逃がすのも惜しい。一応怪物強盗らしく口封じはしておくべきかと、そう判断したXはキャレコの銃口を少女へと向け、その引鉄を引いた。
 フルオートで発射される銃弾の嵐が少女に殺到するが――少女は尋常ならざる反応速度で虎のバイクを吠えさせると、放たれた弾丸の全てを跳ね上がったバイクの車体で受け止めて見せた。
 少女が自らの意思でバイクを操ったのか、バイクが自らの意思で弾丸を塞いだのかは定かではないが、何にせよそれが敵に回せば厄介極まりない武装である事だけはXにも理解出来たが、そんな事はもうどうでもいい。奴はもうバイクから離れ、次の攻撃に移っているのだと、そう警戒した方が合理的だ。
 元々残弾の少なかったキャレコの弾が切れるまでに掛かる時間はほんの一瞬。その一瞬を凌ぎ切り、着地した虎のバイクの座席の上には案の定、少女の姿はなかった。同時に、上空から殺気を感じたXは即座にアゾット剣を抜いて上空からの奇襲に身構える。

「ハァアァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 刹那、青いドレスと銀の甲冑に身を包んだ少女が、頭上からX目掛けて急降下し“見えない剣”を振り下ろした。その剣が巻き起こす僅かな風圧を感じ取ったXは、かろうじてアゾット剣を上段に構えその一撃を受ける事に成功する。
 甲高い金属音が鳴って、両者の獲物が激突する。その小柄な身体の一体何処にそんな力があるのか、一瞬でも気を抜けば押し切られてしまいそうな程の怪力でもって、少女はその見えない剣を振り抜かんと怒声と共に力を込めた。

(――って、何だこの馬鹿力!?)

 心中で舌打ちするX。少女の太刀筋は、怪物強盗と恐れられたXに匹敵する程に重く鋭い。おまけに攻撃の軌道が見えないとあらば、何処で押し切られ敗北するか分かったものではない。敵について何の情報も持たない今、こいつと戦うのが危険だと言う事はこの一瞬の相克でXにも理解出来た。
 持ち前の怪力で少女の剣を弾き返したXだが、少女は間髪入れずに追撃を叩き込んでくる。振り抜かれた横一閃の刃を回避するべく、Xは後方へと大きく跳び上がるが、やはり見えない刃というのは想像以上に厄介だ。
 Xにはそのリーチすらも計らせてはくれず、不可視の刃はXのマントと上着を裂いて、その切先がXの胸部の筋肉をも薄く裂いたのだ。不幸中の幸いか、この程度の傷ならばすぐに回復出来るだろうが、やはり危ない綱渡りは避けたい。
 距離を取って着地したXは、血の滲んだ胸部を軽く抑えながら、しかし不敵な笑みを崩す事なく言った。

「へえ、アンタも面白い戦い方するじゃん。ここはやっぱり面白い奴ばっかりだね」
「……私に挑む気があるなら、下らない減らず口ではなく、剣を執って戦ったらどうだ」
「うーん、先に仕掛けておいて悪いんだけど、今回はここまでにしておこうかな。流石にまだ準備が足りなかったみたいだし!」
「……ッ、逃げるつもりか、外道ッ!」

 怒気を孕んだ少女の叫びを無視して、Xはその超人的な脚力で以て健康ランドの屋根目掛けて飛び上がった。最後にちらと見下ろせば、青いドレスの少女はその両手で見えない剣の柄を握ったまま、義憤に満ちた鋭い眼光でXを睨み据えていた。彼女が随分と真っ直ぐな性格をした人間だという事は何となくXにも理解出来たが、しかし、なればこそそんな奴に眼を付けられては少々厄介だ。
 あの尋常ならざる速度で走る虎のバイクが相手では確実に逃げ果せるだけの自信もない。今は追い付かれる前に、とっとと逃げてしまった方がいいだろう。
 健康ランドの屋根を足がかりに、更なる加速力を持って跳んだXは、それこそ通常のバイク程度にならば遅れを取らぬ程の速度で以て前方に見える緑生い茂る山の方角へと飛び込んで行くのだった。

14 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:20:06 ID:7Y2l9fFI0
 


 先の戦闘から数分、鈴羽達を乗せたライドベンダーは見事一夏を振り切って、既に空見町のエリア内に入っていた。
 空気が澄んでいて心地がいい。それほど栄えた町とも思えないが、代わりに緑が多く残された昔ながらのいい町だ。見渡す限りの田園風景は、戦場しか知らずに育った鈴羽にとっては新鮮で、ここが殺し合いの場でさえなければどんなに良かったか、と切に思う。
 七十年代に跳んでIBN5100を手に入れた後は、こんなのどかな町で残りの人生を過ごすのもいいかもしれない。そんな取り留めもない事を考えながら、同時に置き去りにしてしまったセイバーの事も考える。粉々に砕かれた健康ランドの窓ガラスや、置き去りにしてしまった自転車を見れば、そこで何が起こったのかは察してくれるだろうが、そのまま彼女も無事空見中学校まで来てくれるだろうか。
 本来の目的地は空見中学校なのだから、セイバーならばすぐに追い付いてくれるとは思うが――と、そこまで考えて、鈴羽はまだ空見中学校が何処にあるのかを知らなかった事を思い出す。
 そはらは先程からろくに喋ってはくれない。折角故郷の町まで帰って来たのだから、どっちに向かえばいいとか、さっきの自転車の時のように面白い話を聞かせてくれたっていいのに。突然現れた殺人鬼を前に、気を張り過ぎて疲れているのかと思い、鈴羽はライドベンダーを一旦停車させた。
 サイドスタンドを立ててバイクから降り、ぐっと背を伸ばした鈴羽は、

「ねえ見月そはら、ここが空見――」

 と、そう言いかけて、予想だにしなかった酸鼻な光景に絶句した。
 ライドベンダーの座席に跨ったままのそはらが、すっかり生気を失った虚ろな瞳で空を見上げながら、ぐったりと力を失ってライドベンダーの背もたれに体重を預けているのだ。背中から溢れ出した夥しい量の血液はライドベンダーの黒い車体を赤黒くてからせて、真下のコンクリートへとぽたぽたと滴り落ちている。
 言葉を失った鈴羽は、慌ててそはらを抱き上げ地面に降ろし、傷口を見る。数発の弾丸がそはらの背を突き抜けて内臓を貫通し、しかし腹部まで突き抜ける事はなく体内に留まっている様子だった。弾丸が貫通して鈴羽に届かなかったのは、単に貫通力を持たないキャレコ短機関銃による銃創だったからだろうと当たりをつける。
 ライドベンダーで走り出してすぐに、織斑一夏がキャレコを無差別に発砲し、そのうちの数発がそはらに命中していたのだろう。どうして気付かなかったのか、これで助かったと思い込んでいた自分の浅薄さに絶望する。あの時最後の瞬間まで一夏から気を逸らさずに、少しでも銃弾を回避出来るように蛇行運転でもしていたなら――否、そんな余裕がなかった事は、自分自身が一番良く分かっているではないか。

「くそぉ……っ、何でだよぉ! 何とか、助ける方法は……!」

 未来の世界で、鈴羽は大勢の仲間達を失った。力及ばず、目の前で虐殺されていく仲間を何人も見て来た。鈴羽はその度悔しい思いを噛み締めて、もうこんな思いをしてたまるかと現代まで時間を飛び越えて来たのだ。
 それなのに、また繰り返してしまうのか。また優しい仲間を失ってしまうのか。そんな結末は嫌だ、何とかして治療は出来まいかとデイバッグの中身を漁るが、治療に使えそうな道具などは何もない。

「でも、まだ息はある……!」

 そう、幸いな事にまだ息はある。今からすぐに手当の出来る施設に連れて行けば――駄目だ、そはらはもう既に大量の血液を失っている。今からじゃ何処へ連れて行くにも間に合わないし、仮に間に合ったとて、身体の中に残留した弾丸を摘出した上で適切な治療を施すには、医学の心得を持った人間の存在が必要不可欠だ。
 もうそはらを救う手段はないのだと気付いた時、確定した仲間の死を受け入れるほかないと悟った時、鈴羽は目の前が真っ暗になるような錯覚に見舞われた。

15 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:20:33 ID:7Y2l9fFI0
 
「鈴羽……さん……」
「……見月そはらッ! どうして、どうして弾が当たった時に言ってくれなかったんだ! 君がすぐに知らせてくれたら、あたしは何処かでバイクを停めてた! そしたら手遅れにならずに済んだかもしれないのに!」
「だから、です……きっと、停まったら……アイツに、追い付かれて……そしたら、私だけでなく、鈴羽さん、まで……」
「馬鹿っ……そんな、どうして……っ!」

 納得は出来ないし、したくない。だけれども、そはらの言う事は実際正しいのだろう。
 あそこで鈴羽が全力でライドベンダーを走らせたのは、先に織斑一夏の尋常ならざる走力を見せ付けられたからだ。あの時点で既にカブトゼクターの動きを見切りつつあった一夏が相手では、少しでもバイクの加速を緩めればその時点で追い付かれていた事も想像に難くはない。それでは、二人揃ってここで殺されていたかも知れないのだ。

 言わば、そはらは自分の命と引き換えに鈴羽を救ってくれたようなものではないか。

 自らの背に何発も弾丸を受けて、それでもそはらは、せめて鈴羽だけでも逃げ遂せるようにと必死に痛みに耐えてバイクにしがみ付いていたのだ。何の訓練も受けていない少女が、ただ仲間に助かって欲しいだというそれだけの理由で、声一つ上げずに命を失う程の痛みにも耐え続けていたのだ。
 考えれば考える程に彼女の行動が正しかったのだという事が理解出来てしまう。理解させられてしまう。
 それがどうしようもなく悔しくて、耐え難い程につらく哀しくて。自分の無力感とそはらの優しさに打ちのめされた鈴羽は、澎湃と溢れる涙を抑える事が出来なくなっていた。本当に痛いのは、苦しいのは自分ではなく、そはらの方なのに――!

「ごめん……ごめんね、見月そはら……ッ」

 悔しさを噛み殺して、嗚咽を漏らす。
 今から何か、自分に出来る恩返しはないだろうか。せめて最期に安心させてやる事は出来ないだろうか。混乱する頭を必死に回転させる鈴羽に、そはらは虚ろな瞳のままで問うてきた。

「……ここ……、空見町、ですか……?」
「うん……そうだよ、君の故郷に帰って来たんだよ!」

 力無く首を傾けたそはらは、どうやらこの場所を知っているらしく、安心した様子で緩く微笑んだ。

「ここから……もうちょっと進んだら、智ちゃんと、私の家が……あるんです。
 そこには、イカロスさんや……ニンフさんも居て……いつも、馬鹿な事ばっかり……」

 それは、さっき自転車に乗っている時に聞いた話だった。
 桜井智樹の話をしている間のそはらはとても楽しそうで、そはらは彼の事が好きなのだろうなという事にも、鈴羽は気付いていた。桜井智樹はエンジェロイドの力を借りて、いつもいつも馬鹿な事件ばかりを起こす困り者だが、本当は優しい男の子なのだという話ももう充分な程に何度も聞いた。
 ここまでそはらに何もしてやる事が出来なかった鈴羽は、ふと思い立ったように涙を拭うと、精一杯の笑顔を浮かべて言った。

16 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:21:00 ID:7Y2l9fFI0
 
「今まで黙っててごめんね見月そはら、本当はこれ、ただの、ダイブゲームなんだ!」
「へ……ダイブ、ゲーム……?」
「そうっ……そうだよ、殺し合いなんて、全部嘘だったんだ!」

 流石に無茶があるかとも思うが、そんな事は今はどうだっていい。
 最期くらい、彼女には安心していて欲しい。それは、鈴羽の精一杯の優しさだった。

「だから安心して、見月そはら。次にまた眼が覚めたら、全部元通りになってるから。桜井智樹も、みんなも、いつも通りだから! また、桜井智樹達と、みんなで学校に行って、馬鹿な事……沢山、出来るから!」

 安心させたい一心なのに、涙は止まらない。
 一生懸命笑顔を浮かべるが、それに釣り合わぬ涙がとめどなく溢れ出る。
 泣いていちゃいけない。自分が泣いていちゃ、彼女を安心させる事など出来はしない。そうは思っても、どんなに強がっていても本当は心優しい鈴羽が、“友達”の最期に涙を流さず耐えられる訳がなかった。
 やがてふっと微笑んだそはらは、ゆっくりと右腕を上げて、その指先で鈴羽の頬を伝う涙を軽く拭った。

「そっか……良かった、夢だったんだ、ね」
「うん、だから……だから、安心して……今はおやすみ、そはら」
「……ありがとう、鈴羽さん」

 最期に一言感謝の言葉を告げたそはらは、柔らかい笑みを浮かべたまま、眠るように眼を閉じた。
 感謝の言葉を告げるべきはこっちの筈なのに。そはらの最期の言葉が、一体何に対して告げられた感謝なのかを鈴羽は理解出来なかった。
 だけれども、やはり何処か見透かされているような気がして。
 鈴羽は居心地の悪い面映ゆさにゆっくりと顔を伏せた。












【見月そはら@そらのおとしもの 死亡確認】

17 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:21:20 ID:7Y2l9fFI0
 











「ここまで戻って来ちゃったか」

 斬り倒されて炎上する大桜だったものを眺めながら、Xはその場に腰を降ろした。
 先程の金髪の少女を相手にするには流石に分が悪いと一目散に逃げ出して来た訳だが、怪物強盗たるもの負けっ放しというのも気に食わない。それに、この怪物強盗と同等かそれ以上の力で以て剣を振るう少女の中身が気にならない訳がない。
 彼女と相克するに相応しい武装と戦術さえあれば、あの矮躯をズタズタに引き裂いて、その細胞までじっくり観察してやろうと思うのだが、生憎な事にXのデイバッグの中に彼女の剣と互角に戦えるだけの刃渡りの剣はない。
 重火器で攻撃しようにも、恐らくあの少女ならば見えない剣で全弾防ぎ切ってみせるだろう。奴を観察する為には、奴の望み通り、正面からぶつかって力で押し切る必要がある。
 さて、どうしたものかと考えを巡らすXは、倒れた大桜の影に輝く金色の何かに気付いた。

「何だ?」

 その怪力で以て、倒れた巨木の幹を蹴り飛ばす。大の大人が数人がかりでようやく動かせる程度の質量を持った大桜の幹は、ほんの高校生程度しかない華奢な男の蹴り一つで容易く転がって行った。
 大桜が無くなった後の地面に横たわっていたのは、黄金の大剣だった。
 その名はキングラウザー。最強の仮面ライダーたるブレイドが持つ、重醒剣と呼ばれる大剣である。仮にも怪盗を名乗るXは、物の真贋を見極める感性は人よりもずっと優れている。キングラウザーがただの剣でない事を一目で悟ったXは、それを握り締め、軽く掲げて独りごちる。

「これは凄い、凄い剣だ! 一体どんな奴がこれを造って、どんな奴がこれを使ってたんだろう?」

 疑問を浮かべるが、この場所の大桜はXが初めて見た時には既に倒壊していた。
 その大桜の下に滑り込んでいたという事は、おそらくはXが此処であの黒い騎士と戦う前に、この場所で奴と戦っていた人物が使っていた大剣という事になるのだろう。これだけの宝物を用いて戦って、それでも負けたのだからあの騎士の実力の程はやはり恐ろしい。

 やはりこの場所には只者ではない参加者が集められている。どいつもこいつも、バラして中身を見てみたいと思える相手ばかりだ。ここでなら、或いは本当に自分のルーツを見出せるかもしれないとはしゃぎながら、Xはキングラウザー片手に次の参加者が居る方角へと歩き出した。

「……そういや、そろそろこの姿も見られ過ぎて来たよな」

 ぽつりと、まるでどうでもよい事のように、Xは一言呟いた。



【一日目-午後】
【D-2/大桜跡地】

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】健康、織斑一夏の姿に変身中
【首輪】115枚:0枚
【装備】重醒剣キングラウザー@仮面ライダーディケイド、ベレッタ(15/15)@まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式×3、“箱”の部品@魔人探偵脳噛ネウロ×29、アゾット剣@Fate/Zero、キャレコ(0/50)@Fate/Zero、ライダーベルト@仮面ライダーディケイド、ナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、9mmパラベラム弾×100発/2箱、ランダム支給品2〜6(X+一夏)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
 0.そろそろ姿を変えるか……?
 1.ネウロに会いたい。
 2.バーサーカーやセイバー、アストレア(両者とも名前は知らない)にとても興味がある。
 3.ISとその製作者、及びキングラウザーとその製作者にちょっと興味。
 4.阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
 5.殺し合いに興味は無い。
【備考】
※本編22話後より参加 。
※能力の制限に気付きました。
※細胞が変異し続けています。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。

18 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:21:50 ID:7Y2l9fFI0
 




 一件の民家の玄関をくぐれば、そこには今が殺し合いの場であるのだと言う事すらも忘れてしまいそうな程にのどかな田園風景が拡がっている。数歩歩いて、今し方自分が出て来た民家の表札に書かれた「見月」という文字を見るや、鈴羽は名残惜しそうにこの家の二階の窓を見遣った。
 彼女の言葉を聞いた鈴羽は、この付近の民家を一件一件虱潰しに探して、ようやくそはらの実家を見付けたのだ。二階のそはらの部屋にまで彼女の遺体を運び込んだ鈴羽は、彼女のベッドを血で汚さぬようにとタオルを敷いて、その上にそはらを寝かせた。彼女が最も安心出来るであろう場所で、彼女は今も眠っている。
 当初はせめて仮初の墓くらいは作ってやろうとも思ったのだが、探しても家の中にスコップが見当たらなかったし、仮にスコップがあったとしても、この周辺の土はどれも墓には向かない。だからせめて、鈴羽はそはらの遺体を、彼女が安心して眠れる場所に運び込んだのだ。
 安らかな表情でベッドに横たわるそはらの表情は、まるで本当に眠っているかのようだった。いつか夢が覚めたら、全てが元通りになっている……あの嘘が、事実になっていればどんなに良い事かと、そうは思うが、それを言い始めれば、今まで散っていった仲間達にも同じ事が言えるのだからキリがない。
 だから鈴羽は、これ以上悔やむのはやめにしようと思った。

 決意に満ちた表情で見月家から出てきた鈴羽を、玄関先でずっと待ってくれていたセイバーが迎えてくれた。彼女はあれからすぐに鈴羽達を追って、ここまでトライドベンダーで急ぎ駆け付けて来たのだという。

「もういいのですか、スズハ」
「うん。ありがとう……ごめんねセイバー」
「……何を謝るのです」
「あたしは、見月そはらを守り切れなかった」
「過ぎた事を悔やんでも仕方がありません。今は、彼女の分まで生きる事を考えましょう」
「そう、だね……」

 セイバーの言う通りだ。
 彼女とて、そはらの死を知った時はこれ以上もなく悔しがっていた。非力な二人に離れた健康ランドまで行けと命じるのではなく、例えば近くに隠れて待機しているようにと命じていれば、そはらは死なずに済んだかもしれないと、セイバーだってそう少なからず考えた筈だ。
 だけれども、過去の行動をどれだけ悔いた所で現実は何も変わらない。だから今はせめて、同じ様な犠牲をこれ以上出さないように戦っていかねばならない。セイバーもきっと同じ考えなのだろう。
 一拍の間をおいて、鈴羽は決然と口を開いた。

「セイバー。あたし、決めたよ」
「何をですか」
「あたしはこの殺し合いをブッ壊す。もう二度とこんな馬鹿な殺し合いが開かれないように真木清人を倒して、それで、みんなで一緒に脱出するんだ……!」

 そう語る鈴羽の声音には、セイバーには見せた事もない程の熱が込められていた。
 ここに至るまで、鈴羽は自分と岡部倫太郎さえ無事ならば未来は守ることが出来ると、そう思っていた。だけれども、こうなってしまっては、鈴羽はもうそんな結末で満足する事は出来ない。
 当然だ。仲間を、友達を殺されたのに、これ以上黙っていられるものか。
 仮に脱出したとして、また何度でも連れて来られる可能性があるというのなら、もう二度とこんな殺し合いが行われないように根本から破壊してやるまでのこと。そうなって初めてそはらの弔いになるというものではないのか。
 きっとあの優しい見月そはらもそれを望んでくれる筈だ。少なくとも、織斑一夏個人への復讐よりは、そうした方がずっと喜んでくれる。それだけは確固たる自信を持って言える。彼女の大切な人達――桜井智樹や、イカロスやニンフ達も。みんなで一緒に脱出して、最後にはハッピーエンドで終わらせるのだ。
 それがせめてものそはらへの恩返しになる筈だと、鈴羽は決意を改めるのであった。

19 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:22:04 ID:7Y2l9fFI0
 


【一日目-日中】
【E-2/空見町 見月家前】

【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、そはらを喪った哀しみ、織斑一夏への怒り
【首輪】195枚:0枚
【コア】サイ
【装備】なし
【道具】基本支給品、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、イエスタデイメモリ+L.C.O.G.@仮面ライダーW、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
 0.見月そはらの分まで生きる。
 1.知り合いと合流(岡部倫太郎と橋田至優先)。
 2.桜井智樹、イカロス、ニンフ、アストレアと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
 3.織斑一夏を警戒。油断ならない強敵。
 4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
 5.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
 6.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。
※見月そはらのコアメダルとセルメダルを受け継ぎました。

【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】健康、織斑一夏への義憤
【首輪】75枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】約束された勝利の剣@Fate/zero、トライドベンダー@仮面ライダーオーズ
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破。
 1.騎士として力無き者を保護する。
 2.衛宮切嗣、キャスター、バーサーカーを警戒。
 3.ラウラ・ボーデヴィッヒと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
 4.織斑一夏は外道。次に会った時は容赦なく斬る。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。

【全体備考】
※健康ランドの正面窓ガラスが粉々に割られています。
※健康ランドに阿万音鈴羽の自転車@Steins;Gateが放置されています。
※カブトゼクター@仮面ライダーディケイドがこれ以上細分化出来なくなるまでバラバラに分解されました。部品は健康ランド前に放置されています。

20 ◆MiRaiTlHUI:2012/06/26(火) 16:27:00 ID:7Y2l9fFI0
投下終了です。
タイトルは「醒めない夢」でお願いします。
分割点は多分>>12あたりが綺麗なのかなと思います。
キングラウザーに関しては、剣本編で変身解除後も消滅せず、それどころか生身の橘さんが
使用する描写があったので、今回は実は武器だけ残ってたという事にさせて頂きました。

それでは、指摘などがあれば宜しくお願い致します。

21名無しさん:2012/06/26(火) 16:44:33 ID:nkPTkDBA0
投下乙です!
ああ、そはら……頑張ったのだけど運が悪すぎた。智ちゃん達が不安になってきた。
てかXにキングラウザーなんて、何てやばい組み合わせなんだ!w ラウズカードがないのは救いだけど、それでもやばすぎる!
セイバーとバイト戦士、どうか生きてXを止めてくれ!

22名無しさん:2012/06/26(火) 18:30:13 ID:R37ikJBg0
投下乙!
当然と言えば当然だけど、そはらがそらおと組の最初の死亡者になってしまったか
あと数分早くセイバーが到着していれば……。はたして智樹たちは、彼女の死に何を思うだろう
そして騎士王にバイト戦士よ。決っしてその怒りをぶつける相手を間違えないでくれ

気になる点は、アゾット剣にはセイバーの渾身の一撃を受け止めれる強度はないんじゃないかな? という所ですね
受け流すならともかく、受け止めたりしたらポッキリ折れそうです

23名無しさん:2012/06/26(火) 19:23:40 ID:0zb/rPcQO
投下乙です。セイバーは間に合わなかったか・・・

個人的に気になったのはライダーの武器って変身前から持ってたの以外は変身解除したらそのまま消えてたような?特にキングラウザーはブレイドがキングフォームになって初めて現れる物ですから余計に不自然です。
仮に残っていたのならそれはそれでバーサーカーが以前のXとの戦闘で使うなり後からキリツグ達が回収なりしてそうですし、そもそも何故キングラウザーで切り裂いた桜の木の下敷きに・・・

24名無しさん:2012/06/26(火) 19:44:05 ID:RQ2Gt4kI0
投下乙です

ああ、智樹たちも放送後が怖いぞ
確かにあと数分早くセイバーが到着したらと思うが…何故か全員死亡した方がよかったのではと思えてしまうw
あの一夏は偽物なんだ。ヘタしたら一夏の知人と衝突だぞ

25名無しさん:2012/06/26(火) 22:48:23 ID:fcPm/zdcO
カブトゼクター活躍だな、バラバラにされちゃったけどよくやった!!

26名無しさん:2012/06/27(水) 14:03:55 ID:hate/60k0
投下乙でした!

カブトゼクターェ……ダルが生きてたらワンチャンあったかもしれないのに…
そしてそはら死んじゃったか…この面子じゃ厳しいかもと思ってたが、最後まで良く頑張ったよ
その意志はセイバーと鈴羽に受け継がれたしゆっくり休め!

そして正義の意志を残したキングラウザーがよりにもよってXの手に
ますます凶悪になっていくなあ

27名無しさん:2012/06/27(水) 22:50:05 ID:BAOkJX1M0
>>23
睦月がカテゴリーキング封印するときこれを使えって生身のまま渡してなかったっけ?>キングラウザー

28名無しさん:2012/06/28(木) 00:40:27 ID:0T0inW3w0
>>27
あそこではキングフォームに変身した状態で渡してるよ。生身だったのは睦月だけ。

29名無しさん:2012/06/28(木) 01:53:34 ID:n1kCwieo0
ああ、確かにダディヴァナさんが変身解除後のキングラウザーでローチ倒してたな

30名無しさん:2012/06/28(木) 12:36:04 ID:MSDho5yg0
変身ベルトが破壊されてるから原作とは状況が違う
ブレイドが存在しないのに武器だけ残るのはおかしくないか?

31名無しさん:2012/06/28(木) 15:44:29 ID:Mk9Jlo360
それらしい理由さえあるなら残っててもいいと思う
修正版の、剣崎の魂が最後に武器を残してくれたみたいな展開俺は好きだけどな

32名無しさん:2012/06/28(木) 17:35:43 ID:R2SducesO
それはそうとラウザー単体でラウズカードのラウズって流石に無理だよな?もうライダーシステムとしては崩壊してるんだし

33名無しさん:2012/06/28(木) 22:24:10 ID:gDMiCIDw0
そういう時のメダルシステムでしょ
カードは使用出来るけど一枚につき相応のメダルを消費するとかなら特殊ルールも活きてくる

34名無しさん:2012/06/29(金) 00:31:40 ID:x0ohfWLgO
ほむほむ、普通にライダーが使うより多く消費して……って感じか

35 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:42:09 ID:aond7ins0
◆MiRaiTlHUI氏、投下乙です。
仲間のために出来ることをやり抜いて力尽きたそはらと、せめて穏やかに眠ってもらおうと嘘をつく鈴羽の
二人の優しさが伝わるシーンが特に魅力的でした。セイバーと共にこれから頑張って欲しい
…って思ったらXが凄い剣を拾ってるし。形見を受け取るのがマーダーなんて、剣崎もツイてないなあ

それでは期限ギリギリになってしまいましたが、これより予約分の投下を開始します。

36 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:42:48 ID:aond7ins0

 周囲へ目を配りながら歩を進めるカリーナ・ライルと、そんな彼女の少し後ろをついて行く牧瀬紅莉栖は、幸か不幸か誰と遭遇することもなく時を過ごしていた。
 見晴らしの良い路上を進み続ける間も、何かの基地らしき施設を調べて結局収穫なく出て行くまでの間にも、一番肝心の他の参加者が彼女達の前に姿を現さなかった。
 そのために何も行動らしい行動を起こせていない違和感を紛らわすように二人が取る行動は、会話であった。

「地面が凍ってる……?」
「私と似たようなNEXT能力の持ち主か、それともまた別の奴がやったのかしら……?」
 例えばそれは、戦闘の形跡に対する驚きであったり。
「岡部も橋田も大丈夫かしら……。もしこんな事ができる相手に出くわすことになれば、本当にマズいじゃない」
「それを言うならタイガーだって同じね。今じゃすぐに時間切れを起こして、その後は丸腰だから」
 旧知の安否を憂いたり。
「なのにあいつ、どんなになっても正義感だけは人一倍だもん。それで無茶しすぎなきゃいいけど」
「ふーん……よく見てるのね。彼のこと」
「え? あっ」
 まじまじと見つめる紅莉栖の視線の先に、しまった口が滑ったかとバツの悪そうなカリーナの態度が現れたり。
「それより! さっきのタイムマシンについての話なんだけど」
「何?」
「実際の所、それで生まれる時間のズレってどの程度の物なのかしら?」
 話題転換として“時間の齟齬”について新たな視点が提示されたり。

 有益無益に関わらず言葉を交わし、会話の途切れた時間を周囲への警戒に費やす。そうして時刻が午後二時も過ぎた辺りだろうか。
 C−4エリアの、洋風と和風の正反対な二つの施設を無理矢理同じ敷地内に収めた音撃道場。そこに着いた時、ようやく二人は新たな人影を発見することになる。
 最初にその人影を視界に捉えたのはカリーナであった。ゆっくりと歩み寄ってくるその人物に対し、まず真っ先に瞳に浮かんだのは戸惑いであった。
 少し遅れて紅莉栖もその人物に気づく。そして、その身体的特徴からすぐに一つの結論を出し、顔に嬉しさが表れる。まさにワイルドタイガーを思わせる鋼のスーツを身に纏った姿であったからだ。彼はカリーナの言っていたヒーローの一人なのかもしれない。
 もしかしてあなたの仲間なんじゃないの。紅莉栖にそんな声をかけられて、ようやくカリーナは声を絞り出した。
「バー……ナビー……?」
 名前を呼んでおきながら、カリーナ自身もそうであると信じ切れていない様子である。
 その一方でバーナビーと呼ばれた男は一歩一歩と二人に近づいていき、その歩調が速度を上げていき、一気に詰め寄り、そして。
「カリーナ?」
「もしかしてあなた、バーナビーなの――っ!?」
 カリーナの呼びかけが終わるより先に、バーナビーと呼ばれた男の右脚が振り上げられた。

37 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:43:42 ID:aond7ins0

 警戒を怠っていた紅莉栖の瞳は、先程までカリーナが立っていた空間を切り裂く男の片脚をぼんやりと眺める。カリーナが飛び退くのがあと一秒でも遅かったら彼女の身体はどうなっていたのだろう、なんてことを考えていた。
 そのまま間を置かずに、男は次の一撃を繰り出そうとする。カリーナが紅莉栖の身体を抱え、NEXT能力を以って凍らせた地面を滑走して和風な方の建物に逃げこんだところで、ようやく事態を飲み込んだ紅莉栖は混乱をそのまま口に出す。
「ねえ、どういう事!? 彼はあなたの仲間じゃないの?」
「……わからない。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
「それって……」
「普通に考えればバーナビーが敵になるなんてありえないわ。それにあの格好……考えられるのは、赤の他人がバーナビーの振りをしてるのか、そうでなければ」
 この場に現れたバーナビーの姿をもう一度思い浮かべる。それから一拍置いて、カリーナは第二の仮説を口にした。
「“そういう時期”から来た、か」
 その簡素な表現で、紅莉栖はその伝えたい意図を理解した。

 時間軸の違い。それは、カリーナと紅莉栖の認識の違いに対する一つの解であった。
 まず二人の認識する“世界”の違いについては、カリーナが紅莉栖にとって遥か未来から呼び出されたという仮説を出すことでとりあえずの納得をした。
 しかし、そこで新たな疑問が生じていた。何十年何百年という時代で表現されるような大きな開きだけでなく、もっと小さな誤差もまた存在しているのではないか。
 例えば、紅莉栖達の開発したタイムリープマシンは――脳内の記憶情報だけが対象だから、厳密に言えば不適切な比較だが――一度の使用では最大でも48時間しか過去に遡れない。
 その程度の誤差、何日とか何ヶ月のレベルでの時間軸の違いもまた存在している可能性があるのではないか。それが新たな疑問であった。
 カリーナに提起された数十分前の時点では、二人以外に検証できる相手がいなかったという理由で一つの可能性に留めていた。
「バーナビーって、一時期すごく荒れ狂ってた時期があるのよ。もう誰の話も聞く余裕が無いくらいに」
「それって、いつの話?」
「……だいたい一年前」
 しかし、二人の前に現れた男はその可能性を真実たらしめるかもしれない。もしも、今ここにいるバーナビー・ブルックスJr.が、カリーナにとって過去の存在であるならば。
「だとしたら、どうして彼はこんな事を? 目的は?」
「……答えてあげたいけど、その時間は後にしましょう」
 紅莉栖からすれば聞くべき点をまだまだ抱えているのだが、カリーナはそれを許してくれない。
 代わりに、壁の向こう側へと視線を向けるように両目で促した。その先で、男が接近を続けていた。

「来るわ」
 実際の所、このまま逃げることも不可能ではない。しかしそれは、彼がこの後にも引き起こすだろう凶行をみすみす見逃すことに他ならない。
 そんな事がカリーナに出来るわけもなく、だから彼女は施設外へ身体を出し、紅莉栖へと振り返る。
「私は今から彼を止めてくるわ。危ないから、あなたはここで隠れてて」
「わかったわ。ねえカリーナ」
「何?」
「……大丈夫よね?」
 そう尋ねる紅莉栖の表情から、気遣ってくれていることがわかる。同時に、少し怯えていることも。
 だとすれば、ヒーローが返すべきは自身に満ちた笑顔だろう。
「ええ。私は絶対に負けるわけにはいかないもの」
「そう。……頑張って」
 それだけのやり取りを最後に、カリーナの顔は引き締められ、その両足を戦場へと進めていく。
 ブルーローズと未だ何も語らぬ“バーナビー”との戦いが、今始まった。

38 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:44:30 ID:aond7ins0



 カリーナから言わせれば、現状は決して劣勢という訳ではない。
 カリーナが形成する氷の弾丸を両手の拳銃から放ち、バーナビーが回避するだけのやり取りが何度も繰り返されるばかりだ。こちらにダメージは未だ無い。
 基本的に二人の距離は一定以上に保たれたままで、たまにバーナビーの接近と攻撃を許したとしても身体を仰け反らせれば回避できるし、氷で壁を作れば防ぎ切れる。
 あと少し本気で攻めていけばカリーナに軍配が上がりそうなものだ。だからこそ違和感が拭えない。

(どうしてハンドレッドパワーを使わないの?)
 カリーナが苦戦を強いられずにいるのは、バーナビーのNEXT能力、身体性能の格段の上昇が未だ発揮されていないためと言っていい。
 もし彼が能力を使えば、距離は一気に詰められるし氷の壁も蹴り砕けるし、形勢はすぐに変えられるだろう。カリーナは勿論バーナビーとてそのことには気付いているはずである。
 それにも関わらず頑なに使わないとなれば、考えられるのは目の前の男がバーナビーでない赤の他人か。それともハンドレッドパワーの制限、“5分間の発動の後は1時間経過するまで再発動できない”ためか。

(だとしたら、形振りも構わないって訳?)
 偽者と断ずる方がずっと簡単だろう。けれど、一度時間軸の違いに気付いてしまった後では簡単ではない。だからバーナビーと仮定した考えを続けていく。
 今の彼は、勝敗の判断すら出来ないほどに冷静さを欠いているとでもいうのだろうか。こうして仲間にすら襲い掛かることすら厭わない程に、果たすべき目的に――恩人を殺された復讐に燃えているのか。
「バーナビー! あなた、そんなにタイガーの事が……」
「……」
 カリーナに語り掛けられ、バーナビーは立ち止まる。しかし数秒の後に。
「なっ、ちょっと……!」
 飛び掛り、決して強いとは言えない拳で氷の壁めがけて我武者羅に殴りかかってくる。ごく小さな声で、黙れ、と言ったような気がした。

「やっぱり……そういう事?」
 今の反応で、目の前の男がバーナビーだという意識がより深まる。
 かつて同じようにバーナビーと対峙した経験を思い出す。彼は、討つべき仇と誤解した相手に向かって一心不乱に挑みかかり、既に真実を知っている周囲の静止などまるで聞かなかった。
 あの時はすぐに一対一の戦いに持ち込まれたためにバーナビーとはすぐに別れてしまった。しかし、もしも展開が異なっていたら、カリーナ達とバーナビーが直接戦うことになったとしたら。
 その答えが、今の状況だ。目の前の男は、その“もしも”を実現したバーナビー本人であり、道を阻まれると分かりきっているからこそかつての仲間を潰そうとしているのだろう。
「待ってバーナビー、貴方の目的は間違っているわ。私の話を……」
 喋り終わる前に、言葉ではなく壁の横側に回り込んでからの飛び蹴りとして返ってくる。あと数十センチで顔面に命中しそうな軌道だった。

 回避を終えたカリーナの胸に宿るのは、バーナビーへの哀れみと、バーナビーを止めなければという決意。
 もしもこのまま戦い続ければ、バーナビーは仲間を傷つけ、ワイルドタイガーに復讐に燃える拳を浴びせ、彼の命を絶とうとするだろう。――その全てが、悪によって植えつけられた偽りの記憶が原因だとも知らずに。
 だが、仲間としてそんな悲劇を認めるわけにはいかない。だからこそ、今ここで彼を止めて、真実を伝えなければならない。

 方針は決まった。すぐに右手の拳銃から氷を射出し、同時に背部からの冷気の噴射で間合いを取る。
 すぐに左の銃口を上に掲げ、小型の氷を幾つも撃ち出す。全て重力に従って落下を始め、バーナビーの立つ地点とその周囲に降り注ごうとする。向かって右方向に跳ぶことでバーナビーは回避するが、別に構わない。
 一発二発三発と氷弾を撃ち、しかし今まで通り避けられ続ける。しかし焦りは禁物だ。勝敗を決める一手は着実な積み重ねがあってこそだから。

39 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:45:31 ID:aond7ins0

 セルメダルの残量の心配をしながらも、バーナビーへ向けて氷弾を連射する。同時に一歩ずつ一歩ずつ、今度はこちらから距離を詰めていく。一方のバーナビーもステップを踏みながら避け続け、同じように接近を試みる。
 二十歩、十歩、五歩、三歩、そして一歩まで迫り、先に行動を起こしたのはバーナビーだ。目前に迫ったカリーナに向けて、右拳を振り抜かんとする。
 しかし今回のカリーナの選択は、回避でもなければ防御でもない。

「これでっ!」
 両の掌を前に翳し、一気に氷の塊を繰り出す。バーナビーの拳が届く直前で氷に激突、砕かれることもなく飲み込む。そのまま能力の発揮を続け、氷の塊は一つの激流となり、バーナビーは捕らわれた腕ごと全身を後ろに押し出される。
 その先にあるのは、洋風の建築物。右腕に課せられた圧力への抵抗は許されず、そのまま白い壁へと叩きつけられた。
 地面と水平に伸びた一本の氷も割れて消えるが、壁と接着したバーナビーの右腕に被さるように一部だけが残された。
 そしてバーナビーは、片腕を縛り付けられたまま行動を制限される結果となった。

「上手くいった、ってことかしら」
 壁の真っ直ぐ前方までバーナビーを誘導するために囮の氷弾を撃ち続け、誘い込めたら一気に拘束にかかる。単純な作戦ではあったが、幸いにも成功したようだ。
 全力の戦いでバーナビーを捻じ伏せるという選択肢も取る余地はあった。しかし、ただ悪人の思い通りに動かされているだけの彼と戦う道を、同じ戦友として取りたくなかった。
 ならばこうして一度動きだけを封じて、その後で武器ではなく対話を以って制止を促す方がいい。
 そのために、カリーナはバーナビーの前へ歩みを進める。
「聞いて、バーナビー。こうしてあなたを捕まえただけにしてるのは、あなたを傷つけたくないからよ。だからまず、私の話を聞いてくれる?
 あなたはワイルドタイガー……鏑木・T・虎徹をサマンサって人の仇だと思っているのかもしれないけど、それは違うわ」
 かつて虎徹が必死で真実を訴えたように、今度は自分が頑張らなければ。バーナビーが虎徹と過ごしてきた日々が偽物だなんて、バーナビーにだけは言わせてはならない。
「信じられないかもしれないけど、真犯人はマーベリックよ。彼は他人の記憶を操るNEXT能力を持っていて、それを使って私達を騙していただけなの。
 鏑木・T・虎徹は殺人犯なんかじゃない。今までも、ううん、これからも本物のワイルドタイガー。あなたの相棒よ」
 こうして口で言っただけでは到底受け入れらえないだろう。だが、落ち着きを取り戻してくれるかもしれない。バーナビーがどちらに転ぶかは、言わばカリーナとバーナビーの間に築かれた絆にかかっている。
 今の自分に出来ることは、バーナビーが復讐の炎を少しでも抑え込み、仲間を信じてくれることを祈るだけだ。

「突然こんな事言っても困らせるのはわかってる。でも、このままあなたを放っておくわけには……聞いてる?」
 願いが実ることを信じて説得を続けるカリーナであるが、バーナビーは未だ何も言わない。嘘をつくなと喚き立てると想定していただけに、無言を貫かれるのは奇妙でしかない。
 なので思わず返答を催促してしまう。
「あーハイハイ。わかりましたわかりました。貴重なお言葉ありがとうございます」
 そしてようやく返ってきた返答は、あまりにおざなりな感謝だった。
 いや、それ以前にそもそもバーナビーの声では無い。もっと言えば、この声は聞き覚えのある声、できればもう二度と聞きたくなかった奴の声。
「!? そんな、あんたは」
「でも、残念ながらお前はもう用済みな」
 驚愕するカリーナに対するあっさりとした終了宣告と、その後に。
「バァーン」
 ふざけた声と共に、一筋の光が一瞬で空を切った。

40 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:46:44 ID:aond7ins0

 カリーナが最初に感じたのは胸の辺りにじわりと生じた熱で、次に感じたのは何かが焦げるような臭さだった。
 視線を下げると、胸に小さく空いた穴からコスチュームの上を流れる幾筋かの赤い液体が見えた。さらに巡らせると、“バーナビーではない男”の左の人差し指が、真っ直ぐカリーナの胸に向けられていた。
 この時になってカリーナは気付く。自分が撃たれたのだと。凶器がコスチュームも肉体も貫き、心臓を抉ったのだと。
 この事実が意味するのは、つまり命の終末の訪れ。
「嘘」
 真木を倒せず、紅莉栖を守り通せず、ヒーローの責務を何も全う出来ず、よりにもよってこんな奴にいい様に踊らされて終わる。どんなに口で拒絶しようと、もはや覆すことは出来ない。そんな結末だ。
 胸の熱と反するように、カリーナの身体は急速に冷えていき、崩れ落ちる。
 家族や友人、ヒーロー仲間や紅莉栖、そして勇ましい虎徹の顔が脳裏を過ぎり、伝わらずともせめて言葉だけでも遺せないかと思うが、それも叶わない。
 頭の中が白く覆われ、思考がぴたりと固まって動かなくなり、意識が闇の中へ溶けていって――



 紅莉栖の見た光景をありのままに話すならば以下の通りである。
 まず、氷で捕らわれた金属スーツの男に接近したカリーナが何か話したと思ったら、彼女は突然その場に倒れてしまった。
 数秒の後、光が発生したと思ったら彼を拘束していた氷が消えていた。
 拘束を解かれた男はその場にしゃがみこみ、鈍い輝きを持つ何かを大量に腕の中に抱え、それらは彼の首輪の中に吸い込まれていった。
 そして未だ起き上がる気配の見せないカリーナの方へ振り返ることもなく、男はこちらへ歩み寄ってくる。

 ここまでの光景から、紅莉栖の脳は事態の把握に努め始める。
 カリーナはどうして倒れた? 男との会話の最中かその前に、何かをされた可能性が高い。おそらく攻撃されたのだろう。
 ならばカリーナはどうして起き上がらない? 気を失ってしまったか、そうでなけれは――
 話題転換だ。男が拾った大量の“何か”とは何だ? 一つ一つは小さくて、この奇妙な首輪に収納できるのだ。おそらくはセルメダルだろう。
 大量のセルメダルは一体どこから現れた? 何処からともなく現れることは考えがたい。ならば、カリーナか男の首輪から一気に零れ出たと考えるのが妥当だろう。
 なぜセルメダルが一気に零れ出る? 身体的ダメージを受けたら首輪から零れ出る仕組みらしいが、あれほどの量の場合は――
 もう一度考えてみよう。カリーナはどうして未だ地に伏したままでいる? 男の回収したセルメダルの出所は? それは――

 ――そして紅莉栖は“カリーナの死”という結論に辿り着く。

「そんな……!? 嘘でしょ……」
 理解は出来た。しかし受容したくない。
 ヒーローとして戦い続けてきたカリーナが、絶対に負けないと約束したばかりの彼女が、こうも呆気なく逝ってしまったというのか。まゆりに続いて、カリーナもまた紅莉栖の前で命を落としたのか。
 認めざるを得ない非情な事実に、まゆりの死の時とよく似た嘆きが胸の内に広がっていく。
 しかし辛さに浸り続けることは許されない。男は紅莉栖の方を目指して歩き、すでに道場の中に入ってしまったから。

41 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:47:58 ID:aond7ins0

「あ」
 逃げなければ。頭に響く警告に従い、男に背を向けて走り出す。しかしお世辞にも良いとは言えない運動神経に頼ったところで逃走が不可能である事実に気づくのに、それほど時間はかからなかった。
 道場内に板を踏む音が響き、もう男との距離は十歩まで縮まっている。これが埋められたら、男の魔の手によってカリーナと同じく命を奪われる未来は不可避である。目の前が真っ暗になる錯覚さえ感じられた。
 ……だからといって、このまま死を待つのが正解だろうか。自らの命は助からない、ならばするべきことは皆無だと決め付けて良いのだろうか。
 答えは否だ。するべきことが未だ残っている。カリーナが守ろうとしてくれたこの命を、無駄に終わらせることなど認めるべきでない。

 精力を失いかけた脳をもう一度奮い立たせ、取るべき選択を模索する。答えが出たら、すぐに実行だ。
「止まりなさい!」
 ディバッグの口に手を突っ込んで取り出したのは、安っぽい外見の拳銃だ。実際はただの玩具であり、攻撃力など皆無に等しい。それでも、僅かでも武器らしく見られることを期待して片手に取り、男の方へ銃口を向けて、同時に叫ぶ。
 それを見た男は、ぴたっと歩みを止めた。まさか本物の銃だと信じたのか、それとも別の意図があるのかは知らないが、今は止まってくれた点だけを好都合としよう。
「……あなたはバーナビー・ブルックスJr.なの?」
「ああ、そうだ」
 質問を一つぶつけてみたら、押し殺した声で返答が来た。自らをバーナビーだと認めた男に襲い掛かる気配は無い。質問を続ける。
「そう。じゃあ、さっきまで戦ってた子、カリーナはどうしたの?」
「殺した」
「どうして? 仲間だったんでしょう?」
「必要だったからだ。目的のために」
「……目的って何?」
「お前には関係ない」
「……カリーナは、あなたを止めようとしていた。話をした時にも、貴方を信頼していたことがよくわかったわ。
 ……私はカリーナほど貴方について知らない。今のあなたがどんな事情を抱えているかも知らない。でも、カリーナが貴方に殺されたと知らされて、納得しろだなんて無理よ……!」
 湧き上がる怒りがもはや抑えきれなくなるのがひしひしと感じられる。だから、次の質問には激昂が付加されて、半ば糾弾へと変わる。
「あなたは目的のためなら何を犠牲にすることも構わないの!? そのためにカリーナを殺して、私も殺して、ワイルドタイガーや他の仲間も殺して、皆殺してもいいっていうの!? あなたは……もうヒーローじゃないの!?」
「……」
「答えて!」
 銃を握る手に自然と力が込められ、向ける視線も焼き殺さんとばかりに熱くなっていく。しかしそれを受け流すように、バーナビーはあっさりと答えた。
「そうだ」
 これで決まりだ。今のバーナビーは敵だ。誰かが止めなければならない敵だ。
「あんた……っ」
「質問は終わりか?」
「……ええ」
 待ちくたびれたといった様子でバーナビーは再び前進し、紅莉栖を手にかけようとする。
 だが、それを許すわけにはいかない。玩具の銃を手放してディバッグに再び手を突っ込み、次の一手を打ち出した。

42 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:48:46 ID:aond7ins0

「行って!」
 紅莉栖の手から離れて飛行するのは、円形の翼を持った機械の鳥。クジャクカンドロイドがバーナビーへと挑んでいく。
 その勝敗を見届けることなく、間髪入れずにカンドロイドを取り出していく。タカにウナギにタコにプテラノドン。生前のカリーナからアドバイスを受けて、万が一のための護身用に購入しておいた戦闘用のカンドロイド達だ。
 およそ十体近くのカンドロイドがバーナビーに襲い掛かるが、しかし。
「邪魔だ!」
 突然バーナビーの手元が怪しく歪んだと思ったら、カンドロイドの数基が弾かれて地に落ちた。カリーナから聞いた話では、バーナビーのNEXT能力は身体強化のはずだ。今の技はどういう仕掛けだろうか。紅莉栖の頭が思考を始めようとするが、頭を振って打ち消す。
 今はそんな暇は無い。カンドロイド達を使っても時間稼ぎが限界であることは、今の技を見れば明らかだ。ならば、残された僅かな時間で出来ることはあと一つ。心に決めて、最後の一手を右手に掴んだ。

 ギジメモリという名の特殊なUSBメモリには、録音機能があるらしい。音声変換機能もあるが、今回は用無しだ。先端付近のボタンを親指で押し、声を吹き込む。
「牧瀬紅莉栖です。聞いてください。……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています! 今の彼はもうヒーローじゃない!」
 数少ない情報だけのメッセージ。全てのカンドロイドが撃墜されるまでの限られた時間では、この程度が限界だ。録音を終えたメモリを左手に掴んだ緑の機器に挿入する。
 ――FLOG――
 機械の塊から足が飛び出し、生気を得たように飛び跳ね始める。蛙を思わせる姿のそれはメモリガジェッドの一つ、フロッグポッドだ。
 すぐさまディバッグに残された最後のタカカンドロイドを起動し、その口にフロッグポッドの足の一本を咥えさせた。
「お願い。すぐにここを離れて、これを誰かに届けて」
 短い命令を受け、タカカンドロイドはフロッグポッドと共に飛び立っていった。その姿が空の中でどんどん小さくなり、やがて見えなくなった。

 視界の端で、ついに打ち破られた全てのカンドロイドが無残にも地面に転がるのが見えた。この身を守る力は、ついに何一つ無くなったのだ。全身から力が抜け、腰がぺたりと土の上に落ちる。
 このまま命を終えるのはやっぱり悔しい。岡部達と会うことも、まゆりの仇を取ることも出来ないのは未練が残る。それでも、まだ見ぬ誰かのために遺言を残せた点だけは満足できた。
 あれだけの情報で信用してもらえるか確信は無いが、紅莉栖の名前を聞けば少なくとも岡部や橋田なら嘘では無いと分かって貰えるはずだ。
 気付けば、首輪の中でセルメダルの枚数が増加していた。皮肉な話だと紅莉栖は自嘲する。バーナビーを止めるための行動を果たしたために、結局バーナビーに力を与えるのだから。
(皆、ごめんね。私はここまでみたい)
 脳裏に次々と浮かぶのはラボメン達の顔。自分は無理でも、彼らには行き続けて欲しいと切に願う。
(まゆり、私もそっちに行くことになっちゃった)
 亡き友に思いを馳せる紅莉栖の目は哀しい色を宿したまま閉じられ、その手には本当の最後の支給品、まゆりの好きだったキャラクターを模した銀色の丸い玩具が握られていた。

43 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:49:23 ID:aond7ins0

「……っ、ふっ、くくっ」
 しかし、紅莉栖の命を奪うはずのバーナビーは、何をするでもなく肩を震わせ始めた。小さく漏れるだけだった声が少しずつ大きくなっていき、やがて笑っているのだとはっきり理解できるほどになる。
「ひゃははははっ、ははははは! ああヤベッ止まんねえや、ひゃははははははは!」
 バーナビーのマスクから零れ始めたのはあまりに耳障りな下卑た笑い。腹を抱え、心底可笑しそうにゲラゲラと声を上げ続ける。
 その様を見た紅莉栖の中で、再び怒りのボルテージが上がっていく。無関係の人間を巻き込むだけでなく、快楽さえ感じているのだろうか。カリーナの語った人間像からあまりにもかけ離れた姿を目の当たりにして、苛立ちをそのままぶつけた。
「私を殺すのが、そんなに嬉しいの」
「はははっ、悪い悪い。お前が完全に俺の事バーナビーだって信じてるもんだから、可笑しくてたまんねえよ」
「え?」
 しかし怒りはすぐさま疑問に書き換えられる。
「だってあなた、さっきから」
「いや、バーナビーとかそもそも会ったこと無いっての。どんな奴なんだかこっちが聞きたいぜ」
 バーナビーが言葉を続ける度に、ますます訳が分からなくなる。
 この男は何を言っているんだ? バーナビーだと思って接し続けた“バーナビー”は実際にはバーナビーではない? それは本当なのか? 本当だとしたら、この“バーナビー”は誰だ?

「しょうがねえな。答え合わせだ」
 そんな紅莉栖の混乱を吹き飛ばすように男はマスクを外し、解放された自らの素顔を晒した。
 現れたのは、鬱陶しそうに振り払われるだらしなく伸びた頭髪と、蒸れるんだよと愚痴を零す髭面。男は紅莉栖の目線まで屈みこみ、目前にその顔を近づける。にたぁ、と歪んだ口元が何かを発しようとしていた。
 それが形を成す前に、紅莉栖は事実を理解した。外見も性格も、カリーナから聞いたバーナビーの特徴がまるで一致しない。即ち、この男はバーナビー・ブルックスJr.ではない。今までの言葉は嘘だった。
 ならば、この男は――深い闇のような黒で染め上げられた金属スーツを身に纏う、バーナビーを騙る男の正体は――

「ハーイこんにちは。ウロボロス所属NEXTの世界一強い方、ジェイク・マルチネスでぇす!!」

 憎らしいほどに愉快な笑顔が視界を埋め尽くして。朗らかな声色が耳に響いて。残酷な現実が胸に突き刺さって。
 牧瀬紅莉栖は絶望に凍りついた。



 ジェイク・マルチネスへの支給品の一つは、黒と赤の金属製スーツであった。付属の解説書によると、バーナビー・ブルックスJr.という男が身に纏っていたらしい。
 そんな物を渡されたところで、会場に着いたばかりのジェイクは身に着ける気など全く無かった。デザインこそ悪くないが、所詮はヒーロースーツだ。
 ワイルドタイガーやMr.レジェンドのようにNEXTでありながら人間に味方する阿呆のための衣装を、どうしてNEXTの王たるジェイクが着なければならないのか。
 だから手を付けずに放置していたのだが、全裸なせいで変態呼ばわりされたら不愉快だ(というか、実際にされた)。流石に衣服が欲しくなり、早速探そうと思ったところで再びヒーロースーツの存在を思い出した。そして一つ思いつく。
 いっそヒーロースーツを着るついでにバーナビー・ブルックスJr.とかいう奴を演じて、彼のイメージダウンを図ってみるのも悪くない。
 そもそも殺し合いの勝者はこのジェイクで確定しているのだ。ならば、その過程を面白おかしく満喫するのも手だろう。
 ……とはいえ、ジェイクはバーナビーの人柄もNEXT能力を知らない。付け加えれば、ワイルドタイガーがスーツを着ているならバーナビーも別のスーツを着ている可能性が高い。
 だから、“バーナビーごっこ”は言ってしまえば失敗しても構わないような些細な余興、ほんのお遊びだ。そう割り切った上で、ジェイクはスーツに手を伸ばした。

44 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:51:31 ID:aond7ins0

 参加者は60人を越えるのだから、時間には余裕があるだろう。シュテルンビルトを目指そうかとも思ったが、せっかくなので切り抜かれたような奇妙な町並みを眺めていくのも悪くない。
 そんな方針の下にとりあえず西側へ歩き続けて数時間後、ジェイクはカリーナ・ライルと出会う。その扇情的なコスチュームと“心の声”から察するに、どうやらバーナビーと同僚のヒーローらしい。
 これは幸運ととりあえず襲い掛かり、一目で別人だと発覚しかねないバリア能力を使わずに格闘と読心による回避に専念した無難な戦闘スタイルを取ってみた。念のため、声も出さないように努める。
 その結果、幸運は更に重なる。カリーナは心の声を通して、バーナビーのNEXT能力を教えてくれただけでなく、時間軸の違いとかいうよく分からない理屈でジェイクをバーナビー本人だと殆ど信じ出したのだ。
 復讐に狂っているのではないかと疑われたものだからとりあえず態度を荒げる振りをしたら、さらに確証を得た気になるのだから実に都合が良い。教えて下さいと頼んだわけでもないのに有り難い話だ。
 さてバーナビーの事情を大方把握し終えた後で、あえてカリーナの策に乗せられてみた。どうせ殺意ゼロの甘っちょろい攻撃が狙いだ、この際ちょっと我慢してみる。
 そして仕上げに、絆とか相棒とかほざきながら何も知らずにジェイクとの対話を試みるカリーナを一撃で撃ち殺した。
 次は同行していた牧瀬紅莉栖に接触するが、どうやらNEXTではなくただの人間らしいと分かった。
 NEXT同士の殺し合いに何故人間が紛れ込んでいるのか不明だが、とりあえず生きる価値無しなのですぐに処刑しようと思い、しかし最後の策とやらを盗み聞きしたのでしばらく待機した。
 そして彼女がバーナビーの悪評を広めるのを見届けた所で、いよいよ笑いが堪え切れなくなったのでネタ晴らしに至る。

「いや〜、まさかここまで上手くいくなんてなあ。どうだ、なかなかの演技だったろう?」
 当初は大した期待もせずに始めた“バーナビーごっこ”だが、予想を超える大成功だ。発起人のジェイク自身ですら驚きが隠せない。気が付けば、首輪の中でセルメダルが増量している。“ゲームを楽しむ”という欲望が少しは満たされたわけだ。
 紅莉栖の方はといえば、未だに固まったまま動けずにいる。何か反応が欲しいので、駄目押しの嫌がらせを仕掛けてみた。
「お前もあっちの女も可哀想だよなあ、なんせこの俺が参加するゲームに居合わせちまんたんだからな」
「……」
「ああ、でも可哀想なのはバーナビーって奴も同じかあ! だってそうだろ? お前が飛ばした変な蛙のせいで悪人扱いされちゃうんだもんな」
 言われてすぐに紅莉栖はハッと気付いたような顔をして、その眉が険しくなる。
「それはあんたが……!」
「確かにお前等を騙したのは俺だ。でも、バーナビーを悪く言おうって決めたのは誰だ? そう、お前だよ」
「……そんなの……」
「あーあー、お馬鹿な女のせいでヒーローじゃなく外道呼ばわりかあ。なんて可哀想なバーナビーちゃん!」
 両手で顔を覆い、わざとらしくわんわんと泣き喚く真似をしてみた。指の間から目を覗かせてみると、紅莉栖が顔を赤く染めて、唇を噛みながら目を伏せているのが見えた。
(私のせいって……でも、だって、仕方ないじゃない)
 心中では憤怒と罪悪感との戦いが始まっているようだ。今ここで命を奪って、心が押し潰される前に丸ごと無に帰すことも出来る。
 しかし、それでは味気ないような気がするのだ。一緒の殺し合いに招かれた仲の女をただ殺すだけの行為が、なんだかすごくつまらないような気が。

45 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:52:21 ID:aond7ins0

「よし決めた。お前も殺そうと思ってたが、一先ず止めだ」
「……え?」
「とりあえず俺の側で生かしといてやる。今みたいなショーを色々やってみたいからな、お前はそのアシスタントだ」
 どうせ殺し合いを楽しむのなら、この女にも役割を与えてみるのも悪くない。排斥されるだけの価値しかない下等な人間ならば、自分の快楽のために利用したって文句は無いだろう。
 NEXT達の戦いの中にわざわざ人間を混ぜたのは、支給品や施設と同じく戦いに使える“材料”としての役割が与えられたからではないか。今ではそんな想像さえ出来てしまう。
「勝手な事を……」
 一方の紅莉栖は到底納得出来ていないようだ。せっかく生かしてやろうというのに、なんて生意気な面だ。こいつには自分の立場というものを分からせてやる必要がありそうだ。
「逆らえると思ってるのか? 俺は勝者でNEXT、お前は敗者でクソ人間。じゃあ、お前の命をどうするかは俺の勝手だよなぁ?」
「それともいっそ殺してくれってか? じゃあ、『お願いしますわジェイク様ぁん。もう私には生きる希望がありません。だからせめて、貴方様の偉大なお力で私の哀れな人生に終止符を打ってくださ〜い』、って頼まれたら考えるぜ?」
「おっ、悔しいのか? じゃあ抵抗してみろよ。俺はお前を殺る気は、ま・だ・無いからな。俺がお前に飽きるまで、逆転を目指して幾らでも足掻いていいぜ? ま、どうせ無理だけどな!」
 挑発と嘲笑で畳み掛けられて、しばらく経ってから紅莉栖は腰を浮かせて立ち上がった。何一つ口にはしないが、従う意思を示したと取って良いだろう。向けられる視線が怒りに満ちていたが、涼しい顔で受け流す。
 次は何処へ行こうかと早速歩き出そうとするが、忘れ物があった事を思い出す。
「そうだ。これ返すわ」
 紅莉栖が先程捨てた玩具の拳銃を、拾って渡してやる。どうせ使い道はないのだ。ディバッグに入れておいても邪魔だし、他人に持たせておいたほうがマシだ。言われて紅莉栖は乱暴に拳銃を掴み取り、自分のディバッグに突っ込んだ。

「よし、忘れ物は無いな。それじゃあ行くとしようぜ」
「……ええ」
 ようやく道場の外へ出るジェイクの頭にも、考えるべき事が幾つか残っている。
 まず、牧瀬紅莉栖で遊ぶとして何をしようか。
 無力な人間として、ヒーローを釣るための餌にする。バーナビーの悪評を広めた悪人として、討つべき標的に仕立て上げる。時間をかければもっとアイデアが浮かぶかもしれない。
 紅莉栖に尋問でもするべきだろうか。他の参加者の情報や“時間軸の違い”、聞いてみたい内容が幾つかある。
 解答を拒否されたとしても読心で丸聞こえだから心配はないが、セルメダルが勿体無くもあるから悩みどころだ。
 “バーナビーごっこ”をいつまで続けるべきか。どうやら本物の彼の能力は身体強化の類であり、やはり外見なども自分とは異なるらしい。ならば正体を隠し通すのは困難だろう。
 代わりの服を見つけた時点で演技を辞めるつもりでいたが、もっと早く辞めるべきか、それともまだ続けても大丈夫なのか。
 その服を見つける(ついでに散髪も済ませる)ために、次はどこへ行こうか。単純に考えれば商店街なら服が見つけられそうだが、他のエリアでもそれらしい街が見つかるかもしれない。

(カリーナ、バーナビーさん……ごめんなさい、私のせいで)
 さてどれから片付けようか。ジェイクの頭は思考を巡らせながらも。
(……私は一体、何をやってるのよ……!?)
 紅莉栖の心中の嘆きに耳を傾け、愉快さに笑みを零した。



『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています! 今の彼はもうヒーローじゃない!』
 空を飛ぶフロッグポッドが、誰かに嘘を伝えようとしている。
 嘘を言い出したのはジェイク・マルチネスで、真に受けた牧瀬紅莉栖も同じように嘘をついた。そして紅莉栖の言葉をそのまま受け取ったフロッグポッドを介して、嘘が新たに広まることは確実だ。
 嘘の情報によって悪と見做されるのは誰だろうか。言葉をそのまま信じればバーナビーであり、全くの偽りと断じれば紅莉栖であり、さらに裏を読めばジェイクに辿り着くかもしれない。
 果たしてどのような解が導き出されるのか。それはフロッグポッドを――ジェイクと紅莉栖のついた嘘を、誰がどのように受け止めるか次第である。



【カリーナ・ライル@TIGER&BUNNY 死亡】

46 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:53:06 ID:aond7ins0



【一日目−午後】
【C−4 音撃道場】

【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate】
【所属】赤
【状態】健康、まゆりとカリーナの死による悲しみ、真木とジェイクへの怒り
【首輪】110枚:0枚
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ビット粒子砲@Steins;Gate、メタルうーぱ@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:とにかく今はやるべき事をやり、情報を集める。
0:でも、どうすればいいの……?
1:ジェイクが許せない。でも今は従うしかない。
2:ラボメンのみんなが心配。
【備考】
※岡部倫太郎がタイムリープを繰り返していることを知った後からの参戦です。
※NEXT能力者やヒーローに関する情報を知りました。

【ジェイク・マルチネス@TIGER&BUNNY】
【所属】無
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)
【首輪】160枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(ダークネス)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式×2(ジェイク、カリーナ)、ランダム支給品×2〜5(ジェイク1〜2、カリーナ1〜3)
【思考・状況】
基本:ゲームを楽しむ。
1.楽しめそうな奴を探す。
2.服を探す。出来れば髪の毛も何とかしたい。
3.バーナビーの振りをいつまで続けるべきだろうか。
4.紅莉栖を使って何か面白いことをやりたい。
5.三重能力のガキ(=ニンフ)と五重人格のガキ(=フェイリス)は放っておいても構わない。
【備考】
※釈放直前からの参加です。
※NEXT能力者が集められた殺し合いだと思っています。
※ニンフは三重能力のNEXT、フェイリスは五重人格のNEXTだと判断しています。
※所属陣営が無所属へ変わったことにまだ気付いていません。

【全体備考】
※カリーナの死体はC−4 音撃道場(威吹鬼流)付近に放置されています。
※フロッグポッド@仮面ライダーWがタカカンドロイドに運ばれる状態で移動しています。
 どこへ向かうかは後続の書き手さんにお任せします
※フロッグポッドには紅莉栖のメッセージが録音されています。

47 ◆jUeIaTa9XQ:2012/07/02(月) 22:54:02 ID:aond7ins0
以上で投下を終了します。
作品タイトルは「Circumstances may justify a lie.(嘘も方便)」です。

疑問点や矛盾点、他にも何かご意見などあれば指摘をお願いします。

48名無しさん:2012/07/02(月) 23:21:48 ID:pnpB4Ejs0
投下乙です!
うわぁ……まさかジェイク様にそれが支給されてるなんて。ブルーローズ、頑張ったのについてないなぁ……
しかし助手の流した誤報が、またとんでもないことに繋がりそうな気がする……本物のバーナビーが知ったらどうなるだろう。
てか助手、生きてくれー!

49名無しさん:2012/07/03(火) 10:36:12 ID:AnVqusaQ0
投下乙です!
ジェイク…ここに来てからまだあまり暴れてないなと思ってたらついにやらかしたかww
カリーナは油断し切ってたとこにジェイクが相手じゃこうなるのも仕方ないよなぁ…南無。
さあ助手が放ったフロッグポッドは一体誰が回収するのか。これがどんな誤解フラグになっていくのか楽しみです。
にしても相変わらずタイバニキャラの描写が上手い…ジェイクも本格的に動き出したし、ここまで順調に見えた対主催も危うくなってくるか…?

50名無しさん:2012/07/03(火) 18:07:49 ID:rCwCyFAI0
投下乙です

これは状況が悪すぎるぜ。不運が重なったとしか思えないぞ
誤解フラグが立ってジェイクもやる気出し始めたし不吉な予感しかしねえぞ

51名無しさん:2012/07/03(火) 20:05:03 ID:FcdwkYBs0
投下乙です!

カリーナ…ほんとにもう運が悪かった…
最初に出会ったのが紅莉栖だった所為で時間跳躍の可能性に行き着き
その所為でバニーを疑いジェイク様に出会ってしまって…
それでも、ヒーローとしての気持ちは紅莉栖の心に残ってると信じたい
そしてその紅莉栖はジェイク様の玩具になって…
これからが怖いなあ

52 ◆qp1M9UH9gw:2012/07/07(土) 02:29:42 ID:HwyOCLkc0
投下開始します

53 ◆qp1M9UH9gw:2012/07/07(土) 02:30:57 ID:HwyOCLkc0

【1】


メズール――今は「志筑仁美」として行動している――が照井竜と行動を共にしてから、結構な距離を歩いている。
しかし、未だ二人は他の参加者に出会えずにいた。

僅かながらも――本当に微小な――焦燥感を募らせながら、メズールは照井の後ろを歩く。
彼女の前を行く照井は、彼女の事など気にも留めずに、前方に注意を向けている。
大方、彼は憎き仇に集中しすぎて自分の事などほとんど頭にはないのだろう。
こんな状態なら、この場で拳銃の引き金を引くだけで簡単に殺せてしまえそうだ。
人々を護るのが使命の「仮面ライダー」が、つくづく堕ちたものである。

だが、メズールにとってはこの状態の彼の方が都合が良かった。
何しろ今の照井竜は、同じ陣営の井坂深紅郎を殺す為に行動している。
このまま彼が井坂と出くわせば、すぐさま戦闘になるのは分かりきっているのだ。
放送までに他の参加者と出会えなかった場合は、流石に別れるか、最悪始末しなればならないが、
可能であれば、上手く潰し合ってもらいたいところだ。

「……ん?」

不意に、前を歩く照井が立ち止まった。
丁度照井の横に建っていた民家の窓を見つめながら、首輪を擦っている。
何が起こったのかとメズールが窓を覗き込むと、そこには照井の姿がそのまま映し出されていた。
一見すると、彼の身には何も起こっていない様に思える。
しかしメズールは、彼の変化を決して見逃しはしなかった。

――今の照井の首輪には、「紫色」のランプが灯っている。

ついさっきまで首輪を淡く照らしていた白い光は、今では紫色に染まっている。
禍々しさすら感じさせるそれが指し示すのは、一つだけ。

(砕かれたのね、ガメル)

白陣営のリーダーを務める、ガメルの敗北。
そしてリーダー不在による、陣営そのものの一時的な消滅。
照井の首輪にある紫は、その二つの事実をメズールに突きつけていた。
ガメルを葬ったのは、スタート地点が近かった火野映司と見てまず間違いないだろう。
今のオーズは、相手がグリードならば問答無用で潰しにかかってくるのだ。
グリードがオーズと出くわすという事は、そのまま「紫のメダルの力による抹殺」に直結しかねない。

54 ◆qp1M9UH9gw:2012/07/07(土) 02:32:04 ID:HwyOCLkc0
(……今のままオーズに近づくのは危険すぎるわ)

今は「志筑仁美」を名乗っているが、オーズに発見され次第その偽の仮面も剥がれてしまう。
そうなってしまえば、メズールに逃げ場などありはしない。
強力なISが支給されていようが関係なく、抵抗空しくコアを砕かれてしまうだろう。

そこで彼女は、照井に目的地の変更を提案した。
当初はシュテンビルドに向かう予定だったのを、見滝原に変えようと試みたのである。
今のメズールは「志筑仁美」を名乗っているので、知り合いがいるかもしれないという名目でなら、
怪しまれる事なく照井を別方向に誘導できるだろう。
そういった思惑を含んだ彼女の案は、二つ返事で呆気なく承諾された。
井坂への手がかりが無い以上、何処へ行こうが構わないという訳なのだろうか。
それとも、そこに行った方が仁美の知り合いを見つけやすく、この無力な同行者を他人に押し付けられるからなのか。
どちらにせよ、人の安全を守る警察官にあるまじき杜撰な反応である。
それは逆に言うと、そうなってしまう程に照井に冷静さが欠落してしまっているのを示していた。

(そこまで憎いのね……井坂深紅郎が)

傍目から見ても、照井は暴走していると分かる。
そこまで彼を怒りに奮わせるのなら、きっと死んだ彼の家族は深く愛されていたのだろう。
そうでなければ、ここまで憎しみを滾らせようとしない筈だ。
対象が誰であっても、愛は人を盲目にするものである。
セシリアがそうであったように、照井もまた、愛からくる復讐心によって自分を見失っている。

メズールには照井のその様子が、とてつもなく羨ましかった。
彼らが大きな愛に押し潰される様は、メズールの感情をどうしようもない位に昂ぶらせる。
グリードは言うなれば、底無し沼のようなものなのだ。
どんなに欲を食らっても、決して満足する事はない。
誰かを愛せど、最後に残るのは満たされない自分への孤独感だけ。

愛が――無限に等しい程の愛が欲しい。

尽きぬ事の無い愛の海に抱かれ、そして何時までも溺れていたい。
それこそが満たされぬグリードとしての器を満たす為の、メズールの望み。
憎しみだろうが、肉欲だろうが、母性だろうが、どんな形でも構わない。
そこに少しでも愛があるのなら、それら全てを受け入れ、食い潰してやろうではないか。
どんなに底なしの沼でも、永久に注ぎ続けさえすれば、満たしているのと同義だ。
無限の愛でなら――いや、無限の愛でなければ、青いメダルのグリードの器は満たされない。
照井が復讐心で狂うように、メズールもまた、世界に溢れる愛に狂うのだ。

さて、無所属扱いになっている今の照井は、メダル一枚だけで簡単にメズールの陣営に加わる。
愛に狂うこの男を配下に加えたいという欲求はあるが、それは自分の正体を晒すというデメリットを伴っている。
今のまま「志筑仁美」としてなりすましを続けるべきか、それとも「メズール」として交渉を行うべきか。
悩ましい二択を前にして、愛を求める彼女の心は、これまで以上に躍っていた。

55憎【てるいりゅうをしはいするかんじょう】 ◆qp1M9UH9gw:2012/07/07(土) 02:33:37 ID:HwyOCLkc0
【2】


己の命を代価にしても護る価値のある財宝が照井にあったとするのなら、それは自身の家族であろう。
いつも傍らにいて、そして彼を支え続けていた大切な人達。
それらはこれからも消える事無く、ずっと微笑んでいてくれると思っていた。
しかし、その家族はもう何処を探しても見つかりはしない。
皆、死んだ――殺されたのである。
あの日、照井を出迎えたのは暖かな家庭ではなく、氷点下の地獄絵図。
祝福してくれる筈だった家族は、部屋の隅で氷塊の一部と化していた。
照井が守っていく筈だった暖かな家庭は、あまりにも呆気なく崩れ去ったのである。

――何故だ。

どうして、なんの罪もない者が死ななければならない。
彼らが罰せられるような事をしたか?
恐怖の渦の奥底で、震えながら命を散らさねばならぬ程の業を背負っていたか?
否、断じて違う。
罪無き者は幸せに生きる義務があり、誰かがその義務に手垢を付けるなんて事は、決してあってはならないのだ。
それなのに、あの殺人鬼は――井坂深紅郎は、その幸福をぶち壊した。
罪無き者に幸福が与えられるのなら、罪人に与えるべきは裁きの鉄槌に他ならない。
怒りと憎しみが渦巻くそれを振り落とす為に、照井はアクセルになったのだ。
フィリップは、アクセルの事を「仮面ライダー」と銘打っていたが、所詮そんなものは彼の思い上がりに過ぎない。
本来、アクセルは復讐という穢れた欲望を満たす為だけにある力なのだ。
見知らぬ人を救うなどという、そんな高尚な目的に使われるようなものではないのである。
ただ、自分の怨念を晴らす事こそが、アクセルの使命。

(仮面ライダー……か。そんな称号、もう俺には必要ない)

照井はもう、「仮面ライダー」を名乗るつもりは無かった。
むしろ「仮面ライダー」から罰せられる側の存在なのだ。
希望を護る「仮面ライダー」は、あの探偵二人でもう間に合っている。
今この場にいるのは、「加速」のガイアメモリで戦う唯の復讐鬼。
怒りの業火に身を委ね、今まさに非道に走ろうとする者が、誰かを護る資格などない。
仮に裁かれる時がきたのなら、その際には喜んでその罰を受け入れよう。

(左……そしてフィリップ。せめてお前達は、仮面ライダーであり続けろ……)

照井に支給された支給品の内に、鳥形のガイアメモリと思われる物があった。
「エクストリームメモリ」なるそれは、説明書きによれば、ダブルを更なる強化形態へと変身させる為のアイテムらしい。
ということは、これは照井にとっては無用の長物という事だ。
もし道中で彼らに出会えたのなら、これを渡さなければならないだろう。
彼らが「仮面ライダー」として、真木を打倒してくれると信じて。
もう真っ当な道を辿れない自分の分まで、敵に正義の怒りをぶつけてくれるのを祈って。

56憎【てるいりゅうをしはいするかんじょう】 ◆qp1M9UH9gw:2012/07/07(土) 02:35:21 ID:HwyOCLkc0
【3】


照井竜は、知らない。
エクストリームメモリが、本来何の為に造られた物なのかを。
シュラウドが園崎家の長の兄弟な力に対抗する為に製造されたそれは、確かにダブル用のガイアメモリだ。
しかし、その時変身するのは、左翔太郎とフィリップではない。
ダブルの最終形態とは――本来ならば照井竜の為にあるものだからだ。
『サイクロンアクセルエクストリーム』。
それこそが、仮面ライダーダブルの、本来の最終進化形態。
その原動力となるのは憎しみ――今の照井が抱いているような、ドス黒い感情。
心の奥底で疼き、のた打ち回り、暴れまわるその醜悪な思いこそが、Wを新たな境地へ誘うのである。

エクストリームメモリの真の所有者の名を知った時、照井は何を思うのか。
現在進行形で「力」を手にしているという事実が判明した時、照井はどう動くのか。
それを知る者は、まだ、いない。



【一日目-午後】
【D-6/ATASHIジャーナル付近】

【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】アクセルドライバー+アクセルメモリ@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:井坂深紅郎を探し出し、復讐する。
 1.見滝原に向かう。
 2.ウェザーを超える力を手に入れる。その為なら「仮面ライダー」の名を捨てても構わない。
 3.ほかの参加者を探し、情報を集める。
 4.Wの二人を見つけたらエクストリームメモリを渡す。
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。

【メズール@仮面ライダーOOO】
【所属】青・リーダー
【状態】健康
【首輪】100枚(増加中):0枚
【コア】シャチ:1、ウナギ:2、タコ:2
【装備】グロック拳銃(15/15)@Fate/Zero、紅椿@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、
【思考・状況】
基本:青陣営の勝利。全ての「愛」を手に入れたい。
 0.正体を明かして照井を青陣営に引き込む?それともそのまま身を隠し続ける?
 1.やはりオーズは危険。行き先を変更して見滝原に向かう。
 2.まずはセルと自分のコア(水棲系)をすべて集め、完全態となる。
 3.可能であれば、コアが砕かれる前にオーズを殺しておく。
 4.完全態となったら、T2オーシャンメモリを取り込んでみる。
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。
※自身に掛けられた制限を大体把握しました。

57 ◆qp1M9UH9gw:2012/07/07(土) 02:35:46 ID:HwyOCLkc0
投下終了です

58名無しさん:2012/07/07(土) 14:47:47 ID:Guwr1U26O
投下乙っす。
いやー、まさかのサイクロンアクセルエクストリームの名前が出てくるとは、すっかり忘れていたけど、それがWの正しい形態なんだよね。
 そう言えばふと思ったんだけど、白陣営(ガメル)から白陣営(まどか)までどれくらいの間だろう?結構早い段階で立て直したと思うのだけど。

59名無しさん:2012/07/07(土) 15:55:57 ID:Z/iANG8o0
投下乙です

いわくありげな支給品が本来の持ち主の手に
復讐の相手に出会うのはまだまだだろうが戦闘に巻き込まれて使用したら…

60名無しさん:2012/07/07(土) 22:23:58 ID:e0B9fb6Y0
投下乙です。
ダブル組に仮面ライダーであり続けて欲しいという照井の願いが垣間見えたら
直後のパートで照井の復讐のためにダブル組解散の可能性を示唆か…なかなか辛い話だな
しかし、一夏誤解にバーナビー誤解に今回と、悲劇の予感が続いて嬉しいねえw

61名無しさん:2012/07/08(日) 00:28:17 ID:5FxsrzXIO
投下乙です!
原作だと翔太郎も折れず照井も復讐心を振り切ったからこそ卓上の空論に終わったアクセルエクストリームもロワじゃ何があるか分からないからなぁ・・・

62名無しさん:2012/07/08(日) 02:30:41 ID:jKK8b59c0
投下乙。
今の照井がサイクロンアクセルエクストリームの話聞いたらどう考えても翔太郎を蹴落としそうだ…
想像するとすごいやな感じだ…

63名無しさん:2012/07/08(日) 19:14:51 ID:7xWMsZ3o0
投下乙でした!

照井危ういなぁ…
自分が仮面ライダーではないと自覚しつつもまだ一応はか弱い参加者を保護する形を取ってはいるが…
これ以上復讐心を煽られたらどんどん堕ちていく方向で振り切れそうで怖い
これで力が入るとわかればサイクロンアクセルエクストリームに手を出してしまいそうなのがなんとも…

64 ◆ZZpT6sPS6s:2012/07/09(月) 12:00:41 ID:84oYNanY0
これより、予約分の投下を開始します。

65 ◆ZZpT6sPS6s:2012/07/09(月) 12:01:13 ID:84oYNanY0



「くそ。ここにはいないみたいだな」
 そう愚痴をこぼしながら、虎徹は周囲を見渡す。
 辺りには斉藤さんの開発室で見た様な、よく解らない機械が設置されている。
 見つけた仕様書には、Clock Down Systemと書かれているが、それを読んでもさっぱり理解できない。
 解ったのは、この機械はどうやらマスクドライダーシステムとやらに関係している、と言ったことぐらいだ。

 虎徹は今、エリア【D-3】にあるZECT基地に訪れていた。
 ZECT基地はイカロスが逃げた方角にあった施設で、もしかしたら彼女がここに隠れているかもしれないと考えたのだ。
 だが結局イカロスは見つけられず、無駄足に終わってしまったのだが。


「マスクドライダーシステムねぇ。翔太郎たちと、なんか関係してんのか?」
 部屋の中央に設置された機会を見上げ、首を捻る。
 マスクドライダー――言い換えれば、仮面ライダーとも読む事が出来る。
 自分達を仮面ライダーWだと名乗った翔太郎たちなら何かを知っているかもしれないが、生憎と彼等とは別行動を取っている。
 イカロスを追うのを止めて今すぐ引き返せば合流できるだろうが、そんな事は論外だ。

「しゃぁねえ。今度会った時にでも訊くか」
 自分が持っていてもどうしようもない、と作業台に仕様書を放り投げ、踵を返して部屋を出る。
 クロックダウンシステムとやらも気になるが、それよりも今はイカロスの方が大事だ。
 時間を無駄にすればするほど、彼女に追いつくことは難しくなってしまう。

「ったく。一体どこに行ったんだよ」
 このままでは最悪、イカロスは誰かを傷つけてしまうかもしれない。
 そうなる前に彼女に追いついて説得しなければならないのだが、手掛かりは飛んでいった方角だけ。
 イカロスを完全に見失っている以上、虎徹にはもう、勘で追い駆けるしか術はなかった。

「アイツが飛んでったのは、南東だから……とりあえず、こっちに行ってみっか」
 ZECT基地の入り口に停めてあったライドベンダーに跨り、次に向かう方向を決める。
 ……仮にイカロスが、既に誰かを傷つけていたとしても、必ず助けて見せる。
 彼女を捕まえて、罪を償わせて、その上で幸せになってもらう。

「待ってろよ。すぐにとっ捕まえて、答えを聞き出して―――ってなんだありゃ?」

 ヒーローとして硬く決めた誓いを胸に、いざアクセルを回そうとした時だった。
 上空から虎徹の目の前に、赤色と緑色をした何かが飛び降りて来たのだ。
 その機械で出来た鳥と蛙に、虎徹は思わず首を捻る。

「一体何だ? コイツ等がカンドロイドってヤツか?」
『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています! 今の彼はもうヒーローじゃない!』

「…………は? な、なに言ってんだよ。そりゃどういう事だよ!」
 そのメッセージに思わず耳を疑い、声を荒げて聞き返す。
 だが機械の蛙は、は、レコードの様に繰り返し同じ事を言うだけだった。
 そして役目は終えたとばかりに、また飛び立とうとする。
 おそらく、他の参加者にもそのメッセージを伝える為だろう。

「あ! 待てコノヤロ!」

 虎徹は咄嗟に鳥と蛙を捕まえて、デイバックの中に放り込む。
 これで少なくとも、他の参加者がそのメッセージを知る事はない筈だ。
 だがそのメッセージの発信者をどうにかしなければ、根本的な解決にはならない。

 “―――バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに―――”

「……ふざけんなよ! そんな事、ある筈がねぇ。アイツに……バニーに限って、そんなこと……!」

 告げられたメッセージを、虎徹は全身全霊で否定する。
 バーナビーは彼にとって、最高のパートナーなのだ。
 その言葉を信じる事など、到底出来るはずがなかった。

「くそ! なんだってこう、次から次へと面倒が起るんだよ……!」
 改めてアクセルを回し、ライドベンダーを発進させる。
 牧瀬紅莉栖ってヤツをとっ捕まえて、力尽くでも事情を聞き出す。これは決定だ。
 だが居場所がわからない以上、今はとにかく、イカロスを追いかけるしかない。牧瀬紅莉栖をとっ捕まえるのはその後だ。

 “――――今の彼はもうヒーローじゃない!”

「そんな筈ねぇ……。バニー、俺は信じてるからな……!」

 そう口にしながらも、虎徹の胸中には焦りばかりが募っていった。

66 ◆ZZpT6sPS6s:2012/07/09(月) 12:02:09 ID:84oYNanY0


【1日目-午後】
【D-4/エリア左端】

【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、焦り、ライドベンダーを運転中
【首輪】80枚:0枚
【コア】なし
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(胸部陥没、頭部亀裂、各部破損)、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
 0.バニーがこんな殺し合いに乗る筈ねぇ……!
 1.少女(イカロス)を捕まえて答えを聞きだす。殺し合いに乗るなら容赦しないが、迷っているなら手を差し伸べる。
 2.牧瀬紅莉栖を探しだして力づくでも事情を聞き出す。
 3.他のヒーローを探す。
 4.ジェイクとマスター?を警戒する。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
 ・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています! 今の彼はもうヒーローじゃない!』


        ○ ○ ○


 そうして虎徹が去ったZECT基地に、今度はアンク、杏子、弥子の三人が訪れた。
 彼らは辺りを警戒しながらも、安全に休める場所を求めてここに辿り着いたのだ。
 ……もっとも、安全という意味では、地図に載った施設であるZECT基地は落第だと言える。
 それでもこの施設を訪れたのは、杏子の怪我を治療できるような備えが、ここまでに訪れた家屋になかったからだ。

 現時点において杏子は、三人の中ではただ一人の戦闘要員だ。
 仮にもグリードであるアンクの身体能力は高いが、今の状態では杏子には敵わない。
 ましてやただの人間である弥子となど、比べるべくもない。
 もし今戦いになってしまえば、アンクたちは杏子に頼りきりにならざるを得ない。
 故に彼らは、多少の危険よりも、杏子の治療を優先したのだ。

 それに地図に載っているという事は、いつかは誰かが訪れると確約されているという事だ。
 つまりは余程の事か相手でもない限り、最低限不意打ちは避けられる、という事でもある。
 加えて仮にも基地と銘打つのであれば、一般家庭以上の設備はあるだろうと踏んだのだ。


「ここには誰もいないようだな」
「だな。まぁ応急処置には十分な医療道具があったし、心配する必要はねぇだろうさ」
「でも少し前まで、誰かが居たみたいだよ?」

 ZECT基地を見回ったアンクは、他の参加者が見つからなかったことに、安堵とも落胆とも取れぬ声を上げる。
 杏子もアンクに応えながら、基地内で見つけた道具を使って自力で応急処置を済ませる。
 だが曲り形にも探偵として活躍してきた弥子は、そこに人の痕跡を見つけることが出来た。
 そのことにアンクは、ほう、と少しだけ感心する。

「なら、そいつ等がどこに行ったかわかるか?」

 それが判れば、場合によってはその参加者と接触し、戦力の補充が出来るかもしれなかった。
 だが弥子は小さく首を振って否定する。

「さすがにそこまでは………」
「そうか。それなら放っておくか」

 もとより大して期待していなかったアンクは、そう言ってその参加者のことを頭の隅に追いやる。
 今彼にとって重要なのは、如何にしてもう一人の自分を排除するか。その一点だけだ。

67 ◆ZZpT6sPS6s:2012/07/09(月) 12:02:37 ID:84oYNanY0

 もう一人のアンクを排除するには、ヤツを倒し活動が停止したところでコアメダルを奪うか、身体の奪い合いで勝利するしかない。
 だが現在アンクが所有するコアメダルは、彼の精神を宿したタカのコアメダルと、支給されたカマキリのコアメダルの二枚だけ。
 もしもう一人の自分と身体を奪い合えば、コアメダルの比率からして勝ち目はない。

 ――ならば選べる手段は前者しかない。
 故に必要なのは、より強い戦力だ。
 杏子だけでは足りない。もっと強力な力を持つ協力者が要る。
 ……問題は、その協力者をどうやって引き込むかだが。

“やっぱりアイスを使うか? ……いや、それはもったいないか”

 杏子と弥子の二人は、アイスを交渉材料にすることで引き込めた。
 だがたかだか一、二本のアイスで引き止められるとは、アンクも思ってない。
 それにアイスの数も有限だ。継続的にくれてやるには少ないし、個人的にも惜しい。

“なんとかして、アイス以外の方法で戦力を手に入れないとな。
 映司の様な奴なら、引き込みやすいんだがな”

 どうしたものか、とアンクはアイスを法張りながら思案する。
 その様子を見て、応急処置を終えた杏子は物欲しげに声をかける。

「なぁ。アイスまだあるんなら、もう一本アタシにもくれねぇか?」
「バカ言え。アイスだって無限じゃないんだ。欲しけりゃ何か役に立つ物をよこせ」
「役に立つ物?」
「そうだ。例えば、コアメダルとかな」

 まあ、コアメダルをそう簡単に手放す訳がないが、と、アンクはそう思いながらも告げる。
 だがそれを聞いた杏子は、デイバックを漁るとあっさりとソレを投げ渡してきた。
 思わず手に取ったそれは、紛れもなくコンドルのコアメダルだった。

「お前、これ―――!」
「ほら。それで良いんだろ? アイスよこせ」
「………いいのか?」

 あまりにも簡単に渡されたため、アンクは思わず聞き返してしまう。
 この殺し合いにおいてコアメダルは、セル五十枚分にもなる貴重な戦力だ。
 ソレをこうもあっさりと譲り渡す事が、グリードであるアンクには信じられなかった。
 だが杏子は、「気にすんな」と答えるだけだった。

「この殺し合いだとアタシらの能力は制限されちまっていて、能力を使うにはセルメダルが必要ときてる。
 んで、そのセルメダルは「欲望」を満たすことで増えんだろ?
 アタシにとっては、そんなメダル一枚よりもアイスの方が「欲望」を満たせるってだけさ」
「成程、納得の理由だな」

 確かにコアメダルでセル五十枚分以上の欲望を満たせれば、ただのアイスだろうと釣り合いは取れるだろう。
 そうなってしまえばグリード以外にとってコアメダルの利点は、回復すれば繰り返し使えるという点だけだ。

「よし、ならお前には十本くれてやる」

 杏子の理由に納得したアンクは、彼的には奮発してアイスキャンディーを譲り渡す。
 彼にとって鳥類系のコアメダルはそれほどの価値があったのだ。
 それに杏子の欲望を満たせば、その分制限に余裕が出来る。
 お互いに得な取引である以上、躊躇う理由はない。

「お、ラッキー。ありがたく頂くぜ」

 アイスを受け取った杏子は、早速一袋目を開けて食べ始める。
 そんな杏子を、弥子は羨ましそうな眼差しで見つめていた。

「いいなぁ」
「お前も欲しかったら、なんかよこせ」
「何かって言われても……」

 アンクに言われて弥子はデイバックを漁るが、彼の役に立ちそうな物はない。
 彼女に支給された物は、一つ目は魔界の瘴気が詰まっているらしい、黒いもやもやの見える瓶。
 魔界と聞いて思い浮かぶのはネウロの事だが、アンクには何の役にも立たないだろう。
 二つ目は、点眼薬容器に入った試薬。
 これは血液や老廃物から他者を識別できるらしいが、今一つ使えそうにない。
 最後の一つは、ケータッチというよく解らない端末だ。
 仮面ライダーディケイドを強化変身させる装置らしいが、そもそも仮面ライダーがわからない。

 だからと言ってアイスを諦める事は出来ない。
 目の前でみんなが美味しそうに食べているのに、自分だけ食べれないなんて我慢できない。
 なので。

「どうぞ、これをお納めくださいませ」

 ケータッチに、セルメダル十枚を上乗せして進呈する。
 自分にはよく解らない物でも、アンクなら何か知っているかもしれないと判断したのだ。
 それに対してアンクはそれを受け取り、ケータッチのメモを読むと、

68 ◆ZZpT6sPS6s:2012/07/09(月) 12:03:03 ID:84oYNanY0

「まあ、セルメダルに免じて一本くれてやろう」
「一本………」

 杏子の時とは段違いの扱いに、心底落ち込みながらも開封する。
 一本だけであろうとアイスキャンディーはアイスキャンディーだ。
 芯となっている棒まで、大事に、美味しく頂く事にする。

「それじゃあ、さっさと情報交換を始めるぞ」

 そんな弥子を尻目に、アンクはそう声をかける。
 杏子の治療を優先したため、まだ情報交換が出来ていなかったのだ。

「あいよっと」
「アイス、おいしい……」

 杏子はそれに応じるが、弥子はアイスの感想を述べる。
 はたして聞いているのかいないのか。
 とにかく彼等は、アイスを片手にお互いの情報交換を始めたのだった。


【一日目-午後】
【D-3/ZECT基地】

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】赤
【状態】ダメージ(大:応急処置済み)、疲労(小)、全身に殴られた跡
【首輪】80枚(増加中):0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、アイスキャンディー×9本、不明支給品1〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:???
 1.アンクや弥子と情報交換する。
 2.主催者をぶっ倒して『愛と勇気が勝つストーリー』を達成するのも悪くない
 3.さやかが心配
【備考】
※剣崎を見て過去の自分を思い出しています


【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤
【状態】健康、迷い
【首輪】125枚(増加中):0枚
【コア】タカ:1、コンドル:1、カマキリ:1
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、大量のアイスキャンディー
【思考・状況】
基本:アンク(ロスト)を排除する。その後は……?
 0.こんなに早くコアメダルが手に入ったのは幸運だな。
 1.杏子、弥子と情報交換する。
 2.アンク(ロスト)を排除するためにも今は戦力を集めることに集中する
 3.アイス以外の交渉材料を探す。
 4.映司は――――。
【備考】
※カザリ消滅後〜映司との決闘からの参戦


【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青
【状態】健康、精神的疲労(中)、迷い
【首輪】100枚(増加中):0枚
【装備】桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.アイスキャンディー、美味しい……。
 1.アンク、杏子と情報交換する。
 2.ネウロに会いたい。
【備考】
※第47話 神【かみ】終了直後からの参戦です


【魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ】
桂木弥子に支給。
魔界の瘴気が深呼吸一回分詰まった瓶。
人間にとっては猛毒だが、魔人である脳噛ネウロにとっては酸素に等しいモノ。

【ケータッチ@仮面ライダーディケイド】
桂木弥子に支給。
仮面ライダーディケイド専用のタッチパネル式携帯端末。
付属のコンプリートカードを挿入しディケイドライバーに装着することで、コンプリートフォームへと強化変身出来る。

【衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero】
桂木弥子に支給。
衛宮切嗣の使用する、点眼薬容器で持ち運ばれている試薬の一つ。
サキュバスの愛液を基剤として精製されており、とりわけ男性の血液や老廃物について反応し、詳細な識別を可能にする。

69 ◆ZZpT6sPS6s:2012/07/09(月) 12:05:09 ID:84oYNanY0
以上で、投下を終了します。
タイトルは 求【さがしもの】 です。

何か意見や、修正すべき点などがありましたらお願いします。

70名無しさん:2012/07/09(月) 12:10:56 ID:7Ufcz9IwO
投下乙です!
うわぁ……おじさんは早速誤解してしまったかw そのバーナビーはジェイクだって気付いて!
一方でアンク達は装備が充実してきたけど……これからどうなるかな

71名無しさん:2012/07/09(月) 12:24:07 ID:WC8mdnEU0
投下乙です

例の誤報はおじさんの方に行っちゃったか
そいつは偽物なんだよ。早く気が付いて
アンクらは順調に情報交換だが周りの状況は刻々と動いているぞ
アンクがいるだけで揉めそうだが大丈夫か?

72名無しさん:2012/07/09(月) 12:33:27 ID:bpUOVvsU0
投下乙。
早速情報が出回ったか。
これからどうなることやら
その一方でアンク達のなごやかというかのんきなやりとりに笑ったw
何この状況でアイスの取引とかしてんだw

73名無しさん:2012/07/09(月) 22:00:16 ID:jjTTPWukO
投下乙です。
揺さぶられつつも信じるという結論を出す辺り、流石バニーのパートナーというべきか
…その分クリスティーナの方が疑惑向けられて残念な状態だけど
一方アンク組はひとまず安全か。しかしアイスの有能さが凄いw

74名無しさん:2012/07/10(火) 00:51:51 ID:QEh99IdgO
投下乙です!もうアンク組っていうかアイス組だなw

75 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/12(木) 04:17:46 ID:CYy80mhI0
投下します。

76 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/12(木) 04:18:51 ID:CYy80mhI0
 それでも二人の少女は次第に傾き出した太陽を指す針に従って歩く。
「おねぇちゃん、疲れない?」
「カオスさんは疲れましたの?」
「ううん」
 第二世代のエンジェロイドはそんなヤワな身体をしていない。
 カオスが心配したのは、怪我をしているのに休みもせずに歩き続ける仁美のことだ。
 誰だって怪我をすれば痛いし、疲れる筈だ。仁美が辛い思いをすると思うと、カオスも痛くなる。
 果たして、それが愛という感情なのだろうか。
 幼いカオスにはいまだ愛が何なのか分からない。
 でも、少なくとも握り締めた仁美の手を離したくはない。
 出来得るなら、このままずっと一緒にこうして歩いていたいと思う。
「ねぇ、おねぇちゃん。これが愛なのかな」
「あら、カオスさんはもう自分の愛を見付けましたの?」
「う〜ん……わかんないけど、おねぇちゃんとはずっと一緒にいたいな」
「あらあら、随分と嬉しい事を言ってくれますのね」
 そう言って仁美はクスリと微笑んだ。
 その笑顔を見れるのが嬉しくて、カオスも同じように笑った。
 難しく考え過ぎていただけで、愛は意外と簡単なものなのかもしれないと思った。

       ○○○

 稀代の放火魔、大犯罪者たる葛西善二郎にも休息は必要だ。
 話の通じる人間との合流を求めて街を彷徨ったが、一向に誰とも出会いはしない。
 歩いて得られるのは何の得にもならない疲労感と徒労感だけだ。
 一旦休憩でも取ろうと思った葛西は、一見人の寄りつかなさそうな地味な家屋に入った。
「生存優先っつってもこうも誰とも会えないんじゃ、おじさん寂しくなっちまうぜ」
 二階の窓から閑散とした街を眺めながら、心にもない呟きを漏らす葛西。
 畳の床に乖離剣を突き刺して、愛用の絶版煙草に火を付ける。
 当分はここから動くつもりもなかった。
 しかし、暫しの休憩の間に聞こえてきたのは、二人の少女の話声。
 一体何事かと窓から外を見遣る。
「あの時のガキじゃねーか……!」
 そこに居たシスター服の少女に見覚えのあった葛西は、思わず絶句した。
 人外のバケモノと戦うのが嫌だからわざわざ離脱してきたというのに。
 奴ら、一体どんな魔法を使ったのかこの場所をピンポイントに見抜いて追い掛けてきやがった。
「これはおじさん、いきなりヤバいんじゃねーのか」
 今から逃げ出そうにも、奴らもうこの家屋の玄関にまで入って来てやがる。
 最早間違いない。奴らは葛西が此処に居る事に気付いている。逃げ場はない。
「……しゃーねぇ、こうなったらやるしかねーか」
 そう呟くいて、葛西は火火火(ヒヒヒ)と笑った。
 生きるか死ぬかを賭けた戦いに挑む覚悟を決めたのだ。

77 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/12(木) 04:20:04 ID:CYy80mhI0
少し抜けたのでもう一度投下し直します……すみません……

78 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/12(木) 04:20:37 ID:CYy80mhI0
 魔力針の指し示す方角は絶えず変動していた。
 南へ向かっていたかと思えば、緩やかに西へと変わっていく。
 歩けども歩けども魔力の針が指し示すものに出会う気配はない。
 それでも二人の少女は次第に傾き出した太陽を指す針に従って歩く。
「おねぇちゃん、疲れない?」
「カオスさんは疲れましたの?」
「ううん」
 第二世代のエンジェロイドはそんなヤワな身体をしていない。
 カオスが心配したのは、怪我をしているのに休みもせずに歩き続ける仁美のことだ。
 誰だって怪我をすれば痛いし、疲れる筈だ。仁美が辛い思いをすると思うと、カオスも痛くなる。
 果たして、それが愛という感情なのだろうか。
 幼いカオスにはいまだ愛が何なのか分からない。
 でも、少なくとも握り締めた仁美の手を離したくはない。
 出来得るなら、このままずっと一緒にこうして歩いていたいと思う。
「ねぇ、おねぇちゃん。これが愛なのかな」
「あら、カオスさんはもう自分の愛を見付けましたの?」
「う〜ん……わかんないけど、おねぇちゃんとはずっと一緒にいたいな」
「あらあら、随分と嬉しい事を言ってくれますのね」
 そう言って仁美はクスリと微笑んだ。
 その笑顔を見れるのが嬉しくて、カオスも同じように笑った。
 難しく考え過ぎていただけで、愛は意外と簡単なものなのかもしれないと思った。

       ○○○

 稀代の放火魔、大犯罪者たる葛西善二郎にも休息は必要だ。
 話の通じる人間との合流を求めて街を彷徨ったが、一向に誰とも出会いはしない。
 歩いて得られるのは何の得にもならない疲労感と徒労感だけだ。
 一旦休憩でも取ろうと思った葛西は、一見人の寄りつかなさそうな地味な家屋に入った。
「生存優先っつってもこうも誰とも会えないんじゃ、おじさん寂しくなっちまうぜ」
 二階の窓から閑散とした街を眺めながら、心にもない呟きを漏らす葛西。
 畳の床に乖離剣を突き刺して、愛用の絶版煙草に火を付ける。
 当分はここから動くつもりもなかった。
 しかし、暫しの休憩の間に聞こえてきたのは、二人の少女の話声。
 一体何事かと窓から外を見遣る。
「あの時のガキじゃねーか……!」
 そこに居たシスター服の少女に見覚えのあった葛西は、思わず絶句した。
 人外のバケモノと戦うのが嫌だからわざわざ離脱してきたというのに。
 奴ら、一体どんな魔法を使ったのかこの場所をピンポイントに見抜いて追い掛けてきやがった。
「これはおじさん、いきなりヤバいんじゃねーのか」
 今から逃げ出そうにも、奴らもうこの家屋の玄関にまで入って来てやがる。
 最早間違いない。奴らは葛西が此処に居る事に気付いている。逃げ場はない。
「……しゃーねぇ、こうなったらやるしかねーか」
 そう呟くいて、葛西は火火火(ヒヒヒ)と笑った。
 生きるか死ぬかを賭けた戦いに挑む覚悟を決めたのだ。

79愛の炎 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/12(木) 04:21:45 ID:CYy80mhI0
 
       ○○○

 魔力針が指示した家屋に入ると、すぐに人が居る事が分かった。
 土足で家に入ったのだろう。靴の跡がフローリングの床に黒くこびり付いている。
 仁美に手を引かれるままに、カオスは二階へと続く階段をゆっくりと登り、その先の一室で一人の男と出会った。
 黒い野球帽を深く被った、赤いコートの中年男である。
 こういう時、率先して自己紹介を行ってくれるのは決まって仁美だ。
 彼女の方が口が回るし、武術の心得を持った彼女が不意打ちを食らう事もない。
 そういう面でも、カオスは仁美を信頼しているのだった。
「初めまして、私は志筑仁美と申します。こちらはカオスさんです」
「ご丁寧にどうも。こりゃあおじさんも名乗った方がいいのかな?」
「ええ、宜しければお名前を教えて下さると助かります」
「火火ッ……じゃあ俺の事は火野映司とでも呼んでくれ」
「火野さんですね、よろしくお願いします」
 仁美とは違って、気品の欠片も感じさせない笑み。
 カオスは火野に良い印象を抱かなかったが、こういう話し合いは仁美に任せる手筈になっている。
 彼女を信じているからこそ、カオスは余計な手出し口出しをしない。
「実は私たち、とある催し事の招待客を募っておりますの」
「ほぉ、そりゃ気になるねぇ。一体どんな催し事をやるつもりなんだ?」
「魂の解放された素晴らしい世界へ旅立つ為の儀式ですわ」
「火火ッ、そいつぁいい考えだ」
 火野が下卑た笑いを浮かべる。
 この男が本当に仁美の考えを理解しているのか、甚だ疑問である。
「火野さんはこの崇高な考えを理解してくれますのね、嬉しいですわ!」
「おっと、だがその前に、だ。その方法にもよるぜ」
「と、言いますと……魂の解放された世界へ旅立つ為の方法、ですか?」
「そうそう、一体どうやってその世界に旅立つのか、おじさんに教えてくれよ?」
 問われた仁美は、快く了承するとデイパックから二本のボトルを取り出した。
 混ぜるな危険、と書かれた洗剤だ。
 それでどうやって魂の解放された世界へ旅立つのかはカオスにも分からない。
 ボトルに入った液体をみんなで一緒に飲むのか。それとも浴びるのか。
 まさか洗剤同士を混ぜ合わせる事で発生する有毒ガスで、などと思いもよるまい。
 交渉に混じれず暇を持て余すカオスは、そんな下らない事に意識を逸らしていた。
 そしてそれを、すぐに後悔する事になる。
「これを使っ」
「悪ぃな、じゃあ遠慮しとくぜ」
 言い終えるまでもなく仁美が手にしていたボトルが弾け飛んだ。
 派手な破裂音の次に聞こえたのは、ごうと燃え盛る炎の音だ。
 最初、カオスには何が起こったのか分からなかった。
 仁美の手が真っ赤な炎に包まれて、弾けるように灼熱がその身を包んだ。
「火――」
 それは熱を感じた仁美の断末魔の一声だったのか。
 それとも痛みすら感じる間もなく、ただ「火」と呟いただけだったのか。
 カオスの眼に映る仁美は、最早それ以上の言葉を口にする事なく火達磨と化した。
 数秒の間を置いて、ようやくそれを認識したカオスは。
「あ……あ、ああぁあぁああ、ああああああぁぁああぁあああああああああッ!」
 絶叫。急いで仁美の身体を包む火を消そうとするが、消火に使えそうなものなど何もない。
 力の限り手で仰ぎ叩く。無駄だ、カオスの手が熱くなるだけ。
 思い切り息を吹きかけてみる。これも駄目だ、火の手は強まるばかり。
 その大きな眼に涙を一杯に浮かべて、カオスは大好きな仁美を何とか助けようとする。
 そんなカオスを見かねた火野が、そっとカオスの傍らに立った。
「火火火ッ……悪い、ちょっとどいてくれよ」
 そう言ってカオスを押し退けると、懐から取り出した一本の煙草を、燃え盛る仁美の身体にそっと近付ける。
 火野の煙草に、ぼっ、と火が点いた。
「今から火死で消火すりゃあ、もしかしたら助かるかもなぁ?火火ッ」
 そう言って、仁美が落としたデイパックを拾い上げて立ち去っていく。
 下卑た笑いを浮かべながら部屋を出ていく火野が憎かった。
 しかし、今はそんな事を言っている場合ではない。
 何が何でも、仁美だけは助けなければならない。
 例え他の全てをなげうってでも。
「おねぇちゃん、今助けるから! だから死なないで、おねぇ」
 カオスの言葉は最後まで紡がれはしない。
 灼熱の炎がこの部屋の酸素を残らず焼き尽くした。
 カオスの肌が灼熱を感じたその刹那に、この部屋の全てが燃え尽きた。
 火野が最後に残した贈り物――炎による大爆発、である。

       ○○○

80愛の炎 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/12(木) 04:22:37 ID:CYy80mhI0
 
「こっちははなからまともに相手する気なんざねぇんだよ……火火ッ」
 燃え盛る家屋を背に、葛西は今は絶版となった煙草を吸いながら独りごちた。
 大犯罪者にして五本指の一人たる葛西善二郎は、数々の犯罪者を見て来た。
 だからこそ分かる。仁美とかいう女の眼はイカれていた。まともじゃない。
 あの手合いとの間にまともな会話などは成立しない。
 名前も適当に名簿で気になっていた奴の名を名乗っておけばそれで十分だ。
 隙あらば燃やして逃げる。もしくは逃げてから燃やす。
 最初からそれだけを葛西は考えていたのだ。
「まあ、あそこまで隙だらけとは思わなかったけどなぁ」
 突然の敵襲への備えもあったのかも知れないが、放火の天才を前に正攻法の防衛策などは無意味。
 なれば、甘っちょろいガキ一人を燃やす事など葛西にとっては造作もない。
 おまけに引火性の洗剤まで手にしていたのだから、まさにお誂え向きだった。
 火の支配者に引火性の物品を差し出すなど燃やして下さいと言っているようなものだ。
 そうして仁美を焼いた後は、思いのほか取り乱しているカオスに適当な事を吹き込んでおいた。
 あそこまで火達磨にされて助かる人間など居るワケもなかろうに、カオスは葛西の言葉を信じて火を消そうと必死になっていやがったのである。とんだお笑い種だ。
 あとは立ち去り際に部屋を丸ごと焼いて逃げるだけ、意外と簡単な事だった。
「つっても、あのバケモンがあの程度で死んでるとは思えねぇ」
 ならば葛西の取れる行動は至って単純、逃げるが勝ちだ。
 あのバケモノが怒りに任せて暴れ出す前に、自分は出来るだけ遠くへ逃げるとしよう。
 第一目標は生き延びる事。葛西はやや駆け足で戦場から離脱するのだった。


【一日目-夕方】
【D-3/市街地】

【葛西善二郎@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】赤
【状態】健康
【首輪】所持メダル190(増加中):貯蓄メダル0
【コア】ゴリラ×1
【装備】乖離剣エア、炎の燃料(残量85%)
【道具】基本支給品一式×3、愛用の煙草「じOKER」×十カートン+マッチ五箱@魔人探偵脳噛ネウロ、スタングレネード×九個@現実、《剥離剤(リムーバー)》@インフィニット・ストラトス、ランダム支給品1〜5(仁美+キャスター)
【思考・状況】
基本:人間として生き延びる。そのために自陣営の勝利も視野に入れて逃げもするし殺しもする。
 1.カオスが動き出す前にとっとと逃げる。
 2.殺せる連中は殺せるうちに殺しておくか。
 3.鴻上ファウンデーション、ライドベンダー、ね。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※ライダースーツの男(後藤慎太郎)の名前を知りません。
※シックスの関与もあると考えています。
※「生き延びること」が欲望であるため、生存に繋がる行動(強力な武器を手に入れる、敵対者を減らす等)をとる度にメダルが増加していきます。

       ○○○

81愛の炎 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/12(木) 04:23:21 ID:CYy80mhI0
 
「おねぇちゃん……おねぇちゃん、おねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃんおねぇちゃん―――――!」
 呼べども呼べども、彼の者は応えず。
 よほど高熱だったのか、火はすぐに全てを燃やし尽くした。
 第二世代のエンジェロイドであるカオスが、ただの火如きでダメージを負う事はない。
 けれども、この場にあったカオス以外の万物はそうはいかない。
 カオスの眼前に転がる無数の消し炭の、一体どれが仁美だったのかはもう分からない。
 仁美に貰った上履きすらも、あの爆発が焼き尽くしてしまった。
 残ったのは、セルメダルの放出を終えた仁美の首輪とだけだ。
「痛い、痛いよ、動力炉が、痛いよぉ……!」
 仁美の首に巻かれていた円環を握り締めての慟哭。
 動力炉が張り裂けそうな程に痛い。
 涙が止まらない。
 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
「痛いよぉっ! おねぇちゃぁんっっ!!!」
 ひとしきり泣き叫んだあと、カオスはようやっと気がついた。
「これが……これが愛なの? おねぇちゃん?」
 この、胸をつんざく苛烈な痛みこそが愛なのか。
 傍に居られれば暖かいが、離れると痛いとは、こういう事なのか。
 考えてみれば、仁美の言葉にも、イカロスの言葉にも合致する。
 そして、そんな痛みと同時に湧き上がるどす黒い感情。

 大好きなおねえちゃんを焼き殺した火野のおじさんを――――――

「どう、するの……?」
 殺す? 火野のおじさんがしたのと同じように、殺す?
 それが火野のおじさんなりの「愛」だというのなら、それも悪くない?
 それとも、食べる? 井坂のおじさんが言っていたように、食べて自分の糧に変える?
 そうすれば、井坂のおじさんが言っていた愛にも合致するのではないか?
「みんな、みんな愛なの? 愛してるから、こんなことしたの?」
 だったら、それが。
「愛、なんだ……!」
 なれば、それをもっと多くの人間に与えてあげよう。
 これが心地よいというのなら、何処までも愛し尽くしてあげよう。
 眼に映る何もかもを殺(アイ)して、殺(アイ)して、殺(アイ)し尽くそう。
 そして全部食べて、自分の力にする。それがカオスが見付けた「愛」だった。
「おねぇちゃん……見付けたよ、私のアイのかたち!」
 涙はもう乾いていた。
 今はもういない仁美に、この愛を捧げよう。
 新たな目的を懐いたカオスは、壊れたように嗤っていた。


【志筑仁美@魔法少女まどか☆マギカ 死亡】


【一日目-夕方】
【D-3/燃え尽きた家屋跡地】

【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】身体ダメージ(小)、精神ダメージ(大)、火野への憎しみ(極大)、成長中、服が殆ど焼けている(ほぼ全裸)
【首輪】300枚:90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
基本:みんなを愛してあげる。
 1.痛くして、殺して、食べるのが愛!
 2.火野映司(葛西善二郎)は目一杯愛してあげる。
 3.おじさん(井坂)の「愛」は食べる事。
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より落ちています。
※至郎田正影を吸収しました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。
 今後どんなペースで成長していくかは、後続の書き手さんにお任せします。
※ウェザーメモリを吸収しました。
※ほぼ全裸に近いですが胸部分と股部分は装甲で隠れているので見えません。
※仁美のセルメダルはカオスの首輪へ吸収されました。
※憎しみという感情を理解していません。

【全体備考】
※D-3の家屋が一軒焼き尽くされ崩れ落ちました。
※カオスの支給品一式、魔力針、上履きは焼き尽くされました。
※トライアルメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜4(カオス+至郎田)が燃え尽きた家屋跡地(カオスの足元)に放置されていますが、
 ランダム支給品は上限四つのうち幾つが原形を留めているかは不明(全て焼き尽くされているかもしれません)。

82名無しさん:2012/07/12(木) 04:30:43 ID:CYy80mhI0
ここまでです。
何分初めてなもので、もしも至らない点がありましたらご指摘の程よろしくお願いいたします。

83名無しさん:2012/07/12(木) 05:43:39 ID:QFf5R3Vk0
ああカオス・・・
やっぱこうなったか

84名無しさん:2012/07/12(木) 18:04:00 ID:.l9Qojk.0
投下乙。
仁美…まさかここで死ぬとは。
一般人だってのに大活躍だったな、いろんな意味でw

しかし、仁美に死なれたカオスが切ない…
完全に無差別マーダーと化してるが、なんか応援したくなってきた

85名無しさん:2012/07/12(木) 18:04:45 ID:uPyHj4loO
投下乙です。
仏の顔も三度まで……っていうか正気じゃない一般人がこうもキチガイにばっか遭遇して何で今まで生き残れてたんだろうw

86名無しさん:2012/07/12(木) 18:22:35 ID:o/vNIQlM0
投下乙でした!

おお…もう…

旦那に先生に龍ちゃんに…
数々の危険人物に出会いつつただ生き残るだけじゃなく彼等以上のマジキチっぷりを発揮してきた仁美もついに退場か
なまじ良い関係が築けてただけにカオスの今後が怖いなぁ…

そしてまた新たな誤解フラグがw

87名無しさん:2012/07/12(木) 20:27:56 ID:N.h9.iBI0
投下乙です

ここで脱落か。立ち直ったさやかとの再戦も期待してたが…仕方ないか
旦那を撃墜しただけでも大金星だけどなw
カオスは今後が怖いぜ

88名無しさん:2012/07/14(土) 14:42:11 ID:cHMl6TKg0
予約来てるなあ
Xはアイス組に行くのか

89 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:02:35 ID:Yfdc7TLQ0
感想ありがとうございます!
完成しましたので、投下します。

90 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:05:37 ID:Yfdc7TLQ0
「なあ、アイスもっとくれよ」
「ふざけるな、もう十本やっただろ。何本食う気だ」
「そーだそーだ、私なんて一本しか貰ってないのに!」
「ケチケチすんなよ、魔法少女の情報教えてやったろ」
「ハンッ、俺だってグリードの情報をくれてやった」
「私だってXのこととか色々情報教えたじゃない!」

       ○○○

「……お前らはアイスの事しか考えてないのか」
 二人から浴びせられる物欲まみれの視線に、アンクは苛立ち半分で応えた。
 情報交換が捗るのは結構な事だが、話の主軸に添えられているのは終始アイスだ。
 やれ魔法少女の仕組みを教えてやったからアイスをよこせだの、やれネウロやXの情報を教えてやったからアイスをよこせだのと。
 そんな呑気な事を言っている場合ではない筈なのに、こいつらにはまるで緊迫感がない。
 こんなことで今後激化するであろう戦いを生き抜いていけるのか些か疑問である。
「ったく、ここもいつまで安全か分かったもんじゃないってのに」
 そう悪態を吐くのはチームの頭脳、アンク。
 二人は理解しているのか知らないが、今はそれ程余裕のある状況ではない。
 此処へ来た当初にも考えた事だが、この場所は地図にも記された施設だ。
 ということは、近くを通り掛かった参加者が此処へ立ち寄らない道理はない。
 いちおう、地上から現在地の地下フロアに至るまでに存在する基地のドアは全て内側からロックしておいたが、だからといって安全とは限らない。
 むしろ、実質的にここは袋小路でもあるのだ。
 こんな場所であの黒騎士のような強敵に攻め入られれば容易く全滅するおそれすらある。
 必要最低限の手当てと情報交換を終えたのならば、とっとと移動してしまいたいところだった。
「オイ、もうそろそろ行くぞ」
「え? 行くって、どこに?」
 突然立ち上がったアンクを引き止めたのは、弥子だった。
「見滝原だ。杏子と同じ魔法少女連中はそこに向かうだろ」
「ああ、ほむらやさやかも多分、見滝原に向かうだろうさ」
「……そういうことだ」
 くいと立てた親指で補足してくれた杏子を指差しながら弥子を見下ろすアンク。
「ちょっと待ってよ、私としてはネウロとも合流したいんだけど」
「お前の話を聞く限りじゃそのネウロって奴が大人しく探偵事務所に戻るとは思えないんだよ」
 アンクの言葉に、弥子はぐうの音も出まいと頷いた。
 ネウロは戦力としては十二分に頼りになるらしいが、滅茶苦茶な男であると聞く。
 謎を食う為とは言うが、その行動原理は弥子すらも理解出来てはいない。
 弥子が理解出来ない話を、会った事もないアンクが理解出来る訳もない。
 そんな不確定要素に頼って行動するくらいなら、戦力になる事がほぼ確定している杏子の仲間に頼った方が幾らかマシだ。
 尤も、杏子いわく素直に仲間と呼べる存在ではないらしいが。
「ま、まぁ……一箇所にあまり留まり過ぎない方がいいっていうのは分かるから、私も移動には賛成するよ」
「つっても、もう随分と長時間の休憩をとっちまってるけどな」
「お前らがもっとスムーズに情報交換してればこうはならなかったんだよ!」
 何処か呑気に備え付けのデジタル時計を眺める杏子に、アンクは吐き捨てるように怒鳴った。
 時刻を見るに、この場所での休憩は既に一時間以上に達しようとしている。
 何も急いでいる訳ではないが、どうにも時間を無駄にしすぎた感が否めない。
 どうしてこうなったと、片側に寄せた金の髪の毛を手でくしゃくしゃにしながら、アンクは面白くなさそうに舌打ちした。
「――オイ、ちょっと待て」
 そこで、不審に気付いたアンクはぴたりと動きを止めた。
 物音が聞こえる。地下に存在するこの基地からみて――上のフロアでだ。
 破壊音だろうか。轟音と共に、何かが壊される音が基地の内部へと響いていた。

91折れない剣 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:06:20 ID:Yfdc7TLQ0
「……マズイ、此処が誰かに気付かれたぞ」
「何ならあたしが様子を見に行こうか?」
 杏子の提案。
 しかし、即答は出来ない。
 戦力的にも杏子が迎撃に向かうのがもっとも適当だというのは分かる。
 だが、訪れた相手がもしもあの黒騎士のような強者だったら?
 その時は、杏子という貴重な戦力をみすみす失う事になるのだ。
 アンクとしては、それは避けたかった。
「相手があの黒騎士みたいなバケモンだったらどうすんだ」
「あんまナメんなよ、あたしだって基地から引き離すくらいは出来るさ。
 お前ら二人はその隙にとっとと逃げりゃいい、目的地は見滝原だろ?」
「……お前はどうする?」
 嫌な予感がしたアンクは、その提案を訝る。
 よもや映司や剣崎のように、自分を犠牲にするつもりではあるまいな。
 ハッキリ言って、頼んでもいないのに恩着せがましく死なれるのはこの上なく心地が悪いのでやめて欲しい。
「適当なとこで離脱するさ。そっから見滝原に向かう、それでいいだろ?」
 暫し杏子の瞳を覗き込み眇めるアンク。
 杏子の瞳に宿った強い意思の光に気付けぬアンクではない。
 映司と似た眼光の杏子はおそらく言ったところで聞かないのだろう。
「……チッ、なら六時に見滝原中学校で待ち合わせだ、いいな?」
「ああ、構わねーよ」
 それはおりしも、杏子がアンクから貰った最後のアイスキャンディーの最後の一本を食べ終わった頃だった。
 これで随分と体力も補充出来た、などと戯言を言いながら、杏子はドアへ向かって行く。
 このまま見送ろうとするアンクらへとふいに振り返った杏子は、不敵に笑って言った。
「オイオイ、そんな心配そうな顔すんなよ、まだ敵って決まった訳じゃないんだからさ。
 それに、もし敵だったとしてもあたしは負けねーよ。負けられねー理由が出来ちまったからさぁ」
「……馬鹿が、誰も心配なんてしてない」
 思わず目線を逸らし無愛想に吐き捨てるアンク。
「ああそーかよ」
 そう言うと、何がおかしいのか杏子は薄く笑った。
 状況に似合わない、何処か余裕すら感じ取れる不敵な笑み。
 それが気に入らないアンクは、何度目になるか分からない舌打ちをした。

       ○○○

 アンクと共に剣崎一真に救われたあの時から、杏子はずっと考えていた。
 剣崎の勇姿はかつての自分そのもので、そしてさやかが目指す姿でもある。
 それすなわち、どんな時でも愛と勇気が最後に勝つと信じて戦う正義の味方の姿。
 さやかと関わって、剣崎の最期を見て、杏子は最初に懐いた決意を思い出していた。
「――ったく、らしくねーよなぁ。今更いい子ちゃんぶるなんてさ」
 孤高を貫き、目的の為ならば誰であろうと蹴落としてきた自分が今や正義の味方気取り。
 都合が良すぎるとは自分でも思う。自分が見殺しにしてきた一般人はもう帰って来ないのだから。
 だが、もう迷いはない。
 剣崎が命を賭して伝えてくれた想いが、杏子を強く突き動かす。
 だから負ける気はしない。何としても生き抜いて、そしてもう一度さやかと会うのだ。
 そして、今度こそさやかに伝えたい事が――
「おっと、考え事はここまでか」
 そこで考え事は一時中断、脚を止める杏子。
 何層目かのドアを開け放った時、杏子の前に佇立しているのは一人の少年だった。
 少年の背後のドアは鋭利な刃で切り裂かれ、そこから無理矢理にこじ開けられている。
 手にした大剣による切れ味もさることながら、それをこじ開ける怪力も尋常ではない。
 黒髪の少年が纏ったマントは汚れ裂けている。
 それはまさしく戦闘の傷跡。不穏な空気を肌で感じる。
「……随分と派手なご登場だな、目的はあたしらを殺すことかい?」
「いや、人が居るとは思わなかったんだ、驚かせたなら謝るぜ。
 俺の名は織斑一夏ってんだ、あんたは? 殺し合いに乗ってるのか?」
「あたしの名前は佐倉杏子。殺し合いには乗ってない」
 やや気の抜けた少年――織斑一夏の言葉に、杏子の警戒心が僅かに薄れる。

92折れない剣 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:07:18 ID:Yfdc7TLQ0
 こんな身なりをしていながら、こいつは殺し合いに乗っていないのか?
 いや、奴の気配はどう考えたってまともじゃない。油断は禁物だ。
「オイ、誰も居なけりゃドアをブッ潰してもいいとでも思ってんのか?
 だとしたら、あたしが言うのも何だが育ちが悪過ぎるんじゃねーか」
「ああ、悪い悪い。ちょっとこの剣の切れ味も確かめてみたかったんだ」
 一夏はそう言って黄金と紫紺の剣を杏子に見せる。
 豪壮な造りのその剣を、杏子は知っていた。
「テメー……その剣を何処で手に入れた!?」
「ん、これか? 拾ったんだけど。この剣を使ってた奴を知ってるのか?」
「ああ、よく知ってるよ……どうしようもない馬鹿男だったからね、その剣の持ち主は」
 勝手な正義を押し付けて、命と引き換えに杏子らを救ってくれた剣崎一真。
 奴はどうしようもない馬鹿だったが、そんな剣崎を侮辱する気にはならない。
 願わくば、その剣を手にして戦う者もまた正義の為に戦っていて欲しいとすら思う。
 あの金の大剣は、愛と勇気を踏み躙る悪が持っていていい代物ではないのだから。
「なぁ、その男のこと、もっとよく教えてくれよ」
「教えることなんて何もねーよ……あいつは、剣崎のヤローは、もう死んじまったんだ」
「……そっか、剣崎っていうのか」
 一夏は軽く剣を掲げて、その刀身を眇め見る。
 それから剣と杏子を交互に見比べ、言った。
「この剣のことは何となくわかった。で、あんたはこれから何をしようとしてたんだ?」
「それはこっちの台詞だろーが、いきなりやってきたのはテメーだ」
「ははっ、それもそうか」
 一夏はさもおかしそうに笑うと、見透かしたように言った。
「大方、剣崎って奴の命と引き換えに救われたってところかな、あんた?」
「あァ? だったら何だってんだ」
「興味を持ったのさ」
「――ッ!!」
 瞬間、空気が変わった。
 戦場で慣れた杏子の肌を刺す鋭い殺気。
 反射的な行動か、杏子はすぐさま魔法少女の姿へと瞬転した。
 同時に虚空から現れた長槍を掴み取った杏子に、一夏は剣を突き付ける。
「へえ、あんたもただの人間じゃないのか、ここはやっぱり面白い奴だらけだ」
「テメー……やっぱり乗ってやがんのか、このふざけた殺し合いにッ!」
「よく誤解されるけど、俺は別に殺し合いに興味がある訳じゃないんだ。
 けど、これ程の剣を持つ男が命を賭けてまで救った人間に多少の興味はある」
 刹那、一夏の身体がひらりと舞った。
「だから、あんたの正体――なかみ――を見せてくれ」
 嬉々として叫ぶ一夏は、一気に加速し杏子に迫る。
 どうやら奴はやる気満々らしい。
 売られた喧嘩は買うのが佐倉杏子だ。
 握り締めていた長槍を振り回し分割させ、狭い通路内に蜘蛛の巣状に鎖の網を張る。
 杏子が得意とする戦法の一つだ。
 こうなっては直進はありえない。即座に着地した一夏を、刹那の内に杏子の槍が鞭のように絡め取った。
「ここじゃ狭すぎるだろ、表へ出な!」
 不敵に嘯いた杏子は、魔法の力で跳躍力を強化し地上目掛けて飛び上がった。
 一夏が破壊したドアを瞬く間に通過し、地上へ躍り出た杏子は槍で大きく弧を描き、
 絡め取った一夏の身体を基地の入口から出来る限り遠くへと放り投げた。
 あとは戦いながら奴を基地から引き離すだけだ。それでアンクらはここから脱出出来る。
 目的の一つはクリアされたも同然だった。
「さぁて。じゃ、その剣を返して貰おうかねぇ?」
「悪いけど、まだその気はないかな」
「ああそうかい……だったら奪い返してやるよ!
 覚悟しな一夏! テメーはここでブッ潰す!」
 分割したそれらを再び一本の槍へと変型させた杏子は、敵の名を叫び飛び上がった。

       ○○○

 ロストアンクの目的地は同陣営であるイカロスが飛び去って行った方向。
 彼女が向かったのは恐らく、この広大なフィールドの中心部の方角だろう。
 商店街を後にしたロストアンクは、ひとまずメダルの補充を目論んでイカロスとの合流を目指していたのだが。
「まさか、こんなところで会えるなんて」
 湧き上がる高揚を抑えられず独りごちる。
 ビルの物陰から標的に視線を送りながら、ガイアメモリのスイッチを押し込む。
 ――これから始まるのは、今の彼に考え得る最高に面白い茶番だ。
 奴が一体どんな顔をするのかが今から楽しみで、ロストアンクはにやりと口角を歪めるのだった。

       ○○○

93折れない剣 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:09:21 ID:Yfdc7TLQ0
 
 長槍と大剣によって繰り広げられる戦闘の最中、
 杏子は織斑一夏との最善の戦い方を模索していた。
 大剣を携えて勝負を挑んで来るのだから、一夏が得意とするのは恐らく近接戦闘。
 近〜中距離の戦闘を得意とする杏子がわざわざ相手の土俵で戦いをしてやる必要はない。
 分割させた槍の舞で、身を退いたまま一夏を近付けぬように撹乱する杏子。
「……にしてもアイツ、相当なやり手だね」
 一夏の耳には届かぬ程度の声音で、杏子は呟いた。
 高速で縦横無尽に空を突っ切る杏子の刃と、黄金の剣が幾度となく打ち合う。
 鋭角的な杏子の攻撃の軌道を全て読んで打ち払っているのだから大したものだ。
 何処まで奴の防御が続くのか、攻撃を仕掛ける度にその鋭さを増す杏子の攻撃。
 徐々に一夏の動きに余裕がなくなってくる。
 このまま押せば勝てると、そう思ったが。
「ククッ」
 一夏の口元が歪んだのを、杏子は見逃さなかった。
 杏子の攻撃を的確に回避し打ち払いながら、風に舞うマントの内側から、一丁の拳銃を取り出す一夏。
 右手は大剣、左手は拳銃。異なる武器の二刀流。
 が、本物の殺し合いの最中でそんな器用な真似が出来てたまるものか。そう思い構わず攻撃の手を強める杏子。
 鞭のようにしなって急迫する槍の穂先を一夏の剣が打ち払うったその刹那、一夏の拳銃が唸りを上げた。
 一発、二発、三発、四発、五発。
 剣を振り回しながら、奴は同時に五発もの銃弾を放ったのだ。
 放たれた弾丸は、どれも的確に槍を繋ぐ鎖の合間を縫って杏子に迫る。
「チィッ……!」
 あの攻防の真っただ中で、的を絞ることなど不可能と、そう思っていたのだ。
 中途半端な照準ならば、回避するまでもなく鎖によって阻まれる計算だったのだ。
 しかし一夏の弾丸は、的確に杏子を狙って走る。
 そして杏子に回避か防御かの二択を強要する。
 考えている時間はない。一夏の発砲の瞬間に、杏子もまた槍の軌道を変えた。
 弾丸が着弾するまでの一秒にも満たない間に、防御の姿勢を作った鎖が弾丸を弾いた。
 杏子を守るようにうねる鎖の舞が、五発の弾丸全てを打ち落とす。
 が、しかし。それら全てが、奴の思い通りだった。
「この時を待ってたんだ」
 攻撃の姿勢を崩した鎖の合間を縫って、今度は一夏が飛び込んでくる。
 今から攻撃に転じる? 駄目だ、もう間に合わない。
 一夏はもう杏子の間合いに飛び込み、大剣を振り上げている。
「だったら――!」
 出来れば近接戦はしたくなかったが、今はそんなことも言ってられまい。
 鞭のように宙をしなっていたそれらを即座に一本の長槍に変形させ、大剣目掛けて振り上げる。
 杏子の長槍と、一夏の大剣が激突して。
“――駄目だ、押し負けるッ!”
 そう判断するや否や、杏子の槍が容易く弾かれた。
 肩に感じる痺れ。跳ね上げられた杏子の槍に、大剣からの追撃が迫る。
 クロスレンジにおける身体の痺れは、どう考えたって致命的だ。
 杏子に反応の隙を許すことなく、大剣は槍をただの棒きれの如く切り裂いた。
 槍の穂先がくるくると宙を舞って、杏子の遥か後方の地面に突き刺さる。
「これで終わりだ」
 一夏からの死刑宣告。
 されど、魔法少女はこの程度で終わらない。
 突き出された大剣が、杏子を穿つその瞬間、杏子の身が二つに分裂した。
“ロッソ・ファンタズマ――!”
 思い出したくもないダサい技名を思わず心中で叫んでしまった事を悔いる。
 それはかつて巴マミとの修行の末に編み出した杏子の幻影魔法だった。
 二つに分裂し別れた杏子が、一夏の大剣を隔てて左右へ跳び上がる。
「分身……!? へぇ、そんな事も出来るのかッ!!」
 嬉々として叫ぶ一夏だが、これ以上遊んでやるつもりもない。
 瞬時に再生成した槍を構え、左右から一夏を挟撃する。
「ホントはあんま使いたくなかったんだけどさァ――!」
 が、そうも言ってられまい。形振りを構って居られる状況でもない。
 魔力を帯びた二方向からの刺突攻撃を、後方へ跳び退る事で回避する一夏。
 ――しかし、それで回避出来たと思っているなら甘い。
 この技を見せたからには、ここで確実にコイツの息の根を止めてみせる心算だ。
「分身が二人だって誰が決めたッ!」
「なっ……!?」
 一夏が飛び退った後方の方角から、三人目、四人目の杏子が躍り出た。
 二人の杏子が一夏の着地点を仕留めようと槍を鞭のようにしならせる。

94折れない剣 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:10:20 ID:Yfdc7TLQ0
 空中で華麗に舞い、杏子の二連の槍攻撃を回避した一夏は、その大剣で襲い来る槍の穂先を弾くが。
「そんなんで追い付けると思うなよ!」
 先程の二人の杏子が。更に左右から、五人目、六人目の杏子が飛び出した。
 上空で槍を大きく旋回させながら、眼下の一夏へと急迫する杏子。
 これには流石の一夏の顔にも焦りの色が見えた。
「終わらせてやるよ、これで!」
 分身の数を増やせば増やす程、首輪内のセルメダルが減少してゆくのが分かる。
 長期戦には向かない。短期決戦で決める必要があった。
 次の瞬間、一夏に殺到したのは総勢六人の杏子による一斉攻撃。
 ある者は鞭さながらの槍の舞いを披露し、ある者は両手で携えた槍で突撃する。
“避けれるモンなら避けてみろ!”
 杏子には絶対の自信があったのだが――しかし、一夏も只者ではない。
 縦横無尽に駆け巡るいくつもの槍を大剣で打ち払い、回避を繰り返し、
 同時に懐から一丁の短機関銃を取り出して、先程まで持っていた銃と持ち換えた。
 左から迫る杏子に機関銃を、右から迫る杏子に大剣をそれぞれ構え、一夏の反撃が始まった。
 キャレコ短機関銃に込められた九ミリのパラベラム弾が一斉に火を放って、両手で槍を構えていた一人目の杏子を蜂の巣にする。
 それとほぼ同時、右から迫った杏子の槍と大剣とを打ち合わせながら、一夏は確実な剣裁きで一瞬のうちに杏子の攻撃をいなし、その身を斬り伏せた。
 一夏に仕留められた杏子の幻影が二つ、霧となって消える。
「……マジかよアイツっ!」
 これには流石に驚いた。
 多重の影分身を同時に全て制御しようとすれば、当然一人一人の戦闘精度は落ちる。
 しかし、だからといって二方向からの挟撃を同時に潰されるとは思っていなかった。
 小さく毒吐く杏子だったが、構わず次の分身体を精製。
 手を休めることなく、一夏へと波状攻撃を仕掛けるのだった。

       ○○○

「ここまで来れば、もう大丈夫よね」
 ZECT基地から少しばかり北へと進んだところで、弥子が胸を撫で下ろしながら呟いた。
 一緒に歩くアンクは変わらず無愛想でやや気まずいが、危機は脱した筈だ。
 杏子は今もきっと、ZECT基地から少し離れた市街地で「イチカ」と戦っているのだろう。
 その人物に心当たりはないが、杏子の叫び声はZECT基地の内部へも響いていた。
 杏子はぶっきらぼうだが、悪い人間ではないと思う。
 その杏子が敵と見なし戦いを挑んだのだから、イチカという人物が敵であることに間違いはないのだろう。
 立ち止まり考えを巡らす弥子を後目に、アンクは名簿を眺め、こいつか、と一言呟いた。
 アンクの細い指がなぞる参加者の名は――織斑一夏。
 イチカ、という名前でヒットする参加者はそいつしか考えられまい。
「織斑一夏……要注意人物だね」
「ああ、最後にいい情報を教えてくれたな、アイツ」
「ちょっと! 最後だなんて縁起でもないこと言わないでよね!」
 思わず怒鳴りつける弥子だった。
 あの自信に満ち溢れた尊大な魔法少女が、そう簡単にやられる訳がない。
 それこそあの怪物強盗XIのような強者が相手ならばわからないが、あれ程のバケモノがうじゃうじゃ居るわけもあるまいに。
 相手が普通の人間ならば、魔法少女としての戦闘能力を持った杏子に負けはない。
 希望的観測でしかないが、それでも弥子はそう強く信じていた。
「杏子さんは必ず勝つって、私信じてるから」
「ハンッ……そうだといいがな」
 無愛想に息を吐いて、アンクは名簿を再びデイパックに突っ込んだ。
 弥子は、何を考えているのかイマイチ掴めないアンクが些か苦手だった。
 良い人なのだろうという事は何となくわかるのだが……。
 そんな取り留めもない事を考えていると、アンクの脚がぴたりと止まった。
「わぶっ……」
 後方を歩いていた弥子が、アンクの背中に顔面を強かに打ち付ける。
「ちょっと、いきなり止まんないでよ!」
「黙ってろ!」
 アンクの怒声に、弥子の身体がびくりと強張る。
 元々無愛想な奴ではあったが、これ程鬼気迫る怒声を聞いたのは初めてだ。
 一体何がアンクをそうさせたのか――その答えは、前方から歩を進める一人の青年にあった。

95折れない剣 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:11:14 ID:Yfdc7TLQ0
「よぉ、アンク」
「……映司ィッ!」
 映司と呼ばれた青年は、きっとした眼差しでアンクを睨んでいた。
 弥子も話には聞いていた。確か、仮面ライダーオーズに変身するという若者だったか。
 どういう訳か火野映司については詳しく教えてくれず、有耶無耶にされていたのだが――
 その火野映司が、腰に巻いたベルトに紫色のメダルを挿入しながら言った。
「悪いけど、お前はここで砕かせて貰う」
「いちおう聞くが……お前、本気か?」
「ああ。お前も分かってただろ」
「……そうだな」
 そう言って、くつくつと笑うアンク。
 その感情を窺わせない笑みが、弥子にとってはひどく不気味に感じられた。
 映司が腰から取り出した円盤で、ベルトのバックルを勢いよくなぞった。
 ――プテラ! トリケラ! ティラノ!――
 ベルトから飛び出した紫色の紋章が、そのまま映司の身体に重なった。
 瞬く間に映司の身体が変化し、ネウロのそれとはまた違った異形へと変貌する。
 ――プットッティラッノザーウルース!――
 白いスーツに紫の外骨格。恐竜の姿をそのまま人にしたような異形。
 その姿を見た瞬間、背筋が凍りつくような思いに駈られた。
 言わば、本能的な恐怖とでも言うべきか。
 多くの犯罪者に感じる恐怖とは違う、もっと根本的なもの。
 こいつとは戦ってはいけない、弥子の第六感がそう叫んでいる。
「ねぇ、逃げようアンク! なんか分かんないけど、あいつ危ないよ!」
「逃げれるモンならなぁ?」
 そう言って、アンクはデイパックから取り出した銃をオーズへ突き付けた。
「オイ映司ィ……! お前オレのコアメダル持ってんだろ、気配で分かんだよ!」
「ああ、持ってるよ。けどお前には渡さない。グリードのお前には」
「チッ……お前にオーズを渡したのは間違いだったな」
 憎々しげにそう吐き捨てるアンク。
 対するオーズは紫色の翼を羽ばたかせ、アンクへと迫る――。


【一日目-夕方】
【D-3/市街地(中心部より少し北)】

【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤
【状態】健康、迷い、焦り
【首輪】125枚(増加中):0枚
【コア】タカ:1、コンドル:1、カマキリ:1
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、大量のアイスキャンディー
【思考・状況】
基本:アンク(ロスト)を排除する。その後は……?
 0.映司……――――。
 1.出来るなら赤のコアメダルを取り返して離脱してしまいたい。
 2.アンク(ロスト)を排除するためにも今は戦力を集めることに集中する。
 3.アイス以外の交渉材料を探す。
 4.織斑一夏は危険人物。
【備考】
※カザリ消滅後〜映司との決闘からの参戦

96折れない剣 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:11:53 ID:Yfdc7TLQ0
 
【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青
【状態】健康、精神的疲労(中)、迷い、焦り
【首輪】100枚(増加中):0枚
【装備】桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 1.プトティラが怖い。逃げたい。
 2.ネウロに会いたい。
 3.杏子が心配。
 4.織斑一夏は危険人物。
【備考】
※第47話 神【かみ】終了直後からの参戦です



 ロストアンクの知り得る限り、今のアンクには碌な戦闘手段はない。
 それ故、今の奴を仕留めるのに、ガイアメモリを使う必要など何処にもない。
 しかし、悪行への愉悦に目覚めつつある彼にとっては、ただ倒すだけではつまらない。
 プトティラの姿をコピーしての襲撃は、彼なりの余裕故の茶番劇のつもりだった。
 ずっと一緒に戦って来たオーズによって仕留められるのは、一体どんな気持ちだろう。
 そんな事を考えるだけで、ロストアンクの気持ちは昂ってゆく。
 ――が、その興奮によって、ロストアンクは大切な事を失念していた。
 このゲームでは、「強大な力」にはそれだけの代償が伴うのだ。
 例えダミーとは言え、今の彼が使う力はあの恐るべきプトティラコンボ。
 オーズの最強コンボの維持に必要なメダルは、今まで変身して来たどの姿にも勝る。
 ダミードーパントへの変身、能力を発動してのプトティラへの多重変身、さらにその力を用いての戦闘。
 おまけに先の戦闘で負ったダメージも残っているときている。
 状況は「圧倒的にロストアンクが有利である」とは言い切れないのであった。
 それらのファクターが一体どれほどロストアンクのメダルと体力を消費するのか――
 悦楽の為に戦う今の彼の脳内を、その懸念がどれ程占めているのかは誰にもわからない。


【アンク(ロスト)@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】ダミープトティラに変身中、ダメージ(中)、悪行に対する愉悦への目覚め(?)
【首輪】45枚(増加・消費中):0枚
【コア】タカ:1、クジャク:2、コンドル:1/コンドル:1(一定時間使用不能)
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ダミーメモリ@仮面ライダーW、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜3(確認済み)
【思考・状況】
基本:赤陣営の勝利。“欠けたボク”を取り戻す。
 1.欠けたボクを追い込んで楽しみ最終的には吸収する。
 2.イカロスを追いかけ、一先ずメダルを回復させる。
 3.暗躍を続けるために、正体(人間態)をバラさないよう気をつける。
 4.赤陣営が有利になるような展開に運んでいくのも忘れない。
 5.イカロスの活躍に期待。
【備考】
※アンク吸収直前からの参戦。
※ダミーの“偽装”による再現には、限界があります。
 また自分、及びその場にいない人物の記憶から再現する事はできません。
※ガイアメモリを複数使用しました。どのような後遺症があるかは、後の書き手にお任せします。

97折れない剣 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:12:44 ID:Yfdc7TLQ0
 


「こいつはちっと……洒落になんねーなぁ……」
 自らの長槍を杖代わりに地面に突き立て、畏怖の声を漏らす杏子。
 今し方、最後の分身が一夏が振り払った大剣によって霧散したところだ。
 あの男は、杏子のロッソ・ファンタズマを前に粘り勝ちを獲得してみせたのだ。
 まさしく、生半可な力も、戦略すらも通用しないバケモノ。
 明らかに人知を越えている織斑一夏に杏子は問う。
「なぁ、一つ教えてくれよ」
「なにかな?」
「あんたホントに人間か?」
「さぁ? 俺にも分からないんだ」
「ああ、そうかい」
 今の問答に実りがあっただろうか――答えは否だ。
 むしろ、それは奴と戦う前に問うておくべき質問だった。
 戦闘前、完全に油断をし切っていたのは杏子の方だ。
 よもやあの優男が、これ程のバケモノであるなどと誰が想像出来ようか。
 気持ちだけで、誰にでも勝てるような気になっていた。
“それがあんなバケモノとはねぇ……”
 まず恐るべきはその怪力と、それを活かした戦闘能力。
 そしてそれにも勝る脅威は、奴のその不死性だ。
 杏子の攻撃は、幾度か奴の身体を裂き抉った筈だった。
 されど、並外れた回復力故か、奴はまるで動きを止めはしない。
「並の人間じゃ――いや、例え魔法少女並の人外だったとしても、だ。
 動ける訳がねぇんだよ。あれだけの攻撃を受けりゃ普通は死ぬ」
「だろうね、俺もただで済んでる訳じゃない。メダルはかなり消費してるっぽいよ」
「メダルで回復だァ? チッ……あたしらと似たような身体してやがんのか」
「さぁ、それはどうかな。さっきも言ったけど、俺には俺の身体がわからないんだ。
 人間か魔人か、それともあんたと同じような人種なのか、それすらわからない。
 だからヒントを探してるんだ、俺のルーツに辿り着くための、ね」
「悪ぃ、あたしじゃ力になれねーや。なる気もねーけどさァ」
 精一杯の胆力で軽口を叩いてみせるが――既に自覚している。
 戦いに負けたのは、紛れもなく杏子の方だ。
 まだこの身体は動くが、もうこれ以上の戦いに使えるメダルはない。
 今から逃げようにも、あのバケモノが素直に逃がしてくれるとも思えない。
 ――杏子は戦い方を誤ったのだ。
 杏子はあの優男の見てくれに騙されて、最初から全力で潰しに掛かる事をしなかった。
 一目見た瞬間から、本気で殺し切る心算で仕掛けていたなら、或いは結果は違っていただろう。
“まぁ、今更言っても遅ぇよな”
 だが、それをうじうじと悔やむような殊勝な性格を佐倉杏子はしていない。
 今の結果に繋がる要因を作ったのは自分で、何もかもが自業自得。
 過去を悔やんでいる暇があるなら、今出来る事をやり切るのみ。
 最後の魔力を刃に宿し、赤く燃える槍を一夏へと突き付け嘯く。
「んじゃぁ、そろそろ決着といくかい、一夏?」
「そうしてくれると助かるよ、実は俺ももうそんなに余裕がないんだ」
「ハンッ、そんじゃ決まりだねぇ――!」
 真っ直ぐに杏子目掛けて、一夏が跳ぶ。
 せめてあのバケモノに一太刀を浴びせてやろう。
 これは杏子の、最後に残ったちっぽけなプライドを賭けた戦いだ。
“悪いな、剣崎。せっかく救って貰った命を、こんな事に使っちまって”
 謝罪の念を胸中に懐く。
 あの時救われた命をこんな事に使うと知れば、剣崎はどう思うだろう。
 杏子は剣崎一真という人間を知らないが、それでも彼が熱い正義感を秘め、
 誰かの為に命を賭けるような馬鹿男だったということは苦しいほどに理解している。
 その形見の大剣を奪い返すこともなく、救われた命を無駄に散らす杏子に彼はきっと苦い顔をするとだろうということも、何となく想像は出来る。
“けどね、これがあたしなんだ!”
 否定も言い訳もする気はない。
 そんな生きざまを貫くことしか出来ないのが、佐倉杏子という人間なのだ。
 剣崎一真がそうであったように、佐倉杏子も最期まで自分で在り続けよう。
 願わくば、この一撃が、後に続く正義の味方の助けにならん事を。

98折れない剣 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:14:04 ID:Yfdc7TLQ0
「ッらぁぁあぁぁあああああああッ!!!」
 残る力の全てを振り絞って、槍を分割させ、振り下ろす。
 精一杯の魔力を滾らせた杏子の槍が、鞭のようにしなって迫り来る一夏を迎え討つ。
 対する一夏は――まるで杏子の攻撃を読んでいたかのように減速、そして得物を投擲。
 尋常ならざる怪力で投げ出された黄金の大剣が、杏子目掛けて風切り音を立てながら加速する。
「だったらッ!!」
 構うことはない。
 あの大剣を叩き落し、その隙に一瞬で一夏へと肉薄し強烈な一撃を叩き込んでやるのみ。
 正義の為に使われるべき剣を、悪しき呪縛から解放するためにも。
“頼む、力を貸してくれ、剣崎――!”
 乾坤一擲。
 こんな時こそ、信じ貫くは愛と勇気が必ず勝つストーリー。
 杏子の渾身の魔力を得た槍は剣崎の大剣を打ち払わんと迫り、
 そして――大剣の刀身に触れると同時に、 消 失 し た 。

 ――メダル切れだ。

 それを理解する間に、飛来した黄金の刃は杏子の顔面を突き刺し頭部を貫通。
 キングラウザーに頭を貫かれた杏子が最期に見たのは、
「剣、ざ……っ」
 正義を為すべき黄金の刃が、自分の視野のど真ん中に突き立っている光景。
 他に何を見ることもなく、感じることもなく。
 骨が脳が、頭そのものが一瞬のうちに破壊されるその感覚を、最早痛覚として認識することすらなかったのは僥倖か。
 二本の足は地に着いたまま、頭だけが大剣の重量によって後方へと大きく傾く。
 キングラウザーの重量は、杏子の体重よりもずっと重たい。
 大きく身体を仰け反らせたまま頭から地へと落ちた杏子は、キングラウザーの刃先がアスファルトに突き刺さる音を聞かずにすんだ。
 既に杏子に意識はなかったのだ。

       ○○○

 怪物強盗XIは、仰臥する杏子の頭部からキングラウザーを引き抜いた。
 明らかに致死量を越えた血糊でべっとりと汚れた大剣を眺めて、
 いちおう後で洗っておこうかな、などと取り留めもない感想を懐く。
 Xにとって、最早この黄金の大剣にそれ程の興味はなかった。
 キングラウザーの持ち主に何か共感出来るものがあったなら話はまた違ったろう。
 しかしXは、これの持ち主である剣崎一真という人間に対して何の共感も感じはしない。
 これに強い想いが宿っていることは何となく分かっていたが、杏子の証言から、
 それが何の益体もない甘っちょろい妄信である事も理解出来てしまったのだから。
 つまり、この剣は、Xの正体を探る上では何のヒントにもなり得ないのだ。
 尤も、それでも十分過ぎる程に強力無比なこの剣を手放す気はないが。
「それより俺が興味あるのは」
 佐倉杏子の遺体――否。遺体と呼ぶにはまだ早い、その身体の方だ。
 頭部は「完全に」破壊されているというのに、彼女はまだ生きている。
 彼女の心臓が鳴らす有り得る筈のない鼓動が、Xの鼓動をも高鳴らせる。
 この少女はネウロのような魔人ではないのだろうが、しかし人間でもない。
 こんな未知の存在にこそ、Xのルーツに辿り着くヒントはあるのではないか。
 先の戦いに於いても、途中からはこの少女の中身を見る事で頭が一杯だった。
 此処へ来て、ようやく特殊な人種の身体の中身を観察する機会を得たのだ。
「あれ、服が変わってる」
 しかし、身体をバラす前に異変に気付くX。
 今の杏子が纏う服は、先程まで身に纏っていた赤いワンピース状のドレスではない。
 それは、何処にでもいる中学生のそれと何ら代わりのないカジュアルな服装。
 暫し考え、次に自分のみすぼらしい外見とそれとを見比べたXは、
「とりあえず脱がそう」
 杏子の服を、更にはその下着を脱がしにかかった。

99折れない剣 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:14:53 ID:Yfdc7TLQ0
 無抵抗な杏子の身体はすぐに一糸纏わぬ裸体を晒すが、Xは特別な感慨を懐きはしない。
 ただ、どうして着替えてもいない服が変わったのかを見極めたかっただけだ。
 しかしいざ脱がして持ち物を確認しても、杏子の衣類には何のからくりもない。
 変わったことといえば、ポケットに赤く輝く宝石が入っているだけだ。
 何らかの魔法の宝石、だろうか?
 少なくとも、見た事もない美しさである事に間違いはないのだが。
「ま、いいか」
 結局その謎は不明のままだが、しかしどうせ「代わる」のだからこれはこれで構わない。
 杏子の身体を観察しその姿を奪ったあとで、この服は自分が身に纏おう。
 次に杏子の身体に手を捻じ込んだXは、その内臓を漁るが――これも特に変わった点はない。
 不可解な点といえば、身体は明らかに死んでいる筈なのに内臓が生き続けている、ということくらいか。
 そのまま杏子の身体を原形を留めぬ程に分解してみるが、やはりその身体は普通の人と同じだった。
 悄然としながらも、Xは杏子の身体を「箱」に詰めた。

       ○○○

 程無くして、そこに立っているのはまさしく佐倉杏子その人だった。
 赤い長髪をポニーテールに結って、中学生相応のカジュアルな服装に身を包んでいる。
 その上から、戦いで薄汚れたマント一枚を羽織って、佐倉杏子はぶつぶつと呟いていた。
「……んー、ま、口調はこんな感じかねぇ。一夏の時よりはよっぽどやり易いぜ」
 佐倉杏子は――否、佐倉杏子の姿と服を借りた怪盗Xは、それらしく喋ってみせる。
 ついさっきまで戦っていた佐倉杏子は確かこんな喋り方をしていた筈だ。
 口調のほかに知り得た情報は、佐倉杏子というその名と、魔法少女という単語。
 おそらくは、杏子のような力を持った者を魔法少女というのだろう。
 彼女の「あたしら」という発言からも、複数存在することが窺える。
 あとは、此処で剣崎一真に救われたという過去くらいか。
 ここまで知れれば、何の情報もなかった一夏よりはよっぽど楽だ。
「あの姿もそろそろ限界があるし、まぁここらが潮時だったってこったね」
 一夏の姿は、既に何人もの参加者に見られている。
 流石にそろそろ動き辛くなってくる頃合いだろう。
 それに、此処へ来てからというもの些か殺し過ぎたかなという気もする。
 何も殺し合いに興味がある訳ではないのに、これではまるで優勝狙いではないか。
 思いもよらぬ強敵との戦いでメダルも無駄に消費し過ぎた今、あまり無策に暴れ過ぎるのも賢いとは思えない。
 ここらでそろそろ本来の目的を念頭に置いて行動すべきだろうか。
 そう思い地図を取り出し眺めたXは、
「……おっ、鴻上生体研究所ってとこに行きゃあ何かわかるかも」
 それらしい施設を発見し、何の迷いもなく次の目的地を定めた。
 まずは元の目的に立ち返り、自分の正体に繋がるヒントを探しに行こう。
 もしもその過程でヒントになり得そうな参加者が現れた場合は例外だが――。
 新しい姿を得て気分を一転したXは、杏子の箱をその場に置き去りにして立ち去っていった。

100折れない剣 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:16:18 ID:Yfdc7TLQ0
 
       ○○○

 佐倉杏子は、魔法少女だ。
 魔法少女の命――たましい――は、身体ではなく、ソウルジェムに宿っている。
 杏子はまだソウルジェムを破壊されてはいない。
 頭部を破壊されたショックで、一時的に気絶していたに過ぎないのだ。
 尤も、メダルも尽き、身体も失った杏子には何も出来ないのだが――それでも、佐倉杏子の魂は今も生きている。
 怪物強盗によって奪われた衣服、そのズボンのポケットの中で、杏子は今も赤い輝きを放ち続けている。
 それに気付いてくれる者が現れるまで、ずっと輝き続けているのだ。



【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ 自立行動不能】



【一日目-夕方】
【D-3/市街地(中心部寄り)】

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】健康、疲労(中)、佐倉杏子の姿に変身中
【首輪】50枚:0枚
【装備】佐倉杏子の衣服、重醒剣キングラウザー@仮面ライダーディケイド、ベレッタ(10/15)@まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式×4、ソウルジェム(杏子)@魔法少女まどか☆マギカ、“箱”の部品@魔人探偵脳噛ネウロ×28、アゾット剣@Fate/Zero、キャレコ(10/50)@Fate/Zero、ライダーベルト@仮面ライダーディケイド、ナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、9mmパラベラム弾×100発/2箱(うち50発消費)、ランダム支給品3〜8(X+一夏+杏子)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
 0.暫くは大人しくする。メダルも補充したい。
 1.鴻上生体研究所へ向かう。
 2.ネウロに会いたい。
 3.バーサーカーやセイバー、アストレア(全員名前は知らない)にとても興味がある。
 4.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
 5.阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
 6.殺し合いに興味は無い。
【備考】
※本編22話後より参加 。
※能力の制限に気付きました。
※細胞が変異し続けています。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※ソウルジェムは杏子のズボンのポケットに入っています。

【全体備考】
※佐倉杏子の身体は首輪(メダル残数0)ごと赤い箱に詰められD-3に放置されています。
※ZECT基地入口のドアが破壊されています。

101 ◆3.CJH6sX8g:2012/07/19(木) 11:18:51 ID:Yfdc7TLQ0
今回はここまでです。
何か御座いましたら、ご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します。

102名無しさん:2012/07/19(木) 13:03:30 ID:uCSweKxA0
投下乙です!
うわぁ、あんこがまさか……いや、まだソウルジェムがある以上はどうにかなるかもしれないけど。
それにしても剣崎が涙目すぎるw X、いいぞもっとやれw
で、二人のアンクが戦うか……弥子はどうなるだろ。

103名無しさん:2012/07/19(木) 16:26:18 ID:.k.5rkpI0
投下乙です

X、お前頑張り過ぎだろうがw あんこちゃんは完全にリタイアでは…奇跡が起こって欲しいぜ
そして二人のアンクがお互いを視野に入れ始めた中で弥子は覚醒してくれるのだろうか…参戦時期が時期だからなあ

104名無しさん:2012/07/19(木) 17:37:05 ID:rkhP9h9oO
投下乙です!マーダー二人が有利なように見えてその分調子乗って変身乱発してるから息切れも……

105名無しさん:2012/07/19(木) 18:03:44 ID:.k.5rkpI0
大規模予約来てたw

106名無しさん:2012/07/19(木) 20:58:51 ID:aZytE9qM0
そういえば、剣崎もカード化してるだけで死んだわけじゃないんだよな。
まああんこちゃんと違って、復活はほぼ不可能だろうけど。リモートのカードで呼び出されるぐらいか?

107名無しさん:2012/07/19(木) 21:29:27 ID:Y9QbPE9wO
ふと思ったけど、ガメル、杏子は放送時に名前呼ばれるのかな?

108名無しさん:2012/07/19(木) 22:03:34 ID:UOttKcIE0
映司キター

109名無しさん:2012/07/19(木) 22:42:58 ID:RtYoaIr.0
投下乙!
もう一人のアンク、自分の愉悦を優先して確実な勝利を逃したな………といっても、それでも圧倒的に有利だけどw
にしてもダミーで消費の激しいプトティラに変身って、メダルの残量は大丈夫か? それと、勢いあまってコアを砕いたりしないか心配w

Xのほうは順調だけど、近くにいる弥子と遭遇した場合、どうなることやら……
そして杏子。死んではいないけど、復帰は難しそうだなぁ……
チーム戦だから、この状態でも問題にはならないけど

気になった点としては、杏子の魔法(眩惑や幻覚など)は過去のトラウマで無意識に封印してしまっています
なので、トラウマを克服したわけでもないのに、自分の幻影を作るロッソ・ファンタズマを意識して使うのはどうかと

110名無しさん:2012/07/19(木) 23:12:06 ID:rkhP9h9oO
そういえばXの「箱」ってなんぞや、ネウロ未見だからさっぱりだけどその中から復帰できるようなもんなのか?

111名無しさん:2012/07/19(木) 23:39:19 ID:bQGjCFAo0
赤い箱はXの被害者のなれの果てだな
観察するために死体を解体してガラスの箱に詰めたもの
たぶん中身は液体並みにドロドロだと思うからその中からの復帰はほとんど不可能だと思う

112名無しさん:2012/07/20(金) 01:12:12 ID:eMaU2Mj.0
ネウロ原作の弥子の説明によると
Xの場合盗みより恐れられているのは必ず1人は犯行現場から人をさらっていくことと
後日現場に「赤い箱」が届くこと
その箱からガラスを除いた中身の重量はさらわれた人の体重とピッタリ同じ
仲の細胞のDNAもピッタリ一致
つまりその箱はその人そのもの

113名無しさん:2012/07/20(金) 02:57:33 ID:6wDQfjTQO
ふむふむ、大体分かった。これはいくら魔法少女でもさやかレベルの回復能力と十二分なメダルが無いとだな……

114名無しさん:2012/07/20(金) 05:07:26 ID:KhEx7WSIO
つまり杏子を助ける白馬の王子様役に適任なのはさやかしかいないということだな。
杏さやキターーーーー\(^o^)/

115名無しさん:2012/07/20(金) 11:15:06 ID:99sWvBwY0
さやかに重大なフラグが託されたと聞いて
このロワのさやかは本当にどうしたんだ一体……恵まれすぎだろ

116 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:28:50 ID:n4kD3JHU0
投下乙です!
杏子……頑張ったのに、なんてことだ。Xはどんどん頑張りそうですねw
アンクとロストアンクがついに出会いましたか! で、ロストはダミーでプトティラになるとは……
弥子とアンク、もしかして詰んだ?

それでは自分も予約分の投下を開始します。

117戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:30:03 ID:n4kD3JHU0
 ここから、物語は少しだけ変わる。
 それは殺し合いが行われている舞台上ではなく、戦いを齎した者達の物語。つまり、主催者達の視点から語られる話だった。
 その舞台は一体どこで、殺し合いの会場からはどうやれば辿り着けるのかはまだ誰も知らない。殺し合いの根幹に関わるリーダーたる存在、グリード達ですらも。
 それを知るのは、オープニングの舞台となった漆黒の闇に包まれたドームにいる男、真木清人だけだった。

「白のリーダーであるガメル君が砕かれ、鹿目まどかが新しいリーダーとなりましたか……相変わらずよく働いてくれますね、火野君」

 当然ながら、彼はこの殺し合いで起こった出来事を全て把握している。どの時間、どの場所で何が起こって誰が死んだのかも。
 シュテルンビルトシティに近いオフィス街で繰り広げられた戦いで、白陣営のリーダーである凍て付く古の暴君に敗れた。その結果、白陣営の戦力は壊滅寸前となっている。
 鹿目まどかが新たなるリーダーとなったが、それでも海東大樹がカザリをリーダーとする黄陣営に奪われたり、確実に不利へと近づいていた。
 しかし大局的に見れば終末へと近づいている証拠。だから、特別気にすることはなかった。

「ですが火野君……いえ、仮面ライダーオーズ。君はその紫色のコアが、いつもと同じようになっていると思っているのですか?」

 冷たき闇を見据えるかのように立っている清人は、ここにはいない参加者に言い聞かせるかのように独り言を呟く。
 殺し合いが始まってからまだ六時間も経過していないが、それでも順調に進んでいた。戦い、裏切り、謀略、悲劇、騙し合い、滅亡……戦いの過程で起こった出来事の数は計り知れなかったが、どれを見ても清人の心は微塵にも揺れない。
 ただ、終末への道は確実に進んでいるとしか感じられなかった。

「私が連れてきた君は紫のコアを制御できているようですが、この世界でもそれが通用するとは限りません。何故なら、君には終末を導く手伝いをして貰わなければならないのですから」

 紫色に輝く清人の瞳は、彼自身の肩に乗るキヨちゃん人形と同じように闇を見つめ続けている。
 数多もの世界から集められた六十五つの欲望が交錯する殺し合いの果てに、本当に終末が齎されるのかはまだわからない。今はただ、無慈悲なる殺し合いが進むだけだった。

118戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:30:46 ID:n4kD3JHU0

○○○


 力が欲しいと、鹿目まどかは思った。
 罪のない人々を誰も犠牲にしないで、こんな殺し合いを終わらせたかった。みんなにはみんなの毎日があって、素敵な未来を目指す為に生きているのだから。
 そんなささやかな毎日を守る為に魔法少女になったのに……誰も助けることが出来ない。見せしめにされた女の子達を助けられず、この世界で出会えたガメルを見殺しにしてしまった。
 仮面ライダーオーズやルナティックのやり方は正しいのかもしれない。こんな馬鹿げた殺し合いを開いた真木清人の仲間であったガメルは、人々から見れば魔女のように不幸をもたらす存在だろう。でも、グリードであってもガメルはとても優しかったし、分かり合えたかもしれなかった。
 でも自分が弱かったせいで、ガメルの未来を守ることができなかった。オーズやルナティックが悪いのではなく、力が足りないせいでガメルを死なせてしまった。

『おまえ、いいやつ! これあげる』

 ガメルの暖かい笑顔と言葉がまどかの脳裏に何度もフラッシュバックしていく。
 彼はちょっと変わった所があったけど、とっても優しかった。もしもメズールって人を見つけられたのならもっと笑えていたのだろうか……ガメルの笑顔を思い出すあまりに、まどかの中でそんな思いが芽生えてしまう。

『おれ、まどかのこと、メズールのつぎにすきだ〜』

 そんなに時間が経っていないのに、ガメルとの思い出がまるで遠い過去のように感じられた。
 もしもこの殺し合いが悪い冗談で、誰かが死んだという事実が夢であったらどれだけよかっただろうか。そうすればガメルも死ぬことなんて無いし、オーズも悲しい思いをする事も無かった。何よりも、ここに連れてこられたみんなが平穏な毎日を過ごしていたはずだった。
 何もかもが嘘であって欲しかったが、そんなまどかの欲望が叶うことはない。

『俺はヒーローだ。ヒーローは決して悪人を許さない。真木清人……お前が何をやろうってんだか知らないが、それはこの俺ワイルドタイガーが全て止める!』

 不意に、闇に覆われた始まりの会場で聞こえた言葉がまどかの脳裏に蘇った。
 ワイルドタイガーと名乗った男の人は確固たる意志を持って清人に反逆の言葉をぶつけている。その姿はまさに、TV番組でよく見る悪人から人々を守る正義の味方と呼ぶに相応しかった。
もしかしたら彼は今、この殺し合いに巻き込まれた全ての人々を助ける為に一生懸命頑張っているかもしれない。

(ワイルドタイガーさんやさやかちゃん達だって頑張ってるはずなのに、みんなと比べて……わたしはどうなんだろう)

 本当なら、あの会場でワイルドタイガーや犠牲にされた女の子のように清人に反抗の意志を示さなければならなかったのに、身体が動かなかった。あそこで逆らったら殺されてしまう……そんな事が、理由になんてなる訳がない。
 そんな体たらくだから、ガメルを守ることができなかった。ルナティックの事をオーズやファイアーエンブレムに押し付けて、逃げ出してしまった。
 このままじゃ、誰かを守ることなんて出来ない。みんなを守るって決めたのに、実際は責任を他の人に負わせることしかしていなかった。

「わたしって、本当にどうしようもないなぁ……」

 思わず空を見上げながら、まどかは静かにそう呟く。
 この世界を照らす太陽の輝きが、まどかにはあまりにも痛く感じられた。あの光が弱くて卑怯な自分自身を今にも裁いてしまいそうで、居た堪れなくなってしまう。でもここから逃げたって何にもならないし、オーズ達が戦っている戦場に戻っても何かができるとは思えなかった。
 でも、このままここでじっとしていたって何にもならない。だから今を変えるために動きたかったが、やはりまどかの中で迷いが残っている。
 力がないのにこのまま戻ったって、ただ悲しみを生むだけではないか?

「君!」

 そうやって悩み続けていたまどかの耳に、突如として声が響く。
 ほんの少しだけ驚きながら振り向いた先から、赤いジャケットを身に纏った男の人がこちらに歩いてくるのをまどかは見た。その少し後ろでは、自分とほぼ同年代と思われる少女がいる。

「大丈夫か?」
「あの……あなたは?」
「俺は照井竜、警察だ」

 そう言いながら、照井竜と名乗った男は懐から警察手帳を取り出した。
 警察。それは一般社会の治安を維持する為に存在する誰もが知っている組織だ。そんな人すらも殺し合いに巻き込まれているのかと思う暇もなく、竜はまどかの目前で止まる。

119戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:31:58 ID:n4kD3JHU0

「君は一人だけか?」
「えっと……そうですね」
「そうか、なら今から後ろにいる彼女と一緒に来てくれ。ここは危険だからな」
「待ってください!」

 竜の提案に対するまどかの答えは、そんな叫びだった。

「わたしは……隠れるわけにはいきません! いいえ、隠れちゃいけないんです!」

 このまま彼の言葉を受け入れるのでは、結局守られるままで何も変わらない。ここで隠れていては、ガメルの時みたいにまた誰かが犠牲になるに決まっている。
 みんなを守る為に魔法少女になったのに、肝心な時に逃げてるなんて嫌だった。

「それは一体、どういう事なんだ?」

 しかし次の瞬間、竜は怪訝な表情を浮かべる。それを見たまどかはしまったと思うも、もう遅い。

「何か訳ありのようだな……詳しい話を聞かせてくれないか」

 ありのままの感情を吐き出してしまった事に後悔を抱きながら、先程出会った仮面ライダーを潰すと言った男の姿を思い出す。あの時みたいに、またうっかり口を滑らせてしまった。
 まどかは何とか誤魔化したかったがその為の言葉が出てこず、しどろもどろに口を動かすしか出来ない。元々嘘が得意な方ではなかったからだ。

「とにかくここでは危ない……一旦、あのビルに行くぞ」

 竜がここから少し離れたビルを指差すのを見て、まどかはもう逃げることも誤魔化すことも出来ないと確信する。
 その建物の壁には空想上の生物である巨大なドラゴンの頭が飾られていて、あまりにも異質に満ちていた。しかし今のまどかにとって、それはあまりにもどうでもよかった。
 自分を心配してくれる竜についていく。それ以外に出来ることが何一つ思いつかなかった。


○○○


(鹿目まどか……何でこんな所にいるのよ!?)

 そんな様子のまどかを見て、メズールは焦りを感じていた。
 見滝原に向かう途中、他の参加者を捜すという名目でキャッスルドランを訪れたが、よりにもよってオーズとは違う意味で出会いたくない相手と出会ってしまった。
 今の自分は、警察官である照井竜を利用する為に弱者の志筑仁美として振舞っている。だが志筑仁美は目の前にいるまどかの友人だから、いつ嘘が見破られてもおかしくなっていた。
 同姓同名の他人と言い張る事も出来るが、一歩間違えればボロが出てしまう。だがここで今すぐ二人と別れる事も出来ない。ここで始末する方法もあるが、それではセルメダルを無駄に消耗するだけだ。

(まずいわね……もしこのまま照井竜から名前を呼ばれたら、今後の行動に支障が出るかもしれない)

 このまま黙っている訳にもいかない。こんな状況では、参加者の愛を手に入れるどころではなくなる。
 どうしたものかと考えるメズールは、照井竜と鹿目まどかの背中を交互に見ながら歩いていた。

(迂闊だったわ、まさか鹿目まどかが私達の方に来るなんて……こうなるならもっと早く、照井竜に違う道を進ませるよう誘導させるべきだったかしら?)

 考えてみればまどかの初期位置は秋葉原だったので、遭遇する確率は充分にあったがもう遅い。
 もしも竜と出会わなければ、一人で何とかなったかもしれなかった。そんなIFの可能性を考えてしまうがどうにもならず、次第に竜への殺意が芽生えていく。しかしそれを今ここで発散させるなんて出来るわけがなかった。この二人を相手では反撃を受けるだろうし、仮に勝ったとしてもそれから別の参加者から襲撃されては全てが終わる。
 様々な最悪の可能性が湧き水のように溢れ出てきて、メズールの焦燥は時間と共に強くなっていくのだった。

120戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:33:03 ID:n4kD3JHU0


○○○


 外見から漂う異質さとは裏腹に、中は意外に普通だった事が驚きだったが油断はできない。得体の知れない男が用意した施設なのだから、どんな罠が仕掛けられていてもおかしくなかった。
 とはいえ、幸いにもこの部屋は普通の応接室のようだった。二つのソファーが向かい合うように備え付けられていて、その間には小さなテーブルが置かれている。その他にも観葉植物やいくつものファイルが入っている本棚、それにTVなど風都署でもよく見られる物がたくさんあった。

「……なるほど、大体分かった。話してくれてありがとう」
「い、いえ……照井さんこそ心配してくれてありがとうございます」
「それが警察官の使命だから、当然だ」

 そんな『C―5』エリアにあるキャッスルドランの一室で、戸惑っている鹿目まどかに照井竜はそう答える。彼女の隣では志筑仁美――竜は知らないが、仁美の名を騙っているメズール――が座っているが、怯えているのか先程から何も喋っていなかった。尤も、こんな状況にただの中学生が放り込まれては、こうなっても当然だから何かを問い詰めても仕方がない。
 故に、竜は何とかしてメズールを保護してくれる人物を捜すことを優先する。この殺し合いに巻き込まれた左翔太郎やフィリップのように、信頼できる者を見つけたいと願った矢先にこうして鹿目まどかと出会った。

「それにしても、魔法少女なんてものが本当にいるとは……」
「信じてくれないかもしれませんが、わたし達は本当に戦ってきたんです……社会の裏でみんなを不幸にしている魔女達と」
「……いや、信じよう。出来るだけ表沙汰にはしないようにしているが、俺達も似たような相手と戦っているからな」

 インキュベーターという謎の生物や、そいつと契約する事で生まれる魔法少女という存在。そして、絶望をもたらす魔法少女の成れの果てである魔女という怪物。あまりにも荒唐無稽な話だが、竜はそれらをただの出鱈目と片付ける事は出来なかった。
 この世界にはガイアメモリによって生まれるドーパントという怪物が、人々に絶望をもたらしている。憎き仇である深紅郎もその一人だ。
 しかし今はそれよりも重大な問題がある。

「とりあえず、その仮面ライダーを潰そうとしている男とは一体何者なんだ? 確か、ここから東に向かったと聞いたが……」
「私にもわかりません……あの人がどうして仮面ライダーを潰そうとしてるかなんて」
「そうか……」

 聞いた話によるとまどかは先程、仮面ライダーを潰そうとしている男と出会ったらしい。その男を前にまどかは、ついオーズとルナティックの事を話してしまったと言った。
 殺し合いに乗っているのかと思ったが、それならば何故まどかの命を奪わなかったのか? 魔法少女とはいえ、守ろうとしたガメルというグリードの死に落ち込んでいる彼女も格好の餌食のはず。
 仮面ライダーを潰そうというなら自分は勿論、左翔太郎やフィリップもその男のターゲットになる。だが、まどかを殺していないから一概に危険人物と決め付けられなかった。

(仮面ライダーオーズ……それにファイアーエンブレムやルナティックという仮面ライダーか)

 この殺し合いを開いたグリードという連中を砕こうとする仮面ライダーオーズ。
 シュテルンビルトを守る正義のヒーローを自称したファイアーエンブレム。
 罪人を裁くと言いながら、正義を振り翳してまどかを傷つけようとしたルナティック。
 そして、この殺し合いを開いたグリードの一人でありながらまどかと心を通わせたガメルという男。

(普通ならばオーズとルナティックが正しいのだろうが……ガメルも間違っているとは言い難いな)

 ガメルはグリードでありながら、まどかを救おうとその身を犠牲にしたらしい。だが、グリードは名も知らぬ少女達を虫けらのように殺した真木清人の仲間だ。そんな連中を殺そうとするオーズやルナティックに正義があるのだろうが、素直に認めるわけにもいかない。
 正義の名を語って無抵抗の者を傷つけるのでは、ドーパント達と何一つ変わらないからだ。
 誰かを守りたい。警察官なら誰もが持っているであろう思いが根底にあるのだろうが、それが暴走してしまっていた。

(どうやら、井坂を探す前にやるべき事が出来たようだな……)

 そんな彼らとの騒動があったせいか酷く疲れ果てた表情を浮かべているまどかを見て、竜は心の中でそう呟く。

「わかった、彼らの事は俺に任せろ……君達二人は俺が戻ってくるまで、ここに隠れていてくれ」

 そして今度は口から言葉を紡ぎながら竜は立ち上がり、デイバッグを手に取った。
 すると、まどかと仁美の二人は驚いたような表情を向けてくる。

121戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:33:54 ID:n4kD3JHU0
「照井さん!? どうして……」
「俺に質問をするな……このままでは、君の言っていた四人の間で戦いが起こってしまう。それだけだ」
「だったら私も行きます!」
「いや、君はここで彼女と一緒にいてくれ。それに君のような子どもがそんな危険な場所に行くのは駄目だ」
「でも……!」
「俺に任せろと言っている……気持ちはわかるが、どうかここにいてくれ」

 そう語りながら竜はまどかから目を離して、仁美の様子を伺った。彼女の顔は未だに怯えで染まっているので、こんな所にいさせてしまうのに些かの罪悪感を抱く。
 しかしだからといって、これから向かう戦場にこんな少女達を連れてくる訳にもいかなかった。

「行くんですか……?」
「すまない。だが、すぐ戻ってくるから二人でここにいてくれ」
「……はい」

 そう弱弱しく呟くと、仁美は再び顔を俯かせる。それだけでも、相当怖がっているのがよくわかった。本当なら彼女を守らなければならないが、それは出来ない。
 今はまどかの為にもオフィス街で起こる戦いを止めなければならなかった。

「いいか、出来るだけここにいるんだぞ。もしも怪しい奴が来たのなら、二人で見滝原まで逃げろ……いいな」

 そう言い残すと、竜はデイバッグを抱えながら部屋から出て行く。廊下に出た後、彼の足取りは次第に早くなっていた。
 できるならば、これから向かう戦いの舞台に憎き深紅朗が現れるのを祈る。奴はこの世界で絶対に倒さなければならないからだ。
 だがいないならば、まどかとの約束を果たすことを優先させなければならない。

『わたしは……隠れるわけにはいきません! いいえ、隠れちゃいけないんです!』
(あんな子どもが、まさか俺達みたいに戦っているとはな……)

 まどかの悲しげな表情と言葉を思い出し、竜は思わず心の中でそう零した。
 深紅朗に殺された春子とそこまで年齢は変わらないのに、危険な世界に足を突っ込んでいる。その勇気は素晴らしいかもしれないが、子どもが戦うなど竜には容認することができない。だから、戦いを止めたいという彼女の願いを聞き入れた。
 あんな子どもを二人だけにするのは不安だが、自分が行かなければまどかが一人で突っ走る可能性もあった。

(オーズもファイアーエンブレムもルナティックも死ぬなよ。それに仮面ライダーを潰そうとしている男、お前は何故その道を選ぶ。何か理由があるのか……?)

 キャッスルドランから外に出て、竜はこれから向かうであろう戦場の方角を真っ直ぐに見据えながらひたすら進む。
 井坂深紅朗への憎悪は強く燃え上がっていたが、今の照井竜は鹿目まどかの願いを叶えたいという『欲望』の方が勝っていた。
結局、どれだけ復讐鬼の道を歩もうとしても、彼は人々を守る使命を持つ警察官。誰かの悲しみを見過ごすなど、心の奥底に宿る誇りが許さなかったのだ。
 別に誰かを守るなんて綺麗な言葉を使うつもりはない。ただ、春子と同じ未来ある少女が悪意の犠牲になることが許せないだけ。
 尤も、彼自身がそれを意識しているかどうかは定かではないが。


○○○


(照井さんに任せたけど……本当にこれでいいのかな?)

 照井竜が去ってから数分経った頃、鹿目まどかは考えていた。
 竜の好意に甘えてしまい、誰も犠牲にさせないという義務を押し付けてしまっている。無論、ここにいる名前も知らない女の子を守らなければならないが、それでも胸にモヤモヤを感じていた。
 このままではまた誰かが死んでしまうかもしれないのに、逃げるように隠れたままでいいのか?

「ねえ、鹿目さん……ちょっといい?」

 そんな疑問が波紋のように広がっていく中、あの女の子が声をかけてくる。
 それに気付いて顔を上げたまどかは、女の子がこちらを凝視しているのを見た。

122戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:35:25 ID:n4kD3JHU0
「……どうしましたか?」
「あなた、もしかして悩んでる?」
「えっ?」
「さっきからあなた、ずっと悩んでいるように見えるけど……もしかして、照井さんのこと?」

 その問いかけに対して、まどかは首を横に振る事ができなかった。
 竜と出会ってから動揺してばかりだったので気にしていられなかったが、よく見ると彼女は自分よりもずっと大人びて見える。その瞳からはただ怯えていただけの数分前とは打って変わって、落ち着いた雰囲気が感じられた。

「悩んでるなら、照井さんの所に行ってあげて」
「えっ!?」
「このままじゃ……このままじゃ、あの人が殺されちゃうかもしれないのよ! だから、鹿目さんには行って欲しいの!」

 そして少女の語気は唐突に強くなり、まどかは思わず呆気にとられてしまう。
 この状況に恐怖を感じていたと思ったら、突如として豹変したので違和感を覚えざるを得ない。だけど、もしかしたらこれが本来の彼女かもしれなかった。穏やかな毎日では誰かの為に一生懸命に頑張りながら、いつだって周りのみんなを笑顔にしていると、まどかは考える。
 こんな世界でも誰かを思いやる心を持っている少女を、まどかは素晴らしいと思った。彼女みたいな人がたくさんいてくれるなら、誰だって毎日を笑顔で過ごせるはず。

「私なら大丈夫だから、行ってあげて」
「その気持ちは嬉しいですけど……わたしは行けません」

 でも、まどかにはその好意に甘える事ができなかった。

「どうして?」
「わたしは、あなたの事も助けないといけないんです。照井さんにもそう約束しましたし、何よりもわたしがいなくなったらあなたが独りぼっちになっちゃいます……そんなの、寂しすぎますよね?」

 竜の後を追って戦いを止めたいのは山々だが、彼女を一人にさせるなんて出来る訳がない。ただの人間でしかない少女をこんな場所にほったらかしにしては、殺し合いに乗った人が来た時に殺されるに決まっている。
 それに竜からも頼まれた以上、きちんと果たさなければいけない。だからこのキャッスルドランから離れることが出来なかった。

「いいえ、竜さんと一緒に行ってあげて! そうしないと、あなたはきっと後悔するから!」

 しかしそんなまどかの思いに反して、少女は尚も真摯な表情で詰め寄ってくる。その瞳からは焦燥感すらも感じられた。

「鹿目さんはみんなを守る魔法少女なんでしょ!? だったらこんな所にいないで、戦いを止めてきて! 私だって、誰かが死ぬなんて嫌だから!」
「でも、そうしたらあなたが危ないよ! それに照井さんとだって、あなたを守るって約束したし……」
「私なら大丈夫だから! いざって時には、一人で逃げられる自信もあるし! それにあなたが守ろうとしたガメルって人も、それを望んでいるはずよ!」
「……ッ!」

 少女の口から出たガメルの名前を聞いて、まどかの心が一気に締め付けられていく。
 あの戦いでオーズに吹き飛ばされた時、ガメルは自分の危険も顧みずに守ってくれた。例えどれだけ傷ついても、守るためにその身を犠牲にして動いていた。

『まどか、おれにやさしくしてくれた! まどかをいじめるやつ、おれがゆるさないっ!!』

 そんなガメルの勇気と優しさに溢れた姿が、まどかの脳裏に再び蘇っていく。
 彼はこんな弱い自分を信じて、好きだと言ってくれた。それに何より、あんなにも恐ろしく見えたオーズを前に一歩も引かずに立ち向かっている。
 きっと彼は勝ち目があるとかないとかなんて考えてなかったかもしれない。あの時のガメルから感じられたのは、誰かを守りたいという強い決意だった。それは人々を守る魔法少女の誰もが持っているであろう、揺るぎない思い。
 今ここでじっとしているのは、それを自分から裏切っているに他ならなかった。

「だからお願い! 私の代わりに竜さんを助けて、オーズって人達を止めてあげて! このままじゃ、みんなが……」
「……わかりました」

 饒舌となった少女の言葉はまだまだ続いただろうが、まどかはそれを途中で遮る。

123戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:36:16 ID:n4kD3JHU0

「確かに、このまま何もしないせいでみんなが犠牲になるなんて、わたしだって嫌です」
「行ってくれるのね……!」
「はい……でも、すぐに戻りますから! あなたのことだって、わたしは守りたいので!」

 微笑みを向けてくれる少女の両手を強く握りながら、まどかははっきりと答えた。
 正直な話、ここで彼女の元を離れるのは心苦しくなってしまうし、やってはいけないのは理解している。でも、少女の言うようにここで黙っていたら今度は竜が犠牲になってしまうかもしれない。そんなことになったらガメルの思いを無駄にしてしまうし、魔法少女のみんなに顔向けが出来なかった。

「そう……ありがとう。私のワガママを聞いてくれて」
「いいえ、わたしの方こそごめんなさい。あなたやガメルの気持ちをわかってあげられなくて……」
「そんなの大丈夫よ。むしろ、このままじゃあなたのやりたいことを邪魔するだけになったのだから」
「そんなことないですよ……あ、そういえばあなたのお名前を聞かせてくれてもいいかな?」
「……そはら、見月そはらよ」
「そはらさんか……改めて、よろしくお願いします」
「うん! それはそうと、早く行ってあげて。みんなを助けるためにも」
「わかりました……そはらさん、すぐに戻りますからね!」

 力強くそう言い残しながらまどかはデイバッグを手にしながら部屋を出て、魔法少女に変身する。そのまま彼女は窓から勢いよく飛び出しながら、来た道を戻り始めた。
 この時、まどかは急いでいた余りに気づいていない。後ろにいる少女がガメルと同じグリードで、探し求めていたメズールであると。そして彼女が親友の志筑仁美の名前を騙っていたことを。
 そして、戦場へと向かうまどかの背中を見ているメズールの笑みが愉悦に染まっていることを、気づくことは出来なかった。


【1日目−午後】
【C-6 キャッスルドラン前】


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】白
【状態】哀しみ、疲労(小)、全身に小程度の打撲、魔法少女に変身中
【首輪】300枚:30枚
【コア】サイ(感情)、ゴリラ、ゾウ
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3(うち二つは用途の分からないもの、一つはガメルが所持していたもの)、
    詳細名簿@オリジナル、ワイルドタイガーのブロマイド@TIGER&BUNNY、マスク・ド・パンツのマスク@そらのおとしもの
【思考・状況】
基本:この手で誰かを守る為、魔法少女として戦う。
 0.みんなを守る為の力がもっと欲しい。
 1.急いで戦いを止めて、そはらさん(メズール)の所に戻る。
 2.仮面ライダーオーズ(=映司)がいい人だという事は分かるけど……
 3.仮面ライダールナティック? の事は警戒しなければならない。
 4.マミさんがもし他の魔法少女を殺すと云うなら、戦う事になるかも知れない……
 5.ほむらちゃんやさやかちゃんとも、もう一度会いたいな……
【備考】
※白陣営の現リーダーです。
※参戦時期は第十話三週目で、ほむらに願いを託し、死亡した直後です。
※まどかの欲望は「自分自身の力で誰かを守る事」で刺激されると思われます。
※火野映司(名前は知らない)が良い人であろう事は把握していますが、複雑な気持ちです。
※仮面ライダーの定義が曖昧な為、ルナティックの正式名称をとりあえず「仮面ライダールナティック(仮)」と認識しています。
※ガメルが所持していたセルメダルと、ガメルの身体を形成していたセルメダルを吸収し所持メダルが大幅に増えました。
※サイのコアメダルにはガメルの感情が内包されていますが、まどかは気付いていません。
※サイとゴリラのコアメダルが、本人も気付かぬうちにまどかの身体に取り込まれ同化していますが、まどかの意思次第でメダルは自由に取り出せます(まどかはまだ人間です)。
※メズールを見月そはらだと思っています。

124戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:37:18 ID:n4kD3JHU0


○○○


「一時はどうなるかと思ったけど、助かったわ……」

 鹿目まどかが去ったことでようやく一人になれたメズールは、一息つきながらソファーに腰掛ける。
 邪魔者の照井竜も鹿目まどかもこうしていなくなってくれたことで、ようやく動きやすくなった。しかも竜はまどかを優先させていたのか、自分の名前を呼ぶこともなく戦場に向かってくれている。
 良い事と悪い事にはバランスがあると言うが、まさにその通りかもしれない。これであの二人がオーズ達と潰しあってくれれば最高だが、流石にそこまで都合よくはいかないだろう。
 竜が狙っている井坂深紅郎も登場すれば可能性は上がるだろうが、配置された位置が少し遠い。

「我ながら臭い演技だったわね……まあ上手くいったから文句はないけど」

 殺し合いの兵力として利用するために煽ったセシリア・オルコットの時と違って、あの二人の前では弱者として振る舞った。まどかを煽った際の演技は今になって思うと大げさすぎたが、成功したのだからそれでいい。
 自分がグリードの一人であることを露知らず、殺し合いを止めるなどと意気込むまどかの姿は実に愉快だった。彼女の持つ誰かを守りたいという『愛』を、思うがままに利用している……そう考えたら、笑わずにはいられなくなってしまう。
 今になって考えると竜を青陣営に引き入れられなかったが、オーズを潰せる可能性を上げられるなら惜しくないかもしれない。

「それにしても、まさかこんなにも早く砕かれてしまうなんてね……ガメル」

 そして戦場に向かったまどかからガメルがオーズによって砕かれたと聞いた時、メズールの中で確かな喪失感が満ちていた。自分と一緒にいる事を最大の欲望として、誰の事も疑っていない彼が既にいない。
 つまり、彼との愛情はもう永遠に育まれる事はないのだ。

「グリード故に満たされない……でも安心して、ガメルの分まで私はたくさんの愛を集めてみせるから」

 しかし、嘆くことはない。寂寥感を覚えたものの、ガメルもグリードである以上は自分の敵なのだから、いつかは倒す運命にあった。その時が存外、早く来てしまっただけ。自分に出来ることは青陣営のリーダーとして、陣営戦の優勝を目指すしかなかった。
 あれから、大分時間も経っている。恐らくオーズ達も戦いで大分消耗しているだろうから、隙を見ればメダルを奪えるかもしれない。尤も、ウヴァみたいに策も無しに特攻しては自滅するだけだから、慎重に行動しなければならないが。
 戦場から離れるとしても、一人になったから動きやすくなったかもしれない。

「さて、私もそろそろ行かないとね……みんな、頑張りなさいよ」

 妖艶に微笑むメズールは、誰に向けるわけでもなく独り言を呟きながら立ち上がる。
 陣営に分けた戦いに勝利して、全ての愛を手に入れる為にも。



【1日目−午後】
【C-6 キャッスルドラン内部】


【メズール@仮面ライダーOOO】
【所属】青・リーダー
【状態】健康
【首輪】110枚(増加中):0枚
【コア】シャチ:1、ウナギ:2、タコ:2
【装備】グロック拳銃(15/15)@Fate/Zero、紅椿@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、
【思考・状況】
基本:青陣営の勝利。全ての「愛」を手に入れたい。
 1.このまま単独行動を続けるか? それとも戦場に向かい、戦いの隙を見てオーズを仕留めるか?
 2.まずはセルと自分のコア(水棲系)をすべて集め、完全態となる。
 3.可能であれば、コアが砕かれる前にオーズを殺しておく。
 4.完全態となったら、T2オーシャンメモリを取り込んでみる。
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。
※自身に掛けられた制限を大体把握しました。

125戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:38:58 ID:n4kD3JHU0

○○○


 ルナティックと名乗った仮面の男から放たれる雰囲気は異様すぎると、火野映司は思う。
 顔を隠す薄気味悪い仮面もそうだが、ガメルを庇った鹿目まどかを何の躊躇いもなくボウガンで撃ち殺そうとしたから、どう考えてもまともとは思えない。尤も、それはガメルを一方的に砕いた俺自身にも言えるかもしれない、そう映司は自嘲する。
 とにかく今は、あの男を何とかしなければならない。このまま放置してはまどかだけではなく、他の参加者も殺しかねなかった。

「きみ達は正義を背負い戦っているのだろう? ならば何故、こんな馬鹿げた殺し合いとやらを開いたグリードに味方した罪人である、あの娘を庇い立てする?」
「いや、あの子には罪なんてないよ……あの子は、あの子なりの正義で動いただけだから」
「ほう? だがもしもきみ達に見せた姿が仮初めの姿で、その下には別の顔があったとしたら……どうする?」
「そんなはずはない! あんなに優しい子が、誰かを騙すなんて絶対に有り得ない!」

 仮面の下から聞こえてくる、機械のようで冷淡とした言葉を映司は必死で否定する。
 ルナティックの言い分は正しいのかもしれないが、まどかが嘘をつく子だとはどうしても思えない。あの時、何の迷いもなくガメルを守ろうとした行為からは、嘘偽りなんて一欠片も感じられなかったからだ。

「仮面ライダーオーズ……仮にきみの言葉が正しいとしよう、もしもあの娘がこれからも罪人達を守ろうとしたら、どうする気だ?」
「えっ?」
「あの娘はこれからも罪人を庇うだろう。だがそれを良いことに、罪人が娘の正義を裏切って更なる罪を重ねたならば、多くの血が流れるだろう……そうなれば、あの娘とて罪人と同じ」
「何……ッ!?」
「故に、私はそれを咎めなければならない。罪人を庇い、悲劇を生むことに荷担する者など正義でも何でもない……血と涙が流れる前に、私が裁いてみせる」

 永久凍土の如く冷たさが感じられる言葉だが、映司には否定することが出来ずその心に深く突き刺さってしまう。
 ルナティックがやろうとしている行為は身勝手な上に冷酷で、正義という名を借りた暴力でしかない。しかし、今の映司もまどかの思いを無視して一方的にガメルを砕いたから、否定する資格などなかった。それを思い出した映司は、正義のためなら鬼となることを誓ったのに胸が痛んでしまう。

「ルナティック……アンタはもっともらしいこと言ってるつもりかもしれないけど、実際はただ子どもを傷つけようとしているだけじゃない」

 ルナティックを直視できず、思わず目を俯かせようとした映司の耳に響いたのはファイアーエンブレムと名乗ったヒーローの声だった。

「アタシは詳しい事情を知らないけど、あの子みたいな子は必要よ。これからの未来にはね」
「ファイアーエンブレム、きみはヒーローでありながら罪人を庇うつもりか? それによって、罪人が蔓延る世界が生まれたらどうする?」
「まどかちゃんだっけ? 確かにあの子は甘いかもしれないわ、でもその甘さは時として必要よ。疑ってばかりじゃ、誰だって笑顔になれないからネ……」

 溜息混じりの声に振り向いてみたら、ファイアーエンブレムのマスクから露出した口元が三日月型に歪んでいる。目元を確認することは出来ないが、力強い笑みを浮かべていることだけは何となく推測できた。

「あの子みたいな青臭い理想だって、決して忘れちゃいけないわ……だって、冷たい現実ばっかりじゃつまらないじゃない」
「下らない……その理想を貫き通そうとしても、罪人がそれを聞き入れるとでも?」

 スーツに彩られた赤のように暖かさが感じられた優しい言葉だが、映司は耳を塞ぎたくなってしまう。
 事情を知らないであろうファイアーエンブレムに悪意がないのは理解している。まどかを庇おうとしてこう言っているのはわかるが、彼が語る理想を裏切ってしまった。犠牲を減らすにはそれが一番の方法なのだろうが、やはりやりきれなくなってしまう。
 胸に溜まったこの気持ちをどうすればいいのか。そう思った彼は、ファイアーエンブレムに縋るように声をかけようとした、その時だった。

「ファイアーエンブレムさん、俺……」
「見つけたぞ……オーズにルナティック、それにファイアーエンブレム」

126戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:41:06 ID:n4kD3JHU0
 冷たくて鋭利な刃物のような声が、映司の言葉を途中で遮ってしまう。
 この場にいる三者の誰も当てはまらない声に、思わず映司は振り向いた。見ると、そこには黒いコートを纏った長身痩躯の男が立っている。髪型はやや癖が強くて、その目つきもどことなく鋭い。
 その手にはオーズドライバーのような白いバックルが握られていて、よく見ると後ろにはあのライドベンダーもある。
 見知らぬ男から放たれる雰囲気は異質に満ちていた。こちらを射抜くような敵意と同時に、絶対に成し遂げなければならない使命感も感じられる。

「君は、一体……?」
「お前達は一人残らず、この俺が潰す」

 映司の疑問を無視するかのように、その男はバックルを腰に添えるとバックルの右端からベルトのような物が飛び出して、一瞬で反対側に到達する。
そのまま男はどこからともなく、一枚のカードを取り出した。まるで、オーズに変身する為にコアメダルを手にする映司のように。

「変身」

 静かに呟く男の手に握られているカードに描かれているのは、仮面ライダーだった。それもオーズやバース、かつて出会ったWやアクセルとはまた違う見知らぬ仮面ライダー。
 こちらに見せつけるように構えたそのカードを、男はバックルの上部に勢いよく差し込んだ。

――KAMEN RIDE――

 バックルの中央に埋め込まれた赤い宝玉が輝きを放ちながら、オーズドライバーから発せられるのより低い電子音声が響く。
 その動作を見て、映司はこれから何が起こるのかを本能的に察した瞬間、男はバックルの両サイドを強く押し込んだ。

――DECADE――

 続くように聞こえてきたそんな単語と同時に、男の周りには九つのエンブレムが現れて、人型の虚像へと形を変える。そのまま男の体躯を包み込んで鎧に変貌した後、バックルから七枚のプレートが飛び出し、それらは顔面に突き刺さった。
 すると、悪魔のように禍々しい複眼が紫色の輝きを放ち、鎧がマゼンタと白に彩られていく。
 男が変身したその姿はまさに、仮面ライダーだった。

「君は……まさか、仮面ライダーなの!?」
「俺はお前達を破壊する者、ディケイドだ……世界の破壊者、仮面ライダーディケイド!」

 仮面ライダーディケイドに変身したその男は、右脇腹に備わっていた箱を取り出すと、柄と刃のような物が音を立てて飛び出してくる。ディケイドは剣となった箱を構えながら、ゆっくりと歩を進めてきた。

「仮面ライダーディケイド……破壊者を自称するきみもまた、この殺し合いで人を殺める罪人か?」

 そんなディケイドに対する問いかけの言葉を、ルナティックがぶつけてくるのが聞こえる。その声は相変わらず冷たかったが、どことなく怒りが混じっているように思えた。
 尤も、破壊なんて物騒な言葉を平然と使うから、警戒するのも当然かもしれないが。

「その通りだ! 俺は今まで、多くの仮面ライダーを破壊してきた」
「なっ!? 仮面ライダーを破壊したって……どうしてそんな事を!?」
「それが俺の使命だからだ、誰にも文句を言わせない」

 ざっくばらんと言い放ったディケイドを前に、映司は言葉を失ってしまう。
 ライダーは助け合いが大事なのに、目の前に現れたディケイドという仮面ライダーはライダーを破壊している。人々を助ける事がライダーの使命なのに、どうして真逆の行動を取るのか映司にはまるで理解できなかった。

「そんな! ライダーを破壊するのが使命って、どういう事!?」
「無駄よオーズ君! ディケイドって彼、やる気満々みたいだから今は腕ずくで止めるべきだわ!」

 ファイアーエンブレムの声には若干の焦りが籠もっているように聞こえる。
 すると映司は、今の姿を思い出した。まどかを説得してガメルの肉体を構成していたコアメダルを貰おうとして変身を解除してしまったので、生身を晒している。まどかを責めるつもりは全くないが、このままでは真っ先にターゲットになってしまう。
 危機を察した映司はオーズドライバーから紫のメダルを全て外して懐にしまい、変わりに使い慣れた三枚のコアメダルを手に取った。
 共に戦ってきた友であるアンクの物であるタカメダルと、かつて砕いたはずなのに復活したカザリの物であるトラメダルと、まだ決着をつけていないウヴァの物であるバッタメダル。それらを素早く、右から順にオーズドライバーの穴に装填させて、バックルを斜めに倒す。
ベルトの左脇に供えたオースキャナーから軽快な音が響くのを耳にして、映司はそれを手に取った。
 そして彼は、オーズドライバーに装填されたメダルと触れあうようにオースキャナーをバックルの前面で滑らせた後、その単語を力強く口にする。

127戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:43:11 ID:n4kD3JHU0

「変身!」

――タカ! トラ!! バッタ!!!――

 ディケイドの持つベルトから響いた音声とは対極に位置するように、異様なまでに明るい声がオーズドライバーから発せられると、映司の周りに様々な色を持つメダルのエネルギーが虚空から現れた。
 それらはすぐさま映司の身体に集うと、ディケイドのように鎧へと形を変える。刹那、使用したコアメダルの紋章が縦一列に並ぶように、胸元で輝いた。

――タ・ト・バ! タトバ!! タ・ト・バ・ッ!!!――

 その歌声は今まで何度聞いたのかは、もうわからない。それだけ、この力は使い慣れている物だった。
 タカのように赤く染まった仮面に備わった瞳は緑色に輝き、トラのように黄色い両腕からは鋭い爪が伸びて、バッタのような緑色を帯びた両足はとてもしなやかだった。
 800年前の王が、殺し合いという名の悲劇を生んだ欲望の結晶・コアメダルの力を使った事で生まれた戦士、仮面ライダーオーズへと火野映司は変身を果たす。数多あるコンボの中で最もリスクが低く、利便性の高いタトバコンボの形態となったオーズは足元のアスファルトを砕き、地面に右手を突っ込ませた。
 そこから、紫の力と同時に手にした恐竜の頭部を模した斧、メダガブリューを取り出してオーズは構えを取る。

「罪人よ、きみはもう懺悔の資格すらない……タナトスの声により、正義の裁きを下す」

 そんな中、ルナティックの声が聞こえてきたのでそちらを振り向くと、まどかを射抜こうとしたボウガンがその手に握られていた。その先端はディケイドに向けられていたので、殺しにかかっているのが簡単にわかる。

「ちょっと待って! いくらなんでもそれは駄目でしょ!」
「きみの答えなど聞いていない。私は、私の正義の元に罪人を裁く」
「何も、そこまでしなくても……!」
「オーズ君、そいつには何を言っても無駄よ! 今はディケイドを止めることが最優先って言ってるでしょうが……来るわよ!」

 ルナティックへの問答がファイアーエンブレムの叫びによって遮られて、オーズは思わず前を向いた。すると、視界の先から迫るディケイドが裂帛の叫びと共にその剣で斬りかかってきたので、思わずオーズはメダガブリューで受け止める。
 刃同士の激突による甲高い音を響かせながら火花が一瞬だけ飛び散った後、互いに拮抗が始まった。

「ディケイド、何で俺達が戦わなければいけないの!?」
「お前にはなくとも、俺にはある。それが俺の使命だからな」
「使命って何!? 仮面ライダーを破壊して、一体何の意味があるのさ!?」
「お前がそれを知る必要はない……何故なら、今ここで俺がお前を破壊するからだ!」

 激情に駆られたような一言と共に、ディケイドは密着状態から蹴りを叩き込んでくる。それを避けることが出来ないオーズの腹部に強い衝撃が走り、そのまま蹌踉めきながら後退した隙を付かれて、ディケイドの振るう刃によって切り裂かれた。
 オーズの鎧に守られていても衝撃は凄まじく、中にいる映司は短い悲鳴を漏らしてしまう。しかしディケイドはそれを意に介さないように得物を振るい続けてきて、鎧から次々と火花が飛び散っていった。
 このままでは拙いと判断したオーズは、これ以上の攻撃を通さない為にもメダガブリューを掲げて再び受け止める。そこからまた説得しようとオーズが考えた瞬間、突如としてディケイドはバックステップを取った。何事かと思う暇もなく、青く燃え上がる炎がオーズの目前を横切っていく。
 それはルナティックがまどかを貫こうとした矢だと察した頃には、上空を見上げたディケイドを目がけて次々と炎が襲いかかった。しかしディケイドもただでやられる事などせず、その手に握る剣を振るって次々と防いだ後、柄を曲げて銃を構えるように持ち、ルナティックに弾丸を放つ。だがルナティックは跳躍しただけで、呆気なく回避に成功した。

128戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:44:42 ID:n4kD3JHU0

「ちょこまか飛びやがって……!」
「罪深き悪魔よ……正義の裁きを受けるがいい」
「正義の使者を気取ってるのか……ハッ、上等だ!」

 ルナティックに啖呵を切ったディケイドは、銃身を横に開いて取り出した一枚のカードをバックルに差し込む。

――ATTACK RIDE BLAST――

 再びバックルの両サイドを押し込んだ途端に音声が鳴り響いて、ディケイドが握っていた銃が五つに分身して、増していった銃口から無数の弾丸が発射された。
 神速の勢いで突き進むそれらを前にルナティックは怯む様子を見せず、左右に飛んで回避していき、周囲の建物や電柱を破壊するだけに終わる。そこからルナティックは反撃と言わんばかりにボウガンから炎の矢を放つが、ディケイドの放つエネルギー弾によって防がれてしまった。
 数秒ほどの銃撃戦が繰り広げられた後、ディケイドはほんの少しだけ背後に飛んで距離を取って、今度はオーズの方に銃口を向けて弾丸を放つ。オーズはメダガブリューを横に一閃するが、暴風雨のように迫ってくる弾丸全てを弾くことは出来ず、鎧に着弾して爆発を起こした。

「うわぁっ!?」
「キャアッ!」

 衝撃の影響で吹き飛ばされるオーズは、ファイヤーエンブレムの悲鳴を耳にする。彼も弾丸の餌食になってしまったと推測した頃には、既に地面に身体を叩き付けられていた。
 灼熱はオーズの鎧を通り抜けて、映司の地肌に容赦なく突き刺さっていく。しかし彼はそれに耐えて、ファイヤーエンブレムに振り向きながら起きあがった。

「ファイヤーエンブレムさん、大丈夫ですか――」
「てめえ、下手に出てりゃいい気になりやがって! 調子に乗ってるんじゃねえぞ!」

 しかしオーズの心配は、ファイヤーエンブレムのドスの利いた声によって遮られてしまう。その様子からはこれまでの理知的な雰囲気は一切感じられず、任侠映画に出てくるようなヤクザのような迫力があった。
 その豹変ぶりにオーズは一瞬だけ呆気にとられるも、首を横に振ってすぐに正気を取り戻す。

「ちょっと、ファイヤーエンブレムさん……」
「あん!?」
「……いえ、やっぱり何でもありません」

 思わずオーズは萎縮してしまい、説得を諦めてしまった。
 どうやらディケイドは触れてはいけない所に触れてしまったらしい。こんな状態の人間に下手な事をしては、怒りの炎が燃え移ってもおかしくなかった。
 ただ、憤怒のあまりにディケイドを怪我させる前に、何とかして止めなければならない。それを許すような相手とも思えないが、出来るだけ早めに落ち着かせないとここにいる誰かが犠牲になってもおかしくなかった。
 チッ、と苛立ちをまるで隠そうとしないファイヤーエンブレムの舌打ちを耳にしたオーズは、全身に駆け巡る激痛を堪えてメダガブリューを構える。ふと、ルナティックの方を振り向いてみると、手に構えるボウガンの上では炎が激しく燃え上がっていた。その炎は彼の怒りと殺意を象徴しているように見えたが、警戒をしているのか今すぐに仕掛けてくる気配はない。
 四者の間に張り詰めた空気が広がっていくが、その数秒後に緊迫した雰囲気を壊すようにバイクのエンジン音が鳴り響いてきた。

「えっ……?」

 それがオーズの耳に響くまでそれほどの時間は必要なく、意識を向かせるには充分だった。振り向いた先には、赤いジャケットとレザーパンツを身に纏った男がライドベンダーを動かしながら、こちらに接近してくるのが見える。
 その男は動かすライドベンダーは戦場から数メートル離れた地点で止めて、ヘルメットを脱いで座席から下りた。
 現れた男の腰にはバイクのハンドルによく似ているバックルが添えられていて、赤いUSBメモリが右手に握られている。

「あの、あなたは……?」
「どうやら井坂はいないようだな……だが、まあいい」

――ACCEL――

「変……身!」

 赤いジャケットを纏った男はメモリのボタンを押すと、加速を意味する英単語が音声として発せられて、メモリをドライバーに差し込んだ。そのまま、ハンドルのようになっているバックルの両脇を勢いよく捻る。

――ACCEL――

 すると、あの音声が再びメモリから発せられていき、男の周囲に赤い粒子が出現した。大量に現れたそれは男の肉体を覆った瞬間、深紅の装甲へと変わる。鎧とは対照的に瞳は青に輝いて、それを仕切るかのようにAの形をした銀色の角が伸びていた。
 男が変身したその存在を見て、オーズの脳裏にある単語が浮かぶ。

129戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:47:32 ID:n4kD3JHU0

「君も、仮面ライダーなの!?」
「……俺はお前達のような仮面ライダーじゃない。ただの、アクセルだ」
「ただの……アクセル?」

 アクセルと名乗ったその男は、どこからか出したメダジャリバーのような重量感溢れる剣を構えて、ゆっくりと歩みを進んだ。
 オーズは知らないが、そこにいる仮面ライダーはかつて力を合わせた仮面ライダーWの戦友とも呼べる戦士。そして、仮面ライダーバースに変身した後藤慎太郎と肩を並べて戦ったこともあった。尤も、今の仮面ライダーアクセルはバースの存在を全く知らないが。

「仮面ライダーアクセルか……なるほど」

 現れたアクセルにディケイドも振り向いて、その手に持つ剣を構えながら呟く。

「お前が仮面ライダーを破壊しようとする男か」
「その通りだ。お前も仮面ライダーであるならば、俺が破壊してみせる」
「そうさせるわけにはいかない。お前が出会った彼女の為にも、俺がお前を止めてみせる」
「彼女……まさか、あの子のことか?」
「そうだ、鹿目まどかだ」
「まどかちゃんだって!?」

 アクセルが口にした名前は、オーズにとって決して忘れられない名前だった。
 そして、彼女の涙も記憶から呼び戻されてしまう。己の独善だけでガメルを破壊して、まどかを一方的に悲しませてしまった。
 その罪がオーズの心を侵食していく中、アクセルが振り向いてくる。

「鹿目まどかを知ってるということは、仮面ライダーオーズとはお前か?」
「そうだけど……まどかちゃんから聞いたの!?」
「お前には色々と聞きたいことがあるが、まずは戦いを止めろ。今すぐにだ」

 アクセルの言葉の意味は、明らかなる戦闘の制止。
 だが、この場はその程度で収まるような簡単な状況ではない。

「そう言われて、止めるとでも思ったのか?」

 それを証明するかのように横から割り込んできたディケイドは剣を振るうが、それはアクセルが抱える剣によって止められてしまった。
 そうして彼らの剣戟が始まって、辺りにけたたましい金属音が鳴り響いていく。アクセルは止めようとしているが、ディケイドがそれに構わず得物を振るっていた。その度に、火花が彼らの間で飛び散っていく。
 あのアクセルという男が何故まどかのことを知っていて、ディケイドがまどかと出会ったとはどういう意味なのかがオーズは気になったが、戦場に響き渡っていく音はその疑問を一瞬で払拭した。
 今は考えているよりも、あの二人の戦いを止めることが最優先に考えるべき。アクセルの言葉が真実ならば、ディケイドは決して悪人ではないはず。
 だからオーズはメダガブリューを構えて走ろうとした瞬間、唐突に胸の奥から凄まじい違和感が走って、視界が紫色に染まった。

(こ、これは……まさか、メダルの暴走!?)

 全身の血が凍り付いて、身体の奥底から破壊衝動が湧き上がっていくその感覚を映司は知っている。
 紫のメダルを手に入れてから、このコンボを使う度に意思とは関係なくグリードやヤミー達を叩き潰してきた。圧倒的な力の代償に獣のように理性を失うが、ここ最近は力を制御できたはず。現に先程だってガメルとの戦いでは、暴走を起こさなかった。
 この感覚に危機を覚えて、何とかして紫のメダルを抑え込もうとするが止まらない。胸のオーラングサークルを突き抜けてオーズドライバーから三色のメダルを弾き出し、紫のメダルは無理矢理入ってくる。
 拙いと思ったオーズは力ずくでもドライバーから紫のメダルを外そうとしたが、腕は全く言うことを聞かずにオースキャナーを握り締め、バックルの前に滑らせた。

――プテラ! トリケラ!! ティラノ!!!――
(駄目だ……止まらない!)

 いつもならば頼りになる力となるはずの音声だったが、その恐ろしさを知ってしまった今の映司には忌々しい物に聞こえてしまう。抑えられるのならまだしも、できないのならば殺戮の手段でしかない。
 逃げて、と声を出して思いっきり叫びたかったが喉すらも命令を無視する。紫の力は音すらも上回る速度で暴走しながら血管や神経を駆け巡って、一方的に蹂躙する。
 それでも必死に抵抗するが、彼にはどうすることもできない。

――プ! ト!! ティラノ!!! ザウルス!!!!――

 オーズドライバーからの音響を聞き取ったのを最後に、火野映司の意識は圧倒的な紫色に飲み込まれてしまった。

130戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:51:33 ID:n4kD3JHU0


○○○


「何だ……!?」

 クウガの世界で出会ってから共に旅をしてきた仲間、小野寺ユウスケとよく似た甘さが感じられる仮面ライダーオーズから発せられた叫び声は、大気どころか辺りの木々を震撼させるほどに凄まじかった。
 それは当然、仮面ライダーディケイドに変身した門矢士の耳に響き、本能的に危機を察して仮面ライダーアクセルから少しだけ離れて振り向く。すると、その鎧はフォームチェンジをしたかのように大きく形状を変えていた。
 黒い装甲は紫と白に変色し、仮面も白亜紀の時代に生息したプテラノドンを髣髴とさせる形となり、両肩からはトリケラトプスが持つような角が伸びて、最後にティラノザウルスのとよく似た長い尻尾が生える。
 姿を変えたオーズは暴君と呼ぶに相応しい雰囲気を放ち続けながら、その背中から巨大な双翼を生やしていった。仮面の下から発せられる咆哮は留まることを知らず、全身から極寒の風を噴出させる。

 すると、オーズが立つ地面が瞬く間に凍り付いていくのを、ディケイドは見た。そして、只ならぬ雰囲気を前にファイヤーエンブレムは後退する一方で、あのルナティックという仮面ライダーがボウガンをオーズに向けて、燃え盛る矢を放つ。
 冷たくなる風を切り裂きながら突き進むが、オーズはその手に構える斧を振るって弾いた。続くように矢は何発も発射されたが、オーズは咆哮と共にそれを砕き続ける。
 木端微塵となったエネルギーは破片となって散らばるが破壊力は未だに健在で、凍てついた地面を容赦なく吹き飛ばす。粉塵が大きく広がって視野を埋め尽くすが、その直後に大気が破裂するような轟音が響いて、一瞬で煙を払った。
 その中心部にいたオーズは背中の羽を大きく羽ばたかせながら膝を落とし、そのままロケットのような勢いで跳躍。ルナティックは狼狽したような声を出しながらボウガンの引き金を引こうとするが、その一瞬で既にオーズは目前にまで到達して、巨体を大きく回転させて恐竜のような尾でルナティックを大きく吹き飛ばした。
 薄気味悪い仮面の下から痛々しい悲鳴が漏れるが、すぐにコンクリートが砕かれた激突音で掻き消される。一方的な破壊を行うオーズの姿は、あのスカイライダーを撃破した自分自身の姿と酷似していた。

 五秒にも満たなかった蹂躙に呆気を取られていたが、次の瞬間にはオーズが空の上から振り向きながら急降下するのを見て、ディケイドは我に返ってライドブッカ―をガンモードに切り替えて弾丸を放つ。しかしルナティックの時と同じようにオーズの持つ斧によって簡単に弾かれてしまい、そのまま胸部のディバインマッスルを横一文字に切り裂かれた。
 その力は先程までなっていた上下三色のフォームを圧倒的に上回っている。そこまで長く剣を交わっていないが、それでもこのフォームは全てのスペックが急激に上昇していると一瞬で察した。
 斬撃の暴風雨によってアーマーに次々と傷が生じるが、黙っている訳にもいかないので少しだけ背後に飛びながらライドブッカ―をソードモードに戻し、剣先で斧を受け止める。
 そこから押し返そうとしたが、やはりオーズの腕力は凄まじすぎて少しでも油断すれば逆に押しつぶされてもおかしくなかった。

「グウウウウゥゥゥゥゥ……!」
「お前、まさか……!?」
「ヴヴヴヴヴヴァアアアアァァァァァァッ!」
 
 一切の理性が感じられない叫び声と共に、オーズはその強靭な足で下腹部を蹴り付けてきたので、衝撃によってディケイドは強制的に息を吐き出しながら後ずさってしまい、そこからまた一閃される。
 鎧から火花が迸って、中にいる士にもダメージを与えるがそれだけで屈するようなことなどせず、痛みを堪えてライドブッカーを振るった。しかしセルメダルが零れ落ちたせいで思ったより力が出ず、手応えが感じられない。ライダーカードを使って立ち向かおうとしても、その間に攻撃を受ける恐れの方が高かった。
 繰り広げられる剣戟によってけたたましい金属音が響き渡る中、それを打ち消すかのように炎の燃え盛る音が背後から聞こえてきたので、ディケイドは反射的に横へ跳ぶ。すると、彼が立っていた位置を通り過ぎるかのように炎が突き進んで、オーズに着弾した。

131戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:52:57 ID:n4kD3JHU0

『ELECTRIC』

 激突の衝撃で紫の仮面から呻き声が漏れて、オーズが微かに後退した直後に電気を意味する電子音声が鳴り響く。その音程はディケイドやオーズの変身アイテム違う、アクセルが持つUSBメモリから発せられるそれに近かった。
 振り向こうとしたがその暇もなく、ディケイドの横から勢いよく飛び出したアクセルがその手に持つ剣を振るい、オーズの装甲を斜めに切り裂く。するといつの間にか剣に纏われていた電撃が、音を鳴らしながらオーズの全身に流れていった。
 炎と雷の連続攻撃によってオーズの首輪からセルメダルが次々と零れ落ち、アクセルとファイヤーエンブレムの首輪に飛び込んでいく。だが、オーズ自体はすぐに体勢を立て直したので、大したダメージにはなってないように見えた。

「ねえちょっと、アンタ確か仮面ライダーディケイドって言ったわよネ!」

 そんな中、あのファイヤーエンブレムがディケイドの前に出てくる。

「何だ?」
「アンタには色々と言いたいことがあるけど、ここは一時休戦してあの子を止めることを最優先にしましょう! 今のあの子、どう見たって普通じゃないわ!」
「何を言っている、俺は……」
「ここで力を合わせなきゃ、アタシ達みんな一緒に殺されるだけでしょう! それがわからないの!?」

 ディケイドの言葉を遮ったファイアーエンブレムの叫びは焦燥感で満ちていた。
 確かに今のオーズは先程とは桁違いの強さを誇っている上に、こちらのセルメダルも大幅に減っている。認めるのは癪だが、ライダーカードを駆使して戦ったって簡単に破壊できる相手ではない。
 仮に倒せたとしてもセルメダルを大きく消耗するのは避けられないから、戦いを乗り越えるのは困難となるだろう。

「だいたいわかった……確かに、あのオーズは俺一人で相手をするには骨が折れる」
「わかればいいのよ」
「だが忘れるな、最後にはお前もあいつも俺が破壊することをな」
「アタシがそれを許すと思うの?」
「さあな」

 ファイヤーエンブレムの言葉を適当に流したディケイドは、ライドブッカーを構えなおしながらオーズの方に振り向く。そちらでは相変わらずオーズが猛獣のような叫び声と共に斧を無茶苦茶に振るっているが、アクセルがその剣で防ぎ続けていた。
 剣戟が数秒ほど続いた後、互いに背後へ飛んで距離を取る。そのタイミングを見計らって、ディケイドはアクセルの横に立った。

「そういうことだ……仮面ライダーアクセル、今だけは力を貸してやる」
「ディケイド、言ったはずだ……俺は仮面ライダーではないと」
「お前がライダーだろうとなかろうと、俺の邪魔をするなら容赦しない。いずれ破壊するだけだ」
「悪いが俺はこんな所で死ぬ気はない。だが、その前に……」
「ああ、まずはあいつだな」

 仮面ライダーであることを否定するアクセルの姿が、全ての仮面ライダーを破壊する自分自身と少しだけ被って見えたものの、気のせいだとディケイドは思考を振り払う。
 この殺し合いを乗り越える過程で、会場に集められた仮面ライダー達を破壊するつもりだったが、何の因果かこうしてまた力を合わせて戦うことになった。しかも、同じ仮面ライダーを倒すために。

(いや、俺はこいつらを利用しているに過ぎない……邪魔な仮面ライダーオーズを破壊するためにも。それだけだ)

 世界の破壊者は自身にそう言い聞かせた頃、暴君となった仮面ライダーオーズは大きく叫んだことによって、周囲は一気に凍て付いた。

132戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:54:18 ID:n4kD3JHU0

【1日目-午後】
【C-7/オフィス街 道路 シュテルンビルトエリア直前】


【備考】
※C−7エリアに門矢士と照井竜が乗ってきたライドベンダー@仮面ライダーOOOが2台放置されています。


【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、紫メダルの影響で暴走中
【首輪】270枚:0枚
【コア】タカ、トラ、バッタ、ゴリラ、ゾウ、プテラ×2、トリケラ、ティラノ×2
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:――――――――――(紫メダルの影響で暴走中)
 0.目の前の参加者達を皆殺しにする。
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※プトティラに変身した事でメダルは大幅に消費されましたが、ガメルがばらまいた大量のセルメダルを回収した事と、グリードを砕き目的が一つ達成された事で、メダルが大幅に増加しました。
※メダルを砕いた事は後悔していませんが、全く悪事を働いて居なかったガメルを砕き、あまつさえまどかの心に傷を与えてしまった事に関しては罪悪感を抱いています。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっています。


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)
【首輪】90枚:0枚
【コア】シャチ
【装備】ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド、
【道具】ユウスケのデイパック(基本支給品一式、ランダム支給品0〜2)、基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
   (これら全て確認済み)
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を全うする。
 1:仮面ライダーアクセルと仮面ライダーファイヤーエンブレムを利用して、仮面ライダーオーズを破壊する。
 2:「仮面ライダー」と殺し合いに乗った者を探して破壊する。
 3:邪魔するのなら誰であろうが容赦しない。仲間が相手でも躊躇わない。
 4:セルメダルが欲しい。
 5:最終的にはこの殺し合いそのものを破壊する。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、 ディケイド関連のカードだけです。
※まどかから得た情報を一部誤解しています。ルナティックの事も仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとアクセルを仮面ライダーだと思っています。

133戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:54:59 ID:n4kD3JHU0
【ネイサン・シーモア@TIGER&BUNNY】
【所属】赤
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)
【首輪】80枚:0枚
【装備】ファイヤーエンブレム専用スーツ
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らず、出来るだけ多くの命を救い脱出する。
 1.まずは仮面ライダーオーズ君を力ずくで止める。
 2.落ち着いたらイケメンで強そうな彼ら(=映司と照井)と情報交換したい。
 3.仮面ライダーディケイドから話を聞く。
【備考】
※参戦時期は不明ですが、少なくともルナティックを知っています。


【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)
【首輪】90枚:0枚
【装備】アクセルドライバー+アクセルメモリ@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:井坂深紅郎を探し出し、復讐する。
 1.今は鹿目まどかのためにも、仮面ライダーオーズとディケイドを止める。
 2.ウェザーを超える力を手に入れる。その為なら「仮面ライダー」の名を捨てても構わない。
 3.ほかの参加者を探し、情報を集める。
 4.Wの二人を見つけたらエクストリームメモリを渡す。
 5.戦いを止めたら、急いで鹿目まどかと志筑仁美(メズール)の元に戻る。
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。
※鹿目まどかの願いを聞いた理由は、彼女を見て春子を思い出したからです。

134戦いと思いと紫の暴走 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:56:49 ID:n4kD3JHU0

○○○


 ガメルという罪深きグリードを砕いたあの紫色の仮面ライダーオーズに突き飛ばされたルナティック――ユーリ・ペトロフ――は身体の節々に走る鈍い痛みに耐えながら、ゆっくりと立ち上がる。
 常人ならばこの衝撃で苦しむ暇もなく即死していただろうが、犯罪者と戦うために用意した特殊スーツの強度があるおかげで、一命を取り留めている。幸いにも骨が折れていることもないが、それでも戦いには支障を及ぼすほどの痛みが走っていた。
 無論、それを言い訳にして罪人への裁きを一旦休むなどという選択は彼の中にはない。今のルナティックは、人々を守ると嘯いた仮面ライダーオーズの様子が急激に変化したことに対する疑問だった。

(仮面ライダーオーズよ、きみの言葉は嘘だったのか……? いや、まさかグリードどもが彼のメダルに何らかの仕掛けを施したのか?)

 獣のように暴れたあの姿が火野映司という男の本性かと思ったが、それはそれで納得がいかず、真木清人達の仕業なのではと推測する。
 彼が持つ紫色のコアメダルの力は、この陣営戦とやらの根底を破壊してしまうような恐ろしい性能を持つ。そんな道具を何の考えもなしに戦場へ投入しては、ゲームが成り立たなくなるだけだ。
 可能性として考えられるのは、一度あのコンボを使う度に反動で火野は理性を失ってしまい、主催者の人形に変えられてしまう。あるいは、主催側には参加者達の意思を奪える何らかの装置があり、それを使ってオーズを暴走させているのか。
 無論、こんな突拍子もない考えが当たっているとは思えない。それに真相を解明させようとしても、ここでそんなことをしても意味がなかった。

(火野映司……もしも貴様が奴らに屈するのであれば、私は貴様を罪人として裁かなければならない。その正義が紛い物ではないと、私に証明してくれ)

 今はあのオーズをどうするべきかの方が、遥かに重用だった。このまま彼を放置させては、グリードどころか参加者全てに危険が及ぶ。罪人に罰を与えるのはこちらとしても構わないが、ヒーローのような主催者を打ち破る存在までを殺めさせるのは流石に拙い。
 かといって、この手でオーズを倒すとしても自分だけで手に負える相手ではないし、何よりもグリードを滅ぼす切り札となるであろう彼を失うわけにはいかなかった。

(そして、仮面ライダーディケイドよ。悪魔である貴様も何れ、私がこの手で裁いてみせる)

 あの戦場に現れた二人目の仮面ライダー、仮面ライダーディケイドへの殺意をルナティックは燃やす。
 過去に何をしてきたのかは全く知らないが、奴は悪びれる様子もなく自身を罪人だと言い放ち、オーズやファイアーエンブレムに攻撃を仕掛けた。そんな相手を見逃す選択など、ルナティックにはない。
 ディケイドもまた、グリード達や既に死んだはずのジェイク・マルチネスと同じで正義の裁きを下さなければならない罪人だった。新たなる敵への挑戦状を胸に秘めた彼は、正義を行うために歩みを進めた。



【1日目-午後】
【C-7/オフィス街 路地裏】


【ユーリ・ペトロフ@TIGER&BUNNY】
【所属】緑
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)
【首輪】75枚:0枚
【コア】チーター
【装備】ルナティックの装備一式@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:タナトスの声により、罪深き者に正義の裁きを下す。
(訳:人を殺めた者は殺す。最終的には真木も殺す)
 0.一刻も早く戦場に戻る。
 1.仮面ライダーオーズをどうするか……?
 2.火野映司の正義を見極める。チーターコアはその時まで保留。
 3.人前で堂々とルナティックの力は使わない。
 4.グリード達とジェイク・マルチネスと仮面ライダーディケイドは必ず裁く。
【備考】
※ルナティックの装備一式とは、仮面とヒーロースーツ、大量のマントとクロスボウです。
※一枚目のマントを自ら燃やしましたが、まだまだ予備はあります。
※仮面ライダーオーズが暴走したのは、主催者達が何らかの仕掛けを紫のメダルに施したからではと考えています。
※仮面ライダーディケイドを罪人と認識しました。
※参戦時期は少なくともジェイク死亡後からです。

135 ◆LuuKRM2PEg:2012/07/20(金) 22:58:50 ID:n4kD3JHU0
以上で今回の投下を終了します。
もしも矛盾点や疑問点などがありましたら、お手数ですが指摘をお願いします。

136名無しさん:2012/07/21(土) 00:32:26 ID:J.6kr45YO
投下乙です!わーい大惨事wそういや照井さんって他の主役ライダーと共演したことないんだよね

137名無しさん:2012/07/21(土) 00:37:25 ID:XH0fX8v20
おお良かった誰も死ななかったか
やっぱライダー勢は熱いな

138名無しさん:2012/07/21(土) 16:35:09 ID:mfFTrS320
投下乙です

ここに来て暴走かあ。そして休戦の一時共闘だが不安だぜw
暴走オーズが絶望すぎる。これも主催の細工だろうなあ
メズールはまだ順調だがいつまで続くかなあ…

139名無しさん:2012/07/22(日) 22:53:09 ID:hbnW6EEI0
っていうかほぼ全員が対主催なのに潰し合うって・・・

140名無しさん:2012/07/23(月) 12:08:38 ID:y/JBvksM0
相性が良くない、状況が悪ければ最悪まで行きそうな面々だからな

141名無しさん:2012/07/23(月) 17:19:38 ID:28.Cm8G2O
やさぐれ・復讐・暴走・歪んだ正義……これは酷い

142名無しさん:2012/07/25(水) 22:07:24 ID:14dcvyao0
予約来てたか

143名無しさん:2012/07/27(金) 09:57:50 ID:e814dxxo0
知らんかった…サイクロンアクセルエクストリームが、ゲームで実際に登場してたとは
てことは、ロワ中でも一応実現可能なんだな
本編に戦闘シーンが出てないから実際には実現不可能な展開なんだと思ってた

144名無しさん:2012/07/27(金) 10:31:55 ID:bBqbbbEYO
>>143
確かクラヒーオーズだっけか?エンジンブレード持ったまんまなせいでビッカーが盾に刺さりっぱなのがw

145 ◆jEBoYP/yOM:2012/07/29(日) 22:29:16 ID:.6TFBjss0
いちおう伝達事項
現在、ルールの一部変更が検討されています
専用したらばにて話し合った結果、以下の変更案が提示されました

グループ戦について
 (1)リーダーは、陣営に対応するグリードである
 (2)リーダー不在となった際、同陣営の参加者は次放送まで無所属となる
 (3)リーダー不在となった場合、同色コアメダルを最も多く取り込んでいる無所属参加者がリーダーを代行する
 (4)リーダー代行を1人に確定できない場合、無所属を継続する
 (5)リーダーが、無所属の参加者にセルメダルを投入した場合、自陣営の所属とする

具体的には
 1.リーダー代行の条件が「無所属」「同色コアを最も多く取り込んでいる」
 2.枚数が拮抗するとリーダー不在状態が継続
 3.一度リーダーが倒れると同陣営参加者は次放送まで無所属化
 4.放送までにリーダーが擁立できていないと復帰は繰り越し

という変更です
異存が見られない場合、ルールはこちらに変更される形になります
ご意見がある方は、専用したらばの議論スレにてお願いします

146 ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 20:58:01 ID:klU7klEw0
投下開始します

147Cにさよなら/トゥー・ザ・ビギニング ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:00:17 ID:klU7klEw0
【1】


実のところ、アンクは端からオーズに勝利する気などなかった。
まだ装備もコアメダルも不十分な今の彼では、プトティラコンボを打倒するなど到底不可能である。
故にアンクは、どうにかして赤のコアメダルをオーズから奪還して、とっととこの場から撤退しようとしていた。
そう、「勝ち目がないから」こそ逃げるのである。
断じて「火野映司と戦いたくない」などという、甘ったれた理由で逃走するのではないのだ。

(だが……どうやってコイツから逃げる?)

考えるのは簡単だが、実際にそれを行動に移すとなると、話は変わってくる。
果たしてこの不完全なグリードは、自身を傷つける事無くオーズからコアメダルを奪えるのか?
使えそうな武器は、弥子の支給品を含めても拳銃一丁のみ。
杏子がいれば話は違っただろうが、生憎彼女は「オリムライチカ」と交戦中である。
つまり、アンクは己の身体能力と拳銃だけで、あの暴君と張り合わなければならないのだ。
これ程までに「絶望的」という言葉がお似合いな状況など、そうはお目にかかれないだろう。
だが、それでもアンクは引くわけにはいかない。
何しろ目の前にいるのは、今まで行動を共にしてきた者であり、同時に最大の宿敵なのだ。
ここで何もしないで逃げるのは、アンクのプライドが許さない。

「オオオオオオオオオオオッ!」

紫の暴君が吼え、アンクに向けて走り出す。
これに対し、アンクは回避という形で攻撃の直撃を阻止する。
メダガブリューの一撃を食い止めれる武装がない以上、避けるしかないのだ。
数歩引いて斧の斬撃を避けると同時に、アンクはシュラウドマグナムのトリガーを引く。
銃口から発射されたエネルギー弾は、真っ直ぐ飛んでオーズに着弾し、僅かに彼を仰け反らせた。
しかし、暴君は倒れる事無く、またすぐに雄叫びをあげて襲い掛かってくる。

このやり取りを、二人は数回繰り返している。
攻撃の仕方などに違いはあれど、大まかな流れはどれも同じだ。
オーズがその気になれば、すぐにこの拮抗状態を破壊できるというのに、彼はそれをしようとはしない。
一体どうして、グリードには一切の容赦をしない筈の男が、ここまで止めを刺すのを渋るのか。

「オイ、どうした映司」

一旦手を止め、聞いているのかも分からぬかつての仲間に問いかける。
変身しているせいで、その男の表情を読む事はできない。

「やる気のなさが滲み出てんだよ。テメェ舐めてるのか」
「……」

挑発するように言っても、オーズは答えない。
脳内で答えを構成しているのか、それとも答える気が最初からないからか。
どちらにせよ、今のオーズの様子は、アンクをさらに苛立たせるには十分すぎた。

「ふざけやがって……!」

怒りを露にしながら、アンクは銃口をオーズに向ける。
それに反応するかのように、オーズもまた、アンクへと駆け出した。
これまでと何ら変わらない始まり方――また同じ様に弄ぶつもりなのかと心中で毒づきながら、
近づきつつあるオーズに向けて、拳銃の引き金を絞ろうとした、その時。

「なっ――――!?」

突如、アンクの視界が大きく揺れた。
バランス感覚が崩れ、身体は重力に従って地面へと落下する。
オーズの狙いが"足払いによる転倒"だと気付いた頃には、もう遅い。
メダガブリューが、アンクの目前へと迫る。

「おりゃああああああああああああッ!!」

その時、威勢のいい掛け声がしたかと思えば、オーズが突如吹き飛ばされた。
いや、この場合なら「弾き飛ばされた」というのが妥当だろう。
アンクが顔をあげると、そこにはオーズを力ずくで止めている少女と、二人組の男。
そして、その傍らにいる弥子の姿があった。

148Cにさよなら/トゥー・ザ・ビギニング ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:03:28 ID:klU7klEw0
【2】


本音を言うと、弥子は今すぐここから逃げ出したかった。
だが、それはアンクを見捨てるという行為と同義である。
そんな事をしてしまえば、これから先ずっと後悔が付き纏うだろう。
だからできない――見捨てるなんて度胸のいる行いは、弥子には不可能だった。

だが、助けを求めるという名目でなら。
必ずここに戻ってくるという前提があるのであれば、ここを離れられるのではないか。
そう思った途端に、足は動き出していた。
アンクと共に戦ってくれる仲間を求めて、弥子は走り始めていた。
それが、否定していた筈の「逃げる」という要素を含んでいるのは、自分自身が一番よく分かっている。
しかしそれでも、無力感と自己嫌悪を背に乗せて、彼女はその場から「逃げ出した」。

程なくして、助けに応えてくれる人が見つかった。
サイドカー付きのバイクに乗った二人の青年と、宙に浮いていた少女の三人。
人間が空を飛んでいたのには流石の弥子も面食らったが、しかし今はそれを気にしている場合ではない。
すぐに同行者が危機に瀕している事を伝えると、彼らは何の戸惑いもなく救助を承認した。
安心感を得るのと同時に、弥子は彼らに羨望の眼差しを送らざるおえなかった。
この三人は、怖気づいて逃げ出したような自分とは違い、逆境に立ち向かえるだけの勇気を持っている。
それが、弥子には羨ましくて仕方がなかった。

さて、結果として弥子の行動は正しかった。
助太刀が無ければ、間違いなくアンクは殺されていたし、弥子も同様に絶命していただろう。
間一髪の所で男を救えた三人も、後悔せずに済んだという訳である。
しかし、それが万人にとって気分のいい事とは限らない。
攻撃を妨害されたオーズは勿論のこと、戦いに水を差されたアンクも不快感を示さずにはいられなかった。

「……なんで助けた」
「アンタの連れに頼まれてな。助太刀に来たぜ」
「いい迷惑だな。邪魔だからとっとと失せろ」
「悪いけどそれはで無理な相談だ。君を放っておく訳にはいかない」

アンクの拒絶を、フィリップが否定する。

「それに、僕達は『仮面ライダー』なんだ。救える命は救うのが使命だからね」
「……また仮面ライダーか」

「仮面ライダー」という言葉を聞いた瞬間、剣崎の姿が想起される。
この二人も、あの男と同じ様な正義感を持っているのだろう。

「行くぞ、弥子」

これ以上拒絶しても、あの三人は聞いてくれないだろう。
そう考えたアンクは、不満げに踵を返し何処へと去って行く。
弥子もまた、彼が去った方向へと向けて走り出した。

149Cにさよなら/トゥー・ザ・ビギニング ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:07:54 ID:klU7klEw0
  O  O  O



「――――よくも」

乱入者に怒りの入り混じった言葉を投げつけたのは、他でもないオーズだった。
彼の恨みの篭ったそれは、火野映司が発したものとは思えない。
いや、そもそも彼は火野映司ではないのだから、違って当然なのだろう。
オーズの姿が歪み、瞬く間に別の姿――白い人形のような形態に変貌する。
その醜い姿を、翔太郎達が知らない訳がない。

「あ、アンタさっきの……!」

アストレアが驚愕の声をあげる。
いくら馬鹿と貶されていようが、数十分前の記憶を忘却するほど彼女の知能は低下していない。
イカロスと織斑千冬を嵌めた張本人が、今まさに彼女らの前に姿を現していたのだ。

「計画が全部ムチャクチャだよ。どうしてくれるのさ」
「計画って……!?まさかまた誰かをハメるつもりだったの!?」
「そうだよ。それ以外に何するのさ」
「……ッ!」

あっけらかんとした態度で答えるアンクに、アストレアの表情が怒りで歪む。
この怪人は打ちのめされて反省するどころ、またしてもダミーメモリで陥れようとしていたのだ。
この悪魔の如き所業に、彼女の怒りは大きく燃え上がる。
様子こそ変わっていないものの、翔太郎とも同じ思いを抱いただろう。

「観念しな偽者野郎。お前のメモリはここで砕かせてもらうぜ」

帽子を深く被り直し、翔太郎がドーパントに宣戦布告する。
彼の目には、あの外道を打倒してみせるという覚悟が宿っていた。

「行くぜ、フィリップ」
「ああ、翔太郎」

翔太郎がダブルドライバーを装着し、懐から一本のメモリを取り出す。
同様にフィリップもまた、メモリを取り出した。
フィリップの腰に複製されたダブルドライバーが出現し、彼はそれにメモリを挿入する。
そのメモリは翔太郎のドライバーへと転送され――変身の準備が整った。
翔太郎も手にしたメモリを挿入し、そしてバックルを展開する。

《――CYCLONE――》《――JOKER――》

二つのガイアウィスパーが流れた瞬間、翔太郎の姿は変化した。
一瞬の内に、彼は人間からガイアメモリの戦士――仮面ライダーダブルへと変貌を遂げる。
それと同時に倒れ込んだフィリップは、彼自身が用意したカンドロイド達に運ばれて何処へと去っていく。
もし変身した時の為に、あらかじめカンドロイドをダブルチェイサーに潜ませていたのだ。
これで障害は無くなった――これからが、本当の戦いの始まりなのである。


「『さあ、お前の罪を数えろ――――!』」




【3】


「佐倉杏子」に擬態したXが目にしたのは、二人の天使による空中戦である。
金髪の方は、以前黒騎士に襲われた際に助けてくれた少女だと理解できた。
もう片方は見た事もないが、姿からして恐らくは交戦している相手と同種だろう。

「すっげぇ……神話みたいだ」

目を輝かせながら、Xが呟く。
さながら天上から舞い降りたかのような麗しさを有した二人による戦いは、Xに強い好奇心を植えつけるのには十分だった。
だからと言って、Xがその戦闘に介入する事はないだろう。
佐倉杏子との戦闘によってメダルも減っているし、戦ってばかりいると「殺し合いに乗った者」と思われそうだからだ。
自分のルーツのヒントになりそうな参加者を集めた真木清人には一応感謝しているが、
だからと言って殺し合いに乗って彼の言いなりになるつもりもない。
自分は好きなように歩き回って、好きなように"箱"を作るだけだ。
それの邪魔をするのなら、例え主催者であっても彼は牙を剥くであろう。

「ああでも、真木やグリードって奴らの中身も見てみたいなぁ……」

「佐倉杏子」の声色で呟いたそこ言葉は、誰にも聞かれる事なく宙へと消えていく。

150Cにさよなら/トゥー・ザ・ビギニング ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:11:35 ID:klU7klEw0
【4】


ダミー・ダーパントは、言ってしまえば最強クラスの怪人と言っていい。
何しろ、相手の知る中で最強の存在にそっくりそのまま擬態できるのだ。
最大の敵にも、最愛の味方にもなれるこの能力を、一体誰が弱いと一蹴できようか。

さて、今のダミー・ドーパントは、アストレアの記憶から複製したイカロスの姿で戦っていた。
先の戦闘のように大道克己に変化すれば、ダブルだけは無力化できるものの、
空中を自在に移動できるアストレアが相手では、エターナルでは苦戦を強いられる。
故に、ここは彼女と同じく飛行戦が可能かつ強力な、エンジェロイドに擬態せざるおえないのだ。

相手となるアストレアは、こと接近戦においてはエンジェロイドの中でも最強だ。
手にした剣はイカロスのシールドすら砕き、身を護る盾はあらゆる砲撃を無力化する。
そんな武器を持つアストレアに接近戦を挑むのは、あまりに無謀と言えるだろう。

しかし逆に言えば、距離を置いて戦えばこちらにも十分勝算はあるという事だ。
となると、一旦アストレアから離れ、遠距離からの砲撃を繰り出すのが、この戦闘において最も有効な戦法だろう。
その事は『イカロス』とて十分承知していたので、彼女もそういう戦法を取ろうとしている。
しかし、それなのに、どうしてなのか。

(遅い……イカロスがどうしてここまで遅い……!?)

神速とも言えるエンジェロイドに擬態しているのにも関わらず、その速度は予想以上に遅い。
それ故に、機動性なら最速を誇るアストレアに簡単に追いつかれてしまい、
遠距離からの蹂躙がかなり厳しくなっているのだ。
それどころか、「Artemis(アルテミス)」の威力も心なしか低くなっているように思える。
完全に擬態ができているのなら、こんな事態などありえない筈なのだが。

これには、先ほどの戦闘によるダメージがまだ完全に癒えていなかったのもあるが、
何よりもガイアメモリとアンク自身との相性が大きいだろう。
いくら人の形をしているからと言っても、所詮アンクはメダルの塊に過ぎないのだ。
本来人間用に造られたガイアメモリをグリードが使用するのは、
言ってしまえばロボットがビタミン剤を使うようなものなのである。
主催側の尽力によって、一応外見はそっくりに擬態できるようにメモリを「騙している」ものの、
それでも戦闘面での再現度は、人間が使用した際よりも大きく劣るのだ。
アンクがそれを知らないのは、彼自身が戦闘の際に手を抜いていたからだろう。
エターナルに擬態した時も、アンクは全力を出さずに「相手を嬲る事」を常に頭に入れていた。
相手を生かさず殺さず痛めつけようとしたが故に、彼は己とメモリの相性の悪さに気付けず、
ぼろぼろの状態のクウガ一人に互角の戦いをするどころか、打ち負けてしまったのである。
――とどのつまり、彼は新たに目覚めた快楽によって、自分の首を絞める羽目になったのだ。

「やっぱり偽者ね!先輩はもっと速いもの!」
「グッ――――黙れェ!」

激情に駆られて、『イカロス』が再び「Artemis」を発射した。
今回は数発だけではない――今回はメダルの使用量を度外視し、10発以上は放っている。
「Artemis」は自在に軌道を変えられるが故、相手がどこに居ようが、自由な箇所に着弾させられる。
対して、アストレアが持つ盾――「aegis=L」は、鉄壁の防御を誇るものの一方向しか守れない。
単純に考えれば、ここでダメージを負うのはアストレアなのだが――。

―― Trigger! Maximum Drive! ――

「『トリガーッ!フルバーストッ!!』」

突如別方向から発射された光弾が、アストレアへと襲い掛かる攻撃を尽く相殺する。
悲しいかな、メモリとの相性の悪さが原因で、「Artemis」の威力も無残なまでに弱体化しているのだ。
誰が『イカロス』の邪魔をしたかなど、もう検討がついている――アストレアと共にいた、あの二人組だ。

151Cにさよなら/トゥー・ザ・ビギニング ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:12:58 ID:klU7klEw0
「仮面、ライダァァァ……ッ!」
「危ねえ危ねえ……さっきのは流石に肝が冷えたぜ」

仮面ライダーダブルの援護によって、全力の一撃は無意味となった。
さっきから何もかもが上手くいっていない――この時、アンクの苛立ちは限界に達していた。

「よくもよくもよくもォ!ナメるのもいい加減に――」
「隙あり!いっけえええええええええええ!!」

掛け声に反応した『イカロス』が、咄嗟に防御壁「Aesis(イージス)」を展開する。
そしてその直後、予想通りアストレアが剣を片手に突っ込んできた。
しかし、直後で『イカロス』は気付く――これは悪手であるという事実に。
リュクサオルは、あらゆる防御を粉砕する最強の剣なのだ。
『イカロス』が張った「Aesis」など、容易く破壊されるだろう。

アンクがもう少し冷静だったのなら、アストレアにも別の方法で対処できただろう。
しかし、激昂により冷静さが欠如した今の彼には、そのまま斬劇を受け止めるという選択肢しか思い浮かばなかった。
故に――――――彼は敗北する。

「そんな……ッ!こんな事、が……ッ!」
「いっけえええええええええええええッッ!!」

リュクサオルの刃が、『イカロス』の防御壁を打ち破り、そのまま彼女の身体を切り裂いた。
これが、『イカロス』――否、ダミー・ドーパントの最期であった。


【5】


無愛想な表情を崩さぬまま、アンクは歩みを進める。
まるで親鳥に着いていく小鳥のように、弥子も彼と同じ道を歩いていた。
彼女の前を歩くアンクは終始不機嫌そうで、気軽に声をかけれるような雰囲気ではない。
しかし、弥子は意を決して彼に質問をぶつけてみた。

「あの……やっぱり迷惑だった、よね?」
「ああ、大迷惑だ」

即答だった。
あまりにも素早い切り返しは、普通に言われる以上に心に響く。
僅かながらも後悔の念が弥子の心中に生まれるが、しかし彼女は別の問いを投げかける。

「あの映司って人……アンクの友達なの?」
「アホか、アイツと馴れ合った覚えはねえ。第一、そんな事聞いてどうするつもりだ」
「だって気になったから……」
「なんだそりゃ。バカみたいな理由だな」

弥子のその言葉を最後に、会話は途絶えた。
それから聞こえるのは、二人の靴が地面を叩く音だけである。

しかしそれからしばらくして、三人目の足音が聞こえてきた。
それに気付いた弥子が辺りを見回すと、見知った顔が見つかった。

「あっ……杏子さん!」

152Cにさよなら/トゥー・ザ・ビギニング ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:16:41 ID:klU7klEw0
あの赤い髪をした釣り目の少女は、間違いなく佐倉杏子だ。
弥子は彼女へ駆け寄り、再会の喜びを分かち合おうとする。

「無事だったんですね……良かった……」
「あ、ああ。何とかな」

ぎこちない口調で返事をするものの、その声色は紛れも無く杏子のものだ。
無事に仲間が戻ってきた事に、弥子は深く安堵する。
しかし、その再会を手放しに喜ばない男が、一人いた。

「……オイちょっと待て。首輪がおかしいぞ、ソイツ」

アンクの知る限り、佐倉杏子の首輪の光は"赤色"だった筈だ。
それなのに、今の彼女の首輪の光は"緑色"をしている。
それがどうにも不可解だ――ルールには、陣営の変更は無所属にしかできない筈なのに。

「本当に杏子なのか、お前」
「なに言ってるのよアンク!どっからどう見ても杏子さんじゃない!」
「そうさ!今更疑うつもりかよ!」
「シラ切るつもりか。だったら、俺がお前に渡したアイスの本数を言ってみろ。食った本人なら分かるだろ」
「…………ッ!!」

突然、杏子の顔が苦悶に染まる。
食べたアイスの本数などという"本人にしか分からない問題"を出されたせいだろう。
それを見たアンクは確信した――この女は「佐倉杏子」ではない。

「もう一度聞くぞ。誰だお前」

そう問いかけた頃には、既に杏子の姿はなかった。
何故なら、かつて杏子がいた場所には、人の形をした怪物が存在していたからである。
顔の右半分が別人に変貌しているその者を、弥子は知っていた。

「そんな……嘘……!」
「そう、俺は佐倉杏子じゃないんだ……久しぶりだね、桂木弥子」

声色も、既に杏子のものではない――それは間違いなく、「怪物強盗X」のそれだった。

153Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:18:13 ID:klU7klEw0
【6】


見事宿敵を打ち倒し、地上に舞い降りたアストレアを、ダブルが出迎える。
したり顔をした彼女の姿を見た彼らは、そこで「少し前までの彼女」との相違点に気付いた。

「アストレア……お前デイパックどうしたんだ?」
「えっ……あ、あれ!?……ない……何処にもない!」

アストレアは戦闘の際に、邪魔にならないようにデイパックを背負っていたが、
今の彼女の背中には、あるべきそれが何処にも見当たらないではないか。
アストレアも言われてから気付いたようで、あちこちを見回して自分のデイパックを探している。

「ど、どうしよう!どこかに落としちゃった!探さないと!」
「……いや、探す必要はないぜ」

何かに気付いた翔太郎が指差した方向には、赤い怪人が直立していた。
メモリを砕かれた事に怒りを覚えたのか、彼の視線は射抜くように鋭い。
そして彼のすぐ近くには、アストレアの探し物がうち捨てられていた。

『メモリブレイクを受けてもまだ立ち上がるとはね……』
「ああ、流石グリードってわけか」

恐らくは、リュクサオルが直撃する直前に、アストレアがらデイパックを無理やりもぎ取ったのだろう。
その証拠に、デイパックの肩掛けは引きちぎられてしまっている。

「……許さない――――殺してやる」

その言葉には、ぞっとするような殺意が篭っていた。
しかし、アストレアとダブルはそれに怖気づくことなく、再び臨戦態勢を整える。
それに対しアンクは、いつの間にか手にしていたバックルを腰に当てる。
そうすることでベルトが出現――バックルがアンクに装備される。

「変身」

――Open out――

そう宣言して、バックルの右側を展開する。
そこから放出された光の壁がアンクを通過すると、既にその姿は別人のものへと変化していた。
鳥類を擬人化したような怪人態から、「A」をモチーフとした鎧の騎士へ。
ベルトを使用する変身には、ダブルの二人にも覚えがあった。

『あれは、仮面ライダー!?』
「嘘だろ……!?」

鎧の騎士――グレイブは、変身するやいなやラウザーから一枚のカードを取り出した。
それを察知したアストレアとダブルが、阻止しようと攻撃を繰り出そうとする。

154Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:21:12 ID:klU7klEw0
『TIME』

その電子音と共に、グレイブがその場から消える。
そしてその直後、「ドシュリ」という鈍い音がアストレアの腹部から聞こえた。
見ると、一本の光り輝く刃が、彼女を貫いているではないか。
彼女の真後ろには、ついさっきまで向こう側にいた筈の仮面ライダーの姿があった。

「………………ぇ?」

数刻ほど遅れて、アストレアの口元から、嗚咽と共に鮮血が漏れ出した。
その時、アストレアは刺されたという事実すら咄嗟には理解できなかっただろう。
グレイブが剣を引き抜くと、そこから赤い液体が滝のように湧き出てくる。
致命傷を受けたアストレアの身体は、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。
肉体を貫いた刃が何を意味するのかも解らぬまま、彼女はその場に倒れ伏したのだ。

ダブルは一刻ほど、呆然としたまま目の前の惨状を見つめていた。
しかし数秒もすれば全てを理解し、やがて怒りがふつふつと沸き起こってくる。
そしてそれが最大に達した時、ダブルの――翔太郎とフィリップの感情が爆発した。

「てめええええええええええええッ!!」

怒りに任せて、グレイブに向けて拳を叩きこもうとする。
しかし、彼は冷静にグレイブラウザーからカードを抜き取り、それをスキャンする。

『MACH』

高速移動が可能になったグレイブは、すぐさまダブルの攻撃をかわし、そして後ろに回りこんで斬撃を加える。
くぐもった声と共に、ダブルは仰け反った。

『高速移動……!?翔太郎、ここはサイクロンジョーカーだ!』
「ああ、分かって――」
「させないよ」

『TIME』

またしてもグレイブが消失したかと思えば、突如目の前に現れてダブルにまた一撃を与える。
その衝撃によって、翔太郎は使用しようとしていたジョーカーのガイアメモリを落としてしまう。
すぐに取りに行こうと手を伸ばすが、それよりも先にグレイブの足がメモリを踏み砕いた。

「なっ……テメェ……!」
「絶体絶命だね、仮面ライダー……フフッ」

まるでこの状況を楽しむかのように、グレイブが嗤った。

155Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:24:12 ID:klU7klEw0
【6】

目の前にいる女は、姿形こそ佐倉杏子のそれであるが、身に纏う雰囲気は全く別の物だった。
無尽蔵に溢れ出る剣呑な殺意を必死で押さえ込んでいるようなそれは、まさしく凶悪犯罪者特有のものである。
相対して、改めて弥子は目の前の危険人物の狂気を認識する。
これこそが、今日本を震撼させている犯罪者――怪盗X。

「お前、杏子に何した」

最初に尋ねたのは、アンクの方であった。
目の前にいる赤髪の少女が偽物だとするのなら、本物は一体何をしているのか。
大方検討は付いているが、それでも問わずにはいられない。

「ああ、あの娘?結構面白そうだったから、中身を覗かせてもらったよ」

Xの「中身を見る」という言葉がどういった意味合いを持つかは、弥子から既に聞いている。
つまり、杏子はXに敗北して"中身を見られた"という訳だ。
俺の正体のヒントにはならなかったけどね、と嘯く彼を他所に、アンクは警戒を解かぬまま問いかける。

「……俺達の中身にも興味があるのか」
「勿論見てみたいね……って、そんなに警戒しないでよ」

カラカラと笑いながら答えるXに対し、アンクの表情は依然として険しい。
それもその筈――人殺しの狂人の言など、誰が真に受けられようか。

「別に形振り構わず襲おうって訳じゃないさ。第一、俺だってこの殺し合い乗る気なんてちっとも――」
「……だったら!なんで杏子さんを殺したの!?」

思わず怒りをぶつけたのは、さっきまで黙っていた弥子であった。

「それさっきも言ったよ。"中身を見てみたかった"って言ったじゃないか」
「何よそれ……そんな理由で……酷いよ……!」

そう言った弥子の目からは、涙が流れ落ちていた。
僅かな間とはいえ、共に行動を共にした仲間なのである。
そんな彼女が殺されたどころか、"箱"にされただなんて――そんな酷な話があるか。

「あーあ、泣いちゃった……まあ安心してよ。
 しばらくは静かにするつもりだし、アンタ達は殺さないよ」

そう言うと、Xは懐から小物を一つ取り出した。
ほんのり赤く輝くその宝石は、アンクには見覚えがあった。

「杏子のソウルジェムか」
「へえ……ソウルジェムって言うんだコレ。もういらないし、これあげるよ」

Xがソウルジェムを弥子に向けて放り投げた。
それをキャッチした彼女は、杏子の形見であるそれをまじまじと見つめる。
もし自分がZECT基地を離れようと言っていれば、もしかしたら杏子は死ななかったのかもしれない。
こんな形でソウルジェムを手渡される事も、なかっただろう。
そう思ってしまった弥子は、蹲ってまた泣き始めた。

「それじゃあ俺は行くよ……あ、そうだ助手さん、ネウロに会ったら言っといてよ。
 『早く俺を見つけないと、みんな"箱"にしちゃうよ』ってさ」

そう言い残すと、Xは「佐倉杏子」の姿のまま、人間離れした速度で二人の元から去っていった。
後に残ったのは、二人の人間。
杏子の死に、僅かな怒りと苛立ちを覚える男。
そして、杏子の魂を片手に、ただ咽び泣く事しかできない弱者だけ。

156Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:26:44 ID:klU7klEw0
【8】


奪い取ったアストレアのデイパックに入っていたラウズカード。
どういう経緯で彼女に渡ったかは知る由もないが、とにかくこれはアンクにとっては僥倖だった。
これとイカロスに支給されていたグレイブバックルを組み合わせれば、間違いなく奴らに勝てる。

事実、ラウズカードを手にしたグレイブの強さは、ダブルを軽く凌駕していた。
ダブルのあらゆる攻撃は失敗に終わり、しかしグレイブの攻撃は回避できない。
これは、グレイブがラウズカードを所持している――つまり、時間停止を始めとする様々な技を使えるのが大きいだろう。
グレイブ自身にもかなりダメージと疲労が蓄積されているものの、
ラウズカードが齎した恩恵は、それらの要素を差し引いてもダブルを圧倒できる程に大きかった。

グレイブにとっては、目の前のライダーがいかなる戦法を取ろうが関係ない。
交戦の合間にラウズカードを使用し、攻撃を回避してしまえばいいだけだ。
そして、攻撃によってできた隙を利用して、こちらは確実にダメージを与えていく。
こんな単純な動作だけで、ダブルは窮地へと追いやられていたのだ。

『――翔太郎!今のままじゃ奴には勝てない!一度体制を立て直すべきだ!』

ダブルが万全の状態ならば、結果は違っていたかもしれない。
未知の仮面ライダーを打ち倒し、アストレアの敵を討てた可能性もあっただろう。
しかし、満身創痍という言葉が相応しい今のダブルでは、それは叶わない。

「なっ――ふざけんじゃねえ!アストレアを見捨てろっていうのかよ!」
『あの傷を見ただろ翔太郎!彼女はもう助からない!』

急所を的確に貫いたグレイブの一撃を受けたアストレアは、恐らく命を落とすだろう。
この場に医療器具や、アヴァロンのような道具があれば結果は違っただろうが、
そんなものが何処にもない以上、この残酷な結果を受け入れるしかない。

「畜生……ッ!」

目の前にいながら救えず、ただ命の灯火が消える様を黙って見ているしかない。
その事実は、翔太郎にとっては屈辱以外の何者でもなかった。

「切嗣の信頼を裏切れってのかよ……!」
『悔しいのは分かる。でも今は生き残るのを優先し――』
「何ブツブツ言ってるのさ」

突然真後ろから聞こえた声に気付いた頃には、もう遅かった。
ラウズカードの使用によって殺傷力の上昇したグレイブラウザーが、ダブルを切り裂く。
時間停止能力を手にしたというのは、つまり瞬間移動が可能になったのと同義。
相手に気付かれずに接近する事など、造作もない事であった。

直撃を受けてからようやく彼に気付いたダブルも攻勢に転じようとする。
しかし、これもまたグレイブの時間停止の前には無力。
それどころか、またしても背後からの攻撃を許してしまう。

『SLASH』『MACH』

二種類の電子音が流れた途端、以前よりも激しさを増した斬撃が襲い掛かった。
いや、「増した」なんて言葉で表現するには、その連撃はあまりに激しすぎる。
これは、グレイブが高速化とラウザーの強化を同時に行ったが故にできる芸当なのだ。
2種のラウズカードを使用したグレイブの攻撃は、ダブルの全身を容赦なく痛めつけた。

「凄い……カードを組み合わせるともっと強くなるんだ」

興味深そうにグレイブラウザーを見つめながら、グレイブが呟いた。
どうやら、使っている本人もあのカードを全て把握している訳ではないらしい。
僕達は実験体か、とフィリップが苦々しそうに言った。

157Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:28:42 ID:klU7klEw0
嬲られ続けたダブルは、傍目から見ても限界が近いと理解できた。
それに対し、グレイブは疲労の色こそ見えるものの、まだ十分に戦える。
この戦いでどちらが勝利を掴むのかは、もはや言うまでもなかった。

「うん、終わりにしよう」

『MIGHT』

ラウザーから流れたその電子音は、言うなればダブルへの死刑宣告である。
これよりグレイブが使う技は、重力波を乗せた剣で相手を引き裂く「グラビスマッシュ」。
この一撃を今のダブルがまともに食らったら、変身している翔太郎はただではすまされないだろう。
危険を察知した彼も回避の方法を考えるが、時間停止能力を持つ今のグレイブには、どんな策も無意味になる事は明確だった。

『翔太郎……!』
「クソッ!腹括るしかねえのか……!?」

そんな事を言っている内に、煌く刃を構えながら、グレイブがにじり寄ってくる。
走ればすぐに到達する距離にもかかわらず、彼がゆっくりと歩いているのは、
ダブルが驚愕し、そして絶望する様を見たいというアンクの個人的な意思によるものだった。

子供というのは何にでも興味を示し、そして得た知識をスポンジの様に吸収するものである。
かつては赤子同然だったアンクもその例に漏れず、
この地で様々なものに興味を持ち、そしてそれが齎す知識を余さず食らっていった。
現在、そんなアンクの好奇心を最も揺さぶっているのは、「苦しんでいる人間の表情」である。
どんなに強がっている者でも、絶望の淵に落とされれば表情は今までにないものに変貌する。
普段はしないその表情を見ているのは、アンクにとっては愉快な事この上なかったのだ。

グレイブが、ダブルのすぐ目の前にまで近づいてきた。
いよいよ、グレイブラウザーがダブルに向けて振り落とされるのだ。

「じゃあね、仮面ライダー」





そして、グレイブの必殺の一撃が―――。

158Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:30:10 ID:klU7klEw0



―――当たらなかった。






「――ガッ――――ァ――――!?」

その代わりに聞こえたのは、アンクの呻き声。
見ると、彼の心臓部から刃が生えているではないか。
グレイブの装甲を突き破ったその光り輝く剣を、ダブルは知っている。

「アストレア……!?」

アンクの真後ろの影は、紛れもないアストレアのものだった。
傷口からは未だに大量の血が流れ出ているものの、それでも彼女は動いた。
言うなればそれは、アストレアが見せた最後の煌きだったのである。

「――――なん、で――――お前――がッ――――!?」
「……ざまぁ……見な、さい……よ……バーカ……ッ!」

身体を食い破ったリュクサオルの突きは、間違いなくアンクにとっては致命傷だ。
この期を逃してはならないと、フィリップが翔太郎へ指示を出す。

『翔太郎!マキシマムドライブだ!』
「……ああ、チャンスは今しかねえ!」

現在のダブルのフォームは、サイクロントリガーだ。
バックル部分をマキシマムドライブで打ち抜けば、グレイブの力を使用できなくなる筈である。

――Trigger! Maximum Drive!――

『「トリガー!エアロバスタァァァ!!」』

アストレアの足掻きを無駄にしないためにも、この一撃は必ず当ててみせる。
その思いを乗せて、トリガーを引こうとした、その時。

「な、めェ、る……なあああああああああああああッッッ!!!」

……この時、ダブルにとって予想外だったのは、アンクが根性を見せた事。
依然として輝きを失わないグレイブラウザーの切っ先をダブルに向けて、そのまま振り落とす。
引き金が引かれたのと、刃が直撃したのは、ほぼ同時だった。

159Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:32:37 ID:klU7klEw0
【10】


アンク達が駆けつけた頃には、既にその場に生きた者はいなかった。
ついさっき遭遇したばかりの青年と少女は、既に屍となってその場に斃れていた。
少女の方は、心臓部に穴が開いており、そこからは一滴の血も流れてはいない。
青年の方にもまた、心臓部に空洞ができており、この者が既に死人である事を示していた。

辛そうに顔を伏せる弥子を尻目に、アンクは少女の亡骸の付近に落ちていた数枚のメダルを拾う。
それらどれもが、どういう訳か色彩を失っていたが、彫られていた鳥類のロゴを見て、確信する。
この四枚のメダルは、間違いなく自身が求めて止まないものだ、という事を。
唯一怪人の面影を残す右腕からメダルを取り込むと、己の中に欠けていたものが戻ってくる感覚があった。
――だが、まだ足りない。

「やはりアイツを取り込む必要があるか……」

まだこの地にいるであろう「もう一人の自分」を探して倒さない限り、完全態どころかグリードとしての姿にすらなれない。
あの忌々しい子供を一刻も早く探し出し、どちらが本物なのか白黒つけてやらなくては。
……尤も、これだけコアメダルを集めた以上、もう一人の自分と出会ってもそのまま吸収できてしまうだろうが。

ふと弥子に目を向けると、彼女は頭を垂れて項垂れている。
巻き込んでしまった二人に対する自責の念が、彼女を覆っていたのだ。

「……どうせ『私が呼んだから死んだ』って思い込んでるだろ」

そんな彼女に、アンクが声をかけた。
慰めるつもりはないが、妙な勘違いを引きずっていても困る。

「アホか、アイツらは自分の意思で命投げたんだぞ。お前が後悔する必要なんてない」

そう言いながら、アンクは青年の亡骸を一瞥する。
彼の腰にはやはりと言うべきか、ベルトが巻きついていた。
この仮面ライダーも剣崎と同様に、名前も知らぬ人間の為に命を落としたのである。
それが、アンクにはやはり理解し難かった。
どうして、そこまで容易く自分の命を天秤にかけれるのか。
自分が欲するものを投げ捨てようとする『仮面ライダー』には、嫌悪感しか浮かばなかった。

「……行くぞ。ここにはもう用はねえ」

そう言うと、アンクは弥子に背を向けて歩き始めた。
おぼつかない足取りで、弥子もそれに続いたのだった。
杏子の形見であるソウルジェムを、その手に握りしめて。

160Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:35:01 ID:klU7klEw0
  O  O  O


散々人を助けたいと言っておきながら、あの男は人を殺した。

彼への言い表せない怒りが、心中に渦巻いている。

あれだけ人の命を優先した男が、簡単にその決意を裏切った故か。

それとも、かつて行動を共にしてきた者が罪を犯したが故か。

だが、これでようやく覚悟が決まった。

自身が真に望むのは、火野映司との決着。

次に会った時こそは、あの男との全てを終わらせてみせる。


【一日目-夕方】
【D-3/市街地】
※左翔太郎とアストレアの遺体、ダブルドライバー、メタルメモリ、トリガーメモリが放置されています。
 また、エリア中心部より少し北にダブルチェイサー@仮面ライダーWが放置されています。

【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤
【状態】健康、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感
【首輪】160枚:0枚
【コア】タカ:1、クジャク:2、コンドル:2、カマキリ:1、ウナギ:1
    (この内ウナギ1枚、クジャク2枚、コンドル1枚が使用不可)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
    超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品×5(その中から弁当二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、大量のアイスキャンディー、
    大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、
    T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品0〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。
 1.殺し合いについてはまだ保留。
 2.もう一人のアンクを探し出し、始末する。
 3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
【備考】
※カザリ消滅後〜映司との決闘からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て取り込んでいます。
※アストレアのセルメダルを吸収しました。
【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青
【状態】健康、精神的疲労(中)、深い悲しみ、自己嫌悪
【首輪】110枚:0枚
【装備】桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)@魔法少女まどか☆マギカ、
【道具】基本支給品一式、魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 1.私がもっとしっかりしてたら……。
 2.杏子さん……。
 3.ネウロに会いたい。
 4.織斑一夏は危険人物。
【備考】
※第47話 神【かみ】終了直後からの参戦です。

161Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:36:20 ID:klU7klEw0
【10】


市街地を飛来する物体が一つ。
ピラミッド型のそれは、危なっかしい軌道を描きながら進むそれは、やがて壁にぶち当たる。
重力に逆らいきれず、弱弱しく落下した末に、物体は地面に着地した。
そして、物体の姿から変化して現れたのは、ダブルによって倒されたと思われたアンクであった。
T2ゾーンメモリを使用する事によって、彼は戦場から逃げ出したのである。

「……ぐっ……こんな……筈、じゃ……」

メモリを使用したのは、自力で歩くのが困難な程に疲労困憊していたからだ。
流石にマキシマムドライブを受け、身体にリュクサオルを刺し込まれたのでは、グリードとて無事では済まされない。
満身創痍という言葉が、これ程似合う状況はないだろう。

「……ボクの……ボクの、コア…………!」

アンクの中で眠るコアメダルは、既に自身の感情を内包したものを含め、残り2枚だけとなっていた。
つまりは、あの戦闘で貴重なメダルを三枚も落としてしまったという事。
今すぐ取り戻しに向かいたい所だが、こんなボロボロの状態では、とてもじゃないが不可能だ。

「あぁあ……クソォ……チクショウ…………」

ダミーメモリは言うまでもなく、グレイブバックルもダブルの必殺技によって破壊されてしまった。
こんな事になるのだったら、とっとと「もう一人のボク」を取り込んでおくべきだったのだ。
アンクは改めて、己が犯した愚かなミスに歯噛みする。

「まだ……だ……!今度、こそ……次、こそは……"ボク"を――」
「なあ、そこのアンタ」

不意に、少女の声が耳に入り込んできた。
その声の主は、アンクと同陣営の魔法少女だった筈だ。
上手く言い包められれば、安全に身を潜められるかもしれない。

「キミ、は……確か佐倉、杏子……じゃ――――!?」

声の方を向き、彼女の名前を言おうとした瞬間……アンクは絶句した。
何故なら、今彼に近づきつつある少女の首輪の色が、赤ではなく緑だったからだ。
通常、陣営のリーダーが死なない限り、その陣営に属するメンバーの首輪の色は変わらない。
つまりは、赤陣営の佐倉杏子が緑陣営になっている可能性はほぼゼロなのだ。
では、今アンクの目の前にいる「佐倉杏子の姿をした者」は何者なのか。
そこで彼は気付く――メモリを使わずに、誰にでも擬態できる緑陣営の参加者は、確かに存在している。

「お前……まさ、か……怪盗、X……!?」
「……案外アッサリ見破るんだね」

162Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:37:29 ID:klU7klEw0
些か不愉快そうに言った彼女の口調は、既に佐倉杏子のものではなかった。
そこにいたのは、見滝原の魔法少女ではなく、怪盗Xという大犯罪者。
杏子の形を崩さぬまま、獲物を見定めるような目つきでアンクを眺めている。

「そ、そうだ……!X、ボクと……協力、する気……ない……?」
「……?いきなり何言ってるのさ」

自分でも驚くほど容易く、命乞いの言葉が口から出てきた。
屈辱感はあるものの、こうでもしなければ生き残れないのだ。
まずはXと同盟を組んで、こちらの身の安全を得なければならない。
成功する自信なら大いにある――何故なら今のアンクには、Xが喉から手が出る程欲している情報を握っているからだ。

「キミは……ネウロが……目当て、なんだろ?
 ネウロの、居場所……教えて……あげるから……ボクを、助けて……くれない、かな」
「――ネウロの?」

「ネウロ」という言葉に、Xが反応した。
やはりだ――この怪人の脳内には、常にネウロという単語が置かれている。
それもその筈、Xにとってネウロは「今最も中身を見たい男」なのだ。

「フゥン……いいよ、殺し合いは気乗りしないけど、協力してあげるよ」

成功した、と心中で勝利宣言した。
これでしばらくは、ぼろぼろの肉体がこれ以上痛めつけられる事はないだろう。
あとはボディーガードとなったXの背後で、のんびりと傷を癒していけばいい。
邪魔になったとしても、隙を突いて首を刎ねてしまえばいいだけの話である。
まだ幸運の女神はこちらに味方している――アンクはそう確信した。

「それにしても、なんでアンタそんな事知ってるのさ」
「当然だよ……だってボクは……ドクターから直々に――――」

言い終える前に、「あっ」という声が、思わず漏れそうになった。
今の自分の台詞が、それまで築き上げてきたものを一つ残らずぶち壊してしまったのだ。
ドクターの手先である事を公表するという事は、つまり自分がグリードであると宣伝しているようなもの。
自分の中身(しょうたい)を追い求めるXが、グリードという未知の存在に興味を持たない訳がない。
しかも、目の前の獲物は既に死の一歩手前なのだ――このチャンスをXが逃すとは、考え難い。

「へぇ。つまりアンタ、グリードなんだ」

その瞬間、Xの殺意が開放され、アンクの全身を包み込んだ。
全身が底冷えするようなその感情に、彼は恐怖を隠せない。
間抜けにも尻餅をついたアンクは、疲れきった体を必死で動かし、地べたを這うようにXから離れようとする。
しかしそんな必死の行動も、五体満足のXからすれば、ただの芋虫の物まねにしか見えなかった。

163Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:38:50 ID:klU7klEw0
Xの狂気に当てられたその瞬間、アンクは知ってしまったのだ。
本当の狂人の放つ純正の狂気と、それを浴びることで得る本物の恐怖を。
自分がこれまでした「ドッキリ」なんて、所詮ごっこ遊びにしか過ぎないという事実を、思い知ってしまった。

戦おうとは思わなかった。
仮に自身が戦える状態だったとしても、それでもアンクは逃げを選ぶだろう。
初めて味わった恐怖は、既に彼の全身を駆け巡り、戦意を奪い取っていたのだから。

Xがデイパックから一振りの大剣を取り出す。
黄金の輝きを放ちながらも、刀身が血に塗れたそれは、言うなれば「魔剣」。
これが叩きこまれれば、アンクは確実に人の形を保てられないだろう。

「……い、嫌だ…………ボクは嫌だぁ……!」

その言葉は、奇しくも彼が敵対していた男の最期の言葉と一致していた。
もがきながら言った分、惨めさはその男よりも勝っているのだが。

哀れにも足掻き続ける少年の頭部を見据えながら、Xは手に持つ魔剣を掲げた。
這い蹲る小鳥がそれを回避できる可能性は、ゼロだ。

「誰か……!誰でも、いいから……!早く、ボクを助け――――」
「そんな事言わずにさ。――見せてよ、アンタの『中身(ショウタイ)』」



懇願を聞き入れる者は、もうどこにもいない。


刃が、降り落とされた。

164Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:42:15 ID:klU7klEw0
  O  O  O


「……あれ?」

怪人に止めを刺した後、最初にXの頭に浮かんだのは疑問符だった。
頭をかち割られた怪人の姿はそこにはなく、代わりにあったのはセルメダルの山。
そして山の頂上には、赤いメダルが二枚だけ置かれている。
もしかすると、これがグリードの正体なのだろうか。

「う〜ん、これじゃ中身なんて見れようがないな……」

全て無機質で構成されている以上、中身(しょうたい)など見れようがない。
グイードという生物は皆メダルの塊なのだろうか。
そうだとするのなら、何とも興ざめな話である。

「まあいいや、支給品でも漁ろう」

Xはメダルの山を全て首輪へ収納し、アンクの持っていた支給品を物色し始めた。
しかし、それらはどれもXのルーツに近づくヒントにはなりえないものばかり。
特に13枚のカードなど、一体どうやって使えばいいのだろうか。

しかし、程なくしてXは喜びで満たされることとなる。
デイパックに入っていた詳細名簿には、なんと参加者の初期スタート地点が記されていたのだ。
当然その中には、脳噛ネウロのデータも入っている。

「ネウロ――――!」

彼の名前を見た時のXの表情は、歓喜に満ち溢れていた。
探していた因縁の相手を、こんなに早く見つけられたのだ。
生体研究所などに向かっている場合ではない、すぐに南下しなくては。
すぐに南に向けて走り出したXの心は、これまでになく高鳴っていた。


【一日目-夕方】
【D-3/路上】
※アンク(ロスト)の首輪が放置されています。

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】健康、疲労(中)、佐倉杏子の姿に変身中
【首輪】300枚:50枚
【コア】コンドル:1、タカ(感情L):1
【装備】佐倉杏子の衣服、重醒剣キングラウザー@仮面ライダーディケイド、ベレッタ(10/15)@まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式×5、“箱”の部品@魔人探偵脳噛ネウロ×28、アゾット剣@Fate/Zero、
    キャレコ(10/50)@Fate/Zero、ライダーベルト@仮面ライダーディケイド、
    ナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、
    9mmパラベラム弾×100発/2箱(うち50発消費)、ランダム支給品2〜9(X+一夏+杏子+アンク(ロスト))(全て確認済み)
    詳細名簿@オリジナル、ラウズカード(♠ A〜K、ジョーカー)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
 1.ネウロの元へ向かう。
 2.バーサーカーやセイバー、アストレア(全員名前は知らない)にとても興味がある。
 3.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
 4.阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
 5.殺し合いそのものには興味は無い。
【備考】
※本編22話後より参加。
※能力の制限に気付きました。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※アンク(ロスト)の肉体を構成するメダルを吸収しました。
※ラウズカードの使用方法を知りません。

165Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:43:10 ID:klU7klEw0
【12】


初めてダブルに変身したあの日、彼は自分に向けて言った。
「地獄の底まで相乗りしてやる」と、共に戦い続けてくれると誓ってくれた。
その約束はずっと破られないものだと、「二人で一人の仮面ライダー」は永遠だとばかり思っていた。

だけど、目の前にある事実は、その誓いを全否定している。
横たわる彼の表情は、まるで何かをやり遂げたかのように安らかだった。
それとは対照的に、少年はたった一人で、絶望に打ちひしがれる。

「………………ぁ………………あ…………」

気付いた時には、亡骸の前で跪いていた。
紡ごうとする言葉は全て、形を成す前に嗚咽となって空に消える。
目前の相棒は、無言のまま、生気の失せた瞳で空を眺めている。
もうその口からは、言葉が紡がれる事もなく、その目は景色を写す事もない。

あの戦いの少し前、彼からガイアメモリを渡された。
アストレアに頼み込んで譲ってもらったと言っていたそれは、疾風の記憶を有するT2ガイアメモリ。
お前が持ってるのが一番いいと言って、彼は微笑んでいた。
……彼はもう、T2ガイアメモリを持っていない。

「……あぁ……ぁぁあ…………あぁああ……!」

後悔は叫びとなり、口から意図せずして漏れ出てくる。
嘆きは涙となり、瞳から堰を切ったように流れ出る。
目の前で沈黙する遺体に捧げるように、少年は頭を垂れて蹲る。

「……ぁあ…………嘘だ……嘘だ…………!」

どれだけ否定しても、決して目の前の惨劇は消えない。
残酷な事実だけが、フィリップの心を突き刺していた。

166Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:43:50 ID:klU7klEw0









「ああぁぁあぁぁぁぁあぁぁあぁああぁぁああああああッ!!
 嘘だ――――嘘だぁああぁあぁあぁああああぁぁああああぁ!!」









少年の叫びが、虚空へと散っていく。







風はもう、止んでいた。









【アストレア@そらのおとしもの 機能停止】
【左翔太郎@仮面ライダーW 死亡】
【アンク(ロスト)@自立行動不能】





.

167Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:44:56 ID:klU7klEw0
【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】精神疲労(極大)、絶望、深い悲しみ
【首輪】90枚:0枚
【装備】サイクロンメモリ・ヒートメモリ・ルナメモリ@仮面ライダーW、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:???
 1.翔太郎――――!!
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。


【グレイブバックル@仮面ライダーディケイド】
イカロスに支給。
海東純一が使用していた、ライダーシステムの起動ツールとなるバックル。
装着したグレイブバックル中央部にラウズカード(WA「CHANGE」(黄))を挿入して反転させると、
光のゲート(オリハルコンエレメント)が装着者の前面に放出、ゲートが自動的に装着者を通過することでグレイブへと変身する。
ラウズカードを使用することで、カードに封印されたアンデッドの特殊能力を発揮させられる。
( ^U^)

168Cにさよなら/空は高く風は歌う ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:48:53 ID:klU7klEw0
【8】


風が吹いていた。

どこか懐かしい、覚えのある風。

それを最後に感じたのは、何時だっただろうか。

「……ぁ」

ぼやけた視界の中で、翔太郎は、見た。

かつて最も敬愛し、背中を追い続けていた男の姿を。

「ぉやっ……さ、ん……」

鳴海荘吉。

もう出会えないとばかり思っていた男が、そこにいた。

それが死に瀕した翔太郎の妄想なのか、それとも本当に彼が現れたのか。

それを知る術は、もう彼にはない。

「これ……で、良かっ……た、ん……だよ、な」

彼は何も言わなかった。

ただ口元に笑みを浮かべたまま、翔太郎の前から消えた。

そしてその直後、風が吹いた。

いつも感じてた、常に愛していた、あの風を。

「あぁ…………良い風……吹き…………や……が…………」


風都の風を感じながら。

風に祝福されるように。

翔太郎の命の灯火は、消えた。

169 ◆qp1M9UH9gw:2012/08/10(金) 21:49:14 ID:klU7klEw0
投下終了です

170名無しさん:2012/08/10(金) 23:22:45 ID:MJTgYbwU0
投下乙。
修正点ですが
グレイブの変身音声はOpen up
必殺技はMIGHTYのはずです

171名無しさん:2012/08/10(金) 23:44:16 ID:2JKCEOTcO
グレイブといえばやたらラウズしまくってるけどAP無制限だっけ?剣崎の13体キングフォームじゃあるまいし

172名無しさん:2012/08/11(土) 00:15:30 ID:F4hBnolE0
>>171 横から申しわけありませんが、十三枚の中にはジャック〜キングのAP回復用カードもあるので、
タイムで時を止めた隙に回復していたのだとすればそこまで不自然ではないかと。
指摘だとすれば◆qp1M9UH9gw氏がお答えするのが筋というところかもしれませんが……

さて、それはともかく投下乙です。うわぁ、これは酷い(※褒め言葉)……死屍累々じゃねーか!

アンク対決の危機に見事強力な助っ人を弥子が呼んで来て、ライダー&エンジェロイドキタ、これで勝つる……と思ったのに……
どうにも空回っていたロスアンも、最後にグリードに相応しい大仕事して逝きましたね……
しかし、アストレアに負けないくらい根性見せた戦いの後なのに、死に際のヘタレ具合はw……何だろうキュンキュンするww

Xの方はいきなり杏子への擬態がバレちゃったけどまたキルスコアがw
殺し合いに乗っていないって絶対嘘だろおまえって言いたいのに、マーダーだけど乗ってはいない(意味不明)んだからたまげたなぁ……
ちょうどネウロも予約されたしどうなることやら。

翔太郎は切嗣や虎鉄の期待には応えられなかったかもしれないけど、アストレアを無駄死ににしないでくれたのは良かった。
でもその代わり、フィリップがかなりヤバいことに……っていうかまた剣崎の遺品が対主催涙目にしているのはどういうことなんだ。

そして生き残った方のアンクは、翔太郎達を殺したのが映司だと誤解したまま、覚悟を決めたか……
……さすがに四枚も鳥系メダルあったら気づいてくれよぉ……でもダミーなんか知らないんだもんなぁ……
弥子の手に杏子のソウルジェムが託されたことだけが、ひょっとしたら杏子復活の芽が出てきたってことで唯一の希望か……

……って、容量以上に内容が詰まっていて、二転三転して読んでいて飽きなかった分感想がw 長文失礼しました。

ただ最後に。指摘というほどではないのですが、アンク達がどうしてわざわざ自分から立ち去った翔太郎達のところに戻って来たのか、
理由が書かれていないからかやや唐突な感じがしました。

173名無しさん:2012/08/11(土) 00:26:29 ID:lAZG0eagO
>>172
ちょっと書き方がどっちつかずでしたね……上の音声ミスにしろあまり原作設定把握せずに書かれたように見えたので、描写不足の指摘には変わりありませんが

調べたらグレイブラウザーの初期APは5000、上級での回復なしじゃ開幕タイム(1800)の時点で既に必殺技用のマイティ(3500)が使用不可能な数字ですし、他のカードもラウズしていると半分も行かずにAP切れで……

174名無しさん:2012/08/11(土) 00:58:39 ID:oZaVW/sY0
投下乙です
上でも言われてますが、ラウズカードのAP消費など、全体的に描写不足に感じますね
フィリップの行動も、翔太郎が死んだのに駆けつけず、その場で嘆いてるだけというのは違和感を覚えました
それにギャレンがダメだったのに、回想のみの登場だったグレイブが支給されるのもどうかと思います

175名無しさん:2012/08/11(土) 01:26:35 ID:vRSMtsjc0
投下乙です!
激動のバトルでしたな……アストレアは最後の最後で根性みせたなあ
翔太郎も仮面ライダーとして剣崎と同じように命を賭けて戦ったけど、これアンクからしたらたまらんだろうな……
アンクどうするんだろ……映司のこと誤解しっぱなしだけど……
そしてまさかのロスアン退場!しかも下手人はお前かXwww
本人にその気がなくても最早完全なトップマーダーww

指摘に関してですが、確かに描写不足な点は否めないかと思いますがどれもすぐに解決出来る問題かと思います。
タイムの度に回復カードを使っていたと描写すればいけるし、あとはアンクが翔太郎たちのところへ戻った理由くらいでしょうか。

>>174
グレイブは回想どころか思いっきり一つの世界のメインライダーとしてディエンドらと戦ってますよ。
フィリップも変身中は気絶してるので駆け付けようがありませんし、変身解除後にはちゃんと駆け付けてます。

176名無しさん:2012/08/11(土) 01:53:43 ID:lAZG0eagO
てかグレイブバックル自体がかなりご都合的のような……キリツグ達と別れる前にはユウスケ入れて三人もライダーいたんだし、変身アイテムだって誰かしら気付かなかったのか?

177名無しさん:2012/08/11(土) 08:17:04 ID:F4hBnolE0
>>176 ご都合主義も何も、グレイブバックルはイカロスに支給されていて、登場話でロストに渡った物ですよ。
(これまで使う必要がなかったから)ロストが使うそぶりも見せなかったのにもしユウスケ達が気づいていたら、
それはご都合主義どころか超常現象だと思いますが……

だいたい、ランダム支給品枠をどう使うか、というのは書き手さんの裁量次第なのでは?
リレー企画において、それまで不明だった支給品を使って展開を作ることがご都合主義と批判されるのはちょっとおかしいと思います。

ましてやパロロワですから、不自然な形での特定キャラクターの延命など、全体のバランスを崩す贔屓の形ならともかく、
全員に見せ場を用意しながら退場させるのは展開として理想的な形であり、批判される謂れはないと思われます。

何だか関係ない一読み手が偉そうに言ってしまいましたが、同じく一読み手の方が書き手さんの労をねぎらいもせず
特定展開を批判していて、しかもその内容が(すぐに修正できる)描写不足の部分はともかく、
これまでのSSの把握が不十分なことに因るものあったため、つい口出ししてしまいました。どうか戯言とお流して頂いて結構です。

178 ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:28:08 ID:zs3bw6JE0
投下乙です。
予約の面子からは想像もつかないような大激戦に胸が躍りました。
てっきり対主催が何とかしてくれると思ってたけど、良い意味で期待を裏切られましたw
一方Xはあっさり正体見破られたけれど、弥子との絡みが個人的には気に入ってます。
んで、アンク組は少し前まで順風満帆に見えたけど……おやおや、さてここからどうなるか……?
というか、ここへ来てついに赤陣営もリーダー喪失で一気に崩壊の危機が迫ってる件について。
放送までもうすぐだから、あと少し耐えればアンクがリーダーになれるよ!頑張れアンク!!

指摘についてですが、自分も>>177さんと同意見ですね。
感想の一言もなくただ指摘するだけ、それもしっかり読んでいれば分かるような問題ばかりですし……
フィリップの件にしてもバックルの件にしても、指摘をするならするできちんと読んでからでないと書き手さんに失礼です。
自分も今回の修正についてはAPの描写とその他電子音などの単語の間違い、アンクが戻った理由、くらいで十分かと思いますよ。

ハイ、それはそうと、自分も予約分を投下させて頂きます!

179 ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:30:19 ID:zs3bw6JE0
 何をやっているんだ俺は――。
 ライドベンダーに跨るウヴァの脳内を疑問が駆け巡る。
 自分は今まで何をやっていた? 緑陣営の……戦力増強?
 はて、緑陣営の戦力が、一体いつ増強されたのか。
 次第に目が覚めて来たウヴァは、思わず胸中で叫んだ。
“――っ馬鹿かッ!!?”
 鋭い眼光でもって、目前を走る月影ノブヒコが駆るライドベンダーを睨み付ける。
 誰かが改めて手を加えるまでもなく、月影は元より緑陣営だ。
 奴の性格を考えるなら、ウヴァが接触せずとも勝手に暴れ回ること請け合いである。
“俺は今まで何をやってたんだ!?”
 それを踏まえてもう一度自分の行動を振り返る。
 この男と接触してウヴァがやったこととは、一体なんだ?
“……ただ単にコアを奪われ、奴の飼い犬になり下がっただけじゃねェかーッ!!”
 何が戦力の増強か、こんなにも馬鹿馬鹿しい話は他にそうとない。
 冷静になって考え直してみれば、結果はただのマイナスではないか。
 これで一瞬でも戦力が増強できたと思ってしまった自分が恥ずかしい。
 予想だにしなかった月影の反攻にあって、流石のウヴァも焦っていたのだ。
 本来のウヴァならば、こんな馬鹿な結果で充実感など得られる筈がない。
“クソがッ……俺としたことが、どうかしてたぜ!”
 今となっては自分の愚かしさを悔いずにはいられない。
 月影を仲間だと思って話しかけた事自体はまあいい。
 同じ陣営の者を利用するという発想、これ自体に間違いはなかった。
 では、ウヴァがこんなにも後悔の念に駈られる「問題点」とは。
 実に簡単な話である、それは――
“飼い犬同然の扱いを受けてるってのに、一瞬でも"充実感"を懐いちまった事だッ!”
 ウヴァは自分自身を呪う。
 奴が今すぐに自分を殺さないと知った時、ウヴァはホッとしたのだ。
 一瞬とはいえ、心の底から安心し充実感を懐いててしまったのだ。
 それはこの上ないほどの屈辱だ、許せない!
 奴に屈した自分自身をウヴァは呪った。
 何が悲しくて緑のメダルの頂点に立つ自分が、こんな辱めを受けねばならないのか。
 月影は確かに恐ろしかったが、だからといって犬になりさがる趣味などウヴァにはない。
 暫し一人で考える時間を得て冷静さを取り戻したウヴァは、後悔の激情に血を滾らせていた。
“――この鬱憤、何かにぶつけねば気がすまんッ!!”
 せめてゴルフクラブさえあれば……
 一人誰も居ない市街地の硝子の窓を割って回ってやったというのに。
 何の解決にもなりはしないが、それでも少しは気が紛れる事をウヴァは知っている。
 出来ればあの月影とかいう大首領気取りの勘違い野郎をブッ潰してやりたいが――
 今はまだ陣営戦の真っただ中、ウヴァが下手に動く時ではない。
 強大な力を持った緑の戦力を自ら潰す程ウヴァも馬鹿ではないのだった。
 いっそ、奴が戦力的に役立たずであったなら、潔く切り捨てられたというのに……
 ウヴァは改めて誓った。
 もしもこのゲームが終わった時に奴がまだ生きていれば、その時は――
“覚えてろよ月影ェェッ! お前だけは絶対にゆるさんッ!!
 もしお前も生き残ったら、その時は真っ先にブッ潰してやるぞッ!!”
 完全体以上の力を手に入れて、必ずやこの大首領気取りを叩き潰してやる。
 今にも爆発しそうな激情を抱えたまま、ウヴァはバイクを走らせる。
 全ては最後に優勝するため、月影から受けた辱めのツケを返すため。
 密かな野望を胸に抱き笑みを零すウヴァの目の前で――月影のバイクが停車した。
 数十メートル離れた場所に居るのは、二人組の黄色陣営の男たちだった。
「おい、どうするつもりだ月影」
 月影に続いてバイクを停めるウヴァ。
 されど月影がその問いに答えることはなく、月影は無言で立ち上がった。
 赤く輝くサタンサーベルを抜き放ち、そこに居る二人に突き付け嘯く。
「また会ったな? ――織田信長」
「貴様……俺を追って来たのか」
 月影から"織田信長"と呼ばれた方の男の眼光が鋭く光る。
“アイツは確か……”
 確か、ドクターから貰った詳細資料に載っていた"ホムンクルス"だったか。
 織田信長のミイラを現代の技術で蘇らせた、グリードに近い生き物らしい。
 そしてその隣に居るのは、ウヴァの陣営の有力株「怪物強盗XI」の因縁の相手"魔人ネウロ"だったと記憶している。
 月影らは何も彼らを追っていたわけではない。
 ここで出会ったのは完全なる偶然だった。

180義の戦(前編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:31:15 ID:zs3bw6JE0
「ここであったが百年目、貴様はこの俺が直々に討ち取ってやる」
 そう嘯いて、黒と緑のバックルを取り出すノブナガ。
 幾度となく戦ったソレを、ウヴァが見間違う筈もない。
 それはウヴァにとっては既に見慣れた因縁の"バースドライバー"だった。
 月影はノブナガに応えるように一歩前へ踏み出した。
「フン……放っておいても死ぬのが分かり切っている貴様を相手にしてやるのは時間の無駄だが、こうして現れた以上、捨て置くわけにもゆくまい。大ショッカーに仇成す貴様は此処で処刑する――!」
 そう嘯いた月影の腹部が、緑色に輝いた。
 月影の身体が銀色の装甲に包まれ、一瞬で仮面ライダーと酷似したそれへと変わる。
 それが月影ノブヒコの真の身体。シャドームーンとして改造を受けた世紀王としての姿。
 一触即発の空気が流れたその時、挙手をして発言したのは、脳噛ネウロだった。
「少し待って下さい。ノブナガさん、この方は敵なのですか?」
「この男は逆らう者はみな始末すると言った」
「ふむ……なるほど」
 困った顔で目を伏せるネウロ。
 しかし、ウヴァには奴が見掛けほど困っているようには見えなかった。
 何と言っても奴は魔人だ。この状況をも覆す何かを持っているのかもしれない。
 が、あの憎きシャドームーンをわざわざすすんで助けてやる気も起きはしない。
“ちょうどいい、月影をぶつけて奴の実力を計るか……”
 ウヴァは、悠然と歩き出したシャドームーンの背をただ見守ることにした。
 ネウロの眼前に立ったシャドームーンは、剣の切先をネウロの首筋に突き付け嘯く。
「邪魔をするなら貴様も一緒に地獄へ送ってやるぞ」
「そんな……地獄だなんて物騒ですよ! 少し落ち着きませんか?」
「フンッ、戦う気がないなら失せろ、邪魔だ」
 立ち塞がったネウロの首筋を一太刀で両断しようと、シャドームーンはサタンサーベルを振り抜いた。
 しかし、サタンサーベルの一撃はネウロには当たらない。
 刃がネウロの身体に触れる寸前、ネウロは何につまずいたのかひとりでに姿勢を崩したのだ。
 赤い一閃は、屈んだネウロの背の上を通過するだけに終わった。
「ああ、すみません……足元の小石につまずいてしまいました」
「貴様……ッ!」
 瞬間、その場の全員の間に緊迫が流れる。
 ネウロは苦笑しながら「つまずいた」というが……嘘だ。
 あの必殺の一閃をそんな理由で運良く回避など出来るものか。
 奴は今、意図的にシャドームーンの攻撃を避けたのだ。
 息を呑んでネウロを睨むシャドームーン。
“――いや待て、これはチャンスだ!”
 しかしその時、同時にウヴァに天啓が舞い降りた。
 飼い犬同然の絶望的な状況を覆すに足る戦略……
 思い付いたなら何の迷いも必要ない、即実行だ。
「おい月影、そいつは魔人だ! 油断するな!」
「何?」
「二対一は卑怯だろう、ノブナガの方は俺に任せろッ!」
 そう叫ぶや、ウヴァの肉体を凡そ五百枚のメダルが覆い尽くした。
 瞬時に昆虫の王へと姿を変えたウヴァは、ネウロの後方のノブナガへと跳び組み付く。
 反撃の隙など与えはしない、ウヴァは一瞬でノブナガの自由を奪った。
「ぐっ……貴様、離せッ離さんか!」
「誰が離すか馬鹿がッ! 大人しくしてろ!」
 怪人となったウヴァの腕の中で暴れるノブナガの力のいかに矮小なことか。
 月影の言った通り、放っておいても死ぬのが確定しているホムンクルスの力はよわい。
 ノブナガが人間態を晒したままの今ならば、ウヴァの目的はたやすく達成出来るだろう。
「はっはっ、悪いなァッ! お前はあっちで俺と一対一だッ!!」
 ウヴァはノブナガに組み付いたまま、バッタの跳躍力を活かし跳んだ。
 市街地に無数に並ぶビルの陰に跳んだウヴァは、そのままもう一度跳躍する。
 あっと言う間に二人の姿は市街地の影へと消えていった。

           ○○○

181義の戦(前編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:32:25 ID:zs3bw6JE0
 
「チィッ……ウヴァめ、勝手な真似を」
 二人の影が消え去っていった方向を眺めながら、シャドームーンは独りごちた。
 二体一が不利だということはわかるが、なにも離脱する必要はなかった筈だ。
 ……とは思うものの、ネウロから気を逸らすことも出来まい。
 今はとっととネウロを何とかして、ウヴァを再び手元に置く事が先決かと思われた。
 そこで重要になるのは、相手となる魔人ネウロのデータである。
 確か奴めは、パーソナルデータにも載っていた魔界とやらの住人だったか。
 戦う前にしっかりとデータを見て研究する月影としては、実力が未知数の相手に挑むのはあまり望ましくはない。
 が、大首領たるものここで背を向ける事も出来まい。
 シャドームーンは、悠然と向かい合ったまま問うた。
「貴様、魔人といったか」
「魔人? はて、何の事でしょう?」
 純朴な目を向け、きょとんと首を傾げるネウロ。
 あくまで惚けるつもりらしいが、こいつが意図的に先の一撃を回避した事は読めている。
 容赦なくネウロにサタンサーベルを突き付けたシャドームーンは、語調を強め言った。
「大ショッカー大首領を相手に惚け切れると思うな、魔人とやら。
 ……いや、まあいい。いちおう訊いておこう、私と手を組む気はないか?」
「手を組む? そう仰られましても……貴方の目的は一体何です?」
「我が大組織……大ショッカーによる世界征服」
「それは穏やかではありませんね……ちなみに、賛同しない人間は?」
「そんな人間に存在する価値はない、皆殺しだ」
 淡々としたシャドームーンの答えに、ネウロは「そうですか……」と顔を伏せた。
 何処か悲しげなその表情に、この男は仮面ライダーどもに味方する側だったかと推測する。
 魔人という単語から、ショッカーやゴルゴムの怪人と同類かと思って誘ったのだが。
 だが、それならそれで構わない。残念だなどと思うべくもない。
 この男が名前負けの弱者であるのなら、ここで躊躇わず切り捨ててゆこう。
「フン……魔人とは名ばかりだったか。ならば死ね」
 そう嘯いて、サタンサーベルを再び突き付けるシャドームーン。
 今度は外さない。一思いに一撃で殺してやるとばかりに剣に力を込めた、その時。
「我が輩も随分と舐められたものだな」
「………………なに?」
 ネウロの口調が、その目付きが、そして威圧感が、ガラリと変わった。
 先程までの純朴な青年は何処へやら。そこにいるのはギョロリと目を剥き気味が悪い程にニタリと笑う、人の皮を被った"何か"。
 この創世王をも怯ませるほどの殺気をもって、ネウロは言った。
「貴様、我が輩を誰だと思っている……? 喧嘩を売る相手は間違えない方がいいぞこのフナムシが」
「……フナムシ」
 ぽつりと、相手の言葉を復唱するシャドームーン。
 創世王シャドームーンとは、ゴルゴム最強を誇る大幹部の一人である。
 どんな怪人からも恐れられ、全ての世界の怪人すらも従えた大首領である。
 その偉大なる創世王に向かって、この男は今、なんといった?
 フナムシ……フナムシと、いったか。
 初めて受ける侮辱に、怒りを通り越して、笑いさえ漏れる。
 仮面の下でフンと鼻を鳴らしながら、シャドームーンは嘯いた。
「この大ショッカー大首領にその態度……面白い、あの世で後悔させてやる」
 それに対し、己が右手を軽く掲げ、鋭く尖った爪を見せ付けるようにちらつかせるネウロ。
 爪の間から、生きた人間の目とは思えぬほどに鋭い眼光が、シャドームーンを射抜く。
「やれやれ、我が輩こんな殺し合いに興味などないし、乗る気もなかったのだが……
 しかし仕方あるまい。貴様は食えもしない残飯同然のゴミクズの上、我が輩の奴隷にしてやろうにもその存在価値すら見出せん役立たずだからな……市販の綿棒の方が貴様の百倍は存在価値があるし役にも立つぞフナムシ……」
「……貴様、何が言いたい」
「うわぁ……」
 そういって、ネウロは可哀相な人を見る目で一歩身を退いた。
「読解力もないのかこの綿棒以下のフナムシめ、そろそろ可哀相に思えて来たぞ……」
「ええい! もういいッ、もう貴様と話し合いを続ける必要などない!」
 奴は遠まわしに、ここでこのシャドームーンを殺すと言っているのだろう。
 奴隷どころか"綿棒"ほどの価値すらないから、ここで殺すと言っているのだろう。
 これ程までに屈辱的な侮辱の言葉が他にあろうか。
 もはや我慢も限界を迎えたシャドームーンは、サタンサーベルを振り抜き駆け出した。

182義の戦(前編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:36:01 ID:zs3bw6JE0
「ハァァァァアアアアアアアアアッ!!」
 容赦などしない。
 一瞬で斬り殺してくれる!
 確かな殺意をもって駆け出した、その刹那。
 瞬きのうちに互いのシルエットが交差して――
「――ぐっ!?」
 次の瞬間、シャドームーンの膝ががくりと地に落ちた。
 対するネウロは、シャドームーンの背後に佇立し自らの爪を気楽そうに眺めている。
 凶器はあの爪だろうか。シャドームーンには、何をされたのかすらも理解出来なかった。
 が、この程度ならば大した傷とはいえない。
 すぐにサタンサーベルを杖代わりに地面に突き刺し立ち上が――
「誰が立ち上がっていいといった、綿棒以下?」
「!?」
 ――立ち上が、れなかった。
 それもその筈、ネウロが片手でシャドームーンの頭を掴み、上方から抑え込んでいるのだ。
 何たる馬鹿力か、あのウヴァすらも容易く退けたこのシャドームーンが、為す術もなく地に抑えつけられている――!
“バ……バカなァァ――ッ!?”
 銀色の仮面に覆われたノブヒコの額を脂汗が伝う。
 そしてその瞬間、こいつはデータ無しで挑んでいい相手ではない事に気付く。
「我が輩日頃は魔界でも一二を争う程に温厚なのだが、今日は厄日でな……くだらん殺し合いに巻き込まれただけでなく、貴様という視界に入れるだけでも不快感を伴う醜いゴミと出くわしてしまったせいで、非常に気が立っているのだ……」
 頭を抑えつけられながらも何とか首だけ回して、ネウロの顔色を窺う。
 奴はさも困ったような顔で、まるで同情でも誘っているかのようにそう告げていた。
「しかもそのゴミが、あろうことかこの我が輩に戦いを挑んで来たのだ。それに伴う不快感が一体どれ程のものかは想像に難くないだろう? ただの死刑でゆるしてやれればまだいいのだが……これはどうも、我が輩の憂さ晴らしに付き合って貰わねばとてもおさまりがつくとは思えんのだ」
「――ええいッ、黙れェェ!!」
 これ以上喋らせてなるものか!
 自由の効く左腕を後方へと振りかざすシャドームーン。
 掌がネウロを捉えたその瞬間、シャドームーンの左手から緑色の稲妻が迸った!
 如何なる敵をも焼き尽くす稲妻はネウロの身体を焼き、その身体を爆発と共に吹っ飛ばす。
 あの馬鹿力の魔人が、いともたやすく吹き飛び、地面に転がった。
 倒れ伏したままのネウロを俯瞰しながら、シャドームーンは立ち上がる。
 油断は禁物だ。奴は……あの魔人は強い、どんな手を打ってくるかわかったものではない。
 緊迫した空気が流れる中、シャドームーンは固唾を呑んでネウロを見据える。

 一方で、爆煙によって閉ざされた視界の中、ネウロもまた立ち上がっていた。
 今の稲妻は予想外だったが、奴が人ならざるものである事には既に気付いている。
 今更この程度の稲妻攻撃を浴びせられたところで驚きはしない。
“魔界には二秒で百万の兵士を蒸発させることが出来る稲妻もあったな……”
 この状況でそんなどうでもいいことを、ぼんやりと思い出すネウロ。
 かつてネウロは、暇つぶしにその稲妻の洗礼を受けに行った事もあったなと思い出す。
 結局、その程度の稲妻ではネウロを焼き殺すには至らなかったのだが。
 アレと比べれば、かような稲妻など子供騙しもいいところ。……の、筈なのだが。
“……いや。どうやら、人間界での活動以上に我が輩の力は制限されているらしいな”
 魔界の稲妻と比べれば遥かに微小ながらも、確かに稲妻による苦痛を感じる。
 この程度の攻撃でこの魔人ネウロがダメージを追うなど、考えられなかった。
 確かに魔界と違い瘴気の少ない人間界では、色々と不自由な思いをする事もあったが、
 それでもネウロはおよそ十分もあればシャドームーン六十五人分程度ならば十二分に拷問しいたぶった上で皆殺しに出来るくらいの力はあった。
 それが今は、この数分間を使ってまだシャドームーン一人倒していない体たらく。
 真木による制限がこんなところにまで響いているのかと考えると、頭が痛くなる思いだった。

183義の戦(前編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:37:35 ID:zs3bw6JE0
“ふむ……我が輩あんな綿棒にまで苦戦を強いられねばならんのか……”
 いちおう奴めはこの魔人ネウロに一撃でも与える事が出来たのだ。
 綿棒以下のフナムシから、綿棒まで格を上げてやってもいいと思う。
“……まあいい。少しは役に立って貰うぞ、綿棒”
 奴をこれ以上ないまでに拷問した上で潰してやる(殺す気はないが死ぬかもしれない)という行動方針に変更はない。
 ただし、目的はこのネウロの力がどの程度まで制限されているのかを計ること。
 それを確かめる為の拷問の標的になって貰うくらいの役には立って貰おうではないか。
 魔人としての本性も表向きには隠していくつもりだったが、あの綿棒はどうせここでへし折る(意訳)ので問題はない。
 魔界777ツ能力にはどういう訳か使用できなくなっているものも多いようだが、それでも元が777もあるのだ、使えるものも数多く残されている。
 それに、魔帝7ツ兵器はネウロの能力と見なされたのか、問題なく使用出来る様子だ。
 であるならば、あの程度の綿棒一本へし折るのはそれ程難しい事でもあるまい。
「この大ショッカー大首領を侮辱して、生きて帰れると思うなよ魔人ッ」
「ふむ……本音を言うと心優しい我が輩はこのような事をしたくはないのだがな……
 これも全ては綿棒があまりにも役立たず過ぎるからいけないのだ。せめて我が輩の為に役立たせてやろうという精一杯の優しさが伝わらないものか……」
 何処までが本心なのかも分からないネウロの言葉。
 それは当然、シャドームーンへの宣戦布告の言葉である。
 見た所プライドの高い奴は、このまま何もせずネウロから逃げ出す事はないだろう。
 その反攻の意思だけは認めてやってもいいとは思う。それでも所詮は綿棒だが。
 そんな下らない事を考えながら、ネウロは戦いへと身を投じるのだった。

           ○○○

 いがみ合う二人を眺めながら、温かみを微塵も感じさせない笑みを浮かべる小動物。
 名前はキュゥべえ。先程までネウロと行動を共にしていた"インキュベーター"である。
 キュゥべえは、小高いビルの屋上からネウロにその視線を注いでいた。
「丁度いい機会だ。見せて貰おうかな……君の魔法を」
 ソウルジェムを介さず、膨大なまでの魔力を使いこなす魔人ネウロ。
 キュゥべえはネウロのような規格外の存在――魔人を知らない。
 魔人ネウロが用いる未知の魔力は、興味の対象としては十分過ぎる程だった。
 魔法少女が用いるものとは根本的に違う魔力を用いて戦う魔人。
 これでヒントを得られれば、もっと効率良くノルマを達成する方法を見付けられるかもしれない。
 キュゥべえの現在の観察対象は、完全にネウロへとシフトしていた。

           ○○○

184義の戦(前編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:42:17 ID:zs3bw6JE0
 
 緑の怪人、ウヴァと相対する若者の名はノブナガ。
 ノブナガはウヴァを見たことがある。奴は、始まりのあの広場に居たグリードだ。
 多くの民をこの空間に閉じ込め、殺し合いを強要した真木の手下だ。
 そんな男を討ち取ることに、一切の躊躇いはない。
 ノブナガは、腰に装着したバースドライバーにセルメダルを投入。
 ダイヤルを回せば、カポン、という音と共に、現代の鎧がノブナガの身を包む。
 緑と黒の装甲に身を包んだノブナガの戦士としての名は、仮面ライダーバース。
「ふっふっふ……来いよ、バース?」
 ウヴァはそう言って、手でくいくいと手招きをする。
 不敵に漏れる嘲笑。今のノブナガにならば絶対に勝てる、そんな自信。
 先日ロールアウトしたばかりのバースシステムを使ったノブナガをたやすく倒せるとでも思っているのか。
 だとしたら、バースも、この織田信長も、随分と見くびられたものである。
“いや、よかろう……ならばその自信ごと打ち砕いてくれる”
 そんな思いで、ノブナガはバックルに一枚のセルメダルを投入した。
 ――DRILL ARM――
 瞬時に構成されるドリル状のアームユニット。
 相変わらずノブナガの知り得る常識を越えた"未来の技術力"には舌を巻く。
 が、未来の技術たるそれをも使いこなして見せるのが天下人織田信長なのである。
 腕のDRILLを高速回転させながらウヴァへ向かって突撃するバース。
 ウヴァの身体を削り取ってやろうと振り下ろした一撃は、
「おっとォ……! っとと、フフン」
 しかしウヴァが一歩身を退いたことでたやすく回避される。
 そして、バースが攻撃を振り抜いた直後に出来た隙を、ウヴァは見逃さない。
 バッタの脚力でもって振り上げられた脚が、バースの装甲を下方から蹴り上げた。
 派手に舞い散る火花。錯覚だろうか、身体が軽く浮く感覚すら感じる。
 それでもすぐに体勢を立て直し、ドリルを振り抜くバース。
 ウヴァはその一撃も回避して、ドリルを装着したバースの腕を己が脇に挟み込んだ。
 身動きを封じられた、その直後。至近距離で緑色の雷が迸った。
「フン、喰らいな、バース!」
「――ッ、ガァアアァアアァアアアアアッ!?」
 ウヴァの頭部から走った稲妻がバースの装甲を駆け抜ける。
 装甲のあちこちが爆ぜて、内部のノブナガを雷による熱と痺れが襲う。
 一瞬怯んだその隙に、ドリルアームのビットをへし折ったのは、ウヴァの膂力による力技だった。
 驚愕する暇などない。すぐに腕は解放されるが、がら空きの胸部にウヴァの鍵爪が幾度となく連続で叩き込まれる。
 無様な呻き声と共に仰け反ったバースは、そこに再びウヴァによる蹴りを叩き込まれ後方へと吹っ飛んだ。
“くぅっ……もう、こんなに力が弱っているのか!?”
 不自然なまでの戦力差に戦慄するノブナガ。
 確かに今の自分が持てるセルメダルは、あまりにも少ない。
 それが自分にとって致命的だということはわかるが、しかしここまでとは――!
“いや、だが……負けるわけにはいかんな”
 されど、ノブナガは諦めない。
 ノブナガには、友の恩に応える義務がある。
 そして、義によって立つノブナガの精神は、強い。
 崩壊寸前の身体を魂の力で繋ぎとめて、ノブナガは立ち上がった。
「俺は……負けるわけには、いかんのだ……!」
 へし折られたドリルアームを放り投げて、新たなセルメダルを投入する。
「友の為にも……ここで果てる訳には、いかんのだ……!」
 ――CATERPILLAR LEG――
 脚部を覆い尽くす鉛色の重厚な装甲。
 キャタピラのローラーが回転して、バースの身体を前方へ押し出す。
 ウヴァの目前まで迫ったバースは、その重量を活かしたキックを叩き込む。
 流石に弾き返せる威力ではなかったのだろう、蹴り脚はウヴァの胴を跳ね上げるが、ウヴァは下手な抵抗をしようとはしなかった。
 蹴り上げられたまま、その勢いさえも利用して後方へ跳び退る。
 それは戦いに慣れた男のみにゆるされる戦法だった。
 着地したウヴァの頭部に、再び稲妻が宿るが――二度も同じ手を食いはしない。
 すぐにバースバスターを取り出したノブナガは、それをウヴァの虫頭目掛けて発射する。
「グゥッ!?」
 呻きと共に大きく仰け反るウヴァ。
 収束していた雷が大気へと溶けてゆく。

185義の戦(前編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:43:09 ID:zs3bw6JE0
 ――CRANE ARM――
 ウヴァが怯んだその一瞬で、バースはクレーンアームを装着。
 左腕でバースバスターを構えたまま、右腕のワイヤーフックを飛ばした。
 ワイヤーはウヴァの身体を絡め取り、身動きを封じる。
 対するバースはウヴァへと続くワイヤーを辿って、キャタピラレッグで前進。
 同時にバースバスターを発射しながら、ウヴァの体力を削ることも忘れはしない。
 身動きも取れず一方的な攻撃に晒され、呻きをあげるウヴァ。
「例えこれが織田信長最期の戦いなれど、貴様だけは討ち取ってみせようッ!!」
 バースの仮面の下で、強敵グリードに対しそう叫ぶノブナガ。
 ほんの少しでもいい、友情を誓い合った友の戦いの助けになるならば。
 一体でも多くのグリードを倒すことがそれに繋がるならば、意地でもやり遂げてみせる。
“出来るなら、映司と共に真木を討ちたかったがな”
 実際、ほんの少し前まではそうするつもりだった。
 けれども、身体の崩壊が始まっている今の自分がウヴァを倒すには、決死の覚悟は必須。
 奴はここで命を賭けずして、容易に倒せる相手ではない。それくらいはノブナガにもわかる。
 ノブナガは、残されたありったけの力をウヴァにぶつける心算であった。
 これはもはや意地の戦いだった。
 数秒と待たず、予めバースバスターに装填されていた分のメダルが尽きた。
 即座にそれを投げ捨て、次のメダルをバックルに投入。
 ――SHOVEL ARM――
 がら空きになった左腕に、今度はショベルアームが装着される。
 ウヴァの懐に飛び込んだバースは、ショベルの腕を思い切りウヴァに叩き付けた。
「うぐおッ!?」
 ワイヤーで身動きの取れぬウヴァに、快心の一撃を叩き込んだ。
 ウヴァの身体から無数のメダルが弾け飛び、ワイヤーの拘束をも振り切ってその身体は大きく弾き飛ばされてゆく。
“これで終わらせてくれるッ”
 ――BREAST CANNON――
 チャンスは今をおいて他にない!
 必殺の一撃を叩き込む為に、セルをバックルに投入。
 バースの胸部に展開された巨大な砲身――ブレストキャノン。
 ウヴァが起き上がるまでに、一枚、二枚、三枚、四枚と、可能な限りのメダルを投入する。
「誰が黙ってやられるかッ!」
 起き上がり様に、ウヴァの頭部が輝いた。
 緑の雷撃は一度天に昇り、本物の稲妻と寸分違わぬ威力となってバースへ降り注ぐ。
 ブレストキャノンの発射態勢のまま、身体を貫く雷撃を受けるバース。
 その首輪から大量のセルメダルが放出され、足元がぐらりとフラつく。
“されどッこの一撃だけは……ッ!!”
 バースは倒れない。
 ここまでの戦いを、決して無駄には終わらせないために。
 そして映司との友情に応えるために――何も成さずに負けてなるものか!
 雷撃に撃たれ続けながらも、バースは最後の力を振り絞って、
「シューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーートッ!!!」
 友への思いをも乗せた必殺の砲撃を発射した。
 弱った身体では、反動で上半身が吹き飛ばされてしまいそうな威力。
 だがそれでも。キャタピラレッグをアスファルトに食い込ませ、バースは耐える。
 ウヴァの雷が何層にもなってブレストキャノンのエネルギーの奔流を阻むが――
 しかしノブナガの最後の一撃は、雷如きで完全に相殺されはしない。
 数瞬ののち、赤い輝きはウヴァに届き、その身体を大爆発させた。
“やった、か……!”
 刹那、力が抜けたようにバースの身体がくずおれた。
 全身の武装が消失して、ついに首輪のメダルも底を尽き、バースの鎧が消え去る。
 崩壊寸前の肉体に、雷による過度のダメージはあまりにも甚大過ぎた。
 もうこれ以上、ノブナガには立ち上がる力すらも残されてはいまい。
 だが、しかし問題はない。
 織田信長は、最期の戦いに勝利したのだ。
 あの強敵グリードを、この手で倒したのだ。
 これで、友である映司に顔向けが出来る。
「やったぞ、映司……俺は……勝っ、た」
「――と、思ったろう?」
「!?」

186義の戦(後編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:44:03 ID:zs3bw6JE0
 燃え上がる爆炎の中から、ウヴァは立ち上がった。
 よもや死に掛けのバースがここまでやるとは、ウヴァにとっても予想外だった。
 もっと余裕で勝利を収める予定だったのだが、現実は思いのほかウヴァの思い通りにはいかないものだ。
 だけども、予想外のバースの善戦すらもウヴァにとってはさしたる問題ではない。
「ふゥ〜ん……ウン!……フフッ」
 自分の身体を一通り眺めて、大したダメージを追っていない事を確認し笑う。
 ブレストキャノンの一撃は、幾重にも張った雷撃の壁でその威力を大幅に殺した。
 最終的にウヴァの身体に届いた一撃の威力は、ウヴァを倒すには非力に過ぎたのだ。
「まあ、セル如きにしては、よくやった方だがなァ?」
「なん……だとォッ」
「フフン、一つ教えてやろうか?」
 得意げに数歩歩いたウヴァは、もはや立ち上がる力すらも残っていないノブナガを見下ろす。
「バースはな……元々俺との相性はあまり良くないんだよ」
 所詮バースは"セル"だからなぁ、と心中で付け加える。
 そう、ウヴァはオーズ相手には何度も苦戦を強いられてきたが――
 セルからエネルギーを抽出するバースに対しては、それ程手を焼いた事はない。
 元々バースでは、体力、筋力、装甲の耐久性などに優れるウヴァを相手にするには決定力に欠けていたのだ――!
「しかも、俺はバースとは何度もやりあってるんでねェ」
 バースのシステムはもう見飽きたといっても過言ではない。
 その武装も知り尽くしているし、ここへ連れて来られる少し前には、バースの二人を完膚無きまでに叩き潰しもした。
 さっきは月影に無様を晒しはしたが、ウヴァは決して弱くはない。
 月影との戦いでは、味方だと思っていた相手からの予想外の反攻に度肝を抜かれ実力を発揮し切れなかっただけだ。
 もう一つ理由を述べるなら、月影は一応ウヴァと同じ緑陣営だ。
 自らの手で戦力を奪うなどという馬鹿な真似が出来るわけもなく、それもウヴァの実力を制限する枷となっていた。
 ゆえに、最初からバースを潰す気で掛かったウヴァの実力は、対月影戦時の非ではなかったのだ。
「クッ、ククッ……ハッハッハッハ……ハァッハッハハハハハハハァッ!!
 死にかけのホムンクルスが、バース如きでこの俺に勝てる訳がねェーだろォッ!?」
 勝利に酔いしれ感極まったウヴァは、高らかに笑う。
 そう、最初からウヴァは、コイツにだけは負けないという自負があったのだ。
 戦いなれたバースを使う死に損ないなど、ウヴァにとっては恰好の標的だったのだ。
 どうだ、これでノブナガの希望は見事に打ち砕いてやっただろう。
 この上ない程の上機嫌でもって、ウヴァはノブナガの髪の毛を掴み上げ、その顔を覗き込んだ。
「ん?」
 しかし、ウヴァの予想に反して、ノブナガの眼はまだ死んではいなかった。
 ノブナガの眼は……「最期の瞬間までウヴァに牙をむいてやる!」、そんな眼をしていた。
「チッ……!」
 ウヴァはその眼が気に入らなかった。
 既に敗北が確定しているのに、どうしてそんな眼が出来るのか。
 もっと悔しがるなり、命乞いをするなりすればウヴァの気分も晴れるというのに。
 全くもって面白くない。不快感を覚えながらも、ウヴァは問うた。
「オイお前、なんだその眼は」
「俺は……最期の瞬間まで、織田、信長で……在り続ける」
「あァん?」
「友と誓った友情の為に――俺は……ッ!!」
 そう言って立ち上がったノブナガは、ウヴァの腕をぶんと振り払った。
 セルメダルは全て尽きたが――しかしノブナガには、まだコアメダルが残されている。
 その力を使って……これが本当に、最期の搾りカスというヤツか。
 正真正銘、最期の力を振り絞って、ノブナガは鎧武者の怪人へと変身した。

187義の戦(後編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:46:34 ID:zs3bw6JE0
「オイオイ……マジかよ」
 ウヴァの声には、嘲笑すら混じっていた。
 それもその筈。鎧武者の怪人に変身したはいいが、その足取りは覚束ない。
 おそらく奴にはもう、ウヴァの姿すらも正確に見えていないのではなかろうか。
 それなのに、そんなコンディションなのに、それでも奴は立ち上がった。
 確実な負け戦であるというのに、それでも奴はウヴァに挑もうというのだ。
 あまりにも滑稽なその姿に、ウヴァは呆れすら感じていた。
「オイ織田信長……最期に一つ訊いてやる」
 振り下ろされた刀による一太刀を容易く打ち払う。
 案の定、鎧武者怪人の攻撃には威力がまるで乗っていない。
 鎧武者怪人の胸部を前蹴りで蹴り飛ばしながら、ウヴァは問うた。
「お前、なんでまだ立ち上がった」
「……ッ、天下人としての……誇りッ!
 そして……我が友、火野映司との……友情のためッ!」
「……………………」
 腹から絞り出された回答に、ウヴァは返す言葉を持たなかった。
 ふらふらと千鳥足で前進するノブナガを冷たい眼で俯瞰する。
 やれやれとばかりに嘆息したウヴァは、
「…………もうテメーには何もいうことはねえ……」
 再びその頭部に稲妻を宿らせ、それを天へと舞い上げる。
 今度は先程よりも激しく迸らせて――空を、雷雲が覆う。
「とてもアワれ過ぎて――」
 刹那、空で充填された稲妻が……
 一斉にノブナガへと降り注いだ。
「――何も言えねえ」

           ○○○

 ウヴァは、失いかけた自信を再び取り戻していた。
 なんだ、自分は、やれば出来るじゃあないか……と。
 月影との戦いは、そう。少し調子が悪かっただけだ。
 あれは自分の本領ではない。決してないのだ。
「ああ、今ならあの月影にも負けねェ」
 それだけの自信がある。
 セルメダルへと還ったノブナガの身体を、ウヴァはその身に取り込んだ。
 あの身体を構成していた五百枚を、丸ごとごっそり取り込んだのだ。
 例えセルでも、一度に大量に取り込めばコアにも劣らないのだという事は既に実証されている。
 凡そ五百枚ものセルメダルを同時に取り込んだウヴァの身体には、強大な力が漲っていた。
 ――だが、まだだ。それだけでは、まだ足りない。
 手の中にある四枚のコアメダルを眺めて、ウヴァはそれをどうするか考える。
 一枚は色を失い無色透明となっているが、カメの紋章が描かれている。
 これは少し前のガラとの戦いで、奴の身体を構成していたメダルなのではないかと想像する。
 次に、黒色のサソリ、エビ、カニの三枚だが、ウヴァはこの三枚のメダルに心当たりがない。
 ともあれ、ウヴァの手中には今、四枚のコアメダルがあるのだった。
「ふぅん……どうするか」
 思い出すのは、ここへ連れて来られる直前の出来事。
 ウヴァは"真のオーズ"に敗れた直後、真木によって四枚のコアメダルを投入され復活を遂げた。
 暴走はウヴァ自身も恐れているが、あの時は体内に十三枚のメダルを宿していたが、その時点で暴走する気配はなかった。
 流石にそれ以上ともなれば、安全とはいいきれないが……。
 だが、それならば、四枚程度ならば大丈夫だろうか……?
 ゴクリ、と固唾を呑む。
 そして、
「俺はただでさえコアを奪われてるんだ、これくらい貰わなきゃ嘘だろ」
 そう言って、ウヴァは四枚のメダルを己が体内に投入した。

188義の戦(後編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:48:40 ID:zs3bw6JE0
 瞬間、セルメンの表皮に緑の装甲が復活する。
 完全復活には程遠いが、それでも外見上は完全復活寸前程度には回復。
 大量のセルと、新たな四枚のコアを手に入れたウヴァは、確実なパワーアップを実感していた。
 今ならば、どんな敵にも負けない自信がある。
 もう誰が相手であろうとも、ビクビクする必要はないのだ。
 これで月影に追い目を感じる必要もない。少し様子を見に行ってやるかと、ウヴァは歩き出した。

           ○○○

 月影ノブヒコは、既に満身創痍だった。
 否、満身創痍というだけならば、まだ幾分かマシに聞こえる。
 現状のノブヒコは、満身創痍という言葉すらも生温い程の拷問を受けていた。
「ガッ、あぁぁあアァああガァあァああぁぁあッ、づぁぁっ、ああぁあァァあぁあああ――――ッッ!!!」
 それは、絶叫だった。
 市街地全域に響き渡る程の絶叫。
 ノブヒコの腹から絞り出される、金切声にも近い絶叫。
 つい先刻までの彼の姿を知っている者ならば誰も想像だにしないだろう。
 無様に地を這い、絶叫するだけしか出来ない男が、かの月影ノブヒコであるだなどと。
 ――ギィコ、ギィコ、ギィコ、ギィコ、ギィコ…………。
 月影の絶叫に混じって、ヴァイオリンの弦で掻き鳴らす不協和音が響く。
 首輪からセルメダルを放出し続けながら、月影はただ絶叫する。
 シャドームーンへの変身などはとうの昔に解除されている。
 今ここに居るのは、無様な芋虫同然の一人の男。
「……魔界777ツ能力、拷問楽器"妖謡・魔(イビル・ストリンガー)"」
 何処か楽しそうで、限りなくサディスティックな声音が響く。
 イビル・ストリンガーとは、ネウロが持つ魔界777ツ道具のひとつ。
 人に寄生し、宿主の神経繊維を弦として奏で、音を掻き鳴らす拷問道具である。
 月影ノブヒコは今、全身の神経線維を楽器として使われ、音を奏でられよう筈もない箇所から音を奏でさせられているのだ。
 それに伴う激痛が一体どれ程のものかなど、想像に難くはない。

 シャドームーンとネウロの戦い自体は、圧倒的なまでの実力差でネウロが勝利した。
 勿論、奴を弱者だとは思わないが、それでもネウロからすれば赤子も同然。
 此処へ来る少し前に戦ったDRとかいう血族よりはずっと強いのだろうが……。
「どうだ綿棒、これは我が輩からのせめてもの贈り物だ。自分の神経で奏でる音はリラックスするだろう?」
「あがっ、あぁああッあァあああぁッ、誰、がぁあァアああああァァアアッ!!」
「ん? なんだそんなに心地いいのか。我が輩も気に入ってくれて嬉しいぞ!」
 そう言って爽やかな笑顔を浮かべたネウロは、絶叫を続ける月影から視線を逸らす。
 そして、瞬く間に月影の存在など忘れたかのように冷静な面持ちに戻り、思考するネウロ。
“ふむ……この場所で使える魔界777ツ能力は、一度きりの使い捨てか”
 今使用したイビル・ストリンガーに、二回目分のストックはない。
 ここで月影に使ってしまった以上、もう次の参加者には同じ能力を使えないのだ。
 777ツ能力は無数にあるが、それでも同じ能力は一度しか使えないのだとすれば、使いどころには気を使わねばなるまい。
“全く面倒なことをしてくれたものだな”
 心中で、今も何処かで見ているのであろう真木清人に毒を吐くネウロ。
 ゲームとしての全体のバランスを考えるならば、それくらいの制限は当然なのだろうが。
 ネウロには、魔界777ツ能力と、かのインキュベーター以外には何の道具も支給されてはいなかった。
 それは、ただでさえ強力すぎるネウロに対するちょっとしたハンデであろうか。
 ネウロ自身、残された魔界777ツ能力だけで十分戦っていける自身はあるのだから、それ程の不安を懐いてはいないが。
 ともあれ、真木清人にはとっておきの拷問器具を残しておく必要がある。
 今の内からどんな拷問が最適かを考えながら、ネウロは魔界777ツ能力の使い道についても考えながら行動しようと認識を改めた。
「では、そろそろノブナガさんでも探しに行きましょうか」
 ネウロの中には、既に綿棒(月影ノブヒコ)という人物は存在しない。
 ゆえに、傍らで絶叫を続ける綿棒など意にも介さずにネウロは歩き出した。
 一応この場ではノブナガの助手(臨時)であるのだから、はぐれっぱなしはまずい。
 もしもあのゴミ虫(虫頭)に苦戦しているようなら、同じようにあのゴミ虫も拷問に掛けてやってもいい。
 いや、寧ろそれがいい。というよりもそうしたい。
 そうすれば、幾分かは真木に対する憤りも晴れるような気がした。
 ネウロは、此処へ来ても変わらず絶叫調であった。

189義の戦(後編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:49:28 ID:zs3bw6JE0
 

【一日目-午後】
【E-4/南側 道路】

【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】少し気分が晴れた、ダメージ(小)
【首輪】120枚(増加中):0枚
【装備】魔界777ツ能力、魔帝7ツ能力
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす。
 1.ノブナガと合流し鴻上ファウンデーションに向かう。
 2.表向きはいつも通り一般人を装う。
 3.知り合いと合流する。そう簡単に死ぬとは思えないので、優先はしない。
※DR戦後からの参戦。徐々に力は衰え始めていますが、まだまだ現役です。
※ノブナガ、キュゥべえと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。
※しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
※現在「妖謡・魔」を使用しました。
※キュゥべえがネウロの手から離れ、ネウロを観察していますが気付いているかどうかは不明です。
※月影がばら撒いたセルメダルを幾分か回収しました。

190義の戦(後編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:52:14 ID:zs3bw6JE0
 

           ○○○

 へし折られた綿棒には、既に存在価値など存在しない。
 存在価値を失ったガラクタの行く先は、ゴミ箱だけだ。

           ○○○

 月影には、最早一枚のセルメダルすらも残されてはいなかった。
 ネウロとの戦闘と、その後の拷問による過度のダメージによって、全てのメダルをバラまいてしまったのだ。
 セルメダルだけでなく――首輪に収納していたコアメダルまでも。
 せめて全身で掻き鳴らされる音による拷問さえなければ、メダルの回収くらいは出来ただろう。
 されど、体中の神経が悲鳴を上げている中で、そんなことにまで気が回る訳もない。
 今の月影は、ただ痛みに耐えるだけでも精一杯なのであった。
「おっ、おオォォのォれェェェェッ!!!」
 が、それでも月影の心に宿ったプライドだけは一級品だ。
 全身の神経を焼き切らんばかりの痛みに絶叫しながらも、その眼に宿った光は未だに怒りに熱く燃えていた。
「ぐっ、あぁああァ、私に……ッこんな、真似をしてェェ……ただで済むと思うな――!」
 憎むべきは脳噛ネウロ。
 あの魔人、次に会った時には何としてでも八つ裂きにしてくれる。
 絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、ゆるしはしない。
 ただ殺すだけでは気が済まない。とことん傷め付けてから処刑してやる!
 燃え上がる激情には、痛みすらも薄れるほど。
 こうして口が効けるだけでも、月影の精神力はかなり強い部類に入る。
「必ずッ、報復する……ッ脳噛ィィ……ネウロォォオオオオオオオッ!!!」
「ほォう? そんな姿になってもまだ戦うつもりとは、立派な心掛けだなァ〜?」
「ぐっ……き、貴様ァ……」
 ふいに聞こえた声には、確かな聞き覚えがあった。
 それは、月影がついさっきまでずっと一緒に行動していた男の声。
 痛む身体を抑え込み、なんとか頭を持ち上げれば、そこに居るのは案の定、
 緑の皮ジャケットに身を包んだ若い日本人男性――ウヴァだった。
 薄ら笑みを浮かべたウヴァは、月影の傍に落ちていたサタンサーベルを拾い上げた。
「きっ、さまァ……返、せェェ……!! それは、創世王、の――」
「そんなこと言われてもねェ? もうお前じゃ使えんだろう、これはよ」
「な……にィッ!?」
 さぞ気持ち良さそうにサタンサーベルを眇めるウヴァ。
 赤い刀身を太陽に透かして見て、満足げににんまりと破顔する。
 こいつが何を言っているのか、月影にはまだ理解が出来ていなかった。
 何せ、確実に自分に逆らうことはないと思っていた犬が、突然態度を変えたのだから。
「ああ、残念だぜ……俺はお前とこれからも仲良くやって行きたかったんだけどなァ〜」
「これは、命令……だッ! すぐにッ私にメダルを寄越せェ……こんな小細工、すぐに……ッ!!」
 そう、メダルがあれば、能力さえ発現出来れば。
 体内に救った奇妙な虫など、月影の稲妻で焼き殺す事が出来る筈だ。
 そうすれば、今度こそ――!
「今度こそォ、あの魔人を! ネウロを……ッ、必ずッ、八つ裂きに――!!」
「オイ、知ってるか月影」
 月影とは対照的に、涼しげな声音のウヴァ。

191義の戦(後編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:53:12 ID:zs3bw6JE0
 ひゅん、と音が鳴った。
 サタンサーベルが、月影の顔面に触れるかどうかの位置に突き立てられたのだ。
 赤い刃が、月影の肌を薄く裂いた。流血こそないものの、月影の頬に薄く引っかき傷が出来る。
 さっと血の気が引くのを感じながら、月影はウヴァの顔を見上げた。
「人間の脳ってのはな、薄い鉄板のようなものらしいぜ」
「なァ……っ、何が、言いたい!?」
「一度折れちまった鉄板はな、どう伸ばしたって折れ目を消せはしないのさ」
「………………ッ!!」
 月影の目前、アスファルトに突き刺さった赤い刃を、ウヴァが引き抜く。
 ソレの切先は、次に月影の首筋に宛がわれる。
 ついとなぞられた肌から、一滴の赤い滴が流れ落ちた。
 冷たい刃の感覚と、熱い流血の感覚。
 二つを同時に感じながら、月影の息が詰まる。
 ウヴァは、さぞかし可笑しそうに言った。
「ああ残念だ! 本ッッ当に残念だなァ月影ェェ! お前はもう折れ目が付けられちまった!
 助けてやってもいいが、メダルも持ってない上、心も折られたお前じゃ役立たずだよなァ!?
 ここを生き伸びても、すぐに他の参加者に殺されちまうのがオチってところだよなァ!?」
「……ッ、貴様ァァァアアアアッッ!!!」
 気味が悪いまでに引き攣ったウヴァの笑顔。
 殺意さえ孕んだ、その暴力的な笑みに戦慄する月影。
 奴が何を言いたいのかを、月影は理解してしまったのだ。
「だが安心しろ、他の陣営の奴に殺されるくらいなら、俺が――」
「やめろォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオッッ!!!」
 月影の絶叫を聞きいれてくれる者は何処にもいない。
 裂帛の叫びも虚しく、サタンサーベルは、月影の首筋を裂いた。。
 皮が裂かれる。肉を断たれる。骨が斬られて――月影の頭部が、身体から離れた。
 自分の頭がごろんと地べたを転がる感覚を、月影の脳はまだ判断出来ている。
 次いで、切断口から夥しい程の血が吹き出て、月影の顔面を赤く塗りつぶした。
 首を切断されれも、月影の頭にはまだ意識があった。
 視界は全て赤で覆われて、せいぜいが瞼を動かす程度しか出来はしないが。
 それでも、最期のウヴァの一言を聞き取るくらいは出来た。
「ハハッ、俺がお前の分まで戦ってやる。だから安心して眠ってくれ、月影」
 次第に朦朧としていく意識の中。
 徐々に離れていくウヴァの笑い声だけが、不快にも月影の脳内を反響していた。

           ○○○

 ウヴァは今、非常に上機嫌だった。
 鬱屈とした気持ちを晴らして、奪われたものを全て取り返したのだ。
 元々所持していたコアメダルも、支給品も、利子つきで返して貰ったのだ。
 おまけに仲間だと考えるだけでも胸糞の悪い野郎まで排除出来たのだ。
 これで喜ばない筈がない。
 尤も、陣営全体で見れば確かに月影という戦力の欠落は惜しいが……
「何、問題はない」
 道路のど真ん中で絶叫しながら芋虫の如く這いまわるような奴はもう駄目だ。
 尊厳も何も失って、悶え続けていた男など、一思いに殺してやった方がマシだろう。
 あいつはあそこで助けたところで、もうどうしようもない。
 心が完全に折られちまった男には、もう存在価値などないのだ。
「もし――使おうとしてた綿棒が折れちまったら、お前ならどうする?
 なァ、普通ソイツはもう捨てて、次の綿棒を取り出して使うだろォ?」
 手にした月影の首輪に「そういうことだ」と言葉をかける。
 月影はたまたま使い物にならなかっただけだ。
 すぐに次の駒を補充して、自らの戦力として使ってみせよう。
 ウヴァの今のコンディションは開始直後にも増して絶好調だ。
 今ならば例え紫のオーズが相手であろうとも負ける気はしない。
 それもこれも、あそこで死に掛けの月影にきちんとトドメを刺して、
 他の陣営の参加者に奪われる前に彼の支給品を確保出来たから、というのも大きいと思う。
 そう考えるならば、やはりウヴァの取った行動は最善の手だった。
「フフン……さァて、と」
 大量のコアとセルを手に入れた緑の王は、次の戦場へ向かうべく変型させたライドベンダーに跨った。
「あのヤローの所為でそれどころじゃあなかったが、そろそろラウラとも合流しないとなァ?」
 ライドベンダーの向かう先は、ラウラと別れた南西方面。
 あいつのことだ、今頃反旗を翻そうと何らかの計画を立てているのかもしれない。
 しかし今のウヴァには恐れるものなどなにもない。
 どんな敵が現れようとも、絶対に打ち倒せるだけの力を手に入れたのだから。
 高らかに笑いながら、ウヴァはライドベンダーを疾走させるのだった。

192義の戦(後編) ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:54:17 ID:zs3bw6JE0
 


【一日目-午後】
【F-4/道路】

【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】健康、絶好調、ライドベンダーを運転中
【首輪】300枚:250枚(増幅中)
【コア】クワガタ(感情)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、エビ、カニ、カメ(一定時間使用不可)、ショッカー
【装備】バースドライバー@仮面ライダーOOO、サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品×3、参加者全員のパーソナルデータ、ライドベンダー@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)、月影ノブヒコのランダム支給品0〜1、ウヴァのランダム支給品0〜2(確認済み)、ノブナガのランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
 1.ラウラと合流する。
 2.もっと多くの兵力を集める。
 3.月影を倒したネウロを警戒。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※ノブナガの身体を構成していたセルメダルと月影がばら撒いたセルメダルを回収しました。

【全体備考】
※E-4南側に首を切り落とされた月影ノブヒコの遺体が放置されています。



【ノブナガ@仮面ライダーOOO 消滅確認】
【月影ノブヒコ@仮面ライダーディケイド 死亡確認】

193 ◆3.CJH6sX8g:2012/08/11(土) 10:58:32 ID:zs3bw6JE0
ここまでです。
何か不備が御座いましたらご指導ご鞭撻の程よろしくお願いいたします。

194名無しさん:2012/08/11(土) 14:18:07 ID:lAZG0eagO
投下乙です!XがXならネウロもネウロで乗ってないとか絶対嘘だろこいつw

ああノブナガ……ウヴァさんはコアも増えて(器量的に)使いこなせないノブヒコも始末して……ん、つまりは一話にしてノブノブコンビがやられてしまった訳か?

195名無しさん:2012/08/11(土) 14:36:20 ID:F4hBnolE0
投下乙です。「二対一は卑怯だろう」強い奴はちょっと苦手だが、有利な相手にはとことん強い! 絶好調だなウヴァさんwww
冒頭で正気に戻るところや、速攻ノブくんを拉致していくシーンを脳内再生したら笑いが止まらないwww
しかし、前話でロスアンの下げたグリードとしての格はきちんと確保する。
バース相手に真価を発揮、折れた麺棒も処分、メダルも支給品も回収しての強豪マーダーに返り咲きだぜ!
……でも犬を脱したとはいえ麺棒が使えなくなったのは痛いし、読み通りラウラはルラギルつもりだけど本当に大丈夫?

ノブくんは相性が悪かった……元々消耗していたせいでもあるけど、例え結果は敗北でも格好良かった。
絶対味方のノブくんが死んで、アンクには誤解されて、真木に暴走仕組まれて……映司大ピンチじゃないか。

そしてネウロはロワだろうと本当に変わらないwww 前話で強キャラの印象を全面に出した月影をゴミクズフナムシ麺棒と言いたい放題。
ちょっと強過ぎないか? とも思ったけど月影なんて通常ダブルに負けてるんだしそんなもんか。
能力制限も掛かっているし、時間が経つほど魔力消耗して弱体化するから……逆を言うと弱体化するまではヤバ過ぎる。
X、これ以上■なんて作ってないで早くこいつを消耗させてくれ……! それにしても清々しいドS具合だ。

そして……さようなら麺棒。返してくれよぉ……俺の腹筋、返してくれよぉ……っw!

最後に誤字の指摘を。>>188最後の、「ネウロは絶叫調」というのは絶好調の誤字かなとだけ。度々長文失礼しました。

196名無しさん:2012/08/11(土) 16:04:56 ID:Rxu0SjTc0
投下乙です

まさかここまで動くとは…
ウヴァさんがここまで輝くとはばねえええw
ノブナガさんもここでアウトか
そしてネウロ、お前は本当に好き勝手絶頂してるわあwwwww
そもそもこいつが自重するわけないよなあw

197名無しさん:2012/08/11(土) 18:59:21 ID:P9h/Ju6A0
お二方とも、投下乙です。どんどんロワが加速していくなあ

ここでアストレアとW片割れの翔太郎が脱落か。有力な戦力だけに、主催打倒派には痛いダメージだなあ
一方のマーダーもロストアンクが討たれたけど、結局はXのパワーアップに繋がるという恐怖のオチ
生存者もアンクは映司との決別を決意、弥子は精神が脆いまま、そしてフィリップが絶望のドン底。誰も正義に奮起してねぇ
すげえ、どこを見ても絶望感しか無いじゃないか…
あと気になったのは、T2ゾーンメモリの在り処がわからないので記載がほしいです。
もう一つ、【】内の番号が抜けてたり被ったりしてるのが、ミスだとしたら修正がほしいです。

ネウロ大活躍。名言(罵倒)を連発、大首領をフルボッコ、あげく拷問を存分に満喫
なんかもう色々と桁外れで笑えてくるww
ウヴァさんも大活躍。前話で苦戦した理由やバースに勝った理由がきちんと説明されてて納得
ノブナガ討伐&月影に下克上を果たして完全に汚名返上。正直この戦果は予想外でした
ヘタレ化とはなんだったのか、立派に強豪マーダーの一人じゃないか

198 ◆qp1M9UH9gw:2012/08/11(土) 20:33:12 ID:TzsYypMQ0


感想ありがとうございます&投下乙です

前話での犬状態はどこへやら、ウヴァさん大活躍!
ノブナガを倒してメダル大量入手、さらには飼い主の腕を噛むどころか首を切断するとは……。
テンションMAXでノブヒコに語りかける姿は見ているこっちも楽しくなるw

ネウロも愉しんでるなぁww
しかしあのシャドームーンを完膚なきまでにボコるどころか、拷問までするなんて……。
てか台詞といいやる事といい、お前本当に対主催なのかwww

ノブナガはグリード相手によく頑張ったが、結果は残念ながら無駄死に同然。
やはりグリードもどきでは本物のグリードには敵わなかったか……。
だけど、最期の一瞬まで友の為に戦うその姿は格好良かったなぁ。

綿ぼ……ノブヒコは見事な小物になっちゃって……前話での威厳は一体どこに行ったのだろうか。
最期のウヴァさんとの会話といい、五本指最弱の男を連想する死に様だった。


自分の作品で指摘された点にについては、後日修正案をしたらばの修正スレに投下します。

199名無しさん:2012/08/12(日) 05:03:53 ID:jbhSRK.wO
ヒィィ〜〜!やべぇ!ネウロにX、まじハンパネェよ!(あと葛西も)
勢い盛んなネウロ勢の他にも。

杏子に剣キングフォームを倒し、その後一夏(X)とアストレアを退け四連勝したバーサーカ。

「愛って痛いんだよ?」ただいま成長期に入ったカオス。

初代からディケイドの全てのライダー(キバーラ、ディエンドを除く)を倒し、今度はWとオーズ(下手したらタイガー&バニーも)をも破壊する。世界の破壊者ディケイド。

ただいま絶賛暴走中、世界の中心でヨクボウを叫ぶキョウリュウ。オーズプトティラコンボ

他にもルナティックにジェイク、ディエンドに加頭…。あれ?いま気づいたけど危険な奴等が多くね?

200名無しさん:2012/08/12(日) 10:04:30 ID:lM9CMLj.0
>>199
いや、バーサーカーは切嗣の令呪で制御されてるから他の奴よりはマシなはず…

201名無しさん:2012/08/12(日) 16:15:56 ID:uMUFNWJYO
まあそれでもセイバーさんと会ったら大暴走余裕だろうけどw

202名無しさん:2012/08/12(日) 19:41:28 ID:wRduxmgs0
お二方投下乙です!

>Cにさよなら/トゥー・ザ・ビギニング ◆qp1M9UH9gw氏
うあー…予約の段階から嫌な予感はしてたが…
まさかアストレアと翔太郎が死んでしまうとは…

フィリップの悲しい慟哭がホントに辛い…

そして相変わらず歩く死亡フラグなXも恐ろしいなあ
って言うかキルスコア稼ぎすぎwww

>義の戦 ◆3.CJH6sX8g氏

綿wwwwwwwwwww棒wwwwwwww
二人も死んでシリアスな筈の話なのにどうしてこうなったw
いや、綿棒さんも大概チートだけど相手が悪かったかな…
そしてウヴァさんも絶好調みたいで何よりw

改めてお二方乙でした!

203名無しさん:2012/08/13(月) 00:05:49 ID:3wCTStF.0
綿棒早速登録されててワロタwww

204名無しさん:2012/08/13(月) 00:10:18 ID:aIP5RlbIO
仕事早すぎwいいぞもっとやれw

205名無しさん:2012/08/13(月) 12:38:13 ID:YVXyOcS20
そして予約来てた
火薬庫に更に人が増えてヤバいなあ

206名無しさん:2012/08/13(月) 19:35:54 ID:aIP5RlbIO
ライダー大戦(一部違)に巻き込まれるとなると下手すりゃマミメンタルさんがまた絶望にゴールしてしまうな・・・

しかも珍しくハーフボイルドの方が早々に死者スレ満喫中だし、この乱戦を照井さん生き残ったらマジでCAXワンチャンあるで

207名無しさん:2012/08/14(火) 19:24:39 ID:QSOA3NPw0
ライダー対戦予約ktkr!
あの面々にマミさん達も加わるとか予想がつかなすぎるw

208名無しさん:2012/08/15(水) 22:08:06 ID:DZaJuFgY0
もう一件予約来たが…こっちもこっちでやばそうだ
フラグ立ちまくりのバーナビー&虎徹とイカロス&ニンフが同時予約か
マーダー二人だけとはいえ下手すれば大惨事対戦ありえますなコレ

209名無しさん:2012/08/16(木) 02:44:07 ID:Y1evD.ao0
投下乙です!

ノブナガ・・・最後まで天下人としての誇りを守り通しましたね・・・カッコよかったです!!

ネウロはドSの極みですねww 綿棒さんカワイソウwww

キュゥべぇは契約はできないんですね・・・つまりいくらでも変わりはあるけどしゃべるだけしかできない支給品・・・しゃべるGみたいなもんですねw

210名無しさん:2012/08/16(木) 05:06:57 ID:Rz5XqWN20
投下乙!
綿棒のスペックは悪くない・・・・・・と思うだろうけどあいつ通常形態のWに負けてるんだよな
ディケイドとクウガ圧倒したのもデータがあったからなんだし
案外前話の時点でウヴァさん綿棒を倒せちゃったりしてw

211名無しさん:2012/08/16(木) 09:12:02 ID:VfEbehww0
完全に綿棒が定着してやがるっ…!www

212名無しさん:2012/08/16(木) 09:48:50 ID:BhYSyrbw0
ウヴァさんは散々ネタにされてるけど純粋な戦闘力だけならグリード中最強だからな。
小野寺みたいに、本編では残念だったけどロワじゃ活躍する典型な気がする。

213名無しさん:2012/08/16(木) 23:08:55 ID:RRVWSBdY0
でもウヴァって順調なほど、心配というかワクワクするんだよね。色んな意味で

後、遅ればせながらお二方投下乙です!
綿棒さんのことノブヒコって呼ぶな!

214名無しさん:2012/08/17(金) 00:56:14 ID:vDi6NAYw0
>>212

>純粋な戦闘力だけならグリード中最強

えっ

215名無しさん:2012/08/17(金) 01:28:49 ID:w8UaHIysO
>>212
せ、せやな・・・ガタキリバコンボ『は』予算最強だし

216名無しさん:2012/08/17(金) 04:49:25 ID:U0XfyxXA0
いや、ウヴァさんは事実ネタ抜きで最強格だよ
他のグリードはそれぞれ完全体になった状態でオーズやWバースに敗北してるけど、ウヴァさんの完全体はプトティラとWバースをも寄せ付けない強さを見せ付けた
メダガブリューの攻撃も効かなかったし、映司が無限のセルを取り込んで真のオーズに覚醒しなければウヴァさんは倒せなかった筈
ただ、戦闘力以外が色々と残念で間が悪くいつも美味しいところを持っていかれるからネタにされているだけで…

217 ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:12:50 ID:q4Qn7kLU0
これより、予約分の投下を開始します。

218迷いと決意と抱いた祈り(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:15:02 ID:q4Qn7kLU0



「オォォォオオオオッッ!!!」

 身の竦む雄叫びと共に、敵を打ち砕かんとメダガブリューが振り下ろされる。
 その一撃をアクセルが受け止め、背後からディケイドがライドブッカーで切りかかる。

「オアアァァァアッ!!」
「グ……オッ!」
「――ガアッ!」

 だがオーズは、その圧倒的な暴力を以ってアクセルを、恐竜のような尾でディケイドを弾き飛ばし、そのままディケイドへと追撃をかける。

「ファイヤーッ!」
「ヴアァア――ッ!」
 それをさせまいとファイヤーエンブレムが最大火力で炎を放つが、オーズは咆哮と共に冷気を放つ。
 二人の間でぶつかり合った炎と冷気は、どちらも競り負けることなく相殺しあう。
 だが、そのままの状態でオーズはファイヤーエンブレムのほうへと体を向け、両肩のワインドスティンガーを撃ち出す。

「いやん、もう!」
 辛うじてその動きを察知できたファイヤーエンブレムは、咄嗟にその場を飛び退いて回避する。
 同時に攻撃の隙を突いて、アクセルとディケイドが渾身の力で一撃する。

「ハア――ッ!」
「オオ――ッ!」
「グウッ……ウァアッ――!!」

 二人の攻撃をまともに受けたオーズは僅かに呻くが、ダメージは小さい。
 即座に体勢を立て直してアクセルとディケイドの首を掴み、エクスターナルフィンを展開して空へと飛翔する。
 そして一気に急降下して渾身の力を籠めて二人を地面へと叩きつけ、再び上空へと飛び上がった。

「ガハ……ッ」
「グウ……ッ」
「二人とも、大丈夫!?」

 地面に叩きつけられた衝撃に呻く二人に、ファイヤーエンブレムが声をかける。
 仮面ライダーに変身した彼らにとって、落下のダメージ自体はたいしたことはない。
 だが暴走したオーズの猛攻は、二人に少なからぬダメージを蓄積させていた。
 特にディケイドは、暴走したオーズの一撃を真っ先に受けたこともあってか、動きに精彩を欠いていた。

 数多の仮面ライダーを破壊してきたディケイドにとって、今のオーズの力は経験した範疇を超えない。
 だというのに彼がオーズを攻めきれないのは、久しく忘れていた協力しての戦いである事と、真木清人に掛けられた制限からだ。

 ディケイドは複数のライダーカードを連続使用する事によって、他のライダーを圧倒する仮借ない攻撃を可能としていた。
 だがセルメダル消費という制限をかけられたことにより、それが難しくなってしまったのだ。
 もしセルメダルの残量を考えずに戦えば、あっという間にメダルが底を尽き、変身が解けてしまう。
 後のことも考えれば、無駄使いは一切出来なかった。


「アアアアァァァアア――――ッッ!!!」
 空でオーズが咆哮を上げ、オースキャナーでオーカテドラルに装填されたコアメダルをスキャンする。

《――スキャニングチャージ!!――》

 そしてその音と共にコアメダルの力を最大解放し、全てプテラヘッドへと集中させる。
 ワインドスティンガーによる攻撃を行わないのは、対象が複数居るからか。
 いずれにせよ、衝撃波と共に放たれた冷気は、地上にいる三人を凍結させ拘束した。
 そしてそこに止めを刺さんと、メダガブリューにセルメダルが装填される。その数四枚。
《――ゴックン!――》
 その全てを噛み砕いて圧縮し、エネルギーを砲身内部で循環・増幅させる。
 セル一枚でも十分な破壊力を持つ一撃を、セルを四枚も消費して放てば、アクセル達三人を斃して余りある威力となるだろう。
 オーズはその必殺の一撃を放つ砲身を、躊躇うことなくアクセル達へと向ける。

219迷いと決意と抱いた祈り(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:16:10 ID:q4Qn7kLU0

「ちょっと、マジでヤバイわよ! どうするの!?」
「俺に質問をするな……!」
「くそ……ッ!」

 アクセルとディケイドはその装甲で、ファイヤーエンブレムは自らの能力で完全な凍結を免れていた。
 だが纏わり付く氷は、今なお彼らの体を拘束し、脱する術を阻害している。
 全力を尽くせば数秒と経たずに拘束を破れるだろうが、その数秒の間に致命の一撃が放たれるだろう。

「クッ……!」
 アクセルはスチームによる解凍を試みるが、エンジンブレードに纏わり付く氷がメモリの装填を阻害する。

「チィ……!」
 ディケイドはライドブッカーによる銃撃でオーズを撃ち落そうとするが、アタックライドによらない攻撃では十分な威力がない。

「この……ッッ!」
 ファイヤーエンブレムは両手から炎を放って氷を急速に溶かすが、ヒーローとして残る二人を放っておくことは出来ない。

 そんな彼らの抵抗を嘲笑うかのように、メダガブリューの内包するエネルギーが臨界に達する。
 アクセル達はそれを前に最後の抵抗を試み、

《――プ・ト・ティラーノ・ヒッサ〜ツ!!――》

 その歌声と共に、全てを破壊する一撃――ストレインドゥームが放たれた。


        ○ ○ ○


「ウヒョヒョヒョヒョヒョ!!」
 と。【D-7】に位置する街の、とある店の中で響き渡る。
 声の主は桜井智樹。
 現在彼の居るこの店は、アニメやマンガ、ゲームなどのグッズを取り扱う店らしい。
 彼の周囲にある棚には何冊もの本がぎっしりと陳列されており、今彼が手に取っている本もその内の一つだ。
 その店内の一角で本を読みふける彼の姿は、見様によっては漫画雑誌を読み漁る少年と思う事も出来ただろう。
 ………それらの本が、『エロ本』でさえなければ。

「ええのうええのう! 堪らんのう!!」

 智樹はうねうねと体をくねらせながら、高まるリビドーに身を委ねる。
 この場に彼の幼馴染がいれば、いつものようにキレのいいチョップを打ち込んで制裁を加えたのだろうが、残念ながらここにはいない。
 その事実がまた、少年の煩悩を解放させる。

「桜井君、どう? 何か見つかった?」

 そんな公衆の面前に出られないような変態を晒す少年の元に、一人の少女が声をかける。
 智樹はそれにビクッと体を跳ねさせ、慌てて外面を取り繕う。

「い、いや、何も! 何も見つかりませんでした!」
「そう。それは残念ね」

 そう言って静かに考え込むマミに、智樹はふう、と安堵の息を吐いた。
 幸いにして、彼がエロ本を読んでいたという事には気付かなかったらしい。

 智樹達はこの店に、殺し合いを打破するのに役に立つ物はないかと立ち寄った。
 その際に智樹はこのコーナーを見つけ、目的を忘れてエロ本を読みふけっていたのだ。

「それならとっとと次に行こうぜ。何にもない所でじっとして手もしょうがねしさ」
「そうね、そうしましょう」

 マミが周囲の本に気付く前に、彼女を促して店からから立ち去る。
 もしエロ本を読み耽っていたと知られたら、マミは間違いなく自分を避けるだろう。
 蔑んだ目で見られるのは慣れっこだが、それで警戒されて彼女の豊満な肉体を観賞できなくなるのは上手くない。

“中学生とは思えぬそのおっぱい。心ゆくまで堪能させてもらわねば”

 頭の中で邪な事を考えながら、気付かれぬように横目でマミの体を観賞する。
 足先から脛、腿、尻、腰へと視線を上げ、やはりその胸で目が釘付けとなる。
 その魅惑のボディは、アイドルとしてデビューすれば人気を博すること間違いなしだろう。

「グフ……グフフ………」
 込み上げる笑いを堪え、マミの動きに合わせて揺れる胸を凝視する。
 先程は彼女が突然合流した事であの場にあったエロ本を回収し損ねたが、今目の前にある頂を思えば些細な事だろう。
 そう思いながら視線を上下させ、
「――――――――」
 不意に視界に捉えたマミの表情を見て、ふと我に帰る。

 マミは真剣な眼差しで何かを思案している。
 それは考えるまでもなく、この殺し合いを打破する方法についてだろう。
 そう思い至ると同時に、先程までの興奮もあっさり冷めた。

220迷いと決意と抱いた祈り(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:16:52 ID:q4Qn7kLU0

「……………………」
 雲一つ見当たらない空を見上げる。
 鳥一匹飛んでいない、鳴き声すら聞こえない青い空。
 その青さに、なるべく考えない様にしていた事を思い浮かべた。

 桜井智樹は、決して誰かの死に無感動でいられる人間ではない。
 真木清人によって行われた二人の人死に、何も思わなかった筈がない。
 だが彼は無力な人間でしかなく、目の前で起きた惨劇を見過ごす事しか出来なかった。
 だから彼は、己の欲望に従う事によって心を慰め、無意味な事を考えない様にしていたのだ。
 そのどうしようもない事を、マミの真剣な表情を見て思い出してしまったのだ。

 目の前で死んだ名前も知らない少女たち。
 彼女たちの死に嘆く誰かの慟哭の声。
 己の愛する平穏が崩れていく音。
 ただ茫然としていた自分。

 もしあの時動いていたら、何かが変わったのだろうか。
 そんなありもしない考えを、大きく息を吐いて頭から吐き出す。
 もう終わってしまった事を考えるくらいなら、妄想をしていた方がまだ建設的だ。
 だがそんな気分ではもうないため、別の事を考えて気を紛らわす事にする。

「それにしても、イカロス達はどこにいるんだか」
「そうね。みんな無事だと良いけど」

 この会場のどこかにいる知人を思いながら、次に向かう場所の当てもなく歩いて行く。
 ラジオ会館から周囲の店を見て回ったため、スタート地点からはそれほど進んでいない。
 今はようやっと街の外縁部が見えてきた所だ。
 こんな調子では、誰かを探すにも時間が掛ってしょうがない。

「やっぱり、地図に載っている施設を探した方がいいのかしら」
 地図に載っていない施設では何の収穫もなかった以上、やはり記載されている施設の方を調べるべきだろう。
 だとすれば、向かうべきは西側か。そちら側には、見滝原と空美町がある。
 知り合いを探すのなら向かうべきだし、お互いの目的地としても隣町で丁度良い。
 そう思って、マミは智樹へと声をかける。

「ねぇ、桜井君」
「ん? 何だアレ?」

 だがその時、遠くを見ていた智樹が何かを見つけた。
 その方向へと視線を向ければ、見覚えのある人影が家屋の屋根を足場に跳んでいた。

「あれは……鹿目さん?」
「知り合いか?」
「ええ」

 大分距離がある為確証は持てないが、おそらく間違いないだろう。

「そんじゃ、見失う前に追いかけようぜ」
「そうね、急ぎましょう」

 智樹の声に促されて、まどかを追って走りだす。
 まどかは変身して身体能力を上げていた。つまり、彼女には急ぐ理由があるという事だ。
 どうにも嫌な予感がする。なるべく急いで合流した方が良いだろう。
 マミはそう思い、智樹を置いて行かない程度に足を速めた。


        ○ ○ ○


《――プ・ト・ティラーノ・ヒッサ〜ツ!!――》

 滅びを告げる歌声が響く。
 身動きを封じられたアクセル達は、オーズの一撃を避ける事が出来ない。
 その絶望的な状況を前にディケイドは、最後の抵抗としてクロックアップのライダーカードを取り出す。
 氷で拘束されている今、インビジブルによる脱出は出来ない。
 ならばクロックアップで超加速し、体を拘束する氷の粉砕を、それが無理ならディメンジョンブラストによる撃墜を狙うのだ。

 オーズの放とうとしている必殺技は、ディメンジョンブラストだけでは相殺できないだろう。
 だが相殺できないのであれば、放たれる前に撃ち落してしまえばいいのだ。
 カードの使用が制限されている今、強力な手札を切るのは痛いが、倒されてしまっては元も子もない。
 故に、オーズの必殺技が放たれるより早くクロックアップを行おうとして、

「む―――あいつは」

 視界の端に捉えた人影に、その行動を中断した。


 そうして全てを破壊する一撃が容赦なく放たれた――その直前。
 メダガブリューを構えるオーズの手元が、突如として蒼い炎を伴って爆発する。
 それにより斜線がずれ、放たれたストレインドゥームはアクセル達から離れた地点に着弾した。

221迷いと決意と抱いた祈り(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:17:32 ID:q4Qn7kLU0

「まさか、ルナティック!?」

 ファイヤーエンブレムが、自分達の窮地を救った人物を察し声を上げる。
 視線を上げ上空を確かめれば、やはりビルの屋上にルナティックの姿があった。

「オーズよ。きみの語った正義はその程度のものなのか?
 だとすれば、私は貴様を裁かなければならない」

 ルナティックは炎の矢を装填したボウガンをオーズへと向け、そう告げる。
 期待の表れとも取れるその言葉に、しかしオーズは答えず、ただ唸り声を洩らすだけだ。

「……最早言葉は届かない、か。残念だ」

 落胆の色をした呟きとともに、躊躇いなくオーズへと炎の矢を放つ。
 だがオーズは炎の矢をメダガブリューで叩き落し、一息にルナティックの元へと接近する。
 順序こそ違うが、先程の焼き直しのような光景。しかしルナティックには既に、前回の様な動揺はない。

「ならば私は、私の正義のもとに裁きを下す」

 ルナティックは両手から蒼い炎を放ち、一瞬で加速してオーズから距離を取る。
 今のオーズが相手では、接近戦で勝ち目はない。確実に、遠距離から少しずつ削っていく。

 問題があるとすれば、オーズはグリードを打ち倒したことによりセルメダルの残数が多く、
 対するこちらは、オーズの攻撃を一撃受けただけでメダル切れより早く倒されるだろうという事だ。
 故に勝機は二つに一つ。
 その内の一つは、オーズの攻撃を全て回避し、自身のメダルが切れるより早く、オーズのメダルを削りきるというものだ。

「タナトスの声により、貴様を闇の呪縛から解き放ち、償いと再生の道を授けよう」

 その命がけの綱渡りを、ルナティックは躊躇いなく決行した。
 オーズのメダルを削りきることは同時に、オーズの暴走を止めることとイコールとなるのだから。



「無茶よ! アタシら三人でも相手にならなかったのに、ルナティック一人でなんて!」
「だがヤツの他に、空で戦える人間はこの場にいない。
 それに下手な援護射撃は、かえってルナティックの邪魔になりかねない」

 アクセルの言葉に、ファイヤーエンブレムは悔しげに呻く。
 上空では幾条もの蒼い炎が、それこそ雨霰と放たれている。
 だがその殆どがオーズに届かず、避され、打ち落とされている。
 このままではオーズよりもルナティックのメダルが先に尽きてしまうだろう。
 しかし少しでも攻撃を弱めれば、その間隙を突いて一気に接近戦へと持ち込まれてしまう。
 せめてあと一人。空中で戦える人物がいれば、援護射撃を行う余裕も出来るのだが。


 そしてディケイドも、彼らと似たような考えを懐いていた。
 即ち、余計な人間さえいなければ、今すぐにでもこの戦いを終わらせたのに。という感想だ。

 ディケイドが上空の戦いを静観しているのは、オーズを倒した後での戦いを警戒しているからだ。
 ライダーカードに制限が掛けられている今、オーズ相手に大技を使ってしまえば、アクセル達の相手をするのが厳しくなる。
 切り札もなく三人も相手にするのは危険だし、特にルナティックは間違いなく殺しにかかってくるだろう。
 故に今の状況で彼にとって最良なのは、ルナティックが倒され、アクセルとファイヤーエンブレムが適度に弱った状況でオーズを破壊することだ。
 問題は、制限された状況下では、アクセル達と手を組んでいてもオーズの相手は厳しい、ということだ。

 とそこまで考えたところで、不意に声を掛けられた。

「今のうちに、お前に訊いておきたいことがある」

 アクセルはそう言って、ディケイドへと向き直る。
 空では今も、ルナティックとオーズが戦っている。
 ルナティックが倒されれば、次は自分たちがオーズと戦うことになるという状況で、余計な会話をしている暇はないはずだ。
 それを理解していてなお、アクセルがディケイドに話しかけたのは、この機を逃せば、訪ねる機会はきっと二度と来ないと、そう思ったからだ。

222迷いと決意と抱いた祈り(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:18:15 ID:q4Qn7kLU0

「貴様は仮面ライダーを破壊するのが使命だと言ったな」
「それがどうした」
「貴様の言葉には、一つおかしな点がある」
「なに……?」

 アクセルが気づいた、ディケイドの使命のおかしな点。
 それを追求しようと思ったのは、自分が仮面ライダーの名を捨てたからだろう。
 つまり、ディケイドの語った仮面ライダーという言葉こそが、ディケイドの矛盾点だった。

「俺は仮面ライダーの名を捨てた復讐鬼だ。
 だが貴様は違う。貴様は、自らを仮面ライダーだと名乗った。
 仮面ライダーを破壊する、というのなら、貴様は貴様自身を破壊しなければならない。
 この矛盾を、貴様はどう説明する」
「――――――――」

 アクセルの問いかけに、ディケイドは口を閉ざす。
 答えるつもりがないのか、あるいは答えられないのか。
 いずれにせよ、ディケイドの核心を突いたことをアクセルは確信した。

「貴様にとって、仮面ライダーとは何だ。仮面ライダーディケイド」

 ディケイドに繰り返し問いかける。
 ふとフィリップと同じ言葉を口にしたことに気づいた。
 だが今は、一言も聞き逃さないようにとディケイドに意識を集中させる。

 そうして張りつめた沈黙の中、ディケイドが僅かに身動ぎした――その時。

「ルナティック!?」

 ファイヤーエンブレムの声に、思わず空へと視線を向けた。
 そこでは、今まさに戦いの決着が付く所だった。



 上に下に右に左に。散発的な加速を繰り返し、縦横無尽に飛行する。
 さらに加速の合間に炎の矢による牽制を加え、オーズを近寄らせない様に距離を取り続ける。

 今のオーズの戦い方は、本能に任せた突撃だけだ。そう容易く距離を詰められる事はない。
 問題なのはその耐久性だろう。
 瞬間的な火力ではファイヤーエンブレムを上回る蒼い炎でも、掠った程度ではセルメダルを一枚も削れない。
 そして直撃しそうな矢は、その本能から来る直感か。殆どが回避されるか打ち落とされている。

 ―――解っていた事ではあるが、やはり一人では相手になっていない。
 故にもう一つの勝機である地上戦へと持ち込み、ファイヤーエンブレムたちの協力を得ようとするが。

「ウウ――ッ!」
「クッ……! 地上に逃がすつもりはないという事か」

 地上へ降りようとすれば、オーズは即座に回り込んで迎え撃ってくる。
 これも本能による行動だとすれば、一体どのような野生によるものなのか。
 まだ理性があると言われた方が、信憑性がある。

「ウォォオオオ――――ッッ!!!」

 だがオーズの放つ咆哮には、理性は全く感じられない。
 ただ破壊の意思のみが、今のオーズから感じ取れる全てだ。
 それを証明するかのように勢い良く振り抜かれる恐竜の尾を回避し、蒼炎を矢に加工してオーズへと撃ち出す。

 いずれにせよ、このままでは敗北は必至だろう。
 オーズに対して有効な攻撃がない現状、このまま戦い続けるのは難しい。
 今オーズが消費しているセルメダルがどれくらいかは判らないが、メダル切れは期待できない。
 故に、どうにかして地上へと降り立つ隙を見つけなければならない。

 そう考え、オーズから離れる為に炎による加速を行い、
「ッ、ク……ッ!」
 不意に全身に走った痛みに、思わず動きを止めてしまう。
 オーズより受けたダメージの残る身体が、幾度も繰り返された急制動で限界に来たのだ。

 その隙をオーズが逃す筈もなく、一瞬でルナティックの元へと接近しメダガブリューを振り抜く。

「グゥ……ッ」
 その一撃を、痛む体を押して回避し、
「ォオ――ッ!」
 続く尾による追撃も辛うじて回避し、
「、ッ………!」
 最後に放たれた、両翼による衝撃波を回避できずにまともに受ける。
 そして待ち望んだ地面へと、望まぬ形で到達した。

223迷いと決意と抱いた祈り(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:18:44 ID:q4Qn7kLU0

「ッア―――……ッ!」
 墜落した衝撃に、肺の空気をすべて吐き出す。
 限界を超えた痛みに、全身が次の動作を拒絶する。
 ファイヤーエンブレム達が急ぎ駆け付けてくるが、遠い。
 それよりも早く、空からオーズが止めを刺さんと降りてくる。

「私は――――」
 最早逃れられぬ死の運命。
 それに抗い四肢に力を籠める。
 だがあまりにも遅い手足の動き。
 鎖に繋がれたかのように体が重い。

 まるでこれが、自身に下された捌きだと言わんばかりに―――

「まだ……ッ!」
 まだ終われない。
 まだ証明できていない。
 まだ自分の正義を為せていない。
 だから、ここで死ぬことは出来ない。
 そう強く思い――しかし。

「オオォオ―――ッ!!」

 咆哮を上げて眼前に迫るオーズの姿に、あらゆる抵抗が間に合わぬことを察した。
 オーズはルナティックが動くよりも早くメダガブリューを振り上げ、
 突如として幾条もの閃光に射抜かれる。

「グウ……!?」
「――――!?」

 攻撃を受けたことで思わず攻撃を止めたオーズは、矢の放たれた方向へと振り返り、視線が一つの人影とすれ違う。
 桃色の人影はルナティックを抱えると、即座にオーズから距離を取った。

「大丈夫ですか? ルナティックさん」

 聞き覚えのある声に、自分を助けたのは何者かとその正体を確かめる。
 そして予想だにしなかった人物に、ルナティックは驚きに声を上げた。

「貴様は―――鹿目まどか……!」

 死の運命から彼を救ったのは、つい先程、彼自身が殺そうとした少女だった。


        ○ ○ ○


 戦場へと駆け戻る最中、まどかは不意に思った。
 ―――あの場へと戻って、一体どうするのか。
 戦いを止めると言うが、自分は一体、どうやって止めるつもりなのか、と。

 ただ止める事を望むのであれば、戦いを望むものを力づくで倒せばいい。
 あの場には今、まどかが知る限りで五人の人間がいる。
 照井竜、ファイヤーエンブレム、オーズ、ルナティック、そして名前も知らない男性。
 彼等の内、積極的に戦おうとしているのは、ルナティックと名前を知らない男性だ。
 ならば彼等を倒せば、必然的に戦いは止まるだろう。
 オーズとの禍根は残ったままだが、戦いが続くよりはいいはずだ。

「――――――」

 ……けれど、それは違うと思う自分がいる。
 彼等を倒せば、確かに戦いは止まるかもしれない。
 けどそれは、ルナティックのやろうとしている事と同じではないのか?

 ルナティックの語った正義は、言ってしまえば悪の完全な根絶だ。
 罪を犯した者には死を。罪人を庇う者にも死を。どのような形であれ、罪を残す者に死の裁きを。
 彼の語る正義の果ては、死と恐怖によって齎される血塗られた秩序だ。
 その中で人々は死に脅え、誰かを庇うことも躊躇い、結果として悪は根絶されるだろう。

 ……けどそれは、決して救いではないとまどかは思う。
 死による制裁。恐怖による抑止。確かにそれによって悪は根絶されるかもしれない。
 だがその秩序では、ただ一度の間違いさえも許されない。
 そんな、やり直す機会さえない世界の、一体どこに救いがあるというのか。

「――――――」

 ならばいったい、どうすればいいのだろうか。
 彼等の内の誰を助け、そして誰を助けないのか。
 それを思うと、途端に足が重くなる。
 こんな迷いを懐いたままで、いったい何が出来るのかと。
 鹿目まどかの本当の願い――胸に秘めた欲望はなんなのかと。

224迷いと決意と抱いた祈り(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:19:23 ID:q4Qn7kLU0

「え――?」

 その時ふと、体が軽くなったような気がした。
 ……いや、気のせいなどではなく、確かに軽い。
 少し強く踏み出せば、先程よりも高く跳び上がれる。
 足取りは重いまま。けれど体は、本当に軽く運ばれる。
 ―――まるで、見えない誰かに支えられているかのように。

「………ガメル?」

 今はもういない、白陣営のリーダーだったグリード。
 何も悪いことはしていないのに、ただグリードであるというだけで倒された彼。
 なぜ唐突に、彼を思い出したのか。その理由に、根拠もなく思い至る。

「励まして……くれるの?」

 いま自分は、ガメルのコアメダルを持っている。
 コアメダルは、グリードの肉体の核となる重要な要素だ。
 ならばそこに、ガメルの意思が宿っていないと、どうして言えるのか。

 グリードは欲望の権化だ。この殺し合いは欲望を形にする戦いだ。
 ガメルがどんな欲望を持っていたかはわからないが、彼はきっとどんな欲望も否定しないだろう。
 だからきっと、みんなを守りたいというまどかの願いも肯定してくれているのだ。

“――って思うのは、私の勝手な想像かな”
 そう思いながらも、小さく微笑む。
 いきなり体が軽くなった本当の理由はわからない。
 もしかしたら、ガメルとはまったく関係のない理由かもしれない。

「でも……ありがとう、ガメル」
 胸に手を当てて、ここにいない彼への感謝を口にする。

 例え勝手な想像だったとしても、ほんの少しだけ、心が軽くなった。
 そのおかげで、戦場へと急ぐ足取りも、さっきよりは軽くなった。
 この願いは、きっと間違いじゃないと、そう思うことが出来た。
 だから結果がどんなことになろうと、懐いた願いを叶えようと。そのために戦おうと決めた。

 ―――だから、今にも殺されそうになっていたルナティックさんを助けることに、迷いはなかった。

「大丈夫ですか? ルナティックさん」

 まどかは見かけより軽い……というより、重力(おもさ)を感じない体を地面に下ろしながらそう声をかける。
 あれほどの勢いで地面に墜落したのだ。何の怪我もない、ということはないだろう。
 けど少なくとも、命に関わるような怪我は外側からは見取れない。

「貴様は―――鹿目まどか……!」
 自らが殺そうとした少女に助けられたことに、ルナティックは僅かに驚いた様子を見せる。
 その様子に、少なくとも今すぐ如何こうするという事はないだろうと安堵する。

「鹿目! 何故ここに来た! 待っていろと言っただろう!」

 その怒鳴り声で、赤い装甲に覆われた人物が照井竜だと理解する。
 同時にオーズと似たような装甲であることから、彼も仮面ライダーなのだとも。
 彼はファイヤーエンブレムともう一人、マゼンタ色の仮面ライダーと共に駆け寄ってくる。
 マゼンタ色の仮面ライダーは恐らく、竜の前に遭遇したあの男性だろう。

「ごめんなさい! けど、じっとなんてしていられなかったんです!」

 まどかは竜の言いつけを守らなかった事を謝ると、すぐにオーズへと向き直った。
 オーズはまたガメルを倒した時の姿へと変身して、足が震えそうになるほどの威圧感を放っている。

 彼とルナティックが空で戦っているのを、まどかはこの場所に辿り着くまでに確認していた。
 今彼らが争っている理由が違うものになっているのを、まどかは知る由もない。
 だがガメルの時とは違う、オーズの尋常ならざる様子は、まどかにも見て取ることが出来た。

「オーズさん! ルナティックさんはもう戦えません! もう終わりにしましょう!」

 オーズがルナティックに容赦なく止めを刺そうとした理由はわからない。
 けれど、傍目にもオーズが圧勝したのだから、何も殺す必要はないはずだ。
 ルナティックがまた誰かを殺そうとすれば、もう一度止めればいいのだから、と。
 そう思っての言葉は、聞き覚えのある冷淡な声で切って捨てられた。

225迷いと決意と抱いた祈り(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:20:09 ID:q4Qn7kLU0

「無駄だ。今のそいつは暴走してる。誰の言葉も届かない」
「え……?」
「それに終わりでもない。俺は全てのライダーを破壊する。当然そいつもな」
「あなたは……」

 マゼンタ色の仮面ライダーがそう言って、変わった形状の剣を構える。
 彼の視線の先には、先程から一言も喋らないオーズがいる。
 確かにオーズの様子は、ガメルを倒した時とはぜんぜん違う。

「あの、オーズさんが暴走してるって、どういう――――」
「ヴォオオォォオオ――――――ッッッ!!!!」

 どういう意味なのか、という言葉は、オーズから発せられた咆哮に遮られた。
 マゼンタ色の仮面ライダーの放った殺気に反応したらしい。その視線は彼に向けられている。

「来るぞ、ディケイド!」

 竜がそう警告し、エンジンブレードにエンジンメモリを装填する。
 まどかはその際、ふと何かに気づき掛けるが、それを遮るようにオーズが声を上げ、一息に襲い掛かってきた。

《――STEAM――》
 だがそれに先んじて、エンジンブレードから高温の蒸気が噴射され、オーズの突撃を妨害し、
《――ATTACK RIDE・SLASH――》
 その行動に合わせるように、マゼンタ色の仮面ライダー――ディケイドが一撃を叩き込んだ。

 堪らず足を止め、そのまま後退るオーズ。
 散らばるセルメダルから、ダメージは間違いなく通っている。
「アァアア―――ッッ!!」
 だがオーズは咆哮を上げ、即座にディケイドへとメダガブリューを振り下ろす。
 ダメージはあっても、オーズの行動を止めるほどではなかったのだ。

「グ、クッ……!」
 ディケイドは咄嗟にライドブッカーでメダガブリューを受け止め、しかしその筋力に後退する。
 だがそのままディケイドが圧し潰されるより早く、竜がオーズの背後から一撃する。
 それにより圧力が弱った瞬間、ディケイドはオーズの胴体を蹴り飛ばし、強引に距離をとった。

「鹿目、話は後だ。まず先にこいつを止める」
 竜はそう言って、ディケイドと共にオーズへと挑んでいく。

「オーズさん、どうして……!」
「さぁね。彼、いきなりああなっちゃったのよ。
 あのまま放っておく訳にもいかないし、こうしてどうにか止めようとしてるところなの」
「そんな……」
「それじゃぁ私も行くわ。あの三人がかりでも厳しいの」
「あの、私も―――」

 そう言って走っていくファイヤーエンブレムを見て、まどかも駆け出そうとする。
 話し合いをするにしても、まずはオーズをどうにかしなければ話にならないからだ。
 だがまどかが一歩を踏み出した瞬間、彼女を呼び止める声があった。

「待て」
「ルナティックさん?」

 思わず足を止め、ルナティックへと振り返る。
 ルナティックはふらつきながらも立ち上がり、真っ直ぐにまどかを見つめていた。

「どういうつもりだ、鹿目まどか。何故私を助けた。
 助けられたからといって、私が貴様を見逃すと思っているのか?
 それともヒーローたちのように、青臭い正義感でも振りかざしているのか?」

 ルナティックの言葉は、どこか責めているように感じた。
 それも当然だろう。
 あの瞬間のまどかにとって、ルナティックはまだ自らの命を狙う存在でしかなかったはずだ。
 自分を殺そうとする人間を、殺されそうになった人間が助けるなんて、普通は思わない。
 ましてやルナティックは、彼自身の正義で動いている。彼からしたら、悪人に助けられてしまったようなものだろう。
 それは傍から見れば、彼を助けることで、命乞いをしていると取られても不思議ではない。

「そんなんじゃないです。私はただ、誰かが傷ついたり、悲しい思いをするのが嫌だっただけです」

 だがまどかに、そんな意図はまったくなかった。
 自分勝手な正義を振りかざしているつもりも、ましてや命乞いをしたつもりもない。
 彼女はただ、自らの願いを叶えるために、自らの欲望に従っただけだ。
 みんなを守りたいという、自らに還える利などほとんど無いに等しい欲望に。

226迷いと決意と抱いた祈り(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:21:02 ID:q4Qn7kLU0

「確かにルナティックさんの言った事は、間違いじゃないと思います。
 世の中にはどうしようもなく悪い人がいて、そのせいで悲しむ誰かがいるのも知っています。
 けど、それでも私は、誰かが死ぬのは嫌なんです。だって死んじゃったら、もう笑うことも、泣くことも出来ないじゃないですか」

 キュゥべえに騙され、真実を知ることなく戦い続ける魔法少女たち。
 彼女たちは気づかぬままに死人とも同然となり、戦いの果てに絶望し、魔女となっていく。
 けどその悲しみや絶望も、それまでの日常が、願いが、希望があったからこその感情だ。
 本当に死んでしまえば、魔女になってしまえば、未来は閉ざされ、二度と笑い合えることはない。

 ――――本当の終わり。その先に残るものなど、戻らない過去の思い出だけだ。
 ましてや絶望の内に終わってしまえば、悲しみ以外に何もない。

 ………そんなのは嫌だった。

「私は、例えどんな人でも、どんな罪を犯したとしても、やり直すことが出来るって信じたい。
 人間とかグリードとか関係なしに、ちゃんと分かり合えば、みんなで手を取り合えるんだって信じたい」

 人は生きている限り、何度もつらい目にあうし、悲しい思いもする。そしていつかは、必ず死ぬ。
 その運命を変えることは、どんな奇跡にだって出来やしない。
 ならばせめて、笑顔で終わらせたい。
 楽しい思い出をたくさん作り、笑いあって生きていたい。

「綺麗事だな」
「そうですね。確かに私の言ってることは綺麗事で、ただの夢物語かもしれません。
 けど、だからこそ現実にしたいんじゃないですか。だって、ホントはそれが一番いいんですから」

 それが鹿目まどかの欲望。
 簡単に揺らぎ、見失いそうになりながらも、それでも懐いた願いだった。

「……それが、貴様の正義か」
「正義とか、そんなんじゃないです。
 ただこうなったらいいなって……こうなって欲しいなって思っているだけで………」

 そう徐々に口篭りながらも、その瞳には確かな意志がある。
 まどかはこれからも、その欲望を満たすために誰かを助けるのだろう。

「あの、私もう行きますね。
 早くオーズさんを止めないといけないから」

 そう言ってまどかは、ルナティックの返事を待たずして駆け出した。
 彼女の向かう先には、いまだに暴走を続けるオーズがいる。

「――――――」

 彼女はきっと、誰かに殺されそうになっても、その誰かを殺さずに助けようとするだろう。
 そうでなくては、ルナティックを助けたりなどしないはずだ。

「………確かガメルとやらは、罪を犯していないのだったか?」

 ルナティックが手を貸す形で、オーズに倒されたグリード。
 思い返してみれば、ヤツはオーズの強行した攻撃からまどかを庇うように前に出ていた。
 もしそれがまどかの願いの片鱗だというのなら――――

「いいだろう。貴様の正義、見届けさせてもらおう」

 ルナティックはそう言って、ダメージの残る体を押して歩き出す。
 ワイルドタイガーの語った正義とはまた違う正義。
 その結末が何なのかを確かめるために。

「だが、もし貴様が庇った存在が罪を犯したのならば、その時は必ず裁きを下そう」

 ルナティックの正義は変わらない。
 ただその力を以って、少しでも多くの罪を屠るだけだ。
 それが彼の、唯一の自己証明なのだから。

227迷いと決意と抱いた祈り(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:22:09 ID:q4Qn7kLU0


        ○ ○ ○


 アクセル達とオーズの戦いは、ほとんど前回の焼き直しだった。
 もとより攻撃が制限され、今のオーズに有効な攻撃を乱用できないのだから、それも当然だろう。
 彼らの戦いは、如何にして必殺の一撃を叩き込み、情勢を傾けるかにかかっていた。

「セアッ!」
「ハァッ!」

 アクセルとディケイドが入れ替わり立ち代りに、嵐のような攻撃をオーズへと繰り出す。
 オーズは飛行能力を有する。再び空へと飛ばれたら、それこそ前回の焼き直しだ。
 まともな対空攻撃手段がない今、それだけは避けなければならない。
 空を飛べるということは、それだけで圧倒的な有利なのだ。

 ……だが、例え怒涛の連携攻撃であっても、オーズの動きを止めるには至らない。

 全身を刻む攻撃にセルメダルを散らばらせながら、アクセル達へと反撃しそれ以上のセルメダルを奪い取る。
 そこに高熱の火球が放たれるが、テイルディバイダーを形成して火球を迎撃し、さらにファイヤーエンブレムへと叩き付ける。
 ファイヤーエンブレムはその一撃を受けて弾き飛ばされ、セルメダルをこぼし痛みに呻きながらも即座にオーズから距離をとる。

「クッ……、このままでは埒が開かん」
「ケホッ……。早く打開策を見つけないと、こっちが持たないわよ」
「……………………」

 戦いの間隙に乱れた息を整えながら、オーズを止める術を模索する。
 あれほどの力を持つ形態であれば、セルメダルの消費量は大きいだろう。
 それを削りきるのが最善手ではあるが、このままではこちらのセルメダルが先に尽きてしまう。

 戦いの天秤は、着実にオーズの側へと傾いていく。
 状況を覆すには、オーズに渾身の“必殺の一撃”を叩き込むしかない。
 それを可能とするだけの隙を、どうにか作り出さなければ――――

「オォォオオオォオ――――ッッ!!!」
 そう思案するアクセル達に、オーズは咆哮を上げて突撃する。
 その咆に陰りはなく、今なお暴虐の意思を示していた。

 三人の連携攻撃は小賢しいが、苦戦する程ではない。
 ダメージは蓄積されていくが、戦闘行動に支障はない。
 セルメダルの消費は激しいが、彼等を屠るには問題ない。

 それらの思考を暴走する力が飲み込み、猛り狂う闘争本能に任せて力を振るう。
 だがその行動は決して知性のない暴挙ではなく、洗礼された野性による狩りだ。
 空へ飛ばずわざわざ地上で戦っているのは、獲物を弱らせ確実に仕留めるため。
 空からの攻撃手段が急襲か必殺の砲撃しかない以上、今空に上がる意味はない。

 大地を踏み砕く勢いで駆け抜け、アクセル達へと接近する。
 今のオーズにとって、彼らの攻撃は脅威にすらなりえない。

 ファイヤーエンブレムの放つ炎は冷気を以って相殺した。
 アクセルのエンジンブレードの切っ先から放たれたエネルギー弾は打ち落とした。
 ディケイドのライドブッカーによる銃撃にいたっては防ぐ必要すらない。
 故に彼らにオーズの突撃を止めることは敵わず、その距離が半分まで達した時、

「降りそそげ、天上の矢!」

 その声とともに、雨のように降り注ぐ光の矢。
 完全な意識外からの攻撃に、オーズは思わず足を止めた。

「竜さん。私も手伝います!」
 アクセル達を庇う様に、まどかがオーズと相対する。
 それを見たオーズは、様子を伺うように動きを止める。

「何を馬鹿なことを……!」
「竜さん達だけじゃ、オーズさんを止められてないじゃないですか!」
「だが―――!」
「そうね。今は少しでも戦力が必要だわ。
 アナタみたいな女の子の力を借りなきゃいけないのは悔しいけど」
「クッ……、仕方ない。だが無茶だけはするな!」
「はい!」

 自身の情けなさに苛立ちながらも、アクセルは渋々了承する。
 助力が認められたことを喜びながら、まどかは大きな声で返事をした。
 そんな彼女達を現実に引き戻すように、ディケイドが冷めた声で戦いを促す。

「協力するのはいいが、無駄話をしている時間はないぞ。セルメダルがもったいない」

228迷いと決意と抱いた祈り(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:22:43 ID:q4Qn7kLU0

 戦いが始まってから、すでにそれなりの時間が経っている。
 NEXTであるファイヤーエンブレムはともかく、時間経過とともにシグマ算で増加するアクセル達のメダル消費量は、そろそろ無視出来ないものとなってくる。
 それはオーズとて同じ事だが、このままではオーズのメダルが尽きる前に、逆にこちらが削り切らされかねない。

「はい、わかってます。早くオーズさんを止めてあげましょう」

 ディケイドの言葉にまどかは頷き、改めてオーズを見据える。
 彼女の言葉は本当にわかっているのかと聞きたくなるものだったが、戦力になるのなら文句はないので押し黙る。

「……まあいい。さっさとあいつを倒すぞ」

 まどかが加わったことで戦力を推し量っているのか、オーズは動く気配を見せない。
 これを好機と、アクセルとディケイドは一気に接近する。

「ヴオオォオオ――――ッ!!」

 それに反応して、オーズは声を上げて突撃を再開する。
 たとえ戦力が測れなくとも、攻めてくるのなら迎え撃つ、ということだろう。
 即座に彼らは、僅かに停滞していた攻防を再開させた。


 接近戦での二対一の戦いは、それだけで見れば何度か繰り返された攻防だ。
 ここにファイヤーエンブレムが加わったところで、オーズの攻め手を一手削るだけにすぎない。
 だがここに鹿目まどかが加わることで、状勢は拮抗を見せ始めた。

「ハアッ!」
「セアッ!」
「オアアッ……!」

 アクセルとディケイドが、オーズとお互いの武器をぶつけ合う。
 たがオーズの一撃に圧され、堪え切れずに体制を崩してしまう。
 そこに力任せの一撃を叩き込もうと、オーズはメダガブリューを振り上げる。

「させない!!」
 その瞬間、まどかが数条の光の矢を放ち、オーズの体を射抜く。
 だが放たれた矢はその堅牢な外骨格に弾かれ、オーズの攻撃を一瞬阻害することしか出来ない。
 それで止まるオーズではないが、その僅かな隙に二人はオーズの間合いから離れ、再度オーズへと挑んでいった。


 まどかの放つ光の矢は、ディケイドの銃撃と同じく碌なダメージはない。
 しかし魔力をしっかりと篭めることで、衝撃を通すことは可能だった。
 つまりオーズの攻撃を、一瞬ながら阻害することが可能となったのだ。

「――――、――――ッ!」
 オーズはその本能で、情勢が変わり始めたことを感じ取った。
 アクセルとディケイドはまどかの援護によりオーズの一撃を逃れ、少しずつ攻撃を叩き込んでいく。
 徐々に当たらなくなる自らの攻撃。入れ替わりに当たり始めた敵の攻撃。
 それを前に、オーズは早急に敵を一人減らすことを決意した。

「オアァアアア――――ッ!!」

 狙うはファイヤーエンブレム。
 彼の炎に相殺されている冷気のブレスを、支障なく使えるようにするためだ。
 同じ中距離攻撃のワインドスティンガーは、体の正面にしか攻撃できない性質上、旋回力がない。
 撃ち出すときの瞬発力には優れるが、初動作から攻撃が読まれ、回避されやすいのだ。

 比べて冷気のブレスは、首を動かすだけで相手を狙える。
 瞬間的な威力では劣るが、一対多という状況で、どちらが有用かは言うまでもない。
 加えて凍結効果により拘束できれば、強烈な一撃を叩き込むことも難しくはない。

「アアアァァア――――ッ!」
「え、ちょ、ちょっといきなり………!?」

 唐突にアクセル達を無視して突進してきたオーズに、ファイヤーエンブレムは驚き戸惑う。
 アクセル達の攻撃は容赦なくオーズの体を打ち据えるが、止まる気配はまったくない。

「それなら強烈なのをくれてやる……!」
《――ENGINE・MAXIMUM DRIVE――》
 それを好機と、アクセルはエンジンブレードからA字型のエネルギー刃を射出する。
 放たれたエーススラッシャーは、ファイヤーエンブレムへと迫るオーズの背中に直撃した。

「ッ、――――――………ッッ!!!」
 さすがのオーズもこれには堪らず声を上げ、弾き飛ばされ、セルメダルを撒き散らして倒れ伏す。

229迷いと決意と抱いた祈り(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:23:20 ID:q4Qn7kLU0

「……やったか」
 確認の意味を籠めてそう呟く。
 完全に無防備な背後からのマキシマムドライブ。普通であれば、この直撃を受けて平気なヤツはいない。
 だが―――オーズはゆっくりと、だがふらつく事なく体を起こす。

 だがしかし、アクセルに諦めの色はなかった。
 マキシマムを受けてまだ立ち上がれることは驚きだが、それはウェザーとて同じ事。
 いや、やつはツインマキシマムを受けてなお平然としていたのだ。この程度で諦めるようでは、復讐など敵わない。

「丈夫なヤツだ。あれを受けてまだ立ち上がれるとは」
「ならば、倒れるまで叩き込むだけだ……!」
 ディケイドの呆れ声にそう返し、バイクフォームに変形してオーズへと加速する。
 オーズが完全に立ち上がる前に、もう一度マキシマムを叩き込むのだ。

「これで、どうだ……!」
《――ACCEL・MAXIMUM DRIVE――》
 オーズに接近すると同時に変形を解除し、高熱を纏って後ろ跳び回し蹴りを叩き込む。
 これで終わらせる。そんな意思を籠めた渾身のアクセルグランツァーは―――しかし。

「ヴオォォオオァア――――ッッ!!!」

 咆哮と共に振り抜かれたメダガブリューによって、その力が乗り切る前に迎撃された。
 振り上げられたメダガブリューは、アクセルの高熱を纏う右脚と激突し、より高く跳ね上げる。
 それにより渾身のアクセルグランツァーは、オーズの頭上を掠め通り過ぎていった。

「なっ――――――!」
「オァア―――ッ!!」
 翻り、振り下ろされるメダガブリュー。
 アクセルはとっさにエンジンブレードで防御をするが、必殺技に失敗し、崩れた体制では受けきれない。
 ガイン、という激しい音共に、エンジンブレードが弾き飛ばされ、宙を飛ぶ。
 これでアクセルは無手。続く一撃を防御する術はない。

「クッ……!」
 せめて少しでもダメージを減らそうと、アクセルは完全に崩れた体制のまま後方に飛び退く。
 だがオーズにアクセルを逃す気はなく、メダガブリューを振り下ろした結果の体の捻れさえも利用し、テイルディバイダーをアクセルへと叩き込んだ。

「ガッ………!」
 オーズの一撃をまともに受けたアクセルは宙を飛ぶ。
 彼の弾き飛ばされた先にはビルの壁面があり、激突すれば追加ダメージは免れない。

「竜さん!」
 咄嗟にそれを防ごうと、まどかがアクセルの体を受け止める。
 それによりまどかとアクセルは、どうにか壁に激突する前に止まる事ができた。
 だがそのことに、誰よりもまどか自信が驚いていた。

 アクセルの総重量は九十キロを超える。
 普通であれば、十四歳の少女に支えられるような重さではない。
 ましてや加速がついたアクセルの重さは、いかに魔法少女と言えど受け止めるのは困難だ。
 やはり何かが原因で、まどかが直接関わった重力(おもさ)が軽くなっているらしい。
 だがその原因を確かめている余裕はない。今はオーズを止めるほうが先決だと思い直す。

「大丈夫ですか? 竜さん」
「……すまない、鹿目。俺は大丈夫だ。それより早くヤツを―――グ!?」
 まどかに支えられながらも、再びオーズへと向かって足を踏み出した瞬間、アクセルは足首に奔った痛みに蹲る。
 アクセルグランツァーをオーズに迎撃された時、同時に足首にもダメージを受けていたのだ。

「クソッ、これでは……!」
 痛みは耐えられない程ではない。無理をすれば、まだ戦うことは可能だろう。
 だがあのオーズを相手に、立ち回りの要である足首を痛めた状態で戦うのは、無茶を通り越して無謀だ。
 たとえ戦いに向かったところで無様に倒され、セルを奪われるだけ。最悪、足手まといにしかならない。

「一体、どうすればっ………」
 眼前では、まだディケイドとファイヤーエンブレムがオーズと戦っている。
 だが今のアクセルには、それを傍観することしか出来ない。
 その事実に、アクセルは悔しげな声を漏らす。

「竜さん………」
 そんなアクセルを見て、まどかはどうにかできないかと思った。
 何も出来ない悔しさは、彼女にも覚えがあるものだ。
 そこでふと、ある物を思い出した。

230迷いと決意と抱いた祈り(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:23:59 ID:q4Qn7kLU0

「そうだ! 竜さん。これ、使えますか?」
 まどかはデイバックからその“ある物”を取り出し、アクセルに手渡す。
 それはまどかに支給された用途不明の支給品の内の一つだ。
 だがアクセルなら使い方を知っているかもしれないと思ったのだ。

「これは―――!」
 アクセルは受け取った支給品とそのメモを見て、これなら何とかなるかもしれないと確信した。
 即座に立ち上がり、ドライバーからアクセルメモリを抜き取る。
 その支給品を使用することでどうなるかは、彼には判断が付かない。
 だが、それにより現状を打開できるのなら、どうなろうと構わないと。
 そう覚悟し、アクセルはその支給品にアクセルメモリを差し込んだ。

《――ACCEL・UPGRADE――》
 直後。アクセルメモリのイニシャルとDOWNLOAD COMPLETEの文字が浮かび上がり、ガイアウィスパーが響く。
 ――ガイアメモリ強化アダプター。
 それが、G4チップと呼ばれる物と共に、まどかに支給された道具だった。

 当初、まどかはガイアメモリを知らず、メモがあってもそれの用途を把握できなかった。
 ガイアメモリと聞いてイメージしたのはパソコンなどに使われるメモリばかりで、何をどう強化するのか思い当たらなかったのだ。
 だがアクセルがガイアメモリを使用したことにより、そのUSBメモリと似た形状からようやくイメージが繋がったのだ。

 アクセルはドライバーに再度アクセルメモリを装填してスロットルを一気に回し、
《――BOOSTER――》
 直後、アクセルは赤い装甲を弾け飛ばし、新たな装甲と共に強化変身を果たす。
 黄色く輝くその装甲にはバイクフォームになるための車輪がなく、代わりに幾つものブースターが設置されている。

 それがアクセルブースターと呼ばれる、“空中戦を可能とする”アクセルの強化形態だった。

「さぁ……振り切るぜ!」

 その言葉と共に背面のブースターを起動させ、アクセルは一気に加速する。
 向かう先は戦場。オーズ達の向こう側に突き立つエンジンブレードだ。

「どけぇええ―――ッ!!」
「なッ………!?」
「――――――!」
 ディケイドとオーズはアクセルの声に振り返るが、高速で突撃してくるアクセルに反応しきれない。
 結果としてアクセルは、どうにか軌道を修正してオーズだけを弾き飛ばし、難なくエンジンブレードを回収した。

「お前、その姿は……」
「やるじゃないアンタ」
 ディケイドが驚きの、ファイヤーエンブレムが賞賛の声をかけるが、アクセルは黙ったまま、真っ直ぐにオーズを睨んでいる。
 対するオーズも、姿の変わったアクセルを唸り声と共に睨みつけている。

 これで条件は五分。
 戦いの天秤は、ついにアクセル達の方へと傾いた。

「、――――」
「させるか!」
 それを覆すためだろう。オーズがついに空へと飛翔する。
 アクセルも対抗して全身のブースターを起動し、空へと飛び上がった。

 そうして戦場は空中へと移り、戦いはついに佳境へと突入したのだった――――


        ○ ○ ○


 ――――その戦いを、物陰から眺める人影が一つあった。
 その人物の名はメズール。
 まどかを戦場へと誘った彼女は、まどかから少し送れてこの戦場へとやってきていたのだ。

 だが今の彼女に、戦場に出るという選択肢はない。
 照井竜と鹿目まどかの二人にそれぞれ別の名前を名乗っている以上、人間態で合流することは愚策だ。
 かといって怪人態で出て行くことは、あの場の人間を全て敵に回すことと同意だ。人間態で合流する以上にありえない。
 だというのにメズールがこの場を離れないのは、漁夫の利を狙っているわけではない。
 そうしようという考えもない訳ではないが、今のメズールにはそれ以上の目的があった。

「仮面ライダー……ディケイド」
 確かめるように、小さくその名を口にする。
 メズールは微かに、だが確かに感じ取っていたのだ。
 ディケイドの持つ、水棲系コアメダルの存在を。

 それがある以上、メズールの狙いはディケイドただ一人に絞られる。
 問題は、あのディケイドからどうやってコアメダルを奪い返すか、だ。

231迷いと決意と抱いた祈り(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:24:40 ID:q4Qn7kLU0

 これは遠くから見ていて気づいた事だが、共に戦うアクセルと比べ、ディケイドは明らかに攻撃を受ける頻度が少ないのだ。
 加えて攻撃を受けても、可能な限りダメージが少なくなるように立ち回っている。
 これはつまり、ディケイドはオーズを倒した後のことを考え、余力を残しているという証明だ。

 これでは漁夫の利を狙おうにも、ディケイドとの戦いが確実に待っている。
 セルメダルにしても、まだ連戦をこなせる程度には残っているだろう。
 なぜならもしセルが残らないような戦いをしたのであれば、アクセルかオーズ、そのどちらかはすでに倒れているはずだからだ。
 彼を前にして仮面ライダーが生きているということは、彼がまだ本気を出していない、ということに他ならない。
 事前情報で知り得たディケイドの戦闘能力は、それほどまでに仮借ない。
 たとえ今のオーズであっても、勝つことは難しいだろう。

“ならやっぱり、動くのは戦いが終わった時。彼が油断した瞬間ね”
 ディケイドが本気を出した時、戦いは終わる。
 そうして彼が油断した瞬間に、コアメダルを奪い取るのだ。

 問題は、そう都合よくコアメダルを落としてくれるかどうかだ。
 強烈なダメージを与えれば確率が上がるとはいえ、コアメダルを落とすかは結局の所運だ。
 セルメダルばかりを落として、コアメダルを落とさない可能性もある。
 そうなってしまえば、最悪自分の方が倒されかねない。

「だから――期待してるわよ、オーズ」
 可能な限り、ディケイドのセルメダルを減らしてちょいうだい、と。
 メズールはそう呟きながら、オーズが色の変わったアクセルと共に、空へと飛び上がる光景を眺めていた。


        ○ ○ ○


 ブースターによる強引な飛行の難しさに手間取りながら、アクセルはオーズを追跡する。
 だがエクスターナルフィンで飛行するオーズと違い、アクセルの飛行はどうにもぎこちなかった。
 全身に設けられたブースターの制御は、全てアクセルの意思によって行われている。
 しかし空中戦闘の経験がないアクセルは、なかなか自身が飛行するイメージを掴み取れなかったのだ。

 だが、そんなことは関係なしに戦いは進行する。
 オーズは充分な高度を得ると同時に、アクセルへと取って返し、メダガブリューを振りぬく。
 その一撃に、まだ飛行に慣れないアクセルは反応しきれず、エンジンブレードで受け止め、あっけなく弾き飛ばされた。

「く、お……!」
 同時にブースターも停止し、アクセルの体は落下を始める。
 ブースターの制御がアクセルの意思で行われる以上、意識が向かなくなれば停止するのは当然だ。
 アクセルは慌ててブースターに意識を向け、姿勢制御に集中する。

「オォオオ―――ッ!」

 そんな隙をオーズが見逃すはずもなく、当然のようにアクセルへと襲い掛かる。
 内心で舌打ちをしながらエンジンブレードを構え、ジェットによるエネルギー弾を乱射する。
 だがオーズはあっさりと旋回して回避し、アクセルへと急接近する。

「ク……、ッ―――!」
 即座にエンジンブレードでの防御を試みるも、間に合わない。
 オーズは一瞬でアクセルの背後へと回りこみ、メダガブリューを振り上げる。

「ッ……………!!」
 直後、オーズの背中が爆発し、その動きを一瞬止める。
 その隙に背中のブースターを全開にし、オーズを吹き飛ばすと同時に距離を取る。
 そしてオーズへと向き直ると同時に、爆発の原因を確かめる。

「どうした? アクセルよ。貴様の正義はその程度か?」
「ルナティック!?」
 ルナティックはオーズの向こう側で、両の手から蒼い炎を噴射して滞空している。
 その飛行は噴射口が両の手の平二箇所のみにも拘らず、今のアクセルとは段違いの安定を見せている。

「俺に質問を、するな!」
 アクセルはブースターを全開にし、一気にオーズへと加速する。
 それを見咎めたオーズも対抗するようにアクセルへと迫る。
 お互いに相手へと飛翔する二人は、当然の如く一瞬で接近し、

232迷いと決意と抱いた祈り(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:26:02 ID:q4Qn7kLU0

「――――――!?」
 オーズから驚愕の声が零れる。
 自身と同様急接近していたはずのアクセルを、一瞬で見失ってしまったのだ。
《――JET――》
 直後。側面からエネルギー弾に撃ち抜かれた。
 見れば、いつの間にか距離をとっていたアクセルが、エンジンブレードの切っ先をオーズへと向けている。

「よし……!」
 その確かな手応えに、アクセルは感得の声を上げる。
 お互いに接近したあの瞬間、アクセルは側面のブースターを全開にし、急激な軌道変更を為したのだ。

「ほう。やるじゃないか」
 それを見たルナティックが、感心したように呟く。
 アクセルの行なった軌道変更は、ルナティックのそれに類似していた。
 つまりアクセルは、ルナティックの飛行技術を参考にすることで、ブースター制御のきっかけを掴んだのだ。

“だが、この調子ではセルメダルが持たないな”

 アクセルのセルメダルの残量はすでに半分を切っていた。
 強化変身を果たした時点で、支給されていたコアメダルを使用しる。
 だがジェットによる攻撃を繰り返せば、強化変身による消費量増加も相まってすぐに使い切ってしまうだろう。

“となれば、やはり接近戦しかないか”

 前方のオーズを見据える。
 あのオーズを相手に接近戦を挑む。それも、慣れない空中戦で。
 その意味を、理解できないはずがない。

「………行くぞ」
 その上で迷いを振り切り、ブースターを全開にして加速する。
 それが勝利への道筋だというのなら、是非もなし。
 アクセルはエンジンブレードを構え、オーズへと突撃した。

「終結の時だ」
 同時にルナティックも加速して攻撃を開始する。
 アクセルの軌道に合わせて大きく旋回し、オーズへと炎の矢を放つ。
 当然放たれた矢は迎撃され、オーズに届くことはない。だが。

233迷いと決意と抱いた祈り(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:26:44 ID:q4Qn7kLU0

「ハア―――ッ!」
 その迎撃の隙を突いて、アクセルが加速の付いた一撃を叩き込む。
「――――――ッ!」
 オーズはダメージに仰け反り、地上へとセルメダルを零す。
 それをルナティックが回り込んで回収しながら、再び炎の矢を放つ。
 アクセルの一撃に若干ふらついていたオーズは、対処できずに蒼い爆炎に包まれた。

「ヴオォオオオ――――ッッ!!!」

 だが、次の瞬間には咆哮と共に蒼い炎は吹き飛ばされ、いまだ健在なオーズの姿が現れる。
 そしてルナティックへと向け、長大になったテイルディバイターを振り回した。
 当然まともに食らうルナティックではなく、瞬間的に加速して回避する。
 オーズはその間にアクセルへと急接近し、メダガブリューを叩きつける。

「オオォオ―――ッ!」
「グ、ゥウ………ッ!」

 オーズの一撃をアクセルはどうにかエンジンブレードで防御するも、その威力に大きく弾き飛ばされる。
 そこに止めを刺さんと、オーズはアクセルへと追撃をかける。
 だがその瞬間、天へと奔る光の矢が、オーズの行動を妨害する。
 見れば、地上にいるまどかが桃色に輝く弓矢を構え、オーズへと狙いを付けていた。

“すまない。感謝する”

 内心で礼を告げ、改めてオーズへと視線を向ける。
 オーズは今、まどかとルナティックの二人に放たれる矢に翻弄され、動きを止めている。
 チャンスは今しかない。オーズが再び動き出す前に、今度こそ必殺の一撃を叩き込む――!

 全身のブースターを全開にし、最大加速でオーズへと接近する。
 同時にまどかとルナティックの攻撃も止まる。
 それにより、アクセルの行動に気が付いたオーズも、今度こそアクセルを叩き潰さんと咆哮を上げる。

「オオオオオオ――――ッッ!!!」
「これで……終わりだァッ!」
《――ENGINE・MAXIMUM DRIVE――》

 一瞬でゼロになる距離。
 アクセルはオーズへエンジンブレードを、
 対するオーズはメダガブリューを、
 お互いが渾身の力と必殺の意志を籠めて、己が武器を振りぬき、

《――FINAL ATTACK RIDE・De De De DECADE――》

 ――――直前。
 マゼンタカラーの極光に、諸共に飲み込まれた。

234想いと絆と破壊の力(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:30:13 ID:q4Qn7kLU0


        ○ ○ ○


 ――――その決着に、誰もが言葉を失った。
 ただ一人。アクセルとオーズの二人を撃墜した、張本人を除いて。

 アクセルがオーズへと、オーズがアクセルへと、己が武器を振りぬいた瞬間、
 その戦いに参加した誰もが、アクセルとオーズしか見ていなかった。
 故に彼らは、その男の行動に気づくことが出来なかったのだ。


 空では大きな爆炎が上がり、その中から人影が二つ地面に墜落する。
 それがアクセルとオーズの二人であることは、考えるまでもなかった。

「………ッ! 竜さん! オーズさん!」

 一番先に状況を理解したまどかが、声を荒げて墜落した二人へと駆け寄る。
 その行動にファイヤーエンブレムも我に返り、このような決着を齎した人物を糾弾する。

「ちょっとアンタ。一体どういうつもり?」
「……どうも何も、俺はすべてのライダーを破壊する。その使命に従ったまでだ」
「な………!」
「そもそも、オーズを止めるために協力することには同意したが、お前らの仲間になった覚えはない。
 加えてオーズを止めた後、今度は俺とお前たちとの戦いになるだろう。なら、敵の戦力は少ないに越したことはない。違うか?」

 何も違ってなどいない。
 ディケイドは全てのライダーを破壊すると宣言しており、ルナティックはそんなディケイドを生かすつもりはない。
 そしてファイヤーエンブレム達がその殺し合いを止めようとして、更なる戦いが始まることは確実だ。
 であれば、自分に有利になるように状況を勧めるのは、当然の行動だと言えた。

 だが、それを認められるかどうかは、まったく別の問題だ。

「テメェ、ふざけてんじゃねぇぞ!」

 ファイヤーエンブレムはドスの聞いた声で、ディケイドの冷淡な言葉を切り捨てる。
 ヒーローとして戦ってきた彼にとって、ディケイドの行動は認められるものではなかった。
 シュテルンヒルドで活躍するヒーロー達は皆、仲間であると同時に好敵手(ライバル)だ。
 日夜市民を助け、犯罪者を捕まえ、それによって得られるポイントを競い合っている。
 だが、決して他のヒーローを貶めてまでポイントを得ようとするヒーローはいない。否、そんなものはヒーローではない。

 それとディケイドの話はまた違うが、感情的な面でいえば同じことだ。
 ディケイドは、協力関係にあったアクセルを、最後の最後で裏切ったのだ。

「その腐った根性、叩き直してやる!」
「罪深きものに正義の捌きを」

 両手に高火力の炎弾を生み出し、ファイヤーエンブレムはディケイドを睨み付ける。
 同時にディケイドを挟み込むように、ルナティックが地面に降り立つ。
 生死の扱いはともかく、ディケイドを倒すことに異論はないらしい。

「……めんどくさいヤツ等だ」

 そんな二人に、ディケイドは溜め息で答えた。
 ファイヤーエンブレムは炎にさえ気をつければ強敵ではないし、厄介なルナティックもダメージの受け過ぎで対して問題ではない。
 セルメダルを無駄に消費してしまうのが、ただ煩わしかった。

「ヴオォォオオオ――――ッ!!」

 直後、残った力を振り絞るような咆哮に、三人は思わず振り返った。
 そこではディケイドの必殺技を受けてなおオーズが立ち上がり、まどか達へと襲い掛かっていた。

「一石二鳥、とはいかなかったか。丈夫なヤツだ」

 アクセルと纏めて倒そうとしたからか。見ればアクセルの方も、ダメージは大きいようだが無事だ。
 様々な力が制限された今の状況では、カブトとスーパー1をまとめて倒した時の様にはいかないらしい。

《――ATTACK RIDE・MACH――》
 なら、今度こそ止めを刺すだけだ、と。ディケイドはマッハのライダーカードを発動させる。
「って、待てやゴルァアッ!!」
 マッハの効果による高速移動に、オーズに気を取られていたファイヤーエンブレム達は反応できず、ただ怒声を上げる事しか出来なかった。

235想いと絆と破壊の力(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:31:02 ID:q4Qn7kLU0




「竜さん、大丈夫ですか!?」
「グッ……どうにか、な……」
 まどかの心配する声に、アクセルはどうにか体を起こしながら答える。
 命に別状はないが、ダメージが大きい。これ以上の戦闘は不可能だろう。

 あの瞬間、本当にギリギリのところでディケイドの攻撃に気づいたアクセルは、咄嗟に極光をマキシマムで迎撃することに成功したのだ。
 オーズも本能でその危険性を感じ取ったのか、申し合わせたように同じ行動をとっていたのも功を奏した。
 その上で大ダメージを受けたのは、エネルギー弾による攻撃だったからか、あるいはそれ程の威力を持っていたからか。
 いずれにせよ、迎撃が成功しなければ間違いなく死んでいた。

「それより、オーズはどうなった」
「オーズさんは―――」
 ディケイドに言いたい事は、それこそ山の様にあるが、今はオーズのことが先だ。
 もとよりこの共闘は、オーズを止めるために結ばれたものだ。
 これで止まらないようであれば、アクセルには止める手段がもうない。
 だというのに。

「そ、そんな……」
 まどかが怯えるような声を出す。
 どうにか膝立ちで体を支え、オーズがいる筈の方向を向けば、

「グ……ヴ、ゥオ………」
 よろめきながら、それでもしっかりと立ち上がり、
 まっすぐにこちらへと狙いを定め、

「ヴオォォオオオ――――ッッ!!!」
 振り絞るような咆哮を上げて走り出した。

「くっ……そぉッ!」
 両足に渾身の力を籠めるが、立ち上がるほどの力も残っていない。
 こうしている間にもオーズが迫り来るというのに、どうすることも出来ない。

「逃げろ、鹿目!」
「逃げません!」
 せめて彼女だけでも、と叫ぶ竜の声を、まどかは声を上げて拒絶する。
 それどころか竜を前に立ち、庇うように両手を広げて立ちはだかった。

「よせ、鹿目ッ!」
「――――――」
 再度竜が叫ぶが、まどかは逃げる様子を見せない。
 それどころか、オーズへと攻撃する意思も見せない。
 確かにまどかの攻撃ではオーズは止められないだろう。だが、僅かな時間稼ぎにはなるはずだ。
 そうすればファイヤーエンブレム達が駆けつけられるはずだというのに、なぜ。

「オォオオォォオオオ――――ッ!!」
 そうして止める者もなく、オーズはまどかへと迫る。
 まどかに動く気がない以上、最早まどかが助かる術はない。オーズ自身が止まらぬ限り。
 だが力に飲まれた今の彼に止まることなど出来るはずもなく、故にまどかが助かることもない。

「鹿目ェッ!」
 目の前の現実に、竜の叫びが空しく響く。
 そうしてオーズは咆哮を上げ、立ちはだかる少女へとへとメダガブリューを振り下ろし――――


「………………オーズさん」

 まどかの声が、悲しげに響く。
 少女に死を齎すはずの刃は、その体の、僅か数センチ手前で止まっていた。

「ヴ……グ、ッ……ア………」

 何かを堪えるような苦しげな呻きが、オーズから聞こえた。
 オーズはメダガブリューを取り落とし、一歩、二歩と後退さる。
 それは先ほどまでの荒々しさとは、打って変わったような弱々しさだった。

「オーズさん……もう―――」
 終わりにしましょう。そう、続いたはずの言葉。
 それは、オーズへと唐突に放たれた攻撃によって遮られた。

236想いと絆と破壊の力(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:31:28 ID:q4Qn7kLU0

「オーズさんッ!?」
「ガッ、グッ……!」
 攻撃をまともに受け、オーズはさらに数歩後退さる。
 そこに入れ替わるように、ディケイドが姿を現した。
「――――――」
 ディケイドは僅かにまどかを見た後、止める間もなくオーズへと攻撃を再開する。

 オーズとディケイドの戦いは、これまでとはまったく違っていた。
 今までのダメージもあるのだろう、だがそれとは違う理由で、オーズは精彩を欠いていた。
 まるで纏わりつく何かを払うような、攻撃にもなっていない攻撃。そこをディケイドが切り付けるだけの一方的な戦い。
 それは一分と経たず、オーズが倒れ、ディケイドがその体を踏み躙る形で決着した。

「オーズさん!」
「ディケイド、貴様ッ」

 アクセルが力を振り絞って、ブースターで加速してディケイドへと体当たりする。
 それによりディケイドはオーズの上から退かされる。
 それを見たまどかは、オーズの下へと駆け寄った。

「ヴ……ア……ッ」
 オーズは何かに苦しむように呻きながら、助けを求めるように手を伸ばしている。
 その手をまどかは、彼に対する感情を振り切って握った。

 彼がガメルを倒したことに対する感情は、今も変わらず渦巻いている。
 それでも、誰かが苦しんでいるのを、放っておきたくはなかったのだ。

「ア………ぁ―――」
 オーズは握られた手を確かめるように顔を上げ、まどかの姿を見ると同時に、力なく倒れ付した。
 同時に変身も解け、最初に会った時の、優そうな、けどどこか悲しげな顔が見えた。
 彼と繋いだ手は、それに縋るように強く握られていた。

「そいつを渡してもらおうか」

 その声に、咄嗟にオーズを守るように抱きしめる。
 視線を上げれば、ディケイドがライドブッカーの切っ先を突きつけている。
 アクセルはその向こうで倒れ付し、変身も解除されている。
 命に別状はないようだが、すぐには立ち上がれないだろう。

「どうして? オーズさんはもう……」
「何度も言わせるな。俺は全てのライダーを破壊するだけだ」
 まどかの問いかけを、ディケイドは冷たくきって捨てる。
 突きつけられた剣の脅威より、その声の冷たさに、まどかは思わず息を呑んだ。

 “―――全ての仮面ライダーを破壊する。それが俺の使命だ”

 繰り返し告げられたその言葉。
 それがどうしてか、自分に言い聞かせているように、まどかには聞こえた。
 先ほどの不意打ちといい、今の攻撃といい。ディケイドの行動は、本来忌避すべきもののはずだ。
 そこまでして使命を成し遂げようとする理由は何なのか。ディケイドにとってその使命は、それほどまでに大切なものなのか。
 今のまどかに、それを知る術はない。分かるのはただ、彼は自分の言葉では止められない、ということだけだ。

「鹿目……逃げろ……ッ」
「まだ意識があるのか。しぶといヤツだ。
 そのままじっとしていろ。そうすれば今は破壊しないでいてやる。
 それと、このコアメダルはありがたく頂くぞ」

 ディケイドが呆れた声と共に取り出したのは、黒と無色の二枚のコアメダルだ。
 そのうち無色透明のコアメダルは、アクセルを変身解除に追い込んだ際に奪ったものだ。
 黒色の方はマッハを使用した際に見つけ、ついでに回収したものだ。おそらくは撃墜した際に、オーズかアクセルが落としたのだろう。

「これで三枚目か」
 ディケイドはさらにもう一枚、青色のコアを取り出して確認する。
 保有するコアメダルの色は青黒無色の三色。うち青色はそのまま青陣営の色だと判るが、残り二色がわからない。
 だがそれはどうでもいい事だと思考から弾き、コアメダルを改めて首輪に収めようとする。
 その瞬間、パン、と乾いた音が、コアメダルを持つ手を撃ち抜いた。

「ッ――――!」

 拳銃程度で怪我をするような軟な装甲ではないが、代わりにコアメダルが弾き飛ばされる。
 直後、どこからともなく現れた大量の水が、弾かれたコアメダルへと殺到した。
 咄嗟に手を伸ばすが、ディケイドが手にしたのは黒色と無色の二枚だけ。
 青色のコアメダルは、女性的な体をした怪人が手にしていた。

237想いと絆と破壊の力(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:32:03 ID:q4Qn7kLU0

「お前は……」
 その怪人は、間木清人と共にいた二体のグリードの内の一体だ。
 おそらく、いや、間違いなく先程の大量の水はあのグリードの仕業だろう。

「返してもらったわよ。私のコアメダル」
「ハッ、すぐに奪い返すさ」
「出来るかしら? 今のこの状況で」
 ディケイドの余裕を、グリードは嘲笑う。
 見ればいつの間にか、ファイヤーエンブレムとルナティックが追いついていた。
 彼らはグリードの登場に戸惑っているようだが、優先順位はディケイドへの対処の方が上だろう。
 垣間見たグリードの能力からして、今の状況では逃げに徹すれば容易に逃げ出せるだろう。
 だが。

「簡単だな。一人で難しいなら、大勢になればいいだけだ」
《――ATTACK RIDE・ILLUSION――》

 ディケイドがカードを使用すると同時に、新たに六人ものディケイドが出現する。
 これでディケイドの方が多数となり、メズールの口にした数の優位はなくなった。

「アンタ、まだこんな能力を……!」
 ディケイドの能力の多彩さに、ファイヤーエンブレムが戦く。
 彼がオーズとの戦いでどれだけ手を抜いていたかを実感したのだ。
 この分では、後どれだけの手札を隠しているかわかったものではない。

「これで終わりだな」
「っ………………!」
 そういってライドブッカーを突きつけるディケイドを、まどかは悔しげに睨む。
 竜はもう戦えず、ファイヤーエンブレムとルナティックも一人二人相手にするのがやっとだろう。
 となれば、残った三人はグリードが。本体はまどかが相手をしなければならない。
 グリードの方はわからないが、オーズを庇いながら戦える力は、まどかにはない。
 もうどうすることも出来ないのか、と諦めかけた――その時だった。

「それはどうかしら? 穿て、無限の魔弾よ!」

 その懐かしい声と共に、数え切れないほどの弾丸がディケイド達に降り注いだ。
 突如として弾丸の雨に晒されたディケイドは、とっさに自分を庇うことしか出ない。
「ちょっと離れてもらえる?」
 そこにまどかとディケイドの間に降り立った人影が、ディケイドを勢いよく蹴り飛ばした。

「マミさん!」
「ギリギリ間に合ったみたいね」
 両手にマスケット銃を構えた少女――巴マミは、そう安堵しながらも、まっすぐにディケイドを睨んでいる。
 とりあえずの窮地は脱したとはいえ、いまだ緊迫した状況であることには変わりないのだ。
 ディケイド以外を怪我させぬよう弾幕を薄くしたために、ディケイドの分身はまだ全て残っているのだから。

「鹿目さん。話したいことはいろいろあるけど、それはまた今度にしましょう」
「は、はい!」
「桜井君も、まずはこの人達をどうにかするわよ」
「りょーかいッ!」
 そう言って返事をしたのは、いつの間にか現れた赤い色の仮面ライダーだ。
 桜井というらしい彼は、竜を守るようにディケイドの分身と相対している。
 それを見たディケイドが、新たな獲物を見つけたと鼻を鳴らす。

「仮面ライダー龍騎か。丁度良い、お前もまとめて破壊する」
「させると思ってるの?」
 ディケイドの言葉に、マミはマスケット銃の銃口を突きつける。
 彼女は状況を理解しているわけではないが、この場で誰が一番危険かはわかっていた。
 グリードのことも気になるが、今はまどかを助けることを優先させる。

「ここは私に任せて、今はその人を連れて早く逃げなさい。私たちもすぐに追いかけるから」
「マミさん、みんなをお願いします!」

 マミは自信を籠めた言葉に、まどかは信頼を以って応える。
 出来ればここに残って戦いたかったが、オーズを守りながらでは足手纏いになりかねないからだ。

 そうしてオーズを背負い、まどかは戦いの場から走り去った。
 それを分身のうち二人がまどかを追おうとするが、その瞬間、体を黄色いリボンに拘束される。
 即座に別の分身がライドブッカーで銃撃するが、今度はマミのデイバックから飛び出した物体がその弾丸を弾き飛ばす。

「チッ」
「させないって言ったでしょう?」
 ディケイドは舌打ちをしてマミを睨みつけ、睨まれたマミは不敵に笑って返した。
 マミはついでに、ディケイドの弾丸を弾いた小さな恐竜にまどかの後を追うように指示を出す。
 これで完全にディケイドはまどかを追えなくなった。後は可能な限り時間を稼げば大丈夫だろう。

238想いと絆と破壊の力(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:32:46 ID:q4Qn7kLU0

「仕方ない、龍騎だけでも破壊するか」
 そう物騒なことを呟いたディケイドは、ライドブッカーの銃口をマミへと突きつけ、迷うことなく引き金を引く。
 マミは咄嗟に上へと跳躍して回避し、龍騎へと変身した智樹のそばに着地する。

「桜井君。無茶だけはしないでね」
「わかってるって。俺だって死にたくねぇし」
「まあ、普通そうよね」

 智樹の言葉に苦笑し、強張っていた肩の力が抜ける。
 どうやら自分はまどかに会う事に、心のどこかで怯えていたらしい。
 それを自覚して、格好を付けて登場したくせに情けないと、さらに加えて苦笑する。

「さぁ、後輩の信頼に応えるわよ!」
 そんな自身を鼓舞するように宣言し、ディケイドへとマスケット銃の引き金を引く。
 それがマミと智樹にとって最初の戦いの合図となった。


        ○ ○ ○


 背中にずっしりと圧し掛かる青年を支え、人のいない街角を走る。
 変身は既に解いているが、青年の体重は苦となっていない。
 ただ、胸の中から微かに力が湧いてくる。

 振り向いても追っ手はいない。どうやらマミが上手くやってくれたらしい。
 彼女には言いたいことが沢山あった。いや、彼女だけじゃなく、この会場に呼ばれた魔法少女みんなに。
 けれどそれは後回しだ。今は少しでも遠くへと逃げることを優先する。

「――――――」
 背負った青年から感じる重みは、体重の重みではない。
 それは今のまどかにとって、大きな問題にはならない。
 今まどかにかかる重みは、まどか自身の感情の重みだ。

 苦しむ青年の手を握った時、まどかは胸のうちに渦巻く感情を振り切っていた。
 それがまどかの誰かを助けたいという願いであり、戦いの場に帰った理由だったからだ。
 だが、一度戦いの場から離れ、静かに息をする青年の姿を見たとき、振り切った感情が追いついてきた。

「――――――」
 オーズとグリードにどんな因縁があるのかはわからない。
 グリードは、この殺し合いを仕組んだ真木清人の一味で、危険な存在だというのもわかる。
 それでもガメルの見せた優しさと、青年の見せた悲しげな表情が、まどかの感情を揺らしていた。

 本当にこれでよかったのか、と。

「それでも、私は――――」
 誰にも死んで欲しくなかった。あんな悲しみを、もう二度と味わいたくなかった。
 だから、背中に感じる温もりが、ただ嬉しかった。

 青年が目を覚ました時、自分はどうするのか、何を言うのか、自分のことなのにわからない。
 もしかしたら、それとは関係なしに、青年がまた暴走するかもしれない。
 そうなってしまえば、今度は止められないかもしれない。

「それでも、ちゃんと話し合いたい」
 そうすれば、彼が何を思って戦っているのか、少しはわかるかも知れない。
 そうすれば、ガメルの時のようなことも、防げるかもしれない。

「と言っても、ガメルのコアメダルは渡さないけどね」
 少なくとも、今はまだ。
 助けたからといって、青年を信用しているわけではないのだから。

 そうまどかが結論した時だった。
 まどかの背後から、小さな何かが走り寄ってきたのだ。

239想いと絆と破壊の力(前編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:33:28 ID:q4Qn7kLU0

「あなたは………」
 それはマミがまどか達を守るようにと追わせた小さな恐竜――ファングメモリだった。
 ファングメモリはまどかの近くまで追いつくと、一定の距離を保って並走する。
 小さいながらも一生懸命に自分と並走するそれを見て、まどかは危険なモノではないと判断した。

「よくわかんないけど……よろしくね」
 そう言って小さな守護者を伴いながら、まどかは気持ちを新たに走り続けた。


【1日目−午後】
【D-6/エリア右端(中央寄り)】

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】白・リーダー代行
【状態】疲労(中)、哀しみ、決意
【首輪】280枚:30枚
【コア】サイ(感情)、ゴリラ:1、ゾウ:1
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、ファングメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式×2、詳細名簿@オリジナル、G4チップ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品×1、ワイルドタイガーのブロマイド@TIGER&BUNNY、マスク・ド・パンツのマスク@そらのおとしもの
【思考・状況】
基本:この手で誰かを守る為、魔法少女として戦う。
 0.オーズさん(火野映司)やマミさんと、ちゃんと話がしたい。
 1.ディケイドから逃げ切った後で、マミさん達と合流する。
 2.ガメルのコアは、今は誰にも渡すつもりはない。
 3.仮面ライダーオーズ(=映司)がいい人だという事は分かるけど……
 4.ルナティックとディケイドの事は警戒しなければならない。
 5.ほむらちゃんやさやかちゃんとも、もう一度会いたいな……
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、ほむらに願いを託し、死亡した直後です。
※まどかの欲望は「誰かが悲しむのを見たくないから、みんなを守る事」です。
※火野映司(名前は知らない)が良い人であろう事は把握していますが、複雑な気持ちです。
※仮面ライダーの定義が曖昧な為、ルナティックの正式名称をとりあえず「仮面ライダールナティック(仮)」と認識しています。
※サイのコアメダルにはガメルの感情が内包されていますが、まどかは気付いていません。
※自分の欲望を自覚したことで、コアメダルとの同化が若干進行しました(グリード化はしていません)。
※メズールを見月そはらだと思っています。


【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、気絶
【首輪】150枚:0枚
【コア】タカ:1、トラ:1、バッタ:1、ゴリラ:1、プテラ:2、トリケラ:1、ティラノ:2
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
 0.………………………あたたかい、手。
 1.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
 2.もしもアンクが現れても、倒さなければならないが……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※ガメルのコアメダルを砕いた事は後悔していませんが、まどかの心に傷を与えてしまった事に関しては罪悪感を抱いています。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっています。


【G4チップ@仮面ライダーディケイド】
鹿目まどかに支給。
八代淘子がG3-Xを更に強化する為に作成したチップ。
人間の肉体と脳神経をダイレクトに接続するものであるが、具体的にどう強化されるかは不明。

【ファングメモリ@仮面ライダーW】
巴マミに支給。
「牙の記憶」を宿す特殊ガイアメモリ。W・ファングジョーカーへと変身できる。
ソウルメモリに該当するが、他の形態と違い変身時はフィリップが主体となって変身する。
恐竜型のライブモードで自立駆動する特殊なメモリで、「如何なる手段を用いてもフィリップを護衛する」よう設計されている。
素早い動き・アゴの怪力を活かしてフィリップらを護衛するなど、単体でも高い戦闘能力を持つ。
なお、ファングジョーカーへの変身時は、ベースとなるフィリップのメダルが消費されます。

240想いと絆と破壊の力(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:34:22 ID:q4Qn7kLU0


        ○ ○ ○


 マスケット銃の銃口を前へ後ろへ右へ左へ。次から次へと標準し魔弾を吐き出す。
 撃ち終えたマスケット銃は投げ捨て、時には鈍器として使用し、新たなマスケット銃を生成して引き金を引く。
 留処なく流れるように、休みなく踊るように。軽やかなステップを刻む少女の顔に、最初に見せた余裕はまったくなかった。

「――――――」
 少女が踊る相手は七つもの同貌。彼らは剣の切っ先を銃の銃口を少女達へと向け、その度に魔弾に打ち抜かれる。
 しかし輪舞(ロンド)のリズムはいつ彼らに奪われてもおかしくはない。何しろ人数の上では彼らのほうが多数なのだ。
 加えて三人のダンスパートナーの内一人は、いつドジを踏んでもおかしくはない。それフォローをするのは、基本的に少女の役目だ。
 助けがないわけではないが、舞台全体を把握するためにも、今は僅かな思考の乱れも許容できない。

「ッ――――ハ」
 いつの間にか止まっていた呼吸を意識的に再開させる。
 正確なリズムを刻むためには、呼吸は重要なファクターだ。
 脳はもちろん全身――指先にまで酸素を行き渡らせなければ、思考は単純化し意識は鈍化しいつか些細なミスをする。
 そうなればミスを補うために無理をしてまた些細なミスを繰り返し、後はドミノ倒しにリズムが崩れる。
 ここで踊り続けるためには、僅かなミスも許されない。

 今考えられる舞踏の終わりは三種類。
 一つは自身の体力が切れ、彼らの速度から遅れることだ。
 今は先手を打つことにより、彼らの行動を封殺し、拘束された二人の解放を防いでいる。
 だが僅かでも遅れてしまえば、相手をする人数は一人、二人と増え、致命的なまでに手数が足りなくなる。
 そうなれば彼らは己が目的を果たし、先に逃げた少女を追いかけるだろう。
 それがこの戦いにおける少女の敗北。避けなければいけない結末だ。

 そしてあと二つ、勝利条件といえるものがある。
 一つは彼らのメダル切れ。聞けば彼らは長い時間変身しているらしい。
 シグマ算で増える消費量を考えれば、それほど先は長くないはずだ。
 そしてもう一つが、この場からの逃走。
 彼らの目的は仮面ライダーの破壊。故に、ファイヤーエンブレムたちに用はない。
 龍騎へと変身した少年を連れて逃げることができれば、彼らも戦う理由はなくなるはずだ。
 それを困難とさせるのは、今も少女の結界で守られている一人の青年だ。
 彼らは手段を問わない闘いをするらしい。もし青年を人質に取られてしまえば、逃げることもできなくなる。

 故に、取れる選択肢は一つだけ。
 少しでも長く、時間を稼ぐことだけだ。
 彼らのセルメダルが切れるか、青年が動けるようになるその時まで。

「ハッ―――、ハッ―――、ハッ―――」

 いつ割れるとも知れぬ薄氷の上を、少女は軽やかに舞い踊る。
 息を弾ませながらも、自身を鼓舞するために笑顔を浮かべ、ステップのテンポを加速させる。

「優雅に、華麗に、よりしなやかに……!」

 魔弾の舞踏はまだまだ続く。
 輪舞(ロンド)の終わりはいつとも知れず。




 その舞を、少女と同様にステップを踏みながら、異形の怪人が賞賛する。
 計七人に分身したディケイドの行動を把握し的確に対処するその采配は、中学生とは思えぬほどの冴えを見せていた。
 基本となるのはやはり魔法少女としての力と経験だが、それを後押ししているのは鹿目まどかの言葉だろう。
 友愛、あるいは親愛とは、時としてそこまで人を強くするものなのかとメズールは感嘆する。

 その間にも襲い来るディケイドの攻撃を、足で、マントで、時には液状化することで対処する。
 メズールが完全態でもないのに液状化能力を使えるのは、当然ちゃんとした理由がある。
 参加者達の命を握り、同時にメダルの格納も可能としている首輪には、実はメダルとの融合を促進する機能が付いているのだ。
 これにより参加者であれば誰もがメダルの器となりうる可能性を持ち、同時に取り込んだコアメダルと同調しやすくなっている。
 力を制御できていたはずのオーズが暴走したのも、コアを取り込んで間もないまどかが僅かながら力を引き出したのも、全てその機能に起因していた。

241想いと絆と破壊の力(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:35:16 ID:q4Qn7kLU0

 その事を知ってかは判らないが、メズールは液状化能力を有効に使い、二対一の状況で対抗していた。
 彼女が完全に液状化してこの場から逃げないのは、少しでもセルメダルを節約するためだ。
 欲望により百枚は超えているとはいえ、長時間液状化すればすぐに増加分はなくなってしまう。
 ただでさえメダルの消費が大きい能力なのだ。瞬間的な使用ならともかく、能力を全開にするのなら最低でもセルが二百枚は欲しい。

「―――あら」
 マミの放った魔弾により、いつの間にか背後に回りこんでいたディケイドに気づく。
 即座に後ろ回し蹴りと共に高圧水流を噴射し、ディケイドを蹴り飛ばす。
 攻撃自体は防御されたが、とりあえず距離を開けることには成功した。

 マミの援護には、少なからずメズールも助けられている。
 彼女が敵であるはずの自分を援護するのは、ディケイドの行動を完全に阻止するためだろう。
 もしメズールを狙うように見せかけて別の人を狙われれば、彼女一人では対処しきれないからだ。

「精々頑張りなさい。私がうまく逃げられるように、ね」
 ディケイドの攻撃を捌きながらくるくると踊り続けるマミを眺め、メズールはくすりと微笑する。
 彼女の援護には一応自分も助けられているので、二人くらいは引き付けてやろうと場違いな慈愛を浮かべながら。




 一方、仮面ライダー龍騎へと変身した智樹はというと。

「うおわッ……!」
 仮面の横を掠め飛んだ弾丸に悲鳴を上げながらも、迫り来るライドブッカーの一撃をドラグセイバーで受け止める。
 が、すぐにディケイドの圧力に押され、膝を突きそうになる。
 そこに飛来したマミの魔弾がディケイドを撃ちぬき、出来た隙に即座にディケイドから距離を取る。
 しかし、逃げた先にも別のディケイドが回り込んでくる。

「ひぃい――!」
 振り下ろされたライドブッカーを仰け反って回避し、続く一撃を地面に倒れ付して回避する。
 そこを狙うように放たれた銃撃は、地面を転げ回ることでやり過ごす。
 だがそれで逃げ続けられるはずもなく、転げまわる先にさらに別のディケイドが待ち構える。

「ノォ―――ウッ!」
 銃撃に追われてる今、止まる事など出来る筈もなく、袋の鼠のように追い詰められる。
 そのままどうすることも出来ず、ディケイドの攻撃範囲に入る――直前、待ち構えていたディケイドが、炎弾を受けて吹き飛ばされる。
 同時に龍騎を銃撃していた方も、マミの魔弾に撃たれ攻撃を中断させた。

「アナタ、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇよッ! 何なんだよアイツ、マジで殺しに来てんぞ!」
「それが彼の使命らしいからね。アナタ、理由知らない?」
「俺が知るかーッ!! 何で支給された道具使っただけで狙われなきゃなんねぇんだよ!」
「そうよねぇ」
 龍騎の怒りの絶叫に、ファイヤーエンブレムは困ったように呟く。
 それは目的自体は明確でありながら、理由だけがわからないディケイドの使命に対する困惑だ。

 ディケイドは明らかに龍騎を破壊しにきている。
 彼らにもこちらの話は聞こえているはずなので、智樹が本来の龍騎の変身者じゃないのは既に伝わっているはずだ。
 それでもなお殺しに来るということは、ディケイドの狙いは“仮面ライダー”そのものであって、その変身者は関係ないのだろう。

「まぁ愚痴を言ってもしょうがないわ。とにかく頑張りましょう」
「くっそーッ」

 二人のディケイドが、龍騎とファイヤーエンブレムを挟み込むように距離を詰めてくる。
 他の五人の内二人はマミの方へ向かい、別の二人はグリードと争い、残る一人は姿が見えない。
 マミの方へ向かう二人は、次々と放たれる魔弾を躱しながら、徐々に距離を詰めていく。
 しかし彼女に届く前にルナティックの炎がその行動を遮り、その間にマミは十分な距離を確保する。

 マミもファイヤーエンブレムもルナティックも、主力となる人間は全員が遠距離系だ。距離を詰められればあっという間に競り負ける。
 近距離をこなせる龍騎は、変身した智樹が戦いとは無縁な少年であったため、ディケイドの相手にはならない。精々囮がいいところだ。

242想いと絆と破壊の力(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:36:39 ID:q4Qn7kLU0

 ディケイドは明らかにに対多の状況に慣れている。もし誰か一人でも欠けていれば、今頃倒されていたのは想像に難くない。
 だがらといって、そう簡単に諦めるつもりは智樹にはない。たとえ倒すことが出来なくても、最後まであがき続けるだけだ。

「お話は終り。来るわよ!」
「ッ………!」

 二人のディケイドがライドブッカーを構え、龍騎達へと襲い来る。
 それに対し絶対に死んでなるものかと、龍騎はドラグセイバーを手にディケイドを睨みつけた。




 そんな彼らの抵抗を、ディケイドは苛立たしく感じていた。
 イリュージョンを使用した時点でコアメダルを使用し、既にセル50枚分の余裕は得ていた。
 だがそれも、こうも抵抗されては無意味になってしまう。
 とっとと終わらせようとライダーカードを使おうにも、カードを取り出そうとする度に何かしらの妨害が入る。

 その妨害が特に顕著なのは、龍騎と共に現れた黄色い少女だ。
 彼女は次から次へと取り出したマスケット銃で、こちらの行動を的確に阻害してくる。
 一発一発は威力が低く、またマスケット銃は単発であるため隙もある。
 だがそれを補えるほどに大量のマスケット銃を取り出されえは、攻撃の隙を縫うのも難しい。

 加えて先ほど、分身の一人が倒された。
 早く少女を倒すか、拘束された二人を解放しなければ、今度はこちらが追い詰められるだろう。
 だが分身は少女の張った結界に囲われており、アクセルと同じく手が出し辛い。
 結界の破壊自体は不可能ではないだろうが、敵の攻撃を捌きながら破壊するのは難しい。
 となると、必然少女自身を狙うことになるわけだが――――

「いい加減しつこいヤツだ。少しは休んだらどうなんだ?」
「その言葉はそのまま君に変えそう。大人しく裁きを受け、永遠の安息を得たまえ」
「それこそお断りだ。俺にはまだやるべき事があるからな」

 ルナティックの放つ蒼炎が、少女とディケイドの間を分断する。
 ヤツとてオーズとの戦いで受けたダメージがあるだろうに、それを押してここまでの戦いをするとは恐れ入る。
 だがそろそろ代用分のセルも半分を切るだろう。多少の無茶をしてでも、決着を付けさせてもらう。

 ライダーカードを取り出そうとライドブッカーを開く。と同時に殺到する無数の魔弾と蒼い炎の矢。
 それを、分身を盾にすることで防ぎきる。

「――――――ッ!!」
「む…………!」
 それに少女とルナティックが息を呑むが、攻撃がやむ様子はない。
 すぐに規定値を超えたダメージを受け分身が消え、

《――ATTACK RIDE・CLOCKUP――》

 その瞬間、ディケイドの勝利が確定した。

 時間が止まったと錯覚するほどに加速する時間。
 目前まで迫っていた魔弾は空中に停止しているかの如く。
 揺らめく蒼炎は凍りついたように動きを止める。
 今のディケイドにとって、己以外の全てが遅過ぎた。

 クロックアップの効果を得たのは使用した本体だけだが、停止した時間の中では一人でも十分過ぎる。
 ディケイドはその場から数歩ずれて魔弾の射線から外れ、ライドブッカーの銃口をグリードへと向け引き金を引き捲くる。
 撃ち手と同様時間の軛から解き放たれた弾丸は、狙い違わずその肢体を撃ち抜き、水の飛沫だけを飛び散らせた。

「チッ……液状化能力か」
 偶然か直感か、グリードはクロックアップの直前に己が肉体を水に変えていたのだ。
 ああなってはエネルギー攻撃以外の一切が通じない。
 だが加速できる時間は有限だ。無駄な攻撃をしている余裕はない。

 ディケイドは龍騎の元へと駆け寄り、無抵抗な体を蹂躙する。
 腹を膝で蹴り飛ばし、頚部に肘を打ち込み、顎をアッパーで打ち上げ、踏み付けて地面へと叩きつけ、

「これで終わりだ」
《――FINAL ATTACK RIDE・De De De DECADE――》
 空高くに跳躍し、出現した十枚のエネルギープレートを通過し、ようやくバウンドを始めた龍騎へとディメンジョンキックを叩き込み――――
 着弾の衝撃で舞い上がった粉塵が、その結末を覆い隠す。

243想いと絆と破壊の力(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:37:27 ID:q4Qn7kLU0

 以って事は終わった。
 時間は正常に動き出し、少女の放った魔弾は空を穿ち、蒼炎は揺らめきを取り戻す。
 一切の防御行動を取れなかった龍騎にディケイドの攻撃から逃れる術はなく、直撃を受けて生きていられる道理はない。
 だが。

「痛ってぇ――――ッ!! 体中が痛てぇッ!
 いったい何なんだ! 何が起きたんだよ!」
 ディケイドのすぐ近くには、事情も解らぬまま激痛にのた打ち回る龍騎の姿があった。

「フン………悪運の強いヤツだ。それとも、お前の機転を褒めるべきか?」
 不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、彼なりの賛辞を口にする。
 ディケイドの視線の先には、エンジンブレートを両手で構えた青年がいた。

 戦いの最中、マミの結界に守られていた竜はじっと回復に努めていた。
 だがそれだけではなく、マミ以上にディケイドの行動を観察していたのだ。
 そしてディケイドが加速した直後、ディケイドではなく龍騎を狙ってジェットによるエネルギー弾を発射したのだ。

 クロックアップによって加速したディケイドを狙い打つのは困難だ。
 だが、奴の目的は“仮面ライダー”だとわかりきっている。
 ならば、必然的にディケイドが狙うのは龍騎となる。
 竜はその判断に智樹の命運を賭けたのだ。

 結果として竜の放ったエネルギー弾は、ディメンジョンキックが当たる直前に龍騎に命中し、その体を弾き飛ばして直撃を回避させた。
 そして龍騎へと当たらずに終わったディケイドの必殺技は地面へと着弾し、粉塵を巻き上げるだけに終わったのだ。


 だが、今回はそれでどうにかなったが、次はそうは行かない。
 そう思いながらディケイドは再びライダーカードを引き抜く。

「―――ティロ・フィナーレ!!」
 だがドライバーへとカードを挿入する前に、ディケイドへと特大の魔弾が放たれる。
 ディケイドはその砲撃を咄嗟に回避するが、続く二色の炎による追撃に反撃の機会を失う。

《――ACCEL――》
 その間に、竜がアクセルへと変身してバイクモードへと変形する。
 数こそ減ったが、ディケイドの分身はまだ残っている。
 またあの超加速を行われては、今度は龍騎を守れない。
 故に、また超加速が行われる前に撤退するべきだと判断しての行動だ。

「私が時間を稼ぐから、アナタ達は先に逃げなさい!」
 それを見たファイヤーエンブレムがマミ達に指示を出す。
 仮面ライダーさえいなくなれば、ディケイドも無駄な戦いはしないはずだと。
 その意図を理解したマミは彼の言葉に頷き、リボンで龍騎を回収しながらアクセルの背に飛び乗った。

 だが、ディケイドが龍騎の離脱を認めるはずがない。

「させるか!」
 既にオーズに逃げられているのだ。ここで龍騎までも逃がしては、この戦いが無駄になってしまう。
 ディケイドは分身にファイヤーエンブレム達を攻撃させ、自身はアクセルを追いかけるためにドライバーを展開する。
 だが、ライダーカードを挿入する直前に、ディケイドへと投げつけられた物があった。

「なっ………!」
 それを見て驚きに目を見開き、思わず投げられた物体をキャッチする。
 ディケイドに投げつけられた物。それは、仮面ライダー龍騎へと変身するためのデッキだった。

「それが欲しけりゃくれてやるよ! バーカバーカッ!!」
「桜井君!」
 龍騎へと変身していた少年はそう言って、少女に怒られる。
 その間にもアクセルは加速しながら走り去り、間もなく姿を消した。

「――――――」
 その光景に、ディケイドは思わず立ち尽くす。
 彼の目的はあくまでも仮面ライダーの破壊であり、人殺しではない。
 だがターゲットとしていた少年が仮面ライダーでなくなったことで、次の行動を見失ったのだ。

「さて、後はアンタだけよ」
「裁きの時だ。己が行いを悔い改め、タナトスの声に身を委ねよ」
「ちょっとルナティック、殺しはなしよ」
 ディケイドはその声に我に返り、辺りを見回す。
 前方ではファイヤーエンブレムが両手に炎弾を発生させ、背後ではルナティックが炎の矢を装填したボウガンを構えている。
 ついでに言えば、いつの間にかグリードも姿を消していた。

「…………無駄骨、か」
 コアメダルは一枚入手したが、五十枚近く消費してしまったため、差引きはゼロだ。
 加えて二度も仮面ライダーを逃がしたとあっては、破壊者としては敗北もいいところだろう。
 分身はまだ残っているが、仮面ライダーがいない以上戦う意味はまったくない。
 残った分身に二人を銃撃させ、その間にライダーカードを使用する。

244想いと絆と破壊の力(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:38:04 ID:q4Qn7kLU0

《――ATTACK RIDE・INVISIBLE――》
「な……ッ! チィ、逃げやがったか」
 インブジブルによってディケイドが姿を消すと同時に、残っていた分身も消失する。
 それにより、ディケイドが逃げたと理解したファイヤーエンブレムは、舌打ちをして悔しがる。

「―――――――」
「ってアンタどこ行くのよ」
 ルナティックもディケイドを完全に見失ったことを理解すると、両手から蒼炎を噴射させ飛び去る。
 ファイヤーエンブレムは咄嗟にルナティックへと声をかけるが、その時には既に姿が見えない。

「もう、何なのよ!」
 一人残されたファイヤーエンブレムは、その勝手さに思わず悪態をついた。


        ○ ○ ○


 ディケイドの追跡がないことを確認して、竜は息を吐いて変身を解いた。
 それと同時に、顕界となった疲労とダメージに膝を突く。

「大丈夫ですか? えっと……」
「照井竜だ」
「照井さん、ですね。私は巴マミです」
「俺は桜井智樹だ。一応よろしく」

 簡単な自己紹介をしたあと、マミは竜の肩を担ぐと、建物の壁へと凭れ掛けさせる。
 そして竜の体に手を当て、簡単な回復魔法をかける。

「これは?」
「傷を癒す魔法です。どうも効きが悪いですけど、少しは楽になると思います」
「そうか……すまない、礼を言う」
「いえ、魔法少女として当然のことですから」
「当然のこと、か」
「はい」

 マミの言葉に、竜は仮面ライダーについて考える。
 竜の知る仮面ライダーとは、Wの様な人々の平和を守る人間を指す。
 だから復讐者であることを選んだ竜は仮面ライダーの名を捨てた。
 しかしディケイドは、自らを仮面ライダーと名乗った上で、全ての仮面ライダーを破壊すると宣言した。
 その矛盾は何なのかと考えて、小さく頭を振って考えることを止める。
 ヤツの事を考えてもどうしようもない。今はこれからのことを考えるべきだ。

「お前達はこれからどうする?」
「私は鹿目さんと合流しようと思ってますけど………」
「だったら行き先はキャッスルドランだな。そこに人を待たせている。鹿目もそこに向かうだろう」
「そうですか。じゃあ一緒にここに向かいましょう。桜井君も、それで良い?」
「俺は別にかまわねぇぞ。それより早く休みてぇ……」

 智樹が情けないことを口にするが、争い事とは無縁だった少年が急にこんなことに巻き込まれれば、そう思うのも無理はないだろう。
 そう思い、マミは苦笑しながら竜の肩を抱いて立ち上がる。

「なら早くキャッスルドランへ向かいましょう。ほら、桜井君も手伝って」
「しょうがね。もう一分張りするか」
「すまないな、二人とも」
「気にすんなって。こっちも助けてもらったしな。
 まあ、やり方は無茶苦茶だったけど………」

 恨みがましく言いながらも、智樹はマミとは反対側について竜の肩を抱き、ゆっくりと歩き出す。
 竜は内心で改めて感謝をしながら、もう一つのこれからについて考える。

 現在ここにいる三人は、全員が戦える状態にない。
 厳密に言えばマミは戦えるだろうが、人二人を守りながらでは無理がある。
 これについては、キャッスルドランへと急ぎ、十分な休息を得ることでどうにかしよう。

 だが、今竜にとって重要なのは、まどかから貰い受けた新たな力だ。
 ガイアメモリ強化アダプターで強化変身したアクセルブースターは確かに強力な力だ。
 だが使いこなせなければ意味がない。この力で井坂への復讐を遂げるならば、最低でも使いこなす必要があるだろう。

“そのためにも、早急にメダルを確保しなければな”
 能力を制限されたこの殺し合いでは、訓練をするにもセルメダルが必要となる。
 だが己の欲望に従えばセルメダルが増えるというが、復讐心で動く自分は、どうにもセルメダルが増えにくい。

“さて、どうするか”
 そう思案しながら、竜はマミと智樹に支えられながらも歩みを進めた。
 彼の進む先にあるのが復讐の成就か、それとも別の結末かは、今はまだわからない――――

245想いと絆と破壊の力(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:38:41 ID:q4Qn7kLU0


【一日目-日中】
【C-6/シュテルンビルト外縁】

【桜井智樹@そらのおとしもの】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)
【首輪】140枚:0枚
【装備】なし
【道具】大量のエロ本@そらのおとしもの、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:殺し合いに乗らない。
 0.体中が痛い。早く休みたい。
 1.マミ、竜と一緒にキャッスルドランへ向かう。
 2.知り合いと合流したい。
 3.二度と変身はしない。
 4.いつかマミのおっぱいを揉んでみせる。絶対に。
 5.残りのエロ本は後のお楽しみに取っておく。
【備考】
※エロ本は三分の一程読みましたが、まだ大量に残っています。


【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】黄
【状態】疲労(中)
【首輪】65枚:0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。極力多くの参加者を保護する。
 1.智樹、竜と共にキャッスルドランへと向かい、まどかと合流する。
 2.他の魔法少女とも共存し、今は主催を倒す為に戦う。
 3.ディケイドを警戒する。
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、魔女化したさやかが爆殺されるのを見た直後です。


【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】ダメージ(大:微・回復中)、疲労(大)
【首輪】35枚:0枚
【装備】{アクセルドライバー+アクセルメモリ、エンジンブレード+エンジンメモリ、ガイアメモリ強化アダプター}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:井坂深紅郎を探し出し、復讐する。
 1.マミ、智樹と共にキャッスルドランへ向かい、まどかと仁美(メズール)と合流する。
 2.アクセルブースターの力を使いこなす。その鍛錬のためにセルメダルを集める。
 3.ウェザーを超える力を手に入れる。その為なら「仮面ライダー」の名を捨てても構わない。
 4.他の参加者を探し、情報を集める。
 5.Wの二人を見つけたらエクストリームメモリを渡す。
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。
※鹿目まどかの願いを聞いた理由は、彼女を見て春子を思い出したからです。

【ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW】
鹿目まどかに支給。
ガイアメモリに装着することで内包された「地球の記憶」を一時的にバージョンアップし、能力を3倍に増幅させることが可能なアイテム。
仮面ライダーアクセルが使用することにより、アクセルブースターへと強化変身できる。

246想いと絆と破壊の力(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:39:22 ID:q4Qn7kLU0


        ○ ○ ○


 【C-8】に位置するホテルの屋上に着地し、ルナティック――ユーリ・ペトロフは膝を突いた。
 正義のためにと無理を通してきた体が、ついに限界に達したのだ。
 それでもこんな場所で倒れるわけには行かないと、どうにかホテルの一室に潜り込み、備え付けのベッドに倒れこむ。
 ルナティックの仮面を外し、息を吐いて力を抜けば全身に激痛が奔る。

「これは……しばらくは動けないな」
 辛うじて骨折はしていないが、間違いなく皹は入っているだろう。
 無理をすれば、間違いなく後に響く。そうなれば正義を成すことも出来なくなる。
 近くに裁くべき悪がいるのであればともかく、そうでないなら休息を取るべきだ。
 そう結論付けて、静かにまぶたを閉じる。

 ……その途中で、二人の人間が脳裏に浮かんだ。

“火野映司に……鹿目まどか―――”
 ワイルドタイガーと同じく、綺麗事のような正義を語る人間。
 火野映司が暴走した理由はわからないが、鹿目まどかと共にいる以上何かしらの影響があるはずだ。
 それを見届けることが叶わないのが残念だが、その行く末は大変興味深い。

“貴様らの正義……見極めさせてもらう”
 ワイルドタイガーとはまた違う正義に仄かな期待を寄せながら、ユーリは眠るように気絶した。


【1日目-午後】
【C-8/ホテル】

【ユーリ・ペトロフ@TIGER&BUNNY】
【所属】緑
【状態】疲労(大)、ダメージ(極大)、気絶
【首輪】60枚:0枚
【コア】チーター(一定時間使用不能)
【装備】ルナティックの装備一式@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:タナトスの声により、罪深き者に正義の裁きを下す。
(訳:人を殺めた者は殺す。最終的には真木も殺す)
 0.――――――――
 1.今は休む。
 2.火野映司の正義を見極める。チーターコアはその時まで保留。
 3.鹿目まどかの正義を見極める。もしまどかが庇った者が罪を犯したら、まどか諸共必ず裁く。
 4.人前で堂々とNEXT能力は使わない。
 5.グリード達とジェイク・マルチネスと仮面ライダーディケイドは必ず裁く。
【備考】
※ルナティックの装備一式とは、仮面とヒーロースーツ、大量のマントとクロスボウです。
※仮面ライダーオーズが暴走したのは、主催者達が何らかの仕掛けを紫のメダルに施したからと考えています。
※参戦時期は少なくともジェイク死亡後からです。


        ○ ○ ○


 人のいない街でライドベンダーから降車しながら、門矢士はこれからどうするかと考える。
 仮面ライダーオーズは完全に見失った。今から追いかけたところで、見つけることは困難だろう。
 加えてセルメダルの残量も、あの暴走したー図を相手にするには心許ない。

“それに、こいつの事もある”
 龍騎のカードデッキを手に取る。
 変身アイテムだけを破壊したところで、ディケイドの使命は果たされない。
 破壊するのはあくまでも仮面ライダーでなければならないのだ。

“となると、どいつか適当なヤツに渡して変身させ、そいつを破壊するか”
 それが一番妥当な処分の方法だろうと結論し、デイバックに放り込む。
 すると、デッキと入れ替わりで飛び出してきたものがあった。

「ちょっと、こんな所に押し込まないでよ!」
「…………ハァ」
 めんどくさいヤツが出てきた、と士はあからさまに溜め息を吐く。
 デイバックから出てきたのは、白い小さなコウモリ――キバーラだ。
 ユウスケと合わせてかつて一緒に旅をしてきた彼女は、士の道具として支給されていたのだ。
 彼女に関してはいろいろと思う所もあるが、今はそれを心の隅に捨て置く

「お前は引っ込んでろ」
「あ、ちょっとなにすん―――」
 士はキバーラを引っ掴み、デイバックへと放り込んですぐさま閉じる。
 同時にピタリと声も途絶え静かになる。

「はぁ……先に休めるところを探すか」
 キバーラの登場に疲れが表面化した士は、再び溜め息を吐いた。
 そうしてとりあえず後のことは後で考え、今は休憩を先にしようと決めたのだった。

247想いと絆と破壊の力(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:40:14 ID:q4Qn7kLU0


【1日目−午後】
【D-7/ラジオ会館周辺】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】疲労(大)、ダメージ(中)
【首輪】60枚:0枚
【コア】サイ、ゾウ(二枚とも一定時間使用不能)
【装備】ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド、
【道具】基本支給品一式×2、キバーラ@仮面ライダーディケイド、龍騎のカードデッキ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜4(士+ユウスケ)、ユウスケのデイバック
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を全うする。
 1.今は先に休める場所を探す。
 2.「仮面ライダー」と殺し合いに乗った者を探して破壊する。
 3.邪魔するのなら誰であろうが容赦しない。仲間が相手でも躊躇わない。
 4.セルメダルが欲しい。
 5.龍騎のデッキを適当なヤツに渡して変身させ、そいつを破壊する。
 6.最終的にはこの殺し合いそのものを破壊する。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、 ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。

【キバーラ@仮面ライダーディケイド】
門矢士に支給
キバット族の白いコウモリ型モンスター。
普段は明るい性格を装っているが、時折冷酷な一面を覗かせることがある。
ライダーに変身する者に噛み付くことで、その能力を活性化させることが出来る。
鳴滝と同様に次元に干渉して他者を異世界に送る能力を持つが、このロワでは制限により使用できない。
詳しい条件は不明だが、彼女に認められることで仮面ライダーキバーラへと変身できる。


        ○ ○ ○


 誰もいなくなった戦場に一人残されたファイヤーエンブレムは、気を取り直してマミ達の後を追っていた。
 ディケイドからは逃げ切れただろうが、他にも危険な参加者がいないとも限らない。
 もしそんな人物と遭遇してしまえば、今の彼女たちでは苦戦を免れないだろう。
 そうならない為にも、急いで合流する必要があるのだが―――

「もう、あの子達ったら。どこに向かったのかしら」
 放置されていたライドベンダーですぐに追いかけたのだが、どれだけ走ってもマミ達の姿は見えない。
 追跡されていた場合に備えて方向転換したのだろうが、どこに向かうかぐらいはこっそり聞いておくべきだった。
 ちなみにもう一台あったはずのライドベンダーはいつの間にか消えていた。
 おそらく、ディケイドが乗っていったのだろう。


 そうこうしているうちに、いつの間にかオフィス街を抜ける。
 それと同時に、シュテルンビルトの海が視界に写りこんだ。

「……まぁ、たまにはこんな景色も、悪くないわね」
 本来なら船に乗らなければ見えない風景に、思わずバイクを止めて見入る。
 ヒーローとしての仕事は突発的なものが多いため、彼らの休暇は意外と少ない。
 そのため、バカンスでもないと見ないような風景とは縁遠かったのだ。

「けど、見るならやっぱりちゃんとした海でよね」
 こんな貼り絵みたいな風景では、風情も何もあったものではない。
 そう感想をつけて、目の前の光景に付加を下す。
 それよりも今はマミ達意を追いかけるほうが大事だ。

「さて、気を取り直してあの子達を探しま――――しょ……う?」
 ライドベンダーのハンドルを握りなおし、アクセルを回そうとした時だった。
 背後から飛来した赤い閃光が海に着弾し、水柱を作り出した。

 ただ、その直前。
 何か、衝撃を感じたような気が――――

248想いと絆と破壊の力(後編) ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:40:54 ID:q4Qn7kLU0

「ゴ、フ………ッ!?」
 唐突に咳き込み、口から吐血する。
 吐き出した血の量が意外と少なく感じたのは、その大半が腹部から流れ出ているからか。
 ……そう、腹部だ。そこに穴が開いていて、そこから大量の血が流れ出ている。
 焼いて塞ぐ、なんてことが出来るほど小さな穴ではない。子供の腕くらいは入りそうな大穴だ。

「――――――――」
 血液と一緒に体力も流れ出たのか、体を支えられずにライドベンダーから崩れ落ちた。
 その際に、首輪から大量のセルメダルが零れ落ちた。メダルが散らばる音は、まるで命が崩れる音のようだと思った。

「ごめんなさいね。私、熱いのは嫌いなの」
 少し遠くから、嘲るような声が投げかけられた。
 残った力を振り絞って顔を上げれば、そこには見知らぬ少女の姿がある。
 少女は倒れ付したファイヤーエンブレムへと近づくと、首輪を解さずにセルメダルを吸収した。
 その際少女の姿に、先ほど逃げたはずのグリードの姿が重なって見えた。

「アン……タ………逃げた、はず……じゃ…………」
「逃げたわよ。あなたの方が私のところにやってきたの」
「…………………」
 その言葉を聴いて、自分の不運と不注意を少し恨んだ。
 何のことはない。
 グリードの少女が自分を狙っていたのではなく、自分の方がのこのこと現れ、彼女に隙を晒してしまったのだ。

「あなたの支給品は貰うわね。もう必要ないでしょう?」
 グリードの少女はそう言って、答えも待たずに血に濡れたデイバックを奪い取る。
 ファイヤーエンブレムにはもう抵抗する力もない。
 ただ自分の支給品が、彼女のデイバックに移されていく様を見続けることしか出来ない。

「さて、この後はどうしましょうか。
 このまま包装まで単独行動をするか、鹿目まどかを追ってオーズを始末するか……。
 出来れば始末したい所だけど、照井竜もキャッスルドランに向かう可能性もあるのよね。
 そうすると余計な人間まで付いて来ちゃうし……五人も纏めて殺すのは一苦労だわ」

 もうファイヤーエンブレムを死んだものとして見ているのか、グリード少女が独り言を呟く。
 その内容は看過できるものではないが、もう彼には何も出来ない。グリードの少女を止めるには、何もかもが遅すぎた。
 そして行動方針を決めたのか、グリードの少女は先ほどまで彼が乗っていたライドベンダーに乗車する。
 その際彼の血で汚れていた車体を、水を操って洗車していたのはご愛嬌だろう。

「それじゃあバイバイ、ヒーロー。安らかに眠ってね」
 最後にそう言って、グリードの少女は走り去って行った。
 それを見届けて、ファイヤーエンブレムは空を見上げた。

「タイガー……みんな……、ごめんなさい…………」
 この空の下ではまだ他のヒーロー達が頑張っているはずなのに、自分は何も出来ずにここで死ぬ。
 そのことだけが、ただ悔しくて仕方がなかった――――。


【ネイサン・シーモア@TIGER&BUNNY 死亡】

【1日目−午後】
【C-7/オフィス街付近】

【メズール@仮面ライダーOOO】
【所属】青・リーダー
【状態】健康
【首輪】195枚:0枚
【コア】シャチ:2、ウナギ:2、タコ:2
【装備】グロック拳銃(14/15)@Fate/Zero、紅椿@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:青陣営の勝利。全ての「愛」を手に入れたい。
 1.このまま放送まで単独行動を続けるか、鹿目まどかを追ってキャッスルドランに向かい、オーズを始末する。
 2.まずはセルと自分のコア(水棲系)をすべて集め、完全態となる。
 3.可能であれば、コアが砕かれる前にオーズを殺しておく。
 4.完全態となったら、T2オーシャンメモリを取り込んでみる。
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。
※自身に掛けられた制限を大体把握しました。


【全体の備考】
※参加者達の首輪には、メダルとの融合を促進し、同調しやすくする機能があります。

249 ◆ZZpT6sPS6s:2012/08/19(日) 12:41:53 ID:q4Qn7kLU0
以上で投下を終了します。
何か意見や、修正すべき点などがありましたらお願いします。

250名無しさん:2012/08/19(日) 12:51:37 ID:I13DhL5w0
投下乙です!
あの暴走オーズを前にどう戦うのかと思ったら……まさかのアクセルブースターとは!
照井はマミさんや智樹と一緒にキャッスルドランに向かってるけど、もうメズールはいない……で、メズールはネイサンを殺しているという残酷な真実。
ネイサン、さようなら……
てかまどか、若干五代さんみたいになってるよw 映司を上手く守ってほしいなぁ。
ディケイドは相変わらず、悪魔だなぁ……彼に支給されたキバーラは一体どうなるか。
あとルナティックもルナティックで、やばいな……このまま気絶してたら、どうなってもおかしくなさそうだし。

最後に大作、見事でした!

251名無しさん:2012/08/19(日) 13:28:11 ID:kYJnEMRUO
投下乙です!奇妙な共闘大戦も犠牲は最後に一人だけ……いや、どこで誰が墜ちてもおかしくない大激戦でした!

つかまどかのセリフが完璧クウガwまあ魔女をグロンギに見立てりゃ魔法少女はクウガみたいなもんか?
ここでアクセルブースター……まあ今の照井さんにはトライアル練習してる暇ないしこっちのが切り札になるよなぁ、三倍だし

252名無しさん:2012/08/19(日) 15:24:33 ID:jLffaJNo0
投下乙です

元々性格も気質もバラバラな連中が共闘、誰が死んでもおかしくなかったのに死者は0…と思ったら最後にネイサンが…
アクセルブースターが出たけど照井はどう動くかまだ不安だし他の問題も先送りしただけにしか思えん
まどかと映司が期待できるかも

253名無しさん:2012/08/20(月) 19:19:59 ID:cStg2Ivs0
また予約きてるー!

254名無しさん:2012/08/20(月) 23:19:48 ID:aoUKci2Q0
ホントだ
来てるぞ

255名無しさん:2012/08/21(火) 00:18:47 ID:hmguNxNM0
投下乙です。
暴走オーズ戦を盛り上げて、そこから更にディケイド戦にも移行して、バトルがもう見所だらけ。
二大危険ライダーのまるで容赦のない強さがこれでもかと伝わってきました。
そんな中でも仮面ライダーとは何なのか、正義とは何かの問答もあって面白い。今後どのように活きてくるのか期待。
これだけの人数がいながら全員を全員らしく活躍させていて、その手腕がお見事。

256 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/22(水) 22:53:12 ID:ITVqbylw0
短いですが、これより予約分の投下を開始します。

257導きの令呪 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/22(水) 22:55:22 ID:ITVqbylw0

 見月そはらの命を奪った外道、織斑一夏を見つけるためにセイバーは空美中学校に訪れたが、そこには誰もいない。
 仲間である阿万音鈴羽を連れて、ここまで来なければならないと無意識の内に感じていたが、今になって思うと何故そうなったのかがわからなかった。一夏を追うとはいえ、どうして突き動かされるように学校まで来たのかという疑問はあるが、深く考えても仕方がない。
 セイバー自身は知らないが、ここはマスターである衛宮切嗣が復活した令呪を使ってセイバーの召喚を命じた場所だった。制限によって内容は完全には届いていなかったが、それでも切嗣の意図だけは伝わっていたので、彼女は鈴羽と共にここまで来ている。
 尤も、そのせいで本来の敵である織斑一夏に化けた怪物強盗XがいるD−3エリアとは、正反対の場所に進んでしまったが。

「一応、この部屋で最後だけど……やっぱり誰もいないみたいだね」
「ええ……ですがスズハ、どうか油断をしないように。敵はあの外道だけではないのですから」
「わかってるよ……あたしだって、もうあんなことは嫌だからさ」

 鈴羽の表情が微かに曇るのを見て、セイバーはほんの少しだけ罪悪感を抱く。そはらを犠牲にしてしまった悲しみが残っているのはわかるが、だからこそ釘を刺す必要があった。
 鈴羽が隙を見せるような人物ではないことはわかっているが、やはり普通の人間でしかない。サーヴァントのような存在が跋扈するこの殺し合いでは、魔術師でもない彼女が生き残れるのかどうか、セイバーは不安だった。
 そして、油断をしてはいけないのは私自身も同じだと、セイバーは心の中で呟く。これから戦場は夜の闇に包まれるので、その機に乗じて不意を仕掛けてくるような下劣な者が出てくるかもしれない。例えるなら織斑一夏や……あの衛宮切嗣のように。

(特に切嗣は何としてでも止めなくては……彼は放置したら何をしでかすかわからない。アイリスフィールには悪いが、いざという時の覚悟も必要か)

 恐らく切嗣は生き残るためならば、どんな手段でも取るだろう。それも、そはらや鈴羽のような未来ある少女を捨て駒として利用するような、考えるだけでも反吐が出る行為を。
 もしも奴が一夏のように誰かを犠牲にするのならば、この手で斬ることも考えなければならない。無論、アイリスフィールのためにもできる限り、何事も起こさせないように力を尽くすしかないが。

「スズハ、そろそろ行きましょう……もうここには、誰もいないようですから」
「そうだね。みんな、無事だといいけど……」

 その言葉には同意したかったが、あの切嗣の無事を願うことにセイバーは抵抗を抱いてしまう。奴がいなければ聖杯戦争で不利になるのはわかっているが、それでも信用することはできない。

(だが、ここでいつまでも考えていても仕方がない……今は切嗣よりも、あの外道を追わなければ)

 ここにいないマスターのことなど考えたところで何の意味もないから、今は殺し合いを止めることを第一に考えなければならなかった。
 そう思案を巡らせているセイバーは、すぐ近くの森林に目を向けている。木々が生い茂っていて、身体を休める為に隠れるには絶好の場所かもしれないがそこまで広くない。だから、探そうと思えばすぐに見つけられるかもしれなかった。

「ねえセイバー、君はさっきからあの森をずっと眺めてるけど……もしかして、気になるの?」

 そんなセイバーの気持ちを察したのか、鈴羽が声をかけてくる。

「なら、あそこに行ってみる?」
「いいのですか?」
「どうせ行く宛もないし、何よりああいう所ならば隠れるには絶好の場所かもしれないしさ。今はあいつを追うことを、最優先にしよう?」
「ですね……しかし、気を付けてください。織斑一夏でなくとも、森の闇に乗じて不意を仕掛けてくる輩は大勢いるのですから」
「わかってるよ。あたしだって、油断する気はないって……そはらの為にも、ね」
「……わかりました」

 何処となく寂しげな表情を浮かべている鈴羽に対して、セイバーは静かに頷いた。
 これからの時間、どんどん暗くなるのだから何としてでも鈴羽を守らなければならない。もしも彼女に何かがあっては岡部倫太郎という者達に顔向けができないし、何よりもそはらの遺志を無駄にしてしまう。
 辺りを包みこむ闇すらも照らすような眩い決意を胸にしながら、鈴羽と共にトライドベンダーに乗り込んだセイバーは、エンジンを力強く唸らせた。
 その道が、マスターである衛宮切嗣が進んだ道と全く同じであることをセイバーは知らない。切嗣が使った令呪の影響なのか、無意識のうちに彼女は彼の元に向かうかのように進んでいたのだった。
 仲間を連れて、衛宮切嗣の元に召喚。それは彼女にどんな影響を与えるのかは、まだ誰もわからなかった。

258導きの令呪 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/22(水) 22:56:55 ID:ITVqbylw0


○○○


 建物の外に生い茂っている緑豊かな森から、ゆっくりと涼しい風が吹きつけているが、どれだけその身に浴びても阿万音鈴羽の心はちっとも穏やかになれない。見月そはらが死んでから、ずっと鈴羽は落ち込んでいた。
 そはらを殺したこの世界にあるもの全てが、作り物のように見えてしまう。先程まで素晴らしいと思っていた空見町も、結局はあの真木清人の息がかかった複製コピーなのだ。
 彼女が住んでいる本当の空見町は素敵な場所かもしれないからこそ、それを汚したグリード達に対する憤りが強くなってしまう。しかし、一時の感情に支配されては不意を突かれてしまうかもしれないと考えて、鈴羽は湧き上がる憤りを抑えた。
 怒りや苛立ちは、視野を狭める上にいざという時の判断を誤らせてしまう恐れのある悪い感情。それに胸を満たしてはいざという時、最悪の事態を引き起こす恐れがあった。
 故に鈴羽は深呼吸をする事で自分の精神を落ち着かせて、改めて前に進む。石造りの廊下は、まるで毎日誰かが掃除をしているかのように綺麗で、埃が全く見当たらない。そんな様子からは人の住んでいる雰囲気が全く感じられず、まるで自分が生まれた時代に戻ったかのようだった。
 ディストピアとなった嫌な世界、そしてワルキューレのみんなが殺されてしまう光景が脳裏に蘇ってしまい鈴羽は一瞬だけ表情を顰めてしまう。
 きっかけを作った真木清人に対する憤りを覚えるが、それを振り払う為に隣を歩くセイバーに振り向いた。

「ねえセイバー、やっぱりここは君が知っているアインツベルン城って所と同じなのかな?」
「ええ……気味の悪いほど似ています。まるで、そのまま城をこちらに持ってきたと言っても過言ではありません」
「そうなんだ……」

 鈴羽は軽く頷きながら、周囲に目を配る。
 セイバーが言うには、地図に書かれていなかったこのアインツベルン城という建物は本来、冬木という町の山奥に建てられているらしい。だが、それが何の関係もないこんな森の中にある。せめてマップ上部の冬木を模したエリアならまだわかるが、どうして空見町にあるのか?
 だが、ここでそれを解明しようとしても意味はない。そもそも主催者達が何を考えて殺し合いを強制させたのかもわからないから、戦場の配置について考えても仕方がなかった。

(まさか、あの真木って奴はみんなの思い出を汚すためだけに、町や建物をそっくりそのままコピーしてるの……?)

 しかし鈴羽は、不意に心の中で呟く。
 この世界にはそはらの自宅やアインツベルン城だけでなく、ラボメンのみんなにとって憩いの場とも呼べる秋葉原まであった。加えて、参加者に選ばれている大切なみんな。
 ここまで来ると、偶然似せたのではなく真木清人が意図的にフィールドをこんな形にして作ったとしか考えられない。そうした理由なんてまるでわからないが、どうせ碌でもないに決まっている。
 もしもワルキューレのみんなが生きたアジトまでがあったら……一瞬だけそう思うも、すぐに鈴羽は思考を振り払った。あんな男の汚い手が、自由を求める為に戦ったみんなの場所にまで伸びているなんて考えたくもない。
 鈴羽は警戒心を再び蘇らせながら城を見渡したが、他の参加者は一人も見当たらなかった。念の為に全ての部屋を調べたが、あの織斑一夏どころか虫一匹すらもいない。
 しかし、時間を無駄にしたとは思いたくなかった。悔んでる暇があるなら、一歩でも前に進まないといけない。

「スズハ、そろそろ行きましょうか……どうやら、ここには誰もいないようなので」

 そんな気持ちを察したように語るセイバーに、鈴羽は軽く頷いた。
 出来ることなら、彼女はこれからもずっと味方であって欲しい。もしもセイバーまで敵になったら自分だけで止められるかはわからないし、何よりもそはらだって悲しんでしまう。
 セイバーはまだ完全に信用できないが、それでも頼りになる仲間なのは確かだった。彼女がいなかったら、きっと自分はこうして生きていないかもしれない。
 だから鈴羽は祈った。みんなが無事でいたまま、セイバーと力を合わせて殺し合いを打ち破れる事を。

(あと、できるなら自転車も無事だといいけど……あたしが戻るまで、そのままでいてくれたらいいなぁ)

 そして、健康ランド前に置きっ放しにしていた愛用の自転車も、無事でいることを願った。
 本当なら今からでも取りに戻りたいが、今は殺し合いを打ち破ることを最優先に考えなければならない。今から健康ランドに向かっても誰かがいるとは限らないし、そんな事で時間を潰すのも馬鹿馬鹿しかった。

259導きの令呪 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/22(水) 22:58:12 ID:ITVqbylw0
 ……そんなことを考えているが、彼女はまだ知らない。
 彼女が父と呼んでいた橋田至が、怪物強盗Xの協力者である葛西善二郎によって命を奪われている事実を。
 そして、放送では確実に橋田至の名前が呼ばれる事も。彼の死を聞いた時、阿万音鈴羽は何を思うだろうか。




【一日目-夕方】
【D-1/アインツベルン城内】


【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、そはらを喪った哀しみ、織斑一夏への怒り
【首輪】195枚:0枚
【コア】サイ
【装備】なし
【道具】基本支給品、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、イエスタデイメモリ+L.C.O.G.@仮面ライダーW、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
 0.見月そはらの分まで生きる。
 1.知り合いと合流(岡部倫太郎と橋田至優先)。
 2.桜井智樹、イカロス、ニンフ、アストレアと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
 3.織斑一夏を警戒。油断ならない強敵。一刻も早く見つける。
 4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
 5.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
 6.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。
※見月そはらのコアメダルとセルメダルを受け継ぎました。


【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】健康、織斑一夏への義憤
【首輪】75枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破。
 1.騎士として力無き者を保護する。
 2.衛宮切嗣、キャスター、バーサーカーを警戒。
 3.ラウラ・ボーデヴィッヒと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
 4.織斑一夏は外道。次に会った時は容赦なく斬る。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※セイバーが空見中学校を目指したのは衛宮切嗣が発動した、令呪の影響によるものです。
※ただし彼女自身にその自覚はなく、あくまでも無意識の内の行動に過ぎません。


【全体備考】
※アインツベルン城の外にトライドベンダー@仮面ライダーオーズが放置されています。
※二人が何処に向かうかは、後続の書き手さんにお任せします。

260 ◆LuuKRM2PEg:2012/08/22(水) 22:58:44 ID:ITVqbylw0
以上で投下終了です。
矛盾点などがありましたら、指摘をお願いします。

261名無しさん:2012/08/23(木) 02:15:56 ID:Tbb3Z0Lo0
投下乙です

放送後が色々と楽しみだな
鈴羽は大丈夫かなあ
そしてセイバーと切嗣との再会もどうなるやらw 原作での仲は最悪だったからなあw

262名無しさん:2012/08/23(木) 09:24:16 ID:0vsYFU1kO
投下乙です。正直今キリツグの所に行っても邪魔でしかないのが最優()のサーヴァントたる由縁かw


>>261
二人の仲なんて関係ないね
ラ ン ス ロ ッ ト さ ん い る しw

263名無しさん:2012/08/23(木) 13:08:49 ID:LjZxn.Qo0
セイバーとランスロットは出会ったらなあ…w

俺らから見たらセイバーもそこまでキリツグを貶せないだろうと思うがな

264名無しさん:2012/08/25(土) 18:30:27 ID:YpQAO0ps0
原作のキリツグも大概だけどな
セイバーと共通点もあるのも同意だけどw

265名無しさん:2012/08/25(土) 18:42:38 ID:QgGJ7qnA0
セイバーは別にそこまでキリツグ嫌いでもないだろ
手段については忌み嫌ってるけど、その理想は認めてる
自分だって村一つ干上がらせた事もあるわけだし……
キリツグのほうが一方的にセイバー無視してるだけで

聖杯壊させた事については怒ってるだろうけど、それだって自己反省へのウェイトのが高いし
マジ恨んでたら士郎にも恨みごとの一つも漏らしてるよ

266 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 01:48:57 ID:ccodQgH.0
それでは、予約分の投下を開始します。

267 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 01:51:15 ID:ccodQgH.0
 秋葉原までお疲れ様。
 連絡が取れなくてごめんね。ちょっと立て込んでいたんだけど、もう片付いたから大丈夫よ。

 疲れているところに申し訳ないけど、あなたにまたやってほしいことがあるの。
 青いブレザーに黒のショートパンツとロングブーツを着た、髪の長い女の子を捜してくれないかしら。私は今、その子を探しているの。
 もし見つけたら合流してね。ただし、出来れば話しかける前にその子が一人か、それとも誰かと一緒にいるか先に私に教えてくれないかしら。
 同行者がいた場合は、まずは見た目の特徴だけでも報告して。そして女の子と合流した後で、もし余裕があったらもう少し詳しい状況の報告をお願いね。
 その女の子を殺したりする必要なんか無いわ。一緒に仲良くしてあげてね。
 あなたは他人と関わることに自信が無いかもしれないけれど、やればできる子だってことは私がよく知っている。だから怖がらないで話しかけて。きっと上手くいくわ。

 それと、秋葉原の地理はあなたも詳しいわね? 勿論あなたが今いる秋葉原はおかしな点があるけど、それでも大体は同じだと思う。だから、もし何か見つけたい物があれば探して欲しいの。
 出来ればあなたと私にとって役に立って、それと見つかる当てのある物ね。もしも見つけたら嬉しいけど、見つかりそうに無かったらちゃんと諦めて。あまりこだわりすぎないようにね。

 これは何度も言っていることだけど、無茶だけはしないで。
 あなたは不思議なカードデッキで戦えるようになったのかもしれないけれど、それでも危険には変わりないわ。出来る限り危ない事態は避けるようにね。
 私にとってあなたが傷つくのが一番嫌だってこと、どうか忘れないで。

 こんな辛い状況だけど、私は今までと変わらずにあなたを応援し続けて、あなたの力になるわ。今までの指示だって、必ずあなたと私のためになるものだから。
 だから、あなたも頑張ってね。返事を待ってます。

   あなたのお母さん、FBより



「送信、と」
 カザリの親指が携帯電話の中央のボタンを押す。液晶画面に『メールを送信しました』のメッセージが表示されたのを見て、ふう、と一息ついた。
「やっと送れたよ。制限付きとか面倒くさいねえ」
 秋葉原駅に到着した萌郁からのメールに返事を送るのには一手間必要とされた。
 まず携帯電話で連絡が取れる範囲の制限を把握するため、まず萌郁を秋葉原に向かわせ、カザリ自身はIS学園で待機した。
 その結果、彼女の移動中のメールは問題なく届いたのに肝心の秋葉原駅到着の報告はなぜか届かなかった。その後、一旦IS学園の敷地外に出てみるとメールの受信に成功した。
 ここから推測するに、携帯電話で交信できる範囲はマップで言うと半径2エリア前後であり、IS学園と秋葉原駅との間では交信できなくなるようだ。
 これから萌郁にはもっと移動してもらわねばならないとなると、彼女の手綱を握り続けるためにカザリ自身もIS学園を離れて移動するべきだろう。
 勿論、大樹も同行させる。IS学園の探索を望む大樹を外に連れ出した上でその旨を伝えるとあからさまに不服そうな顔を見せたが、すぐに了承した。
 自らの立場を弁えられる頭を持っていてくれて、こちらとしても助かる。

268 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 01:52:40 ID:ccodQgH.0

「まあそれはそれとして、ちゃんと仲良くしてやってね。……メズールと」
 萌郁への新たな指令は、条件を課した上でのメズールの身柄の確保だ。
 四面楚歌の状態で殺し合いを始めたメズールも、すでに優勝に向けて何らかのアクションを起こしているはずだ。
 まずルール通りに青陣営を仲間に引き込む道はあるが、一番近くにいて陣営も同じであるセシリア・オルコットが単独行動を取っていたという大樹の情報によると、その路線を選んだ可能性は低い。
 さて、残された道として思いつくのは二つ。一つは、怪人らしく暴力に任せて戦うこと。
 彼女もグリードなのだから周りに遅れを取ることは少ないだろう。ただし過信は禁物との自覚はするに違いないが。この場合、誰かを無理矢理従わせない限りは単独行動を取る可能性が高い。
 もう一つは、メズールを取り囲む他陣営の参加者達の多くが持つ大なり小なりの正義感を利用して、グリードの姿を隠して善良な人間として取り入ること。
 適当な女性参加者の名前を借りて無害をアピールすれば、彼らの庇護下に入ることなど容易いだろう。この場合、誰かとの集団行動を取ることになる。
 メズールがどちらを選んだのか、それを萌郁に探らせる。同陣営で殺し合いにも否定的でない萌郁ならば害される可能性は低いだろう。
 そこでまずメズールに取り入らせ、後はメズールの方針を探り、一先ず萌郁にも同調してもらう。FBとしても同調した振りをする。
 名前については、メズールが方針に合わせて相応しい名前を名乗るのを待たせてもらおう。

 ただし、実戦において素人同然の萌郁を一人で戦わせたりしたら、メズールに限らず誰が相手でも敗北は目に見えている。
 それ以前に、ウヴァやガメルと比べて頭の切れるメズールのことだ。下手に萌郁に殺意を抱かせようものなら簡単に見抜かれかねない。
 なので、今の萌郁には殺害の必要無しだと本気で信じてもらい、メズールとの決戦までの間は極力おとなしくしてもらおう。
「『私にとってあなたが傷つくのが一番嫌だってこと、どうか忘れないで』……まだまだ利用し足りないんだから」

 萌郁からの返信を告げる電子音が鳴り響いた。まさかもうメズールを発見したのかと驚きながら受信メールを見ると、予想と異なる内容が書かれていた。
 曰く、秋葉原でどうしても探したい物があるという。
「……へえ」
 秋葉原を古巣とする萌郁ならそこで新たな発見をするのではないか、と考えて出した第二の指示だが、どうやら期待できそうだ。その探したい物というのがまた興味深い。
 なので萌郁との距離の短縮までの時間潰しも兼ねて、萌郁の提案に許可を出す返事を送った。さほど時間を待たず、了解と返された。
 次に来るメールは、目標を発見した報告だろう。

 携帯電話をポケットに入れて前を見ると、大樹がここまでの移動に使用したライドベンダーが見つかる。
 大樹が当然のように停車中のそれの座席に跨り、続いてカザリも当然のように大樹の後ろに座る。
「……自分のバイクは自分で探すんじゃないのかい」
「バイクが二台だと君が逃げるかもしれないでしょ? 僕がバイクで君が徒歩だ、とか言わないだけ有り難いと思いなよ」
「……」
「ほら、早く運転してよ。別に後ろから襲ったりしないから」
 絶対に文句を言いたくてたまらないのだろうが、海東は何も言わずエンジンをかけてバイクを始動させた。
 表面だけでも忠誠を果たしてくれる彼の姿を見るのは、王を自負する身としては実に心地良い。

269 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 01:54:04 ID:ccodQgH.0

 ともかく、まずはメズールの発見が急務であり、そのために萌郁との連絡が取れる範囲内で何処かを新しい拠点とする必要がある。
 その過程で実際に萌郁と遭遇するのを避けるためにも、彼女の位置を知らせるメールを見逃すわけにはいかない。
「後で止まってほしいって言うと思うからそのつもりでね」
「また携帯でメールでもするのかい? さっきから誰と話してるのかな?」
「教えるわけ無いじゃん」



 支給された地図を見た時から、ずっと気になっていた。
 まるで一部分だけぽっかりと切り取られたような秋葉原の、その奇妙さが。
 切り取られたこと自体が問題ではない。切り取られた部分の中に、あるはずのものが無く、無いはずのものがあることが。
 秋葉原駅の北西に、”それ”があるはずの場所に、確かに「ラジオ会館」と書かれていることが。
 ”それ”のあるべき場所にラジオ会館が置かれたのなら、“それ”は何処へ消えたのだろうか。
 言い方を変えて表現してみよう。”それ”のあるべき場所にラジオ会館が置かれたのなら、ラジオ会館のあるべき場所には何があるのだろうか。

 秋葉原駅に到着した萌郁は、まずFBの指示の中から秋葉原探索を選ぶことにした。
 自分の推測が当たるなら、きっとFBにとって有益となるものが得られるはず。そんな期待を胸に歩き続け、ほどなくして目的地に辿りつく。
「あった」
 秋葉原駅から南西に少し進んだ、本来ならラジオ会館があるべき場所。そこには、ラジオ会館と置き換えられるように一軒のビルが建っていた。
 真っ先に「ブラウン管工房」の看板を掲げた一階の商店が目に入る。この状況で商店が営業しているわけもなく、開け放たれた入り口の向こうはひたすら薄暗い空間であった。
 筋肉質の男性店長も、店先で遊ぶ小学生くらいの女の子も、周りから「バイトのお姉ちゃん」とか「スズさん」と呼ばれる三つ編みの女性店員もいない。
 無人の店内には今時珍しいブラウン管テレビがいくつも陳列されているが、一つも電源は点いていない。
 それ以上の興味を持つことはなく、商店から目を離してビルの端の階段へと足を踏み出し、二階へ駆け上がっていく。ドアを見つけたら一旦呼吸を整えて、そっと開けた。
 その先にあるのは、家具や雑貨が並べられたごくありふれた部屋。人一人いない点を除けば生活感のある空間。しかし、今の萌郁にとっては唯一無二の場所。萌郁の探し求めた“それ”。
 未来ガジェット研究所が、そこにあった。

 本来なら賑やかなはずの室内には、今は誰もいない。それでも小さく頭を下げ、中に足を踏み入れる。
 部屋の中を調べる前に、購入済みのタカカンドロイドを五基、窓から空に解き放つ。
 秋葉原エリア周辺で青いブレザーの少女を探し、見つけた場合はここに帰ってくるように命じておいた。
 FBの指示をできるだけ多く且つ速やかにこなすためには、こうしたアイテムの利用も必要だ。
 まずは何とはなしに談話室を眺めてみるが、記憶と比べても特に変わった点は見つからない気がする。
 ならばラボ全体を二つに仕切るカーテンの向こう側はどうなのだろうかと思い、早速カーテンを横に引いて奥側の部屋、開発室に入った。
 テーブルの上に置かれた一台のパソコンと、下に置かれた電子レンジがすぐに見つかる。研究所を称するには相応しい、けれど弱小サークルにはそぐわない世紀の発明品。
 未来ガジェット第8号機「電話レンジ」。その効果は、携帯メール限定のタイムマシンだ。

270 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 01:56:08 ID:ccodQgH.0

「FBに、報告しなきゃ」
 萌郁が未来ガジェット研究所を探した理由は、この電話レンジを見つけるためだ。
 殺し合いが始まる前日、初めて見せてもらってからFBに存在を報告した時、彼女はとても興味深そうな返事をくれた。
 この状況でも同様に発見できたなら彼女の力になるはずだと思って行動してみたが、幸いにも願いは叶えられそうだ。
 僅かに心躍らせながら、メールに添付するための画像を、携帯のカメラで撮影する。レンジとパソコンを1枚ずつ撮り、確認のために2枚を眺めてみると。
「……あれ?」
 違和感に気付いた。もう一度、今度は眼鏡越しにレンジとパソコンを見つめてみる。
 何かが、引っかかる。この違和感の正体は、何だ?
「あ、無い」
 レンジの観察によって気付いた。接続されていたはずの電話レンジ専用携帯電話が無くなっている。あるはずのものが、無い。
「何、これ」
 パソコンの観察によって気付いた。なぜかパソコンにヘッドギアが接続されている。無いはずのものが、ある。
「どうして?」
 萌郁の記憶の中の電話レンジと現実の電話レンジが一致しない。
 萌郁の記憶の方が曖昧なのかと思ったが、それは考え難い。殺し合いに連れて来られるまさに直前までラボに滞在していたのだから、記憶が薄れるほどの時間は経過していないと思う。
 電話レンジが激しく発生させた放電も、過去改変のためのメールの文面も、携帯の送信ボタンに添えた親指の感触も、今でもまだ思い出せる程度には記憶に残っている。
 知っているはずのものが全く別物に変貌している。なんだか、気味が悪い。

「……早く報告しよう」
 原因を考えた所で、製作に携わっていない自分に結論が出せるわけも無い。
 そもそも、萌郁は電話レンジの使い方を把握していない。発見したといっても使用できるとは最初から思っておらず、電話レンジの状態を報告するだけの予定であった。
 こうして変化を目の当たりにしたところで、伝達事項が増えただけの話だ。
 電話レンジの発見、現在の状態と変化した点をまとめて文章化し、撮影した2枚の写真を添付すればメールは完成だ。
 すぐさまFBに送信し、一息ついた。電話レンジの報告が終われば、このラボを訪れた目的は達成だ。



(結局大きな収穫は無し。分かってはいたけど、敗者の身分は辛いものだ)
 ライドベンダーを運転する海東は、もはや振り返ることもないIS学園への名残惜しさを心中で零した。
 本当は学園内部をもっと探索したかったのに、カザリに出発を命じられた以上は逆らえない。
 それどころか今はバイクの運転までさせられている。手足のように扱われる不快さはあるが、憎らしいカザリの顔を直視せずに済むだけマシと考えるべきか。
 滞在中の数少ない発見といえば、備え付けの教科書の流し読みから得たISに関する知識くらいだ。
 ISは女性にのみ装備できる機動兵器であり、これの登場により世界の情勢は完全に女性優位に傾いた、というのが「ISの世界」の一般常識らしい。
 連鎖的に理解できたのは、どうやら支給品一覧表の情報は不完全で、例えば並行世界毎の齟齬は無視されていることだ。
 それに頼った大樹がセシリアに無知と嘲笑されたのも今なら頷ける。
 それでも一覧表は有用だと考えているし、彼女のISを諦める気も無い。
 使える使えないの問題ではなく、“お宝”が“お宝”であること自体が奪う理由として十分なのだ。
 本当ならば奪う前にISの現物をここで見つけようとおもっていたのだが、カザリの都合のせいで出来そうにない。
 駆けずり回れば一つ二つくらいISが見つけられるのか、それとも支給品以外でISは得られないのか、その確証さえ得られず終いだ。
 本当に、カザリさえいなければ好きなようにやれるのに。そんな苛立ちも、今は心中に留めておく。

271 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 01:57:57 ID:ccodQgH.0

 しかしISの件はこれ以上考えても仕方が無いと結論づけてひとまず頭の隅に置き、別の課題に取り掛かる。次の“お宝”は、カザリが弄っていた携帯電話だ。
(さて、あれはどの携帯電話なのか)
 支給品一覧表には画像も無いため、外見的特徴の情報まで不十分だ。文字情報と現物との磨り合わせは自力で行えということか。
 そんな一覧表に一通り目を通し内容を頭に叩き込んだ大樹が気付いた点の一つは、何種類かの携帯電話の存在だった。
 それらを大きく二分すれば、ケータロスやスタッグフォンのように戦闘用のハイテクノロジーを搭載した特殊な機種と、
 岡部倫太郎や桐生萌郁が持つ携帯電話のように平時にしか使わないごく一般的な機種だ。
 カザリの手元にあるのは見たところ一般的な携帯らしい。
 一般的な部類の携帯は、さらに細かく分類することができる。持ち主が殺し合いの参加者の中にいるか、いないか。
 「本人の持ち物が本人に支給される」ルールがもしもただの私物さえ対象とするルールとだすれば話は変わってくる。
 本来の持ち主が不参加の、ランダム配布の携帯だけから検討すれば良いことになるからだ。
 これらの条件から大樹の考え付く物といえば。
(……天王寺裕吾の携帯電話、とか?)
 平凡な機種で、持ち主不在で、さらに特定の参加者との連絡が一覧表では用途として述べられている。
 先程からしばしばカザリと何者かとの交信に使われる携帯電話の正体としては、あながち間違いではないような気がする。
 尤も、この発想は断片的な情報と推測に基づいた仮説に過ぎず、確証を持つに至るものではない点を忘れるのは禁物だが。

(僕は僕で色々考えさせてもらっているよ。まあ、君には教えないけどね)
 不完全ながらも、やはり支給品一覧表は有益な代物だ。これのおかげで、可能性のレベルとはいえカザリの優位性の一つに目星をつけることが出来たのだから。
 カザリが連絡を取り合っている相手は、おそらく桐生萌郁という人物だ。
 今の彼は天王寺の名を騙り、彼女を利用しようとしている。
 カザリと萌郁の間の偽装された協力関係は、それを認識した大樹には何らかの形で付け入る隙を見出せるはずだ。
 だから仮説の検証のためにも、またカザリ打倒の契機を作るためにも、カザリが持つ携帯電話を手に入れてみたい。そんな発想が大樹の中で形成されていた。

 ようやく踏み出せた自由と勝利への第一歩に、大樹はカザリの視線の外でほくそ笑む。
 そうして悦に浸っていたから、不意に後ろから声をかけられてつい身体を強張らせてしまった。
「そんなにビックリしなくてもいいのに。携帯使いたいから一回停めてほしいってだけ」
「ああ、彼女からメールでも来たのかな?」
「今度は冷やかし?」



 ラボ訪問の目的を達成したのに、萌郁は落ち着かない様子でうろうろと歩き回っていた。
 少女を探すために自分自身も動くべきだろうかと提起し、捜索範囲の広いカンドロイドの帰りをもう少し待つのが懸命だと否定する。
 タイムマシンを見つけたのだからもう用は無いだろうと出発を訴え、FBがタイムマシンについて質問するかもしれないと待機を訴える。
 頭の中での議論の未にラボでのもうしばらくの滞在を選び、しかし重要な案件も無いからもどかしかった。
 手持ち無沙汰に耐えられなくなり、気が付いたら無意味な徘徊はラボの中の観察に変わっていった。
 談話室から開発室、キッチンからシャワー室まで歩いて回り、置かれた物の一つ一つも意識するようになっていく。
 同時に、記憶の中の姿と差異がないかそれぞれ比べて、たまに携帯に保存した写真も見てみる。
 一通り眺め終わって、談話室のソファに腰掛けた。
 それなりに時間をかけた割には、これといって変化は見出せなかった。せいぜい飲食物と未来ガジェット1号から7号が無くなっていた程度だ。
 結果がどうであろうと電話レンジと違って重大ではないはずなのに、変わらぬラボの姿に不思議と安堵を感じる。
 そういえば、実際にラボを訪れるのはこれでまだ三回目だ。それにも関わらず、思いのほかラボの構造を把握していた自分自身に驚いた。
 どうしてこれほどに記憶しているのだろうか。それは、簡単な話だ。
『萌郁さんラボ見たいの? じゃあ後で案内してあげるね。まゆしぃ得意なんだよー』
 椎名まゆりが丁寧に教えてくれたから。

272 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 01:59:47 ID:ccodQgH.0

 ラボの中を一緒に歩き回っていた時のとても楽しそうなまゆりの姿は、今でも思い出せる。
 うきうきした声色からは彼女のラボへの愛着がひしひしと伝わってきて、どんな時も絶やすことの無い笑顔は見ているだけで安らぎを感じた。触れた掌の暖かさも印象的だ。
 そんな彼女は、彼女がラボを愛するのと同じようにラボのメンバー達からも愛されていた。それはラボに限らず、まゆりと関わる人すべてに言えるのだろう。
 誰とでも気兼ねなく繋がりを築くまゆりの姿が、萌郁には眩しいほどに羨ましかった。
「凄かったな……椎名さん」
 まゆりは絆を生む才能の持ち主であり、その力は萌郁にさえも向けられた。
 経緯はともかくラボのメンバーに加入することになった萌郁を、まゆりは喜んで受け入れ、積極的に話しかけてくれた。
 気の利いた返事なんてろくに出来ない萌郁にも全く不快そうにせず、ラボが賑やかになってくれると無邪気に喜んでいた。
 あの触れ合いには戸惑いを覚えたが、抱いた感情は決してそれだけではない。
 コミュニケーションに不慣れだから、他者からの好意それ自体を人一倍刺激的に感じたのかもしれない。
 萌郁には願っても得られそうに無い、人懐っこいまゆりの人柄に惹かれたのかもしれない。
 理由は萌郁自身でもはっきり分からないけれど一つだけ言える。まゆりと過ごした時間が嫌なものではなかったことを。
「……なんで」
 萌郁にとっての“世界”に、まゆりは淡く優しい彩りを新たに与え、適度な暖かさと存在感を保ちながら居場所を作った。
 これから関わる時間が増えるにつれて、きっと彼女の領域は広がっていくのだろうと予感がして。

「なんで、いなくなっちゃったの?」
 けれど、欠けてしまった。ちゃちな音と共に呆気なくまゆりの命は絶たれ、彼女の居場所は萌郁の“世界”から抜け落ちた。
 後に残るのは、ぽっかりと空いた暗い穴だけだ。
 ああ、これは。
 身寄りもなく孤独に生き続け、ごく限られた人間関係しか持たなかった萌郁が久しく忘れていた感覚を、今頃になって認識できる。
 殺し合いという異常な環境に翻弄されて目を向ける暇も無かった感傷を、ようやく直視する時が訪れる。
「もう、会えないの?」
 まゆりの死を前にしても、萌郁は泣き叫ぶこともなければ怒り狂うこともない。
 彼女の存在が大きくなりすぎる前の別れだったから、痛みは大きくない。
 でも、それは決してゼロではない。胸中には裂け目が生まれている。瞳だって僅かだけれど揺れ動く。
 ついつい出た溜息が今までのどれよりも重く感じられた。
「……嫌」
 腰掛けるソファの傍らにまゆりが座る時はもう永遠に来ない。消え去った彼女の代わりのように、丸いクッションが置かれていた。
『これがうーぱクッション。疲れた時とか元気が無い時に、むぎゅ〜ってするのー』
 まゆりに言われた通り、傍らのうーぱクッションを両腕でぎゅっと抱きしめてみる。僅かに反発しながらクッションが腕の中に収まっていく。
 この感触が気分を晴らしてくれるような口振りだったのに、陰が取り払われることは無かった。
「椎名さんの嘘つき」

 何も言わず、何も音を立てない時間は突然終わる。
「あっ」
 静寂を破ったのは、FBからのメール着信を表す電子音。抱いていたクッションを脇に置き、すぐさま携帯を取り出す。
 メールに書かれていたのは、一つはラボと電話レンジの発見を褒め労う言葉。
 一つは電話レンジの件を一旦後回しにして、先程の指令の達成に向かう催促。
 最後の一つは、電話レンジを取り扱える人物についての確認だった。
「岡部君と、橋田君と、牧瀬さん」
 まゆりを除く残りのラボメンの名前が書かれていて、三人のいずれかならば電話レンジを取り扱えると見てよいだろうか、と聞かれた。
 また、もしそう判断できるなら彼らと遭遇した場合は合流した上ですぐに報告するように、とも言われた。

273 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 02:01:45 ID:ccodQgH.0

 FBの判断に問題は無い。
 電話レンジの改良を行ったのは橋田であり、実験については紅莉栖が詳しい。岡部はそれらを見届けたのだからある程度の知識を持っているかもしれない。
 電話レンジの使用には、彼らの協力が必要だろう。
 しかし萌郁は、まったく別の点が気に掛かっていた。
「FBは、皆をどうしたいの?」
 タイムマシン研究の独占を目論むSERN、その傭兵部隊ラウンダーの者であるFBは、岡部達の身柄をどのように扱うのだろうか。
 ラウンダーは目的のためなら非合法的な手段にも訴える組織だとよく知っている。
 不完全とはいえタイムマシンを作った彼らがラウンダーのFBと接触したら、果たしてどうなるのだろうか。
 まして今は殺し合いの時で、現に初めて会った警察官はすでに死んだ。命というものがあっさりと奪われる状況下では、何が起こるか分からない。
 まゆりと共に萌郁を決して拒絶することなく受け入れてくれた岡部と橋田と紅莉栖もまた、萌郁にとって無関係な人物ではない。
 短くとも同じ時間を共有し、そしてまゆりの死という同じ痛みを共有している彼らの未来について、思うところが無いわけではない。
 この不安は、彼らの未来への憂いだ。タイムマシンから連想される簡単な問いなのに、なぜ忘れていたのだろうか。
 FBと彼らは何事も無く協力関係を築くことになるのか、それとも利用された末に犠牲になるのか。
 もしも悪い結末ならば、そこにあるのは。

「……そんなの、私が考えることじゃない」
 FBが何を見据えているかを自分が知る必要はないし、知ろうとするべきではない。それが萌郁とFBが長らく続けてきた関係で、今更帰る必要は無い。
 だから、聞かれたことに「はい」と答えるだけでいい。それに込められた意味に目を向けるなど、余計な行為だ。さてメールも送ったことだし早く行動を起こそう。
 萌郁がそう決めるタイミングを見計らったように、一基のタカカンドロイドが窓から入ってきた。右の掌を前に翳すと、その上にそっと着地した。
「本当に見つけてくるなんて」
 どれほど広大かわからない会場全体の中で秋葉原周辺に限定して一人の少女を探すなど、最善とはいえども無茶だと思っていた。それにも関わらず、あっさりと少女は発見できた。
 もしかしたらFBは少女の居場所に目星をつけた上で指令を送ったのだろうかと、またFBの手の内が気になり始める。
 すぐに、瑣末なことだと打ち消す。
 タカカンドロイドにはそれぞれどの方面を探すか印をつけており、今戻ってきたカンドロイドの印は北側を表している。
 ならば、ここから北上すれば目当ての少女を見つけられる可能性が高い。その少女がどこに向かうか不明だが、急げば合流が不可能な距離ではないはずだ。
 時刻はもうすぐ午後三時。早ければ夕方前、遅くとも定時放送の前には見つけたい。

「もう行こう」
 ソファから立ち上がり、早足で入り口へと向かう。靴を履き直して、取っ手を掴んでドアを開けて、ラボの外へと足を踏み出す。
 でも、なんとなく振り返る。誰もいない室内から見送りの言葉がかけられるわけもなく、目が痛くなるほどの空虚さだけがそこにあった。
 見つめるのが辛くなってすぐに前へと向き直り、室外へと出た。

 もしも岡部達が再びラボに集まる時が来たとしても、まゆりを失ったラボで今まで通りの日常を送ることは出来ないだろう。
 今この瞬間でも、時間が傷を癒してくれた後でも、ラボの内側が完全に元通りになることは有り得ない。
 どんな手を使おうと、空いた穴を埋めることなど不可能だから。
 そんなことをぼんやりと考えながら、階段を下りて路地に出た。
 今度はビルの方を振り返ることも無く、目的の方角へと歩き出した。FBへの自分の向かう方向の報告も忘れない。
 今からはFBの指令だけに没頭しようと、黒い靄のかかった思考を止めた。

274 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 02:03:38 ID:ccodQgH.0



 ――FBの指令を受けてから萌郁の抱いた不安は、突き詰めればFBとラボメンの二者択一だ。
 FBからの命令に従い、岡部達を危険に近づけるか。命令に背いて岡部達を少しでも危険から遠ざけるか。
 いずれ解答を求められる問いを、早い段階でぶつけられただけの話だ。
 しかし、こんなものは萌郁にとっては問いにすらならない。
 萌郁は絶対にFBを選ぶ。どんなに迷いや躊躇いを抱こうとも、最後はFB以外を切り捨てる。
 だって、FBは岡部達と出会うずっと前から萌郁の側にいてくれた存在。
 ほんの数十分連絡が取れなかっただけで恐怖と焦燥に心が占められるほどの完全な依存対象。
 萌郁の“世界”の一部どころか、まさに全て。
 たとえ“世界”の一部を欠損させるとしても、“世界”そのものから拒絶されるよりずっとマシだから。
 そんな答えが簡単に出ると分かりきっていながら、萌郁は答えを出すことを止めた。

 桐生萌郁はFBの指示には絶対に従う、言い換えればFBの望みを叶えようとする人間だ。
 求められるのが倫理に反する犯罪行為でも実行し、指令達成を労う言葉をかけられた時には喜びを噛み締める共に首輪の中のセルメダルが増量する。
 しかし、全ての行為を本心から望んで実行するわけではない。それは例えば笹塚衛士を殺害する時に、人並みに保有する倫理観が抵抗を示したように。
 彼の最期を目の当たりにして、自らの手を血で染める背徳感と、他者の人生を許可無く終わらせる罪悪感が心中で生まれたように。
 これら全て、無理矢理心の奥に押し込んだに過ぎない。
 FBから動機を与えられた時に冷血な強さを装えるだけで、本当は傷つける痛みにも傷つく痛みにも臆病なのだ。

 そんな萌郁にとって、先述の二者択一は大きな重圧でしかなかった。
 FBを悲しませ、FBから見放される恐怖。岡部達を危機に晒し、最悪の場合まゆりと同じ道を辿らせ、それを自分の手で引き起こす恐怖。
 相対的に見て後者が小さいというだけで、どちらを選んでも結局は苦しみが齎されるのだから。
 笹塚から命を奪った痛みと、まゆりとの未来を奪われた痛み。その両方を感じてなお新たな痛みに思いを馳せる芯の強さを、萌郁は持ち合わせていない。
 だから、目前の目標達成のための思考だけで完結し、その先やそれ以外のことを想像しない。理由をつけて、覚悟を決めるための一歩を踏み出さない。
 それが今の萌郁の限界だった。
 ……選択の義務から目を背けたところで問題の先送りにしかならないと、心の奥底では理解しているのに。

 なぜ笹塚を殺す必要があったのか。岡部達をどうしたいのか。少女を探す理由は何か。
 些細なことでも大事かもしれないと「笹塚のセルメダル消失」の件を報告したら「考えておく」とだけ返されたが、今はどのように考えているのか。
 そもそも殺し合いにおいて最終的に何を目指しているのか。
 不明瞭な疑問をいくつも持っていながら、その一つも実際に尋ねることなく余計な行為だと自制する。
 今までずっと続けてきた「FBについて詮索しない」関係を崩しかねない行為だけは絶対に取ってはならない。
 そうして目の前の一つの指令以外の全てを頭の隅に追いやって、萌郁はこれからもFBに尽くし続ける。
 どんな指令が来た時でも、さながら機械のようであり続ける。

 悲しく惨い未来を見つめるのが、どうしようもなく――喪失感を知った後だから、尚更――怖いから。

275 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 02:05:40 ID:ccodQgH.0



「岡部倫太郎と、橋田至と、牧瀬紅莉栖ね」
 地面に腰を落としながら、カザリは携帯との睨めっこを始める。大樹は向こうでライドベンダーの座席に腰掛け、つまらなそうに平坦な地平を眺めている。
 連絡の相手は勿論萌郁だ。電話レンジとやらについての報告に対して、関係者について一応の確認が取れた。
 メールの履歴と詳細名簿からの推測通り、開発に携わったラボメンの三人がキーパーソンとなることは間違いない。
 ちなみに阿万音鈴羽も彼らの知り合いだが、どの程度関わっているのか不明なので保留だ。
(タイムマシンとか……面白いもの用意するじゃん、ドクター)
 機能は限定的だが、メールを過去に遅れる画期的なマシンにカザリは心躍る。
 コアメダルやオーズドライバーなど、自分の世界の人間も高度な発明をしていると認識しているが、時間を越える技術など存在しない。
 なのに、こんな形ですぐ側に用意されているなんて。
 見たい。知りたい。使ってみたい。
 カザリの欲望が沸き立つ。ゲームを勝ち抜くための手段として有用だからだけではない。
 未知の領域への探究心が刺激される。“時間の支配”という新たな力への渇望が沸騰しそうになる。
 しかし、今はまだ向かうわけにはいかない。

「ああもう、なんで障害がこんなに多いのかなあ……!」
 苛立ちを露わにするカザリにとっての問題の一つは、萌郁の言うように電話レンジに謎の改造が施されていることだ。真木が何らかの形で介入したせいに違いない。
 二つ目は、情報量の制限だ。FBという男はラウンダーの中でもそれなりの地位があるのだからタイムマシンについての情報を持っているかもしれない、
 なんて予想しながら携帯のメール送受信履歴を見たのだが、あるのは「M4」の名前だけ。上司や同僚とのメールは一つも無かった。
 やはり真木によって削除されたのだろう。萌郁との連絡以外には使うな、とでも言う気だろうか。
 門外漢のカザリとタイムマシンの距離が遠いからこそ先の三人との合流が必須なのだが、そこに三つ目の問題がある。彼らの初期配置だ。
 紅莉栖のスタート地点はカザリからも萌郁からも遠い。岡部は比較的近いのだが、大樹との戦闘後に西方面に逃走したという。この二名との速やかな合流は不可能だ。
 残る橋田至はある程度秋葉原から近い場所からスタートという利点がある。
 しかし彼自身がただの平和ボケした学生であるにも関わらず、彼を取り囲むのはカオスや葛西善二郎のような危険人物ばかりで、橋田を保護するヒーローは見当たらない。
 三人の中で最も命の危機に瀕しているのが彼なのだ。彼が黄陣営であることを考えると、二重の意味で失いたくない人材だというのに。
 出来ることはせいぜい園咲冴子が同陣営という理由で保護してくれるのを願うくらいだ。
 バースすら知らない時期から来た口だけの正義漢の後藤慎太郎もいるが、どうせ戦力外だからわざわざ語らない。
 そして四つ目が、幸か不幸か、メズールが萌郁のすぐ近くまで移動したことだ。
 すなわちメズールとの対決の始まりを指し、ラボメン捜索の余裕など無いと言われているに等しい。

「……仕方ない。二兎を追うものは何とやら、ってことね」
 ラボメンの発見とタイムマシンの利用は当分後回しだ。今は打倒メズールに集中し、北上する萌郁との追跡だけを考えよう。萌郁には乗り気らしいメールを送ったが、それはあくまで一応の対応だ。
 幸い進行方向には(殺し合いの進行の観点ではともかく)比較的常識のある人物が多い。仮に萌郁がメズールより先に彼らと会ったとしても、問題は発生しないはずだ。
「……断言は出来ないけどね」
 殺し合いが始まってからもうすぐ3時間が経過するとなると、危険性のある参加者も各々で移動しているだろう。萌郁の進行方向にそれがいないとは言い切れない。
 そんな相手と出くわしても上手くやり過ごしてくれたら嬉しいが、悪い事態も想定しなければならない。
 自ら死地に赴くのは正直好ましい話ではないのだが、有事の際に彼女の援護に回れるくらいには接近するべきかもしれない。
「とりあえず、駅あたりまで行こうか」
 秋葉原駅なら萌郁と鉢合わせの心配も無く、何かあったらバイクがあればすぐに追いつけるだろう。新しい拠点としては十分か。
 携帯を仕舞って大樹の方へ近づき、再出発の指示を出す。大樹も貴重な戦力だが、場合によっては戦ってもらう必要がある。
 発進したバイクの上で風を感じながら、カザリは平穏無事を願っていた。

276 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 02:07:23 ID:ccodQgH.0

「ところでさ、君の仲間の仮面ライダーと戦って勝つ自信はある?」
「士のことかな? 彼はライダーの力も完全には取り戻してないし、遅れは取らないさ」
「あー、君にとってはそうだった……」
「どういう意味だい? 文句があるなら言いたまえ」
「いや……僕もよく知らないからはっきりは言えないけど、とりあえず油断しないようにね」



【一日目-午後】
【F-8/路上】

【カザリ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、ライドベンダーの後部座席に同乗中
【首輪】90枚:0枚
【コア】ライオン×1、トラ×2、チーター×2
【装備】ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(左腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品、詳細名簿@オリジナル、天王寺裕吾の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:黄陣営の勝利、その過程で出来るだけゲームを面白くする。
1.メズールが居ると思しき場所へ向かい、青陣営を奪う。
2.大樹と共に秋葉原駅へ向かう。
3.萌郁を利用してメズールの持つ戦力を探る。
4.「FB」として萌郁に指令を与え、上手く利用する。
5.笹塚に期待感。きっとゲームを面白くしてくれる。
6.海東に興味を抱きながらも警戒は怠らず、上手く利用する。
7.タイムマシンについて後で調べてみたい。
8.ゲームを盛り上げながらも、真木を出し抜く方法を考える。
9.『閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)』(笑)
【備考】
※対メズール戦ではディエンドと萌郁を最大限に利用するつもりです。一応青陣営である萌郁は意外なところで切り札にもなり得ると考えています。

【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【所属】黄
【状態】ダメージ(小)、ライドベンダーを運転中
【首輪】20枚:0枚
【コア】クワガタ×1(一定時間使用不能)
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、支給品一覧表@オリジナル、不明支給品0〜1
【思考・状況】
基本:この会場にある全てのお宝を手に入れて、殺し合いに勝利する。
1.今はカザリに協力し、この状況を最大限に利用して黄色陣営を優勝へ導く。
2.チャンスさえ巡ってくれば、カザリのメダルも全て奪い取る。
3.他陣営の参加者を減らしつつ、お宝も入手する。
4.天王寺裕吾の携帯電話(?)に興味。
5.“王の財宝”は、何としてでも手に入れる。
6.いずれ真木のお宝も奪う。
【備考】
※「555の世界」編終了後からの参戦。
※ディエンドライバーに付属されたカードは今の所不明

277 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 02:09:27 ID:ccodQgH.0


【E-8/未来ガジェット研究所付近】

【桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】140枚:0枚
【装備】アビスのカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、桐生萌郁の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1(確認済)
【思考・状況】
基本:FBの命令に従う。
1.FBの指示に従い、メズール(名前は知らない)を探す。
2.ラボメンと会った場合は同行してもらう。
3.アビソドンはかわいい。アビスハンマとアビスラッシャーはかわいくない。分離しないように厳しく躾ける。
【備考】
※第8話 Dメール送信前からの参戦です。
※FBの命令を実行するとメダルが増えていきます。

【全体備考】
※E-8 秋葉原駅南西には未来ガジェット研究所があります。
※未来ガジェット研究所内部にはタイムリープマシン@Steins;Gateが設置されています。
 ただし、少なくともメール転送用の携帯電話の撤去が確認されています。

278 ◆jUeIaTa9XQ:2012/08/27(月) 02:10:59 ID:ccodQgH.0
以上で投下を終了します。作品タイトルは「目前のデザイア」です。
本文中で秋葉原の地理を話題にしましたが、原作のまとめwikiが参考になると思います。以下はURLです。
ttp://www45.atwiki.jp/stein_sgate/pages/20.html

疑問点や矛盾点、ご意見ご感想などありましたらお願いします。

279名無しさん:2012/08/27(月) 13:08:12 ID:TfWGJR6s0
投下乙です

未来ガジェット研究所はあって発明品も細工はされてるがあるのか
カザリも大樹も自身の欲望を燃やしながら、そして障害に苛立ちながら前に進むがその先は…
操り人形の萌郁もこのままだとは思わないが岡部達と再会してもややこしい状況だからどうなるやら

280名無しさん:2012/08/28(火) 00:06:14 ID:7VARS1TI0
投下乙でした!

萌郁さんがまゆりの死を悲しんでるところが…もう…
どんだけFBに依存してるって言っても悲しいモンは悲しいよね
少しずつ迷いも出てきてるみたいだしこれからどうなるか楽しみ…!

281名無しさん:2012/08/28(火) 06:02:47 ID:.i6BFc5Y0
投下乙です!
萌郁の心理描写が本当に上手い。アニメしか見てないと、何考えてんのかわからない不気味なキャラだけど、こうしてちゃんと描写して貰えるとこういう人なんだって改めて納得出来る。
さてメズール達のいる方角まで突き止めたが……これはもしかして、メズールのピンチ?はやく仲間見つけるか逃げるかしなきゃやばいぞメズールw
海東もカザリの裏をかこうと色々考えてるみたいだけど、これは何気にメズールだけじゃなくカザリもピンチになるフラグなのかもね。
果たして海東はカザリを出し抜き携帯と萌郁を奪い、黄色陣営を手中に収めることが出来るのか…?

282名無しさん:2012/08/28(火) 16:38:51 ID:mqhBl4ws0
オーズロワ見たが一夏はジャンプロワのゴン蔵みたいにあっけない死に方だな

283名無しさん:2012/08/28(火) 21:14:30 ID:2dNHwjOY0
また予約来てるなあ

284名無しさん:2012/08/28(火) 21:24:16 ID:7VARS1TI0
最近ほんと勢いあるね

285名無しさん:2012/08/29(水) 21:45:38 ID:fHPAN3Rk0
さて、組み合わせが怖いぜ

286名無しさん:2012/08/31(金) 01:53:10 ID:8wV3uXUs0
なんやかんやでもう全体の四分の一が死亡してるんだな(何人かは自立行動不可だけど)
今来てる予約でも一人二人死にそうだしなあ…放送までに死者二十人越えあるでこれ
…と書いていたらゾンビ状態やら死亡後参戦やらで死人自体はもっと多いことに気づいた
ホントアポロさん涙目なロワだな

287名無しさん:2012/08/31(金) 12:42:58 ID:54FG1hjcO
今更予約気付いたけどどっちも同作キャラが……ジンクスくるでぇ

288 ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:30:49 ID:rMh5QpV60
これより仮投下した分の修正版を本投下します。

289さらばAライダー/愛よファラウェイ ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:32:45 ID:rMh5QpV60
 ゲームの開始時点では高く昇ってた日も、今は随分と傾いていた。
 もうすぐ太陽は完全に沈み、この殺し合いの会場にも夜がやってくる。
 徐々に暗くなる空を見上げながら、井坂は静かに呟いた。
「いつの間にか随分と時間が経ってしまったようですねぇ……」
「まー仕方ないんじゃない、あの屋敷で結構な時間休憩したし」
「ふむ……ですが、おかげで体調は万全です。この力を試すのが今から楽しみですねぇ」
 井坂はつい数時間前の憔悴など感じさせぬ足取りで、龍之介の一歩先を進みながら冷然と笑った。
“そう、体調は万全。これもDCSの効果あってのもの……”
 ドーピングコンソメスープは、井坂の傷の回復をも早めてくれた。
 ほんの二時間弱の休憩でほぼ万全まで体力を回復出来たのだから、流石である。
 勿論、人の領分を越えつつある井坂の異常な食欲もその効果を手伝ったのだろうが。
 今はそんなことよりも、一刻も早くこの新しいウェザーの力を確かめたい。
 T2ガイアメモリとやらの力を、この身体で今すぐに実感してみたい。
 そのための標的になってくれるなら誰でもいい。今はともかく実験台が欲しかった。
 目指すアテなどはないが、会場の中心部へ向かえば誰かしらと出会えるだろう。
 井坂はこの場所でも自分の目的のためだけに行動していた。
 そんな井坂の足は、前方から現れた一人の男によって止められる。
 井坂は、男に見覚えがあった。
 赤いジャケットを身に纏い、やや片脚を引き摺りながらあるくその男を知っていた。
 忘れようにも忘れられぬあのギラギラとした目付きに、井坂は何度も対峙してきたのだから。
「おお……! まさかこんなところで君に出会えるとは!」
 我が意を得たり、といったところか。
 待ち望んだ"都合のいい存在"の出現に、井坂の顔に歓喜の色が宿る。
 男の顔は既に傷だらけだが、それでもその双眸は鋭く井坂を睨んでいた。
 奴はきっとこの井坂深紅郎と出会うためだけに、傷付いてもなお歩き続けたのだろう。
 飛んで火に入る夏の虫とはまさにこのこと。
 喜びを禁じ得ぬ井坂は、龍之介を片手で制し言った。
「龍之介くん、すみませんが、あなたはしばらく下がっていて貰えますか?」
「えっ、どうしてさ?」
「彼は私に会う為だけにやってきたのです。ですから、彼の相手をするのもまた私の役目……
 それに何より、私も新しいウェザーの実験をしたいのですよ。わかってくれますか、龍之介くん?」
 物腰柔らかくそう言って、口元をべろりと舐める。
 獲物を前にした肉食獣の舌舐めずりだ。
 何となく状況を察した龍之介は、
「ふーん、わかったよ先生。ま、精々応援させて貰うとするよ」
 そう言って近くのガードレールまで歩き、よっこらせと腰掛けた。
 相手は最早まともな直立すらままならぬ手負いの若者一人。
 よもや新たなウェザーの力を手にした井坂が負けるなどと欠片も思っていないのだろう。
 その予測は正しい。万全な体調で挑む進化したウェザーが、あの男に負けることなど絶対に有り得ない。
 くつくつと笑う井坂を目前に捉えた男は、持ち歩いていたデイバッグを投げ捨て叫んだ。
「見付けたぞッ、井坂深紅郎ぉぉーーーーーーーーーッ!!!」
 激情を露わにして、懐からアクセルドライバーと一本のメモリを取り出した。
 男は何のためらいもなくそれを腰に装着すると、勢いよくメモリをベルトに突き刺す。
 分かってはいたが、奴は人の話など聞こうともしない男だ。もはや問答無用ということらしい。
 野太いガイアウィスパーにエンジン音が続いて、男の姿は赤き仮面ライダーのそれへと変化した。
 井坂もよく知るその男の名は、照井竜――またの名を、仮面ライダーアクセル。
 父と母と妹を井坂の手によって惨殺された、正義感溢れる若き刑事。
 では最後に残った照井竜も家族の元へ送ってやるとしよう。
 井坂もまた、銀色のメモリを取り出した。

          ○○○

290さらばAライダー/愛よファラウェイ ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:33:20 ID:rMh5QpV60
 
 時を遡ること三十分と少しばかり。
 キャッスルドランにて、照井竜は二人の魔法少女から治癒魔法をかけられていた。
 桃色の魔力光は鹿目まどか。黄色の魔力光は巴マミによるものだ。
 照井ら三人が到着した時には、既に到着したまどかが火野映司の治癒を行っていた。
 当然火野映司の治癒が優先されるべきなのだろうが、今こうして照井の治癒を優先して貰っているのは訳がある。
「すまないな、無理を行って俺の治療を優先させてしまって」
「時間がないなら、仕方ないです」
 まどかが苦笑交じりにそう言ってくれた。
 そう、照井竜には、あまり時間がないのだ。
 一刻も早くブースターを会得しなければならない今、ここでゆっくりしている時間もない。
 火野映司には申し訳ないが、照井は特訓の為にすぐにこのグループを離脱する。
 最初はマミと智樹を守りながら特訓するつもりだったが、今は状況が違う。
 あの激戦をも生き抜いた立派な戦力であるまどかと火野がここにはいるのだ。
 火野の暴走は確かに心配だが、聞く所によると彼は元々心優しい青年だという。
 ならば、二度目以降はオーズの力を使うことに関しても慎重になってくれるだろう。
“そうなれば、手負いの俺は足手纏いだからな”
 照井は、このグループに自分の力はもう必要ないと感じていた。
 足手纏いになるくらいなら、自分だけでも離脱して少しでも特訓をする。
 その方が、お互いのためにもずっといい。
 暫しの沈黙ののち、照井はすっくと立ち上がり言った。
「俺はもういい、あとはそこで寝ているオーズを癒してやってくれ」
 そう言って、未だ気絶しているままの火野映司を見遣る。
 無理を言って火野の回復を後回しにさせたのだ、少し悪いことをした気もする。
 が、真人間の照井と比べれば、彼の傷の治りの方が幾分か早いようにも感じられる。
 おそらく、オーズの力は彼自身をも人の領分を逸脱させつつあるのだろう。
 この分ならば、日が沈むまで治癒魔法を施せばそれなりに回復すると思う。
 立ち上がった照井を、巴マミは心配そうに見上げる。
「まだ無理よ、もう少しゆっくりしていきましょう?」
「いいや、ここまで回復すれば上等だ」
 身体はそれ程苦痛を訴えているわけではない。
 第一、ブースターは飛行戦闘用の形態だ。
 多少脚を引き摺っていようが、構う事はない。
「俺のことはもういい、あとはお前たちで話し合ってくれ」
 そう、自分の体調のことよりも、照井は彼らの蟠りの方が心配だった。
 鹿目まどかは何も言及しないが、巴マミに何らかの蟠りを懐いているのは明らかで、
 火野映司の方は暴走していたという話だが、それでも全員に詫びなければならない事がある。
 この場の全員が今後も共に手を取り合っていくためには、話し合いの時間が必要だ。
 けれども、照井にはもう、そんな時間さえも惜しい。
「なあ、もうちょっと寝といた方がいいんじゃねーの? 特訓なんか……」
「しないよりはマシだ。やる意味は必ずある」
 そういって、桜井の言葉を一蹴する照井。
 この世に意味がないことなんて存在しない。
 どんなことでも、積み重ねれば必ず意味が出来る。
 というよりも、出来なければ困るのだ。
“でなければ、俺はいつまで経っても奴に届かん……!”
 照井の家族を皆殺しにした……憎き仇敵、井坂深紅郎に。
 だから照井に、もうこれ以上ここで立ち止まっている心算はない。
 絶対に井坂深紅郎をこの手で仕留めるためにも……
 強い闘志を胸に、照井は最後にこの場の全員に視線を送った。
 ここにいる全員はあの激戦を生き抜いた猛者ばかり。
 まだ年若いが、彼女らならばきっと大丈夫だろう。
「色々と世話になった。俺はもう行く」
「ちょっと待って、照井さん」
 いざキャッスルドランをあとにしようとした照井を呼び止めるマミ。
 マミはもう照井を引き留めようとはしなかった。
 代わりに、デイバッグから取り出した一本のガイアメモリを手渡してくる。
 それは、照井もよくみなれた――加速の記憶を内包した「A」のガイアメモリ。
 ただ一つ照井のものとの相違点を上げるとすれば、端子部が青いということか。

291さらばAライダー/愛よファラウェイ ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:33:47 ID:rMh5QpV60
「これは……?」
 不可解な眼でそれを凝視する照井に、マミが説目する。
「私のデイバッグに支給されていたの。用途がわからないから放置していたんだけどね……
 さっき照井さんのベルトを見た時、“これは貴方に渡さなくちゃいけないものだ!”って思って」
 どうしてかは分からないが、不思議と渡さなければならないという義務感に見舞われたのだという。
 ガイアメモリに添えられて渡されたメモ帳の説明を見るに、それはT2アクセルメモリというらしい。
 正規の使用者以外が手にした場合は暴走するとも取れる説明書きだが、しかしこのメモリはマミに触られても暴走をしなかった。
 そこに照井は疑問をいだく。
“どういうことだ……? まさか、メモリ自体が俺を選び、巴を誘導したとでもいうのか……?”
 いや、考えた所でわかりはしない。
 そんなことは考えるだけ時間の無駄だとかぶりを振る。
 自分にとってプラスになるものなら、何だって受け取るだけだ。
「……難しい顔して、どうかしたかしら?」
「いや……何でもない、ありがたく受け取っておこう」
 そう言って、照井はT2アクセルメモリをポケットにしまった。
「あの、照井さん。私からも渡したいものがあるんです」
 マミに続いて、今度は鹿目まどかがデイバッグを担いで持ってくる。
 元より二つ持っていたデイバッグのうちの片方には、大量のメダルが詰まっていた。
 決して軽くはない筈のそれを、まどかは苦もなく照井に差し出して言う。
「照井さん、多分、さっきの戦いでかなりメダルを消耗しましたよね……?
 ここに百枚メダルが入ってます……せめてこれくらいは持っていってください」
「待て! こんなに大量のメダルを受け取ったら、お前の分が……」
「私は大丈夫です……ガメルが砕かれた時に、沢山、補充したので」
 まどかは何処か哀しげに、絞り出すようにそう言った。
 照井も簡単にだが、話は聞いている。
 まどかの為に戦い、まどかの為に散ったメダルの怪人がいたのだと。
 これは彼の形見なのだろう。事情を察した照井は、それ以上何も訊こうとはしなかった。
 差し出されたデイバッグを開くと、瞬時にそれらが照井の首輪に吸収されてゆく。
 大幅に減らされていたメダルが回復していくのが実感としてわかった。
「感謝するぞ、二人とも。これで俺も憂いなく戦える」
「おい、ちょっと待てよ。俺からもアンタに渡すものがある」
 そういって、渋々ながらもデイバッグを抱え歩いて来た桜井は、
「ホントは渡したくねーんだけど、俺だけ何もなしってワケにもいかねーし……」
 デイバッグの中から数冊の雑誌を取り出し、
「だから……餞別だ、受け取れよ」
 それを、照れ臭そうな笑顔と共に照井へと差し出した。
 殆ど衣類を身につけていない女性が表紙に描かれたその本は……エロ本!
 ガイアメモリ、セルメダルときて、最後に渡されたのが……エロ本!
 予想の斜め上をいく餞別の品に、照井は言葉を失った。
「ホラ、とっとと受け取れよ、マミ達が怪しがってるだろ!」
 上手い事二人の魔法少女に見えない角度で本を差し出して来る。
“これを……俺は……受け取る、のか……?”
 ゴクリと固唾を呑む照井。
 こんなものを貰って、今後役に立つ事があるのか……?
「お、俺は……ッ」
「いいから! 何も言わずに受け取れッ照井!!」
「俺のゴールは……こんなものではないッ!!」
 気付けば照井は、自分でもワケのわからない言葉を口走っていた。
 痛む脚を引き摺って、逃げるように走り出していた。
 この選択は、きっと正しかったのだと思う。

          ○○○

292さらばAライダー/愛よファラウェイ ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:34:20 ID:rMh5QpV60
 
「行っちゃったわね」
 マミの言葉に、まどかは静かに、粛然と頷いた。
 堅苦しい。無意識でもどこか畏まってしまう自分の対応に気分が暗くなる。
 思えば、照井が居た間はまどか自身も勤めてマミと話すまいとしていたように思う。
 別にまどかが意図してマミを避けようとしているわけではない。
 話したいことは沢山あるし、話さなければならないと思う。
 しかし、そんな二人の間には、確かな壁がある。
 マミは魔法少女の真実を知って、仲間の魔法少女を殺した。
 まどかもまた、そんな彼女を止めるためとはいえ、マミを殺した。
 きっとあの時のマミが相手なら、落ち着いて話をしようと思える余裕すらなかっただろう。
 今のマミを見るに、あの時よりは随分と落ち着いている様子だから、話せないことはない筈だが。
 何と言葉をかければいいのか、色々と考えた末に……
「あの、マミさん……話があるんです」
 まどかの第一声は、案外と普通なものだった。
「あら、何かしら?」
「その……私がしちゃったこと、謝りたいなって」
「しちゃったこと?」
 マミは、まるで何事もなかったかのように小首を傾げた。
 忘れる訳がない。自分は、絶望したマミを説得するどころか、殺したのだ。
 まどかは自分の罪を自覚している。だからこそ、とぼけられる方が却って堪えた。
「私が、マミさんのソウルジェムを撃ち抜いちゃったこと、です……」
「……えっ」
 素っ頓狂な声をあげるマミ。
「えっ、ちょっと待って、ソウルジェムが撃ち抜かれると、私は死ぬわよ……?」
「だからっ! 私がマミさんを殺しちゃったことを謝りたくてっ……」
「えっ……えっ!? 私は生きてるけど……えっ!?」
「だ、だからホラっ、ここへ連れて来られる前の話です! マミさんが“みんな死ぬしかないじゃない!”って言って、杏子ちゃんのソウルジェムを撃ち抜いたから、だから、私っ……!」
「た、確かにあの時はそんな事も考えたかもしれないけど……って! それをどうして鹿目さんが知ってるの!? というか、私が佐倉さんのソウルジェムを撃ち抜いたって、何の話……!?」
「えっ……あれっ!?」
 おかしい。話がかみ合わない。
 かといって、マミが惚けている風にも見えない。
 というよりも、彼女は嘘を吐くような人間ではないし、知らないというのなら本当に知らないのだろう。
 だが、だとしたらどうして? 二人の認識には、それぞれ齟齬が生じている。
 どういうワケか、ここに来る前のまどかの記憶とマミの記憶が食い違っている。
 落ち着いて、一から状況を整理して話し合う事が必要かと再認識させられた。
 その一方で智樹は、二人が話し込んでいてくれたおかげで照井にエロ本を渡そうとしていた事実を悟られることもなく、こっそりとデイバッグに隠すことに成功し、ホッと一息ついていたのだった。

          ○○○
 
 バイク形態へと変形したアクセルが、ウェザー目掛けて疾走する。
 ウェザーが両の手から立て続けに放つ光線を回避しながらぐんぐんと突き進む。
 後方の爆発を追い風に。一気にウェザーに迫ったアクセルは、前輪を大きく持ち上げウェザーに襲い掛かった。
 ウィリー装甲による体当たり。高速で回転する車輪をウェザーに叩きつけようという寸法だ。
「……甘いですねぇ」
 されど案の定、照井の思惑通りにはいかない。
 高速回転する車輪はウェザーに片手で受け止められた。
 しかし、そんな事で攻撃の手を緩めるアクセルではない。
 ならばとばかりに後輪を一気に跳ね上げ、空中で人型の形態へと変型――
「――ウォォォォォオオオオオオオッ!!」
 気合いの叫びを迸らせて、エンジンブレードを振りかざす。
 ウェザーの脳天へとそれを振り落とせば、倒せないまでもダメージは与えられる筈だ。
 そんな打算はしかし、ウェザーが巻き起こした突風によって阻まれる。
 身体が煽られる。とんでもない風圧の風に身体を巻き上げられてゆく。
 竜巻の中に巻き込まれたアクセルを次に襲ったのは、十重二十重と稲光を光らせる雷撃だった。
「う、ぉおおぉおおおおおおっ!?」
 防御の姿勢すらろくに取れない竜巻の中で、全身が雷に打たれる。
 竜巻と稲妻の洗礼のあとに待っていたのは、硬いアスファルトの地面への激突だった。
 ディケイド戦でのダメージを引き摺ったまま、いきなりの大打撃。
 全身に刺すような痺れを感じ、上手く立ち上がれない。

293さらばAライダー/愛よファラウェイ ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:35:13 ID:rMh5QpV60
「クッ……!」
 しかし、どれ程の痛みも家族が受けた苦痛に比べればマシだ。
 父と、母と、妹は、これにも勝る痛みと苦痛の中で死んでいったのだ。
 それを思い出した時、燃え上がる愛憎がアクセルに更なる力を与えてくれた。
「負けて、たまるかァッ! 奴がッ目の前に居るのにィッ!!」
 アスファルトの地面に拳を叩き付け、その反動で起き上がるアクセル。
 これは負けられない戦いなのだ。父と母と妹の仇が、目の前にいるのだ。
 何としてもここで奴を討ち取らねば、死んでも死にきれん――!
 死ぬなら、あの照井をこの手で殺した後だ!
「往生際が悪いですねぇ? もっとも、その方が私も楽しめますが。……そんなことよりも、竜巻と稲妻の性能は十分のようだ。むしろ、以前よりも幾分か調子がいい! 次は何の能力の実験に付き合ってくれますか、照井竜くん?」
「きさまぁ……ッ! 黙れッ、黙れぇーーーーーッ!!」
 奴の言葉の一つ一つが照井の神経を逆なでする。
 奴は今もまた、ウェザーの能力の実験台にするためだけに戦っている。
 戦うつもりすらなく、ただ自分の独り遊びのためだけに、そこに立っているのだ。
 誰でも良かった、そんなふざけた理由で殺された家族の最期がフラッシュバックして、照井の頭が怒りと憎しみで埋め尽くされてゆく。
 もはや照井の頭の中には"復讐"の二文字しか存在しない。
 ただ目の前の怪人をブチ殺してやりたい!
 その一心で、アクセルは強化アダプターを取り出した。
 ――ACCEL――
 ――UPGRADE――
 特訓が必要だと言うなら、ここで特訓も兼ねて奴を倒してやるまでだ。
 奴が自分の能力の実験のため照井を利用するというなら、此方も逆に利用してやるまで。
 井坂がまだ知らないアクセルの新たな姿で、今度こそ、因縁の戦いに幕を下ろしてやる――!
 ――BOOSTER――
 高らかに響き渡るガイアウィスパー。
 アクセルの赤い装甲を弾き飛ばし、新たに現れた黄色の装甲がその身を覆う。
 その名はアクセルブースター――井坂深紅郎の知らない、アクセルの新たな姿。
 強化変身を果たしたアクセルの姿をみて、しかしウェザーは慄くどころか、余計に上機嫌に笑った。
「おおおおっ、その強化アダプタは、私も噂に聞いた事があります!
 よもやきみがそれを持っていようとは……是非、私の研究のためそのアダプタも頂戴したいッ!」
「ならば俺から……奪い取ってみろぉーーーーーーーーーーッ!!!」
 裂帛の叫びと共に、全身のスラスターが火を噴いた。
 ジェット噴射の轟音をうならせて、アクセルが空を舞う。
 今のアクセルは、攻撃力と機動力が爆発的に上昇している。
 奴に防御の隙を与えず一瞬で勝負を決めれば……
“勝てるハズだッ!”
 それをこなすには些か訓練が足りない気もする。
 けれども、戦場というのはいつだってそういうものだ。
 訓練などなしで、戦わなければならない時だってある。
 ならばやるしかない。ここであの男を討ち取るしかない。
「行くぞォオオオオッ!!」
 背面のスラスターが、ウェザー目掛けて一気にジェットを噴射した。
 爆発的な加速力でもって、さながら獲物を見定めた猛禽類の如き勢いで加速。
 この短距離をジェットの噴射で加速したのだ、そう簡単に見極められるわけがない。
 案の定、ウェザーが何らかの行動を起こす前に、アクセルの刃がウェザーの胴を切り裂いた。
「先生!?」
 静観を決め込んで居た井坂の連れの男が、慌てて叫ぶ。
 アクセルは、その声さえも掻き消す勢いでジェットを噴射させ、再び空中へ舞い上がった。
 手応えはあったが「倒した」と言える程の打撃を与えた感触はない。
 所詮、攻撃の一手を奴に届かせただけに過ぎないのだ。
「これは少し驚きましたねぇ……"見"のつもりで甘んじて受けましたが……
 いやはや、これは想像以上の素晴らしい加速力です。ますますアダプタが欲しくなりました!」
 嬉々とした声でそう告げるウェザーに、照井は反吐が出るほどの嫌悪を懐く。
 奴はまだこの状況を理解していないのだ。まだモルモットと遊んでいる気でいるのだ。
 自分は絶対的な強者だから、敢えて攻撃を受けてやったのだと、そうのたまっているのだ。
「貴様ァ……いつまでもナメたことをォッ!!」
 再びブースターによって爆発的な加速を生み出す。
 今度はアクセルの周囲を巨大な雷雲が囲い、さっきと同じように稲妻を迸らせるが――
“アクセルブースターの加速は、ウェザードーパントの稲妻攻撃よりも、速いッ!”
 迫り来る稲妻をひらりひらりと回避し、瞬く間にウェザーへと肉薄するアクセル。

294さらばAライダー/愛よファラウェイ ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:35:50 ID:rMh5QpV60
“勝てるッ! この俺が、井坂深紅郎を追い詰めているッ!”
 追い詰めているのは自分で、追い詰められているのが井坂深紅郎。
 なんてことはない、ハンターと獲物の立場が入れ替わった、それだけのことだ。
 もはや冷静な判断能力など望めようハズもない。
 ゴリ押しでも何でもいい、照井の頭の中は、今ここで井坂を倒すことで一杯だった。
 ――ELECTRIC――
 エンジンブレードから鳴り響くガイアウィスパー。
 稲妻迸るエンジンブレードを振り上げて、もう一撃を叩き込んでやろうと肉薄。
 ブレードの切先がウェザーの胴に触れる寸でのところで――切先は、ウェザーに掴まれた。
「なァァ――ッ!?」
「ふむ、どうやら私の反射速度も以前より鋭くなっているようですねぇ」
「きさま……っ!」
「残念ですが、進化したのはあなただけではないのですよ」
 こいつは最初の一撃を受けて、二度目以降は稲妻をけしかけた。
 まさかこいつは、全てアクセルの攻撃を見切る為に、観察する為に……?
 いや、だから何だと言うのだ。奴の思惑などどうでもいい、何だっていい!
 家族の仇である井坂深紅郎を前にして、照井の心が折れることなど絶対に有り得ないのだ!
「クソッ、クソォォオオオッ!! 貴様だけはゆるせん! この井坂深紅郎だけはッ!!」
 もはやアクセルに退路はない。
 このまま押し切るほかに道はないのだ。
 乾坤一擲、背部のブースターの出力を全開にする。
「うおっ!?」
 驚愕の声を上げたのは、ウェザーだ。
 エレクトリックのエネルギーを纏ったエンジンブレードを、ブースターの爆発的な加速力で押し切ったのだ。
 ゴリ押しもいいところだが、それで奴を倒せるのならば何だって構いはしない。
 一瞬よろけたウェザーを置き去りにブースターの加速力で遥か後方へ飛んでゆく。
 十分な加速を得られる距離まで離れたアクセルは、そのまま高速でUターン。
 ――ENGINE――
 ――MAXIMUM DRIVE――
「――ッ!!!」
 それにはもはや掛け声すらも存在しない。
 持てるチップの全てを賭けた、のるかそるかの大博打。
 これで倒せなければ、その時は本当の本当に絶望のゴールへ一直線だろう。
 眩い金の輝きを放つ刃を振りかぶったまま、アクセルとウェザーの影が交差する。
 エンジンブレードは、ウェザーの身体に触れた途端に大出力のエネルギーを解き放った。
“……やったぞッ!”
 アクセルの必殺技は、確かに決まった。
 一瞬で飛び抜けたアクセルの後方で響く爆発音。
 ウェザーから数十メートルも離れた場所まで滑空したところで、アクセルもまた力尽きる。
 体力の消耗が激しいのだ。ブースターからの噴射が途切れ、アクセルの身体は地に堕ちた。
 膝がアスファルトを叩く。エンジンブレードの切先が、アスファルトに減り込む。
 そして振り返ったアクセルが見たのは……無傷で佇立するウェザーの姿だった。
「何故、だ……ッ!?」
「中々に鋭い攻撃でしたが……言った筈ですよ、進化したのはあなただけではないと」
「手応えはあった……!」
「ええ、あなたの攻撃は確かに受けましたとも」
「ッ!?」
 そこで、ウェザーの腰に装着されていたチェーン爆弾がなくなっている事に気付く。
 奴は、これまた寸での所でアクセルの攻撃を見切り回避を成功させていたのだ。
 エンジンブレードが切り裂いたのは、腰にぶら下げていたウェザーマインでしかなかったのだ。
 奴が起こした爆発だと思っていたのは……ただの奴の携行爆弾でしかなかったのだ。
「ウ、ウォォオオオアアアアアアアアーーーーーーーーッッッ!!!」
 結果を悟った途端、全身の力が抜け落ちた。
 アクセルの仮面から漏れる、慟哭にも似た絶叫。
 結局自分は、家族の仇を取ることが出来なかったのだ。
 エンジンブレードを思い切りアスファルトに叩き付け、地面を砕く。
 癇癪を起した子供と何も変わらない無意味な八つ当たりだった。
 そんなアクセルの背後まで悠々と歩を進め、その襟首を掴んだウェザーは、片手でアクセルの身体を捻り上げる。
「う、ぐぅっ……離せェェッ!!」
「そうはいきません。私はもっとT2ウェザーの性能を見極めなければならない」
「T2、だと……ッ」

295さらばAライダー/愛よファラウェイ ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:36:26 ID:rMh5QpV60
 ウェザーも進化したとはどういうことだろうかと考えてはいたが。
 今の一言で、照井の中でも合点がいった。この男は、T2メモリを使っているのだ。
 T2ガイアメモリの性能は知らないが、ただT2になっただけでこれ程までに強化されるのなら――
 此処へ来る前に巴マミから譲り受けたT2アクセルメモリを思い起こし、
「さて、次は冷気の性能でも確かめてみましょうか」
「!?」
 しかし、時既に遅し。
 刹那、アクセルの全身を凛冽な冷気が襲った。
 まるで氷の中にでも閉じ込められているような気分だった。
 冷気は瞬く間にアクセルから体温を奪い、十秒も待たずにアクセルの手足は動かなくなった。
「おやおや、少しやりすぎましたかねぇ? もう少し持ちこたえると思ったのですが」
 体力の限界だ。
 すぐにアクセルの装甲が消失して、ベルトからアクセルメモリが排出される。
 アクセルメモリが所有者の体力低下を察知して、自動的に変身を解除したのだ。
 掴んでいた襟首がなくなったことで照井の身体は地に落ちるが、しかし追撃の手は緩みはしない。
「う……ッ!?」
 ウェザーが照井の腹を蹴飛ばしたのだ。
 腹に伝わる鈍い痛みに、照井は無様にもゴロゴロと転がり煩悶する。
 今の痛みは、ウェザーの蹴りによる痛みだけではない。
 地面をのたうちながら腹を見れば――
「……あぁッ!?」
 粉々に砕け散ったアクセルドライバーが、照井の腹に減り込んでいた。
 まるで"交通事故で滅茶苦茶になったバイク"よろしく、見る影もなくなったソレに手を伸ばす。
 メモリの挿入部は完全に潰され、バックル本体も、二度と使い物にならない程に砕かれていた。
「バカな……俺のアクセルドライバーが……っ」
「どの道そんなベルトを使っている限り私は倒せませんよ」
 嘲笑混じりのウェザーの声に、照井はついに「仮面ライダー」の力に限界を感じた。
 元より、奴を倒せるなら仮面ライダーでもそうでなくとも構わない、とは思っていたが。
 どの道、仮面ライダーの力では奴には敵わなかった事が今、証明されてしまった。
「そんなことよりも、これが強化アダプタですか……実に興味深いですねぇ」
 そう言って、ウェザーが手に取ったのはアダプタが接続されたままのアクセルメモリ。
 さっきの強制排出の際に足元に落ちたそれを、ウェザーの大きな手でつまみあげる。
 強化アダプタから容易くアクセルメモリを引き抜いたウェザーは、
「や、やめろ……」
 それを軽く、握り締めてみせた。
「やめろぉぉおおおおおおおおッ!!!」
 照井の絶叫も虚しく。
 ウェザーの手から零れ落ちていく赤のメモリは、既に原形を留めてはいなかった。
 外装は既に粉々。中身の基盤は奴の手の中で折られて割られ、ただの機械の残骸になった。
 如何に地球の記憶を宿したガイアメモリといえども、壊れてしまえばただのガラクタ。
 今まで共に戦って来た相棒の最期を目に焼き付けた照井は、痛む身体に鞭打って、怒りの絶叫と共にもう一度立ち上がった。
「井坂ぁ……深紅郎ォォッ! きさまッ、貴様ァァーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
 照井は、また目の前であの男に奪われたのだ。
 家族だけでなく、今度は照井に唯一残されていた戦う為の力すらも。
 奴に敵うかどうかが問題なのではない。
 例え敵わなくとも、このまま黙って殺される事だけは我慢ならない。
 憎悪と憤怒と、そして最後に残ったプライドが照井を立ち上がらせたのだ。
 この行動、一見何の打算もないただの悪足掻きにも見えるが、しかしそうではない。
 照井には直感があった。
 何の根拠もないが、この怒りと絶望に応えてくれるものが居てくれる確信が。
 もしも照井の想像通り、あの時"T2"が巴マミを誘導したのだとしたら――
 アイツは必ず、この堪え難い憎しみに応えてくれるハズだ!
 そして照井は見た。
 さっき自分が投げ出したデイバッグから、矢のように飛び出た赤い影を。
 照井の想像は正しかった。
 まだ戦える、まだチャンスは残っている。
 絶望の中で掴んだ希望に、照井はその手を伸ばし走り出した。

296さらばAライダー/灼熱の怒り ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:37:19 ID:rMh5QpV60
 キャッスルドラン内部の洋室は、厳かな空気にしんと静まり返っていた。
 ついさっきまで、二人の魔法少女は火野映司に治癒魔法をかけていた。
 今は火野映司の容態も安定してきたので、メダルの消費を考えて休んでいるが。
 マミはその間にまどかと話し合った内容を頭の中で整理する。
 にわかには信じ難い話だったが、しかしそれが事実なら、恐ろしいことだと思う。
 もう一度情報を纏めるわよ、と前置きをしてから、マミは言葉を続けた。
「私が連れて来られたのは、美樹さんの魔女が倒された直後。
 鹿目さんが連れて来られたタイミングは、それよりもずっと未来。
 ……それで、あなたの知る私は、佐倉さんを殺して、心中をしようとした……と」
「そういうことになりますね……」
「それが意味するところは、つまり」
「あの真木清人っていう男の人は、ほむらちゃんみたいな力を持ってる……」
 まどかの言葉に、マミはゴクリと固唾を呑んで頷いた。
 まどかの話が本当なら、二人はそれぞれ別の時間軸から連れて来られたことになるのだ。
 だとすれば、暁美ほむらの時間操作能力と似てはいるが、それよりももっと悪質で、自由度の高いものだ。
 最初はマミが好きそうなネタでからかっているのかとも思ったが、まどかがそんな子でないことは知っている。
 何よりも、マミにとってはつい数時間前だが、あの時の精神状態ならば、心中という考えに思いいたってもおかしくはない。
 ……するとなると、
「真木清人は、神をも冒涜する十二番目の理論に手を出していることになる……!」
 この場の大勢の命を握っている殺人鬼は、時間流にまで介入する術を持っているのだ。
 だとすると、例えこの殺し合いを打破したとしても、真木にはどうとでも逃げる手段がある。
 幾らでも、何パターンでも、やりようがある。
 それは非常におそろしいことだ。
「これは……ちょっとマズいかもしれないわね。思っていたよりも敵は強大よ」
「敵……ってことは、やっぱりマミさんもこの殺し合いを止める為に……!?」
 驚きつつも、ぱっと明るくなるまどかの声。
 マミがまた味方になってくれるのが嬉しいのだろうか。
 ならばやはり、頼れる先輩として自分がまどかを導く必要がある。
「当たり前じゃない、私達は仲間でしょう? また一緒に戦いましょう、鹿目さん」
「でもっ……! マミさんからしたら未来の話とはいえ、わたし……マミさんのこと、殺したのに……? そんな私と……」
「ううん、もういいの。そうするしかなかったんでしょう?」
 鹿目まどかは誰よりも優しい女の子だ。
 好き好んでマミの命を奪うことなどする訳がない。
 それはむしろ、心中などという馬鹿な結末を選ぼうとした自分が叱咤されるべきことだ。
 しかし、まどかがそんな事をする子でないということも分かっている。
 ならば、やはり先輩の自分が率先して仲直りを申し出るべきだ。
「それに、原因は私なんだし、お相子よ。ね?
 だから……これはお願いよ。これからもずっと、私と一緒に戦ってくれないかしら?」
「マミさん……っ、そんな、こちらこそ……!」
 心から嬉しそうに、まどかは首肯した。
 これで憂いの一つは消え去った。
 もうマミとまどかの心が離れることはないだろう。
 これからも、仲間としてずっと一緒に戦っていける。
 一度は離れ離れになった二人は、熱い友情によって再び結ばれたのだから。
“私はもう一人じゃない”
 その事実が、マミの心を満たしていた。
 こんな殺し合いの場だからこそ、残りの魔法少女たちともきちんと話し合おう。
 まどかとマミの二人にそれが出来たのだから、他のみんなとも分かり合えない訳がない。
 美樹さやかがどのタイミングから連れて来られているのかはやや心配ではあるが……
 そんなことを考えていたマミの肩を、智樹の手が叩いた。
「おい、もうそっちの話は終わったか?」
「ええ、待たせて悪いわね、桜井くん。そっちの用事ももう終わった?」
「お、おう……まあな?」
 少し罰が悪そうにデイバッグを後ろ手に隠す智樹。
 マミ達は知らない事だが、智樹は二人が"難しい話"をしている間、ずっと一人でエロ本を読んでいたのだった。
 全く無駄な時間の使い方と思われがち、それが智樹の活力になるのだから、一概に無駄とも言い切れないから恐ろしい。
「ってそんなことよりもだな! コイツが目を覚ましたぞ!」
「あっ……」
 見れば、智樹の後ろに横たわっていた火野映司が上体を起こしていた。
 所在なさげに目を伏せるその表情は沈鬱だが、傷の治りは悪くは無さそうだった。
 治癒魔法の甲斐もあって、短期間で目を覚ましてくれたのだろう。

297さらばAライダー/灼熱の怒り ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:37:59 ID:rMh5QpV60
 マミはホッと安堵し、そして次に、自分の気を引き締める。
 彼の話は聞いている。本当は優しい青年なのだそうだが、話さなければならないことがある。
 ここは先輩魔法少女として、まどかと火野映司の仲を取り持って、平和的な解決を望みたいところだが。
 そう一人意気込むマミら三人に、火野映司はおそるおそるといった様子で自己紹介をした。
「えっと、助けてくれてありがとう。俺は火野映司……ここは?」
「ここはキャッスルドラン、あの会場の施設の一つよ」
 マミの言葉に、映司は「そっか」と呟いた。
 今のマミに、それ程の不安はない。
 ついさっき、まどかとも分かり合えたばかりなのだ。
 きっと火野さんともきちんと話し合えば分かり合えるハズだと、そう思う。
 一度は絶望に打ち勝ったマミだからこそ、今はこの場の誰よりも前向きなのだった。
“うん、やっぱり私がしっかりしなくちゃね。頼れる先輩魔法少女として……!”
 照井から託された"志筑仁美"さんのこともある。
 彼女が帰って来た時に、自分が率先して安心させてあげよう。
 その為にも、今はまずこの場の全員に安堵をもたらす必要がある。
 誰にも悟られる事なく、マミは内心でひとりはりきるのであった。


【一日目-夕方】
【C-6 キャッスルドラン内部】

【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)
【首輪】150枚:0枚
【コア】タカ:1、トラ:1、バッタ:1、ゴリラ:1、プテラ:2、トリケラ:1、ティラノ:2
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
 0.俺はまた暴走してたのか……。
 1.この場のみんなと話をしなくちゃならない。
 2.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
 3.もしもアンクが現れても、倒さなければならないが……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※ガメルのコアメダルを砕いた事は後悔していませんが、まどかの心に傷を与えてしまった事に関しては罪悪感を抱いています。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっています。
※暴走中の記憶は微かに残っています。
 
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】白・リーダー代行
【状態】哀しみ、決意
【首輪】180枚:30枚
【コア】サイ(感情)、ゴリラ:1、ゾウ:1
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、ファングメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式×2、詳細名簿@オリジナル、G4チップ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品×1、ワイルドタイガーのブロマイド@TIGER&BUNNY、マスク・ド・パンツのマスク@そらのおとしもの
【思考・状況】
基本:この手で誰かを守る為、魔法少女として戦う。
 0.マミさんとはこれからもずっと仲間!
 1.映司さんともちゃんと話がしたい。
 2.ガメルのコアは、今は誰にも渡すつもりはない。
 3.映司さんがいい人だという事は分かるけど……
 4.ルナティックとディケイドの事は警戒しなければならない。
 5.ほむらちゃんやさやかちゃんとも、もう一度会いたいな……
 6.真木清人は時間の流れに介入できる……
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、ほむらに願いを託し、死亡した直後です。
※まどかの欲望は「誰かが悲しむのを見たくないから、みんなを守る事」です。
※火野映司(名前は知らない)が良い人であろう事は把握していますが、複雑な気持ちです。
※仮面ライダーの定義が曖昧な為、ルナティックの正式名称をとりあえず「仮面ライダールナティック(仮)」と認識しています。
※サイのコアメダルにはガメルの感情が内包されていますが、まどかは気付いていません。
※自分の欲望を自覚したことで、コアメダルとの同化が若干進行しました(グリード化はしていません)。
※メズールを見月そはらだと思っています。
※真木清人が時間の流れに介入できる事を知りました。

298さらばAライダー/灼熱の怒り ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:38:35 ID:rMh5QpV60
 
【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】黄
【状態】割と上機嫌、疲労(小)
【首輪】80枚(増加中):0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:頼れる"先輩魔法少女"として極力多くの参加者を保護する。
 0.私はひとりぼっちじゃなかったのね!
 1.火野映司から話を聞いて、この場のみんなを纏める。
 2.他の魔法少女とも共存し、今は主催を倒す為に戦う。
 3.ディケイドを警戒する。
 4.真木清人は神をも冒涜する十二番目の理論に手を出している……!
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、魔女化したさやかが爆殺されるのを見た直後です。
※真木清人が時間の流れに介入できることを知りました。
※ひとりぼっちじゃないことを実感した上、先輩っぽい行動も出来ているのでメダルが増加しています。

【桜井智樹@そらのおとしもの】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】ダメージ(中)
【首輪】150枚:0枚
【装備】なし
【道具】大量のエロ本@そらのおとしもの、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:殺し合いに乗らない。
 1.これからどうすんの?
 2.知り合いと合流したい。
 3.二度と変身はしない。
 4.いつかマミのおっぱいを揉んでみせる。絶対に。
 5.残りのエロ本は後のお楽しみに取っておく。
【備考】
※エロ本は半分程読みました。残り半分残っています。
※二人に隠れてエロ本を読んでいたのでメダルが増加しました。

299さらばAライダー/灼熱の怒り ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:39:12 ID:rMh5QpV60
 
          ○○○

「――何が、起こったのですか!?」
 驚愕の声を漏らすのはウェザー。
 状況は確実に井坂の優勢である筈だった。
 ベルトもメモリも破壊した。身体もボロボロに傷め付けてやった。
 照井竜がこれ以上この井坂深紅郎に牙をむくことなど、有り得る訳がない。
 そう思っていたのに……ウェザーの手の中のアダプタが消失している。
 どうして? アダプタは何処へ消えたのか。
 いや、分かっている、消えたのではない。
 消えたのではなく――
「――この強化アダプタは返して貰うぞ」
 ウェザーの後方に佇む"アクセル"がそう言った。
 薄暗い夕闇の中で、青いバイザーの奥に隠された円状の複眼が眩く輝く。
 細部の形状の違いこそあれど、メタリックレッドの装甲を纏ったその姿は紛れもなく"アクセル"だ。
「何故、です……何故アクセルに!?」
「俺に質問をするな」
 ベルトもメモリも失った照井竜が、一体どうして再びアクセルに変身出来る?
 変身出来る訳がない。奴が再び仮面ライダーアクセルに変身することなど……
 そこまで考えて、そこで井坂は気付いた。
“いや、待て! アレは違う! "仮面ライダーアクセル"ではないッ!”
 井坂が意識を向けたのは、奴の腹部の装甲だ。
 腹部にバイクのハンドルにも似た装甲を纏っているが、それはベルトではない。
 アレはあくまでアクセルの身体の一部で出来た装甲だ。メモリも刺さってはいない。
 仮面ライダーアクセルと酷似した外見をしているが、しかしよく見れば、全身がかつてとは違う。
 その身体を覆う装甲は以前の機械的なものと比べれば、よりドーパント然とした生物的なフォルムをしている。
 むしろ"照井竜は仮面ライダーである"という固定観念を捨て去ってみれば、奴のそれはまさしくドーパントの肉体といえるだろう。
「そうか……そういう事ですか! ようやくわかりましたよ!」
 井坂が思い起こすのは、ほんの数秒前の出来事。
 最後の悪あがきで立ち上がった照井竜の下に飛翔してきたのは、赤きガイアメモリ。
 それに目を奪われた一瞬の隙に、奴は自らそれを掴み取り、首筋へと叩き込んだ。
 赤いガイアメモリは照井の身体に吸い込まれるように首筋へと入っていった。
 そこから起こった全ては、ほんの一瞬だった。
 照井の身体が赤い輝きを放ったかと思えば、奴はさながら炎の弾丸よろしくこのウェザーの懐に飛び込み、強化アダプタを奪還せしめたのだ。
 つまり、奴は生温いドライバーで変身していた軟弱な"仮面ライダーアクセル"では既にない。
 今の奴は、自立行動する次世代型のガイアメモリ"T2アクセル"と融合した戦士。
 この"T2ウェザー"と同じ次世代型のドーパント……
 言うなれば、T2アクセル・ドーパントといったところか――!
「なるほど……従来のアクセルは死に、T2アクセルドーパントとして復活したという訳ですか!」
「復活ではない……進化だッ! きさまへの怒りと憎しみが、俺をもう一度立ち上がらせたッ!」
 そう言って、アクセルは元より携行していたエンジンブレードを振り上げる。
 既に満身創痍だった筈の身体で、アクセルは再びこのウェザーに挑もうというのだ。
 何度負かしても、どんなにいたぶっても、傷付ければ傷付く程に強くなるその心。
 その不屈の闘志に、消える事のない桁違いの憎しみに、井坂は称賛さえ送りたくなった。
「素晴らしい、素晴らしいですよ! 照井竜くん! もっと私に、その可能性を魅せてくださいッ!!」
 井坂深紅朗は今、確信を懐いたのだ。
 あの男は、照井竜はガイアメモリを更なる次元へ進化させる可能性を秘めている!
 あの男は、自分で言った通りにT2アクセルメモリを更なる高みへと進化させてくれる!
 あの男は、この井坂深紅郎がいる限り、究極を目指し何処までも進化を続けてくれる!
“ああぁ……これだからガイアメモリの研究はやめられないんですよぉ!”
 ウェザーの仮面の下で、ジュルリと舌をなめずる音が聞こえた気がした。
 遊んでやろう。そしてじっくりとその進化の程を見極めてやろう。
 嬉々として雷雲を呼ぶウェザーに対して、
「さあ思い切り……振り切るぜッ!!」
 アクセルは脹脛に装着されていた車輪を地面に滑らせ滑走を開始。
 ウェザーが放った雷撃を右へ左へと回避しながら、高速で走り来るアクセル。
 なるほど確かに今までのアクセルよりも幾分か速度は上がっているのだろう。
 が、この程度ならば先のブースターにも劣る。対処が出来ないワケはない。

300さらばAライダー/灼熱の怒り ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:39:46 ID:rMh5QpV60
「では、次はこれはどうです?」
 正面に広範囲に冷気の壁をつくり、そこから猛吹雪を放つ。
 点の攻撃は回避出来ても、面の攻撃を回避する術など持ってはいまい。
 無数の雪がその身体を凍て付かせんとアクセルに迫る。
 だが――!
「そんなものでッ!!」
 雪がアクセルに降り積もる前に、アクセルの身体が急激な赤熱化を開始した。
 ほんの一瞬でその身体を灼熱の弾丸へと変えたアクセルは、降り掛かる吹雪の全てを溶かしてのける。
 凄まじい蒸気を発生させながらウェザーに迫ったアクセルは、灼熱の炎をその身に纏ったまま、
 ――ENGINE――
 ――MAXIMUM DRIVE――
 アクセルとエンジンメモリの相乗エネルギーを得たエンジンブレードを振り下ろした。
 間合いも、気迫も、完璧だ。並のドーパントなら、確実にメモリブレイクは免れないだろう。
 しかし、このT2ウェザーを操る井坂深紅郎を仕留めるには、まだ詰めが甘い。
 これで勝てると一瞬でも思ったのであれば、甘過ぎる。
 炎の刃が届くよりも先に、ウェザーが発生させたのは豪雨を孕んだ雨雲。
 アクセル目掛けて一転集中とばかりに降り注ぐ雨は、その身の熱を大幅に奪った。
 こちらの雨もかなりの勢いで蒸発せしめられたが、それでも効果の程は十分。
 元より満身創痍のアクセルは、豪雨に打たれた事で僅かにその勢いを失った。
 ウェザーほどになれば、回避するには十分過ぎるほどだった。
 今回も最小限の動きで僅かに身体を右へずらし、アクセルの一撃を回避する――
「……えっ!?」
 ――つもりだった。
 炎を纏ったアクセルの蹴りが、回避した右側から急迫したのだ。
 突然の姿勢変更。振り下ろした剣はそのまま、脚部だけを回し込んで蹴りに来たのだ!
 たまらず頓狂な声をあげるウェザー。一撃ならばともかく、二段構えの攻撃に回避の術はない。
 強烈な横からのキックを脇腹に受けたウェザーは当然元居た場所まで蹴り戻され、
「トドメだぁーーーーーーーーーーーーッ!!!」
 そこへ迫る炎と稲妻を纏ったアクセルの剣。
 蹴りで受けたダメージと、エンジンブレードによるトドメの一撃。
 まさしく必殺の技といえるそれが迫り来るのを、ウェザーはスロー映像でも見るかのように眺めていた。
 人が交通事故に逢う瞬間などに体験するといわれる、アドレナリンによるスロー現象だ。
 なるほど体内でアドレナリンが過剰分泌された時というのは、こういうふうになるのか、と。
 井坂深紅朗は、ウェザードーパントの肉体を得た上で、その効果の程を実感していた。
 アクセルの攻撃がスローモーションに……否、止まっているかのように見える。
 そこで黙って見ているだけでないのが、井坂深紅郎という男の恐ろしいところだった。
 回避の時間はないが、やられることもない。
 奴はこのウェザーを相手によくやった。
 その善戦、褒めてやってもいい。
 だが……やはりまだ詰めが甘い。
「―――――――――――――ッ!!」
 攻撃に転じる一瞬の隙。がら空きになっていたアクセルの胴に、特大のカマイタチをブチ込んだ。
 気象を操れるウェザーには、アクセルと違い、幾つもの技のバリエーションがある。
 例え何処まで肉薄されようとも、ウェザーが手札を全て切ることなど有り得ない。
「う、ぁ――ッ!?」
 体勢を崩したアクセルの身体が大きく吹っ飛ぶ。
 が、それでも。敵が繰り出した技も、意地の一撃。
 流石に完全にカウンターを決める事は出来ず、アクセルの一撃もまたウェザーの肩をかすめた。
 肩から叩き込まれた炎と稲妻のエネルギーに、ウェザーの身体が爆ぜて吹っ飛ぶ。
「グゥ……ッ!」
 ――しかし、予想の範囲内だ。
 上手く風を操って、地面への激突は避ける。
 ウェザーは、寸での所で身体を打ち付けることもなく着地した。
 対するアクセルには、もはや受け身を取る余裕もなかったのだろう。
 身体を派手にアスファルトに打ち付け、ガイアメモリを排出していた。
「どうやら、私の勝ちのようですねぇ」
 まだ戦闘行為の続行が可能であるウェザーを前にしての変身解除。
 決着はついた。この勝負、勝利者は井坂深紅郎である。

301さらばAライダー/灼熱の怒り ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:40:23 ID:rMh5QpV60
“……まあ、よくやった方だと褒めてあげましょう”
 アクセルの一撃を受け、痛む肩を抑えながら内心でごちる。
 あの小僧、当初思っていたよりも随分とやるようになった。
 手加減を抜きにした、この井坂深紅郎にほんの一撃でも与えたのだから。
 奴は確かに滅多にお目にかかれない逸材であった。
「井坂ッ……深紅、郎ォォ……ッ!」
「……ほう! まだ立ち上がると言うのですか!」
 全身に擦り傷と醜い痣を作りながら、それでも照井は立ち上がる。
 いや、立ち上がろうとして、しかし力及ばず、その身体は地へとくずおれた。
 当然だ。ただでさえ手負いの状態で幾度となくウェザーの攻撃を受けたのだから。
 むしろ、それでもまだ立ち上がろうとするその根性はやはり称賛に値する。
 が、勝負は勝負だ。この戦いに勝ったのは井坂だ。
 貰うべきものは貰ってゆこう。
「それでは、君のメモリとアダプタを……」
 後ろ手に手を組んだままゆっくりと照井の元まで足を進めるウェザー。
 照井の手に握り締められたメモリとアダプタへと手を伸ばそうとしたところで、
“いや……待て、この小僧……”
 その手は、ぴたりと止まった。
 照井竜は、今も怒りと憎しみに燃える昏い瞳を此方に向けている。
 どす黒い感情を真っ向からぶつけられて、そこで井坂の気は変わった。
 伸ばしかけていた手をひっこめ、嘲笑混じりに照井の顔を俯瞰する。
「照井竜くん、君はやはり素晴らしい逸材だ。君にはまだ可能性があります。私への怒りと憎しみはきっと、そのT2アクセルメモリをもっと高次元のメモリへと進化させることでしょう」
「な……にィッ!?」
「君を殺すのはそれからです。アダプタもその時一緒に頂きましょう。それまでは竜くん、精々私を怨み、憎み、力を蓄えることです。君が次に私の目の前に現れてくれるその時まで、私もこの殺し合いを楽しんでいましょう」
 そう言って、ウェザーの耳元からT2ウェザーメモリを排出する。
「それでは、その時が来るのを待っていますよ」
 メモリをポケットにしまった井坂は、涼しげな表情で照井を一瞥すると、最後に会釈をして踵を返した。
 どの道、アクセル風情がいくら進化したところで、同じく進化を続けるT2ウェザーを倒すのは不可能だろう。
 事実、今回もブースターやT2と色々見せてくれたが、どれもウェザーには届いていないのだから。
 ならば、そんな相手を今すぐに殺してやることもない。
 精々怒りと憎しみの炎を燃やして、アクセルメモリを進化させるがいい。
 ちょうどいい捕食の頃合いが来たら、その時は確実なトドメを刺してやろう。
“ふふ……楽しみにしていますよ。君のアクセルメモリが私のものになるその時を……!”
 井坂深紅郎は静かに笑う。
 インビジブルメモリに引き続いて、また新たな楽しみを見付けたのだから。
 照井が派手にばら撒き続けたセルメダルを、まるで磁石が砂鉄を集めるかのように吸い寄せ回収しながら、井坂は泰然自若と龍之介の元へ戻っていった。
「ヒュゥゥ〜〜〜ッ! 楽勝だったね、先生!」
「ええ、当然です」
 子供のようにはしゃぐ龍之介。
 そんな彼を見て、井坂はふと思った。
“……照井竜といい、龍之介くんといい、やはり私は"竜"に縁があるのでしょうか?”
 そんな取り留めもない事を考えながら、井坂と龍之介は引き続き会場の中心部へと向かってゆくのであった。

302さらばAライダー/灼熱の怒り ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:40:52 ID:rMh5QpV60
 

【一日目-夕方】
【C-5 市街地】

【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】ダメージ(小)、肩にエンジンブレードによる斬り傷
【首輪】40枚(増加中):0枚
【装備】T2ウェザーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、ドーピングコンソメスープの入った注射器(残り三本)&ドーピングコンソメスープのレシピ@魔人探偵脳噛ネウロ、大量の食料
【思考・状況】
基本:自分の進化のため自由に行動する。
 0.照井竜の成長ぶりに期待大。
 1.インビジブルメモリを完成させ取り込む為に龍之介は保護。
 2.T2アクセルメモリを進化させ取り込む為に照井竜は泳がせる。
 3.次こそは“進化”の権化であるカオスを喰らって見せる。
 4.ドーピングコンソメスープとリュウガのカードデッキに興味。龍之介でその効果を実験する。
 5.コアメダルや魔術といった、未知の力に興味。
 6.この世界にある、人体を進化させる為の秘宝を全て知りたい。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※ウェザーメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※ウェザーメモリの残骸が体内に残留しています。
 それによってどのような影響があるかは、後の書き手に任せます。
※ドーピングコンソメスープを摂取したことにより、筋肉モリモリになりました。

【雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【コア】コブラ
【装備】カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダーディケイド、サバイバルナイフ@Fate/zero、インビジブルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO、螺湮城教本@Fate/zero
【思考・状況】
基本:このCOOLな状況を楽しむ。
 0.先生つえー! 最ッ高にCOOL!
 1.しばらくはインビジブルメモリで遊ぶ。
 2.井坂深紅郎と行動する。
 3.早く「旦那」と合流したい。
 4. 旦那に一体何があったんだろう。
【備考】
※インビジブルメモリのメダル消費は透明化中のみです。
※インビジブルメモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※雨竜龍之介はインビジブルメモリの過剰適合者です。そのためメモリが体内にある限り、生命力が大きく消費され続けます。

          ○○○

303さらばAライダー/灼熱の怒り ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:41:32 ID:rMh5QpV60
 
 ビルとビルの間を吹き抜ける冷たい風は、今の照井竜にはやや堪える。
 照井は先の戦いで、奴の持てる炎熱系意外の全ての気象技の洗礼を受けた。
 ディケイド戦で傷付いた身体にウェザーの攻撃の嵐は、正直キツい。
 今にも意識を失ってしまいそうな中、それでも照井は絶叫する。
「クソッ! クソォォッ! 俺に奴は倒せないのかッ! 家族の仇は討てないのかッ!!」
 探し求めた家族の仇を目の前にして、挑んだ結果はまたしても敗北……。
 これが悔しくないわけがない。これ程の屈辱を受けたのは初めてだ。
 怒りの炎がこの身を食い破るのではないか、そんな錯覚さえいだく程に、照井の中の炎は熱く、昏く燃え上がる。
「うわぁーーーーーっ!! あぁああああああああああああッ!!! クソッ! クソォッ! 畜生ォォッ!!」
 慟哭にも似た嗚咽を漏らしながら、照井は何度も、何度も固いアスファルトを殴った。
 殴った手から、真っ赤な血がどくどくと溢れ出るが、そんな痛みは気にならない。
 絶叫する照井の双眸から、涙がとめどなく溢れるが、そんなことにも構わない。
 ただ吐き出しようもない怒りを、どうにもならない地面にぶつけるしか今の照井には出来ないのだ。
 アクセルメモリも、ドライバーをも破壊されて、ドーパントに魂を売って、それでも照井は奴に弄ばれたのだ。
 本当に痛いのは身体ではない。何よりも痛いのは、ズタズタに引き裂かれた照井のプライドだ。
「二度と忘れんッ! この痛みと屈辱! 絶対にッ、絶対に忘れんぞ、井坂深紅郎ォォッ!!」
 血と涙でぐしゃぐしゃに汚れた顔で、それでも瞳はさながら猛禽類の如き輝を放つ。
 愛する家族の尊厳にかけて、あの井坂深紅郎だけは必ず殺す。
 どんな困難に邪魔されようと、奴だけは絶対にこの手で殺す。
 でなければ、もうどうにもおさまりがつくとは思えなかった。
“その為ならば、俺は仮面ライダーの名など捨てても構わんッ!”
 もう後戻りする道はない。
 仮面ライダーのベルトは破壊された。
 仮面ライダーであろうとする心も打ち砕かれた。
 今の照井は、ただ復讐の為だけに危うく燃える修羅、アクセルドーパント。
 よもやドーパントに、仮面ライダーの正義だなどという綺麗事は説く者も居ないだろう。
 あの井坂深紅郎の息の根をこの手で止める為に必要ならば、ドーパントとして何処までも進化してやる。
 激しく、熱く、そして昏く哀しい決意を懐きながら、照井は意識を闇へと沈めていった。
 元より限界を越えて戦っていた身。井坂によって与えられた疲労が、今になってどっと押し寄せたのだ。
 血と涙を流しながら気絶した照井の頭上を、鳥のような形のメモリが浮遊する。
 まるで照井を案ずるようにその場に浮かぶソレの名は、エクストリームメモリ。
 エクストリームメモリは思考する。
 誰かを呼んでくるべきだろうか。こんな時、あの二人で一人の探偵がいてくれたら……。
 しかし、エクストリームメモリは知らない。
 じきに日が没しようかというほぼ同刻、照井がアクセルドライバーを失ったように、
 エクストリームメモリの本来の持ち主であるフィリップもまた、大切な相棒を失っていることを……。
 それを知った時、彼らは一体何を思うのだろうか?


【一日目-夕方】
【C-5 市街地】

【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】激しい憎悪と憤怒、ダメージ(大)、疲労(大)
【首輪】45枚:0枚
【装備】{T2アクセルメモリ、エンジンブレード+エンジンメモリ、ガイアメモリ強化アダプター}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:井坂深紅郎を探し出し、復讐する。
 0.気絶中。
 1.何があっても井坂深紅郎をこの手で必ず殺す。でなければおさまりがつかん。
 2.井坂深紅郎の望み通り、T2アクセルを何処までも進化させてやる。
 3.ウェザーを超える力を手に入れる。その為なら「仮面ライダー」の名を捨てても構わない。
 4.他の参加者を探し、情報を集める。
 5.Wの二人を見つけたらエクストリームメモリを渡す。
 6.ディケイド……お前にとっての仮面ライダーとは、いったい―――
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。
※鹿目まどかの願いを聞いた理由は、彼女を見て春子を思い出したからです。
※T2アクセルメモリは照井竜にとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。

304 ◆QpsnHG41Mg:2012/09/10(月) 00:43:24 ID:rMh5QpV60
ここまでです。
最後に少しだけ加筆しておりますが、展開に変更はありません。

305名無しさん:2012/09/10(月) 04:04:26 ID:aDnw65lIO
投下乙です。アクセルエクストリームにどんどん前進して……俺の運命は嵐を(ryだのやぁって(ryだのツッコミどころはさておきw

306名無しさん:2012/09/10(月) 13:07:56 ID:YEA.I4G60
投下乙です

ああ、照井はついに復讐の鬼に堕ちたか…
先の事を考えたらただ殺されるだけの方がマシと思えてくるぜ
まどかとマミさんは和解し時間のずれを把握できたか
そして智樹はぶれねえぜw でもこの三人が今のところ安定してて頼りになるというか…
さて目が覚めた映司も傍にいるが和解できるか、それとも…

307名無しさん:2012/09/11(火) 00:22:10 ID:7CkHxGc60
投下乙です
やはりブースターを使いこなせず、トライアルもない照井では井坂先生には勝てなかったか……
そしてどんどんアクセルエクストリームへと近づいていくのが、楽しみであり、心配でもあります

指摘としては、行間がほとんどまったくないため、読み辛いってことですね。特に視点の切り替えがあるところなどが
他はおおむね大丈夫だと思います

308名無しさん:2012/09/11(火) 00:43:01 ID:ycLwWfFo0
>>307
その指摘は少し的外れかなと思います。
そも、文章の癖なんてものは人それぞれ違うものだし、これでも自分は特に読みづらいとは思いません。
オーズロワでは行間を空けている人が多いようですが、小説全体で見れば行間を空けていない作品も沢山あるわけですし。

309名無しさん:2012/09/11(火) 04:49:01 ID:CyMBjRdk0
投下乙です
照井が死亡フラグ以外のフラグを積み立ててここまで活躍するロワは初めてじゃないか……!?
アクセルエクストリームになれるにしてもそうでないにしても今回は頑張って欲しいです
ってか今回の戦闘、物凄い激戦に見えるけど井坂的には軽くあしらっただけなんだよなあ……おそろしい
映司組も少しは進展があったけど、この対主催チームは大丈夫なのだろうか
同作ジンクス的な意味でも対主催固まり過ぎ的な意味でも心配

>>307
行間とかそんなのはわざわざ指摘として論ってまで強制するようなことでもないでしょ
大まかな視点切り替えは殆ど「○○○」でやってくれてるし、自分も別に読みにくいとは思いませんでしたよ

310名無しさん:2012/09/11(火) 16:54:50 ID:.Vke9lRM0
投下乙です。
アクセルブースターすら寄せ付けないT2ウェザー! やはり映画のやられ役一般市民Aと、井坂先生は格が違う、違い過ぎるッ!!
家族だけでなく仮面ライダーであることまで奪われ、ドーパントになってもまだ及ばなかった照井……命は拾ったものの、それも全部含めて家族の仇に弄ばれてるってことだもんな。これはきついぜ。
一方でエクス鳥の登場で、最強形態CAXへの期待と希望が否応なしに高められる……って、これじゃシュラウドの望んだ憎しみのWになってしまう!?
ええい、所長は、所長はおらんのか! 誰かフィリップと照井をケアするために亜樹子を連れて来て!

激突していた照井と先生組の一方で、無事和解する魔法少女や目を覚ます映司……そして黙々とエロ本を読む智樹……智樹ェ……
いや、照井にエロ本渡そうとするところも含めて、全然ブレがない、智樹らしさ全開ではあっても……智樹が知る由もないけど、この頃アストレア死んでるからちょっと複雑。
でもやっぱり、殺し合いの中ってことを薄々理解し始めたのか、あんまり読んでないのかな?エロ本の消費量増えてないし(←どうでも良い)。

>>307さん 他の書き手さんも個々人で行間などの文章の形式は異なっているので、指摘するほどのことではないと思います。
特に、>>307さんの問題にされている視点の切り替え箇所については、>>309さんの仰るように「○○○」で区切られているので、若干的外れかな? と感じました。

最後に私も指摘を。今気づいたのですが、>>293

>死ぬなら、あの照井をこの手で殺した後だ!

 の『照井』は井坂の誤字だと思うのですがどうでしょう?

311 ◆QpsnHG41Mg:2012/09/12(水) 04:28:58 ID:VIXEv8jI0
感想ありがとうございます!
申し訳ないですが、行間については自分もさほどの問題だとは感じておりません。
ですので、別に今のままでも読みにくくないよと言って下さる方がいるならこのままで行きたいです。

>>310さんの指摘は仰る通り井坂の誤字でございます。
収録時、もしくは収録後にウィキにて修正させていただきます。

それでは、短いですが次の予約分を投下いたします!

312大事な友達 ◆QpsnHG41Mg:2012/09/12(水) 04:29:42 ID:VIXEv8jI0
 夕陽の赤い輝きを受けて、Xが作った箱はよりその赤みを増している。
 これが佐倉杏子の変わり果てた姿であると、アンクら二人はすぐに察しがついた。
 怪物強盗XIの話は弥子から聞いている。奴は中身を見ると称して、人を殺して箱に詰めるのだ。
 それがZECT基地の周辺の道路にぽつんと放置されているのを見付けたのは弥子だった。
 弥子はすぐに異様な存在感を放つその箱に駆けよって、目に涙を溜めて佇んでいた。
「こんなの、ひどいよ……私達のために戦ってくれたのに……」
「……あの馬鹿が勝手に自分の命を投げ出したんだろうが、自業自得ってヤツじゃないのか」
「ッ、そんな言い方ってないよ! 杏子さんのおかげで私達は助かったんだよ!?」
「チッ……」
 弥子の反論に返す言葉はなく、アンクはただ舌を打った。
 アンクが言った通り、佐倉杏子は勝手に命を投げ出した馬鹿だ。
 それで一方的に救われたところで、救われた側には不快感しか残らない。
 かといって、そんな杏子を必要以上に侮辱してやる趣味もない。
 自分でもどうすれば釈然とするのかなどわからなかった。
「どいつもこいつも……!」
「アンク……」
 忌々しげに吐き捨てるアンクを見た弥子は、それ以上アンクを責めようとはしなかった。
 まさか、アンクのやりきれない内心を察して空気を読んでくれたとでもいうのだろうか。
 それはそれで不快なことだが、このオメデタイ頭の女には何を言っても無駄なのだろう。
 映司という一人の存在によって痛いほどそれを学んだアンクは、益々苛立ちを募らせる。
 せめて杏子本人に文句をぶちまけられるなら、この苛立ちも幾らかはマシになるだろう。
 が、杏子はもうアンクの言葉など届く筈もない遠いところへと旅立ってしまったのだ。
 奴が生きていてもう一度会えたなら、その時は思い切り口汚く罵ってやるものを……。
「あれ、あかりちゃん? どうかしたの?」
 そんな時、弥子のポケットから髪の毛が伸びた。
 黒髪の三つ編み、その名を"あかりちゃん"というらしい。
 あかりちゃんの事は聞いているが、何度見ても気持ちの悪い光景だった。
 あかりちゃんは、弥子のポケットを指して何かを伝えようとしている。
「あれ……これって」
 指し示されたポケットの中から取り出されたのは、赤い輝きを放つソウルジェム。
 目の前で箱にされてしまった佐倉杏子の形見、彼女の生きた証。
 それが、弥子の掌の中で煌々とした輝きを放っているのだ。
「えっ、ええっ!? なんでこんなに光って」
 そしてアンクは見た。
「――オイッ!?」
 赤い箱の中身が、僅かに、ほんの僅かに、蠢いた。
 それに気付いた弥子は、箱とソウルジェムを何度も見比べただ戸惑うばかり。
 杏子が残してくれた何らかの合図だろうか――否、違う。
 アンクは思い出した。
 魔法少女と云う存在の、その特性を。
 ZECT基地の中で、アイスクリームを食べながら聞いた話を。
「そうだ……俺としたことが忘れてたが……
 魔法少女は……ソウルジェムを砕かれない限り、死なない……ッ!」
 そう、杏子本人がそう言っていたのではないか。
 ソウルジェムとは、魔法少女の魂を凝縮して宝石にしたもの。
 それが砕かれぬ限り、身体はどれだけ破壊されても魔力で修復が可能、だと。
「じゃあ……杏子さんは……杏子さんは、まだ生きてる!?」
 嬉々とした弥子の声が続く。
 身体が箱に詰められた今でも、杏子は生きているのだ。
 弥子の言葉に応えるように、杏子のソウルジェムが明滅した。
 まったく不可解な存在だが、どうやらグリードのメダルと似た様なものらしい。
 アンクらとて、コアメダルを砕かれぬ限りは何度身体をバラされても復活出来るのだから。
 自分達の前例があるからこそ、さして驚きはせずに、冷静さを保ったまま言った。
「だが、身体は原形を留めちゃいない。どうやって復活させるってんだ」
「杏子さんが言ってたじゃん……治癒の魔法を使える魔法少女がいる、って」
「……あぁ、そういやそんなことも言ってたか」
 アンクも覚えている。
 確か、杏子がこの場で最も気に掛けていた魔法少女。
 名前は美樹さやかといったか。
 魔法少女には魔法少女、治癒能力を持った奴がいるならお誂え向きだ。
 今まさに悩み迷っているという美樹さやかが協力してくれるかは甚だ疑問ではあるが。
 しかし悪い奴ではないという話だし、弥子の言う通り復活の可能性は十分に残っている。

313大事な友達 ◆QpsnHG41Mg:2012/09/12(水) 04:32:19 ID:VIXEv8jI0
「そうと決まれば、善は急げだね」
 弥子は既に、杏子が詰められた箱を自分のデイバッグの中に押し込んでいる最中だった。
 元が人間の大きさとはいえ、隙間なく凝縮されたその箱のサイズならデイバッグにも入る。
「お前、ソイツどうする気だ?」
「決まってるでしょ、美樹さやかさんを探して、杏子さんを治して貰うんだよ」
「そんな重たいモン持って動き回るつもりか?」
「それで大事な友達を助けられるなら、私はやるよ」
 一切の迷いもなく告げられた言葉に、アンクはやれやれとばかりに嘆息した。
 弥子は、短時間しか一緒に居なかった女のことを"大事な友達"とまで言いやがったのだ。
 自業自得で箱に変えられた奴など放っておけばいいものを、と思わないでもないが。
 しかし、杏子がまだ救えるかもしれないと知った時、アンクは内心でどう思った?
 喜びはしないまでも、さっきまでの暗鬱な気持ちはやや晴れ、苛立ちも収まっている。
 どうして自分が杏子の無事を知ってこんな気持ちにならねばならないのか。
 不可解な自分の内面を考えると、今度は別の苛立ちが込み上げてくる。
「……チッ、そんなバカほっときゃいいものを」
「ほんとはそんなこと思ってない癖に」
「あ゙ぁ!?」
 聞き捨てならない弥子の言葉に、アンクは表情を歪める。
 少し前から感じていたが、この人を見透かしたような態度がどうにも気に食わないのだ。
「なんでもない」と、そう言って話を終わらせる弥子が腹立たしくて仕方がないのだ。
 だけども、それで怒るのもまるで図星でも突かれたようで気に食わない。
 アンクはもう、これ以上喋らないことにした。
「待っててね、杏子さん……今度は私が、絶対助けてみせるから!」
 弥子は強い決意の宿った声で、背負った友達にそう言った。


【一日目-夕方】
【D-3/ZECT基地周辺(杏子が敗北した地点)】


【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー代理
【状態】健康、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感
【首輪】160枚:0枚
【コア】タカ(感情A):1、クジャク:2、コンドル:2、カマキリ:1、ウナギ:1
    (この内ウナギ1枚、クジャク2枚、コンドル1枚が使用不可)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
    超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品×5(その中から弁当二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、大量のアイスキャンディー、
    大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。
 0.自分の不可解な感情に苛立ち。
 1.殺し合いについてはまだ保留。
 2.もう一人のアンクを探し出し、始末する。
 3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
【備考】
※カザリ消滅後〜映司との決闘からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て取り込んでいます。
※アストレアのメダルを回収しました。

【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青
【状態】健康、精神的疲労(中)、深い悲しみ、自己嫌悪
【首輪】110枚:0枚
【装備】桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)@魔法少女まどか☆マギカ、
【道具】基本支給品一式、魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero、赤い箱(佐倉杏子)
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.今度は自分が杏子を助けてみせる!
 1.美樹さやかに頼み込んで佐倉杏子を復活させる。
 2.他にも杏子さんを助ける手段があるなら探す。
 3.ネウロに会いたい。
 4.織斑一夏は危険人物。
【備考】
※第47話 神【かみ】終了直後からの参戦です。

314 ◆QpsnHG41Mg:2012/09/12(水) 04:34:31 ID:VIXEv8jI0
ほんっと短いけどここまでです。
たまにはこんな繋ぎでもいい、よね…?
何かあればご指摘のほどよろしくお願いいたします。

315 ◆QpsnHG41Mg:2012/09/12(水) 05:00:45 ID:VIXEv8jI0
すみません「あかりちゃん」じゃなく「あかねちゃん」ですね…
単なるミスなのでこれは収録時にでも直しておきますハイ…

316名無しさん:2012/09/12(水) 08:43:59 ID:Z/nimOBQ0
投下乙です

でも杏子のソウルジェムってXの所持品じゃなかったでしたっけ?

317名無しさん:2012/09/12(水) 09:15:08 ID:oh2x7zw.0
投下乙です!
おお、杏子にも希望が芽生えたか。このままさやか(あるいはまどかとマミさん)と出会えるといいな……

それと杏子のソウルジェムは前回の話で、Xが弥子に渡したと思いますが。

318名無しさん:2012/09/12(水) 09:23:42 ID:4hUilQr60
投下乙です!
杏子あらかじめ情報交換しててほんと良かったねw
うまく行けば助けてもらえるし、命をかけて救った甲斐があったなあ
あとはさやかちゃんの方さえ無事ならいいけど……頑張れ克己ちゃん
そんでもって素直じゃないアンクが非常に可愛かったですw

>>316
既に言われてるけど、前話でXから貰ってますよ

319名無しさん:2012/09/12(水) 10:59:22 ID:FVVy90FA0
投下乙です!
杏子ちゃん復活フラグktkr
さやかが素直に回復してくれるかは怖いけど…
何だかんだ良い子だしきっと助けてくれるよね(棒)

320名無しさん:2012/09/12(水) 15:54:37 ID:n80v8WW60
投下乙です

オワタと思ったら復活フラグキター
さやかはあんこちゃんの過去を聞いた後なら或いはと思ったがそれより前か
どうなるんだろう…

321名無しさん:2012/09/12(水) 17:05:10 ID:mI9yS6Jg0
投下乙

お前らこのロワのさやかちゃんをなんだと思ってるんだ
珍しい人を殺してない病んでないさやかちゃんなんだぞ
………………あれ?

322名無しさん:2012/09/12(水) 19:54:15 ID:GHIPsT620
>>316です
なんとしたことか忘れていたとは……どうもすみませんでした

しかしアンク、自分がリーダー代行になったことに気付いてないっぽいな
リーダー代行は間断なく色継続だから、同陣営だった参加者がいないと気付かないってことか。まどかの方もまだ気付いてないし……これはちょっと今後の鍵?
そういえばロスト不在で赤コア複数枚所持だけど、グリード形態になれるようになったんかなー

しかし弥子ちゃん、さやかちゃんどこいるか知っとるん……?

323名無しさん:2012/09/12(水) 20:40:13 ID:IiwS3cMkO
さや克己ちゃんコンビは存在からして危ういからなぁ、克己の方は悪魔となる前だけど逆を言えば展開次第で堕ちる可能性もあるわけで・・・さやかあちゃん?契約したなら生き残れない(棒)

324名無しさん:2012/09/15(土) 18:58:10 ID:TKzcEmX20
月報です
|63話(+ 9)|48/65 (- 7)|73.8 (- 10.8)|

325名無しさん:2012/09/16(日) 02:57:51 ID:pQSwaXPM0
人としての形すら残してない塊を治して戻すって特化型のさやかでも無理そうな
できてもソウルジェム真っ黒だろ

326名無しさん:2012/09/16(日) 08:09:13 ID:8RFzMzho0
そーいえばさやかちゃんの回復力って対外もありなのな
てっきり自己治癒限定だと思ってた

まぁメダルで修復も手段だろうし、回復魔法にメダル補助でなんとかってところじゃないか?

327名無しさん:2012/09/16(日) 19:19:11 ID:Xb8MOp1Y0
というかこのロワはメダル消費するから魔法使用によるソウルジェムの穢れはないんだっけ?

328名無しさん:2012/09/17(月) 14:49:05 ID:btx74pGQ0
と言うより、克己が細胞維持酵素の変わりにメダルで回復しているのと同じように、
魔法少女もグリーフシードの変わりにメダルで回復してるのでは?
……というか、『Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ』で既にメダルで回復するって書かれてた。

329名無しさん:2012/09/17(月) 16:24:58 ID:/KBY5ous0
予約来てるなあ

330名無しさん:2012/09/17(月) 19:50:41 ID:P8qJMKfcO
メダルシステムが何処まで適応なのやら…まあその辺りは描写次第か

も や し またアポロさん災難だなぁw

331名無しさん:2012/09/17(月) 20:12:15 ID:DQ7EQQq20
おっここでもアポロ狩りくるか!?

332名無しさん:2012/09/17(月) 20:18:11 ID:q7weSOn.0
>>331
        ゴガギーン
             ドッカン
         m    ドッカン
  =====) ))         ☆
      ∧_∧ | |         /          / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
     (   )| |_____    ∧_∧   <  おらっ!出てこいアポロ
     「 ⌒ ̄ |   |    ||   (´Д` )    \___________
     |   /  ̄   |    |/    「    \
     |   | |    |    ||    ||   /\\
     |    | |    |    |  へ//|  |  | |
     |    | |    ロ|ロ   |/,へ \|  |  | |
     | ∧ | |    |    |/  \  / ( )
     | | | |〈    |    |     | |
     / / / / |  /  |    〈|     | |
    / /  / / |    |    ||      | |
   / / / / =-----=--------     | |
   ↑加頭                  ↑もやし

333名無しさん:2012/09/17(月) 20:26:35 ID:dWY5Q0i60
>>332 やめろwww 仕事早いわwwwww

334名無しさん:2012/09/17(月) 22:30:54 ID:JIt1q5zM0
>>332
やめたげてよぉ!

335名無しさん:2012/09/18(火) 13:53:14 ID:BgrT7lco0
>>332
やめれwwwww

336名無しさん:2012/09/18(火) 14:12:32 ID:.OweKWEA0
>>332
やめんかwwww

337名無しさん:2012/09/18(火) 17:33:32 ID:yldlDBCgO
>>332
おい・・・おいw

338名無しさん:2012/09/19(水) 15:53:21 ID:uk7hXQYE0
いやぁ、アポロさんは愛されてますね(棒)

339名無しさん:2012/09/20(木) 21:08:01 ID:BJHkFDVI0
でももやしに加頭と共闘する理由は無いよな、陣営ばらばらだし

340 ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:05:26 ID:quMTUElA0
只今より投下を開始します。

341押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:06:29 ID:quMTUElA0
空は明るく、本来彼女ぐらいの年の子供ならば外で遊び走り回るのが普通の時間。
だが少女、美樹さやかは室内にいた。
ならば一人でパソコンやらテレビゲームにでも勤しんでいるのだろうか、いや彼女はあろうことか密室で異性と共に――、

「うおりゃあああああああああああああ!!」

修行に励んでいた。
そしてまた彼女の持つサーベルが男に向かって振り下ろされる。
常人であれば一刀両断されてもおかしくないレベルのスピードで放たれたはずのその攻撃を男は余裕の表情でかわす。
そしてさやかは男の放つであろう反撃を予想し、腹に剣を持っていない左手をガードとして潜らせる。
だがそんな彼女を襲ったのは、あろうことか後方からくる男のエルボーだった。


予想外の角度からの攻撃にさやかの体は大きく吹っ飛ぶ。
室内に設置された本来ならば歓楽施設であるはずのこの建物に設置された、ショーか何かを行うような舞台にさやかが落下する。
そして落下の衝撃で少し崩れてしまったその舞台に向かって、先ほどさやかにエルボーを喰らわせた本人がゆっくりと歩いて来る。

「流石だなぁ、この短時間で俺の攻撃を予想し、ガードを作るレベルまでいくとは……、だが攻撃は一種類だけじゃない。俺が腹を狙うと予想した段階で安心しきってるようじゃまだまだだ」

男の名は大道克己。
先ほどさやかのコーチを買って出た男の顔は言葉とは裏腹にどこか嬉しそうだった。
そう、彼は嬉しかったのかもしれない、自分を必要としてくれる人間の存在が。
大道克己は、ある意味では孤独といってもよかった。
戦場において信頼のおける仲間がいるという時点で孤独とは程遠いという人もいるだろう。
だが、彼という存在を心から求め、もっと言えば彼がいなければ生きていけないような存在は彼にはいなかった。
同じNEVERである仲間たちは二度目の生を与えてくれた克己に恩返しのつもりで(中には生き長らえるのに必要な酵素のために、という者もいるが)戦場で共に戦ってくれている。
が、言い方を変えれば、もし彼らを生き返らせた後に生き返らせた人物が克己ではなく、酵素も必要が無いと伝えたとしたらたとえそれが嘘でも彼らはいなくなってしまうのではないか、そんな不安はいつだって克己の中を渦巻いていた。
本当はそんなことないのかもしれない、生き返ったのが克己のおかげでないとしても生きるのに酵素が必要ないとしても彼らは克己についてきたのかもしれないが、克己は信頼が置ける仲間といえる存在が自分の元から去り、また母と子二人になってしまうのは残った自分自身すら見失ってしまいそうで恐ろしかったのだ。


――だからこそ、彼はこの場でも共に戦ってくれる仲間を無意識のうちに探していたのかもしれない。


そんな時に出会ったのが、本当の意味で自分がいなければまともに戦場にも出られないようなか弱い少女、美樹さやかだったということだ。
無論、彼とてこの場でずっと修行をつづける訳にはいかないことは重々承知だ。
だからこそ、最早目と鼻の先にあるステージに目を向け、中からさやかが起き上がってくるのを待っているのだが……。

(さっきの攻撃で伸びちまったか?全治3カ月ってぐらいには抑えてやったつもりなんだが)

美樹さやかは、自分自身で他の魔法少女に比べても耐久力と回復力はあると自負していた。
なんでも、やり方さえ分かれば魔法少女ならだれでもできる痛覚遮断能力と、自身の願いによって生み出された癒しの力が絶妙にシンクロし、相当なことが無い限りは戦闘不能には陥らないと述べていたのだ。
だからこそ彼はさやかに痛覚遮断をアレと同レベルの切り札として設定し、少なくともこの場では使用しないように言っておいた、彼女ならばそんな小細工に頼らずとももっと高みに行けると思ったからだ。

342押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:06:59 ID:quMTUElA0

――そんなことを考えた直後、また無意識のうちに彼の顔に笑みが浮かぶ。
当の美樹さやかがその体に与えたダメージを殆ど感じさせない様に立ちあがったため。
その体に刻まれた数多の傷は痛々しいが、しかしNEVER以上のスピードでその傷は次々と治っていく。
やはり同じゾンビといえども、魔法の力と科学の力では得意分野が違うのだなと克己は再確認するが直後さやかがまたも剣を構え突貫してくる。
その一撃を克己は上体を反らすことで軽々と避けるとそのまま左フックを放つ。
一応はさやかの視覚外からの攻撃のつもりだったがさやかはそれを確実に見切り身を屈めて攻撃をかわしつつ追撃を喰らわないために軽やかなステップで克己の射程圏内から外れた。

なるほど、流石だと思う。
彼女ぐらいの年齢、つまり第二次成長期の人間のそのなんでもすぐさま吸収できる柔軟な体や思考には驚きを隠せない。
なんせさやかは自身がNEVERとしての呑み込みの速さは凄まじいと称した羽原レイカと同等、或いはそれすら上回るスピードで成長を遂げているのだから。

だが、まだ足りない。

彼女はまだ、伸びることができる。
もしかしたらアレを使う戦闘を視野に入れたらこの年にして自分達NEVERを超えるかも知れないポテンシャルを彼女は持っているのではと、克己は感じているのだから。
自分の直感が間違っていなければまだこんなものではさやかは終わらない。
ならばどうすればいいのか。

答えは簡単、感情を揺さぶればいい。

もっと簡単に言うならば、怒らせるということだ。
この年齢の、ただでさえ気持ちの浮き沈みの激しい少女の怒りを爆発させたなら、その際のさやかの戦闘力は克己も測定しきれない。
ただでさえ怒りという感情は人を一時的とはいえ進化させる。
もちろんこの戦場で彼女は更に進化するだろう、だが今は、さやかの限界を一瞬でもいいから見てみたい。
溢れ出そうな好奇心を抑え、先ほど聞いた情報を整理しどのような言葉が彼女に一番効くのか、考える。

(さぁ見せてくれ、さやか。お前の全力のほんの一欠けらを)

またしても無意識にニヤリと口角を歪めた克己は、さやかの攻撃をかわしながら、隙を見計らっていた。

343押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:07:28 ID:quMTUElA0



分かってはいたものの、やはり痛覚遮断なしでの戦いは、それを一度知ってしまった身としては辛いものがあった。
全身に迸る痛みは確かに〝生きていた"ころに比べれば圧倒的に薄く、しかも新しい傷ができたとしてもそれは目を向けた瞬間には閉じ始めている。
先ほど自分と同じような境遇の大道克己という男に会ってどこかこの体も悪くないのではと思いもしたが、やはり忌々しいことに変わりはない。
その苛立ちをそのまま克己に向けるが、しかしこの男は自分の攻撃を難なくかわしてくる。
それによって更にいら立ちが募るも、そのストレスを発散する場所は見つからぬままさやかは剣を振り続ける。
ゾンビになったこの体は疲れを知らないが、いつ終わるともしれないこの特訓にさやかはうんざりしてきていた。

――だがその瞬間、彼女に好機が訪れる。

克己がさやかの連続攻撃に追いつけなくなったのか、足をふらつかせてさやかでもわかるほどの明らかな隙を見せたのだ。
チャンスだと確信したさやかは一気に間合いを詰めて自前の剣を突き出す。
だが、流石地獄の傭兵軍団というところだろうか、克己は肩に向けられたその攻撃を一瞬で察知し上体のみを反らすことで肩を掠める程度に抑える。
しかしそれでもダメージは通っている。証拠に克己の顔には苦痛の表情が浮かんでいた。
このまま押し切れば、いける。克己とて疲労が無いわけではないのだ、自分にも疲労は押し寄せているが、この特訓とやらがあと少しで終わるならば、気にはならない。
そんなことを考えたさやかは本当の意味で一瞬気を抜いてしまった。

――目の先にある克己の顔が苦痛から笑顔に変わり、それこそが罠だったと気付くまでの、ほんの一瞬だけ。

不味い、と判断した時には鋭い痛みが腹部を襲っていた。
恐らくは克己が自分の体を思い切り蹴り上げたのだろうと理解するより早く、さやかは自前の剣をも落として床に落下していた。
油断していた。奴が今の今まで攻撃を一切受けようとしなかったのは自分が初のヒットに喜ぶその瞬間の隙を大きくするためだったのだ。
そして自分はまんまとその罠に引っ掛かり、今は痛みが消えるのを待ってただ床に這いつくばることしかできない。これが実践なら間違いなく死ぬだろう。
だが、それでもさやかは立ち上がろうとする。先ほど克己をぎゃふんと言わせてやると決意したのだから。
しかしその瞬間彼女の耳に聞こえてきたのは克己が接近してくる足音ではなく。
先ほどまでと同じ場所にいる克己から発せられた深いため息であった。

「……ったく、こんなもんか、お前の実力は。正直期待外れだぜ」

その声音から読み取れる克己の感情は、失望の類だと理解できた。

344押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:08:14 ID:quMTUElA0

「余計な、お世話よ……!」
「全く、こんなもんで街一つ守ろうとしてたなんざ、思い上がりも甚だしいな」

その言葉に、未だ腹痛に悩まされながらさやかはムッとした顔をするが、しかし克己はそれを無視して言葉を続ける。

「それとも、こんなもんでも倒せるぐらい、その魔女とやらはぬるい存在なのか?或いはお前は本当には街を守れてないのに守ったつもりになってるだけじゃないのか?」
「……うるさい!」

自分は街を、見滝原を守れていなかったのか?そんな疑問が彼女の中に浮かぶも、それを否定する。
自分は魔法少女としてやれることをやってきたはずだ。マミさんにはまだまだ及ばないけどそれでも私なりに必死に――!

「こんなお前でも倒せる魔女ばっかお前の街にいるなら、長い間街を守ってきたそのマミとかいう魔法少女も実はたいしたことないんじゃないのか?」

脳裏に浮かべたその人を馬鹿にされ、何かがさやかの中でドクンと高鳴った。
こいつは今何て言った?私たちが何も知らずのほほんと暮らしてた時間ずっと魔女や使い魔と戦ってくれていたマミさんを、大したことないだと?

「ついでに言うならお前についてってるまどかとかいう奴も実は友達のために身を呈してる自分に酔ってるだけだったりするんじゃないのか?死ぬかもしれないのに友達の心配する私健気、みたいなことを腹の底じゃ思ってるかもしれないぜ?」

――やめろ。
まどかやマミさんを、馬鹿にするな。
私のことなら、いくらでも罵るがいい。私は馬鹿にされてもしょうがない奴なんだから。
でも、そんな私すらも労り優しくしてくれたまどかやマミさんを馬鹿にするやつは許さない。
二人は克己が思っているような人とは違う。
マミさんは本当に強かった。憧れるぐらいに。
まどかは本当に優しかった。呆れるぐらいに。
だから、そんな二人を馬鹿になんかさせない。
私の最高の友達達を馬鹿になんて、絶対にさせない。
馬鹿にするやつらは、私が潰す。
そう思った途端、先ほどまで収まらなかった腹痛がピタリとやんだ。
いつの間にか立ちあがっていた私はそのまま再度右手に魔法の剣を具現化する。
今は特訓とかどうとか関係ない。今はとにかく克己にまどか達のことを謝らせる。
私の強さがそのまままどか達の評価にも繋がるのなら、やってやろうではないか。今の自分ならばできる。
根拠はないが、どこかから溢れ出る力が、それをできると確信させてくれる。
今ならばどんな敵でも打ち倒せると、そう錯覚させてくれるほどに。

――そんな思いを胸に、さやかは床を思い切り蹴って駆け出した。

345押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:08:56 ID:quMTUElA0



大道克己は自分の思惑通り事が進んでいると確信して、不敵に笑った。
今自分の前に立っている美樹さやかから発せられる威圧は、先ほどまでとは比べ物にならなかった。
隠そうともしていない殺意と敵意が克己の体を突き抜ける。
そういう類の物は戦場で浴び飽きていると思っていたが、なるほどこの年を考えれば自分が今までに感じた威圧の中でも上位に入るだろう。
そんなことを考えていると、さやかがいつの間にか新しく作り出した剣を右手に構えて突貫してくる。
この特訓が始ってから幾度となく目にした光景のはずだったが、しかし今のさやかのスピードは先ほどの比ではなかった。
刹那の内に克己の眼前にまで迫ったさやかは一気にその剣を振り下ろす。
威力も、剣を振ることに対しての迷いのなさも先ほどとは比べ物にならない。自分もさっきまでのような余裕は持ち続けられないかも知れないな、と心の中でぼやく。
先ほどまでの人を見透かしたような笑顔をやめ、克己はさやかの剣の軌道を正確に読み取ってかわす。
さやかの成長ぶりは最早黙視できないレベルになっていた。最初はガキのチャンバラ遊びのようだったが、今は実戦でも通用するようなキレが少しながら出てきたように思える。
元々剣の才能があったのだろうか、そういえば彼女が魔法少女になった際の願いと剣は全くもって関係ないことに気づく。
もしかしたらさやかの話に出ていたキュゥべえとやらがそれぞれの少女が使いやすい武器を選んでデフォルトでそれをプレゼントしているのかもしれない。
なればこの短期間でのさやかの伸びも納得ができるというものだ……、そんなことを考えつつも克己はさやかに反撃を加えようとして――。
――それを察知したさやかが一気に後ろに飛んだことでそれをやめる。
成程先ほどの教訓を生かし、持ち前の素早さで反撃を喰らう前に逃げるという近接武器を使う際には当然ともいえる戦術を取り始めたということか。
だが、逃げていてばかりでは何も始まりはしない。あんな読みやすい剣の軌道では幾らスピードが乗っていても避けることなど容易い。
そう考え再び余裕の笑みを取り戻しかけた克己に、さやかは自前の白いマントに身を屈めて隠れるという行動で応える。
一見すれば意味が無い行動だ。エターナルローブのように攻撃を無力化する能力など、ないだろうに。
だが、その疑問はすぐさま消える。マントの中から立ち上がったさやかの周りに魔法の剣が数本突き刺さっていたため。
マントの中で瞬時に形成したその剣をさやかはあろうことか投げつけてくる。それも一本や二本どころではなく、一気に五から六程の数を一斉に克己に向かって。

「ハッ!下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとでも思ったか?狙いが甘すぎるぜさやか、こんなもんじゃ百発飛んでこようが余裕で避けれらぁ!」

魔法さえあればいくらでも作れる剣を利用した戦法には驚いたが、しかしその程度。
確かにスピードも乗っていて、そこまで大きく外れていた物もなかったが、しかしこれしきで俺がやられると思ったら大間違いだ。
そんな言葉を胸中で吐きながら迫りくる剣の雨をよけ切り、先ほどまでさやかがいたところを見上げた克己の眼には、しかしさやかは映っていなかった。
驚きと共に辺りを見回すも、さやかを見つけることは叶わない。またも不思議な魔法を使っているのか?
そう考え改めて周りを見回しても右にはいない、左にもいない。背後からも気配はしない、ではいったいどこにいるのだろう?

「――!まさかっ……!」
「はあああぁぁぁ!!」

まさかと思い頭上を見上げた克己の眼に映るのは雄たけびを上げながらすでに眼前にまで迫っているさやかだった。
チッと舌打ち一つ鳴らして、克己が後ろに下がると同時相当の威力を持っていたのだろうその剣の一撃が床を砕いた。
もちろん下の階にまで貫通してはいないものの、それでもかなりの破壊力があったのは誰の目にも明らかだ。
もしかしたら自分はとんでもない物を目覚めさせてしまったのかもしれない。何処か背筋にぞくりとする物を感じながら、克己は一旦距離を置くために後ろに一歩ステップを踏んでその後に来る攻撃に対して回避を試みる。
だがそれはお見通しとでもいうのだろうか、さやか自身が発生させた土煙りの中から彼女が勢いよく飛び出してくる。
またもや舌打ちをしながら克己はもう一歩大きくバックステップをする。それを逃がすまじとさやかも勢いよく剣を振り下ろすが――。
――しかしその剣は克己の目前を掠る程度で終わった。
なるほど今の攻撃にも力はこもっていたが、外してしまったら何の意味もありはしない。故に克己は一瞬気を緩めてしまった。

――それこそがさやかの狙いだとも知らずに。

346押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:09:25 ID:quMTUElA0
気がつけば、自分の胸にさやかのサーベルが突き刺さって、自分の体も大きく後ろに吹っ飛ばされていた。
突然の出来事に驚きを隠せない克己は、しかしそれでも懸命に今の一瞬で何があったのか把握しようと頭を回転させる。
そして、すぐに理解した。何故自分がかわしたはずのさやかの攻撃を喰らい、大きく吹っ飛んでいるのか。

――話はさやかのサーベルをかわしきったと思った克己が一瞬気を緩めてしまったところまで戻る。
あの瞬間、確かにさやかの攻撃は克己には届いていなかった。だが、さやかには今の様な隙をもう一度作るのは難しいと判断した。
詰まる所これが最後のチャンスだと、そう考えたのだ。故に今克己が気を攻撃をかわし気を抜いているであろうこの瞬間を手放すわけにはいかない。
何が何でも、すがりついてでも、喰らいついてでも攻撃を続けなければならない。その一心でさやかがとった行動は――。
手に持ったサーベルの、投合。それだけだった。振り下ろす途中のサーベルには遠心力が乗っている。
なれば自分はそれを利用してこの剣を手から離せば、後はサーベルが自動的にターゲットに命中してくれる。
彼女の狙いは実にうまくいき、結果として克己にダメージを与え、更には先ほど以上の隙を作らせることにも成功した。
ならば、今度こそ決めてやる。克己がまだ事態を把握できていないうちに一気に叩く!その思いでさやかは三度右手に魔法の剣を具現化させ――。

――(これで終わりだ!)

今度こそかわせない間合いと絶妙なタイミングでその剣を振り下ろした。
手加減など一切ない。これで死んでしまったとしてもその時は運が悪かったとしか言いようがない。
こいつ自身がまどかやマミさんを馬鹿にしたうえ、最初にこいつは言ったはずだ。全力で来いと。
なればその全力に余裕ぶって戦って死んだとしても結局は自業自得だ。怨むなら自分の無駄な余裕ぶった態度を改めてもらう他ない。
そして克己の体を一刀両断するつもりで放たれたその一撃はしかし、克己の持つさやか自身の剣に止められていた。



間違いなく渾身の力を込めたその一撃を克己はさやかの剣で以って受け止めた。
何故だ。近くに剣は落ちていなかったはずだが。そう思考するさやかだがしかしすぐに答えを見つけた。
克己の胸に刺さっていたはずのサーベルがそこに開いた大きな穴と引き換えに無くなっていたため。
詰まる所、あの一瞬で攻撃が来る方向を読み取り、胸から剣を引き抜いてさやかの剣を受けとめ新たに傷がつくのを抑えたということだ。
ならばまだ胸の痛みが引けない今の内に一気に攻めきる。その思いで一度剣を引き抜いたさやかがもう一度それを構えた時。
不意に、克己が手に持った剣を地面に落した。

――それは確かに明らかな隙。だがさやかがその隙を攻める前に、驚愕で動きを止めてしまった。

しかしすぐにハッとする。もしもこれが今の自分にできる隙まで計算した行動だったならば、次の瞬間には攻撃を喰らってしまう。
それを警戒したさやかはヒュンと後ろにジャンプするが――。
――しかしそれを見た克己は敵意すら見せることなく背を見せる。

「なっ、あんた一体何のつもりなのよ!」
「何のつもりって、もうこの場で俺が教えられることはないと思っただけだ。お前だってずっとここで愚図愚図してたくはないだろ」
「え?そりゃ、そうだけど」
「なら、ここに居続けるのは無駄が多すぎる。十分後にここを出る。それまで少し休んでおけ」
「え、うん……じゃなくて、あんた他に言うことが――!」

あまりにも温度差がありすぎる克己の対応にさやかは怒りを隠せない。
こいつはマミさんやまどかを馬鹿にしたのだ。それをすっとぼけようというのか、そんなの私が許さない――!
再び剣を強く握り克己に切り掛ろうとしたその瞬間、しかしそれは中断させられることとなる。

347押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:10:06 ID:quMTUElA0

「――あぁ、それとお前の友達のこと、悪く言って済まなかった。幾らお前の実力が見たかったからってやり方が汚すぎた。謝る」

そうして人には絶対に人には謝らないタイプだと思っていた克己が本当に悲しげな声で謝ってくる。
克己らしくないとすら言えるその行為にさやかは怒りことも出来なくなり、ただ戸惑うのみしか出来なくなる。

「言いたいことはそれだけか?なら下で待ってるからな、十分後には下に来い」

そして克己はそれだけ伝えて再び歩き出す。外の世界に向かって。
それを見たさやかもこれ以上克己に謝らせようとしても無駄だと判断し、変身を解く。
先ほどより自身のメダルが明らかに減っているのを感じるが、まだ十分に戦えると判断し、そのまま床に寝転がった。
そして目を閉じて思い切り体を休めようかと考え、しかしふとあることに気づいてデイパックを開いた。
先ほどは大まかなことしか把握できなかったから今余裕があるうちにもしもの時に備えてマニュアルだけでも読んでおこうと思ったのだ。
詰まる所克己が痛覚遮断と同程度の切り札として設定したさやかの最期の支給品のマニュアルを。
そしてマニュアルを探す途中でデイパックから〝ソレ″が零れ落ちる。それに気づいたさやかはそれを受け止める。
さやか自身の切り札になりえるかもしれないとまで克己が称賛したそれは、さやかの手の内で怪しく銀に輝いた。



時間はさやかと克己がお互いの支給品を確認していた時にまで溯る。

「俺の支給品は今のジャケットで最後みたいだな、お前のとこにはほかに何か入ってたか?」
「うん、ちょっと待ってね……」

そうしてさやかはデイパックに手を突っ込みがさごそと手をかき回していたが、やがて目当ての物を探し当てたのか笑顔になりジャーン、と口に出しながら〝ソレ″を取り出した。
それは外見で判断するならあまりにも地味な銀色のベルトだった。

「なんだそりゃ、腰に巻いてオシャレでもしろってか?」
「私もまだ説明書見てないからよくわかんないんだよねぇ、えっとどれどれー?」

そう言いながら再度デイパックに手を突っ込み今度はあっさりと恐らくは付属だったのであろう説明書を取り出す。
さて目を通そうとさやかが両手でそれを持った時、上からひょいと克己がそれを引っ手繰る。

「ちょっとあんた、人がなんかしようとしてる時に無言で物とるんじゃない!」
「フン、良かったなさやかこの説明書の厚さならただ腰に巻いてオシャレしてくださいなんてこと以外にも何か書いてあるかもしれないぜ?」

さやかの文句は軽く無視して克己はそんなことを言いながら説明書に目を通していく。
それを見ていたさやかも騒ぐことをやめて克己の言葉を待つ。
やがて詰まらなさそうに見ていた克己の目がいきなり驚愕に染まる。それを見たさやかも何かいいことが書いてあったのかと期待せざるを得ない。

「どうだった?使い道ありそう?」

先ほどとは打って変わって真剣な顔で説明書を読み進める克己はこれを読めと言いながらあるページを開きながらそれを手渡してくる。
そこには大きな文字で〝概要″と書かれており、恐らくはそのベルトについての説明が書かれていることは誰の目にも明らかだった。

「えーと、何々〜、このベルトは『カブトの世界』に存在する秘密組織ZECTが開発した『マスクドライダーシステム』の一種、仮面ライダーキックホッパー、及び仮面ライダーパンチホッパーに変身するのに必要なベルトです……?」

そこから先には変身後に出来るクロックアップシステムなる物の説明などが長々と書かれていたが、さやかには難しくてよくわからない。
マスクドライダーシステムとは何なのか、ZECTという組織は何が目的の物なのか、そもそも『カブトの世界』という括りは一体どういう意味なのか。
自分の中に次々と湧き上がってくる疑問に悶々としながらさやかは頭を抱える。結局克己は何が大事だと思ってあんな真剣な顔をしていたのだろうか。
頭を抱えるさやかにハァと克己がため息をつく。

348押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:10:41 ID:quMTUElA0
「お前、本当にこれの何が重要なのか分からないのか?」
「う、うるっさいわねぇ。ちょっと黙ってなさいよ!」

少し強がってみたが、しかしさやかには何が大切な情報なのか把握できない。
それを見透かしているのか、克己は先ほどよりも強い溜息をついた。

「アポロガイストが俺の変身したエターナルを見たとき、何て言ったか思い出してみろ」
「え?うーんと確か……」

――「貴様っ……! 仮面ライダーだったのかっ!!」

それを思い出して、ハッとする。
あいつは確かに言った。仮面ライダーと。
ようやく勘付いたらしいさやかの様子を見て、克己はまたあのニヒルな笑いで話しだす。

「そういうことだ。エターナルが本当に仮面ライダーかどうかは俺には分からんが、そのベルトを使えば、その仮面ライダーとやらになれるらしい」
「ってことはつまり……!」
「あぁ、奴は仮面ライダーを恐れてるようにも見えた。てことは仮面ライダーになればアポロガイストにも匹敵する力を得れるかもしれないってことだ」

アポロガイストに匹敵する力。
それは確かにさやかが熱望するものの一つでもある。
ベルトへの関心が一気に引き上げられるのと同時に、さやかの中に新たな疑問が浮かぶ。

「あれ?でもこれどうやって変身するの?なんかを入れるっぽい場所はあるけど、特に他の物は入って無かったよ?」
「あぁ、それに関する事も書いてあった。そのベルトを使って変身するには対応するゼクターとやらが必要不可欠らしい」

ゼクター?とさやかがパクパクと口を動かすと、克己はニヤリと笑う。

「ゼクターとやらはそのベルトを持っている参加者を資格者かどうかを自分で認めて、そいつが資格者たる人物だと判出したら必要に応じて力を貸すらしい」
「それじゃもしかしたら変身できないってこともあるんじゃ……?」
「恐らくはユニコーンと一緒だ。お前のことを資格者だと見初めて、主催者がわざわざお前に渡したんだろ」

つくづく悪趣味だと思う。
個人にしか使えない道具を渡して、わざわざ対主催を掲げる者に力を与える主催者には虫唾が走る思いだが、しかしそれならばこの力を自分に渡したことを後悔させてやる。
そうしてさやかが再び主催者への怒りを再燃させていると、すくと克己が立ち上がり――。

「よし、俺がお前を鍛えてやる」

そう言って、特訓のコーチを申し出たのだった。



数十分前のことをぼんやりと思い出しながら、さやかは銀のベルト――説明書によればゼクトバックルというらしい――及びそれを使って変身できる仮面ライダーに関しての情報をある程度把握する。
中に書いてあったことは難しいこともあったが、これが悪を打ち砕く自分の力になるのだと思うと、多少の努力など苦でもなかった。
そうしてふと時計を見ると、ちょうど十分が経つ所だった。さやかは慌てて周りに置いてあったバックルやその説明書をデイパックに詰め込み、いつの間にか高く上がっている太陽に向かって歩き出した。

349押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:11:06 ID:quMTUElA0



外に出たさやかは風都タワーの前に出ると、すぐに、来た時には気にも留めなかった謎の自販機の前で屈みこみ、大量に何かを買い込んでいる様子の克己を発見する。

「あんた、一体何やってんの?まさか水分補給のために呑気にミネラルウォーターでも買ってたんじゃないでしょうね」
「ふん、それでも悪くなかったんだが、残念ながら外れだ。いつか役立つだろうと思って便利グッズを買っておいた」

そう言いながら自販機から吐き出された缶ジュースの様なものを取り出す。
赤く彩られた外見はあまり中身を飲みたいと思わせはしない。訝しげにそれを見つめるさやかを克己はさほど気にせず、新たに自販機に硬貨を投入する。
次はこれだな、などとぼやきながら克己は別の色の缶ジュース(?)を購入する。それをただ突っ立って見届けるさやかだが、しかし三本目を購入しようした克己の手に握られているものを見てびくりとする。

「ちょっとあんた、それセルメダルじゃないの!そんなもんでそれ買えるの!?」
「逆ださやか。これじゃなきゃ買えないんだよ、特訓中お前は変身してたが、俺は生身だったからな、これでメダル数に大差はないだろ」

そう言いながらまたも缶ジュースを購入すると思われたその手は真ん中の黒い大きなボタンに触れていた。

「え、なんで?そこに触って何の意味があるのよ」
「黙って下がれ、怪我するかもしれないぞ」

さやかには克己の言っている言葉の意味が半分も理解できないが、しかし従っておいたほうがいいのだろうと判断し、数歩後ろに下がる。
すると、あっという間に目の前の自販機は変形を始め、一瞬のうちにバイクになってしまった。

「す、凄い……!」
「さて、これで移動手段は手に入れた」

そう言いながら克己はバイクに跨り、ヘルメットを渡してくる。
一瞬どういうことなのか図りかねたさやかが疑問の眼差しを向けると克己は鼻でフンと笑った。

「後ろに乗れって言ってんだよ。早くしないと置いてくぞ」

言われて少しだけさやかは照れるも、克己からはそんな思いを毛ほども感じない。
それに少しだけがっかりしてしまった自分は克己に少しだけそういうものを期待していた自分が馬鹿だったと思いなおし、そのままヘルメットを被って克己の後ろに乗り込む。
それを見届けた克己もしっかりとヘルメットを被りエンジンをかけた。

「さぁ、行くぞさやか。次の行先は警視庁だ」

呟くようにぼそっと言った克己は次の瞬間、アクセルを踏み込んだ。

350押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:11:31 ID:quMTUElA0


(マミさん……あなたは本当にあの巴マミさんなんですか?)

バイクによる風と揺れを感じながらさやかは物思いにふける。
それは自分がこの非日常に連れ込まれる原因とも憧れの先輩のことだった。
巴マミは理想の先輩だった。学生としても、魔法少女としても。
勉学は軒並み平均点以上を取り続けていたし、彼女の戦いは舞いでも踊っているようで、自分が命の危険に晒されていることすら忘れるほど華麗で優雅だった。
だからマミさんが魔女なんかにやられるわけない。そう何かテレビの中のヒーローでも見る感覚で、自分とまどかは彼女の負担を増やしているなどと思いもせずに彼女についていったのだ。

――それが結果的にグロテスクな彼女の死をトラウマとして植えつけられることになるとは、あの頃の自分は思わなかったのだから。

自分達が付いていかなければ、彼女は死ななかったのかもしれない。
彼女が死んでから、何度そんな意味のない考えを巡らせたのか分からない。
死んでしまった人は永遠に戻ってはこないのだ。ましてやマミさんは結界の中で死んでしまったから、死体も残っていないし、葬式も執り行われてはいない。
あまりにも大きすぎる自分達の責任は張らせるとは思わないが、しかしそれでも少なくとも彼女の守ろうとした街を魔女や使い魔から守るために、自分は魔法少女になったのだ。
だから彼女の死は自分にとって忘れられない物として今も胸にしまっている。例えどんな残酷な死に方でも、自分だけは彼女の最期を覚えていたいから。

――なのに彼女は、この場における参加者として、名を連ねている。

一体どういうことなのだろうか。
もしかしたらあの時マミさんは死んでいなかったのだろうか?
いや、これはない。ソウルジェムという本体ごと魔女に喰われ、あまつさえその後魔女が爆散したその中から生存することなど、百パーセントあり得ないからだ。
では、同姓同名の赤の他人か?
これも一瞬考えたが、ないだろう。自分やまどかを惑わせる材料にはなるかもしれないが、そうそう同姓同名の人間がいるとは思えない。
ではどういうことなのか。さやかが考えた仮説はこうだ。

――マミさんはあの場で死んでいて、主催者がそれを蘇らせたのではないか……?

これが一番ピンとくる。
もしくは死ぬ前から連れてきたというのもあるかもしれない。
どちらにせよ死者への冒涜だ。主催者に対するさやかの怒りは膨れ上がるばかりだが、しかしマミさんがいるのなら、これより心強い味方はいない。
彼女は間違いなく殺し合いを潰すほうに動くだろう。今の魔法少女となった自分と彼女が力を合わせれば、きっとどんな困難でも越えて行ける。
だが同時に懸念もある。彼女はキュゥべえを家族同然に思っていた。そのキュゥべえが自分を騙していたと知った時どんな行動に出るかはさやかも予想できない。

(でも、マミさんはマミさんだ。頼りになるのは間違いない!)

憧れの先輩を今度こそ死なせはしない。共に戦って今度こそ一緒に元の世界で楽しく暮らす。
その決意を固めた時、さやかの中に二人の親友の姿が浮かぶ。

(まどか、仁美。死なないでね……、あんたたちとは、まだまだ友達でいてもらうんだから)

その二人は自分やマミのように特別な力を何一つ持たない。
故にこんな場所では狩られる側でしかない。せめて誰か対主催を掲げる人に保護してもらえればいいが――。
仁美は護身術を習っていると言っていたが、そんなものがアポロガイストなどに通用するはずもない。
まどかは、それすら持っていない。だが仁美にも、さやかにも無かったある種の絶対的な切り札が存在する。

――それはつまり、彼女の魔法少女としての素質。

だが、それはさせてはならない。
魔法少女となった自分がこんなに後悔しているのだ。彼女はこんな場ではすぐに他人を守るために簡単に契約を交わすだろう。あの悪魔と。

(駄目だよ、まどか。あんたは人間でいて……。馬鹿みたいな理由付けて軽々しく契約したら後悔するのは私が一番知ってるから)

そう、今どこかにいる友に呼び掛ける。
だがふとあることが頭をよぎり、顔を上げる。

(こいつ、行先は警視庁だって言ってたよね……、でもあのタワーから一番近いのって園崎邸じゃなかったっけ?)

351押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:13:09 ID:quMTUElA0
【一日目-午後】
【G-5/道路】


【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】50枚:0枚
【コア】ワニ
【装備】T2エターナルメモリ、T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW、ロストドライバー@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、NEVERのレザージャケット×?@仮面ライダーW 、カンドロイド数種@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
1.さやかが欲しい。その為にも心身ともに鍛えてやる。
2.T2を任せられる程にさやかが心身共に強くなったなら、ユニコーンのメモリを返してやる。
3.機会があれば、T2ユニコーンメモリでのマキシマムドライブを試してみたい。
4.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡す訳にはいかない。
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピアドーパント撃破直後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※仮面ライダーという名をゼクトバックルの説明書から知りました。 ただしエターナルが仮面ライダーかどうかは分かっていません。
※魔法少女に関する知識を得ました。
※NEVERのレザージャケットがあと何着あるのかは不明です。
※さやかの事を気に掛けています。
※加頭 順の名前を知りません。


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康、魔法少女に変身中
【首輪】40枚:0枚
【コア】シャチ
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、ゼクトバックル(ホッパー)@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
0.克己を乗り越えてより強くなる。
1.克己と協力して悪を倒してゆく。
2.勝つ為なら自分の身体はどうなっても構わない。
3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
4.仮面ライダーっていったい何なの?
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがどの程度濁っているのかは不明ですが、現在は安定しています。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVERに関する知識を得ました。
※さやかの最後の支給品は、ゼクトバックル@仮面ライダーディケイドでした。
※ホッパーゼクターがさやかを認めているかどうか不明です。

支給品説明
【ゼクトバックル@仮面ライダーディケイド】
キックホッパー及びパンチホッパーの変身ツール。
バックル部を展開させてホッパーゼクターを乗せるようにセットアップすることでキックホッパーやパンチホッパーに変身できる。

352押し寄せた闇、振り払って進むよ ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:15:39 ID:quMTUElA0


彼は風都タワーから一番近い建物が、園崎邸だと知っていた。だが彼には園崎邸に行きたくない理由があったのだ。

(園崎冴子……、お前は俺の敵だ。〝園崎″である以上俺はお前を潰す)

それは自身が昔NEVERの研究結果として財団Ⅹに材的支援を要求しに行った時のこと。
あの時に自身が戦った小道具、ガイアメモリ。それを提供していたスポンサーが園崎琉兵衛という男だったのだ。
自身はあれ以来、打倒ガイアメモリ、及び打倒園崎家を目標にやってきた。
そして、母マリア・S・クランベリーの情報によれば園崎冴子は園崎家の長女であるらしかった。
母の情報が間違っていた試しはないから、恐らく正確だろう。ならばそれを潰すいい機会だ。
だが今はまだ早い。奴らの家でもある園崎邸を潰すのは元の世界に戻ってからだ。
ここにあるレプリカを潰しても何の意味もない。それに園崎冴子がそこを目指すとしても、まだ今のさやかでは園崎の者と戦うのは早いだろう。
故に今は園崎冴子は後回しだ。だがいつかは宿敵の娘を倒すことを胸に誓いながら、彼は別のことを考える。

(さやか、お前は気付いてないかもしれんが、あの時のあの一撃の時、俺は本気だったんだぜ?)

あの時というのは、さやかの意外な一撃に自身がひるみ、その一瞬を逃がすことなく攻撃してきたあの時のことである。
あの瞬間、自身の胸に刺さっていた剣を引き抜き、あいつの一撃を受け止めるまで、自分は間違いなく本気で対応していた。
結果として攻撃は与えられなかったとはいえ、まさかさやかに本気を出させられるとは思ってはいなかった。

(さやか、お前はまだまだ伸びる。お前が本当の意味で一人で戦場に出られるその時を楽しみにしてるぞ)

そう心の中で克己はポツリと呟いた。
この先は安全地帯ではない。どんなことが起こっても不思議ではないのだ。
だが、今のさやかならきっと大丈夫だ。挫けることもあるかもしれないが、しかしきっとそれを乗り越えていくだろう。
溢れ出るさやかへの期待を抑えもせず、克己はこれすらどこかで見ているのであろう主催に向かって言った。

(見てろよ真木清人。誰かの明日を奪うような行為をしたことは絶対にゆるさねぇ。いつかお前の首を掻っ切ってやる!)



そんな二人を、影から見る一匹のバッタ。
その名をホッパーゼクター。
さやかの持つゼクトバックルに対応する自律行動型ユニットだ。
先の戦闘の際にデイパックから抜け出し、それ以来さやかを影から見持っているのだ。
彼が今さやかのことを資格者として認めているかどうかは誰にもわからない。
だがホッパーゼクターは、さやかたちを追って飛び跳ね続けた。

――希望を持った二人の男女と、絶望を求める一匹の虫。
――彼ら彼女らが向かう先に何が待っているのかは誰にもわからない。
――その先に待つのは、希望か、絶望か。

353 ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:16:49 ID:quMTUElA0
ぎりぎり間に合ったかな?
これで投下を終わります。
また、作品とは関係ありませんがこれを書いている途中でクライマックスヒーローズにエターナルの参戦が決定したり、
昨日のものまね番組でキックホッパーの物まねをしている人がいたり、なんだか応援されているのかと思ってしまいました。
それでは何かありましたらよろしくお願いします。

354 ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 17:19:32 ID:quMTUElA0
……と思ったら、早速ミスが。
351と352は逆ですのでwiki収録の際に直していただければ光栄です。
それと、言い忘れていましたが、自分は火曜日まで連絡が取れなくなる可能性が高いです。
なのでご指摘に対応できるのはそれ以降となります。ご了承ください。

355名無しさん:2012/09/22(土) 19:10:22 ID:CWHS2Dok0
乙です。揚げ足とりたいわけじゃないけど、正しくは園「崎」じゃなくて園「咲」ですよ

356名無しさん:2012/09/22(土) 19:31:46 ID:LxdOPSTMO
GJです!

ホッパーが認める頃にはさやかちゃん魔女化してそうだけど、このロワなら穢れ溜まらないんだっけ?

357名無しさん:2012/09/22(土) 19:41:18 ID:aOhVBwaA0
投下乙です
切り札はホッパーか…果たして認められるのだろうか

358 ◆nXoFS1WMr6:2012/09/22(土) 20:01:30 ID:quMTUElA0
皆さん、感想どうもありがとうございます。
園咲の字は前にも間違ったのに、お恥ずかしいばかりです。
あと、二人の状態表に書き漏れがあるので、訂正したいと思います。

【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】50枚:0枚
【コア】ワニ
【装備】T2エターナルメモリ、T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW、ロストドライバー@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、NEVERのレザージャケット×?−3@仮面ライダーW 、カンドロイド数種@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
1.さやかが欲しい。その為にも心身ともに鍛えてやる。
2.T2を任せられる程にさやかが心身共に強くなったなら、ユニコーンのメモリを返してやる。
3.機会があれば、T2ユニコーンメモリでのマキシマムドライブを試してみたい。
4.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡す訳にはいかない。
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピアドーパント撃破直後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※仮面ライダーという名をゼクトバックルの説明書から知りました。 ただしエターナルが仮面ライダーかどうかは分かっていません。
※魔法少女に関する知識を得ました。
※NEVERのレザージャケットがあと何着あるのかは不明です(現在は三着消費)。
※さやかの事を気に掛けています。
※加頭 順の名前を知りません。


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】疲労(中)
【首輪】40枚:0枚
【コア】シャチ
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、ゼクトバックル(ホッパー)@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
0.克己を乗り越えてより強くなる。
1.克己と協力して悪を倒してゆく。
2.勝つ為なら自分の身体はどうなっても構わない。
3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
4.仮面ライダーっていったい何なの?
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのかまた濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVERに関する知識を得ました。
※さやかの最後の支給品は、ゼクトバックル@仮面ライダーディケイドでした。
※ホッパーゼクターがさやかを認めているかどうか不明です。

具体的には克己のジャケット、さやかの状態となります。
他にも何かありましたら、よろしくお願いします。

359名無しさん:2012/09/22(土) 20:08:33 ID:CKXFsOy.O
投下乙です。地獄のライダー、ますます克己ちゃんの相方にピッタリじゃないですかー!

??「お前、俺の妹になれ」
A「絶望がお前のゴールだ」

……ん?

360名無しさん:2012/09/22(土) 20:15:13 ID:8EkjTR260
投下乙です!
「克己ちゃんにすっかり気に入られちゃってるけど、調子に乗るんじゃないわ! 私の方がおっぱい大きいんだから! 私の方が、おっぱい大きいわ!!」
って言い出す人への克己の信頼が厚かったのも、どことなく今回さやかを気に掛ける理由の、本当に克己を必要としてくれる人間だって気づいていたからかな。

克己からのさやかへの情は既にほぼMAXだけど、さやかからの好感度はまだ安定していない感じか。このコンビ好きだから頑張って欲しいな。

ところで一点だけ……指摘というわけではないのですが、過去の例からホッパーゼクターは通しても良いのかな、ということが不安です。
ホッパー達は変身後の姿だけはディケイドに登場しましたが、何の能力も使わず殴り合いしただけだったり、変身アイテム単独では登場していなかったりなので、
過去にいくつかあった「何らかの間接的な形でディケイドに登場したが、本編中でそれ自体が登場したわけではない支給品」になってしまうのではないかな、と思います。
だからどうした、と言われてしまえばそこまでなのですが、一応その点についてお考えを聞かせて頂けたら嬉しいです。

361 ◆nXoFS1WMr6:2012/09/23(日) 00:11:00 ID:G2kRWymI0
どうも。
諸事情ですぐに対応できず、本当に申し訳ないです。
さて、本題となりますが、自分は正直言って、このまま通しにしていただきたいというのが本音です。
地獄のライダーとしてエターナルの横に立ってこんなに似合うライダーはいないでしょうし、
ゼクターという存在のおかげでさやかの成長もあるかもという思惑で出したので、他のライダーに変えても、違うかなぁと。
とはいっても、仮面ライダーの存在がないとあまりこの話は面白くないかなと思いますから、ホッパーがどうしてもだめだというなら、少し考えて、いい代案が浮かばなかったらこの作品は破棄ということで。

また、無意味になるかもしれませんが、二人の【思考・状況】の欄にそれぞれ次の文を追加したいです。

克己;5.園咲冴子はいつか潰す。
さやか;5.マミさんと共に戦いたい。まどかや仁美は遭遇次第保護。

362名無しさん:2012/09/23(日) 00:19:43 ID:PG0WSQhM0
投下乙です
克己によるさやかの修行は順調そうですね
メダルの消費が心配ではありますが、まぁそれは今後の展開次第でしょう

それはそうと、気になったのはホッバーゼクターの支給についてですね
さやかの最後の支給品は「どんな戦局をも覆しうる可能性を秘めた切り札」となっています
ホッパーゼクターでは、条件的にも能力的にも上記のような「切り札」と断言するのは難しいのでは?

363名無しさん:2012/09/23(日) 00:39:01 ID:gOcT5MG60
もしも代案が浮かばないのなら、まだ正体を明かさない形で修正も出来ると思いますよ。
ホッパーが登場する部分をカットしたとしても、大筋は変わらないでしょうし。

それと投下乙です。
さやか、克己と一緒にいてどんどん強くなってくれるといいな。
ただ、仁美の死を知ってしまったらどうなるだろう。

364 ◆nXoFS1WMr6:2012/09/23(日) 00:40:08 ID:G2kRWymI0
ご指摘ありがとうございます。
ただ、逆に言わせていただくならば、自分が知りえる今回の参加作品の中でそんな便利アイテムは思い浮かびませんでした。
ならば彼女たちがこの場で出会った強敵、アポロガイストが警戒していたライダーの力はそれそのものを知らない彼女らにとって「どんな戦局をも覆しうる可能性を秘めた切り札」といえるのではないかと。
というかそもそも「可能性」という言葉はいろんな意味にも取れます。
どんな戦況でもライダーになれば覆せるかもしれないし、もしくは普通にやられるかもしれない。
でもあのアポロガイストが警戒していたのだから、切り札になりえる存在だと克己は判断したんじゃないかなと、私は考えました。
これでも納得が出来ないのであれば、代案を用意するのはさらに難しくなりますが、まぁそれはその時に考えることにします。
では引き続き、作品に対するご指摘等お待ちしております。

365名無しさん:2012/09/23(日) 00:52:01 ID:rf5u4T5E0
そういうしっかりした意図があるなら通しでいいと思うが

366名無しさん:2012/09/23(日) 01:05:20 ID:LE7UJRiA0
ダークカブトゼクターならネガの世界で出てたんですけどねえ

367名無しさん:2012/09/23(日) 01:16:41 ID:jafVy1D20
投下乙です!
どうなるのこの二人と思ってたけど、いざ修業の内容を見てみるととても濃い内容かつしっかりとした描写で、大変満足しました。
さやかの実力を引き出すための克己の悪ぶりも、克己を超えるため必死になって編み出した技で戦うさやかもかっこよかったです。
これは是非とも今後の二人の活躍に期待せざるを得ない!

さて、ホッパーゼクターに関してですが、申し訳ないのですがこれに関してだけは賛成しかねます。
まず、仮面ライダーがなければこの話は面白くないと氏は仰りますが、個人的にはこの作品の面白い点、というのはそのほとんどがさやかと克己の修業に比重がおかれていて、むしろ仮面ライダーネタは蛇足だったのではないかとすら感じます。
また、ホッパーゼクターが危ういと判断する理由についてですが、ホッパーゼクターはディケイド劇中にアイテムとしての登場を果たしておりません。
以前にもカードからの召喚という形でしか登場していないサイドバッシャーが問題になったことがありますが、正直ガワだけの登場しかしていないホッパーもそれと同じ理由でアウトではないかと思うのです。
仮にここでろくにアイテムとしての登場を果たしていないディケイド出展のアイテムを出してしまうと、今後の支給品のハードルも下がってしまいますし、はっきり言ってそれは望ましくありません。
氏はライダーのグッズ以外に面白い案がないと仰りましたが、それもどうかなと思います。全員が全員そうとも限りませんし、ここは案が見つからないなら無理に描写せずに支給品の公開は次回以降に任せるというのも手ではないでしょうか?
私はこの作品を素直に面白いと感じましたので、出来れば破棄にはして欲しくないと思います。どうかもう少し考えていただけないでしょうか……

368名無しさん:2012/09/23(日) 01:21:20 ID:lDmymOeo0
僕から見ても今回の話ってホッパーゼクターがどうしても必要とは思えません。
便利アイテムが浮かばなかったから出した、との事ですが今回の話ならばその支給品を伏せたままで次の人に任せてもそこまで問題は無いですし、
判明していない限りはそれこそ無限の可能性を秘めているので、ネウロ関係やそらおと関係の道具等でも良いのでは? 
仮面ライダー関係のアイテムをここでまた1つ増やす事もないでしょう。仮面ライダーの存在がなくても話として十分成立しているわけですし。ライダーにこだわる必要すらないでしょう。
また、氏の言う通り地獄のライダー云々の表現としてもカブト原作ならばともかく、ディケイドではそういう話が出ていない以上、やはり今回のホッパーは違うのではないでしょうか?

それから>>360でも指摘されている通り、ホッパーはディケイド作中では顔見せ程度にしか登場しておらず変身アイテムとしても出ていなかったと記憶しているので支給品としては限りなく黒に近いでしょう。
というより、>>360の問いである『「本編中で登場したわけではない支給品」ではないのか? 未登場アイテムを出して問題は無いのか?』という問いの答えになっていないのでは?
氏はそれについて答えずただ『通しにして欲しい』としか答えていないのでは? さすがにそれで納得はできかねます。

何人の方もコメントしている通り、ホッパーゼクターの描写をカットして微調整すれば今回の話の面白さを損ねる事無く十分通せるのではないでしょうか?

369名無しさん:2012/09/23(日) 01:38:12 ID:cTsae5E.0
>>364 切り札としてゼクターはどうか、という氏の考えはわかりました。確かに自分も、氏の言う通りライダーへの変身アイテムを切り札とみなすのは自然な流れとも思います。
特に、ゼクトライダーの保有するクロックアップシステムはライダーの中でも強力な能力で、あらゆる状況を覆し得る切り札と見なすことができるかもしれません。
しかし、他の方も指摘していますが>>360で指摘されている、『単独で登場していないアイテムを支給品として登場させること』についてどうお考えなのか、まだお答え頂けていません。
これの問題点は、本編でホッパーゼクターというアイテムは登場していないが、召喚ライダーの一部として現れた、という程度の基準にまで支給品のハードルを下げた場合、
『仮面ライダーディケイド』という番組の特異性(過去九作品とも関わっている)のために、極論すれば何でも出せるようになる、また把握の難度が大幅に上がってしまう点が当ロワでは問題視されてきたのです。

氏の考える通り仮面ライダーの変身アイテムにするなら、他の主役ライダーや、せめてディケイド内で各エピソードメイン級で登場したグレイブなどは前例がありますし、その辺りから探すということもできるのではないでしょうか?
例えば主役ライダーのキバも制限の都合で誰でも変身できますし、ホッパー同様のゼクトライダーでもザビーやガタックなら変身アイテムも登場し物語に絡んでいます。
登場人物との関連付けなら、参戦時期の都合上まだ地獄に固執していないエターナルの相方としての地獄兄弟(=ホッパー)より、青色で剣使いのガタックの方がさやかに似合うと言う関連付けもできるのではないかとも思います。

長々と書きましたが、つまりホッパーゼクターはディケイドでホッパーゼクター状態で登場していないアイテムのため、それを通したという危険な前例を作ってしまうことに比べるとホッパーでなければならない理由づけが弱いのではないか、と危惧しているわけです。
この問題についてのご意見を伺いたいと思いますが、よろしいでしょうか?

370名無しさん:2012/09/23(日) 01:44:31 ID:cTsae5E.0
>>369の補足ですが、他の方も仰っている通り、無理にホッパーゼクターの存在を明かさずとも今回の話は十分面白いままで成り立つと私も思います。
また、個人的な感想を言わせて貰えば、破棄するにはあまりに惜しい、魅力的な作品であるとも考えています。

ホッパーゼクターを通すということに付随する問題点をどうお考えか、それを覆せるだけの意図があるのか新参故にそもそも問題点を把握されていなかったのか、
まずはそこを確認したいだけなのです。そのまま通すにせよ、修正するにせよ、破棄するにせよ、まずはその点について確認しておきたいというのが私の意見です。
改めて、氏のご意見お待ちしております。

371 ◆nXoFS1WMr6:2012/09/23(日) 01:54:23 ID:G2kRWymI0
なるほど、皆さんの言うことはよく分かりました。
確かに自分はホッパーゼクターを出したいあまり、他の問題を考えていなかったようです。
ホッパーを出せるなら、多少の無理は通るかななどとよく分からない考えで作品を書いていました。
故に結局は、『単独で登場していないアイテムを支給品として登場させること』はさほど問題だと思っていなかったというのが、僕の考えとなります。
しかし流石にこの状況でまだホッパーがいいと喚くつもりはないので、ホッパーゼクター関連を書きなおしたいと思います。
ですが自分はさやかの支給品はライダー関連の物で行きたいなと思っているので、皆さんの意見を頂いて、ガタックやダブトなどで考えてみて、後日修正スレに投下させていただきます。
それ以外でも何かありましたら、お願いします。

372名無しさん:2012/09/23(日) 02:13:01 ID:cTsae5E.0
>371 了解しました。自分はそれなら問題はないかと思います。
修正頑張ってくださいね、楽しみに待っています。

373名無しさん:2012/09/23(日) 02:13:14 ID:rsPqhKbMO
>>371
ダブト…さやかちゃんならネガの世界の他ライダーも案外似合いそうだなw

374名無しさん:2012/09/23(日) 02:14:59 ID:gjD.kZkg0
返答お疲れ様です。
どうしてもライダーシステムを出したいならガタックがいいと思いますよ。
青で剣使い、一度死を経験して覚醒という点もさやかの体質とは相性がいいと思いますしね。
切札級の加速能力持ちで剣使いなら今回の修業の成果もより活かせますし。
修正楽しみに待ってます。

375名無しさん:2012/09/23(日) 13:06:08 ID:FQyvANE20
投下乙
しかしここのさやかちゃんは恵まれているなぁ
頼れる師匠にユニコーンメモリに今度は仮面ライダーで
さらに杏子復活の鍵を握っていると、どうしちゃったんだいホント

376名無しさん:2012/09/23(日) 15:09:51 ID:soFaXxls0
まあ、たまにはこういう恵まれた状況のさやかちゃんがいてもいいじゃないか

…この先はどうなるか知らんけど

377名無しさん:2012/09/23(日) 21:29:46 ID:rsPqhKbMO
>>376
上げて落とすは基本だからな…w

378名無しさん:2012/09/23(日) 23:02:11 ID:rf5u4T5E0
そんな事いってるとその幻想をぶち壊されるぞー

379 ◆nXoFS1WMr6:2012/09/24(月) 02:33:12 ID:SXn7EP8.0
修正スレに修正版を投下したので、確認していただければと有難いです。

380 ◆MiRaiTlHUI:2012/09/28(金) 23:04:28 ID:0nZosbUc0
予約していたカオス、フィリップ分を投下します。

381 ◆MiRaiTlHUI:2012/09/28(金) 23:04:54 ID:0nZosbUc0
 目の前に横たわる左翔太郎の遺体がフィリップの言葉に応えてくれることは、もう二度とない。フィリップとてもう子供でもないのだ、そんなことはわかっている。死んでしまった命は、どんなに悔んでも、どんなに足掻いても、もう二度と返って来ることはない。
 いや――厳密には、どうしても生き返らせることが出来ないという訳ではない。
 フィリップは、生ける屍となった男たちを知っている。死んだその身に細胞維持酵素を打ち込み、生前を遥かに凌ぐ超人兵士・ネクロオーバーとして蘇生した、常識から逸脱した集団を知っている。
 翔太郎のダメージは確かに致死量だが、ネクロオーバーとして蘇生すれば話は別だ。どうにかして細胞維持酵素さえ確保出来れば、この程度の傷などきっとすぐに回復出来る。そうすれば、或いは翔太郎を蘇生させる事だって出来るかもしれない。
 翔太郎ともう一度会える可能性があるとすれば、今のフィリップにはそれしか思い付かなかった。翔太郎をネクロオーバーにすれば、仮面ライダーダブルは復活する。不死身の身体を得た翔太郎は、今度はフィリップと同じ化学の子として、今までよりもずっと強力な相棒となるに違いない。

「……そんな、馬鹿な」
 緩くかぶりを振って、儚げな自嘲と共にフィリップは有り得ない幻想を振り払った。
 考えはしたが、果たして翔太郎がそれを望むだろうか。あの大道克己のように、次第に人間性が薄れ悪魔になっていく哀しい運命を背負わされて、あの翔太郎が喜ぶだろうか。最期の瞬間まで正義を胸に懐き、こんなにも安らかな顔のまま逝った翔太郎が、フィリップのエゴを受け入れてくれるだろうか。
 いや、そんなことは考えるまでもない。翔太郎という男が、命を冒涜するネクロオーバーを是としないであろうことは今まで相棒として長い時間を彼と過ごして来たフィリップにはわかる。相棒には生きていて欲しいと思うが、それが相棒を苦しめることになるなら、フィリップとてそんな結果は望まない。

「分かっているさ翔太郎……こんなところで立ち止まっている暇があるなら先に進めと、君はそう言うんだろう?」
 問いの答えは返って来ないが、それでも翔太郎ならきっとそう言うのだろうと、確信を持って言える。
 瞳に溜まった涙を拭って、フィリップは立ち上がった。
 本当なら、もっとずっと翔太郎のそばに居てやりたい。本当なら、きちんとした墓を作って、手厚く葬ってやりたい。そんな願望はあるが、しかし今この瞬間も誰が殺されているかわからないこの殺し合いの場にあって、フィリップにそんな余裕はない。
 立ち止まるのはもう終わりだ。涙は十分過ぎる程に流したし、休憩と呼ぶには上等過ぎる程の時間をここで過ごした。彼の死を受け入れて、それでも前に進まなければ、それこそ翔太郎の死を無駄にしてしまうようなものだ。
 哀しくないのか、と問われると、それは嘘になるが、それでもフィリップには、翔太郎から受け継いだ意思がある。この殺し合いを絶対に崩壊させてやるという決意と、そして、どんな困難が立ち塞がろうとも前へ進んで行く勇気。
 何よりも、もうこれ以上ここで立ち止まっていたくはない。翔太郎の事を思うなら、一刻も早く次の戦場へ向かい、一人でも多くの無辜の命を救うべきだと考える。

「僕はもう行くよ、翔太郎。君の意思は、僕が継ぐ。だから、君は安心して眠ってくれ」
 ついさっきまで翔太郎の腰に巻かれていたダブルドライバーと、たった二本しかないガイアメモリをぎゅっと握り締めて、フィリップは決意を新たに翔太郎に背を向けた。
 二人の絆であるダブルのベルトと、共に過ごした想い出だけを形見として受け継いで、フィリップはまだ見ぬ戦場へと歩き出すのだ。

「――ねえ、お兄ちゃん」

 そんなフィリップを背後から呼び止める声に、フィリップは背筋をぞくりと悪寒が駆け抜けていくのを感じた。

382 ◆MiRaiTlHUI:2012/09/28(金) 23:05:48 ID:0nZosbUc0
 声音は未だ幼い少女のそれに聞こえるが、しかしその声が孕んだ氷のような凛冽さは、幼子にしてはあまりにも異常。背中越しにぶつけられた幼い狂気は、フィリップに警戒の念を懐かせるには十分過ぎた。

「――誰だッ!?」
 別段何かを考えての行動という訳ではない。咄嗟に懐からT2サイクロンメモリを取り出して、フィリップは振り返る。メモリ自体がフィリップにそうさせたのか、それともフィリップが自らの意思でこのメモリを頼り手に取ったのかは、この際どちらでも構わない。
 フィリップを呼び止めたのは、声のイメージの通り、歳の頃は十歳前後であろう幼い少女だった。
 その幼い身体には、一切の衣類を纏っていない。見えてはいけない部分のみが――さながら面積の少なすぎる水着のような――無機質な装甲で覆われている。煤けた身体が、どうして彼女が服を着ていないのかを物語っていた。

「君は……」
 フィリップが声を掛けようとした、その時だった。
 少女の背から映えた歪な形の翼が二枚、瞬く間に肥大化して、付近に横たわる翔太郎の遺体と、アストレアの遺体を突き刺した。
 死人に鞭打つようなその暴挙に瞠目するフィリップなど気にも留めずに、少女はまるでそれが当然であるかのように酷薄な笑みを浮かべながら、二人の身体を吸収し始めた。
 どくん、どくん、とその翼を脈打たせて、二人の遺体を己が養分として取り込んでゆく。

「何を……っ、何をしているんだ君はっ!?」
「お兄ちゃん、知ってる? 沢山痛くして、沢山殺して、沢山食べるのが愛するって事なんだよ」
「な……ッ」
 幼い少女の言葉に、まるで感情を感じさせぬ薄ら笑みに、フィリップは絶句した。
 狂っている。この少女は、もう既に壊れてしまっている。フィリップがその確信を懐いたのは、翔太郎とアストレアの身体が完全に吸収され尽くし、少女の糧となって消滅したのを見届けたあとだった。
 
 仲間の、相棒の遺体を蹂躙した少女への怒りもあるが、今はそれ以上に、目の前の狂気に言葉を失ってしまう。おそらくこの少女は、怒りも憎しみも、哀しみさえも感じてはいない。ただ言葉の通り、その行動を愛として受け入れ、何の疑いもなく、悪気すらもなく、純粋に他者を愛そうとしているのだ。
 こんなにも幼い少女を、一体誰がここまで壊してしまったのだろう。余りにも不憫で、余りにも憐れなこの少女を、一体どうして責められようか。フィリップが懐いた感情は、怒りも哀しみも通り越した「憐憫」だった。
 それは間違っているんだ、君の言うそれは愛情ではなくただの自分勝手な暴力なんだと、そう伝えようとする間すらなく、少女の標的はフィリップへと変わる。

「だから、お兄ちゃんも愛してあげるね!!」
「――ッ!!」
 少女の背の翼が鋭い刃へと瞬転、空を裂いて一斉にフィリップへと殺到する。
 ――CYCLONE!!――

383 ◆MiRaiTlHUI:2012/09/28(金) 23:06:36 ID:0nZosbUc0
 
 電子音に次いで響いたのは、全ての音を掻き消す突風の轟音。
 フィリップがT2サイクロンメモリを己が首筋に叩き込むと同時に、その身を守る突風が吹き荒れ竜巻となって迫り来る翼の軌道を逸らす。
 かつての所持者がそうしたように、フィリップもまたサイクロンの風を巻き上げて己が身体を上空へと舞い上げる。風の力のみに特化したT2の力は、こと風を操るという分野においては、相棒と共に変身していたダブルよりも数段上の性能であると理解する。
 未だこのメモリの戦い方は把握し切れてはいないが、今は戦う事よりもあの少女を止めて説得することの方が先決だ。巻き上げた竜巻の中、どうやってあの少女を説得するか、と考え始めた時点で――フィリップは、この少女がそんな生半可な相手でない事を理解する。

「お兄ちゃんも井坂のおじさんみたいに変身するんだね」
「な……っ!? 井坂っ――」
 瞬く間にフィリップの視界から消え去った少女の囁き声が、今度は背後から、それも耳元で響いた。
 振り返ったフィリップが見たのは、少女が掲げた掌の上で燃える、赤黒く燃える炎の弾。今のほんの一瞬で、少女はフィリップの背後まで回り込んだのだと理解する頃には、炎の弾が極至近距離からフィリップの胴に叩きつけられて爆ぜ、何らかの反応をすることすらもままならず、緑のドーパントの身体はさながら流星のように地面へと急降下していった。
 次にフィリップを待ち受けるのは、地面との激突だ。砕け散るアスファルト。舞い上がる砂埃。強かに身体を打ち付けたが、しかしT2ドーパントの身体はその程度で崩壊するほど軟でもない。
 鈍い痛みを感じながら起き上がったフィリップは、上空に浮かんだ少女を視界に捉え――そして、驚愕する。

「――成長、してる……!?」
 少女の身体が、先程よりも大きくなっている。胸は十代半ばの少女の平均サイズと同じかそれ以上に膨らみ肥大化しているし、身長はおそらくもう数センチもあればフィリップに届くのではないかと思われた。
 出会ってから今の一瞬までの間に、彼女は凡そ五歳分程度の成長を遂げたのだ。

「沢山食べて、沢山愛したから、沢山大きくなれたみたい!」
「馬鹿な! そんな理屈がッ……」
 当然、フィリップの常識で考えれば有り得ない。有り得ないとは思うが、しかし目の前の現実がフィリップの常識をも覆す。今重要なのは固定観念に囚われた常識などではなく、目の前の現実にどう対処し、彼女をどう説得するかだ。
 フィリップの予想が正しければ、おそらく彼女は何らかの効力で他者を身体を吸収し、自己進化を遂げている……そういう体質なのだろう。今し方少女が見せたあの尋常ならざる加速力もきっと、元々はアストレアがその身に備えていた加速力だろう。
 もしもメタルメモリとトリガーメモリまでもが翔太郎の遺体と共に吸収されていたなら、今頃あの少女はメタルとトリガーの力まで手に入れていたことになる。有り得たかもしれない進化の可能性に肝が冷える思いだった。翔太郎の形見だけでも奴に食われる前に確保しておけたのは、――こんな事になるとは予測していなかったとはいえ――正しい判断だったと言えよう。
 何はともあれ、説得するなら今だ。奴がこれ以上何かを取り込んで、手がつけられなくなる前に止めなければならない。このまま強化と狂化を重ねれば、きっと彼女はとんでもない災厄そのものとなってしまう。
 翔太郎は奴に身体を吸収されてしまったが、しかし当の翔太郎本人だって、きっと彼女の撃破よりも、彼女を止めることを望む筈だ。彼女は悪意すらもなく、ただ間違えた事を正しい事だと誤認して暴れているだけの憐れな子供なのだから。
 フィリップは痛む身体を起こし声を荒げた。

「君は井坂深紅郎に会ったのか!? こんな事が人を愛する事だと、彼が教えたのか!?」
「井坂のおじさんは、食べる事が愛することだって言ってた。それでね、殺して、胸が痛くなるのが愛だって教えてくれたのは、火野のおじさん! でも、そこから先は自分で考えたの! わたしは自分で愛を見付けたんだよ!」
「それは違う! そんなものは愛じゃない!」
「じゃあ愛ってなあに? 違うっていうなら、お兄ちゃんが教えてよッ!!」

384 ◆MiRaiTlHUI:2012/09/28(金) 23:07:41 ID:0nZosbUc0
 少女の両手に、赤黒い火炎が宿る。
 これは、マズイ――なべて強化されたドーパントとしての感覚が、フィリップの脳内で警鐘を鳴らす。言葉による返事よりも何よりも優先して、フィリップはアスファルトに突風を叩きつけ、その反動で己が身体を吹き飛ばした。
 空中で姿勢制御をし、フィリップは先程まで自分がいた場所がごうと燃え盛る黒煙によって焼き払われるのを見た。さっき喰らった一撃よりも威力が大きい。この攻撃をあまり喰らい過ぎる訳にはいかないというのは、火を見るよりも明らかだった。
 フィリップが今考えるべきは、如何にしてあの火炎弾の弾幕を掻い潜ってあの少女に接近して戦力を奪うか、だ。何とかして攻撃さえ封じてしまえば、話をするチャンスは来る、筈だ。
 少女は無邪気な哄笑と共に、さながら幼い子供が子虫をいたぶるかのように両手で作った火炎弾を次々と投げ放つ。それを、空中に浮かんだまま右へ左へと風を巻き起こし、寸でのところで躱してのけるフィリップ。どうにも回避が間に合わない火炎弾には手から放った突風をぶつけ、軌道を逸らすことで対処する。
 が、それが出来ていたのは最初のうちだけだ。未だT2サイクロンに慣れぬフィリップの回避行動からは、次第に余裕が失われてゆき――そんなフィリップを弄ぶように、少女は人差し指を天に向けた。

「あはははははっ! 凄い凄い、よくかわすね! じゃぁ、これはどうかなぁ!?」
 少女を中心にして、空を暗雲が覆う。暗雲は周囲の風を巻き上げて、フィリップが生み出すそれと同程度の規模の竜巻を発生させ、そこに輝く稲妻と冷たい雨がプラスされる。
 激しい風圧を伴った、人の命を容易く奪い去る程の雷雨だ。
 その攻撃を、フィリップはよく知っている。天候を操作するこの協力無比な戦闘スタイルに何度も苦しめられたからこそ――
 
「君は……まさか、あの井坂深紅郎を、ウェザーを吸収したのか!?」
「えいっ!」

 フィリップの問いに対する返答は、何処までも幼稚な叫び声。
 必死さなど微塵も感じられぬ軽い一声と共に放たれる、雷雨を纏った竜巻。それらが四方からフィリップ目掛けて殺到する。何とか風の合間を掻い潜って離脱をしようにも、無数の竜巻がぶつかり合って生じる荒れ狂う風は、小さなフィリップを容易く飲み込み翻弄する。
 上手い飛行が出来ないフィリップの身体を打つのは、風によって巻き上げられた砕けたアスファルトの破片だ。幾つもの破片が、とんでもない風速でフィリップの身体を打ち付け、その身動きを完全に封じる。下手な台風よりもずっと激しく暴力的な豪雨の中で、飛び交う石片と迸る稲妻に打たれたフィリップが地へと墜ちるまでに、そう時間はかからなかった。

「くっ……なんて滅茶苦茶な……!」
 相手をただの不思議な力を持った少女だなどと思うのはやめたほうがいい。今フィリップが戦っているのは、あの凶悪なウェザードーパントだ。彼女と出会った井坂深紅朗がどうなったのかはこの際考えないでおくとして、フィリップが今すぐに考えるべきはウェザードーパントに対抗する為の手段なのだ。
「何か……何かある筈だ! この状況を打破する何かが……!」

 いや、手段ならある。
 今彼女が巻き起こしている竜巻の規模は、確かにウェザーが巻き起こしていたそれよりも強力であるかのように思える。しかし、言ってしまえばそれは、子供が自分の手には有り余る玩具を手に入れ、ただ乱暴に振り回しているだけのような……そんな稚拙があった。
 そこにフィリップは、一か八かの勝機を見出した。ただ乱暴に吹き荒れるだけの竜巻は、確かに井坂が巻き起こすそれよりもずっと暴力的なのかもしれないが、しかし井坂のそれと比べれば、随分と滅茶苦茶な風の動きだ。おそらく、まだ己の力を御し切れてはおらず、ただ力任せに竜巻を起こしただけなのだろう。
 フィリップはサイクロンドーパントとしての五感を研ぎ澄まし、迫り来る無数の竜巻の中で、最も“脆い”場所を探し――竜巻同士がぶつかり合い、ひしめき合うその中に、一点の風の“ほつれ”を見出した。

385 ◆MiRaiTlHUI:2012/09/28(金) 23:08:08 ID:0nZosbUc0
 
「――そこだ!」
 チャンスは一瞬。見出した風のほつれに、サイクロンドーパントの持てる最大風圧の突風をぶつけることで、そのほつれを大きくする。結果、瞬間的に風圧が一気に弱まり――それでも十分過ぎる豪風だったが――、風の通り道が出来たのを、フィリップは見逃さなかった。
 風を操り己が身体を飛翔させたフィリップは、一瞬の隙を突いてそこから外へ脱出した。
 されど相手はあのウェザー。それで安全が訪れるのかと思いきや、そんなに簡単に行くわけがない。やっとの思いで竜巻地獄から抜け出せたかと思えば、次にフィリップを待ち受けるのは、少女が放つ稲妻の嵐だった。
 天を指差した少女の頭上に、青白く輝く稲妻の塊が発生している。そこからまるで、フィリップに吸い寄せられるように幾重にも稲妻が伸びて、空を翔ける緑を再び地に叩き墜とそうとするのだ。
 それを必死になって掻い潜りながら、フィリップは叫ぶ。

「やめてくれ! 僕は君と戦いたいんじゃない! 話を聞いて欲しいだけなんだ!」
「そんなのいいよ、火野のおじさんがしたみたいに、お兄ちゃんもわたしを愛すればいいじゃない!」
「それは愛とは言わない! 君や火野の言うそれは、ただの暴力だ! それは人を苦しめるだけなんだ!」
「どぉしてそんなこと言うの? 火野のおじさんがお姉ちゃんに痛いことして殺した時、わたしの胸もとっても痛かったよ。それが愛なんでしょ? だからわたしも、みんなにそれを与えてあげるの!」
「――っ!!」
 そこでフィリップは悟った。今のこの少女に、純粋過ぎるが故に狂ってしまったこの少女に、フィリップが攻撃を仕掛けるわけにはいかない。
 きっと彼女は、何らかの理由があって、火野という名の人物にやられた苦しみを全て愛であると誤認してしまったのだろう。そんな彼女に攻撃を仕掛けたところで、彼女はまたそれを「愛」と捉えるだけなのではないか。だとするなら、彼女の考えを正すには、戦い以外の道を示す必要がある。
 気付いた時にはフィリップから彼女に近付く事はなくなっていた。ただ徒に空を飛びまわり、少女が放つ稲妻を回避し続けるだけの応酬が続いていた。
 状況を打開しなければならないのはわかるが、しかし、その方法が思い浮かばない。こんな時、翔太郎ならどうするだろうか。あの翔太郎なら、きっと逃げ続けるだけでなく、例え無茶な方法ででもこの状況を打開しに掛かるのではないか――そんな事を考えた時だった。

「――おい、いつまで逃げてんだ?」
 不意に、聞き慣れた声が聞こえた。
 それは、ずっと共に戦って来た相棒の耳に心地の良い声。
「なっ……しょ……翔、太郎……ッ!?」
 もう死んでしまった筈の相棒が、今もフィリップにエールを送っているのだろうか。だとしたら、こんなところで挫けるわけにはいかない、と――ほんの一瞬でもそんなことを考えてしまったフィリップは、次の瞬間、非情な現実に絶句した。
 フィリップが聞いた翔太郎の声は、幻聴などではなかった。何故なら、翔太郎は確かにそこに存在しているのだから。

「翔太郎……」
 宙に浮かんだ翔太郎は、天を指差し、稲妻を迸らせながら、フィリップへ向けて酷薄な笑みを浮かべる。翔太郎の顔をしたそいつが、翔太郎が浮かべる筈のない表情で、フィリップに稲妻攻撃を仕掛けてくるのだ。
 最早考えるまでもない。あの翔太郎の正体は、あの少女だ。こんなにもお粗末な変身で、フィリップを騙せるとでも思ったのか。――否、そんなことはやるだけ無駄だ。結局のところ、あの無邪気な少女の変身に意味などはないのだろう、フィリップを騙そうと言う気すらもないのだろう。
 奴はただ、フィリップの心に揺さぶりをかけるというそれだけの為に、翔太郎の顔と声を使っているのだ。
 それがダミーメモリのように、相手の記憶の中から情報を読み取って擬態する能力なのか、はたまた彼女が翔太郎の身体を喰ったから擬態が可能になったのか、それともフィリップの精神に何らかの催眠攻撃を仕掛け、幻覚を見せているのか……真相は定かではないが、今はそれもどうでも良かった。

386 ◆MiRaiTlHUI:2012/09/28(金) 23:09:01 ID:0nZosbUc0
 
「その姿を――ッ!」
 一瞬でも浮かれた期待を懐いてしまったことが恥ずかしい。
 一瞬でも翔太郎の死を冒涜するような想像をしてしまったことが情けない。
 そんな自分の惨めさが許せなくて。そして何よりも、あの少女が許せなくて――
「勝手に使うなぁぁぁっ!!」

 フィリップは、絶叫と共に飛翔速度を上げる。飛び交う稲妻をひらりひらりと舞って躱し、余裕の表情で稲妻を放ち続ける翔太郎目掛けて急迫する。
 翔太郎の顔が、その口元がにんまりと歪む。
「やめろ!」
 醜い笑みがフィリップに向けられ、胸が締め付けられるような痛みに襲われる。
「やめてくれ!」
 狂った笑みを浮かべる翔太郎の首根っこを掴み上げて、フィリップは叫んだ。
「これ以上、翔太郎を弄ぶのはやめてくれッ!!」
 あんなにも安らかな表情で逝った翔太郎を喰っただけでは飽き足らず、その姿を使って、その顔をあそこまで醜く歪ませられて。そんなものを見せ付けられて、頭に血が昇らない訳がない。無意識に翔太郎の首を締め上げるその手に力が込められてゆく。相手が生身の人間であったなら、とうに死亡していてもおかしくない程の圧力で、フィリップは翔太郎の首を絞め上げ、地面へと急降下。
 フィリップはもはや翔太郎の顔を見てはいられず、その顔を背けていた。

 どごぉん! と、派手な轟音が響き渡る。
 アスファルトが砕け散り、砂埃が舞い上がる。少女の攻撃が止んだからだろうか、空を覆っていた暗雲は既になくなり、滅茶苦茶に吹き荒れてた突風も、縦横無尽に奔り回っていた稲妻も、その姿を消していた。
 涙を噛み殺して、フィリップは少女を睨む。少女は、未だに翔太郎の顔のまま薄い笑みを浮かべていた。
「ねえお兄ちゃん、どう? 胸が痛いでしょ? これが、愛するってことなんでしょ?」
「それは……それは――っ!」

 翔太郎の顔から発せられる幼女の声、その言葉に、フィリップの息が詰まった。
 否定が出来ない。今こんなにもフィリップの胸が苦しいのは、フィリップが翔太郎を誰よりも大切に思っていたからだ。相棒として、仲間として、掛け替えのない存在だったからこそ、彼のことになると虚心では居られなくなってしまうのだ。
 彼女の言葉を借りるなら、それはまさしく愛情であると言えるのだろう。
「………………っ」
「ほら、ちがうって言えないんでしょ? じゃあやっぱり、これが愛なんだっ!」

 少女の首を掴む手の力が抜けてゆく。
 翔太郎の顔がにたりと一際厭らしく笑ったかと思えば、その顔は少女のそれへと戻り、次いでフィリップと少女の間に、赤黒い炎がぼっ、と音を立てて灯った。
 発生した火は瞬く間にそのエネルギーを増幅させ、フィリップと少女の間の空間を焼き尽くす。元より地面に横たわっている少女はそれ以上沈むことはないが、逆にフィリップの身体を支えてくれるものはなく、緑の身体は爆風と共に上空へと跳ね上げられた。
「ぐう……っ!?」

 ドーパントとして強化された肌を焼く火炎の熱に身悶えしながら、フィリップは上空で風を操り姿勢を制御する。
 見下ろせば、燃え上がる爆炎の中で、まるで熱でも感じていないかのように立ち上がる少女の姿が見えた。数歩歩いて炎から出た少女は、身体を汚す黒い煤をぱんぱんと手で払いながら、フィリップを見上げにっこりと笑って見せる。

387 ◆MiRaiTlHUI:2012/09/28(金) 23:09:51 ID:0nZosbUc0
 やはり、あの無邪気な笑顔には一切の悪意がない。ただ狂ったように、愛を「そういうモノ」だと思い込んで、それに縋って、他者を傷付け続ける。それを間違った事だと言う認識がそもそもないのだから、彼女には周囲の声も届かない。
 だけどそれでも、フィリップは悲痛な叫びを投げかけ続ける。
「君の言う通り……それは、確かに愛と言えるかもしれない。だが、やはり君は間違っている! どうして、他者に苦しみを与えなければならないんだ! 愛は、それだけじゃないだろう!?」
「だったら、お兄ちゃんの愛の形をわたしに見せてって言ってるでしょぉ? 愛を、愛を愛を愛を、愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛をぉぉッ!!」

 狂った笑みの浮かべながら、少女は火炎弾を何発も投げ放ってくる。風が吹き荒れ、再び空を覆った雷雲から雷と豪雨が吹き付ける。少女の火炎攻撃と、ウェザーによる気象攻撃の合わせ技だ。滅茶苦茶な攻撃の嵐に晒されて、フィリップは疲弊しきった今のコンディションでこれ以上の戦闘を続けるのは余りにも不利過ぎるという事実を理解してしまった。
 どの道、フィリップには今の彼女に愛の何たるかを伝える手段がない。今の自分にあるのは、ただ戦う事にしか使えない――それも未だ慣れには程遠い――T2サイクロンメモリの力だけだ。この力で彼女を説得する事も出来なければ、この力だけでは彼女を打ち倒す事も出来はしない。
 今の自分では、彼女を止められないのだ。力も、言葉も、彼女にはまるで届きはしないのだ。今ここでこれ以上彼女と対峙することは、掛け値なしのマイナスにしかならないことに気付いてしまった時、フィリップの中に新たな選択肢が芽生えた。

「………………すまない、翔太郎」
 そう小さく呟いて、フィリップは風を巻き起こした。
 空中のフィリップへと急迫した火炎弾を己が竜巻で巻き上げ、炎の旋風をつくり出す。自らの力で風を操りそれを一気に拡げることで、少女を中心としたこの一帯が、炎の嵐によって巻き込まれた。
 一瞬でも少女の意識を逸らせたなら、それで上等だ。フィリップは、少女から逃げるように背を向け、彼方へと飛翔していった。
 今のフィリップには、もうこれ以上戦う気力がない。ただでさえ翔太郎の死で精神をすり減らしていたというのに、そこへきてあの少女との出会いと、ウェザーをも凌ぐ苛烈な攻撃の嵐――これでは精神力も体力も、ただ徒に摩耗を続けるばかりだ。
 ここでやられては元も子もない。フィリップは、逃げの道を選ぶしか出来ない自分に「これはあくまで戦略的撤退だ」と言い聞かせながら、ただひたすらに飛ぶ。
 今の自分を翔太郎が見たら、一体どう思うだろう。これは仕方のない現実なのだと、彼は理解してくれるだろうか。それとも、彼ならばもっと違う選択肢を選ぶことが出来たのだろうか。もしかすると、翔太郎ならばあの少女を説得する事だって出来たのではないのか、不思議とそんな考えが浮かぶ。

「……いや、今はそんなことを考えても仕方がない」
 それを考えるだけ無駄なことだと切り捨て、フィリップはかぶりを振った。
 目的地は、衛宮邸だ。元より、何かあった場合は衛宮切嗣と合流するという手筈だった。今は一刻も早く衛宮切嗣と合流し、翔太郎の事、そして、進化を続ける凶悪な少女の事を伝えなければならない。
 あの少女から、そして非情な現実から逃げるように、フィリップはただ速度を上げて飛び続ける。
 

【一日目-夕方】
【C-3/市街地】

【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、絶望、深い悲しみ、サイクロンドーパントに変身中
【首輪】50枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.翔太郎、僕は……――。
 1.衛宮邸に向かい、衛宮切嗣と合流する。
 2.あの少女(=カオス)は何とかして止めたいが……。
 3.火野という名の人物に警戒。また、井坂のことが気掛かり。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。

388 ◆MiRaiTlHUI:2012/09/28(金) 23:10:17 ID:0nZosbUc0
 



 カオスが起こした土砂降りの雨が、燃え広がった炎を消火し切ったあとに残ったのは、惨憺たる破壊の傷痕だけだった。アスファルトはあちらこちらが砕けて土の地面を露出させ、砕かれたアスファルトの破片は竜巻に巻かれて周囲の建物の窓ガラスを片っ端から割った。
 大災害に見舞われた直後の廃墟群よろしく荒れ果てたその景観を眺めながら、カオスは裸足のまま濡れた大地を歩く。
「どうしてわたしを独りにするの? せっかく愛してあげようと思ったのに……」

 何処か寂しげな――本人はそれを一体如何なる感情だと認識しているのかは定かではないが――か弱い声がぽつりと紡がれ、何処までも広い寂寞の市街地の闇へと消えていく。
 日が落ち始めた夕闇の市街地は、未だ幼い子供一人にとってはあまりに広すぎる。まるで迷子になってしまった子供のように、カオスは虚ろな表情のまま歩き続ける。
 誰でもいい。誰か、この寂寥感を忘れさせてくれる人に会いたい。そして、その人を今度こそ沢山愛してあげたい。沢山沢山、身体に痛みを刻みつけて、胸――動力炉――が痛くなるような思いを刻みつけて、身体が張り裂けんばかりの苦しみのうちに殺して、そして最後には自分の糧として食べ尽くしてあげたい。
 そうすることが、優しさなのだとカオスは思う。
「あっちの方にいったら、誰かを沢山愛せるかな?」

 カオスが目を付けたのは、この会場の中心部。
 鴻上ファウンデーションを中心に栄える、この世界の都心。
 閑散としたこの場所よりも、きっとあっちの方が沢山の人に会えるだろう。
 そう判断したカオスは、まるでそこに希望の光を見出したかのように足早に歩き始めた。


【一日目-夕方】
【D-3/市街地】

【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】身体ダメージ(小)、精神ダメージ(大)、火野への憎しみ(極大)、成長中、服が殆ど焼けている(ほぼ全裸)
【首輪】210枚:90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
基本:みんなを愛してあげる。
 1.中心部に向かってみんなを愛してあげる。
 2.痛くして、殺して、食べるのが愛!
 3.火野映司(葛西善二郎)は目一杯愛してあげる。
 4.おじさん(井坂)の「愛」は食べる事。
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より落ちています。
※至郎田正影を吸収しました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。
 今後どんなペースで成長していくかは、後続の書き手さんにお任せします。
※ウェザーメモリを吸収しました。
※ほぼ全裸に近いですが胸部分と股部分は装甲で隠れているので見えません。
※仁美のセルメダルはカオスの首輪へ吸収されました。
※憎しみという感情を理解していません。

389 ◆MiRaiTlHUI:2012/09/28(金) 23:17:04 ID:0nZosbUc0
以上で投下終了です。
タイトルは「愛憎!!」でよろしくお願いします。

390名無しさん:2012/09/28(金) 23:35:39 ID:BR4.TL7A0
乙。
映司の悪評っぷりがやばいな

391名無しさん:2012/09/28(金) 23:56:05 ID:qT22xgXY0
投下乙です。
カオスと二人っきりで予約とかどう足掻いても絶望かと思いきや、何とかフィリップが無事逃げ延びて安心。
……いや、無事じゃないな。普通に絶望一歩手前の戦力差を見せつけられたし。
翔太郎への擬態は初登場時にニンフに使った能力かー……カオスったら無邪気に性格悪いんだから性質が悪いぜ。
ハッ!? しかもそれがどんどん成長して全裸ってこれは……反応しそうなの智樹ぐらいだったわ良かったー……

そして映司の悪評かー 前にロスアンがヘマやらかした時も、それぞれに誰がどう嵌められたかがわかっただけだから、
フィリップはロスアンが映司を騙ったことは知らないんだっけなー 知ってたらまた騙りの可能性に気付けたろうに
映司の不運は止まるところを知らない、ってキャッスルドランが怖いわ!

ああ、忘れてた 中心街付近の皆様、ご愁傷様です

392名無しさん:2012/09/29(土) 00:03:34 ID:FDR/1PB6O
投下乙です、フィリップはマリアさんの力でなんとか切り抜けたか…正直映司の誤報なんて今更機能すんのか?と思わんでもないが、ロワは何がどうなるか

393名無しさん:2012/09/29(土) 00:35:53 ID:VsiZDPhk0
投下乙です。
フィリップが再び立ち上がってくれて安心、って思った矢先にカオス出現とかハードすぎる…
元々が強いだけでなく吸収した能力への適応力も高いから、カオスが天井知らずだと改めて知らされる回だった。
それに翔太郎の顔を使ったことで結果的には「痛い=愛」論を貫いちゃうとかすごい発想。
今回フィリップは幸運にも命拾いできたけど、まあ…次回の伊達さん達が悲しみを背負うのは不可避ですかね…

394名無しさん:2012/09/29(土) 10:43:20 ID:uC4oYfww0
投下乙です。
うっひゃあ、カオス強すぎるw フィリップ君、よく生きていられたな……でもこれからどうなるかわからないよね。
それにしても映司の誤報はどんどん広まっていくw 葛西さん、良い仕事したね。
しかしカオスが向かう先によっては、惨劇が起こりそう……

395名無しさん:2012/09/29(土) 12:29:55 ID:S1GLjb.MO
投下乙です。
火野がおじさんでフィリップがお兄ちゃんってところに、違和感を覚えるかどうかだね。

396名無しさん:2012/10/08(月) 15:40:57 ID:r6g7QQKY0
今思ったけどISの攻撃を受け止められるウヴァさんってすごくね?

397 ◆QpsnHG41Mg:2012/10/09(火) 07:57:03 ID:kR/hS8HY0
>>396
ウヴァさんは強いよ!!
間違いなく強いよ!!!

ハイ、投下します。

398チープ・トレード ◆QpsnHG41Mg:2012/10/09(火) 07:58:00 ID:kR/hS8HY0
 褪せた金の甲冑を纏った怪人が、ガイへ向かって歩きだした。
 速度は遅い。さながら獲物を袋小路へ追い詰めた狩人のように悠々と。
 コイツが殺し合いに乗っていることは最早間違いないだろう。
 つまり、コイツは他者の命を奪うことに抵抗を感じない「悪」だ。
 さっき戦った綺麗事を抜かす二人組とはワケが違うのだ。
“ええい、どうするッ!? 悪ならば悪同士手を組むか!?”
 それも選択肢としては十分に有り得る。
 何の情報も得ないままに戦闘を行うことの危険性はさっき学んだ。
 全く未知の世界の怪人が相手なら、下手に戦うのは寧ろ下策ではないか。
 ここは同じ「悪」同士、停戦協定を結ぶのは決して悪い作戦ではない。
「待て、私に戦う気はないのだ。少し話をしようではないか!」
「話をする必要などありませんよ」
 取りつく島もないとはこのことか。
 理想郷の名を冠する怪人――ユートピアは、軽く手を翳した。
 次の瞬間、目に見える世界が赤い炎の膜に覆われたように感じた。
 続いて身体に感じた熱で、ガイは自分の状況を察する。
「ぬうッ!?」
 焼かれているのだ、自分の身体が。
 ガイもまた咄嗟に身体を怪人のそれへと変貌させる。
 ばさりと音を立ててマントを翻し、この身を覆う炎を振り払う。
 対応が早かったのが功を奏したか、熱によるダメージは微量だ。
 クウガの世界には超自然発火現象なるものを使う者がいると聞いたことがあるが、
 奴が今アポロガイストの身体に放った火は、それに近いものだろうか?
 ……いや、今はそんなことはどうでもいい。
「貴様、私は敵ではないというのがわからんのかッ!?」
「これは異なことを仰る……貴方はこのゲームのルールをご存じですか?
 無事元の世界に帰還出来る陣営はたった一つ。よって、貴方と私は敵になるのですよ」
「ええい、そんなことは分かっているッ! 今はそれでも手を組もうと申し出ているのだッ!」
「それは都合のいい弱者の考えです」
 そういって、ユートピアは一本のステッキを取り出した。
 アポロガイストにはもうこれ以上の油断は許されない。
 奴の動きよりも早く、アポロガイストはマグナム銃を突き付け銃弾を放った。
 仕留める気はない。こちらにも実力はあるのだということを示す為の、いわゆる威嚇射撃だ。
 しかしアポロガイストの思惑に反して、放たれた銃弾はユートピアを目前にしてぴたりと止まった。
「――何ィッ!?」
 構わず次の銃弾を放とうにも、引鉄にかけたアポロガイストの指が動かない。
 否、指だけではない。爪先から頭まで、身体すべてがぴくりとも動かなくなったのだ。
 それはまるで、見えない何かに身体をぐっと抑えつけられているかのようだった。
「貴様、何をしたのだ!?」
「これから死ぬ貴方に教える必要はありませんよ」
 酷薄極まりない嘲笑混じりの言葉。
 奴はここでこのアポロガイストを仕留める気なのだ。
「ええい、ふざけおって! いいのか、私を殺せば後悔する事になるぞ……!?
 私は仮面ライダーどもにとっては大迷惑な存在だが、悪の怪人にとってはこの上なく有益な存在だというのにッ」
「……、ほう? 仮面ライダーの……」
 そこで、ユートピアの動きが止まった。
 どうやら、仮面ライダーという言葉に反応したように見える。
 とするなら、奴もまた自分達と同じ「仮面ライダーの敵」ということか。
 であるならば、尚更手を組まないワケにはいかなくなるというものだ。
「どうだ、少しは話を聞く気になったか?」
「……いいでしょう。どの道貴方の殺生与奪は握ったも同然です。
 そこまで言うなら聞くだけは聞いて差し上げますよ、貴方の話」
「そうか、ならば――」
「――ただし」
 アポロガイストの言葉を遮って、ユートピアはキッパリと言い切った。
「貴方の拘束を解除する気はありません」
「なっ……」
「また、貴方が私にとって有益な存在でないと判断した場合……
 この話し合いは即刻決裂。すぐにでも命を奪わせて頂きますが」
「む、むう……ッ」
「よろしいですね?」
「し、仕方ない、その条件を呑んでやるのだ!」
 アポロガイストは渋々ユートピアの条件を呑んだ。
 癪ではあるが、殺生与奪を握られた今、下手な発言はそのまま死に繋がる。
 だが、これはこの場をやり過ごし、上手くゲームを生き延びる絶好のチャンスでもある。
 失言は許されない。必ずここでこの男を味方につけて、生き延びねばならない。
 ほんの小さなミスすらも許されない、二大組織の幹部同士の取引が始まった。

          ○○○

399チープ・トレード ◆QpsnHG41Mg:2012/10/09(火) 07:58:36 ID:kR/hS8HY0
 
 加頭は正直、アポロガイストの生死に関してはどうでもいいのだった。
 この男がユートピアの敵ではないと分かった今、泳がせておいても問題はない。
“いえ、むしろ――”
 むしろ、この男を泳がせておくことが自分と愛する冴子の利に繋がるなら……
 ミュージアムを幾度となく苦しめた仮面ライダーに仇成す事に繋がるなら……
 今すぐにここで殺してやるのは、やや惜しいことなのではないかとすら思えたのだ。

 簡単な自己紹介を終えた両者は、先の拘束状態を維持したまま会話を続ける。
「では、アポロガイストさん。貴方と手を組む事で得られるメリットを簡潔に教えて頂きたいのですが」
「うむ、心して聞くが良い」
 状況に似つかわしくない不遜な態度でもって、アポロガイストは饒舌に語り出した。
「では、まず簡単な確認から始めよう……なに、案ずることはない。本当に簡単な確認なのだ……」
「このゲームのルールは、味方以外の参加者を皆殺しにするバトルロワイアル方式……」
「簡単な話なのだ……ここまでは分かるな?」
「そこでだ……優勝するためにはどうすればいいと思う?」
「地道に全員殺して回るのか?」
「馬鹿正直にルールに従って、正攻法で青以外を皆殺しにするのか?」
「それもいい……力に自信があるならそれも立派な手段といえよう……」
「……しかしだッ!」
「この場には仮面ライダーどももいるのだッ奴らは必ずこのゲームを打破するため手を組むだろうッ!」
「そう、厄介な連中なのだ! 我々悪の怪人にとっては、この上なく厄介な連中なのだッ!!」
「そんな相手に……陣営に関係なく徒党を組む奴らに……我々悪の組織だけ、色の縛りに拘っていてよいのか!?」
「いいや……私はそうは思わないのだッ……奴らが手を組むなら、我ら悪の組織も手を結ぶべきではないのか!?」
「そう……簡単な話だ……本当に、簡単な話なのだ!」
「我々悪の組織も一致団結すればいい……何も永続的にとは言うまい……」
「我ら共通の敵を葬り去るその時まで、一時的にでいいのだ!」
「どうだ、魅力的な提案だとは思わんか?」
「仮面ライダーを葬ったあとのことは、我々だけで考えればよいではないか……?」
 アポロガイストは言いたい事を言い終えたのか、ふっと笑い、滔々と一息吐いた。
「……なるほど」
 その力説っぷりや見事。
 圧倒的に不利なこの状況を思わせぬ程の朗々さであった。
 そしてそんなアポロガイストの言い分には、確かに一理あると加頭も考える。
 おそらく、仮面ライダーWはあのワイルドタイガーとやらともきっと手を組むだろう。
 それが一人二人ならばまだしも、もしも大集団を組んで襲い掛かって来られたら……?
 ユートピアが負けるとも思えないが、それでも過信は禁物だ。
 来るべき大決戦に備えて、出来る限り味方を多くつけておくに越したことはない。
 陣営は違えど「仮面ライダーの敵」という共通の認識を持つこの男は、確かに有益であろう。
 そもそもユートピアの敵でもない以上、ここで殺す必要もないように思える。
 この男、このまま泳がせておくのも悪くはない。
「貴方の言い分はわかりました」
「では、私と手を組むか!?」
「ええ……構いませんよ」
 ユートピアはアポロガイストの拘束を解除し、手を差し伸べる。
 二大組織の大幹部は互いに手を掴み合い、ここに同盟締結の証を立てた。
“もっとも、あくまで「仮面ライダーどもが消えるまで」のあいだですが”
 この男もそれは分かっているのだろうから、改めてそれを言う程加頭は不粋ではない。
 一時的に仲間になった男と共に、加頭は園咲邸へと歩を進めた。

           ○○○

400チープ・トレード ◆QpsnHG41Mg:2012/10/09(火) 08:00:23 ID:kR/hS8HY0
 
「……ん、もう夕方か」
 まどろみから覚めた門矢士は、壁の時計を見て時間の経過を悟った。
 ここは秋葉原からやや西へ逸れた地点にある、何の変哲もない民家の一室だ。
 オーズらとの戦いが終わってすぐに移動を開始した士は、この民家で二時間程度の仮眠をとっていた。
 体力はまだ万全とは言い難いが、それでもかなり回復している。
「こんな生活にも随分と慣れちまったもんだな」
 多くの仮面ライダーとの連戦を勝ち抜き、破壊の限りを尽くし、追われる身になり、
 限られた時間の中で身体を癒して、また次のライダーを破壊して回る。
 そんな毎日を繰り返してきた士にとって、現状は窮地とすら呼べないものだった。
 元々人間離れした治癒能力を持っていることも手伝って、士はこれ以上の休息は必要ないと感じていた。
 これならもう戦える。
 また仮面ライダーを"破壊"出来る。
 純粋な使命感に突き動かされるように。
 士は民家を出て、ライドベンダーに跨った。
「さて、次は何処へ向かうか」
 行くアテなどはない。
 何処に誰が居るかもわからないのだから、それも当然だ。
 だが、どうせ行くならば人が沢山いそうな場所がいい。
 とするなら……そうだ、やはり中心部へ向かうのが一番手っ取り早い。
 次の目的地を決めた士は、勢いよくスロットルを捻りバイクを発進させた。

          ○○○

 未だ太陽は高く昇っている。時間帯はまだ午後くらいだろう。
 加頭のスーツは現在、園崎邸の日当たりのいいテラスに干されている。
 代わりに加頭が着るのは「霧彦」という男が使っていたバスローブだ。
 締まりのない姿だが、着るものもなしに裸で過ごすよりは幾分かマシである。
 アポロガイストとの出会いから経過した時間は軽く小一時間程度だろうか。
 悪の組織の幹部二人による情報交換はここ園崎邸にて行われていた。
 内容は主に、両者の知人と、敵対関係にある者についての共通認識の確認。
 どうやら門矢士、海東大樹、小野寺ユウスケの三人は敵で、月影ノブヒコが味方らしい。
“よもやあの男がアポロガイストさんの仲間だったとは。私、思いもよりませんでした”
 話に聞いた情報を、記憶の中の月影/シャドームーンの姿と照らし合わせる。
 奴がアポロガイストの仲間だったというなら、それは奴と交戦した加頭にとってやましい事実だ。
 やましい事実ということは、下手に言わない方が賢いということだ。
 加頭は内心を感じ取らせぬポーカーフェイスで告げた。
「――分かりました。では、もし私が先に月影さんと出会った場合は、私からも同盟の話を持ちかけておきましょう」
「うむ、それが良いのだ。何といっても我々は同じ悪の組織同士、もう味方なのだからな」
 アポロガイストの言葉に、加頭は不敵に口角を吊り上げ頷いて見せる。
 が、その内面は表向きの顔とはまったくの無関係である。
 一度月影と交戦した経験のある加頭にとって、月影は既に立派な警戒対象だ。
 大体、あの月影が素直に加頭を味方として受け入れてくれるとも思えない。
 結局のところ、月影ノブヒコは油断ならない強敵だ。
 ならば今はまず、情報集めに徹するべきだろう。
「……門矢士、海東大樹、小野寺ユウスケ、以上の三名の情報は概ね把握しました。
 あとは貴方のお仲間の月影ノブヒコさんの情報も詳しく知っておきたいのですが」
「ん? 月影の情報など聞いてどうするのだ?」
「情報を持つことは決して無駄にはなりませんよ」
 それに、と付け加えて、口元だけで不敵に笑う加頭。
「突然ですが……私、話していて分かったんです。貴方は実に優秀な方だと。
 貴方ほど聡明な大幹部は、私が所属する組織を探しまわっても二人といません。
 そんな貴方から見た客観的な判断を踏まえて、今後の作戦を練っていきたいのです」
「ほう……! 貴様、中々見る目があるではないか。いいだろう、私の知る情報を優秀な仲間である貴様に教えてやるのだ!」
 その言葉に続いて、両者、互いにシニカルな笑みを交わし合う。
 本当に加頭がそんなことを考えているのかなど、言うまでもない。
 相手を上手くおだてて情報を聞き出すのは、取引の常套手段である。
 気分を良くしたアポロガイストは、月影の情報を教えてくれた。

401チープ・トレード ◆QpsnHG41Mg:2012/10/09(火) 08:01:08 ID:kR/hS8HY0
 曰く、月影は「BLACKの世界」の悪の組織・ゴルゴムの大幹部らしい。
 奴の強力な力の源は、その腹部に埋め込まれたキングストーン、月の石。
 対になる太陽の石を持つ仮面ライダーとは宿敵の間柄にあるのだとか。
 しかし、大幹部の間で共通認識として公開されているデータはそこまで。
 それ以上の詳しいデータはアポロガイストにも分からないという。
 が、加頭にとってはそれだけでも十分過ぎるほどだった。
 力の源が分かったということは、即ち弱点を見出したことに他ならない。
 もしもまた戦う事になればそこを狙って潰しに掛かろうと頭の片隅で考えておくことにした。
「……貴重な情報感謝します。しかし、この場にそのブラックサンが居ないなら今の情報も聞く意味はあまりありませんでしたね」
「だから言ったではないか、月影の情報など聞いてどうするのだと」
 加頭が奴の弱点に目を付けたことに気付かれてはならない。
 話をキングストーンに持っていかないように注意しながら、加頭は月影の話を終わらせた。
「さて、情報交換はこんなところでしょうか。そろそろ私の服も乾きますし」
「うむ、私もそろそろ動き出したいと思っていたところなのだ」
「私はこのまま北上しようと考えています。貴方はどうしますか?」
 ハンガーに掛けられた白服を手に取りながら問う。
 加頭としてはこの男を適当に泳がせて、邪魔な仮面ライダーどもを間引かせた所だが。
「私はアテもなく彷徨うつもりなのだ。まずは月影と合流しない事には始まらんのでな」
「そうですか。ではお気を付けて」
「貴様もな。精々仮面ライダーどもに出し抜かれないように気を付けるのだ」
 その言葉を最後に、アポロガイストはデイバッグを持って屋敷をあとにした。
 誰も居なくなった部屋で着替えを済ませた加頭は、自分も出発しようとデイバッグに歩み寄る。
「ん?」
 そこで、加頭は足元できらりと光る何かを見付けた。
 場所は、ついさっきまでアポロガイストが座っていた椅子の下。
 彼が落として、そのまま気付かずに行ってしまったのだろうか。
「……貴重な支給品を、お気の毒に」
 薄い笑みすら浮かべながら、加頭はそれを拾った。
 それは黄色い外装に青い端子の、加頭も良く知るT2ガイアメモリ。
 刻まれた刻印は「N」。ナスカの記憶を内包したメモリだ。
「……これは冴子さんに渡しましょう」
 加頭はそれを見た時、即座にそう考えた。
 園咲冴子は今も旧世代のナスカメモリで戦っている筈だ。
 そんな彼女に、T2ナスカメモリをプレゼントしようと考えるのはごく自然な流れだろう。
 しかし加頭は、そこで一つの可能性に思い当たった。
「……まさか、私が"貴方"を冴子さんに渡そうと考えることまで察して?」
 そう、言葉を発する筈のないナスカメモリに尋ねる加頭。
 T2ガイアメモリは所有者と"運命"で惹かれあう性質を持っている。
 そうするとなると、まさかこのメモリが自ら冴子の下に行こうとして……
 わざとアポロガイストのデイバッグから抜け落ちて、加頭に拾わせたのだろうか?
 それも可能性としては大いにあり得るが、いや、今はそんなことを考えても仕方がない。
「……いいでしょう、少々チープな条件ですが、これは私と"貴方"の契約です。
 私が"貴方"を無事冴子さんの元まで送り届けると約束しましょう。
 運賃として、それまで"貴方"には私の手足として働いて頂きたい」
 ナスカメモリの返答を待たずに、加頭はそれをポケットにしまった。
 ユートピアメモリがある以上ナスカメモリに出番が訪れるかは些か疑問だが。
 それでもこの場には、あの"エターナル"と惹かれあった大道克己も居る。
 奴が相手ならば、従来のユートピアではまず勝ち目がないのだ。
 いざという時の保険としてT2を持っておくことも悪くはない。
 加頭は新たな取引相手を引き連れて屋敷をあとにした。

           ○○○

402チープ・トレード ◆QpsnHG41Mg:2012/10/09(火) 08:03:20 ID:kR/hS8HY0
 
 幾つかの街を巡り歩いたガイは、この殺し合いの規模について思考する。
 まず、この広大な土地。地図に記された一マスあたりの直径はおそらく五キロ程か。
 もう二時間近くも歩き続けているが、それでもまだ地図のほんの一部しか歩いていない。
 これだけの会場の用意には、少なくとも大ショッカークラスの大組織の力が必要不可欠だ。
 しかし、それだけの規模を誇る大組織が大ショッカー以外にあるなど、ガイは知らない。
 仮にあるとするなら、そんなものは真っ先に大ショッカーに統合されるか潰されるかの運命を辿る筈だ。
 それを、あの真木清人は我ら大ショッカーに何も悟らせぬまま、
 あろうことか大ショッカーの大幹部を二人も誘拐してのけたのだ。
 ハッキリ言って、これは異常だ。
 考えれば考える程に、有り得ない話だ。
 そこまで考えたガイが次に意識を向けるのは、
“この会場のスマートブレインにBOARD、それにATASHIジャーナル……
 そのどれもが九つの仮面ライダーどもの世界の土地に間違いはないのだ”
 二時間もかけてガイは「555」と「剣」の世界を模倣した土地を巡り、「龍騎」の世界にまで辿り着いていた。
 その間、ただ無駄に歩き続けるような無能では大幹部の名がすたるというもの。
 ガイはそれぞれの街を通りすがりながら、地図に示されたランドマークを一つ一つ確認して回ったのだ。
 そして大ショッカー大幹部ともあろう男は、この目で見た真実を違えはしない。
 今なら断言出来る。
 この場にある九つの仮面ライダーの土地は、どれも限りなく本物に近い。
 もっとも、一つ一つの世界に土地勘を感じるほど見知っているとはいえないが、
 それでもスマートブレインハイスクールやBOARD社ビルを見間違えはしない。
 以上の見解を踏まえて考えるに……
“この殺し合いには偉大なる我らが"大首領"の意思が介在しているのではないか?”
 そう考えれば、解せぬ点が多いとはいえ、辻褄があう点もまた多い。
 この規模の大会場を用意し、六十人以上の大誘拐を一度にこなすだけの組織力。
 そして、ディケイドを含む仮面ライダーどもをこれだけ多く拉致する、その人選。
 それら全てが大首領様のお考えであると考えれば、
 仮面ライダーどもですら手を焼く"大幹部"を二人も拉致出来た事にも納得がいく。
“するとなると、私と月影には殺し合いを促進させるという役割が任されているのではないか?”
 ディケイドやクウガらが参戦しているのは、この機に奴らを一気に殲滅するためではないだろうか。
 さっき戦ったゾンビどもも、大ショッカーの仇となる可能性があるから始末しろと、そう言いたいのではないか。
 その可能性は、決してないとは言い切れない。
 むしろ、そう考えた方がガイの中の謎は、すっと腑に落ちてくれる。
 新たな可能性に行き当たったガイは、一度脚を止めひとり思考の海に潜っていた。

「――む?」
 そんなガイの耳朶を打つ、遠くから聴こえるバイクの走行音。
 数秒と経たず、ガイを視認出来る距離まで迫ったバイクは、そこで急停止をした。
 運転手は、その長い脚でカウルを跨ぎ、悠々とバイクから降り立った。
 その男の姿を、ガイが見間違えるワケが無かった。
 そいつは、何度も辛酸をなめさせられてきた宿敵――
「貴様ッ、ディケイドッ!!!」
 ヘルメットを脱いで素顔を晒す男の名は門矢士。
 殺気に満ちた双眸できっとガイを睨みながら、士は呆れ半分に言った。
「アポロガイストか……本当に蘇っていたとは、相変わらず迷惑な奴だな」
「何の話をしているのかは知らんが、私は貴様にとって最も迷惑な存在!
 ここで会ったからには、今日こそ貴様を葬り去ってくれるのだッ!!」
「ハァ……迷惑だって自覚してるなら出てくるな」
 嘆息と共にそう告げたディケイドは、懐からバックルを取り出した。
 ガイももう何度も見慣れた光景――ディケイドライバーによる変身。
 しかし、士はそれをする直前で何かに気付いたように手を止めた。
「そうだ、お前なんか丁度いいな」
「何ィッ!?」
「お前知ってるか? "再生怪人は弱い"って法則を」
「……再生怪人、だとッ!?」
 確かに、数ある悪の組織の中でも再生怪人がいい結果を残した記録はない。
 どの世界の再生怪人も、たいていは再生前以上にあっさりやられるのが常だ。
 だが、今この状況でその話題を出される理由が、ガイにはまるでわからなかった。

403チープ・トレード ◆QpsnHG41Mg:2012/10/09(火) 08:04:09 ID:kR/hS8HY0
「それがどうしたというのだ、ディケイド!?」
「鈍い奴だな。一度倒されたお前なんか、今の俺の敵じゃないんだよ」
「貴様、何の話をしている!? 私が一体、いつ貴様らに倒されたというのだッ!」
 ガイの問いに対し、返ってきた返事は言葉ではなく、モノだった。
 士が敵意を込めてブンと投げ付けてきたソレを、ガイは危なげなく平然とキャッチ。
 ガイに投げ渡されたのは――金の紋章が刻まれた漆黒の箱。
 それが何であるか、それくらいはガイも知っている。
 ――龍騎のカードデッキだ。
「ソイツをお前にくれてやる」
「貴様ァ! 一体何のつもりなのだ!?」
「ハンデだ、俺はそれを使ったお前をブッ潰す」
 嘲笑う士の、その傲岸不遜な言葉に、怒りがふつふつと込み上げる。
 この大ショッカー大幹部を前にして、ハンデだと? 再生怪人だと?
 ワケのわからない嘲りに、プライドの高いガイはこの上ない屈辱を覚えた。
「おのれディケイドォォッ! ナメたことをほざきおってェェッ!!」
「御託はいいからかかってこい、アポロガイスト!」
 士の挑発に乗せられるままに、ガイは右隣のビルの硝子窓にデッキを翳す。
 現れたVバックルにまるで怒りをぶつけるように。
 ガイはデッキを荒々しくバックルに叩き込んだ。

           ○○○

「……これはこれは」
 呆れすら混じった、嘲笑混じりの加頭の声。
 園崎邸から北上を開始した加頭が最初に出会った参加者は――月影ノブヒコだった。
 されど、月影ノブヒコの姿は既に、生きた人間としての形を保ってはいない。
 真っ赤な血で出来た水溜りに転がる月影の顔面は蒼白。
 頭部から少し離れたところに、鮮血で汚れたスーツの身体が横たわっている。
 それは――何者かに斬首され殺された月影ノブヒコの遺体だった。
「私、貴方の事を過大評価しすぎていたようです」
 物言わぬ躯に言葉をかける加頭。
 ガイから話を聞いた時は警戒したものだが、正直こうも早く脱落されたのでは拍子抜けだ。
 次に戦うことがあれば、一切の慢心を捨て心して掛かろうと思っていたのに……その矢先にコレでは。
 間抜けな死に顔を晒して横たわるこの男のことを思えば、どうやらそんな心配もそれも杞憂だったらしい。
 ふっ、と小さく口角を歪めて、そのまま加頭は方向転換をし――
「……いえ」
 ――立ち去ろうかと思いきや、そこでふと思いとどまった。
 加頭は、ガイから聞いたこの男の力の源のことを思い出したのだ。
 確か、腹部に埋め込まれたキングストーンとやらが云々と言っていたが……
「……折角ですから」
 デイバッグから取り出したガイアドライバーを自らの腹部に装着。
 次にポケットから金のメモリを取り出した加頭は、その名を高らかに響かせる。
 ――UTOPIA――
 加頭の手から滑り落ちたメモリが、ひとりでにベルトに吸い込まれていった。
 加頭の身体が青い炎に包まれたその刹那、加頭の身体はユートピアドーパントへと変身。
 理想郷の杖を構え、月影の遺体を一瞥するや、遺体がふわりと宙に浮かび上がった。
「ふむ……」
 顎に手を添え、品定めするようにじっくりと遺体を眺め、
 そして次の瞬間、ユートピアは自らの腕を、遺体の腹部にズブリと叩き込んだ。
 飛び散る鮮血。強化された黄金の腕が、容易く肉を貫通して、そのまま腹部の肉を撹拌する。
 ぐちゅりぐちゅりと音を立てて遺体を破壊し、間もなくユートピアはその手に硬質な何かを掴んだ。
 骨ではない。それは、人間の身体にはある筈のない異物である。
「ああ、コレですね」
 遺体から腕を引き抜くと同時に、糸の切れた人形のように、その身体はぼとりと地面に落ちた。
 落ちた月影の身体が地べたに出来た血だまりに跳ねて、真っ赤な血がユートピアの身体にもかかる。
 が、所詮これは変身態だ。変身さえ解けば消え去る汚れを気にすることもない。
 血の汚れなど意にも介さずに、ユートピアは抜き取った物体を眇めた。
 緑色の丸い宝石……これこそが話に聞いたキングストーン、月の石か。
 使い道はないが、持っていて損をするものでもあるまい。
 ユートピアは地に濡れたそれをかるく手で払い、月影に背を向けた。

404チープ・トレード ◆QpsnHG41Mg:2012/10/09(火) 08:04:45 ID:kR/hS8HY0
「せめてもの弔いですよ」
 背後の月影の遺体には、真っ赤な炎が灯っていた。
 腹部を破壊された胴体も、転がった頭部も、撒き散らした鮮血も。
 それら全てを跡形もなく焼き払わんと、加頭が放った炎が拡がってゆく。
 このまま燃え続ければ、そう時間を掛けずに月影はただの消し炭になるだろう。
 大ショッカー大幹部ともあろう男の遺体をいつまでも放置しておくわけにはいかない。
 これ以上こんな場所で無様な死に様を晒させ続けるのは、あまりにも酷ではないか。
 これは、同盟を組んだ組織の大幹部である彼への敬意を込めた火葬だ。
“……いえ、すいません。そんな殊勝な性格、してません……私”
 内心で浮かべた考えを自ら否定して、加頭は口元だけでクスリと笑った。
 ここは殺し合いの場だ。不用意に遺体を残しておいて、何が命取りになるかも知れない。
 自分が少しでも関わった遺体など、証拠隠滅の意味も込めて消しておいた方がいいに決まっている。
 自分にとってマイナスにしかならない男を相手に、敬意を込めた火葬だなどと誰が考えるものか。
 他者には絶対に伝わらない自分の中限定のギャグに気を良くした加頭は、自らメモリを排出。
 金のメモリと緑の宝石をスーツのポケットにしまった加頭は、何処へともなく歩き出した。


【一日目 午後】
【E-4/市街地】

【加頭順@仮面ライダーW】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】80枚:0枚
【装備】ユートピアメモリ+ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、月の石@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:園崎冴子への愛を証明するため、彼女を優勝させる。
1.参加者達から“希望”を奪い、力を溜める。
2.T2ナスカメモリは冴子に渡すが、それまでは自分が使う。
【備考】
※参戦時期は園咲冴子への告白後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※アポロガイストからディケイド関連の情報を聞きました。

【全体備考】
※E-4南部で月影ノブヒコの遺体が燃えています。
 そう時間を掛けずに完全に燃え尽き、消し炭になることでしょう。


           ○○○

405チープ・トレード ◆QpsnHG41Mg:2012/10/09(火) 08:05:51 ID:kR/hS8HY0
 
 ディケイドは今、市街地のど真ん中で何処から来るかもしれない攻撃に備えていた。
 アポロガイストに龍騎のデッキを渡し、互いに変身し、幾度か攻撃を交わし合い、
 そしてディケイドの幾度目かの攻撃で奴が鏡の世界へと飛び込んだのだ。
「チッ……何処から来る」
 見渡すが、周囲には数えきれない程の窓ガラスがある。
 これは過去に一度、自分もアポロガイスト相手に使ったことのある戦法だ。
 自由に鏡の中へ逃げ込み、予想外の場所からの奇襲で一気に畳み掛ける……
 ディケイド龍騎が用いる戦法を、奴はそのまんま真似たのである。
“まあいい、次出てきたら一瞬で決めてやる”
 だがしかし、数々のライダーを葬ってきたディケイドにとっては、
 今更その程度の戦術は力量の差を埋めるハンデには成り得ない。
 ディケイドには、まだ幾らでも手札が残っているのだ。
 次に奴が飛び出して来れば、その瞬間にクロックアップを発動すればいい。
 停止した時間の中で、ファイナルアタックライドでも決めればそれで終わりだ。
 何人ものライダーを屠ってきた凶悪な戦法を頭の中で組み立てるディケイド。
 ……されど、どれだけ待っても龍騎がミラーワールドから出てくる事はなかった。
 そして、流石に痺れを切らしたところで、ディケイドはシンプルな答えに気付く。
「――あいつッ」
 苛立ちを込めて叫ぶ。
「逃げやがったッ!!」
 いつまで待っても奇襲はこない。
 ということは、つまり奴は龍騎の力を逃げに使ったのだ。

 バックルを外し、ディケイドの変身を解除しながら、士は黙考する。
 奴は仮にも悪の大幹部だ。正々堂々と勝負を仕掛けてくる仮面ライダーとは違う。
 不利だと思えば逃げるだろうし、デッキを得た上で逃げられるなら奴にとってはプラスで終われる。
 長い仮面ライダー同士の戦いと、一方的な自分の凶悪戦法の連続で、士は奴ら「悪」のやり方を忘れていたのだった。
“チッ……まあいい。龍騎のデッキは俺が持ってても仕方ないからな”
 士の考え方は、一つの目的を定めたその時からいつだって前向きだ。
 これで龍騎が相手ならば、一切の遠慮もなく破壊する理由と気兼ねが出来た。
 次にアポロガイストが変身した龍騎を見掛けたら、ミラーワールドに逃げ込むスキなど与えはしない。
 見付けるや否や持てる限りの凶悪戦法を駆使して、一瞬で勝負をキメてやる。
 アクセルやオーズを相手にした時のような生温いやり方をしてやるつもりもない。
 そう、士はもう、勝負をする気すらないのだ。
 奴との戦いは一瞬だ。全て一瞬で終わらせてやる。
 そう心に決めながら、破壊者は再びバイクに跨った。


【一日目 夕方】
【D-6/市街地】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】健康、苛立ち、ダメージ(小)
【首輪】60枚:0枚
【コア】サイ、ゾウ
【装備】ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式×2、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜4(士+ユウスケ)、ユウスケのデイバック
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
 1.「仮面ライダー」と殺し合いに乗った者を探して破壊する。
 2.邪魔するのなら誰であろうが容赦しない。仲間が相手でも躊躇わない。
 3.セルメダルが欲しい。
 4.アポロガイストは次に見付けた時には容赦しない。
 5.最終的にはこの殺し合いそのものを破壊する。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、 ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※一度倒したアポロガイストがここにいるのは、再生怪人として蘇ったからだと思っています。


           ○○○

406チープ・トレード ◆QpsnHG41Mg:2012/10/09(火) 08:07:10 ID:kR/hS8HY0
 
 鏡の世界から飛び出した龍騎は、何度か周囲を見渡して、追手が来ないことを確かめる。
 ミラーワールドの中を、ライドシューターで駆け抜けて一気に移動してきたのだ。
 如何なディケイドであろうと、今から追い付くことは出来まい。
 ガイは、ふうと一息ついてVバックルからデッキを引き抜いた。
「クク、ディケイドめ、馬鹿な奴なのだ」
 上手く逃げ延びたガイは、宿敵を嘲笑う。
 ガイには端からディケイドを倒すつもりなどなかった。
 というよりも、今はまだ、その時ではないと判断していた。
 そもそも、今の奴はガイが良く知るディケイドではない。
 戦闘能力も、その殺気も、以前の比ではないのだ。
 それを幾度かの激突で見抜いたガイは即座に戦法を切り替えた。
 能力の知れぬうちは無理に戦う必要はないし、デッキを手に入れただけでも今はプラスだ。
 ましてやこれは殺し合い。ガイが放っておいても、奴は勝手に他の参加者によって消耗させられるだろう。
 叩くなら、その時だ。憔悴し切ったその時、ミラーワールドからの奇襲で一気に潰すのだ。
 その為に今は屈辱に耐えて、戦略的撤退を計ったのである。
「覚えておれよ、ディケイド……私にこのデッキを渡したこと、必ず後悔させてやるのだ」
 そう、自分は宇宙で最も迷惑な男アポロガイスト。
 デッキを奪われただけでも既に奴にとっては大迷惑だろうが、そんな程度では終わらない。
 もっともっと奴にとって大迷惑の限りを尽くし、最後にはこの手でその首級を取ってやろう。
 野心を新たに、ガイは龍騎のデッキをポケットにしまい歩き出した。


【一日目 夕方】
【D-5/市街地】

【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(小)
【首輪】70枚:0枚
【装備】龍騎のカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜2
【思考・状況】
基本:参加者の命の炎を吸いながら生き残る。
1.龍騎のデッキを上手く活用して生き残る。
2.この殺し合いはゾンビが多いのだ……
3.ディケイドはいずれ必ず倒してやるのだ。
4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。

407名無しさん:2012/10/09(火) 08:11:14 ID:kR/hS8HY0
投下終了です。
アポロ狩りはせずにすみました……良かったねアポロさん。
今回も拙い作品ですが何かあればご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

408名無しさん:2012/10/09(火) 14:51:22 ID:BoICnV1s0
投下乙です
話の展開自体は問題ないと思いますが、キャラが少し動き過ぎかと思います
加頭はその進路上にウヴァさんやネウロが居るので、彼らと出会わずにすぐ近くにある月影の死体を見つける可能性は(ないとは言いませんが)低いでしょうし、
特にアポロガイストは日中から夕方に2エリア以上一気に進んでますので、その間に道中に居る他の参加者たちに出会わないのは少しおかしいかと
彼らの話が午後ないし夕方まで進んでいれば問題ないのでしょうが、まだ日中のキャラが多く、そんな中を突っ切るのはどうかと思います

なので、キャラの動き過ぎを修正すれば大丈夫だと思います。加頭とアポロガイストの交渉自体は問題ないですし

409名無しさん:2012/10/09(火) 18:49:30 ID:43aIR1mo0
投下乙です!
絶対悲惨な目に遭うと思っていたらアポロさん、上手く生き延びちゃってw 確かに校長やってたこともあるし演説は得意だろうなw
挙句再生怪人扱いワロタwww でもちゃっかり龍騎デッキゲットしてパワーアップ! 何だここネタキャラ勢に優しいな(除:至郎太)。
士も、扱いに困った龍騎のデッキをちょうど良い相手として渡したのは良いけど、そら逃げられるよw
でも、前回の温過ぎる戦闘を反省して、アポロさんに一杯喰わされて学習してと次からいよいよ本領発揮しそうだ。

一方悪質なことで有名なキングストーンが加頭の手に……うーん、不思議なことが起こる予感しかしない。
とりあえず綿棒焼却処分とか、これで奴の伝説も終わりか……十分だけどな!

>>408
確認してみたのですが、アポロさんの進行√はG4→F5→E6→D6となっています。
このうち、道中の参加者というのは岡部・ほむら・セシリアの組で、彼らは見滝原を目指している以上、E4方面に移動中だと思われます。
また付近のさやか・克己ペアや、笹塚はG5の警視庁を目的地としており、アポロさんのルートと重なりはしません。
これだと、少なくとも彼らとアポロさんが出会う可能性の方がよっぽど低いと私は思います。

次に加頭ですが、ウヴァさんはラウラとの合流を目的として逆走しているので、ライドベンダーも利用している以上、出会う可能性は低いでしょう。
ネウロだけは確かに遭遇する可能性もありますが、『義の戦』前編でウヴァさんが市街地の方へノブナガを連れ去ったという記述があるので、
ノブナガを追うネウロが鴻上ファウデーション方面に向かっているとすれば、これまた加頭とこの時点では遭遇していなくとも問題はないかと思います。

長くなったのでまとめると、これなら動き過ぎだと修正するほどではないというのが自分の意見です。

410名無しさん:2012/10/09(火) 19:14:03 ID:O2O3zqEMO
投下乙です。

二人の容赦なしに出会いながら、ほぼ無傷な上にアイテムまでゲットとは凄いぜアポロさん!

411名無しさん:2012/10/09(火) 21:33:53 ID:EO3oymAs0
投下乙です!
とりあえずアポロさんは助かった上に、まさか龍騎のデッキをゲットできるとは! もしかして、ツイてる?
そして加頭も、月の石をゲットするとは……これからどうなるだろう。そしてノブヒコさん、合唱……

412名無しさん:2012/10/10(水) 19:46:53 ID:PR/JOfUc0
>>411
合唱してどーするwwww

413名無しさん:2012/10/10(水) 23:29:21 ID:7oXMHO2Y0
投下乙
にしても士は今後ますます戦闘が凶悪化しそうな感じだけど、セルメダルの供給が追い付かない未来がありそうな気がする予感。
本人の性格上、自分で欲望から自給するってのも無理そうだし。
いや、でもコアメダルがあるから、まあ大丈夫かw

414名無しさん:2012/10/10(水) 23:44:18 ID:zSVep1iEO
>>412
ノブヒコォォォォォォ!

415名無しさん:2012/10/11(木) 00:04:59 ID:G/RCNuKk0
投下乙です!
絶対狩られると思ってたアポロさんが上手く生き延びてる…しかも龍騎ゲットでミラーワールドからのヒットアンドアウェイ戦法までゲットするとは中々の戦績。
つかマップ見るに明らかに大ショッカー絡んでるんだよなぁ、九つの世界全部入ってるし…アポロさんの推理はあながち間違ってなさそうだがどうなるか。
加頭は加頭でユートピアの力見せ付けてくれちゃって終いにはキングストーンまで手に入れるとは、ただでさえ凶悪なユートピアにその組み合わせはヤバいだろww

たった一話でみんな移動しすぎかも?とは確かに自分も思ったけど、>>409の通り検証してみたら無理はないようなので自分もこのまま通しで大丈夫かなと思います。

416名無しさん:2012/10/11(木) 18:03:52 ID:55XqGHWcO
しかしT2ガイアメモリの運命力が強すぎてAtoZエターナルはどのロワでも当分見られそうにないなぁ

417名無しさん:2012/10/12(金) 18:52:01 ID:swkxoFug0
そりゃ26コもガイアメモリ集めるのはロワじゃ無理だろうなぁ…
そもそも壊されることが多いし

418名無しさん:2012/10/13(土) 13:32:26 ID:CGpkvEJk0
みんなウヴァさんにデフォルトで「さん」づけしててワロタww

419名無しさん:2012/10/13(土) 14:23:05 ID:yq1UaYUk0
>>418
そりゃ、ウヴァさんはウヴァさんですし
単純に語呂の問題でもあるんだろうけど

420 ◆QpsnHG41Mg:2012/10/14(日) 06:17:52 ID:O5g0YJ3.0
切嗣、ジェイク、紅莉栖、バーサーカー分を投下しますね。

421ドミナンス ◆QpsnHG41Mg:2012/10/14(日) 06:18:39 ID:O5g0YJ3.0
「ン〜、どうだ、似合うだろォ?」
 床屋の鏡に写る自分の顔を二度三度左右へ振って、ジェイクはにんまりと笑った。
 ピンクと黄色、二色の頭髪は数時間前と比べればずっと暑苦しくない短髪だ。
 邪魔だった髪の毛を、随伴の牧瀬紅莉栖に命令してばっさりとカットさせたのだ。
 ちなみに現在の姿は、ヒーロースーツを傍らに脱ぎ捨てたインナースーツ姿だ。
 髪の毛はサッパリ、服の代わりには面白い玩具。
 これで兼ねてからの懸念はなくなった。
 次からは何の憂いもなく動き回れる。
“……イヤァそれにしても、面白ぇなぁ〜この女ァ”
 散髪台の傍らで目を伏せる紅莉栖を見て、ジェイクはニヤリとほくそ笑んだ。
「少しでも手を抜いたら殺す」と念を押して、ド素人の紅莉栖に散髪を強要するのは実に気分が良かった。
 この女、口では無愛想ながらもやはり当たり前の「生存本能」は持っているのだ。
 だからこそ、散髪の技術など持ち合わせていない癖に、ちゃっかり気を張って散髪をしてくれたのだ。
 もっとも、大部分はバリカンで剃り落としたのだし、それ程高度な技術は必要なかったのだが。
「……別に、あの見苦しい髪の毛をいつまでも視界に入れていたくなかっただけよ」
 当の牧瀬紅莉栖は、苛立たしげにそう言った。
 心を読んでみたが、どうやらそれもあながち嘘ではないらしい。
 糞人間の分際で偉そうに、などとは思うまい。
 この女は決してジェイクに心を許さないが、
 しかし、行動はその真逆、ジェイクの言いなりだ。
 それがジェイクにとっては面白いのである。
「オ〜イ紅莉栖ちゃぁ〜ん?」
「……何よ」
「何よぉ〜ン、じゃあねェよォ〜っ! カットが終わったら毛をはたいてマッサージが基本だろォ!? ここの美容師はンな常識もねェのかァ?」
「……っ」
 言われるがままに、紅莉栖はジェイクの肩に乗った毛をはたいてマッサージを始めた。
 これが、絶対的な力による支配。弱肉強食を体現する圧倒的な権威。決して崩れない優位性。
 正面の鏡に写る紅莉栖の屈辱に歪んだ顔が、ジェイクにとってはこの上ないほどの愉悦だった。
「なァ紅莉栖ちゃんよォ、わかってると思うがァ一応言っとくぜ」
「この後誰と出会っても、間違っても俺様の本名なんて喋らねェことだ」
「いいか、俺様の名は暫くの間はバーナビー・ブルックスJr.……」
「テメェは余計なコトは何一つとしてくっちゃべらなくていい」
「まっ! お利口ちゃんのお前にゃあ、ちと簡単過ぎる命令だったかなァ〜?」
 絶対に抗えぬ命令に、紅莉栖は何も言わず目を伏せた。
「ハッハッ! 分かってるならいいんだよッ!」
 それを肯定ととったジェイクは、さっと立ち上がり着替えを開始する。
 自力で着るには少しばかり面倒なヒーロースーツを身に纏いながら、ジェイクは時計を見た。
“さァて、もうすぐ六時か……もう何人くらい殺されてるのかねェ?”
 髪の毛を染めるのに予想以上に時間が掛かってしまって、現在時刻は五時半過ぎ。
 ゲームの開始から六時間が経過するが、果たして他の連中は上手く殺し合えているのか。
 自分の首輪が白から紫に変わっているあたり、どうやら白のリーダーはもうやられたらしい。
 といっても、最終的に勝利するのは自分である為、そんなことはどうでもいいのだが。
 だが、他の連中がそれだけ頑張っているのなら、そろそろ自分も本気を出すべきではないか?
 そうだ、それがいい。服の懸念もなくなったし、そろそろジェイク始動の時だ。
 その為にも、次に考えるべきは目下の行動方針と目的地だ。
 現在位置は地図上のB-4左下寄りあたりになるのだろう。
 ここから一番近い施設は確か……言峰教会とかいうところだ。
 そこまで考えたところで、ジェイクはピンと閃いた。
“ハハァ、カミサマを信じてる糞人間を教会でブッ殺してやるってのも中々オツなモンだよなァ〜?”
 そんな人間がこの場所に居るのかどうかはわからないが、しかし"面白い"と思う。
 神が選んだのはこのジェイク・マルチネスであるのだと証明するには丁度いい機会だ。
 漆黒のヒーロースーツの装着を完了したジェイクは、考え得る最高の皮肉に胸を躍らせる。

          ○○○

422ドミナンス ◆QpsnHG41Mg:2012/10/14(日) 06:19:38 ID:O5g0YJ3.0
 
 切嗣の進行ルートは、病院を出た時から既に決まっていた。
 直線ルートで見滝原を突っ切れば、言峰教会はもう目と鼻の先だ。
 ましてや切嗣とバーサーカーの移動はライドベンダーで行われているのだ。
 この会場に於いては、渋滞はおろか信号すらも存在しない。
 その気になれば、会場の一周とてそれほど難しい話ではあるまい。
 事実として、切嗣は三十分と掛けずに言峰教会に到着していた。
「停まれ、バーサーカー」
 教会を前にして、切嗣の命令に従いバーサーカーはバイクを停車させる。
 元々騎乗には優れていた英霊だ。その操縦技術は"流石"の一言に尽きる。
 バイクから降りた切嗣は、念の為コンテンダーを取り出し、それを構えて進む。
 腹にはロストドライバー。その他のポケットにはスタンガン、腰には軍用警棒。
 そして体内には致死量すらも治療し得る宝具、全て遠き理想郷(アヴァロン)。
 おまけにバーサーカーの令呪も二画も残っているのだから、対策は万全だ。
 仮に何らかの危機にあっても、狂戦士を残り二回まで支配下におけるのは心強い。
 用意周到な切嗣は"内心で現状の装備の確認を終えて"、ドアの前に立つ。
 中に敵が居る可能性まで想定して、ドアを蹴破ったらすぐに銃を構えるつもりだ。
“よし……いくぞ”
 切嗣は決然とドアを蹴破り、同時にコンテンダーを構えた。
 銃口の先に居るのは――漆黒の鎧が一人と、赤髪の少女が一人。
「ハァイ! 美容室には月に二度行く方、バーナビーでェす!」
 漆黒の鎧が、まるで切嗣を待ち構えたいたとでも言わんばかりにそう名乗った。
 その鎧の腕の中で、赤髪の少女は脅えた瞳で首筋にナイフを突き付けられている。
“……人質か”
 状況はすぐに理解出来た。
 察するに、あのバーナビーが悪人で、赤髪の少女は人質なのだろう。
 "切嗣の中で、即座にバーナビーからあの少女を救いだす為の戦略が幾つも立てられる"。
 固有時制御で奴の反応よりも速く少女を救い出すか。はたまた天の鎖で動きを封じるか。
 少女さえ救い出せれば、あとはスカルに変身するでも何でもやりようはある。
 奴が此方に害意を持てば、バーサーカーによる助力も受けられる。
「おっとォ、勘違いするなよ〜? 俺ァあんたらと争う気はねェんだわコレが!」
「害意なんざこれっぽっちも持ってねェんだからよぉ〜、いきなり襲い掛かって来られちゃ困るぜェ〜?」
「そう! コイツぁ交渉だ! ちょいとこの俺様と話をしようじゃねェか、なぁ旦那ァ?」
 そう言って、バーナビーが少女の首をナイフの切先で突っつく。
 少女の嗚咽が小さく漏れて、首筋に幾つもの小さな赤い点が穿たれる。
 薄皮を傷付けられ、そこからじわりと滲む赤い血液。
 あの程度では命に別条はないが、放っておくワケにはいかない。
「まずはその少女を離せ、でなければ此方にも考えがあるぞ」
「そいつァどんな考えなんだろうなァ? 言っとくが、仮にテメェが加速能力なんか持ってたとしても、俺にゃあ無意味だぜ。ついでに拘束能力も効かねェ、無駄なコトはやめときな」
「……どうかな。試してみる価値はあるんじゃないか」
「試すのは勝手だがよォ〜……失敗すりゃあコイツは殺すぜ?
 そうなったら交渉は決裂だ! そん時ゃあテメェも一緒にブッ殺す!」
 バーナビーの下卑た笑いが、その漆黒の仮面の下から漏れる。
 切嗣にはわかる。この男は真正のクズだ。他者の命を何とも思っていない。
 加速能力と拘束能力が無意味である保証など何処にもないが、しかしもしも失敗すれば少女は死ぬ。
 今度こそ正義の味方を貫くと誓った切嗣に、"また"人質を見捨てることなど出来るワケがなかった。
 状況は確実に此方が有利だ。焦ることはない。
 奴を刺激しないように、冷静に話を進めて、少女を救うのだ。
「……わかった、君の話を聞こう」
「ハッ、ヒャッハハハァッ! なんだ〜素直に聞いちまうのかよォ? 面白くねェなァ!
 どうせなら今テメェが考えてたであろう戦略でも試してくれた方が盛り上がったのによォ!」
「いいから無駄口はよせ。僕も今すぐに君と事を構える気はない、交渉をしよう」
「あーハイハイ、殊勝な心がけなこって……さっすが正義の味方サマだよなァ〜」
「……………………」
 バーナビーの下らない挑発に乗る気はない。
 それより、どうやってこの男を倒し、少女を救い出すかを再度考える。
 少しでも敵意を持ってくれればバーサーカーが相手をするのだが、
 しかしその前に人質の少女が殺されてしまっては意味がない。

423ドミナンス ◆QpsnHG41Mg:2012/10/14(日) 06:21:26 ID:O5g0YJ3.0
 奴に敵意を持たせるのは、あの少女を救い出してからだ。
“大丈夫だ、必ず救い出して見せるよ……だから安心してくれ”
 屈辱に眉根を寄せる少女と目が合った切嗣は、そう念じて小さく首肯した。
 切嗣の意思を理解したかは分からないが、少女は今も物言わず此方を見詰めるのみ。
 おそらくは、無駄な発言をしたら殺す、とでも言われているのだろう。
「とりあえずだ! テメェの持ってる銃とそのデイバッグをこっちへ投げな」
「……わかった」
 言われるがままに、沢山の荷物が入ったデイバッグとコンテンダーを放り投げる切嗣。
 まだ大した問題ではない。こちらの手の中にはまだスカルの力とアヴァロンがある。
 最後の切り札としては、切嗣の後方にバーサーカーまでもが控えているのだ。
 手数がまだ残されている以上、うろたえることはない。やりようはいくらでもある。
「そんじゃあ交渉と行こうか? ン〜、そうだなァ、正義の味方さんにゃあ何をして頂いてもらっちゃお〜かな〜ァ? ボクちゃん迷っちゃうな〜〜〜ァ?」
「……ちょっと待て、君から交渉を持ちかけておきながら、内容を考えていなかったのか?」
「お生憎サマ、俺様は常に臨機応変にゲームを楽しむスタンスなんでねェ」
 奴の言葉にヒャハハと下品な笑いが続いて、切嗣の眉根が寄せられる。
 この男は、人の命が関わったこの戦いを「ゲーム」とのたまったのだ。
 最早開き直りは出来まい。この男は正真正銘の"外道"だ。
 こういう男を殺すことに、切嗣は躊躇いを感じない。
“……その必ずチャンスは来る筈だ”
 少女さえ救い出せば、あとは必ず戦闘になるだろう。
 そこをバーサーカーとスカルで一気に畳み掛ければ……。
 問題は、どうやって少女を救いだすか。
 奴がどんな条件を出すか、だが。
「よっし、決めたぜ旦那ァ」
「……言ってみろ」
「そんじゃとりあえずはァ〜……『正義の味方サマの飼い犬に成り下がっちまってる憐れな黒騎士を解放しろ』かなァやっぱ!」
「なっ……にィッ!?」
「聞こえなかったのかァ!? その黒騎士を解放しろっつってんだよォ〜このグズ!」
「し、しかし――」
「簡単な話だろォ? ホラ、その二つも余ってる令呪で命令すりゃあいいんだよ、
『今すぐこの教会を出て、他の参加者を無差別に殺してまわれ』ってよォ!」
「…………ッ!!」
 何故奴が令呪の存在を知っている、というのが第一の疑問だった。
 奴は一体何者だ? 聖杯戦争を、サーヴァントを一体何処まで知っている?
 幾つもの疑問が切嗣の中を駆け巡って、思わず言葉を失い立ち尽くしてしまう。
「オイ、二度目はねェぜ? 早くしろっつってんだろ!」「キャッ!?」
「――ッ!!」
 少女の左肩から鎖骨に掛けてを、奴のナイフが躊躇いもなく切り付けた。
 悲鳴が響いて、切り裂かれた箇所の衣類が彼女の血で赤く染まってゆく。
 左腕を支える肩の筋肉が切り裂かれたことで、少女の左腕がだらんと垂れた。
 身体だけでなく、その脚までもがガクガクと震え、彼女の強い眼差しにも涙が滲み出す。
「なぁオイ、そろそろ理解してくんねェかなァ? 俺はコイツを殺して、そのままテメェらと殺し合ったっていいんだぜ? まっ、相手がバーサーカーだろうが何だろうが、勝つのはこの俺様に決まってるけどなァ!」
「……! バーサーカーを知っているのか!?」
「誰が無駄口叩いていいっつった!? アァッ!?」
 バーナビーの刃が、今度は少女の左肩から右腹に掛けての衣類を裂いた。
 ビリビリと裂かれてゆく衣類の音。不幸中の幸いか、今回は身体は傷付けられていない。
 裂かれた衣類はだらんとくたびれて、そこから少女のきめ細やかな柔肌が垣間見える。
 脅えきって言葉も発せない少女を尻目に、バーナビーは言った。
「いいかッ! 喋っていいのはバーサーカーを解放するかどうかッ! それだけだッ!」
「それ以外の言葉をひとっ言でもその便器に向かったケツの穴みてェな口から吐き出してみろッ……ひと言につきこの女を一刺しするッ!」
「『何?』って聞き返しても刺すッ! クシャミしても刺すッ! 黙ってても刺すッ! 条件と違う命令したらそん時ゃ即座にブッ殺すッ!」
「いいな! 注意深く神経使って喋れよ……それじゃあもう一回質問するぜッ!?」
「今すぐバーサーカーを……!」
「この教会から追い出して……!」
「他の参加者を殺し回らせろッ!!」
 鬼気迫るバーナビーの捲し立てに、切嗣は返す言葉を持たなかった。
 この男は、やる男だ。やるといったら、必ずやる男だ。
 抵抗をしない少女を傷付けることに、一切の躊躇いがない。

424ドミナンス ◆QpsnHG41Mg:2012/10/14(日) 06:22:34 ID:O5g0YJ3.0
“クッ……今は従うしかないか”
 無言のまま腕を突き出せば、バーサーカーの令呪が、ぼうっと発光した。
「令呪を以て……我が傀儡に命ず……バーサーカー、今すぐにこの教会を出て……他の参加者を……殺して、まわれ……ッ」
 今にも胃の中を全てブチ撒けてしまいそうな程の苦痛と共に、命令を告げる。
 腕に刻まれたバーサーカーの令呪が一画なくなって、バーサーカーは雄叫びをあげた。
「A――urrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrッ!!」
 その様は、さながら弾丸の如く。
 凄まじい速度で教会のドアを突き破ったバーサーカーは、瞬く間に何処かへと飛び去っていった。
 令呪による強制力は本来、「皆殺しにしろ」などという抽象的な命令には弱い。
 されど、それは当たり前の自我と理性を持ったサーヴァントが相手ならば、の話だ。
 バーサーカーとは元々、狂化のステータス補正を得て無差別に暴れ回る狂戦士のクラス。
 切嗣の支配から逃れた黒騎士は、もう誰にも止められることなく暴れ続けるだろう。
“いや……まだだ。まだチャンスはある。すぐに追い付いて、最後の令呪でもう一度命令すれば……!”
 そうだ、誰かに令呪を奪われでもしない限り、切嗣は奴に対しては絶対的な権威を持っているのだ。
 すぐにこの男と少女を何とかして、被害が出る前にバーサーカーを食い止めれば……!
 切嗣の中にも希望が芽生え、バーナビーへの反攻の意思を固める。
 しかし――
「よォーしいい子だ、そんじゃ次の命令いこーかァ」
「なっ……まだ僕に何かさせようというのか……!」
「――ぅッ!」
 切嗣への返答――少女の左肩を、今度は横一線にバーナビーのナイフが切り裂いた。
 衣類を切り裂かれ、ちらと見えていた左肩のブラジャーの肩紐ごと切り裂いたのだ。
 赤い鮮血と共に、左側の乳房を覆っていたブラジャーがハラリと落ちる。
 切嗣の目に飛び込んで来たのは、自分の手で隠すことすら許されぬ、少女の乳房。
「ひと言につき一刺しだ、忘れたワケじゃあねェーよなァ!?」
 そう言って、露出した左の乳房を握りつぶさんばかりの握力で握り締めるバーナビー。
「う、くぅ……ッ!」
 二度に渡って切り付けられた痛みと、乳房に走る痛みに我慢ならず、苦しみの声を上げる少女。
「チッ……このスーツ越しじゃあ揉んでも何も感じねーや。
 こりゃ〜手だけでもスーツ脱いどくべきだったかなァ〜?」
“――この男……ッ!!!”
 男としては最低の、クズ極まりないバーナビーの発言。
 思わず飛び出そうになった怒号を、切嗣は何とか抑え込む。
 あの少女は今、身体を傷付けられるだけでなく、心まで傷付けられている。
 必ず助け出すと胸に近いを立てて置きながら、現実ではこの体たらくだ。
 いっそ、これ以上少女が傷付く前に、一か八かの賭けに出た方がいいのかもしれない。
「おっと、変なコトは考えんなよな。もうわかってんだろォ? 今のテメェにゃもうバーサーカーはねェ、この女を守りながらじゃあ万に一つも勝ち目なんざねぇってよォ?」
 ……悔しいが、バーナビーの言う通りだ。
 何も失わずに勝利を得る、という考えは、捨てた方がいいのかもしれない。
 だが、だとしたら何を彼女の命との天秤に掛ける。どうすれば彼女を救える。
 自分の命を引き換えにすれば、あの少女だけでも見逃してくれるだろうか?
 いいや、それではバーナビーにメリットがない。呑んでくれるワケがない。
 そんな中で、不意に浮かんだ発想は、切嗣を逆転させるに足るものだった。

『あの少女は、自分が命を賭けてまで救い出す価値のある人間なのか?』
『現実問題、あの少女を救い出したところで、所詮は力を持つ者の庇護下に置かれるだけの"足手纏い"にしかなり得ない』
『対して自分には、この殺し合いを絶対に打破せんとするだけの決意と、人並み以上の力、そして魔術の知識がある』
『少女と自分、両者の命を天秤に掛ければ、優先されるべきは――』

“――ッ、何を……何を考えているんだ、僕はッ!”
 窮地に立たされた事で、聖杯戦争以前の自分の思考が頭をもたげる。
 否、それだけは絶対に駄目だ。それでは士郎との約束が守れなくなる。
 人質を見殺しにしてしまえば、もう二度と正義の味方にはなれない。
 彼女を救えないのでは、正義の味方を貫けないのでは意味がないのだ。
 例えこの殺し合いを打破したとしても、自分が外道に落ちたのでは意味がないのだ。
 一瞬浮かんだ思考をかぶりを振って吹き飛ばし、切嗣は強い眼差しでバーナビーを睨む。

425ドミナンス ◆QpsnHG41Mg:2012/10/14(日) 06:23:49 ID:O5g0YJ3.0
“どうする……固有時制御でスカルに変身して、そのまま一気に畳み掛けるか?”
“いいやそれは出来ない……もしも失敗すれば、あの少女は確実に殺されるだろう”
“そもそも、あの男はどこまで知っているんだ? 僕の事は知っているのか?”
“だとしたら、セイバーのことも……固有時制御の能力も知っているのか?”
 奴は最初、加速能力は自分には効かないと、確かにそう言った。
 それは、切嗣の固有時制御による加速能力まで読んでのことではないか。
 だとするならば、この敵は実に恐ろしい。
 切嗣は、情報アドバンテージの点で既に負けているのだ。
 そんな相手に、この絶望的な状況から逆転する事が出来るのか?
“……クソッ”
 こんな時に限って無力な自分に腹が立つ。
 正義の味方になると誓ったばかりなのに、どうしてこうも……。
 拳を握り締め、わなわなと震える切嗣を見かねて、バーナビーが言った。
「独りよがりの葛藤はもう済んだかよ、正義の味方の成り損ないが」
「……ッ!」
「そんじゃあ次の命令を言うぜ! 逆らったら……分かってるだろうなァ!?」
 切嗣の心の準備などまるで待ってくれる気配もなく、バーナビーは宣言した。
「テメェが持ってるバーサーカーの最後の令呪、ソイツを俺様によこしな!」
「なッ、魔術師でもない者が令呪を手にしたところでッ!」
「ンなこたぁ関係ねェ〜んだよッ! 魔術師だか何だか知らねーが、こちとら神に選ばれてんだ!
 テメェら糞人間に出来て、この俺様に出来ねェことなんざあるワケャーねェェ〜〜〜だろッ!!」
“……、馬鹿なッ!”
 令呪とは、本来聖杯戦争に参加する魔術師のみが持ち得るもの。
 それを、聖杯戦争と何ら関係を持たないこの男が継承出来る訳がない。
 この男に魔術回路があるなら話は別だが、しかしこの男は魔術師ではないのだから。
 そう、それは間違いない。魔術師を知らないと、コイツは今自分でそう言ったのだから。
 だが、そうなると、何故バーサーカーの事を知っていたのかという疑問は残るが――
「――いいだろう、その条件を呑もう」
「よーし、利口な判断だ」
 魔術師でもないあの男に、令呪の受け渡しが出来る訳がない。
 それが結論だ。やる前から決まり切っている答えだ。それでQ.E.Dだ。
“だがしかし、だとすればこれはまたとない反抗のチャンスだ……!”
 令呪が刻まれた腕を差し出し、ゆっくりと前方へ歩き出す切嗣。
 言われた通りバーナビーに近寄って、令呪の受け渡しの儀式を行おう。
 そして、それが不可能であったと悟った瞬間、自信家の奴はきっと驚愕する。
 その一瞬の隙に固有時制御で少女を救い出し、スカルになって奴を倒す……!
 多少粗っぽいことをするかもしれないが、こうなっては最早それしか方法はない。
 それだけが今の切嗣に残された、最後の賭けなのだった。

          ○○○

 ジェイク・マルチネスを相手に「思考する」ということは、
 それ自体が「敗因」に直結しているのだということを、切嗣は知らない。
 そう。衛宮切嗣の敗因は、頭で物事を考え過ぎてしまったことに他ならない。
 無能だったからではない。これは、優秀であったがゆえの「必然」なのだ。

426ドミナンス ◆QpsnHG41Mg:2012/10/14(日) 06:25:12 ID:O5g0YJ3.0
 
          ○○○

 さっきまで紅莉栖の乳を揉んでいた左手の、その甲に、僅かな熱を感じる。
 漆黒のスーツの奥で、ジェイクに与えられた令呪は赤く鮮烈に輝いていた。
“なんだ、フツーに貰えるんじゃねーか”
 拍子抜けだった。
 切嗣があれだけ反抗のチャンスだなどと強く考えていたものだから、
 ジェイクはてっきりここからが本当の戦いになるものとばかり思っていたのに。
 結果として、魔術師でも何でもないジェイクは、切嗣の令呪を受け継いだ。
 それは、真木清人によるメダルシステムを応用した特殊制限のひとつだった。
 この場では、例え能力者以外でも、相応のメダルを支払えばどんな能力でも使用出来る。
 ライダーシステムも、宝具も、何もかもがこの場では公平だ。令呪とて例外ではない。
 この場にいる限り、メダルさえあればどんな参加者にだって令呪は使えるのだ。
 そして、誰にでも令呪が使える以上、その受け渡しが不可能であるワケがない。
 本来なら有り得ない事の真相は、真木によるイレギュラーによって成り立っていた。
 尤も、ジェイクはその理由を「自分が神に選ばれているから」と信じて疑わないのだが。
 令呪の獲得を実感として得ながら、ジェイクは目の前で呆然と立ち尽くす切嗣を見遣る。
「オイ、どーした? ショックで死んじまったかァ、正義の味方気取りのオッサンがよォ?」
「……そんな、馬鹿な……令呪がッ……そんなことがっ――」
「あー、ハイハイ! ブツブツうっせェーんだよこのノロマがァッッ!!」
「――ゥ、ぐぅぅッ!?」
 強靭な腕から繰り出されるボディブローが、切嗣の腹を抉った。
 ズドンと強烈な音を響かせて、切嗣の身体が宙に浮き、そして落ちる。
 クリーンヒットだ。ヒーロースーツを纏ったNEXTの拳を受けて、無事でいられるものか。
 今ので確実に肋骨は粉々だろうな、などと考えながら、ジェイクは紅莉栖を放り出す。
「笑わせんなよオイ、テメェみたいなオッサンが本気で正義の味方になれるとでも思ってやがったのか?」
『僕は……約束したんだ……正義の、味方に……』
「はっ! はっははははは! こいつぁ傑作だッ! まだ正義の味方気取りかよ!?」
 口からではなく、心から漏れ出して来る切嗣の声に、ジェイクは笑いを抑えられない。
 馬鹿みたいに哄笑しながら、芋虫同然に横たわった切嗣を思い切り蹴り上げる。
「――ぐっ……ぁ」
「オラ、イッちまいなァッ!!」
 力無く地べたを転がったその身体に、ジェイクは次々と蹴りを叩き込んだ。
 何発も、何発も。切嗣が動かなくなるまで、全身を蹴って、踏み躙り続けた。
 蹴る度にあちこちの骨が砕けるのを感じながら、それでもジェイクは暴行をやめない。
 全身に幾つも青痣を作って、あちこちから真っ赤な血を流して、瞳からは涙まで垂れ流す。
「……糞がッ」
 これが、NEXTでもない癖に正義のヒーローになろうとした中年オヤジの末路だ。
 散々嬲られて、もうピクリとも動かなくなった切嗣を、ジェイクは脚で転がした。
 仰向けになる切嗣。その眼は最早焦点は合ってはいない、虚ろな廃人の目だった。
「安心しな、殺しゃあしねェよ。テメェみたいなお馬鹿ちゃんにゃあ〜、あの世よりもこの世の方がよっぽど地獄だろォ?
 そ・れ・と・もぉ〜、死んで楽になっちゃった方がよかったかなぁ? ん〜〜??」
『僕は……今度こそ……正義の……味方に……っ』
 返答はない。聞こえるのは、心の奥から漏れ出す憐れな声だけだ。
「……あーァ、そんじゃあ馬鹿ブッちぎりのテメェにハーッキリ言ってやるよー……」
「テメェはハナっから"正義の味方(ヒーロー)"の器なんかじゃあねェーんだよォ!」
「ンな甘っちょろい考え方してっからこんなガキ一人も救えねェ、そうは思わねェーか? アァッ!?」
「ッたく憐れだよな〜ァ、きっとこのガキも正義の味方に助けて貰いたかっただろうによォ〜……」
「いいかッ、このガキはオメーの為に傷付いたんだぜ! そのおめでたぁ〜〜〜いオツムでよぉ〜く考えるこったなァ〜オイッ!」
 正義の味方であることに縋る男に、この言葉責めはあまりにも酷だ。
 それを理解しているからこその、肉体的打擲に続いての精神攻撃である。
 コレの為に、ジェイクはあくまで切嗣を半殺しの状態で留めておいたのだ。
『――――、――――っ―――』
 もう、意味を成した心の声は聞こえてはこなかった。
 気絶したワケではない。頭が真っ白になっているのだ。

427ドミナンス ◆QpsnHG41Mg:2012/10/14(日) 06:26:25 ID:O5g0YJ3.0
「……ハッ! 同情するぜェ、可哀相になァッ!」
 自分で傷め付けておきながら。
 心にもない言葉を吐き捨てるジェイク。
 腰に巻いたベルトと、さっきまで持ってた銃は奪ってやる気はない。
 貰うのは、切嗣が投げ出したデイバッグの中身だけにして、物色を開始する。
 これ以上の基本支給品と、切嗣の銃に使うのであろうスコープセットは必要ない。
 それだけを放り出したジェイクは、残りの支給品を自分のデイバッグに放り込んだ。
 それから、最後に一番大きな荷物――紅莉栖の髪の毛を乱暴に掴んで、
「まっ! その気があるならいくらでも反抗して来いよ、正義の味方さんよ! 尤も、まだ立ち上がれるならの話だけどなァ〜?
 ハッハハハハハハハハッ!! ハァッハハハハハハハッ! アーッハッハハハハハハハハハハァッ!!!」
 高らかに哄笑しながら、ジェイクは教会から立ち去ってゆく。
 豪快なその笑い声だけが、切嗣を残した教会で反響し響き渡っていた。


【一日目-夕方】
【B-4 言峰教会前】

【ジェイク・マルチネス@TIGER&BUNNY】
【所属】無
【状態】精神的高揚、ダメージ(小)
【首輪】180枚(増加中):0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(ダークネス)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式×2(ジェイク、カリーナ)、天の鎖@Fate/Zero、ランダム支給品×2〜9(ジェイク1〜2、カリーナ1〜3、切嗣+雁夜1〜4:切嗣の方に武器系はない)
【思考・状況】
基本:ゲームを楽しむ。
1.楽しめそうな奴を探す。
2.バーナビーの振りをいつまで続けるべきだろうか。
3.紅莉栖を使って何か面白いことをやりたいが、割と満足気味。
4.ゆえに紅莉栖はそろそろ処分してもいいかもしれない。
【備考】
※釈放直前からの参加です。
※NEXT能力者が集められた殺し合いだと思っています。
※ニンフは三重能力のNEXT、フェイリスは五重人格のNEXTだと判断しています。
※散髪しました。原作釈放後のヘアースタイルです。
※バーサーカー用の令呪:残り一画

【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate】
【所属】赤
【状態】ショック(大)、身体・精神ダメージ(中)、疲労(大)、肩口に大きな切口が二つ(流血中)、まゆりとカリーナの死による悲しみ、真木とジェイクへの怒り
【首輪】110枚:0枚
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ビット粒子砲@Steins;Gate、メタルうーぱ@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:とにかく今はやるべき事をやり、情報を集める。
0.ジェイクに本能的な恐怖。
1.ジェイクが許せない。でも今は従うしかない。
2.ラボメンのみんなが心配。
3.あの人(衛宮切嗣)は……
【備考】
※岡部倫太郎がタイムリープを繰り返していることを知った後からの参戦です。
※NEXT能力者やヒーローに関する情報を知りました。
※服は前方から大きく切り裂かれています。
 ブラの肩紐も切られているので、手で抑えていなければ左の乳房が露出してしまいます。

428ドミナンス ◆QpsnHG41Mg:2012/10/14(日) 06:33:59 ID:O5g0YJ3.0
 
          ○○○

 僕は、何も出来なかった。
 正義の味方を志すと決めておきながら。
 絶対的な悪の前で、切嗣はあまりにも無力だった。
 その事実が、まるで拷問器具のように切嗣の心を締め上げる。
 身体の痛みは、セルメダルを消費することでアヴァロンが回復してくれる。
 だけれども、心に残った痛みは、アヴァロンでは回復する事は出来ないのだ。
“僕は……僕はッ……畜生ッ! 畜生ォォォォォッ!!”
 絶叫をしようにも、顎の骨まで砕けていて、喋ることすらままならない。
 喋ろうとすれば、それだけで激痛が切嗣を苛む。
 鼻の骨も折られているらしく、鼻での呼吸はままならない。
 喋ることすら出来ない口で、呼吸を吸うほかなかった。
 視界は真っ赤に染まっている。片目は完全に潰されて失明しるし、
 もう片方の眼はまるで化物さながら真っ赤に充血していることだろう。
 あちこちの骨が完膚無きまでに破壊されていて、暫くは動くことさえ不可能だ。
 こんな自分に、これ以上誰かを守ることが出来るのだろうか。
 正義の味方を続けて居られるのだろうか。
 今持っているセルメダルを全て消費したとして、一体何処まで回復出来るかもわからない。
 仮に所持セルメダルが底をついたら、その時点でアヴァロンによる回復もおしまいだ。
 そうなった時、ダメージがまだ致死量の域を出ていなければ――切嗣は死ぬのだろう。
 コアメダルも持たず、僅かなセルしか持たない切嗣に、復帰のアテはあまりにも乏しい。
 何も出来ない切嗣は、己の無力感に絶望し、ただ涙を流すしか出来ないのだった。

【一日目-夕方(放送直前)】
【B-4 言峰教会内部】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(死亡寸前)、全身に打撲・内出血、四肢は全て骨折、肋骨・背骨・顎部、鼻骨の骨折、片目失明(いずれもアヴァロンの効果で回復中)、絶望、牧瀬紅莉栖への罪悪感
【首輪】70枚(加速度的に消費中):0枚
【装備】スカルメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW、アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12@Fate/Zero
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
 0.僕は正義の味方にはなれないのか……?
 1.偽物の冬木市を調査する。
 2.1と併行して“仲間”となる人物を探す。
 3.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
 4.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
 5.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
 6.バーナビー・ブルックスJr.、謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
 7.セイバーと出会ったら……?
 8.間桐雁夜への約束で、この殺し合いが終わったら桜ちゃんを助けにいく。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※セイバー用の令呪:残り二画
※セイバー用の令呪で以下の命令を下しましたが、発動しませんでした。これがどのように影響するかは、後の書き手にお任せします。
 ・仲間を連れての、衛宮切嗣の下への召喚。
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。

【一日目-夕方】
【?-?】

【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤
【状態】健康、狂化
【首輪】80枚:0枚
【装備】王の財宝@Fate/zero
【道具】アロンダイト@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:???????????????????!!
 0.令呪による命令「教会を出て参加者を殺してまわる」を実行中。
 1.無差別に参加者を殺してまわる。
 2.二度も戦いを邪魔されたことによる、アストレアへの怒り。
【備考】
※参加者を無差別的に襲撃します。
 但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます。
※ヴィマーナ(王の財宝)が大破しました。
※バーサーカーが何処へ向かうかは後続に任せます。

429名無しさん:2012/10/14(日) 06:39:25 ID:O5g0YJ3.0
以上で投下終了でございます。

430名無しさん:2012/10/14(日) 07:21:32 ID:J6.HFP6E0
投下乙です!

これは酷い…相性が悪すぎる…
元々理詰め且つ情報アドバンテージで上位に立つことで効率良く敵を殺すタイプなのに
一方的に情報駄々漏れだわ思考読まれて打つ手無くなるわ…どうしようもない
挙句人質の所為で碌に行動できないとか涙目すぎるw
バサカも解き放たれたしまた火種が増えたか…

431名無しさん:2012/10/14(日) 12:58:37 ID:Ml2ezLNUO
投下乙です。

正義の味方は諦めない!がんばれ!

432名無しさん:2012/10/14(日) 15:19:53 ID:DxDbAIn60
投下乙です
ゲームを理想通りに進めて、そしてドヤ顔で他人の尊厳踏みにじりまくるジェイク様がまさにロワ充
「正義の味方」の道を選んだこと自体が原因で人質戦法に手も足も出ず敗北ってのは切嗣にはキツ過ぎる皮肉だなあ
切嗣は(回復できるとはいえ)瀕死の重体で、助手は手札ゼロで利用されるだけされて、ホントにこれから逆転できるのかなあ…

それと気になった点が一つ
作中での時刻は午後5:30以降となっていますが、もしロストアンク脱落後の状況を想定した話であるなら
バーサーカーと紅莉栖の陣営は一時的な無所属状態になると思うので、その場合は修正が必要かと思います

433名無しさん:2012/10/14(日) 18:20:14 ID:nNdkFb0M0
投下乙でした!

“吐き気を催す邪悪”を地で行くジェイク様が素敵過ぎる、マーダーとはこうでなくては……
そもそもの戦い方から、持っている能力、果ては精神構造に至るまで、切嗣にとっては最悪の相手と言っても良いでしょうね
おまけに肝心の人質は解放できず、結果的に強力なマーダーを一人作りだしてしまった
ありとあらゆる要素が敵に回ったこの状況、正義の味方の初仕事は無残な結果に終わってしまいました
しかし、彼が本当に正義の味方である事を選ぶのならば、この程度でへこたれてはいけないでしょう
この完全なる敗北から立ち上がり、人を救ってこその正義の味方なのですから

次回の投下も楽しみにしています!

434名無しさん:2012/10/14(日) 18:39:27 ID:mn6heWr20
投下乙です。

もう言われているけど、理詰めで戦う切嗣に心を読めるジェイク様はまさに天敵だったということか。
それに加えてかつて少数を切り捨てるを繰り返した結果の大惨事もあって外道戦法はもう使えないけど、
それ故に心身ともにフルボッコ……うーん、でも今更外道に戻るのも難しいだろうし、どうする切嗣(瀕死)。
ぶっちゃけると、どっかのハーフボイルドがちゃんと虎鉄からのタイバニ勢の情報を伝えなかったのがだいたい悪いな。
……まぁ、セイバーの令呪まで奪われなかったことだけは救いかな。都合良く二画残っちゃってるし(ry

さて助手のポロ(ry……バーサーカー解放キタ━(゚∀゚)━!
遂に支給品を脱して強マーダーとしての活躍を見せつけてくれそうだぜ!

それにしてもこのジェイク、ノリノリである。別の闇ひろしがちょっと混じってますよー?
ばっちりバーナビーの悪評も残すジェイク様のこれからの活躍にも期待してますぜ。

435 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:11:22 ID:5SI8SmpI0
投下乙です
自分が自分であるためにそうしなきゃいけない、このロワ特有のキリツグの弱点がうまくつかれましたね
過去の自分と今の決意が完全に自分を縛って打ちのめしてる現状…正義の味方はいじめられるのがお好きらしい
つーかWたち経由でバーナビーの外見ぐらい知っとけやキリツグはwww
獣も再び野に放たれて、これからどんな風に話が動くか楽しみです
それにしても読心術つええなあ…

投下させていただきます

436 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:12:16 ID:5SI8SmpI0
 ……――

「アルニャン、ベーニャン」
「なぁに? フェイリス」
「機関からの通達があったニャ」
「機関……」
「……いいわ、聞いてあげる。言ってみなさい」
「どうやらフェイリスは“闇の使徒”のNo.2たる《黄昏れの朝》の第三波動攻撃のせいで、残念だけどこれ以上歩くにはかなりの支障をきたしちゃうのニャン……。でも心配はいらないのニャ! 防御結界を張ったからベーニャン達には影響がニャいし、フェイリスだってほんのちょっと、ほんのちょっとだけそこの我が機関のセーフハウス《ネスト》に立ち寄らせてもらえればきっとすぐ治療法が見つかるのニャン!」
「……へぇ」
「この呪いは失われし”部族の最後”の生き残りである《黄昏れの朝》しか使い手が残ってなくて、フェイリスたち機関もこの技には長く苦しめられいたニャン。でもでも、ある時ひとりの研究者が秘められた古文書を解読することによってその対抗策を編み出したはずだったのニャ! ところがその彼も“闇の使途”の極悪非道な罠にはまって命を落としてしまったものニャから、今では《黄昏れの朝》に対抗できる人がいないのニャン……。でもそこの《ホーム》には彼が最後の力を振り絞って残した資料が残っているはずだし、それさえあれば治療の糸口は見つけられるはずなのニャン!」
「……ふぅん」
「そもそもこの《黄昏れの朝》とはフェイリスの個人的な因縁があってそのゴタゴタにベーニャンたちを巻き込むのは本当にほんとーうに心苦しいんだけど、でもフェイリスはどうしてもここで決着をつけたいのニャ! だからほら、ちょーっとそこにある《アジト》に寄り道さえできれ――」

「――ああ、ああ! わかったわよ! もうわかったったら!」
「まだ《ベース》についての説明が終わってないニャン」
「要は寄り道したいってことでしょ!? 変なこと言ってないで素直にそう言いなさいよっ!」
「疲れたのニャ……フェイリスの足はもうボロボロニャン……お休みさせてほしいのニャン……」
「ここまで引っ張って結局は素直に言うの!? っていうか! 《ネスト》なのか《ホーム》なのか《アジト》なのかはっきりしなさいよ! なんでバラバラなのよ!」
「ちなみに《ベース》も同じものなのニャン」
「わざと間違えてたのかよ! 疲れてたから間違えたとかじゃないのないのかよ!! 全部わざとかよっ!!!」
「ニンフ、口調が変わってる……」
「フェイリスのせいよっ! アルファー、あんたもぼーっとしてないで何とかツッコミなさいよ!」
「『わざとかよ』、二回言ってる」
「私に突っ込んでどうすんのよぉ!! そこは私じゃないでしょ、しかも無駄にハキハキ喋ってっ! どう考えてもフェイリスにツッコむ流れでしょ!?」
「ニンフ、少し落ち着こう……?」
「ね〜休憩しようよ〜ベ〜ニャ〜ン」
「あああああもおおおおおおぉぉぉ!!」

 ――おおおぉぉぉ!!
 ――――おおおぉぉぉ!
 ――――――ぉぉぉ……
 ――――――――…………

OOO

437 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:12:49 ID:5SI8SmpI0

 ……――星の巡り合わせ、などといういかにも地蟲(ダウナー)らしい言い回しを、ニンフは信じていなかった。
 夢を見ないというエンジェロイドの特性もあり、何より事あるごとに迷信がついて回る古い彼らを「地を這う蟲」と見下していたからだ。鎖も切れた今となっては昔の話であるが無理に信じようと考えを改めることもなく、その認識は宙ぶらりんのままだった。

「……まあ、アンタたち普通の人間に気を使わなかったことは謝るわ」
「気にしないでほしいニャ。それよりも謝らないといけないはフェイリスなのニャン……」

 だがその見解は改めるべきだろう。巡り合わせ、運というものは確実に存在する。でなければ、ニンフが天然と厨二病の二人を相手にツッコミ役を務めなければならなくなったことの説明がつかない。

「そんなこと、ない……」
「アルファーの言うとおりよ」
「ううう、アルニャンもベーニャンも優しいのニャン……。四天王と戦った時に切り落とされた背中の翼を取り戻せればこんな迷惑もかけなかったのに、本当に悔やまれるニャン……」
「はいはい……」

 まったく不運な話だ。心の底から湧き出すように、否定の色のない呆れのため息が漏れる。
 先程に出会った裸の気違いに始まって、様子のおかしなトモキや糞メガネといった憂慮すべき事態は山積みだというのにフェイリスの「『非』常識」は真剣になることを許してくれない。なにもかもをうっちゃって飛び去るという選択肢もあるが、イカロスのことを置いても今のニンフにそれはできないだろう。

(こんなふざけた子に付き合うなんて……ほんと、私も丸くなったもんだわ)

 自分でも信じられない話だ。好んで、というと間違いだが、それでもニンフは自分から進んでまるで人間のような行動をしている。そはらのような常識人がこうむるはずの気苦労を背負い込んでまで、ツッコミ役という立場に立っている。
 マスターに盲従するだけの人形ではなく、自らが自らのしたいことに従う自身。トモキ達との生活の恩恵なのか、それとも弊害なのかはわからないが、ともかく彼女の行動は自分でも戸惑うほどに「人間」らしいそれだった。

 返す返すも、「そのような振るまいをしなければならない」状況とはまったく不運な話だ。決して嫌ではないことになおさら溢れてくる倦怠感に、ニンフはもう一度ため息をついた。

「こ、この家は!」
「……なんなのよ」
「幾度となく転生を繰り返して記憶が擦り切れきったフェイリスが唯一覚えている最初の生家、"始まりの地"!」
「"始まりの地"……」
「…………」
「そうなのニャ、アルニャン。間違いないニャ、ここにこそフェイリスが幾多の希望の出会いと数多の悲哀の別れをしなければならなくなった運命の源、"原初の魔導書"が眠っているのニャ……!」
「……セーフハウスではなくなったのね、いつの間にか……」

 まあ、それはともかく。
 移動がフェイリス基準であるゆえにこれ以上彼女の歩みを遅らせるわけにはいかない。抱えて飛べば話は早いのだろうがイカロスもまだどこか顔を曇らせたままだし、どうにも言い出すきっかけをつかめず歩きつづけてきた。そういう訳で最短距離を直進すること叶わず、道なりに方角を合わせて進んで現在地はD-3の南東端っこ。
 いっそフェイリスから「乗せてくれ」と言われないかな、イカロスもコアを取り込んでメダルには余裕があるのだから言ってくれればな、とぼんやり考えながら一時間歩きつづけて、たいした距離を稼ぐこともできずにとうとうフェイリスが音を上げ道のわきにある家屋での休憩を提案したと、そういう話であるのだった。

「……《黄昏れの朝》との因縁、聞きたいかニャ?」
「もうええっちゅーねんっ!」
「ニンフ……」

 エンジェロイドである我が身にこの程度の行動で休憩は必要ない。畢竟するにこの道草で安息を得るのはフェイリスだけであるのだが、彼女とイカロスと行動を共にしなければならないニンフにはただただ疲労が積っていくだけだろう。休むはずなのにどうして余計な疲れを背負わねばならないのか。
 全身が萎えたような気がして溜息をついてみても、この憂鬱を吐き出してしまうことはできなかった――……

OOO

438 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:13:37 ID:5SI8SmpI0

 ……――そこは二階建ての家屋であった。
 一階にはリビング、二階には住人の個室と、特に目を引くものもないオーソドックスな一軒家。構造はどことなく智樹の家を連想させて、その廊下を歩くイカロスはひどく心がざわつくのを感じた。
 あの家に帰りたいと思い、同時に主の姿を思い浮かべてしまって、追い払うようにかぶりを振る。何も考えたくない。

 ぼぉん、ぼぉん、ぼぉん、ぼぉん。そんな時計の音が四回、ぼんやりと歩むイカロスの耳朶を打つ。もう四時間も経っているのか、と気を紛らわし紛れにそんなことを思った。
 殺し合いが始まってから時計の長針が四周したと告げるそれを導かれるように、イカロスは目に付いたドアを開ける。赤みを帯び始めてきた陽射しが部屋に陰影を書き込み、軽く軋んだドアが巻き上げた塵クズたちは斜めに走るその光の中を我先にと踊りだした。
 それらに続いてむわりと立ち込めるのは鼻につくくすんだ香り、埃の臭いだ。しばらく使われていないと窺い知れる、人の生活からは縁遠い時の止まった香りが充満するなかを歩いて、ゆっくりとイカロスは部屋の中央に進みでた。
 書斎といった体のそこをぐるりと見渡す。敷き詰められた柔らかい絨毯、アンティークの書斎卓、オーディオ・プレーヤー、日焼けした本棚、十六時を示すシックな柱時計。少し豪華なだけで他に変哲のない設えの部屋は、きっと家長の私室であったはずだ。
 ふと目についた、本棚から背を飛び出させた一冊の本を手に取り、開く。 そして視界に飛び込んできたそれにむかって、イカロスは小さく呟いた。

「これ、アルバム……」

 それを開いた瞬間から時間を少し遡り、きっちり三十五分前の話である。この建物に入るなり、フェイリスは吸いこまれるようにしてリビングに据えられていたソファに飛びこんだ。あきらめきった表情のニンフは「出発してもよくなったら教えてよ」と告げるなり二階に消える。おかげで残されたイカロスは三十分以上フェイリスの話に付き合う羽目になった。
 イカロスには彼女の言っていることが正直よくわからない。ただ、よく思いつきが枯れないな、などといった感想を浮かべてフェイリスの話に小さく相槌を打ち続ける。
 そうして、よく回る舌をいつも以上に回転させた彼女がとうとう眠りに落ちたのがつい先ほど、ほんの五分ほど前だ。
 フェイリスが寝付ききったことを確認したその足でリビングを後にし、向かう先は見る間もなかった他の部屋々々。適当に入り込み、適当に物を手に取り、適当にそこを後にする。

 ニンフに遅れること三十五分。ようやく始まった家探しで、そうしてイカロスはそのアルバムを見つけたのだった。

「お祭りの写真……。……こっちは、動物園の……」

 それは軌跡だった。どこの誰だか知らない家族が時を刻んできた確かな証。笑顔と、それにまつわる記憶の記録。
 片手に背表紙を乗せて、もう一方でページをめくる。あどけない笑顔、照れたような笑顔、共にあることが嬉しくて仕方ないという笑顔。
 ああ、楽しかったのだろうな。そう思った。

「私も、マスターと……」

 動力炉が締め付けられるように痛み、イカロスは大きく剥きだされた胸元で拳を握りしめる。エンジェロイドとしての本能と、マスターとの生活のなかで、そしてニンフの言葉によって今一度目覚めた意志が激しくぶつかり合う。瞬くように記憶が走って、痛みはまた一段と激しさを増した。

 あのマスターの言葉は信じたくない言葉だった。己と過ごしたはずの楽しかった日々を、信じたいモノを嘘に変えてしまう言葉。
 そして、その言葉を「信じたくない」と思う、思えてしまう自分。誰であろうマスターの言葉のはずなのに、よりにもよってそれを「信じたくない」と。
 シナプスでこんなことを考えたら即座に廃棄処分だろうが、そもそもシナプスにいさえすればマスターの言葉に悩むことすらなかったはずだ。

 ――「私は……いいと思う」――

 そして、ニンフからもらったあの言葉。シナプスに、マスターという存在に縛られていたはずの彼女からもらったあり得ないはずの言葉だ。彼女が変わったことは朴念仁のイカロスにも理解できていた。それでも、こんな言葉がニンフから零れるなんて今でも信じがたい。本当に以前のニンフとは別人のようだ。

439 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:14:13 ID:5SI8SmpI0

 ――「自分自身で決めなさいよ……!!」――

 彼女がそんなふうになったことには、間違いなくマスターが関わっている。イカロスが信じたい、彼女の全てであると言って過言ではない彼。でも先の命令を下したマスターは、ニンフを変えた彼と同じだとはとても思えない……。

(信じたい。ニンフを、私を変えたマスターを信じたい……信じていたい)

 ああ、思考が煩わしい。強く強くそう願っているはずなのに、それでもまだざわめき立つ心が煩わしくて仕方がない。眉根を寄せてさらに強く自分の胸を抱き寄せる。そうしないとバラバラになってしまいそうで、イカロスは小さく「マスター」と呟いた。

 ……閑話ではあるが、少しイカロスというエンジェロイドの話をしよう。
 彼女はシナプスから降りてから様々な出来事と遭遇する。そして今まで考えてもみなかったもの全てについて、どうすればいいのかを考えて自分で解決しようと行動する。もっともそれはずいぶんと最近の、同時に"未来"の話であるのだが、それはいい。
 ともかく、それは決まって上手くいかない。彼女が主との生活でようやく得た「自分で決める意志」というものを考えると残念なことであるが、そう決まっているのだ。
 そうして、迷って迷ってさらに彷徨って、結果としてそれはいつもマスター……智樹の力によって答えに導かれる。

 彼の行動で、言葉で、あるいはその両方で、初めてイカロスは笑顔を浮かべることができるようになる。

 つまりそれは、決して彼女がひとりで答えに辿り着くことのない盲いた天使であると、そういうことと同義であるのだった。

「マスター、教えて下さい……」

 ニンフもフェイリスもマスターが偽物だといって、私もそうであってほしいと願っている。
 でも、私がそれを信じることを、「マスターを否定するエンジェロイドがどこにいる」と本能は激しく否定する。
 でも、あのマスターが本物であるとは信じたくはない。
 でも、マスターが仰られたことは。でも、自分で決めてもいいと。でも、でも、でも……。

「…………」

 ぱたん、とアルバムを閉じる。知らない誰かの笑顔が隠れて消えた。

 ――きっとニンフたちの言う通りなんだ……「信じたいことを信じろ」。あのマスターは偽物で、私は偽物に騙されていただけ。私のなかで光るあの日々の記憶に嘘はなく、どこにも信じられないものはない。
 真実は、忘れられない日々は、正解は、私の記憶の中のみに存在する。

 マスターに出会った。
 そはらさんたちに出会った。
 ニンフが来て、記憶が戻って、彼女の鎖が切れた。
 マスターと、みんなでの生活が始まった。
 スイカが欲しかった。
 デートに行った。
 ……マスターと手を繋ぎたかった。

 イカロスの記憶に嘘はなく、信じたいものが真実で、それと違うマスターは、偽物。

 そう、偽物。
 イカロスの記憶と違うから、あれは、偽物。

 揺れる己を確定させる答えを導き出してそれに縋りつく。心の中にマスター(鳥籠)を作り出し、そこに自身の心を納める。主を求めるエンジェロイドの本能のようなもので、それは同時に彼女が唯一つけられる自身の迷いとの決着だった。

 ようやくだ。ようやくイカロスは安堵した。これでニンフとの問答で導き出した答えをわだかまりなく信じることができる。
 これでもう、自身が信じたいマスターを信じることに悩む必要はないと、そう安堵した。

 そして、その瞬間のことだった。
 自己保全に働いた防御本能が形を成したその瞬間。
 そうだ、私はそれを信じるべきなんだ、と、確信を嚥下するように喉が蠢いたその瞬間。

 “それ”に気づいて、動力炉が小さく波打った。

440 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:22:19 ID:5SI8SmpI0

 ――偽物。

「……あ、れ」

 頭がマスターのことでいっぱいで、だから気がつかなかった。

 ――そういえば、どうして。

「……ちょっと、待って」

 私の記憶こそが唯一正しいものだと確信した今になるまで、まるで気付いていなかった。

 ――ニンフの背中に。

「……どうして?」

 ハーピーに襲われた彼女を助けたのは、ああ。
 忘れもしない、忘れようもない。
 私のマスターじゃないか……!

 ――羽があったんだ?

「……ニンフ?」

 襲われたニンフ、羽をもがれたニンフ。
 記憶との齟齬。記憶と違うもの。
 つまり嘘。
 つまりニンフは。笑顔をくれたニンフは。時折小さく羽をはためかせた、あのニンフは。

 名を呼ぶ声が茜色の日に拡散していく。世界が赤色に溶けていくようで、動力炉が平時を遥かに超えて脈打って、視界の全ての輪郭ぼやけてが崩れて、そして――。

「――こんなところにいたのね」
「ッ」

 脳髄を揺さぶるように、さして大きくないはずのドアの開閉音がイカロスの思考を引き裂いた。
 弾かれたようにむける視線の先には、ドア枠の向こうで腰に手を当てて立つニンフの姿がある。そして、その背中には、勿論。

「フェイリスのところにいないから探しちゃったわよ。あの子ったら寝ちゃってるし、しばらくはここで足止めってことになりそう」
「ニン、フ」
「それにしても無駄に広い家よね。なんかちょっとだけトモキの家っぽいわ」

 何を気負う様子もなく、ニンフは部屋に踏み込んでくる。まるで平静といったその様子に背筋が粟立ち、イカロスはニンフの歩みに合わせるように小さく一歩、後ずさった。

「……何? っていうか何持ってんの? それ」

 イカロスの態度へ怪訝な表情も一瞬、すぐに猫のような好奇の色が顔を覗かせる。ニンフはつかつかと詰め寄りイカロスの手にあるアルバムを引っ手繰った。抗う力も最早なく、興味深げにアルバムを開いたニンフを視線で捉えたまま、イカロスはゆっくりと部屋の出口へ近付いていく。

441 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:23:06 ID:5SI8SmpI0

「アルバムじゃない。ここの家の人のかしら」
「……そうみたい……」
「へー。あ、動物園。私たちも行ったわよね」

 あのときのトモキの慌てた顔、いまでも思い出せるわ。困ったような笑顔を浮かべてそう零すニンフ。
 そうだね、行ったよ。私も覚えてる。だからそれは本当。

「この家族スイカ割りもしてるわ。アンタもスイカ好きだし、また今度これやってみましょうよ、こないだみたいに」

 そうだね、スイカは好きだよ。私が初めて欲しいと思ったものだから。だからそれは本当。

「プールの写真もあるし……、あ、お花見も行ってるわね。……なんだかどれもトモキがアホやってることしか思い出せないわ……」

 ――プール? お花見?
 ――マスターが、どうしたって?

「はあ……。本当に、いろんなことがあったわ、こっちに来てから。アルファーがこっちに来てから、かな? カオスに襲われたこともあったけど……まあそれも含めて色々ね」

 ――そういえばさっきもカオスのこと、言ってたよね。
 ――それで、それは、なんなの?
 ――私はそんなもの、知らないのだけれども。

 くすくすくす。そう笑うニンフはひどく楽しそうで、彼女にとっての日々がどれだけ大切なものなのかを物語っている。
 でも、そんなものは関係ない。
 だって、イカロスの記憶にないものは、全部嘘なんだ。
 だから、ニンフが語る日々は、全部、存在すらしていないもの。

「アイツの前じゃ絶対に言えないけど、トモキには本当に助けられてるわ」
「…………」
「だからアストレアだって仲間になったんだし、私も今こんな風に笑えるんだしね」

 ――アストレアが、仲間。

「だからアルファー」

 ――マスターを殺しにきたΔが、仲間。

「アンタが信じたいものモ」

 ――もう間違いない。

「私ガかなラズ」

 ――つまるところ、このニンフのように見えるナニカは。マスターの敵を仲間と呼ぶナニカは。

「トリモドシテアゲルカラ――」

 ――偽物!!

 ニンフが何を言っているのか、そんなものは理解する必要がなかった。
 だってあれは、偽物なのだから。イカロスの大切な日々、信じたいモノ、そのどこにも居場所がない、必要のないものなのだから――……

OOO

442 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:23:42 ID:5SI8SmpI0

 ……――どしん、と、建物が揺れて、目が覚めた。

「ニャニャニャニャなんニャッ! 前世に封印した魔神がとうとう暴れ出したのかニャッ!?」

 まどろみの底にあった身体を無理やり引きずり起こして、フェイリスはベッドと化していたソファから飛びあがった。
 染みついた口癖と病気は寝ぼけた頭でも仔細なく動作するが、それに反応するものは周りにいない。アルニャンとベーニャンはどこだ?

「アルニャ――」

 さっきまで傍らに座り話に付き合ってくれた天使のような美貌の彼女を呼びかけて、そしてその言葉が結ぶより早く彼女は現れた。
 残念ながらそこには先までの美しさもすっとぼけたような表情も、欠片もありはしなかったのだけれども。

「フェイリス……!」
「アルファー、待ちなさい!」

 行く手を阻む家具を大きく広げた羽でなぎ払うようにして、その出入り口からイカロスがリビングを突っ切った。彼女の背から追いかけてくるニンフの声の意味も、その鬼気迫る表情の意味も、何を問う事も許さずイカロスはフェイリスを抱え上げる。

「ちょっ、アルニャ」
「しっかり捕まって……!」

 床に放置されていたはずの赤と黄の魔槍が二本、イカロスの翼に打ちすえられて木っ端へと帰した椅子や床板に混じって宙を舞った。パニックから勝手に暴れだす手足は、しかしイカロスの蛮行を阻むには至らない。
 かろうじてその槍を視界の端に収めて、枕替わりに敷いていたデイバッグをふたつイカロスが掴むのを見て、遅れて現れたニンフをリビングの出入り口の向こうに捉えて、フェイリスの意識はそこでぷつりと途切れた。彼女を抱きかかえたイカロスが即座に窓を突き破って家を飛び出し、そうして襲い来たGはおよそ人間の身体に耐えられるものではなかったからだ。
 何も知らぬうちに全てを置き去りにして、フェイリスは再び闇の中へと沈んでいく――……

OOO

443 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:24:31 ID:5SI8SmpI0

 ……――どうしてこんなことに、なんて、歯噛みしたところで何も変わらない。
 眼前にあるものは、ただイカロスがニンフを突き飛ばしフェイリスを抱えて自身から逃げ去ったという、その事実だけ。
 飛び散った槍のうち、赤く長い方――本来イカロスに渡したはずのものだ――だけを掴んで飛び出せたことだけがかろうじて僥倖と呼べるかもしれないが、そんなことではとてもこのすれ違いの不運は覆せない。

「待ちなさいよっ!」

 身に余る丈の槍を持て余しながらも、取り戻したばかりの羽を広げて先行するイカロスを追う。その行為がさながら挑発のように先を行くイカロスの足をさらに速めることになるとは、ニンフには知るよしもないことだった。

「アルファー!」

 目指していたはずの方向とはまるで見当違いの南へイカロスはまっすぐ飛んでいく。
 抱えた人間を気遣ってのことか、その速度は最高のそれから程遠かった。当のフェイリスはぐったりとしているが恐らく気絶しているだけだろう。
 対するニンフは全速力だ。直接的な戦闘に向かない彼女の速度でも、現状のイカロスのそれに比べればいくらか速い。
 やがてその速度差は、しばらくの追いかけっこの末に功を奏した。

「待ちなさい、ってば!」
「くっ……ぅ、離して……!」

 かろうじてイカロスに追いすがったニンフが空中で彼女に掴みかかる。手の中の槍は邪魔だが、当然それを攻撃に用いることはない。戦うのではなくただ泥臭くもつれ合う。徐々に高度が下がるその状態からイカロスが離脱しようと暴れるが、ニンフはそれを許さなかった。

「落ちつきなさい! 何があったってのよ、アルファー!」
「消えて……あなたなんか、見たくもない……!」
「アルファー……ッ、キャア!」

 錯乱しきったイカロスの言葉は予想だにしないものだった。がつんと殴られたような衝撃が胸の内を走って、それは想像以上にニンフの心を抉っていく。

 ――あの忘れられない日々に私はいらない、って?
 ――「出来損ないのくせしてトモちゃん狙わないでよ」、アルファーも、そう思ってたって?

 わずかな逡巡と膠着。おかげで団子になった二人はそびえる木を避け損ない、大きく砂埃を立てて墜落した。
 その衝撃に組み付いていた体が吹き飛ばされる。

「ぐぅっ!」
「……っ!」

 ざりざり、と全身が地を舐めた。損傷はかすり傷程度に収まり握り締めたゲイ・ジャルグも離れず手の中にあったが、全身はどうしようもなく砂まみれだ。
 だが今は当然それどころではない。昔は耐えられなかったその汚れを払う事すらせず、ニンフは跳ね上がるようにして起きあがった。フェイリスは――。

「…………っ」

 よかった。フェイリスは同じく墜落したイカロスの腕の中にいる。目立った外傷も見当たらない。イカロスがかばったのだろう。
 一息つきかけて、すぐに頬を引き締めた。

444 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:25:39 ID:5SI8SmpI0
「アルファー、何があったの!? どうして私から逃げるの!」
「――あなたが! 偽物だから!」
「偽物っ?」

 突拍子もない、どころではない。
 いったいこいつは何を言っている?

「ニンフは羽を毟られた。アストレアは敵。カオスなんてものは知らない。お花見もプールも、私は、マスターと、行ったことなんて、ない……っ!」
「んなっ――」

 ――記憶域(メモリー)プロテクト?
 咄嗟にそんな言葉が頭をよぎる。

 お花見だってプールだって、みんなで行って、みんなで楽しんだじゃないか。
 「みんなで楽しんだ」こと、それが重要なのだ。記憶を共有して、あの「忘れられない日々」を永遠にする。それが何より嬉しく、泣きたいぐらいに幸せなことだというのに、イカロスはそれを忘れたと言う。
 何かが込み上げてきそうで、ニンフは無理やりそれを飲み込んだ。吐き出したい衝動を叱咤して思う。
 何かの間違いだ。少しばかり辛いけど、間違いは間違いに違いない。そうだとも、屈するにはまだ早過ぎる。

「馬鹿言ってんじゃ……馬鹿言ってんじゃ、ないわよっ!」

 声を大にして叫んだあとの気分といったら、まるで心のつかえが取れたようだった。うっとおしい悲嘆の代わりにむかむかとした気分が腹の底から湧き上がってくる。
 そうだ、どうしてここまで虚仮にされたものだろうか。あの日々を、あの笑顔を嘘だったとは言わせない。大方これはあの眼鏡うじ虫に施された措置だろう。いや、シナプスの主かもしれない。でも誰だってかまわない。わずかな齟齬を発生させて、そこから不和を生み出すための措置。そんな舐めたまねをしてくれるやつは、どうあっても断罪すべきだからだ。
 手のひらに力を込めて握り締める。槍の柄の堅い感触が、ニンフの決意を後押ししてくれる確かな足場のように感じられた。

 私たちの大切な記憶をそんな風にもてあそぶなんて、絶対に許されることじゃあない。
 だって、やっと掴んだんだ。アルファーも、無論私も。
 だというのに、それをこうして穢すなんて、こんなことはあってはならない!

445 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:26:08 ID:5SI8SmpI0
「あんたはメモ――」

 ――リープロテクトをかけられてるだけなのよ。そうだわ、私たちが生きた、初めて生きることができたあの日々が嘘なはずないじゃない。それが偽者だなんて、誰にも言わせないわ。もちろんあんたにもね――。

 言葉にするのはあまりにも簡単だったはずだ。それなのに、余すところなく心を吐き出すはずのそれは掻き消された。
 他の誰でもない。
 トモキの次くらいに大切で、なくてはならない人で、そして、言葉を伝えたかったアルファーその人によって、だった。

「……アルファー。あんた、ほんとに」
「それ以上私のニンフを、記憶を、汚さないで」

 イカロスが構える弓矢を模した破壊兵器には見覚えがある。一度それを向けられた恐怖は、どうしたって拭い去れなかったからだ。
 最終兵器『APOLLON』。
 御しきれない細かなエネルギーの余波がじりじりと鼓膜を焼く。
 フェイリスを弓を引く左手に抱きかかえたままの暴挙だ。
 彼女が気絶していてくれて助かったという思いが頭のほんの片隅を過ぎった。自分たちを天使と呼んでくれた彼女に、こんな堕ちた姿を見せたくはない。

「……嘘でしょ……?」

 そんな考えはあっという間に過ぎ去って、想いが次から次へと脳裏に去来していく。やっとの思いで言葉を漏らすも、その白々しさが痛々しい。
 ニンフ自身が理解していたからだ。
 あの時はただの脅しで済んだけど、これは違う。
 その強い意志の瞳は、皮肉にもあの光り輝く日々によって形成された、真なる彼女の望み。

 イカロスは“この”ニンフを排除したいと、切にそう願っている。

「アルファー」

 これ以上なにも言うことはない、言葉にされずともニンフがそう理解した瞬間、掠れ切った自身の声は灼熱に穿たれ消散した。
 向かい立つ彼女にも自分自身にも、目の潰れた天使たちを導く機能を持たされた彼にも、その声はまるでひとかけらも届かない。

 無意識に伸ばした手に鏃が触れる。着弾と同時にそれは炸裂して、あとはもう――……

OOO

446 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:29:17 ID:5SI8SmpI0

 ……――行かなければ、そんな意識だけが残っていた。
 目障りな偽物がなくなった今も心はざわついたままで、この障音は何を置いても取り除かねばならない。

「マスターに会わなくちゃ。本物のマスターに会わなくちゃ。私と生きた、私が信じたマスターに会わなくちゃ」

 それ以外には、何もない。

 考えてみればおかしいのは羽の話だけではなかったのだ。
 どうして気付けなかったのだろう。
 なんと愚かなことか。
 間抜けなイカロス、馬鹿なイカロス。
 私はまた、「嘘」にまんまと騙されたという訳だ。

 イカロスはニンフの撃墜を確認していなかった。偽物のニンフなど、その残滓を目にすることすら吐き気がする思いだったのだ。だから爆炎も収まりきらぬうちに、自身を破壊の余波から護るイージスを展開したまま飛び去った。

 そこまでは首尾よく運んだのだが、しかし今のイカロスにはメダルの残量が心許ない。E-4のどこかに降りて方策を立てるか、それともこのままあのひと際大きな建物――鴻上ファウンデーションビル――まで飛び続けるか、どうにも決めかねる。
 放送までは残り一時間半強。いっそのこと放送まで手近なところで休んでしまうべきか。

 いくつかの案が泡のように浮かんでは溜まっていく。どちらにしても、近くに本物のマスターがいてくれれば他は、それこそメダルのことすらどうでもいいのだけれども、そう思いながら胡乱げに飛んでいると、その腕の中で小さく震えるものがあった。

 彼女、フェイリスはいまだに気絶したままで、目覚めるようには思えない。頻度が低く小さな身じろぎに加え、ただ機械的に呼吸を繰り返しているだけだ。
 マスターがいたらきっとこの機は逃すまい。王子気取りのキスか人工呼吸と称したそれかを間違いなく狙うだろう。肩からずり落ちかけたデイバッグふたつを背負いなおし、容易く想像がつく自身のマスターの行動に想いを馳せる。

 イカロスたちの日常とはそんなものだ。
 ――そんなものなのだ、イカロスが隣にいようと、何一つ変わりなく。

(そういえば、こいつも)

 私の記憶の中にはなかったな、と。
 イカロスはほんのちょっぴりだけ、そう考えた――……

447 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:29:41 ID:5SI8SmpI0



【一日目-夕方】
【E-4/上空】

【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】赤
【状態】健康、とてつもなく不安、とてつもなく冷静
【首輪】5枚:0枚
【コア】クジャク(使用済み)
【装備】なし
【道具】基本支給品×2
【思考・状況】
基本:本物のマスターに会う。
1.本物のマスターに会う。
2.嘘偽りのないマスターに会う。
3.共に日々を過ごしたマスターに会う。
4.鴻上ファウンデーションビルまで飛んで休むか、E-4の街中のどこかで休むか
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」だと確信しています。
※「『自身の記憶にないもの』は敵」かどうかは決めあぐねています。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。
 それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
 『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります。
※爆心地を包み込んで地上を防御する場合、当然ながらメダル消費は『aegis』>『APOLLON』となります。


【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無所属
【状態】健康、嫌な物を見せ付けられた不快感、気絶
【首輪】100枚:0枚
【コア】ライオン
【装備】なし
【道具】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:脱出してマユシィを助ける。
0.天使や妖精と友達になったニャ! けど……
1.アルニャン(イカロス)達と一緒に行動する。
2.凶真達と合流して、早く脱出するニャ!
3.変態(主にジェイク)には二度と会いたくないニャ……。
4.桜井智樹は変態らしいニャ。
5.イマジン達は、未来への扉を開く“鍵”ニャ!
6.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ。
【備考】
※電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスが憑依しています。
※イマジンがフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみです。


【全体備考】
※D-3最南東端の二階建て民家(1F南側の壁にでかい穴あいてる)に、ゲイ・ボウ@Fate/zero が放置されています。

448 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:29:53 ID:5SI8SmpI0



OOO

 ……――大地はいまだじりじりと焼けていて、大気は吸えばたちまちその肺を焼き切る熱を孕んでいる。
 戦略エンジェロイド「空の女王(ウラヌス・クイーン)」が持ちうる兵装の中で最強の破壊は、標的であろうがなかろうが全てを例外なく食い尽くすそれのはずだ。その暴威を一身に受けてあらゆる物が打ち砕かれ原型を留めずいる元公園のなか、こともあろうにそもそも矢に狙われていた彼女だけがかろうじてその姿を保ち続けていた。

「……ぁ」

 なんとか電算機器が満載の頭部は守り抜いていた。もちろん火傷やかすり傷は目も当てられないほどの爪痕ととして顔を含めた全身に残っているし、ご自慢の羽もその例に洩れることはない。しかし高々電子戦用エンジェロイドでしかないニンフが、あの空の女王の最大の一撃を真正面から受けたというのに右腕一本の喪失のみで耐えたというのは、これはもう称賛に値するどころの話ではない大金星だ。

 例えそれが制限の元の一撃であろうとも。
 例えそれが赤い魔槍の破壊と同時に放出された、ニンフにとって未知のエネルギーが『APOLLON』の威力の大半を相殺した結果であろうとも。
 例えそれがイカロスが余熱からの自身の防御のためにメダルを割いたことも鑑みようとも、である。

 最も、その栄光をニンフに誇れと言うのはこの上なく非道な話だ。

 ああ、なんとままならない話であることだろう。誰も彼もが実にツイてない。誰も悪くない、というところが何より最低の不運であり、同時に最高の皮肉だ。

 盲の羽蟲に相応しい物語の果てで、ニンフはただ独りぼっちだった――……



【E-3/公園】

【ニンフ@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】身体ダメージ(極大)、全身に火傷や裂傷多数、羽はボロボロ、右腕喪失、強い混乱、深い絶望
【首輪】0枚:0枚
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:知り合いと共にこのゲームから脱出する。
 1.どうして……?
 2.知り合いと合流(桜井智樹優先)
 3.トモキの偽物(?)、裸の男(ジェイク)、カオスを警戒。
【備考】
※参加時期は31話終了直後です。
※広域レーダーなどは、首輪か会場によるジャミングで精度が大きく落ちています。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※イカロス、フェイリスの行方を把握していません。
※『APOLLON』のダメージによって放出したセルメダルはイカロスに吸収されておらずニンフの周りに散らばっています。


【全体備考】
※E-3の公園を中心に半径500メートル程度が完全な焦土と化しており、半径一キロに渡って衝撃波や火災と言った影響が及んでいます。
※ゲイ・ジャルグ@Fate/zeroは消滅しました。





OOO

 ……――斯くして長々と語られた羽蟲たちのバラッドは一応の終わりを見る。
 もしこの悲喜劇にあえて訓戒をつけるとするならば、そう。
 「人の話はよく聴きましょう」と、そういったものであるはずだ――……

449 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/14(日) 19:31:21 ID:5SI8SmpI0
以上で投下終了です
タイトルは
堕羽蟲たちのバラッド - Ballad of Fallen Angeloid -
です
何かありましたらご指摘の方をお願いいたします

450名無しさん:2012/10/14(日) 20:50:15 ID:J6.HFP6E0
投下乙でした!

これは…これは…
二話続けてなんて話が投下されるんだ…っ!
絶妙にすれ違っちゃったなぁ…どうしてこうイカロスは融通が利かないのかw

451 ◆QpsnHG41Mg:2012/10/14(日) 21:34:22 ID:O5g0YJ3.0
投下乙です!
うっはwwwカオスも善二郎もいないのにあの三人だけでこの悲劇とか…
この話の上手いのはイカロスの心理描写もだけども、そんな平和な描写から一番最初に
立っていたマーダーフラグに繋げて、それを新たなマーダーフラグに昇華してるところですな…
それだけでなく一人一人のキャラもしっかりしていて、今回脇役に徹していたフェイリスですらこの再現力と存在感。
どっと押し寄せる急展開に目を奪われがちだけど、それだけでなく細部まで手抜きのない見事なSSでした!
さあここからどうなるイカロス!?

>>432
ご指摘頂いた内容について、了解いたしました。
些細な修正点ですので、収録後に修正しておこうと思います!

452名無しさん:2012/10/15(月) 11:35:00 ID:019gUGus0
投下乙です

この組み合わせで悲劇は…と俺も思ってましたw
これは凄い力作だわ…
ああ、原作補正が無いとここまでイカロスは…

453名無しさん:2012/10/15(月) 19:18:22 ID:xvTTvaeM0
投下乙ー
「自分の知らないことを知っている。なぜだろう」じゃなくて
「自分の知らないことを知っている。だから偽者」とかどういう発想ですかイカロスさんwww
智樹、マミさんのおっぱいを狙ってる場合じゃないぞ!

454名無しさん:2012/10/15(月) 19:31:19 ID:0bJuuF520
投下乙です!
ほんとこの面子でなんでこうなれるんだよとイカロスに突っ込みたくなるほどの悲劇ww
アポロンぶっぱなされた時はもうニンフ終わったかと思ったけどまだ生きてるようで良かった
でもやっぱり、威力セーブされたとはいえ、アポロンを受けて原型を留めてられるあたり流石エンジェロイドだわな
イカロスも精神的にヤバイことになってるし、これはどっちのエンジェロイドも今後のリレーが気になるところ

455名無しさん:2012/10/15(月) 20:15:28 ID:yzfzLfEQO
投下乙です。
疑心暗鬼に一番遠そうなキャラが時間齟齬の犠牲になっちゃったなあ。

456名無しさん:2012/10/15(月) 21:13:59 ID:pdR7Rm0E0
両氏投下乙です

切嗣……正義の味方を志したからこそ何も出来なかったとは……
ジェイクとの相性の悪さもそうだけど、とにかく運がない
助手のほうも、自分のせいでこんな事になってしまったことに加え、放送を聞いてしまえばどうなってしまうだろう……

イカロスの方は、どうしてそうなるのかと言いたくなるような見事な誤解をしたなぁ。結局はアンク(ロスト)の思惑通りになってしまうのか
それに巻き込まれた……というか、きっかけを作ってしまったニンフも生き残ったことがよかったといえるのか……
この悲劇を、智樹はどうにかできるのだろうか……

それぞれの気になった点は
『ドミナンス』は、バーサーカーに掛けられた令呪は、あくまで害意を持たない人物に対する攻撃の禁止であって、特定の人物に限定はしてない
つまり、あの状況だとジェイクは助手に対して害意を持っているのではないか、という点ですね

『堕羽蟲たちのバラッド』の方は、一応フェイリスから電王の事(時間関係)を説明されているのに、それについての言及がない点と、
必殺技(この場合はアポロンとイージス)のセルメダル消費量は最大で15枚とルールで決まっているという点ですね

457名無しさん:2012/10/15(月) 22:45:19 ID:Evs1hpRo0
投下乙です。

予約面子から危険人物が消えたよ! ここ最近の重い流れの中の癒し回、ほのぼの三人娘のニャンニャンだと……いつから錯覚していた、俺?
氏の持ち味のとても丁寧で綺麗な描写の中で、イカロスの浄化が完了……と思ったら、とんでもない方向に誤解が。この辺りから実際にニンフから逃げ出すまでと、
ニンフがAPOLLONを向けられ、撃たれるまでのシーンは読んでいる間こっちまで身を焼かれるような焦燥感に襲われましたぜ。

そんでもって、自分参戦時期のずれから生まれる不和とか、そういったことを甘く見ていたと痛感させられました。
そこまでの心理描写が丁寧で、ああ、そうだねってこっちも頷けるから、そこで落とし穴が現れた時に違うぞイカロス!
って思う一方で、イカロスがそう考えちゃうのも仕方ないかーって思わせられてしまいます。改めて、構成も描写も本当にお見事。

さて、ニンフは様々な幸運……というか悪運が繋がって死こそ免れたけど、こんな目立つ爆発のあった場所のど真ん中に抵抗力0とか……
……しかもエンジェロイドの中身に興味を持っていた『あいつ』がこっちの方に向かっているはずとか、いやぁあっ!?
イカロスも何かさらにヤバい方向になりそうだし、フェイリスも気絶している場合じゃねーぞ!

改めて、このSS単体でも素晴らしい出来で、その上で次も気になる見事な力作お疲れ様でした! 次も楽しみに待っています!

458 ◆QpsnHG41Mg:2012/10/16(火) 00:03:54 ID:g3fs4YHc0
>>456
貴重なご意見ありがとうございます!
修正スレの方に修正版を投下してるので、確認お願いします。

それでは、次の話を投下しますね。

459鈴羽の仇は ◆QpsnHG41Mg:2012/10/16(火) 00:05:33 ID:g3fs4YHc0
 阿万音鈴羽はとセイバーの二人には、進むべきアテがまるでない。
 織斑一夏を追い掛けようにも、奴が何処へ逃げたかがわからないのだ。
 当然諦めるつもりはないが、しかしいい加減何らかの目的に沿って行動する必要があるのは明白。
 鈴羽もセイバーも馬鹿ではないのだ、それくらいの分別はつく。
 そんな中で、二人が新たに目的地として選んだのは、冬木市だった。
“でも、どうしていきなり冬木なんだろう……?”
 トライドベンダーの常識離れした加速の風を感じながら、鈴羽は考える。
 最初に冬木を目指そうと提案したのは、現在のバイクの操縦者であるセイバーだ。
 織斑が逃走した方向が北方らしいことを考えれば、目的地が空見町よりも北に位置する冬木になるのも頷ける。
 その過程で織斑に出会えれば問題ないし、仲間に出会えればもっといい。
 だが、しかしそれだけでは説明のつかない疑問も残る。
 空見町よりも北と言えば、冬木だけでなく見滝原も該当する。
 しかしセイバーは、見滝原をすっ飛ばして冬木に行きたいと主張したのだ。
 セイバーに縁のある冬木を優先的に調べたいと言うのはわからないでもない。
 だが、セイバーにしては少しばかり焦り過ぎではなかろうか?

 ――その謎の真相は、衛宮切嗣が発動した令呪による召喚命令によるもの。
 セイバーすらも気付かぬうちに切嗣が居た空見中学校に、そして冬木に呼び寄せられているのだ。
 この令呪はセイバーの無意識に干渉するものだが、令呪の命令が果たされるまで効果は続く。
 よって、冬木へと移動した切嗣を追い掛けるように、セイバーもまた移動しているのである。
 鈴羽にとっては釈然としない疑問を残したまま、二人を乗せたバイクの現在位置はD-2。
 人気のない森を突っ切るよりも、市街地を進んでいく方が合理的だという判断だ。
 二人は空見町を出たあと、見滝原を迂回して冬木を目指す腹積もりなのだった。

“あれ、あの人……?”
 鈴羽が第三の参加者の存在を見咎めたのは、もうすぐ空見町を抜けるあたりだった。
 お世辞にも都会とはいえない街並みの中に、ぽつんと一人、中年の男が立っている。
 鈴羽がそれに気付くということは、操縦者のセイバーはもっと早くに気付いている筈だ。
 あえて「停まって欲しい」と言うまでもなく、バイクは男の目前で停車した。
 嘶くトライドベンダーを黙らせて、セイバーが真っ先に男に声を掛ける。
「私の名はセイバー、こっちは阿万音鈴羽です。殺し合いには乗っていません。
 貴方も私達と同じように殺し合いに乗っていないのであれば、お名前を窺いたい」
 無駄のない、簡潔な自己紹介だった。
 男は深く被った帽子を指先でくいと上げて二人に小さく「こりゃどうも」と会釈した。
 不敵にギラつくその眼が、どういうワケか鈴羽は気に入らない。
 嫌な眼をした奴だな、と、失礼ながらも感じてしまった。
「俺の名前は葛西善二郎……殺し合いには乗っちゃいねぇよ」
「そうですか……、貴方はいったい此処で何をしていたのですか?」
「何って言われてもねぇ……何処へ行っても人がいねぇんだ、独りで彷徨うしかねぇだろ」
 葛西のナリを上から下まで眇め見て、セイバーは「ふむ」と唸った。
 鈴羽の眼にも、この中年がセイバーや織斑のように戦える身とは思えない。
 何処からどうみても、その辺をブラつくだらしない中年オヤジという印象だ。
 そんな中年オヤジが持つには余りに不釣り合いな大剣に、セイバーは視線を向けた。

460鈴羽の仇は ◆QpsnHG41Mg:2012/10/16(火) 00:07:54 ID:g3fs4YHc0
「……その大剣は一体何処で手に入れたのか、訊いても構いませんか」
「俺の支給品さ……ったく、こんなモン支給されても困るんだがねェ」
 ドリルのように捩れ尖った奇妙な大剣も、この中年の手に掛かればただの杖。
 重たいお荷物のソレを地面に突き刺し、寄りかかりながら葛西は悪態を吐いた。
「見た所、私も未だ見ぬ何者かの宝具のようだが……流石にそのような使い方は――」
「――ンなこた俺は知らねェよ。何ならアンタ、このお荷物を貰ってくれるかい?」
「……いいのですか?」
「そりゃあタダでとは言わねぇよ。"等価交換"は世の中の原則だろ?」
 セイバーと鈴羽が顔を見合わせる。
 要するに、この宝具が欲しければ、同等の品物を差し出せというのだ。
 がめつい男だ、などとは思うまい。それは世の中当たり前のことだというのはわかる。
 セイバーからのアイコンタクトで互いの意図を通わせたあと、鈴羽は首を横に振った。
「申し訳ないが、今の私達には人に譲れるモノは何も……」
「そんじゃ交渉は決裂だ、一応杖としても重宝してるんでね」
 残念そうにやや顔を伏せるセイバーだが、それは仕方のないことだ。
 武器と呼べるものをほとんど所持していない自分達に、宝具はレートが高過ぎる。
 これが自分のものであったなら、セイバーはもっと強気に出ていたのかもしれない。
「……あっ、そうだ! 一応訊くけど、ガイアメモリならあるよ?
 これさえあれば、人を越えた超人に変身した戦える……らしいけど」
「悪ぃな、俺はそういう胡乱なモンは使わねぇ主義なんだ」
「だよねー……まぁ、同感だよ」
「でもまァ、あるに越したこたねぇからな。拳銃となら交換してやってもいいぜ」
 そういって葛西がデイバッグから取り出したのは、一丁の自動拳銃。
 それは2004年に製造された、ブラジル製のタウルスPT/24と呼ばれる拳銃だった。
 未来の世界では銃器の扱いにも慣れていた鈴羽は、眼を輝かせてそれを受け取る。
 暫しそれを物色して、
「コレなら、あたしが持ってる弾丸でも使える!」
 鈴羽の持つ9mmパラベラム弾と9mm口径のタウルスは同一の規格として使用出来る。
 無駄に400×8箱も弾丸を所持していた鈴羽だが、これさえあれば弾丸を有効活用出来るのだ。
 それもガイアメモリなどという胡乱なモノよりもこっちの方が明らかに使い勝手がいい。
「欲しいけど、でも……ガイアメモリと普通の拳銃じゃ、ちょっと損な気もするなあ……」
「……何なら俺の最後の支給品、このスタングレネードも付けてやるよ。三つでどうだ?」
 そう言ってデイバッグから取り出したのは、一般的な軍用スタングレネード。
 炸裂させれば閃光と爆音で一時的に相手を失明させ、聴覚まで奪えるスグレモノだ。
 未来の世界では見慣れた軍用兵器を並べられて、鈴羽は何処か懐かしい気分だった。
 ……正直言って、ガイアメモリなんかよりもこっちの方がよっぽど魅力的だ。
「で、でも……三個も付けて貰っていいの!?」
「元々五つ支給されてたんでね、よっぽどのコトがない限りこんなモン使わねぇだろ?
 だったら使い慣れないコイツより、一応ガイアメモリでも持ってた方が頼もしいんでね」
 なるほど確かに、スタングレネードなど一般人にはピンと来ない武器だろう。
 そんなものよりも、手っ取り早く強化変身出来るメモリの方が確かに頼もしい。
 お互いの利害が一致しているのならば、交渉は成立だ。
「うん、そういうことなら構わないよ。ハイ、これ」
「火火ッ、交渉は成立だな、ありがとよ」
「ううん、こちらこそありがとう!」
 互いの合意のもとで、支給品が交換される。
 これで葛西はメモリを、鈴羽は頼もしい銃器を手に入れたことになる。
 なんだ、最初は嫌な人かと思ったけど、話してみれば気のいいおっちゃんではないか。
 最初の険悪なイメージも払拭して、鈴羽は素直な気持ちで葛西に礼を言った。

 ――この男が自分の実の父親を殺した張本人だとも知らずに。

          ○○○

461鈴羽の仇は ◆QpsnHG41Mg:2012/10/16(火) 00:08:33 ID:g3fs4YHc0
 
 結局、葛西はその後も二人と行動を共にすることはなかった。
 これから悪人を追いつつ、仲間と合流するから一緒に行かないかと誘われはしたが、
 しかし悪人を追い掛けるなどという危険に、葛西は自ら飛び込んで行きたくはないのだった。
 だから、そこは正直に「ひっそり生き延びていきたいから」と伝え、彼女らだけを行かせたのだ。
“臆病者の中年オヤジと思われちまったかねぇ”
 葛西はあの二人を前にして、ただひたすら無力な一般人のフリを続けた。
 それは、彼女らがある程度の戦闘能力を持った人間だと、一目で見抜いていたからだ。
 ああいう人間と事を構えてもロクなことにはならないものだし、無駄な争いは避けたい。
 戦う必要がなかったからこそ、今回はあえて偽名も名乗らず無難に自己紹介を済ませたのだ。
 ……尤も、奴らがあのブタのような役立たずのガキだったなら迷わず焼き殺していたのだろうが。
“まっ、いいか。それよりもだ”
 さっきの鈴羽とのトレードで得たガイアメモリに目を向ける。
 葛西は、正直言ってこういう手合いのアイテムには毛ほども興味を懐いていない。
 人間の領分を越えないことをポリシーにしている葛西にとって、コレは邪道でしかないのだ。
 ゆえに、躊躇いもなくそれを足元に放り捨てた葛西は、その上から乖離剣エアを突き立てた。
 ガイアメモリのど真ん中を剣先が砕いて、そのまま地面に減り込む。
 最早ガラクタの破片となったそれを、脚で蹴って右脇の田んぼに落とした。
“これもいらねぇやな”
 次に、簡易型のL.C.O.G.も田んぼの中程に投げ込んだ。
 ぽちゃん、という音に続いて、すぐに泥に沈んで傍目には見えなくなった。
 これであのガイアメモリが使われる事はもうない。お手軽強化アイテムの最期だ。
“拳銃なんか怖かねぇんだが、ああいうモンが敵に渡っちまうと厄介だからなぁ”
 そう……それが、ガイアメモリを処分した本当の理由。
 そもそも鈴羽は殺し合いに乗っていないので、下手を打たない限り敵には回らない。
 が、彼女が持っているメモリが葛西の乖離剣のように他の誰かに渡ると、それは困る。
 もしも血の気の多い殺し屋なんかの手に渡ったら、面倒臭いことになるのは明白なのだから。
 そういう事態になる前に、早い段階で邪魔なアイテムは消しておく。
 これも着実に生き残るための真っ当な手段の一つなのである。
「……火火ッ」
 小さなことだが、目的をまた一つ達成した葛西は静かに笑う。
 葛西の嘘を疑いもしなかったあの娘が、数時間前に殺したブタの娘だなどと知らずに。
 奴ら親子二代揃って葛西を信じて、その思惑通りに動いているのだなどと、誰が想像出来るものか。
 娘と仇のすれ違い――コレを皮肉と言わずして何と言えよう。
 果たして、葛西と鈴羽が次に会う時は訪れるのだろうか――?


【一日目-夕方】
【D-2/空見町】

【葛西善二郎@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】無所属
【状態】健康
【首輪】所持メダル195(増加中):貯蓄メダル0
【コア】ゴリラ×1
【装備】乖離剣エア、炎の燃料(残量85%)
【道具】基本支給品一式×3、愛用の煙草「じOKER」×十カートン+マッチ五箱@魔人探偵脳噛ネウロ、スタングレネード×6@現実、《剥離剤(リムーバー)》@インフィニット・ストラトス、ランダム支給品1〜4(仁美+キャスター)
【思考・状況】
基本:人間として生き延びる。そのために自陣営の勝利も視野に入れて逃げもするし殺しもする。
 1.カオスが動き出す前にとっとと逃げる。
 2.殺せる連中は殺せるうちに殺しておくか。
 3.鴻上ファウンデーション、ライドベンダー、ね。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※ライダースーツの男(後藤慎太郎)の名前を知りません。
※シックスの関与もあると考えています。
※「生き延びること」が欲望であるため、生存に繋がる行動(強力な武器を手に入れる、敵対者を減らす等)をとる度にメダルが増加していきます。
※首輪のランプの色が変わったことに気付いていません。
※タウルスはキャスターの支給品でした。

462鈴羽の仇は ◆QpsnHG41Mg:2012/10/16(火) 00:09:29 ID:g3fs4YHc0
 
          ○○○

 市街地を駆けるトライドベンダーが、雄叫びと共に速度を上げる。
 鈴羽に負荷が掛からない程度に気を遣ってはいるが、それでもその加速は凄まじい。
 この分なら、放送の時間を迎える前後には冬木市内にも突入出来るだろう。
 まるで何かに急かされるようにバイクを走らせながら、セイバーは考える。
“何故だ……何故こうも胸騒ぎがする……?”
 冬木市に向かわねばならない。向かわねば、マズイことになる。
 なんの確証もないそんな不安が、どういうワケがセイバーを駆りたてるのだ。
 果たして、冬木に行けば織斑はいるのだろうか。他の仲間はいるのだろうか。
 何の保証もないのに、しかしアクセルを握るセイバーに迷いはない。
“ここからなら……まずは教会が丁度いいか”
 調査をする為の目的地として定めるなら、冬木の中なら言峰教会がベストだ。
 この場所からなら最も近いし、一旦教会を調べてから衛宮邸へ向かうのも悪くない。
 その過程で織斑か、同じくらいの外道に出くわせば自慢の聖剣で切り伏せるまで。
 仲間に出会ったなら、保護を望むなら保護し、共に冬木を調査するまで。
 頭の中で今後のプランを組み立てるセイバー。
 しかし、それはすぐに中断される。
 
 ――urrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrッ!!!

“この声は……ッ!!”
 進行方向から聞こえる狂戦士の声に気付けないセイバーではない。
 この先に待ち受けているのは、間違いない。あのサーヴァントの一騎だ。
 すなわち、進行方向上にあるのは、避けようもない戦い――聖杯戦争。
 このまま迷わず向かうべきか、それとも一旦鈴羽を降ろすべきか。
 アイリスフィールの時と同じように、守りながらでも戦えないことはないが。
 二択の選択肢を迫られながらも、セイバーは進む。


【一日目-夕方】
【C-4 市街地】

【セイバー@Fate/zero】
【所属】無所属
【状態】健康、胸騒ぎ、織斑一夏への義憤
【首輪】75枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破し、騎士として力無き者を保護する。
 0.鈴羽を降ろした方がいいか、それともこのまま進むか。
 1.まずは冬木へ向かい教会から順当に調査していく。
 2.その過程で悪人と出会えば斬り伏せ、味方と出会えば保護する。
 3.衛宮切嗣、キャスター、バーサーカーを警戒。
 4.ラウラ・ボーデヴィッヒと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
 5.織斑一夏は外道。次に会った時は容赦なく斬る。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。
※空見中学校を目指したのは衛宮切嗣が発動した令呪の影響によるものです。
※ただし彼女自身にその自覚はなく、あくまでも無意識下の行動に過ぎません。
※令呪の効果は今も継続しているので、真っ直ぐに冬木の教会を目指します。
※マスターである衛宮切嗣の危機をおぼろげながらも直感で感じ取っています。
※この先にバーサーカーがいると確信しています。

463 ◆QpsnHG41Mg:2012/10/16(火) 00:10:26 ID:g3fs4YHc0
 
【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康、そはらを喪った哀しみ、織斑一夏への怒り
【首輪】195枚:0枚
【コア】サイ
【装備】タウルスPT24/7M(15/15)@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、9mmパラベラム弾×400発/8箱、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:真木清人を倒して殺し合いを破綻させる。みんなで脱出する。
 0.見月そはらの分まで生きる。
 1.知り合いと合流(岡部倫太郎と橋田至優先)。
 2.桜井智樹、イカロス、ニンフ、アストレアと合流したい。見月そはらの最期を彼らに伝える。
 3.織斑一夏を警戒。油断ならない強敵。一刻も早く見つける。
 4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
 5.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
 6.余裕があれば使い慣れた自分の自転車も回収しておきたいが……
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です。

【タウルスPT24/7M@魔法少女まどか☆マギカ】
ブラジルのタウルス社が2004年に発表した自動拳銃で、暁美ほむらが使用。
口径は9mm×19。総弾数は15+1。低価格で高品質な銃のイメージで親しまれている。
PT24/7という名前の由来は「24時間、週7日、常に市民の安全を守るタウルス」の意。

464 ◆QpsnHG41Mg:2012/10/16(火) 00:12:50 ID:g3fs4YHc0
以上です。
すいませんタイトルこれじゃワケわからんので
「鈴羽の敵はそこにいる」に変更しますすいません!

465名無しさん:2012/10/16(火) 07:35:28 ID:7kHqr.9k0
投下乙です!

タイトルのお陰で不安いっぱいになりながら読みましたが…
こういうことだったのかww
すっかり忘れてたけど善ちゃんがダルを殺したんだったね…
敵に気付かないままで良かったのか悪かったのか一体

466名無しさん:2012/10/16(火) 07:42:45 ID:9imbPVVMO
投下乙です。
さすが葛西!上手く立ち回っているね。まだ第一放送前だけど本編みたいに最後まで生き残っていそうだね。

467名無しさん:2012/10/16(火) 10:12:55 ID:e2Vlev6.0
投下乙です
さすが葛西さん、上手く立ち回ってるぜw
そして鈴羽は…どの道放送になったら…
ああ、ただではすまないなあ

468名無しさん:2012/10/16(火) 13:21:20 ID:2tDXVOyEO
投下乙です。

なんで葛西がガイアメモリなんて欲しがるんだろうと思いましたが、納得です。
自分は興味なくても、他人は使うかもしれないんだから潰しとくのは当然ですね。
そういう意味ではエアも、壊すのは無理でも隠すくらいはした方がいいんでしょうけど、傍目には剣だしなあ。

469名無しさん:2012/10/16(火) 16:39:29 ID:jsk5RR3M0
投下乙です。
バイト戦士……その男は父さんを殺した張本人だ! 早く気づいてー!

470名無しさん:2012/10/16(火) 19:51:54 ID:yRjsbSFc0
投下乙です
葛西はうまく逃げたな。もし鈴羽に父の仇であることを知られていたらどうなっていたことやら
けど、エアのことを考えれば逆に鈴羽たちの方が助かったのか?
まぁなんにせよ、セイバーは切嗣の危機を感じ取ってるみたいだし、進行方向にはバーサーカーもいるしで、先の気になる展開ですね

ところで、>>456で指摘されたイカロスのメダル消費とかはどうするんだろう
なんの反応もないままwikiに載っちゃってるけど

471名無しさん:2012/10/17(水) 12:27:21 ID:XtKW23Yc0
>>470
修正スレの方に修正版が投下されてないか?

472名無しさん:2012/10/17(水) 12:51:22 ID:/5GGrflM0
>>471
修正スレに投下されたのは『ドミナンス』の方。
応答がないのは『堕羽蟲たちのバラッド』の方だよ。

473名無しさん:2012/10/17(水) 15:00:36 ID:A0BsCgu60
メダル15枚でアポロン撃てるとかバランス的にどうなのって話だから、これに限っては特例でいいと思うけどなあ
同じように、例えばエクスカリバーなんかがメダルたったの15枚で打ち放題とかだったら嫌じゃない
仮面ライダーみたいな変身維持にもメダル消費する奴らは15枚、それ以外のいきなり強技撃てる奴はそれぞれ相応のメダル消費ということでいいと思う

時間関係はそもそも「フェイリス経由」なんだし、今の彼女らがそれを真に受けて真剣に考慮する方が馬鹿っぽいと思うよ

474名無しさん:2012/10/17(水) 20:06:22 ID:oQkjNkI.O
エクスカリバーは消費魔力の関係で、マスターの支援(魔力供給等)がないと一度しか使えないよ。しかも場合によっては、後々に影響が出てくるし。
変身維持にしてもイカロスには戦闘モード的なモード『空の女王』がある……と言うか、基本的にこれで戦ってるし。

確かに広域殲滅が可能なアポロンのメダル消費量が15枚と言うのはどうかと思うけど、
単純な威力ならアポロン以上のクリュサオルのメダル消費量が多分15枚程度なんだからそこら辺の兼ね合いを考えたらいいんじゃないかな?
安全に使用するならイージスの併用が前提だし、そこら辺も考えてさ。

475名無しさん:2012/10/17(水) 22:17:25 ID:/5GGrflM0
強攻撃にしても、たとえばディケイドが変身して速攻でクロックアップすれば、防御力の低い人物なら舜殺できるし、変身でのメダル消費も一枚程度ですんじゃうしね

今回の場合なら、一度アポロンを使用したら一定時間使用できない、というのはどうかな。大体六時間くらい?
これならセルメダルの消費が十五枚でも問題ないと、個人的には思うんだけど

476名無しさん:2012/10/18(木) 00:01:35 ID:UiUKyj9.0
>>474 エクスカリバーの使用に魔力消費が必要なら、バーサーカーがアロンダイト使ったんだからエアリアルオーバードライブで雁屋おじさんが苦しんでなきゃいけないでしょ。
それにメダルがあっても魔力がないと使用不可って、魔法少女のSGの穢れがメダルの代用になる、っていう考えと似た匂いがするし、鯖の魔力=メダルで考える方が面倒臭くなくて良いと思うけどなぁ。
後々の影響というのも、尾を引くほど相応のメダル消費ってことで良いじゃん。(……あれ、そもそもサーヴァントの限界維持の方はどういう扱いだっけ……)
アポロンとクリュサオルだって、あくまで密度的な面でクリュサオルが上なだけで使用されているエネルギーの総量はアポロンが圧倒的に上なんだから当然それを賄うメダルの消費も大きくなると思うし。

>>475ディケイドの件は何が言いたいのかちょっとわからない。仮面ライダーと同様超人枠のサーヴァントなら変身もその維持もなしに、技なんか使わなくても一般人相手なら瞬殺できるし、
>>473で言われているのはその上でエクスカリバーみたいな強力かつ広範囲・防御の難しい必殺技の消費まで仮面ライダーやISと同じだと不平等じゃないか、ということだと思うけど。
変身とかのワンアクションを挟まなくて良い上、いきなりの奇襲もできてサーヴァントやイカロス以外のエンジェロイド、ネウロなんかの方が元々アドバンテージがあるから、そういう連中の特例的な強攻撃のメダル制限を強めようってことでしょ。

まあ、アポロンに関しては時間制限も悪くはないかもしれないけど、エクスカリバーもサーヴァントへのマスターからの魔力供給は過去の作品だとそもそも存在しない扱いなんだし、どっち道全必殺技特例なしの一律7〜15枚は違和感が残るなぁ。
というかそろそろ板違いだし、この話題は議論スレに行った方が良いかもね。

477名無しさん:2012/10/18(木) 18:53:16 ID:7sXCQAKU0
今更だけどディケイドのアポロさんは一回Xライダーに倒されて大首領の力で復活してるから再生怪人であってるんだよな・・・

478名無しさん:2012/10/18(木) 23:55:28 ID:Q.XtBDNs0
『堕羽蟲たちのバラッド』におけるアポロンのメダル消費に関して、議論スレに書き込みさせていただきました。

479名無しさん:2012/10/19(金) 18:38:57 ID:keSfxQnc0
予約来てるな

480 ◆l.qOMFdGV.:2012/10/19(金) 18:50:06 ID:B1eiEALY0
少し見ない間に大議論が…
反応遅れて申し訳ありません
アポロンについては議論に決着がつくまで放置、フェイリス関連については>>473さんが仰っているようなことを漠然と考えておりましたので軽く修正しておきます

481 ◆SrxCX.Oges:2012/10/25(木) 01:14:04 ID:sIex.pbw0
これより予約分の投下を開始します。

482 ◆SrxCX.Oges:2012/10/25(木) 01:14:29 ID:sIex.pbw0
 冴子が次の目的地として園咲邸を選んだのは、単によく知っている場所だからだ。得体の知れないこの空間まで屋敷を持ってくる、またはそっくり再現する手段を知るため、井坂が同じように目的地として目指す可能性があるかもしれないと期待したため、なども挙げられるかもしれない。
 ともかく、このまま真っ直ぐ南下するのがとりあえず立てた方針だ。それを後藤に提案するために口を開こうとしたところ、
「まずはこのジャスティスタワーという場所を目指してみましょう。ここなら何か見つけられるかもしれない」
「え? 当てがあるのですか?」
「いや、単に近くにあって、目ぼしいものからとにかく手を付けようというだけですが……何より、他の友好的な参加者と早く合流したい。だから他の誰かも目指しそうな場所へ行きましょう」
「だったら、私は園咲邸、私の実家に行きたいのですが……」
「いいや、まずは速やかに俺以外に貴方を保護できる人間を見つけるべきです。だからそんな遠い場所を目当てにするより、近いこっちの方が目的地として妥当でしょう」
「……まあ、そうですね」
 後藤の意見に従い、ジャスティスタワーを目指すことになった。園咲邸に譲れない拘りがある訳でもなかったから、多少の不満はあろうと後藤に同意したところで大した問題は無い。
 それに、「非力な女性」でしかない冴子ならば後藤のこの言い分には従うのが筋だろう。



 ジャスティスタワーへの道中、小休止も兼ねてお互いの支給品を確認してみた。
 冴子が提示したのは、一つ目に袋入りのクッキー、二つ目にIBN5100というパソコン、最後に簡易型のL.C.O.Gである。
 それらを見た後藤は、突然思いついたかのように一本のガイアメモリを取り出した。
 彼に支給されたそのメモリを、どうやら「ボタンを押せば音声が流れる以外には特筆すべき点の無いUSBメモリ」としか認識できなかったようで、単にパソコンを使えば保存されたデータを確認できると思って取り出したらしい。
 型の古いパソコンだからUSBメモリには対応していないと指摘すると、タワーに着いてからパソコンを探し、そこで今度こそ確認しようという結論に落ち着いた。
 さて、後藤の残りの支給品は二つ。どちらも武器になり得る物だった。ショットガンは生身で使う分には都合が良く、もう一つの武器の方もなかなか興味深い印象を受ける。
 せっかくなので、護身用という名目でどちらかだけでも譲ってもらえないかと提案してみると、
「何を言っているんだ! ただの民間人である貴方が武器を手に取るなんて危険すぎる! さっきも言ったように、戦うべきなのは俺です。貴方は後ろに下がっていればそれでいいんです」
「……すいません。出過ぎた真似を」
「いえ、こちらこそ声を荒げてしまった。でも、わかってくれればそれで」
 などと突っ撥ねられて、引き下がるしかなかった。どうにか理屈をこねて食い下がろうかとも思ったが、どうやら聞く耳を持ちそうに無い。
 仕方が無いので、比較的戦力として期待できる、ということになっている後藤に全ての武器を託すことにした。
 尤も、この理屈に従うならば武器を持つべきはむしろ冴子の方だ。駆け出しの新兵の後藤などより実戦経験が豊富なのだから当然だ。
 しかし、そんなことを口に出せるわけがない。なぜなら今の冴子は「非力な女性」なのだから。



 その部屋は、ごくありふれた部屋だった。
 緑の観葉植物の植えられた鉢と、その近くにスライド式のドア。部屋の中央には机と椅子。机の上にはパソコンのモニタとキーボード、
 それに使い古されたマグカップが一つ。ある壁に寄せられた棚には何冊かの本、別の壁には短針と長針が重なった壁掛け時計。
 どこにでもあるようなごく普通の部屋だった。ただ、そこで時を過ごすべき部屋の主がいないだけで。

 壁掛け時計の短針の傾きが100度を超えて120度に近づきつつある頃になり、部屋のドアが左右に開く。その直後に足を踏み入れたのは、一人の妙齢の女性。
 入るや否やきょろきょろと部屋の中を見回し、何ともなしに歩き回り、椅子に腰を下ろす。同時に口から出した溜息は女性の疲労を感じさせる音だった。
 一度口を開いたら、誰も傍にいないとわかっているからか、ぶつぶつと愚痴のようなものを零し続ける。
 それがこの部屋に到達した園咲冴子の動向だった。

483 ◆SrxCX.Oges:2012/10/25(木) 01:15:28 ID:sIex.pbw0

 そして、そんな園咲冴子の姿を、園咲冴子が眺めていた。

「そういうことね」
 得意気に背凭れへ身体を傾けながら、”頭の中の映像”を見終えた冴子はほくそ笑んだ。前に掲げた右手の中には一本の空色のガイアメモリ。ボタンを押すと鳴り響く音声が、宿した力の証明だ。
――MEMORY――
 これが後藤に支給され、今は冴子の手中に納まっている三本目のガイアメモリ。“『記憶』の記憶“を内包したメモリーメモリである。

 ジャスティスタワーに到着した二人は、後藤の提案により別行動をとることになった。後藤はタワー内部で他の参加者を捜索、冴子は安全のために目立たない部屋で待機である。
 そこで後藤が帰ってくるまでの時間潰しも兼ねて、メモリーメモリの観察を行うことにした。勿論、ただのUSBメモリという扱いで後藤から受け取った。
「これがガイアメモリだとわからなかったのも、無理も無いと言えばそういうことかしら」
 支給されたスパイダーメモリには簡易型のL.C.O.Gが付属していた。それに関して、既に生体コネクタをその身体に刻んだ冴子にさえ支給されたという点から、
 誰でも使えるように本来の使用者以外に渡される全てのガイアメモリに付属しているのだろうと冴子はとりあえず結論付けた。
 しかしメモリーメモリの方にはL.C.O.Gが付属しなかったらしい。自分の立てた仮説が間違っているのだろうかと怪訝に思いながらメモリーメモリを弄ってみたが、すぐにそうではないと気付く。
 メモリーメモリの効果は「過去の出来事をイメージ映像の形で脳内に取り込む」こと。その発動条件はメモリを手に持ってボタンを押し続けること。
 つまり、メモリーメモリにはそもそも生体コネクタが必要ない。だからわざわざL.C.O.Gを付属させなかったのだろう。
 もしメモリとセットで支給されていたなら後藤にも何かしら思い至る部分があったかもしれないが、すでに過ぎた話だ。

「馬鹿ね、あの男」
 後藤が手に取った後でもメモリーメモリの効果に気付けなかったのは、メモリのボタンをただ押してからその効果が発動する前に指を離して、それきり無意味な代物として興味を無くしたからだろう。
 もう少し注意深く観察すれば効果に気付けたのかもしれないが、中身を知る手段の無いUSBメモリなど分かりやすく武力を主張する二つの武器の傍では随分と色褪せて見えたというところか。
 ゆえにガイアメモリの本当の価値を知ることなく、こうして冴子に渡してしまったのだ。なんとも迂闊だが、ガイアメモリに携わった経験の無い人間だから仕方の無い結果だろう。
「……ほんっと、使えない奴」
 そのせいで、あの太った少年の殺害現場でメモリーメモリを使うという発想に至らなかったのだとしても。いつか冴子や井坂に害を及ぼすかもしれない赤陣営の男を討つチャンスを、こうして掴み損ねてしまったのだとしても。全て仕方が無い話だ。

 支給品開示の段階でナスカメモリもスパイダーメモリも見せなかったのは、ガイアメモリの存在自体を把握されたくなかったからだ。
 しかし、あの時ガイアメモリを後藤の前で明らかにしたらもう少し違った結果が得られたのだろうか、などと想像してみようとして、すぐに止める。
 人智を超える力を得られるからこそ、ガイアメモリは無闇に他人に明け渡していい代物ではない。現時点で後藤にはスパイダーさえ託してよいか確信していないのだから、このままで正解だ。
 何より、ガイアメモリの持つ強大な力について得意気に語れる「非力な女性」なんて不自然じゃないか。



 実際の所、後藤と出会った時点では悪意を隠さずにナスカの力を使って彼を叩き潰し、支給品もセルメダルも丸ごと奪うという選択肢もあった。
 それを選ばなかった理由を挙げるとしたら、ビジネスの世界で長年生き続ける内に自然と身に付いてしまった冴子の習性だ。
 敵対と協力のどちらがふさわしいかわからない内はまず敵意を見せずに柔らかな態度で接触して、それから相手の深い部分を探る。そんなやり方を後藤に対しても同じように取っただけの話である。
 その選択は功を奏し、後藤は何の疑いもなく冴子を善人だと判断し、行動を共にすることになった。そして冴子は自分の思い通りになる手駒が得られたと思っていた。思って、いた。

484 ◆SrxCX.Oges:2012/10/25(木) 01:16:28 ID:sIex.pbw0

 探索を終えて部屋に戻ってきた後藤には、部屋のパソコンに保存されていた特に重要でも無いデータを見せた。ガイアメモリに閲覧できるデータなど無いのだからやむを得ぬ処置だが、冴子をまるで疑ってない後藤は「そうですか……くそっ」などと顔を顰めながら納得し、加えて最早興味を失くしたらしいメモリーメモリをそのまま冴子の所有物とした。それは良い。
「どうやら此処には誰もいなかったようです。仕方が無い、協力者を探すのは他の場所にしましょう」
「そうですね……次はどのように移動しましょうか?」
「またそれらしい施設を探すべきだと思います。さっきも言ったように、まずは貴方を預けられる人物との合流が大事だ」
「ですね」
「さあ、行きましょう。俺についてきてください」
 積極的に冴子を守るために働き、しかも冴子の秘めた悪意に全く気付かず、冴子の思い通りに動く。これらの点を見れば、後藤慎太郎という人間は冴子にとって実に都合の良い人間だと言える。
 でも。

「……あの、やっぱり私とはここで別れませんか? 後藤さんだって追いたい人がいるのに、私に構って自由に動けないんじゃやっぱりご迷惑かと……」
「そんなことを言うんじゃない! 俺のように力のある人間は、貴方のように力の無い人間を守ることが最低限の使命だ。だから、貴方の安全が確保できるまで、俺は貴方と行動する義務がある。わかりますか?」
「……すいません。確かに後藤さんの言う通りですね」
「いえ、わかってくれたならそれで。今は俺が貴方を守る、それでいいんです」
「…………うざったい」
「え?」
「あ、何でもありません。……行きましょうか、後藤さん」
 この男は、案外思い通りに動いてくれない。冴子を守るという目的に積極的なのは結構だが、そのためには時に冴子の言い分すら跳ね除けてしまう。強い正義感ゆえに思考パターンが完全に固まってちっとも融通が利かない。
 そしてあくまで善意で冴子の先に、冴子の上に立とうとする。もしかしたら単独行動の方が気楽なんじゃないかと一瞬でも考えさせられるほどに、積極的な姿勢である。
 それでも冴子の期待以上の効用を残せるのならば妥協できるのだが、今の時点で特に手応えが無いのだから喜べない。
 しかし後藤にこれほどに出張った真似をさせている原因は、結局のところ冴子が「非力な女性」を演じているからだ。
 一応は少しくらい戦力になる後藤との自然な関係性を考えれば、この状態になるのが必然的だ。後藤に非があるわけではない。
 実のところ戦力としては他の超人的能力を持つ者達よりも劣り、一人で行動させたところで大した成果も期待できそうになく、それでいて彼自身にその自覚があるのか疑わしい、
 どこを取っても自分より格下と言わざるを得ない男に従う身になったとしても、結局それは冴子が選んだ道だ。

(まあ、しょうがないわね)
 数十分前にタワー内を上昇するエレベーターの中で、冴子の頭が考えていたのは「後藤をどのように利用するのがベストの道か」であった。
 しかし、今タワー内を下降していくエレベーターの中では、冴子の頭にあるのはそれだけではない。
 「果たして後藤にどれほどの利用価値があるものなのか」とか、「わざわざ後藤のために最善の行動を手取り足取り教えてやる義理があるのか」とか、「そもそも後藤との協力は他の選択肢と比べて最善のものだったと断言できるのか」とか、気が付いたらあたかも現状に不満があるかのような発想にばかり向かいそうになるのだ。
(これで良かった……のかしら?)
 それでも冴子は、その考えに傾かないように気を張り続けている。後藤は致命的な失態など犯していないのに、わざわざ方針を変えるだけの理由が無いから。いや、今の冴子の中の個人的な感情も挙げられるのだが、それはまだ構うほどの段階ではない。
 全てが期待通りに進まないなど、何事にも付きまとう話だと自分はよく知っているじゃないか。だから、多少は我慢することだって必要だ。そう反芻する。
(……ああ……何と言うか、こいつといると)
 ゆえに冴子は策謀も実力も、見せつけてやりたい本当の表情も隠して、笑顔を張り付けたまま後藤に同行し続けることにした。当然ながら、後藤は微塵も気付いていない。
(…………苛々するのよね……)
 胸に渦巻く黒ずんた感情も、今はまだ明かさない。

485 ◆SrxCX.Oges:2012/10/25(木) 01:17:41 ID:sIex.pbw0



【一日目-夕方】
【C-7 ジャスティスタワー内】

【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康、強い苛立ち
【首輪】所持メダル100:貯蓄メダル0
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品×1(確認済み・武器系)
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊としての責務を果たさないと……。
1.今は園咲冴子を守り、少しでも安全な場所に行く。協力者が見つかったら冴子を預ける。
2.殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
【備考】
※参戦時期は原作最初期からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
※何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。

【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康、苛立ち
【首輪】100枚:0枚
【装備】ナスカメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、スパイダーメモリ+簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW、メモリーメモリ@仮面ライダーW、IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
1.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
2.井坂と合流する。異なる陣営の場合は後で黄陣営に所属させる。
3.協力相手と武器が欲しい。
4.後藤慎太郎の前では弱者の皮を被り、上手く利用するべきなのだろうか。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。
※何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※後藤との合流で増加したセルメダルは、メモリーメモリの使用で全て消費しました。

・支給品解説
【メモリーメモリ@仮面ライダーW】
後藤慎太郎に支給。
一般のガイアメモリ。
使用することで、過去に起こった特定の出来事をイメージ映像として観測できる。
本ロワで観測できる範囲は、対象となる場所または物においてロワ開始以後に起こった出来事に限定される。どのくらい前の時間を見るかは使用者の意思で調整可能。

486 ◆SrxCX.Oges:2012/10/25(木) 01:19:03 ID:sIex.pbw0
以上で今回の投下を終了します。作品タイトルは「サエコの いかりの ボルテージが あがっていく!」です。
疑問点・矛盾点、その他ご意見ご感想などあればよろしくお願いします。

487名無しさん:2012/10/25(木) 06:59:15 ID:Qud92AoA0
投下乙です!
冴子さん相当イラついておりますな……うざったいって本音出てますがなwww
まあそりゃそうだよな、こんな融通の効かない若造のせいで自由な行動が制限されてるんじゃな
ぶっちゃけこの男はもう冴子さんにとっては役にも立たないだろうし、このままいけば……?
と、とにかく頑張れ後藤さん

488名無しさん:2012/10/25(木) 17:26:24 ID:xspIkyco0
投下乙です
駒として利用する予定だったんだが想像とは…か
自陣営を優勝狙いならいつかは切る予定にしても冴子さんにとって今の状況は美味しくない
ならば……
後藤を利用する予定がなんでここまで頭を悩ます展開になったのやらw

489名無しさん:2012/10/25(木) 18:36:49 ID:wlQKmgGYO
誤籐さんwwwいや、何だかんだで危険人物を無意識の内に抑えているから目的から外れては…いないのかなぁ?

490名無しさん:2012/10/25(木) 21:57:41 ID:kHe4arQIO
予約来たな。

オカリンの活躍に期待!

491名無しさん:2012/10/26(金) 12:39:37 ID:NhHy.LpUO
>>489
意図せずとも犯罪を未然に防ぐとは、さすが正義の味方ですね!

492名無しさん:2012/10/26(金) 16:31:48 ID:OlpfQBlI0
再予約キター

493名無しさん:2012/10/27(土) 08:42:48 ID:FafIeMio0
投下乙でした!

冴子さん不憫…w
510さんの言ってる事もわからんじゃないが自分より劣った人間にこんな事言われたらそりゃいらつくよねw

494名無しさん:2012/10/27(土) 21:42:41 ID:37YqTdB20
Aさん「青陣営のために戦います。だから青以外は氏ね」
Bさん「黄陣営のために戦います。だから黄色以外は氏ね」
Cさん「黄陣営のために戦います。だから黄色以外は氏ね、あとカザリも氏ね」
Dさん「黄陣営のために戦います。だから黄色以外は氏ね、あとカザリも氏ね」
Eさん「正義のために戦います。だから悪人は氏ね」
Fさん「正義のために戦います。たから悪人は氏ね」
Gさん「FBのために戦います。だからFBが氏ねって言った奴は氏ね」

東側がカオスや…

495R-0109 ◆eVB8arcato:2012/10/30(火) 23:51:16 ID:/E90Fj7E0
初めまして、そうでない人はお久しぶりです。
現在、投票で決めた各パロロワ企画をラジオして回る「ロワラジオツアー3rd」というものを進行しています。
そこで来る11/10(土)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?

ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。

詳しくは
ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
をご参照ください。

496 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/31(水) 19:10:32 ID:/q3dAa/w0
予約分の投下を開始します。

497仲【あらわれたきけんなおとこ】 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/31(水) 19:11:36 ID:/q3dAa/w0
 月影ノブヒコの遺体から月の石を奪ってから、加頭順は会場に配置されていたライドベンダーを動かしてずっと思案を巡らせていた。
 アポロガイストというドーパントとはまた違う謎の怪人を泳がせておくことは、多少のリスクはあるがそこまで問題ではない。愛する園咲冴子の敵を排除すると言ってもユートピア・ドーパントの力だけでは流石に限界があるからだ。
 そしてもう一つ、この会場ではメダルという戦いの鍵を握る物質がある。ルールによるとドーパントを始めとした力の発揮は制限されていて、発動にはメダルが必要らしい。「欲望」を満たす度に生まれるようだが、どれくらいの基準で生産されるのかがどうにもわからなかった。
 そんな状況で無駄に能力を使っては敗北に繋がるだけ。故に、現状は利用できる手駒を見つけることが最優先だった。
 無論、有益にならないような存在であれば即刻排除して全ての支給品とメダルを奪うだけだが。
 冴子の無事を祈りながら、加頭は目前を真っ直ぐに見据える。
 すると、見知らぬ一人の男が警視庁に向かっていくのが見えた。

(……行く当てはありません。なら、あの方に接触しましょうか)

 加頭の方針はほんの一瞬で決まった。





 笹塚衛士はたった一人で歩みを進めていた。
 カザリというグリードと桐生萌郁という少女によって『もう一人の笹塚衛士』を殺されてから、誰とも会わないまま既に数時間が経過している。
 馴染み深い警視庁を調べているがやはり誰もいない。情報収集をできないのは残念だが、怪物強盗Xや葛西善二郎のような危険人物と出会わずに済んだと前向きに考えるしかなかった。
 無論、このまま単独行動を続けるのもそれはそれで不便だが。

(まさか彼女までこんなくだらない殺し合いを強いるとは……奴は何を考えているんだ)

 この陣営戦とやらには、様々な事件を解決した名探偵として世間に知られているあの桂木弥子まで巻き込まれている。
 確かに彼女は素晴らしい勇気と優しさを持っているが、それでも脳噛ネウロや犯罪者達とは違うただの少女だ。そんな彼女の未来を奪おうとする主催者達に憤りを抱いてしまう。
 だが次の瞬間、それを非難する資格などないと笹塚は思った。

498仲【あらわれたきけんなおとこ】 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/31(水) 19:12:36 ID:/q3dAa/w0
(俺は……警察官でありながら人を殺そうと考えた。そうなっては、これまで逮捕してきた犯罪者達と何も変わらないな……)

 黄陣営の優勝。
 脱出が不可能ならばその手段を選ぼうと決めたが、これが意味することは本当の犯罪者に堕ちることだ。当然、ネウロや弥子達はそれを望まないだろう。
 それにもしも弥子が黄陣営に含まれていなければ、この手で殺すことになってしまう。ルールによると他陣営の参加者を取り込むこともできるらしいが、リーダーであるグリードはそれを許すような弱者ではない。
 あのカザリだって一見するとただの軽い若者にしか見えなかったが、その身から放たれる雰囲気は新しい血族と同じだった。だとすると、この地にいるグリード達はネウロがいなければ太刀打ちできない力を持っている可能性は充分にある。
 そうなると、あの5本指の一人であるヴァイジャヤの使っていたカプセルですらも、この場では武器になるかどうかわからない。
 カザリはグリードには通用しないとわかった上で、わざわざこれを渡した可能性だって充分にある。つまり、道化を演じろと言いたいのだろう。
 復讐鬼という名の役を与えられた末に、何も成せないまま無様な最期を迎えるような愚者……それこそが、シックスやカザリの欲望。
 そう考えると、ますます反吐が出る話だった。

(考えても仕方がないか……弱気になってもどうにもならない。奴らをこの手で仕留められるのなら、道化にでもなってやるとも)

 亡き家族の復讐の為に戦うのだと、既に誓った。
 それを果たせるのならこの手がどれだけ汚れようと、また道をどれだけ踏み外そうとも決して止まらないと決めた。
 ならば、躊躇った所で何の意味などなかった。それはとっくにわかっているはずなのに、この心は痛んでしまう。
 未練があるのか? 警察官として治安維持という使命を背負い、社会に生きる人々の笑顔を守り続けてきたあの日々に。復讐を果たすと誓ったのに、そんな甘い考えではいつか足元を掬われてしまう。
 本当の意味で鬼となる為に人を殺さなければならない時が来るのだろうか。笹塚の中でそんな考えが芽生えた瞬間、遠くから足音が響いてくる。
 それを察した彼はすぐに意識を覚醒させて、反射的に通路の曲がり角へ振り向いた。

(チッ、俺としたことが呑気に考えすぎた……もしもこんな所でグリード達のような危険人物が来たらどうする!?)

 足音が近づいてくるにつれて、笹塚もまたゆっくりと近くのドアに歩を進める。ドアノブに触れようとしたが、その直後に白い服を纏った男が姿を現した。
 男の表情は人形のように固まっていて、死人のように生気が感じられない。しかしその瞳にはおぞましい殺気が宿っていると笹塚は瞬時に気づく。
 この男はこれまで何度も見てきた犯罪者達と同じ目をしている。もしかしたら、殺し合いの前から人の命を奪ってきた可能性も充分にあった。
 首輪の色は青。つまり、敵対陣営に属する者だ。

(どうする……奴が何か変な力を持っているのなら、俺は格好のターゲットだ! 銃が効くとは限らないし、何よりも撃つ前に俺を殺せるかもしれない。逃げようとしても、同じことだ!)
「黄陣営の方ですか……よろしければ、少し話をしませんか?」

 全身に突き刺さる異様な雰囲気を前に笹塚が戦慄する中、白服の男は唐突に口を開く。

「……話とは何だ?」
「私は今、ある目的の為に協力者を求めています……その人材は問いません。ただ、情報と戦力が欲しいのです」
「協力者……だと?」

 男の声もまた、目的を遂行する機械のように感情が感じられない。
 恐らく奴は、反抗や逃走の意思を少しでも見せたら問答無用に殺すつもりだ。その証拠に、瞳から放たれる殺意はより濃さを増していく。
 正直な話、この男に命を握られているという状況は不利以外の何者でもない。同盟と言いながら、その実態は使い捨ての駒になるだけだ。

499仲【あらわれたきけんなおとこ】 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/31(水) 19:14:08 ID:/q3dAa/w0
(俺が少しでも失態を晒したら、奴は即効で俺を切り捨てるはずだ……例え俺が死んだとしても、奴には何のデメリットもない。むしろ、支給品とメダルとやらが手に入るから、メリットだらけのはずだ……!)

 フェアな取引ではないのは火を見るより明らかだ。
 しかし、この場を切り抜ける方法は他に思いつかない。強行突破など許す相手ではないだろうし、だからといって逃げられるわけがなかった。
 そんな中、男の腕が動くのを笹塚は見る。

「返事はありませんね、では……」
「待ってくれ!」

 それに危機感を抱いた笹塚は、その先に続く言葉を遮るように叫んだ。

「何か?」
「わかった、あんたと話をしよう。すまない……状況が状況だから、少し警戒をしてしまった。無礼なのはわかるが、許して欲しい」
「そうですか」

 静かに頷く男の腕は動かなくなった。
 どうやら、一先ず首の皮は繋がったようだ。とはいえ、油断はできないことに変わりはない。
 男から滲み出てくる殺気は、未だに鋭いままなのだから。

「申し送れました、私の名は加頭順と申します……以後、お見知りおきを」
「……笹塚衛士だ」
「笹塚さんですね、宜しくお願いたします」

 緊迫感の溢れる自己紹介を終えた後、加頭順という男はゆっくりと歩を進めてくる。
 それに思わず目を見開いた瞬間、今度は急に握手を求めるかのように腕を求めてきた。

「……どうか、したのか?」
「いえ、協力者となって頂いた笹塚さんに対する、私からの友好の証です」
「そうか……」

 笹塚は身体を強張らせながらも、差し出された手を握り締める。
 それは氷のように冷たくて、まるで死体のように体温が感じられなかった。やはり、加頭はただの人間ではない。
 こんな人智を超えた化け物とどうやって行動すればいいのか。ネウロ以上に何を考えているか読めない上に、危険極まりない雰囲気をまるで隠そうともしない。
 邪魔な危険人物の排除に役立つなどと甘すぎる考えだ。あの魔人のようにでたらめな力を持っていては、火の粉が降りかかる危険だってある。

(とにかく、今はこの男をどうにかすることが最優先だな。俺の情報は小出しにして、その間に少しでも切り抜ける手段を考えなければならない……やれやれ、とんでもない奴と出くわす破目になるなんて、ついてないな)

 加頭を前に生きる為には情報を渡すタイミングを見極めなければならない。
 ネウロのような魔人にXや葛西の情報を持っていたのは不幸中の幸いだった。それに、殺し合いの鍵を握る存在であるカザリと接触したのは僥倖かもしれない。
 奴らに関する情報を取引のカードにして、それと引き換えに加頭には戦力となってもらうこともできる。尤も、考えなしに渡したりしたら協定の決裂に繋がる恐れがあるので、慎重に話さなければならないが。
 目の前に現れた加頭順という危険な男は、交渉次第で切り札にも鬼札にもなる存在。故に、慎重になることを強いられてしまう。

500仲【あらわれたきけんなおとこ】 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/31(水) 19:15:07 ID:/q3dAa/w0
(どうやらここは化け物の巣みたいだな……尤も、化け物には化け物をぶつけるだけだが)

 心中でそう呟きながら、笹塚衛士は決意を新たにした。





(笹塚さん、どうやら貴方は無能ではないようですね。それだけは褒めて差し上げますよ)

 警視庁で出会った笹塚衛士という男に、加頭順は賞賛の言葉を投げかける。無論、そこに手心など一片たりとも存在せず、形だけのものだが。
 本当ならすぐに殺してメダルを補充することもできたが、せめて笹塚の持つ情報は得なければならない。
 だが笹塚は命惜しさに情報を差し出すような人間には見えなかった。例え力づくで引き出そうとしても、奴は口を滑らないだろう。
 もしかしたら笹塚の知人に、仮面ライダーに匹敵あるいは上回る力を持つ存在がいるかもしれない。もしかしたら、それはユートピアの力すらも凌駕する可能性だってある。だから、今はまだ生かすつもりだ。
 また、例えそうでないにせよ情報は多く持っていて損はない。園咲冴子を生かせる可能性を増やせるかもしれないのだから、積極的に参加者と接触するに越したことはなかった。
 無論、手駒となりそうにない愚か者は殺害するが。

「それでは笹塚さん、まずは今後の行動方針を考えながら情報交換をしましょう」
「そうだな……加頭、あんたが俺の力になるなら俺もあんたの力になろう。そういうことで頼むぞ」
「当然ですよ」

 目の前の椅子に座る笹塚衛士という男は、冴子を生還させる為に必要な手駒の一つ。奴を上手く使おうとするならば、例え不本意でも力にならなければならない。
 だが、笹塚が手駒としてまともに働かない、あるいはどうしても情報を渡さないのであれば希望とメダルを吸い尽くすだけ。人間如きが一人死んだとしても、代わりは幾らでもいるので困ることはない。

(どうか、冴子さんの力となってくれることを祈りますよ……それだけが、笹塚さんの価値なのですから)

 協力相手がどんな目的を持っていて、何を考えているのかなど興味はなかった。
 ただ、愛する園咲冴子の為に働いてくれればそれだけで構わない。そして、彼女の為に立派に死んでくれれば尚更良かった。
 時刻は既に16時を過ぎている中、笹塚衛士を見つめる加頭順の瞳はとてつもなく冷たい光を放っていた。


【一日目 夕方】
【G-5/警視庁】
※入り口にライドベンダー@仮面ライダーOOOが放置されています。

501仲【あらわれたきけんなおとこ】 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/31(水) 19:15:39 ID:/q3dAa/w0
【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康、加頭順への強い警戒。
【首輪】100枚(増加中):0枚
【装備】44オートマグと予備弾丸
【道具】基本支給品、イマジンメダル、ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(右腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【思考・状況】
基本:シックスへの復讐の完遂の為、どんな手段を使ってでも生還する。
 1.今は加頭と慎重に情報交換を行いながら、今後の事を話し合う。
 2.目的の達成の邪魔になりそうな者は排除しておく。
 3.首輪の解除が不可能と判断した場合は、自陣営の優勝を目指す。
 4.元の世界との関係者とはできれば会いたくない(特に弥子)。
 5.最終的にはシックスを自分の手で殺す。
 6.もしも弥子が違う陣営に所属していたら……
【備考】
※シックスの手がかりをネウロから聞き、消息を絶った後からの参戦。
※桐生萌郁に殺害されたのは、「シナプスのカード(旧式)@そらのおとしもの」で製造されたダミーです。
※殺し合いの裏でシックスが動いていると判断しています。
※シックスへの復讐に繋がる行動を取った場合、メダルが増加します。



【加頭順@仮面ライダーW】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】79枚:0枚
【装備】ユートピアメモリ+ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、月の石@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:園崎冴子への愛を証明するため、彼女を優勝させる。
0.今は笹塚衛士と情報交換をしながら、今後の事を話し合う。
1.参加者達から“希望”を奪い、力を溜める。
2.T2ナスカメモリは冴子に渡すが、それまでは自分が使う。
3.笹塚衛士から情報を得て、手駒として使う。もしも不要となったら即刻始末する。
【備考】
※参戦時期は園咲冴子への告白後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※アポロガイストからディケイド関連の情報を聞きました。

502 ◆LuuKRM2PEg:2012/10/31(水) 19:16:25 ID:/q3dAa/w0
以上で投下終了です。
矛盾点などがありましたら、指摘をお願いします。

503名無しさん:2012/10/31(水) 20:50:56 ID:7hvbg7DU0
投下乙でした!!

流石に即殺し合いとはいかなくても殺伐とした関係
加頭は笹塚を使い潰す気満々だけど果たして上手くいくものか…

504名無しさん:2012/10/31(水) 22:32:23 ID:R6DDQ.8M0
投下乙です

お互いがお互いを利用してるのを薄々と気が付いている状況だからなあ…w
とりあえずは協力関係にはなったが先が楽しみなギスギスさだw

505名無しさん:2012/11/01(木) 07:57:28 ID:0ZcD7lGI0
投下乙です。
笹塚、確かにNEVERとかが多いこの状況を銃一丁で勝ち抜くのは無理だわ。
何とか加頭を出し抜いて力を手に入れてほしいが……。

それから、一つ気になった点が。
人と比べて無駄がないと評価されることの多い笹塚が、午前に第一目的地に設定した警視庁につくまでに数時間もかかるでしょうか?
少なくとも夕方に警視庁に入るところ、というのは考えづらいのですが。
いくら荷物を取りに行ったとはいえ通り道ですし。
この点についてどうお考えですか?

506 ◆LuuKRM2PEg:2012/11/01(木) 08:27:33 ID:gEVvsyag0
あっ……それに関しては書き間違えてしまっただけです。
収録の際に、夕方から午後に修正させて頂きます。
ご指摘ありがとうございました。

507名無しさん:2012/11/01(木) 11:39:11 ID:pxKdbqOA0
他にも予約が来たぞ

508名無しさん:2012/11/01(木) 13:01:44 ID:OphdiRqMO
カオスは議論スレに意見出てるけどいいのかな?

509名無しさん:2012/11/01(木) 15:10:24 ID:CZZ8NRtw0
>>508
別に展開に関わるような修正点でもないし大丈夫なんじゃない?
外見年齢の描写を10から5に変えるだけでも解決する問題だし
まぁそれでも早く反応した方がいいことに変わりはないが

510名無しさん:2012/11/01(木) 15:41:01 ID:AFJCBpSQO
投下乙です。
加頭の脅威をすぐに察知できる辺りは笹塚さん優れてるけど、それだけに力で加頭に及ばない可能性も分かっちゃうのが辛い
その加頭は上級怪人の力をアピールする路線で優位性を保ちつつ手駒ゲットか。表面上は友好的に見せるのがまた不気味
しかしこの加頭、冴子さんとはちょうど反対の状態だな。自分と協力者の首輪の色も逆、加頭が余裕を見せる一方で冴子さんは内心ビキビキというw

それと、>>505を受けて自分も一つ。加頭と笹塚がほぼ同タイミングで警視庁に到達したという部分が気になりました。
というのも、二人のこれまでの動向を見ると、笹塚の方は日中にカザリと別れた後でIS学園から警視庁へ(ほとんど寄り道無しで)向かったのに対して
加頭は園咲邸で午後までアポロガイストと話し込んで、次にE-4へ行ってノブヒコの遺体を発見、さらに旋回して警視庁を目指した、というやや遠回りの経路なので
この二つに要する時間がほぼ同じ、というのは自分の感覚では少し違和感がありました。あくまで感覚の問題でしょうが、念のため意見しておきます。

511 ◆LuuKRM2PEg:2012/11/01(木) 18:02:06 ID:NrmZIdcU0
ご意見感謝致します。
それでは、指摘された部分の修正版を修正スレに投下させて頂きます。

512 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:11:22 ID:xjkVGSh60
投下開始します

513はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:12:06 ID:xjkVGSh60


【0】



 夢を見ていた。
 大切な人を喪う夢を見てしまった。
 どこまで行っても彼には届かず、己の身体は海深くへと落ちていく。
 そんな夢を――最悪の可能性の暗示を、目にさせられた。



 実に不愉快な気分だ。
 あんなものを目にする羽目になったのもそうだが、何よりも夢の分際で脳裏に焼き付いているのが腹立たしい。
 まるでそれが事実であると認識させられているかのようで、気に食わないのだ。
 そう――あの人がそう簡単に死ぬ訳がない。
 少々危険を顧みない面があるものの、それでも今まで危機を脱してきたのである。
 だから、今回もきっと大丈夫――今も仲間達の無事を案じながら、どこかで戦っている筈だ。



 そう、今も生きているに決まっている。
 彼が死んだら、残された者の意思が無意味になってしまう。
 もしそうなってしまったら、今まで秘めてきた思いも、これから先の未来も、何もかもが――――。

514はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:13:30 ID:xjkVGSh60
【1】


 主催者の真木清人に怖気づくことなく、彼の目の前で宣戦布告。
 そんな事をすれば嫌でも目立つ訳で、当然ながら大多数の者に名前と外見を覚えられる。
 暁美ほむらもその「大多数の者」の一人であり、その怖い物知らず――ワイルドタイガーの姿を目に焼き付けていた。

 ほむらは岡部倫太郎と共に見滝原へと向かう道中で、そのワイルドタイガーに出会った。
 どうやらほむら達に出会う前に何者かに襲われたようで、彼のスーツはあちこちが破損してしまっている。
 ついさっき威勢のいい姿を晒しておきながら、随分と情けないものだと、ほむらは心中でため息をつく。
 
 彼との対話は、Gトレーラーの外で行われた。
 情報交換はほむらだけで進め、岡部は未だ眠る少女の見張りを担当してもらった。
 これは、まだ絶対的な信頼を寄せている訳でもないワイルドタイガーと、何をするか分からない少女を警戒しての判断だが、
 岡部が話に割り込んできて余計な時間を使うのが嫌だったからという理由も兼ねている。

 まず最初にワイルドタイガー――鏑木・T・虎徹の口から出てきたのは、翼を生やした少女の話である。
 なんでも、虎徹は最初にその少女に襲撃されており、スーツが傷だらけなのもそれが原因なのだという。
 何が理由で彼女を追うのかとほむらが聞いてみれば、なんと虎徹はその少女を説得するつもりなのだという。

「分かるんだよ、あの娘は本当はそんな事望んでないって。だから俺が止めてやるんだ」
「……理解しかねるわ。殺されるかもしれないのよ?」
「そんなの百も承知だ。それでも俺は行く、行かなきゃならねえんだ」

 流石は正義のヒーローを名乗るだけのことはある。
 こう言った以上、どれだけ止めようとしても彼は進むだろう。
 いかにも美樹さやかが取りそうな行動だと、ほむらは僅かに機嫌を悪くする。
 あの直情的すぎる魔法少女は、今頃何をしているのだろうか。
 まともな人間と出会えていればいいのだが、それ以外の場合はきっと碌な目に遭っていないだろう。
 実力もまだ半端だし、精神的にも脆い面がある彼女が、一人でこの修羅の世界を生きていける訳がないのだ。
 もし"まともなまま"出会えたのなら保護しようと思ってはいるが、できれば関わりたくないのが本音である。
 そしてそれは、目の前にいるさやかの面影を感じるヒーローにも言える事だ。
 真木に食いかかった頃から思っていたが、こういうタイプの人間とは反りが合う気がしない。

「随分とお節介焼きなのね、ヒーローって」
「お節介じゃなきゃヒーローなんてやってられねえのさ」

 大真面目に、虎徹はそう言ってみせた。
 成程、確かにこの様子なら真木に食いかかってもおかしくはないか。

 こんな調子で、情報交換は進んでいった。
 これから先、情報は戦いにおいて大きなアドバンテージと成りうる。
 例え気に入らない相手であっても、彼が持つ情報は入手しておく必要があった。

515はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:14:46 ID:xjkVGSh60
申し訳ない、席を外すので数分ほど投下を停止します

516はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:21:53 ID:xjkVGSh60

「……そうだ、『牧瀬紅莉栖』って奴を知らねえか?」

 虎徹の仲間の話を聞いていた時に、突然そう問われた。
 確か、牧瀬紅莉栖は同行者の岡部倫太郎の知り合いだった筈だ。
 本来なら接点の無い筈の彼女の名を、どうして虎徹が知っているのだろうか。

「どうしてあなたが牧瀬紅莉栖を知ってるのかしら」
「ああ、それは――――」

 虎徹の言葉は、Gトレーラーから聞こえた破壊音で遮られた。
 ほむらが咄嗟にその方向に目を遣ると、車に安置させていた金髪の少女が、
 青い装甲の男と戦っていた時と同様の武装をして、空へと旅立とうとしているではないか。
 ほむらはすぐさまGトレーラーに乗り込み、案の定そこで呆然としていた岡部を発見する。

「これはどういう事なの、岡部倫太郎……あの女から支給品は全て奪ったんじゃなかったの!?」
「確かに支給品は全て俺が持ってたぞ!その筈なんだが……」

 不意を突いて岡部から支給品を奪い取るやいなや、少女はあの武装を"召還"したというのだ。
 つまりは、あの女は支給品の力に頼らずとも戦えたという訳である。

「……支給品も全部奪われたようね」

 ほむらは、思わず舌を打つ。
 岡部のデイパックには、ファイズギアも入っていたのだ。
 あの強力なアイテムを奪われると、後々痛手になりかねない。
 他の支給品もろとも、奪還する必要があるだろう。

「あなたはワイルドタイガーと待っていて。アイツは私が捕まえるわ」

 そう言うと、ほむらはGトレーラーに配備されたバイク――ガードチェイサーに跨る。
 これと彼女自身の能力さえあれば、あの機動兵器にも追いつけるだろう。 
 ほむらは魔法少女としての姿に変身すると、大きく開け放たれた――女がこじ開けたのだろう――ハッチを飛び出し、
 逃亡者の追跡を開始するのであった。

517はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:24:19 ID:xjkVGSh60
【2】


 新型兵器として造られたISの性能は、世界にも認められている。
 機動性と破壊力も従来の兵器を遥かに凌ぎ、たった一機投入されただけで戦場の絵図を塗り替える事が可能だろう。
 セシリアが駆使するブルー・ティアーズも、その例に漏れない。
 武装の面では勿論の事、移動性能でも他のISと同様に、他の兵器とは一線を画している。
 空気を裂いて空を翔る様はさながら流星の如し――車からの逃走なんて、赤子の手を捻るのよりも容易い。
 相手がIS、あるいはそれに匹敵する移動能力を有する物でも所持していない限りは、
 ブルー・ティアーズを繰る彼女には着いて来れないのだ。

 そういう訳で、セシリアはブルー・ティアーズが出せるであろう最大の速度で滑空していた。
 どうしてセルメダルを一枚も持っていない筈の彼女がISを動かせるかというと、
 それは彼女に支給されていた「バッタ」のコアメダルの恩恵によるものだ。
 もしもの時の為に隠しておいたものなのだが、海東との戦闘の時はこれを使う前に撃墜されてしまったのだ。
 まさか、こんな早くに、こんな形で使う事になろうとは。
 しばらく使えなくなるのは惜しいが、これが無ければ彼らから逃げられなかったのだから仕方ない。

(……あら?)

 そう考えてから、ふと疑問が浮き出てくる。
 どうして自分は、ISまで使って逃げているのだろうか。
 まだ節々が痛む体に鞭打ってまで、逃げる必要が果たしてあったのだろうか。
 そもそも、自分は今まで何の為に行動していたのだろう。
 何か大切な、しかし自分勝手な事を考えていたような気がするのだが。

(ああ、そうでしたわ。私は確か……)

 そうだ、思い出した――確か、親友に何かしなくてはならなかったのだ。
 自分の願いを叶える為に、何者かから『親友に"何か"をしろ』と吹き込まれたのではなかったか。
 だからこそ、立ち止まっている場合ではないと言わんばかりに車から飛び出したのだ。
 では、果たして自分は誰に命令され、そして気絶する前に何をしようとしていたのだったろうか。

 (分かりませんわ……どうして思い出せないの……)

 どうやら、撃墜された影響で記憶が朧気になってしまっているようだ。
 こればっかりは、どう頭を捻っても思い出せない。
 もう一度撃墜されれば、全ての記憶を鮮明に映し出せるようになるのだろうか?
 いや、冗談じゃない――あんな思いはできれば二度と御免だ。

 些細な切っ掛けで記憶は蘇ると言うし、この際消えた記憶については保留でいいだろう。
 とりあえず、これからはどうしようか。
 事情も教えずに逃亡した以上、もう岡部達の元へは戻れない。
 いや、例え戻れたとしても、セシリアにはとんぼ返りする気など無いだろう。
 記憶が曖昧になっているとはいえ、何かしらの危機感を抱いて逃走したのだ。
 己の勘を信じて、彼女らには警戒するべきであろう。

518はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:27:08 ID:xjkVGSh60

「……とりあえず、ここまで来れば大丈夫ですわね」

 そう言って、セシリアはISを少しばかり減速させる。
 それなりの距離を疾走したのだから、流石に相手も探すのを諦めているだろう。
 彼女が安堵しようとした、その時――ISのハイパーセンサーが、こちらを追跡する者の姿を捉えた。
 猛スピードでこちらへと迫るそれは、セシリアの真後ろ――つまり彼女が来た道から現れたのである。
 追跡者の存在に、彼女は唖然とする他なかった。
 突如としてISに接近する者が出現したのもそうだが、
 何よりも驚愕させられたのは、追跡者の正体がセシリアの知っている者だった事である。
 ここに来れる訳がないと、ずっと思っていた人物が、バイクに乗っている。
 あの風に靡く黒髪は。あの紫と白を基調とした服装は。

「そんな――――」

 そう言い掛けた瞬間――彼女の目の前に、一発のグレネード弾が出現した。
 あまりにも唐突に現れたそれに、セシリアの表情が更なる驚愕の色に染まる。
 一体何時、何処で、誰がこれを発射してきたのか。
 混乱する頭がその答えを導き出す前に、グレネードは彼女に着弾。
 ――こうして、セシリアは本日二度目の撃墜を体験するのであった。


   O   O   O   


 空中で発生した爆発は、「サラマンダー」の弾が逃走者と接触したが故に起こったものだ。
 その証拠に、打ち落とされて気を失った逃走者は、無様にも地面にひれ伏している。

 セシリアには知る由もないが、暁美ほむらは時間を停止できるのだ。
 その能力を有効活用すれば、乗り物に頼らずとも移動するトラックにさえ追いつける。
 僅かな――1,2秒程度の――時間停止を連続で行使しながらバイクを走らせれば、確実に距離は縮まっていく。
 これにより、ほむらは最小限のメダルでセシリアの所にまで到達し、「サラマンダー」を彼女に叩きこむ事に成功したのである。

「残念だけど、逃がすつもりはないわ」

 ほむらはそう言いながら、既に意識の消えている少女を一瞥する。
 グレネード弾が直撃していながら、彼女の肉体は五体満足のままだった。
 あの機動兵器が彼女の身を護ったと考えるのが妥当だが、それにしては何処にも兵器の欠片らしきものは見当たらない。
 まるで魔法少女ね、と呟きながら「サラマンダー」を盾に収納すると、今度はそこから「スコーピオン」を取り出す。

「あなたはここで始末する」

 「スコーピオン」の銃口を、セシリアの頭部に向ける。
 聞きたい事は多いが、この様子では口を割らずに抵抗しようとするのは目に見えている。
 それに感性は多分一般人同然の岡部がいる以上、拷問という過激な手段も取り辛い。
 ならばいっそ、この危険分子は早めに始末し、他者から機動兵器について聞いた方が手っ取り早い。
 岡部には「逃げられた」とでも言っておけばいいだろう――そう考えながら、ほむらが引き金を引こうと指に力を込める。
 しかし、突如として視界の中に現れた影を発見した事によって、その行為は中断せざるおえなかった。

「――っと、何とか間に合ったみてえだな……」

 その乱入者の名は『ワイルドタイガー』――ほむらが置いてきた筈の男である。

519はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:30:33 ID:xjkVGSh60

【3】


 ワイルドタイガーこと鏑木・T・虎徹は超能力者である。
 世間では「NEXT」と呼ばれるその特異な力を用いて、彼はヒーローとして戦ってきたのだ。
 そんな彼のNEXT能力の名は「ワンハンドレッドパワー」。
 自身の身体能力を、一定時間だけ百倍にまで跳ね上げるという能力である。
 これを用いれば、あの兵器に乗った少女にもどうにか追いつける
 一時間に一度のみ、しかも減衰によって維持時間も減りつつあるものの、能力の性能自体はまだ落ちぶれてはいないのだ。

「どうしてあなたがここにいるのかしら、ワイルドタイガー」

 ほむらは銃口をセシリアに向けたまま、虎徹を見据える。
 対する虎徹は、銃の引き金が引かれていない事に少しばかり安堵しながらも、
 今まさに殺人を犯そうとしている少女に向けて問いを投げかける。

「そりゃ逃げ出した子を放っておける訳ないだろ……それより聞かせてくれ。その娘をどうするつもりなんだ」
「見て分からないかしら?これ以上面倒を起こされる前に死んでもらうのよ」

 案の定、予想した通りの台詞が出てきた。
 やはりこの少女は、無抵抗な人間の頭を吹き飛ばそうとしている。
 その事実を突きつけられたヒーローが、何も言わずにそれを承諾できる訳がない。

「何だよそれ……殺す必要がどこにあるんだ!?」
「妙な事を言うのね。反撃される前に排除しておくのは当然でしょ?」
「なっ……ふざけんじゃねえ!ここで殺したら、真木の野郎の思う壺だろうが!」

 シュテンビルドのヒーローは殺人を犯さない。
 例えそれがどんなに極悪人であったとしても、決して殺めはせずに警察に逮捕させている。
 それはヒーローの活動がTV中継されているからというのもあるが、
 やはりヒーロー達の倫理観が殺人という行為を許していないというのが大きいだろう。

 それを聞いたほむらの顔には、呆れが見て取れた。
 今言った事が余程理解に苦しむものだったらしい。
 彼女がどんな人生を送ったかは虎徹には知る由もないが、
 きっと何かしらの形で「殺さなければならない」状況に身を置いていたのだろう。
 だからと言って、虎徹は己の考えを曲げるつもりなど毛頭ない。

「こいつを逃したら、後々面倒な事になるのは間違いないわ。例え真木の思惑通りであっても、
 これからを考えて危険人物は早めに潰しておくべきよ」
「そんな理由で殺すってのかよ!?そんなの納得できる訳がねえ!」
「……随分おめでたい思考をしているのね。見ず知らずの女にそこまで情けをかける理由が分からないわ」
「情けとか、そういう問題じゃねえよ!悪人だろう何だろうが、人が人を殺すのは間違ってる!

 誰が何者かである以前に、虎徹はヒーローなのであり、はこの殺伐とした世界でも変わりはしない。
 泣きそうな人間がいたら涙を拭いてやり、凶行に走ろうとする者がいれば命がけで止める。
 それが虎徹が認識するヒーロー像であり、己が信じる"正義"なのだ。

「誰かが人を殺すのも、殺されるのも許さねえ!それが俺の"正義"だッ!だからこそ、俺はお前を認める訳にはいかねえ!」

520はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:33:32 ID:xjkVGSh60

 ほむらは何も答えようとしない。
 ただ、苛立ちを露にしながら虎徹を睨み付けるだけだ。
 彼女から発せられるのは、純粋な拒絶の感情のみ。
 苦々しさを覚えながらも、虎徹は再び口を開いた。

「それに、お前みたいな子供がどうしてそこまでする必要があるんだよ……!」

 この場に立ち会ってから、ずっと疑問に思っていた
 体型と服装からして、ほむらが中学生である事は容易に想像がつく。
 年齢の方も、きっと娘の楓と大差ない筈だ。
 それなのに、彼女はさも当然の如く銃器を操り、躊躇無く人を殺す事ができる。
 前にも述べた通り、虎徹はほむらを何一つとして知らない。
 だが、彼女の身に何か幸福でない出来事があった事ぐらいは理解できる。
 ヒーローとして、それを見過ごす訳にはいかないのだ。

 虎徹がそう言った途端に、ほむらの表情が曇りだす。
 そしてそれは、徐々に怒気を滲ませるようになる。
 虎徹の一言は、彼女の逆鱗に触れてしまったのだ。

「……ッ!あなたに何が――――」

 怒りに任せてほむらが言葉を発そうとした、その瞬間。
 彼女は自身に起きた突然の変化に気付き、驚愕する。

「動け、ない……!?」

 むれらがどれだけ身体に力を込めても、身体はピクリとも動きはしない。
 どうやらその現象に陥っているのは彼女一人だけのようで、虎徹は今までと変わらず動けるようだ。
 つまりこれは、ほむらだけが何かしらの攻撃を受けているという事である。

「お、オイ!どうしたってんだ!?」
「ッ……!ワイルドタイガー!早くその娘を――」

 ほむらが言い終える前に、上空から放たれた銃弾の雨が、虎徹と二人の少女を遮った。
 虎徹が上空に視線を見やると、そこには兵器が二台、宙に浮かんでいるではないか。
 その外観は、真木に殺された箒という少女が纏っていた兵器の面影を感じさせる。

「ラウラ!今だよ!」

 黄色い兵器を装着した少女が、隣にいたもう一台の兵器に呼びかける。
 「ラウラ」と呼ばれた少女が操る兵器が、瞬く間にほむらの近くにいたセシリアを攫っていく。
 ほむらは依然として微動だにもできず、セシリアが奪われる様子をただ眺める事しかできない。
 虎徹も既にNEXT能力の効力が切れてしまってので、滑空する兵器達には手出しできなかった。
 いくら強い正義感を秘めていたところで、NEXTが使えない状態では彼も一般人同然なのである。

 セシリアと共に、少女達がさながら疾風の如く去っていく。
 ようやく動けるようになった頃には、ほむらは追跡する意思を無くしていた。
 ただ、以前以上に憎悪の篭った目で虎徹を睨み付けるだけである。

521はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:40:20 ID:xjkVGSh60
【4】


「……なあコマンドー。本当にタイガーと別れて良かったのか?」

 移動中のGトレーラーに揺らされながら、助手席に座る岡部がほむらにむけてそう言った。
 今この車に乗っているのは、彼と運転しているほむらだけである。
 岡部が言うとおり、二人はワイルドタイガーとは別行動を取ったのだ。
 別行動の提案をしたのは、ほむらの方である。
 セシリアに逃げられた後で改めて情報交換を終えた直後に、彼女がこの方針を持ちかけたのだ。

「そうよ。何か問題でもあるの?」
「その、なんだ。こういう時は集団で行動した方がいいと思うのだが……」
「無理な相談ね。あいつと行動する気にはなれないわ」

 きっぱりと、ほむらはそう言い切ってみせた。
 一体、ワイルドタイガーの何が彼女の癪に障ったのだろうか。
 きっとセシリアを追っていた際に一悶着起こしたに違いないのだが、当事者でない以上、具体的な状況を把握する事はできない。
 そして何より、ほむらのそれ以上の詮索を許さなかった。

「それに、あいつと私達は元から進路が違うのよ。お互いの邪魔はしたくないでしょ?」
「確かにそうだが……ううむ……」

 歯切れの悪い返事を無視して、ほむらはまた運転に集中し始めた。
 岡部から見たって、彼女は普段より明らかに機嫌を悪くしている。
 何かがきっかけで爆発するか分からないから、しばらくは沈黙を保っていた方がいいのだろう。

 虎徹が言っていた事を思い出す。
 なんと、岡部の"大切な人"が彼の仲間の悪評を撒いていたというのだ。
 岡部には、彼女――紅莉栖がそんな事をするような人間だとは、とても思えない。
 しかし、何よりも気がかりだったのが、彼女が襲われたという事実だ。
 危険人物の情報を晒すというのは、誰かに害を与えられたのと同義である。
 果たして、紅莉栖は無事なのだろうか。
 彼女だけではない――他のラボメンの安否も心配になってくる。
 この殺伐とした世界の中で、彼らは生き残っていけるのだろうか。

 車は揺れる。見滝原に向けて、一直線に走り続ける。
 助手席に座る男に「鳳凰院凶真」の影は無く、そこには、仲間の身を案じる「岡部倫太郎」の姿だけがあった。

522はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:43:48 ID:xjkVGSh60
【5】


 虎徹の言い分が理解できない訳ではなかった。
 死人が出ないまま物事を解決できれば、それはそれは幸福なのだろう。
 しかし、時として冷酷な判断ができなければ、誰一人として救えないという事を、ほむらは嫌というほど理解している。
 誰も殺さないという美徳は、この場においては甘さ以外の何者でもないのだ。
 それが、数えるのも馬鹿馬鹿しくなってくる位に繰り返してきた世界が、ほむらに教えた"現実"の一つだった。

 自分の信念は決して曲げないという、融通の利かなさもほむらを苛立たせた。
 信念が捻じ曲がる可能性がある分、もしかしたら美樹さやかの方がマシなのかもしれない。
 何にせよ、あの男の信念など、ほむらにとっては戯言以外の何者でもなかった。

 しかし、何よりもほむらが癪に障ったのは、虎徹が押し付けてきた"情"である。
 何も知らない癖に、どうして知ったような口を聞かれなければならない。
 この男はきっと、目の前の少女を単に冷酷なだけだとしか認識していないのだろう。
 そんな訳がない――救いたかった少女の為に、今まで同じ世界を何回も、何回も、何回も繰り返してきたのだ。
 今まで味わってきた苦しみが、手を伸ばしても届かない絶望が、あんな甘ったるい正義を振り翳す男に理解されてたまるものか。
 だからこそ、虎徹を――"正義の味方の"ワイルドタイガーを受け入れたくなかった。
 勝手なお節介などは、ほむらにとっては苛立ちを促進するだけにしかならない。
 虎徹の方だって、見知らぬ女の憎悪を引き受けていても何のメリットもないだろう。
 だからこそ、ほむらは虎徹を引き離す選択をしたのだ。

 気分を落ち着かせようと、深呼吸をする。
 こんな事で感情を昂ぶらせていても、何の意味もない。
 今は雑念を払って、運転に集中するべきだ。
 交通事故で死ぬだんて、間抜けな最期は御免である。

 さあ、Gトレーラーも大分長い時間走行してきた。
 目的地――見滝原は、すぐそこだ。



【一日目-夕方】
【C-3(南部)/市街地】
【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】疲労(中)、苛立ち、Gトレーラーを運転中
【首輪】30枚:0枚
【装備】ソウルジェム(ほむら)@魔法少女まどか☆マギカ、G3-Xの武装一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ダイバージェンスメーター【*.83 6 7%】@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、鹿目まどかを救う。
 1.このまま見滝原へ。
 2.なるべく早くセルメダルを補充したい。
 3.青い装甲の男(海東大樹)とセシリアを警戒する。次に見つけたら躊躇なく殺す。
 4.岡部倫太郎と行動するのは構わないのだが……。
 5.虎徹の掲げる「正義」への苛立ち。
【備考】
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
※未来の結果を変える為には世界線を越えなければならないのだと判断しました。
※所持している武装は、GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GS-03デストロイヤー、GA-04アンタレス、GX-05ケルベロス、GK-06ユニ

コーン、GXランチャー、GX-05の弾倉×2です。 武装一式はほむらの左腕の盾の中に収納されています。
※ダイバージェンスメーターの数値が、いつ、どのような条件で、どのように変化するかは、後続の書き手さんにお任せします。

【岡部倫太郎@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】85枚:0枚
【装備】岡部倫太郎の携帯電話@Steins;Gate
【道具】なし
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、今度こそまゆりを救う。
 1.ラボメン№009となった暁美ほむらと共に行動する。
 2.ケータロスを取り返す。その後もう一度モモタロスと連絡を取り、今度こそフェイリスの事を訊く。
 3.青い装甲の男(海東大樹)とセシリアを警戒する。
 5.俺は岡部倫太郎ではない! 鳳凰院凶真だ!
【備考】
※参戦時期は原作終了後です。
※携帯電話による通話が可能な範囲は、半径2エリア前後です。

523はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:47:28 ID:xjkVGSh60
【6】


 鏑木・T・虎徹は、バーナビー・ブルックスJr.を理解し、その上で信頼していた。
 だからこそ、自分の相棒が殺し合いなどに乗っていないと確信できたのである。
 例えそこに何の根拠がなくても、目の前に突きつけられた情報を否定し、半ば妄信的にバーナビーの正義を信じ続けられたのだ。
 だが、彼は知ってしまった――どれだけ信じても、決して揺らぐことのない"証拠"を。

『牧瀬紅莉栖は、決して殺し合いに乗るような少女ではない』
『道具を利用して他人を騙すなんて行為を容易くできるほど、彼女は落ちぶれてはいない』

 それが現実だった。
 彼女の知人である岡部倫太郎の口から告げられたのだから、間違いないのだろう。

「…………ッ!」

 ナイフの様に鋭利で冷たい事実が、虎徹の喉元に突きつけられていた。
 牧瀬紅莉栖を信用しないという事は、岡部を――ひいては牧瀬自身を裏切るという意味で。
 牧瀬紅莉栖を信用するという事は、これまでのバーナビーへの信頼を否定するという意味で。
 どちらを選ぶにせよ、虎徹の心は決して晴れはしない。
 それどころか、彼の心に大きな傷を刻み込む事にすらなるだろう。

「なんで……なんでだよ……ッ!」

 しかし、虎徹が最も怒りを覚えたのは、『牧瀬が善人である事』に嘆きを覚えた自分自身である。
 弱き者を護るヒーローにとっては、あってはならない筈の感情だ。
 だが、彼は抱いてしまった――バーナビーという存在を否定したくないが故に、牧瀬紅莉栖という少女を否定した。
 自身への嫌悪感が、体内に充満していくのが分かる。
 
(――ああクソ!何落ち込んでやがるんだよ、俺は!)

 思い出されるのは、己を見失いかけてた時に手を差し伸べてくれた、仮面ライダーの二人。
 彼らはきっと、今も自分を信じて戦っているに違いない。
 そんな彼らの期待に応えないで、一体どうするというのだ。
 カンドロイドの件は一旦後回しだ。
 バーナビー本人か『牧瀬紅莉栖』に会って確かめればいいだけの話である。
 今は、あの翼生やした少女を追うのを優先するべきだ。

524はみだし者狂騒曲 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:53:13 ID:xjkVGSh60

 ほむらは、道中ではその少女に見かけてはいないと言っていた。
 彼女達が南東から来た以上、その情報は正しいのだろう。
 今の虎徹には、あの少女に到る為の手がかりは存在しない。
 故に、当てもなく会場をバイクで走り回る事しか彼にはできなかった。

 そうしてバイクを走らせて――発見してしまった。
 虎徹が見たのは、焦土。
 全ての生命が死滅したであろう死の世界が、彼の前に姿を表していた。
 地図の表記が正しいのなら、ここは緑の溢れる「公園」だった筈である。
 それなのに、今彼が向かおうとしている場所には、公園とはかけ離れた空間。
 まさか、と考えた頃には、虎徹はライドベンターを加速させていた。
 
「クソッ!そんなに……そんなに戦いたいのかよ……!?」

 虎徹の判断が正しいのなら、きっとこの先にあるのは血みどろの殺し合いだ。
 行って、何が起こったのかを確かめなくてはならない。
 公園をムチャクチャにした者への怒りを募らせながら、虎徹はハンドルを回す。
 それが誰の手によって起こされたのかを、露とも知らぬまま。


【一日目-夕方】
【E-3/公園】
【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、精神疲労(中)、疲労(小)、NEXT能力一定時間使用不可
【首輪】80枚:0枚
【コア】なし
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(胸部陥没、頭部亀裂、各部破損)
【道具】基本支給品、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
 1.焦土と化した公園に向かう。
 2.少女(イカロス)を捕まえて答えを聞きだす。殺し合いに乗るなら容赦しないが、迷っているなら手を差し伸べる。
 3.他のヒーローを探す。
 4.ジェイクとマスター?とセシリアを警戒する。
 5.フロッグポッドの事は後で考える。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
 ・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
   ……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』

525恋焦がれる鎮魂歌 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:56:27 ID:xjkVGSh60
【7】


 深淵へと落ちた意識の中、問いかける声がある。
 あの青い女王が、セシリアに語りかける。

『ねえセシリア。この世で最も美しい感情が何なのか、分かるかしら?』

 その問いに対し、少女は分からないと答えた。
 女王はクスクスと笑い、その手で彼女の頬を撫でる。

『それは"愛"。誰もが求める一番綺麗な思い。あなたにもある感情』

 セシリアは織斑一夏を愛している。
 他者が彼を愛していたとしても、決して譲歩しない程度には、その感情は重く深い。
 例えその「他者」が彼女の友人だったとしても、だ。

『でも織斑一夏から愛されるのはたった一人……あなたが愛されるには、他の娘を蹴落とすしかないわ」

 耳元で囁かれるのは、誘惑の言葉。
 少女は離れようとするが、女王が彼女の腕を掴んで離そうとしない。
 そんな事できない、友を傷つける事などできる訳がないと、少女は言葉をぶつける。

『嘘ばっかり。本当は疎ましく思ってたんでしょ?
 あなた達の友情なんて、所詮は織斑一夏だけで繋がってるだけの脆弱なもの。
 その気になれば、簡単に切れてしまう脆くて鬱陶しいだけの鎖に過ぎないのよ』

 違う、と涙ながらに少女は叫ぶ。
 それでも女王は顔色一つ変えずに、言葉を紡ぎ続ける。
 惑う少女を導く為の、甘い毒を含んだそれは、するりと彼女の心に入り込んで行く。

『じゃあどうして"友達"が死んであなたは喜んだの?
 答えは簡単よ……あなたにとっては、彼女達なんて織斑一夏に群がる虫程度にしか思ってなかっただけなのよ』

 女王の顔が、変異していく。
 鯱を思わせる怪物のそれから変化して、現れるのは少女そのもの。
 彼女の目の前で囁く女王の正体は、他でもない少女だったのだ。
 反論の声が、小さくなっていく。
 抵抗する力も、みるみる内に弱まっていく。

『だって私はあなたなんだもの。そしてあなたは私……私の心は、あなたの心そのものなのよ』

 少女はもう、何も言おうとはしなかった。
 黙って女王――否、「自分自身」の言葉を受け入れる。

『どんな犠牲を払ってでも、織斑一夏の愛を掴みなさい。やり方は――もう分かってるわよね』

526恋焦がれる鎮魂歌 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 20:58:29 ID:xjkVGSh60
   O   O   O   


 気付いた時には、ベットの上にいた。
 身体を起こして辺りを見渡すと、ここが民家の一室である事が分かった。
 そして、この部屋にはセシリアの他にも人間がいるという事も。
 金髪のショートヘアーの少女は、確かに彼女の友人だった。

「あっ、目が覚めたんだね」

 語りかけてくるシャルロットの声で、ようやくセシリアはこれまでの経緯を思い出した。
 逃げる最中で何故かほむらに追いつかれ、彼女から砲撃を受けて撃墜されたのだ。
 この状況を見るに、どうやら気絶した後にシャルロットに助けられたらしい。
 今のセシリアが何を考えているかなど、気にも留めないのだろう。

「あなたが……助けてくれたのね……」
「正確にはボクとラウラの二人だけどね」

 そう言うと、シャルロットはセシリアを助けた経緯を話してくれた。
 ラウラと彼女はウヴァという男――箒を■した奴だ――を探しており、
 その道中で、今まさに撃たれようとしているセシリアを発見したらしいのだ。

「……でもセシリア、どうして追われてたんだい?」

 そう聞かれて、思わず口ごもる。
 仲間達を■す為に行動していただなんて、言える訳がない。

「…………それは……その…………」
「言いたくないなら、無理して言わなくてもいいよ」

 シャルロットはそう言うと、またニコリと笑ってみせた。
 邪気が感じられない、朗らかな笑みであった。
 きっと彼女は、セシリアに会えた事を心の底から喜んでいるのだろう。
 セシリア本人の意思など、気にも留めないで。

527恋焦がれる鎮魂歌 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 21:01:53 ID:xjkVGSh60

「でも良かったよ。セシリアが無事で」
「私も……あなたと出会えて、安心してますわ」

 嘘である。
 今のセシリアの心境は、安息などとは程遠い。
 何しろ、目の前に■さなくてはならない存在が居るのである。
 そんな状況に身を置いて、安らぎなど得られる訳がない。

「あ、そうだ。ラウラにも言っておかないとね
 今ウヴァを探してるんだけど……上手くいったのかな……」

 そう不安げに言いながら、シャルロットはセシリアに背中を向ける。
 言い方から察するに、外に居るのであろうラウラに自分が目覚めた事を伝えに行くつもりなのだ。
 ――彼女を■すには、絶好のチャンスである。
 支給された拳銃の引き金を引けば、簡単にシャルロットを■せるのだ。
 待機しているであろうラウラが気掛かりだが、
 最終的には皆■すのだから、今はシャルロットだけ■して、ラウラからは離れよう。

 渋っている暇はない――目の前に居るのは恋敵で、■さなければならない"敵"なのだ。
 今まで友情と言う糸で繋がれていたとしても、いずれは倒さなくてはならない運命だったのである。
 絶好のチャンスなのだ。やるなら今しかない。
 静かに拳銃を取り出し、銃口を友の背中に向け、トリガーに指をかけ。
 呼吸を可能な限り整えて、手の震えをどうにか抑えて。
 それでもブレる標準のまま、一抹の勇気と狂気を胸に秘めながら。





 セシリア・オルコットは、シャルロット・デュノアを、「殺」す。





.

528恋焦がれる鎮魂歌 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 21:03:28 ID:xjkVGSh60
【8】


 背中に衝撃が走った瞬間、体温が急速に低下していくのを感じた。
 全身の力も急激に弱まっていき、床へと倒れ込む。
 体内で痛覚を蹂躙する異物の存在を感じて、シャルロットは自分が撃たれたのだと確信した。

(セシリ、ア……!?)

 背中から銃弾が入ってきたのだから、誰が発砲したのかは明らかである。
 隠し持っていたであろう拳銃で、セシリアに撃たれたのだ。
 信じていた仲間に裏切られたという残酷な事実が、彼女の心を容赦なく引き裂いていた。

 今思えば、セシリアは目覚めてからずっと様子がおかしかった。
 きっと彼女は、ずっと目の前の友人を殺す事ばかり考えていたのである。
 どうしてこの瞬間まで、親友の変化に気付いてあげられなかったのだろう。
 あの時もっと親身に接してあげられていれば、こんな事にはならなかった筈なのに。

 彼女が何の為に自分を撃ったのかは、すぐに検討が付いた。
 恐らくは彼女も、かつての自分と同様に『居場所』を求めているのだ。
 思い人の隣という『居場所』で生きていたいと、ずっと願ってきたに違いない。
 その気持ちは痛い程分かる――シャル自身もまた、同じ感情を抱いていたのだから。

(そんなの、駄目だ……っ)

 だが、だからこそ、今のセシリアを肯定する訳にはいかない。
 自分の欲望を叶える為の方法として、暴力を利用してはならないのだ。
 それに、今まで仲間達と紡いできた絆はどうなる。
 例え何があっても、IS学園で過ごした青春の記録を焼き払っていけない。
 過去と友情を代価にして得るものなど、"彼"は決して望まないだろう。
 これまで居た『場所』を消し去ったら、きっと"彼"の隣にすらいられなくなる。
 『居場所』が何処にもない辛さを、セシリアには知ってほしくない。
 自分が死ぬよりも、仲間が凶行に走る方が、ずっと恐ろしかった。

 説得しようにも、口から漏れ出るのは鮮血ばかり。
 身体を動かそうにも、体温の逃げた今の肉体は思うように動いてくれない。
 それでも、茨の道を進もうとする親友を止める為に、シャルロットはもがく。
 覚束ない足取りで部屋を出て行こうとするセシリアの足に、震える腕を絡める。
 せめて話を聞いてくれと、心をこちらに傾けてくれ、と。

 セシリアが、恐怖に引きつった表情でこちらを見る。
 小刻みに震える総身から、彼女の後悔と嘆きが伝わってきた。
 やはりだ――自分の行いを恐れ、そしてそれをしてしまった自分を悲しんでいるのだ。
 今ならまだやり直せる。例え一人の命を奪ったとしても、それで全てを喪う訳ではない。
 こんな事誰も望みはしない――考え直してほしい。

 口を開き、彼女に届けと説得の言葉を紡ぎ――――――――その声すら、銃声に掻き消された。

529恋焦がれる鎮魂歌 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 21:04:29 ID:xjkVGSh60
【9】


 魔界の凝視虫を利用して、ようやくラウラはウヴァとの合流を果たす。
 しかしそこに、少し前までいた筈の彼女の友人の姿は見えない。
 それもその筈――三人の内一人は逃げ出し、もう一人は既にこの世にはいないのだから。

「成程な、シャルロット・デュノアは死んだか」

 ラウラから詳細を聞いたウヴァの第一声は、それだった。
 彼は全参加者の大まかな情報を握っているので、彼女についてもある程度は知っていた。
 尤も、緑陣営のウヴァにとっては、黄陣営のシャルロットの死などどうでもいい話なのだが。

「まあ残念だったな。セシリアが大事な仲間を殺すのは俺にとっても想定外だ」

 こんな事を言ったが、ウヴァには彼女が殺し合いに乗った理由が分かる。
 恐らくは、メズールが彼女を言葉巧みに操り、仲間を殺させるように仕向けたのだろう。
 ラウラも含めて、ISを所持している者は全員織斑一夏に好意を抱いている。
 愛絡みの欲望はメズールの専売特許だ――彼女が利用しない訳がない。

「……しっかし不意を突かれて拳銃で射殺か。こりゃ仲間に引き入れても大して使えそうにもなかったかァ?」

 ウヴァが死人を軽蔑した途端に、ラウラの怒気が表面化する。
 しかし、彼はそれを真正面から受けても余裕の態度を崩そうとはしなかった。
 それどころか、激昂する彼女の姿を見てニタニタと嗤っているではないか。

「例えお前であっても……シャルロットを、私の仲間を侮辱するのは許さん……ッ!」
「やる気かラウラ?やめとけ、お前一人で俺を斃せる訳がないだろ」
「そんな事!やってみないと――――」
「分かる、お前じゃ俺には勝てん」

 ISを展開しようとする前に、首元には赤い刀身が宛がわれていた。
 ウヴァの姿も、人間から本来の緑の怪人のものへと変貌している。
 刃を僅かでも動かせば、ラウラの首は刎ね飛ぶだろう。
 つまりは、この時点で彼女の敗北は確定しているのだ。

「甘く見るなよ?お前なんざ綿棒をへし折る感覚で殺せるんだ」
「…………ウヴァ……ッ!」
「……クッ……ククッ、クハハハハハッ!!テメェみてぇなちっせー兎如きが、俺を殺せるわけねーだろ!」

530恋焦がれる鎮魂歌 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 21:09:02 ID:xjkVGSh60

 破顔したウヴァを、ラウラは恨めしそうに睨み付ける。
 しかし今の彼には、その怨念すらも心地よい。

「裏で何考えてたかは知らねーが、阿呆な考えは捨てるんだな。今の俺に単独で勝てる奴なんざそうはいないぜ?」

 以前にも増して堅牢になっていたウヴァの装甲が、その言葉がホラではないとラウラに教えていた。
 今まで以上に自信に満ち溢れた彼の声色が、彼女の闘志を容赦なく削り取っていく。

「まあ安心しろよ……お前のお仲間さんが生きてたら丁重に保護してやるからよ。
 ……まあ勿論、『駒』としてだがなぁ!ハハハハハハハハハハハァッ!!」

 最も凶暴な欲望の王が、さも愉快そうに破顔する。
 しかし今のラウラには、反逆する気力など残ってはいなかった。
 友人の裏切りと死で精神が困憊していたのに加え、敵との圧倒的な力の差を見せられたのだ。
 軍人としての洞察力があるからこそ理解できる――今のままでは、ウヴァには勝てない。
 今果敢に挑んだところで、シャルロットと同じ場所に行くのが目に見えている。

 哀れな黒兎一匹では、王への反逆など無謀以外の何者でもないのだ。
 拳を血が出る程強く握り締めても、その事実は、揺らがない。


     O     O     O     


 どうしてこうなったのか、分からない。
 ただ理解しているのは、シャルロットを殺したのは友人である筈のセシリアだという事だけ。
 何故セシリアがこの様な凶行に走ったのか、ラウラには知る由などない。
 不幸な事故によるものだと信じたかったが、頭部に撃ち込まれた二発目の弾丸がそれを否定している。

(何故だ)

 何故、殺された。何故、殺した。
 人並みの倫理を持ち併せたセシリアは、同じ人間――ましてや友人に手をかけるような者ではない筈だ。
 それなのに、彼女は明確な殺意を込めた弾丸で、親友の頭を撃ち抜いた。

(何故だ……)

 シャルロットが、セシリアが何をしたのだ。
 ただ純粋に仲間を救いたいと願っていた者が、どうして最も残酷な仕打ちを受けねばならない。
 信頼していた親友が、どうして殺意を同じ友に向けねばならない。

(何故だ……ッ!?)

 こんな時、一夏ならどうしたのだろうか。
 いや、考えるまでもない――彼ならば、最初からこんな事態など起こらないように立ち回っていただろう。
 それこそが彼が持っていた"強さ"であり、ラウラの心が彼に傾いた理由なのだから。

(私に力がなかったから……!私にもっと力があれば……!
 こんな……こんな事にはならなかった!シャルは死なずに済んだんだ!)

 力さえあれば、悲劇を未然に防げたかもしれない。
 力さえあれば、ウヴァに跪く必要などなかった。
 力さえあれば、箒だって救えたに違いない。
 力さえ――力さえあれば、何も喪わなかった筈なのだ。

 今のちっぽけな力では、誰一人として護れはしないのだ。
 ISなど足りない――もっと強い、誰にも負けない力が欲しい。
 どんな形でも構わない、力の為なら自分の寿命だって削ってやる。

 セシリアの落としたであろうメダルを、ラウラは強く握り締める。
 飛蝗が刻まれたそれは、彼女に「吸収される」形で手の中から消えていく。
 そのメダル――800年前のオーズのメダルによって、彼女はいずれ力を得るだろう。
 しかし、それが彼女自身が望む形なのかは、その力を得るまで分からないのだが。

531恋焦がれる鎮魂歌 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 21:09:34 ID:xjkVGSh60


【一日目-夕方】
【C-3(南部)/市街地】
【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】健康、絶好調
【首輪】300枚:250枚(増幅中)
【コア】クワガタ(感情)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、エビ、カニ、カメ(一定時間使用不可)、ショッカー
【装備】バースドライバー@仮面ライダーOOO、サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品×3、参加者全員のパーソナルデータ、ライドベンダー@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、
    ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)、ランダム支給品0〜4(ウヴァ+ノブナガ+ノブヒコ)
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
 1.もっと多くの兵力を集める。
 2.月影を倒したネウロを警戒。
 3.屈辱に悶えるラウラの姿が愉快で堪らない。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。

【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、精神疲労(大)、力への渇望、セシリアとウヴァへの強い怒り
【首輪】80枚(増加中):0枚
【コア】バッタ(10枚目):1(一定時間使用不可)
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×二十匹@魔人探偵脳噛ネウロ、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:仲間と共に帰還する……?
 1.力が、もっと力が欲しい……ッ!
 2.己が陣営優勝のため、ウヴァには内密でコアメダルを集める。
 3.もっと強くなって、次こそはセイバーに勝つ。
【備考】
※本当の勝利条件が、【全てのコアメダルを集める事】なのでは? と推測しました。
※"10枚目の"バッタメダルと肉体が融合しています。
 時間経過と共にグリード化が進行していきますが、本人はまだそれに気付いていません。

532恋焦がれる鎮魂歌 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 21:14:12 ID:xjkVGSh60
【9】


 シャルロット・デュノアは優しい少女だった。
 事実、彼女はこんな状況に置いても仲間の身を案じ、皆で生きて帰ろうとしていた。
 そこに価値の優劣はなく、例え恋敵であっても救おうとしただろう。
 しかしセシリアは、そんなシャルロットの思いを裏切った。
 そればかりか、彼女の人生に終止符を打ってしまったのだ。
 一時の気の迷いではなく、自分の意思で殺したのである。

「ごめん、なさい…………ごめんなさい…………!」

 こみ上げてきた吐き気を必死になって押さえ込む。
 止めようもない涙が溢れ出て、頬を伝って地面へ零れ落ちていく。
 セシリアにとって、それほど友殺しへの重圧が大きい事を示していた。
 当然だ――年端もいかぬ少女にとって、これは背負うにはあまりにも大きすぎる罪なのだから。
 だが、もう後には戻れない。
 自分は友達との絆を砕き、女としての幸福を優先したのだ。
 セシリア・オルコットは、仲間を裏切った最低の人殺しとして生きていく。

「……でも……でも…………こうしないと……私……は…………!」

 こうでもしなければ、思い人を盗られてしまう。
 ずっと送り続けてきた愛が無価値になってしまう事が、何よりも怖い。
 だからこそ、何をしてでもあの人を手に入れたかった。
 ……例えその手段が、結果として思い人からの怒りを買う事を知っていたとしても。

「……いちか……さん………」

 それでも、あの人さえ――織斑一夏さえ傍に居てくれるのなら。
 彼の愛さえあれば、他には何もいらない。彼の為なら何だって捨てられる。
 親友だって、家族だって、故郷だって、代価となるのならば払おうではないか。

 ふらふらとした足取りで、セシリアは歩き始めた。
 他の二人は、今どこにいるのだろうか。
 殺し合いが始まってから大分経っているし、もう初期位置からは離れている筈だ。
 そういえば、最初に岡部達から逃げ出したのは、きっとデイパックの中にあった"恋敵"達の居場所を書いたメモを
 彼らに見られたくないのが理由なのだろう。
 もしあれを事情を知らない他人に目撃されたら、きっと面倒な事になる。
 あの頃は訳も分からず逃げ出していたが、きっとそういった事情を考えての行動だったのだろう。

「……やっぱり……私…………」

 記憶が朧気だったのに、そういう所はしっかり覚えていたのだ。
 心の奥底では、やはりセシリアは殺す事を考えていたのである。

「最低……ですわ……」

 例え自己嫌悪に駆られても。
 それでも、歩みを止める事はできなかった。
 今諦めたら、本当に全てを喪ってしまうから。
 セシリアが壊れない為には、ひたすらに進むしかない。



 己の欲望を満たす為に、少女は深い海の底へと堕ちていく――。



.

533恋焦がれる鎮魂歌 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 21:14:59 ID:xjkVGSh60
【10】


 セシリアの心が、静かに狂っていく。
 「心」という水の中に混入した、「欲望」という名の氷がゆっくりと溶けていき、
 本人すら知らぬ間に、価値観を徐々に変貌させている。
 きっと今の彼女は、己の願いの為なら何だってするだろう。
 最初は重く圧し掛かっていた後悔も、段々と軽くなっていく。
 そうやって、セシリアの心は「怪物」へと変貌していくのだ。

 これから彼女が歩む道は、茨で溢れているのだろう。
 そこには幸福はなく、常に痛みだけが襲いかかるのだ。
 しかし、「織斑一夏」が存在する限り、彼女は挫けたりはしない。
 一夏は今の彼女にとって唯一の心の支えであり、生きる目的そのもの。
 目標に彼が存在すると認識できさえすれば、セシリアは何度でも立ち上がる。
 己の欲望の成就の為に、彼女は孤独の未知を突き進むのだ。




 しかし、セシリアがどんなに恋焦がれても。



 織斑一夏は、もう――――――。




【シャルロット・デュノア@インフィニット・ストラトス 死亡】




【一日目-夕方】
【E-5/市街地】
【セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス】
【所属】青
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、精神疲労(極大)、倫理観の麻痺、一夏への依存
【首輪】80枚:0枚
【装備】ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ニューナンブM60(3/5:予備弾丸20発)@現実
【道具】基本支給品×3、ケータロス@仮面ライダーディケイド、ファイズギア@仮面ライダーディケイド、
    スタッグフォン@仮面ライダーW、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス、
    ランダム支給品0〜2(シャル)
【思考・状況】
基本:一夏さんが欲しい。
 0.一夏さん、私は――――――――。
 1.一夏さんが欲しい、そのために行動しますの。
 2.一夏さんの為なら何だって……!
 3.一夏さん……。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※制限を理解しました。



【ニューナンブM60@現実】
セシリア・オルコットに弾丸20発とセットで支給。
日本警察が採用している拳銃。
警官である笹塚衛士は勿論、「姐さん」こと八代藍も使用していた。

【"10枚目の"バッタメダル@仮面ライダーオーズ】
セシリア・オルコットに支給。
800年前のオーズが使用したとされるコアメダルの一つ。
他の昆虫系メダルよりも強力な力を秘めている。

534 ◆qp1M9UH9gw:2012/11/01(木) 21:18:00 ID:xjkVGSh60
投下終了です。
いくつか修正点があったので、
>>519
「ワンハンドレッドパワー」→「ハンドレッドパワー」
>>520
「むれらがどれだけ身体に力を込めても」→「ほむらがどれだけ身体に力を込めても」
>>531
【C-3(南部)/市街地】→【F-4/市街地】

535名無しさん:2012/11/01(木) 21:27:21 ID:gEVvsyag0
投下乙です!
ああ、セシリアがいよいよ覚悟を決めてしまったか……シャルロット、どうか安らかに。
ほむらがあそこで殺していれば悲劇は起きなかったのだろうけど、だからといってタイガーが間違ってるわけでもないんだよね。
その一方でウヴァさんも強くなってきてる! もしもラウラのメダルを知ったら、恐ろしいことになりそうだ……

536名無しさん:2012/11/01(木) 21:28:32 ID:IiSqnY.M0
投下乙です。
ああ、セシリア。ついに道を踏み外してしまったか。
ウヴァもどんどん調子に乗っていくし、ラウラも危うくなってきたし。

そして虎撤よ。ヘタな同情は相手の怒りを買うだけだぞ。
とくにほむらはまどかを救うことだけを願いに戦い続けてきたから、なおのこと。

それにしても、“10枚目のコアメダル”って、支給していいんですかね?

537名無しさん:2012/11/01(木) 21:32:39 ID:gEVvsyag0
>>536
問題はないのでは?
ルールで禁止されてるわけでもありませんし。

538名無しさん:2012/11/01(木) 23:13:02 ID:0ZcD7lGI0
投下乙です、
セシリア、放送を聞いた時の絶望っぷりが楽しみだ。
そしておじさんは行動が裏目に出てばっかりだなぁ、もちろん正しいこと言ってるんだけれども、相手のこと知らないが故のミスが悲しい。
ほむらもほむらでただ素っ気なく別行動を取るんじゃなく色々伝えればいろいろ違ったかもしれないのに……素直じゃないからな。
10枚目のコアは完全体相手の切り札になりえるものだが、今はただウヴァに力を与えるものだしな、でも別に支給されてもいいんじゃないかな。
あとタカ、トラも支給されれば会場内のコアが全60枚になってキリ良くなるし。

539名無しさん:2012/11/02(金) 03:34:36 ID:KXotOKI2O
投下乙です!タイガーには悪いがロワじゃ下手な正義感なんて物は何もしてくれない、むしろ余計な亀裂や悲劇を生む今回のようなパターンばっかなんだよ…

540名無しさん:2012/11/02(金) 11:20:43 ID:WcNbfAJ60
投下乙です
セシリアがどんどん泥沼に嵌まって行くなぁ……、後はもう沈むだけだろうけど……
シャルの死を引き金としてラウラもヤバい方向に行きそうだし、最悪残った候補生全員マーダー化と言う事にもなりそうだ
そしておじさんの言ってる事は間違いなく正義の味方としては正しい事だし、その姿勢はむしろ賞賛されてしかるべき事なんだけれど
その「正義の味方」に肝心な所で何時も助けて貰えなかったほむらにとっては、やはり憎悪の対象にしかならないんでしょうなぁ、「何を今更」と言う感じで
で、そのおじさんもまた苦悩の最中という……
実にロワらしい人間関係の話でした、次回にも期待させて頂きます

541名無しさん:2012/11/02(金) 12:15:29 ID:unWcIglM0
投下乙です
同じ対主催でも徹底した人情派タイプと必要ならば割り切れるタイプでこうも反りが合わないものか。どっちも間違えてるとは言えないのがまた…
助手のフロッグポッドが誤解はさせなかったけど、代わりに「誰かを信じる」ことの矛盾を突く別の意味での仕事っぷり
IS組もセシリアが引き返せない場所に来ちゃってラウラも危ない、一番安定してたシャルが死亡。これでもまだ放送という爆弾が待ってるから怖い
なんというか、円滑な人間関係って難しいなー…
それと最後に指摘ですが、虎徹のハンドレッドパワー発動でのメダル消費が状態表に反映されてないので、そこは訂正がほしいです

542名無しさん:2012/11/02(金) 19:17:59 ID:Zw6ogy6gO
投下乙です。

セシリアは放送で、ぶっ壊れるのか改心するのか蘇生目的になるのか楽しみ。
タイガーは「みんな信じたい→誤解?」と発想できるのか。
ウヴァさんは10枚目欲しがるだろうけど、体内に昆虫メダル10枚入れたら、満足して考えるの止めちゃうのかな?

543名無しさん:2012/11/02(金) 20:34:06 ID:Nzwh.yJY0
投下乙です

俺もみんなも放送後のセシリアの行方が楽しみらしいなw
シャル死亡はシャルファンの俺としては悔しいやらナイス見せ場やらで混乱するなあw
ラウラは…危う過ぎる状態だわ…
そしておじさんとほむらは上で言われているように確かに相性が悪いんだよなあ
同じほむらと相性が悪いさやかちゃんも正義の味方で必要ならば割り切れるほむらを嫌ってたし

544名無しさん:2012/11/02(金) 21:54:30 ID:f4Sa.AjU0
乙です
おかしいな、ウヴァさんがまともな悪役をやってるぞ

545名無しさん:2012/11/02(金) 23:38:03 ID:/cXqmnGY0
投下乙です!
タイガーはそりゃ目の前で人が人を殺そうとしてるの放っておけるわけないよな
それはヒーローとして当然の行いなんだけど、それがのちのシャルの死に繋がると考えると……
シャルはシャルで最期まで友達を信じて救おうとしてたあたりが健気、トドメを刺したのが純粋な殺意じゃなくて混乱からってのがまた……
で、ウヴァさんはウヴァさんで当初の予想を裏切ってただ今絶好調でさらに十枚目のバッタも登場とな!
果たしてラウラはグリードになってしまうのだろうか……

>>538
どうせ60いくなら参加者数の65出したいなあ
スーパータトバとパンダ・カンガルーも出せば65ぴったりいくし
一応パンダもカンガルーも公式でコンボチェンジ出来るメダルだしルール的にはいけるはず

546 ◆z9JH9su20Q:2012/11/03(土) 00:36:09 ID:KltvlwEU0
仮投下スレの方に予約分の仮投下を行って来ました。一度目を通して頂けると幸いです。

さて、それはそうと◆qp1M9UH9gw氏、投下乙です!
既に他の方が述べられたように、真っ当な正義の味方はロワじゃ辛いなぁ……相手がほむほむというのがまた関係悪化を促しちゃってるし。
助手の流してしまった誤解フラグも、その知り合いと出会ったがために辛いなぁ……どっちを信じるのか以上に、そうだよなぁ、助手が悪人じゃなかったことにショックを受ける自分が嫌だよなぁ……

ISの三人娘は、うん……何かロワ内でも一番良い子だったシャルが、どうしてこんな酷い死に方なんだろうね……せめて一言伝えられていれば、その後は変わったんだろうか。
その凄惨な死もあって、とうとう友殺しをやってのけてしまった自責の念に駆られるセシリアや、大切な友達が大切な友達に殺されて、しかもウヴァさんに逆らえない自身の現状を嘆くラウラにも感情移入しちゃって、読んでるだけで悲しくなっちゃうぜ。

……そんな中、唯一な清涼剤なウヴァさんは最高です! 綿棒を折るような感覚で殺せるっていつまで綿棒引っ張られるんだwwwww
今の俺に単独で対抗できる奴はそうはいない、って調子に乗ってるけど、こいつちょっと前まで犬だったんだぜ……?
しかし「いない」じゃなくて「そうはいない」という地味に謙虚なところが妙に好印象だ。頑張れウヴァさん。

547名無しさん:2012/11/03(土) 15:12:14 ID:I29OlJKI0
仮投下の作品は少し意見が出てるがそれさえクリヤーしたら問題なさそうかな
そうなると放送までの残りは

カザリ、海東大樹、桐生萌郁、大道克己、美樹さやか、脳噛ネウロ、ユーリ・ペトロフ、メズール、

かな?
抜けや間違いがあるかもしれないが

548 ◆QpsnHG41Mg:2012/11/03(土) 22:14:25 ID:4mdPd9Wo0
短いですが投下しますね

549流浪の心 ◆QpsnHG41Mg:2012/11/03(土) 22:20:21 ID:4mdPd9Wo0
 E-4も半ばまで差し掛かってきたところで、イカロスは一軒の家屋のベランダへ降りた。
 さっきまで自分達がいた家屋とよく似た、ごく一般的な日本の家屋だった。
 屋内への鍵は開いていたので、イカロスは躊躇いもなく不法侵入、
 子供が住んでいたのであろう部屋のベッドにフェイリスを寝かせた。
“きっと……マスターなら……”
 今はいない桜井智樹なら、どうするか……考える。イカロスは考える。
 きっとマスターなら、気絶している少女を抱き抱えたまま、自分の都合を優先させて飛行することを許さない。
 一旦休憩するべきだと何処かでフェイリスを寝かせ、それから王子様のキスを試す――
 そんな下らないことを何の衒いもなく実践するような男が、桜井智樹という男だ。
“そう、それがマスター……”
 ほんの数時間前の、平和だった頃の日常に想いを馳せて、イカロスは小さく微笑んだ。
“けど――、”
 そんな微笑みもすぐに消える。
 マスターの安否も分からない現状、偽物だらけの世界。
 それを思えば、幸せな想い出は逆にイカロスの心を苛む茨となる。
 一応マスターのためを思って、フェイリスをここに寝かせはしたが――しかし。
“フェイリスは、私の記憶にはいない……”
 偽物のニンフと、偽物のマスターがいる、偽物の世界で出会った少女。
 彼女の発言はどれも荒唐無稽で、そこに「本当」があったのかどうかも定かではない。
 此処が、何もかも偽物の世界なのだとしたら、この少女の存在だって――
“でも……それは……”
 この少女を傷付けることを、マスターは許してくれるだろうか?
 偽物かもしれないという理由でこの少女を殺せば、マスターは何と言うだろう?
 イカロス自身は、出会ったばかりの偽物かもしれない少女など、正直どうでもいい。
 この少女がイカロスの日常を否定する存在であるなら、排除することにも躊躇いはない。
 ここにはいない本物の智樹に逢うには、偽物の世界は破壊するのが手っ取り早いのだから。
“だけど……、だけど……マスターは……”
 きっと、それを望まない。
 それでもイカロスはマスターに逢いたい。
 偽物の世界の破壊と、マスターの優しさ。
 どちらを取るべきか、二つの選択肢を迫られたイカロスは――

          ○○○

「オイ、起きろ猫女! この女はヤベーっつってんだよ! オイ、オーイ!」
「ちょっと落ち着きなって先輩、まだイカロスちゃんがフェイリスちゃんをどうこうするって決まったワケじゃあないんだから」
「せやけど亀の字、イカロスがニンフにやったこと、オレらも見てたやろ!」
「ボク、イカロスきらーい! だってニンフは何も悪いことしてなかったじゃんかー!」
「でも、気絶したフェイリスちゃんをここまで連れてきて寝かせてくれたのもイカロスちゃんだからねえ」
「それが解らんのや……一体この女ぁ、何を考えとるんや?」
「もー! 何考えてるとかカンケーないでしょ! ボクらでニンフの仇取りだー!」
「だーかーら、ちょっと落ち着きなってば、リュウタ!」
「ええいもう何でもいいからとにかく起きろッ猫女ァァァーーーーーッ!!!」

          ○○○

550流浪の心 ◆QpsnHG41Mg:2012/11/03(土) 22:25:25 ID:4mdPd9Wo0
 
「……ンニャッ!」
 頭の中で絶え間なく響き渡る喧騒に耐えかねて、フェイリスは目を覚ました。
 脳内で響き渡る四人分の声は、どれもこれも慌しく大議論を繰り広げている。
 しかし、さっきからほとんどの時間を寝て過ごしていたフェイリスには状況が分からない。
 ベッドから身を起こしたフェイリスは、まず目の前にあった時計に目を向ける。
 時計が刺す時間は五時前――あと一時間ちょっとで放送が始まる時間だ。
 随分と長時間眠ってしまったなと内心僅かに焦りを感じるフェイリス。
 とりあえず、現状把握が優先だ。フェイリスは隣にいるイカロスに視線を向けた。
「アルニャン……?」
「……なに?」
「ここはどこニャ?」
「知らない……民家……」
 そう、浮かない面持ちでイカロスは言った。
 知らない民家にいるとは、一体どういう状況なのか。
 どうしてさっきの民家から移動する必要があったのか。
 沢山の疑問が起こるが、フェイリスはとりあえず次の質問をした。
「……ベーニャンはどこにいったのニャ?」
「…………消滅した……と、思う…………」
「えっ――――――」
 短い絶句ののちに、
「消……滅、した……?」
 いつもの演技でも何でもなく、フェイリスは目を剥いて呟いた。
 消滅した……というのは、つまり、一体、どういうことだ……?
 さっきまで一緒にいた、あの面倒見がよくて優しい女の子は――
『ソイツの言う通りだ猫女、ニンフはなぁ……その女に殺されたんだよ!』
『ちょっと先輩っ……って、ああもう、ストレートに言いすぎ……』
『何だ亀公、だったらコイツに嘘教えた方がいいってのかよ!?』
『そうは言わないけどさぁ……混乱してる女の子にいきなり言う事ないじゃない』
 ニンフの脳内で口論を始めるモモタロスとウラタロス。
 ウラタロスの言葉に、ギャーギャーと騒ぎたてるモモタロスの声が頭にうるさく響く。
 フェイリスは、どんな状況であれ、言葉がわからないほど馬鹿ではない。
 二人の会話の内容をすぐに理解してしまったフェイリスは。
「どういう、ことニャ……?」
 眼前で沈鬱な面持ちで目を伏せるイカロスに問い掛ける。
 どうしてイカロスが大切な友達のニンフを殺さなければならなかったのか。
 彼女を殺さなければならない何らかの理由が、そこにはあったのだろうか。
「どうして……アルニャンがベーニャンを……!?」
「…………偽物、だから……」
「偽物……? あの優しかったベーニャンが、偽物……?」
 フェイリスには、イカロスの言葉が理解出来なかった。
 あんなに優しくて、面倒見がよくて、イカロスやフェイリスを心配してくれた彼女が。
 あの笑顔も全部偽物で、その裏ではイカロスの命を狙っていただとか、そういう話ならまだわかる。
 だが――
『嘘だー! ニンフ、最後までイカロスを説得しようとしてたの、ボク見てたもん!』
 脳内に響くリュウタロスの声が、イカロスの言葉を否定する。
 フェイリスは、無邪気なリュウタロスが嘘をつくような子ではないことを知っている。
 あのニンフの優しさが、嘘偽りのないものであることだって、フェイリスには分かる。
 目の前のイカロスは、じっと押し黙ったまま何も口にしようとはしなかった。
 その沈黙が嫌に不気味で、フェイリスはただ、絶句するしか出来なかった。
 放送まで残り一時間……友達の命を奪った友達に、フェイリスは――。

551流浪の心 ◆QpsnHG41Mg:2012/11/03(土) 22:25:54 ID:4mdPd9Wo0
 


【一日目-夕方】
【E-4/民家二階の子供部屋】

【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】赤
【状態】健康、とてつもなく不安、とてつもなく冷静
【首輪】20枚:0枚
【コア】クジャク(使用済み)
【装備】なし
【道具】基本支給品×2
【思考・状況】
基本:本物のマスターに会う。
1.本物のマスターに会う。
2.嘘偽りのないマスターに会う。
3.共に日々を過ごしたマスターに会う。
4.鴻上ファウンデーションビルまで飛んで休むか、E-4の街中のどこかで休むか
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力について、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していません。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」だと確信しています。
※「『自身の記憶にないもの』は敵」かどうかは決めあぐねています。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。
 それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
 『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です


【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無所属
【状態】健康、混乱
【首輪】100枚:0枚
【コア】ライオン
【装備】なし
【道具】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:脱出してマユシィを助ける。
1.アルニャン(イカロス)……どうしてベーニャンを!?
2.凶真達と合流して、早く脱出するニャ!
3.変態(主にジェイク)には二度と会いたくないニャ……。
4.桜井智樹は変態らしいニャ。
5.イマジン達は、未来への扉を開く“鍵”ニャ!
6.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ。
【備考】
※電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスが憑依しています。
※イマジンがフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみです。

552 ◆QpsnHG41Mg:2012/11/03(土) 22:28:15 ID:4mdPd9Wo0
ホントまた短い話で申し訳ない、これで投下終了です!

553 ◆QpsnHG41Mg:2012/11/03(土) 22:41:49 ID:4mdPd9Wo0
すみません、イカロスの状態表正しくはこうです。

【一日目-夕方】
【E-4/民家二階の子供部屋】

【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】赤
【状態】健康、とてつもなく不安、とてつもなく冷静
【首輪】20枚:0枚
【コア】クジャク(使用済み)
【装備】なし
【道具】基本支給品×2
【思考・状況】
基本:本物のマスターに会う。
1.本物のマスターに会う。
2.嘘偽りのないマスターに会う。
3.共に日々を過ごしたマスターに会う。
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力について、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していません。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」だと確信しています。
※「『自身の記憶にないもの』は敵」かどうかは決めあぐねています。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。
 それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
 『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です

554 ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:20:08 ID:qXbCatJI0
投下乙です。
イカロスがいきなりフェイリスを殺すのかとひやひやしたら、智樹を思い出して止まってくれたか……でも凄い微妙なライン。
なのにそんなところにフェイリスを焚き付けちゃうとか何やってんだタロスズ。久々に出てきたらこんな調子である。
このままイカロスが偽物の世界を壊すなんて考えたままになって、絶望的な戦いになってしまうのか、それとも……

……って良いところで切られたーっ!? これはずるい、凄く先が気になるwww

さて、それでは私も予約分の本投下を開始させて頂きます。

555Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:21:22 ID:qXbCatJI0

「特に収穫はありませんでしたね」
 部屋を出た足音と同時に廊下に響いたバーナビー・ブルックスJr.の、わざわざ口に出す必要などないはずの事務的な確認に、裏に隠された冷たい批難の気配を感じ取った伊達明はつっと頬に冷や汗を一筋垂らせた。
「いやいやバーナビー、ないわけじゃないって。何もなかったってことがわかったじゃん」
「いや、これだけ粘ってそれだけしか得るものがなかったってことを言っているんでしょ……」
 そんな言い草に呆れたような感想を漏らした凰鈴音に、返す言葉を持てなかった伊達は力なく笑い返すしかなかった。
 今この時、伊達にとっても古巣とも言うべきドクター真木の研究室の前で、バーナビーから冷たい視線を向けられている理由は恐らく二つ。
 一つは伊達の提案で、この真木と関わる研究室を調べたが、何ら目ぼしい成果も得られなかったということ。それも日差しが朱色を孕むまでの時間を浪費しただけになった上、恐らくは伊達の態度にも問題があったのだろうと推察できる。
 今更言うまでもないが、伊達は極めて大雑把な性格である。戦闘で命を預けるバースですら、マニュアルも見ず実戦で運用法を覚えて行くような男だ。そんな彼が自身と直接の関わりの浅い資料を仔細に覚えているかというと、当然非常に無理があった。二人が何か目星を付けた物を伊達に尋ねても、それが例えば元々この部屋にあった物なのか、何よりバトルロワイアル解決に関して意味のある物であるのかどうかを判別するのに一々時間が掛かったわけである。
 一応、鈴音と約束した手前普段よりはずっと真面目に取り組んだ伊達であるが、二人がいつもの彼を知るわけもない以上、場合によっては不誠実な態度に見えた可能性すらあるだろう。
 しかし、二人とも真面目過ぎる節があるからこそ、空振りに終わったとはいえ内容自体は至極真っ当な伊達の提案その物をそこまで詰る気はないのだろう。鈴音に比べて心なし、と済ますには余りにバーナビーの方がつんけんした態度であることから、もう一つの理由の方が大きいのだろうなと伊達は見当つけていた。

(……そんなに嫌だったのかなぁ、ウサギちゃん扱い)
 建物の中で一旦腰を落ち着かせられるということで、三人はビルに入ってまず、最初にそれぞれの支給品を見せ合った――なお、ここでも伊達が説明を面倒臭がり、二人の年少者に多少なりとも苛立ちを覚えさせたことは蛇足かもしれない――際、バーナビーの支給品の中に可愛らしいウサミミカチューシャがあることに目敏く気づいた伊達は、場を解す意味合いを込めてバーナビーをバニーちゃん呼ばわり……したのだが。
『――やめてください!』
 アンクをアンコと呼んだ時の反発とも全く違う、そんな強い拒絶の籠った声を荒げられ、目論んだそれと異なり、鈴音と二人揃って呆気に取られてしまう結果となってしまった。
 バーナビーは無論、即謝罪してくれたわけだが……それからの彼の反応がやはり固く、冷たくなってしまったことは勘違いではないと、伊達も感じていた。
 ちょっとからかっただけで、とは言わない。十人十色とはよく言ったもので、価値観というものは人それぞれだ。ずかずかと他人のパーソナリティーに踏み込めば、待っているのは必ずしも歓迎ばかりでないことは伊達も理解しているつもりだ。バーナビーにそんな反応をさせた事情を伊達は知らないが、彼が自身の全てを、出会って間もない他人に包み隠さず伝える義務などない以上、いくらしっくり来た渾名だなと思っていても、己の不躾さが悪かったと結論するしかなかった。
 それでも本来なら、相違が問題であるのに一方的に自分ばかりが折れて変化するのも不公平であると考え、価値観が違おうとも焦らず時間を掛けて関係修繕を行えるのが大人という生き物だと伊達は思っているわけだが……残念ながら今は、そんなのんびりした付き合いをしている状況でもない。無用な不和を残さないように気を払って行かなければ、と考えているのだが。
(何が引っかかってんだろうねぇ……若者の考えがわからないって、俺も歳食っちゃったのかなぁ)
 後藤ちゃん達と仲良くしたのはつい最近なのになー、などと。バーナビーの態度の原因に結局思い至れず、後頭部にある手術跡の近くを掻くしか今伊達にできることはなかった。

556Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:22:33 ID:qXbCatJI0

「――これからどうします? ビルを出て、周辺の探索に切り換えますか?」
「……正直、メダルに余裕があったらあたしも、まずは皆を探して飛び回りたいんだけどね」
 バーナビーの提案にそう鈴音が答えつつ、ちらりと伊達の方を伺った拍子に目が合ったのに互いに気づいた。だがやはりお互い何も口にせず、伊達は今は傍観に徹し、鈴音は顔の向きを直してバーナビーとの会話を再開する。
「でも実際は……自分のせいだけど、余裕はないわ。だったら当てもなく徒歩でぶらつくぐらいなら、まだ……あんた達と一緒に、真木のとこに行く手掛かりを探したい。その手掛かりにあたし達の中で一番近いのは、今一回空振ったとしても伊達さんなのに変わりはないでしょ。あたしはまだ、判断はこの人に任せるわ」
 そんな返答にほんの少しだけ、バーナビーが眉間に皺を寄せたのを見ながらも。挽回の機会をくれた鈴音に内心感謝しながら、伊達は勢い良く頷いた。
「オーケイ! じゃあビルを出る前に、もう一箇所だけ覗いておきたいところがあるかな」
「……そうなると放送も近いですよ。大丈夫なんですか?」
「大丈夫! 今度はさっきほど時間掛からないし、掛けないから。これで何もなかったらこのビルのことも見限れるし、悪いけどもうちょっとだけ付き合ってくれよ、バニ……ッ」
 軽い口調で告げていたためか。まるで後藤のことを呼ぶ時のように、思わず口走りそうになったその愛称を、咄嗟に口の中で閉じ込めたが。
 バーナビーの顔つきがいよいよ険しくなり、その向こうで鈴音があーあとでも言いたげに額を押さえているのが、伊達にははっきりと見えていた。
「……じゃなくて、バーナビー」
「……はい」
 にこやかに言い直した呼びかけに、やはり固い調子で青年は応えた。
 それを見て、もう少し口の効き方に気をつけた方が良いな、と柄にもないことを伊達は思った。



      ○ ○ ○



 伊達が次の探索地として選んだのは、この鴻上ファウンデーションビルの会長室だった。
 鴻上光生というこの大企業の会長は、伊達が言うには相当の傑物であり、やり手であるそうだが……正直主催者である真木と直接関わった部屋で何の手掛かりも得られなかったのだから、こんなところで何か目ぼしい成果が得られるとバーナビーには思えなかった。
 しかしそんな彼の判断に、仕方ないから付き合ってやるか、という空気を纏わせながらも。明らかに純粋な期待も含んでいる鈴音の態度に、ざらついた感情を抱く己を自覚し、バーナビーは微かに慄然とする。
 バーナビーらヒーローが真木の非道を止められなかったばかりに、友人を喪い傷心した少女から多少なりとも険が失せ、そこに希望や笑顔などの本来あるべき物が戻りつつあるというのに。そんな喜ばしい事実に対し、明らかに『ズレた』感想を持つ自分に驚愕し、しかしその理由にまでは思い至れない。結局バーナビーは当惑を胸に秘めたまま、彼らの背に続くしかなかった。

 そうして会長室の探索が始まったが、元上司でありその能力を高く評価している相手であるにも関わらず、意外と言うべきか何なのか、伊達は鴻上に敬愛の念などまるで抱いてはいないようだった。元のまんまだ、などと呟いた会長室で、先の研究室の時と変わらぬ乱雑さのまま、まるで空き巣を働くかのように見境なく掘り返し、私物を放り投げて行く。
 先の再現でないのは、そこに鈴音やバーナビー自身が目にした何かを持って行き、一々作業を中断させ、そこで伊達の曖昧な記憶をはっきりさせるために時間を浪費することがない、ということだろう。単純に研究室よりも調べるべき物の量も少なく、先の反省からこの作業は伊達一人の方が良いと判断しての物だ。
 その間周囲の様でも見張っておこうと、バーナビーと鈴音はガラス張りの窓へと向かい、街の様子を見下ろしていた。これでビルに向かって来る参加者が居れば、ある程度は認識することができるだろう。仮に鈴音のISや、参加者にはいないがスカイハイのような何らかの飛行能力を持つ敵からの襲撃まで想定しても、警戒が疎かになってしまっている伊達の身の安全までしっかりと確保することは、決して難しくないはずだ。

557Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:24:05 ID:qXbCatJI0

 俯瞰する会場の景色は、南の空から地上を照らしていた太陽が、西の果てへ徐々にその姿を隠すのに合わせて暗色の配分が多くなって来たこともあり、身体能力強化系のNEXTであるバーナビーでも識別できるのは精々円形に切り取られたこの街の端程度までだった。地図によると、一エリアの大きさが約五キロメートル四方であるらしく、広大なその全てを監視することは最も立地条件に適したこのビルでも極めて困難のようだ。
 だが少なくとも、その目が届く範囲内で言えば、周辺には参加者やその痕跡などはまだ見受けられない。しかし時間が経つに伴い、他参加者との接触を求める者達が自然とこの中央に集まって来ると予想される以上、油断はできないとバーナビーは目を凝らし続ける。

「……ねえ」
 そんな風に取り留めのない思考を走らせながら地上の様子を監視し続けるバーナビーに、同じく眼下の光景に変化を求め視線を下げたままの鈴音が、突然声を掛けて来た。
「あんた、どうしてそんなにピリピリしてるの?」
 いきなりの直球だった。
 思わず全身が強張ったバーナビーだったが、鈴音が視線を上げて来る前に硬直を脱し、自然な間のうちに当たり障りのない返答を用意する。
「……別に。状況が状況ですので、そう思われてしまったのかもしれませんね」
 目を伏せながらも自信ありげな、いつものように余裕溢れる笑顔を作る。しかし内心では、こんな少女にも自らの妙な余裕のなさを見透かされているということに、少なからずバーナビーは動揺していた。
「それは……私もそうなんだけどさ。でも何か、あんたのは違わない?」
 痛いところを衝かれ、返答に困窮した時――万が一にも少女相手に語気を荒げるような――普段なら決してあり得ないが、妙に感傷的な今のバーナビーでは絶対と言い切れない事態にまで発展する前に、絶妙なタイミングで伊達が素っ頓狂な声を発した。
「おっ、何だこれ」
 その明らかに何かを見つけたという声に、弾かれたように二人は振り返った。「欲望」という文字の描かれた和額を剥がした伊達が、その裏に隠れていたと思しき黒い小型ケースを取り出し、開けようと格闘するのを見えた。それを受け鈴音と視線を交わした後、お先にどうぞ、とバーナビーは肩を竦めてみせた。軽い会釈と感謝の言葉の後に彼女は伊達の元へと駆け寄って行き、彼女が欠けた分も補わなければ、とバーナビーは監視を続行する。
「――コアメダル?」
「ああ。グリードの奴らを構成する元になっているもんで……えーっと……確か、首輪に入れるとセルメダル50枚分として使えるっていうあれだよ」
 思わぬ拾い物をした、ということが伝わって来る話し声にバーナビーも改めて振り返り、伊達が頷くのを見て彼らのところへと歩み寄る。
「よーしちょうど三枚あることだし、仲良く三人で分けるとするか!」
「待ちなさいって。これ何か手紙付いているじゃない」
 そういった鈴音が取り上げて見せたのは、随分と達筆な字で書かれた一通の封筒だった。
「『このメダルを見つけた者達へ』……って、思い切りなんかのメッセージじゃん。あんたよくこれ無視できるわね……」
「いやぁ、何かマニュアルとか手紙とか読むのって、面倒臭いじゃん……ってあれ、これ会長の字だ」
「――本当に?」
 伊達の気づきに鈴音の表情に真剣味が増し、バーナビーもハッとして伊達に尋ねる。
「どういうことですか? まさか鴻上会長も、真木と同じ……」
「いや、それはないよ」
 やや伸びた抑揚で、伊達が右掌を振って否定を表明する。
「ドクターは終わりとかに妙に拘ってるけど、会長の方は逆に、誕生って物に価値を見出しているんだよね。あの二人は似ているとこも結構あるんだけど、そういう根っこのとこが相容れてなくて、最後は決別しちまったからなぁ……」
 どこか惜しむように、伊達は目を細めながら言う。
「あの会長は何か新しいものを生み出す欲望に執心してるから、何でもかんでも歓迎して時々碌でもねぇことを考えたりもするけどよ。だからその欲望の元を絶っちまうような、徒に人間の命を奪う真似はしない。それだけは断言できる」
 そう強い口調で告げる伊達を見て、思わずバーナビーは言葉を漏らした。
「信頼……されているんですね」
「いんや、信頼はできないね。さっきも言ったけど、時たま碌でもねーことおっぱじめるからな、あのおっさん。ただ今回の件ではドクターと繋がってはねぇだろうなってだけだ」
「そう、ですか……」
 結局伊達が鴻上光生のことを、どう思っているのかは掴み切れないが……仮に彼の言葉が正しいとすれば。その意味するところに気づいたバーナビーは、緊張を禁じ得ない心地でその鴻上光生からのメッセージへ視線を走らせる。
「いえ、でも。そうだとしてもこれは……!」

558Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:25:43 ID:qXbCatJI0

「バトルロワイアルの外部からの……メッセージかもしれないってこと?」
 確かにそういった物を求めてはいたが。
 想定を遥かに超えた、ダイレクトに真木の計画の打破に迫れるかもしれない成果を手にした……かもしれないことに、鈴音とバーナビーは揃って息を呑んだ。
「――っと、じゃあまずはこれを読んでみるとしますか!」
 そうまた乱暴に手紙を開くのを見て、大事なそれが破けてしまうのではないかと気が気でないバーナビーは手を伸ばしそうになる。
 張りのある表情でメッセージと睨み合った伊達だったが、その目尻がだらしなく垂れ始めるのとほぼ時を同じくして、細い腕が彼の背を追い越して手紙を掴んだ。
「……あんた、こういうの読むの嫌なんでしょ。あたしが読んであげるから貸して」
「あれ、鈴ちゃん日本語読めるの?」
「そりゃああたし、日本の学校通っているのよ? それにその前にも何年も日本に居たし、楽勝よ楽勝」
「そっか、じゃあお願いするわ」
 そこで生じた――おそらくはこれが一度目ではない違和感を見破ることができず、妙な引っ掛かりを覚えるバーナビーの前で、すぅくっと伊達がその長身を立たせた。
 何をするのかと見守っていると、伊達は部屋の隅に備え付けられた室内灯の電源を押し、薄暗くなり始めていた部屋の中を白光に満ち溢れさせる。
「ちょ……何やってるの!」
 周辺に対して、ここに誰かがいるという事実を喧伝してしまうような行為を咎め、立ち上がる鈴音に対し、伊達は良いからとしか返さない。
「これからも使う目を労わっとかなきゃ。暗い所で文字読んでたら目に悪いっしょ?」
「いや、それはそうかもしれないけどさ……そうじゃなくて! こんな真似したら目立つに決まってるでしょ?」
「ダイジョーブダイジョーブ。まだ外は夕焼けだろ? それならこのぐらいの灯りは部屋を明るくしてくれても、外じゃお天道さんにゃ勝てずに消えるって」
 確かに伊達の言うことにも一理あるとは言える。鈴音は一度、まだ何か言おうとしたが、面倒だと思い直したのか口を噤み、改めて文面と向かい合った。
「えーっと……『このメダルを見つけた者達へ。過酷なバトルロワイアルの中、見事最初にここへ辿り着いたことを称賛しよう』……」
 実際には、予想に反してまだ中央区は比較的安全だが……そんな下りから始まった鴻上からのメッセージは、ここで伝えられることは多くないという前置きから始まっていた。
「『まず、私が何者であるかを伝えよう。この鴻上ファウンデーションの会長であり、またこのバトルロワイアルを実行させるための力を、真木清人に貸し与えてしまった者だ』……って思い切り眼鏡と関わってるじゃないこいつ!」
「いやいや鈴ちゃん、そりゃちょっとは関わりもないとこんな手紙なんか残せないって! 与えたー、じゃなくて与えてしまったー、だから明らかに不本意みたいだし! 先を読めば多分すぐわかるから、ほら」
 途端に頼りなくなった諸手を挙げた伊達の言葉に、軽い呆れと怒りを滲ませていた表情を真顔に戻しながら――いや、まだその残滓の浮かばせながらも、鈴音は音読を再開する。

559Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:27:30 ID:qXbCatJI0

 何でも、元々は鴻上が真木と共に『欲望』についての研究の一環として水面下で準備を進めていた計画が、いつの間にかこの狂気のゲームにすり替えられてしまっていたらしい。真木の持つ危険性を甘く見た結果、鴻上ファウンデーションはその設備や資金を、真木やその共謀者達にまんまと騙し取られた形となってしまったのだそうだ。
 それに気づいた鴻上は、間もなく自らが彼らによって拘束、最悪の場合殺害されることを想定し、責任の一端を担う者としてせめてもの贖いのため、真木らが様々なところから掻き集めていた品々の中でも、鴻上から見て最重要と言える代物の一つをこうして奪取し、会場へと『持ち去られる』だろう、鴻上ファウンデーションビルの中に隠しておいたのだそうだ。会長室に隠しておいたのは、このビル内には別にこれまで鴻上が隠し部屋として使用していた場所があり、そちらに向くだろう彼らの目を僅かでも欺ける可能性に賭けたためだという。
 真木の協力者達については、鴻上にもこの文を起こしている時点では全く把握し切れていないという。ただ、オーメダルという超常の代物を知る鴻上から見ても、途轍もない力を秘めている可能性が高いそうだ。
 というのも。彼らから齎された、鴻上すら知らなかったこの新たなコアメダルの存在があったからこそ、鴻上も真木の計画に応じる気になったからだ。
「……『このコアメダルで生まれるコンボは、限界を越えた力をオーズに与えるはずだ。その上で、紫のメダルなどの暴走の影響を受けないこのメダルをオーズの手に渡すことができれば、バトルロワイアルを止める大きな一歩となるだろう。これを見つけられた君達なら必ずできると、私は期待しているよ』……って、死ぬかもしれないって思ってる割に、妙に態度デカいわねこいつ」
「そういう人だからね」
 呆れたように半眼となった鈴音に、うんうんと伊達が頷く。
「……ああ、後は火野って人へのメッセージと、そうでない人に向けた伊達さんの言ったのと似た感じの、人の死や世界の終末は望まない、だから私に代わってドクターを止めてくれ、って話で、あたし達が探してるような情報はないみたいね」
 そう文面から顔を上げた鈴音は、そのまま伊達に確認を行った。
「火野さんって確か、伊達さんの知人で……オーズっていう戦士なんだったよね」
「ああ、そうだな……」
 彼にしては珍しく、何か思い詰めているような表情での頷きだった。
「どうしたんですか?」
「いや……何か妙なんだよね。火野の奴は紫のメダルをちゃんと扱えるようになったはずなのに、どうして今更、わざわざ暴走のことに触れたのかなって……」
 一人考え込む様子の伊達を見ているところに、視線を感じてバーナビーは顔を上げる。鈴音が真剣な、しかし踏ん切りのつかないような表情で訴えかけて来ていることを悟り、バーナビーは改めて伊達に声を掛けた。
「伊達さん、僕も妙だと思ったことがあるんですが」
 応じるように伊達がこちらを向いたのを見て、バーナビーは続ける。
「伊達さんが話してくれた真木の現状だと、鴻上会長の話と噛み合わないように思います」
 真木が鴻上ファウンデーションから離反して、それなりの時間を経たと伊達は言ったが。それからも健在だったはずの鴻上の手紙では、まるで真木が未だ表向きは彼の部下であるかのように書かれていた。
 同時にバーナビーは、伊達と二人だった頃に見つけた、類似した齟齬を思い出していた。
 自分と伊達とで噛み合わない、季節への認識――火野という人物の状態を含め、鴻上の手紙と共通しているのは、記憶の――もっと言えば、時間軸への認識のズレであった。
「……あたしもそう思ったわ」
 年上の男相手でも気後れしない彼女にしては珍しく、どこか躊躇いがちな様子で鈴音が口を開いた。
「だけどあたし、あんたが嘘吐いてるとも思えないの……だけど、それじゃこれってどういうことなんだろうって……わかんなくて……」
 あの強がりの鈴音が見せた――微かとはいえ、恐怖を孕んだ表情に、場の空気が淀み、重さを増したように感じられた。

560Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:29:01 ID:qXbCatJI0

「だって……おかしいじゃない。ISのことを知らないあんた達も。バーナビー達ヒーローのことを知らないあたしや伊達さんも。それに空だって……夏のはずなのに、もうこんなに暗いのよ……!?」
 季節の差異は単純に、半球が伊達や鈴音の居た日本という国とは違うからかもしれないが……とは、バーナビーも思わなかった。
 何故なら、この会場で見た、太陽の方角を覚えていたから。
 そして伊達の言葉から、彼と鈴音の暮らしている日本という国が、北半球にあることを思い出したからだ。

 ――昼間の太陽は、南の空にあった。

 日本で生きて来た二人が揃って認識していた季節は、しかし現実の空に裏切られていた。
 先の手紙の内容に対する疑問と言い――鈴音の語った数々の違和感は、結託することでいよいよその不気味さを増していた。
 それによって齎される感情に揺られてか、勝気な少女が、その華奢な体躯を微かながらも震わせていた。
「こんなの、絶対おかしい。あの眼鏡いったい何者なの? あたし達の敵は、箒を殺したあいつはっ! ……いったい、何なの……?」
 出会ってから初めて聞く、掠れた声で。理解の及ばぬ何かに対する恐怖を、諦めることをやめてしまったせいで逃げ場をなくし、向き合ってしまったがために心を蝕まれた鈴音が吐露する。
 だがそれは、バーナビーも同じ心情だった。ウロボロスも未だ全容の見えない恐るべき敵だったが、この殺し合いの主催者はさらにその上を行く。彼ら以前に、彼らによって命を握られた自分達が、これだけ友好的に交流し合っても、未だお互いの素性すらも正しく理解できていないのだから。
 自分達は、どこから、何によって。何をされ、どこに連れて来られているのか。そんな単純な事実が、何かの情報を得るごとに、逆に遠退いて行く足音が聞こえて来るのだ。
 単純な、死をチラつかされた恐怖心とはまた別――己の世界観を打ち砕いてしまうような、想像も及ばぬ者に対する畏怖を、ヒーローとして場数を踏んで来たバーナビーも感じているのだ。例えISという超兵器を手足のように操ることができようと。学び舎という、予定調和に満ちた一種の箱庭で生きて来た鈴音には、彼女自身の資質がどうであれ、この感情に立ち向かうための経験が絶対的に不足していた。
 放置しても、迂闊に触れても……下手をすれば即座に崩れてしまいそうな少女に、バーナビーは掛ける言葉を見つけられずにいた。

「ドクターは……可哀想な、俺の元ルームメイトだよ」

 重苦しい空気の中、ぽつりと漏らされたのは……鈴音に対する、伊達の答えだった。
「俺、こんな感じだけどあの人神経質でさ。結構向こうは迷惑してたみたいなんだよねぇ」
 それはそうだろうな、と。場にそぐわぬ笑顔で語る伊達の真意が読めず、同じく余りに場違いな感想をバーナビーは抱いてしまった。
「凄い天才なのに、いっつも持ってる人形がないと人とまともに向き合うこともできないような、怖がりな人だったよ」
「そういう……!」
 ことじゃない、と。続く言葉を発せない鈴音に、伊達は真摯な表情で、彼女の友の仇との思い出を語る。
「昔不幸なことがあったらしくて、何でもかんでも、終わらせちまうことに価値を見出しちゃって。その欲望のためにグリードなんかと手を組んだり……今じゃこんな、わけのわからないこともしているけど……」
 それでも、と。伊達は言葉を継ぐ。
「元を辿れば、凄い所もなっさけねー所もいっぱいある、俺のルームメイト……ただの人間だったんだよ」

561Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:30:49 ID:qXbCatJI0

 伊達は言い聞かせるように、鈴音にそう語り掛ける。
「今のドクターが、俺達の手の届かないところに行っちまったってのはそうかもしれない。でも元は同じなんだったら、俺達がドクターのいるところに辿り着けない道理はないさ。だからそんなビビんなくて良いぜ鈴ちゃん。ドクターのことをぶん殴るんだろ?」
「だっ、誰がビビってるですってぇ……!?」
 気持ちで負けてちゃ喧嘩にゃ勝てないぜ、と悪ガキのような笑みを浮かべた伊達に対し、鈴音はそう声を荒げる。
 その様子を見たバーナビーは、彼女がもう虚勢を張れるほどに気力を取り戻しているということに、気付かぬ内に微かな感嘆を漏らしていた。
 それでもまだどこか、先程の告白前に比べれば消沈した様子の鈴音に対し、伊達は朗らかに笑った。
「大丈夫だって。言ったろ……怖いなら、俺とバーナビーが一緒に戦ってやるって。それに鈴ちゃんには、他にも頼れる仲間がいるんだろ? グリードや協力者がいくら居たって、結局は独りぼっちなドクターになんか負けやしないって」
「仲間」という言葉を受け、鈴音はそれを小さく復唱した後、少しだけ俯いた。
 敵討ちを誓った、亡くした友のこともあるのだろう。しかし彼女の、眩いばかりの青春の日々を共に生きる友人達は、まだ大勢いる。
 彼ら彼女らがまだ共に居てくれるという、その事実だけでも鈴音はいくらか心救われたことだろう。そしてそんな彼らと生きる尊い日々を守るために、やはり彼女は立ち向かう必要があるのだ。主催者と言う強大な敵に。
 一人ではきっと敵わない。だが傍らに誰かいてくれれば、と……そんな希望もまた、胸の内に灯っただろうということが、バーナビーにも見て取れた。
「そう、ね……ありがと」
 そんな、伊達に礼を述べる鈴音を見た際に、自分の中に存在する感情が、本来あるべき一つだけではないということに気づき――またズレを認識したバーナビーは、それを必死に振り払った。

「……これからの、ことですが」
 外から挿し込む日差しはいよいよ弱まり、空は赤から暗灰色に模様替えしていた。当然、そのような変化が生じて然るべきところにまで、時計の針は進んでいた。
「放送までそう時間がありません。外も暗くなってきましたし、ここで一旦放送を待って、改めて情報を整理してから出発する……ということでよろしいでしょうか?」
「おう、じゃあそうしよっか!」
「あたしもそれで良いわ」
 頷く二人を見て、バーナビーはつい考えてしまう。
 この中で、最も頼りになるのは情報アドバンテージを除いても、伊達明という男だろうことは明白だ。果たして彼の持つバースの力とやらがどれほどのものなのかは、未だ直視していないバーナビーは把握していない。仮にそれがNEXTやISと同等以上の戦力でも、伊達自身はバーナビーと違い、鈴音の奇襲を躱せなかった、ということを考えると不安は残るが……仮にそういった能力で劣っているとしても、そんなことが問題にならないぐらい、伊達という男は大きな存在だった。
 どこまでも……どこまでも、本当によく似ている。彼に――ワイルドタイガーに。
 きっと虎鉄が居ればこうしていたのだろうと、バーナビー自身にも思いつかないのに、伊達はそれを見せられればそうとしか思えないような行動を起こし続けた。その結果鈴音との関係も軟化し、彼女の心にも余裕を与え。また鴻上からの手紙とコアメダルの発見という、最初の空振りを帳消しにするような大成果を挙げ。論理ではなく己の心に――言い方を変えれば、欲望に従った結果、最も好ましい終わり方を得続けるその姿が。
 バーナビーにつけた、その愛称まで――
(――何なんだ……っ!?)
 ただの感慨のはずなのに。虎鉄のように素晴らしく、また頼れる人物が居る。彼の協力を得られれば、虎鉄の願いの実現も、きっと遠くはないだろうと――そう結論したいだけなのに。
 どうして自分は、一々一々、伊達が何かを成す度に、それを喜ぶ心と同時に、強く否定したい気持ちに駆られているのか。どうして鈴音が彼に救われて、支えられ、立ち直って行く様を見るのが、彼女の信頼を伊達が勝ち得て行くことが、こんなにも受け入れ難いのか。
 鈴音の言う通り、自分はいったい何をこんなにピリピリしているのか。
 悩むバーナビーは、しかしそれ以上内面を深く解明することがどうしてもできなかった。むしろ無意識や深層心理とでも呼ぶべき、言語化できていない部分で既に把握しているからこそ、それを明確に意識することをバーナビーは避けているのかもしれなかった。
 結局、答えは出て来ないのだから。葛藤を抱えたままバーナビーは同行者に倣い、目前に迫る放送を待つことにした。

562Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:31:55 ID:qXbCatJI0

 そして、そんなことはありえないとわかってはいながらも。

 願わくは、一人の死者も出ていないことを――ただの倫理観に由る物だけでなく、真木に宣戦布告したワイルドタイガーの敗北を、晒されたくないがために。
 ただ祈ることと……同時に、静かに覚悟を固めることしか、バーナビーにできることはなかった。



      ○ ○ ○



「……未来のコアメダルは、君が見つけましたか」
 伊達明らが、鴻上会長からの贈り物を手にした頃。その事実を知る者が、彼らの他にも居た。
 それは当然、多くの不自由を架された参加者ではなく――会場の全てを逐一把握できる立場にある者、すなわち主催者の地位に立つ男だった。
「グリードや火野くん達の誰が最初に辿り着くか、とも思っていましたが……やはり君も抜け目がありませんね。伊達くん」
 だがそれも想定内、と。口には出さずとも、無感動な態度だけで腕に抱いた人形に表すかのように、感情なく真木清人は呟いた。
 このバトルロワイアルを開催するために利用した、真木自身とは異なる時間軸――否、異なる世界線の鴻上光生が、このバトルロワイアルの真相を知った時、その収束を願い、自身の居城に密かに細工を残していたことは――悲しいかな、しかし真木達も知っていたのだ。

 その上で、敢えて泳がせた。
 何故か。それは未来のコアメダルが持つ能力は、鴻上に説明した限りではないからだ。

 確かにあのコアメダルにより生み出されるコンボは、首輪によって促される暴走の危険もなく、オーズの限界を超越した能力を引き出す――それ単体では決定打とはならずとも、確かに殺し合いを破綻に傾ける一因足り得る要素になるだろう。
 それでも真木が見逃したのは、それが必ずしも終末への障害になるとは限らないからだ。
 オーズを始めとした反逆者による破綻という、醜い結末のためだけではなく――バトルロワイアルを美しく終わらせるためにも、未来のコアメダルの力は活用できるのだから。
 すなわち、真木の求める終末のため、甲斐甲斐しく働いてくれている存在――グリード達への支援にもなり得るとして、真木は鴻上の手が会場に加わることを黙認したのだ。

 ……しかしコアメダルである以上、未来のコアメダルがグリードに取り込まれる、さらには殺し合いに乗った参加者に他のメダル同様に利用される可能性があることなど、鴻上なら当然思い至っただろう。
 では、真木が彼に何を隠していたというのか。答えは簡単だ。

 真木がそれらのメダルに、細工をしているという事実を隠匿したのだ。

 細工したと言っても、オーズがそれを使う場合に支障が出るようにしたわけではない。というよりもそれは、未来で生み出されたそれに対し、技術的な問題でできなかった、というのが正しいか。手を加えた当時は、このように会場内にメッセージ付きで設置されるという事態を想定していなかったためという理由も、なきにしも非ずだが。

563Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:33:45 ID:qXbCatJI0

 細工をしたというのは、グリードがそれを取り込んだ場合の方だ。
 グリードが他に九枚以上のコアメダルと融合している場合には、コンボではない同色の一枚だけでも。あるいはオーズ同様、コンボを成立させる三種のコアを同時に取り込めば。
 オーズがそのコアで発現する、最強のコンボ形態――スーパータトバ同様の固有能力を、グリード達にも引き出すことができるようにしたのだ。
 この団体戦という形式を取ったバトルロワイアルにおいて、勝敗条件に関わるグリードは最重要ファクターと言って差し支えない。それ故彼らには最終的には倒されて貰わねば困るが、同時に余りに呆気なく倒されてしまっても困る。グリードと言う人外すら軽々と凌駕する戦力を持った参加者もいる以上、強化余地という保険があっても良いことだろう。元よりグリードらについては、既に多少ながら公平性を欠いた要素を与えているのだから構いはしまい。

 さて、肝心のコアメダルは、真木と同じ世界の出身者達、すなわちオーズやグリードにとって馴染み深い鴻上ファウンデーションビルに隠されている以上、彼らの内の誰かが手にする可能性が高い。後は本人達の選択や巡り合わせ次第だと思っていたが、実際にそれを発見したのはオーズでもグリードでもなく、しかしやはり真木と関わりの深い、伊達明とその同行者だったというわけだ。
 彼らは殺し合いを打破せんと目論んでおり、あのメダルを最も良く活かすことができるオーズとのコネクションも存在する。結局は鴻上の思惑通りとなり、真木達は自分で己の首を絞める結果となってしまったのだろうか?
 答えは――未だわからない、というのが正しいだろう。
 メダルを落としてしまったからと言って……どこまで転がって行くのかは、その運動が終わりを迎えるまで、誰にもわかりはしないのだから。
 何事もなくオーズの元に届くという確証は、未だどこにもないのだ。
「そういえば彼女も」
 それを現在進行形で認識しながら、思い出したかのように真木は抑揚のない声で呟いた。
「あのコアメダルの力を。使えるかもしれませんね」
 もっとも、そうなってはさすがにワンサイドゲームが過ぎるか……などと頭の中だけで呟きながら。
 人形から目を逸らした真木は、鴻上ファウンデーションビルへ肉薄する――死(オワリ)を与える天使を示す光点を、じっと凝視していた。



      ○ ○ ○



 夕闇が街を覆い、いよいよ天球の模様を夜空へ譲渡す準備に入った頃。
 カオスは会場の中央を目指し、ふらふらと彷徨っていた。
 そこを目指したのに、はっきりとした当てなどない。ただ何となく、仁美と共に歩いていた際に見えた大きな街の方が、皆がたくさん集まっていると思ったからだ。
 もしも少し彼女達の進行ルートが逸れて、反対方向の空美町の街並みに気づいていれば、カオスはそちらの方へ吸い寄せられていたかもしれないが……実際の彼女は、他の参加者を、そして誰より火野のおじさんを求めて、中心街に辿り着こうとしていた。
「…………いない」
 今また曲がり角を迎えた時、幾許か膨らんだ胸を弾ませながら足早にその向こうを覗き込んだが、結局そこには再会を熱望する男も、彼のための贄となるべき者達も、その影の一つも見当たらなかった。
 意に沿わぬ結果に気落ちして、次の一歩を踏み出した時――じゃりっという音と共に肌を噛まれたような感覚が生じ、カオスは思わず眉を潜めた。
「っ――たぁい……」
 先程からこれの繰り返しばかりで、彼女を突き動かし続けていた感情も、空回りの末に少しばかり萎んで来たのか。先程までは気にも留めなかった足裏の砂利が、酷く煩わしく思えて来た。
 カオスはこれまでもずっと裸足で過ごして来たのだから、こんなありふれた、些細な感触を今更忌避するなど、本当はおかしなことなのだが――足の裏を刺激する、かつては心地良く感じたこともあったはずのそれを覚えることを、カオスは蛇蝎の如く嫌悪していた。

564Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:35:24 ID:qXbCatJI0

 爪先や踵から体温を奪われて行くという事実その物に、仁美が履かせてくれたあのぶかぶかな靴は――もう、この世のどこにもないのだと、突き付けられているようで。

「女の子がはだしで歩くなんて、いけないんだよね……おねぇちゃん」
 微かに声を震わせながら、メダルが勿体ないと仕舞っていた翼を展開し、俯いたままでカオスはその両足を地から離す。
 火野に与える“愛”のため、誰かにあげるために集めた物を、自分の、しかも然程火急なわけでもないことのために使うのは、なかなかの抵抗があったが……これも仁美の教えを遵守するための、今は亡き彼女に捧げる愛だと思えば、我慢することができた。
 そう、耐えるしかないのだ。届くはずもないのに捧げるだのと、そんな欺瞞が必要なのだということに。その愛を届けるべき仁美は、もはやいないのだということに。カオスは今……独りぼっちなのだということに。
 こうして彼女に教えて貰ったことを実践して、忘れずにいることしかできないのだ。
 火野に焼かれていなくなってしまった仁美のように。彼女との想い出までも忘却の炎に奪われてしまわぬよう、記憶の中にあるそれだけでも守り通すことしか……今のカオスが、仁美のためにできることはなかった。
(痛い……)
 動力炉が、痛い。
 あんなに知りたかった、愛を実感できているというのに……それが嫌になるほど、辛い。
 一人は嫌だ。一人は寂しい。一人は心細い。
 一人では――愛は、苦しいだけだ。
 一人だけでは、愛の輪郭(カタチ)を見出せない。独りぼっちでは、それを確認することすらできはしない。ただただ仁美が、愛(あたたかさ)をくれた優しいおねぇちゃんがいなくなったという喪失感だけが、延々と大きくなり続けている。
 折角見つけた愛が。確かにこの手に掴んだはずの愛が。どんなに必死になっても、それを見ているのが一人である限り、隙間から零れ落ちて行くのを止められない。
 カオスには、それが耐えられなかった。
(だれか……だれか、だれかっ!)
 メダル消費を抑えるため、そして闇に紛れる眼下の人影を見落とさないための最低限の加減しながらも、カオスは出会いを求め飛翔する速度を上げ続ける。
 今はあの時“たまたま”見つけることができたおにいちゃんに、カオスは感謝していた。
 彼と出会えたおかげで、ほんの一時だけでも孤独を和らげることができたのだから。
 仁美から与えられ、井坂から学び、火野から教わったカオスの愛を、彼に実践することを通して確かめ感じることができていた間は、その余韻が冷めやらなかったうちは。素足の感触も、この胸の痛みも、無視することができていたのだから。
 愛を見失わないためには、その温かさを得るためには、それをやり取りする他者が必要なのだと――この短い一人歩きの間に、カオスは文字通り痛感した。
 だから誰かを見つけて、愛を与えなければ。そうして自分が仁美達から貰った愛の形を、確かめなければ。少しずつ、だが確実にメダル残量とともに小さくなって行くこの愛の炎を、また大きくしなければ。
 きっとこの胸は、押し潰されてしまう――!

「…………あ」

565Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:37:04 ID:qXbCatJI0

 日が沈み、暗闇の中に潜みつつある街並みの中。たまたま視界を上げたカオスの目についたのは、一つの小さな、しかしそれ故に目立つ確かな輝きだった。
 彼女が見つけたのは、寂寞とした無人の街にあって、闇が降りる中その存在を強調するかのように灯りを燈す大きなビルの一室だった。
 発見にカオスが口から小さな声が漏らした後、その口端が、まるで三日月の戯画のように吊り上がる。
「……見つけた」
 低速飛行のための、限定的な解放から――その能力を全開にするために、より大きく翼を拡げ、加速してビルに向かいながら、カオスはそう呟いた。
 灯が点いているのなら、そこには当然――それを必要とする、誰かがいるはずだ。
 カオスが熱望した、愛を交わすための誰かがいるはずなのだ。

 それを見つけられただけで、自然と胸の痛みは引いていた。
 ああ、これで確かめられる……仁美との触れ合いを通して理解した、温かくて痛い愛のカタチ。
 あそこにいるのがもしも火野のおじさんだったら、それはとっても嬉しいな、とも思うが……そうではない、どうでもいい誰かでも、今は惜しみなく愛をあげようと思う。
 痛くして、殺して、食べるのが愛なのだから……誰かを食べて糧にすれば、まるでセルメダルを奪って増やすように、愛は大きくなるのだから。
 そうして沢山食べて、沢山大きくなって、沢山強くなって……それから火野のおじさんを目一杯、心の底から満足するまで愛してあげることを夢想すれば、それも悪くはなかった。
 だから――

「――皆に、オワリ(愛)をあげるね」

 その宣告と共に、生まれ持ち、さらには奪い、挙句進化し続けて来た、その華奢な体躯に秘めた力を解放しながら――目を一杯に見開いたエンジェロイドは、その愛らしい唇に一層歪んだ弧を描いていた。



      ○ ○ ○



 ――原初の神の名を冠した、終焉を運ぶ天使が微笑んだ、まさにその時。

 会場の全域で、死者の名を告げるための最初の放送が、いよいよ開始されようとしていた――

566Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:37:48 ID:qXbCatJI0
【一日目−夕方】
【E-5/鴻上ファウンデーションビル 会長室】


【伊達明@仮面ライダーOOO】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【コア】スーパータカ、スーパートラ、スーパーバッタ
【装備】バースドライバー(プロトタイプ)+バースバスター@仮面ライダーOOO、ミルク缶@仮面ライダーOOO、鴻上光生の手紙@オリジナル
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜2
【思考・状況】
基本:殺し合いを止めて、ドクターも止めてやる。
  0:まずは放送を聞く。
  1:バーナビー達次第だけど、できれば会長の頼みを聞いて、火野でも探しますか。
  2:バーナビーと行動して、彼の戦う理由を見極める。
【備考】
※本編第46話終了後からの参戦です。
※TIGER&BUNNYの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※ミルク缶の中身は不明です。


【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】白
【状態】健康、伊達に対する複雑な感情
【首輪】100枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス、ランダム支給品0〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止める。
  0:放送を待って、今後の行動を決める。
  1:伊達、鈴音と共に行動する。
  2:伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ている……。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
※時間軸のズレについて、その可能性を感じ取っています。


【凰鈴音@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】健康、
【首輪】50:0
【装備】IS学園制服、《甲龍》待機状態(ブレスレット)@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:真木清人をぶん殴ってやる。
  1:伊達とバーナビーについていく。
  2:男だけど、伊達はちょっとは信頼してやってもいいかもね。
  3:一夏や仲間達に会いたい。みんなで一緒に、箒の分も生きたい。
【備考】
※銀の福音戦後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、TIGER&BUNNYの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。

567Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:39:22 ID:qXbCatJI0
【一日目-夕方(放送直前)】
【E-5/市街地】


【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】身体ダメージ(小)、精神ダメージ(大)、火野への憎しみ(極大)、成長中、服が殆ど焼けている(ほぼ全裸)、飛行中、攻撃体勢
【首輪】225枚:90枚
【装備】なし
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
基本:痛くして、殺して、食べるのが愛!
 0.今はあそこ(鴻上ファウンデーションビル)にいる誰かに愛をあげる。
 1.火野映司(葛西善二郎)に目一杯愛をあげる。
 2.その後、ほかのみんなにも沢山愛をあげる。
 3.おじさん(井坂)の「愛」は食べる事。
 4. 一人は辛いから、ビルに居る誰かを愛し終わったらすぐに他の人を探す。
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、ウェザーメモリ、アストレアを吸収しました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。
 今後どんなペースで成長していくかは、後続の書き手さんにお任せします。
※ほぼ全裸に近いですが胸部分と股部分は装甲で隠れているので見えません。
※憎しみという感情を理解していません。



【篠ノ之束のウサミミカチューシャ@インフィニット・ストラトス】
 バーナビー・ブルックスJr.に支給。名前の通りウサミミカチューシャ。


【スーパータカメダル@仮面ライダーオーズ】
【スーパートラメダル@仮面ライダーオーズ】
【スーパーバッタメダル@仮面ライダーオーズ】

 三点とも鴻上ファウンデーションビル社長室に現地支給。
『仮面ライダー×仮面ライダー フォーゼ&オーズ MOVIE大戦MEGAMAX』で湊ミハルの手により齎された四十年後の未来で作られたコアメダルであり、従来のコアメダルを越える性能と安定性を持つ。またこの三枚を用いることで仮面ライダーオーズはスーパータトバコンボへと変身することができる。
 さらに本ロワ内では、以下のいずれかもしくは両方の条件を満たした場合、オーズではなくグリードが取り込んでも、そのコンボが発揮するのに近い力を使用できるように主催者側によって調整されている。なお、あくまでグリード化を果たした者にのみ該当する。

①取り込んだのがグリードに対応する色のコアであり、なおかつ他に九枚以上(種類問わず)のコアメダルを吸収している場合。
②スーパータトバコンボを成立させる三枚のコアメダルを取り込んだ場合。

 当然ながら、オーズやグリード以外の参加者にとっても、他のコアメダル同様に、セルメダル50枚分として使用することが可能である。ただし、元はグリード発生の余地のないコアメダルを開発する過程、もしくはその結果誕生したメダルであるため、参加者がこれらを取り込みグリード化できるのか、現時点では不明。

568Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 00:43:33 ID:qXbCatJI0
以上で投下完了です。
もしまだ何か問題点などお気づきの点がございましたら、ご指摘の方よろしくお願い致します。

569名無しさん:2012/11/04(日) 08:19:22 ID:/VOgbXSg0
投下乙です!
なんか、タイガーのいいところ全部伊達さんに吸収されているような……。
まぁこういうキャラはバーナビ―みたいな真面目ちゃんがいないと扱い難しいからな。
にしてもカオスがスーパータトバ能力を習得する可能性が出てきた……だと?
そしたらワンサイドゲームどころじゃないだろ、今絶好調のウヴァさんでも勝てるかどうか怪しいぞ。
……ハッ!まさかウヴァさんはこの事態を想像して「そういない」なんて発言を!?だとしたらなんて預言者、先のssの展開まで分かるなんて流石ウヴァさん!そこにしびれる憧れるぅ!

そして仮投下の時点で気付かなかった自分が悪いんですが、バーナービーはこの時点では無陣営所属だと思います。

570Ignorance is bliss.(知らぬが仏) ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 09:09:00 ID:qXbCatJI0
>>569 感想&ご指摘ありがとうございます。
 すいません、バーナビーの所属陣営については完全に見落としていました;
 wiki収録時には修正しておきます。

571 ◆z9JH9su20Q:2012/11/04(日) 09:14:34 ID:qXbCatJI0
タイトルがついたままだった; これは恥ずかしい……見なかったことにしてください><

572名無しさん:2012/11/04(日) 10:18:59 ID:QnR.6kGI0
お二方投下乙でした!

>流浪の心
ぬうううううう…
どんどん状況が悪化していくではないか…
原作では上手く回っていたイカロスの融通の利かなさが酷い
やっぱりトモキがいないと駄目なのか…

>知らぬが仏
スーパータトバktkr!
…と思ったらカオス襲来とかメダル喰われちゃうじゃないですかー
この三人組は戦力的には問題ないんだろうけどチームワークってやつがなあ…
タイガー&バニーの二人はそれぞれメンタル的に迷走してるとか…仲良しバディですね

573名無しさん:2012/11/04(日) 14:01:08 ID:5FDahYuY0
投下乙です

主人公が傍にいなくてヒロイン補正の無いロワだとイカロスはこうなってしまうのか…
ここまで状況が悪くなるとは

おお、ここでスーパーが出るとは。しかも手紙付きとは
でも主催は知ってるし肝心のオーズは…
更にカオスが来た上に次は放送だぜ
これは…

574名無しさん:2012/11/04(日) 16:50:31 ID:UYhfImvYO
投下乙です。

スーパータトバにされた細工で、アンク2羽、カザリ、ウヴァさんが更に有利に。
メズールとガメルは泣いていい。

575名無しさん:2012/11/04(日) 21:31:42 ID:wSUj5qOg0
◆QpsnHG41Mg氏と◆z9JH9su20Q氏、両名とも投下乙です。

イカロスは一応踏みとどまったけど、それでもフェイリスの側から敵視の可能性大か。
今までコミカル要員だったフェイリスにもいよいよ修羅場の時が来ちゃったか…?
次が怖いわあ。

あーあ、鴻上会長もとうとう身ぐるみ剥がされる日が来ちゃったかー…
すでに言われてるけど、伊達さん以外は精神面で弱みがあるんだよねこのチーム。
鈴は伊達さんのお蔭で元気でいられるけど、放送後の絶望のデカさにまで伊達さん対処できるかまだ不明だし、
しかもそうして伊達さんが頑張れば頑張るほどバニーに苦悩を与え続けるという負のスパイラル。
しかもカオス接近も加わるから、こっちはこっちでハードになりそう。

576名無しさん:2012/11/05(月) 22:20:55 ID:Ttd/esnM0
予約来てるな

577 ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:36:34 ID:67iRkwVE0
両氏とも投下乙です。

では私も、予約分の投下を開始します。

578【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:37:32 ID:67iRkwVE0


 それは佐倉杏子に擬態したXが、詳細名簿に記された脳噛ネウロの開始位置へと向かっていた時のことだった。
 唐突に割と近くにあった民家から、二つの人影が飛び出し、空を飛んでいったのだ。
 Xはそれを一目見て、飛んで行った二人がアストレアと同じ存在であることに気付いた。

「あれは……あの時の彼女の仲間かな? どうしたんだろう。かなり慌ててたみたいだけど」

 既に二つの人影は遠くへと飛び去り、Xの人間離れした視力でも視認できない。
 飛んでいった方角はわかっているが、追いつくのはちょっと難しそうだ。

「ま、今はネウロのほうが大事だし、放っておこうかな。けど―――」
 呟きながら向けた視線の先には、先程二人が飛び出した民家がある。
 ネウロだって既に移動しているはずだ。開始位置に向かったからといってネウロに会えるとは限らない。
 それに二人を追いかけるのは手間だが、彼女たちが居た民家を調べるだけならすぐに済むだろう。
 そう考え、僅かに進行方向を変えて民家へと向かった。そして。

「―――なにか、あったのかな?」

 壁に開いた大穴と、台風の直撃にでも遭ったかのような部屋の惨状に首を傾げる。
 血痕が飛び散っているわけでもなく、戦闘があった形跡もない。
 ならば彼女たちは、一体どうしてこの家を飛び出したのか。仲間割れでもしたのか?

 ――とそこまで考えて、すぐに考える必要がないことに思い至る。
 Xの目的はあくまでも『自分の正体』を知ることであり、そのための重要な要素がネウロだ。
 現状において他はすべてオマケに過ぎず、ネウロに関することに比べたら些細だ。
 そう結論して民家を後にしようとした時、ふと家具とは違う、黄色い長物が目に入った。

「これは……槍? 彼女たちが落として行ったのかな?」
 長さは一.五メートル程で、キングラウザーと同様、相当な業物だと推定できる。
 これ程の名槍を放置して行ったということは、彼女たちは相当に慌てていたのだろう。

「まぁ何にしても、貰える物は貰っておくけどね」
 彼女たちが戻ってきてもいいように置いておく理由はないし、武器はあるに越した事はない。
 それに佐倉杏子の真似をするのであれば、槍は持っておいたほうが良いだろう。
 槍がなくとも大体の模倣はできるが、やはりあったほうが再現率が違う。

「さて、早くネウロの開始位置に行こうか」

 ブン、と槍を一振りして取り回しを確認し、デイバックに収める。
 一先ず向かう場所は一番ネウロの開始位置に近い施設、【F-4】北部にある芦河ショウイチ家だ。
 それを地図で確認して、Xは壁に開いた大穴から民家を後にした。

 ―――直後。前方――つまり南の方角で、ミサイルを数十発撃ち込んだかのような大爆発が起きた。

「……………………。
 ……うわぁ、何あれ。ミサイルでも支給されていたのかな?」
 距離を目算した限り、あの爆発はおそらく公園付近で起きたと思われる。
 公園から大体二.五キロはあるこの場所で視認できる威力の爆発など、早々お目にかかれない。
 一体どんな手段であれほどの破壊を引き起こしたのか、非常に気になるところだ。

「……ああ、そういえば」
 あの方角は、彼女たちが飛び去って行った方角だな、と。他人事のように思い出していた。


        ○ ○ ○


 ――――あれから、どれくらいの時間が経ったのか。
 熱せられた焦土が冷め始め、辺りからは白い蒸気が昇り始めている。
 辺り一面には何も残っていない。周囲にあった物は全て吹き飛ぶか融解し、黒く焼け焦げていた。

 その燃え朽ちた大地の中心で、少女は今だに倒れたまま、陰り始めた空を見つめていた。

 茜色に染まっていた空は暗さを増していき、もうじき日が暮れそうだった。
 だがそんな空の変化に、少女は何の関心も浮かべなかった。……そんな余裕など、一欠けらも残っていなかった。
 少女の体に傷のないところはなく、果ては右腕を失ってさえいた。可能であるならば、一刻も早い治療が必要な状況だ。
 だというのに、少女はピクリとも動かず遠い空を眺めていた。
 今少女の心に浮かんでいるのは、たった一つの疑問だけ。

“どうして……?”

 それだけが、少女の内にある全てだった。
 こうなる要素は、何もなかったはず。誰も何も、間違えてなかったはず。そのはずなのに、どうして? と。

579【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:38:07 ID:67iRkwVE0

 『偽物』と彼女は言った。
 それが正しいか間違いかは重要ではない。問題なのは、彼女がそう思ったということだけだ。
 彼女は少女を『偽物』であると思い、拒絶した。目の前の少女ではなく、自身の思い出だけを信じた。
 ……そうして、少女が縋る様に伸ばした手は、無残にも撃ち砕かれた。

 そのことが、全身の傷以上に少女から立ち上がる力を奪っていた。

“どうして……”

 少女に疑問を齎した者は、すでに飛び去っている。
 少女の疑問に答えられる者は、この場のどこにもいない。

“どうして……”

 その疑問だけが、少女の心を埋め尽くしていく。


 だから少女を動かしたのは、少女の疑問とは全く関係のない理由だった。


「おいアンタ、こんなところで何やってんだ?」

 不意に投げかけられた声に、ニンフは反射的に跳ね起きて即座に距離をとる。
 直後、全身に奔った激痛に堪らず両膝を突いた。

「あ、おい、大丈夫か?」
 そう言って声をかけてきたのは、長い赤毛をポニーテールに纏めた中学生ぐらいの少女だった。
 彼女は心配そうに声をかけてくるが、ニンフは思わず悪態をついてしまう。

「アンタはこれが、大丈夫に見えるの?」
「いや、全然」
「っ…………」

 だが少女は気にした様子もなく、それどころかふざけた様に応えてきた。
 その応答に思わず苛立ちを覚えたが、同時に周り見るだけの余裕も少しだけ出てきた。
 その点だけは、一応お礼を言ってもいいかもしれない。

「システム確認……オールレッド。
 システム損傷89%……
 ステルスウィング半壊……
 右腕部全壊、修復は困難……
 自己修復プログラム……はどうにか無事か」

 自身の状態を確認し、その酷さに溜息をつく。
 はっきり言って、いつ動作不良を起こしても不思議ではない状態だ。
 もっとも、アポロンの直撃を受けて機能しているほうが遥かに不思議なのだが。

「なぁ。さっきから何ぶつぶつ言ってるんだ?」
「……アンタには関係ない事よ。少し黙っててくれない」
 言いながらも周囲に散らばっていたセルメダルを回収し、自己修復プログラムを起動させる。
 ……だが全く追いついていない。右腕はともかく、それ以外の修復が完了するまでだいぶ時間がかかりそうだった。
 そのことに再び溜息をつきながらも周囲を見渡せば、辺り一面酷い惨状だった。
 どこを見ても何も残っていない。この場で生きて動いている自分たちのほうが、むしろ場違いに感じるほどに。

 だが、ニンフはこの光景に強い疑念を感じていた。「この程度で済むはずがない」と。
 イカロスのアポロンは国一つを吹っ飛ばすような、文字通りの最終兵器だ。その破壊力はそう簡単に加減できるものではない。
 イージスを使って封殺したのならともかく、そうでなければ、この会場自体が吹き飛んでいてもおかしくはないのだ。
 だがこうして被害が出ている以上、イージスによる封殺は行われていないはずなのだ。
 しかしそれでは、この周囲に広がる惨状と矛盾してしまう。

“アポロンの破壊力が制限されている? どうやって。
 真木清人はそんなことを可能とする技術を持っているの?
 それともまさか、シナプスそのものが真木清人に協力している?”

 頭の中で考えられる可能性を列挙していくが、答えは出ない。
 判断材料がない以上、考えても仕方がないと、首を振って思考を止める。
 そして今は目の前のことに集中するべきだと、先ほどからこちらを注視している少女へと向き直った。

580【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:38:35 ID:67iRkwVE0

「で、アンタは何者?」
「あたしか? あたしは佐倉杏子だ。よろしくな」
「そう、キョーコね。私はニンフよ。
 それで、キョーコは何のためにここに来たの?」
「いや、デッカイ爆発があったからさ、一体何があったのかなって気になって来てみたんだ。
 そしたらこんなところでアンタが倒れてたんで、声をかけてみたってわけ」
「ふうん。なら、無駄足を踏ませたかしら。アンタが“どっち側”にしても、今の私に関わって得はないし」

 ニンフはそう自棄気味に言い捨てる。
 今の自分は右腕を失っているし、セルメダルも残り少ない。
 杏子が殺し合いに乗っていないのなら、今の自分はお荷物にしかならない。
 逆に乗っていたとしても、わざわざここまで殺しに来る価値はほとんどない。
 もっとも、散らばっていたメダルを回収せずにわざわざ声をかけてきたことから、殺し合いに乗っている可能性は低いと思うが。

「いや、そうでもないよ」
「? キョーコ?」
「なんでもねぇよ」
 杏子の呟きに違和感を覚え聞き返すが、杏子はそう言ってはぐらかした。
 彼女の声色が一瞬変わった気がしたのだが、気のせいだったのだろうか。

「それよりさ、ここで一体何があったんだ?」
「そ、それは………」
 その問いかけに、ニンフは思わず口ごもる。
 杏子が現れたことで多少周囲を見る余裕ができたとはいえ、イカロスが何故攻撃してきたのか、という疑問はまだ解消されていない。

 お互いの記憶の祖語から『偽物』と判断されたのはわかる。
 だが、ただそれだけの理由で釈明の余地すらなく攻撃されたという事実が、ニンフの心を苛んでいた。
 自分はそんなにも、信用できない存在だったのか。と。

“アルファー……どうして……”
 どうして、ほんの少しでも信じてくれなかったのか。
 ほんの少しでも言葉を交わせば、誤解は解けたかもしれなかったのに。

「まぁ言いたくないんなら、無理に言わなくてもいいからな」
「えっと、その……ごめんなさい」
「別に謝んなくていいよ。けどさ、アンタはこれからどうするんだ?」
「これから……か」

 感情だけで言うのなら、今すぐ智樹に会いたい。けど彼がどこにいるのか全く判らない今、それはただの希望論だ。
 イカロスを探してもう一度説得しようにも、今の彼女が話を聞いてくれるとも思えない。
 なら自分にできることは、どこか安全な場所で体を修復することだけだ。

 そしてそうと決まれば、なるべく早くここから離れた方がいいだろう。
 アポロンによる大爆発で、この場所は人目を引いているだろう。
 杏子のように誰かがやって来る可能性は高いし、その人物が危険人物である可能性だってある。
 今の自分に戦闘行動を行えるほどの力はないし、ズタズタの翼では逃げることも覚束ない。
 たまたま真っ先にやってきた杏子が、落ち着いて会話できるような人物だったから良かったものの、そうでなければ今頃どうなっていたことか。

“………あれ? ちょっと待って”

 今の自分の思考に、何か重大な間違いを犯したかのような悪寒が走った。
 その理由を探るために、改めて順序立てながら思考する。

 自分は片腕を失った重症であり、誰かと戦える状態ではない。
 現在この場所はアポロンによる大爆発で、危険人物がやってくる可能性がある。
 最初に現れたのが冷静な対応のできる杏子でなければ、自分はすでに死んでいたかもしれない。

“………うそ。まさか――――!”

 …………だが少し、彼女は冷静過ぎなのではないか?
 自分は今片腕を失った状態なのだ。エンジェロイドであるからこそまだ平然としていられるが、ただの人間ならば命に関わっている。
 そして自身がエンジェロイドであることを、杏子に教えた覚えはない。なのに彼女は自分を見つめているだけで、何の治療も施そうとしてこない。

 ――――まるでこちらの行動を観察しているかのように。

 そうして、悪寒の正体に思い至る。
 一般的な人間ならば、重傷を負った人物がいれば治療をしようとするか、少なくとも安静を勧めるはずだ。
 対して杏子の今の行動は、ニンフが“人間でない”ことを知っていなければおかしいものである。ということに。

「…………ねぇ、キョーコ?」
 その事実を確かめるように。否定するように。
 ニンフは恐る恐る、背後にいる杏子へと振り返る。

「―――残念。気づかなければ、もう少し生きていられたのにね」
 そうして見えた光景は、いつの間にか取り出した大剣を振り被りながら、歪な笑みを浮かべる少女の姿だった。

 ――――次の瞬間。
 ニンフの視界は、一面の赤色に塗り潰された。

581【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:39:20 ID:67iRkwVE0


        ○ ○ ○


 鏑木・T・虎徹は、己をヒーローであると自認している。
 長年ヒーローとして戦ってきたし、ヒーローとしての誇りもある。
 それだけに彼は多くの犯罪者を見てきた。だから多少なら犯罪者の心理の機微がわかる。
 そんな彼でも、“彼女”はあまりにも異質で、あまりにも理解不能だった。



 佐倉杏子が黄金の大剣を振り上げ、ニンフの視界が赤く塗り潰される。
 完全な不意打ち。電子戦用であるニンフには、重症である体も相まって回避することはできない。
 元々壊れかけだったこの体は、この一撃で以って完全に破壊されるのだと理解した。
 事実、強い衝撃を感じた後、地面を転がり視界がぐるぐると回った。

「…………え?」
 だというのに、いつまでたっても痛みはなく、終わりは来ない。
 視界は既に赤く塗り潰されている。なのに意識の断絶は訪れない。
 その理由は、視線を巡らせればすぐに判明した。

 今にも壊れそうな鎧のような物を着た男が、庇うようにニンフを抱きしめ、その鎧を己の血で赤く染めていた。
 それにより自身の視界を赤く染めたのは、自分のではなくその男の血なのだと理解した。
 それと同時に男は立ち上がり、ジッと杏子の方を見つめる。

「アンタは……?」
 その声に反応し、男はニンフをようやく離す。そして彼女の方に向き直ってサムズアップした。
「安心しろ。このワイルドタイガーが来たからには、もう大丈夫だ」

 その名乗りでニンフはようやく、男が真木清人に無謀なケンカを売っていたヒーローだと思い出した。



 それは、本当にギリギリのタイミングだった。
 焦土となった公園にライドベンダーで乗り入り、そうしてすぐに見えた二つの人影。
 こんなところで何しているのかと思い、近づいて声をかけようとした。その時だった。

 一方の人影がデイバックから何かを取り出した。
 取り出された何かは夕日を反射し、一際強く煌めく。その輝きで、取り出された物が凶器であると理解した。

 虎撤はすぐにアクセルを全開にし、二つの人影へと加速した。
 凶器を取り出した人影は、もう一方の人影が振り返るのに合わせて凶器を振り上げる。
 そして振り返りきったところで、人影はもう一方の人影へと凶器を振り下ろした。
 その瞬間虎撤は、全速力を出すライドベンダーを足場に、もう一方の人影へと抱きついて庇った。

「グッ、ツゥ………ッ!」
 まず背中に奔る焼けるような痛みを、歯を食い縛って耐える。
 次に腕の中の少女の温もりに、彼女が無事であるとわかって安堵する。
 最後に拳銃程度なら弾き返す強度を持つ斎藤さん謹製ヒーロースーツが、こうも容易く切り裂かれたことに驚く。
 そうして地面を転がってその場から離れ、すぐに立ち上がって腕の中の少女を殺そうとした人物の正体を確かめ、その姿にさらなる驚愕を味わう。
 まだ中学生ぐらいの赤毛の髪をした少女だ。そんな子供が躊躇いなく人を殺そうとした事実に、怒りよりまず悲しみが先立った。

「アンタは……?」
「安心しろ。このワイルドタイガーが来たからには、もう大丈夫だ」
 警戒を緩めずに赤毛の少女から視線を切り、腕に庇った少女を離しながらそう名乗る。
 名乗りながら少女の姿を見て、思わず目を見開いた。
 少女に羽が生えていたから、というのもあるだろう。だがそれ以上に、その傷だらけの体に目を奪われた。
 片腕を失うという、普通なら今すぐに病院に行くべきな重傷。それでも少女は、痛みを訴えることなく虎撤を見上げている。

「くっ…………」
 命だけは助けられた。だがこんな重傷を負う前に助けられないで、果たして間に合ったと言えるのか。
 そんな自分に対する怒りを込めて、改めて赤毛の少女を睨みつける。

「おいテメェ。こんな小さい女の子にこんな大けがを負わせるたぁどういうつもりだ!
 事と次第によっちゃあテメェみたいなガキでも容赦しねぇぞ!」
「おいおい心外だぜ。そいつの怪我はあたしがやったんじゃねぇよ」
「はぁ!? ふざけたこと言ってんじゃ――――」
「ほんとよ。これはキョーコがやったんじゃないわ」
「へ? マジ?」

 重傷を負った少女自身からの否定に面を食らう。
 ならば誰がやったのか。という疑問が残るが、それは一先ず後回しにする。

582【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:40:16 ID:67iRkwVE0

「け、けどテメェがこの子を殺そうとしてたことには変わりねぇ!
 だから改めてもう一度聞くぞ! テメェ一体どういうつもりだ! テメェも殺し合いに乗ってんのか!?」
「どうも何も、あたしは別に殺し合いになんか興味はないよ」
「ふざけんなよ! じゃあなんでその子を殺そうとしてんだよ!」
「その答えは簡単。“そいつがあたしに警戒心を持っちまったから”。そんだけさ。
 観察する側としては、檻もないのに警戒心を持たれるのは面倒なんだ。ちょっとしたことで逃げられるかもしれないし。
 で、それなら手っ取り早く“中身”を見せてもらおうと思ってね」
「観察に……中身だァ? そりゃどういう意味だ」

 その言葉に少女は僅かに悩んだ後、まぁ別にいいか、と呟いて虎撤へと向き直った。
 ……その顔の半分を、全く別の人物の物に変貌させて……変貌させ続けて。

「“俺”はね、自分の『正体』がわからないんだ。
 自己観察をしようにも体の細胞が変異し続けていて、しばらくすれば全く別の物に替わってしまう。
 だから“俺”は、自分の『正体』を他人に求めることにしたんだ。
 まぁ簡単な比較検証だね。自分と他人の違うところを探そうって感じ。
 で、なんでその子を殺そうとしたかっていうと、体の“中身”を見るには“開く”のが一番手っ取り早いだろ? まぁそういうこと」

 少女の……いや、“少女のようなモノ”のその答えに、虎撤は言葉を失った。
 じぶんの『正体』を知りたい。だから他人の“中身”を観察している。そう少女は言った。
 つまり少女自身に殺意はなく、中身を見る過程で死んでいるだけだと言っているのだ。
 ………まるでカエルの解剖。少女にとって他人とは、その程度の意味しかないらしい。

「まぁ最近じゃ俺の『正体』は、人間以外の怪物なんじゃないかって考えてるんだ。
 だから、そういう意味ではその子は実に興味深くて、観察し甲斐がありそうだけど」
「ッ………………!」
 その言葉に虎撤は怒りに歯を食いしばる。
 目の前の少女は人を人とも思っていない、真木清人と同じ正真正銘のゲス野郎だ。
 ならば躊躇う必要はない。遠慮なくぶん殴ってふん縛ればいい!

「……ああ、認めてやるよ。確かにテメェはバケモンだ。
 けどバケモンだって言うんなら……退治されても文句ねぇよなぁッ!」
 一息に少女へと距離を詰め、力の限りに拳を振り抜く。
 少女はその一撃をあっさりと躱し、距離を取って黄金の大剣を構える。
「いいぜ。出来るもんなら……だけどな!」
 そうしていつの間にか元に戻った顔に、実に楽しそうな笑顔を張り付けそう言った。

 虎撤は拳を構え、ふう、と一つ深呼吸をする。
 ハンドレットパワーはまだ使えない? だからなんだ。
 背中の傷が激しく痛む? それがどうした。
 目前には人殺しをなんとも思わない犯罪者。背後には守るべき力なき少女。
 躊躇う理由がどこにある。戦う理由はここにある。さあ―――

「―――ワイルドに吠えるぜッ!」

 その決め台詞と共に、虎撤――ワイルドタイガーは“犯罪者”へと挑んでいった。


        ○ ○ ○


 硬いスーツに覆われた拳を一回、二回、三回と振りまわす。
 華奢な少女であれば悶絶では済まない程度に力を込めた一撃は、しかし。

「っだぁあッ! ぜんぜん当たんねぇ……ッ!」
 佐倉杏子へと擬態した怪盗Xには掠りもせずに避けられていた。

「なんだ? その程度なのか? そんなんじゃあたしを倒すには程遠いぜ?」
「チィ……ッ、コンチクショウ……ッ!」
 タイガーの左のストレート、と見せかけての右のハイキックを、Xはスウェーバックで容易く躱す。
 そして逆に後ろ回し蹴りを、タイガーの頭へと叩き込む。
 ハイキックを避けられたタイガーは回避も出来ずにあっさりと蹴り飛ばされ、地面を転がる。

「んだッ! なんつぅ力してんだよ! 見た目はガキだっつのに……!」
 蹴られた衝撃に揺れる視界を、頭を振って戻し、拳を構えてXを睨みつける。
 闘いが始まってからずっと、タイガーの攻撃は一撃もXに掠りすらしていなかった。
 どれだけ素早く動いても、フェイントを織り交ぜても、直感に任せても、Xは全てを見てから回避しているのだ。
 加えてXは、まだ一度もキングラウザーを使っていない。Xの攻撃は全て素手、それもカウンターで行われているのだ。
 ずっとヒーローとして戦ってきたタイガーを越える反射神経。それを前に、能力の使えないタイガーは全くの無力だった。

583【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:40:39 ID:67iRkwVE0

「くそ……それに、こっちも少しヤベェ……」
 イカロスの攻撃によってダメージのあった体に、先ほどニンフを庇ってできた傷が響いている。
 端的に言ってしまえば、出血が止まらないのだ。
 それも当然。ロクな手当もせずに動きまわれば、傷は塞がるどころか広がる一方だ。

「どうする……どうすればアイツをぶん殴れる……」
 出血量こそまだ大したことはないが、それでもこのまま血を流し続けるのは非常にまずい。
 だが攻撃が当たらなければ、どうすることもできない。
 ……一撃だ。一撃さえ全力でぶん殴れれば、それでどうにかなるはずだ。
 ならば。

「どうにかするしか、ねぇよな……ッ!」
 傍目には闇雲な突撃。事実、その通りの特攻を、タイガーは再び敢行する。
 考えたところでいい案は思い浮かばない。ならば、今できることをやるしかないのだ。

「ウオリャアァ―――ッ!」
「……………………はぁ」
 そんなタイガーの悪足掻きを、Xは早くも飽き始めていた。
 あの異常な状況にあった場所で、敵の親玉である真木清人に啖呵を切ったタイガーだ。
 何かしらの自信に足る力があるのではないかと考えていたのだが、タイガーは一向にそれを見せない。
 使えないのか、使わないのか、初めから存在しないのか。そのどれかは知らないが、Xにとっては実に期待ハズレな展開だった。

「あのさぁ……さっきからバカみたいに突っ込んできてるけど、なんか意味あんのか、それ?」
「うっせェ! 意味なんか決まってんだろ! テメェをぶん殴るためだよ!」
「あっそ…………」
 無駄に熱いタイガーのセリフを一言で流し、どうしようかと考える。
 もう少し様子を見るか。それともさっさと“箱”にするか。
 ちらりと横目でニンフを探せば、何を考えているのか今も逃げずにそこにいる。
 なら、彼女が逃げたらタイガーを“箱”にしようと決定する。

「よそ見してんじゃねぇ!」
「おおっと」
 タイガーのスライディングによる足払いを、咄嗟にジャンプして避ける。
 さすがにヒーローを名乗るだけのことはある。ほんの僅かな隙も見逃さない。
 もっとも、その隙を突けるかは別問題だけど。とそこまで思ったところで、

「そこだぁ!」
 タイガーのスーツの左腕部の装甲が開き、スプレーガンのようなギミックが飛び出してきた。
 スプレーガンはXが地面に着地するより速く稼働し、その銃口からワイヤーが射出される。
 空中にいるXにそれを避ける方法はなく、ワイヤーはXの胴体に巻き付く。

「!」
 タイガーは力の限りワイヤーを引っ張り、Xを目前へと引きずり出す。
 そこへ渾身の力を込めた拳を、一切の加減無くXの胴体へと叩き込んだ。
 Xは咄嗟に腕左腕でガードするが、そんな守りで止まるほどタイガーの拳は優しくない。

「これで、どうだァッ!」
「、ガッ…………ァッ!」
 肉を打ち、骨を砕く嫌な感触がタイガーの拳に伝わる。
 だがそれに動揺することなく、タイガーは最後まで拳を振り抜く。
 手応えは十分。Xの左腕はもちろん、アバラまで砕いた会心の一撃だ。

 Xはセルメダルを撒き散らしながら容易く吹っ飛び、焦げ付いた大地へと叩き付けられる。
 少しやり過ぎたかと僅かに心配したが、躊躇していればこっちがやられていたのは間違いない。
 とりあえず生きていれば良しとしようとタイガーは結論する。

 だがその心配は、怪盗Xに対してはあまりにも無意味だった。

「さすがヒーロー。ホントに隙を逃さねぇな」
「ッ――――!」
 地面に倒れ伏していたXは、感嘆の声と共にひょいっと立ち上がる。
 間違いなくアバラまで砕けていた。たとえ痛みに強くても、すぐには立ち上がれないはずだった。
 だがあっさりと立ち上がったXの異常さに、タイガーだけでなく背後で見ていたニンフも息をのむ。

「おいおい……そんなにあっさりと立ち上がるか、普通?」
「だからさっきも言っただろ? 『俺』は普通じゃないってさ」
 折れ曲がっていたXの左腕が一瞬異様な動きを見せる。
 そして次の瞬間にはもう、ちゃんとした左腕の形になっていた。
 この分では、アバラの方も同様に治っているだろう。

「マジかよ……」
「姿を変える時の応用でね。多少の怪我なら簡単に直せるんだ」
 Xのその言葉に、タイガーは戦慄と共に息を飲む。
 命が心配になった一撃でもあっさりと治ったのだ。ならばXを止めるには、殺すしかないのではないか?
 そんな不安が脳裏を過ったからだ。
 そしてそれ以上に、“次はXの本気が来る”。そう確信したからだ。

584【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:41:23 ID:67iRkwVE0

「それじゃあ、ちょっと本気でいくぜ!」
 その予想は正しく、Xは一瞬でタイガーの傍へと接近し、キングラウザーを振り抜く。
 タイガーはそれを辛うじて避けるが、Xの攻撃はそれだけでは終わらない。

「ウオアッ! チョッ! コノッ! ダアッ!」
「そらそら、もっとうまく避けないと死んじまうぜ?」
 タイガーは間断なく振われるキングラウザーを紙一重で避けていく。
 既に一度斬られているから解るが、Xの持つキングラウザーの切れ味は折り紙つきだ。
 銃弾さえも弾くヒーロースーツを容易く切り裂くのだから、受け止めるなどという選択肢は浮かぶわけがない。

 攻撃を防げない以上、避けるしかない。だがそれでは反撃が出来ない。
 反撃が出来ない以上、Xの攻撃は止まることなく、タイガーは徐々に追い詰められていく。
 そして、

「ダッ!? ヤベッ……!」
 不意に地面の窪みに足を取られ、尻餅を突く。
 あまりにも致命的なミス。取り返しの付かない大失敗。
 その絶対的な隙をXが見逃すはずもなく、

「アンタの“中身”、見せてもらうよ―――!」
 振り上げられるキングラウザー。それを持つ右腕が膨張し、ヒトのカタチを見失う。
 人間の理を超えた怪力で振るわれる大剣を、タイガーは防ぐ術を持っていない。
 タイガーが避ける間もなく、Xはその人外の怪力を以って必殺の一撃を振り下ろし―――

「“超々超音波振動子(パラダイス=ソング)”――――ッッ!!!」

「――――――――!」
 横合いから襲い来た音の衝撃波にあっけなく吹き飛ばされ、セルメダルを撒き散らした。
 そしてグシャリ、とタイガーの一撃を受けた時よりも全身を砕かれながら、またも地面に打ち付けられる。

「ハッ。私のことを忘れてんじゃないわよ……」
 ニンフが嘲笑するように呟く。
 彼女がこれまで逃げなかったのは、この隙を待っていたからだった。
 タイガーではXに勝てないことも、逃げたところですぐに追いつかれることも、ニンフは理解していた。
 故にニンフは、生き延びるためにXを倒すという選択肢を選んだのだ。

「ははは、すごいなぁ。そんなこともできるんだ……」

 だが、Xはなお健在。不気味に体を蠢かせ、砕けた骨を補修していく。
 それを見たタイガーは、即座にXの取り落としたキングラウザーを回収し、ニンフの元へと駆け寄る。

「ったく……マジでキミ悪ィぜ」
「まさしく、化け物ね……」
 二人は体の至る所を血で滲ませながら、再び立ち上がったXを見てそう感想を漏らす。
 こちらは重傷二人。相手の生命力は測定不能。そんな状況でどうやって生き延びたものかと必死に考えを巡らせていると、

「うん。今回はもういいや」
 Xはそう言って、二人にあっさりと背を向けた。

「そりゃどういう意味だ……」
「そのまんま。今回はこれ以上戦わないってこと」
「んだと―――ッ!」
「このまま遣り合ってもいいんだけど、残念ながら先約があるんだ。
 だからこれ以上ダメージを蓄積させるのはあんまりね」
「テメェ! 待ちやがれッ………、ッ!」
 Xは振り返ることなく、デイバックから一台のバイクを取り出した。
 それを見たタイガーは咄嗟に止めようとするが、貧血にふら付き膝を突く。
 その間にXはバイクのエンジンをかけ、アクセルを吹かす。

「それじゃあまたね。次に会ったときは、ちゃんと“中身”を見せてもらうから」

 そうしてXはバイクを発進させ、どこかへと去って行った。
 タイガーはXを逃したことに悔しそうな表情をするが、とりあえずの命の危機が去ったことを理解して、ニンフは一先ず安心した。

585【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:41:55 ID:67iRkwVE0


        ○ ○ ○


 Xがバイクで走り去った後、ニンフと虎撤の二人は散らばっていたメダルを回収し、焦土となった公園を北上したところにある民家に移動していた。
 二人はそこで、傷の手当てを行いつつ自己紹介と情報交換を行った。
 そして。

「チクショウッ! なんでだよ……どうしてそうなっちまうんだよ……!」

 あの少女の名前がイカロスであること。公園を焦土に変えたのが彼女であること。
 その理由が、自らの記憶と食い違う『偽物(ニンフ)』を排除するためであることを知り、あまりの悔しさに声を荒げた。

 人を傷つけるような命令を下したマスターが偽物であると、そう思ってくれたまでは良かった。
 だがどうして、自分の記憶と食い違うもの全てを『偽物』と決めつけて、あまつさえ排除しようとなど思ったのか。

「それじゃあ結局、偽物のマスターの命令に従ってんのと同じじゃねぇかよ………」

 あまりの無力感に、虎撤は歯を食い縛って項垂れる。
 あの時、初めてイカロスと会ったときにきちんと話を聞いてやって、ちゃんと説得していればこんな事にはならなかったかもしれないのに。
 そうすればニンフがこんな大怪我を負うことも、イカロスがあんな考えを持つこともなかったはずなのに。
 そんな自責の念が、後から後から湧いてくる。

 暁美ほむら達のこともそうだ。
 誰かを殺すのを認めるつもりは絶対にない。これは絶対に譲れない彼の“正義”だ。
 だが彼女と対立してしまった結果、彼女達は金髪の少女に支給品を奪われ、そして仲間らしき人物とともに逃げられた。
 暁美ほむらにも、誰かを切り捨てる決断を下せるほどの、いわば“覚悟”のような物を持った理由があったはずなのだ。
 そしてそんな悲壮な“覚悟”の理由が、他人が簡単に触れていいようなものではないと、どうしてすぐに思い至らなかったのか。

「チクショウ……!」

 その答えは簡単だ。
 鏑木虎徹が――ワイルドタイガーが、相手のことを考えずに己の“正義”を振りまわしたからだ。
 名前も知らない少年の時も。イカロスの時も。暁美ほむらの時も。
 そのどれもが“正義”を掲げて行動していながら、結局は誰も救えていない。

 ―――ヒーロー失格。
 そんな言葉が、脳裏を過ぎる。それを否定することもできない。
 なぜなら今のワイルドタイガーをヒーロー失格だと思っているのは、他ならぬ鏑木虎撤自身だからだ。

「俺は……俺は………ッ!」
 強い自己嫌悪に、虎撤は歯を食いしばって項垂れることしかできない。
 自分が“正義”を掲げて行動すれば、また誰かが悲しむ結果になるのではないか。
 そんな考えが、虎撤から立ち上がる意思を奪っていたのだ。

「ああもう……うじうじうじうじ鬱陶しい!」
 そんな虎撤に苛立ったニンフが声を荒げて立ち上がる。

「アンタがなに悩んでんのかはなんとなく予想付くけどね、だからって何もしなかったら結局は一緒でしょうが!」
「で、でもよ……」
「うるさい! だったら私はどうなのよ!
 仲間だと思っていたアルファーにいきなり『偽物』呼ばわりされて攻撃されて、辛うじて生き残ったと思ったらあんな化け物みたいなヤツに襲われて!
 それを助けてくれたのがアンタでしょうが!」
「―――――――――!」
 ニンフの言葉に、虎撤は頬を叩かれた様に顔を上げる。
 虎撤を睨むその表情には、怒りの感情が目に見えて浮かんでいた。
 彼女は怒りの収まらぬ様子で虎撤へと捲し立て続ける。

「アンタはアンタの信念で私を助けようとしたんじゃないの!? それとも何? 私を助けたのは同情から?
 ふざけないでよ! 同情なんかで助けに来られても迷惑だわ! それくらいだったら打算で助けてくれた方がまだましよ!
 で、どうなのよ! アンタは何で私を助けたの!? 同情!? それとも打算!?」
「………んなもん決まってんだろ。俺が………ヒーローだからだ!」

 虎撤はそう高らかに宣言して立ち上がる。
 あれだけ重く感じた脚は、今すぐにも駈け出せそうなほど軽かった。
 ああ、そうだった。一度や二度の失敗でへこたれるようじゃ、ヒーローなんかやっていけない。
 その事を、ニンフのおかげで思い出すことができた。

586【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:42:34 ID:67iRkwVE0

「ありがとうな。励ましてくれてよ」
「うっさい! そんなんじゃないわよ!
 アンタにまで落ち込まれたら、私がどうすればいいのかわかんないだけよ………」
 感謝の言葉と共にニンフの頭を撫でるが、すぐに払い除けられる。
 そのままニンフは、先ほどとは打って変わって意気消沈した様子で俯いた。
 そうだ。まだイカロスとニンフの問題が解決したわけではない。
 先ほどの激昂は、彼女の精一杯の空元気だったのだ。

「そんじゃあ気合も入れてもらったことだし、とっとと行くか」
「行くって、どこに?」
「シュテルンビルトだ。俺のスーツも大分壊れちまったからな。あそこになら予備があるはずだ」
 沈んだ空気を吹き飛ばすように声を上げる。
 ニンフに励ましてもらったのだから、今度は自分が励ます番だと気合を入れる。

 イカロスの行き先はわからない。公園を焦土に変えたのは彼女なのだから近くにいるかもしれないが、会ったところでどう説得すればいいのかわからない。
 だからまずは、自分を万全の状態に整える。こんなボロボロのままでは、あとが持たないのはわかりきっているからだ。

「それに、こいつをちゃんと使いこなせる奴も探したい」
 虎鉄が取り出したのは、手の平大の小さな箱。
 蓋を開けてみれば、そこには三枚のコアメダルがあった。
 三枚のコアはそれぞれ、サメ、クジラ、オオカミウオらしき模様をしている。

「コアメダル!? これを使いこなせる奴を探すって、アンタは良いの?」
「ああ。俺の能力はあまりメダルを使わないしな」
 そう言って虎撤は、蓋を閉めてデイバックへと戻す。
 首輪に格納しないのは、攻撃を受けたときに落としてしまう可能性があるからだ。

 そしてなぜ虎鉄が翔太郎達にコアメダルを渡さなかったのかというと……。
 イカロスの事で気が逸っていて、すっかり忘れていたからだった。

「まあ、そういうことならわかったわ。だったら早く行きましょう。
 放送が近いけど、運転中に始まったら私が聞いて纏めておくから」
「おう、任せた」
 そう言って出て行ったニンフに続き、世話になった民家を後にする。
 そしてライドベンダーに、ニンフを抱える様に二人乗りし、エンジンを掛ける。
 なぜ抱え込む形なのかというと、片腕を失ったニンフでは虎撤にしっかりとしがみ付けないからだ。

 そうしてライドベンダーを走らせながら、虎撤はある考えに思い至っていた。
 バーナビーと牧瀬紅莉栖。そのどっちを信じるのかという問題。虎撤はこれに「どちらも信じる」という答えを出した。
 その理由は、ニンフとの話し合いで出た『偽物』という言葉がきっかけだ。
 そう。メッセージを残した牧瀬紅莉栖と、殺し合いに乗ったというバーナビー。そのどちらかが偽物であれば、なにも矛盾はない。
 ヒーローにだって折り紙サイクロンのように他人に化ける能力を持つ奴がいるのだ。
 ならばこの殺し合いにだって、似たような能力を持つ奴がいてもおかしくはないはずだ。

“そうだろ? バニー”
 内心で己の信じる相棒へと声を掛け、ハンドルを一層強く握る。
 たとえ何があっても、バーナビーを信じる。そう強く決意して。


 一方のニンフも、夕闇の空を見上げながら物思いに耽っていた。
 イカロスへと伸ばした右腕は、彼女に拒絶されて失われてしまった。
 自己修復プログラムは最大限に働かせているが、当分は直りそうにない。
 もう彼女と手を繋ぐことは出来ないのかと、そう思って、少しだけ悲しくなった。

“ねぇ、アルファー……。ここの空は……狭いわね………”

 まるでシナプスのようだ、と。
 触れそうなほどに近い空を見上げてそう思った。

587【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:43:33 ID:67iRkwVE0


【一日目-夕方】
【D-4/エリア北東】

【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、背中に切傷(応急処置済み)、精神疲労(中)、軽い自己嫌悪、NEXT能力使用不可(残り約30分)
【首輪】110枚:0枚
【コア】サメ、クジラ、オオカミウオ(首輪には格納されていない)
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(頭部亀裂、胸部陥没、背部切断、各部破損)、重醒剣キングラウザー@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
 1.シュテルンビルトに向かい、スーツを交換する。
 2.イカロスを探し出して説得したいが………
 3.他のヒーローを探す。
 4.ジェイクとマスターの偽物と金髪の女(セシリア)と赤毛の少女(X)を警戒する。
 5.バニーも牧瀬紅莉栖も信じる。フロッグポッドのメッセージはどっちかが偽物。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」「そらのおとしもの」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
 ・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
   ……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』

【ニンフ@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】ダメージ(大:回復中)、全身に火傷や裂傷多数(全て応急処置済み)、右腕喪失、羽は半壊、絶望
【首輪】80枚(消費中):0枚
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:知り合いと共にこのゲームから脱出する。
 0.ここの空は、狭いわね……
 1.タイガーと一緒にシュテルンビルトに向かう。
 2.知り合いと合流(桜井智樹優先)。智樹に会いたい。
 3.トモキの偽物(?)、カオス、裸の男(ジェイク)、佐倉杏子(X)を警戒。
 4.アルファー…………
【備考】
※参加時期は31話終了直後です。
※広域レーダーなどは、首輪か会場によるジャミングで精度が大きく落ちています。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
 このためイマジンおよび電王の能力、ディケイドについてをほぼ理解していません。

【サメ・クジラ・オオカミウオのコアメダル@仮面ライダーOOO】
三点セットで鏑木・T・虎徹に支給。
四十年後の未来で作られたコアメダル。
この三枚をポセイドンドライバーにセットすることで仮面ライダーポセイドンに変身できる。
さらに本ロワ内では、下記の条件を満たした場合に、スーパータトバコンボと同様の能力が使用できるよう調整されている。
ただしこれは、あくまでもグリード化を果たした者にのみ該当する。
①取り込んだのがグリードに対応するコアであり、なおかつ他に九枚以上(種類問わず)のコアメダルを吸収している場合。
※サメが水棲系、クジラが重量系に対応し、オオカミウオは対応なしとする。
②サメ・クジラ・オオカミウオの三枚のコアメダルを同時に取り込んだ場合。
なお、大量のコア・セルメダルを吸収した状態で仮面ライダーポセイドンに変身すると、コアメダルに自我が芽生えてしまい、変身者の意識・身体の主導権を奪い取ってしまう可能性があるので注意。

588【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:44:04 ID:67iRkwVE0


        ○ ○ ○


「さて、ネウロはどっちにいるかな?」
 またがったバイク――ブルースペイダーを停車して、Xは地図を見ながら呟いた。
 東に行けば、ネウロのスタートポイント。西に行けば、魔界探偵事務所。
 どっちにもネウロがいる可能性がある以上、すぐには決めかねる。
 ただ、悩んでいても始まらないので、コアメダルを一枚取り出して、コイントスで決める。
 そうして出た面は、赤い鷹の模様の表。それに納得し、決めていた方向へとブルースペイダーを向ける。

「それにしても、やっぱりあの剣を取られちゃったのは痛かったなぁ。
 けどまぁ、ネウロと会う前に体力を無駄にしたくないしね。さっき手に入れた槍で我慢しよう」
 キングラウザーを持って行かれたのは、正直に言って惜しい。
 だがキングラウザーを取られた状態で戦っても、無駄に体力を消費するだけだろう。
 それに彼等との戦いでついた傷は意外に深く、すぐには癒えそうにない。
 なら、今はこのまま移動して、ネウロを探すほうが賢明だろう。
 ………そう結論して、アクセルを回そうとした時だった。

「ん? なんだろう、今の感じ……」
 不意に左腕に、強い違和感を覚えた。
 何事かと確認してみるが、どう見てもいつも通りの左腕だ。
 また細胞の変異でも始まったのだろうか。そう思ってみるも、疑問は拭えない。

「………まぁ今はネウロのことを優先しよう」
 考えても答えは出ないので、疑問は一先ず棚上げにしておく。
 自分の体がおかしいのはいつものことだ。気にしたって始まらないだろう。
 そう結論し、Xは再び歩き始めた。どんな宝よりも求める、己の正体を目指して。



 ………だがそれで、本当によかったのだろうか。
 Xの首輪には、“もう一人のアンク”の意思を宿したコアメダルが格納されている。
 そして首輪には、コアメダルとの融合を促す機能がある。

 彼のオリジナルともいえる“欠けたアンク”は、右腕だけになっても復活するようなグリードだ。
 そんな彼から分かたれた“もう一人のアンク”が、同じことを出来ないとどうして言えるだろう。

 ……答えは出ない。……確証はない。……保証もない。真実は、“その時”にならないと明かされない………。
 欲望の雛鳥は静かに、目覚めの時をただ待ち続ける――――

589【X】しょうたいふめい ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:44:26 ID:67iRkwVE0



【一日目-夕方】
【F-3/電王の世界・外縁】

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】ダメージ(中:回復中)、疲労(中)、佐倉杏子の姿に変身中
【首輪】210枚(消費中):250枚
【コア】タカ(感情L):1、コンドル:1
【装備】ゲイ・ボウ@Fate/zero、佐倉杏子の衣服、ベレッタ(10/15)@まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式×4、詳細名簿@オリジナル、{“箱”の部品×28、ナイフ}@魔人探偵脳噛ネウロ、{アゾット剣、キャレコ(0/50)}@Fate/Zero、9mmパラベラム弾×50発/1箱)、ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、ライダーベルト@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品2〜7(X+一夏+杏子:全て確認済み)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
 1.ネウロの元へ向かう。
 2.下記(思考3)レベルの参加者を殺すために、もっと強力な武器を探す。
 3.バーサーカーやセイバー、エンジェロイド達(カオスを除く:ニンフ以外、全員名前は知らない)にとても興味がある。
 4.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
 5.阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
 6.殺し合いそのものには興味は無い。
【備考】
※本編22話後より参加。
※能力の制限に気付きました。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。
※タカ(感情L)のコアメダルが、Xに何かしらの影響を与えている可能性があります。

【ブルースペイダー@仮面ライダーディケイド】
Xに支給。
仮面ライダーブレイド専用のライダーマシン。
前部にモビルラウザーというカードリーダーがあり、ラウズカードをラウズする事でカードの効果を発動させる事が可能。

590 ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:45:20 ID:67iRkwVE0
以上で投下を終了します。

591 ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:49:32 ID:67iRkwVE0
では、もう一つの投下を開始します。

592連鎖!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:50:21 ID:67iRkwVE0


 ―――それは、ついに放送が始まるという、ほんの十数分前の出来事だった。

 天高く聳え立つビルの、最上階近くの明りを燈す一室。
 そこを目指して向けて勢いよく飛び上がったとき、不意に見覚えのある人影が視界に映った。
 その影に加速を停止して視線を巡らせれば、ここからそう遠くない空で、白と赤の二つの影が争っていたのだ。

「……………………」
 僅かに巡視するようにビルを見上げる。
 明りは変わらずに燈っている。この分では、すぐには移動しそうにない。
 再び空で争う二つの影を見る。
 ビルへと向かえば、その間に争いは終わり、すぐに見失ってしまうだろう。
 全速力を出せばすぐに辿り着ける距離。そして見知らぬ人間と見覚えのある人影。
 どちらを優先するかの天秤は―――白い影の方に向いた。

「クスクス……まっててね。……たくさん……たくさん『愛』をあげるから……!」

 そうしてクスクスと笑いながら、カオスは空で争う二つの影を目指して再び加速した。
 より強い『痛み』を……より大きな『愛』を与えるために………。


        ○ ○ ○


 ―――その、さらに数十分前。

 会場のほぼ中央にそびえ立つ一際高いビルを目指して、アンクと弥子は歩みを進めていた。
 先導するのはアンクで、鴻上ファウンデーションビルを目指すと言ったのも彼だった。
 アンクがそこを目的地にしたのは、そこが彼にとって縁のある場所だったからだ。
 ほぼ等距離にあるクスクシエに向かわなかったのは、アンクがそこを忌避したからだ。

「……………………」

 クスクシエはアンクと映司、そしてここにはいない泉比奈と白石千世子の四人で生活していた場所だ。
 だから、そこに行けばどうしたって映司のことを思い出してしまう。そうなればよく解らない感情が湧き上がってくるのは目に見えている。
 こうしてる今も自分でもよく解らない感情に戸惑っているのだ。これ以上訳の判らないモノに振り回されるのはごめんだった。

 そんなアンクの様子を知ってか知らずか、狙ったかのように弥子が声をかけてきた。

「ねぇアンク、ちょっと聞いていいかな?」
「………何をだ?」
「あの映司って人とアンクって、どんな関係だったの」
「………チッ」
 弥子の質問に思わず舌打ちをする。
 考えてもみれば、あれほど直接的に遭遇してしまえば、気になるのは当然だろう。
 アンクはどう誤魔化そうかと思ったが、この状況から有耶無耶にできるとも思えない。
 それを思って考えるのも面倒臭くなり、結局素直に話すことにした。

「単純な利害の一致だ。オレがアイツにオーズの力を貸す代わりにアイツはコアメダルを集めてオレに渡す。ただそれだけだ」
「そうなんだ………。でも、あの人がアンクと協力してたようには思えなかったけど」
「フン。オレの知る限り、アイツはとんだお人好しで、よく知りもしねぇ他人のためにすぐに命を投げ出すようなヤツだったからな。
 時々面倒臭くはあったがオレには都合がよかったのさ」
「そうなんだ」
「だがアイツに……いや、アイツだからこそ、オーズを渡したのは失敗だったみたいだがな」

 誰かを助けるために平気で自分を犠牲にするということは、言ってしまえば、自分を犠牲にして清むのであれば、どんなモノでも切り捨てるということだ。
 それが『命』でも、『心』であっても。
 グリードが根幹に関わっているこの殺し合いで、映司が自分の甘さを切り捨てるのは、ある意味で当然のことだった。
 そう結論するアンクに、しかし弥子が疑問を投げかけた。

「ねぇ。ふと思ったんだけど、あの人って本当に火野映司さんだったのかな?」
「ああ? どういう意味だ」
「アンクの話だと、映司さんは優しい人なんだよね」
「優しい、ねぇ。まぁそうだな」
「けどあの時の映司さん。どこか、楽しんでいたように思ったの」
「楽しんでた? アイツが?」
 アイツに限ってそれはないだろう。と思うと同時に、先ほどの戦いを思い出した。

593連鎖!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:50:50 ID:67iRkwVE0

 あの戦いの時、映司はプトティラコンボへと変身し、自身の武器はシュラウドマグナムのみだった。
 完全態でもなく、ロクな武器もない状態でグリードの天敵である紫のコンボに対抗できるはずがない。
 加えてあのコンボの危険性を理解している映司ならば、可能な限り早急に決着を付けようとするはずだ。
 だというのにこうして今形を保っているのは、映司が積極的に攻めてこなかったからだ。
 最初は甘さが残っているのかと思っていたが、それにしては違和感を覚える。

 ついでに言えば、戦いの後に手に入れた三枚の鳥類系コアメダル。これは状況からして映司が落としたものだと考えるのが妥当だろう。
 だがルールブックによれば、変身ベルトなどは所有者本人に支給されているらしい。
 それに従えば、エイジの持っているコアメダルは紫のコアと『タカ』『トラ』『バッタ』の三枚のはずだ。
 殺し合いが始まってからあの戦いが始まるまで約四時間。それまでの間に鳥類系のコアメダルを集めなければ道理が合わない。
 その可能性がないとは言わないが、やはりこちらも違和感が残る。

「……おい弥子。お前、どうしてそう思った」
「さっきXが杏子さんの姿になっていたでしょ。彼は殺した人に成り済ます犯罪者なの。
 それで映司さんの話を聞いて、さっきの映司さんを思い出して、何か変だなって」
「なるほどな。言われてみれば、納得できないこともない。
 けどな。だとしたら、なんでアイツはオーズに変身できたんだ?」
「それは……わからないけど………」

 先ほども言ったが、基本的なアイテムは本人に支給されている。
 ならば、オーズに変身した以上あいつは映司でなければおかしいのだ。
 映司が殺され、ドライバーを奪われた可能性がないわけではないが、紫のコンボがそう簡単に倒されるとは思えない。

「それに、偽物だろうが本物だろうが、結局は関係ないんだよ」
 弥子に聞こえない程度の大きさで小さく口にする。
 アンクがグリードで、映司がオーズである以上、いつかは決着を着けなきゃいけないことに変わりはないのだ。

「おい。どうでもいいこと考えてないで、とっとと歩くぞ。日が暮れちまう」
「あ、アンク待って」

 いまだに疑問を浮かべる弥子を無視して鴻上ビルへと向かう。
 あと一時間もすれば放送だ。それまでに落ち着ける場所に移動しておきたい。
 ―――そうアンクが思った時だった。

「ん? あれは………」
 ふと空に、翼の生えた人影が飛んでいるのを捉えた。
 人影はアンクが気付いたのと入れ替わる様に、地上へと降りていく。
 人間に翼の生えたその姿から、アンクは『仮面ライダー』と一緒に死んだ少女を連想した。

「ねぇ、アンク……」
「………チッ」
 弥子もその人影に気づいたのだろう。何かを言いたげにアンクをジッと見詰めてくる。
 その視線に舌打ちし、アンクは何も言わずに再び歩き出した。
 アンクの先導する進路は、先ほどまでよりもほんのちょっとだけずれていた。


        ○ ○ ○


 ―――その数十分後。

「……………………」
「――――――――」
 イカロスはメイド服の裾を握りしめ、俯いたままのフェイリスをジッと見詰めていた。
 フェイリスは何かを堪える様に黙り込んだまま、ジッと立ち尽くしている。
 その状態で、すでにかなりの時間が経っていた。

「――――――――」
 フェイリスが何も言わない以上、イカロスにはどうすることもできない。
 真実をありのままに告げたのは、失敗だったかと今にして思う。
 こんな風に時間を無為にしてしまうのであれば、適当に誤魔化せばよかった。
 失敗したと、そうイカロスは後悔する。

 そうしてさらに時間が経ち、イカロスがこれ以上待てないと思い始めた頃。

594連鎖!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:51:26 ID:67iRkwVE0

「偽物って……どういう意味なのニャ………?」
 何かを決意したように、フェイリスがようやく口を開いた。
 震えるその声は、信じたくないと思う彼女の心境を露わにしていた。
 彼女が話をする気になったのなら、事実を話して可能な限り理解を求めるだけだ。
 そう結論して、イカロスは相変わらずの無表情でフェイリスへと語り出し、

「そのままの意味です……。あのニンフは、私の知らないことを、私との思い出みたいに語っていました……。だから―――」
「思い出にない事を話した……? それで……それだけでベーニャンを偽物って決めつけたのかニャ!?」
 フェイリスの悲痛な叫び声に遮られた。
 フェイリスは今まで俯いていた顔を上げ、真っ直ぐにイカロスを見詰める。

「フェイリスはちゃんと言ったニャ! 電王のことも、時間のことも、ちゃんと言ったはずニャ!
 ちゃんとお話をして、一生懸命になってくれて……それなのにアルニャンは、あのベーニャンを信じなかったのかニャ!? 本当に偽物なのか、考えもしなかったのかニャ!?
 アルニャンを最後まで説得しようとしていたベーニャンを………殺したのかニャ…………?」
 そして逆に、フェイリスはイカロスを糾弾し始める。
 イカロスを見つめる彼女の表情は今にも泣きだしそうだった。

 ……やはり理解を得るのは、難しいようだった。
 彼女が何故あの『偽物』を信じるのか、どうにも理解できない。
 感情制御が低い分、特に他者の感情は特に解りづらい。自分では、彼女を説得するのは難しい。

 ――だからもう、理解を求めるのは諦めることにする。
 これ以上フェイリスを説得するために無為に時間を使いたくなかった。
 それよりも、一刻も早くマスターの捜索を再開したい。

「………よく解らない話で、誤魔化さないでください……」
「よく解らないって……アルニャン」
「私にはあなたの言ったイマジンは見えません……。
 そんなよく解らないモノと一緒に出てきた話では、参考にすることはできません……」
「…………そっか。アルニャンは……フェイリスのことも、信じてくれてニャいのね………」
 傷ついたような顔をしてフェイリスは立ち尽くす。
 俯いて見えなくなった目元からは、涙が一滴零れていた。

 確かに厨二設定は、一般人には解りづらいと思う。
 だがこんな状況で、大事な話を冗談まじりに話すほど、フェイリスはふざけてはいない。
 彼女がこの殺し合いに連れてこられてから口にした設定は、全て自分を鼓舞するためのものだ。

 大切な親友と最愛の父、どちらかを選ばなければならないという時に、こんな訳の解らない殺し合いに巻き込まれた。
 そこで最初に見たのは、大切な親友の死。そして殺し合いが始まった時、近くに知り合いは誰もいない。
 そんな状況で、設定も交えずに冷静でいられるほど、フェイリスの心は強くはない。


「ッ――――――!」
 そうしてフェイリスは顔を上げた。
 その顔に先ほどまでの傷ついた様子はなく、強い決意が見て取れた。
 フェイリスはそのまま、イカロスを置き去りにして歩きだす。

「……どちらへ……行くのですか………?」
「ベーニャンを探しに行くニャ」
「……ですから、あのニンフは―――」
「『偽物』だったとしても! フェイリスが友達になったのは、あのベーニャンなのニャ……!
 フェイリスが出会って、フェイリスとお話しして、フェイリスと友達になったベーニャンは、あのベーニャンだけなのニャ………ッ!!」
 そう言ってフェイリスは、イカロスに背を向けた。
 その事に思うところは少しあったが、気にするつもりもなかった。
 イカロスにとって優先すべきことはマスターであり、それ以外のことは些事だったからだ。

595連鎖!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:52:00 ID:67iRkwVE0

「そうですか……わかりました………。なら私は、私のマスターを探しに行きます……」
「勝手にするといいニャ。どうせ今のアルニャンには、アルニャンの言う自分のマスターは見つけられないニャン」
「――――――――」
 その言葉に、飛び立とうとしていた翼が動きを止める。
 イカロスにとって今の言葉は、絶対に聞き流せないものだった。

「……どういう……意味ですか………?」
「そのまんまの意味ニャン。思い出のダークサイドに囚われたアルニャンに、マスターを見つけることなんかできないニャン。
 仮に見つけられたとしても、一緒にいたベーニャンのことも信じられないアルニャンには、その人を本物だって信じることができないニャ!」
「………………その言葉……、取り消してください…………」
「絶対にノゥ! なのニャ! 取り消して欲しいニャら、フェイリスと一緒にベーニャンを探して、ベーニャンに「ごめんなさい」を言うって約束するのニャ!」
「…………………………」

 どうしてそこまであの『偽物』に固執するのか、イカロスには理解できなかった。
 あの『偽物』は、マスターや本物のニンフとの大事な思い出を汚した存在だ。
 そんなものを、どうして探さなければならず、あまつさえ謝らなければならないのか。

 フェイリスは振り返り、真っ直ぐにイカロスを睨んでいる。
 言葉ではもう言い負かせそうにない。そこまでの器用さは、イカロスにはない。
 だからイカロスは、最後の手段に打って出た。

「……わかりました。なら力尽くで……取り消させてもらいます………ッ!」
 イカロスの体表が小さな雷を帯び、身に纏う装甲がさらに重厚になっていく。
 漏れ出るエネルギーの躍動に、周囲の玩具が吹き飛ばされ、部屋の窓が破砕される。
「モード『空の女王(ウラヌス・クイーン)』………発動(オン)」

 その背の翼は最大限まで広げられ、その瞳は紅く染まり、その頭上には光のリングが展開される。
 イカロスのその姿は、まさに天使と呼ぶに相応しいものだった。
 だが彼女は、決して愛されるための愛玩用ではなく、兵器を持って敵を殲滅する戦略用だった。

「アル……ニャン………?」
「“Artemis”、発射」
 イカロスの変化に目を見開いているフェイリスへと、アルテミスを射出する。
 人一人を殺すには余りある威力を持つ光弾は、フェイリスの頬を掠めて背後の壁を粉々に吹き飛ばした。

「ぁ…………」
 その威力と、イカロスの本気を理解させられたフェイリスは、腰が抜けて床にへたり込む。
 これは威嚇射撃だ。アルテミスは追尾弾であり、基本的にターゲットを外すことはない。
 ―――つまり、次はない。

「……もう一度だけ言います。私がマスターを見つけられないという言葉を……取り消してください………」
「ぃ………イヤなのニャ! アルニャンこそ、ベーニャンが偽物って言葉を取り消すニャ!」
「………そうですか。残念です…………」
 僅かな落胆とともに、イカロスはそう告げる。
 やはり彼女も……“自身の記憶にない存在”も、敵、ということなのだろう。
 アルテミスを、地面にへたり込んだままのフェイリスへとロックする。
 そして「さようなら」と、心の中で彼女に告げて、

「……“Artemis”…………発―――」
「ダメェ―――ッ!」

 横合いからの衝撃に、攻撃を中断させられる。
 いつの間にか現れた少女が腰に組みついていた。

 その少女――弥子はアンクと共に地上に降りたイカロスを追って、彼女達のいた民家のすぐそばにまで辿り着いていた。
 そこで聞こえた窓の割れる音に、弥子は慌てて駆けつけてきたのだ。
 途中で聞こえた爆発音には諦めかけたが、こうして間に合った以上、誰かを死なせたくはなかった。


「ダメだよ! 理由とか状況とか全然わかんないけど、それでも誰かを殺すのはダメだよ!」
「じゃまを……しないでください………ッ」
 イカロスは弥子の襟首を掴み、力任せに引き剥がして投げ飛ばす。
 投げ飛ばされた弥子は、弥子に遅れて追い付いたアンクに受け止められることで事なきを得た。

596連鎖!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:52:22 ID:67iRkwVE0

「あ、ありがとう……」
「なにやってんだ、このバカッ!」
 アンクは弥子を怒鳴りながら地面に下ろし、シュラウドマグナムを構えてイカロスへと警戒を向ける。
 弥子がイカロスの行動を妨害したことにより、彼女の矛先がこちらに向いた可能性があると思ってこの行動だ。
 そしてアンクの予想は正しく―――

「ああ……そういえば………」
 彼等のことも、自分の記憶にはない。つまりは――“敵”だ、と。
 警戒を見せるアンクを見て、イカロスはそう判断を下す。
 同時にフェイリス、弥子、アンクの戦力を計測し、一番強いアンクへと狙いを定める。
 そして翼を広げ、一瞬でアンクの懐へと加速し、拳でその胴体を打ち抜く。

「ガ、ッ………!?」
「え? ――アンク!?」

 その威力にアンクはセルメダルを撒き散らしながら吹っ飛ばされ、部屋の窓を完全に破壊して外へと投げ出される。
 だが命に別状はないだろうと判断する。あの瞬間アンクは咄嗟に後方へ飛び、巧く衝撃を逃していたのだ。
 先にフェイリス達を排除してもいいが、このまま逃げられても面倒だ。
 イカロスはそう判断し、フェイリス達を後回しにしてアンクを追って外へと飛び立つ。



「ぐっ――、っ………」
 小さく呻き声を漏らしながらも、アンクはしっかりと立ち上がる。
 殴打された腹部が痛むが、動けないほどではない。
 それでもイカロスの攻撃によって受けたダメージは、グリードでなければ重傷を負っていたと容易に想像できるものだった。

「敵性存在を確認……対象をロックオンします」
「ッ――――!」
 冷徹に告げられた声に、咄嗟に顔を上げる。
 そこにはイカロスが、宙に滞空して周囲を威圧していた。
 アンクは即座にクリュサオルとイージス・エルを取り出し、シュラウドマグナムとともに構える。
 この武器が役に立つかはわからないが、無いよりはマシだろうと判断したのだ。

「クリュサオルに、イージス・エル……? どうしてあなたが………。
 ………いいえ、考えるのはあと。今は先に――――あなたを、排除する………!」

 その言葉とともに、イカロスから五つの光弾が放たれる。
 アンクは即座に赤い片翼を広げ、光弾を躱して空へと飛翔する。
 取り込んだ鳥類系コアが過半数を越えたことで、アンクはグリードとしての能力を取り戻していたのだ。
 だが、“永久追尾空対空弾”の名に違わず、アルテミスはその軌道を変えてアンクへと再び迫る。

「チィ……ッ!」
 アンクは舌打ちをしつつシュラウドマグナムを構え、一つ、二つ、三つと光弾を撃ち落とす。
 そして四つ目はクリュサオルで迎撃し、最後の一発はイージス・エルで防ぐ。
 着弾の爆発に吹き飛ばされながらも、アンクは武装の強度に感心し、
「ッ………!」
 今の一瞬で背後に回り込んだイカロスと、振りかぶられた拳に戦慄する。

「――――――」
 無表情のままに振われる少女の右腕。それが人を殺しうる威力を秘めていることを、アンクは身をもって知っている。
 故にアンクは全力で回避行動を取り―――左頬を掠めていった一撃に息を飲んだ。
 が、驚く間もあればこそ、即座にクリュサオルを振り抜きイカロスへと一撃する。
 だがイカロスは咄嗟にクリュサオルを回避し、若干驚きの表情を見せながらも距離を取る。

「対象の戦闘能力を更新……高速での飛行能力、および“Artemis”を補足する動体視力を確認。
 ……対象に有効な戦術を選出します………」
 機械的に告げられる声を聞きながら、アンクは内心で盛大に冷や汗を掻いていた。
 イカロスの一撃を躱せたのは、アンクが超音速飛翔能力を持つ鳥のグリードだったからだ。
 だがその飛翔能力も完全ではなく、精々が音速程度しかない。もう一度同じことをしろと言われても、成功させる自信は全くなかった。

「選出完了……戦闘行動を再開します」

 ……だが、成功させなければ死ぬだけだ。
 頼みの綱はイカロスだ。彼女が目を覚ませば、まだ勝機はある。
 だからそれまでの間だけ、どうにか耐えきればいい。
 そう自分に言い聞かせ、アンクは痺れの残る左腕に力を込めた。

597連鎖!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:53:13 ID:67iRkwVE0



「アルニャン……どうして………」
 そうしてこちらを一瞥することもなく飛び立ったイカロスに、フェイリスが力なく呟く。
 何の事情も知らない弥子には、彼女が何を思っているのかなど全くわからない。
 だが暗く沈んだフェイリスの様子から、その心境を推察することは出来た。

「……あの、私は桂木弥子っていうの。あなたの名前を聞いてもいいかな?」
「あ……えっと………、フェイリスはフェイリスなのニャ………」
「じゃあフェイリスさん。早くアンク達を追いかけよう。」
「え? で、でもフェイリスは………」
 そう言い淀むフェイリスの気持を、弥子はなんとなく理解出来た。
 確かに自分達のような子供が追いかけたところで、何の力にもなれないだろう。
 けれど、それでも何かをしようという気持ちが大事なのだと、そう弥子は思っていた。

「大丈夫。私達じゃ何も出来ないかもしれないけど、それでも見守ることくらいは出来るから」
「…………うん、そうだったニャ………。
 わかったのニャ。アルニャン達を追いかけるニャン」
 そう言って差し出された弥子の手を取って、フェイリスは立ち上がる。
 彼女の瞳には小さな意志が宿り、先ほどの弱々しさは影を潜めていた。

「ヤコニャン、ありがとうなのニャ。おかげで元気が出てきたのニャ」
「や、ヤコニャン?」
「さあ、アルニャン達を追いかけるのニャ!」
「あ、ちょっと待ってよ!」
 気合を入れるように声を上げて、フェイリスは駆け足で部屋を出ていく。
 フェイリスの珍妙な呼び名に首を捻っていた弥子も、慌ててフェイリスを追いかける。


 ―――何も出来ないかもしれないと、弥子は言った。
 だがフェイリスには一つだけ、何かが出来るかもしれない力があった。
 その力があるのに、何もしないでいるのは嫌だった。
 だからフェイリスは、戦う覚悟を決めたのだった。


        ○ ○ ○


 高速で振り抜かれるイカロスの拳を、アンクは辛うじてイージス・エルで受け止める。
 だがイカロスの拳は一撃では止まらず、二撃三撃四撃とイージス・エル越しにアンクへと連打する。
 アンクは咄嗟に右手も加えてイージス・エルを支えるが、それでは反撃が出来ない。
 加えてイカロスの桁外れの力に、支えきれずに徐々に押し込まれていく。

 イカロスが選んだ戦法はクロスレンジでの格闘戦だった。
 それは残り少ないセルメダルと、アルテミスを迎撃できるアンクの能力を考えての選択だ。
 メダルが残っているうちにアンクを撃墜すれば問題ないが、もし防ぎきられてしまった場合、一気に追い込まれてしまう。
 故に、時間が掛かってもより堅実な戦術をイカロスは選択したのだ。


「グッ、クウ………ッ!!」
「――――――――」
 必死の形相のアンクに対し、イカロスは相変わらずの無表情。
 その人形のような鉄面皮から繰り出される高速の連撃に、アンクの腕が悲鳴を上げ始める。
 このままでは間違いなく防御は崩され、強烈な一撃を受けてしまうだろう。
 もはや絶体絶命の窮地と言っても間違いじゃない。
 当然だ。こんな化け物と戦わなければならなくなっている時点で、状況として既に詰んでいる。
 ここまで凌げたこと自体がすでに奇跡なのだ。


 ―――だからもう、いいんじゃないか?
 たとえここで敗北しても、グリードである自分はまだチャンスがある。
 コアさえ無事ならば、何度でも復活できる。だから、もう無駄な抵抗はしなくても………

 ―――なんて。そんな弱音が過ぎった自分に怒りを覚えた。
 次があるからなんだ。ここで負けたことがなくなるわけじゃない。
 自分のプライドはそんなに安いものじゃない。自分の“欲望(ねがい)”は、そんな簡単に手に入るものじゃない―――!

598連鎖!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:54:10 ID:67iRkwVE0

「ぐ、おぉおおッ……!」
「――――――――ッ!」
 アンクはその怒りを糧に、渾身の力を込めてイカロスを僅かに押し返す。
 それに気づいたイカロスは、再度アンクを押し込もうと一際強く拳を振り被り、

 アンクはその一瞬の隙に、イカロスの懐へと潜り込む。

「ッ…………!」
「ラアァァアア―――ッッ!!」
 頭髪を掠めていく一撃など気にも留めず、限界まで体を捻りクリュサオルを振り上げる。
 イカロスは咄嗟に回避しようと後退するが、攻撃を躱された隙は大きく間に合わない。
 そして振り抜かれたクリュサオルの刀身が、イカロスの体を切り裂いた。

「ッ――――――」
 ……だが浅い。
 イカロスはその体に斜め傷を負いながらも健在。戦闘続行に支障は見られない。
 対するアンクは疲労困憊。肩で息をするほどに疲れが出ている。

「あんまり舐めるなよ。俺は死ぬつもりなんか更々ねぇんだよ……!」
 だがアンクは、イカロスへと挑発するように啖呵を切る。
 勝てるかどうかなどもうどうでもいい。絶対に勝つ。勝って生き延びる。
 その執念にも似た強い意志が、今のアンクの原動力となっていた。

「……………………」
 そんなアンクを見て、イカロスは攻め手を迷っていた。
 アンクはクリュサオルとイージス・エルの機能を全く使えていないが、それを補うほどの冴えを見せ始めている。
 今の彼を相手に格闘戦を挑んでも、先ほどのように押し込むことは難しいだろう。
 おそらくアルテミスによる攻撃でも同様だ。まず間違いなくメダルが尽きる方が先だろう。
 ならばどうするのが最善かを考えていると、ふと地上の方に、フェイリス達の姿が見えた。

「――――――――」
 思い付いた行動に、イカロスは僅かに逡巡する。
 ―――本当にそれでいいのか、と。
 いくら敵だといっても、それはマスターの願いに反する可能性がある。
 フェイリスはイカロスの逆鱗に触れたし、警告もした。だがもう一人の少女は?

「………敵性存在をオールロック」
 その迷いを、頭を振って追いだし、全ての“敵”をロックしていく。
 相手がなんであろうと関係ない。全ての敵は排除する。自分にそう言い聞かせて。
 そして、
「“Artemis”発―――」


「――――イカロスおねぇさま、見ぃつけた」


 その声に、あらゆる動作を停止させられた。

「ッ…………!」
 咄嗟に声の聞こえた方へと振り向く。
 そこには、もはや襤褸切れと言っても差し支えのないような服を着た、十代半ば頃の少女がいた。
 そしてその少女の背には、鋭利な刃の如く硬質な一対の翼があった。

「エンジェロイド………!」
「ひさしぶりだね、イカロスおねぇさま」
「………久しぶり? あなたは……誰? 私はあなたなんて……知らない………」
 イカロスの言葉に、少女は不思議そうに眼を見開く。
「………おかしなイカロスおねぇさま。私のこと……忘れちゃったの? それとも、めもりーにぷろてくとでも掛けられたのかな……?」
 少女はそう言って何かを考えるような顔をするが、答えなど出るはずもない。
 それをすぐに理解したのか、すぐに考えることを止めて自己紹介を始めた。

「……まぁいっか。じゃぁ改めて、初めましてイカロスおねぇさま。
 私は第二世代エンジェロイド・タイプε―――「Chaos(カオス)」だよ。今度はちゃんと、覚えていてね………」

 「Chaos(カオス)」……聞き覚えがある。あれは確か、『偽物』のニンフが口にした名前だったか。
 そのカオスと名乗った少女が、自分に対して「久しぶり」と言ってきた。
 その事に、イカロスは僅かに混乱する。

「…………私は……あなたを知らない。だからあなたも………“敵”………!」
 だがその混乱を、イカロスはすぐさま切って捨てる。
 目の前の少女が何者であれ、自分はカオスを知らない。
 だから目の前の少女はあの『偽物』と同じ、破壊すべき“敵”なのだ、と。

「“Artemis”――発射……!」
 そう結論すると同時にカオスをロックし、アルテミスを射出する。
 放たれた四つの光弾は標的へと高速で迫り―――その姿を見失うと同時に、一瞬で撃墜された。

599連鎖!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:54:38 ID:67iRkwVE0

「ッ…………!?」
「こっちだよ、イカロスおねぇさま……」
 クスクスという笑いとともに聞こえた声は、背後から。
 カオスは一瞬でアルテミスを撃墜すると同時に、イカロスの背後へと回り込んだのだ。

“――速い……!”
 アストレアと同レベルの加速能力。完全に反応が遅れた。
 カオスとは触れるほどの距離。ゼロレンジはイージスの防御圏内。
 そしてその右手には、カオス自身の背丈ほどもありそうな黒い炎が球状に収束している。

「くっ………!」
「ダメ……逃がさない……!」
 イカロスは即座に加速し距離を取ろうとするが、カオスは少しも遅れることなく追従してくる。
 振りきれない。イカロスがそう理解すると同時に、

「受け取って……私の『愛』を………!!」

 カオスは収束した黒炎をイカロスへと炸裂させた。
 イカロスは咄嗟に両腕を交差させて身を守るが、その程度の防御では盾にもならない。
 そうしてゼロ距離から放たれた黒炎は、ただの一撃でイカロスを撃墜したのだった。



「アルニャン!?」
 アンクとイカロスの、文字通り手の届かない闘いを見守っていたフェイリスは、その光景に思わず声を荒げる。
 アンク相手にあれ程の猛威を振るっていたイカロスが、こうも容易く撃墜された光景はどこか信じがたい物があった。
 だが事実、カオスの放った黒炎に吹き飛ばされたイカロスは、力なく地面へと墜落した。

「くそっ……。面倒臭い事になってきやがった……」
「アンク、大丈夫?」
 カオスから逃げる様に地上に降りてきたアンクへと、弥子が声を掛ける。
 だがアンクは答えず、苦渋の表情で上空にいるカオスを睨みつけている。
 そんなアンクに反応してか、カオスがゆっくりと地上に降りてきた。

「ねぇ、イカロスおねぇさま……。もう終りなの……?
 ………ざんねん。もう少しおねぇさまと遊びたかったのに………」
 イカロスの傍に降り立ったカオスは、道路に倒れ伏すイカロスを見てつまらなそうに呟いた。
 彼女の言葉から感じ取れたのは、見た目通りの幼い残酷さ。
 イカロスを一撃で落とせる力を持っていながら、あの少女は子供と同程度の精神年齢しかないのだ。

 ……だが、幼いだけならまだよかった。
 幼いということは成長する余地があるということであり、つまりは学習することで改善できるということだからだ。
 しかしカオスは違った。……もう、違ってしまった。

「どうして……どうしてこんなことをするのニャ!」
 カオスへと向けて、フェイリスが責める様に叫ぶ。
 イカロスもそうだったが、どうして簡単に誰かを殺そうと出来るのか。
 フェイリスにはその事がどうしても信じられなかった。
 だがカオスは、その言葉を待っていたかのように微笑んで、己が理由を口にする。

「それはね……『愛』をあげるためだよ」
「あ、愛……?」
「うん……。私ね、いっぱい『愛』をお勉強したの……。
 それでようやく見つけたの………私だけの『愛』を」
 カオスは本当に嬉しそうにそう口にする。
 その様子は年相応に愛らしい子どものようで、先ほどの行為が嘘のようだった。
 少女の口から、その言葉が紡がれるまでは。

「ねぇ、しってる? 『愛』って痛いんだよ……?」

 その一言に、その場の誰もが言葉を失った。
 どうすれば、『愛』が痛いなどということになるのか、全く理解できなかったからだ。
 同時に、少女がそれを『愛』だと確信しているのだと、理解してしまったからだ。
 だがカオスはそんな事などお構いなしに言葉を続ける。

「私の『愛』はね、“痛くして、殺して、食べる”こと……。
 この私だけの『愛』で、みんなをたくさん愛してあげるの……。
 ―――ねぇイカロスおねぇさま。私の『愛』、痛かった?」

「ッ―――、カオス………!」
 カオスの最後の一言に、イカロスは腕に力を入れて立ち上がろうとする。
 だがセルメダルを全て失った今、立ち上がったところで何も出来はしない。
 そんなイカロスへと向けて、カオスは嗜虐的な笑みを浮かべた。
 ………まるで虫を解体して遊ぶ子供のように。

600連鎖!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:56:10 ID:67iRkwVE0

「そんなにあわてなくても大丈夫だよ……。ちゃんと最後まで愛してあげるから……!」
 その言葉と共に、カオスの背にある鋭利な翼が、牙を剥くようにゆっくりと広げられていく。
 カオスの語った『愛』で考えれば、次は間違いなく殺される。
 それを悟ったフェイリスは、カオスへと向けて一歩前に出た。

「こんどはおねぇちゃんが遊んでくれるの………?
 じゃあちょっと待っててね。イカロスおねぇさまを愛してあげたら、すぐにおねぇちゃんも愛してあげるから……」
「そんなこと………させないニャ」
 殺されそうになったといっても、イカロスは少し前まで共に行動した“友達”だったのだ。
 そのイカロスをあっさりと見捨てられるほど、フェイリスは無情ではなかった。

「みんな、行くニャ!」
『お、ようやく変身か』
『いきなり正念場だけどね』
『ほな、気合入れてくで』
『ちゃんと僕にもやらせてよね』
 モモタロス達へと声を掛け、デンオウベルトを装着してライダーパスを取り出す。
 そして赤いフォームスイッチを押してミュージックホーンを響かせる。

「今こそ、四つの“鍵”を一つに束ね、未来への扉を開く時ッ!
 憑依(シンクロ)せよ! 同調(リンク)せよ! 無限の力を我が下に!」
 そして軽快な音楽をBGMに、フェイリスは厨二設定を声高らかに宣言し、ターミナルバックルにライダーパスをセタッチした。

「変身(フュージョン)ッ!!」
《――Sword Form――》
 次の瞬間。フェイリスの体がオーラスキンに覆われ、周囲にいくつかのパーツに分かれたオーラアーマーが出現する。
 出現したオーラアーマーは変形しながらオーラスキンへと装着され、仮面のレールに沿って現れた桃のレリーフが二つに割れて眼前に収まる。

「………俺――参上ッ!」
『なのニャ!』
 そうして決め台詞と共にポーズを決め、仮面ライダー電王が参上した。

「って何なんだよ今の変な呪文は! それにフュージョンだぁ!? 意味わかんねぇぞ!」
『変身(フュージョン)は二人の力を一つにするための呪文なのニャ!』
「だから意味わかんねえって! 誰か説明しろ!」
『まぁまぁ先輩、少し落ち着いて』
『そうそう、別に気にしなくていいじゃん。カッコいいし』
『くぅ〜っ、泣けるで!』
「泣けねぇよッ!」
「あの、フェイリス……さん?」

 フェイリスの厨二設定にモモタロスが突っ込み、ウラタロス達が宥める。
 いつもとは違う状況にに、“電王の内側”は一層騒々しくなっていた。
 だが主体となったモモタロスの声以外聞こえない弥子は、唐突に始まった少女(?)の一人芝居に戸惑ったように声をかけた。

「あん? 俺はフェイリスじゃなくてモモタロスってんだ。
 ちょいとこの猫女の体を借りてっけど、まぁ気にすんな」
「いや、気にするなって言われても……」
『先輩、話は後。今はあっちのほうが先でしょ』
「わかってるって。ちょっと待ってろ」
「はい?」
「いや、お前には言ってねぇよ」
 ウラタロスの急かす声に、モモタロスはデンガッシャーをソードモードへと変形させながらカオスへと向かって足を進める。
 主体となったイマジンの声しか聞こえていない状況を面倒に思っていると、アンクが忌々しそうに声を掛けてきた。

601連鎖!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:56:30 ID:67iRkwVE0

「まさか、お前も『仮面ライダー』だったとはな……」
「別に猫女が仮面ライダーなわけじゃねぇぜ。俺達の契約者は、ちゃんと別にいるからな」
「猫女? 契約者?」
「まぁとにかく、そういう話はあとだ。テメェは後ろで黙って見てろ」
「チッ、仕方ねぇ」
 アンクは舌打ちしながらも、後方へ下がりつつ視線をカオスへと戻す。
 どうやら正式な仮面ライダー、という訳ではないらしい。それなら命を投げ捨てるようなマネもしないだろう。
 それよりも今は、“自分に出来ること”をするべきだ。と、どうにか自分を落ち着かせる。
 自分達が生き残れるかは、あの電王に掛かっているのだから。


「へぇ……おねぇちゃん、面白いね………」
「俺はおねぇちゃんじゃねえ」
「なんで……? おねぇちゃんはおねぇちゃんでしょ………?」
「……まぁいいけどよ………。体は猫女のだし」
 変身を面白がるカオスを、モモタロスはデンガッシャーで肩を叩きながら適当に流す。
 モモタロスにはカオスに付き合う気は全くなかった。

「んなことよりもその手羽女からさっさと離れろ。
 そいつには山ほど言いたいことがあんだ。勝手に死んでもらっちゃ困るんだよ」
「ふうん……そんなに早く私に愛して欲しいんだ……。
 ……いいよ……先におねぇちゃんに、私の『愛』をあげる……」
「んなもんいるか。ガキはガキらしく、お友達と仲良く遊んでろっつうの」
「じゃあ……おねぇちゃんが私と遊んで……!」

 そう言うや否や、カオスは電王の背後へと一気に加速する。
 ただの人間には反応できない速度。目の前には隙だらけの電王の背中がある。
 その背中を目がけてカオスは勢いよく拳を振り抜き、

「――――――!?」
 電王が咄嗟にしゃがみ込んだことで、あっけなく空振ることとなった。
「そこだァ……ッ!」
 その隙に電王が振り向きながら勢いよく立ち上がり、ついでとばかりに振われたデンガッシャーの一撃を受ける。
 傷は浅い。だがカオスは回避されたことに驚き、思わず距離を取った。

「………びっくり。……おねぇちゃん、よく躱せたね……」
「狙いが単純なんだよ! それよりいきなり何すんだ! 危ねぇだろうが!」
 そう言って電王はカオスへと怒鳴る。
 どうやらまだ戦いは始まってなかったらしい。
 カオスはその事を少し反省し、今度はちゃんと電王が構えを取るのを待つ。

「それじゃあ、今度こそ始めようか……」
「おう、いいぜ。言っとくがな、俺は最初っからクライマックスだぜ!」
「へぇ……それは楽しみ………!」
「そんじゃあ、行くぜ行くぜ行くぜェ―――ッ!!」
 電王は声を上げてカオスへと接近し、対するカオスも両翼を広げて電王を待ち構える。
 そうして今度こそ、二人の戦いは始まったのだった。

602死闘!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:57:06 ID:67iRkwVE0


        ○ ○ ○


「オラオラオラオラァ――――ッ!!」
 電王が形も何もなく無茶苦茶に、デンガッシャーでカオスへと斬り付ける。
 だがカオスはその攻撃を容易く見切って回避し、時には翼を使ってオーラソードを受け止める。
 今の時点で電王の攻撃は、全くカオスにダメージを与えていなかった。

「もう終り……? それとも、もう少し頑張る……?」
「うっせぇ! こっから巻き返すんだよ!」
 翼でデンガッシャーを受け止めたカオスは、挑発的に電王へと声を掛ける。
 これに感情を露わにして、電王はカオスの翼を押し込もうと力を込める。
 が、翼は僅かに撓むだけで、それ以上はピクリとも動かない。

「クスクス……、ならちゃんと避けてね……!」
「んな!」
 カオスは一息にデンガッシャーを押し返し、電王へと右翼を鎌のように薙ぎ払う。
 電王はその反撃を咄嗟に飛びのいて躱すが、カオスはそこに槍のように左翼を突き出す。
 もちろんそれだけでは終わらず、加速さえも駆使した連続攻撃で電王を翻弄する。

「うお! あぶ! このッ! ヤロッ! ヌグッ……!」
「あはは……、あはははは………! どんどんいくよ……!」
 高速で放たれるカオスの翼をどうにか躱し、時にはデンガッシャーで受け流す。
 一撃でも食らえば、即座に切り刻まれるであろう連続攻撃を、電王は辛うじて防いでいく。

「いい加減に……ッ! しろッ!!」
 そして次から次へと繰り出される鋭利な翼による攻撃の中、どうにか見つけ出した隙にデンガッシャーを叩き込む。
 だがデンガッシャーの刃はカオスの体を浅く傷付けるだけで、カオスは僅かにしか動きを止めない。

「それじゃ足りないよ……!」
「グオ……ッ!」
 カオスはお返しとばかりに拳を振り抜き、電王へと反撃する。
 電王は咄嗟に回避しようと後退するが、間に合わずに殴り飛ばされた。
 少女の細腕から放たれているとは思えない一撃に、改めてその脅威を認識する。
 即座に立ち上がり距離を取るが、カオスはその場から動かず、余裕を見せていた。

「俺の攻撃なんかへでもねぇってか? チクショウ!」
『モモの字、お前じゃパワーが足りとらん! 俺に替われ!』
「チィッ、しかたねぇ」
《――Axe Form――》
 キンタロスがモモタロスと入れ替わり、黄色いフォームスイッチを押す。
 同時にオーラアーマーが分離・変形し、ソードフォームからアックスフォームへとフォームチェンジした。

「俺の強さに、お前が泣いた!」
 決め台詞を言うと同時に、首を捻って音を鳴らす。
『ギニャ!? く、首が……』
 直後、フェイリスが痛みに悲鳴をあげた。

『駄目じゃないかキンちゃん。女の子の体なんだから、大事にしないと』
「お、おう。すまん猫娘」
『フェ、フェイリスのことより、あの子を何とかして欲しいのニャ……』
「おう、任せとけ!」
 アックスモードへと変形したデンガッシャーを手に、ドンと胸を叩いてカオスへと歩き始める。
 カオスは姿の変わった電王を見て、興味深そうな視線を向けている。
 だからだろう。カオスは攻撃もせず、目前に立った電王へと不思議そうに声を変えた。

「……ねぇ、それで何が変わったの……?」
「気になるんやったら、試してみぃ」
「うん、いくよ……!」
「おっしゃ来い――!」
 電王の言葉に応じ、カオスは翼を勢いよく突き出す。
 対する電王もそれに合わせ、デンガッシャーを翼に打ち合わせた。

「…………!?」
「ヌウ……ッ!」
 ぶつかり合った両者の武器は、火花を散らしてお互いを弾き合う。
 武器から伝わるその衝撃に、カオスは驚きの声を、電王は苦悶の声を僅かに発する。

603死闘!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:57:35 ID:67iRkwVE0

「……パワーが上がってるね。じゃあ力比べをしよう……!」
「受けて立ったるわ!」
 お互いにその場に留まり、刃をぶつけ合って火花を散らす。
 それは一合では止まらず、二合、三合と回数を増やしていく。

「あははは……! まだまだいくよ……!」
“なんちゅうパワーや……! これがこんな子供の力かいな……!”
 楽しそうに両翼を振るうカオスとは逆に、キンタロスは内心で舌を巻いていた。
 体がフェイリスのものとはいえ、カオスは四人の中で一番力がある自分と平然と打ち合っている。
 しかも少女は飛行能力も、あの超加速移動さえも使っていない。つまりは遊んでいるということだろう。

“やるしか、ない……!”
 このままではいずれ打ち負ける。
 キンタロスはそう確信し、余力があるうちに勝負に打って出た。

「ウオリャアッ!!」
「あ…………!」
 渾身の力を込めて、カオスの放った翼を打ち返す。
 カオスは強く弾かれた翼に引っ張られ、大きく体勢を崩す。

「俺の、勝ちや!」
 カオスに出来た一瞬の隙に、電王は渾身の突っ張りを叩き込んだ。
 装甲に覆われた左手での全力の一撃は、幼い少女の体を容赦なく突き穿ち、勢い良く弾き飛ばす。
 だが―――

『やったか!?』
『モモニャン。それはフラグなのニャ……』
「アカン。手応えなしや」
 モモタロスのセリフにフェイリスが突っ込み、キンタロスが否定する。
 突いたままの掌に残る、明らかに異質な手応え。
 子供特有の柔らかさの下にあった、鋼鉄の塊でも突き飛ばしたかのような感触。
 これが確かならば、カオスは大してダメージを受けていない。
 そしてその予想は正しく、

「………負けちゃった」
 カオスは何事もなかったかのように立ち上がり、気落ちした様子で呟いた。
 やっぱり、という思いとともに、警戒を最大限に強める。
 ほとんど殺す気で打った。死なないまでも、多少は動きが鈍くなればよかった。
 そうでなければ、“次のゲーム”で電王に勝機はない。なぜならば“力”の次は―――

「じゃあこんどは……、速さ比べだ……!」

 ―――“速さ”と相場が決まっているからだ。

「…………ッ!」
 正面から突撃してきたカオスを迎え撃ち、限界まで引き寄せてデンガッシャーを振り下ろす。
 だがデンガッシャーは空振り、逆に背後から攻撃を受ける。
 即座に後ろへと反撃するも、やはり手応えなし。カオスに掠めることもなくデンガッシャーは空振る。
 直後に、今度は真正面から翼で斬り払われた。

「クスクスクス………速さは私の勝ちだね………!」
「グッ……、ヅッ……!」
 自身の勝利を宣言しつつも、カオスは攻撃を止めない。
 ゲームの後の“お楽しみ”ということか、それとも何かしらの反撃を期待しているのか。
 キンタロスが防御力も高かったことと、カオスが速度を優先して一撃の威力が低くなっていたことが幸いし、どうにか攻撃を耐えられている。
 だがこのままではすぐに削りきられてしまう。

「こうなったら、一か八かや……!」
 正面へと飛んできたカオスへと向けて、デンガッシャーを袈裟掛けに振り下ろす。
 それは当然のように少女に語ることなく空振り――
「―――そこや!」
 ――即座に背後へと渾身の力を込めて振り抜いた。 その返し手は背後に回り込んだカオスを確かに捉え、

「クスクス、残念でした……!」
「なにィ……ッ!!」
 その反撃を読んでいたカオスの両翼によって受け止められた。
 電王に攻撃が受け止められたことと、反撃を読まれたことによる動揺で隙ができる。
 その隙を逃すことなく、カオスは先ほどのお返しのように電王へと掌底を叩き込んだ。

「ガッ……!」
 自らの十八番を奪う一撃に、先ほどのカオスと同じように弾き飛ばされる。
 即座に立ち上がるが、やはりカオスは動かない。
 完全に遊んでいるのだ。こちらは本気を出しているというのに。

604死闘!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:58:03 ID:67iRkwVE0

『キンちゃん、交替。力があっても、当たらなきゃ意味ないでしょ』
「はぁ。まったく、敵わんわ」
『ま、女の子の相手は僕に任せてよ』
《――Rod Form――》
 今度はウラタロスと入れ替わり、青いフォームスイッチを押す。
 すると再びオーラアーマーが変形し、ロッドフォームへとフォームチェンジした。

「千の偽り万の嘘。君、僕に釣られてみる?」
『……ウラニャン……子供に手を出すのはさすがにどうかと思うニャ』
「へ? ちょっとフェイリスちゃん?」
『……カメ公。お前ってヤツは……』
『少しは自嘲せい、ちゅうことやな』
『こういうのなんて言うんだっけ?』
「えぇ〜、先輩達まで。みんなちょっと酷くない?」
 皆からのあんまりな扱いに、ウラタロスはがっくりと肩を落とす。
 しかし、戦意をなくしたわけではなく、ロッドモードとなったデンガッシャーを手にカオスへと近づく。

「へぇ、また変わった……。おもしろいね、あなた」
「そう? 楽しんでもらえて何より―――だねッ!」
 そう言うや否や、電王はカオスへと向けてデンガッシャーを振り抜く。
 当然カオスはあっさりと攻撃を回避し、電王の背後へ回り込む。と同時に、回し蹴りがカオスへと飛んできた。
 これまでの経験から、カオスはその一撃を寸前で止まってやり過ごす。

「それはもう効かな――ッ……!」
 だがその直後に振り抜かれたロッドに、後退を余儀なくされる。
 受けたところで大してダメージはないし、痛いのは『愛』なのだから気にしないが、“ゲーム”である以上攻撃を受けるのはよろしくない。

「そら、どんどん行くよ!」
「……………………」
 カオスは次々と振るわれるデンガッシャーを回避し、その隙を狙って電王へと接近するが、その悉くを足技に妨害される。
 デンガッシャーによる攻撃も、足技による妨害も、それ単体ならば問題にはならないが、二つが巧く噛み合わさり、攻撃の機会を掴めなかったのだ。

「ふふ、これは僕の勝ちかな?」
「む…………」
 電王の勝利宣言に、カオスは僅かに頬を膨らませる。
 確かにこちらの動きを読んだような動きに、全く攻撃ができていない。
 だが何もしないうちに勝利宣言をされるのは少し面白くなかった。

「……じゃあ、これならどう……?」
 カオスは再び電王へと加速し、デンガッシャーによる攻撃を回避して回り込み、今までと同じように足技を食らう寸前で停止する。
 だが今度はすぐに後退して振り抜かれたデンガッシャーを回避し、再度同じ位置まで踏み込んだ。
 そして再び攻撃が行われるより速く、鋭利な翼を槍のように突き出す。

「うわっ……と!」
 足技のために体を捻っていた電王は、体勢を崩しながらもより強く捻って突きだされた翼を回避する。
 そしてそこからの追撃を防ぐために、デンガッシャーでカオスの足を薙ぎ払う。

「お…………?」
 足を払われたカオスはバランスを崩し、そこに電王が手を突いた状態から駈け出しながらデンガッシャーを突きだす。
 カオスはそれを回避できず、突きの勢いに体を浮かせた。

“よし。巧くいった”
 己の策の成功に、ウラタロスは内心でそう呟いた。
 カオスのスピードはそう簡単に捉えられるものではない。そこにあのパワーが加われば、もう手がつけられない。
 故にウラタロスはわざと隙を作ることで攻撃を誘導し、その場所に足技による妨害を仕掛けていたのだ。

 どんなパワーもスピードも、相手に触れられなければ意味がない。
 技術もなく、経験も足りないカオスでは、ウラタロスの作戦には気付けなかった。
 あとは上手く挑発して隙の大きい攻撃を誘発し、その隙に大技を叩き込むだけでよかった。

「これで、おしまい……って!?」
 だがカオスを突き浮かしたまま駆け抜け、このまま必殺技を叩き込もうとパスを取り出したところで、電王は作戦の失敗に気づく。
 少女を突き上げているデンガッシャーのロッドヘッドが、その左手にしっかりと掴まれていたのだ。

 電王・ロッドフォームの必殺技は、フルチャージしたデンガッシャーを相手に突き刺し、オーラキャストによって動きを封じてから渾身の跳び蹴りを叩き込む技だ。
 キック自体はオーラキャストによる捕縛がなくても使用できるが、超加速能力を持つカオスを相手に、拘束なしでの必殺技が当たるとは思えない。
 故にオーラキャストによる拘束は必須なのだが、相手にデンガッシャーを突き刺さなければオーラキャストは発生しない。つまり、必殺技は決まらないのだ。

605死闘!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:58:33 ID:67iRkwVE0


「……捕まえた!」
 デンガッシャーを掴んだまま、カオスが飛行能力を応用して道路に足を付ける。
 すると途端に電王の突進は止まり、少しも前に進まなくなる。
 ここにきて、ウラタロスのパワー不足が仇となったのだ。

「うわ……!」
 カオスが左腕だけで電王を持ち上げ、デンガッシャーごと投げ飛ばす。
 地面に落ちた電王は即座に立ち上がり、カオスとの距離を測るが、
「……もう、近付かないよ……?」
 少女から放たれた無数の黒い火球に、さらに距離を取らされる。

「あらら、僕の方が逆に釣られちゃったみたいだね」
『ウラニャン。イエス、ロリータ、ノータッチなのニャ』
「もう、またそういうことを言う」
『カメちゃん、交替。次は僕の番』
「子供の相手は子供ってこと? やってらんないよね」
《――Gun Form――》
 言いながらもリュウタロスと交替し、紫のフォームスイッチを押す。
 三度オーラアーマーが変形し、今度はガンフォームへとフォームチェンジする。

「お前倒すけどいいよね? 答えは聞いてない!」
 言うや否や、ガンフォームとなったデンガッシャーの引き金を引き、カオスへとエネルギー弾を発射する。

『リュウニャン、せっかちな人は嫌われるニャ』
『まぁええんちゃうか? リュウタはまだ子供やし』
『やーい、子供子供ー!』
『先輩、それじゃどっちが子供だかわかんないよ』
『ま、どっちも精進あるのみやな』
「子供子供言わないでよ! ってうおっと……!」
 子供発言に文句を言いつつ、電王は飛来した火球を回避する。
 さらに続けて放たれる火球を躱しつつカオスの方を見れば、カオスは無数の火球を周囲に浮かべて悠然と立っている。

「む……今度は僕の番!」
 連続して放たれる火球の中でリズムを取り、ステップを踏むと同時にカオスへとエネルギー弾を撃つ。
 対するカオスは即座に弾道を予測し、硬質の翼で電王のエネルギー弾を弾く。
 だがエネルギー弾はカオスの弾道予測から少しずれ、頬を掠めて飛んでいった。
 電王の独特な動きによる火球を躱しながらの攻撃が、カオスの弾道予測を僅かに上回ったのだ。

「へぇ……おもしろいね……!」
「だったらもっと楽しもうよ!」
 その言葉に申し合わせるように、同時に攻撃を再開する。
 電王はアクロバティックな動きで火球を躱しつつ、回避の合間にカオスへとエネルギー弾を放つ。
 カオスは周囲に次々と火球を発生させて放ちつつ、攻撃の合間に飛来するエネルギー弾を弾く。
 電王は回避を、カオスは弾道予測を誤れば、それが敗北となる。これはそういう“ゲーム”だった。

「それそれそれそれ! これが限界!?」
「クスクス……、まだまだいくよ……!」
 両者は次第に“ゲーム”のテンポを上げていく。
 同時にお互いの攻撃が際どくなり、徐々に体を掠め始める。
 その中で、電王は勝負を決める行動に出た。

《――Full Charge――》
 次々と放たれる火球を回避しながら、パスをターミナルバックルへセタッチする。
 それによりデンガッシャーへとフリーエナジーがチャージされ、電王の必殺技が発動可能となる。
 そして攻撃の中で姿勢を安定させられるタイミングを掴み取り、デンガッシャーを両手で構えてワイルドショットを発射した。

「これで、どうだ!」
「…………っ!」
 紫電を伴って放たれた強力なエネルギー弾は、降り注ぐ火球をものともせずにカオスへと飛来する。
 それを前にしてカオスが選んだのは、回避ではなく迎撃。火球での攻撃を止め、エネルギー弾へと集中する。
 翼では弾けないと判断し、一際大きな黒炎を発生させてエネルギー弾へと激突させる。

 そして―――結果は引き分け。
 カオスのパワーが勝ったのか、電王のチャージが不十分だったのか、あるいはその両方か。
 電王の放ったエネルギー弾とカオスの放った黒炎弾は数秒の拮抗の後に相殺し、両者の中央で爆散した。

606死闘!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:59:08 ID:67iRkwVE0

「えぇ〜、うそだぁ〜!」
「今度は……私の番……!」
 そう言ってカオスは、その手に再び大きな炎弾を発生させ、レーザーのように放射する。
 電王は咄嗟に回避行動を取るが、完全には回避できず、黒い炎に弾き飛ばされる。
 直撃こそ避けたが、攻撃が当たったことには変わりない。つまり。

「負けちゃったぁ〜!」
 倒れ込んだまま地団駄を踏む。
 四つ全てのフォームで負けた以上、電王一人では勝てないと証明されたのだ。
 であれば、生き残るための答えは一つ。

「……ねぇ、次はどうするの?」
「次? 次はねぇ……そっちはどう?」
 カオスの言葉に応じて電王は問いかけるが、相手はカオスではない。
 電王の言葉に答えるように、一人の男性が電王の隣に歩み出る。

「十分だ。アイツの行動パターンは読めた。
 ……まるっきり子供、まるでガメルだ」
 アンクはそう言ってカオスを睨みつける。
 その眼に先ほどまでの絶体絶命感はなく、代わりに勝利を勝ち取ろうとする強い意志が宿っていた。
 そんなアンクを見て、カオスは実に楽しそうに声を投げかける。

「……おにぃちゃんも一緒に遊んでくれるの……?」
「ま、そういうことだ。と言っても、勝つのは俺たちだがな」
「へぇ……、それは楽しみ……!」
 そう言ってカオスは、威嚇するように翼を広げ、周囲に火球を発生させる。
 その光景を前に、電王が立ち上がり、赤いフォームスイッチを押してソードフォームへと戻る。

「それで? 考えはちゃんとあんだろうな?」
「当然だ。いいか、よく聞け。――――――」
 アンクの作戦を聞き、モモタロスはその大雑把さに思わず呆れる。

「またずいぶんとテキトーな作戦だな、おい」
「仕方ねぇだろ。俺はお前の能力をしらねぇんだ。その場で合わせるしかねぇだろ」
「ま、それもそうか。いいぜ、アドリブ上等! やってやろうじゃねぇか!」
「おい、チャンスは一度きりだ。絶対に失敗するなよ?」
「は! 誰に言ってやがる」
 言いながらも電王は前に出て、戦闘態勢にあるカオスと相対する。
 カオスはソードフォームとなった電王を見て、少し落胆したような表情を見せた。

「あれ……? もう入れ替わりは終わりなの……?」
「うっせぇ! さっきも言ったけどな、俺は最初っからクライマックスなんだよ! 行くぜヤロウ共ッ!!」
《――Full Charge――》
 ライダーパスをセタッチし、必殺技を発動する。
 ターミナルバックルからフリーエネルギーがチャージされ、デンガッシャーからオーラソードが分離する。
 それを見たカオスは好奇心からか火球を消し、笑みを浮かべて両翼を広げる。

「くらえ、俺達の連携技―――!」

 そんなカオスへと向けて、電王はその場を動かずにデンガッシャーを振り抜き、分離したオーラソードを遠隔操作して勢いよく薙ぎ払う。
 カオスはその一撃を両翼で受け止めて弾き飛ばし、電王へと向けて加速する。

 そこに背後から迫るもう一撃。
 カオスの翼に弾かれた赤刃はすぐさま翻り、その背中へと襲いかかる。
 電王へと到達するのはカオスが速い。しかし一撃を加えるのは赤刃の方が僅かに速い。

「……………………」
 カオスは振り返りつつ翼を薙ぎ払い、再度赤刃を弾き飛ばす。
 そしてそのままの勢いで電王を切り裂こうと体の回転に加速を加え、

《――BOMB・MAXIMUM DRIVE――》

 電王の背後から飛来した四つの光弾に、咄嗟に空へと回避する。
 だがそこに逃げることが判っていたかのように、アンクの姿が現れる。

「悪いが、ここは行き止まりだ」
「っ………!」
 そこに逃げることがわかっていたかのように先回りしたアンクに、カオスが驚きで目を見開く。
 咄嗟の回避だったため、即座に次の行動に移る余裕がなかった。
 つまりこの瞬間、カオスにはアンクの攻撃を回避するという選択肢が取れなかったのだ。

「オラァッ!」
 その隙を狙い、アンクが渾身の力を込めて、カオスへとクリュサオルを振う。
 カオスはそれを両腕と両翼で受け止め、

607死闘!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 13:59:33 ID:67iRkwVE0

「そこだァッ!」
「ッ…………!」
 下から襲い来た一撃を、咄嗟に左腕で庇って防御する。
 ズン、と赤刃が左腕を刺し貫く。
 さすがの第二世代の装甲といえど、強力なエネルギーを伴った一撃を片腕で防ぎきることはできなかったのだ。
 だが赤刃はカオスの左腕を貫通することなく突き刺さったまま止まり――――しかし、電王の攻撃はまだ止まらない。

「カメ公ッ!」
『OK!』
 電王の姿が即座にフォームチェンジし、同時にデンガッシャーの形状も変わる。
 カオスの左腕に刺さったオーラソードもロッドヘッドへと変化し、デンガッシャー本体とオーララインで繋がれる。

「大、漁ッ!」
 電王はカオスがロッドヘッドを抜くよりも早く、デンガッシャーを勢いよく振り下ろす。
 左腕をオーララインで繋がれたカオスは、光の糸に引っ張られ地面へと叩きつけられる。
 そこにアンクが再び、空から墜落するような速度でカオスへと向けて飛翔する。

「リュウタ!」
『行くよ!』
 電王も再びフォームチェンジし、アンクに合わせるように駈け出す。
 そして先に早くカオスへと辿り着いたアンクが、力の限りにクリュサオルを振り抜く。
 カオスも左翼で以ってクリュサオルを迎撃するが、落下速度さえも利用した一撃に大きく弾かれる。
 その隙を狙うように向けられたシュラウドマグナムの銃口に反応し、今度は右翼を槍のように突き出して反撃する。
 しかし、その反撃を予測していたアンクは即座にイージス・エルを構えてカオスの翼を防御する。

「…………ぁ」
 盾に弾かれた羽先がアンクの体を掠め、その内の一つがイージス・エルに突き刺さる。
 それによりアンクの進行は止まるが、同時にカオスの右翼も次の動作が出来ない。
 その意味に気付いたカオスは、即座に電王へと向けて火球を放ち、左翼を槍のように突き放つ。

「弾幕薄いよ!」
 しかし電王はあっさりと火球を躱し、体を回転させて翼の攻撃を逸らし、果ては足場に使って飛び上がる。
 ……右翼が封じられたということは、右半身も同時に封じられたということだ。
 火球と翼による迎撃を躱された今、カオスの左半身は完全な無防備を晒していた。

「クマちゃん!」
『任せとけ!』
《――Full Charge――》
 三度電王がフォームチェンジし、同時にデンガッシャーにフリーエナジーをチャージする。
 右半身は封じられ、左翼を引き戻すには時間が足りない。咄嗟に撃てる程度の火球では、今の電王は止められない。
 今のカオスに電王の必殺技を防ぐすべはなかった。


 ―――これこそが、彼らの考えた作戦――ただ一つの勝利への道だった。
 カオスの肌には、浅くはあるが、モモタロスの攻撃で付いた傷がある。
 それはつまり、より力のあるキンタロスの一撃――それも必殺技ならば、カオスに十分なダメージを与えられることの証明だ。

 問題は、その一撃をどうやってカオスに直撃させるかだった。
 カオスにはキンタロスと打ち合えるほどのパワーがあり、炎弾はリュウタロスの必殺技と相殺するほどの威力がある。
 真正面から攻撃したところで簡単に避けられるか、炎弾で牽制されて近づけなくなるだけだ。
 そこで彼らは、どうにかしてカオスの動きを封じ、そこに必殺技を叩き込む作戦を立てたのだ。

 幸いにしてアンクの手には、カオス達と同じエンジェロイドだろう少女の使っていた武器があった。
 これならば少なくとも一撃は、カオスの攻撃を防ぎきれると判断したのだ。
 そしてその読みは正しく、カオスの翼をクリュサオルは弾き飛ばし、イージス・エルは防ぎ切ってその動きを止めた。
 結果として彼らの作戦は、この上なく見事なまでに成功したのだ。

 ……惜しむらくは、彼らがエンジェロイドという存在に関して、ほとんど何も知らなかったということだ。

608死闘!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:00:09 ID:67iRkwVE0


「ウォリャアアア―――ッッ!!!」

 正真正銘の必殺技を、カオスへと向けて渾身の力で振り下ろす。
 対するカオスは電王へと向けて左腕を掲げる以外に、何もすることができない。
 そうして黄色い閃光を伴った必殺の一撃は、余すことなくその力を炸裂させた。
 ―――だというのに。

「なッ、何ィ……ッ!!」
「まだ、こんな手が残ってやったか……ッ!」
 電王が驚愕の声を上げ、アンクが悔しさに歯軋りをする。
 彼らの眼前には、信じがたい光景が映っていた。

「クスクス……クスクスクス………!」
 必殺技の直撃を受けたはずの少女の笑い声が響く。
 渾身のダイナミックチョップは、少女に傷一つ付けることなく終わった。
 振り下ろされたオーラアックスは、掲げられた少女の左手の、ほんの数センチ手前で光の障壁に遮られていた。


 ―――“aegis=L(イージス・エル)”
 それが、電王のダイナミックチョップを防いだ障壁の正体だった。

 カオスには、電王の攻撃を防ぐ術がなかった。必殺技を受ける“一瞬前”までは。
 しかし、アンクが翼による攻撃をイージス・エルで防ぎ、盾に翼が突き刺さったことによって、カオスの最も恐るべき能力の発動条件が満たされてしまった。
 そう。カオスは必殺技を受ける直前に、自己進化プログラム“Pandora(パンドラ)”によってイージス・エルの機能を吸収し、電王の攻撃を防ぎきったのだ。

 ……彼らの敗因は、二つの無知があったことだ。
 一つはカオスの能力“パンドラ”を知らなかったこと。
 だがこれはカオスの詳細を知るものでなくば、知りようのなかったことだ。彼らを責めるのは酷だろう。
 しかしもう一つの敗因。アンクが己の持つ武具の機能を知らなかったことが、致命的な敗因だった。

 あるいは、“クリュサオル”の機能を知っていれば、最初に空へと回り込んだ時点でカオスに大ダメージを与えられていたかもしれない。
 あるいは、“イージス・エル”の機能を知っていれば、カオスの翼を完全に弾き飛ばし、機能を吸収されることもなかったかもしれない。
 どちらもアストレアの戦いを一度でも見ていれば、知り得たかもしれないことだった。
 その知り得たかもしれないただ一つの機会を、アンクは掴み損ねていたのだ。

「クスクスクス………! ざんねん、ゲームオーバーだね………!」
 カオスの周囲に、無数の黒炎が発生し、同時に風が渦を巻き始める。
 それに気づいたアンクと電王は、即座にカオスから距離を取ろうとする。
 だがそれより速く炎と風は混じり合い、黒き炎の風となって二人を飲み込んだ。


        ○ ○ ○


「アンク! フェイリスさん!」
 二人が黒炎に飲み込まれた光景を見て、弥子は声を上げた。
 そのまま思わず駈け出そうとして、すぐに足を止める。
 自分が行ったところで何にもならないと、正しく理解しているからだ。
 だからと言ってこのまま何もしないでいるのは嫌だった。

「何か……アンク達を助ける方法は―――」
 必死に頭を働かせて、現状を打破する方法を模索する。
 そうして弥子は弾かれた様に顔を上げ、ある一点へと視線を向けた。
 彼女の向ける視線の先には、倒れ伏したままアンク達を見つめるイカロスの姿があった。



「グオ……ッ!」
「ガア……ッ!」
 黒炎に飲まれた直後、アンクは飛行能力を全力で行使することで炎の中から脱出する。
 それにより光剣を取り落としてしまったが、メダルを零しつつもダメージを最小限に抑えることには成功させる。
 だが電王は黒炎の旋風をまともに受け、変身を強制解除されてメダルを零しながら地面に倒れ伏す。
 黒炎の旋風による攻撃はキンタロスが受けたとはいえ、戦いを知らぬ少女の体にはダメージが大きかったのだ。

「チッ……」
 そんなフェイリスの様子を見て、アンクはもう反撃の手がない事を悟る。
 クリュサオルは取り落とし、イージス・エルは砕かれ、残った武装はシュラウドマグナムただ一つ。
 電王の協力もなく、この武器だけでカオスを相手にするのは不可能だ。

609死闘!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:00:35 ID:67iRkwVE0

「遊びはもうおわり……? なら、次は私の『愛』をあげるね……」
 そう言ってカオスは、散らばったメダルを回収しながら歩み寄って来る。
 回収されたメダルの中には、自分達が零した二枚のコアメダルも含まれていた。
 倒れ伏すフェイリスを無視してアンクへと向かっているのは、彼女がもう動けないからか。
 対するアンクは、逆に逃げるように一歩、また一歩と、少しずつ後ろへ下がって行く。

「逃げてもむだだよ……おにぃちゃん……」
「……………………」
 少しずつ迫りくるカオスの声に、アンクは答えない。
 彼とて、逃げることが無駄なのは理解している。
 今のアンクには、カオスの速度から逃げ切れる速さがない。
 真正面からのぶつかり合いでも勝てなかった以上、アンクに助かる術はないのだ。
 ………それを理解してなお、彼が足掻き続けるのは何故か。

「クスクスクス………!」
「……………………」
 カオスが一歩前に進めば、アンクもまた一歩後ろに下がる。
 しかし、どれだけアンクが後退したところで意味はない。
 少女が一気に距離を詰めないのは、それを理解しているが故の余裕だった。
 だが――――

 さらに一歩、前へと進む。だがアンクは、それ以上下がらなかった。
 アンクの唐突な停止に、嗜虐的な笑みを浮かべていたカオスは、不思議そうな顔をする。

「諦めたの……? おにぃちゃん……」
「いや、これ以上下がる必要はないだけだ。お前はもう少し周りを見るべきだったな」
「え……?」
 アンクの言葉に、カオスが首を傾げた。
 ――直後。強く風を切る音が少女の耳を打つ。

「ッ…………!」
 咄嗟に全力で加速し、即座にその場所から離れる。
 直後。風を切り裂く鋭い音が、カオスの耳を打った。
 完全な不意打ちを回避して見せたカオスに驚嘆するべきか、
 ―――あるいはその超加速能力の本来の持ち主を称えるべきか。

「イカロスおねぇさま……!?」
 カオスを急襲したのは、先ほどまで倒れ伏してしていたはずのイカロスだ。
 彼女の手には、先ほどアンクが取り落としたクリュサオルが握られている。
 そしてこれこそが、アンクが頼みの綱とした最後の悪足掻きだった。

 アンクはカオスの背後。イカロスが倒れていたはずの場所へと視線を向ける。
 そこにはいつの間に移動したのか、弥子の姿があった。
 この場でアンクと電王以外にカオスに対抗できるのはイカロスだけ。
 そう。弥子はアンク達を助けるために、イカロスに己が命運を預けたのだ。


「――――――――」
 そうしてイカロスは、カオスと相対したまま己が戦力を再確認する。
 まず弥子から協力の対価に譲り受けたセルメダル五十枚。これだけあれば、十分に戦闘行動は可能だ。
 そして超振動光子剣“Chrysaor(クリュサオル)”。これを手に出来たことは大きい。
 これらに“アルテミス”、“ヘパイストス”、“イージス”があれば、現在のカオスにも勝算はある。

「またイカロスおねぇさまが遊んでくれるのね……!
 でもおねぇさまだけ武器を持つのはずるい……。だから私も、武器を使うね……!」
 そう言ってカオスは、“地面に落ちていた”自らの背丈を越える長い杖を掲げ、

「―――“Demeter(デメテル)”起動………」

 その言葉と共に、豊穣の女神の名を持つ杖が起動した。
 エンジェロイドさえも吹き飛ばしかねない暴風が、カオスを中心として荒れ狂い始める。
 それは無数のカマイタチを生み出し、イカロスへとその刃を叩き付ける。

 カオスの掲げるその杖は、エンジェロイドへと改造された風音日和が、気象兵器“デメテル”を発動する際に使用したものだ。
 この杖自体に気象操作能力があるのか、それとも杖は単なる制御装置にすぎないのかは判らない。
 だがカオスがウェザーメモリを吸収し、その能力を得ていたことにより、“デメテル”は確かな形で発動したのだ。

「っ、羽が……! “aegis”展開……!」
 翼を切り裂く風の刃を防ぐために、イカロスはイージスを展開する。
 周囲に展開されたバリアは風の刃を打ち消し、一応の安全を得る。
 だがこのままジッとしていても、こちらの方が先にメダルが尽きるだろう。

610死闘!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:01:07 ID:67iRkwVE0

「いくよ……イカロスおねぇさま。もっと『愛』を教えてあげる……!」
 そう言ってカオスは、上空へと飛び上がりながらさらに暴風を放つ。
 近づけさせないつもりか。と即座に判断し、いよいよ後がない事を悟る。
 故にイカロスは、短期決戦で決着をつけることを決意した。

「これでもう、終わらせる……!」
 そう宣言すると同時に、イカロスはイージスを解除してアルテミスを発射する。
 そしてそれに追従するように飛翔し、カオスへとクリュサオルを振り抜く。
 対するカオスはアルテミスを両翼で迎撃し、イカロスへと黒炎弾を放つ。

 ――――そうしてさらなる上空へと飛翔しながら、二人のエンジェロイドの戦いは、ついに終わりへと加速を始めたのだった。



「あれは……! くそ……ッ、失敗した!」
 一方アンクは、カオスが拾った杖を見て咄嗟に自身のデイバックを確認し、盛大に罵声を吐く。
 なんと、アンクの背負うデイバックの一つに、穴があいてしまっていたのだ。
 その穴がいつ出来たかは予想が付く。
 カオスの翼を防いだ時に切れ込みができ、最後の炎に焼かれて切れ込みが一気に広がったのだ。支給品を落としたのも、大方その時だろう。

 問題は、カオスが拾った支給品だった。
 穴の開いたデイバックには、使い方の解らない物、使う気のない物を纏めていた。
 そしてカオスの使用した長い杖は、使い方の解らない支給品の典型だった。だが。

「まさかあの杖に、あんな能力があったとはな……!」
 そう言って歯噛みし、周りを見るべきなのは自分もだったかと舌打ちする。
 視線を上げれば、空では文字通りの嵐が巻き起こっていた。




 巨大なカマイタチを叩き斬る様に迎撃し、高速で接近してクリュサオルを薙ぎ払う。
 その一撃を一瞬で加速して回避し、無数のカマイタチと共に雨のように火球を放つ。
 上空から降り頻る風と火の雨を旋回して躱し、お返しとばかりにアルテミスを放つ。
 両翼でアルテミスを迎撃しつつさらに距離を取り、炎弾を放ってデメテルを掲げる。

「く、ぅう………ッ!」
「あはははは………!」
 荒れ狂う暴風の中、イカロスは翼を切り裂かれながらもカオスを追い縋る。
 余裕のない表情のイカロスと、喜悦の表情を見せるカオス。
 同じエンジェロイドでありながらも、二人の表情はどこか対照的だった。

 カオスとイカロス。お互いの持つ武装の性能は互角だろう。
 エンジェロイドとしての性能は、加速能力の差でカオスが上。
 これまでに蓄積された戦闘経験は――イカロスが圧倒的に上。
 だがイカロスとカオスでは、メダルの残量に圧倒的な開きがある。
 今の状況からカオスを撃墜するには、唯一勝る戦闘経験を最大限に生かすしかない。
 故に、翼がこれ以上傷を負う前に、イカロスは一気に勝負を決めに出る。

「ッ……“Artemis”発射――!」
 カオスへ向けてアルテミスを発射し、攻撃のために即座に加速して接近する。
 対するカオスは再び両翼を使ってアルテミスを迎撃し、即座にイカロスから距離を取る。

 セルメダルの残量が残り少ない今、カオスと違いイカロスは自由に攻撃することが出来ない。
 故にクリュサオルの機能を活かせる接近戦へと持ち込もうとしているのだが、カオスはイカロスを近づかせようとしない。
 カオスとて接近戦に持ち込まれれば不利になるのは解っている。
 だからこそカオスはイカロスから距離を取り、イカロスはカオスへと距離を詰めようとしている。
 つまり二人の戦いは、自分に有利な距離に持ち込んだ方が価値を得る闘いなのだ。
 そして――――

「“超々高熱体圧縮対艦砲(Hephaistos)”起動………発射!」
「ッ…………!」
 イカロスはカオスの行動を完全に先読みして回り込み、驚きに動きを止めたカオスへと“ヘパイストス”を撃ち放つ。
 完全に予測された。回避は不可能。カオスはそう判断し、即座に左手を掲げイージス・エルで防御する。
 ピンポイントでの防御力ならばイカロスをも上回るイージス・エルは、ヘパイストスを完全に防ぎきる。
 だが―――

611死闘!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:02:56 ID:67iRkwVE0

「いーじす……!?」
 防御のために動きの止まったカオスの周囲に、イカロスのイージスが展開される。
 絶対防御圏とも呼ばれるイージスは対象の全方位を完全にカバーし、アポロンをも完全に封殺しきるほど強力なバリアだ。
 もしイージスを正攻法で破ろうと思うならば、クリュサオルかそれに匹敵する破壊力を持ってくるしかない。
 そしてこのイージスを応用して敵を捕らえた時、強靭な“盾”は転じて堅牢な“檻”となるのだ。

「捕まっちゃった…………」
「これでもう……逃げられない……」
 イージスを破壊する手段のないカオスに、この“檻”から逃れるすべはない。
 そしてイカロスの手には今、イージスを容易く斬り裂く光剣が握られている。
 クリュサオルにエネルギーを注ぎ込み、その刀身を電光と共に極大化させる。

「さようなら、カオス」
 イカロスの別れの言葉とともに、クリュサオルが振り抜かれる。
 全てを切り裂く光の剣は、中に閉じ込められているカオス諸共にイージスを斬り裂き、そのエネルギーを炸裂させた。


「……………………」
 イカロスは無言で、クリュサオルの炸裂により生じた爆煙を見据える。
 攻撃が直撃したのならば、カオスに動いていられる道理はない。
 だがカオスの性能は未知数だ。
 もし仮に、クリュサオルを耐え凌げる手段があったとすれば、それは即ち――――

「クスクス……クスクスクス………」
 笑い声と共に、爆煙が風に吹き散らされる。
 カオスは今だ健在。元より襤褸切れだった衣服を完全に失いながらも、悠然と空に浮いている。
 体の至る所に見て取れる焼け焦げた跡と、亀裂の入った両翼がダメージと言えばダメージか。
 ……だがそんなものは、自己修復で容易に直せる範囲でしかない。

 カオスがクリュサオルの一撃を耐え凌げた理由は、彼女に二枚の“盾”と一つの“経験”があったからだ。
 彼女には一度、アストレアとの戦闘でクリュサオルの一撃を受け、左腕だけを喪失して生き延びた経験があった。
 即ち、クリュサオルの威力、性質、対処法を、身を以って知っていたということだ。
 その“経験”に加え、二枚の盾、“イージス・エル”“デメテル”の二つを最大限活用することで、カオスはイカロスの一撃を凌ぎ切ったのだ。


「っ…………!」
 カオスの生存という結果に、イカロスは臍を噛む。
 持ちうる武装全てを使った必殺の一撃。これが失敗した今、カオスに対抗する手段は一つ。
 即ち、加速能力で勝るカオスを相手に、接近戦を挑む。それ以外に残されていない。
 メダルも残り少ない今、イカロスの勝機は限りなく低かった。

 ……だが、ただでさえ低い勝機をゼロにする一手が、カオスの手によって打たれた。

「こんどは、私の番だよ……!」
 カオスが杖を掲げると同時に、周囲で吹き荒んでいた風の向きが変わる。
 イカロスへと叩き付けられていた暴風は、今度はカオスの頭上へと集束し始める。
 そこにカオスが自らの黒炎を巻き込ませ、瞬く間に巨大な黒炎球を発生させる。
 ―――まるで黒い太陽。地に堕ちた日蝕の具現が、そこにはあった。

「っ、“aegis”展開!」
 暴風によって切り裂かれた翼に、黒い太陽から逃れられる機動力はない。
 故にイージスによる防御で、その一撃を耐えきろうと判断する。
 ……しかし、イージスのバリアは数秒と経たずに消失した
「!? まさか……メダルがもう……!」
 そう。カオスへと怒涛の連続攻撃を行ったイカロスには、イージスを展開し続けるだけのセルメダルが残されていなかったのだ。
 セルメダル五十枚。弥子がイカロスに預けた命の分量。即ち、信頼の重さ。
 カオスを倒し切るには、イカロスに対する弥子の信頼が足りていなかった。ということだった。

「クスクス……さようなら、イカロスおねぇさま……。
 最後に、私のせいいっぱいの『愛』をあげるね………!」
 いつかのお返しのように、カオスは別れの言葉を口にする。
 そして審判を下すが如く、イカロスへと杖を振り下ろした。
 それに導かれるように、地上へと黒い太陽が墜ちてくる。

「………マス……ター…………」
 自身に迫る黒い太陽に対し、ロクな抵抗をすることも出来ないまま、
 イカロスはその言葉を呟き、黒い太陽に飲み込まれていった――――。

612愛染!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:04:40 ID:67iRkwVE0


        ○ ○ ○


「おい、いつまで寝転がってやがる。さっさと起きろ」
「……………………」
 倒れ伏すフェイリスを見下ろしながら、アンクは苛立たしげに声をかける。
 ほとんど八つ当たりに等しい言い方だったが、フェイリスは特に何かを言うこともなく立ち上がる。
 だがすぐにふらつき、アンクの肩を借りることでようやくバランスを取る。
 オーラアーマーのおかげで目立った怪我はないが、やはりダメージが大きいのだろう。

「ありがとうなのニャン……」
「フン」
 力なくお礼を言うフェイリスを慮ってか、アンクは特に何も言わない。
 そのままフェイリスの肩をしっかり抱えて、弥子の元へと歩き始めた。

「アンク! フェイリスさん! 大丈夫!?」
 そこに弥子の方から、アンク達の元へと駆けつけてきた。

「おい弥子、アイツを動かしたことは褒めてやる。報酬にアイスをくれてやる」
「え!? 本当!? ありがとう!」
「だがそれは後でだ。今はここから逃げるぞ」
 そう言ってアンクは空での戦いを一瞥し、すぐに背を向けて歩きだす。
 アンクとイカロス。どちらが生き残っても、ロクな事にはならないからだ。
 彼女達に抗う力がない以上、今のうちに逃げるのが最善の選択だ。

「――風が……変わった?」
 そう判断して歩き出した時、アンクは不意に風が変わったことに気付く。
 直後、空へと吸い込まれるように、先程までとは真逆の方向に風が吹き始めた。
 それに釣られて空を見てみれば、カオスを中心として嵐が吹き荒んでいた。
 だがそれもすぐに緩やかになり、

「そんな………嘘でしょ…………?」
 カオスの頭上に、空に黒き太陽が出現する。
 その圧倒的な力の具現を見て、弥子が信じられないと声を漏らす。
 そうして驚く間もあればこそ、黒い太陽はイカロスを飲み込み、風と炎を撒き散らして消えた。
 後に残ったのは、傷だらけになって地上へと落ちていくイカロスの姿だけだった。

「アルニャン―――!」
「な! 待て、この馬鹿!」
 地面に落ちたイカロスを見て、フェイリスが思わず駈け出した。
 それを見咎めたアンクが、フェイリスを追いかける。




 地面に倒れ伏すイカロスへと向けて、フェイリスは一心不乱に走る。

『おい、何やってんだ猫女!』
『フェイリスちゃん、危険だから早く戻って!』
『猫娘! 無茶するんやない!』
『ダメだよネコちゃん! 危ないよ!』

 体の痛みも、モモタロス達の制止の声も、今は気にも止まらない。
 今は何よりも、イカロスの元へ駆け付けることの方が重要だった。
 だというのに。

「待てって言ってるだろ馬鹿が! 死ぬつもりか!」
「離してニャ! アルニャンが……、アルニャンが!」
 アンクに腕を掴まれ、ようやくフェイリスの足が止まる。
 フェイリスはアンクの腕を振り解こうとするが、一向に振り解けない。

「少し落ち着け! 近くにはカオスがいるんだぞ!」
「けど、アルニャンが……!」
 アンクのその言葉に、フェイリスはようやく我に返る。
 しかし諦めきれないのか、視線はイカロスの方を向いたままだ。
 そのイカロスの側に、カオスがゆっくりと降り立った。

613愛染!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:06:00 ID:67iRkwVE0

「イカロスおねぇさま、まだ生きてる………。上手く集束できなかったのかな……?
 う〜ん………やっぱりまだ、ちゃんと制御できてないなぁ………」
 イカロスの状態を見て、カオスが不満げに呟く。
 少女としてはあの黒い太陽でしっかり“愛して”あげるはずだった。
 だが能力を使い慣れていなかったからか、黒い太陽はイカロスを飲み込むと同時に解けてしまったのだ。

「……まあいいや。こんどはちゃんと愛してあげるね、イカロスおねぇさま………」
 そう言ってカオスは両翼の先端をイカロスへと向ける。
 これで動力炉を破壊して“殺し”、パンドラで吸収して“食べれ”ば、カオスの『愛』は達成される。
 その時を想い、カオスは愉悦の表情を浮かべ、

「フ、フニャアアァァアア――――ッッッ!!!!」

 アンクの腕を振り払うと同時にパスをセタッチし、電王・プラットフォームへと変身しながらフェイリスはイカロスの元へと駈け出した。
 そしてデンガッシャーをソードモードへと連結し、渾身の力でカオスへと向けて振り下ろす。
 だがイマジンの力を借りていない電王にカオスを止められるはずもなく、フェイリスはカオスの翼にあっさりと弾き飛ばされ、再び変身を強制解除される。

「何やってんだこの馬鹿!」
「……………………」
 フェイリスの愚行にアンクの怒鳴り声を上げるが、それに応えることなくフェイリスは立ち上がる。
 まっすぐに顔を上げた少女の瞳には、ただイカロスのことだけが映っていた。

「フェイリス……さん。どう……して………?」
「アルニャンは………アルニャンも、フェイリスの友達のニャ………。
 友達を助けるのは………当たり前のことなのニャ―――ッ!!」
「――――――――」
 イカロスの力ない問い掛けに、フェイリスは叫び声で答える。
 その答えにイカロスは目を見開き、言葉を失った。
 どうしてこの少女は、彼女を殺そうとした自分をまだ友達と呼んで、それどころか助けようとするのだろう、と。
 そんなイカロスを余所に、カオスはフェイリスへと向き直った。

「どうしたの、おねぇちゃん……? おねぇさまより先に『愛して』ほしいの……?
 ……大丈夫だよ。ちゃんとみんな、きちんと『愛して』あげるから………。
 愛して殺して愛して殺して愛して殺して愛して殺して愛して殺して愛して――――ッッ!!!!」
「違うニャ――――ッッ!!! そんなのは『愛』なんかじゃないニャーッ!」
「――――――――。
 ………おねぇちゃんも、あのおにいちゃんと同じこと言うんだね………」
 二度目となるその否定に、カオスは顔を伏せる。
 ……まただ。また違うって言われた。仁美おねぇちゃんと見つけた、私だけの『愛』なのに。
 ………どうして違うって言われるのだろう。あのおにぃちゃんは答えてくれなかった。このおねぇちゃんは、答えてくれるのかな?

「違うって言うなら、答えてよ…………教えてよ、おねぇちゃんの『愛』をッ!!」

「フェイリスの……『愛』?」
 そう言って真っ直ぐに見詰めてくるカオスを見て、フェイリスはそれが彼女のキーワードなのだと察した。
 だからこそ真摯に、偽りなく、ありのままに、自らが信じる『愛』を言葉に紡ぐ。

「フェイリスの『愛』は………日溜まりの温かさ……なのニャ」
 そうしてフェイリスは、心の中に一人の男性を思い浮かべながら、カオスを真っ直ぐに見つめて答えた。

「一緒に遊んだり、笑ったり、お話したり、手を繋いだり………。
 そうやって大好きな人と一緒にいる時に感じる温かさが、私にとっての『愛』……」
「――――――――」
 その答えにカオスは、応えない。ただ強く口を噤んで俯いている。

「貴女の『愛』じゃ、寂しいまま。殺すのが『愛』じゃ、一人ぼっちのまま。
 それが貴女の『愛』だなんて、そんなの悲しすぎるよ……ッ!」
「――――――――」
 フェイリスの答えは………彼女の語った『愛』は、カオスにも覚えのあるものだった。
 志筑仁美と共に行動したのは、ほんの二、三時間だけだった。
 それでも彼女と一緒に過ごした時間は――繋いだ手は、温かく感じた。
 ………彼女の傍で感じたその温もりは、とてもとても心地良かったのを覚えている。

614愛染!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:06:53 ID:67iRkwVE0

 ああ、けれど……だからこそ――――

「………嘘だ………」

 ―――少女はその『愛』を、認めるわけにはいかなかった。

「嘘だ、嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘だッ! そんなの嘘だッ!!
 “これ”が『愛』だもん………“この『愛』”が仁美おねぇちゃんと一緒に見つけた、私だけの『愛』なんだもん――――ッ!!!」
 カオスは頭を振って、駄々をこねる様にフェイリスの答えを否定する。
 認めない。認められない。その『愛』だけは、認めることはできない。
 だって……だって、その答えを認めてしまったら――――

「だって……『愛』ってとっても痛いんだよ………?」
 そう言ってフェイリスを見つめる少女の顔は、今にも泣きだしそうに笑っていた。

「だから教えてあげる……! 私だけの『愛』をッッ!!!」
 デメテルを頭上へと掲げ、その能力を限界まで発動させる。
 力を制御することも、それによって起こる現象も考えにはない。
 少女はただ、己が『愛』を証明するためだけに、その天威を振りかざした。

 ――――瞬間。
 風が、今までの比でなく暴威を振るう。
 有象無象の区別なく、何もかもを巻き込み、飲み込んでいく。

「アンク! これって一体……ッ!」
「いいから掴まれ! 吹き飛ばされるぞ!」
「あ、アルニャン……! 早くこっちに――――!」
「………カオス………」

 吹き飛ばされぬ物は、大地に固定された建物くらいだ。
 それ以外の物は残らず空へと吹き飛ばし、そして――――

「あはは……! あははははははははは――――ッ!!」

 後にはその力を振った少女だけが取り残された。
 周囲には何もなく、誰もおらず、たった独りきりで――――


        ○ ○ ○


 風を叩き、体勢を整えて、地面へとどうにか無事に着地する。
 人間二人を抱えての作業は困難を極めたが、上手くいった以上今は何も言うまい。

「どうにか……、生き延びれたな………」
「だね………」
「……………………」
 民家の外壁に背中を預け、肩で息をしながらそう口にする。
 正直に言って、あの場面、あの状況で、自分達が生き残れるとは思わなかった。
 だがフェイリスの言葉で激高したカオスが、何もかもを吹き飛ばすという暴挙に出たことで、結果として生き残ることができた。
 そういう意味では、フェイリスに感謝してやってもいいかもしれない。だが。

「お前、どういうつもりだ。何であんなマネをしやがった」
「……………………」
 フェイリスの取った行動は、アンクの癇に酷く触るものだった。
 結果として生き延びたとはいえ、あの時の彼女の行動は、無謀以外の何物でもなかった。
 そんな自分から死にに行くような行動が、アンクにはこの上なく腹立たしかった。
 だがフェイリスはアンクの問いに答えず、どこかへと歩き始める。

「ちょっと、フェイリスさん?」
「おい、どこに行くつもりだ」
「……アルニャン達を……探すニャ」
「そんな……無理だよフェイリスさん!」
「その通りだ。ここからどうやってあいつ等を探すつもりだ?」
「……それでも、探しに行くのニャ」
「チッ、馬鹿が……ッ!」
 フェイリスの答えに舌打ちをし、腕を掴んで無理やりに止める。
 たとえこんな少女であっても、『仮面ライダー』である以上貴重な戦力だ。
 勝手にどこかに行かれて、そのまま野垂れ死にされては困るのだ。

615愛染!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:08:04 ID:67iRkwVE0

「離すのニャ……」
「そんな体で動き回るつもりか? 殺し合いに乗ったヤツに見つかれば、簡単に殺されるぞ」
「それでも構わないのニャ! フェイリスは、アルニャン達を探しに行くのニャッ!」
「――――――ッ! ふざけんな!!」
 殺されても構わない。その言葉に、アンクの我慢がついに限界を超えた。
 アンクはフェイリスの胸倉を掴み上げ、怒りのままに怒鳴り散らす。

「ふざけんなよお前! 殺されても構わないだと!? 死んじまったら、アイスも何も食えねぇだろうがッ!!」
「友達を見捨てて食べたアイスなんて、美味しくなんかないのニャッ!」
「ッ――――――!」
 だがフェイリスの言葉に、アンクは怒りの矛先を見失う。
 そんなアンクの腕を振り解き、フェイリスは再び歩き始める。

「アルニャンも……ベーニャンも……フェイリスなんかより、ずっと大きな怪我をしているのニャ……。
 このままだったら、それこそ誰かに殺されちゃうかもしれないのニャ……。
 フェイリスは……フェイリスはそんなのイヤなのニャ……。友達が死ぬのは、もう見たくない……ニャン…………」

 だがフェイリスは、数歩と歩かぬうちに力尽きて崩れ落ちた。
 当然だ。戦いを知らぬ少女が、いきなりあれだけの戦闘を行ったのだ。
 体が限界を超えない方がおかしい。

「アルニャン………ベーニャン………マユシィ………」
「フェイリスさん………」
「……………………」
 三人の少女の名を呟いてフェイリスは気を失った。
 そんな彼女を、アンクは無言で背負い、ゆっくりと歩き始める。
 その際に、右手に掴んだ一枚の鳥類系コアメダルを見つめる。
 そのコアメダルは、イカロスがカオスに撃墜された際に拾ったものだ。

 “―――友達を見捨てて食べたアイスなんて、美味しくなんかないのニャッ!―――”

 アンクがアイスを好んで食べるのは、それが“美味い”からだ。
 そこに美味い物を食べたいという欲望があるからだ。
 そうでなければ、わざわざ物を食べようとは思わない。
 ――それだけに、フェイリスのその言葉は、アンクの心に強く響いた。

「クソッ……!」
 右手をコアメダルごと握りしめ、感情のままに近くの壁を殴りつける。

 コアメダルは順調に集まっている。残るはあと三枚。
 この調子ならば、きっとすぐに集まる。何も気にする必要はない。
 ……だというのに、湧き上がるこの苛立ちは一体何だというのか。
 答えの見つからぬまま、アンクは少女を背負い、安全に休める場所を求めて歩きだす。


 その後をついて行きながら、弥子はアンクの背中を見つめていた。
 先ほどの戦いで、弥子はアンク達を救うための機転を利かせることが出来た。
 だがその事に弥子は、満足することが出来なかった。

 弥子がしたのはイカロスにセルメダルを譲るだけで、彼女自身は何も出来なかったからだ。
 もしあの時、イカロスが弥子を殺す気になっていれば、間違いなく殺されていた。
 そんなことでは、真に力になれたとは言えない。
 だから弥子は、もっとちゃんとした形で、皆の助けになりたいと、そう思った。

616愛染!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:09:47 ID:67iRkwVE0


【一日目-夕方(放送直前)】
【E-5/路上】

【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー代理
【状態】ダメージ(中)、疲労(小)、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感
【首輪】140枚:0枚
【コア】タカ(感情A):1、コンドル:2、カマキリ:1/クジャク:3、コンドル:1(一定時間使用不可)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品×5(内二つ弁当二つなし)、{地の石@、ケータッチ}@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、大量のアイスキャンディー、大量の缶詰、不明支給品0〜1
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。
 0.自分の不可解な感情に苛立ち。
 1.急いで安全に休める場所に向かう。
 2.もう一人のアンクを探し出し、始末する。
 3.殺し合いについてはまだ保留。
 4.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
【備考】
※カザリ消滅後〜映司との決闘からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て取り込んでいます。
※鳥類系コアメダルを半分以上取り込んだため、飛行能力、火炎操作能力をある程度取り戻しました。

【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無所属
【状態】気絶、ダメージ(中)、疲労(大)
【首輪】60枚:0枚
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダーディケイド
【道具】なし
【思考・状況】
基本:脱出してマユシィを助ける。
 0.――――――――。
 1.アルニャン(イカロス)達を探しに行きたいニャ……。
 2.凶真達と合流して、早く脱出するニャ!
 3.変態(主にジェイク)には二度と会いたくないニャ……。
 4.桜井智樹は変態らしいニャ。
 5.イマジン達は、未来への扉を開く“鍵”ニャ!
 6.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ。
【備考】
※電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスが憑依しています。
※イマジン達がフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみです。
※ラウズカードの使用方法を知りません。

【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青
【状態】健康、精神的疲労(中)、深い悲しみ、自己嫌悪
【首輪】60枚:0枚
【装備】桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)@魔法少女まどか☆マギカ、
【道具】基本支給品一式、魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero、赤い箱(佐倉杏子)
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.もっと、ちゃんと皆の力になりたい。
 1.アンク達と一緒に、安全な場所に向かう。
 2.美樹さやかに頼み込んで佐倉杏子を復活させる。
 3.他にも杏子さんを助ける手段があるなら探す。
 4.ネウロに会いたい。
 5.織斑一夏とカオス、あと一応イカロスは危険人物。
【備考】
※第47話 神【かみ】終了直後からの参戦です。

617愛染!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:11:00 ID:67iRkwVE0


        ○ ○ ○


「――――システムスキャン開始……オールイエロー。
 自己修復プログラム開始……エラー。自己修復プログラムは強制停止されました……」

 自身の状態を確認し、自己修復を開始しようとするが、プログラムが働かない。
 そこですでに自身のセルメダルが尽きていたことを把握する。
 だが特に問題ではない。ダメージは大きいが、行動できないわけじゃない。
 セルメダルも、マスターのために行動すれば自然と回復するだろう。
 やるべきことは変わらない。少しでも早く、本物のマスターに会う。それだけだ。

 “―――どうせ今のアルニャンには―――”

 マスターには必ず会える。そんな言葉など気にする必要はない。
 今は何よりも、マスターと合流することを優先すべきだ。
 一刻も早くマスターと合流して、それで――――

 “―――一緒にいたベーニャンのことも信じられないアルニャンには”

 それで、どうしようというのだろう。
 私はただマスターに会いたいだけで、それ以外のことなど何も考えていない。
 考える必要も、ない。だから、

 “―――その人を本物だって信じることが―――”

 忘れろ。忘れろ!忘れろッ!!
 彼女は“敵”た! 『記憶にないもの』はみんな“敵”だ!
 “敵”の言うことなど気にするな! “敵”の記憶など全て消去して―――

「ッ――――――!」

 消去して……しまえばいいのに……。
 どうして、こんなにも躊躇いを覚えるのだろう。
 彼女は“敵”なのに。大切な思い出を汚した『偽物』を懇意にする“敵”のはずなのに。

 “―――アルニャンは………アルニャンも、フェイリスの友達のニャ………”

 そんな“敵”のことなど、どうでもいいはずなのに………

「ああ……そうか………」
 一つ、思い出したことがあった。
 マスターはいつも、人間らしくしろと自分に言っていた。
 人間は記憶を“忘れる”ことは出来ても、“消去する”ことはできない。
 だからきっと、記憶を消すことに躊躇いを覚えるのだ。

 ―――決して、彼女が“友達”だからなんかじゃない。
 “友達”なんかじゃ、ないはずなのに………この胸にある寂寥感は、一体何なのだろう。

「そういえば……」
 この場所は、あのニンフが『偽物』だと発覚した家だ。
 あのニンフが『偽物』じゃなく、ちゃんと『本物』だったなら、こんなに苦しい思いはしなかったはずなのに。
 そんな怒りにも似た感情が、胸の内に湧き上がってくる。

 ああ…………
「早く……マスターに………会いたい…………」


【一日目-夕方(放送直前)】
【D-3/エリア最東南の民家】

【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】赤
【状態】ダメージ(大)、とてつもなく不安、とてつもなく冷静、小さな迷い
【首輪】0枚:0枚
【装備】超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品×2
【思考・状況】
基本:本物のマスターに会う。
 0.早くマスターに会いたい。
 1.本物のマスターに会う。
 2.嘘偽りのないマスターに会う。
 3.共に日々を過ごしたマスターに会う。
 4.『自身の記憶にない』フェイリスは“敵”……のはずなのに……。
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。
 『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」だと確信しています。
※「『自身の記憶にないもの』は敵」であると判断しましたが、迷いがあります。

618愛染!! ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:11:41 ID:67iRkwVE0


        ○ ○ ○


「クスクス……クスクスクス………」
 何もかもが吹き飛ばされた街角で、カオスは俯いたまま静かに、狂ったように笑っていた。
 体の傷や翼の亀裂は徐々に修復されていき、それに続くように修道服も再構成されていく。
 俯いた顔から微かに見えるその表情は微笑みに歪んで、今にも泣きだしそうに笑っていた。

「嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ」
 そう言って、カオスはフェイリスの言葉を――彼女の語った『愛』を否定し続ける。
 フェイリスの語った『愛』は、覚えがあるからこそ認められなかった。
 認めてしまえば、きっと壊れてしまう。

 だから、“痛くして、殺して、食べること”が愛なのだ。
 それが志筑仁美と見つけた、自分だけの『愛』なのだ。
「そうでしょう……? 仁美おねぇちゃん………」

 そうでなければ、この今にも壊れてしまいそうな動力炉の痛みは何だというのか。

 そうでなければ、この焦げ付いてしまいそうな黒い激情は何だというのか。

 そうでなければ、彼女は一体何のために死んだというのだろうか。

 そうでなければ、彼女と交わしたあの約束は――――

「ああ……そうか………」
 彼女はきっと、『愛』を知らないのだ。
 知らないから、『愛』を否定するのだ。

「じゃあ、ちゃんと『愛』を教えてあげないと………」
 彼女に『愛』を教えて――そして証明しなければ。
 仁美おねぇちゃんと一緒に見つけた、自分だけの『愛』を――――

「愛を……愛を! 愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を――――ッッ!!!」


 ―――そうして混沌の名を持つ少女の声が響き渡る中、
     ついにこの殺し合いにおける、最初の放送が始まった。


【一日目-夕方→夜(放送開始)】
【E-4/市街地】

【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】ダメージ(小:回復中)、精神ダメージ(大)、火野への憎しみ(極大)、成長中
【首輪】175(消費中)枚:90枚
【コア】ライオン:1/ウナギ:1(一定時間使用不能)
【装備】デメテルの杖@そらのおとしもの
【道具】志筑仁美の首輪
【思考・状況】
基本:自分の『愛』(痛くして、殺して、食べること)を証明する。
 0.誰かに私の『愛』を教えてあげる――――!
 1.火野映司(葛西善二郎)に目一杯愛をあげる。
 2.フェイリスに自分の『愛』を証明する。
 3.その後、ほかのみんなにも沢山愛をあげる。
 4.一人は辛いから、すぐに誰かを探して愛してあげる。
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より若干落ちています。
※至郎田正影、左翔太郎、アストレアの三名を吸収しました。
※ウェザーメモリ、イージス・エルを吸収し、その能力を獲得しました。
※デメテルの杖により、ウェザーの能力をより引き出せるようになりました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。
 今後どんなペースで成長していくかは、後続の書き手さんにお任せします。
※憎しみという感情を理解していません。

【デメテルの杖@そらのおとしもの】
左翔太郎に支給。
エンジェロイド・タイプΖへと改造された風音日和が、気象兵器“Demeter(デメテル)”を発動する際に使用したもの。
この杖自体に気象操作能力があるのか、それとも杖は単なる制御装置にすぎないのかは不明。
少なくとも、この杖単体でも“現在の気象”を制御する程度の力はあると思われる。

619 ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 14:13:01 ID:67iRkwVE0
以上で、作品の投下を終了します。
何か意見や、修正すべき点などがございましたら、お願いします。

620名無しさん:2012/11/06(火) 20:08:54 ID:gWhUYwZE0
えーと、さすがにこれは乙する気すら起きないですわ。
一話目の話は素直に面白いと思えましたし、通しにしてもいいでしょう。
――けれど、二話目の話はどうして前の話を完全に無視したんでしょうか。
前の話を把握していなかったとしても問題ですが、把握していたとすれば他の書き手さんに対して非常に失礼な行為になると思います。
前の話で放送直前の描写がされていたにも関わらず、どうしてわざわざ矛盾が出る展開をそこに差し入れようと思ったのかが分かりません。
オーズロワはリレー企画です。
個人のSSをどうしても通したいとか、そういう私情を優先するなら、今後はっきり言って参加をしてほしくありません。

621 ◆z9JH9su20Q:2012/11/06(火) 20:52:28 ID:/fUou00M0
お願いされたので意見します。

私は『Ignorance is bliss.(知らぬが仏)』でカオスの最後の登場時間を放送が開始された瞬間にしました。
どうやら私の描写力が伴わなかったわけではないようで、>>620さんが問題視されているように、あなたのSSはその点を無視して書かれたものです。
こんなことをされると、私のSSもあなたの作品も、どちらも前後の繋がりが妙な作品として共にクオリティが損なわれてしまいますし、
何より他書き手のSSを無視するような方とはリレーしたくないと私は思ってしまいました。当事者でなくともそれは同じでしょう。

いくら面白いと言う自信があられるのだとしても、何故こんなことをしたのかはっきり言って皆目見当もつきませんが、二作目のSSに破棄要請を出させて貰います。

私のSSを完全に無視されたということに目を瞑っても、最初に投下したSSに対するやり取りが不十分なまま次に予約と投下を行うこと自体も無責任な態度として既に問題です。
例えあなたが投下数が一位の書き手であろうと、これらの問題は通る類のワガママではありません。速やかな対応をお願いします。

622名無しさん:2012/11/06(火) 20:59:59 ID:W7iDRKGA0
投下乙です

前回からメンタルにダメージ喰らってたおじさんにニンフの喝が届いたか
二人ともダメージがあるがいいコンビが生れたと思うよ
こっちにも未来のメダルがあるとかXがなんかおかしくなってるとか未来への波乱を孕んだ展開だが先が気になる

いやあ、イカロスとフェイリスのパートやカオスの次のパートは放送後かなと思ったらいい意味で裏切られたぜw
濃い、凄く濃いバトルと掛け合いだったぜっ!?
GJ!

623名無しさん:2012/11/06(火) 21:01:31 ID:kF81bEiQ0
乙をする気にすらならない、自分も同意見です。
前々から薄々感じてはいましたが、今回ほど露骨なリレー無視をされるとなると、正直反感を抱かずにはいられません。
前話で既にカオスパートは放送が始まっている描写がなされているのに、どうして無理矢理こんな形でSSを挟んで来たのか…
というよりも、それ以前に同時に二つ予約すること自体がおかしいのではありませんか?
ひとつ目のSSで何らかの問題点があるかもしれないのに、その上で纏めて二つも投下する必要性があったのか疑問でなりません。

まず連続予約にあたる行為、さらに二つ目の作品は前話のリレーを完全に無視した展開であるとして、自分も破棄を要求します。

まあ、本音を言わせて頂くなら、こんな常識外れな予約をした上に他人のSSガン無視という書き手にあるまじき行為を考えれば、
今回の行為に対するペナルティとして一つ目の予約も一緒に一旦破棄、氏には一定期間予約不可くらいの措置を与えても問題ないくらいではないかと自分は思いますがね。

624名無しさん:2012/11/06(火) 21:02:49 ID:W7iDRKGA0
あ、てっきりカオスがイカロスらのドンパチに惹かれてそっちに行ったと思ったが書き手から見ても無理があったのか…
早合点してしまった…

625名無しさん:2012/11/06(火) 21:12:18 ID:o.1J6rxM0
投下乙です。
自分としては、一本目のSSは通しでいいんじゃないかと思います。
ただ二本目のSSに関しては、他の方々が仰るように連続投下及び展開無視が目立つので
破棄をした方がいいかと。

626名無しさん:2012/11/06(火) 21:12:50 ID:ckk2cI5k0
一つ目の作品に関しては判別が付かないため言及は避けるとして

二つ目に関しては破棄をお願いしたいです
フラグ見落としだとかそんなレベルではなく、完全に前作を無視した展開は如何なものかと
リレーして物語を作り上げていく企画ですのでこのような行為は認められないと思います

627名無しさん:2012/11/06(火) 21:52:11 ID:FfWeDGPQ0
さて、まず一つ目の作品に対してですが、投下乙です。
ニンフは間一髪のところで助かったか……いくらエンジェロイドとはいえ、Xとキングラウザーが相手じゃなあ
流石一つの世界において最強クラスを誇る剣だけのことはある…とか思ってたらおじさんの手に渡ったか!
おじさんもそれなりのダメージは受けたけど、ニンフのおかげでまた頑張れるようになったようだし良かった
で、未来の水棲メダルが支給されているということは、ポセイドンのベルトやギンガオーのベルトも何処かに……?
まあ何はともあれ、このチームにはこれからも頑張って欲しいなあ

気になった点を上げるなら、サメ・クジラ・オオカミウオの三つを一つの枠で纏めて出してしまうことです。
他のメダルは全て一枚ずつ支給されているのだから、通常のメダルよりも強力なそれらも一枚ずつが妥当かと。
また、仮に三枚纏めて出すにしても、それぞれの属性分けは無理にしなくてもいいのではないかと感じました。
確かにクジラは哺乳類なので分からないでもないですが、それでも三枚とも水棲生物であることに変わりはありませんし。
タトバ三色は十枚目とスーパーで二枚追加なんだから、それと比べればやや冷遇の水棲は三枚追加でも問題ないと思いますし、
重量だってゴリラと同じくらいのサイズのパンダと、比較的大型哺乳類のカンガルーを重量と見なしてもおかしくはありませんし。
……まあでも、こういう対応はいくらでもこじつけられますので、全て対応なしとして扱うのもありかとは思いますが。

次に二つ目の作品に対してですが……こちらに関しては私も破棄を要求させて頂きます。
理由はすでに述べられている通り、これではあまりに……連続予約という規定違反すらも霞む程度には自分勝手が過ぎるかと。
前回のSSの内容に一切言及せず当然のように展開を無視するなど、ハッキリ言わせて頂くならリレー書き手としては「最悪」です。
そんな書き手と一緒にリレーをしたくないという意見は決して言いすぎなどではないと思いますし、私だって同じ気持ちです。
一体どのような意図があってこの話を書いたのかは存じ上げませんが、今回の行為に関しては擁護のしようもありません。
もう少し今回のあまりにも身勝手なご自分の行動をよく考えて頂いて、然るべき対応をお願いしたいです。

628名無しさん:2012/11/06(火) 22:40:48 ID:zjysmBIQ0
一話目に関してはとても面白かったです
何気にХが初めて人を殺してない作品じゃないですかね
ニンフを助けるおじさんがとてもヒーローらしくてかっこいい!

ですが二話目に関してはほかの方と同じく破棄することに同意します
カオス抜きでも話は展開できたと思いますし、氏の力量ならそれでも面白い作品は出来るでしょう
もしどうしてもこのパートを書きたいのでしたら一定期間おいてカオス以外のキャラが予約されていない場合か
放送後に予約をするべきでしょう
また連続で話を書きたいのでしたらせめて一話目がwikiに登録されてからにしてください
以上の点お願いします

629名無しさん:2012/11/06(火) 23:07:44 ID:sbs9P/8A0
ちょい待ち、二作目のリレー無視は批判も当然と理解できるんだが二作同時予約・投下についてはまた別物でしょ
同時といっても、この書き手さんの場合は一作目の投下が終わってから二作目の予約をしてるわけだから、手続きはきちんと踏んでる
連続投下はダメとか、二作目を投下したいのなら一作目がwikiに登録されてから、とか、それらは個人の常識やさじ加減であってルールで細かく規制されてたわけじゃない
個人的には両方とも書き終えてから予約してるし、まだ本人が対応するしないとも返答してないのに無責任とまで言うのはおかしいよ
SSの内容と予約問題とは分けて考えるべき

630名無しさん:2012/11/06(火) 23:19:43 ID:W7iDRKGA0
確かに言い過ぎの部分があると思う
今回は二作目のリレー無視の問題だけを批判すべき

631名無しさん:2012/11/06(火) 23:36:35 ID:kF81bEiQ0
それでも連続予約はやはりルール的にも考えものです。
今回は二作だからまだ対応も出来るかもしれませんが、仮にこれが五作、十作と連続で予約されて、その全てで問題点が見つかった場合、対象しきれなくなる可能性だってある。
今回の氏の作品のクオリティならそんなことはないだろうが、以前ただの状況説明みたいな内容だけのSSで十作近く連続予約&投下をされたロワを知ってるから、今後は連続予約にも制限を設けるべき。
今回の問題点は連続予約だけじゃないからもういいけど…きちんと対応をするというのなら、一作ずつでも問題はない筈なんだから、その辺にもルール制限は設けるべきだと提案します。
まあ、この話に関しては議論スレいきですかね。ここでの連続予約に関する議論はこの辺にしておいて、今はまず件の氏がどういった対応をするのか反応を待ちましょう。

632 ◆SXmcM2fBg6:2012/11/06(火) 23:38:15 ID:67iRkwVE0

まず最初に、皆様、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。

今回投下した二作品目は、ほぼ完成した状態でイカロスの修正を待っていた作品を修正したものでした。
しかしイカロスが修正された時点でカオスが予約され、その後にイカロス達も予約された事で放送を待つこともできなくなりました。
ですが、既に完成した作品をそのまま没にするというのも惜しく、また「知らぬが仏」の最後で「最初の放送が、いよいよ開始されようとしていた」とあり、
厳密に放送が開始されたわけではなかったので、数分程度ならカオスも動かせるのでは? と思い投下させていただいた次第です。
ただ>>620氏が仰られたように、「自分の書いた作品を無駄にしたくない」という私情を挟んだのも確かなので、
◆z9JH9su20Q氏の作品を半ば蔑ろにしてしまったことを含め、せめてまず仮投下にするべきだったと謝罪させていただきます。

作品の連続投下に関しては、上記のように修正待ちをしている間にキャラを取られてしまったこともあり、書き手としてのマナーを完全に失念してしまいました。
その件も、上記の件と合わせて再度謝罪させていただきます。

二作品目の処遇に関しましては、皆様の意見に従い一旦破棄とさせていただきます。
私の作品で皆様にご迷惑をおかけしてしまった事を、改めて謝罪させていただきます。申し訳ありませんでした。

633名無しさん:2012/11/07(水) 02:15:36 ID:BfqdtPTw0
まあ、作者本人が破棄にすると言っているし、既にアンクも次の予約が入ったのでリレー無視の件は解決ということでいいでしょう。
あとは>>627の指摘の、同時に三枚もコアメダルを支給するという点と、属性分けについての回答をして頂ければ一作目の方は通しということで問題ないかと思います。

634 ◆SXmcM2fBg6:2012/11/07(水) 11:46:04 ID:rAi.1V3s0
サメ・クジラ・オオカミウオのコアメダルを同時支給したのは、ポセイドンを出しやすくするためです。
スカルやエターナルといったガイアメモリが、ロストドライバーと一緒に支給されたのと同じような感じです。
ただ議論スレでも言われていたように、「ポセイドン覚醒=キャラを食う」となってしまうので、ポセイドンドライバーは別支給とさせていただきました。
コアメダル複数支給に関しましても、虎撤の唯一の支給品とすることで対処させていただきました。
本人支給ではありますが、オーズやグリード達のように最初から複数のコアを所有していた例もありましたし。

属性分けに関しましては、グリード側の公平を期すためでした。
スーパータカ、スーパートラ、スーパーバッタの三枚、つまり未来のコアメダルは対応するグリードが条件を満たして吸収すると、スーパータトバと近い力が発揮されるとあります。
しかし、上記の三枚はそれぞれ鳥類系、猫系、昆虫系に対応してますが、サメ・クジラ・オオカミウオはそのままで分類すれば全て水棲系になってしまい、重量系のみ“未来のコアメダルの力”を得られなくなります。
そこでサメはそのまま水棲系、クジラは基本的に大きく重いイメージがあるので重量系、オオカミウオは残る恐竜系とはさすがに違い過ぎるので対応なしとさせていただきました。
ただこれはコアメダル自体の属性分けではなく、そのコアメダルから“未来のコアメダルの力”を得られる、つまり対応するグリードの属性分けであることを注釈させていただきます。

635名無しさん:2012/11/07(水) 15:13:35 ID:wa4WUYJ2O
>>634
3枚のコアメダルの属性分けについての発想には特に異論はありません。
5陣営のバランスを考慮すると、このくらいの理由付けがあるのはまあアリかもとは思うので。

ただ、虎徹に一気に3枚とも支給するのはやはりいかがなものかと思います。
本人支給で何枚もコアを持つグリードや映司は、肉体の維持やオーズへの変身に必要不可欠という止むを得ない事情があるのですが、
オーズ関連の設定を何も持たない虎徹にそのような処置を講ずる必然性が見当たらない、というのが理由の一つです。
また、マーダーのグリードや暴走の危険が常に付き纏う映司と違い、至極真っ当な対主催かつ一参加者に過ぎない虎徹に
オーズロワでのキーアイテムとなるコアを合計3枚(=代用セル合計150枚)を支給するも同然の扱いは、バトロワの進行の観点から見てバランス崩しにならないかという懸念もあります。
達成条件の難度から考えても、ポセイドンの意識乗っ取りもまだまだ先の話になりそうですし。

それでもスーパータトバのように特殊な形式で参加者の手に渡るような描写ありきならその展開にも説得力が出るのですが
今回はごく普通に支給品として登場してしまったので、どうにも説得力に欠けるという印象がありました。
以上のデメリットに加えて何より、たとえメダルの件が無かったとしても、Xvs虎徹や発破をかけるニンフなど、今回の話の面白さは阻害されないはずなので
自分としてはポセイドン関係のコアメダルについての部分はカットした方が望ましいのではないかなと思いました。
長文になってしまいましたが、以上です。

636名無しさん:2012/11/07(水) 17:51:16 ID:lNv28VMc0
とりあえず議論スレで話しては?
丁度おなじような話をしているのだし

637名無しさん:2012/11/07(水) 19:55:03 ID:EanaLpWI0
それもそうだよね。
指摘に対する返答という形でここでの話し合いに成っちゃってるけど、一連の流れ自体本スレよりも議論スレですべきことだし。

638名無しさん:2012/11/07(水) 22:33:32 ID:AAFgychk0
議論スレに話題を出しましたので、そちらに移動してください。

639R-0109 ◆eVB8arcato:2012/11/10(土) 20:58:57 ID:1NPOwC9w0
流れをぶった切るようで申し訳ない

ロワラジオツアー3rd 開始の時間が近づいてきました。
実況スレッド:ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/5008/1352548620/
ラジオアドレス:ttp://ustre.am/Oq2M
概要ページ:ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html
よろしくおねがいします

640 ◆MiRaiTlHUI:2012/11/10(土) 23:01:52 ID:eCqCMLN60
ラジオの真っ最中ですけど投下します

641 ◆MiRaiTlHUI:2012/11/10(土) 23:03:24 ID:eCqCMLN60
 人間一人分という決して軽くはない“重り”を背負って居ながらも、アンクの後方を歩く桂木弥子は一言の弱音を漏らすことはなかった。明らかに進行速度はアンクよりも遅れてはいるが、それでも彼女は、アンクに手伝って欲しいとも、休憩をしようとも言い出さないのだ。
 アンクにとって、ZECT基地内での休憩の時点での桂木弥子の評価は、正直なところ「無駄にアイスを消費したがるだけの足手纏い」くらいでしかなかったし――いや、実際のところ今もそれにさしたる変化はないのだが、しかし彼女の心構えにはあの火野映司にも近い“おめでたさ”がある。
 アンクにはそれが理解出来ないし、共感も出来そうにない。だけれども、休憩も取らずに一生懸命に歩き続ける弥子を見ていると、不思議とそれを否定する気も起きなかった。

 少し前のアンクなら「そんな重いモンとっとと捨てろ!」などと言っていたのだろうが、火野映司というあまりにも特異過ぎる男と長い時間を共に過ごしたアンクは、世の中にはこういう人間もいるのだということを嫌になるほど思い知らされた。
 だから、この馬鹿女にはもう何を言っても無駄だということも分かっている。こいつは何を言った所で聞く耳など持たず、杏子が言っていた「最後に愛と勇気が勝つストーリー」とやらを本気で信じて、その為の努力を惜しもうとはしないのだろう。
 弥子にその努力をやめろというのは、雨に変わりゆく天気に対して「降るな、晴れろ!」と文句をつけることと同じくらい無意味で、そしてこの状況下で無意味だと分かっていることをする程アンクは暇な男ではない。無意味だからやらないだけだと、明らかに足手纏いの弥子を黙認している理由をこじつけて自分を納得させるのだ。
 そう考えると、どうしてさっき移動を始める前に弥子の行動に文句を付けなかったのか、どうにも釈然とせず苛立っていた自分の心理と行動もすとんと腑に落ちた気がして、少しは気分が晴れた、気がした。

 だがそうなると、今度は別の事柄に納得がいかず腹が立ってくる。
 当てもなく歩き続けるアンクと、それに黙って追随する足手纏いの弥子。……この状況を考えれば、何を言っても聞かないおめでたい頭の女など捨て置いて、とっとと自分だけで何処へなりと離脱してしまった方が、よっぽど時間を無駄にせずに済む。おまけにアンクにとっての頭痛のタネが一つ消えるのだから、それで万々歳の筈だ。
 だのにアンクは、それが出来る状況下にありながら、しようとはしなかった。どころか、ただ後ろをのろのろと歩くだけの少女が気になって仕方がなくて、度々振り返って弥子の追随を確認する始末。

(チッ、なんで俺がこんなガキのお守りを……ッ!)
 あまりにも釈然としない苛立ちを少しでも和らげようと、アンクはクーラーボックスからまた一本のアイスキャンディーを取り出して、それにかじりついた。そんな風にアイスを消費し続けるものだから、あれからまだ一時間も経った訳でもないというのに、アンクのアイスは減る一方。今ので残りの数はいよいよ十を切ったところだった。

642 ◆MiRaiTlHUI:2012/11/10(土) 23:04:22 ID:eCqCMLN60
 
 結論だけを言うと、アンクは結局、弥子が心配なのだ。
 心の何処かで、弱音を吐かずに頑張り続けている弥子に感嘆している自分がいる。彼女が弱音を吐かない限りは、一緒にいてやってもいいかもしれないと思ってしまっている自分がいる。もっとも、アンク自身はそんな事実は絶対に認めないのだろうが。
 
「チッ……」
 軽い舌打ちを鳴らしたアンクは、それ以上面倒なことを考えるのをやめて立ち止まった。
 追随していた弥子は、立ち止まったアンクの傍まで歩み寄ると、目の前にある“全焼した家屋”を眺め小さく驚きの声を上げた。
 ……別に弥子の為に休憩を挟んでやろうと立ち止まった訳ではない。ただ、明らかに何者かの手によって焼き払われた家屋がアンクの視界に入ったから、少しだけ様子を窺おうと立ち止まっただけだ。別に、疲れているであろう弥子に少しくらい休憩をさせてやってもいいかもしれないとかそんな考えは、全く、一切、これっぽっちもないのだと、そんな風に自分に言い聞かせておく。

「これ……火事でもあったのかな?」
「馬鹿が、ただの火事な訳あるか」
「じゃあ、誰かがやったってこと?」
「だろうなあ」
 アンクの首肯に、弥子は絶句で返す。
 こんな短いやりとりで、アンクはこの女が何を考えているのかを悟ってしまった。
 一体誰が、何の為にこんなことをしたのか……? いいや、そんなことじゃあない。一体誰が被害にあったのか、誰かがここで死んでしまったのではないか、そんなことを考えて、目の前で誰かが殺された訳でもないのに、優し過ぎるこの馬鹿女は一々絶句をしてみせたのだ。
 実際、此処で誰かが死んだのだろうということも、アンクはすぐにわかった。周囲の住宅街の風景を見るに、おそらくこの廃墟の本来の姿は一戸建ての木造建築。よっぽど爆発的な勢いで焼けたのだろう、既に家屋自体も家具も、木材が使われていた箇所は全て炭化して、黒っぽい煤に塗れた残骸しか残ってはいないが、それでも元々は人の形を成していたのであろう人骨が残骸に埋もれているのは、アンクの目にも理解出来た。
 ここは殺し合いの場だ。例えばアンクロストとのような火を使う参加者がいて、ここで戦闘が起こり、そしてこの家と共に焼け死んだのであろうことは容易に想像がついたし、アンクは一々そんなことで妙な感傷に浸ったりはしない。
 だが、それを一々弥子に見られて面倒臭い反応をされるのも厄介だと思ったアンクは――別に弥子の為に目の前からショッキングなそれを隠してやろうと思った訳では断じてない――適当に骨の周囲の木材を蹴飛ばして、傍目には見えないように人骨を覆い隠した。
 元よりアンクの素行が悪いことは知れているのだから、弥子も一々そんな“無意味な八つ当たり”を気にしようとはしなかった。その方が弥子にとっても幸いだったろう。

「……誰も怪我してなければいいけど」
「ああ、そうだな」
 全く感情のこもらない適当な首肯でアンクは弥子に答える。一番面倒臭くなく、尚且つ無難な返答がそれだった。
 そのまま手近な木材に腰掛けたアンクは、次のアイスを取り出してそれにかじりつく。それを受けて、何処か表情を曇らせたままその場にしゃがみ込んだ弥子に――ほんの気紛れのつもりで、アンクはアイスキャンディーを一本投げたてよこした。
 弥子の膝に当たって煤けた地面に落ちたアイスの袋を一瞥した弥子は、目を丸くして尋ねて来る。

643 ◆MiRaiTlHUI:2012/11/10(土) 23:05:09 ID:eCqCMLN60
「え……これ、くれるの? なんで?」
「チッ……ただの気紛れだ、一々気にすんな」
「アンク……」
「何だ、食わないなら返せッ!」
「う、ううんっ、食べる! ありがとアンク!」

 黙って食えばいいんだよ、と心中で悪態を吐きながらも、アンクはこのあまりにも微妙な関係をいつまで続けるものかと思案する。何も今すぐに断ち切る気はないが、しかしだからといって、殺し合いが終わるまでこんな足手纏いを連れてずっと歩き回るのも、後々の事を考えるとリスクが大きい。正直言って、何の力も持たない弥子がここまで死なずに生き残れてきたこと自体が奇跡に近いのだ。
 まったく、真木の奴は一体どうしてこんな無力な人間まで殺し合いに巻き込んだのか……などと、そんなとりとめのないことを考えるアンクの思考を遮るように、弥子の「あれっ?」という疑問の声が、しんと静まり返った廃墟の静謐に響いた。
「……今度は何だ」
「そこに、メダルっぽいのがあるんだけど……」
「ッ、何だと!?」

 弥子の何気ない一言に、アンクは今まで考えていた思考を中断して、反射的に立ち上がる。グリードにとってメダルは己が身体そのものだ、反応しない訳がなかった。
 地に落ちたアイスを拾おうと身を屈めていた弥子は、そのままの姿勢で、崩れて折り重なるように積もった木材の下へと手を滑り込ませていた。それ程奥まった場所にあるわけでもなく、さして苦労もせずに弥子は二枚のコアメダルをその手に掴んみ、ほら、とアンクに見せた。

「お前、それッ!!」
 赤いタカが描かれた金の縁取りのコアメダル――見間違えよう筈もない、アンクの人格を形成する、タカメダルだった。
 さっきまでの冷静さも忘れて、アンクは弥子に掴みかからん程の勢いで迫ると、その手に握られたタカメダルともう一枚のメダルをひったくった。夢にまで見た、あれ程までに渇望したアンクの肉体を形成するコアメダルの一枚。それが今目の前にあるのだ、落ち着いていられる訳もない。
「ちょっと、それ私が見付けたんだよ!」
「これやるからちょっと黙ってろ!」

 そう言って、残り七本となってしまったアイスキャンディーの入ったクーラーボックスを乱暴に引っ掴んだアンクは、それを弥子の眼前へと半ば投げ捨てるように置いた。元よりコアメダルにさほど興味を持っていない弥子は、それで交渉成立でいいよと言わんばかりに目を輝かせてアイスに飛び付いた。これで小うるさい女を暫く黙らせられるなら、残り少なくなったアイスなど痛手でも何でもない。

(何でこんなとこに俺のコアが……いや、んなこたどうだっていい、とにかくこれは俺ンだ!)
 そう、この際何故ここにタカメダルが落ちていたのかなどどうだっていい。ここにメダルがあるのも、元の持ち主――さっきの人骨の人物だろうか――がここで焼き殺された際、他の支給品は全て焼けたが所持していたコアメダルだけは焼けずに取り残されたとか、そんなところだろう。仮にそうでなかったとしても、もうそういうことで何も問題はないのだからそういうことでいい。
 なら次に考えるべき事項は、タカメダルと一緒に落ちていたもう一枚のメダルだ。見た事もない茶色のメダルを、沈みゆく太陽に透かして眇める。絵柄はどうやらカンガルーのようだが……アンクの知る限り、カンガルーの力を持つグリードなどは存在しない。とすれば、考えられる理由は――

(真木か鴻上あたりが新たに作ったコアメダルか……?)

 それならば合点がいく。元々コアメダルは八百年も昔の技術で作れたものなのだから、現代の技術でコアメダルを研究している奴らが新たなコアメダルを絶対に作れないという道理は何処にもない。
 何にせよ、この場ではコアメダル一枚でセル五十枚分のエネルギーを得られる事は既にアンクとて知っているのだから、この発見を喜ばない訳はなかった。目の前でがつがつと残りのアイスを喰い漁る弥子すらも気にならない程の上機嫌でもって、アンクは二枚のコアメダルをグリードとしての自分の腕の中へと放り込んだ。

644 ◆MiRaiTlHUI:2012/11/10(土) 23:06:00 ID:eCqCMLN60
 この状況のアンクでは知る由もない事実だが、今アンクが確保したタカメダルは、十枚目の赤のメダルにして、八百年前の王が初めてタトバコンボへと変身した時に使用したコアメダルなのである。
 ある意味では因縁めいたこのタカコアと、未知のコアを新たに取り込んだこと、それと元々使用している人間の身体の恩恵もあって、今ならば完全体にも近い姿への変身が可能なのではないかと、あの偽物のアンクよりもより完全な姿への化身が可能なのではないかと、アンクはそう推測する。
 次に出会った時には容赦はしない。この確実な力で以て、何としてでも残りの全てのコアメダルも取り戻してやる……と、アンクがそんな闘志を燃やすのは、弥子がおりしも最後の一本となったアイスキャンディーを食べ終えた頃だった。
 
 
【一日目-夕方(放送直前)】
【D-3/全焼した家屋跡地】

【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー代理
【状態】健康、覚悟、仮面ライダーへの嫌悪感、自分のコアの確保及び強化による自信
【首輪】160枚:0枚
【コア】タカ(感情A)、タカ(十枚目)、クジャク×2、コンドル×2、カマキリ、ウナギ
    (この内ウナギ1枚、クジャク2枚、コンドル1枚が一定時間使用不可)
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
    超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品×5(その中から弁当二つなし)、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
    大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:映司と決着を付ける。
 0.自分の不可解な感情に苛立ち。
 1.殺し合いについてはまだ保留。
 2.もう一人のアンクを探し出し、始末する。次は絶対に負けない。
 3.すぐに命を投げ出す「仮面ライダー」が不愉快。
【備考】
※カザリ消滅後〜映司との決闘からの参戦
※翔太郎とアストレアを殺害したのを映司と勘違いしています。
※コアメダルは全て取り込んでいます。


【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青
【状態】健康、精神的疲労(中)、深い悲しみ、自己嫌悪
【首輪】120枚:0枚
【装備】桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ、ソウルジェム(杏子)@魔法少女まどか☆マギカ、
【道具】基本支給品一式、魔界の瘴気の詰った瓶@魔人探偵脳噛ネウロ、衛宮切嗣の試薬@Fate/Zero、赤い箱(佐倉杏子)
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.殺し合いは哀しいけど、アイスは美味しかった。
 1.美樹さやかに頼み込んで佐倉杏子を復活させる。
 2.他にも杏子さんを助ける手段があるなら探す。
 3.ネウロに会いたい。
 4.織斑一夏は危険人物。
【備考】
※第47話 神【かみ】終了直後からの参戦です。


【全体備考】
※アイスキャンディーは全て消費され、クーラーボックスがD-3の全焼した家屋跡地に放置されています。
※アイスキャンディーを一気に食べたことで食欲が満たされ、メダルが僅かに増加しました。
※この場所でカオス@そらのおとしものが放置した支給品は、コアメダル二枚を除いて全て焼失しました。
※タカコア(十枚目)は至郎田、カンガルーコアはカオスの支給品でした。

645 ◆MiRaiTlHUI:2012/11/10(土) 23:08:31 ID:eCqCMLN60
すみません、正しくはアンクの【コア】のとこにあと「カンガルー」も追加で……

とりあえずこれで投下終了です。
タイトルは……じゃあ、「タカとカンガルーでタカンガルー便」でお願いします。

646名無しさん:2012/11/11(日) 13:29:00 ID:jIa0UGKAO
投下乙です。

十枚目って、グリードが取り込んだ際にも何らかの影響があるんだろうか。

647名無しさん:2012/11/11(日) 13:45:38 ID:n0AJo.fw0
投下乙です

取り込んでしまったがどうなるんだろう…
まだまだ第一放送の前後、ロワの序盤だしなあ
そして弥子はアイスを全部喰ったのかw

648名無しさん:2012/11/12(月) 18:08:09 ID:w2Z8RhR60
カンガルーメダルなんてあったんだ

649名無しさん:2012/11/12(月) 19:52:18 ID:oKg4sSGc0
投下乙です。
アンクのツンデレ具合にほっこりする。っていうか気がついたらアンクの持つコア数がウヴァさんに次いで二位、
もしスーパーを手に入れたらスーパー化できる状態……だと……!? しかも十枚目であることを考えたらウヴァさんより運良くね? 何この勝ち組。
弥子は殺し合いは哀しいけど、アイスはおいしかった ってwww いやまぁ立ち直って何よりか。これからも癒し担当で頑張って、杏子を助けてね。

650名無しさん:2012/11/12(月) 21:09:44 ID:MifvpMsQO
>>648
確か例のハイパーカオス…もといバトルDVDネタのはず、本編で使われなかったり本編になかったアイテムやら技やらフォームが出たりするのは半ば恒例、か?

651 ◆l.qOMFdGV.:2012/11/13(火) 00:29:07 ID:EktBmYJw0
投下乙です!
アンクツンデレ(死語)やな…!
人間、というか映司に惹かれてった時期から参戦したのに弥子は救われたね
アイスアイスとマジで弥子はぶれねえなあ…
それにしても本当に序盤なのにコアの動きが激しいなwww

投下します

652 ◆l.qOMFdGV.:2012/11/13(火) 00:43:16 ID:EktBmYJw0
 そこは洋館と呼ばれる建造物だった。
 静まり返った森のなかぽっかりと空いた空間に居するそれは乱すもののない静謐に包まれている。小綺麗な外観ではあるが、その異様な静けさは人が暮らすに適さないと思えるほど深い。
 そして、それが擁する広間には息づくものがみっつある。
 もの、と呼称したことからも察せられるであろうが、「息づく」という動詞を用いていいものかすら怪しいそれらは、率直に言って人間ではなかった。

「群体生物、というものがあるのは知ってるよね」
「なんだよそりゃ」

 さも知っていて当然、という口調で問われればむっとするのが人のさがではあるが、それはなにも人間に限った話ではない。人ならざる身であるグリード、ウヴァもその例に漏れず、問い返す言葉にはわずかな怒気が混じっていた。

「知らないのかい?」
「無理もありません。あまりメジャーな言葉ではありませんから」

 質問を質問で返されたウヴァの舌打ちを肯定したのは真木清人だ。洋館の主たる彼は、深く椅子に掛け手を組んで凍りついた無表情で言葉を続ける。

「群体というのは、そうですね。君たちグリードにも近いものかもしれません」
「ほぉ」

 適当に頷くがもちろん納得した訳ではなかった。
 真木と自身を除いた最後のひとつの正体を問うてから始まったこのやり取りではあったが、当の本人も真木も質問の答えを断言しない。おまけになにやら国語の授業が始まってウヴァの混乱は増すばかりだった。
 ちらりと見やって表情のない白いそれの瞳と目が合う。真紅の瞳はどこまでも深く、それでいてどこにも続いていない。引きずりこまれそうな感覚を覚えるそれに由来のわからない不快感を覚えて、ウヴァは小さく鼻を鳴らした。
 対してそのもの、白いそれはなんの反応を見せる訳でもない。

 奇妙な闖入者、喋る純白の獣の名は、インキュベーターと言った。

「その言い方には大きな語弊があるよ、清人」
「ですが、そうだとしたらそもそも君たちを群体に例えることすら大きな間違いといえるでしょうね」
「うん、それはその通りだね。でも人類にとってはこれが一番近い概念だろう?」
「…………」
「おいおいおいおい、俺を置いてけぼりにするのはよせ。そもそもこっちはオーズと戦っていたところを突然呼びつけられたんだ。
 それがどうだ、大した説明もなく今度は訳のわからん獣に講釈垂れられておまけに鼻で笑われたときてる。こいつは何の冗談だ、ええ? おい」

 隠そうともせずウヴァが苛立った声をぶつける。その足はかたかたと不満のリズムを刻んで、それでも不動の二つを揺るがすことはできなかった。
 インキュベーター、真木は揃ってうろのような視線をウヴァに向けるだけだ。
 まったく、ここには人を不愉快にさせるものが多すぎる。

「御託はいいからさっさと言えよ、なんなんだその『俺たちのようなもの』ってのは」

 気忙しい聴衆に気分を害した素振りもなくインキュベーターは「うん」と零した。
 動じないその様に不快感を改めたウヴァだったが、獣はまるで頓着せず言葉を続ける。

653 ◆l.qOMFdGV.:2012/11/13(火) 00:47:53 ID:EktBmYJw0

「群体というのはね、多数の生物がくっついてひとつの生物の形を成すものをいうんだ」
「多数の生物?」
「そうさ。清人が言うところの『グリード』イコール『群体生物』の論は、セルメダルを個々の生物と捕らえた解釈だろうね。もっとも群体生物にはコアメダルのような『他とは異なる中心』がないのだけれど」
「……全てが同じ、ってことか」

 飲み込みの早い生徒を褒める言葉ひとつもらさず、インキュベーターはしっぽを揺らめかせた。
 こいつは教師には向かないな、とウヴァはぼんやり思う。教えるのではなくただ聞かれたことに答えるだけのそれには、間違いなく誰かを導くことなどできはしまい。ましてや、傷ついた少女たちの幼い心を救うことなど以ての外だ。

「そのとおり。群体を成す個は差異がない。だから君たちグリードのコアがセルで代替できないという、その一点が大きな誤謬」
「……で? それがお前の存在とどう繋がる」
「そもそも僕たちを群体と例えること自体が間違っているんだけど、それさえ目を瞑れば僕は群体生物と呼べるんだ。この催しに限って、だけどね」
「……わけがわからんぞ」

 けむに巻いているつもりはないのだろう。付き合い始めたばかりではあったがウヴァにもそれだけは掴めた。いちいち癪に障るマイペースはインキュベーターにとっては普通のものなのだ。
 埒が明かんと頭をかくウヴァと掴みにくいインキュベーターに変わって口を開いたのは真木だ。静観に徹していたそれが身じろぎもせず言う。

「インキュベーター君の個体はその活動を停止しても問題がありません。『群体』にも似たインキュベーター君はいわば『母体』とでも呼べるものを持っており、そこで情報と記憶を共有しているため、新たな個体、端末を補充すればいいだけなのです」
「なるほど? 獣一匹が個でその数を集めてひとつにまとまった母体があると。だから群体か」
「『母体』という解釈も違うのだけど……まあ人類レベルに認識できるのはその程度だろうね」
「いちいち癇に障るやつだな、お前は……」
「そうかい?」

 感情というものはつくづく厄介だね。落胆もなく失望もない呟きを耳にして、ウヴァは「糞が」、と小さく零すだけだった。
 毛づくろいを始めた獣を見たのも一瞬に、再び真木が喋りだす。

「今回、彼らはその端末を増やしてくれることとなりました。その特性を生かして監視役という形で会場に散らばってもらうのです」
「それがこのケダモノがここに居る理由、って訳か」

 ひどい遠回りをしたものだったが、ここでようやくウヴァの最初の疑問が氷解した。
 つまるところこの強欲の屋敷の客は、真木らグリードの協力者だったという訳だ。
 晴れて納得した脳裏に、ふとインキュベーターがこの催しに乗る利点はなんなのかという疑問も頭をよぎったが、ウヴァはそれを口にすることはなかった。

「……心底どうでもいい、な」
「質問はもうありませんか?」

 己の呟きを歯牙にもかけなかった真木の問いに頷きかえし、ウヴァは立ち上がった。だいたいのところは飲み込んだし、これ以上時間を使う必要もない。
 自身という存在は余さず欲を満たすためのみに動く。この場にはもう、それに値するだけのものは残っていなかった。

○○○

654 ◆l.qOMFdGV.:2012/11/13(火) 00:49:45 ID:EktBmYJw0

 去り際の言葉ひとつ残さずウヴァが去ったその空間には獣が体毛をこすり合わせる音しか残っていない。
 かすかなそれに耳を済ませていた真木は、やがて囁いた。相手はもちろんインキュベーターだ。

「インキュベーター君」
「なんだい?」
「端末をひとつ、調達してください」
「……理由を聞きたいね」

 ぴたりと動きを止めて視線だけ真木によこすインキュベーター。その奈落に写る自身を見つめて真木は答えた。

「支給品として扱いたい。むろん魔法少女を新たに作ることはできず、バックアップはなく死んでしまえば終わり、そしてこうした会話が交わされた記憶をなくした状態で」
「代わりはいくらでもあるから都合はつくけど……もったいないなぁ」

 ぱたりと、しっぽがはためいた。感情を持たない知的生命は伺うように真木を見つめる。
 人類にしてみれば超越者と呼んでなんら遜色のないインキュベーターらが見せる庶民的な感覚は、人から逸脱しつつある真木にもひどく歪なものとして写った。
 人間であればこんなとき笑うのでしょうか、と、ほんの少しだけ考え、それはすぐに消えた。

「実験として捉えればいい。切り離され、真なる個となったインキュベーターがその事実を知ったときにどうなるか」
「…………」
「病たる感情を発現するのか。それともインキュベーターとしての容をもち続けるのか。そして――その先に、いかなる終わりが待ち受けているのか」
「……ふむ」
「何かの足しになる可能性も大きいと思いますが、いかがでしょう」
「…………」

 終末を望む真木はその過程に更なる干渉を行う。
 ともすれば決して終わることのないインキュベーターの『終わり』は、きっと、ひどく美しいものだろう。
 真木清人はほんの小さな、同時にひどく切実な興味からそれが見たかった。

 果たして沈黙の後。インキュベーターがそれを破った。

「君のいうところの『終末』に興味はないけど……そうだね。その提案に乗ってあげるよ、清人」

 感情を知らないはずの獣の口元が、ニィ、と小さくゆがんだ。

○○○

655 ◆l.qOMFdGV.:2012/11/13(火) 00:53:23 ID:EktBmYJw0


 耳と尻尾を揺れるに任せて、それはただその腕にしがみついている。時折抜けだそうと踏ん張ってみても、決して太くない腕は強固にそれを戒めたままだ。その外見からはうかがえない力強さに名前を付けるとするなら、きっと「義憤」というものになる。

「それにしても喋る猫とは驚きだな」
「僕は猫ではないと言ったはずだけどね」
「堅いこと言いなさんな、猫君」

 ぐりぐりと智樹はそれの頭を撫でつける。無骨な仕草ではあったが、その行動には確かな思いが込められていた。
 「大丈夫」と、「心配するな」と、そんな想いが込められていた。

 凄惨な戦闘を目撃して、少しだけ自分も戦って、ふとあの未確認生物どもへの、らしくもない心配が込み上げてきて。
 涙をぬぐってあげたかったあいつらが、またどこかで泣いているかもしれないと思って。
 もちろんあのおっぱい――少し小ぶりではあるが、もうひとつ増えた! ……ふたつか?――も忘れた訳ではない。ないが、女の子じゃなくても、乳がなくても、震えているものを放っておくことなど桜井智樹にできるはずもない。

 同じく真木に捕まったであろうこの喋る獣を保護する。なぜ人語を解するのかなどはどうでもいい。羽が生えたあいつらにくらべりゃちんけなものだ。
 ヘラヘラと笑っているような表情の裏には、決意の炎が揺らめいている。

 彼の彼たる所以である、大仰な言い方をすれば「慈愛」ともいえる性質は、そんな意を芽生えさせていた。

 ――そして、その真の意味での優しさと言える感情を向けられたそれは、それをまったく理解することがない。
 監視役としてそこ、キャッスルドランに身を置いていたそれは、偶然小用に立って部屋を出た桜井智樹に捕まった。
 言葉にすればただそれだけで、事実にしてもただそれだけ。語弊も誤りもないその結果の果てに、それ――インキュベーターが自身と同じ境遇だと勘違いした智樹は、ひどく間違った方向へ決心を固めている。

「もう安心しろよ」
「…………」
「俺たちが絶対、お前を守ってやるからな」

 この言葉を、あの孤独な「あれ」が聞いたらなにかを思うのだろうか、と、ちらりとそんなことを考えた。

○○○

656 ◆l.qOMFdGV.:2012/11/13(火) 01:03:22 ID:EktBmYJw0

「……ガラ、と言ったかしら、その魔物が引き起こした惨事を私たちは知らないわ」
「はい。私もそんな地面がひっくり返ったりする事件が起きてたなんて聞いたことがないです」
「そうなんだ……。ヤミーやグリードを知らなくて俺が魔女を知らないのは仕方ないとしても、それはおかしいね」
「それに智樹君が言っていたエンジェロイド……どうやら運命の糸は、私たちの想像をはるかに超えた領域で絡まっているようね……」

 キャッスルドランの一室。少年を欠いた三人は、西日に染まりつつある室内で引き続いた情報交換を行っていた。
 しばらく前から始まっていたそれは、智樹を含めた四人でまずは自己紹介。そして映司に対して行われた戦闘の過程の説明といったものだった。これは、映司が自身の暴走中の話をくわしく聞きたいと強く願ったためだった。

 暴走について映司は幼い少女らに詳しい事情を話そうとはしなかった。これは結局、映司自身の問題でしかないのだ。他の誰かにそれを少しでも背負わせるなどあってはならない。それも、魔法少女という険しい宿命を背負った彼女たちであればなおさらだ。その際の映司の謝罪の勢いに押され、他の三人はそれ以上深く追求することができなかった。

 そうして、ほんの少しだけ気まずい空気を残した議題は終わった。さしたる益もなかったこともあり早々に移った議題は、この悪趣味なゲームについての心当たり、というものだ。
 そして、それがこの情報交換において大きなキモとなった。
 真木とガラ、そして『魔女の結界』の存在、である。

 映司の知り合いでもあり、元は味方だったはずの彼。終わりを渇望した彼が、なぜかこの戦いを開催したということ。
 コアメダルを作りだしたガラ、それが操る超常の力。欲望の力が引き起こした現象に、ここの作りが似ていること。
 人に害をなす魔女、それらが生息する異空間。それらとは違う気がする、という魔法少女ならではの注釈こそあったが、前触れもなくここに「呼ばれた」ことが「結界に取り込まれる」ことに似ていること。

 知りうる情報を擦り合わせ、堅苦しい話に飽きたのか智樹が――なぜかデイバッグを持って――「お花を摘みに行って参りますワオホホ」などと言いながら立ち去り、苦笑いをみっつ見合わせて。
 各々が真剣な顔を取り戻したのが今この瞬間、という訳だった。

「真木とガラ、それに私たちの知らない魔女が手を組んだ、ということかしらね」
「でもそれだとつじつまが合わない。ガラはもう俺が倒したはずなんだ」
「でも映司さん、真木は……推測ですけど、時間を越える能力を持っているかもしれないんです」
「そう、神をも冒涜する十二番目の理論。決して人が踏み込んではならない領域に、彼は足を踏み入れているのかも」
「……理論、はわかんないけど。確かに人を越えてはいるかもね」
「まさしく超越者、というわけね。ますます恐ろしい敵だわ」

 マミちゃん、ノリノリだな。
 決して言葉には出さないが映司はそんなことを考える。
 そのポジティブさは、つまり悲劇に対して鈍感になっているということの表れであるかもしれず、決して喜ぶべきことではない。それでも、それでも暗く沈んでいるよりはずっといい。
 まどかも智樹も、彼らは彼らなりのやり方でこの悲劇のなかを懸命に生きている。短い触れ合いであったが、それは確信できた。

 だから、守らなければ。ここまで背伸びしてしまっている彼女らを、何がなんでも守らなければ。
 まどかだって、言葉にはしないが映司に対してわだかまりを抱いているに違いない。それでも、何も言わない。その強さと優しさには、守ることで応える必要がある。

 身体の奥深くに感じる紫色の胎動に小さく顔を顰めて、彼の思案はマミの声に遮られた。

「それにしても遅いわね、桜井君」
「そうですね……何かあったんでしょうか」
「独りにするべきじゃなかったかな……俺がいくよ」
「だっ、ダメですよ、映司さん! まだ動いちゃ!」
「そうですよ、火野さん。癒しの光だって万能じゃないんだから。あなたを一番労わってくれるのは時間なのよ?」
「でも」
「でもじゃ――」

657 ◆l.qOMFdGV.:2012/11/13(火) 01:06:30 ID:EktBmYJw0

「ただいまー」

 噂をすればなんとやら、だ。チラついた最悪の結末が覆されたことに大きな安堵をおぼえる。
 マミたちと小さく笑顔を交わして、ドアの方に顔を向けた。おかえり、と口を開こうとして、

「――インキュベーターッ!!」
「――キュウべぇ」

 裂くような悲鳴……怒号と言った方が正しいそれらが、安穏としたその部屋の空気を吹き飛ばした。
 間髪を入れずに桃と金の光が沈みかけの太陽光をかき消し、それがすぎ去れば残ったのは魔装を纏った少女が二人。

 智樹も、無論映司すらも何も言えなかった。
 だって、その猫とも兎ともつかない獣は、一見したところで悪魔と看破するのは誰にだってできることじゃないから。

「やあ、マミ、まどか」

 いきり立つ二人とは対照的に、酷く冷静なインキュベーターの声。
 まるでそれが始業のチャイムのように四人の耳朶をうって、――放送が始まった。



【一日目-夕方(放送直前)】
【C-6 キャッスルドラン内部】

【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)、混乱、暴走への恐怖
【首輪】150枚:0枚
【コア】タカ:1、トラ:1、バッタ:1、ゴリラ:1、プテラ:2、トリケラ:1、ティラノ:2
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
 0.手を伸ばして全てを包み込む
 1.ふたりともどうしたんだ?
 2.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
 3.もしもアンクが現れても、倒さなければならないが……
 4.もしもまた暴走したら……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です。
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※ガメルのコアメダルを砕いた事は後悔していませんが、まどかの心に傷を与えてしまった事に関しては罪悪感を抱いています。
※通常より紫のメダルが暴走しやすくなっています。
※暴走中の記憶は微かに残っています。
※暴走中の詳しい話を聞きました。
※真木清人が時間の流れに介入できる事を知りました。
※「ガラと魔女の結界がここの形成に関わっているかもしれない」と考えています。
※魔法少女まどか☆マギカの世界との齟齬を若干ながら感じました。
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】白・リーダー代行
【状態】哀しみ、決意、戸惑い、怒り
【首輪】180枚:30枚
【コア】サイ(感情)、ゴリラ:1、ゾウ:1
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、ファングメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式×2、詳細名簿@オリジナル、G4チップ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品×1、ワイルドタイガーのブロマイド@TIGER&BUNNY、マスク・ド・パンツのマスク@そらのおとしもの
【思考・状況】
基本:この手で誰かを守る為、魔法少女として戦う。
 0.マミさんとはこれからもずっと仲間!
 1.キュウべぇ……!
 2.放送を聞く
 3.ガメルのコアは、今は誰にも渡すつもりはない。
 4.映司さんがいい人だという事は分かるけど……
 5.ルナティックとディケイドの事は警戒しなければならない。
 6.ほむらちゃんやさやかちゃんとも、もう一度会いたいな……
 7.真木清人は時間の流れに介入できる……
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、ほむらに願いを託し、死亡した直後です。
※まどかの欲望は「誰かが悲しむのを見たくないから、みんなを守る事」です。
※火野映司(名前は知らない)が良い人であろう事は把握していますが、複雑な気持ちです。
※仮面ライダーの定義が曖昧な為、ルナティックの正式名称をとりあえず「仮面ライダールナティック(仮)」と認識しています。
※サイのコアメダルにはガメルの感情が内包されていますが、まどかは気付いていません。
※自分の欲望を自覚したことで、コアメダルとの同化が若干進行しました(グリード化はしていません)。
※メズールを見月そはらだと思っています。
※真木清人が時間の流れに介入できる事を知りました。
※「ガラと魔女の結界がここの形成に関わっているかもしれない」と考えています。
※仮面ライダーOOOの世界との齟齬を若干ながら感じました。

658 ◆l.qOMFdGV.:2012/11/13(火) 01:07:14 ID:EktBmYJw0

【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】黄
【状態】怒り、疲労(小)
【首輪】90枚(増加中):0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:頼れる"先輩魔法少女"として極力多くの参加者を保護する。
 0.私はひとりぼっちじゃなかったのね!
 1.キュウべぇへの対処
2.放送を聞く
 3.他の魔法少女とも共存し、今は主催を倒す為に戦う。
 4.ディケイドを警戒する。
 4.真木清人は神をも冒涜する十二番目の理論に手を出している……!
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、魔女化したさやかが爆殺されるのを見た直後です。
※真木清人が時間の流れに介入できることを知りました。
※ひとりぼっちじゃないことを実感した上、先輩っぽい行動も出来ているのでメダルが増加しています。
※「ガラと魔女の結界がここの形成に関わっているかもしれない」と考えています。
※仮面ライダーOOOの世界との齟齬を若干ながら感じました。

【桜井智樹@そらのおとしもの】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】ダメージ(中) 、混乱
【首輪】150枚:0枚
【装備】なし
【道具】大量のエロ本@そらのおとしもの、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:殺し合いに乗らない。
 1.え? 何この修羅場?
 2.知り合いと合流したい。
 3.二度と変身はしない。
 4.いつかマミのおっぱいを揉んでみせる。絶対に。
 5.残りのエロ本は後のお楽しみに取っておく。
【備考】
※エロ本は半分程読みました。残り半分残っています。
※二人に隠れてエロ本を読んでいたのでメダルが増加しました。

【全体備考】
※地図上のランドマークにインキュベーターが監視のためにそれぞれ一匹ずつ存在しています。

659 ◆l.qOMFdGV.:2012/11/13(火) 01:08:55 ID:EktBmYJw0
状態表をすっかり忘れていたため投下が非常に遅くなりましたことをお詫びします
申し訳ありませんでした

投下終了です
何かありましたらお願いいたします

タイトルは

インキュベーター様が見てる

です

660名無しさん:2012/11/13(火) 02:32:44 ID:YkdcSzU2O
投下乙です。出たなQB(ドワォ)、正直即ショットな未来しか見えないのは10話マミさんの仕業なんだ。

661名無しさん:2012/11/13(火) 10:06:47 ID:j0eo/qp.0
>>650
雑誌の付録のやつ? あれってTSUTAYAとかに置いてるんだろうか

662名無しさん:2012/11/13(火) 10:11:16 ID:j0eo/qp.0
おっと、投下乙です
マミさんは岡部と話が合いそうだな

663名無しさん:2012/11/13(火) 10:58:15 ID:YkdcSzU2O
>>661
付録ってか応募?全員サービスのはずだから変わらないけど、そういうのって置いてたかなぁ…

664名無しさん:2012/11/13(火) 15:07:33 ID:ujdshuHs0
投下乙です

清人とQBもまたこいつららしい事をするなあ
智樹、原作まどマギの中盤までそいつの本質を見抜けなかった人間の方が多いからお前が騙される気持ちは判る。だがそいつにはお前の言葉は届かないぞ
そいつと彼女らを同じに見てたら最後は…
まどかとマミはそうなるよなあ…
放送後はどうなるんだろう…

665名無しさん:2012/11/13(火) 17:56:10 ID:ptTwdeY.O
投下乙です。

端末ではなく「個」になったキュゥべえには、どんな終末が訪れるのか。
そして智樹、そんなものはさっさとゴミ箱にIN!だ。

666名無しさん:2012/11/13(火) 20:15:35 ID:ztUZWgzY0
投下乙

えんぎでもない!このかいじょうにはQBがなんびきも!
マミさんやまどかが強く反応するのも無理はないわな

>もちろんあのおっぱい――少し小ぶりではあるが、もうひとつ増えた! ……ふたつか?――も忘れた訳ではない
智樹ェ…どんな状況でもそのことを忘れないお前さんは大物だよ…

667名無しさん:2012/11/14(水) 00:44:52 ID:PGROG3sI0
投下乙です!

智樹はほんとにぶれないなww

ん?「その特性を生かして」ってことは、監視用に散らばっている「インキュベーター」が記憶ありバックアップありの主催者側(監視用)で、
ネウロに支給された、支給品インキュベーター(キュウべえ)が記憶&バックアップ無しの「個」ってことでOK?

668名無しさん:2012/11/14(水) 18:03:59 ID:GVszEWHgO
このロワはQBに監視されています

669名無しさん:2012/11/15(木) 10:11:49 ID:5dRdLoTI0
投下乙!
各所にQB配置とか恐ろしすぎるwww
そして真木の言ってた支給品として調達したのがネウロの支給品で、記憶とバックアップがないのかあ…
面白い展開だなあ

670名無しさん:2012/11/15(木) 11:19:01 ID:YCNn7UAIO
>>669
あくまで支給QB、略して支QBの記憶にないのはマッキー(とウヴァさん)との会話だけでね?じゃないと今までの話に不都合起きるだろうし

671名無しさん:2012/11/15(木) 11:33:12 ID:5dRdLoTI0
>>670
ああ、そっか

672名無しさん:2012/11/16(金) 14:10:58 ID:mhhPHEC20
予約来てた

673 ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:28:03 ID:4ouEQd1E0
少し遅れましたが、投下乙です。
あれ、そのQBいきなりピンチじゃない?www
マミもまどかもおもいっきり敵視してるだろうしなあ……
で、何気に映司の心理描写もしっかりしていて、今回も相変わらず「らしい」ですね
この状況じゃ暴走の危険を孕んだオーズよりも頼りになりそうな魔法少女が二人もいるのに、それでも守りたい、守らなきゃって考えちゃってるあたりがもうどうしようもなく映司らしい
あと何気にマミちゃんノリノリだなに笑ったwww

投下します

674ナイトメア・ビフォア(前編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:28:41 ID:4ouEQd1E0
 会場中心部付近……地図上に示された施設で現すなら、クスクシエ――跡地。
 何者かによって木端微塵と破壊されたクスクシエの残骸を眺めながら、井坂深紅郎はたまたまその場に居合わせた白スーツの中年男性――名はアポロガイストというらしい――に声をかけた。
「いやはや、まったく……大胆なことをする人がいるものですねえ」
「ここは元よりそういう場所なのだ、これくらい不思議でもなかろう」
「ええ、それは勿論分かっていますよ。私は……これをやった人物に興味があるのです」

 そう言う井坂は、ほぼ無意識下で己が唇をぺろり、と舐めずっていた。
 誰がこの破壊を行ったのかは知らないが、こんな大胆なことをしては、周囲の参加者に自分の存在をアピールしているようなものだ。自分を危険に晒す可能性だって大いにあるというのに、これをやった下手人にはよっぽどの自信があったと見える。
 では、その自信を裏付けるものは何だろうか。井坂の知り得る常識の範囲内で考えるなら……それはやはり、人間を容易く超人へと変えるガイアメモリの力を用いたのではないか、という考えに思い至るのが普通だ。
 一体誰が、どんなメモリの力を使ってこれ程までに惨憺たる破壊の爪痕をここに刻み付けたのだろうか。
 いや、この際だ、いっそメモリでなくてもいい。人間を更なる高みへと押し上げる力の可能性がそこにあるのならば、それが何であろうと井坂の興味は尽きない。
 剣呑な狂気の光を滾らせ熱っぽくなった井坂の双眸を不審に思ったのか、アポロガイストは一歩身を退いて問うた。
「貴様、井坂深紅郎と言ったな……貴様は一体何者なのだ? 何を考えている?」
「ああいえ……そのままで結構ですよ、アポロガイストさん。貴方がそこまで知る必要はありませんから」
 そう言って、くつくつと喉を鳴らして笑う井坂の姿は、傍目には随分と不気味に見えたことだろう。警戒のレベルを一気に引き上げたアポロガイストが、臨戦態勢に入って声を荒げた。
「貴様、なにを笑っているのだ!?」
「ですから、お気になさらず……どうせ貴方はここで死ぬんですから、ねえ」

 ――WEATHER!!――
 軽く掲げたウェザーメモリのガイアウィスパーが鳴り響いた途端、アポロガイストは小さく、しかし憎々しげに「またか」と呟いたのを井坂は聞き逃さなかった。
 この反応……ガイアメモリを知っている者の反応だ。アポロガイストは、井坂に出会う以前に何らかのメモリ所有者と出会い、そしてこの敵意をむき出しにした反応を見るに、おそらくは戦ってすらいる。
 それでも大した怪我もなく生き延びているということは、つまりこの男にも何らかの力があるということに他ならない。
 ガイアメモリを知っていながら、それを目の前にしてなお恐懼に固まることのないアポロガイストに興味を改めた井坂は、純粋な好奇心からの心変わりを起こした。
「……気が変わりました。やはり、すぐには殺しませんよ。貴方にも力があるならどうぞ?」
「貴様ッ……ナメたことを抜かしおって! 後悔させてやるのだッ!!」

 癇性なアポロガイストは井坂の言葉を挑発と受け取って、すぐに激情した様子だった。
 ユーザーの精神状態にもそのあり方を大きく左右されるガイアメモリは、怒れば怒る程にその真の性能を引き出せる。
 井坂の望む進化の為なら、アポロガイストの浅薄な怒りすらも井坂を上機嫌にさせる材料となるのである。
 されど、そんな井坂の期待に反して、アポロガイストが取り出した箱は見慣れた“縦長の”長方形ではなく、龍の頭部のレリーフが刻まれた“横長の”長方形。
 井坂の知っている情報から判断するなら、それはまさしく龍之介が持っているリュウガのカードデッキの色違い、というべきか。
 リュウガのデッキは黒い龍の頭部が刻まれているのに対し、アポロガイストの持つそれは、金の龍の頭部が刻まれていた。

675ナイトメア・ビフォア(前編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:29:15 ID:4ouEQd1E0
 
 アポロガイストは井坂の落胆など知ったことではないとばかりに、何処からともなく現れたバックルにデッキを叩き込み、幾重にもオーバーラップした虚像と一つになって、これまた井坂にとって見覚えのある仮面ライダー――の、色違いへと変身を遂げた。
「ほう、貴方はカードデッキを使うのですか」
「……貴様、龍騎を知っているのか?」
「それとよく似たものを」

 赤いリュウガとも言えるそれの名は、リュウキ、というらしい。
 こちらが所持するデッキを龍の牙とするなら、そっちは龍の騎士、ということか。
 龍騎と龍牙。二つのデッキの持ち主がここで出会ったのも何かの縁か。ガイアメモリは運命に導かれるようにその境遇が決まるというのが井坂の持論だが、案外カードデッキもそういうものなのかもしれないな、と、そんな取り留めもないことを考える。
 そんな井坂の肩にぽんと手を置いた龍之介が、今まではずっと後方で控えていたのか、何の心変わりか一歩前へと踏み出したのだ。
「先生、こいつをやるんだったら、ウェザーよりも俺のリュウガじゃね?」
「ふむ……まあ、メモリでないなら私の興味の対象からは外れますし、構いませんが」
「さっすが先生、超COOL! んじゃ、後は俺がやるから、先生は後ろで休憩してなよ」

 龍之介は自分の力――リュウガとインビジブル――をまだ存分に愉しんではいない。
 まだ、龍之介が得意とする弱者に対する蹂躙行為は欠片も行われていないのだ。龍之介が天性からの“才能”を持った男なら、そろそろ血が疼いてくるころだというのもわかる。
 どの道カードデッキの相手をガイアメモリで務めなければならない理由もないし、デッキの相手はデッキに任せた方が、リュウガにとっても何らかのプラスが生まれる可能性もある。
 子供の自主性を慮るのも悪くはないなと判断した井坂は、「では龍之介くんにお任せします」と一言告げて、後方へと身を退いた。

「ごめんごめん、待たせちゃってさあ」
「ふん、私もさっきは井坂深紅郎に情けをかけられたからな……私もそれくらいは待ってやるのだ。だが、これで貸し借りはなしだ。我々の立場は対等だ。よもや貴様らがどんな無様な敗北を喫しても、文句など言うべくもなかろう」
 成程確かにアポロガイストの言う通り、井坂はアポロガイストよりも早くウェザーに変身することも出来たし、そうなれば先手を取る事も出来た。アポロガイストがデッキを出すよりも先に氷漬けにしてしまえば、ウェザーの勝ちだったとも思う。
 それをしなかったことを挑発と受け取り激情したアポロガイストだからこそ、それを帳消しにした上で勝利を収めたかったのだろう。井坂にしてみれば、まったくもって無駄なプライドである。
 
 見るに、この状況――ミラーワールドに入れるのは龍騎だけではないのだから、その時点で龍騎にアドバンテージはない。互いの戦力は互角だ。
 仮に奴が言葉通りの実力を持っていてリュウガを退けたとて、その後に控えるウェザーの相手までしなければならないことまで理解してあんなことをのたまっているのだとしたら、成程確かにガイアメモリと戦って無傷で生き延びて来た男というだけのことはある。
「ふむ……では、今度は私がお手並み拝見といきましょうかねぇ」

 さながら実験動物を観察するかのような井坂の無感動な瞳に映るは、赤と黒、ほとんど同じ外見だが、しかし配色と細部が僅かに異なる二人の龍の仮面ライダー。
 ……井坂は、ふと、やはり自分は「龍」に縁があるようだと改めて思った。

676ナイトメア・ビフォア(前編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:29:40 ID:4ouEQd1E0
 


 ライドベンダーの操縦性は、門矢士が日頃から乗りなれているマシンディケイダーによく似ている。道路交通法も何もないこの場では、公道とはいえスピードに気を遣う必要もなく、扱いやすいバイクで思うさま風を切って走るのは存外気分が落ち着いた。
 今はもう随分と過去の話だが……龍騎の世界で見た事のあるような、ないような。そんな景色が高速で流れていくのを眺めながら、門矢士はふと思案を巡らせる。

 最初に名簿を確認した際に、この場にクウガとブレイド、そしてディエンドが存在する事は既に理解している。が、しかしオーズやアクセルといった仮面ライダーは、その存在自体を士は知らなかった。
 彼らが九つの世界に属している仮面ライダーであるなら、士もその存在を知っている筈だ。知らないという事は、おそらく別の世界――例えば、あの夏の戦いで突然現れ嵐のように去っていった「ダブル」がいる世界、とか――の仮面ライダーに当たるのだろう。
 性格には何の世界の仮面ライダーかなどわからないが、常に新しい仮面ライダーの世界が確認され続けている現状、一刻も早く全てのライダーを破壊してしまわなければならないことに変わりはない。
 では、この殺し合いには一体どれ程の数の仮面ライダーが参加しているのだろうか。士が破壊しなければならない仮面ライダーは、一体あと何人存在するのだろうか。答えなど導き出しようのない疑問を、ふと浮かべる。
 今のところ士が認知している破壊対象は、クウガとブレイド、そしてアクセルとオーズで合計四人だが、この分ならばまだまだ士も知らない仮面ライダーがこの場に存在していてもおかしくはない。
 
 それらも含めて、全てを破壊するのが士の使命だ。
 全ての“仮面ライダーの物語”を破壊して、そして最後にはディケイド自身も破壊されることで、ディケイドがこれまで“破壊”した全ての世界の“再生”が始まる。
 それが世界の破壊者仮面ライダーディケイドの真の目的。
 士自身がそういう“ソレっぽいこと”を口にするのを嫌っているから誰にも理解されることはないが、何も士は、世界に拒絶されたから……とか、そんな理由でやさぐれて破壊者になったわけではない。そんな理由で世界を破壊することが許されるわけがない。

 ――“創造”は“破壊”からしか生まれませんからね。残念ですが……

 あの日ディケイドを旅に送り出した紅渡は、士に“破壊の先にある創造”を託したのだ。
 だが、門矢士は、ディケイドは、その真意を理解するのがあまりにも遅すぎた。士がディケイドとしての使命を履き違えて旅を続けた結果、世界の崩壊はもはや二進も三進も行かないレベルにまで加速してしまった。だからもう、手段を選んでいられる状況ではなくなったのだ。
 己が過ちを理解し、だからこそ破壊者の運命を受け入れた士に、もはやこれ以上の猶予はない。
 士はこれまで出会って来た全ての仮面ライダーに敬意を懐いている。そんな彼らが、訳の分からない破壊の運命に巻き込まれて滅びていくのを何もせずに黙ってみているなど、もう士には出来なかった。
 つまるところ、ディケイドの使命とは、全ての仮面ライダーを破壊し、全ての仮面ライダーは再生させること――全ての世界の救済なのである。
 その時に必要になるのが、ディケイドを破壊出来る、どの世界にも属さない新たな仮面ライダー……その役割を任せてもいいと思える相手は――ライダー大戦の鍵を握る少女――光夏海と、彼女にそのための力を与えることの出来るキバーラを置いて他にはいない。
 おそらくはキバーラももう、鳴滝から全て聞かされている筈だ。
 そんなキバーラに変な気遣いをされるのは御免だし、何よりもこいつを無事もう一度夏海に会わせる必要があるからこそ、こいつにはこの場で表に出て来て欲しくはなかった。多少乱暴でも、このまま全てが終わるまでデイバッグの中でじっとしていて欲しいと士は思っていた。
 
 ぐだぐだと考えたが、何にせよ、士はとっととこの殺し合いを破壊して、元の戦いに戻らなければならないのだ。
 もうこれ以上生温い戦いをしている場合ではないし、目的のためなら例え“悪”だと思われようが手段など選んではいられない……というのに。
(チッ……今までのやり方じゃ効率が悪すぎる)

677ナイトメア・ビフォア(前編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:30:42 ID:4ouEQd1E0
 
 アクセルにもオーズにも、下手な手加減は抜きにしていきなり奇襲でブッ潰す、という戦法を取っていても問題はなかった筈だ。だが、士がそれをしなかったのは、勿論メダルの特殊制限によるところもあるが、大きな理由はほかにある。
 ディケイドに破壊された仮面ライダーは、カメンライドカードへと変質する。
 相手を破壊しカードにしてしまうというのはつまり、相手の身体が丸ごとカードになるということだ。それでは、首輪と一緒に所持していたメダルも一緒に消えてしまうのではないか。そんな憂慮があったからこそ、ただでさえメダル残数を気にしていた士は慎重になっていたのだが、もうこの際そんな些事は気にしていられない。
 メダルが足りないなら何が何でも奪い取ればいい。その上でライダーを破壊してやればいい話ではないか。それでこそ、他の全てから憎まれる世界の破壊者だ。

(……あまり気乗りはしないが、そのためにも、ここに居る間くらいはアイツと手を組むのもありかもな)
 そう心に思い描くのは、ディケイドと同じで“物語の存在しない”仮面ライダー――ディエンド。
 世界を破壊するため大ショッカーによって造られたディケイドと、その二号機的な役割のため開発されたディエンドは事実上の兄弟機といえる。
 それぞれの独立した世界で誕生した仮面ライダーたちと違って、外的要因によって造り出されたディケイドには当然ながら物語は存在しないが、それと同じ生い立ちで開発されたディエンドにも、ディケイド同様に物語は存在しないのである。
 ディケイドの破壊は仮面ライダーを破壊する事、ひいては“仮面ライダーの物語”を破壊することにこそ意味があるのに、自分と同質の存在であるディエンドを破壊したところで意味は全くない。
 それどころか、その存在意義と役割を考えるなら、例え他の全てのライダーが敵に回ったとしても、ディエンドだけはディケイドの味方といっても過言ではない。
 だから士は、これまでの戦いで幾度となく海東大樹と遭遇し、幾度となく生身の海東を倒せるチャンスを得ていながら、ディエンドに襲い掛かることだけはせずに無視を決め込んで来たのだ。
 そして、そんな海東大樹自身も、ディエンドの役割と士の真意にはもう気付いている筈だ。
 ……いや、気付いている、どころか。今にして思えば、あの男は記憶を失った状態の士と「剣の世界」で初めて出会ったあの時から既に全てを知っていたように思える。最後にはこうなることを、こうならなければならないことを、全て見越した上で士と接して来たように思える。
 そんな奴が、果たして士の思惑通りに味方をしてくれるだろうか、と考えれば、溜息を吐きたい気持ちにもなるというものだった。

 ――余談だが、士がディエンドを破壊しない理由はもう一つある。
 ディケイドは既に「シンケンジャーの世界」で誕生した、“物語を持った状態のディエンド”を一度破壊しているのだ。
 ディケイドが仲間たちとの旅の間に、その世界の核となる仮面ライダーを破壊したのは「シンケンジャーの世界」で誕生したディエンド(チノマナコ)のみだが、その結果として「シンケンジャーの世界」のみは他の仮面ライダーの世界同様の滅びの道を歩まずに済んだのだ。
 ディエンドなぞ元より破壊する意味もない仮面ライダーなのだが、仮に破壊する意味が出来てしまったとて、もう既に一度破壊している以上、奴を破壊する意味はやはり皆無なのである。

(……いや、それでもアイツは好き勝手に行動してるんだろうな)
 まるで雲のように掴みどころがなく、何を考えているのかさっぱり分からない海東大樹の嫌味過ぎる程に爽やかな笑顔を思い出すと何処か癪で、思わずアクセルを握る手を強めバイクを加速させてしまう。
 一応、士と海東の二人は、確かな友情の絆で繋がっていると、士自身にも――不本意ながら――そういう自覚はある。が、しかし、だからといって素直に頼んで海東が士に味方してくれるとはやはり思えないのだ。
「おっと、君の使命なんて僕が知ったことじゃないなあ……君も通りすがりの仮面ライダーなら、自力で頑張ってみたまえ」
 ……とか何とか言いながら、癇に障る笑みを浮かべ指鉄砲で士の胸を打つ。そんな海東の仕草が容易に想像出来てしまうから腹立たしい。それでいて、肝心な場面で突然出てきた海東は、いつだって美味しい部分だけ“盗んで”、最終的には何だかんだで助けてくれるのだ。それが余計に腹立たしい。
 ディケイドとディエンドの存在意義、士の目的まで全て理解していて、あの男はそういう意地悪をするのだから性質が悪い。そんな面倒臭い男だからこそ、士はこれまで自分から手を貸してくれという気はなかったのだが――。
(だが……今は状況が状況だからな。もし会ったら協力を申し出るくらいはしてもいいかも、な……)

678ナイトメア・ビフォア(前編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:31:02 ID:4ouEQd1E0
 
 小野寺ユウスケを見放してしまった以上、今はもう唯一の味方となった海東の意地悪な笑みを思い浮かべる。ユウスケら仲間たちとの絆は心を鬼にして断ち切った士だが、海東のそういう態度に対する苛立ちは、いくら断ち切ろうとしても仕方がない。腹が立つものは腹が立つのだ。
 そんなことを考えていた士が、地図上でいうならクスクシエと呼ばれる施設の近くを通りかかった時だった。
「ん……?」

 ライドベンダーのサイドミラーの中で、何かが動いているのを見咎めた士は、その場でライドベンダーを急停車させて、前方のカーブミラーに視線を向ける。
 角度を変えてみれば、士にも鏡の中で動く――否、動くどころか、互いに火花を散らして相克し合う赤と黒の仮面ライダーの存在を認知することが出来た。
「あいつ……ッ!!」

 その姿を見間違える筈もない。仮面ライダー龍騎――アポロガイストだ。
 一度破壊したライダーを破壊することに意味がない、という要素を考慮しても、士はまだ仮面ライダー龍騎を破壊していない。
 ここでアポロガイストごと奴を破壊すれば「龍騎の世界」の破壊は完了するし、確実に殺し合いに乗っているのであろう危険人物も一人仕留める事が出来る。
 士は何の躊躇いもなく、鏡の世界にいる龍騎を睨みながらディケイドライバーを装着。バイクの駆動音と共に、ライドブッカーから激情にその仮面を歪ませたディケイドのカードを取り出し、それをバックルに叩き込んだ。

 ――KAMEN RIDE――
 ――DECADE!!――

 十の虚像が折り重なって、そこにいるのはもはや門矢士ではない。
 己が使命を受け入れた真の破壊者――仮面ライダーディケイドである。



 二人の戦いの場は既にミラーワールドへと移っていた。
 当然と言えば当然だ、二人とも鏡の世界の仮面ライダーなのだから、どちらかが先に鏡の中からの奇襲戦法を試みれば、もう一方もそれを追って鏡の世界へと突入する。龍騎とリュウガは互いに示し合せたように、「龍騎の世界」で行われるライダーバトルをここで再現していたのだ。
 ――が。両者の戦いは、決して互角ではない。
 リュウガに変身する龍之介が如何に殺人に躊躇いを感じない男だとはいえ、相手取るのは歴戦の兵、大ショッカー大幹部たるアポロガイストだ。リュウガのスペックだけでは、実力の不利を覆すには足りない。
 
「どうした、その程度の実力では仮面ライダーの名が聞いて呆れるぞッ!」
「別に……仮面ライダーなんか名乗ったことないんだけどなあ……!」
 龍騎が振り下ろした青龍刀を同型の青龍刀で受け止めながら、愚痴るように零すリュウガ。アポロガイストの放つ攻撃、その武器に乗った重さが、龍之介の放つそれとはまるで違う。
 龍騎の刀による力押しに、それを受け止めていたリュウガが徐々に押し負けてゆく。このままでは拙いと、リュウガは駄目元で右足で思い切り龍騎の腹を蹴り飛ばした。それが奴の身体にクリーンヒットする可能性など万一にも考えてはいなかったが、それで奴を引き離せるならこの場は問題ない。
 龍之介の思惑通り、龍騎は蹴りが入る直前に僅かに身をよじり、回避行動と共に一歩後退していた。チャンスだ。これを好機とばかりに、リュウガはバックルから引き抜いたカードを一枚、左腕の籠手へと挿入した。

 ――STRIKE VENT――
 ドラグセイバーを左手に持ち替え、何処からともなく現れた黒龍の頭部を模したドラグクローを右腕に装着、それを前方へと突き出すリュウガ。
 突き出されたクローの口が開いたかと思えば、そこから噴き出たのは敵を焼き尽くさんと燃え盛る漆黒の炎。それが、さながら柱のような波濤となって龍騎へと押し寄せるのだ。
 生身の人間が喰らったら一発で死ぬこと間違いなし、と、龍之介はどうでもいいことを考えながら、龍騎が回避のために地面を転がった一瞬の隙を突いてもう一つの能力を発動した。
 体内に取り込んだ、インビジブルメモリの力である。
(まあ、正面から挑んで勝てないならこっちにもやりようはあるってことで)

679ナイトメア・ビフォア(前編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:31:31 ID:4ouEQd1E0
 

 人一人くらいならば容易く飲み込み焼き尽くしても何らおかしくはない炎の柱が、龍騎が元いた場所を焼き払ってゆくのを見て、これには流石のアポロガイストも肝を冷やした。
 アスファルトが焦げている。リュウガの炎に晒された地面は熱を持って、火災跡さながらに火を放っている。同型のライダーとは思えぬ威力の火炎攻撃である。
 あの龍之介とかいう男、戦闘の実力自体は大したことはないが、龍騎をも上回る暗黒龍の力を借りた「仮面ライダーリュウガ」としてのスペックは決してナメて掛かっていいものではない。
 スペックに頼った能力戦に持ち込まれる前に、実力がものを言う近接戦闘でケリを付けるべきか。
 そう思い、一瞬遅れて龍騎がリュウガへと視線を向けた時――そこには既に、誰もいなかった。
「……馬鹿なッ、逃げたのか!? いいや、そんな筈はないのだ!」

 アポロガイストが目を離したのは本当に一瞬だ。回避の一瞬で、敗走する姿すらも残さずに完全にこの場から立ち去るなど出来る訳がない。
 とすれば、何処かに隠れている……と考えるのが自然だが、しかしこの場は何の変哲もない一本道の道路だ、身体を隠せる物陰などはない。
 姿の見えない敵に焦慮を懐き始めたその瞬間、アポロガイストは背後から急迫する何者かの気配を感じ取った。
 僅かに響く足音、息遣い、そして突き付けられた殺気。姿は隠したつもりなのかもしれないが、このアポロガイストの五感を誤魔化すには足りぬ浅知恵である。
 後方に敵がいると確信し、リュウガの大体の位置取りと距離感を掴んだ龍騎は、遠心力を味方につけて、ドラグセイバーを横一閃に振り抜いた。

「――何、ィ……ッ!」
 が、しかし結果は空振り――どころか、重たい刃による一撃が龍騎の胸部装甲を袈裟掛けに斬り付けた。
 何の予測もしていなかった。回避された、と思った次の瞬間には、自分が攻撃を受けていたのだ。
 何が起こったのか、状況を理解しようと一瞬のうちに考えを巡らすアポロガイスト。その身が後方へと仰け反っている間に、今度は龍騎を吹っ飛ばすには十分過ぎる程に的確な蹴りが、銀の甲冑に覆われていない龍騎の胴を蹴り飛ばした。
 腹を突きぬけていくような鈍い痛みを感じながら後方へと吹っ飛ばされた龍騎は、一瞬その場に現れたリュウガの影を見た。ぼんやりと浮かんだリュウガの影は、蹴りを放った直後なのか、片脚をゆっくりと地面に降ろし此方を俯瞰しているのだ。
(インビジブル……透明化、だとッ!)

 これで合点がいった。
 奴が使ったのは、あのディエンドが使うインビジブルと同じ、自分の姿を透明化させ、相手に忍び寄り奇襲をしかける、という卑劣極まりない戦法である。
 確かにそれならば、どんな素人でも確実に相手の裏をかいて間合いへと踏み込み、確実な一撃を叩き込むことも出来よう。
 確かに実力面でアポロガイストに負けはない、が、しかし奇妙な能力を活かした奇襲で畳み掛けられては、流石のアポロガイストも完全な対応とはいかないのだった。
「まあ、これなら俺でも勝てるだろうし。悪く思わないでね」
「……チィ、あまり私をナメるなよ、素人の小僧めが」

 しかし、腐ってもアポロガイストは大幹部なのである。
 如何に策を弄そうとも、言ってしまえば所詮は“少し工夫を凝らしただけの素人”だ。否、むしろ、だからこそ、そんな輩に負けることなど絶対にあってはならないし、もしここで負けてしまえば、大ショッカー大大幹部の面目は丸つぶれだ。
 負ける訳にはいかない。絶対にだ。こんな素人に少しでも全力を出さねばならないという事実は業腹ではあるが、それでも勝てる戦いで、みすみす負けてやる趣味はない。
 ここからはただの素人の処刑、というには訳が違う。認識を改めたアポロガイストは、ドラグセイバーをぶん、と振り払い構え直して、
 
「――考えを改めよう。私は今から、貴様を倒すためあらゆる労力を厭わないッ!」

 何処へ潜んでいるのかも知れない相手に、己が決意の表明と、戦線の布告をする。

680ナイトメア・ビフォア(前編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:31:55 ID:4ouEQd1E0
 これでもはや後戻りは出来ない。奴が如何なる手段に出ようとも、これだけ大見得を切った手前、もしも負けるようなことがあればそれはもう大幹部失格だ。情けないにも程がある。
 故にこそ、アポロガイストは、大ショッカー大幹部として恥じることのない戦いを奴に見せ付けてやる必要があるのだった。

 返答の言葉はない。全てが反転した世界はしんとした静寂に包まれている。
 攻撃を仕掛けるため接近をするなら、どんなに隠そうとしても必ず足音は鳴る。気配は隠し切れない。それさえ見破れば、如何な透明戦術といえどもアポロガイストに負けはない。
 何処から殺意が殺到しても対処できるようにと感覚を研ぎ澄ませ――次の瞬間、感じたのは“熱気”だった。
「ムッ……!」

 右隣から、漆黒の火炎放射が再び龍騎へと殺到する。
 やにわにその場から跳び退った龍騎は、元いた場所より右側へ十メートル程離れた地点にて、何もない虚空が黒炎を放つのを見咎めた。
 まるで悪戯を楽しむ子供のように一瞬姿を現したリュウガは、龍騎へ一瞬の一瞥をくれたあと、またその姿を霞と消す。
(ほおう……そういう手段で来るか)

 おそらく奴も、接近すれば感付かれると気付いたのだろう。一度目の接触で、もう二度目はないと判断したからこその安全策。飛び道具による攻撃。
 ならばこちらも、と一瞬思うが、リュウガと同じでほとんど近接武器しか持たない龍騎に、離れた敵を仕留める技はない。仮に同じ火炎放射に打って出ても、スペックで劣る此方が押し負けるのは明白だ。
 アポロマグナムが使えれば……と思うが、ここはミラーワールド。「龍騎の世界」の仮面ライダー以外の存在を一切許さない――ディケイド、という例外はあるが――死の世界だ。龍騎の変身を解除し、アポロガイストに変身して挑むのは自殺行為である。

(ふむ……)
 しかし、そこで冷静さを失わないのが大ショッカー大幹部たる余裕。
 龍騎はその仮面の下で小さく唸り、奴への対抗策を考える。
 漆黒の火炎放射が撒き散らした炎は今もアスファルトに留まって、小さな火を揺らめかせていた。
 何かを思い立ったように、龍騎はやおら奴によって焼かれ熱を持った地面を避けるように歩き出した。
「貴様はまず……透明になって私に挑み、そしてその一合で透明化のからくりを見抜かれた……! そして、次は距離を取っての火炎放射……まったく、素人の考えそうな浅はかな戦い方なのだ」
「……いや、まあ、素人だし」
「フン、まあいい……愚かな貴様に一つだけ忠告してやるのだ」
「そういうのあんま興味ないんだけどなー……まあ、いいや。一応聞かせて貰おっかなあ、アポロの旦那の有り難い助言を」
 何処からともなく聞こえる声に、龍騎は嘲笑混じりに宣言した。
「――貴様は私には勝てん!」

681ナイトメア・ビフォア(前編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:33:05 ID:4ouEQd1E0
 

 得意げに嘯く龍騎を見て、龍之介は早くもこの戦いに嫌気がさしてきていた。
 龍之介の独壇場は、力を持たない相手を一方的に蹂躙し、極限の苦しみを味わわせながら、じっくりと近付いてゆく死に脅え泣き叫ぶ姿を鑑賞し、時にはそれを芸術として愉しむことである。
 あのアポロガイストのような面倒臭い相手との正面切っての戦いは正直“向いていない”し、今回に至ってはもう、好奇心から戦いを引き受けたことそのものを後悔しているくらいだった。

(だってアイツ……楽に勝たせてくれないしなあ……)
 アポロガイストは、龍之介が今まで殺し続けて来た力のない一般人や子供とは違う。
 人を殺すことには誰よりも躊躇いを持たない自信はあるが、奴はそれだけで殺せるほど甘い敵ではないのだ。
 何といってもあの男、最初にインビジブルで接近した時に、その気配だけで此方の大体の居場所に当たりを付けて攻撃を放ったのだ。その一撃自体は龍之介がこっそり忍び寄ろうと心掛け上体を屈めていたお陰で空振りに終わったが、二度目以降も接近出来るとはもう思えない。
 
 アポロガイストは楽に龍之介に勝利を掴ませてくれる男ではない。
 勝たせてくれないと、その先にある殺しを愉しむことも出来ないのだ。
 快楽を得るための障害は強ければ強い程燃えるともいうが、しかし戦いなど元より龍之介が求めていたものではないのだから、“戦いを経ての勝利”という概念に興味など持てようはずもないのだった。
 龍之介がそんな立派なものにカタルシスを覚えるような人間であったなら、そもそも青髭の旦那とも気は合わなかっただろう。そういう意味でも、龍之介は今、心底うんざりしていた。
 
(でもアイツ、戦いやめさせてくれないだろうしなあ……あー、俺、これが終わったらもう戦いとかそういうのはいいや)
 結局のところ、人とはなべて、自分に合ったことをやっていきたいと思う生物なのである。
 自分に向いていない仕事はやりたくないし、相性の悪い人間たちとは一緒に過ごしていたくもない。自分に向いていない遊びをやったってすぐに飽きるのは当然だし、それでも無理に続けなければならないとなれば、それはもう苦痛以外の何物でもない。
 首輪の中のセルメダルの生産が完全にストップしているのを感じながら、龍之介は、とっとと終わらせますか、と一言心中で呟いて、忍び足で龍騎の死角へと移動し、右腕のドラグクローを向ける。
 これで焼け死んでくれたらいいんだけどなあ……と、そんな希望的観測を懐いての三度目の火炎放射。
 放たれた炎が、さっきと同じ要領で大気を焼き、アスファルトを焼く。それを察知した龍騎は、リュウガの炎に焼かれる前に退避して、あとにはただ焼かれただけの地面が残る。そうしたら、龍騎はまた大仰な仕草で龍之介を挑発しながら、数歩歩いて位置を変える。
 龍之介がやっているのは、ただ地面を無駄に焼くことだけだった。


 そんな攻防を幾度か繰り返した時だった。
 今まで回避を続けていた龍騎が、手にしたドラグセイバーを振り上げてリュウガへと駆け出したのだ。これには流石の龍之介も、驚いたの驚かないのという話ではない。
 とにかく、まずは自分の腕を眺めて、本当に透明になっているのか再確認する。

(大丈夫……だよな? うん)
 問題無くリュウガの姿は周囲へと溶け込んでいる。
 龍騎に此方の姿は見えていない筈である。下手に動かなければやり過ごせる筈だと、インビジブルの力を信じた龍之介はその場でじっとしていたのだが――

「そこだなッ!」
「――えっ!?」
 渾身の力の込められた龍騎の刃が、リュウガの胸部へと迷いなく振り抜かれた。
 これに慌てたリュウガは、慌てて左腕に持っていた自分のドラグセイバーを前方に構えてそれを受けるが、付け焼刃の防御で歴戦のエリートたるアポロガイストの一撃を止められる訳がない。
 刃と刃が衝突した瞬間、剣伝いにリュウガの腕に強烈な痺れが伝播して、そのまま勢いに押し切られ透明化を保てず実体化、後方へと吹っ飛ばされた。
 リュウガの手から零れ落ちたドラグセイバーを龍騎が拾って、二刀流の構えで実体化したリュウガへ向き直る。
「な、ななっ、なんで俺の姿がッ!?」
「わからないか? だったらもう一度姿を消してみるがいい。何度でも見付けてやるのだ」

682ナイトメア・ビフォア(前編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:33:44 ID:4ouEQd1E0
 
 アポロガイストの挑発通りに龍之介は再びインビジブルの能力を発動する。
 リュウガの姿が掻き消えて、周囲の風景へと溶け込んで行く。身体に汚れはついていない。血も泥も、何もついていない。
 だから、透明になったリュウガの姿が見える筈はない。そんな風に自分を安心させて、リュウガはゆっくり、ゆっくりと歩き出す。
 大きく弧を描いて距離を取りながら龍騎の後方へと回り込み、次第にその脚を速めていく。念には念を入れて、龍騎を撹乱するのが目的だ。
 案の定、龍騎はすぐにリュウガの姿を見失ったらしく、幾度か周囲をキョロキョロと見まわしている。即座に次の攻撃に移ろうとした、その刹那――
「――ッ!!」

 此方の姿を見失った、というのはほんの一瞬の話か。
 龍騎が投擲した黒いドラグセイバーが、真っ直ぐにリュウガ目掛けて飛来した。
 今度は防ぐ物など何もない。盾のカードくらいならもしかしたらあるのかもしれないが、しかし今からカードの装填などしても間に合う訳がない。
 リュウガは尻餅をつくように倒れ込んで、頭上を通過してゆくドラグセイバーをやり過ごした――が、一息を吐く暇などない。戦場で尻餅をつくなど、戦闘においてはド素人のやることだ。
 リュウガが隙を見せた一瞬の隙に、龍騎が大股で此方へ走り寄って来る。龍騎はその場で動けずにいたリュウガの首を掴みその身体を無理矢理に持ち上げた。
「あ、アンタやっぱり俺の姿が見えてッ! どうやって!?」
「太陽の輝きはどんな闇をも照らし出すのだ……貴様如きにいつまでも遊ばれるアポロガイストではないわ!」
「チィ……ッ!!」

 奴が一体どんなからくりでリュウガの姿を見抜いたのかはわからないが、今はもう、そんなことは問題ではない。
 思い切り振り上げた蹴り足で龍騎の脇腹を蹴り上げて、数歩後退させる。
 一応ないよりはマシとの判断でもう一度インビジブルを発動させた龍之介は、一歩下がった場所に転がっていたドラグセイバーを拾い上げて、龍騎に斬り掛かった。
(どうせ隠れても勝てないなら……やってやるッ!!)

 逃げも隠れも出来ないなら、もう無理矢理にでもやるしかない。何もせずにやられるよりはマシだ。
 そうして飛び出した龍之介の攻撃を、龍騎は意外にも――

「ヌゥ……ッ!?」
 ――完全に防ぎ切ることが、出来なかった。
 我武者羅に振り下ろしたドラグセイバーの一撃を、奴は同じ形の刃で防ごうとしたのだろうが、しかしまるで見当違いの場所に振り上げたのだ。
 お陰でリュウガの一撃は見事にヒットし、龍騎は小さな呻きを漏らしながら、胸部の装甲から派手な火花を散らして数歩後退する。
(――なんだ? 今の俺の攻撃……見えてない……!?)

 だとすれば、まだやれる……そんな確信が龍之介の中で闘志となって燃え上がる。
 こんな戦いはとっとと終わらせたい、というのがやはり本音なのだが、もしかしたら、上手くやればこの鼻につく男をブッ殺せるかもしれない。そうしたらまたあの殺人の芸術を楽しめる。
 薄れかけていた欲望が、龍之介の中で再び鎌首をもたげたのだ。
 ならば、勝つためには一体どうすればいいのか、考える。
 今の攻撃は一体どうして当てる事が出来たのか。

(――いや!)
 考える時間が惜しい。考えるだけ無駄だ。とにかく我武者羅でもやってみよう。
 リュウガは身体を透明にさせたまま、もう一度我武者羅に龍騎へと突撃、今度は一度ならず二度までも、ドラグセイバーを叩き付ける。一撃目は右側から横薙ぎに一撃、二度目は左下方から斬り上げるように龍騎の装甲へ攻撃を叩き込んだ。
 そして、気付く。
 この男は、リュウガの大体の位置は把握して剣を構えるが――しかし、此方が構えられた剣とは逆方向から、ガードを無視して攻撃を叩きこめば、この男は完璧な対処をし切れないのだ。

683ナイトメア・ビフォア(前編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:34:15 ID:4ouEQd1E0
 
「……俺が何処に居るのか……大体の位置は分かるけど、どんな攻撃が来るのかまではわからないって、そんなとこかな?」
「ぬう……」
 龍之介の問いに、返答は返ってこない。
 随分と大口を叩いてくれたがそれなら見えてないも同然だ。
 アポロガイストの無言を肯定と受け取った龍之介は、再び同じ要領で奇襲を仕掛ける。
 最初は我武者羅な悪足掻きでしかなかったが、案外その気になってやってみるのは悪いことではなかった。
 今度はリュウガが攻撃を仕掛ける前に、龍騎がドラグセイバーを振り下ろしてきた。が、大体の位置が掴まれているなら、素人の龍之介にもそういう反撃は十分に想定できた。
 振り下ろされたドラグセイバーを自分のドラグセイバーで受け止め、その一撃の重さに内心僅かに苦い顔をしながらも、攻撃に転じて無防備となった龍騎の腹に横蹴りと叩き込む。
 リュウガが放った蹴りは気持ちいいくらいに龍騎にヒットして、龍騎がその場に倒れ込んだ。
 確実なチャンスだ。一瞬とはいえ、敵の前で腹を見せ仰臥するなど、大幹部が聞いて呆れる。

(殺るなら今しかない……!)
 リュウガはドラグセイバーを振り上げて、倒れ込んだ龍騎に乗り掛かり――勢いそのまま、ドラグセイバーを滅茶苦茶に叩き付ける。
 龍騎の胸部の装甲に、シャッター付きの仮面に幾度となくドラグセイバーを叩き付けて、弱者をいたぶる快感を噛み締める。
「散々ナメたこと言ってくれちゃったけどさあ〜……これでもまださっきみたいなCOOLな大口叩けるわけ?」

 幾度となく打ち据えられた龍騎の仮面が、ついに割れた。
 龍騎の仮面のシャッターが、その下の赤い複眼が粉々に割れて、中年男の渋面が顔を見せる。吐血をしているのか、未だ龍騎の仮面の形を保っている口元からも血液が漏れ出ていた。
 勝利だ。ここまで来れば、龍之介の勝利は確定だ。もはやこれ以上の透明化に意味などないと判断したリュウガは、龍騎に跨ったまま、その漆黒のボディを敵の眼前に晒し、嘯く。
「最初はある意味捨て身の覚悟だったけどさあ……案外やってみるもんだよねえ。
 ほら、どう? 俺の覚悟の勝ちって訳さ、こういうのも中々COOLだろ?」
「――それは……違う、なッ!」
「……あん?」

 予想だにしなかった龍騎の返答に、リュウガの手が止まる。
 割れた仮面の下から垣間見えるアポロガイストは、今も苦痛に歪んだ表情をしているのは変わらないが――しかし、笑っているようにも見える。不敵に笑っているようにも見えるのだ。
 この状況を覆す可能性など、龍之介には思いもよらない。
 一度でも身体に牙を突き立てられた草食動物は、もはや逃げ延びることなど叶わない。肉食動物はそれを理解しているから、確実に草食動物を追い込み孤立させたところで襲い掛かるのを、動物好きの龍之介はおそらくこの殺し合いの参加者の誰よりも理解している。
 それは龍之介がこれまで犯してきた全ての殺人のケースにも当てはまることだ。龍之介にここまで追い込まれた弱者というのは、もはや一切の逆転すらも許されずに殺され、そして龍之介自慢の芸術品と変えられる。

 この世の神様というのは、そんな龍之介の芸術を肯定してくれているのだ。
 だからこそ、人の内臓はこんなにも美しい赤をしている。だからこそ、神様は人を助けようとはしない。
 そう信じて疑わない龍之介に、窮地からの逆転などという発想は微塵もなかった。
 これ以上この中年オヤジのやせ我慢につき合うのも馬鹿馬鹿しい。龍之介はこの鬱陶しいことこの上ない男の顔面にドラグセイバーを突き立ててトドメを刺してやろうとした――その時だった。

「……えっ」
 龍騎が、右腕でリュウガの左腕を掴んだ。
 掴む力は中々に強い。半死人だと思っていた男のものとは思えぬ程の握力で、リュウガの左腕の動きを掣肘しているのだ。
「覚悟の強さが上なのは……貴様などではなく……私の方なのだッ!!」
「!!」

 リュウガの下敷きになっていた龍騎が、己が左腕を一際高く掲げたかと思うと――次の瞬間、その肘を思い切り固いアスファルトへと叩き付けたのだ。
 肘に走る衝撃に、龍騎の身体がびくっ、と小さく痙攣した。
 この男、気でも狂ったのかと、龍之介はそう思った。

 ――ADVENT――

「な……ァ!?」
 その瞬間、全てを察した。
 龍騎は最後の攻撃を受ける直前に、一枚のカードを左腕のドラグバイザーにセットしていたのだ。あとはバイザーを閉じればカードの読み込みが完了するというところで、しかしこの男はわざとそれをしなかった。
 龍之介の脳内で組まれていた勝利の方程式が崩れてゆく。まんまと罠に誘いこまれたのは、アポロガイストではなく、まさか――

684ナイトメア・ビフォア(前編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:34:37 ID:4ouEQd1E0
「アンタまさかッ……俺を捕まえる為に、わざとッ!!」
「素人ながらここまでやったことには……敬意を表してやる……だがッ! 貴様のソレは、覚悟などではない……ッ! そんなものは……ただの、追い詰められたがゆえの根性でしかないのだッ!!」

 既に油断し切ったリュウガのインビジブルは解除されている。
 この男は、リュウガがここでマウントポジションを取って、確実に龍騎に触れる瞬間を待っていたのだ。確実な隙を見せて、リュウガが絶対に回避行動を取れなくなるこの瞬間を。
 そして、確実に動きを封じ、尚且つインビジブルをも解除したこの瞬間――アポロガイストは、自分の肘を固いアスファルトに打ち付けた衝撃で左腕のバイザーを強制的に降ろし、装填していたアドベントのカードを発動させたのだ。
 虚空から現れた赤き龍は、既に透明化を解除していたリュウガ目掛けて迷いなく急迫する。破竹の勢いで迫る龍に、今更インビジブルを発動したとて無意味だ。

「ひっ――!?」
 あらゆる対抗策を失ったリュウガの身体を、勢いに乗ったドラグレッダーの尾の刃が薙ぎ払った。
 ジェット機とでも正面衝突したのか、そんな有り得ない錯覚すら懐くほどの衝撃が、リュウガの身体を打ち据えた。
 赤龍による渾身の威力を込めた打撃を受けたリュウガの身体は、まるで自身の体重が嘘であるかのように容易く吹っ飛び、十数メートルも離れたビルの壁に激突。
 そのままずるりと地べたへ落ちた。

「覚えておくがいい、小僧……“覚悟”とはッ、捨て鉢になって挑む犠牲の心のことをいうのではないッ!」
 さっきまでのダメージなど嘘であるかのように立ち上がった龍騎は、背後を舞うように飛ぶドラグレッダーの咆哮に応えるように、
「覚悟とは、進むべき未来の為にあらゆる拘泥を捨てッ!! 今を戦い抜くことをいうのだッ!!」
 ――高らかに、そう宣言した。

685ナイトメア・ビフォア(後編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:35:10 ID:4ouEQd1E0
 二人の龍のライダーによる戦いは、龍騎の勝利に終わった。
 一応リュウガはまだ戦闘不能ではないらしいが、この状況でまだアポロガイストに歯向かう気もないのだろう。起き上がったリュウガは、龍騎には目もくれずにフラフラと歩き始めた。
 ――逃げる気だ。目的地は何処でもいいのだろう。何処か鏡がある場所まで行けば、リュウガは現実世界へと逃げ延びることで、この戦いからも離脱できる。そして、脱出する為の鏡などは、窓ガラス、カーブミラーと、そこら中いくらでもあるのだ。
 リュウガが最寄りの窓ガラス目指して千鳥足で歩き出したところで、龍騎は後方に控える無双龍に目配せをする。一瞬のアイコンタクトでアポロガイストの思考を読み取ったドラグレッダーは、一際雄々しく吠え猛ったかと思うと、再びリュウガへと迫り、その口から高熱の炎を吐き付けてリュウガの動きを止める。
 元々リュウガの攻撃でそこら中に小さな火が灯ってはいたが、その中でもドラグレッダーによって新たに燃やされた一画だけは、さながら灼熱地獄のように高く火を上げていた。
 
「私は不利となれば撤退することもあるが、敵に撤退されるのは気に食わんのだ」
「……はあ、同族嫌悪って奴……?」
「何とでもいうがいい」
 炎の中を進み、龍騎はリュウガの襟の装甲を掴み上げる。
 最早動く事すらもままならぬリュウガは、それだけで完全に動きを封じられた。
「でもさ、今のアンタ見て、一つだけわかったよ」
「何だ、言ってみるがいい」
「俺にそこら中に火を点けさせたのは、俺の居場所を見抜くため、だろ?」

 リュウガの推測は、正解である。
 そこら中が火の海になっているならば、透明になっていても見抜くのは簡単なのだ。
 リュウガに踏まれた火はその場で消えるし、リュウガが動いた場所の周囲の火は、その動きに合わせて揺らめく。周囲の火にさえ注意を向けていれば、リュウガが何処にいるのかまでは容易に判別出来るのだ。
 が、しかしそれで分かるのは所詮位置取りまでだ。眼前まで迫って来たリュウガがどの位置から攻撃を仕掛けてくるかまでは、攻撃の残滓、残りカスの小さな火だけでは読めなかったのである。
 それを今、火の中を進む龍騎の姿をみて自力で気付けたことは褒めてやってもいい。
「……貴様、最後にそこに気付きおったか」
「俺、観察力はある方だからさあ……動物とかも好きだし」
「フン……、貴様はここで死ぬが、しかし恥じることはない。素人ながら、この大ショッカー大幹部、アポロガイストをここまで追い込んだのだからな」
「別に嬉しくないよ」

 龍騎の言葉に、リュウガは実に口惜しそうに溜息を吐いた。
 死ぬことに抵抗があるのは誰だってそうだ。だが、そうであるからこそ、この男には敬意を表して極力苦しむ事なく殺してやろうと、アポロガイストはそう思った。

 もっとも、ここはミラーワールドだ。
 龍騎の世界で行われていた「仮面ライダー裁判」のルール上、カードデッキで変身したライダーがミラーワールドで撃破された場合は、この場で死ぬ事なく現実世界へと強制送還される。
 だからこそ、この男をここで殺すにはまず、リュウガのカードデッキを引き抜かなければならない。ライダーの変身を解除させ、通常の人間扱いとなったこの男を殺せば、仮面ライダー裁判における、ライダーを対象とする非殺傷ルールは適応されない。
 そう思い、リュウガのデッキに手を掛けた刹那――

686ナイトメア・ビフォア(後編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:35:37 ID:4ouEQd1E0
 
 ――FINAL ATTACK RIDE――
 ――DE DE DE DECADE!!――

 聞き覚えのある電子音。結構な至近距離からのそれに、アポロガイストの肌が粟立つ。
 だが、周囲にディケイドが居た気配などはなかった。戦闘に集中していたとはいえ、至近距離からの必殺技を許す程アポロガイストは愚かではない。何事かと背後へと振り返えれば、アポロガイストから見て上空に向かって、何枚ものカード状の光のゲートが現出していた。
 されど、幾重にも連なったゲートの先に居る筈のディケイドはそこには居ない。
 誰もいないのに、ただディケイドのカードエネルギーだけがそこに現れているのだ。これ程不可思議な現象は――
(……いいやッ! 違う、あれはッ!!)

 そこで気付く。これは、さっきまで自分が散々苦しめられた能力……インビジブル、だ。
 ゲートを通過する瞬間に実態を現したディケイドが、龍騎を確実に爆殺しようと虚空からその姿を現した。マゼンタの破壊者が突き出した蹴り足、必殺のライダーキックが、ゲートを通過する度にモザイクにも似た輝きを煌めかせて龍騎へと迫る。
 咄嗟の判断で、龍騎は掴んでいたリュウガの身体を――さながら盾のように――ディケイドの方へと突き出した。



「……うあっ!」
 あれから経過した時間は十分にも満たないくらいか。さっき二人のライダーが消えていった窓ガラスから飛び出た龍之介は、したたかにその身をアスファルトに打ち付けて、苦悶の声を漏らした。
 それを見咎めた井坂深紅郎は、しかし特に慌てた様子もなく歩み寄り、仰臥する龍之介を抱き起こす。
「大丈夫ですか、龍之介くん?」
「せ……先生……俺、生きてる……?」
「ええ、生きてますとも。鏡の中で何があったのですか?」
「……はぁ……、俺わかったよ。俺って、正面からの戦い向いてないんだわ」
「まあ、そうでしょうねえ……」

 面白くなさそうに吐き捨てる龍之介に、井坂は苦笑で返す。
 元より龍之介は戦闘の経験自体は皆無の少年だ。その殺人衝動と異常性だけを取り上げるならば、十二分に一般人離れしてはいるが、しかしそれは戦いをする者の才能ではない。
 闇に紛れて弱者を仕留め、貪る殺人鬼――どちらかといえば、龍之介には暗殺者の方が向いているのだろう。
 だからこそインビジブルメモリとの相性もこれ程までに良かったのではないかと、井坂は考える。
 であるとするなら、この少年を――厳密に言うなら内部のメモリを、だが――育てるのなら、今よりももっと暗殺者向きの訓練をした方がいいのかもしれない。
 それが分かっただけでも、今回は儲け物としよう。リュウガのデッキを失ったこと自体はやや痛いとも取れるが、メモリにも進化にも関わらないリュウガが無くなったとて、井坂にとってはそれ程の痛手でもない。
 今はともかくアポロガイストが追って来る前に、とりあえず移動を開始しよう。そう思い、顔を上げた井坂を引き止めるように、龍之介が言った。

「先生……俺、覚悟するってこと、アイツのお陰でちょっとわかったかも」
「ほう……覚悟、ですか」
「うん、俺の芸術に足りなかったのは……青髭の旦那にあって俺にないものは……芸術に関わろうとする覚悟なのかな、ってさあ」
「……ほほおう、それは興味深い話ですねえ」

687ナイトメア・ビフォア(後編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:36:05 ID:4ouEQd1E0
 
 口角をやや吊り上げて、うんうんと小さい首肯をしてみせる井坂。
 覚悟――それは、人が何かを為そうとする上で、最終的には何よりも必要とされるものだ。井坂深紅朗の場合でいうなら、いつかあのテラーを越えるため、ひいてはメモリの進化を追求するため、そのためならば例えどんな苦行でも乗り越えてみせると、そんな誰にも劣らぬ覚悟がある。
 だが、この場で出会った雨生龍之介という少年はどうか。人を殺す事に躊躇いはなく、井坂にも通ずる天性の狂気を持ち合わせてはいるのだろうが、しかし龍之介の瞳には、何かが欠落しているように井坂は感じていた。
 普通は誰にだってあるはずの、情熱、というか。何かを為そうとするための、野望、というか。そういうものが一切なくて、ただ無気力に、今を宙ぶらりんに生きているだけの若者だと、そんな風に龍之介を評価していたのだ。
 一応、青髭の旦那とかいう人物と一緒に生み出す“芸術作品”に今は没頭しているとのことだが、それだって何をやるのも飽きて、暇つぶし的にやっているように見受けられる。そんな受け身の姿勢では、何をしたって満足することなどないに決まっている。
 言うなれば、最終目的へと向かって行くための姿勢、というべきか――それの有無が、井坂と龍之介、よく似た二人の大きな違いだった。
 
 そんな少年が、己が目的のため、何としてでも暗闇の荒野に道を切り拓こうとする覚悟を得たというのなら。自分と同じ狂気を孕んだ少年の成長は、すなわちガイアメモリの成長にも繋がる。
 リュウガは失ってしまったが、死に直面した戦いの中でそういう大切なことを知ることが出来たのならば、今回の経験はやはり無駄ではなかったようだと前向きな気持ちで頷ける。
 ならば、今はとにかく何処かゆっくりと落ち着いて話が出来るところへ身を隠して、今回の戦いの内容、龍之介が学んだことをじっくりカウンセリングしたい。
「……さ、龍之介くん。そろそろ行きましょう、これ以上ここに居るのは危険です」
「あー……じゃあちょっと肩貸してよ、先生。なんか俺、すっごい疲れちゃってさ」
「おやおや、それはいけませんねえ……」

 青白い顔でそう言う龍之介を見て、それがただの戦闘による疲労によるものだけだと思うほど、井坂は疎い男ではない。
 龍之介は此度の戦いで、おそらく幾度となくインビジブルの力を使用したのだろう。その代償として、体内でロックされていたインビジブルメモリが、龍之介の生命エネルギーを大きく吸ってこの疲労を齎しているのだ。
 インビジブルメモリの成長は井坂自身も望むことだが、しかしメモリが完成する前に過剰適合者の龍之介を死なせるわけにはいかない。やはり龍之介には一刻も早い休息が必要かと思われた。
 朗らかな笑みを表情に張り付けて、井坂は快く龍之介の肩に手を回す。
 心の奥底に化け物を宿した二人は、廃墟と化したクスクシエに背を向けて歩き出した。
 ミラーワールドで広範囲に渡って戦闘を繰り広げていたことなどまるで嘘であるかのように、戦いの爪痕など欠片も残さぬ市街地は、何事もなかったかのように深閑としていた。



【一日目-夕方】
【D-5 クスクシエ跡地付近】

【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】ダメージ(小)、肩にエンジンブレードによる斬り傷
【首輪】40枚(増加中):0枚
【装備】T2ウェザーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、ドーピングコンソメスープの入った注射器(残り三本)&ドーピングコンソメスープのレシピ@魔人探偵脳噛ネウロ、大量の食料
【思考・状況】
基本:自分の進化のため自由に行動する。
 0.まずは何処か落ち着ける場所へ移動し、龍之介のカウンセリングをする。
 1.インビジブルメモリを完成させ取り込む為に龍之介は保護。
 2.T2アクセルメモリを進化させ取り込む為に照井竜は泳がせる。
 3.次こそは“進化”の権化であるカオスを喰らって見せる。
 4.ドーピングコンソメスープに興味。龍之介でその効果を実験する。
 5.コアメダルや魔術といった、未知の力に興味。
 6.この世界にある、人体を進化させる為の秘宝を全て知りたい。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※ウェザーメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※ウェザーメモリの残骸が体内に残留しています。
 それによってどのような影響があるかは、後の書き手に任せます。
※ドーピングコンソメスープを摂取したことにより、筋肉モリモリになりました。

688ナイトメア・ビフォア(後編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:36:38 ID:4ouEQd1E0
 

【雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】無
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、生命力減衰(小)
【首輪】50枚:0枚
【コア】コブラ(一定時間使用不可)
【装備】サバイバルナイフ@Fate/zero、インビジブルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO、螺湮城教本@Fate/zero
【思考・状況】
基本:このCOOLな状況を楽しむ。
 0.俺、正面からの戦いは向いていないわ。楽しくないし。
 1.しばらくはインビジブルメモリで遊ぶ。
 2.井坂深紅郎と行動する。
 3.早く「旦那」と合流したい。
 4. 旦那に一体何があったんだろう。
 5.俺に足りないものは「覚悟」なのかも……?
【備考】
※インビジブルメモリのメダル消費は透明化中のみです。
※インビジブルメモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※雨竜龍之介はインビジブルメモリの過剰適合者です。そのためメモリが体内にある限り、生命力が大きく消費され続けます。
※アポロガイストの在り方から「覚悟」の意味を考えるきっかけを得ました。
 それを殺人の美学に活かせば、青髭の旦那にもっと近付けるかもしれないと考えています。

689ナイトメア・ビフォア(後編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:37:04 ID:4ouEQd1E0
 


 全てが反転した鏡の世界で、その使命の通り仮面ライダーの一人を爆砕したディケイドは、すたっと地面に着地するや、それが自分の望んだ手応えでないことを悟るのに一秒と時間は掛からなかった。
 嘆息にも近い吐息を憎々しげに吐きながら、ディケイドはくるりと頭部だけ振り返る。
 狙い定めた筈の龍騎は、既に結構なダメージを受けているのか仮面の一部は欠け、その下の素顔まで晒しているという憐れな状況にあるが、しかし戦闘不能という風ではない。
 さっきのディメンションキックの衝撃で吹き飛ばされ、ビルの壁に打ち据えられたのであろう龍騎は、片手をビルの壁についてはいるものの、さしたる苦労もなく立ち上がった。

 龍騎から見て数歩前に散らばっているのは、黒いデッキの欠片と数枚のカード。
 そうやらディケイドが砕いてしまったものは龍騎ではなく、さっきまで龍騎と戦っていたリュウガの方であったらしい。
 しかし、散らばったカードの中にリュウガのカメンライドカードはない。そこにあるのは、そのどれもが通常のアドベントカードだ。
(……仮面ライダー裁判ルール、か)

 今となっては遥か過去に一度だけ通りすがった世界の、特定条件下における特殊ルール。
 仮面ライダー裁判に参加する者は、裁判中の死を防ぐため、ミラーワールド内で敗北した場合は強制的に現実世界に送り戻される、というものだ。
 あの仮面ライダーアビスも、ミラーワールドと違って、現実世界で戦って負ければ命はなくなる、と言っていたのを士は思い出す。
 まさかこんな場所でもあのルールが適用されているとは夢にも思うまい。殺し合いをさせる上では全く必要性の感じられない面倒なルールに苛立ちを覚える士だが、奴らが用意したミラーワールドが、仮面ライダー裁判ルールの影響下にあるミラーワールドであるのなら、それも仕方ない。
 それならそれで、ディケイドにもやりようはいくらでもある。アポロガイストが次の行動を起こす前に、クロックアップのカードで奴ごと鏡の世界から飛び出して、現実世界に放り出そう。その瞬間にファイナルアタックライドを決めてやれば、それで奴は終わりだ。
 もはや一切の問答すらなく、ディケイドは左腰のライドブッカーからクロックアップのカードを取り出した。バックルを回転させ、それを放り込むためカードを掲げた――その瞬間。

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH―――――ッ!!!』

「――っ、うおッ!?」
 虚空から突如として姿を現した龍が、ディケイドが反応するよりも速く、その胴へと喰らいついたのだ。予期せぬ攻撃にクロックアップのカードを取り落としたディケイドは、さながら餌になったように何処かへと運び去られる。
 幸いにして、龍の牙はディケイドのスーツが食い込みを抑えてくれてはいるが、それでも龍の顎の力は人間の比ではない。完全に身動きを封じられたディケイドは、眼下で遠ざかっていく龍騎を眺めるしか出来ず、小さく苦悶の声を漏らした。
 暗黒龍ドラグブラッカー――仮面ライダーリュウガに仕えるミラーモンスターだ。
 おそらくは、リュウガを直接的に破壊したディケイドから優先的に喰い殺そうというのだろう。

(チック……ショオッ! こんな奴にやられてたまるか……ッ!!)
 ディケイドには、全ての世界を破壊し、全ての世界を滅びから救うという義務がある。こんなところで、破壊対象の世界の一介のモンスターに過ぎない相手にむざむざ殺されるなど、話にするのも馬鹿馬鹿しいお笑い種だ。
 即座に次のカードを取り出して、このドラグブラッカーを破壊しようと考えるが――
(……駄目だ! 食らいつかれた場所が悪いッ……これじゃ、カードが使えないッ!)

690ナイトメア・ビフォア(後編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:37:27 ID:4ouEQd1E0
 
 ドラグブラッカーは、人間と比べれば十分過ぎる程に大きな顎で、ディケイドの胴に食らいついている。それは即ち、バックルもライドブッカーも、こいつの頭で覆い隠されている、ということだ。
 あの時一瞬で龍騎を破壊するならまだしも、あのアポロガイストの機転でリュウガを破壊させられたことがこんな形で裏目に出ようとは、さしもの士にも想像出来なかった事態である。
 しかも自分は、仮面ライダー裁判ルール下でリュウガを撃破してしまったことで、図らずもあのリュウガに変身していた人間をアポロガイストの手から救ったことになるのだ。一体どんな奴がリュウガに変身していたのかは知らないが、殺し合いに乗っていなければいいが――
(――って、そんなこと考えてる場合じゃないッ!!)

 何にせよ、このままでは拙い。何とかドラグブラッカーの牙とディケイドの胴の間の隙間から手を突っ込んでカードを取り出さねば、このままここで殺されてしまう。最悪の事態だけは何としてでも回避しなければならない。
 ディケイドは何とか左の腕を動かして、ドラグブラッカーの牙の隙間へと手を伸ばすが――まるでそんなディケイドの動きを掣肘するかのように、ドラグブラッカーが突然急上昇をしたのだ。
 ディケイドの身体が大きく揺れて、その身体に先程までよりも更に深く龍の牙が食い込む。左腕は今度こそ固定されて、もうカードを使うこともままならない状態に追い込まれてしまった。

「こいつ……ッ、畜生の癖に、立派にものを考えてやがるッ!!」
 この龍はディケイドが何をしようとしているのかを本能的に察知して、それをさせまいと妨害してみせたのだ。
 ミラーモンスターとは、その外見とは裏腹になべて知能の高い生物なのである。他の世界でいうところの“怪人”が、人型という縛りから解き放たれ、大きなバケモノの身体を得て人へ襲い掛かってくるのだから、ある意味ではどの世界の怪人よりも性質が悪い。
 やがてドラグブラッカーは、右隣に聳える高層ビルの壁に沿うように高速で滑空しながら、ディケイドの上半身をビルの窓ガラスに押しつけた。
「ぐ……っ、お――ッ!?」

 決して穏やかではない破砕音を響かせて、ディケイドの頭部が窓ガラスを叩き割る。それで飛行を止めるならまだしも、ドラグブラッカーはそのままビルから一ミリも離れずに滑空を続けるのだ。
 ビルに押し付けられたままにディケイドの上半身は、そのフロアの窓ガラス全てを叩き割って、コンクリートの壁すらも砕きながら進む。
 もはや悲鳴を上げるどころの騒ぎではない。絶え間なく続く原始的極まりない打撃に、ディケイドは次第に意識が遠のいていくのを感じた。
 多くの仮面ライダーを破壊して来たこのディケイドが、まさかこんな馬鹿馬鹿しい、ともすれば事故とも取られかねない死因で死ぬなど、考えたくもない。
 何とかしなければ、とは思うが、しかし万策も尽きた。
 今回ばかりはやばいかもしれない、と……士がそう考えた時だった。

『GYAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHッ!!』
 ドラグブラッカーが、突如としてディケイドの身体を放り出したのだ。
 地上から見て遥か上空で投げ捨てられたディケイドの身体は、ただ重力に引かれて自由落下を始める。このまま落下してあの固いアスファルトに身体を叩き付けるのは、拙い。
 そう思ったディケイドは、意識が完全に堕ちる前に、眼下に散らばった硝子片へと狙いを定めて、そこに飛び込んだ。

691ナイトメア・ビフォア(後編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:37:46 ID:4ouEQd1E0
 


 遥か上空で成す術もなくビルに叩き付けられているディケイドを見て、アポロガイストは「いい気味なのだ」と嘲笑いながらも、しかしやはり、流石にこれは“違う”のではないか……と、そんな風に考えていた。
 ディケイドは確かに忌むべき宿敵であるが、だからこそ、このアポロガイストが手ずから罠に嵌めて、その首を取ることに意味があるのではないか。それは一種のプライドにも近いもので、アポロガイストの望むディケイドとの決着とは、こんな馬鹿馬鹿しいものではない。
 このまま放っておけば、ディケイドはあの暗黒龍に食い殺され死ぬのだろうが、それでは一度もディケイドに勝ったことのないアポロガイストは、もう永遠にディケイドと決着を付けることもなく、ただの偶然が重なっただけの勝利を享受しなければならないことになるのだ。
 それは、永遠の敗北も同然だ。
 そんな辱めを受けるのは、この上ない程の屈辱ではないか。
 
「――ディケイドめ……まったく、仕方のない奴なのだ」
 あまりにも情けない宿敵と、あまりにも面倒臭い自分のプライドに小さく嘆息しながらも、龍騎の装甲を纏ったアポロガイストは数歩前方へと歩み出て、その場に散らばっていた数枚のカードに目を向ける。
 それら全て、さっきまで仮面ライダーリュウガが使っていたアドベントカードである。
 アポロガイストはここでリュウガのデッキを引き抜き、その力を我が物とした上で龍之介の息の根を止めようとしていたのだが……思わぬディケイドの乱入で、奇しくも龍之介は存命し、アポロガイストが手にする筈だったリュウガのデッキも破壊されてしまったのだから、ディケイドとは相変わらずアポロガイストにとって迷惑な存在である。
 だがしかし、リュウガのデッキ自体は破壊されてしまったが、カードさえ残っているなら、あの暗黒龍を何とかすること自体は可能の筈だ。
 散らばったカードを一枚一枚確認し、そして見付けたのは「CONTRACT」のカード。元々は「ADVENT」のカードであるそれは、デッキが破壊されてしまった場合モンスターとの契約切れとなり、未契約状態を指す「CONTRACT」のカードへと戻るのだ。
 大ショッカーが集めた情報網によれば、「龍騎の世界」には一人の仮面ライダーが複数のモンスターと契約し使役していた事例があった、らしい。
 であるなら、この場にカードデッキが一つでも残っているなら、契約のカードは使用出来る筈だ。

「さあ、私に従うのだ……暗黒龍ドラグブラッカーよ!」
 CONTRACTのカードを掲げ、上空で今にも事切れそうなディケイドを弄ぶドラグブラッカーにそれを示す。
 ドラグブラッカーは空高い場所で咆哮すると、咥えていたディケイドを放り出し、今にも龍騎に食いかからん勢いで急降下。自由落下してゆくディケイドをも追い越して、さっきリュウガを吹っ飛ばした時のドラグレッダー以上の速度で龍騎に迫る。
 が、しかし龍騎は怯まなかった。一歩も退かないし、物怖じもしない。
 ただじっと契約のカードを構えて、ドラグブラッカーの到来を待つのだ。
 一瞬にも満たない時間のうちにドラグブラッカーは龍騎の眼前まで迫り、そして――全く速度を緩めることすらせずに、契約のカードへと入り込んでゆく。
 たった一枚の小さなカードに、巨大な龍が吸い込まれるようにして吸収されてゆく光景の何たる奇怪さか。己が指先で繰り広げられる余りにも稀有な景観に、アポロガイストはぬう、と小さく唸った。
 
 ことは全て、ほんの一瞬で終わった。
 カードからの光の放出は終わった後で、龍騎に握られているカードはもはやCONTRACTのカードではない。そこにあるのは、暗黒龍ドラグブラッカーの絵が刻みこまれたADVENTのカードだ。
「言うなれば……無双双龍、といったところか」

 アポロガイストの耳朶を打つは、一騎当千たる二頭の無双龍の咆哮。
 念のため近場の窓ガラスを見遣るが、龍騎の姿に変わりはない。今の龍騎がブランク体であったならまだしも、今の龍騎は既にドラグレッダーとの契約完了後の――言わば完成形たる姿だ。後から別のモンスターと二重契約したとて、今更外見が変わる訳はない。
 事実として、三体のモンスターとの多重契約を行っていた仮面ライダー王蛇も、契約モンスターが増えたところで元の姿は保ったままだった。それを考えれば、これも当然の結果であるのだと、アポロガイストは一人納得する。

692ナイトメア・ビフォア(後編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:38:03 ID:4ouEQd1E0
 
 足元に散らばっていたカードは全て無くなっていた。リュウガとして、ドラグブラッカーから借りる力の全ては龍騎のデッキに収納されたということだろう。
 試しにバックルからカードを一枚引き抜いてみれば、アポロガイストの思惑通り、何の問題もなく仮面ライダーリュウガのファイナルベントを引き当てることが出来た。
 龍騎の仮面の下で、ふっ、と小さく笑ったアポロガイストは、それを再びバックルに戻して、ディケイドが現実世界へ戻っていった硝子片を眺めながら不敵に言った。
「ディケイド……ろくに戦えもしない今の貴様を倒したところで、大ショッカー大幹部たるアポロガイストの名に箔はつかん。今回のところは見逃してやるが……次は容赦はせんぞ」

 己が名誉にかけて、アポロガイストにはディケイドに勝利する必要がある。
 ……と、随分と格好のいいことを言っているようだが。実際のところ、アポロガイスト側も既に結構な勢いで消耗をしているのだ。
 一応、戦闘開始前にアポロガイストは当初より支給されていた「パンダのコアメダル」を首輪に投入し、セルメダル五十枚分のプラスは得てはいた。が、いかに今回の戦いで龍騎が特殊能力をほとんど使っていなかったとはいえ、これだけダメージを受け、更に時間も経過したのでは、もうそろそろコアメダルによる恩恵の効果も切れる頃合いだ。
 それで戦闘が不能になるという訳はないし、勿論戦えばそう容易くは負けない自信もあるが、それでも無理は禁物だ。
 強力な力を持ちながらそれに溺れず、危険だと思ったらすぐに身を退く慎重さが、アポロガイストがあれだけ何度も強豪ライダーと戦っていながらも生き延び続けてきた理由なのである。
 これ以上このミラーワールドに長居をする理由もなくなったアポロガイストは、とっとと現実空間に戻って、一先ず何処かで身体を休めようと思った。



「クソッ……なんで俺が……、こんな目にばかり……ッ!」
 ミラーワールドから吐き出されたディケイドは、現実世界に飛び出すや否や、アスファルトにその身を打ち付けられていた。打ち身による鈍い痛みは感じるが、遥か上空から重力に導かれるままアスファルトに激突する痛みと比べれば随分とマシだ。贅沢は言っていられない。
 次に、士が受けた過度のダメージによって、マゼンタの装甲がモザイクとなって消え去った。
 元々傷付いていた身体だが、今回の予期せぬ負傷は士の身体に追い打ちを掛けるには十分過ぎる。身体のあちこちに生々しい痣を作った士は、ふらついた足取りで何とか立ち上がった。
 あれだけのダメージを受けながら、それでも未だに意識を失わないのは、世界の破壊者たる面目躍如か。仮面ライダーたちとの抗争の中でもしも気を失ってしまえば、ディケイドは奴らにとって格好の的となる。それを理解しているからこそ、士は意地でも意識を繋ぎとめてみせたのだ。
(やれやれ……世界の破壊者も楽じゃあないな……)

 心の中で悪態を吐きながら、士は一先ず身を隠そうと最寄りのビル内部へと歩を進める。
 夕闇に暮れる市街地の、コンクリートの壁に囲まれたビルの内部は、電気の灯りもなければあまりにも暗すぎる。だけれども、長きに渡るライダー大戦で心身ともにすり減った今の士には、人を遠ざけるこの闇こそ居心地がいいのだった。

693ナイトメア・ビフォア(後編) ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:38:21 ID:4ouEQd1E0
 


【一日目 夕方】
【D-5/市街地】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】健康、苛立ち、疲労(大)、ダメージ(大)
【首輪】45枚:0枚
【コア】サイ、ゾウ
【装備】ライドベンダー@仮面ライダーOOO、ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式×2、キバーラ@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品1〜4(士+ユウスケ)、ユウスケのデイバック
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を果たす。
 0.しばらくは身体を休める。
 1.「仮面ライダー」と殺し合いに乗った者を探して破壊する。
 2.邪魔するのなら誰であろうが容赦しない。仲間が相手でも躊躇わない。
 3.ただしディエンドのみは戦う理由がないので場合によっては共闘も考える。
 4.セルメダルが欲しい。
 5.アポロガイストは次に見付けた時には容赦しない。
 6.最終的にはこの殺し合いそのものを破壊する。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、ディケイド関連のカードだけです。
※アクセルを仮面ライダーだと思っています。
※ファイヤーエンブレムとルナティックは仮面ライダーではない、シンケンジャーのようなライダーのいない世界を守る戦士と思っています。
※アポロガイストは再生怪人だと思っています。

【破壊者としての使命】
※ディケイドの使命は「再生のための破壊」です。
 全ての仮面ライダーに敬意を払っているからこそ、全ての世界の救済のため、全ての世界を破壊します。
 が、士はあまりにもわかりにくすぎるツンデレなのでそんなことを口に出して言おうとは絶対にしません。
 なので多くの人間に誤解されたままですが、どうせ最後には自分も破壊されるつもりなので、士自身はそれで問題ないと考えています。
※物語の存在しない仮面ライダーと、ここまでの戦いで一度でも破壊が完了した仮面ライダーを再び破壊する必要性はありません。
 この場では前者はディエンド、後者はアビス・電王・ファイズ・ディエンドがそれに該当します。
※ディケイドによって「破壊」された仮面ライダーは死亡扱いではなく、ディケイドが正しく使命を全うし、破壊されたのちに「再生」されます。


【一日目 夕方】
【D-5/市街地】

【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】無所属(元・赤陣営)
【状態】疲労(大)、ダメージ(中)
【首輪】70枚:0枚
【コア】パンダ(一定時間使用不可)
【装備】龍騎のカードデッキ(+リュウガのカード)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:参加者の命の炎を吸いながら生き残る。
1.まずは何処かで身体を休めるのだ。
2.この殺し合いはゾンビが多いのだ……
3.ディケイドはいずれ必ず、この手で倒してやるのだ。
4.真木のバックには大ショッカーがいるのではないか?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
※加頭から仮面ライダーWの世界の情報を得ました。
※この殺し合いには大ショッカーが関わっているのではと考えています。
※龍騎のデッキには、二重契約でリュウガのカードも一緒に入っています。

694 ◆MiRaiTlHUI:2012/11/20(火) 23:39:57 ID:4ouEQd1E0
投下終了です。
今回は珍しく最初からタイトル考えてたので投下後に迷わなくて済みました。
何かございましたらご指摘などよろしくおねがいいたします。

695名無しさん:2012/11/21(水) 21:07:34 ID:3zUD8oLg0
投下乙でした!!

うおおおおおおおおおアポロが格好良い!
うんうん…流石は大幹部といったところか
龍ちゃんに対する台詞とかもやしを自分で倒したいプライドとか一々素敵で困る
対するもやしも不器用ながら自分の意志を再確認して
龍ちゃんはようやく自分に足りない「なにか」を掴みかけて
もうほんと今後が楽しみだー

改めて、乙です!!!

696名無しさん:2012/11/21(水) 23:42:39 ID:s3bt8xXo0
投下乙です

うん、ここにきて大幹部の自力を見せてもらったぜ
龍ちゃんも今回の件で一皮向けたなあ。ここで更に旦那の死を放送で聞いたら…
そして今回は士はいい所ないなあw
まあ危険度は変わってはいないけどな

697名無しさん:2012/11/22(木) 10:27:37 ID:q5N8o8Vc0
ツンデレにアポロチェンジしやがったwww

698名無しさん:2012/11/22(木) 20:28:35 ID:LZEgFfBk0
ツンデレにアポロチェンジワロタwww
それはそうと、ナイトメア・ビフォア……何ということでしょう。アポロ狩りなどとネタにされた中年の姿は消え失せ、
「誰この格好いいおっさん」と言わざるを得ない強豪マーダーの姿が明らかになったではありませんか。
これでもう大ショッカー幹部はネタ枠とは言えませんな(※ただし綿棒は大首領だから依然ネタ枠。何も変わりなく)

一方大首領なのに(だから)相変わらず残念な士……と思いがちだけど、外道戦法が使われなかった理由もフォローされたし、
内面を丁寧に掘り下ろされてたなぁ……そうだよ皆のために悪魔になったんだもんなもやし。
龍ちゃんは一歩成長したところで旦那の死を知ってどうなるのか楽しみだなぁ。

699名無しさん:2012/11/24(土) 11:35:42 ID:D30zxLcA0
乙です。おかしいな、普通にアポロさんかっこいいぞ
二匹の龍を従えてパワーアップしたしネタキャラ枠からは脱出か?

700名無しさん:2012/11/24(土) 20:04:23 ID:D30zxLcA0
>>奴が使ったのは、あのディエンドが使うインビジブルと同じ、自分の姿を透明化させ、相手に忍び寄り奇襲をしかける、という卑劣極まりない戦法である。

むしろそれは怪人の得意技だったりするのは内緒だ

701名無しさん:2012/11/24(土) 20:11:36 ID:xK0D.c.UO
>>700
仮面ライダーは正義の怪人だから大丈夫だ、問題無い

702名無しさん:2012/11/24(土) 20:32:19 ID:HDF2IUMwO
>>700
ベルデ「あん?」

703名無しさん:2012/11/29(木) 22:17:30 ID:WArDe89s0
大丈夫、液状化の方がもっと恐ろしい

704名無しさん:2012/11/30(金) 13:14:36 ID:V/sJu2CoO
液状化といえばレンゲルだな それかバイオライダー

705名無しさん:2012/11/30(金) 17:26:33 ID:FPn3jJ.YO
シャウタコンボを忘れないであげて!

706名無しさん:2012/12/02(日) 03:39:05 ID:DYyo9K8.0
予約来てる
ヤバい組み合わせだ・・・

707名無しさん:2012/12/02(日) 15:22:16 ID:R.CwuH060
今のウヴァさん調子に乗ってるから心配だな
このままだと足元すくわれかねん

708 ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:11:04 ID:B5DW4Nf20
投下します。

709ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:11:41 ID:B5DW4Nf20
 ラウラは黙り込んだまま、ろくに言葉を発しようともしなかった。
 仲間がほかの仲間を殺したことがそんなにショックだったのか。
 ラウラの表情はさながら苦虫を噛み潰したように歪んでいる。
「フン」
 小さく鼻で笑うウヴァ。
 役立たずが、と付け加える。
 本人に聞こえてはいないだろう。
“まあいい……俺はそろそろ動くか”
 傷心の子兎ちゃんにこれ以上構ってやる気なし。
 ラウラが何を考えているのかは知らないが、ウヴァは勝ち残らなければならない。
 そのために、一陣営のリーダーとして出来ることはいくらでもあるはずだ。
 どうでもいい些事は捨て置き、ウヴァはライドベンダーに跨った。
「俺はもういくぜ、ラウラ……まっ、精々頑張ることだな」
 緑陣営の……俺の駒として、なぁ――?
「……………………」
 恨めしそうに、ラウラは顔だけを上げてウヴァを睨む。
 昏い表情だ。相変わらず気に入らない目をしていやがる。
 が、ウヴァはそんなことで貴重な部下に当たり散らすような小物ではない。
 心の広い俺に感謝することだな、と心中で笑いながら、ウヴァはバイクを発進させた。

 それから数分間、ラウラはそこを動かなかった。
 この気持ちの整理がつくまでに、時間が必要だった。
 何度、どれだけ考えようが事実は変わらない。
 シャルロットはセシリアに殺された。それだけだ。
 この殺し合いに乗ったのだ、セシリア・オルコットは。
“ならば……最早躊躇う必要は何処にもあるまい”
 セシリアは倒す。奴は最早、仲間ではない。
 奴は、越えてはならない一線を越えてしまったのだ。
 一応説得はするつもりだが、それでも聞かないなら容赦はしない。
 仮に説得に応じたとしても、戦力を奪って拘束する必要はある。
 これでもラウラは、少し前と比べれば随分と丸くなった方だ。
 一夏と出会う前のラウラなら、迷いなく殺そうとしていただろう。
 そして、ラウラの変化はほかでもない織斑一夏の影響だ。
 一夏ならば、きっとこんな時でもセシリアを救おうとするハズだから……
 アレはそういう男だ。そんな男にだからこそ、ラウラは心惹かれたのだ。
 だから、その一夏に免じて、すぐに殺すことだけはしないでおいてやる。
“それに……シャルロットもそれを望むだろうしな”
 こんな状況でもラウラを救い、セシリアを止めようとした彼女なら、きっと。
 そこでふと、ラウラはシャルロットとの会話を思い出す。
 このゲームの勝利条件――ウヴァへの逆転策。
“私は……例え仮初とはいえ、これ以上ウヴァには従えん”
 というよりも、あんなヤツに、もう従いたくはない。
 シャルロットの死を笑い飛ばしたあの虫頭に従うなど反吐が出る。
 だからもう出来ない。それは、シャルロットとの友情にかけても、許せない。
 だから、ラウラはここで今までの考えを改めることにした。
“ウヴァの陣営の優勝? いいや、違う……私は、私だけの陣営を優勝させるのだ”
 シャルロットも認めてくれた、この状況を打開するための最善策。
 すべてのコアメダルを集めて、自分だけの陣営を作り、優勝すること。
 危険分子だけを排除して、極力多くの仲間を引き込み、全員で生還すること。
 そうすれば、殺される必要のない多くの者を救って、共に脱出が出来る。
 師である千冬も、嫁である一夏も、仲間である鈴音も、みんなで一緒にだ。
 その方法なら、きっと一夏も、死んだシャルロットも喜んでくれるハズだ。
 ラウラは、たとえどんなことがあろうとも、彼らの思いを踏み躙れない。

 ……だが。
 今のままでは力が足りない。
 ウヴァにも、あのセイバーにも、敵わない。
 だから、今すぐにでも、なんとかして力を得たいのだが……
“いや……そう思うなら、これ以上こんなところでじっとしてはいられないな”
 ラウラの中で、ようやっと前向きな決心がついた。

710ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:12:13 ID:B5DW4Nf20
 
          ○○○

 夕暮れの空を飛びながら、セシリアは一人涙を流していた。
 徐々に闇に染まっていくこの空のように、セシリアの心も黒く染まっていく。
 セシリアは大切な親友の一人を、この手で殺してしまったのだ。
 その事実が、重く昏い闇となってセシリアの内でわだかまる。
「もう……もう……ッ今更……後戻り、なんて……」
 出来るわけがない。
 この手は既に汚れている。
 セシリアはもう、血と怨嗟の色で汚れている。
 一度血に汚れたものは、水で洗い流しても完全に綺麗になることはない。
 こうなってはもはや、シャルの命を背負って生きていくほか道はないのである。
「……奪った分……私が……ッ幸せに……ならないと……」
 うわごとのように呟くセシリア。
 これは呪いだ。絶対に幸せにならねばならない、そういう呪いだ。
 殺してしまった友の分まで、自分が幸福を掴み、生還せねばならないのだ。
 それがどれ程に歪で醜い決意であるか……そんなことはとうに自覚している。
 だが、それでも、不器用なセシリアには、もうこれしか残っていないのだ。
「ごめんなさい……ごめんなさい……私は、もう……」
 金輪際、面倒なことを考えるのはやめにしよう。
 考えれば考える程にセシリアの心はすり減るばかりなのだから。
 ここからはもう、一切の思考を捨てて、罪深い一人の女として戦おう。
 生き残るため、女としての幸福のため、ただひたすら……目的のために。
 悪鬼の仮面を被って、セシリアはただ、一夏と生還するためだけに戦うのだ。
「そのためなら……なんでもしますわ…………」
 恋敵を皆殺しにすることすら厭いはしない。
 だがしかし、それだけではただの無駄な殺しだ。
 生き残るため、生還するために必要なことは……
「青陣営……優勝……させなくては……」
 こうなってはもう、それしかない。
 虚ろな瞳でぼんやりと下界を眺めながら、セシリアは小さく呟いた。
 シャルを殺したのだ、もはや残りの恋敵も皆殺しにするほか道はない。
 中途半端で終わるのでは、殺してしまったシャルにも申し訳が立たないのだ。
 だが、恋敵だけを皆殺しにしたとて元の日常に戻れなければやはり意味などない。
 恋敵を皆殺しにして、一夏とともに帰る為には、なんとしても優勝するしかない。
「そうですわ……優勝、しなくては……なりませんわよね……?
 みんな、殺さなくては……殺さないと……この手で……一人残らず……」
 壊れた人形のようにブツブツと呟く。
 セシリアは、これ以上、物事を考えるのがつらかった。
 面倒な考えの一切を放棄して、そう決断するのが楽だった。
 だったら、考えは全てこの場のルールに委ねてしまった方がいい。
「……ごめんなさい……皆さん……私はもう……」
 申し開きようもない、どうしようもないクズだ。
 だが、どうせクズならもう何をしたっていいじゃあないか。
 クズならクズらしく、開き直って好きに生きた方が気が楽だ。
 だから――今の一言が、友だったみんなへの、最後の謝罪だ。
「ここから先……私は……」
 悪辣な鬼となろう。
 目的を成すまで、自分の感情をも殺して。
 何も考えない戦闘マシーンになって、ただ殺すのだ。
 そして、どんなに汚い手段を遣ってでも、絶対に優勝するのだ。
 それが……冷たく深い海の底で見付けた、至ってシンプルな答え。
 セシリアの表情からは、既に人らしい一切の感情が消え去っていた。
 ゲーム開始から、もう五時間以上が経過しているのだ。
 あのメモの場所に行ったところで、すでに誰もいないことは明白。
 いいや、もうそんなことはどうだっていい。
「どうせ敵はみんな殺すんですもの……こんなもの」
 メズールから貰ったメモを手の中で握り潰し、地上へ捨てる。
 ただのゴミ屑となったそれは、風に煽られ何処かへ舞っていった。
「……私の敵は……どこかしら……」
 死人の如き能面を張り付けて、修羅の道へと堕ちたセシリアは飛ぶ。
 次の標的を見付けるために――

711ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:12:36 ID:B5DW4Nf20
 
          ○○○

「ベーニャンが偽物って……どういうことか説明するニャ!」
 ベッドから跳び起き、イカロスに掴みかかるフェイリス。
 フェイリスは、友達が友達を殺さなければならない状況が理解出来ずにいた。
 イカロスは一体何をもって彼女を偽物としたのだろうか。
 聞いても納得する答えが返ってくるとは思っていない。
 が、それでも黙っていることなど出来なかった。
「ちゃんと答えるニャ、アルニャン!」
 イカロスの肩を掴んで、がくがくと揺らす。
 虚ろげな目をしたイカロスは、ブツブツと、何か言っている。
 私の記憶と齟齬が、とか。メモリーがどうの、とか。
 出てくる言葉はそんな要領を得ないことばかりだった。
 やがて、イカロスを挟んで窓に面していたフェイリスの眼が、光を捉えた。
 薄暗い夕闇の中で、何かが眩く光っている。
 そして、「光っている」と認識したかと思えば、
「ッ―――――――――――!?」
 もうすでに、光は硝子の窓を突き破っていた。
 よくSFアニメに出てくる、レーザー光線……というヤツか?
 それが窓硝子を一瞬で粉々に粉砕し、イカロスの背に直撃したのだ。
 エンジェロイドの身体を貫通することはないが、しかしその衝撃は凄まじい。
 レーザーの余波がイカロスの背で弾けて、狭い室内で吹き荒ぶ突風を巻き起こす。
 軽いフェイリスの身体など容易く吹っ飛んで、壁に打ち付けられた。
「あ……アル、ニャン……!?」
 フェイリスは怪我という程の怪我をしたワケではなった。
 イカロスが壁になってその背中で受け止めてくれたからだ。
 だが、代わりにレーザーの直撃を受けたイカロスは――
「ア、アルニャン! アルニャン! しっかりするニャ!」
 人形のような無表情のまま、うつ伏せに倒れていた。
 背中の天使の羽根の付け根には、レーザー攻撃によって出来た焦げ跡。
 普通の人間ならばとっくに死んでいてもおかしくはないこの状況……。
 一体どうして何が起こったのか、そんなことに考えは至らない。
 フェイリスはただ混乱するだけしか出来なかった。
『オイ猫女、次が来るぞぉぉぉーーーーッ!!!』
 頭の中で響いたモモタロスからの警告。
 だが、そんなことを言われて反応出来るわけがない。
 馬鹿みたいに、え!? とか、そういう反応しか出来ないのが素人だ。
 粉々に砕かれた窓から空を仰げば、次はミサイルがこの部屋へと迫って来ていた。
「ニャーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
 何をするでもない、ただの絶句だ。
 しかし、そのミサイルに命を奪われることはなかった。
 ミサイルが着弾する瞬間、何かがこの部屋の周囲を覆ったのだ。
 見えない壁に阻まれたミサイルは、その壁の外周を爆風で粉々にする。
 頭を抱えて蹲るしか出来なかったフェイリスのそばで、イカロスが立ち上がった。
「敵勢勢力を確認――殲滅します」
 システム音声のように、いつも以上に感情のない声で言った。
 それから、キュイ、と小さな音を立てて、イカロスの瞳の色が変わる。
 翼をばさりと拡げて、イカロスは敵のいる空へと飛び立っていった。

712ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:13:05 ID:B5DW4Nf20
 
          ○○○

 イカロスを強襲した敵は、容易に捕捉出来た。
 ステルス機能を使うでもなく……ただぼんやりと空に浮かんでいたのだ。
 青い機械の装甲を身に纏った襲撃者は、イカロスと似た空虚な表情をしていた。
 その少女の身体からやや離れた場所に、数機の青いビット兵器が浮かんでいる。
 その名を、セシリア・オルコットと、ブルーティアーズ。
 修羅へと落ちた女の名だ。
 会話などなしに、ビットの砲門が一斉にイカロスへと向いた。
“ロックオン……されてる……”
 すぐに対処をしようと、此方からもロックオンし返す。
 イカロスの翼から、ビット兵器と同じ数の赤い弾丸が射出された。
 永久追尾空対空弾「Artemis(アルテミス)」だ。
 アルテミスが一度イカロスから離れると同時に、敵のビットも稼働を開始した。
 それぞれが独立した軌道を描いて、セシリアの身体から離れたのだ。
“オールレンジ攻撃……”
 だが、命中するまで半永久的に敵を追尾し続けるアルテミスには関係ない。
 ビット兵器のかく乱はすべてアルテミスに任せて、自分は加速する。
 背中の翼をはばたかせて――一瞬のうちに音速に近い速度を叩き出す。
 これには流石のセシリアも驚いた様子で、狼狽を露わにするが……
「――え?」
 しかし、イカロスの加速は、セシリアに届くことなく終わった。
 翼があるのだから、空は飛べる。飛行に問題はないが、加速が出来ないのだ。
 アルテミスも、敵のビット兵器との追いかけっこの末、着弾を待たずして消失。
 次のアルテミスを起動しようとするも、もうイカロスの翼は何の反応も示さない。
 この不可解な状況変化に、セシリアは凛とした冷たい声で言った。
「あら、メダル切でも起こしましたの……? ご愁傷様ですこと……」
 そういうことだ。
 イカロスは決して燃費のいいエンジェロイドではない。
 確実に殺すつもりで放たれたミサイルから身を守るための絶対防御圏イージス、
 レーダーを起動し、セシリアに追いすがるための加速に、果てはアルテミス……。
 残り二十枚ぽっちのメダルを使い果たしてしまうには、十分過ぎる消費であった。
 むしろ、たったの二十枚でここまでやれただけでも驚くほどだった。
「……あっけない終焉ですわね」
 ろくな加速も出来ないイカロスを囲むように、ビットが展開されていた。
 その砲門が、うち四機はレーザーを、二機はミサイルを発射する。
 加速も出来ない、ただ浮かんでいるだけのイカロスに回避は出来ない。
「あ……ぁ……」
 一声掃射されたレーザーが、イカロスの身体を滅多打ちにする。
 身体のあちこちで爆発が起こって、エンジェロイドのボディにダメージが及ぶ。
 一秒、二秒と経たないうちに、すぐにイカロスはそれ以上の飛行が出来なくなった。
 落下してゆくイカロスを、それでも執拗に追撃するレーザーとミサイル。
 ミサイルの着弾と同時に身体が爆ぜて、爆風に煽られる。
 レーザーの直撃と同時に人形のように身体が吹っ飛ぶ。
“いたい……ッ、くるしい……――”
 すぐに壊れてしまえない身体を持ってしまったことが恨めしい。
 激しい痛みの中にあっても壊れること叶わない。
 力も使えずただ苦しむことしか出来ない、生き地獄。
 だが、こんな時でも助けてくれる者は誰もいない。
“……マスターは……此処には居ないから”
 それを思った時、動力炉に別の痛みが走った。
 それについて考える時間を待たず、イカロスはアスファルトの地面に激突した。
 大きな音と、強烈な衝撃。高く舞う砂埃。
 全身を打ち据えるような鋭い痛み。
 身体が、思うように動かない。

713ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:13:29 ID:B5DW4Nf20
「しぶとい……ですわね」
 アスファルトに沈んだ身体で、首だけを動かして上空を見遣る。
 喜びも悲しみもない、深い空虚のような瞳が、イカロスを俯瞰していた。
 砕けた大地を引っ掴んで、イカロスはぐぐぐ、と身体に力を込める。
 相も変わらず能力は使えないが、それでも何とか立ち上がることは出来た。
 あの冷たい目に負けず劣らず空虚な瞳で、イカロスは空を仰ぐ。
 セシリアは、それ以上の滞空をやめて、ゆっくりと地へと降り立った。
 つかつかと歩み寄った少女は、動かないイカロスの額に、銃を突き付ける。
 ちゃき、という音と共に、額に冷たい鉄の感触を感じた。
「これで終わりですわね」
「……撃ってみると……いい……」
 眉根をぴくりと動かしたセシリアは、躊躇いなく引鉄を引いた。
 ドガン、と大きな音が炸裂して、イカロスの身体が人形のように後ろに倒れこむ。
 額にやや赤い痣が出来ていた。
 そこから、僅かな血液がつう、と流れていた。
 しかし、それだけだ。イカロスに大したダメージは見られなかった。
 それどころか、腕を抑えて苦悶の声を漏らすのは敵のセシリアの方だった。
「零距離射撃の……反動……。私は……そんなものでは壊せない……」
「っ……呆れましたわ……! こんなバケモノ、一体どうやって……!」
「それしか武器がないなら……あなたには、無理……」
 イカロスは、幽鬼のようにふらりと立ち上がった。
 驚愕に一瞬行動が遅れたセシリアの首を、獲物に飛び掛かる蛇の如き素早さで掴む。
 その首をぎり、と締め上げて、人間離れした力でセシリアの身体を持ち上げるイカロス。
 この少女は敵勢勢力だ。イカロスの命を奪おうとした、正真正銘の敵だ。
 排除することに何の躊躇いも感じない。
 ここで、ひと思いに殺してあげよう。
「さよなら」
 最期に告げる、別れの言葉。
 その細い首をへし折ろうとした、その時だった。
「やめてーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 聞き覚えのある少女の、悲痛な絶叫だった。
 思わず手から力が抜ける。セシリアの身体が、どさりと落ちた。
 声の主が、息せき切らして一生懸命に此方へ走り寄って来る。フェイリスだった。
 フェイリスは、まろぶようにイカロスにすがり寄り、そのあらゆる動きを掣肘する。
「こんなことやめるニャ! そんなことしたって、何にもならないニャ!」
 ……この心優しい少女は、殺人を望まないようだった。
 その瞳に澎湃と溜まった涙が、イカロスに後ろめたい気持ちを抱かせる。
 その優しい涙が、イカロスの知る誰かの涙と、よく似ている気がしたから。
 そんな思考を遮ったのは、視界の隅で銃を構えるセシリアの存在だった。
「ニャッ!?」
 危ない、と判断したその瞬間には、イカロスはフェイリスを突き飛ばしていた。
 その瞬間、ばん! と大きな銃声が響いて、二人の間を銃弾が通過してゆく。
 今狙われていたのは、イカロスではなく……無防備なフェイリスだ。
 イカロスに睨まれたセシリアは、苦々しげに表情を歪ませ、再び装甲を身に纏った。
 スラスターの噴射による反動で、セシリアは一気に二人から距離を取る。
「……彼女は……無防備なあなたを、殺そうとした……」
 それでも、まだそんな綺麗事が言えるのか。そう言いたいのだ。
 フェイリスは、しかし、それでも意志を曲げる姿勢を見せない。
「それでも、殺しちゃ駄目ニャ! それじゃあ……駄目なのニャ!」
 フェイリス自身も上手く言葉を纏められず、ただ、駄目としか言わない。
 だから、イカロスには何が、どうして駄目なのかがわからなかった。
 そんな混乱も冷めやらぬうちに、脳内でアラートが鳴り響く。
 
 ――ロックされている。

714ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:14:09 ID:B5DW4Nf20
 
 空に舞い上がったブルーティアーズが、ビット兵器を射出した。
 それら全てが、イカロスとフェイリスの二人をロックオンしているのだ。
 もはや見境もなし、ということだろう。
 とにかく殺したいのだ、あの少女は。
「……フェイリス……メダル……」
「ニャッ?」
「ロックオン、されてる……けど、メダルがない……」
「ニャ、ニャんだってーーーーーーーッ!?」
 メダルがないから、防御が出来ない。
 最後まで言わなくてもわかってくれたようだから話が早い。
 慌てたフェイリスは首輪からオレンジ色のメダルを取り出し、投げた。
 ライオンのコアメダルだ。投げ放たれたそれを、イカロスは危なげなくキャッチ。
 ビットは六機全てで二人を取り囲むように展開されている。逃げ場はない。
 いいや、逃げるつもりもない。
「――イージス、展開……!」
 イカロスの声と、ビットによる一斉掃射は同時だった。

          ○○○

 ブルーティアーズの一斉攻撃による爆発を俯瞰しながら、セシリアは思う。
 ああ、また防がれたのだろうな。あの爆煙は着弾による破壊の爆煙ではないな、と。
 あの猫耳の女が、イカロスにメダルを分けたから、とかそんなところだろう。
 案の定、爆煙から飛び出して来たのは、あの赤髪の少女――イカロスだった。
 すぐにビットを向かわせようとするが……
「……速ッ――」
 ――駄目だ! そんな余裕はない……!
 尋常ならざる速度だった。音速にも達しようかという勢いだった。
 セシリアの反応を上回り瞬く間にイカロスが飛び込んできた。
 反射神経などとうに置いてけぼりにされている。
 何も出来ないセシリアの頭部を、イカロスの手が鷲掴みにした。
“なんてッ! 馬鹿馬鹿しい……! そんなゴリ押し――!”
 対処など出来るわけがない。
 セシリアはそこまで人間をやめてはいない。
 その身体はぶんと空を切る音を立てて振り回され――地面へとブン投げられた。
 イカロスの怪力に重力も手伝って、セシリアの身体はとんでもない速度で急降下。
 スラスターを全開で噴射させ、ようやく姿勢制御をしたのは、
“……ッギリギリ! ですわ!!”
 固いアスファルトの地面に激突する数センチ手前だった。
 即座にレーザーライフル――スターライトを構え直すセシリアだったが、
「……えっ!?」
 イカロスを相手に、姿勢制御をしてからの構えではあまりに遅すぎた。
 放たれた無数のアルテミスは、既にセシリアの視界の中で円を描いて迫っていた。
 円形に展開された一発一発、その全てがセシリアを取り囲むように拡がり、急迫。
 横方向の移動は全て封じられたし、下には地面、上にはイカロス、逃げ場がない。
 次の行動を起こす前の一瞬のうちに全弾がブルーティアーズに着弾した。
 短い悲鳴ののち、セシリアの身体が吹っ飛んで、地面に数度バウンドする。
 見たところ直撃だが――しかしセシリア本体へのダメージは今の所存在しない。
 ISとはエネルギーが切れるまではどんな攻撃からも装着者を守ってくれる鎧だ。
 今回のダメージも全てISが打ち消してくれたのである。
 が、しかしだからといって望ましいことはなにもない。
 本来ならシールドエネルギーが消費される筈が、急激な勢いでメダルがなくなっていた。
 今のダメージをメダル消費なしで受け止めていたらと考えると背筋が寒くなる。
“どうして……あんなバケモノが参加していますの……!?”
 頭を抱え、ううんと唸るセシリア。
 戦力差がありすぎる。不公平じゃあないか。
 零距離射撃でもロクな怪我をしない奴に一般人が勝てるわけがない。
 勝てるとするなら、高威力のエネルギー攻撃で一瞬で蒸発させるくらいか。
 もしかしたら、それ以外にも幾らでも倒す手段はあるのかもしれないが、
 何にせよ、今のセシリアにはそれをやりとげるだけの力がない。
 いいや、武装がない、どころか――
“……私のデイバッグが!?”
 なくなっていた。一瞬前まで肩にかけていたのに。
 どうやらさっきの衝撃で、転がりながら落としてしまったらしい。
 すぐにスラスターを噴射させそれを回収しようとするが――
「あなたにこれは回収させない……」
 頭上に天使の輪を浮かべた少女が、デイバッグの前に降り立った。
 デイバッグの前に立つイカロスが、セシリアにはまるで絶壁のように見えた。

715ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:14:54 ID:B5DW4Nf20
「……殲滅……する……」
 まるで脇に大砲を構えるようなイカロスの動作。
 その所作に合わせて、光が集束してゆき、そこに巨大なエネルギー砲を顕現させた。
 イカロスの超兵器――超々高熱体圧縮対艦砲(ヘパイストス)だ。
“あんなものまで……ッ!!”
 絶句するセシリア。
 アレの砲身にすさまじい熱量を感知したブルーティアーズがアラートを鳴らす。
 アレの威力はおそらく、一撃でセシリアのメダルをすべて刈り取って余りあるだろう。
 ISが消失したセシリアに、あのバケモノを倒す手立てはない。
 だが、諦めて死を受け入れるワケにもいかない。
「くぅ……ッ」
 ビットは駄目だ。アレを飛ばしている間、自分はろくに動けない。
 スターライトも駄目だ。今からでは遅いし、威力でもおそらく勝てはしない。
 だったら残る道は――ISの機動力を活かしての回避しかあるまい。
 セシリアはスラスターを全力噴射して、大空へと舞い上がった。
 周囲のどのビルよりも高く上昇したところで、ヘパイストスが火を吹いた。
 滅茶苦茶な軌道で飛んでいたセシリアに、へパイストスは――直撃、しなかった。
 セシリアの身体の左側に浮かぶビットを蒸発させ、IS本体を掠めて空へと通過してゆく。
「きゃぁぁぁぁ――――――ッ!!?」
 ビットの半分が爆発し、その爆風に身体を煽られる。
 許容範囲を超えた衝撃に、空での姿勢制御が不可能となる。
 くるくると舞いながら、セシリアは落下していった。
 地面に激突して、小さなクレーターが出来上がる。
 そして、またメダルが減ったことを認識する。
“……これでは……もうこれ以上の戦闘は――”
 不可能か……と、一瞬考えたセシリアであったが。
 いいや、勝利の女神はまだセシリアに微笑んでくれている。
 セシリアの目の前で、イカロスの頭上の天使の輪がすうっと消失したのである。
 さっきと同じだ。赤くギラついていた瞳も、ぼんやりとした緑へと変わる。
 どうやら、戦闘形態の維持が不可能になったらしい。
 実のところ、ヘパイストスも、コアメダルで補ったメダル残量では足らなかった。
 今の一撃は、これでも大幅に威力が抑えられたものだった。
 それも今の一撃でセシリアが一瞬で蒸発しなかったことの要因の一つである。
 もっとも、ソレを差し引いてもセシリアが助かったのは奇跡と呼べるレベルだが。
“とにかく、彼女は今のでメダルの補助分を使い切ってしまったようですわ”
 それを理解したセシリアの頬がにやりと緩められる。
 イカロスはその高性能さゆえ、メダル消費に関しては最悪の燃費なのだろう。
 欠点などないかと思われた強敵だが、それはこの場においては致命的な弱点である。
 ビットの半分は失ってしまったが、これはISの自動修復機能に任せておけばいい。
 メダルを失ったイカロスをなんとかすれば、いくらでもやりようはあるのだ。
 一気に逆転したとばかりに笑みを浮かべたセシリアは、
「そのデイバッグを返しなさい。さもなくば、そのメイドを殺しますわよ」
 スターライトの銃口を、今も無防備なフェイリスへと向けて要求をする。
 どうせイカロス本体を殺すだけの威力はない。こっちの方が脅迫としては上出来だ。
 イカロスの表情がぴくりと動くが、しかし思いのほか、イカロスは返答をしなかった。
「私とフェイリスは……関係ない……」
「では、そのメイドさんをお見捨てになりますの?」
「……フェイリスは……私の記憶にない……。必要な人間じゃ、ない……から……」
「あら、そうですの」
 ちらと見れば、フェイリスは絶句した様子で口を小さく開いていた。
 この状況で唯一の味方に見放されたのだから、もうフェイリスに未来はない。
「憐れなメイドさんですこと」
 そういってスターライトを発射しようと照準を合わせる。
 その瞬間、フェイリスは転がるようにその場を離れ、イカロスの背後に飛び込んだ。
 落ちていたデイバッグを拾い上げ、それを胸に抱きかかえ、また地面を転がる。
 立ち上がると、デイバッグを胸元に携えて、フェイリスは精一杯の脅しをかけてきた。
「フェ、フェイリスを撃ったら……このデイバッグの中身まで吹っ飛ぶニャ!」
“ふふっ……何かと思えば、なんて可愛らしい”
 そんなものは、セシリアにとって脅迫にもなりえない。
 自分の身は自分で守るしかないと判断しての行動だろうが……
 悲しいかな、その行動は裏目でしかない。
 イカロスから離れさえしたなら、フェイリスなどどうとでもなる。
 銃口を降ろしたセシリアは、ブルーティアーズを急加速させ突撃。
 驚くフェイリスに次の行動を許さず、激突するような勢いでデイバッグを奪い取る。

716ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:15:26 ID:B5DW4Nf20
 ……だが!
「は、離さない……ニャ! 絶対に! 離さないのニャ!」
 フェイリスもまた、相当な力でバッグを掴んでいた。
 滑空するブルーティアーズに数十メートルも引き摺られて、それでも離さないのだ。
 長いスカートが高速で地面に擦れて、どんどんすり減っていくのが目に見えた。
「ええい……しつこいですわ! とっとと! 落ちなさいなッ!」
 ついでにその衝撃で死んでくれれば尚いいのに、と表情を歪めるセシリア。
 次にフェイリスの身体を襲ったのは、セシリアのIS越しの蹴りだった。
「ッニャァ!?」
 猫のような悲鳴を漏らしたフェイリスが、ようやっと落下しごろごろと地面を転がる。
 が、計算外の出来事というのはつくづく繰り返されるものだ。
 よっぽどの力で掴んでいたのだろう、デイバッグの口も同時に開いてしまった。
 フェイリスと一緒に、荷物の凡そ半数がぶちまけられて、地面に散乱する。
“何処までも鬱陶しいメイドですこと……!”
 支給品と一緒に転がっている、ボロボロのメイド服を着た女に苛立ちの視線を向ける。
 フェイリスもすぐに周囲に転がる支給品に気付いたのか、それらへと手を伸ばしていた。

 ――まずい、奴らに支給品を回収されてしまう。
 彼女の周囲に落ちているのは、銀色のアタッシュケースと、赤い携帯電話と用途不明のカードが一枚、
 ビニール袋に入ったIS学園の男女制服が一式と、シャルの橙色のネックレスが一つ……
 残りは自分のデイバッグに入っているが、重要な支給品は全てぶちまけられているではないか。
 ファイズギアはまだいいとしても、
“たとえ他は犠牲にしてでも、ISだけは……!”
 ラファール・リヴァイブだけは渡すワケにはいかない。
 優先順位トップは、迷いなく断然シャルのネックレスの形をしたISである。
 幸いにも、フェイリスが最初に手を伸ばしたのはあの銀色のアタッシュケースだった。
 セシリアはすぐにビットを展開して、フェイリスと、その周囲目掛けてビームを乱射。
「ニャッ、ニャニャニャァァァ〜〜〜〜〜ッ!?!?!?」
 ビットの展開と同時、フェイリスは慌てて逃げまどった。
 ちょろちょろと、まさしく俊敏な猫のように逃げ回るフェイリスに直撃はしない。
 が、その周囲で炸裂したビームの爆風に、フェイリスの身体は吹っ飛んだ。
 体重の軽い少女を吹っ飛ばすには十分な爆風だ。
 フェイリスはそのまま動かなくなった。気絶したのだろう。
 ISに引きずられ、IS装着者に蹴られ、果ては爆風だ。無理もない。
 何にせよこれで障害は一つ排除した。
 支給品はそのまま。チャンスは今だ。
 他の支給品には目もくれず、セシリアは真っ先に地表を滑空。
 ISのマニュピュレーターがアスファルトで削れることも厭わず、
 セシリアはシャルのネックレスをその手に掴み取り、そのまま飛翔。
 しかし……それだけで「やりましたわ!」などとは思うまい。
 この一瞬の間に、今度はイカロスが、銀のアタッシュケースに手を伸ばしていた。
 セシリアはイカロスとはもうこれ以上は戦いたくはなかった。
 が、かといってイカロスにファイズギアという戦力を渡すのも嫌だった。
“くっ……仕方ありませんわ……悪足掻きといかせてもらいますわ……!”
 展開していたビットが、四方八方からアタッシュケース目掛けてビームを発射した。
 イカロスの手が届く前に、ブルーティアーズの煌めきがケースを幾重にも貫いてゆく。

717ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:15:58 ID:B5DW4Nf20
「……あ」
 別にどうでもよさそうな、無感動なイカロスの呟き。表情の変化もなし。
 イカロスが掴もうとしていたケースは、中身に引火したのか、内部から爆裂した。
 爆発の中に、赤の粒子がきらきらと煌めいて舞い上がり、散っていくのが見えた。
 それは、ファイズギアが内包していた赤きフォトンブラッドの煌めきだった。
「有害物質の散布を確認……すぐに全焼……消滅。人体に影響はなし……」
 イカロスのシステム音声のような報告。
 ファイズギアの完全破壊を確認したセシリアは、ほっと一息ついた。
 これでもう、あの厄介な鎧が敵の手に渡ることはなくなった。
 どうせ自分が使う日が来ることもなかったろうし、
 誰かに奪われるくらいなら……ということだ。
 他に落ちている物も、セシリアにとってはガラクタ同然。
 玩具みたいな携帯電話と意味のわからないカードのみだ。
 その携帯電話は気絶したフェイリスのそばに落ちていて……
 カードは、風に吹かれてイカロスの足元にぱさりと落ちていた。
 イカロスがそれを拾い上げるのを見て、セシリアは寧ろ諦めがついた。
“……まあ、アレらはもう諦めましょう。ISは守り通せたことですし”
 どの道、あのガラクタ二つを持っていても邪魔だとしか思えなかった。
 今はそんなことよりも、自分の首輪の中のメダル残数の方が心配だった。
 もう既に、セシリアのメダルはいつ切れてもおかしくないところまできているハズだ。
 これ以上戦闘を続けてもしメダル切れを起こせば、勝ち目は絶対になくなってしまう。
 口惜しい思いだが……それだけは避けたい。
 ここは一旦退いたほうが賢いだろうと判断した。
 空中で踵を返したセシリアは、そのまま急速離脱。
 あっと言う間にイカロス達から逃げ果せた。

          ○○○

 突然奇襲をしかけられた。
 短い戦いののち、すぐに去っていった。
 ……結果だけを述べれば、こんなところだろうか。
 まさに嵐のような戦いであった。
「あの子は……」
 戦場だった場所に一人ぽつんと佇むイカロスは考える。
 あの青い装甲の少女はほとんど無言だったから、目的はわからない。
 ……いいや、ここで人に襲い掛かる目的など知れている。
 殺し合いに乗った以外に、一体どんな理由があろうか。
「でも……自分の意思で……?」
 虚のような瞳をしたあの少女は、果たして自分の意思で戦っていたのか?
 感情を押し殺したようなあの少女は、何を求めて戦っていたのだろうか。
 自分と何処か似たあの子ですら戦っているというのに。
 この場に来てから、自分は一体何をしているのだろう。
「私は……こんなことをしてる場合じゃ……」
 じりじりと、何かがイカロスの心を焦がす。
 みんな必死だ。ここにいるみんなが、何かをかけて戦い、殺し合っている。
 今この瞬間にも、マスターが何者かに襲われ、殺されそうになっているかもしれない。
 そう思った時、イカロスの心を焦がしていたソレが、一気に燃え上がった。
「マスターに……会いに、いかないと……!」
 会いにいかねばならない。今すぐにでも。
 そのためには、あらゆる万難を排して、戦う必要がある。
 さっき戦ったあの子のように、自らの意思で、道を切り拓く必要がある。
「偽物の世界は……全て……破壊してでも……戦わないと……」
 イカロスの頭脳は、それが最大の近道であると判断した。
 地面に横たわるフェイリスの元まで歩み寄ったイカロスは、その首に手をかけた。
 少しでも力を加えれば、ヤワな人間の身体などすぐに破壊してしまえる。
「……フェイリス……」
 しかし――イカロスはフェイリスを殺すことは、出来なかった。
 いざ殺そうとしたその瞬間、さっきのフェイリスの涙を思い出してしまったから。
 あのマスターに似た優しい涙を思い出して……それでも殺せるワケがない。
「違う……私が……殺すまでもない、から……」
 だから殺さないのだ。そう言い訳をする。
 フェイリスはどうせ、力を持たない一般人だ。
 ここで放置していけば、イカロスが手を下さずとも誰かが殺す。
 そうだ。何も自分でやる必要はどこにもないのだ。
「さよなら……フェイリス」
 イカロスはフェイリスに背を向けた。
 もうこれ以上何の得にもならないお守りをするつもりはない。
 ここからは自分のためだけに……精一杯、戦って行こう。
 イカロスは、自分の意思で歩き出した。

718ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:16:47 ID:B5DW4Nf20
 
          ○○○

「おい! おいッ! 大丈夫か、しっかりしろッ!」
 身体が揺さぶられている。
 瞼は重たい。全身の筋肉が、やけに疲れを感じている。
 だが、どうにも起き上がれないというほどでもなかった。
 ちょうど昼寝のまどろみから目覚めるような感覚だった。
「おいっ、起きろ――」
「――ンニャ……」
 幾度となく呼ばれる声に、フェイリスはようやく答える。
 そしてフェイリスの視界に飛び込んできたのは――
 まず第一に、細くきめ細かに艶めく銀髪。
 そして、燃えるルビーのような真っ赤な虹彩。
 極めつけて目を引くのは、その片目を覆う黒の眼帯。
 ――フェイリスは、彼女の容姿に目を奪われた。
「……素晴らしい……中二魂を感じるニャ……!!」
 それが少女を見たフェイリスの正直な感想だった。
「……は? ちゅう、に……?」
「ハッ……!? も、申し訳ないニャ、思わず……」
 少女は一瞬怪訝な顔をしたが、それ以上の追及はしなかった。
 それよりも、周囲に散らばった支給品や、あちこちに出来た焼け跡を見て、
「私の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。ここで何があったのか教えて欲しい」
 短い自己紹介に次いで、状況の説明を求めてきた。
 あちこちのアスファルトが、焦げたり、砕けたりしているのだ。
 ここで戦闘が起こらなかったという方が無理がある話だ。
 フェイリスもまた周囲を見渡して、ことここに至るまでの経緯を思い出す。
 そして次に自分自身の身体を見回して、大した外傷もないことに安心する。
“アルニャン……フェイリスには手を出さなかったみたいニャけど……”
 この場所で出来た友達――イカロスのことが何よりも心配だ。
 今のイカロスが何をしでかすかは、フェイリスにも皆目見当がつかない。
 もしかしたら、フェイリスは見逃されたが、ほかの参加者は殺している、かも。
 そんなことを考えると、フェイリスはいてもたってもいられなくなった。
 がばっ、と身を起してラウラに掴み掛り、フェイリスは早口に捲し立てる。
「こ、ここに天使の羽根の女の子がいなかったかニャ!?」
「いいや……私が来た時には、すでにこの状況だった。何も変化はない」
「そんニャ……」
「それよりも私の質問に答えろ」
 苛立たしげに眉根を寄せるラウラだった。
 フェイリスは慌てて一言謝罪をして、ことのあらましを説明した。
 イカロスという友達がいたこと、彼女がニンフを殺してしまったこと。
 そこへ突然襲いかかってきた青い装甲の少女のこと、それらを簡潔に、だ。
 大体の状況を把握したラウラは、次に二、三質問を投げかけてくる。
 その青い装甲の少女は、金髪で、丁寧な敬語を喋ってはいなかったか、とか。
 それらの質問に、フェイリスは首肯で答えた。
「あの馬鹿がッ、やはりこれはセシリアの仕業か……!」
 ラウラは、憎々しげに拳を握りしめていた。
「そのセシリアって子……ラウニャンの知り合いなのニャ?」
「知り合いどころか。セシリアは……私の仲間、だった」
 苦い表情のラウラに、不躾を自覚しながらも質問する。

719ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:17:52 ID:B5DW4Nf20
「だった……? どういう、ことニャ……?」
「……仲間の、ハズだったんだ」
 ラウラは、セシリアという少女と、一夏という少年の話をしてくれた。
 恋敵を殺し、おそらくは生還するため、殺し合いに乗ったセシリアという少女――
 フェイリスは、セシリアとイカロスはとてもよく似ていると思った。
「そんなの悲しいニャ……その子は……止めなくちゃならないニャ」
「そのつもりだ……あの馬鹿は、私が絶対に止める」
 たとえ殺すことになったとしても――
 まるでそう言っているように、ラウラの瞳は怒りに熱く燃えていた。
 友達だから、これ以上間違いを犯す前に止めなくてはならない。
 そう考えているのであれば、ラウラもまたフェイリスの仲間になれる。
“でも……この子、危ない目をしてるニャ”
 友達が友達を殺すことは、これ以上もなく哀しいことだ。
 さっきそれを体験したばかりだから、その悲痛さはよくわかる。
 フェイリスはもうこれ以上、そんな悲劇を見過ごしたくはないのだった。
 この少女は放っておけない。
 このフェイリスが、一緒に行動してストッパーにならなくては……
 そう思い、フェイリスはどんと自分の胸を叩き、胸を張って言った。
「ラウニャン……出会ったばかりニャけど、フェイリスたちはもう仲間ニャ!」
「なんだと……?」
「フェイリスはアルニャンを止めなくちゃならニャい……
 そして、ラウニャンもまた、同じようにセシニャンを……そう、
 よく似た運命を背負いし者同士が出会ったとき、物語は再び動きだすのニャ!
 ここで終わりじゃないニャ! 何度でも、挫けずに、食らいつくのニャ!!」
 そう言って、すっくと立ち上がるフェイリスの眼には……正義の炎が宿っていた。
 何度挫けそうになっても、たとえ報われなくとも、諦めることは出来ない。
 言葉がどんなにふざけていても、フェイリスの考えは真剣そのものだった。
 それを感じ取ったのであろうラウラもまた、背筋を伸ばして立ち上がる。
 隣に並び立つと、ラウラはまるで子供のように小さかった。
「そうか……一夏もきっと、そういうのだろうな」
「なら、そのイチニャンともきっとすぐに仲間になれるニャ!」
「フッ……お前ならば信用出来そうだ」
 誰とでも友達になろうとするフェイリスが、敵であるワケがない。
 そう判断してくれたのだろう。ラウラは小さく微笑んで、
「これから仲間になるなら……私のもう一つの目的を、聞いてくれるか?」
 神妙な面持ちでそういった。
「ニャ?」
「私は……このバトルロワイアルで優勝するために戦うつもりだ」
 息を呑むフェイリス。
「ソレってまさか……殺し合いに乗るってこと……ニャ!?」
 ラウラはやおら首を横に振り、それを否定した。
「……最初はそのつもりだった。……が、今は違う」
「どういうことニャ?」
「死んだ仲間と誓い合った……全員で生還するための方法だ。
 私はすべてのコアメダルを集め、陣営のリーダーとなるつもりだ」
 そこでフェイリスは、ラウラの言わんとすることを何となく理解した。
 このバトルロワイアルは、陣営リーダーとその配下の参加者のみが生還出来る。
 いかに上手く参加者を多く引き込んで勝利するか、そういう陣取りゲームだ。
 ラウラは……このゲームのルールの穴を突こうというのだ。
 元よりこういった頭脳戦ゲームには強いフェイリスは、
「ニャるほど……確かにそれなら!」
 胸の前でぽむ、と手を打ち合わせた。
「察しがついたようだな。出来る限り多くの仲間を引き入れて、グリードを排除、そして生還する……!」
 決然と言い放たれたラウラの言葉に、フェイリスは光が見えた気がした。
 殺されたくはないが、殺したくもない……
 そんな二進も三進もいかない状況を打開するための最善策がここにある。
 どうして今までそんな簡単な理由に気付かなかったのか、と自分を謗りたくなる。
 だが、今はそういった小さなことどうでもいい。
「重要なのはコアメダル……それさえあれば帰れるニャ!」
 するとなると、これから二人が挑んでいく戦いは、もはや殺し合いではない。
 いかに多くのメダルを手にし、陣営を一つに纏め上げ、優勝するか。
 言わばコレは――コアメダルの争奪戦、というワケだ。
“でも……フェイリスのメダルは、アルニャンが……”
 さっきまで所持していたライオンのメダルは、すでにここにはない。
 イカロスが立ち去る前に返してくれていれば……とも思うが、
 いいや、この場でそんな上手い話があるハズがないじゃあないか。
 フェイリスはこれから、ラウラと共に、一からメダルを集めなおさねばならないのだ。

720ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:18:22 ID:B5DW4Nf20
 決意も新たに、ラウラを引き連れ歩き出そうとしたフェイリスだったが、
「……ちょっと待て、フェイリス」
 ラウラがフェイリスの肩をつかみ、引き止める。
「その服……着替えないか?」
「ニャ?」
 言われて見てみれば、確かにフェイリスの服装はもうボロボロだ。
 あちこち黒く汚れているし、引きずられた影響でスカートは破れまくっている。
 これでは清潔感など望めようはずもない。薄汚くすらあった。
 それに加えて、動きづらいという理由も、ラウラの指摘にはあるのだが。
「ニャゥゥ……フェイリスのアイデンティティが……」
 嘆くフェイリス。
 二三歩歩いたラウラが、近くに落ちていたビニール袋を拾った。
 中に入っているのは――何かのコスプレのような、白い制服。男女用、二着だ。
 それは、男女両方の制服を着こなすシャルロットに支給されていた支給品。
 さっきの戦いで、セシリアが落とし、そのまま放置していったものだった。
 そしてそれは、一目みればわかる。ラウラと同じ衣装だった――!
「これに着替えるといい。私と同じ学校の制服だ。メイド服よりは動き安いだろう」
「……コレ、ラウニャンとおそろいニャ!?」
「まぁ……そうなるな」
 フェイリスの表情が、ぱっと明るくなった。
 この可愛らしいラウラと同じコスプレ衣装がそこにあるのだ。
 元々フェイリスはコスプレが好きだ。メイド衣装は惜しいが……
 しかしこれを着ることでこの可愛いラウラとお揃いになれるなら、悪くない。
 フェイリスは喜んで着替えを受け取ると、近場の建物の物陰へ走った。

 ――と、その途中で、赤い携帯電話のような玩具があることに気づき、
『ってオイ! お前、オイ! ソレッ!!』
 それに意識を向けた瞬間、頭の中でモモタロスが声を荒げた。
 拾えというのだろうか。一度立ち止まり、それを手に取って眇める。
 液晶画面が透明になって透けているソレは、玩具にしか見えない。
「この玩具がどうかしたのニャ? モモニャン」
『どうしたもこうしたもねぇ! そいつぁ玩具なんかじゃねーんだよ!
 そいつぁなぁ! 俺たちの……俺たちのッ! ケータロスじゃねーかッ!!』
 頭の中で騒ぎ立てるモモタロス。
 ウラタロスやリュウタロスらも、何処かざわついていた。
 なんだってこんなところにケータロスが、とか。
 もうクライマックスフォーム? になれないかと思っていたよ、とか。
 っていうかケータロスなくなってたんだ、気付かなかったー、とか。
 ちなみにみんながそうやって騒いでいる間、キンタロスは居眠りをしていた。
「これ、みんなにとってそんなに大切なものなのニャ?」
 ケータロスの何度かかぱかぱと開け閉めして遊ぶフェイリス。
 フェイリスは、この玩具の有用性がまったくもって理解出来ていなかった。
 それでまたイマジンたちは騒ぐのだが――
『なんだ、騒がしい……我の眠りを妨げるでない!』
「え?」
 聞いたことのない声が、フェイリスの頭の中で響いた。
 男の声だ。静かで、それでいて何処か厳かで、高貴な声。
 四人のイマジンのうち、誰のものでもないその声は――
『わー! 鳥さんだー!』
『お前、いないと思ったらこんなとこにいやがったのか!』
『おお、誰かと思えば我の家来ではないか。こんなところで何をしているのだ?』
 紫のイマジンと赤のイマジンに、その「白いイマジン」が答える。
 今まで眠っていたのであろうそいつは、状況をまるで理解してはいない。
 おそらく、ここが殺し合いの場であることにさえ気付いてはいないのだろう。
 フェイリスは小首をかしげながら、頭の中の白いイマジンに質問する。
「……鳥さん、ニャ?」
『なんだ貴様は? 頭が高い! 我は王子であるぞッ!』
「えっ!? ご、ごめんニャさい……ッ!」
『あははー! ニャンニャンが鳥さんに怒られてるー!』
 どういうワケか怒られた。
 どうしてリュウタロスに笑われているのかわからなかった。
 何が何だかわからぬうちに、フェイリスの脳内はまた賑やかになった。
 元からフェイリスは重度の中二病を患っているのだ……
 見る人によっては、更にヤバく見えるかもしれない。

721ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:18:50 ID:B5DW4Nf20
 
          ○○○

 地表を車ほどの速度で滑空していたISが、光となって消失した。
 高さにして一メートルほどの地点から、セシリアは飛び降り着地する。
 周囲を見渡すが、セシリアを追ってくる影は見られなかった。
 あの天使の姿をしたバケモノは追いかけてきていない。
 ほっと胸をなでおろしたセシリアは、首輪の中のメダルに意識を向ける。
「……消耗、しすぎましたわね……」
 手の平に、セルメダルが五枚転がった。
 これが今のセシリアが持てるありったけのセルメダルだ。
 五枚。少なすぎる。
 完全にメダルが尽きる前にISを解除したのだが、これでは無いも同然ではないか。
 ISの自己修復にも時間は掛かるだろうし、もうこれ以上はISにも頼れない。
 今後は拳銃一つでなんとかメダルを集めていかねばならないなと思った。
 その為にも、さっきのような考えのない戦いをしてはいられない。
「ああ……いけませんわね……私としたことが」
 さっきはシャルのことで、気がどうにかなりそうだった。
 とにかく前に向かって動いていないと、気が狂いそうだった。
 だから手当たり次第に襲いかかって、殺そうとしたのだ。
 だが、相手の戦力を見計らわずに挑むのは無謀すぎる。
 今回のミスは、教訓として先に活かしていこう。
「……これからは……もっと賢くいきませんと……ね」
 賢く……そうだ。
 殺し合いに乗っていない人のフリをしよう。
 なんとか集団に取り入って、油断してるうちにこっそり殺そう。
 一人でも殺せばセルメダルもどっと補充できるだろうし、そうなればあとは簡単だ。
 ISを起動して、残りのチームメイトも殺せそうなら一気に殺してしまうのがいい。
「ええ、それがいいですわ……そうしましょう……ふふ」
 騙し打ちで賢く、確実に殺していくのだ。
 そうやって殺せば、きっとちゃんと殺せる。
 もっと殺すためにも、それで殺していくのが一番だ。
 ああ、殺すのがいい。それで殺して、もっと殺していくのだ。
 だから、殺そう、殺そう。一人でも多く、どんな手段を使ってでも、殺そう。
 もっと殺せば、一夏とセシリアだけでも幸せになることが出来る。
 たくさん殺したから、幸せになる権利を得ることができる。
 ここはそういう世界だ。だから殺さなくては……!
「ああ……そうですわ……早く……誰か……殺しませんと……」
 見開かれた目は笑っていないのに、口元だけが緩く微笑んでいる。
 セシリアの心は、もうとっくに壊れていた。
 人の心というものはそれほど強いものじゃあない。
 今まで平和に暮らしていた人間が、いきなり人の死を見せつけられて、
 その上親友の一人をこの手で惨殺してしまって、それでPTSDに陥らないワケがない。
 だが、それも元をたどれば、すべてたった一人の愛する男のため。
「そうですわ……これも全部、愛する一夏さんのためですもの……
 一夏さん……ああ、一夏さん……何処にいらっしゃいますの?
 私、殺しますから……沢山殺しますから……一緒に……ふふっ」
 早く会いたい。愛する殿方に、一刻も早く会いたい。
 だが、そのためには一人でも多くの敵を殺さなければならない。
 だから、殺すための武器は常に万全の状態に整えておかなくては。
 うわ言を呟きながら、セシリアは拳銃に予備の弾丸を詰めていく。
 そんな倫理観の狂ってしまった少女の耳朶を打ったのは――
 悲痛な事実を告げる、定期放送の音声だった。

722ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:19:16 ID:B5DW4Nf20
 

【一日目-夕方(放送直前)】
【D-5/市街地 北西寄り】
【セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス】
【所属】青
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)、精神疲労(極大)、倫理観の麻痺、一夏への依存
【首輪】5枚:0枚
【装備】ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ニューナンブM60(5/5:予備弾丸17発)@現実
【道具】基本支給品×3、スタッグフォン@仮面ライダーW、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス
【思考・状況】
基本:一夏さんと二人で生還したいので、邪魔者は殺しますね?
 1.一夏さんが欲しい。ので、敵は見境なく皆殺しにしますわ!
 2.一夏さんのためなら何だって出来ますの……悪く思わないでくださいまし。
 3.一夏さんのために行動しますの。殺しくらいなら平気ですわっ♪
【備考】
※参戦時期は不明です。
※制限を理解しました。
※完全に心を病んでいます。
※一応、青陣営を優勝させるつもりです。
※ブルーティアーズの完全回復まで残り6時間。
 なお、回復を待たなくても使用自体は出来ます。

723ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:19:38 ID:B5DW4Nf20
 
          ○○○

 地図上では、現在の居場所は中心部……寄り、である。
 寄り、というのは、中心部ではない、ということだ。
 ウヴァの走行コースは中心部だけは確実に避けているのだった。
“ヤバい奴が集まってそうな中心部は極力避けて通った方がいいだろ”
 ……そういう考えだった。
 一応今のウヴァなら大体の相手には勝てる自信がある。
 だが、それでも過信は禁物だ。この場にはヤバい奴が沢山いる。
 例えば魔人とか。例えばエンジェロイド……とくに、カオスとか。
 奴らはバースとかオーズとか、そういう仮面ライダーの比ではない。
 ウヴァはこういう男だ。こういうどうにもコスいやり方をする男なのだ。
 だからこそ、一生懸命頑張っている奴よりも、ズル賢く生き残れるのだ。
「おっ?」
 そんなウヴァが見つけたのは、一人とぼとぼと歩く少女。
 赤い髪の毛。コンパクトに折り畳んだ天使の羽根。
 ウヴァは、この場の参加者の大半は把握している。
 あれは、エンジェロイドのイカロス……ウラヌスクイーンだ。
 とくにヤバい参加者筆頭のヤツと早くも遭遇しちまった。
“……いや待て、アイツ、なんで歩いてんだ? 飛びゃあいいものを……”
 イカロスは、自分の首につながった鎖を辿って歩いていた。
 鎖はイカロスの目前ですぐに途切れているが、それでもソレを辿っている。
 おそらく桜井智樹に会おうというワケだろうが、ならば尚更飛べばいい。
 一体どういう理由があって、あの女は歩いているのだろうか。
“まさか……メダル切れか? あいつ燃費悪そうだしな”
 ……だとするなら、今のイカロスにろくな力はない。
 本来ならばエンジェロイドはヤバい敵なのだが、今なら――
“――容易く潰せるッ!!”
 そう思い、ニヤリと笑うウヴァだったが、そこでふいに気付く。
 イカロスの首輪のランプは、赤色ではなく……紫色になっていた。
“ハッ……! ハッハハハッ! なんだ、あのチビ、もう脱落したのか!”
 それが意味するところは、赤陣営のリーダーはすでにいないということだ。
 であるならば、次の放送までの間、赤陣営の参加者は全員無所属になる。
 だったら何も今すぐにイカロスを潰しに掛かる必要はどこにもない。
 むしろ、放送までの残り時間は十分を切っている、急ぐべきだ。
 ウヴァは再びバイクを走らせ、イカロスの前まで進み出た。
「よォー、ちょっと待てよ、イカロス〜!」
「……あなたは、私の記憶にない……だから……敵……ッ!」
「ちょ! 待て待て! 俺はお前の味方だぜ、イカロスゥ〜!?」
「私の記憶にない者は……全て敵……破壊して……マスターに会いにいく」
 なんだコイツは、頭おかしいんじゃあねーのか? と、そう思った。
 だが、考え方を改めれば、コイツは兵力としては素晴らしい逸材だ。
 融通の利かない人形のようなコイツを味方につけることは大きなプラスだ。
 ウヴァは両腕を広げ、無抵抗であることを示しながら語りかける。
「俺を破壊したって愛するマスターには会えねーぜ〜?」
「偽物の世界は……全て破壊する……そうしたら、本物のマスターだけが残るから……」
 ……あ〜ぁ、ご愁傷さま、もう完全にイッちまってるぜ、コイツ。
 そうするとなると、ウヴァも真剣にイカロスの相手をするのは馬鹿馬鹿しく思えてくる。
 もうこの際だ、嘘でもなんでもいい。
 適当なこと言って手懐けて、あとは放置でいい。
「まあまあ待てって、ちょっと落ちつけよイカロス」
「お前も知ってんだろ? その偽物の世界ってのにもルールってモンがあるんだ」
「そのルールには誰も逆らえねー。グリードの俺も、参加者のお前も、例外なく、だ」
「お前も今、メダルがなくて戦えねーんだろ? それが何よりの証拠じゃあねーか〜?」
 イカロスの奴が、ハッと驚いた顔でウヴァを見上げる。
「なんだってメダル切れ起してることがバレちまったのか? そんな顔してるなァ」
「そりゃあ、お前みたいなキレたヤツが未だに俺に襲いかかってこねーんだ……」
「ブッ殺す、ブッ殺すといいながら一向に手を出してこねーんだぜ? おかしいだろ」
「だったらよォー、もうメダル切れしか考えられんだろ? それくらい俺にだってわかるぜ」
 図星を突かれた様子で、イカロスは目を伏せる。
 ウヴァはさらに力を込めて言った。

724ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:20:08 ID:B5DW4Nf20
「いいか? お前みたいなヤバい奴はなァ……!」
「『ブッ殺す』、と心の中で思ったならッ!」
「その時スデに行動は終わっているモンなんだよッ!!」
 イカロスがウヴァに襲い掛からない理由はそれしかない。
 破壊するつもりだったなら、もうとっくに破壊に掛かっているハズだ。
 ついでに、お前にメダルがありゃあ今頃俺はヤバかったぜ〜、とも付け足しておく。
 見透かされたイカロスは少しむっとした顔をしたが、何も言い返さなかった。
「まあ安心しろよイカロス、言ったろ? 俺はオメーの味方だ」
「味方じゃない……私の記憶に……ないから……」
「いいから聞けよ、俺の言う通りにすりゃあ、マスターにも会えるんだからよォー」
「……マスターに……会える……?」
「ああそうだッ! 会えるぜッ!!」
「どうすれば……」
 ここまでくればもう簡単だ。
 偽物の世界の住人の言葉とはいえ、マスターに会えるとなれば話は別だ。
 恋は盲目、という奴か。これだから恋する乙女(笑)はチョロいのだと心中で笑う。
「いいか、今のお前は無所属だ。無所属はどんなに頑張っても勝ち残ることはない……」
「ムカつくのはわかるが、ルールだからな。どんなに嫌がってもルールには逆らえん」
「だからメダルが切れちまったお前は、ウラヌスクイーンの力も使えねーってワケだ」
 イカロスは、小さくコクリと頷いた。
 どうやら自分の置かれている状況はとりあえず理解してくれたらしい。
「困ったよなァ、それじゃあマスターに会いに行く途中で襲撃されるかもしれねー」
「だがな、俺と手を組めば別だ。俺の陣営に入るなら、お前にメダルをくれてやる」
「ついでに、だ。お前のマスターも緑に引き込みゃ、二人で一緒に帰ることも出来る」
「どうすりゃいいかって? 簡単だ、そいつんとこの陣営リーダーをブッ殺しゃいいんだよッ!」
「いいや、緑陣営以外は全部ブッ殺していい! そしたらマスターと一緒に帰れる!」
「そこら辺のナンパ道路やクラブで『ブッ殺す』『ブッ殺す』って大口叩いて仲間と
 慰め合ってる負け犬どもとワケが違うってことォ、見せつけてやりゃあいいッ!!」
「だってよォー、お前のマスターへの覚悟ってのはそんなクズどもとは違うんだろ?」
 ふふっ、とわざとらしく笑って、ウヴァは続ける。
「なんたってそういうルールだからなぁ、面倒だがこれは仕方のないことなんだよ」
「ルールには従わなきゃあならない。じゃなきゃマスターと一緒には帰れないからなァ〜……」
「お前も馬鹿じゃあねーんだ、それくらいわかるだろ? ン〜?」
 イカロスは、短い逡巡ののちに、再び小さく首肯した。
 交渉は成立だ。ウヴァは、自分の中のセルメダルをイカロスに投入した。
 時刻は、放送開始の五分前だった。放送が始まればイカロスは赤に自動復帰する。
 今このタイミングでウヴァがイカロスを引き込めたのは本当に運が良かった。
 イカロスの首輪のランプが紫から緑に変わるのを見届けたウヴァは、
「ところで、だ。お前コアメダルは持ってるか?」
「……二枚だけ」
 そういって取り出したコアは、無色透明となった二枚。
 クジャクのコアと、ライオンのコア。アンクとカザリのコアだ。
 だったら用無しだ、緑だったらそれだけ貰おうと思ったのだが……
「その二枚、もう使えねーのか」
「……もう、使ったから」
「じゃあ俺の二枚と交換してやるよ」
 そういって、エビとカニの黒コア二枚を取り出すウヴァ。
 どうせコアメダルは一定時間が経過すればまた使用可能になる。
 緑でない時点で、黒だろうが赤だろうが黄だろうがなんだっていいのだ。
 二人の間を四枚のコアが通過して、それぞれが危なげなくメダルをキャッチ。
 次にウヴァが、身体から五十枚分のセルメダルを放出させた。
 それらは自動的にイカロスの首輪に吸収されていった。
“どうせ俺には貯蓄メダルもあるからな、五十枚くらい屁でもないぜ”
 あとでATMでメダルをおろしておこう。
 そう心に決めながら、十分な補給を済ませたイカロスに、
「合計百五十枚分だ、こんだけありゃ充分だろ?」
「ンン? なんだァ? 足りねえ? だったらあとは自分で補充するんだなァ」
「なあに簡単さ、緑以外のヤツらはぜ〜んぶ偽物だからな、皆殺しにしてやりゃあいい」
「一人殺しゃあそれだけで数十枚、もっと殺しまくればメダルもザックザクってワケだ」
「……おっと! くれぐれも言っておくが、緑陣営の奴は殺すんじゃあねーぞ?」
「緑が優勝できなきゃあ、お前もマスターと一緒に帰れなくなっちまうからなぁ」
 そんな風に語りかける。

725ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:20:37 ID:B5DW4Nf20
 イカロスは、わかったのかわからないのか、黙ったまま何も言わなかった。
 こういう人形みたいなヤツは何を考えているのかわからないから苦手だ。
 何を考えているのかわからない、カザリみたいなヤツはみんな苦手だ。
 この女はすでに緑陣営の強力な兵器と化した。
 これ以上ウヴァが一緒にいてやる必要はない。
 むしろ一緒にいたくない。
 再びバイクに跨りながら、ウヴァは言った。
「最後に一つだけ教えてやるよ」
「桜井智樹は、白陣営にいるぜ」
「ブッ殺すなら、白のリーダーだ」
「そうすりゃ桜井は無所属になる」
「そしたらまた俺のとこに連れてこいよ」
「この俺が、お前らが一緒に帰るために一肌脱いでやるぜ」
 なんとも心の広い、配下の心を集めることに長けた陣営リーダーである。
 そんな自分に酔いしれいい気分に浸りながら、ウヴァはバイクを発進させる。
 イカロスはウヴァを追いかけようともしなかった。
 ――間もなく、放送が始まった。


【一日目-夕方(放送直前)】
【E-5/市街地 中心よりやや南西寄り】

【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】健康、絶好調、大満足
【首輪】270枚:250枚(増幅中)
【コア】クワガタ(感情)、カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ
   (ライオン、クジャク、カメの三枚は一定時間使用不可)
【装備】バースドライバー@仮面ライダーOOO、サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品×3、参加者全員のパーソナルデータ、ライドベンダー@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO、
    ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、首輪(月影ノブヒコ)、ランダム支給品0〜4(ウヴァ+ノブナガ+ノブヒコ)
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
 0.あとでATMからセルを補充しておくか。
 1.もっと多くの兵力を集める。
 2.月影を倒したネウロを警戒。下手に戦わない。
 3.屈辱に悶えるラウラの姿が愉快で堪らない。
 4.緑陣営の兵器と化したイカロスに多大な期待。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※イカロスという最強クラスの兵器を味方に引き込めたので大変満足しています。
 その影響でメダルがどーんと二十枚も増加しました。

726ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:20:57 ID:B5DW4Nf20
 
【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】緑
【状態】健康、ある程度落ち着いた
【首輪】50枚:0枚
【コア】エビ、カニ
【装備】なし
【道具】基本支給品×2、アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:本物のマスターに会うため、偽物の世界は壊す。
0.マスターと緑陣営以外の参加者を皆殺しにすればマスターと一緒に帰れる?
1.本物のマスターに会う。
2.嘘偽りのないマスターに会う。
3.共に日々を過ごしたマスターに会う。
4.ルールには逆らえない。従えばマスターと元の日常に帰れるらしい。
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※このためイマジンおよび電王の能力について、ディケイドについてをほぼ丸っきり理解していません。
※「『自身の記憶と食い違うもの』は存在しない偽物であり敵」だと確信しています。
※「『自身の記憶にないもの』は敵」かどうかは決めあぐねています。
※最終兵器『APOLLON』は最高威力に非常に大幅な制限が課せられています。
※最終兵器『APOLLON』は100枚のセル消費で制限下での最高威力が出せます。
 それ以上のセルを消費しようと威力は上昇しません。
 『aegis』で地上を保護することなく最高出力でぶっぱなせば半径五キロ四方、約4マス分は焦土になります(1マス一辺あたりの直径五キロ計算)。
※消費メダルの量を調節することで威力・破壊範囲を調節できます。最低50枚から最高100枚の消費で『APOLLON』発動が可能です

【アタックライド・テレビクン@仮面ライダーディケイド】
 シャルロット・デュノアに支給。
 ディケイドが使用する事で、クウガ〜キバまでの平成九人ライダーの最終フォームを同時に召喚、
 ディケイド自身と、九人ライダー全員の必殺技を一斉に発動させるアタックライドカード。
 本ロワでのこのカードは、一度でも使用すると消滅する。

727ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:21:32 ID:B5DW4Nf20
 
          ○○○

「今までのメイド装束は……フェイリスの仮初の姿――」
「今ここに、全ての封印を解き放ち、真の姿を解放するニャッ!!」
 高らかな宣言。そこにいるのは、もはや一介のメイドなどではない。
 純白のワンピースタイプの制服。首元で揺れる青く清楚なリボン。
 フェイリスの一回転に合わせて、短いスカートがひらりと舞う。
 制服に入った赤いラインのワンポイントが可愛らしい。
 前から引き継いでいるのは、靴とニーソックス、そして猫耳だ。
 自らも猫の手をしながら、ラウラの隣でポーズを決める。
 こうして同じ制服で並び立つと、とても見栄えがいいように思えた。
「……随分と気に入っているようだな……」
「フェイリスは形から入るタイプなのニャ」
 無事生還するための可能性も見出したのだ。
 心機一転、気分を入れ替えて、フェイリスは生まれ変わったのだ。
 今までの姿は、闇の呪縛に抗うための拘束具にすぎず――
 光が見えた今、今まで共に闘ってくれた衣装に感謝の思いを懐きながらも、
 それすらも脱ぎ捨て、新たなる一歩を踏み出す必要があった。
 これは、言わばフェイリスの新フォームともいえるのだ。
『新フォームと言やよォー、これで俺たちも超クライマックスになれるワケだよな』
「ニャニャ? すーぱーくらいまっくす……ニャ?」
『フッ……満を持して……我、ここに降臨したからには……それくらい造作もなかろう』
 頭の中で、白い鳥の姿をしたイマジンが偉そうに言った。
 彼はモモタロスらの仲間で、その名をジークというらしい。
 ケータロスに憑依させられていたのだが、今の今まで眠っていたのだとか。
 こんな状況でもグースカ寝ることが出来るのだから、なるほど確かに大物である。
 曰く、ほかのイマジンよりも多少特別な存在で、"存在の強さ"自体も上位なのだとか。
 その気になれば生身のフェイリスの身体にも憑依して使える、と本人は言うが、しかし。
『そんなことをする意味がないからな。雑魚の相手は家来のお前たちに任せる。我は眠っているぞ』
 と、こんなことを言うのだ。
 本人に戦う気がないし、何もする気がないというなら、居ないも同然だ。
 四人のイマジンたちも、ジークの言動には呆れながらも何も言おうとはしない。
 もうジークのそういう態度にはすでに慣れてしまっているのだろう。
「……で、すーぱーくらいまっくすって何ニャ?」
「ん、スーパークライマックス? 何の話だ」
「ごめんニャ、ラウニャンに言ってるんじゃないのニャ」
「…………そ、そうか……」
 ヤバい人を見る目で、ラウラはフェイリスを見ていた。
 そんな痛い視線など意に介さず、フェイリスは問いを続ける。
「もしかして、フェイリスのように禁断の姿へ覚醒するのかニャ!?」
『あー……まぁ、そんなトコだ。あながち間違っちゃいねーよ』
『ま、超クライマックスになれれば、実際ボクらは敵なしだろうね』
『またあのセシリアとかいうヤツが襲ってきても、今度はやっつけれるよね〜』
「そんなに凄いのかニャ? その超クライマックスって」
 超クライマックス。
 それは、電王全フォーム中最強にして最速、最終形態の姿。
 五人のイマジンの心を一つにして、空翔ける電王となるのだ。
 確かに、その姿になれれば、空を飛ぶISとも戦えるのだろう。
 だが、フェイリスはそれを素直に喜べずにいた。
「でも……戦う力があったって……」
『フェイリス……お前、戦うのが不安なのか』
 モモタロスの問いに、フェイリスは緩い首肯で返す。
 戦いとは、すなわち殺し合いだ。
 さっきのセシリアとイカロスがやっていたことだ。
 フェイリスには誰かを殺す覚悟などないし、そんな覚悟はしたくもない。

728ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:21:57 ID:B5DW4Nf20
 そう思い悩むフェイリスに、モモタロスは静かに言った。
『そうかよ……だったら、無理に戦えとは言わねえよ』
「え……?」
 モモタロスがそんなことを言うのは、意外だった。
『お前が本当に守りたいものが出来た時はよ……俺たちが力を貸してやる』
「モモニャン……」
『ヘッ、そんなしみったれた顔すんじゃねーよ!
 それまでは俺たちもじっくり待っててやらぁ』
 てっきりモモタロスは、逃げるな!戦え!と主張するだけだと思っていたのに……
 今まで何度も戦うチャンスが巡って来ていながら、モモタロスは変身を強要しなかった。
 それは、彼らはずっとフェイリスに気を遣ってくれていた、ということなのか。
「モモニャンは……守るべきものが何か、とかって……わかってるのニャ?」
『あ? そんなモン知ったこっちゃねーよ。
 けどな、守りたいって思ったら、そん時ゃあ戦う時だろうが』
「……そっか」
 モモタロスは、彼らイマジンは、何を守らなければならないのかを知っている。
 そして、それを守るために、命をかけて戦う覚悟を持っている。
 今の一瞬の会話でフェイリスは、そういう"自分にないもの"を見た。
 人の命を守らなければならないとか、そういってしまえば簡単な話だ。
 だが、そんな素朴な正義感だけで人は命を投げ出して戦えはしない。
 それが何なのかわかった時、フェイリスは彼らと一緒に戦えるのだろうか。
「いつか、フェイリスもみんなみたいに戦える時が来るのかニャ……」
『ま、焦らなくてもいいんじゃない。ボクらはそれまで逃げも隠れもしないし』
『俺らはそれまで口出しせえへん。困った時だけ頼ってくれたらええ』
 ウラタロスに続いたのは、ついさっきまで寝ていたキンタロスだった。
 彼らは基本的にフェイリスの行動に口出しをしないし、無理にでしゃばりもしない。
 時には居ないも同然かと思しき時もあるが、それも彼らなりの優しさなのだろうか。
 ともかく、この言葉のおかげでフェイリスが安心したのは確かだった。
『さ、ラウラちゃんとももっとお話ししたいんでしょ?
 ボクらは裏に引っ込んでるから、また困った時に呼んでよ』
「うん、ありがとニャ……ウラニャン」
 イマジン四人に対する気負いがずっと楽になった。
 彼らはいずれも野上良太郎と共にずっと戦い続けてきた戦士たちだ。
 子供っぽくても、実はフェイリスよりもずっと大人びている。
“フェイリスも出来る限りは自分で頑張るニャ……!”
 ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って。
 それでも……ピンチの連続で、どうにもなくなった時が来るまでは。
 もうそれ以上何も言わなくなったイマジンたちに心の中でお礼を言いながら、
「ラウニャン、お待たせしたニャ!」
「……大丈夫、なのか……?」
「えっ? 何がニャ?」
 突然話しかけてきたフェイリスに、おずおずと質問するラウラ。
「その……言いにくいんだが……頭の方、とか……」
「フェイリスの中には、人よりちょっぴり多く魂が宿っているのニャ」
「そ、そうか……まぁ、そういうこともあるかもしれないな……」
 すでに完全にヤバい人扱いをされていた。
 だがしかしフェイリスにとってそんなものは日常茶飯事。
 とくに気にすることもないのだが……しかし、ふざけていると思われたくはなかった。
「ラウニャン、これだけは言っておくけど……フェイリスは真剣ニャ」
 ラウラがじっとフェイリスの眼を見る。
 この時ばかりはフェイリスもへらへら笑えなかった。
 だが、そんなフェイリスの表情を見て、ラウラは、
「……どうやらその言葉だけは本当のようだな」
「"だけ"じゃないニャ。フェイリスの中に五つの魂が宿ってるのも本当ニャ!」
「ま、まぁそれは確かめようがないから今は保留ということにしよう」
「むう……なんだか微妙に納得いかニャいけど仕方ないニャ……」
 イマジンたちは、電王とやらに変身した時しか表には出れない。
 だから、今この場で彼らの存在を証明する手立ては何もなかった。
 しかし、ムキになって説明をする必要もないと、今では思う。
 無理に存在を主張しなくたって、たとえ黙っていても、彼らはそこに居る。
 いつかフェイリスと一緒に戦える時が来るまで、じっと待っているのだから。
 ――それが、絆というものだ。
「さあ、ラウニャン、早速アルニャンとセシニャンを探しに行くのニャ!」
「待て、何処を探しにいく気だ?」
「……アテはないニャ」
 はぁ、と嘆息するラウラだった。
 そのラウラの嘆息をかき消すように、放送が始まった。

729ろくでなしブルース ◆QpsnHG41Mg:2012/12/03(月) 08:22:19 ID:B5DW4Nf20
 

【一日目-夕方(放送直前)】
【E-4/市街地】

【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無所属
【状態】健康、戦いに対する不安、イマジンズへの信頼
【首輪】100枚:0枚
【装備】IS学園女子制服@インフィニット・ストラトス
【道具】IS学園男子制服@インフィニット・ストラトス、
    デンオウベルト&ライダーパス+ケータロス@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:仲間と共にコアメダルを全て集めて脱出し、マユシィを助けるニャ。
0.今はまだ、誰かと戦う覚悟はニャいけど……いつかはフェイリスも……?
1.アルニャンとセシニャンを止めなくちゃいけニャい!
2.凶真達とも合流したいニャ!
3.変態(主にジェイク)には二度と会いたくないニャ……。
4.イマジンのみんなの優しさに感謝ニャ。
5.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ!
6.ラウニャンに人殺しはさせたくニャい。とくに友達を殺すニャんて……
【備考】
※電王の世界及び仮面ライダーディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロス、ジークが憑依しています。
※イマジンがフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみですが、
 ジークのみは特別で、その気になれば生身のフェイリスの身体も使えるようです。
※タロスズはベルトに、ジークはケータロスに憑依していました。
※ジークがまだフェイリスを認めていないので、ウイングフォーム及び超クライマックスフォームにはなれません。通常のクライマックスフォームまでなら変身できます。
※イマジンたちは基本的に出しゃばって口出しする気はありません。フェイリスの成長を黙って見届けるつもりです。

【IS学園制服セット@インフィニット・ストラトス】
 シャルロット・デュノアに支給。
 IS学園指定の白い制服で、ビニール袋に入れて支給されている。
 シャルのための着替え用で、男性用・女性用の両方が用意されていた。

【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、精神疲労(大)、力への渇望、セシリアとウヴァへの強い怒り(ある程度落ち着いた)
【首輪】80枚(増加中):0枚
【コア】バッタ(10枚目):1(一定時間使用不可)
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、魔界の凝視虫(イビルフライデー)×二十匹@魔人探偵脳噛ネウロ、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:グリードに反抗する仲間とコアメダルを集めて優勝し、生還する。
 0.フェイリスは本当に大丈夫なのか……? 少し不安
 1.セシリアを止める。無理なら殺すことにも躊躇いはない。
 2.陣営リーダーとして優勝するため、もっと強い力が欲しい。
 3.もっと強くなって、次こそは(戦う必要があれば、だが)セイバーに勝つ。
 4.一夏やシャルロットが望まないことは出来るだけしたくはない。
【備考】
※本当の勝利条件が、【全てのコアメダルを集める事】なのでは? と推測しました。
※"10枚目の"バッタメダルと肉体が融合しています。
 時間経過と共にグリード化が進行していきますが、本人はまだそれに気付いていません。
 

【全体備考】
※シャルの支給品残り二つは「アタックライド・テレビクン」と「IS学園制服セット」でした。
※ファイズギアがケースごとブルーティアーズのレーザーに貫かれ完全に破壊されました。

730名無しさん:2012/12/03(月) 08:23:33 ID:B5DW4Nf20
投下終了です。

731名無しさん:2012/12/03(月) 13:35:57 ID:ktwmOKVQ0
投下乙です

セシリアは自業自得とはいえ廃人になる一歩手前だわ
イカロスとのバトルはどうなるかと思ったがメダルの枚数を考えずに戦うとこうなるわなあ
そして同行者が入れ替わって……ウヴァ、おま、ここでイカロスを引き込むだとっ!
放送もここでなるだろうからISの二人もヤバいヤバい
フェイリス一人が頼りとか厳しすぎる。イマジンズよ、なんとかしてくれ

732名無しさん:2012/12/03(月) 18:21:27 ID:Mi3f4Irs0
投下乙です

亡くした仲間の意思を尊重しつつ、新たな仲間と共に戦うことを決意したラウラと、完全にイっちまったセシリア。
覚悟をある程度完了させた瞬間に放送とかこいつら報われないなぁ……
フェイリスは何とか無事だったけど、イカロスwwwwww 緑陣営の鉄砲玉かよwwwwwwww
イカロスとかいう最強に危ないものを戦力としてゲットして、ウヴァさんはほんと絶好調ですね! とことん鳥頭とは違うぜ!

733名無しさん:2012/12/03(月) 18:54:15 ID:PC2ZfPDY0
乙。ウヴァさん本編で不運だった分活躍してるなー

734名無しさん:2012/12/03(月) 21:11:15 ID:b1ehQXx.0

やったッ!! さすがウヴァさん!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ!
そこにシビれる!あこがれるゥ!
ちょろいさんは絶望がゴールだ。さあ地獄を(ry

735名無しさん:2012/12/03(月) 23:29:43 ID:UOVNGGjcO
投下乙です、ウヴァさん…ロスト坊やを馬鹿にしてるのはいいが手駒が爆弾だらけじゃ足元すくわれるぞとw

え、ちょろいさん?罪を数えながらゴールして地獄を楽しめばいいと思うよ。どうあがいてもさやか…もとい絶望w

736名無しさん:2012/12/04(火) 16:56:17 ID:iD5Y47HE0
投下乙。ウヴァさんが楽しそうでなによりです。
そしてちょろいさんは一夏が死んだと知ったらどうなることか…

ところで、ウヴァさんのセリフがジョジョっぽいのは本編でもそうなのか?
本編途中から見れてないからわからないけど

737名無しさん:2012/12/04(火) 20:38:31 ID:hvtltDWQ0
投下乙です
これはまた濃い話がきたなw
セシリアが完全に狂ったヤンデレマーダーになったりラウラがおそらくこのロワでしかあり得ない優勝狙い対主催になったり…色々あったのに最後は全部ウヴァさんが持っていっちまったwww
IS勢はやばいって言われてるけど、ラウラは一夏やシャルの思いを継ぐって考えだし案外大丈夫そうな予感…というか大丈夫であって欲しいぜ
フェイリスも戦えるようになるまではまだまだ長そうだけど、イマジン達も成長を見守ってくれてるからこれからも一緒に頑張って欲しいな

>>736
最高に調子乗ってる間のウヴァさんはこんな感じでも違和感ない
ただ、調子乗りまくるのはいいけど大体は途中でコケる

738名無しさん:2012/12/04(火) 22:49:01 ID:fdspZtk6O
投下乙です。

ウヴァさんが絶好調!
もはや冬では無い!
夏真っ盛りのセミのようだぜ!

739名無しさん:2012/12/05(水) 00:31:03 ID:QCAMt/UEO
>>738
セミってさ、成虫になったらすぐに(ry

740 ◆QpsnHG41Mg:2012/12/05(水) 18:12:00 ID:iIpsVIcs0
みなさん、沢山の(主にウヴァさんに対する)感想ありがとうございます!

一点表記ミスを発見しましたので報告いたします。
セシリアの現在地をD-5としていますが、D-4の間違いでした…
正しくはD-4北西寄りということでよろしくお願いします。

741名無しさん:2012/12/06(木) 17:43:31 ID:dwxoBEBA0
真面目な話今のウヴァさんを一方的に殺せそうなのってオーズ除けばそんなにいないよな

742名無しさん:2012/12/07(金) 01:11:45 ID:DIhg6usQ0
いや、そのオーズですら難しいんじゃないかな
緑コア9枚の完全体ウヴァ相手にはあのプトティラですら勝てなかったわけで、
今のウヴァさんは完全体ではないとはいえ所持メダル数的にはもう完全体と同等くらいの力は持ってる筈だから

743名無しさん:2012/12/07(金) 11:37:13 ID:65TQThS20
同色コアじゃない分完全体には劣るだろうけど、完全体ウヴァさんが圧倒したのはWバース+紫コア7枚のプトティラだからな
紫コア五枚だけの今のプトティラ相手なら悪くても五分には戦えそうだ まぁグリードって結構あっさりコア吐き出すけどw

744名無しさん:2012/12/07(金) 17:19:54 ID:aD9iMhLwO
トラメダルの出番ですね!

745名無しさん:2012/12/07(金) 20:28:39 ID:PcgBVbOA0
そのウヴァさんが最大級の警戒をしているカオスとバーサーカーってやばすぎじゃねえか?

746名無しさん:2012/12/08(土) 14:05:27 ID:RV17hTa.O
カオスもバーサーカーも、相手の能力や武器を自分のものにしちゃえるからな。
グリードは武器らしい武器とか持ってないけど。
ベルトとか手に入れたら、仮面ライダーに変身とかしちゃうんだろうか。

747名無しさん:2012/12/08(土) 19:10:58 ID:ZFdVtFDc0
やめて!アポロさんいじめないで!

748名無しさん:2012/12/09(日) 00:06:13 ID:JGDC1DI.O
完全体へとパワーアップしたウヴァに手駒を増やしつつあるカザリ。そしてヤンデレ二人がいるメズール。
…メズールヤバくね?

749名無しさん:2012/12/09(日) 12:52:11 ID:2ECcuZ..0
>>746
アンク(ロスト)がダミーメモリ使ってるから不可能ではないと思う

750名無しさん:2012/12/09(日) 13:18:03 ID:gm0GDRoc0
>>748
既に倒されたロストアンクとガメルェ…

751名無しさん:2012/12/09(日) 14:25:32 ID:T4AR6BzI0
予約来てるが彼単独かあ…

752名無しさん:2012/12/09(日) 17:53:53 ID:ttPPAuS6O
>>750
ま、まだメダルを砕かれてはいないよ!…でも復活ってどうすんだ?

753名無しさん:2012/12/09(日) 19:45:56 ID:Lt8pcIM60
確か本編でウヴァがやった方法だと、本人の意識の入ったコアメダルとセルメダルを
対象のグリードのシンボルカラーの布を敷いた上で集めてやれば良かった筈。

色付きの布を集めることから始めないといけないから大変だな。地味に。

754名無しさん:2012/12/09(日) 21:33:33 ID:gm0GDRoc0
そもそもその復活方法知ってるのって誰かいたっけ?

755名無しさん:2012/12/09(日) 21:53:14 ID:hokppqio0
>>754
参加者には知らされてないよ
放送で明かされるって話になってたと思う

756名無しさん:2012/12/10(月) 13:21:11 ID:vBduu9zQO
白い布なら見つけやすそうだな。

757名無しさん:2012/12/10(月) 15:53:31 ID:cO.xtiH20
水指すようだけど、ルール的には同色コア三種とセルで復活できるから布とか関係ないよ

758名無しさん:2012/12/10(月) 18:31:34 ID:OA7bQ15E0
そういやプトティラ以外の攻撃でコアメダルって砕ける?

759名無しさん:2012/12/10(月) 19:49:57 ID:8K6leKuY0
原作でラトラーター+トライドベンダー+メダガブリュー+恐竜グリードの凍結で
メズール完全体のコアを破壊した

760名無しさん:2012/12/10(月) 20:36:48 ID:1UcC1TBo0
そもそも壊そうと思えば壊せるのかもしれん。完全体に必要だったり奪ったぶん戦力になるからそうしなかっただけで

761名無しさん:2012/12/10(月) 20:54:08 ID:CI.3BeVM0
コアメダルは紫コアの力がないと壊せないよ

762名無しさん:2012/12/10(月) 21:28:28 ID:Yrktyn3oO
プトティラorその力の一部なメダガブリューでしか砕けないって訳じゃないのか?

763名無しさん:2012/12/10(月) 22:50:34 ID:sbbm4B6s0
>>762
そういうこと
コアメダルを砕けるのは欲望を打ち消す無の性質を持った紫のコアの力だけ
ただ、ロワはクロスオーバーだから、説得力さえあるなら他の作品のキャラとの設定の擦り合わせでコア砕きが出来てもいいとは思う

764名無しさん:2012/12/11(火) 18:38:44 ID:2qhEh/yIO
コア0エンドの可能性もあるんだろうか。
そうすると、紫コア5枚の真木が「私の優勝ですね」とか言い出しそうだが。

765名無しさん:2012/12/11(火) 19:17:56 ID:jVCkPJYg0
そもそも終末を求めるドクターと終末を遠ざけようとするインキュベーターじゃ信頼関係は成立しなさそう

766名無しさん:2012/12/11(火) 20:35:08 ID:voa5K.mkO
>>765
互いに利用してるだけのドライな関係なんじゃね?とはいえまどか組は全員契約済みだし今更どーすんだって話だが

767名無しさん:2012/12/11(火) 20:53:30 ID:bD9Bb.zQ0
>>765
いくら終末を求める思想とはいえ所詮一惑星規模のドクターと、宇宙規模で動いてるインキュベーターとじゃ視野が違うんだろうし、
別に何の問題もないんじゃね?
QBからすりゃドクターの終末なんて言葉、成功しても失敗しても星一つの環境が変わるだけの瑣事だろうし

768名無しさん:2012/12/11(火) 23:30:41 ID:jVCkPJYg0
たしかにそういえばそうか。
あと、なにげにQBがドクターのことを下の名前で読んでるのはなんか意味があるのかな

769名無しさん:2012/12/12(水) 17:03:50 ID:J0FU9beY0
QBは基本的に相手を下の名前で呼んでるからじゃね?

770名無しさん:2012/12/12(水) 17:23:30 ID:Hm/0.HpI0
じゃあウヴァさんのことも呼び捨てにするのか・・・
まあウヴァさんだし仕方ないか

771名無しさん:2012/12/12(水) 17:36:26 ID:aQaIiWUQO
後はたまにフルネームだけど、その時のQBは大体営業モードだしなぁ

772 ◆MiRaiTlHUI:2012/12/14(金) 23:54:06 ID:ZXIPW/Tw0
仮投下していた分の本投下を開始します。

773 ◆MiRaiTlHUI:2012/12/14(金) 23:54:58 ID:ZXIPW/Tw0
 篠ノ之箒が目を覚ました時、真っ先に視界に飛び込んで来たのは、見知らぬコンクリートの天井だった。
「……ッ!?」
 ぼんやりなどしていられない。申し訳程度に身体に掛けられていた薄い掛け布団を剥ぎ取った箒は、がばっと身を起こして、ここは何処だと周囲を見渡す。
 およそ人が住まう場所とも思えない、四方全面がコンクリートに囲まれた小さな一室だった。当然、見覚えのある部屋ではない。
 あちこちに何に使うのかもよく分からない機械が設置されていて、ところどころには、壁から壁へと剥き出しになったパイプが繋がっている。そんな部屋の隅に、簡素な鉄パイプのベッドが置いてある。箒はそこに寝かされていた。

「何処だ、ここは……!? 私は何故……」

 何故、こんなところにいるのか――というよりも、何故生きているのか、という疑問の方が強かった。
 やや痛む頭を押さえて、己が記憶を辿る。篠ノ之箒は、あの広場で緑色の虫頭に戦いを挑み、そして首輪を爆破され死んだ筈だった。
 そう。死んだ、はず……なのだ。
 少なくとも箒の頭は、自分は死んだものであると記憶している。
 その認識が、異常極まるバトルロワイアルに対しての義憤とか、真木清人とかいう許し難い悪鬼に対する激情とか、そういう人として当たり前の感情全てを後回しにさせる程に箒を狼狽させる。

「どういう……ことだ……!?」
 自分が死んだ痛みの記憶は確かにある。間違いはないはずだ。
 今の自分が身に纏う服装だって、着慣れたIS学園の制服でもなければ、就寝時に着用する寝巻でもない、IS装着中に身に纏うインナースーツだ。これを着ているということは、つまり意識を失う直前までISを装着していた、ということに他ならない。それはやはり、あの虫頭にISで挑んで、その直後殺されたから、ということではないのか。
 だが、考えても考えても答えは出ない。自分は今生きている。それが全てだ。

「くっ……今はそんなことを考えても仕方がないか」
 もうじっと考えるのは止めようと思った。
 自分はやはりあの時死んだのではないか、もしかしたらもう死んで幽霊にでもなっているのではないか……そういうそんな有り得ない想像をして不安になったところで仕方がない。今はそういう不吉な考えは後にして、何らかの行動を起こすのが先決かと思われた。

 まずは、仲間との連絡が取れないか模索する。
 通信機の類は――当然ながら、部屋を見渡す限りでは見受けられない。あの虫頭に挑んだ時点では腕に装着されていた筈のIS「紅椿」も、今はもう何処にも見当たらない。力がない以上、強引に脱出するのは不可能だ。
 一応、部屋に一つしかない扉のドアノブに手を掛けてみるも、予想通り、外側から鍵が掛けられているらしく、内側からは開けられなかった。が、扉には鉄格子つきの窓がついている。箒はそこから外の様子を窺うが――そこから見えるのは、いっそ冷たい印象すら抱く静謐に包まれたコンクリートの廊下だけだ。灯りも乏しく、薄暗い廊下の奥に何があるのかはここからでは判然としない。

774 ◆MiRaiTlHUI:2012/12/15(土) 00:00:05 ID:mdpRqn8c0
 
(やはり……これは……)
 短い探索ののちに、箒は――元より薄々感づいてはいたが――今の自分のおかれた状況が、所謂監禁状態であるのだと察した。
 だが、それが分かったということは、精神的にも進展はあった。こうして監禁する必要があるということは、自分はまだ死んでいないということだ。何らかの利用価値があって、生かされているということだ。そしてそんなことをするのは、おそらくあの真木清人をおいて他には存在しない。
 自分はまだ死んでいなかった、という喜びよりも、敵の手の内に落ちてしまったことへの憤りが箒の中で蟠る。それを吐き出す術を持たない箒は、鉄の扉を殴りつけて、意味もない八つ当たりをするしか出来なかった。

 それから数十分も経過した頃、脱出する術もなくただベッドに座って時の経過を待っていた箒は、廊下の奥から聞こえる足音に、耳ざとく反応し動きを止めた。
 乾いた革靴の音だ。それが、コツ、コツ、と冷たい空間に反響して、次第に聞こえる音が大きくなってくる。誰かが歩いている。それも、この部屋に接近している。
 どうしようもない現状にただ義憤を募らせるだけしか出来ない自分にうんざりしていた箒だったが、ようやく事が進展する気配を見せたのだ、最早じっとしていられる訳がない。
 餌に飛びつく肉食獣さながら飛び上がった箒は、扉の鉄格子に掴み掛かって、廊下を行く人影に怒号を飛ばした。
「――おい、そこのお前ッ! 止まれ、状況を説明しろッ!!」
 
 箒の声に気付いた人影は一瞬動きを止めたが、すぐに箒の部屋の前まで歩を進めた。
 薄暗い闇の中、人影はいっそ不気味な程に引き攣った満面の笑みを顔面に張り付けて、扉越しに軽く会釈をした。
 悪意があるのかそうでないのかも判然としない笑みだけを浮かべた長身の男は、見た所アジア人――どころか、箒と同じ日本人らしい顔立ちをしている。しかしその服装は、何処かの国の軍人か高官かといった風情の制服だ。
 何らかの組織の人間だろうか、そんな疑問を浮かべて一瞬言葉を詰まらせた箒に、男はその笑顔のまま声をかけた。
「お目覚めになられたようですね……申し訳ございません、このような質素な部屋で」
「そんなことはいい、私は状況を説明しろと言っているんだ!」
「あなたはこのバトルロワイアルの間、ここに監禁されることになっています。言わば、人質です」

 機械のような笑顔のままで男はそう言うのだ。
 箒の質問には確かに答えたことになるのだろうが、そんなことは言われるまでもなく大凡予想は出来ている。知りたいのは、何故箒がこんな場所で監禁されねばならないのか、一体何に対しての人質なのか、だ。
 それについて問い質そうとした箒に、男は
「ああ、申し遅れました。私はエリア管理委員会次官、海東純一と申します」
 と、自らの名前と身分を明かした。
「もっとも、今はこの肩書きにも大した意味はありませんが」と付け加える。
 そこで箒は気付いた。海東純一と名乗ったこの男、顔には満面の笑みを浮かべているが、その眼は何処までも冷たく、何処か底の知れない、深い闇を秘めている。この状況による警戒心が、余計に強く、箒にそういう印象を抱かせた。
 そんな相手に、感情を剥き出しにして喰って掛かるのはあまり賢くはない。そう思った箒は、一旦深呼吸をして気を沈め、やや抑えた声で続けた。

「……いいだろう、それは分かった。次の質問をしたい……構わないか」
「ええ、私に答えられる範囲でよろしければ、何でもお答えしましょう」
 そう言って微笑みかける男が、その優しさが、箒には堪らなく不気味に感じられた。
 何を知ったところで、箒にはどうにも出来ないから、とか。そういう余裕の表れだろうか。だとすればこの上なく屈辱的だが、しかしだからといって立ち止まる訳にもいかない。
 箒は構わず質問をした。
「まず第一に……一応聞くが、私は誰に対しての人質になり得る?」
「篠ノ之束さんです。彼女ほどの技術力を持った人間は、あらゆる世界を探し回ってもそうはいません」
「……やはり、か……」
 概ね予想通り、といったところか。嫌な予感が的中してしまったと、箒は頭を抱える思いだった。
「予想通り、といった様子ですね」
 海東の言葉に、小さな嘆息で返す箒。
 奴らの目的はIS開発者の篠ノ之束らしい。
 束に対して人質として機能するのは、彼女の身内である箒と、親友である千冬、そして弟の一夏の三人だけだ。それゆえ、元より箒をはじめとした三人は常に危険に晒されているようなものだ。だからこそ、外部からのあらゆる圧力の届かないIS学園に通っていたのだが――よもやIS学園在学中にこんな事態に巻き込まれるとは夢にも思っていなかった。

775 ◆MiRaiTlHUI:2012/12/15(土) 00:01:40 ID:mdpRqn8c0
 
「だがしかし……それならば、一夏は……織斑一夏と、織斑千冬は?」
「彼らはバトルロワイアルの正式な参加者です。篠ノ之束さんが協力を快諾してくだされば、一夏さんと千冬さんだけは特別に我々で保護しましょう、と提案したのですが……」
 海東は笑顔のまま、さも困ったように口を濁した。
 どうやら束は未だその要求を呑んでいないらしいが、成程確かに真木の考えは卑劣だが上手い。束は、妹である箒のことを溺愛しているし、千冬と一夏にもそれに準ずる愛情をもって接している。千冬と一夏をいつ死ぬかも分からない殺し合いに放り込んで、一刻も早く束を味方に付けようというのだろう。
 
「なら、私を殺し合いの面子から外したのは……!?」
「ドクター真木から篠ノ之束さんへの、せめてもの優しさです」
「人に殺し合いを強要する連中が優しさだと? 聞いて呆れる……ッ!」
「御尤もです」
 笑顔でそう言う海東に、箒は挑発でもされているのかと思った。
 が、今ここでキレることは無意味だ。鉄格子越しにその満面の笑みに木刀の一撃でも叩き込んでやりたい気持ちを抑えて、箒は考える。
 おそらく、束の寵愛の最たる対象である箒まで殺してしまっては、もう永久に束に協力して貰える日が来ないのだと判断されたのだろう。だとしたら箒の命の安全だけは保障されたようなものだが、しかし一夏と千冬は未だに殺し合いの渦中にいることになる。
 
「……私以外の二人は、その……今も無事なのか」
「それはお答えできません」
「ッ、何故だッ! 貴様に答えられることなら何でも答えるんじゃなかったのか!?」
「ええ。ですが……聞かない方がいいこともあるでしょう」
「……ッ」
 その一言で、箒は察してしまった。
 既に、一夏か千冬、もしくはその両方が、死亡している。
 確たる証拠は何もないとはいえ、それを一瞬でも想像してしまった時、箒の脚から力が抜けた。鉄格子にしがみついたまま、力なく項垂れる。恐ろしほどの寒気が、ぞっと背筋を駆け抜けた。もうあの日々には帰れないのか、と思ってしまった。
「……大丈夫ですか、箒さん」
「……」
「安心してください、ドクターには何らかのお考えがあるようです。人質が全員死亡してしまっては意味がありませんから――篠ノ之束さんさえ協力してくださるのなら、彼らのみ蘇生でもするつもりなのではないしょうか」
「……ッ、それで! あの人が条件を呑むとでも思っているのか、貴様らは!?」

 海東は、その笑顔を一ミリも動かさず、何の返答もしなかった。
 奴らは篠ノ之束という人間を分かっていない。一度でも一夏か千冬が死んでしまったなら、例え蘇生をさせたとて、あの姉が真木らを許すとは思えない。それどころか、こうして今も条件を呑まない事を考えると、もう既に彼女は何か企んでいるのかもしれない。
 常人が計り知れる人間ではないのだ、篠ノ之束という天才は。
 どんな常識もあの人には通用しないし、妹である箒や、親友である千冬にすら、彼女の突飛な行動は予測し切れない。言うなれば猛獣だ。自由気まま、本能の赴くまま放埓に行動する、誰も予測の出来ない一匹狼だ。
 そんな人間を手懐けようとすれば、必ず痛い目を見る。それを真木らはまるでわかっていない。

 そのまま言葉を失ってしまった箒の耳に、今度は別の人物の足音が聞こえてきた。
 ふいに顔を上げた箒は、鉄格子の奥の闇から姿を現した男に視線をやる。
 小奇麗なスーツをぴしっと着こなし、白髪を丁寧に撫でつけた西洋風の老人だ。そこそこいい体格をしていて、額には大きな疣が目立っている。眼鏡の奥の青い瞳は海東純一以上に座っていて、やはり底が知れない。
 男は包容力さえ感じさせる優しげな笑みを浮かべ、海東の肩を叩いた。

「少しお喋りが過ぎるんじゃないかね、純一くん?」
「申し訳ございません、マーベリックさん……ですが、どうせ私が話したところですぐに忘れてしまいます。これくらいなら構わないかと思って」
「ははは、彼女に対する、せめてもの慈悲という訳か。優しい男だな、きみは」
「恐縮です」
 マーベリックと呼ばれた男の笑みに、海東は諂うように頭を下げた。
 箒はマーベリックよりも、海東が口にした言葉の方が気になって、再び怒号を上げた。

776 ◆MiRaiTlHUI:2012/12/15(土) 00:02:14 ID:mdpRqn8c0
「すぐに忘れてしまう、だと!? どういうことだ!? 何を言っている!?」

 海東がマーベリックとアイコンタクトを交わして、一歩前へ踏み出る。マーベリックは小さく首肯して一歩下がった。
「最後に説明してあげましょう。あなたがウヴァさんとの戦闘ののち、首輪を爆破され死亡した、という記憶は全ての参加者が共有している記憶ですが……それは虚偽の記憶です。我々には、記憶の改竄が可能なのです」
「なっ……それなら、私はっ!?」
「この会話もすぐに忘れてしまうことでしょう」
 絶句する。が、言葉を止めてしまうと、会話が終わったものと見なされる。
 海東は「最後に」と言った。おそらく、この会話が終われば、この事実さえも嘘になって――それどころか、箒の中の真実が、何処まで嘘になってしまうかもわからない。
 箒は我武者羅になって会話を繋いだ。
「だがッ! そんな能力があるなら、それを束姉さんに使えば……!」
「彼女の技術に関する記憶まで消してしまう訳にはいきませんので」
「だったらッ! だったら……ッ、私の前に殺されたあの少女は!?」
「椎名まゆりは正真正銘……ただの見せしめです」
「そんなっ――」
「もういいかね、これ以上知りたいこともないだろう?」

 マーベリックの言葉に、箒はそれ以上の言葉を失った。
 状況があまりにも急過ぎて、思考がついていけない。何も言えない箒とマーベリックに、海東は最後に会釈をすると、踵を返して何処かへと立ち去っていった。
 待て、と呼び止めることも出来なかった。鉄格子に飛びついた瞬間、目に飛び込んで来た光が、箒の意識を奪ったのだ。
 


 海東純一が、篠ノ之箒が監禁されている部屋の前を通り掛かったのは、たまたまだった。
 少しだけバトルロワイアルの会場に用があった純一は、誰もいないフィールドに行って、用を済ませて戻って来たところを箒に呼び止められたのだ。特に急ぐ用事もなかった純一は暇潰しといった感覚で箒に情報を教えてやったのだが、

(今頃はすべて忘れている頃だろうな……同情するよ)
 純一は、およそ人の感情など感じられぬ凍り付いた表情で、さっき話した小娘を思い出す。
 アルバート・マーベリックの能力とは、記憶の改竄である。
 どんなに拙い情報を知られた相手であろうが、始末をする必要もなければ戦わずして洗脳し、自らの手の内に落とすことすら出来るその能力は、あまりにも恐ろしい。
 純一は、そんな相手を表だって敵に回そうと考える程愚かではなかった。だから、フォーティーンに尽くしていた時と何ら変わらぬ態度で諂って、真木やマーベリックらに同調してみせているのだ。
 それも全ては野望のため。あの真木清人を越えて、全ての世界を支配するという大きな目的のための韜晦なのだ。
(そのためにも、コイツは返して貰ったぞ。貴重な戦力だからな)

 手の中にある金色のケルベロスが描かれたカードに視線を向ける。
 ワイルドエース、ケルベロスアンデッドが封印されたラウズカードだ。
 所詮人工物でしかないグレイブバックルは幾らでも複製が効くが、世界に一枚しか存在しないケルベロスのカードは失う訳にはいかない。
 純一は、アンクロストと仮面ライダーダブルらが戦った場所に自ら出向き、誰も回収することなく放置されていたケルベロスのカードを回収して来たのだ。
 とはいうものの、会場に居た時間は一分にも満たない。カオスが暴風雨を起こして大暴れしたあの場所では、すぐに他の参加者が駆け付けて来る可能性もあったから、要件だけを済ませた純一は他には目もくれずこの本拠地へと転移して来たのである。
 それ故、純一の姿を見たものはいない。確実に、だ。

(もっとも、最早グレイブなどなくとも問題はないが……)
 思いながら、ケルベロスのカードを、ポケットの中の十四枚のラウズカードの束に加える。
 純一の制服の内ポケットには、純一の持つハートスートのラウズカードに対応する、赤いハートの宝石が刻まれたカードリーダーが眠っている。
 それは、とある世界で「最強のライダーシステム」と謳われたもの。その名を、カリスラウザーと云う。
 真木らによる支給品選定の段階で、海東自身がそれに目を付け、誰かに支給される前にこっそりとリストから抜いておいたのだ。
 全参加者に配られる「九つの世界」に属するライダーシステムの総数は、ゲームにおける仮面ライダーのバランスも鑑みて、十が限界だと真木が言っていた。つまり、既に十個のライダーシステムが支給されている以上、最早誰もこのカリスラウザーには目を向けないということだ。

777 ◆MiRaiTlHUI:2012/12/15(土) 00:02:56 ID:mdpRqn8c0
 
 では、何故純一はカリスラウザーに目を付けたのか。
 海東純一が目を付けたのは、「剣の世界」で四条ハジメが企んだ、“人間による最強のアンデッドへの進化”というデータだった。四条ハジメは既にディケイドによって破壊されているが、しかし彼が残したデータは純一にとっても素晴らしく魅力的だったのだ。
 彼がカテゴリーエースの四枚と、四つのライダーシステムのデータを用いて精製したジョーカーのカードは、本来ならば驚異的なスペックを誇る怪人である筈だった。
 だけれども、四条ハジメ如きでは融合係数的にもジョーカーの能力を引き出せず、あっけなくディケイドに破壊されてしまったという訳だ。
 秘密裏に奴の研究を引き継いだ純一は、奴が精製した、四隅にカテゴリーエースの紋章が刻まれたジョーカーのカードと、ハートスートのラウズカード十三枚、そして自分のワイルドエース・ケルベロスのカードを使って、四条ハジメのジョーカーをも越える第二のジョーカーになるつもりなのだった。
 そして、海東純一という人間自身、驚異的なレベルでジョーカーのカードと惹き合っているのだった。
 それが一体何故なのか、純一自身にも分かりはしないが――こうもジョーカーと相性がいいとなれば、もしかすると、無数に存在する並行世界の何処かでは、自分がジョーカーになっていた世界があったのではないか、そんな妄想さえしてしまう程だった。

「……もうそろそろ放送か」
 ややあって、ふいに立ち止まった純一は、腕時計を見遣って、ぽつりと呟いた。
 この殺し合いには弟である海東大樹が参加させられている。真木らに対し、大樹の参戦など自分にとってはどうでもよいことであると言っておいたが――本音を言えば、純一は少しだけ大樹のことが気掛かりだった。
 現時点での情報を純一は得ていない。果たして、大樹が生きているのか、死んでいるのかも知れないのだ。
 次の放送で、もしも大樹の名が呼ばれることがあったら。
(……いや、よそう。そんなことを考えて何になるというんだ)
 野望の前には、たとえ唯一の肉親だとはいえ、捨て石にする覚悟も辞さないと決めた筈だ。全てを支配する、という純一の最終目的のために、大樹の存在が邪魔になるというのであれば排除することも辞さないと決めた筈だ。
 それがたとえたった一人の弟でも……と、考えたところで、純一は篠ノ之束のことを思い出した。
 彼女にも、最早肉親は妹の箒しかいない筈だが、しかし彼女は何を考えているのか、未だにドクターの協力要請に返答をしずにいる。もしや、彼女にも何か、あの真木ですら考えも及ばないような考えがあるのではないか。
 純一は、少しだけ束という人間のことが気になった。



 このバトルロワイアルの会場内で起こるあらゆる事象を観察する者がいた。
 常に送られてくる情報を仔細に取り入れながらも、真木は傍らで尻尾を揺らめかす小動物――インキュベーターに話しかける……ように見せかけて、真木の左肩に座った物言わぬ人形に語りかける。
 
「純一くんが、何やら不穏な動きをしているようですね」
「うん、気付かれていないとでも思っているのかな。それとも、気付かれても構わないと考えているのか……どっちだろうね、清人?」
「どちらでも構いません。我々の目的の妨げになるなら、排除するまでです」
「でも、まだその段階じゃないだろう? もう少し泳がせておいてもいいんじゃないかな」
 そう言うインキュベーターはおそらく、純一を泳がせてその真の目的を探ろう、というのだろう。
 確かに、目的という程のものもないのであれば、それはそれで構わないし、仮に何かを企んでいるとしても、真木らにも利用できる企みであるなら搾取すればいいだけだ。もしもそのどちらでもなく、ただただ邪魔にしかならないようであれば、その時は排除すればいい。
 現時点で、真木は海東純一を微塵も恐れてはいないのだった。あらゆる世界で得た力と盟友が味方してくれている真木を、海東純一如きがたった一人で覆せる訳がないのだ。
 その気になれば、容易く排除出来る。だから泳がせる。それだけの話だった。
 今は精々、あの男に監視用のインキュベーターを一つ付けておくくらいで十分だと思われた。

778 ◆MiRaiTlHUI:2012/12/15(土) 00:03:30 ID:mdpRqn8c0
 
「ところで、もうすぐ放送の時間だよ、清人」
「……ええ、わかっていますよ。事は全て順調です」
「そうかい。だったら安心だ。
 ……それにしてもまさか、彼らがここまで順調に殺し合ってくれるなんてね」
「想定通りですよ。己のためなら他者を蹴落とすことなど厭わない……人の欲望とはかくも醜いものなのです」
 嘆かわしい限りです、と付け加えて、真木はやれやれとばかりに嘆息する。
 欲望塗れの人の世はこの上もなく醜悪だ。だから、こんな世界は終わらせてしまう必要がある。美しいものがまだ美しいと思えているうちに、何もかもを終わらせて、そしてこの世界を“完成”させる必要がある。真木は改めてそう思った。
 それはインキュベーターの目的にも一致する。一つの世界の終末と同時に発生するエネルギーは、魔法少女一人二人の魔女化に際して発生するエネルギーの比ではない。それらを回収して、宇宙の熱的死を防ごうというのが、彼らインキュベーターの目的だ。
 世界が終わったあとも宇宙は続いて行くというのは、真の終焉とは呼べないのでは、とも考えはしたが、それでも真木の計画では人類に観測出来る限りの世界は終焉を迎えることになる。あとに残るのは、完成した美しい世界を観測する宇宙、だけだ。
 だから真木は、インキュベーターとも結託したのだった。

 その計画の一環である、無数の世界を巻き込んだ催しは、既に開始してから六時間が経過しようとしている。
 この六時間をただ観測だけに費やして来た真木らであるが、いよいよ次の仕事を果たすべき時がやってきた。
「……では、私は放送の準備がありますので」
 定時放送である。
 白い獣の形をした端末にそう告げおもむろに立ち上がった真木は、そのまま部屋を立ち去っていった。



【全体備考】
※主催側に【海東純一@仮面ライダーディケイド】が存在します。
※主催側に【アルバート・マーベリック@TIGER&BUNNY】が存在します。
※主催側に【篠ノ之箒@インフィニット・ストラトス】が監禁されています。
 おそらく【篠ノ之束@インフィニット・ストラトス】も監禁されています。
※箒を含む全参加者が、「箒は首輪を爆破され死亡した」という虚偽の記憶を、マーベリックのNEXT能力によって植えつけられています。
※箒自身も現在マーベリックの能力によって再び意識を失っています。目覚めた時には何らかの記憶の改変がなされているはずです。
※海東純一はカリスラウザーとハートスートのラウズカード、ジョーカー(DCD版)のカード、ケルベロスのカードを所持しています。会場には既にケルベロスのカードは存在しません。

779 ◆MiRaiTlHUI:2012/12/15(土) 00:04:28 ID:mdpRqn8c0
投下終了です。
タイトルは「姉妹と兄弟とワイルドカード」でよろしくお願いします。

780名無しさん:2012/12/15(土) 01:38:47 ID:sOmMsg3oO
投下乙です…ってニーサンこっち側かいw

融合係数高過ぎてRナスカよろしく変色ですね分かりませんw

781名無しさん:2012/12/15(土) 11:41:20 ID:5AIXFFxU0
投下乙です
ニーサンがまさかの登場とは

782名無しさん:2012/12/15(土) 12:56:07 ID:XlUKfXC.O
投下乙です。

ジョーカーニーサン「白くなった……!」(クウガ風に)
こうですねわかります

783名無しさん:2012/12/15(土) 17:25:15 ID:09prkKLc0
投下乙です

ニーサンェ…w
そして束の為の人質か
嫌な予感しかしねえw

784名無しさん:2012/12/15(土) 19:29:51 ID:XzYTDGm20
モッピー知ってるよ
これからモッピーは大活躍するんだってこと

785名無しさん:2012/12/16(日) 01:23:37 ID:JF3qZOLYO
投下乙です。

まさか笹塚に続き箒も生き返る(実は生きていた)とは完全に予想外だね。予想外と言えば黒幕の陣営にマーベリックやニーサンに束さんがいるとは。こりゃだいぶ前に出た各作品の黒幕総出演が実現するかも。

786名無しさん:2012/12/16(日) 08:41:25 ID:8ZnGwfggO
>>785
そうは言うが、半ばオールスター状態になった主催は収拾付かなくなるか内部分裂して対主催ポカーンなパターンしか…

787名無しさん:2012/12/16(日) 15:58:17 ID:irL3A/Dw0
束さんはもしかしたら関係してるだろうなあとは考えていたがマーベリックやニーサンまでいるとは…
束も身内以外は無関心だが主催陣の技術や能力に興味沸いてとりあえず協力すると思ってたら人質取られて脅迫されるとは思わなかった
今だから言うが自分と同じ同次元の身内が死ななければ多次元なら身内でも他人扱いする可能性があったから普通に主催に加わってると思ってたぞ

そして再予約来てるなあ

788 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:38:00 ID:8dYF7mXM0
投下乙です!
うん、マーベリックさんはそりゃいるだろ能力的に……とは思っていたけど、ニーサンwww くっそ、一言目で正体発覚&腹筋崩壊wwwwww
感想レスの「白くなった……!」(クウガ風に)が秀逸すぎるヤバイ。
そして箒の生存……死者スレが寂しくなりますなぁ。

さて……かなりお待たせ&長くなってしまいましたが、これから予約分の投下をさせて貰いますね。

789Kの戦い/閉ざされる理想郷 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:39:45 ID:8dYF7mXM0

「見えて来たぞ」
 警視庁を目指し、G5エリアを疾駆するライドベンダーの上で。大道克己がそう告げたのを、彼の背にしがみついた美樹さやかの耳が拾った。
 さやかはヘルメットを被ったままの頭で小さく頷き、いつもと違う慣性に覚えた微弱な目眩を振り払うかのように、集中を強める。
 道中に他の参加者との出会いはなかったが、この先もそうとはいかない可能性が高い。広大過ぎる街よりは他者との接触が図り易いだろう適度な大きさの施設、しかも戦闘で役立つような何らかの武器が置かれている可能性も高い警視庁だ。どんな輩が忍び寄っているかわかりはしない。
 何なら他の参加者に精神的打撃を与えるために、決して清廉なイメージばかりではないとはいえ、それでも正義の象徴とも言うべきこの施設を破壊しようと忍び寄る者が居てもおかしくはない。例えばあの、アポロガイストのような悪党なら。

 ぎゅっ、と。さやかは無意識のうちに、克己の腰を抱く力を強めていた。
 蘇るのは明確な悪の姿。知性がない獣のように人を襲うのではなく、確かな意志の下に悪をなす、許すべからぬ怪人から向けられた殺意の冷たさ。
 主催者である真木と同様に、自分のエゴで他人に犠牲を強いる――そんな倒すべき悪の持つ、さやかにさえ少なからず震えを齎した恐ろしさを想起し、思わず怯えてしまったのだ。
(……だけど)
 今までよりは怖くない。そうさやかは、自分に渡して来たのと同じ服に包まれた、克己の逞しい背中に視線を這わせる。
 アポロガイストも、このバトルロワイアルも、今は前より怖くない――何故なら今のさやかには、仲間がいるのだから。
 優れた戦闘技術と、多くの戦闘を渡り歩いて来た経験と。魔法少女を凌ぐ、『仮面ライダー』という超常の力を持った、この上なく頼れる仲間が。
 もう、この戦いを一人で背負い込まなくとも良いのだと……そう思えるだけで、すっと心が軽くなったのを、さやかは確かに自覚していたし、克己に感謝してまでいた。
 最も、そう思っていることを彼に伝えることはないんだろうな、ともさやかは思っていた。
 訓練のための方便とは言え、さやかの大切な友達を馬鹿にした克己に自分が彼を頼っているなどという弱みを見せたくないという意地があったし、単純にまだ少し気恥ずかしかったためでもある。
 ちょっとワガママだな、と自分のことを評しながら、さやかは改めて緊張を高めようとした。
「あいつは……!」
 まさにその時、克己が敵意を滲ませた声を零したのを、さやかは聞いた。
 警察署まで残り300メートルを切った頃か。克己の声に促されて前方の様子を確認したついでにそんなことを思っていると、さやかの視界に映る異形があった。
 褪せた金色の鎧に、赤い緞帳のようなマント。左側が欠損したかのように短い、非対称なU字型の角。
 腰に鈍色の円盤のようなバックルを付けたそいつは、魔女ともアポロガイストとも違う怪人だった。
 その姿を見たさやかが、回想の中アポロガイストから感じたのと同様に、ぶるりっと悪寒を走らせたのと同時。黄金の怪人は、手にした杖をさやか達の方へと向けて来ていた。
「うぇっ!?」
 それとほとんど同じタイミングで、克己はライドベンダーに急ブレーキを掛けていた。適応し切れなかったさやかが情けない吃驚を漏らすほどに俊敏な反応だったが、制動には速度相応の距離を必要とする。数十メートルまで距離を詰めてしまってか、克己が鋭く「間に合わん!」と毒吐いた。
 その呟きの次の瞬間、克己は殴りつけるようにしてハンドルから手を放すと、背後のさやかへ勢い良く振り返っていた。
「ちょ……っ!」
 克己はやはり叩きつけるような勢いのまま伸ばした右腕で彼女を後部座席から掻っ攫うと、慣性まで利用してライドベンダーから二人分の身を投げ出そうとする。
「何すん……っ、えっ?」
 思わぬ事態に、条件反射的に抵抗しそうになったさやかの目に、克己の背に映る物があった。
 それはライドベンダーごと自分達を飲み込もうとする――怪人の放った焔が、膨張する赤の嵐となって肉迫して来た様子だった。

790Kの戦い/閉ざされる理想郷 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:41:00 ID:8dYF7mXM0

      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○


 加頭順が笹塚衛士と出会い、情報交換を続けていた頃。
 二人のいる部屋の窓ガラスを、こつこつと何者かが叩く音が聞こえた。
「……ああ」
 その正体に心当たりのある加頭は立ち上がり、鍵を開けて来訪者を招き入れる。
「付近の参加者を見つけたのですね?」
 機械のように抑揚のない加頭の問いに、機械であるタカカンドロイドが、よほど生物らしい感情を髣髴とさせる仕草で頷いてみせた。
 話し合いを初めてすぐ、笹塚のセルメダルを10枚頂戴し、その数だけのタカカンドロイドを購入。周辺の探索に当たらせていたが、早速成果が得られたことに加頭は内心ほくそ笑んだ。
「どちらの方角ですか?」
 加頭の問いを受けたタカカンドロイドが誘導するかのように飛んで行くが、閉じられた扉の前でホバリングを余儀なくされたのを見て、加頭は無感動に告げる。
「笹塚さん。開けてあげてください」
「……はいよ」
 静かに答えた笹塚がドアノブを回すと、その隙間から機械鳥は脱出して行く。加頭は悠然とその後を追い、やがて見つけた別の窓の前で、嘴を用い南西を示しているのを見つけた加頭は、支給品にあった双眼鏡を取り出した。
 視線を彷徨わせること数秒。こちらを目指して土煙を起こし続ける、一台のライドベンダーの姿が確認できた。
 その搭乗者が何者なのか、その外見の詳細が見える距離に来た時、加頭の背筋を氷塊が滑り落ち、同時に双眼鏡もその手から零れた。がちゃんっ、と固い物同士がぶつかる耳障りな音が生じるが、それを気にする余裕は加頭にはなかった。

 ところどころに赤いラインの入った黒いレザージャケット。心臓の上に髑髏の紋章を刻んだその野戦服を纏う参加者は、間違いなくあの男しかいない――
 大道克己。かつて加頭の命を奪った張本人が、今こちらに向かって来ていた。
(どうしましょう……私、迂闊でした)
 ポーカーフェイスは微塵も崩さぬまま、しかし内心余裕の消え失せた加頭は、焦燥と自身の判断の愚かさへの怒りに支配されつつあった。
 そういえば、先に情報交換を行ったアポロガイストが言っていたではないか。風都において遭遇した、奇妙な格好をした青陣営の少女と、仮面ライダーに変身する無所属の男の、二人のゾンビ達から逃げ延びて来たのだと。ゾンビの片方が、NEVERを名乗ったことも彼より聞き及んでいた。NEVERにして仮面ライダー――それはすなわち、大道克己でしかあり得ない。
 風都に大道克己が居たことがわかったのなら、彼が移動する場合高確率で警視庁を経由するということは十分に予測できたはずだというのに――一度足を運んだはずの冴子の故郷につい引き寄せられた結果、最悪の相手との邂逅を余儀なくされた。何という愚行だろうか。
 確かにユートピアは強大な力を秘めたゴールドメモリであり、98%という高い適合率もあって加頭に絶大な戦力を与えてくれているが、決して無敵ではない。その上相手はメモリの王者エターナル。かつて完敗し、加頭がネクロオーバーと化した原因になった相手である。
 仮に前回の経験や支給品を活かして実力差を埋めたとしても、そもそもエターナルは旧世代のガイアメモリを強制的に機能停止に追い込む能力を持つ以上、根本的に天敵と呼ぶべき相手なのだ。交戦すれば必ず尾を引く打撃を与えてくるだろう参加者であり、故にいくら冴子の敵は全て排除するつもりといえ、この男とだけは遭遇したくなかったのだが……
 大道克己の背後の後部座席には、これまたNEVERのジャケットに身を包んだ背の低い人影が見て取れた。
 あの少女もアポロガイストが言っていたように死人なのだとすれば、大道克己との戦闘で既に証明された通り希望を吸収することもできず、また自分達同様に不死性を保つためのメダル消費も予想されることから、戦利品として得られるセルメダルの量も多くはないだろう。仮に厳しい戦闘に勝利しても、そのメリットが余りに少ない相手だ。
(……三十六計逃げるに如かず、ですね)
 その諺を実践し、ここは退くべきだと考えた加頭は、背後から響いた固い足音にゾッとした。
「……加頭さん、誰か見つけたのか?」
 笹塚の質問に、まず何より彼の存在を忘れかけていた自分に加頭は驚いた。大道克己の姿を確認してから、笹塚に声を掛けられるまでの数秒を酷く長く感じていたことにも気づく。自分はどうやら、大道克己が迫って来ているという事実によほどストレスを受けているらしい。
「笹塚さん」
 すぐにここから離れましょう、と口にしかけたところで、加頭ははたと考え直す。

791Kの戦い/閉ざされる理想郷 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:42:24 ID:8dYF7mXM0

 仮にここで笹塚に、このまま逃げることを伝えてはどうなるか。恐らく彼は、加頭がこちらに接近しつつある参加者を恐れていることに気づくことだろう。
 そうなれば、笹塚に加頭への反逆を許す可能性がある。今の彼との関係など、一見協力的なだけで実質は恐怖政治と変わらない。そんな気を許せない加頭よりは、違う陣営で二人が手を組んで動いている者達の方が、笹塚がどんなスタンスにしてもよほど信用できることだろう。
 超常の力を持った者ではなくとも、ただの一般人とは纏っている空気が明らかに違う笹塚が本気になれば、大道の到着までに抵抗力を奪い切れる保証はない。メダルと希望を奪うのも、果たして間に合うか。
 つまり彼を今後も有効活用しようと思えば、エターナルが相手だろうと立ち向かうしかない。
 そうでなければ、情報交換も途中であるこの男をここで殺し、メダルと希望を奪うか。それも時間が掛かってしまっては無意味と化す。
 そうして迷っているうちに、加頭はそもそも自身の前提が間違っていたことに気づく。

 口で言っても伝わらない冴子への愛を行動で示すために、加頭は彼女を優勝させると誓った。
 そんな自分が、敵が強大だからと言って、今は分が悪いなどと逃げ出すのは――彼女への愛よりも、大道克己への恐怖心の方が大きいということの、証明になってしまうのではないか。
(そんなこと――私、認めません)
 なるほど、仮面ライダー達は正義を愛する心で巨悪へ挑むのだったか。
 ならば自分も、冴子を愛する心で強敵に立ち向かってみるべきではなかろうか。

 そう考えてみれば、逡巡は一瞬。笹塚は急に言葉を区切った加頭の様子を訝しんでいたが、決心した加頭は彼にいつもの調子で語り掛けた。
「笹塚さん。あなたのセルメダルを、50枚ほど私に渡してください」
「何……?」
 虚を衝かれた様子の笹塚に、加頭はさらに畳み掛ける。
「ここに危険な参加者が向かっています。念のためにメダルに余裕を持たせておきたいので、あなたのメダルを私に分けてください。代わりに約束通り、あなたの分も私が力となって戦いましょう」
「いや、だが……」
「さもなくば。あなたの不誠実さのために、私達二人共死ぬことになります。ならば協力関係は決裂と見なし、私があなたの命ごと、メダルを奪わせて頂きますが」
 実際には、そこまでの余裕があるかは疑わしい。だが、愛の告白ですら、その相手から感情が籠っていないと言われる加頭の鉄面皮にそんな不安は反映されない。
 淡々と、ただ事実を読み上げているだけであるかのような加頭の言葉に、笹塚はさらに一瞬言葉を詰まらせた後、「わかったよ」とメダルの排出を始めた。
「どうせ俺には、メダル消費が必要なことなんてほとんどないしな」
 そうして笹塚から吐き出されたメダルを逐次補充しながら、「ありがとうございます」と、声と同様に感情の伴わない感謝の言葉を加頭は放つ。さらにポケットから、加頭の支給品の一つであったコアメダルを取り出して首輪に投入し、保険の一つとする。
 実際の所、加頭が全力で戦闘する場合、消費するメダルは並大抵の参加者より多いだろう。ユートピア・ドーパントへの変身に、その維持費。ユートピアの能力だけでなく、加頭自身の超能力兵士クオークスとしての能力の使用コスト。そしてネクロオーバーとしての再生能力や、そもそも非戦闘時でも、細胞維持酵素代わりの肉体の保全のためにセルメダルが必須と、この上強力さと引換にメダル消費を必要とする支給品まで使用するとした場合、これからの戦闘で消耗する可能性を考えればまだ足りないかもしれないほどだ。それでもまだ数十枚のメダルを残すことを許可した笹塚について来るように指示しながら、加頭は大道克己達を迎え撃つべく出向いて行く。その道中でT2ナスカを取り出し、スイッチを押そうとしたが……
(やっぱり私達、何だか体質的に合わない感じです)
 そしてナスカの方も、ユートピアと適合している加頭に対し、いくらトレードを交わしたとはいえギリギリまでは使われたくないらしく、反応がない。まったく最近のメモリは扱い難い。
 仕方なくナスカを仕舞いユートピアを取り出した加頭は、そのガイアウィスパーを響かせた。
《――UTOPIA!!――》
 手放したメモリは重力に掴まれたまま落ちて行くが、その途中でまるで生きているかのように蜻蛉返りし、加頭の腰に巻かれたガイアドライバーへ突き刺さる。理想郷の記憶が加頭の中に注ぎ込まれ、青黒い炎で包んだその身を人外の怪人へと変貌させて行く。
 背後で笹塚が驚いているのが気配でわかったが、わざわざ振り返る必要も感じなかった加頭――ユートピア・ドーパントは、彼に出口の近くで待機するよう言い含め、警視庁の外に出た。
 その時にはもう、大道達は数百メートルの距離まで肉薄していた。

792Kの戦い/閉ざされる理想郷 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:43:19 ID:8dYF7mXM0

 突如として現れた怪人の姿に、彼らは少なからず驚いた様子だったが、ユートピアも内心、ここまで接近されていた事実に驚いていた。決断がもう少し遅れていればと思うと、本当にゾッとする。
 同時に、既に何事もなく逃げられる状態ではないことを悟り、腹を括った。
(リベンジ、させて頂きますよ)
 まずは挨拶代わりだと、バイクで移動しながら変身されることのないように、そんな余裕を与えないための先制攻撃を加える。ユートピアはまるで御伽噺の火竜の息吹のような焔をパイロキネシスで放ち、スピードを落とそうとしているライドベンダーをその紅蓮で包み込む。
 バイクの車体を取り込んでなお余りある火の壁は、そのまま背後まで抜けて行き小規模の焼野原を生み出した。その始端にて、不燃部分の方が多いにも拘わらず、高熱の余りに燃え盛るライドベンダーの影から躍り出た影の方へと、ユートピアは視線を集中させる。
 直撃の寸前に躱したか、大道克己とその腕に抱かれた少女に炎の舌に蹂躙された痕はなかった。ただ酷い勢いで地面を滑ったのか、大道の右足は皮ズボンが破け、微かに血が滲んでいた。
「数時間ぶりだなぁ、財団X……!」
 しかしネクロオーバーである彼は、その痛みを感じてはいないのだろう。怪我を負っているという事実をまったく感じさせない滑らかな動作で、ヘルメットを脱ぎ捨てながら立ち上がった大道が、そんな奇妙なことを宣った。
「私、あなたに会うのは随分久しぶりだと思っていましたが」
 オープニング会場の時点で実は見つかっていたのだろうか、などと思いながら、ユートピアはそう会話に応じる。
「くくくっ……俺と会えずに寂しかったってことか?」
 そんな会話の最中にも大道は、かつて加頭が身に着けていたロストドライバーを腰に巻いて行く。だが、今はまだ仕掛けるタイミングではない。
「……あいつ、何者なの?」
 遅れて立ち上がった少女の緊張を孕んだ問いに、顔半分にも満たないだけ振り返った大道が、視線だけはユートピアに張り付けたまま答える。
「財団X……死の商人だ。奴はその中の現場幹部、みたいもんだな」
「死の商人……そう、こいつがあんたの言っていた……!」
 その名にピンと来たらしい少女の横で、大道がエターナルメモリを取り出した瞬間。ガイアウィスパーが響く前に、ユートピアは大道の指先に集中した。
「――何っ!?」
 生前の数倍にまで身体強化されたネクロオーバーには、ドーパント化することにより相乗的に高まった加頭レベルのクオークス能力でも決定打足り得ないことは、前の戦いで学んでいる。
 だが逆に、いくら最強のNEVERである大道克己でも、生身ではユートピア・ドーパントには到底及ばないということもまた、前回の戦いで証明されている。
 ならば、この突発的な苦境を覆し、最も確実かつ効率的に勝利するための答えは簡単。
 
 そもそも変身させなければ良いのだ。

 とはいえ繰り返すように、大道自身は変身前から打たれ強く、前回も彼を攻め続けながらも変身を許してしまった。そのまま仮面ライダーの体の一部となるロストドライバーは、恐らくはそんなネクロオーバー達よりもさらに頑強だ。
 となれば狙うは、エターナルのメモリ本体。少なくとも克己の手元から引き離してしまえば、奴が変身することは叶わない。大道も抵抗したが、指先だけの力で加頭の念動力に抗い切れるはずがなく、大道自身にも爆発を浴びせるようにして力場を拡散させてやれば、成す術もなくメモリが弾き出された。
「くぁっ!?」
 メモリを奪われ腕を半周させ、念力で殴られた勢い余って体勢を崩した大道の遥か後方へと、ユートピアは憎きメモリを吹き飛ばす。
 否、ただ距離を取らせるだけでは足りない。一度は命を奪ってくれた相手だ、永遠の別離をくれてやらねば気が済まぬと、ユートピアはさらにその念の出力を上げた。

793Kの戦い/閉ざされる理想郷 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:44:35 ID:8dYF7mXM0

「傲慢な王は民や臣下の反逆によって打ち取られるのが常というもの。このままブレイクして差し上げましょう、エターナル」
 先程死んでいた王に掛けたのと同じ言葉を呟きながら、ユートピアは念の圧力を強め続ける。
 強大なドーパントの力を齎すとはいえ、ガイアメモリ自体は一般人にも破壊可能なほど貧弱だ。ネクロオーバーすら苦しめる、上位クオークスの力に抗い切れるはずがない。
 そしてユートピアは、違和感に気づいた。
(おかしいですね。もうブレイクされても良いはずなのですが……?)
 しかしいくら力を強め、圧縮された空気によりその力場が可視化するほどの負荷を与えても、エターナルのメモリはビクともしない。
 ならばさらに遠くへ飛ばし、その間に大道達を始末しようと考え直すと、少女に支えられていた大道が鼻を鳴らし、立ち上がるのが見えた。
「無駄だ、財団X。俺とエターナルは運命で結ばれている」
 そんな大道の、勝ち誇るような声に苛立ちを覚えたと同時に。
 ユートピアは、己が展開した念動力場の膜が、微かに集中の乱れたその瞬間、突き破られるのを感じた。
(――な……に……っ!?)
 構成していた力場が破られ、砕け散った反動にユートピアの上体が揺れる。
 散々浴びせたサイコキネシスを跳ね返されたような衝撃に見舞われるユートピアの眼前で、それを成した張本人が空気を裂いて飛来して来る。
 そして振り向きもせず、しかしそうなることがわかっていたかのように大道が構えた右掌に、その勢いからは信じられないほどあっさりと、しかし確かにエターナルのメモリが収まった。
「貴様如きに俺達の仲を引き裂くことはできん。永遠にな」
《――ETERNAL!!――》
 そのメモリが内包する記憶、それを表す言葉を大道とガイアウィスパーが唱和した。
《――ETERNAL!!――》
 エターナルメモリがドライバーへ叩き込まれ、放出された白い粒子に大道克己の身体が包み込まれる。変身に伴う発光が収まった時には、蒼い炎に彩られた純白のアーマーに全身を包み、漆黒のマントをはためかせた、西洋の騎士にも特殊部隊の兵士にも思える一人の戦士――仮面ライダーがそこに居た。
 両目が繋がり、∞の形となった黄色の瞳。横倒しになったEを象るように屹立した三本の角。
 それはまさに、加頭の脳裏に焼き付いたあのエターナル・ブルーフレアの姿だ。
 NEVERのジャケットを着た少女を庇うように、エターナルはその右腕を跳ね上げローブを翻させる。その動作につられて、マントが音を立てて揺らめいた。
「何故おまえが生きているのかは……まあ、腹は立つが予想もつく。だが悪党が死人になったって言うんなら、その行先は決まっているよなぁ?」
 ヒュンヒュンと旋回させ、左手に構えたエターナルエッジの刃先で陽光を照り返しながら、エターナルはその歪な単眼をユートピアへと向ける。
「おまえにとって、ここがそれだ――おまえの罪を、俺達がたっぷりと裁いてやる」
 そうして右の親指を下へ突き出して、エターナルはユートピアに告げた。
「さあ、地獄を楽しみな!」
 その決め台詞に合わせたかのように、まさにその瞬間、彼の背後でいよいよ燃料に引火したライドベンダーが、盛大な爆発を引き起こしていた。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○



(変身されてしまいました……私、ピンチです)
 仮面ライダーエターナルへと変身した大道克己からの処刑宣告を受けながら、ユートピア・ドーパントこと加頭順はそう心中で呟いていた。

794Kの戦い/閉ざされる理想郷 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:47:05 ID:8dYF7mXM0

 繰り返すが、ユートピアではエターナルに対抗することは本来容易なことではない。だからこそ変身を封じ、生身の大道を殺害するというある種卑劣とも言える手段に訴えたのだが――大道曰く、メモリとの絆の力でそれを覆されてしまった。
 しかし、いくら気紛れなエターナルメモリでも、自力でクオークスのサイコキネシスを突破し適合者の下へ戻るなどあり得ない。そんなことができるメモリは……
 嫌な可能性に思い至り、ユートピアは思わずたじろぎそうになった。
 そもそも大道克己が財団Xから奪ったエターナルのメモリは、試作品であるT1だ。それはビレッジの外れで破損した状態で発見されていたわけだが、未だT2の根幹を成すT2エターナルは完璧ではない以上、井坂深紅朗が蘇生され参加者に存在するように、主催者達がT1を復元して大道克己に与えたのだと、アポロガイストの話を聞いた時点では思っていたが……
 メモリブレイクできなかったことと言い、自ら適合者と惹き合う性質と言い……もしや真木が大道克己に与えたのは、修復されたT1ではなく、財団Xが未だ完成させていなかったT2のエターナルなのではないだろうか?
 端子の色をしっかり確認していなかった己を呪いながら、ユートピアは状況を整理する。
 先に述べた通り、T2エターナルはなおも未完成だ。しかもその限界を超えた姿であるブルーフレアの能力は、加頭からしても未知数ということになる。ブルーフレアとの交戦経験はあるが、それはT1だ。果たして前回の戦闘で得られた経験は役に立つのだろうか?
(それでも――他に道はありませんね)
 不利は元より覚悟の上。ほんの少しでも勝機が見えるならば、そこを突き続けるしかないと加頭――ユートピア・ドーパントは判断する。
「ええ、楽しませて貰いましょう。ただ、地獄は遠慮させて貰いますよ」
 私が求めるのは理想郷だけですからね、と続けながらユートピアは再び炎を操り、エターナル……ではなく、その背後の少女に叩きつけた。
 猛火が少女に襲い掛かり、その柔肌を爛れさせ、艶やかな髪の毛を燃え散らせ、綺麗な瞳を白濁させてしまう前に、エターナルはそのマントを盾に炎と少女の間に割り込んだ。結果炎でできた竜の顎は少女に届かず、エターナルローブに触れた途端に霧散させられることとなる。
 だがそのままエターナルが直進して来る前に、ユートピアは理想郷の杖を大地に叩きつけた。軽く振り下ろしただけのはずのそれは、まるで不可視の巨人が殴りつけたかのように地面を大きく陥没させ、そこに蜘蛛の巣のような亀裂を走らせる。
 エターナルローブでも、一度生じた地割れまでは防げない。それを察知したエターナルが踵を返して少女を抱きかかえ、超人的な跳躍を披露することでその被害から逃れる。
 そのまま滞空するエターナルへ、さらにユートピアは稲妻を伴った竜巻を送り込んだ。地面を引き剥がしながら牙を剥く猛威も、先のパイロキネシスの火炎と同様にローブに触れた途端に勢いを喪失する。
 続け様に大地に激突させてやろうと放った、大地を穿孔する不可視にして防御不可のはずの重力増加すら、エターナル達には何ら影響を齎していない。
「――それなら、これはどうでしょうか?」
 自身の能力への対応にエターナルが追われている隙に、ユートピアは自分の最後の支給品を取り出していた。
 それは金の装飾を施された漆黒の鍔と、青みを帯びた白金の光で輝く刀身をした、神々しいほどに美しい長剣。
 シナプスなる組織の開発した第二世代型エンジェロイド、という加頭も初めて目にする製品名を冠した、人型機動兵器が誇る最強の矛。

 超振動光子剣“chrysaor(クリュサオル)”。

 同じくエンジェロイドの一部に採用された絶対防御のシステムすら容易く引き裂くという、本来はこの兵装を運用するための専用機・アストレア=メランでなければ引き出せないはずであるその真価を、ユートピア・ドーパントはセルメダルを差し出すことで発揮する。
 稲光を纏い、十分な距離を保ちながら敵手を間合いに捉えるほどに長大化したクリュサオルを構えたユートピアは、未だ宙にあるエターナルと少女を両断せんと凄絶な刺突を繰り出した。

795Kの戦い/閉ざされる理想郷 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:48:54 ID:8dYF7mXM0

 太刀筋上にあった大気中の分子を尽く電離させるほどのエネルギーを秘めた、必殺の一撃。それが確かにエターナルに届くという瞬間、翳されたローブに接触したのと同時。万物を切り裂く光剣がその上を行く鋭利な刃物で立たれたかのような、不自然な消失を遂げた。
「……何と」
「無駄だな」
 驚愕するユートピアをせせら笑うかのように、少女を抱えたままふわりとエターナルが大地に降り立った。今もその身にユートピアの操る数多の異能力を浴びながら、まるで堪える様子もないままに。
 最強の盾と矛の激突は、財団Xの総力を結集したエターナルローブに軍配が上がっていた。己の組織が掴み取った勝利を、しかし喜ぶ余裕はユートピアになかった。
 メダル消費も激しいクリュサオルの大出力状態を解除しながら、ユートピアは広範囲に及ぶ重力操作と、さらに火炎放射を浴びせ続けながら後退を始める。しかしやはりというべきか、その程度の攻撃は、クリュサオルすら防ぎ切ってみせたエターナルローブの鉄壁を打ち崩すには到底至らない。
 だが、仮にNEVERと同様の存在だとしても、一瞬で消滅させるに足るだけの攻撃が絶えずゾンビの少女を狙って注がれているのだ。この集中攻撃が止まない限り、エターナルが彼女の元を離れることはできないだろう。足止めとしての効果は十分だと判断し、ユートピアはこの隙にさらに距離を稼ぐ。
 前回の戦い、そしてそもそも加頭が知る限りの情報では、エターナルのマキシマムドライブの射程は決して長くない。事実、前回の戦いで加頭のユートピアに対してマキシマムドライブが使用された直後、そのすぐ近くにいたドクター・プロスペクトがアイズメモリを使用できたのが財団によって確認されているのだから、それは間違いない。
 ならばどんな能力だろうと、当たらなければどうということはないというわけだ。
 エターナルローブという防御手段も、この場ではメダル消費という制限から逃れ切れるはずはない。確かにユートピアも怒涛の勢いでメダルを消費しているが、こと殺人を推奨するこの場で、余程の例外でもなければ絶対防御に要するコストが攻撃以下ということはあるまい。
 その上で、コアメダルという保険だけでなく笹塚からメダルを頂いている以上、同じペースでメダルを消費しても、先に限界を迎えるのはエターナルの方だ。
 圧倒的なメダル総数に物を言わせた消耗戦は、単純ながらもこの上なく堅実だろう。たとえエターナルがユートピアを凌駕していようとも、ことこのバトルロワイアルの中では、多少の条件を付け加えてやればそれは容易に覆せるのだ。
 無論、この間にさらなる打開策を思い付ければなお良い。充満して来た空気の焦げる臭いを嗅ぎながらそんな風に考えるユートピアだが、その時酷く癇に障る哄笑が耳に届く。
 妙に淀んで聞こえた声は、高重力により圧縮された空気の中を伝わって来た、ローブに仮面を隠したエターナルの嘲りの声だった。
「随分と頑張ったようだが……あまり俺達を甘く見ない方が良い」
《――ETERNAL!! MAXIMUM DRIVE!!――》
 聞こえてはならないガイアウィスパーが聞こえ、ユートピアは一瞬動きを止めてしまう。
(――博打に出たのですか?)
 受け続けては負けだと、乾坤一擲の策に出たか。しかしこれだけの距離があればどう出ようとも、ユートピアの能力ならば十分に対処できる――そう思った直後、加頭は急激な虚脱感に襲われた。
「これは……っ!」
 加頭の身体の中を巡っていたはずの地球の記憶が、急速に収束し、排出されて行く。ガイアドライバー付近に集められたそれは、手を繋いだ二人の人物がU字を表すユートピアメモリとなって体外に吐き出された。
 重力に従い落下する運命のガイアメモリをサイコキネシスで浮遊させ、手元に取り戻した時には――当然ながら、既に加頭はドーパントではなくなっていた。
「前の戦いで勉強したんだろうが、その思い込みこそが命取りだったなぁ」
 先程よりもずっと明瞭となったエターナルの……大道克己の声が聞こえ、加頭は蘇る恐怖を抑えながら視線を上げる。
 それを見計らったかのように、ちょうどその瞬間、エターナルは自分達を包んでいたローブを開帳した。
「今のエターナルのマキシマムドライブは……そうだな。制限さえなければ、風都全域を覆うぐらいの規模で効果を発揮できる。おまえの策は、最初から無駄だったというわけだ」

796Kの戦い/閉ざされる理想郷 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:50:15 ID:8dYF7mXM0

 嘲りの言葉と共に翻る黒いマントの裏から明らかになるのは――もはや疑う余地もないT2エターナルの洗練された立ち姿と。対照的な白いマントを着用し、逆に青を基準とした衣服に白い彩りを加えた、剣士然とした姿へ変わった少女だった。
 露出する素肌の割合が多く、また決して動き易くないだろうその恰好は明らかにNEVERの制服よりも戦闘に不向き見えるが、少女から受ける威圧感が異常に増したことを感じ取り、無表情のまま加頭はユートピアメモリとクリュサオルを手から零れ落としてしまう。
(……私、大ピンチです)
 そんな加頭の醜態を嘲笑うように、エターナルの仮面の奥で大道がくつくつと喉を鳴らす。
「知っているだろ? エターナルのマキシマムドライブは、T2以外全てのガイアメモリの機能を永遠に強制停止させる――おまえの理想郷への道は、もう永遠に閉ざされたんだよ」
 その言葉に、改めて加頭は愕然とする。
 マキシマムドライブを以ってしてもメモリブレイク不可の、T2によるエターナルレクイエムを受けたとあっては、エターナルを破壊することで効果を解除するという手も使えない。
 まさにエターナルの言う通り、長年共に過ごして来た運命の共同者とも言うべきメモリ――ユートピアとの関係は、今まさに“永遠”に断ち切られたのだ。

 ……それでも、あるいはクリュサオルならT2もブレイクできるのではと――微かな希望に縋り、呆然と手を伸ばそうとする加頭の眼前に、驚くほどの速度で一本のサーベルが突き立つ。
「動くな」
 それはエターナルと共に、数十メートルは離れた場所にいる少女が投擲したものだった。妙な動きを見せようとした加頭への牽制として、猛烈な勢いで放たれたそれは――
 ユートピアメモリの、手を取り合うことでUを象った紋章を、まるでその手を放させるように断ち切り――メモリブレイクしていた。
「――――ッ!!」
 余りのことに、加頭は激情で声を詰まらせた。
 冴子と手を繋ぎ、二人で築く未来――そんな加頭の理想郷の象徴を、一片の希望の余地すら残さず文字通り粉砕されたことへの怒りに、鉄面皮のはずの加頭の表情まで歪んだのだろうか。下手人の少女が、思わずという様子でたじろいだ。
「う、動くなって言ったでしょ……」
「無理もないさ。大切な運命のメモリを砕かれちまったんじゃ……な」
 そんな少女に対し、初めて加頭を思い遣るような言葉をエターナルは口にする。
「もっとも、さやかが砕く前から俺の手でガラクタにしてやっていたんだから、処分する手間が省けたって感謝するべきだろう? それに、何も悲しむ必要はない」
 嘲弄し、改めて得物のコンバットナイフを構え直したエターナルは、足音を伴って無造作に前進を始めた。
「おまえも今すぐ、同じところに送ってやるよ――本物の地獄になぁ」
 そのゾッとするほど殺気の籠った声に、加頭は一瞬、身を焦がす怒りすら凍えさせる恐怖と共に、彼によって与えられた死の瞬間をフラッシュバックしていた。
 生身の大道克己がユートピアに敵わないのだ。ユートピアが敵わないエターナルに、生身の加頭がどうして抵抗できようか。クリュサオルがあろうと、圧倒的な身体スペックの差を前にしてどれほどの足しとなろうか。
 さやかと呼ばれた少女の方も、そんなエターナルや加頭の様子に本来の調子を取り戻したのか、虚空から取り出したサーベルを構えてにじり寄って来る。
 明らかにNEVERやクオークス以上の力を持った二人の戦士を前にして、ユートピアメモリを失った加頭は、完全に詰みの状態にも見えた。

797Kの戦い/閉ざされる理想郷 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:51:28 ID:8dYF7mXM0

 だが――サーベルに断たれたユートピアメモリに描かれた二人のように、冴子と永遠に引き裂かれてしまうなどということは、加頭には決して耐えられない悪夢であった。
 それを現実にすることなど、あってはならない。
「……冴子さんと会うためです」
 すっ、と。加頭はポケットへと手を入れた。それを見咎めたさやかが表情を険しくする。
「あいつ、まだ……!」
「取引通り、私に力を貸してください」
 取り出したメモリを見て、エターナルが歩みを止めた。
「ハッ、T2ガイアメモリか。確かにそいつはエターナルの効果を受けない。だが……」
 笑いを噛み殺すように、エターナルは小さく身体を震わせる。そんな彼の様子にさやかも足を止める。
「既におまえの運命のメモリは見つかっていて、しかもそのユートピアがなくなっても、T2が襲い掛かって来ることもない……おまえとそのメモリ、余程相性が良くないと見える」
 それじゃあそのメモリが可哀想だな、と続けたエターナルが歩みを再開する。
「そいつも、俺の物にしてやるよ」
「聞きましたか」
 対して加頭は、ナスカメモリへとそう呼びかけていた。
「このままではあなたは、冴子さんではなくこの男の物となってしまう……それが嫌なら、私に協力してください」
『――NASCA!!――』
 響いたガイアウィスパーに、エターナルとさやかが虚を衝かれたかのように再び足を止める。
 その隙に加頭は、自らの首筋へと青い端子を叩きつけた。
「ほう……」
 そうしてドーパントへと変貌する加頭の姿に、感心したようにエターナルは声を漏らした。
「主人の下に辿り着くために、決して相性が良くない相手にも力を貸す、か……良い忠誠心だ。ますます興味が出て来たな」
 それに応じるように、ナスカ・ドーパントへと変貌した加頭は、ナスカブレードよりも武器として優れていると判断して、クオークス能力で浮遊させたクリュサオルを改めて手に取る。
「このナスカは冴子さんへの贈り物……あなたなどには渡しませんよ」
「そうか。なら、精々抵抗してみるんだな――さやか!」
 唐突に声を掛けられ、さやかという少女はエターナルの方へと顔を向ける。
 当然その隙を見逃さず、ナスカは少女目掛け白刃を片手に突きを放ったが――それを横合いからのエターナルエッジが光子を爆ぜさせながら受け止めて、さやかに迫る凶刃を遥か手前で停止、切っ先を見当違いの方向へと逸らされた。
「コアメダルを使うぞ。それと、こいつもおまえにはまだ荷が重い……張り切るのは良いが、まずは様子見しておけ」
 同行者にそう告げたエターナルが腕を払ったのに青いナスカは抗い切れず、その勢いのまま成す術なく弾き飛ばされた。

 適合率が明らかに低い、加頭の変身したナスカのレベルは、メモリの情けを受けても1。
 それはエターナルを前にしては、T2と言っても余りに絶望的な戦力差であった。

798Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:52:37 ID:8dYF7mXM0

 目の前で繰り広げられる冗談のような光景を、笹塚は息を殺してずっと伺っていた。
 加頭が変身した怪人は、種も仕掛けもなくナパームのような炎を操り、不可視の力で人体や物体を抑え付け吹き飛ばし、文字通りに地を砕き、竜巻や雷と言った天災すら操ってみせた。
 あの魔人や……シックスはともかく。これまでに見てきた新しき血族のような、生温い人外ではない。彼はまさに人智を超えた化け物だという認識を、改めて強く刻まれることになった。
 その時点の笹塚は、そんな強大な力を披露する加頭に対し反旗を翻すという選択をする意志を、半ばまで放棄させられていたが……そのすぐ後、事態はさらに予想を超える展開となった。
 加頭と既知の間柄であったらしい男の方の参加者が変身した、エターナルという白の戦士。それが何かをした結果、加頭の変身した怪人は黄金の姿を一方的に解除させられたのだ。
 その後、別の青い怪人へと加頭は変貌したが――先程までの猛威が嘘のように、エターナルに蹂躙される弱々しい姿を晒している。
 金の姿の時に比べれば明らかに遜色しているが、パイロキネシスとサイコキネシスは引き続き使用されている。さらにその上、扱い辛いだろう長剣を眩かせながら、笹塚の知る警察組織のどんな達人よりも素早い太刀捌きを披露し続けている。加頭の見せるそれらの能力はいずれも人間の延長などという領分を軽く越えた力だが、エターナルには遠く及ばない。
 コンバットナイフに対する長剣という圧倒的なリーチの差を、エターナルは恐れを知らないかのような踏み込みで逆手に取る。防御の追いつかない距離で叩き込まれた刃に体表を裂かれながらも、その勢い利用して間合いを稼いだ加頭の放つ炎は、やはり読んでいたエターナルが翳したマントに触れた途端、撥水される飛沫の如く散って行く。
 後退しながら両足を撓めた加頭は跳躍し、地と水平にしたその身を高速で回転させながらの蹴りを放つ。笹塚の動体視力では追い切れず出所を掴めないそれを、エターナルは幻惑されるどころか片手で軽々と払い、同時に首筋に迫っていた剣閃すら身を引くだけで躱してみせる。
 そして加頭の着地の寸前。落下速度も最大と達した瞬間に合わせたカウンターキックが加頭のどてっ腹へと襲い掛かり、激しく蹴り上げることで再び大地から追放する。
「――はぁああああああああっ!!」
 エターナルに蹴り上げられ、宙で悶えていた加頭がようやく無事着地しようという頃。さやかと呼ばれた少女が不似合なサーベルを両手で抱え、鋭い刺突を彼に加えようとしていた。
 恐らくは弥子よりも年下だろう少女の、外見にそぐわぬ異常なスピードの踏み込み。
 しかし加頭は、地に降り立つと同時にそれを易々と見切っていた。
 一閃した光剣が、加頭に迫っていた少女の刃を断ち切る。そのことに何の感嘆も見せぬまま、加頭が淡々と翻した光剣は、少女の左肩口から皮膚を破って体内へと刃先を侵入させていた。
「――っ!」
 その光景に思わず笹塚が声を上げそうになってしまったが、そんなことは関係ないとばかりに、少女の細い鎖骨を断ち切り、胸郭を切り裂いて、長剣の刃先が彼女の身体から飛び出した。その刀身が持った熱量に炭化させられた傷口からは、一滴たりとも血が溢れることはなかった。だが、血の流れない傷口から切り裂かれた少女の臓器が覗くという、非現実的でありながらも目を覆いたくなるような惨たらしい光景が、現の物として笹塚の眼前に存在していた。
 だが笹塚の常識を裏切り、胸を切り開かれたはずの少女は蒸気を上げるその切り口を高速で閉じながら、新たに虚空から取り出したサーベルで加頭に横薙ぎの一撃を見舞っていた。
 途中、少女の顔に戸惑いが浮かんだのと同時に、彼女の斬撃が速度を落とす。視認できないが、加頭が明らかに何かを成した。そうして隙を生じさせた加頭は、距離を取りながら刀身を長大化させた光剣を振るい攻撃を仕掛けたが、いつの間にか駆けつけていたエターナルが彼らの間にそびえ立つ障壁となって、そのマントでさやかを斬撃から守り切っていた。
「さやか。張り切り過ぎるなと言っただろう」
「まずは、でしょ。……ずっとあんたばっかに戦わせて、後ろで見てるだけなんて嫌だったの」
 超常の力を揮う加頭を前にしては余りに呑気に、白と青の戦士達は言葉を交わす。
 先程明らかに加頭の攻撃によって、少なくとも肺の片方は欠損しただろうさやかが、傷一つない姿で明瞭な言葉を操っている――そんな光景に、笹塚は半ば眩暈を覚える心地だった。
 あんな、一見普通の少女までもが、骨まで身体を灼き裂かれておいて平然としている。この殺し合いは化け物の巣窟かと疑ったが、どうやらまったくもってその通りであるらしい。加頭ですらも、下手をすると驚くに値しない存在なのかもしれない。

799Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:53:47 ID:8dYF7mXM0

 そんな場所で生き延びて行かなければならないという重い現実に、笹塚が沈黙していた頃。身を潜める彼に気づく様子もないまま、エターナルが仮面の奥で口を開いた。
「そうか。ならもう少しだけ我慢していろ」
 さやかにそう伝えると再びマントを翻し、エターナルは加頭へと距離を詰めていく。
 剣を振る間合いを確保しようと逃れる加頭と、彼を追うエターナルの間で幾度となく両者の得物がぶつかり合い、稲妻のように激しい火花を散らして行く。隙を作ろうとした加頭がまた何かの超能力を発動したのをエターナルはマントで防ぎ、さらにはそのまま防御行為を目隠しとして転用する。敵の意図とは逆に彼に隙を作らせ、それを衝いての足払い、さらには姿勢を崩した加頭の前で回転しての後ろ回し蹴りへと繋げて行く。
 両の踵で地を削りながら後退する加頭を尻目に、エターナルはデイパックから新たに翡翠色をしたメモリを取り出し、それのスイッチを人差し指で押し込んでいた。
《――UNICORN!!――》
 そんな電子音声を響かせたメモリを、エターナルは右腰に備えられたスロットへと挿し込む。
《――UNICORN!! MAXIMUM DRIVE!!――》
 メモリが帯電するように発光した直後、エターナルの右拳を中心に発生した力場に裂かれた空気が渦を巻き、白色の太い角のような螺旋を成した。
 そのエネルギーを吸い込んだエターナルの蒼い拳が、腰の後ろへ、番えた矢を引き絞るように構えられる。
「こいつでくたばってはくれるなよ?」
 息を呑みさらに後退しようとする加頭に対し、逃れる暇を与えなかったエターナルは、敵の一閃を躱し様、強烈なコークスクリューパンチとしてその拳を振り切った。
 その一撃によって、くの字にへし折れた加頭の身体が勢い良く射出され、笹塚が隠れている物陰のすぐ近くの壁に突き刺さる。足裏から伝播した重い震動と、隆起した壁越しに伝わって来る亀裂の走る音に冷や汗を掻いた笹塚は、当事者達に気づかれる前にそっと奥へと逃れる。
「……さやか。今から一対一でこいつを倒してみろ」
「えっ?」
「好い具合に痛めつけておいた。良い練習相手になるだろう」
 まるで、肉食獣が子供に狩りの仕方を教えるかのように。
 エターナルが加頭の扱いをどうするつもりなのかということが聞こえて来て、いよいよ笹塚はこの場で自分がどう動くべきか判断がついた。
 先程まで加頭に感じていた畏怖の感情は、最早その無様さを前にほとんど鳴りを潜めている。彼は笹塚がエターナルらに殺されるなどと言っていたが、どちらかというと彼とエターナルの間に敵対関係が元々存在していたのに都合良く巻き込もうとされただけにしか思えない。故に自分を護るために戦ってくれたのだとしても、完全に鴨を護るという私利私欲にしか思えず、感謝の情を抱くこともなかった。見限ることに何の疾しさも覚えはしない。
 だがここで、エターナル達へと素直に乗り換えるかというと、それも少し危ういように笹塚は感じていた。
 単純に加頭を殺すことに躊躇いを見せていない点も気になるが、むしろ明らかな危険人物を排除することに躊躇うような相手は、この場所では人間性を信用はできてもこの場での協力者として信頼はできない。だがそれだけの決断力のある者達が、何の戦力もないに等しい笹塚を確実に保護してくれるのか、という点が疑問でもあった。
 いや、情報が得られる以上、保護はしてくれるだろうが。ここでのこのこと出て行って加頭と決別するとなると、逆上した加頭から猛攻を受ける可能性がある。
 その際に彼らは、加頭の同行者だった男を、何の躊躇いもなく護ってくれるだろうか?
 エターナル相手では劣勢に追い込まれている加頭だが、笹塚にとっては彼のどんな攻撃でも致命傷となる可能性がある以上、確実な身の安全が保障されないまま迂闊に身を乗り出すわけにはいかなかったのだ。

800Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:54:59 ID:8dYF7mXM0

 ではここで加頭が倒されるまでのんびり待つのかというと、明らかにそれはよろしくない。加頭が笹塚を同行させたのはいざという時の、セルメダルのさらなる補充などの保険のためと考えられるからだ。そこで追い詰められた加頭に今度こそ殺されるかもしれないし、それこそエターナル達に敵と認識される可能性もある。
 そうなると……自然と導き出される選択肢は、一つとなる。
(……逃げるか)
 勘づかれないよう、気配を殺して。
 笹塚は外でドンパチやっている連中とは反対方向の出口へと、歩を進めることとした。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○



 加頭の変身したナスカ・ドーパントは――恐らくは名簿にあった美樹さやかと思しき少女と、未だ剣戟を交わしていた。
 突撃して来る少女をナスカは横薙ぎのナスカブレードで迎え撃つが、少女は左手にスイッチしたサーベルでそれを受け止める。体重と馬力の差に押し切られそうになりながら、その勢いを利用して進行方向を変えつつ、さやかはスピードを殺さないまま虚空から召喚したもう一本のサーベルを、ナスカの脇に突き立てようとする。
 それはサイコキネシスを用いて彼女の動きを阻害して回避するものの、威力の下がった念力に締め上げられる前にさやかはバックステップで力場から脱出する。
 先程からさやかの繰り返すヒットアンドアウェイ戦法に、ネクロオーバーの再生力を以ってしても未だ回復し切れていないダメージを蓄積させたナスカは翻弄されてしまっている。今はまだ躱せているが、それも長くは続かないだろう。
 せめてユニコーンのマキシマムドライブでクリュサオルを落としていなければ、この程度の相手に手を焼くこともなかったろうに――と、ナスカは内心臍を噛む。ネクロオーバーさえも容易く消滅せしめるマキシマムドライブを、辛うじてクオークス能力で威力を減衰させ凌いだナスカだったが、やはりダメージは深刻だった。クリュサオルはその隙に、悠々とエターナルに奪い取られていた。
 やがてダメージが全快すれば、どちらも技量より優れた身体能力に依存した剣の扱いである以上、素のスペックで勝るナスカが勝利することはまず間違いない。だがクリュサオルを手に入れさらに攻撃力を高めたエターナルが控えている以上、その事実に安心している余裕はない。
 それこそ場合によっては、さやかを仕留め切る前にまたエターナルが介入してくる可能性もある。故に目の前の敵だけでなく――いや、真の敵は変わりないと、ナスカはエターナルへと注意を払い続けていた。
 だがそんなナスカに対し、隙を見逃すほどさやかはお人好しではないようであった。
 さやかは手にした剣で地面を擦りながらナスカを中心に周回、砂煙を生んで視界を奪おうとする。小細工を、と鬱陶しく思いながらナスカの発動したサイコキネシスが砂塵を吹き散らすが、晴れた視界の三百六十度、そのどこにも少女の姿は見えない。
「――はぁああああっ!」
 叫びが聞こえたのは、空気の焦げる音と同じ方向――頭上からだった。
 視界を奪った隙に、仮面ライダーやドーパントに匹敵する跳躍力で真上を取ったさやかが、両手の剣を同時に投擲して来ていた。矢のような速度で飛来した刃の勢いを加頭が念動力で相殺し切って、方向転換させてさやかへと撃ち返した頃には彼女は既に着地し、次の一歩を踏み始めていた。

801Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:56:12 ID:8dYF7mXM0

 再び直線で肉薄して来る少女の背を、じりじりと彼女自身のサーベルが追い駆ける。新たな剣を具現化させたさやかを迎え撃つべく、ナスカもまた長剣を構える。
 さやかの足をあと一歩、止めることができればサーベルが彼女を貫く。そう考えたナスカは、まさにその一歩を刈り取るための一閃を繰り出す。
 狙い通り。さやかは歩みを止めつつそれを弾き、ナスカは内心笑みを浮かべる。
「ほう……」
 だが同時、静観していたエターナルがそう感心したような声を漏らした。
 さやかは歩みを止めたが、動きを完全に止めてはいなかった。二つの切っ先が彼女へと届く寸前に、ナスカの攻撃を弾いた勢いのままで身を沈めながら、さやかはその場で高速反転する。
 結果彼女の羽織ったマントが舞い上がり、真っ白い暗幕となってナスカの視界を覆い隠す。
「しま……っ!?」
 気づいた時には、さやかが躱したサーベルが、彼女のマント越しにナスカに突き立っていた。
 ドーパントの強固な体表は、クオークスのサイコキネシスとはいえ貫き切れない。それでも鋭い切っ先に突かれたナスカが思わず息を詰まらせたその隙に、さやかは軸足を地面から離さないまま、残りのもう半周を一気に振り切る。
「――りゃぁあああああああっ!!」
 元々二本の剣で彼女を串刺しとすべくベクトルを設けていた念動力が、さらに衝撃に意識が揺らぎ、いよいよ防壁としての役割を成せなくなったその瞬間。双剣で縫い止められたマントを容易く裂いた遠心力まで乗せた、さやかの渾身の一撃がナスカの横腹を捉えていた。
「――っ!」
 ドーパント化し強化された皮膚が貫通され、その奥の強靭な筋肉の束を半ばまで切断する。そこで少女の剣の侵攻は止まったが、フルスイングの衝撃はなおも体格で勝るナスカの身体を弾き飛ばして余りある物だった。
 建物から引き離されるように、斬撃の勢いでナスカが投げ出される。とても人の姿をした者の腕力とは思えない一撃に堪え切れず、受け身を失敗して二度三度と情けなく地を転がる。
 死後鈍くなった痛感をそれでも殴りつけてくるような一撃に目を回しながらも、追撃を警戒してナスカは身を起こす。焦燥に急かされるまま向けた視線の先では、まるでナスカへの興味などないかのように悠然とした動作で、エターナルがさやかの元へと歩み寄っていた。
「クオークスの能力を突破できないなら、それを利用して突き崩すか」
 屈辱に震えるナスカとは対照的に、心なしか嬉しそうな声色で以って、エターナルはさやかに語りかける。
「まぁ、奴が万全の制御力や威力を保っていたらそううまくは行かなかったかもしれない以上、最良とは言えないが……大分マシになって来たな」
「そうやって突破させるために、あんたが先にあいつを弱らせたんじゃなかったの?」
 さやかの指摘に、「さあ、どうだろうなぁ」とエターナルは雑にはぐらかした。
 ――完全に無視され、舐められた形となったナスカは、思わずその屈辱に歯軋りする。
 だが事実として、ユニコーンのマキシマムドライブを受けた上、さらにさやかによって蓄積されたダメージが尾を引いていた。身体を起こすことができても、両足で立ち上がるにはもう少しだけ回復に時間が必要だったのだ。そんな死に体のナスカを気に留める必要など彼らにはなかったのだろう。
 それでも、再生にメダルを消費しながらナスカのことを忘れてなどいないと言わんばかりにさやかが一瞥して来る。
「――トドメは俺が刺そう」
 刃毀れしたサーベルを一新に向き直った彼女を制して、エターナルがクリュサオルを片手に告げた。
 それに対しさやかは、不服そうに眉を潜める。
「あんた、こいつのこと倒せって私に言ったじゃない」
「実質倒したようなもんだ。少なくともアレを手にしていたら問題なく奴は倒せている。だが、今のおまえの武器じゃトドメを刺すだけでもなかなかに難しいからな。ここは任せておけ」

802Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:56:56 ID:8dYF7mXM0

「嫌だよ。他人に押し付けて、自分の手を汚さないままだなんてのは。だいたいあんたがアレには頼るなって言ったんじゃんか」
 ……まぁ、まだ選ばれてないみたいなんだけどさ、などと。消え入るような声で付け足した、甘ちょろいことを語る少女――美樹さやかなどは、レベル3のナスカに到達している冴子からすれば、まるで脅威となり得ないだろう。危険なのはあくまでエターナル、大道克己だ。
 だのに今の加頭は、そんな彼女の敵未満の邪魔者すら排除できない。逆にそんな相手に命を脅かされる体たらくだ。

 ――実は加頭の苦戦の一因は、彼の同盟相手であるアポロガイストが担っている。

 アポロガイストは――加頭が自分の弱みを隠したためであるが、エターナルとユートピアの相性の悪さを知らなかった。そのためアポロガイストは自分をも圧倒する加頭ならば、もしも交戦することになろうとも問題なく切り抜けられるだろうと踏み、エターナルと……彼に付随している、美樹さやかの脅威を過小評価していた。
 加頭ほどの男ならば、さやかのような小娘一人、いくら不死に近いゾンビとは言え物の数ではないと彼は判断し、自らの発見したさやかの弱点を教えていなかったのだ。少なくとも通達すべき情報としては、その重要度をディケイドら仮面ライダーの詳細よりも下位と見ていた。
 後回しにしたその情報も、何事も知っていて無駄になることはないと聞かされたその直後に、他ならぬ加頭自身が月影ノブヒコとの関係を追求されぬよう急いで話を切り上げてしまったがため、アポロガイストはとうとうそれを伝えることがないまま別れてしまったのだ。
 それでも仮に遭遇したところで、眼前の男ならさやかの下手な戦い方の攻略法など、容易く見抜くものと――悪の幹部らしい慢心と言うべき信頼を、アポロガイストは加頭に寄せていた。
 だが彼は、第二次成長期真っ只中の少女の成長力と学習力を、たかが子供と侮り過ぎたのだ。
 アポロガイストという強敵との戦闘を経たさやかは、大道克己から手解きを受けることで、アポロガイストが素人だと判断した時点から著しく戦闘技術を上達させていた。無論まだ歴戦の勇士と呼ぶには程遠いが、事前知識のない敵に急所を易々と嗅ぎ取らせることはない程度には、百戦錬磨の傭兵である大道も驚くほどの短期間で防御の術を身に着けていたのだ。
 故にナスカはさやかの不死の仕組みを知らず、メダルが尽きて再生できなくなるまで攻める以外の攻略法を選べなかったが故の苦境だった。そして消耗戦となれば、互いに再生し続ける死人とはいえ、より回復力で勝るさやかに対し、マキシマムドライブで削られた後のナスカが遅れを取るのは自然な成り行きであった。

 言うなれば――また敵対する可能性が高いためといえば当然だが、己の弱さを晒せなかったがために招いてしまった事態であるが、そのようなことは露とも知らず、加頭はただ自身の力の無さを憎むしかできずにいた。

(これが……こんなものが、私の愛だとでも言うのですかっ!?)

 何ら冴子のためとなることをできず、こんなところで無様に一人果てるのが、加頭順の愛の結末だと言うのか。そんな未来しか掴み取れないような、弱い感情だったと言うのか。

803Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:58:42 ID:8dYF7mXM0


 ――認められるものか、そんなこと。

「……ならせめて、これを使うと良い。おまえの剣よりは楽に殺れるだろう」
 さやかの説得を困難と見たのか、エターナルはクリュサオルをさやかに手渡した。さやかもそれには素直に従い、素っ気ないながらも感謝の言葉と共に加頭から奪った支給品を受け取る。
 その握り心地を確かめるように軽く振るい、メダルを消費して光刃を形成した後、さやかは漸う立ち上がろうとするナスカへと歩を進めて来る。
「悪いとは思わないよ」
 ナスカの酷い有様を見てか、さやかはほんの少しだけ掻き立てられたのかもしれない罪悪感を打ち消すかのような台詞を口にする。
「あんたをこのままにしておいて、誰かを殺させるわけには行かないんだから」
 完全に自己に言い聞かせるだけのさやかの言葉を、ナスカは――加頭は聞いていなかった。
(――ナスカ。私は、私の冴子さんへの想いが……こんな死人どもに刈り取られてしまうような気持ちだとは、決して認めません)
 NEVERの耐久と回復力を持つとはいえ、とっくに限界を迎えていてもおかしくない変身を保っているのがその加頭の意地だ。否定させはしない。
(ですが、あなたが冴子さんを求める心は――この窮地に未だ意地を張って、私に力を与えるよりも大道克己の物となる方が良い……などと言う程度の物なのですか?)
 相性の悪い者がガイアメモリを使う副作用など、事ここに居たって知ったことか。
 せめて、エターナルだけは。大道克己だけは、冴子に牙を剥く前に仕留めなければ……加頭の愛は、加頭自身を許せない。
(私の愛を証明するため……あなたの運命を果たすため。力を貸しなさい――ナスカッ!!)
 呼びかけた次の瞬間、自身の中で脈動する力の増大を感じ、加頭は昂ぶりのままに絶叫した。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○



 恐怖からか、無念からか。ナスカ・ドーパントが叫びを上げたのに構わず、さやかは出力を最大にした光剣を、その持ち主だった怪人に振り下ろしていた。
 克己が言うには実質倒したような物だという今のナスカなら、これに耐えることはできないだろうと……一瞬後の、切り裂かれたナスカや、変身が解けた加頭の――獣のような魔女とは違う、人間を殺めた後の光景を想像したさやかだったが。
 実際に見えたのは、敵手が忽然と消える眺めであった。
「こふっ――!?」
 空振ると同時に走ったのは、腹腔に直接響く重い衝撃だ。
 視線を下げると、腹から生えた――違う、突き刺さったナスカブレードの刀身と、その下で猛烈な勢いで流れる地面が映った。
 本来感じるはずだった皮膚を破られた際の耐え難い熱さは、予め痛覚を遮断していたお陰で味わうことなく済んだものの。不意を衝かれた、常人なら即死の攻撃がさやかを衝撃となって打ちのめし、一瞬ばかりの前後不覚に追い込んだ。
 血脈の流れが阻害され、不随意の脱力が引き起こされる。取り零した光刃の柄が地に刺さる前、確かにそれを掴み取った手があるのをさやかは目撃していた。
 一拍遅れて浮遊感を認識した時には、既に密着していたナスカに押し切られ、さやかは放物線を描かずに地を滑っていた。

804Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 18:59:56 ID:8dYF7mXM0

「さやか――っ!?」
 まったく彼らしくない、克己――エターナルの、動揺を孕んだ声が聞こえて来る。
「だ、大じょう……っ!?」
 大丈夫と。それだけを答えようと上体を起こしたさやかの身体が、いつの間にか背後に周り込んでいたナスカに背中から切り上げられ、再び宙を舞っていた。
 その隙に、前から後ろから。やたらめったと、実刃と光刃ですれ違い様に切りつけられる。
 ――そう、すれ違い様に。
(速いっ!?)
 ナスカの動きは、先程までの比ではなかった。
 目の前にいると思えば背後へ、後ろを取られたと思えば正面へと。さやかの目には青い霞としか映らない高速移動を繰り返し、胸や喉、時には顔面にも幾度となく太刀を浴びせて来る。
 途中、何度か斬撃がソウルジェムに届きそうになったことに、さやかは肝を底冷えさせた。
「――てぇえやっ!」
 駆けつけたエターナルがエターナルエッジを振り抜くものの、それもさやかの網膜に残像として捉えられた霞を貫いただけに終わり。ナスカは間一髪でエターナルの攻撃から逃れざま、高速移動を保ったままでさやかにラリアットを叩き込み、再びエターナルとの距離を引き離す。
 距離を取ったナスカはそこでようやく超加速を解くと、全身の傷を再生する真っ最中であるさやか目掛け、巨大化させた光剣による一撃を浴びせて来ようとした。
「――ふんっ!」
 エターナルは即座に、首の下を覆っていたローブを盾に、斬撃の射線上に割り込んで来る。
 そのまま受ければ魔法少女でも死んでいたかもしれない、高威力・広範囲の一閃から自分を救ってくれたエターナルに、さやかは胸を撫で下ろしながら感謝の意を伝えることとした。
「あ、ありがと……って、うぉわあ!?」
 そう素直に感謝を伝えようとしたさやかだったが、その瞬間背後からの衝撃に襲われる。
 いつの間にか高速移動していたナスカが回り込み、エターナルの防御の死角となる位置からさやかに炎を浴びせて来ていたのだ。
 放たれた炎は、やはりユートピアの物より小さいが――先程までよりも、目に見えて勢いを増していた。まるで、ナスカの能力の覚醒に合わせたかのように。
 一度火の手が回れば、それが容易に消えることはない。焼かれて行く肉体を魔法少女の治癒力で強引に補うさやかだが、それは大量のメダル消費に結び付く。
「――受け取れ、さやか!」
 痛覚を遮断していても、体中の至る所を炎により貪られて行くのに怖気を感じていたさやかだったが、言葉と共に不意に飛来した何かに、柔らかく全身を包み込まれた。
 ちゃりん、とセルメダルを消費する感覚と共に、装束や肌を焼いていた炎が鎮火されて行くのに気づき、さやかは自身を包み込もうとする黒い布がエターナルのローブであることを悟る。
 投げつけられて来た勢いのまま、自身を簀巻きにしようとするローブに視界まで塞がれる前に、さやかはローブを脱ぎ捨てたエターナルが得物を手に仁王立ちしているのを見た。

「――――それを、待っていましたよ」

 そして、次の瞬間。ローブがさやかの視界を遮った直後に、その声は響いた。

805Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:00:51 ID:8dYF7mXM0

「――ハァアアアッ!」
 続いてこれまでになく張り詰めたエターナルの――克己の気合の叫びがローブ越しに聞こえ、それを細かく裁断せんとするかのような剣戟の旋律と、電離した大気の弾ける咆哮が連続した。
 そのことに、さやかが嫌な予感を覚えたのとまったく時を同じくして――刃と刃が打ち合うのではなく、激しく火花が散り、何かを灼き切る音が耳に突き刺さった。
 それからは、ローブを剥ぎ取る一秒を、気が狂いそうになるほど長く感じる静寂が場を支配し――開けた視界の先では、さやかが無敵と信じた存在の崩れ落ちる瞬間が展開されていた。
「っ――克己ぃ!!」
 膝を着くエターナルは、背部装甲に大きな裂傷を刻んでいた。真珠色のアーマーを煤に染め、その奥には炭化し、再生の追いつかない大道克己自身の、白い蒸気を上げる傷口を晒している。
 その他にも、似たように白煙を燻らせる微細な切り傷を仮面や装甲のそこらかしこに刻んだエターナルは、損耗の度合いを表すかのように肩を上下させ息をしていた。
 対照的に、ナスカはその健在を誇示するかのように背部の翼を広げて、その能力で創造した実剣と、前の姿の時から使っていた光子剣の二刀を手に浮遊していた。
「……あいつ、飛べるの?」
 超加速に続いて新たに披露された隠し球に、エターナルに合流しようと距離を詰めつつ警戒の念を強めたさやかだったが、敵はそんな様子も目に入らないと言わんばかりに鼻を鳴らした。
「良い様ですねぇ」
 先のメモリを壊した時のように、珍しくナスカ――その変身者(ユーザー)は感情をわかり易く表に出した。
「超加速とクリュサオルを手にしたT2ナスカならば……どうやら下克上は叶うようです」
 愉悦の滲んだ声の直後に、彼の手にする光刃が長大化する。
「――っ、危ない!」
 まだ機敏に動けない様子のエターナルを、彼を狙った一閃から庇うためにさやかは駆け出す。間一髪、と言ったところでエターナルを押し倒すことに成功するが、背後から迫る輝きからは逃げ切れなかった。
 背筋に悪寒が走る。しかしその直後にさやかが覚えたのは、危惧した物とは異なる、ローブ越しに軽く撫でられた程度の感触だった。
 だがそれでも、確かに大きな喪失感はあった。飛び散るはずだった血肉に代わって、多量のセルメダルがさやかの中から消え去っていたのだ。
「……エターナル以外が持っていても、厄介なのは変わりませんか」
 忌々しげにナスカが呟いたのを聞いて、さやかは今更ながらに愕然とした。
 何故エターナルが、あれだけ圧倒していたナスカに蹂躙されているのか――その理由が、単にナスカが新たに披露した能力だけに寄るものではないと、漸く思い至ったのだ。
(あ……あたしのせい、で?)
 思えばこの戦闘でも、既に何回さやかは彼に救われただろうか。
 特にあの、クリュサオルというらしい光の剣が巨大化した時の攻撃。ただの一度防いだだけで、さやかのメダルをごっそり持って行ったあの一撃から、さやかは何度庇われただろうか。
 エターナルが誇る、絶対防御のマント。だがそれも当然、セルメダルの消費なしでは効果を発揮することはできなかったのだ。
 抜群の戦闘技術や経験を持つ克己だけならば、他にいくらでもメダル消費を抑えた戦い方を選ぶことができたはずだろう。だが彼はさやかを守るために、幾度となくエターナルローブの使用を強いられ、その分だけ余計に多くのメダルを消費することとなっていた。
 結果として、先程さやかが発火された際には、最早消火分のメダルを自分では浪費できないほど――もっと正確に言えば、超加速に翻弄されるさやかを守りながらの戦闘を続行できなくなったほどに、エターナルはメダルに余裕がなくなっていたのだ。
 最大の防御手段を失っては、いくらエターナルといえども圧倒的な超加速とクリュサオルを用いた二刀流には対処が追いつかなかったがための劣勢であると――本来エターナルローブによって守られていた箇所の、痛々しい傷口を目撃したさやかはそう理解せざるを得なかった。

806Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:02:07 ID:8dYF7mXM0

 そもそもエターナルだけで戦闘していたなら、あのコークスクリューパンチの後すぐナスカを仕留めることができていたはずだ。それを自分だけ見ているだけなのは嫌だという、今思えばさやかの自己満足でしかなかった欲望のために、克己に無用なリスクを負わせた結果がこれだ。
 全ては足手纏いのさやかのため――自らを『仲間』にしてくれた克己が苦しんでいるのは、全てはさやかの力の無さに起因しているのだという事実に、さやかは打ちのめされていた。
「そんな……」
 思わず、間の抜けた声が口から漏れる。
 思えばナスカもまた、単純に弱い者から排除するという目論見もあったのだろうが、執拗にさやかを狙い、エターナルに介入させていた。互いに相手のことを知っているのなら、メダルによる制限を見越して、ローブを多用させるための戦法だったのだろうと理解できる。
 倒すべき悪に、大切な『仲間』の弱点として利用される。そんな自分を嫌悪していたさやかの頭上から、ナスカの淡々とした声が降ってくる。
「まぁ、良いでしょう……それならますます、先にあなたに死んで貰うだけです」
「待て――!」
 さやかの制止など、聞き届けるはずもない。再び超速移動を発動し地上に降り立ったナスカは、ローブの隙間からさやかの細い身体を蹴り上げる。鎖骨がへし折れ、それだけでは止まらなかった勢いに目を回しかけているさやかの横で、ナスカは悠々と超能力でエターナルを引き寄せると、首筋を掴んだまま空高くへと飛翔する。
 さやかの跳躍力では決して届かない高度にまで到達したナスカは、さらにエターナルの全身を発火させ、その恒常的なダメージで動きを阻害し、着実に処刑を執行しようとしていた。
「お別れです。……永遠に」
 皮肉を込めたナスカがクリュサオルを構え、刀身を眩かせながらエターナルへと直線に突き出した。
「克己――っ!」
「――フッハハハハハハ!」
 天を仰いでいたさやかは悲鳴のような声で呼びかけるが、それに対し、未だ炎によって蹂躙され続けているエターナルから返ってきたのは、予想もしなかった哄笑であった。
「やっぱりだ……この殺されそうな瞬間だけ、生きているって錯覚できる。良い気分だぁ……っ!」
 魔法少女として、常人よりも遥かに強化されたさやかの視力は、上空の様子も詳らかに認識できていた。
 エターナルはその掌の半分を切り裂かれながらもクリュサオルの鍔部分を掴み取ることで、切っ先に仮面を貫かれることを阻止していたのだ。仮面ライダーの装甲すら貫く超兵器を前にして、魔法少女同様の強靭な治癒力と痛みへの耐性を持つNEVERだからこそ、五指の握力も落とさずに実行できる防御法であった。
 それでも、どこか悦に入ったようなエターナルの……克己の様子はどこか不気味ではあった。
 そんな彼に対する嫌悪や侮蔑を隠そうともせず、ナスカが淡々と呟く。
「……相変わらず薄気味悪いですね、あなた」
「そうツレないこと言うなよ……おまえももうお仲間だろうがぁ?」
「違う……っ!」
 空から降ってくる克己の声を否定したのは、それを向けられたナスカではなかった。
 今が戦いの真っ只中であることも忘れて、さやかは首を振って声を張り上げていた。
「殺されそうな時だけの、錯覚だとか! あんたはそんな悲しい奴じゃないよ!」
 確かに克己は死人であると、彼自身が認めていた。
 だが、今克己の吐いたような言葉を、さやかは受け入れたくはなかったのだ。
「あのハーモニカを演奏できるあんたは、そんな……寂しい奴なんかじゃ、ない!」
 孤独に荒んでいたさやかの心に、確かな安らぎを与えた克己を。さやかのことを、まだ人間らしい表情ができるじゃないかと言ってくれた克己を、そんなただの異常者のように思いたくない。あの時克己の奏でた音色に感じた優しさは――人間らしいと言われた時に感じた、若干の恥ずかしさを伴ったあの暖かさは、決して夢や幻なんかじゃなかったと信じたいから。

807Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:03:44 ID:8dYF7mXM0

「過去がないなら、せめて明日が欲しいって……! そんな心のあるあんたはまだ、人間なんだってあたしは信じてる! ううん、信じたいの! だからそんなこと言わないで、克己ぃぃぃぃっ!」
「さやか……」
 そんな叫びに驚いたのか、彼にしては妙に優しい――きっとそれが、生前の彼の”素”に近いのだろう声色で、エターナルの仮面越しに克己がさやかの名を呟いた。
 それはあるいは、さやか自身知らず知らずのうちに拠り所としていたことなのかもしれない。 
 真実に絶望し、過去に縋っても。過去は過去でしかない以上、不変ではない今に振り回され、少しずつ居場所をなくし追い詰められていくさやかと――初めからさやかのような、縋るべき過去すらない克己とで。懸命に明日を目指し、前だけを見つめ続けている克己の方が、ずっと『今』を生きているように思えていたから。
 そんな克己のようになりたいと、きっと密かに思っていたから。そんな彼の口から、生きていることが錯覚だなんて、さやかは聞きたくなかったのだ。
 例え肉体としては死人であろうと、化け物であろうと。どれだけ過去に裏切られ、失おうと。いつか来る本当の『死』の瞬間までは、その魂は人間性を捨てずに生きて行くことができるのだと……克己を通して、いつの間にか胸に灯していた小さな希望を、消したくはなかったから。
 前を向きさえすれば、誰にだって明日を求めることはできるのだと、信じていたかったから。

「心、ですか……」
 そんなさやかの、ワガママとも言うべき訴えに対する意外な応えは、エターナルと力比べを続けるナスカが漏らした独白だった。
「……美樹さやかさんでしたね。あなたの言葉に私、感動しました。
 私もNEVERですが……冴子さんへの愛がある限り、自分を人間だと信じていこうと、改めて思えましたよ」
 微かながらも、確かに心が篭っていると認識できる感謝を敵対者からぶつけられたことに、そんな場合ではないだろうにさやかは戸惑ってしまっていた。こんな想定外のやり取りもまた、言葉を持たない魔女との戦いにはない経験だった。
「お礼と言ってはなんですが、あなたが人間だと信じる彼が……あなたから見てまだ人間であるうちに、今度こそきちんと死なせてあげましょう」
 だが感謝するという言葉とは裏腹に、やはり悪は悪意のまま、他者を害することを宣言する。
 その台詞が吐かれたとともに、エターナルを襲う火の手が勢いを増す。それはまるで特大の腫瘍のように膨れ上がって、エターナルの白い姿を己の中へと飲み込んだ。
「うぉおおおおおおおおおっ!?」
「っ、やめろぉ――っ!」
 初めて聞く克己の苦鳴に思わず絶叫し、跳躍しながら手にしていたサーベル、さらに生み出した二本目を立て続けに投擲したが、ナスカはさやかを一瞥もしないまま、サイコキネシスで投剣を空に縫い止めた。さらに無防備に宙にあるさやかへと、超能力で反転したサーベルが牙を剥いて襲いかかって来る。
「――くぅっ!?」
 何とか具現化を間に合わせた三本目の剣で、造反した二本の刃に貫かれることを防いださやかだったが、その間に炎の勢いに押されたエターナルの抵抗が弱まり、いよいよ光の切っ先によってその頭部が差し貫かれるまでの、秒読みに入ってしまっていた。
(だめ……っ!)

808Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:05:07 ID:8dYF7mXM0

 成す術もなく落下しながら、さやかの心をそんな否定の感情が塗り潰した。
 克己が死んでしまう。さやかが弱いから。安全なところで見学して、マミを一人で戦わせて死なせた、卑怯な頃の自分と変わらないから。
(そんなの、もう嫌――っ!)
 恭介にまた、大好きな音楽をして欲しかったからという願いもあった。だけどそれだけじゃなかったはずだ、さやかが魔法少女になりたいと願ったのは。マミが命を懸けて守った街を、暁美ほむらのような身勝手な魔法少女の縄張りにされ、穢されたくないと思ったはずだ。
 何よりその日のうちにまどかの危機を知った時、自分の中にあった願いは、欲望は、決してキュゥべぇとの契約の代価を果たさなければなどという感情だけではなかったはずだ。

 今度こそ――友達を助けられる力が欲しいと、そう願ってキュゥべぇと契約したはずなのだ。

 だったらもっと、力が――今また目の前で死んでしまいそうな、さやかに希望をくれた大事な『仲間』を救えるだけの力が……力が、欲しい――っ!



 ――――そんな彼女の欲望に、応える輝きがあった。

「――何っ!?」
 後一秒足らずでエターナルを串刺しにし、克己をただの首なし死体と化すはずだったナスカが、拘束していた敵の身体を投げ出しながら、そんな驚愕の声を上げた。
 何故なら――突如飛来した青色の流星が、弾丸の如き勢いでナスカに突き刺さり、自身よりも遥かに大きなその身体を殴り飛ばしていたのだから!

 さやかは地面に叩きつけられたが、メダル一枚分ぐらいの消費と引き換えに、そのダメージをエターナルローブが引き受けてくれた。続いて未だ燃え続けながら落下しているエターナルの元へと、さやかは無我夢中で起き上がり駆け寄る。
 そのままでは到底受け止めきれなかっただろうエターナルの身体を、消化ついでにローブを使って受け止める。激突自体がさやかに害を及ぼし得ると判断したらしいエターナルローブはきちんとその運動エネルギーを無効化し、エターナルの物理量を何とか魔法少女が支えきれる程度にまで落としてくれた。
「さやかか……」
 さやかが自分の首輪から、十五枚ほどセルメダルをエターナルへと譲渡していると、ほんの数分前までは想像もできなかった、克己の憔悴した声が聞こえて来た。
「……助かった」
 そんな、彼らしくない素直な感謝の表明に――今度は仲間を救えたのだ、という感慨に一瞬息を詰まらせながらも、さやかは首を横に振った。
「助けたのは、あたしじゃないよ」
 答えた後、エターナルを横たえながら視線を上げたさやかは、恩人というべき闖入者の姿を捉え、微かに目を見開いた。
「……ガタック、ゼクター」
 それは説明書で見た、さやかに支給されたライダーシステムの根幹を成す存在。青い金属製の体躯を持った、機械仕掛けのクワガタムシ。
 ガタックゼクターはその呼び名に答えるように、頭部を上下にして頷くようなジェスチャーを見せていた。
 このメカに聞きたいことは色々あったが、今はそんなのんびりした場合ではないと、嫌が応でも思い出させる声が漏れてきた。
「絶好のチャンスを……私、ショック

809Kの戦い/青の覚醒 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:06:24 ID:8dYF7mXM0
です」
 ガタックゼクターの突進により、猛烈な勢いで地面に叩き落とされていながらも、未だ戦闘可能だと言わんばかりに立ち上がるナスカを視界に収め、さやかの中の焦りが再燃する。
 同時に、目の前に現れたメカに対して抱いた希望もまた、それによって一層輝きを強くする。
「ガタックゼクター……あたしに力を、貸してくれる?」
 さやかの問いかけに対し、ガタックゼクターはさやかとは見当違いの方向へと飛翔する。
 だがそれは、拒絶ではなかった。
 ナスカとの戦いの邪魔になると、手放しておいたさやかのデイバック。ガタックゼクターはその中から銀色のベルトを引っ張り出して、それをさやかの下に運んでくる。
「させません」
「――おっと!?」
 その邪魔をしようと加速したナスカに対し、それまでまるで戦闘不能の死体であるかのように横たわっていたエターナルが突如として起き上がった。無警戒に接近していたところに鋭いナイフの一閃で脇腹を切り裂かれ、ナスカが傷口を抑えながら思わずといった様子で飛び退る。
「なっ……超加速に、当てた……っ?」
「悪いな。もう目が慣れたよ」
 嘯きながら、エターナルは再びローブを纏って完全な姿へと戻っていた。
「くっ……ならば美樹さやかを……!」
「バカが」
 一転追い詰められたかのように歯軋りするナスカに対し、わかってないなと言わんばかりに、愉快そうにエターナルが嘲笑を浮かべる。
「あいつはもう弱点じゃない」
 そんな克己の言葉に、さやかはどこかくすぐったい気持ちになりながら、ガタックゼクターから渡されたライダーベルトを、自身のソウルジェムに重ねるようにして身に纏っていた。
 そう――エターナルが再びローブを装備したのは。ナスカには理解できなかったようだが、彼はもう、余計なハンデを気にする必要がなくなったということを意味しているのだ。
「あいつが今の俺達の、切り札だ」
 ナスカに向け、右親指を下に突き立てる克己の、そんな宣言を受けて――ガタックゼクターを手にしたさやかは、克己がエターナルに変身する時のように――戦士へと変わることを示す言葉を、その口で紡いでいた。
「変身っ!」
《――HEN-SHIN――》
 さやかの決意を認めるように、ベルトに挿されたガタックゼクターが、その言葉を追唱した。

810永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:09:06 ID:8dYF7mXM0

 ライダーベルトから吐き出された正六角形の金属片が連なり重なり、さやかを覆い隠す外殻とも言うべき鎧を形成して行く。
 変身を終えた時には、装着者である華奢なさやかとはかけ離れた重厚さと力強さを漂わせるフォルムをした、一人の仮面の戦士がそこに立っていた。
「仮面ライダー……っ!」
 驚きと、忌々しさを等分に混ぜたナスカが目にしている戦士こそ。戦いの神の名を戴くマスクドライダー――仮面ライダーガタック・マスクドフォームの威容だった。
 ナスカの敵意が膨れ上がって行くのに対し、ガタックの仮面の奥で、さやかは一度、微かに震えた。
 それは、恐怖による物ではない。
 確かに悪と戦う力を得たのだという確信からの、武者震いという奴だった。
「いや……今更仮面ライダーになったから、何だと言うつもりですか?」
 二人目の宿敵の存在に衝撃を受けた様子だったのも一瞬。平静さを取り戻したナスカがそう吐き捨てたのを、エターナルが鼻を鳴らして笑い飛ばす。
「言ったはずだ。俺達の切り札だとな」
「仮面ライダーといえど、クリュサオルは防ぎきれない……そのことは既に理解されているでしょう?」
 言い終えると共に、ナスカが超加速を始める。
 それとまったくの同時に、さやかの変身したガタックもまた、腰部のゼクターの角へと手を伸ばしていた。
「そうかもね!」
《――Cast Off――》
 さやかが負けん気を込めた声で応じると共に、ガタックを構成する装甲の隙間が発光する。
 光芒が漏れた直後、ガタック本体から離れたその装甲板は大気が道を譲るのを待たず、空気の壁を食い破るようにして四方へと飛び散った。
 音速超過してなお余りある射出されたアーマーは、まださやかの目で追える程度――つまりは音速程度で動いていたナスカが回避行動に移る前に、即座に距離を詰め、着弾していた。
「――がっ!?」
 一抱え分もある金属片が、数秒足らずで一エリアを駆け抜けるだけの初速度で放たれたのだ。その程度で倒せるわけはなかったが、それでもナスカの超加速を中断させるのに十分なだけの打撃を、キャストオフされたアーマーは与えていた。
 そして敵が体勢を崩している隙に、逆にガタックはいよいよ戦闘態勢を整える。
《――Change Stag Beetle――》
 装甲が吹き飛び顕になったのは、洗練されたライダーフォームの立ち姿。両肩に降りていた二本の角が起立し、一目でクワガタムシの意匠だと判別できる形へと仮面を変化させていた。
「だけど……全部躱せば関係ない!」
 克己に窘められた、これまでのさやかが選び続けて来た戦い方――それももうやめだ。
「さやか」
 そう決意するガタックへと、エターナルが静かに呼びかけた。
「任せる」
「うん……!」
 信頼の言葉を交わし、頷き合う。そんな二人の様子に、舐められていると感じたのか、怒りの篭った声を上げてナスカが再びの超加速を発動する。
「クロックアップ!」
 同時に、さやかの変身したガタックも。
《――Clock Up――》

 スラップスイッチを押した次の瞬間、勝利を歌う音色が、余韻たっぷりにさやかの耳に残響した。

 音速を超え、さやかの目には青い霞としてしか捉えられなかったはずのナスカが、ガタックまで残り四歩のところで唐突に停止する。
 いや、それは体感する速度の落差がありすぎて停止したように見えただけだ。だがそれでも著しく動作が停滞し、ナスカの猛襲はまるで映像をコマ送りで見ているかのような歩みとなる。

811永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:10:39 ID:8dYF7mXM0

 全てはガタックに搭載された、クロックアップシステムの恩恵だった。
 体内を流れるタキオン粒子を使うことで、異なる時間流へと自在に移動する驚異の超能力。発動すれば使用者の体感時間は圧倒的な加速を見せ、このように超音速移動すらも蠅の止まるようなスロー映像へと変更させるという、反則的な切り札だった。

 最早停止し、ただの的となったナスカへと、さやかはガタックの両肩に備えられた双つの曲剣・ガタックダブルカリバーを抜き放って襲い掛かった。
 未だクリュサオルを振り下ろしきれず、がら空きとなっている腹部へと一閃。抉れた皮膚が火花として飛び散り、ナスカの身体が螺旋に回転しながら宙に浮かび始める。
 自らの切り上げたナスカへとさらに一閃、二閃。両のカリバーを交差させ、袈裟斬りにして振り下ろす。火花が吹き飛び、圧縮された時間の中、連続で叩き込んだ猛攻が、ナスカの身体に与えた傷が視認できるようになったさやかは、十分な踏み込みが確保できる分の距離だけ、ガタックダブルカリバーを握ったまま後退した。
「――ライダーカッティング!」
《――Rider Cutting――》
 カリバーフルカムを基点に双刃を重ね、ハサミのような形状にした直後。ガタックゼクターから放出された虹色の稲妻のような粒子の塊が、ガタックダブルカリバーの作るハサミの中に蓄えられて行く。
「――これで終わりだァああああああああああああああああっ!!」
 自らを鼓舞するように、さやかは気合の声を張り上げる。
 一度人間としての姿を見ているとは言え、ナスカのような怪人を、最早人間だと思うことはさやかはやめていた。
 もちろんそれは、身体が人間ではないから、などではなく――己の欲望のために他者を傷つける、その精神を受け入れられなかったためであったが。
 この強大な悪をこの手で倒すことで、さやかはマミや克己達のような、一人前の戦士と自負して戦って行くことができるだろう。
 これ以上ナスカに脅かされる人を生まないためのこの一撃は、自分にとっての新しい運命の扉を跳び越えて行くための第一歩なのだと――そう感じたガタックは、突撃を開始した。
《――Clock Over――》
 さやかが必殺技の構えのまま駆け出した時に、その電子音は声を上げた。
「え――っ!?」
 刹那の間も開けず、時は正常な流れへと回帰する。
 ナスカの落下が早まり、隣で彫像のように停止していたエターナルのローブがはためき出す。突如全身を襲った痛みに悶えながらも、ナスカが迫り来るガタックの存在を認識し、迎撃に刃を構えるまでに――ガタックは、彼我の距離を踏破することができなかった。

 ――さやかの不幸は、クロックアップの持続時間が完全にランダムであったことだ。

812永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:11:43 ID:8dYF7mXM0

 本人の主観でだが、長ければ数分。短ければ数秒。そんな上下の幅が広いクロックアップのタイムリミットの中で、さやかが引いたのは極めて短い部類の上限だった。
 故に想定が狂い、正面からのこのこ歩いてナスカに飛び込むこととなった。
 それでもクリュサオルが自身に届く前に、ナスカを両断できるとしてガタックは前進を続け――突然強度を増した空気の抵抗に、足が一歩分、鈍った。

 最早それが、空気の抵抗などではなく。
 ナスカが迎撃に放ったサイコキネシスであることは、散々苦しめられたさやかには明白であった。
(まっ、ずい……っ!)
 ガタックの仮面の奥で、さやかが息を呑んだ直後。

 最大出力モードのクリュサオルと、タキオン粒子を纏ったガタックダブルカリバーが、正面から衝突を果たした。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○



 ――断ち切られて行く。

 自身に与えられ、管理する強大な力の一部、二振りの曲剣のうちの片方が切断されて行くのを、ガタックゼクターは静かに見ていた。
 クロックアップの解けたガタックよりも、常時体内にタキオン粒子を蓄えたままのガタックゼクターの方が、時間流への干渉は容易だ。故にガタックゼクターは目の前で、実際には標準時間で半秒も保たないはずの相克の場面を、クロックアップ中であるかのような遅延した映像として読み取っていた。
 このままでは、クリュサオルという光剣の切っ先は――元々変身を司る、ガタックゼクター自体が狙いなのだろう、ガタックの腰の辺りに直進して来る。
 相手は特に強度に優れた刀剣を軽々切り裂く光刃だ。いかに超金属ヒヒイロノカネで全身を構築したガタックゼクターでも、足場にしたライダーベルトごと容易く両断されるだろう。
 そうなれば――その裏に隠してある美樹さやかのソウルジェムにも、直撃が及ぶことになる。
 そのことに気づいた時点で、ガタックゼクターは自発的にベルトから飛び出していた。

 ――そもそもガタックゼクターからすれば、勝手に支給品扱いされようと、こんな殺し合いなどに協力してやるつもりはなかった。
 なぜ人類の自由と平和を守るために生まれた自分が、よくわからない目的で人間を傷つけるために使われてやる義理があるのか。いや、あるはずがないと――隙を見てベルトを奪還し、殺し合いには関係を持たないままやり過ごそうと、ガタックゼクターは最初考えていた。
 だがいざ自身のベルトが与えられたのは、この理不尽なバトルロワイアルの打破を目指す――若さ故に少し暴走しがちなところはあるが、想像を絶する悲惨な境遇の中、それでも正義を捨てずに戦おうとする、一人の少女だった。
 正直この殺し合いに関わろうなどとは――それ以前に、資格者以外の人間に力を貸す気などは、ガタックゼクターの中には微塵もなかったのだが。
 あの諦めずに戦い続ける相棒がこの少女を見たら、放っておくだろうか――と。そんな疑問を抱いてしまったことが、今思えば運の尽きだったのかもしれない。機械の癖に、自ら厄介事に首を突っ込むとは、どこの酔狂な男の影響を受けてしまったのやら。

813永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:12:42 ID:8dYF7mXM0

 それでも相棒とどこか通じるところのある、そして相棒なら必ず助けようとするだろう少女の危機に飛び出したことも。最早乗りかかった船だと、相棒でもない少女を資格者として認め、力を貸したことも。
 焼きが回ったなと自嘲しながらも、相棒に顔向けできない結果にはならなさそうだと、どこか誇りに思いながら――ガタックゼクターは、斬撃の軌道をソウルジェムから逸らすために、絶対的な死の中へと突撃を敢行した。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○



 自らの構えた曲刀が光刃によって切り裂かれて行く様子に、しかしガタックは怯めなかった。
 大出力モードのクリュサオルの間合いを前に、今更後退してももう遅い。それならやられる前にやるしかないと短絡的に結論付け、ガタックはライダーカッティングの体勢を気合で維持したまま踏み込み続けるが――超金属の剣は、儚い粒子に分解されて、クリュサオルの輝きの中に融けて行く。
 ナスカの念動力は着実にそれを掻き分ける仮面ライダーの脚力をして、得物が断たれる前にその切っ先をナスカへと届かせることを阻み続けていた。
 だけどここで押し通せないようでは。さやかはこれからも曲がることなく進んで行くことはできないだろうと、意地を通すために猪突を続ける。
 最悪、刺し違えてでも倒さなければ。ほんの数秒にも満たない激突の間に、さやかはそんな決意を固める。
 自分は友達を、仲間を、たくさんの人を守るために魔法少女になったのだから――この悪もまた倒せないようでは、「任せる」と言ってくれた仲間の信頼に応えられないようでは、結局はただの無価値な石ころになってしまうのだから――!
「――――えっ?」
 さやかの全身を包んでいたヒヒイロノカネが、それが構築された時の様子を逆再生したかの如く無数の正六角形へと霧散し始めたのは、まさにそんな切羽詰った決意を固めた瞬間だった。
 セルメダルが底をついた? 否、コアを使ったさやかには、まだ三十枚以上の余裕がある。
 敵の攻撃に変身が維持できなくなったのか? 痛覚は遮断していたが、それでも感じるはずの衝撃は届いていないのだから、それもまた違う。
 混乱する脳で何が起きたのかを理解しようと、幾つも考えが現れては消えて行く。ガタックの仮面が消失し、顕になったさやかの瞳に――直接その原因が映った。
 さやかの臍の上ぐらいの位置――ベルトに留まっていたはずのガタックゼクターが、持ち場を離れて飛翔していたのだ。
「はぁっ!?」
 この危機に、理解の追いつかない光景を目にして、思わずさやかは憤りの篭った声を上げていた。
 そこでようやく、さやかはナスカの攻撃の狙いがバックル部分であることに気づく。基幹となる部位をピンポイントで破壊することで、ガタックの変身を解除させる意図だったのだろう。
 つまり狙われたのはガタックゼクターで。その危機を察知し、逃げ出したということなのか?
(ふざけないでよ……っ!)
 自分のこの戦いに縣ける想いを認めて、その力を貸してくれたと思っていたのに。
 その力を最も必要とするこの瞬間、我が身可愛さに逃げ出したというのか。
 そんな疑いが、一瞬にも満たない刹那のうちに、さやかの中で怒りとして燃え上がる。

814永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:13:57 ID:8dYF7mXM0

 ……そう、そんな刹那しか、さやかの感情が爆発する暇はなかった。
 何故なら次の瞬間には、そんな気持ちは忘却したように、彼女の心は真っ白になっていたのだから。
(――えっ?)
 ライダーベルトから離れたガタックゼクターは、そのままガタックダブルカリバーの片割れを今まさに両断したクリュサオルへと、自分から突撃していた。
 白兵用武器であるダブルカリバーよりも、ガタックゼクターは頑健さが劣っていた。光子の流れに触れただけで、あっさりとその外装を削り取られる。
 それでもガタックゼクターが決死の特攻を仕掛けたために、クリュサオルがライダーベルトに到達するまでに、微かな隙が生じた。
 同時にオーバーフローしていたさやかの思考は、今更ガタックゼクターの真意を悟った。
 ガタックゼクターの捨て身の防御がなければ、今頃クリュサオルはライダーベルトを貫いていた。
 ……その下にあった、さやかのソウルジェムごと。
 ゼクターとはそもそもが、生まれた理由が人々を守るためという存在だ。そのために生まれ、人間のような私欲という物を持たないだろう機械を疑った自分を、さやかは恥じた。
 そして自分を助けるためにその身を犠牲にした……僅かな時間とはいえ、一体となって悪と戦った相棒がその形を失って行く様に、さやかの奥から謝罪や自己否定といった類の。抱く者に歩みを止めてしまう感情が、じわりと染み出て来そうになった。
 だが、それに心が浸ってしまう直前。微かにさやかを振り返ったガタックゼクターが、まるで自身を呼び掛けるかのように小さく身震いしたのを、確かにさやかは垣間見た。
「うぅあぁあああああああああああああああっ!!!」
 余計な感傷は、胸の隅に引っ込めた。
 今はガタックゼクターがその命で作ってくれた勝利への道、それを駆け抜けるのが先決だ!
 ガタックの変身が完全に解除されてしまうよりも前に。さやかはまだ手の中に残った、片方だけの曲刀でライダーカッティングを続行する。
 ガタックゼクターがクリュサオルを弾いたことで、さやかの斬撃の通り道が、確かにそこに開いていた。既に大部分を抜けていたサイコキネシスによる拘束を、最後の一押しで全て振り切る。
 爪先が地を抉ってガタックの身体を送り出し、そしてカリバーの切っ先が、確かにナスカの腹へと突き刺さった。
 クワガタの顎を模した剣の先端に蓄えられた、大量のタキオン粒子がナスカの皮膚を抉る。虹色の極光が拡散し、その場の全員の視界を白で埋め尽くす、膨大なエネルギーの奔流だった。
 しかしナスカが吹き飛ぶ手応えと共に、その輝きは唐突に収まった。
 理由はわかっている。ガタックの変身が、ナスカを倒し切る前に解除されたためだ。
 その原因となった者を、さやかは責めることができなかった。
「ガタックゼクター……」
 ぽつりと漏れた呼びかけに答えるかのように、そいつはさやかの眼前に飛んで来た。
 機体の半分を失い、滞空も安定していない、今にも機能を停止してしまいそうな姿で。
 墜落しそうなガタックゼクターを、さやかは思わず両手で受け止める。半分だけでも原型を留めていた機体に残っていたとは思えないほどの熱量に掌が灼熱して行くが、魔法少女の変身を保っているさやかにとっては問題にならない些細なことだ。
 それでもまるで、さやかの火傷を気遣うかのように。接続部がガタガタになった、一本だけ残った顎を開閉することで何かを伝えるようにしながら、さやかの掌から飛び立とうとする。
「……良いんだよ」
 そんな姿を、さやかは見ていられなかった。
「ごめんね……」
 目を伏せ、思わず抱き寄せると――ガタックゼクターは数度の駆動音を鳴らした後、さやかの胸の中で動くのをやめた。

 ……何をやっているのだろう、自分は。

 そんな疑念が沸き起こる。
 力を手に入れたと、舞い上がり。結局克己がしてくれたのと同じように、たださやかは力を貸して貰っただけに過ぎないのに。そんな自分を庇ったために、さやかは新しい『仲間』を……死なせてしまった。
「……笹塚さん。追加のメダルを頂きたいのですが」
 続く自己否定の思念は、そんな声が耳に刺さることで引っ込められる。
 再び抜き放ったナスカブレードを杖代わりにしながらも、ナスカは未だ変身を保っていた。
「仲間が居たの……っ!?」
 こんな状況でも雑に放り投げる気にはなれず、腰を落としてガタックゼクターの残骸を足元に降ろして、さやかは愕然と呟く。

815永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:14:49 ID:8dYF7mXM0

 そんなさやかをまた庇うように――ばさりとローブを翻しながら、エターナルが両者の間に飛び込んで来た。
 鈍いはずがない彼が介入するのが、随分遅れて感じるのは――それだけあの衝突の間、自分は緊張していたのだろうか、などとどうでも良いことを無感動に認識する部分があることに、さやかの中のこれまた一部が驚いていた。
 残る部分は、引き続き戦いへの集中を余儀なくされていた。
 そんな彼女の前で油断なく敵手を睨むエターナルだったが、ナスカが放ったパイロキネシスによる炎を防ぐ余力もなかったのだろう。さやかの手を取って跳躍し、強引にさやかに攻撃を回避させた。
「あぁ……ああっ!?」
 ナスカの炎は、内部機械を晒すガタックゼクターの残骸を襲っていた。元より融解していた断面から可燃部分に伝って行き、見る見る勢いを強めてゼクターを呑み込む。
 涙を堪えてナスカを睨むさやかだったが、飛び出す前にエターナルが右手でそれを制した。
「笹塚さん……?」
 同時に聞こえたのは、無感情なナスカにしても酷く調子の外れた、困惑の声だった。
 ナスカはクリュサオルでエターナルを牽制しながら、警視庁の出入り口に近づこうとする。そんなナスカの様子を見たエターナルは、またも嘲弄を含んだ挑発を放った。
「おまえの探している相手には、どうやら逃げられたようだな」
 もはや相手にも、メダルを補充する手段がないとわかるや否や、エターナルはナイフを手元で回転させながら、遠慮なく距離を詰め始める。
 対しナスカは、脇に転がっていたクリュサオルをまた超能力で引き寄せると……立っているのも辛そうな姿勢だというのに、エターナルへと切りかかった。
 だが、既に両者の消耗の度合いは、再びの逆転を果している。大出力モードではないクリュサオルはエターナルエッジに容易く受け止められ、エターナル自身の能力である、蒼い炎を纏った拳がナスカへと突き出される。
 直撃したのは、ライダーカッティングを受けたのと同じ場所。痛烈な一撃を喰らったナスカは後退り、傷口を押さえながらエターナルを睨みつける。
 構わず無言で距離を詰めようとするエターナルの横に、ライダーベルトを着けたままさやかも並んだ。
 そんな二人の形相に、負けずと気迫を振り絞っていたナスカだったが……さやか達の間合いに再度捉えられる直前、その足が一歩下がった。
「おのれ……」
 ナスカは小さく、無感情な声で呟いた。
「おのれぇえええええええっ!!」
 続いたのは怨嗟の込められた、憎しみを隠そうともしない絶叫だった。
 だが、この相手を許せないという感情は、さやかとて負けはしない。
 エターナルとともに、ナスカの憎悪の叫びなど意に介さず二人は追撃を加えようとしたが、出鼻を挫くようにナスカの眼前で突如砂煙が爆発的な勢いで舞い上がった。それ自体はダメージにならなかったが、目隠しとしては十分過ぎた。
 それが晴れたのは、エターナルが得物で切り裂いたからだけではなく――何かが音速を超え移動した、衝撃波による影響もあるのだろう。
「……奴自身も逃げた、か」
 悔しいのか、それとも安心したのか。感情の種類を嗅ぎ取らせない、ただ事実を確認するような声音でぽつりと、エターナルが呟いた。
「――っ!」
 その言葉を聞いたと同時に、我慢しきれずにさやかは踵を返した。

816永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:16:21 ID:8dYF7mXM0

 ガタックゼクターの残骸を燃やして行く火の手は、未だ収まっていなかった。
 剥き出しとなっていた内部機関は既に融け落ち、現在進行形で塗装が剥がされて行くが、逆を言えばもうこれ以上この程度の炎が、ガタックゼクターを壊すことはできないのだろう。
 それでも、これ以上ガタックゼクターだった物の形を変えられたくなかったさやかは、火が消えるように両手を押し付けていた。
 肉の焦げる異臭が漂ってくるが、まだ炎は止まらない。マントを脱いで被せてみるが、それも完璧な消化法とは行かなかった。ナスカの残して行った火の始末すら満足にできない自分が情けなくて、思わずさやかの目元に透明な雫が染み出してくる。
 しかしマントの上に音を立てて落ちたのは、さやかの落涙ではなく……変身を解いた克己が逆さに持っていた、飲料用のペットボトルの水だった。
「……克己」
「俺もそいつには助けられた。丁寧に弔ってやってくれ」
 さやかの胸中を慮ってか、克己は淡々とそれだけを告げて来た。
 さやかはこくんと、小さく頷いた。
 そうして消火を終えた後、ガタックゼクターを野晒しにしたまま置いておきたくはなかったさやかは、変身を解く前に簡単ながら穴を掘っておいた。
 その中にガタックゼクターを埋葬し、上から砂を掛け終えた後……さやかは胸の中に蟠った物を、堪えきれずに吐き出した。
「あたしって、何なんだろうね」
「……あん?」
 ガタックゼクターを埋める間、傍らで見張りをしてくれていた克己が、そんな風に反応した。
 聞いてくれる相手がいるからか、自分でも驚く程すらすらと、さやかは感情を吐き出していく。
「だってさ……あたしがいなかったら、あんたはそんなに傷つかないで済んだじゃない」
 克己の背中には、未だ完治に至らぬ黒く炭化した傷跡が残っていた。
「変身したのがあたしじゃなかったら、ガタックゼクターだって壊れずに済んだかもしれない」
 未熟なさやかでなければ、ガタックゼクターがその身を犠牲にせずとも、ナスカを攻略することができたかもしれない――そんな疑念が、さやかの心に刺さっていた。
 もう、大好きな男の子に気持ちを告白する資格すらないのに――悪と戦う魔法少女としても、結局は同じ目的のために戦う仲間の、足手纏いにしかなれていないだなんて。
 魔女や怪人のような悪と戦うしか能がない、ソウルジェムという石に成り果てたはずだったのに。そのたった一つの意義すら果たせない、本当にそこにあることに何の意味もないただの石ころでしかないのではないかと……さやかは無性に不安になっていた。
「――俺が自分の判断ミスを、おまえみたいなガキに責任押し付けると思っているのか?」
 憮然とした様子で鼻を鳴らし、克己は憎まれ口を叩いてくれた。
 でも、と反論しようとしたさやかを無視して、克己は続ける。
「そもそも終わったことを悔やんで何になる。それで何かが変わるわけでもないだろ」
「……あんたはすぐに忘れちゃえるから、そんなことを言えるんだよ」
 思わず呟いてから、ハッとした。
 今の言葉は、口にして良いようなことではなかった。それなのに自分は……
「……そうかもなぁ」
 一瞬、克己の声が寂寥を滲ませたのに気づき、さやかは身を竦ませた。
(……バカだよ、あたし。何てこと……!)

817永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:17:31 ID:8dYF7mXM0

「だが、だからこそ言ったはずだ、さやか。せめておまえは忘れるなってな」
 責めるでもなく、呆れるでもなく。さやかの無思慮で彼を傷つけた発言を受け止めた上で、背中越しに克己は訴えかけて来る。
「ガタックゼクターが教えてくれたことを忘れるな。何かを守るのは、いつだって難しいことなんだってことをな――こんな死体の一つ守るのも、容易くはなかっただろう?」
 傭兵として何年も戦って来た克己の言葉には、つい最近まで平穏な日々を怠惰に過ごすだけだったさやかにはない、重みがあった。
 微かな自嘲を含んだ問いかけの後に、克己はさらに続ける。
「おまえが考えなきゃいけないのは、自分じゃなければなどという下らん仮定なんぞじゃなく、そのことだ。おまえはまだまだヒヨっ子だ、そう簡単に何でも上手く行くなんて考えない方が良いということを、肝に銘じておくんだな」
「でも……だったらあたしはっ、どうして魔法少女になったのよ!?」
 克己が諭して来るのに、思わずさやかは反発していた。
「こんな、魔女を殺すしか意味のない石ころにっ! それだけの役目だって満足にできないのなら、あたしは、どうして……っ」
 叫ぶ勢いは、尻窄みに消えて行った。自分で口にしていて、耐えられなかったから。
 克己の言うように、人々を守るということすら満足にできないのなら……さやかが魔法少女になった意味は、本当に、どこにあるというのか。
「もう……全然、わかんないよ……っ!」
「……どうしてってそりゃ、おまえが巴マミって奴のことを正しいって思ったからだろ」
 思わず泣き崩れそうになったさやかに対し、まるで呆れたような声で克己が答えた。
 何をわかり切ったことをと言わんばかりの応答に、逆に呆気に取られたさやかが黙って凝視するのを目にして、克己は少し緩めていた表情をまた真顔に戻した。
「なぁ、さやか。俺はここに来る前、ビレッジを潰すために戦っていたと言ったよな?」
 克己の言葉に、さやかも思い出す。風都タワーで情報交換をしていた頃に教えられた、克己とエターナルの出会いとなった戦いのことを。
 超能力兵士を開発するための実験場とも言うべき箱庭。そこで囚われ、希望を失ったことで生きながらにして死人のようになったビレッジの住人達。
 それでも、紛れもなく今生きている彼らの明日を奪い続けるドクター・プロスペクトを許すことができず、実験体の村人達に蜂起を呼びかけたという。
 結果として、村人達は克己に煽られた形で支配に反旗を翻し。克己自身をビレッジの住人達を救うため、そしてドクター・プロスペクトという悪を裁くため、単身その居城に乗り込み、そこで惹き合ったエターナルに変身したと言っていた。
「あそこの敵で一番の戦力だったのは、間違いなくさっきの財団Xの男だったが……俺は奴を倒し、プロスペクトの持っていたヘブンズフォールの制御装置を破壊したとはいえ、メモリを持ったプロスペクトを残したまま、ここに連れて来られた。
 だが俺は、ビレッジにいる連中のことを心配していない。何故だかわかるか?」
 克己の問いかけに、さやかは内心首を振っていた。
 克己の置かれた状況に自分が立ったなら、きっとさやかは残してきた者達が心配で気が気でないだろう。だというのに確かに克己は、そんな様子を微塵も感じさせていなかった。当然、それに関する記憶が抜け落ちて行っているわけではないというのに……
 何故、克己はビレッジのことを心配していないのか、さやかにはさっぱりわからなかった。
「さやか。本当に尊いものというのは、どんなに忘れ去られて、それが元々なんだったのか、誰も思い出せなくなっても――それでも記憶として受け継がれ、残って行くもんなんだと、俺は考えている」
 そんな克己の言葉に、さやかは彼の演奏するハーモニカの音色を連想した。
 全てを忘れてしまうはずの克己の中にも、いつまでも残り続けているものがある……だからこそ考えついた言葉だろうと、何となくさやかは想像していた。

818永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:19:52 ID:8dYF7mXM0

「それと同じだ。生きている奴らの明日を、誰にも奪わせたくない……そして何より、自分の明日が欲しいっていう俺の気持ちは、必ずあいつらにも受け継がれていると信じている。だったら途中で俺がいなくなったとしても、あいつらは諦めやしないだろう。諦めないなら、必ずやり通すさ……俺の仲間も、もう駆けつけているはずだからな」
 だから心配していないのだと、今は目の前のバトルロワイアルを潰すことに集中しているのだと、克己は言う。
 だがさやかには、それがどう自分の話と繋がるのかが、まだ把握できていなかった。
「そいつと同じさ。巴マミって奴はおまえに跡を継ごうと思わせるだけの立派な、正しい魔法少女だった。おまえの憧れる正義の魔法少女、そのものと言って良い」
「そうだよ……マミさんは、とっても凄い人で。でも、あたしは……」
「おまえ達の言う正義ってのはだな、さやか。それを目にした者に、必ずその意志を受け継ぎ、後を追ってみせると思わせる想いのことだと俺は考えている。どれだけ懸命に、そのために生きるのか、だ。そういう意味じゃ、わかり易い力のあるなしなんざ正義であることに関係はない。ならおまえは確かにマミの後を継いだ、立派な正義の味方だろ?」
 克己なりに、さやかは正義を成していると励ましたいのだろう。
 そう理解した時、さやかの口元に、無意識に冷淡な微笑が浮かんだ。
 ……何て表面的な、薄っぺらい台詞だろうか。
 克己のことは、もっとずっと凄い奴だと思っていたのに……そんな失望と共に、さやかは彼の言葉を否定する。
「だけど……結局悪い奴らに負けていたら、何も護れてないじゃん。意味ないよ」
「そんなことはない。おまえが引き継いでいなきゃ、そこでマミの正義は途絶えていた。
 そして言っただろう。本当に尊く、正しいなら。それは受け継がれて行くものなんだと。
 仮におまえが、どこかで倒れることがあっても。おまえの願いが本当に正しいなら、それを見た者が後を追おうとするはずだ。その次も、そのまた次も。そして誰かが必ず成し遂げる」
 さやかがほとんど聞くことを放棄しているというのに、動揺する様子もなく、克己は自分の考えを訴え続ける。その態度が揺らいでいた言葉の信憑性を、まだ少しだけ保持していた。
 そして――息を吸って、それまでよりも力を込めて、克己は言い放った。
「少なくとも! もしもおまえが志半ばで倒れることがあったなら、俺はおまえの分も、引き継いでやって良いと思っている」
 驚きだった。
 あれだけ悪ぶっている克己が、こんなことを恥ずかしげもなく言い放ったのが。
「さっき何かを守るのは難しいと言ったな。今言った通り俺だって、何もかも一人でやらなきゃいけないのなら、途中で放り出してここにいることになるんだからな。
 だがその気持ちを強く持ち続ければ、必ず同じ気持ちで戦う奴らが現れる。俺達みたいにな。
 一人じゃ死体一つ守るのも難しくても、そうやって頭数を揃えていけば……正義の味方っていうのは、一つの街や、国や! 果ては世界なんて大逸れたのも、守れるようになるもんなんじゃないのか?」

 ――これはさやかの知らないことだが、克己の言葉を象徴するような例として、佐倉杏子の存在が挙げられる。
 一度は心が折れ、当初目指していた正義の味方を諦めた杏子だったが――この先、本来なら訪れたはずの時間軸で、他ならぬさやか自身が彼女に見せた正義の味方としての姿勢が、その心にかつて抱いていた祈りを取り戻させたように。
 またこのバトルロワイアルでも、最期の瞬間まで仮面ライダーとして人々を護り続けた剣崎一真の姿に心を打たれ、やはりその願いを取り戻したように。――その最期を、決して杏子が忘れることはないだろうと、確信したように。

 確かな正義の心は、脈々と誰かに受け継がれ続けて行くものなのだ。

 京子にそれを伝えたさやか自身が、マミからその心を渡されたのと同じように。

819永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:21:02 ID:8dYF7mXM0

「まだ一人で思うように行かないなんてこと、気にするな。俺だって満足に戦おうと思ったら、仲間が必要なんだ。一人ぼっちで戦い始めたばかりのおまえじゃ、それで当たり前だ。
 なら、どうしてウジウジ悩む必要がある。一人で無理なんだったら、誰かから手を借りれば良いだけだ……違うか?」
「……あんたが言うことも一理あるかもね、克己。ありがとう」
 だが、杏子のその後を知らない今のさやかは、それでもまだ、克己の言葉を受け容れられてはいなかった。
「でも……あたしはそれを認められないよ。皆を危険な目に遭わせたくないから、魔女や悪党を退治しようって言うのに……後に続こうと思ってくれる人を巻き込んじゃったら、そんなの本末転倒じゃん」
「御袋かおまえは」
 そんなさやかの反論を、克己はまた呆れた様子のツッコミで一蹴する。
「お、おふくろって……」
「おまえの過保護さは御袋と変わらんって言っているんだ。
 いいか? おまえ、この先も俺にずっと横から口出しされて、面倒見て貰いたくはないだろう?」
「そりゃ……そうよ」
 多分、克己が意図しているのとは別の意味で。
 こんなに酷い言葉をぶつけ、足を引っ張ってばかりの自分なんかのために、これ以上克己を拘束したくないとさやかは感じていた。
「俺もそうだ。いつまでもおまえの御守りをしたいとは思っていない」
 対して克己は、さやかが克己によって自由を縛られていることを――例えば戦闘に参加するのに一々許可が必要な現状を、疎ましく思っているとでも――いや、実際先程まではその通りだが――考えているのだろう。御守り、という部分を強調しながらそう告げて来た。
「じゃあ、おまえの護りたいって考えている奴らはどうなんだろうな」
「そんなの……私達みたいな目になんか、遭わない方が良いに決まってるじゃん」
「違う。いつまでも護る護ると……言うなりゃおまえという檻に守られたとして、これからも永遠に檻の中で飼い殺すのがそいつらのためになると思っているのか、って言っているんだ」
 克己のその言葉は、さやかにとって衝撃的であった。
 まるで、頭を思い切り殴打されたかのような感覚は、その言語の意味を理解して、頭に染み込ませることができなかったからだろう。
「飼い殺……す?」
 だからさやかは鸚鵡返しに、尋ね返すことしかできなかった。
 ああ、と。克己はさやかに頷き返す。
「おまえに護られていなけりゃ、魔女のせいで自由に生きていくこともできないなんてのは……そしてそのままであることをおまえが望むって言うなら、それはおまえが居なけりゃ生きていけないよう、飼い殺しているって以外になんて言やぁ良い」
 かつて――恭介の気を惹きたいなら、さやかなしでは居られぬよう五体不満足にしてやれば良いと、杏子から悪意を持って挑発されたことがあった。
 あの時自分は、それを確かに強く否定したはずなのに――
「ちが――」
「違うだろ、おまえが本当に願ったことは」
 思わず動転し、否定の言葉を紡ごうとしたさやかに対し。克己はまたも責めるのではなく、諭すようにそう告げて来ていた。
「おまえが護りたいって思ったのは、今はおまえっていう檻に囲われた奴らが……そんな檻の中じゃなくても、自由に生きていけるような未来(明日)じゃなかったのか、さやか」
 その言葉に。固形化した魂の奥底に、澱となって沈んでいた感情を突き刺されて、さやかは両目を見張った。
 そうだ、あたしは……
 克己の言う通り。マミさんがずっと守ってきたものを、そこで終わらせたくなかったから。
 まどか達見滝原市の人々が、魔女にその未来を、奪われないようにしたかったんだ……

820永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:23:23 ID:8dYF7mXM0

「確かにおまえが魔法少女になった経緯を考えれば、反発したいのも無理はないかもしれん。だがなぁ、さやか。結局おまえが自分でその力を得ることを決心したように……どんな答えを選ぶのかは、そのためにどうするのかは、あくまでそいつが決めることだ」
 さやかの様子の変化を目にしながら、克己はさらに続けていた。
「色々あって見失っていたんだろうが、忘れるな、と言っただろう。その初心ぐらいは、大事にしておけ……俺ができない代わりにな」
 そう少しだけ寂しそうに、また羨ましそうに告げて、彼は余りらしくない長広舌を終えた。
「克己……」
「ん?」
 そんな彼に、今度はさやかが自分から訪ねていた。
「さっき言ったの、本当なの……?」
「どれがだ?」
「もし……あたしが途中で倒れちゃった時は、あんたが引き継いでくれるって」
「おまえは自分が間違ったことをしているつもりなのか?」
「っ……そっか」
 婉曲な肯定に――ついさっきまで胸を満たしていたのとは違う感情で、さやかの声が震えた。
「あんたになら……任せられるかもね」
 そう思えたことで。
 一緒に背負ってくれる相手が居てくれるだけで。
 ――こんなにも心が、軽いなんて。
「……落ち着いたか?」
 克己の問いに、淀むことなくさやかは、「うん」という言葉を吐き出せた。
「あんたの言う通り、だね……事実としてあたしはあたしなんだから。あたしじゃなかったら、なんて考えるのはやめにするよ」
「賢明だな」
 したり顔で頷く克己に、さやかはさらに宣言する。
「あんたの言う通り……ガタックゼクターが教えてくれた、何かを護ることの難しさも、もう忘れない。だけど、難しいからって投げ出したくもない。だからあたしは、もっと強くなる」
「そうか。ならまた後で鍛えてやる。御守り役をいつまでもやってはいられないからなぁ」
「うん。一人で戦えないって言っちゃう克己のために、早く肩を並べて戦えるようになってあげるよ」
 意表を衝かれ真顔になった克己に、さやかはしてやったりと笑みを刻んだ。
 まどかをからかって、よく浮かべていたこの笑顔になったのも、何だか随分久しぶりのような気がした。
「その第一歩。あたしにあんたの怪我、治させてよ」
 クリュサオルに与えられた炭化した断面は、NEVERの再生力でも回復が未だに追いついていなかった。その治癒に克己はメダルを消費しているのだろうが、恐らく費用対効果はさやかの能力の方が上だ。
「断る。これは俺の落ち度だ。おまえのメダルを消費する理由はない」
「さっき一回受け取ってるくせに」
 ツッコミに口を噤む克己が可笑しくて、くすりと微笑を呑み込みながらさやかは続けた。
「一緒に戦う仲間なんだから、メダル数ぐらいは均等にしたいじゃん。これ、さっきの買い物であんたが言ったことだよ?」
「…………好きにしろ」
 根負けしたように、腰を下ろした克己はその傷ついた背中をさやかに託した。
 青色の魔力光を放つ治癒魔法で優しくその肉体の欠損を修復させながら、さやかは少し悪戯したい心地で克己に話を振った。
 ……重苦しい雰囲気には、あまりしたくはなかったから。
 多分そんなことを望んで、ガタックゼクターは果てたのではないと思うから。

821永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:25:03 ID:8dYF7mXM0

「っていうか克己さー、さっき何だかお母さんにいつまでも縛られるのは誰だって嫌みたいなこと言ってたけど、傭兵やってるのにお母さんにまだあれこれ言われてるってこと?」
「……いや。文句も言わずに、NEVERの結成にも協力してくれたし、ガキの頃に死んだ俺の体をここまで大きくもしてくれた。居てくれなきゃ困ることはあっても、逆はないな」
「ふーん……じゃあ克己って、そんな年になっても結構お母さんに甘えているんだ?」
「な……んだとぉ!?」
 勢いよく振り返った克己は、怒気を孕んだ両目で射抜いて来た。
 だが初めて見る克己の羞恥心を孕んだ激昂の様子に、冷徹な普段とのギャップがおかしくて……そして嬉しくて、さやかは声を上げて笑ってしまった。
「あっははははは、ちょっと克己、何その声、本気過ぎだって! 図星なの?」
「誰がだ!? ……ちっ、しばらく落ち込ませたままにしておいた方が良かったか」
 憮然とした様子で正面に向き直った克己が、まだ肩を怒らせたままなのにまたさやかに笑い声を上げさせる。笑い上戸になってしまったようだった。
 ……こんなに腹の底から笑えるのは、本当にいつぶりだろうか。
「ははははは……うん。あんたにもできるじゃん、克己」
「何?」
「人間らしい表情がさ」
 その言葉にハッとしたように、克己は自身の顔に触れていた。
 そのビックリした様子に、さやかはまた自然と笑みが込み上げて来て……可笑しさよりも、親愛の情を含んだ微笑みを彼に向けた。
「やっぱり克己も、まだ死人なんかじゃないよ」
「……勘違いだ」
「意地張っちゃってもぉー可愛いなぁこいつぅー!」
 何だか本当に、魔法少女のことで悩む前に戻れたようで――そして克己がムキに反応するのが実に楽しくて、さやかは魔法を発動し続けながらもけらけらと笑い転げていた。
 横隔膜の痙攣に苦しみ、目元を拭いながらさやかは必死に呼吸を整えて、克己にできる限り真剣な調子に戻して話し掛けた。
「だからさ克己。あんたもまだ人間なんだよ、きっと。……本当に死んでるわけじゃないから、あんただっていつか死んじゃうかもしれないんだよね」
「……そういうことになるな。ま、俺は――自分の存在をこの世界に刻み付けるまでは、本当の死を迎えてやる気なんぞ永遠にないがな」
 そうふてぶてしく言い放つ克己に、さやかは確かにあんた殺しても死ななさそうだもんねと呟きながら、伝えたい言葉を口にした。

「それでももしさ、何かの間違いであんたが死んじゃったりしたら……その時はあたしが、あんたの気持ちを引き継ぐよ」
 そのさやかの言葉に、驚いたように克己は彼女を振り返った。
「そうして欲しいから、忘れるなって言ったんでしょ? 覚えておいてあげるよ、永遠に」
 それで対等じゃん、とさやかは言い足した。
 そして、だからこそ克己はエターナルメモリの適合者なのだろうと、内心で推測していた。
 彼が”永遠”と惹き合った理由――それは彼が死者という、終わりある生とは違う永遠の世界の住人だから――などではない、きっと。それだけならば他にもNEVERがいる以上、克己だけの”運命”にはなり得ない。

 ――せめておまえは忘れるな、何もかも。

 この言葉や、それと同じ意味合いのことを、彼は何度もさやかに伝えて来た。

822永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:26:16 ID:8dYF7mXM0

 それはきっと、克己は自分が忘れて行ってしまうから、代わりに周りの人にずっと記憶していて欲しいからなのだろうと、さやかは考える。
 だが周囲がそれを聞き届けても、残念ながら克己の願いはいつか風化して行く。NEVERでなくとも、人の記憶とは忘却されて行くものだから。いつかは大道克己という個人やその名を知る存在は、この世界から消え去ってしまうだろう。
 それでも、さっき克己がさやかに伝えようとしたように――本当に尊いモノは、その名前や出自が、判別するための外観が忘れ去られようと。一番大切なその”中身”、本質はずっと受け継がれて行くのだ。克己の中に残り続け、またさやかにも伝えられたあの演奏のように。
 克己の言う、世界にその存在を刻み付けるということは。
 きっと今の克己が抱いている想いを人々に残して逝けるよう、最後の瞬間まで懸命に生き続けるという意味なのだ。
 ビレッジで希望となったように。克己は二度目の死を迎えるまでに、それを今生きている者達の記憶に刻みつけて……彼らが子々孫々と伝え続けてくれることを望んでいるのだ。

 そんな、人々に受け継がれる”永遠の記憶”になりたいと願う克己だからこそ――エターナルのメモリと惹き合ったのだろう。

 だから彼の中には、自分が消えることへの恐れや怯えは存在しないのかもしれない。たとえ今ここで朽ち果てようとも、永遠の記憶として人々の中に残っていけるのなら――自分一人のちっぽけな死など、彼にとって忌避する理由がないのだから。
 だから彼はNEVERであろうと、明日を求めて懸命に生き続けるのだ。
 事実その克己の姿を、さやかは生涯忘れることはないと、迷うことなく信じている。

 ――そして、これからはさやかも。
 マミから自分へ、そして克己や、次の誰かへと受け継がれていく、平和と自由を欲する正義という名の”永遠の記憶”は、決して途切れることはないと信じられるから。
 さやかがどこかで倒れても、さやかの願いの根源は、克己や誰かが叶えてくれるなら。
 もう……絶望する必要なんて、ない。
 それは、代わりが効くからさやかが無価値などという意味ではなく。正しいと思う生き方を懸命に貫くことが、自分の願いを永遠にしてくれるということなのだから。

 ――あなたはその人の夢を叶えたいの? それとも夢を叶えた恩人になりたいの?
 ――他人の願いを叶えるのなら、なおのこと自分の望みをはっきりさせておくべきだわ。同じようなことでも全然違うことよ、これ。
 ――そこを履き違えたまま進んだら、きっとあなた後悔すると思うから。

 マミにこう言われた時、さやかは自分の考えが甘かったと自覚したはずだったのに……それをまた、忘れてしまっていた。

 さやかはただ、恭介の演奏をもう一度聴きたかった。あのバイオリンをもっともっと、大勢の人に聴いて欲しかった。
 さやかはただ、マミの頑張りを無駄にしたくなかった。これ以上大切な人を失わずに済む力が欲しかった。誰にも失わせずに済む力が欲しかった。

 確かに恩人として、また正義の味方として感謝されたいという下心もあったと思う。さやかだって人間だから、そんなものに惑わされることもあるけれど。
 それでも今なら、自分の本当の願いが何だったのかを、もう忘れない――そう断言できる。
 だからもう、さやかは魔法少女となったことを後悔しない。
 同じように。たとえ傷つくことがあるとしても、戦いに臨むその人が、本当に自分の意志で決めたのなら尊重すべきだと、今なら思えた。マミだってさやか達に対してそうだったから。
 もう――誰かが自分の後に続いてくれるということも、怖くはない。

823永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:27:25 ID:8dYF7mXM0

「――終わったよ、克己」
 さやかの言葉を最後に暫く続いていた沈黙を、治療の終了を告げる声が破る。
 克己はぐるんと肩を回しながら立ち上がり、その後も掌を開閉したりして、調子を確かめた後に……にぃっと、その口元を歪める。
「大したもんだな、魔法少女の癒しの力って奴は」
「それを願った契約だから、あたしは特に凄いらしいからねー」
 誇らしく思いながら伝えたさやかは、克己にこれからの方針を尋ねることにした。



      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○      ○○○



 自分の気持ちを本当に正しいと感じてくれる人がいたら、その気持ちを記憶して欲しいと、してくれたら嬉しいと思うから。
 さやか自身も、自分が正しいと思ったもののことを、これからは忘れず生きて行こう。
 特に――そのことに気づかせてくれた恩人のことを、さやかはずっと、覚えていたい。
(私……ガタックゼクターのこと、忘れないよ)
 さやかの腰には、変わらず銀色のベルトが煌めいていた。



【一日目 夕方】
【G-5/警視庁】
※南の入り口付近にライドベンダー@仮面ライダーオーズの残骸が放置されています。
※二階の南側にある部屋に双眼鏡@現実が放置されています。
※克己とさやかの今後の行動については後続の書き手さんにお任せします。


【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】15枚:0枚
【コア】ワニ(一定時間使用不可能)
【装備】T2エターナルメモリ+ロストドライバー+T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW、
【道具】基本支給品、NEVERのレザージャケット×?−3@仮面ライダーW 、カンドロイド数種@仮面ライダーオーズ
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
1.さやかが欲しい。その為にも心身ともに鍛えてやる。
2.T2を任せられる程にさやかが心身共に強くなったなら、ユニコーンのメモリを返してやる。
3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡す訳にはいかない。
4.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
5.園咲冴子はいつか潰す。

824永遠の物語 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:28:56 ID:8dYF7mXM0
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピア・ドーパント撃破直後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※仮面ライダーという名をライダーベルト(ガタック)の説明書から知りました。 ただしエターナルが仮面ライダーかどうかは分かっていません。
※魔法少女に関する知識を得ました。
※NEVERのレザージャケットがあと何着あるのかは不明です(現在は三着消費)。
※さやかの事を気に掛けています。
※加頭順の名前を知りません。ただ姿を見たり、声を聞けば分かります。
※仮面ライダーエターナルブルーフレアのマキシマムドライブ『エターナルレクイエム』は、制限下においてメダル消費60枚で最大の範囲に効果を及ぼします(それ以上はメダルを消費しても効果範囲は広がりません)。
 エターナルレクイエムの『T2以外の全てのガイアメモリの機能を永久的に強制停止させる』効果は、最大射程距離は半径五キロ四方(エリア四マス分)となります。
 また発動コストにセルメダル10枚が設定されており、それ以上メダル消費の上乗せをせず使用すると、半径二千五百メートル四方(エリア一マス分)に効果を及ぼします。
なお、参加者個人という『点に対して作用する』必殺技としての威力は、メダルの消費数を増減させても上下することはありません。メダル消費量で性能に制限を受けるのは、あくまでMAPの広範囲に『面として作用する』ガイアメモリの機能停止に関する能力だけです。


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】20枚:0枚
【コア】シャチ(一定時間使用不可能)
【装備】ソウルジェム(さやか)@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW、ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
0.克己を乗り越えてより強くなる。
1.克己と協力して悪を倒してゆく。
2.克己やガタックゼクターが教えてくれた正義を忘れない。
3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
4.財団Xの男(加頭)とはいつか決着をつける
5.マミさんと共に戦いたい。まどかや仁美は遭遇次第保護。
6.暁美ほむらや佐倉杏子とは戦わなければならない。
【備考】
※参戦時期はキュゥべえから魔法少女のからくりを聞いた直後です。
※ソウルジェムがこの場で濁るのか、また濁っている際はどの程度濁っているのかは不明です。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVERに関する知識を得ました。
※ガタックゼクターは破壊されました。

825リベンジャーズ ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:30:36 ID:8dYF7mXM0

 走り続け、メダル消費が無視できなくなった頃になって、加頭はナスカへの変身を解除した。
 膝をついたのは疲労のせいではない。ネクロオーバーと化した加頭に最早そんなものはない。
 彼が直立できなかったのは、御し難い激情のせいだった。
「おのれ……!」
 ポーカーフェイスと言われる加頭の鉄面皮も、今は亀裂を走らせ歪んでいることだろう。
「おのれ……ッ!」
 加頭は許せなかった。大道克己と美樹さやか――裏切った笹塚衛士。そして逃げ出した自分自身が。
 メダル残量は心許なかった。あれ以上変身の維持と、超加速とクリュサオルという、勝利に必要不可欠な二要素の両立がまず不可能であるほどに。
 あのまま戦っても、超加速にも慣れたというエターナルを相手にしては、良くて片方だけを道連れにするのが精一杯だった。故にあの状況で、加頭が撤退したのは戦略的判断ということになる。
 だがそれが言い訳であることに気付けぬほど、加頭は愚鈍ではなかった。
 相討ちできたのなら――冴子にとって最大の脅威の一つであるエターナルを、ここで墜としておくべきだった。何より彼女を愛する男だというなら、それができて当然だったはずだ。
 だが加頭は逃げ出したのだ。エターナルへの、死への恐怖に耐え切れなかったから。
 行動で。加頭はその時自身の中にある最大の感情が、恐怖であることを示してしまったのだ。
 無論死ねば冴子との逢瀬など望みようがないから、とも言えなくはないが……どちらにせよ加頭の、冴子に対する愛の献身の、その底が露呈した。
 そしてみっともなく敗走した、この屈辱。どうして堪えることができようか。
「おのれぇ……ッ!!」
 笹塚の裏切りがなければ……とは考えるが、あの時自発的に協力し易くしてやろうと、五十枚しかメダルを要求しなかった自分が間抜けとも言える。最初から根こそぎ奪っていれば、この失態はなかった。
 そもそもメダルの消耗戦以外に、エターナルに勝利するだけの力があれば、こんな失態などなかった。
 そんな知恵も力もなく、愛に殉じる度胸もない……そんな烙印が、他ならぬ自分の心によって、加頭に押されてしまう。
「このままでは済ません……っ!」
 ネクロオーバーの身体能力に任せ、五指で地面を掘り返し握り締めながら、加頭はそう呟いた。
 この屈辱は必ず注ぐ。大道克己と美樹さやか、あの二人は必ずこの手で殺す。でなければ、加頭はもう冴子を愛していると口にする資格を永遠に喪失するだろう。
 無論、口には出さずとも行動は続ける。彼女の優勝のために。だがそれと同じぐらい、あの二人への復讐は加頭の中で大きなウェイトを占める事柄となった。
 だが加頭の最大の力であったユートピアメモリは破壊された。借り物のナスカではやはり、エターナルら仮面ライダーには及ばなかった。
 やはりユートピアを失った加頭に、冴子と二人の理想郷を目指すことなど不可能だというのか。
(いいえ、私は……メモリなどなくとも。私は……っ!)
 境遇を言い訳にする想いなど、所詮はその程度ということだ。
 加頭の手の内だけでも、まだクリュサオルもT2ナスカメモリもある。この会場には他にも、エターナルに対抗し得る強大な戦力を秘めた支給品が存在しているかもしれない。
 エターナルに敵わないと決め付けるには、まだ加頭は手を打ち尽くしてなど、いない。
「たとえどんな逆境だろうと……私は必ず、冴子さんとの理想郷を、創世してみせます」
 この場にはいない愛しい人に告げるかのように、加頭は誓ってみせた。

 放送は近いが、立ち止まってはいられない。
 そう考え、加頭が再び歩みを始めたその時、不思議なことが起こった。
 その現象を、加頭は未だ認知していないが――それもさらに夜闇が増すまでの、僅かな間だけの話で、やがて彼も気づくだろう。

 加頭のポケットから、緑色の光が漏れているということに。


【一日目-夕方】

826リベンジャーズ ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:31:20 ID:8dYF7mXM0
【?-?】

【加頭順@仮面ライダーW】
【所属】青
【状態】健康、激しい憎悪、目的達成のための強い覚悟。
【首輪】30枚:0枚
【コア】トラ(10枚目:一定時間使用不可能)
【装備】ガイアドライバー+T2ナスカメモリ@仮面ライダーW 、超振動光子剣クリュサオル(メラン)@そらのおとしもの
【道具】基本支給品、月の石@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:園崎冴子への愛を証明するため、彼女を優勝させる。
1.冴子への愛を示すために、大道克己と美樹さやかは必ずこの手で殺す。
2.T2ナスカメモリは冴子に渡すが、それまでは自分が使う。
3.笹塚衛士は見つけ次第始末する。
【備考】
※参戦時期は園咲冴子への告白後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※アポロガイストからディケイド関連の情報を聞きました。
※アポロガイストから交戦したエターナルについての情報は詳しく聞いていましたが、さやかについてはNEVERのようなゾンビであるとしか聞いていませんでした。そのため魔法少女の弱点がソウルジェムであることを知りません。
※不思議なことに、月の石が発光しています。加頭もそのうち気づくと思われます。
※加頭の現在地、及び何処に向かうかは後続の書き手さんにお任せします。



【支給品解説】

・超振動光子剣クリュサオル(メラン)@そらのおとしもの
 第一世代型エンジェロイドと酷似した外見・性能を持つメランシリーズの内の、アストレア型のメランの主武装である剣。性能はアストレアのクリュサオルと同様であると考えられる。
 参加者がこれを武器として使用する場合、(原作では常時その状態であるが、イカロスのaegisを突破することが可能な)攻撃モードを維持するだけでも変身制限などと同様にセルメダルの消費が必要となる。また、相応のメダルを支払うことで、誰でも大出力モード(原作カオス戦などで見られた刀身が長大化し、威力も増した状態)の使用が可能である。

827リベンジャーズ ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:32:08 ID:8dYF7mXM0
      ○ ○ ○      ○ ○ ○      ○ ○ ○



 照井竜は夢に見る。
 父のようになるという夢を叶え、両親や妹と共に談笑していたあの頃を。
 そして二人で一人の探偵と共に、仮面ライダーとして愛する風都を護る日々を。
 戦いを終え、いつものように家に帰って、家族が暖かく迎えてくれる居間へ向かおうとした照井が感じたのは、そんな予想と相反するような冷気だった。
 何が起こったのか予想もできないまま、焦燥感に促されるままドアを開けた先にあったのは――青白く凍結した世界だった。
 そこには母が。妹が。そして父が、全身を霜に覆われ凍え切った姿でそこに横たわっていた。
「……りゅ、う……」
 微かに息の在った父が、息子に気づいて手を伸ばし――
 伸び切る前に、まるで床に落とした陶器のように砕けた。
「う、お、ああああああああああああああああああっ!?」
 絶叫した瞬間、照井の背後に現れる気配があった。
《――WEATHER!!――》
 振り向いた先にいるのは、ステッキと帽子を手に取って、Wのメモリを起動する下手人――井坂深紅朗。
「井坂ぁ……っ!」
 ウェザー・ドーパントに変じた彼に、照井は憤怒のまま走り出す。己の復讐心が呼び寄せた力の結晶・アクセルメモリを取り出し、アクセルドライバーを用いて仮面ライダーアクセルに変身する。
 しかし、照井の力は通じない。あっさりと受け止められ、片手で捻り上げられ。家族の命を奪ったのと同じ冷気が、アクセルを凍結させて変身を解除させる。
 そして叩き込まれたウェザーの蹴りが、決定的な何かを砕いた無慈悲な音を奏でた。
「――ああっ……!?」
 仮面ライダーであるための、ドライバーが。ただのガラクタとして、破片を照井の腹に減り込ませている。
「どの道そんなベルトを使っている限り私は倒せませんよ」
 そして、その破片の中になかった赤いメモリは……ウェザーの手の中にあった。
「や、やめろ……」
 照井の制止など、届くはずがない。
「やめろぉぉおおおおおおおおッ!!!」
 哀切すら籠った照井の絶叫を無視し、ウェザーはアクセルのメモリを握り潰した。
 照井の半身とも言える、家族の仇討ちに掛ける情念の全てとも言うべきメモリを。
 照井の想いごと、奴はまた無慈悲に奪い去った。
「井坂ぁ……深紅郎ォォッ! きさまッ、貴様ァァーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
 最早戦う力すらなく、ただ絶叫を上げるしかできない。
 そんな敗北者であるはずの照井の手の中で、耳朶を叩く声を上げる何かがあった。
 それは運命のガイアメモリ――T2アクセルメモリ。
 ドライバーを介さずとも、このメモリなら照井に力を与えてくれる。井坂が強大になったのと同じように、照井もまた、アクセル・ドーパントとして進化することができる。
 だが、それで本当に良いのか――そんな疑問が一瞬ばかり、照井の脳裏を掠める。
 ドライバーなしのガイアメモリの使用――それはすなわち、これまで仮面ライダーアクセルとして戦って来た照井竜との、完全な決別を意味している。
 左翔太郎が言う、街を泣かす悪党ども――それと同じ存在に堕ちてしまっても良いのかと、一秒にも満たない逡巡が照井の中にあった。
 だが、即座に答えは導かれた――構うものか、と。
 元より、ささやかな幸せを守るために純朴な正義の警察官を志した照井竜の未来は、あの時家族と共に殺されたのだ。
 これまでの日々は、その仇を討つために手にした力が、たまたま仮面ライダーの名を持っていたために齎された、泡沫の夢に過ぎない――
 そもそも照井はアクセルのメモリを手にする前から、既に心に決めていたのではないか。
 家族の仇を討つためならば……どんな手段に訴えることも厭わない。
 自分の行いを照井自身が認める限り――狂うことを恐れはしないと。

828リベンジャーズ ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:33:40 ID:8dYF7mXM0

「うぁああああああああああああっ!!」
 だから照井は、躊躇いなく手を伸ばした。
 絶望的のゴールを阻止するために現れた、最後の希望へと。
 ――目的を果たすためなら全てを捨て去るという、悪魔の契約書へと。

 そしてドーパントとなった照井はウェザーと戦い、かつてなく追い詰め……敗北、した。
 全身を苛む苦痛により、とうとう満足に動けなくなったが、照井の胸になったのは痛みへの忌避感ではなかった。
 それは全てを引き換えにしても復讐を果たせなかった、不甲斐ない自分自身への怒りと。
 自分からまた何もかもを奪っていった、井坂深紅郎への、激しい憎しみだった。
 そんな憎悪の闇に沈んでいく自分を照らす、微かな光に照井は気づいた。

 その光は、夢の中の幻想ではなく――確かに現実に迫りつつある気配を伴った、物だった。

 そのことに気づいた照井竜は、ハッと意識を覚醒させた。



 ……まるで合わせ鏡のように、自身と同じ境遇にある男と、出会うために。



      ○      ○      ○      ○      ○



 ライドベンダーを駆って北上しながら、笹塚衛士は考えていた。
 離脱する寸前まで目にしていた、超人達の攻防。それが恐らくは全域で繰り広げられているだろうこの会場内での、己の無力さを。
 多少方向は誤魔化したつもりだが、加頭が参加者探しに放ったタカカンドロイドの目に笹塚自身が止まっていないとも限らない。あのままの勢いでエターナル達が加頭を始末してくれていれば良いが、もしも放送で彼の名が呼ばれなかった時は、裏切り行為の代償を要求する加頭の追走を受ける可能性を考えなければならない。もしそうなれば、今の笹塚の戦力ではとても太刀打ちできない――仮に彼らが使っていたUSBメモリのような常識外の武器を手にできたとしても、加頭達には経験で圧倒的に劣る以上、単独で対抗するのは難しいだろう。
(仲間が……必要だ)
 だからこそ笹塚は、そう結論付けた。
 問題は加頭だけではない。もしも笹塚の読み通り、この殺し合いを開いた側の方に――シックスがいるのであれば。今の奴が加頭達以上の力を有している公算は、極めて高いと言わざるを得ない。そうであれば、どんな手段を使って生還してみせたところで、笹塚の牙が届く相手ではないということになる。
 ならば奴を殺すには――奴に辿り着くためにも、相対した時のためにも、笹塚には強い戦力が必要だ。そして前述のように、都合良く笹塚がそんな力を得られる可能性も、ましてやそれを十全に扱い切れる可能性は低いと言える。
 ならば笹塚に必要なのは、ここから生還し、復讐を達成するために力を貸してくれる仲間の存在だ。
 だがここに連れてこられる寸前に、恐らく加頭すら軽く凌駕するだろうあの魔人との共闘を拒否し、単独行動を選んだことからもわかるように、今の笹塚にとって仲間とはただ強ければ誰でも良いというわけではない。
 シックスは必ずこの手で殺す。その笹塚の想いを尊重してくれる相手でなければならない。
 同情心から勝手に寄り添い悲しみ、家族は復讐を望まないなどというような綺麗事を唱えるだけの、通りすがりの人間ではなく。笹塚の抱えた悲しみではなく、燃やし続ける憎悪に協調してくれる相手でなければならないのだ。
 ――それは、ただ一方的に笹塚を受け入れてくれるような相手……という意味ではない。
 笹塚の求める仲間とは――噛み殺すような強い怒りを共に滾らせることのできる、復讐者という“群”を成せる者のことだ。

829リベンジャーズ ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:34:34 ID:8dYF7mXM0

 同じ身を焦がす憎悪を抱え、かつ加頭達にも対抗し得る人間……そんな得難い人物がこんな殺し合いの中で早々出会えるはずがないと、己の求めた都合の良過ぎる人物像に、笹塚は自嘲を覚えた。
(不安になっているんだろう……な?)
「……鳥?」
 不意に自身に近づいて来る影に気づき、笹塚はそんな頓狂な声を漏らした。
 一瞬追手かと身構えたが、ずんぐりとした機械的なフォルムのその鳥はタカカンドロイドではなかった。
 だが二つの箱を抱えて飛ぶような姿をしたそいつは、笹塚の前に現れたのは意図的な行動であったらしい。周囲を旋回し、接触事故を起こしそうで気が気でない笹塚の様子を観察した後、まるで招くように機首を上下させ、元来たのだろう方向へ戻って行った。
(……敵意はなかった、な)
 見るからに機械仕掛けな相手の、そんな見受けられるはずがないだろうものを判断の頼りにする自分が可笑しくて、笹塚は内心苦笑する。
 しかし、あんな強硬策に出ない機械に他の参加者を連れて来るように、と指示する殺人者も居はしないだろう。そう結論した笹塚は新たなアテを得た判断し、機械鳥を水先案内人としてバイクを走らせる。
 数分もしないうちに、笹塚は荒れた市街地の一角に差し掛かる。舗装された路面が砕け、鼻を刺すようなアスファルトの蒸気が微かに香り、立ち並ぶ建造物の窓が割れ壁まで捲れている――まるで局地的な災害に見舞われた跡のような街並みについての心当たりも、今の笹塚なら容易につけられた。大方ここでも、化け物同士がやらかしたのだろう。
 やがて進んだ先に、無機的な人工物とは明らかに違う影が視界に入った。
 ところどころ穴が開いた赤いレザージャケットを着た男が一人、道路の真ん中でうつ伏せに気を失っていたのだ。
 余程の疲れが溜まっているのか、こんな場所で肩を上下させ寝息を立てる男が握っている物に、思わず目を奪われる。
(赤いメモリ――)
 その色合いに魅せられたように、笹塚は一瞬判断が遅れ、危うく男までの距離を詰め過ぎる。
 慌ててバイクに制動を掛けた結果、何とか彼を轢かずには済んだわけだが、その耳障りな音に男がぴくりと反応したのが見えた。
 まずい、と笹塚は思わずホルスターへと手を伸ばす。仮にメモリを使って攻撃されては歯が立たない。その前に制圧する必要がある――
「――何者だっ!?」
 ボロボロの姿からは想像もできないような大声が、笹塚の出鼻を挫く。
 いや。本来であれば、何の威力も持たない威嚇の声などに笹塚が身を強張らせることはない。
 満足に歩けないだろうほどの重傷でありながら、まるで手負いの獣がそうであるかのような気力を一層張り詰めた男の声に――笹塚が抱いたのは、恐れではなく。
(俺と、同じ……?)
 ――共感、だった。
 ドクンと強く、笹塚の心臓が脈を打つ。
 男の目には笹塚と同じ、絶対に死を受け入れないという決意の炎が宿っている。だがそれは、帰るべき居場所があるから生まれる希望を燃料とした物ではない。
 笹塚の抱いた復讐心と同色の――命をかえても成さんとする、それまではどんなに狂おうと死ぬわけには行かないという、昏い覚悟の焔だった。
 そして続いた言葉は、それを確信させる物であった。
「井坂を殺すまで……死んでたまるかっ!」
《――ACCEL!!――》
 這い蹲ったままメモリを起動させる男から殺気を浴びせられ、笹塚は何とも言えない感慨に包まれていた。
 目の前にいるのは、笹塚と同じ――守るもののために、狂うことを恐れない一匹の獣なのだ。
 メモリを使って赤い怪人へと変貌した男に対し、笹塚は彼が自分を警戒している原因だろう銃を手放し、目前の男へと張り詰めていた気配を緩めた。
「――!?」
「俺は、笹塚衛士っていう」
 メモリを使って変身する人間に、もう笹塚が慣れていたせいでもあるだろうが……自分に牙を剥かんとする怪物を前に、いつもと同じ調子でリラックスした様子の笹塚に、”アクセル”というメモリの戦士は戸惑いを覚えたようだった。
「あんたが、俺と“同じモノ”だと思って言わせて貰う」
 そんな相手の見せた、会話をするための隙に――青いバイザーの奥の複眼を覗き込んだ笹塚は、にやりと口元を歪めていた。

「あんたと俺で、手を組まないか?」

830リベンジャーズ ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:35:10 ID:8dYF7mXM0


 大切な存在を喪った者の悲しみは、誰にでも想像はできるのかもしれない。
 だが、大切な存在を理不尽に奪われた者の怒りと憎しみを真に理解できるのは――同じ経験を持ち、今もその炎を絶やさず燃やし続ける者だけだ。
 ただ仇が死ねば良いというものではなく……この手で八つ裂きにしてやらなければと、復讐者が常に気を狂わせていることを知っているのは、同類だけだ。

 復讐者の望みを心から理解し、“群れ”を成す資格を持つのは――復讐者、だけなのだ。



 ――笑顔とは、獣が獲物を前に行う舌なめずりに由来するという説がある。
 笹塚衛視の飼う“獣”はこの時、ようやく手にした獲物に届き得る牙を、丹念に磨こうとしたのかもしれない。

 もっとも――家族の復讐に燃える、正義を放棄した刑事同士が手を取り合うのかは――また、別の話。



【一日目-夕方】
【C-5 市街地】


【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】無(元・白陣営)
【状態】激しい憎悪と憤怒、ダメージ(大)、疲労(大) 、笹塚の態度への戸惑い、アクセル・ドーパントに変身中
【首輪】43枚:0枚
【装備】{T2アクセルメモリ、エンジンブレード+エンジンメモリ、ガイアメモリ強化アダプター}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:井坂深紅郎を探し出し、復讐する。
 0.手を組む……だと……?
 1.笹塚衛士の真意を探る。
 2.何があっても井坂深紅郎をこの手で必ず殺す。でなければおさまりがつかん。
 3.井坂深紅郎の望み通り、T2アクセルを何処までも進化させてやる。
 4.ウェザーを超える力を手に入れる。その為なら「仮面ライダー」の名を捨てても構わない。
 5.他の参加者を探し、情報を集める。
 6.Wの二人を見つけたらエクストリームメモリを渡す。
 7.ディケイド……お前にとっての仮面ライダーとは、いったい―――
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。
※鹿目まどかの願いを聞いた理由は、彼女を見て春子を思い出したからです。
※T2アクセルメモリは照井竜にとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。

【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康、加頭順への強い警戒、アクセル(照井)への確信的な共感
【首輪】45枚(増加中):0枚
【装備】44オートマグと予備弾丸
【道具】基本支給品、イマジンメダル、ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(右腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【思考・状況】
基本:シックスへの復讐の完遂の為、どんな手段を使ってでも生還する。
 1.戦力を得るためにも、アクセル(照井)と共同戦線を敷きたい。
 2.目的の達成の邪魔になりそうな者は排除しておく。
 3.首輪の解除が不可能と判断した場合は、自陣営の優勝を目指す。
 4.元の世界との関係者とはできれば会いたくない(特に弥子)。
 5.最終的にはシックスを自分の手で殺す。
 6.もしも弥子が違う陣営に所属していたら……
【備考】
※シックスの手がかりをネウロから聞き、消息を絶った後からの参戦。
※桐生萌郁に殺害されたのは、「シナプスのカード(旧式)@そらのおとしもの」で製造されたダミーです。
※殺し合いの裏でシックスが動いていると判断しています。
※シックスへの復讐に繋がる行動を取った場合、メダルが増加します。
※アクセル(照井)を復讐に狂う獣だと認識しています。

831 ◆z9JH9su20Q:2012/12/16(日) 19:38:32 ID:8dYF7mXM0
以上で投下完了です。大変な長文にお付き合いありがとうございました;
何か問題などありましたらご指摘の方よろしくお願い致します。

832名無しさん:2012/12/16(日) 19:45:45 ID:fEFARHvI0
投下乙です!
おお……これはなんという死闘。
さやか&克己VS加頭は終始ハラハラさせられました! 誰か死ぬかと思いきや……まさか、そうなるとは!
で、加頭は笹塚さんに見限られましたけど、まだどうにか生きていられたか。
前回、井坂にボコボコにされた照井はどうなるかと思ったけど、まさか同じ復讐鬼である笹塚に出会うか……どうなるんだろ、このコンビ。
最後にガタックゼクター……見事だった。

そして改めて大作、見事でした!

833名無しさん:2012/12/16(日) 20:20:11 ID:hMJIskjM0
投下乙でした!!!

なんて熱い戦い…!
さやかに経験を詰ませる余裕すらある圧倒的なエターナルに対しユートピアをメモリブレイクされ満身創痍の加頭
こりゃ一方的な蹂躙かと思った直後のナスカ変身には思わずゾクッとした
そこからの一進一退に……ガタック退場の流れはもう凄いとしか言いようがない…!
熱いだけじゃなく、戦闘後のさやか克己の会話とか復讐者同士の出逢いとか…気付けば感情移入させられる

改めて乙でした!

834名無しさん:2012/12/16(日) 21:00:46 ID:GQYAF.yk0
投下乙!
凄く頑張るさやかちゃんが見られるのはオーズロワだけ!
それ以外にもユートピア相手に優位に立ち回るエターナル
持ち主をその身を挺して守ったガタック
熱く煮え滾る復讐心を抱える刑事2人の遭遇
読み応えがとてもあって良かった!

>>不思議なことに、月の石が発光しています
これは加頭が新しい綿棒になるフラグですね分かります

835名無しさん:2012/12/16(日) 21:48:33 ID:WTFlYBqQO
投下乙です。

正義の味方という名の永遠の一部になる決意を固めたさやか。
仲間っていいな。

鉄面皮が破れた男に不思議な事がー!?

復讐という獲物を追い続ける獣たちの運命は果たして!

836名無しさん:2012/12/17(月) 01:42:10 ID:gST/bQ4.0
投下乙です

本当に熱い戦いだったぜ
さやかちゃんがここまで光るのも珍しいがエターナル、おま、なんてすごい
だがそれだけで終わらないのがまた濃いぜ
ヤバい者同士が出会ってしまった…

837名無しさん:2012/12/17(月) 22:06:52 ID:ee2PDGEg0
 乙です
克己もさやかちゃんもかっこいいなあ
ガタゼクも漢だったよ・・・
ところで
 >>京子にそれを伝えたさやか自身が、マミからその心を渡されたのと同じように。
これは「京子」じゃなくて「杏子」が正しいんじゃないですか?

そして笹塚さんを呼んできたエクストリーム(だよね?)
果たして吉と出るか凶と出るか・・・

838名無しさん:2012/12/19(水) 00:34:09 ID:QxMJEKNQ0
毒吐き別館の交流雑談所スレでオーズロワの語りやってるみたいですよ

839名無しさん:2012/12/24(月) 15:54:17 ID:YvovV.pQ0
ウヴァさんにとっては仁美が死んだところで大して痛くないんだろうな

840 ◆z9JH9su20Q:2012/12/29(土) 00:27:01 ID:n/h5XxOA0
皆様、拙作に沢山のご感想ありがとうございました。

話は変わりますが、第一回放送に向けての提案を議論スレの方に書き込んだことを報告致します。一読して頂けると幸いです。
また放送に向けた企画としての今後の動きについて、他にも何かお考えの有る方からはご意見頂けると大変ありがたいと考えています。

841名無しさん:2012/12/31(月) 09:46:18 ID:wRP21.Wk0
議論スレの意見に過半数の書き手が賛同したか

842名無しさん:2012/12/31(月) 23:49:28 ID:IUz0QGKA0
いきなりだけどさ、年明けには放送に到達確実っぽくなって来たし、記念に人気投票とかやってみない?

843名無しさん:2013/01/01(火) 01:58:56 ID:3Qw2iep60
少人数で決行して虚しい空気になるのは嫌なので、やりたい人が多いならやる感じで

844 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:02:01 ID:0iUAlz8c0
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
それでは投下を開始します。

845衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:05:32 ID:0iUAlz8c0
 メダルが減っている。
 何もしていなくとも、勝手に減っている。
 それに気付いたネウロは、ノブナガの捜索を一旦やめ、立ち止まった。
 何故メダルが勝手に減っているのか、などと一々疑問には思わなかった。
 原因は簡単、ネウロ自身の魔力の消費によるメダルの減少。
 そもそも、ここに連れて来られる前から元々ネウロは衰退しかけていた。
 そんな状態でさらに、あのシャドームーンとの戦いで魔力(メダル)を消費し――
 それ自体は拷問による精神的高揚で増加した分と、奴から奪った分で打ち消す事が出来たが、
 しかしそんな一時しのぎでは抜き差しならないところまで既にネウロは来ていた。
 どうやらシャドームーンに与えられたダメージもそれに拍車をかけているらしい。
 たかが綿棒、されど綿棒……ということか。
 あの綿棒、中々に手痛い置き土産を残して行ったものだ。
“チッ……一組織のトップを名乗るだけのことはあったということか”
 弱体化していたとはいえ、仮にも魔人であるネウロを消耗させたことは事実。
 散々馬鹿にしてきたが、決して取るに足らぬ雑兵ではなかったということだ。
 内心で綿棒の評価を少しだけ改めてやるネウロ。
 何にしても、このままではマズい。
 それをあの綿棒のような悪質な敵に気取られるのもマズい。
 もしかしたら、もう"ヤツ"には悟られているかもしれないが。
 ネウロはなるたけ無表情を装って、ヤツに声を掛けた。
「――いつまでコソコソしている気だ、インキュベーター」
「なんだ、気付いてたのかい」
 物陰から、スッと白い小動物が姿を現した。
「我が輩、腐っても魔人だぞ。つけられて気付かぬワケがあるまい」
「流石だよ、ネウロ。魔人の名前は伊達じゃあないね…もっとも、既に随分と消耗しているみたいだけど」
「……」
 やはりこの獣はネウロの魔力、ひいてはメダルの消費に気付いている。
 魔の人と書いて魔人というなら、魔の女と書いて魔女の専門であるコイツは侮れない。
 インキュベーターは無言のネウロの足元まで歩を進めて、可愛らしくお座りした。
「安心しなよ、ネウロ。君が弱体化しているコトは誰にも漏らすつもりはないさ」
「その代わりといっては何だけど、もうしばらく君を観察させて欲しいんだ」
「君の莫大な魔力の秘密には僕もちょっとばかり興味があってね」
「決して図々しいお願いじゃあないと思うけど、どうかな」
 おそらくこの言葉には何のたくらみもないのだろう。
 本当に純粋な好奇心で、この魔人ネウロを観察しようというのだろう。
 インキュベーター如きに観察し切れるものならやってみろと言いたいところだった。
 ネウロは「好きにするがいい」と冷たく言い放つと、再び歩き出した。
 今はまず、ノブナガを探し出すことが先決だ。
 が、しかし……
“これだけ探し回ってもいないということは、もう……”
 あまり考えたくはない可能性が頭をよぎる。
 人間が死ぬということは、謎が減るということ。
 あの真木とかいう人間のクズの思い通りになるということ。
 それはネウロにとって、まったくもって胸糞が悪い可能性だった。
 もっとも、生きていて、先に目的地に向かっているという可能性だってあるにはる。
 が、ネウロはあのノブナガという男が確実に無事であるとは保証出来なかった。
 あの男の命の炎は、ネウロが出会った時点で既に風前の灯だったのだから。
 だからこそ、一刻も早く見つけ出そうと考えていたのだが……。
 これだけ探しても見付からないなら、もうそろそろ捜索を打ち切るべきだろうか。
 そんなことを考え出した時だった。
 ――ゴオオオオォォォォォォォォォォォォ……
 何処か遠くで鳴り響いた爆音が空気を震わす。
 伝わって来た僅かな地響きを、ネウロの超感覚が捉える。
 それらが、ネウロのあらゆる思考を中断させた。
 数キロ離れた地点で、空に舞い上がる爆炎が微かに見える。
 とんでもない威力の兵器を、誰かがあそこでブッ放したのだ。
 アレを放っておけば、きっと多くの人が死ぬ。
 それだけネウロが食う筈だった謎が減る。

846衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:06:05 ID:0iUAlz8c0
「行くのかい、ネウロ」
「人には分不相応な玩具で遊んでいる輩がいるらしい。見過ごすわけにはいかんだろう」
「じゃあ、僕はお手並み拝見といかせて貰おうかな」
 人の生き死にに何の感慨も持たない小動物は、そう言ってネウロの後方を歩く。
 インキュベーターの言うように、この先に待ち受けているのはおそらく戦闘だ。
 きっと、この場での初陣である綿棒戦のように楽にはいかないのだろう。
 今の消耗したネウロがどの程度の敵と渡り合えるかも分からない。
 分からないが、それでも見て見ぬフリは出来なかった。
“…ノブナガのことは後回しだ”
 今は探しても見付からない生きているかどうかもわからない男よりも、
 目に見えて危険なあの兵器の方をなんとかするべきだとネウロは考えた。
 もしもノブナガが生きていれば、一人でも先に目的地へ向かう筈だろう。
 ノブナガには悪いが、そうなったら、先に目的地で待っていて貰おう。
 ネウロはそれでノブナガについて考える事をやめ、戦場へ向かって歩き出した。

          ○○○

 それから暫し歩いたところで、インキュベーターは気付いた。
 何かがこちらに高速で接近している――バイクだ。
 青いバイクに、赤い髪の少女が跨っている。
「佐倉杏子」
 赤髪をはためかす少女の名を、インキュベーターは静かに呼んだ。
 別に彼女を呼び止めたかったワケじゃあない。
 ネウロに情報を与えたかったワケでもない。
 バイクの上で、ギラリと双眸を光らせた杏子は、小さな声で何かを言った。
 当然その声は風に遮られて二人の下に届くことはなかったが――
「見付けた」と、佐倉杏子の口はそう動いたように見えた。
 ネウロらの姿を認めて、バイクはなおも加速する。
 その光景をただの風景として眺めていることは最早出来ない。
 彼方を疾駆していたバイクは、今やミサイルさながらに急迫している。
「おっと、戦いに巻き込まれるのは御免だ」
 インキュベーターがさっさと離脱するのを、ネウロは止めなかった。
 近場の街灯の上に離脱したインキュベーターが見たのは、両者の激突。
 ミサイルさながらの勢いでネウロに突っ込んだバイク。
 最小限の動きでそれをかわし、バイクに一閃、鋭利な爪を閃かせるネウロ。
 新体操の世界選手のような動きでバイクから離脱し、着地する杏子。
 一瞬後、杏子が乗っていた青いバイクはネウロの後方で爆発した。
 爆風が背後からネウロに吹き付け、ネウロの髪が揺れる。
「随分と派手な挨拶をしてくれるじゃないか……?」
「なんてったって"殺し合い"だからねぇ? ちょっとくらい派手な挨拶は許してくれよ」
 そういって、杏子が口角をニヤリと吊り上げる。
 それを見たネウロはさも下らなさそうにフンと鼻で笑った。
 二人の会話に割り込んだのは、インキュベーターだった。
「殺し合いに乗ったのかい、佐倉杏子?」
「あぁ、その方が美味しそうなんでねぇ」
 杏子の答えに、インキュベーターは小さく小首を傾げた。
 次に交わされたのは、会話ではない。
 逃走の開始を告げるゴングだ。
 杏子のキャレコ短機関銃が火を噴いた。
 無数に放たれた弾丸を、ネウロは神速のスピードで飛び退いて回避。
 だが、杏子もすぐにそれに追いすがって、キャレコのトリガーをひく。
 ネウロと杏子の速度は、戦闘開始の直後から既に人の成せるものを遥かに凌駕していた。
 ほんの一瞬で近場の街灯の裏へ回り込んだネウロは、それを蹴って、へし折った。
 刹那、襲来したキャレコの弾丸を、ネウロによってへし折られた鉄の街灯が全て受け止めた。
「へぇ」
 感嘆の声を漏らす杏子。
 再び突撃を掛けようとした杏子だが、ネウロの意外な攻撃がそれを遮った。
 街灯に阻まれ無数に転がった弾丸を、ネウロはその脚でザッと横薙ぎに蹴ったのだ。

847衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:06:49 ID:0iUAlz8c0
 それはさながら、まるで子供が石ころでも蹴り飛ばすような所作だった。
 蹴られた弾丸は全て発射直後の弾丸さながらの速度へ達した。
 それが、放射状に拡がって杏子を襲うのだ。
「ッ嘘だろ!」
 手にした槍をぶんと振り回し、それらを弾き飛ばす杏子。
 しかし、次に杏子を襲ったのは――
「街、灯ッ!?」
 さっきネウロがへし折った街灯が、銃弾さながらの速度で杏子に迫る!
 流石に小さな槍でそれを受け流すのは不可能と踏んだ杏子は、上空に飛び上がり回避。
 だけども、飛び上がった杏子を待ち受けていたのは、同じく上空に舞い上がったネウロだった。
 ガキィン!!
 宝具の槍と、ネウロの爪が激突する。
 両者後方へ吹っ飛ぶが――押していたのはネウロだった。
 杏子の方が、やや不安定気味に着地して、反対側に着地したネウロを睨む。
「チッ……とんだバケモノだぜ」
「そのバケモノに戦いを挑んだのは貴様だ、人間」
「人間? 人間だって、このアタシが?」
 くつくつと笑い出した杏子が、ついに抑えきれなくなって哄笑する。
 インキュベーターの知る限りの知識で話すなら、佐倉杏子は人間ではない。
 彼女は魂をソウルジェムに変えた魔法少女だ。
 だが、今目の前にいる杏子は――
「面白いことを言うもんだねぇ、アンタ人間ってどんなものか知ってんのかよ?」
「人間ってのはな、こんな馬鹿みたいな戦い方はしねぇ……!」
「アンタみたいなバケモノと戦って、生きてられる筈もねぇ……!」
「それをッ! アンタは! こんなアタシが……人間だってぇええッ!?」
 杏子はさもおかしそうに腹を抱えて笑い出した。
 対するネウロは、無表情のまま口角だけをニヤリと吊り上げる。
「どうやら……貴様は救いようのない馬鹿らしい」
「…あんだと?」
「いいだろう、ならば貴様に"教育"してやる」
 ネウロが両腕を拡げ、静かに笑う。
「自分を非人間だと思い込んでしまった憐れな貴様に」
「本当の自分の姿すら見失ってしまった迷える子羊のような貴様に」
「これから我が輩が直々に……"教育"をしてやる!」
 空気が、闘争の気配にビリビリと揺さぶられる。
 それは魔女の結界をも凌駕する剣呑な空気だった。
 異常者二人が放つ殺気が、この空間を支配していた。
 インキュベーターは、もう少しだけ距離を取ろうと移動を開始した。

          ○○○

 魔法少女と魔人が夕闇の街を駆ける。
 アスファルトの大地を蹴り、ビルの壁を蹴り、縦横無尽に駆け巡る。
 ここは最早戦場だ。安息の地など何処にもない正真正銘の戦場だ。
 杏子がビルの壁を蹴って、滞空中のネウロにキャレコを乱射する。
 放たれた弾丸をネウロが爪で弾き返し、周囲に拡散する。
 二人が着地する時には、そこら中のビルの窓ガラスが粉々に割れていた。
 だけども杏子はそんなことにも構わずに再び地を蹴り空を跳ぶ。
 丁度さっきので、総弾数五十のキャレコは弾切れだ。
 だから次の一手、デイバッグから一丁のショットガンを取り出し、左手に構えた。
 一夏の支給品に入っていた、ポンプアクション式の散弾銃、レミントンM870だ。
 右手には、同じく一夏に支給されていたブローニングM2重機関銃を構える。
 あの織斑一夏とかいう男、まったく物騒な兵器ばかりを支給されていたものだ。
 もっとも、白式を主武装として使う彼にとってそれは豚に真珠だったのだろうが。
「さあ、バケモノの闘い方を見せてやるよ、ネウロ!」
 普通はブローニングだけでも、常人が片手で構えるのは不可能だ。
 されど、最早怪物の域にまで達しつつある杏子――Xにはそれが出来る。
 両手にショットガンと重機関銃を構えた杏子は、使い慣れない槍をデイバッグに押し込み、
 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!
 次の瞬間、最強クラスの重機関銃が、ネウロ目掛けて鋼鉄をもブチ抜く弾丸を吐き出した。
 後方に飛び跳ね回避するネウロを、今度はレミントンで狙い定め、散弾を発射する。
「――ッ!?」
 重機関銃と散弾銃による過激な弾幕を前に、もはやネウロに回避は不可能。
 空中での方向転換も出来ず、致し方なくネウロは散弾銃を腕で防ごうとした。
 着弾前に炸裂した散弾銃の弾丸は、無数の小さな凶器の嵐となってネウロを襲う。

848衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:07:26 ID:0iUAlz8c0
 ネウロの上半身を、レミントンの散弾がハチの巣にした。
“――いや! まだ貫いてねぇ! あの程度じゃッ!”
 通常の人間ならばそれで十全以上に致死量だ。
 だが、奴は魔人だ。ハナっからこの程度で死ぬとは思っていない。
 散弾銃に滅多打ちにされたネウロが、血を噴き出しながら落下してゆく。
 そこに、杏子はさっき弾を撃ち尽くしたキャレコをブン投げた!
「ム……」
 当然ネウロはそんな幼稚な攻撃には動じない。
 片手で軽く弾き返そうとする。
 だが、それが既に間違いなのだ。
 ネウロがキャレコを弾き返したその瞬間、
 ドグォォォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!
 キャレコが爆発した。爆風が杏子の視界にいるネウロを覆い尽くした。
 赤黒い爆炎は瞬く間に拡散し、周囲の窓ガラスをすべからく叩き割る。
 爆風はすぐに杏子のもとにも届いて、杏子の赤い髪がぶわっと拡がった。
 これは「佐倉杏子」に支給されていた「暁美ほむらの爆弾セット」による賜物だ。
 即席爆弾が五つと、更に精度のいい時限爆弾が五つ、セットになって支給されていたのだ。
 だが「佐倉杏子」はそんな爆弾に頼った闘い方をする少女ではなかった。
 これも一夏に支給されていた重火器と同じく、彼女には無用の長物だったのだ。
 さて、杏子が今やったのは、爆弾の一つ、即席爆弾による爆破だ。
 即席爆弾を一つキャレコにくっつけて、それをネウロに投げ込んだのだ。
 魔女すらも爆殺する爆発がネウロを襲うが、しかしこんな程度で死ぬとは思っていない。
「なんてったってアンタはバケモノなんだ! こんな程度で死んでくれるなよッ!!」
 ネウロは自分と同じ存在だ。
 自分が知る限り、唯一自分に近いと思えるバケモノだ。
 そんなバケモノ同士の"闘争"は、こんなものでは終わらない。
 杏子の期待に応えるように――
「激痛の翼(イビル・トーチャラー)」
 ネウロの声が響くと同時、爆炎を裂いてネウロが飛び出した。
 背中に巨大な翼を纏って、それを羽ばたかせ急迫するネウロ。
 何らかの魔界能力を使ったのか、爆発自体のダメージはそれほど受けていないように見える。
「それでこそッ!」
 それでこそ魔人ネウロだ!
 まだまだ可能性を感じさせてくれる!
 期待に胸を高鳴らせ、再びブローニング重機関銃を向ける杏子。
 凄まじい速度で放たれる銃撃を、ネウロは空を自在に飛び回り回避する。
 普通に考えれば反応すらままならない速度の弾丸だというのに――
「この程度じゃまだまだ中身は見せてくれないってことかよ! いいねぇ、次だッ!!」
 杏子もまたネウロに銃口を構えたまま走り出した。
 さながらネウロから逃げるように走る、走る、走る――
 時折ブローニングが火を吹ち、レミントンが散弾を放って、ネウロを牽制する。
 されど、いかに怪物とはいえ、重たい重火器を持ったままの杏子では限界があった。
 数秒と待たずに、杏子はネウロに追い付かれ、肉薄された。
 その鋭利な爪を杏子に伸ばし、
「これで詰み(チェック・メイト)か、人間?」
 不敵に笑うネウロ。
 もう逃げ場はない。
 追い詰められた杏子は……
「よせ……大変なことになるぞッ!!」
「命乞いか? らしくもない……」
 らしくもない命乞いに、ネウロは落胆した表情を浮かべる。

849衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:07:55 ID:0iUAlz8c0
 当然だ、これまで散々調子に乗っていた杏子が突然態度を変えたとあっては。
 だが、そんな命乞いをした杏子は、不敵に笑っていた。
「何言ってんだ? アタシは"警告"をしてやったんだぜ、ネウロ?」
 そうやって杏子が嘯いたその刹那、ネウロの真上のビルが、
 ドグォォォォオオオオオオオオオオオオオォォオオオッ!!!
 さっきと同じに爆音を響かせた。
 バラバラに砕けた瓦礫の山が、土砂降りのようにネウロを襲う!
 たまらず回避をしようとするネウロに、杏子は両の銃口を向けた。
「これで詰み(チェック・メイト)か、魔人?」
 ブローニングとレミントンによる銃撃に、空からの強襲。
 それらが一挙にネウロを襲う。回避の術などはない。
 かろうじて弾丸の幾つかを弾き飛ばしたネウロだが、
 迫り来る瓦礫にまでは対応出来ず、ネウロのいた場所を無数の瓦礫が埋め尽くした。
「ハハァッ! このアタシが無駄に跳び回るとでも思ってたのかよ!」
「この瞬間のために、アタシはあっちこっちに時限式の爆弾を仕掛けておいたのさ!」
「これはヒントだ、アタシの手元にもう爆弾はねーぜッ!」
「さぁ、次はどれが爆発するかな!?」
 そう、杏子が仕掛けた時限式の爆弾は全部で五つ。出し惜しみはナシだ。
 そのうちの一つが今爆発し、残りの四つが、指定の時刻まで待機しているのだ。
 杏子はその時刻にネウロを爆発に巻き込むために上手く立ち回るだけでいい。
 ネウロとの決戦の為にこれまでずっと取っておいた強力な重火器類、
 そして必殺の決め手となる爆弾――完全な作戦勝ちだった。
“だが――まだ油断は出来ないぜ……相手はあのネウロなんだからな”
 それでも杏子は、一切の警戒を緩めはしない。
 両腕に構えた重火器で、いつでもネウロを狙い撃てるように構えておく。
 数秒の間をあけて、ネウロを押し潰した瓦礫が、がらりと音を立てて崩れた。
 血まみれになったネウロが、フラリと立ち上がる。
 あの量の瓦礫に押し潰されてもまだ潰れないのだから、ネウロはやはりバケモノだ。
 ヤツの殺気すら孕んだ双眸に射抜かれた刹那、杏子の背を悪寒が走った。
 だが、ここで怯む必要はない。有利なのはこっちの筈だ。
 構わず杏子はブローニングとレミントンを発射する。
 圧倒的な数を誇る弾幕が、ネウロを襲った。
 が、それらがネウロに着弾する前に、鏡のようなものがネウロを覆った。
「え」
 杏子が放った数百を越える凶器が、ネウロに当たる前に反転した。
 発射されたエネルギーをそのまま保って、発射した杏子へと返って来たのだ。
 如何な怪物強盗といえども、完全な不意打ちで、数百の弾丸に対抗し切れるワケがない。
 回避すらままならず、圧倒的な数の弾丸全てが杏子の身体をハチの巣にした。
 頭から爪先まで、余すことなく銃弾が貫通していく。
 杏子の身体から夥しい量の血液が噴き出して、その場に跪く。
 筋肉をも撃ち抜かれ、重たい重火器を持つことも出来ずその場に取り落とす。
「魔界777ツ能力……醜い姿見(イビル・リフレクター)……」
「来たものを来た方向に来たままのスピードで返す……」
 なるほど、そういうワケか。杏子は納得した。
「あーぁ、チェック・メイトだと思ったんだけどなぁ」
「人間にしては手こずらせた方だ……少なくともあの綿棒よりはな」
「綿棒? ま、誰だか知らないけどさ……」
 杏子の苦笑に、ネウロは嘲りの笑いすらなく答えた。
 やはりネウロは強い。魔人を名乗るだけのことはある。
 が、しかし杏子もさるものだ。
 この時点で既に魔界777ツ能力を三つも使わせたのだから。
「だが、これまでだ」
 ネウロは、今度こそ正真正銘のチェック・メイトを掛けるつもりだ。
 血まみれになった身体を動かすのは決して楽ではなかろうに。
 それでもネウロは随分と疲弊し切った身体で、杏子に歩み寄った。
「ああ、これまでだねぇ――」
 デイバッグに手を突っ込み、
「――時間稼ぎはさぁ!」
 鈴羽&そはら組から奪った銀色のベルトを引っ掴み、引っ張り出す杏子。

850衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:08:27 ID:0iUAlz8c0
 メダルは消耗したが、この無駄な会話の間に怪物強盗の筋肉組織は既に回復している。
 もっとも、まだ痛みは残っているが、戦闘を行う分には十分だ。
 この怪物強盗を一気に攻め落とさず、時間稼ぎを許したことが間違いなのだ。
 勢いよく引っ張り出されたベルトを鞭のようにしならせ、それをネウロに巻き付ける杏子。
 機械仕掛けの不思議なベルトは、杏子の読み通り自動的にネウロの腹に巻かれた。
「爆弾付きのベルトさッ! 吹っ飛びな、ネウロォォォッ!!」
 ドグォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!
 またしても大爆発!
 ベルトの内側にひっつけていた即席爆弾が、ネウロと零距離で爆裂した。
 爆風が至近距離にいた杏子をも吹っ飛ばす。
 だが、飛ばされる直前に、二丁の銃火器はしかと両腕に掴んでおく。
 地面を数回バウンドして止まった杏子は、むくりと身体を起こしネウロを見る。
 周囲の瓦礫は吹き飛んで、爆炎が闇夜にゆらゆらと舞い上がっている。
 その中に、魔人の影が一人分、ぼんやりと佇立しているのが見えた。
 影は悠然と歩を進め、炎の中から顔を出す。
「透け透けの鎧(イビル・サーフェイサー)……最初の爆発の時点で身に纏っていた」
「完全にとはいかないが、ある程度は爆発の威力も殺せる……」
 また防がれた。
 ――いいや、違う、防げたワケではない。
 ヤツはああいっているが、ダメージは確実にある! 見るからに重症だ!
 もはやネウロは立っていることすらもままならぬといった様子ではないか。
 攻めきれば勝てる! ネウロの中身を見る事が出来る!!
 そんな確信が、杏子に闘志を湧き立たせた。
 再び重たい重火器を携えて、杏子は炎に燃える市街地を駆ける。
“残りの時限爆弾は四つ……”
 杏子は考える。あの強敵を倒すための手段を。
“だが……アイツがこれ以上…同じ手段に引っかかるか……?”
 非常に微妙なところだ。
 普通に考えれば同じ手段で倒せる相手ではない。
 が、怪物強盗はそんな"普通"が通用しないバケモノだ。
“もうここらでアレを使っちまうか……?”
“いいや駄目だ! アレはまだ早い!”
 アレはそれはこの上もなく馬鹿な戦法で、しかも使えるのは一度きりだ。
 確実なる"必殺"の瞬間まで、それは秘匿しておいたほうがいい。
 そんな思考を巡らす杏子の後方から、何かが飛翔してくる。
「――うおっ!?」
 それが何か、なんてことはもうどうだっていい。
 それはネウロが放った攻撃で、当たってはいけないものだということは確かだからだ。
 慌てて横に飛び跳ねた杏子が見たのは、瓦礫の一つが弾丸となって地面に突き刺さる姿だった。
 さっきまで杏子が居た場所を通過して、その先のアスファルトを粉々に砕いている。
 振り返れば、ネウロは何食わぬ顔でその場の瓦礫を持っていた。
 それを――至って軽い所作で、ぽいっと放り投げる。
 投げられた瓦礫は、音速をも越えるのではないかといった勢いで杏子に迫る!
“なんてッ……馬鹿な戦い方を考えるんだッ! アイツッ!!”
 そんなツッコミを心中で入れずにはいられなかった。
 杏子も大概"馬鹿な戦法"を考えているが、ヤツもそれに匹敵する馬鹿さ加減だ。
 あんないい加減に投げられた瓦礫が必殺の一撃になり得るなど誰が想像しようか。
 ネウロはあそこから瓦礫を投げ続けるだけで杏子を追い詰める事が出来るのだ。
 杏子に逃げるという選択肢がないのなら、此方から攻めなければどうにもならない。
 ネウロはきっと、杏子が逃げ出さないことまで察した上でその攻撃をしている。
“だったらお望み通り、仕掛けてやろーじゃねぇかッ!!”
 逃げるのをやめた杏子は、今まさに瓦礫を投げようとしていたネウロに向き直る。
 レミントンの銃口を構え、散弾を発射。同時にネウロは瓦礫を盾にする。
 銃弾は瓦礫を粉々に打ち砕いたが、今度はその破片が問題だ。
 空中で粉々に砕かれ、落下していく破片をネウロは、ぶんと腕を振って弾いた。
 最初に見た攻撃と同じだ。言うなれば、瓦礫で出来たショットガンだ。
「それでもッ!」
 もうそんなものに当たってたまるものか。
 杏子は突撃を止めて、上空に跳び上がった。
 だが、これは下策だ。
 上空での方向転換は不可能。散々ネウロに仕掛けた戦法ではないか。
 自由落下を始めた杏子目掛けて、ネウロは瓦礫を放り投げた。
 その瞬間――
「だとしてもッ!!」
 杏子の傍らのビルが、轟音を響かせ爆発した!

851衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:09:02 ID:0iUAlz8c0
 杏子が予めしかけておいた時限爆弾の一つがこのタイミングで作動したのだ。
 爆風は杏子の身体をふっ飛ばし、ネウロが投げた瓦礫は何もない場所を通過してゆく。
 自らの仕掛けた爆弾を、杏子は爆破攻撃でなく防御に転用したのだ。
 ズザザっと地面を転がり着地した杏子は、そのままブローニングを構え発射する。
 激しいマズルフラッシュ。怒涛の弾丸の嵐がネウロを襲う。
 ネウロが掴もうとした瓦礫には、先手を打ってレミントンの散弾を叩き込む。
 瓦礫はネウロが触れる前に粉々になって、ネウロは回避をするほか道がなくなった。
 逃げまどうネウロを、ブローニングの激しい射撃が何処までも追いたてる。
 そして、ブローニングの弾丸が追いたてる先は――!
 ドグォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
 三つ目と四つ目の時限爆弾が同時に起動した。
 ネウロの頭上のビルの壁が吹っ飛び、そこそこ巨大なビルが崩れ落ちた。
 もはや瓦礫などというレベルではない。へし折れたビルそのものが、空から降ってくるのだ。
 回避など間に合う筈もない。
 アレに押し潰されれば、如何なネウロといえどタダでは済むまい!
「勝ったッ! バトルロワイアル完!!」
 勝利の確信をもって叫ばれる杏子の絶叫。
 だがしかし――崩落を開始したビルは……
「なっ!?」
 空中で、静止した。
 ネウロを押し潰す筈だったビルは、地面から生えた太い木の幹によって支えられていた。
「…よもや貴様相手に朽ちる世界樹(イビルツリー)まで使わされる羽目になるとは……」
 そう呟いたネウロの眼が、ギロリと杏子を睨んだ。
 刹那、周囲のビルを引き裂いて、あちこちから木の幹がせり上がる!
 アスファルトもコンクリートも、何もかもを大地の力が破壊し蹂躙する!
 先の尖った刃のような幹は、当然杏子にも襲い掛かった!
「チッ……何だよ、コレッ!」
 バックステップで回避する杏子を、今度はネウロが放り投げた瓦礫が襲う。
 幸いにも、この瓦礫はレミントンの散弾で粉々に出来ることが分かっている。
 咄嗟にレミントンを構えようとするも、地面から突出し続ける幹がそれすら邪魔をする。
 瓦礫が杏子に到達する前に、何とか銃口を構えるも、もう既に遅すぎた。
 トリガーを引く前に、突き出したレミントンの銃口を瓦礫が押し潰した。
「うわぁぁぁーーーーーッ!!?」
 暴発した弾丸が、小さな凶器の嵐となって、今度は杏子を襲う。
 上半身から血飛沫を撒き散らしながら、杏子は地面に落下し、くずおれた。
 だが、この程度のダメージならば数秒で回復出来る。
 痛いのは、レミントンM870を失ってしまったことだ。
 これで"最強の重火器による武装"の一角が崩されたことになる。
「貴様……よもや武器を失ったことが失策だ、などと考えているワケではあるまいな?」
「なっ……」
 回復がまだ終わらぬうちに、ネウロは既に杏子の目前にまで迫っていた。
 まずい、回復が終わるまでは攻撃を受けるワケにはいかないというのに。
 二度目の時間稼ぎをしようにも、最早コイツに同じ手は通用しないだろう。
 杏子が次の手を思い付くよりも速く、
「ガッ――!?」
 ネウロの拳が杏子の頬を殴り飛ばした。
 まるで鈍器にでも殴られたような衝撃だった。
 否、鈍器どころではない。
 これが常人だったなら、頭はとうに吹っ飛んでいてもおかしくはない程の威力。
 脳にまで浸透する衝撃に、杏子は全ての身動きを封じられた。
 全身に力が入らない。ブローニングも右手からゴトリと落ちた。
 落下したそれをネウロの脚が踏み砕いて、最強の重機関銃もただのガラクタとなった。
 絶句する杏子の頭部を鷲掴みにしたネウロは、
「さて、お仕置きの時間だ」
 余裕たっぷりに破顔し、そんなことを言うのだ。
 ネウロはそのまま、杏子の頭を瓦礫に思い切り叩き付けた。
 視界がグラリと揺れて、そのまま意識が吹っ飛びそうになる。
 だが――
 そこで終わらないから、彼は怪物強盗なのだ。
 バァンッ!
 銃声が響いた。
 撃ったのは――杏子の脚だ。

852衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:09:34 ID:0iUAlz8c0
 ブーツから突き出た手の指の形をしたそれが、杏子のベレッタを握り締めていた。
 脚から手の指が生えるという、なんとも常識離れした光景だった。
 使い慣れない脚で銃を撃ったおかげか、狙いは定まらなかった。
 一応頭部を狙った筈の銃弾は、ネウロの右肩を撃ち抜いていった。
「………」
“撃ち抜け……た…?”
 レミントンの散弾ですら貫けなかったネウロの皮膚を。
 それよりも劣るベレッタごときの銃弾が、撃ち抜いた――
 どういうことだ? と考えるべくもなく、Xは気付いた。
“こいつ……弱体化してる…? それも、現在進行形で……?”
 ネウロの肩からつうと血が流れて、力が抜ける。
 いや、今はそんなことはどうだっていい。
 弱体化しているからなんだ、戦いが終わるまでは気が抜けない。
 拘束から解放された杏子は、すぐさまベレッタを手に構え直し嘯いた。
 大量のメダルと引き換えに、身体の方はもう随分と回復している。
「どうだい…ネウロ……? これでもアタシが…人間だってのか……?」
「………ああ、貴様は人間だよ、X(サイ)……どうしようもないくらいに…貴様は人間だ」
「ああ……そうかよ……」
 やっぱり……ネウロには、Xの正体は気付かれていたのか。
 別に驚きはない。寧ろ気付かれていなかった時の方が驚きだ。
 おそらく最初に出会ったあの瞬間からXの正体には気付かれていた。
 だからXも、一応杏子の口調で接してはいたが、無理に隠し通そうとはしなかった。
 この戦いに、もはやそんな隠しごとなどは無意味だからだ。
 ベレッタを向けるXに、ネウロは続ける。
「貴様の取った奇策は……どれも人間の策だ。我ら魔人のソレとは違う」
「貴様は…人間の考え得る策の中で、我が輩を打倒しようと努力しているのだ」
「それが人間でなくて何だというのだ? 貴様は紛れもない人間だよ、X」
 Xにとって、そんな言葉遊びはどうだってよかった。
 Xは人間であるかどうかの定義について論じる気はない。
 Xはただ、自分が何者であるかの正体が知りたいだけなのだから。
 そんなXの気持ちまで見抜いてか、ネウロは不敵に笑う。
「貴様は、我が輩の中身を見た所で満足など出来るワケがない」
「魔人の我が輩と人間の貴様では"根本"から違うのだからな」
 面白いことをいう男だ。
 そんなことは実際に確かめるまでわからない。
 この目で見て確かめないと、Xは納得をしない。
 だから――
「どうやらアンタとは……これ以上話しても無駄らしいな」
 あとはもう、実際にネウロを撃破して確かめるしかない。
 人間離れした動きでもって、Xは封印していた『必滅の黄薔薇』を抜いた。
 そう、「人間離れした動き」だ。人間では絶対に不可能な領域の速度でだ。
 至近距離から放たれた弾丸の如き一撃は、ネウロの心臓目掛けて放たれた。
 されど、それは同じく人間離れした速度で振り上げられた腕に弾かれる。
 そこからは激しい攻防のラッシュだった。
 絶え間ない攻撃を突き入れ続けるX。
 それら全てを防ぎ弾くネウロ。
 傍目には、両者の間で小さな嵐でも起こっているように見えただろう。
 それ程までに二人の攻防は常軌を逸していた。
“ちっ……これじゃ埒が明かない!”
 やがて、攻撃の反動を利用して先に飛び退いたのはXだった。
 後方に跳び離れ、ネウロ自身が出した樹の幹を蹴り――
「防ぎ切ってみせろよ、ネウロォッ!!」
 懐から、三つの即席爆弾を取り出し、うち一つをネウロの後方へと投げる。
 空に緩やかなアーチを描いて、爆弾はネウロを飛び越えその背後に落ちた。
 刹那、爆発。魔女すらも一撃で爆殺する威力の爆風がネウロを背後から襲う!
 Xは一つ目の爆弾が爆発し切る前に、真正面から二つ目の爆弾を放り込んでいた。
 爆風に吹っ飛ばされたネウロは、真正面から迫る爆弾にほんの一瞬反応を遅らせてしまった。
 例えこれを防いだところで、三つ目の爆弾もあるのだ。
 その事実が、ネウロに最善の判断を誤らせたのだろう。
「………」
 無言のまま、ネウロは前方から放たれた爆弾を爪で叩き落とす。
 ドグォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
 大爆発だ。
 ネウロは、巨大な爆発の渦に飲み込まれた。
 だが、それで倒せたなんてもう思わない。

853衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:10:05 ID:0iUAlz8c0
 Xは自分の肌が焼けることすらも構わずに、爆風の只中へと跳び込んでいった。
 狙うはネウロの心の臓! 必滅の黄薔薇の切先を、ネウロの心臓へといざ突き立てる!
「甘いぞ人間――その程度で我が輩をどうにか出来ると思ったか」
「……」
 必滅の黄薔薇の切先は、ネウロの手に掴まれていた。
 刃の切先を掴んだネウロの右手から真っ赤な血液が滴り落ちている。
 ネウロは余裕ぶっているが、実際にはそうではない。
 この男、もう既にかなり消耗しているのは明白だった。
「甘いのはどっちだよ」
「なに?」
 ネウロとX、両者の足元に――最後の爆弾が落ちていた。
 それが、ネウロもろともXをも吹き飛ばそうと大爆発を引き起こす。
 予め身構えていたXは、その爆風をも利用して遥か大空へと跳び上がった。
 ネウロが立っていたアスファルトは、爆発によって粉々に砕かれた。
 もはやネウロにとっては、足場すらもままならない筈だ。
 この一瞬に限っては――完全に逃げ場を封じたッ!!
「これで終わらせてやるよ……ネウロォッ!!」
 ビルを食い破る大樹と、あちこちで燃え上がる炎、穿たれたアスファルト、瓦礫だらけの街――
 空から見下ろした市街地は、もはや地獄というのも生温いほどの戦場となっていた。
 だが、そんな戦いもこれで終わるだろう。
 これが正真正銘、Xに残された最後の――"馬鹿な攻撃"だ。
 どんなバケモノでも、絶対に防ぎ切れないであろう"必殺の攻撃"だ。
 ましてや、今の弱り切ったネウロならば――絶対に回避は不能ッ!!
 Xは自由落下に身をまかせながら、四次元空間と化したデイバッグに腕を突っ込んだ。
 空に浮かんだまま、デイバッグから引き摺り出したのは――
 おそらく、Xにだからこそ支給されたのであろう、まったくもって馬鹿馬鹿しい打撃武器。

「タ ン ク ロ ー リ ー だ ァ ァ ァ ッ !!!」

 大空でXは絶叫するッ!!
 ネウロの視界いっぱいの空を埋め尽くす大型車両ッ!
 それは、鍵すらも支給されていなかったXの支給品ッ!
 だが、バケモノのXからすれば鍵のない乗り物などただの武器でしかないッ!
 大量の石油を満載したタンクローリーは、その重量によって一気に急降下する!
 最後の爆弾の爆破からものの一秒とたたず、Xのタンクローリー攻撃がネウロを押し潰さんと迫る!
「ダメ押しにもう一発ゥッッッ!!」
 そして、タンクローリーがいざネウロを押し潰す瞬間!
 Xは、タンクローリーの向こうのネウロ目掛けて、必滅の黄薔薇を投擲した!
 Xの怪力でもって放たれた槍はタンクローリーを穿ち、ネウロが元いた場所を貫く――
 刹那、穴をあけられたタンクローリーがネウロを押しつぶし、そして――

 ドッッッッグォォォォォ――――――――――――――――オオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 今までの爆発をゆうに越える勢いで、タンクローリーは大爆発を起こした。
 その大爆発の威力たるや、Xの視界をも光と炎で埋め尽くすほど。
 あらゆる「生」を許さぬ炎と衝撃が、市街地を蹂躙した。

          ○○○

854衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:10:40 ID:0iUAlz8c0
 
 炎に包まれた街の中で、地面に這いつくばっているのは、Xの方だった。
 全身に負った火傷は、Xの回復力ですらすぐには再生し切れない程だった。
 実感として感じる。メダルが、とんでもない勢いですり減っている。
“なん……で……ッ”
 攻撃を仕掛けたのは、Xの筈だった。
 絶対に脱出不可能な爆発+足場崩しからのタンクローリー+必滅の黄薔薇だ。
 これで生き残る奴がいたとしたら、そいつはもう正真正銘のバケモノだ。
 いや、ネウロは正真正銘のバケモノだが、だからって防がれるとは思ってなかった。
 ボロボロの地面の上、痛む身体を引き摺って、炎の外へと這い出るX。
 そんなXの腕を、何か強い衝撃が踏み躙った。
「がっ……ぁぁぁッ!?」
 目を白黒させながら、それをやった相手を見上げる。
 この状況でそんなことをするのは、脳噛ネウロただ一人だけだ。
 ネウロは、最早立っているのもやっとという程にフラついていた。
 全身は血まみれだ。服はボロボロに焼き裂けていて、まさしく満身創痍といった感じだった。
 極め付けは、ネウロの胸の真ん中に突き刺さった黄色の槍だ。
 心臓は外してしまったが、それでも回避する術もなく槍はネウロを穿っていたのだ。
「なんッ……でッ!?」
 Xの怨念混じりの嗚咽に、ネウロが応える。
「タンクローリーが我が輩を押し潰す直前……我が輩は魔帝7ツ兵器――『深海の蒸発(イビル・アクア)』を放ったのだ……」
「勝利を確信した貴様は……気付かなかったのだろう…我が輩の最後の攻撃に」
 なるほど、あの爆発の中Xが見た光は、タンクローリーの爆発ではなく、ネウロの攻撃だったというワケだ。
 深海の蒸発という名の巨大レーザービームが、Xの身体を呑み込み地に落としたのだ。
 だが、人間の領域を越えつつあるXを殺し切るには、その威力は僅かに足らなかった。
“いや……そうじゃあない…”
 足りないワケじゃあ、ない。
 Xには分かる。ネウロともあろう者が、今のX如きを殺せないワケがない。
 Xに攻撃をブッ放しても、殺し切れないワケがあるのだ。
 そして、この場でそんなものがあるとすれば、それはすなわち――
「ネウロ……メダル、切れたんだろ……ッ!」
 このバトルロワイアルにおける特殊ルールの一つ――メダルシステム。
 攻撃に必要な分のメダルを使い果たした時点で、本来の威力は引き出せない。
 Xは、ネウロのメダルを零枚になるまで使い切らせたのだ。
 もはやネウロに、これ以上の奇怪な武器は使えまい。
“だったらッ! まだ、勝てる……ッ! オレは、まだ……ネウロと、戦えるッ!!”
 負けられないのだ。この戦いだけは。
 Xの生きる目標となり得る相手が、今目の前にいるのだ。
 コイツの中身をみるまで、Xは負けられない。
 痛む身体に鞭打って、Xはネウロの脚を振り払った。
 ネウロと同じくらい満身創痍になったその身体で、Xは立ち上がった。
「負けられないね……オレは…この瞬間の………ためにッ!!」
 何としてでも、ネウロをこの手で倒し、そしてその中身を見るのだ!
 Xの瞳には、絶対に負けられないという強い覚悟が――
 ダイヤモンドのように固い決意が、今Xの双眸に宿っていた!
「ほう……?」
 そんなXに、何処か感心したように呟くネウロ。
 胸に突き刺さった黄色の槍に手を掛け、それを一気に引き抜くネウロ。
 傷口から鮮血が迸るが、それでもネウロはフラつきもせず、その場に立ち続けた。
「どうやらこの槍は……何らかの呪いが掛かっているらしい…」
「もはやこの傷は治癒不可能だろう……我が輩の能力をもってしても…」
 そういって、ネウロは引き抜いた必滅の黄薔薇を興味深そうに眺める。
 ネウロの言う通り、この宝具は、絶対に治癒不可能な傷を相手に負わせる宝具だった。
 RPGで例えるなら、HPの上限そのものを削ってしまうような反則級の武器だ。
 それはネウロやXのような『不死性』を武器とする参加者には天敵となり得る。
 それが分かっているからこそ、Xは絶句する。
 それが分かっているからこそ、ネウロは嗤う。
 必滅の黄薔薇を構えて、ネウロは不敵に口角を吊り上げた。
「これはお仕置きだ……死なない程度に…殺してやる」
 ネウロには、Xに攻撃をするだけの体力がまだ残っている。
 対するXには、ネウロの攻撃に対処するための体力はまだない。
 相手がただの人間なら、ベレッタで対抗することも出来ただろう。
 が、この相手に、今から銃を引き抜いたのではあまりにも遅すぎる。
 逃げ道もない。今背を向ければ確実に、回復不能の呪いの槍を突き立てられる。

855衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:12:46 ID:0iUAlz8c0
 だが、それでもXには――絶対に負けない、負けたくない、そんな『決意』があった。
“負けられないんだ……この…戦いだけはッ! こんなところじゃ…まだ……オレはッ!!”
 刹那、ネウロの槍が、Xを貫こうと閃いた。
 ヒュンッ!
 風を切る音。神速たる勢いで放たれる槍の一撃。
 その切先を……Xの左腕が、掴んでいた。
「な……に?」
 必滅の黄薔薇を掴んだXの左腕が真っ赤に染まる。
 赤黒く、血の色でXの左腕が染まり、醜く歪む。
「まだ……オレは………負けて、ない……ッ!!」
 Xの左腕は、人のモノではなくなっていた。
 肘から先が、ゴツゴツとした赤い、赤黒く醜い皮膚に覆われていた。
 鳥の翼が生えたように見受けられるその腕は、Xの腕ではない。
 赤き鳥類の王――アンクが持っていた左腕が今、Xの左腕に憑依していた。
 生身の掌なら、必滅の黄薔薇によって傷が付けられていたことだろう。
 が、アンクの固い皮膚をもって受け止めれば、それはダメージとはならない。
 それは、Xの強い決意に反応して、欲望の雛鳥が齎した奇跡だった。
 だが、そこにXを支配しようというアンクの意思はない。
 メダル一枚や二枚程度の意志如きで……
 Xのダイヤモンドのような決意を歪めることは不可能ッ!
 これはXの力だ。
 Xの意志で。
 Xのためだけに動く。
 Xの新たな左腕だ。
 戦いはまだまだこれからだ。
 本当の決着は、ここからだ。
 その左腕から炎を吐きだそうとした次の瞬間――
「グ……ッゥゥゥ――」
 Xの腹を、ネウロの拳が抉っていた。
 まるで大砲に穿たれたかのような衝撃が、満身創痍のXの全身に伝播する。
 あらゆる防御を掻い潜った不意打ちの一撃は、Xの体力を刈り取るには十分。
 時を待たずして、Xの左腕から、赤き装甲が消え去った。
 それを見届けると同時に、
“……そんなの…アリ…かよ………ッ”
 Xは己が意識を手放した。

          ○○○

 脚を引き摺りながら、ネウロは市街地を歩く。
 全身は火傷と傷だらけで、普通に考えれば生きていること自体が異常だ。
 ネウロはまさしく異常者だった。バケモノの中のバケモノ、魔人だった。
 例え胸に決して塞がる事のない穴を開けられても、それでもネウロは生きている。
 だが……流石に、もういつ死んでもおかしくはないレベルであることは自覚していた。
 魔界の瘴気の代わりになってくれていたメダルも今はもうないのだ。
「クク……バケモノをを倒すのは……いつだって…人間、か………」
 夕闇の空に、ネウロは一人呟く。
 あの怪物強盗Xは、紛れもない人間だ。
 進化を続け、ネウロを討たんと必死に挑む人間だ。
 そして、人間だからこそ、化け物のネウロをここまで追い込んだのだ。
 ネウロは進化を続けるXに期待すら抱いていた。
 だから、気絶させはしたが命までは奪わなかった。
 もっとも、あの黄色の槍だけは誰が持っていても厄介だからへし折らせて貰ったが。
 ネウロが槍をへし折るや否や、あの槍は光となって消滅した。
 これでネウロに大打撃を与えるような武装はもうそうそうないだろう。
 とはいえ、今回の戦いで負った傷はあまりにも大き過ぎる。
 何処かで傷を癒す必要がある――もっとも、胸の傷はもう癒えないが。
 それならば、ノブナガとの約束のために中心部に向かうのがいいだろうか?
“いや……その前に、何処かで休息をとるべきか”
 何処でもいい、何処かの民家で、 治癒の失速(イビルストール)でも装着してじっとしていた方がいいだろう。
 アレは装着してじっとしていれば、魔力を回復してくれる777ツ能力だ。
 この場で使えば、魔力の代わりにメダルぐらいは回復してくれるやもしれん。
 もっとも、あくまで「増加」ではなく「回復」である事を考えれば、
 元々のメダルの初期値よりも増え続けることはないのだろうが――
“とにかく、我が輩は疲れた。少し休むぞ”
 最早死人同然の身体を引き摺って、ネウロは一件の民家へ入っていった。
 インキュベーターは、無表情のままネウロのあとを付けていった。

856衰【すいたい】 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:13:14 ID:0iUAlz8c0
 

【一日目-夕方】
【E-4/民家】

【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】満身創痍(割と死にかけ)、ダメージ(極大)、疲労(極大)、胸に治癒不可能の穴(出血中)、右肩に銃創(出血中)、右手の平に治癒不可能の傷、全身に火傷
【首輪】0枚:0枚
【装備】魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす。
 0.今は休む。
 1.ノブナガと合流し鴻上ファウンデーションに向かう。
 2.表向きはいつも通り一般人を装う。
 3.知り合いと合流する。そう簡単に死ぬとは思えないので、優先はしない。
※DR戦後からの参戦。徐々に力は衰え始めています。
※ノブナガ、キュゥべえと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。
※しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
※現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」を使用しました。
 
 
 
【一日目 夕方】
【E-3/市街地 かなり東南寄り】
 
【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】気絶中、ダメージ(大:回復中)、疲労(大)、佐倉杏子の姿に変身中
【首輪】70枚(消費中):250枚
【コア】タカ(感情L):1、コンドル:1
【装備】佐倉杏子の衣服、ベレッタ(8/15)@まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式×4、詳細名簿@オリジナル、{“箱”の部品×28、ナイフ}@魔人探偵脳噛ネウロ、アゾット剣@Fate/Zero、ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜3(X+一夏+杏子:全て確認済み)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
 0.気絶中………………。
 1.ネウロに勝って中身をみたい。
 2.下記(思考3)レベルの参加者に勝つため、もっと強力な武器を探す。
 3.バーサーカーやセイバー、エンジェロイド達(カオスを除く:ニンフ以外、全員名前は知らない)にとても興味がある。
 4.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
 5.阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
 6.殺し合いそのものには興味は無い。
【備考】
※本編22話後より参加。
※能力の制限に気付きました。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。
※タカ(感情L)のコアメダルが、Xに何かしらの影響を与えている可能性があります。
 が、今のところロストアンクの意識は完全にXの強い意志によって支配されています。
※暁美ほむらの爆弾セット(時限式×5、即席爆弾×5)@魔法少女まどか☆マギカは佐倉杏子の支給品でした。
※レミントンM870@魔法少女まどか☆マギカは織斑一夏の支給品でした。
※ブローニングM2重機関銃@現実は織斑一夏の支給品でした。
※タンクローリー@現実はXの支給品でした。

【全体備考】
※E-3市街地の一角は壊滅状態です。
※ゲイ・ボウ@Fate/zeroは消滅しました。
※暁美ほむらの爆弾セット(時限式×5、即席爆弾×5)@魔法少女まどか☆マギカは全て消費されました。
※ブルースペイダー@仮面ライダーディケイドは破壊されました。
※ライダーベルト@仮面ライダーディケイドは跡形もなく吹っ飛びました。
※キャレコ@Fate/Zeroは跡形もなく吹っ飛びました。予備弾丸も全て消費されました。
※レミントンM870@魔法少女まどか☆マギカは破壊されました。
※ブローニングM2重機関銃@現実は破壊されました。
※タンクローリー@現実は破壊されました。

857名無しさん:2013/01/06(日) 01:15:17 ID:0iUAlz8c0
投下終了です。

858 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/06(日) 01:42:50 ID:0iUAlz8c0
早速ですがミス発見です。
ゲイ・ボウ消滅したので、ネウロの状態表の「治癒不可能」を削除します。
代わりに
※治癒不可能の傷を与えられていましたが、ゲイ・ボウが消滅したことで治癒可能になりました。
 他の傷よりも遅れて、徐々に回復出来るようになると思われます。
と追加します。

859名無しさん:2013/01/06(日) 10:17:49 ID:icIaQRBAO
投下乙です。
いやーこれ程の激闘になるとは、さすがこのロワ最強クラスの一人であるネウロと最速トップマーダーのサイだね。それにしてもまさかネウロが綿棒を評価するとは、やっぱり綿棒の実力は別格だったか…。結局は綿棒扱いだったけど。

860名無しさん:2013/01/06(日) 11:28:45 ID:UmUKGGBk0
投下乙です!
Xがあのネウロをここまで追い詰めるとは、流石だな。いや、Xもボロボロだけど。
てかタンクローリーってwwwwww

861名無しさん:2013/01/06(日) 15:45:10 ID:z0A158ME0
投下乙です

濃い、凄く濃いバトルだったぜ
激戦なのもあるが互いの想いのぶつけ合いもいいなあ
魔人と人間との対決は一段落付いたが…
ロワはまだ続く

862名無しさん:2013/01/06(日) 18:38:52 ID:o3uZnpAsO
投下乙です。

ベルトの扱われ方が酷いw確かに勝手に巻き付くけどw
タンクローリーを武器にしていいのは、元人間だけェッ!WRYY!

ネウロは、メダルを消費しても弱体化するんですか?メダルを消費してる間は弱体化が止まるのかと思ってました。

863名無しさん:2013/01/06(日) 19:25:03 ID:8EmYG0Ho0
>「クク……バケモノを倒すのは……いつだって…人間、か………」

なんかネウロがこの台詞を言うと凄い感傷深いなあ

864名無しさん:2013/01/07(月) 18:36:01 ID:6DhknP.s0
投下乙。
全開ロワ史上でもトップクラスに濃い戦闘描写だな〜、それにしてもネウロキャラなんて参加してなかったのに……まぁ参戦作品以外からの参戦なんて今更か〜
ビルハンマーとかベルト爆弾とか「 タ ン ク ロ ー リ ー だ ッ ! 」とか素晴らしい全開具合だけど、ネウロ弱体化しちゃうのかぁ全開ロワらしくないなぁ……
ん? メダル? メダルゥッ!? これオーズロワじゃねぇかーッ、ここにこんな全開なSS投下するなんて馬鹿じゃねーのwwwww 一生付いて行きます。

……はい、以下もう少し真面目にレスしますね。全開ロワ関係者の方及び◆QpsnHG41Mg氏、不快に思われていたら申し訳ありません。何卒ご容赦を。
いやまぁでも、上に述べた通り実に全開なSSですな。この勢い、この面白さ……許せるッ!
然りげ無く杏子(故人)ルックのXの左腕がロスアン化でまさにWロストアンコとかどう見てもヘルシングな会話内容とか、タンクローリーやダイヤモンドの如き意志っていうジョジョ風味とか、まさかのたかが綿棒されど綿棒という再評価とか、さらっと意志薄弱とかdisられる鳥頭とか何だこのネタの多さw
でもネウロの人間への評価とか、Xの自分を知りたいという意地とか、普通に熱い展開でもあって最高でした。改めて投下乙!

865名無しさん:2013/01/10(木) 19:04:53 ID:4GUzBBeg0
放送の予約来てたな

866名無しさん:2013/01/11(金) 00:52:31 ID:6sawfyO2O
少し遅れたが投下乙!
出来ればタンクローリーだっ!はネウロに言って欲しかった(声優的な意味で)

867名無しさん:2013/01/11(金) 10:12:32 ID:UnRB9o520
そういやネウロの声優DIOだったなwww

868名無しさん:2013/01/11(金) 21:13:27 ID:TKs088/U0
ついに放送か…

869名無しさん:2013/01/14(月) 22:28:06 ID:9NUw4wRY0
延長か…投下が楽しみで待ちきれないw

870 ◆qp1M9UH9gw:2013/01/15(火) 19:07:35 ID:WGdTAiuU0
投下開始します

871第一回放送-適者生存-  ◆qp1M9UH9gw:2013/01/15(火) 19:10:23 ID:WGdTAiuU0
【0】




 時計の針が18時00分を指した瞬間、鳴り響くのは鐘の音。




 カラン、カランと、西洋の鐘特有の、乾いた音が響き渡る。




 全ての者に平等な音量で耳に入り込んでくるそれは、一体何処から鳴っているのか。




そんな事を考える暇もなく、人々の運命を決める放送は始まった。

872第一回放送-適者生存- ◆qp1M9UH9gw:2013/01/15(火) 19:11:36 ID:WGdTAiuU0
【1】


 人間という生物は、常に欲望と共にあると言っていいでしょう。
 食欲、物欲、性欲、睡眠欲……無数の欲望がこの世界には溢れ返っています。
 欲望は美しい人間を汚し、やがては醜くしてしまう……これ程残酷な話はありません。

 しかし、欲望が人間を進化させる事もまた事実。
 生命は自分の欲望を叶える為に肉体を変化させ、環境を生き抜いてきたのです。

 ――この殺し合いで生き残りたいのなら、"進化"することです。

 進化なき生命、つまり欲望なき生命では、この戦いからは生還できません。
 自分の欲望を開放し、"進化"を続けていれば、自ずと道は見えてくるでしょう。
 誰よりも欲深く――つまりは、誰よりもこの環境に適応した者こそが、このゲームに勝利できるのです。

 ……ゲーム開始から六時間が経過しました。
 では予定通り、放送を開始させてもらいましょう。

 まず始めに、このこの時間までに死亡した参加者の発表です。
 一度しか言うつもりはありませんから、よく聞いておくと良いでしょう。

 アストレア
 アンク
 織斑一夏
 ガメル
 カリーナ・ライル
 キャスター
 剣崎一真
 佐倉杏子
 志筑仁美
 シャルロット・デュノア
 至郎田正影
 橋田至
 月影ノブヒコ
 ネイサン・シーモア
 ノブナガ
 左翔太郎
 間桐雁夜
 見月そはら

 以上18名が、この地で無事終末を迎えました。
 醜くなる前に自分を終わらせられた彼らは、ある意味では幸福と言えるのかもしれません。
 少なくとも、今生き残っている数名よりは、その在り方は美しいと言えるでしょう。

873第一回放送-適者生存- ◆qp1M9UH9gw:2013/01/15(火) 19:13:04 ID:WGdTAiuU0

 次に、「禁止エリア」の発表です。
 ルールブックに記載されていた通り、指定された禁止エリアに一定時間留まると、
 首輪に仕掛けられた爆弾が爆発する仕組みとなっています。
 最初に首輪を爆破された二人のようになりたくなければ、用心することです。

 【A−6】
 【D−3】
 【E−5】

 以上三つが、放送から二時間後に禁止エリアとなります。
 首輪の爆発などという美しくない"終末"など、我々は望んではいません。
 繰り返し言いますが、禁止エリアに関しては、細心の注意を払って下さい。

 続いて、各陣営のメダル数の発表です。
 この場に存在するコアメダルは合計62枚……その内、
 17枚を緑陣営が。
 11枚を赤陣営が。
 8枚を青陣営が。
 7枚を黄陣営が。
 4枚を白陣営が。
 そして、14枚を無所属が所持しています。

 今の所、緑陣営が最も有利な状況となっています。
 このままいけば、彼らが勝利を掴むのもそう遠くはないでしょう。
 他の陣営――特にリーダーを一時期失った白陣営と赤陣営の皆さんは、緑陣営を見習って奮闘して下さい。

 以上で、放送を終えさせてもらいます。
 生きていれば、六時間後にまたお会いしましょう。



 それでは皆さん、良き終末を――――。



.

874第一回放送-適者生存- ◆qp1M9UH9gw:2013/01/15(火) 19:15:25 ID:WGdTAiuU0
【2】


「楽しそうだね」

 暗闇が大部分を支配する部屋の中で、インキュベーターがそう言った。
 その言葉の行き先は、この空間の中で唯一の光源となっている、小型モニターの大群である。
 このゲームの参加者達の動向が映し出されたそれの前には、一人の人間が座っていた。
 "彼"は、後方の存在に気付きながらも、決してモニターに背を向けようとはしない。

「計画が順調に進んでて、気分が高揚してるのかな?」

 "そうだとも"という、"彼"の喜びの込もった声が返ってきた。
 "彼"は依然として、インキュベーターと対面する気配を見せない。
 白い獣はこの話題を早々に打ち切ると、別の話題を切り出した。

「今の所、主催側にも支障は出てないよ。
 でも、海東純一が不穏な空気を見せているね……清人は気にするなと言ったけど、
 僕としては、ああいう危険分子は迅速に対処するべきだと思うんだけど……」

 インキュベーターが全てを言い終える前に、"放っておけ"という"彼"の返答が飛んできた。
 この男にとっては、純一の謀反などさして気にする必要などないという事なのだろうか。
 それとも、この事態は既に予想の範疇にあった、とでも言いいたいのか。

「……そうかい。それならこれ以上言う事もないし、僕は失礼させてもらうよ」

 やはりこの男は理解し難い――"彼"に対して感情無き生物が抱いた感想は、この一言に尽きる。
 一体全体、"彼"は何を目的として行動しているのだろうか。
 真木と同様に終末を目指しているのか、それともグリード達のように、己の底抜けの欲望を満たそうとしているのだろうか。
 感情を持たない孵卵器には、それはどう頭を捻っても理解できない謎であった。

 しかし、人間の感情に理解を示せない生命体でも、ただ一つ分かる事がある。
 "彼"の"欲望"は、恐ろしい程に深く、
 そして、それが他者に齎すであろう"悪意"は、この場にいる誰よりも巨大であるという事。
 果たして"彼"は、地球に住まう人間と同種なのだろうかと、インキュベーターは疑念を抱かざるおえなかった。

875第一回放送-適者生存- ◆qp1M9UH9gw:2013/01/15(火) 19:16:38 ID:WGdTAiuU0
【3】


 生き残りたければ、欲するがいい。
 己の欲の赴くがままに、奪い、飾り、愛で、がめるといい。
 この血生臭い世界にとって、それこそが唯一絶対の法であり、適応すべき"環境"なのだから。
 欲に従っての闘争――認めよう。
 欲に従っての悪逆――認めよう。
 欲に従っての逃避――認めよう。
 欲に従っての反抗――認めよう。
 欲望から生まれ、やがては進化の礎となるのなら、全てを受け入れようではないか。

 盤面に残された駒の数は47。
 世界に適応できずに、盤面から零れ落ちた駒達の欲望を食らって、彼らは進んでいく。
 無限の欲望の果てにあるのは、永劫の輝きを放つ"王"の座か、それとも――。






       ――――またどこかで、メダル《欲望》の散らばる音がする――――






【残り 47人】

※【"彼"@????】の存在が確認されました。

876 ◆qp1M9UH9gw:2013/01/15(火) 19:16:57 ID:WGdTAiuU0
投下終了です

877名無しさん:2013/01/15(火) 19:27:39 ID:cKrs6WQA0
投下乙です!!!

第一放送突破とは感慨深いですね…
そして彼が誰なのか気になる、とても気になる

878名無しさん:2013/01/15(火) 20:24:06 ID:qf77u0Pg0
投下乙
主催陣営気になるなー

879名無しさん:2013/01/15(火) 21:24:20 ID:z0vAmy9M0
投下乙です

清人の辛気臭くて腹の立つ言いぐさな放送がまたなあw
そして彼か
今判る面々の上に立てそうな奴とか凄く気になるぜ

放送が本スレに投下されて24時間後に予約解禁だったなあ

880名無しさん:2013/01/15(火) 22:34:51 ID:zrLLq3ws0
投下乙です。
"悪意"を齎す"彼"……何となく、正体が想像できるのですが、果たして何者なのか。
それはそうとして、放送を聞いた参加者達はどうなるのか。

881名無しさん:2013/01/16(水) 13:10:59 ID:0yaCfMgMO
投下乙です。

「アンク」って名前だけだと、本体なのか右腕以外なのか判らないな。
映司はどう思うんだろうか。

882名無しさん:2013/01/17(木) 00:38:31 ID:nAue32aU0
放送投下乙ですー
支給品でマスコット扱いだったキュゥべえが主催と接触かー
そして「彼」が登場した・・・!
死亡者や自分の所属陣営のメダル状況をきいて参加者がどう動くのかも見放せない

883名無しさん:2013/01/17(木) 13:49:34 ID:Y9l5ArCQ0
予約来てるぞ

884 ◆z9JH9su20Q:2013/01/21(月) 23:22:12 ID:5bIUsm9g0
これより投下を開始します。

885絞【ちっそく】 ◆z9JH9su20Q:2013/01/21(月) 23:23:28 ID:5bIUsm9g0

 身体に入ったヒビが治らない。抜け落ちた色が戻らない。
 治癒の失速(イビルストール)が発動できない。
 泥の指輪(イビルディバーシー)で髪を束ねても――魔力(メダル)が、戻らない。
 E-4にある小さな民家に入ってすぐのところで、壁に背中を預けて四肢を投げ出したまま休息をとるが、体力も魔力も一向に回復する気配がない。
 滑稽なほど脆弱な現状に、しかし脳噛ネウロは感心を覚えていた。
「我が輩をここまで縛るとは……やるではないか」
 ――やはり人間は、素敵だ。
 掌をじっと見て、その干からびた末端がまた亀裂を走らせた様に、ネウロは逆に笑みを深めた。
 元より瘴気の不足した人間の世界にあって、魔人が弱るのは自明の理であった。
 海の中で虎が生きられないように、本来その世界にはない異物が歓迎されるはずはない。そんな当たり前の法則を、ネウロは強大な魔力で強引に捻じ曲げ生きて来た。
 だがこの首輪は、そんなネウロの我が儘を許さない。
 ネウロを会場に君臨する暴君ではなく、ルールの奴隷として調教しようとしているのだ。
「面白い」
 魔界の猛者共ですら叶わなかったことを、遥かに力の劣る人間が成そうとする。
 その思い上がりと、思い上がらせるに足るだけの技術――すなわちその知恵が。
 その知識を獲得させ、またこんな酔狂な催しを行わせるだけの悪意に満ちた欲望が。
 きっとネウロも見たことがない、最上の謎を生み出してくれることだろう――!
「面白いぞ、人間よ……!」
 主催者に劣るであろうXですら、ダイヤモンドのような意志を以て、ネウロをここまで追い詰めてみせた。
 ならば真木清人は、あの冷徹な仮面の奥にどれほどの激情を秘めていようか!
「どうしたんだい?」
 いつの間にか追いついていたのだろう。開いたままの扉から姿を見せたキュゥべえが、ネウロの独白に疑問を投げて来た。
「この首輪で我が輩の上に立った気でいる愚か者を、後で調教してやるのは実に楽しみだと思ってな」
「事実として、そのせいで手酷く追い詰められているようだけれど?」
「構わん。それだけこれは優秀な“謎”ということだ」
「なるほど。人間は時に、物事を客観的でない受け取り方をすることがあるけれど、魔人もそれは変わりがないようだね」
 負け惜しみ、とでもキュゥべえは思っているのだろう。
 確かに、ネウロにもまだ攻略の緒が見つかっていないというのは事実であるが、しかしそれだけだ。
 ネウロはまだ生きているのだから。
 生きている限りは、必ずそれを得る機会は巡って来る。そう確信していた。
 そして、それだけではない。
 Xとの戦闘で齎されたのは、消耗ばかりではなかったからだ。
「それに……この昂ぶりは、貴様の話を聞いたからでもある」
 人類の進化の礎となったと自称する存在、インキュベーター。
 その一個体との対話で内心に生まれた、ネウロにとって喜ばしい考え。それを確信させるに足る人間の可能性を、Xは確かに見せてくれたのだから。
「魔法少女のことかい?」
 察しが良い。ネウロは小さく――最早、大仰な動きがするだけの体力がないだけであるが――頷き、しかし弱り果てようと変わらぬ喜悦の滲んだ声を上げる。
「貴様のやり口はともかくとしてだ。魔法少女の感情のエネルギーは、広大な宇宙の滅びをも回避させるほどの可能性があると、貴様が教えてくれた」
 尾を揺らしながらも行儀正しくお座りしたキュゥべえの内心に構わず、ネウロは続けた。
「……思春期の少女が選ばれているのは、単に貴様らにとっての効率の問題だ。我が輩の好みには関係ない」
「何が言いたいんだい?」

886絞【ちっそく】 ◆z9JH9su20Q:2013/01/21(月) 23:25:39 ID:5bIUsm9g0

「つまりは……希望の、絶望の。悪意の、欲望の。人間の感情に潜むエネルギーは、まさに無限の宇宙をも凌駕する力であると、我が輩は改めて確信できたのだ。
 即ち我が輩の飢えを永久に満たす、究極の謎がこの世のどこかにあるとな」
 これほど昂る理由が、他にあるだろうか。
 そう言わんばかりにネウロは、崩れながらキュゥべえとの距離を詰めた。
「そして我が輩にここまでの不便を強いる悪意だぞ? これが究極の謎の候補でなければ何だと言う」
 くくくと喉を鳴らして、ネウロはそれを戒める銀環を指差した。
「それが向こうから我が輩を招いてくれたのだ。これが笑わずにいられるか」
「僕には理解できないね」
 尾を揺らしながらのキュゥべえの予想通りの返答に、しかしネウロは取り合わない。
 ヤツに感情がないことは、ネウロとて先刻承知している。
 それでも会話の形となったことで、予想通りネウロの感情の“わざとらしさ”をわずかながらも削いでくれた。
 シックスとのドSサミットで痛感したことであるが、“謎”は天然物に限る。
 これは感情に偽りの色が混じるのが、その素晴らしさをどれほど損なうことであるかを物語っていると、ネウロは判断している。
 それはこの場での、欲望を満たすという感情でも同じことだろう。

 ――チリン、と。メダルの増える音がした。

(ふむ……やはりな)
 この首輪か、あるいは会場か――ともかくバトルロワイアルの影響下にある限り、第一に優先される法則はそのルールだ。
 ネウロの桁外れな魔力すらもその規格の中に押さえ込む、絶対の掟だ。
 故に魔力の代替えであるセルメダルが減少すればネウロは弱体化するし、ルールでそうと定められている以上、魔力を消費せず回復させる魔界777ツ能力ですら、発動コストの支払いが叶わなければ運用できない。
 その制限を力尽くで突破できるかというと、業腹だが今のコンディションでは無理だと結論するしかない。
 ならば不愉快だが、ここは一旦そのルールに迎合する。
 ルールによってセルメダルがなければ何もできないのなら、ルールに従いセルメダルを創り出す。
 欲望を実行した度合いとは、要はどれだけ満たされているのかだ。それが直接的な要因であろうと、間接的なものであろうと、程度の差はあれ満足したという事実は変わらない。
 ネウロは独白と、キュゥべえと――相互理解の意志がない上辺だけの形ながらも、会話を行うことによって、己の“食欲”を満たす機会に直面しているという認識を強めた。
 それはネウロを満ち足りた気分へ誘い、セルメダルを増加させる結果に繋がったのだ。
(だが所詮、この程度か……)
 ネウロは微量ながら落胆し、それを溜息として吐き出す。
 セルメダルの増加量は僅か一枚。直接の食事ではなく、その機会が近いという余りにも間接的な状況への感情。その上、セルの増加が狙えるのではないかという打算が混ざった養殖物と呼ぶべき代物だ。
 ひょっとすると、そもそもそんな欲望を満たすための欲望は、セルの増加に貢献し辛いのかもしれない。でなければ欲望を満たす際にセルメダルを増やしたいと思っているだけで、後はセルが増えれば、それで欲が満たされまたセルが増えるというループに突入してしまう。真木はそんな愚挙を犯す輩ではないだろうと、ネウロは取り留めなく思う。
「――もし、君のあてが外れたらどうするんだい?」
 不意に投げられたキュゥべえの問いかけに、ネウロは笑みを返した。
「これがハズレだとすれば……本物に出会うその時までは、我が輩は貴様らと餌場の取り合いにでも興じるのだろうな」
 仮にヤツの言う通り、人類の発展にインキュベーターの干渉が不可欠だったのならば、ネウロはそのことは感謝しなければならないだろう。
 だが同じ人間の感情を狙う者同士、魔人とインキュベーターは遠からず対立する定めにある。

887絞【ちっそく】 ◆z9JH9su20Q:2013/01/21(月) 23:26:39 ID:5bIUsm9g0

 ましてや、魔法少女を犠牲にし、魔女を育てる過程でその他の人間まで死亡させる危険を生み続けるインキュベーターという種族は、結論すればネウロの敵でしかなかった。
 それは向こうからしても、せっせと育てて来た自分達の畑を奪(と)りに来た魔人に対する認識として、同様の結論に至っていることだろう。
「その場合、宇宙の崩壊はどうするつもりなのかな?」
「我が輩も餌場がなくなっては困るのだ、人間も宇宙も守るに決まっているだろう」
「思っていた以上に楽天家のようだね、魔人というのは」
「先に行ったことを忘れたのか? 人間が無限の可能性を秘めているのなら、それは宇宙の法則をも凌駕するだろう。ならば必ず人間は、貴様らと違う方法で解決策を見つけ出す。その芽を減らす魔女は当然、生みの親共々我が輩の“敵”というわけだ」
「……君と対立することは、できれば遠慮したいね」
 感情の篭っていない声のままのキュゥべえの返答を、ネウロはしかしまた無視していた。
(さて、この一枚だけで能力を使えるのか……)
 ようやく得られたその一枚について、ネウロは考察する。
 ルールブックによれば、能力の発動コスト、そのレートの目安は約1〜5枚。仮にネウロの能力で魔力と同じようにメダル数が回復できるとしても、ルールに記された以外の方法である以上発動コストは安くはないと見るべきだろう。例外も存在する中での目安でしかないことを考えると余りに心許ない。
 消耗で思考が鈍ったネウロが判断をつけ兼ねていると、不意に聞こえて来た物があった。
 玲瓏ながら、同時に酷く乾いた音色で以て、西洋の鐘が鳴る。
 突然響いたそれの音源がどこかと、意識を絞る前に――
 ネウロは作り出したばかりの、一枚限りのセルメダルが消失する感覚を味わった。
「――!?」
 同時に。亀裂の走る感覚が、衰弱しきった全身を襲った。
 直後、塞がり始めていた傷口から、夥しい勢いで鮮血が再噴出した。
 さらには身体の表面に新たな割れ目が生じ、剥がれた皮膚がハラハラと、床に広がった血の海へと舞い落ちて行く。

 ――人間という生物は、常に欲望と共にあると言っていいでしょう。

 全身で生じた激痛と虚脱感に苛まれていたネウロの耳が拾ったのは、そんな文句から始まった、真木清人の演説だった。
 これが説明されていた放送か、と認識しながら、痛苦と目眩を振り払ったネウロが最初に関心を向けたのはその続きではなく、メダルが消失したタイミングについてだった。

 セルメダルが消えたのは、放送開始の瞬間と全くの同時。すなわち十八時ちょうど。
 綿棒戦後と、その後のノブナガを探していた時に気づいたメダルの消費タイミングも、それぞれ時計の長針が十二を指した前後だっただろうことをネウロは思い出す。
(なるほど。ここに連れて来られる前の、常時少しずつ漏れて行く感覚とは違うと思っていたが……どうやらちょうど一時間周期で我が輩の魔力(メダル)が減っているようだな)
 だが最初の内は気づかなかった。仮にキュゥべぇの対話で“知識欲”が満たされていたのだとしても、それで増えるのは精々五枚もないだろう。だとすればその時は、それ以下の消費量だったということか。
 だが綿棒との戦いの直後や、Xとの遭遇直前にネウロを襲ったセルメダルの消失は、どちらも十枚を超えていた。だからこそ意識させられたし、それだけの消耗があったからこそ、Xの策が効果を成すほどにネウロは弱っていた。
 今は持っていかれるセルメダルが一枚しかなかったから判別できないが、おそらくは時間の経過と共にセルメダルの消費量は増えている。
 髪留めに使う泥の指輪の数も変わっていないのに、何故消耗が激しくなっているのか……と。そこまで考えたところで、ネウロの脳裏に、現状を説明できる一つの仮説が閃いた。
「……我が輩の肉体の、維持コストということか」

888絞【ちっそく】 ◆z9JH9su20Q:2013/01/21(月) 23:28:14 ID:5bIUsm9g0

 放送の本題に至るまでの、前置きが長くて助かったというべきか。ネウロにはこの危機的状況を受け止めるための、少しばかりの時間が与えられていた。
 繰り返すが、ネウロは本来魔界の住人だ。人間にとっての空気に等しい、瘴気がまるでない世界では本来生存できないのを、強靭な魔力のみで補っている状況にあった。
 つまり、魔力を用いて命を維持している状態にあるのが今のネウロと言える。
 そしてルールブックには、確かに記載がしてあった。
 能力の維持コストは、シグマ算で消費量が増えて行くと――!
「まずいな……」
 維持コストは、維持終了まで増加を繰り返し、また支払いも続けなくてはならない。
 そしてネウロの肉体の維持が必要ない状況とは――瘴気で深呼吸を行った時か、もしくは――
 ――死を迎えた、その後しかない。
「苦しそうだね」
「……黙っておけ。放送が聞こえん」
 半死半生の魔人という、滅多にない観察対象を前にしてか。心なし赤い双眸を輝かせ、一歩近寄ってきたキュゥべえを、ネウロは追い払うような声を上げる。
 実際は放送以上に、自身の置かれた状況をどう凌ぐのかを、ネウロは必死に考えていた。
 仮に今の、魔力(メダル)も瘴気もない状況が続けば、遠からずネウロは“窒息”死する。
 人間における窒息の症状は、第Ⅰ期から第Ⅴ期までの五段階に分類されている。その内の第Ⅳ期以降になると、最早回復は望めないという。
 魔人と人間は全く異なる生物だが、仮に維持コストの消費タイミングが人間で言う窒息のフェイズの進行タイミングと同期しているとすれば。その際症状を緩和し、現状維持に支払われるセルメダルが不足しただけ、“窒息”の症状が悪化して行くとしたら。
 ――ネウロに残された猶予は、果たして後どれほどなのだろうか……?

 また、維持コストという概念は、ネウロに自身の想定が甘かったことを痛感させていた。
 おそらく、治癒の失速で魔力を回復することはできない。
 これは本来長い時間を費やして魔力を微量ずつ回復して行く、持続型の能力だ。持続型ということはつまり、メダルルール下では発動状態を維持するためのコストが必要となる。
 発動コストが必要であることを考えると、本来は魔力を消費しない能力であろうと能力として使用している以上は例外なく、メダルルールの対象に該当することは間違いない。
 また、治癒の失速の回復スピードが決して高い物ではないことを考えると、シグマ算で増えて行く維持コストの支払いに回復したメダル数はすぐに追い越される。
 仮に一度しか使えないこの能力を、メダル数の変域が正である内に切り上げたとしても……それではどの道、次の一時間後……推定28枚分の、肉体維持の方のコストは賄えない。
 泥の指輪での回復も同様だ。こちらは最終手段として噛み砕き、魔界の泥を摂取することで瞬間的な魔力回復ができるため、ひょっとするとまだ目がある――どうせ一度しか使えないならそちらを選択すべきだろうが、指輪の数が減ると魔力消費が高まるという欠点がある。制限を脱した後のことも考えると、不用意に消費したくはない。
 それよりはルールを活用し、コアメダルを手にした方が余程良いだろうが、コアメダル使用後の待機時間も気にかかる。このままでは22時以降では維持コストが50枚を超える計算になるのだから、再使用可能までに一時間以上掛かっているようでは焼け石に水だ。
 もう少し早く気づけていれば話は別だったが、16時時点での比較的大きなメダル消費を、シャドームーンに与えられたダメージによる消耗だけだと勘違いしていたのが痛かった。あの綿棒、本当に役に立たないどころか、厄介な土産を置いて行ってくれたものだ。
 今のネウロを苦しめるのは、気づいた時にはもう遅い――遅効性の致死毒だった。

(メダルの補充は対処療法に過ぎん。解毒に真に必要なのは……瘴気か)
 ルールブックの記述内容を思い出し、ネウロはそう結論付ける。
 維持コストがシグマ算的に跳ね上がるのは、対象となる能力があくまで維持されている、即ち継続している間だ。一旦瘴気で深呼吸できれば肉体のコンディションは整い、一時的でも魔力での維持が終了したのだから、コスト設定も初期値に戻ることだろう。
 だが、この会場のどこに都合良く瘴気があるだろうか。支給品として存在する可能性は不明な点が多過ぎるため一旦無視するとなると、可能性があるのはC-4、C-5に跨って存在する火山だが、もしもハズレであれば……
 思案に耽るネウロの耳に、さらに追い討ちをかけるような言葉が突き刺さる。

889絞【ちっそく】 ◆z9JH9su20Q:2013/01/21(月) 23:29:59 ID:5bIUsm9g0

 ――ノブナガ

 死者の羅列を読み上げる真木の声に呼ばれたのは、同行者だった探し人の名だ。

 ――以上18名が、この地で無事終末を迎えました。

 そうして積み上げられた屍の数……即ち消失した謎の数に、ネウロは衝撃を覚えた。
 禁止エリアの位置を記憶しながらも、心は依然、その前の犠牲者の発表に掴まれ続けているほどに。
 十八人の死者。その数だけネウロは空腹を満たすチャンスを失い、
 真木清人の思惑を許し――敗北した。

 一見、犠牲者の数で言えば電人HALや新しい血族DRの犯行に比べて、幾分劣るように思えるかもしれない。
 だがそれらで人が死んだのは、ネウロがそもそも手を出せなかった状況であったことがほとんどだ。言うなればこれまでは勝負自体を避けられた上での失態であって、今のように同じ場所に閉じ込められた上で、手が回らなかったという明確な敗北はなかった。
 その上で、ノブナガのような比較的親しい者を初めて失ったことが、ネウロの精神的なショックに拍車をかけていた。
 あの男には強い欲望があり、悪意があり……その上で、性根までは人の道を外れた者でなかったように思う。
 何やら消耗した様子だったとはいえ、生きてさえいれば。おそらくはお気に入りの奴隷どもにも負けぬほど、ネウロの役に立つ存在となり得たかもしれなかったのに。
 そんな有力な手駒が盤上から降り、二度と戻ってくることのないという喪失感――
 これが……死。
 人の命が失われるということ。無限の可能性が損なわれ、有限になって行くということ。
 それに対する忌避を痛感させられた上での、この十八の死だ。堪えないはずがない。
 しかも、死はこれで終わりではないのだ。
 バトルロワイアルという、真木の犯行は終わってはいない。主催側のグリードが三体も健在な以上、これからも多くの者が命を落として行くだろうし、真木が度々語る彼の欲望、終末のために手を緩めることはないだろう。
 対して今のネウロに、何ができるというのだろうか。
「お困りのようだね」
 そんなネウロの、内心の弱音に漬け込むかのように、紅い瞳の獣は話しかけて来た。
「さっきまでの覇気すらなくなった……今の君だと、僕らの脅威にはなりそうにないなぁ」
 どこか嘲笑するような物言いに、ネウロは苛立ち混じりにキュゥべえを睨みつけた。
「それでも……今ここで、貴様を始末するくらいならできるぞ?」
「おっと。誤解しないで欲しいな。僕は君という個体を失うのは、勿体無いと思っているんだよ?」
 人に化けた掌を、魔人本来の鋭く尖った爪の集まりに戻したネウロに対し、キュゥべえは慌てた様子もなしに制止の言葉を掛けて来た。
「魔人という存在は、僕らにとっても未知のサンプルだ。魔法少女とは根幹から異なる、しかも今は消費してしまっているとはいえ、観測史上でも希なほどの膨大な魔力を秘めている生命体。ひょっとすると君は、宇宙を救う新しい希望かもしれないと僕は見ている」
 ぱたりと、暗い部屋の中でキュゥべえが尾を振った。
「だから、君のことを他の参加者に売るような真似はしないよ……とはいえ、別に助けもしないけどね。ただ、観察は続けさせて貰うよ」
 逆に、それ以上の興味などないと言わんばかりの無表情で、キュゥべえは宣告してくる。
 ネウロは底を観察するように見ようとして――やめた。ヤツに感情がないということや、真実を聞かれない限り隠すことはあっても積極的に嘘を吐くことがないというのは、重々言い聞かされており――それが事実だろうと、ネウロ自身認めているのだから。
 消耗で乱れた息を整えながら、ネウロは魔人の爪を引っ込めた。
「……そうか。ならばこの場は見逃してやろう」
 そんな弱々しい虚勢を張ることしか、ネウロの現状は許さなかった。

890絞【ちっそく】 ◆z9JH9su20Q:2013/01/21(月) 23:32:11 ID:5bIUsm9g0

「わかってくれて、僕も安心し――ぷぎゅっ」
 会話の途中でキュゥべえが奇声を発したのは、別に彼の気が狂ったというわけではない。
 頷いたと同時にネウロの伸ばした爪先が、その頬を抉ったための悲鳴だった。
 怪我をしない程度に加減した一撃だったが、快い蹴り抜いた感触と、何かにぶつかったのか子気味いい転倒音が響いて来たのを聞いて、ネウロは幾許か胸の内をすっとさせる。
「むっ、メダルが増えたな」
 そちら側に視線を向けることなく、己の行動が起こした結果にふんふんとネウロは頷く。
 どうやら予想通り、ドSな感情を満たしたことでもメダルは増加するようだと納得していると、影の中でもそりとキュゥべえが立ち上がり、歩み寄って来る気配が伝わって来た。
「痛いじゃないか」
「調教する側である、我が輩相手に偉そうな口を叩いた仕置だ」
「この場は見逃してくれるんじゃなかったのかな」
「貴様の命の話だ。我が輩の手が出ないなど言ってはいないぞ」
 感情を伴わない抗議の声を、ネウロはそう極悪な笑顔で黙殺する。
「確かに我が輩、人の死というのをこれほど重く受け取ったことはなかったからな。元が繊細なので少しばかりセンチになっていたが、貴様如きが心配しようなど差し出がましいにも程があるぞ」
「繊細っていう君の自己認識は、間違っていると僕は思うけどね」
「とはいえ確かに……現状、我が輩は真木の思い描いたままに事態を進行させてしまっている上、暫くは満足に力も使えないとあっては、今は敗北を認めざるを得ないな」
 キュゥべえの言葉を無視しながら、ネウロは素直に現状を受け入れた。
 そう……意地を張っていても、腹は膨れないのだから。
 美味い食事にありつきたければ、今のネウロに何ができるのかを、楽観にも悲観にも、どちらにもブレることなく正しく見極めなければならないのだ。
「魚にとっての海や、魔人にとっての魔界と同じように……バトルロワイアルという環境では、現状主催者が最も力を発揮できるのだろう」
 それはまるで、かつてネウロを追い詰めたあの電人のように。
 相手の土俵に策もなく飛び込んでは、勝てる相手ではない。
「ならば奴の望み通り、我が輩も一先ずこのバトルロワイアルに“適応”しておいてやるとするか」
「意外だね」
 ネウロの言葉に、初めて言葉と仕草が一致した反応をキュゥべえは見せた。
「それじゃあ君が、さらなる敗北を認めているようなものじゃないか」
「少し違うぞインキュベーターよ。貴様は人間を進化させたと豪語しておいて、その有名な諺も知らぬようだな」
 たっぷり見下しながら、ネウロは教授してやる。
「勝てば官軍という言葉がある。我が輩の腹を満たすという、真の目的さえ忘れなければ……過程や方法なぞどうでも良い。最終的に、勝てば良かろうなのだ」
「それなら僕達のことも見逃して欲しいんだけどなぁ」
 繰り言を口にするキュゥべえに、ネウロは内心辟易した心地で答える。
「何度も言わせるな。我が輩のその真の目的に、貴様らが合わんと言っているのだ」
 まあ、そんなことはどうでも良いとネウロは言葉を継ぐ。
「まずはメダルルールに適応し、我が輩の魔力を取り戻す。このバトルロワイアルという環境を破壊してやるのは、その後の話だ」
 それは例えば、人間が地上の覇権を握ってから、気ままにその環境を破壊したように。
 ルールには適応すれど、バトルロワイアルにまで従うつもりは毛頭ない。
 一つ違うのは――同じ地球という環境内に生息する他の生命を滅亡させる一昔前の人類や新しい血族とは違い、ネウロは同じバトルロワイアル参加者の保護を、己の生存を確保するための譲れない主目的の一つと見据えていることだろうか。
「そう都合良く行くのかな?」
 水を差してきたキュゥべえだったが、また慌てた様子もなく、しかし間を置かずに言葉を続けてくる。
「別に嫌がらせで言っているわけじゃないよ?」
「そのようなことは既に我が輩も承知している」
 若干鬱陶しく感じ始めながら、白い獣へネウロは口を開く。
「だが……人の死を嘆くばかりでも仕方ないだろう。これ以上の無駄死には遠慮願いたいが、既に死んでしまった事実が覆せないのなら、それを我が輩にとって“無駄”にしないよう苦心するというわけだ」
 ネウロは現在、絶賛大ピンチの真っ只中だが。
 見方を変えれば――ピンチは、チャンスだ。
 見方を変えねばならないほど、気づけば人の考えに染まっていた己にネウロは苦笑する。もっとも、今の風体で一般人と偽り通すのは無理があるだろうが。

891絞【ちっそく】 ◆z9JH9su20Q:2013/01/21(月) 23:33:51 ID:5bIUsm9g0

「……人が殺されたのなら、それは事件であり、犯人が存在し、その結果を齎した”悪意”が存在する。ならばそこに、粗末ながらも我が輩の食料があるということではないか」
 もちろん今最優先すべきは、根本的な解決に必要な瘴気であるが。
 そもそものネウロの目的を、栄養源を、欲望を――忘れては、ならないだろう。

 ――バトルロワイアルで参加者が抱く悪意は、主催者によって強制された養殖物、ではないかという考えも一瞬、頭を過ぎった。
 確かにそういった物もあるかもしれない。だがそれだけではない、とネウロは結論する。
 かつてシックスが用意した養殖物に比べれば、殺し合いの強制力はまだ弱い。ノブナガのように、それに己の意思で抗える者がいるのだから。
 つまり、殺し合いに乗った者の中には、環境という要因こそあれど、自らの意思でそこに“適応”した者がいる可能性は極めて高いのだ。
 またXや綿棒、グリードのように、最初から強力な悪意を備えていた者も存在している。
 ならば問題ない――積み上げられた十八の死の内、ネウロの舌に見合う純正の“悪意”により作り出された物も必ず存在しているはずだ。
 瘴気が見つかるまでに、命を繋ぐための魔力――メダル集めが難航しても、それを回復するアテはあるということだ。ネウロ本来のやり方で。
 何しろメダルを狙う参加者は数多くいようと――こんなものをエネルギー源とする生物など、ネウロしかいないのだから。
 獲物を狙った競争者がいない。その時点で、ネウロはその環境で生き残るための、一つのアドバンテージを持つことになるだろう。
 呼吸ができない不利だけでなく――環境に“適応”する上で強力な武器の一つを、既にネウロは持っていた。
 それがある限りは、制限という毒に蝕まれようと、克服を諦めるには早すぎる。
 さて――まずは今日を生き抜くために、腹拵えと行こう。
 そう考えて、ネウロは体に鞭打ち起き上がった。

「さあ……“謎”を喰いに行くぞ」



【一日目-夜】
【E-4/民家出口】

【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】満身創痍(割と死にかけ)、ダメージ(極大)、疲労(極大)、胸に穴(再出血中)、右肩に銃創(再出血中)、右手の平に傷、全身に火傷
【首輪】2枚:0枚
【装備】魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器
【道具】基本支給品一式、キュゥべえ@魔法少女まどか☆マギカ
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす。
 0.ルールに“適応”し、その上でバトルロワイアルを瓦解させる。
 1.瘴気を探す。
 2.上記の目的のために、「クウガの世界」の灯溶山を目指すべきか?
 2.並行してコアか大量のセル、もしくは魔力なしでも喰える“謎”を探す。
 3.知り合いと合流する。そう簡単に死ぬとは思えないので、優先はしない。
※DR戦後からの参戦。
※ノブナガ、キュゥべえと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。
※魔界777ツ能力、魔帝7ツ兵器は他人に支給されたもの以外は使用できます。
※しかし、魔界777ツ能力は一つにつき一度しか使用できません。
※現在「妖謡・魔」「激痛の翼」「透け透けの鎧」「醜い姿見」を使用しました。
※制限下ではセルメダルが魔力替わりのため、メダル数が多ければ多いほどネウロの体調は安定し、またその魔人としての力も強大なものとなります(参戦時期の強さ=セルメダル100枚時点の強さです)。
 しかし、瘴気のない環境での肉体維持に魔力を消費していたため、同様の維持コストとして一時間ごと(毎時0分)にセルメダルを消費します。
また、維持コストはシグマ算式で増加するため、後になるほど支払うメダル量は増加します。支払いのタイミングで必要なだけのセルメダルが足りなかった場合、人間で言う窒息の進行に似た形でのダメージを受けます。
※瘴気での呼吸ができた場合は、その時点で維持状態が終了となります。瘴気で呼吸した後に、また瘴気のない環境に戻るとその時点から改めて維持状態に突入します(この際、シグマ算で増えた維持コストはまた初期値に戻ります)。
※セルメダル(=魔力)も瘴気もない状態でネウロがどれだけ生存できるのか、具体的には後続の書き手さんにお任せします。
※ネウロ自身の能力で、“欲望を満たさず”にセルメダル数を“回復”(※増加ではない)できるか、またその上限値などの詳細については後続の書き手さんにお任せします。
※ネウロの目的地については後続の書き手さんにお任せします。

892 ◆z9JH9su20Q:2013/01/21(月) 23:35:38 ID:5bIUsm9g0
以上で投下終了です。
何かありましたら、またご指摘等よろしくお願い致します。

893名無しさん:2013/01/21(月) 23:44:51 ID:LR.ZzbUQ0
投下乙です。
ネウロはボロボロでもキュウべぇを相手にドSぶりを発揮して、謎を喰う為に動くとは流石だ。
てか、地味に綿棒……もといノブヒコさんの事は覚えてるんだw
ネウロは強キャラだけど、本当ならそれを発揮するのに瘴気が必要だから、この場じゃ何気に不利なのかな?
近くに弥子がいるけど、無事に会えますように……

894名無しさん:2013/01/22(火) 00:07:22 ID:Le5zU/960
乙ですー
魔法少女の希望から絶望への相転移も、謎に潜む悪意も人間の感情エネルギーか
今後いろんな参加者と接触して興味を持つのか楽しみなところ
チートキャラだったけどXとの戦闘で大ダメージ負った上、
瘴気のない環境下では窒息が進むとかかなり枷ができたな
メダルの維持コストが増加形式なのもキツい
それでも自分の欲望のためにバトルロワイアルのルールに「適応」しようとするのがさすがネウロ

放送で呼ばれたシロタの名前には反応しなかったかw
元々関心あるのは謎であって謎を食った後の人間には関心薄かったからなー

895名無しさん:2013/01/22(火) 00:08:22 ID:ytllyunw0
投下乙です!!!

魔法少女から人間の進化の可能性を見出すとか流石はネウロ
宇宙の崩壊を解決する方法を人間なら見つけるって言葉の説得力もネウロだからこそだろうなあ
もうちょっと早く道が交わってればまどマギの世界ももう少し救いのある形になっていかたかもしれないと思うと切なくなってくるね…

896名無しさん:2013/01/22(火) 13:22:51 ID:srT27VW2O
投下乙です。

ステルスマーダーの敵、探偵が活動を開始した!

897名無しさん:2013/01/22(火) 13:51:58 ID:GIuxqiQI0
投下乙です

まどマギとネウロがクロスするとこうなるのかあ
いや、目からうろこというか素直に感心した

898 ◆SrxCX.Oges:2013/01/23(水) 18:49:38 ID:ZUDEE.yQ0
予約分の投下を開始します。

899 ◆SrxCX.Oges:2013/01/23(水) 18:49:59 ID:ZUDEE.yQ0
「一夏さん?」
 虚空に向かってある名前を口に出すけれど、その名を持つ少年からの返事は無い。
 それでも、まるで壊れたレコードが同じ一節を延々と繰り返すかのように、彼女はその名前を呼び続ける。
 いつか成果が出るかもしれない、なんて甘い想像と共に。
「どこにいるんですかあ?」
 とぼとぼと、よろよろと、ふらふらと。
 アスファルトで舗装された地面の上を進むその足取りは不安定でしかない。
 蛇行する軌跡は彼女が平常な状態と言えない証であり、乱れに乱れ続ける進行方向は彼女が明確な目的地を持たない証。
 きっとどこかで逢えるはず、という程度の漠然とした指針が彼女を突き動しているだけだ。
「私、貴方のためならなんでもしちゃえるんですのよ?」
 覚悟は胸にある。
 邪魔者達からいくら傷を負わされようとも、敵を倒すためにいくら命を削ろうとも。
 最後に生き残れば勝ちなのだ。それさえ満たせば、欲しいものを掴み取れるできるのだから。
 欲しいもののためになら、戦う覚悟はある。そのためにも前へ、前へ。
「だから早くここに来てくださいませんか? ねえ、一夏さん?」

 午後六時と共に始まった定時放送の内容で彼女が唯一覚えているのは、織斑一夏という少年の名前が呼ばれたということ。
 既に一人をその手にかけて、この空間における死というモノの存在感を確実に味わった彼女の頭が、その名が呼ばれたことの意味を理解できないわけがない。
 それでも彼女は、告げられた絶対的な事実の方こそが偽りだというかのように一夏を探し求めていた。
 答えの来ない呼びかけと、目的地の存在しない移動と、成果の出ない行為への覚悟の確認とを、ひたすらに続けていた。
「一夏さん、これで終わりなんて酷いお話、私は嫌ですわよ? 私の幸せには貴方が必要なんですの、おわかりでしょう?」
 客観的な理論に対して私的な感情論を持ち出して、幼児の駄々にも等しい理屈をこねて。ただ虚しい我儘だけが、彼女に辛うじて最後の悪足掻きをさせていた。

 申し訳程度に街灯が照らすだけの果て無い暗闇に包まれているなら、普通は不明瞭さゆえの漠然とした不安を抱きそうなものだ。
 しかし、本来なら生じるはずのそんな不安さえ存在を許されないほどに、今の彼女の心は空っぽ。目の前に存在する闇に劣らないほどに、今の彼女の両の瞳は真っ暗。
 それは彼女が唯一縋り付けるモノ、恋い慕う少年への愛が行き場を失ってしまい、未来への希望が絶たれたから。
 ……それでも。
 彼女は女として求める愛の欲望のために、友情も倫理もとっくに捨ててしまったから。
「私、貴方が大好きなんですのよ……!?」
 永遠に実らない愛だけを支えとも呼べないような支えにするしか……ひとりぼっちのセシリア・オルコットには残されていない。

900 ◆SrxCX.Oges:2013/01/23(水) 18:50:46 ID:ZUDEE.yQ0



 もしも狂ってしまうことが出来たならば、それはむしろ気楽な話なのかもしれない。
 彼と共に生きらえる場所に戻るためだ、彼以外の者達がどうなろうと知ったことかと叫んで。標的と見なした他人を躊躇なく切り捨てて、その度に目指す到達点へ着実に近づく喜びを実感して、その果てに彼との日々を掴み取って。数多の犠牲の上に成り立つ自らの命を嘆き悲しむ彼の隣に座って、私が満足できるのだから十分じゃないかと言って、血濡れの身体で彼を抱き寄せて。
 そんな道を歩むことが出来たなら、その惨さにも耐えうるほどに心が凍りついてしまったなら。彼以外の犠牲になど罪悪感を抱く必要もなく、彼ただ一人だけに向ける情愛を胸に抱き、前に進むだけで済むのだから。つまり、物事を簡単に考えられるという意味では気楽な話なのかもしれない。
 そんな想像に頭を巡らせて。けれど、想像よりも先には進めなかった。
 一夏のことを考えれば、彼に惹かれて集まった教え子達の姿が過ぎる。一夏と同じく、仲間と一緒に形作る輪から外されてしまった篠ノ之箒が、箒と一夏を喪えば千冬しか親身になれる相手がいない篠ノ之束が過ぎる。
 一夏以外の者達のことを考えれば、箒の命を奪った真木清人の無機質な面構えが、探究心に溺れた井坂の毒々しい笑顔が。修羅へ堕ちようとした千冬を止めるために立ち塞がり、千冬を傷つけるのではなく千冬を守るためだけにその拳を振るい、佇む千冬の傍らで静かに待ち続ける小野寺ユウスケの姿が過ぎる。
 一夏ではない者達に思いを馳せて、それらから目を逸らすことも拒絶することもしようとしない自身の姿に気付き、同時に理解できてしまったのだ。
 ユウスケとの死闘から自ら手を引いた時点で、本当の意味で優勝を目指す資格などとっくに失くしていたことに。人間として、大人として、教師として今まで背負い込んだ数多くを、自分の独善のために放って捨てることなど今更できやしないことに。
 だから、答えは決まる。
 最も守りたかった存在である一夏の死は、受け入れる。まだ守れるかもしれない、いや、守らなければならない生徒達のために、一夏以外の者達のために戦う。それを成すためにも、一夏の亡骸を前に何もしないで立ち止まる時間はもう終わりだ。立ち上がり、別れを告げて、ユウスケと共に歩み出そう。
 それが新たに、そして改めて見出した千冬の望み。

 背負ったモノを捨てないためには、多くのことを考えなければならない。
 病院に辿り着くまではディバッグに入っていたはずの地の石が、いつの間にか消えていた。あれが万が一悪意ある何者かによって回収されてしまった時には、こちらの意向などお構い無しにユウスケはその魔力によって物言わぬ傀儡に成り果て、悪人の命ずるままに暴虐を尽くすことになってしまう。
 それを嫌だと感じるのは、自分の命惜しさだけではなくユウスケの意思が踏みにじられることへの嫌悪感ゆえだろう。
 その悪行に及ぶだろう敵として挙げられる“一夏の偽物”は、必ず討たねばならない。個人的な私怨が無いと言えば、やはり嘘になる。それでも先のことを見据えると、激情に身を委ねるわけにはいかないと自制の必要を忘れることはしない。少なくとも、今は出来る。
 もう一人の候補だった赤いグリードは、どうやら既に命を落としたらしい。病院を発ってから主催者による定時放送の時を迎えるまでの間、千冬の首に巻かれた首輪のランプの色が赤から紫へ変わっていたことがその根拠だ。確実に何らかの戦いが起こったに違いない以上、あのグリードの軌跡を追って事態を究明するべきだと考えた。
 とはいえ実際に得られた成果といえば、フィリップ達が乗っていたはずのダブルチェイサーの回収と、少し離れた地点での戦闘の形跡くらいだったが。
 その程度の成果しか得られなかった歯痒さが、定時放送で告げられた認めがたい事実に死に打ちのめされた心を一層苦しめる。フィリップ一人を置いて先に逝ってしまった翔太郎とアストレアの名前と共に、教師として今度こそ守るべきと決めた生徒の一人、シャルロット・デュノアの名前が呼ばれた、その事実に。
 生徒の犠牲などもうこれ以上出さないと決めた矢先にこのザマだ。自分のエゴを捨てて進んだ道で待っていたのは、またも押し付けられた喪失の痛みだというわけだ。なんと滑稽で、なんと残酷な話だろう。
 それでも、折れるわけにはいかない。守りたいものを背負っていこうと決めたのだから。守れなかった痛みだって背負って、その上で足を踏み出さなければならないのだから。

 そうして軋む音に耐え続けた千冬の心にも、あと僅かで午後七時を迎えようという時になり、ようやく光が差すことになる。
 バイクのヘッドライトが照らす前方で織斑千冬が見つけたのは、守りたいと願った少女の一人、セシリア・オルコットの姿だった。

901 ◆SrxCX.Oges:2013/01/23(水) 18:52:10 ID:ZUDEE.yQ0



 眩い光が視界を埋めたと思えば、誰かに呼ばれたような気がした
 そのまま何となく立ちすくんでいると、誰かが目の前まで駆け寄ってきた。
 再び名前を呼びかけてくるその人物の顔をぼんやりと眺めてみる。
「あ、」
 一瞬だけ、探し求めた少年の顔を見つけたのだろうかと期待して、しかしそれは一瞬で消える。
「やっと会えたか、オルコット」
「織斑先生」
 その少年に顔立ちが似ているだけの女性、織斑千冬だったと気付くのに時間はかからなかった。
 どうして怪我を負っているのか、誰かに襲われたのか、などと聞いてくるが、答える気力が湧かない。
 それなのに、ずっと問い続けた疑問をぶつけることは出来た。
「織斑先生。一夏さんは」
「一夏?」
「一夏さんは……どこにいらっしゃるんでしょう?」
「……」
 目の前の千冬の顔が僅かに寂寥に染まり、目が伏せられる。
 しかしその時間は数秒で終わり、真っ直ぐにこちらを見つめ直した。
「……一夏は、もうどこにもいない」
 たった一言で、セシリアの心が大きく波立った。
「少し前にこの目で一夏の遺体を見た。白式も奪われたようだが、それは回収した。
 さっきの放送を嘘だと思いたいのかもしれないが、あの内容は事実だ。だから一夏は……死んだ。おそらく、デュノアも同じだろう」
 よりにもよって、貴方がそれを言ってしまうのか。
 彼女がディバックから取り出した白の腕輪と、自分ではない誰かでさえが認めてしまう言葉の二つがセシリアの胸に刺さる。無理矢理に取り繕った砦が最後の止めとばかりにとんと突かれ、みるみる崩れさっていく。
 もはや、言い訳する気力さえ湧かない。自分の願望など覆い尽くしてしまうように、この頭も心も、気が付いたら彼の消失を遂に認めてしまっていた。
「――ぁ、ああ、あ……」
 身体を包む、暗い海の底へ溺れて沈んでいくような感覚。
 悪夢はしょせん夢だと一笑に付すはずだったのに、現実として訪れてしまった。
 彼を慕う心が実らないと決めつけられる瞬間、最も訪れてはいけない瞬間だというのに、現実はどこまでも我儘で、残酷だ。
「…………こんな……あんまり――」
 涙は流れない。この一時間で既に出せる分は全て出してしまい、乾いた跡が二本だけ顔に残るだけだ。
 悲鳴とも嗚咽ともつかない声が、震える口から途切れ途切れに零れていくのを止めることなど、とても出来るわけがなかった。
 このまま放っておけば、この口から一夏への恨み言さえ出てしまうような気がした。

「……オルコット」
 どこか慎重に、千冬が声をかけてくる。
「織斑先生、」
 白いキャンバスにぽつりと新しい色を垂らすように、千冬の姿がセシリアの視界に映り込む。

 織斑千冬。
 ――織斑一夏のたった一人の肉親。セシリアよりずっと長く一夏と寄り添って生きてきた姉。恋愛とは異なる形で一夏を愛し、また一夏に愛されていただろう人。
 ――今のセシリアと同じ絶望に呑み込まれているに違いない女性。ある意味で、鏡写しになった自分の姿。

902 ◆SrxCX.Oges:2013/01/23(水) 18:53:23 ID:ZUDEE.yQ0

「……お前の気持ちも、決してわからなくはない」
 やっぱり、思った通りだ。
 彼女はこの気持ちをわかってくれるはず。涙の受け皿になってくれるはず。彼女と一緒に慟哭し合えるはず。
「私、」
 千冬に何を言おうとしているのか、セシリア自身にもわからない。
 でも、千冬に少なからず期待を抱いたのだろう。胸を穿つ喪失感に対する共感を、どうしようもなく重い痛みを分かち合える一言を貰えると思っていた。
 だって、二人は一夏に置いてけぼりを食らったひとりぼっち同士なのだから。やっと見つけた、一緒にいつまでもいつまでも暗闇の中で佇んでいられる相手だと確信していたから。

 だから。
「……だが、今は鳳やボーデヴィッヒを探そうと思う。私とここにいる小野寺と一緒に、お前も来い」
「――――――――え?」
 次に紡がれた千冬の言葉が、全く理解できなかった。

「ここから抜け出すには、まずあいつらを見つけてやらんことには始まらない。連中を倒すのに力がいるというのもあるが……まあ、これ以上真木の思い通りになって死なせるわけにいかないだろう」
 どうして。千冬はこんな話をしているのだろう。一夏が死んだというこの時に。
「とりあえず一緒に行動するだけでも安全は確保できるはずだ。……お前も今すぐ力になれ、とは今は言わん。ただ、最低でも私たちとは一緒にいるべきだ」
 どうして。千冬はこんなに冷静なのだろう。一夏を想って咽び泣いてもおかしくないはずなのに。何の希望も見いだせずに立ち尽くすのが自然な姿のはずなのに。現に、今のセシリア自身がそうなのに。
「できるか?」
 どうして。千冬は鈴音の話を、ラウラの話をしているのだろう。
 一夏ではない誰か“なんか”の話をしているのだろう。



 千冬が一夏の死を嘆くように、ユウスケは真木によって18人もの死を突き付けられたことに衝撃を受けていた。
 死者として名を連ねられた者達の中には左翔太郎がいた。彼が話に聞いたというワイルドタイガーの仲間のヒーロー二人がいた。アストレアがいた。彼女の友人の平和な日常に生きる少女がいた。千冬が守ると誓ったはずのシャルロットがいた。井坂を始めとした名前を把握している悪人達は、キャスターを除けば誰も呼ばれなかった。
 放送が終わると共に、誰かの笑顔が不条理に消されてしまった嘆きが生まれ、蔓延る邪悪を防げなかった無力感が上乗せされ、一緒に時間を過ごしたいと思えた仲間を奪われた悔しさが加えられる。悪に抗う意志が折れることは無くとも、消せない確かな傷を負わせるには十分だった。
 だから、守れなかった人がいるならば、せめて生きていると分かった人達だけは守りたいと強く思う。悪意を撒き散らす敵が立ちはだかるなら、力の行使に躊躇いは無い。改めて、覚悟が形作られる。
 なのに、士との向き合い方には完全な答えを出せていない。誰かを傷つけるならば許せないから止めたい。それでも、肩を並べた仲間だから戦いたくない。変わり果てた彼の姿を目の当たりにしてから抱える迷いは、未だ振り切れずにいる。士と築いた絆は、ユウスケにとって迷うだけの価値があるのだから。
 それでも、この六時間で知らされた殺し合いの危機感と背負わされた悲しみと、犠牲者の象徴として見せられた千冬のあの顔は、ある一つの指針のようなものをユウスケに与えていた。
 士が士自身の意志で“破壊”のための戦いに身を投じた理由を知り、本当に、本当に改めることが不可能だと分かってしまった場合は……やはり、仮面ライダークウガとして戦うべきなのだろう。
 士の笑顔を奪いたいなど絶対に思えないけれども、心を押し殺してでも拳を振るうしかない時が来たならば、逃げ出すことはしたくない。
 守る覚悟と、戦う覚悟と、そして不確かながらも悲痛な覚悟。それが、感傷を経て抱いたユウスケの覚悟。

 そのための力を得るために、井坂との戦闘で発現したという“赤の金のクウガ”のことを知りたい。
 正直なところ、無我夢中だったがために自分の姿が変わったことなど全く認識できていない。しかし、井坂や士のような強敵達と何度も対峙しなければならない以上、今以上の力が欲しい。もしも一度限りの偶然でないなら、どうにかして新たなる力を完全に会得したいと思う。尤も、その手掛かりも無い以上、今は後回しだ。

903 ◆SrxCX.Oges:2013/01/23(水) 18:55:48 ID:ZUDEE.yQ0

 だから、まずはここでセシリア・オルコットと向き合うことにする。
 ユウスケにすら一目でわかるほどに彼女が希望を失った一番の理由が千冬と同じく一夏の死にあることは、千冬から聞かされた情報とセシリア自身の問いかけから明らかだった。尤も、家族愛と恋慕の情という意味では千冬の場合と異なるのだが。それに口には出していないが、友達のシャルロットの死も関わるのだろう。
 此処で初めて出会った彼女と積み重ねた時間は無いに等しいのだから、親愛する者として寄り添うことで癒しを与えるやり方はユウスケには選べない。この方法は、千冬と今もどこかで生きているセシリアの友達に託すとしよう。
 ユウスケが武器に出来るのは、誰かを守る仮面ライダーの心だ。
 大切な人を奪われるのは誰にとっても悲しいことで、心から望まぬ道を強いられるのも誰にとっても悲しいことで、だからどんな理由でも穏やかな日常を生きるべき子が道を踏み外すのはとても悲しいことだ。
 憎悪に身を委ねて自らの身を傷つけ続けるより、遺された者と一緒に身を癒す方が最後には幸せになれるはずだ。
 敵ばかりの環境が傷を癒すことを許さないというのなら、その環境こそ仮面ライダーとして許せない自分が身を挺して時間を稼げばいい。
 そうして優しく励ますことなら出来るから、セシリアに届けと言葉を紡いだ。どうか、セシリアが少しずつでも一夏のいない日々を受け入れて、笑顔で生きられるようにと願いながら。

 そんな、誰かに笑顔でいてほしいというユウスケの願いは、同じく大切な人を喪った千冬にも向けられる。しかし、ユウスケが千冬の笑顔を見たことは無いのだと言えば嘘になる。たった一度だけ、彼女の笑顔を見ているから。
 それは一夏を埋葬した簡素な墓から再び旅立つ時のことだった。新たな一歩を踏み出す決意を言葉にして、心配をかけまいとするために胸を張り、最後にさよならを告げた時、千冬は確かに笑っていた。
 どことなく不器用な、少し触れるだけで崩れ落ちてしまいそうな、そんな儚い微笑みだった。
 きっと悲しみに完全に呑み込まれない千冬の強さの表れで、同時に悲しくても表に出すわけにいかない千冬の強がりの表れなのだろう。
 人の笑顔はこうあるべきだ、こんな笑顔は誤りだ、なんて語る気はない。たとえ快活に見えなくとも、今の千冬が彼女なりに形作れる笑顔だというなら受け止める。
 このことをわかっているから、完全とは言えなくとも千冬が立ち直ったと理解したと同時に首輪の中でセルメダルが増える感覚を得た。誰かの行為を見届けるというのもまた、一つの欲望なのだろう。
 それでも、たとえ高望みを強いているとわかっていても、やはり千冬には別の笑顔を見せてほしいとも思った。彼女に告げることはしないが、本当は哭きたいのではないかと疑わせることのない、心からの希望を感じさせる笑顔になってほしいと思ってしまう自分の心は偽りたくなかった。
 だから、一夏を喪った少女の痛みを癒そうと努める千冬が、同じ痛みを抱えたままだとわかってしまうから。
 遺された大切な人達の笑顔を守るために戦う彼女の笑顔も、自分の力で守りたい。なんて、改めて思えてくるような気がした。



904 ◆SrxCX.Oges:2013/01/23(水) 18:56:45 ID:ZUDEE.yQ0



 ――彼女への不可解が短い時を経て変質した姿は、名付けるとしたら“失望”だ。

 セシリアと異なる形とはいえ、同じく一夏を強く愛していると思っていた千冬。ただ彼だけを思って共に涙を流すはずだった千冬。
 でも、一夏以外の誰かが云々と言ってあっさりと別の方向に目を向けて、今また何やら語りかけてくる彼女を見る限り、どうやら彼女への印象は勘違いに過ぎなかったようだ。
 同じく誰よりも彼を慕っているセシリアは、こうして何も考えられずに動けなくなってしまっているのに。一夏の存在がそれだけ大きいのだから。
 ならば、もしも一夏を喪っても何事も無かったかのように振る舞っている者がいるのだとしたら……それは、その者の彼への愛が矮小だっただけという話なのだろう。
 セシリアには今や全く価値を見出せないモノに執心できる余裕があるのは、一夏の死を経ても“そんなことより”の一言で流してしまえるからこそに違いない。
 セシリアを絶対の基準として考えれば、一夏への想いを過去だと流した今の千冬の姿は断じて正常ではないと言わざるを得ない。
 だから、千冬は一夏に矮小な愛しか注いでいなかったという結論にしか繋がらない。
 織斑千冬は、セシリアの真の理解者とはなり得ない。
 そうだ。そうに決まっているじゃないか。
「……私も一夏を失くして悲しくないわけじゃない。それでも、戦うことは出来るさ」
 ああ、なんて腹立たしい。
 人生と最も嘆き悲しむべき時にどうでもいいモノを見つめられる人だったなんて。セシリアと千冬の間に、まさか隔絶させた意識の差が存在したなんて。救いようのない薄情者のくせに、家族愛という一夏からの想いを供給されていたなんて。
 ほんの一瞬だけでもこんな千冬に何かを期待したセシリア自身に、そして応えられもしないのに期待だけ抱かせるような真似をした千冬に腹が立つ。
 なのに、千冬はセシリアを内心で落胆させるだけでは終わらない。
「オルコット。時間はかかってもいい。だから、道だけは踏み外すな」
「……俺も、君には幸せになってほしい。今はまだ難しいかもしれないけれど、君にも友達と一緒に笑ってほしいと思う」
 千冬の手がこちらへ差し伸べられる。さあ、お前も一緒に一夏のいない明日を生きようじゃないか、と。
 何やらしきりに口を挟むユウスケとかいう男と仲良く、一夏ではない何かについて説いている千冬の示す明日とは、果たしてどんな明日だろうか。
 遺された人間をセシリアとセシリア以外に分けたとして、そこに生きる人間は全てセシリア以外の人間だ。
 一夏の死を些末とみなす千冬や、そもそも一夏のことを知りもしないユウスケのような連中が蔓延る未来だ。
 その中にセシリアを仲間入りさせたいというのはつまり、セシリアもその世界の住人となる条件を満たせということだろう。
 一夏以外の誰かに惚けろと。一夏抜きで仲良しの輪を作りその中で戯れろと。一夏のいる世界からいない世界へ移動した人間の象徴の、織斑千冬に同化しろと。
 奇異で耳障りな理屈をこねるその連中は、最後にセシリアの気持ちに対してこう告げているように思えてならなかった。

「……全てが終わったら皆で、一夏と、篠ノ之と、デュノアを弔おう」
 お前の一夏への愛など、別のモノで上から塗り潰してしまえ。

 ――期待を裏切られた失望は、やがて“憎悪”になる。

905 ◆SrxCX.Oges:2013/01/23(水) 18:57:35 ID:ZUDEE.yQ0

「織斑先生」
 だから、答えは決まる。
 一夏への愛を真に理解できない連中と手を取り合うなど、一夏のいない日常に染まることなど、絶対に。
「……わかりました。一緒に行かせてもらいます」
 絶対に、拒絶する。
 無為な世界に連れ出そうと付き纏う連中だから、目の前から消し去るために武器を手に取るだけだ。
「今の私に何が出来るのかわかりませんけれど、何か、したいとは思うんです」
 疲弊した今の身体には、銃を武器にする力は無い。ならば、彼らの独善に愛されるこの身体を武器にすれば良い。取り入って庇護されて、身体を癒してメダルを増やして、チャンスが巡った時にこそ改めて銃弾を浴びせればいいだけの話だ。
 どこの誰とも知らない者を愛する奴がこの命を狙うから、取るに足らない者と愛を築く奴がこの情熱を取り除こうとするから、抗うために戦える。
 これが、この身を動かす原動力。
「……よし」
 千冬の右手にそっと髪を撫でられる。鬱陶しい、とは言わない。力で抗うのが叶わないから、今は拒まず受け入れる。
「セシリアちゃん、俺達の来た方向には誰もいなかった。俺達がまだ言ってない方向に行こうと思うんだけど、どうする?」
「え? ああ、でしたらあちらの方へ行きましょう」
 身の安全を確保するために、まずはセシリアの本来の目的を知るラウラ達から逃げるべきだ。彼女らとの遭遇を避けられそうな方向を指定して、案内されるままにサイドカーに乗り込む。隣にこんな男を座らせるなんて、とは言わない。
「わかった。ここも危険だし、はやく行こう」
「へ、なぜ?」
「あと一時間で禁止エリアになるという意味だが……オルコット、聞いていなかったのか?」
 そう言って、聞き逃した情報を教えてくれた。この点は素直に感謝しよう。
 名簿に印をつけていない総勢47人の名前を眺める。効率的に命を守るために協力できそうな青陣営の参加者は何人だろうか。そして、自分の志向を否定しそうな邪魔者は何十人いるのだろうか。ぼんやりと考えながら。

 バイクのエンジン音が唸りを上げ始める。出発の時が迫ると知ると共に、やり残したことに気付いた。
「織斑先生」
「ん、何だ?」
 それは、ただの自分の意志の再確認。こんなに近くに寄り添わせて時間を共に過ごすのは、あくまで殺すまでの準備期間。もう彼らと心を通わせることはない。いつか別れを迎えるための確固たる殺意と、それを悟らせないための念押しとして。
「ありがとうございました」
「……ああ」
 感謝の言葉を捧げてやった。上手く笑えていた、と思う。



【一日目 夜】
【D-3 路上】

【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】健康、ダブルチェイサー(バイク部分)に乗車・運転中
【首輪】20枚:0枚
【コア】クワガタ:1(一定時間使用不能)
【装備】ダブルチェイサー@TIGER&BUNNY
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
 1.千冬さん、セシリアと一緒に行動する。
 2.千冬さんとみんなを守る。仮面ライダークウガとして戦う。
 3.井坂深紅觔、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 6.”赤の金のクウガ”の力を会得したい。
 5.士とは戦いたくない。しかし最悪の場合は士とも戦うしかない。
 6.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし千冬から聞かされたのみで、ユウスケ自身には覚醒した自覚がありません。
※千冬が立ち直ったこと、セシリアを保護したことによりセルメダルが増加しました。

906 ◆SrxCX.Oges:2013/01/23(水) 18:58:32 ID:ZUDEE.yQ0

【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(中)、疲労(小)、深い悲しみ、ダブルチェイサー(バイク部分)の後部座席に乗車中
【首輪】130枚:0枚
【装備】白式@インフィニット・ストラトス、シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:生徒達を守り、真木を討つ。
 1.小野寺、オルコットと一緒に行動する。
 2.鳳、ボーデヴィッヒとも合流したい。
 3.一夏の……偽物?
 4.井坂深紅觔、士、織斑一夏の偽物を警戒。
 5.小野寺は一夏に似ている。
【備考】
※参戦時期不明
※白式のISスーツは、千冬には合っていません。
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。
※セシリアを保護したことによりセルメダルが増加しました。

【セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス】
【所属】青
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、精神疲労(極大)、倫理観の麻痺、一夏への依存、ダブルチェイサー(サイドカー部分)に乗車中
【首輪】5枚:0枚
【装備】ブルー・ティアーズ@インフィニット・ストラトス、ニューナンブM60(5/5:予備弾丸17発)@現実
【道具】基本支給品×3、スタッグフォン@仮面ライダーW、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス
【思考・状況】
基本:一夏さんへの愛を守り抜いてみせましょう。
 1.一夏さんが手に入らなくても、敵は見境なく皆殺しにしますわ!
 2.一夏さんのためなら何だって出来ますの……悪く思わないでくださいまし。
 3.一夏さんのために行動しますの。殺しくらいなら平気ですわっ♪
 4.織斑先生達の前では殺し合いに乗っていないフリ。賢い生き方を、ですわ。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※制限を理解しました。
※完全に心を病んでいます。
※一応、青陣営を優勝させるつもりです。
※ブルーティアーズの完全回復まで残り5時間。
 なお、回復を待たなくても使用自体は出来ます。

【共通備考】
※三人は少なくともラウラ、フェイリス、イカロスのいない方面に移動するつもりです。

907 ◆SrxCX.Oges:2013/01/23(水) 18:59:18 ID:ZUDEE.yQ0
以上で投下を終了します。作品タイトルは「さよならの時くらい微笑んで」です。
疑問点や不備のある点、ご意見やご感想があればよろしくお願いします。

908名無しさん:2013/01/23(水) 19:35:44 ID:IU/Hn6hEO
投下乙です。

一夏に精一杯の笑顔を見せた千冬と、騙す覚悟を決めた偽りの笑顔を浮かべたセシリア。
果たして、セシリアの心は癒されるのか。

909名無しさん:2013/01/23(水) 19:40:15 ID:TBNY6Jh6O
投下乙です。正直ちょろいさんはツン(ヤン)デレの法則発動した時点で終わってるよなw

910名無しさん:2013/01/23(水) 21:35:40 ID:LJma0/XM0
投下乙です。
予約の段階でやばそうな気がしたけど、今のところは波乱がなくてよかったw
でも、まだこれからがやばそうだよなぁ……もしもラウラと再会したら、千冬さんはどう思うだろう。

911名無しさん:2013/01/23(水) 22:13:49 ID:2Ic8aN.c0
投下乙です
直ぐに波乱が起こらなかったが火種は燻った状態で消えていないからなあ
確かにラウラと再会したら…

912名無しさん:2013/01/23(水) 22:58:56 ID:ZtQTDh.k0
投下乙
もうだめだこのチョロイン。おかしくなる切っ掛けとなった箒が実は生きていたという時点で救われないし
それにラウラをかわしたとしてもオカリン・ほむほむと出会ってしまったらまた一悶着ありえるわ

913名無しさん:2013/01/24(木) 00:39:07 ID:sH/hmj820
投下乙です
予約段階では誰か死人が出るぞぉ! と思っていたらステルス路線かー……
このまま何事もなく……済むわけないよなぁ、ロワなんだもん
心理描写の巧さでチョロインさんのロワ的おいしさもばっちりでお見事でした!

914名無しさん:2013/01/28(月) 19:22:18 ID:8V.u70tw0
予約来てるぞ

915 ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 01:59:37 ID:tGsSgr9I0
投下します。

916イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:01:05 ID:tGsSgr9I0
 バイクの駆動音と風の音に混じって、歌声が聞こえる。
 フンフン〜と心地良さそうに歌われるそれは、一人の男の鼻歌だ。
 それに、この殺し合いを満喫し、心の底から愉しんでいる狂人の笑い声が続く。
 放送の間、このジェイクという男は、ずっと気楽そうに歌い、笑っていた。
 機嫌良さそうに、切嗣が乗って来たバイクで風を切りながら。
“私は……どうすればいいの……?”
 ライドベンダーのリアシートに跨る紅莉栖の精神状況は最悪だ。
 ジェイクの身体には触れたくもないから、右手で車体のグラブバーを掴んでいる。
 左手は止血すら許されていないため、今も血が溢れ続けている。
 風とバイクの振動が、ジェイクに切り付けられた傷口に響く。
 だが、そんな身体の痛みよりも……
 今は、まゆりに続いて殺されたらしい橋田至のことの方がつらかった。
 橋田至は……
 どうしようもない変態の上、所謂キモオタと言われる部類の男だった。
 だが、それでも彼は紅莉栖と同じラボメンだった。
 掛け替えのない仲間だった。
 そんな仲間が殺されたという事実が……
 ただでさえ追い詰められていた紅莉栖に、追い打ちをかける。
 涙が頬を伝う。
 泣いたところでどうにもならないというのに……
「なぁ〜、紅莉栖ちゅわ〜ん?」
 そんな紅莉栖に、ジェイクは猫なで声で話しかけた。
「ひょっとして仲間でも死んじまったぁ? そいつぁ残念だよなぁ……可哀相になぁ〜」
 わざとらしく、さも哀しそうに、頭を横にふりながら。
 ジェイクはおいおいと咽び泣くような素振りを見せる。
「ところでそんな紅莉栖ちゃんにオレぁど〜ッしても聞きてーことが一つあんだよぉ〜」
「……何、よ……」
「紅莉栖ちゃんってキレェ〜な赤髪してるよなぁ……」
 そして、グヘヘェとこの上もなく下品に笑う。
「下の毛も赤いワケ?」
「…な…ッ!?」
 思わず頬を赤くして、身を強張らせる紅莉栖。
 突然なんて質問をするのだ、この外道は……!
 そんな紅莉栖の憤りなど気にもかけずにジェイクは続ける。
「オイオ〜イそんな嫌そうな反応すんなよぉぉぉ〜!
 何ならこっちは無理矢理その服剥ぎ取って確認したっていいんだぜェ〜?
 それとも、玩具みたいにブッ壊されて慰み者にされるのがお望みかなぁ? ン〜?」
 そう言って、ジェイクはギャッハハと愉快そうに笑った。
 勝手な妄想を頭の中で拡げながら「ドMかよォ〜」などと挑発してくる。
“この…クズが……ッ!!”
 紅莉栖はこういう低脳が大嫌いだ。
 こいつは電車の中で馬鹿みたいに騒ぐDQNと同レベルだ。
 いつもならば無視を決め込む紅莉栖であったが、
「答えないなら殺しちゃおっかなァァァ〜〜〜〜〜ン?」
 掲げられたジェイクの左手が、パチンと指を鳴らした。
 刹那、飛び出した紫のビームが、紅莉栖の頬を霞めて後方へ飛んでいく。
 心臓が……一瞬、止まったような心地がした。
「まっ! 外見だけは小綺麗だし、殺す前に気が済むまで遊んでやるから安心しなってぇ〜」
 ジェイクの下卑た哄笑が紅莉栖の背筋にぞっと鳥肌を立てさせる。
 一瞬遅れて、頬から血がつうっと滴り落ちる熱を感じて、紅莉栖は改めて戦慄した。
“コイツは…私を人間だと思ってない……!”
 このジェイク・マルチネスという外道にとって、
 紅莉栖とは玩具も同然……物言わぬ慰み者の人形なのだ。
 生かすも殺すも自由自在。
 犯すことだって……この男ならやりかねない。
 それを考えた時、女としての生理的な恐怖心が紅莉栖を脅えさせた。
 バイクにしがみつく紅莉栖の腕は震えていた。身体全体が震えていた。
「もう一度聞くぜ……紅莉栖…オメーの下の毛は何色だよ? 生きてたいなら答えろって、えぇ?」
「――――――――――――。」
 風にもみ消されるような小さな声で。
 紅莉栖は、己が尊厳を踏み躙る問いの答えを、呟いた。
 瞬間、前方からジェイクの品位を感じさせない大爆笑が聞こえた。

          ○○○

917イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:02:07 ID:tGsSgr9I0
 
 非情な知らせを告げる鐘が鳴る。
 使者の名を告げる放送が、何処からともなく鳴り響く。
 それは、バイクの運転に集中していた虎徹の耳にもハッキリ聞こえた。
 思わずバイクを停車させた虎徹は、その事実に愕然としていた。
「嘘……だろ……」
 ネイサンが、カリーナが、翔太郎が……死んだ。
 ネイサンは同じシュテルンビルトのヒーローで、虎徹のよき理解者だった。
 カリーナも同じだ。まだ若い、未来あるシュテルンビルトのヒーローだった。
 翔太郎との付き合いは短いは、彼もまた虎徹らヒーローと同じ志を持つ熱い男だった。
 そんな彼らが、既にこの世にいない者として、その名を呼ばれたのだ。
「そんな……馬鹿な! アイツらが、そう簡単にやられちまうなんて……そんな筈……」
 未だ現実感はない。
 直前まで生きていた三人がもういないなんて、信じたくはなかった。
 いや、真木が扇動の目的で流した嘘の放送かもしれない。
 そんな風にも思った。
 そんな風に思いたかった。
「嘘だったら…どんなにいいことか……」
 そんな虎徹の希望を砕くように、ニンフは呟いた。
 虎徹には、虎徹に背を向けバイクに跨るニンフの顔は見えない。
 だが、その顔がおそらく沈鬱としていることは想像に難くなかった。
 頭を垂れたニンフは、絞り出すように言った。
「そんな嘘ッ……吐く意味がないじゃない……!」
 涙を押し殺したような悲痛な叫び。
 それを聞いた時、虎徹はハッとした。
“そうか……ニンフ………お前の仲間も…”
 見月そはらに、アストレア。
 ニンフの仲間もまた。
 虎徹と同じように、二人も殺されているのだ。
 彼女らの関係がどんなものであったのかは詳しくは知らないが、
 仲間や友達が殺されることのつらさは、虎徹も今、身をもって知った。
 そして、そんな哀しみを背負わされた人が、ここにはきっと大勢いる。
 そう思った時、虎徹は改めて「ここで止まってはいられない」と思った。
 仲間の死は哀しく悔しいが、だからこそ尚更立ち止まることは許されない。
“そうだよ……オレはヒーローだろ……!”
 鏑木虎徹は「ヒーロー」だ。
 そして、ここには命を奪う「悪人」がいる。
 そいつらは、今もきっと、こんな哀しみを増やし続けている。
 人として、ヒーローとして、そんなことは見過ごせない。
 やはり虎徹は、闘わなければならないのだ。
「なあ、ニンフ……オレだって仲間を殺された……ハッキリ言って、つらいよ…
 でも……だからこそ、オレはここで立ち止まってられない…んだよな…やっぱり」
「……だから? アンタは…どうするのよ?」
「オレは…ヒーローとして、出来ることをやる……逆に聞くが、お前は…どうする?」
 つらいなら、バイクから降りてもいいんだぞ、と。
 そう言外に告げていた。
 動けるようになるまで、心が落ち着くまで、民家で休んでいてもいいと。
 ニンフはヒーローではないのだから、無理に戦うこともないのだと。
 そんな虎徹なりの優しさに、しかしニンフは震える声で応えた。
「何よ……その質問……私に、着いて来るなって言いたいワケ?」
「そういうことを言ってるんじゃない……これからの戦いはきっと過酷になる…
 そんな戦いに、今のニンフを無理矢理連れていくことは…出来ないって言ってるんだ」
 虎徹の意図は……その優しさはニンフに伝わっただろうか。
 こういう時、いつも虎徹はその不器用さゆえに誤解をされる。
 とくに、楓やカリーナのような若い女の子が相手なら、尚更だ。
 だが、そんな心配をよそに、振り向いたニンフの眼には、力強い光が宿っていた。
「……ふざけたこと言ってんじゃないわよ!
 私だってアンタと同じに仲間が殺されたってのに、私にはじっとしてろっていうの?
 そんなのってないわよ……そんなの…じっとしてる方がつらいに決まってるじゃない…!」
「……ニンフ………そうか」
 ここで虎徹は、今の自分の考えを訂正した。
 虎徹の予想よりも、どうやらニンフと言う少女の心は強かったようだ。
 いや、じっとしていると耐えられないからこそ、
 我武者羅でも今は動いていたいと思っているのかもしれない。
 本当のところは虎徹にはわからないが、しかしそれ以上の言葉は野暮だと思った。
 だから虎徹は、再びバイクのハンドルを握り締める。

918イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:03:07 ID:tGsSgr9I0
「変なこと聞いて悪かったな、ニンフ。そんじゃ、そろそろ行くとすっか……!」
 目的地はシュテルンビルト。
 いざバイクを発進させようとした虎徹の聴覚は、二台目のバイクの接近を感知した。
 現れたバイクに乗っているのは……虎徹のよく見慣れたヒーロースーツを黒くしたもの。
 見まごうことなきバーナビーのスーツを纏った彼の者は――
「お前……バニー、なのか……?」

          ○○○

 ワイルドタイガーとか名乗っていた糞ヒーローの思考はすぐに読めた。
 どうやらヤツは、これからシュテルンビルトに替えのヒーロースーツを取りにいく気らしい。
 その途中で出会ったこのジェイク様を、自分の相棒のバーナビーだと思い込んでいるのだ。
 いきなり騙されてくれた相手がおかしくて、ジェイクはもう噴き出してしまいそうだった。
“ヒーロースーツの力ってのはスゲェもんだなぁ〜オイ……”
 スーツを纏うだけでここまで簡単に騙される奴がいる。
 カリーナに引き続き、あのワイルドタイガーまでもが。
 そのあっけない事実に、ジェイクは心中で笑う。
 市民を守る正義のヒーロー。
 その外見を借りただけで、奴らNEXTの面汚しどもは簡単に信用するのだ。
 お前らヒーローはこの殺し合いには向いてないぜ、と忠告をしてやりたい気分だ。
 だがジェイクはそんな気持ちを抑えて……
 今はやるべきことをやろうとした。
「オラ、降りろグズ」
 紅莉栖にのみ聞こえるほどの小さな声で囁き。
 ジェイクは、今乗って来たバイクから紅莉栖を引きずりおろした。
 首根っこを掴んで、さながら人質といった様子で紅莉栖の身体を突き付ける。
 ジェイクは、再び紅莉栖の耳元で、小さな声で囁いた。
「死にたくなけりゃあ、オレがこれから言うことを復唱するんだ……」
 コイツの心は……牧瀬紅莉栖の心はすでに折れている。
 このジェイク様に対し、絶対に抗えぬ恐怖心を抱いている。
 そろそろ捨てようかと思っていた人形にも、まだ使い道はあった。
 紅莉栖は、涙を瞳に浮かべながら、前方のタイガーに叫んだ。
「こ……このバーナビーは……もう……ヒーローじゃない……!」
 ジェイクの筋書き通りだった。
「バーナビーには……私達の言葉はもう……届か……ない!」
 紅莉栖の脚が震えている。
 ハッキリとジェイクを拒絶しているのがわかる。
 だが、生きたいと願う人間は、そう簡単には抵抗出来ないものだ。
 これは、それを知っているジェイクのほんの「遊び」だった。
「お願い……助けて……ワイルドタイガー!!」
 そしてこれが、ジェイクの考えた最高のシナリオだ。
 相棒であるバーナビーを信じるクソタイガーを……!
 ほかならぬバーナビーの手で、心も身体もクシャボコにブッ潰して!
 ヒーローとかいう気に入らねえNEXTのゴミを……! この手で血祭りにあげてやる!
“あの糞野郎はこの手でブッ潰してやろうって思ってたんだよなぁ〜、始めてみた時からよぉ〜”
 全員が集められた広場で一際存在感を放っていたワイルドタイガー。
 あいつの姿を一目見た時から、ブッ潰してみたいとジェイクは思っていたのだ。
 別にタイガー個人に恨みがあるわけではない。
 特別な拘りがあるわけでもない。
 ただ、レジェンドの豚野郎にも似た綺麗事抜かしてるあのNEXTの恥晒しを絶望させてみたい。
 なんでもない、ほんのそれだけの、くだらない遊び心だった。
「キャッ!」
 ジェイクは紅莉栖の首をゴミでも捨てるように放り投げた。
 まるで人形のように宙を舞った紅莉栖は、乗って来たバイクに激突して倒れ込む。
 人間には過度な激痛に、紅莉栖は悶え立ち上がることさえ出来なかった。
 その姿に、ワイルドタイガーは激怒した様子だった。
「おいバニー! お前……ほんとにヒーローの心を失っちまったのかよ!?」
 その問いに対する答えは――
“テメーを地獄に叩き落としてやるぜ、糞ヒーロー!”
 バーナビーの姿をしたジェイクは、立てた親指を地面に向かって降り下げてみせた。
 答えは、「地獄に堕ちろ!」だ。

919イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:04:59 ID:tGsSgr9I0
「………ああ…そうかよ……よーく分かったぜ、バニー……ッ!
 だったらこの俺が……お前をブッ飛ばして……眼を覚まさせてやる!」
 そういって、ワイルドタイガーはバイクから降りた。
 あとに残されたあの水色の髪のガキを後方に下がらせて、タイガーは前進する。
 どうやら最初に戦ったあのガキもヒーローの仲間だったらしい。
“う〜ん……まぁいいや、あいつはどーせ雑魚だ、小物は後回しってな〜”
 あのガキ(ニンフ)はジェイクにとって脅威とはなり得ない。
 故に、ジェイクはあのガキについての心配をする必要は何一つない。
 今は只、あの糞虎徹を叩き潰してやることだけを考えればいい。
“さあ、来いよ”
 左手で手招きをするジェイク。
 それをきっかけに、戦いは始まった。

          ○○○

 二人の戦いが始まってから……
 既に十分近くの時間が経過していた。
「もう……何やってんのよ、タイガー……!」
 ヒーローなんでしょ! と悪態をつくのはニンフだ。
 バーナビーとの戦闘に挑んだタイガーに、見たところ、勝ち目はなさそうだった。
 拳を振るえば、まるで読まれているかのように回避される。
 蹴りを放てば、それも同様に回避される。
 攻撃は当たらない。
 待っているのは、バーナビーからの強烈なカウンターのみだ。
 金属がぶつかる音は幾度となく聞こえるが、それは全てバーナビーの攻撃によるものだ。
 そんな一方的な強者による"遊び"が、もう十分も同じように繰り広げられていた。
 タイガー自身も、ここまでの戦いで蓄積した疲労によって動きが鈍っている。
 ハンドレッドパワーも、今はまだ使うべきではないと判断したのだろう。
 純粋な肉弾戦のみで、手負いのタイガーはバーナビーに圧されていた。
 今もまた、タイガーがその顔面をバーナビーに殴り飛ばされたところだった。
 それでもめげずに挑み続けるのがタイガーのいいところ、といえば聞こえはいいが。
 悪く言えば、それは無謀と分かっていても同じ手段で挑み続ける馬鹿だ。
 タイガーがあまり賢い人間でない事はもうわかっていたことだが。
 それにしたって、この戦力差はあまりにもひどい……
 あまりにも、圧倒的だった。
“あのバーナビーってヤツ……どうしてああもタイガーの攻撃を読めるの?”
 純粋な戦闘センスの良さゆえにだろうか。
 それとも、相棒ゆえにタイガーの行動パターンを知りつくしているからだろうか。
 どちらかといえば、後者の方が有り得るとニンフは思う。
 何せ、タイガーの戦闘スタイルを分類するなら……
 彼は紛れもなくアストレアと同じタイプだ。
 猪突猛進。直情型の。脳筋スタイル。
 悪く言うなら……やっぱり、馬鹿。
 相手が理知的な男で、それもずっと一緒にいた相棒だというなら。
 いわゆる馬鹿の一つ覚えであるタイガーの動きを読むことなど容易いことなのだろう。
 そう考えれば、やはりあの黒い鎧の男は彼の相棒バーナビーにほかならないのだと思う。
「タイガー、相手はアンタの相棒なんでしょ! そんな動き全部読まれてるわよ!」
 だから、戦闘スタイルを変えろ……といっても、伝わるだろうか。
 タイガーは、バーナビーにパンチを避けられ、逆に蹴り返されながら嘆いた。
「んなこと言われたってよぉ……!」
 一瞬立ち止まったタイガーを、今度はバーナビーの跳び蹴りが襲う。
 寸でのところで回避しながら、タイガーは懐かしい想い出に浸るように言った。
「そういやバニー、最初の頃はいっつもオレの戦い方に口出ししてたもんなぁ……
 そりゃあお前には、俺の攻撃が全部読まれちまうのも無理ないよなぁ……」
 だがよ……だからって、負けるワケにはいかねえんだよ……!」
 右腕からワイヤーを射出し、それをバーナビーに絡めようとするが……
 バーナビーは背中のスラスターを噴射させ、一際高く跳び上がった。
「えっ!? ちょ……ッ!」
 ワイヤーは後方の電柱に絡み付き、ガッシリとロックされた。
 攻撃を外した上に、タイガーはその身動きまで封じられたのだ。
「ちょ、ちょまッ! 待て待て待て!」
 慌ててワイヤーを回収しようとするタイガーに……
 空から勢いを付けて飛来したバーナビーの蹴りが炸裂した。

920イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:05:55 ID:tGsSgr9I0
 嘆息と共に左手で頭を抱えるのはニンフだった。
 情けない声をあげながら吹っ飛ばされるタイガー。
“ああもう……! このままじゃあ勝ち目がないわ……”
 ならば、どうする。
 自分に出来ることはなんだ。
 今のボロボロの自分に出来ることはなんだ。
 ダメージの回復のために、もうメダルは残り五十枚程度しかない。
 ハッキングフィールドを展開し、バーナビーに何らかの枷をかけることは、理論的には出来る。
 出来るだろうが、しかし現状ではあの強力なフィールドを展開するだけのメダルは足りない。
 ハッキングをかけられるとすれば、それは至近距離で奴に接触したときだけだ。
 だが、あのバーナビーに接触するのは、手負いのニンフには余りにも危険だ。
 出来ればそれは、のっぴきならない事態に陥った時の最後の手段にとっておきたい。
 とするなら、今は何とかしてタイガーに勝利して貰いたいところだが……
「ん……?」
 そこでニンフは、バイクにもたれかかって荒い呼吸をしている少女を見た。
 赤毛の少女だ。左腕が付け根から切りつけられ、服まで破かれている。
 バーナビーの人質にされていた、全身ボロボロの少女……牧瀬紅莉栖。
“あの子に聞けば、なんでバーナビーがああなったのか……わかるかも”
 だとしたら……策はあるかも、しれない……。
 半壊した翼を羽ばたかせて、ニンフは紅莉栖のもとへ向かった。

          ○○○

 ジェイクの蹴りは生身の一般人にはあまりにも強烈だった。
 バイクにもたれかかった紅莉栖の肋骨は、先の一撃で数本折れている。
 そこへきて、ここまでの精神・身体ダメージの蓄積。
 バイクの運転も出来ない紅莉栖は、逃げ出すことも出来なかった。
“ごめんなさい……ワイルドタイガー……”
 目の前でボコボコにやられるタイガーが、もう見ていられない。
 紅莉栖は目を伏せて、心の中でタイガーに謝罪するしか出来なかった。
 自分にも強い力と意思さえあれば……こんなことにはならなかったかもしれないのに。
 なんとかしてタイガーを救いたいが、しかし今の自分にはそんな手立てもない。
 無責任だが、あとは全てをタイガーに任せて、タイガーの勝利を祈るしかなかった。
 今はもう、それしか考えられなかった。
「ねえ、ちょっと……大丈夫?」
「えっ!?」
 そんな時、紅莉栖に声をかけたのは……
 タイガーと一緒にいた小さな少女だった。
 右腕が無くなっている。だが、既に止血されているのか血は流れていない。
 全身は……まるで激しいサバイバルを生き抜いてきたみたいにボロボロだ。
 外見だけなら、この紅莉栖よりもよっぽど傷ついているように見える。
「私の名前はニンフ……アンタは?」
「牧瀬……紅莉栖……」
「そう……じゃあ紅莉栖…アンタ、バーナビーとはどういう関係なの?」
「それは……」
 紅莉栖は……言いごもってしまった。
 奴の名はジェイクだ。バーナビーではない。
 バーナビーとの関係性など、皆無だ。
 答えられるわけがなかった。
 そしてここで紅莉栖は計算をする。
 ここでジェイクの正体を明かすことで、勝機は得られるのか?
 仮にジェイクの正体を明かした上で、タイガーが破れてしまったら?
 少し考えて、紅莉栖は一つの事実に気付いた。
“待って……ジェイクはまだ……カリーナを殺したときのビームを使っていない……”
 それはおそらく、バーナビーのフリをしているからだ。
 つまるところ、ジェイクはまだ自分の能力の全てを出し切っていない。
 途中で変装の意味なしと知れば、きっとジェイクは容赦なくタイガーを殺しにかかる。
 ただでさえタイガーが劣勢なのに、今ジェイクを本気にさせてしまったら……
 きっとタイガーとニンフを殺したあと、激情したアイツは紅莉栖にも手を掛けるだろう。
“……今はまだ……言えない…”
 その決断、タイガーらには本当に申し訳ないと思う。
 が、全滅という最悪の事態を避けるためにはそれも致し方のないことなのだ。
 確実な勝機が訪れるまでは「奴の正体」というカードを切るべきではないのだ。

921イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:07:22 ID:tGsSgr9I0
「私は…何も、知らない……脅されてただけ、だから……」
「………」
 ニンフの眼を見ながら、それを言う事は出来なかった。
 後ろめたさが、紅莉栖の視線を地べたへ落とさせる。
 誰が見ても不自然な物言いをしていたという自覚はある。
 願わくは、ニンフがこれ以上何も追求してこないことを……
「それ、ホントなの?」
 されど紅莉栖の望みは叶わない。
 ニンフは、見掛けによらず鋭い少女だった。
「アンタ、アイツに脅されて、何か口封じでもされてるんじゃないの?」
「それ…は……」
 その鋭さが……
 全員の命を危険に晒すのだと、気付いてほしい。
「だとしても……だからこそ……私は、何も言えないの……分かって」
 それはニンフの問いに対する肯定のようなものだった。
 果たして、この少女は、それで納得してくれるだろうか。
 事情を察して、このまま引き下がってくれるだろうか。
 ――答えは否だ。
「だったら、尚更話して貰わない訳にはいかないわね」
 強い眼をしている。
 どんな現実にも抗おうという強い意思の光だ。
 紅莉栖の眼にはないそんな光が、ニンフの瞳には宿っていた。
「私は、人の記憶や感覚にハッキングをしかけることが出来る」
「……ハッキング?」
「そう、ハッキング。姑息な手段だとは思うけど……
 バーナビーが悪に落ちた理由があるとするなら、私がその記憶にロックをかけるわ。
 クリスに対して害を為そうとする感情も、私が全部纏めてロックをかける……少しリスクはあるけど」
 そうすれば、紅莉栖にこれ以上の害が及ぶことはなくなるというワケだ。
 それが事実だとすれば、紅莉栖はジェイクの魔の手から逃れる事が出来る。
 希望の光が、ようやっと紅莉栖の心に射し込んだ……そんな気がした。
 だが、現実主義者の紅莉栖は、まだそれを完全に信用する事は出来なかった。
「で、でもッ! そんなこと……一体、どうやって? 非現実的過ぎる!」
「だったら今から、私が証拠を見せるわ」
 ニンフは、紅莉栖の額にそっと手を翳した。
 次の瞬間、紅莉栖が感じていた痛みは消え去っていた。
 左肩の痛みも、蹴られた痛みも、まるで何でもなかったように。
「……痛みが……消えてる……?」
「消したのよ、アンタの痛覚神経を……怪我が治った訳じゃないから、ただの誤魔化しだけど」
 これがニンフの持つ能力――ハッキングだ。
 紅莉栖は、痛みを感じる感覚を、脳から切り離されたのだ。
 彼女の言った通り、今の紅莉栖は感覚だけなら万全の状態であった。
 もっとも、怪我を治したいと思うなら、今までと変わらず動くべきではないのだろうが。
“…でも……それじゃあ駄目なのよ……! 奴が「本物のバーナビー」ならそれで良かった!”
“でも、アイツは「バーナビー」じゃない! 悪に落ちた理由なんてない……根っからの悪党だ!”
“そんな奴の記憶をどうにかしたところで……奴は……善にはならない! 止められない……!”
 その思考が、紅莉栖に口を割らせることを躊躇わせる。
 今必要なのは、バーナビーを止めるための手段ではない。
 今必要なのは、ジェイクを倒すための手段なのだ。
「……ごめんね…ニンフ………それじゃ…駄目なのよ……それだけじゃ………」
「アンタ分かってるの……? このままじゃ、タイガーもわたしも、アンタも全滅するわよ!?」
 怒声を上げるニンフ。
 言われずとも、そんなことは分かっている。
 だが、ここで余計なことをすれば、少なくとも自分の命は――
「……あ…………」
 紅莉栖は今、自分が考えてしまったことに気付き、絶句した。
 確かに自分が黙ってじっとしていれば、この場での紅莉栖の命は保証されるだろう。
 だがそれは、あの正義に燃えるタイガーと、この小さなニンフを犠牲にするということだ。
 この二人を生贄にして、自分だけが、一時の安心を得ようという考えだ。
“それは……ズルい………”
 その「さもしさ」に、紅莉栖は絶句し、そして呆れた。
“岡部なら……こんな時、どうするだろう……”
 きっとあの男なら、どんな状況でも諦めない筈だ。
 正義のために必死に戦うタイガーを見捨てることなどしない筈だ。
 ここで仮に生き残ったとして、紅莉栖はそんな岡部に顔向けが出来るのか?
 そんなわけはない。
 途端に、恐怖に曇っていた眼が醒めていくような感覚だった。
 きっと、ここでやらなければ、一生心に負い目を背負うことになる。
 だったら、例え分の悪い駆けであろうとも……
 やらないわけにはいかない……のでは、ないか?

922イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:08:01 ID:tGsSgr9I0
「……ねえ、ニンフ」
「なに?」
「あなたのハッキングは、記憶や感覚だけでなく、能力に対しても適応できるの?」
 それは、つまり。
 ジェイクを弱体化させることは出来るのか?
 そういう質問だ。
 こうしている間にも、殴られ蹴られ吹っ飛ばされ続けているタイガーを救えるかどうか。
 その答えに、紅莉栖らの未来がかかっている。
「………出来るわ」
「だったら……まだ、可能性はある……かもね」
 紅莉栖の瞳には、ここへ来て始めて、決意の炎が宿っていた。
 紅莉栖はもう決めたのだった。
 脅えるだけ、逃げるだけはもうやめよう。
 命を賭けて戦ってくれているタイガーのためにも……
 紅莉栖には、事実を伝える「義務」がある。
 未来は自分の手で切り拓かねばならないと、きっとあの岡部も言うだろう。
“いいわ……やって、やろうじゃない……”
 再び顔を上げたとき、タイガーはやはり、ジェイクにタコ殴りにされていた。
 今もまた、タイガーの蹴りをかわして、ジェイクが逆にその腹に蹴りを叩き込んだ。
 吹っ飛び、紅莉栖のそばの電柱に背を打ち付けたタイガーは、そのまま崩れ落ちる。
 もうタイガーの限界が近い。急がねばならない。
 紅莉栖は立ち上がった。
“伝えなくちゃ……この事実を……ヒーローの彼に……!”
 そんな時、紅莉栖はあの岡部のことを頭に思い浮かべるのだ。
 そうすれば、不思議と勇気が湧いて来る。
 あの岡部のように、馬鹿らしくても、人間らしく生きていきたい、と。
「あぁ〜聞こえてんだよ」
 ジェイクの小さな呟き。
 刹那、紅莉栖の脚を紫色のレーザーが撃ち抜いた。
 タイガーに見えないように、上手く背に隠してレーザーを放ったのだ。
 紅莉栖が裏切ったことに、どういう訳か奴は気付いたのだ。
 レーザーに穿たれた脛から、血が溢れ出す。
 ガクンとよろけ倒れそうになるが、しかし紅莉栖は脚をとめない。
 痛みはすでに、ニンフのハッキングによって感じていないのだ。
 すぐにタイガーの元に辿り着いた紅莉栖は、
「ねえ、起きて、タイガー! 私はあなたに伝えなくちゃならないことがある!」
「……ん、なんだぁ……?」
 一瞬、意識を失っていたのであろうタイガーを揺さぶった。
 すぐに気を取り戻したのか、タイガーがゆっくりと身体を起こす。
 背後からゆっくりと迫り来る「黒とピンクの死神」に、紅莉栖は脅えることなく続けた。
「ごめんなさい、私はあなたに嘘をついた……」
「はぁ……? 何言ってんだお前、こんな時に!?」
「聞いてタイガー! アイツは、バーナビーなんかじゃないの!」
「な……?」
「アイツの名前は――」
 そこから先は、言葉になっていなかった。
 ガボォ、ゴボォ、そんな水の音だけが紅莉栖の口から洩れた。
 ゆっくりと視線を下げれば、紅莉栖の腹から、漆黒の剛腕が突き出ていた。
 皮を突き破り、背骨を砕き、内臓を押し潰し、死神の手が紅莉栖を貫いたのだ。
 腹から、口から、夥しい量の血液が溢れ出していた。
 確実なる致死量の血液が溢れ出していた。
「紅莉栖ゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
 ニンフが絶叫する。
 虎徹が絶句する。
 だが、痛みは感じない。
 こんな程度で、もう紅莉栖の意思は曲がらない。
 まだやれる。やれることがある。そんな確信があった。
「ゲフッ……ゴホォ…ッ、あいつの、……なま、えは……ジェイ…ク……ッ」
 ジェイクが、拳を一気に引き抜いた。
 だが、全て引き抜きはしない。
 その拳だけは、紅莉栖の体内に残して。
 刹那、紅莉栖の体内で紫色の光が弾けた。
「……っ」
 それは、もう言葉ですらなかった。
 あのレーザーの輝きを、ジェイクは体内で爆発させたのだ。
 紅莉栖の身体はまるで風船のように破裂した。
 臓物が。
 血液が。
 ビチャッと嫌な音を立てて二人の装甲に飛び散った。
「「紅莉栖ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」」
 ニンフと虎徹の絶叫が反響する。
 頭部だけはかろうじて原形を留めていた紅莉栖には、まだその声が聞こえていた。
“お願い……ワイルドタイガー………コイツを……倒し、て……”
 願わくは、紅莉栖の決死の行動が彼ら「正義のヒーロー」の勝利に繋がると信じて。
 そして……出来るなら、彼らに……岡部や、ラボメンのみんなを……守って欲しいと願って。
 最後にそう強く祈り。
 あとの全てを"ワイルドタイガー"に託して。
 牧瀬紅莉栖は、永遠の眠りについた。

          ○○○

923イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:08:38 ID:tGsSgr9I0
 
 ジェイクの鉄の脚が、紅莉栖の頭蓋を踏み砕いた。
 骨は潰れ、脳味噌はブチ撒けられ、飛び出した眼球が転がってゆく。
 原型のない、真っ赤な吐瀉物のようなソレを、ジェイクはぐりぐりと踏み躙る。
 それが紅莉栖だったということを証明するものは……最早、残された衣類くらいだった。
 惨たらしい殺人を二人に見せ付けたジェイクは、フェイスオープンし、素顔を晒す。
「あ〜……ヤッベ、バレちまったわ」
 だからどうということもなく。
 フヒャハハハ〜! とジェイクは嗤う。
「テメェ………」
 目の前で起こった惨劇を、虎徹は黙ってみているしか出来なかった。
 その身体を、拳をわなわなと怒りに震わせながら。
 ジェイクの無情に、自分の無力に、その身を震わせながら。
「…………やりやがったな………ジェイクッ!!」
 かつて倒した筈の強敵、ジェイク・マルチネス。
 そのゲス野郎を前にして、虎徹は全身の血液が沸騰するのではないかと錯覚する程の怒りを覚えていた。
 ワイルドタイガーのマスクの中で、髪の毛が逆立つほどの怒りと熱を感じていた。
 怒髪が天を衝くとはまさにこのことだろう。
 今殺されたのが牧瀬紅莉栖とするなら、あのフロッグポッドの情報にも納得がいく。
“コイツは……バーナビーのスーツを使って……紅莉栖を騙してやがったんだッ!!”
 それもまた、虎徹の中で燃え上がる怒りの炎に注がれる油となった。
 この男は、人を殺すために、虎徹の相棒の尊厳までも踏み躙ったのだ。
 許せるわけがない……許していいわけがない。
 コイツは正真正銘の……吐き気を催す邪悪だ!
「おぉぉなんだ怒っちまったかぁ?」
「オイオイ〜、オレが悪かったってぇ〜!」
「許してくれよォォ〜なっ? なぁ〜っ?」
 ゲラゲラと笑いながら、ジェイクは心にもない謝罪を告げる。
 だがもはや、虎徹の耳に、そんな安い挑発の言葉は入って来なかった。
 今の虎徹にあるのは……
 ただコイツを再起不能になるまでブッ飛ばし、ふんじばりたいという思いのみだった。
 何故死んだ筈のジェイクがここにいるのかなんて、そんなことはもはやどうだっていい。
 ただ、ブン殴る。そして、もう一度監獄に叩き込んでやる。
 決意の炎に燃え滾る眼を、虎徹はジェイクに向ける。
「なんだよぉ〜、許してくれないのかよぉ〜?」
「でもよぉ……オメーにオレが倒せるかぁ? ンン〜?」
 ヤツの言葉にもはや返事をする必要なし!
 激情のままに飛び出した虎徹の拳は……
「……っ!」
 ジェイクのバリアに、阻まれた。
 そして、バリアに弾き返されるその瞬間。
 虎徹を襲ったのは、ジェイクの回し蹴りだった。
 強烈な勢いで蹴りつけられた虎徹が、再び吹っ飛ばされる。
 怒りのあまり忘れていたが……
 奴には、バリアと読心術があるのだ。
 それを突破しないことには、虎徹には勝ち目がない。
 と、そう考えたところで、感心した様子でジェイクは言った。
「おっ、なんでオメー、オレの能力知ってんだァ?」
 そのままダンスのステップでも踏むように接近し。
「まっ! どォォォ〜〜〜でもいいかァ〜〜〜!」
 倒れ込んだ虎徹目掛けて、ジェイクが指を鳴らした。
 放たれたレーザーが虎徹の身体で弾けて、さらに吹っ飛ぶ虎徹。
「どォ〜せオメーはここで死ぬんだからよォ〜!」
 死んでたまるか、と心中で唾棄しながら、虎徹は身を起こす。
 だが、このままでは前回のジェイクとの戦いの二の舞いだ。
 奴は心を読む。つまり、思考をする限り奴には勝てないのだから。
 仮に読心を掻い潜ったとしても、奴にはバリア能力までついていやがる。
 二重のNEXT能力。戦うのは二度目だが、何処までも悪質な相手である。
 奴の能力に勝ち目はないのか、虎徹が苦い顔をしたその時。
「タイガー! あの金色の剣を使って!」
 ニンフが、虎徹の危機を察知して叫んだ。

924イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:09:39 ID:tGsSgr9I0
「なに……!?」
「あの剣は"エンジェロイドの私"を斬ったのよ! そんなバリアくらい…ッ!」
「……オーケイ、なんだかわかんねーがそれでいかせて貰うぜ!」
 デイバッグから、青と黄金の色をした大剣を引き抜く虎徹。
 生半可な兵器では傷さえ付けられぬエンジェロイドを両断した大剣。
 確かに、ただの剣にはない威圧感というか、「スゴ味」をこの剣からは感じる。
 この大剣――キングラウザーには、不可能などないように思えた。
 そんな時、慣れない剣を抜き、構えた虎徹に倣って……
 ジェイクもまた一本の剣を抜いた。
「わ〜りィ、オレもそーいうの持ってんだわ」
 柄は金と黒。刀身はクリスタルで出来たような美しさ。
 それは「キバの世界」最強と謳われた魔剣……魔皇剣ザンバットソード。
 格でいえば、「剣の世界」最強の大剣キングラウザーとも互角だった。
「いっちょ遊ぶか」
 不敵に笑いながら。
 右手に剣を、左手で手招きを。
 ……虎徹はまだあの剣の脅威をわかっていなかった。
 あんな貧弱そうな……
 美しさだけを重視したような剣は、この大剣の敵ではないと思っていた。
 その「思い込み」が間違いだった。
 飛び出した虎徹の剣を、ジェイクの剣が受け止め、弾いた。
 黄金の王の大剣を、黄金の皇帝の魔剣が弾いた。
「バリア破られるかもしれねぇって? だったら触らせるワケにはいかねぇよなぁ!」
 続けて振るわれた剣の一振りを、咄嗟に構えたキングラウザーで防御する。
 が、その衝撃は殺し切れずに、数歩後退してよろめく虎徹。
“なんだ!? あの剣……ッ! あんなナリして、なんて頑丈さだ!”
 キングラウザーをぶつけられても砕けないどころか、互角に渡り合っている。
 ここへきて虎徹は始めてザンバットソードという魔剣の「スゴ味」に気付いた。
 だがしかし、少しでも勝てる可能性があるというなら、諦める訳には行かない。
 ここでジェイクを取り逃がす事だけは絶対に許されないのだ。
“だがどうする!? どんな作戦立ててもアイツはそれを読んじまう!”
 いいや、今は考えるだけ無駄だ。
 我武者羅になって攻め続ければ、何処かで偶然が重なって攻撃がヒットするかもしれない。
 かつてのジェイクとの戦いで、偶然虎徹の蹴りが命中した時のように。
 一発でいい。一発でもこの剣でバリアに触れることが出来れば、そのまま押し切れる。
 あとは、一瞬怯んだ奴をブン殴ってやるだけだ。それだけでいいのだ。
“やれる! やれる筈だろ鏑木虎徹! オレはアイツをブッ倒す!”
 自らを鼓舞し、虎徹は跳躍する。
 そこから始まったのは、最強の剣を持つもの同士による剣の舞踏。
 攻撃する。弾かれる。
 攻撃する。防がれる。
 攻撃する。避けられる。
 二人はその繰り返しを続けた。
 何度も、何度も、数えきれないほど。
 体力が尽きるまで、その戦いは続くかと思われた。
 ……。……………。…………………。
 動きがあったのは、もはや虎徹の思考も麻痺しかけてきた時だ。
 もう何度繰り返されたのかもわからない剣戟音。
 虎徹の剣が、ジェイクの剣を弾き上げた。
 ジェイクの胴体の守りが、ほんの一瞬だけ、ガラ空きに「なる」。
 その判断に特に「思考」があった訳ではない。
 ただの、反射的な行動だ。
 条件反射にも近い感覚で、虎徹はそこに大剣を真っ直ぐに突き込んだ。
「なっ――」
 驚愕したジェイクの声に、虎徹はハッと意識を取り戻した。
 キングラウザーの切先が、ジェイクが展開したバリアを貫いていた。
“……いけるッ!”
 このまま押し込めば、やれる!
 勝利の確信が、虎徹の中で湧き上がる。
「――ぁぁ〜んてなっ!」
 おどけたジェイクの声に、真に驚愕したのは虎徹の方だった。
 キングラウザーの切先が減り込んだバリアの奥で、ジェイクは既に指を構えていた。
 放たれたビームは、バリアに刺さったキングラウザーのみを残し、虎徹を吹っ飛ばした。
「うおおおおおおおおおおおっ!?」
「キャアアアッ!?」
 吹っ飛ばされた虎徹は、離れてみていたニンフと激突した。
 二人纏めて地面を転がり、軽くニンフに謝罪をしながら顔を上げる虎徹。
 そんな虎徹が見たのは……絶望的な光景だった。
「こいつぁいい剣だなぁ〜? オレにだってそれくらい分かるぜ」
 ジェイクの手に握られているのは。
 魔皇剣ザンバットソードだけではなく。
 重醒剣キングラウザーまでもが……その手に握られていた。

925イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:13:33 ID:tGsSgr9I0
 
          ○○○

 のっぴきならない状況があるとして、それは今を置いて他にはなかろう。
 ワイルドタイガーに残された最後の希望となる武器が、あの下衆に奪われたのだ。
 もつれ合ったタイガーをダメージはない程度に蹴り飛ばして起き上がったニンフは、
 咄嗟に両手でアルファベットの「T」を作って、ジェイクに進言した。
「タイム! ちょっとタイムよ! 作戦タイム!」
「おぉ〜いいぜぇ、どうせ全部聞こえてるけどなぁ!」
 ギャハハと下品に笑いながら、ニンフの発案を飲み込むジェイク。
 やってみるものだ。
 あのふざけた男は、作戦タイムを承諾してくれた。
 まったくもってふざけている。
 そんなことよりもアイツはよく見ればニンフが此処へ来て最初に出会った変態ではないか。
 奴に与えられた屈辱、紅莉栖にやられた非道、それら許し難いものではあるが、
 そんな熱い感情だけで奴に勝てるワケもなし。
 今はヤツに勝つための手段を考えるべきだ。
 ニンフは小声で虎徹に言った。
「なんで一発も攻撃が当たんないのよ!」
「アイツは相手の心が読めるんだ、だから攻撃も全部読まれちまう!」
「なっ……じゃあ! 小声で話す意味なんかないじゃない!」
 ニンフの驚愕に答えたのは離れた場所にいるジェイクだ。
「だからハナっからそー言ってんだろぉ〜?」
 全部聞こえている、というのはそういうことか。
 だが、だとするならそれはまさしく最悪の敵だ。
「待って、冷静に考えましょう。必ず倒す手段はある筈よ」
 バリアは貫ける。それは実証された。
 だが、それにはキングラウザークラスの、まさしく"宝具級"の武器が必要だ。
 ましてや、完全なジェイクの不意を突かなければならない以上、最早不可能だろう。
 だったら……いや、肝要なのはバリアではない。あの読心術の方だ。
 あの読心術を何とかして攻略すれば、勝ち目はあるということだ。
 そして、ニンフには、それを成し遂げるための手段がある。
「タイガー、一つ質問するわ」
「お、おう…なんだ?」
「読心術さえ破れば……勝ち目はあるって考えて、いいのよね?」
「ああ……心さえ読まれないなら、あんな奴簡単にとっちめてやれるのに…!」
「だったら、私がそれをやるわ」
「……は?」
「私が、奴の読心術を無効化する」
 何とかしてニンフが突っ込んで、奴にハッキングを仕掛けるのだ。
 そして、おそらくヤツを相手に、ハッキングに与えられる時間は一瞬が限度だろう。
 ならば、ニンフはその一瞬を活かして、奴の読心術にロックをかけるしかない。
 そうすれば、あとは虎徹一人でも何とか出来る筈だ。
 それを伝えようとした時――
「作戦タイム終ゥゥゥ了ォォ〜〜〜!」
 ニンフと虎徹の間を、紫のビームが通過した。
 心が読める以上、この作戦は既にヤツに看破されている。
 それを虎徹に伝えさせるワケにはいかないということか。
 するとなると、ここから再び始まるのは……命を賭けた「闘争」だ。
「チッ……だったら、やってやろうじゃない!」
「あっ、おい、待て! ニンフ!」
 虎徹の制止を振り切って、ニンフは大地を蹴った。
 半壊状態の翼を精一杯に羽ばたかせて、飛行をする。
 エンジェロイドの最高速度を以てすれば読心術など関係はないのだろうが……
 生憎、今の半壊状態の翼では、ニンフはそれだけの加速は得られない。
 泥臭くとも、このズタボロの翼と、持ち前の耐久性だけで勝負に挑まねばならないのだ。
 だが、逆を言えば……それさえ成し遂げれば、勝利は眼と鼻の先なのだ。
 だったら、それはニンフがやるしかない。
 ほかに出来るものなどいないのだから。
“出会ってから間もないけど……私はアンタを信じるわ、タイガー”
 いい加減な奴だが、その「正義」が本物だということはわかる。
 あの殺し合いが始まる瞬間から、それはもう、わかっていた。
“だから! あとのことは……全部アンタに任せる……ッ!”
 誰も声を出せなかった状況で、真木に宣戦布告したタイガーに。
 絶体絶命の状況で、あの怪物強盗からニンフを救ってくれたタイガーに。
 目の前で紅莉栖を殺され、心の底から激怒し悪に挑んでいったタイガーに。
 ニンフは、この戦いの勝敗を委ねるつもりでいた。

926イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:14:17 ID:tGsSgr9I0
“私に出来るのは……たぶん、読心術のロックが限界……でも!”
 そこまでお膳立てをしたなら、タイガーなら必ずやってくれる。
 タイガーなら確実にジェイクを倒してくれる。そう信じている。
“だから……勝負は"今"よ!”
 ここでやらなければ、奴はきっと全ての参加者の脅威になる。
 その中には、当然まだ生きている智樹だって含まれているのだ。
 ゆえに、ここでジェイクを取り逃がすワケには、絶対にいかない。
“今、ここで! 何としてでも! 決着をつけるッ!!”
 ジェイクが放つビームの嵐を掻い潜って、ニンフは突撃する。
 奴の持つ剣がニンフに触れてくれたなら……それでもいい。
 それでも接触は接触だ、一瞬でも接触すれば、ハッキングは発動出来る。
 それをニンフが思考した時点で、読心をしたジェイクに近接線は有り得ない。
 だからジェイクは、ニンフの読み通り、戦法を射撃戦に切り替えたのだ。
 ビームの弾幕でニンフを撃墜しようとしているのだ。
 だが……そんなビーム如きでエンジェロイドは壊せない。
“エンジェロイドを……ナメてんじゃないわよ!”
 心の中で、奴に届くように悪態を吐くニンフ。
 徐々にジェイクの顔色に焦りが見え始めて来た。
 しかし――
「なっ!?」
 勝利の確信も束の間。
 どんなに策を弄しても、崩される時はある。
 ニンフの身体が、その加速が、突如として停止したのだ。
 そしてニンフは確認した。
 四方八方から現れた黄金の鎖が、ニンフの身体を絡め取っていたのだ。
「フヒャッハハハハハァ、焦らせやがってぇ! だがそれでもうテメーは身動きがとれねー!」
 オレの勝ちだ! とでも言わんばかりに哄笑するジェイク。
 それは、宝具エルキドゥ。未知の力で、何処までも捕縛する鎖。
 それに捕まっては、半壊状態の翼しか持たぬニンフでは脱出は不可能。
 ……だが!
「ナメんじゃ……ないわよッ!!」
 一瞬。ほんの一瞬。鎖が、ゆるんだ。
 その刹那、ニンフはエンジェロイドとしての力で鎖を引き千切った。

927イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:15:56 ID:tGsSgr9I0
「なぁっ!?」
 驚愕したのはジェイクだ。
 そんなジェイクに、親切にも心の中で答え合わせをしてやるニンフ。
 ニンフは、鎖(エルキドゥ)に接触した瞬間、その鎖にハッキングを仕掛けたのだ。
 完全に解除するには至らないが、しかしその拘束を緩めるくらいならば容易い。
 あとはエンジェロイドとしての持ち前の力で引き千切って進めばいい。
 ニンフの思考を読んだジェイクは、舌打ちしながらも構わず鎖を出現させる。
 四方八方から、十重二十重、何重にもなって伸びる鎖。
 それがニンフを掴み、拘束する。
 それをニンフが千切り、前進する。
 何度も。何度も。
 拘束されたなら、その度ニンフは引き千切って進む。
 その度に、貴重なメダルが減っていく。
 まずい。ジェイクに到達する前に……
 もし、メダルが底をついたら……ハッキングは、不可能となる。
 そんな考えが一瞬頭をよぎったとき、ジェイクはニンマリと笑った。
 そんな時、横から飛び出したのはワイルドタイガーだ。
「ニンフッ!」
「テメェェエエエは及びじゃねェェんだよォォオオオオオ!!」
 タイガーに、ジェイクは構わずビームを炸裂させる。
 回避し切れず命中した虎徹は、再び吹っ飛び、ビルの壁に激突した。
 次の瞬間から、ジェイクの抵抗はさらに激しくなった。
 このニンフの残り少ないメダル全てをこそぎとろうと、その抵抗はさらに激しくなった。
 ニンフの身体を絡め取る鎖と同時に放たれる、無数のビームの嵐。
 ジェイクはもう、無我夢中でビームを連射していた。
 ヤツとて、能力を打ち消されるかどうかの瀬戸際なのだ。
 その能力に頼っていたからこそ、必死になるのも無理はない。
 身動きをさらに制限されたニンフは、鎖に拘束される回数が跳ね上がった。
 メダルが、異常な速度で減っていった。
「喰らいな、クソガキャァッ!!」
 幾度目かの拘束の瞬間、
 ジェイクが渾身の力で投擲したのは、魔剣ザンバットソードだった。
 ビームのエネルギーまで吸収して、怪しく輝く魔剣が凄まじい速度で迫る。
“よけきれない……!? いや……ッ!”
 よける必要は、ない!
 ニンフが鎖を引き千切ると同時に、
 魔剣はニンフの左腕を付け根から切断した。
 くるくると舞って吹っ飛んだ左腕を、エルキドゥが捕まえる。
「どうだァァァァ! これでテメーは俺に触れることすら出来ねぇッ!!」
 これで、ニンフはもう戦えない……
 明らかに致死量を越えたダメージだ……
 あの下衆野郎は、そんな風に思ったのだろう。
 だが……ニンフの表情には、恐れも、脅えすらもなかった。
 その眼に宿っているのは、熱く、強い正義の炎だった。
 ニンフは構わず鎖を引き千切り、半壊の翼で猪突猛進を続ける。

928イグナイト(前編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:16:24 ID:tGsSgr9I0
「なっ、なんでぇッ! なんでだ! なんでッ死なねぇッ!?」
「私は……自分の身体にハッキングを仕掛けた! 痛覚神経をシャットアウトした!
 今の私はもう"苦痛"も"衝撃"も感じない……死ぬまで倒れることはないッ!!」
 紅莉栖にそうしたように……
 ニンフは、自らの身体から「痛み」を消したのだ。
 それをするだけの「覚悟」が、ニンフにはあるのだ。
 何せ、敵はバリアと読心という最悪の組み合わせの能力者だ。
 普通に考えれば、そんなチートを破ることなど出来る筈がない。
 出来るとすれば……それは、同じくチートのような能力を持つ者だけなのだから。
“だからアイツはここで倒す! アイツが智樹や、智樹の仲間を傷付ける前に……何としてもッ!”
 アストレアが死に、イカロスがああなった今、これはニンフの「義務」でもあった。
 マスターを守りたい。マスターにとっての障害を一つでも多く排除したい。
 そんな強い想いが、ニンフにそれだけの「覚悟」をさせたのだ。
「こンのォォォビチグソがァァァァァッ!!!」
 絶叫するジェイク。
 放たれる無数のビーム。
 錯乱したジェイクのビームは、最早ニンフには当たらない。
 いや……ニンフの翼は、最早半壊状態などではなくなっていた!
 それはさながら……ニンフに残された、命の輝きとでもいうべきか!
 虹色に輝く翼が、ニンフの背で力強く羽ばたいていた!
 凄まじい加速力を得たニンフに、ジェイクのビームなどは当たらない……!
 そして――!
「ガ……フゥ……ッ」
 ニンフがついにジェイクに到達すると同時。
 ニンフの口から……大量の血液が、堰を切ったように溢れ出した。
 ジェイクに激突するほどの勢いで特攻を仕掛けたニンフは……
 到達する寸前に投げ放たれたキングラウザーに……腹を貫かれたのだ。
 だが、しかし、それはニンフも望んだこと。
 もはやそれを回避している時間はなかった。
 それを回避していては、またジェイクに距離を取られる。
 そうなったら、残りのメダルで再びジェイクに接近することは不可能!
 勝負を決めるのは今しかないのだった。
 だからニンフは、腹をキングラウザーに貫かれながらも、特攻をやめなかった。
 その「覚悟」に驚愕し、一瞬怯んだジェイクの顔面に……
 ニンフのヘッドバッドが炸裂した。
「ハッ……キン、グッ!!」
 すべては一瞬だった。
 ニンフの輝きが、両者の視界を埋める。
 ほんの一瞬で、ニンフはその目的を果たしたのだった。

929イグナイト(後編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:20:33 ID:tGsSgr9I0
 エンジェロイドといえば、いわゆるアンドロイドだ。
 彼女らはみな、銃弾をも寄せつけぬ鋼鉄以上の硬度の身体を持っている。
 そんなエンジェロイドにヘッドバッドをお見舞いされたジェイクのダメージは、決して小さくはない。
 鼻血を吹きだし、両手で顔面を抑えながら、ジェイクはよろよろと後退していった。
 そんなジェイクに、弾丸の如き速度で肉薄した虎徹は、
「ッラァッ!!」
「ゲブァァッ!?」
 その顔面を、殴り飛ばした!
 拳は、回避も防御もされなかった。
 あのジェイクが、情けない叫びを上げながら、転がっていった。
 いてえ、いてえ、と嘆きながら、地べたに蹲るジェイク。
 そんなゲス野郎を見下ろし……
 そして、横たわって動かなくなったニンフを見、虎徹は言った。
「よくわかんねーけどよォ……どうやら……お前の能力……無くなっちまったみてーだな……ッ!」
「なッ……なァァ!? そんなッ! 馬鹿なッ! 読めねぇ!? 何も……聞こえねぇぇぇ!?」
 ゆらりと……怒りに燃える虎徹はジェイクの前に立つ。
 ニンフは、自分に出来ることを精一杯やった。
 此処から先は、その魂を受け継いだ虎徹の仕事だ。
 虎徹は、逃げ出そうとするジェイクの肩を掴み上げ、無理矢理立ち上がらせ……
 もう一撃、その真っ赤になった顔面に鋭いパンチを叩き込んだッ!!
「ゲェェッ、ガ、ァァァッ!?」
 血反吐を吐きだして、吹っ飛ぶジェイク。
 無様に地べたを転がるジェイクを見下しながら、虎徹は言った。
 抑えきれない怒りを声いっぱいに滲ませながら、言った。
「立てよ……ジェイク……お前、まだ戦えんだろ……!」
「ちょ、まっ、待て! 待ってくれぇぇ! 違うんだッ!!」
「何が違うってんだ……この…ゲス野郎ッ!!」
「お、おおおオレが悪かった! 全部謝るよ! もう悪い事はしねえ!」
「……………」
「だから、なっ? なっ!? 頼むッ! 許してくれよォォォ!!」
 この男は……以前バーナビーに負けた際にも、こうして命乞いをした。
 だが、その実「改心する」という言葉はただのその場逃れの嘘に過ぎなかった。
 この男は、フォローのしようもない正真正銘のクズ野郎だ。
 その証拠に――
「…ッ……!?」
 一瞬動きを止めた虎徹を、あのビームが直撃した。
 虎徹のヒーロースーツの胴体で、紫の光が炸裂した。
 再び吹っ飛ばされた虎徹は、ゆらりと立ち上がるジェイクを見た。
「……油断したなぁ? ヒーローさんよぉ……」
「手痛い仕打ちしてくれやがってよォォォ……」
 やはり。やはりだ。
 奴の言葉は、所詮薄汚い「嘘」でしかなかった。
 そんなジェイクは、大袈裟に笑いながら続けた。
「あのガキがオレの能力を一つ消しちまった時はよォ……」
「実にヤバイとパニクったよ……このオレですら、本当に絶望だと思った……」
「だが……なんてことはねぇ! オレにはまだ、バリアの能力がある!」
「これだけで! テメーはオレに攻撃を当てられねェーーーッ!!」
 高らかな哄笑ののちに、ジェイクのビームが虎徹を襲った。
 咄嗟に飛び退いてそれを回避する虎徹。
 すぐに再び肉薄し、ジェイクに拳を叩き込むが……
 虎徹の拳は、ジェイクに命中する前にバリアによって阻まれた。
「ほらなァァァァァ!!!」
 ジェイクの絶叫と共に、その拳が、虎徹を殴り飛ばした。
 それでも構わず、虎徹は反撃の攻撃を繰り返すが……しかし。
 パンチも、キックも、どんな攻撃も、ジェイクには当たらなかった。
 心は読まれていないのに、それでもジェイクのバリアは十分な脅威だった。
 思い切り蹴り付けたキックの攻撃も、バリアに弾かれ……そして、カウンターを喰らう。
「ばぁ〜ん!」
 至近距離からのビーム砲撃が、虎徹を再び吹き飛ばした。
 ヒーロースーツのお陰で今は致命傷にはならないが、そろそろスーツも限界だ。
 これ以上の長期戦になるのはまずい……そう思った時だった。
 いつの間にか虎徹に肉薄していたジェイクが、虎徹を掴み上げた。
「テメェェェさっきはよくもこのオレ様をブン殴ってくれたよなァァァオイ!?」
 激情に歪んだジェイクの顔が、唾がかかるくらいの距離で虎徹を睨んでいた。
 虎徹の返事を待つ事もなく、ジェイクは虎徹の顔面を殴りつけた。
 ヒーロースーツを纏ったジェイクのそれは、強烈な一撃だった。
 その一撃で、タイガーのマスクの視界がシステムダウンする。
「クソっ!」
 急いでフェイスオープンし、素顔を晒す虎徹だが、
「オォォォォォラァァァァッ!!」
 今度は虎徹の生身の顔面に、ジェイクの鉄の拳が直撃した。
 一撃で意識が飛びそうな一撃だった。
 鼻血を吹きだしながら、虎徹は数歩よろめいて、くずおれた。

930イグナイト(後編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:22:17 ID:tGsSgr9I0
「……どうだ……オレは切り抜けたぜぇ……この絶望を……」
 まるで息をするように、ジェイクはビームを放った。
 ビームが虎徹の身体で爆発し、全身に激痛の振動が伝播する。
「本当に幸せを感じる…って状況……あるよなァァァ」
 絶え間なく放たれるビームが、くずおれた虎徹を滅多打ちにする。
 一撃、また一撃……命中するたびに、スーツが陥没し、亀裂が増えてゆく。
「自分の精神力と経験で……絶望を逆転できたんだ……」
 ビームを放ちながら、ジェイクは嬉しそうに語る。
 それを見上げる虎徹の意識は……もはや、消失寸前だった。
「それって……幸せだって感じるんだよ……今、本当に……!」
 全身のダメージによって、ろくに動く事も出来なかった。
 嬉しそうに語る下衆を眺めながら、ただやられることしか出来なかった。
“クソ……オレはこんなヤツに……こんなところで……!”
 死ぬ、と……そう思った時だった。
 暴力的なビームの嵐に、諦めそうになった時だった。
 頭に……今はもういない最愛の人との約束が、蘇った。
 虎徹は……ワイルドタイガーは……まだ……死ぬワケにはいかない!
 刹那、ワイルドタイガーのスーツ各所が、緑の光を放った。
 虎徹の瞳が、煌めく様なブルーに輝いた。
「――ッ!」
 次の瞬間、虎徹はジェイクのビームを掻い潜り。
 呑気に笑いながら、空を見上げていたジェイクの頭に。
 今までとは比べ物にならない威力のパンチを叩き込んでいた!
「――ァァァァァッ!!」
「なっ……グゲァァァァァァァッ!!?」
 本当に。今までとは、比べ物にもならない威力だった。
 ボールのように地面をバウンドしながら、ジェイクが吹っ飛んでいった。
 立ち上がった虎徹は、発動されたハンドレッドパワーが傷を癒すのを感じながら、
「悪ぃ、ずっと使ってなかったもんでオレも忘れてたんだけどよぉ……」
 怒りに蒼く燃える瞳を、驚愕に目を白黒させるジェイクに向けて、
「オレも最後の切り札……まだ使ってなかったわ」
 本当の戦いはここからだと、そう言外に告げた。

          ○○○

 口から痰のような血の塊を吐き出しながら、ジェイクは立ち上がる。
「チッ……なぁ〜にが最後の切り札だ! そりゃつまり、レジェンドの豚野郎と同じ能力ってこったろ!」
「そのレジェンドに逮捕されたテメーにゃ十分な能力だろうがよ」
 その挑発に、ジェイクがブチギレるのは明白。
 額に青筋を浮かばせながら、ジェイクは例のビームを放った。
 だが……今の虎徹には、それが「見える」。
 放たれたビームの「軌道」が「見える」のだ。
 能力の減退が始まってから、異常なまでに強化されたハンドレッドパワー。
 その力をフル活用すれば、その程度のビームは止まっているも同然だった。
 予め読んだビームの軌道を避け、地を蹴り尋常ならざる加速で飛び出した虎徹は、
 ジェイクですら感知する間もなく、瞬く間にその目前にまで飛びこんだ。
 そして放たれる、ハンドレッドパワー状態のハイキック。
「ガァァァァアアアアアアアッ!?」
 ただの蹴り一発だ。
 それが、ロケットランチャーにも等しい威力をもっている。
 それが、完全なる無防備の間合いから、ジェイクに激突したのだ。
 ジェイクの身体は成す術もなく地べたを転がっていった。
 それでも立ち上がるジェイクに、虎徹は一瞬のうちに接近。
「このックソが!」
 虎徹のパンチに対応し、バリアを張るジェイク。
 だが……そんな動きも、今ならすべて読める!
 バリア程度では、今の昂った虎徹は止められない!
 ジェイクの動きを「見切った」虎徹は。
 パンチをフェイントにして……
 逆脚からのハイキックを、バリアの張られていない方向から叩き込んだ!
「なっ――ぶふぁあっ!?」
 蹴りが見事にジェイクの後頭部にヒット。
 一瞬白眼を剥き失神しかけるジェイク。
「これは……お前に尊厳を踏みにじられたバーナビーのぶんだ……ッ!」
 続けざまに、虎徹のボディブローがジェイクの腹を抉った。
 大量の胃液が、ジェイクの口から溢れ出した。

931イグナイト(後編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:24:15 ID:tGsSgr9I0
「グッ……ク、ソォォォォがァァァーーーーーーッ!」
 それでも反抗の意思をやめないジェイクを、虎徹は再び殴り飛ばす!
「これは、お前に非道な仕打ちをされた牧瀬紅莉栖のぶん……ッ!」
 最早自由な身動きすら取れなくなったジェイクに、二度三度拳を叩き込む!
「これは、お前のために両腕を失い傷付いたニンフのぶん……ッ!」
 そして……殴られ、無様なダンスを踊るジェイクに――
「これは今までお前に苦しめられてきた大勢の人々のぶんだぁぁあああああッ!!」
 一際強烈なパンチの一撃を、鉄槌のように振り落とした!
「これも! これも! これも! これも!」
 だが、それだけでは終わらない!
 爆発する虎徹の怒りが、拳の嵐となってジェイクを打つ!
 ジェイクの身体を超高速で抉る、数えきれないパンチの嵐!
 失った命は戻らないから……せめて、拳で鎮魂を……!
「これも! これも! これも! これも! これも!」
 マシンガンの如きパンチが、ジェイクのスーツに亀裂を入れた!
 だが、それだけではまだ足りない……
 たいていのダメージはスーツにシャットアウトされて、身体の芯までは届かない!
 だから虎徹には――その守りの最後の壁を、ブッ潰す必要があった!
「――ォォォォラァアアアアッ!!」
 つんのめったジェイクの身体を、強烈なハイキックで上空へと蹴り上げる。
 まるで体重のない人形のように空へと舞い上がったジェイク。
 同時に跳び上がり、それよりもさらに高く飛び上がる虎徹。
 そして!
「オォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ―――!!!」
 さっきのパンチよりもなお威力を増した拳のラッシュ!
 地球上のどんなマシンガンよりも速いのではないか………!
 そんな錯覚すら抱く程の強烈なパンチを、強化されたハンドレッドパワーで放つ!
 やがて、漆黒のヒーロースーツ全体に生じる数えきれない程の亀裂!
 だが、それでも虎徹は拳を振るうのをやめない!
「オォォォオオオオォォォオオォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
 ――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
 打撃の重低音を何重にも響かせながら、虎徹はジェイクを殴る! 殴る! 殴る!
 何度も、何度でも、幾度となく、十重二十重に、激しく殴り続けるッ!!
 やがて、ヒーロースーツの亀裂は上半身全体に拡がり――!
「ナァーーーァァアアアアァッ!?」
 ついに! ジェイクの身体を覆うスーツが、粉々に砕け散った!
《――GOOD LUCK MODE――》
 電子音と共に、ワイルドタイガーの右腕が瞬時に変形した!
 従来の拳を一回りも二回りも上回る巨大な拳!
 特大の鉄拳を、
「オオオオオオオオオオオオオオラァアアアアアアアアアアアッ!!」
 虎徹はジェイクの胴に、
「ヤッダーバァアァァァァアアアアアッ!?!?」
 全力で叩き込んだッ!!
 上空で虎徹の拳の直撃を喰らったジェイクは、
 凄まじい速度で地面目掛けて急降下してゆく!
 その先に待つものは、ジェイク自身が乗って来たバイクだ。
 さっきジェイクが紅莉栖にしたのと同じように、
 ジェイクの身体が放り投げられた人形のようにバイクに激突した!
 それでもジェイクは、着地した虎徹を怨めしげに見上げようとするが――
 すぐに意識を保っていられなくなったのか、ジェイクの頭はガクンと項垂れた。
「………………ところで」
 虎徹は、そんなジェイクに視線を送り、言った。
「お前がブチ撒いていた"幸福論"だが……」
「こうして今のお前を見ても、"幸せ"なんか全然感じないぜ」
「お前には……最初から勝っていたからな」
 最高の"決め台詞"だった。
 少なくとも、虎徹自身はそう思っていた。
 同時に、極端に短いハンドレッドパワーは、その発動時間を終了した。
 戦闘が終了したと判断するや、虎徹は急ぎニンフの元へ駆け寄った。

          ○○○

932イグナイト(後編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:26:47 ID:tGsSgr9I0
 
 戦いは、ワイルドタイガーの完全勝利に終わった。
 それを見届けたニンフは、安心からか全身の力が抜けるのを感じていた。
 元より両腕もなく、腹には大剣が突き刺さっていると……自立は難しい状況ではあったが。
 だがそれでも、エンジェロイドゆえ、ニンフの能力ゆえ、
 ニンフの機能はまだ停止していないし、意識もハッキリしていた。
「オイ! 大丈夫か、ニンフ!」
「タイ、ガー……ええ、まあ…なんとか……ね」
 駆け付けたタイガーに、無理矢理にでも笑顔を作って答える。
 ただ笑うだけのことにも、力がいる。
 こんなことにすら、力がいる。
 不思議な感覚だった。
 だが、今はそんなことはどうでもいい。
「それより…やったじゃない……タイガー」
「ああ、これでジェイクのヤローはもう動けねえだろ、オレ達の勝ちだ!」
 そう、"私達の勝ち"だ。
 紅莉栖がいなければ、ジェイクの正体は掴めなかった。
 ニンフがいなければ、ジェイクの読心術は破れなかった。
 タイガーがいなければ、ジェイクは倒せなかった。
 これは……みんなで掴んだ勝利だった。
 みんなで、あの最強最悪の強敵に勝利したのだ。
 いかに恐ろしい敵であろうと、所詮「悪」は「正義」には勝てない。
 それがこの世の鉄則……人が人として生きるための、当然のルールだ。
 だから、どんなに道が暗闇でも、必ず最後には光に辿りつける。
 ニンフはそう信じている。
“そして…同時に……仇は取ったわよ……紅莉栖”
 知り合いというには一緒にいた時間があまりにも短い少女に告げる。
 紅莉栖を苦しめ、これからも外道の限りを尽くそうとしていたクソ野郎はもう再起不能だ。
 気休めでしかないだろうが、これで彼女の魂が少しでも安らぐなら……
「……いや…待て……」
 そこで、ニンフは異常に気付いた。
 物音が聞こえる。
 ジェイクが吹っ飛ばされた方向からだ。
 ギギギと重たい首を回し、見れば――
 ジェイクは、血反吐を吐き散らしながら、バイクに跨っていた。
「――な、ぁぁ……ッ!?」
 絶句したのは、ニンフだ。
 虎徹はまだ気付いてすらいない。
 エンジェロイドの人間を越えた聴覚でなければ気付けなかっただろう。
 それ程までに、ジェイクは慎重にバイクを起こし、それに乗ったのだ。
 どころか、たまたま近くに落ちていたザンバットソードまで回収している。
「アイツ……逃げ……ッ!」
 バイクのエンジン音が響いた。
 そこでようやく虎徹も気付いた。
 振り返った虎徹に、ジェイクは言う。
「テメェ……覚えてろよ、クソがッ! ぜってぇ……後悔させてやるッ!!」
 血走った眼でそう言うと、ジェイクはフルスロットルで逃げ出した。
 ジェイクも必死だったのだろう。これ以上戦う体力はなかったのだろう。
 だからこその全力逃走。
 最悪だ。
 勝利だと思っていたら……それはぬか喜びだったということか。
 ――いいや違う。
“私達がやったことには……意味があった!”
 ニンフは、逡巡している虎徹に言った。
「何してんのよ……とっとと……いきなさいよ!」
「で、でもっ……」
 随分と小さい点になったジェイクとニンフを見比べる虎徹。

933イグナイト(後編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:28:24 ID:tGsSgr9I0
 ボロボロのニンフを、虎徹は一刻も早く助けたいと思っている。
 人命救助を、何よりも最優先しようとしている。
 この御人好しが考えていることは一目瞭然だった。
 常時ならばそれでいい。素敵な心がけだ。
 だが……だが! 今はそれでは駄目だ……!
「馬鹿……! 私は、エンジェロイドは…そう簡単に、死なないって……言ったでしょ!」
「………ッ……」
「それよりも、アイツをここで逃がしたら……アイツは、あの吐き気を催す邪悪は!
 もっと多くの命を奪うわ! あなたへの憎しみをもって、もっと多くの殺戮をするッ!」
「……そ、それはッ…」
「逃がしちゃいけないのよッ! アイツだけは……!!」
 そう。絶対に逃がさないと言う覚悟で、ニンフは挑んだのだ。
 ここで逃がせば、ここまでダメージを負ってやったことが無意味になる。
 それだけは許せない。それだけは、絶対に認められない。それが本当の"最悪"だ。
 このニンフがここまでやったのに、逃げられましたで済ませられる筈がないのだ。
 それに……
「それに、アイツは今、ダメージを負ってる! 私達にやられて、怪我をしている!」
「読心術もしばらくは使えない! 倒すなら今よ! 今を置いて、ほかにはないのよ!」
「だから……早く行きなさい! ヒーローなんでしょ……ワイルドタイガーッ!」
 その言葉に、タイガーはハッとした。
 ニンフの決意を推し計り、ようやく決意を固めたらしかった。
 重い腰を上げて、ジェイクが消えていった先を睨む。
「悪い……ニンフ、必ず、戻ってくっからよ……」
「それまで……死ぬんじゃねえぞ……」
 ニンフはなるたけタイガーを安心させようと……
 不敵に、フッ、と微笑んだ。
「それでいいのよ……」
 タイガーは、微笑みで返してくれた。
 力強い微笑みだった。
 彼になら、信じて、任せられる。
 そう思った時、ニンフは、一気に楽になった気がした。
“上手く……やりなさいよ、タイガー……”
 必ず、ジェイクを倒し、智樹達を傷付ける「悪」を打ち倒せと。
 ニンフは、ライドベンダーで彼方へと消えていったタイガーに言葉をかける。
 もっとも、そんな野暮なことを言わずとも、タイガーならば大丈夫だと信じているが。
 だって、タイガーは、あの絶望的な状況から、ジェイクに逆転してみせたのだから。
“それじゃあ……そろそろ…私も、少しだけ……休憩、しよう…かしら……”
 極度の疲労ゆえか。
 とても眠い。
 とても、とても眠い。
 もう、意識を保っているのがやっとだ。
 それに、寒いのだ。
 痛みは感じないが、全身のセンサーが、寒さを訴えている。
 ……いいや、じきに、そのセンサーすらも眠りについたのか、機能をしなくなった。
 徐々に薄れていく意識の中で、ニンフは、キングラウザーを見た。
 己の腹に突き刺さったままの大剣を見た。
 まだ……メダルは、少しだけ、残されていた。
“…最後の……ハッキン、グ……”
 残りの全体力を使って。
 残りの全メダルを使って。
 ニンフは、自分に突き刺さった大剣にハッキングをかけた。
 内容は――
 この剣を、「相応しくない者」には抜けないようにする……ということ。
 この正義のために使われるべきだった大剣を、悪人の手に抜かれないようにすること。
 例えニンフに突き刺さった大剣を見付けても、悪人の手ではピクリとも動かないように。
 正しい心の持ち主だけが、この剣の次の使い手として剣を抜けるように。
 そんなハッキングを、「大剣」と「自分の身体」に施して――
 やるべきことをすべて終えたニンフは。
「少しだけ……眠ろう、かしら……」
 願わくは、この剣が「正義」の「切り札」とならんことを。
 そして、その力が、必ず智樹達を救うことを信じて。
「おやすみ……トモ、キ……」
 そうしてニンフは。
 ここにはいない愛するマスターにおやすみを言って。
 二度と帰らぬ眠りについた。
 エンジェロイドとしての全機能が――停止した。

          ○○○

934イグナイト(後編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:31:13 ID:tGsSgr9I0
 
「クソッ! クソがッ! あのクソカスどもがァァァッ!!」
 血走った目を剥き出しにしながら、ジェイクは夜の街に絶叫する。
 全身が痛い。痛くない所なんてもう何処にもないほどにあちこちが痛い。
 ヒーロースーツを着ていなければ、確実に死んでいた。
 肋骨なんか、もう半分以上は折れているのではないか。
 手足の骨が折れていないのが幸いだった。
 だが、本当につらいのは、能力を一つ消されたことだ。
「クソォォォオオオオオオオッ!! 聞こえねえ! 何も! もう! 聞こえねェェェエエエエエッ!!」
 どんなに意識を集中しても、ジェイクの耳には何の声も聞こえない。
 神が与えてくれたNEXT能力が、あんな取るに足らないガキに消されてしまったのだ。
 これに激昂しないワケがない。
 あのガキは放っておいても死ぬだろうし……
 ヤツが守ろうとしていた智樹とか言うヤツも、ただの一般人だ。
 見付け次第血祭りにあげてやる方針でまったく問題はない!
 しかし……!
 しかしあの虎徹! 糞虎徹! アイツだけは! 絶対にゆるせねえ!!
「あのヤロー……最初会った時、シュテルンビルトにスーツの替えを取りにいくって考えてやがった!」
 だからジェイクは、シュテルンビルトに先回りをする。
 予備のタイガーのスーツを一つ奪って、他は全部破壊してやる。
 そして自分だけが唯一無二のワイルドタイガーとなって……
 悪事の限りを働いてやる! 邪魔な参加者は全員ブッ殺してやる!!
 ワイルドタイガーを信じてたクソ人間ども、タイガーの手で全員ブッ殺してやる!!!
「待ってろよクソタイガー……テメェの尊厳……地の底まで叩き落としてやっからよォォォオオオ!!!」
 激しい憎悪を抱えて、ジェイクはシュテルンビルトを目指す。


 そして、それを追うヒーロー……
 ワイルドタイガーは、果たしてジェイクに追い付けるのだろうか。
 ジェイクの憎悪と同じか、それ以上に正義の怒りを燃やすタイガーは、
 ニンフの願いを継いで、見事ジェイクを打ち倒すことが出来るのだろうか?
「待ってろよ……ジェイク…テメェだけは……絶対にこの手でとっ捕まえてやるッ!!」
 虎徹もまた、ライドベンダーをフルスロットルで加速させるのだった。


【一日目-夜】
【C-5 キバの世界寄り】
【ジェイク・マルチネス@TIGER&BUNNY】
【所属】無
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、能力消失に対するストレス(極大)、憎悪(極大)、ライドベンダー搭乗中
【首輪】80枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ(ダークネス)@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式×2(ジェイク、カリーナ)、魔皇剣ザンバットソード@仮面ライダーディケイド、
    天の鎖@Fate/Zero、ランダム支給品×2〜9(ジェイク1、カリーナ1〜3、切嗣+雁夜1〜4:切嗣の方に武器系はない)
【思考・状況】
基本:ゲームを楽しむ。
0.虎徹の野郎だけは絶対に許せねえ! 殺しても気が済まねえ!!
1.クソ虎徹の尊厳を地の底まで貶めてやる!
2.そのため、ヒーロースーツを奪取、残りは全部ブッ潰すッ!!
3.ついでに智樹とかいう野郎も見付けたらブッ殺す!
4.神から与えられたオレの能力が消えちまったよぉぉぉぉぉぉぉ!!
【備考】
※釈放直前からの参加です。
※NEXT能力者が集められた殺し合いだと思っています。
※ニンフは三重能力のNEXT、フェイリスは五重人格のNEXTだと判断しています。
※散髪しました。原作釈放後のヘアースタイルです。
※バーサーカー用の令呪:残り一画
※身に纏っているヒーロースーツは上半身が完全に破壊され、インナースーツ剥き出しです。
※魔皇剣ザンバットソード@仮面ライダーディケイドはジェイクの支給品でした。
※読心能力が永久に使用不能なのか、一定時間使用不能なのかは不明です。
 ニンフは死亡しているため、一定時間経過すれば回復する可能性は高いです。
※搭乗しているライドベンダーは元々切嗣が乗って来たものです。

935イグナイト(後編) ◆QpsnHG41Mg:2013/01/29(火) 02:33:02 ID:tGsSgr9I0
 
【一日目-夜】
【C-4とC-5の間】
【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(極大)、疲労(極大)、背中に切傷(応急処置済み)、激しい怒り、NEXT能力使用不可(残り約一時間)、ライドベンダーに搭乗中
【首輪】80枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(血塗れ、頭部破損、胸部陥没、背部切断、各部破損)、重醒剣キングラウザー@仮面ライダーディケイド、不明支給品1〜3
【道具】基本支給品、タカカンドロイド@仮面ライダーOOO、フロッグポッド@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
 0.カリーナやネイサン、翔太郎のぶんまで戦わなければならない。
 1.ジェイクへの激しい怒り。ヤツは絶対にこの手で倒す!
 2.それが終わったらニンフの下に戻り、ニンフを助ける。
 3.シュテルンビルトに向かい、スーツを交換する。
 4.イカロスを探し出して説得したいが………
 5.他のヒーローを探す。
 6.ジェイクとマスターの偽物と金髪の女(セシリア)と赤毛の少女(X)を警戒する。
【備考】
※本編第17話終了後からの参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」「そらのおとしもの」の参加者に関する情報を得ました。
※フロッグポットには、以下のメッセージが録音されています。
 ・『牧瀬紅莉栖です。聞いてください。
   ……バーナビー・ブルックスJr.は殺し合いに乗っています!今の彼はもうヒーローじゃない!』
※ヒーロースーツは大破寸前、とくに頭部はカメラ含め完全に機能を停止しています。
 そのためフェイスオープンした状態の肉眼でしかものを見れません。


【全体備考】
 ※戦闘した場所はD-4北東寄りです。そこにニンフと紅莉栖の遺体が放置されています。
 ※ニンフの遺体の胴体には重醒剣キングラウザー@仮面ライダーディケイドが突き刺さったいます。
  これはニンフの能力により、相応しい者以外の手ではピクリとも動きません。
  ニンフ亡き今、このカリバーン効果がいつまで持続するかは不明です。



【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate   死亡確認】
【ニンフ@そらのおとしもの   死亡確認】

936名無しさん:2013/01/29(火) 02:34:37 ID:tGsSgr9I0
投下終了です。
最後の状態表で虎徹の道具の中に入ってるキングラウザーはミスなので収録時は削除お願いします…

937名無しさん:2013/01/29(火) 09:18:03 ID:PEB/GXQw0
投下乙でした!
予約の段階でどうなるかと思ったら……まさか、ここまで熱い死闘が繰り広げられるとは!
これまでパッとしなかった助手は最期に輝いたか。ニンフも腕を失っても、ジェイクの能力を封印したのが熱かった。
そして、タイガーは果たしてジェイクを追いつけるかどうか!?
もう一度、大作乙でした!

938名無しさん:2013/01/29(火) 20:25:35 ID:JWZvrxC20
投下乙です

熱い、熱い死闘とはこういうのを言うんだろうなあ!
みんながみんな輝いてたぞ
これまでいい所なしのタイガーもよくやった…と思うがジェイクも憎悪を燃やしてまだ終わってないぞ
さて、次で決着付くか?

939名無しさん:2013/01/29(火) 20:36:58 ID:hXC7tn9s0
投下乙です。
カッコいい、皆カッコいい…
紅莉栖とニンフが命懸けで勝機を作り、それを全力のラッシュに繋げる虎徹。
凶悪な敵に皆が全力で立ち向かいついに勝利をもぎ取る、指折りの熱い話でした。
しかしこれでも完全に決着が着かないとかジェイクしぶといなオイ!
で、虎徹とジェイクがボロボロでシュテルンビルト行きか。
…ん、そっち方面は多分マーダーとマーダーキラーが元気に待機中…

940名無しさん:2013/01/29(火) 23:38:09 ID:SJS3Q0qI0
投下乙ですー
紅莉栖がぁぁ
屈辱に耐え忍びながらボロボロになってたけど最期に真実を伝えられたのか・・・
ハッキングを仕掛けるべく、腕も失いながらジェイクに特攻するニンフ、
ボロボロになってなお二人の意思をつなげてラッシュを繰り広げる虎徹

まさに三人で得た勝利だ
しかしジェイクしぶとすぎだろ
満身創痍でNEXT能力も封じられたけどカンカンだし解除されたら、と思うと恐ろしい

941名無しさん:2013/01/30(水) 04:25:22 ID:jIq/S6Rw0
投下乙!
ニンフウウウウウウウウウウウウウウウウウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
最初からずっと不憫な感じだったけど、最後の最後ですごい頑張った
クソムカつくジェイクに吠え面掻かせてやったのは爽快だっただろうなぁ
そはらといいアストレアといいニンフといい、ここのそらおと勢の死に様はとても格好良いと思う
ここの影響でそらおとの原作を全巻買ってしまった

しかしジェイクはしぶといなぁ
ここまで来たらもうちょっと虎徹に頑張ってほしいところ

942名無しさん:2013/01/30(水) 10:34:13 ID:Nl0TcRoQ0
しかしこれでそらおと勢も残り半分か……
あれ、智樹やばくね?

943名無しさん:2013/01/30(水) 11:41:56 ID:oSUklLSE0
大丈夫
地球を追放されても平然と次の回で復活する智輝なら

944名無しさん:2013/01/30(水) 19:26:08 ID:XQiHpwTU0
おお、いっぱい投下されてる!
乙です!

ネウロは人間の可能性の方に目をつけるか
こういうクロスは面白いなー
あともっとQBをいじめてくれー!

セシリアがどんどん病んでる……
ユウスケとかいい奴なんだけど、こればかりはなー
笑顔こええよ

うおおお、助手が、ニンフが……
お前らジェイク相手によく頑張ったよ!
しかし、これはなかなか思いもよらぬかつ強烈な結果に
二人が死んだこともだけど、ジェイクの読心をよもや封じてしまうとは
ジェイクの嘆きようがざまあみろなんだけど、それと同じく、この先のあいつも気になるな
でもなによりおじさんがかっこよかった!
能力減衰の副作用の魅せ方もすごかった!

945名無しさん:2013/01/30(水) 20:23:41 ID:tK6Zwx2Y0
>>942
智樹よりも岡部のほうがヤバいだろ

まゆしぃ→ダル→紅莉栖と仲がいい奴らから死んでいってるし

946名無しさん:2013/01/31(木) 22:43:12 ID:1gVMsOtk0
というより、知人死んでヤバくないのなんて何人いることやら

947名無しさん:2013/02/03(日) 18:12:10 ID:WaclxNj60
投下乙
だけどこれって虎徹じゃなくてジョルノだね

948名無しさん:2013/02/03(日) 19:50:19 ID:orjSvN6Y0
ついでに言うとジェイクがチョコラータでもある

949名無しさん:2013/02/06(水) 16:50:29 ID:19NdySHQ0
彼単独の予約が来てたなあ

950 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/12(火) 19:59:13 ID:6z1KH9bM0
投下開始します

951傷だらけのH/一人ぼっちの名探偵 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/12(火) 20:01:30 ID:6z1KH9bM0


【1】


 本能が訴えかける。
 目に映る者全てを破壊せよと。
 己の内に秘めた激情を解放し、暴虐の限りを尽くせと。

 令呪の呪縛が囁いてくる。
 この場に居る全ての命を踏み砕けと。
 マスターの望むがままに、殺意を振り撒けと。

 狂戦士は、それらをあるがままに受け入れる。
 本能だけを頼りに進むこの男に、拒否する意思などあるものか。
 最早今の彼には、己が戦う意味も、それが結果として何を成すのかをも、理解できはしない。

 バーサーカーとしての理性なき闘争は、他でも無いランスロットが望んだもの。
 彼が最期まで心中に溜めたままだった感情を、曝け出させる唯一の方法。
 湖の騎士ではなく、一匹の野獣であれば、完璧すぎたあの騎士王にも刃を向けられる。
 理不尽な運命が生んだ身勝手な感情を、何の躊躇いもなくぶつける事ができる。
 狂戦士の鎧を纏っていれば、最早何も気にする必要などないのだ。
 誉れも、誇りも、忠義も、騎士道も、名誉も、生前のあらゆる縛りはかなぐり捨てた。
 後に残るのは、ただ相手を殺戮せんとする衝動のみ。
 かつて完璧な騎士と謳われた円卓の騎士は、この場に置いてはただの悪鬼と成り果てていた。

 そしてまた一人、バーサーカーの前に人間が姿を現した。
 狂戦士にとっては、それが誰であるのかなど関係のない話。
 やる事はただ一つ――己が本能がままに、殺意を叩き付ける。
 その在り方からは、かつて崇められた騎士の面影など、何処にも感じられなかった。

952傷だらけのH/一人ぼっちの名探偵 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/12(火) 20:02:35 ID:6z1KH9bM0
【2】


 たった六時間で、18もの命が喪われたという。
 虎徹の仲間だったヒーロー達が、千冬の教え子が、掛け替えのない相棒が、この僅かな時間の中で命を落とした。
 きっとその誰もが、翔太郎の様に己の正義に殉じていったのだろう。
 それに対して、殺し合いに乗っているであろう邪悪の名前はキャスターとアンクだけしか呼ばれてはいない。
 それはつまり、本来ならば倒されるべき邪悪がまだこの地で蠢いているという事だ。
 大道克己を始めとする風都の犯罪者達が、雨流龍之介のような快楽殺人鬼が、主催の協力者であるグリード達が、
 まだ何処かで、何の罪も無い人々の生き血を啜って、嗤っている。
 すぐにでも奴らの元に駆けつけ、犠牲が出る前に倒したいのだが、
 今彼らが何処に居るのかすら分からない以上、フィリップには彼らの暴走を止める事はできない。

 いや、例え居場所が突き止めていても、今のフィリップで彼らを打倒できるのだろうか。
 彼は今や、仮面ライダーWの片割れではなく、一端のドーパントである。
 相棒を喪った以上は、どれだけ願ってもWに変身する事は不可能なのだ。
 現在のフィリップの武器は、T2サイクロンメモリただ一つ。
 井坂達と同様、彼もまた怪人として戦う事を強いられているのだ。
 今までドーパントを狩っていた者がドーパントとして戦うとは、何とも皮肉な話だと、彼は心中で自嘲する。

「分かってるさ。僕は前に進まないといけない」

 少し前に言った言葉を、もう一度自分に言い聞かせる。
 今は感傷に浸るのではなく、犠牲者を少しでも多く減らす事に専念すべきだ。
 きっとそれこそが、遠い所へ行ってしまった翔太郎の、最期の願いなのだから。

 当初の予定通り、切嗣と合流できるであろう衛宮邸へ向かう為に足を進める。
 武装が心もとない現状では、彼と共に行動した方が危険が少ない。
 可能な限り早く合流し、殺し合いの打破の為に力を合わせなければ。

 ――そう考えた直後に、切嗣の仲間だったアストレアの姿が頭に浮かんできた。

 彼から同行を任せられた彼女は、翔太郎と同様にアンクに殺害されてしまった。
 即ちそれは、翔太郎の言う通り、切嗣の信頼を裏切ったという事になる。
 果たして、一人おめおめと生き残ったフィリップに、彼は何を思うのだろうか。

(僕に、切嗣と出会う資格があるのか?)

 そう思わずには、いられない。
 切嗣が仲間を拒絶するような人間でない事はよく知っているが、それでもフィリップ自身が疑問を抱いてしまう。
 本当は、切嗣と共に戦うべきだったのは翔太郎の方ではないのか?
 アンクとの戦闘で散るべきだったのは、彼ではなくフィリップだったのではないのか?
 狂った少女を説得するどころか、命からがら逃げ出したこの少年は、仮面ライダー足りえるのか?
 何度問いを脳内で巡らせても、答えは出てこない。

953傷だらけのH/一人ぼっちの名探偵 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/12(火) 20:03:41 ID:6z1KH9bM0

(……何を、馬鹿な事を)

 こんな問いかけが何の意味を成さない事は、他でもないフィリップ自身が最も良く理解している。
 ついさっき感傷に浸るなと言い聞かせておきながら、早くもこんな下らない問題に時間を費やしてしまった。
 まだ覚悟ができてない印だと、フィリップは己の弱さに恥じらいを感じざるを得なかった。
 そして、その直後だった――聞き覚えのある金属音が、フィリップの耳を打ったのは。

「あれは……バーサーカー……?」

 彼の記憶が確かなら、この音はきっと、数時間後の再会を約束した男と共に居たサーヴァントのものだ。
 となると、切嗣もすぐ近くに来ているに違いない。
 衛宮邸に向かう前に出会えるとは、不幸中の幸いとはこのことだ。
 まだ後ろめたい部分があるものの、とりあえずこれまでの経緯を切嗣に報告しなければ。
 そう考えて、バーサーカーがいる方向へと駆け寄ろうとした、その瞬間――フィリップの真横を、黄金に輝く刃が通り抜けた。
 そしてその数刻後に、炸裂音と土埃が背中から襲いかかる。

「な、何を……!?」

 フィリップの反応など意にも留めずに、バーサーカーは再び宝具を発射しようとする。
 すぐさまガイアメモリを取り出したフィリップは、それを使ってサイクロン・ドーパントへと姿を転じる。
 疾風の記憶から生まれ出たサイクロン・ドーパントは、名が示す通り風を操る怪人だ。
 バーサーカーが放った宝具のミサイルの軌道を、自身に直撃しないように突風でブレさせる。
 狙いのズレた宝具は、先程と同様に後方で着弾し、土埃を巻き上げた。

「何をするんだ!?どうして君が……!?」

 切嗣が情報交換の際、バーサーカーは令呪で束縛されているから襲ってくる心配はないと言っていた。
 しかし、今まさにフィリップはそのバーサーカーから襲撃を受けているではないか。
 あまりに予想外な展開が、フィリップの思考速度を鈍らせる。
 しかし、彼が状況を呑み込めない一方で、バーサーカーの判断は実に早かった。
 バーサーカーはすぐさま相手へと肉薄し、手にした財宝の一つで敵を切り裂かんと刃を振るう。

954傷だらけのH/一人ぼっちの名探偵 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/12(火) 20:05:04 ID:6z1KH9bM0

「……ッ!」

 それをフィリップは、直撃寸前の所でどうにか回避する。
 ただの人間を超人へと変化させるガイアメモリの力がなければ、フィリップは刃に裂かれて絶命していただろう。
 それでも、判断があと一瞬でも遅れていたら、ドーパントに変身しているとは言え無事では済まなかった。
 しかし、バーサーカーの斬撃は、そんな事お構いなしに連続して放たれる。
 次々と襲い掛かる刃を何とか躱したフィリップは、僅かな隙を突いて騎士の懐に手を翳す。
 そして、手の平から放出された突風でバーサーカーを吹き飛ばした。
 風を操る特性を有していたサイクロン・ドーパントでなければどうなっていたか――フィリップは倒れたバーサーカーを見据えながら、僅かに身震いした。

 バーサ−カーとの距離は離せれたが、これで奴が諦めるとは到底思えない。
 きっとすぐに体制を立て直し、再び殺意を漲らせながらこちらに迫ってくるに違いない。
 どうすればいい――まだ戦うべきなのか、それとも逃げるべきなのか。
 
「…………僕、は」

 数刻の逡巡の後、フィリップは己の周囲に竜巻を発生させる。
 丁度その時、完全に体制を整えたバーサーカーが、こちらが逃走しようとしているのに気付く。
 獲物を逃がさんと言わんばかりに狂戦士が雄叫びをあげると、彼の背後が極光に煌めいた。
 黄金色に染まる背景の中には、これまた見事な装飾が施された様々な武器がこちらに刃を向けている。
 あと数秒もしたら、それらは全てフィリップへ襲い掛かるだろう。

 埃を巻き上げながら生まれ出た竜巻が、ドーパントの姿を完全に覆い尽くした次の瞬間。
 眩い光を伴わせた財宝達が、狂戦士の咆哮に呼応するように、一斉に放出された。



【3】


 土煙が消え去った頃には、既に怪人の姿は見えなくなっていた。
 方法は不明だが、怪人は狂戦士の魔の手から逃げ出したようだ。
 その不甲斐ない結果に対し、バーサーカーは不気味に唸る。
 獲物をまたしても取り逃したという、動物的な感情が彼を苛立たせているのだ。
 怪人が何処へ逃げたかなど、皆目見当もつかない。
 バーサーカーは追跡を諦め、また何処へと去っていく。

 目的地などありはしない。
 悪劣な野獣如きに、そんなものを決める意味などあるものか。
 向かった場所に存在するものは、一つ残らず破壊する。
 それだけが、狂戦士のランクを得て現界したランスロットの使命。

 嗚呼――漆黒の鎧の奥底で、騎士の魂が啼いている。
 己の業に啼いているのか、それとも己の凶行に啼いているのか。
 同時に聞こえてくるのは、女のすすり泣く声。
 かつて愛した王女の泣き声が、狂戦士を苛もうとする。
 しかし、魂の慟哭も、愛した女の涙も、獣と化した今のランスロットには、何の感慨も抱かせない。
 バーサ−カーはまた咆哮をあげると、薄暗い闇の中へと消えていった。


【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤
【状態】健康、狂化
【首輪】70枚:0枚
【装備】王の財宝@Fate/zero
【道具】アロンダイト@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:▅▆▆▆▅▆▇▇▇▂▅▅▆▇▇▅▆▆▅!!
 0.令呪による命令「教会を出て参加者を殺してまわる」を実行中。
 1.無差別に参加者を殺してまわる。
【備考】
※参加者を無差別に襲撃します。
 但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます。
※ヴィマーナ(王の財宝)が大破しました。
※バーサーカーが次に何処へ向かうかは後続に任せます。

955傷だらけのH/一人ぼっちの名探偵 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/12(火) 20:07:51 ID:6z1KH9bM0
【4】


 バーサーカーの脅威が去った事を確認したフィリップは、ドーパントの変身を解除する。
 元の人間の姿に戻った途端、彼は膝から崩れ落ちるようにへたり込んだ。

「……また、だ」

 結局、あの少女の時と同じように、逃げ出してしまった。
 あれを放っておけば、この殺し合いは凄惨さを増していくのは、誰の目から見ても明確である。
 それなのに、フィリップはその悪鬼の暴走を止められなかった。
 自分の命惜しさに、またしても自分の足でその場を離れてしまったのである。

 逃走が仕方なかった事なのは、十分理解できている。
 あそこで逃げなければ、きっと惨めに野垂れ死んでいただろう。
 これから翔太郎の意思を継いで戦おうというのに、こんな場所で命を散らしたら彼に見せる顔がない。
 分かっているのだ――それでも、苦悩せずにはいられない。
 もしも、ここにいるのが翔太郎だったとしたら、もっと別の結末があったのではないか?
 きっと彼なら、どんな時だろうがギリギリまで諦めなかった筈だ。
 少しでもバーサーカーに傷を付けようと、気力を振り絞って戦い続けていただろう。
 少女の時だって、限界まで彼女の心を動かそうと声を張り上げていたに違いない。
 それに比べ、今の自分はどうだ?
 自身の理論を盾に、すぐに諦めて逃走してばかりではないか。
 戦略的撤退などと言っても、結局は目の前の脅威――もとい現実から、目を背け続けているだけに過ぎない。

「二人で一人の仮面ライダー……結局僕も、半人前(ハーフボイルド)なんだ」

 これまでは、どんな戦いも翔太郎と共に切り抜けてきた。
 お互いの足りない場所を埋め合わせて、初めて一人の仮面ライダーとして戦えた。
 だが、今は違う――フィリップはもう、一人ぼっちなのである。
 誰よりも風を愛していた青年は、もう二度と彼の手を取ってはくれない。
 これから先は、"相棒のいない探偵"として考え、そして戦わねばならないのだ。

 自分と共に笑い、怒り、泣き、楽しんでくれる人がもういないという事実。
 ただそれだけが、こんなにも人を衰弱させてしまうとは。
 打ちひしがれた自分の心を鑑みて、改めてそう実感する。
 かつての翔太郎の師が言った様に、完璧な人間など何処にもいない。
 不足を補ってくれる相棒を喪ったフィリップの強さなど、たかが知れているのだ。

「それでも、翔太郎の分まで進まないといけないんだ」

 不完全なままであろうとも、前に進まなければならない。
 この場で立ち止まるのは、翔太郎の遺志の否定に直結するのだから。
 彼の受けた傷に比べれば、フィリップの痛みなど些細なものだ。
 こんな程度で、弱音を吐いてはいけない――翔太郎が彼と同じ立場に立っていたら、きっと弱音など口に出さなかっただろうから。
 翔太郎の相棒として、己の信念を曲げるような真似をする訳にはいかない。

 例え一人であったとしても、二人分の正義を貫く――それこそが、今のフィリップに課された義務。
 擦り切れそうな心に、仲間の正義という名の十字架を背負いながら、少年は進む。
 今の彼に吹く彼は、これまで感じたどの風よりも刺々しく、肌寒かった。

956傷だらけのH/一人ぼっちの名探偵 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/12(火) 20:08:42 ID:6z1KH9bM0
             O             O             O


 ……そういえば。
 結局、どうしてバーサーカーはフィリップに襲いかかってきたのだろうか。
 仮に切嗣の死という形で奴が解放されたのなら、放送で「衛宮切嗣」の名が呼ばれている筈だ。
 しかし、放送では彼の名は呼ばれていなかったから、この説はただの杞憂に過ぎない。
 では、何故バーサーカーは再び殺戮を行うようになってしまったのだろうか。
 確か切嗣は、令呪を用いればサーヴァントにどんな命令でも強制的に実行させられると言っていたか。
 そこまで思い出して、フィリップは恐るべき一つの仮説を組み立てる。

「まさか、切嗣」

 令呪を用いれば、バーサーカーは解放させられる。
 そして現在、奴の令呪を所持しているのは一人しかいない。
 さらに言えば、魔力のない人間に令呪を所持する事は不可能。
 この三つの原則から考えれば、バーサーカーに参加者の抹殺を命令できるのは――。

「……何を、馬鹿なッ!まさか彼が、そんな……!?」

 フィリップ達の前で見せたあの純朴な正義感が、偽りのものであったとしたら。
 衛宮切嗣の本性は、グリード達や風都の犯罪者と同様に、弱者に手をかける事を厭わない邪悪だとしたら。
 とても信じ難いが、しかし可能性は決してゼロではない。

「ありえない……あり得る訳が、ない」

 フィリップはそう呟いて、浮き出た仮説を奥底へと鎮める。
 あの切嗣が、そんな下種な真似をする訳がない事は、実際に会った自分がよく知っているではないか。
 フィリップと翔太郎の正義を、彼が陰で嘲笑っているなど、そんな事はあってはならない。
 そう自分に言い聞かせたとしても――切嗣への疑念は、完全に晴れる気配を見せなかった。



【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】疲労(大)、ダメージ(中)、精神疲労(極大)、深い悲しみ
【首輪】20枚:0枚
【装備】{ダブルドライバー、サイクロンメモリ、ヒートメモリ、ルナメモリ、トリガーメモリ、メタルメモリ}@仮面ライダーW、
    T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW、スパイダーショック@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。
 0.…………。
 1.衛宮邸に向かう。
 2.あの少女(=カオス)は何とかして止めたいが……。
 3.バーサーカーと「火野という名の人物」を警戒。また、井坂のことが気掛かり。
 4.切嗣に対する疑念。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません

957 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/12(火) 20:08:56 ID:6z1KH9bM0
投下終了です

958名無しさん:2013/02/12(火) 20:11:10 ID:pyLtEovY0
投下乙です!
フィリップはどんどん疲弊していくな。頼れる仲間が立て続けに死んだ上に、仲間だと思っていたバーサーカーに襲われたんだし。
この上、更に切嗣すらも信じられなくなってしまう……フィリップ君、可哀想すぎる。

959名無しさん:2013/02/12(火) 20:16:06 ID:pyLtEovY0
それともう一つ。
現在位置と時間の部分が書いていないので、加筆した方がいいと思います。

960 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/12(火) 20:22:10 ID:6z1KH9bM0
またしても現在位置書き忘れてました
時刻は【一日目 夜】
現在位置は、フィリップが【B-4 北部】 、バーサーカーが【C-3 北東部】となります。

961名無しさん:2013/02/12(火) 20:28:45 ID:kOCekDpQ0
Wに変身することは不可能、とありますが
Wは本来鳴海壮吉か照井竜と変身するはずで、翔太郎とでは不完全
という話をすでにフィリップは知っているのでは?

戦う為には他の誰かとWになるべきだけれど心情的に抵抗があるくらいではないかと思います

962名無しさん:2013/02/12(火) 20:30:50 ID:P0JbdiMk0
あ、投下乙です

963名無しさん:2013/02/12(火) 22:06:39 ID:XIBvMH6o0
投下乙です!
傍迷惑な騎士追加予約時点では死者スレで翔太郎にフィリップを迎え入れる準備をさせようか迷ったけれど、
前話に続いて何とか逃げ延びたか。サイクロンの力は逃走に便利だな。
しかしその「逃げる」という行為自体が、翔太郎との違いを強く認識させてフィリップを苦しめて行く……
気に病むなよフィリップ、って言ってやりたいけど、実際にその言葉を言ってやってくれる相棒がいない、のか……これはこっちまで堪えるな
それで、なまじ切嗣から知識を仕入れただけに生じてしまった疑惑
思えば放送後に考えているように、大正義克己ちゃんのことも悪党だと思っているんだよな
この誤解が対主催、ひいてはフィリップの首を絞めなきゃ良いんだけど、ロワだしなぁ……

あと指摘になりますが、>>952の「雨生龍之介」が「雨流」になっていますよ。

964名無しさん:2013/02/12(火) 22:43:45 ID:XIBvMH6o0
>>961 横から失礼しますが、その「フィリップがWに変身できると考えないのはおかしい」という指摘ですが、
それって「知識があっても、翔太郎以外の人間とWになるという考えそのものが浮かばない」ほどにフィリップにとって
左翔太郎という存在が大きい、というだけのことなんじゃないんですかね……
今回のSSでも前回のSSでも、そう察するに足るだけの心理描写がされているように自分は感じたので、
こういう読んで察する部分の根幹をわざわざ書き手さんに説明させるのも無粋かと思うのですが……

965名無しさん:2013/02/12(火) 23:20:11 ID:iUo4H4Hc0
投下乙です

一緒に予約された時から不安を感じてたがここで死んだ方がマシかもという酷い(褒め言葉)展開だぜw
もう既に上で言われてる様な状況は…
気に病んでる上に誤解フラグ立ってるのかあ
嫌な予感しかしないが頑張ってくれ

966名無しさん:2013/02/13(水) 00:36:01 ID:zmCNQdjI0
961です。すみません。

翔太郎しか考えられない。よりも
選択肢があるうえで、あえて翔太郎を選ぶ。弱さを受け入れる。
というのがフィリップと思っていました。
勝手なキャラクターイメージでした。すみません。

・信じたいのに疑わしい
・探偵は今自分ひとり
というのが小説版の状況に似ていて、
しかしそのときどころでなく翔太郎のことばかり考えているだろうことはわかります。

967名無しさん:2013/02/13(水) 17:54:08 ID:nlOid7aAO
投下乙です。

孤独は心を蝕むなあ。

968 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/13(水) 21:00:11 ID:cb0rIrSE0
>>960で書いた現在位置ミスがあったので修正。正しくはフィリップが【B-4 南部】となります。

969名無しさん:2013/02/15(金) 20:51:33 ID:JDFHZUA20
投下乙です!
切嗣が紅莉栖をダシにジェイクに脅されて
バーサーカーに殺戮の令呪をかけざるを得なかったのが響いてきたか…!
放送で知った名前を呼ばれたり死ぬべきは自分だったのではないかと考えたりした所に
「逃げ」を選んだ自分への自責と切嗣への疑念と
フィリップにかかる精神的負担がすごい
なまじ令呪について知識を得ていてそこまで推測が働いてしまったのが不幸としか
まさに今のフィリップは「一人ぼっち」なんだよなぁ

970 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/21(木) 19:56:30 ID:tzANqREg0
投下します

971傷だらけのH/二人の赤き鬼 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/21(木) 19:58:17 ID:tzANqREg0

【1】


 さながら黒い霧が立ち込めたかの様な空間の中で、蛍火が一つ灯った。
 微小ながらも、薄暗い闇の中で存在感を放つその明かりは、一本の煙草の先に点いていた。
 煙草に火が点いている以上、それの味を楽しんでいる者は当然存在する。
 民を護るのが使命の警察官でありながら、復讐に狂う獣と化した男――笹塚衛士である。
 彼は今、民家から持ち出した煙草の封を開け、久しぶりの喫煙を楽しんでいた。

 民家に立ち寄ったのは、煙草を探す以外にも理由がある。
 というよりも、その"もう一つの理由"の方が主な動機だった。
 笹塚は定時放送が流れる少し前に、ある一人の男と遭遇している。
 何があったかは定かではないが、その男の格好は随分と酷い有様であった。
 着ていた赤いジャケットもぼろ切れの様になっており、二本の足で立っているのが不思議に思える位だった。
 しかし、それ程までに困憊しているのにも関わらず、彼の姿からは確固とした覚悟が感じられたのである。
 何を犠牲にしてでも、必ずや己の目的を果たしてみせるという、強い執念の籠った決意。
 彼のその覚悟を目にした笹塚は、期待せずにはいられなかった。
 いや、最早それは期待ではなく、確信と言っても良かっただろう。
 『この男は、自分と同じ"獣"を内に飼っている』
 笹塚はその男について、何一つとして知ってはいない。
 だがしかし、彼がその身に纏っていた怨念は、笹塚が手を差し伸べる理由に十分なり得たのだ。
 笹塚が民家に立ち寄ったのは、その男を安全な場所に移動させる為である。
 彼の傷ついた身を休ませたかったし、路上ではいつ他の参加者と出くわすか分からない。
 もし殺し合いに乗っているに発見されたら、せっかく出会えた同胞に被害が及んでしまう。

(加頭に見つかったら逃げられないだろうしな)

 つい先程終わった放送の最中に羅列した名の中に、加頭の名はなかった。
 それはつまり、奴は先の戦闘を切り抜けたという事だ。
 二人組の男女に倒されてくれないものかと思っていたが、どうやら現実はそう甘くはないらしい。
 裏切りを受けた加頭は、間違いなく笹塚に怒りを燃やしているだろう。
 次に遭遇したら、きっと彼は即座に変身してこちらの息の根を絶やそうとしてくる。
 そうなってしまえば、装備が充実しない今の笹塚に打つ手はない。
 今の笹塚には、銃一丁しか使える武器がないのだ。
 加頭やレザージャケットの男の様に怪人に変身できる訳でもなければ、青髪の少女のように何も無い所から凶器を取り出す事もできない。
 いくら技術を磨いた所で、人間の域を脱した超人達の前では、笹塚は無力に等しいのだ。
 それ故に、笹塚は"武器"を求める。
 どんな形にせよ、襲ってくる敵に対抗できる能力がなければ、この先生き延びる事はできない。
 そういう意味でも、加頭と同じような怪人になれるあの男は、笹塚にとっては都合が良かった。

972傷だらけのH/二人の赤き鬼 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/21(木) 20:00:27 ID:tzANqREg0

 笹塚の第一目標は、生き残る事だ。
 正義の味方を気取って他人を助ける事でもないし、ましてや殺人鬼としてゲームに楽しむつもりもない。
 殺された家族の無念を晴らすべく、何を犠牲にしてでもこの世界から生還しなければならないのである。
 利用できるものは全て利用し、場合によってはこの手を血に染める事すら厭わないだろう。
 これまでの笹塚からすれば考えられない、旧友からすれば暴走しているとさえ言われそうな行動理念。
 しかし、今の彼は至って――自分でも驚くくらいに――冷静である。
 ゲームでの生存確率を高める一手、そして憎き仇を確実に殺す手段が、常に笹塚の脳内を駆け回っているのだ。
 この復讐鬼が、かつて脳噛ネウロと共闘し、桂木弥子を見守っていた刑事と同一人物だと誰が思えようか。
 だがしかし、他者に何を思われようが、これは笹塚が望んで進んだ道である。
 これから引き返す気もないし、ましてや誰かの説得に耳を貸すつもりもない。

 さて、そろそろ民家の中に居るあの男の様子を見に行く時間だ。
 放送で何か影響がなければいいが、こればっかりはどうなるか予想できない。
 もしかしたら彼の愛人の名が呼ばれたかもしれないし、憎き仇の名前を聞いている可能性もある。
 放送を聞き終えた彼がどうなっているかは、笹塚自身が見に行くまでは分からないのだ。

「……しかし不味いな、これ」

 そう呟いて、吸っていた煙草を地面に放り棄てる。
 『煙龍』という聞き慣れない銘柄の煙草は、どうやら自分の口に合わないようだ。
 無いよりましではあるが、やはり普段吸っている銘柄の煙草が吸いたいものである。


【2】


「左が死んだ、だと……!?」

 放送を終えて間もなく、民家の一室で驚嘆の声を発したのは照井竜である。
 他に呼ばれた18の名の中で、彼の名前が最も照井の感情を揺るがせた。
 左翔太郎――仮面ライダーWの片割れが、死んだというのが。
 復讐に狂う照井とは違う道を行く、正義の名の下に主催に罰を与えるであろう人間。
 そんな正義の味方の一人が、こんなにも早くその命を散らしたというのだ。

(お前がここで死んでいい訳がない!お前達がいるからこそ、俺は仮面ライダーを辞めれたんだぞ!?)

 例え自分が外道に落ちようが、仮面ライダーが希望への道標となってくれる。
 そう思えたからこそ、照井は安心して「仮面ライダー」の名を捨てられたのだ。
 それなのに、その信じていた仲間――左翔太郎が、自分より早くこの世を去るとはどういう事なのか。
 先に死ぬべきなのは、正義の味方ではなく復讐鬼の方でなけばならないというのに。

(それに、残されたフィリップはどうなる……ッ!?)

 あの放送の中で、フィリップの名は呼ばれていなかった。
 それはつまり、相棒を亡くしたダブルの片割れが、今も何処かを彷徨っているという事だ。
 同じ立場――大切な者を喪った者――に立っている照井には、フィリップの心境の想像など容易にできる。
 彼がいくら平気な振りをしていたとしても、きっと内面は今にも崩れそうになっているに違いない。
 最悪の場合、自分と同じように復讐の道に走ってしまう可能性もあり得る。

 照井の近くを飛んでいたエクストリームメモリが、普段よりも小さな声で鳴いた。
 このメモリもまた、Wの片割れの死を理解しているのだろう。
 存在意義は無くしたメモリの鳴き声は、嘆いているようにさえ聞こえた。

「馬鹿野郎が……ッ!」

 正義の味方の立場を押し付けた身が言える台詞ではないが、それでもそう吐き捨てずにはいられなかった。
 ダブルがいなければ、一体誰がこれからの風都を護るというのだ。
 ガイアメモリの脅威から人々を護るべく存在が、こんな場所で散っていい訳がないのである。

973傷だらけのH/二人の赤き鬼 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/21(木) 20:01:57 ID:tzANqREg0

 途方に暮れていた照井の耳が、何者かの足音を捉えた。
 これまでから考えて、恐らく既に照井が出会っている人物のものだろう。
 彼の予想通り、開けっ放しにされた扉の向こうにいたのは、この民家まで同行していた男であった。
 感情の起伏が少なそうなその表情からは、彼が何を考えているかを正確に読み取れない。

「知り合いが死んだみたいだな」
「……左翔太郎。俺の仲間だった男だ」

 照井は無意識の内に、"だった"の部分を強調していた。
 当の翔太郎本人は照井を最期まで仲間だと認識していただろうが、照井の方はそうではない。
 弱者を救う高名な戦士と、外道に堕ちた復讐鬼では、あまりにも釣り合わないではないか。
 その『高名な戦士』の仲間を名乗る資格が、『外道に堕ちた鬼』などにあるものか。

「お前がここに来たという事は、同盟の答えを聞きに来たんだろう」

 笹塚が何らかの言葉を紡ぐより早く、照井がそう切り出した。
 "同盟"というのは、笹塚が照井と初遭遇した際に持ち掛けた提案である。
 彼は照井から何かを感じ取ったのか、彼に共にこのゲームに生き残らないかと言い出してきたのだ。
 「決してお互いの行為に口出ししない」――それが、共闘の条件である。
 それはつまり、例え同行者が殺人を犯そうが、照井はそれを黙認しなければならないという事だ。
 最初にそれを持ち掛けられた時は、照井は判断に迷わざるを得なかった。
 外道に堕ちようが、照井の標的はあくまで井坂深紅郎一人であり、下手に干渉して来ない限りは他の参加者に手をかけるつもりはない。
 しかし、こんな内容の規約を提示してきた以上、この男は照井の意思などお構いなしに、邪魔だと思ったらすぐに刃を向けるつもりなのだろう。
 同盟を結ぶ事自体に異論はなかったが、依然として残る照井の良心が、決断を迷わせているのだ。

「まだ迷ってるのか?」
「……俺に質問するな」

 笹塚の問いに、口癖の様に発してきた定型句で返す。
 彼の言う通り、照井は未だに選択を迷っているのだ。
 笹塚の方もそれを察したのか、僅かな苛立ちの籠った溜息を吐いた。

「アンタを見込んで持ち掛けたんだが……。
 その様子だと、アンタの怒りも大した事ないみたいだな」

 笹塚がポツリと呟いたその言葉が耳に入ってきた瞬間、照井は弾かれる様に動き出した。
 瞬く間に笹塚の襟首を掴み、彼の体を壁に叩き付ける。
 突然発せられた激情を目の当たりにしても、笹塚の表情は揺らぐ事はない。

「俺の憎しみが"大した事ない"だと……!?」
「仲間が死んだ"程度"で揺らぐ憎しみなんて、たかが知れてるな」
「知ったような口を利くなッ!俺の怒りが、井坂への怒りがお前に理解できる訳がない!」

 かつての仲間が死ぬだけで揺らぐ程、照井の怒りはちっぽけなものだったか。
 残された良心で縮こまる程、敵への憎しみは弱いものなのか。
 断じて違う――井坂への憎悪がその程度で消えるものであっていい訳がない。
 もしそれを侮辱しようとするのなら、武力を以てその口を黙らせるつもりだった。

974傷だらけのH/二人の赤き鬼 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/21(木) 20:04:05 ID:tzANqREg0

「何も知らない癖に、よくもそんな口を――――」

 怒りを言葉を転換し、笹塚に叩き付けようとしていた口が止まる。
 襟首を掴んでいた手の力が自然と緩み、壁に張り付けていた笹塚が解放される。

「お前、は…………」

 照井が彼の眼を見た瞬間に、侮辱に対する怒りが失われてしまった。
 笹塚の眼の奥にいたものが、照井と同じだったから。
 奥底でこちらを凝視していたのは、一匹の獣だった。
 照井もまた同じものを――"憎しみ"という名の獣を内に飼っていたのだ。
 最初に出会った頃の笹塚が言っていた事を思い出す。
 彼が照井を"自分と同じもの"だと思ったからこそ、笹塚は手を差し伸べたのだ。
 恐らくはこの男も、照井と同様に大切な人を怨敵に奪われたのである。

「そうか。"同じ"だったんだな」

 笹塚は何も言おうとはしなかった。
 いや、「何も言う必要がなかった」と言うべきだろう。
 照井もまた、これ以上激情をぶつけようとはしなかった。
 最早この二人の間には、言語など無用となる繋がりがあったのだから。
 この怒りを最も理解してくれているのは、この同胞に他ならなかった。

「……同盟の答えがまだだったな」

 目の前の男が自分と"同じもの"であった以上、どうして拒絶する必要があろうか。
 答えはもう出ている――むしろ、どうして今まで迷っていたのか。
 自分と鏡合わせの人間を見て、やっと復讐鬼の何たるかを理解できた。

「俺もお前と同じだ。お前を拒む理由など、何処にもない」

 憎悪に狂う二人による同盟は、ここに成立する。
 これまで目立った表情を見せなかった笹塚が、初めて口元を歪めた。


         O         O         O


 次の目的地は、衛宮邸となった。
 現状で一番近い施設がそこだから、という笹塚の提案によるものである。
 照井は知る由もないが、笹塚には今も怒りを燃やしているであろう加頭から可能な限り離れたいという思惑があった。
 もう一つの近場の施設である神社を選ばなかったのは、その為だ。

975傷だらけのH/二人の赤き鬼 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/21(木) 20:05:32 ID:tzANqREg0

 最低限の情報交換を行ったら、すぐに民家を後にした。
 笹塚はもう少しの休息を勧めてきたが、照井の方はそれを拒否していた。
 元より体の丈夫さには自信があったし、何よりも今こんな場所で立ち止まっている訳にはいかないからである。
 こうしている間にも、井坂は新たな力を会得しているかもしれないのだ。
 あの宿敵を屠る為には、僅かな時間も無駄にはできない。

 今にして思えば、オーズとの戦いは何と不必要な介入だっただろうか。
 あの時は、僅かに春子の面影を感じさせる少女の願いを受け入れてしまったが、これからはそんなものに耳を傾けている場合ではない。
 全てを井坂への復讐に捧げるのだから、他人の為に割くような時間はもう無いのである。

 必要なのは、"覚悟"だ。
 今までに拾ってきた全てを振り切ってでも、復讐を遂げてみせるという覚悟。
 これまでの照井には、それがまだ不完全だったのである。
 それ故に、怨敵に完膚無きまでに叩きのめされ、屈辱を味あわされたのだ。
 憎しみに狂う戦鬼にならねば、これ以上照井は進化できない。
 「仮面ライダー」だった頃の感情の残滓を完全に切り離さねば、井坂には届かない。
 同じ復讐鬼を目にして、ようやく気付けた事実でそれであった。

(全て、振り切ってやるとも)

 邪悪を挫く正義感も、弱者に手を差し伸べる優しさも捨て去って、復讐の完遂にのみ突き進む鬼になってみせる。
 それこそが、笹塚が照井に気付かせてくれた真理であり、照井が手にした『運命のガイアメモリ』の望みなのだから。
 照井の周りを飛ぶエクストリームメモリが、また寂しそうに、鳴いた。


【一日目/夜】
【C-5 北東】

【こいつらおまわりさんです】

【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】白
【状態】激しい憎悪と憤怒、覚悟完了、ダメージ(大)、疲労(大)
【首輪】50枚(増加中):0枚
【装備】{T2アクセルメモリ、エンジンブレード+エンジンメモリ、ガイアメモリ強化アダプター}@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:全てを振り切ってでも井坂深紅郎に復讐する。
 1.笹塚衛士と共に衛宮邸へと向かう。
 2.何があっても井坂深紅郎をこの手で必ず殺す。でなければおさまりがつかん。
 3.井坂深紅郎の望み通り、T2アクセルを何処までも進化させてやる。
 4.他の参加者を探し、情報を集める。
 5.誰かの為ではなく自分の為だけに戦う。
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。
※メズールの支給品は、グロック拳銃と水棲系コアメダル一枚だけだと思っています。
※鹿目まどかの願いを聞いた理由は、彼女を見て春子を思い出したからです。
※T2アクセルメモリは照井竜にとっての運命のガイアメモリです。副作用はありません。
※笹塚と情報交換しました。

【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康、加頭順への強い警戒、照井への確信的な共感
【首輪】60枚(増加中):0枚
【装備】44オートマグ@現実
【道具】基本支給品、イマジンメダル、ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(右腕)@魔人探偵脳噛ネウロ、
     44オートマグの予備弾丸@現実、煙草数種類
【思考・状況】
基本:シックスへの復讐の完遂。どんな手段を使ってでも生還する。
 1.照井と共に衛宮邸へと向かう。
 2.目的の達成の邪魔になりそうな者は排除しておく。
 3.首輪の解除が不可能と判断した場合は、自陣営の優勝を目指す。
 4.元の世界との関係者とはできれば会いたくない(特に弥子)。
 5.最終的にはシックスを自分の手で殺す。
 6.もしも弥子が違う陣営に所属していたら……。
【備考】
※シックスの手がかりをネウロから聞き、消息を絶った後からの参戦。
※桐生萌郁に殺害されたのは、「シナプスのカード(旧式)@そらのおとしもの」で製造されたダミーです。
※殺し合いの裏でシックスが動いていると判断しています。
※シックスへの復讐に繋がる行動を取った場合、メダルが増加します。
※照井を復讐に狂う獣だと認識しています。
※照井と情報交換しました。

976 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/21(木) 20:05:55 ID:tzANqREg0
投下終了です

977名無しさん:2013/02/21(木) 20:20:03 ID:dlqWnhGA0
投下乙です!
うわぁ、笹塚の助言(?)によって照井が覚悟を決めちゃったか……
復讐鬼になったおまわりさん達はこれからどう動くのかな。

978名無しさん:2013/02/21(木) 20:57:32 ID:B1TUo12Q0
投下乙です!
照井は放送をきいて動揺していたし迷いがまだ残っていたけど
完全な復讐者である笹塚の言葉で「振り切って」しまったか…!
チーム名「こいつらおまわりさんです」www
加頭ともさっさと手を切ってしまった笹塚のことだし、
向かう先・出会う人間次第でこのコンビがどれくらい長く保つのか

979名無しさん:2013/02/21(木) 21:00:05 ID:9IE/8xX20
投下乙です

心理状態が微妙な時に変な同行者がいるのは嫌なフラグしか立たないのいい見本だなあw
問題は次に出会う人間なのは同意するが確か近くには…

980名無しさん:2013/02/22(金) 10:46:17 ID:E5AtrYhwO
投下乙です。

HEROからHUKUSHUKIに堕ちたおまわりさん。

HITORIは疑心暗鬼を生ずるが、HUTARIは覚悟を暴走させる。

981名無しさん:2013/02/22(金) 20:52:40 ID:aCAZ.Gzc0
投下乙です
何よりまずチーム名ワロタwwwwww おまわりさんこいつらで……え、こいつらおまわりさんなんです?(困惑)
割と空気の続いた笹塚だけど、フラグ盛り盛りの照井とのコンビで一気に輝き出してくれるかな?
笹塚も加頭の時と違って自分から声かけているし今度のチームは長続きしそうだ。照井とはぐれて加頭に遭うと即死しかねないし
いやでも、同じ感情を持つ者同士、言葉なんていらないとどっちもこれまでの栄光を振り切ってしまったけれども……まだ彼らを踏み留ませることができる者は……もういなさそうかなぁ

982名無しさん:2013/02/23(土) 14:51:52 ID:k2GA2/UU0
さらに予約が来てるけど、もうそろそろ次スレが必要かな?

983名無しさん:2013/02/23(土) 16:48:30 ID:Lr9rmYaI0
投下前に新スレ立ててもいいと思う

984 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/28(木) 00:55:30 ID:DD59YCgM0
投下します

985百の貌 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/28(木) 00:57:22 ID:DD59YCgM0


 Xが意識を取り戻した頃には、太陽は既に姿を隠していた。
 太陽が役目を終えた世界はどこも薄暗く、そのせいでXが視覚できる範囲も狭まっている。
 最後に見た空は夕日の色で染まっていたから、かれこれ一時間以上は眠っているということになる。

「……………………」

 気絶する直前に見た、魔人の表情が浮かび上がる。
 かなりの痛手を負っていた筈だが、それでも彼はXを見下していた。
 地に伏せて魔人を見上げていたXとは、その姿はあまりにも対照的である。
 「完全敗北」という言葉が、これほどよく似合う状況はないだろう。
 しかし、これまでにない屈辱を味わったにも関わらず、Xは怒気を孕ませようとはしなかった。

 Xはネウロとの戦いまで、全力で相手に立ち向かおうとはしていなかった。
 彼の人生の中では、自身が本気を出すに値する実力を持つ者など存在しなかったし、
 そもそも彼本人に本気を出そうとする気が欠片も無かったからである。
 真正面から襲い掛かるよりも、油断した隙を突いた方が無駄な労力を使わずに「箱」を作れる。
 戦闘狂じゃあるまいし、真正面から相手に堂々と挑むなど馬鹿のやる事だ。

 だからこそ、ゲーム開始時点で近くにいた少年――"一夏"と呼ばれていたか――を奇襲したのだ。
 運の良い事に、彼は最初のルール説明の時点でXのすぐ近くにいたのである。
 Xはその時に少年を観察しており、その結果「中身を見る必要性が低い人物」という評価を下していた。
 碌に話も聞かずに彼を惨殺したのは、そういう理由があったのである。
 彼に擬態していれば、きっと「仲間を殺された悲劇の主人公」に同情した参加者が集まってくるだろう。
 事情を知らない連中はこちらへの警戒も弱まっているだろうし、「箱」も作りやすい。
 そうやって、人目を忍んで自分のやりたい事をしようと思っていたのだ。
 尤も、その計画も想定外の事態が重なった末に破綻してしまったのだが。

 上述の通り、Xはネウロと交戦するまで本気で戦おうとはしなかった。
 黒騎士の時だって、危なくなったら逃げるつもりだったのである。
 だからこそ、彼は真の敗北の味というものを知らなかった。
 本気で潰そうと挑んだ相手に叩きのめされる屈辱など、身を以て経験などできる訳がなかったのだ。
 しかしこの瞬間、Xはその"敗北"の何たるかを頭ではなく心で理解した。

 ――無敗の『怪物強盗』は、生まれて初めての挫折を味わったのである。

 くつくつと、Xの口元から笑い声が漏れ出てくる。
 次第にそれは声量を上げていき、やがては爆笑となって周囲に響き渡った。
 他者がその光景を目にすれば、気でも触れたのかと気味悪がるだろう。
 しかし、当のXは至って正常である――正常だからこそ、笑っているのだ。

986百の貌 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/28(木) 00:59:36 ID:DD59YCgM0
「……強いなぁ。本当に強いよ」

 体内に溜まった感情を吐き出し終えてから、Xがそう呟いた。
 当時自分が使えた技の全てを総動員させても、ネウロに勝てなかった。
 あの規格外な魔人の方が、全力を出したXよりも一枚上手だったのである。
 それなのに、悔しさは一片も燻ってなどいなかった。
 敗北を堪能したXにあったのは、たった一つの硬き意思だけ。

「次は必ず勝つ。勝ってアンタの正体(ナカミ)を見せてもらうよ」

 敗北という名の苦汁は、"勝ちたい"という信念を生んだ。
 人間ならば誰もが持ち合わせている筈であり、しかしかつてのXには無かった感情。
 有史以前から人間を進化させてきた信念が、Xの中で芽吹いたのだ。

 Xには知る由などないが、この信念は既に彼に影響を与えていた。
 彼は気絶する直前に腕をアンクのものに変化させていたが、
 これはXが起こした感情の爆発が、コアメダルを支配した結果起こった現象なのだ。
 あの時の彼に覚悟がなければ、メダルに封じられたグリードの意識がXを乗っ取っていただろう。
 極限まで衰弱している彼の隙を突いて、復活の為の傀儡にしていたに違いない。
 しかし、Xの精神の昂りがそれを妨害するどころか、逆にメダルの力を支配してしまったのだ。
 一時的なものとは言えど、人間の意思がグリードの意思を上回るなど、奇跡としか言いようがない。

 とはいえ、一部とはいえ肉体をグリード化させた代価は重い。
 既にXの肉体は、かなりの勢いでコアメダルによる浸食の影響を受けてしまっている。
 ある程度時間――それが何時間先の話かは定かではないが――が経てば、彼はメダルの怪物に変貌を遂げるだろう。

 コアメダルに深く関わっていない以上、Xがグリード化に気付く様子は見られない。
 今の彼は、自らの目的の達成ばかりに知識を動員させているのだ。
 如何にして少ない消耗で「箱」を作れるか、そして最終目的であるネウロをどうやって倒すか。
 ただそれらだけを考えながら、怪物強盗は殺し合いの地を駆ける。
 真木の課したゲームになど目も暮れずに、彼は己の欲望に従い凶刃を振るうのだ。

「待ってなよ、ネウロ」

 次に戦う時こそは、必ずやあの魔人を確実に仕留めてみせる。
 宝石の様に硬い決意に、Xはそう誓ったのであった。

987百の貌 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/28(木) 01:02:22 ID:DD59YCgM0
          O          O          O



 Xに支給された時計の長針は、既に六の文字を通り過ぎていた。
 確かルールブックには午後六時に放送を行うと書かれていたから、放送を聞き逃してしまったという事になる。
 禁止エリアを始めとする情報が公表されていた間、Xはずっと気を失っていたのだ。

(これは……まいったなぁ)

 死亡者はまだしも、禁止エリアの位置を知らないのは流石にマズい。
 何も知らずに禁止エリアに飛び込んで、そのまま首輪を爆破される可能性だってあり得るのだ。
 まだ自分の正体が掴めていないというのに、そんな間抜けな最期を遂げるのは御免である。
 近くに他の参加者がいれば、放送について聞き出せたかもしれないが、それらしき気配は何処にも感じられない。
 できるだけ早く他者と接触し、情報の遅れを取り戻さなければならないだろう。

 とりあえず、エリアの境目まで移動する事にした。
 そこにいれば、何処にいようが爆死の魔の手からすぐに逃れられるからだ。
 Xが今居る場所が禁止エリアに指定されている可能性は、十分に考えられる。
 気付いた頃には脱出不可能になっていた、なんて間抜けな話は御免であった。

「……ああそうだ。いい加減変えた方がいいよね、これ」

 布切れ同然になった衣服を目にして、ようやく気付く。
 佐倉杏子は既に死んでいるから、Xが彼女の姿に擬態しているのは不自然ではないか。
 今後の為にも、また別の人間に変化する必要があるだろう。
 次は誰になろうかと考えていた所で、手持ちの支給品の中で丁度いい物があった事を思い出す。
 あれがあれば、きっと道行く人の誰もが自分を信用してくれるだろう。
 何しろこれを着ていたのは、いの一番に主催に戦いを挑んだ男のものなのだから。
 あの男が装備していた物とは少し仕様が違うようだが、パッと見では誰も違いに気付きはしない筈である。
 装甲が隠してくれているお陰で、首輪の色も判別できないのも利点だった。

 肉体を変化させ、杏子から対象となる男に変身する。
 体格も合わせているから、当然スーツも難なく着こなせた。

「よし、こんなもんだな」

 啖呵を切るあの男も観察していたから、口調もそれなりに再現できている筈だ。
 それに、こちらには参加者の詳細名簿だってあるのだ。
 仲間の情報を握っている以上、今のXはあの男に限りなく近い存在になっているだろう。
 少なくとも、初対面の人間を確実に騙せる程度には上手く擬態できている。

988百の貌 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/28(木) 01:04:31 ID:DD59YCgM0

 肉体を変化させ、杏子から対象となる男に変身する。
 体格も合わせているから、当然スーツも難なく着こなせた。

「よし、こんなもんだな」

 啖呵を切るあの男も観察していたから、口調もそれなりに再現できている筈だ。
 それに、こちらには参加者の詳細名簿だってあるのだ。
 仲間の情報を握っている以上、今のXはあの男に限りなく近い存在になっているだろう。
 少なくとも、初対面の人間を確実に騙せる程度には上手く偽装できている。

 ライドベンターがあれば便利だったが、見た所それらしき物は見当たらない。
 ブルースペイダーも大破させてしまったし、今は自分の足で行動するしかないだろう。
 そう考えても、やはり徒歩よりもバイクでやって来る方が見栄えが良い気がしてならない。

 そうだ、あの台詞を口に出して自らを鼓舞してみよう。
 燻った僅かな不満感を掻き消して、さらに擬態を完璧に近づける為に。
 これから演じるヒーローの象徴たる、あの決め台詞を。





「さあ――ワイルドに吠えるぜ」





【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小:回復中)、疲労(大)、鏑木・T・虎徹の姿に変身中
【首輪】30枚(消費中):250枚
【コア】タカ(感情L):1、コンドル:1
【装備】ベレッタ(8/15)@まどか☆マギカ、ワイルドタイガー1minuteのスーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式×4、詳細名簿@オリジナル、{“箱”の部品×28、ナイフ}@魔人探偵脳噛ネウロ、アゾット剣@Fate/Zero、
    ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、佐倉杏子の衣服、ランダム支給品0〜1(X:確認済み)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
 1.今は『ワイルドタイガー』として行動する。
 2.次こそはネウロに勝って中身を見てみせる。
 3.下記(思考4)レベルの参加者に勝つため、もっと強力な武器を探す。
 4.バーサーカーやセイバー、アストレア(全員名前は知らない)にとても興味がある。
 5.ISとその製作者、及び魔法少女にちょっと興味。
 6.阿万音鈴羽(苗字は知らない)にもちょっと興味はあるが優先順位は低め。
 7.殺し合いそのものに興味はない。
【備考】
※本編22話終了後からの参加。
※能力の制限に気付きました。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。
※傷の回復にもセルメダルが消費されます。
※アゾット剣は織斑一夏の支給品でした。
※コンドルメダルと肉体が融合しています。
 時間経過と共にグリード化が進行していきますが、本人はまだそれに気付いてません。
※タカ(感情L)のコアメダルが、Xに何かしらの影響を与えている可能性があります。
 少なくとも今はXに干渉できませんが、彼が再び衰弱した場合はどうなるか不明です。


【ワイルドタイガー1minuteのスーツ@TIGER&BUNNY】
佐倉杏子に支給。
最終話で「ワイルドタイガー1minute」としてヒーローに復帰した虎徹が使用しているスーツ。
見た目は以前使っていたスーツとほとんど変わらない。

989 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/28(木) 01:04:52 ID:DD59YCgM0
投下終了です

990名無しさん:2013/02/28(木) 01:12:34 ID:CjQHLNzM0
3作続けての投下乙です!
バニーの誤解フラグの後、今度はタイガーが!
誰に変身するんだろうと思わせての最後の台詞がニクいです

991 ◆qp1M9UH9gw:2013/02/28(木) 01:22:11 ID:DD59YCgM0
また現在位置書き忘れてました
Xの状態表の前に
【一日目 夜】
【E-3 路上】
を付け足しておいて下さい

992名無しさん:2013/02/28(木) 01:26:31 ID:tS/gjAxQ0
投下乙です

『人間』としての欲望が大きく出てきたか
オーズロワに相応しい欲望だよ
そして次はタイガーかよ

993名無しさん:2013/02/28(木) 07:28:35 ID:U.Yn6Tho0
投下乙です!
おお、今度はタイガーに変身するとは……このロワはタイガーに何か恨みでもあるのか?w

994名無しさん:2013/02/28(木) 18:37:10 ID:4fNc86a.O
投下乙です。

タイガーはオープニングで目立ったからなあ。
マーダー以外には、疑われにくいだろうな。

995名無しさん:2013/03/01(金) 11:41:22 ID:wy4MXdXI0
「さぁ――ワイルドに吠えるぜ」ってイヤァアアアアア!? その発想はなかった、やめてーX!
ここからタイガーの信頼が失墜すればフィリップ切嗣を始め対主催が「もう誰も、信じられない」になっちまうぜ……
とはいえロスアン化しちゃうリスクも出てきたし……うーんロワなんだし都合良く行くわきゃねーよなぁ……
相変わらず、この話単独だけじゃなくて先がおいしくなる展開と同時に、さりげなく補完もされていてお見事でした。
最後になりましたが投下乙です!

996名無しさん:2013/03/01(金) 21:05:26 ID:l1FXhTtc0
投下乙です
Xは敗北してむしろやる気アップ、しかし放送未把握にアンク再反撃の可能性あり
これから好転するか転落するかまだまだわからんなあ
で、まさかのタイガースーツ!体そのものが変質する分、演技のクオリティがジェイクより格上なだけに怖いなあ

それと、次スレ立てました
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14759/1362139156/

997名無しさん:2013/03/02(土) 08:00:00 ID:GKOaWJVMO
>>996
スレ立て乙です

こっちはもう埋めかな?

998名無しさん:2013/03/04(月) 13:26:40 ID:gdV74Sfk0
雑談で埋めだろうが気になるパートある?
俺はバニーらが放送&カオス襲撃でどうなるか気になる

999名無しさん:2013/03/04(月) 15:12:39 ID:D/BvXODg0
セイバーVSランスロとかメズールVSカザリとかも楽しみだなー

1000名無しさん:2013/03/04(月) 18:15:35 ID:uRUgq5lI0
1000なら智樹の欲望解放

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