■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■

仮面ライダーオーズバトルロワイアル
1 ◆tfjP6HeisU:2011/11/04(金) 22:29:26 ID:FG28t1NA0
当企画は、仮面ライダーオーズを主軸としたパロロワ企画です。
企画の性質上、版権キャラの死亡描写や流血描写、各種ネタバレなども見られます。
閲覧する場合は上記の点に注意し、自己責任でお願い致します。

書き手は常に募集しております。
やる気さえあれば何方でもご自由に参加出来ますので、興味のある方は是非予約スレまで。

したらば
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15005/

まとめwiki
ttp://www18.atwiki.jp/ooorowa/pages/1.html

2名無しさん:2011/11/04(金) 22:33:38 ID:FG28t1NA0
【主催者】
【真木清人@仮面ライダーOOO】

【参加者】
※()は、そのキャラが所属する陣営

【仮面ライダーOOO(グリード枠)】5/5
◯アンク(ロスト)(赤)/◯カザリ(黄)/◯ウヴァ(緑)/◯メズール(青)/◯ガメル(白)

【仮面ライダーOOO】5/5
◯火野映司(無)/◯アンク(赤)/◯後藤慎太郎(青)/◯伊達明(緑)/◯ノブナガ(黄)

【仮面ライダーディケイド】6/6
◯門矢士(無)/◯海東大樹(白)/◯小野寺ユウスケ(赤)/◯月影ノブヒコ(緑)/◯剣崎一真(青)/◯アポロガイスト(赤)

【仮面ライダーW】7/7
◯左翔太郎(黄)/◯フィリップ(緑)/◯照井竜(白)/◯井坂深紅郎(白)/◯園崎冴子(黄)/◯加頭順(青)/◯大道克己(無)

【Fate/zero】6/6
◯衛宮切嗣(青)/◯セイバー(無)/◯雨生龍之介(白)/◯キャスター(緑)/◯間桐雁夜(黄)/◯バーサーカー(赤)

【TIGER&BUNNY】6/6
◯鏑木・T・虎徹(黄)/◯バーナビー・ブルックスJr.(白)/◯カリーナ・ライル(青)/◯ネイサン・シーモア(赤)/◯ジェイク・マルチネス(白)/◯ユーリ・ペトロフ(緑)

【魔法少女まどか☆マギカ】6/6
◯鹿目まどか(白)/◯暁美ほむら(無)/◯美樹さやか(青)/◯佐倉杏子(赤)/◯巴マミ(黄)/◯志筑仁美(緑)

【魔人探偵脳噛ネウロ】6/6
◯脳噛ネウロ(黄)/◯桂木弥子(青)/◯笹塚衛士(無)/◯X(緑)/◯葛西善二郎(赤)/◯至郎田正影(白)

【そらのおとしもの】6/6
◯桜井賢樹(白)/◯見月そはら(黄)/◯イカロス(赤)/◯ニンフ(無)/◯アストレア(緑)/◯カオス(青)

【Steins;Gate】6/6
◯岡部倫太郎(無)/◯牧瀬紅莉栖(赤)/◯阿万音鈴羽(緑)/◯桐生萌郁(青)/◯橋田至(黄)/◯フェイリス・ニャンニャン(無)

【インフィニット・ストラトス】6/6
◯織斑一夏(白)/◯織斑千冬(赤)/◯セシリア・オルコット(青)/◯凰鈴音(緑)/◯シャルロット・デュノア(黄)/◯ラウラ・ボーデヴィッヒ(無)

65/65

3名無しさん:2011/11/04(金) 22:34:26 ID:FG28t1NA0
【基本ルール】
形式:5陣営のグループ対抗戦
勝利条件:陣営リーダーが1人しかいない状況
勝者判定:残った陣営の終了時点でのリーダー
  報酬(1)リーダーは大量のコア・セルメダルで大きな力を得る
    (2)リーダーは自陣営から指名した参加者(人数自由)と生還できる

※本編SSの合否は、下記のルールを参考にした書き手・読み手の合議で決める
※下記のルールは、コアメダルの項(3)(4)を除き、ルールブックとして参加者に支給される

1.グループ戦について
 (1)リーダーは、陣営に対応するグリードである
 (2)グリード不在中に限り、同色コアメダルの最多保有者がリーダーを代行する
 (3)リーダー不在中に限り、同陣営の参加者は無所属となる
 (4)リーダーが、無所属の参加者にセルメダルを投入した場合、自陣営の所属とする

2.コアメダルについて
 (1)対応するグリード不在中に限り、同色3種の500枚のセルメダルが揃う場合、そのグリードは復活する
 (2)参加者・支給品の能力コストに使用した場合、セルメダル50枚分の効果とするが、その後一定時間使用不可とする
 (3)参加者が体内に取り込んだ場合、対応するグリードとなる
 (4)グリード化した際の能力・戦闘力・副作用は、取り込んだコアメダルの色・枚数に比例する

3.セルメダルについて
 (1)参加者・支給品が能力を発動・維持・強化する度に、消費される
 (2)能力運用に伴う消費量は、能力の強大さに比例する
 (3)「参加者が自分の欲望を実行したか」の度合いに比例し、首輪内部で増殖する
 (4)参加者の負傷時は相応量の、死亡時は全ての、所有セルメダルが首輪から放出される
 (5)首輪の蓄積可能メダル数は300枚までであり、それ以上は所在不明の金庫に転送される
 (6)能力使用時の消費レート
  ・起動コスト…約1〜5枚
  ・必殺技コスト…約7〜15枚
  ・維持コスト…維持終了まで1〜n枚、枚数はシグマ計算(1+2+3+…)的に増量
  ・強化コスト…強化回数毎に1〜n枚、枚数はシグマ計算(1+2+3+…)的に増量
※具体的な消費量・増加量・放出量は書き手に一任する
※書き手・読み手が把握しやすいよう、増加・消費後の所有セルメダル枚数は、端数の無い分かりやすい数が望ましい

4.首輪について
 (1)各参加者に装着され、当人が特定条件に違反した場合、機能によって死亡させる
   特定条件(1)MAP外に出る
       (2)進入禁止エリアに一定時間留まる
       (3)24時間以内に死者がでない場合、全ての首輪が機能を発動する
 (2)参加者の位置情報、所有メダル情報、発言情報を主催者に伝達する
 (3)参加者の現所属陣営の色を、ランプの発光で示す
 (4)参加者の任意で、所有メダルの放出と、周囲のセルメダルの吸引・収納を行う
 (5)ATMに認証させた場合、参加者が金庫に転送したセルメダルを引き落とせる
※具体的なセルメダルの吸引範囲、複数人とかち合った場合の取り分は、書き手に一任する

5.放送について
 (1)6時間毎に、「前〜今放送までの死亡者」「新しい進入禁止エリア」「各陣営の戦績」が告知される
 (2)各陣営の戦績は、陣営全体で見た場合の所有セルメダルとコアメダルの総数である
 (3)具体的な所有者とコアメダルの種類は、告知されない

6.ライドベンダー・カンドロイドについて
 (1)ライドベンダーは、自販機形態でMAPに点在する
 (2)セルメダル1枚の投入に対し、バイク形態への変形1回か、カンドロイド1体の提供を行う
 (3)カンドロイドは原作に登場した全種を備え、品切れは無い
 (4)ライドベンダーを破壊しても、カンドロイド・セルメダルは獲得できない

7.支給品について
 (1)参加者が持つ基本的な装備品は、没収されない
 (2)参加者が持つ最強の武装および最強形態への変身アイテムは、当人以外に支給される
 (3)支給品の出典は、【参加作品中のアイテム】か【実在する物】の何れかとする
 (4)能力運用が個人に限定される場合、代用に足る量のセルメダルを消費すれば、それ以外の者も使える
 (5)ライダーカードは、クウガ〜キバ出典に限定する

4名無しさん:2011/11/04(金) 22:38:27 ID:FG28t1NA0
【スタート時の持物】
(1)デイバック…小さなリュック。下記のアイテムを収納している
(2)地図…MAPを記した地図。進入禁止エリア特定のため、境界線が引かれている
(3)名簿…全参加者の名前が列記されている。ただし、所属陣営は不明
(4)ルールブック…本ロワのルールを記した冊子。ただしコアメダルを体内に取り込んだ際の効果は未記載
(5)時計…簡素な時計。現在時刻が分かる
(6)コンパス…簡素な方位磁石。東西南北が分かる
(7)懐中電灯…照明器具。電源は尽きないものとする
(8)筆記用具…鉛筆、消しゴム、ノートのセット
(9)食料…水とパン。成人男性の三食三日分相当
(10)ランダム支給品…何らかのアイテム1〜3個
(11)セルメダル100枚…初期配給。量は全参加者で同数

【各種画像資料】
(1)MAP
ttp://ux.getuploader.com/OOOrowa/download/20/OOOrowa_MAP_clock02.jpg
(2)カウントザメダルズ
ttp://ux.getuploader.com/OOOrowa/download/14/OOOrowa_countthemedals.jpg

【進入禁止エリア】
(1)放送終了後に設定される、参加者の侵入を禁止する区画
(2)本ロワ終了まで解除されない
(3)参加者が一定時間留まる場合、その参加者は首輪により死亡する

【書き手ルール】
(1)SS投下前に、予約専用スレッドでトリップ付きの予約・投下宣言を行う
(2)SS終了まで生存した参加者は、最終的な状態を以下のテンプレートで明記する

【日数-時間帯名】
【エリア名/具体的な所在地】
【キャラ名@出展作品名】
【所属】現在所属している陣営
【状態】肉体・精神的な状態
【首輪】所持メダル枚数:貯金メダル枚数
【装備】携帯しているアイテムの名称
【道具】デイバックに収納しているアイテムの名称
【思考・状況】
基本:方針・最終目的
1.最優先事項
2.優先度が1以下の目的
3.優先度が2以下の目的
【備考】
※上記に当てはならない事項

【時間帯】
※本ロワは、12:00から開始する
深夜:00:00〜01:59
黎明:02:00〜03:59
早朝:04:00〜05:59
朝:06:00〜07:59
午前:08:00〜09:59
昼::10〜11:59
日中:12:00〜13:59
午後:14:00〜15:59
夕方:16:00〜17:59
夜:18:00〜19:59
夜中:20:00〜21:59
真夜中:22:00〜23:59

5名無しさん:2011/11/05(土) 00:39:47 ID:exPioHec0
スレ立て乙です

6 ◆tfjP6HeisU:2011/11/05(土) 13:31:46 ID:f4KCh0fs0
明日、11月6日の午前0時が正式に予約解禁日時となりました。
予約期限は三日、間に合わない場合は二日の延長が可能です。
興味のある方は是非専用したらば内の予約スレの方へどうぞ。

7名無しさん:2011/11/05(土) 22:22:17 ID:m6OKvHvE0
告知上げ

8終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:43:09 ID:UhW.C5kA0
OP投下させていただきます

9終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:47:03 ID:UhW.C5kA0
     OOO  OOO  OOO  OOO

 半球状の天井は高く、それと床の間を充たす静謐は闇で覆われている。
動く者のないその空間に己の望む「終末」を垣間見たように感じた真木清人は、背筋を走る興奮に小さく身を震わせた。
感じた、とは言え彼がお膳立てしたこの戦いの宴、その幕開けといえば確かに「終わりの始まり」に相違ない。
故に、この感覚はあながち間違いとは言えませんね、と、彼は胸中で小さく零した。彼の上腕に座る魂なき人形が、小さく笑った。

     OOO  OOO  OOO  OOO

《オープニング》 終わりと始まりと殺し合い

     OOO  OOO  OOO  OOO

「寒いのか」
 前触れなく、闇の中から彼を慮るような言葉が飛んだ。確かにここの気温は低い。真木を中心に据えたドーム、
無限を思わせるほど広大なその床に、彼を取り囲むよう転がる「参加者達」も、その寒さにいずれ目を覚ますことだろう。
オールバックに緑色のジャケットを着こなすこの青年は、端から見ても判るほどに震えた自分のことを気遣ったのだろうか――いや、と、真木は考えを否定する。

 彼らグリードには欲望しかない。コアメダルとセルメダルによって作られたグリードは、何をしても決して満たされない飽くなき欲の化身だ。
だというのに全てを求めて止まないグリードらには、己の欲以外について思考するような余裕は存在できない。
畢竟、真木に声をかけた事すら、仲間を慮っての事ではなく、己の欲を充たす事にのみ繋がっている。
 最もそれは、紫色のコアメダルを体内に持ち、グリードへと変貌しつつある真木とて同じではあるが。

「随分とグリードに近づいてるようだけど、そんな人間みたいな感覚がまだ残っていたのねぇ?」
 そんな調子で大丈夫なのかしら、と婀娜っぽく嘲笑うのはメズールだ。ブーツに扇情的なももをむき出しにするパンツ、
カジュアルなブラウスを合わせたどこにでもいそうな少女は、しかしグリードである。
 先に真木へ声をかけたウヴァに並ぶように立った彼女――それ、と言うべきだろうか。グリードに命はなく、メダルだけで出来た存在だ――は、
ウヴァにしな垂れかかり、それを嫌がるウヴァの振り払う仕種にやれやれと首を竦めた。じゃれあうようなひどく「人間じみた所作」に、真木の背に今度こそ本当の寒気が走る。

「何も問題はありませんよ。ウヴァ君、メズール君」
 真木は、震えた時だろう、気づけばそっぽを向いていた腕に座る人形の居住まいを正しながら答えた。
「私の欲望、君達の欲望。全ての終着点がもはや視界に入っているのです。今更問題など、おこるはずがない」

 いつになく饒舌な真木を見るメズールの目は鋭い。何を思うのだろうか、その目に自分の視線をかちあわせた真木が少しだけ考えたところで、それをウヴァの脳天気な声が遮った。

10終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:47:20 ID:UhW.C5kA0
「ならいい、ならいい」
 メズールを離れ、真木に並びたち、
「気を悪くしないでくれ、ドクター。俺はあのオーズとの戦いでコアをくれ加勢してくれたお前を信じているぞ」
 真木の肩を叩く。
 『連れて来られた』タイミングの関係で、その一瞬先に起こること――例えば、ウヴァの拒否を意に介さず、その器の許容量以上のコアを真木が捩込むだとか――
を知らないその身は実に滑稽で、もはや真木にはその手を振り払う気力すらわかない。
「……そうですか。ありがとうございます」
 おざなりの感謝に満足したのか、ウヴァは頷き真木から離れていった。そんなウヴァに小さく鼻を鳴らすメズールを尻目に、真木は黙したまま歩を進める。
そして、「参加者」達が芋のように転がるドーム内を視界に収める。

 もう間もなく、異常を感じ取った鋭い者から目を覚ましてゆくだろう。程度の差こそあれ、ここに集められた者の多くは己の物語を苛烈に生き抜く戦士だ。
物理的に戦う力を持つ戦士も、そうでない戦士もまた一様に、ここで美しい終末を迎えるべき者たち――
 と、そんな闇の中、一つの影が横たわり動くことのなかったその身を震わせた。真木が睥睨する闇の下には、未だ多くの人影が眠っている。
しかし異常は確実に伝播し、地に臥したままでいることを許さない。

「そろそろか」
 ウヴァが呟き、真木の背後の方向に横たわる「参加者」を見回したことが気配で知れた。
「ウヴァ君、メズール君」
「わかってるわよ」「任せておけ」
 短く言葉を交わし、二体のグリードが真木に背を向ける。背中合わせに三人、ドームの全周を見渡す形になった彼らの視界のなか、「参加者」たちはゆっくりと覚醒していく。

「さあ、始まりますよ」
 呟くそれは一体誰に宛てた言葉なのか――

     OOO  OOO   OOO  OOO

 真木清人、一世一代の大舞台。終局の序幕が今、確かに切って落とされた。

11終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:47:57 ID:UhW.C5kA0
     OOO  OOO  OOO  OOO

 知己を捜す声が飛び交う。しかしそれが用を為すことはない。それは単純に「連れ去った」のちこのホールに転がす時、知己同士の距離を離していたため。
そしてもう一つ、メズールが発する超音波によるジャミングのためだ。波長を乱された波は雑音となり、求めるものの耳朶を打つことなく消える。
音は聞こえどもその意味を解することができないという状況は、力のないただの人からだけではなく百戦錬磨の兵(つわもの)からも、勘任せの行動を起こすという選択肢を奪った。
 覚醒していないものはない。「参加者」達の視界は、夜目が利くはずの者のそれすらも闇に飲み込まれている。前述の事柄も合わせ、
耳目の官を奪われたにも関わらずの無謀を働く愚か者がないことに満足し真木は、
「頃合いですね」
 と呟いた。

     OOO  OOO  OOO  OOO

「おはようございます、皆さん」
 雑音と暗闇に覆われた世界に突如として、明瞭な声と男の姿が映った。黒いスーツに眼鏡は落ち着いた大人といった雰囲気を与えるが、
その左手上腕に腰かける白い人形とのコントラストは、雰囲気全てを違和感へと変える力があった。足元からのスポットライトで浮かび上がるその男真木に
誰何の声一つない訳は、誰もが呆気に取られていたからだろう。真木は先ほどとは違う静謐に充たされたドームの真ん中で一人続ける。

「まず招待状もなく君達を招待した不躾をお許しいただきたい」
 さして大きくも明瞭なわけでもないその声は、闇に包まれたドーム中へ浸透していく。
「ここに集まってもらった理由は他でもありません。君達に頼みたいことがあるからです」
 ウヴァとメズールは人間形態よりその真の姿、グリードとしての形態へとその姿を戻している。それぞれバッタとシャチを想起させる姿の二体は、黙してこの宴の主旨の宣言を待つ。
 そして、真木より齎される、決定的な一言。

「――ここにいる62人。そして既に会場へと向かった3人のグリード……合計65人。君達に殺し合いをしてもらいます」

12終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:48:48 ID:UhW.C5kA0
     OOO  OOO  OOO  OOO

 それは「明日の天気は晴れそうだ」なんて適当に言うことよりも意味のある言葉なのだろうか――
そう問いたくなるほど簡単に、真木清人は言った。ざわ、と、真木を中心に衝撃と疑問の波紋が広がる。先まで音を妨げていた超音波はすでにない。
それに気付いてか気付かずか、ざわめきは確かに広がっていく。疑問、恐怖、怒り。いきなりそんなことを言われても何がなんだかわからない。そんな声が聞こえてくるようだった。

 真木の投じた一石の波紋は様々な形の思いに姿を変える。そしてそれがドームの隅にまで行き渡ったと見るや、真木はやはり事もなげに言葉を続けようと――

「おいおいおい、ちょっと待てよおっさん!」「翔太郎、よせ!」「殺し合い……!?」「一夏!?」「真木博士!」「グリード……!?」「オカリン、どこだお!」「ダル君!」「まゆりっ!?」

 ――と、したところで。ジャミングがなくなり聴覚を、真木を照らす光により輪郭程度ではあるが視覚を取り戻した彼らの狂乱に、真木のその言葉は遮られた。
真木を照らす光源から離れてしまえば未だ隣の人間の顔すら判別できない暗さとはいえ、聴覚の復活は混乱を爆発的に増進させたのだ。
 真木を注視し静寂を保つものは少なくないが――飛びかかり取り押さえんと身構える者すらいる――この混乱は、終末への前哨戦として相応しくない。
 美しい終わりを迎えるための催しであるというのに、この狂態とは……。

 いつの間にやら肩を竦めたキヨちゃん人形に倣い、真木は眼鏡の位置を神経質に直し、表情に苛立ちをだすことなく嘆息した。
「全く、嘆かわしい」
 無表情に言う。その瞳に浮かぶ光は、既にヒトの括りにあるものに理解できるものではなかった。

13終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:49:13 ID:UhW.C5kA0
     OOO   OOO   OOO   OOO

 飛び交う言葉のボルテージはあがっていき、もはや怒号に近いものがある。

「アイリ……!」「智ちゃん!」「ジェイク!?」「ねねねねネウロ! なんなのこれ!?」「さやかちゃん、どこ!?」

 ヒートアップしていく、疎通もままならない言葉たち、合流を求めてか駆け出す人影。熱狂が最高潮に達しようとする、その瞬間――

     OOO  OOO   OOO  OOO

「まゆりっ!」

 真木の正面、一組の男女が互いに駆け寄る。パッと顔を綻ばせ、不安など消し飛んだといわんばかりの笑顔で駆け寄る少女に、必死な表情の白衣の青年。
 互いの首には、服装に似合わない鈍色の首輪が嵌められている。その違和に気付けなかったことはさて、幸か不幸か。

「オカリン!」

 俯瞰する真木がその手より銀色のコインを放った。コイン――セルメダルが少女の首もとに、狙いをあまたず飛んでいく。
 それは、少女の首で鈍い光沢を放つ首輪に弾かれることなく吸い込まれ、そして。

「まゆり、どうして――」

 そして響く、命を絶つにしてはあまりにも間の抜けたその音――

 ぽんっ。

「――――――――――は?」

14終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:49:43 ID:UhW.C5kA0
     OOO  OOO  OOO  OOO

 この状況下で冷静にいることのできる人間は、この場においても少なくはない。そして、そんな彼らぐらいだろう。可愛らしい帽子を被って笑顔を浮かべた彼女が、
なぜ首と胴体とが泣き別れする羽目になったのかを即座に悟ることができたのは。

 爆発音ののち、一瞬の静寂。己の身に何が起きているのか理解する前に、見知らぬ少女の身に何が起こったかを理解してしまった者たちの哀れな悲鳴がこだまする。

 先んじて状況を把握していた者に続けて、光景を目の当たりにした全員が理解した。
 少女がつけている首輪が爆発したのだ。いつの間にやら己にも填められていた首輪と、全く同じそれが!

 白衣の青年がよろよろと頭を失った肢体に近づく。膝を折りそれを抱きかかえ、覇気のない声で、まゆり、まゆり、と繰り返し呼びかける。彼以外に動くものはいない。
動けるはずもない。セルメダルと爆発の因果を理解できなかったものは恐怖で、そして鋭いものは命を握られている現状を把握してしまったがために。

「お分かりいただけたでしょう」
 茫然自失といった様の青年に集まっていた衆目をその一言が引きつける。
「君たちにつけられた首輪は私の意志によって爆発します」
 改めて突きつけられた現実に寒気を覚えなかったものはどれほどいたことだろうか。
「説明しましょう、この殺し合いの……バトルロワイヤルのルールを」
 
 真木の目が紫色に光ったように見えたのは、おそらく気のせいや光の加減なんていった陳腐なものではない――

15終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:52:05 ID:UhW.C5kA0
     OOO  OOO   OOO   OOO

 そして真木は滔々と語った。
 いわく、この殺し合いは全部で五人いる「グリード」をリーダーとするチーム五つとチームに所属できないものたち、計六つの陣営によるチーム戦である。
 いわく、「勝利条件」は所属するチーム以外のリーダーを屠ることである。
 いわく、六時間ごとに行われる「放送」によりチームの戦績、その時点での死亡者、状況に応じての連絡事項が発表される。
 いわく、首輪は「侵入禁止エリア」と呼ばれる、前述の「放送」により伝えられるエリアに踏み込むことで爆発する。他にもMAP外へ出ようとすれば爆発し、
バトルロワイヤル開始より24時間以上たっても死者が出ない場合は全員の首輪が爆発する。
 いわく、超常の力は「制限」されており、その行使には「欲望を満たすことにより生まれるセルメダル」を必要とする。
 いわく、――

「おいドクター。もういいんじゃないのか」
 長すぎる説明に飽きたのだろう、観客に徹しきれなかったウヴァが真木の説明を遮った。背中合わせでウヴァは真木の表情を伺えなかったが、
真木の対面にいる「参加者」たちはひどく歪んだ真木の顔を目にした、ということは蛇足だろう。
「……いいでしょう。確かにほぼすべてのルールは説明し終わりました。もう一度確認したい場合は、各自に配布されるルールブックをお読みなさい」
 白衣の青年はもう何も呟かない。そんな彼の背中に視線をやりながら真木は、
「……読まなければ、さぞや醜い終わりを迎えてしまうことでしょうから、ね」

     OOO  OOO   OOO   OOO

 その背後でのことだった。待機状態にあったISと呼ばれるパワードスーツが、発光とともに展開する。瞬きするほどの間に無骨な闘争の武器を纏ったポニーテールの少女は、
紅い光に気を取られた人間の視線が彼女に集まるより早く、エネルギーソードを抜き放ち大地を蹴った。

「嬢ちゃん、よせ!」「箒!!」
「貴様らっ!」
 激昂し吠える箒に、静止の言葉は届かない。
真木の背後に立つウヴァが咄嗟に飛び掛かり、IS『紅椿』に剛腕を打ち付けた。エネルギーソードとの鍔迫り合いになったウヴァは、ひどく焦った声で叫ぶ。
「おいドクター、どういうことだ! 制限があるんじゃないのか!?」

 しかし真木は拮抗状態に陥った二人を見ない。黙したまま、少女の突撃に刺激され、けれど飛び出すことのできない戦士たちを見回し、呟く。
「あなた達は実に賢い。そんなあなた達が醜くなる前に――」

 ――業を煮やしたウヴァが振り向いてキヨちゃん人形としか視線を合わせられなかったその一瞬、少女は武装を一気呵成に押し切る。
「はあああっ!」「うぐおッ!」
 大きく体勢を崩したウヴァを捨て置き、箒は叫んだ。
「お前は許さん! そのメダルを避けさえすれば――」

 ぽんっ。

「――終末を迎えられることは、素晴らしいことです」

 決して小さくない閃光と破砕音。爆風が真木の髪を揺らし、キヨちゃん人形は気付けば吹き飛ばされまいと真木の腕にひしとしがみ付いていた。
 ISを操る少女、篠ノ之箒。正義感に任せて飛び掛かった彼女は、首輪が起爆しその命を絶たれてなお、その目から義憤の光を消すことはなかった。

16終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:52:20 ID:UhW.C5kA0
     OOO   OOO  OOO   OOO

 もはや身じろぎするものすらいなかった。起爆する方法がセルメダルだけだと誰が言いましたか、と真木は小さく呟く。
「ウヴァ君、起きなさい」
「ぐっ……」
 ふらふらとバッタ頭が立ち上がった。周囲を視線で威嚇しながら、嘲るようにウヴァを見るメズールの横に戻るウヴァ。そちらをやはり見やることもせず、真木は口を開いた。
「ではよろしいですね。これ以上言葉にすることもないでしょう」

 周囲を睥睨する。未だ混乱の中にあるもの、怒り心頭といったもの、既に二つの命が散ったこの宴に喜悦を隠さないもの。十人十色のその気色を、真木は美しいと感じた、気がした。
だからこそ終末を迎えなければならない。そうすることこそが真木の欲望の全てなのだから。

「会場へは転送させていただきます。各々の能力、武装はその時点で制限がかけられるので、無暗な発動に十分注意をしてください。支給されるセルメダルは、一先ずは有限です」
 自分で生産しなければ、何もできないまま死んでいくことになるだろう……言葉の外にそう滲ませる。
 今度こそ伝えるべきを伝え終わり、真木は言った。
「転送が終わり次第、あなた達にはバトルロワイヤルを始めていただきたい」

     OOO  OOO  OOO  OOO

 転送装置の作動は指先を動かすだけで済む。それまでの一瞬、「参加者」の表情を目に焼き付けようと一拍置いたその時。
 一人の男が手を挙げた。

     OOO   OOO  OOO   OOO

 ドームの中央に立つ男が絶対的な支配権を持つことはもはや明らかである。だから、まるで挑発するようなその男を見る他の「参加者」たちの目は、
驚愕か侮蔑のどちらかであった。そんな中、挙手した男と真木の視線が交錯する。短い沈黙ののち、真木が頷いた。
「発言を許可しましょう、ワイルドタイガー君」
 ワイルド君でいいよ、長いだろ、と嘯きながら男は、スポットライトの輪の中にゆっくりと歩を進める。真木の正面に進み出た男が纏ういかにも戦闘用といったスーツ、
その薄緑の肩の装甲が、光を反射してキラリと光った。

「まずはお呼びいただいたことに感謝するぜ。えーと?」
「……真木清人です」
「おお、そうかそうか。ミスター真木。こんな……こんな、くそったれた催し物、頼まれたって来たくはなかったけどな」

 挑発的な言動、うっすらと笑いを浮かべる口元。一見、バトルロワイヤルを歓迎しているかのようなワイルドタイガーだ。
 しかし、彼を見て気付かない……いや、気付けない者はいない。その目が理不尽な死を迎えた二人の少女への哀悼とその命を奪った悪人への怒りで強く、途轍もなく強く燃えていることに。

「宣言するぜ、ミスター真木」
「……何をです」
「俺はヒーローだ。ヒーローは決して悪人を許さない。真木清人……お前が何をやろうってんだか知らないが、それはこの俺ワイルドタイガーが全て止める! これ以上の……」
 勇敢に散った少女、何もわからぬまま殺された少女、そしてその子のそばに蹲り、今もなお動くことのない白衣の青年を順繰りに見て、ワイルドタイガーは一瞬だけ瞑目した。
開かれた眼には怒りだけでなく、強い決意が浮かんでいる。真木に指を突き付けて、彼は叫んだ。
「……これ以上の殺人は一切許さねぇ! 誰も殺さないし誰も殺させない! その上でお前をふんじばって、法律で裁く! それが、俺のする戦いだ!」

17終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:52:45 ID:UhW.C5kA0
     OOO  OOO   OOO  OOO

 真木は何も言わない。ウヴァもメズールも、ワイルドタイガーへ視線すら寄越さない。くっ、と小さく呻いてワイルドタイガーは手をおろした。
 睨むワイルドタイガーを見、他の「参加者」たちを見、真木はようやくもう一度口を開いた。
「……もうよろしいですね」
 無視された形となるワイルドタイガーの視線が一層険しくなるが、意に介す様子はない。

「それでは、皆さんを会場へと転送させていただきます」
 多くの人間が身構える。
「各自の奮闘を期待します」
 言葉を切り息を吸う真木。そして言う。

「では、よき終わりを」

 刹那の間も持たず、真木を残して全ての人間が消えた。彼を睨んでいたワイルドタイガーも、蹲ったままだった白衣の青年も、真木の背後のウヴァとメズールも、誰ひとり残らずだ。

 ドームは再び静寂を取り戻した。前座の儀式は終わり、今度こそ『終末』が始まる。
「……よき終わりを……」
 再び言葉を溢した真木を、キヨちゃん人形はその意志を持たぬ目でじっと見つめていた。

     OOO   OOO  OOO   OOO

 やがてその姿も闇に呑まれて、ドームには誰もいなくなった……

     OOO  OOO  OOO  OOO

 以上が『終末』の片鱗である。そしてこれが片鱗でしかない以上、本体が存在するのは自明のことであり、本体――《終わり》は真木の欲望の終着点へ向けて、その混沌で出来た巨体をゆっくりと、しかし確実に歩ませ始めたのだった。



【椎名まゆり@Steins;Gate 死亡】
【篠ノ之箒@インフィニット・ストラトス 死亡】

18終わりと始まりと殺し合い ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:54:06 ID:UhW.C5kA0
     OOO  OOO   OOO  OOO

 主催するは終末の探求者。賛同せしは強欲の化身。確たる終わりに従い闘争するか逃走するか、それともあらがうか。己が欲に身をやつすもよし戦うため武器をとるもよし、各が望む終末に歩きだせ。
 総ての終末が絡み交わり睦み合うその時、それこそが彼の者が渇望してやまない――


――どこかで、メダル《欲望》の散らばる音がする――


――バトルロワイヤル、開幕。

19 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/05(土) 22:54:49 ID:UhW.C5kA0
投下終了です
何か問題があればご指摘お願いいたします

20名無しさん:2011/11/05(土) 23:47:39 ID:4IHRFRtg0
投下乙です!……ってここに書いちゃっていいのかな?

ウヴァさんマジウヴァさん!虎徹も中々ヒーローキメてくれるし、これは良いオープニングですね
いよいよオーズロワも開始、感慨深いですね。これからも作品を楽しみにしてます!

21名無しさん:2011/11/06(日) 00:22:59 ID:cB6zOiCo0
投下乙です

異常な殺し合いの幕が開けて見せしめで少女たちが死んだ
そしてそこで虎徹がビシっと決めてくれたぜ
これでオーズロワ開幕だぜ

22名無しさん:2011/11/06(日) 13:27:53 ID:8W3hY4no0
投下乙です!
殺し合いの非情さと、この緊迫感…実にいいオープニングです。
まゆしぃと箒の死は、参加者にどんな影響を与えるのだろうか…ワイルドタイガーもかっこよかったです。

一つ気になったのですが、>>13で呼ばれているアイリというのは、恐らくアイリスフィールの事ですよね
アイリは今回のロワには参加していないので、そこだけ少し気になりました。

23名無しさん:2011/11/07(月) 10:52:53 ID:DdnNjyZw0
>>22
それは、参加者の参戦時期をOPで決定しちゃわないように配慮したつもりの台詞でした…
マスターがサーヴァントの名前を呼ぶとサーヴァント召喚前からの参戦ができなくなるし、その逆も同じなもんで

24 ◆lx1Zn8He52:2011/11/07(月) 12:17:09 ID:9F7V6t3YO
桜井智樹投下します

25果てなき欲望(セイヨク) ◆lx1Zn8He52:2011/11/07(月) 12:24:09 ID:9F7V6t3YO
皆さんこんにちは、智樹です
気付いたら広いドームの中に居ました。そして、殺し合いをしろと言われました
その上二人の女の子が殺されました 訳がわかりません
頭を抱えてるうちに別の建物に跳ばされました

「そういや、この中に色々入ってるんだよな…」

とりあえず近くの階段に腰を降ろし荷物の確認をする事にしました

「なんだ?これ?」

リュックに手を入れ最初に出てきたのは、黒い長方形に金色の龍の紋章が浮かぶカードケースの様な物でした

テープで貼り付けられた紙には――― [龍騎のカードデッキ 鏡に映す事で変身出来ます] ―――とだけ書かれてました


よくわからない物なのでとりあえず胸ポケットに仕舞い、次を取り出す事にしましょう


「こ、これは……!?」

次にに顔を見せたのは多種多様な宝物達 様々な女神達が美しく描かれた魅惑と情熱のitem達

通称エロ本

それを手にし目にした瞬間 私、桜井智樹は、抗う事の出来ない欲望の渦に 瞬く間に支配されてしまったのです
健全な男子中学生の持つ最強の欲望
―――性欲に


【一日目-日中】
【D-7/ラジオ会館二階】
【桜井智樹@そらのおとしもの】
【所属】白
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】龍騎のカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】大量のエロ本@そらのおとしもの、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:殺し合いに乗らない
1.目の前のエロ本を堪能する
2.知り合いと合流したい
3.…変身って何?
【備考】
※エロ本の量と内容は、後の書き手さんに任せます
※名簿等はまだ確認してません

26名無しさん:2011/11/07(月) 12:29:00 ID:9F7V6t3YO
短いですが以上です
次にに顔を見せたのは多種多様な宝物達

次に顔を出したのは多種多様な宝物達
に訂正します

27名無しさん:2011/11/07(月) 13:53:37 ID:nkQw8ycY0
投下乙です。
智樹意思強いなw目の前で人が殺されたのにエロ本優先ってww
しかも龍騎のカードデッキとか何気に強支給品…智樹に使いこなせるのかどうか不安だw

28名無しさん:2011/11/07(月) 19:26:23 ID:lM4DFygE0
投下乙です!

智樹ェ……!お、お前って奴ぁ……!!
あ、でもよく考えてみりゃ、このロワにおいて欲望を刺激する支給品ってかなり重要なんじゃね?
エロ本でパワーアップアイテムが手に入るって一体……ww

29名無しさん:2011/11/07(月) 19:37:23 ID:FB0.vnPA0
投下乙です!
智樹wwww殺し合いそっちのけで何やってんだお前はwww

30名無しさん:2011/11/07(月) 20:38:55 ID:H4Lbgync0
智樹ェ…あ、投下乙です。
エロ本なんてなんつー外れアイテム、と思ったけど、>>28を考えると確かに重要なアイテムだと目に鱗。
だとしたら他にも食欲を刺激するために美食アイテムがあったり、宝石や嗜好品とかもあり得るのかな?

31名無しさん:2011/11/07(月) 20:48:22 ID:2ZDsNWsI0
投下乙です

まあ、スケベなキャラがパロロワでエロ本見てたのはこれが初めてではないけど緊張感持てよなw
だが、確かにこのロワではこういう欲望を刺激するアイテムは重要だわ
>>30みたいなのもありじゃねえ?

32 ◆mLCV9heyEc:2011/11/07(月) 23:34:38 ID:QMnUaagU0
>果てなき欲望(セイヨク)

そらおとは見たことないのですが智樹は面白いキャラですね。
出典作品に興味を持ちましたよ。

今から門矢士を投下します。

33セカイノハカイシャ ◆mLCV9heyEc:2011/11/07(月) 23:36:01 ID:QMnUaagU0
 
 ――世界の破壊者、ディケイド。
 ――いくつもの世界を巡り、その瞳は何を見る。


 仮面ライダーディケイド、門矢士は仮面ライダースーパー1と仮面ライダーカブトを倒した直後にこのバトルロワイアルに招かれた。今、その彼は手に握った名簿を見ている。


「アポロガイスト…」


 名簿に記された名前を見て士は思考する。
 恐らく主催者の真木は、死者を蘇生させる技術を持っているか、並行世界を行き来できる能力を持っていると推測した。
 何故なら、アポロガイストは仮面ライダーディエンドと共闘して倒したからだ。
 それなのにアポロガイストの名は確かに名簿に記されている。
 つまり、それは真木が蘇らせたか、並行世界のアポロガイストということになる。


「ユウスケ、海東…」


 次に見つけた知り合いの名前は小野寺ユウスケと海東大樹。
 彼らと旅した思い出の日々が少しだけ士の中で蘇る。
 通りすがりの仮面ライダーとして様々な世界で巨悪と戦った。
 だが、もう通りすがることはできない。
 世界が滅びる未来を変えるためには誰が相手であろうと破壊しなければならない。迷いなど必要はない。


「最後は剣崎一真、か」


 かつて士を排除するために戦いを挑んできた男。
 あの時はブレイドキングフォームの圧倒的な力の前に敗れるしかなかった。
 しかし、激情態にパワーアップした今の自分なら互角以上の戦いができると士は確信する。


「俺は全てを破壊する…。これからも、そして何度でも…!!」


 士の目的はただ一つだ。
 このバトルロワイアルに存在する者を主催者も含めて全て破壊すること。
 仮面ライダーディケイドの存在意義は破壊にこそある。ライダー大戦が起こったあの日にそれを学んだ。
 全てを破壊し、全てを繋ぐ。そのためにも手始めにバトルロワイアルの破壊をなさなければならない。

 現時点で所持しているカードはディケイドのカメンライドカードと四枚の攻撃用カードのみ。
 ディケイド以外のライダーの力を宿したカードは全てなくなっていた。恐らく真木の仕業だろう。
 それに加えて、武装や能力を使うためにはセルメダルを消費しなければいけないという問題がある。他の参加者からセルメダルを奪うことも考えなければいけない。


「参加者を探すか」


 世界の破壊者の新たなる戦いが幕を開けようとしていた。

【一日目−日中】
【C−5/神社】
【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド、
【道具】ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:方針.全てを破壊する(主催者である真木も含めて)
1.参加者を探す。
2.他の参加者を倒してセルメダルを奪う。
3.海東とユウスケが相手でも躊躇わない。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※所持しているカードはカメンライド(ディケイド激情態)、
 アタックライド(クロックアップ、インビジブル、ギガント)、ファイナルアタックライド(ディケイド)です。

34名無しさん:2011/11/07(月) 23:46:37 ID:jy812jRI0
投下乙です!
ああ、もやしがそんな時期から参戦してしまうとは……
平成ライダーと違ってマジでやばいな

35名無しさん:2011/11/07(月) 23:52:44 ID:nkQw8ycY0
投下乙です
士はその時期か…やばいなぁ。

今回は他のライダーがいない上に、強過ぎる能力はメダルで制限出来るからという事で、ライダーカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカードは全て初期支給という事で議論が進んでいたので、そこだけ修正点ですかね。

36 ◆mLCV9heyEc:2011/11/08(火) 00:00:15 ID:vXumkDmo0
>>35
分かりました。
後日、修正版を投下します。

37名無しさん:2011/11/08(火) 01:23:59 ID:AyH1uuZk0
投下乙です!
おのれディケイド!この世界も破壊するつもりか!
激情態の情け容赦ない戦法に期待

38 ◆XksB4AwhxU:2011/11/08(火) 16:27:54 ID:nAJeN4WQ0
乙です。短いですが自分もアンク(ロスト)投下します。

39「体」 ◆XksB4AwhxU:2011/11/08(火) 16:29:39 ID:nAJeN4WQ0
アンクというグリードは少々特殊な存在だった。
鳥類の王であり、グリードの中でもかなり高い戦闘能力を持つ彼は、2011年現在「2人」いた。そもそもの発端は800年前、彼が更なる力を求めて「オーズ」の側についたことであった。結論から言うと、アンク以上の欲望を持つ王の暴走によって彼は「右腕」だけ封印され、残りの「体」はミイラとなり、両者とも復活までには相応の時を待たねばならなかった。
その結果、アンク本来の意識は「右腕」に、大半のコアメダルは「体」へと宿る事になり、
もともと一つの体だった両者は激しく争うようになる。

そんな争いの最中、「右腕」と「体」は共に争いへと巻き込まれた。




「僕は・・・何処?」
幼い少年が呟く。
彼は「体」の方のアンク―言うなればロストアンクとも言うべき存在―その人間体だった。
彼には先ほどの真木の言葉など分からない。死んだ二人のこともどうでもいい。

ただ気になっているのはもう一人の自分、「右腕」の事だけだった。
彼を取り込めば、自分は本当の自分になれる。
それだけが彼の存在理由だ。

40「体」 ◆XksB4AwhxU:2011/11/08(火) 16:41:41 ID:nAJeN4WQ0
【1日目-未明】
【B-2/見滝原中学校】
【アンク(ロスト)@仮面ライダーOOO】
【所属】赤陣営
【状態】健康
【首輪】120枚:5枚
【装備】不明
【道具】T2アイスエイジメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:方針・もう一人の自分を取り込み、完全復活する。
1.もう一人の自分を探す。
【備考】
※参戦時期は不明(ただし少なくとも死亡後ではない)
※もう一人の自分(右腕の方のアンク)と手を組むつもりはありません。
※名簿はまだ確認していません。
※何処へ向かうかは後続の書き手さんにお任せします。

41名無しさん:2011/11/08(火) 17:02:57 ID:55b4FLjM0
投下乙です!
ロストアンク……身体を捜しているとなるとスタンスがいまいち読めないな。
これからどう動くだろう。

42 ◆XksB4AwhxU:2011/11/08(火) 18:44:40 ID:nAJeN4WQ0
質問があるんですが・・・同じ書き手が連続で投稿するのはありなんでしょうか?

43名無しさん:2011/11/08(火) 19:46:11 ID:uRGByd3Y0
投下乙です
アンクは何やらかすかわからないから怖いな……ただ、カザリみたいなタイプには騙されやすそうw
前のSSに問題があるなら話は別ですが、今回は短いしこのまま通しで良さそうなので、連続投下も問題ないと思いますよ。

44やってられない名無しさん:2011/11/08(火) 19:48:19 ID:nyuV.j2Q0
>>42
あの…すみません。
どうやらトリップがかぶってしまってるようです。
お互いに変えた方がいいと思います。

45 ◆XksB4AwhxU:2011/11/08(火) 19:50:09 ID:nyuV.j2Q0
しまった。
名前欄の表示変え忘れてた
この通りかぶってしまってます

46 ◆XksB4AwhxU:2011/11/08(火) 20:04:00 ID:nAJeN4WQ0
すみません、アンク(ロスト)の所持メダルは100枚です

47名無しさん:2011/11/08(火) 20:24:31 ID:WYgh34Fg0
投下乙です

確かにこいつもややこしい設定があったわw
でも、ロワ内で悠長なとも思わなくもないなあw

48 ◆XksB4AwhxU:2011/11/08(火) 20:31:34 ID:nAJeN4WQ0
>>45
申し訳ありません。自分は初心者なので変え方がよく分かっていないです
もしお手数で無ければ教えてもらえませんか?

49 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/08(火) 20:33:33 ID:nAJeN4WQ0
あ、間違えました
これで変わるかな・・・

50 ◆eQhlNH2BMs:2011/11/08(火) 20:36:49 ID:nyuV.j2Q0
>>49
変更どうもです。
自分もこのように変更します。

51「体」 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/08(火) 20:44:08 ID:nAJeN4WQ0
>>40を修正します
編集者様はお手数ですがWikiにはこっちをのせてください

【1日目-未明】
【B-2/見滝原中学校】
【アンク(ロスト)@仮面ライダーOOO】
【所属】赤陣営
【状態】健康、この場にいる事に多少の混乱
【首輪】100枚:0枚
【装備】不明
【道具】T2アイスエイジメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:方針・もう一人の自分を取り込み、完全復活する。
1.もう一人の自分を探す。
【備考】
※参戦時期は不明(ただし少なくとも死亡後ではない)
※もう一人の自分(右腕の方のアンク)と手を組むつもりはありません。
※名簿はまだ確認していません。
※何処へ向かうかは後続の書き手さんにお任せします。

52 ◆mLCV9heyEc:2011/11/08(火) 20:46:12 ID:vXumkDmo0
修正版をしたらば掲示板に投下しておきました

53 ◆LuuKRM2PEg:2011/11/08(火) 22:37:45 ID:Eq9OC6LY0
投下乙です!
アンク……原作でどうにも内面が読めないキャラだったから、どう動くのか分からないなぁ
それだけに何かとんでもない事をしでかしそうだから、今後が気になりますね!

では自分も予約分の投下を開始します

54正義 ◆LuuKRM2PEg:2011/11/08(火) 22:39:24 ID:Eq9OC6LY0


 とある男は夢を見ていた。
 この世の誰もが幸せであってほしいという、理想に満ちた夢。
 それは人間誰もが大人に進むにつれて現実の不条理さを知って、ただの夢物語だと諦めてしまう世界。
 しかしその男はひたすらそれを追い求め、突き進んだ。その途中にいかなる困難が待ち構えていようとも乗り越えた。
 どれだけの裏切りがあろうとも、どれだけの悲哀があろうとも、どれだけの無情があろうとも――男は世界に覆われる絶望をどれだけ目にしても諦めなかった。
 その途中、世界から消えることのない犠牲によって男は何度も壊れそうになる。いや、もう壊れてしまったのかもしれない。多くの命を救うため、少ない命を数え切れないほど犠牲にしたのだから。
 それが理想のためだから。一切の争いがない、誰もが恒久的な平和を約束された世界を作るという理想。その為に男は殺しの技術を会得し、世界から一つでも多くの毒を殺した。
 しかしようやく理想を遂げようとした矢先、男はまたしても裏切られてしまう。呪いと怨嗟が蔓延る闇の中で、愛する妻の形をした願いが願いによって叶う理想を見せた。
 恒久的平和の代償として世界から家族以外の安らぎを全て滅ぼす光景。その為に流れる血や破壊されていく物の量は計り知れない。
 だから男は願いを拒んで殺した。娘と一緒にクルミの芽を探しにいけないような世界に、安らぎなんてあるわけがない。
 それでも世界の呪いは止まらなかった。まるで裏切った男への報復のように生まれた灼熱は、町を壊して人々を燃やし尽くし、それでいて男だけは助けている。
 男はもう絶望することも出来ずに、地獄の中で阿鼻叫喚の声を聞くしか出来なかった。数えきることが出来ないほどの嘆きと絶望が責め立てる。
 全てが終わった後、焼け野原の中で男は亡霊のように彷徨っていた。このまま死ぬのだと男は思っていた。
 しかし男は、絶望に満ちていたと思われた世界の中でたった一つだけ最後の希望を見つける。
 まだ一人だけ、救う事が出来た。
 一人でも助けられて救われたと、男は思う。


 それから男は五年間、幸せに満ちた毎日を送っていた。息子も、知り合いも、近所の人も誰も失うことのない、みんなが願った穏やかで平穏な日常。
 しかしその代償に、娘とは生涯で二度と会うことが出来なくなった。男は何度も娘を救おうとしたが、呪いに侵された身体がそれを許さない。
 その果てに彼は、自らの死期が近いと悟ったことで出来るだけ息子と多くの時間を過ごした。

――子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた
 
 月の光が眩いある日の夜、男は息子と語り合う。

――なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ
――うん、残念ながらね
――しょうがないから俺が代わりになってやるよ
――そうか。ああ――安心した

 男はこの時、本当にいい月だと思った。
 こんな穏やかになれたのは一体いつ以来か。こんなに幸せになれたのは一体いつ以来か。
 そして、こんなにも優しい気持ちになれたのは一体いつ以来か――男は微笑みながら考えるが、答えは得られない。
 世界を救うという夢を叶えられず、数え切れないほどの絶望によって自分を壊してしまった男は、最後に穏やかな安堵を胸にすることが出来た。
 衛宮士郎が自分の夢を受け継いでくれると誓ってくれたおかげで。



 そうして、衛宮切嗣は眠るように息を引き取った――







「要するにこれは、各チームごとに分けた聖杯戦争の真似事……といったところか」

 太陽の光が穏やかに輝く青空の下、黒いロングコートを纏った男が公園に備え付けられたベンチに腰掛けながら呟いた。
 『魔術師殺し』という異名を与えられた男、衛宮切嗣は支給されていた一冊のルールブックを読み耽っている。愛用のタバコが銜えられないことに微かな寂しさを感じるが、むしろ緊張感を奪わなくなるからいいかもしれない。
 我ながら他愛のないことを考えるようになった。そう自嘲しながら切嗣は今の現状を思い返す。
 まず眼鏡を掛けたあの男、真木清人はここにいる六十五人で殺し合いをしろと言った。拒否権は全くなく、逆らう者は全員に巻かれた首輪を吹き飛ばすつもりらしい。
 何の許可もなく人をこんな場所に放り込んだ挙句、殺し合いを強制。しかも聖杯戦争のように途中棄権も許されず、最後まで戦わなければ生き残れないのだから余計に性質が悪い。
 悪趣味という言葉では言い表せない地獄だと切嗣は思った。こんな義憤を感じていい人間ではないことは分かっているが、それでも真木が許せない。
 出来ることならかつてのように今すぐ真木を撃ち抜きたいが、そんなことは無理だ。今は落ち着いて情報を纏めなければならない。

55正義 ◆LuuKRM2PEg:2011/11/08(火) 22:42:03 ID:Eq9OC6LY0

「セイバーだけでなく、かつてのマスターやサーヴァント達がいるとは……」

 ルールブックの一部に含まれていた、この殺し合いに参加させられた六五人。
 その中にはかつて聖杯戦争でアイリスフィール・フォン・アインツベルンと共に召喚した最優のサーヴァント、セイバーの名が書かれていた。
 それだけでなく聖杯戦争にマスターとして参加した雨生龍之介や間桐雁夜、彼らと契約を交わしたキャスターやバーサーカーの名前までもが書かれている。
 これには切嗣も一瞬だけ目を疑った。この五人は聖杯戦争の末に、もうこの世界から消えた筈だったから。しかしそれは、切嗣自身にも同じことが言える。
 切嗣に残った最後の記憶。それは養子である衛宮士郎と平穏な毎日を送った末に、聖杯の呪いによって息を引き取った筈だった。
 だが今はこうして生きている。だからセイバーを始めとしたサーヴァントやそのマスター達がこの世界にいるのも、そういう事なのだろう。
 しかも皮肉にも、かつて『魔術師殺し』と呼ばれ続けていた時代に纏っていたロングコートを着せられていた。
 恒久的平和という名前の身勝手な理想の為に、多くの命を奪ってきた僕自身に対する罰だろうと切嗣は思う。

「あの男が言っていたグリード……こいつらも一筋縄ではいかなそうだな」

 真木の言っていた『グリード』というチームのリーダー。具体的に何を意味するのかは分からないが、少なくともまともな存在ではないのは確かだった。サーヴァントと同じ戦場に放り込む時点で、何かしらの力を持っていると考えなければならない。
 自分達の勝利条件はリーダー以外のグリード屠ることらしいが、リーダーとやらも真木の言うことも信用できなかった。そもそも事前に何の話もなく六五人を一箇所に放り込むような輩の言うことなど、信頼できるわけがない。
 仮に奴らのルールに従って他の『グリード』を全て倒しても、自分達を生還させる保障なんてどこにもなかった。むしろ最後の最後で裏切りが待ちかまえている可能性の方が、ずっと高い。
 かつて聖杯の真実を知り、自身の願いを最も望まない形で叶えられそうになったあの時のように。

「……君はきっと僕の事を恨んでいるかもしれないな、アイリ」

 呆然と青空を見上げながら、もうこの世にいないであろうアイリスフィールの事を考えた。
 地獄と呼ぶに相応しい暗闇の中、彼女を模した願いが見せた悪鬼の如き表情を忘れない。アインツベルン家を土壇場で裏切り、イリヤスフィールがアハト爺に囚われの身となってしまった。
 その選択に後悔はないし否定するつもりもないが、後ろめたさはある。先程思わず彼女の名前を口にしてしまったのも、そのせいだった。
 きっとアイリスフィールは今も自分のことを恨んでいるだろうと、切嗣は考える。しかし当然の報いとして受け入れる覚悟でいた。
 愛する娘を我が身可愛さに諦めてしまった馬鹿な男には、お似合いの末路だろう。
 でもその前にやらなければならないことが一つだけあった。

「……僕に再び戦えと、そう言いたいのか? 真木清人」

 ここではないどこかからこちらを見ているであろう真木に対し、切嗣は宣言を始める。
 一体どういう原理で自分達を蘇らせたのかは知らないが、奴が何らかの強大な力を持っているのは確実だった。それも忌むべき大聖杯に匹敵する程の。
 それだけは認めてやっても良かった。

「いいだろう、戦ってやるとも。でも悪いが、お前の理想に共感するつもりはない……」

 しかしだからといって、それと殺し合いに乗ることは繋がらない。むしろ切嗣にとって反抗の意志を強めさせるきっかけにもなった。
 かつて聖杯戦争に関わって理想を目指した頃ならば、この六四人を皆殺しにした後に真木を殺そうとしたかもしれない。そうしなければ、悲劇はまた繰り返されてしまうから。
 だけども今は違う。

56約束した正義 ◆LuuKRM2PEg:2011/11/08(火) 22:45:51 ID:Eq9OC6LY0

「彼はこんな僕に約束してくれたんだ……僕の代わりになってくれると。だから僕はそれに答えなければならない」

 今でも決して忘れることの出来ない、優しい光を放つ月夜の晩に士郎は言ってくれた。幾度にも渡る絶望によって夢を諦めた自分の代わりに、正義の味方になってくれると。
 士郎はそう約束をしてくれたのだから、自分がそれを裏切るわけにはいかない。あのホールには『ワイルドタイガー』と呼ばれた男や犠牲にされた箒という少女のように、真木を許そうとしない人間がいた。
 ならば、彼らのような者を一人でも多く助けることこそが、数え切れないほどの大罪を犯した自分に科せられた使命だ。いざとなったら、彼らの盾となってこの身を犠牲にする覚悟でいる。
 とにかく今は、一人でも多くにキャスターやバーサーカーの危険性を伝える必要があった。あんな連中に好き勝手をさせては聖杯戦争の悲劇がまた繰り返される。
 やるべきことを定めた切嗣はベンチから力強く立ち上がった。

「士郎、聞こえないかもしれないけどこれだけは言わせて欲しい。僕は君のおかげで夢を思い出すことが出来た」

 切嗣の脳裏に思い浮かべるのは、とても強くてとても優しい少年の笑顔。
 人の優しさを思い出せたのも、正義の味方をまた目指すことが出来たのも、生きる理由を取り戻すことが出来たのも――全ては士郎がいてくれたおかげだった。
 だから切嗣はそんな彼に向けるように優しい微笑を向ける。ずっと前から壊れてしまった瞳の奥底に、士郎のおかげで取り戻せた暖かい感情を宿らせながら。

「……ありがとう」



【一日目-日中】
【E-3/公園】
【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】不明
【道具】ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
1:まずは情報を集める。
2:無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
3:雨生龍之介や間桐雁夜、キャスターやバーサーカー、グリード達を警戒する。
4:セイバーと出会ったら……?
5:『ワイルドタイガー』のような真木に反抗しようとしている者達の力となる。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、全盛期の時代に纏っていた格好をしています。
※令呪があるかどうかは後続の書き手さんにお任せします。

57 ◆LuuKRM2PEg:2011/11/08(火) 22:46:53 ID:Eq9OC6LY0
以上で投下終了です
タイトルを間違えて申し訳ありません…… 「約束した正義」でお願いします。
それでは矛盾点などがありましたら、指摘をお願いします。

58名無しさん:2011/11/08(火) 23:26:08 ID:WYgh34Fg0
投下乙です

なんと、まさか死亡直後から参戦とは
これは綺麗なのか?
ロワに出るから嫌な予感はしていたがそれがいい意味で裏切られたよ

59 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/09(水) 03:37:52 ID:aE0mIySY0
皆さん投下乙です

>>果てなき欲望(セイヨク)
智樹がいつも通りの智樹で安心したwww
智樹だったら龍騎の力すらセクハラの為に使いそうですね

>>セカイノハカイシャ
平成ライダーロワとは打って変わってこっちは激情態か。
残虐ファイトは楽しみだけど、カード沢山あるからってメダルの使い過ぎには要注意
というかこのディケイドは正気に戻してくれる相手が居ないぞ……!?

>>「体」
ロストアンクは腕目当てだけど、実質殺し合いに乗ったようなもんなんだよなぁ。
手段を選ばなさそうである意味グリードの中でもこいつが一番怖い。

>>約束した正義
Fate/Zeroは放送分しか知らないけど、切嗣はだいぶ丸くなったなぁ。
結構かっこいい路線のまともな対主催だし、どう動くのか楽しみですね。


それでは、予約分の投下をさせて頂きます。

60 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/09(水) 03:38:48 ID:aE0mIySY0
 気が付いた時には既に、美樹さやかは見知らぬ街中にぽつんと佇んでいた。
 先程まで自分は、薄気味の悪い半球状の建物の中に居たように思うが、転送でもされたのだろうか。
 だとするなら常軌を逸した現状ではあるが、今更その程度の事で驚くさやかでも無い。
 今はそれよりも、目の前で殺された二人の少女の事で、頭が一杯だった。
 まるで訳も分からない内に殺された少女と、正義を行おうとして殺された少女。
 彼女達が一体何をしたというのだろう。正義に起ち上がる事は、間違いだったというのだろうか。

「あいつ、許せない」

 正義感の強い美樹さやかは、その瞳に義憤の熱を滾らせて、ぼそりとごちた。
 元より人に仇成す魔女を許すつもりはなかったが、それはこの殺し合いに放り込まれてからも変わらない。
 あの真木とかいう男のように、罪のない人を傷つける奴が居るのなら、そんな奴は絶対に許せない。
 正義の味方として奮起し散ったあの少女の意思は、同じく正義の魔法少女である自分が継ごう。
 殺し合いに乗った奴らは、この正義の剣で一人残らず叩き斬る。一人でも多くの命を救って、皆で脱出する。
 その為ならば、自分の身はどうなろうが構いはしない。どうせこの身はゾンビなのだ。死して哀しむ事の方がお門違いだ。
 何よりも、悪を狩れぬようになった自分などには、もう一片の存在価値すらも無い。少なくとも自分はそう思う。
 自己犠牲を前提として、この戦いを生き抜いていこうと心に誓った、その刹那の事だった。

「……何、この音?」

 何処かから聴こえて来たのは、ハーモニカの音色だった。
 静かな曲調だ。それでいて、何故か落ち着くような気さえする、不思議な音色。
 この近くで、誰かが演奏しているのだ。目的は分からないが、少なくともそこには誰かが居る。
 行こう、と思った。演奏者が殺し合いの乗って居るなら、問答無用で叩き斬る。そうでないなら、自分が保護する。
 保身という選択肢を捨てた時点で、最早何も恐れるものは無くなったさやかは、引き寄せられるように走り出した。
 
 それから数分後の事だった。
 街の中心部に聳える巨大な風車の塔の麓に腰掛けて、一人の男がハーモニカを演奏していた。
 歳の頃は、三十代程に見える。黒いジャケットを着た体格の良い男だ。
 男は、さやかの存在に気付いてからも演奏を続けた。無視されたような気がして、思わずむっとする。
 ややあって、一つのフレーズを演奏し終わると、男は漸く演奏を止めた。

「……理由は分からんが、この曲を聴くと俺は妙に落ち着くんでね」

 男は自嘲気味に笑うと、目を細めてさやかを眇める。

「お前、生きてる癖に死人みたいな面してやがるな」
「……大きなお世話よ」

 さやかは死人だ。生への執着を捨てた自分が、生者らしい表情など出来る訳も無い。
 妙に悟ったような表情でさやかを笑う男を見ていると、無性に腹が立ってくる。
 いつでも魔法少女に変身出来るように身構えながら、さやかは問うた。

「あんた、殺し合いには乗ってるの?」
「ハッ、乗ってるって言ったらどうするつもりだ?」
「誰かが犠牲になる前に、ここであんたを倒す」
「笑わせんなよ、お前じゃ無理だ」

 人を見下した態度で嘲笑うそいつに、さやかの中で一つの確信が芽生えた。
 恐らくこいつは殺し合いに乗っている。なれば、自分のやる事は一つだ。
 一瞬で魔法少女へと変じたさやかは、白のマントを翻し、一足跳びに男へ急迫した。
 さやかのサーベルが男の胸部を斬り裂くかと思われた刹那、男は身を屈めそれを回避。
 尋常ならざる反射神経だった。一瞬何が起こったか分からなかったさやかの胴を、男の拳が突き上げた。
 強烈なアッパーだ。たったの一撃で、さやかの身体は容易に吹っ飛ばされ、無様に地べたを転がる。
 相手は生身の男だと油断し切っていたが故、痛覚をシャットダウンする事も忘れていたのだ。

「ッ……ガハァッ」
「ほう、中々タフだな。手加減はしたが、意識は飛ぶ程度の威力はあった筈だが」

 何とか身を起こしたさやかは、今度こそ痛みを切り捨てた。
 相手は生身とは言え、油断は禁物だ。弾丸の如き魔法少女の一撃を回避するなど、尋常ではない。
 魔力で強化した脚力で以て、強く大地を蹴る。先程よりも速く、鋭く男へと跳び掛かる。
 今度は回避などさせない。瞬く間に男の懐へ飛び込んださやかは、そのサーベルで今度こそ男の胴を貫いた。
 人を突き刺す感覚。人の命を絶つ感覚。それを確かに肌で感じながら、さやかは勝利を確信した。
 だが。

61 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/09(水) 03:40:15 ID:aE0mIySY0
 
「おいおい、この程度で俺がどうにかなるとでも思ってるのか?」
「なっ……!?」

 男は、未だ笑っていた。
 胴には確かに刃が突き刺さって、貫通しているのに。
 それなのに、男はまるで痛みを感じていない様子だった。
 呆気に取られるさやかの頬を、またも鋭い拳が撃ち抜いた。
 絶大な威力と衝撃にまたもさやかの身体は吹っ飛ぶが、痛くは無い。
 殴られた事など意にも介さずに、宙空に展開した魔法陣を蹴って、さやかは再び急迫する。

「ハハハハハッ、来いよ?」

 男は両腕を広げ、無防備を晒す。
 今度は的確に心臓部を貫いた。
 間髪入れずにサーベルを引き抜き、二度三度と男を突き刺した。
 男の口元から大量の鮮血が零れ落ちるが、それでも男は笑っていた。
 驚愕するさやかを後目に、男は手刀でさやかのサーベルを叩き落した。
 何とか応戦しようとするも、さやかの体術では男には敵う訳もない。
 驚いている内に、拳で、蹴りで、さやかの身体は徹底的に打ちのめされた。
 痛みは感じていない事だけがせめてもの救いか。
 やがてさやかの身体は組み伏せられ、喉元に先程手放したサーベルが突き付けられた。

「まさかここまでタフな人間が居るとは思わなかったぜ。だが、これで俺の勝ちだ」

 男はそう言って不敵に笑うが、サーベルは一向にさやかの喉元を貫きはしなかった。
 情けでも掛ける心算か。侮辱された気がして、さやかはきっと目を細めた。

「やってみなさいよ。死人の私を殺せるものならね」

 刹那、男の表情が変わった。
 まるで驚愕したように。男もまた目を細めて、さやかを俯瞰する。
 お互いの視線が数秒程交差して、やがて男は、サーベルを投げ捨てた。

「……お断りだ。そんな目で戦ってる奴に、殺す価値はない」

 刹那、緊張の糸が急速に解かれてゆくような気がした。
 男から向けられていた敵意が無くなったのを、さやか自身も感じ取った。
 同時に、この男は本当に殺し合いに乗っているのかと小さな疑問を抱いた。
 元々さやかは直感の効くタイプの人間だ。悪人かそうでないかは、何となく分かる。
 男の目は、暁美ほむらのような全てを諦めた目ではない。まだ何か、希望を信じているような目だ。
 もしかしたら、こいつはさやかの標的となるべき人間ではないのかも知れないと、そう思った、その刹那。

「マグナムショット!」

 派手な銃声が響いて、男は有無を言わさず吹っ飛ばされた。
 殺し合いに乗った何者かが、油断した男を脇から銃撃したのだ。
 弾丸にしては大きすぎるその一撃は、さながら火炎弾のように見えた。
 見掛け通りその威力も絶大で、男の身体は容易に吹っ飛び、数メートル転がった後、動かなくなった。
 下手人は、左手に巨大な盾を、右手に巨大な銃を構えた、白いマントに赤い仮面の怪人だった。
 何とか立ち上がり、サーベルを構え直すさやかなど意に介さず、そいつは横たわった男に歩み寄る。

「ふん、貴様のような小娘は後回しだ。先にこの男の命の炎を頂こう」

 怪人は仮面に装着された銀のパーツを取り外すと、それを男に向けて翳した。
 何が起こるのかと身構えるが、さやかの予想に反して、何かが起こる気配は一向に訪れない。
 やがて痺れを切らした怪人は、銀のパーツを自分の仮面に戻すと、つまらなさそうに呟いた。

62 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/09(水) 03:41:20 ID:aE0mIySY0
 
「今の一撃で死んでしまったか……他愛も無い。死人からは命の炎も奪えないのだ」
「あんた、何なのよ……こいつに何しようとしたのよ!?」
「ふん、何も知らぬ小娘が粋がりおって……いいだろう、無知な貴様に教えてやる。
 私は数々の世界の秘密結社が大結集した偉大なる大組織、大ショッカーが大幹部・アポロガイスト!
 死んでしまったこの男の代わりに、貴様の命の炎を頂いてやるのだ!」
 
 アポロガイストと名乗ったそいつは、大々的に両腕を広げてそう言った。
 短い台詞の中に「大」が入り過ぎているのではないかと思ったが、今はそんな事はどうでもいい。
 こいつが敵であるという事だけはハッキリした。殺し合いに乗って居るなら、斬り倒すまで。
 これ以上考える事もないと判断したさやかは、再び生成したサーベルを構え、大地を蹴った。
 ――キィン、と。甲高い金属音が響く。
 さやかのサーベルは、アポロガイストの盾によって阻まれた。
 アポロガイストもまた自前のサーベルを引き抜くと、容赦なくそれをさやかへと叩き付けて来る。
 だが、防御をするつもりなどはない。さやかは既に、痛みなど感じない身体となっているのだ。
 アポロガイストのサーベルがさやかの肩口から食い込み、そのまま脇腹まで一気に振り抜かれる。
 さやかの身が裂け、傷口からは派手に鮮血を散らすが、さやかの勢いは止まらない。

「はあああああああああああああああッ!!!」
「何っ……!?」

 ダメージなど気にも留めないさやかの一撃が、アポロガイストの頭部を直撃した。
 サーベルが赤の仮面を思いきり叩いて、金属音を響かせながらも後じさるアポロガイストに、さらに追撃を仕掛ける。
 再びサーベルを突き出す頃には、さやかが受けた傷は既に完治していた。
 アポロガイストは狼狽しながらも、何とかさやかの攻撃を剣で捌く。

「くっ……一体どういう事なのだ!」
「ゾンビのあたしに、今更そんな攻撃効くもんか!」

 半ば自棄になった様子で、ゾンビである事を強調して言う。
 実力は相手が上だろうが、このまま勢いで押し切れば勝てない敵では無い。
 猛然たるさやかの攻撃を防ぎ切れなくなったアポロガイストは、大きく後方へと跳び退った。
 再び仮面の中心の銀色を外し、それをさやかへと向けるが――何も起こりはしない。

「貴様、本当に死人なのか! 死人からは生命エネルギーも吸えない!」
「ああそう、それは残念でした」
「ええい、気味の悪い化け物め! 私がここで確実に殺してやるのだ!」
「やれるもんなら……!」

 サーベルを構え直し、これ以上の言葉は無用と言わんばかりにさやかは跳んだ。
 気味の悪い化け物。その言葉が、どれ程さやかの心に突き刺さるかを、敵は知らない。
 例え身体は化け物でも、さやかの心はまだ人間だ。正義を行う事は、人間としての足掻きだった。
 アポロガイストが構えた銃から放たれた弾丸が、さやかの身体を次々と撃ち抜いていく。
 身体のあちこちに穴が開き、鮮血が飛び散るが、構う事はない。
 腹部のソウルジェムに当たりそうな弾丸だけ剣で弾けばいい。
 一瞬で回復しながら、さやかはアポロガイストに肉薄した。

「例え私の攻撃が効かぬとて、貴様のような小娘一人ごとき敵ではないわ!」

 アポロガイストはそれでも怯む事はなかった。
 確かに、持久戦に持ち込めば勝てるだろうが、実力では相手の方が上だ。
 さやかが勝っている点など、スピードとそのトリッキーな戦術くらいしかない。
 二人の間で激しい剣戟の応酬が繰り広げられるが、さやかの攻撃は一向に通りはしない。
 一方で、アポロガイストの攻撃も命中はするが、さやかに致命傷を与える事はなかった。
 しかし、そんな戦いに変化が訪れたのは、数分間の剣戟が続いた後の事だった。

「……貴様、腹部への攻撃だけは全て防いでいるな?」

 アポロガイストの冷ややかな声に、さやかは一瞬、戦慄した。
 ソウルジェムとは魔法少女の魂そのものだ。もしもそれを砕かれた場合は――死亡する。
 浅はかだった。持久戦に持ち込めば勝てる筈が、勝機を掴む前に攻略法を見出されてしまっては意味がない。
 さやかの沈黙を肯定と取ったのか、アポロガイストは高らかに笑いながらさやかの腹部目掛けて剣を突き出して来る。
 一撃目はサーベルで何とか防げたが、それが二撃三撃と続けば話は別だ。
 仮にも大幹部の称号を持つアポロガイストに、ここ数日で戦い始めた少女の技が通用する訳がない。
 防戦一方となったさやかは、徐々にアポロガイストに押されてゆき。

63 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/09(水) 03:41:49 ID:aE0mIySY0
 
(――拙い!)

 それは数度目の剣戟の最中だった。
 アポロガイストの嵐のような剣捌きの前に、ついにさやかのサーベルが弾き上げられた。
 敵の猛攻の前に、さやかの守りはついに突破されたのだ。
 細身の剣による一撃が、さやかの腹部へ吸い込まれてゆくのが、酷くスローモーションのように感じられる。
 ここで自分は死んでしまうのか。悪を倒せない自分には存在価値なのないと決めたのだから、それでも構わないか。
 そう思おうとするが、それでも、まどかの事、京介の事……名残惜しいものはあった。
 まだ、こんな所で終わりたくない。そう思った、次の瞬間だった。

 ――ETERNAL――

 鳴り響く野太い電子音(ガイアウィスパー)。
 さやかの頭上を飛び越えたのは、黒いジャケットを纏った一人の男。
 そいつの蹴りが、攻撃に転じがら空きになっていたアポロガイストの胸部を打ち抜いた。
 強烈な打撃の音が鳴って、アポロガイストの身体が数メートル後方へと吹っ飛ぶ。

「あんた……!?」

 思わず叫んだ。
 そいつは、先程アポロガイストに殺された筈の男。
 しかし、男がさやかに振り返る時には既に、その身体は変じていた。
 大気中から白い粒子を掻き集めて、その身体に纏い、漆黒のマントを翻す。
 蒼の炎がそいつの両腕を彩って、∞の形をした黄色の複眼が、色鮮やかに煌めいた。

「助けて欲しいってお前の気持ち、最初から感じてたぜ」
「はぁ!? 何言って……って言うかあんた、あいつに殺されたんじゃ……!」
「ハッ、無茶言うなよ? 死人の俺が、これ以上死ねるか」

 白い仮面越しにそう言う男の声は、自嘲気味に笑っていた。
 アポロガイストは、憤慨した様子で白い戦士を指差し、叫んだ。

「貴様っ……! 仮面ライダーだったのか!?」
「そんな名前は知らないなぁ? 俺の名は大道克己……死体兵士NEVERにして、ガイアメモリの戦士――」

 引き抜いたコンバットナイフを、手で数回回転させながら、

「エターナルだ!」

 漆黒のマントを翻し、白の戦士はそう名乗った。
 ガイアメモリの戦士エターナル。それが、克己が変身した姿の名前だった。
 何が起こったのか、彼が死人とは一体どういう事なのか、訳が分からず動けないさやかを後目に、エターナルは駆ける。
 そして、一瞬でアポロガイストと肉薄。
 アポロガイストは細身の剣を突き出すが、エターナルが繰り出した蹴りが、腕ごとそれを弾き上げた。
 流れるような動きで、アポロガイストに向かって突き出した蹴りには、蒼い炎が纏われていた。
 蒼炎の蹴りは太陽の形をした盾の中心に叩き込まれ、その衝撃はアポロガイストを怯ませる。
 隙が出来たアポロガイストの仮面を、蒼炎を纏った左フックが思いきり叩き付け、またも敵を数メートル吹っ飛ばした。
 強い、と判断せざるを得ない。克己が変身したエターナルは、尋常ならざる戦闘能力を持っていた。

64 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/09(水) 03:42:18 ID:aE0mIySY0
 


 エターナルに変身した克己は、マントをたなびかせながら、悠然と構えた。
 故郷である風都の風は、まるで克己を励ましているかのように、この身体を押す追い風となってくれる。
 今の克己にならば、目の前で尻ごみするアポロガイストなどは敵ではないように思われた。
 自分の真上で緩やかに回転する風車――風都タワーを見上げ、エターナルはふっと鼻で笑う。

「ここは俺の故郷だ。お前みたいな悪党に、俺の故郷を汚されたくはないんでねぇ」

 エターナル。それは今、一人の少女を守る為に起ち上がった戦士の名前。
 風都の風は、そんなエターナルの味方をしてくれている。何となくだが、そんな気がする。
 そして克己の身体は、この街に吹く「風」を感じ、その素晴らしさを実感していた。
 不思議と心地が良い。故郷の風は、こんなにも良い物だったのかと実感する。

「……あんた、一体何のつもり?」
「気に入らないのさ。殺し合いを強要する奴も、黙って従う奴もな」

 何の罪もない大勢の人間に殺し合いを強要する真木とかいう男を、克己は許せない。
 力を持って居ながら、首輪に繋がれて当然みたいな顔をしている奴を、克己は許せない。
 そして何よりも、まだ「生きていた」二人の少女の明日を奪われた事が、克己を奮い立たせた。

「……NEVERになると、過去の記憶や人間らしい記憶が少しずつ抜け落ちて行くらしい。
 所詮、死人だからな。この故郷の事も、もう全く覚えちゃいない。ただ、この風都タワーが目印になっただけだ」
「そんな……」

 絶句したのは、さやかだった。
 人の記憶や、温かい感情が抜け落ちて行くというのがどれ程辛い事か。
 それは誰にも分からないのだろうし、克己自身もろくに覚えてはいないのだから、厳密には分からない。
 だけども、本当に大切なものはまだ消えてはいない。克己はまだ、全てを忘れた訳ではないのだ。
 まだ覚えている。克己を人間へと引き戻してくれる、何処か懐かしい不思議なメロディーを。
 それが何のメロディーなのかまではもう分からないが、それでも克己の身体は、覚えている。
 だから克己は足掻く。何があろうと、メロディーが壊れてしまうその日まで、人間として足掻き続ける。
 そして、克己の中に人間らしい感情が残っている限り、こんな殺し合いを許そうとは思わない。

「過去が消えて行くなら、俺はせめて明日が欲しい。だから足掻き続けてるんだよ……!
 ……なぁ? 死人の俺ですら懸命に明日を求めてるってのに、今生きてる奴らの明日が奪われるってのは、一体どういう訳なんだ!?」

 何の罪もないのに殺された――明日を奪われた二人の少女。
 彼女らの最期は、死人である筈の克己の心にしっかりと刻み付けられた。
 克己は人間だ。例え死人だゾンビだと罵られようとも、この想いがある限り、克己は人間なのだ。
 だから戦う。不条理に誰かの明日を奪おうとする奴らが居るなら、そんな奴らはこの手で叩き潰す!
 こんな悪趣味な殺し合いを開いた真木もこの手で倒して、そして全ての参加者を解放する!

「あんた、克己とか言ったっけ。意外といい根性してるじゃん」

 そう言って、少女は剣を構え直し、エターナルの横に並び立った。

「あたしの名前は美樹さやか。色々聞きたい事はあるけど、今はあいつを倒すのが先ね」

 さやかの眼は、先程までと比べれば幾分か思い詰めては居ない様に思う。
 克己が戦った時は、まるで何かに突き動かされていたような、苦しそうな眼をしていた。
 一体何がさやかをそこまで駆り立てていたのかを克己は知らないが、放っておく事は出来なかった。
 そのさやかが克己と同じ死人であるというのなら、尚更興味を持たない訳がない。

「いいぜ、さやか。俺もお前には聞きたい事があるんでなぁ?」

 ここに魔法少女とNEVER、似て非なる者同士の共同戦線が敷かれた。
 白と蒼という共通した色を身に纏う二人は、それぞれ正反対の色のマントを靡かせ、構える。
 心地の良い風都の風は、まるで未だ人の心を失わぬ二人に味方してくれているかのようだった。

65 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/09(水) 03:42:52 ID:aE0mIySY0
 

【一日目-日中】
【G-5/風都 風都タワーの麓】

【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康、エターナルに変身中
【首輪】80枚:0枚
【装備】ロストドライバー+T2エターナルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
1.まずは目の前の敵(アポロガイスト)を倒す。
2.美樹さやかから詳しい話を聞きたい。
3.美樹さやかは放っておけない。
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピアドーパント撃破直後です。
※エターナルメモリの能力などは既に知っていますがT2の事は知りません。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※仮面ライダーという名を現状では知りません。

【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康、魔法少女に変身中
【首輪】80枚:0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
1.まずは目の前の敵(アポロガイスト)を倒す。
2.大道克己から詳しい話を聞きたい。
3.勝つ為なら自分の身体はどうなっても構わない。
【備考】
※参戦時期はエルザマリア撃破後〜行方不明中の間です。
※ソウルジェムの濁りについては後続の書き手さんにお任せします。
※回復にはメダルを消費します。

【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】健康、アポロガイストに変身中
【首輪】90枚:0枚
【装備】アポロショット、ガイストカッター、アポロフルーレ
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:参加者の命の炎を吸いながら生き残る。
1.目の前の二人とは相性が悪い。どうするか……?
2.まさかこの殺し合いは、ゾンビだらけなのか……!?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。

66 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/09(水) 03:44:57 ID:aE0mIySY0
投下終了です。
サブタイトルは「Eの暗号/だから足掻き続けてるんだよ」でお願いします。
不備などありましたら報告お願いいたします。

67名無しさん:2011/11/09(水) 06:54:02 ID:3EXgJpdk0
投下乙です

へぇスピンオフ期の大道克己ってこんな感じだったんだ、AtoZしか知らないからちょっとビックリ思った
中々アツい男だなぁ!よもや安定のさやかをかくも立ち直らせてしまう程だとはww

これから変わってしまうのか、それともこのまま行くのか、期待だね!!
……あ、アポロさん一言も触れてないやw

68名無しさん:2011/11/09(水) 07:25:05 ID:cPIRYGtA0
投下乙です!
克己は変身ロワといい具合に違う方向に進んでるな……彼がさやかにどんな影響を与えるのか楽しみだw
そしてアポロさん、まんまユートピアになってるw

69名無しさん:2011/11/09(水) 10:02:43 ID:6KxNSWmA0
投下乙です

やっぱり大道克己はこの時期が一番かっこいいぜ!
安定のさやかあちゃんを救えるのは同じ志を持った同じ死人だけなんだろうけど、この手のキャラとの触れ合いは原作で無かったからどう変わって行くのか楽しみだ
そしてアポロさん…そりゃ相手は二人とも死体なんだから生命エネルギーは吸えないわな。相手が悪かったのだ…

70名無しさん:2011/11/09(水) 10:55:09 ID:dxa1prd60
投下乙です。

>欲望(セイヨク)
……『エロ本の量と内容は、後の書き手さんに任せます』……いや、内容って、そういう問題じゃないって!(これは指摘ではありません。感想の一部です。)
というか地味に色々当たりなのは幸いなのか……そうか、ディケイド参戦だからその気になれば様々な変身ツールが登場出来るのか。

>ハカイシャ
そ  の  時  期  か  よ  !
アレは下手なマーダーよりも危険だ!
仮面ライダー変身ツール所持者の皆さん、みんな伏せやー!
……これは危険対主催なのか、マーダーなのか? まぁ剣崎もいるわけだしこの時期もアリだね。

>体
とりあえず参戦時期自体はわりとボカされているけど、幼い状態から考えて登場初期の段階かな。
まぁ、どの時期であっても成長して狡猾なキャラになりそうだけどね。
……アンクを取り込んだ後のスタンスこそ不明だけど……あ、そこまで行く段階で大変か。

>正義
zeroなのにある意味stayから参戦かよ!
他の所とは違う切嗣さんが見られそうだ。流石に士郎と違って無茶はしないだろうけど……でもここの場合はそうそう上手くはいかないだろうなぁ。


>Eの暗号
変身でも同じ書き手による克己ちゃーんの登場話……なんだけど時期が違う程度なのにスタンスが540度違う不思議!
ただ、メダルを消費するという設定上地味に他の参加者よりも大変そうな気がするが……
アポロは……流石にエターナル相手は分が悪すぎる、
アポロをボコボコにしたディケイドをボコボコにしたシャドームーンをボコボコにしたWをボコボコにしたエターナルだからなぁ。

71名無しさん:2011/11/09(水) 11:51:33 ID:qS4mwEX2O
投下乙です!あれ、安定のさやかあちゃんがいつも通りに地獄を楽しむのかと思いきや、よりによって魔法少女と全盛期大道&T2エターナルというアポロさん涙目な布陣wさあ、地獄を楽しみな↓

72 ◆lx1Zn8He52:2011/11/09(水) 12:11:50 ID:DJ2S1s7YO
X、織斑一夏投下します

73汝、蛇の如く音無く忍べ ◆lx1Zn8He52:2011/11/09(水) 12:18:38 ID:DJ2S1s7YO
参加者の一人 怪物強盗X・I 通称怪盗Xは、会場に跳ばされすぐに、肉体の不調に気付いた
骨格を変え首輪を外そうするがうまくいかないのだ
あの男―――真木清人の仕業だろう。そう決めつけた直後、病院内から声を拾う

声の主は、織斑一夏 正義感の強い彼は、この惨劇に憤慨し叫ぶ。二つの命を守れなかった。その事が許せなかった
名簿に見知った者達の名を見つけ、更なる怒りが彼を叫ばせた


―――が、そんな事知る由も、興味も無い。Xは、何と無く声の元に向かう

荷物を放り 走り出し 一気に跳躍 そしてガラス越しに名簿を確認している目標を視認する迄、僅かに数秒
そのままガラスを突き破り目標を削り潰すのに、一秒を要しなかった
完璧な不意討ちに反応出来ず 織斑一夏は、メダルと血を撒き散らし 悲鳴を挙げる事も暇も無く 肉塊に加工される

Xは、その力技の対価として一気にメダルを消費するが、それ以上のメダルが彼の首輪に吸収される

74汝、蛇の如く音無く忍べ ◆lx1Zn8He52:2011/11/09(水) 12:27:42 ID:DJ2S1s7YO

OOO

―――Xは、今の自分の状態を認識する
どうやら厳しい制限は、変身能力だけらしく、身体能力は、余り制限されていない
その変身も全く出来ない訳では無く。顔や背丈程度なら変えれる。現にXの今の姿は、肉塊になった筈の織斑一夏その者だ
これだけ出来れば充分。
Xが赤く染まった名簿を拾い上げ 目を通すと、一つの名に目が止まる

[脳噛ネウロ]

この殺し合いに興味は無い。だがあの魔人に興味はある
全ては、自分の正体を知る為に
この殺し合いの場で、初めて怪盗Xは、笑った

【織斑一夏@インフィニット・ストラトス 死亡】

【一日目-日中】
【C-1/病院】
【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】健康、織斑一夏の姿に変身中
【首輪】180枚:0枚
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい
1.ネウロに会いたい
2.殺し合いに興味は無い
【備考】
※本編22話後より参加
※能力の制限に気付きました
※細胞が変異し続けています
※病院の外にXのデイバックがあります
※病院の一室に織斑一夏の死体(原形を留めてません)と首輪とデイバックが落ちてます

75 ◆lx1Zn8He52:2011/11/09(水) 12:29:06 ID:DJ2S1s7YO
以上で投下を終了します

76名無しさん:2011/11/09(水) 12:53:18 ID:qS4mwEX2O
投下乙です。なんかまあとりあえずXは登場話で仕事人するのがデフォなのかよw

77名無しさん:2011/11/09(水) 15:31:49 ID:vhMoyF0I0
投下乙です

一応、一夏は主人公なのにあっさりとまあ
見せしめの知人としてどう転ぶか期待はしてたがどうにかなる前に脱落とは…
ざま…いや、残念でしたw

78名無しさん:2011/11/09(水) 15:43:00 ID:X52/Od8Y0
投下乙です。
一夏……末期の言葉すらなしに死亡とはなんと哀れな。
しかしこれでISのヒロイン勢は総じて闇落ちする可能性が出て来た訳だ。

サイは元々の自分の持ち物と、一夏の分で二人分の支給品を持っていると思うのですが、そこだけ少し気になりました。

79名無しさん:2011/11/10(木) 00:28:21 ID:C5IkhWHU0
乙です。
一夏……これはIS勢、放送後に絶望するだろうなぁ。
何人か暴走しそうで怖い。

80名無しさん:2011/11/10(木) 19:16:17 ID:ucAR8iqs0
投下乙です

ところでアポロさんの命吸収ってパーフェクターがないとできないのでは?

81 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/10(木) 19:57:19 ID:WnpDfloA0
>>80
状態表にパーフェクターを表記しておくのを忘れていました。
収録分の状態表にパーフェクターを追加しておきます。

82 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/10(木) 23:01:12 ID:WnpDfloA0
予約分を投下します。

83 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/10(木) 23:06:10 ID:WnpDfloA0
 暁美ほむらに支給されたものは、ソウルジェムと、たった一つの「鍵」だけだった。
 鍵にはテープで一枚の紙が貼られており、そこには「Gトレーラーの鍵」と書かれている。
 最初は飛んだ外れ支給だと思った。武器もないのに、これだけで一体どうやって戦えと云うのかと。
 せめてほむらが集めた重火器だけでも支給されて居ればと思うが、無い物ねだりをした所で仕方がない。
 さてどうするかと周囲を見渡す。どうやらここは、警視庁の地下駐車場らしかった。
 警視庁である事を示す標識があちこちにあるのだから、まず間違いのない事だろう。
 駐車場に停まっている車は一台。警察のマークが描かれた、青いトレーラーだ。
 それがGトレーラーなのだろうと考えたほむらは、Gトレーラーの鍵を使い、内部へ入る。
 そして、トレーラーの中に拡がる光景を見たほむらは、軽く驚愕した。

「これは……」

 まず視界に入って来たのは、一台のバイク。
 白と青で塗装された、赤色灯付きのそれは、恐らくは白バイ。
 それは、警察が開発した世界最高峰のスーパーマシン、ガードチェイサーだった。
 しかし、ほむらが驚いたのはそれだけではない。ガードチェイサーの周囲に設置された様々な機材。
 いくつものモニターと、何らかのオペレーションルームを彷彿とさせるそれらは、ほむらに希望を与える。
 これは中々の「当たり」を引いたのではないか、と。支給品が鍵だけだったのも、これならば許せるというものだ。
 本来ならオペレーターの為に用意されたのであろう席を座り、ほむらはそこに置いてあった書類を手に取った。

「G3ユニット……? 未確認生命体……?」

 正式名称「GENERATION-3 eXtension」――通称G3-X。
 曰く、G3-Xとは未確認生命体を殲滅し得る人類最強の強化装甲服との事だった。
 未確認生命体というのが一体何なのかをほむらは知る由も無いが、今はそんな事はどうでもいい。
 肝心なのは、G3-Xに装備された魅力的な武装の数々だ。
 鉄球すらも粉々に撃ち抜く、絶大な威力を誇るの自動小銃、GM-01スコーピオン。
 未確認生命体を一撃で爆砕する事を想定されて開発されたグレネード砲、GG-02サラマンダー。
 命中すればどんな対象をも易々と裂断する超高周波振動ブレード、GS-03デストロイヤー。
 そして最高威力を誇るは、数々の未確認生命体を屠ってきたとされるガトリング銃、GX-05ケルベロス。
 他にもいくつか武装があるが、ほむらが特に興味を惹かれたのは、この四つだった。
 寧ろ、この四つだけでも、元の時間軸で使用していた銃器よりも凶悪な兵装とも思える。

「与えられた武装は有効活用させて貰うわ」

 左腕の盾内部の四次元空間にG3-Xの武装を詰め込み、ほむらは一人ごちる。
 支給されたデイバッグよりも、自前の盾の収納機能の方がよっぽど便利だった。
 全ての武装のロックは既にGトレーラーの機器を操作し外されている。これでいつでも使用可能だ。
 最後にガードチェイサーとG3-Xユニット本体はどうするかと考え……結局放置する事にした。
 これは今の自分には邪魔な鎧だ。使用するとしても、もっとこの鎧を有効活用出来そうな仲間を見付けてからだ。
 そしてこれからの事を考えるが……ほむらは、現状で殺し合いに乗るつもりは無かった。
 どう頑張った所で、自分は無所属だ。無所属の参加者には、最初から勝利という選択肢はない。
 ならば白陣営に属すまどかを勝利させる為、白以外の陣営を全て殺すという選択肢も考えはした。
 だけれども、本当にそれでまどかが助かる保証もないし、真木とか言う男は信用ならない。
 だから、今はまだ積極的に動くべきではない。情報を集めるのが先決だと考えた。
 当然、この身に降り掛かる火の粉は払わせて貰うつもりではあるが。
 ともあれ、まずは誰かと会わなければならない。
 そう考えたほむらは、一先ず地上に出る為に歩き出した。

84 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/10(木) 23:12:05 ID:WnpDfloA0
 
 ◆
 
「何だ……これは……何だ……これは、何なんだよ――」

 脅えたように、哀しむように、唸るように。
 岡部倫太郎はうわ言のように呟きながら、嗚咽し。
 やがて抑え切れなくなったのだろう、
 
「何なんだよこれはあああああああああああああああああッ!!!」
 
 喉が枯れる程に悲痛な叫びを、裂帛たる勢いで響かせた。
 何処とも知れぬビルの廊下に突っ伏して、両の手で思いきり床を殴る。
 殴った手は僅かに痛むが、そんなものは岡部の心の痛みに考えれば屁でも無い。
 今この時だけは、狂気のマッドサイエンティストも、追手たる機関も、どうでも良かった。
 そんな妄想厨二設定は忘れられる程に、岡部の哀しみは深く、その現実を受け止める事は辛い。

「まゆり……まゆり……!」

 ほんの少し前、岡部の目の前で殺された少女の名を何度も呼ぶ。
 守りたかったのに。守ろうとしたのに。……何度も繰り返して、漸く守り抜いたと思ったのに。
 それなのに、まゆりは殺された。岡部の目の前で、容易くその命は散らされた。
 涼しげな顔をしてまゆりを殺した真木清人は憎いが、今はそんな憎しみすらもどうでもいい。
 ただ、哀しかった。守れなかった自分が、また繰り返してしまったまゆりの死が。

「まゆり……何度も、何度も何度も何度も何度も時間を繰り返して、漸く救ったのに……何でっ!」

 まるで子供のように泣き事を言いながら、岡部は叫ぶ。
 偶然開発したタイムリープマシンを使って、まゆりの死は回避した、筈だった。
 何度も何度も時間を逆行し、幾つもの苦労を重ねて世界線を移動して、漸く、漸く守れたと思った。
 岡部の決死の行動は、牧瀬紅莉栖をも救った。起こる筈だった未来の可能性、第三次世界大戦だって回避した。
 沢山の人々の想いを、仲間達の願いを無にしてでも掴み取った、皆が平和に暮らせる世界の筈だったのに。
 それなのに、この世界にはもう、まゆりは居ない。なら、自分がしてきた事は一体何だったのか。
 岡部の頬を一滴の涙が零れ落ちた、その時だった。

「その話、詳しく聞かせて貰えるかしら」

 後頭部にあてがわれたのは、冷たい鉄の感触。
 自分は今銃を突き付けられているのだという事実に気付くのに、そう時間は掛からなかった。
 一瞬パニックに陥りかけるが、すぐに自分を落ち着かせ、ゆっくりと両手を上げる。
 反射的な行動だった。

「お、お前は……殺し合いに乗ってるのか……?」
「いいえ。でも貴方の行動によって私が引き金を引く可能性はあるわ」

 まゆりの次に命を危険に晒されたのは、自分自身だった。
 死んでしまうのか。まゆりを殺されて、何も出来ずにこんな所で終わるのか。
 いや、まだだ。発言を間違えさえしなければ、ここを切り抜ける事は出来る筈だ。
 一瞬でそこまで思考出来たのは、やはり岡部という人間が元来聡明な人間だったからだろう。

「何が望みだ……?」
「さっき言ったわね、時間を繰り返してようやく救ったって。どういう事?」
「言った所で、信じられる話ではないぞ。それでも良ければ話しても構わないが……」
「……ええ、構わないわ。貴方は今、嘘を言えるような状況じゃないもの」

 こちらの精神状況まで読んでの行動らしい。
 確かに、まゆりを殺されて失意のどん底に落ちた上、銃を突き付けられて嘘を吐ける程岡部は強くはない。
 意を決した岡部は、自分が体験した度重なる時間逆行の経験を、ゆっくりと語り出した。

85 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/10(木) 23:16:10 ID:WnpDfloA0
 


 岡部倫太郎と名乗った男の経験は、暁美ほむらにとって衝撃的なものだった。
 曰く、彼はたった一人の少女の命を救う為に、何度も何度も時間を繰り返したのだという。
 だけれども、何度繰り返しても少女は死んだ。どんなにその可能性を排除しても、少女の死は変えられなかった。
 数えるのも嫌になる程、何度も何度も何度も何度も繰り返し、そして何度目かのループで、岡部は知った。
 どんなに時間を巻き戻し、過去を改変し可能性を変えても、行きつく結果は変わらないのだと。
 椎名まゆりという少女がその日のその時間に死ぬと云う事実は、どんなに書き換えても変わらない。
 世界によって決め付けられた、絶対に変動する事のない結果だというのだ。

(……じゃあ、私がまどかを救うおうと、何度も時間を繰り返しても、まどかは魔法少女になったのは――)

 世界によって決められた事実、だというのか。
 鹿目まどかが魔法少女となり、そして最悪の魔女となる事は、絶対に変えられないのか。
 いや、そんな運命論染みた話を信じたくは無い。繰り返し続ければ、いつかは変えられる筈だ。
 事実、最終的にこの岡部倫太郎は椎名まゆりを救ったと言っていたではないか。

「……なら、貴方は一体どうやって椎名まゆりを救ったというの?」
「何度目かのループで、俺は知らされた。確定された未来を改変する為には、世界線を越えなければならない。
 ダイバージェンス1%の壁を越えて、向こう側の世界線……α世界線からβ世界線へ到達しなければならないのだと」
「世界線……? ダイバージェンス1%……?」

 ほむらの問いに、岡部は世界線の説明を簡潔にしてくれた。
 世界は幾つもの可能性に分岐しているが、それらは全て一つの結果に辿り着いてしまう。
 これは先程語られた「椎名まゆりは世界によって殺される」という話から、既に理解している。
 仮に世界線を数値化するとして、些細な変化では、どう頑張ってもその結果を変える為の数値には満たない。
 小数点未満の変化程度では行きつく結果は変わらないし、世界が進む大まかな歴史が変わる事もない。
 だが逆に……小数点以上、つまり1%以上の変化を齎せば。世界全土に及ぶ歴史そのものを書き変えれば。
 その時は、一つの結果にしか到達し得なかった筈の世界線が、別の世界線へと切り替わる。
 世界が行きつく歴史そのものを捻じ曲げて、岡部倫太郎は椎名まゆりを救ったのだ。

「……世界線そのものを越える事が出来れば……まどかを……」
「は……?」

 気付いた時には、ぽつりと呟いていた。
 岡部倫太郎は意味が分からないと言った様子でちらりとこちらを一瞥するが、構う事はない。
 ほむらは思考する。確かに自分は今まで、誰が魔法少女になるかならないか、そんなレベルでの改変しか行っては居ない。
 だが、もしもこの岡部倫太郎のように、世界の歴史を変える程の何かを成したとすれば、或いは――。
 その為にはこんな所で殺し合いに興じている場合では無い。
 一刻も早く元の世界に戻りたいと思うが、そういう訳にも行かなかった。
 結局、自分がまどかの為に白陣営を優勝させたとしても、まどかが魔法少女になる事実は変わらないのだろう。
 だとするなら、世界線の仕組みをしった今のほむらが生還し歴史を改変し、何としてでも世界線を越えなければならない。
 だが自分がグリードの居ない無陣営である限り、勝利はない。
 結局、まどかを救うためには、この殺し合い自体を破綻させて脱出するしかないのだ。
 何にしても、この男、岡部倫太郎は重要な情報源だ。ここで殺すには惜しい。
 中々に頭も切れるようだし、時間の仕組みも熟知しているのだから役にも立つ。
 まどかを救う為の「鍵」の一つは、この男にこそあるのだ。

86 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/10(木) 23:18:12 ID:WnpDfloA0
 
「……分かったわ。もう手を降ろしていいわよ」

 そう判断したほむらは、銃を降ろし、岡部に手を差し伸べる。
 だけれども、岡部倫太郎は動かない。茫然自失といった様子で、跪いたままだった。

「何をしているの。早く立ちなさい」
「……この世界線ですらまゆりが死んでしまうなら……俺はこれ以上、何をすればいいんだ」
「殺し合いを破綻させ、脱出する。そしてもう一度世界線を越えて、椎名まゆりを救えばいい」

 そして自分は、同じように鹿目まどかを救う。
 まどかを救う事自体はとっくの昔に決意を固めていた事だ。
 何度も繰り返した今、新たな条件が追加されたとてそれ程苦だとは思わない。
 だけれども、それはあくまで「ほむらの場合」の話だ。

「簡単に言うなよ! 何度も繰り返して、ようやく最善と思われる世界線に辿り着いたんだぞ!?
 これ以上何をどう変えたら、このふざけた歴史を変えられる!? ましてや殺し合いなんて……!!」

 一通り叫び散らした岡部は、力無くへなへなと崩れ落ちた。
 岡部には戦う力がない。無力な自分がどうやって生き残ればいいのかと悩んで居るのだろうか。
 絶望し切った虚ろな瞳はほむらを映す事はなく、ただぼうっと廊下の奥を眺めているだけだった。
 ほむらはほむらで、無意識のうちに自分と同じ境遇の岡部に自分を重ねていたのかもしれない。
 だが、見込み違いだったようだ。初っ端からこんな腑抜けた事を言う男なら、もう用は無い。

「守りたいと誓ったのなら、どれだけ辛かろうが戦える筈だけど……残念ね。
 なら、そこでずっとそうしてなさい。私は貴方とは違うわ。一人でも戦い抜く」

 繰り返す、何度でも。救えるまでだ。
 世界線の話を聞けただけでも僥倖だった。
 これ以上時間を浪費する事もあるまいと、ほむらは踵を返した。
 


 何も知らない癖に、知った風な口を聞く奴だ。
 目の前の少女の言動に、岡部は少なからず怒りを感じていた。
 彼女は知らない。自分がどれだけ辛い想いをして、何度繰り返したか。
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
 気が遠くなる程繰り返し努力し漸く掴み取った未来を壊された岡部の気持ちなど、分かる筈も無い。
 それなのに。目の前の黒髪の少女は、涼しげな顔をしてもう一度救えばいい、だと?
 私は貴方とは違う。そう言って立ち去っていく少女の背中を見るのは、随分と辛かった。
 結局諦めたも同然、失意に沈むだけしか出来ない自分が酷く惨めに思えてしまうではないか。

「くそ……くそっ……俺を、俺を誰だと思っている……」

 小さな声で呟くが、それは少女には届かない。
 うわ言のように、短くブツブツと呟きながら、岡部は立ち上がった。
 あんな少女に、あんな中学生くらいの女の子にすら、馬鹿にされたままでいいのか。
 否、いい訳がない。俺を誰だと思っている。
 そうだ、俺は――

87 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/10(木) 23:22:49 ID:WnpDfloA0
 
「俺は……俺はっ! 狂気のマッドサイエンティスト・鳳凰院凶真だぞッ!!!」

 純白の白衣をばさりと翻し、高らかに名乗る。
 ……自分でも、一瞬忘れかけていた。岡部は一種の病気なのだ。
 そう。岡部倫太郎は、何を隠そういい歳こいた厨二病末期患者。
 どうしようもなく痛々しい、ともすれば変人と罵られても可笑しくない男だ。
 だけれども、その厨二は、その執念は、何度も未来を書き換えて来たではないか。
 何度も挫けそうになったが、その度に奮い立ち、まゆりも、クリスティーナも救ったではないか。
 ここまで貫いて来た信念を、こんな所で曲げていいのか。こんな所で負けていいのか。
 いいや。岡部倫太郎は、鳳凰院凶真は、こんな所では終わりはしない。
 目の前の少女は、岡部に大切な事を思い出させてくれたのだ。
 
「俺は、こんな所で終わる男ではない!」

 出来るかどうかは分からないが。
 ――否、出来るかどうか、ではないだろう。
 やるのだ。例え力は無くとも、やり遂げねばならぬのだ。
 そして、こんな殺し合いを破綻させ、もう一度世界線を越える。
 まゆりも、クリスティーナも、誰も死なない世界を、今度こそ掴み取るのだ。
 その為にも――

「おい、ワンマンアーミー!」
「……は? ……ワンマン、アーミー……?」
「そうだ! 貴様は今この瞬間からワンマンアーミーだ!」
「……訳がわからないわ」
「何ならコマンダーでも構わん。どうだ、コマンダー?」

 びしぃっ!と鋭い音を立てて、目の前の少女を指差すが、少女はただ困惑するだけだった。
 この少女は、一人でも戦い抜くと宣言した。その強い心に、中学生ながら銃器を操るそのスタイル。
 それらから考え導き出された彼女のコードネームは、ワンマンアーミーないしコマンダーが相応しい。
 呼ばれた少女は困惑した様子で凶真を眇めるが、そんな視線も意に介さずに、再び白衣をばさりと翻した。

「貴様、殺し合いには乗っていないと言ったな!」
「ええ……言ったけど」
「ならばこの、ほぉぉぉう凰院ッ、凶真が! 貴様の知恵となり、共に戦ってやろうではないか!」
「……何を言っているの、岡部倫太郎?」
「岡部倫太郎ではなぁぁぁぁぁい!!! 俺は狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院! 凶真ッ! だ!」

 これでこそ、鳳凰院凶真だ。
 例え虚勢でも構わない。例えどんな事があっても、最後には勝利を掴み取る。
 こんな殺し合いはこの狂気のマッドサイエンティストが破綻させてみせようではないか。
 これ以上こんな所で油を売っている訳には行かない。
 一刻も早く仲間を集め、真木を打倒する。

 ――そして、今度こそまゆりを救ってみせる。

 難度繰り返す事になっても、必ず君のその笑顔を守って見せる。
 難度繰り返してでも、悲しみの無い世界、シュタインズゲートに到達して見せる。
 もう二度と揺るぎようのない誓いを胸に、鳳凰院凶真は起ち上がった。

 ……それから暁美ほむらは、小さく嘆息したという。

88 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/10(木) 23:23:26 ID:WnpDfloA0
 

【一日目-日中】
【G-5/警視庁】

【岡部倫太郎@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、今度こそまゆりを救う。
1.ワンマンアーミー(もしくはコマンダー(=暁美ほむら))と共に行動する。
2.俺は岡部倫太郎ではない!鳳凰院凶真だ!
【備考】
※参戦時期は原作終了後です。

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、G3-Xの武装一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、鹿目まどかを救う。
1.岡部倫太郎と行動するのは構わないのだが……
2.一度Gトレーラーに戻って、G3ユニット本体をどうするか決めたい。
【備考】
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
※未来の結果を変える為には世界線を越えなければならないのだと判断しました。
※支給品は「Gトレーラーの鍵@仮面ライダーディケイド」でした。
※所持している武装は、GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GS-03デストロイヤー、
 GA-04アンタレス、GX-05ケルベロス、GK-06ユニコーン、GXランチャー、GX-05の弾倉×2です。
※G3-Xの武装一式はほむらの左腕の盾の中に収納されています。

89 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/10(木) 23:24:17 ID:WnpDfloA0
 
【全体備考】
※警視庁の地下駐車場にはGトレーラーが停められています。
※内部にはG3-X本体とガードチェイサーが残されています。

【支給品解説】
・GM-01スコーピオン
 対未確認生命体用の突撃銃。装弾数は72発。Gトレーラーからの遠隔操作でロック可能。
 弾丸一発で鉄球すら破砕する威力だが、反動も大きく、生身で発射すればかなりの負荷が身体に掛かる。
 
・GG-02サラマンダー
 GM-01と連結して使用するグレネードランチャー。装弾数は3発。
 一撃で戦車すら粉々にする威力を持っており、下級アンノウンなら一撃で撃破可能。

・GS-03 デストロイヤー
 右腕に装着して使用する超高周波振動ブレード。敵に当たらない事で有名。
 少なくとも原作での装着者氷川誠はこれを一度たりとも命中させた事がない。

・GA-04 アンタレス
 右腕に装着して使用するアンカー。主に敵の捕縛等に用いられる。
 原作ではアンタレスで捕縛し、ケルベロスによる射撃で撃破、という具合に使用された。

・GX-05 ケルベロス
 ガトリング銃式機銃。特殊徹甲弾を1秒間に30発発射する。劇中でも多用された。
 弾倉一つあたりの装弾数は120発で、代えの弾倉はG3-Xの背部に装着されている。

・GXランチャー
 GM-01とGX-05を連結させ、GX-05に収納されたGX弾(ロケット弾)を装填し発射する。
 G3-X最強の兵装で、威力は仮面ライダーアギトのライダーキックと同等。

・GK-06ユニコーン
 電磁コンバットナイフ。緊急時のサブウェポンとして用いられる事が多い。

90 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/10(木) 23:25:47 ID:WnpDfloA0
これにて投下終了です。
不備などあれば報告して下さると助かります。

91名無しさん:2011/11/10(木) 23:34:21 ID:0IrvpGx20
投下乙です!
オカリン、ほむほむと出会ったおかげで立ち直れたね……そして変なあだ名を付けられたほむほむ涙目w
そういやこの二人って、ループした者同士なんだな。

それと、サブタイトルをお願いします。

92 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/10(木) 23:35:16 ID:WnpDfloA0
おおっと、サブタイ忘れてましたね、申し訳ない。
そうですね……では、「時間遡行者」でお願いします。

93名無しさん:2011/11/10(木) 23:38:43 ID:8DmX196.O
投下乙です

オカリンかっこいいよオカリン
とりあえず気になったのは、何でまどかが白陣営だと知ってるの?
収納能力ってメダルの消費無し?という事だけです

94 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/10(木) 23:44:33 ID:dhs4OLoA0
投下乙です!
やっぱりこの二人の絡みはいいなあ!

それでは予約分を投下させていただきます
延長、さらに申請の遅れ、誠に申し訳ありませんでした
今後はこのようなことのないよう、努力します

95アイノウタ ◆l.qOMFdGV.:2011/11/10(木) 23:50:31 ID:dhs4OLoA0
OOO OOO OOO

1.
 誰が言ったか、愛は無限に有限だと、そういう言葉があるという。言われてみれば、与えることのできる愛は無限だがそれを与えることができる相手は有限で、
そして求める愛は無限であるのに得られるそれは有限だ。だから、なるほど確かに愛は無限で有限だ、とそれを聞いたメズールはなんとなく納得していた。
 メズールはその言葉が本来どのような思惑のもと生まれたのかを知らない。己の解釈が、言葉を考えた人間の思う定義に沿っているかどうかすらも知る所ではなかった。
だが、それは瑣末なことだ。問題は――。
「私が愛(それ)で自分を充たせるかどうか……それだけなのよね」
 愛を与え、与えられ、求め、そして得て、その全てを我がものにせんとする欲望。それを充たすこと、それだけだ。

OOO OOO OOO

 グリードの視界は人のそれと違い、色や光といった彩が薄い。メズールが暗いドームの内から煌々と照りつける白日の下へ飛ばされた際に目が眩まなかったのは、
常に砂嵐のような靄に覆われたそれのおかげだろう。人のようなクリアな視界を欲するグリードがその正逆の視界に救われるとは何とも皮肉な話だと、メズールは鼻を鳴らした。

 眼前には海が広がっていた。大気の蒼を写して広がる大海原。対岸には森に囲まれた、とある世界の学び舎が見える。海と呼ぶには少し小さいそれは、たったひとつの「問題」を除いて、概ね海だった。
「IS学園が見えるし……F-6の北西部ってところかしら」
 俯瞰すれば一目瞭然であるし、こうして海岸線に立っていてもなお、この「問題」は把握できる。現在メズールが立つ大地とIS学園を含む海の向こう、それらがまるでコンパスで円を描いたかのような正確さで「繋がっていない」のだ。
無論物理的なものではない。ともかく、整合性が一切存在しないのだ。メズールが立つのはごく普通の市街地である。ビルがあり、家屋があり、人の町があり、そして海がある。
砂浜やら岩礁やらを挟まず、街と海が直に接している、これが「問題」の正体だった。「綺麗な円弧を描く、自然界には存在しない海岸線」、円形に切り取られた大地に、同じくくり抜かれたIS学園を含む海をむりやり当てはめたような、そんな風景だ。
 人ならざる身であっても人の街は知っているし、この「問題」に対する違和感を得る程度にはそこになじんでいる。まったくいつ見てもおかしなものだ、とメズールは一人ごちた。

OOO OOO OOO

 呆けている暇はない。間もなく、メズールは支給されたデイバッグをあけた。そして迷わず何かを掴み取る。注視するまでもなく、メズールが広げたそれはただの紙束であると知れた。
支給された品でなく、地図でなく名簿でなく、ただ細かな文字が書かれた紙束を何故最初にとりだしたのか。答えはそれほど難しいものではなかった。

OOO OOO OOO

 ――君たちに渡すものがあります。
 と、真木が紙束を手にして言ったのは、宴の準備が整いグリードが最後に一堂に会したその時だった。
「……それは何? ドクター」
「参加者全員のパーソナルデータ、そして彼らの記録が記してあるものです」
「!」「……」
 ウヴァが姿勢を変え真木を見詰め、カザリは何も言わない。
「彼らの全てがそこにあります。どのように使うかは、君達の自由です」
 欲望に従い好きに使え。そう締めくくった真木は、ひどく遠いところを見ていたようにメズールは思う。

OOO OOO OOO

 ――ともかく、「参加者」のデータだ。
 真木が説明したことに加え、バトルロワイヤルの会場に転送された時の初期位置まで記されていた安っぽい紙束を、メズールはちらりと見やった。自陣営の目ぼしい人間のデータは予め目を通してある。無論、彼らのスタート地点も把握済みだ。
 そして、それに示されていなかった最後のピース……自分のスタート地点。それさえ把握してしまえば、メズールには迷うことなど何もない。
 頭のなかで地図と己、そして目ぼしい「参加者」の場所を擦り合わせる。
 目的地が決し、やがてメズールは駆け出した。目指すは目と鼻の先、E-6にあるBOARD社ビルのお膝元にある街だ。


96アイノウタ ◆l.qOMFdGV.:2011/11/10(木) 23:57:19 ID:dhs4OLoA0
OOO OOO OOO

2.
 南中した太陽が陽光を落とし影を作る。遮るもののない市街地の道路の真ん中、身じろぎもせず立ち尽くすのはセシリア・オルコットだ。陽炎ができる程の気温ではないのに、彼女の視界はゆらゆらと所在なく歪んでいた。
そんな中、短く伸びた影だけが強く視界に焼き付いていく。
 光と熱を撒き散らす太陽は本来、希望や幸福といった類のポジティブな言葉でなぞらえうるはずのそれだ。ところがセシリアにとって太陽は最早、影を――闇を撒き散らす病原体に他ならなかった。

 しじまに沈む街を充たす光は影を描き出す。
 ビルの影。街路樹の影。路肩に駐車する車の影。人っ子一人いない街の影。
 ――訳のわからぬまま放り込まれた殺し合いという、闇(かげ)。
 ――躊躇なく他を終わらせることのできる真木清人なる人間という、闇(かげ)。
 ――認めがたい友人の「死」という、闇(かげ)。
 ――そしてその闇(かげ)の中より産まれ落ちた、「セシリア・オルコット」という名の、闇(やみ)――。

OOO OOO OOO

 国家代表候補のIS乗りとはいえ、その実は年相応の少女である。恋に恋して朴念仁に焦がれ、恋敵とは馴れ合うように競いあい、そしてその恋敵の突然の死など想像だにしない年相応の女の子、それがセシリア・オルコットだった。
 そんな彼女がこの場――いずこと知れぬドーム状の建物に放り込まれて感じるものは、考えるまでもなく掛け値なしの恐怖だった。視界は閉ざされ周りは誰とも知れぬ人影ばかり。
不気味な人形を腕に引っかけた男は嫌悪感を催す無表情を崩さない。混乱と不安は気丈で芯の強い少女を恐怖の奈落に突き落とすには充分すぎるほどの代物で、セシリアの表情は奈落の底に滞留するそれに色濃く染まっていった。
じわりと音をたてて、恐怖という闇が心に染み込んでいく。
 ――そして、そんな闇を払うのは、いつだって強い光でしかありえない。

「殺し合い……!?」「一夏!?」

 セシリアへの言葉ではなかった。ただ疑問の発露でしかなく、その声は彼女を向いてはいない。それでも、だった。
 想い人の声は光明そのものだった。闇を打ち払い、己を導き温かい場所へと連れ出す頼りがいのある大きな男の手。それは確かに、セシリアの相貌から闇を拭い去ったのだ。
殺し合いをしろだなんて不穏当極まりないことを告げられたにも関わらず、それを意識の外におけるほど、その声はセシリアを引きつけて止まなかった。
(一夏さん……!)
 未だ判然としない人影の中を駆ける。脇目も振らず、隣に立とうと顔を見分けることすら難しい人のなかを、ただ駆ける、駆ける、駆ける。
 いるのだ、ここに。わたくしを恐怖から救ってくれるはずの男性が、あの人が!
 あの人がいるし、わたくしもいる。不本意ながら先程聞こえた声によれば箒もいるようだし、そうなれば代表候補生はみないるのだろう。真木なる人物が何かは知らないが、わたくしたちを虚仮にしたことを必ず――

 ぼんっ。

 ――? ? ??? ……?

 つかの間の夢見心地は爆風に吹き飛ばされて、後に残るのはただひたすらに過酷な現実だった。事態はスムーズに進行してゆく。さながら予め定められた手順を踏む儀式だ。贄が捧げられることすらが予定調和の、悪魔の儀式――。


OOO OOO OOO

 少女が二人死んだ。あろうことか、うち一人は彼女の親友である。
 ところが、ホールから街中へと飛ばされたセシリアにとって、それは問題たり得なかった。
 彼女の心をもっとも乱すもの。それは彼女の内から生まれたもの。
 一人目の少女が命を絶たれたその瞬間、確かに脳裏をよぎったその言葉。それは、まぎれもない闇(やみ)だった。

 ――そんなことより今は一夏さんを――

 そんなことより今は一夏さんを、と。そんなことより――人がひとり、死んだというのに。
(わたくしはあの時、確かにそう考えた)

 あまねく全ての死を悼む聖者を気取るつもりはないが、それでも人並みには死を畏怖し蔑ろにするつもりがなかったはずのセシリアにとって、それは大きな違和感だった。
 ……そしてそれが「違和感」でしかないうちに「次」が訪れたことは、おそらく彼女にとって最大の不幸だったのだろう。
「違和感」が拭われて、目前の死に正常な反応を示すことができていれば、或いは違う未来があったのだろうが、もしかしたらそうしたところで、避けられぬ運命だったのやも知れない。どちらにせよ、今となっては詮無いことだ。

97アイノウタ ◆l.qOMFdGV.:2011/11/10(木) 23:58:46 ID:dhs4OLoA0
OOO OOO OOO

 脳裏をよぎった言葉に、そんなことを考える己に戸惑い、呆けて立ち尽くすセシリアの視界のなか。激情に任せて飛びかかった友人、篠ノ乃箒が命を散らして。そして心をよぎる、決定的なその言葉。

(ああ……×ってしまいましたわ――)
 クラスメイトが。日本の代表候補生が。友達が。箒さんが。――最愛の男を狙う、×き恋敵が。
(亡くなって……。いえ、……減ってしまいました――)



(――……♪)

OOO OOO OOO

 胃の腑が裏返ろうとこれほどの吐き気は訪れない。ビルの森のもとに立ち竦み記憶が再生するがままに任せていたセシリアは、腹腔を突き破らんと暴れまわる胃と、早鐘を打ち続ける心臓を両手で押さえて蹲った。
咄嗟に飲み込んだ吐瀉物の味が口腔にじわりと広がり、殺しきれなかった嗚咽が歯の隙間から零れていく。
「うそ、ですわ」
 もはや声にもならない言葉は、許しを乞う罪人のそれだ。
「わたくしは」
 強い光は必ず影を作り出す。それは、セシリアに「光」と形容された斑目一夏とて例外ではなく。
「箒さんが死んで」
 強大な「光」こそが、闇を色濃く焼き付ける。
「…………よろこんだ?」

98アイノウタ ◆l.qOMFdGV.:2011/11/11(金) 00:00:42 ID:RnJtlIAQ0
OOO OOO OOO

3.
「あら、いたわね」
 自己嫌悪と混乱のらせんに沈むセシリアには、その声の主の接近を察する余裕はなかった。十メートルと離れていない場所から、話しかけまでされなければ気付けなかったことに驚く間もなく、セシリアははじかれたように俯けていた顔を上げる。
 声の主は、さきのドームで真木と共に立っていた、異形の女――!
「ひどい顔ねぇ。今にも死にそうって――」
 虚脱しきっていた表情は即座に怒りに染まる。思考を満たしていた闇すら、瞬間に激しく燃え上がる怒りの炎で散々に吹き飛んだ。
「――顔してるわ……。でも、そんな元気は残ってるってワケねぇ」
 怪物、グリードには表情が存在しない。それでもセシリアには、メズールが妖しく笑ったように見えたのだった。

OOO OOO OOO

 鼻で笑ったメズールの向こう、間髪いれずにISを展開したセシリアが距離をとる。
 彼女が駆るIS『ブルー・ティアーズ』は基本的に中、遠距離における戦闘に長じているそれだ。独壇場に持ち込むためにとる行動として後退は当然の動きだった。
 対してメズールは笑みの雰囲気を崩さないまま、ゆっくりと前進する。追い縋ろうとするでもなくただセシリアの軌跡をなぞるだけのようなその挙動は、混乱のさなかの接敵で正常な判断が難しくなっている彼女の神経を逆撫でるには充分だった。
「……っ、馬鹿にして!」

 百メートルも後退しただろうか。セシリアはその瞬間、武装能力の制限、メダルと武装の使用との相関関係を全て忘れて、据え付けのレーザーライフル『スターライトmkⅢ』を構えた。
青く伸びる砲身が、死に直結する黒の銃口が、主人と同じ憎しみの視線を敵へと注ぎ込む。二重の殺意に晒されて、しかしメズールは動じない。
 引き金が引かれ一瞬のタイムラグののち、日光の元であっても色褪せることのない光軸が空気を割いて疾駆した。メズールの破壊を求めたそれは、しかし、
「っ!?」
 どこに着弾することもなく、メズールの直前の空間で掻き消える。
「どういうことですの……!?」
 深く考えず、激情に任せて二度目の射撃。マルズフラッシュとほぼ同時に敵を打ち砕かなければならないそれは、またしてもメズールを射抜くことはなかった。焦燥に顔をしかめ、彼女はメズールを注視する。メズールは艶然と笑い、なおも歩みを止めない。
 二、三度の射撃を挟み、仕掛けのタネはすぐに割れた。セシリアははっと目を見開き、すぐ険しい表情へ戻る。
「水……!」「ご名答よ、お嬢ちゃん?」
 海洋生物のコアを持つグリードの十八番、水のシールド。それが絶対防御の正体だった。

 光学兵器の問題点として、まず第一に挙げられるのが「大気や水分による威力の減衰」だ。波長が弱まり本来の効果が期待できなくなるこの問題点は、確かに光学兵器への防衛策として有効だろう。
しかし、腐ってもIS、英国の技術の粋を結集させた機体である。湖だとか海だとか、そういうものを突き破ろうとするならともかく、たかだか水の膜を透過した程度では多少の減衰はあろうと標的を射抜くはずなのだ。
 ここに至ってようやく、セシリアは冷静さを取り戻した。
「これが制限……」
「それも正解、ご名答よ……お嬢ちゃんっ!」
 歯噛みするセシリアに頓着せず、メズールは駆け出した。セシリアが混乱と観察に足を止めているなか、メズールがじわじわと歩を進めていたため、互いの距離はすでに二十メートルを切っている。
そしてそれは、人ならざるモノと人を上回るパワードスーツにとって、零距離にも等しい近距離だった。

「あああああッ!!」
 セシリアは『スターライトmkⅢ』を打ち捨て、PIC――ISの駆動機関を全開に策も何もなく突撃する。近接戦闘用の武装は呼び出しに時間がかかる。その時間も惜しいという判断のもとの突撃だった。
「残念♪」
 決死とも言っていいその体当たりは、しかしいとも容易くあしらわれた。メズールの能力は水を操ることだけではない。その身体を水そのものと化すことで、打撃を受けることなく背後に透かしたのだった。
 虚を突かれたセシリアは、突撃に費やした全力に振り回され、ISの姿勢制御もむなしく大きく転倒した。ISの転倒……これも制限の影響か――セシリアがそう考えたかは定かではない。
ともかく、姿勢を正そうと転がるように天を仰いだ彼女にのし掛かるようにして、その身を組伏せるメズールがいる。
 小さく「くっ」と呻いて身をよじるが、体勢の不利もあって屈辱的な体勢を崩すことが出来ない。キッと睨み付けるが、どこ吹く風とばかりにメズールは動じない。
「勝負あったわね」
 それだけが、結果だった。

99アイノウタ ◆l.qOMFdGV.:2011/11/11(金) 00:02:06 ID:RnJtlIAQ0
OOO OOO OOO

「ねえ、セシリア・オルコット。この会場には織斑一夏がいるわ。それにお友達の四人も……あら? もう三人だったかしらねぇ?」
「……わたくしを殺すのではなくて?」
「説明を聞いてなかったのぉ? これは団体戦。私の部下を自分で殺すなんて……そんなおかしいグリードに見えるかしら? 私。ふふ」
「……」
「……ねぇセシリア」
「あなたのような化け物に呼び捨てにされる謂れはありませんわ」
「ふん……気丈もいいけどTPOは弁えるべきね――篠ノ乃箒が死んだの、そんなに堪えたかしら?」
「……っ! 箒さんを! 貴様らが……、その名前を呼ぶ権利はないですわっ!」
「どうしてそんなに怒るのかしらね……? ふふ、だって彼女、織斑一夏を狙ってたんでしょう?」
「……ッ、それは今は関係ないでしょう……っ」
「邪魔者がいなくなったのよねぇ……。喜ばしいことね? アッハハハッ」
「黙れ、黙りなさい!」
「織斑一夏は今頃何を思っているのかしらね……『守ってやれなかった』とか、そんなところかしら?」
「黙れ!」
「今ごろ篠の乃箒はそれはもう強く想われてることでしょうね。守りたかったとか、もっと話してやればよかったとか、……『もっと愛してやればよかった』とか……、かもね?」
「黙りなさい……!」
「愛って不思議よねぇ。あなたがいくら織斑一夏を愛しても彼はあなたを想わないし、あなたが織斑一夏の愛を欲しても彼はあなたの愛なんていらないかも……」
「……何が、仰りたいんですの……」
「――欲しくない? 彼の心」

 ――息が詰まる。指先に力が入らない。まるで水底にいるようだと、セシリアはぼんやり思った。――

「……!!」
「簡単なことよ。邪魔者を減らせばいいの、ただそれだけ。それだけであなたの欲は充たされて、そしてバトルロワイヤル(ここ)ならばそれはとても簡単なこと……」
「何を……馬鹿なことを!」
「篠ノ乃箒が死んで嬉しかったでしょう?」

 ――セシリアは絶句する。あっという間に舌は干からび、涸れた喉からは声になり損ねた音が小さく漏れた。
バレた。バレた。バレてしまった。否定してなかったことにしなければならない想いが、バレてしまった……!――

「あ……あ」
「ねぇ、図星でしょ? そうよねぇ、篠ノ乃箒は織斑一夏と幼馴染……強敵。それがなくなったんだもの」
「ち……違うっ。違う違う違う、違います!」
「彼の愛を得る人間が有限なら、それを受ける人を減らせばいい……。あぁ、本当に合理的よねぇ」
「違います! 嘘ですわ! そんなの……そんなのっ」

 ――雲散霧消したなんて、勘違いだった。闇はどんなに散らしたところで、光があれば消えようはずがない。怒りの炎はもはや風前の灯で、闇に抗う力など、とうに失われている。
メズールの言葉が、セシリアの心に無遠慮に踏み込み、一切の容赦なく侵略してゆく。――

100アイノウタ ◆l.qOMFdGV.:2011/11/11(金) 00:03:26 ID:RnJtlIAQ0
OOO OOO OOO

「篠ノ乃箒のISはね、織斑一夏のISと夫婦(めおと)のISとして設計されているのよ。決して離れることのない、つがいのIS」
「シャルロット・デュノアも凰鈴音もラウラ・ボーデヴィッヒもそう……あなたの知らないところで、あなたの知らない織斑一夏を知って、味わって、愛して、愛されてる」
「ズルいと思わない? 織斑一夏の一番そばにいるのは、いつだってあなた以外の誰か……」
「欲しなさい。想って想って想い続けて、それでも手に入れることが叶わなかったあなたに、これは当然の権利よ」
「敵を減らし、私の陣営を勝利に導き、そして全ての欲望を充たす権利を手に入れる……これがあなたが織斑一夏の愛を得る方法」
「戦いなさい、セシリア・オルコット」
「あなたの欲望を充たすために」

OOO OOO OOO

「…………。……」
(一夏さん)
「……………………………………………………」
(あなたが悪いんですのよ)
「……わたくしを見ないから……」
(ごめんなさい)

OOO OOO OOO

――ひとつ、条件がありますわ……――

101アイノウタ ◆l.qOMFdGV.:2011/11/11(金) 00:05:02 ID:RnJtlIAQ0
OOO OOO OOO

 空の向こうに青い機体が消えていく。航跡を残さないISが視界から消えてしまえば、まるで最初からいないと思えるほどだった。
 腰に手を当てて、メズールはセシリアが最後に要求し、自身が呑んだ条件を口の中で繰り返す。
「シャルロットと鈴音とラウラの居場所を教えろ、ね」
 グリードたちには真木により、かなりの情報アドバンテージを与えられていることは前述のとおりだ。有効活用できるかはグリードによりけりだが、――ガメルはもちろん、今の状態のアンクでも厳しいだろう――これはそれを利用した結果だった。
「織斑一夏……四人の、いえ五人の愛情を一身に集める男」
 愛情。ああ、なんて甘美な響き。本来であるなら彼も女どももまとめて囲って愛の様を観察したいところであったが、事情が事情だ。
「せいぜい踊って、私に愛を見せてねぇ……ねぇ、セシリア?」

 盲目の恋する乙女とは、つまるところ信仰のために全てを無為にできる狂信者である。他の一切を価値なしと、その死すら思慕するに値しないと、立ちふさがるのであれば排除するまでと断じて視界の外に追いやることは、これ以上ない程の強欲だ。
 強欲……グリードに唆された少女は、狂わんばかりの欲望に衝き動かされて、往く。
 人影のなくなった路上、妖しく笑う愛欲の化身が一体。ソレは愛を求めて、再び進み始める。悪魔の囁きに従い、ひどく歪んだ道を進み始めた青い涙を流す少女が一人。その先に求める愛が真に求めるものかは、もはや言うまい。
 愛をめぐる物語は、始まったばかりだ。

102アイノウタ ◆l.qOMFdGV.:2011/11/11(金) 00:07:02 ID:RnJtlIAQ0
「それにしてもあの娘……私に声が似てたわねぇ」


【一日目-日中】
【E-6/BOARD社以南の市街地の路上】
【メズール@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】80枚:0枚
【装備】なし
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3(未確認)
【思考・状況】
基本:青陣営の勝利、全ての「愛」を手に入れたい
1.次はどこに行こうかしら?
2.余裕があればセシリアの動向を追う
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。

【???/遥か上空】
【セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス】
【所属】青
【状態】肉体的な疲労(中)、精神的な疲労(大)、びしょ濡れ、一夏が欲しい
【首輪】60枚:0枚
【装備】ブルー・ティアーズ
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3(未確認)
【思考・状況】
基本:一夏さんが欲しい
1.一夏さんが欲しい、そのために行動しますの。
2.シャルロットさん達に会ったら、わたくしは……
【備考】
※参戦時期は不明です。
※水になったメズールの身体を通り抜けたためびしょ濡れです。飛行を続ければ乾きそうです。
※向かう先はメズールに聞いた凰鈴音、シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒの三人のうち、誰かのスタート地点です。地理的に最短の場所に向かっています。
※飛んでいる高度は一般的な人間の視力で色と形が判別できる程度の高度です。
※制限を理解しました。

103 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/11(金) 00:09:11 ID:RnJtlIAQ0
以上で投下終了です
問題点がありましたらご指摘をお願いします
企画に参加するのが初めてなもんで至らないところばかりですがどうぞご容赦ください
よろしくお願いいたします

104名無しさん:2011/11/11(金) 00:20:52 ID:Sl/830ZM0
投下乙です

この二人は似た様な境遇でほむほむからしたらすごく興味ある情報だからこうなるか
そしてオカリンは立ち直りやがったか。中二病の極みだがかっけいいぞw
このコンビがどう転ぶか気になるぜ

ISの連中が参加者に選ばれたのはメズールさんの為に用意されたんじゃねえのと思う様な絡みだわw
なるほど、それぞれのリーダーは参加者の情報に詳しいのか
そして言葉巧みに絡め取られて…原作でチョロインさんと呼ばれてる彼女ではひとたまりもないわw
さて、友人件恋敵の元に向かう彼女はどうするんだろう…

105名無しさん:2011/11/11(金) 00:30:45 ID:VUbWFWNoO
投下乙です!そういや二人ともCVゆかなでしたなぁ。
ちょろいさんに限らずISヒロインは少なからずヤンデレの気があるわけで、原作の微妙な扱いとこの状況が重なれば・・・まあ愛しのワンサマーさんは必殺仕事人で即刻退場なんですがw

106 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/11(金) 01:00:30 ID:wb.GlEWc0
投下乙です。
あれ、二人が交互に喋ってるシーンとか全部一人の声で脳内再生されたぞ……?
グリード連中は参加者の情報知ってる状態でか……そうなるとカザリあたりはかなり悪質そうな。
ともあれセシリアとメズールの絡みが良い感じでした。さあ、セシリアはこれから誰の元に向かうのか!

>>93
議論スレにて回答させて頂きました。
よろしければ確認お願いします。

107 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 01:35:26 ID:MLPB1GVk0
予約分の投下を開始します
予約時間を超過してしまい、本当に申し訳ありませんでした

108 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 01:36:42 ID:MLPB1GVk0

【1】

"名簿に自分の名――すなわち「アンク」が「二つ」刻まれている"。
この事実は、アンクを動揺させるのには十分すぎる威力を有していた。
何しろ、自分以外に「アンク」を自称していたグリードは既に映司によって葬られているのだ。
奴がこの会場に――この世に存在している訳がない。
「この世にいない」と言えば、カザリの名も当然のように名簿に書かれていたか。
真木に始末されたあの男も、本来此処に存在しえない筈だ。

(まさか真木のヤツ……コアメダルを復活させれるのか!?)

飛躍した発想だが、そう考えるしかあるまい。
何らかの方法でコアメダルの再生に成功した真木は、その技術を用いて二人を蘇生させたのだろう。
だが、ここで「何故グリードを復活させたのか」という疑問が生じる。
一度見捨てたグリードを、真木はどうして復活させたのか?
そもそも、この殺し合いを開いた目的が不明瞭だ。
グリードの暴走を目的としているのなら、こんな大掛かりかつ回りくどいやり方をする必要があるのか?
考えれば考えるほど、どうにも釈然としない面ばかりが見えてくる。
どうやらこの殺し合い、一筋縄ではいかない「謎」が潜んでいるようだ。

しかし、何よりも優先すべきなのは、もう一人の「アンク」の抹殺だろう。
奴が存在する以上、自分はグリードとしての能力を何一つ発揮できないのだ。
何としてでも、真っ先に打倒しなければならない。
しかし、自分に支給された武器には「シュラウドマグナム」なる赤を基調とした拳銃だけである。
これだけでは少々心もとない。いずれ現れるであろう敵に対抗できる戦力が必要だ。
そう、例えば、アンクの目の前にいるサングラスをかけた男のような――。

109Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 01:40:05 ID:MLPB1GVk0
【2】

D−2の大桜。
佐倉杏子が最初に出会った参加者は、「禍々しい」という単語が人の形を成したような存在だった。
まず目を引くのは、その身に纏った甲冑である。
底抜けに深い黒を有したそれは、およそ高潔な騎士のイメージからかけ離れていた。
さらにそれに上乗せされる形で、黒い瘴気らしきものが周囲に漂っている。
美しさの欠片もない、狂気すら感じさせる闇だけが、彼を包み込んでいるのだ。
桜が舞い散る風景とそれは、あまりにも似合わない。
さらにこの男、不思議な事に、姿をはっきりと認識できないのである。
まるで焦点のずれたレンズ越しに見ているかのように、甲冑が「ボンヤリ」しているのだ。
手にしている武器もこれまた不気味である。
それは見るからに強力そう、と言うわけではない。むしろその逆だ。
杏子の目に狂いがなければ、あれは一般家庭にも置いてあるステンレス製の長棒――つまり、竿竹だ。
勿論それ単品ならば、彼女が動じる事はないだろう。
しかしどういう訳だろうか、黒騎士が手にしているそれには、
竿竹を握っている手を起点にして、黒い筋がさながら葉脈のように絡み付いているのだ。
これを異様と言わずして何と言おうか。
流石の杏子とて、それを前にしては一抹の不安を感じざるおえなかった。

ソウルジェムの魔力探知からはそれと言った反応もなく、
そしてここ一帯には結界が張られていなかった事から、目の前の甲冑が「魔女」ではない事は確かだ。
では、この異様な生命体の正体は何なのだろうか。
今の杏子の知識だけでは、その謎を氷解するのは何時間掛けようが不可能だろう。
だが只一つ、確信できる事があるとすれば、それは――。

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」

――奴が見境なく人を襲う化け物である、という事だろうか。
黒騎士は外見からは想像もできないような速度で、杏子に飛び掛かってきた。
当然ながら、杏子がそれに対して棒立ちしている訳がない。
彼女はすぐさま「魔法少女」に変身し、瞬く間にその場を離れることで狂戦士の一撃を回避する。
長年「魔法少女」として命懸けの戦いに身を投じてきた彼女にとっては、この程度は造作もないことだ。

「へえ……もうやる気十分ってワケかい」

挑発的な笑みを浮かべながら、杏子は自身の得物である槍を召還し、構えを取る。
そちらがやる気なら、こちらもそれ相当の処置――つまりは戦闘を行うまでだ。
黒騎士が杏子を見据えている。
その赤い双眸に宿るのは、全てを破壊し尽くさんとする殺意だけ。
上等だ――目に物を見せてやろうでないか。

110Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 01:42:35 ID:MLPB1GVk0
【3】

「ディケイド、か。聞いた事がないな」
「そうか……どうやらアンタたちの世界には”滅びの現象”は起こっていないようだな」

来訪者は「剣崎一真」と名乗った。
どうやらこちらに危害を加える気はないようなので、アンクの緊張感は僅かばかり解れている。

剣崎は危険人物の情報の提供したいと言ってきた。
その人物の名は門矢士、またの名を世界の破壊者"ディケイド"。
正義の味方とされる仮面ライダー――アンクの世界ではオーズがそれに該当するらしい――を名乗ってはいるが、
その実態は仮面ライダーを狩り尽くさんと暴れまわる悪魔。
絶対に野放しにしてはならない――剣崎は言葉の一つ一つに怒りを込めながら語った。
剣崎の剣幕からして、そのディケイドとやらは相当な悪人なのだろう。
警戒はしておこう――尤も、本当にその男が剣崎の言うような悪魔なのかは、実際に確かめてみない事には分からないのだが。

「アンクと言ったな、お前はどうするつもりだ」

剣崎がアンクにそう問いかけてきた。
答えは既に出てきているから、返答には全く時間はかからなかった。
念の為、その「アンク」は悪人であるという情報も付け加えておく。
相手に妙な勘違いをされたら、堪ったものじゃない。
アンクの目的を聞いた剣崎は、何とも言いがたい――彼の決断に悲壮感を感じているような――表情を浮かべたが、
承知してくれたようで、それに反対する事はしなかった。

「……そいつを倒したら、お前はどうするんだ?」

だが、この質問は予想外だった。
そこから先は、アンクもあまり考えていなかったのである。
赤陣営を優勝に導くのも選択肢の一つとしてあるが、真木が素直に勝者達を返すとは思えない。
だからと言って、脱出できる可能性があるかも不明瞭だ。
何よりも、脱出の道を選んでしまったら「アイツ」と手を組まなければならない――。

「俺は……」

言葉を紡ごうとした、その時。
獣のような咆哮が、大地を揺らした。

111Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 01:45:58 ID:MLPB1GVk0
【4】

結論から言っておくと、杏子は劣勢だった。
黒騎士の方はほとんど傷付いていないが、彼女の方は全身に竿竹による打撃の跡が残っている。
まさか、ここまでの手練とは思いもしなかった。
獣のような雄たけびをあげておきながら、奴の戦い方は熟練の戦士のそれだ。
あらゆる攻撃を寄せ付けず、しかし確実にこちらに傷を負わせてくる。
いくらベテランの魔法少女である杏子とて、彼の卓越した技量の前では凡兵も同然であった。
黒騎士の獲物である竿竹も、尋常ではない程の強度を誇っている。
ただの棒にしてはあまりにも硬すぎるのではないか――竿竹を侵食する黒い筋に秘密があるに違いない。
だがそれを知った所で、竿竹の強度に変化がある訳がない。
結局、録な対策も思い付かぬまま、杏子は竿竹による打撃に曝され続けていた。

当初は軽くあしらってやろうと思っていたが、何時の間にやらこのザマである。
こんな場所で、こんな早い段階で、しかも竿竹なんてしょうもない道具で命を落とすのは真っ平御免だ。
セルメダルはできるだけ温存しておきたかったが、命が関わっているのなら話は別――少しばかり、奮発しよう。
杏子は狂戦士の一撃を槍で食い止め、後方に退いて彼と間合いを取った。
狂戦士からの殺意をひしひしと感じながらも、杏子は彼の僅かな隙を探る。
が、熟練の兵士の如き技術を誇る相手に、そんなものは見つからない。

(だったら……!)

隙が無いのなら、作るまで――硬直状態から動いたのは、杏子の方だった。
さらに後方に向かって跳躍し、同時に槍を柄の部分を分割させ、鞭の要領で狂戦士に振るう。
この手は既に数回行っており、そしてその全てが失敗に終わっている。
当然これも失敗に終わるわけで、狂戦士は空中に飛び上がる事で難なくそれを回避した。
そう――失敗するに決まっているのだ。だからこそ、この作戦は成功する。

「ah――――ッ!?」

狂戦士が驚くのも無理はないだろう。
「前方の斜め下から大型の槍が襲いかかってくる」なんて、誰に想像できようか。
杏子がこの魔法を彼に披露したのは、これが初めてである。
予想外の方向から、しかも回避困難な空中での一撃だ。
撃破――とまではいかなくても、攻撃によって吹き飛べば大きな隙が出来上がるだろう。

「……なッ!?」

……尤も、それは攻撃が「成功したら」の話に過ぎないのだが。
刺さるとばかり思っていた槍の先端は、鎧の僅か前で止まっている――止められている!
なんと狂戦士は、咄嗟の判断で竿竹を投げ捨て、両手を使って刃の直撃を防いだのだ。
「狂化」のスキルによるパラメータの底上げと、
卓越した武芸を可能とさせる「無窮の武練」のスキルがあるからこそ可能な芸当である。
見事攻撃を受け止めた狂戦士は、すぐさま攻勢へと転じる。
呆気に取られていた杏子では、猛スピードで迫る彼の拳を防御できず――。

「――がっ……!」

結果、拳は腹部に激突し、杏子の華奢な肉体を後ろに大きく押し飛ばした。
殴り倒された彼女の肉体を、激痛が蹂躙する。
とてもじゃないが、すぐに立ち上がるのは不可能だ。
しかし、痛みに耐え忍んでいる間にも、狂戦士はこちらに向かってゆっくりと歩みを進めている。

(……ふ、ざけんな……ここで終わり……だってのか……!?)

必死にあがく肉体とは反対に、意識は闇に落ちて行く。
よりにもよってこんな訳の分からない殺し合いで、正体不明の異形に殺されるのか。
こんな事になるのなら、最初から逃げていれば良かった。
しかし、今更そんな後悔しても時間が巻き戻るわけではない。
狂戦士が、一歩、また一歩と近づいてくる。
今の杏子にできる事と言えば、ほぼ確定した死への覚悟。
未練と無念が入り混じった表情を露にしながら、彼女は胸の十字を模したソウルジェムに手を当て――。

その時、数回の爆発音が耳に飛び込んできた。
何事かと顔をあげると、狂戦士は杏子ではなく、その真逆の方向に顔を向けている。

112Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 01:48:27 ID:MLPB1GVk0
【5】

「ヤミー……ではなさそうだな」

バーサーカーを狙撃したアンクが、そう呟く。
そして、大して痛みを感じていない彼の姿を見据え、舌を打った。
シュラウドマグナムから発射される光弾は、並みの人間に直撃したらひとたまりもない威力を持っているのだが、
バーサーカーの場合は、身に付けてある鎧のせいで威力が殺されてしまい、深手を負わせられない。

「オイ剣崎、アイツが何か知ってるか?」
「いや、どの怪人とも特徴が合わない……あんなヤツは始めてだ」

剣崎の方も、あの謎の怪人の姿に動揺を隠しきれないでいる。
見れば見るほどに、バーサーカーの外見は異常だと言えた。
しかし、それに戦意を削がれる程「仮面ライダー」は臆病ではない。

「アイツの相手は俺がする……あの娘を保護してくれ」
「……俺に命令するな」

剣崎がバーサーカーと向き合う。
二つの敵意が交差したその瞬間、二度目の闘いの幕が切って落とされる。
先に動き出したのはバーサーカーの方だ。
一撃で剣崎を仕留めるために、疾風の如く大地を駆ける。

「変身」  

――Turn Up――

しかし、彼の攻撃はその宣言と同時に発生した半透明の壁によって防がれる。
資格のない者が「オリハルコンエレメント」を通過しようとするのなら、
「弾き返される」という形で制裁を受ける事となるのだ。
半透明の壁が、今度は剣崎に迫る。
しかし彼は適合者――すなわち、資格のある者。
「オリハルコンエレメント」は彼を認め、黄金のブレイドアーマーを彼に装着させた。
これがブレイド最終形態「キングフォーム」。
"王"の名を冠する最強の武装に敵は無し――バーサーカーとて、それは例外ではないのだ。

113Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 01:50:06 ID:MLPB1GVk0
【6】

黄金の騎士が、あの狂戦士を圧倒している。
狂戦士の手には例の竿竹が握られているが、それでも黄金の戦士の方が優位に立っている。
想像を絶する光景が、仰向けになった杏子の目前に広がっていたのだ。

「なんだこれ…………痛ッ……!」

体を動かそうとした瞬間、全身が悲鳴をあげる。
まだ狂戦士との戦いで負った傷が癒えていないのだろう。
あの無様な負け方がフラッシュバックで、思わず顔が顰める。

杏子のすぐ横には、金髪の青年が息を潜めている。
確か、狂戦士に銃を向けたのはこの男だったか。
……右腕が怪物のそれと化しているのが、かなり気になる。

「……起きたか……お前、同じ組のクセしてなんで殺し合ってたんだ」
「……あっちが勝手に襲いかかってきたんだ。アタシは悪くないよ」
「そうか。ま、大方そんなことだろうと思ってたがな」

質問に答えたのにその反応はないんじゃないのか。
この金髪男、中々失礼な奴だ。
さらによく見るとこの男、左手にアイスキャンディーを持っているではないか。

「オイ、それまだあるだろ」
「アイスは俺のもんだ、誰にもやらん」
「いいじゃねーかよ!一本くら――」

『Royal Straight Flush』

杏子が言葉を言い終えるその前に、電子音が辺りに響き渡る。
発生源は黄金の騎士の方だった。彼の持つ大剣が、鎧に負けず劣らずの金色に光り輝く。
そして狂戦士と彼の間に出現する5枚のカード。

「ハァァァァァァァァァ…………!」

黄金の騎士が構えを取る。光がさらに力強さを増していく。
彼の剣撃によって傷を負った狂戦士は、それを完全に回避する事ができない。

「ウェェェェェェェェェェェェェィ!!」

そして放たれる、必殺の斬撃――「ロイヤルストレートフラッシュ」。
大剣から発射された衝撃波は、大桜ごと狂戦士の闇を切り裂いた――!

114Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 01:52:42 ID:MLPB1GVk0
【7】

轟音を立てながら崩壊する大桜。
爆発いよって周囲に火が付き、辺りを赤く染め上げる。
あの威力だ、流石に生きてはいまい――一般人なら、そう喜ぶ所だろう。
しかし、長年闘いに身を置いてきた剣崎は違う。

「どうしてだ……」

今起こった事が信じられないとでも言いたげな声色で、彼は呟いた。
爆炎に包まれた大桜から浮かび上がる、一つの影。
その時、誰もが「まさか」と思っただろう。
あれだけの攻撃を受けても、まだ立ち上がると言うのか。

「何故動ける……!?」

あのバーサーカーが、煙の中から抜け出した。
ブレイドの必殺を受けて爆散したはずのバーサーカーが、生きている。
確かにダメージは与えられているが、それでも即死級の攻撃を防いだ事に変わりはない。
どうやって、何を使ってあの一撃を防御したのか――その謎は、バーサーカーの足元の煙が消える事によって氷解する。
彼の足元に散らばっているのは、機械の残骸。
残骸の一つに書かれた「Φ」の文字を見た瞬間、剣崎は彼に何が支給されたかを知る。

「オートバジン……!?」

主の危機を察したオートバジンが身代わりとなったのだ。
手にしたものがあの黒い筋に侵食され、強度を大幅に上げる特性を利用すれば、威力を半減させられるだろう。
よりにもよって支給されたアイテムが護衛用ロボットだとは――キングラウザーを握る腕に、汗が滲む。

「ah……ah………………!」

怨念の篭った呻きをあげながら、バーサーカーが取り出したのは、一振りの西洋剣。
それを剣崎達の前に晒した直後、周りを取り囲んでいた闇が収束していく。
闇が取り払われた鎧は――恐ろしい位に、美しかった。
誰もがそれを見れば、名のある騎士の使ったものだ確信するであろう程の逸品。
現代の技術を結集させても、こうは上手く作れない。
黒騎士が、いつの間にか手に持っていた鞘から剣を取り出した。
オートバジンが破壊される直前まで持っていたのだろう。
その剣もまた、鎧に負けず劣らずの名剣だった。
名は「アロンダイト」――「エクスカリバー」の兄弟剣であり、決して歯こぼれしないと言われた伝説の剣である。

切り札を手にしたバーサーカーが構えを取った。
それに対抗して、剣崎もまたキングラウザーをバーサーカーに向ける。
三度目の闘いが、始まろうとしていた。

115Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 01:57:48 ID:MLPB1GVk0
【8】

バーサーカーが、あのブレイドを圧倒している。
彼の手には刃毀れ一つない西洋剣が握られており、一方ブレイドは窮地に立たされている。
先程とは真逆の光景が、二人の目前に広がっていたのだ。
剣一つ変えるだけで、ああも勢力図は変貌するものなのか。
彼らが知る由もないが――バーサーカーの最後の宝具「無毀なる湖光(アロンダイト)」は、
手にした者のあらゆる能力を底上げする能力が秘められているのだ。

(……どうする)

アンクは思考する。
仮にブレイドに加勢したとしても、こちらに勝機があるとは到底思えない。
まだ死ぬわけにはいかない――彼には悪いが、ここは逃げを選択するべきだ。
そう結論付けたアンクが背を向けようとした、次の瞬間。

「▂▂▅▆▆▂▅▆▂▅▆▇▇▇▇▇▅▆▆▆▇▇▇▅▆▆▆▇▇▇!!」

空を揺るがす程のバーサーカーの雄叫びが木霊し、ブレイドを切り伏せたのだ。
仰向けに倒れるブレイドからは、最早戦う為の気力は感じられない。
標的を撃破したバーサーカーが次に狙うのは、当然――。

「次はアタシらってワケか……」

傷ついた体を震わせながら、杏子が立ち上がった。
その状態ではまともに戦う事はできない事は、彼女本人が一番知っている。
せめて最期は、憎き狂戦士に傷を負わせてやる――その執念が、杏子を動かしているのだ。

「……クソッ!やるしかねえのか!?」

アンクも懐からボムメモリを取り出し、それをシュラウドマグナムにセットする。
せめてこの一撃で、奴の動きを鈍らせられれば――そんな希望に縋りつく思いで、標準をバーサーカーに合わせる。
バーサーカーは怨念の篭った赤い双眸をこちらに向け、甲冑を軋ませながら、こちらに歩み始めた。

『MUGNET』

電子音が鳴った瞬間、バーサーカーの動きが止まる。
自分から行動を止めた訳ではない――後方から何かに引っ張られ、まともに動けないのだ。

「はや、く……逃げ、ろ……!こいつは……俺が、食い止め……る!」

喉から搾り出したような声で、剣崎が叫ぶ。
彼のこの行動に、アンクは愕然とした。
この男はボロボロになっているにも関わらず、自分を囮に使うつもりなのか。

「……どういうつもりだ」
「俺は、いい……大丈夫、だ……だから、その娘、を……」

どうやら、まともに戦えない杏子を気にかけているらしい。
この状況で他人を優先させるとは、この男はつくづく――「アイツ」に似て、どうしようもない位にお人よしだ。

116Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 02:00:13 ID:MLPB1GVk0
【7】

『THUNDER』

「マグネバッファロー」による特殊磁力の効力が切れた直後、
「サンダーディアー」による雷撃がバーサーカーを襲う。
バーサーカーは少しばかり仰け反るが、それでも大したダメージにはならない。
ブレイバックルに入った罅がいよいよ全体まで広がり、数秒も立たない内に砕け散った。
仮面ライダーブレイドは消滅し、そこに残されたのは剣崎一真だけ。

(逃げ切れたみたいだな)

二人が上手く逃げられた事に安堵する。
剣崎一真とは、元からこういう男なのだ――誰かの為なら、自分が犠牲になる事も厭わない。
この地でもその性格が災いし、結果として彼はこの地で終末を迎える事となる。
だが、少なくとも、あの二人は助けられたのだ――この戦いは、この終わりは、きっと無駄ではない。

(そうだろ……みんな)

浮かぶのは、かつての親友達の姿。
彼らのお陰で剣崎は今まで戦ってこれた。
彼らの愛した世界を護るの為に、剣崎は心を鬼にしてディケイドと対峙した。
だが、その闘いもここで終わりだ。
共に戦ってきた仲間達の事を――始達の事を思うと、胸中が無念でいっぱいになる。
だからこそ、せめて最期くらいは、目の前の人だけでも護りたい。

剣崎にはもうブレイドの力はない。
だが、アンデッドとの過剰融合によって、
人間の体と代償に手にしたジョーカーの力ならまだ残っている。


「俺は……剣崎、一真」


見ていてくれ、橘さん、睦月、それに――始。


「またの、名を……!仮面、ライダー……ブレイドッ!」


俺の、最後の変身を。

117Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 02:09:26 ID:MLPB1GVk0

【8】

剣崎に勝利がもたらされる事はないだろう。
恐らく、彼の変身アイテムは既に故障している。
アンクを足止めしていた頃はまだ完全に機能を停止させてはいなかったが、
火花を散らしながらそれが崩壊するのも、時間の問題だ。
武器のないようでは、奴と互角に戦うどころか、傷一つ付けられないだろう。
「剣崎一真が狂戦士に殺される」という未来は、最早避けようもない運命であった。

彼本人も勝利は不可能な事くらい、分かっていた筈だ。
命を捨ててまでアンク達を救いたかったとでも言いたかったのか。

「……クソッ」

助けてもらった側が言うのも何だが、腹が立つ。
アンクの脳裏に過ったのは、かつての協力者の影。
映司も剣崎と同じ状況に立たされたら、きっと進んで囮になっただろう。
奴はそういう男なのだ――「自分が傷ついてもいいから誰かを護りたい」という病的な信念が根底にある。

(映司……お前も来てるんだったな)

この会場には、元の世界でグリードに敵対していた者も数人連れて来られている。
かつて決別した火野映司もその一人だ。
あの馬鹿と再び会ったのなら、今度こそ戦闘は避けられないだろう。

「…………」

迎え撃つ覚悟は当の昔にできている。
だが、所詮は「覚悟」だけだ。
実際に会ったのなら、その「覚悟」を最後まで崩さずにいられるか?

「……クソッ!」

もう一度、悪態をついた。
こんな事で一々悩んでいても仕方ない。
今はもう一人の「アンク」を滅ぼす事だけを考えよう。

ここは大桜から少し離れた民家だ。
よほどの騒ぎを起こさない限り、バーサーカーがここに辿りつく事はないだろう。
ほとんど動けない杏子を此処までおぶるのは骨が折れた。
少しばかり、ここで休みを取るのも悪くはない。

デイパックからクーラーボックスを取り出し、
その中にあるアイスキャンディーの一本に手を付けようとした。
が、まるで宝石見るかのような杏子の目を見て、アイスへと伸びる腕が止まる。
そこまで食いたいのか、つくづく食い意地の張ったガキだ。

「……食うか?」

これは、ほんの気まぐれだ。



【一日目-正午】
【D−2/民家】

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】赤陣営
【状態】ダメージ(大)、全身に殴られた跡
【首輪】所持メダル「70」:貯蓄メダル「0」
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:???
 0:……いいのか?
※参戦時期不明

【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤陣営
【状態】健康、迷い?
【首輪】所持メダル「98」:貯蓄メダル「0」
【コア】タカメダル「1」
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、大量のアイスキャンディー、不明支給品0〜1
【思考・状況】
基本:アンク(ロスト)を排除する。その後は……?
 0:……食うか?
 1:佐倉はどうするべきか。
 2:映司は――――。
※カザリ消滅後〜映司との決闘からの参戦

118Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 02:11:27 ID:MLPB1GVk0
【9】

戦場にに立っていたのは、バーサーカー唯一人だった。
剣崎の姿はそこにはなく、代わりに一枚のカードが地に伏している。
それはつまり、彼が戦闘に敗北し、「封印」の運命を受け入れた事を示していた。
正義の味方は狂戦士の前に斃れた――その事実だけが、無慈悲に横たわっているのである。

バーサーカーがその勝利に愉悦を感じる事はない。
「狂化」のスキルによって理性が押しつぶされた彼にとっては、
勝利なんてものは道端に落ちていた小石を除けた事とほぼ同義だった。
彼にはもう、勝利も敗北もありはしない。
纏った鎧の奥に潜むのは、あらゆる物を焼き払わんと燃え盛る憤怒のみ。
憤怒は「"破壊したい"という欲望」に直結するが故、首輪のメダルも増殖していった。

狂戦士は進む。
あらゆる物に、行き場を失った怒りをぶつけながらも、進み続ける。
目指すべきはたった一人――騎士王「アルトリア・ペンドラゴン」。
彼女の元へ向かうまで、彼の暴虐は終らない。


【一日目-正午】
【D−2/大桜跡地】
※バーサーカーのデイパック(基本支給品一式)、ラウズカード(ジョーカー)が放置されています。
※大桜にて火災が発生しました

【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤陣営
【状態】ダメージ(中)、狂化
【首輪】所持メダル「150」(増加中):貯蓄メダル「0」
【装備】竿竹@現実
【道具】無毀なる湖光(アロンダイト)@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:▅▆▆▆▅▆▇▇▇▂▅▅▆▇▇▅▆▆▅!!
※参加者を無差別的に襲撃します。
 但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます

119Bの煌き/青く燃える炎 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 02:12:26 ID:MLPB1GVk0
【 】





姿形が違えど、その魂が正義で燃えていれば、それは「仮面ライダー」なのだ。




願わくば、この地の者達も「仮面ライダー」に目覚めん事を――。




【剣崎一真@仮面ライダーディケイド 封印】

120 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/11(金) 02:13:51 ID:MLPB1GVk0
投下終了です。問題・矛盾がありましたら指摘をお願いします
感想・支給品紹介はまた後日に

121名無しさん:2011/11/11(金) 02:24:55 ID:RnJtlIAQ0
投下乙です!
映司になびく放送終了後みたいな時期でもなくほぼ敵対してるような初期でもなく、いい時期からやってきたなアンクちゃん
あんことアンクの絡みが楽しみです

122名無しさん:2011/11/11(金) 02:29:40 ID:g3.v.Txw0
投下乙です
剣崎、南無…仮面ライダーらしい最期だったよ。
ところでバーサーカーのメダルは、剣崎の死亡によって放出された分も含めて150?
剣崎の支給品は他になかったってことでいいの?

123名無しさん:2011/11/11(金) 02:36:30 ID:iTxpVgqg0
投下乙!
剣崎、ここでも早期退場か……
ディケイドを破壊する側だったとはいえ根底はやはり剣崎、誰かのために戦う男だった
黄金の騎士と対極にある漆黒の騎士バーサーカー、喋らないけど存在感は抜群だな

124名無しさん:2011/11/11(金) 09:59:17 ID:CS.fmk.A0
投下乙です!
剣崎……またしても早く逝ってしまったか
それでも杏子とアンクの二人を救うために戦ったのは、格好よかったな……


それと、これは感想ではなく指摘になりますが
雑談スレでも言われていたように、投下は出来るだけ期限を守ってください。
氏にも事情があることは分かりますが、あんまり期限を超過しては今後もそういうケースが出るかもしれないので。
長々と失礼しました。

125名無しさん:2011/11/11(金) 12:29:00 ID:VUbWFWNoO
投下乙です!ディケイド参戦だろうがキングフォームだろうがロワの剣崎は短命なのか・・・それにしても遂にWあんこ夢の共演w

126 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/12(土) 02:39:01 ID:WChmbxVc0
したらばの「仮投下・修正用スレ」にて、状態表のミスを修正したものを投下しました

127 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 06:10:33 ID:AEVyTSWM0
乙です
>>Eの暗号
まさかの奇麗な克己。これじゃアポロガイストに勝ち目は無いですねww
>>時間逆行者
Steins;Gateは知らないけど、この二人似た者同士だったんですね
>>アイノウタ
そういや中の人同じでしたね
>>Bの煌き
ああ、やっぱり剣崎は序盤で死ぬのか・・・合掌

128 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 06:31:27 ID:AEVyTSWM0
それでは自分も投下します

129Mを救え/反逆する怪盗 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 06:32:24 ID:AEVyTSWM0
「……一体、どうなってるの……?」

ここは風都タワー。
風都のシンボルであり、内部にはイメージキャラクター「ふうとくん」のグッズがたくさん置いてある。
もっとも、だからと言って彼女の心の傷を癒すことなど出来なかった。

鹿目まどかは、己が置かれている状況にただただ混乱していた。

彼女があの広間に呼び出されたのは、ずばり最悪のタイミング。
魔女と化した親友―――美樹さやかを救う事が叶わず、ようやく言葉を交わすことができた紅い魔法少女―――佐倉杏子を失った直後だった。
悲しみに打ちひしがれ、全てに絶望していた彼女にとって……これ以上ない、泣きっ面に蜂なんてレベルじゃ済まされないレベルの追い討ちである。

―起爆させる方法がセルメダルだけだと誰が言いましたか

「っ……!!」

無機質な真木の言葉と共に先の光景が脳裏にフラッシュバックし、続けて強い嘔吐感が込み上げてきた。
まどかは思わず口元を手で覆いそれに耐えるも、全身の震えは全く止まらない。
無理も無い話だ。
何の罪もない命が、目の前で奪われたのだ。
しかも、もはやトラウマのレベルにまでなっている惨劇……巴マミの死と同じく、首から上を消すという形で。

130Mを救え/反逆する怪盗 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 06:33:17 ID:AEVyTSWM0

「……どうして、こんな事をするの……?」

こんなものは、人間が出来る所業じゃない。
血も涙も通わぬ、他人の痛みに何も感じぬ悪魔でなければ出来ぬ行いだ。

そう……彼女がよく知る『あの』白い生命体の様な、感情無き者でもなければ。

―僕と契約して、魔法少女になってよ!

『それ』の声が聞こえた―気がした。

「ねぇ……いるんでしょ……?」

悲痛な声を出しながら、どこかで全てを聞いているだろう存在にまどかは問いかけた。
こんな大掛かりな真似が出来るものなど、他人の願いを自在に叶えられるものなど、他にいる訳がない。

「どうして、こんなことするの!?そこまでして….私を魔法少女にしたいの!?」

答えてよ....。

「答えてよ….キュゥべえ!」

それは、少女の悲痛な叫び。
そして、誰かが助けを求めるならば・・・必ず奴らはやってくる。

「どうかしたのかい?」
突然、近くの売店から一人の青年が姿を現した。

131Mを救え/反逆する怪盗 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 06:35:15 ID:AEVyTSWM0

海東大樹は真木に従うつもりなど全く無かった。最後まで勝ち残れば1つだけ望みをかなえる、とは言っていたが既に2人の少女の命を奪っている真木がそんな約束を守るとも思えない。

「それに・・・僕が1番嫌いなのは、君みたいに自由を束縛する奴らだ。覚えておきたまえ」

海東は静かに、だがはっきりと真木へと―このゲームそのものへと宣戦布告を行った。

次に海東は自分に与えられた支給品を確認する。
殺し合いに乗るつもりは無いが、海東は彼の仲間の小野寺ユウスケほどお人よしではなかった。殺し合いを楽しむ危険人物や極限状態に追い込まれた他の参加者から身を守る事も考えて、確認しておいて損は無いだろう。
まず見つかったのは自らの相棒とも言うべき青い銃、そして数枚のカードだった。

(ケータッチは無くなっている、か。何でも都合よくとはいかないな)
少し前に和解した時間警察の黒崎レイジ。
彼から託された強化ツールは消えていた。

とはいえこれは彼にとっては想定の範囲内。
公平な「ゲーム」を行おうと言うのだから大きな力を持つケータッチは真っ先に没収されたに違いない。

(まあいい。盗られたなら取り返すさ)
自分はあくまで盗む側。盗まれたままでいるのは海東にとっては許されないことだ。

(後は・・・武器になりそうなものは無いか)
後は食料と水、それから缶ジュースに赤いリボンだった。

次に海東は名簿を確認する。

(士にユウスケ君か・・・出来れば早く合流したいがここが何処なのか分からないとどうしようもないな)

そんな思考は突如、目に飛び込んできた名前によって遮られる。

(アポロガイスト!?何故奴がここに!?)

ありえない。奴は自分と士の必殺技を受け、確かに爆散したはずだった。
死に際になにか言っていたような気もしたが、悪党の捨て台詞など一々覚えていられない。

それはそれとして、なぜ彼の名前がこの名簿に載っているのか。
可能性は2つ。

1つ目はそもそもこの記載が虚偽だということだ。しかしこの可能性は低い。
なぜなら―

(主催者の真木とかいうおじさんにとってメリットが無い、ということだね)
もし無理に挙げるとすれば、自分たちのようなライダーを動揺させるため、とも考えられるがそもそも海東は真木と面識が無い。ということは士もユウスケも同様だろう。

2つ目はこのバトルロワイアルのために真木がアポロガイストを復活させたという説だ。
可能性から言えばこちらの方が高い。
理由は簡単だ。自分達と戦ったときにアポロガイストが同じ手を使ったからだ。

(ライフエナジー・・・キバの世界の技術を使えば不可能ではないかもしれないな)

と、ここで海東の意識は再び途切れる。

「ねぇ……いるんでしょ……?」

それはか細い声だった。
一瞬、自分に向けられたものかと思ったが少女の次の言葉がそれを否定する。

「どうして、こんなことするの!?そこまでして….私を魔法少女にしたいの!?」
魔法少女?

「答えてよ….キュゥべえ!」

疑問は後回しだ。
とにかくこんな大きな声を出しては危険人物に狙われるかもしれない。
力無き者を守る、それが仮面ライダーの役目だ。

「どうかしたのかい?」
海東は少女に声をかけた。

132Mを救え/反逆する怪盗 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 06:36:05 ID:AEVyTSWM0

「僕は海東大樹、よろしく」

「えっと……私は鹿目まどかです。
 よろしくお願いします、海東さん」

殺し合いには乗らない、そんな海東の言葉を聞きまどかの表情からは恐怖が消え去っていた。
「ところでまどかちゃん。さっき、誰かの名前を呼んでいたようだけど何かあったのかな?」

「それは…」
まどかは少し迷ったが、海東の表情からは悪意などは感じられない。
彼女は思い切って全てを話すことにした。


「なるほどね…」
海東は神妙な顔つきになって考え込んでいる。

「…やっぱり、信じられないですよね、こんな話」
まどかはやや落ち込みながら声をかけた。やはり、信じてもらえなかったのだろうか。
そう思い、彼女は落胆してしまったのだが……そんな事はない。
「いや、信じるさ。僕も常識外れな事には慣れているからね」
海東はそう言ってまた考え込む。

(それにしてもキュゥべえ…インキュベーターというのはとんでもない詐欺師だ。しかしその力があるならもしかしたら…)

133Mを救え/反逆する怪盗 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 06:37:05 ID:AEVyTSWM0

「あの…海東さん?」

「ああ、すまない。ちょっと考え込んでしまっていたようだ」
海東は、この瞬間一つの考えに辿り着いていた。

名簿にあったアポロガイスト、及びまどかが死んでしまったと言っていた魔法少女の名前。
そしてまどかの言う「キュゥべえ」の存在。
これら複数の事実が、海東の中でつながった。

「まどかちゃん、君は全てを話してくれた。今度は僕が話す番だ。」
そして海東は語った。
自分の事、故郷の事、大ショッカーの事、そして彼の「仲間」のこと。
「そんなことが…」
そして、と彼は付け加える。

「これから話すことは、僕の仮説だ。まずは名簿を見て欲しい」

言われるがままに名簿を見たまどかの顔は、次第に驚愕で染まっていった。
「う、嘘…どうして…!?」

そこには死んだはずのマミ、さやか、杏子そして海東が倒したと言っていたアポロガイストの名前があった。

「恐らく彼女たちは、この戦いのために真木とか言う人がよみがえらせたんだと思う。」

「で、でもどうやって…あ!」

「そう、そこで君の言うキュゥべえ―インキュベーターの存在が重要になってくるんだ。」
海東の仮説。
それは今回の殺し合いのためにキュゥべえと真木が手を組んだのではないか、と言うことだった。

そしてこの仮説で、何故参加者に首輪をつけているのかの謎も解明できる。

「そしてこの首輪は・・・何らかの手段で参加者の感情をエネルギーに変換して回収する機能も兼ねているんだと思う」


聞いた話ではキュゥべえはエネルギーを回収するためならどんな手でも使うらしい。
ある意味怪人よりたちが悪い、海東は自分の仮説を話しながらそう思っていた。

134Mを救え/反逆する怪盗 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 06:41:14 ID:AEVyTSWM0
【1日目/日中  風都タワー内部】
【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】ディエンドライバー、ライダーカード、アタックライドカード、ファイナルアタックライドカード@仮面ライダーディケイド 
【道具】通常支給品 タカカンドロイド×2@仮面ライダーOOO 赤いリボン@魔法少女まどか☆マギカ
【思考・状況】
基本・一般人を助け、ついでに真木からお宝を奪い生き残る
1.アポロガイストを見つけたら優先的に倒す
2.士、ユウスケと合流したい
3.魔法少女を助ける
4.真木からお宝を奪う
5.QBを殴る
※電王トリロジーエピソードイエロー直後からの参戦です
※キュゥべえと真木は手を組んでいると推測しています
※ライダーカードはG3、ガイ、ライオトルーパーの3枚。アタックライドはインビジブルのみです
※首輪には感情をエネルギーに変換する機能があると思っています

135Mを救え/反逆する怪盗 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 06:57:22 ID:AEVyTSWM0
【日数-時間帯名】
【G-5/風都タワー内部】
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】白陣営
【状態】健康、キュゥべえと真木に対する警戒
【首輪】100枚:0枚
【装備】不明
【道具】テラーメモリ、ガイアドライバー@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:方針・殺し合いを止めたい
1.他の魔法少女が心配
2.海東は信頼できる

【備考】
※支給品はまだ確認していません
※参戦時期は9話終了直後です

136Mを救え/反逆する怪盗 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 06:59:16 ID:AEVyTSWM0
まどかが海東に話していないこと、それが一つだけある。

それは「自分と同じで何の力も持たない友人がこの場にいる」ということ。
これから話すのかも知れないし、また彼女―志筑仁美が頼りになる人物と一緒にいる可能性もある。

しかし、少なくとも今は話していない。

137Mを救え/反逆する怪盗 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 07:01:20 ID:AEVyTSWM0
投下終了です
海東のキャラ崩壊がハンパじゃない
誤字等ありましたら指摘をお願いします

138 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 12:31:44 ID:AEVyTSWM0
>>134を修正します
【1日目/日中  風都タワー内部】
【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【所属】白陣営
【装備】ディエンドライバー、ライダーカード、アタックライドカード、ファイナルアタックライドカード@仮面ライダーディケイド 
【道具】通常支給品 タカカンドロイド×2@仮面ライダーOOO 赤いリボン@魔法少女まどか☆マギカ
【思考・状況】
基本・一般人を助け、ついでに真木からお宝を奪い生き残る
1.アポロガイストを見つけたら優先的に倒す
2.士、ユウスケと合流したい
3.魔法少女を助ける
4.真木からお宝を奪う
5.QBを殴る
※電王トリロジーエピソードイエロー直後からの参戦です
※キュゥべえと真木は手を組んでいると推測しています
※ライダーカードはG3、ガイ、ライオトルーパーの3枚。アタックライドはインビジブルのみです
※首輪には感情をエネルギーに変換する機能があると思っています

139名無しさん:2011/11/12(土) 15:27:48 ID:5AetO7QE0
投下乙です。
ところで、1つ気になったのですが。
>>129-130のまどかパートのくだりが、変身ロワの『セイギノミカタ』のまどかパートのくだりttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14759/1318239410/44-45と酷似している気がするのですが?
偶然の一致にしては同じすぎるような気がするのですが。

140 ◆xkAAVjLZXQ:2011/11/12(土) 15:33:22 ID:AEVyTSWM0
ごめんなさい
文章力が無いので真似てしまいました
破棄してください

141名無しさん:2011/11/12(土) 18:23:18 ID:LfwUzHAc0
新しい予約が来たぞ

142医者 ◆bWHYWnZ5pw:2011/11/13(日) 07:05:41 ID:BCFc95Iw0
投下します

「ジュエル…コックローチ…アームズ…バイラス…素晴らしい!」
一人の男が複数の「ガイアメモリ」を抱えて狂喜していた。
何故こうなったのかについては数分前に遡る。



ここはH―3エリア。
そこのマンション内の一室。
『201号室』というプレートのかかった部屋で、井坂深紅郎は自分に支給されたアイテムの確認を行っていた。

何故屋内で支給品の確認を行うのか。
理由は簡単。そこに転送されたからだ。

それに屋内ならば危険人物に出会う可能性も低い。
まあ出会ったところで恐れるような男ではないが、わざわざ外に出て荷物を広げる気にもならなかった。

まず井坂の手に触れたのは長年自分が使っているガイアメモリ「ウェザー」だった。
気象の記憶を内包した彼の武器、ウェザーは園咲家の使うゴールドのメモリにすら匹敵する力を持っており、彼は過去にこのメモリの力を使って多くの人間を殺害してきた。

「私からウェザーを奪わなかったことを後悔させてあげましょう、ドクター真木」
そう。
ウェザーを手にした自分が負ける事などありえない。
少なくとも彼はそう思っていた。

更に彼はバッグの底から彼でさえの見たことの無い4本のガイアメモリを見つけ、冒頭の状況に陥ったと言うわけだ。

しかしその上機嫌は、デイパックの隅に追いやられていた金属製のベルト―ガイアドライバーを見つけた事により終わりを告げる。

143医者 ◆bWHYWnZ5pw:2011/11/13(日) 07:06:51 ID:BCFc95Iw0
「これは…必要ありませんね」
井坂は冷淡な眼差しでガイアドライバーを見つめると、窓の外から投げ捨てる。

彼にとってガイアメモリとは直挿しでなければ意味が無い。
確かにドライバーはメモリの毒素を除去してくれるが、その代わりそのメモリが本来持つ力を十分に引き出すことは出来ない。
それが彼の持論だ。


さて、一度ガイアドライバーを見てテンションが下がったせいか事態を考察する余裕が出来た。

まずはウェザー以外の自分の支給品。

といってもガイアメモリ以外には武器になりそうなものは無いが、彼にとってはそれだけで十分だった。


ジュエル…これは恐らく防御に特化したメモリだろう。

コックローチ…これはそのままゴキブリの能力を備えていると考えて間違いない。

アームズ…これは少々分かりにくいが、Aの文字が銃と剣で構成されているので大体の能力は分かる。

バイラス…これはそのものずばり「ウイルス」のメモリだ。参加者を確実に葬る、と言う意味ではこれが一番役に立つかもしれない。

次に食料。成人男性なら3日間はもつ量だが―
(これだけでは…足りませんね)
そう。
この男、井坂深紅郎にとってはたった一食分にも満たない量だった。
多くのガイアメモリを挿した事により、彼の食欲は常人をはるかに凌駕するものとなっていた。

だが幸いにもこの部屋には冷蔵庫があった。
そして先ほどガイアドライバーを捨てた事により、デイバッグには若干だがスペースが出来ていた。
井坂は迷うことなく冷蔵庫の扉を開け、食料をデイバッグに詰め込み始めた。

144医者 ◆bWHYWnZ5pw:2011/11/13(日) 07:07:21 ID:BCFc95Iw0
さて、あらかた食料を詰め終わると井坂は再び黙考する。

いくらガイアメモリという強力な力を持っているとは言え、何も考えずに使えばメダルを消費し、自らの破滅を招くだけだろう。
となると未知の力を持ったメモリよりも、使い慣れたウェザーに頼らざるを得ない。

だがその問題は、この首輪を外しさえすれば解決する。
触ってみた感じでは簡単には取れそうもなく、仮に外すとすれば労力と時間を必要とするだろう。

だが井坂はそんな事で諦めたりはしない。
自分の知識と技術さえあれば解除は可能だと信じているからだ。

そのためにも首輪のサンプルを手に入れる必要がある。都合よく落ちていればいいが、恐らく他の参加者を殺して奪う事になるだろう。仮面ライダーが邪魔してくるだろうが、その時は彼らから奪えばいい。

そして園咲冴子と共にこの殺し合いを生きぬいてみせる。

「真木清人、貴様の思惑通りにいくと思うなよ。私は全てを手に入れる!」

井坂深紅郎の戦いが始まった。

145医者 ◆bWHYWnZ5pw:2011/11/13(日) 07:07:46 ID:BCFc95Iw0
【1日目-早朝(04:00)】
【H-3/マンション】
【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】白
【状態】健康、空腹感(小)
【首輪】100枚:0枚
【装備】ガイアメモリ(ウェザー、ジュエル、コックローチ、アームズ、バイラス)@仮面ライダーW
【道具】大量の食料 通常支給品
【思考・状況】
基本:方針・首輪を外し、冴子と共に生き残る
1.冴子を探す
2.首輪のサンプルを探す
3.他の参加者がガイアメモリを持っていれば奪う
【備考】
※参戦時期は36話冒頭からです。
※首輪はサンプルさえあれば解除可能だと思っています。
※仮面ライダーと協力するつもりはありません。
※メモリブレイクされたときにどうなるのかは後続の書き手さんにお任せします。

146医者 ◆bWHYWnZ5pw:2011/11/13(日) 07:53:15 ID:BCFc95Iw0
※ガイアドライバーはH-3のどこかに放置されています。具体的な場所については後続の書き手さんにお任せします

147名無しさん:2011/11/13(日) 14:20:57 ID:uldUX2160
投下乙です

この人は自分の上に誰かがいるのが耐えられない人だからなあ
でも、この人見てると不安しか感じないぜw
仮面ライダーとは組まないのか…

148 ◆lx1Zn8He52:2011/11/13(日) 18:20:05 ID:.QvZZa7IO
カオス、至郎田正影投下します

149料理!! ◆lx1Zn8He52:2011/11/13(日) 18:21:21 ID:.QvZZa7IO
「殺し合いか…」

教会の中、荷物の確認をしながら天才シェフ至郎田正影は、呟く
彼は、自らの犯行を自白し、究極の料理[ドーピングコンソメスープ]を注入た瞬間、視界が揺れ、あのドームにいた
最初は、副作用による幻覚かと考えたが直ぐに否定する。自らの料理に失敗等ある筈が無い

「まあ、良い。俺の力に敵う奴はいない」
この料理があれば築ける。食の千年帝国が!
「叶えてやる。俺の夢を…」

「夢ってなあに?」

自らの勝利を確信した至郎田は、突然の声に驚き振り返ると、

「ねぇ…、夢ってなあに?」

幼い修道服の少女が佇んでいた

「俺の夢が知りたいのかな?お嬢さん」

運が良い。早速獲物が現れた。その姿を見て至郎田の顔に笑顔が浮かぶ


「…教えてくれるの?」

「ああ、教えてやる…。俺の夢は、全ての人間を料理で支配する事だ!」

目の前の幼い少女を挽き肉にしようと至郎田は、拳に力を込め 飛び掛かる


――が、電柱の様な腕は、当たる前に宙を舞う
「それって、…楽しいの?…凄いの?」
少女は、無邪気な笑顔を向け、至郎田に近寄る

何が起こったのか解らず、至郎田は、少女に背を向ける。逃げる為に だが、足が動かない。いや、逃げる為の足が、――もう無い
それでも、逃げようと片腕で必死に這うが、その腕に鋭利な物が突き刺さる

「た、たす…」
「ねぇ、…教えて?」

150料理!! ◆lx1Zn8He52:2011/11/13(日) 18:22:24 ID:.QvZZa7IO
OOO

手に入れた人形を食べ終えし、彼女は考えた
折角だ。このゲーム楽しもう。そして皆に愛をあげよう。、少女・カオスはそう決めて教会を後にした

【至郎田正影@魔人探偵脳噛ネウロ 死亡】【一日目-日中】
【B-4/言峰教会】
【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】195枚:0枚
【装備】なし
【道具】ランダム支給品2〜6(至郎田の支給品を回収しました)、
【思考・状況】
基本:このゲームを楽しむ
1.みんなに愛を与える
【備考】
※参加時期は45話後です
※至郎田正影を吸収しました

151 ◆lx1Zn8He52:2011/11/13(日) 18:23:52 ID:.QvZZa7IO
以上で投下を終了します

152名無しさん:2011/11/13(日) 19:59:03 ID:0.gncQZQ0
投下乙です。
至郎田ェ……やっぱりそうなっちゃうのね……

153名無しさん:2011/11/13(日) 20:42:42 ID:hpnbsrM60
あれ、そういえばここって参戦作の媒体とかはどうなってるの?
そらおと45話って事は漫画版?

Fate/zero (小説/アニメ)
そらのおとしもの (漫画/アニメ)
Steins;Gate (ゲーム/アニメ)
インフィニット・ストラトス (小説/アニメ)

この辺が原作か、アニメかというのが不明瞭な気がする

154 ◆lx1Zn8He52:2011/11/13(日) 20:51:41 ID:.QvZZa7IO
自分は、全部原作だと思って書いてます

155名無しさん:2011/11/13(日) 22:16:02 ID:uldUX2160
投下乙です

あっさりとまあ
でも喧嘩売った相手が悪いw おかしいと思わなかった至郎田ももっと悪いw
それにしてもカオスもヤバい奴だわw

156名無しさん:2011/11/13(日) 23:29:11 ID:PW.cQd72O
投下乙です。まあさもありなんw

参戦時期ズレが有りなんですし、参戦媒体も初登場を書いた人が決めたのでいい、ような? 読み手の考えですが参考になれば幸いです。

157<削除>:<削除>
<削除>

158名無しさん:2011/11/14(月) 15:33:14 ID:FH7VdHNs0
>>156
それは不味いでしょう
媒体が違えば設定や展開が大きく異なるケースもあります
少なくとも、まったく同じということはありません

貴方が言っているのは、メディアミックスされている作品はその全てを把握しろと言っているのと同じで
書き手さんたちに多大な負担を強いる内容です
悪意があっての発言ではないのでしょうが、ご自身で言っているとおり「読み手の考え」ですよ

159名無しさん:2011/11/14(月) 18:20:58 ID:nq9e4V..O
>>158
確かにそうですね、すみませんでした・・・

160 ◆lx1Zn8He52:2011/11/17(木) 23:47:13 ID:J8R2VfTYO
ジェイク・マルチネス、ニンフ投下します

161 ◆lx1Zn8He52:2011/11/17(木) 23:51:31 ID:J8R2VfTYO
「面白ぇゲームを考えるじゃねぇか。主催者さんよぉ」
椅子に深く腰を下ろし、裸の男・ジェイク・マルチネスは笑う 折角招待されたゲームだ。思う存分楽しむ事にしよう。そう決め道具の確認を始める

OOO

十分程した頃 ジェイクが突然立ち上がると同時に
「――何時まで覗いてるつもりだ?」

入口の扉が勢いよく吹き飛んだ

OOO

(嘘!?ステルスは完璧だった筈…)

「どうしてバレたって顔だなぁ?」
燈色に目を光らせジェイクは困惑する来訪者に答える
「なぁに簡単な事だ。俺様が神に選ばれた人間だから…だ。まぁ、お前みたいなお子ちゃまにはわかんねぇだろうけどよ」

「誰が…、お子ちゃまだッ!」

直感的に戦闘を避けられ無いと悟ったニンフは飛び出し、七色の羽と青い髪をはためかせ 黄色い槍を薙ぐ

「あたんねぇよ、バーカ」
――が、その鋭い一撃は体を反らす事で回避される

「このッ!」
次の一撃も鼻唄混じりに避けられる
「どうしたぁ?あたんねぇ〜ぞ?」

その後も攻撃を繰り返すが、全て紙一重で交わされ、
(どうして当たら――ッ!!?)
そして僅かに思考した隙に、先程扉を破壊した一撃が砲弾の様にニンフの腹を撃つ

「な…にッ!?」
その一撃が腹を突き破る事はなかったが 痛みに動きが一瞬止まる
当然 その隙をジェイクは見逃さず 次を射ち出す

「がッ!?」

それを至近距離で受けニンフは、メダルを溢しジェイクの足下に倒れ込む

「どうした?呆気ねぇなぁ、オイ」

そうして力無く倒れたニンフの顔をジェイクは踏みつける

162 ◆lx1Zn8He52:2011/11/17(木) 23:51:54 ID:J8R2VfTYO
「ま、相手が悪かったと思って死んでくれや」
そして苦悶を拝もうとジェイクは、ニンフの髪を掴み上げ嫌らしい笑みを見せる

「………は……え…だ…」
「あん?」

ぼろぼろの少女と目が遭った瞬間、少女の声を聴き咄嗟に後ろに飛びバリアを張る
「死ぬのは…、お前だぁぁあッッ!!!!」

【超々超音波振動子】
放たれた歌声は大地を穿ち天を震わせる

OOO

立ち上る土煙の中 ジェイク・マルチネスは瓦礫の上にいた

「面白れぇ…、面白れぇなッ!おい!!」

ジェイクは笑う 檻の中では決して味わえ無かった充実感に声を上げ笑う

【一日目-日中】
【D-5/クスクシエ側】
【ジェイク・マルチネス@TIGER&BUNNY】
【所属】白
【状態】裸、ダメージ(小)、疲労(小)
【首輪】85枚:0枚
【装備】無し
【道具】ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:ゲームを楽しむ
1.楽しめそうな奴を探す
2.着る物を探す
【備考】
※釈放直前からの参加です
※クスクシエが倒壊しました

163 ◆lx1Zn8He52:2011/11/17(木) 23:52:44 ID:J8R2VfTYO

OOO

超々超音波振動子を放ったニンフは、男の生死確認より離脱を選んだ
理由は死んでればいいが、万が一生きていた場合 あの男を倒せる保証が無く、以降離脱出来る保証も無いから、そして一刻も早くマスターと合流したかったからだ
元々は情報収集の為に男に近付いたが、どういう訳か気付かれてしまったのだ
どうして気付かれたのか?そんな事は二の次だ。今はただ会いたい。愛しのマスターに

【D-5/E-5側】
【ニンフ@そらのおとしもの】
【所属】無
【状態】ダメージ(中)疲労(大)
【首輪】60枚:0枚
【装備】必滅の黄薔薇@Fate/zero
【道具】ランダム支給品0〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:知り合いと共にこのゲームから脱出する
1.知り合いと合流(桜井智樹優先)
2.裸の男(ジェイク)、カオスを警戒
【備考】
※参加時期は31話終了直後です
※超々超音波振動子がクスクシエ周辺に響きました

164 ◆lx1Zn8He52:2011/11/17(木) 23:54:46 ID:J8R2VfTYO

OOO

超々超音波振動子を放ったニンフは、男の生死確認より離脱を選んだ
理由は死んでればいいが、万が一生きていた場合 あの男を倒せる保証が無く、以降離脱出来る保証も無いから、そして一刻も早くマスターと合流したかったからだ
元々は情報収集の為に男に近付いたが、どういう訳か気付かれてしまったのだ
どうして気付かれたのか?そんな事は二の次だ。今はただ会いたい。愛しのマスターに

【D-5/E-5側】
【ニンフ@そらのおとしもの】
【所属】無
【状態】ダメージ(中)疲労(大)
【首輪】60枚:0枚
【装備】必滅の黄薔薇@Fate/zero
【道具】ランダム支給品0〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:知り合いと共にこのゲームから脱出する
1.知り合いと合流(桜井智樹優先)
2.裸の男(ジェイク)、カオスを警戒
【備考】
※参加時期は31話終了直後です
※超々超音波振動子がクスクシエ周辺に響きました

165 ◆lx1Zn8He52:2011/11/17(木) 23:57:04 ID:J8R2VfTYO
以上です
タイトルは飽食者の顎です

166 ◆lx1Zn8He52:2011/11/17(木) 23:59:12 ID:J8R2VfTYO
すいません間違えて同じ書き込みをしてしまいました

167名無しさん:2011/11/18(金) 01:40:55 ID:b1UTmReE0
投下乙です

168 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/19(土) 09:44:45 ID:XXrchMjs0
皆様投下乙です。

>>料理!!
カオス強すぎるwww
まあ、第二世代が相手じゃそうなるよなぁ……
このロワでもトップクラスのマーダーになりそうなカオスの今後に期待。

>>飽食者の顎
ニンフの戦闘力でジェイクに立ち向かうのは無謀過ぎるw
そうか、いくらステルス張ってても読心されたら意味ないもんなぁ。
ニンフは何気にこの場じゃかなり有利な能力沢山持ってるんだけど、残りメダル60枚っていうのが危うい。



それでは、予約分の投下を開始します。

169 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/19(土) 09:49:46 ID:XXrchMjs0
 巴マミは、魔法少女だ。
 人々に希望を振り撒き、絶望を齎す魔女を駆逐する正義の使者だ。
 今まで何人もの人々の命を救い、何体もの魔女をこの手で屠って来た。
 これからもそんな日々は続き、自分は正義であり続けるのだろう、と。
 つい先刻まで、マミ自身もそう思っていた。と云うよりも、そう信じていたかった。
 だけれども、現実は非常だった。マミのそんな幻想は、つい先刻、マミの目の前で打ち砕かれた。

 希望を信じて魔法少女となり、そして正義の為と信じて戦った美樹さやかは――魔女になった。
 
 魔法少女はいずれ絶望に負け、魔女に――化け物になる。
 それを知った瞬間、マミを飲み込もうとした絶望は酷く深く、暗いものだった。
 自分はいずれ化け物になる。誰かを呪い、誰かを傷付け、絶望を振り撒く悪になる。
 最早確定された未来だ。どこまで抗おうとも、魔法少女はいつか魔女を産んで死ぬ。
 人はいつか必ず死ぬ事と同じくらいに、それは覆しようのない事実だった。
 だとするなら――

「魔法少女が魔女を生むなら、みんな死ぬしかないじゃない……」

 そう呟いて、滂沱と涙を流す。
 きっとここへ連れて来られるのが一瞬でも遅れていたら、マミはこの手で他の魔法少女を殺していただろう。
 あの駅のホームに居たまどかと、ほむらと、杏子の三人を殺め、そして自分自身の命を絶っていた事だろう。
 そうやって全てを終わらせる事が出来たなら、どれだけ楽だっただろう。
 意思とは裏腹に自らの命を繋いでしまったマミは、この場へ転送されてからも何もする気が起きなかった。
 ただ茫然自失といった様子で、目の前に拡がる大量のフィギュアや玩具類のショーケースを眺めるだけしか出来なかった。
 別にフィギュア類に興味がある訳ではない。ただ、転送されたこのビル内の大半を、そういった専門店が占めているだけだ。

(また一人ぼっちになっちゃったわね……)

 そして当然ながら、この場にマミ以外の魔法少女は居ない。
 他を皆殺しにして自分も死のうと思っていたが、それを今一人でする気にもなれない。
 最近はずっと仲間が居てくれて、一人ぼっちで寂しくなる事もなかった事を思えば、この現状が嫌に辛い。
 絶望の真実を知らされ、目の前で少女を 二人も殺され、終いには一人ぼっちで転送されるなど、悪い冗談だと思いたかった。
 ならばこれからどうするか。
 デイバッグから名簿を取り出し、ぼんやりと眺める。
 知っている魔法少女達の名前が……少なくとも四人分、そこには書かれていた。
 ならば、他の魔法少女を探し出し、この会場内のソウルジェムを全て砕き、それから自分も後を追うか。
 ――否、この場でそんな事をすれば、それは実質この殺し合いに乗っているのと同義ではないか。
 目の前で殺された二人の少女の事を思い出し、マミの中に確かな義憤が生まれる。
 元来正義感の強いマミは、真木の非道を許すような人間ではない。
 例え虚無感に苛まれてはいても、マミは状況をまるで理解出来ない無能では無かった。

(……でも、だからって戦う気にもなれないわ)

 魔法少女のからくりを知った今、正義を行う事すらも、怖い。
 ゾンビと化した今更、命が惜しいという訳ではない。
 もしも誰かの為に戦ったとして、自分が魔女になったらと考えると、たまらなく恐ろしい。
 この場で絶望し、自分が魔女になれば、きっと意思も無く人を殺すだけの殺戮マシーンになるだろう。
 マミはそれが一番怖かった。
 自分が率先して人を殺す悪になるなんて、何があっても絶対に嫌だ。
 そうなるくらいなら、やはりここで死んでしまった方が――

「――うひょひょ……」

 不意に、マミの思考を中断させる声が聞こえて来た。
 誰かの笑い声だろうか。こんな状況で、何を笑っているのだろう。
 場所もそう遠くは無い。恐らくは、マミが居るこのビル、同じフロアの別室からの声だ。
 気になったマミは、先の事など考えもせずに、半ば反射的に声の方向へと歩を進めていた。
 念には念を入れて、魔法少女に変身し、マスケット銃を携えて。

170 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/19(土) 09:50:14 ID:XXrchMjs0
 


 桜井智樹は今、支給された宝物達の事で頭が一杯であった。
 ページをめくる度、視界に拡がる健康的な肌色が、智樹の欲望を刺激する。
 熱くなった股間は力強く脈打ち、脳内の妄想は無限大に拡がってゆく。

「うひょひょひょひょひょひょひょ!!!」

 智樹の笑いは、下品なことこの上なかった。
 元来智樹の性欲は、通常の男子中学生よりも圧倒的に強い。
 暇があれば女子にエロい事をする妄想しかしていないくらいだ。
 そんな智樹にエロ本を支給すればどうなるのかなど、想像に難くはない。
 僅かなエロ要素ですら脳内で無限大に増幅させる智樹にとって、この支給品はまさに当たり。
 そう、当たり中の当たりだ。よくわからんカードデッキなんかよりも、よっぽど有意義だと思える。
 その上、幸いな事にエロ本は一度で読み切れる量を遥かに超えていた。

(ぐへへへへ……これだけあれば暫くはエロには事欠かないだろう)

 智樹は、楽しみは後に取っておくタイプの人間だった。
 全体の三分の一程を読み漁った智樹は、残りを丁重にデイバッグの中へと戻した。
 一切の折り目を付ける事すらも許さず、だ。神が与えたもうた宝物を、こんな所で傷付ける事は許されない。
 デイバッグに残りのエロ本をしまい込んだ智樹は、そのファスナーをゆっくりと閉めてゆき――

「……やっぱりあともう一冊だけっ!」

 智樹は欲望に正直だった。
 あと一冊。あと一冊だけだ。一冊くらいなら問題ない。
 一度はデイバッグにしまったエロ本の一冊をもう一度取り出し、ページをめくる。
 再び智樹の眼前に拡がるは、女神たちの豊満なおっぱい――!!
 見れば見る程に、どの娘もいい乳をしているものだ。

 ――いけない。
 こんなものを見ていると、いよいよこの欲望が抑えられなくなってしまう。
 嗚呼、揉みたい。おっぱいを揉みたい。この手で、揉み次第てやりたい――!!
 そんな馬鹿な事を考え、智樹がエロ本に顔を擦りつけて居た、その時だった。

(ムッ……後ろから、誰かの気配っ!?)

 感じる。智樹を……否、この宝物を見詰める、何者かの気配を。
 拙い。これは俺だけに与えられた神の宝具だ。それを迂闊に人に見せる訳にはゆかぬ。
 一瞬でそこまで判断した智樹は、エロ本をさりげなく隠しながら、勢いよく振り返り――

「――うおぉぉぉおおおおっぱあああああああああああいっ!?」

 そして、視界へ飛び込んでくる豊満なおっぱい――!
 女神だけが持つ事を許された母性の象徴が、智樹の眼前で揺れていた。
 智樹に叫ばれたおっぱい……もとい、少女の方も慌てた様子で一歩後方へ跳び退る。
 魔法少女的なコスプレ衣装を着た少女は、特徴的な金髪のツインテールを縦に巻いた少女だった。
 その両手には、一丁のマスケット銃が握り締められている。
 歳の頃は、恐らくは智樹と同い年か一つくらい年上程度であろう。

「貴方、こんな所で何をしてるの……?」
「い、いや……これはですね……その、」

 言葉に詰まる。明らかに智樹を訝る少女。
 その視線が、智樹にとっては非常に辛かった。
 元々学校中の女子からキモがられ嫌われていた智樹だが、わざわざ好き好んで嫌われたいとは思える程マゾではない。
 ――といっても、ただ嫌われるだけで女の子にエロい事が出来るのであれば、それもまた吝かではないのだが。
 とにかく慌てふためいた智樹は、咄嗟にエロ本を掲げ、叫んだ。

171 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/19(土) 09:50:56 ID:XXrchMjs0
 
「うおおおおおああああああっ!? 何だこれはああああっ!? こんな危険なもの始めて見たっ!!!」
「えっ……何!? 私にはそれが、そんなに危険なものには見えないのだけれど……」
「何故わからないんだ!? 裸の女が群れを成して男を誘惑する! きっとこれは誰かの陰謀だよ!」
「は、はあ? 貴方、さっきから何を言って……」
「いいからっ! これは俺が後で処分しておこう!」

 そう言って、不自然なく智樹はエロ本を自分のデイバッグへとしまい込んだ。
 これならばどんな人間も智樹を疑う事はあるまい。我ながら完璧な言い分だった。と思う。
 だけれども、智樹の完璧な言い訳を聞いた少女はしかし、変わらず訝しげな表情で智樹を見るだけだった。
 ……これは拙い。疑われている可能性がある。今はとにかく、話題を逸らす事が先決だと思われた。

「……コホン。で、君は一体、こんなところで何をしているのかね?」
「それはこっちの台詞よ。笑い声が聞こえると思ったら、こんな所で、その……そんな物を読んでいるなんて、無防備過ぎるわ」

 目の前のおっぱいの大きな女の子は、やや言い辛そうに視線を泳がせた。
 どうやら智樹が読んで居たものがエロ本だという事は既に見抜かれていたらしい。
 だが、今更後戻りなど出来まい。智樹は意地でもエロ本には触れずに話を進める事に決めた。

「何だ俺の事心配してくれたのかよ、ありがとな……えっと、」
「私の名前は巴マミ……君の名前は?」
「ああ、俺の名前は桜井智樹。よろしくな、マミ」

 それから、マミの首輪のランプの色を確かめる。
 一応広間での説明くらいは聞いていたのだから、この殺し合いが陣営戦だという事も把握はしている。

「陣営は……マミが黄色で」
「桜井君が白陣営。私達は敵同士って事になっちゃうわね」
「でもマミは、殺し合いに乗る気はないんだろ?」

 エロ本を読むのに夢中になっていた智樹を殺す隙など、いくらでもあった。
 だけれども、マミが智樹に攻撃を仕掛ける事はなく、今もこうして冷静に話が出来ている。
 もしかしたら情報を聞き出してから殺すつもりなのかもしれないが、マミからはそんな気が感じられない。
 第一、こんな素敵なおっぱいを持った女の子が殺し合いに乗っている訳がないではないか。
 智樹はそう思ったのだが、問われたマミの表情は暗かった。

「どうかしら……私は、絶対に殺し合いに乗らないという保証は、ないわ」
「どういう事だよ。それなら、なんで俺の事は殺さないんだよ」
「大丈夫よ、安心して。少なくとも無関係な一般人を手に掛ける積もりはないわ」

 そう言って、智樹を安心させる為に微笑んだのであろうマミの笑顔は、どこか虚ろだった。
 そして気付く。智樹は、また貧乏くじを引いてしまったのだと。
 この様子を見るに、どうやらマミも一般人では無い様子だ。
 あのエンジェロイド達と同じ「未確認生物」の類であろうか。だとしたら、もううんざりだ。
 だけれども、それでも目の前の人間を放っておく事など、智樹には出来ない。
 というよりも、こんな素晴らしいおっぱいを持った女の子を放っておく事は、出来ない。
 そうだ。智樹が心から尊敬する爺ちゃんも言っていたではないか。
 
 ――いいんじゃね? そこにおっぱいがあれば、いいんじゃね?

 人間だろうが未確認生物だろうが殺し合いだろうが。
 そこにおっぱいがあるのなら……それでいいんじゃね?
 六道輪廻の真理にまで触れた智樹にとって、ここが殺し合いの場などという事は最早些細な問題だった。
 目の前にか弱いおっぱいがあるのなら、智樹はそれを守る。いや違う、揉む。そうだ、揉みしだくのだ。
 その為にも、この少女をこんな所で見捨てていいのか。答えは否だ。良い訳がない――!

「なら……なら、無関係じゃない奴は殺すっていうのかよ!?
 お前、そんな辛そうな顔して、誰かを殺そうっていうのかよ!?」
「辛そうな顔なんて……」
「してるよ! お前、今にも泣きそうな顔してるじゃないか!」
「……っ!!」

 図星を突かれた様子だった。
 出会ったばかりのマミの身に何があったのか、智樹は知らない。
 だが、少なくともまともな道を歩いて来た人間ではないのだろうという事はわかる。
 そんな奴らを智樹は何人も見て来た。今更マミ一人が増えたくらい、どうって事はない筈だ。

172 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/19(土) 09:51:28 ID:XXrchMjs0
 
「それはお前が本当にしたい事なのか? お前は本当に、それでいいのか!?」
「貴方は知らないでしょうけどね……私達魔法少女は、いずれ魔女っていう化け物になるの。
 なら、魔女になって手がつけられなくなってしまう前に、みんな一緒に死ぬしか無いじゃない……!」
「何だよ、それ……魔法少女……!?」

 それから、マミは簡潔に魔法少女の説明をしてくれた。
 希望の力で変身し、魔女と呼ばれる化け物と戦う少女達を総称して魔法少女と呼ぶ。
 だけれども、希望と絶望は等価だ。いつか魔法少女の希望は絶望に飲まれ、魔女となって消滅する。
 マミの目の前で、ずっと一緒に戦ってきた仲間が一人、魔女になってしまったと、マミはそう言うのだ。

「……だから、私がいくら正義の魔法少女として戦っても、いつかは魔女になってしまうの。
 そうなる前に、私は全ての魔法少女をこの手で倒さなくちゃならない……せめて、この場の誰かが犠牲になる前に」

 それがマミの決意。
 虚ろな笑顔の裏側に秘めた、悲しい決断だった。
 マミはいつか魔女になる。だから、その前に、誰かに迷惑を掛ける前に死ぬ。
 一見、魔法少女の運命に敗れた意思の弱い女に見えるかもしれないが、そうではない。
 彼女は強い。一人でも自分の力で戦い抜き、正義を行おうとする彼女が、弱い訳がない。
 大勢の命を尊く思うならこそ、マミの選択は正しいとも思える。
 だが。智樹は、それを認めたくは無かった。

「……そんなの、絶対おかしいだろ……」

 最初は、消え入るような小さな声だった。
 無意識に拳を握り締め身体を震わし、しかし瞳はきっとマミを見据え。

「お前は、それでいいのかよ……そんな寂しい結果で終わって、本当にいいのかよ……」
「安心して。魔法少女以外には、こっちからは手を出す事はないわ」
「……そういう意味じゃねえよ! お前は、いつか死ぬからって、友達を殺して、ほんとにそれでいいのかよ!?」

 魔法少女以外は殺すつもりはないから安全とか、そんな事はどうだっていい。
 今重要なのは、こんなに優しい筈の女の子が、正義の為に友達を殺そうと言っている事、だ。
 きっと辛い筈だ。そんな惨い事を望んでしたいと云う奴なんて、居る訳がない。
 激昂した智樹は、マミの胸……ではなく、両の肩をがっしと掴んだ。

「そんなの、辛すぎるだろ……! お前、ほんとはそんな事したくないんだろ!」
「それでも……それが魔法少女の宿命なら、私がやるしかないのよ。貴方は何も知らないからそんな事が言えるだけよ」
「ああ知らないね! 俺は魔法少女も魔女も、お前らが体験して来た出来事も、これっぽっちも知らねえよ!
 けどな、お前が辛そうにしてるのは分かる! お前、友達を殺したくなんかないんだろ、助けて欲しいんだろ!?」
「そんな事……!」
「じゃあ、なんでお前は今、泣いてんだよ!?」

 それからマミは、はっとして自らの頬に触れる。
 見開いた双眸から滂沱と流れる涙で、マミの頬はしとどに濡れていた。
 智樹は、せっかくの美人が台無しじゃないか、と胸中でぽつりと呟き、そして問うた。

「なあ……いつか魔女になるからって、お前は本当に、“今”ここで死んじまっていいのかよ?」

 マミに掴み掛かった勢いで、気付けば智樹の視線は、マミを見下ろしていた。
 そして、気付く。智樹の瞳からも涙が零れ――それは、マミの頬を伝って地面に落ちていた事に。

173 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/19(土) 09:52:55 ID:XXrchMjs0
 
「人はいつか死ぬよ。でもな、だからって、生きたくても殺されたあの二人みたいに……
 ほんとうに、いま、こんなところで死んでいいって言うのかよ、お前は!?」

 最後に自分が犠牲になる前提の考えなど、智樹は絶対に認めない。
 あの広場で殺された二人みたいに、こんな下らない殺し合いでマミが死ぬのは、嫌だった。
 ここでこうして一緒に話している優しい少女が帰らぬ人になってしまうのは、絶対に嫌だった。
 例え“いつか”は魔女になってしまうとしても、それでもそれは、その“いつか”は――

「いつかは今じゃないだろ……!」

 少なくとも、今はまだマミは絶望していない。
 そして、魔法少女として戦う力を、守る為の力を、マミは持っている。
 何かを守りたくても、イカロス達のような力を何も持たない智樹とは違うのだ。

「それにさ……俺、お前が魔法少女で良かったって、今は思ってるんだよ」
「えっ……?」
「お前には俺と違って、皆を……友達を守る為の力があるんだろ……?
 お前はまだ戦えて、大切な友達を殺す為じゃ無く、守る為に戦えるんだろ……?
 だけど、それでもお前がその力を誰かを殺す為に使うっていうなら――」

 意を決して、智樹は叫んだ。
 
「まずはここで俺を殺して行けよ!」

 それすらも出来ないなら、マミに友達を殺す事なんて不可能だ。
 何よりも、智樹の目が黒い内は、そんな非情を行わせるつもりもない。
 どうしても行きたいというのなら、ここで自分自身がマミにとっての壁になろう。
 きっと力を持たない自分はすぐに殺されてしまうだろうが、そんな事は関係ない。
 自分自身の信念は貫く。例えどんな時でも、これはエロと同じくらいに譲れない事だった。

「……負けたわ、貴方には」

 刹那、マミの表情から緊迫感がすっと抜け落ちた。
 それから柔らかく微笑んだマミは、智樹の頬を流れる涙を、片手で拭う。

「でも、貴方のお陰で思い出せたわ。私が何故魔法少女になったのか……」
「そっか。良かったら聞かせてくれよ、お前はなんで、魔法少女になったんだ?」
「……命を結ぶ為、よ」

 それだけ言うと、マミは智樹の身体を押し退けた。
 自分のデイバッグを抱えると、魔法少女の変身を解除する。
 智樹の目の前で、何処かコスプレチックな黄色の衣装が霧散し、何処かの中学校の制服へと変わった。
 それは、イカロスやニンフ達が戦闘体制へ移行する時の“変身”とよく似ていた。
 本当にマミは魔法少女なんだなと、智樹は改めて思う。

「この殺し合いを打破しない限り、今も誰かの命が危険に晒されているかもしれないわ。
 考え事は後にして、今は先に、私達に出来る事をしましょう、桜井君?」

 どうやら吹っ切れたらしい。
 マミは智樹に手を差し伸べ、智樹はそれを掴む。
 マミの表情は、先程までよりもずっと明るくなっているように思う。もう大丈夫だろう。
 キュゥべえの奴、今度とっちめてやるわ! などと言いながら、マミは頬を膨らませていた。
 随分と元気になったように見える。ならば、智樹も起ち上がらぬ訳にはいくまい。

(……マミ、お前が戦うなら、俺も頑張るよ。この命の限りに――)

 そして、決意を固める。
 智樹の視線はマミの顔――ではなく、マミの悩ましげな胸にのみ注がれていた。
 それは、男の欲望が、夢が、希望が詰め込まれたモノ。
 マミの語る魔法よりも、智樹にとってはそっちの方がよっぽど奇跡の魔法だった。
 奇跡があるのなら、智樹の目の前にそれがあるのなら、力の限り、智樹は戦う。

(嗚呼、そうだ……俺はこのおっぱいを揉む――絶対に、揉んでみせるッ!!!)

 それが新たに出来た、智樹の揺るがぬ野望だった。
 この欲望が叶うまで、智樹は何としても死ぬ訳には行かない。
 最早智樹の視線は、マミのおっぱいにしか向けられてはいなかった。

174 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/19(土) 09:53:26 ID:XXrchMjs0
 

【一日目-日中】
【D-7/ラジオ会館二階】

【桜井智樹@そらのおとしもの】
【所属】白
【状態】健康
【首輪】120(増加中)枚:0枚
【装備】龍騎のカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】大量のエロ本@そらのおとしもの、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:殺し合いに乗らない
1.いつかマミのおっぱいを揉んでみせる。絶対に。
2.マミと一緒に何処かへ移動する。
2.知り合いと合流したい。
3.……変身って何?
4.残りのエロ本は後のお楽しみに取っておく。
【備考】
※エロ本は三分の一程読みましたが、まだ大量に残っています。
※名簿等はまだ確認してません


【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】95枚:0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜3
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。極力多くの参加者を保護する。
1.智樹と共に行動する。
2.他の魔法少女とも共存し、今は主催を倒す為に戦う。
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、魔女化したさやかが爆殺されるのを見た直後です。

175 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/19(土) 09:53:55 ID:XXrchMjs0
 


 マミが語った通り、魔法少女はいつか魔女になる。
 どれだけ正義を行おうとしても、いつかは人を喰らう悪となるのだ。
 それがどう頑張っても避けようのない事実だという事も、少女は既に知っている。
 だけども、それでも尚も立ち止まる事をせず、誰かの為に戦い続けた少女が、そこには居た。

「私……まだ、生きてるんだね」

 鹿目まどかは、自分自身の両の手を眇めながら、ぽつりと呟く。
 キュゥべえの語る夢や希望は、全て絶望を対価とするまやかしだった。
 それを知ったさやかは魔女になり、マミは他の魔法少女を道連れに無理心中を図ろうとした。
 もううんざりだった。まどかはそんなマミを自分の手で殺し――そして、ほむらと二人、ワルプルギスに挑み、敗れたのだった。
 まどかの記憶に最後に残っているのは、ほむらの銃が、自分のソウルジェムを撃ち抜くその瞬間。
 魔女になるのだけは嫌だから、せめて最期は友達の手で、人間のまま死にたいと、まどかは願ったのだ。
 結果、ほむらの慟哭と共に放たれた銃弾は確かにまどかの魂を砕き、まどかは完全に死んだ筈だった。
 だというのに、その次の瞬間には、訳の分からない殺し合いの真っただ中である。
 状況は分からないが、それでもこうして考える事が出来る様になってから、まずまどかが口にしたのは――

「ごめんね……ほむらちゃんには、辛い事、させちゃったよね」

 ――最も信頼のおける友への謝罪だった。
 暁美ほむらは、大切な友達を守る為に遥か時を越えて来たと云うのに。
 最後にはその友達の願いで、自ら守りたかった人の命を絶たねばならなかったほむらが、どれ程辛かった事か。
 まどかにはきっと、真の意味でほむらの心の痛みを計り知る事は出来ない。
 ほむらがどれだけ心を病んで、どれだけの決意を胸にもう一度時間を遡ったか、まどかは計り知る術がない。
 だけども、最期の瞬間に見たほむらの涙と慟哭は、まどかの脳裏に焼き付いて離れようとはしない。
 そんな、決して強くはない女の子に、自分はきっと相当に辛い願い事を頼んでしまったのだ。

「ほむらちゃん、今度こそ私達を救ってくれたのかな……」

 それこそが、まどかが託した、本当の最期の願い。
 過去に戻って、キュゥべえに騙される前に、自分達を救って欲しい。
 もしかしたら、ほむらは今もまだ、別の時間軸で悲しい運命と戦っているのかもしれない。
 だとするなら、自分に出来る事は何だろう。
 ほむらちゃんにそれだけ辛い運命を背負わせてしまった自分に出来る事は。
 現状が殺し合いだという事を思い出し、まどかは名簿とルールブックに目を通した。
 知っている参加者は――五人だ。
 魔法少女の四人と、何の関係も無い一般人の友達が、一人。
 どうして魔女になった筈のさやかや、自分が殺した筈のマミが居るのだろうか。
 もしかしたら、ほむらと同じく、別の時間軸の彼女たちなのかも知れない。
 ともあれ、まどかのやる事は決まっている。

「こんな私にも、誰かを守る事が出来るのなら……私、戦うよ」

 まどかは魔法少女だ。
 例えいつかは魔女になってしまうとしても、今はまだ、魔法少女だ。
 魔法少女は希望を振り撒き、人の命を救う為に戦う存在だと、まどかは信じている。
 自分が戦う事で、殺し合いに乗った人から、力の無い人を救えるのなら、こんなに上等な事はない。
 それは昔からずっと、誰かの役に立ちたいと願い続けて来たまどかにとっては当然過ぎる考えだった。
 例えさやかが魔女になったとしても、マミが味方殺しに走ったとしても、最後は自分だけになったとしても。
 どんな絶望にも抗って、まどかはこの魂ある限り「誰かの為に」戦ってみせよう。

176 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/19(土) 09:54:14 ID:XXrchMjs0
 
 ――否、本当は、誰かの為なんかじゃないのかもしれない。
 ただ誰かを救いたいという、自分自身の願いの為に、まどかは戦う決意を固めたのかも知れない。
 誰に願われた訳でもなく、誰に求められた訳でもなく、ただ自分自身が誰かを救いたいから。
 皆の平凡な暮らしを守りたい。幸せな人々の笑顔を、こんな事で曇らせるのは、自分自身が嫌だから。
 誰かの為という大義に縋るのではなく、自分の為に誰かを救いたいと強く願えるのだから、まどかは強い。

(ある意味、それが私の欲望なのかもね)

 真木は言った。自分自身の欲望を満たす事で、メダルは増幅すると。
 意味はよく分からなかったが、自分の願いの為に戦うのなら、それはまさしく自分の欲望となる。
 自分の為に、誰かを……この手の届く限りの全ての人を、自分自身のこの手で守り抜きたい。
 さやかの「正義の為に」や、マミの「命を結ぶ為」とは、根本的に違う強い欲望だった。
 それはある意味で、人がそう簡単に持ち得る事の無い、強い欲望の形であった。

「じゃあ、そろそろ行こっか」

 何はともあれ、まどかの行動方針は決まった。
 かつての悲劇を思い出させる駅のホームに背を向けて、まどかは歩き出す。
 決して揺るしようのない決意を胸に、心優しき魔法少女はここに起ち上がった。
 全ては誰かを守る為に/自分自身の欲望の為に。
 
 
【一日目-日中】
【D-7/秋葉原駅】

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】白
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜3
【思考・状況】
基本:この手で誰かを守る為、魔法少女として戦う。
1.まずは誰かと合流、力の無い参加者ならば保護したい。
2.マミさんがもし他の魔法少女を殺すと云うなら、戦う事になるかも知れない……
3.ほむらちゃんやさやかちゃんとも、もう一度会いたいな……
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、ほむらに願いを託し、死亡した直後です。
※まどかの欲望は「自分自身の力で誰かを守る事」で刺激されると思われます。

177 ◆MiRaiTlHUI:2011/11/19(土) 09:56:09 ID:XXrchMjs0
投下終了です。
サブタイトルは「いつかは今じゃないだろ」でお願いします。
ちなみに漫画「おりこ☆マギカ」ではこの台詞でマミさん立ち直ります。
それでは、何か指摘点など御座いましたら今回もよろしくお願いします。

178名無しさん:2011/11/19(土) 11:52:25 ID:YVOE/WJsO
投下乙です。おい智樹、ゆまは今泣いているんだ!自分の名言を欲望の為に使われて泣いているんだ!・・・いやまあらしいっちゃらしいんだけどもw

まどかは魔法少女とした死んだ直後か。そういや10話からの参戦って珍しいな、大体のロワは最終ループ中からだし。

179名無しさん:2011/11/19(土) 12:02:44 ID:IQPGIaiY0
投下乙です!

>>料理!!
DCSェ……!初回オチとはある意味さすがだよお前は
次話のジェイクもそうだけど、カオスは有数のマーダーとして今後が期待だな

>>飽食者の顎
前話とは打って変わってそらおと勢がピンチな話だな。ジェイク様も安定してるなぁ
ニンフはこのまま南に行くとメズールとニアピンかな。遭遇するのか、はたまた方向転換か別キャラと会うのか……

>>いつかは今じゃないだろ
智樹……お前は本当にブレない男だよ……っ!! エロさ的な意味でも、アツさ的な意味でも
マミさんにその手の欲望をガチでぶつけた奴って……作中ではお前ぐらいだよ
それにしてもホント運が良いな智樹は。欲望増幅アイテムとベストパートナーをゲットとは……一方的搾取だが!
しかしマミ・まどかが過去編からの出典って何気に初めて? どうなるか楽しみだな

180名無しさん:2011/11/19(土) 15:24:40 ID:fcIoZeLA0
>>179
いや、確かマミさんは全開ロワで一周目から出てたはず

181名無しさん:2011/11/19(土) 15:50:55 ID:xZwBotC.0
カオス外伝のマミさんもたしか三週目死亡後からの参戦だったはず

182名無しさん:2011/11/19(土) 16:04:46 ID:IjMTUkZc0
投下乙です

エロ路線を変えずに、それでいて一人の女の子を救うとは…
確かにマミさんはおっぱい大きいけどロワでその欲望をぶつけたのはお前だけだわw
同じハーレム系の男キャラの一夏に比べてなんて好条件なんだろう…w
そしてまどかはその時期からか。戦闘要員としてはおkで乗ってはいないが…どうなるんだろう…

183名無しさん:2011/11/19(土) 16:33:24 ID:YVOE/WJsO
というかマミさんに限って言えば過去からのが多い、ような?他四人だと珍しいけど。

184名無しさん:2011/11/19(土) 17:43:33 ID:lPWIpZpo0
現時点で死んだのは5人
はたして多いのか少ないのか・・・

185名無しさん:2011/11/19(土) 17:43:46 ID:McuOHgcY0
10話から出すのは裏技みたいなところがあるからな
議論で禁止になってるところもあったはず

186名無しさん:2011/11/19(土) 17:53:23 ID:IjMTUkZc0
>>185
放送まで行くまで判らん
この参加者数なら10人前後で普通
それ以上で多めかな

187名無しさん:2011/11/19(土) 18:07:31 ID:IjMTUkZc0
あ、>>184の間違いw;

188名無しさん:2011/11/19(土) 18:48:28 ID:iT5tr2k20
投下乙です!
智樹は実に智樹らしいな! エロいけど、かっこいい……
最近そらおとを読み始めたから、どんどん魅了されそうだw

そしてまどかはどうなるだろう……マミさんは安定してるけど。

189名無しさん:2011/11/19(土) 20:18:44 ID:lPWIpZpo0
エロかっこいいって言葉はこういうときに使うんですね
遅れたけど乙です

190名無しさん:2011/11/19(土) 22:02:34 ID:sfwQTDko0
智樹と一夏は同じハーレム系男主人公の筈なのに何なんだこの差はw
智樹と一夏の対比は死亡者名鑑か用語集あたりでも触れて欲しいなw

191名無しさん:2011/11/19(土) 22:31:18 ID:IQPGIaiY0
>>190
よしきた任せろ

192名無しさん:2011/11/20(日) 12:23:04 ID:NfyAsIhg0
>>190
鈍いか鈍くないかだと思う

193名無しさん:2011/11/20(日) 12:45:22 ID:VwfrA.pg0
いや、両方ニブニブだと思うが…
単にリア充爆発しろと、男としてどこか共感出来るキャラの差だろう
智樹は男子生徒には崇拝?されてるし
友達はいないみたいだけど

194名無しさん:2011/11/20(日) 14:50:11 ID:NfyAsIhg0
現在マーダーと対主催どっちが有利だろうか

195名無しさん:2011/11/20(日) 14:55:34 ID:BZy4o4OE0
さすがにまだ全員登場してないから判らん

196名無しさん:2011/11/20(日) 21:41:41 ID:jRl4Ke1w0
このロワのマーダーは量よりも質ってイメージがあるな

197名無しさん:2011/11/20(日) 22:07:28 ID:NfyAsIhg0
浅倉やダグバがいたらもっとすごい事になってただろうな

198名無しさん:2011/11/20(日) 22:51:19 ID:qsTiqM0g0
まどかさん3周目ってワルプルさんに勝ってなかったっけ?
小説や設定本で詳細がでたのかな。

199名無しさん:2011/11/20(日) 23:53:07 ID:1ZM0xmgoO
>>197
その二人は既に他で好き勝手暴れてますしw

>>198
今手元の小説版読んだら「撃退した」だそうな。相討ち気味に倒したか追い払ったか、そのどちらとも取れるし要は解釈次第?

200名無しさん:2011/11/21(月) 03:19:39 ID:JbSYeB1c0
まどかがワルプルを一撃で撃破したのは確かニ週目だったかな?
三週目はワルプル戦の描写はとくに無かったと思うけど、あれは撃退してたのか。
もし作者さんがこれ見てたなら、収録分の「負けた」って下りを「撃退した」に変えた方が間違いはないんだろうけど、まあ結果は変わらないし正直どっちでもいいかな

201 ◆lx1Zn8He52:2011/11/22(火) 10:58:54 ID:nm8kgaBIO
ガメル投下します

202A New Hero. A New Legend. ◆lx1Zn8He52:2011/11/22(火) 11:01:09 ID:nm8kgaBIO
散らかり荒らされたホテルの一室で、愚鈍なメダルの大男――ガメルは頭を抱えていた
「…よめない」

この会場でグリードだけに与えらる特権 詳細資料を眺めながら呟く
その資料には、このゲームの細かいルールや、参加者の情報が記載されており、ゲームを有利に進める為には必要不可欠なアイテムだ
しかし、彼はそこに記されている事が理解出来ずに頭を掻く 彼はゲーム開始前、会場に到着したら資料を見て一人で行動する様に言われたが、何をすれば良いのか解らなかった

「メズール」
何時も側で優しく語り掛けてくるグリードの名を呼ぶが返事は無い
「メズール、どこ?」
不安になり 机やベッドもひっくり返したが姿は無い
「メズール…」
暫く程探し部屋には、いないと気付き 散らかった床に腰を下ろし今に至る

言われた通りに資料とにらめっこしたが、読めない事に気付きガメルはリュックに戻し 別の物を取り出す

「カッコいい!」

出てきた物――ヒーロー達のブロマイドを眺め少年の様に無邪気にはしゃぐ

「すごく、カッコいい!」
先程の不安は何処に行ったのか ガメルは立ち上がり笑う
そして感昂ったのか、もう一つの支給品を掲げ叫ぶ
「オレも、なる!!」

それは勇気の具現 一人の男が命と誇りを捨ててまで自らの夢を掴もうと戦った証
汚れ無き純白 美しき仮初めの器 罪深い誘惑の導 それを装着し変身は完了した
その戦士を人はこう呼ぶ 天駆けるパンツ――マスク・ド・パンツ、と

203A New Hero. A New Legend. ◆lx1Zn8He52:2011/11/22(火) 11:02:13 ID:nm8kgaBIO

【一日目-日中】
【C-8/ホテルの一室】
【ガメル@仮面ライダーOOO】
【所属】白
【状態】健康、人間体、マスク・ド・パンツに変身中
【首輪】105枚:0枚
【装備】マスク・ド・パンツのマスク@そらのおとしもの
【道具】ヒーロー達のブロマイド@TIGER&BUNNYランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:やりたいこと、やる
1.オレ、カッコいい!
2.メズール、どこ?
【備考】
※参加時期は後の書き手さんに任せます
※ゲームのルールをよく理解してません

204 ◆lx1Zn8He52:2011/11/22(火) 11:02:48 ID:nm8kgaBIO
以上です

205名無しさん:2011/11/22(火) 12:53:38 ID:hWdISS..0
投下乙です

ガメル、おまwww

206名無しさん:2011/11/22(火) 16:14:38 ID:ii2l2JPw0
投下乙です
確かにガメルなら理解できなくても仕方ないよなw
てか、そんなのに変身してる時に誰かと出会ったらえらいことになりそうだw

207 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/23(水) 01:38:44 ID:dMWTcoKE0
投下乙です
ガメルwお前がなっているのはヒーローじゃなくてただの変態だww

では、自分も投下を開始します

208【財】たからのやま ◆qp1M9UH9gw:2011/11/23(水) 01:42:29 ID:dMWTcoKE0


「……凄い……凄すぎるよ……!」

市街地で一人感極まっているのは、「仮面ライダーディエンド」こと海東大樹である。
彼の手には、一枚の緑色のコインが握られていた。
最早説明は不要だろう――この殺し合いで重要な役割を果たすアイテム「コアメダル」の一つである。
九つの世界のどれにも属さない、未知の道具を手に入れた彼の高揚感と言ったら、それは凄いものだった。
新しい玩具を買ってもらった子供の様に目を光らせ、口元は笑みを隠しきれずにいる。
この様子からして、彼が如何に「お宝」に執着しているかが理解できるだろう。

「本当に僕はツいてる……ここはお宝の山じゃないか!」

支給品には、メダル以外にも彼がまだ見た事のないような「お宝」があった。
自分に支給された品だけでこれだ――この地にはきっと、まだ自分の見た事のない数多くの「お宝」が集まっているに違いない。
例えば、先程首を刎ねられてしまった少女が使用した機動兵器らしきもの。
一瞬にして装着を完了させたそれは、「仮面ライダー」の変身システムに近いものを感じた。
少女を止めようとした、あるいは彼女の名を呼んだ数名は間違いなく彼女の関係者。
彼女の「お宝」に近いもの――もしくは「お宝」そのものを所持している可能性が高いだろう。
あの貴重な財宝を、何としてでも手に入れたい。
それこそディエンドの力を利用してでも、彼女らの手からあの「お宝」を盗んでみせたかった。

勿論、海東にとっては欲しい物はそれ一つだけではない。
今この手にあるコアメダルも、そしてまだ存在するであろう「お宝」も、一つ残らず独占するのが彼の目標である。
それは、主催者である真木が所持しているであろう物も例外ではない。
これだけ大規模な誘拐を行い、なおかつここまで広大な土地を所有しているのなら、
きっとそれ相当の「お宝」を彼は隠し持っているに違いない。
貴重な「お宝」を一気に手に入れられる、千載一遇のチャンスだ。
ありとあらゆる手段を駆使してでも、全てのお宝を手に入れなければならないだろう。

しかし、やるべき事を終えた後は、どうやって脱出すればいいのだろうか。
当然と言えば当然だが、海東の世界を渡る能力は、今の所封印されてしまっている。
首輪を解除しようにも、そんな都合良く行くとは到底思えない。
仮に解除できたとしても、その頃には何かしらの形で先手を打たれるのがオチだ。
やはり一番手っ取り早いのは「自陣営の勝利」――つまり、殺し合いに乗る事だろう。
この地には士を始めとする世界を旅する者も連れて来られているようだが、彼らとはそれ程友好な関係にあるわけではない。
決心をするには、時間はかからなかった。
今、海東の首輪のランプに灯っている光は、白熱電球の発する光とほとんど同じ色――つまりは「白」である。
これはつまり、他の白陣営の者と協力して他の色の陣営の者を滅ぼせという意味だ。
まずは同じ色の参加者、あるいは他陣営でも自分の目的の為に利用できそうな者と接触を図るべきだろう。

209【財】たからのやま ◆qp1M9UH9gw:2011/11/23(水) 01:47:30 ID:dMWTcoKE0
と、その時。
海東の目が、上空を移動する青色の物体を捉えた。
遠くてはっきりとした姿は確認できないが、あれはもしや、海東がホールで見たあの機動兵器ではないか?
そうと分かった時には、既に海東は次の行動に身を移していた。
近くに置かれてあった自動販売機に、セルメダルを一枚だけ投入。
するとどうだろうか――瞬く間にそれは変形していき、やがてバイクの姿を形取ったではないか。
これこそ、鴻上ファウンデーションが開発した開発した特殊バイク「ライドベンダー」である。

「これがライドベンダー……これも中々だけど、やはりあれには及ばないね」

光悦とした表情で海東が見据えるのは、さながら鷹の如く空を滑空する青い機体。
決めた。まずはあれを記念すべき最初の「お宝」として頂こう。
いきなり大物に出会えた――これから出会う「お宝」に心を躍らせながら、"怪盗"はバイクのアクセルを踏んだ。


――海東大樹の欲望は「物欲」。

――この世に手にするべき財宝がある限り、彼の欲望(メダル)は積み上がっていく。


【一日目―日中】
【E−6/市街地】

【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【所属】白陣営
【状態】健康、ライドベンダーに乗車中
【首輪】所持メダル「99」(増加中):貯蓄メダル「0」
【コア】クワガタ:1
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:この会場にある全てのお宝を手に入れて、この殺し合いに勝利する。
 1:空を飛ぶ「お宝」(IS)の元に行き、それを手に入れる。
 2:他陣営の参加者を減らしつつ、彼らが持っているであろう「お宝」も入手する。
 3:いずれ真木の「お宝」も奪う。
※「555の世界」編終了後からの参戦
※ディエンドライバーに付属されたカードは今の所不明
※セシリアの目的地に向かって移動します。

210 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/23(水) 01:48:58 ID:dMWTcoKE0
投下終了です。
シャルは諸事情により予約から外しました。申し訳ない。

211名無しさん:2011/11/23(水) 16:06:46 ID:wyyKnAfY0
投下乙です
お宝大好きな奴だけどストレートに乗っちゃったか
殺人込みで異世界の『お宝』を狙う彼の眼に入ったのはセシリアか
ああ、続きが気になるなあ

212名無しさん:2011/11/23(水) 17:30:46 ID:6TKkTCewO
投下乙です。参戦時期が早い事もあってあっさり乗ったなぁ。
ところでISってライダーで言うと555のライダーズギアが近いか? 使い手を選ぶ強化装甲って事で。

213EMIYA/zero:2011/11/23(水) 22:30:11 ID:8yhOVq5w0
両氏とも投下乙です。
私もこれより、衛宮切嗣、間桐雁夜、バーサーカー、アストレア、Xを投下します。

214 ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:31:31 ID:8yhOVq5w0
名前、失敗しましたw 今度変えます。

215エアリアルオーバードライブ ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:33:21 ID:8yhOVq5w0



 ガシャン、と。硬い鎧の音が響く。

 そこは、まさに戦場跡だった。
 周囲には所々火の手が上がっており、大桜と呼ばれた大樹も既に倒木している。
 ここで戦闘があったのは明白だ。だが、そこまで激しい戦いがあったにもかかわらず、死体はどこにも見当たらない。

 それも当然。この戦いで敗れた者は人ではなかった。
 その者の名は“剣崎一真”。
 「ジョーカー」と呼ばれる醜悪な怪人であり、同時に、
 「ブレイド」と呼ばれる仮面ライダーの一人だった。
 彼は戦い、そして敗れ、カードとして封印された。


 ガシャン、と。硬い鎧の音が響く。

 だがそれは、黒い騎士にとっては何の意味も持たない事実だった。
 狂戦士と成り果てた彼にとって意味がある事は、ただ一つの目的だけだ。
 それを果たすために、新たなる武具と、斃すべき標的を求めて歩みを進めた時。


「お前、何やってんだよ」


 探し求めるまでもなく、新たな獲物が現れた。
 それが誰であるかも、それが何であるかも、一切関係がない。

「██▅▅▅▅▅▅▅████████▀▀▀▀▀█████▃▃▃▅▅▅ッ!!」

 狂戦士はただ、眼前の敵を粉砕するだけだ。
 地の底から響いたような雄叫びを上げ、突進しつつ道中で武器を拾う。
 そして浸食させた魔力により疑似的な宝具と成った武器――先ほども使った竹竿を、獲物へと向けて槍の様に突き出す。

「うおっ! た、竹竿!?」

 それを青年は紙一重で躱し、驚異的な身体能力で距離を取る。
 僅かに遅れて振り抜かれた竹竿の薙ぎ払いが、空気を破裂させた。

「くそっ! お前もかよ! お前もこんな殺し合いに乗っちまったのかよ!!」

 その微塵の躊躇いもない殺意を前にして、相対した青年「織斑一夏」もまた、応じるように己が武器を構えた。


        ○ ○ ○


 薬室解放、露出した薬莢のリムに指先を引っ掛けて外へと弾き出し、返す手で薬室内に二発目の弾薬を滑り込ませて、即座に銃身を跳ね上げ薬室閉鎖――

「……また一段と衰えたな」
 所要時間は二秒を超えている。コンマ一秒を争う殺し合いで、この隙はあまりにも致命的だ。
 いかなる“魔術”か、『この世全ての悪』によって呪われ、衰弱しきっていた肉体は聖杯戦争当時のものと何ら変わりない状態へと回復している。
 されど完全に戦いから離れざるを得なかった五年というブランクは、『魔術師殺し』と恐れられた衛宮切嗣の技術を錆びさせるには、十分すぎる時間だったのだ。

 そしてそれ以上に――――重い。

 自身の体の一部であるかのような錯覚を覚える程に馴染んだ、『魔術師殺し』という呼び名を象徴する魔術礼装。
 幾人もの人間の命を奪ってきたソレが、この上なく重く感じられたのだ。

 なぜならそれは、この魔術礼装は『魔術師殺し』の象徴であると同時に、衛宮切嗣の『理想』の象徴でもあったからだ。
 衛宮切嗣と共に在り続けた、聖杯という奇跡に縋る程に追い求め、そして砕け散った夢の残滓。

216エアリアルオーバードライブ ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:34:07 ID:8yhOVq5w0
 それを手にしているという事が、酷く重いのだ。

「けど、だからと言って捨てるつもりはないさ。これは僕が背負わなければならない業だ」

 折れた剣を打ち直すように。
 砕け散った夢であっても、モザイク画のように繋ぎ合わせて。
 息子の士郎に誇れるような、立派な夢を織り上げるのだ。

 それが何もかもを失った衛宮切嗣の、新しい目標(ユメ)だった。

「だから僕は、こんな殺し合いは認めない」
 真木清人が何を望んでいるかは分からないが、碌なものでない事は確かだろう。
 故に、この殺し合いを根本から破綻させ、人々を救ってみせる。
 それこそがきっと、今自分に出来る『正義の味方』の在り方だろう。


 そう決意した切嗣のもとに、一つの人影が現れた。

「誰だ!」

 思わずその人影にそう叫んだが、気付かない内にここまで近づかれていた事実に、切嗣は自身の衰えを一掃実感した。
 なにしろ相手は、気配を一切隠していなかったのだから。

「くっ………」

 自身の緩み切っていた意識に歯噛みする。
 現在の自身の武装はコンテンダー一丁及び“起源弾”十発のみ。
 コンテンダーは単発式の大型拳銃で、正面からの戦いには向かない。
 “起源弾”も物理的な破壊力は十分にあるが、魔的効果の方に真価があり、加えて補充は効かない。
 ハッキリ言って戦いに赴けるような武装状態ではない。
 故に接触するのであれば、十分に相手の情報を掴んでからでなければいけなかったのだ。

 交戦は絶対に避けなければならない。
 相手が殺し合いに乗っていれば、“固有時制御”を使ってでも即座に離脱する。
 そう覚悟し、相手の出方を待っていると。
 相手はバタンと倒れ、グウゥ〜と、どこかで聞いた様な音が鳴った。

「はい?」

 思わず呆けた返事を返してしまう。
 今のは明らかに腹の虫が鳴ったのだろう。
 人影はうつ伏せに倒れたまま動く気配はない。
 一歩一歩慎重に近づき、改めて倒れたままの人影を観察する。

 髪は金髪で非常に長い。
 服装はちょっと見ないような奇抜な格好をしている。
 それに何より、背中から一対の大きな翼が生えている。

「これは………天使、なのか?」

 おとぎ話に出てくる神様の遣い。
 それが目の前の少女に対する第一印象であり、

「お腹……へった………」

 それが目の前の少女の放った第一声だった。


        ○ ○ ○


 擦れ合う鋼が、バチバチと火花を散らす。
 バーサーカーと「織斑一夏」の戦いは現状、互角と言ってよかった。
 単純な戦闘技術で言えば、バーサーカーに圧倒的に分がある。
 一つの時代に己が肉体のみで戦場を駆け、英雄にまで至った騎士と、いかに才能があれど、齢二十にも満たない青年とでは比べるべくもない。

 だがその圧倒的な差を埋めているのが、「織斑一夏」の操る『IS(インフィニット・ストラトス)』と呼ばれるパワードスーツだった。
 両者を互角の戦いへと至らしめているのは、戦闘領域の差。

217エアリアルオーバードライブ ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:34:35 ID:8yhOVq5w0
 基本的に地上でしか戦えないバーサーカーに対し、空中戦を主体とするISはバーサーカーに容易な攻め手を許さなかったのだ。

 だがそれは、「織斑一夏」の勝機を意味するものではなかった。

「くそっ、これじゃ埒が明かねぇ」

 空中でホバリングしながら、眼下の狂戦士を見やる。
 鎧に隠れた敵の眼はしっかりとこちらを捕捉しており、自身を逃す気がないことを明らかに示していた。
 故に倒すとまではいかなくても、相手の行動に支障が出る程度のダメージを与えなければどうすることも出来ないのだが、バーサーカーはこちらが攻めに回れば堅固な鉄壁と成り、守りを固めればその驚異的な身体能力で怒涛の攻めを見せてきた。
 結果として、バーサーカーに与えれたダメージは無く、こちらは相手の攻撃を凌ぐのがやっとという状況になっていた。
 それに何より――――

(白式が――重い………!)

 織斑一夏がIS学園に入学して以降、ずっと共に闘い続けてきた相棒が、いかなる理由からか「織斑一夏」の操縦に応えきれていないのだ。
 それはギリギリの攻めや守りを行った時ほど顕著になり、白式はその度に何かを確認するようにシステムチェックに入り、そのラグによって次の行動が一手遅れるありさまと成っていた。

(このままじゃ負ける)

 バーサーカーの攻撃は刃を交える度にその精度を上げていく。
 こちらの攻めに慣れ、対応し始めているのだ。
 このままではいず自分の方が痛手を受けてしまう。

「やるしか……ない―――!」

 獲物を定めた鷹のように、全スラスターを展開する。
 これから行われるのは、逆転させる為の一か八かの賭けだ。
 これが失敗すれば、「織斑一夏」の敗北は決定される。

 バーサーカーもそれを悟ったのだろう。
 黒い魔力に浸食された竹竿を、槍のように構える。

「行くぞ――――くらええぇぇぇええッッッ!!!」

 全スラスターによる急加速。それによる超高速の突進。
 時地面への激突を避けるために、弧を描いて飛翔する。

 それ応じるように、バーサーカーも突撃する。
 タイミングは完璧。全速力を出す「織斑一夏」に回避する術はもはやなく、迎撃するしか手立てはない。

 傾き始める運命の天秤。
 大気を切り裂いて振るわれる逆転の一撃。
 空気の壁を突破して突き出される必殺の一撃。
 どちらもまともに受ければ、命の保証はない。

 その刹那の中、「織斑一夏」はそこに己が命運を賭けた。

 振り抜かれる袈裟掛けの一刀。
 突き出される必中の一刺。
 それらは相手の命を奪うために疾走し、

 その前に、凌ぎを削る一撃そのものと激突した。


 ――――これは偶然などではなかった。
 これこそが「織斑一夏」が賭けた、逆転の一手だった。

 「織斑一夏」が疑問に思っていた事は白式の不調だけではなかった。
 バーサーカーが操る竹竿、その異常な強度をこそ疑問視していた。
 ただのステンレスの棒が、高い硬度を誇る“雪片弐型”と打ち合える筈がないと。

 そこで着目したのが、竹竿に蜘蛛の巣状に浮かび上がっている黒い筋だ。
 ただのステンレスの竹竿は、あれによって強化されているのではないかと推測したのだ。

218エアリアルオーバードライブ ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:35:11 ID:8yhOVq5w0
 もしそうであるならば、それを無効化することが出来れば、竹竿は破損しバーサーカーに武器はなくなる。
 そしてそれを可能とする方法はある。

 “零落白夜”
 白式の単一仕様能力。雪片弐型を通して対象のエネルギー全てを消滅させる必勝の一撃。
 それを用いれば、竹竿になされた強化も無効化できるかもしれない。

 だが竹竿の強化が黒い筋によるものでなかった場合、無駄撃ちに終わる上に、推測通りであったとしても、ISに依らないエネルギーを無効化出来るとは限らない。
 それに何より、“零落白夜”はエネルギーを食い過ぎる。乱発は出来ないのだ。

 だがあのままでは敗北すると悟った「織斑一夏」は、“零落白夜”に己が命運を賭けた。
 そしてその結果は――――


 振り抜かれる袈裟掛けの一刀。突き出される必中の一刺。
 それらは相手の命を奪うために疾走し、その前に、凌ぎを削る一撃そのものと激突する、
 直前。
 雪片弐型が変形し、エネルギーの刃を形成した。

 そうして竹竿と激突した雪片弐型は、竹竿を竹割りに切り裂き、完膚なきまでに破壊した。
 元々魔力にも効果があったのか、それともこの殺し合いに呼ばれたが故か、それは定かではない。
 一つ確かなのは、白式の“零落白夜”は、竹竿に浸食していた魔力を消滅させた、という事だ。

 どちらにせよ、「織斑一夏」はその賭けに勝ったのだ。
 バーサーカーは即座に竹竿を捨て、紙一重でその一撃を回避したため、倒すことこそ出来なかったものの、それでも天秤は「織斑一夏」へと傾いた。

 筈だった――――


「オオオオオオオッッッ!!!」

 今を勝機と、「織斑一夏」が疾風怒濤と攻め抜く。
 武器を失くしたバーサーカーに攻撃の手立てはなく、「織斑一夏」の躱すしか成す術はない。

 バーサーカーの攻撃を気にする必要のなくなった「織斑一夏」は、一切の加減なくバーサーカーへと攻撃する。
 それにより炎が燃え広がる草原は、地面を抉られ土を空へと巻き上げられる。

 その中に、置き去りにされていたデイバックが混じっていた。

 それを視認したバーサーカーは即座にデイバックへと駆け寄り、その中身を巻き散らかした。
 武器を求めての行動だろうが、巻き散らかされた支給品には銃器も長物もなかった。
 そしてその行動の隙を「織斑一夏」が逃すはずもなく。

「止めだぁァァアアッ!!」

 必殺の意思を持って一撃した。
 その武器のない彼には防ぎようのない一撃は、しかし。

「なっ!?」

 その手に握られた、一振りの剣によって防がれた。
 だがその剣は、彼の宝具ではない。

 ―――実のところ、バーサーカーにとって「織斑一夏」の猛攻は脅威となっていなかった。

 たとえ竹竿を破壊されても、彼自身の剣を使えばよかった。
 彼がそうしなかったのは、魔力、あるいはメダルの無駄でしかなかったからだ。
 剣がなくとも対処できる以上、代用品を探した方が効率が良かったのだ。

 そうしてバーサーカーは、ある意味において彼自身の剣以上の武器を手に入れた。
 その宝具の名を“王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)”。
 第四次聖杯戦争にてアーチャーとして召喚された英雄王が所有した、この世の総ての財を貯蔵した至高の宝物庫。

219エアリアルオーバードライブ ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:35:46 ID:8yhOVq5w0
 バーサーカーはその倉の内より剣を取り出し、「織斑一夏」の一撃を防いだのだ。


 その事実を把握できない「織斑一夏」は、思わず驚愕に身を固めてしまった。
 その致命的な隙に、バーサーカーは「織斑一夏」を白式ごと打ち上げ、続く一撃で地面へと叩きつける。

「ガァッ!」

 衝撃でわずかにメダルが飛び散る。
 致命的な一撃こそ辛うじて防いだが、ダメージは大きい。
 肉体的にも、精神的にも。
 必殺の意思で放った一撃は必殺たり得ず、むしろより強力な武器を与えてしまったのだから。

 だが、バーサーカーの攻撃はこれで終わりではなかった。

「▆▆██████▀▀▀▀▀▀▀▀███▇▇▇▃▃██████▂▂▂▂▂▂ッ!!」

 雄叫びと共にバーサーカーの背後の空間に歪みが生じ――次の瞬間、無数の剣が、槍が、斧が、鎚が、まばゆい刃を煌めかせて出現した。

「ヅッ――――!!」

 体勢を立て直すのも惜しいとばかりに、スラスターを全開にして、地面を削りながらもその場から離脱する。
 直後。数多の武器が咆哮を上げて放たれた。

 放たれた無数の刃は「織斑一夏」によって抉られた大地をより深く抉り、爆散させる。
 だがそれにより舞い上がった土煙りを煙幕にして、「織斑一夏」は刃の豪雨を凌ぎきった。
 躱し切れなかった刃が白式の機体を損傷させているが、辛うじて致命ではない。

 飛行機雲のように土煙りの後を残し、宙へとより高く飛翔する。
 完全にとは言えないが、ここならばまだ安全なはずだ。
 バーサーカーにはもう勝てない。今の内に逃げる術を考えるべきだ。
 そう考えた「織斑一夏」の思惑は、しかし。

 三度開かれた門の内より出でたモノを目の当たりにして、決死の覚悟をしなければならないと確信した。
 宝物庫より現れた黄金に輝く“船”、『ヴィマーナ』によって。

「ちくしょう……!」

 悪態をつく暇もあればこそ、バーサーカーへと雪片弐型を構える。
 メダルを回収しつつもヴィマーナへと乗船したバーサーカーもまた門を開き、剣を弾丸として装填する。


 闘いは続く。これより先は、僅かなミスが死を招く決死行。
 「織斑一夏」が生き残るためには、バーサーカーを倒すしかない。


        ○ ○ ○


「いっただっきま〜す!」

 そう言って少女は、ガツガツと基本支給品の一つである弁当をかきこむ。
 いっそ気持ちが良いその食べっぷりに、思わず微笑ましくなってしまう。
 そんな風に少女――アストレアを見つめながら、切嗣は先ほどの事を思い出していた。



「お腹……へった………」

 その一言から、切嗣は思わず――少なくとも表面上は――少女への警戒心を解いた。
 少なくとも、いきなり襲われる可能性は低いだろうと判断したのだ。

 そこで切嗣は、基本支給品の中に、一食分だけ弁当があった事を思い出した。
 一食分しかないのは、後はこの会場から自分で調達しろ、という事なのだろう。

220エアリアルオーバードライブ ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:36:40 ID:8yhOVq5w0

 それはともかく、その一食分をどうするかと考えた。
 自分の場合は、戦場ではロクに食べ物が手に入らない事などザラなので、一食抜くくらい平気だ。
 だがそれを少女に上げるメリットは何かを考える。

 ―――考えるまでもない。情報だ。
 キメラや吸血鬼は数多く見てきたし、殺してもきたが、真木清人の説明の場で見た怪人や殺された少女の操った機械。眼前の少女のような存在は見た事がなかった。
 ならば、もしそれらと協力する必要性や、敵対する可能性が出来た時、より効率的に動くためにも事前知識は必須だ。

 そこまで考え、切嗣は弁当を餌に少女と交渉することを決めた。
 決めたのなら行動は迅速に。警戒心を煽らないようごく自然に少女へと歩み寄る。
 途中、念のために魔術回路を待機状態にする事も忘れない。

「お嬢さん、ちょっと良いかな?」
「はえ〜?」
「もしよかったら、僕の弁当を君に譲ろうか?」
「え、本当!?」
「ああ、本当さ。その代わりに、色々と教えて欲しい事があるんだけど、良いかな?」
「いいわよ。だからはやくお弁当ちょうだい!」

 交渉成立。
 即答で要求が受け入れられたことに、思わず切嗣の方が戸惑った。

「い、いいのかい? 僕と君は、どうやら違う陣営みたいだけど」
「へ〜、そうなんだ。けどそんなのどうでもいいし、それよりお弁当!」
「どうでもいい……事なのか? それは」
「だって私バカだから、難しい事よくわかんないし。あの、どくたー……だっけ? あいつの言ったこともチンプンカンプンだったもん。だったら私は、自分で決めた事をするだけよ。
 それはともかくお弁当ちょうだい!」
「自分で決めた事を―――か。よし、わかった。君を信じよう。
 でもお弁当は、情報を教えてくれたあとでね」
「そんな〜! 早くお弁当食べたい〜〜〜!!」

 その言葉から少女への警戒をほぼ完全に解いた切嗣は、根掘り葉掘り少女へと質問を投げかけるのだった。
 少女の悲鳴のようなお願を軽やかに無視しながら。



「ごちそうさまでした!」

 アストレアから聞き出した情報を整理していた切嗣は、少女の言葉に意識を戻す。
 空になった弁当箱には、米粒一つ残っていない。
 そこでふとある事に思い至った。

「そう言えばアストレア、君にも支給品があるはずだろう。その中に弁当はなかったのかい?」
「あったわよ」
「それじゃあどうしてお腹を空かせてたんだ?」
「ああそれはね。いざ食べようと思ってバックから取り出したら」
「取り出したら?」
「…………こけて、地面に落しちゃって」
「あ、ああ……そうなんだ」

 満腹で幸せそうだった様子とは一転。一気にズーンと暗い影を背負う。
 その様子に聞かなきゃ良かったと後悔しつつ、半ば無理やりに話題を変える。

「それじゃあ今後の予定だけど。アストレア、君はどうするつもりなんだ?」
「そうねえ。お弁当くれた恩もあるし、智樹達と合流するまではアンタに協力してあげる」
「本当かい? まあ僕としては助かるけど」

 アストレアがエンジェロイドと呼ばれる戦闘兵器である事は既に聞いてある。
 その力がどれほどのものかは知らないが、おそらく今の自分よりは戦えるだろう。

「それじゃあ早速だけど。
 まず最初にするべき事は情報収集だ。情報の不足している今の状況だと、それこそ何も出来ないからね。
 そこでだ。まずはこの会場を調査する。地図で大まかな形はわかっているけど、闘いで地の利を得るためには、より詳細な情報が必要だ。
 だからまず、会場の外縁部を調べようと思う。何か質問は?」
「はい! なにがなんだかさっぱりわかりません!」
「あ……そう。じゃあ自分達が今いる場所がどういう場所なのか、一体何が在るのかを調べるとだけでも覚えておいてくれ」
「はい、わかりました!」
(心配だなあ………)

 アストレアの様子に、今後が心配になりつつも話を続ける。

221エアリアルオーバードライブ ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:37:20 ID:8yhOVq5w0

「僕たちが今いるのは【E-3】にある公園で、ここから一番近い外縁部があるエリアは、【E-1】か、移動速度も考えればその下の三つのエリアか。ここからの方角は………あっちかか」

 そう言いながら周囲を見渡し、地図と照合し大体の方角を合わせる。
 その途中で切嗣の真似をしながら周囲を見渡していたアストレアが、あるものを見つけた。

「ねえねえ切嗣。あれ、なにかな?」
「あれは……煙? 何かが燃えているのか?」

 アストレアが指を指す方向を見れば、家屋で水楽はあるが、僅かに煙が見えた。
 煙が上がっているという事は何かが燃えているという事で、何かが燃えているという事は燃やした誰かがいるということだ。
 切嗣は少しだけ何かを考え、

「場所は【D-2】か【E-2】だな。よし、今からあそこへ向かう」
「ラジャー!」

 アストレアの返事に地図をデイバックへと仕舞い、煙が見えた場所へと歩き出す。


 ―――燃やした誰かがいるという事は、そこで戦闘があった可能性があるということだ。
 そのことを切嗣は重々承知していた。
 万全を期すならあの煙を囮に、集まってきた参加者の情報を得るべきだ。
 だが今回、切嗣はそれを行うつもりはなかった。

 戦っているのが殺し合いに乗った者同士なら問題はない。
 だがそうでなければ、この殺し合いに立ち向かう者が死んでしまう可能性がある。
 それを見過ごすことはできない、と息子に約束した『正義の味方』という夢を胸に、そう思った。


        ○ ○ ○


 空中戦へと移った白い騎士と黒い騎士の戦い。
 それは、白式を操る「織斑一夏」の不利という形で進んでいた。
 空中という、自身の操る“船”以外に足場がない状況だからか、バーサーカーは“王の財宝”による射撃攻撃しかして来ない。
 それは「織斑一夏」に幾分かの余裕を与え、その命を長らえさせていた。

 だが、バーサーカーが射撃攻撃しか行わないように、「織斑一夏」もまた、バーサーカーの攻撃を躱すことしか出来ないでいた。
 なぜなら「織斑一夏」の操る白式には、遠距離攻撃が可能な武装が一切備わってないからだ。

 つまりバーサーカーを攻撃するには“王の財宝”による絨毯爆撃を潜り抜けて接近し、その上でバーサーカーと剣を交える必要があるのだ。
 普段の白式の性能と織斑一夏の技量を持ち合わせていた時ならいざ知らず、不調をきたしている今の白式にはそこまでの性能は望めない。

 しかし、それ以外に手立てがないのも揺るぎない事実だった。
 故に「織斑一夏」は、降り注ぐ“剣軍”を躱しながら、その時が来るのを待ち続けていた。


 そしてその戦況を、【E-2】に位置する大桜に最も近い林から、使い魔を通じて視ていた男がいた。

「はは、いいぞ殺せ。邪魔するヤツはみんな殺してしまえ!」

 名を間桐雁夜。
 聖杯戦争を作り上げたマキリの魔術師であり、同時にバーサーカーのマスターである男だ。

 彼はバーサーカーの圧倒的優位を前に、この殺し合いにおける自身の勝利を半ば確信していた。
 先の怪物に変わった黄金の戦士との戦いや、今行われている闘いを鑑みて、バーサーカーに敵う者などいないと確信したのだ。

 それだけではなく、いかなる理由からか先ほどからどれだけバーサーカーが暴れようと、自身の魔力は少しも使われていないのだ。
 それはつまり、バーサーカーの暴走による自滅がないという事。
 その最大の懸念事項が取り払われた今、雁夜に恐れるモノは何もなかった。

「俺は負けない。俺は生き残って見せる。
 生き残って時臣の野郎を這い蹲らせてやる! そして、桜を――――」

 雁夜の感情に呼応してか、彼の存在を知らぬバーサーカーもより昂っていく。
 それを証明するように、使い魔を通じて見える戦況も最終局面へと移っていった。

222エアリアルオーバードライブ ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:38:08 ID:8yhOVq5w0



 放たれた剣弾を掻い潜り、躱しきれない物は弾き飛ばす。
 そうやってバーサーカーの猛攻を凌いで、どれだけの時間が立っただろう。
 白式のエネルギーも残り僅かとなり、このままでは負けると顔に焦りが浮かび出した、その時、遂にバーサーカーが動いた。

 逃げ回る白式を追い続けるだけだった“船”が、更なる上空へと舵を取った。
 それはさながら黄金の彗星のように、天上で美しい弧を描き、闘いを終わらせんと「織斑一夏」へ向けて加速する。

 それを目の当たりにし、「織斑一夏」もまた、これが最後の攻防になるのだと確信した。
 そしてそれこそが、待ち望んだ最後の好機なのだと理解した。
 故に、剣の雨を放ちながら、大地へと加速する“船”へと挑む様に、自身もまた、“船”へと向けて上昇加速する。
 剣弾を掻い潜った先にいるバーサーカーに、限界まで加速の付いたカウンターによる一撃を与える為に。
 その一撃ならば、バーサーカーでさえも受けきれない筈だと信じて。

「オオオオオオォォォォォオオオ――――ッッッ!!!!」

 数多の武器が、白式の機体を掠め、削り飛ばしていく。
 一つでも避け損なえば十分な加速は得られず、まともに受ければ必死の一撃を紙一重で擦れ違っていく。

 大気に焦がされ欠けていく流れ星のよう。
 刹那に消えるそれは、「織斑一夏」の未来を暗示しているかのようであった。

 五十メートル、四十メートル、三十メートルと、秒単位で急激に接近する両者。
 その中で、接触の瞬間に合わせ雪片弐型を構え、最後の剣弾と擦れ違う。
 そして甲板にいる筈のバーサーカーに向けて剣を振りかぶり。

「――――なッ!?」

 バーサーカーの姿が、ない。
 擦れ違う“船”の甲板には、誰の姿もなかった。
 “船”はそのまま落下を続け、地面へと激突し大破する。
 そして「織斑一夏」は剣を振るうべき相手を見失い、思わず失速した。
 まさにそのタイミングを狙ったように、頭上から咆哮が響く。

 やられた、などと思う間もない。
 速度は失い、タイミングも崩された。
 対するバーサーカーは身の丈を大きく超える剣を手に、十分な荷重を得ている。

「グッ、ウオオオォォォオ―――ッッ!!!」

 振り下ろされる大剣を、渾身の力で迎撃する。
 速度を失った白式の機体は、その威力により先ほどとは逆に地面へと降下を始める。

「こんのおオォォォオオ―――ッッッ!!」

 その最中、火事場の馬鹿力か、それともバーサーカーの方は自由落下に近く、十分な力を乗せる事が出来なかったからか、遂にバーサーカーの大剣を弾き飛ばす。
 これが最後のチャンスと、バーサーカーが新たな剣を取る前に、返す一刀にスラスターの加速も加え、不可避の一撃を振り抜く。

 足場もなく、剣を抜く間もないバーサーカーに防ぐ術はない。
 もはや覆せぬ死の運命。

 ―――されど、それ運命を凌駕するのが英雄だ。

 振り抜かれた刃は、バーサーカーの体を切り裂く事は出来なかった。
 堪える為の足場のない空中で、振り抜いた刀の勢いのままに白式が回転を続ける。
 「織斑一夏」の勝利を確約した筈の一撃は、バーサーカーの両の掌で挟み取って止められていた。

 自身の最後の一撃を白刃取りで封殺された「織斑一夏」は、その事実に驚愕していた。
 だがバーサーカーの能力を知らない彼は、バーサーカーに武器を触れられているという状況の致命的な意味を理解出来なかった。
 故に次の瞬間、「織斑一夏」は更なる驚愕を味わった。

「な、なんだ!?」

 白式から次々にエマージェンシーのコールが送られてくる。
 それに戸惑う暇すら与えず、バーサーカーは「織斑一夏」の生身の肉体に強烈な蹴りを叩き込んだ。
 同時に発動する絶対防御。操縦者を命の危険から守るそれが発動すると同時に、白式はバーサーカーの魔力に完全に掌握され、「織斑一夏」への装着を強制解除した。

「な――――――ッ!!??」

 当然「織斑一夏」の体は宙へ投げ出され、すぐに地面に墜落し転げ回った。
 バーサーカーの一撃により、地面へと接近していたのが功を奏したのだ。
 だがそれでも全身は満遍なく打ちつけられ、メダルはまたもばら撒かれ、激痛にまともに動く事が出来なかった。

「ち……くしょう……」

 痛みに耐えどうにか顔を上げる。

223エアリアルオーバードライブ ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:38:54 ID:8yhOVq5w0
 するとそこには、新たに手にした武装を身に纏う漆黒の騎士の姿があった。
 その黒き魔力がいかなる変容をもたらしたのか、白式はバーサーカーの黒い鎧をそのままに、一切の無理なく展開されていた。
 白色だったその装甲を黒色に染め変えて。

「あ…………」

 バーサーカーが、黒い雪片弐型を振り上げる。
 織斑一夏と共に在り続けた相棒が、己が主へと牙を向いた。
 その絶望的な光景を前に、「織斑一夏」は自身の死を悟った。

 だが、運命は彼を見離さなかった。

 振り下ろされる黒き刃。
 「織斑一夏」の命を奪う筈のそれは、しかし。

「てりゃああああーッ!!」

 バーサーカーを背後から急襲した、光輝く剣への迎撃に当てられた。

 不意打ちの一撃を防いだバーサーカーは即座にスラスターを展開し、警戒のために距離を取る。
 そうやって出来た「織斑一夏」とバーサーカーとの間に、一人の少女が割って入る。

「あんたは………」
「話は後で。今はコイツを何とかするのが先」
「あ、ああ、わかった」

 言うが早いか、少女は背中の翼をはためかせ飛翔し、一気にバーサーカーへと切り込む。
 応じるようにバーサーカーもスラスターを展開し、少女に向けて加速する。
 両者はぶつかり合う駒のように互いを弾き飛ばしながら、より一層高く天空へと上昇していく。

 その神話のような光景に、「織斑一夏」は身体の痛みも忘れ、ただひたすらに見惚れていた。



「くそ! あと少しの所で邪魔しやがってッ!」

 人気のない林に怒号が響き渡る。
 使い魔を通じて送られてきた映像を見て、最後の最後で妨害された事実に憤っていたのだ。

「それに一体何なんだ、あいつは。バーサーカーと互角?
 ふざけるな! なんだよそれは! あんな奴がごろごろしてるんだったら、俺に生き残る術なんてないじゃないか!」

 バーサーカーを以って勝利条件を満たし、何が何でも生き残る。
 もしバーサーカーが反旗を翻しても問題ない。いざとなれば令呪で律するだけだ、と。
 それが間桐雁夜が導き出した、生き残るための唯一の戦法だった。

 だがバーサーカーレベルか、それ以上の強さを持った参加者が何人もいれば、流石のバーサーカーと言えど消耗し、いずれは負けてしまう。
 そうなれば雁夜には生き残る術がない。自分の操る蟲如きで、サーヴァントと渡り合うような連中に敵う筈がないのだ。

 もしバーサーカーに理性があれば話は違ったかもしれない。
 だが、バーサーカーはあくまで狂戦士。自身の消耗など度外視して、力尽きるまで暴れ狂う暴走機関車だ。
 回復のための休憩や、消耗を抑える手段になど、考えが及ぶ筈がない。

「くそっ! くそっ! くそっ!
 どうする。どうやって生き伸びる。方法を。何か方法を考えろ!
 バーサーカーを令呪でコントロールする?
 バカな! 参加者は六十五人。リーダーに限定しても四人いる。令呪が足りる訳がない。
 他に協力者を探しだす?
 無理だ。こんな化け物みたいな奴を、誰が信用する!
 くそっ、一体どうすれば――――」
「そこまでだ。今すぐ奴を止めろ、バーサーカーのマスター」

 生き残るための方法を必死で考えている雁夜に、冷徹な声が放たれた。

224エアリアルオーバードライブ ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:39:35 ID:8yhOVq5w0
 咄嗟に思考を切り替え、声のした方へと振り返る。

「お前は……確か、セイバーのマスター」

 そこにいた人物は、言峰綺礼からサーヴァントのマスターであると教えられた人物。衛宮切嗣だった。
 切嗣は短剣を想わせる拳銃をこちらへと付き付けている。


 時間的に言えば、切嗣たちが煙を発見してから、実は十分と経っていない。
 ならばなぜ切嗣がこれほど早くバーサーカーの元に辿り着き、間桐雁夜を発見したか。
 その答えは単純に、アストレアが切嗣を抱いて飛行した。ただそれだけだ。

 アストレアに抱きかかえられて【D-2】の戦闘空域前まで飛行した切嗣は、流石にバーサーカーとISの激しい闘いに呆気にとられた。
 だがすぐに気を取りなおし、アストレアに支給されていたスコープ二種を双眼鏡のように扱い、火災の起きている大桜の周囲をぐるりと見渡すことで間桐雁夜を見つけた。
 そうして切嗣はアストレアにISの操縦者を助けるよう指示を出し、切嗣自身は雁夜の元に向かったのだ。


 コンテンダーを雁夜に突き付け、少しずつ油断なく足を動かす。
 ただ一つだけの武装。“起源弾”の無駄撃ちを避けるため、素手での制圧に十分な距離まで近づく。
 そうしてお互いの距離が七メートルを切った時、切嗣は感情を殺した声で最終宣告を告げた。

「もう一度だけ言うぞ。今すぐにバーサーカーを止めろ」
「ハッ、バーサーカーを止めろだって? 無理だ。あいつは俺の命令なんか聞きやしない。
 どうしてもあいつを止めたいんなら、令呪を使うしかない」
「――――――――」

 薄々予測していたとはいえ、想像通りの状況に眉を顰める。
 止める方法が令呪しかないという事は、相手に令呪を使わせるという事。
 それはつまり、同時に絶対のピンチも招くのだ。
 もし間桐雁夜が令呪を以って切嗣への攻撃を命令すれば、一瞬で転移してくるであろうバーサーカーに確実に殺される。
 流石のアストレアも、いきなり眼年から敵が消えて対処が出来る筈がない。
 何より彼女はバカだ。バーサーカーが逃げたと勘違いして安心してしまう可能性もある。

 つまり雁夜に令呪を使わせる事は出来ない。
 バーサーカーを止めるには、雁夜から令呪を奪う必要があるのだ。

「俺は、こんな所では死ねない……! 死ぬ訳には、いかないんだァッ!!
 蟲どもよ、奴を喰らい殺せェェッ!!」
「Time alter(固有時制御)――double accel(二倍速)!」

 その事を両者が認識すると同時に、ここに新た成る先端が開かれた。

225promised sign ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:41:08 ID:8yhOVq5w0


        ○ ○ ○


 特殊鋼の刀と、光子の剣が鍔競り合う。
 剣軍の掃射は超加速性能を持つアストレアには掠りもしない。
 故に戦いは、必然的に接近戦となり、お互いの剣を激しくぶつけあっていた。

 バーサーカーは右腕に雪片弐型を、左腕に魔剣を構え、アストレアへと烈火の如く攻め入る。
 対するアストレアは右手に超振動光子剣「chrysaor(クリュサオル)」を構え、左手の「aegis=L(イージス・エル)」でバーサーカーの攻撃を防ぐ。
 闘いは両者ともに一歩も譲らず、互角の様相を呈している。
 だがその天秤は少しずつ、バーサーカーへと傾いて行った。

 バーサーカーの宝具と化した白式は、尽きかけていたエネルギーを魔力によって補完され、十全以上の動きを見せる。
 それによりバーサーカーの魔力およびメダルは大きく減っていくが、“破壊衝動に任せた戦闘行動”という、己が「欲望」により増加もしていた。
 アストレアも同様に、戦闘によりメダルを消費しつつも“自分で決めた事をする”という「欲望」により増加させていたが、あくまで“決めた事”は切嗣の協力をするという事。
 バーサーカーとの闘いはそれによる結果でしかなく、「欲望」が間接的である分メダルの増加量も消費量に比べ少なかったのだ。

 結果として、アストレアは戦力ではなく持久力によって窮地に追い込まれていく。
 その事を自覚し、アストレアは闘いの早期決着を決意した。

「このっ! とっとと落ちろーッ!」

 クリュサオルにエネルギーを注ぎ、バーサーカーへと一撃する。
 そのまま攻撃を防いだバーサーカーが反撃に移る暇を与えず、連続攻撃を敢行する。

「このこのこのこのーッ!!」

 超加速を限界まで活用し、前後上下左右あらゆる方向から急襲する。
 だがバーサーカーはそれを二刀で防ぎきり、次第に反撃への糸口を掴み始める。
 そしてアストレアの軌道を完全に読み切り、クリュサオルの一撃を魔剣で迎撃した。
 その瞬間。

「どっせええええええい!!」
 クリュサオルに蓄積したエネルギーを解放。打ち合った魔剣を一刀のもとに両断した。

「もういっぱーつッッ!!」
 そのままエネルギーを全開にしたクリュサオルで、バーサーカーを雪片弐型での防御の上から切り裂く―――

「な―――んで!?」

 ―――ことが、出来なかった。
 クリュサオルはその膨大なエネルギーを消失させ、逆に雪片弐型がエネルギーの刃を形成していた。

 エネルギーの刃は即座に消え、雪片弐型は通常形態へと戻っている。
 バーサーカーはそのまま、先ほどの反撃のように激しく攻撃してくる。
 アストレアのように全方位からではなく、力任せの正面突破。
 先ほどの現象に対する困惑も含めて、その苛烈な攻撃の勢いに圧され、僅かにバランスを崩す。
 そこをバーサーカーは容赦なく攻め、雪片弐型を大きく振り上げる。

226promised sign ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:41:42 ID:8yhOVq5w0

「このッ! 負けるもんかーッ!!」

 イージス・エルを展開しその一撃を防ぐ。
 だがその瞬間だけ、雪片弐型が再びエネルギーの刃を形成し、展開されたバリアを消滅させてイージス・エル本体と接触し、アストレアを弾き飛ばす。

「く――ッ! また消された……!?
 よくわかんないけど、あの刀に触れたらエネルギーが無くなっちゃうみたい」

 一応自分の事をバカだと理解しているアストレアは、深く考える事を即座にやめ、とにかくエネルギーの刃に触れなければいいだけと結論付ける。

「―――負けないんだからっ!!」

 再びクリュサオルを構え、バーサーカーへと突撃する。
 メダルの枚数も幽玄だ。クリュサオルの無駄撃ちは出来ない。
 故にメダルが尽きる前に、必殺の一撃を確実に決められるだけの隙を作りだす。


 再び繰り広げられる剣戟。
 闘いは、剣技ではバーサーカーが上回り、速度ではアストレアが上回っている。
 白式の切り札をバーサーカーは使いこなし、自身の切り札をアストレアは封じられている。
 ヘルムに覆われたバーサーカーの表情は窺えず、アストレアの表情は焦りが浮かんでいた。

「絶対に……負けないんだからぁああああっ!!」
「███▇▇█▆▆██▀▀▀████▃▃▃▅▅━━▆▆▆█▅▅████ッ!!」

 刻一刻と減っていく時間の中で、遂に状況が動いた。
 お互いに渾身の力で一撃したその瞬間。
 バーサーカーの手から雪片弐型が、
 アストレアの手からクリュサオルが、
 それぞれの武器が宙へと弾き飛ばされた。

 そしてその瞬間―――アストレアの敗北が決定した。

 剣を回収しようと意識を逸らしたアストレアに、突如無数の武器が襲いかかったのだ。
 それによりアストレアは加速の機を失い、バーサーカーの接近を許してしまう。

 その両手には聖剣と魔剣。更には斧や鎌、曲刀といった武器がスピンして機動を変え、アストレアの背後から襲い来る。
 イージス・エルは全方位をカバーできない。
 バーサーカーの攻撃を防げば背後から迫る武器が、背後からの攻撃を防げばバーサーカーの剣が。
 それぞれが必殺の威力を以ってアストレアの命を奪う。

「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

 もはや絶体絶命のその状況に、アストレアは己が死を覚悟し、
 その命を奪うためにバーサーカーの剣が振り下ろされた、
 その時だった。

 ―――聖杯の誓約に従い、令呪を以てバーサーカーに命ず!―――

 響き渡ったその声は、バーサーカーの魂の根幹そのものに働きかける。
 いかに狂っていようと、決して聞き違えることの出来ないその声が、断固と明確に宣言する。

 ―――汝、害意を持たぬ者への一切の攻撃を禁止する!―――

 瞬間。
 アストレアへと迫っていた剣が、それを振るう腕が、それらを統治する肉体が、バーサーカーの意思に反して無理矢理に押し留められた。
 バーサーカーは令呪で告げられた命令通り、剣を失いバーサーカーへと攻撃する意志を失っていたアストレアへの攻撃を、強制的に中断させられたのだ。

 アストレアはその一瞬の活路を逃すことなく、唯一バーサーカーの意志とは関係なく迫る剣軍をイージス・エルで弾き飛ばし、素早く距離を取った。
 そしてアストレアの窮地を救った声の主を探して、船の残骸が散らばり火の手の上がっている地面へと目を向ける。

 そこには、彼女にお弁当をくれた恩人――衛宮切嗣の姿があった。

227promised sign ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:42:56 ID:8yhOVq5w0



 ―――決着は、速やかにして成った。
 もとより何十人もの魔術師を殺し続けてきた切嗣と、たった一年、それも身体を壊すほどの付け焼刃で魔術を習得しただけの雁夜とでは、勝負になどなる筈がなかったのだ。

 切嗣は雁夜の操る「翅刃虫」と呼ばれる甲虫の群れを、軍用警棒とコンテンダーの銃把(グリップ)の底で打ち落とすことで対応し、難なく雁夜を地面に這い蹲らせ拘束した。
 久しぶりの魔術行使の反動に全身が痛むが、行動に一切の支障はない。

 もはや雁夜には、どうすることも出来ない状況だ。
 それでも雁夜は未だに無駄な抵抗を続けていた。

「くそっ! 殺してやる! 殺してやるッ!!
 こんな……こんな所で死んで堪る―――ガァッ……!!」

 感情のまま叫びを血反吐とともに吐き出し、魔術行使を試みる。
 同時に体内の刻印虫が過剰に励起し、さらに肉体を壊していく。
 そうやって文字通り身を削って集めた魔力も、切嗣が取り出したスタンガンにより、強制的に中断させられ、魔術となる前に霧散した。

 だがそれでも、ここで終わる訳にはいかなかった。
 たとえ激痛に全身を苛まれようと。
 たとえ身体が醜悪に崩壊してしまおうと。
 もとより一月と持たない命。どれだけ壊れようが、目的さえ果たされるのなら構わなかった。


 成し遂げると誓ったものがあった。
 思い知らせてやると誓った奴がいた。
 絶対に救ってみせると誓った子がいた。

 その為にも、こんな所で死ぬ訳にはいかない。
 こうしている今もあの子は――桜は、間桐臓硯によって教育という名の拷問を受けているのだ。
 彼女を救うためにも、彼女にあんな顔をさせた時臣に思い知らせてやるためにも、こんな所で終わる訳にはいかないのだ。

「―――てやる……。生き残ってやる。絶対にっ、生き残ってやるッ……!」

 うわごとの様に繰り返される言葉。
 そこまでして見せる生への執着に、切嗣は単純な死への恐怖や、魔術師が見せる義務感の様なものとは違う何かを感じた。

 ―――かつての衛宮切嗣ならそこで終わっていただろう。
 容赦なく令呪を奪って雁夜を殺し、後顧の憂いを断つ。
 それが衛宮切嗣であり、それが『魔術師殺し』だった。
 だが―――

「お前はなぜそこまで生に執着する。お前は何を望んで、聖杯を求めた」

 切嗣は、知ってみようと思った。
 間桐雁夜が、聖杯に託すはずだった望みを。
 雁夜の身体を起こし、暗示と共に訪いかける。
 一人前の魔術師であればレジストなど容易なそれも、雁夜にとっては抗えぬ呪縛だ。
 まともに魔術も扱えない雁夜は、魔術に抵抗する術すらも覚束なかった。

「ぁ――――聖杯なんて……知った事か………。そんなモノ……魔術師同士で勝手に、奪い合っていればいい……」
 焦点の合わない瞳で虚空を見つめ、感情を吐露するように切嗣の問いに答える。

 そう。聖杯なんていらない。そんなモノは、俺にとっては何の価値もない物だ。
 魔術は嫌悪の対象でしかないし、そんなモノの為に人の心を踏みにじる魔術師など、憎いだけの存在だ。
 だけどあの人は……葵さんは、その典型的な魔術師を、遠坂時臣を愛した。
 だから自分から身を引いた。それで彼女が幸せになるならと諦めた。

 けどあいつは……時臣の野郎は、そんな彼女の心を踏みにじった。
 葵さんと、凛ちゃんと、桜ちゃんの、大切な絆を引き裂いた。
 間桐の家がどんな場所かも知らないで、古き盟友に頼まれたからと、父親として幸せを願ったが故だと。

228promised sign ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:43:32 ID:8yhOVq5w0
 そう言ってあの人は、泣いていた。
 そうしてあの子は、笑わなくなった。

「だから俺は……聖杯戦争に参加した……。あの子の笑顔を奪った、時臣の奴に……思い知らせてやるために………。
 聖杯を手に入れる報酬として、あの子を……桜ちゃんを………間桐の家から、解放するために…………」

 それが、間桐雁夜の望みだった。
 嫉妬もあるだろう。憎悪もあるだろう。
 だがその根幹にあるのは、大切な人を救いたいという想いだった。

「そうか……」

 口に出来たのは、それだけだった。
 誰かを救いたいという願いは、切嗣とて人一倍持っている。
 むしろ、だからこそ聖杯戦争に挑んだのだ。
 この世界から、あらゆる悲劇をなくすために。

 ―――だが考えてしまった。
 もしその時の自分が間桐雁夜の願いを知ったとして、衛宮切嗣は彼を認めたのだろうか。
 彼の望みに協力し、魔術師の家に囚われた少女を助けたのだろうか、と。

 きっと助けなかっただろう。
 むしろ敵の弱点として利用し、諸共に屠っていたに違いない。
 それほどまでに追い詰められていたのだ。衛宮切嗣という男は。

 救われぬモノは必ずある。
 全てを救うことなどできない。
 千を得ようとして五百をこぼすのなら。
 百を見捨てて、九百を生かしきる。
 それが最も優れた手段。つまり理想だと。
 そう信じて、非情に徹して、より多くの人々を救ってきた。

 だがそうして得た平和が、本当に救いとなったのだろうかと、今にして思う。
 そうやってもたらした救いで、救われた人は笑えるのだろうか、と。

 “爺さんの夢は――――”

 その言葉を思い出す。
 その時に思い出した感情を、思い出す。
 そして思った。今からでも、間に合うだろうかと。

「わかった―――桜ちゃんは、僕が救おう。だから君は、少し休め」

 気が付けば、そう口にしていた。
 だが不思議と戸惑いはなかった。
 それどころか少女を救うための算段まで既に始めていた。
 そしてその事が、嬉しいと感じられた。

「どうして……そんな」
「僕は『正義の味方』だからね。誰かが悲しんでいるのを、見過ごすことは出来ないんだ」

 自分は『正義の味方』なのだと。
 他の誰にでもなく、自分自身に誓うように口にした。
 こんな自分を『正義の味方』だと信じてくれた、自分の息子に胸を張る様に。


 その言葉は、一人誰も信用することの出来ずにいた雁夜の心にするりと入り込んだ。
 暗示による影響もあっただろう。精神が隙だらけだったのもあるだろう。
 だがそれでも雁夜は嬉しく思った。
 自分以外にも、桜ちゃんを助けようとしてくれる人がいるのだと。
 そんな人がいてくれるという事は、こんなにも―――

「そうか。ああ―――安心した」

 そうして間桐雁夜は、意識を失った。
 長い間、ずっと張り詰めていた神経が緩んだのだろう。
 その寝顔は、醜悪に歪んだモノでありながら、とても安らいだものだった。

229promised sign ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:44:17 ID:8yhOVq5w0


 雁夜の手から令呪を転写する。
 切嗣の言葉に安堵し、精神の緩んだ雁夜から令呪を摘出するのは、難しい事ではなかった。

 雁夜を近くの木にもたれ掛けさせ、周囲に軽い認識疎外を掛ける。
 彼にはまだ生きていて欲しいと思った。
 そして、彼が守ろうとした少女と一緒に笑っている所を見てみたいと願った。

 それはもはや、『魔術師殺し』としてはあり得ない選択だった。
 だからそれを誇らしく思う。
 『魔術師殺し』の衛宮切嗣は五年前にもう死んだ。
 ここにいるのは、息子に約束した『正義の味方』なのだと。



 そうして切嗣は、炎の燃え広がる大桜へと走った。
 空ではアストレアとバーサーカーが遥か上空で激戦を繰り広げている。

「これは、想像以上だな」
 アストレアの空戦能力も、バーサーカーの異常性も。
 どちらも既に切嗣の理解を超えていた。

 アストレアの高速起動は、魔力で水増しされた動体視力を以てしても、その軌跡さえ捉えられない。
 バーサーカーの戦闘技術は、あらゆる武装に精通している切嗣すら知らない様な、未知の兵器でさえ完全に使いこなしている。
 両者互角の戦いは、いつまでも決着が付かないのではと思わせた。

「しかし、どうやってバーサーカーを止める」

 今すぐ止まれと命令する?
               ―――無意味だ。その場凌ぎでは意味がない。

 自害させて危険を減らす?
               ―――確かにそれは有効だろう。だが今の状況、たとえバーサーカーであっても戦力は貴重だ。

 戦闘行動そのものを禁止する?
               ―――それでは本末転倒だ。サーヴァントは戦いこそが本分。戦闘を禁じるなら自害させた方が良い。

 つまり必要なのは、こちらへの攻撃を禁止し、かつ問題なく戦闘を可能とする命令。
 その最適な言葉を模索する。


 そうしている間に、上空の戦況は動いた。
 アストレアとバーサーカーが激突し、弾き飛ばされた光によりクリュサオルがアストレアの手から落とされたことを把握する。

「まずい……!」

 アストレアの武器はクリュサオルだけだ。
 それを取り落としたという事は、攻撃の手段をなくすという事。
 そしてその隙を、バーサーカーが見逃さないはずかない――――!

「聖杯の誓約に従い、令呪を以てバーサーカーに命ず!」

 咄嗟に令呪の使用を宣言する。だが命令はどうする。
 アストレアを救い、バーサーカーを止め、問題なく行使できる。
 それを可能とする命令は――――

「汝、害意を持たぬ者への一切の攻撃を禁止する!」

 ほとんど直感に任せた言葉だった。
 害意とはつまり、相手を傷つけようとする意志だ。
 アストレアは武器を飛ばされ、攻撃できない状況だった。
 それならば、“害意を持たぬ者”に該当し、バーサーカーを止められるのではと思ったのだ。

 命令は意図した通りに成立し、結果としてアストレアは生き延びた。

230promised sign ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:44:43 ID:8yhOVq5w0

「……ふう。とりあえずは、なんとかなった。
 こんな賭けは、二度とごめんだな」

 だが約束した『正義の味方』であり続けるのなら、これから何度もこういう事が起きるだろう。
 可能な限りそれを避けるためにも、より安定した戦力が必要だ。
 それを思うと、『正義の味方』を張り通すことに不安を覚える。
 それで本当に、人々を救う事が出来るのか、と。

 けど今は、

「ありがとうね、切嗣、おかげで助かったわ」

 彼女が無事だったことを、純粋に喜ぼう。

「いや、お礼を言われる事じゃないさ。
 今回はどうにかなったけど、最悪君を死なせていたかもしれないんだから」
「えっ、そうなの!? けど助かったんだから、深く考える必要はないんじゃない?」
「はは、そう言ってくれると、助かるよ。
 さて、それはそうと、バーサーカーをどうするか考えないとな」

 バーサーカーは今なお令呪に抵抗を続け、空中で身体を硬直させていた。
 だがようやくそれも諦めたのか、徐々に高度を地面へと降り立った。

「アイツ、もう大丈夫なの?」
「ああ、令呪で縛ったからね。バーサーカーに害意を持たない限り、あいつは僕たちを攻撃する事は出来ない」
「がいい? ってなに?」
「……つまり、こちらから攻撃しようと思わなければ、安全って事だ」
「なるほど!」
「………………」
 本当に理解したのか今一つ信用できないが、それは置いておくとする。

 バーサーカーは武装を解除してよく知る鎧姿に戻ると、こちらに向かって歩いてくる。
 それにアストレアは思わず身構えるが、バーサーカーが剣を構える様子はない。
 ある程度の距離まで近づき、立ち止まった行動を見て、ひとまず安心する。
 令呪で縛ったからだろう、一応はマスターと認めてくれたようだ。
 と言っても所詮はバーサーカー。令呪がなければ、すぐに牙をむくに違いない。

 バーサーカーへの残り令呪は二画。
 一つは最終手段の自害用として、もう一つは慎重に使わなければならない。
 この戦いでアストレアもメダルを大量に消費した事だろう。その補充手段も考える必要がある。

「そういえば、君の前にバーサーカーと戦っていた彼はどこに?」
「あれ? そう言えば居ないね。どこに行ったんだろう?」
「…………まさか!」

 背筋が粟立つとともに、死神の笑い声がした。
 それは、幾度となく人の死を見届けてきたが故の、ある種の直感の様なものだった。
 それが今、奴らの勝ち誇った“歓喜”を感じとっていた。

「アストレア、ついて来てくれ!」
「えっ!? なに!? いきなりどうしたの!?」

 アストレアの戸惑う声をよそに、全速力で走りだす。
 すでに間にあわないと、手遅れだと心のどこかで観念している。
 けどそれを受け入れる事は、諦める事は出来なかった。


「雁夜!」
 息を切らし、肩を揺らしてその場所に辿り着く。
 認識疎外の魔術を掛けた、間桐雁夜が眠っている図のその場所には、誰もいなかった。
 赤色に彩られたそこにあるのは、撒き散らされたメダルと、放置された支給品と首輪と、一際赤い“箱”だけだった。

 ただ一つ異様な“箱”は、切嗣にとって、この上なく見慣れた色をしていた。
 それがどういう意味を持つのか、考えるまでもなく理解した。

「………………………………くそっ!」

 地面に膝をつき、拳を叩きつける。
 湧き上がる後悔を押し殺すように、強く歯を噛み締める。

231promised sign ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:45:10 ID:8yhOVq5w0
 証拠はない。確証もない。ただの直感でしかない。
 しかしそれが厳然たる事実だった。

 衛宮切嗣が『正義の味方』として再起し、初めて行った行動は、
 凶悪な殺人鬼を助け、一人の人間を死なせただけだったのだと――――

「……切嗣、あの…………」

 僅かに遅れてやってきたアストレアが声をかけ、何も言えずに押し黙る。
 ここに誰がいたかはわからない。けれど、周囲の状況からここで何があったのかは判る。
 そしてだからこそ、かける言葉が見つからなかった。
 ありきたりな慰めは、時としてその人を、より惨めにするだけだ。
 今の彼に、何も知らない自分が、一体何を言えるのだ、と。
 そう思って、何も言えなくなった。

 そんな彼女に、切嗣の方から声をかけた。

「アストレア。メダルは君が回収しろ」
「切嗣?」
「僕は………諦めないぞ………」

 そうだ。世界が非情だなんて、そんな事、とっくの昔に解っていた。
 だからかつての衛宮切嗣は、それ以上に非情になる事を武器にして、自分の理想を貫こうとしたのだ。
 けどそれでは、一番大事なものが守れなかった。

 だから、こんな事で諦める事は出来ない。
 多くを守るために必要なのが非情になることであっても、大切な物を守るためには非情になってはいけないのだ。
 そんな正義では、何もかもを失うだけだったのだから。

「諦めてなんか、やらない。何度だって挑戦してやる!」

 絶対に諦める事はない。
 交わした約束を、無為にすることだけはしない。
 かつて夢に見た『正義の味方』として、人々を、人々の笑顔を救ってみせる。

 何度失敗してしまっても。
 たとえこれが、より多くを救うためにより多くを殺してきた切嗣への、婉曲な罰だったとしても。

「改めて約束するよ、間桐雁夜。
 君が救おうとした桜ちゃんは―――僕が救ってみせる。
 だから君は、安らかに眠ってくれ」

 かつて間桐雁夜と呼ばれた人間だった、赤い“箱”へと手を触れてそう誓う。

「そのためにも、まずはこの殺し合いを終わらせる。
 だからアストレア、改めてお願いする。―――頼む、僕に力を貸してくれ」

 きっと、今まで以上に厳しく苦しい道のりになるだろう。
 第四次聖杯戦争から五年。桜がまだ生きているかはわからない。
 この殺し合いが終わった時に、自分がいつの時代に戻るのかわからない。
 そもそもこの殺し合いで、生き残れるかもわからない。

 それでも『正義の味方』を貫くのなら、誰かの協力は必須だ。
 アストレアの背後に、幽鬼のように佇むバーサーカーのような“道具”じゃない。
 力を合わせ、共に困難を打破する本当の“仲間”が。

「うん、いいわよ。私の力を貸してあげる」

 そしてアストレアも、同様に誓った。
 自分は衛宮切嗣の事を何も知らない。
 何を望んで、何をしたいのかもわからない。

 けど、この人の力になろうと思った。
 誰かのために悲しむことの出来る、この人の助けになろうと。

 だってそれは、桜井智樹も一緒だったから。
 智樹もまた、自分以外の誰かのために頑張ろうとする人だったから。

 だから私は、衛宮切嗣の力になろうと決めた。

232promised sign ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:45:42 ID:8yhOVq5w0

「そうか―――ありがとう」
「切嗣、改めてこれからよろしくね」
「ああ、こちらこそ」

 お互いの手を、握手するように握る。
 今度こそ人々を助けると誓った。
 この人の力になると誓った。

 その、約束の印のように。


【一日目-正午】
【E-2/林】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(小)
【首輪】110枚:0枚
【装備】トンプソンセンター・コンテンダー@Fate/Zero、起源弾×12@Fate/Zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】基本支給品(弁当なし)、スコープセット@Fate/Zero、首輪(間桐雁夜)、ランダム支給品2〜6(切嗣+雁夜:切嗣の方には武器系はない)
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
1.まずは情報を集める。そのために会場の外縁部に行く。
2.1が完了したら、あるいは併行して“仲間”となる人物を探す。
3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
4.バーサーカーの動向に気をつける。
5.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
6.謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
7.セイバーと出会ったら……?
8.間桐雁夜への約束で、この殺し合いが終わったら桜ちゃんを助けにいく。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※バーサーカー用の令呪:残り二画
※セイバー用の令呪があるかどうかは後続の書き手さんにお任せします。


【アストレア@そらのおとしもの】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】145枚:0枚数
【装備】超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品(弁当なし)
【思考・状況】
基本:自分で決めた事をする。
1.衛宮切嗣に協力する。
2.知り合いと合流(桜井智樹優先)。
3.バーサーカーの動向に気をつける。
4.謎の少年(織斑一夏に変身中のX)を警戒する。
【備考】
※参加時期は48話終了後です。


【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤陣営
【状態】ダメージ(小)、魔力消費(小)、狂化
【首輪】95枚:0枚
【装備】白式@インフィニット・ストラトス、王の財宝@Fate/zero
【道具】アロンダイト@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:▅▆▆▆▅▆▇▇▇▂▅▅▆▇▇▅▆▆▅!!
2.令呪により、一応マスター(衛宮切嗣)に従う。
【備考】
※参加者を無差別的に襲撃します。
 但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます。
※令呪による呪縛を受けました。下記は、その内容です。
 ・害意を持たぬ者への一切の攻撃を禁止する。
※ヴィマーナ(王の財宝)が大破しました。

233promised sign ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:46:19 ID:8yhOVq5w0


【軍用警棒@現実】
アストレアに支給。
警棒・トンファーの2種類の使い分けが出来る特殊警棒。
これで殴られると結構痛い。

【スタンガン@現実】
アストレアに支給。
普通のスタンガン。一般人程度なら痺れさせることが出来る。
改造すると非常に危険。

【スコープセット@Fate/Zero】
アストレアに支給。
AN/PVS04暗視スコープとスペクターIR熱感知スコープ、およびそれらを同時に使用できる特製スコープマウントの三点セット。
 全部合わせると結構重い。

【王の財宝@Fate/Zero】
剣崎一真に支給。
アーチャーのサーヴァント・英雄王ギルガメッシュの宝具。
中にはこの世の全ての財宝や宝具、その原典が収められている。
ただし、“乖離剣エア”と“天の鎖”は入ってない。



        ○ ○ ○


「へえ〜。見た事もない虫が混じってる。こんなボロボロで、よく今まで生きて来られたよね」

 手元の赤い“箱”を持ち上げ、太陽の光で透かすように覗き見る。
 だからと言って中身が透けた訳ではないが、彼には何か見えたのだろう。

「それにしても、ここには面白い人がいっぱいいるんだね。ネウロに会うまでの楽しみが増えたよ」

 例えば黒い騎士。
 人間観察に並みならぬ自信がある彼の観察眼を以てしても、あの騎士の表層すら窺い知ることは出来なかった。
 そんな事は初めてで、つい中身を見てみようと奮闘してみたが全く叶わなかった。
 戦闘に特化しているらしい分だけ、ネウロよりずっと強かった。

 例えば翼の生えた少女。
 まるで神話に出で来る天使のようで、魔人らしいネウロと並んで中身を見てみたい人物第二位に堂々のランクインを果たした。
 彼女がいなければ今頃、死にはしないまでも大ダメージを受けていた事は間違いないだろう。
 黒い騎士と互角に戦えていた事から、自分では敵わないくらいに強いだろう。けど彼女なら不意を付けば中身を見る事もできそうだ。バカそうだし。

「それにしても、ちょっと勿体なかったなぁ。
 ちょっと扱いにくかったけど、アレがあれば正体を隠したまま戦えたんだけど」

 あの白式というパワードスーツがどういったものかは知らないけど、あれを作った人はすごい天才だろう。
 なにしろ制限されているとはいえ、自分の擬態を見破りかけていたのだ。
 ちょっと擬態中の人間の限界を超えれば、すぐに本物かどうか調べてくる。
 その度にバレない様に擬態し直すのは苦労したものだ。
 殺す前に聞こえた声から、正義漢の強い少年を演出したつもりだったけど、どうも違ったみたいだし。

「まあ機会があったら、似たようなものを探すのも良いかもね。
 「織斑一夏」の知り合いを探せば、一人くらいは持っている人もいるだろうし」

 そう言って「織斑一夏」―――否、怪物強盗X.iは、赤い“箱”を地面に置いた。
 そうして散らばったメダルを回収しようとして。

234promised sign ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:47:59 ID:8yhOVq5w0

「おっと、もう気付いたんだ。意外と速かったなぁ。
 ん〜〜………、言い訳するのも面倒だし、あの少女もいるみたいだからここは逃げるとしよう。メダルや支給品はこんなに早く気付いたご褒美だ。
 それじゃあ機会があったらまた会おうね。―――その時は『俺』に気付くかな?」

 そう言うやいなや、驚異的な身体能力で林から森、さらに林、と、木々の間を駆け抜ける。
 真に驚嘆に値するのは、その間まったくの無音だった事だろう。


 これからも彼は、赤い“箱”を作り続ける。
 自分の中身を知る、その時まで――――


【間桐雁夜@Fate/zero 死亡】

【一日目-正午】
【E-2/健康ランド前】

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】健康、織斑一夏の姿に変身中
【首輪】145枚:0枚
【装備】なし
【道具】“箱”の部品@魔人探偵脳噛ネウロ×29ランダム支給品2〜6(X+一夏)
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい。
1.ネウロに会いたい。
2.バーサーカーやアストレア(両者とも名前は知らない)にとても興味がある。
3.IS及びその製作者にちょっと興味。
4.殺し合いに興味は無い。
【備考】
※本編22話後より参加 。
※能力の制限に気付きました。
※細胞が変異し続けています。
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます。


【“箱”の部品@魔人探偵脳噛ネウロ】
怪盗Xが作成する、人間の中身の詰まった“箱”を作るための部品。
肝心の中身は現地で蒐集してください。


【全体の備考】
※【D-2/大桜跡地】にヴィマーナ(王の財宝)の残骸、基本支給品一式×2、不明支給品0〜3、ラウズカード(ジョーカー)が放置されています。
※発生した火災が、戦闘の影響でさらに燃え広がりました。

235 ◆8lLw8xiLaY:2011/11/23(水) 22:50:46 ID:8yhOVq5w0
以上で投下を終了します。
何かご意見や、修正すべき点などがありましたらお願いします。

236名無しさん:2011/11/23(水) 22:55:24 ID:M8IVpW4A0
投下乙です!
雁夜おじさん……ああ、死んでしまったか。でも死ぬ前に切嗣に願いを託せて良かったね!
そしてバーサーカー、切嗣の力となってくれるか!? マスターの無念を晴らしてくれ!

237名無しさん:2011/11/23(水) 23:19:03 ID:6TKkTCewO
投下乙です。ああ、やっぱり擬態程度じゃ機械の目はごまかせなかったか。
おじさんは南無・・・とはいえバサカの装備がやたら充実してるし、敵討ちも遠くはないか?

238名無しさん:2011/11/23(水) 23:27:06 ID:gvW6gQ0cO
投下乙
おじたん…
切嗣が別の意味でセイバーと仲良くできる絵が見えないww
そしてアストレアかわいいよアストレア
あと王の財宝を先に取られたのが悔しい(笑)

239名無しさん:2011/11/23(水) 23:56:01 ID:ZjF7v28E0
投下乙です
超強力マーダーがさっそく無力化とはwww
装備も豊富だしこの先どう生きてくるのか楽しみだ

240名無しさん:2011/11/24(木) 01:39:28 ID:7cyOFOLs0
投下乙です

切嗣が綺麗すぎるw セイバーと出会った時が楽しみだw
しかもアストレアと一緒とかいいなあw
そしてバーサーカが彼の手元か…
でも危険人物は他にもいるしなあ…

241 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:09:06 ID:obOClsB20
期限を超過しまして申し訳ありませんでした
ただいまより投下させていただきます

242 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:13:42 ID:obOClsB20
 瞬きする間に一変した景色に、ネイサン・シーモア――ファイヤーエンブレムは肩にのし掛かる疲れを感じて長々とため息をついた。
黙して大地を睥睨するお天道様は、彼の暗澹とした気分を照らしあげるスポットライトに他ならず、心持ちはより深く沈んでいく。

 ただでさえ巷を騒がせるジェイク・マルチネスの事件に頭を痛め、″キングオブヒーロー″スカイハイやロックバイソンを破ったくだんの男に怒りの炎をめらめらと燃やしていたところへ、追い討ちのようなこの始末である。
 あの暗いドームに気付けば居たことを考えれば、なんらかのネクスト能力による誘拐と考えるのが妥当だろう。大規模な誘拐に理由のない殺戮……犯罪を憎むファイヤーエンブレムの性根を源にしているとはいえ、
ヒーロー活動の本分は己の会社の宣伝、そしてその本分をさしおけるほど彼個人の怒りを誘う下劣な犯罪が続くとは、これは一体どうしたことか。

「……全くもう!」

 鼻をひとつ鳴らす。ヒーローにあるまじき行為と自覚しながらも、苛立ち紛れに指先から放った炎は狙い通りに街路樹を消し炭に変えた。
わかり切っていたがちっとも紛れない気分と、脳裏を過った″メダルが減った″という不可解な感覚に、今度は「糞ったれが!」と赤いヒーロースーツに包まれた足を縁石に叩きつけたファイヤーエンブレムなのだった。



 乙男(オトメン)にあるまじき歪んだ形相のまま縁石に腰掛け、彼はデイバッグを開けた。ルールブックを取りだして綴じられてある名簿のページを開き、名前をチェックする。
正体の掴めないあの空間を共にしたであろう彼らの名がずらりと並ぶ紙片は何も言わないままだ。
 しばらく続いた見ず知らずの他人の名の背を指でなぞり、そして見つけた知己の名に指を止める。
焦燥、怒りや苛立ち、それらが混じり合って込み上げる感情に焼かれて強張っていたファイヤーエンブレムの表情が、知らず知らずに緩んでいった。

「やっぱりアンタはそういう人間よねぇ……見直しちゃったワ」

 鏑木・T・虎徹。ワイルドタイガー。力のあるヒーローすらが恐れてしまったあの一瞬においてなお、啖呵を切ってみせる無謀な正義――名簿の向こうに不敵に笑う冴えない中年を幻視したような気がして、
ファイヤーエンブレムはその名を指先で弾く。「アンタのこと、手伝わなくちゃねぇ」と小さく漏らして、白魚のよう、とはその色で正反対をいく指と、映えるネイルが再び動き始めた。

 知人の名が続く。バーナビー・ブルックスJr。タイガーと共に飛び出さなかったのはおそらく彼お得意の合理的な判断だ。ハンサムらしい、とファイヤーエンブレムはくすりと笑った。
だが彼にもヒーローの魂は確かに宿っているだろう。訳のわからないこの場所で頼もしい仲間になってくれるのは間違いない。
 カリーナ・ライル。ブルーローズ。多感な乙女にはさぞや辛い光景だったはずだ……。
 彼女への心配に続いて鎮静していた怒りが鎌首をもたげる。殺された――おそらくブルーローズと同年代の――少女らにもブルーローズのように想う相手があったろう。
そんな彼女らを、無限の未来を持つ彼女らの命を絶っていい道理はない。義憤の炎が全身を駆け抜け、指先に宿った熱が名簿を焦がすようなイメージと共に、それを握る手により一層の力を与えた。真木と名乗るあの男は、必ずこの手で捕まえてみせる。

 続いて並ぶのは自分の名前だった。アルファベット順でも、ヒーローランキングの順でもないその名前の並び――そもそもその並びならば、この知らない人間たちもみなヒーローでなければおかしい――に違和感を覚えつつ、彼の下に並ぶ名に目を走らせる。そしてそれを見つけた。
 文字を視線がなぞる。首を傾げて目をしばたかせ、一音ずつ胸中で発声し、そしてようやく意を得たその名に、ファイヤーエンブレムは思わず「なんで!?」と叫ぶ自分を堪えきれずに驚きのあまり腰を浮かした。

243 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:18:23 ID:obOClsB20
 名を連ねる男。それこそがファイヤーエンブレムの、否、ヒーロー達の悩みのタネ。シュテルンビルトに災禍と混乱を招き、市民を恐怖に戦かせる渦中の人物。
ジェイク・マルチネスその人だ。

 目を剥いて口をすぼめ、中腰のまま間抜け面を曝すファイヤーエンブレム。はっと辺りを見回して醜態の観客がないことに肩を撫で下ろした彼は、名簿を見なおし、間抜けな読み間違いなどではないことに眉をひそめて嘆息した。

 ジェイク・マルチネス。
 ネクスト能力者を神に選ばれた者として、一般人を害するために街全体を人質にとり、シュテルンビルト市民を恐怖のどん底に叩き込んだ凶悪な脱獄犯……。
 その名がヒーローと共に並んでいることに疑問はある。が、反面、これが「シュテルンビルトのヒーロー関係者」が集められているのであれば納得できると、ファイヤーエンブレムは皺が寄りきった額に、さらに深い断層を刻み付けた。

 ジェイクの下にある名前はユーリ・ペトロフ。ヒーローが正義のお題目を掲げて侵す器物破損の裁判を担当する裁判官の名だ。ファイヤーエンブレムによるさきの街路樹への放火も、おそらく彼の世話になることだろうが、今はいい。
 その彼の名の下からまた見覚えのない名前が並んでいるところからして、ファイヤーエンブレムは自身の推測の確実性に、何度目になるかわからないため息を漏らした。

 肩に積もる重しは一向に減らない。それどころか着実に増えていっている。鋼鉄の真綿で首を絞められているような思いもするというものだった。おのが炎で綿を断ち切りたいところだが、相手が相手だ。
実体がなく、そのくせ質量すらを感じさせるその心労を焼き落とすまで、さて如何程の時間が必要なのか。ファイヤーエンブレムには見当もつかなかった。



「……ま、いつまでもこうしてる訳にもいかないわネ」

 影の角度も変わらない内に、彼は尻を払って立ち上がった。ルールブックと一緒に綴じられた地図と名簿をデイバックに放り込み伸びを一つ。

「ともかく歩いて誰かと会って、ここがどこだか確認して……当面はそんなトコかしら」

 地図にはシュテルンビルトとされる場所が記されていた。それに嘘がなければ、ここは我らが庇護下にあるあの街のどこかなのだろう、と歩を進めつつ彼はぼんやり思う。
 街にさえゆければ助けを呼べるし、間違いなく状況は打開できる。もっともそれは真木が何も策を用いておらず、街の人間と素直に連絡を取ることができれば、の話であるが。

 懸念は他にもある。まず根本的な「地図に記された市街の形状がおかしい」ということ。彼の知る限りシュテルンビルトは記された円形の部分の先にも街が広がっているはずだ。
次に、風都タワーやIS学園なる、シュテルンビルト近辺にあるなどと聞いた覚えもない建造物がいくつもあること。タワーはともかく、地図によるとシュテルンビルト並みの敷地を誇る学園が記憶に残っていなかった、というのはおかしな話だろう。そして、

「まるい大地の向こうにはなにがあるのかしら」

 最後がこれだ。
 まさか太古の人間が想像した、象やら亀やらに支えられる世界よろしく、切り立った崖と流れ落ちるに任せた海が広がっている訳でもあるまい。
ならばなぜ、地図の大地の端はこうも円を描いているのか。殺し合いとやらにどのような意図があるのかは知らないが、地図を偽るメリットは
――確認してしまえば露見するが故に――まずないはずだ。そうして、ならばなぜ、とこの疑問へと立ち返る訳だった。

 とはいえ、何を考えるにせよ現在地すらわからないままでは始まらない。行きましょうか、と独り言ち、ファイヤーエンブレムはその足跡を気勢の炎で焼き付けながら、ゆっくりと歩き出した。

 ――そして、それを耳にした。
 耳をつんざくような悲鳴。この世にあまたある悲しみと絶望、全てをないまぜにしたような、或いはそれら全てを超越するかのような、深い深い慟哭――。

 ファイヤーエンブレムは、シュテルンビルトを守るヒーローである。
 仕事柄、悲鳴を聞き慣れてしまっている彼は、だからこそそれが放たれることをよしとしない。露ほどに迷うこともなく、マントを翻し彼は走りだした。
 愛の炎に身を焦がして生きる、“情熱の象徴”。
 ファイヤーエンブレムは、シュテルンビルトを守るヒーローである――。

  OOO  OOO   OOO

244 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:23:53 ID:obOClsB20
 瞬きする間に一変した景色に、凰鈴音はさして混乱することなく冷静な対応をとった。「来なさい、《甲龍》」と、光の彼方に在る忠実な僕を、その仮の姿たるブレスレットの煌めきと共に顕現させたのだ。

 華奢とは呼べないがそれでも小さい、適度に引き締まった体躯を燐光と刺々しく無骨なシルエットが覆い隠す。操縦者を守るには到底足らないような金属の外骨格が虚空から次々と顔をだし装着されていくその光景は、騎士が甲冑を纏う際のそれによく似ていた。
 だが甲冑という、外より来る悪意の槍を阻みその内におのが貌を押しつつんで隠す鋼鉄の武具が、頼りなげに立つ乙女に相応しい、などとは口が裂けても言うまい。

 ――前述の通り、これは衝動的な行動ではない。
 気づかぬうちに見晴らしのいいところに立っていたとはいえ狙撃への警戒なんて大袈裟な、と鈴音自身も思わないでもなかったが、そこは軍事兵器の駆り手、国家代表候補生だ。
訓練により染み付いた危機回避動作として、その機能や機動性によって現代兵器のほとんどを鉄屑同然とするISを起動させることは、指針がないうちのとりあえずの行動として妥当といえるだろう。
一切が不明の現状では他に取りうることがない、衝動が入り交じる隙間のない適切すぎる行動だ。

 なにしろここは非現実的に未知で不条理かつ無意味な、「殺し合い」の現場なのだから。何を想定しようとその斜め上をいく事態に発展することを危惧しなければならず、そして感情に駆られていては勤まらない。
 だから例えば、さっきまで笑いあっていて、妬みはすれども嫌いになるなんてできない大切な友人が、いなくなるなんて「想定」もしていなかった彼女が、その命を無為に散らしたりするような。
そんな理不尽が起きても、鳳鈴音は冷静でいなければならない――。

 装着を完了し、その存在を確かめるように掌を二度三度と開閉する鈴音の仕草はまるで、寄る辺なく独り立ち尽くす迷子のそれだ。《甲龍》の各種センサーに感はなく、寒々しいビル風が無愛想な鎧と奏でる風切り音だけが知覚される。
平静に勤めようと荒れる胸中と熱のない外界との温度差に、まるで世界には自分ただひとりしかいないような錯覚に陥って、鈴音は身震いを堪えきれなかった。



 鈴音は市街地のただ中に″飛ばされ″ていた。
 飛ばされた、などと平時ならば理解しようのない感覚だったが、それ以外に形容する方法も見当たらない。そう考えて、言葉遊びはどうでもいいと鈴音はかぶりを振った。起きたことだけが真実だ。原理も不明な現象に頭を捻るくらいなら考えるべきは他にもある。

 まず、おそらくこの場での生命線となるだろうISの不調について。

「ハイパーセンサーの感度が低い。それに遠くが見えないわね……」

 国家間の軍事バランスを著しく崩すため、厳しく制限された無許可のIS発動である。その制限を定めた条約をどこ吹く風と呼び出された《甲龍》をチェックする鈴音はそう呟いた。
空間に投影されたモニターを高速でスクロールする情報に目を通す傍ら、機能を実働させて得た情報である。
 近距離を伺う分にはさほど支障がないとはいえ望遠の機能に制限がかけられている感覚補助機能では、おそらく超遠距離からの偵察行動は不可能だろう。
真木の言うところの「超常の力」であるISに掛けられた制限は、決して小さくなかった。

「それにエネルギーだって」

 渋面をいっぱいに広げて呟く。次にしておそらく最も大きな問題がこれだ。
 本来ISに内臓されているエネルギーは、インターフェースによれば残量ゼロ。シールドを貼るどころか機動すらままならないはずの機体状況であるのに、ハイパーセンサーは張り巡らされ量子化された武装を呼び出すことも思うがまま。
《甲龍》は事も無げに戦闘用パワードスーツとしての本懐を果たしている。とはいえ、エネルギー効率の問題もISを発展させるため避けては通れない道であるから、その問題を一足飛びして動力なく動ける道理はない。
故に代替エネルギーがあるというのだが、これもまたずいぶんな問題だった。

245 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:27:46 ID:obOClsB20
「……ISのエネルギーがこんなメダルで代用できるなんて、どういうことなのよ」

 鈴音は手のひらの上ににび色のメダルが三つほど並べて指で弄ぶ。現れろ、と念じれば、首輪より滲み出るようにして現れたそれがどういったものであるか、ISを動かしていると確かに“理解”できた。
不気味なことに、エネルギーを必要とする挙動をとればとるほど、残エネルギーの表示がなくとも“メダルが減っている”と認知できてしまうのだ。
 とはいえ、誰知らぬうちに無人ISなるトンチキ兵器が開発されているような、″隣の人は何する人ぞ″を地でゆく世界である。ISのエネルギーがメダル状に固定されて、
おまけにそれを体内に保持できる技術がどこぞで確立されていようと、もしかしたら驚く話ではないのかも知れない。
それなら全部に辻褄があうなんにも問題はない……そんな訳ないでしょなんなのバカなの、なんて喚きたくなる気分を頭を振って散らし鈴は、「これも考えても仕方ないか」と大きくため息をついた。

「……あーもー! 頭脳労働はあたしの仕事じゃないっつの。次いくわよ、次!」

 虚勢を張った大声を聞くものも、それを看破するものもいない街の中、鈴音はただ一人叫ぶ。



 現在地は何の変哲もないオフィス街だった。地図に記された建造物はないことから正確な場所は特定できない。
 この場にいる鈴音の知人は五人。うち四人は専用ISを持ち、一人は鈴音が心配するのも烏滸がましいほどの人物だ。安全という観点で彼女の仲間に懸念材料はない。みんなは大丈夫。「死んだりしない」。

 ――黒い長髪をポニーテールに纏め、芯の強い瞳をした少女が脳裏を過り、冷静を装おうと足掻く鈴音を嘲笑うかのように心を粟立たせた。
 はねあがる心拍数に耐えかね、息を詰めて瞑目する。込み上げる名状しがたい思いを呑み込んで、鈴音は大きく息をついた。剥げ落ちかけた虚勢の上着をひと際強く身体によせて、うわごとのように呟く。

「……落ち着け。今はいい、今はいいから……」

 浅く鋭い呼気を繰り返して拳を握りしめる。

「全部、首輪外してこっから出てIS直して、それで『みんな』と会って。それからだ。それから……」

 あの眼鏡の男を、鳳鈴音は――。

 決してただ冷たいだけの、戦うためだけの甲冑などではないはずのISは、今の彼女にしてみれば銃一挺となにも変わらない。ただ真木を撃ち抜けさえすればいい、単なる殺意を伝播する媒体だ。
 鈴音は小さく身動ぎした。光沢のある機体が鈍くチラチラと光を反射し、見るものの目にはぜんどうしたかのように映る。まるでそれは彼女を呑み込んだ鋼鉄の化物であるかのようだった。

 ――そして、それをハイパーセンサーが捉えた。
 どうすればこんな風に叫べるのか想像するのもおぞましい、全ての痛みと憂いを一身にうけたかのような絶叫。底の見えない絶望の叫喚――。

 繰り返させてはならないと。それしか考えられなかった。
 爆発的に膨れ上がったスラスターの炎が地面を叩く。エネルギーがどうのなど知ったことではない、全速の機動。
 鈴音は、何かから逃げだすように、その場から飛び立った。

OOO

246 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:35:01 ID:obOClsB20
 現場にはただ一人しかいなかった。誰かに襲われた訳でも、生命の危機に瀕した訳でもない、ただ一人の女子高生探偵が、そこに立っていた。

「…………」
「さて。じゃあ名前から聞かせてもらおうかしら? お嬢ちゃん。えーと」
「あっ、か、桂木弥子です」

 悲鳴の主、桂木弥子を頂点に、底辺の長い二等辺三角形を描くようにいるのはファイヤーエンブレムと鳳鈴音だ。
適当なビルの部屋を拝借して、もとは企業のオフィスであったろうそこの椅子を持ち寄り腰かけて座談の形をとった彼女らであったが、その表情は一様に硬い。
 遭遇から即戦闘に発展しなかったのは、ほとんど奇跡と言っていい僥倖であったからだ。

「……なにしろ全身タイツのオカマとロボットに乗った女の子だし。漫画のほうがもうちょっとリアリティあるってもんだよね……」

 邂逅のしこりは、そう容易くほだされるものではない。
 見るからに戦闘兵器といった趣に巨大な刀を携えて飛ぶロボットと、けばけばしいマントをはためかせて走る変態……もといヒーローである。
飛んでくるロボットと走り寄る全身タイツに挟まれて立っていた弥子は、彼女を挟んで向かい合った二人の顔がぎょっとする様をしばらく忘れられそうにはなかった。

「そう、ヤコちゃんね。私は、そうね……ネイサン・シーモアよ」

 なぜ言いよどんだのだろうかと訝しむ弥子と鈴音に取り合わず、ネイサンは続けた。年長者だからか、会話の主導権を持つのは彼――彼女、と呼ぶべきか迷うところである――だ。

「あんたは?」
「……凰鈴音」

 中国の人なんだ、と弥子がぎこちなく笑いかけるが、鈴音はにべもなくそっぽを向いた。
(やりにくい……)と胸中で漏らす弥子を知ってか知らずか、ネイサンは頷きを溢し、手にした冊子を捲りながら言葉を続ける。

「全員名簿にある名前ね。騙りがあるかどうか、今はわからないからいいとして……」
「……何よ。なんか文句あるの」

 たじろぐ鈴音だが、ネイサンは注ぐ視線を逸らさない。当然だ、と弥子もちらりと目をやる。おそらくこの場で、最も「超常」なのが、彼女の鎧なのだから。

 殺し合いに乗る気がない旨を叫んだ弥子を挟んで対峙するロボットと全身タイツは、身構えたまま動かなかった。
彼女が立ち話もなんですし……、とオフィスビルを示さなければ、彼女らは際限なくにらみ合い続けていただろう。
 その際に光の粒となって消えたその鎧のようなロボットは、魔人なるトンデモ生物を見慣れた弥子をしてなお、驚愕に値するものだった。

「あんたのアレ……ロボットみたいなやつ。アレの話を聞かせてもらえないかしら」
「ISよ。ロボットみたいって何よ、あれはパワードスーツじゃない」
「あいえす?」

 首を傾げる弥子に、鈴音は同じく小首を傾げて「知ってるでしょ?」とさも当然のように言う。そんな可愛い仕草をされても知らないものは知らないのだ。
愛玩動物のような鈴音に高鳴る弥子の胸中をよそに、ネイサンは言った。

「生憎アタシは知らないわヨ」
「ごめん、私も知らない……」
「……は? つまんない冗談はやめてよ?」
「そんなこと言われても。ねぇ?」

 ネイサンの目配せに、私に振るなと表情に滲ませながら弥子は曖昧に笑う。

「アイエス? かしら。ならこの地図の……」

 がさがさと地図を開き、鈴音と弥子へ向けるネイサン。その逞しい指はある一点を示していた。

「……このIS学園っていうのは」
「そうよ、あたし達が通ってる学校。IS操縦者の育成校……本気で知らないの?」

 鈴音の表情がゆっくりと、しかし確実に警戒の色に染まっていく。腰を浮かせるまでには至らないが、いつでも飛び出せるよう身構えている彼女に、弥子は脈絡なく急に、本当になんとなく直感した。
 ――この人、怖がってる?――

 対して、ネイサンは身構えることなく続けた。興奮した容疑者は仕草で刺激しない、ヒーローの基本だ。ましてそばには弥子という一般人も座っている。軽率な行動は破滅に直結しているのだ。

「悪いけど知らないワ。アタシが住んでるシュテルンビルトのそばにそんなロボット学校があったなんてね」
「シュテルンビルトこそどこなのよ。あたしはIS学園の海の向こうにこんな大地が広がってるのこそ知らなかったわ」
「私の事務所もそこそこ都会にあったはずだけど……回りにこんな建物はなかったよ」

 飛び交う視線は交われど、どう足掻こうと答えには行き着かない。早くも無視することの叶わない難問にぶち当たった三人は、現状の認識を改める。
 もしかするとこれは、想像を遥かに絶する異常事態なのではないか、と。

247 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:38:01 ID:obOClsB20


 ISとは女性にしか動かせないパワードスーツであり世界はそれを中心に動いていると言っても過言ではなく、鈴音はその操縦者であり中国の代表候補である。
 らしい。

「あら、アタシは使えないのね」

 シュテルンビルトという街には企業の宣伝を兼ねて正体を隠しネクスト能力なる超能力を奮って犯罪と戦うヒーローという、ネイサンがファイヤーエンブレムという名でその中に名を連ねている人間達がいる。
 らしい。

「名前でまごついてたのはそういうことかぁ……」

 数々の難事件を解決し世界的歌手であるというアヤ・エイジアをも逮捕せしめた女子高生探偵は桂木弥子といい、その名は今世間の多くの人間に認知されている。
 らしい。

「誰よ、それ」



「荒唐無稽ね」
「そっちも相当よ、鈴音」
「私だけショボいな……」

 ――魔人やら「新しい血族」やら、秘匿するべかをしなければ彼女らにも比肩しうる超常である、とは言うまい。

「あんたの所だって充分変よ、弥子」
「そうねぇ、アタシも鈴音もアヤ・エイジアなんて知らないし、女子高生探偵なんて聞いたこともない」

 常識が違うのだ。生きる世界というフォーマットが全く別物という規格外の異常事態……。
 同様に曇った顔を突き合わせる三人、そんな中で鈴音が、ぼそりと何かを呟いた。耳ざとく聞きつけた弥子が問いかける。

「ごめん、鈴音ちゃん。今なんて?」
「ふえっ!?」

 よもや聞きとられるとは思いもしなかったのだろう、カッと頬を染めた鈴音が椅子をはじいて立ち上がった。けたたましい音を立てる椅子に思わずネイサンが身構えるが、鈴音はそれを視界に収める余裕もない。

「何そんなに慌ててるのよぉ。変なことでも言ったの?」
「えっ、いやっ、そういう訳じゃ……」
「聞いてもいい?」
「うううう……」

 赤面を弥子とネイサンの間でうろうろさせていた鈴音はやがて俯く。子供みたいって笑わないでよ、と前置きして、彼女は蚊の泣くような言った。

「別の世界の話みたい、だって……」
「別の」「世界……?」
「あああもー! 笑わないでよぉ!」

 やり場のない羞恥と怒りに震え、目じりに涙を浮かせる鈴音を、しかし笑う者はない。ネイサンですらおとぎ話だと笑い飛ばす気にならず、弥子に至ってはほぼ正解を与えられたようなものだったからだ。
 魔人と、それが住む「別の世界」――異世界である「魔界」の存在を知る桂木弥子にとっては。

248 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:41:25 ID:obOClsB20
「荒唐無稽ここに極まれり、ね」
「コミックだってもうちょっと真面目な設定だと思うワ」
「けど、現実なんだ」

 俯いたまま鈴音が小声でこぼす。気まずそうに目をそらすネイサンも、もはや信じるしかない。
 「ここには、異世界から集められた人間が集っている」。これで、各々が知らない場所や地名があることにもある程度理解がいく。ほぼ完ぺきな回答なのだ、これは。

 地図に関する疑問はほぼ解決した。名簿も、三人とも知人がまとまっていることを鑑みるに、それぞれの「異世界」から攫われてきた人間が集まっているに違いない。十、または十一ほどの「異世界」があると、参加者の数からは推測できた。
 世界を越える謎など一介の女子高生探偵に解けるものではなく、一人のヒーローに担える犯罪でもない。三人を暫定的にグループとして行動することが誰とはなしに決まりかけた、そんな時だった。



「……そういえばさ」

いつの間にやら警戒の色も失せた鈴音に、弥子は言った。「何?」と、気安く答える鈴音。

「あの……最初に殺されちゃった子、ってさ」
「……っ」

 鈴音の表情が固まった。笑みすら浮かべていたそれが、見る間に硬くなっていく。
 思い返してみれば、あの箒という少女の纏った兵器も、鈴音の《甲龍》なるISとどこか似た意匠を持っていたのだ。それに端を発する弥子の疑問は、果たして的中した。

「あ、ご、ごめん。デリカシーなかったね」
「……いいのよ。アイツが馬鹿だった、それだけなんだから」

 押さえつけるような声音は、それが虚勢に過ぎないと容易く看破させる。気丈に振る舞う外皮がぼろぼろと崩れていく様に、ネイサンはたまらず言った。

「友達、だったのね」
「……まあね」

249 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:47:19 ID:obOClsB20
 鈴音の肩が小さく震えた。国家代表候補だなんて大それた肩書を背負おうと、所詮はただのうぶな高校生。そんな彼女に、あれは強烈すぎる代物だ。
弥子にとっても、大事な人を亡くす痛みは耐え難いものであるのだから、「死」が身近にない彼女にはどれほどの衝撃であったかは想像に難くない。
 この気丈であろうとする強がりな少女は、多分一人では泣かないだろう。でも、それではいけないのだ。硬い芯はしなやかさを失って、いつかポキリと折れてしまう。そうなってからでは遅いのだ。
 だから、弥子は言わなければならなかった。

「……ねえ、鈴音ちゃん」
「……何?」
「怖がらなくてもいいんだよ」

 脈絡のない言葉に、鈴音は目を見開いて固まった。そして次第にふつふつと沸いていく感情に、固まった表情が溶けていく。やがて再び形をなす表情は、怒りのそれだ。

「あんた、あたしが臆病だって言いたい訳? あの真木って奴を怖がって? ……冗談じゃないわ!」

 それは鈴音にとって侮辱なのだった。隠しきれなかった心のそこを探られて、無遠慮に暴かれたのだから。

「違うよ。鈴音ちゃんが怖がってるのは真木……あいつなんかじゃない」
「だったら何を……!」
「大切な人だったんだよね。そんな人が……亡くなっちゃったんだもん。怖いよね。悲しいよね」
「知ったような口きかないでよっ!」

 距離を詰め、弥子の胸倉をつかむ鈴音。成人男性に勝るとも劣らない暴力を持つ代表候補生の少女の怒りに晒されて、弥子は怯まない。

「わかるよ」
「……っ!」
「私だって……知ってるから」

 声にならない叫びが鈴音の喉を掠める。目の前の女を殴り飛ばそうと拳を握りしめて、しかしそれをやんわりと抑えられた。静観していたネイサンだ。
 彼をキッと睨みつけて「離せ」と叫ぼうとした鈴音を、彼は抱きしめた。不意の抱擁に、鈴音の息が詰まる。

「何を……!」
「泣いていいのよ、鈴音」

 彼は幾度となく見てきたのだ。不条理に奪われた命と、それを愛していた人たち。その嘆きと悲しみを、彼は幾度となく見てきたのだ。
 怖かろう、恐ろしかろう。それを止めるのがヒーローの仕事なのに、ネイサンはそれを果たせなかった。

 無論、箒を救えなかったのはネイサンだけではない。しかしそれは問題ではなかった。今、ここにいる鈴音を救うことが出来たのは、ここにいる中でネイサンだけ。
ヒーローである彼だけだ。それなのに。

「ごめんね。アタシがあの子を救えなかったからアンタにこんな思いをさせてるのよね」
「ぅうう……っ」

 いやいやをする子供のように、鈴音はネイサンの腕の中で首を振る。いつの間にか弥子の胸倉を離していたその手は、その当の弥子に握られていた。
 不覚にも、それを温かいと感じてしまって。堰を切って溢れだす涙を隠す方法は、もはや鈴音には残っていなかった。

「悲しい時は我慢しちゃダメよ、ね」
「うう……うああっ……」
「大丈夫だよ、鈴音ちゃん」
「っ……うわあああああああああっ」

 あやすようにその背を撫でるネイサン。一人にさせまいとするようにその手を握り締める弥子。
 死と犯罪の中を戦ってきた二人は、幼子のように泣く鈴音が落ちつくまで、決意に満ちた瞳を交わしていた。

 真木清人は、許してはならない。乙女を泣かせた罪は何より重いのだ。

250 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:49:19 ID:obOClsB20




「そういえばヤコ。アンタなんであんな悲鳴あげたのヨ。何にもなかったのに」
「あ〜……それにはちょっとした理由がありましてですねえ……」

【一日目-正午】
【C-7/オフィス街】

【ネイサン・シーモア@TIGER&BUNNY】
【所属】赤
【状態】健康
【首輪】所持メダル99:貯蓄メダル0
【装備】ヒーロースーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:脱出と真木の逮捕
1.現在地を知りたいわネ。あとは皆と合流かしら。
2.地図の端の方も見て回りたいわ。
【備考】
※原作のジェイクvsロックバイソンの終了直後からの参戦です。
※インフィニット・ストラトスの世界、魔人探偵脳噛ネウロの世界についての情報を得ました。
※バトルロワイヤルに、多数の異世界から人間が集められていることを知りました。
※名簿が異世界ごとに並んでいることを知りました。

【凰鈴音@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】健康、精神的疲労(極小)
【首輪】所持メダル90:貯蓄メダル0
【装備】《甲龍》@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:真木清人をぶん殴ってやらなきゃ気が済まない
1.箒……!
2.あたしは、真木を……。
【備考】
※少なくとも無人機が登場してからの参戦です。(アニメであれば銀の福音戦後、原作であればキャノンボール・ファスト後)
※TIGER&BUNNYの世界、魔人探偵脳噛ネウロの世界についての情報を得ました。
※バトルロワイヤルに、多数の異世界から人間が集められていることを知りました。
※名簿が異世界ごとに並んでいることを知りました

251 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:53:48 ID:obOClsB20
OOO

 瞬きする間に一変した景色に、桂木弥子は眩暈を覚えてしゃがみこんだ。シックスとの戦いを勝ち抜き、病床にあるネウロ渾身のイタズラかと思えば、
またもや悪意が引き起こした事件に巻き込まれてしまったのだ。ネウロのためにも自分のためにも、いい加減勘弁してもらいたいと思うのも人情というものだ。

「なんなのよ、もう……」

 ひどく疲れた面持ちで呟く弥子だった。



「……ネウロが関わってるはずがないのはわかりきってるもんね」

 いつの間にやら渡されていたデイバッグ。その中のルールブックをパラパラと流し読みながら、口をついたのはそんな言葉だった。解りきっていたこととは言え、口にするとそれはなかなかどうして力強い言葉だ。

「″謎″をもたらす可能性の芽を摘む訳にはいかない……だからネウロは人を殺さない」

 逆に言えば、それは人はすべからくネウロの食物たる″謎″を産む可能性がある――つまり″謎″の苗床となる「悪意」を持って犯罪を侵す可能性があると言っているような、そんな考え方。
 善かれ悪しかれヒトの全力と、その可能性に興味を持つ化物――ネウロ。そしてそんな相手がとる行動は、推理する必要など欠片もない確定事項。

「ネウロはこの殺し合いに乗らないし、多分積極的に脱出しようとする。あとあの眼鏡ヤローもぶっちめる」

 餌場を荒らされた魔人は自身が手負いであろうと、弱った部分を人と協力しあうことで強大な壁となり真木を追い詰めるだろう。
ルールブックに綴じられた名簿、そこにある「脳噛ネウロ」の名前をつつきながら、弥子は「頼もしい話だよ、全く」と笑った。

 名簿を眺め百面相を繰り広げていた彼女だったが、やがて小冊子状のそれを閉じた。

「……よし。どうして笹塚さんとXの名前があるかはわからないけど、今はいいや」

 彼女にはやらなければならないコトがあった。その前には真偽すら定かではない名簿など、取るに足らない些事だ。
それは彼女という存在のアイデンティティであり、それがなければ彼女ではないと断言できるほど、彼女にとって重要な行為なのだ。
 食事である。

 ルールブックを取り出す時に他に色々なものが入っていると知れた。ちらりと見えたパンと水も、おそらくは食べても問題はないはずだ。ここで毒殺するなら、あのドームで殺した方が手っ取り早いだろうから。
 そんな考え方をしてしまう自分に苦笑いしつつ、デイバッグを空ける。逆さまにして揺すって、手を突っ込んで掻きだして。内容物を全てブチ撒けて、そして気付いた。

「……あれ?」

 パンと水って、これしかないの?

「……へ?」

 一瞬の間。そして、空を割るような悲鳴が、閑静なオフィス街を揺るがした――。

【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】所持メダル100:貯蓄メダル0
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:ネウロと合流して、ここから脱出
1.とりあえずは二人と行動しよう。
2.食べ物は早いうちになんとかしないと……!
【備考】
※原作最終巻のネウロと別れる直前からの参戦です。
※TIGER&BUNNYの世界、インフィニット・ストラトスの世界についての情報を得ました。
※バトルロワイヤルに、多数の異世界から人間が集められていることを知りました。
※名簿が異世界ごとに並んでいることを知りました

252 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/26(土) 01:55:18 ID:obOClsB20
以上で投下終了です
問題がありましたらご指摘をお願いいたします

タイトルは
姦【さんにんのおとめ】
です

253名無しさん:2011/11/26(土) 02:02:46 ID:cQ8XwdeA0
投下乙です。
一夏がもう死んでいることを鈴音が知ってしまったら・・・
そして弥子。あんたはやっぱりそれかw

それはそうと、メダルとISのエネルギー関連が◆8lLw8xiLY氏の作品と矛盾してます。

254名無しさん:2011/11/26(土) 19:55:36 ID:fUAmsMc.0
投下乙です

さすがヒーロー、〆る時は〆てくれるぜっ
鈴音はそりゃ、あれを見たらなあ…そして立ち直ったけどワンサマーが…
弥子はやっぱりそれかw でも見てる所は見てるし思いやる所で他人を思いやれるのはいいなあ

メダルとISのエネルギー関連が◆8lLw8xiLY氏の作品と矛盾してるが議論スレで煮詰めあって修正かな?

255名無しさん:2011/11/26(土) 21:27:03 ID:.WpWWKAg0
投下乙です

ネイサンさんはやっぱり頼れる乙男。
弥子はネウロの下僕やってただけあってかなり超常慣れしているな

本当どうでもいいけど、行間の○と◆がウヴァさんみたいに見えてきた

256名無しさん:2011/11/27(日) 00:50:00 ID:hf0.pRjc0
○←裏切られてメダル一枚になったウヴァさん
◆←暴走態になったウヴァさん
■←"箱"になった雁夜おじさん

257名無しさん:2011/11/27(日) 01:09:22 ID:ILL4xxjg0
>>256
つまりウヴァさんだったメダルの塊が箱に詰められるのか

258名無しさん:2011/11/27(日) 08:48:00 ID:rUGDq6W60
メダル一枚でも最終形態でも記号一文字で表せるウヴァさ

259 ◆l.qOMFdGV.:2011/11/27(日) 10:53:59 ID:FKe1IxWs0
>>253>>254
了解しました
作品自体の撤回の宣言はここでいいですか?

スレを伸ばして申し訳ありませんが姦【さんにんのおとめ】を撤回させていただきたく思います

260名無しさん:2011/11/27(日) 15:43:04 ID:if5E13.k0
修復して再投下来るかなと思ったが撤回か
残念です
でもまた暇があれば書いて投下してくださいね

261名無しさん:2011/11/27(日) 17:19:29 ID:KIiS6M820
別に破棄する必要はないと思いますけど。
どちらも修正するのが難しい部分ではないと思いますので。

262名無しさん:2011/11/27(日) 17:46:37 ID:rUGDq6W60
今思ったがディケイド勢がマーダーしかいないな・・・月影も戦いに乗るだろうし

263名無しさん:2011/11/27(日) 17:49:38 ID:S5CnP0q.0
乗ってなかった剣崎も死んでるしな…
ディケイド勢で対主催になりそうなのもうユウスケだけか?

264名無しさん:2011/11/27(日) 19:17:48 ID:rUGDq6W60
ユウスケも地の石に操られて究極の闇になってるんだったらマズイな・・

265 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/28(月) 01:59:20 ID:MvyYb4zQ0
投下を開始します

266 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/28(月) 02:01:50 ID:MvyYb4zQ0

【1】

ホールで殺された少女は、間違いなく箒だった。
彼女専用のISを、教師である自分が見間違えるものか。
素直に大人しくしていれば、あんな場所で殺されなどしなかったものを。

「……馬鹿者が」

拳を握り締め、そう呟いた。
織斑千冬の教え子であり、彼女の親友の実の妹。
決してこんな場所で、しかもあんな無残な方法で殺されるような人間ではない。
この地に連れてこられたIS学園の生徒達も同様だ――真木達の自分勝手な思惑で潰えていい命ではない。

「……良かろう、やってやるとも。尤も、私が剣を向けるのは貴様だけだ――真木清人」

千冬の胸中で沸き立つのは"怒り"のみ。
いとも容易く教え子の命を奪ったあの男達には、それ相応の罰を下さねばならないだろう。
自身の犯した罪の重さを、その身を以て教えてやらねばなるまい。
支給品として送られた西洋剣の切っ先を、前方の街路樹に向ける。
そして、一閃。
世界最強のIS使いの名に恥じぬその一太刀は、街路樹をさながらバターのように一刀両断した。
この行動は、彼女にとっての「儀式」であった。
死した者の無念を、生徒を弟をこの地に呼んだ者への怒りを晴らすべく、
殺し合いの首謀者を打倒する決意を固める為の「儀式」である。

「……やはり日本刀の方が馴染むな……何処かにないものか……」

鞘のない西洋剣をデイパックに戻しながら、一人ごちた。

267誓いと笑顔と砕けた絆 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/28(月) 02:02:45 ID:MvyYb4zQ0
【2】

目の前で命が消えていくのを、ただ見ている事しかできなかった。
それが、小野寺ユウスケには堪らなく悔しい。
もしもあの時、自分が止めに入っていれば、少なくとも黒髪の少女は救えたかもしれない。
しかし、その可能性があっても彼は動けなかった。

「……ゴメン……助けられなくて……」

謝罪の言葉を並べた所で、何の意味もない事くらい分かっている。
だがそれでも、一度は彼女達に向けて謝りたかった。
「笑顔」を守れなかった罪悪感と、命を救えなかった後悔が入り混じった言葉が、
紡がれては青空へ浮かび、そして霧消していく。
「まゆり」と呼ばれた少女が死んだ直後、白衣の少年は呆然とした表情でその亡骸を見つめていた。
「箒」と呼ばれた少女が死んだ時、同じ様なデザインの制服を着た少年が怒りに身を震わせていた。
きっと、その人にとっては掛け替えの無い存在だったのだろう。

「……真木清人……オレはお前を許さない」

自分の身勝手な都合だけで、誰かが犠牲になっていい訳がない。
例えそれにどんな意図が隠されていたとしても、他人から「笑顔」を奪うのならそれは全て「悪」だ。
絶対に打倒しなければならない――もうこれ以上、誰かの「笑顔」を奪わせない為に。

「必ずお前を倒す!"クウガ"として――"仮面ライダー"として!」

何処に居るかも分からない主催者に向かって宣言する。
自分の力を、誰かを守る為に使う事を。
そして、誰かが大切な人を喪う悲しみを背負わせない事を。
正義の「仮面ライダー」として、この殺し合いで戦い抜く事を、今此処で誓ったのだ。

「その声――ユウスケか?」

それに応えるかのように聞こえてきたのは、共に世界を旅してきた友人の声。
間違いない、この声は「門矢士」のものだ。
こんな早くに仲間と出会えるなんて――ユウスケは頼りになる友人との合流に歓喜しながら、声の方向に振り向く。
ユウスケの予想通り、声の主は士だった。
彼がいれば百人力だ、この殺し合いも絶対に打破できるだろう。
そう胸に期待を込めながら、士の方に駆け寄った。

「が……ッ」

士の目の前に立った、その直後。
腹部に衝撃を感じ、一瞬遅れて痛覚が刺激される。
何事かと思った頃には、既にユウスケは跪いていた。
そしてその直後に、前方から蹴りが襲いかかり、直撃を食らった彼は地べたを転がる事となる。
痛みを堪えながら視線を上げると、士が冷徹な目でユウスケを見つめていた。

「本当に久しぶりだな、ユウスケ……いや、"仮面ライダークウガ"」

268誓いと笑顔と砕けた絆 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/28(月) 02:05:15 ID:MvyYb4zQ0
3】

痛みを引きずっている腹部を押さえながら、ユウスケは立ち上がり、士を見据える。
士の方は未だに、冷ややかな視線をこちらに浴びせている。
目の前にいる男は、本当にはあの「門矢士」なのだろうか。
ユウスケの知っている彼は、こんな冷徹な目をする男ではない筈だ。
周囲に殺気を撒き散らす彼の姿なんて、まるでユウスケが今まで倒してきた怪人のそれではないか。
もしやこの男は、彼に擬態したワームではないかと一瞬疑ったが、
彼の手の中にあったディケイドライバーが、その発想が間違いである事を教えている。
本人が所有している変身アイテムは没収されない――ルールブックには、そう書かれていた。

「それはこっちの台詞だ。どうして仲間みたいに俺に話しかける?」

その発言に、ユウスケは唖然とせざるおえなかった。
今まで彼の口から、そんな冷徹な――それこそ悪人のような――言葉が飛び出す事などなかったのに。
仲間の存在を消し去ろうとする彼の意図が読めなかった。
一体全体、何が士をここまで豹変させたのだろうか。

「どうしちゃったんだよ士……なんでこんなこと!」
「俺は自分の義務を果たしているだけだ。お前に文句を言われる筋合いはない」

士に課せられた「義務」なんて、当然ながらユウスケは聞いた事がない。
時間が経てば経つほど程、両者の溝は深まっていくように感じられた。

「――まあいい。どちらにせよ、お前は此処で破壊する」

そう言いながら、士は手に持ったディケイドライバーを腰に当て、自動的にそれを装着させる。
仲間であるユウスケに向ける事はないとばかり思ってきた敵意が、今は彼を射ぬ射ていた。

「変身」

――KAMEN RIDE DECADE――

そしてユウスケの目の前に君臨するのは、世界の破壊者「ディケイド」。
激情態への変化によって禍々しくなった複眼が、未だ戦意を見せないユウスケの姿を見据える。

「どうした?変身しないのか」
「……無理だ、そんなのできるわけないだろ!」

できるわけがない。
つい最近まで親しかった者と、本気で殺し合える程彼は冷徹ではなかった。

「――そうか」

その言葉と同時に、ユウスケは再び地に伏せる事となった。
ディケイドの拳が、彼の肉体に直撃したのである。
この時、破壊者は僅かな力でしか攻撃していないが、
それでも士は「仮面ライダー」に変身しているのだ――生身の人間には、十分すぎる威力を有していた。

「変身しろユウスケ。このまま殴り殺されたくはないだろ」

ディケイドは、ユウスケをクウガに変身させる為に、彼をいたぶり続けるだろう。
彼を「仮面ライダークウガ」として破壊する為に、悪魔は虐待を開始する。

269誓いと笑顔と砕けた絆 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/28(月) 02:11:19 ID:MvyYb4zQ0
【4】

悪魔は足を、腕を、背中を、腹を、骨折しない程度の力で攻撃し続けた。
その度にメダルが宙を舞い、それがディケイドの首輪に吸収されていく。
しかし、いくら傷つけても、ユウスケがアークルを出現させる気配は一向にない。

「……何時まで意地を張るつもりだ」
「言っただろ……お前とは……戦えない!」

世界を巡る旅を終えた彼に、何が起こったのかをユウスケが知る由はない。
だが、どんなに急激な変化をしようが、門矢士は仲間なのだ。
彼と戦うわけにはいかない――そんな事をしても、誰も「笑顔」にはなりはしないから。

「この力は……そんな事の為に……使うものじゃないんだ!」

命と笑顔を奪われ、誰かの心が涙を流す瞬間が、ユウスケの脳裏に浮かび上がる。
これ以上誰かが泣き叫ぶ姿を見るのは、彼には耐えられない。
だから、ユウスケは笑顔を護る為に戦う事を誓ったのだ。
断じて、仲間同士で滅ぼし合う為に使うのではないと――!

「笑顔を……守るんだ……!もう二度と……あんな思いを……させないために……!」

その言葉を言い放った直後、ディケイドは手を止めた。
何を思ったのか、バックルからカードを抜き取り、変身を解除する。
彼の表情は、変身する前となんら変わってはいない。
人間らしい感情を失った、まるで戦う為に生まれた兵器の様であった。

「今回だけは見逃してやる……次は無いぞ」

それだけ言うと、士は踵を返して歩き始めた。
ユウスケは、彼の姿を目で追う事しかできない。
それ程までに、彼はディケイドの攻撃によって消耗していたのだ。

「…………なん、で……なんで、なんだよ…………」

士の姿が遠くなっていくのに比例して、視界は黒で埋まっていく。

「…………なんで、だ、よ……つ……か…………」

彼が完全に消失した頃には、既にユウスケの意識は闇の中に消えていた。

270誓いと笑顔と砕けた絆 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/28(月) 02:15:35 ID:MvyYb4zQ0
【4】

千冬が最初に発見したのは、倒れている青年一人である。
全身に暴力の跡があり、彼がそれによって意識を失ったのは明白であった。
彼のデイパックが見当たらないが、恐らくは加害者に奪われたのだろう。
此処で何があったのかを知る必要がある。
その為には、まず彼を介抱してやる必要がありそうだ。
安全な場所は何処だろうかと考えた結果、中央部の都市が最も近場な安全地帯という結論に至る。

(……意図が読めんな。何故殺そうとしなかったのだ?)

それにしても、どうしてこの少年は生かされたのだろうか。
殺し合いに乗っている者の犯行ならば、既に彼は殺されている筈だ。
彼一人だけが、この場で倒れ伏していた理由が全く分からない。

(まあいい。そんな事はこいつから聞けばいい話だ)

初の遭遇者でもあるのだ――聞きたい事は山ほどある。
だからこそ、青年には生きてもらわなければならない。
青年をおぶり、千冬は都市部へと足を進めた。
大の男を背負う事に、少しばかりの疲労感を感じながら。


【5】

ユウスケのデイパックに入っていたコアメダルを、自身の首輪に投入。
これにより、士はセルメダル50枚分の余裕を手に入れた。
この行為は、今後の戦いで大きなアドバンテージになるだろう。
ユウスケからデイパックを強奪したのは、士に想像以上の恩恵をもたらした。

気に掛かる事がある。
どうしてユウスケは、さも友人の様に接してきたのだろうか。
あの時の彼は、まるで士が「世界の破壊者」になった事を最初から知らないような態度だった。
お互いを信じ合い、これからも旅を続けるのだろうと思っていた頃のユウスケの姿。
もう見る事はないだろうと思っていた、彼の笑顔。

「……成程、時間のズレってヤツか」

どうやら真木は、空間を渡り歩くだけではなく、時間すら飛び越えられるらしい。
「電王」と「ディケイド」の固有能力を兼ね備えているとは――想像以上の強敵になりそうだ。
だからと言って、それが士の戦意に関わる事は決してない。
「全てを破壊する」という彼の決意は不動のものである。
全ての仮面ライダーを破壊し、全ての世界を救済するのが彼の使命。
どんな場所にいようが、どんな状況であろうが、彼はその目的を果たすべく悪魔となる。

271誓いと笑顔と砕けた絆 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/28(月) 02:24:51 ID:MvyYb4zQ0
その為に、全ての世界を捨てる為に、今まで背負ってきた全てを捨てた。
誰かを思いやる優しさも、誰かと支えあう友情も、誰かと喜びを分かち合うための笑顔も。
全てを遠い所に置いてきた……筈だった。
だが、ユウスケのもう見る事はないとばかり思っていた信念によって、悪魔の心は僅かながらも揺れてしまったのである。
自分の中に、まだこんな感情があったとは。
こんなものは不要だ――あっても戦いの妨げにしかならない。

「次は……今度こそ破壊する」

覚悟を決めた。
もう二度と心を揺り動かしはないという、絶対の覚悟を。
それが誰であろうが、どんな表情で詰め寄ろうが、仮面ライダーなら問答無用で破壊する。
もう決して、情など見せるものか。

「待っていろ……仮面ライダー」

全てを破壊し、全てを繋ぐ為に、ディケイドは本当の悪魔となる。
それが門矢士に残された、唯一にした最良の選択肢。



「お前達は――俺が潰すッ!」



【一日目−日中】
【C−5/平地】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】150枚:0枚
【装備】ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド、
【コア】ティラノ:1
【道具】ユウスケのデイパック(基本支給品一式、ランダム支給品0〜2)、基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を全うする。
 1:「仮面ライダー」と殺し合いに乗った者を探して破壊する。
 2:邪魔するのなら誰であろうが容赦しない。仲間が相手でも躊躇わない。
 3:セルメダルが欲しい。
 4:最終的にはこの殺し合いそのものを破壊する。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、
 ディケイド関連のカードだけです。
※ティラノメダルでセルメダルを増量しました。
 最低でも4時間はティラノメダルはセルメダルとして使用できません。

【一日目−日中】
【C−4/平地】

【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤陣営
【状態】ダメージ(大)、気絶
【首輪】80枚:0枚
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:笑顔を守るために、真木を倒す。
 1:???
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦

【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤陣営
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品0〜2
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。真木に制裁する。
 1:倒れている少年を介抱する。
 2:生徒と合流する。
※参戦時期不明

272 ◆qp1M9UH9gw:2011/11/28(月) 02:26:35 ID:MvyYb4zQ0
投下終了です。
最後に、>>266の「街路樹」を「木」に変更して下さい

273名無しさん:2011/11/28(月) 02:58:13 ID:0BN109xs0
投下乙です
ユウスケが可哀相過ぎるw
千冬姉に拾ってもらえたのは幸いか…
ディケイドは今回は引いてくれたけど、次からは容赦しないんだろうな…

一つ気になったのですが、コアメダルによるセル補充っていうのはセルがそのまま増えるという意味だったのでしょうか?
何らかの効果でメダルを消費する場合、コアメダルをその消費分の代用として使用できるというルールだと自分は考えていたのですが…

274 ◆lx1Zn8He52:2011/11/28(月) 13:10:50 ID:nSN1EjzcO
投下します

275近くて遠い現在地 ◆lx1Zn8He52:2011/11/28(月) 13:16:20 ID:nSN1EjzcO
会場の端 小さな雑居ビルの中 三人の参加者が顔を合わせていた
一人は小柄な英霊の少女 セイバー
もう一人は未来を変える為に過去へ跳んだ者 阿万音鈴羽
そして二人に挟まれる形の中学生 見月そはら
事のあらましはこうだ。会場に跳ばされ怯え震え動けずにいた見月そはらを、セイバーが発見し話しかけた
当初は不安そうだったそはらだが、セイバーと会話を交わし相手に、敵意が無いと分かり共に行動することにした
暫く歩き 互いの荷物と今後の方針を決める為に最寄りのビルに立ち寄ろうとしたその時、ビルから出て来た阿万音鈴羽と遭遇した
ナイフを構え戦闘態勢に入った鈴羽にセイバー達は戦意が無い事を説明した。数秒の沈黙の後 鈴羽はナイフを下げ二人に投降し今に至る
OOO
「…えっと、とりあえず名簿の確認でもしません?」
最初に口を開いたのは 緊張感に耐えきれなかった見月そはらだった
「そうですね。互いの知る者が記されている可能性があります」
その言葉に肯定しセイバーが頷く
「そうだね」
続いて鈴羽も頷く

「じゃあ確認しましょう。えっと名簿は…、きゃあッ!?」
バックに手を入れたそはらが声を挙げる
「どうしましたそはら!?」

「す、すいません…、ちょっと驚いて…」
そう言ってバックから 悲鳴の原因を取り出す
「何これ?」
出て来た物を指差し鈴羽は尋ねる
「さぁ?私にも分かりません…」
それは、機械の甲虫の様だった
「あの男達が入れた物でしょう悪趣味な」

セイバーがそう呟いた瞬間その甲虫が少し傷付いた様な気がしたが、多分気のせいだろう

276 ◆lx1Zn8He52:2011/11/28(月) 13:18:54 ID:nSN1EjzcO
【一日目-日中】
【F2/探偵事務所内】
【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】約束された勝利の剣@Fate/zero
【道具】不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破
1.騎士として力無き者を保護する
2.名簿を確認する
【備考】
※参加時期は後の書き手に任せます
【見月そはら@そらのおとしもの】
【所属】黄
【状態】健康、不安
【首輪】100枚:0枚
【装備】無し
【道具】カブトゼクター、ライダーベルト@仮面ライダーディケイド、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:死にたくない
1.名簿を確認する
2.二人と行動する
3.これなに…?
【備考】
※38話終了直後からの参加です
※ゼクターに認められてません
【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】無し
【道具】大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本:殺し合いから脱出
1.知り合いと合流
2.二人と行動する
3.セイバーを警戒
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です

277 ◆lx1Zn8He52:2011/11/28(月) 13:20:10 ID:nSN1EjzcO
以上です。指摘 感想が有ればお願いします

278名無しさん:2011/11/28(月) 21:22:13 ID:LoVPyktI0
皆様投下乙です

ユウスケ、これは辛いだろうな
まともな人間に見つけてもらったのがせめてもの救いだったか
でも彼女って姉御肌だしユウスケ的にはあの人を連想しちゃうんだろうな


カブトゼクターカワイソス
大丈夫、お前は仮面ライダーカブトのヒロインなんだ
すぐにでも女子どものマスコットになれるさ!

279<削除>:<削除>
<削除>

280名無しさん:2011/11/29(火) 01:06:24 ID:/hb2gXvEO
投下乙です。

ユウスケェ・・・まあここのもやしは激情態ですしw

カブトゼクターか、天道かソウジみたいな奴が資格者って解釈でいい……としても、誰かいるか?

281 ◆eBcz2IT0Gk:2011/11/29(火) 06:27:49 ID:Ddza4gkk0
ユウスケ変身しないでいきなりボコられるとかまるで本編じゃないか

かなり伸びてしまったけど投下します

282 ◆eBcz2IT0Gk:2011/11/29(火) 06:31:01 ID:Ddza4gkk0
舗装されている道を一人の男が座っていた。
彼は手早く持っている荷物の中身を確認し何枚かの紙といくつかの道具を取り出してノロノロと立ち上がり歩き出す。
彼、笹塚衛士は正義感を持ち合わせるて居る方ではなかった。だがこのような犯罪を容認できる男でもなかった。
普段の勤務態度こそ褒められたものではないが彼はこう見えても刑事だ。このような犯罪は見逃すべきではない。
名簿を見ようと思い支給品の懐中電灯をつける。
見る限りでは怪物だけではなく怪盗Xや葛西、至郎田など犯罪者等の危険人物が何人か紛れ込んでいるらしい。
彼らに桂木弥子のような無力な(?)一般市民などを躊躇いも無く殺すだろう。
それだけはなんとしても避けなければ無かった。
まぁ彼が動かなくてもあの魔人脳噛ネウロ全て返り討ちにしそうだが。でもやるしかない。だって警察だし。
次はどこに行くかだが今現在いる地区はG-6らしい。少し進めば警視庁が見えてくるはずだ。まあ地図が正しければだが。
いきなりこんな所に連れてこられたのだ、普通の人間ならある程度混乱し助けを求めようとするだろう。
そして常識的に犯罪から助けてくれる存在『警察』に助けを求める。
実際にあるのは警視庁なのでちょっと違うのだがそこに向かう者が出てきても可笑しくは無い。
そう考えながら歩いていた彼は急にその足を止める。歩いていた道の少し先にある街灯の辺りに光を当てられている人が見える。
接触を図ろうと思い用心の為予めにデイパックから出していた支給品の一つである『AM』と刻印された44オートマグを構える。

283 ◆eBcz2IT0Gk:2011/11/29(火) 06:31:47 ID:Ddza4gkk0
「…そこの君!警察だ!聞こえたら返事をしてくれ!!
妙な事は思わないほうがいい、こちらは銃を持っている!!」

彼は内心焦っていた。今接触する相手がもし怪盗Xのような素手で人間一人を屠れる危険人物であったら準備不足もいいところだ。
大口径とはいえ悪名高きAM社の44オートマグでは少し心許無かった。
返事は無かったが声を掛けたからには接触しないわけには行かずゆっくりと距離を縮めていく。
近づいてからわかった事だがどうやら女性のようだった。
後ろを向いていたが街灯の光が強いせいかそれとも手に持つ携帯の明かりの所為か近くの民家の窓に顔が映っている。
確かに銃を持った男にいきなり声を掛けられたらこうなるかも知れないが彼女は手に持っている携帯の画面ばかり見つめておりこちらには目も向けない。
携帯を見ていた彼女の顔色は急に酷くなっていき肩が小さく震え始めていた。
いやな予感のしてきた、と彼は接触を図った事に半ば後悔し始めていた。

「…なぁアンタ聞いてる?こんな状況だし混乱するのは分かるし信用できないのも当たり前だが…そのなんだ…会話くらいしてくれなきゃ困る」

そう言いながら彼は頭をポリポリと掻く。
彼はコミュニケーション能力が無い分けではないがこのような相手との交渉ごとは不得意だった。
やはり返事は返ってこず彼はすっかり困り果てていた。

284 ◆eBcz2IT0Gk:2011/11/29(火) 06:32:33 ID:Ddza4gkk0
「…さい」
「ん?」

彼は声が聞こえた気がしたので彼女を見ていみる。
いつの間にかこちらを向いていた彼女は小声で何かを喋っていた。

「…なさい」
「出来ればもっと大きな声で話してくれるとありがたい」

そう言いながら額の汗を拭い銃を構えなおす。
柄にも無く彼は彼女が出す不気味な雰囲気に完全に呑まれていた。

「…」
「何とか言ったらどうなんだ?」
「…ごめんなさい」
「なぜ謝るんだ」

やっと聞こえたその声はかすかに震えていた。
だがなぜか彼は彼女の雰囲気にある懐かしさを覚えた。いや懐かしさと言うより既視感に近い。
かつて自分はこの感覚を何度も味わったような気がする。

「…私はやらなきゃいけないの。FBの命令だから」
「いったい何をやるんだ?」
「…貴方を殺さなきゃ」
「そうかい!」

交渉決裂だなと続けて言いながら彼は銃を構えなおし目の前の女を撃つ。
はずだった。

285 ◆eBcz2IT0Gk:2011/11/29(火) 06:33:14 ID:Ddza4gkk0
「…?」

引き金を引こうとしても一向に音が鳴らない。
なぜか銃を持っていた右腕が上がらない。
というか物凄く痛い。当たり前だ。肘から先が無くなっていたのだから。
女が何かしたのかと思い彼女を見ると女は空を指出した。
不思議な光景だった。今さっきまであった腕が『何か』に咥えられ空中に浮いている。
そしてその何かというのは…

「鮫?」
「そう鮫」
「…」
「…」
「あのさ、鮫って飛ぶもんじゃないだろ」

それが笹塚衛士最後の言葉だった。
そして同時に思い出すのだった。
彼女の感覚。それは今まで対峙して来た犯罪者によく似た物だと。
その中でも特にあの『シックス』を妄信している選ばれし血族の連中とよく似た雰囲気だった。

(ヤコちゃん、気を付けて…)

そう思いながら彼は目を閉じた。

☆☆☆

286 ◆eBcz2IT0Gk:2011/11/29(火) 06:33:54 ID:Ddza4gkk0
☆☆☆

一人の女性が佇んでいる。
彼女はつい今しがた殺した男の支給品を自分のデイパックに詰めていた。
それが終ると近くでぷかぷかと漂っているミラーモンスターのアビソドンに近づき頭を撫でる。

「…いい子」

アビソドンは甘えるように顔を近づける。そして口からポロっと男の持っていた銃を彼女の手の上に出した。
一分ほど撫で回した後アビソドンは彼女から離れ近くの民家の窓の中に入っていった。
その姿を見ながら彼女はポケットから自分の支給品である携帯電話を取り出してメールを打つ。

『FBへ』
『言われた通りに一人殺しましたよ』
『私はこの後は何をすればいい?』

☆☆☆

287 ◆eBcz2IT0Gk:2011/11/29(火) 06:34:52 ID:Ddza4gkk0
☆☆☆

IS学園の屋上に一人の男性が座っていた。
格好こそ今風の若者であるがその只者ならざる雰囲気は彼が常識では計り知れない何かだと物語っていた。
彼の名はカザリ。黄の陣営のリーダーにして五人のグリードの一人でもある。
彼は他の参加者と違い今の状況を楽しんでいた。
真木博士も面白いゲームを思いついたものだ、とカザリは思う。
限られた敷地内での殺し合い。陣営通しの潰し合い。なるほどとても楽しそうだ。
何人かのグリードと組んで特定の陣営を集中的に潰すのもいい。
オーズと組んで他の陣営を敵に回すのもいいだろう。
コアメダルを奪い合うだけではなくこのようなゲームにするなど自分たちグリードでは考え付かない事だ。
やはり博士はボクたちとは少し違うね、と独り言を呟いていると何処からか音が鳴った。
思わず身構えるカザリだったが鳴ったのは自分の支給品の携帯電話だった。
彼はデイパックから取り出し使い慣れぬ感じで携帯を開く。
送られてきたのは一通の写真付きメールだった。

「へぇ〜、中々期待してなかったけど使えるね桐生萌郁」

288 ◆eBcz2IT0Gk:2011/11/29(火) 06:35:23 ID:Ddza4gkk0
彼女から送られてきた写メールを見ながらカザリは彼女への評価を改める。
今より少し前支給品のチェックをしていた時にその一つ携帯電話に有り得ない量のメールを送りつけられた時は流石のカザリも困惑したものだ。
送り主が誰だかはすぐ分かった。グリード用の名簿には参加者の軽い説明が載っているからだ。

【桐生萌郁】
年齢:20歳。生年月日:1990年6月6日(ふたご座)。血液型:B型。身長:167cm。体重:54kg。3サイズ:B88/W59/H88。
未来ガジェット研究所のラボメンNo.005だがラウンダーでもある。また極度の携帯依存症でメール魔。
あだ名は『閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)』

ラボメンやらラウンダーやらが何かは分からなかったが彼女がこの携帯の正式な持ち主である天王寺と言う男性に忠実であると言う事はわかった。
カザリはこの『FB』に成りすまして精々利用してやろうと思った。
参加者減らしの捨て駒。しかも自分の陣営ではなくメズールの陣営である。もし死んでもこちらの陣営には損害は一切無い。
結果は予想外だった。彼女は見つけた相手を無傷で倒したのだ。

「手駒は従順で有能な方がいいよね
 ま、これからもよろしく頼むよ桐生萌郁」

そうだ指示を考えなきゃ、と言いながら猫科の王は無邪気に笑う。
ゲームはまだ始まったばかりだ。焦る必要など無い。
出来るだけゲームを面白くするよう知恵をめぐらす事だけを考えればいい。
そう考えながらなぜかふとこうも思った。
あだ名に『閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)』はないだろうと…

289 ◆eBcz2IT0Gk:2011/11/29(火) 06:37:21 ID:Ddza4gkk0

【一日目-日中】
【G-7/IS学園屋上】
【カザリ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】なし
【道具】基本支給品、天王寺裕吾の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品1〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:黄陣営の勝利、その過程で出来るだけゲームを面白くする
1.桐生萌郁への指示を考える
2.『閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)』(笑)
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。

【G-6/舗装された路上】
【桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】99枚(増量中):0枚
【装備】44オートマグ@現実
【道具】基本支給品、桐生萌郁の携帯電話@Steins;Gate、アビスのベルト@仮面ライダーディケイド、ランダム支給品0〜1(確認済)、笹塚衛士の支給品1〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:FBの命令に従う
1.FBの指示を待つ
2.アビソドンはいい子
【備考】
※α世界から参戦
※FBの命令を実行したためメダルが増えています。
※どの程度増えたかは次の人に任せます。

【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ 死亡】

290 ◆eBcz2IT0Gk:2011/11/29(火) 06:39:13 ID:Ddza4gkk0
投下終了
予約期間が過ぎてしまい申し訳ありませんでした
夜また来るので間違ってる所や不味い所があったら言ってね

291名無しさん:2011/11/29(火) 11:27:34 ID:R0e4O4UwO
笹塚さん…
もえいくさんはまあそうなるわねww
カザリ オカリンのセンスを笑ったお前だけは許さない
この分だともっとカードデッキ増えるかな

あと最近予約期間をオーバーするのが多い気がする…
幾つか作品を投下した書き手さんの予約期間を伸ばすのはどうでしょう?

292名無しさん:2011/11/29(火) 11:33:06 ID:jEuOVBNY0
投下乙です!
カザリは面白い駒を手に入れたな…FBの女口調でシャイニングフィンガー(笑)を操る姿とか様になってるぜw
笹塚さんは…相手が悪かったとしか言えないなぁ。南無。

幾つか気になった点を挙げてみます。
・時間は日中になっているけど、作中の描写を見る限り夜間っぽい事になっている?
・アビソドンはアビスのファイナルベントで二体のモンスターが融合したモンスターだけど、このロワでは常時アビソドン状態?
・「アビスのベルト」ではなく、既出の龍騎に合わせて「アビスのカードデッキ」と書いた方が統一感があるかと。

アビソドンに関しては、この会場内では常に融合状態とされている、などの理由付けさえ出来れば問題はないかなとは思います。

293名無しさん:2011/11/29(火) 20:09:06 ID:ethNUgRo0
投下乙です!
笹塚さん南無・・・・・・相手が悪かったか
カザリはなんか調子乗って自滅しそうだから困る

>>292に習って余計なことを言わせてもらいますが、
仮面ライダー龍騎のライダーの変身システムは

1:デッキを反射物(鏡などとにかく体を映す物)にかざす
2:自動的にベルト(Vバックル)が腰に巻かれる。 この時までベルトは存在しない。
3:ベルトにデッキをはめて変身

なのでベルトを常時持ち歩いているわけではありません、持ち歩いているのはカードデッキだけです。
後の書き手に影響を与えるかも知れませんので、ここで指摘させてもらいました。

294 ◆eBcz2IT0Gk:2011/11/30(水) 01:57:49 ID:8GgDVFA60
>>292-293
指摘ありがとう
言い訳させてもらうと他のロワは深夜スタート多いから間違えたw
ベルトとミラモンの方は弁解の仕様がないです

したらばの仮投下・修正用スレに修正したのを投下しました
良かったら見てやってください
あとまたやっちまってたらこちらか向こうの雑談スレなどで指摘ください

295名無しさん:2011/11/30(水) 20:22:10 ID:KkNFCjCU0
予約が定期的に来てくれて嬉しいなあ

296名無しさん:2011/12/01(木) 21:41:23 ID:feu3e41.0
オーズロワ用したらばの修正用スレに>>266-272>>282-289の修正版がきてるよ
まとめwikiに収録する合否も判断したいから、良かったら見てってね

仮面ライダーオーズバトルロワイアル専用したらば掲示板
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/15005/

297欲望まみれの名無しさん:2011/12/01(木) 21:51:06 ID:feu3e41.0
あ、あとオーズロワ参戦作品の正確な出典はこんな風になってるらしいよ

【TV】
オーズ、ディケイド、W

【アニメ】
TIGER&BUNNY、まどかマギカ、シュタゲ、IS

【小説】
Fate/zero

【漫画】
ネウロ、そらおと

もし異議がある場合は専用したらばの議論用スレでよろしく

298 ◆lx1Zn8He52:2011/12/02(金) 00:09:28 ID:BvAJeQ9gO
橋田至投下します

299恐れを知らない戦士の様に ◆lx1Zn8He52:2011/12/02(金) 00:10:31 ID:BvAJeQ9gO
細波の音が響く倉庫の影、一人の巨漢が荷物の確認をしていた。男の名は橋田至何処にでもいるピザオタだ
「オカリンに牧瀬氏、それにフェイリスたんも…」
名簿に載っていた知り合いは三人
岡部輪太郎 未来ガジェット研究所の創設者にして同じ大学に通う友人
牧瀬紅莉栖 先日大学の講義で顔を会わせた天才少女
フェイリス・ニャンニャン 俺の嫁☆異論は認めない
三人 それが多いか少ないかはわからない。しかし三人もの人間が殺し合いを強いられている事実と先程の光景に頭が真っ白になる

「まゆ氏…」
椎名まゆり 優しくいつも明るい少女
その彼女の笑顔がもう見れない
付き合いが長い訳でも無いが胸が強く締め付けられた
その痛みを堪えつつも荷物の確認を続けた
橋田至に支給された道具は三つ
削岩機の様な形をした宝具 乖離剣・エア
挑戦の記憶を宿したガイアメモリ トライアルメモリ
類人猿の姿を刻んだ黒きのメダル ゴリラコア
それらの道具を眺め橋田至は頭を掻く
その中でも彼を悩ませたのは乖離剣・エアとされる一品だ

「どう見ても剣には見えないお…」

エアに付属したメモによると 極大量のメダルを消費し【天地乖離す開闢の星】と言う空間切断を行えるらしい
空間切断とがどの様な物かは解らないが、使わないに越した事は無いだろう
そして、そのメモを丸めポケットに押し込む
そして残りの二つをバックに戻し地図を眺める
とりあえずはアキバに向かおう。オカリンはアキバに絶対に向かう。保証も確証も無いが直感が自分にそう語り掛ける
どうせ逃げ場は無いのだ。ならば今だけは自分の勘に従い歩を進めるのも良いだろう
乖離剣・エアを担ぎ上げ歩きだす この会場の何処かにいる友に再び会うために

「ふ…ぃい、暑い…重い……」

つか アキバまでどんだけ距離有るんだお……?
行くのやめよっかなぁ…、そんな事を考えながらも橋田至は歩くようです

300恐れを知らない戦士の様に ◆lx1Zn8He52:2011/12/02(金) 00:13:32 ID:BvAJeQ9gO
【一日目-日中】
【A-5/港側】
【橋田至@Steins;Gate】
【所属】黄
【状態】健康、疲労
【首輪】100枚:0枚
【コア】ゴリラ×1
【装備】乖離剣・エア@Fate/zero
【道具】トライアルメモリ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:出来る事ならこのゲームからの脱出
1.暑い、重い、辛い
2.知り合いと合流
3.アキバに向かう
※紅莉栖がラボに来る直前からの参加です

301 ◆lx1Zn8He52:2011/12/02(金) 00:14:40 ID:BvAJeQ9gO
以上です感想・指摘が有ればお願いします

302名無しさん:2011/12/02(金) 20:14:18 ID:QwKR0R12O
投下乙です。
いい装備だな。充実的だ。だが無意味だw

303名無しさん:2011/12/03(土) 13:20:38 ID:CnZ4n8wI0
乙。今更だがユウスケは「少年」じゃないだろ。少なくとも20は超えてるし

304 ◆qp1M9UH9gw:2011/12/03(土) 18:40:34 ID:18AWdrSQ0
投下乙です

>>恐れを知らない戦士の様に
まさかのエア支給。そういや元の所有者と中の人が同じでしたね

>>303
所々「少年」になってますね……こちらの修正ミスです、申し訳ない

305 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/03(土) 20:00:20 ID:si7vlWp60
お待たせしました。
執筆に時間がかかってしまいましたが、これより投下を開始します。

306 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/03(土) 20:02:04 ID:si7vlWp60
 何でもたっぷり入れられそうな大きな缶を肩に担いだ大柄な男、伊達明が初めて見つけた参加者は、白と赤で彩られた金属製の戦闘用と思われるスーツの男だった。
 とある木造の家の内部を調べ終えて出てきたと思われるその男に話しかけ、幸いにもお互いに危険人物でないとすぐに確認できたためにいざこざは起きずに済んだ。
 殺し合いに反抗するという意志も合致したため、陣営の違いは大した問題にならなかった。
 ただ、男がマスクから笑顔を覗かせながら発した言葉が引っかかることになったが。
「安心してください。シュテルンビルトを守るヒーローは決してこんな殺し合いに乗ったりしません」
「……シュテル…ヒーロー? それ何?」
「え?」
 伊達が出した疑問に対し、金属スーツの男バーナビー・ブルックスJr.の返答もまた疑問だった。



 大都市シュテルンビルトでは、常人を超える特別な能力を持つ人間、通称NEXTの中の数人が「ヒーロー」の肩書きを背負い、持てる力を駆使して犯罪者の身柄の確保や事故に巻き込まれた民間人の救助に尽力している。
 ヒーロー達の活躍は「HERO TV」というテレビ番組で毎日のように生中継され、市民にとっては胸躍る娯楽として、企業にとってはスポンサーの立場から自社を宣伝する絶好の場として注目の的になっている。
 以上が、伊達の疑問に対してバーナビーが解説した内容である。
「やっぱ聞いた事ないけどなあ、そんな話」
 二人は家の中に入り、ある一室で椅子に座り互いに向かい合っている。廃屋同然の荒れ果てた家で、壊れていない椅子を見つけるのにも苦労した。
 そこで解説を一通り聞き、伊達は顔をしかめた。誰もが知っている事実を話したつもりのバーナビーもまた同様である。
「考えられるのは、伊達さんの住む地域では『HERO TV』を放送していない、加えて情報も入らないほどにシュテルンビルトから遠い、といった所でしょうか?
「それじゃあちょっと腑に落ちないけどねぇ」
 バーナビーに尤もらしい仮説を提示されるも、伊達の顔は変わらない。
 というのも、伊達明の本業は世界を股にかける医師である。
 そして行く先々で出会った人々から得た情報のおかげで、多少は世界各地の事情を知っているつもりだと自負している。

307 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/03(土) 20:03:25 ID:si7vlWp60
 その自分が「シュテルンビルトを守るヒーロー」の話を全く聞いたことが無いとなれば、やはり奇妙としか思えない。
 バーナビーの話を聞く限りでは、ヒーローは怪人グリードやそれに対抗する戦士オーズやバースに並ぶ強さかもしれない。
 そんな彼らの活躍が、世間に公開されないならともかく公共の電波に流されているというのだから。
 いくら世界広しといえど、このような特異な話となれば誰か一人くらい噂にする筈だ。
「もしかしたら、この場には僕達について知らない人が伊達さんの他にもいるかもしれません。この件については少し調べる必要がありそうですね」
「んー、ま、それしかないわな」
 二人きりで出せる結論でも無い以上、保留とするしかなかった。



「ところでさ、あの時ドクターに啖呵を切った、確かワイルドタイガーだっけ? あれもやっぱバーナビーの仲間なの?」
「ええ。あの人は……僕のパートナー」
「だと思った! いやーなんか似てると思ったからさ。話しかけたのだって、もしかしたら仲間じゃないのかなーって思ったわけで」
「ああ、そうですか……」
 言葉を遮りバーナビーの相棒の話で少し盛り上がろうとする伊達をよそに、当のバーナビーは何故だかノリが悪い。
 状況が緊迫しているとはいえ、その態度に伊達の胸には少しの違和感が残った。
 それはともかく、話はバーナビーの知る他の参加者へと移り、名簿を片手にその人物の名前と性質が述べられる。
 鏑木・T・虎鉄、カリーナ・ライル、ネイサン・シーモアは殺し合いの打破を試みるだろうヒーロー仲間として。
 (ちなみにバーナビーや虎鉄のようにヒーローの姿で遭遇する可能性が高いということで、ヒーローとしての通称「ワイルドタイガー」、「ブルーローズ」、「ファイヤーエンブレム」と合わせて紹介することにした。)
 ユーリ・ペトロフは裁判官として正義は弁えているだろうが、彼自身は戦闘手段を持たないために保護対象として。

308 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/03(土) 20:04:27 ID:si7vlWp60
「それと、こいつには十分警戒してください」
 ジェイク・マルチネス。彼もまたヒーロー達と同じくNEXTである。
 しかしNEXT至上主義ともいえる選民思想を持ち主であり、また犯罪組織ウロボロスの一員として数多くの命を奪いった凶悪犯罪者でもある。
 ここでも嬉々として殺し合いに乗るのは間違いないだろう。
(しかし、この男は既に死んだ筈。なのに何故……?)
 伊達には話していないが、ジェイクはバーナビーとの戦いに敗れた後に逃走を試み、その際の事故により確かに死亡した。
 それにも関わらず名簿上には彼の名前がある。死者の蘇生が起こったとでもいうのか? この辺りもまた検討する必要があるだろう。



「ところで伊達さんは先程、あの真木という男をドクターと呼んでいましたが、彼を知っているのですか?」
「……まあな。終末がどうたらこうたらって言って、この世界が全部滅ぼそうとか考えてる哀しい人だよ。このふざけた催しもそのための手段なんだろうな」
 伊達は呆れたかのように肩を揺らした。
「俺も止めようと思ったさ。けど、もう最後まで突き進むことを決めちまった」
 悔しさと共に思い起こされる二人の少女の理不尽な死がその証拠だ。
 強い眼差しをバーナビーに向け、伊達は自らの意思を告げる。
「俺はドクターを止める。今度は力づくでな。そのための力もここにある」
 そう言って一本のベルトを掲げる。
 真木が残した戦闘スーツ、バース・プロトタイプを身に纏うためのベルトを。
「バースの力はNEXTにだって負けないだろうさ。言うの遅れたけど、俺は誰かに保護されるだけの男じゃないぜ。そのために身体に抱えた問題もバッチリ解決してきたしな」
「NEXT能力以外の戦う手段、ですか……」
「ん、どした?」
「いえ、少し驚いているだけです。まあ、貴方が自分の意志で戦うというのなら大丈夫でしょう」
 ロボットに任せるでもあるまいに、他に誰がどう戦うのだろうか。よくわからない心配をする奴だな、と思った。心中に留めておくが。
「それと、戦えるのは俺だけじゃないぜ」
 今度は伊達の知る人物の名前が挙げられる番だ。
 まず一人目に、火野映司。
「火野はこんな殺し合いに乗せられる馬鹿じゃないし、その点は心配いらないだろ。自分の身を度外視しすぎるところがあるって点では心配なんだけどさ」
 二人目に、後藤慎太郎。
「後藤ちゃんは俺の愛弟子。昔は未熟な所もあったけど、今はまー立派に成長しちゃってもう! 俺も師匠やった甲斐があるってもんよ」
「はあ……」
 やっぱりノリが悪い。盛り上がり損である。

309 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/03(土) 20:05:36 ID:si7vlWp60
「……あ、味方になる奴はこれで終わり。あと知ってるのはグリードの連中だ」
「グリード? 伊達さんはそれが何者か知っているのですか?」
「よーく知ってるとも」
 次に挙げられるのは、この殺し合いの鍵となる存在――グリードについて。
 この場にいるのは全部で六体。各陣営のリーダーとしてアンク、ウヴァ、カザリ、ガメル、メズールの五人。
 なぜか既に存在が消えた筈の者が何人かいるが、原理は不明だが蘇ったと考える外に無いだろう。
 また、六人目にアンクがもう一人。おそらく右腕だけの方だ。
「結局、あいつもグリードらしくあることを選んだって後藤ちゃんから聞いたよ」
 仲間とは言えないまでも少しは時間を共有した者との離別には、やはり寂しいものがある気がした。
 閑話休題。グリードには共通点があり、一つ目はコアメダルを核として人外の存在を保つ怪人であること。この場ではそれぞれのコアメダルの色がそのまま五つの陣営を表している。
 二つ目は、優れた戦闘能力を有すること。
 そして三つ目は、自らの欲望にどこまでも忠実であり、それを満たすためには他者を傷つけるのに一切の抵抗を持たないこと。
「そんな恐ろしい敵がいるとは……」
「揃いも揃って危ない奴らだよ。奴らが何かしでかす前に倒すに限るってとこだな」
 敵に立ち向かうのはバースもヒーローも同じ。二人は強く頷き合った。



 大方の情報交換を終えたのち、二人は家から出た。埃の漂う部屋にいただけに、澄んだ空気が心地良い。
 そこで今後の方針をどうするか伊達に聞かれ、バーナビーは答える。
「では、ここからはひとまず別行動を取りましょう。より多くの人から情報を得る必要がありますからね」
「ん、ああ」
 バーナビーの理屈は納得できるものだ。確かに情報収集は大事だ。だが、何となく全面的には賛成できず、僅かに曖昧な返事になる。
 しかしバーナビーの方は肯定と受け取ったらしく、そのまま話を纏めようとする。
「僕は東側を行くことに行きます。伊達さんは西側をお願いできますか?」
「俺の方がちょっと狭いか? まあ大した差でもないか。わかった、任せろ」
「それでは伊達さん。僕とはしばらく別れますが、貴方もどうか頑張ってください」
 そう言い残し、バーナビーは伊達に背を向けて歩き出した。
 話は纏まった筈なのに、伊達には何故か別れが惜しい気がした。そのせいか、ふとバーナビーの背中に声をかけていた。
「俺は負けないからな。お前も折れるなよ」
 伊達の呼びかけを聞き、バーナビーは振り向いて一言返す。
「心配いりませんよ。虎鉄さんが戦うなら、僕も戦います」

310 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/03(土) 20:07:28 ID:si7vlWp60

「あ、やっぱストップ!」
 そのまま去ろうとしたバーナビーだったが、伊達に引き止められた。突然の行動に疑問を頭に浮かべながら振り向く。
「どうしました、伊達さん?」
「いやーさっきは俺も強いみたいに言ったけどさ、あんまり強い敵に束になってかかられたら多分ヤバいと思うんだよね。
 実際どんな奴が出てくるかわかんないしさ。だから、もうしばらく一緒にいようぜ?」
 先程の態度に比べると何とも情けない理由を口にしながら、バーナビーのもとに走り寄ってくる。
「まあ、それも一理ありますが……本当に急に意見を変えますね」
「いいじゃんいいじゃん。さあ協力協力」
 やや呆れたような口ぶりのバーナビーに笑顔で返事をし、伊達は横に並ぶ。
 バーナビーも特に反対しようとは思わないようで、邪険に扱うことはしなかった。
「別にいいですけど……」
 最後に一言だけ小さなぼやきを残して、伊達とバーナビーは歩みを進めていった。



(なんか、ほっといたらいけない気がするんだよな……)
 殺し合いを打破すると言っているバーナビーだが、伊達は彼にどこか不安を抱いていた。
 話していて感じたのは、バーナビーは割合落ち着いた性格だということ。
 しかし、自分にとって最も近い人物の話にさえ乗り気になろうとしないのは、冷たすぎやしないだろうか。
(さっきの言葉、一体どういう意味なんだろうな)
 彼は戦う理由に、虎鉄と同じ行動を取ることを挙げた。
 ヒーローに対する勝手なイメージで語るのも失礼だが、そこはまず真木への怒りなどが先に来るものではないだろうか。
 いや、それが自身の確固たる意志に基づいた選択ならば何も言うことはない。
 例えば虎鉄と目指す道が常に同じといっても良いほど気が合うなら、例えば虎鉄の意志を支えることを決意しているなら、それは認めたい。
 しかし、万が一そうでないとしたら。立派ではない別の何かだとしたら――
 その可能性を考えて、伊達はバーナビーを独りにしなかった。
(バーナビー。お前がどんな人間か、ちょっと見せてもらうからな)
 横を歩くバーナビーのマスクで覆われた顔、その目は今何を映し出しているのか。その確認という義務感が、今の伊達を動かす理由の一つだった。

311 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/03(土) 20:08:19 ID:si7vlWp60



 バーナビー・ブルックスJr.がヒーローであり続けた理由は、一つは殺された両親の敵討ちであり、もう一つは孤独に苦しむ自分に道を示してくれた恩人への恩返しだった。
(けれど、それももう終わってしまった)
 アルバート・マーベリックは自分を救ってくれた恩人だと思っていたのに、現実には彼こそが両親を殺し、バーナビーの人生を狂わせた張本人だった。
 その真実に気付けなかったせいで、バーナビーはマーベリックの野望に奉仕する形でヒーローとして戦い続けてしまい、もう一人の恩人サマンサの死を防げなかった。我ながら惨めだと思う。
 マーベリックは虎鉄やヒーロー達との協力で逮捕することが出来た。その時点で敵討ちは達成してしまった。同時に恩返しの相手はついに誰もいなくなってしまった。
 ただ、虚無感が残っただけだった。
 虎鉄が能力減退を理由にヒーローを引退すると宣言したのを切欠に、バーナビーもまた引退を決めた。マーベリックに欺かれた道化の生き様を続ける気は、もう起きなかったから。
 そして、空っぽになった自分に見つけられるかさえ解らない希望を求めて、シュテルンビルトの街を彷徨い続け――バーナビーはこの地に呼び出された。もう脱ぎ捨てた筈のヒーロースーツを着せられて。

 二人の少女の命が奪われたあの場所で、勿論バーナビーも真木という男に怒りを感じていた。
 しかし、それがヒーローとして真木を打倒するという決意には繋がらなかった。
 ヒーローとしての自分など憎むべき相手に利用されただけの間抜けでしかない。その頃と同じ様に戦おうと考えてみたところで、正義感より先に自らへの失望が来てしまう。
 ヒーローの道を往くことには、もう自信が持てなかった。
 こんな自分に出来ることなど、一体何があるのだろうか。それすら解らずに声も無く苦悶する中で、聞き慣れた声が耳を叩いた。

――……これ以上の殺人は一切許さねぇ! 誰も殺さないし誰も殺させない! その上でお前をふんじばって、法律で裁く! それが、俺のする戦いだ!

(虎鉄さん、こんな時でも貴方は貴方らしいです。いや、こんな時だからこそ、ですか)
 響き渡った熱い叫びは、かつての相棒ワイルドタイガーのものだった。
 もう見る日は来ないだろうと思っていたあのヒーローの勇姿。
 それを見た時にバーナビーの頭を過ぎったのは、荒んだ復讐者でもなく、滑稽な道化でもなく、バディヒーロー・タイガー&バーナビーの片割れとしての自分の姿だった。
 この時、バーナビーは再びヒーローになることを決めた。二人一組のチームの片側を担うという意味で。
 結局の所ヒーローの仕事には未だ価値があると思えていないのだが、ワイルドタイガーの相棒としてのヒーローなら少しはマシだと思える気がした。
(わかっている。僕はただ、生き甲斐を虎鉄さんに求めているだけだって)
 衰える一方のNEXT能力にも構わずにヒーローの矜持を見せ付けた虎鉄と、そんな彼にただ寄りかかるだけの自分とでは釣り合わないことくらい解っている。
 だから虎鉄の話を伊達から振られても盛り上がるのが虎鉄に失礼だと感じられ、素っ気無い対応を決め込むように心がけた。
 それでも、たとえ虎鉄や伊達のような強い意志に基づいた選択でなくても、ようやく見つけたたった一つだけの選択肢を捨てたくなかった。
(今の僕はあなたのパートナーだと胸を張って言える立場には無いのかもしれません。それでも、貴方はまた僕を『バニー』と呼びますか?)
 今も何処かで人々を救おうと奮闘しているだろう男に思いを馳せる。
 たとえ無様でも、虎鉄と共に戦うヒーローでありたい。それが今のバーナビーの願い、言い換えれば欲望であった。

312 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/03(土) 20:09:35 ID:si7vlWp60




 もしも、バーナビーが真木の手によって連れ去られなかったとしたら、彼はいつか両親の眠る墓を訪れ、二人から託された願いを思い出しただろう。
 その願いとは、マーベリックのそれとは異なる真に大切に想っていた人からの願い。バーナビーがヒーローとしての日々に意味を見出せるほどの願いであった。
 そしてバーナビーは今度こそ胸を張って再びヒーローを名乗り、虎鉄と共にタイガー&バーナビーを復活させることになる。
 これは選ばれたかもしれない一つの可能性を述べた話である。実際は選ばれなかったのだから、こんな話をしたところで何の意味も無いのだが。



 何も守れず、失うばかりだったと悔やむバーナビーは、パートナーの存在を胸に抱くことでようやく立ち上がった。
 強く、けれど脆くもあるその決意がバーナビーに何をもたらすのか。
 伊達はバーナビーの真意を見抜く時が来るのか。見抜いたとしたら果たして何を思うのか。
 今はまだ、誰にもわからない。

【1日目-正午】
【F-4/芦河ショウイチ家の前】

【伊達明@仮面ライダーOOO】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】バースドライバー(プロトタイプ)@仮面ライダーOOO、ミルク缶@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜2
【思考・状況】
基本:殺し合いを止めて、真木も止める。
1.バーナビーと行動して、彼の戦う理由を見極める。
2.有益な情報を集める。
【備考】
※本編第46話終了後からの参戦です。
※「TIGER&BUNNY」からの参加者の情報を知りました。

【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】白
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:虎鉄のパートナーとして、殺し合いを止める。
1.伊達と行動する。
2.有益な情報を集める。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※「仮面ライダーOOO」からの参加者の情報を知りました。

【共通備考】
※何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。

313 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/03(土) 20:10:56 ID:si7vlWp60
これで投下を完了します。
サブタイトルは「HERO & BUDDY & DEPENDENCE」です。

矛盾点、問題点などあればご指摘をよろしくお願いします。

314名無しさん:2011/12/03(土) 20:44:07 ID:CnZ4n8wI0
乙。やっぱ伊達さんはこういう役割が似合うなあ

315名無しさん:2011/12/04(日) 00:06:59 ID:kGPsd/OU0
乙です

伊達さんは渋いなあ バニーはその時期からならそういう風に考えるのは致し方ないか
不安ではあるが伊達さんはよくその違和感に気が付いたなあ
さて、続きはどうなるか期待だ

316名無しさん:2011/12/04(日) 10:36:38 ID:1wWczlPAO
投下乙です。そうか、後藤ちゃんもいるから伊達さんはプロトバースになるよな。

317名無しさん:2011/12/04(日) 16:30:59 ID:kjtL0Dp20
投下乙です。
伊達さんが伊達さんらしくていいな。考えてみれば伊達さんも虎徹と似たおじさんだったしね。
このロワはバーナビーの自分探しの旅となり得るのか、続きが楽しみだなぁ。

318 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/05(月) 10:28:31 ID:w7fqAImo0
予約分の投下を開始します。

319 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/05(月) 10:29:30 ID:w7fqAImo0
 支給されたルールブックを流し読みした映司の身体は、やり場のない憤りをぶつけるように、コンクリートの壁に拳を打ち付けた。
 何処か日本離れしたビルの壁は、人一人の力では微塵も揺れはしない。ただ映司は己の拳に痛みを感じただけだった。
 だけれども、今はそんな痛みさえも気になりはしない。最早人ですら無くなりかけている身体への痛みなど、この心の痛みに比べれば些細なものだった。

「……また、届かなかった」

 壁に着いた両手で身体を支えながら、映司は嗚咽交じりに声を漏らす。
 ほんの数分前、目の前で起こった非情な現実を思い出そうとすれば、否応なしに蘇って来るのは、かつての紛争の記憶。
 手を伸ばせば届きそうだったのに……この手は届かず、爆発に巻き込まれる少女を助ける事は出来なかった。
 映司は、あの日爆発に巻き込まれ死んだ少女を、首輪を爆発された二人の少女を、またしても救う事が出来なかったのだ。

「俺の腕、力っ……手を伸ばせば、届いた筈なのにっ!」

 目を伏せた映司の視界に入ったのは、デイバッグから顔を見せるオーズドライバーだった。
 映司の手には、古代の王たるオーズの力がある。この力は、何処までも届く映司の腕となる筈ではなかったのか。
 二人の少女が殺されたという事実もそうだが、それ以上に彼女らに腕を伸ばせなかった自分を、映司は責めていた。
 あの時映司は、何が起こっているのかをまるで把握出来ず、ただ困惑して手を拱いているだけしか出来なかったのだ。
 あっと言う間に一人の少女が殺され、また気付いた時には、既に二人目が殺されていたのだ。
 間に合わなかったから、など言い訳をするつもりはない。
 二人の少女はもう、死んでしまったのだ。
 死んだ命はもう、帰ってはこない。
 ならば。

「……こんな事、やめさせなくちゃ」

 映司の瞳に光が、紫がかった光が宿る。
 彼女らが殺されたのは、ちっぽけな人間の欲望の為だ。
 下らない欲望が人を殺し、今また多くの命を散らそうとしているのだ。
 そんな事は、絶対にやめさせなければならない。
 その為には、どうすればいいか――
 
「こんなゲーム、やめさせなくちゃ……コアメダルは、全部砕かなくちゃ……!」
 
 コアメダルなんてものがあるから、真木はこんな過ちを犯した。
 コアメダルなんてものがあるから人は狂い、欲望が新たな悲しみを生むのだ。
 ならばメダルは全て破壊する。今の映司には、それをするだけの力がある。
 あやふやな触覚ながらも、映司は自分の胸元に手を当てた。
 力は感じる。紫のコアは、確かに映司の中で鼓動していた。

「グリードは全部砕くっ……それで、ノーゲームにしてしまえばっ!」

 そうすれば、殺し合いは成立しない。
 陣営のリーダーたるグリードが全滅すれば、誰が勝つという事も無くなる筈だ。
 そして映司には既に、もう一人のアンクやカザリのコアを砕き、その存在を消滅させた実績がある。
 どういう訳か、この会場には砕いた筈のグリードまでもが参加しているらしいが、最早関係はない。
 この場にグリードが居ると云うなら、映司は紫の「無」の力で以て、その命を砕いてみせよう。
 そして、それが出来るのはオーズと、紫のコア―プトティラ―を使用出来る火野映司ただ一人。
 それを考えた刹那、この一年間を共に戦って来た友の姿が脳裏を過るが――

320 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/05(月) 10:30:03 ID:w7fqAImo0
 
(悪い、アンク……もう迷ってる場合じゃないんだ。人が、大勢死ぬかもしれないんだ)

 胸中でそう呟き、かぶりを振って、友であるアンクの幻影を振り切る。
 正義の為なら、人は何処までも残酷になれる。自分の言葉を思い出し、改めて映司は、全く以てその通りだと思った。
 アンクは、映司にとって大切な存在だ。だけれども、コアメダルが引き起こす悲劇を、映司はこれ以上容認する事は出来ない。
 映司は映司の中の正義を貫く為、より多くの命を守る為、友をも見捨て、オーズとして戦う道を選んだ。
 グリードが持つコアメダルは全て砕くか、叩きのめし奪い取って、オーズの力として取り込もう。
 その為ならば、どんな手段をも厭わない。
 奴らを叩き潰す為、プトティラの圧倒的な力が必要であるなら、容赦もしない。
 度重なる紫の使用によって、例えこの身がグリードになってしまったとしても構わない。
 誰かが殺されるよりも先に、映司が全てのグリードを砕き、ゲームを終わらせるのだ。
 そう決意し、デイバッグを担ごうとした映司の肩を、誰かが叩いた。

「……ッ!?」
「ああ、すみません、警戒させてしまいましたね」

 振り向いた映司に対し、緩く微笑んだのは、銀の長髪を風に靡かせた優男だった。
 背後に人が近付いている事に気付かなかったのは、思慮に耽り過ぎていたからだろうか。
 それとも、グリードとして失いつつある五感が、映司にそれを悟らせなかったのだろうか。
 もしもこれが敵の襲撃だったなら、と考えるが、銀髪の男の笑顔にそれは無いのだと安心し、映司もまた緩く微笑んだ。



 ユーリ・ペトロフが最初に出会ったのは、火野映司と名乗る男だった。
 首輪のランプの色は、紫。真木の説明通りならば、無所属という事になる。
 緑陣営であるユーリにとって映司は敵であるのだが、それは“ゲームに乗った場合”の話だ。
 最初からゲームに乗るつもりなど毛頭ないユーリにとって、陣営色などは関係ない。
 自己紹介を済ませた二人は、シュテルンビルトの街を歩きながら、今後について話し合っていた。

「――成程。ゲームの前提である陣営を全て無くしてしまえば、ノーゲームになる、と」
「はい。元はと言えばコアメダルがあるから……グリードがいるから、あの二人は殺されたんです」
「ふむ……成程」
「だったら、俺はそのコアメダルを全部砕く。そうすれば、陣営戦どころじゃなくなるから」
「成程……」

 そう小さく呟き、鷹のように鋭い双眸で映司を見据える。
 伏し目がちで此方の目線に気付かぬ火野は、己の目的を力強い語調で告げた。
 火野の言い分には一理ある。陣営に分かれての団体戦というのは、陣営があって始めて成り立つものだ。
 仮に火野が全ての陣営リーダーを砕き、陣営の色分けを無くしてしまったなら、こんなゲームは成立しない。
 勝利者が出る事が無くなった状況で団体戦を続ける意味はない。
 そうなった場合はノーゲームとなる……可能性も、ある。
 しかし。

「その場合もノーゲームにはならず、全ての首輪が爆破されてしまうという可能性は?」

 火野の考察の穴を突くように、ユーリは一層鋭く目を細めた。
 肝要なのは、火野に「首輪爆破」というリスクを背負い、それでもその正義を貫かんとするだけの覚悟はあるのか、だ。
 口だけの正義など所詮は生温い、偽りの正義に過ぎない。
 本当の正義とは、自分の信念を何処まで貫く事が出来るかで決まるのだ。
 何があろうとも己が正義を貫き証明せんとするユーリにとって、それは誰にも譲れない矜持であった。

321 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/05(月) 10:30:51 ID:w7fqAImo0
 
「……これは、半分賭けです。もしかしたら、ペトロフさんの言う通り、首輪を爆発させられるかもしれない。
 けどその前に真木博士は、必ず俺の中にある紫のメダルを狙ってきます。あの人、これが必要だって言ってましたから。
 グリードを全部砕けば、俺のメダルを回収出来るのは真木博士本人しか居なくなる。その時に、俺があの人を直接倒せば」
 
 そう語る火野の瞳に、嘘をついていると思しき陰りは見受けられない。
 恐らく、本気でこの男はゲーム自体を破綻させ、あのドクターを潰すつもりなのだろう。
 半分賭けとは本人も言っているものの、確かに理には適っている話だ。
 一拍の間を置いて、成程、と一言だけ呟いたユーリは、俯き目を伏せ、状況を頭の中で纏める。
 どの道この会場に居るグリードは全て、人を殺めた罪人に手を貸す悪魔どもだ。
 そんな悪魔を潰して回る事に異論はないし、それが火野にしか出来ないというのであれば、
 罪人を誘き出すというのは、今の自分達に出来る唯一の合理的な手段だとも思える。

「わかりました。グリードを破壊する事でゲームを破綻させる事が出来るなら、それに越した事はありませんから。
 そして火野さんには、グリードを破壊する為の力がある。一緒にいて、こんなに心強い人はいません。貴方への協力は惜しみませんよ」
「ありがとうございます……ところで、ペトロフさんには何か、特別な力とかってあるんですか? 一応、今後の為に訊いておこうと思って」
「成程。特別な力、ですか」
「はい、俺のオーズみたいな能力があるなら安心出来るんですけど」
「成程」

 火野の問いの意図に気付いたユーリは、一瞬目を伏せた。
 ユーリの正体は、罪人を裁く為舞い降りたダークヒーロー・ルナティックだ。
 ルナティックとしての能力を駆使すれば、例えグリードが相手であろうと、そう簡単に負ける気はしない。
 それを見越しての事か、ユーリにはルナティックの衣装一式と使い慣れたクロスボウが支給されていた。
 ……しかも、毎回自分で燃やしてしまうマントは大量に用意されているという準備の良さだ。
 これはつまり、真木はルナティックの正体や演出を熟知した上でここに呼び出したという事ではなかろうか。
 社会的に見ればルナティックは犯罪者であるのだから、他人にその正体がバレるのは非常に拙いのだが。

「……ペトロフさん?」
「ああ、失礼。私はしがない法の番人でしかありません。そんな力はありませんよ」
「そうですか、分かりました、ユーリさんの事は俺が必ず守ってみせますから、安心して下さい」
「ありがとうございます。私も出来る限りの努力はしますので、何かあれば何でも仰ってください」

 少なくとも、現状で正体を明かすのは得策ではないだろう。
 ルナティックとして活動するとすれば、それは火野が戦っている間に一旦離脱し、別人を装うなどの労力が必要だ。
 その為にも、離脱し易いように何の力も持たない参加者を装っておくのは、決して悪い策では無い。

「いやぁ、それにしてもこの街凄いですね。俺、世界中を旅して来たけど、こんな街があるなんて知りませんでした」
「……今やシュテルンビルトは世界中でもかなり有名な方だと思いますが」

 訝しげに火野を見るユーリの視線は、やはり睨んで居るように見えるのだろう。
 此方の視線に気付いた火野は、申し訳なさそうに苦笑した。

「なんか、世界中を旅した気になってたけど、俺もまだまだだったみたいですね」
「成程。なら仕方がありませんね」
「ペトロフさんは、この街の司法局員、なんでしたっけ?」
「ええ、ヒーロー管理官との兼任ですが一応」
「へええ、じゃあ、この街にも詳しいんですか?」
「ええ、まあ。如才(にょさい)なく」
「なら、ずっと気になってたんですけど、アレって……」

 そう言って火野が一瞥したのは、街の中央方面に見える、女神を模した巨大な塔だった。
 それはまさしく、ヒーロー達の本拠地であり、日ごろのユーリーの職場でもあるジャスティスタワー。
 この街の中でも最も目を引くその塔は、参加者に支給された地図にも記載されている施設の一つだ。

「ジャスティスタワー。私の職場です」
「あそこがユーリさんの……じゃあ、目印にも調度いいし、まずはあそこを目指しません?」
「成程。悪くありませんね」

322 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/05(月) 10:31:32 ID:w7fqAImo0
 
 先程コンパスを確認した所、現在地点よりもジャスティスタワーは南西方向だった。
 つまり、今二人が居るのは、会場の中でもかなり北東寄りという事になる。
 どの道会場の中心部へ行く為には、このシュテルンビルトと突っ切って行かねばならないのだから、好都合だ。
 あそこは仮にも法の要なのだから、何らかの重火器類なりを調達出来てもおかしくない。
 その上、会場の目印の一つともなれば、きっとそこに集まる参加者は少なくない筈だ。
 とりあえずの行動方針を決めた二人は、ジャスティスタワーに向かって歩き始めた。



 ユーリ・ペトロフ―ルナティック―は、悪を赦さない。
 人の命を殺めた罪人には、奪った命と同等の償いを課す。
 それが彼にとっての絶対的なルールであり、正義でもある。
 
 ――ユーリ、もし悪い奴を見付けたら、見て見ぬふりをしては駄目だぞ。
 
 幼き日の父の言葉は、今も覚えている。
 だけれども、それはユーリにとっては、呪いも同然だった。
 ユーリは父を殺した。母の為に、正義の為に、悪となった父を、この手で裁いたのだ。
 父を殺めてまで正義を貫いたのだから、自分は絶対に悪を赦してはならない。
 自分が行った正義を証明する為に、貫き続ける為に。

(罪深き者に、正義の裁きを)

 心中でユーリは、ぽつりと呟いた。
 ゲームの主催者、真木清人は、タナトスの声に従い断罪する。
 真木の脅しに屈し人を殺めた者もまた、真木と同じ悪魔……同罪だ。
 この場でユーリが成さねばならない事は、そういった悪魔どもを排除する事。
 その為にも、今は此方の切り札となり得る火野映司とオーズを失う訳には行かない。
 今はまだ彼と共に行動し、そして彼の正義の行く末を見極めなければならないのだ。
 彼の正義が口だけでなく、本当にグリードを砕き、こんなゲームを破綻させる事が出来るという確証が得られたなら――

(その時は、このコアメダルを君に託そう)

 先程確認した際、デイバッグに一枚だけ入っていたコアメダルを思い出す。
 チーターらしき絵柄が描かれた黄色のメダルは、彼の最後のランダム支給品だった。
 一応首輪に投入しておいたそれは、ユーリの意思に応じて、いつでも取り出す事が出来る。
 このメダルを火野に託せると判断出来る時が来るのかどうか――
 ユーリによる見極めは、まだ始まったばかりだった。
 


 一方は、救えなかった少女の幻影に。
 一方は、殺してしまった父の幻影に。
 変える事も逃げる事も出来ない過去の幻影は、二人に“正義”という名の使命を課した。
 ある意味では共通した強迫観念によって正義を成そうとする二人の行く末は――

323 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/05(月) 10:31:52 ID:w7fqAImo0
 

【1日目-日中】
【B-7/シュテルンビルト 道路】

【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【コア】タカ、トラ、バッタ、プテラ、トリケラ×2、ティラノ×2
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
1.まずはジャスティスタワーに向かう。
2.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
3.もしもアンクが現れても、倒さなければならないが……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。


【ユーリ・ペトロフ@TIGER&BUNNY】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【コア】チーター
【装備】無し
【道具】ルナティックの装備一式@TIGER&BUNNY
【思考・状況】
基本:タナトスの声により、罪人を正義の導に晒し裁く。
(訳:人を殺めた者は殺す。最終的には真木も殺す)
1.火野映司の正義を見極める。チーターコアはその時まで保留。
2.一先ずジャスティスタワーに向かう。
3.人前で堂々とルナティックの力は使わない。
【備考】
※ルナティックの装備一式とは、仮面とヒーロースーツ、大量のマントとクロスボウです。

324 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/05(月) 10:35:09 ID:w7fqAImo0
投下終了です。
タイトルは「正義のためなら鬼となる」でお願いします。
ユーリがやたらと「成程」と言うのは、分かる人には分かるネタ……かと思います。
それでは、何か指摘など御座いましたらまたよろしくお願いいたします。

325名無しさん:2011/12/05(月) 10:46:24 ID:MpUp/wz.0
投下乙です!
映司……最初に出会った人がその人とは。
ルナティックは強いけど、マジでやばいときはやばいからな……
そういやこの二人って、過去に対して凄いトラウマを持ってるんだな。何という偶然。

326名無しさん:2011/12/05(月) 12:14:51 ID:kuAUQ8es0
ルナティックはTV本編で掘り下げられなかった分、映画でどんでんがえしとか有りそうで怖い

327名無しさん:2011/12/05(月) 20:45:53 ID:UcN26QlA0
投下乙です。
なるほど、全てのコアを粉砕すれば良いわけか。
確か紫は陣営にはなっていなかった筈だから紫以外のコアメダルを全粉砕すれば確かに陣営は消え失せると……
しかし原作終盤も見て思ったけど映司ってかなりヤバイキャラだなぁプトティラにせよグリード化にせよ暴走の危険性は孕んでいるわけだしメンタル的にも……ねぇ。

328名無しさん:2011/12/05(月) 20:58:20 ID:.ap29Djs0
投下乙です

確かに全てのコアを破壊すれば…だけどそう上手く行かないだろうなあ
強引にでもそれをしようとするのなら…
嫌な像像しかうかばねえなあ…

329 ◆qp1M9UH9gw:2011/12/06(火) 21:11:10 ID:pt7rQy2c0
投下します

330連【つながる】 ◆qp1M9UH9gw:2011/12/06(火) 21:17:30 ID:pt7rQy2c0

【Wの決意】

何の前触れも無く吹いた風が、肌を撫でた。
風の都と共に育ち、そして愛してきた男――「左翔太郎」にとっては、風はさながら恋人の様に馴染み深いものである。
しかしそんな彼でも、この風には不快感を露にせざるおえなかった。
殺し合いという異常な環境下で流れる風を気持ちが良いと言える程、彼は悪意に浸かった人間ではない。

見滝原中学校の屋上のフェンスに手を掛け、前方を見据える。
ここではない何処かで、真木は踏ん反り返って殺し合いを観察しているのだ。
他人の嘆きになど目もくれず、人の死を楽しんでいるに違いない。

「ふざけやがって……終末なんて起こさせねえぞ」

真木が最後に言い捨てた「良き終末」という言葉。
それは、翔太郎にとっては決して納得のいかない台詞であった。
探偵を職としている以上、彼は様々な形で人の終末――すなわち「死」と関わってきた。
だがそれら全てを調べ上げても、「良かったもの」など一つとしてあるものか。
誰かを喪った事で凶行に走る者もいれば、その悲しみから未だに囚われている者もいる。
「終末」を肯定してはいけない――心がまだ悪意で染まり切っていないのなら、なおさらだ。

故に、翔太郎はこの殺し合いを否定する。
風都の仮面ライダーとして、何としてでも殺し合いを終わらせなければならない。
無論、「優勝」としてではなく「首謀者の逮捕」という形で、だ。

名簿から、この場には照井も連れて来られている事が分かった。
彼や真木に反抗の意思を見せた「ワイルドタイガー」と協力すれば、さらに早く主催を打倒できるだろう。
打倒が早ければ早いほど、この場で苦しむ人は少なくなるはずだから。

「……駄目だ翔太郎、"地球の本棚"に制限が掛けられてる……首輪の構造は検索できないみたいだ」

そう言ったのは、翔太郎の相棒――フィリップである。
彼は「地球の本棚」にアクセスする事で、地球上のあらゆる記憶を検索、そして閲覧できるのだ。
しかしどういう事だろうか、今の彼には閲覧に制限が掛かっているのである。

「予想した通りだ……多分真木の差し金だろうね」
「"地球の本棚"にアクセスできるって事か……ますます分からなくなってきたな」

"真木清人は一体何者なのか"。
これが二人の間で渦巻く疑問であった。
グリードなるドーパントを率い、数十人もの人間を拉致でき、"地球の本棚"にアクセスが可能。
さらには、死亡した筈の人間までもが参加している事から、
「NEVER」を超えた死者蘇生の技術を有していると考えられる。
下手をすると、真木は今まで見てきた組織よりも強大な力を有しているのかもしれない。
そんな者を相手にして、自分達は勝利を勝ち取れるのか?

「つくづく途方もない……あの男は一体何者なんだ?」
「さあな……どっちにしろ、俺達が倒さなくちゃならねえ奴って事は確かだ」

331連【つながる】 ◆qp1M9UH9gw:2011/12/06(火) 21:19:19 ID:pt7rQy2c0
翔太郎がそう言うと、フィリップは真剣そのものだった顔つきを急に緩ませて微笑んだ。

「……なんかおかしかったか?俺」
「いや、そんなんじゃないよ。実にキミらしいって思っただけさ」

フィリップの知る左翔太郎は、恐れを知らずに悪に立ち向かう男である。
立ち塞がるがどんな巨悪であろうと、彼は仮面ライダーとして戦ってきた。
冷静さがやや欠けたハードボイルドと呼ぶのにはまだ早い男、それが左翔太郎。
事実、今の翔太郎も何の罪も無い二つの命が喪われた事に憤っている。
だが、そんな彼だからこそ、フィリップはこれまで"W"として戦えた。

「地獄まで相乗りする覚悟はもうできてる、キミが望むのなら、ボクも戦うよ」
「……ありがとよ、相棒」

改めて、二人は握手を交わした。
これまでWとして戦ってきた彼らの絆は、強固なものとなっている。
たかが敵側の力如きで、そう簡単に崩壊するものではないのだ。

「……翔太郎!あれは!?」

とその時、フィリップが声をあげ、空に向かって指を差す。
彼の目が、空を飛ぶ一つの影を捉えたのだ。

「どうしたんだ……ってなんだありゃ!?」

振り向いた翔太郎も、驚愕の声をあげる。
驚くのも無理はない――何故なら、影は人の形をしていたのだから。

332連【つながる】 ◆qp1M9UH9gw:2011/12/06(火) 21:21:18 ID:pt7rQy2c0
【Qの涙】



――殺し合いに乗ってくれないか?イカロス



大空を滑空するイカロスの頭の中で、その台詞だけが反復され続ける。
どうしてマスターはあんな残酷な事を言ったのか、ただそれを考え続けていた。


彼女と「桜井智樹」は、この殺し合いが始まって十数分もしない内に合流できた。
彼の首輪のランプの色は「赤」――つまりイカロスと同色である。
「桜井智樹」はイカロスとの再会をとても喜んでいた。
お前に会えて良かったと言わんばかりの表情で、彼女を出迎えてくれたのだ。
その時、彼女はどれだけ満たされただろうか。
彼から大切にされているという事実に、どれだけ胸が熱くなっただろうか。
だが、そんな胸の高鳴りも、彼の発したたった一つ台詞で急速に冷えていく事となる。

『殺し合いに乗ってくれないか?』

そんな馬鹿な、と思った。
あのマスターが、誰かが傷つけ合うのを肯定するなんて思わなかったから。
あの何時ものおちゃらけた表情で、嘘だと言ってほしかった。
だが、何度問い返しても答えは同じ――『殺し合いに乗れ』としか、言ってくれなかった。

『……マスター……そんなの……』
『あのな……お前は"何"だ? お前のマスターは"誰"だ?』

命令に従うという事は、マスターの幼馴染も、仲間のエンジェロイドも殺すのと同義だ。
あの時ニンフを助けたマスターは、そんな簡単に他人の命を踏みにじる人ではない。
なのに、どうして、そんな事。

『――"命令"だイカロス。殺し合いに乗れ』

それでも、どんな残酷な要求であっても。
その言葉の裏にどんな意図が隠されていたとしても。
エンジェロイドはマスターの命令に従わなければならない。
元より、彼女達はその為に生まれてきたのだから。
だからこそイカロスは、「桜井智樹」の願いを聞き入れた。

333連【つながる】 ◆qp1M9UH9gw:2011/12/06(火) 21:22:24 ID:pt7rQy2c0

そはら達が、自分が殺し合いに乗ったと聞かされたら、彼女達はどんな反応をするのだろうか。
考えるまでもない――きっと軽蔑される。
例えマスターの命令でも、殺しは人間にとっては決して許されない所業なのだから。
それでも、例えそれが罪であっても、彼女は従わなければならない。
マスターの真意が見えなくても、彼女は言われるがままに戦わなければならないのだから。
そはら達には、ただ心中で詫びる事しかできなかった。
願わくば、彼女達とは出会わないで殺し合いを終わらせたい。

大気を切り裂き、空の女王は標的を探し始める。
そうだ、これこそが戦略型エンジェロイドとしての本来の役目なのだ。
敵を殲滅するためだけに、シナプスの民によって造られた戦闘兵器。
自分は兵器なのだから、日常を望んでも、マスターに思いを寄せても、もうどうしようもないのだ。


そう信じ込もう、そうしなければ――涙が溢れ出てきそうだから。

334連【つながる】 ◆qp1M9UH9gw:2011/12/06(火) 21:24:17 ID:pt7rQy2c0
【彷徨うD】

「桜井智樹」は、イカロスが飛び立った事を確認すると、ニタリと口元を歪ませた。
本来の「桜井智樹」ならば、このような邪悪な表情は決して見せないだろう。
次の瞬間、「桜井智樹」の姿が瞬く間に崩れていき、やがて全身白色の怪人に変化する。
そしてさらに怪人は、まだあどけなさの残る少年へと姿を変えた。
彼の名は「アンク」――800年前の封印で二つに分離したアンクの片割れ。
アンクの右手には一本のUSBメモリが握られており、
それの側面部には、一本の鎌とそれと全く同じ形の影が鎌の後ろに隠れる形で書かれている。
この「偽装」の記憶を封じ込めたガイアメモリによって、アンクは「桜井智樹」になりきる事に成功していたのだ。

マスターを優先させるイカロスにとって、ダミー・ドーパントによる変装は効果覿面だった。
既に彼女は、自分を「本物」ではないと見抜いている可能性もあるが、
彼女はマスターに尽くす為に造られた「エンジェロイド」――模造品とは言え、ご主人様には逆らえない。
凄まじい戦闘力を誇る「空の女王」を赤陣営の尖兵にできたのは、大きなアドバンテージとなるだろう。
イカロスから支給品も手に入れ、装備も充実している。
セルメダルが不安要素ではあるが、それは他陣営の参加者から奪い取ればいい話だ。決して大した問題ではない。

銃の形をした小型の機械をデイパックから取り出す。
Living Connector Setting OperationGun――通称「L.C.O.G」。
これを用いる事によって、アンクはドーパントとして活動できるのだ。
しかし、これはこの殺し合い用に造られた非常にお粗末な代物のようで、一回使っただけでもう機動しなくなってしまった。
手に持ったL.C.O.Gを地面に落とし、足で踏み砕く。
利用価値がない以上、こんな物は持っていても邪魔にしかならない。

「ボク……」

もう一人の自分は、今何をしているのだろう。
早く彼と会いたい――彼のメダルを手に入れて、完全なアンクになりたい。
詳細名簿によれば、彼は大桜付近がスタート地点らしい。
自分が着いた時に彼がそこに居るとは思えないが、それでも彼がそこからそう遠くない位置にいる事は確かだ。
行ってみる価値は、十分にある。

「待っててね……ボク……」

片割れと一つになる時を夢見ながら、親鳥を探す小鳥は空を仰ぐ。
彼が完全な姿であの空を飛ぶ日が来るのかは、まだ誰にも分からない。

335連【つながる】 ◆qp1M9UH9gw:2011/12/06(火) 21:26:57 ID:pt7rQy2c0
【Kが見ていた】

「桜井智樹」の正体を目撃していた者は、確かにそこにいた。
その男の名は「雨生龍之介」――冬木市を震撼させている連続殺人の犯人である。
誰かいないか思いながら、辺りをふら付いている最中に、偶然怪人に変化する「桜井智樹」の姿を発見したのだ。

「すっげー……一体どうなってんの……」

怪人が人間に戻る際に、右腕からUSBメモリが排出されていた。
それが彼を異形に変貌させたのは、龍之介にだって容易に理解できる。
あんな非常識な変化を起こせる物なんて、少なくとも彼は聞いた事が無い。
「旦那」が使っていた「宝具」と同系統のものなのだろうか。

「……ん?」

そう言えば、自分の支給品にもあれと似たようなUSBメモリが入ってなかったか。
デイパックを弄ってみると、確かにそれはあった――あの少年が所有していたものと同じデザインのメモリが。
だが、側面部に書かれたイラストが彼の物とは別のものになっている。
あの怪人とはまた違う姿に変化するのだろうか。

「うん……イイ!凄くイイ!すっごくCOOL!」

何になるかは実際に使ってみるまで分からないが、それはそれで面白い――もとい、COOLである。
「旦那」に会ったらこれを見せてあげよう。
彼ならば、きっとこれを有効活用した上手い「楽しみ方」を思いつくだろう。
その時が楽しみで、龍之介は思わず身を震わせた。

「〜〜♪」

鼻歌を歌いながら、スキップで舗装された道を歩く。
これから味わうであろう様々な「死」に期待を馳せながら、殺人鬼は街を闊歩する。

336連【つながる】 ◆qp1M9UH9gw:2011/12/06(火) 21:30:12 ID:pt7rQy2c0
【一日目−日中】

【B−2/見滝原中学校・屋上】
【左翔太郎@仮面ライダーW】
【所属】黄陣営
【状態】健康
【首輪】所持メダル「100」:貯蓄メダル「0」
【コア】なし
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ダブルドライバー@仮面ライダーW
    「JOKER」「METAL」「TRIGGER」のガイアメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:「仮面ライダー」として誰かのために戦う。
 1:あれは……!?
 2:照井と合流する。
※少なくとも井坂死亡後からの参戦

【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑陣営
【状態】健康
【首輪】所持メダル「95」:貯蓄メダル「0」
【コア】なし
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、「CYCLONE」「HEAT」「LUNA」のガイアメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜3、
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。この事件の首謀者を捕まえる
 1:空を飛ぶ……人間!?
 2:照井竜と合流する。
※「地球の本棚」には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。
※少なくとも井坂死亡後からの参戦

【B−3/上空】
【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】赤陣営
【状態】健康、悲しみ、飛行中
【首輪】所持メダル「99」:貯蓄メダル「0」
【コア】なし
【装備】なし
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:マスターのために「赤陣営」を優勝させる
 1:マスターの命令に従い、赤陣営以外の参加者を殲滅する。
 2:マスターがこんな命令するワケがない。でも……。
 3:知り合いには会いたくない。
※何処に向かっているかは不明
※参戦時期は少なくともカオス遭遇前

【B−3/路上】
【アンク(ロスト)@仮面ライダーOOO】
【所属】緑陣営
【状態】健康
【首輪】所持メダル「90」:貯蓄メダル「0」
【コア】タカ:1、クジャク:2、コンドル:2
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、「DUMMY」のガイアメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜5(確認済み)
【思考・状況】
基本:赤陣営の勝利。"欠けたボク"を取り戻す。
 1:"欠けたボク"に会いに行く。大桜に行ってみる。
 2:"欠けたボク"と一つになりたい。
 3:赤陣営が有利になるような展開に運んでいくのも忘れない。
※アンク吸収直前からの参戦

337連【つながる】 ◆qp1M9UH9gw:2011/12/06(火) 21:31:48 ID:pt7rQy2c0
【B−3/路上】
【雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】白陣営
【状態】健康
【首輪】所持メダル「100」:貯蓄メダル「0」
【コア】なし
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ガイアメモリ(種類不明)@仮面ライダーW、不明支給品0〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:このCOOLな状況を楽しむ。
 1:しばらくはこのメモリで遊ぶ。
 2:「旦那」と合流したい。


【「DUMMY」のガイアメモリ@仮面ライダーW】
アンクに支給。
L.C.O.Gで製作した生体コネクタに挿入する事で「ダミー・ドーパント」に変身できる。
「ダミー・ドーパント」は対象の記憶を読み取り、その人が強く思い描く人物に擬態する事が可能。
その際には、擬態した人物の過去の記憶を読み取れたり、対象の持つ武器や持ち物、能力等も再現できる。
自分がイメージしたものや無機物にも一応擬態できるが、その時は上記のような完璧な擬態ではなく、外見だけの変化である。

【簡易型L.C.O.G@仮面ライダーW+オリジナル】
ガイアメモリとセットで支給されている。
正式名称「Living Connector Setting OperationGun=生体コネクタ設置手術器」を小型化したもの。
ガイアメモリを装填して、体表面の何処かに銃口を押し付けてトリガーを引く事で、
その位置に装填したガイアメモリに対応した生体コネクタを設置する事が可能。
ドーパントに変身するには、そのコネクタを介してメモリを挿入する必要がある。
簡易型なので、「W」劇中に登場した物よりも小型で、一度使用すると故障してしまう。

338 ◆qp1M9UH9gw:2011/12/06(火) 21:32:15 ID:pt7rQy2c0
投下終了です

339名無しさん:2011/12/06(火) 22:20:02 ID:zGlp2ECQ0
投下乙です!
うわぁ……ロストアンクと龍之介にはとんでもない物が支給されてるな。
そういやこのロワじゃ首輪にコネクタがないから、メモリを刺すのに機械が必要なんだな。
そしてイカロス、彼は智樹じゃないぞ!
翔太郎とフィリップよ、出来るなら彼女を救ってくれ!

340名無しさん:2011/12/07(水) 17:53:38 ID:JY0TGBS60
投下乙です

そりゃ、そらおと勢の情報と支給品がそれならこういう策も可能だわなあ…
アンクてめえ、なんて外道な…
ちなみに俺ならイカロスにセクハラする為に使用するぞと考えた俺は智樹レベル並のスケベか?
龍之介も要らん知識仕入れるし…
翔太郎とフィリップになんとかして貰いたいがガチのイカロスは強敵だぞ…
ああ、先が怖いなあ

341名無しさん:2011/12/08(木) 00:43:14 ID:xYL2U/6kO
アンクの陣営が緑になってるよ

342 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 02:50:19 ID:4vdVLfTI0
投下乙です!
かなり成熟した時期からのロスト参戦ですね
やることがえげつない…
イカロスが実に原作らしくてイイ!

投下させていただきます

343橋田イタルの失敗 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 02:55:19 ID:4vdVLfTI0

 暑い、重い、辛い。暑い、重い、辛い。
 息苦しそうな喘ぎに混じって、男の口からそんな言葉が漏れる。なにか呪文のようにそう呟こうと物理的な苦痛が紛れるはずもなく、男、橋田至の豊満な巨体に食い込むデイバッグの肩紐は、
相も変わらずぎりぎりと容赦なく至の体を締め上げていた。
 その手に携えられ杖代わりにつかれる乖離剣エアの姿には、ふうふうと息を荒げて歩く目下の主人と同じく尊厳も糞もあったものではない。剣であるというなら、
雑に扱えば歯零れのひとつも起こしそうなものだが、見てくれからしてそんなものとは無縁なエアは、最早至にとって少しいびつな形の杖に他ならなかった。

「杖代わりにしたってちょいと重すぎと思われ」
 ぼやけどもぼやけども、かの剣は軽くならず。
「そもそもここどこなんだお、マジで」
 ぼやけどもぼやけども、かの者の所在地は知れず。

 何もかもを打ち捨て空調の効いたラボで横になりたい。
 そんなちっぽけだが切実な欲望を胸に、橋田至は、正確な方向も知れない秋葉原に向かって、とりあえず歩き続けるしかないのだった。


 そんな彼について少し真面目な話をするならば、彼が考えるともなしに考えることについて、つまり、椎名まゆりについての話だ。
 助けにいくべきだったのか、それとも動かずいて正解だったのか。

「……そんなこと言ってもまゆ氏が死んじゃうなんて誰も思わんだろ、常考」
 我ながら薄情なことだとは思うが、至はまゆりの死に大きな情動を得ていなかった。
 もちろん、一応の悲しみはある。彼女を不器用ながら大切にする友人、岡部が心を痛めているだろうと思えば、我が事のごとく胸が潰れるようだ。それでもなお、だった。

「助けにいったところで死人が増えるだけだし」
 そんな陳腐な言い訳でまゆりの死が納得できてしまう。そんな自分は、本当にショックを受けているのだろうか。
 泣きわめき、憤りを拳に託して荒れ狂うのが道理ではないのか? それが本当の、友達を思いやる「優しさ」というやつなのではないか? 少なくとも、至が愛好する漫画やアニメの登場人物たちはそうしていた。
 死に別れという経験のないファクターを経て、しかし至はそれに首を傾げる。ショックを受けなければならない、とはおかしいが、友人の死にこの感じ様というのも酷く違和感が残るものだった。

 現実感の欠如というのが、この違和感をもっとも正しく言い表す言葉だろう。彼の思うところの「友人を亡くした男」と、現実の自身の感動のズレは、ひとえにこれに起因する。
 そして、ひどく致命的な感のあるその違和感を、至は結局理解せず仕舞いだった。

 理解しないまま、橋田至は出会ったのだ。

344橋田イタルの悪運 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 02:57:53 ID:4vdVLfTI0
 過ぎたそれを数えることはとうに止めていた、代わり映えしない交差点のうち一つ、それに至が差し掛かったときだった。
 至の全身をなでるように吹く一筋の風に乗って、声が彼の耳朶を打った。草花のざわめきや家鳴りを聞き間違えたのでもない、確かな人間のそれだ。孤独に歩き回っていた至にとって最初の、他の参加者との出会いである。

 すぐにでも飛び出していきたかった。どんな危険に遭遇するか想像もつかないこの場所で、一人ぼっちで過ごすということがどれほどの心労であるかは、至は歩き始めてすぐ理解していたからだ。
 ただし問題が一つ。聞こえた声が、それを荒げた怒号であると思えることだ。

「殺し合いのゲームの、参加者……」
 知らずに至は身震いした。こんな場所で声を張り上げる理由など、まずひとつしかないだろう。被虐であれ嗜虐であれ、暴力にかかわること。そうでしか、きっとこんな怒りの声は出さないはずだ。
 その予想が違ったとしても、こんな場所――殺し合いの場で誰かに聞かれるような大声を上げる人間が、安全であるとは思い難い。
人恋しくなった他者を言葉巧みに、というより大声巧みにおびき出し、のこのこやってきた者を容赦なく害する。わかりやすく簡単で、それでいて強力な方法だ。

 寂しさと危機感の一瞬の鍔迫り合いは、すぐに軍配が上がった。
 この声の元に向かうのは危険に巻き込まれる可能性がある。まず間違いなく、ここは無視して通り抜けるのが得策だ。

「…………」
 だというのに、足は動かなかった。
 何を迷っているのだろう? どう考えても正解の結論だ。命あっての物種だし、そもそも自分は荒事に向いていない。もしこれが争いによる叫びだったとして、行ったところで何も変わるはずがないのだ。
争いを止めることも、ましてや死者を減らすために、悪意に立ち向かうことも……。

「……オカリンはわかんねーけど、まゆ氏はここで迷わず助けに向かうような人だと思われ」
 優しい子だったから、と独りごち、声の方向へとゆっくり体を向ける。
 非合理的甚だしい判断だ、遅くはない戻れ、と脳髄にアラートが響き渡った。それを追い払おうともせず、胸中で反響する警告と憂慮の声をそのままに、至は歩き出す。
 あるいはそれは、死んだまゆりという少女に、「その死を悲しむ優しさ」を抱けなかったことに対する、罪滅ぼしと呼ばれる行動であるのかも知れなかった。


 もし彼が初めに歩き出す時、ほんの少しでも方向を変えていたなら、なんて。
 仕方のない空想だ。橋田至はほんの少し運が悪かっただけで、彼には何の落ち度もなかった。偶然この方向を選んで、偶然この叫びを聞いた。
 そして、もし運が悪かったことを「落ち度」と呼ぶなら。
 これはもはや、ひどくご都合主義な喜劇の一幕であるとして、なんら恥じることのない、底抜けに非情な茶番劇だ。
 役者は踊る。決められた台本の通りに、カタルシスを与えるためだけの死の舞踊を、踊らされているとも思わずただ踊る。
 橋田至は、ただ「運が悪かった」だけだ――。

345橋田イタルの悪運 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 03:04:49 ID:4vdVLfTI0

 声の主はすぐ見つかった。至のいる市街地の一つ先のブロックの角で、二人の男が言い争いを繰り広げていたのだ。
 言い争い、というには語弊があった。声を荒げているのは黒いライダースーツの男だけで、対する野球帽の中年は虚脱しきった表情だ。

 何の変哲もない、そんな喧嘩の光景だった。気の短い若者がいい加減な中年を怒鳴り散らす、少し町を歩けばどこだって見ることのできる、ごく普通の諍い。
 ――もしライダースーツの男の手にショットガンが握られておらず、あまつさえそれが中年の男に突き付けられていなければ、ではあるが。

「もう一度聞く! これは最後通牒だ」
 ライダースーツの男がひときわ声を張り上げる。至が隠れる街角から見れば、彼の方を向く野球帽の男、その背に銃を向けるライダースーツの男、といった具合だ。
「お前は殺し合いに乗っているのか。三十秒以内に返答しろ。でなければ撃つ」
「…………」

 問う男は何かに追い立てられるような、焦燥に満ち満ちた表情だった。対する野球帽の中年の無表情はまるで氷だ。
 言い争いの経緯は知れないが、即座に刃傷沙汰に発展するようではない。野球帽の男が「乗っていない」と一言言えば、気が立っているライダースーツも銃を収めるだろう。そのはずだ。
「言っちまえ、早く」
 生唾を呑みこんで、至は胸中で呟いた。不快な汗が腋を伝っていく。強張った表情のおかげで、満足に瞬きもできない。当事者でもないのに、彼はひどく追いつめられていた。
早鐘を打つ胸を掴む手に、独りでに力が籠っていく。もう一度我慢できず、口癖も忘れて呟いた。
「答えてくれ、おっさん……!」

「二十五、二十四、二十三」
 カウントダウンは続く。野球帽の男の表情は、深い角度のつばに邪魔されて拝めない。
「十七、十六、十五」
 これではいけない。野球帽の男はまだ答えてはいない。彼はまゆりとは違う。死を拒む権利がある。もしかしたら、恐怖のあまり固まっているだけかも知れないのに……。
 でも、どうする? 至にできることはない。銃口の前に立って代わりに打ち抜かれるなど、お笑い種にもなりはしない。
 両手に力を込める。そして得る、胸腔を突き破らんと暴れる心臓を抑える手と、その逆の手が何かを握りしめる感触。
「十、九、八」
 どうする? どうする? この殺人を止めるためできることはあるか? 暴力を押しとどめるために、至自身が振るい得る力――。

 はっと己の手を見た。その手には杖が握られている。その杖の名は、乖離剣エアといった。


 ライダースーツの男が、ぎょっとした表情と共にカウントダウンを止めた。銃を突き付けた男の向こうから、玉突きさながらに弾かれたような速度で巨躯が飛び出してきたのだから、無理もない。
そんなライダースーツと同じく唖然としているであろう野球帽の横を駆け抜けて、至は二人の間に立ちはだかった。その震える手には、とある英雄王が振るう究極の宝具が分不相応に、だが確かな決意をもって握られていた。

 橋田至は決心していたのだった。ラボで寝るのは後回しだ、と。こんな風に人が殺されかけたり、死んだりするのは絶対に間違っている、と。
 今ある力で、この争いを止める。まゆりにできなかったことを、今、ここで。

「やややめるぉっ!」
 やめろ、と叫んだつもりであったのだが、ままならないものだ。舌を噛んだことを恥じて、場違い極まりないが、至は頬を赤らめた。
エアを一層強く握り、ともすれば恐怖のあまり歪みそうな顔を引き締めて、ライダースーツを睨みつける。メガネ越しの瞳に宿る光は決して弱くない。

「そんな脅かしちゃダメだ。こ、怖いだろ、怖がってるお」
 伝えたいことはたくさんある。眼鏡の思惑に乗っちゃいけないとか、ただ単純に人殺しはいけないとか。
 言葉足らずでも支離滅裂でも、こんな馬鹿げた殺し合いを止めるために言わなければならない。
「危ないんだお、銃を下して。殺しちゃうのはダメだ」

346橋田イタルの悪運 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 03:08:00 ID:4vdVLfTI0
「待て、違う」
 再起動に成功したコンピューターのように、突然ライダースーツは話し出す。その表情は、話の流れを知らずとも「してやられた」と読み取れるような、そんなものだった。
 至の背後に立つ野球帽の表情は見えない。そしてライダースーツのそれは、至と野球帽の間を行き来し、その度に焦りの色を深めていく。

「落ち着くんだ。俺は人を殺すつもりなんてない。俺はライドベンダー隊第一小隊――」
「殺さないつもりだってぇ? 出会い頭に人様に銃を向けて撃ちやがったやがったのはどこのどいつだよ、火火火火火っ!」

 黙りこくって推移を見ていた野球帽が突然叫んだ。驚きに至の身体がこわばるが、それより劇的な反応を示したのはライダースーツである。その表情がくしゃりと憎悪に歪んだのだ。
 野球帽の言葉の真偽も気にかかったが、それを思索するより先にライダースーツのむき出しの感情を見て、至は直感した。
 ――この男は間違いなく撃つ。

「――出鱈目をッ!!」
「ダメだっ!」
 三様の叫びが交錯する。改めてショットガンの照準を合わせるライダースーツに、明らかに剣の間合いの外であるのにエアを振りかざす至。

 乖離剣エアの能力を知ればこそ、その外見から予測できる間合いの外で構えることの意味がわかるが、あくまで知ればこそ、だ。
だから、ただの剣――銘を知らねば剣だともわからない、槍のような棒――であれば虚仮脅しにもならないその行為は、義務感と恐怖に駆り立てられた至の、何かしらのアクションを期待してのものではない、反射的な行動だった。
 そして、それに大きく反応を見せたのは誰であろう、向かい立つライダースーツの男だ。あろうことか至や野球帽から目を反らし、何か知らないはずのエアを警戒するように全身を強ばらせたのだ。
まるで、離れた距離にいても機能する剣を他にも知るかのように。

 争いに慣れていない至にとって、ライダースーツの隙は隙とも呼べないような逡巡だった。だからこそその一瞬に、至自身も「この剣を振り下ろして断罪してもいいのか?」という疑問と向かい合う羽目になり、
「ライダースーツも恐怖に駆られてのことだったのでは?」だとか、「そもそもこいつは野球帽に何と問いかけていた? 野球帽が彼を陥れようとしている可能性は?」だといった疑問が
連続して染み出してくるのを留めることもできずに、即席の戦場に一瞬の静寂が下りる。

 そのまま膠着状態に陥らなかったのは、野球帽が放った円柱状の物体のせいだった。至の脇より転がりでたそれに吸われるように至とライダースーツの視線が集まる。
 からからから、と転がり、ライダースーツの足元にたどり着くそれ。

「これは……っ」「へ?」「火火っ」

 そして、待ちかねたようにスタングレネードが、全てを呑み下す爆音と閃光が炸裂した。

347橋田イタルの悪運 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 03:11:32 ID:4vdVLfTI0

 轟音に揺すられた脳幹が落ち着きを取り戻すまで、幾分かの時間が必要だった。音とフラッシュを身構えなく受けたライダースーツと至が即座に動けるはずもなく、
至がライダースーツのもとより逃げ出すことに成功したのは、目を瞑り耳を覆ってスタングレネードの被害を最小限に抑えた野球帽が至の手を引き、その離脱を導いたからだ。

「葛西善二郎ってんだ。よろしくな、坊主」
 たどり着いた、諍いの現場より二十ブロックほど離れたブロックに位置する一軒家。そのリビングルームで野球帽の中年、葛西善二郎は、どこか皮肉げな笑顔を、スタングレネードの影響が抜けきらず朦朧とする至に向けた。


「橋田至、だお。……です」
「そうかい」
「それより聞かせてほしいんですけど……、さっきのあれ。なんだったん?」

 前述の「幾分かの時間」が過ぎ、それからもう少しの時が過ぎたころだ。食卓を囲む椅子に腰かけて、リビングの入り口付近で紫煙を燻らす善二郎に事の顛末の説明を求める至は、しかしその言葉を遮られた。

「なあお前、なんであそこに飛び出してきた?」
「え? ……いや特に深い理由はないっていうか……、それより、なんであそこで喧嘩してたのかを先にキボン――」
「いいから、先に答えろよ。俺の質問に」

 言外に、ヒヤリとした圧力が顔を見せる。それは、暴力と縁のない日常を送る至を委縮させるのに、過剰なほどの悪意だった。とたんに顔を伏せて、「だって……」と口ごもる至。
 手を引いて助けて、笑みを向けてくれた、この異常な空間で初めて出会った人。悪い出会いではなかったと高揚していた気分が、針で突かれた風船のようにしぼんでいく。
 それでも、小さくとも頼りなくとも、発した声は震えなかった。

「助けたかったから、だお……です」
「……助けたかったぁ?」

 含みを持った返事に、しかし至は臆しない。さきの決心は、場に急かされた結果とはいえ本物だ。悪意の予感に萎えた心を叱咤し、至は言葉を吐き出す。

「まゆ氏が死んじゃって、でもなんかよくわかんなくて。だから、まゆ氏の代わりに、まゆ氏だったらやりそうな希ガスってことやろうと思って」
「……そうか。もういい」
「あんなの絶対おかしいお。殺されるとか殺し合いとか間違ってるって」
「……もういいっつってるだろ」

 心の底から毀れてくる想いを言葉に変えるだけで、ふわふわと現実感のなかった想いが形を作っていく。善二郎とライダースーツの間に立ちはだかると決心したときのように、至の身体を言葉にできない熱い感情が駆け巡る。
「許しちゃダメなんだお、こんなのは。だから僕は、できることをやって、こんなおかしいことを止めさせて――」
 言葉によって形作られた決意は、まるで燃料のように言葉を燃え上がらせた。蚊の鳴くような声量はだんだん大きくなっていき、たどたどしかった声も力強い芯を得て、そして――。



「――ごちゃごちゃうるせえよ、ブタ」

348橋田イタルの悪運 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 03:16:08 ID:4vdVLfTI0

 視界の端にあった善二郎の腕がブレた。高揚した至が知覚できたのはそれだけだった。
「うがっ」
 強い衝撃が走って、視界が一瞬のブラックアウトを引き起こす。逆らえず、椅子ごと倒れて後ろに転がった。
「……!? !?」
 声が出ない。暗転した視界は即座に戻ってきた。ただし、その範囲は著しく狭まっている。
 代わりに得たのは熱だ。焼けつくような、痛むような、まるで焼き鏝を突き刺されたかのような熱――。
 視界が割れている。目前に何かがある? ――眼に、刺さっている?

「あ、が、が、ああああ、ああああアアアガアアアアアあああああアアアああ」

 仰向けに倒れた至は、即座に手で熱を発する顔を覆った。眼球に突き刺さった眼鏡の破片に指が触れて、灼熱が弾けるように膨れ上がる。
もはや話を続ける余裕など影も形も残っていない。「何故こんなことを」なんて疑問を抱く余地すら残っていなかった。
 首輪から漏れる鈍色のメダルがフローリングを叩き、騒がしく散らばる。
 まゆりも岡部も己の決意も、何もかもをどうでもよくする痛みだけが、彼の全てを占めていた。

「まったく下らなくうるせえガキだ。さっきの青二才の方がまだマシだぜ」

 のたうちまわる至に、その声は届かない。呆れたように首を振った善二郎が「あばよ」と呟く。
 いかなる原理か、その手のひらに灯った炎が、至の身体に射掛けられた。一段とトーンを上げた自分の悲鳴をバックミュージックに、半分になった視界をさらに炎が覆う。
 ――めいっぱい空気を吸い込んだ肺が中から焼けていく。
 揺らめく炎の向こうで善二郎が家具に火を放ち、至のデイバッグや、壁に立てかけてあったエアを掴む姿の影がかろうじて見て取れた。
 ――眼球は煮沸し、今にも弾けそうだ。
 そして至に一瞥もくれず部屋を後にするその男を、炎に包まれた視界で捉えたところで、至の意識はぷつりと途切れる。

 まゆりを失った実感を得ることなく、己の死と痛みと灼熱だけを「現実感」とし、他の全てを理解せずおいて、橋田至はあっけなく逝った。

349橋田イタルの悪運 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 03:21:57 ID:4vdVLfTI0

 実際危険だったのだ、あの時は。完全に先手を取られて銃を突きつけられ、それなりに鍛えていたあのライダースーツであれば、善二郎がどのような抵抗をしようと、撃たれることは間違いなかっただろう。
強化細胞を移植しなくともハンドガン程度では足止めにもならない肉体を備える善二郎だが、やはりその肉体もショットガンとの直接対決は避けたいところであった。
 そういう意味で善二郎を助けたかったと言ったあの少年は、確かに善二郎を救っていたのだ。

「生き残るためには余計な怪我をしないことが火っす(必須)ってな。助かったぜ、至クン」

 お気に入りの煙草が取り上げられなかった僥倖を噛みしめながら、善二郎は燃え上がる民家を後にする。
まったく急な話で仕込みができず、ただ火をかけるだけという幼児でもできるような放火しか出来なかったことが悔やまれるが、やむを得まい。小火小火(ぼやぼや)していると先のライダースーツに追いつかれてしまう。
真正面から相対すれば手玉に取る自信はあったが、それでもできる限り危険は排除しておきたかった。

「なにしろそのためにあんな糞餓鬼を連れてきたんだからよ」

 物資増強のため、お人好しへの肉の盾とするため。
 後者に関しては、愚にもつかない与太話始めたことで投げやりな気分になり、残念ながらふいにしてしまった。だが前者に関しては立派に果たしたのだから、とりあえずはよしとしよう。

 火災現場からしばらく歩き、離れた民家の前で至のデイバッグをぶちまける。
「うお、乞食か俺は」
 至に支給されていた食糧を己のデイバッグに移し、脳裏を過った情けない空想は頭を振って追い払い、善二郎は次に目ぼしいものを拾い上げた。
 ゴリラとわかる意匠の施された黒いメダルだ。

「コアメダル、ね」

 善二郎が操る炎は種も仕掛けもある小細工故、一切のメダルを必要としない。とはいえ、メダルは持っていて損はないだろう。「まあもらっておくか」と善二郎は己のデイバッグをそれを放り込んだ。まずは戦果その一。
 再び追い剥ぎのように死体からものを漁る己の惨めさがちらついたが、もはや言うまい。

 次はこれだ。説明のメモに目を通すが早いか、善二郎はそれを破り捨てた。
「ガイアメモリなんて胡散臭いもんはどうにもな」
 彼は自身の犯罪に美学を持ち合わせている。「人間の限界を超えない」という己が美学に照らし合わせて、トライアルメモリは彼にとって不必要なものでしかなかったのだ。
「そら、よっと!」
 住宅地の屋根より高く、空に吸い込まれてしまえと念じてガイアメモリを投げ捨てる。残念ながら物理法則に従いどこかに落ちていったのを見届けて、善二郎はため息を吐いた。「戦果なし、と」そう呟いて、最後の至の支給品をみやる。
 乖離剣エアだ。

「あのライダースーツはこれを怖がってた」
 剣にすら見えないおかしな形なのに、それを構えただけで警戒した。ということは、これもなんらかの面白くない機能があるということである。
 果たして、説明書きには彼の想像を上回るトンデモ兵器であると記されていたのだった。

 口角を持ちあげて笑みを浮かべる。見る者がいれば、それは邪悪な笑みと呼ばれたことだろう。
「戦果その二、だ」

 エアを肩に担ぎ、葛西善二郎は歩きだす。
「さぁて。――おじさん、いっちょ長生きしちゃうぞぉ」

350橋田イタルの悪運 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 03:22:21 ID:4vdVLfTI0
【橋田至@Steins;Gate 死亡】

【一日目-日中】
【B-5/衛宮邸以南】

【葛西善二郎@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】赤
【状態】健康
【首輪】所持メダル160(増加中):貯蓄メダル0
【コア】ゴリラ×1
【装備】乖離剣エア、炎の燃料(残量95%)
【道具】基本支給品一式+一人分の食料、愛用の煙草「じOKER」×十カートン+マッチ五箱、@魔人探偵脳噛ネウロ、スタングレネード×九個@現実、《剥離剤(リムーバー)》@インフィニット・ストラトス
【思考・状況】
基本:人間として生き延びる。そのためには逃げもするし殺しもする。
  1:とりあえずは南に行こうかね。ライダースーツから逃げにゃならん。
  2:殺せる連中は殺せるうちに殺しておくか。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※B-5の衛宮邸以南にある民家が全焼しました。立ち上る煙は地図の周囲八マスから観察できます。
※ライダースーツの男(後藤慎太郎)の名前を知りません。
※B-5の衛宮邸以南のどこかにトライアルメモリ@仮面ライダーWが落ちています。
※「生き延びること」が欲望であるため、生存に繋がる行動(強力な武器を手に入れる、敵対者を減らす等)をとる度にメダルが増加していきます。

【全体備考】
※B-5の衛宮邸以南にある民家の焼けおちた下に橋田至の焼死体があります。
※瓦礫の下にはセルメダル70枚が散らばっています。

【支給品解説】
・《剥離剤(リムーバー)》
 四本足の装置。ISを展開している操縦者の胸部に足を巻きつけるようにして設置すると、激痛を伴う電流に似たエネルギーを流し込み、ISを強制解除しコアの状態まで戻す。ただし一度使用したコアには《剥離剤》に対する耐性が出来、二回目に効果はない。

351橋田イタルの悪運 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 03:24:40 ID:4vdVLfTI0

 警察は、そして世界は無能だ。
 小事にかまけて助けを求める小さな声に手を貸さない、肥大化した組織特有の即時即応性の欠如、そして真に断罪すべきを国際的にどうだ政治的にどうだなどと、お茶を濁して放置する。
見過ごされる癒着、蔓延する怠慢、見渡せば権力の亡者しかいない会議室――平和は書類だけで得られるものじゃないのに!

 こんな自分のことしか考えないような連中に、世界の平和が守れようはずがあるものか。
 だからこそ後藤慎太郎はその輝かしい――彼自身から見れば薄汚れて鈍く照り返すだけの、もはや意味と価値をなくしたキャリアを捨てて、鴻上ファウンデーションのライドベンダー隊で世界平和のための戦いを始めた。
いや、始めるはずだった。

「くそっ」
 吐き捨てて、その手に握るショットガンをコッキングさせる。命を奪うための準備を整えた死神は寡黙だが雄弁だ。その力の重さが「平和を守るには君如何」と強く語りかける。
「化け物もあの眼鏡も、殺し合いに乗ってこの場で平和を脅かすバカ共も」
 握りしめる黒金の死神に応えるため生きてきた後藤として、この結論は当然のそれだ。だからこれは、実に彼らしい帰着点であると言えたのだった。
「残らずこの俺が裁いてやる……!」
 その瞳に輝く正義の光は、危うさを秘めて小さく揺らめいている……。

【B-5/衛宮邸以北】

【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康、強い苛立ち
【首輪】所持メダル100:貯蓄メダル0
【装備】ショットガン(予備の残弾:100発)@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、不明支給品0〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊としての責務を果たさないと……。
  1:誤解が広がる前に太った少年(橋田至)を確保、野球帽の男(葛西善二郎)は殺害も辞さない。
  2:とりあえず、煙が立ち上ってくる方に行こう。
【備考】
※参戦時期は原作最初期からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。

352橋田イタルの悪運 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 03:26:59 ID:4vdVLfTI0
投下終了です。
誤当さんです。
首輪の解除は……クリスとニンフがいるしなんとかなるよねうん。

問題点がありましたらご指摘をお願いいたします。

353名無しさん:2011/12/08(木) 10:17:31 ID:Kff4R7/AO
投下乙です
まあダルは運がなかったお
今の誤当さんその次期って事は誰がバースドライバー持ってるのか
気になったのはラボって空調効いてたっけ?
エアの説明書ってダルのポケットの中だから一緒燃えたんじゃない?

354名無しさん:2011/12/08(木) 11:21:15 ID:0m9OAyRk0
投下乙です

あらら、助けた相手が葛西だったとか
そしてあっさりと…
慎太郎は慎太郎でヤバい雰囲気だなあ
火事の現場で焼死体を見たら…あ、そういえば火を操る能力者も他にいたっけw

355 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/08(木) 20:15:42 ID:kBUYPVHgO
(ノ∀`)アチャー
後日修正して修正用スレに投下さしていただきます
ご迷惑をおかけしました!

356 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/09(金) 08:27:01 ID:9C/tLRh.0
投下乙です。

>>連【つながる】
ウラヌスクイーンがまさかのマーダー化……これはハードル高いぞ対主催。
翔太郎とフィリップは頼りになるけども、ダブルじゃイカロスに勝てるかどうか微妙だしなぁ。
アンクはアンクでまさかこんな外道なマネをするとは思って無かったぜ……
龍之介は何のメモリを支給されたのかが今後の展開を分かちそう。

>>橋田イタルの悪運
ダルはなぁ……どう動くのかわかんなかったけど、対主催で安心した。
運が悪かったとしか言えないけど、それでも男らしく動いたダルかっこよかったよ。
そんでもって後藤さんはその時期か……! 熱血成長パターンか大迷惑キャラになるか楽しみだなぁ。
バースドライバーは果たして後藤さんが持ってるのか、それともノブ君あたりに支給されるのかどっちだろう。

それでは、自分も投下を開始します。

357 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/09(金) 08:31:52 ID:9C/tLRh.0
 クスクシエ。それは、この会場マップの中心寄りに存在していた施設の一つ、ごく一般的な喫茶店だ。
 何故そんな喫茶店がマップに記されているのかと疑問にも思ったが、既に無くなった施設の事などどうでもいいかとすぐに思考放棄する。
 今はもう瓦礫の山となったクスクシエを眺め、ジェイク・マルチネスはにんまりと表情を緩ませた。

「いいねぇ〜、痺れるねぇ〜。暫く見ねぇ内に、面白ぇ奴が出て来たじゃねぇかよぉ」

 そう言って、ジェイクは鼻歌交じりに笑った。
 さっき戦ったガキの能力は何だった? 一体幾つNEXT能力を使っていた?
 ステルスとか云う不可視能力。虹色の羽根を展開し空を飛ぶ能力。極めつけは最後に放った謎の衝撃波。
 ジェイクが見ただけでも、あのガキが使った能力は三つにも及ぶ。
 能力を二つ持つ自分はまさに神に選ばれたNEXTと言えるが、奴は自分以上の三つだ。
 アッバス刑務所に収容されてから随分と時間が経過したように思うが、まさかその間にあんな奴が現れているなどとは思ってもみなかった。
 一人あたりの能力が二つを越え三つ以上にもなるのなら、下等な人類の存在価値はますます無くなってゆく一方ではないか。
 元より人類に露程も期待していなかった彼としては、それこそまさに望んでやまぬ世界なのだが。

「いよいよ神様も人間どもを見放したってかぁ? そりゃそうだよなぁ、NEXTが居りゃあ、人間なんて必要ねぇもんなぁ〜?」

 大仰に両手を広げたジェイクは、真昼の空に向かって声を張り上げた。

「でもなぁ〜……力の使い方を分かってないような奴ぁ、駄目だ。ありゃあ、NEXTの面汚しだよなぁ〜?」

 おどけた口調で、口元を尖らせて言う。
 さっきのガキなんてまさにそうだ。あのガキはまるで力を使いこなせていない。
 ステルス能力も、飛行能力も、あの衝撃波も。あんなガキが持ち主では、宝の持ち腐れもいい所ではないか。
 もしこの後もあのガキが運良く生き残り、また出会えたなら遊んでやってもいいが、わざわざ追い掛ける気にもなれない。
 それよりも、今は他にどんな参加者がこの場に連れて来られているかの方がよっぽど気になる。
 現在分かっている参加者はあの三重能力のガキと、ワイルドタイガーとかいう間抜けそうなヒーローの二人。
 こうなってくると、他にもNEXTは居ると考えた方が自然だろう。
 つまりこのゲームは、大量のNEXT能力者によるバトルロワイアルであると推測出来る。
 ならば、全てのNEXTの頂点に立つこのジェイク・マルチネスがゲームに負ける事などは許されない。

「ああ、誰がNEXTの頂点に立つ者なのか、ハッキリさせるしかねぇよなぁ」

 神に選ばれた自分なら、能力を二つ持つ自分なら、それも難しい話ではあるまい。
 手当たり次第に見付けたNEXTをブッ潰して行こう。
 そう決めたその矢先――ジェイクの耳朶に届いたのは、ここへ接近しつつある何者かの心の声だった。
 人数は四人……いや、五人だろうか。結構な大人数だ。
 どんな奴が居るのかは知らないが、このジェイク様に敵はない。
 その場にいる五人まとめて相手して、遊んで、そしてブッ潰してやろう。
 目下の標的を定めたジェイクは、不敵に笑い歩き出した。

358 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/09(金) 08:41:41 ID:9C/tLRh.0
 


 支給された小冊子を読み終えたネコミミメイドは、溜息と共にその頁を閉じた。
 太陽の真下、市街地のど真ん中。明らかにこの場に不釣り合いなフリル付きのスカートをふわりと翻し、少女は立ち上がった。

「いよいよ、畏れていた審判―ジャッジメント・グランドクロス―の刻(とき)が訪れてしまったのニャ……。
 六十の魂を依り代に行われる禁断の儀式……放っておいたら、世界は再び闇の支配者の手に落ちてしまうニャ。
 それを食い止める事が出来るのは、ニャンニャン星の“鍵”を受け継いだ、このフェイリスしか居ないのニャっ!」

 そう。このフェイリス・ニャンニャンだけが、唯一世界を救う事が出来る。
 この身に宿った鍵を何としても守り抜き、闇の手先ドクター真木の野望を食い止めねばならない。
 それこそがフェイリスに与えられた使命。それを果たし、世界を守る事がフェイリスの存在意義――!

「……なんて言ってる場合じゃないニャ」

 と、厨二妄想はその辺にしておいて。
 フェイリスは肩を落とし、落胆気味に項垂れた。
 確かにフェイリスは厨二にありがちな超展開に憧れてはいたが、これはやり過ぎだ。
 先程無慈悲にも殺されたのは、紛れも無くフェイリスの大切な親友……椎名まゆりに相違ない。
 彼女だけじゃない。名簿を見た所、この場にはフェイリスの知り合いが三人も参加させられているのだ。

「ダルニャン、クーニャン、それから……凶真。みんな、大丈夫かニャ……」

 胸中に思い描くのは、大切な友達の姿。
 スーパーハッカーの橋田至、天才少女の牧瀬紅莉栖。
 そして、フェイリスの危機を救ってくれた―前世で愛を誓い合った―男、岡部倫太郎。
 みんな同じ仲間、ラボメンだ。これ以上誰にも命を落として欲しくはない。
 ……特に、

「凶真……マユシィが死んだからって、無理しニャければいいけど……」

 鳳凰院凶真こと岡部倫太郎の事が、フェイリスは最も心配だった。
 凶真がまゆりの事を大切に想っている事は、フェイリス自身、他の誰よりも理解しているつもりだ。
 そもそも凶真は、この会場に連れて来られる直前まで、まゆりの為、歴史を改変しようとしていたのだ。
 今のままの時間軸で進めば、まゆりは必ず決められた時刻に死んでしまうから――。
 と、それを思い出し、フェイリスははっとして叫んだ。

「そうニャ、こんな事してる場合じゃないニャ! 早く脱出して、マユシィを救わニャいと……!」

 その為には、フェイリス自身がかつての世界線で過去に送ったDメールを取り消す必要がある。
 たった一通のメールを取り消すか否か。自分の行動に、親友である椎名まゆりの命が掛かっているのだ。
 しかし同時に、魔眼―リーディングシュタイナー―を備えたフェイリスは、それが何を意味するのかも理解している。
 過去に送ったメールを取り消すという事は、
 確定した歴史を改変するという事は、
 ……あの世界線に戻るという事は、
 つまり。

「パパを……殺さなくちゃいけニャい」

 かつての世界線のフェイリスは、父が死ぬ未来を変える為に過去にDメールを送った。
 だけれども、父は救えたが、この世界線に居る限り、大切な友達であるまゆりは必ず死んでしまう。
 フェイリスは悩んだ。
 フェイリスには、この世界線で父と過ごした数年間の記憶が確かにあるのだ。
 だが、あの世界線に戻れば、この記憶も曖昧なものとなり、父と過ごした時間は実質的に、消えてしまう。
 父と共に築いた暖かい想い出を消さなければならないというのが、どれ程酷な選択だった事か。

359 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/09(金) 08:44:59 ID:9C/tLRh.0
 
「辛いけど……でも、パパはもう、ずっと前に死んだのニャ」

 それが、正しい歴史だ。
 今フェイリスが築き上げた歴史は、所詮はインチキなのだ。
 フェイリス一人の幸せの為にまゆりの幸せを奪って良い訳がない。
 何よりも、身体を張ってフェイリスを守ってくれた凶真を、これ以上哀しませたくはない。
 だからこそ、フェイリスは決意したのだ。今からでもDメールを取り消し、まゆりを救うのだと。
 その決意に揺らぎはない。寧ろ、まゆりの死を見せ付けられて、より強くそう思った。
 だから、
 
「こんな所で殺される訳にはいかニャい!」
 
 全ては友の為に。
 何としても、このデスゲームから脱出するのだ。

「……でもその前に、まずは支給品の確認ニャ」

 デイバッグを開いたフェイリスの視界に入ったのは、一本のベルトと、一枚のメダルだった。
 最初にその手に取ったのは、吠える獅子の絵が描かれた、オレンジ色のメダルだ。
 ルールブックは読んだし、そのメダルが何を意味するのかは理解している。

「――ニャるほど! フェイリスだから、ネコミミの王様ニャ!」

 ネコミミの王様、つまりは百獣の王、ライオンだ。
 ネコミミに誇りを掛けるフェイリスに、ネコ科の王たるメダルが支給されたのだ。
 運命的な何かを感じたフェイリスは一人「ニャフフ」とニヤけるが、すぐにそんな場合ではないと状況を思い出す。
 確かコアメダルは、首輪に入れておけばいざという時にセルメダルの代わりに使えるとルールブックに書かれていた筈だ。
 これに頼る時が来るかどうかは別として、一応入れておいて損は無いだろうと判断したフェイリスは、ライオンのメダルを自分の首輪に投入した。
 次にフェイリスが手に取ったのは、残された最後のランダム支給品――銀色の無機質なベルトだった。
 テープで貼られた簡素な紙には、

 デンオウベルト。
 ライダーパスをセタッチすれば仮面ライダー電王に変身出来る。
 ベルトにはそれぞれのフォームに対応したイマジン四体が付属。
 ただし、イマジンが憑依出来るのは変身している間のみとする。
 
 と書かれていた。
 ……デンオウ? 仮面ライダー? イマジン? 憑依?
 まるで意味が分からなかったフェイリスは、「ニャ?」などと呟きながら、デイバッグの中身を漁る。
 よく探してみれば、奥の方に、やはり無機質なパスケースらしきものが入っているのを発見した。
 パスとベルトを手に取って――

『おい、何処だここは!? 良太郎は何処行った!? 一体どうなってやがる!』
『ちょっと落ち着いてよ先輩、一度にそんなに質問したって誰にも分かる訳ないでしょ』
『俺の強さに……お前が泣いた……グゥー――』
『ねえねえ、熊ちゃんまた寝てるよー?』
『寝るな熊公っ!』

 ――同時に流れ込んで来た意識の奔流に、―フェイリスにしては珍しく―唖然とするしか出来なかった。

360 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/09(金) 08:51:38 ID:9C/tLRh.0
 


 市街地を歩くネコミミメイドの背後には、赤、青、黄、紫、四つの影が付き纏っていた。
 とは言ったものの、それら四色の影は、恐らくフェイリス以外に認識する事は出来ないのだろう。
 頭に入り込んで来た四人の意識を受け入れたフェイリスは、彼ら―イマジン―との情報もある程度は共有化していた。
 何でも彼らは未来から来た意識体で、野上良太郎という少年(?)と共に戦った「仮面ライダー」という戦士なのだという。
 未来から来たという事実や、時間を消すだの歴史を改変するだのという話に、フェイリスはやはり、何処か運命的な何かを感じた。

(やっぱり、フェイリスの元に時の守護者が舞い降りたのは、フェイリスが歴史を改変したからなのかニャ……!?)

 事実、過去の改変者の元に時の守護者(フェイリスが勝手にそう呼ぶ事にした)が舞い降りた(?)のだ。
 ライオンメダルといい、デンオウベルトといい、これには何らかの意図が介在しているとしか思えなかった。
 類似点があれば何でも運命的だと感じてしまうのは厨二病の特徴の一つなのだが、しかし割と間違っているとも思えない。
 これこそが、運命を切り拓く未来への扉を開く“鍵”であると信じて疑わぬフェイリスは、彼らイマジンの存在を快く受け入れた。
 ……のだが、フェイリスなど意にも介さず不満そうに憤慨するのは、赤い鬼のイマジンだった。

『畜生、身体を乗っ取る事すら出来ねえ! どうなってやがんだよマジで!』
「憑依(シンクロ)出来るのは、変身してる間だけだって紙に書いてたニャ」
『オイ猫女! お前は一々訳分かんねえ言い方してんじゃねえ! 何だシンクロって!』
「二人の魂を同調(リンク)させ、力を引き出す秘奥義ニャ。1+1=∞(無限大)なのニャ!」
『わー、何それかっこいーい! 僕もやってみたーい!』
『それって要するに、いつも僕達が良太郎とやってた事と同じでしょ?』

 終始ツッコミに徹する熱血漢(?)、赤い影のモモタロス。モモニャン。
 常に冷静さを欠く事なく、合理的に物事を判断する青い影のウラタロス。ウラニャン。
 恐れを知らぬ子供のように無邪気に振る舞う、紫の影のリュウタロス。リュウニャン。
 さっきから寝てばかりだけど、たまに関西弁で反応する黄色の影のキンタロス。……キンニャン?
 一部語呂が悪いが、一応それぞれの真名(マナ)の仮決めを終えたフェイリスは、ウラタロスに問うた。

「ところでウラニャン。ここに連れて来られる前はどうしてたのニャン? その良太郎って人はどうしたニャ?」
『それがねぇ……僕にも分からないんだよ。鬼ヶ島の戦いを終えたと思ったら、次の瞬間には君に憑いてたから』
「にゃにゃ!? あの伝説の悪鬼が潜むと噂される魔の巣窟、オニガシマに足を踏み込み、生きて帰って来たというのニャ!?」
『お前は何も知らねえだろうが! 適当な事言ってんじゃねえ!』

 フェイリスの頭を、モモタロスが軽くはたこうとするが、その手はすぅっとすり抜けた。
 彼らは所謂、幻影のようなものだ。変身している時しか身体を乗っ取れないのであれば、今はどうしたって現実に干渉のしようがない。
 悔しそうに「くぅ〜!」と唸るモモタロスを後目に、リュウタロスが言った。

『ねえねえ、もしかしてこれもディケイドの所為なのかな?』
『かもねぇ……ディケイドにその気が無くても、彼と関わると色々面倒な事になるみたいだから』
「にゃにゃ? ディケイド?」
『うん、僕らがこうなる少し前、ディケイドっていう仮面ライダーと関わってね』

 軽くではあるが、ウラタロスが「ディケイド」について説明をしてくれた。
 曰く、ディケイドとは他世界―パラレルワールド―を巡る仮面ライダーの一人らしい。
 彼は幾つもの世界を巡り、その世界の仮面ライダーと絆を繋ぎ、そして通りすがって行くのだとか。
 そして、ディケイドが彼らの世界に訪れる少し前から、彼らの世界では異常事態が多発したという。
 それも全ては彼が「世界の破壊者」と呼ばれている事に起因するらしいが、詳しい事は分からない。

『……で、この門矢士ってのが、ディケイド』

 そう言って、ウラタロスはフェイリスが広げた名簿の名前を指差した。
 どうやらこの殺し合いに参加させられている「門矢士」という青年がディケイドらしい。
 あとはディケイドの仲間の「小野寺ユウスケ」と、泥棒の「海東大樹」くらいしか知り合いは居ないとの事だ。
 小野寺の方は信頼出来る正義の仮面ライダーで、逆に海東の方は信用ならない泥棒ライダーとの事。

361 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/09(金) 08:58:19 ID:9C/tLRh.0
 
(ニャるほど、大体分かったニャ)

 彼らの分かり難過ぎる質問を聞いて、しかしフェイリスは不敵に口角を吊り上げた。
 いや、本当の意味では、たぶん分かっていないのだろう。
 だけれども、ディケイドが厨二設定の塊であるという事は良く解った。
 世界の破壊者だのパラレルワールドだの、それらの単語が厨二病をくすぐらない訳がない。
 となれば、同じく厨二の塊ネコミミメイドであるフェイリスは、一度ディケイドとも語り合う必要がある。
 門矢士。正真正銘の厨二病ライダー……待っているがいいニャ、必ずディケイドともこの絆を繋ぎ――

『ちょっと待ってフェイリスちゃん!』
「ニャっ!?」

 思考の中断を余儀なくされたフェイリスが、思わず素っ頓狂な声を上げる。
 ウラタロスの声色が変わったのは、突然の事だった。
 すっかり背後の四人に気を取られていたフェイリスは、その言葉にはっとして、前方に意識を戻す。
 フェイリスから見て、ほんの百メートル程前方だ。瓦礫の山をバックに佇む、その男は――



 幾つもの意識が近付いて来る。
 随分と賑やかな声が、四人か、五人分。
 一人は寝ているのだろうか。ハッキリ声が聞こえるのは、四人だけだ。
 人の心の声を聞く事が出来るジェイクは、近くに誰かが接近すれば、それを察知する事が出来る。
 向かって来る声は五人。殺し合いで集団行動という事は、

「残念だなぁ〜、強者ってなぁ、群れねぇモンなんだよぉ」

 それはつまり、身を寄せ合い寄り集まった弱者という事。
 一人一人が強ければ、群れる事無く一人で他者を殺しに掛かる筈だからだ。
 ヒーローとかいう見世物にすらなれない弱小NEXTか、それともただの人間だろうか。
 どっちにしろ、このジェイク様の前に姿を現してしまったなら、後は死んで貰うしかない。
 半ば癖となっている爪噛みをしながら、そいつらが現れるのを待つが。

「……あん?」

 現れたのは、たった一人のメイドだった。
 顔立ちは可愛らしい部類だ。桃色のツインテールを揺らし、少女は絶句した様子で此方を見詰めている。
 しかしながら、少女以外にはこの場に誰かが居る様子はない。
 ない、のに。

「どういう事だ……何で声が四人分聞こえやがる」

 心の声は、確かに四人分聞こえるのだ。
 何処かに隠れているのか。否、そんな筈はない。
 先程まで奴ら五人で話し合っていた筈だ。隠れる時間などない。
 さっきのガキと同じ不可視(ステルス)能力だろうか。
 だが――それならば何処から声が聞こえてくるのかも分かる筈だ。

「何だこりゃあ、一体どうなってやがる……!?」

 声が何処から聞こえてくるのかを、ジェイクは判別出来なかった。
 確かに我の強い声が四人分、少女の声も入れて五人分、聞こえるのに。
 それなのに、探せども探せども声の出所が掴めない。
 こんな事は始めてだった。

362 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/09(金) 09:00:09 ID:9C/tLRh.0
 
「へ、へっ――」
「あ? 何だ?」

 少女が、困惑した様子で何事かを言おうと口をぱくぱくさせている。
 その間もひっきりなしに聞こえてくる五人分の心の声は、まるでノイズのようだった。
 いい加減苛立ちを覚え始めて来たジェイクが、少女に向かって歩み出そうとした、その時だった。

「――っ、変態ニャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

 少女の裂帛の叫びは、ジェイクの集中力を削ぐには十分だった。
 ジェイクが混乱し、呆気に取られた一瞬のうちに、少女は全速力で逃走して行った。
 次にジェイクは、全裸に左足のみニーソックスという今の姿を思い出し、少女の反応を理解する。
 
「全裸だから変態ってか! そりゃ無理もねぇわなぁ! ……はいはい」
 
 ジェイクは今、前すらも隠していなかったのだ。
 うら若き乙女にそれを突然見せ付けたとあっては、逃げ出されても可笑しくはない。
 どんな喜劇だよと胸中でツッコミながらも、ジェイクは先程まで聞こえていた五人の声が無くなった事に気付いた。
 そして、ああ成程と理解する。今逃げ出した小娘は、ただの人間などではない。
 一つの身体に五人分の意識を持ったNEXT能力者だったのだ。
 探せども探せども声の出所がハッキリしない筈だ。

「チッ……くっだらねぇなぁ〜オイ」

 こけおどしもいい所だ。
 軽く舌打ちしたジェイクは、足元の瓦礫を蹴飛ばした。
 行き場のない怒りをぶつけられた瓦礫は僅かに傾いて、またごとりと音を立てて落ちる。
 能力抜きの純粋な身体能力なら、あくまで人間の粋を出ないのだから、生身で瓦礫を粉砕するだけの怪力などはないのだった。
 今回は戦わずして逃げられてしまったが、もし能力を使って戦っていたなら、あの程度の小娘相手に負けは無かっただろう。
 そう考えると、実に下らない理由で獲物を逃がしたなと思い、

「はぁあ……服でも探すか」

 嘆息し、一人ごちた。
 ついでにこのもっさりした髪の毛も何とかしたい。
 何気にお洒落なジェイクは、まずは服と髪の毛を何とかしようと、街を歩き出した。



【一日目-日中】
【D-5/クスクシエ側】
【ジェイク・マルチネス@TIGER&BUNNY】
【所属】白
【状態】裸、ダメージ(小)、疲労(小)
【首輪】85枚:0枚
【装備】無し
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:ゲームを楽しむ。
1.楽しめそうな奴を探す
2.可及的速やかに服を探す。出来れば髪の毛も何とかしたい。
3.三重能力のガキ(=ニンフ)と五重人格のガキ(=フェイリス)は放っておいても構わない。
【備考】
※釈放直前からの参加です
※クスクシエが倒壊しました
※NEXT能力者が集められた殺し合いだと思っています。
※ニンフは三重能力のNEXT、フェイリスは五重人格のNEXTだと判断しています。


【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無所属
【状態】疲労(小) 、嫌な物を見せ付けられた不快感、全力逃走中
【首輪】100枚:0枚
【コア】ライオン
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:脱出してマユシィを助ける。
0.変態が出たニャーーーーー!!!
1.とにかく逃げる。
2.イマジン達は、未来への扉を開く“鍵”ニャ!
3.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ。
【備考】
※電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスが憑依しています。
※イマジンがフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみです。
※どの方向に向かって走っているかは次の書き手さんにお任せします。

363 ◆MiRaiTlHUI:2011/12/09(金) 09:02:20 ID:9C/tLRh.0
これにて投下終了です。
サブタイトルは「ネコミミと電王と変態」でよろしくお願いします。
何かあればまた指摘して頂けると幸いです。

364名無しさん:2011/12/09(金) 12:17:20 ID:E6uOQI5.0
投下乙です

なんか賑やかな状況だなあ。あの4体に憑依とかw
ああ、なるほど、彼からしたら五重人格に見える訳か
殺されてもおかしくない状況だったのに助かったのはラッキーだったなあw

365名無しさん:2011/12/09(金) 20:15:49 ID:LnFXbWmI0
投下乙です

変態ニャー!
そりゃ浮浪者同然の髪の毛に全裸のおっさんが目の前に居たら逃げ出したくもなるわw
フェイリスたんはあの強烈なキャラの四人を逆に振り回すあたり流石厨二病としかw
オカリンといいフェイリスたんといい本物の厨二病はマイペースで他者にキャラ食われないからブレないんだよな。

用語集に厨二病追加して欲しいなw

366名無しさん:2011/12/09(金) 21:41:17 ID:Kge2KwdE0
乙です。

どうでもいいけど、グリード化したら
エイジとマキの事例から怪人体はやはりそのグリードの色違いかな?

367名無しさん:2011/12/09(金) 22:23:30 ID:Kge2KwdE0
>>366はグリード以外の参加者がコアメダルを取り込んでグリード化した場合の話ね。

368 ◆lx1Zn8He52:2011/12/10(土) 18:44:07 ID:GzD60NmAO
投下します

369名無しさん:2011/12/10(土) 18:45:24 ID:GzD60NmAO
戦略用エンジェロイドtype-αイカロスは照り付ける太陽の下 純白の双翼を輝かせ飛翔する
――殺し合いに乗れ
己が主の命を受け 他の参加者を求める

(マスターがあんな命令する訳ない。だけど…)
先程目の前に現れたのは紛れもなく桜井智樹
声 姿 全て自分のよく知るものだった
先程のマスターに違和感を持ちつつも進むのを止められない
彼女の知る桜井智樹は、誰よりエロく 誰よりも変態で そして誰よりも優しい男だ
そんなマスターが自分達以外の死など望む筈が無い。自分の知るマスターなら形はどうであれこのゲームの打破を望むだろう
解ってる 頭では だが体は正直だ
エンジェロイドの存在意義はマスターの命令を遂行する それだけだ
目の前に現れたマスターを信じるか 自分の中のマスターを信じるか今のイカロスには決められない
葛藤の中 惑う赤き瞳に人影が移る 商店街のど真ん中で両手を振る白い姿には見覚えがあった
ワイルドタイガー このゲームに異を唱えた男だった

OOO

鏑木・T・虎徹は空を見上げ 迫り来る影を見据え足を止める
「なんだありゃ?人…か?」

警戒しつつも彼はコンタクトを取る事を選んだ
「おーい!止まれー!俺は――」

声を挙げ 話し合いを求めようとした瞬間 辺りを爆音が包み込む
Artemis イカロスの放った凶弾は辺り一面を吹き飛ばす
「て、おま!?問答無用かよ!?」

370名無しさん:2011/12/10(土) 18:45:59 ID:GzD60NmAO

立ち上る土煙の中 ワイルドタイガーは健在だった
能力制限 もし本来の空の女王ならこの殺し合いは既に赤陣営の勝利で終わっていただろう

天使は加速し土煙を切り裂いて華奢な拳が硬い装甲を容易く凹ませる
「止めろ!俺は殺し合うつも――」

続けて一撃 次はマスクに拳が突き刺さる
「俺の話を…」
その言葉を遮る様に放たれた弾丸が彼を遥か後方に吹き飛ばす

(くそ!取り敢えず気絶させ…)
ようと能力を発動しようとした瞬間 見た
俺を殺そうとする少女の顔を

口の中に広がる血の味を飲み下し
「……なぁ、お前本当に殺し合いに乗ってんのか?」
痛む身体に多少の無理をさせ立ち上る

「私はマスターの望みを…」
「誰かが望んでるからやんのか?」
「私はマスターの為に…他の人…殺さないと……」
「そのなんつーかよ!?そんなに悲しそう顔をしてまで…」
「私は…エンジェロイドは……マスターの命令を…」

ひびの入ったマスクを外し ワイルドタイガーは両手を広げ話を続ける

「俺はお前が人を好きで傷付ける様な奴に見えねんだ…。お前の言うマスターってのがどんな奴か俺は知らねぇけど誰かを傷付ける様な奴なのか?今お前を泣かせてるみたいに…」

涙 暴力を持って主の命を忠実に遂行せんとする大量破壊兵器の頬を一筋 また一筋と濡らしてゆく

371名無しさん:2011/12/10(土) 18:46:17 ID:GzD60NmAO

「マスターは…マスターは……私のマスターは……」
誰かを傷付ける様な事を望んだりしない、絞りだす様にそう続ける

「なら…なんでお前にそんな命令すんだ!?」

「マスターは思いやりがあって…優しくて…命令……。けどマスターは……」

双方の心が揺れる
(そのマスターって何者だ?何故他人を思いやれるような奴が人殺しを望むんだ…?)

まさか…
額から流れる血を軽く拭い 鏑木・T・虎徹は問う

「なぁ"何時"そいつに命令されたんだ…?」
「個々に来て直ぐ……私の前に…」

可能性はある。目の前で涙を流し惑う少女に核心を問う

「そいつは正真正銘お前の知ってる奴か?偽物とか誰かに操られてるとかじゃなく?」
俺は知っている 姿を自由自在に変える事の出来る仲間を 人の記憶を好き勝手に弄くる悪党を
そんな奴がこの場にいる可能性はゼロではない

「マスターが…偽物…操られてる…」
目の前の男から突き付けられた小さな可能性に混乱する
「だけど…あれは…マスター…だけど…だけど……」

「最後に一つだけ答えてくれ。さっきお前が知った方と、さっきまでのお前が知ってる方、どっちを信じれる?いやどっちを信じたいんだ?」

「私は…」
――殺し合いに乗れ
――そばにいてくれ

「私は……私は―――」
一人の天使は答える 自らの信じたい桜井智樹を

372 ◆lx1Zn8He52:2011/12/10(土) 18:46:51 ID:GzD60NmAO
【一日目-正午】
【D-2/商店街】
【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)疲労(大)
【首輪】85枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(胸部陥没、頭部亀裂、各部破損)
【道具】不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる
1.目の前の少女を助ける
2.他のヒーローを探す
3.ジェイクを警戒
【備考】
※本編終了後より参加
【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】赤
【状態】健康、空の女王
【首輪】65枚:0枚
【装備】無し
【道具】無し
【思考・状況】
基本:?
1.私が信じるのは――
【備考】
※22話終了後から参加

※商店街の一部が壊滅しました

373 ◆lx1Zn8He52:2011/12/10(土) 18:50:55 ID:GzD60NmAO
ギャー鳥付いてない…
とりあえず投下以上です
タイトルは明日の この空さえ永遠じゃないかもしれない
感想 指摘待ってます

374名無しさん:2011/12/10(土) 20:14:42 ID:Udv2reEIO
投下乙です!メッセージを送る 秒読みは始まった・・・そもそも冷静に考えれば本人or本心な訳が無いしなぁ、その可能性が提示されてイカロスはどっちに転ぶか?

375 ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/10(土) 21:03:06 ID:C8tiX.bI0
投下乙です。
イカロスがどっちを選択するのか。ここが運命の分かれ道ですね。

では、これよりキャスター、志筑仁美、カオスを投下します。

376 ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/10(土) 21:03:59 ID:C8tiX.bI0



 支給された道具を確認して一つのデイバックにまとめ、リュックサックのように背負う。
 デイバックに納めなかった本は、いつでもすぐに使えるように抱える事にする。

「さて、荷物も確認したことですし、さっそくみんなを探しに行きましょう」

 そう言って少女――志筑仁美は意気揚々と歩きだした。


 ―――直後、
 彼女の体は剣のような何かに穿たれ、弾き飛ばされた。

 悲鳴を上げる暇さえない。
 体が貫かれなかったのは、抱えていた本のおかげだろう。
 だが硬いアスファルトに叩きつけられた体は、全身から痛みを訴えている。
 それによって意識が朦朧としつつも、事を成したモノの正体を知ろうと顔を上げた。 
 するとそこには――――

「おねえちゃんしってる……? 痛いのが愛なんだって……。
 だからおねえちゃんにも……愛をあげる………」

 背中から刃の様な異形の羽を生やした、修道服を着た幼い少女の姿があった。

 先ほど自分の身体を弾き飛ばしたのは、その刃の様な翼だろうと仁美は予想をつけた。
 だが彼女の朦朧とした頭は、全く別の事を気にしていた。

「痛いのが……愛………?」
「うん、そうだよ……。
 イカロスおねぇさまが言ってたんだ……。大好きなますたーのことを考えると……動力炉が痛いって……。
 だからきっと、痛いの(これ)が愛なんだよ………」

 少女はそう言って、翼を広げる。
 それはまるで、獲物に狙いを定めた鷹のようで。

「だから私……みんなに愛をあげるの……! 愛を……、愛を!!
 愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を愛を!!!!!!!!!!」

 少女は躊躇なくそれを仁美へと奔らせる。
 先ほどとは違い、偶然など起こりようのない一撃。
 瞳にそれを避ける術はなく、また彼女を助ける人物もまた、ここにはいなかった。

 ―――だがその翼が、仁美を貫く事はなかった。

「それは……どうでしょう………」

 朦朧とした頭で、少女の言葉を反芻していた仁美は、無意識にそう呟いていた。
 その言葉に少女は、思わず己が翼を止めたのだ。

「………ちがう……の?
 でも「愛」って痛いものなんでしょ……?」

 少女は本当に不思議そうな顔をしてそう言った。
 その様子を見て、ようやく頭がはっきりしてきた仁美は、この子は何も知らない、幼い子供なんだ、と思った。
 普通の子供に、あんな異形の羽は生えてないが、そんな事は気にならなかった。
 だから仁美は、今の自分に出来る精一杯の愛を教えようと思った。

「いいえ。「愛」が痛いものとは限りませんわ。だって愛は、心地よいものだったりもしますもの」
「そうなの……? じゃあ……愛ってなぁに?」
「それはとても難しい問題ですわ」
「むずかしいの……?」
「ええ。本当の答えは無いと言っていいくらいに。
 なぜなら、「愛」というのは様々な形を持っていますの。
 人の数だけ、愛の形があるといっても過言ではないかもしれません」
「へぇ……そうなんだ………」
 少女は本当に不思議そうな顔をしている。

377 ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/10(土) 21:04:48 ID:C8tiX.bI0

 そう、愛には様々な形がある。
 恋愛、親愛、友愛など、身近なものだけでもこれだけあるのだ。
 言葉にならないような曖昧な愛情も含めればもっと多い。

「けれど「愛」というものには、絶対にではありませんが、共通する事があります」
「共通すること……?」
「はい。それは、その人の傍にいたい。その人に傍に居て欲しい。
 それに何より、その人に笑顔になって欲しい、という想いです」

 想い返すのは一人の少年のこと。
 事故に遭い、夢を断たれてしまった愛しい人。

 私は彼の傍に居たいと思っているし、彼にそばに居て欲しいと思っている。
 そして何より、彼に幸せになって欲しいと願っている。

「「愛」に確かな形は有りません。けれど、大好きな人の傍に居ると、とても温かい気持ちになりますの。
 けれどそれだけに、その人の傍に居られなかったり、その人と喧嘩して嫌われてしまったりすると、胸が張り裂けそうに痛くなりますわ。
 ……ああ、そう言う意味では確かに、痛いのが愛と言えるかもしれませんね」
「そばにいたい……そばにいられないと、胸が痛い……。それが……「愛」………?」

 そう言って少女は自分の胸に手を当てた。
 その中には、自分の身体を動かすための動力炉がある。

「イカロスおねぇさまも、ここが痛いって言ってた………。
 ………そっか。おねぇさまはサクライ=トモキを、愛してるんだ……」

 それがどんなものかは、まだわかからない。
 けどおねぇさまたちは、サクライ=トモキのそばにいたいと思ったのだろう。
 だからシナプスを裏切ったのだ。

「ねえ、もっと「愛」を教えて!
 「愛」っていろんな形があるんだよね! 私、もっと「愛」を知りたいの!!」
「残念ですけど、「愛」は教えることの出来るものではありませんの。
 「愛」は、心で感じるものなのです」
「そう……なんだ………」

 残念そうな顔をして、彼女はそう言った。
 そのことに少女は目に見えて落ち込んだ。

 やっと「愛」がわかったと思ったのに、「愛」にはいろんな形があるらしかった。
 「愛」は教えることの出来るものじゃなくて、心で感じるものだって言われた。

 エンジェロイドは地蟲(ダウナー)とは違う。
 エンジェロイドには「愛」も、「夢」も、「心」もプログラムされていない。
 ないもので何かを感じることなんて――――

「…………あれ?」

 なにか、変だと思った。
 「愛」がプログラムされてないのは、おねぇさまたちも同じはず。
 けどおねぇさまたちは、サクライ=トモキを愛してる。
 それに、「愛」は「心」で感じるものらしい。
 ならおねぇさまたちにも……エンジェロイドにも「心」があるのだろうか?
 それにそもそも―――

「「心」って……なんだろう……」

 「心」を知ることが出来たなら、「愛」を知ることも出来るのだろうか。
 そう思って、「心」を教えてもらおうと顔をあげ、

「そうだ。あなたの「愛」の形を、一緒に探しませんこと?」

 パン、と手を合わせ、急に立ち上がった仁美に押し留められた。

「「愛」を……探す……?」
「ええ、そうですわ。ここでじっとしていたって、何も見つかりませんもの。
 だから私と一緒に、あなただけの「愛」を探しに行きましょう?
 いろんな人に話を聞けば、何かきっかけが掴めるかもしれませんわ」
「……いいの?」
「ええ、もちろんですわ。私の用事は急がなくても出来ることですし」
「用事って?」
「それはですね、みんなで一緒に、ここよりもずっと素晴らしい場所に行くための儀式ですわ。
 ―――ああ、そうだ! あなたもぜひ、その儀式に参加してくださいな。
 ええそうですわ、それが素晴らしいですわ! そうと決まれば急ぎましょう!」

 そう言うや否や、仁美は少女の手を取って歩きだした。


 ――――その握られた手に何を感じたのか。
 少女はじっと、握られた手と先を歩く仁美の後ろ姿を見つめていた。

378 ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/10(土) 21:05:58 ID:C8tiX.bI0


        ○ ○ ○


 ―――三十分前―――

 土地ごと切り取られ、波の音を無くし凪いだ港に、怒りの籠った奇声が響き渡った。

「おのれ! おのれおのれおのれェッ!!
 あれほどに待ち焦がれた我が聖処女との逢瀬を妨げるとはッ!!
 許さぬ……思い上がるなよ匹夫めがァ!!」

 頭皮を掻きむしりながら、この殺し合いの主催者足る男に罵声を張り上げる男の名はジル・ド・レェ。
 第四次聖杯戦争においてキャスターのクラスで召喚されたサーヴァントであり、かつてフランス救国の英雄となりながら狂気へと凋落し、『青髭』と呼ばれ『聖なる怪物(モンストル・サクレ)』と恐れられた男だ。
 彼は万全の準備を整え、いざや己が聖処女を迎えに馳せ参じんとしたところを、この殺し合いに招かれたのだ。
 そのため、整えに整えた準備は全て無為となり、聖処女との邂逅に高ぶっていた感情は、転じて真木清人への怒りとなった。

「……まあ、とりあえずそれは後回しです。
 あの愚かな男はいずれ誅伐するとして、まずはリュウノスケと合流し、この忌々しい首輪を外し、我が聖処女を迎え入れるための準備を整えなくては」

 だがその怒りもしばらくすれば冷め、改めて己が聖処女の元へと向かうための準備を――ひいては如何に儀式の為の生贄をどう調達するかを考え始める。

「―――あの、どなたかいらっしゃるのですか?」

 そこに、一人の来客があった。
 積み重ねられたコンテナの影から現れたのは、学生服を着た少女だった。

「ふむ、どなたですかな?」
「はい。私、志筑仁美と申します。
 ここには人の声が聞こえたので、どなたかいるではと訪れましたの」
「そうでしたか。これはお見苦しいとこを見せてしまいましたかな?
 私のことは『青髭』とでもお呼びください」
「青髭さん……ですか?」

 そのどこかで聞いた様な、聞かなかったような呼び名に、少女は僅かに当惑している。
 その様子を見て、青髭はこの少女をどうするかを考える。

 常であれば、即座に海魔の生贄として処置を施すところではある。
 だが、忌々しくも盟友の遺した魔書に栞の如く挟まれていたメモによると、魔術を行使すればするだけメダルを消費するように制限を掛けられているらしい。
 主催者の定めたルールに従うつもりなど毛頭ないが、魔術の行使に支障が出るのは看過できない。

「……ふむ、仕方ありませんね」
「あの、どうかなされましたか?」

 青髭の声に反応し、疑問を投げかけてきた少女の額に指先を当て、そのまま何か意味のとれない言葉を一言二言ばかり呟いた。
 その時にはもう、少女の瞳からは意志の光が消えていた。

「間に合わせになりますが、聖処女と相見えるその直前に処置を施すとしましょう。
 なに、数をそろえれば儀式には事足りるでしょう」
「………ぎし――き?」
「然り! 神に裏切られし我が聖処女、ジャンヌ・ダルクをお迎えするための儀式!
 忌々しいことに彼女は今なお神によって束縛されている! 故にさらなる背徳を! 冒涜を! 涜神の生贄を以って神威の失墜を、神の愛の虚しさを示し、彼女の魂を神々の呪いから解放するのです!!」
「……それは素晴らしいですわ! 邪魔なだけの生きている体から、自由な魂を解放するのですね!」

 青髭は大仰に両手を広げ、自らの決意を高らかに宣言する。
 我を阻むものはない、否、阻む者は須らく背神の贄と捧げてくれようと。

 ――――彼が聖処女と仰ぐ少女が、全くの別人であることを解すことなく。

「さあ今度こそ貴女を、恐怖と絶望を以って忌まわしい神共から救って差し上げますぞジャンヌ゛―――ッッ!!??」

 だが、その悪逆の道が歩まれる事はなかった。
 青髭の胸の奥、心の臓腑に突き立てられたナイフによって。
 そしてそれを成した下手人は、つい先ほど自らの手で生贄の為の傀儡とした筈の少女だった。

「では青髭さんは、先にその素晴らしい世界へと向かい、ジャンヌさんを歓迎する準備を整えておいてください」
「ッ――、―――ッッ!!!」
「私はそのジャンヌさんを含め、儀式に参加して下さる皆さんを招待して参りますわ」

379 ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/10(土) 21:06:42 ID:C8tiX.bI0

 青髭は、キャスターのクラスで召喚されながらも、自身は一切の魔術師としての能力を持っていない。
 その魔術は全て、強力な魔道書である宝具“螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)”による補佐を得て行使されていたのだ。
 故に彼は気付く事が出来なかった。
 志筑仁美の首筋に浮かび上がる、小さな呪刻の証に。


 “魔女のくちづけ”
 それは“魔女”によって齎されるモノであり、紋章の浮かび上がった人間を死に誘う呪力を持つ。
 確かに志筑仁美の意志は青髭によって剥奪された。だが“魔女の口付け”は仁美の意志を呼び覚まし、死への方向性へと導いたのだ。
 青髭は仁美の意思を奪うのではなく、支配するべきだったのだ。

 だがそれももう遅い。
 心臓に突き立ったナイフは既に彼の命を奪っている。
 その証に、彼の首輪からはメダルが零れ出し、止まることはなかった。

「お、のれ……この、魔女め……が―――ッ!!」
「それでは青髭さん、御機嫌よう。
 魂の解放された素晴らしい世界で、また会いましょう」

 突き立ったナイフを引き抜き、その体を突き飛ばす。
 突き飛ばされた青髭はよろよろと後退り、最後には埠頭の縁を踏み外して海の底へと落ちていった。

「では私も、ジャンヌさん達をお迎えする準備を整えませんと」

 青髭が取り落とした魔道書やデイバック、メダルを回収しながら、志筑仁美はいずれ至る“素晴らしい世界”に心躍らせていた。

 ―――自身が何をしたのかも。その“素晴らしい世界”がなんなのかも解さぬままに。


        ○ ○ ○


 ―――“魔女のくちづけ”を受けた志筑仁美が、少女とまともに会話を出来た理由は定かではない。
 この殺し合いの会場に“魔女”が存在しないからか。それとも目の前の少女が“人間ではない”からか。
 少なくとも少女より齎された筈の“死への恐怖”を、彼女が恐怖と感じなかったからであることは確かだ。

 だがいずれにせよ、志筑仁美が“魔女のくちづけ”を受けている事実には変わりはない。
 その呪いがある限り、彼女は必ずや周囲に死を招くだろう。
 それが他者のものであるか、自身のものであるかは別として―――



「そう言えば自己紹介がまだでしたわ。
私は志筑仁美と申します。あなたのお名前は何ですか?」
「私は第二世代エンジェロイド・タイプε「Chaos(カオス)」だよ」
「カオスさん、ですね。わかりました。これからよろしくお願いいたします」

 お互いに今更な自己紹介をし、頭を下げる。
 その際に仁美はあることに気付いた。

「あら? カオスさん、靴はどうなされたのですか?
女の子が裸足で歩くなんて、いけませんことよ」
「靴? 靴って、これのこと?」
「……まあ、確かにそれも靴の一つではありますわね。
 ちょっとブカブカですけど、裸足よりは良いでしょう」
「………………」

 仁美はカオスが取り出した上靴を受け取り、少女に履かせる。
 カオスは自分の穿いた上靴を不思議そうに見つめ、何度か足踏みする。

「愛なの……?」
「?」
「これも……愛なの……?」
「そう……ですね。優しさも、愛の一つと言えるかもしれませんわ」

 それを聞いたカオスは、いくばくかの巡思をする。
 不意に握られた手は――温かかった。
 靴を履かせてもらった足は――温かい。
 多分この温かさが、「愛」の欠片なのかもしれない。
 そう思って、

「うん……!!」

 「心」の底から湧き上上がった笑顔を浮かべた。
 それを見て仁美もまた微笑む。

380 ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/10(土) 21:08:23 ID:C8tiX.bI0


「さて、それではどこへ向かいましょう。
 あら? カオスさん、それは何ですか?」
「たぶん方位磁針みたいなだと思う。おねぇちゃんもこれで見つけたの」

 カオスが持つ手の平サイズのコンパスは、ずっと仁美の方を指し続けている。
 試しにカオスがぐるりと仁美の周りを回っても、それは変わらなかった。

 このコンパスは魔力針といって、より強い魔力を発している方角を示すものだ。
 そしてこのあたりで最も強い魔力の発信源は、仁美の持つ魔道書だった。

「あらあら、これでは役に立ちませんわね」
「うん……」
「あら? あれは何でしょう」

 そう言って仁美が視線を上げた先にあったのは、もくもくと上がる黒煙だった。

「丁度いいですわ。あちらに向かいましょう」
「うん……!」

 そう言うと、仁美は再びカオスの手を取って歩き出した。
 握られた手の温かさに、少女は少し笑みを浮かべながら同じように歩いた。

 ―――その手の導く先に、いかなる答えがあるのかを解すために。



【キャスター@Fate/zero 死亡】

【一日目-日中】
【A-4/埠頭】

【志筑仁美@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】緑
【状態】全身打ち身(軽度)、“魔女のくちづけ”
【首輪】195枚:0枚
【装備】江崎志帆のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、螺湮城教本@Fate/zero
【道具】洗剤二本(混ぜるな危険)@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品1〜5(キャスターの支給品を回収しました)
【思考・状況】
基本:みんなと“素晴らしい世界”へ旅に出る。
0.とりあえず煙の上がっている場所へ向かう。
1.カオスさんと一緒に、カオスさんの「愛」の形を探す。
2.知り合いを探す。
3.カオスさんやジャンヌさん達を儀式に招待する。
4.思考:1〜を終えたら、みんなと“素晴らしい世界”へ旅に出る
【備考】
※“魔女のくちづけ”により、死に対する忌避感がありません。
 またどのような状況・形であれ、思考が現在の基本思考(死への方向性)に帰結します。


【カオス@そらのおとしもの
【所属】青
【状態】健康
【首輪】200枚:0枚
【装備】上靴@そらのおとしもの、魔力針@Fate/zero
【道具】ランダム支給品1〜5(至郎田の支給品を回収しました)
【思考・状況】
基本:このゲームを楽しむ。
1.仁美と一緒に、自分だけの「愛」の形を探す。
2.温かいのが、「愛」?
3.「心」ってなんだろう?
【備考】
※参加時期は45話後です
※至郎田正影を吸収しました

381 ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/10(土) 21:10:02 ID:C8tiX.bI0
以上で投下を終了します。タイトルは 探求!! です。
何かご意見や、修正すべき点などがありましたら、お願いします。

382名無しさん:2011/12/10(土) 21:11:59 ID:Uwt4zdJU0
投下乙です!
仁美……仁美こええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!w まさか青髭の旦那をこうも簡単に殺してしまうとはw
てかあのカオスをも懐柔させるなんて……ヤバイよ、このコンビヤバイよ!w

383名無しさん:2011/12/10(土) 21:25:43 ID:B6MBWxjI0
投下乙です!

仁美wwwwwww死ぬと思ったら逆に殺しやがったwwwww
カオスとこの子のコンビとか怖すぎるぞwwwww
……え、青髭?アイツは運が悪かっただけだよ、うん

384名無しさん:2011/12/10(土) 21:29:54 ID:OM/YoclY0
まさか魔女に操られてるとは・・・こんなのが部下だとウヴァさん危ないな

385名無しさん:2011/12/10(土) 21:51:21 ID:vo0j9Z0g0
投下乙です。
最初に意気揚々としてた理由はそれかwww
まさかのさやか正義化かと思ったら代わりにこっちは闇落ちとか、確かに希望と絶望のバランス取れてるわなww
しかも上手い事カオスを手駒にした上青髭殺害とか…こいつ、もしかしてかなり悪質なマーダーになるんじゃ?w

>>373
おじさんボコボコww
イカロスはなぁ…どうなるんだろう。

次に指摘です。
虎徹の単純な思考から考えて、イカロスの表情を見ただけでいきなり
「お前のマスターは誰かを傷つけるような奴なのか?」という思考に飛ぶのは少し違うかなと。
智樹の事を少しでも知っているなら話は別ですが、この時点での虎徹から見た「イカロスのマスター」の認識は、「イカロスに殺し合いを強要した悪い奴」です。
寧ろいつもの単純な虎徹なら「そんな悪い奴に従う事はない」という風になる方が自然ではないかと。

また、その後のイカロスの話を聞いた虎徹はすぐに折紙やマーベリックの事を連想しますが、これにも違和感です。
上記の通り「イカロスのマスターは悪人」という単純な判断で行くなら、イカロスに騙されてるんじゃないかと諭すよりも先に、
「戦いたくない少女に戦いを強制する奴は許せない」という風な思考に傾き、そんなマスターは俺が倒す!とか言い出す方が虎徹らしいかと。

あの智樹ですらニンフを解放する際には、ニンフがマスターを敬愛しているにも関わらず、ろくでもないマスターからニンフを助けるという思考に至ったので、
智樹と同じかそれ以上に単純明快で猪突猛進な虎徹がそこまで思考を巡らせて名前も知らないマスターとイカロスの絆に語りかける展開は不自然かなと思いました。

386名無しさん:2011/12/10(土) 21:59:15 ID:GzD60NmAO
投下乙!面白かったよ
カオス可愛いよカオス
青髭まさかの一話敗退ww
あと最初仁美が持ってた本って螺湮城教本?
だったら螺湮城教本って青髭の本人支給じゃないの?

387名無しさん:2011/12/10(土) 22:03:14 ID:vo0j9Z0g0
>>386
作者ではないですが、キャスター殺害の三十分後にカオス懐柔してるので、それはキャスターから奪ったものかと思います。

388名無しさん:2011/12/10(土) 23:01:56 ID:WG0PI1.MO
虎撤がこの参戦時期ってことは、能力1分しか持たないのか。
殆ど死んだも同然だけど大丈夫か…?

389 ◆lx1Zn8He52:2011/12/10(土) 23:14:23 ID:GzD60NmAO
修正部分を修正用スレに投下しました。問題が無ければwikiに収録してください

390名無しさん:2011/12/10(土) 23:19:35 ID:GzD60NmAO
>>387早とちりでした わざわざ申し訳ない

391名無しさん:2011/12/10(土) 23:58:17 ID:aaEnbv3s0
投下乙です

上で言われている部分ももっともだと思います
虎撤の性格から反する考え方と行動に見えてご都合主義に見えてしまう
確かに修正が必要かと

あの組み合わせではまっさきに死ぬと思ったのにこれは予想外いいいいっ!
しかもカオスを懐柔しやがった。これはやべえええ
青髭はざま、いや残念でしたw

392名無しさん:2011/12/11(日) 00:17:42 ID:RErc0Zr2O
投下乙です。えっと、流石は安定のさやかあちゃんのライバルって解釈でいいのかなぁ?
仮に原作組と会ったらほむほむは容赦なくズドンだろうけど、まどかやさやかにこのタイミングからの参戦は精神的にキツいだろうなぁ。

393名無しさん:2011/12/11(日) 12:26:12 ID:DtMnICZIO
それにしても、魔女の口づけを解くには、どうすればいいだろう?箱の魔女を倒せば解決だけど...。

394名無しさん:2011/12/11(日) 12:51:20 ID:kWJGw4C20
原作であった箱の魔女を倒すとかで解放は無理なのははっきりしてるな
裏ワザを探すしかないねえ。それには魔法少女の誰かから仕組みを聞かないと
ただし、ほむらだけには知られないようにしないとw

395名無しさん:2011/12/11(日) 13:11:58 ID:ut8pM7Do0
カメンライド、ヒビキィ!
仮面ライダー響鬼の清めの音撃は、魔女の口付けすらも浄化するぞ!

…これの場合、出来そうな奴が凶悪マーダーなんだけどね。
てかディケイドは平成全部に変身出来るんだから、割と何でも出来るイメージがあるw

396名無しさん:2011/12/11(日) 13:13:29 ID:RlTnBQ7.0
全部じゃないぞW以降は無理だ

397名無しさん:2011/12/11(日) 14:03:20 ID:fmfjveQ20
そういえば、剣崎が登場即退場した話で気になったんだけど。
ブレイバックルは砕け散ったとあるけど、中身のラウズカード13枚はどうなったんだ?
あれってそうそう壊れるような代物じゃないよな、確か。

398名無しさん:2011/12/11(日) 15:04:33 ID:RErc0Zr2O
まあ無事なんじゃないか? 他の剣ライダーのバックルが支給されてりゃまだ使い道はあるし。

399名無しさん:2011/12/11(日) 16:58:39 ID:fmfjveQ20
んじゃあラウズカード(剣崎ジョーカー)と同じD-2大桜跡に散らばっている、ってことでいいのかな?
えーっと、修正申請ってどこのスレにすれば良いんだ?

あと、「ブレイドの世界」のジョーカーじゃないから変身には使えないんで良いんだよな。

400 ◆LuuKRM2PEg:2011/12/11(日) 18:21:01 ID:ANSnah5I0
皆様、投下乙です!

>>橋田イタルの悪運
ああ、ダル……頑張ったのに無惨な。
そして序盤からの参戦になる後藤さんはどうなるんだろう……この時期だと伊達さんの事は知らないし。

>>ネコミミと電王と変態
予約の段階でヤバイと思ったけど、フェイリスは無事だったか!
まあ確かにアレを見てしまったら女の子なら絶対逃げ出すでしょうねw
タロス達はフェイリスの力になってくれるかどうか……

>>明日の この空さえ永遠じゃないかもしれない
イカロス、虎徹のおかげでロストアンクの罠から抜け出せるかな……
あと虎徹はその時期からか。能力の使える時間が短いから、ちょっと不利そう。

>>探求!!
ひwとwwみwww
まさか青髭の旦那を殺すなんて……なんてとんでもない事をしたんだ!w
しかもカオスというとんでもない味方を得たから、戦闘面でも有利になりそうだ……

それでは自分も予約分の投下を始めます。

401 ◆LuuKRM2PEg:2011/12/11(日) 18:23:15 ID:ANSnah5I0

「……本当にごめんなさい、ヒーローでありながら助けることができなくて」

 燦々と輝く太陽の元で、ブルーローズことカリーナ・ライルの瞳からは一筋の涙が流れている。人を助けるために存在するヒーローである自分が、人を助けることができなかった。
 ある日から『NEXT』と呼ばれる超能力に目覚め、シュテルンビルトの平和を守るために『ヒーロー』の名前を背負って力を尽くし、多くの人を助けてきた。それなのに、罪のない少女を二人も死なせてしまう。
 それが彼女を罪悪感で苦しめている理由となっていた。普段演じている、企業から求められた高飛車なキャラクターを忘れてしまうほどに。

「本当にごめんなさい……!」

 届かないことが分かっていても、二人に謝らずにはいられない。
 彼女たちはきっと平和な毎日を過ごしていたはずなのに、殺し合いなんて意味が分からない物の犠牲にされてしまった。自分にも巻かれたこの首輪が爆発し、首を無残に吹き飛ばされて。
 同じ女の子として、あの光景はあまりにも辛すぎた。出来ることなら悪夢であって欲しいが、これは紛れもない現実。そして今もこの妙な空間の何処かで、犠牲者が出ている可能性は充分に考えられた。
 それに考えが至った瞬間、カリーナは涙を拭う。そして殺し合いなどという狂った所行を、一方的に強制させた真木清人に対して憤りが沸き上がった。

「ふざけないでよね……ヒーローの私が、人を殺せですって……!?」

 人を人とも思わない、まるで虫けらでも見るかのような男の目を思い出して、思わず拳を握り締める。
 グリードだの殺し合いのルールだの、こちらを無視した発言に怒りを通り越して吐き気すら覚えた。本当なら今すぐにでもNEXT能力で奴を凍らせて刑務所に放り込みたいが、現状ではあまりにも難しい。
 恐らくあの男はここから簡単に辿り着けない場所から、自分達を見下ろしている筈だ。爆弾が設置された首輪に、自分が生き残るために他者を蹴落とす。こんな卑劣で悪質極まりないやり方に、カリーナは覚えがあった。
 以前、ワイルドタイガーの偽物に敗北して囚われの身となり、ロトワングと言う下劣な男から似たような事をされた。本当ならもう二度と思い出したくもなかったが、真木によって嫌でも穿り出される。
 しかも今度は鏑木・T・虎徹ことワイルドタイガーやバーナビー・ブルックスJr.、更には司法局の人間であるユーリ・ペトロフまで巻き込まれていた。ネイサン・シーモアことファイアーエンブレムを含めて、彼らが真木に従う可能性は考えられない。
 無論、それはカリーナとて同じ。かつては歌手になりたいという願いだけでヒーローを目指したが、タイガー達との交流によってヒーローの意義を知った。
 あのホールで虎徹が真木に対して宣言したように、誰一人も殺させるつもりはない。そんな決意を固めながらカリーナは、名簿に目を向ける。
 六十五人もの人間がこんなふざけた殺し合いに巻き込まれている事に再度憤りを募らせる中、ある疑問が芽生えていた。

「ジェイク・マルチネス……」

 名簿に書かれているジェイク・マルチネスという名前。それはカリーナにとって、マーベリックやロトワングと同じくらい思い出したくない男の名だった。
 かつてシュテルンビルト・シティ全域を恐怖のどん底に叩き落とし、心を読み取るNEXT能力で多くのヒーローを倒してきた犯罪者。しかしジェイクは虎徹やバーナビーとの戦いに敗れて逃走し、その後死亡したはずだった。
 同姓同名の他人なのか? しかしもしも自分が知るジェイク本人であれば、間違いなくこの殺し合いに乗るはずだ。二つの能力を持つという特異なNEXT能力者が相手では、一人だと勝算が薄い。
 それでも、誰かを傷つけているというのであれば止めなければならなかった。

「とりあえずジェイクに関しては会ってからでいいわね。問題は……」

 不意に彼女は、正義の壊し屋と呼ばれた男の姿を思い返す。
 虎徹はワイルドタイガーとして、殺し合いに巻き込まれた全ての人達を助け出そうとする筈だ。それは容易に想像できるし、どんな事があろうとも絶対に諦めなかった彼の姿に何度も憧れた。
 しかし今の彼は、ハンドレットパワーの減退によって一度はヒーロー業を引退している。今はHERO TVに復帰しているものの、かつて程の能力は発揮出来ていない。でも虎徹はそんな事などお構いなしに、ヒーローとして戦う筈だ。
 そんな状態で戦い続けては、一歩間違えたら取り返しの事になりかねない。

402青い薔薇は愛ある印! ◆LuuKRM2PEg:2011/12/11(日) 18:24:11 ID:ANSnah5I0

「みんな、お願いだから無茶はしないで……特にタイガー、あなたがいなくなったらみんなは悲しむし……楓ちゃんは一人ぼっちになるんだからね」

 かつて偽者のワイルドタイガーの攻撃により、虎徹が致命傷を負ってしまった時にヒーローのみんなが悲しみに沈んだのを忘れない。特に彼の娘である鏑木楓は泣き崩れていた。
 もしも虎徹に何かがあったら、今度こそあの子がどうなるのか分からない。そうなってしまうのは、カリーナにとって何よりも嫌だった。


 ○○○


「嘘でしょ……こんなの、嘘に決まってるよね……!?」

 牧瀬紅莉栖の声は震えていた。恐怖、絶望、失意、驚愕、悲哀……様々な感情が彼女の脳裏で沸き上がり、滅茶苦茶に混ざり合っていく。
 暴風雨のように荒れ狂う感情によって紅莉栖の膝は力無く落ちていき、反射的に両手が地面に付く。そこに常日頃の怜悧さや、無愛想な雰囲気は一切感じられない。

「どうしてよ……どうして、まゆりが……!」

 彼女の脳裏を支配してるのは親しい少女が死ぬ光景。共に過ごしてきた少女が何の前触れもなく、殺された。
 唐突に首が爆発し、頭蓋が跡形もなく一瞬で吹き飛んだと思ったら、赤い血や桃色の肉片が周囲に霧散する。それが何を意味しているかなんて考えなくても分かるが、考えたくない。
 一体何が起こったかなんて到底受け入れる事が出来なかったが、彼女の頭脳は答えを瞬時に導き出していた。椎名まゆりは死んでしまったことを。

「どうしてまゆりが殺されなきゃいけないのよっ!?」

 憤りと悲しみが叫びと共に、紅莉栖の瞳から涙が溢れ出していく。止めどなく溢れる雫を拭おうともせず、彼女はただ空を睨み付けていた。
 いつも見慣れてきたそれも今の紅莉栖にはひたすら憎々しく思えた。あの向こうから、真木清人という男がこちらを覗き込んでいるように思えて。

「一体まゆりが何をしたって言うの!? どうしてあんなにいい子を殺したの!? まゆりが殺されなければならない、理由があるって言うの!?」

 真木がこちらに向けてきた吐き気を催すほど傲慢な視線を忘れない。奴はまるで、日常で繰り広げる当たり前の出来事のようにまゆりを殺した。
 彼女はラボメンの為にいつも一生懸命頑張っていて、悩んだ時はみんなの為に動いてくれたりもした。それなのに、どうして殺されなければならないのか。

「これじゃあ、岡部は何の為に頑張ってきたって言うのよ!? あいつは一人で頑張ってきたのよ!」

 胸の奥から込み上げてくるやり切れない思いを言葉にして吐き出すが、尽きる気配は全くない。むしろ、時間の流れと共に増幅していた。
 ある日、目の前に現れてきた岡部倫太郎は自分に全てを話してきた。まゆりを救う為に、タイムリープマシンを使って何度も時間を跳躍したと。
 最初は疑ったが、話を聞いている内に彼の言葉が真実であると知った。彼が言うにはどの世界線でもまゆりは死ぬ運命にあり、それを防ぐ為にたった一人で数え切れない程過去に向かって飛んだらしい。
 幾ら守っても、幾ら逃げようとしても、世界の運命はまゆりを殺すように導いた。そして今回も真木という男によってまゆりは殺されてしまう。

「答えなさいよ……っ!」

 流れ出る涙は次々と零れ落ちては地面で弾け飛び、跡形もなく吸い込まれる。今の紅莉栖には動くこともまともに思考を働かせることも出来ずに、ただ泣き崩れていた。

403青い薔薇は愛ある印! ◆LuuKRM2PEg:2011/12/11(日) 18:24:55 ID:ANSnah5I0

「ねえあなた……大丈夫!?」
「――ッ!?」

 悲しみに沈む中、彼女の耳に声が響く。それを察知した瞬間、紅莉栖の思考が一気に覚醒した。
 そして、今の自分がどんな状況に置かれているのか、そして真木は自分達に何を強制したのかを記憶から掘り起こす。
 ここは殺し合いの戦場。自らの生き残りを賭けて、他者を容赦なく蹴落とす弱肉強食の世界だ。ラボメンのメンバーがそんなのに乗る可能性は考えられないが、世界にいるのは善人だけではない。
 自分の為に誰かを犠牲にするような輩だって、数え切れないほどいる。

「誰ッ!?」

 全身の細胞が警鐘を鳴らす中、彼女は反射的に振り向いた。もしもこんな時に通り魔のような奴が現れたら、ここで一巻の終わり。
 どうか普通の人間であって欲しいと強く願う。

「……えっ?」

 しかし紅莉栖の緊張は一瞬で解けていった。目の前に立っているのは彼女とほぼ同年代に見える一人の少女。
 けれどもその格好はあまりにも普通に見えなかった。髪の毛も瞳も青で染まっていて、到底日本人とは思えない。青と水色を基調に彩られた服装は胸元や四肢を大きく露出させていて、腰から伸びた薔薇の茎みたいな飾りが二本も伸びていた。
 そしてよく見ると袖やロングブーツ、更にはキャップ帽にはよく見かける炭酸飲料水のロゴが大きく描かれている。現れた少女のあまりにも奇妙すぎる格好に、紅莉栖は見覚えがあった。
 超巨大電子掲示板サイト@ちゃんねるを利用する者の中には、時に自分の存在を異常に誇示する人種がいる。そして、そういう人はたまにアニメや漫画のキャラクターが纏うコスチュームを着る事もあった。
 ここにいる彼女がこんな妙な格好で堂々としているのは、そういう事なのだろう。

「コスプレイヤー……?」
「は……?」

 唖然とした表情を浮かべる紅莉栖のように、ブルーローズの姿をしたカリーナもぽかんと口を開けることしか出来なかった。


 ○○○


「過去に何度も飛んだって……本当なの!?」

 カリーナ・ライルにとって牧瀬紅莉栖と名乗った少女の話は、完全に理解の範疇を超えていた。何処にでもいる普通の一般市民かと思い保護したが、話を聞いている内に普通ではないことを知る。
 彼女の知り合いである岡部倫太郎という男性は、真木によって犠牲にされた椎名まゆりという少女が死ぬ運命を変えるために過去へ何度も飛んだらしい。それもNEXT能力のような力ではなく、タイムマシーンに準ずるような機械を使って。
 そんな技術など、カリーナにとっては未知の物だった。

「ええ、私も本当かは分からないけど岡部はそう言ってたわ……まゆりを助けるために何度も時間を超えたって」
「そう……まさか、そんな夢みたいな事が出来るなんて」
「私から言わせれば、NEXT能力者やヒーローなんてものこそ夢物語みたいなものだわ。ましてや企業のロゴを背負って悪人と戦うなんて、ありえないわよ」
「むっ……」

 自分の誇りとも呼べる行いをあっさりと否定されたことで、カリーナは少しだけ表情を顰める。しかしその苛立ち以上に、根本的疑問が彼女の中に広がっていた。

404青い薔薇は愛ある印! ◆LuuKRM2PEg:2011/12/11(日) 18:25:33 ID:ANSnah5I0

「でもあなた、本当に知らないの……? 私達ヒーローやNEXT能力者の存在を」
「知らないわ。あなたの言っていたシュテルンビルトって街やHERO TVなんて番組だって、聞いたこともないし」
「どういう事なの……どっちも有名だと思ったけど?」
「これは私の推測だけど、私とあなたの生きる時代が違うんじゃないかしら」
「えっ?」

 紅莉栖の言葉によってカリーナの表情は疑問に染まる。

「それって、どういうこと……?」
「少なくとも私が生きてる時代じゃ、あなたの言っているような存在はフィクションの中でしか有り得なかったわ。でも、あなたの生きてる時代じゃありえない存在じゃなくなってる……これじゃあ、私達の認識が噛み合わなくて当然だわ」
「え……もしかして、私とあなたが違う時代の人間って意味?」
「そういうことになるわね」
「じゃあ、あの真木って男は時間を自由に行き来する手段を持っているって言うの!?」
「……認めたくないけど、その可能性は高いわね。何の為にわざわざ違う時代に生きる私達を一ヶ所に閉じこめたのかは、まるで理解出来ないけど」

 溜息と共に出てきたその推測は、カリーナを驚かせるのに充分な威力を持っていた。
 目の前にいる牧瀬紅莉栖という少女は、ヒーローやシュテルンビルトに関する情報をまるで知らないからよほど遠い国に住んでいるかと思ったが、そこまで世界の情勢に疎そうでもない。
 そして出てきたのが、この殺し合いに巻き込まれた全員を違う時代から攫ってきたというあまりにも突拍子もない理屈だった。しかし、タイムマシンがあると聞いた今、可能性としてはゼロではない。
 真木自体が時間を飛ぶことが出来るNEXT能力を持っているか、時間を飛ぶ手段を持つ奴と関わりを持っていることも考えられた。それも、ウロボロスのようなタチの悪い連中が後ろにいる事もありえる。

「とにかく今はみんなを捜さないと……こんな状況じゃ、いつ何が起こったっておかしくないでしょうから」

 そう言いながらデイバッグを持つ紅莉栖の目は、よく見ると赤くなっていた。
 そしてカリーナは思い出す。ついさっき、彼女はまゆりが死んだ事で酷く泣いていた。
 救いたい人を救うことが出来ずに、死なせてしまう。その辛さは自分よりも遙かに大きいはずだった。

「……ごめんなさい」
「えっ?」
「まゆりって子、本当なら私が助けなければいけなかったのに助けられなくて……ごめんなさい」

 だからカリーナは謝らずにはいられなかった。紅莉栖はもう二度とまゆりに会うことは出来ないし、まゆりと笑ったり遊んだりすることが出来ない。
 それはヒーローとしてあってはならないのだから。
 
「……あなたのせいじゃないわ」
「えっ?」
「まゆりが死んだのは事実だけど、それであなたに責任が生じるなんて……ありえないわ」
「でも、私は――!」
「気持ちは嬉しいけど、今はみんなを捜したいの……そうしないと、何も始まらないし情報も集められないから」

 紅莉栖はそう言ってくれるが、声からはまるで力が感じられない。
 彼女は強がっている。それも友達の死という最悪の出来事を前に、折れないように立ち上がろうとしている。
 確かに悲しみを乗り越えることは大事だが、無理してやるのでは意味がない。

405青い薔薇は愛ある印! ◆LuuKRM2PEg:2011/12/11(日) 18:27:14 ID:ANSnah5I0
「そう……分かったわ。みんなを見つけるまで、私はヒーローとしてあなたを守ってみせるから」
「ええ、ありがとう……」

 だからカリーナは決意する。せめて残された彼女だけでも、この手で守ってみせると。
 きっとヒーローのみんなもそれを望んでいるはずだから。私が、ヒーロー界のスーパーアイドルと呼ばれている限り。


【一日目-日中】
【D-3】
【カリーナ・ライル@TIGER&BUNNY】
【所属】青
【状態】健康、まゆりや紅莉栖に対する罪悪感
【首輪】100枚:0枚
【装備】ブルーローズ専用ヒーロースーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:
1:まずは紅莉栖を何としてでも守る。
2:ヒーローのみんなが心配(特にタイガーが)
3:ジェイク・マルチネス……
【備考】
※マーベリック逮捕後からの参戦です。その為、虎徹の能力減退について知っています。
※ジェイク・マルチネスの名前について疑問を抱いています。


【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate】
【所属】赤
【状態】健康、まゆりの死による悲しみ、真木に対する怒り
【首輪】100枚:0枚
【装備】不明
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:とにかく今はやるべき事をやり、情報を集める。
1:まずはカリーナと行動し、みんなを捜したい。
2:ラボメンのみんなが心配。
【備考】
※岡部倫太郎がタイムリープを繰り返していることを知った後からの参戦です。
※この殺し合いの参加者は別々の時代から集められている可能性を考えました。
※NEXT能力者やヒーローに関する情報を知りました。

406 ◆LuuKRM2PEg:2011/12/11(日) 18:29:21 ID:ANSnah5I0
あ、状態表に記入漏れがありました……申し訳ありません

【一日目-日中】
【D-3】
【カリーナ・ライル@TIGER&BUNNY】
【所属】青
【状態】健康、まゆりや紅莉栖に対する罪悪感
【首輪】100枚:0枚
【装備】ブルーローズ専用ヒーロースーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:ヒーローとしてみんなを守るために戦う。
1:まずは紅莉栖を何としてでも守る。
2:ヒーローのみんなが心配(特にタイガーが)
3:ジェイク・マルチネス……
【備考】
※マーベリック逮捕後からの参戦です。その為、虎徹の能力減退について知っています。
※ジェイク・マルチネスの名前について疑問を抱いています。


以上で投下終了です。
疑問点などがありましたら、指摘をお願いします。

407名無しさん:2011/12/11(日) 19:12:54 ID:kWJGw4C20
投下乙です

蒼バラさんはねえ、もしかしたらもっと混乱して登場してもおかしくなかっただけに安心したよw
そして思ったより波乱が無く纏まってくれたぜ
それにしても二人ともいい子だなあ…

408名無しさん:2011/12/15(木) 20:27:48 ID:R4bvegTA0
予約来てるぞ

409名無しさん:2011/12/22(木) 17:16:28 ID:wyEenaos0
ウヴァさんラウラで予約・・・ああ、ウヴァさん死んだな・・・

410名無しさん:2011/12/22(木) 21:26:23 ID:aFDMlh/.0
ウヴァさんだってグリードだぞ!緑陣営のリ−ダーなんだぞ!そんな簡単に死ぬわけがない!




……多分

411名無しさん:2011/12/23(金) 10:17:40 ID:SFi5NVM60
むしろ後藤さんのほうが危ないな
ベルトもってないし

412 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/23(金) 15:35:36 ID:DxToL1zg0
間にあった…
いつもぎりぎり^q^

投下させていただきます

413誰がために黒兎は戦う ◆l.qOMFdGV.:2011/12/23(金) 15:40:42 ID:DxToL1zg0

 かつん、かつん、と、本来ならばざわめきに掻き消されるだろう高い足音が、人が時を過ごした証拠に薄汚れた、しかし不潔感のない県立空美中学校の廊下の空気を震わせた。生気が失せた廊下に射し込む陽光は、密度のない空間に溶けて虚しく消える。
 そう、本来ならば暖かい喧騒に満ち、大人の庇護のもと伸びやかに笑う子供の城である学校。それが悲嘆と憎悪に彩られ、何かの庇護にすがることも許されない殺し合いのステージとして用いられる……。
 「皮肉が効いてるな」と独りごちるのはグリードが一人。昆虫を思わせるメタリックな装甲を時折照り返らせて歩くウヴァだ。その複眼は何を映すのか、ウヴァはただ揺るぎない足取りで歩み続ける。
 学び舎を血で汚すことに罪悪感はなく、また他に感慨もない。それでも、よき事のために建てられたものが悪意に充たされることが何よりの皮肉であることは、充分に理解できた。

 廊下の端に差し掛かり、ウヴァは足を止めた。脇を見やれば遥か上階へと、踊り場でぶつ切りにされた階段が続く様が見える。目的地はその先、屋上だ。

 戯れに階段を数えながら登る。果たして、踊り場までの段数は、どうやら十二段からなるそれであるらしかった。何の気なしの行動だったが、一つ連想されることがあった。絞首刑の処刑台の階段は十三段、と言われる都市伝説だ。
「どこまでいこうと処刑台には届かない十二段、か」
 まるで殺人こそが罰されない正解であるこの場を象徴するようだと、踊り場で折り返し足を止めることなく階段を行き続けながら、柄にもなく詩的なことをウヴァは胸中で溢す。
 他に何を思うところもない、ただ底無しの欲望が全てを飲み込む穴を空けるその心の中で、小さく何かが蠢いた。そんな気がした。

 それが、人間でいうところの「後ろ暗い期待」と「被虐の喜悦」がない交ぜになった思いであったとは、少々蛇足が過ぎるだろうか。

◆●
 人気のない校舎の階段を登るウヴァには、いくつか考えることがあった。
 陣営間の戦力差の不公平についてと、それに関連したウヴァ自身の方針だ。

 戦力差の具体例をいくつか述べよう。
 例えば仮面ライダーW。
 あの憎きオーズに匹敵する力を持つ、二人で一人の仮面ライダーだ。つまりこれは誰もが認める強大な「戦力」ということになる。これを思うがまま振るえられれば、陣営の勝利は大きく近づくことだろう。
 ところが、である。「二人で一人」に変身するWであるが、変身後の超人を操る意思の主導権は、ウヴァの陣営にいる二人の片割れ、フィリップだけが持つ訳ではない。最悪なことに、カザリ配下の左翔太郎なる男もまた、その超人を操る術を握るのだ。
 それだけならまだ仮面ライダーWという戦力は、ウヴァとカザリの共通戦力と言ってもよかったかも知れない。だが、Wの肉体自体は翔太郎の物であり、つまりその戦力は本質的にカザリの陣営に属することになる――不公平だろう。

 例えばバーサーカー。
 人を超え英霊という存在にまで昇華したソレは、文句の付け所のない一級品の「戦力」だ。首輪の制限からバーサーカーが完全に解放されてしまえば、同じく戒めを取り払い完全態となったウヴァでさえ確実に勝てるとは言い切れない、正真正銘の化け物だ。つまり現状のバーサーカー、その戦力は、制限があるにも関わらずサーヴァント、いや全参加者中トップクラスのそれとなる。
 そのようなパワーバランスを容易に打ち砕く駒をアンクの陣営が持つ――不公平極まりない。

 例えば志筑仁美。
 彼女の友人らはみな揃いも揃って魔法少女なる超越者だという。時を操り剣を振るい、槍で薙ぎ弓で穿つ。時を操るのはともかく魔法少女だというのに武具を振るうなど「魔法」の部分が少ないのでは、なんてウヴァの疑問はさておき、いずれも超常の力を振るうばりばりの武闘派だ。
 そんな中。ウヴァの陣営にいる志筑仁美は、彼女らの関係者のうちただ一人――ただ一人! ――、何の変哲もないいたいけな少女なのだ。しかも何やら真木に渡された資料によると、ここにいる彼女は「魔女の口づけ」なるものを受け正気を失っているという――不公平と呼ばずして何と呼べようものか。

414誰がために黒兎は戦う ◆l.qOMFdGV.:2011/12/23(金) 15:43:28 ID:DxToL1zg0
 無論、仮面ライダーWにせよバーサーカーにせよ、通りいっぺんに陣営へ尽くすような連中ではなく、陣営戦のための戦力として運用するのであれば、籠絡は一筋縄ではいかないだろう。それは上記の例以外の戦力においても同様だ。そもそも戦力非戦力問わず、ウヴァのいう「不公平」はかなり平等に陣営へ配分されている。故に、参加者たちを一概に「陣営の戦力」という単位で測るのは不可能だ。

 とはいえ、戦力差は戦力差である。戦って勝利するのであれば、どのように言葉遊びをしようと立ちふさがる「障害」であると言えよう。
 が、これは、この主観的な戦力差の不公平は、「己以外の参加者は全て障害」と捉えたウヴァにとって、バトルロワイヤルに付随するちょっとしたゲーム性とでも言うべきものになっていた。

 言うなれば「参加者」は陣営という名のグリードを成す「セルメダル」だ。コア、つまり陣営のリーダーを包み、それを守る肉の壁。そのコアを穿つ前に立ち塞がる「障害」。通常のセルメダルとの差異は、コアたるウヴァ達の意に沿わぬことだけだ。
 例え陣営の盟主に従わずとも、彼らは生きるため、グリードと真木に反逆するため、彼ら自身の欲望のために戦う。往々にして人の意思は干渉しあい、反発しあう。その矛先がどこを向くにせよ、「セルメダル」は誰にとってもまごうことなき「障害」となるだろう。
 この個の意識を持った「セルメダル」が鎬を削りあう様は、さながら大量の水がぶつかり合う激流だ。陣営を同じくしても向きを同じくしない、千差の意思ベクトルが渦巻くその中をウヴァ一人のまま進もうとすれば、その苛烈な「障害」の流れに飲み込まれるのは道理というものだろう。

 そんな己にとっても敵にとっても、各人以外の全てが「障害」たりうるこの場で、万難を排すとまではいずとも、その激流を乗り越え、立ちはだかる関門を減らすには如何に立ち回るべきか?
 そして、結論としてウヴァはこう考える。

 ――一人で流れに呑まれると言うのなら、一人でなければいい。
 ――このゲームの本懐は、いかにして己に従う兵力を増やすか、それに尽きるのだ。
 ――一人では飲み込まれる欲望と悪意の激流を、向きを同じくする数の力で乗りこなす。
 ――陣営間の戦力差はそうして越えるべき「障害」の一側面でしかない。
 ――そして、自陣営へ引き入れる……つまりその意思に勝利という向きを与えることで「障害」を越える足しとする、また陣営間の戦力差を覆すための足しともなるボーナス、いわば「勝利の鍵」として存在する寄る辺のない兵力が、紫陣営。

 ――この戦いは、「仲間」がものを言う。

 意のままになる戦力を補強すること。常よりオーズに破られ歯噛みするしかなかった小細工を弄するより、陣営に、己に貢献する戦力を集め勝利の筋道を立てること。
 数さえ集まれば激しい流れを乗り越えられる。上記のバーサーカーの例にあるような、個人単位の戦力差の「不公平」すらも容易く飲み下すだろうというのは、想像に難くない。
 勿論従わない者もいるだろうが、それは放置しておいても大きな問題はないだろう。干渉し合う個の「セルメダル」は、間違いなく敵の「セルメダル」を減らす。ならば好きにさせておき、やりたいようにさせるべきだ。その間に、一つの意思を持って突き進むウヴァとその手の内にある兵力が動き、他陣営のグリードを狩るなり「セルメダル」を間引くなりすれば、非常に効率よく陣営のアドバンテージが稼げるだろう。
 万が一、勝手に動かせておいた連中がウヴァ自身の勝利への道に立ちはだかるようなら、数の力で適宜排除していけばいい。

 つまり、「仲間」だ。セルメダルに例えられた自陣営の者たちではない。れっきとした己の血肉となる「己」。それを作ることができれば、勝利とほぼ同義だ。
 グリードに匹敵する戦力がさほど珍しくないこの場において、様々な問題点に目を瞑れば、これは非常に確実性の高い「策」だった。

 スタート地点がとある紫陣営の人間のそばであったことはウヴァにとって全く僥倖なことであった。
 誰の唾もつかない、無垢のままでいる彼女を手始めに勧誘できれば、ウヴァ自身の野望へと大きく前進する。頭の回るカザリや狡猾なメズールの間者でないと言い切れる存在を手駒にできることは、非常に大きな利点だ。

「俺はツイてる。完璧な作戦だ……」
 小声は誰に届くことなく、屋上のドアを目前にした踊り場で溶けて消える。
 一呼吸とおかず蹴破ったそのドアの向こうには、果たして小柄な少女が一人、ウヴァに背を向け立っていたのだった。

415誰がために黒兎は戦う ◆l.qOMFdGV.:2011/12/23(金) 15:47:31 ID:DxToL1zg0
●◆●
 透き通るような銀髪、子供のような矮躯。眼帯に隠された左目は伺えこそしないが、どのような色を浮かべているかは容易に想像できる。もう片方の赤い右目、強く虚空を睨みつけるその眼を見れば、彼女の想いは理解できるからだ。

「馬鹿な奴だ」
 腕を組み、そんなことを言いたい訳ではないのに、そんな言葉しか出てこない自分に歯噛みする。ラウラが嫁と呼ぶ男の心中を察してだけではない。これは確かに、ラウラ自身の感情であった。

「仇は討つぞ。箒」
 決意を口にして、その形を新たにする。
 仲間は、友達は、これ以上傷つけさせない。
 まるで嫁のように甘いことを言うな、と場違いな苦笑が彼女の口の端に浮かんだ。ドイツからIS学園へ来た当初ならあり得ない考えだろう、軍人として部下に対する考えではなく、親愛をもって感じる友への想い……。こんな風に思えるようにしてくれたのは、嫁とあの騒がしくも愛おしい仲間たちだ。

「いや……箒も嫁も、仇討ちなんて望まんな」
 彼らのことを想うと、胸が熱い何かで満たされる。しかし奪われた穴は、決して埋めることができない。
 これ以上の欠員は認められない、とラウラは呟いた。部下と違って――無論部下らも掛け替えのない存在ではあるが――、ラウラと対等な彼らは何より大切な存在なのだから。

 険しい表情の頭上に、ウサギの耳を模したようなヘッドギアがぴょこぴょこと揺れている。ISに仕組まれた機能のひとつ、ハイパーセンサーがその能力を稼働させている証拠だった。
 その超常の感覚で見据えるものはひとつ、一キロ強ほど先に立つ巨大な桜の木、その根元だ――。

 嫁を連れて見に来れば、さぞ雅な光景が楽しめるだろう――そんな感慨を抱かせる大桜はしかし、もはや「花見」などという平穏からかけ離れた彼岸に居た。その根元で暴れる「異常」が、大桜を殺そうとしている。

 ――ラウラはそこで起こった殆どを眺めていた。
 見れば見るほどぼやけていく、ハイパーセンサーでも捉えきれない謎の黒い甲冑。
 さながらISを発動する際のように光を発しながら纏う服を変えた、変身する少女。
 吼える甲冑、不敵に笑う少女。
 これもまたISの武装のように虚空から取り出す槍を振るい、鎧が持つ竿竹と何合も撃ち合う少女。
 決めの大技を打ち破られた彼女が陥る劣勢、そして現れる、二人の助っ人。――

 ところで、視力としての感覚を全て桜の根元で起きる事情に向けているラウラだが、警戒を怠るほど熱中している訳ではない。聴覚に相当する感覚は、屋上一帯に張り巡らせている。
 それは制限によってか、思うように感知できる範囲を広げられない。歯がゆい思いもあったが、それは聴覚機能が足音を捉えたときに吹き飛んだ。

 誰かが階段を登ってくる。その音を捉えたのだった。

416誰がために黒兎は戦う ◆l.qOMFdGV.:2011/12/23(金) 15:50:05 ID:DxToL1zg0
◆●◆●
 機先を制したのはラウラだった。
「失せろ」「おい! おま……ぐっ」
 闖入者が遮られ、言葉を詰まらせる様子は見ずとも理解できる。

 望遠の機能は切ったが、ラウラは未だに屋上の扉に背を向けていた。故にその眼にウヴァは収まっていない。ハイパーセンサーには背面を視界として捉える機能もあるが、それすら機能させていない状態で、だがラウラはその声の主を看破した。忘れもせぬ、あの場にいて、箒の命を奪った真木に最も近い場所にいた怪人だ。

「貴様か、虫頭」
「誰が虫頭だ、小娘!」
「くだらん挑発に乗るそこが虫だというんだ」
「貴様……!」

 重ねた挑発に耐えかねて、声の色を苛立ちから怒りへと変えるウヴァ。本来の目的を忘れウヴァはラウラに詰め寄ろうと足に力を込め、そしてようやく気付いた。

「う、動かんっ」
「ふん」
「AIC……かっ」
「ほう、博識だな、虫頭。こちらに来ないで失せるつもりなら解除してやろう。私は貴様らの望むような殺し合いはしない、故に貴様も殺さない。……ああ、だが、失せる前に洗いざらい、あの真木とやらの情報は吐いてもらうがな」

 今度はAIC制御のため、銀髪の上でウサ耳ヘッドギアが踊っている。蜘蛛の巣に捉えられた虫のようなウヴァの焦りに、ラウラは息をついた。そしてゆっくりと向き直る。純粋に己の視界にウヴァを捉えた、その瞬間だった。
 顕現しているISはヘッドギア部分のみ。エネルギーシールドも張らず、装甲を全て格納したまま振り返りウヴァに対面したのは、やはりラウラの油断という他ないだろう。
 虫を模したウヴァの触覚と角の間に、雷光が迸った。

「っ……ぐうぅっ!」「馬鹿が!」
 緑がかった稲光がラウラを手酷く打ちすえる。苦悶に歪んだその表情は泣くのを我慢する幼子のようなそれで、そしてウヴァは、そんなものに躊躇するような存在ではなかった。
 激痛とショックにラウラが手放したAICの操作に必要な集中力、その隙を逃さず、解放されたウヴァが飛びかかった。突き飛ばし、屋上のフェンスに押し付ける。

「ガキが……手古摺らせやがって」
「ぐっ……!」
 襟首を締めあげて、その手の鉤爪を突きつけ苛立ちを露わにするウヴァ。表情の読めない複眼だが、それは「ISを展開させれば殺す」と如実に物語っていた。

 命を握られたがそこで諦めるのはラウラの矜持と、仲間たちのために許されることではない。強い意志を持ってウヴァを睨みつけるラウラだったが、その襟元が解放された時は、流石に驚きを禁じえなかった。
 ウヴァはゆっくりと離れていく。それだけ呼び出されたヘッドギアが、ラウラの頭上で呆けるように揺らめいた。

「いやあ、すまないすまない。ついカッとなっちまってねえ? 俺のよくないところだなあ? ふふん」
「……何のつもりだ」

 乱れた襟に手をやりながら、豹変したウヴァにちょっとした寒気を感じるラウラだ。まるで子供に話しかけるような、どこかずれている猫撫で声は、生理的な嫌悪感すらを呼び起こすほどのものだった。

「いやいやぁ、俺はお前と戦いに来たんじゃあない。ちょっとしたお願いがあってなあ」
「…………」
「お前……、俺の陣営に入らないか?」
「何を……」

 突拍子のない申し出に一瞬ラウラの表情が固まる。それは、間をおかず湧きあがる怒りであっという間に残らず消えた。

417誰がために黒兎は戦う ◆l.qOMFdGV.:2011/12/23(金) 15:53:25 ID:DxToL1zg0
「貴様、どの口で!」
「ん? ああ、あの箒とかいう娘か。可哀想だが仕方ない」
「よくも……!」
「お前、あの娘が死んで悲しいんだろう?」
「黙れ黙れ黙れ! これ以上箒を恥ずかしめることは許さん!」
「AICを使う集中力すら残らんとはなぁ、扱いやすい小娘だ……まあいい。ともかく、その悲しみをこれ以上増やしたくもないだろう」
「黙れ……!」
「それに、元いた場所に皆揃って帰りたいだろう? そのためにはお前はどこかの陣営に入らなければならん」
「だからなんなんだ……!」
「俺のもとに来れば、その両方の欲望を充たせるということだ」
「……?」

 問答が進むにつれて怒りの破棄すらラウラから失われていく。箒がいなくなった胸の穴に、感情の全てが吸い込まれていくようだ。その傷を刺激するウヴァへの怒りすら枯渇しかけたその時、ウヴァのその言葉は、まるで――。

「俺は陣営を勝利させたい。お前は元いた場所へ帰りたい……何を迷うことがある?」
「……私の仲間がいなければ、帰ったところで意味はない……」
「俺の陣営には凰鈴音がいる」
「!」
「他の連中は別の陣営だが……、なあ、優勝するってことはどうすればいいんだろうなあ?」
「……リーダーを殺すんだろう」
「そうだ、その通りだ。ルールブックは読んだか?」
 小さく首肯するラウラ。満足げにウヴァは笑い、
「だったら話は簡単だ。リーダーを殺してその陣営の連中を無所属にして――今のお前と同じだな――、そいつを俺の陣営に入れてやればいい」

 それは、光明にも似た悪魔のささやきだった。ショックからは未だ立ち直らずにいるが、徐々に冷静さを取り戻しつつあるラウラは、その策への疑問がふつふつと湧いてくる自分に戸惑う。
 疑問が湧いてくる、つまり、自分はその策を「受け入れてもいい」と考えているから――。

418誰がために黒兎は戦う ◆l.qOMFdGV.:2011/12/23(金) 15:54:05 ID:DxToL1zg0
「……お前がその策に乗る保証は」
「俺も優勝したい。戦力が増えるためにはこの策だって乗るさ」
「……もし。もし敵のリーダーを撃破するまでに、私の仲間が……その」
「ああ、その点に関しては解決策がある」
「き、聞かせろ!」
「今は言えんなあ……。欲望は全てを解決する、とだけ言っておこうか? ふははっ」
「……優勝したところで、本当に帰してもらえるのか……」
「そこは信じてもらうしかない……が、そのほかの手段よりはよっぽど確実だな」

 しらばっくれるウヴァにラウラは思わず歯噛みする。
 未だ迷っている様子の彼女に、ウヴァは変わらず面白がるような調子の猫撫で声で、次なる言葉を吐いた。

「お前の友達も、お前と同じようなことを考えるだろうなあ……。だがあいつらはアマちゃんだ。どうせ『真木を倒して大団円!』とかそんな馬鹿なことを考えてるだろうな? ……首輪があるのに」
「……!!」
 コツコツと指で首輪を示して見せるウヴァの意図は明確だった。『逆らえば爆発させることもできる』……。

「俺たちには爆破権限はない。が、真木がどこでここを見てるか知れんからな。反逆の芽は早めに摘もう、なんてな」
「……うう……っ」
「だがな」

 一呼吸。表情のないグリードにも関わらず、ラウラにはその笑みがより一層残虐になったように感じられた。

「俺が口利きして、それを見逃すようにしてやってもいい。その代わりお前は俺の陣営に入り、俺と共に優勝を目指せ」
「しかし……」
「何を迷うことがある? 『優勝』を目指すのは、アマちゃんでないお前にしかできない選択肢だ。一番信頼できる選択肢を、何故見逃す?」
「…………」
「冷静になって、よぉく考えるんだ。ラウラ・ボーデヴィッヒ……はははははっ!」

「……。……わた、し、は……」

419誰がために黒兎は戦う ◆l.qOMFdGV.:2011/12/23(金) 16:09:51 ID:DxToL1zg0
●◆●◆●
 ウヴァの策には、言うまでもなく大量の欠点がある。

 他の連中も結託したら?
 一人なら対処できるとして大量の裏切りが同時に起こったら?

 挙げればきりがないが、冷静さを失っていたラウラがそれを考慮することはできなかった。
 それに、落ち着きを取り戻しつつある今になっても、その策自体の有効性は、首を横に振れない程度にはあるのだ。乗れば、そして上手く事が運べば大きなリターンがある策……。

 ラウラは今、ウヴァに従い校舎を下りている。もう少し、もう少しだけ屋上から見えた戦場を見ていれば、彼女の想い人を見つけて、もっと違う結末があったかも知れない。
 だが、ラウラは今、ウヴァに従っている。その首元の戒めは、もはや紫色の光を放っていない。禍々しい緑が、そこに灯っていた。

 階段を降りる際、何の気なしにその段数を数えてみたところ、その階段が十三段であると知れた。それに関連して、ある都市伝説がラウラの脳裏をかすめた。
 絞首刑の処刑台の階段は十三段、という都市伝説だ。

「私は処刑台を降りてるんじゃない」

 これから登るのだ、と続きは胸中でこぼす。嫁のため、仲間のためと言い訳をして手を汚そうとする私は、さて、正しいのかどうか。
 何か言ったか、と振り向くウヴァを適当にやり過ごし、睨みつけるように天井を仰ぐ。

 彼女の先には何が待っているのか、それは誰にもわからない……。

【一日目-日中】
【D-1/県立空美中学校F3】
【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】110枚:0枚
【装備】なし
【道具】基本支給品、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、ランダム支給品0〜2(未確認)
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利、いいなりになる兵力の調達
  1:こんなに上手くいくとは。優勝も遠くないな。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※セルメダルは戦力増強に成功したため増加しました。

【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】精神的疲労(小)
【首輪】99枚:0枚
【装備】《シュヴァルツェア・レーゲン》 @インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜3(確認済)
【思考・状況】
基本:仲間と共に帰還する、そのために陣営優勝の手助け
  1:ウヴァに協力する。
  2:この怪人は信じられるのだろうか?
  3:これも嫁と仲間のため、だから仕方ない……

【全体備考】
※D-1の県立空美中学校の屋上へと繋がるドアが蹴破られています。

420 ◆l.qOMFdGV.:2011/12/23(金) 16:11:27 ID:DxToL1zg0
投下終了です
矛盾がなければいいな!
何か問題点等ございましたら、ご指摘のほどをよろしくお願いいたします

421名無しさん:2011/12/23(金) 18:18:07 ID:Ye7Fmc7s0
投下乙です

ウヴァは馬鹿だけどロワでの戦略なんて大抵は穴があるけどね
優勝か打開までの過程なんて不安定要素ばっかりだしな
それで首輪やら監視やらで不安を煽ったら半端なリアリストを釣るのは馬鹿でも出来るか…
不安要素多いがリーダーと協力体制を組めたのは大きい…でも他人から見たら…
それにワンサマーはもうなあ…

422 ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/23(金) 18:28:42 ID:V8uapu4Y0
投下乙です。

ラウラ……ウヴァの乱入で最後まで戦場を見る事が出来なかったのは、良かったのか悪かったのか。
どちらにせよ、その中学校が若干危険ゾーンなのは確かですねw

では私も、これから予約分を投下します。

423Iの慟哭/信じたいモノ ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/23(金) 18:29:53 ID:V8uapu4Y0


 ―――エンジェロイドは。
 それが如何なるモノであれ、マスターの命令を遂行することが存在意義だ。
 そこに、エンジェロイド自身の感情を挟む余地などない。

 たとえそれが、自分の大切なモノを傷つける行為であっても。
 たとえそれが、自分自身の身体を壊す行為であっても。
 エンジェロイドである以上、マスターの命令は絶対なのだ。


 私は戦略エンジェロイド・タイプα「Ikaros(イカロス)」。
 マスター・桜井智樹の御命令により、マスターの所属する赤陣営を優勝させるため―――

 ―――それ以外の陣営の参加者を、殲滅しなければなりません。

 ……私の知るマスターならこんな命令は絶対にしない。
 けれど、私に命令を下したのは確かにマスターだった。
 ならば、エンジェロイドである私はその命令に従わなければならない。
 たとえ私が何を思い、何を感じようと、それが私の役目であり、存在意義なのだから。
 だから。


「さあ答えろよ! 殺し合いに乗るのか! 乗らねぇのか!
 お前の言葉で、お前の意思で決めろッッ!!」

 だから私は、この人を、みんなを殺さないといけない。
 いけない、のに―――

「私……私、は……―――!」

 エンジェロイドにとってマスターの御命令は絶対で。
 けど私はみんなを殺したくなんてなくて。
 でもマスターはみんなを殺せといって。
 私はどうしたらいいのかわからなくて。

「ッ………――――!!」
「あっ! 待てッ! 待ちやがれテメェ―――!!」

 気が付けば私は。
 目の前の男も、質問の答えも、マスターの命令も、何もかもを投げ出して逃げ出していた。

 遠くへ。少しでも遠くへ。
 せめて、近くに誰もいない場所を目指して。


【一日目-正午】
【D-2/商店街】

【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、疲労(大)
【首輪】80枚:0枚
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(胸部陥没、頭部亀裂、各部破損)
【道具】不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
1.逃げた少女を捕まえて答えを聞きだす(殺し合いに乗るなら容赦しない)。
2.他のヒーローを探す。
3.ジェイクとマスター?を警戒。
【備考】
※能力減退が始まって以降からの参加です。具体的参加時期は後の書き手さんにまかせます。

424Iの慟哭/信じたいモノ ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/23(金) 18:31:19 ID:V8uapu4Y0


        ○ ○ ○


「ッ……ハァ……ハァ……。
 ここまで来れば……大丈夫よね」

 疲労と痛みに乱れた息を整える。
 迂回して逃げたとはいえ、まだ安心はできない。広域レーダーを展開して周囲をサーチする。
 ―――反応は、ない。
 ジャミングによって今一つ信用できないが、あの男が追いかけてきた様子はない。
 もともと追いかけて来なかったのか、それとも別の参加者と鉢合わせたのか、あるいは死んだのか。
 なんにせよ、その事実に一安心してレーダーを切る。
 万全を期すなら常時レーダーを展開し続けるべきだが、メダルの消費を抑える為にもそれは出来ない。

「あれで死んでくれてたらいいんだけど……期待は出来ないわね」

 何せこちらの行動を完全に読んでいた奴だ。
 逃げる時の一撃も読んで対処した可能性は多大にある。
 次に遭遇してしまった時のために、何か対策を考える必要はあるだろう。
 だが、それにしても―――

「やってくれるじゃない、真木清人……! 見つけたらグチャグチャにしてやるんだから……ッ!」

 湧き上がる憤りを、この殺し合いを仕組んだ主催者にぶつける。
 居場所さえ分かれば今すぐにでも殺しに行ってやりたいが、相手だって当然それは承知しているのだろう。
 会場でか、首輪でかは判らないが、とにかくジャミングが掛けられていて、レーダーの性能が落ちているのだ。
 これではトモキたちを探すこともままならない。

「早くアルファーたちと合流できると良いんだけど……」

 あの男みたいな奴が他にもいるんだったら、戦闘能力の低い私や、トモキたちじゃ簡単に殺されてしまう。
 そうなる前に、アルファーかデルタのどちらかと合流する必要がある。

 それになにより、はやくトモキ(マスター)に会いたい。
 インプリンティングさえしていれば、鎖を辿ってすぐにトモキの元へ行けたのに。
 羽が生えたことに浮かれて、うっかり忘れてしまったのが悔やまれる。

「トモキたちなら、きっと中学校に寄るわよね。擦れ違いになるかもしれないけど、それなら部室に伝言を置いておけばいいし」

 当然殺し合いに乗った人物に伝言を見られる可能性もある。
 だが、新大陸発見部を知らない人間が、ピンポイントで部室を探るようなことはほぼないだろう。

「そうと決まれば、はやく向かわないと」

 まだ近くにあの男がいる可能性がある以上、この場に留まるのは危険だ。
 扉越しでステルスを見破るような奴だ。どこかに隠れる意味なんてない。
 遭遇したくないのなら、とにかく移動することが先決だろう。
 そう思い、空美中学校に向けて足を向けた、
 その瞬間―――

 ドガンッと、空から何かが落ちてきた。

「え!? ちょっと!? いきなり何!?
 ってあれ? まさか……アルファー!? いきなり落ちてくるなんて、どうしたのよ!」

 落ちてきたモノの正体は、先ほど早く合流出来たらいいと考えていたアルファー本人だった。
 おそらくはレーダーを切ったと同時にこちらに接近してきたのだろう。
 彼女は落下の衝撃で出来たクレーターに、仰向けになって倒れていた。

「ニン……フ……? どう……して……」
「アルファー……泣いてる……の?」

 彼女が空から落ちてきた理由はわからない。
 わからないが、とにかくアルファーが泣いていた。

「ちょっと待ってなさい、すぐそっちに行くから!」
「来ないで……ッ!!」
「え――――ッ!?」

425Iの慟哭/信じたいモノ ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/23(金) 18:32:33 ID:V8uapu4Y0

 それを見て駆け寄ろうとした瞬間、イカロスが必死な声で叫んだ。
 それと同時に、突然頭の中にミサイルアラートが鳴り響く。

 アルファーは、ゆっくりと立ち上がってこちらを見ていた。
 涙を流し続けるその瞳を、紅く染め上げて。

「ちょっとアルファー! 一体どういうつもり!?」
「マスターの………御命令……です………」
「トモキの……?
 な、なにそれ。あんたの冗談、ちっとも面白くないんだけど……」

 アルファーはただ、静かに首を振る。
 それは嘘だと、言外に告げる私の言葉を、否定するように。

「マスターが私に……殺し合いに乗るようにと、命令しました………」
「なに言ってんのよアルファー! トモキがそんな命令するはずないじゃない!
 カオスの時のこと忘れたの!? アンタに命令したって言うトモキだって、アイツみたいに誰かが化けた偽物に決まってるわ!」
「それでも……御命令……です……!
 私は……マスターのエンジェロイド……だから………ッ!」

 アルファーは絞り出すように叫ぶ。
 エンジェロイドだから、マスターの命令に従わなければいけないのだと。
 その泣いている様な声に、一気に頭に来た。

「バカ言わないで! そんなふうに泣いて言われたって、説得力なんてないわよ!!」
「あ…………」

 その事に、今気付いた様に頬に手を触れる。
 流れている涙は、冷たくその手を濡らしていた。
 その姿が―――どうしてか昔の自分と重なって見えた。

 だからだろう。いつか、彼が言ってくれたことを思いだした。

「ねぇアルファー。エンジェロイドは、夢を見ちゃダメ?
 エンジェロイドは、マスターの命令を聞かなきゃダメ?
 エンジェロイドは、羽がなきゃダメ?」

 ずっと鎖で繋がれていた。
 聞きたくもない命令に従って、思ってもいない事を口にして、面白くもないのに笑顔を作った。
 そうやって、ずっとずっと耐えてきた。
 壊されるのがイヤで、捨てられるのがイヤで、蹲って命乞いをした。

「スイカかわいがって育てたり。家を変なふうに改造したり。文化祭の後夜祭で、手を繋いで踊ったりしちゃダメなの―――!?」
「それ……は……―――」
「私は―――!!」

 それを―――彼が解き放ってくれたのだ。
 バカで、エッチで、どうしようもない変態だけど、それでも助けてくれた。
 そうして気が付けば、彼に恋をしていた。どうしようもないほど好きになっていた。

「私は……いいと思う」

 その言葉に、どれだけ救われたかわからない。
 羽を失くして、何も出来なくなって、ただの出来損ないでしかなかった私を、それでもいいと彼は言ってくれた。

「だって……これ全部、トモキが言ってくれたことなんだよ?
 それなのに、トモキがそんな命令するはずないじゃない………!」

 トモキたちと出会えて、私は狭い鳥籠から解放されて、広い空の下に飛び立てた。
 好きな事をやって、好きな物を食べて、好きな人のそばに居られて、空を自由に飛べるという、たったそれだけのことが、どんなに嬉しかったか。

 それなのに、本当にトモキがそう言ったのだとしたら、私が救われてきた全ては、一体何だと言うのだ。

426Iの慟哭/信じたいモノ ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/23(金) 18:33:42 ID:V8uapu4Y0

「でも……マスターは………」

 アルファーは言う。それでもマスターは、命令を下したのだと。
 泣きだす程にイヤなくせに、彼女はそれに従おうとしている。
 それを、はいそうですかと納得することなんて、出来るワケがない。

「アルファー。私だって、マスターの命令に従わなきゃいけないって思うのはわかる。
 でも、イヤな命令をイヤだって言うぐらい、したっていいじゃない―――!」

 エンジェロイドにとって、マスターの命令は絶対だ。
 けどそれでも、感情が――心が無い訳ではない。
 たとえマスターの命令であっても、イヤなものはイヤなのだ。

「だからアルファー、アンタが決めなさいよ……!
 私はシナプスの命令に逆らったし、アストレアは自分で鎖を切ったわ。
 だからアンタも、マスターの命令に従うのかどうかくらい、自分自身で決めなさいよ……!!」

 かつて、彼がそう言ったように。
 彼のエンジェロイドに向かって、心のままにそう叫んだ。


 ―――その言葉に、彼女は、どうすることも出来なくなった。

 マスターの命令から逃げだして、逃げ出した先でニンフと出会って、反射的に命令に従おうとした。
 躊躇う間もなく捕捉して、後はアルテミスを発射するだけになって―――でも撃てなかった。
 それどころか、来ないで、と彼女へと叫んでさえいた。

 でも彼女は逃げなかった。
 彼女の言った、カオスのことは分からない。
 でも、彼女の言いたい事は理解出来た。

 それでも、マスターの命令である事には変わりなかった。
 たとえ偽物かもしれなくても、エンジェロイドであるこの身体は、確かに命令に従おうとしていたのだから。

 それなのに、ニンフは言った。
 聞く必要はないと。嫌なものは嫌と言えばいいのだと。
 他でもない。あれほどマスターの命令を欲しがっていたニンフが、そう言った。

「私……は………」

 私は、どうすればいいのかわからなくなった。
 マスターの命令に従えばいいのか、逆らえばいいのか。
 それともまた逃げ出して、同じことを繰り返せばいいのか。

 そうやって迷って間に、ニンフが私に向かって歩いてきた。

「アルファー。アンタだってホントは、そんな命令聞きたくないんでしょ?
 そうじゃなきゃ、私に「来ないで」だなんて言わないものね」
「ダメ、ニンフ……! 近づいたら―――!」
「撃てるもんなら撃ってみなさいよ!!」
「ッ――――!」
「マスターの命令なんでしょ!? 私を壊さなきゃいけないんでしょ!?
 それならとっとと、アルテミスで粉々にすればいいじゃない――ッ!!」
「あ………ッ!」

 けれどニンフは、立ち止まらなかった。
 だから私は、彼女を壊さなきゃいけなくて……壊さなきゃ、いけないのに―――

「ほらやっぱり。アンタだって、そんなことしたくないんじゃない」

 気が付けば―――ニンフは私を……抱きしめていて………。
 私はニンフを……撃つことが………出来なくて―――!

「私―――私は………」
「アルファー、私ね……嬉しかったんだよ?
 アンタたちに助けてもらえて、そのことが幸せだって感じて、今なら笑えるって思ったんだよ……?
 それなのに、今度はアンタが笑えなくなってどうするのよ……」
「ぁ…………」

427Iの慟哭/信じたいモノ ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/23(金) 18:34:59 ID:V8uapu4Y0

 いつか、ニンフと交した言葉を思い出した。
 あの広い空の下で、何を思って、何を感じていたか。

「私は、トモキがみんなを殺せって命令しただなんて、絶対に信じない……。
 だからアンタも、自分の信じたいことを信じなさいよ……」
「……ニンフ………」
 そう言って、より強く抱きしめられる。
 その温もりに、必死に抑え込んでいた感情が溢れた。

 私には……なんでマスターがこんな命令をしたのか、全然わからない……。

 ―――けれど、一つ確かな事があった。

 私の知るマスターは平和な日常が好き。
 マスターは私がお小遣いでスイカを買うと喜んでくれた。
 マスターは、私が兵器で良かった、おかげで友達を救けられると言ってくれた。

「私は……―――」

 エンジェロイドにとって、マスターの命令は絶対だ。
 けれど私には、マスターの命令が正しいとは思えない。
 マスターがニンフやそはらさんを殺して喜ぶ人ではないと信じたい。

「私は……私の信じるマスターを、信て……いたい――――!」

 そうして私は、頬を濡らして、泣くようにそう言っていた。
 私の信じたいこと。私が信じられること。私が、マスターの傍で笑えた理由。
 あの時感じた想いを、過ごした日々を、嘘にしたくないと、そう思ったから――――



 その言葉を、確かに聞いた。
 マスターの命令に従おうとしていた彼女の告白。
 そんな事はしたくないと告げた、願いの籠められたその言葉を。

「アルファー―――」
 それがどうしようもなく嬉しくて、同時に安心した。
 もちろんアルテミスのロックが解除されたからというのもある。
 どんなに強がっても、怖いものは怖いのだから。

 けどそれ以上に、アルファーが彼女の知るトモキを信じてくれたのが嬉しかった。

「でも……ニンフ……。私はこれから……どうしたら………」
「そうね。アンタ人一倍自主性がないから、そう言うの決めるのは苦手だもんね」

 これからのことをどうするか考えないといけない。
 トモキに会っても、このままでは今回の二の舞になる。
 何かそのことに対する対策を考えなければいけない。
 少なくともトモキの命令に対して、一考するだけの余裕が必要だろう。
 であれば、

「ねぇアルファー。やっぱり私ね、アンタに命令したトモキは―――」


「変態ニャーーーーーーーーーーーッッッ!!!!」


 偽物だと思う。と続けようとした言葉は、別所からの少女の叫びに遮られた。
 何事かと声のした方向に振り返れば、ネコミミメイドが全力疾走していた。

「変態ニャ変態ニャ変態ニャ変態ニャ変態ニャーッ!!
 全裸の変態が出たニャーーーーーーーーーッッ!!!」

 ネコミミ少女は「変態」と繰り返し叫んでいる。
 内容からして、先ほどの叫びは彼女のものだろう。
 だがそのことよりも、彼女が叫ぶ「変態」という言葉に気を取られた。

「変態って………まさかトモキのこと!?」

 桜井智樹は、見空中学校屈指の変態だ。
 変態と言えば桜井智樹を容易に連想し得るほどに。
 加えて、ついさっきまでトモキに関することを考えていただけに、余計に気を取られてしまったのだ。
 そしてそれがいけなかった。

「ニャーーーーーーーーーーッッッ!!!!」

 何がそんなに衝撃的だったのか、ネコミミ少女は全力で走っている。
 同じ言葉を繰り返しながら、脇目も振らずに、ニンフたちへと向かって一直線に。
 「変態」という言葉に気を取られ、行動の遅れたニンフに少女を避けることは敵わず、結果。

「え……ちょ、ちょっとアンタ待―――!!」
 周りを見ずに突進してきた少女と、まともに激突することとなった。

(お……覚えてなさいアルファー………!)

 少女とぶつかった衝撃で諸共空中に跳ね上げられ、グルグルと視界が迷走する。
 そんな中、一人安全な距離へ退避していたイカロスへと悪態を吐いた。
 直後。宙に浮いていた体は地面へと落下したのだった。

428Iの慟哭/信じたいモノ ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/23(金) 18:35:59 ID:V8uapu4Y0


        ○ ○ ○


「ごめんなさいなのニャ。あまりにも嫌なものを見てしまったせいで、つい暴走してしまったのニャ」
 そう言ってペコリと頭を下げる少女、フェイリス。
 あの後、アルファーに軽い制裁を加えてから、お互いに自己紹介をしたのだ。

「いいわよ別に。気付いていながら避け損なったのは私もだし。
 それはそうと、「変態」ってどんな奴だった? サクライ=トモキって名前じゃない?」
「フェイリスはすぐに逃げたから、名前は知らないのニャ。全裸でヒゲモジャのおっさんだったニャ」
「ああ、アイツか……ッ!」

 おそらく、イカロスと会う前に接触した男のことだろう。
 戦闘中だった上に、トモキのせいで多少慣れてたこともあって、そこまで気が回らなかった。
 確かに全裸で徘徊する様な人間は変態と言っていいだろう。

「だとすれば、フェイリスは走ってきた方角には行けないわね」
 イカロスがいれば何とかなるかもしれないが、まだ不安要素があり過ぎる。
 なら、最初の予定通り空美中学校へと向かうのがいいだろう。

「アルファーはどう? 何か意見ある?」
「そっちの方には、ちょっと……」
 あまり行きたくない、と言外に言う。
 その様子で、何を躊躇っているのかが解った。
「なるほど、そっち側に「トモキ」がいるのね……」
「………………」

 アルファーが俯く。
 その様子を見て、やっぱり、と嘆息する。

「さっきも聞かれたけど、トモキって誰ニャ?」
「トモキはアルファーのマスターよ。いつもならすぐにでも合流するところなんだけど、ちょっと事情があって」
「事情? 良ければ聞かせて欲しいのニャ。フェイリスでも力になれるかも知れないニャ」
「……そうね、このまま考えていても埒が開かないし。アルファーもいいでしょ?」
「……うん………」

 アルファーが頷くのを確認して、フェイリスにこれまでの経緯を話す。
 ―――願わくば、これが何かの進展になればいいのだけど。



「―――なるほどニャ。ズバリ、そのサクライ=トモキは偽物だニャ!
 仲間に化けてその絆を壊したり利用したりするのは、悪の組織の常套手段なのニャ!
 空の守護天使であるアルニャンを騙して世界を思い通りに操ろうとは、「機関」の奴らめ、許せないのニャ!」
 「アルニャン……?」

 バーンと。事情を聞き終えたフェイリスは、声高らかにそう宣言した。
 「空の守護天使」ではなくて「空の女王」なのだが、フェイリスの中ではそんなふうに解釈されたらしい。
 あとアルニャンってなんだろう。

「後半何言ってるのかよくわかんないけど………。
 とにかく、やっぱりフェイリスもそのトモキは偽物だって思うわよね。
 やっぱりそうだって。トモキがそんな命令するはずないもの」
「でも………」

 フェイリスの言葉にニンフは呆れながらも同調する。けれど、私はやっぱり言い淀んでしまう。
 あのマスターが偽物だと二人とも言うけれど、私にはそうは見えなかった。
 マスターがあんな命令をする筈がないと信じたいが、それでもやっぱり躊躇ってしまうのだ。

「だからさ、それを確めに行こう、アルファー。
 アンタは私と違って、ちゃんと鎖が繋がってるんだから。
 だったらこの鎖の先にいるのが、アンタの本当のマスターじゃない」
「――――――」

 そんな私を見兼ねたのか、ニンフは私と自分の鎖を掴んで寂しそうにそう言った。
 私とマスターを繋ぐ鎖は、制限からか五メートル程度までしか伸ばせない。
 けれどそれは、五メートル以内ならマスターと繋げる事が出来ると言うことだ。

 だけどニンフは、マスターとインプリンティングしていない。
 だから、本物か確かめようと思ったら、自分の感覚に頼るしかないのだ。
 それなのにニンフは先ほどまでの影を消して笑った。

「安心しなさいって。
 もしトモキが本当にそんな命令をしたんだったら、今度は私がアンタの鎖を切ってあげるわ。
 アルファーたちが、私を救ってくれたみたいにね」
「ベーニャンの言う通りニャン。
 フェイリスは桜井智樹のことは知らないけど、……って言うか変態らしいから会いたくない気もするけど。
 とにかく、フェイリスも協力することは吝かではないのニャン」
「ベーニャン?」

 ニンフも、出会ったばかりのフェイリスまでもそう言ってくれる。
 そんな彼女達に私は、嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

429Iの慟哭/信じたいモノ ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/23(金) 18:37:27 ID:V8uapu4Y0



「それにしても、アルニャンもベーニャンもすんごく可愛いのニャン。
 あ、そうだ! この殺し合いから脱出したら、「メイクイーン+ニャンニャン」で働かないかニャ?」
「ちょっとフェイリス。さっきから気になってるんだけど、ベーニャンってもしかして私のこと?」
「そうニャン。イカロスさんはアルファーだからアルニャンで、ニンフさんはベータだからベーニャンなのニャン」
「普通に呼びなさいよ! もしくは、もっとマシな呼び方にしてよ!」
「………アルニャン」

 私はちょっとかわいい呼び方だと思うけど、ニンフは不満らしい。フェイリスに対して抗議する。
 けどフェイリスは奇妙な論理で対抗して、のらりくらりとニンフを躱している。
 そして一体なにがどうなったのか、いつの間にかニンフと一緒に私も「メイクイーン+ニャンニャン」とやらのメイドにされていた。
 ………フェイリスの喋り方を真似したら、マスターは喜んでくれるだろうか。

「…………ニャン」


 そうこうしている内に、ニンフが疲れたような顔をして戻ってきた。
 フェイリスは猫のように顔を洗って、勝利の笑みを浮かべている。

「まあ……いいわ。相手にするだけ疲れそうだし。
 ……あ、そうだ。アルファーにはこれを渡しておくわ。
 その赤い槍はこっちの黄色い槍と対になってるらしいけど、私には長くて使い辛いし、アルファーはメダルの残りが少ないでしょ」

 ニンフから赤い槍と赤色のコアメダルを受け取る。
 一緒に渡されたメモによると、この赤い槍は“破魔の紅薔薇(ゲイ・シャルグ)”といって、あらゆる魔力の循環を遮断するらしい。

「フェイリスはその、デンオウ……だっけ?」
「そうニャン。未来への扉を開く“鍵”、イマジン達を宿す時のアイテムなのニャ!
 モモニャン達のことも、後で紹介するのニャン。きっとアルニャン達も友達になれるニャン」
「……イマジンだかヒマジンだか知んないけど、とにかくそれがあれば何とかなるでしょうしね。
 それじゃあ早く行きましょ、アルファー、フェイリス」
「了解なのニャン。アルニャン達をいじめる奴は、このデンオウの力でフェイリスがやっつけてやるのニャ!」
 そう言ってフェイリスは意気揚々と歩きだす。
 途中、彼女は何かを思いついたようにいきなり喋り出した。

「悪の組織に騙され、嫌々ながらも仲間と戦う守護天使アルニャン。
 壊れていく仲間との絆に、アルニャンは悲しみ、一人孤独に涙を流す。
 そこに現れた虹の妖精ベーニャン。彼女は真実を見つける為にアルニャンを運命へと導く!
 そこに待つのは仲間との友情か、それとも悲劇の裏切りか! エンジェロイド達の絆が今試されるッ!!」
「……は? いきなり何言いだしてんのよ、アンタ?」
「ん〜〜ッ! 予測し切れない未来がフェイリスを待ってる気がするのニャ!
 今すぐに運命石の重なる地に向けて出発するのニャー!!」
「って、ちょっと待ちなさいよ!」

 フェイリスが痺れを切らしたように走りだし、それをニンフが追いかける。
 その後ろ姿を眺めながら、私も彼女達についていく。



 ―――ニンフは言った。
 もしあのマスターが本物だったら、マスターとの鎖を切ると。
 それは、出来れば考えたくない事だ。私はマスターの傍にいたい。
 けれど、そはらさん達も傷つけたくないという気持ちも確かにあるのだ。
 だからもしあのマスターが本物だったら、私はきっと、壊れてしまいそうになる。

 だから私は、あのマスターが偽物であって欲しいと、
 信じたいモノが嘘になりませんようにと、切に願った―――

430Iの慟哭/信じたいモノ ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/23(金) 18:38:24 ID:V8uapu4Y0


【一日目-午後】
【D-4/中央部】

【イカロス@そらのおとしもの】
【所属】赤
【状態】健康、不安
【首輪】40枚:0枚
【コア】クジャク
【装備】ゲイ・シャルグ@Fate/zero
【道具】なし
【思考・状況】
基本:マスターに会って、本当のことを確かめたい(それまでマスターの命令は保留)。
1.ニンフ達と行動する。一先ず空美中学校に向かう。
2.マスター達と合流(桜井智樹優先)。
3.マスターを信じていたい。みんなを殺したくない。
4.……フェイリスの喋り方を真似したら、マスターは喜んでくれるかな………かニャン?
【備考】
※22話終了後から参加。
※“鎖”は、イカロスから最大五メートルまでしか伸ばせません。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。


【ニンフ@そらのおとしもの】
【所属】無
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)
【首輪】60枚:0枚
【装備】ゲイ・ボウ@Fate/zero
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:知り合いと共にこのゲームから脱出する。
1.イカロス達と行動する。一先ず空美中学校に向かう。
2.知り合いと合流(桜井智樹優先)。
3.トモキの偽物(?)の正体を暴く。
4.トモキの偽物(?)、裸の男(ジェイク)、カオスを警戒。
【備考】
※参加時期は31話終了直後です。
※広域レーダーなどは、首輪か会場によるジャミングで精度が大きく落ちています。
※“フェイリスから”、電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。


【フェイリス・ニャンニャン@Steins;Gate】
【所属】無所属
【状態】疲労(中)、嫌な物を見せ付けられた不快感
【首輪】100枚:0枚
【コア】ライオン
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:脱出してマユシィを助ける。
0.天使や妖精と友達になったニャ!
1.アルニャン(イカロス)達と一緒に行動する。
2.凶真達と合流して、早く脱出するニャ!
3.変態(主にジェイク)には二度と会いたくないニャ……。
4.桜井智樹は変態らしいニャ。
5.イマジン達は、未来への扉を開く“鍵”ニャ!
6.世界の破壊者ディケイドとは一度話をしてみたいニャ。
【備考】
※電王の世界及びディケイドの簡単な情報を得ました。
※モモタロス、ウラタロス、キンタロス、リュウタロスが憑依しています。
※イマジンがフェイリスの身体を使えるのは、電王に変身している間のみです。

431 ◆ZZpT6sPS6s:2011/12/23(金) 18:39:33 ID:V8uapu4Y0
以上で投下を終了します。
何か意見や、修正すべき点などがありましたら、お願いします。

432名無しさん:2011/12/23(金) 19:08:18 ID:a2yYeS8IO
お二方とも投下乙です
何故だろうウヴァさんは何しても墓穴を掘ってる様にしか見えない…

イカロス奉仕マーダー化かと思ったがそんな事は無かったぜ!
まあ件の智樹は中学校とは真逆の所でマミさんのおっぱいを狙ってる訳だが
デルニャンはそれなり近くに要るし三人娘が揃うのも案外早そうね

433名無しさん:2011/12/23(金) 19:20:39 ID:s9wR/xWI0
>>432
同作品キャラの合流は死亡フラグになるというジンクスがあってだな

434名無しさん:2011/12/23(金) 19:49:27 ID:.N6Ih.V.0
お二方とも投下乙です。
おお、ウヴァさんがちゃんと頭使って行動してるぞ、戦力もゲットしてるぞ
でも計画の穴も自覚しないで調子づいちゃう辺りやっぱウヴァさんか…

仲間の絆は当然ながら、まさかフェイリスの二次元脳までイカロス改心に役立つとは
…あれ、怪我しただけの虎徹さんって…?

435名無しさん:2011/12/23(金) 20:54:49 ID:Ye7Fmc7s0
投下乙です

どうなるかと思ったがニンフ、よくやったな
フェイリスもこう一役買うとは…w
全体的に早期にイカロスの奉仕マーダー化を防止したのは大きいなあ
ただ、虎徹さんが、彼の仲間がこれを知ったら、誤解も燻ってるし…

436名無しさん:2011/12/23(金) 21:43:00 ID:xkk5vU4MO
お二方投下乙です!
ウヴァさんは原作からしてルラギラレてズガンがお似合いじゃないかと思うんだw

そらおと勢が早くも合流・・・肝心のマスターはマミさんマミマミしてますよっとw

437名無しさん:2011/12/23(金) 21:48:05 ID:SFi5NVM60
ウヴァさんなにやってんすか

438名無しさん:2011/12/23(金) 23:31:40 ID:clT2SMqI0
お二方投下乙です。
緑陣営は無事に一人増えたし、仁美もウヴァさんが思ってるよりも役に立ってるからウヴァさん的には幸先がいいなw
ただウヴァさんが前半で調子がいいように見えると後々こけるフラグになりそうなのがなぁ……
ラウラは無事各陣営のリーダーを仕留めて他のIS勢を緑陣営に引き込む事が出来るのか……
忘れかけてたけどこのロワが陣営戦だって事を再認識させてくれる良SSでした。
……あれ、グリードは最初から無所属は自陣営に引き込めるって知ってるんだけ?

一方で、アルニャンはとりあえずマーダー化はせずに済んだけど、原作キャラとの早期合流はフラグやで……
でもニンフが当初思ってたよりもしっかり対主催やってくれてて、フェイリスの厨二病も相変わらずで安心w
まさか智樹が今まさにマミっぱいを狙ってるとは思うまい……いや、やっぱり智樹なら割と簡単に想像つくかw
にしても智樹にしろニンフにしろそらおと勢はブレない奴多いなぁ……イカロスもただ従うのかと思ったらちゃんと自分の意思で動いてくれてるし。

439名無しさん:2011/12/24(土) 18:38:26 ID:spivPKwM0
ウヴァさんの策はいつも悪くはない

悪くはないが、その策は周りのあらゆる状況が邪魔をするようにできているのだ

440名無しさん:2011/12/24(土) 20:53:42 ID:XMw/Rq9o0
ウヴァさんは騙されやすいんじゃない。
騙され上手なんだ!

441名無しさん:2011/12/25(日) 13:43:11 ID:t/5xtO4U0
でもそういうのがロワで早期退場するかしぶとく終盤まで生き残るかのどちらかなんだよなあ
まあ、ロワは基本戦術と基本戦略さえ押さえていれば運が良ければなんとかなるってw
ただ、ここの特殊ルールだとウヴァさん、団体戦のリーダーなんだよなあ…
誰が貧乏くじ引かされるのか楽しみw

442 ◆lx1Zn8He52:2011/12/25(日) 14:58:30 ID:c02XpJzMO
投下します

443瞬きする度に形を変えて ◆lx1Zn8He52:2011/12/25(日) 15:03:55 ID:c02XpJzMO
殺し合いが始まり数時間、意気揚々と大地を照らす太陽が僅かに傾き始めた頃 二つの影は静かに山道を進み 遥か彼方のIS学園を目指していた

先導するのはオールバック姿の男――ウヴァ 自陣の戦力を増強する為に地図を広げ指針を示す

その後を歩き 静かに目的地の方角を見据える眼帯の少女――ラウラ・ボーデヴィッヒ

二人がIS学園を目指すのには訳がある

この会場でISという強大な力に携わる者達 彼女達が仲間達と合流しようとした場合 IS学園を目指す筈と判断したウヴァが 、その者達を仲間に率いれる事を考案したからだ
そしてその案を蹴る選択権を持たぬ ラウラは黙って着いて行く事を決めた
当初はISを使用し早急に向かおうとしたが ウヴァがメダルの無駄と切り捨てた
距離が近いならまだしもIS学園までは、かなり距離がある その間をISを使用し向かうとなると目立つだけでなく大量のメダルを消費する事になる
よってある程度歩き 日が落ちてからISで移動する事になった

(この調子では夜になるどころか 夜が明けるぞ…)
辺りを警戒し慎重に進むウヴァの後ろ姿を眺めラウラは内心呟く

(しかし全ては嫁の為仲間の為、この陣営を優勝させ皆と元の世界に戻る!)

OOO

444瞬きする度に形を変えて ◆lx1Zn8He52:2011/12/25(日) 15:09:27 ID:c02XpJzMO
日が陰り 辺りの風景が少しづつ黒に近付く中 静かに地図を眺める少年の姿があった
他人の姿を被り自らを探す怪物強盗X・I 彼はぼんやりと地図を眺めていた
暫く休む事で 先程の戦闘での余韻は消え 次の目的地を考えていた
脳噛ネウロ 彼に縁のある探偵事務所を目指そうかとも考えたがあの魔人が現れるとは限らない
何処に向かうか? いっそ動きやすい夜になるまで待って探し回るか? それは疲れるから嫌だなと思い

「まぁ、とりあえず行ってみようかな探偵事務所。」

地図を丸めバックに押し込み のんびりと歩き出した

OOO

山道を抜け出た頃 既に日は落ちる準備を始めていた
余りに歩みが遅い。やはり多少のデメリット覚悟してでも個々からは、ISを使うべきではないか ラウラがそう伝えようとした時 ウヴァが足を止めた
どうした?――呟こうとしてウヴァの足が止まった訳が解る 二人の数メートル先 悠然と歩く参加者を発見した。そして目を凝らしぼんやりと顔を見つめ息を呑む

「ッ!?」
そして咄嗟に声を挙げ その者を呼ぼうとした時
「黙れ…!」
ウヴァが手を伸ばし静止を要求する
OOO

「黙れ…!」

目の前に現れた者に声を掛けようとしたラウラを黙らせウヴァは思考する
(あれは織斑一夏か?だが…)

遠目に織斑一夏の首輪の光を見る 光色は自陣の色 緑

(織斑一夏は白陣営の筈だ…、緑色と言うことは…)
その僅かな情報を頼りにウヴァは、直ぐ様に答えを導き出す

445名無しさん:2011/12/25(日) 15:14:33 ID:c02XpJzMO
(Xか…)

この会場に置いて織斑一夏が緑陣営と言うことはあり得ない 即ち緑陣営の誰かが織斑一夏の姿を模しているということは明確
それは誰か? そんな事が出来るのは一人だけ 怪物強盗X・Iを置いて他に無い

(ツイてる…。こんなに早く役に立ちそうな奴に会えるとは…、俺の勝利は決まったな…!)
その事実に思わず笑みが溢れる

「おい!合流しないのか!?」
目の前に現れたのが織斑一夏が別人と知らないラウラが声を挙げる
「焦るな。いい忘れたが織斑一夏も俺の陣営だ。俺が直々に協力するよう話をつけてやるよ」
そう告げウヴァは、前を向く

「待て!私も…」
「お前はここで敵が来ないか見張ってろ。話してる間に奇襲されたらどうする?下手したら全員ゲームオーバーだ。俺が先に行って安全だと解ったら呼んでやる」
「だが!」
「俺に逆らうのか?誰を生還させるかの選択権は俺に有る。皆で仲良く帰りたいよなぁ…?」

そしてウヴァはラウラの肩を軽く叩き そう釘を刺した
OOO

「お前――、Xだな?」
1人、織斑一夏の前に姿を現したウヴァは開口一番そう告げた

「そういうあんたは…、誰だけ?」
「覚えてないのか?」
「ごめん。俺 どうでも良いことはすぐ忘れるんだよね。ところで、どうして俺がXだって解った?」

織斑一夏の姿をした者の問いに笑顔を浮かべ答える

「俺がお前の陣営のリーダーだからだ」
「リーダー?」
「あぁ。その証拠にお前が今何をしようとしてるかも解る。お前ネウロって奴を探してるだろ?」

446瞬きする度に形を変えて ◆lx1Zn8He52:2011/12/25(日) 15:20:31 ID:c02XpJzMO
「へぇ…、そんな事まで解るんだ?」
「俺のいう通りにすればそいつの情報を教えてやる。そういえばお前…」
何故、織斑一夏の姿をしてる?そう続けようとした時

ガシュリッ
メダルが擦れる不快音が聞こえた

「――あ?」
視線を下ろすと 脇腹と左胸に何かが刺さってるのが音源だと解った

腕?

ぼんやりとそんな言葉が出た時、突き刺さっていたモノは乱暴に抜かれた

「なら、あんたの知ってる事教えろよ」
「がぁァアッあぁッ!!?!」

自分がリーダーである事 相手にとって有用な情報 これらを餌にすれば協力すると判断して人間態で接近したのが間違えだった そんな事に気付く余裕もなくウヴァは悲鳴をあげる

「へぇ…、あんたの体はメダルで出来てんだ?」
両手でつかみ出したモノをXは眺める
「カマキリと…、イナゴ…?」
その中でも違う輝きを放つ二枚のメダルを興味深げに掌の上で転がす

「お、俺の…、俺のコアッ!?返せェェッ!!」
自らを形作るコアを奪われ憤慨したウヴァは、叫び本来の怪人としての姿を表す――が、その体の一部はメダルの塊となって崩れ落ちる

その姿に興味を持った Xは鎌を振り上げたウヴァが、鎌を降り下ろす前に蹴り倒し 甲殻で被われてない部位に指を入れ力づくで何度もむしる
その姿は子供が羽虫を興味本意で解体してる様
まあ事実その通りなのだが

「あ、ダブった」
すぐにもう一枚のコアが引きずり出されウヴァの体が更に崩れる

「ラウラァアッッ!助けろ!!俺をッはッ早ァがァアッッ!!?!?」

447瞬きする度に形を変えて ◆lx1Zn8He52:2011/12/25(日) 15:21:54 ID:c02XpJzMO
OOO

繰り広げられる暴力を前にラウラは動く事は出来なかった

ウヴァが叫び 怪人に戻り地面を転がる そして一方的にメダルを掻き出されている
それを執行してるのは織斑一夏
ISを使うでもなく 腕だけでメダルを奪っている

目の前で何が起こっているのか?ラウラ・ボーデヴィッヒには、理解できなかった

我に還り 二人に近付こうとした時には、既に怪物最後のコアは掴み出され 首輪に灯る緑光が紫に変わた

OOO

「あ…、マズッた…ネウロの場所聞こうと思ったのに…」
最後に取り出したクワガタコアと荷物をバックに収め Xは服に着いた土を払う

「まあいいや」

そしてバックに入らないゴルフクラブだけを放り捨て 自分を見つめ立ち竦む少女に怪物は歩み寄る

「細かい事はあんたに聞くよ」

織斑一夏の姿と笑顔で

448瞬きする度に形を変えて ◆lx1Zn8He52:2011/12/25(日) 15:24:04 ID:c02XpJzMO
【ウヴァ@仮面ライダーOOO 自律行動不能】

【一日目-夕方】
【E-2/山林側】
【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】無
【状態】極度の動揺、極度の混乱、精神的疲労(大)
【首輪】99枚:0枚
【装備】《シュヴァルツェア・レーゲン》 @インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜3(確認済)
【思考・状況】
基本:?
  1:一……夏…………?
【備考】
※織斑一夏がXだと気付いてません

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】無
【状態】健康、織斑一夏の姿に変身中
【首輪】235枚:0枚
【コア】クワガタ、カマキリ×2、バッタ×2
【装備】なし
【道具】“箱”の部品@魔人探偵脳噛ネウロ×29ランダム支給品2〜8(X+一夏+ウヴァ)詳細資料@オリジナル
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい
1.ネウロに会いたい
2.バーサーカーやアストレア(両者の名前は知らない)にとても興味がある
3.IS及びその製作者にちょっと興味
4.殺し合いに興味は無い
5.目の前の少女から情報を聞く
6.桂木弥子探偵事務所に向かう
【備考】
※本編22話後より参加
※能力の制限に気付きました
※細胞が変異し続けています
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます
※詳細資料は未確認
【全体備考】
※グリードが不在になり緑陣営が消滅しました
※E-2の地面にゴルフクラブ@仮面ライダーOOOが放置されてます

449 ◆lx1Zn8He52:2011/12/25(日) 15:25:14 ID:c02XpJzMO
以上です 感想お待ちしてます

450 ◆lx1Zn8He52:2011/12/25(日) 15:28:44 ID:c02XpJzMO
状態表にミスがありました
【ウヴァ@仮面ライダーOOO 自律行動不能】

【一日目-夕方】
【E-2/山林側】
【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】極度の動揺、極度の混乱、精神的疲労(大)
【首輪】99枚:0枚
【装備】《シュヴァルツェア・レーゲン》 @インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜3(確認済)
【思考・状況】
基本:?
  1:一……夏…………?
【備考】
※織斑一夏がXだと気付いてません

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】緑
【状態】健康、織斑一夏の姿に変身中
【首輪】235枚:0枚
【コア】クワガタ、カマキリ×2、バッタ×2
【装備】なし
【道具】“箱”の部品@魔人探偵脳噛ネウロ×29ランダム支給品2〜8(X+一夏+ウヴァ)詳細資料@オリジナル
【思考・状況】
基本:自分の正体が知りたい
1.ネウロに会いたい
2.バーサーカーやアストレア(両者の名前は知らない)にとても興味がある
3.IS及びその製作者にちょっと興味
4.殺し合いに興味は無い
5.目の前の少女から情報を聞く
6.桂木弥子探偵事務所に向かう
【備考】
※本編22話後より参加
※能力の制限に気付きました。過剰な骨格変化が出来ません
※細胞が変異し続けています
※Xの変身は、ISの使用者識別機能をギリギリごまかせます
※詳細資料は未確認
【全体備考】
※ウヴァが不在にになり緑陣営リーダーがXになりました
※E-2の地面にゴルフクラブ@仮面ライダーOOOが放置されてます

正しくはこうです

451名無しさん:2011/12/25(日) 15:50:33 ID:t/5xtO4U0
投下乙です

馬鹿はどうなるんだろうと言ってたら次話であっさりとリタイヤだったぜwww
しかもワンサマーの顔のXとラウラの嫌なご対面付きとかひでえ展開だ(褒め言葉)
ほんと、あっさりしすぎだぜw

452名無しさん:2011/12/25(日) 16:33:41 ID:3r0UmSpg0
ウヴァさんはどこまで行ってもウヴァさんだった
リーダーだからって他参加者より強いなんてことはなかったんや!

453名無しさん:2011/12/25(日) 18:56:58 ID:bdnYrs2o0
あっさりやられるのがウヴァさんクオリティw

454名無しさん:2011/12/25(日) 20:06:55 ID:1QMIWKLsO
序盤で星を上げ過ぎたマーダーは序盤の内に死ぬというジンクスが…
はたしてXの場合は…

455名無しさん:2011/12/25(日) 20:08:36 ID:Zqzz/PgE0
いや、いくらなんでもあっさりすぎるだろ

456名無しさん:2011/12/25(日) 20:43:17 ID:jcIAoIXQ0
確かにご都合主義かなとも思う部分もあるがなあ…

457名無しさん:2011/12/25(日) 20:59:16 ID:jWQVpex6O
ネタキャラだからこの扱いね
納得いかんw

458 ◆lx1Zn8He52:2011/12/25(日) 21:44:28 ID:c02XpJzMO
自分の不注意で>>447に間違った方を投下しました…。正しい方は修正スレに投下してあります。本当にすみません

459名無しさん:2011/12/25(日) 22:47:56 ID:1QMIWKLsO
…考えてみたら、Xってウヴァさん虐殺できるほど強かったっけ
相手は幹部怪人だし、Xって少し前にバーサーカーとやりあった後だよな…
状態表に書いてないけど疲労とか溜まってるんじゃないかな

460名無しさん:2011/12/25(日) 22:56:16 ID:XdfzsHeI0
投下乙です。
ですが今回の作品はいくらなんでも、他の方々が言うようにご都合主義な部分があると思います。
ウヴァさんがあまりにも迂闊すぎますし、グリードがそう簡単に致命傷になるような攻撃を許すとも思えません。
あと、参加者全員の情報を知っている以上、ウヴァさんもXの残酷な性格について知っているでしょうし
接触するにしても、もう少しXを警戒してもおかしくないと思います。
(オーズ本編でもメズールとガメルを復活させる際には、慎重になってたので)

461名無しさん:2011/12/25(日) 22:56:44 ID:Zqzz/PgE0
やっぱりおかしいよこれ
ウヴァさんだってグリードなんだから、Xに虐殺されるほど弱いとは思えないし、Xの方もいきなりウヴァさんを襲うのは違和感ある

462名無しさん:2011/12/25(日) 23:03:10 ID:Mg6EKWWU0
いくらウヴァさんでもまったく警戒なしにやられる、ってのには違和感
俺もおかしいと思う

463名無しさん:2011/12/25(日) 23:07:11 ID:0XkDOBEk0
投下乙です。ですが…どうしても気になることが。

ウヴァがXにろくに抵抗できないまま倒されてしまったという展開には正直疑問を抱きました。
オーズやバース相手に何度も戦って互角以上の戦いを繰り広げたウヴァなら
(たとえ弱体化したとしても)X相手に十分応戦は可能だったんじゃないか?と思いました。
それらしい描写が何も見られないまま一般人同然に嬲り殺しにされましたと言われても、ただ不自然さしか残りません。
(修正後では一切反撃の余裕が無かったと描写されていますが「そりゃないでしょ」と言いたいです)

ウヴァは本人の人柄と物語の都合上ヘタレキャラで定着しましたが、実際は幹部級怪人でありその実力自体は上位です。
今回のSSはネタ要素に走るあまりこういう基礎的な部分がお粗末になってないか?というのが自分個人の率直な感想です。

464名無しさん:2011/12/25(日) 23:09:54 ID:K9yBb1WcO
どういうことなの・・・まあ言いたい事は大体言われてしまったので。

465名無しさん:2011/12/26(月) 00:03:50 ID:BY64thcMO
でも、真木のことを信じたくらいだからあり得るかも。それにいくらウヴァでもコア2つも取られたらどうしようもないよ。

466名無しさん:2011/12/26(月) 00:21:44 ID:VKX1vksQO
でも、正直オーズの幹部キャラって拍子抜けするほど弱かったような…
オーズが剣王やバサカと戦えるくらい強いとは、このロワじゃ確定してないし
バサカと互角だったXに瞬殺されても、それは書き手の裁量だろ

467名無しさん:2011/12/26(月) 00:31:12 ID:KpWFYhlA0
自分もこのSSには納得できません。他の方が指摘しているように、展開がご都合主義だなと思うのは以下の点です。

第一に、Xのキャラがおかしいです。彼はネウロに強い興味を持っているので、人間態で近づいた、つまりただの人間だと
考えられるウヴァの中身を見ることよりも彼からネウロの情報を聞き出すことを優先するはずです。なのに拷問するなら
まだしもいきなり胸部貫通などの致命傷、それも通常の人間の場合会話を妨げる可能性がある傷を与えるというのはXの
キャラとして妙な行動だと言えます。いくらメダルでできていたとはいえ怪人の「中身」の観察にもあまり興味がない
ようですし。

次に、ウヴァがXの情報を得ているのならもう少し慎重になっても良いはずです。公式で「迂闊な単細胞」などと設定されて
いますが、>>460で指摘されているように最低限の慎重さは彼も持ち合わせています。もっと慎重に接触するか、応戦できる
ように常に気を配る、何なら最初から怪人態である可能性もあるはずでしょう。情報を握っていてXが一夏の姿をしている
なら考えるまでもなく彼が殺し合いに乗っていると気付きそうなものですからなおさらです。

第三に、ウヴァは上位怪人のグリードであり、人間態で油断していたと言えどXに真っ向から攻撃されて反応できなかった、
というのは正直言って違和感、いや無理があります。首輪のせいだと言うかもしれませんが、それならXも同じ条件のはず
でしょう。ましてや既に他の方が指摘されているようにXはバーサーカー戦を経て疲労が溜まっていて、攻撃が鈍っていて
も良いほどです。その攻撃でウヴァがあっさり致命傷を受けてしまうと言うのはあまりにも都合が良過ぎると思います。

できれば以上の三点について説明して頂けるとありがたいです。

468名無しさん:2011/12/26(月) 01:57:04 ID:qYMbEPVI0
自分も今回のSSに関しては納得が行かないというのが本音です。
グリードが弱いとか言われてるけど、それはプトティラの特性故であってグリード自体が弱い訳じゃない。
そもそもバサカと互角だったのはISの能力を使っていたからで、X自体がバサカに対抗出来ていたわけではありません。
既に言っている方も多いですが、このSSは単にウヴァでネタをやりたかっただけにしか見えない。
ネタをやるのは構わないとしても、それをやるならそれを納得させるだけの説得力がなければならない訳だけども、今回のSSにはそんな説得力は感じない。
前々から思っていましたが、キャラクターを大切にするつもりがあるなら、こんないい加減な話ではなくきちんとキャラを丁寧に扱って欲しい。でなければ他の書き手にも失礼です。
自分としての本音を言わせて頂けるなら、修正などは望みませんので正直破棄にして欲しいくらいなのですが、それはあまりにも乱暴だというのも分かりますので、まずは今回のSSについて納得の行く説明をして頂きたいなと思います。

469名無しさん:2011/12/26(月) 13:00:08 ID:x5KyAV920
ここは本スレですよね
避難所に議論スレがあるのでそっちで話し合っていただけませんか
書き手の方がいた場合はトリップをつけていただけるとありがたいですが

470名無しさん:2011/12/26(月) 13:12:02 ID:Japwv8kw0
議論スレの方にレスしたよ
俺も上で言われていることはもっともだと思うよ

471名無しさん:2011/12/26(月) 21:41:43 ID:dUHK105A0
ウヴァさんは完全体ならグリード最強なのに…
おまけにネウロの情報がほしいならあっさり殺すのはおかしい

472名無しさん:2011/12/26(月) 23:36:48 ID:vbWJzuDk0
議論スレに返答来ましたね

473名無しさん:2011/12/27(火) 00:00:35 ID:rk/HYISw0
時間無いから破棄か
確かにちょっとやそっとでは修正無理そうだしな

474名無しさん:2011/12/27(火) 00:15:36 ID:V5Lt9WMk0
質問の回答を要求してるのに全スルーで「破棄でいいですよ」ってのはちょっと失礼な気もするけど……まあ今回のは仕方なかったか。

475名無しさん:2011/12/27(火) 00:23:03 ID:NQNflnpAO
ウヴァの方はともかく、確かによくよく考えてみればXの行動はおかしいな。

476名無しさん:2011/12/27(火) 11:16:01 ID:xyuq223o0
>>474
>質問の回答を要求してるのに全スルーで「破棄でいいですよ」ってのはちょっと失礼な気もする

そうか?ちょっと神経質すぎやしないか

477名無しさん:2011/12/27(火) 13:50:39 ID:czWt0FtE0
その言い方だとどんな些細な点でも名無しに説明を求められたら書き手は対応しなきゃいけないってことになるだろ
苦く思う気持ちはわからんでもないがそういう事は表に出すな

478<削除>:<削除>
<削除>

479名無しさん:2011/12/27(火) 18:10:55 ID:rSUwb7oI0
揚げ足取りの応酬とか止めろよ
ただ、普通に作品がご都合主義で不自然さが目に付いてたのは確か
作品としては問題あったぞ

480<削除>:<削除>
<削除>

481 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/28(水) 10:00:01 ID:GzXPWGyc0
大変遅れました。
これより予約分を投下します。

482 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/28(水) 10:00:55 ID:GzXPWGyc0
 小洒落た内装のレストランが建てられた場所は、地図上の座標で言えばA-6。
 園咲の屋敷が位置するG-4から随分と離れてしまっている。
 今の私にお似合いだとでも言う気かしら。そんな皮肉めいた呟きが、店内の椅子に腰掛ける園咲冴子の口から漏れた。
「まだよ。私はこんな所で終わらない」
 次いだ言葉は不屈の意志を表すものだった。
 長年に及んで培われた彼女の意地は、『ミュージアム』の頂点を掴むという目標の達成に頓挫した今でも決して衰えることは無い。
 彼女を認めなかった園咲家の長、園咲琉兵衛への対抗心だけあれば前へ進めるのだ。
 そんな冴子の口から出る台詞として、先程の言葉は至極当然のものだった。

「だったらどうするべきか……考えるまでもないわね」
 自分に殺し合いを“命令”する真木清人には腹が立つ。園咲の女が随分と舐められたものだ。
 園咲家琉兵衛と同様に、あの男にも嫌と言うほどわからせなければならないだろう。この自分を舐めた報いを。
 しかし、だから殺し合いには乗らないという答えに至るかといえば、否。
 殺し合いに反抗する、つまり正義を掲げて無価値な人間のためにまで身体を張る。まさにあの仮面ライダーが選ぶだろう道だ。
 それが冴子には素晴らしい選択だと全く感じられなかった。そんな無駄な苦労をするくらいなら、敵となる相手を全滅させる方がずっと手っ取り早いではないか。真木への報復など優勝の後で構わない。
 だから冴子はこの殺し合いに乗る。他人からの強制ではなく、冴子自身の意思として。

「むしろ気になるのは、あの人が此処にいること……」
 冴子は自らと同じく殺し合いを課せられた者達に思考を巡らせる。
 目の前に何度も立ち塞がった仮面ライダー達、スポンサーの立場を超えて冴子を助けた薄気味悪い男がいるが、今はそれほど優先して考えるべき存在ではない。
 冴子にとって誰よりも重用なのはただ一人の男だ。
 井坂深紅郎。ガイアメモリへの底知れぬ欲望の持ち主にして、冴子が唯一心の底から慕った男。
 彼はかつて冴子と共に未来を誓い合い、二人の野望の成就のために歩み出した。しかしその未来は紡がれることなく、井坂が仮面ライダーに敗北し、その命がガイアメモリの闇に呑み込まれて幕を閉じた。

483 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/28(水) 10:01:46 ID:GzXPWGyc0
「確かに貴方はあの時に死んだ……でも、戻ってきてくれたのね」
 ふと気付くと、声が震えていた。
 冴子の目の前で朽ち果てた筈の男が、生きて何処かにいるのだ。
 ならば、彼と会わなければならない。
 どのようにして蘇ったのか? その疑問を確かめたいという理由もある。でも、第一の理由はまた別のもの。
 もっと単純に話したいとか触れ合いたいとかの欲求を起こさせる感情、即ち愛情に従うだけ。

「井坂先生、今度こそ貴方を失わないわ。だから、私の傍に来て」
 この殺し合いは五つの陣営に別れての団体戦である。
 デメリットを挙げるなら、冴子と井坂が異なる陣営に分かれた敵同士の関係となる可能性だ。しかし嘆く必要は無い。後からでも十分に解決可能な話だから。
 ルール上、割り振られた陣営は後から変更が可能だ。無所属の参加者にリーダーがコアメダルを投入して自陣営に組み込めばいい。
 つまり、たとえ冴子と井坂が異なる陣営だったとしても、井坂にとってのリーダーを倒した後で黄陣営のリーダーを唆して井坂を仲間にさせればいい。
 立ち回り次第では二人揃って生還できるのだ。そのためにもまず井坂との合流は急務だ。
 付け加えれば、同じく黄陣営の参加者とも合流したいところだ。団体戦である以上、戦力増強のためにもとりあえずは手を組むに値する相手だ。

 井坂と再会する。そして優勝し、自分を侮辱した者達全てに鉄槌を下す。
 野望と希望を胸に抱え、冴子は立ち上がって歩みだした。



 しかし、数歩進んで立ち止まる。
「……本当にそれで良かったかしら?」
 優勝に辿り着くだけなら前述の通りのやり方で問題はない筈だ。気になるのは、勝ち残った後に何が残るか、その詳細である。
 冴子は先程目を通したルールブックを取り出し、もう一度ルールを読み直す。
 そして、基本ルールの『報酬』の項を読んで自身の計画の欠点に気が付いた。

 『(2)リーダーは自陣営から指名した参加者(人数自由)と生還できる』

「いけないわね。私としたことが、こんなつまらない落とし穴に嵌りかけるなんて」
 生還できる参加者は全員とは限らず、最終決定権は陣営のリーダーに握られている。この一点こそが冴子にとっての落とし穴だ。
 リーダーが陣営の仲間全てに生還を許可する器量の広さを持つ、もしくは冴子や井坂に価値を認めるならば何も気に病んだりはしない。
 しかし未だ顔も知らないリーダーが、必ずしも冴子にとって都合の良い人柄の持ち主とは限らない。もしリーダーが冴子や井坂と反りが合わないなら、リーダーは優勝の後で真木にこちらの処分を依頼することが十分に有り得る。
 この懸念は、冴子にとってはあまりに重大なものだった。

484 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/28(水) 10:03:43 ID:GzXPWGyc0

 ――井坂という例外を除けば、園咲冴子は他人を心から信用する人間ではない。
 冴子はリーダーにとって有益な働きをすれば十分だ、などと安心しない。リーダーに疎まれる可能性を頭から捨てることが出来ない。
 人が人を嫌悪する動機など、憎悪、侮蔑、嫉妬、挙げればキリがないのだから。
 そんな些細な感情で他人の身柄を好き勝手にする権限を持つ相手に、自分の命を託さなければならない。なんと不条理な話だろうか。
 ――園咲冴子はあまりに気高い人間だ。
 全ての決定権がリーダーに握られている以上、冴子にはリーダーにとって有益な働きは「相手の顔色を伺う」「胡麻を磨る」「媚を売る」という情けない意味に帰結するようにしか思えなかった。
 いや、もっと根本的な問題として、冴子の上に誰かが居座っているという状況そのものが気に食わない。
 上昇志向を糧に生きてきた冴子にとって、誰かが高みで胡坐をかいて得意顔をしているなど納得できないのだ。

 所詮誰かの手下でしかいられない事実に対してただ不愉快さしか感じられない。といって、リーダーよりも優位に立つことは可能なのか?
「……なんだ、方法はあるじゃない」
 思わずほくそ笑む冴子が見つけたのは、『グループ戦について』の項に書かれた一文だった。

 『 (2)グリード不在中に限り、同色コアメダルの最多保有者がリーダーを代行する』

「リーダーはグリードに限らない。私でも一向に構わない、ってことね」
 “今の”リーダーを蹴落として自分がリーダーになる。それが冴子の答えだった。
 グリードとは、真木という男の側にいたドーパントのような怪物を指すらしい。あの中の一体が黄陣営のリーダーだという。
 奴を見つけ出して、殺す。そして黄色のコアメダルを根こそぎ奪う。
 これだけで安寧かつ優位な立場に着けるのだ。プライドの高い冴子からすれば最適の選択肢だ。

 『(4)リーダーが、無所属の参加者にセルメダルを投入した場合、自陣営の所属とする』

 また、他の参加者を自陣営に組み込めるのもリーダーの特権だ。
 井坂を陣営の仲間にする際に、いちいち他人に頼み込む必要は無い。リーダーから奪ったコアメダルの一枚を用いれば済む話だから。
 誰を介することもなく井坂との繋がりを持てるのだ。こっちの方が断然良い。

「井坂先生。私はもう貴方を失いたくない」
 ところで、冴子は井坂に対して強い思慕の情を抱いている。
 それにも関わらず冴子自身がリーダーになる、即ち井坂の上に立つという考え方に対して僅かに疑問を抱く者もいるかもしれない。
 しかし冴子にとっては何も問題は無い。彼女にとっては『井坂を従える』ではなく『井坂を守る』という意味を持つからだ。
 戦闘の勝敗は、決して簡単に決まるものでは無い。
 本来の能力だけでなく、相性、心身の調子、情報量、細かな判断ミス……無数に存在する要因の一つや二つで、本来考えられる結末が全く変わることもある。
 最強や無敗の称号を掲げていようと、敗北は何者にも有り得る話だ。
 極上のガイアメモリを有する井坂ですら死に至ったように。

485 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/28(水) 10:04:40 ID:GzXPWGyc0

「どんな敵がいるかわからないのに、貴方を危険に晒すわけにはいかないわ」
 そしてこの殺し合いの環境では、何十もの未知の猛者との戦いを強いられるだろう。
 では、この殺し合いで最も命を狙われやすいのは誰か。それは各陣営の頭、つまりリーダーだ。
 先程はリーダーの地位を安寧と表現したが、あくまで優勝した後の話だ。
 恵まれた地位に立つ者は、代償として戦いの続く限り敵対する陣営のほぼ全ての参加者から矛先を向けられるだろう。
 いや、同じ陣営の参加者でも完全に気を許すことは出来ない。冴子と同じく下克上を目論む者が一人もいないとは断言できないのだから。
 その危険極まる場所に、井坂を置きたくなかった。
 井坂を弱者などとは今でも思っていない。それでも、万が一の事態を憂慮して井坂ではなく自身を危険に晒そうと決めた。
 冴子の選択は茨の道だが、進むことに迷いは無かった。
 ただ一重に、愛しい人を亡くす絶望を二度と味わいたくなかったから。



「そのためにも戦力は欠かせないわね」
 そう言って右手に目を向ける。
 手中に収まる一つの箱こそが今の冴子の主戦力――ガイアメモリだ。
 と言っても、彼女が何度も使い慣れたタブーメモリは既に失われた。
 今持っているのは、かつて冴子が利用価値を認め、しかし結局は切り捨てた男が使っていた物だ。
 ボタンを押せば、その名前が囁かれる。

 ――NASKA――

 ゴールドのガイアメモリは強力だが、使用の度に身体を極度に傷つける副作用を持つ。
 本来ならばそれを防ぐために制御装置ガイアドライバーを介して使うのだが、今の冴子にその意思は無く、生体コネクタからの直挿しで通している。
 メモリとの相性が良かったのか、以前使った時は身体の異常をさほど感じなかった。それでも、何度も使えばいつかは斃れるだろう。
 だからといってやめるつもりは無い。生体コネクタからの直接挿入によるメモリの完全解放。それが井坂の拘りであり、今度は冴子も従おうと決めたために。

 ナスカメモリ以外の支給品を思い浮かべる。全部で三つの内、二つが外れで一つが当たりだった。
 一つ目は何世代も前の型と思われるパソコン。製品名は『IBN5100』というようだ。事務作業には必須のアイテムだが、この殺し合いで必要となる場面はあまり想定できない。
 二つ目は袋に入った5枚のクッキー。人の顔を模したものが4枚に、蜜柑の形が1枚。袋の走り書きによると、光夏海という人物が作ったらしい。……まあ、糖分が欲しくなった時にでも食べればいいか。
 三つ目が当たり、有益な物だ。それは、ナスカメモリとは別のガイアメモリだった。
「データでしか知らなかったけど、まさか実物を見る日が来るなんてね」
 冴子が初めて見る型だったが、長年ガイアメモリの流通に携わってきたからその価値がわかる。どれほど恐ろしい能力を持つか、データとして確かに記憶している。
 だが純粋な戦闘用としては今ひとつ頼りない。今の時点で最も当てに出来るのはやはりナスカメモリだろう。
 そして何人もの敵を相手にする以上、もっと多種に及ぶ武器が欲しい。箒と呼ばれた少女が身に纏った戦闘服のように、未知の武器はまだまだある筈だ。
 勝ち残るためには、協力相手に並んで武器の確保も課題だ。

486 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/28(水) 10:05:44 ID:GzXPWGyc0



 井坂と再会する。そして優勝し、自分を侮辱した者達全てに鉄槌を下す。
 先程までの方針の前提として、”今の”リーダーをこの手で討つ、と付け加えた。
 必要なのは、当面の協力相手と有力な武器の確保。
 行動方針は今度こそ固まった。よって園咲冴子は改めて歩を進める。
「見せてあげるわ。園咲の名がどれほど重いものかを、ね」
 誰に向けるでもなく呟いて、冴子はレストランのドアを開けて外に出た。
 胸に何処までも深い野心と、一途な愛を抱えて。



 最後に、冴子の支給品の一つ、第二のガイアメモリについて少し話をしよう。
 それが人の手に渡ったのはもう10年も前の話になる。現在に至るまで幾多のガイアメモリが街に涙を流させてきたが、始まりは冴子が持っているる型だった。
 その脅威はかつて多くの人々の命を奪い、一人の探偵の大切な絆を無残に断ち切った。
 全ての悪夢の始まりとなったそのガイアメモリの名前は――

 ――SPIDER――

【1日目-日中】
【A-4/レストラン前】

【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】ナスカメモリ@仮面ライダーW、スパイダーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
1.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
2.井坂と合流する。異なる陣営の場合は後で黄陣営に所属させる。
3.協力相手と武器が欲しい。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。
※何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。

487 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/28(水) 10:06:36 ID:GzXPWGyc0
これで投下を終了します。
作品タイトルは「Sの誇り/それが、愛でしょう」です。
問題点、疑問点などあればご指摘よろしくお願いします。

488 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/28(水) 10:09:50 ID:GzXPWGyc0
いきなりですが、自分でスペルミスに気付きました。
> ――NASKA――
ではなく
> ――NASCA――
です。失礼しました。

489名無しさん:2011/12/28(水) 12:47:03 ID:0SAiT6RM0
投下乙です

ややこしい女だなあw らしいといえばらしいけどはた迷惑なw
そうか、団体戦だから大事な人間が居ても優勝狙いはありなんだ
支給品もけっこういいのを引いてるから活躍してくれそうだな

490名無しさん:2011/12/29(木) 08:05:12 ID:CKAfX9IQ0
投下乙です。後一つだけ誤字の指摘を
>>それが人の手に渡ったのはもう10年も前の話になる。現在に至るまで幾多のガイアメモリが街に涙を流させてきたが、始まりは冴子が持っているる型だった。

るが一つ多いです。

491名無しさん:2011/12/29(木) 11:53:28 ID:QcUekQoEO
投下乙です。げえっ、リア充爆発メモリ!?一体誰と誰が爆発するのやらw

冴子さんはチーム戦らしい考察ですなぁ、しかし黄色のリーダーは・・・カザリか。

492名無しさん:2011/12/29(木) 14:44:33 ID:CKAfX9IQ0
カザリは狡猾だからなあ

493 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/29(木) 17:45:52 ID:8f5qARTs0
>>490
ご指摘ありがとうございます。wiki収録時に修正しておきます。

494名無しさん:2011/12/30(金) 19:06:53 ID:UKqHmkN.O
投下乙です!
スパイダーきたwwwwさて一波乱ありそうな予感…

グリードはセルメダルを投入して陣営にいれるんじゃなかったんでしたっけ?
コアメダルになってますね

495 ◆jUeIaTa9XQ:2011/12/31(土) 21:09:01 ID:S75hvezg0
>>494
勘違いしてました…
ご指摘ありがとうございます。wikiの本文を修正しておきます。

496名無しさん:2012/01/02(月) 20:25:45 ID:KC0TBkfA0
しかしウヴァさんは馬鹿じゃないし強くてしぶといのに
(コア一枚の状態でコアセル共に豊富なカザリからコアを奪う、最後までコアが全部残る)
いつも相手と間が破滅的に悪いからこそ、ネタになっている
カザリも結構ドジなのにそこは狡猾っぽいイメージでロワじゃ得だよね

完全体なら真木すら軽く上回るかもしれん実力なのに
つか暴走ウヴァさんの加護がなくてはバリヤー&回復できないじゃん
やっぱり真木は暴走させたいのかな

497名無しさん:2012/01/03(火) 01:54:33 ID:9BLdXMKA0
>>496
とは言ってもセルメダル吸収しまくったオーズに圧倒されていたし、真木よりかは下だと思う
やっぱりヘタレ成分が強すぎるんだよなぁ・・・・・・

498名無しさん:2012/01/03(火) 15:48:14 ID:qYGY4nGo0
プトティラとWバースを圧倒したりメダガブリューを受け付けなかったり、強いのは確かなんだろうけど…相手が悪いんだよな

499名無しさん:2012/01/03(火) 16:01:08 ID:r2X1orjA0
>>497
え、セルメダル+「真の」タトバだぜ?
完全体のグリード全員圧倒していた

500名無しさん:2012/01/03(火) 16:22:28 ID:UoEcHO8A0
正直オーズキャラの強さは電王ほどじゃないにしろ、ノリ優先でしょ

501名無しさん:2012/01/03(火) 16:29:05 ID:UoEcHO8A0
ご都合主義とも言うが

502名無しさん:2012/01/03(火) 20:08:06 ID:qYGY4nGo0
そんな事言ったらアルティメットクウガとダグバのスペックが互角なのに五代だけ生き残ったのもご都合主義ってことになるぞ

503名無しさん:2012/01/04(水) 00:53:05 ID:ePqT9Fzg0
メインターゲットが子供の番組にそんなこと言ったってはじまらない…
とかいってこんないい方自体がアレだが

504名無しさん:2012/01/04(水) 11:45:31 ID:OoeP291Y0
特撮以外の作品も人のこと言えないし

505名無しさん:2012/01/04(水) 20:10:06 ID:nnPVIESE0
おいおい、スレの雰囲気が悪くなるような発言は止めようよ
俺含めて期待してるのに

506名無しさん:2012/01/04(水) 20:22:39 ID:6.Y5R69.0
>>502
でも基本的にコンボオーズと、6枚くらいしかコアのないグリードだとコンボオーズが強いと思うんだが
真木さんは恐竜5枚で随分プトティラオーズ圧倒してたりしなかった?
まぁセルメダルとか溜め込んでればそれだけで強くなるんだから、あんまり比較してもしょうがないんだけど
こういういくらでも理由が付けられる辺りがご都合的かなとも思う

507名無しさん:2012/01/04(水) 20:59:21 ID:1.fIe.vI0
平成ライダーで劇中一番圧倒的だったのはブレイドキングフォームかな
たしか一度も負けてないはず
そもそも通常フォームでキング倒してるところからおかしいんだが

508名無しさん:2012/01/04(水) 21:27:05 ID:6pDwRanU0
剣のライダーには融合係数と言うのがあってだな…

509名無しさん:2012/01/05(木) 18:34:03 ID:JgSYPIMw0
>>507
あの時は融合係数がやばいことになってたんだっけ
そのせいでキングフォームもAとKの2体のアンデッドじゃなくて13体全てのアンデッドと融合したんだし

510名無しさん:2012/01/05(木) 21:11:58 ID:spZYfwao0
予約来たぞ

511名無しさん:2012/01/07(土) 12:38:30 ID:r27tgJC60
最近アクセス数が多いな。

512名無しさん:2012/01/07(土) 13:18:31 ID:m1L8U9SY0
なんだかんだで注目してる人が多いんだよ

513名無しさん:2012/01/11(水) 16:21:35 ID:wjGPXk9E0
破棄になったが新しい予約来たぞ
それと議論スレに修正要求来たぞ

514名無しさん:2012/01/12(木) 14:02:39 ID:rUQ1i9zw0
死亡者リストにあるマーダーランキング見て思った。
ウヴァさん、愚痴るほど状況は悪くないよ!

515名無しさん:2012/01/13(金) 17:06:07 ID:52.P7dwU0
今読み始めたんで今更な指摘かもしれないけれど一応
王の財宝ってあの宝物庫に繋がる空間そのものじゃなくて、宝物庫と空間を繋げる『鍵剣』が宝具なんだ
で、宝物庫の中身は鍵剣の使用者の財の量によって中身が変わる仕様になってる
つまりあの無尽蔵な宝具を貯蔵した宝物庫はギルガメッシュの黄金律スキルの賜物で
逆に無一文の者が使うと宝物庫の中身もすっからかんな状態で現れる
剣の一本や二本ならまだしも
バーサーカーがヴィマーナまで取り出すのは違和感……
ギルと同じ状態で使える王の財宝って、制限じゃなくて強化して支給してる事になるけど良いの?

516名無しさん:2012/01/13(金) 17:20:59 ID:BFsaLBXw0
本当に今更だな
細かい事はいいんだよ

517名無しさん:2012/01/14(土) 05:55:35 ID:3fD1qcVcO
それは多分みんなが平等に使えるように真木が改造したんだよ。

518 ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:02:43 ID:hI8mO64Q0
>>515
王の財宝に関しては、中身がないと支給する意味がないのでは? と思いまして、あのようにさせていただきました。
つまり、「宝物庫と空間を繋げる『鍵剣』を支給した」と言うよりは、「ギルガメッシュの財宝と、その宝物庫を支給した」という感じです。
そのことで不快にさせてしまったのであれば、申し訳ありません。

それではこれより、予約分の投下を行います。

519金獅子は騎士として全力を尽くす ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:04:32 ID:hI8mO64Q0



 一人の住人も居ない静寂に満ちた街に、咆哮の如き爆音が響き渡る。
 その音の源泉は大通りを走る一台のバイク――いや、バイクというには異形のマシンだった。
 そしてその虎を模したバイク――トライドベンダーを駆るのは、男装の少女セイバー。
 その腕に抱かれるように見月そはらが、背に抱きつくように阿万音鈴羽が、きつく身を寄せ合って乗っていた。

「本当にすいません。私に付き合ってもらってしまって」
「気にする必要はありませんそはら。当面の目的地としてはその場所が近かく、ちょうどよかったのですから」
「そうだね、セイバーの言った通りだよ。誰かを探すんだったら、その人たちと所縁のある場所に行くのが一番早いんだし」
「あ、ありがとうございます」

 猛然と走るバイクの上、彼女達はそれぞれと話し合いながらも警戒を緩めていない。
 だが今走っている大通りという地形は、少女達を狙撃するには格好のポイントだ。
 そんな、辺りを警戒するだけで大丈夫なのかという不安を、そはらが声に出した。

「でも、大丈夫なんですか? こんな大通りを歩いていて」
「問題ありません。余程の相手でない限り、そはらを守りながらでも戦えます。
 それにもし貴女を守るのが難しいと判断した場合は、鈴羽」
「わかってる。その時は敵をアンタに任せて、私は見月そはらを連れてとっとと逃げるよ」

 そう固い声で言った阿万音鈴羽に、そはらは再び「すいません」と謝る。
 セイバーはそんなそはらの様子を微笑ましく思いながらも、やはりまだ信用してくれてないか、と鈴羽を見て思う。
 今彼女がセイバーに言葉を返しているのは、今の状況下での危険だと判断しているからだろう。
 当然と言えば当然だが、自らのマスターと比べれば、会話が出来るだけましだろう。
 そう思い直しながら、セイバーは先ほどの事を思い出していた。





「獅子を模したコアメダルですか」
 ライオンのコアメダルと衛宮切嗣が使ったような銃器二種、及びその予備マガジン。
 それが私の支給品だった。
 私には銃を扱った経験がなく、また聖剣があるため、有益な支給品とは言えなかった。

「鈴羽たちはどうですか?」
「私はこのカブトムシみたいなのの他は、サイのコアメダルと論文の入った封筒だけみたい」
「私の方は大量のナイフと銃の弾だけ」
「了解しました。では私に支給された武器は鈴羽たちに譲ります。私には剣がありますので」
 そう言って鈴羽たちに銃器を渡す。

 鈴羽はそれを無言で受け取った後、銃器を弄って何かを確かめる。
 そのあと、銃の片方とナイフの一部をそはらに手渡す。

「はい、これ。念のために渡しておく」
「え? でも私―――」
「今の状況で、武器の一つも持たないのは無謀だよ」
「はい、わかりました………」

 それを見届けた後、次にどうするかを考える。
 地図を見れば、この殺し合いの場となった街はおかしな構造をしている。
 まず街そのものが円形に区切られていて、さらにその中で、いくつもの円形に区切られた街があるのだ。
 さらにその街自体もおかしい。
 街の北部には衛宮邸と言峰教会がある。だが本来、衛宮邸と言峰教会は未遠川を挟んだ隣町だった筈だ。
 しかし地図に載っている冬木の街と思われる場所には未遠川がない。
 他にも気になる点はいくつもある。
 その事について、現地に赴いて調査する必要があるだろう。

 とは言っても、鈴羽たちと関わりのある場所や現在位置を照らし合わせれば、最初の目的地は自ずと決まるのだが。

520金獅子は騎士として全力を尽くす ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:05:20 ID:hI8mO64Q0

「では、とりあえずは空美中学校に向かう、ということでよろしいですね」
「異論はないよ。調べたい場所はあるけど、ここからじゃそっちの方が近いし」
「えっと、ありがとうございます」
「では決まりですね。道中、もし危険人物と遭遇し戦闘になった場合、二人は避難してください」
「ッ―――、私はもう一人前の戦士だ! 逃げたりなんか――――ッ!?」
「なるほど、確かに何かしらの武術を習得しているようですね。
 ですが、サーヴァントクラスの相手と戦うには不足です」
 突き付けた剣を下ろしながら告げる。
 鈴羽は回避のために腰を浮かしているが、反応し切れていない。
 分かりやすく示すために風王結界を解いていたとはいえ、反応出来たことには感心するが、それでは戦闘を任せる事は出来ない。

「名簿にあるバーサーカーは私と同格以上のサーヴァントです。もしバーサーカーと戦闘になれば、そはらを守るのは難しくなる。
 貴女にはその時に、私の代わりにそはらを守って欲しい」
「……わかった」
 鈴羽はしぶしぶといった感じで答える。
 納得はしていないようだが、一応の理解を得られたらしい。
「時間も惜しい。荷物を整理したら出発しましょう」
 そう言って、二人の準備が終わるのを待って魔界探偵事務所を出た。





 二人を振り落とさないよう、慎重にトライドベンダーのハンドルを切る。
 これは魔界探偵事務所の前にあった「自動販売機」から、そはらのセルメダルでトラカンドロイドを購入し、更にそれをライドベンダーへと合体させたものだ。
 本来、オ―ズ以外に制御することのできないそれを自在に操れるのは、セイバーの騎乗スキルによるものだった。
 彼女はそのスキルによって、常ならば暴走するトライドベンダーを見事に制したのだ。
 今でこそ無理な三人乗りという事もあって速度を抑えているが、その気になれば十全以上にその性能を発揮することも可能だろう。


「………二人に一つ、忠告しておくことがあります」
 重く、躊躇いを含んで口を開く。
 これから己が知り合いと合流する上で、気を付けなければならない事を警告する。

「私のマスター――衛宮切嗣は、間違いなくこの殺し合いの打破を目的とするでしょう。
 ですが、彼に信を置くのは止めておいた方がいい」
「なんでですか? この殺し合いを止めようとしてるなら、良い人じゃないんですか?」
「確かに切嗣の目的だけを見れば、そう思えるかもしれません。
 しかし切嗣は、殺し合いを止めるためならどんなに非情な事でも行うでしょう」
「目的のために、手段を選ばないってヤツ?」
「そうです。例えば誰か危険人物が人質を取ったとすれば、切嗣はおそらく、人質ごと危険人物を排除するかもしれません」
「そんな……!」

 私が見て来た衛宮切嗣という男なら、その可能性は非常に高い。
 一人でも多くの人間が助かるのなら、彼は躊躇なく自らの手を汚すだろう。
 卑劣な手段でランサーのマスターを排除した時のように。

「可能な限りそのような事態は避けますが、もしそうなった場合、切嗣は敵に等しいと覚悟して―――掴まって……!」
「えっ―――?」
 弾け合う剣と光。
 そはらが迎撃の際の衝撃に悲鳴を上げるが、轟音に掻き消される。
 衝突の余波でバランスを崩したトライドベンダーを力ずくで抑え込み、緊急停止する。

「しっかり掴まってください……! 敵の攻撃です……!」
 二撃目……!
 何処からか飛来してくる光弾を剣で弾く。
 光弾の弾道は先ほどと変わっていない。そこから狙撃主の位置を逆算する。
 上空一キロメートル先。快晴の空に浮かぶ黒点は、確かな違和感としてその存在を示していた。

「見つけたぞ、スナイパー」

 交わる筈のない視線が交わる。
 互いに見える筈のない敵を認識する。

 戦闘開始だ。今、本当の意味での殺し合いが始まった……!

521金獅子は騎士として全力を尽くす ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:06:07 ID:hI8mO64Q0

「攻撃って、空から……!?
 それに何、このバカげた威力は―――」
 三撃目。
 風王結界を展開し、大気の障壁によってそはら達への衝撃を緩和する。
 理由はどうあれ、こんな序盤から攻撃したということは、狙撃主は殺し合いに乗る意志があるということだ。
 ならば相手に容赦をする必要はない。

 だがこちらにはあの距離を攻撃できる武器はない。
 いや、正確にはあるのだが、エクスカリバーでは魔力消費が激し過ぎる。

 加えて状況も悪い。
 自分一人だけならともかく、今はそはらと鈴羽を連れている。敵の光弾を防ぎ、かつ真名を解放する余裕はない。
 自分が狙われるならば対処のしようもあるが、そはら達が狙われれば防ぐことは難しい。

 さらに敵は、ビルの屋上などではなく、“空”にいる。
 通常、狙撃主に対して有効な手段は、接近してからの白兵戦。
 だがライダーの“神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)”でもない限り、自分達が空へ上がる事は出来ない。
 タコカンドロイドを大量購入していれば疑似的に空で戦うことが出来たかも知れないが、それはもはや今更だ。

 ならば、取れる手段は一つだけだ。

 ―――四撃目。
「次弾に合わせて撤退します! 二人とも、振り落とされないようにしてください!」
 二人に声をかけると同時に限界までアクセルを踏み込む。
 エンジンが咆哮を上げて回転数を増し、後輪がアスファルトを焦がす。

「え、ちょ、ちょっとま―――!」
「いいからしっかり掴まって! ここから先は安全運転じゃないんだから!」
 鈴羽が私の身体越しにそはらを強く抱きしめる。それにより結果としてより強く二人が固定されることになる。
 これならばちょっとやそっとの駆動で振りほどかれることはないだろう。

「行きます―――ッ!」
 五撃目―――
 黒点より放たれる紫電の一閃。
 灼熱の弾丸と化したそれを、黄金の剣で打ち払う。
 同時。
 鋼鉄の猛虎が、咆を上げて疾走を開始した――――


        ○ ○ ○


 ―――このセイバーという参加者は高名な騎士王様らしいから、オレの勧誘など聞かないだろう。
 加えて俺達グリードに匹敵するほど強いからな。殺せるなら殺せ―――


 【F-1】の大通りを走る三人乗りの奇抜なバイクへ向け、大型レールカノン「ブリッツ」による狙撃を開始する。
 ――――第一射目。
 弾丸の命中を確認。対象の移動の停止を確認。撃破は―――失敗。

 続けて対象への狙撃を敢行。
 第二射―――失敗。
 対象がこちらを認識した模様。遠距離攻撃に対する警戒レベルを上げる。


 ―――近くにいる参加者達は脅威ではないが、何の役にも立たん。むしろ騎士王様の足を引っ張ってくれるかもしれん。
 もしそうなら好都合だ。十分に“有効利用”してやれ―――


 同時に攻撃対象の変更。
 対象Aへの狙撃は続行。対象B、または対象Cが、対象Aより離れ次第、そちらへと狙撃を開始する。
 三射。四射。五射。
 対象全員がバイクによる移動を再開。戦略的撤退と思われる。
 対象へと接近しつつ追撃を開始する。

522金獅子は騎士として全力を尽くす ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:07:01 ID:hI8mO64Q0


「………私は、一体何をやっているんだろうな」
 心の内より湧き上がる諦念にも似た感情を、溜息とともに吐き出す。

 こちらからの一方的な攻撃開始。
 民間人と思われる人物への殺傷行為。
 どちらも、嫁や仲間に嫌われる要素しか見つからない。

「だが、全ては皆を救うためだ」
 仕方がない、と胸中で言い訳をしながら、同乗者を守りながら走るバイクへとカノンを撃ち続ける。
 そうしなければ、嫁が、仲間が死んでしまうのだから、だから仕方がない、と。
 それが正しい事なのだと、思うことすらできないまま。


 だがそんな感情とは別の所で、ラウラには強い驚きもあった。
 現在、攻撃対象であるセイバーは、奇抜なバイクに無理な三人乗りをしている。
 でありながら、ラウラの大型レールカノンによる砲撃を黄金の剣で防ぎ、躱し、凌ぎきっているのだ。
 ISを持たない身でありながらそんな事を可能とするとは些か信じられなかったが、現実に目の前で行われている以上、それがサーヴァントと呼ばれる者の力なのだろう。

 だがそれでも人の身で、しかも他二人を守りながら、となるといつかは無理が出る。
 いかに砲撃を防ぎ、躱そうと、レールカノンの一撃は街を破壊し、バイクに強い衝撃を与えているのだ。
 無理な三人乗りによりバランスの取り辛くなったバイクは、より制御が難しくなっている。
 僅かな操作ミスが転倒、場合によっては死に繋がるのだ。
 ならば私はただ、その時を待てばいいだけだ。

 そしてその時は、以外に早くやってきた。

 それは大通りを【F-1】から【F-2】に抜けた先にある緩やかなカーブでのことだった。
 レールカノンの一撃を躱し続けていたセイバーは、その場所で掠めた一撃にあおられてバイクの制御を失い、カーブの外縁にある建物へと激突した。
 私はすぐさまそこへと向けてカノンを発射し、着弾した建物が倒壊する。
 だが―――

「……手応えはない、か」

 通常であればセイバー等が生きている道理はない。
 だがどうしても、あのセイバーをこの程度で倒せたとは思えなかったのだ。
 ―――そしてその感が正しかった事はすぐに証明された。

「やはりか……!」

 ビルの倒壊で舞い上がった粉塵を掻き分けて、一台のバイクが走り抜ける。
 それを視認すると同時に追跡および砲撃を開始する。
 だが、すぐに先ほどまでとの違いに気が付く。

「なッ、いない……!?」

 セイバーと共に乗車していた二人の姿がない。
 思わず振り向けば、そこには倒壊したビルと舞い上がる粉塵。
 怪我を負って置いてきたか、あるいは死んだか。どちらにせよ、人の姿を確認することはできない。
 そこでセイバーの意図を把握する。

「なるほど、一対一ということか。
 だが、これは私にとっても望ましい状況だ。
 民間人を傷つけずに済むし、なにより―――生憎とそれは私の領分だ!」

 AIC――停止結界がある限り、いかなる強敵であろうと敵ではない。
 どれほど強力な力も、振るえなければ意味がないのだ。

 先の様な油断などせず、確実に仕留めて見せる。
 そう決意し、ラウラはさらに加速してセイバーへと接近する。

523金獅子は騎士として全力を尽くす ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:07:44 ID:hI8mO64Q0


        ○ ○ ○


「………もう大丈夫。セイバーを追って行ったよ」
「っ、はふぅ………。怖かった〜」
「同感。やるならやるって、前もって言って欲しかったな。そんな余裕がなかったのは分かるけどさ」

 黒い機体がセイバーを追って行くのを見届け、ようやっと緊張を解く。
 激しく動く車体から放り出されないように力を籠めていた腕と脚は、もうくたくただった。

 また先ほどの衝撃に驚いたのだろう。そはらのデイバックからカブトゼクターが飛び出してきた。
 その機械で出来た赤い鋼虫には、走行の邪魔になるのでデイバックの中に入ってもらっていたのだ。



 あの瞬間、セイバーはわざと光弾をギリギリで回避し、トライドベンダーの制御を失ったように見せかけた。
 そのままトライドベンダーを建物へと激突させることで緊急停車し、さらに敵から身を隠す。
 その際に風王結界を最大限に活用して衝撃を緩和させ、直後の一撃は敵の位置からの推測と直感で迎撃したのだ。
 それはまさに、サーヴァントであるからこそ可能な神域の荒技だった。
 その絶技を前に、鈴羽は「敵わない」と歯噛みする。


 阿万音鈴羽は、タイムトラベラーである。
 彼女は2036年の未来から2010年に跳び、そしてさらに1975年へと飛んだはずだった。
 その目的はIBN5100を手に入れ、SERNによるディストピア構築という未来を変えるためだ。
 だが気が付けば彼女はこの殺し合いに参加させられていた。

 このままでは未来は変えられない。
 それどころか現状、どんな未来が待っているかでさえ定かではない。
 岡部倫太郎、橋田至、牧瀬紅莉栖といった、タイムマシンに深く関わる人物まで呼び出されているのだ。
 このままでは最悪、SERNによる世界の支配という結果だけが残り、私が過去に跳ぶ事もなく、未来を変えることが不可能になってしまうかもしれない。
 それを避けるためにも、最低でも岡部倫太郎だけは生還させなければならない。

 だが、セイバーの様な強力な人物が跋扈する殺し合いで、ただの人間である自分達が生き残れる可能性は低い。

“これしか……ないかのな………”

 取り出したのは二人に隠していた最後の支給品。
 それはUSBメモリに似た、「Y」の文字が刻印されたガイアメモリだった。
 これは付属の簡易型L.C.O.Gで体に挿入することで、「イエスタデイ・ドーパント」変身できるらしい。
 その力があれば、もしかしたらセイバーにも敵うかもしれない。
 だがこんな得体のしれないモノは、出来る事ならならば使いたくはない。

524金獅子は騎士として全力を尽くす ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:08:32 ID:hI8mO64Q0


「セイバーさん、大丈夫かな?」
「きっと大丈夫だって。セイバー、とっても強いみたいだし。
 それより、私達も行くよ。セイバーより遅れて到着したら、カッコ悪いでしょ」
 そう言ってデイバックから改めて支給品を取りだす。
 それは一人乗りのタイムマシンにまで無理矢理に持ちこんだ、愛用の自転車だった。

 考える事は他にもある。
 岡部倫太郎たちの安否や、この殺し合いから脱出する方法。
 見月そはらから受け取った、第三次世界大戦の引き金になったらしい中鉢論文。
 その他のどれも厄介な事ばかりで、考えれば考える程に頭が痛くなる。
 ならとりあえずは、今できる最善をやるだけだ。

「しっかり掴まってね」
「はい、大丈夫です。さっきのアレに比べたら全然楽ですし」
「確かにそうだけどね。と言うより、さっきのが異常なだけなんだけど」
 見月そはらがしっかりと掴まった事を確認してペダルを漕ぎ始める。
 彼女の言葉に思わずくすりと笑いながらも、心のどこかが暗いままだった。

 向かう先は健康ランド。
 セイバーがあの敵を倒したら、そこで合流することになっている。
 だがあのセイバーがいない今、誰かに襲われたら危険だ。
 もしそうなれば、セイバーとは関係なしにガイアメモリを使わざるを得ないかもしれない。
 だから鈴羽は、セイバーとの一刻も早い合流と、彼女が敵対しないことを切に願った。


【一日目-日中】
【F-2/エリア北端】

【阿万音鈴羽@Steins;Gate】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】キャレコ(50/50)@Fate/Zero、阿万音鈴羽の自転車@Steins;Gate
【道具】基本支給品、大量のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、キャレコの予備マガジン(50/50)@Fate/Zero、9mmパラベラム弾×400発/8箱、「YESTERDAY」のガイアメモリ&@仮面ライダーW、中鉢論文@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:殺し合いから脱出。
1.健康ランドに向かい、セイバーと合流する。
2.見月そはらと行動する。
3.知り合いと合流(岡部倫太郎と橋田至優先)。
4.セイバーを警戒。敵対して欲しくない。
5.サーヴァントおよび衛宮切嗣に注意する。
【備考】
※ラボメンに見送られ過去に跳んだ直後からの参加です


【見月そはら@そらのおとしもの】
【所属】黄
【状態】健康、不安
【首輪】98枚:0枚
【コア】サイ×1
【装備】ベレッタ(15/15)@まどか☆マギカ
【道具】基本支給品、カブトゼクター&ライダーベルト@仮面ライダーディケイド、ナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、ベレッタの予備マガジン(15/15)@まどか☆マギカ、9mmパラベラム弾×100発/2箱
【思考・状況】
基本:死にたくない。
1.健康ランドに向かい、セイバーさんと合流する。
2.鈴羽さんと行動する。
3.知り合いと合流する。そのために空美中学校に行きたい。
【備考】
※38話終了直後からの参加です。
※カブトゼクターに認められていません。

525始めは傀儡の如く、終には黒兎の如し ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:12:19 ID:hI8mO64Q0


        ○ ○ ○


 敵が雨霰と放つ光弾を防ぎ、躱しながら敵との距離を測る。
 運転に気を使う必要がなくなった今、先程よりも走行速度自体は上がっている。その気になれば振り切る事も出来るだろう。
 だが、セイバーは敢えてアクセルを全開にせず速度を抑え、敵に気付かれない様に距離を詰めていく。

 理由は三つ。
 一に、もし全速力を出して敵を振り切ってしまえば、敵が鈴羽達の方に向かってしまうかもしれないから。
 二に、可能な限りエクスカリバーの使用は避けたく、さらに騎士であるセイバーの本領は接近戦だということ。
 三に、戦う上で厄介な空中を自在に移動する敵に、絶好のタイミングで奇襲をかけるためだ。

 頭上は白兵戦において絶対優位となるポジションと言える。
 だが相手は自在に空を飛べる。それはつまり、その優位を自由に奪えるということだ。
 加えて相手に敵わないと知れば、逃げることさえ容易だろう。
 なにしろ相手は空の上。地を歩く者には手の届かない領域にいるのだ。

 ゆえに奇襲を持って一撃で沈める。
 そうでなくとも、せめて飛行能力は奪いたい。
 そうすれば、後の戦闘は楽になるだろう。

「見えた……!」

 円形に切り取られた街の外縁部。
 地図から導きだされた好機、その最初の一手。

 街の外縁部は、不自然に切り取られたからか全く整地が成っていない。
 道の途中からいきなり建物が立ち並んでいるのだ。
 街と街の間に隙間があるので、外縁部を移動すること自体は問題なく出来る。
 だが安全に移動できるような配慮はされておらず、バイクで突入する事など以ての外だ。
 もし速度を落とさずにいれば、たちまち建物に激突するだろう。

 ―――だがセイバーはブレーキを踏まず、逆にアクセルを強く回した。
 当然トライドベンダーは加速し、道を遮る建物に突っ込むこととなった。


 その光景は、セイバーを追って空を飛行するラウラもしっかりと捉えていた。

「な……!? バカかあいつは! 一体何を考えている……ッ!」

 セイバーの自滅同然のその行為に、思わず罵倒が飛んだ。
 激突すると判っていながら加速するなど、正気の沙汰ではない。
 そう思った、その時だった。

 黄色く目立つ車体が、セイバーが突入した建物の反対側から躍り出てきたのだ。
 そして当然、その車上にセイバーは健在。そのまま彼女は再び建物へと突入した。
 それを見ると同時に、ラウラはセイバーの狙いを悟った。

 建物に突入しても問題なく駆動できるモンスターバイク。
 その強度を利用し建物を破壊して進むことで、己が目を振り切ろうというのだろう。

「だが甘い! そんな程度で私とこのシュヴァルツェア・レーゲンから逃れられると思うな……!」

 ISのハイパーセンサーにより、セイバーの建物を破壊する音を逃さず拾う。
 それによりセイバーの現在位置と進行方向を予測する。
 建物という壁で囲まれている以上、砲撃はあまり意味を成さない。
 狙うのは大通りに出てきた瞬間。そこを「停止結界」で捕らえる。
 そうなれば生かすも殺すも自分次第だ。

 攻撃を考えない己の移動速度と、建物を壊しながらのセイバーの移動速度。それらを比べれば僅かにこちらが速い。
 そしてセイバーの進行予測は――直進。【F-2】と【F-3】の境界。丁字路が二つ重なるポイント。
 好都合だ。そこまで広ければ、十分な余裕を以ってAICを発動させられる。
 その好機を掴むため、スラスターを全開にしてポイントへと先回りする。

526始めは傀儡の如く、終には黒兎の如し ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:13:02 ID:hI8mO64Q0

「さあ来いッ! 次に姿を現した時が、貴様の最後だ!」

 すぐに近づいてくる破壊音。
 万全を期すために“越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)”も開放し、決着の時を待つ。
 そして―――

「捉えた――!」

 瓦礫を撒き散らし、姿を現すトライドベンダー。
 その動きを拘束するために「停止結界」を発動させようとした―――その瞬間、ありえない光景を目の当たりにした。

「バカなッ! 奴がいないだと……!?」

 トライドベンダーの背に、セイバーの姿がない。
 あれだけの建物を破壊してなお傷一つ見えない車体は、その背にいるべき主を欠いたまま走行している。
 そして驚くべき事に、こちらへとそのままの勢いで“跳躍して襲いかかってきた”―――!

「自立駆動……ッ!」

 咄嗟に回避するが、躱しきれずに一撃を受ける。
 それと同時に、シュヴァルツェア・レーゲンが“上空から”接近してくる存在があると警告を飛ばす。
 思わず頭上に目を向ければそこには、いつの間にか鎧を纏ったセイバーの姿があった。


 そしてそれこそがセイバーの策だった。
 建物へと突入することで己の姿を隠し、大通りに出てきたところを狙うであろう敵を撹乱する。
 セイバー自身は敵を奇襲するために、建物の間を抜ける一瞬の間に飛び降り、ビルの壁面を駆け上る。
 これは非常に高い耐久性をもち、自立駆動を可能とするトライドベンダーの性能があってこその荒技だった。


「ハア――ッ!」
「クッ……!」

 風王結界により不可視となった剣がふり抜かれ、シュヴァルツェア・レーゲンを切り裂く。
 セイバーにとってラウラが地上まで降りてきたことは予想外だったため、タイミングがずれ、一撃で仕留める事は失敗した。
 だがセイバーのもう一つの狙い通り、スラスターの片翼を損傷し推進機能が低下する。

「終わりだ―――!」
「まだだ―――ッ!」

 ラウラは両腕からプラズマ手刀を展開。セイバーの一撃を受け止める。
 その際に、更なる驚愕を目の当たりにする。

「ッ、見えない剣だと……!? それに、なんで馬鹿力……!」

 ラウラがそれを剣だと判断出来たのは、先の狙撃の際にセイバーが黄金の剣を振るうのを見ていたからだ。
 そしてその視認することの叶わない斬撃は、ただの一撃でラウラの両腕を痺れさせた。
 これが持つタイプの武器であったなら、剣を受けた瞬間に取り落としていただろう。

 だが、剣戟はこの一合で終りではない。
 セイバーはラウラの手刀を跳ね上げ、更なる一撃を次々と繰り出す。
 対するラウラも、越界の瞳とISのサポートによりどうにかそれを防ぐ。
 その度にラウラの両腕は感覚をなくし、ISの装甲が軋みを上げる。

“疾い……重い――ッ! 私が――ISが生身の人間に押されているだと……!?”

527始めは傀儡の如く、終には黒兎の如し ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:14:33 ID:hI8mO64Q0

 それはラウラにとって信じられない現実だった。
 ISは初めて世に現れた時から、従来の兵器の一切を凌駕していた。
 それによって世界各国の武力・兵力の要が全てISに置き換わる程に。

 だが目の前のこれは何だ。

 確かにISでなくともISの攻撃を防ぐことは可能だ。
 IS以外の通常兵器であっても、防戦に徹すれば凌ぎきれるかもしれない。
 現に教官――織斑千冬は、生身でIS用の武器を扱ってISの一撃を防いでみせた。

 だがこれは違う。これはそんなレベルでは断じてない。
 このセイバーという女は生身で、それもたかが剣一本で、ISを圧倒している。
 不可視の剣など、その事実の前では瑣末にすぎない。

“コイツは、本当に人間か……!?
 いや、これがサーヴァントの実力なのか―――!!”

 ガキン、と一際強く弾き飛ばされる。
 その際に自ら後方へ飛ぶことで衝撃を殺し、同時に距離も稼ぐ。
 それでも殺し切れなかった衝撃で、両腕が完全に死んだ。

「グ、ヅ………ッ!」

 もう接近戦は出来ない。
 セイバーの剣を受ければ、その防御ごと切り捨てられるだろう。
 だが、そんなことで諦められるほど軽い覚悟は背負っていない―――!

「食らえ――ッ!」

 至近距離からの砲撃。
 セイバーに向けて大型レールカノンを発射する。

「甘い!」

 だが防がれた。
 僅か二十メートルの距離から放たれた光弾を、セイバーは事もなげに斬り伏せる。

 このままでは近づかれる。
 完全に麻痺した腕で、セイバーの一撃を防ぐ事は出来ない。
 切り札の「停止結界」は―――使えない……!
 セイバーの後方から、廻り込むようにしてトライドベンダーが自走し迫っている!

「チィ……ッ!」

 セイバーとトライドベンダーそれぞれワイヤーブレードで牽制し、さらにセイバーの足元へとカノンを撃ち込む。
 同時にまだ機能しているスラスターを全開にし、上空へと緊急退避する。
 どれ程異常な戦闘能力を持っていようが、セイバーが空を飛べない事に変わりはない。
 たとえ機動力が落ちていようと、上空からの一方的な攻撃を行えばまだ勝機はある。

「逃さん!」

 それに気付いたセイバーはビルの壁面を足場に、ラウラを追って空へと駆け上った。
 スラスターを欠損し加速の落ちていたラウラは追い抜かれ、逆に上を取られる。
 その驚異的な身体能力にセイバーの異常さを再認識する。だが――――

「今度こそ取った……!」
 セイバーがビルの壁面を蹴り、ラウラへと跳躍して剣を一閃する。

「それは……こちらのセリフだ―――!」

 同時にラウラの起死回生の一手が発動した。

「な!? 体が、動かない……!?」
 突如としてセイバーの体は空中で固定され、不可視の剣先はラウラの体を両断する寸前で停止していた。

 AIC――正式名称“慣性停止結界(Active Inertial Canceller)”。
 これは対象のあらゆる行動慣性を文字通り停止させる事が出来る、ラウラの必勝の切り札だ。
 そしてこれは魔術ではなく科学だ。いかにセイバーに高い対魔力があろうと、その効力は十全に発揮される。

 ラウラが「停止結界」と呼称するこれは1対1では反則的な効果を発揮するが、使用には多量の集中力が必要だった。
 故にトライドベンダーによる妨害が入る地上では使うことが出来なかった。
 だがセイバーがラウラを追って空中に駆け上がったことで、その心配がなくなったのだ。

528始めは傀儡の如く、終には黒兎の如し ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:15:25 ID:hI8mO64Q0


 シュヴァルツェア・レーゲンの装甲は切り裂かれ、刃は絶対防御が発動する領域の寸前。
 あの一瞬でここまで切り裂くセイバーの剣閃に、背筋が凍る思いだ。
 念のためにと最初の時点で“越界の瞳”を解放していなければ、今頃セイバーの剣の錆となっていただろう。

「本当にギリギリだった……。だが、これで終りだ」

 空中に固定されたセイバーから離れ、レールカノンを向ける。
 身動き一つ取れないセイバーにそれを避ける術はない。
 この戦いは、紙一重でラウラの勝利に終わったのだ。
 だというのに―――

「これが貴女の切り札ですか……。見事です―――が、まだまだ詰めが甘い」

 何故セイバーの貌から、余裕の色が消えないのか。
 その様子に、ザワリ、と再び背筋が粟立った。

 この敵は持っている。
 この状況から逆転する術を。
 必至の運命を覆す一手を持っている―――!

 これまでの経験からそう直感し、即座にカノンを発射する。
 だが、

「風よ……荒れ狂え!」

 突如として発生した台風の如き暴風に煽られて射線がずらされ、カノンがセイバーを外れた。
 さらにその異常による混乱で、「停止結界」も解けてしまう。
 しまった――などと言う余裕もない。
 轟然と迸る風の中でラウラが目にしたものは、

「爆ぜよ――“風王鉄鎚(ストライク・エア)”ッ!」

 竜神の咆哮の如き暴風の中心で、燦然と輝く黄金の剣だった。


 万軍を吹き飛ばす轟風の破砕鎚が、ラウラの身体を打ち据える。
 ラウラはそのまま背後のビルへと叩き付けられ、力なく地面へと崩れ落ちた。

 カシャン、と鋼が擦れ合う音。
 痛む体に鞭を打って顔を上げれば、そこには突き出された黄金の剣と、それを担うセイバーの姿。

「貴女のような幼子がこれほどまでの戦いをするとは驚きました。
 ですが――自ら武器を取り、戦いを挑んできたのであれば容赦はしません」

 その強さに、その気高さに、ラウラは思わず魅入ってしまう。
 そしてここで死ぬのだと、当然のように受け入れた。
 もとよりこの風を統べる王に、自分が敵う道理はなかったのだ。

「最後に問おう。貴女の名はなんと言う」
「……ラウラ。ラウラ・ボーデヴィッヒ」
「ラウラですね。……いい勝負でした。貴女の名と力、しかと覚えておきます」

 黄金の剣が、今度こそラウラの命を奪わんと突き出される。
 躱すことも、防ぐこともしなかった。意味がないからだ。
 どう抗ったところで、この騎士には無駄な抵抗でしかない。

 ああ……一夏、皆、すまない。
 私はお前達を、守る事が出来なかった。
 その誓いを果たせない事だけが、こんなにも悔しかった。


 だが、剣の切っ先がラウラを突き刺すことはなかった。
 なぜならその直前に、一発の銃弾がセイバーを襲ったからだ。

「新手か……!」

 無論、それを受けるセイバーではない。
 彼女はその急襲を第六感で察知し、その剣で弾丸を打ち落とす。
 だが二発、三発と続けて放たれる銃撃はセイバーを警戒させ、彼女をラウラから引き離した。
 そうして出来た隙間に、その襲撃者がラウラを庇うように割り込んでくる。

 ラウラは、その襲撃者の正体を知っていた。
 そのオレンジ色の機体カラー、そのよく見慣れた後姿は紛れもなく―――

「シャルロット!」
「大丈夫、ラウラ? 怪我とかしてない?」

 そう言ってシャルロットはおどけて見せる。
 いつも通りなその様子に、思わず安堵の声が漏れた。

529始めは傀儡の如く、終には黒兎の如し ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:16:00 ID:hI8mO64Q0


 対してセイバーは警戒を強めていた。
 ラウラの反応からして、襲撃者は彼女の仲間だろう。
 となれば、彼女達が協力し合うのは必定。
 ラウラ一人でさえ厄介だったというのに、二人を同時に相手するとなれば戦況はより厳しくなるだろう。
 最悪、宝具の使用も念頭に入れておかなければならない。

 そう覚悟を決めた、その時だった。
 襲撃者の少女はラウラに一言二言呟いたかと思うと、こちらへと話しかけてきた。

「僕はシャルロット・デュノアと申します。貴女のお名前を伺っても宜しいでしょうか」
「かまいません。私の事は、セイバーと呼んでください」
「ありがとうございます、セイバーさん。
 早速で悪いんですが、一つお願いを聞いていただけないでしょうか」
「お願い……?」

 そう訊ね返すと同時に、シャルロットからある物が投げ渡された。
 危なげなく受け取れば、それは青い色をしたコアメダルだった。

「それをお譲りしますので、どうか僕たちを見逃していただけないでしょうか」
「……なるほど、そう言うことですか」

 つまりシャルロットはこの殺し合いを左右するであろうコアメダルを対価に、この場を納めようとしているのだろう。
 それはある意味、願ってもない状況だろう。
 もとよりセイバーの目的は鈴羽達を守る事。ラウラと戦ったのは、そのために過ぎない。
 彼女達が自分から退いてくれるのであれば、セイバーに戦う理由はない。

「いいでしょう。そちらが退くというのであれば、私に追う理由はありません」
「ありがとうございます」
「ですがその前に、一つだけ訊いておくことがあります」

 シャルロットの背後。ある程度回復したのか、どうにか立ち上がったラウラへと質問を投げかける。
 今ここで彼女を殺すことがなくなった以上、それは訊いておかねばならないことだった。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、貴女は一体どのような理由で戦うのですか?」
「それは……嫁を、仲間を守るためだ!」

 ラウラはシャルロットを押し退けて、私に挑む様に宣言した。
 おそらく彼女は、その言葉通りに仲間を守るため、殺し合いに乗ったのだろう。

「いい覚悟です。
 もし再び貴女と戦う事があれば、その時は私も全力を持って応えましょう」
「私を……黒兎を舐めるなよ。次は必ず勝つ……!」
 そう言ってラウラはシャルロットに連れられて空へと去って行った。

「さあ、私達も鈴羽と合流しましょう」

 いつの間にか傍らに寄っていたトライドベンダーに乗り、スロットルを開け放って車体を反転させる。
 そうしてアクセルを回し急加速をかけ、鈴羽達との集合場所である健康ランドを目指して駆け出した。


 彼女達の目的が仲間を守る事であるのなら、この殺し合いを打破するきっかけを掴めば、仲間になってくれるかもしれない。
 そうすれば無用な戦いを避けられるし、殺し合いに乗った者達に対抗する力にもなる。
 そのためにも、一刻も早く手掛かりを掴まなければ。


【一日目-午後】
【F-2/エリア北東】

【セイバー@Fate/zero】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】75枚:0枚
【コア】ライオン×1、タコ×1
【装備】約束された勝利の剣@Fate/zero、トライドベンダー@仮面ライダーオーズ
【道具】基本支給品
【思考・状況】
基本:殺し合いの打破。
1.健康ランドに向かい、鈴羽達と合流する。
2.1の後、改めて空美中学校へと向かう。
3.騎士として力無き者を保護する。
4.衛宮切嗣、キャスター、バーサーカーを警戒。
5.ラウラ・ボーデヴィッヒと再び戦う事があれば、全力で相手をする。
【備考】
※ACT12以降からの参加です。

530始めは傀儡の如く、終には黒兎の如し ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:16:40 ID:hI8mO64Q0


        ○ ○ ○


 その光景を、遠く離れたビルの屋上から、一人の男が眺めていた。

 その男の存在に、戦いに集中していたセイバー達には気付かなかった。
 もしその男がセイバー達に敵意を向けたのであれば、彼女達はすぐに感付いただろうが、そうはならなかったのだ。

「やはり、小娘一人ではサーヴァントは倒せないか。やはり、もっと多くの兵力がいるな」

 その男――ウヴァはそう結論すると、ラウラ達が飛び去った方へと歩き出した。

 ラウラにセイバーを襲うように指示したのは確かにウヴァだ。
 最初の狙撃でセイバーは死ねば良し。そうでなくとも、ラウラとセイバーが戦っている所に加勢し、二人がかりでセイバーを倒す作戦だったのだ。
 だがそうはならなかった。
 ウヴァはラウラに加勢することはなく、ラウラはセイバーに敗北した。

 その理由は単純だ。
 ウヴァにとってセイバーのトライドベンダーの使用は予想外だった。
 その結果、いきなり始まったカーチェイスを追い駆けるのがやっとだったのだ。

 分かりやすく言えば―――ウヴァは出遅れたのだ。

「やはり、リスクを承知で北東に向かうべきだったか?」

 北に織斑一夏、X。
 北東に鏑木・T・虎徹。
 東にアンク、剣崎一真、佐倉杏子、バーサーカー。
 南東に間桐雁夜。
 南にセイバー、阿万音鈴羽、見月そはら。

 それがウヴァの知っている、空美中学校付近の参加者の配置だ。
 そして移動に際し選んだのが、セイバー達のいる南側だった。

 まず織斑一夏のいる北は論外。
 もし遭遇してしまえば、ラウラが離反する恐れがあるからだ。
 一対一ならともかく、二人がかりで来られれば流石に苦戦する。

 同様に東も論外。
 憎たらしいアンクを倒せるかもしれないのは確かに惜しい。
 だがそのためにわざわざ剣崎一真やバーサーカーと戦うのはバカバカしい。

 間の北東も微妙だった。
 鏑木・T・虎徹は強力なヒーローだが、その能力は五分と持たない。二人がかりなら問題なく倒せる相手だろう。
 だが織斑一夏や剣崎一真、バーサーカーに挟まれる形となってしまう。
 加えてその奥には仮面ライダーWやエンジェロイドのイカロス。敵対陣営のもう一人のアンクなど、厄介なことこの上ない配置になっているのだ。

 故にリスクの少ない南側を選んだのだが、結果は芳しくなかった。
 確かにラウラを失わずにすみ、さらに彼女がシャルロット・デュノアと合流したのは僥倖だった。
 だが、セイバーは未だ健在のまま。いつかその力と相対することを考えれば、安心は出来ない。

 後はもう、ラウラがシャルロットを説得し、味方に引き込むことを期待するしかない。

「セルを十枚も無駄に使わせたんだ。それくらいの働きはして見せろよ?」

 ウヴァは微かに見える勝利に顔を歪ませながら、ラウラ達が飛び去った方へと歩き出した。
 己の欲望の果てに、ある筈の“何か”を求めながら。


【一日目-午後】
【F-2/エリア北】

【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【コア】クワガタ×1、カマキリ×2、バッタ×2
【装備】なし
【道具】基本支給品、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、ランダム支給品0〜2(未確認)
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
1.とりあえずラウラと合流する。
2.もっと多くの兵力を集める。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。

531始めは傀儡の如く、終には黒兎の如し ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:17:01 ID:hI8mO64Q0


        ○ ○ ○


 エリア【F-3】。オズワルドと呼ばれる戦艦を俯瞰できる港に、ラウラとシャルロットは降り立った。
 ラウラは戦いの緊張が解け疲労が表に出て来たらしく、先ほどよりも疲れた様子を見せていた。

「そう言えば、礼がまだだったな。
 感謝する、シャルロット。おかげで命拾いした」
「どういたしまして。
 でも本当にビックリしたよ。ISに反応があったから何事かと思って行ってみれば、ラウラが殺されそうになってるんだから。
 一体何がどうなってあんな状況になったのか、説明してくれる?」

 その質問にラウラはとても言い難そうにした後、諦めたようにこれまでの経緯を話した。
 ウヴァと遭遇し、奴の話から従うことを決めたこと。
 奴の指示により、セイバーに戦いを挑んだこと。
 そうして―――呆気なく敗北したこと。

「私は……弱いな………」

 仲間を守ると息巻いて、結局何も出来ずに死にかけた。
 それどころか、逆に守ろうとした仲間に助けられる始末だ。
 こんな様で、一体何を守れるというのだろうか。

 結局私は、一夏と初めて出会ったころと、何も変わってないのかもしれない。

「そんな事、ないと思うけどな」

 けどシャルロットは、それを静かに否定した。

「初めて出会ったころのラウラはさ、どこか物騒なナイフみたいな印象だったんだ。
 けど今のラウラは違う。前みたいに一人でなんとかしようとする所は変わってないけど、それでも、みんなのために頑張ろうとしてる。
 ……それってさ、とてもすごい事だと僕は思うんだ。
 そんなすごい事を当たり前のように出来るから、一夏は強いんだと思う」

 ああ、そうだ。そんな人だったから、私達は織斑一夏を好きになったのだ。
 独りで迷子のようになっていた私に、そっと手を伸ばしてくれた彼を。

「それにさ、仲間は助け合うものでしょ?
 なら、ラウラがみんなを助けようとするのは当然だし、私がラウラを助けるのも当然だよ」
「……ああ、そうだったな。そんな当然の事も、私は忘れていた。
 はは……これでは負けて当然ではないか」

 セイバーはあの少女達を守るために戦い、私は仲間の為と言い訳して、ウヴァの言い成りになって戦った。
 セイバーと私では、背負うモノの重さが違ったのだ。

「本当に、情けない………」
 情けない自分がおかしくて、笑いが込み上げてきた。
 そんな私を、シャルロットは見守るように見つめている。
 きっと彼女は、私がまた危機に陥ったら、今回のように助けてくれるだろう。
 それを考えると、情けないままではいられないと思った。
 今度は……今度こそは自分の方が助ける番だと、そう強く誓った。

 私は教官にも、一夏のようにもなれない。
 けれど私は、シャルロットや一夏の、仲間なのだから―――

532始めは傀儡の如く、終には黒兎の如し ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:17:57 ID:hI8mO64Q0


「それで、ラウラはこれからどうするの?」
「どうするもなにも、する事は変わらない」
「それって、ウヴァに従うってこと?」
「そうだ。他に具体的な方法がある訳ではない。
 なら私は、私に出来る最善で仲間を助けてみせる」

 確かに他の解決策も探せば見つかるかもしれない。だが今は奴に従う方が確実だ。
 そう答えるとシャルロットは少し考えるような素振りを見せる。

「その事なんだけど、一ついいかな?」
「ん? なんだ?」
「えーと……あった。ラウラ、ここ読んで」

 シャルロットはデイバックからルールブックを取りだして、そこに書かれたある一文を示してきた。
 そこにはこう書かれていた。

【(2)グリード不在中に限り、同色コアメダルの最多保有者がリーダーを代行する】

「これは………」
「これってつまり、ウヴァがリーダーである必要はないってことだよね」
「………………!」

 その通りだ。勝者は生き残った陣営の終了時点でのリーダーなのは確かだ。
 だが、“リーダーがグリードであるとは限られていない”……!

「つまり私やお前がリーダーであっても、何の問題もない。そういう事だな」
「その通り。別に、ラウラがウヴァに従う必要はないんだよ」
「なるほどな。またお前に助けられてしまったが、これであの虫頭に借りが返せる」
「それって、ウヴァを倒すってこと? もしそうなら協力するけど」
「ああ、いや、それはまだだ」

 ウヴァを倒すことは確定だが、それは今すぐにではない。
 そう言うとシャルロットが不思議そうな顔をして首を傾げる。

「奴らグリードが真木清人と通じていることは確かだからな。
 倒すのは奴から引き出せる情報を統べて訊き出してからだ。
 その後に私を虚仮にしてくれた恨みも込めて、きっちりと始末してやる」
「なるほど。面従腹背、ってやつだね」

 ウヴァを倒した際に誰がリーダーになるかは知らないが、おそらくウヴァを倒した人物がそうなるだろう。
 となると、現状では私かシャルロットの可能性が高い。
 別に私がリーダーとなる事に異論はないが、やはり教官や嫁にリーダーになってもらうのが――――

「いや、まて………」
「どうしたの、ラウラ? 急に難しい顔をして」

 自分のルールブックを取りだし、再び先ほどの項目を読み返す。

【(2)グリード不在中に限り、同色コアメダルの最多保有者がリーダーを代行する】

 これはつまり、“他の誰かがコアメダルを持っている限り、その色の陣営は消滅しない”と言う事なのではないのか?
 たとえコアメダルが一枚だけであろうと、それが最多保有数であるのならその保有者がリーダーになるという事なのだから。
 だとすれば、本当の勝利条件は他陣営のリーダーを殺す事ではなく―――

「全てのコアメダルを集める事、か……?」

 それならば、他陣営のリーダーが生まれる余地はない。
 もちろんこの推測にだって穴はある。だが、その信憑性は非常に高い。

「ねえラウラ、一体どういうこと?」
「うん? ああ、すまない。今説明する」

 シャルロットに今の推測を教える。
 それを聞いたシャルロットは、難しい顔をして納得したように頷く。

「確かにその可能性は高いね。表向きの勝利条件、陣営リーダーが1人しかいない状況って言うのとそう違ってないし」
「やはりお前もそう思うか。だとすると、非常に厄介な事になるな。
 ……だが、私のする事に変わりはない。もとより自分の陣営を作り、優勝するつもりだったんだ」
「ラウラ……」
「シャルロット、お前はどうする?
 優勝を目指すのであれば、誰かを殺すことになるだろう。
 私は産まれた時より兵士だった。そのくらいの覚悟はするさ。
 だがお前は―――」
「協力するよ」

533始めは傀儡の如く、終には黒兎の如し ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:18:23 ID:hI8mO64Q0

 私の言葉を遮って放たれたシャルロットの言葉に、思わず目を見開いた。
 何故、という問いかけが口を突いて出そうになるが、その前にシャルロットが言葉を続ける。

「もちろん誰かを殺すつもりも、ラウラに殺させるつもりもないよ。
 けど僕たちは仲間だろ? ラウラ一人に辛い思いをさせる訳にはいかないからね」
「……すまない、いや、ありがとう」

 どうやらまた、シャルロットに借りを作ってしまったらしい。
 助けられてばかりの自分が本当に不甲斐ない。
 だが、この借りは必ず返してみせよう。

「取り合えずは、あの虫頭と合流するか。何をするにも、情報は必要だ」
「そうだね。じゃあ僕は、ラウラに賛同したという事にするよ」
「ああ、それで行こう。あの虫頭は意外と単純そうだからな。おそらく信用するだろう。
 仮に戦闘になったとしても、私達二人でやれば倒せるだろうしな」

 ウヴァの持つ情報がどれだけ確かなものかはわからないが、私を唆したくらいだ。それなりに有用な情報は持っているだろう。
 それを聞きだすまでは貴様に従ってやろう。せいぜい良い気になっていろ。

 そしてセイバー。
 私はこの殺し合いの中でもっと強くなってやろう。
 そして、この次こそは貴様に勝って見せる……!


 そう心の中で宣言し、ラウラは仲間と共に歩きだした。
 それは少し前までの様な悩みを抱えたモノではなく、故に彼女は先程よりも強くなっているだろう。
 仲間のために強くなるという決意。
 それは彼女達の想い人が抱く願いと同質の願いなのだから――――。


【一日目-午後】
【F-3/エリア南西】

【ラウラ・ボーデヴィッヒ@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)
【首輪】70枚:0枚
【装備】シュヴァルツェア・レーゲン@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3(確認済)
【思考・状況】
基本:仲間と共に帰還する。そのために陣営優勝を目指す。
0.とりあえずウヴァと合流する。
1.表向きウヴァに協力し、可能な限り情報を引き出す。
2.ウヴァから引き出せるモノがなくなったら始末する。
3.己が陣営優勝のため、ウヴァには内密でコアメダルを集める。
4.嫁と仲間のために、他の誰かを手にかける覚悟を決める。
5.もっと強くなって、次こそはセイバーに勝つ……!
【備考】
※本当の勝利条件が、【全てのコアメダルを集める事】なのでは? と推測しました。


【シャルロット・デュノア@インフィニット・ストラトス】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】95枚:0枚
【装備】ラファール・リヴァイヴ・カスタムII@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜2(確認済)
【思考・状況】
基本:仲間と共に殺し合いから脱出する。
1.ひとまずラウラの協力をする。
2.優勝以外の仲間達と脱出する方法を探す。
3.ラウラが誰かを殺さないで済むように手を尽くす。
【備考】
※ラウラの推測、“本当の勝利条件”について聞きました。

534 ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/14(土) 18:19:49 ID:hI8mO64Q0
以上で投下を終了します。
何か意見や、修正すべき点などがございましたら、お願いします。

535名無しさん:2012/01/14(土) 18:45:17 ID:0JjjHtnoO
投下乙です!シャル×ラウラはISで一番好きなコンビだなぁ。早速手駒に噛み付かれそうなウヴァさん危うしw

536名無しさん:2012/01/14(土) 18:52:47 ID:VhpEhWig0
投下乙!
いい感じのコンビだなぁ
不安材料がないわけではないが、今後の動向に期待が持てるな

537名無しさん:2012/01/14(土) 19:32:33 ID:d5xkNWUc0
投下乙です

セイバーさんはやっぱり強いなあ
でも敵として倒すならちゃんと倒す。仲間に引き込むなら引き込むで接極的に説得しないと…
シャル×ラウラは原作でも二次創作でもよく組まれる名コンビなんだよなあ。それがよく書かれているなあ

そしてウヴァは役に立ってない上に下剋上フラグが立ちましたw

538名無しさん:2012/01/14(土) 20:06:50 ID:lHPBtvc.0
投下乙です。

バイク戦から空中戦まで、バトル描写が上手だなあ。
戦いの勢いやラウラに恐れを抱かせるほどのセイバーの実力が伝わってくる。
セイバー戦後のIS組の戦略も頭を使っていて、かつそのキャラらしい内容で面白かったです。

539名無しさん:2012/01/15(日) 07:19:00 ID:/rjl8tAU0
投下乙です!
あいかわらず戦闘描写がお上手で・・・
そしてウヴァェ・・・www
シャルとラウラの仲良し二人組がどうウヴァをやりこめるか楽しみです
あと原作的に考えてセイバーがいじめられてないのがry

ちょっと気になったことを
セイバーは聖杯戦争を秘匿する立場なので
>>520のようにサーヴァントに言及したり「私のマスター」というのは違和感があります

ほんとうに小さくくだらないことなのでスルーしてもらっても全然おkです
とても面白い作品で楽しめました
次の作品も楽しみです

540名無しさん:2012/01/15(日) 22:33:02 ID:8R4Zs9RA0
投下乙です。
やはりこのコンビは名コンビですね。
セイバーもカッコ強くていいです。

541名無しさん:2012/01/16(月) 05:08:10 ID:.31bYI360
投下乙。
ウヴァさんww
いきなり下剋上フラグが立っちまったよw
反逆のラウラはいったいどう出るのか…

ところで某所での修正投下が終わったので一言
照井、冴子、こっちでは生き延びろよ…
特に照井、このままじゃ剣崎と同じ末路を辿ることになってしまう…

542<削除>:<削除>
<削除>

543名無しさん:2012/01/16(月) 21:40:21 ID:gXCJnAFg0
ウヴァさんって必ず裏切られるんだよな。やっぱクワガタの呪いか?

544名無しさん:2012/01/16(月) 22:10:05 ID:eE..aTh60
   |    |/H\
   |    | 0M0)!!
   |    |⊂ /
 /..|    |. /
/  ~ヽ..    |'
|    ヽ   |
|.     ヽ.  |
ヽ      !. .|
 \_ _ \|
   |..  ̄ |
   |    |
   |    |

545 ◆o3VwW7hmYU:2012/01/18(水) 22:13:42 ID:W2Cdbwk.0
予約していた桂木弥子、佐倉杏子、アンクを投下します

546アイスと探偵と永遠の切札 ◆o3VwW7hmYU:2012/01/18(水) 22:22:07 ID:W2Cdbwk.0
「期待はずれだ、ヤコよ。貴様の日付はいつになったら変わるのだ?」

このとんでもない殺し合いに連れてこられる少し前に、いつも通りにネウロが吐いた暴言。
その言葉は普段の暴言よりも断然ソフトだったのに、何故か私の心を深く抉っていた。
そして、それに重なるようにして私はこの殺し合いに巻き込まれた。
正直、最初は実感が無かった。いきなり「殺し合いをしてもらう」なんて言われても、私みたいな女子高生には無縁の話過ぎて、理解が追いつかなかった。
でも現実はそんなに甘くなくて。結果的に、私は二人の首輪が爆発するのを見ることであの眼鏡の人が言っていることが本当だと思い知らされることになった。

「ああ、もう!ネウロに関わってからロクなことがないよ!」

気がつくと、私はこの状況ではあまりにも場違いなこと叫んでいた。

547アイスと探偵と永遠の切札 ◆o3VwW7hmYU:2012/01/18(水) 22:22:54 ID:W2Cdbwk.0
     OOO  OOO  OOO  OOO

「……ん?今、誰かの声がしなかったか?」

アンクから貰ったアイスキャンディーを頬張りながら、杏子は近くから聞こえてきた少女の叫び声に反応する。

「ああ、したな。それがどうした」

アンクは突然の叫び声に対してそれほど興味を示したわけでもなく、アイスを頬張っている。
杏子は強がってはいるが、間違いなく重傷だろう。それは彼女の傷を見ればわかる。
そして、アンクには自分のチームの人間を無駄死にさせるつもりなど一切ない。だからこの声の少女が敵である可能性も考慮し、杏子の傷がある程度治るまでは接触しないほうがいいと考える。
尤も、まともに治療が出来るような施設を見つけなければこの深い傷を治療することなど困難なことかもしれないが。

「接触しなくて良いのか?あんた、人を探してるんだろ?」
「今の俺がアイツと戦っても無駄死するだけだ。それに俺が探してる奴は女じゃねえ」

今の自分に必要なものは、他の参加者達に対抗出来るだけの戦力。
この場でもう一人の自分に会っても、今のアンクには逃げることしか出来ない。
この場で映司とあっても、何の抵抗も出来ることなく、ただ殺されるだけだ。
杏子という存在は大きいが、また先程敵対したような化物にあったら、今度は間違いなく殺されるだろう。

「仮面ライダー……か」

剣崎は仮面ライダーブレイドとしての誇りを……揺るぎない正義を貫いて、自分や杏子を助けてくれた。
剣崎の話によると、映司も「仮面ライダー」の括りに入るようだ。
そして映司も剣崎も、自分の身を挺してまで誰かを守ろうとしている。それがアンクにはわからなかった。
何故、自分が傷ついてまで誰かを助けようとするのか。
何故、自分が死ぬとわかっていても誰かを助けようとするのか。
何故、見知らぬ誰かのために自分の命を簡単に投げ出すことが出来るのか。
様々なことを考えたが、グリードであるアンクにはわからない。

「あんたが気に病むことはないよ。アイツは自分のやりたいことをやっただけさ」

何かに悩んでいるような、苛立っているような……そんなアンクの表情を見て、アイスを食べ終わった杏子が声をかける。
彼女にも、剣崎の気持ちが多少はわかった。アンクの気持ちも全くわからないというわけではなかった。
剣崎は、昔の自分に少し似ていて。それはつまり、さやかにも似ているということで。
重傷を負った自分を勝手な正義感で命を投げ出してまでたすけてくれた剣崎には苛立ちもあったけど、昔の自分が同じ立場だったら同じことをしていただろう。
それに、さやかが思い出させてくれた。自分のなりたかった魔法少女を。
だから、今の杏子は自分の命を散らしてまで誰かを助けようとした、剣崎一真という男の勇姿を貶すことはなく。
仮面ライダーブレイドの勇姿は佐倉杏子の記憶にハッキリと残ることになった。
これから先、佐倉杏子が彼の勇姿を忘れることは無いだろう。

何故なら、仮面ライダーブレイド――剣崎一真も、自分と同じで『最後に愛と勇気が勝つストーリー』を信じて戦ったのだから。
剣崎一真の仮面ライダーとしての『魂』は、確かに佐倉杏子へと受け継がれていた。

548アイスと探偵と永遠の切札 ◆o3VwW7hmYU:2012/01/18(水) 22:25:51 ID:W2Cdbwk.0
     OOO  OOO  OOO  OOO

「……それにしても、まさかあかねちゃんがいるなんてね」

桂木弥子は、先程までの態度が信じられないほどの上機嫌でケータイストラップのような髪の毛に話しかける。
髪の毛の名は、あかねちゃん――色々と訳ありの、生きた髪の毛だ。
あかねちゃんは、弥子の言葉に反応するように小さな身体を左右に動かす。
弥子の行動はあかねちゃんのことを知らない者からみたらただの変人にしか見えないが、そんなことが気にならない程に弥子は喜んでいたのだ。
見知らぬ場所、突然の殺人、ネウロからの厳しい一言……それらの悲惨な要素が重なったからこそ、これ程迄にこの状況を喜ぶことが出来たのかもしれない。

「お前、何やってるんだ?」

歩きながら髪の毛に話しかけるという奇妙な行動をしている少女を見て、アンクは呆れ声を出す。
散々自分が警戒していたあの叫び声の女はこんなバカなのか――そう思うと、本当に呆れてくる。
案の定、あかねちゃんと喜びを分かち合っていることに必死だった弥子はアンクや杏子の姿に気付いてはおらず、突然声をかけられ言葉に詰まる。
弥子自身、一般人からみたらただの変人にしか見えない行動とわかっていたため、少々気まずい。
そして暫くの沈黙が訪れたが、あまりにも馬鹿馬鹿しい雰囲気に耐え切れなくなったアンクは乱暴な手つきで新たなアイスを取り出し、口に運んだ。

(いいなぁ……アイスキャンディー。私も一本でいいから食べたいなぁ……)

欲望丸出しの表情で、涎を垂らしながらアイスキャンディーを見つめる弥子。
アンクはそんな弥子を見ながら、少々自慢気な表情でアイスを頬張る。
そして杏子が微妙な表情で見つめる中、アンクはアイスを一本食べ終わると共に弥子にアイスを差し向ける。

「俺の協力をするなら、このアイスをくれてやる」

「も、もちろん協力します!」

考える間もなく即答。これには提案者であるアンクも呆れ気味だったが、新たな戦力を獲得出来のだから、まあ良いとすることにした。
まるでここが戦場だとは思えないやり取りだが、アンクはアイスキャンディーを「交渉材料」として使える物だと価値を見出しつつもあった。

【D−2/民家】
【一日目-日中】
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】赤陣営
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、全身に殴られた跡
【首輪】所持メダル「70」:貯蓄メダル「0」
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:???
 1:主催者をぶっ倒して『愛と勇気が勝つストーリー』を達成するのも悪くない
 2:さやかが心配
【備考】
※剣崎を見て過去の自分を思い出しています

【アンク@仮面ライダーOOO】
【所属】赤陣営
【状態】健康、疲労(小)、迷い
【首輪】所持メダル「98」:貯蓄メダル「0」
【コア】タカメダル「1」
【装備】シュラウドマグナム+ボムメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、大量のアイスキャンディー、不明支給品0〜1
【思考・状況】
基本:アンク(ロスト)を排除する。その後は……?
 1:アイスは交渉材料に最適だな
 2:アンク(ロスト)を排除するためにも今は戦力を集めることに集中する
 3:映司は――――。
【備考】
※カザリ消滅後〜映司との決闘からの参戦

【桂木弥子@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】青陣営
【状態】健康、精神的疲労(中)、迷い
【首輪】所持メダル「100」(増加中):貯蓄メダル「0」
【装備】桂木弥子の携帯電話(あかねちゃん付き)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない
 1:今はとりあえずアイスキャンディーを食べたい
 2:ネウロに会いたい
【備考】
※第47話 神【かみ】終了直後からの参戦です

549アイスと探偵と永遠の切札 ◆o3VwW7hmYU:2012/01/18(水) 22:27:28 ID:W2Cdbwk.0
以上で投下終了です

550名無しさん:2012/01/18(水) 23:48:42 ID:jf/Sji3A0
投下乙です

あっさりと食べ物で…なのが弥子らしいw
参戦時期が微妙に迷いがある時期からかあ
とりあえず最初にマーダーと出会わなかっただけマシだがここからどうなるかが問題だな

551名無しさん:2012/01/19(木) 00:50:41 ID:8xkPSYNsO
投下乙です!アイスで次々と女子を釣るアンクw

あんこはあんこで剣崎の勇姿を刻んだか、こっちのさやかあちゃんは克己ちゃんと一緒だから心配しなくとも結構保つかも?

552名無しさん:2012/01/19(木) 14:52:11 ID:.Cf4wdJI0
でも今の映司とであったらやばいだろ・・・

553 ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/22(日) 10:48:31 ID:WAwjwZJA0
これより、予約分の投下を行います。

554 ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/22(日) 10:49:32 ID:WAwjwZJA0



 不自然に切り取られた港の縁。透き通る様に青い空の下。吹き抜ける風が優しく頬を撫でる。
 程良く心地よいそれらの風情は、柔らかく人の心を和ませたであろう。

 ――――ここが、殺し合いの場でさえなければ。

 今ここに、三人の男が緊張の糸を張り巡らしていた。
 彼らの間に会話はなく、お互いがお互いを、一目見ただけで敵だと即断していた。
 その様は殺し合いの場に相応しく、同時に周囲の雰囲気も重苦しくなっていく。
 その緊迫感が臨界に達した、その時、男の一人が口火を切った。

「お見受けしたところ、どうやら私とあなた達の目的は同じようですね」
「それは、真木清人の指示に従うつもりはない、という事ですか?」
「確かにそれなら、俺達の目的は同じだ。だが、それが何だというのだ?」
「目的が同じであるのなら、お互い協力することも不可能ではない、という事ですよ。
 どうです? ここは一先ず、協力関係を結ぶ事にしませんか?」

 男の言葉に、一人は顔を顰め、一人は無表情のままだった。
 確かに男の言う通り協力関係を結べば、この殺し合いを生き延びることも難しくはないだろう。
 だが――――

「確かに私は、真木清人に従うつもりはありません。が」
「俺は誰からの命令にも従うつもりはない。それは、貴様等とて同じであろう?」
「確かにその通りですね。残念です」

 男――月影ノブヒコは言葉ほど残念そうに見えない様子でそう言った。
 もとより彼らは全員、お互いを敵だと判断していたのだ。
 ノブヒコが二人に誘いをかけたのは、念のために過ぎない。

「では我が大ショッカーに逆らう者を始末するとしよう」
 ノブヒコがもう隠す必要はないとばかりに、改まった態度を一変させる。
 同時に腰に現れたベルトに続くように、ノブヒコの身体が鉛色の装甲に包まれた。
 その様子を見た残り二人の男はそれに驚くことはなかった。
 むしろ先の言葉に反応し、より戦意を滾らせる。

「これはまた随分と大きく出たな」
「当然だ。この創世王に敵う相手などいないのだからな」
「それはどうでしょう。傲慢な王は民や臣下の反逆によって打ち取られるのが常ですよ?」
「ふん。それはその王が弱かっただけの事だ」
「それはつまり、貴方方の事ですか?」
「言ったな貴様。なら、試してみるか?」

 そう言うと同時に、ノブナガはバースドライバーを取り出し、応じる様に加頭順がガイアメモリを取りだす。
 そして一枚のセルメダルを指で弾き/ガイアウィスパーを響かせ、

「変身」
《――UTOPIA――》

 仮面ライダーバースへと/ユートピア・ドーパントへと変身した。
 両者を前にシャドームーンは、サタンサーベルを一振りして構えを取る。
 三つ巴の戦いが今始まった。

555 ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/22(日) 10:50:15 ID:WAwjwZJA0


        ○ ○ ○


 バースがバースバスターを構え、二人の敵へと掃射する。
 そのメダル型の光弾をシャドームーンはサーベルで弾き、バースへと接近する。
 対してユートピアは光弾の軌道を歪曲させ、見当違いの方向へと飛ばす。

 バースへと接近したシャドームーンは、メダジャリバーを取りだしたバースと切り結ぶ。
 そこへユートピアが炎を放ち、二人を諸共に攻撃する。

 炎を回避したバースはバースバスターのバレルポットを銃口へと装着し、セルバーストを放つ。
 シャドームーンもまた炎を受ける事はなく、バースの攻撃を受けるか、防いだ後の隙を狙うべくユートピアへと切り掛かる。

 だがユートピアはセルバーストの光弾を目の前で静止させ、同時にシャドームーンも空中へと浮かせる。
 そしてそのままシャドームーンへと光弾を弾き飛ばす。
 宙に浮かされ、動くための足場のないシャドームーンに光弾を躱す術はない。

「チィッ!」
「な――!」

 故にシャドームーンは、バースを盾にすることでその一撃を防いだ。
 咄嗟に左手から放った雷光でバースを捉え、光弾の射線上へと投げ飛ばしたのだ。

「ガハ………ッ!」

 己自身の一撃をまともに受けたバースは大きく弾き飛ばされ、地面へと倒れると同時に変身が解ける。
 痛む体を押して顔を上げれば、シャドームーンとユートピアはノブナガの事など意に介さぬように向き合っていた。

「まさかあのような方法で防ぐとは。私、貴方をすこし見直しました」
「厄介な能力を持っている様だが、邪魔者も消えた。次は通じんぞ」
「私の能力があれだけだと思っているのなら、それは間違いですよ」

 そう言うとユートピアは辺りに稲妻を鳴り響かせ、
 シャドームーンが対抗するように左腕に雷光を纏わせる。
 そしていざそれを相手に放たんとした時、

「―――なッ!」
「に………!?」

 突如として現れた謎の鎧武者から、強力な斬撃が放たれた。
 完全な不意打ちとなった一撃を二人は防ぐ事が出来ず、先ほどのバースと同じように大きく弾き飛ばされる。
 それを見届けた鎧怪人は僅かにふらつく様に立ち去って行った。

556 ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/22(日) 10:50:58 ID:WAwjwZJA0



 シャドームーンが再び立ち上がり辺りを見渡した時、そこには誰もいなかった。
 戦いに横槍を入れた鎧武者も、強敵と判断したユートピア・ドーパントも、倒れているはずの仮面ライダーの男も。

「九つの世界に属さない仮面ライダーに、USBメモリを使う怪人か」

 戦いが終わった事を把握したシャドームーンは変身を解き、そう呟く

 彼らが一体どこの世界に属する存在かは分からない。
 だが少なくとも、真木清人が大ショッカー以上の技術を持っていることは理解出来た。
 それはこの、ショッカーのマークをあしらったコアメダルからも明らかだ。
 他にも真木清人の説明の時に目撃した機動兵器の事もある。
 この殺し合いが一筋縄ではいかないのは確かだろう。

 だがそこまで考えてなお、ノブヒコの顔から余裕は消えなかった。
 彼にとって、それらは全て瑣末な事だからだ。

 仮面ライダーは殺す。真木清人も殺す。大ショッカーに逆らう者は全て皆殺しにする。

「せいぜい王を気取っているが良い、真木清人よ。
 いずれ世界は、我々大ショッカーによって支配されるのだからな!」

 そう言って創世王シャドームーンは、凄惨な笑みを浮かべで歩きだした。


【一日目-日中】
【F-3/エリア中央】

【月影ノブヒコ@仮面ライダーディケイド】
【所属】緑
【状態】ダメージ(微小)
【首輪】85枚:0枚
【コア】ショッカー
【装備】サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜2
【思考・状況】
基本:真木清人や、大ショッカーに刃向う者を抹殺する。
1.大ショッカーに従う者を探す。従わない場合は殺す。
2.仮面ライダーは殺す。利用できそうなら利用する。
3.ユートピア・ドーパントと、鎧武者怪人(正体は知らない)を警戒する。
【備考】
※ショッカーのコアメダルではショッカーグリードは復活しません。
※ショッカーメダルでコンボを成立させると、変身解除後ショッカーメダルは消滅します。

557 ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/22(日) 10:51:24 ID:WAwjwZJA0


        ○ ○ ○


 戦いの場から少し離れた場所。
 道路と海が不自然に直面した境界から、一人の男が這い上がってきた。

「少し、酷い目に会いましたね」

 その男――加頭順は、鎧武者の一撃を受けて弾き飛ばされた際に、海へと落ちてしまったのだ。


「Wとは違う仮面ライダーが二人もいるとは。私、ゾクゾクします」

 加頭順は無表情のままそう言って歩き出す。
 次の目的地は決まっている。それはすなわち園咲邸。
 ずぶぬれになった服を着替える意味も込めて、その場所へと向かう。

 不死の兵士、『NEVER』である彼か風邪を引くことはない。
 だが、濡れた服が不快であることに変わりはないのだ。
 それに何より、彼が愛した人の家でもある。


 実を言えば、加頭順にとって月影ノブヒコの提案は別段拒否する様なものではなかった。
 それを彼が蹴ったのは、彼の愛する女性は誰かに“命令”されることを嫌い、かつ月影ノブヒコが彼女を害する可能性が高かったからだ。
 故に彼は、その危険性のある月影ノブヒコを排除しようとしたのだ。


 ―――こんなに感情のこもっていない告白は初めて。


 それが、彼が彼女の事を好きだと告白した時の返答だった。
 彼は普段から表情に乏しく、内心を理解されることが少ない。
 だから彼は決意した。

 表情で、言葉で感情が伝わらないのなら、行動で伝えよう。
 たとえこの想いが報われずとも、彼女がそれを理解してくれれば、今はそれでいい。
 そのためにも、

「待っていてください、冴子」

 園咲冴子を、この殺し合いの勝者とする。
 そうして彼女のための理想郷を、創り上げるのだ。

 その誓いを胸に、不死身の怪人は歩きだした。


【一日目-日中】
【G-4/住宅街】

【加頭順@仮面ライダーW】
【所属】青
【状態】健康、ずぶ濡れ
【首輪】85枚:0枚
【装備】「UTOPIA」のガイアメモリ+ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:園崎冴子への愛を証明する。そのために彼女を優勝させる。
1.園咲邸へと向かい、服を着替える。
2.参加者達から“希望”を奪い、力を溜める。
【備考】
※参戦時期は園咲冴子への告白後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。

558 ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/22(日) 10:51:58 ID:WAwjwZJA0


        ○ ○ ○


 そうしてシャドームーンとユートピア・ドーパントに不意打ちをしかけた鎧武者は倒れ、後にはノブナガ一人が残った。
 ノブナガは、彼の織田信長のミイラとセルメダルによって生成されたホムンクルスだ。
 故にその体はセルメダルで構成され、その在り方はグリードに等しい。

 しかしその事実を、ノブナガが忌避することはない。
 彼はグリードの如きおのれの肉体さえも、己が力として受け入れているのだ。

 ただ一つ。彼の肉体と自我が、時と共に崩壊していく事を除いて。

 今でこそ内包する黒いコアメダルによって安定してはいるが、それでも肉体を維持するためにセルメダルが消費されている。
 つまりは本物のグリードよりも遥かに劣っているのだ。

「はッ……。元より泡沫の夢の様なものだ。未だに存在していられるだけましであろう」

 自嘲するように吐き捨て、空を見上げる。
 以前は見向きもしなかった青い空。友と共に見上げた遥かな蒼は、今も変らずにそこにある。

「英司よ。お前は今も、誰かのために戦うのだろうな」

 自分が知る英司の性格を鑑みれば、それは間違いないだろう。
 であれば、彼の助けになる事が、恩を返す道だろうか。

 一枚のオレンジ色をしたコアメダルを取りだす。
 グリードの在り方に近いノブナガは、コアメダルの能力も取り込むことが出来る。
 そしてこのコアメダルによって、すぐに不意打ちできる程度にダメージを抑えられたのだ。
 バースの力ではグリードには敵わない。怪人体でもそれは同じだろう。

 ……あるいは、多くのコアメダルを吸収すれば、グリードを倒せるほどの力を得られるかもしれないが。

 何にせよ、オーズの力が必要なのは間違いないだろう。
 これがどこの陣営に属するメダルかはわからないが、きっと英司の助けになってくれるだろう。

「たまには他者のために力を尽くすのも悪くはない、か。
 そうだな……この世の全ては俺のものだ。故に、俺のものを傷つける輩を赦しはせん」

 この世で最も強い欲望を持つ男、織田信長。
 そのホムンクルスであるノブナガもまた、強い欲望を持つ。
 その欲望が、自らの物を他者に奪われることを良しとしないのだ。
 それに何より、

「覚悟せよ真木清人。貴様には、必ずや天誅を下してやる」

 奴が俺を愚弄したことを、忘れてはいないのだからな。

 そうして欲望の権化である男は立ち上がり、新たな覇道を歩きだした。


【一日目-日中】
【F-3/エリア東部】

【ノブナガ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】ダメージ(小)
【首輪】65枚(消費中):0枚
【コア】サソリ、カニ、エビ、カメ
【装備】バースドライバー@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:この世の全ては俺の物。故に、それを傷つける輩には天誅を下す。
1.火野英司と合流する。
2.コアメダルを集め、グリードに対抗できる力を得る。
3.友として、火野英司に恩を返す。
【備考】
※参戦時期は、英司に看取られながら消滅した後です。
※肉体・自我の維持にメダルを消費します。
 またその消費量は、内包する甲殻類系のコアメダルが少ないほど増加します。
※甲殻類系のコアメダルによるコンボチェンジは出来ません。
※爬虫類系コアメダルではグリードは復活しません。

559 ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/22(日) 10:55:12 ID:WAwjwZJA0
一部扱いが心配なところもありますが、以上で投下を終了します。タイトルは 創世と理想と欲望の王 です。
何か意見や、修正すべき点などがございましたらお願いします。

560名無しさん:2012/01/22(日) 11:18:12 ID:236Qg1Do0
投下乙です!
ああ、ラスボス軍団が三竦みの戦いがこんな結末になるとは……
誰か死ぬかと思ったけど、ちょっと安心したw

それと加頭は冴子の事は「冴子さん」と呼んでいたと思います

561名無しさん:2012/01/22(日) 13:28:11 ID:pjH4Cf6M0
投下乙です

三人とも濃いなあw
序盤からこんなに飛ばして大丈夫かなと思ったがこれはこれで先が楽しみな展開でした
対主催1人、マーダーが2人かあ。まあ、三人ともマーダーで協調関係とか築かれるより遥かにマシか

562名無しさん:2012/01/22(日) 14:01:06 ID:jIBo4tkcO
投下乙です!ああ、見ないと思ったらバースやジャリバーはこっちかw

ショッカーにカメ、これは劇場版コンボフラグ?

563名無しさん:2012/01/22(日) 15:34:04 ID:ghEYr5r2O
ライダー史上最強フォーム。タマシーコンボキターーーー\(^o^)/
…でもその為にはメダルをそろえないと。儚い夢で終わりそう。

564名無しさん:2012/01/22(日) 16:43:41 ID:njcoutQg0
投下乙です!
おお、ショッカーメダルがついに出ましたか……果たしてあの夢のフォームは実現するか!?

565名無しさん:2012/01/22(日) 17:32:53 ID:4JKoaXNM0
投下乙です!
ショッカーコア来たかwww
皆さまも予想の通りタマシーワンチャンあるかもw
加頭は進路上に戦場もあるし、これからが楽しみです

566名無しさん:2012/01/22(日) 23:31:02 ID:ghEYr5r2O
イマジンメダルってあるのかな?やっぱり原作みたいにモモタロスをメダル化しないといけないのかな?

567名無しさん:2012/01/23(月) 01:50:09 ID:mZ5LoTR60
>>566
デンオウベルトの支給品解説曰く、モモタロスから抜きとれるかもしれないらしい。
フェイリスが電王ソードフォームになってる時に、アンクが腕でも突っ込んだら取れるんじゃないかな、イマジンメダルw

568名無しさん:2012/01/23(月) 20:16:43 ID:C6hSb.pw0
投下乙です。それから誤字の報告を
英司ではなく「映司」が正しいです

あと余計なお世話かもしれませんが加頭の性格なら呼び捨てよりも
「冴子さん」と呼ぶほうが自然だと思います

569 ◆ZZpT6sPS6s:2012/01/23(月) 23:22:27 ID:bY7cwkgw0
>>560>>568
失礼しました。
wiki収録時に修正します。

570名無しさん:2012/01/24(火) 18:01:23 ID:ACiUrsMg0
そんなフェイリスとアンクの距離は近いから、実現も遠くない?w >タマシーコンボ

571名無しさん:2012/01/25(水) 23:46:23 ID:CjzMClhoO
ふと思ったけど、確かアンクって本体は右手だろ。だったら右手だけ離脱すれば簡単に首輪から解放できるんじゃない?
…まあ確実に無理だけどね。ただそのことが本編では描写してないから少し気になったんだけど、そこのところはどうなっているの?

572名無しさん:2012/01/26(木) 12:08:59 ID:egHo0MGg0
やっぱり右腕にも首輪がついてるとかそういう扱いになるんじゃないかな?

573名無しさん:2012/01/26(木) 12:12:00 ID:NRCwabRMO
まだ未登場キャラが何人かいるのに、三回くらい書かれてるキャラがいたりするけど
こういうのって普通なの?

574名無しさん:2012/01/26(木) 12:45:53 ID:pMVvWqEk0
特に問題ないと思う
未登場キャラもそのうち書かれるだろう
書きたいと思って選ばれたわけだから

575名無しさん:2012/01/26(木) 13:06:25 ID:/fmatho2O
>>572
首輪が腕についているなら、本体の泉慎吾はどうなる?この時期は確か体が万全になってるからアンクがいなくても大丈夫だと思うけど。

576名無しさん:2012/01/26(木) 13:12:57 ID:/fmatho2O
>>575
補足です。
アンク本体が死んだら本体の泉慎吾についている首輪は無効になる?それとも連動で爆破?

577名無しさん:2012/01/26(木) 13:34:02 ID:egHo0MGg0
両方に首輪ついてるけど、片方が死んだらもう片方も死ぬなら泉刑事もアンクもお互いに守り合わなきゃいけなくなるから面白そうかも。
名簿の名前をアンク(泉慎吾)とかにした方が良かったかも。今から変えるんじゃ遅いかな?

578名無しさん:2012/01/26(木) 16:51:59 ID:rveszCJg0
そのへんを提案するんなら書き手さんの意見待ちだな
ついでに言うなら専用したらばの議論スレに話を挙げてみるのが良いと思う

基本アンクだから名簿はそのままで、状態表に「【状態】憑依:泉慎吾」みたいな感じでも良いんでない?今から変えると面倒も多いし
あと思いつきだけど、泉慎吾はノー首輪の完全ステルスでも面白いかもとか言ってみたり

579名無しさん:2012/01/26(木) 17:33:14 ID:9Vg.iG6.0
コアメダルを失う以外で泉慎吾から離れられない。というのはどうだろう。
首輪の状態が不明なのは、復活した場合のグリード達(体がセルに分解されたため)も一緒だし。

で、他のグリードもアンクに倣って誰かの体を乗っ取れば、コアメダル一枚(セルは百枚?)でも復活可能とか。
まあこれは議論が必要だと思うけど。

580名無しさん:2012/01/26(木) 22:44:23 ID:/fmatho2O
わかりました。とりあえず議論スレに挙げてみます。

581 ◆LuuKRM2PEg:2012/01/26(木) 22:56:34 ID:2ZwGAAug0
全体の流れに関わる話をしてる最中に申し訳ありませんが、自分も投下を開始します。

582 ◆LuuKRM2PEg:2012/01/26(木) 22:57:41 ID:2ZwGAAug0
『そうか―――ああ、安心した』

 衛宮切嗣の脳裏に蘇るのは、かつての聖杯戦争で巡り会うことの無かったマスターの言葉。
 バーサーカーのマスターである彼、間桐雁夜は大切な人を救うために聖杯戦争に参加した。そして自らの肉体を犠牲にして魔術を会得した。
 全ては間桐桜というたった一人の少女に、再び笑顔を取り戻させたいという純粋な願い。
 だけど、彼を救うことは出来なかった。バーサーカーからアストレアを救っている隙を付かれて、雁夜は殺人鬼に殺されてしまう。
 夢も、願いも、幸せも――――――雁夜が望む全てを、取りこぼしてしまった。

『わかった―――桜ちゃんは、僕が救おう。だから君は、少し休め』
『僕は『正義の味方』だからね。誰かが悲しんでいるのを、見過ごすことは出来ないんだ』

 罪のない人々を助けられる『正義の味方』であることを、士郎や雁夜に誓ったはずだった。その為にも、こんな意味の分からない殺し合いを打ち破ると決めたはずだった。
 その矢先に、救いたいと思った雁夜をかつてのように死なせてしまう。シャーレイや、ナタリアや、舞弥や、アイリスフィールを始めとした大勢の人と同じように。
 雁夜を救えなかったという事実が切嗣に襲いかかっていた。かつて『魔術師殺し』と恐れられた頃ならそんな感情は切り捨てたかもしれないが、今は違う。
『正義の味方』を志した彼には、あまりにも許し難い失敗だった。

『改めて約束するよ、間桐雁夜。
 君が救おうとした桜ちゃんは―――僕が救ってみせる。
 だから君は、安らかに眠ってくれ』

 それでも、弱音を吐いて止まることは決して許されない。
 この殺し合いに放り込まれた人達を一人でも多く救い、馬鹿げたことを強制させる真木清人とグリードを仕留める。それから桜やイリヤスフィールを救うまで、倒れることは出来なかった。
 
「……ここは、空に浮いてるのか?」

 そして切嗣は今、アストレアとバーサーカーの二人を連れて会場の外縁部に立っている。
 円形の会場が描かれている地図の端にあるのは、青い空と白い雲。それが気になって会場の端に辿り着いて見えるのは、果てしなく続く空と風に流れる雲だけだった。
 下を覗き込んでも、大量の厚い雲によって海や大地は全く見えない。要するに、ここは空に浮かんでいるのだ。

「この下どうなってるのか、見てこよっか?」
「いや、やめた方がいい。ここは真木清人の息がかかった場所だから、下手に飛び込むと何が起こるか分からない」

 身を乗り出そうとするアストレアを切嗣は静止する。
 いくら彼女が空を飛べるとはいえ、この舞台の外を確かめさせるわけにはいかなかった。会場の裏に飛び込んだ瞬間、魔術で蜂の巣にされてしまう恐れがある。
 そうでなくとも、あまりにも危険すぎると切嗣は思った。赤みを増しているこの空が、いつも見慣れている空と同じには見えなかったため。
 夕焼けの赤が、まるでよく見慣れている血の赤のように思えてしまった。

「ここって、シナプスなのかな?」

 そんな中、アストレアは呟くのを切嗣は聞き取る。

「……シナプス?」
「うん、あたし達エンジェロイドが生まれた場所! ここみたいに街がたくさん……あっ!?」

 アストレアは饒舌に語ろうとした瞬間、何かに気付いたかのように目を見開いた。
 それを見た切嗣は怪訝な表情を浮かべてしまう。

「……どうかしたのかい?」
「えっと、その……あの……なんて、漫画があるの!」
「えっ?」
「だからシナプスって言うのは……そう! 最近流行ってる漫画なの! ここみたいに空に浮いてる島がたくさん出てくる漫画!」
「……そうなんだ」

 無理やりな笑顔を作るアストレアの返事はしどろもどろとしていた。恐らく、触れてはいけないワードに触れてしまったのかもしれない。
 シナプス。どうやらアストレアを始めとしたエンジェロイド達が生み出された場所で、ここのように浮遊している都市の事をいうのだろう。

583休憩!! ◆LuuKRM2PEg:2012/01/26(木) 22:58:25 ID:2ZwGAAug0
 バカな彼女をここまで狼狽させるほどだから、聖杯戦争のように普通の人間に知られてはいけない存在かもしれない。もしも無理に聞き出そうとしたら秘密を守るための特別なプログラムが発動して、とんでもない事が起こる可能性があった。
 だからシナプスとやらを知りたいならば、ゆっくりと時間をかけて遠回しに聞き出すしかない。

(まさか……そのシナプスという奴がこの殺し合いに関わっているのか?)

 ふと、切嗣は考える。
 これだけの大規模な会場を作れるなんて普通の魔術ではあり得なかった。大聖杯のような存在なら別かもしれないが、それでも空を飛ぶ大陸を生み出せるなんて聞いたことが無い。
 だがエンジェロイドの誕生に関わっている存在ならどうか。シナプスの技術力がどれほどの物かは知らないが、アストレアの戦闘能力の高さを見るに現代技術を遥かに凌駕している。
 そんな連中があの真木清人の背後にいる可能性が、大いに考えられた。

(それにこの腕に令呪を復活させたという事は、この戦いには魔術協会も関わっている可能性も頭に入れないとな)

 この世界に放り込まれた切嗣の腕に宿る三つの令呪もまた、彼にとって気がかりとなっていた。
 五年前、アイリスフィールと共に召還したセイバーの使役に使われた令呪は全て使い果たしたはずなのに、こうして宿っている。すなわち、真木のバックには魔術師やサーヴァントだって関わっている可能性があった。
 例えるならかつての宿敵、言峰綺礼のような薄気味悪い人物が真木と繋がりを持っているかもしれない。

(……ともかく、もっと情報を集めないと。今のままでは結論は出せない)

 勿論、可能性はただの可能性でしかない。
 真木の背後に聖堂教会やシナプスが関わっている証拠はあまりにも少ないし、この会場にその技術が利用されてるとも限らない。
 そして仮に殺し合いに関与しているにしても、アストレアからの情報だけでは打破への切り札に繋がらないだろう。シナプスの秘密を握っているであろうエンジェロイド達がわざわざこんな状況に放り込まれていると言うことは、仮に彼女達から情報を引き出してもそれに対処する方法を持っているはずだ。
 もっとも、アストレアから出来るだけ情報を聞くことも忘れないが。

「アストレア、あの学校に行って一旦休憩しよう。さっきの戦いで君も疲れてるし、そろそろ食事の時間だろ?」
「えっ、ごはん!? やった〜!」

 するとアストレアはさっきの動揺が嘘のように、明るい笑顔を浮かべてはしゃぎだす。
 その天真爛漫な姿を見て、切嗣はイリヤスフィールや藤村大河を思い出してしまい笑みを浮かべた。
 幸いにも雁夜とバーサーカー、そして誰――切嗣は知らないが、バーサーカーとの戦いに敗れた剣崎一真――の物かはわからないデイバッグの中には三食分の弁当がある。それだけで食欲旺盛な彼女には足りるか分からないが、足りないなら学校内を探すしかない。
 アストレアとバーサーカーを引き連れながら切嗣は、県立空美中学校を目指して歩き出した。





「ごちそうさまでした!」

 県立空美中学校の調理室に備え付けられた椅子に座るアストレアは、支給品の弁当とこの部屋から調達した大量の缶詰を満足するまで食べた。
 備え付けられた量はあまりにも多く、流石の彼女でも食べ切れなかったから残りをデイバックに収めている。
 その際、食欲という名の欲望が満たされたことで首輪にセルメダルが溜まるも、アストレアはそれに気付かない。

「もういいのかい?」
「うん、おなかいっぱいになったから!」
「そうか、それはよかった」

 アストレアが向ける眩い笑顔に答えるように、切嗣も微笑む。

「なんだかここって、智樹たちがいつも行ってる学校に似てるな……」
「多分、真木が似せて作ったんだ。何でわざわざそんな事をする必要があったのかは、まるで分からないけどね」
「ふ〜ん……」

 この辺り一体がよく知っている空美町に似ていることが彼女は気になっていたが、すぐに
 よく分からないが、ここはあの町にそっくりなだけ。だからいつも感じているような心地よさは全く感じられなかった。

584休憩!! ◆LuuKRM2PEg:2012/01/26(木) 23:00:53 ID:2ZwGAAug0

(それにしても、なんなんだろこのカード? トランプに似てるけど……)

 アストレアは今、焼け焦げた大桜の近くに散らばっていた一四枚のカードをまじまじと見つめている。
 一見するとスペードのトランプに似ているが、どれも変な虫や動物の絵が描かれていた。しかもその一枚であるジョーカーには、変なマークが妙に存在感を放っている。
 気になったので回収したが、アストレアには用途がまるで分からなかった。これでみんなと遊ぼうとも考えたが、トランプは五十三枚が無いと遊べないのはバカな彼女とて知っている。
 何よりも遊ぶ相手がいなかった。切嗣は考え事をしているし、バーサーカーという黒い騎士は全身から不気味なオーラが感じられてとても誘えない。
 第一、先程から何度も声をかけたが何も答えなかった。だからアストレアは諦めてしまう。

(まいっか、わからなくなったらみんなに聞けばいいし。それに今は切嗣達の力にならなきゃ)

 今やるべき事はここにいる二人の力になって、みんなを探すこと。それがバカな自分なりに出した、答えなのだから。
 切嗣は勿論のこと、バーサーカーも今は頼れる仲間らしいから力にならなければならない。ただし、さっきみたいに暴れだすなら話は別だが。
 
(……シナプスのことも、やっぱり話した方がいいのかな)

 さっきは思わず誤魔化してしまったが、切嗣は情報を欲しがっていた。でもエンジェロイドがシナプスのことを話すのは、本当ならあってはいけない。
 しかしそれは空のマスターを始めとしたシナプス人が決めた掟であって、既にニンフを助けるためにシナプスを裏切っている。
 だからもし、その時が来たら切嗣に話せることを話すべきかもしれない。それは誰からの命令でもなく、アストレア自身が決めたことなのだから。


【一日目-夕方】
【D-1/県立空美中学校 調理室】


【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】ダメージ(小)
【首輪】110枚:0枚
【装備】トンプソンセンター・コンテンダー@Fate/Zero、起源弾×12@Fate/Zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】基本支給品(弁当なし)、スコープセット@Fate/Zero、首輪(間桐雁夜)、ランダム支給品2〜6(切嗣+雁夜:切嗣の方には武器系はない)
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
1.今はここで体を休める。
2.1が完了したら、あるいは併行して“仲間”となる人物を探す。
3.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
4.バーサーカーの動向に気をつける。
5.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
6.謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
7.セイバーと出会ったら……?
8.間桐雁夜への約束で、この殺し合いが終わったら桜ちゃんを助けにいく。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※バーサーカー用の令呪:残り二画
※セイバー用の令呪:残り三画
※アストレアから、智樹たち、及びエンジェロイドの情報を聞きました。
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。



【アストレア@そらのおとしもの】
【所属】緑
【状態】健康、満腹
【首輪】145枚:0枚数(増加中)
【装備】超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品×4(アストレア、剣崎、雁夜、バーサーカー。その中から弁当二つなし)、剣崎の不明支給品0〜3、ラウズカード(スペードの1〜13、ジョーカー)、大量の缶詰@現実
【思考・状況】
基本:自分で決めた事をする。
1.衛宮切嗣に協力する。
2.知り合いと合流(桜井智樹優先)。
3.バーサーカーの動向に気をつける。
4.謎の少年(織斑一夏に変身中のX)を警戒する。
5.なんだろ……このカード(ラウズカード)?
6.切嗣にシナプスのことをきちんと話した方がいいかな?
【備考】
※参加時期は48話終了後です。
※大量の缶詰@現実は県立空美中学校 調理室から調達しました。
※食欲が満たされたので、セルメダルが増えています。(ただしお腹が減ったらセルメダルの増加は止まります)

585休憩!! ◆LuuKRM2PEg:2012/01/26(木) 23:01:35 ID:2ZwGAAug0
【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤陣営
【状態】ダメージ(小)、魔力消費(小)、狂化
【首輪】95枚:0枚
【装備】白式@インフィニット・ストラトス、王の財宝@Fate/zero
【道具】アロンダイト@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:▅▆▆▆▅▆▇▇▇▂▅▅▆▇▇▅▆▆▅!!
2.令呪により、一応マスター(衛宮切嗣)に従う。
【備考】
※参加者を無差別的に襲撃します。
 但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます。
※令呪による呪縛を受けました。下記は、その内容です。
 ・害意を持たぬ者への一切の攻撃を禁止する。
※ヴィマーナ(王の財宝)が大破しました。



以上で投下終了です。
問題点などがありましたら、指摘をお願いします。

586名無しさん:2012/01/27(金) 13:05:02 ID:iKvzLAJw0
投下乙です

とりあえず小休憩だがお馬鹿さんはまたとんでもないアイテム持ってるじゃんかw
キリツグに見せない様だがその判断がどう転ぶか…
戦力的にはバサカいるけど…

587名無しさん:2012/01/27(金) 17:37:09 ID:Jodlf4IIO
投下乙です!さて、ラウズカードを拾ったか・・・誰かの支給品にレンゲルあったら大惨事だなw

588名無しさん:2012/01/27(金) 22:36:05 ID:lJJAUXuE0
投下乙です
ロワの基本的な設定的にガラの使った天秤の方が近いんだろうけど、シナプスが関与していても面白いかもしれませんねw

あと指摘だけど、王の財宝が剣崎の支給品なので、アストレアの持ってる不明支給品は数的に剣崎の物とは限定できないと思います。

589 ◆LuuKRM2PEg:2012/01/28(土) 08:44:12 ID:yBX2puKE0
ご指摘ありがとうございます。
収録時に修正します。

590名無しさん:2012/01/28(土) 09:47:53 ID:BMdc/HRA0
乙です。このロワでも剣崎は不幸な目にあうのか・・・

591名無しさん:2012/01/29(日) 00:12:46 ID:Yffr7UEU0
このロワ黒幕候補多いな
QBに財団X、ガラ、シナプス、大ショッカー

592名無しさん:2012/01/29(日) 00:43:27 ID:FrJFHPGo0
シックスあたりも絡んでる可能性あるな

593名無しさん:2012/01/29(日) 00:56:20 ID:kNY8u4SEO
さらに、SERN、束、言峰。タイバニは見てないから知らん。

594名無しさん:2012/01/29(日) 01:08:52 ID:ykfCK/L.0
ウロボロスは謎が多すぎてちょっとつらそうだな
よくてマーベリックさんとか

595名無しさん:2012/01/29(日) 12:50:00 ID:nv7WxpqY0
あとミュージアムと鴻上ファウンデーション

596名無しさん:2012/01/29(日) 20:20:25 ID:mErhS.SA0
大ショッカーなら首領は誰だろう
士もノブヒコもいるわけだし

597名無しさん:2012/01/29(日) 21:11:43 ID:KPR8VenY0
完結編の時みたいに死神博士とハチ女のタッグとか?

598名無しさん:2012/01/29(日) 21:26:11 ID:kNY8u4SEO
もしくは士妹?

599名無しさん:2012/01/29(日) 21:58:13 ID:KPR8VenY0
ショッカー(オーズ&電王)版という選択肢もあるぞ

600名無しさん:2012/01/29(日) 22:16:03 ID:kNY8u4SEO
ショッカーを裏で操っていたのはやはり貴様か!岩石大首領!!

601名無しさん:2012/01/30(月) 01:56:01 ID:pTTApJ6Q0
今日はパロロワ毒吐き別館の交流雑談所スレでオーズロワの語りをやってますよー

602名無しさん:2012/01/31(火) 11:43:19 ID:GPBd1ZUYO
全部組んだらヤバイな

603名無しさん:2012/01/31(火) 12:03:26 ID:W1EfN2js0
歴代最強の主催者が出来上がるぞw

604名無しさん:2012/01/31(火) 15:17:32 ID:AKTtwrIw0
いや、新漫画ロワみたいに内部分裂するのがオチだろww

605名無しさん:2012/01/31(火) 17:41:40 ID:RkdK/Xv2O
アニロワ3rdも主宰側協調性皆無だよな、まあリボンズゥゥゥ!だしw

606名無しさん:2012/02/02(木) 19:16:40 ID:Q3ixfurI0
初代ライダーロワは神崎士郎一人だけでやってたな

607名無しさん:2012/02/02(木) 19:50:26 ID:erkr1itAO
最終的にはキングたちに乗っ取られたけどな。

608名無しさん:2012/02/03(金) 17:20:52 ID:siDNUzL.0
連絡ないなあ…

609名無しさん:2012/02/03(金) 22:24:17 ID:C0CCEuoQO
いっその事、予約期間1ヶ月とかにする?
気軽に予約出来るようになるよ
めちゃ気の長い企画になりそうだけど

610名無しさん:2012/02/03(金) 22:45:47 ID:siDNUzL.0
それ、小馬鹿にしてる意味で言ってるの?
ここの書き手はそれぐらいしないと期間守らない連中ばっかりだぜって意味か?

611名無しさん:2012/02/03(金) 23:11:05 ID:.aPmB3Vo0
もちつけ

612名無しさん:2012/02/04(土) 00:17:11 ID:1VTwMIRgO
いや、もちろん1ヶ月使わないでも
書きおわったら投下してもらえばいいんだし…
早く書ける人は早く書いても全然問題ないですよ

613名無しさん:2012/02/04(土) 08:16:37 ID:jgjt.3YE0
うーん、悠長だなぁ
48時間経ってからようやく修正作業に入るのか…
今って予約期間切れてる状態で本投下されてないわけだから、誰かが予約しようと思えば出来るんだよな
その辺のルールとか全然決めてないし…
だから悠長に構えていられるのかもしれないけど、逆に言えばルールで保護されてない状態なんだよ

614名無しさん:2012/02/04(土) 08:19:05 ID:RZKAUmyY0
「予約されても構わない」って覚悟なんじゃないか

615名無しさん:2012/02/05(日) 14:49:37 ID:chjA6wU20
というか、どう修正するつもりなのか不安しかない
そらおと本編内容からだと、まともなクローンは作れないわけで

616名無しさん:2012/02/05(日) 16:36:23 ID:tfXpZE9Y0
>>614
確かにそうかも試練が今の状況で予約したらKYだろ

617 ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 08:22:44 ID:meNTWQsc0
これより、予約分の投下を開始します

618 ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 08:23:57 ID:meNTWQsc0


月影ノブヒコは憤っていた。
 創世王たる自分自身を駒と扱ってこのような下らぬ催しに放り込んだ、真木清人という愚か者に対して。
 そして、偉大なる大ショッカー大首領の名を背負った自分自身が、それを許してしまうような醜態を晒してしまった事に。
 弱き人間どもが醜い本性を現して、互いに殺し合う自体は本来ならば至高の宴として見ていただろう。他者を蹴落とすこと自体も全く躊躇うことはない。
 しかしだからと言って、真木という男やそれが率いるグリードなどという怪人に従う道理など微塵もなかった。
 自らのやるべき事は、誇り高き大首領の名に懸けて真木とその犬どもを潰す。その過程に邪魔となるであろう者達も一人残らずだ。

「それにしても、グリードか……」

 あの始まりの会場で真木と共にいた怪人の姿をノブヒコは思い出す。
 メダルを元にして生み出された存在。それは大ショッカーの資料にも一切載っていなかった。
 恐らく大ショッカーのまだ知らぬ世界に生きる者なのだろう。名簿にはあの仮面ライダーの名がいくつも載っていた事を考えるに、真木もまた数多の世界を行き来する力を持っているかもしれない。
 それこそ、仮面ライダーのいない世界から超常的存在を連れてきた可能性だってある。何にせよ、現状では戦うにしてもデータが足りなさすぎた。
 癪に障るが、この世界に放り込まれた参加者から情報を引き出す必要もあるかもしれない。負けるつもりはないが、それが原因で足を掬われては元も子もなかった。

「わざわざ当たりを引かせるとは、見くびられたものだな」

 目の前に置かれているサイドカーを見て、ノブヒコは微かに溜息を吐く。先程交戦した加頭順やノブナガと接触する前に、奪われないよう物陰に隠していた。
 それは『555の世界』に存在する巨大結社スマートブレインの技術によって生まれたスーパーマシン、サイドバッシャーだった。
 規格外の速度は勿論の事、ミサイルが何発も搭載されており凄まじい戦闘能力も持つ。これを自分に渡したという事は、主催者達は自分に戦いの促進剤になれと言う意味なのか。
 ならば精々、奴らの欲望に答えてやればいい。元より邪魔者を排除して、その果てに真木を握り潰す算段だ。
 そう思いながらノブヒコはサイドバッシャーに跨り、勢いよくハンドルを捻る。その走りは彼の信念を体現するかのように堂々としており、凄まじかった。



○○○



「……なるほど、仮面ライダーとは別の戦士か」

 サイドバッシャーに乗ったノブヒコは、目の前で繰り広げられている戦いを見て感嘆したように呟いた。
 甲冑を纏った金髪の少女が大型のバイクを運転しながら、得物を振るう動作をしている。その手には何も握られていないが、一度腕を振る度に上空より飛来する弾丸を確実に弾いていた。
 少女の両腕付近には、よく見ると大気が唸っているのが見える。どういう原理かは分からないが恐らく目には見えない武器で、相手を丸腰だと油断させるのに一役買っているのか。
 そして、その弾丸が放たれる上空にいるのもまた少女だった。黒い眼帯を付けた銀髪の少女は、その華奢な身体に重厚な武装を纏って飛行している。
 少女達のような強い戦闘力を持つ存在がいる世界をノブヒコは知らなかった。恐らくライダーのいない世界から真木が連れてきたのだろうが、実に興味をそそられた。
 あれだけの戦闘力や技術力を知ることが出来れば、大ショッカーにとって大いなる力となる。
 だがしかし、今ここで戦闘に介入する訳にもいかない。奴らのような相手なら充分太刀打ち出来る範囲だが、わざわざ飛び込んで力を消耗させるのも馬鹿馬鹿しかった。
 真木を倒すための戦力にするのは、奴らが疲弊しきってからでも遅くはない。戦いはあの不可視の剣を握った少女に傾いていたので、決着も遠くないだろう。
 少なくともノブヒコはそう思っていた。

「……あれは?」

 しかしその直後、遙か彼方の上空より勢いよく金髪の少女が迫っているのを見つける。
 銀髪の少女とよく似た武装を装備していたその少女は、両腕に備わった二つの大砲より弾丸を金髪の少女に放った。しかし少女は不可視の剣でそれを弾き落とした後に、背後へ飛ぶ。
 どうやら金髪の少女シャルロット・デュノアは銀髪の少女ラウラ・ホーデヴィッヒの仲間のようだった。シャルロットはセイバーと名乗った少女にコアメダルを渡すと、ラウラを連れて遠くに飛び去っていく。
 そしてセイバーもバイクに跨って、勢いよくその場から走り去った。

619 ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 08:24:57 ID:meNTWQsc0

「……あれは?」

 しかしその直後、遙か彼方の上空より勢いよく金髪の少女が迫っているのを見つける。
 銀髪の少女とよく似た武装を装備していたその少女は、両腕に備わった二つの大砲より弾丸を金髪の少女に放った。しかし少女は不可視の剣でそれを弾き落とした後に、背後へ飛ぶ。
 どうやら金髪の少女シャルロット・デュノアは銀髪の少女ラウラ・ホーデヴィッヒの仲間のようだった。シャルロットはセイバーと名乗った少女にコアメダルを渡すと、ラウラを連れて遠くに飛び去っていく。
 そしてセイバーもバイクに跨って、勢いよくその場から走り去った。

「奴らは無闇に潰し合うだけの馬鹿者ではない……上出来だ」

 三者の姿を見たノブヒコは、どちらを追うべきか思案を巡らせる。彼女達の戦闘が終わった頃に介入して共闘を持ちかけることも出来たが、この状況でそんな提案など受け入られるわけがない。
 むしろ、自分が敵とみなされて新たなる戦いが起こる可能性があった。別に奴らを潰すことに躊躇いはないし、小娘達が束になって刃向かった所で負けるつもりはない。だが戦力となり得る者達をみすみす潰すのも惜しい。
 二兎を追う者は一兔をも得ずという諺があるように、共闘を持ちかけるのは片方にするしかなかった。数で勝った少女達を選ぶか、質で勝ったセイバーを選ぶか。

「――小娘一人ではサーヴァントは倒せないか。やはり、もっと多くの兵力がいるな」
「ん?」

 決断を下そうとしたノブヒコの耳に聞き覚えがある声が響く。振り向いた先には、緑色のジャケットを身に纏った男が歩いているのが見えた。

「奴はまさか……!」

 その姿を見たノブヒコは思わず目を見開く。奴は開幕のホールで真木に近い位置に立っていたウヴァと呼ばれるグリードの一人だ。
 ウヴァの首輪に付いたランプは緑色に光っているのを、ノブヒコは見つける。

「だとすると、あの男が緑陣営のリーダーだというのか」

 真木が言うには、この世界には全部で五人のグリードがそれぞれの陣営のリーダーとなっているらしい。そしてルールブックにはグリード不在中に限り、同色コアメダルの最多保有者がリーダーとなると書かれていた。
 そして、ウヴァは真木にもっとも近い位置にいる。これらの事柄を踏まえてウヴァが緑陣営のリーダーであり、真木の情報や大量のコアメダルを持っている可能性が高い。接触すれば勝利への道が開けるかもしれなかった。
 奴はラウラとシャルロットが飛び去った方に向かっている。どうやらあの男は緑陣営を優勝させるために兵力を集めているらしい。だが、自分を駒と扱う連中の思い通りにさせる気は毛頭無かった。

「こんなにも早く出会えるとはな……!」

 ノブヒコは再び笑みを浮かべながら、サイドバッシャーを走らせた。
 



○○○



「ラウラの奴……遠くにまで行っていなければいいが」

 数時間前、仲間に引き入れたラウラ・ホーデヴィッヒと合流するためにウヴァは歩いている。
 奴はセイバーというサーヴァントとの交戦して窮地に陥った末、突然現れたシャルロット・デュノアの手によって撤退に成功した。しかし二人は余程遠くにまで飛んでしまったのか、なかなか姿を見つけられない。
 彼女達とは急いで合流する必要がある。もしも単独行動を続けている隙に剣崎一真やバーサーカーのような奴と遭遇したら、一巻の終わりだ。
 そしてもう一つ。これは有り得ないだろうが、ラウラとシャルロットが手を組んで自分に逆らう為に妙な事を企てる可能性だってある。そうでないにしても、セイバーとの戦いで消耗した所で違う陣営の奴に殺されてはたまったものではない。
 今は体勢を立て直すために、一刻も早く合流する必要があった。

620創世王、シャドームーン ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 08:26:33 ID:meNTWQsc0
「くそっ、まさか歩くハメになるとは……!」

 ウヴァは思わず舌打ちしてしまう。
 科学技術を結集させて、凄まじい機動力を持つISを持つ人間に徒歩で追いつけるわけがない。せめて乗り物さえあれば話は別だったが、不幸にもライドペンダーはこの付近に一つも見られなかった。
 奴らからこちらの方に来ればいいが、そうでないなら合流するのに時間がかかる恐れがある。ウヴァの中に焦りが生まれていき、歩くスピードが次第に増していった。
 その時だった。遠くよりバイクのエンジン音とコンクリートで舗装された道が削れる音が響いたのは。

「なんだ……?」

 二つの荒々しい音に気付いて、思わずウヴァは振り向いてしまう。刹那、彼の目前に金と黒の二色に輝く巨大なサイドカーが現れた。
 そして、その上に乗っている銀色のスーツを纏った壮年の男を見て、ウヴァは目を見張ってしまった。

「お、お前は……!?」

 そこに現れたのは、自分と同じ緑陣営に属する参加者。それも全参加者の中でも、十本の指に入る程の実力を誇る参加者だった。
 奴は数多の世界に侵略の手を伸ばしてきた悪の巨大組織、大ショッカーを束ねる大首領と崇められた創世王の称号を持つ男。その存在を、ウヴァは知っていた。

「つ、月影ノブヒコ……!」
「やはり私の名前を知っていたか」

 現れた月影ノブヒコの名前を呼ぶウヴァの声は大きく震えていて、額から脂汗が滲み出ていた。
 対するノブヒコは柔和な声で答えたものの、それを耳にしたウヴァは穏やかになることなど出来ない。暗闇のように黒い双眸からはまるで隠そうともしない、絶対的な殺意が感じられたため。
 例えるなら、自らの力量を弁えない愚か者を見下ろすかのような視線だった。それを向けたままノブヒコはゆっくりとバイクから降りるのを見て、思わずウヴァは一歩だけ後ずさる。
しかしその直後、ウヴァは己の行いを悔いた。いくら大ショッカー大首領とはいえ、今は自分達と同じ真木清人に命を握られた参加者に過ぎない。恐らくノブヒコもまたラウラのように真木に反抗しようなどと、偉そうな肩書きに胡坐を掻いたような馬鹿な事を考えているのだろう。
 だが、自分はそんな馬鹿な事を考える連中のリーダーだ。リーダーたる者が格下の連中に舐められる様な行動を取るわけにはいかない。

「……月影ノブヒコ、俺はあんたを探していた」
「何、私を探していただと?」

 だからウヴァは気持ちを落ち着かせて笑みを向ける。

「ああ、俺はこの戦いで優勝するために同じ陣営の参加者を集めようかと考えている……無論、そこにはあんただって含まれている」
「それがどうした」
「あんたには元の世界でやるべき事があるはずだ。全ての世界を支配するっていう、すげえ目的が」

 ノブヒコは未だにこちらを警戒しているのか、視線が刃物のように鋭かった。それは予想の範囲内だったがやはり放たれる雰囲気が重苦しい。
 しかしそれに潰されていては優勝することなど不可能だ。何よりも、ラウラの時の様に舐められたりするのは御免だった。

「もしも俺の陣営が優勝したら、俺の方からドクターにあんたの目的を協力するように頼んでやる……それに、緑陣営の連中で残った好きな奴らを怪人にしたって構わない」
「ほう……それは本当か?」
「当たり前だろう? 俺達にはな、それを可能にする技術だっていくらでもある。何だったら、あんた達大ショッカーがまだ知らない世界の情報だっていくらでも教えてやるよ」
「確かに、まだ知らぬ世界の情報が手に入るのは私にとっても有難い」
「そうだろう?」

 ノブヒコが納得したかのような反応を見て、ウヴァは思わず内心で笑みを浮かべる。
 ラウラの時のように力尽くで従わせようとしても従う男じゃないし、そんな手段で取り入ろうとしても無駄に消耗するだけ。だから上手く懐柔する必要があった。
 この戦いが始まってからまだ数時間しか経っていないが、ラウラやシャルロット、そしてノブヒコのような強い参加者と巡り会えたのは実に運が良い。もしかしたら、この運が続いたまま殺し合いは続いて緑陣営は優勝するのではないか?
 少なくとも、ウヴァはそう思っていた。

「……そう言って、私が納得するとでも思ったのか?」
「は……?」

 一体何を言っているのか? そう思う暇もなく、ノブヒコの腹部が眩い光を放つ。
 刹那、ノブヒコの身体に歪みが生じるのをウヴァは見た。

621創世王、シャドームーン ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 08:28:52 ID:meNTWQsc0

「――ッ!?」

 それを見たウヴァの全身は総毛立ち、反射的に力を解放する。肉体を維持する元となっている大量のセルメダルが擦れ合い、一瞬でグリードの姿に変身した。
 迫り来る火の粉を払おうと、ウヴァは立ち向かおうとする。

「ぎゃあっ!?」

 しかし、彼は悲鳴と共に一瞬で吹き飛ばされてしまった。胸部に焼け付くような激痛が走った瞬間、血潮の代わりに銀色のメダルが胸部より勢いよく零れ落ちる。
 地面に叩きつけられた彼はノブヒコを睨み返すが、既にそこにノブヒコはいない。代わりにいるのは、鉛色の装甲を輝かせた戦士だった。
 無機質は瞳は緑色に輝いて、その手には血の様に赤い輝きを放つ剣が握られている。それこそが、月影ノブヒコが隠していた本当の姿。

「シャ、シャドームーン……!」

 創世王、シャドームーンは圧倒的な威圧感を放ちながら、ウヴァの前に悠然と立っていた。



○○○



 シャドームーンに変身した月影ノブヒコはその仮面の下から、倒れたウヴァを冷然と見下ろしている。昆虫の鍬形とよく似た怪人は慌てふためいているようだった。
 たった一回、サタンサーベルで斬っただけでこんな無様な姿を晒してしまう。それを見たシャドームーンの中に憤怒の感情が湧き上がった。
 こんな小物が自分の上に立っており、あまつさえこんな連中に自分は捕らえられてしまう。これでは大ショッカーの下に数多の世界から集った怪人達に、顔向けが出来ない。
 しかしシャドームーンにそれを悔いる暇など無かった。サタンサーベルの先端をウヴァに突き付けながら、前に進む。

「な、何の真似だ!?」

 ウヴァの言葉にシャドームーンは答えない。
 代わりに返すのは、金属音のように周囲に響かせる足音だけだった。

「何の真似だと聞いてるだろ!?」
「お前のような下等な怪人が、私と対等でいようとはおごがましい……」
「何ッ!」

 シャドームーンは呆れた様子で溜息を吐く。
 こちらの素性を知っているであろう主催者に通じる怪人だから、加頭やノブナガが相手のように下手に出ても意味がない。そう判断して接触したが、奴は事もあろうに大首領たる自分を餌で釣ろうとした。
 すなわち、奴は自分を犬と見なしている。それがシャドームーンの逆鱗に触れたのだ。

「お前達グリードが本当に望みを叶えられる力を持つとしよう……だが、私がそれに食い付くとでも思ったのか?」
「な、何を言ってるんだ! 俺は本当にあんたの……」
「このような茶番を仕組んだ者達に従うような愚か者と見られていたとは、実に腹立たしいな」
「そうかよっ!」

 シャドームーンは足を進めるたびにカチャリ、カチャリと足音が響く。
 一方でウヴァがふらつきながらも立ち上がった瞬間、頭部に生えた二本の触覚より勢いよく光が発せられた。凄まじい勢いで稲妻が生じ、シャドームーンに襲いかかる。
 しかしシャドームーンはそれに構うことなどせずに歩みを進めた。どれだけ稲妻が放たれようとも、サタンサーベルで振り払えば良いだけ。
 だが雷光の輝きは流石に無視出来るものではなく、マイティアイを通じた視界を遮られてしまう。煩わしいとは思うが、そればかりは流石にどうしようもない。

622創世王、シャドームーン ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 08:31:12 ID:meNTWQsc0

「くそっ!」
「無駄だ。お前如きが私を止められるとでも思ったか」
「何だと……!」

 淡々と、それでいて冷酷にシャドームーンが言い放つとウヴァの声は一気に震える。どうやら今の一言で怒りが頂点に達したようだが別にどうでもいい。
 ウヴァの角から迸る雷撃は勢いを増してシャドームーンの鎧に衝突するが、轟音が響くだけでやはりダメージを感じない。これならまだ先程戦った男達の方が、実力が圧倒的に上だった。
 こんな怪人を相手にシャドーキックやシャドーセイバーを使うことなどない。ゴルゴム結社に所属する剣聖と呼ばれた大怪人からかつて奪ったサタンサーベルだけで充分だった。
 一振り、また一振りとサタンサーベルでウヴァが生み出す稲妻を弾き続ける。そのエネルギーは形を崩し、シャドームーンの周りに飛び散って爆発した。

「チッ!」

 やがて角から発せられる光は収まり、雷撃の襲来は終わる。ウヴァはこれまでの攻撃が無意味と悟ったのか、左手の鋭いかぎ爪を掲げて飛びかかった。
 その速度は並の仮面ライダーですらも見切れるものではなく、どんな物でも一瞬で切り裂いてしまうだろう。しかしシャドームーンからすればスローモーションに等しく、まるで脅威にならない。
 サタンサーベルを横に振るってあっさりとかぎ爪を弾き、そのまま勢いよくウヴァの胴体を突き刺した。高い強度を誇る装甲をサタンサーベルは易々と貫き、参加者の力の源となっているセルメダルをばらまける。
 そこから流れるように、縦横無尽とサタンサーベルを振るった。上下左右、変幻自在にその軌道を変えながらウヴァの胸部を切り裂き続ける。その度にウヴァは悲鳴と共に後退するが、シャドームーンは構うことなくサタンサーベルで一閃。
 時折ウヴァは距離が空いた隙を付いてかぎ爪で薙ぐも、シャドームーンは身体を微かにずらすだけでそれを避ける。そこから反撃で赤い魔剣をウヴァに叩き付けた。
 その勢いによって奴の身体は宙を舞って、遠く離れた地面に転がる。だがシャドームーンはこれで終わりなどせず、左腕から放ったシャドービームでウヴァを縛って勢いよく持ち上げた。
 拘束されたウヴァは足掻くも、キングストーンのエネルギーはその程度で破れる物では無い。
 
「フンッ!」
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 重力に引かれて落下する怪人をサタンサーベルで骨格を両断すると、ついに砕け散る。圧倒的強度を誇るグリードの外骨格も、シャドームーンの猛攻には耐えられなかった。
 すると破壊された骨格はセルメダルへと変貌して、シャドームーンの首輪に吸い込まれていく。一方で、昆虫の模様が描かれた三枚のコアメダルは吸い込まれず、軽い音を立てながら足元を転がった。
 シャドームーンはそれを一瞥するが、すぐに倒れたウヴァの方へ振り向く。見ると、破壊された骨格に守られていたであろう肉体が露わとなっていた。

「俺の……俺のメダル……!」

 ウヴァは息も絶え絶えとなりながら這いつくばっていて、シャドームーンにはその姿が本当の虫に見えてしまう。同情する気は欠片も無いが、ここまで来ると怒りを通り越して哀れみすら感じた。
 そしてその様子を見て、ウヴァはこのコアメダルが無ければ肉体を維持することが出来ないとシャドームーンは推測する。コアの名前が示すように、グリードにとって身体を支える核の役割も果たしているのだ。
 すなわち、これが砕かれたら連中は生きることが出来ない。そう思ったシャドームーンはコアメダルを右手に収め、ウヴァの前に歩み寄った。

「これが欲しいのか?」
「返せ……俺のコアメダルを返せ……っ!」
「これから貴様を尋問する。もしも答えないのならば……」

 震える腕を伸ばすウヴァのことなど構いもせず、シャドームーンは首輪から一枚のセルメダルを左手で取り出す。
 そのまま握り潰し、あえて見せ付けるかのようにメダルの破片をウヴァの目前に落とした。
 
「な、何の真似だ……?」
「コアメダルもこうする」
「なっ……!?」

 そう言い放っただけで、ウヴァは絶句したような声を出す。

623創世王、シャドームーン ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 08:32:59 ID:meNTWQsc0
「お前、自分が何を言ってるのかわかってるのか!?」
「メダルを砕く……それがどうした?」
「何を言ってるんだ、そのコアメダルが無ければ優勝することが出来ない! お前も、元の世界に――!」
「仮に優勝とやらをしたところで、参加者を帰す保障が何処にある?」
「す、少なくとも俺はそうするつもりだ! これだけは嘘じゃない! だからコアを返せ!」
「どうだかな」

 相当なまでに狼狽えていた。表情を窺うことは出来ないが、ウヴァがパニックに陥ってることは容易に想像できる。
 今はこちらが絶対的有利に立っているが、ウヴァをこれ以上脅したところで話は進まない。そろそろ本題に入る必要があった。

「ならばお前の言葉が真実であると証明して見せろ」
「しょ、証明だと……!?」
「お前達は一体何を企んでいる? そして、あの真木という男のバックには何者がいるのか教えてもらうぞ」

 サタンサーベルをウヴァの眉間に突きつけて、シャドームーンは冷徹に告げる。
 大ショッカー大首領たる自身を拉致しただけでなく、力を制限する首輪を作り出せる技術を持つ輩がいる。もしも真木と戦うことになるのなら、その背後にいる強大な技術を持つ連中とも相手にすることになるので、情報は必要だった。
 そもそもウヴァに接触した理由は、その目的があってこそ。そしてグリードの力量がどれほどの物かも、確かめる必要があった。

「……何も、聞いてない」

 しかし帰ってきたのは、そんなウヴァの弱弱しい言葉だけ。

「何?」
「俺達はドクターから何も聞かされていない……何故この殺し合いを開いたのかも、そしてどんな奴らがドクターに協力しているかもだ!」
「……そうか」

 シャドームーンは冷静に頷く。
 何を戯けたことを言っているのか。一瞬だけそう思ったものの、ウヴァ達グリードが真相を知らなくても別におかしな話ではない。
 もしもグリード達がこのような状況に陥り、真木を裏切るようなことがあっては殺し合いは根本から破壊される。その可能性を見通した上で、真木はこの会場にグリードを放り込んだということだ。
 仮にグリード達が全ての真実を知っていたとしても、口を滑らせるようなことがあったら速攻に首輪を爆破して情報源を絶てばいいだけ。すなわち、奴らはこの戦いを潰す鍵にはならない。
 むしろ真木にとってグリード達とは、ただの捨て駒でしかない可能性もあった。

(後は、こいつの処遇をどうするかだ……)

 この場にいるウヴァから何かを聞き出そうとしても、何も搾り取れない。ならばもう用はないし、このまま殺せば大量のメダルが手に入る。
 しかし、このまま奴を殺してもいいのか? ふと、シャドームーンの中にそんな思考が芽生える。
 こんな小物に情など抱くわけが無いが、このまま潰すのも惜しい。圧倒的戦力差を見せ付けた今となっては、ウヴァは自分に反旗を翻さないだろう。無論、絶対とは言い切れないがその時は一瞬で屠ればいい。
 自分が今やるべきことは真木を潰すための戦力を集めることだが、その途中で歯向かう輩が出てくるはずだ。そんな連中をいちいち潰すのも流石に面倒極まりない。だが、愚か者を始末する役を引き受ける奴はここにいる。
 ならばこの場でやるべきことは、一つしかない。



○○○



 もう駄目だ。
 俺はここでリタイアなのだ。優勝することなど出来なかったのだ。
 だから少しでもその可能性を避けるために全てを話したが、考えてみればシャドームーンはその瞬間に俺を殺すかもしれなかった。
 所詮、自分の欲望など叶わないただの夢でしかない。散々俺を馬鹿にしたあの忌々しいアンクやカザリを見返せないまま、ここで終わる。
 少なくともウヴァは、そう考えていた。

624創世王、シャドームーン ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 08:35:06 ID:meNTWQsc0
「なっ……?」

 だからこそ、ウヴァは信じられなかった。自分を殺すつもりだったはずのシャドームーンが行った行動が。
 奴は事もあろうに、サタンサーベルによって刻まれた傷口にコアメダルを投げつけていた。それにより、砕かれた骨格が一部再生する。
 力が戻るのを喜ぶ以前に、シャドームーンに対する疑念をウヴァは抱くしかなかった。

「何の真似だ……!?」
「死にたくなければ黙っていろ」

 そしてまた一枚、ウヴァの身体から零れ落ちてしまったコアメダルが戻り、力が溢れてくるのを感じる。
 何故、シャドームーンはコアメダルを破壊しないのか。何故、シャドームーンはわざわざコアメダルを投げ込んでくるのか。その行動に何の意味があるのか?
 疑問が次々と溢れ出てくるが、ウヴァにそれを問い詰める権利は無い。もしもここで口を挟めば、今度こそ本当に消滅しかねなかった。
 三枚目のコアメダルも戻ってくるかと微かに期待したが、それは叶わない。代わりに与えられたのは、シャドームーンの首輪から出された十枚のセルメダルだった。
 
「さて、お前に問う。私の下に来るか?」
「何!?」
「聞いているのか? 私の下に来るのか来ないのか……質問はそれだけだ」

 何一つの謎が明かされないまま、次に与えられたのはそんな冷たい言葉だけ。無論ウヴァは反抗しようとするが、目前には赤い刃が突きつけられている。それは「逆らうならば殺す」という意思表示だと、一瞬で察することが出来た。
 この光景にウヴァはデジャブを感じる。スタート地点の県立空美中学校で最初に出会った参加者、ラウラ・ホーデヴィッヒを力尽くで従わせたのと同じだった。唯一違うのは、あの時と違って今度はこちらの命を握られている立場だということ。
 そして奴はラウラの時と違って、こちらに譲歩するという発想がまるで皆無だった。もしも少しでもそんな話を持ち出そうとしたら、その瞬間に全てを失う。
 それだけの殺気が銀色の仮面から感じられた。

「……どうやら、交渉の余地は無いようだな。仕方が無い――」
「待て、待ってくれ!」

 だからウヴァは事に及ぶ前に、シャドームーンを静止する。

「何だ?」
「わかった! お前……いやあんたに従う! 俺自身も戦力を集めようと思ってたところだ! それであんたに付いていけば、俺にとっても大きな力になる! だから頼むっ!」

 無様だと知りつつも、ウヴァはそう懇願するしかなかった。
 ここで歯向かおうとしたって返り討ちにされるだけで、何一つのメリットが無い。しかし今ここでシャドームーンに従うと言えば、形はどうであれ強い戦力が手に入る。そして幸運にもシャドームーンは緑陣営に所属しているので、優勝するための壁になることも無い。
 加えて他陣営の参加者にシャドームーンの圧倒的戦闘力を見せ付ければ、嫌でも従うだろう。そうすれば緑陣営にいるシャドームーンに配下が増えて、結果的にこの陣営の戦力になるかもしれなかった。
 例え真木に歯向かおうとしても、どんな参加者でも一瞬で殺せる首輪がある。これさえあれば、何の問題も無かった。

「懸命な判断だな」

 そんなウヴァの願いが叶ったのか、シャドームーンはサタンサーベルの切っ先を目前から離す。
 ようやく解放されたと思ったウヴァはゆっくりと立ち上がりながら、人間の姿へと変わった。今はもう反抗の意思が無いと、少しでもシャドームーンに思わせる必要があるため。

「ああ、すまない……さっきはあんたを見くびるようなことを言って」
「忘れるな」
「なっ!?」

 しかし一息つく暇など無く、シャドームーンはサタンサーベルを再び突きつけてくる。それにウヴァは目を見開くも、尻餅をついたりはしなかった。
 ここでそんな無様な姿を晒してはシャドームーンに切り捨てられるし、何よりもリーダーの名を背負ったというウヴァ自身のプライドが許さない。
 これ以上の醜態を重ねては、リーダーとして君臨するどころか殺し合いに生き残ることも出来ないだろう。

「私に反旗を翻そうというなら、お前のコアメダルがどうなるかを……覚えておけ」
「あ、ああ……そんなことわかってるよ」
「フン……」

 そうしてシャドームーンはサタンサーベルを下ろし、スーツを纏った男の姿に戻った。その男、月影ノブヒコからは未だに殺気が感じられるが、ウヴァはそれに潰されたりはしない。
 ほんの少しだけ恐怖を抱いているものの、それと同時に彼の欲望は満たされている。当初の予定とは違ったものの、結果として創世王シャドームーンというラウラやシャルロット以上の戦力が手に入ったのだから。

625創世王、シャドームーン ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 08:39:47 ID:meNTWQsc0



○○○



 サイドバッシャーのサイドカー部分に乗る月影ノブヒコは、進行による揺れを感じながら思案に耽っていた。彼はウヴァを従えた理由はただ一つ、真木清人を打ち破る上で障害となる者達を始末させるため。
 いくら邪魔者を始末すると言っても、能力を制限されているこの状況で無駄に戦っても自滅するだけ。認めるのは癪だが、徒党を組まれてはその可能性も考えられる。だからウヴァの力をある程度取り戻させた上で従わせた。
 それにウヴァはサタンサーベルの刃を耐えるほどの肉体を持つので、ここでわざわざ切り捨てるより邪魔者と潰し合わせた方がずっと有益かもしれない。もしも奴が他の参加者と徒党を組んで反旗を翻すなら、引導を渡すだけ。
 一応、バッタのコアメダルを一つだけ確保したので裏切る可能性は低いかもしれないが。

(なるほど……ここに私達全員の情報が書かれているのか)

 そしてノブヒコの手には今、真木清人からグリード全員に渡されたという紙束が握られている。ウヴァの持っていたそれに書かれているのは、ノブヒコを含めた参加者全員に関するデータとスタート地点。
 加えて大ショッカーの知らない仮面ライダー達や、セイバーやラウラとシャルロットに関する情報まで存在している。
 仮面ライダーW、仮面ライダーアクセル、仮面ライダーエターナル、仮面ライダーオーズ、仮面ライダーバース、NEVER、ドーパント、ガイアメモリ、エンジェロイド、サーヴァント、宝具、IS、魔法少女、ソウルジェム、魔人、ヒーロー……ノブヒコにとって未知の単語が数え切れないほど書かれていた。

(不意打ちを仕掛けた鎧武者の正体はノブナガだったとは……やってくれるな、あの男)

 無論、膨大なデータの中には交戦した加頭順やノブナガについても記されている。それによるとノブナガの正体は真木の技術によって復活した戦国武将、織田信長のホムンクルスかつグリードの紛い物らしい。
 その身体の維持にはセルメダルが必要で、核となっているコアメダルを奪うと消耗が早まるようだ。それなら勝手に消耗するのを待てばいいし、再び戦うことがあるなら借りを返せばいい。
 NEVERである順もそうだが、死ぬのが時間の問題となる奴をあいてにした所で時間の無駄でしかなかった。
 
(アポロガイストのスタート地点はGー5か……まずいな、奴と同じエリアに仮面ライダーと魔法少女とやらがいる)

元は『Xライダーの世界』に存在する悪の組織GOD機関の怪人であり、大ショッカー大幹部の一人であるアポロガイスト。奴はいま、ここより少し離れた風都という街にいるようだった。
 徒歩で向かうなら時間が必要だろうが、スマートブレイン社が生み出したこのスーパーマシンさえあれば向かうのに時間はそこまで必要ない。その気になれば数分で辿り着くことも、可能かもしれなかった。
 しかしそれよりも一つの懸念がある。あのエリアには仮面ライダーエターナルの大道克己と魔法少女の美樹さやかの二人がいるのだ。アポロガイストの戦力ならば簡単には負けないだろうが、問題がある。
 克己とさやかはそれぞれNEVERと魔法少女という、死人の肉体を持つ存在だった。Xライダーとの戦いで敗れたアポロガイストは再生手術を施した際、パーフェクターで人間の生命エネルギーを吸わなければ生きていけなくなる。
 だが、この二人はゾンビに等しい連中だから生命エネルギーなんてあるとは思えない。アポロガイストの性格上、奴らに戦いを仕掛けるだろうが相性が非常に悪かった。
 もしも長期戦になるような事になれば、アポロガイストが非常に不利になる。それで奴が負けてしまっては、大ショッカーにとって大きく痛手となるに違いない。
 こんな下らない殺し合いで奴を失うのは何としてでも避けるべきだが、そんな想定をしても仕方がない。

(まあいい……不安など抱いたところで何も成せない。さて、何処に向かうべきか……)

 そう思いながらノブヒコはパーソナルデータをデイバッグに収め、前を見据える。そしてバッグの奥には、ウヴァより奪い取ったある宝具が眠っていた。
 それは第四次聖杯戦争でアーチャーのクラスで召喚されたサーヴァント、英雄王ギルガメッシュの保持していた王の財宝に眠っていた宝具。エルキドゥの真名を持つ天の鎖が、創世王の手に渡っていた。
 全ては偉大なる大ショッカーのため。あらゆる世界を手中に収めようという欲望がある限り、月影ノブヒコは止まることがなかった。



【一日目-午後】
【F-3/道路】

626 ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 08:40:45 ID:meNTWQsc0
【月影ノブヒコ@仮面ライダーディケイド】
【所属】緑
【状態】ダメージ(小)
【首輪】105枚:0枚
【コア】ショッカー、バッタ×1
【装備】サタンサーベル@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品×2、参加者全員のパーソナルデータ、サイドバッシャー@仮面ライダーディケイド、天の鎖@Fate/zero、ゴルフクラブ@仮面ライダーOOO、ノブヒコのランダム支給品0〜1、ウヴァのランダム支給品0〜1(確認済み)
【思考・状況】
基本:真木清人や、大ショッカーに刃向う者を抹殺する。
0. 何処に向かわせるか……?
1.大ショッカーに従う者を探す。従わない場合は殺す。
2.仮面ライダーは殺す。利用できそうなら利用する。
3.ユートピア・ドーパントと、鎧武者怪人を警戒するが深追いはしない。
4. ウヴァが反抗したり醜態を晒すよう事をするなら、容赦しない。
【備考】
※ショッカーのコアメダルではショッカーグリードは復活しません。
※ショッカーメダルでコンボを成立させると、変身解除後ショッカーメダルは消滅します。
※参加者全員のパーソナルデータを見ました。
※シャドーキックやシャドーセイバーといったオリジナルのシャドームーンが使用していた技が使用出来ます。


【ウヴァ@仮面ライダーOOO】
【所属】緑・リーダー
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、サイドバッシャーを運転中、ノブヒコへの恐怖と彼がいることによる充実
【首輪】75枚:0枚(増幅中)
【コア】クワガタ×1、カマキリ×2、バッタ×1
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本:緑陣営の勝利。そのために言いなりになる兵力の調達。
1.今はノブヒコに従って、移動する。
2.もっと多くの兵力を集める。
【備考】
※参戦時期は本編終盤です。
※ウヴァが真木に口利きできるかは不明です。
※ウヴァの言う解決策が一体なんなのかは後続の書き手さんにお任せします。
※ノブヒコと行動を共にしたことで当初の欲望である戦力増強に成功したので、セルメダルが増幅しています。

627 ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 08:41:14 ID:meNTWQsc0
以上で投下終了です。
矛盾点などがありましたら、指摘をお願いします。

628 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:41:06 ID:7lsxko6E0
投下乙です。
ウヴァさん、結局酷い目に会ってますねw
生き残れた事が良かったのか、悪かったのか……

では私も、これより予約分の投下を開始します。

629意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:42:34 ID:7lsxko6E0



 “―――世界中の人の笑顔のためだったら、貴方はもっと強くなれる”

 その言葉が、今も心に響いている。


 俺がクウガになったのは、姐さんの笑顔が見たかったからだ。
 姐さんに褒めて欲しくて、笑って欲しくて、グロンギと戦ってきた。
 ディケイドが――士が現れたのは、そんな時だった。

 ディケイドは世界を破壊する悪魔。
 鳴滝からそう教えられていた俺は、それを理由に士と戦った。
 その時は姐さんと夏海ちゃんに止められて決着はつかなかったけど、その後も士との小競り合いは続いた。
 そんな中、士の手によって復活しなくなった筈の“究極の闇”が復活して、そのせいで姐さんが瀕死の重体になった。

 俺は、戦えなくなった。
 姐さんの笑顔が見たくて戦ってきた。
 姐さんに褒めて貰いたくて戦ってきた。
 だがら姐さんがいないと、戦う理由が見つけられなかった。

 その時だった。その言葉を、姐さんに言われたのは。
 今まで俺が戦って来れたのは、姐さんのその言葉があったからだ。

 そうして俺は士と協力して“究極の闇”を倒して、
 そうして姐さんは………八代藍は、死んだ。


 そのあと俺は、キバーラに連れられて士の旅に加わった。
 士の、九つの世界を巡る旅の助けになろうと思ったのだ。
 けど、どの世界のどんな場所でも士は上手くやって、俺に出来る事は殆どなかった。
 それでも俺は、旅の中で士の事を仲間だと思うようになっていった。
 そして士も、そう思ってくれていると信じていた。

 けれどそれは、俺の勝手な思い込みだったのだろうか。



 胸の辺りから伝わる温もりと、若干不規則な揺れに、小野寺ユウスケは今自分が誰かに背負われているのだと理解した。
 その心地よさに夢見心地になりながら、その人物の顔を見ようと、ゆっくりと目を開ける。
 そこに見えた、自分を背負ってくれている人の横顔は、まるで――――

「姐さん………?」

 気が付けばそう口に出していた。
 有り得ないとは、解っている。
 けれど何故か、その女性と姐さんを重ねてしまったのだ。

「生憎だが、私はお前の姉になった覚えはない」

 そう言うと女性は道路の端によって、ゆっくりと俺を下ろしてくれた。

「私は織斑千冬だ。IS学園で教師をやっている。お前は?」
「俺は小野寺ユウスケって言います」
「そうか。大分酷い暴行を受けたようだが、自力で歩けるか?」
「あ、はい。大丈夫で……ッ」
「ふむ、歩くのはまだ無理なようだな。
 お前に聞きたい事もあるし、少し休憩を入れるとしよう」
「すみません………」

 不甲斐ない自分を情けなく思いながらも、そのまま壁を背もたれにする。
 どういう意図かはわからないが、士が手加減したのだろう。痛みは酷いが、折れた骨はない。
 クウガになってからは回復力も上がっているので、少し休めば動けるようになるだろう。

「ああ、そうだ。これも持っていろ」
 思い出したようにそう言って、千冬さんはデイバックからある物を取りだした。

630意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:43:41 ID:7lsxko6E0

「これは……何ですか?」
「アヴァロンと呼ばれる、ある聖剣の鞘だ。持ち主の傷を癒す力がある……らしい」
「らしい?」
「私に支給された道具の一つだ。詳しい事はわからん」

 千冬さんから黄金の鞘を受け取る。
 黄金の地金に青の琺瑯で装飾された鞘は、武具と言うよりは装飾品のような印象を受ける。
 だが、受け取ると同時にメダルが消費され、僅かながら体が軽くなった事から、その力は確かなものらしい。

「では小野寺、何があったか話せるか?」
「――――――――」

 千冬さんは腕を組んで立ったまま壁に寄り掛かると、言い難い事を直球で聞いてきた。
 もっとも、言い難いのは俺だけの理由であって、怪我をした人を心配するのは当然の事だから、別段おかしくはない。
 だがそれでも一瞬、言い淀んだ。士の事を話すべきかと悩んでいた。

「言いたくないのなら言わなくていい。他にも聞きたい事はあるしな」
「………いえ、ちゃんと話します。黙っていても、何も変わらないと思うし」
「わかった」

 そうして俺は話した。
 士という仲間がいたこと。
 そいつと一緒に旅をしてきたこと。
 そしてここに呼ばれ、士が殺し合いに乗った事。

 俺が話している間、千冬さんは黙って俺の話を聞いてくれた。
 たったそれだけの事が、なぜか少し嬉しかった。
 もしかしたら俺は、胸の内にあった蟠りを吐き出したかったのかも知れない。

「……事情は分かった。それで、お前はどうする」
「俺?」
「そうだ。私のように真木清人に反抗するのか。
 それともお前の仲間のように殺し合いに乗るのか」
「それは………」

 そんな事、すぐには決められない。
 この力は笑顔を守る為のものだ。殺し合いに乗ること絶対に有り得ない。
 だが殺し合いを止めるという事は、士と……仲間と戦うという事なのだ。

「殺し合いを放っておくことなんてできない。けど、士と戦いたくもない。
 俺にはまだ、どうしたらいいか……判りません」
「そうか。まあ事情が事情だ、すぐ決めろとは言わん。
 だが、いつかは決めねばならん事だ。それを忘れるな」
「はい。……それは、ちゃんとわかってます」

 そう。そんなこと、言われるまでもなくわかっている。
 こうして悩んでいる間にも、他の誰の笑顔が失われるかもしれない。
 それを思えば居ても立っても居られない―――はずなのに、

 士の事が脳裏を横切る度に、二の足を踏んでしまう。

「くそっ……」
 自分の不甲斐なさに、強く拳を握る。
「士……、どうしてだよ………!」
 届く筈のない問いかけが、口を突いて出る。

 いったい士に何があったのか。
 なんで、殺し合いになんて乗ってしまったのか。
 どうして俺に……仲間に相談してくれなかったのか。
 なぜあんな、まるで何も感じてないような表情が出来るのか。

 俺達は仲間だった筈なのに、士が何を考えているのか、全然理解できない。
 なんで。どうして。なぜ。
 そんな疑問が、ずっと頭の中を占め続けている。
 そして何より、どうするべきかは解っているのに、その選択を選べない自分が情けなかった。

631意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:44:36 ID:7lsxko6E0


「―――小野寺、立てるか?」

 そうやって一人懊悩としていると、唐突に千冬さんが声をかけてきた。

「どうしたんですか、千冬さん?」
「来客だ。どちら側か判らん以上、警戒を怠るな」

 そう言われて、彼女の向いている方を向けば、物腰の柔らかそうな紳士服の男性がいた。
 男性も俺達に気付いているのか、迷いなくこっちへと歩いてくる。
 少し休んだのと鞘の力のおかげだろう。士に一方的に殴られた体はまだ痛むが、問題なく立ち上がる事が出来た。
 もしもの時に邪魔になるだろうからと、黄金の鞘を千冬さんに返し、男性を待つ。

「これは丁度良い所に。では早速試させてもらいましょう」

 そうしてお互いの声が十分に聞こえる距離まで来ると、男性は挨拶もなくそう言った。
 一体何が丁度良かったのか、懐からUSBメモリの様な物を掲げ、

《――WEATHER――》

 響き渡る電子音。それに追従するように男はUSBメモリを自らの右耳に押し当てる。
 同時に男の身体が暴風に包まれ、白い怪物へと変化した。

「――――ッ!」
「な………ッ!」

 白い怪物は驚く俺達を尻目に、躊躇なく右手から白く輝く煙を放出する。
 咄嗟にその場から離れるが、先ほどまでいた場所は白く凍りついていた。
 あの白い怪物は煙を放出したのではなく、おそらく冷気が通り抜け、大気が凍った影響でそう見えていたのだろう。
 恐るべきはその温度だ。地面が一瞬で凍る程の極低温。生身の人間が受けたら一溜りもない。

 ―――だが問題は。
 そんな危険なものを、この白い怪物は俺達に向けて躊躇なく放ってきた、という事だ。

「一体何のつもりだ……。お前も殺し合いに乗っているのか!?」
「いいえ。私は殺し合いになど興味はありません」
「ならなんで………!」
「なに、私のウェザーに掛けられた制限を確かめる為です。別に貴方達個人に用はありません。
 最初に遭遇したのが貴方方だったというだけで、正直、誰でもよかった」
「お前―――ッ!!」
「落ち付け小野寺!」

 白い怪物に変身した男の言葉に怒りが込み上げる。
 だが千冬さんの叱咤で我に帰り、怒りをどうにか抑え込んだ。
 相手は地面を凍らせるほどの冷気を放つ相手だ。闇雲に突っ込んでも勝てる相手じゃないだろう。

「誰でもよかった、と言ったな。
 それは、貴様はこの場に呼ばれていなくとも、誰かを殺していた。という事か?」
「はい、その通りです。このガイアメモリの力の前には、人の命など無価値に等しい。
 先程も言ったように、私は殺し合いなどに興味はありません。興味があるのは、純粋に“力”のみです。
 ああ、そう言う意味ではこのコアメダルは実に興味深い。是非とも実験をしてみたい」

 そう言って怪物は、首輪から取り出した一枚の緑色のコアメダルを眺める。
 表情は見えないが、もし顔が見えていれば“うっとり”としていたであろうことは、声色から容易に想像できた。

「そうか。つまり貴様は」
「その通りです。率先して殺し合うつもりはありませんが、仮面ライダーのように正義を掲げる気もありません。
 私は私の気の向くままに実験をするだけです」
「だったらお前は、ここで倒す!」

 目の前の男はグロンギと同じ、紛れもない怪物だ。
 なら奴を倒す事に、躊躇いはない。
 奴に向けて一歩を踏み出す――が、千冬さんに肩を掴まれ、押し留められる。

「待て小野寺! どういう理屈かは知らんが、奴は人の域を超えている! 生身で相対するのは危険だ!」
「大丈夫です! だって俺、クウガだから!」
「クウガ? それは―――」
 千冬さんの制止を振りきって更に前へと踏み出し、眼前の敵と相対する。

632意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:45:38 ID:7lsxko6E0

 そうだ。たとえ士ほどではなくとも、俺だって仮面ライダーだ。女性の一人くらいは、守りきって見せる。
 そう決意し、クウガに変身するためにアークルを出現させ、


      本当に久しぶりだな、ユウスケ―――


 ついさっき聞いた、士の言葉を思い出す。
 未だ脳裏をよぎる疑問の答えも、覚悟も決まっていない。


      それはこっちの台詞だ。どうして仲間みたいに―――


 戦うのか?
 ここで変身するという事は、仮面ライダーとして戦うという事だ。
 それはつまり、この戦いの先で、


      どちらにせよ、お前は此処で―――

 士と戦うという事に他ならない。


      変身しろユウスケ。このまま殴り殺されたくはないだろ。


 だが迷っている余裕はない。
 この戦いには自分だけではなく、千冬さんの命も掛かっている。

「ッ―――、変身ッ!」

 アダマムに闘志を籠める。
 霊石の力が肉体を強化し、仮面ライダークウガに変身させる。
 しかし。

「な、白……!?」

 その身体は目の前の敵と同様に白い。
 グローイングフォームと呼ばれるその姿は、言わばクウガの“不完全形態”だ。
 この状態では、クウガの力を完全に引き出すことは出来ない。

「小野寺、その姿は……!?」
「ほう。ガイアメモリを使わない変身ですか。実に興味深い。
 いいでしょう。その力、確かめさせていただきます!」

 ……だがそんな事よりも、今はあいつを倒す方が大事だ。
 こんな奴のせいで誰かが悲しむ前に、今ここでこいつを倒す―――!

「ウオォォオオオ――――ッッ!!」

 そう決意を籠めて拳を強く握り、仮面ライダークウガはウェザー・ドーパントへと挑みかった。


        ○ ○ ○


 その時、織斑千冬は一瞬、己が眼を疑った。

 如何なる物理法則によるものなのか、小野寺ユウスケは腹部に謎の機器の様な物を出現させ、一瞬の躊躇いの後に、眼前の男と同様に白い姿へと変身した。
 ユウスケは自ら変身したにも拘らず、その姿に戸惑いを見せたが、すぐに振り切って怪物と化した男へと挑みかかっていく。

「―――あの馬鹿者が!」

 千冬の口からユウスケへと向けて罵倒が飛ぶが、それは彼女自身にも向けられていた。
 先の理解の及ばぬ光景を前に、千冬は一瞬思考を止めてしまい、ユウスケを制止し遅れたのだ。

「敵の能力も不明だというのに、闇雲に突っ込んでどうする……!」
 デイバックから西洋剣を抜き、小野寺に後れを取りながらも敵に向けて駆け出す。

 ユウスケと男の見せた、ISとはまったく違う異質な力。
 それが一体何なのか、今の千冬に理解できる道理はない。
 だがそれでもハッキリしていることがあった。

 男は人の命を何とも思っておらず、ユウスケはその事に怒りを露わにした。
 そこに疑念を挟む理由はなく、故に千冬が小野寺を助ける事に躊躇いはなかったのだ。

633意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:46:43 ID:7lsxko6E0


「ハァッ――!」
 ユウスケと拳を交えている男を、背後から一撃する。
 敵は人間以上の力を持っており、そしてこれは殺し合い。卑怯などと言う言葉は通用しないのだ。
 ユウスケに気を取られていた男はまともに千冬の一撃を受ける。だが、

「チッ、硬い……!」

 ただの人間ならば容易く両断出来ただろう一撃は、敵の外皮を傷つけるだけに終わった。
 得物の不得手もあるが、それ以上に敵の体表硬度が高いのだ。

 ……だがダメージはある。
 たとえ僅かでも、ダメージがあるのなら勝機はある筈だ。

「ちょっ……!? 千冬さんは下がっていてください! コイツの相手は俺がします!」
「それはこちらの台詞だ馬鹿者! 敵の戦力も測らずにただ突っ込むとは、死ぬ気か貴様!」

 戯けた事を言うユウスケに千冬は怒りを覚えるが、意識は敵に向けたままだ。
 敵の放つ威圧感や一撃した時の手応えからでも、油断の出来ない敵だというのは判断が付く。

「戦いの最中にお喋りとは、随分余裕ですね。それだけ自信があるという事ですか?」

 事実、敵はそう言うと同時に、全身から暴風を発生させて千冬達を吹き飛ばす。
 千冬は即座に距離を取り、吹き飛ばされながらも体勢を立て直して着地する。
 ユウスケの方はまともに暴風を受け、地面に叩き付けられている。

 ―――未熟者め。
 そう感想を零すが、今の攻撃で敵の能力も予想が付いた。
 最初に聞こえたWEATHERという電子音。地面を一瞬で凍らせた冷気。今の竜巻の如き暴風。
 おそらくは天候・気象に関係した能力だろう。
 であれば、他にも様々な能力を有していると考えて間違いあるまい。
 以降あの白い怪物をウェザーと呼称することにする。

「小野寺、協力するぞ! 私がお前に合わせる!」
「わ、わかりました!」

 千冬はユウスケと同時に駆け出し、ウェザーを挟撃する。
 それに対しウェザーは千冬を牽制程度に捉え、ユウスケを主に相対する。
 ただの人間である千冬よりも、クウガに変身したユウスケの方がまだ脅威であると考えたのだ。
 だが―――


「ハァッ!」
「フン……」

 ユウスケの一撃を、ウェザーは容易く防ぐ。
 不完全な白のクウガでは、ウェザーを相手にするにはあまりにも力不足なのだ。
 ユウスケとてその事はとうに理解していた。
 故に一刻も早く本来の力を発揮しようと、闘志を昂らせる。
 だが何が足りないのが、アダマムは何の反応も示さない。
 もしこれでユウスケ一人で戦っていれば、彼は既にウェザーによって殺されていただろう。

 だが今この戦いは、ユウスケ一人だけではなく、織斑千冬も共に闘っていた。

「そこ――!」
「グ……ッ!」

 ユウスケの攻撃はウェザーに届かず、当然の如く防がれる。
 だが千冬はその防御の隙を容赦なく突き、ウェザーの身体に一撃する。
 彼女はウェザーがユウスケの攻撃に対処する際に出来る隙を容赦なく突き、着実にダメージを与えていく。
 その戦いの中で千冬はウェザーの戦闘能力も測っていく。

 ―――おおよそISと同程度。
 空を飛行しない分、厄介さでは数段劣る。
 一撃をまともに受ければ即窮地だが、反応速度は大して変わらない。

 この殺し合いで設けられたメダル制限も考えれば、このままの状況であれば勝機は見える。
 敵がコアメダルを持っていたように、こちらには二人分のセルメダルがある。
 故に相手のメダル切れを狙う価値は十分にあるだろう。
 もし仮に、相手のコアメダルを奪う事が出来ればなおのことだ。

634意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:47:24 ID:7lsxko6E0


 ―――だが敵の能力が予想ついたところで、予想はあくまで予想。
 その実態は未知数である事に変わりない。
 対してこちらは慣れない剣一本と怪我人一人。メダル切れを狙って戦い続けるには不安が残る。
 ならば敵の隙をついて撤退するのが最善策だ。

 この敵が、私達が逃げ切れるほどの隙を作ってくれれば、だが。
 ウェザーが真に天候・気象操作能力を有するのであれば、遠距離・範囲攻撃はお手の物な筈だ。
 ちょっとやそっとの隙では、逃げ切ることなど不可能だろう。

 そう思った、その時だった。

 突如としてウェザーがユウスケの攻撃を防がず、甘んじてその身に受けた。
 そしてその攻撃に対処する時の隙を突く筈だった千冬の一撃を、素手で受け止めたのだ。
 驚愕に身を固めた小野寺の首をウェザーが掴み、さらに受け止めた剣も離さぬように握り締める。

「少々厄介でしたが、これでもう逃げられません」
「グッ―――!」
「ヅ―――ッ!」

 ウェザーの全身が高熱を帯び、赤く染まる。
 そのあまりの熱量に、ユウスケは掴まれた首から体が焼かれる。
 千冬の剣も、融解はしないまでも高熱を帯びて持っていられなくなる。
 そうして剣を手放し、ウェザーから距離を取った千冬へと向けてユウスケが投げ飛ばされる。
 千冬はその勢いに避ける事ができず、もみくちゃになって地面を転がった。

「っ、大丈夫か小野寺」
「はい。千冬さんの方こそ」
「大丈夫だ。掠り傷にもなっていない」

 すぐさま起き上がってウェザーと相対するが、状況は芳しくない。
 いかに千冬と言えど、武器がなくてはウェザーにダメージを与える事は出来ない。
 だが頼みの剣はウェザーの手中にある。
 今この場で戦えるのは、ユウスケただ一人になったのだ。


「これで邪魔者は一人消えましたね」
「ッ………!」

 ウェザーがゆっくりと迫って来る。
 こちらは全力を出せないユウスケと、武器のない千冬。勝機は完全に潰えた。
 そんな絶望的な状況を前に、ユウスケは決意した。

「千冬さん。俺が時間を稼ぎます。だから、その間に逃げてください」
「な! お前、なにふざけた事を――――」
 ユウスケは千冬の制止を振り切ってウェザーへと駆け出す。

 もはやウェザーを倒す術はない。
 ならばせめて、千冬だけでも生き延びて欲しいと思ったのだ。

「ッ――、ハァッ!」

 渾身の力を籠めて拳を振り抜く。
 だがそれをウェザーは難なく見切り、あっさりと躱す。
 その事に構わず左拳を振りかぶり、ハイキックを打ち込む。
 更にそこで止まらず、ひたすら拳を、脚を連続して叩き込む。

 だがウェザーはそれを容易く捌ききり、お返しとばかり西洋剣を振り抜く。
 その一撃を避けられず、受けた衝撃で足元がふらつく。
 そこを容赦なくウェザーは突き、今度は蹴り飛ばしてくる。
 当然避けられず、あっさりと蹴り倒された。

「ッ――――!」

 すぐさま起き上がり、再び敵へと殴りかかる。
 やはり敵はあっさりと受け流し、そのまま薙ぎ倒される。
 そうして距離が開いたところで、今度は暴風による洗礼を受ける。

「ガァ………ッ!」

 やはり躱せず暴風に吹き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられる。
 即座に立ち上がり油断なくウェザーを睨みつけるが、敵との力の差に強く歯噛みする。


 戦いは一方的だった。
 ユウスケの攻撃はウェザーにダメージを与えられず、対してウェザーの攻撃は苛烈だ。
 士から受けたダメージがなく、普段通りに戦えたとしても、ウェザーを相手に出来たかどうか怪しかっただろう。

「クッ………」

 左脚を後ろに下げ、地面を強く踏みしめる。
 持久戦では相手にならない。ここは必殺技で少しでも形成をこちらに傾ける。
 そう決意して右脚に力を籠め、ウェザーへと向けて駆け出す。

635意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:49:23 ID:7lsxko6E0

「フム。マキシマムドライブの様なものですか。
 いいでしょう。その一撃、受けて差し上げます!」
 ウェザーはその絶対の自信からか、全身に力を籠め仁王立ちをする。

 一際強く地面を蹴って空中へと跳び上がる。
 そして全身の力を右脚に込め、渾身のマイティキックを叩き込む―――!

「オリャァアア――ッ!!」

 炸裂する必殺の一撃。
 それをまともに受けたウェザーは僅かに仰け反るだけで、平然としている。
 だがウェザーの胸には、光輝く刻印が刻まれていた。
 本来の物と比べ刻印を構成する線がいくつか欠けているが、それは確かにクウガの必殺技が決まった証だった。
 しかし―――

「フン……実に弱い。もう一人の女性の方がまだ手応えがありました」

 刻印が消える。
 ウェザーには何のダメージも見受けられない。
 クウガの力は、奴には届かなかったのだ。

「そんな……!」
「あなたの力も大体把握しましたし、そろそろ終わりにするとしましょう」

 そう言うとウェザーは西洋剣を投げ捨て、右手をこちらに向ける。
 それと同時に、周囲に黒雲が立ち込め、大気が轟く。
 その音で、黒雲の正体を理解した。直後――――

「ガァァアアア―――……ッッッ!!!!」

 全身を、幾条もの雷光が貫いた。

「ァ、ァ――――………」
 痛みによる悲鳴さえも途切れ、メダルを撒き散らしながら力なくその場に崩れ落ちる。
 全身に奔る痛みに、意識が朦朧とする。再び立ち上がる力さえ持って行かれた。
 未だに変身が解けていないのが、不思議なくらいだった。

 ―――勝てない。
 攻撃は全て見切られ、全く相手になっていない。
 渾身のマイティキックでさえ、奴には何のダメージも与えられなかった。
 俺では……クウガではウェザーに敵わない。

 ………なら、士だったら?
 士なら……こんな危機を何度も乗り越えてきたディケイドなら、奴に勝てたのだろう――――


「ほう、まだメモリブレイクしないとは。
 ……いや、失敬。メモリによる変身ではありませんでしたね。
 では今後の参考にでも、その力の源を頂くとしましょう」

 ウェザーが散らばったメダルを回収すながら近づいてくる。
 クウガの力の源を……アダマムを奪うと奴は言った。
 それはつまり、俺の命を奪うという事に等しい。

 ……だというのに、立ち上がる事が出来ない。
 腕は虚しく地面を掻くばかりで、体を支える事が出来ない。
 そうしている間にも、ウェザーは俺に近づいてくる。
 その光景を前に、もう駄目だと、諦めかけた―――その時。

「――――――――」
「千冬……さん?」

 ウェザーの前に立ち塞がる、織斑千冬の姿があった。

「どうして……。早く、逃げてください………!」
「それは出来ない相談だ。ここでお前を見捨てて逃げたら、私は弟に顔向けできん」

 千冬はそう言っていつの間にか回収した剣を構え、ユウスケを庇うようにウェザーと相対する。
 倒れたユウスケの代わりに、今度は彼女がウェザーと戦うつもりなのだろう。

 ……無理だ。
 二対一でも敵わなかったのに、一人で勝てるわけがない。
 そんな事、彼女だって解っている筈なのに。
 それなのに―――

「オォォオオオ―――ッ!!」

 千冬さんは躊躇なく、ウェザーに向かって挑んでいった。

「ほう。私には敵わないと知りながら、なお挑みますか。
 まあ、ついでです。ここで始末してあげましょう」
 そう言ってウェザーは、腰から取りだした武器を振りかぶる。
 ウェザーマインと呼ばれるそれは先端が鞭のように伸びて撓り、千冬を打ち据えようとする。

 ウェザーにとって千冬の相手をする事は、ただの余興に過ぎない。
 千冬がいかに高い身体能力を誇ろうと、ウェザーの力の前では等しく無力だと確信しているからだ。

636意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:50:33 ID:7lsxko6E0


 千冬は振り抜かれたウェザーマインを躱し、ウェザーへと接近する。
 そのまま胴を横薙ぎに斬り払うが、ウェザーはバックステップで回避する。

「シッ――!」

 剣を振り抜いた勢いのまま体を捻り、鋭い突きを繰り出す。
 当然ウェザーは身体を半身にして避けるが、そんな事は予想している。
 ウェザーの反撃を突きの勢いを殺さず、そのまま前転することで回避し、起き上がる勢いで切り上げる。

「ハ――ッ!」
「ぐ……ッ!」

 ウェザーはその一撃を躱せず、僅かに声を上げる。
 だがそれは痛みによってでしかなく、実際のダメージは殆どない。
 ましてやウェザーのメダルは、一枚も削る事が出来ていない。

 それでも、ウェザーのメダルは消費され続けていく。
 この殺し合いで設けられたメダル制限。それによってウェザーは、メダルが尽きれば変身を強制的に解除されてしまう。
 対する千冬は生身であり、特別な武具も使用していない。つまりはメダルの消費が全くないのだ。

 ウェザーと違い、千冬は体力の続く限り戦い続けられる。
 この戦いは、千冬の体力が尽きるのが先か、ウェザーのメダルが尽きるのが先かという、極限の消耗戦だった。
 そして千冬は巧みに距離を取り、ウェザーよりも一瞬早く動くことで攻撃を躱し続けている。
 このままの勢いであれば、彼女がウェザーを倒してしまうのではと思えてしまうほどだった。

 だがその剣戟も、

「ただの人間にしては意外とやりますね。下級のドーパントなら相手にならないでしょう。
 ですが、このウェザーはそれら凡俗のメモリとは格が違います!」

 ウェザーが本気で攻勢に出るまでの間のことだ。

 ウェザーは暴風を纏い、熱波を発し、冷気を伴って猛威を振るう。
 それと同時に、千冬は一気に防戦に追い込まれていく。
 それも当然。いかに千冬の剣技が凄かろうと、人外の一撃を受け止めるには圧倒的に力が足りないのだ。


 だがそんなことは、千冬とて理解している事だった。
 いかに「ブリュンヒルデ」の称号を持とうが、ISがない以上、彼女はただの人間でしかない。
 対するウェザーはISレベルの人外だ。ウェザーと戦うという事は、ISと戦う事に等しい。
 そして生身の人間が、ISに勝てる道理はない。
 その無謀の果てにあるのは、無惨な死だ。

 それを理解してなお、千冬はウェザーに挑んだ。
 なぜならそれが、彼女の矜持だったからだ。
 “ブリュンヒルデ”の意地ではなく、“織斑一夏の姉”であるという誇り。
 加えて言えば、千冬はユウスケに織斑一夏と似たモノを感じていた。
 敵わないと知っていながら、誰かを守るために敵に立ち向かうその意志が、そう感じさせたのだろうと千冬は推測していた。
 それらの要素が彼女に、小野寺ユウスケを見捨てる事を許さなかったのだ。

 だから織斑千冬はウェザーに立ち向かった。
 胸を張って歩ける自分である為に。
 弟が誇れる姉である為に。
 敵わぬと知りながらも剣を取ったのだ。

637意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:51:16 ID:7lsxko6E0


「あ」

 その光景を――その後ろ姿を見て、ユウスケは自分自身を殴り飛ばしたくなった。
 ウェザーと戦う彼女の背中は、彼が目指してきた、誰かを守る者の背中だったからだ。

「あ、」

 ウェザーと戦う彼女の姿に、どうしようもなく見惚れた。
 こんな所で這い蹲っている自分が、この上なく情けなかった。

 ……何をやってるんだ、俺は。
 千冬さんは戦っているのに、俺は今、何をしている。
 敵わないと思い知って、諦めて士に縋って―――それでどうなる。

「あ、ああ―――」

 みんなを守るために戦うんじゃなかったのか?
 みんなの笑顔をためにクウガになったんじゃないのか?

 士ならどうにか出来た?
 そうやって他人任せにして、それで笑顔が守れるのか?
 そんなだから俺は、今こうして無様に倒れてるんじゃないのか?

「ああ、あ―――あ」

 ……立て。
 俺は何のために戦うと決めた。
 お前は何のためにクウガになった。

 “―――私の笑顔のために戦ってあんなに強いなら、”

「あ―――、お」

 立って、戦え。
 俺が本当にクウガなら。
 お前が本当に笑顔のために戦うのなら。

 “―――世界中の人の笑顔のためだったら、貴方はもっと強くなれる”

 その誓いを、今も忘れていないと言うのなら――――

「お―――おお、オ――――」

 立って、戦って、守ってみせろ……!

 “―――私に見せて、ユウスケ”


「オオオオォリャァアああああ――――!!!!」
「ッ、ガ――――、グ――――!?」

 千冬を追い詰めていたウェザーの顔面に、渾身の一撃を叩き込む。
 不意打ちをまともに受けたウェザーは、思わず蹈鞴を踏んで後ずさる。

「クッ、貴様、まだ動けたのですか……!?」
「、ラァアアア――――!!」
 赤く染まった右腕が、ウェザーのボディを打ち抜く。
 僅かに屈み込んだ頭を、今度は左腕で殴り飛ばす。
 そこで止まらず、勢いに任せて再び拳を振り抜く。

 殴る、殴る、殴る、殴る……!
 不意を突いたとはいえ、ウェザーの能力は圧倒的だ。まともに戦って勝てる相手ではない。
 故にこの好機に、敵が持ち直す前に、全霊を駆けて一気に攻勢に畳み込む――――!
「舐める、なぁ―――!」
「っ―――、あ……!!」
 吹き飛んだ。
 全身全霊を籠めた拳はあっさりと流され、強烈な暴風を叩き込まれた。

 地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がる。
「小野寺……!」
 千冬さんの声が聞こえた。どうやら彼女の傍に飛ばされたらしい。
 すぐさま立ち上がって千冬さんを背に庇い、ウェザーと相対する。


 ………身体が熱い。
 振り抜く腕は先ほどよりも力強く、
 駆け抜ける脚は先ほどよりも疾い。
 雷撃のダメージがまだ残っているのか、全身がビリビリと痺れている。

 不完全を示す白は、いつの間にか炎の様な赤に染まっている。
 これぞ仮面ライダークウガの完全形態にして基本――マイティーフォームだった。

 そうしてユウスケは、アダマムが沈黙していた理由を悟った。

 アークルは超古代の戦士がグロンギと戦うために生み出した変身ベルトだ。
 その核たる霊石アダマムは、装着者の意思によってクウガの力を引き出す。

 俺は、覚悟が足りてなかったのだ。
 士と戦いたくないが故に、敵を前にしても迷いを持ったまま変身した。
 戦う覚悟。クウガとしての心構えが不十分だったから、アダマムもその力を発揮できなかったのだ。

638意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:52:13 ID:7lsxko6E0

 ………正直に言って、士と戦う覚悟なんて、今も出来ていない。
 けれど、これだけは胸を張って言える。

 千冬さんを守る。
 みんなの笑顔を守る。
 仮面ライダークウガとして戦う。
 その決意に、もう迷いは微塵もない――――。


「小野寺、お前……」
 千冬さんの声に、僅かに彼女へと振り返る。
 ――良かった。千冬さんに大きな怪我はない。
 その事に安堵するが、すぐに気を引き締める。

 戦いはまだ終わっていない。
 目の前の敵を退けなければ、生き残ることは出来ない。

「色が変わると同時に、身体能力も上昇している。
 なるほど、スカルという前例もある。先ほどまでは不完全だったという事でしょうか。
 ですが、大した向上度合いではない。私の敵でない事に変わりはないでしょう」

 ウェザーが何かを言っている。
 ――――関係ない。今はただ、敵を倒す事に全力を尽くす。
 左脚を後方に下げ、両腕を下段に広げ、右脚に全ての力を籠め、
「ウオォォオオオ―――ッッ!!」
 決死の覚悟でウェザーへと走り出す。
 ウェザーは左手から冷気を放ち、その背後から雷撃で攻撃してくる。
 冷気に凍える体。雷撃に痺れる手足。その全てをただ耐え、奴に向かって駆け抜けた。

「自棄? いや、特攻ですか。
 無駄な事を。あなたでは私に倒せないと、既に思い知ったはずですが?」

 ウェザーの攻撃は止まず、文字通り雨霰となって襲ってくる。
 その中で、

「オリャァァアアア―――ッッ!!!」

 再び炸裂する必殺の一撃。
 その威力にウェザーは仰け反り、数歩ほど後方へ後ずさる。

「見事な一撃でした。ですが、その程度の力では私は倒せない!」
 だがその胸に刻まれた刻印は、あっさりとその輝きを失う。

 構わない。
 一撃で倒せないのなら、何度だって叩き込んでやる。
 その決意を籠めて、再びウェザーに向けて構える。

「あなたの力に対する興味は尽きました。これで終りにしましょう」

 ウェザーが左手を掲げると同時に突如として激しい豪雨が降りだした。
 その異常な水圧に、全身の動きが拘束される。
 当然、敵がその隙を逃す筈もなく、ゆっくりと空を指さし、一気に振り下ろす。

「、――――――――ッ…………ッッッ!!!!!」
 視界が極光に焼かれた。
 無音に等しい轟音と共に、稲妻が全身を打ち抜く。
 轟雨によってずぶ濡れとなった身体は際限なく電撃を浸透させ、全身の神経を焼き焦がす。

「――――――――、………………」
 もはや痛みに呻く声さえ出ない。
 痛みさえも麻痺し、一切の感覚が失われた。
 身体を支える力さえ失い、眠りに着く様に意識を手放し――――

「小野寺ァ――ッ!」

 千冬さんの叫び声に、ギリギリのところで踏み止まった。

 ………大丈夫。まだ戦える。
 心の中でそう言って、感じすらしない痛みを堪えて立ち上がる。

 ……そうだ。こんな所で諦める訳にはいかない。
 もう、誰かの泣き顔なんて見たくないから。
 だから、奴はここで倒さないと。

639意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:52:53 ID:7lsxko6E0


「――――――――」
 走る。
 大地を踏み砕く様に、強く一歩を踏み出す。
 全身が熱い。まるで体のリミッターが外れたみたいに力が湧き上がる。

「実にしぶといですね………それがあなたの能力なんでしょうか。
 ……まあいいでしょう。ならば後ろの彼女諸共、私の力で死になさい―――!」

 ウェザーの周囲に暴風が渦巻く。
 その勢いは先ほどまでの比ではなく、紫電さえ伴っている。
 それを食らえば一溜りもないだろうことは、あまりにも容易に想像が付く。

 駆ける。
 ただひたすらに、敵を目指して駆け抜ける。
 体が業火なら右脚はそれこそ紅蓮。霊石から放たれる雷によって全身が焼き尽くされる。

 解き放たれる暴風。
 それを躱せば、背後の千冬さんが危ない。
 体中から放電しているような錯覚の中、地面を踏み砕いて空中へと跳躍する。
 暴風の向こうにいる筈の敵へと向けて、全身全霊のマイティキックを放つ。

「、ウオオォオリャァァアアアア――――!!!!!!」

 灼熱する右脚と、雷を伴う暴風がぶつかり合う。
 ――――激突は一瞬。
 黄金の装飾が施された右脚は、敵の雷を巻き込んで暴風を突き抜ける。

「な―――そんなバカな――――ッ!!」

 限界を超えた一撃を、驚愕の声を出す敵に叩き込む。
 インパクトの瞬間の衝撃に、キックを叩き込んだ自分の脚まで痺れる。
 その必殺の一撃を受けたウェザー・ドーパントは、

「ぐ――――、ぬ――――」
 ―――未だ健在。
 大きく弾き飛ばされ、メダルを零しながらも生きている。
 三度その胸に刻まれた刻印は、敵が立ち上がると同時に消え去った。

 構えを取る。
 限界はとうに超えている。意識は途切れ途切れ。先ほどまで溢れていた力は、今は微塵も感じられない。
 最早立っているのがやっとという状態でなお、戦うために力を振り絞る。

「…………!」

 だが突如として発生した霧が、ウェザーの姿を覆い隠す。
 霧の中から攻撃してくるのかと身構えるが、一向にその様子はない。
 そうして霧が晴れた時、ウェザーの姿はどこにもなかった。

 ……いかなる理由からか、ウェザーは逃げた。
 そう理解すると同時に、全身から力が抜ける。
 自分の意志とは関係なく地面に倒れ、変身も解ける。
 メダルも尽き、蓄積されたダメージに、文字通り限界を超えたのだ。

「小野寺! しっかりしろ小野寺……!」

 千冬さんの声が聞こえる。
 遠退いていく意識の中、どうにか瞼を開ける。
 そこには、俺に必死に呼びかける彼女がいた。

 ……良かった。彼女を守る事が出来た。
 ただそれだけの事が、この上なく嬉しかった。
 その安堵と共に、小野寺ユウスケは今度こそ意識を手放した。

640意志 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:53:43 ID:7lsxko6E0


        ○ ○ ○


 ――――その光景を、織斑千冬は確かに見た。

 荒れ狂う暴風。限界を超えたダメージ。
 それら全てを凌駕した、呼吸する力すら右脚に集結させての一撃。
 絶体絶命な状況でも諦めぬ意志を以って、彼は死の運命を覆したのだ。


 背中に小野寺を背負い、可能な限りの速度で走る。
 大の男を背負うことの苦痛など、気にもならない。

「この馬鹿者が……!」
 己が背負った青年に向けて叱咤の声を放つ。
 意識のない彼に聞こえる筈がないが、口にせずにはいられなかった。

 ベルトと右足。赤く染まった身体を更に覆った黄金の装飾が、彼に如何なる力を齎したのかはわからない。
 だが限界を超えた力の代償がどれほどのものかは、容易に想像がついた。

 小野寺のダメージは限界を超えている。一刻も早く治療をする必要があるだろう。
 目指す場所は【C-1】にある病院。そこならば、何か治療する手立てがある筈だ。
 それまでは、黄金の鞘の不確かな力に頼るしかない。

「くそ……っ」

 あまりの不甲斐なさに、自分自身を殺したくなった。
 ウェザーが本気を出した時、結局千冬は守られてしまった。
 ウェザーに敵わない事は理解していた。だからその事で思う事はない。

 千冬が許せないのは、別の所。
 守られるだけで、何も出来なかった自分が許せなかった。

 実を言えば、千冬には小野寺を助けられる可能性はあった。
 西洋剣、黄金の鞘に続く、最後の支給品。
 “地の石”と呼ばれる、謎の魔石だ。

 地の石はクウガをライジングアルティメットフォームに進化させ、その意思を奪う力を持つらしい。
 自らをクウガであると名乗ったユウスケにこれを使えば、ウェザーを倒せたかもしれなかった。
 だが、その者の意思を奪うという効果が、千冬に地の石を使う事を躊躇わせた。

 その結果、ユウスケが瀕死の重傷になった事が、千冬の自身への怒りに拍車をかけている。


 ウェザーは敗走し、ヤツの零したメダルは全て回収した。
 その中にはコアメダルも含まれていたが、何の慰めにもなっていない。

 ――――ISさえあれば。
 と。意味がないとわかっていながら、ない物強請りをしてしまう。
 ISさえあれば、小野寺を助け、ウェザーを倒す事も出来たのにと。

 こんなにもISを切望した事はなかった。
 こんなにも自分が無力だと思った事はなかった。
 こんなにも「ブリュンヒルデ」の称号を虚しく感じた事はなかった。

 ISがなければ、自分は何も出来ないのかと――――

「この……大馬鹿者が………ッ」

 堪え切れずに口にした言葉。
 その罵倒が誰に向けたモノなのか、千冬自身にも解らなかった。


【一日目−日中】
【C-3/エリア南東・川】

【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】健康
【首輪】120枚:0枚
【コア】クワガタ
【装備】シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、地の石@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。真木に制裁する。
0.この馬鹿者が……ッ
1.小野寺を早急に病院へ運ぶ。
2.危険人物と遭遇したら迷わず逃げる。
3.生徒と合流する。
4.ISが欲しい。
5.地の石をどうするか………。
6.小野寺は一夏に似ている気がする。
【備考】
※参戦時期不明


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】ダメージ(極大)、気絶
【首輪】15枚:0枚
【装備】アヴァロン@Fate/zero
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
0.――――――――
1.千冬さんを守れてよかった。
2.仮面ライダークウガとして戦う。
3.士とは戦いたくない。
4.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし、ユウスケは覚醒した事に気が付いていません。

641暗躍 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:55:27 ID:7lsxko6E0


        ○ ○ ○


 そうやって走り去る千冬の姿を、一人の少年が眺めていた。
 少年の名はアンク。正しく識別するのであれば、“もう一人のアンク”だ。
 彼はウェザーの能力によって発生した、不自然な雨雲を目指していた。

 大桜付近に居るだろう“欠けた自分”を見つけ出して取り戻す事は大事だ。
 だが近くに居るだろう参加者からして、その場に留まっている可能性は低いとも思っていた。
 故に不自然に発生した雲に興味を持ち、そのくらいの寄り道は構わないだろうと判断したのだ。
 その道中で見つけたのがユウスケを背負って走る千冬だった。
 距離が大きく離れていた事もあり、彼女はアンクの存在に気付く事なく走り去った。

「クウガに、ブリュンヒルデか………」
 もう見えなくなった千冬達の姿を思いながら、どうするかを考える。

 目印とした雲は既に消えている。あれは参加者達の開始位置からして、ウェザーの能力によるものだろう。
 ウェザーの持ち主である井坂真紅郎は白陣営。対して走り去った二人は同じ赤陣営。
 とすれば、彼女達と合流し、赤陣営が優勝するように利用するのが正しい選択だろう。

 仮面ライダークウガである小野寺ユウスケは、確実に殺し合いを止めようとするだろうが、問題はない。
 こちらには「DUMMY」のガイアメモリがある。
 このメモリを使えば、イカロスの時の様に相手を騙し、情に訴える事は難しくないだろう。

 幸いにして、彼女達が向かった先はもう一人の自分の開始位置近くだ。運が良ければ、難なく“欠けたボク”を見つけられるかもしれない。
 そう結論し、走り去った千冬達を歩いて追いかける。走らないのは単に、優先順位が精々二番目だからだ。
 第一の目的はあくまで“欠けたボク”と一つになる事。追いかける事に必死になって、もう一人の自分を見落とす事は避けたかった。

「待っててね、ボク……。
 きっともうすぐ、会えるから……」

 そう呟きながら、赤い小鳥は歩き続ける。
 いつか空に跳び立つ時を、待ち望みながら。


【一日目−日中】
【C-4/エリア南西・川】

【アンク(ロスト)@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】健康
【首輪】90枚:0枚
【コア】タカ:1、クジャク:2、コンドル:2
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、「DUMMY」のガイアメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜5(確認済み)
【思考・状況】
基本:赤陣営の勝利。“欠けたボク”を取り戻す。
1.千冬達を追い掛けて合流し、陣営優勝に利用する(急ぎはしない)。
2.“欠けたボク”に会いに行く。大桜に行ってみる。
3.“欠けたボク”と一つになりたい。
4.赤陣営が有利になるような展開に運んでいくのも忘れない。
【備考】
※アンク吸収直前からの参戦。

642暗躍 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:56:52 ID:7lsxko6E0


        ○ ○ ○


「あ〜あ、もう見えなくなっちゃった」

 青い空の一角を見上げながら、雨竜龍之介が呟いた。
 先ほどまで龍之介が見上げていた位置には、不自然な暗雲が垂れ込めていた。
 彼もまたもう一人のアンクと同様に、雲を目印にそこを目指していたのだが、その雲が消えたため目標を見失ったのだ。

「どーすっかねぇ……。旦那を探すにしても、どこを探せばいいのかわかんねーし、やっぱあの少年と合流した方が良かったかな?
 でもアイツ、このゲームに乗ってるっぽいし、止めといた方がいいような気がしたんだよなぁ」
 そう言いながら、手元のサバイバルナイフを玩具のように回して遊ぶ。

 先ほど怪人に変身した少年の陣営は赤。対して自分の陣営は白。
 少年がゲームに乗っているのであれば、自分と少年は殺し合う事になる。
 そのこと自体に異論はないが、率先して殺し合いに乗る様な人物が弱いとも思えない。
 武器はサバイバルナイフ一本しかなく、USBメモリはどんな怪人に変身するか判らない。
 そんな不確かな状況で殺し合うのは非常に心もとない。

「残った支給品は、コアメダルと変な笛だけだしなぁ」

 コブラのコアメダルとセットになっているらしい笛。
 コアメダルはセルメダルの代わりになるらしいが、USBメモリの効果が解らない今、どちらも役に立たない。
 であれば、やはりあの少年とは合流しない事が得策だろう。

 そんな事を考えながら歩いていると、辺りが急に霧に包まれた。
 こんな真っ昼間に急に立ち込めた霧に、理由が解らずに困惑する。

「あれ? なんで急に霧なんか………ん? あれは―――!」

 しかし霧はすぐに晴れた。
 そしてそこに現れた人影に、龍之介は思わず興奮した。

「く………、油断しました。まさかウェザーの力を利用するとは。
 弱くとも仮面ライダーと言う事ですね。危うくメモリブレイクされるところでした」

 現れたのは白い怪人だった。
 その怪人は変身を解いてスーツ姿の男性に戻り、USBメモリを持っている。
 つまりはさっきの少年と同じであり、それに何より、首輪のランプは白。つまりはお仲間と言う事だ。
 ならば少年の時の様に迷う必要はない。

 そう考え、龍之介は喜び勇んで男性に話しかけた。

「すいませーん。ちょっといいっすか?」
「おや? 何の御用でしょう」
「俺の名前は雨竜龍之介っす。
 ちょっと聞きたい事があるんだけど、問題ないっすか?」
「ええ、大丈夫です。何でも聞いてください。
 ああそれと、私は井坂真紅郎と申します」

 そう言って井坂真紅郎は、雨竜龍之介と名乗った青年と向き合った。
 ユウスケ達と遭遇した時の様に襲わないのは、ウェザーに掛けられた制限は大体把握したことと、メダルの残数が半分を切っていたからだ。

 もちろん龍之介を殺しメダルを補充するという考えもあった。
 だが真紅郎はそれよりも、彼から情報の収集をする事に決めたのだ。
 そしてその選択が正しかった事を、真紅郎はすぐに知ることとなる。

「このUSBメモリなんすけど、使い方と書こうかとかわかります?」
「まさか、このガイアメモリは……!」
「おお! 何か知ってるんすか!?」

 龍之介が見せたそれを見て、真紅郎は思わず、この殺し合いを強要した真木清人に感謝した。
 先の戦いで失ったコアメダルなど、コレの代価と考えればお釣りすら来る。

 「INVISIBLE」――それが龍之介に支給されたガイアメモリだった。
 使用者を透明人間にする力を持つこのメモリは、かつて真紅郎が収集し損ね、破壊された筈のメモリだった。
 加えて目の前には丁度良い被検体がいる。
 彼を生贄にガイアメモリを完成させれば、かつて得られなかった力を得る事が出来るだろう。
 ならば今度こそ失敗する訳にはいかない。
 前回の様に使用者に任せるのではなく、自らの手の届くところで管理する必要があるだろう。

 そこまで考え、真紅郎は龍之介を取りこむことを決めた。
 後は彼を良い様に懐柔するだけだ。

643暗躍 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:59:02 ID:7lsxko6E0

「これはガイアメモリと言って、使用者をドーパントに進化させる力を持っています」
「ドーパント?」
「はい。人間の限界を超えた、神にも等しい存在です。
 そしてこのメモリは「INVISIBLE」と言って、透明になれる力を持っています」
「へぇ! 透明人間が! それって超COOLじゃね!?」
「ただこのメモリは不安定で、細かい調整が必要となるんです。最悪、死に至る事もあるでしょう」
「それってなんか……ヤバくね?」
「いえいえ、恐れる事はありません。なぜなら私はドーパント専門の医者ですから。
 私の健診さえ受けてくれれば、何の問題もありません」
「へぇ? そうなんだ。なら大丈夫なのかな?」
「もちろんですとも。実際にそのメモリを使ってみては如何ですか?」
「そう……だな。百聞は一見に如かずっていうし。分かった、使ってみるよ」

 そう言って龍之介は簡易型L.C.O.Gを使い、ガイアメモリを体内に挿入する。
 だが龍之介の姿に変容はない。依然と普通の身体のままだった。

「―――あれ? 全然変身しないけど、どうなってんの?」
「いえ、それで何の問題もありません。
 「INVISIBLE」は特殊なメモリでして、通常のドーパントの様に姿を変える事が出来ない代わりに、透明人間になれるのです。
 言わば、透明人間の状態がドーパントとしての姿、という訳ですね。
 体内のメモリを意識して、透明になる様に念じてください。そうすれば透明になれる筈です」
「なるほどね。………おお、すげぇ! マジで透明になってる!」

 龍之介は真紅郎の説明に納得し、言われた通りに念じてみる。
 するとどうだろう。とたんに龍之介の身体は透明になり、向こうが透けて見える様になっている。
 どこかの映画や漫画の様に、服だけ残って見えていると言った不手際もない。完璧な透明人間だった。
 これならば背後どころか目の前に居たって気付かれない。
 殺しの最初の手間である動きを封じる事も、容易に行う事が出来るだろう。


 そうやってガイアメモリの力を喜ぶ龍之介を見て、真紅郎もまた満足げに頷いた。
 見た限り、ガイアメモリの適合率に問題はない。
 メモリそのものの状態も、最後に診た時と同じ状態だった。

 まだ龍之介は気付いていないが、「INVISIBLE」のメモリは体外に排出される事はなく、そして龍之介の体力を消費し続けるだろう。
 その果てにあるのは、ガイアメモリの力による死だ。

 真紅郎は先ほどの説明において一切の嘘は言っていない。
 メモリを使用し続ければ死に至るし、不調があっても真紅郎が診断すれば問題はない。
 そう。真紅郎は一言も助かるとは言っていない。龍之介は何の問題もなく死に至るだろう。
 そしてその時にこそ、「INVISIBLE」メモリは真紅郎の望んだとおりに完成するのだ。

 その時を思い、思わず舌舐めずりをする。
 まだ始まったばかりだというのに、もう待ちきれないほど興奮していた。
 「INVISIBLE」のメモリを挿入する時が、果てしなく待ち遠しかった。


「それじゃ早く行こうぜ! 旦那に見せてやるんだ!」
「その旦那と言うのは、貴方の知人ですか?」
「ああ。青髭って言うんだけど、これが超COOLな人でさ――――」

 真紅郎は龍之介の話を聞きながしながら、必要な情報だけを纏めていく。
 彼の言う青髭なる人物には興味ないが、魔術というモノには好奇心がそそられる。
 まったく、真木清人には感謝してもしきれないかもしれない。
 こんな数多の“力”の実験場に連れて来てくれたのだから。

 だが―――それにしても、

“ああ、腹が空いたなぁ……”

644暗躍 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 11:59:26 ID:7lsxko6E0


【一日目−日中】
【C-4/エリア北西・路上】

【井坂真紅郎@仮面ライダーW】
【所属】白
【状態】健康、空腹
【首輪】55枚(増加中):0枚
【装備】「WEATHER」のメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、不明支給品0〜2
【思考・状況】
基本:「INVISIBLE」のメモリを食らう。そのために龍之介を保護する。
0.それにしても、腹が空いたなぁ……。
1.「INVISIBLE」のメモリを完成させる。
2.食料を探す。
3.コアメダルや魔術といった、未知の力に興味。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※「WEATHER」のメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。

【雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】白
【状態】健康
【首輪】99枚:0枚
【コア】コブラ
【装備】サバイバルナイフ@Fate/zero、「INVISIBLE」のメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:このCOOLな状況を楽しむ。
1.しばらくは「INVISIBLE」のメモリで遊ぶ。
2.井坂真紅郎と行動する。
3.早く「旦那」と合流したい。
【備考】
※「INVISIBLE」メモリのメダル消費は透明化中のみです。
※「INVISIBLE」メモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
 また、メモリが体内にある限り、体力が大きく消費され続けます。

645 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/07(火) 12:03:00 ID:7lsxko6E0
今回も扱いが心配なところがありますが、以上で投下を終了します。
あと訂正で、>>640から分割で、タイトルが 暗躍 です。

何か意見や、修正すべき点などがありましたらお願いします。

646 ◆LuuKRM2PEg:2012/02/07(火) 12:38:16 ID:meNTWQsc0
投下乙です!
ユウスケ……あの井坂先生相手に立ち向かっただけじゃなく、まさかライジングフォームに覚醒したとは!
千冬さんもかっこよかったなぁ……でも今から向かう場所には、弟さんがいるからどうなるか不安だ。ロストアンクも追跡してるし。
井坂先生は龍之介を手駒にしようとしてるし、このままじゃ龍之介が旦那の所に行っちゃいそうだ……

647名無しさん:2012/02/07(火) 18:08:50 ID:jbGwRVckO
投下乙です!わぉ、まさかウェザーの雷で金の力に目覚めるとはwやっぱロワでのユウスケは原作のクウキとは一味違うんだなぁ。

戦いには敗北した井坂先生もうりゅーをインビジボゥ化してノリノリだったり腹ペコだったり相変わらずそうで何よりですw

648名無しさん:2012/02/07(火) 21:45:13 ID:I.4wjK0c0
お二方とも投下乙です。
>◆LuuKRM2PEg氏
良い所まで行けるかと思ったウヴァさんだけどやっぱり平常運行でした。「もう駄目だ。」が泣ける。
一方でヘタレキャラとは言え幹部怪人をフルボッコする月影、それでこそ創世王。もうコイツがリーダーだわ。

>◆ZZpT6sPS6s氏
仲間との戦いに迷いつつ、それでも人を守るために踏ん張るユウスケマジ主人公。
グローイング→マイティと復活して更にライジング覚醒の流れが熱い。
しかしとんでもないハズレ引いちゃった龍之介…もう長くないかなあ。


ところで◆LuuKRM2PEg氏の作品で少し疑問に感じたのですが、サイドバッシャーの支給ってアリなんでしょうか?
というのも、確かサイドバッシャーが『ディケイド』本編で登場したのが1話のライダー大戦(殆どイメージ映像)とMOVIE大戦(カードで複製)だけなので
ちゃんとした形で本編中に登場した固有アイテムと呼べないのでは? 流石にコレを出すのは許容範囲広すぎでは? と感じるからです。
尤もこの考えはただの主観でしかないので、もし良ければ他の方の意見も欲しいです。

649名無しさん:2012/02/07(火) 22:46:28 ID:ng8VoS9U0
お二方投下乙です!
>◆LuuKRM2PEg氏
ウヴァさんはどうしてこうなるんだwウヴァさんらしいっちゃらしいけどw
シャドームーンはやっぱW戦以外はこれくらい強かったもんなぁ……流石創世王。
一つ疑問に思ったのですが、ウヴァはコアメダルは破壊出来ないという事実を知らないのでしょうか?
紫の力でしかコアメダルは破壊出来ないからこそ、グリードは紫を恐れていたように思うので、紫でも何でもないノブヒコにメダルを破壊すると脅されてそこまで動揺するのは少し不自然かな?と思いました。

>◆ZZpT6sPS6s氏
ユウスケはやっぱり本編で不遇な分、クウキ補正が無くなったら大活躍するなぁ。主人公補正が無くなって不利になる主人公勢とは大違いだw
今回は何より原作五代を彷彿とさせる覚醒が熱かった。ディケイド本編で見られなかったライジングもまさかこんな形で見れるとは……
そして井坂は負けてもいつも通りだなw龍之介に死亡フラグも立ったし、ここからどうなるのか……
あと、確かユウスケが人を呼ぶ時は基本的に五代さんと同じなので、鳴滝の事も呼び捨てでは無く「鳴滝さん」と呼んでいたイメージがあります。

650名無しさん:2012/02/08(水) 00:26:59 ID:bL.5dzB20
>>648
ぶっちゃけディケイド出展って事でこれはないだろ…ってアイテムがいくつも至急されてるしいまさらじゃないかな

651名無しさん:2012/02/08(水) 01:45:35 ID:Qcvyoz/c0
そうかな。今のところはアイテムとしてちゃんと出てきたものに限られてるけど、これが通せるならもっと見境なしに出せるようになってしまうよ。
ディケイドの遺影フォームが呼び出す最強フォームの武器や強化変身グッズまで出せる事になるから、やっぱり支給出来るのはアイテムとして登場したものに限った方がいいと思うんだ。

652 ◆LuuKRM2PEg:2012/02/08(水) 10:31:31 ID:z/Y2pEy.0
皆様、ご意見ありがとうございます。
それではサイドバッシャーはライドペンダーに変える&ウヴァが動揺する部分を修正して
修正スレに投下させて頂きます。

653 ◆ZZpT6sPS6s:2012/02/08(水) 13:30:18 ID:xxICGx8g0
>>649
了解しました。その他細かい修正と合わせて、収録時に修正しておきます。

654名無しさん:2012/02/08(水) 15:52:41 ID:e2ZC06C60
細かい事だけど井坂の名前は「真紅郎」じゃなくて「深紅郎」がただしいです

655名無しさん:2012/02/08(水) 17:42:07 ID:qZ0weH020
投下乙です

ウヴァさん、相手が悪すぎたなあw
まあ、死ななかっただけマシ……いや、こき使われてアボンしそうだなあw
そして創世王マジ創世王。リーダーはお前だ

やってくれるぜユウスケ。死の運命を覆しやがったぜ
でも、おま、千冬さんが向かう病院には…
井坂も負けたけどなんかいい手駒が手に入って龍之介にヤバいフラグ立ったぞ
なんか問題が何も解決してない、更に混迷を深めた様な…

656 ◆qp1M9UH9gw:2012/02/10(金) 01:57:03 ID:L2wmUt320
投下を開始します

657Re:GAME START ◆qp1M9UH9gw:2012/02/10(金) 01:57:58 ID:L2wmUt320


OOO


桐生萌郁には、気にかかる事があった。
「FB」の命令に従って殺害した、だらしない格好をした男の事である。
生前の彼の格好や佇まいに、別段変わった部分は見られない。
萌郁に支給された「アビスのカードデッキ」の様な、
"一般常識を容易く凌駕してしまうような力"を与える支給品も、所持しているとは思えなかった。

気に掛かる事というのは、彼の死を確認し、メダルと支給品を回収しようとした時の事である。
支給品には、疑問符を浮かべるようなものは一つとして無かった。
デイパックの中に入っていたのは、地図や食料といった道具一式と銃の弾丸、そして桃の装飾が施されたメダルが一枚だけ。
恐らく、殺し合いの進行役が言っていた「コアメダル」と名付けられた代物だろう。
ルールブックには「セルメダルの代用が可能」と書かれていた事から、持っていても無駄にはならない事は確かだった。
問題なのは、その後――男の拳銃を奪い、最後にメダルを頂戴しようとした時である。
男の首輪に目を向け、そこで萌郁は彼のどうにも奇妙な点に気付いた。

――この男には、セルメダルが"一枚も"無い。

本来ならば、参加者全員に100枚支給される筈のセルメダル。
しかしどういう訳か、それがこの男には無いのである。
出会う前に誰かに奪われたとしたら、何処かに傷が無ければおかしい。
あえて全てのセルメダルを首輪から放出したとしても、それならデイパックにメダルが入っている筈。
考えれば考える程、どうにも不可解な話だった。
果たして、この謎は「FB」に報告するべきなのだろうか。
思考を巡らせたようとするその寸前で、携帯の着信音が彼女の耳に入ってきた。
「FB」からメールが届いてきた合図である。
これは、送った写真で男の死を確認した「FB」が、萌郁に与える次の指令を決定した事を示していた。

送られてきたメールには、指令が二つ書かれていた。
「秋葉原駅に移動しろ」というものと、「支給品は置いて行け」というものである。
秋葉原に移動しろというのはまだ分かる、だが、支給品は持っていくなとはどういう魂胆なのだろうか。
疑問には思ったが、だからと言ってそれに背くつもりはない。
どんな理由があるにせよ、「FB」の指令に従うのが桐生萌郁という人間だ。
来た道――と言っても数歩程度なのだが――を戻り、デイパックを元の場所に放置した。
つい先程まで横たわっていた死体の姿は、もう何処にも居ない。
それもその筈――彼は今頃、アビソドンの胃の中で養分になっているからだ。

「FB」のその指令に、どんな意図があるかなど、萌郁に図れる訳がない。
いや、例え予測できても、彼女は余計な詮索など行わずに使命を果たすだろう。
それが「FB」に対して、自分が唯一できる忠誠の証明なのだから。



【一日目-日中】
【G-6/路上】
※デイパック(基本支給品、44オートマグと予備弾丸、イマジンメダル)が、路上に放置されています。

【桐生萌郁@Steins;Gate】
【所属】青
【状態】健康
【首輪】110枚:0枚
【装備】アビスのカードデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、桐生萌郁の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1(確認済)
【思考・状況】
基本:FBの命令に従う。
 1.FBの指示に従い、秋葉原駅に移動する。
 2.アビソドンはかわいい。
 3.アビスハンマとアビスラッシャーはかわいくない。分離しないように厳しく躾ける。
 4.メダルの件はやはり報告するべきなのだろうか。
【備考】
※α世界から参戦
※FBの命令を実行するとメダルが増えていきます。

658Re:GAME START ◆qp1M9UH9gw:2012/02/10(金) 01:59:31 ID:L2wmUt320
OOO   OOO


骨を砕き、肉を咀嚼する音が、無音の空間の中で不気味に鳴り響く。
ミラーワールドでは、萌郁の使役するモンスター――アビソドンが、笹塚の死骸を貪っていた。
アビソドンの中で弄ばれる笹塚は、既に人の形を成していないだろう。
千切れ、潰れ、抉れ、やがては赤黒い肉塊と化しても、怪物は蹂躙を止めようとはしない。
しかし数秒後、アビソドンは突然顎の動きを止め――口から固形の物体を吐き出したではないか。
それは薄い長方形――言わばカードの形をしており、少なくとも人体を構成している物ではないのは明らかである。
アビソドンは不満そうに歯軋りを立てると、カードには目も繰れずに、何処かへと去って行った。
この怪物が見るからに苛立っていたのは、空腹が何故か満たされてはいないからである。
つい先程まで喰らっていた人間は何処に消え去ったのか。
それを知るのは、アビソドンでも、それを使役する萌郁でもない。
「FB」の名を偽る欲望の王の一人が、この謎の真相を握っていた。


OOO   OOO   OOO 


黄陣営のグリード、すなわち現在のリーダーであるカザリは、
IS学園の屋上の床に腰を落ち着けて、日の光を全身に浴びながら天王寺の携帯をいじっていた。

桐生萌郁が「FB」に依存し切っており、命令なら人殺しすら躊躇しない危険人物であるいう事は、
彼女から送られてきたメールに同封された写真で、十分に理解できた。
現在カザリの携帯には、片腕が欠如している人間の死体が映し出されている。
夥しい血液の中で倒れ伏しているこの男の名は「笹塚衛士」。
彼女のすぐ近くに居たが故に、不幸にもカザリの実験の対象にされてしまった男だ。

「それにしても刑事さんも可哀想だよねぇ……まさかこんなに簡単に死ぬなんて思ってなかっただろうし」

そう言って、カザリがほくそ笑んだ。
今の彼の言葉は、"独り言"と言うよりは"誰かに聞かせる為に"言っている様に聞き取れる。
しかもそれは、笹塚の死があたかも聞かせている側に責任があるかのような口振りをしている。

「もうちょっと抵抗すると思ったんだけどなぁ……ま、どうでもいいんだけどね」

明らかに死体を軽蔑している口調で言い切ると、カザリは手に持った携帯に、再び目を向けた。
メールには写真の男を殺害した報告と、次の指令を教えて欲しいという要求が書かれている。
律儀に命令を要求してくる彼女の行動は、カザリに忠犬を連想させた。

「さてと、次はどう動かそうかな……」

IS学園周辺にはもう誰も居ないから、彼女を移動させるのは確定事項であるが、
ここで問題となってくるのが"何処を目的地にさせるか"だ。
此処から一番近い場所にいる参加者は、警察署をスタート地点とした「暁美ほむら」と「岡部倫太郎」。
さらにそこから少し移動した場所にある風都には、「美樹さやか」と「大道克己」、そして「アポロガイスト」。
萌郁がよく知る秋葉原には「鹿目まどか」、「巴マミ」、「桜井智樹」の三人。
黄陣営の参加者は「巴マミ」だけだが、彼女はとてもじゃないが殺し合いに乗るような性格ではない。
それ以外の陣営の参加者も、殺し合いに積極的になりそうなのは「アポロガイスト」くらいだ。
性格から考えて、この男と同盟を結成するのも難しいだろう。
つまり――カザリと萌郁は敵陣の真っ只中に居るも同然なのだ。
オーズ=火野映司がすぐ近くにいるガメルよりかはまだマシなものの、それでも他のグリードよりも不利である事に変わりはないだろう。

「ちょっと難しい配置だよね……ねえ、何か良いアイデアない?」

表情に余裕を浮かべたまま彼は振り向き、その方向に声をかけた。
本来ならば、誰も居ない筈のその場所には――男が立っている。
カザリは今まで、この男に対して言葉を投げかけていたのだ。
饒舌なグリードとは対象的に、彼は沈黙を保ったまま、前方を見据えている。
その目は、今まさに襲い掛からんとする獣のような殺気を孕んでいた。

「……たまには何か言ってもいいんじゃない?もう敵対してる訳でもないんだし」

カザリがそう言っても、男は猛獣の気配を潜ませようとはしない。
「扱い辛いなぁ」と呟くと、立ち上がって改めて男と対面した。
格好が妙にだらしないせいで、鋭い眼光はまるで服装に似合っていない。
しかし、それは逆に言ってしまえば、身に纏う気配だけで弱者を震え上がらせてしまう事を示している。



――その男の名は「笹塚衛士」。闇に意識を埋めた筈の男が、カザリの目前で立ち尽くしていた。

659Re:GAME START ◆qp1M9UH9gw:2012/02/10(金) 02:00:05 ID:L2wmUt320
OOO   OOO   OOO   OOO


話を進める前に、説明しなければならない事がある。
「シナプスのカード」についての話だ。
その名の通りシナプスが製造した道具で、種類は新型と旧式がある。
新型の方は、使用者が望んだあらゆる物資を調達するという機能を有している。
物資と言っても、望むものはどんな形であろうと――例えそれが実現不可能な野望であっても――叶えてしまうので、
言ってしまえばそれは、聖杯のような願望器の一種と言っても良かった。
一方の旧式は、新型と同様に、常軌を逸した能力を秘めてはいるものの、
機能が予め決められてしまっているので、新型よりも遥かに劣っていると言える。

さて、この殺し合いで笹塚衛士に支給されたのは、オートマグとコアメダル、そして"旧式の"シナプスのカードだ。
このシナプスのカードの効力は――"複製人間の製造"。
正式に言えば、「シナプスのカード」そのものが対象と同じ姿に変化する、と言った所だろうか。
……これだけ聞けば、どうして死んだ筈の笹塚が、カザリと対面しているかが理解できるだろう。

結論から言ってしまえば、萌郁に殺害された笹塚は"複製体"なのだ。
死んだ笹塚の首輪にメダルが無いのは、その為である。

"複製体"を殺させたのは、笹塚本人ではなくカザリの意思によるものだ。
萌郁を利用する際、彼女が「FB」の命令にどこまで従うかを試す必要があったのである。
"本体"は所詮、彼の目的に協力したに過ぎない。

効力も把握しないまま、意図せずにカードを使ってしまった笹塚の前に現れた、自分と瓜二つの男。
まだ意識が無かったのが幸いして、面倒な事にはならなかったものの、
使い道の分からない"複製体"を前にして、彼は頭を抱えざるおえなかった。
丁度その時に彼に声をかけたのが、他ならぬカザリだったのである。
彼の「"ある条件"と引き換えに"複製体"を使わせてほしい」という要求に、笹塚は首を縦に振った。
"複製体"の使い方も思いつかないし、何よりも"ある条件"が彼にとって魅力的なものだったからだ。
笹塚のやる事とすれば、デイパックを"複製体"に預けるだけで良い。
後で返してくれるかが少し不安だったが、目的の達成の為なら仕方ないだろう。
(結局、その支給品はちゃんと笹塚の元に返ってくる事になったのだが)

そこから先は、既に語られた通りだ。
行動を始めた"複製体"は、カザリの操る萌郁と遭遇し、その結果片腕を捥がれて失血死する事となった。
カザリの"萌郁の「FB」に対する忠誠を確かめる"という目論見は、見事達成されたのである。

ちなみに、これは笹塚とカザリは知らない事だが、"複製人間の製造"の製造には既に前例がある。
その時の"複製体"は、肉体は縮小し、理性も存在しないも同然の状態だった。
しかし今回の場合、カードを用いて"複製体"を作っていた前回とは異なり、カードそのものが"複製体"となっっている。
つまり、この二つのケースは似ているようで全く違うのだ。
それならば、今回の"複製体"に理性があるのにも納得がいくだろう。
前例の場合は"理性のないコピー"を製造でき、今回は"理性のあるコピー"が製造できた――要は、カードの効力の違いに過ぎないのだ。
……尤も、それでも完全な理性の複製は難しかったようで、"複製体"の性格には若干違いが出てきてしまったのだが。

660Re:GAME START ◆qp1M9UH9gw:2012/02/10(金) 02:02:54 ID:L2wmUt320
OOO   OOO   OOO   OOO   OOO


数分後、屋上に居るのはカザリ一人となっていた。
笹塚の姿は、もう何処にも見当たらない。
既にカザリと取引きを終えて、IS学園を出て行ってしまったからだ。

「なにもあんなに無愛想じゃなくても……」

不機嫌そうに、カザリがぼやいた。
友愛という言葉とは無縁な笹塚の態度に、少しばかり不満を感じているのだろう。
だからと言って、彼があの獣じみた男に悪印象を抱いているかと言われると、そうでもない。
カザリは笹塚に対し、好印象どころかゲームを盛り上げてくれるという期待感すら持っていた。

ああいう危険人物が、より一層ゲームの面白さを増幅させてくれるのだ。
詳細名簿には、笹塚は自分一人で復讐を果たそうと暴走気味に行動していると書かれていた。
この記述を見た途端、カザリはまず第一に彼に会おうと決心していたのである。
恐らく笹塚は、生存の為なら手段を選ばないだろう――そこが良いのだ。
敵味方関係なく、あらゆる物を利用し、無自覚の内にかき回してくれる。
カザリの"複製体を使う代わりに自身の陣営に加える"という要求に乗ったのが、その証拠だ。
上機嫌になったついでとして、笹塚に"プレゼント"を与えてやったが、きっと彼なら上手く使いこなしてくれるだろう。

真木清人がこのゲームを開いた目的は、カザリには分からない。
単独犯なのか複数犯なのかすらも、陣営のリーダーである筈のグリードには教えられていないのだ。
すなわちそれは、自分達も所詮はゲームの駒としか認識されていないという事を意味している。

「……楽しいよ、ドクター」

空を見上げ、そう呟いた。
生存本能という、原初から存在する欲望を満たす究極のゲーム。
欲望の化身たるグリードにとって、これ程愉悦を感じられる場がかつてあっただろうか。
そう考えているからこそ、カザリはこのゲームをどのグリードよりも楽しめた。

「でもさ、ボク達に何も教えなかったのは、ちょっと失礼だよね」

真木清人がこのゲームを開いた目的は、カザリには分からない。
コアメダルを利用した意図すらも、陣営のリーダーである筈のグリードには教えられていなかった。
すなわちそれは、自分達も所詮はゲームの駒としか認識されていないという事を意味している。
それが、カザリにとっては堪らなく不快だったのだ。
"ゲームを思う存分楽しむ"という方針に変わりは無いが、だからと言って、彼は真木を全面的に信頼している訳ではない。

(ボクはウヴァとは違うんだよね……アンタが何も教えないつもりなら、こっちから暴いてやるだけさ)

どう考えても、このゲームは真木一人だけで運営できる規模を超えている。
彼の裏側で、何者かが糸を引いていると考えるのが妥当だろう。
仮にこのゲームで優勝した所で、その黒幕が生還を許すとは限らない。
黄陣営の勝利が決まった瞬間に、用済みと判断されて皆殺しなんて、冗談でも笑えない話だ。
完全勝利を目指すのならば、主催側の手がかりを掴まなければならない――そうカザリは考えたのである。

ネコ科の枠組みに入る生物は、束縛を嫌い、自由を愛する。
ライオンが百獣の王と恐れられ、決して他の種に媚びようとしないのも、この性質があるからだろう。
ネコ科の王であるカザリもそれは同じだ。
決して他者に依存せず、最後は自分が勝利する為に、静かに爪を研いでいる……。

661Re:GAME START ◆qp1M9UH9gw:2012/02/10(金) 02:03:40 ID:L2wmUt320

OOO   OOO   OOO   OOO   OOO   OOO


この殺し合いは、"赤、黄、緑、青、白"の五陣営と、
それらのどれにも属さない「無所属」によるチーム戦だ。
一見すると、それらには深い意味など込められていないが、笹塚はそうとは思わなかった。
無所属を含めば、首輪の明かりの色は"6"種類存在する。
冷酷極まりない殺人ゲーム、"6つ"の陣営、そして何故か名簿に名の載っている「怪盗X」。
これらの要素から、笹塚はある人物がこの殺し合いに関わっているのだはないかという仮説を立てていた。
家族を奪った怨敵であり、人類種に巣食う新種の"病気"――「シックス」。
あの男が、ニタニタと笑いながらゲームを見物しているという可能性。
たったそれだけで、笹塚は激情に身を委ねる事を肯定した。
そう決心させてしまう程、彼の中で猛り狂う獣は暴れまわっていたのである。

――真に自分が正しいと思う時があったら、その時だけは冷静な仮面を脱ぎ捨てろ。

脳内で想起されるのは、生前の父の言葉。
家族の死が無ければ、ここまで記憶に焼きつく事は無かっただろう。
"真に自分が正しいと思う時"があるとするのなら、きっと今がそれだ。
"冷静沈着な警察官"としての笹塚衛士は、桐生萌郁に殺された。
今此処にいるのは、これまで押し込んできた激情を開放した、"復讐鬼"としての笹塚衛士。
生き残り、シックスの元に辿り着く為なら、脱出だろうが優勝だろうが、何だってしてやろうではないか。

カザリから渡された"プレゼント"に目を向ける。
連結されて腕輪の様になっているカプセルは、かつて戦った"新しき血族"の一人が使っていたものだ。
カプセルの中に入った毒の効果が絶大な事は、現物を目にしている笹塚が一番よく知っている。
窮地に陥った時には、きっとこれを使うのだろう。
ヴァイジャヤがそうしたように、敵に"体が溶解していく激痛"を与えるのだ。
……考えた本人が言うのも難だが、反吐が出るような話である。

自身を改めて見返してみて、堕ちたものだと自嘲する。
まさか人を守る立場の警察官が、人の命を奪いかねない行動を取るとは。
二人が復讐鬼としての笹塚衛士を見たのなら、ネウロは失望し、弥子は悲しむだろう。
少なくとも、今の自分は弥子とネウロには見せられなかった――特に弥子には、絶対に。

何はともあれ、まずは情報が必要だ。
殺し合いからの脱出は可能かという判断をつける為には、情報が必須なのだ。
路地に置かれているであろう支給品を回収したら、どこに向かうかは既に決めている――警察署だ。
深い理由はない。ただ単に、一番慣れ親しんだ場所だからである。

「――それじゃ、行くか」

首輪の外された獣の戦いが、遂に始まろうとしている。
彼を突き動かすのは、仇に対する凄まじいまでの怨念。
今は亡き父の教えに従い、亡き母と妹を思いながら、復讐鬼は動き出す。



――目的の為なら、狂うことを躊躇うな。

662Re:GAME START ◆qp1M9UH9gw:2012/02/10(金) 02:05:31 ID:L2wmUt320
【一日目-日中】
【G-7/IS学園屋上】
【カザリ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】120枚:0枚
【装備】ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(左腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品、詳細名簿@オリジナル、天王寺裕吾の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:黄陣営の勝利、その過程で出来るだけゲームを面白くする
 1.……さて、どこに行こうかな?
 2.「FB」として萌郁に指令を与える。
 3.笹塚に期待感。きっとゲームを面白くしてくれる。
 4.ゲームを盛り上げながらも、真木を出し抜く方法を考える。
 5.『閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)』(笑)
【備考】
※参戦時期は本編終盤。

【一日目-日中】
【G-7/IS学園前】
【笹塚衛士@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】90枚(増加中):0枚
【道具】基本支給品、ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(右腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【思考・状況】
基本:シックスへの復讐の完遂の為、どんな手段を使ってでも生還する。
 1.まずは情報を集める。支給品を回収したら警察署へ移動。
 2.「1」の過程で、目的の達成の邪魔になりそうな者は排除しておく。
 3.首輪の解除が不可能と判断した場合は、自陣営の優勝を目指す。
 4.元の世界との関係者とはできれば会いたくない(特に弥子)。
 5.最終的にはシックスを自分の手で殺す。
【備考】
※シックスの手がかりをネウロから聞き、消息を絶った後からの参戦。
※桐生萌郁に殺害されたのは、「シナプスのカード(旧式)@そらのおとしもの」で製造されたダミーです。
※殺し合いの裏でシックスが動いていると判断しています。
※シックスへの復讐に繋がる行動を取った場合、メダルが増加します。

【ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル×2@魔人探偵脳噛ネウロ】
カザリに支給。
「新しき血族」の一人であるヴァイジャヤが製造した猛毒が入ったカプセル。
複数のカプセルが連結されて腕輪の様になっており、ヴァイジャヤはこれを腕に付けて使用していた。
毒の効力は凄まじく、カプセル一個で木を腐らせて倒壊させてしまう程。
ヴァイジャヤはこれを片腕に一つずつ付けていたので、今回は二つセットで支給。





こうして、三人の物語は再び動き始めた。
では、改めて宣言させてもらおう――ゲーム・スタート。

663 ◆qp1M9UH9gw:2012/02/10(金) 02:06:05 ID:L2wmUt320
投下終了です

664名無しさん:2012/02/10(金) 12:49:44 ID:ZtlS77960
投下乙です

あら、死んだのは偽物でそういう事情だったのか
これは面白いなあ
カザリはカザリでノリノリで笹塚も生きててよかったとは言えない程ヤバい状態だなあ…

665名無しさん:2012/02/10(金) 18:42:13 ID:vTZ/5RKoO
投下乙…なのですが話を跨いで死んだキャラが実は生きてました。というのはロワ的にありなんでしょうか?

という疑問はさておき、やっぱカザリは早速転落したウヴァさんとは大違いだなぁw

666名無しさん:2012/02/10(金) 20:00:22 ID:UBvcw1BQO
投下乙っす。
アンク(ロスト)、メズール、カザリ、。この三人はうまくロワを進行させているなー。ウヴァは乗っ取られたとはいえ、ちゃんと戦力増強を果たしているし、一体ガメルはどうなるのだろう?

667名無しさん:2012/02/10(金) 20:48:47 ID:WAKJaEbM0
>>665
よっぽど大きな矛盾や他の書き手の物言いが無ければおkじゃないの
ただ、連発されても困る

668名無しさん:2012/02/10(金) 20:55:40 ID:vTZ/5RKoO
>>667
やっぱり何事もほどほどに、か。まあ今回のは登場話ズガンからのだしそうキリキリする事もないか?

669名無しさん:2012/02/10(金) 21:21:17 ID:NPKJPiNsO
投下乙です
だけど今回の笹塚生存はありなのかな?なんか無理矢理こじつけたみたいけど…
他の人が良いなら良いけど…

670名無しさん:2012/02/10(金) 21:35:21 ID:NFsnF.bg0
グレーゾーンに片足突っ込むだけの価値があるかどうかはわからんが、仮投下の手順を踏んでから投下されたんだから
今更文句をつけても始まらんのでは?

671名無しさん:2012/02/10(金) 22:39:26 ID:bnmt7y7k0
乙です。でもギャレンの戦闘スタイルは格闘が主で銃はおまけのような気が・・・

672名無しさん:2012/02/10(金) 22:48:48 ID:4nTFcjGE0
よく読んで
ギャレンバックルは無くなってるよ。

673名無しさん:2012/02/11(土) 12:47:33 ID:BJLnMtRM0
>>666
ガメルのすぐ近くに映司がいるから一番早く退場するかもな

674 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:35:25 ID:7zUWL96U0
遅れてしまって申し訳ありません。
追加分の門矢士を含む予約分の投下を開始します。

675破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:36:50 ID:7zUWL96U0
 円形に切り取られた土地の、丁度繋ぎ目の真上に立った鹿目まどかは、目の前に拡がる光景の奇怪さに瞠目せずには居られなかった。
 秋葉原駅を出発点として、駅から続く線路に沿って真っ直ぐに歩いて来たというのに、まどかの道標の役割を果たしてくれていた線路は、突然途切れた。
 緩やかな弧を描いて、まだ先へと続いている筈の線路が……秋葉原の街並み全てが、ある節目を境に全く別の景色へと変わっているのだった。
 どうやらこのフィールドは、大きな円の中に、まるで時計盤のように無数の小さな円を配置して出来ているらしい……という事は、支給された地図を見れば理解は出来る。が、それをいざ目前にして、見たものを見たまま「成程、ここはそういう場所なんだね」と肯んじる事が出来る程、まどかの常識はまだ崩壊してはいなかった。
 まどかの知る限りでは、魔女が形成する結界も確かに異様といえば異様だが、空間自体が“非日常”の塊である魔女結界と比べれば、“日常”的な景色が突然人為的に切り取られたこの景色の方が、まどかにとってはずっと稀有だった。
 ともあれ、ここでじっとしていた所で現実は変わらない。一先ずまどかは、もう一度地図に目を通して、現在地を確認した。
 秋葉原から線路沿いに直進し、円形に切り取られた地形にぶつかる場所。どうやらここは、地図上での北東に位置するオフィス街らしい。

「……見滝原はまだまだ遠そうだなぁ」

 現在地よりもずっと北西に見知った地名が存在するが、その距離は見るからに遠い。改めて自分の居場所を認識したまどかは、憮然として項垂れた。
 一体どうして見滝原中学校や鹿目家がこの場に存在しているのだろうかという疑問はあるにはあるが、恐らくここでどれだけ考えた所で得心の行く答えに辿り着くことはないのだろう。
 本物の見滝原市が丸ごと円形に切り取られこの場に配置されたと考えるよりは、良く似た同じ土地を複製しこの会場を作ったと考える方が幾らか合理的ではあるが、だとしても十二分に異常だ。
 一体どうして真木清人がこれ程手の込んだ会場を用意してまで、六十余人の参加者に殺し合いを強要するのかなどまどかには知る術もないのだから、今は兎に角誰かに出会うまで歩き続けるしかない。
 ……とは理解しているものの、その前に少しだけ休憩を挟んだって罰は当たらないだろうとも思う。何せまどかは、重たいデイバッグを担いで、それなりの長距離を歩いて来たのだ。如何な魔法少女と言えど、基本的な体力は中学二年の女子でしかないまどかの身体に疲労が溜まっていない訳がなかった。
 立ち止まったまどかは、「そういえば」と呟き、デイバッグを開ける。

「私に支給された物……使い方分かんないものばっかりだったけど、一つだけ……」

 メダルがあったよね、と。そう告げるよりも早く、まどかはデイバッグの奥に転がっていた金縁の黒いメダルを掴み上げた。
 ゾウの紋章が描かれた黒いメダルは、確かその名をコアメダルと云ったか。
 ルールブックに書かれている通りならば、このメダルは首輪に投入しておけば、いざという時にセルメダル五十枚分までの代用として使う事が出来るとの事。
 それを思い出したまどかは、話し合いの通じない相手との戦闘、万一の非常時に備えて、忘れないうちに首輪に投入しておこうとメダルを首輪に放り込んだ。
 投げ込まれたコアメダルはまどかの首輪に命中すると同時、どういう原理かその外殻をぐにゅりと歪曲させ、内部へと侵入していった。
 体内に感じるセルメダルの総量が、僅かに増えたような気がした。

676破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:37:35 ID:7zUWL96U0
 


 言わずと知れた大都会シュテルンビルトも、この殺し合いの場にあってはゴーストタウンも同然であった。平時ならば街の至る所で耳にするであろう車の騒音も往来のざわつきも、その一切が今のこの街には存在しない。居る筈の人間が一人もいないという不可解な現状は、この街で育ったユーリに焦燥感を与えるには十分だった。
 果たして、この街に一体何が起こったのか。そもそも、どうしてこの街が殺し合いの会場の一部として使用されているのか。街一つを丸々複製するなどどんな人間にも不可能だが、かといってこの街をが本物で……と考えるのも、余りにも現実離れし過ぎている。

 そんな「不可能」をも「可能」にしてしまった男、真木清人。
 奴は一体如何なる人物なのかというのは当然気になる所ではあるが、真木と面識のある火野映司から話を聞く限りでは、真木が突然こんな事をしでかす事自体が不自然だし、そもそも真木一人ではこれだけの大事を成し遂げるのは、恐らく不可能なのだという。
 この殺し合いの裏で、決して小さくはない組織が暗躍しているのはまず間違いないのだろうが、その手掛かりも存在しないのでは、動きようもない。
 今のユーリに出来る事といえば、唯一グリードを“砕く”事が出来ると嘯く火野映司に協力し、少しずつ真木に近付いてゆく事くらいしかないのだからもどかしい。ルナティックとしての力だけでは、あの罪人には届かないのだ。
 その為の第一歩。火野映司と共に定めた最初の目的地ジャスティスタワーを目前にして、南の方角から一機の鳥型ロボットがユーリらの元へと羽ばたいて来た。

「む……あれは?」
「ああ、さっき俺が飛ばしたタカカンドロイドです。早速誰か見付けてきてくれたんだな」
「……成程」

 ユーリと合流してからややあって、火野映司はシュテルンビルトの至る所に設置されている自販機――ユーリは一度たりとも見た事のないタイプの、だが――で、セルメダルを十枚ほど消費し、カンドロイドと呼ばれるロボットを複数購入していたのを思い出す。
 火野が購入したカンドロイドは一機一機があのようなロボットへと変型し、火野の「参加者を見付けてきて欲しい」という命令を受けて四方八方へ飛び立って行ったのだった。

「随分と便利なロボットだ」
「これも元はと言えば真木博士が造ったものらしいんですけどね」
「……でしょうね」

 特に驚く事もなく、ユーリは首肯した。
 件のカンドロイド販売用の自販機は、ざっと見ただけでも相当な数がこの場には設置されている。真木を主催とする殺し合いでそれだけ大量に用意されたものなのだから、元は真木が造ったものだと聞かされた所で何ら不自然な話ではなかった。
 故にそれについてはこれ以上の言及はせず。それよりも、ユーリは今すぐに決断を下すべき事を、火野が正しく判断する事が出来るかどうかを確かめたかった。

677破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:38:10 ID:7zUWL96U0
 
「タカカンドロイドが誰かを見付けたというなら、手遅れになる前にすぐに向かった方がいいのでしょう。ジャスティスタワーは目前ですが、目的地を変更しますか?」
「いえ……その必要はありません。参加者の方には俺が一人で行きます」
「成程。二手に分かれるという事ですか。確かにその方が効率はいい」
「まあ、本当言うと、理由はそれだけじゃないんですけどね」
「というと?」
「……もしタカカンドロイドが見付けた参加者がグリードだったら……俺はきっと、もう止まらなくなります。その時に、ペトロフさんを巻き込みたくはないから」

 神妙な面持ちでそう告げる火野を見ては、「つまり私は足手纏いという事ですか」などと意地悪な事を言う気にもなれなかった。
 事実、ユーリがルナティックとしての力を秘匿している以上、どうあってもヒーローらに庇護される側の立場から脱する事は出来ないのだから。

「……成程。それが貴方の正義ですか」
「駄目、ですかね」
「立派だと思いますよ」

 嘘ではない。より多くを救うため、悪を裁くため、正義を貫くため、そのために手段すらも選ばずに己が道を突き進む事が出来るのであれば、ユーリから言わせればそれは成程正義と呼んで差し支えない。
 ……貫く事が出来るなら、の話だが。

「じゃあ、俺は必ず帰って来ますから、それまでユーリさんにはジャスティスタワーの探索の方をお願いしていいですか」
「ええ、分かりました。誰かを見付けた場合は、私が保護しておきます」
「ありがとうございます、ペトロフさん」

 そう言って頭を下げた火野が薄く浮かべた笑顔は、何処か儚げだった。
 だけれども、僅かな圧力で簡単に砕け散ってしまいそうな、硝子の如く弱々しいその笑顔とは相対的に、火野の双眸に宿った光に一切の揺らぎは見受けらず。
 そこに火野映司という人間の強い正義と、この決断に対する覚悟の重さを垣間見た気がして、ユーリは自分でも驚く程に、火野映司という人間に興味を抱いていたのだという事に気が付いて、自嘲気味にクスリと笑った。

(……いいだろう。貴様の正義、見極めさせて貰うぞ)

 タカカンドロイドを追い掛け去って行く映司の背を見送りながら、ユーリと云う名の仮面の裏側……その奥底に潜んだ正義感――ルナティック――は、誰にともなく独りごちた。



 オフィス街に脚を踏み入れてからすぐの事、極々短時間の小休止を経たまどかがその後辿ったルートは、地図にも示されている一本の道だった。
 この道に沿って歩いて、名も知らぬ次の街に着く頃には、流石に誰か一人くらいとは合流出来るだろうし、その調子で二つも街を越えれば、次に待つのはまどかの故郷見滝原だ。
 きっとまどかの仲間の魔法少女はみんな目印となる見滝原での合流を考えるだろうし、見滝原に至るまでにこの殺し合いを打倒せんとする仲間をもっと集める事が出来るなら、それに越した事はない。
 そんな考えで歩を進めるまどかの視界に入って来たのは、他のビルよりも群を抜いて巨大な、塔のように聳えるシティホテルだった。
 オフィス街を歩いている内に、小さなビジネスホテルやカプセルホテルの看板ならば幾つか見掛ける事もあったが、目前に見えるそれ程に大規模なホテルを見たのは、此処へ来て初めてだった。きっとあれが、地図にも記されているホテルなのだろう。
 ようやくこの長いオフィス街を半分まで制覇したのかと思った、その時だった。
 ホテルの方角から歩いて来たのは――

「え」

 純白のパンツを頭から被った、すらりとした体躯の男性だった。

678破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:38:32 ID:7zUWL96U0
 ――反射的に身構える。相手が殺し合いに乗っているかどうかも分からないのだから、一歩間違えれば殺される可能性もある……というよりも、相手がまともな人間なのかどうかすら怪しいのだから、一歩間違えればおかしな事をされる可能性もある、という懸念の方が正しいか。
 まどかが感じたのは、どちらかと言うとそういった生理的な類の恐怖だった。
 そもそもの話、誰が見ているかも分からない公衆の面前で、男が女物のパンツを被って出歩くなど、まどかの常識で考えれば有り得ない話だ。
 状況が状況なら、今すぐにでも「変質者が出ました」と警察に電話を掛けていてもおかしくはなかったところだろう。
 悠然と歩いて来る男とは対照的に、その場で固まったまどかの内心を、殺し合いの場には不釣り合いな類の緊張が駆け抜ける。
 そんな中、最初に誰何の声を掛けて来たのは男の方だった。

「んん? おまえ、だれだあ……?」
「私は……鹿目まどか、です」
「まどかぁ……?」

 やけに間延びした口調で、男は首を傾げた。
 被っている物もそうだが、随分な変わり者なんだなと思う。

「あの、貴方は、こんな所で何をしてるんですか?」
「おれ、メズールにあいたい。メズール、どこいった?」
「メズール……? あの、ごめんなさい、ちょっと分かんないです……」

 そう言って苦笑いするまどかだが、ガメルは目に見えて分かる程に落胆している様子だった。まるで母親とはぐれた用事が愚図るように。今にも泣き出してしまいそうな声で、「メズール」と、何度も名を呼ぶ。
 もしやこの男、身体は大人だが、人格的には子供なのではないだろうか。今まで出会った事は無かったが、世の中にはそういう人種の人間が居るという事も理解はして居る。
 まどかは、出来る限り相手を脅えさせぬようにと差し障りのない言葉を選んだ。

「あの、良かったら私も一緒に探しましょうか?」
「おれといっしょに、メズールさがしてくれるの……?」
「はい。だって、一人ぼっちは寂しいでしょ?」

 そう言って微笑むと、パンツに覆い隠されていないガメルの双眸に、ぱぁっと明るい光が挿した気がした。
 嬉しそうに目尻を下げたガメルは、無邪気にはしゃぐ子供のようにまどかの手を取り、一枚のカードを手渡して来た。

「おまえ、いいやつ! これあげる〜」
「え……これは?」
「ヒーローのブロマイド、おれとおなじ!」

 そう言って、ガメルは頭に被ったパンツを指差した。
 まどかは、ガメルと手渡されたカードとを交互に矯めつ眇めつ見比べる。カードに描かれた「ワイルドタイガー」なるヒーローもまた、青いマスクを被っていた。
 成程そういう事かと、ようやくまどかも合点が行った。
 ガメルが子供の様に無邪気な青年だというのは、事実その通りで、彼は只、このヒーローに憧れ、ヒーローになりきろうとして、このパンツをマスクの代わりに被ったのだろう。
 子供は時に、大人には想像もつかないような行動に出る事もある。幼い弟を持つまどかはそれを理解しているが故、その対処の仕方も心得ている。まどかは、幼い弟に話し掛ける時と同じように――弟にしては随分と大きいが――ガメルに警戒させぬように、出来る限り優しい口調で話し掛けた。

「あのね、ガメル。これはマスクじゃないんだよ」
「んん……? マスクじゃ、ない……?」
「そう、これは、女の子が穿くパンツ。だから、頭に被っちゃいけないの」
「でも、これ、カッコイイ……」
「ううん、カッコ良くない。そんなもの被ってちゃ、皆から嫌われちゃうよ?」
「……っ、メズールにも!?」
「うん、メズールさんにもきっと」
「じゃあおれ、やめる!!」

 母に嫌われる事を恐れる子供のように、ガメルは慌てて被っていたパンツを脱いだ。
 始めてガメルの素顔を見てまどかが抱いた印象は、まるで子供の様に純朴で、綺麗な瞳をしている、という事だった。
 こんなに純粋で無邪気な青年が、殺し合いに乗っているとは思えない。まどかにとってのガメルは、既に保護対象の一人であった。

「うん、偉いね、ガメル」

 やや背伸びをしてガメルの頭を軽く撫でると、ガメルは心底嬉しそうに笑った。
 まるで悪意の感じられない、優しい笑顔だ。ガメルの笑顔を見ていると、似ている訳もないのに、その無邪気さから弟の姿を夢想してしまう。この笑顔を守りたいと、より強く思う。
 あの頼れる先輩魔法少女のように、今度は自分が力を持たない者を守り導くのだと強い決意を胸に秘めて。まどかは、この無邪気な子供のようなガメルを安心させる為、寂しい思いはさせまいと、弟を思いやる姉のように柔和な笑みを浮かべるのだった。

679破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:39:23 ID:7zUWL96U0
 


 火野映司にジャスティスタワーを探索すると約束した手前、一応はジャスティスタワーの内部を見ておかなければならないと判断したユーリは今、ざっとではあるがタワー内部の探索を終え、日頃自分が事務所として使用している一室のデスクチェアに腰をかけた。
 元よりユーリには、この広大なタワーの内部をくまなく調査する気は無かった。何処かの一室に参加者が隠れていたとしても、見付けだす事は難しいし、何よりもユーリの目的は「悪を断罪する事」であって、弱者を守る事にはそれ程の興味はない。
 例えジャスティスタワーに悪人が潜んで居たとしても、生き残るためにはいつかはこのタワーから出なければならないのだから、外で行動していればいつかは出会う事になるだろう。その時にルナティックとして断罪すればいいだけの話だ。
 故にそれ以上無駄な労力を使う事もせず、ユーリはふっと不意に窓の外に視線を送った。

 内心で、ほう、と呟く。
 ユーリの視線の先に拡がっているのは、本来シュテルンビルトを取り囲んでいる筈の大海原ではなく、巨大な溜池のように見える水の青と、それを緩やかな弧で遮った、何処までも続く灰色のビルが並ぶ異国の街。
 そんな風景を、ユーリは知らない。
 この場所から見える水は、恐らくは溜池などではなく、海水であるべきなのだろう。
 だが、本来何処までも続いてゆく筈の海水を遮って異国のビル街が立ち並んでいるとなれば、それは最早海とは呼べない。
 果たして、一体どうしてこんな奇怪な光景が拡がっているのかなどユーリには知れないが。此処がシュテルンビルトなどでなく、意図的に造られた「殺し合いの会場」であるのだろうという事だけは理解出来た。
 全く規格外の連中を敵に回してしまったものだと、呆れを含んだ嘆息を落とすと同時、ユーリの目前の窓ガラスを、一機の赤いロボットがこつこつと叩いた。

 それは、ユーリがジャスティスタワーに入る前に火野に倣い放った一機のタカカンドロイドだった。
 命令は一つ。もしも火野が何者かと戦っているなら、ジャスティスタワーに居るユーリの元まで戻って来る事。そうでないなら、そのまま何処へなりと飛んで行け。
 タカカンドロイドは、ユーリの至極簡単な命令を完遂してくれた。
 つまりは、今、火野は戦っているという事だ。
 あの好き好んで戦いをやるとは思えない火野がそれでも戦うという事は、相手はグリードだったか、もしくはそれに並ぶ罪人であったかのどちらかなのだろう。
 ユーリは、物言わず立ち上がり、使い慣れた事務室を後にした。

680破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:39:41 ID:7zUWL96U0
 


 ホテル付近でガメルと出会ってからというもの、他愛も無い会話を重ねながら歩き続けたまどかは、今だかつて見た事の無いような、巨大な、本当に巨大な“上下三重構造の大都会”を目前に控えていた。
 名も知らぬその街は、当然ながらまどかの視界に収まり切る規模ではなく、それでいて一層目から三層目まで、その全てのフロアに高層ビルを内包した街は、それそのものが何らかの芸術作品であるかのような印象を受けた。
 地図に描かれた図を見たその時から、一体どんな街なのだろうと考えてはいたが、成程これはまどかの想像すらも越えている。何処の国の街なのかは分からないが、傍目から見るだけでも圧巻されるその巨大さに、まどかは一瞬、此処が殺し合いの場である事さえも忘れて、好奇心すら抱いた程であった。
 
「ねえガメル、見て! 凄いよ、あの街!」
「本当だ! 何だあ、あの街〜?」

 どうやらガメルもあの街を見るのは初めてだったらしい。子供そのもの、というよりも、子供以上に純粋無垢な瞳を輝かせて、目前に迫った三重構造の大都会を見上げていた。
 そういえば、家族みんなで何処かへ遊びに行った時も、幼い弟とはこんな会話をした事があったなと思い出す。優しく暖かい記憶を思い浮かべたまどかは、嬉しそうにはしゃぐガメルの傍らで、クスリと微笑んだ。

「あの街にメズールさんが居てくれるといいんだけどね」
「……メズール〜……」

 まどかの何気ない一言に反応したガメルは、寂しそうに項垂れた。
 聞けば、メズールという女性は、ガメルを我が子の様に愛してくれる優しい人なのだそうだ。いつもはメズールが一緒に居てくれるから、ガメルが独りぼっちになる事はないのだが、今日は気が付いたらメズールと離れ離れになっていたそうだ。
 真木清人から「よく分からない説明」をされたガメルは、そこに自身の意思を介入させる余地も無く、あのホテルへ飛ばされたのだという。
 状況も分かっていない子供を独りぼっちにさせるだけでなく、その母親代わりのメズールまでもが殺し合いに参加させられているという事実を知ったまどかは密かに憤慨した。
 こんなにも優しい二人の仲を引き裂いた上、互いに殺し合いをさせようなどと、人間の所業とは思えない。
 どうしてこんな酷い事が出来るのか。
 真木清人が、まるで人の命を何とも思わぬ悪魔のように思えて、まどかは筆舌には尽くし難い、インキュベーターに抱いたそれとは違ったベクトルの嫌悪感を覚えた。

「……私が必ずまたメズールさんに会わせてあげるから。だから安心してね、ガメル」
「わーい! ありがとう、まどか!」

 子供にしては低い声だが、それでも嬉しいのだろう、ガメルはすぐに聞き分けられる程に声のトーンを上げて、喜んでくれた。
 共に過ごした時間は短期間だが、ガメルは既にまどかに懐いていた。
 ガメルは幼児と同じだ。自分に愛情を向けてくれる存在が母親(メズール)しか居ないから、その母親と自身だけがいつだって世界の中心になる。ガメルの世界には、メズールとガメルの二人しか居ないと言うのに、その片方――自分に唯一優しく接してくれる者――が居なくなったのだから、きっと寂しくて不安で堪らないはずだ。
 言うなれば、ガメルは迷子の子供だった。
 相手が迷子の子供なら、周囲の大人は、一緒になって母親を探してやらねばならない。そして、本当は優しくしてくれる者は母親以外にも沢山居ると言うのだということを、世界はもっと広いのだということを、教える必要がある。
 それは別に難しい事ではない。まどかからすれば、ただ守るべき者を守り、安心させてやりたいという、ただそれだけの事だ。かつてマミがしてくれた事と何の変わりもない。

「おれ、まどかのこと、メズールのつぎにすきだ〜」
「本当に? ありがとう、嬉しいよ、ガメル」

 ガメルは、まどかに純粋な好意を向けていた。きっと、メズール以外の誰かに優しくして貰ったのは、まどかが初めてなのだろう。
 ならばまどかは、この純粋な思いを裏切らない為にも、何としてもメズールと再会させてやりたいと強く願う。

「……あっ」

 不意に、そんな二人の直上を、一機の赤い鳥型ロボットが駆け抜けていった。
 真っ先にそれに気付いたまどかは、何事かと空飛ぶロボットを眇めるが、まどかにそれ以上ロボットを注視するだけの余裕は与えられなかった。
 名も知らぬ誰かが、まどかが目指していた三重構造の街の方角から、堂々と歩いて来る。
 歳の頃は二十を回るかどうかという頃合いだろうか。見滝原の街中では中々見掛ける事のない、随分とラフな印象を受けるエスニック調のシャツを着こなした青年は、三つのスロットが設けられた無機質なバックルを腰に当てがった。

681破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:39:58 ID:7zUWL96U0
 
「あの、貴方は――」
「オーズ〜……?」

 まどかの言葉を遮って、ガメルが惚けた口調でそう言った。
 名前、だろうか。オーズと呼ばれた男は、胸元から飛び出した三枚のメダルを掴み取ると、一枚ずつ、カチャリ、カチャリと音を立てて腰に装着されたベルトのバックルへと装填してゆく。

「俺はオーズ。仮面ライダーオーズ」
「仮面、ライダー……?」
「君は逃げて。そいつはグリードだ」
「えっ……」

 仮面ライダーオーズと名乗った男の双眸に宿った強い光は、一切の揺らぎを見せる事もなく、真っ直ぐにガメルを捉えて据わっていた。
 一体どういう事だろう。グリードとは、確か真木清人に与する怪人だったように思うが、そんな奴がこの場の何処に居るというのか。
 何がどうなっているのか、現状をまるで把握出来ず、疑問符を浮かべるだけしか出来ぬまどかなど意にも介さず、男は右腰に取り付けられていた円形の機器を、

「変身!」

 斜めに倒したバックルに、勢いよく通した。

 ――プテラ! トリケラ!! ティラノ!!!――

 この場の誰のものでもない、やけに印象深いハスキーな声が響き渡ったのをまどかが認識した時には、既に男の周囲を紫のメダル状のエネルギーが飛び交っていた。
 プテラノドンと、トリケラトプスと、ティラノサウルス。三体の恐竜の紋章を描いたコアメダルが男の目前に縦一列に並んだと思えば、それら三つは一つに合わさって、新たな紋章を形成して男の胸元に取り付いた。

 ――プッ・トッ・ティラッノザ〜ウル〜ス!!!――

 この場の誰よりも快活で、それでいて煩い歌声が鳴り響く。
 男の全身を白のスーツが覆い尽くし、更にプテラノドンを連想させる仮面が、トリケラトプスを連想させる装甲が、そして大地を踏み締めるティラノサウルスの脚を連想させるブーツが、一瞬のうちに装着された。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――ッッ!!!」

 唸る様な絶叫。
 オーズの後頭部で、紫色をしたエネルギー状の翼が羽撃たけば、周囲の何者をも凍えさせんばかりの冷気が、ごうっ! と吹き付けた。
 オーズの臀部から、現出したエネルギー状の巨大な尾は、一度大きくうねると、硬いアスファルトをどんっ! と叩き地響きを立てた。

 それは、魔女と対峙した時に感じる感覚とよく似ていた。
 言うなれば、本能的な恐怖。周囲の何もかもを破壊し尽くし、殺し尽くさんとする暴君の如き威圧感が、まるで三種の恐竜の特徴全てを掛け合わせたかのような眼前のバケモノから撒き散らされていた。

682破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:40:17 ID:7zUWL96U0
 


 地面を砕き、一艇の斧を掴み取った紫のオーズは、それを高らかに振り上げ。背部の巨大なプテラの羽根を羽撃たかせ、獲物を狩る肉食獣の如き勢いで以て、未だ危機感を抱いていないのであろう棒立ちのガメルへと急迫した。
 
 拙い――!
 
 このままでは、ガメルが殺される。瞬時に最悪の未来を想定したまどかの身体は、それ以上何も考える事なく、ほぼ反射的に動き出していた。
 尋常ならざる速度で飛び込んで来たオーズの道を阻むように、一瞬で魔法少女への変身を遂げたまどかが割り込んだのだ。
 木の枝にも見える魔法のステッキを構え、魔力で出来た光の障壁を前面に展開する。
 ガメルを両断する筈だった紫の刃は、まどかが張った障壁とかち合って、一瞬ののちにはそれすらも容易に砕いた。
 響き渡るのは、硝子が割れるような甲高い音。それに混じって、オーズの仮面の下から驚愕に息を飲む音が聞こえた気がした。
 オーズは咄嗟に腕を止めようとしたのだろうが、この世のあらゆる生物よりも強靭な筋肉で地を蹴り、この世のあらゆる生物よりも力強く巨大な羽根で以て加速したその身を寸前で止めるのは至難の技だったのだろう。オーズの斧は、障壁を砕き割るだけでは止められず、まどかのステッキと激突した所で、ようやく止まった。

「きゃあああああああっ!?」

 オーズの一撃は巨大な魔女による打撃攻撃よろしくまどかの身体を弾き飛ばし、この身を十メートル以上も後方へ吹っ飛ばした。受け身を取る事すらもままならぬまどかは、二度三度とアスファルトに身体をバウンドさせ、そこから更に数メートルも後方へ転がった。
 幸いなことに、オーズの斧による直接の裂傷はないが、アスファルトに何度も身体をぶつけた事で、まどかは身体のあちこちに打撲と擦り傷による鈍い痛みを覚えた。
 が、魔法少女として何度も魔女と戦って来たまどかにとって、この程度の傷は全く以て致命傷には成り得ない。何とか上体を起こしたまどかは、尻餅をついて、「いたたたた」と呟きながら打ち付けた腰をさする。

「ご、ごめっ――」
「まどかぁあああああああああっ!!!」

 その場で狼狽したオーズは、慌てふためいた声音で謝罪の言葉を告げようとするが、血相を変えてまどかに駆け寄るガメルの絶叫によって、その声は遮られた。
 まどかは、ガメルを庇って傷を負ったのだ。それくらいの事は分かるのであろうガメルは、今にも泣き出しそうにその大きな瞳を見開いて、まどかの容態を確認する。

「だいじょうぶ、まどか……!?」
「うん、私は大丈夫だよ。ガメルこそ、無事で良かった」

 そう言って、何とか笑顔を作るまどかに、ガメルはほっと胸を撫で下ろした様子で緩く微笑み返した。
 それからガメルは、肩に掛けていたデイバッグを、煩わしいとばかりにその場に降ろすと、無言でまどかに背を向けた。
 凍てつく古の暴君となったオーズに向き直り、ガメルは唸る様に叫ぶ。

「オーズゥゥゥゥゥ――ッッ!!!」

 相も変わらず無骨なその声には、乱暴で、それでいて分かり易い程に真っ直ぐな怒気が込められていた。
 あの優しくて、どんな時も笑っていたガメルがこんなにも怒る姿を、まどかは知らない。
 
 ――かつて、ガメルを最も良く知るメズールはこう言った。
 ガメルは、全てのグリードの中で最も自分の欲望に忠実であると。
 そして、自分の欲に忠実であるが故、気に入らない事が起こった時は、全てのグリードの中で、最も力を発揮するのだと。
 今が、その時だった。

683破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:40:55 ID:7zUWL96U0
 
 まどかから見えるガメルの背が大量のセルメダルで覆い尽くされたかと思ったその刹那、ガメルの姿が人間のそれではなくなった。
 上半身は、まるで人の筋肉組織を剥き出しにしたかのような質感を思わせる茶色へと変わり、下半身は人のものとは思えぬ程に太く逞しく変わって、その上を鈍い鋼の色をした重厚な鎧が覆い尽くした。
 下半身と比べれば、上半身から受ける貧相な印象は、あまりにもアンバランスだが、それでも人の肉体よりは遥かに強靭なのであろう事は、ガメルが発する怒りと威圧感が物語っていた。

「そんな……その姿って……っ」

 そしてその姿は、始まりのホールで見た“奴ら”と、良く似ていた。
 先程のオーズの言葉にもようやく合点が行く。ガメルは、グリードだったのだ。
 自分は騙されていたのだろうか。あの二人の少女を惨殺した狂人に与する怪人を、今の今まで仲間だと思い、あまつさえ守りたいとすら思っていたのか。
 狼狽する。何を言えばいいのか、どんな言葉を掛ければいいのかも分からず黙り込むしか出来なかった。
 何も言わない三者の間に流れる空気は嫌に重たく息苦しく、このままここでじっとしていては、ガメルとオーズが放つ互いのプレッシャーに押し潰されてしまうのではないかとさえ錯覚してしまう程だった。
 そんな中で、最初に静寂を破ったのは、オーズだった。
 
「ガメル……っ、お前まさか、その子の事……」
「まどか、おれにやさしくしてくれた! まどかをいじめるやつ、おれがゆるさないっ!!」
「……っ! ……そっか、そうなんだな。お前今、誰かの為に戦おうとしてるんだな」

 短い問答で、まるでオーズは全てを理解したというように呟いた。
 その声は、先程までの感情を感じさせない冷徹な声とは違っていて。どこか寂しそうな……冷たさよりは、寧ろ暖かさすら感じさせる、優しいものだった。
 一瞬の逡巡ののち、儚げに吐き出された吐息に次いで、オーズの声音は、再び冷徹なものへと戻った。

「悪いけど。それでも俺はやらなきゃいけない。
 憎まれたって、怨まれたって、それでも――!」

 仮面の下で、すうと息を吸い込んだオーズは、紫の斧を構え直し、叫んだ。

「俺は仮面ライダーオーズ。お前のコアは、此処で砕くッ!!」

 獲物に狙いを定めた獣のように深く腰を落としたオーズは、見る者の本能的な恐怖心を呼び覚ますような絶叫と共に、いざガメルを討たんと走り出した。
 ガメルもまた、剛腕を振り上げて迫り来るオーズへ向かって走り出す。

684破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:41:19 ID:7zUWL96U0
 


 一瞬ののち、互いに肉薄した二人の攻撃が交差する。オーズが振り下ろした斧は絶大な威力を持った一撃となって、ガメルの胸部を強打し、その部位からセルメダルをばらまくが、ガメルがラリアットの要領で振り抜いた拳もまた、オーズの仮面を強かに打ち付け、その身を数歩後方へと後ずらせた。
 ガメルはオーズの一撃を受けても怯む事なく、追撃とばかりにオーズへと拳を打ち付ける。動きは鈍く、とても戦い慣れした者のそれとは思えぬパンチだが、それでもガメルが振るう腕にはオーズ以上の力があった。
 オーズによってばらまかれたメダルは、すぐにガメルの首輪へと自動的に回収されてゆき、ガメルはまるでオーズの攻撃でも受け無かったかのように我武者羅にぶつかってゆく。
 激しい組み合いの末に、ガメルの拳がオーズの仮面を殴り飛ばして、オーズの身を吹っ飛ばした。ごろごろとアスファルトを転がったオーズに、ガメルは容赦なく追撃を掛ける。

「ガメル、お前っ……何でこんな力をっ――!?」
「ウオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 驚愕するオーズだが、ガメルはオーズの言葉になどまるで耳を貸さず、未だ起き上がる事の出来ぬオーズの身体を砕こうと、鉄槌の如き剛腕を振り下ろした。
 寸での所で横に転がって回避するオーズ。ガメルの拳は、ドンッ! と強烈な破砕音を響かせてアスファルトを打ち抜き、寸前までオーズが居た場所に、それが怪人一人によるものとは思えぬ程に巨大なクレーターを作り上げた。
 小規模な地盤沈下を起こし歪んだアスファルトの上に立ったガメルは、両腕を打ち付け、再び立ち上がったオーズを睨み唸る。

 普段はその尋常ならざるパワーを活かした肉弾戦で戦う事しかしないガメルには、自分でも理解出来ているのかは不明だが、本来ならば重力を操作する能力が備わっているのだった。
 メズール以外に初めてガメルに優しくしてくれた鹿目まどかを傷付けられた事への怒りが、オーズの身体を打ち砕かんと拳を振り下ろしたガメルに無意識的にその能力を発動させ、ただでさえ強力な力を持った一撃は必殺の威力を秘めた拳へと昇華されたのだ。
 が、それだけの理由で、メダル僅か五枚の不完全体のガメルが、オーズ最強のコンボであるプトティラを相手にここまで善戦できるのは些か不自然だ。
 実際のところ、ガメルのこの異常なまでの戦闘力の高さは、この場での制限が大きく影響していた。

 そもそもの話、本来ならば、不完全体のグリードは完全体ほど多彩な能力を用いはしない。
 この場で既に行われたガメルの重力操作も、もっと離れた場所で言うなら、メズールの液状化も、完全体程ではないにしろ、不完全体にしては明らかに過ぎた力だ。
 それを行えるのも、主催である真木清人による補助があるからこそ、なのだが――それで他の参加者との間に生じる戦力差など、微々たるもの。
 そして、例えどれだけ戦力の補助が為されようとも、所詮ガメルは不完全体で、相手はあのプトティラコンボだ。最強と謳われた絶滅種のメダルを前に、その程度の差は決して埋められぬものではなかった。
 そしてオーズは、一度ガメルの攻撃を回避せしめた事で、その威力を理解し、ガメルに対する戦い方を覚えてしまった。先の一撃を外してしまったのは、ガメルにとって致命的なミスであるのだが、怒りに身を委ねて襲い掛かるガメルには、それすらも理解出来はしない。
 もう一度胸の前で拳を打ち付けたガメルは、両腕を振り上げ、猛然と走り出した。

「――オオオオオオオオオオオオオオズゥゥゥゥゥッッ!!!」

 それを受けて、オーズもまた、獣のように吠える。

「ウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 巨大な翼と、巨大な尾がオーズの背部から現出し、オーズが身を翻すと同時、尾は巨大な弧を描いて、馬鹿正直に真正面から突撃を仕掛けて来たガメルの身体を薙ぎ飛ばした。
 遠心力によって更に威力を上げた恐竜の尾による一撃は、絶大な重量を誇るガメルの身体すらも容易に浮かせ、想定外の攻撃に対処など出来る訳もないガメルは、その身をどさりとアスファルトに横たえた。
 ガメルはすぐさま起き上がろうとするが、

685破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:41:48 ID:7zUWL96U0
 
「――オオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 もう遅い。その巨大な翼で以て、砂埃を巻き上げながら地面すれすれを滑空し急迫したオーズが、絶叫と共に渾身の一撃をガメルに叩き込んだ。
 輝く紫の刃が、何度となく抉った筈のガメルの胸部を、今度はより深く斬り裂く。
 ガメルの身体を支える力――すなわちメダルが、ガメルの体内で粉々に砕け散った。
 自分の身体――メダル――が砕かれる音がガメルの耳朶を打った次の瞬間には、ガメルの下半身を覆っていた装甲が姿を変え、ただのセルメダルとなって崩れ落ちる。砕かれたのは、下半身を司るゾウのメダルだった。
 感情を内包したコアメダルを砕けばそれで勝負は終わっていたのだが、オーズにはそれがどのコアメダルなのか分からない。また、一瞬のうちに繰り出された連撃であったが故、そういった狙いを付ける事すらもままならなかったのだろう。
 
「あ、あれえ……なん、でえ……?」

 これには堪らず怯み、ふらつくガメル。
 オーズは、そんなガメルにも一切の容赦をする事無く、斧を持たぬ左腕をガメルの胸部へと叩き込んだ。
 体内に腕をブチ込まれたのだ。それが苦痛でない訳がない。
 呻きを漏らしながらも、ガメルは持てる力を振り絞って、肉薄し切ったオーズのプテラノドンを模した仮面目掛けて渾身のストレートパンチをぶつけた。
 うぐ、と嗚咽を漏らしたオーズは、堪らず後方へと吹っ飛び、一度地面を転がってから起き上がるが――その腕には、黒い色をした二枚のコアメダルが握られていた。それが自分から抜き取られたものであるのだと即座に気付く事が出来る程、今のガメルに精神的な余裕はない。

「おかしい、ぞう……ちからが、でない……」

 最早ガメルに、先程までのような威勢など残されてはいなかった。
 次いで、現状を理解する事すらままならぬガメルの下半身から、僅かに残されていた漆黒の装甲すらもメダルへと変じ崩れ落てゆく。ガメルの身を守ってくれる装甲は、ついに足首よりも下と、ゾウを模した頭部のみとなった。
 オーズは、ガメルから奪い取った二枚のコアメダルを自分の首輪へと放り込むと、入れ替わりに取り出したセルメダルを携えた斧に「ゴックン!」という声と共に飲ませ、それをバズーカ状の形態へと変形させる。
 
 ――プッ・トッ・ティラッノヒッサ〜ツ!!!――
 
 最早オーズへ突貫してゆく力すら残されてはいないガメルの耳朶を打つメダガブリューの歌声は、さながらガメルへと送られる鎮魂歌のようだった。

686破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:42:15 ID:7zUWL96U0
 


 目の前で繰り広げられる恐竜と怪人の戦いを、まどかはまるで他人事のように眺めていた。
 まどかとずっと一緒に行動していたあいつは、グリードだったのだ。この殺し合いの元凶、理不尽に殺された二人の少女を嘲笑った、あの怪人どもの仲間だったのだ。
 まどかの願いは「自分の手で誰かを救う事」であって、この殺し合いを促進させる事では断じてない。力のない参加者を救いこそすれ、自分達よりも強大な力を持った、得体も知れぬ怪人どもを助けたって、誰も喜びはしないに決まっている。

 そう、頭では分かっているのに。
 あの斧がガメルを斬り裂くのを見るのは、辛かった。
 あの恐竜がガメルを傷め付けるのを見ると、胸が苦しくなった。

 そんな感情を抱くのは、間違っている筈なのに。
 ガメルに、正義などある筈がない。正しいのはオーズだと言う事も分かっているのに。
 どうして、どうしてこんなにもガメルの事が、心配なのだろう。より多くの命を救う為には、グリードであるガメルはここで砕かれた方がいいに決まっているのに、それなのに。
 ガメルの優しく純朴だったあの笑顔を思い出せば、分かり切っている筈の「合理性」も、決まり切っている筈の「正義」も、酷く歪んだ冷たい虚像のように思えてならなかった。
 仮にそれを貫く事が正義であるというのなら、まどかはまだ正義には成り切れないし、なりたいとも思いはしない。
 まどかの願いは、欲望は――今ガメルを見捨てた所で、絶対に満たされはしない。
 それに気付いた時、まどかの胸中に蘇って来たのは、
 
 ――まどか、おれにやさしくしてくれた!――

「……そっか」

 ――まどかをいじめるやつ、おれがゆるさないっ!!――

「そうだよね」

 まどかの為に、「誰かの為に戦う」ガメルの絶叫だった。
 あの優しいガメルは、戦いなど好む訳もないガメルは、今まどかの為に戦っているのだ。例えガメルがグリードであったとしても、その願いは、自分と何の違いもない。
 誰かの為に戦える優しい心を持った者が、冷たい正義によって押し潰される様など、まどかは見たくないし、そんな非道を認めたくもない。
 この手の魔法は、いつだって優しい誰かを守る為に振るわれる力。
 それを思い出した時、まどかは傷の痛みなどはとうに忘れて、持てる魔力全てを推進力に回して、必殺の砲撃を放たんとバズーカを構えるオーズとガメルの間に割って入った。
 紫の鈍い輝きと、ブラックホールの如き暗黒を発生させ、いざガメルの身を砕こうと構えられた必殺砲の銃口を前にして、それでもまどかは臆する事無く、オーズと対峙する。
 一瞬狼狽したのだろうオーズは、ガメルを捉えていた筈の銃口を僅かにブレさせるが、すぐに再び構え直し、叫んだ。

687破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:42:57 ID:7zUWL96U0
 
「きみ、どいてっ!」
「私の名前は鹿目まどかです!」
「まどかちゃん……どうしてそこまで!」
「仮面ライダーオーズ……貴方が正しいって事は、分かります……グリードは砕かなきゃいけないって、それも、分かりますけど……っ!
 でも……っ、こんなのはやっぱり間違ってる! 例え貴方が正義でも、こんなのっ……こんなの絶対おかしいよっ!」

 紡がれる言葉は決して上手とは言えないが、不器用でも、それでもまどかは思いの丈を叫んだ。
 オーズの表情は紫の仮面に隠れて見えはしないが、やはり動揺はあるのか、小さくかぶりを振ると、オーズもまた叫ぶ。

「それでもやらなくちゃいけないんだっ! でなきゃ、もっと多くの人が死ぬ! あの二人みたいな犠牲が、これからも繰り返される! だから――!」
「ガメルは、誰の事も傷付けてない! あんなに優しい笑顔で笑えるのにっ、今だって、私の為に、こんなに傷ついて……っ、誰の為に戦える人が、優しくない訳がない!」

 まどかが振りかざすのは、子供の理屈だった。
 戦場でそれを振りかざした所で、救える命などないのだろうという理屈は分かるが、それでもまどかは、そんな理屈に、正義に負けたくはなかった。精一杯の足掻きだった。
 例え戦う事になっても、自分の意思を押し通す。それくらいの覚悟で挑むまどかの足元に――蒼く燃え盛る炎の矢が突き刺さった。

「っ――!?」

 その場の全員が驚愕に息を呑んだ。
 突き刺さった炎の矢は、ごうと音を立ててアスファルトを焼き、暴力的なまでに熱を撒き散らす蒼い炎を巻き上げ、最も至近距離のまどかの肌すらも焦がそうと唸りを上げる。
 何が起こったのかも分からず、それでも反射的に、逆巻く炎から我が身を守らんと身をよじった、その時。

 まどかの肩を、大きく力強い腕が、ぐっと押し遣った。
 尋常ならざる怪力によって押し出されたまどかの身体が、数十メートル程遠くへ投げ出されると同時、さながら太古の肉食恐竜の咆哮の如く、オーズが構えた必殺砲が唸りを上げた。
 オーズが放った紫の輝きは、極太のレーザーとなって蒼い炎に焼かれるガメルを飲み込んだ。

688破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:43:22 ID:7zUWL96U0
 


 突然の矢による射撃によって、まどかの身はガメルの射線軸上から外れた。
 オーズは、そのチャンスを見逃すまいとして、グリードの身体をバラバラにするには十分過ぎる威力を秘めた必殺砲の引鉄を引いたのだ。
 蒼い炎に気を取られ、一瞬対応が遅れたまどかを庇うべく――ガメルは、まどかの肩を押し遣り、自らの身で以てストレインドゥームによる光の洗礼を一人で受けた。

 当然、最早メダル二枚しか持たぬガメルがその一撃を受けて、耐え切れる訳がなかった。
 ガメルの身体は、まどかの目の前でただのセルメダルとなって、四方八方へとばらまかれた。つい先刻までガメルだったものは、その場に居るオーズと、まどかの首輪へと自動的に吸収されてゆく。

「……ぁ、あ……ガメル……?」

 何が起こったのか、理解出来る訳もなかった。
 先程までガメルだったものは、最早何処にも居ない。
 ただ大量のセルメダルとなって、まどかの眼前に降り注ぐのみだった。
 やがて、降り注ぐセルメダルの中に、白と黒のコアメダルが混じっていた事に気付く。サイとゴリラの紋章を描いたそれらは、オーズよりも、まどかの近くへ降り注いだのだ。
 すかさず駆け寄ったまどかは、それが先程までガメルの身体を成していたものなのだという事に気付き、二枚のコアメダルを握り締め、

「そんな……ぁ、どうしてっ……一緒に、メズールさんを探すって、言ったのに……ぃっ!」

 啜り泣くように。嗚咽と共に、果たせなくなったガメルとの約束を漏らした。
 ガメルの子供のように純朴な笑顔は、もう見る事が出来ない。一緒にメズールを探そうと約束したのに、それを果たす相手は、もうこの世には居ない。
 守ると誓ったものを、自分は守る事が出来なかったのだ。どうしようもない無力感に、まるで心の何処かに穴が空いてしまったかのような虚無感に、まどかはどうする事も出来ず、ただ二枚のコアメダルを握り締め、涙を流す事くらいしか出来なかった。
 そんなまどかに追い打ちを掛けるように、オーズは言った。

「まどかちゃん。その二枚のコアメダル、俺に渡してくれるかな」
「……っ!」

 手を差し伸べるオーズが、まどかの眼には、悪魔のように見えた。
 そんな訳はないと理屈では分かっていても、まどかはガメルの形見となったこのコアメダルを、ガメルを砕いたこの男にだけは絶対に渡したくはないと思う。
 そんなものは、ただの子供の我儘なのだと分かっていても、それでも。

「出来、ません」
「まどかちゃん」
「このメダルは、貴方には、渡せませんっ!」

 そう言って、ガメルのコアメダルを強く握り締め、胸に抱く。
 オーズは、無理矢理にまどかからメダルを奪おうとはしなかった。
 そっか、と一言呟くと、斜めに倒れていたベルトをカタンと鳴らして横一列に戻す。同時に、オーズの身体を覆っていた白のスーツと紫の装甲は、薄い光となって霧散した。
 オーズだった男――火野映司は、やはり儚げな、簡単に掻き消されてしまいそうな微笑みを浮かべる。その表情を見ていると、彼をこれ以上責め立てる気もおきず、まどかはそれ以上、何を言っていいのかも分からなくなった。
 そんな時だった。

689破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:43:55 ID:7zUWL96U0
 
「仮面ライダーオーズよ。何故その娘からメダルを奪わない?」

 感情を感じられぬ、酷く冷淡な声が、この場に響き渡った。
 はっとして顔を上げる。周囲をぐるりと見渡して――そして、声の主を見付けた。
 剥き出しにされた瞳と、薄く開いた唇が、見る者に酷く不気味な印象を与える、蒼い仮面の男だった。身に纏ったマントが裾からゆっくりと蒼い炎に焼かれ消失していくにつれ、その下に纏った蒼と白を基調としたスーツが姿を露わしてゆく。
 蒼い炎に焼かれるマントと、その下から現れた一艇のボウガンを見た時、まどかは一つの確信を得た。
 まどかを取り巻く状況の全てが変わったあの瞬間。まどかの足元目掛けて、蒼き灼熱の矢を放ったのは、あの仮面の男だ。
 涙を拭う事すらも忘れ、ぐんにゃりと歪んだ視界で怨めしげに蒼い仮面を見上げるまどかなど意にも介さず、仮面は映司に向かい、まるで味方に話し掛けるように、やや丸い語調で以て言葉を紡ぎ出す。

「きみの戦いにはメダルが必要なのだろう。そして、その娘は罪人を庇う悪魔。
 今し方、正義の為に罪人を断罪したきみが、一体何故、どうして躊躇する必要がある?
 さあ、早くその悪魔からメダルを奪い給え。私に正義を見せてくれ、仮面ライダーオーズ」
「……アンタには悪いけど、今のこの子からメダルを奪う事は、俺には出来ないかな」
「ほう?」

 まるで壊れた人形のように、蒼の仮面が、カクンと首を傾げた。
 二枚のコアメダルを抱き締めたまどかは、警戒を隠しもせずに、蒼の仮面に誰何する。

「……貴方、一体何なんですか」
「私の名はルナティック。この世の闇を裂き、罪人を断罪する為に舞い降りた」
「つみ、びと……? そんな、どうして……ガメルが一体、どんな罪を……」
「どんな罪を……? おやおや、おかしな事を言うねえ、きみは」

 そう言って、ルナティックは仮面の下で薄く失笑し、嘲笑すらも多分に含んだ声音で「きみ」を強調して言った。
 むっとしたまどかは、つい反射的に声を荒げようと身を乗り出すが――まどかが次の行動に出るよりも先に、ルナティックが掌から生み出した蒼い炎の矢を、ボウガンに装填し、それをまどかに突き付けた。
 そんなまどかを庇うように、映司がさっと前へ歩み出る。

「……っ、ちょっと! 子供相手にやりすぎだって!」
「子供とは言え、罪人を庇う者もまた悪魔……。だが、案ずる事はない。無益な殺生は私の主義に反する。
 きみが大人しくそのメダルをオーズに差し出し、己の過ちを悔いると云うなら、命まで取る気はない」
「渡せません。貴方の言う事は、この人よりも、もっとおかしいから」
「懺悔をする気はないと?」

 ルナティックの問いに、まどかは首肯で答えた。
 申し出を断ったのだから、いつあの蒼い炎の矢が飛んできてもおかしくはないと判断したまどかは、いつでも魔力を行使出来るように、ステッキを握る手に力を込める。
 まさに一触即発。どちらかが動けば、戦いが始まると思われた、その時。
 彼方から高速で飛来した赤く燃える炎が、未だボウガンに装着されたままの蒼く燃える矢を撃った。ボウガンを握るルナティックの手は弾き上げられ、装填されていた炎の矢も消失する。
 一体、何が起こったのだろうか。状況を完全には把握できず困惑するまどかの耳朶を打ったのは、男にしては余りにも女らし過ぎる抑揚だが、しかし女にしては余りにも低すぎる、何者かの声だった。

「……間一髪、かしら?」

 赤く燃え盛る炎を夢想させるマントを翻し、真紅の仮面に顔の半分以上を隠した彼の者は、ガメルが持っていたブロマイドカードの中にその姿を見た覚えがある。
 名前は何だったか、と考えるまどかに変わって、映司が誰何の声を掛けた。

「貴方は?」
「私はファイヤーエンブレム。シュテルンビルトを守る正義のヒーローよ。知らない訳じゃないでしょ?」

 知っているのが当然とばかりに、ファイヤーエンブレムは名乗った。
 まどかは、あのブロマイドに描かれていたヒーロー達はどれも架空の存在であるのだとばかり思っていたのだが、今自分が彼に救われた事を考えると、どうやら、どういう訳かヒーローと云う存在も実在するものらしい。
 仮面ライダーといい、ヒーローといい、グリードといい――この場には魔法少女とは非なる、未知の力を持った者が複数存在するのだと考えれば、自分の魔法少女の力が一体何処まで通用するのかというのも不安になって来るものだった。
 ファイヤーエンブレムは、ルナティックの眼下――火野の隣に並び立つと、やや語気を荒げて言った。

690破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:44:15 ID:7zUWL96U0
 
「爆発の音が聞こえたから来てみれば……ルナティック。アンタ、こんな子供にまで手を出すなんて、随分と堕ちたもんネ」
「何度も言わせるなファイヤーエンブレム。私は罪人に罪を償わせる為だけに舞い降りた。
 その娘は正義を否定し、罪人を庇い、今また正義の道を阻もうとしている」
「あら、私にはそうは見えなかったけど?」

 そう言って、ファイヤーエンブレムはいつでもルナティックに対処出来るよう、先の炎を繰り出せるよう、赤いスーツに覆われた腕をルナティックへと突き付けた。
 図らずもファイヤーエンブレムの背に隠れる形となったまどかに、彼は告げる。

「今の内に、逃げなさい」
「え、でも……っ」
「いいから。ここは私に任せなさい」
「まどかちゃん。俺のこと、憎いかもしれないけど、今はそのメダルを持って何処か安全なところに逃げてくれないかな……俺達は、大丈夫だから」

 まるで心からまどかを心配しているような、そういう物言いに、まどかは再び筆舌に尽くし難い複雑な感情を抱く。
 映司は、仮面ライダーオーズだ。ガメルを砕いた、ガメルを殺した憎い相手だ。変身すればルナティックにも遅れは取らないのだろうし、まどかが案ずる必要もないくらいに彼は強いのだろうが、そんな心配とは別の、暗い感情がまどかを項垂れさせる。
 別に、ガメルの仇を取りたいだとか、そういう事を考えている訳ではない。
 映司が間違った事を言っている訳ではないという事も、彼が本当は心優しい青年なのだという事も、こんな出会い方でなければ、きっともっと仲良くなる事も出来た筈であろう事も、頭では分かっている。
 が、それでも。まどかは、映司と一緒に居たくは無かった。
 ガメルは何も悪い事はしていない良いグリードだったが、それを砕いた映司もまた、誰かの為に戦う心優しい戦士なのだろう。だからこそ。ガメルが死んだ事への哀しみを一人で抱えるしか無くなって、それを吐き出す先がなくて、まどかはどうしようもなく落ち込んでいた。
 
 分かっている。今は、時間が必要だ。考える時間が必要なのだ。
 この二人ならばまどか一人が離脱したところで、たかが一人の敵を相手に負けるという事もないだろう。
 今は、ガメルの形見を誰にも奪わせない為に。そして、心に整理を付ける為に。

「……分かりました。お願い、します」

 まどかは大きく頭を下げ、礼と共にそう告げた。
 戦いに繰り出る前に、まどかの
 ガメルが持っていたデイバッグを引っ掴み、向かう先すら考えず、脇目も振らずに走り出した。
 それはさながら、このあまりにも非情過ぎる、不条理な暴力の蠢く殺し合いの現実から逃げ出そうとしているかのようだった。

691破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:44:32 ID:7zUWL96U0
 


【1日目-午後】
【C-7/オフィス街 道路 シュテルンビルトエリア直前】


【火野映司@仮面ライダーOOO】
【所属】無
【状態】疲労(小)、罪悪感
【首輪】80枚:0枚
【コア】タカ、トラ、バッタ、ゴリラ、ゾウ、プテラ×2、トリケラ、ティラノ×2
【装備】オーズドライバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:グリードを全て砕き、ゲームを破綻させる。
 0.ごめんね、まどかちゃん……。
 1.まずはルナティックを何とかする。
 2.その後ファイヤーエンブレムと共に、ジャスティスタワーに戻ってユーリと合流したい。
 3.グリードは問答無用で倒し、メダルを砕くが、オーズとして使用する分のメダルは奪い取る。
 4.もしもアンクが現れても、倒さなければならないが……
【備考】
※もしもアンクに出会った場合、問答無用で倒すだけの覚悟が出来ているかどうかは不明です
※ヒーローの話をまだ詳しく聞いておらず、TIGER&BUNNYの世界が異世界だという事にも気付いていません。
※プトティラに変身した事でメダルは大幅に消費されましたが、ガメルがばらまいたセルメダルと、グリードを砕いた事で目的が一つ達成され、メダルが増加しました。
※メダルを砕いた事は後悔していませんが、全く悪事を働いて居なかったガメルを砕き、あまつさえまどかの心に傷を与えてしまった事に関しては罪悪感を抱いています。


【ネイサン・シーモア@TIGER&BUNNY】
【所属】赤
【状態】健康
【首輪】99枚:0枚
【装備】無し
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らず、出来るだけ多くの命を救い脱出する。
 1.まずはルナティックを何とかする。
 2.落ち着いたらイケメンで強そうな彼(=映司)と情報交換したい。
【備考】
※参戦時期は不明ですが、少なくともルナティックを知っています。


【ユーリ・ペトロフ@TIGER&BUNNY】
【所属】緑
【状態】健康、ルナティックの装備を装着中
【首輪】95枚:0枚
【コア】チーター
【装備】無し
【道具】基本支給品一式、ルナティックの装備一式@TIGER&BUNNY
【思考・状況】
基本:タナトスの声により、罪深き者に正義の裁きを下す。
(訳:人を殺めた者は殺す。最終的には真木も殺す)
 1.ヒーローと戦うのは本意ではない。このまま離脱するか……?
 2.火野映司の正義を見極める。チーターコアはその時まで保留。
 3.人前で堂々とルナティックの力は使わない。
【備考】
※ルナティックの装備一式とは、仮面とヒーロースーツ、大量のマントとクロスボウです。
※一枚目のマントを自ら燃やしましたが、まだまだ予備はあります。

692破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:45:17 ID:7zUWL96U0
 



 まだ日は高く昇っているが、熱いくらいに暖かな陽光は、逃げるように走り続けるまどかの心の奥には届かなかった。どんよりと雨雲が掛かったように暗く沈んだ心を抱えて、まどかは目的地も無くただ走る。
 ガメルと共に期待に胸を膨らませたあの街は、シュテルンビルトは、もうずっと遠い。見慣れた日本のビル群によって遮られているのだから、例え振り返ったところでシュテルンビルトなど拝めよう筈も無かった。
 数十分前のガメルとの会話が、今となってはとても、とても懐かしい過去の出来事だったように思えて。力及ばず喪ってしまった、守れなかった事実にまどかは打ちひしがれて、自分が如何に無力であったかを呪う。

 そうだ。真に呪うべきは、オーズではなく、自分自身なのだ。
 もしも自分にもっと力があれば、或いはもっと違った行動を取る事が出来ていたなら、きっと今頃はガメルと共にあの戦場をも切り抜ける事が出来ていた筈だ。
 力がないから。力が足りないから、だから守れない。だから喪う。

 誰もいない都会の真ん中で立ち尽くしたまどかは、黒と白のコアメダルをぎゅっと握り締めた。
 今度はもう、これ以上、何も喪いたくはない。何者をも見捨てる事無く、全てを救う事が出来る魔法少女にならなければ、こんな力に意味などない。
 力が欲しい。誰にでも差し伸べる事が出来る、誰にでも届かせる事が出来る、そんな力が、どうしようもなく欲しい。
 今以上の力を希い、無意識にメダルを握り締める内に――手にしていた筈のメダルは、いつの間にかまどかの手の中から消えていた。
 あれ、と疑問を感じるが、体内に感じるメダルは、確かにコアが三枚分。当初持っていたゾウのメダルだけでなく、ガメルから継いだサイとゴリラのメダルもまどかの体内には確かに存在していると思われる。

 メダルが自動的に首輪へと転送されたのだろうか。
 そんな疑問を浮かべるが、それは今のまどかにとっては、あまりにもどうでもいい事だった。
 この会場でメダルがどのような形で扱われるにしろ、ガメルの形見をまどかが所持している事に変わりは無いのだから、そんな取り留めのない事を考えるのはよそう。それよりも、今はどうやって生きて行くかについてを考えねばならない。
 そう思い、どうせ誰も居ないのだからと地べたに腰を降ろし、塞ぎ込むように顔を伏せたのだが……誰も居ない、というのはまどかの勘違いだったらしく。
 
「おい、お前」

 若い男の声が響いた。
 はっとしたまどかは、慌てて立ち上がり、周囲を見渡す。

「……えっ!?」
「お前だ、そこの中学生」

 やや離れた前方からゆっくりと歩いて来る男は、やや目付きの悪い、長身痩躯の男だった。
 男はまどかの目前まで歩を進めると、まどかの身体を見下ろし、舐めるように矯めつ眇めつする。

「あ、あの……」
「お前、傷だらけだな。誰かに襲われたのか」
「……ま、まあ。そんな感じというか、何と言うか……」

 襲われた、と云うにはやや語弊がある。
 オーズが襲ったのはあくまでガメルであって、彼はむしろまどかに対しては友好的ですらあったように思う。それをまどかまで揃って襲われた、と表現してしまうのは、流石に良心が痛む。
 そういった葛藤を抱いての返答だったのか、男は気に入らなかったのか、むっとして言った。

693破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:45:39 ID:7zUWL96U0
 
「何だ、ハッキリしない奴だな」
「……ごめんなさい」
「まあいい。ところでお前、仮面ライダーって奴を知らないか」
「えっ、仮面ライダーって……ひょっとしてオーズのこと――」
「――知ってるのかっ!」
「ひ……ぇっ!?」

 まどかの言葉を遮って、男はまどかの襟首を掴み上げた。
 痩せ形のその身体の何処にどんな力があるのか、というくらいの力で以て、まどかの身体が持ち上げられる。
 支点は襟首だけでしかないのだから、当然息苦しくもなる。訳も分からず、男の腕にしがみ付いて咳込む事しか出来ぬまどかなど意にも介さず、怒鳴る様に男は問うた。

「答えろ。お前、仮面ライダーを見たのか!?」

 剣呑な双眸は、突き刺すようにまどかを捉え、まどかは反射的にこくこくと頷いてしまった。
 男は「そうか」と呟くと、放り投げるようにまどかを解放した。たまらずその場で喉を押さえ、数度咳込んだまどかは、それからようやっと、自分の判断がミスであった事を悟った。
 この男、恐らく危険人物だ。まどかへの対応を見るに、穏便に物事を解決してくれるタイプの人間であるようには到底思えない。殺し合いを是としないまどかにとって、そういった人種に情報を与えてしまうのは、致命的な判断ミスでしかなかった。

「……乱暴して悪かったな。その仮面ライダーには、お前が走って来た方角に行けば会えるんだな」
「ち、違います……!」
「ハハハッ、お前、嘘が下手だな」

 男は先程までの怒気など微塵も見せず、朗らかに笑った。
「ありがとな」と一言告げ、背を向けて歩いて行く男が、どうにもただの悪人のようには思えなかったまどかは、突然襟首を掴まれ怒鳴られた恐怖も一時的に忘れ、去りゆく男の背に質問を投げた。

「あの、仮面ライダーを、どうするんですか」

 男は、背を向けたまま答える。

「潰すのさ」
「そんなっ……どうして」
「それが俺の義務だからだ。その為に俺は居る」
「貴方もルナティックみたいな事を……」

 男の答えは、ルナティックを連想させた。
 義務だとか正義だとか、そんな感情を押し殺した理由で戦い、その為に自分は存在しているのだと言い切ってしまう者が、まどかには理解出来ない。……その理由には、そうして壊れて行ったさやかを夢想してしまうから、という理由も多分に含まれているのだろうが。
 そもそも、まどかはまだ子供だ。普通の家庭に育った、普通の中学生だ。
 背負うべき責任も、義務感もない。ただ人並みに、人の命が奪われるのを見過ごせないから、誰かの為に戦いたいから、だから魔法少女をやっているだけの事。
 仮面ライダーオーズや、――ヒーローなのか仮面ライダーなのかは知れないが――ルナティックが翳す「正義」というものだって持ち合わせては居ない。
 何が正しくて何が悪いのかだって、まどかにとっては曖昧だった。
 そんな、決定的な価値観の違いに苦しみ緩く歯噛みするまどかに追い打ちを掛けるように、男は背を向けたまま、片手を軽く振り上げ、言った。

「オーズとルナティックか。大体分かった」

 ……結局、まどかは男に全ての情報を与えてしまっていたのだった。

 何をやっているのだろう、自分は。既に遠くなった男の背をぼんやりと見送りながら、まどかは自分のどうしようもない体たらくに打ちひしがれるしか出来なかった。

694破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:46:17 ID:7zUWL96U0
 



【1日目−午後】
【C-6 キバの世界 路上】


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】白
【状態】哀しみ、走った事による疲労(小)、全身に小程度の打撲
【首輪】130枚:0枚
【コア】サイ(感情)、ゴリラ、ゾウ
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
【道具】基本支給品一式×2、ランダム支給品0〜3(うち二つは用途の分からないもの、一つはガメルが所持していたもの)、
    詳細名簿@オリジナル、ワイルドタイガーのブロマイド@TIGER&BUNNY、マスク・ド・パンツのマスク@そらのおとしもの
【思考・状況】
基本:この手で誰かを守る為、魔法少女として戦う。
 0.みんなを守れる力が、もっと欲しい。
 1.目の前の男(=士)を引き止めるか……?
 2.仮面ライダーオーズ(=映司)がいい人だという事は分かるけど……
 3.仮面ライダールナティック? の事は警戒しなければならない。
 4.マミさんがもし他の魔法少女を殺すと云うなら、戦う事になるかも知れない……
 5.ほむらちゃんやさやかちゃんとも、もう一度会いたいな……
【備考】
※参戦時期は第十話三週目で、ほむらに願いを託し、死亡した直後です。
※まどかの欲望は「自分自身の力で誰かを守る事」で刺激されると思われます。
※火野映司(名前は知らない)が良い人であろう事は把握していますが、複雑な気持ちです。
※仮面ライダーの定義が曖昧な為、ルナティックの正式名称は仮面ライダールナティック(仮)と認識しています。
※ガメルが所持していたセルメダルを吸収しました。
※ガメルが所持していた詳細名簿を獲得しましたが、本人はまだ気付いていません。
※サイのコアメダルにはガメルの感情が内包されていますが、まどかは気付いていません。
※サイとゴリラのコアメダルが、本人も気付かぬうちにまどかの身体に取り込まれ同化していますが、まどかの意思次第でメダルは自由に取り出せます。

695破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:46:33 ID:7zUWL96U0
 

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】115枚:0枚
【コア】シャチ:1
【装備】ディケイドライバー&カード一式@仮面ライダーディケイド、
【道具】ユウスケのデイパック(基本支給品一式、ランダム支給品0〜2)、基本支給品一式、ランダム支給品1〜3
   (これら全て確認済み)
【思考・状況】
基本:「世界の破壊者」としての使命を全うする。
 1:あの中学生(=まどか)が走って来た方角へ向かい、仮面ライダーオーズと仮面ライダールナティックを破壊する。
 2:「仮面ライダー」と殺し合いに乗った者を探して破壊する。
 3:邪魔するのなら誰であろうが容赦しない。仲間が相手でも躊躇わない。
 4:セルメダルが欲しい。
 5:最終的にはこの殺し合いそのものを破壊する。
【備考】
※MOVIE大戦2010途中(スーパー1&カブト撃破後)からの参戦です。
※ディケイド変身時の姿は激情態です。
※所持しているカードはクウガ〜キバまでの世界で手に入れたカード、 ディケイド関連のカードだけです。
※まどかから得た情報を一部誤解しています。ルナティックの事も仮面ライダーだと思っています。



【ガメル@仮面ライダーOOO 自律行動不能】



【全体備考】
※C-7、ガメルの身体が砕かれた場所に、ワイルドタイガー以外のヒーローのブロマイドが散らばっています。
※ガメルの身体が砕かれた事で、白のメダルの最多保有者であり、また、体内に白のメダルを内包するまどかが白陣営のリーダーになりました
※一日目午後、リーダーがガメルからまどかに移り変わるまでの数分間、リーダー不在の時間帯があります。その間は全参加者の白の首輪は無所属扱いとなっていました。

696破壊者と守護者と貫く正義 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/12(日) 19:50:49 ID:7zUWL96U0
これにて投下終了です。
恐らく分割になるだろうと思われますが、とくにこだわりがある訳ではないので、
分割点は大体真ん中らへんなら何処に取って貰っても構いません。
もしもご指摘などあれば、報告して頂けると幸いです。


最後の全体備考に

※ゾウのコアメダルが一枚砕かれました。

の一文も追加した方がいいなら、上記の一文を追加という形で補完お願いします。

697名無しさん:2012/02/12(日) 20:22:34 ID:54C2qC5IO
投下乙っす。
ガメル〜〜〜*�
映司に会わなければ立派な対主催になれたかもしれないのに。そして今まさに映司に魔の手が!

698名無しさん:2012/02/12(日) 20:44:31 ID:UXf9G8jo0
投下乙です。
オ―ズ、早速コアメダルを一枚砕きましたが……
いつか彼が言っていた、「正義のためなら、人は何処までも残酷になれる」を身を以って体現しましたね。
そして三つの「正義」を掲げる人間が集いそうです。

はたして映司は、まどかと仲直り……とまでは行かなくても、手を組める時が来るのでしょうか。
そしてガメルも、いつか復活できるのでしょうか。

699名無しさん:2012/02/12(日) 20:48:18 ID:U7xVe07o0
投下乙です!
ああ……ガメル、いい子だったのに。まあ映司やルナティックが正しいのはわかるけどね……切ないよ。
そしてルナティックはオーズ&ファイアーエンブレムの二人と戦うのか!? てか、もやしが接近中だよ!
どうなるかな……

700名無しさん:2012/02/12(日) 21:17:22 ID:Iaxgm9To0
投下乙です。
何故だ。誰一人として悪人ではない筈なのに戦いになってる…

ただ純粋にまどかを守りたかったガメルも、グリードが害悪だと知ってるからこそ辛くともガメルを倒した映司も、
現実を頭で理解できても感情が納得できずに涙を流すまどかも、正義のためにどこまでも冷酷になれるルナティックも、
ルナティックの歪んだ正義を止める真っ当なヒーローのネイサンも、対主催だけどライダーキラーの使命を負った士も、
みんな自分の守りたい物、通したい物のために戦いたい気持ちは同じなのにこうして対立せざるを得ないのか…
何というか、とにかく哀しい話だと感じました。

感想以外に思った点も挙げるなら
・容量がどうなるかわかりませんけど、>>687まで前編で>>688以降を後編にするのが妥当かと思います。
・他のヒーロー3人の登場SSと合わせるなら「ファイヤーエンブレム専用ヒーロースーツ」が存在すると思うので、装備欄に記載が欲しいです。
・コアが砕けたという備考は確かに追加した方がいいと思います。

701名無しさん:2012/02/12(日) 21:49:31 ID:UXf9G8jo0
連投になりますが、ちょっと気になる事があったので質問します。

今回の話でガメルは倒されコアとセルに分解した訳ですが、その際にセルメダルはどうなったのでしょう。
ルール2.(1)を考えれば、グリードは体を構成する500枚と首輪の100枚のセルメダルを保有していると私は思っています。
その場合、まどかと映司が回収したであろうセルメダルでは枚数が合わないので、そこのところはどうなっているのでしょう。

702名無しさん:2012/02/12(日) 21:55:30 ID:MkIEABL.0
投下乙
ああ、ガメル……切ない、全員が「悪」ではないはずなのに……
そういやこれ読んで思ったけど、コアメダル全部砕く以外にも誰かが全陣営のリーダーを兼任するという手でもゲーム崩壊するな
まあ、どっちにしろグリード倒すのに変わりはないけど

703名無しさん:2012/02/12(日) 22:29:50 ID:cnLHo4r.O
投下乙です。案の定ガメルが・・・「正義」とは一体何なのか。

つかヒーロー達の睨み合いにやさぐれもやしが通りすがるとか早くも乱戦の予感w

704 ◆MiRaiTlHUI:2012/02/13(月) 09:05:34 ID:psYy0Wug0
皆さん、毎度ながら感想ありがとうございます。

……さて、>>700-701にてご指摘いただいた点について、了解いたしました。

それでは、ゾウコアが砕けたという備考欄の追加、
ファイヤーエンブレム専用ヒーロースーツの記述の追加、
また、ガメルの身体を構成していたメダルはまどかと映司の首輪に分配されるという事で、二人のメダルの総数を変更するという形で修正します。
以上の箇所の修正だけで通しと云うことで大丈夫なら、wikiへの収録は自分で行っておこうと思います。

他にももし何かあればお手数ですが宜しくお願いします。

705名無しさん:2012/02/13(月) 18:10:04 ID:jp1hftmU0
乙です。ああ、ガメル・・・

706名無しさん:2012/02/13(月) 20:01:09 ID:5orcp4dY0
投下乙です

ああ世は無情、ってことか、切ねぇなぁ……
まどか・ガメルペアの進行方向がメズールとは真逆、
しかもメズールのコアを持つ司とすれ違って終わった、つーのもまた一入だなぁ……

707名無しさん:2012/02/14(火) 22:58:24 ID:r3DXmRjU0
純白の乙女のパンティ被ってイケメン登場と言うシュールな場面から、誰がこんな展開が想像できただろうか……ガメルぅっ!

他にもプトティラの迫力、士接近によるさらなる激闘への期待と不安と言ったシリアスな部分の一方で……映司に対するネイサンの「イケメンで強そうな彼」という評価や、仮面ライダールナティック(ホワッチャアアッ! の人と似てますね、わかります)など、周囲がシリアス全開だからこそのギャグ描写の光り具合も……そうか、これがシリアスな笑いって奴か(※マスク・ド・パンツはリレー前の作品からの登場人物です)

……それにしても、大切な者を護りたいというまどかやガメル達子供の「願い」と、より大勢を救おうという映司達大人の「正義」は、根幹は同じもののはずなのに……どうして。「こんなの絶対おかしいよ」と言わざるを得ない。
wikiの方の修正版ではより話の流れがスマートになって、なおさら残されたまどかの心情を思い遣る余韻が生まれ、より味わい深い作品となっていて見事だと思いました。

最後になりましたが、投下乙でした。

708名無しさん:2012/02/16(木) 20:27:44 ID:zksWTOGc0
乙、ガメル成仏しろよ

なんか士だけ勘違いとちょっとズレた感覚で戦ってるのがちょっと怖いな

709名無しさん:2012/02/20(月) 18:34:06 ID:eoJnBq/w0
実質ルナティックも士も無差別マーダーみたいなもんだよな

710名無しさん:2012/02/20(月) 20:43:36 ID:D0XOtP3YO
>>709
一応二人して選り好みはしてるけど襲われる側からすりゃ違いはないわな

711名無しさん:2012/02/21(火) 18:42:03 ID:8RwcDrv60
あとは映司も

712名無しさん:2012/02/21(火) 21:01:06 ID:5ZdetkwM0
正義の反対は悪ではなく別の正義とはよく言ったものだ
そいつらはそいつらの正義で動いてるだけなんだがなあ…

713名無しさん:2012/02/21(火) 21:41:36 ID:8RwcDrv60
ルナティックや今の映司を見ているとなぜか草加を思い出すんだが・・・

714名無しさん:2012/02/21(火) 21:48:10 ID:5ZdetkwM0
この面々の他にゼロ時代のセイバーまでいるんだぜ
キャラ叩きになるがこの時期のセイバーの可愛げのなさは…w

715名無しさん:2012/02/21(火) 23:17:34 ID:XsAoPvf60
今更なんだが
セイバー所持のコアに何か意図が見てとれるのは俺だけかw

716名無しさん:2012/02/22(水) 01:12:59 ID:64Xqw2fwO
セイバーは綺麗なキリツグに会えば多少は態度も柔らかくなるんじゃなかろうか?まあ今すぐだとランスにボコられるだけなんだがw

717名無しさん:2012/02/25(土) 13:18:38 ID:dwuM53uE0
予約キター

718 ◆jUeIaTa9XQ:2012/02/28(火) 22:35:23 ID:j4o31JIg0
今から予約分の投下を開始します。

719 ◆jUeIaTa9XQ:2012/02/28(火) 22:36:50 ID:j4o31JIg0
「フィリップ。空を飛ぶ人間って言えば、お前は何が思い浮かぶ?」
「僕達が今まで戦ってきたドーパントに飛行能力を持つ奴がいた。バードにナスカ、タブーとかね。
 それ以外で言うなら……箒と言う子が使っていたあの戦闘服かな」
 階下へと向かう階段を駆けながら、翔太郎とフィリップは問答する。
 その話題は翔太郎が述べた通り、中学校の屋上にいた二人がつい数分前に目撃した「空を飛ぶ人間」である。
「そうなるだろうな。でも、俺達が見た奴をその括りの中に入れていいかって言えば……」
「確定はできない、だね」

 手摺りから身を乗り出し、一気に次の階段へと移る。
「空を飛ぶ人間」は二人から決して近いとは言えない場所を通過していったため、その姿を正確に把握した訳ではない。だが、幾つかの特徴は確認できた。
 あの人間の背中には翼が生えていた。その点を除けば、人間そのままの姿だった。全身を異形へと変えたドーパントとは明らかに異なる。形容するならば、まさに天使。翔太郎にとってもフィリップにとっても全く未知の存在であった。
「まさか神話の世界にでも迷い込んじまった、なんて訳ねえよな?」
「今はそんなロマンに溢れた状況ではないだろう?」
「……悪い。とにかく、解らないことが多すぎる。まずはあいつの正体を掴むとするか」
 突然放り込まれた殺し合いという環境については不明な点が多すぎる。セルメダルやコアメダルといった謎のアイテム。人間の姿を維持したまま発揮される未知の力。そして一切の情報取得を遮断された真木清人という男。
 これらのどこから手をつけるべきか決めかねていた翔太郎とフィリップは、当面の目標として突然現れた天使らしき人間の追跡を決めた。この空間内に溢れる謎の解明を手近な所から行い、同時に移動しながら頼もしい仲間である照井竜の捜索も行おうと考えたため。

 教師のいない廊下を走り抜け、二人は玄関から屋外に出た。
「飛んで行ったのはあっちの方向だったよな。それじゃ、ライドベンダーってのを探して……」
「翔太郎。その必要はなさそうだ」
「ああ? バイクに乗ってった方がいいだろ」
「僕の支給品が青のメダル一枚だけなんて妙な話だと思っていたんだ。だが、どうやらああいう理由だったらしい」
 そう言って、フィリップは校門の方を指差した。



 マスクの頭部に触れていた指が隙間に食い込んだ。そのまま指を動かすことで、マスクに生じた罅の大きさを感じ取る。メカマン斉藤の折り紙つきの強度を誇るパワードスーツにこんなダメージを負わせたのだから、赤毛の少女のパワーには溜息が出る。
 周囲に目を向けると、あの少女の放った光弾によって倒壊した建物が目に映る。書店も雑貨店も玩具店も、今では只の瓦礫の山だ。先程まで乗っていたライドベンダーも車体を貫かれ、使い物にならない鉄屑と化していた。二度目の溜息が出る。
「何者だよ、あの女の子は……」
 目の前から飛び去ってしまった翼付きの少女を思い起こし、虎徹の口から苛立ちの含まれた呟きが零れた。
 腕力もスピードも桁外れで、翼から放たれる光弾の威力もかなりのものだった。どのようなNEXT能力なのか解らないが、敵に回せばジェイク・マルチネスに並ぶ厄介な相手だろう。

720 ◆jUeIaTa9XQ:2012/02/28(火) 22:38:29 ID:j4o31JIg0

「……本当に乗っちまうのかよ」
 ”マスターに言われたから。”そんな理由で攻撃を仕掛けてきたあの少女は、悲しそうに涙を流していた。その顔を見れば、少女も本心では人殺しを嫌悪していることが虎徹にも理解できた。
 虎徹の怒りの矛先は、まず名も知らぬ「マスター」へと向けられる。そいつが何を考えて人の命を奪おうとしているのか虎鉄には知る由もないが、慕ってくれる少女さえも利用して誰かを傷つけようとする事実を許すわけにはいかない。
 ヒーローとして、誰かが傷つく前に悪と戦わねばと気が逸る。「マスター」を倒さねば。必要ならば、あの少女も同様だ。
 燃える使命感を胸に、虎徹は少女の逃げた方へと足を踏み出した。新しいバイクを見つけるか、それが無理なら追跡のためにNEXT能力を発動する必要もあるかもしれない。

 そんな時、虎徹の耳に激しく空気を震わす音が届き、発信源に目を向ける。
「な、あれは……」
 虎徹の両目が見開かれる。
 視線の先にいたのは、バイクに乗った二人の人間だった。勿論それだけなら何も変な話ではない。
 虎徹が驚いたのは、二人の乗っているバイクがサイドカー付きであったこと。ハットを被った男が乗る赤と白のボディのバイクと、カジュアルな服装の少年が乗る緑と白のボディのサイドカーがあまりに見慣れたものであったからだった。
「俺とバニーのバイクじゃねえか……!」
 嘆息の声を漏らす虎徹の前で、二人組はバイクを停車させる。いきなり仕掛けてこないところを見ると、どうやら敵意は無いらしい。
 ハットの男が颯爽とバイクから降り、こちらに歩み寄ってどこか気取ったように右手を差し出し、気障な台詞を繰り出した。
「まさかこんなに早くあんたにお目にかかれるとはな。会えて光栄だぜ、ワイルドタイガー……って、いきなりボロボロかよ!?」
「悪かったな……」
 残念ながら、不貞腐れた返事を返すしかない。



 バイクに体を寄せる翔太郎とフィリップと、その場に立つ虎徹の三人が向かい合っていた。
 真木への反抗心を確認し合った後、三人は情報交換を始めていた。友好的な人物及び危険人物、互いの戦闘手段に関する簡単な解説など話は広がり、現在までに遭遇した参加者の話題に移る。

「……つまり、僕達が見た空を飛ぶ人間は恐らく君を襲った少女と同一人物で、彼女は殺し合いに乗っているということだね? ワイルドタイガー」
「ああ。おまけにかなり強くてな、俺が抵抗しなかったからとは言え、見ての通りかなりダメージを負わされたぜ」
「抵抗しなかった? そんなヤバい相手なら戦えばよかったじゃねえか」
「……泣いてたんだよ、あの子」
 自然と声のトーンが落ち、マスクから覗かせる表情も険しくなった。そのまま、虎徹は少女について語り始める。
 彼女は「マスター」の命令で殺し合いに乗り、虎徹の説得を振り切って逃走し、今もまた何処かで誰かに刃を向けているのかもしれない。
「もしあの子がまだ誰かを襲うなら、俺が絶対に止める。全力でな」
「確かに、その必要がありそうだね」
 真剣さを感じさせる虎鉄の宣言に、フィリップも同調する。活躍の舞台こそ異なれどもヒーローとしての志が同じだからこそ、こうして意識を共有できるのだろう。
 フィリップに続いて翔太郎もまた、そうだな、と肯定を示す。けれど、その表情はどこか腑に落ちないようなものだった。他の二人が怪訝に思っていると、翔太郎は一つの質問を口にした。

721 ◆jUeIaTa9XQ:2012/02/28(火) 22:42:08 ID:j4o31JIg0

「ワイルドタイガー。女の子は『命令だから仕方ない』と答えた、って話だったよな」
「ああ。すごく悲しそうにな」
「……ちょっと聞いてみたいんだが……あんたは説得したって言ったけど、どうやった?」
「は? そりゃあ、俺は殺し合いに乗ってないって言って、それから嫌な命令なら聞くことないって言って」
 虎鉄は指を折りながら次々と言葉を挙げていき、
『最後に一つだけ答えろ!お前はそいつが言った通りに人を殺す気か?だったら俺はお前を許さねぇ!お前もマスターって奴もだ!!』
 そんな台詞と共に指の最後の一本を折り、虎徹は解説を終えた。
「こんな感じのこと言ったんだけど、女の子は聞いてくれなかったんだよ。急にどうしたんだ?」
 しばらく間を置いて、そうか、と小さく呟き、翔太郎はハットを前に深く傾けた。
 その表情を、虎徹から見ることが出来ない。
 フィリップはというと、どことなく気まずい表情を浮かべながら翔太郎を見つめていた。

「……俺、なんか変なこと言ったか?」
「いや、ちょっと気になってな。
 ……なあタイガー。俺もあんたの言ってることは尤もだと思うぜ。マスターって奴は酷い奴だってのも、そいつの言うことを聞いて女の子が人を殺したら許せねえってのも。本当はどうしたいのか、ちゃんと自分で決めさせるってのも大事なことだろうな」
 そこで一旦言葉が区切られ、でもさ、と続く。右手の人差し指が少し前に突き出された。
「背負った荷物が重過ぎて悲鳴を上げてる女の子に自分一人だけの力で解決しろってのも、酷な話じゃないか?
 マスターって奴と、たぶんその子の友達との間で迷って、葛藤して、泣きたくなって。
 それなのにあんたにまで『敵対するなら許さない』ってキツく言われたら、その子は余計に苦しくなったかもなって感じてさ」
 フィリップの顔が俯き、虎徹の顔が強張るのが目の端に映った。それに気付いた翔太郎だが、最後に一つだけ付け足した。

 俺は君の敵になるかもしれないって意思を示すだけで終わらないで、こう言ってやっても良かったんじゃないか?
 もしマスターの言うことを聞くのが嫌なら、俺が君の力になってやる、ってさ。
 誰かが一緒に背負ってくれるって解れば、その子も安心出来たんじゃないかって思うんだ。

 翔太郎の言葉が終わり、短い沈黙が訪れる。翔太郎とフィリップは無言の状態である一方で、固まった虎徹の表情はまさに絶句の状態であった。
 やがて、虎鉄の口から出た深い溜息が沈黙を破った。
「ワイルドタイガー、だが」
「いや、いい。翔太郎、俺はお前の言うことも尤もだと思うぜ」
 フィリップのフォロー目的らしき言葉を片手で制し、虎徹は翔太郎への返答をする。
 そして、また沈黙が始まった。
 失敗続きだな、俺は。虎徹の口からぽつりと出た自虐的な呟きを除けば、誰も喋らなかった。

722 ◆jUeIaTa9XQ:2012/02/28(火) 22:44:54 ID:j4o31JIg0

 短くない時間を経て、何も言わぬまま虎徹がフィリップの前を横切りどこかへと歩いていこうとする。
「ワイルドタイガー、何処へ行くんだ?」
「あの子を探して、今度はちゃんと説得しに行くんだよ。何かしでかすといけないからな」
 じゃあな、という簡単な別れの挨拶を残して虎徹は二人の前から去ろうとした。彼の言葉はほんの少し暗く、足取りはほんの少し重くなっている。そんな風に感じられた。

「タイガー! もう一個だけ言わせて貰ってもいいか?」
 だが、翔太郎に呼びかけられて足を止める。虎鉄が振り向いた先で、翔太郎とフィリップが真摯な眼差しを向けていた。
「……俺は、真木って奴にまゆりって子が殺されてからここに来るまで、結局何も出来ちゃいなかった。やったことといえば、真木への怒りを心の中で燃やすくらいだな」
「僕も似たようなものだったよ。殺し合いが始まってから仲間との合流のためにどうするべきか、それを考えるので精一杯だった」
 数時間前の出来事を語る二人の顔は、悔しげに歪んでいた。突然かつ凄まじく異常な事態なのだから、冷静かつ完璧な対応をしろという方が酷な話だろう。
 恐らく頭ではわかっているのだろうが、やはり状況に翻弄され、言われるがままになっていたという事実が二人に圧し掛かっていることは、虎徹にも理解できた。

「そんな時だったよ。あんたが堂々と宣戦布告したのは。あれには驚いたぜ……皆がダンマリしてる中で、あんたは行動に移ったんだからな」
「言葉だけでもあの状況で反抗するのは危険ですらあるのに、君は恐れずに立ち向かったんだ。あの行いを、僕は賞賛したい」
 虎徹からすれば思いもよらない話だった。
 二人の少女を救えなかったのは自分も同じであり、宣戦布告は真木へのせめてもの抵抗でしかなかったのだが、目の前の二人は褒めてくれたのだから。
「あんたの姿は、俺達と同じように真木を倒そうって思ってる人や、たぶん死ぬのが怖くて震えている人にとっての希望になった。俺はそう信じてるぜ。
 ……勝手な言い草だろうが、もし俺の言ったことで凹んでるんだとしても、あんまり引き摺らないでくれ。心配しなくても、あんたが立派な男だってことは俺達が保障するからよ」
 翔太郎とフィリップから笑顔が向けられる。
 励ますようなその笑顔は、見ていて心地よいものだった。

「……ありがとよ。なんか気分が軽くなった気がするぜ」
 釣られるように、虎鉄の顔も自然と微笑んでいた。胸の中を覆っていた暗雲が少しずつ晴れていく、そんな錯覚さえ覚えていた。
 だから、出来る限り強く明るい声で礼を述べた。

「そうだ。ワイルドタイガー、僕達もそっちに行くべきか?」
 サイドカーに乗り込もうとしながら、フィリップが尋ねてきた。少女を追って同行するべきなのかということらしい。
 彼らが側にいたらきっと頼もしいだろうと考えるが、虎徹は首を横に振った。
「色んな場所にヒーローがいる方が、救われる人は多くなるだろ? だから、お前達は俺とは別の方に行ってくれ。バイクは急いで見つけるから気にすんな」
 一度の戦いで複数のヒーローが戦えば、確かに勝率は上がるだろう。しかしこの広い空間には、誰が何処にいるのか見当もつかない。だから今の内は一箇所に固まるより散らばった方がいいと考えた。正義の手は広く遠くまで届かせたい。
「それに、あの子の問題は出来れば俺が何とかしたいんだ。ちゃんとケジメつけないとな」
 遂行できなかったヒーローの務めを今度こそ果たしたい。失敗を学んだ今なら、きっと上手くできるはず。だからあの二人をいちいち尻拭いに付き合わせるよりも、彼らなりの立派な働きに期待したいと思ったのだ。
 そんな考えを理解してくれたのか、二人が虎鉄を追うことはしなかった。
 起動させたバイクを駆って別方向へと進もうとして、最後にもう一度虎徹の方を見た。
「じゃあな、ワイルドタイガー。あんたの活躍を期待してるぜ!」
「空を飛ぶ少女のことは君に任せたよ!」
 嬉しくなるようなエールを手向けに、ダブルチェイサーは走り去っていった。

723 ◆jUeIaTa9XQ:2012/02/28(火) 22:45:42 ID:j4o31JIg0



「翔太郎」
「何だ?」
「どうしてワイルドタイガーにあんな質問をしたんだい? 顔も知らない少女について何か気にかかることでもあったのか?」
 長い距離を走り虎鉄の姿がいよいよ見えなくなった頃、ダブルチェイサーを運転する翔太郎にフィリップは問いを投げかけた。
 虎徹が行った説得に関する質問を指すのだとすぐに察しがついたようだ。

「……あの話を聞いて、似てるって思ったんだよ。タイガーの言う女の子が、風都の人達にな」
 そう語る翔太郎の顔はどこか切なげで、どこか心苦しい声色であった。
「俺は街を泣かせる奴らを絶対に許せない。だからドーパントには容赦なく戦ってきた。お前と一緒にな。
 けどよ、ガイアメモリに手を出した人達だって、全員が最初から悪い奴だったってわけじゃないだろ?ガイアメモリなんかと出会わなければもっと真っ当な、明るい道を歩めた人達だっていた筈なんだ」
 彼の語るように、今まで二人は数多くのガイアメモリ犯罪者と戦ってきた。しかし犯罪者だって最初から根っからの悪人だったわけではないのだろう。
 風都に似合う素敵なハットを翔太郎に残し、風も吹かない牢の中で償いの日々を送る津村真理奈。自らの過ちに気付き、正しさを知る翔太郎達に街の未来を託すと共に命尽きた園咲霧彦。もしもガイアメモリなど与えられなければ罪を犯すことなく生きられたかもしれない街の数多の住人達。
 彼らの辿った末路が脳裏を過ぎった。
「ガイアメモリを使って罪を犯した人は、確かに加害者だ。でも、ふざけた私欲を抱いた連中に心の弱さを付け込まれて、街を泣かせる道具にされてしまった人達もまた、ガイアメモリの被害者だったんじゃないか?
 そんな人達を『お前は罪を犯すから俺の敵だ』なんて言って倒すしか道がないって、哀しいだろ。……って、今まで倒すしかなかった俺が言うのも変な話だけどな」
 ドーパントとの戦いは単純な勧善懲悪ではない。敵として現れるのは愛する街を汚す怪人でありながら、同時に愛する街で生きてきた人間でもあるのだから。
 ゆえに断罪者となることに喜びだけは抱けない。成程、街のヒーローも楽ではないと、相棒の言葉で再認識する。

「それで、君はあんな事を聞いたわけか。被害者から加害者に堕ちようとしている少女を、もしかしたら止められる方法があるんじゃないかって」
「まあ、気が付いたら何故か俺の方がタイガーに教えることになってたけどな」
 ここまで聞いて、フィリップの口から笑みが零れた。
「可笑しいか?」
「いや、相変わらず君らしいなってまた思ってね」
「ハーフボイルドだ、ってか?」
 翔太郎の目指す流儀からすれば悪口になる筈の評価を自身に下しながら、しかし翔太郎の顔にはさほど不満などないように見えた。
 正義感であると共にお人好しな性格が翔太郎の魅力だと、常々思う。

 そこでもう一つ質問をぶつけてみる。
「そう思うなら、タイガーではなく僕達が少女を追っても良かったんじゃないのか? ワイルドタイガーを一人で行かせたことで、結局僕達は空を飛ぶ人間の正体を掴めなかった」
 ワイルドタイガーの望みを叶えたことで、翔太郎とフィリップの当初の目的は叶わなくなった。彼と情報交換をしたのだから振り出しに戻ったとまでは言わないが、ゴールから遠ざかったとは言える。
 その点を指摘されても、翔太郎は迷うことなく答えを示す。
「いいんだよ。タイガーがケジメをつけるって望んでるのに邪魔したくはないからな。空を飛ぶ女の子の件はタイガーとまた会った時に残しておいて、俺達は俺達の仕事をしようぜ。
 それに、お前だって俺と一緒にこうしてるだろ。お前もタイガーの意志を尊重したいって思ったんだろ?」
 翔太郎にそう言われ、フィリップは何も言わずに前に向き直る。
 そういえば、照井竜がトライアルメモリを片手に井坂との決戦に臨んだ時も今と似たようなことを語っていた。
 自分の意志でゴールへ進む者には余計な干渉をせずに優しく見守り、その者がゴールに辿り着けると信じてやれる。そんな寛容さが感じられた。
 実の所、翔太郎がどう返してくるかなど大体察しはついていた。それでも、フィリップは聞いてみたくなったのだ。

724 ◆jUeIaTa9XQ:2012/02/28(火) 22:47:41 ID:j4o31JIg0

 相棒が望んで選んだ道は自分もまた望んだ道だ。ならば相棒と一緒に祈ろう。
 願わくば、ワイルドタイガーの努力が実を結び、少女が敵になってしまわない――どす黒い野望に燃えた宿敵達、ミュージアムの面々や井坂深紅郎や大道克己のようにならないように。
 そしてワイルドタイガーに言われた通り、自分達は自分達の仕事をしよう。
「翔太郎、もし安全な場所、たとえば何かの施設を見つけたら一度停まってくれないか?ワイルドタイガーから興味深い情報を貰ったからね、それを含めて“地球の本棚”で調べてみたいことがあるんだ」
「おう。頼りにしてるぜ、天才さん」
 知識に富んだ頭脳と、優しさと正義を秘めた心と、二人分の絆の力を武器に。



【1日目−午後】
【C−3 路上】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康、ダブルチェイサーを運転中
【首輪】100枚:0枚
【コア】なし
【装備】ダブルドライバー+ジョーカーメモリ・メタルメモリ・トリガーメモリ@仮面ライダーW、ダブルチェイサー@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:「仮面ライダー」として誰かのために戦う。
1:照井と合流する。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※「TIGER&BUNNY」の参加者に関する情報を得ました。

【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】健康、ダブルチェイサー(サイドカー部分)に同乗中
【首輪】95枚:0枚
【コア】ウナギ:1
【装備】サイクロンメモリ・ヒートメモリ・ルナメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。この事件の首謀者を捕まえる。
1:照井竜と合流する。
2:安全な場所でもう一度“地球の本棚”を使いたい。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。
※「TIGER&BUNNY」の参加者に関する情報を得ました。

725 ◆jUeIaTa9XQ:2012/02/28(火) 22:51:03 ID:j4o31JIg0



 幸いにも、新しいライドベンダーはすぐに見つかった。
 それに跨って全身で風を切る虎鉄の頭の中にあるのは、これまでの何とも情けない自分の姿だった。
「まーた年下に説教されるなんてな……まあ、仕方ない話か」
 翔太郎に指摘された通り、あの少女には辛く当たってしまったと思う。苦しいのが一目瞭然だったのだから、もう少し歩み寄る態度でも良かったかもしれない。
 今となっては自戒が出来ると共に、どうしてこうなったのかの理由についても何となく見当がつく。

 一つ思い浮かべるのは、殺し合いにおいて虎鉄が初めて会った人間のこと。いや、この表現は正確ではない。初めて見た人間の亡骸のこと、と言うべきか。
(悪い……もっと早く着いてたら、君を死なせずに済んだのにな)
 この空間に飛ばされてから数十分後、辿り着いたのはC−1エリアに設けられた病院だった。初期配置から近くにあり、また目立つ施設だから誰か来るだろうと考えての判断だった。
 奇妙なほどに静まり返った病院内部を探し回り、ドアが開け放たれた一室を見つけ、中に入った時に目に映ったのは、
 部屋中に盛大に血液を飛び散らせ、肉も骨もぐちゃぐちゃに砕かれ、もはやヒトの形を成していないヒトの死体。一目でわかるほどに、仕掛人の残虐な性質が存分に発揮された現場であった。
 それを見た瞬間に虎鉄は膝から床に崩れ落ち、何とも間抜けな声が漏れ、残酷な事実に気付かされた。
 一人の人間が誰かの悪意の犠牲になった事実。何も行動らしい行動をしない間に、真木清人に突きつけた「誰も死なせない、誰にも殺させない」の宣言があまりにあっさりと崩れてしまった現実に。
 虎鉄は震える声で亡骸に向けて謝罪した。救ってやれなかった自分の弱さを、心の奥底から。そして結局誰も見つけられないままに外に出て、既に発見したライトベンダーで病院を後にした。罪悪感と、顔も知らぬ犯人への怒りを胸に。

(本当に俺は弱いもんだな。情けねえぜ)
 原因はもう一つあったと思う。突然始まったNEXT能力の減退だ。
 能力を発動する毎に持続時間が減っていき、その度にいつか能力を失いヒーローとして戦えなくなる自分の姿が想像できた。
 そのためにこれから先も悪と戦える頼もしいヒーロー達に平和を託し、ヒーローから只の父親に戻って愛娘の楓の側にいようと決めたのが少し前の話だ。
 そんな時になって、真木清人は殺し合いに自分を呼び出し、目の前で罪も無き少女たちの命を奪った。その様を見て、虎鉄の正義が再び燻るのがわかった。
 わざわざスーツを着せて呼び出したのなら、お望み通りヒーローとして戦ってやる。消えゆく前の最後の炎を燃やし、この殺し合いの打破をワイルドタイガー最後の大仕事として達成しようという決意が虎鉄の中に生まれていたのだ。
 しかし、非情にも死が目の前に突きつけられ、胸中に無力感が生じた。おそらくこの時に、自分でも強く意識しない内にNEXT能力を失うことへの覚悟が薄れ、焦りが再び生じたのだろう。

 こうして思い返すと、精神的に追い詰められていたのは虎徹も同じだったのだ。
 真木の目論見通りに殺人ゲームは着々と進行しているのに、自分はそれを止められない惨めな弱者でしかない。そんな現実に対する怒りや悲しみが焦りを帯びて、それをあの少女に厳しくぶつけてしまった。
 引き返す決心の出来ない彼女の態度に業を煮やし、殺人者を倒さねばと急いで成果を求め、憤怒が情けを押しのけた結果があのザマだ。
 大人気ない、の自己評価を下すのが適当だろう。女の子に優しくしてやらなかったと聞けば、楓だって酷く怒るに違いない。

(ありがとな、二人で一人のヒーローさんよ)
 空回りの行いを続けようとする自分に気付かせてくれた二人に、心中でもう一度感謝を示した。
 二人の乗っていたダブルチェイサーは自分と相棒が愛用するバイクであったのだが、その事を告げずに貸したままにした。今はまだ「二人で一人のヒーロー」である彼らの戦力を削ぎたくなかったからだ。
 ダブルチェイサーを返してもらうのは、相棒のバニーと合流し、彼らに負けないほどに立派なヒーローとなった後にしよう。
「そのためにも、今度こそ俺も頑張らないとな」
 涙を流すあの少女のためにも、こんな自分を応援してくれた若い二人組のためにも。家で父の帰りを心待ちにしている娘のためにも、そして今も何処かで救いを求める人々のためにも、今はまだヒーローとして戦いたい。
 少女がまだ罪を犯していないことを祈りながら、もう一度彼女と向き合う時のことを考える。
 そうだ、あの台詞を口に出して自らを鼓舞してみよう。最高にカッコいいヒーローの象徴たる、あの決め台詞を。

726 ◆jUeIaTa9XQ:2012/02/28(火) 22:52:04 ID:j4o31JIg0

「さあ――ワイルドに吠えるぜ!」



【1日目−午後】
【D−3 路上】

【鏑木・T・虎徹@TIGER&BUNNY】
【所属】黄
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、ライドベンダーを運転中
【首輪】80枚:0枚
【コア】なし
【装備】ワイルドタイガー専用ヒーロースーツ(胸部陥没、頭部亀裂、各部破損)、ライドベンダー@仮面ライダーOOO
【道具】不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:真木清人とその仲間を捕まえ、このゲームを終わらせる。
1.少女(イカロス)を捕まえて答えを聞きだす。殺し合いに乗るなら容赦しないが、迷っているなら手を差し伸べる。
2.他のヒーローを探す。
3.ジェイクとマスター?を警戒する。
【備考】
※本編第17話終了後から参戦です。
※NEXT能力の減退が始まっています。具体的な能力持続時間は後の書き手さんにお任せします。
※「仮面ライダーW」の参加者に関する情報を得ました。

727 ◆jUeIaTa9XQ:2012/02/28(火) 22:52:57 ID:j4o31JIg0
以上で投下を終了します。
作品タイトルは「He that falls today may rise tomorrow.(七転び八起き)」です。
ご意見やご感想の他、疑問点や問題点がありましたらお願いします。

728名無しさん:2012/02/28(火) 22:54:56 ID:98PWYt520
投下乙です!
虎徹……かっこいいなぁ。考えてみれば、翔太郎と割と似たタイプかも。
翔太郎とフィリップも、落ち込みそうな虎徹を諭すシーンが実にらしかったなぁ。
こういう熱い話、大好きですよ!

729名無しさん:2012/02/28(火) 22:59:37 ID:XJeH3xcs0
投下乙です!
感情的になっていた虎徹も少し冷静になり、ようやくヒーローとして活躍出来そうですね。
再び虎徹とイカロスが出逢った時、一体どうなるのか楽しみです!

それにしても、ダブルの二人がAtoZからという事は、まだエターナルの真実は知らないのかな?
もしそうだったら、彼らの情報が混じり合った時になにかしらの勘違いが発生しそうです……。

730名無しさん:2012/02/28(火) 23:27:18 ID:vavEPWTUO
投下乙です!
ああ、やっぱハーフボイルドはいいなぁ……

AtoZ後ってことは「オーズ」の事を一応知ってはいるのか?嫌いじゃないわ!

731名無しさん:2012/02/28(火) 23:49:31 ID:9RfhFDvcO
投下超乙
(´;ω;`)翔太郎がイケメン過ぎて泣けましたわ
やっぱりヒーローは良いもだ…

732 ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:36:52 ID:cjAeO0I.0
これより、予約分の投下を行います。

733混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:38:20 ID:cjAeO0I.0



「―――俺だ。時間が惜しいので率直に報告する。
 一言で言って、緊急事態だ。「機関」とは別の、新手の秘密結社が現れた。
 俺は今その秘密結社によって拉致され、怪しげな実験に参加させられている。

 ……ああ、そうだ。どうやら、俺達の握る秘密を嗅ぎつけたらしい。
 この実験と称したふざけたゲームで俺を追い詰め、秘密を吐かせるつもりのようだ。
 だが安心しろ。奴らは俺を手中に収めたことで油断し切っている。
 ならばその隙を突いてこの実験を破綻させ、奴らの野望を打ち砕いて見せよう。

 ……大丈夫だ、問題ない。こんな窮地は初めてではないだろう。
 それに、この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真の灰色の脳細胞を以ってすれば、不可能な事など何もない。
 俺は必ずやこの狂った世界から脱出し、元の世界へと帰還するだろう。エル・プサイ・コングルゥ」



「……なに独り言を喋っているの? ふざけているのなら置いて行くわよ」
「ふざけてなどいない! 俺はいつでも大真面目だ!」
 岡部倫太郎は暁美ほむらの呆れた様な声に反論しながら携帯電話をしまう。

 彼女の言う通り、今の通話の相手は架空の存在であり、つまりは俺の独り言でしかない。
 だがこのルーチンを行うことで、ようやくいつもの自分。つまりは鳳凰院凶真が戻ってきたと実感する。

 今の状況の異常さは、その度合いで言えば世界線漂流を遥かに超えている。
 ならばこういう時こそ平常心を保つ必要があるのだ。

「それでコマンダー。これは一体何なんだ?」

 俺達は今警視庁の地下駐車場にいて、目の前位には白と青でカラーリングされた大型車両が駐車されている。
 どうやらほむらの目的はこのトラックだったようだ。

「…………。
 Gトレーラーよ。対未確認生命体用の強化装甲服(パワードスーツ)、G3ユニットをどうするかを考えるの」
「未確認生命体? G3ユニット?」
「詳しい事は私も知らないわ。私に支給されたのが、このトレーラーの鍵だったの」
「ふむ、成程な」
「それでちょっと聞きたいのだけど」
 ほむらはトレーラーの貨物室の鍵を開けながら声をかけてくる。
「あなた、これを着て戦える?」

 そうして開け放たれた貨物室の中にあったのは、
 オペレーションルームの様な設備。
 見た事のない形状の白バイ。
 そして―――どこかヒーロー染みた青い機械の鎧。
 おそらくこれがほむらの言ったG3ユニットだろう。

 そしてほむらは、この鎧を着て戦えるかと聞いてきた。
 そんな事は聞かれるまでもない。俺が戦えるかどうかなど、当然―――

「無理だ!」
「でしょうね」
「ぐ、ぬ……!」
 ほむらは予想していたと言わんばかりに即答し、貨物室の扉を閉める。
 その事に思わず声を詰まらせるが、無理矢理戦わされるよりはマシだと自分を納得させた。

「しかし支給品か………」

 ほむらからは既に、お互いの世界線に関する差異を話し合っている。
 そしてどうやらこのG3ユニットも、俺達とは違う世界線の技術らしい。
 何度経験しても、世界線のズレによって生じる文明の変容には驚かされる。

「そう言えば、俺の支給品はまだ確認してなかったな」

 ふとその事を思いだし、自分のケータイとは別に、ドクター真木から支給された道具を確認する。
 支給された品は下記の三つ。

 一つ。ちょっと奇抜なデザインの赤い携帯電話。
 二つ。赤褐色のUSBメモリと、クワガタを模した黒い携帯電話。
 三つ。丈夫そうなボックスに納められた、機械的なベルトと二つの機器と携帯電話。

「――――って全部ケータイではないか!!」
 これは何の嫌がらせだと、つい大声で叫ぶ。
 ドクター真木に没収されなかった自分のケータイも含めて、これで四つも携帯電話を所有していることになる。
 この支給品のセレクトに一体どんな意味があるのか非常に疑問だった。

「何大声出しているの? おいていくわよ」
 大声を聞き咎めたらしく、ほむらが声をかけてくる。
 彼女は俺が支給品を確認している間に、当然の様に運転席に乗り込んでいた。

「む……お前、車を運転出来るのか?」
「問題ないわ。少し練習すれば、誰でも動かす位は出来るはずよ。
 それに、いざとなれば裏技もあるし」
「そうか……ならば運転は任せた!」
 そう言いながら支給品をデイバックに戻し、ほむらに倣って助手席へと乗り込む。
 中学生くらいの少女が車を運転できるのかは疑問だったが、慣れた手つきでエンジンを掛けて操作をし始めたのできっと大丈夫なのだろう。
 事実、Gトレーラーはあっさりと警視庁の地下駐車場を出発したのだから。

734混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:39:55 ID:cjAeO0I.0

「それで、これからどこに向かうつもりなのだ?」
「私としては見滝原中学校に行きたいところだけど、ここからじゃ距離があるわ。
 だから一先ず、スマートブレインハイスクールってところに向かって様子見ね」
「なるほどな。俺としては秋葉原……というより、我がラボを確かめてみたいところだが」
「秋葉原ね……。ここからなら見滝原よりは近いけど、そこに行ってから見滝原となるとちょっと遠回りになるわね………」
 そう言ってほむらは、少し思案するように考え込んだ。
 運転は大丈夫なのかと心配になるが、走行が乱れるような事もない。
 なので運転は彼女に任せて、自分は支給品の機能等を確認することにした。


        ○ ○ ○


「――――それで、貴方は何者ですか?」

 エリア【F-5】に位置するスマートブレインハイスクールの校庭。
 強い日差しが照りつけるグラウンドの中央に、二つの人影があった。

「僕は海東大樹。ちょっと君に用があるんだ」
「海東さん、ですわね。わたくしはセシリア・オルコットと申します」

 一方はセシリア・オルコット。
 彼女はメズールと別れ空へと飛翔した後、エリア【F-3】へと向かっていた。
 なぜならその地点こそが彼女の目的の人物の一人、シャルロット・デュノアのスタート地点だったからだ。

 その彼女が今こうしてスマートブレインハイスクールのグラウンドにいるのは、多少時間が経った事により冷静になったからだ。
 そして制限の一つであるメダル消費の事を思いだし、既に大分無駄にしてしまったことを悔いながらも、消耗を抑える為に着陸したのだ。
 もう一方の人影――海東大樹がバイクに乗って現れたのは、丁度その時だった。

「では改めて訊きますわ、海東さん。私に一体何の御用ですの?
 これでもわたくし、急いでいますの。用件は手短にお願いしますわ」
「そう? だったら単刀直入に言わせてもらおう。
 君の使っていたあの青い機動兵器。それを僕に渡したまえ」
「青い機動兵器? ブルー・ティアーズの事ですの?
 ………貴方、ブルー・ティアーズを手に入れてどうするつもりですか?」
「それは君には関係のない事だ。君はただ、僕にその“お宝”を渡せばいい」
「………………。貴方、馬鹿ですの?」
 セシリアは指鉄砲で自分を指さしながらそう言う大樹に、怒りや失笑を覚える前に呆れた。

 ISは女性にしか使えない。それは彼女にとって当たり前の常識だ。
 織斑一夏ではあるまいし、男性である大樹がISを手にしたところで、扱えるはずがない。
 ましてやブルー・ティアーズは専用機。同じ女性であっても他者が扱うのは簡単なことではないだろう。

 もっとも、大樹がISの存在しない異世界の人間であるという事は、まだセシリアには知りようもない事だ。
 故に彼女達の常識が違うのは当然であり、その認識が食い違うのも当たり前である。
 だが他者の物を欲しがるのはともかく、こうも堂々と寄こせと言う事が常識以前の問題だというのは、どんな世界でも共通だろう

「はぁ……、とんだ時間の無駄でしたわ。
 わたくし、言いましたわよね、急いでいると。そのようにふざけている暇があるのでしたら、今直ぐにわたくしの前から立ち去りなさい」

 セシリアはそう言って大樹に背を向ける。
 シャルロットのスタート地点は【F-3】だが、彼女とて今の自分の様に移動するだろう。
 このようなつまらない些事で時間を無駄にしていては、彼女の足取りを追う事も難しくなってしまう。
 かと言ってISなら移動は速いが、それではメダルを消費してしまう。
 ならば乗った事はないが、海東大樹という男の様に、バイクを使うのもいいかもしれない。
 そう考え、この場を立ち去ろうとした、その時だった。

「僕に指図できるのは僕だけだ。
 言っただろう。君は“お宝”を渡せばいいだけだって」

 背後から感じる、銃口を向けられた気配。
 どうやら相手は、手段を選ぶような人物ではないらしい。

「力尽く……ですか。
 このわたくしとブルー・ティアーズに勝てると思っているんですの?」
「当然さ。僕が勝つに決まっている。
 怪我をしたくなかったら、今すぐ僕に“お宝”を渡したまえ」

 ――コンディションは最悪。先の件で、精神的にも肉体的にも疲労が溜まっている。
 今の状態では、初めて出逢った頃の織斑一夏が相手でも大敗を期すだろう。
 ましてや本格的な戦闘をするのであれば、現在のメダルの残数では心許ない。

 対する相手の戦力は未知数。どのような能力、武装を持っているのかも不明。
 これがIS相手であれば、絶対に避けるべき状況だろう。
 だが―――

735混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:40:44 ID:cjAeO0I.0

「なら―――その驕りを後悔なさい! ブルー・ティアーズ!!」
 この声と同時に、全身に青い装甲を身に纏い、振り向くと同時に放たれた弾丸を弾き飛ばす。

 例え高空兵器を持っていようと、ISに勝てる道理はない。
 ISに勝てるのは、同じISだけというのが“常識”なのだから。


 だが――大樹がISの事を知らなかったように、セシリアもまた、その存在を知らなかった。


「そう来なくては面白くない」

 大樹はそう言いながら一枚のカードを取り出し、
 持っていた青い銃に差し込んで空へと掲げ、

「変身」
《――KAMEN RIDE・DIEND――》

 仮面ライダーディエンドへと変身した。
 シアンをメインカラーとしたその姿は、色合的にどこかブルー・ティアーズと似た印象を与える。
 だが顔まで覆うフルスキンの装甲は、それがISとは全く違うシステムによる変身だと容易に判別がついた。

「IS? いえ、違いますわね。ではその姿は一体………まあ、それが何であれ、わたくしのする事は変わりませんけど。
 貴方、空でワルツを踊る事が出来まして?」
「そういえば、その“お宝”は空を飛べるんだったね。
けど僕自身が飛べないなら、飛べる奴に任せればいいだけさ」
 そう言いながら大樹は更に一枚カードを取り出し、銃に差し込んで引き金を引いた。

《――KAMEN RIDE・PSYGA――》

 するとその直後に、虚空からホワイトベースにブルーのラインが入ったフルスキンの装甲を纏う人間――仮面ライダーサイガが現れた。

「な! 一体どこから!?」
「さあ、僕にその力を見せてくれたまえ!」
「It's show time!」
「ッ―――!」

 サイガはそう言うと同時に背中に装備されたフライングアタッカーで空へと上昇し、無数の光弾をセシリアへと掃射する。
 セシリアはそれをサイガと同様に急上昇することで回避し、同じ高度へと舞い上がった。

「どのような手段で現れたのかは解りませんが、倒してしまえば一緒ですわ」
 そう言いながらスターライトmkⅢを構え、サイガへと照準する。

 白い装甲を纏ったサイガが、どのような能力で現れたのかは解らない。
 だが何れにせよ、海東大樹が何かをした結果現れた事は確かだろう。
 ならばサイガは海東と同様、敵として撃ち倒せばいいだけの事だ。
 そう結論し、レーザーを撃ちながらサイガを振り切る勢いで更なる高空へと上昇する。
 対するサイガもまた、レーザーを躱しながらセシリアを逃すまいと空へと加速する。

「必ず手に入れてみせるよ、君の“お宝”を」
 その光景を眺めながら、海東はそう呟いた。

 記念すべき第一弾の“お宝”を手に入れるのは、予想通り困難なようだ。
 だがそれでこそ手に入れる価値があるというものだろう。
 苦労して“お宝”を手に入れた時の達成感は、そうそう味わえるものではないのだから。

 そうやって海東大樹――仮面ライダーディエンドは、期待に胸を膨らませながら空を舞う二つの影を眺めていた。


        ○ ○ ○


 サイガの背後へと廻り込む様に旋回し、スターライトmkⅢの引き金を引く。
 放たれたレーザーは文字通り光速でサイガへと迫るが、サイガは体を反転させながら現在位置をずらしレーザーを回避する。
 そしてそのまま光子バルカンを連射し、距離を取られないように接近してくる。
 放たれた光弾を上昇加速することで回避し、お返しとばかりにレーザーを放つが、サイガにはまたも避けられる。

「……面倒ですわね」

 機動、旋回性能ではこちらが圧倒的に上だが、反応速度ではあちらが上……いや、正しく“ISと同等”といったところか。
 いかなる感応システムを使っているのか、サイガの反応速度は人間の限界を超えている。
 スターライトmkⅢだけでは捕捉し切る事は出来ないだろう。

 またISと違いPICはないのか、サイガの状態から見て重力の影響下にあるようだ。
 であれば、敵の真上や真下が弱点となるのだが、サイガと手それは理解しているのだろう。
 こちらがその位置を狙う機動を執れば、即座に移動して射線から逃れてくる。

736混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:41:39 ID:cjAeO0I.0

「時間を掛けている余裕はありませんの。手早く打ち落として差し上げますわ」

 この機体の名前の由来ともなったビット兵装、“ブルー・ティアーズ”を展開する。
 相手の死角からの全方位オールレンジ攻撃が可能なコレであれば、サイガを撃ち落とすことも容易な筈だ。

「さあ、どれだけ耐えられるかしら?」

 4基のビットから、代わる代わるレーザーを放つ。
 止めどなく放たれる光の雨は、サイガに反撃の間を与えずに翻弄する。
 たとえIS並みの反応速度を持っていようと、いつかは避け切れずにレーザーに中る筈だ。
 そう考え、セシリアはビットの制御に集中する。だが―――

「しつこいですわね、蚊蜻蛉の癖に―――ッ!」

 サイガは変わらず避け続け、いつの間にか自らに有利な位置へと移動していた。
 セシリアがそれを認識すると同時に光子バルカンが放たれ、防御を余儀なくされる。

「ッ、この……!」

 放たれ続ける光子バルカンから逃れ、即座にスターライトmkⅢで反撃するが、やはり僅かな軌道で躱される。
 完全に射線が見切られているのか、単に回避がギリギリなだけなのかは判らないが、どちらにせよ遠距離攻撃では一撃を与えられないらしい。

「それなら――!」

 反応速度で劣るのなら、勝る部分で攻め落とす。
 セシリアはそう決断し、サイガへと向けて一気に加速する。
 それに対し、サイガもまた応じる様に加速し、セシリアへと接近する。

 両者の距離が短くなるその間にもお互いの光弾は行き交い、少しでも自身に有利な位置を取ろうと凌ぎを削る。
 そしてついに互いの距離がゼロになった、その瞬間、

「―――インターセプター!」

 一瞬の旋回でサイガの真上を奪い、その声と共にセシリアの左手にショートブレードが出現する。

 ―――これがスターライトmkⅢであれば、サイガにはまだ回避する余裕はあっただろう。
 なぜなら銃器は、狙い、引き金を引く、の二工程が必要であり、その僅かな隙に避ければいいからだ。
 だが剣となるとそうはいかない。剣は振るうという一工程のみで攻撃になってしまう。

 故に真上を取られたサイガにその刃を防ぐ術はなく、
 振り抜かれた刃は一撃でサイガのフライングアタッカーを破壊した。

「チェックメイトですわ」

 そうして機体制御を失い墜落するサイガへと向けて、セシリアはスターライトmkⅢの引き金を引いた。


        ○ ○ ○


『おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が――――』
「くそっ! これもダメか……」
 通算15回目の圏外トーキーに悪態を吐く。

 ほむらが運転するGトレーラーの助手席で、倫太郎は先ほどからずっと携帯で電話をかけ続けていた。
 誰かと連絡を取れればと考え、ラボメンは勿論の事、覚えている番号すべてにコールしてみたのだ。
 だが出たのは圏外トーキー。掛けた番号全てが圏外とされ、誰とも、何処とも繋がる事はなかった。
 あるいは、と支給された携帯を使ってもみたが、結果は変わらなかった。

「あとはコイツだけか……」

 そういて手に取ったのは、奇抜なデザインの赤い携帯――ケータロスだ。
 この携帯は電話としての用途の他に、電王とやらが強化変身の際に使用するらしい。
 キーの配置的に扱い難いため最後に回していたのだが、この携帯にだけはかける相手がメモに書かれていたのだ。

「………よし」
 知らない相手へと掛ける事に不安はあるが、覚悟を決めてキーをプッシュし、すぐに呼び出し音が鳴る。
 そして―――

『おい! 良太郎か!?』
「繋がった……!」
 いきなり響いた声に驚くが、それ以上にやっと繋がったという事実に声を上げる

『その声……良太郎じゃねぇな。
 おいお前、一体誰だ?』
「お、俺は岡部倫太郎だ。そう言うお前こそ誰なんだ」
『俺か? 俺はモモタロスってんだ。よく覚えとけ』

 モモタロス。それがメモに書かれていた、イマジンとやらの名前らしい。
 イマジンが何かはわからないが、どうやらちゃんと会話が出来る人物ではあるらしく、その事に一先ず安心した。

737混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:42:25 ID:cjAeO0I.0

『それで、倫太郎……だったか? どーしてテメェがケータロスを持ってんだよ。
 まさか良太郎から盗んだんじゃねぇだろうな?』
「違う。このケータイは俺の支給品としてバッグに入っていたのだ」
『支給品だぁ? ああ、なるほどな。今の俺達と似たようなもんか』
「似たようなもの?」
『こっちの話だ。気にすんな』
「そうか。では改めて訊くが、お前は一体何者だ」
『……どーゆー意味だ、それは』
「お前は先ほど、似たようなものと言った。それはつまり、今の俺と同様この殺し合いに参加させられたと推測できる。
 だが、俺に支給された名簿には、モモタロスという名前の参加者はいない。
 お前はこれをどう説明するのだ?」

 仮に名簿に記載されていない参加者がいたとしても、そうすることの意図が解らない。
 それよりはまだ、この会場の外に繋がったか、ドクター真木の仲間に繋がったと考える方が合理的だ。
 だが―――

『あー……、なんつーか……俺達は今、電王ベルトに取り憑いてる状態……らしい』
「らしい?」
『俺達もよくわかってねぇんだ。聞き返すな。
 んでだ、その状態でフェイリスとかいう猫女に―――』
「フェイリスだと!?」

 心にあった不安も、モモタロスに関する疑問も、その名前で全て吹っ飛んだ。

「貴様! フェイリスを知っているか!?
 今どこにいる! どこでフェイリスを知った!」

 フェイリスは大事なラボメンの一人だ。急ぎ合流する必要がある。
 だが彼女の現在地が判らねば、駆け付ける事も出来やしない。
 モモタロスとやらが何者であるかなど、その前には瑣末な事でしかない。

『い、いきなり何だってんだ!?』
「いいから答えろ! さもなくばこの俺の禁断の秘奥義が発動し、貴様の命は失われるかもしれんぞ!」
『わ、わかったよ。ちょっと待ってろ、いま代わ……る事は出来ねぇから、場所を聞いて………ん? なんだアレは?』
「どうした? フェイリスは!? もしも〜―――」
『ゲェエッ……! 変態だ〜〜〜〜ッ!! p,――――――』
「んな!? 切れやがった!」
 変態だか何だか知らないが、この重要な時に通話が切れるとは何たることだ!
 そう憤りながらも、慌てて再びコールするが、

『おかけになった電話番号は、電波の――――』
「くそっ、また圏外か! 一体ここの電波はどうなっているというのだ!」
「どうだった? 何か分かったの?」
「どうもこうもあるか! モモタロスとやらがフェイリスを知っている事は判明したが、重要な情報はさっぱりだ!
 後でまたかけ直さなければならん。この最悪な電波状況ではもう一度繋がるかも怪しいというのに。くそ……!」
 やっと見えたと思った光明が、あっさりと目の前で消えたのだ。
 意味がないと解っていてもつい悪態を吐いてしまう。

 そんな倫太郎を尻目に、ほむらは冷静にGトレーラーを停車させていた。
 彼女にとっても情報は大事だが、倫太郎が携帯で連絡を取っている以上、周囲を警戒するのは自分だと判断していたのだ。
 結果として有益な情報は得られなかったようだが、電話が途切れると同時にスマートブレインハイスクールに到着したので、時間的には丁度良かった。
 だが――――

「愚痴を言うのは構わないけど、もう到着したわよ」
「む、そうか。ならさっさと次の―――」
「けど下手な行動は控えた方がよさそうね」
「なんだと? それは何故だ」
「アレを見てみなさい」
「アレ? む、あの影は……」
 フロントガラス越しに空を指で指し示す。
 そこには二つの影が宙を高速で移動していた。

「戦闘機……ではないな。現行の機体では、高速下であそこまで立体的な軌道は取れん。となると……」
「片方は真木清人の説明で見た、赤い機動兵器の同類みたいね。もう片方は判らないけど」

 どうやらあの影達は戦闘を行っているらしく、影の間を無数の光弾が飛び交っている。
 彼らと話し合って情報を得たいが、彼らが殺し合いに乗っていないとも限らない。
 ここは一先ず様子を見て、声をかけるのは戦闘が終わってからにしたい。
 そう考えた、その時だった。

「ッ―――掴まって!」
「ぬお――!?」

 エンジンを掛けたままだったGトレーラーを急発進させる。
 空で戦っていた影の一つが、こちらへと墜落してきたのだ。
 その影は地面に激突したらしく、発信した直後に大きな落下音が聞こえてきた。

738混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:42:57 ID:cjAeO0I.0

「い、いきなり何だというのだ」
「片方が墜落してきたのよ、私達の方に。
 どうやら決着がついたみたいね」
「そうか。ならば様子を見に行こう。勝った方から何か訊けるかもしれん」
「……そうね。いざとなれば逃げればいいだけだし」

 倫太郎の言は少し短絡的な気もするが、反対する理由もない。シートベルトを外して車から降りる。
 いざという時にすぐに逃げられるように、Gトレーラーのエンジンは掛けたままにする。

「これは……」

 そうして見た光景に、倫太郎が思わず息をのんだ。
 スマートブレインハイスクールの外壁が、見事に砕け散っていた。
 そこには白い装甲を纏った人影があるが―――

「な……消えた?」

 しかしその人影は、幻だったかのように一瞬で消えてしまった。
 魔法少女であるほむらには、それくらいの現象には理解がある。
 故に特に驚く事なく、様子を見ようと崩れた壁へと歩いて行く。

「あ、おい!」
「どうしたの? 怖いなら車で待ってる? 私としてはその方がやり易いのだけど」
「な、何を言う! この鳳凰院凶真に、ここ、怖いものなどあるものか!」

 そう言って威勢を張る倫太郎だが、その脚は見るからに震えている。
 そのあまりの頼りなさに、思わず呆れた。

「……虚勢を張るのは構わないけど、足手纏いにはならないで欲しいわね」
「ぐ……ぬ……」

 彼が戦えない事は既に理解しているが、釘を刺さずにはいられなかった。
 戦闘になれば、どう考えても倫太郎は足手纏いにしかならないだろうからだ。

 そうして崩れた外壁から校庭を覗けば、そこには人影が一つ。
 空にはまだ機動兵器の影があることから、おそらく空を飛べず、置き去りにされたのだろう。

 ……さて、そこで人影がどちら側かと考える。
 今だ対空する機動兵器側か、それとも撃ち落とされ消えた白い装甲の人物側か。
 青い装甲を纏った外見からは消えた人影の仲間のようにも見えるが、それにしては心配しているような様子はない。
 かといって機動兵器の人物の仲間かと思えば―――どうやらそれも違うらしい。
 なぜなら、空から降りてきた青い機動兵器が、その人物に銃口を向けているからだ。


        ○ ○ ○


「ハァ……ハァ……、フゥ――――」

 乱れた息を整える。
 体調は思っていた以上に悪いらしい。いつもと勝手が違ったとはいえ、格下相手に少し時間を掛けてしまった。
 残るは海東大樹一人。このまま飛び去ることも可能だが、出来れば消費したメダルを補充しておきたい。
 仮に大樹がまだ空を飛べる人物を呼び出せたとしても、今度は呼び出す前に先制する。
 そう考え、油断なく海東へとスターライトmkⅢを向けながら降下する。

「さあ、これで終りですわ。
 全ての支給品とメダルを置いて、今すぐ立ち去りなさい」
「断わる。僕に指図できるのは僕だけだ。
 それにまだ負けたわけじゃない。君こそ“お宝”を置いて立ち去りたまえ」
「そう―――残念ですわ」

 この状況で未だに余裕を崩さない大樹に落胆しながらも、“ブルー・ティアーズ”を展開する。
 これならばたとえ最初の一撃を避けられたとしても、続く二撃、三撃目で撃ち抜く事が出来るだろう。
 そう考え、大樹へと意識を集中するが、

「いいのかい? 誰か来たみたいだけど」
「え――?」
 不意に告げられた新たな人物の訪れに、思わずハイパーセンサーに意識を取られた。

「ッ―――! このッ!」
「おおっと! 残念、外れ」
 その僅かな隙に大樹は一瞬で加速し、ブルー・ティアーズの射線から逃れ、放たれたレーザーも全て躱してみせた。

《――ATTACK RIDE――》
 そのまま大樹は新たなカードを取り出して銃へと挿入し、銃口をこっちへと向ける。
 彼が今まで使ったカードの効果は、青い装甲を纏った“変身”、白い装甲の人物を呼び出した“召喚”の二つ。
 こちらもスターライトmkⅢを向けてはいるが、今回挿入したカードの効果が判らない以上、迂闊な行動はとれない。

「く………」

 失敗した。
 こうしている今もメダルは無駄に消費されている。
 それは大樹も同じだろうが、先に無駄に消費したメダルの分、こちらが不利だろう。
 下手に動けば撃ち落とされる事になる。かといってこのまま睨み合いを続けていれば、確実にメダル切れで負ける。
 ここはやはり、無茶を承知で行動すべきだろうか―――

 だがそうやってセシリアが思案している間に、大樹はさらに事を進めた

739混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:43:38 ID:cjAeO0I.0

「出てきたまえ。居るのは分かっているんだ」

 大樹は辺りに聞こえるように声を上げる。
 彼から意識を逸らせないためハイパーセンサーは使えないが、どうやら先ほどの台詞はブラフではなかったらしい。
 その証拠に、崩れた外壁の影から二つの人影が現れた。自分と同じくらいの少女と、頼りなさそうな青年の二人。

「気付いていたの」
「まあね。エンジン音が聞こえていたし」
「でしょうね。
 ……それで? 私達はどっちに付けばいいのかしら?」
「それはもちろん、僕の方だ」
「あら、人の物を無理矢理に奪おうとする方のセリフではありませんわよ、それ?」
「全ての“お宝”は僕のものだ。僕が僕の物を手に入れようとするのは当たり前だろう」
「よくもぬけぬけとそんな事を言えますわね。育ちの悪さがよくわかりますわ」

 当然の様にそう言う海東を見下げ果てながらも、セシリアはこの状況をどうするかを考える。
 可能であれば彼女達に援護してもらいたいが、自分から味方になって欲しいと頼むのはどこか海東と同じような気がして忌避感がある。
 あるいはこういった心理的作戦も彼の策の内の一つかもしれないが、引き下がる事は出来なかった。

「それで? 君はどっちに付くんだい?」
「そうね。貴方に付けば私達のお宝まで盗られそうだし、今回は彼女に付く事にするわ」
「なるほど、それは道理だね。誰でも自分の“お宝”は独占したいだろうしね」
「当然の結果ですわ。一体どこの誰が泥棒の味方をすると言うのです」

 名前も知らない彼女達が手伝ってくれる事に僅かながら安堵を抱く。
 これで海東が何をしたところで、対処する余裕が出来た筈だ。
 つまり今度こそ海東を追い詰めたのだ。

「それで、どうするおつもりですの? 今度こそ絶体絶命ですわよ」
 最終勧告の意味を籠めてそう告げる。
 海東に取れる手はない。

「こうするのさ」

 だが海東はそう言って銃を空へと向け、勢いよく引き金を引いた。
 即座に回避行動を取り、空中へと飛ぶが、

《――BLAST――》

 放たれた青い光弾。それは一斉に拡散して自分と少女達を追尾する。
 海東の挿入したカードの効果。それは誘導性の散弾だったのだ。
 一発の威力や誘導性自体は低い。だが、

「くっ……!」

 その一撃への対処に取られる僅かな隙は、海東に更なる一手を取る余裕を与えた。

《――KAMEN RIDE・RAIA・FEMME――》

 海東と同系統の装甲を纏った人影が再び、そして今度は紅と白の二人現れる。
 そして紅い男性――ライアは左腕の盾に、白い女性――ファムはレイピアに、
 それぞれがベルトのバックルから引き抜いたカードを挿入する。

《《――ADVENT――》》

 それと同時に校舎のガラスから、通常のそれより遥かに巨大なエイ――エビルダイバーと、同じく巨大な白鳥――ブランウィングが現れた。

「それでは第二ラウンドを始めるとしよう」

 大樹はそう言ってエビルダイバーの背に乗ると、セシリアへと向けて飛翔した。
 どうやら今度はエビルダイバーとブランウィングのサポートで、自分が戦うつもりらしい。
 セシリアも応戦するために再び空へと上昇する。

 ………地上には残された四つの人影。
 見知らぬ彼女達に敵を二人も押しつける形になるのは心苦しい。
 だがこちらとて残りのメダルが少なく、彼女達を手助けする余裕はない。
 それに彼女達にもこの状況に陥った責任はあるので、自分達でなんとかしてもらうしかないだろう。

「上等ですわ。今度は貴方自身を撃ち落として差し上げます!」

 セシリアはそう考え、今度こそ大樹を倒すために意識を彼へと集中させる。

740混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:44:13 ID:cjAeO0I.0


        ○ ○ ○


 一瞬で魔法少女の姿へと変身し倫太郎を守り切ったほむらは、変身した瞬間から消費され始めたメダルに煩わしい感覚を覚える。
 それはすなわち、自分達が今真木清人の手の平の上だという証明に他ならないからだ。

「それでどうすると言うのだ。俺が戦う事は出来んぞ」
「そんな事は分かっているわ。邪魔だから下がっていなさい」
 その言葉に頷き、校舎の影へと隠れる倫太郎を尻目に、ほむらはライアとファムの二人と相対する。


 暁美ほむらの能力は“時間停止”――そして“時間遡行”。
 時間を操る彼女の能力は、その特異性では最上位に位置する力だろう。
 だが逆に、それらの能力に特化しているが故に、戦闘能力は魔法少女の内では底辺に近い。
 故に彼女の戦闘方法は、その力不足を補うための多量の重火器であり、時間停止による奇襲・不意打ちだった。

 だがここで真木清人の化した制限が問題となる。
 ただでさえ彼女の集めた兵装は全て没収されているのだ。
 彼女の命綱ともいえる時間停止に、一体どれほどの制限が掛けられているのか。
 最悪、普段通りの戦闘を行う事すら満足に行かないかもしれない。となれば、

“頼れるのは、これらの武器だけね”

 対未確認生命体用強化装甲服・G3-Xの使用する特殊武装。
 眼前の二人に通用するかは判らないが、ただの銃器よりは有効だろう。
 そう決断し、左腕の“盾”の中から、GM-01スコーピオンを取り出し構える。

「生憎、お遊びに付き合うつもりはないの。さっさと倒させてもらうわよ」
《――SWINGVENT――》
《――SWORDVENT――》

 返答はなし。彼らは新たにカードを読み込み、武器を構えることで戦意を示してきた。
 ほむらはそれに応じる様に二人へと駆け出し、

「――――さようなら」

 彼らの背後から、GG-02サラマンダーのグレネード弾を発射。
 直撃し、炸裂した爆発が、ライアとファムを飲み込む。
 一撃で戦車も破壊するその威力に、二人はあっけなく吹っ飛ばされる。


 ―――停止時間は3秒。消費メダルは6枚。
 試験的に時間停止を行使して見たが、毎回この程度の消費なら何の問題もない。
 だが時間停止のメダル消費がルールブック通りのシグマ算であるのなら、4秒で10枚、5秒で15枚も消費する事になる。
 そうなればあっという間にセルメダルが底を尽く。やはり普段通りに戦う事は出来ないようだ。


 ライアとファムはまだ起き上がらない。
 あの青い装甲の男に召喚された彼らは、おそらく最初の白い装甲の人物と同じ存在だろう。
 そうであれば、彼らが真に倒れたのなら白い装甲の人物と同じように消え去る筈だ。
 メダル的にも弾薬的にも無駄な消費は避けたい。出来ればこのまま消えて欲しいところだが、

「やっぱり、そう旨くは行かないわね」

 ライアとファムがゆっくりと立ち上がる。
 よく見れば、ライアの左腕の盾が割れていた。
 おそらくあの盾で防ぐ事で、ダメージを最小限に抑えたのだろう。

 GM-01 スコーピオンからGG-02 サラマンダーを取り外し、GK-06 ユニコーン取り出しながら改めて銃口を向ける。
 もう先ほどの様な奇襲は通用しないだろう。
 今度こそ、本当の戦闘開始だ。油断は出来ない。

「――――――――」
「……………………」

 無言のまま、先ほどとは逆にライアとファムの方から迫り来る。
 対してほむらは、距離を詰められぬよう後退しながら引き金を引く。
 だがその弾丸は防ぐか弾かれ、ライアが鞭から電撃を放って反撃する。

 ほむらは危なげなくそれを躱すが、その隙に接近してきたファムが薙刀を振り抜いてくる。
 それを右手のGK-06 ユニコーンで捌きながら躱し、ゼロ距離から左手のGM-01 スコーピオンを連射して反撃する。
 ファムはたたらを踏んで後退するが、あまりダメージを受けたようには見えない。
 そしてファムとの距離が離れたところを、ライアが鞭で打ち据えようとする。
 当然それは後退して躱す。

741混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:44:45 ID:cjAeO0I.0


 そうやって攻防を重ねながら、ほむらはG3-Xの武装に舌を巻くと同時に、敵の厄介さにも歯噛みをしていた。

 使ったG3-Xの武装はまだ二つだけだが、そのどちらも高い威力と、それに見合った反動を伴っている。
 魔力で肉体を強化していなければ、今頃手首の捻挫では済まない怪我を負っていただろう。
 だが相対した敵の強度も高く、GM-01 スコーピオン単体では大してダメージを与える事が出来ない。
 相手が一人ならばGG-02 サラマンダーを使う余裕もあるだろうが、二人がかりではその隙を狙われてしまう。
 時間停止の使用も含め、どうにか確実にどちらか一方でも倒す隙を作らなければ。
 そう考えていた、その時だった。

《――GUARDVENT――》

 その音声と共に、周囲に白い羽が撒き散らされた。
 同時に、その羽に紛れる様にファムの姿を見失う。

「これは……撹乱系の眩惑―――!」

 そう理解した直後、背後から刃が閃く。

「ク――ッ!」
 迫る一閃を辛うじて躱すも、背中に焼けるような痛みと、紅い飛沫が飛ぶ。
 その痛みを遮断し、即座にファムの方へと向けてGM-01 スコーピオンを撃つ。
 だがファムの姿は舞い散る羽に紛れ、放たれた銃弾は空を穿つだけだった。

「っ……厄介ね」
 この羽が舞い散る中でファムを捉えることは難しい。
 時間停止を使えば容易いだろうが、メダルの消費を考えれば避けたい。
 それに忘れてはならないのが、敵は一人ではないという事だ。

 舞い散る羽の中、唯一紛れずに存在を示す紅い装甲が、その手に持つ鞭から電撃を飛ばす。
 それを防がずに躱し、ライアへと銃口を向けるが、白い羽に紛れながらファムが現れる。
 振るわれる薙刀の一撃をGK-06 ユニコーンで防ぐが、その守りの隙を逃さずライアが鞭で打ち据える。

「グ………ッ!」

 追撃のファムの一撃を紙一重で避け、GM-01 スコーピオンを向けるが、ファムは既に白い羽に紛れている。
 それと入れ替わる様にライアが鞭を振るい、雷撃を飛ばしてくる。

「この、邪魔よ……!」

 転がる様にその一撃を回避し、ライアへと向けてGM-01 スコーピオンを撃つが、ライアは割れた盾を構え、弾丸を防ぐ。
 壊れた盾でも、GM-01 スコーピオンの弾丸を防ぐ程度にはまだ強度があるらしい。
 そしてその反撃を狙ったかのように、再び現れたファムが薙刀を薙ぎ払ってくる。
 その一撃をGK-06 ユニコーンで受け止め、GM-01 スコーピオンをファムに向けた……その瞬間。

「ッ、しまった……!」

 狙ったかのように、ほむらのGM-01 スコーピオンを持つ左腕をライアの鞭が絡め取った。

 ―――ほむらの時間停止の弱点は拘束系の技だと言える。
 なぜなら時間から切り離されるのはほむらだけでなく、ほむらと接触する他者をも時間から切り離してしまうからだ。
 この場合、鞭を使ってほむらの左腕を捕えたライアも一緒に、だ。
 ライアにGM-01 スコーピオンの弾丸を防げる防御力がある以上、時間を止めた所でメダルの無駄にしかならないのだ。

「くっ……、ッ……!」
 ファムの薙刀をGK-06 ユニコーンで捌く。
 時間停止が無駄な以上、ファムの攻撃を防ぎながら鞭を外す機会を狙うしかない。

 ……だが決して戦闘能力の高くないほむらにファムの斬撃を捌き切る事など出来るはずがなく、

「ッ――――!」

 ついにGK-06 ユニコーンが弾き飛ばされる。
 これで盾となる物は右腕にはなくなり、左腕は依然と拘束されたまま。
 その絶体絶命の窮地を逃れるためにほむらは可能な限り体を捻り、
 一切の感情なく、ファムはその刃を振り抜いた。

742混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:45:25 ID:cjAeO0I.0


        ○ ○ ○


 放たれる銃弾を躱しながら、セシリアはどう戦うかを考える。
 敵はエビルダイバーに乗った海東大樹とブランウィングの一人と一匹。
 一対二という厄介な状況に加え、海東大樹が全ての手札を晒したとも思えない。
 定石であれば、深追いはせず相手の手の内を探るべきなのだが、こちらはISのエネルギーに余裕はあるが、メダルの残量が心許ない。
 となれば戦法など考えるまでもなく―――

「短期戦しか、ありませんわね」

 大樹が他にどんな効果のカードを持っていようと、使う前に倒してしまえば関係ない。
 それに何より、加速度的に増加するメダルの消費量からすれば、持って五分。
 故に速攻で終わらせるべく、初手から“ブルー・ティアーズ”を展開する。

「さぁ、踊りなさい! リズムを崩した時が、貴方の敗北の時ですわ!」

 四基のビットから、次々とレーザーを放つ。
 片方に二基ずつ。時としてその編制を入れ替えながら、大樹達を翻弄する。
 大樹とブランウィングを同一射線上に加えたりと多少の工夫も加えながら、まるで第三者の様に戦況を観察する。

 ……出来ればこのまま撃ち落としたいところだが、やはりそうはいかないだろう。
 その証拠に、大樹とブランウィングはサイガと同じように、自分に有利な位置へと移動している。


 ―――“ブルー・ティアーズ”の弱点は、ビットの展開時にその制御に集中せねばならず、その他の行動が出来ない事にある。
 つまりその間、セシリア自身は無防備になってしまうのだ。

 当然セシリアとてその弱点は理解している。
 故に戦いにおいては常に距離を取り、相手の行動に対処出来るようにしてきた。
 それは、相手が同じ射撃型だったとしても変わる事はない。


《――ATTACK RIDE・BLAST――》

 大樹が、彼にとってのベストポジションに着くと同時に、誘導性の散弾を放ってくる。
 ビット制御に集中するセシリアでは、その光弾を避ける事は難しいだろう。

 ―――だが、避けることが困難なのであれば、最初から避けなければいいだけの事だ。

「―――そこですわ!」

 大樹が散弾を放つと同時に、セシリアもビットの制御を中断し、大樹へとスターライトmkⅢの引き金を引く。

 ブラストのカードの効果は、すでに知っている。
 その散弾の威力ならブルー・ティアーズが落とされる事はまずない。
 故にセシリアは、早々に決着を付けるために敢えて攻撃を避けず、その隙を狙う作戦に出たのだ。
 しかし―――

「うおっとッ!」
「キャア――!」

 大樹の放った散弾はセシリアへと全て命中する。
 絶対防御が発動する様な急所だけは確実に守り、後は全て甘んじて受ける。
 しかしそうして間で放ったセシリアの一撃は、大樹の乗るエビルダイバーを掠めるだけに終わった。
 なぜなら引き金を引いたあの瞬間、突如のして発生した突風に姿勢を崩されてしまったのだ。

 そして体風でもないのにISの機体制御を奪う程の風など、自然に起こるはずがない。

「このっ、邪魔ですわ!」

 肝心なところで暴風による妨害を行った存在。即ちブランウィングへと向けてスターライトmkⅢを撃つ。
 だが八つ当たりの様な攻撃ではブランウィングを捉えられず、ひらりと躱されてしまう。
 その間に接近してきた大樹から、即座に加速して距離を取る。

743混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:47:49 ID:cjAeO0I.0

 ―――予想以上に厄介だ。
 セシリアとて一対多の戦闘に関する訓練は積んである。
 しかし訓練相手は全てIS。それ以外の、しかも人外との戦闘など想定していない。
 故に相手の行動予測が困難になっているのだ。

 今回の妨害にしてもそうだ。
 これがISであれば普通に攻撃した方が有効であり、その場合ブルー・ティアーズから警告が来る。
 だがブランウィングがした事は暴風を放つこと。
 攻撃でも何でもないただの風など、ISの警戒の範疇外だ。

「……仕方がありません。作戦Bに変更ですわ」

 作戦Bは、その危険度で言えば最初の作戦を上回る。
 だがISの定石が通用しないのであれば、四の五の言ってはいられない。
 そう決意し、セシリアは再びビットを展開して大樹達へとレーザーを撃つ。



 そうして大樹は、自身の勝利が近い事を予期した。

 セシリアの操るブルー・ティアーズは、その性能を見れば見るほど手に入れたくなる。
 今までに旅をした、どの世界にもない理論で構築された機動兵器。
 その機動は重力の影響を無視し、サイガやミラーモンスターさえ寄せ付けない。
 大樹とてディエンドの力がなければ、今頃撃ち落とされていた事は想像に難くない。

 惜しむらくは、その性能を現在の持ち主の少女が引き出し切れていないらしい事だが、それは今の状況では歓迎すべき事だろう。

「また同じ攻撃かい? もう少し考えた攻撃をしたまえ。
 それとも、勝てないと理解しての最期の悪あがきかい?」
「まさか。貴方の攻撃の方こそ、わたくしには何の問題にもなっていなくてよ。
 無様に撃ち落とされる前に、自分から降伏してはどうですの?」
「お断りだね。狙ったお宝は絶対に手に入れるのが僕の身上だ。諦めるつもりはないさ」
「あら、そうですの。では今直ぐに蜂の巣になりなさいな!」

 その言葉と同時に四方から放たれるレーザーを、エビルダイバーを駆って回避する。
 全方位から際限なく放たれるレーザーは確かに脅威だ。
 だが、一度に放てる攻撃が四発だけならば、回避すること自体は難しくない。

「それじゃあ、そろそろ終わりにしよう」
「それはわたくしの台詞ですわ!」

 ブランウィングとエビルダイバーに指示を出し、セシリアへと一気に加速する。
 セシリアのビットによる攻撃パターンはもう見切った。
 そのパターンを元に割り出した、セシリアへの最短ルートを飛翔する。

 ディエンドドライバーによる銃撃でセシリアの気を逸らし、その間にブランウィングに退路を封じさせる。
 そのまま反撃のレーザーを一発、二発、三発と躱し、残り十メートルまで接近する。
 しかしその瞬間、大樹の周囲に、四基全てのビットが囲い込む様に展開された。

「残念。その程度は読めてましてよ」

 セシリアは大樹を嘲笑うかのようにそう告げる
 ビットの配置からして、ブランウィングによる妨害も見越してあり、避け切る事は出来ないだろう。
 だがしかし、

「読めていたのはこっちも同じさ」
《――ATTACK RIDE・BLAST――》

744混線因果のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:48:17 ID:cjAeO0I.0

 ブラストのカードを挿入し、ビットへと向けて発射する。
 放たれた光弾は全てのビットへと着弾し、破壊するまでは行かずともその射線を大きく逸らす。
 そうして出来た檻の隙間を潜り抜け、

「掛かりましたわね」
「――――ッ!」
「四基だけではありませんのよ!」

 セシリアの脚部に接続された二基のビットから、計四発ものミサイルが発射された。

「っ――、やってくれるね……!」

 即座に回避行動を取るも、ミサイルは誘導式らしく大樹を迷うことなく追尾する。
 加えて大樹の乗るエビルダイバーにミサイル全てを躱せる程の機動力はない。
 故に大樹にミサイルを逃れる術はなく、数秒と持たずにミサイルに撃墜される。
 ――その直前、

《――ATTACK RIDE・ILLUSION――》

 大樹の姿がエビルダイバーの上から消え去った。
 それにより標的を見失ったミサイルは、一発はエビルダイバー中り爆発し、残りは見当違いの方向へと飛んで行った。

「なっ……!? 一体どこに!?」

 ここは遥か空の上だ。
 例え全てのセンサーを誤魔化して姿を隠したところで、飛行の出来ない海東大樹にエビルダイバー以外の足場はない。
 だがそのエビルバイダーは落ち、残るはブランウィングだけだ。

 と、そこまで考え、ようやく“ソレ”がもう一つの足場である事に思い至った。

「―――ッ、しまった……!」

 咄嗟にブランウィングのいる方向へと視線を“見上げ”、

「ゲームオーバー。僕の勝ちだ」
《――FINAL ATTACK RIDE・Di Di Di DIEND――》

 モザイクの様なシアンカラーの極光に、セシリアの視界と意識は飲み込まれた。

745測定不能のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:49:51 ID:cjAeO0I.0


        ○ ○ ○


 ほむらの命を奪うために、金色の刃が風を切る。だが左腕を拘束され、ほむらに逃れる術はない。
 故にせめてダメージを最小限に抑えようと、最大限に体を捻った――その時だった。

「――――!」

 鞭を握るライアの手を赤い閃光が撃ち抜き、鞭を弾き飛ばす。
 そうして引っ張り合いの形で拮抗していた力が崩れ、ほむらの体はその勢いのままにバランスを崩した。
 その結果、ほむらの命を奪う筈だった刃は空を切るだけに終わった。

「あ、中った……!」
 すぐに体勢を立て直し声のした場所を見れば、岡部倫太郎の姿がある。
 彼はポインターを取り付けた銀色の携帯電話を、拳銃の様に構えていた。


 ―――その光線銃の説明を、ほむらは既に聞いていた。
 岡部倫太郎に支給された、仮面ライダーファイズに変身出来るというファイズギア。
 今彼が構えているのはファイズギアのツールの一つであるファイズフォンで、その形態の一つ、フォンブラスターだ。
 そして拳銃に慣れない彼はフォンブラスターにファイズポインターを取り付け、命中精度を上げる事で見事にライアに光弾を命中させたのだ。

「岡部倫太郎、変身して時間を稼ぎなさい!」

 攻撃を受けた事で、ライアは倫太郎も攻撃対象だと認識した。
 逆に言えば、戦いは一対二から二対二の形に変わったのだ。

 ライアは今の一撃で鞭を失っている。
 そして無手のライアならば、倫太郎でもファイズに変身すれば、勝てぬまでも耐えられると判断したのだ。

「な……ッ!? それは俺が戦えぬと知ってのセリフかワンマンアーミーよ!
 だが仕方があるまい! この鳳凰院凶真の力が必要だというのなら、協力してやろうではないか!
 ……貸し一つだからな! 忘れるなよ!!」
 そうセコイ言いながらポインターを外し、変身コードを入力する倫太郎に呆れながら、ほむらもまたファムと相対する。

「もうさっきの様な油断はないわよ。今度こそ終わらせましょうか」

 彼に貸しを作ってしまったのは癪だが、助けられたのは事実なので大人しく借りておこう。
 今はそれよりも、倫太郎がライアの相手をしている間に一番厄介なファムを撃破するのが先だ。
 そう決断し、ほむらはGM-01を構えて、舞い散る羽の中に紛れ消えゆくファムへと突撃した。



《――Standing by――》
「変身」
《――Complete――》

 ファイズフォンに変身コードを打ち込み、ファイズドライバーへとセットする。
 同時に全身を赤いフォトンストリームが覆い、倫太郎をファイズへと変身させた。


 ―――本来ファイズギアは、オルフェノクと呼ばれる存在しか変身できない変身ベルトだ。
 ではなぜオルフェノクではない岡部倫太郎がファイズに変身できたのか。
 それはこの殺し合いを仕掛けた真木清人がそう調節したから、としか言いようがない。

 そもそも前提として、この殺し合いに呼ばれた参加者にはオルフェノクがいない。
 またディケイド――門矢士の様に、「トリックスター」と呼ばれる秘石のエネルギーを動力源として代用とすることで、ただの人間がファイズに変身した例もある。
 故に真木清人はその技術を応用し、ただの人間にもファイズギアが使えるように調整したのだ。
 ……もっとも、当然代償として相応のセルメダルを消費するのだが。

746測定不能のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:50:33 ID:cjAeO0I.0


 そのような事情など知る由もなく、ファイズへと変身した岡部倫太郎は自身の体を確かめ、改めてライアと相対する。

「よし……やってやる!」

 ファイズショットにミッションメモリーを挿入し、ライアへと殴りかかる。
 いつもとは違う感覚に戸惑いながらも拳を振り抜くが、当然のようにあっさりと往なされる。
 そのままバランスを崩して地面を転がるが、すぐに立ち上がる。
「おぶッ……!?」
 立ち上がった瞬間、見事に顔面を殴られた。
 その痛みに声を上げるが、思ったよりは痛くなかった。
 よく解らないアイテムに不安を抱いていたが、ファイズの装甲は確かな物らしい。
 生身だったらどうなったかなど想像したくないが、その事にひとまず安心し、

「げは……ッ!」
 今度は腹を殴られた。
 僅かな吐き気と、腹部の鈍痛に呻く。

 たとえ大きなダメージはなくとも、痛いものは痛いのだ。
 そして痛いのを避けたければ、自分の方がライアを倒すしかない。
 そう決意し、反撃とばかりにライアへと再び殴りかかり、

「グオッ……!」

 カウンターとばかりに胸部の装甲を蹴り飛ばされたのだった。



 GM-01でファムへと牽制射撃を行いながら、Gk-06を拾い構える。
 辺りには今尚白い羽が舞い散り、ファムの姿を眩まし続けている。
 闇雲に攻撃したところでファムに中る事はないだろう。

 だがしかし、戦いが一対一の形になった分、ほむらには幾分かの余裕が出来ていた。

「そこ……!」
 視覚外からの一撃を躱し、ファムへとGM-01の弾丸を撃つ。
 ファムはそれを左手の盾で防ぎ、再び舞い散る羽に紛れて消える。

 ――そう。ほむらの反撃に、ファムは“躱す”ではなく“防ぐ”という手段を選んだ。
 つまり倫太郎がライアの相手をする事で、ほむらにはファムに反撃するだけの猶予が生まれたのだ。
 その僅かな猶予に、ほむらは確かな勝機を見出した。


 舞い散る羽の中、ほむらはファムの奇襲に備え周囲を警戒する。
 そのついでに倫太郎の方にも気を配っていたのだが、ファムが彼を襲う様子はない。
 先ほどからライアに一方的に攻められている倫太郎なら、二人掛かりで攻めればあっという間に殺せるはずだ。
 そうすれば先ほどの様に、自分達に有利な展開に持ち込めるだろうに。とそこまで考え、ほむらはライアとファムにある印象を抱いた。

 ―――まるで機械か人形。決められた役割しかこなせない、魔女の操る使い魔の様だと。

 ……いや、事実使い魔なのだろう。
 彼らは青い装甲の男に召喚された操り人形でしかないのだ。
 であれば、最初の白い装甲の男が消えた理由も容易に想像が付く。
 逆に言えば、青い装甲の男を倒さない限り、この人形達はまた出現するだろうことも、同様に。


 背後からの薙刀をGK-06で捌き、返すように銃撃する。
 ファムはそれを防げずに食らうが、やはりダメージは小さく、倒すには至らない。

 彼らがただの人形であるならば、対処は容易い。
 人形はただ与えられた指示を淡々と繰り返すだけであり、そこに思考は挟まれないからだ。
 故にその行動パターンは読み易く、

「チェックメイト。これで終わりよ」

 人形もまた、あからさまな隙と言う罠に自ら嵌まるである。

 ファムが出現すると同時に時間を停止。
 体を反転させながらGG-02 サラマンダーをセットし、薙刀を振りかぶった姿勢のまま停止したファムへと発射する。
 着弾の直前に停止した弾を確認せずに振り返り、ライアへとGM-01を乱射しながら倫太郎の元へと駆け出す。
 それらの工程を3秒で済ませ、時間停止を解除する。

747測定不能のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:51:00 ID:cjAeO0I.0

 直後、ファムはグレネード段に吹き飛ばされ、ライアは無数の銃弾に撃ち抜かれ、ほむらは倫太郎の前に立ち塞がった。

「お、お前、いつの間に……!?」
「ちゃんと無事なようね。……立てる?」
「ああ、なんとかな」

 ふらつきながらもしっかりと立ち上がった倫太郎に、ほむらは一先ず安心した。
 彼はまどかを救うための鍵となるかもしれない人間だ。こんな所で死んでもらっては困る。

「立てるなら逃げる準備をしなさい。これ以上付き合ってはいられないわ」
 ほむらはそう言いながら、前方を睨みつける。

 やはりGM-01では大してダメージを与えられないらしく、あっさりとライアが立ち上がった。
 また直前に盾で防げたのか、ライアに続くようにファムも立ち上がり、薙刀を構える。
 その手に盾がないのは、おそらくあの爆発で手放してしまったのだろう。
 同時にずっと舞い散っていた白い羽も消えているのは幸いだ。

「よしわかった! 今直ぐ逃げるとしよう!
 と言うか、マジでこれ以上殴られたくないのでな!」
 そう言って一も二もなく倫太郎が賛同する。
 ならばこれ以上この場に留まっている理由はないと、ライアとファムから逃げ出そうとした――その時。

 遥か上空から、大きな爆発音が聞こえた。

「な……! 一体何事だ!?」
「あれは……!」

 空を見上げれば、青い閃光の直後に一つの大きな影がセルメダルを撒き散らせながら落ちてくる。
 その影は重力に囚われたまま浮上する事なく、轟音を立てて地面へと墜落した。

 その正体が何であるかなど考えるまでもない。
 形成されたクレーターの中央には、青い機動兵器を纏った少女が倒れている。
 青い装甲の男と戦っていた筈の少女は気絶しているらしく、どうやらは戦いに負けたのだろう。
 それを認識すると同時に、どういう理屈か、青い機動兵器は消え去り少女一人が残された。

「おい、大丈夫か!?」
「待ちなさい、岡部倫太郎!」

 思わずといった様子で少女に走り寄った倫太郎を追いかける。
 ライアとファムは、少女の墜落から逃れるために距離を取り離れているが、まだ少女を倒した男がいるのだ。

「触らないでくれるかな。彼女の“お宝”は僕の物だ」

 倫太郎が少女を助け起こそうと屈み込むと同時にその声が響き渡る。
 直後、青い装甲を纏った男――海東大樹が、空飛ぶ紅いエイに乗って降りてきた。
 同時に、背後にも巨大な白鳥が舞い降りてくる。
 それにより挟み撃ちの形になり、逃げる事は容易ではなくなってしまった。

「それはファイズギアか。
 丁度良い。一度は掴み損ねた“お宝”、ここで手に入れるとしよう」
 大樹はファイズに変身した倫太郎を見ると同時にそう宣言する。
 ファイズに変身した倫太郎を見て放たれたその言葉が、彼にとってそれが当然の事なのだと理解させた。
 その事に倫太郎は僅かに怯むが、それでも少女から離れなかったのは認めてもいいだろう。

「随分と見境がないのね。それともあなた、ただ他人の物が欲しいだけの子供なのかしら」
「言っただろ? 全ての“お宝”は僕の物だって。そこに例外はない。
 だからさっさと、君たちの“お宝”も僕に渡したまえ」
 そう言って銃口を向ける大樹に、ほむらはどうするかを考える。

 敵はライアとファムを含めて三人。現在の装備とセルメダルの残量を考えれば、まともに戦っても勝機はないだろう。
 かと言って逃げるにしても、これ以上のセルメダルの消費は、今後の戦いを考えれば避けたい。
 となれば、現状使い道のないG3-Xや彼の欲しがっているファイズギア。気絶した少女の支給品などを素直に渡し、ここは一旦引き下がるのも手ではあるが―――

「―――だが断わる! 貴様に渡す物など、食パン一つとしてないわ!」

 岡部倫太郎の状況を読まないセリフに、思わず天を仰いだ。

 確かに人道的見地から見れば、それが正しい行動なのだろう。
 明らかに震えているその脚さえ除けば、今の格好も相まってヒーローのようにも見える。
 だが決定的に戦力が不足し、気絶した少女を庇いながらと言う二対三以下の現状において、その選択は間違いでしかない。

「岡部倫太郎。貴方、今の状況が分かってるの?」
「わ、分かっている! だが女子供を見捨てる事など、出来るわけがないだろう!」
「へぇ、カッコイイ事を言うねぇ。けどこの状況では無意味だと思うな。
 ……一応聞くけど、撤回するつもりはないのかな?」
「と、とと、当然だ! お男に二言はない!」
「そっか、なら仕方がない。
 “お宝”にはあまり傷を付けたくなかったけど、実力行使とさせていただこう」

748測定不能のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:51:58 ID:cjAeO0I.0

 そう言うと大樹は、ライアとファムが両隣なりに立つと同時に、一枚のカードをとりだした。
 そのカードが何であるかは判らないが、おそらく私達を一網打尽に出来る効果を持つのだろう。
 であれば、生き残るために残された手段は一つだけしかない。
 そう決断し、ほむらはGM-01にGG-02をセットする。

「……仕方ないわね。岡部倫太郎、その子を担いで私の手を掴みなさい」
「は……?」
「いいから早くしなさい!」
「あ、ああ、理由は解らんがわかった」

 倫太郎はよくわからないまま、ほむらの指示に従い少女を担ぎ上げる。
 ファイズのスーツのおかげか、意外と軽く持ち上げられた事に驚きながらもほむらの手を掴む。

「いい? 私が合図したらGトレーラーにまっすぐに走って。それと、何があっても絶対に手を離さないで」

 そう言いながら、ほむらは位置とタイミングを測る。
 これからする事は、おそらく一瞬の攻防になる筈だ。

《――ATTACK RIDE・CROSS ATTACK――》

 大樹が青い銃にカードを挿入し、引き金を引く。
 すると同様にライアとファムもカードを挿入した。

《《――FINALVENT――》》

 背後の白鳥が羽ばたき、風を巻き起こす。
 そのあまりの強風に、人間三人分の重量が吹き飛ばされた。
 それに合わせる様にファムが薙刀を構え、ライアが紅いエイの背に飛び乗る。
 おそらく対象を吹き飛ばし、そこを攻撃する技なのだろう。

「グゥ……ッ!!」
「ぬわ〜〜〜ッ!?」

 ほむらは倫太郎の手を離さぬようしっかりと握りしめる。
 倫太郎もまた少女を落とさない様、腕に力を籠めている。
 そこに紅いエイに乗ったライアが、風の波に乗るが如き軌道で突撃してくる。
 少女の操った機動兵器の様な飛行手段を持たないほむら達に、その攻撃を回避する術はない。
 故にほむら達は、為す術なくライアの体当たりを受ける―――その直前、

「――――今よッ!!」

 三度、時間が停止した。
 止まった時の中、ほむらはライアの体を足場に、少女を担ぐ倫太郎ごと跳躍する。
 それと同時に最期のグレネード弾を大樹へと発射し、着地するやGトレーラーのある方向へと走り出す。
 そうして敵の攻撃圏外へと出た事を確認し、5秒間の時間停止を解除する。

「な、何だ今のは!? 一体何が起こった!?」
「気にしている暇はないわ! 今はとにかく走って!」

 それなりに距離を稼いだとはいえ、自分達はまだ敵の近くにいるのだ。
 質問のために立ち止まっている余裕はない。
 そう言ってほむら達は、Gトレーラーへと向けて全力で走った。



 そんなほむら達を前に、大樹は一瞬何が起こったのか理解できなかった。
 クロスアタックを使用し、ブランウィングに吹き飛ばされた筈のほむら達が、いつの間にか遠くに移動していたのだからそれも当然と言えるだろう。

「今のは……クロックアップか……?」

 だがすぐに類似する能力を割り出して落ちつき、ライアとファムに追いかけるよう指示を出す。だが、

「な、消えた!? チッ、制限ってやつか……!」

 倒された訳でも解除した訳でもないのに、ライアとファムが幻のように消えた。
 それが制限であることを察し、その事に舌打ちをしながらも、即座にディエンドの加速能力でほむら達を追い掛け、壊れた外壁から道路へと飛び出す。
 だがその時にはもう、ほむら達は大型トレーラーに乗り込み発車していた。
 その手際の良さからして、おそらくエンジンを掛けたままにしていたのだろう。

「“お宝”は絶対に逃がさない! 諦めたまえ!」

 だがそんな事はお構いなしに、トレーラーへと追い縋る。
 無理矢理にでもトレーラーを止めるためにディエンドブラストのカードを取り出し、ディエンドドラーバーへと挿入しようとしたところで、

「いいえ、諦めるのは貴方の方よ」

 トレーラーの屋根に、大型のガトリングガン――GX-05 ケルベロスを構えるほむらの姿が現れた。

「な―――まずいっ……!」
 大樹はすぐにその危険性を察し、
「さようなら。二度と会わない事を祈ってるわ」
 直後、毎秒三百発もの特殊鉄鋼弾が掃射された。

749測定不能のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:52:23 ID:cjAeO0I.0

 避ける間もなく銃弾の雨に晒され、ダメージと共に路上を転げる。
 再び起き上がった時にはもう、トレーラーは追いつけない距離にまで離れていた。

「くそっ……!」

 狙った“お宝”に逃げられた事に、激し苛立ちを覚える。
 入手目前まで来ていただけに、その怒りも一入だ。

「……待っていたまえ。次は絶対に逃がさない」

 大樹は執念を籠めてそう呟き、ディエンドへの変身を解除する。
 機を逃した以上、これ以上変身したままなのはメダルの無駄でしかない。
 そうして改めて、“今回の戦果”を確認する。それはすなわち“情報”だ。

 まず首輪から一枚のメダルを取り出し、それを検分する。
 それはセルメダルではなく、金の縁取りをされたコアメダルだ。
 だがその色は失われ、無色透明になっている。

「……なるほど。セルの代用として使用すると、こうなるのか」

 先の戦いにおいて、大樹はコアメダルを能力コストに使用した。
 つまり、この無色透明な状態が一定時間使えないという証明なのだろう。
 このコアメダルに色が戻れば、再びセルメダル50枚分の代用として使える筈だ。
 そしてもう一つの戦果が―――

「たしか、ブルー・ティアーズ……だったよね。なるほど。あれはISと言うのか」

 セシリアの言葉から、あの青い機動兵器の名称を把握し、デイバックから取り出した資料で確認する。

 ――“支給品一覧表”。それが海東大樹の二つ目の支給品だった。
 この一覧表には、この殺し合いの参加者達に渡されたであろう支給品の情報が載っているのだ。
 ただ記載された情報は簡単な説明のみで、ISは女性にしか扱えないなどといった、その世界にとって常識とも言える部分の説明が抜けていたりもするのだが。

 ともかく、これによってISの情報を得た大樹は、次の目的地を決める。

「――IS学園か。ここならあの“お宝”に関する情報がありそうだ」

 地図と照らし合わせても、現在地からはそう遠くはない。
 次に目指す場所としては、悪くない案だろう。
 それに何より―――

「“王の財宝”……か。 素晴らしい! 僕にぴったりのお宝じゃないか!」

 支給品一覧表に乗っていた、この世の全てのお宝が収められているという宝物庫。
 これは何としてでも手に入れようと決意して、海東大樹は置き去りにしたライドベンダーの元へと歩いて行った。


【一日目―日中】
【F-5/スマートブレインハイスクール周辺】

【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【所属】白
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、「お宝」を手に入れ損ねた事による苛立ち
【首輪】50枚(増加中):0枚
【コア】クワガタ:1(一定時間使用不能)
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式、支給品一覧表、不明支給品0〜1
【思考・状況】
基本:この会場にある全てのお宝を手に入れて、この殺し合いに勝利する。
0.次は絶対にお宝を手に入れてみせる。
1.IS学園に向かい、「お宝」の情報を手に入れる。
2.他陣営の参加者を減らしつつ、お宝も入手する。
3.“王の財宝”は、何としてでも手に入れる。
4.いずれ真木のお宝も奪う。
【備考】
※「555の世界」編終了後からの参戦。
※ディエンドライバーに付属されたカードは今の所不明。
※ディエンドに掛けられた制限を理解しました。
※仮面ライダーの召喚は一人につき五分間のみで、一度召喚すると一定時間再召喚不能。

【支給品一覧表@オリジナル】
海東大樹に支給。
参加者達に渡されたであろう全支給品の情報が載っている。
ただし、記載された情報は簡単なもので、支給品と一緒に渡されるメモ程度の事しか書かれていない。

750測定不能のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:52:48 ID:cjAeO0I.0


        ○ ○ ○


 運転席側の窓から、ほむらが車内に乗り込んでくる。
 どういう理屈か、このトレーラーはさっきまで運転手なしで走行していたのだ。
 先ほど一瞬垣間見た、何もかもが停止した世界といい、今回の無人運転といい、ほむらにはなにかしらの能力があるらしい。

「もう大丈夫よ。安心しなさい」
「そうか。それはよかった」

 あの男がもう追って来ないのであれば、これ以上変身している意味はないと変身を解く。
 今回の戦闘でわかったが、やはり自分は戦いには向いていないらしい。
 であれば、このファイズギアはもっと相応しい人物に渡した方がいいだろう。例えば鈴羽とか。

「先に言っておくけど、今回のこれでさっき助けられた借りは返したわよ」
「なにぃ!」
「適当に何か渡せば済んだものを、貴方の我が儘に付き合ってあげたんだから当然でしょ」
「ぐ、ぬぅ……!」

 確かに少女を救おうとしたのは無謀だと思うが、だからと言って見捨てる事は出来なかったのだ。
 しかしその事でほむらに迷惑をかけた事は確かなので、湧き上がる不満を必死に抑える。

「ああそれともう一つ」
「ぬ、今度は何だ」
「その子の支給品、確認しといて頂戴」
「………は?」
「さっきの男は“お宝”とやらのために殺し合いに乗ったようだけど、彼女が乗ってない保証はないでしょう?
 だから起きた時に暴れられても困らないように、道具を奪っておくのよ」
「な、なるほど」

 ほむらの言葉に納得し、少女のデイバックを回収する。
 確かにいきなり暴れられたら、何が起こるか判らない。
 流石に男として筋力で負けるつもりはないが、ナイフでも入っていたら危険だ。
 ―――人は、ちょっとした事でも簡単に死ぬのだから。


「こ、これは……!」

 そうしてほむらに言われた通り少女の支給品を確認していると、とんでもない物が出てきた。
 それはまゆりを救うための鍵となったモノ。
 数多の世界線を旅する為の指針となる羅針盤。
 未来より託された、世界を変えるキーアイテム。
 即ち―――

「ダイバージェンスメーター!?」

 世界線変動率を知ることのできる計測機だった。

「それはどういったものなの?」
 俺の声に反応したのだろう。トレーラーを運転するほむらは、顔を前に向けたまま訪ねてきた。
 フム、彼女はこの殺し合いを打破する同志だ。特に隠す様な事でもないので教える事にする。

「フフフ、いいだろう。これから共に闘う仲間として、特別に教えてやろうではないか!
 これはダイバージェンスメーターと言って、世界線変動率を計測できる未来ガジェットなのだ!」
「世界線変動率を計測する? それで世界線変動率1%と言う数値を導き出したのね」
「その通りだ! 中々に察しがいいな、コマンダーほむらよ!
 そう! このメーターはある世界線の数値を0.000000%として、自分が今どの世界線にいるかを整数1桁小数点以下6桁の計7桁の数字で表す事が可能なのだ!
 何故7桁かと言うとだ。世界線変動率は容易に1%を超える事はないが、1%未満のごく小さな世界線のズレでも社会には大きな影響を及ぼすからだ。
 例えば秋葉原から萌文化が消失したり、一人の人間の性別や生死が変わったりな」
「なるほどね」

 そう言うとほむらは何かを考え込む様に口を閉ざした。
 そのどこか深刻そうな様子に、彼女に話しかけるのが躊躇われた。
 なので仕方なく、ダイバージェンスメーターに表示されている数値を見る。

 ――――【*.83 6 7】

 一桁目の数字がバグっている上に、小数点以下の数字は所々抜けている。
 このような事は初めてだ。

 ――ダイバージェンスメーターの数値は俺達が今いる世界線を示している。
 1桁の整数が世界線そのものを、小数点以下の数字が世界線変動率を。
 これが整数のみがバグっているのならまだ解る。
 世界線は無限にあり、2桁やマイナスの数値となる世界線の場合、整数1桁のみ表示するメーターでは完全には表せないからだ。

 だが小数点以下の数値がバグっているとなると、そうはいかない。
 それらが狂い、欠けるという事は、この世界線が狂い、欠けるという事に等しい。
 世界線の構造に詳しい訳ではないが、ただならぬ事態であることは間違いないだろう。
 一体どういう事かと考えていると、先ほどまで何かを考えていたほむらが声をかけてきた。

751測定不能のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:53:18 ID:cjAeO0I.0

「岡部倫太郎。そのダイバージェンスメーターをよく見せてくれないかしら」
「ああ、いいぞ」
 断わる理由もないので、メーターを運転中のほむらにもよく見えるよう、フロントに置く。
 だが彼女はメーターの数値を見ると同時に顔を顰めた。
 当然と言えば当然だが、やはり彼女にも、現在メーターに表示されている数値の意味が解らないのだろう。

「……このメーターはどうやって扱うのかしら」
「知らん。ダイバージェンスメーターは未来の俺が作った、一種のオーパーツだからな。現在の俺では理解することもできん」
「何ですって? それじゃあ貴方、どうやって世界線を観測したのよ」
「言いたい事はわかる。メーターの数値がバグっていると言いたいのだろう? ハッキリ言って原因は不明だ」
「そう、貴方にも解らないのね」

 ほむらはそう言って少し不満層に返す。
 そういえば彼女は、出逢った時に世界線を越えてまゆりを救った時の事を訊いてきた。
 もしかしたらほむらも、何かしら時間に関するトラブルに巻き込まれているのだろうか。
 なんとなくそう思い、もう少し真剣にダイバージェンスメーターの異常について考えてみる。

 ――繰り返すが、ダイバージェンスメーターは現在の世界線を示している。
 世界線が固定されているのであれば、多少の差異はあれど至る結末は同じだ。
 逆に言えば、何が起ころうと絶対に、その結末以外には辿り着かないと言える。
 だが世界線が測定できないのであれば、どんな結末に至るのかは全く判らない――――

「………いや、まさか―――」
 ふと、自分で考えた事に天啓を得る。

 違う世界線から呼ばれた暁美ほむら。
 違う世界線の技術であろう機動兵器やファイズギア。
 支給された地図から読み取れる、継ぎ接ぎだらけの町並み。
 それらはまるで、“色んな場所から掻き集めた”ような無節操さだ。

「だがそうだとすれば、この現象も説明が付く………」
「何か思いついたの?」
「あ、ああ、すまない。今説明する」
 こちらの様子が気になったらしく、ほむらが問いかけてきた。
 自分の考えを整理するのも兼ねて、ダイバージェンスメーターを睨みつけながら推論を口にする。

「まず始めに、世界線は一本のロープで表す事が出来る。
 そしてロープは、一見一本であっても、実際にはいくつもの糸が絡み合って出来ている。この糸が世界線だと言える。
 それら糸が干渉しあう事はないが、伝って行った先の辿り着く結果、ロープの端は変わらない。
 これが世界線収束範囲(アトラクタフィールド)。つまり、世界によって決められた結末だ。
 ダイバージェンスメーターはそのロープそのものを1桁で、ロープを構成する糸を小数点以下6桁で表わす観測機だ」

 ほむらは静かに頷く。彼女もそこまでは既に理解しているのだろう。
 だが問題はここからだ。

「通常、一つの世界線で起こる結末は変える事が出来ない。
 世界によって決められた結末を変えるには、世界線を越えるしかない。
 ………だがもし仮に、ロープそのものを、ロープを構成する糸のように結い合わせたら?
 あるいはロープを構成する糸を解き解し、全く別のロープとして作り上げたらどうなる?」
「それは………!」
「そう。本来決まった結果に辿り着く筈だった糸は互いに絡み合い、全く別の結果に変容する―――かもしれない」

 あくまで、かもしれない、だ。
 これはただの推測でしかなく、何の証明にもなりはしないのだから。
 だがこの過程が正しいとすれば、ダイバージェンスメーターの異常も説明できる。

「つまりこの世界線は、未だ未来の定まっていない、解れた糸の集まりなのだ!」
「なるほどね。そういうことなの」
「……まあだからと言って、何が変わる訳でもないのだが」

 世界線変動率はあくまで、過去や未来を変える際に重要になる数値でしかない。
 故に現在の世界線の異常が判明したところで、電話レンジ(仮)やタイムリープマシンが使えない以上、何の意味もないのだ。

752測定不能のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:53:44 ID:cjAeO0I.0



 そうして話は終わり、倫太郎は気絶したままの少女の状態を調べ始めた。
 何か大きな怪我をしていないかなどを確認しているのだろう。
 だがほむらはそんな倫太郎を尻目に、今の話を反芻していた。

「――――――――」

 岡部倫太郎の話から、まどかを救うには世界線を越える必要があるのは理解した。
 そこで疑問だった、どうやって1%という数値を導き出したのか、という答えも今示された。
 仮にこの殺し合いを脱出し、その時にダイバージェンスメーターを持ち帰ることが出来れば、まどかを救うための目安は付けやすくなるだろう。
 そう言う意味では、岡部倫太郎の動向を許したのはやはり大きな収穫だった。

 ―――だが同時に、その1%という壁を超える難しさも突き付けられた。

 岡部倫太郎は言った。
 1%未満の世界線の変動でも、文化の変容、性別の変化、生死の変動があると。
 それは逆に言えば、文化が変わろうが、誰かの性別や生死が変わろうが、1%を超える事はないという事だ。

 思い返せば、その事は確かに証明されている。
 巴マミの生死。美樹さやかの魔法少女及び魔女化。佐倉杏子の介入。
 それらがどう変わろうと、まどかの死だけは変えられなかった。
 私の世界線の結末は、「ワルプルギスの夜が襲来し、鹿目まどかが魔法少女になる」ように終着している。
 その結末を変えるには、その世界線を越え、歴史を変える必要があるのだ。

 ……ワルプルギスの夜の襲来を防ぐ事は出来ない。あれは個人でどうこう出来るモノではないからだ。
 ならば必要なのは、まどかが魔法少女にならない結末へと導くことの筈だ。
 そのためにはインキュベーターを排除するだけでは足りない。やはりワルプルギスの夜を越えなければならない。
 だがそれは……もう何度も何通りも試して、そしてその数だけ失敗している。
 世界の歴史を変えると言うが、岡部倫太郎の話しにあったDメールやタイムマシンの様な、それこそ世界が変わる様な要素は私達の中には見当たらない。

 魔法少女やインキュベーターの存在を公表するという手段も考えた。
 だがそれは、一般人には奴らや魔女が視認できず、さらに魔法少女が魔女を生み出す以上、最悪魔女狩りの再現が起こりかねない。

「一体どうすれば、世界線を望んだ方向に越えられるのかしら…………」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ。それより、そのこの状態はどう?」
「ああ。どうやら大きな怪我はしていないようだ」
「そう。それは良かったわね」

 あの爆発や墜落で、骨折一つないというのは普通の人間にはありえない。
 だが現に大怪我がない以上、おそらくは機動兵器の機能によるものなのだろう。
 そうであるならば、やはり少女を警戒しておくに濾した事はないだろう。
 まあ、それはそうと。

「ねえ、岡部倫太郎」
「なんだ?」
「このダイバージェンスメーターなんだけど、良ければ譲ってくれないかしら」
「それは――――まどかとやらを救うためか?」
「ッ――――!!」

 驚きに思わず息が止まった。
 何故気付いたのか、とバックミラー越しに倫太郎を睨みつける。
 ミラーに映る倫太郎は、得意げに鼻を鳴らしていた。

「フン、やはりな。世界線の事を詳しく訊こうとする貴様の様子から予想はしていたが………貴様もこの俺と同じ、“運命石の扉(シュタインズゲート)”に導かれし者だったか!」
「……カマをかけたってわけ?」
「その通りだ! この狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真の手に掛かれば、相手はどのような秘密でもたちどころに自ら明かしてしまうのだ!」
「………………」

 とにかく、今回は性急過ぎたのが原因らしい。
 まどかを救うきっかけが見つかった事で、焦っていたのだろう。
 こんなしょうもないミスで倫太郎に調子に乗られてしまったのが、非常に腹立たしかった。

「………それで? ダイバージェンスメーターを譲ってくれるのかしら?」
 明らかな苛立ちを籠めてそう訊ねる。
「ふむ。まあ今の俺には不要なものだ。貴様にくれてやろう」
 すると倫太郎はそう言って、そう言ってようやくダイバージェンスメーターを譲ってくれた。

 メーターを“盾”の中へしまい、感情を落ちつかせるために、深呼吸と共に溜息を吐き出す。
 正直なところ、これ以上茶化されるようだったら彼を放り出そうかとすら考えたほどだった。

753測定不能のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:54:11 ID:cjAeO0I.0


「それでコマンダーほむらよ、これからどうするのだ?」
「そうね。この際だし、このまま見滝原へ向かうわ。
 また戦いがあった時のために、消費したメダルも補充しないといけないし。
 欲望で増えるというのなら、何かしらの目的を達成した場合でも少しは増えるでしょうしね」
「そうか。まあ妥当な考えではあるな」

 わざわざ地図にまどかの家を載せた理由は判らないが、見滝原を目指してまどかや美樹さやか達も集まってくるかもしれない。
 そうすれば少しは、真木清人に対抗できるかもしれないだろう。

 そう考え、ほむらは改めてGトレーラーのアクセルを踏んだ。


【一日目-日中】
【F-5/エリア北西】

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】無
【状態】背中に切り傷(回復済み)、Gトレーラーを運転中
【首輪】55枚:0枚
【装備】ソウルジェム(ほむら)@魔法少女まどか☆マギカ、G3-Xの武装一式@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品、ダイバージェンスメーター【*.83 6 7%】@Steins;Gate
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、鹿目まどかを救う。
1.このまま見滝原へと向かう。
2.なるべく早くセルメダルを補充したい。
3.青い装甲の男(海東大樹)と、念のために少女(セシリア)を警戒する。
4.岡部倫太郎と行動するのは構わないのだが……。
5.ダイバージェンスメーターを元の世界に持ち帰える。
【備考】
※参戦時期は後続の書き手さんにお任せします。
※未来の結果を変える為には世界線を越えなければならないのだと判断しました。
※所持している武装は、GM-01スコーピオン、GG-02サラマンダー、GS-03デストロイヤー、GA-04アンタレス、GX-05ケルベロス、GK-06ユニコーン、GXランチャー、GX-05の弾倉×2です。
※G3-Xの武装一式はほむらの左腕の盾の中に収納されています。
※ダイバージェンスメーターの数値が、いつ、どのような条件で、どのように変化するかは、後続の書き手さんにお任せします。


【岡部倫太郎@Steins;Gate】
【所属】無
【状態】ダメージ(小)
【首輪】80枚:0枚
【装備】岡部倫太郎の携帯電話@Steins;Gate、ファイズギア@仮面ライダーディケイド、ケータロス@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品×2、スタッグフォン@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜2(セシリア:確認済み)
【思考・状況】
基本:殺し合いを破綻させ、今度こそまゆりを救う。
1.ワンマンアーミー(もしくはコマンダー(=暁美ほむら))と共に行動する。
2.ケータロスでもう一度モモタロスと連絡を取り、今度こそフェイリスの事を訊く。
3.青い装甲の男(海東大樹)を警戒する。
4.ファイズギアを相応しい人物に渡す(例:阿万音鈴羽)。
5.俺は岡部倫太郎ではない! 鳳凰院凶真だ!
【備考】
※参戦時期は原作終了後です。

754測定不能のダイバージェンス ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:54:52 ID:cjAeO0I.0


        ○ ○ ○


 ――――気が付けば。
 どことも判らない暗闇の中にいた。
 手足を見ればちゃんと視認できるので、どうやら普通の暗闇ではないらしい。

「ここは……どこかしら」

 じっとしていてもどうしようもないので、当てもなく歩き出す。
 足元には薄く水が敷かれているのか、歩く度に波紋がどこまでも広がっていった。
 それが妙に楽しくて、歩き続ける事は苦にならなかった。


 それから、どれくらい歩いただろうか。
 この暗闇の中では時間の感覚も曖昧で、どれくらいの時が立ったのかも判らない。
 歩く度に広がり続ける波紋にも飽き始めた頃、ふと人影を発見した。

「あれは……一夏さん!?」

 その後ろ姿を、見間違える筈がない。
 急いで彼の元に行こうと、喜び勇んで走り出した。
 走って走って走って走って、ただひたすらに走り続けた。

「一夏さん! 待って下さい、一夏さん!」

 なのに、いっこうに彼との距離は縮まらなかった。
 それどころか、彼が歩き始めると同時に距離が開いていく。

「聴こえないんですの!? 一夏さん!!」

 こんなにも一生懸命走っているのに。
 彼はただ歩いているだけなのに。
 お互いの距離は開くばかり。

「お願いです、返事をして下さい! 一夏さん!」

 彼は一度も振り返る事なく、遠くへと歩いていく。
 その隣にいる女性と――箒さんと、互いに手を取り合って。
 それを追い掛けて、どんなに息を切らして走っても、置いて行かれる。

「待って……置いていかないでください、一夏さ―――ッ!!??」

 突如として、波紋を広げるばかりだった足元に沈んだ。
 どんなに水を掻き分けても体は一向に浮かばず、深く暗い水底へと沈んでいく。
 そうしてその内、息苦しくなって意識が朦朧として、水底より深い場所へと沈んでいった。



 ――――どうして。
 どうしてわたくしは置いて行かれたのだろう。
 どうして一夏さんは振り返ってくれなかったのだろう。

 わたくしが、箒さんの死を喜んだから?
 わたくしが、みなさんを殺そうとしたから?
 一夏さんを、わたくしだけの物にしようとしたから?

 ………ええ、本当はわかっている。
 それは一夏さんを悲しませるだけなのだと。

 けれど、それでもわたくしは――――――――


【セシリア・オルコット@インフィニット・ストラトス】
【所属】青
【状態】気絶、ダメージ(中)、疲労(大)、精神疲労(大)、一夏が欲しい
【首輪】0枚:0枚
【装備】ブルー・ティアーズ
【道具】なし
【思考・状況】
基本:一夏さんが欲しい
0.わたくしは――――――――
1.一夏さんが欲しい、そのために行動しますの。
2.シャルロットさん達に会ったら、わたくしは……。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※制限を理解しました。
※シャルロット・デュノアのスタート地点が、地理的に最短の場所でした。

755 ◆ZZpT6sPS6s:2012/03/02(金) 08:57:16 ID:cjAeO0I.0
以上で投下を終了します。
何か意見や、修正すべき点などがありましたら、お願いします。
なおセシリアに最も近いスタート地点のキャラに関しては、◆l.qOMFdGV.氏の作品に合わせて修正します。

756名無しさん:2012/03/02(金) 10:21:50 ID:094rpxLUO
投下乙です!
やっぱりちょろいさんじゃライダーには勝てなかったよ……シャルは色々な意味で助かったなw

757名無しさん:2012/03/02(金) 11:17:43 ID:Ypj5d9kg0
お二方とも、投下乙です

>>He that falls today may rise tomorrow.(七転び八起き)」
相変わらずタイバニとダブルへの深い愛が感じられる作品
翔太郎とおじさんの会話はらしくて見ていてああなるほどなと思えます
おじさんはおじさんで一夏の死体見ちゃってたのね……いきなり最初の宣言が破られちゃったのは悲しいけど、翔太郎のおかげで随分と前向きにはなったと思うので、今後の動向に期待です


>>測定不能のダイバージェンス
これは前話の情報の拾い方が凄い上手い……ほむほむとオカリンの考察が凄く好き
オカリンの言動には呆れっぱなしだけど、何だかんだで相性良さそうで微笑ましいですね
海東は戦い自体には勝利したけど結局逃げられてメダルを無駄に消費した事に……セシリアもどうなるのか楽しみです。

758名無しさん:2012/03/02(金) 12:04:55 ID:3J6.lYrYO
投下乙っす。
王の財宝…。大破したこと海東が知ったらどれだけがっかりすることやら。

759名無しさん:2012/03/02(金) 13:38:27 ID:ZGk4aqvcO
投下乙
ですが支給品一覧表はありなのでしょうか?
確か支給品は(3)支給品の出典は、【参加作品中のアイテム】か【実在する物】の何れかとする。なのでオリジナル支給品である支給品一覧表はアウトなのでは?

760 ◆LuuKRM2PEg:2012/03/02(金) 16:30:56 ID:5vzuhZps0
投下乙です!
オカリンもほむらもセシリアもライダー相手によく頑張ったなぁ……そしてオカリンがまさかファイズになるとは!
あの海東を相手に一歩も引かないオカリンはやっぱりかっこいいよ。
あとケータロスが支給されてるとなると、フェイリスにクライマックスフォームフラグが!?
そしてセシリアがもし、一夏が死んでる事を知ったらどうなるだろう……

それでは自分も投下を開始します。

761深紅郎動く! 龍之介改造計画!  ◆LuuKRM2PEg:2012/03/02(金) 16:33:32 ID:5vzuhZps0


「お……おおおおおっ……!」

 雨生龍之介は身体の奥底から力を感じて、大きく震えていた。
 彼の心臓は激しく鼓動し、血液の流れる速度が急激に上げている。呼吸は大きく荒れ、体温が急激に上昇していき全身の至る所から汗が滲み出ていた。

「すげえ……これ、すげえよ……っ!」

 龍之介は井坂深紅朗と出会ってから、ガイアメモリの使用による身体の影響を調べるという名目で、ある薬剤を投与している。深紅朗曰く、その錠剤を身体に入れれば凄まじい力を得られるらしい。
 現に今、全身を構成するあらゆる細胞が歓喜しているようだと、龍之介は思った。
 無論、そんなのはただの妄想でしかないと龍之介自身理解している。しかしそんな錯覚を感じてしまうほど、龍之介の精神は高ぶっていた。

「先生……俺、俺……っ!」
「龍之介君、貴方は進化するのです……!」

 深紅朗もまた興奮しているのが見える。そんな彼の顔を見ていた龍之介の瞼は、一気に見開かれた。
 雨生龍之介に注入された薬は決して普通の薬ではない。そもそも、薬と呼べるような物ですら無かった。それは今は亡き狂気の天才シェフ、至郎田正影が長年に渡る研究の末辿り着いた究極の料理。
 数え切れぬ高級食材と共に、コカイン・ヘロイン・モルヒネ……各種麻薬に加え、ステロイド系テストステロンや、DHEAなどの筋肉増量剤を精密なバランスで配合し、煮込むこと七日七晩!
 血液や尿からは決して検出されず、なおかつ全ての薬物の効果も数倍、血管から食べることで更に数倍!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 龍之介は腹の底から大きく叫んだ。
 上半身の血管がメリメリと音を鳴らしながら浮き上がり、皮膚が徐々に黒ずんでいき、筋肉が盛り上がって上着を破いていく。一般的成人男性程度でしかなかった彼の筋肉は、一瞬でプロの格闘家をも凌駕しそうなほどに膨張した。
 そして龍之介の瞳はギラリと赤く輝いて、全身から湯気が昇っていた。

「はあっ……はぁっ……はぁっ……!」

 身体が燃えてしまいそうな熱を感じながら、龍之介は笑っていた。
 不意に彼は、近くに備え付けられていた鏡を覗く。そこにいる自分自身の姿は、いつもの自分自身と全く違っていた。
 特別なスポーツや筋力トレーニングなどしてないのに、鋼のような肉体を手に入れたのが信じられない。

「……先生、これが本当に俺の身体なのか……!?」
「当然です! 貴方は進化の第一歩を果たしたのです!」

 両腕を広げながら声を張り上げる深紅朗の言葉を受けて、龍之介の笑みは更に強くなる。それはまるで野生に生きる獣のように獰猛だった。
 龍之介は筋肉が膨張した右腕で備え付けられた机を軽く殴りつけると、轟音と共に砕け散る。そこまで力を込めたつもりはなかったが、固そうな机がこうも簡単に壊れた。

「すっげえ! この身体すっげえよ! 俺、もしかしたら格闘技の世界チャンピオン狙えるんじゃね!?」
「それは龍之介君次第です……しかし、私と共にいれば貴方はもっと強くなれるでしょう! それこそ、究極と呼ぶに相応しいほどに!」
「マジかよ!? やったああああぁぁぁぁ!」

 有り余る興奮が押さえられず、龍之介は更に吼える。

「すっげえ! すっげえ! すっげえ! すっげえ! すっげええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! COOL! COOL! COOL! COOL!」

 彼が旦那と崇めるサーヴァント、キャスターのように両手で頭を無茶苦茶に掻きむしりながら更に叫ぶ。
 その行為はまるで重度の薬物中毒者のように、常軌を逸していた。龍之介の精神は元より正常ではなかったが、それでもまだ理性だけは雀の涙ほどでしかないにせよ残っている。
 しかし今の彼は至郎田正影が残した究極の遺産によって、その最後のリミッターすらも破壊されていた。

「やっべえええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! マジで最高だあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ドーピングコンソメスープゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

762深紅郎動く! 龍之介改造計画!  ◆LuuKRM2PEg:2012/03/02(金) 16:37:50 ID:5vzuhZps0


○○○


(何と……まさかこの薬品に、これほどの効果があったとは……!)

 そして井坂深紅朗もまた、雨生龍之介に打った注射の効能に目を輝かせている。
 クウガと名乗ったメモリを使わない仮面ライダーと戦ってから、深紅朗にとって興味深い支給品がいくつもあった。
 一つは今、龍之介に打ち込んだドーピングコンソメスープという名の薬剤。その名前と説明書に書いてあった人間の筋肉を一気に発達させる効能は、深紅朗にとって興味に惹かれる物だった。
 そんな都合のいい効果など最初は全く信用していなかったが、中肉中背な龍之介の肉体を一瞬で岩のように逞しくするからには効果は本物だろう。

(龍之介君の次にはリュウガですか……私は、龍に縁があるのでしょうかね?)

 もう一つはクウガともWやアクセルとはまた別の仮面ライダーに変身出来る、カードデッキという道具。漆黒の暴龍を操る騎士、仮面ライダーリュウガの変身を可能とするカードデッキだった。
 説明書を見ると、カードデッキがあれば鏡の世界に行ける上にミラーモンスターという怪物を使役できるらしい。
 深紅朗は知らないが、リュウガとはネガの世界を支配していたダークライダーの一人で、凄まじい戦闘能力を誇っている。

(ああ、ここは何て素晴らしいのでしょう……! まさかコアメダル以外にも人体を進化させる秘法が眠っているなんて!)

 首輪で命を繋がれ、真木清人から殺し合いを強いられている状況を除きさえすれば、この世界はまるで楽園のような場所だった。
 グリードというメダルで出来た未知の生命体に加え、サーヴァントや魔術師を始めとした超常的存在が数え切れないほどいる。一体彼らは何で出来ていて、どんな力を持っているのか? またそんな彼らを一箇所に縛り付けられる真木清人とは一体何者なのか?
 深紅朗という存在を構成する『探究心』という名の欲望が、湧き水の如く溢れ出ていた。

(知りたい……ああ、知りたいです! 真木清人、どうやら貴方には感謝しなければならないようですね……私をこのような楽園に招待してくれた事を)

 目の前で暴れる龍之介を余所に、こんな状況を強いた主催者たる清人に礼を告げる。無論、そこに本当の感謝の意など欠片も込められていないが。

(ふむ……出来るならこのドーピングコンソメスープとやらを量産したいですが、そんな余裕はありませんね)

 そして深紅朗は、数本のアンプルに付属されていた一枚の紙に目を向ける。それはドーピングコンソメスープを作る為のレシピで、七十種類もの材料が載っていた。
 しかしそんな大量の食材など手元にないし、何よりもこれを作るのに七日七晩煮込む必要があるらしい。呑気に作っていてはその間に殺し合いが終わってしまう。残念ながら、ドーピングコンソメスープを作るのは帰還してからの楽しみにするしかない。
 今はリュウガの戦闘力にドーピングコンソメスープの詳しい効果や副作用などを把握しながら、龍之介の体内にある「INVISIBLE」のメモリを完成させる。もしかしたら、ドーピングコンソメスープを注入した事で、体内のメモリに何らかの変化を起こすかもしれないのを祈りながら。
 だが、その前に――

「さて、龍之介君……そろそろ食事にしましょう。私も結構、お腹が空いているので」
「ワオ、賛成賛成! 大賛成!」

 今は空腹という問題を解消させる必要がある。
 休憩のために訪れたこの建物、言峰教会には幸運にも大量の食料があった。そこで深紅朗は調達した豆腐、挽肉、ネギ、香辛料を使って大盛りの麻婆豆腐を作る。
 ちなみに、この教会の主である言峰綺礼は激辛の麻婆豆腐が大好物で、それにあやかって材料が置かれているのかと思うかもしれない。しかしこの殺し合いに言峰綺礼は参加していないし、真木清人がどういう意図で食料を置いたのかは定かではない。
 そしてそんな事情など、ここにいる二人にとってはどうでもいい事だった。

763深紅郎動く! 龍之介改造計画!  ◆LuuKRM2PEg:2012/03/02(金) 16:39:04 ID:5vzuhZps0


【一日目−午後】
【B-4/言峰教会】


【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】白
【状態】ダメージ(小)、食事中
【首輪】60枚(増加中):0枚
【装備】「WEATHER」のメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、ドーピングコンソメスープの入った注射器(残り四本)&ドーピングコンソメスープのレシピ@魔人探偵脳噛ネウロ、カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダーディケイド、大量の食料
【思考・状況】
基本:「INVISIBLE」のメモリを食らう。そのために龍之介を保護する。
0.ひとまず食事をしながら、今後のことを考える。
1.「INVISIBLE」のメモリを完成させる。
2.ドーピングコンソメスープとリュウガのカードデッキに興味。龍之介でその効果を実験する。
3.コアメダルや魔術といった、未知の力に興味。
4.この世界にある人体を進化させる為の秘宝を全て知りたい。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※「WEATHER」のメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※言峰教会から食料を調達しました。


【雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】白
【状態】健康、興奮状態、筋肉モリモリ、食事中
【首輪】99枚:0枚
【コア】コブラ
【装備】サバイバルナイフ@Fate/zero、「INVISIBLE」のメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO
【思考・状況】
基本:このCOOLな状況を楽しむ。
0.ひとまず食事をする。
1.しばらくは「INVISIBLE」のメモリで遊ぶ。
2.井坂深紅郎と行動する。
3.早く「旦那」と合流したい。
4. この筋肉……すげえ!
【備考】
※「INVISIBLE」メモリのメダル消費は透明化中のみです。
※「INVISIBLE」メモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※雨竜龍之介は「INVISIBLE」メモリの過剰適合者です。そのためメモリが体内にある限り、生命力が大きく消費され続けます。
※ドーピングコンソメスープを摂取したことにより、筋肉モリモリになりました。
※この状態が永続的か、一時的な物なのかは後続の書き手さんにお任せします。

764 ◆LuuKRM2PEg:2012/03/02(金) 16:39:54 ID:5vzuhZps0
短いですが今回はこれで投下終了です。
矛盾点などがありましたら、指摘をお願いします。

765名無しさん:2012/03/02(金) 17:22:52 ID:SHMztA9c0
投下乙です

そりゃ彼からしたらここは楽園だわw こうなるのは前から予想できてたがさまざまな道の存在に触れてとうとうそっちに行っちゃったかw
基地外に刃物というがドーピングコンソメスープとかおま、ヤバすぎるぜw
そして教会ではマーボーの材料かいw

766名無しさん:2012/03/02(金) 18:19:03 ID:094rpxLUO
投下乙です!
なんつうロワ充コンビだよこいつらはwしかもリュウガなんて中々の当たりを……

そういやネガの世界組じゃリュウガは珍しく原作からして誰でもリスク無しに変身出来るライダーだよな。他は並みの奴じゃ死ぬオーガとダキバに、ゼクターの資格者じゃなきゃ無理なダブトだし

767名無しさん:2012/03/02(金) 20:29:03 ID:aR3NqrpU0
◆ZZpT6sPS6s氏、◆LuuKRM2PEg氏ともに投下乙です

海東の容赦無いライダー複数召喚とIS&魔法少女の即席ペア?とのバトルの緊迫感が凄い
それぞれが持ち味を存分に活かしていて相変わらず見応え抜群でした
そんな中でオカリンも女の子のために奮い立つ様がかっこいい。でも弱えええ!これが非戦闘要員の現実か…
他にも、世界線の数値を用いて空間の異常性を表現するというアイデアは上手い

DCS注入で龍之介がハッスルしすぎ吹いたw
井坂も更なるパワーアップの可能性にご満悦で、マーダー二人が充実してるなw

768名無しさん:2012/03/03(土) 15:35:52 ID:9yy/bsbI0
龍之介は旦那はもう脱落したのを知ったらどうするんだろう?

769名無しさん:2012/03/03(土) 18:12:06 ID:omcpFvkcO
>>768
そりゃあ旦那の死に悲しみながらも旦那の分までロワ充やるんだろうさw

770名無しさん:2012/03/04(日) 22:43:14 ID:w0xKa8TgO
ふとおもったのだけど、仮面ライダーヒビキに変身したら全裸になるのか?
大事なことだから二回いう。全裸になるのか?

771名無しさん:2012/03/04(日) 23:48:04 ID:c4S9JmagO
違う。変身が解けたら全裸。

772名無しさん:2012/03/05(月) 00:15:03 ID:XaOl.JIkO
それも強制解除に限る、はず

773名無しさん:2012/03/05(月) 00:42:57 ID:yT1VDUOA0
響鬼の変身した姿って、生体骨格のようなもんみたいだし。つまりは生身。
そう考えるのならば、変身した姿を全裸だと考えることも別に不自然ではない、か?

774名無しさん:2012/03/05(月) 01:18:31 ID:w093ynR60
服が消滅するのが笑えるところだ

775名無しさん:2012/03/05(月) 02:08:02 ID:eOUsc63s0
確か
音叉キーン→体燃え始める→服燃える→身体中燃える→炎払って変身完了
だったはず
響鬼劇中でも戦いから帰ってきた後に替えの服用意してもらってるシーンがあった

776名無しさん:2012/03/05(月) 07:00:10 ID:yvRhcpEcO
ちなみに皆はどのキャラにヒビキになって欲しい?

777名無しさん:2012/03/05(月) 08:04:50 ID:w093ynR60
いや、変身音叉あっても鬼にはなれないだろ常考

778名無しさん:2012/03/05(月) 08:59:54 ID:yvRhcpEcO
いやいや、そこはファイズみたいに真木博士が使用可能に。

779名無しさん:2012/03/05(月) 10:02:43 ID:XaOl.JIkO
ファイズはまだデルタやら変身一発やらの例があったからまだしも、響鬼は鬼として鍛えてもないのに変身とかねーよw

780名無しさん:2012/03/05(月) 10:25:35 ID:w093ynR60
555はアイテム主体の変身だけど、響鬼は肉体主体だからな
変身ベルトさえあれば誰でも初代ライダーになれるとか言ってるようなもんでしょ

781名無しさん:2012/03/05(月) 18:20:47 ID:TrVfJK1c0
同じ理由でアギトも無理だと今の内に言っておく

782名無しさん:2012/03/05(月) 19:10:03 ID:yvRhcpEcO
>>779
鬼として鍛えると言うことは、別目的で鍛えぬいた体では無理ってこと

783名無しさん:2012/03/06(火) 00:29:34 ID:43pQQoAQO
鬼とかアギトのナマモノ系や、クウガやブラックやアマゾンのオーパーツ埋め込み系は、他の人では変身出来ないんだろうなぁ。
ドクターの坊やが何とかしてくれるから、「カイザギアで死亡」はないのか……。寂しいな。

784名無しさん:2012/03/06(火) 01:58:57 ID:NjzGMWl.O
しょうがないじゃない!ヒゲのおじさんの全裸シーンがあったし美少女の全裸シーンも期待したってもいいじゃない!(号泣)

785名無しさん:2012/03/06(火) 18:26:37 ID:/y4rAZVY0
電王も本来特異点以外は変身できないけどな

786名無しさん:2012/03/06(火) 19:30:43 ID:/y4rAZVY0
>>783
天道は必ずカイザギアで死ぬ

787 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:22:35 ID:3bWQHa9c0
予約分の投下を開始いたします!

788 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:34:51 ID:3bWQHa9c0
 姦しいざわめき、香水の香り、連れ立って歩き回る同世代の少女たち。その内に混じり、矢のように流れる青春に興じてあたしが生きる時間を捧げる。大人はその"時"を若さと笑い同時に強く嫉妬するもので、そしてそれをいくら欲しようとどうしようもない。
 この世にただふたつ存在する"永遠"のうちひとつで、そして生きる限り際限なく積もり続けるそれは、誰だって持ってる大切なものだ。

 夢想は膨らむ。友は友のままでいるだろうか、胸中に抱いた夢を叶えることができているだろうか。……そしてあたしの隣には誰がいるのだろうか。望む人か、望まぬ誰かか、それともひとりか。――愛しい彼は、一体誰を選んでいるのだろうか。
 この世にただふたつ存在する"永遠"のうちひとつで、そして死なずにいる限り眼前に広がり続けるそれは、誰だって持ってる大切なものだ。

 痛苦はある。歩みを止めたくなることも蹴躓くことも、ともすれば道を踏み外すことだってあるかもしれない。それでも、どんなに辛くとも苦しくとも、明日があるかぎり決して笑顔は喪われない。二度と笑えないなんて、そんなことがあるものか。明けない夜がないように、永遠にまた笑える日が来ないなんてあり得ない。

 ――そんな。なんてことなく普通で、どうしようもなくかけがえのない日常。
 今まで続いて、これからも続いていくはずだった他愛ないもの。
 過去と未来。築いてきた日々と作り出すはずの日々。


 嗚呼。
 ああ、それが途切れるなんて。
 "生"に付随する限りない望みの全てが、あんな一方的に絶たれるなんて。

 心の底にぽっかりと穴が空いて、そこからあたしの精神を成す全てが零れ落ちていく感覚。
 これが絶望だとあたしが理解するのに、然したる時間は必要なかった。

       ○○○
Q.絶望ってなんですか?
ヒント:まだ始まったばかりです。
       ○○○

789 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:35:04 ID:3bWQHa9c0
 人影ひとつないアスファルトを孤独に進む影がひとつ。人間のシルエットにしては歪すぎるそれは、大地を踏みしめることなく低空をふわふわと進んでいく。かろうじて人型をしてはいるが、その肩から離れて浮遊するユニットは異常の一言で表現されるそれだ。
 メダルが減っていく感覚はあれど、それに頓着することはない。今後おそらく巻き込まれるであろう危険に対応するための生命線であることは充分承知していたが、どこか靄がかった頭は、道理なく浪費を受け入れていた。
 「いつかある何か」に対応することが、馬鹿馬鹿しく感じられてしまうから。
 「いつかある何か」は、容易く奪われてしまうものだと知ったから。

 IS《甲龍》と呼ばれる鋼鉄の鎧に身を包み、凰鈴音は一人E-5北部の路上を南下する。

 鈴音と篠ノ之箒との付き合いはそう長いものではない。入学からこのせいぜい三カ月といったところだ。知り合って日が浅く、おまけに始めは強く反発しあっていた仲である。セシリアもシャルロットもラウラも同様に、織斑一夏という男性を中心に集まった彼女らは、皆恋敵と呼ぶにふさわしい存在だった。

「それなのに、か」
 死んでしまったら、あんたは一夏と一緒にいられないじゃない。
 これから先、皆で続けていくはずの生活も、――譲るつもりなんて毛頭ないけど――いつか一夏の隣にいられるかも知れない未来も、全部なくなっちゃうじゃない。

 銀の福音を撃墜する戦闘、その直前に彼女を叱咤したことを不意に思い出す。“戦うべきに戦えない臆病者”ではなくなった彼女は、あそこで静観していることなど出来なかったのだろう。
「……最後まで馬鹿な奴」

 志半ばで折れた少女は、鈴音の心に芽生えた絶望の一端を確かにになっている。だが、それだけが彼女に巣食う闇の全てではない。箒の死と同様に「まゆり」と呼ばれる少女の死が、鈴音の心には突き刺さっていた。
 
 思い出すまでもなく、あの一瞬の記憶が鈴音の脳内で何度も反復している。
 同世代の少女の笑顔。白衣の青年の焦り。爆発。無残な少女。膝をつき震える青年。

 鈴音には当然正確なところはわからないが、青年の様子からして彼と帽子の少女がとても深いところで繋がっているというのは明白だろう。鈴音と一夏のように幼馴染だったのかも知れないし、恋人であってもおかしくない。そのような深い絶望を、青年の嘆きは多分に含んでいた。

 つまり、あの慟哭は一夏のそれと同じなのだ。
 引き裂かれた二人はそのまま箒と一夏であり、ともすれば自分と一夏でも、セシリアやラウラ、シャルロット、千冬でもある。誰もがいつまでも一夏と過ごす生を送るべき人たちだ。これから先に限りない未来をもっていて、そしてそれは簡単に奪われてはならない。
 それが奪われてしまえば、一夏はまた同じ絶望を得ることになる。

 鈴音自身、この絶望を体験している。両親の不仲、離婚、そして幼き日の一夏との別れ。もちろん程度がどちらが上かなどと低俗な話ではない。未成熟な精神にはそれがどんなにありふれたことであっても、二度とあってはならない、経験してはならないと、深く思える絶望そのものだったのだ。だから「また笑えない、なんてことはない」ことを知っていた。知っていたはずなのに、それは容易く否定された。

 未来というもの、希望というものが簡単に奪われてしまうこの状況。そは凰鈴音にとって、何もかもをどうでもよいと考えさせる程に“絶望”だった。

790 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:35:19 ID:3bWQHa9c0
       ○○○
Q.記憶ってなんですか?
ヒント:この世で最も悪質な嘘つきです。
       ○○○

 高く昇る太陽の下、あたり一面に枯れ木が並ぶ林道を二人の男が進んでいく。農場でしか見かけないような巨大なミルク缶を肩に引っ提げた壮年の男性と、紅白のコントラストが眩しく、流線が多くみられる造形が特徴の機械的なスーツに身を包んだ青年の二人だ。
 まるで散歩かなにかと言わんばかりの暢気さと、場にそぐわない鼻歌と共に行軍を続ける壮年の名を伊達直人と、そして彼と対照的に神経質にあたりを見回す、緊張を保ったままゆく青年の名をバーナビー・ブルックスJrといった。
 鴻上ファウンデーションの雇われライダーとシュテルンビルトのヒーロー。戦いに赴くその時、異装を纏いその表情を覆い隠す二人の戦士は、人気のない道をただひたすら進む。

「すげぇ枯れちゃってんなあ……今は冬じゃなかったはずだけど」
 葉が生い茂りさえすれば、目を見張るような深い森になるであろう枯れきった森を流し目で見ながら、わずかに先行する伊達が呟いた。
 伊達の記憶が正しければ――まず正しいのに決まっているが、現状はその常識すらを疑いたくなる異常事態だ――、彼がグリードとの決着のために日本に降り立ったのは、いまだ屋台にアイスキャンディが売られている夏の季節のはずである。その時期であればまずほとんどの植物は青々とした葉を蓄えているはずで、この枯れきった森はいかにもおかしいのだった。

「どう思う? バーナビー」
「僕が間違っていなければ、今の季節は冬のはずですよ」

 伊達の疑問に応じるのは彼にわずかに遅れて神経を張り巡らし歩くバーナビーだ。振り向かず彼に話しかける伊達の背を見ようともせず。バーナビーは冷ややかに答える。
「マジかよ。じゃあシュテルンビルトってやつは南半球にあるのか?」
「お互いに町を知らないってことは相当遠いってことでしょうね。あなたは虎徹さんと似たような場所の出身だと思ってますけど、それならシュテルンビルトを知らないはずがない」
「ふうん……世界は広いねぇ。まさかおじさんの知らない国がまだあったなんて思いもよらなかったぜ」

 素っ気ないな、とは口に出さない。冷静どころかともすれば冷酷なまでのバーナビーに、伊達は若干の疑問を抱きながら軽口を叩く。

「ここに来る前からは記憶も途切れてるし、お前の街のことも含めてもしかしたら変な機械で記憶をぶっ飛ばされたのかもな」
「……そう簡単に人の記憶は変りませんよ」
「いやいや分らんぜ? ドクターはよくわからんものを作る天才だったからなあ……似たような能力があるヤミーだっていたし」
「……能力、ですか」

 自身の後ろには枯れ枝を踏み折る音がふたつ。テンポを保って続くその音は、まるでバーナビーの冷静さそのものだ。何者にも揺らがず、自分の歩調を守り続ける硬すぎる男を連想させる足音を、伊達は聞くともなしに聞く。

「そうそう。別にユニコーンちゃんは記憶を消してる訳じゃなかったが、ヤミーの能力なんてそれこそ計り知れない。それに他にも可能性はあるぜ?」
「……聞かせて下さい」
「バーナビーんとこのNEXTだって、もしかしたらそんな能力のやつがいるかも知れないだろ?」
拍子に乗って途切れなかった歩調がわずかに乱れる。だが、伊達はそのわずかな乱れに気付けない。
「……っ」
「聞くかぎりじゃおたくらヒーローもヤミー並みに多彩な……って、ヤミーみたいだって言ってる訳じゃ――」
「――その能力者は!」

791 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:35:44 ID:3bWQHa9c0
 気付けないから、声を荒げて足音を完全に止めた今になって、初めて硬化しきったバーナビーに亀裂が走ったことを理解したのだ。
 突然の怒声に肩を竦め、伊達はふらふらと景色を巡っていた視線をその背後の青年に定める。
 その表情は精悍な造作を覆う機械的な紅白に隠され見えない。本来戦いに赴く装着者を守護する騎士の兜のはずのそれを、平穏の場であるこの場でも被り続けるバーナビーは、一体何からその身を守っているというのだろうか。

 足を止め振り返った伊達にバーナビーはつかつかと歩み寄る。胸倉をつかみ上げんばかりの剣幕で詰め寄る彼からは、激しい感情が読みとれた。
「あいつはもう僕たちが倒したんです! こんなところにいるはずがない!」
「そ、そっか」

 伊達と目を合わせて、その瞳の奥に言葉を叩きつけようとするようなバーナビーの強い語気。彼の甘いマスクに如何様な思いが浮かんでいるのかは定かではないが、刺すように睨みつけるその視線だけは、文字通りの鉄面皮に模された目からも充分に読みとれた。
 ともあれ、クールがウリのバーナビーである。一瞬の爆発ののち、その勢いの炎は急速に小さくなっていった。伊達はそんな彼の肩に手を伸ばし、励ますように叩く。

「あいつは死んだはずなんですよ……! あいつは、あいつは……」
「バーナビー、少し落ちつけよ、な?」
「……はい、すみません。取り乱しました」

 そんな伊達の手をバーナビーは俯きながら押しやった。その挙動に確かな拒絶の意思を感じながら、伊達は数歩下がってバーナビーから距離をとる。

「大丈夫か?」
「ええ、申し訳ありません。少し嫌なことを思い出しちゃって」
「いや、それなら俺も悪かったよ。こんなこと言っちゃって」

 首をふりつつ、あなたのせいじゃないですよ、とバーナビー。歩き出した彼は伊達の脇をすり抜けざま、伊達の肩をたたき「行きましょう」と呟いた。そうして振り向くことなくまた一定のリズムで靴音を響かせ続けるバーナビーを目で追い、伊達はひとつ溜息をつく。

「おい、待てよー」

 思案顔を引っ込め、薄い笑いを浮かべながら伊達は小走りにバーナビーを追いかけ始めた。
(これが、俺がこいつに感じた"別のなにか"の正体なのか……?)
(いや、違う。これはただ表層に過ぎない。多分この奥になにかがある……んじゃねぇかなぁ)


 名簿にジェイクの名前を見つけたときから危惧していたことだ。そのうえで伊達のいうドクターの超常ぶりを聞き、そうして現実味を帯びてきたからこその激情だった。
 死者の蘇生。古今東西あらゆる手段を駆使して成りえなかった人類最古にして最強の欲望。
 ジェイクがもし本当に蘇っているのであれば、他の死者が蘇ってても何もおかしいことはない。それがバーナビーを弄びその人生を狂わせた、最後にはルナティックの業火で死を遂げたあの記憶を操る悪人であってもだ。
 自身の人生のこと、両親のこと、そして虎徹を殺しかけたこと。その全てについて恨んでも恨み切れないあの悪人が生きているとするならば、一体あのジャスティスタワーでの攻防はなんだったのか? 果たしたはずの敵打ちは? それが全部無駄になったとでも言うのだろうか?

 つまるところ、バーナビーの激昂はそれが原因だったのだ。
 幾人もの人を巻き込み自分の野望の為に混乱を引き起こして、また大切な人を奪いかけた悪人への怒り。下されたはずの罰をものともせず、のうのうとどこかで笑っていると考えた時の憎悪。
 そしてなにより――。

 伊達はバーナビーの芯に気付かない。気付けない。
 バーナビーは自身のそこに何があるかわからない。わかりたくない。
 暗澹たる思いを飲み込み、二人は進む。

792 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:47:43 ID:3bWQHa9c0
       ○○○
Q.出会いってなんですか?
ヒント:物事が大抵悪い方に転がります。
       ○○○

「鴻上ファウンデーションに行こう」
「は?」

 枯れ林を抜け地形の「円形の街」のおかしさに疑問を抱き、ひとっこひとりいない市街地を時折言葉を交わしながら進む。やがてE-5の地形の境目にたどり着いた時、脈絡なく伊達が言った言葉がそれだった。
「何故です? 東回りで町を回るはずでしたでしょう」
「いやあそれはそうなんだけどさ。おじさん少し疲れちゃって。バーナビーも少し休みたいだろ?」
「僕は平気ですけど」
「まあまあそう言わずにさ……」

 一応勝手を知っている場所だから一番気楽に休める、それに何かあるかもしれない。そう嘯きながら伊達はバーナビーの背中を押す。呆れたように溜息を洩らしながらバーナビーもやがて伊達が押す方向へ歩き出した。

「何かあるかも知れないって……どうして思うんです」
「勘だよ、勘」
「……つまり適当ってことですね」
「これが当たるんだよ、意外とさ」

 並んで歩く伊達に目をやり、バーナビーは小さく呟く。
「……やっぱり、あなたは……」
「ん? なんか言ったか、バーナビー?」
「いえ、何も言ってませんよ。それより道案内をお願いします」
「可愛げのないやっちゃなー、昔の後藤ちゃんみたいだぜ。あのころの後藤ちゃんは生意気でよー――」

 ――そうして、少し経った後の事だ。幾度となく繰り返された伊達が声をかけバーナビーが短く答えるやりとり、それ以外に物音ひとつなかったはずの街に、突然その人影が現れたのは。
「伊達さん、上!」
「あ? なん――」

 一瞬の攻防だった。空から落ちてくる異形に間一髪で反応したのは警戒を緩めずいたバーナビーだけ。自由落下速度をはるかに越え、おそらく隣接するビルから飛び降りてきたであろう機械の腕を、飛び退ってかわし地面を転がる。体勢を立て直し伊達の方を向いた時には、全てが終わっていた。

「――動かないで」
「伊達さん……」
「……ごめん、捕まっちゃった」

 黒とマゼンタで塗布された、まだ幼さの残る少女が乗りこむロボット。そしてそれが構える巨大な刀を首元に突き付けられて、両手を小さくあげて降参のポーズをとる伊達。
 それが鈴音とバーナビー、そして伊達の三人の出会いであった。

793 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:47:55 ID:3bWQHa9c0


 立膝のまま呆れたように溜息をつくバーナビーを気まずそうに視界の外に追いやり、伊達は己の背後に立つ少女に語りかける。彼女にこちらを即座に害する意思がないのは明白だし、そうでなければ和解の可能性が多いにある。第一、首元に刃物を突きつけられたままでいたい、なんてそんな奇特な人間は多くないだろう。そして奇特な人間でない伊達が望むことは、当然解放されることだった。

「おいお嬢ちゃん落ちつけ、人様に刃物向けたりしちゃあいけないんだぜ?」
「知ってるわよ」
「ならちょーっとその剣を俺から離してもらえるかなー?」
「馬鹿にしてるの? 話を聞かせてもらったら離すわ」
「最初は襲い掛かる気まんまんだったろうが……」
「取り押さえるのが一番手っ取り早いからやっただけよ。――もしあたしを殺す気で掛られたら、あたしだってあんたたちを殺さないと」
「…………」「…………!」

 ふざけたような伊達とどこか張りつめているにも関わらず面倒くさげな少女。少女の口から突然飛び出した「非日常」を再認識させるその言葉は、会話を静観していたバーナビーと伊達に戦慄を走らせた。
 明らかな戦闘機械――それこそバースのように、だ――に身を包んだ少女とは言え、文字通りの少女である。本来であればこのような悲惨な殺し合いなど縁もゆかりもなかったはずの娘だろうということは想像に難くない。そんな人間に殺しを覚悟させるその異様さに、改めて眉をひそめた伊達だった。

「……なら要求を。答えられる僕が答えましょう」
 バーナビーがようやく口を開く。小柄な体格のはずなのにロボットに乗っているため、伊達より長身となった少女の顔が伊達の肩の上で動きバーナビーを捉えた。じろじろとスーツを眇め、少女が言う

「なんなの、その恰好。コスプレ?」
「それが質問ですか」
「そんな訳ないじゃない」
「……そんな反応ってことは、あなたもシュテルンビルトを知らないってことですね」
「生憎と知らないわ、そんな町」
「まあいいでしょう。で、質問というのは?」

 突きつけられた切っ先は微動だにせず、伊達は二人をただ固唾をのんで見守る他なかった。頼むから挑発だけはやめてくれよバーナビー、などとは、とてもじゃないが口に出せそうにない。緊迫した雰囲気のまま、二人の問答は続く。

「まずあんたたちの今後の方針……は、まあ聞かなくても大丈夫でしょうね」
「少なくとも今、伊達さんを傷つけず捕まえているあなたとは同じですよ。『殺しはしない』」
「……じゃあもう俺捕まえてる意味なんてないと思うんだけど……?」
「保険よ、保険……こんな馬鹿げた殺し合いに付き合う必要なんてないもんね。次は、最初の眼鏡のことについて何か知っていることはある? それとこの街について」
「眼鏡はあなたが捕まえている彼が知り合いのそうですよ」

 目だけで伊達を見下ろす少女に伊達は作り笑いを向ける。少女は鼻をひとつ鳴らし、続けて語るバーナビーを向きなおった。
「それにこちらの――」

 バーナビーが伊達と自身が進行方向としていた向きを指さす。
「――方にある鴻上ファウンデーションビルは、これもそっちの彼の古巣だそうです」
「ふぅん」
「……それにおかしな言い方ですが、僕の住む街もこのそばにあります。地図を見ましたか? そこにあるジャスティスタワーを中心とした、海で囲まれた街です」
「……そばに『ある』、ね。てことは」
「……そうです。僕の街は、こんなところになかった」
「あたしとおんなじ、って訳か」

 ふと、伊達の首筋から圧力が消えた。巨大な刃がゆっくりと伊達から離れていく。一切伊達の首に傷をつけない精緻な刃物の取り扱いに少女の乗るロボットの精巧さが見て取れた。
「悪かったわ、伊達さん?」
「……ああ。伊達明だよ、よろしくぅ!」
「はいはい、よろしくね。私は凰鈴音。中国の国家代表候補生、見ての通りIS乗りよ」

794 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:48:14 ID:3bWQHa9c0
       ○○○
Q.違和感ってなんですか?
ヒント: 「違和感を感じる」は誤用です。
       ○○○

 バーナビーと伊達がそうであったように、互いの世界の齟齬に気付くまで、多くの時間は必要なかった。
 鴻上ファウンデーションの有無、シュテルンビルトの所在、そして機動兵器《IS》の存在。
 シュテルンビルトや鴻上ファウンデーションであれば多少きびしくとも「知らなかった」で済む問題だろう。ところがどっこい、ISクラスの世界常識ともなればそうはいかなかった。

「凰さんと同郷の方が同僚にいます。ここにはいませんが」
「で、俺が虎徹さんとやらと同じ人種って訳か」
「……少なくとも同じ地球にはいそうね」

 記憶の誤魔化しの次は宇宙人と来たか、伊達は胸中にこぼしてその発想に一人でニヤリとする。怪訝な四つの視線を集めたことを誤魔化すように頭を振り、男は胸を叩いて、
「まあどうであろうと安心しなさい! 君たちみたいな若造二人なんか、俺がまとめて守ってやるから! な?」
「……また茶化して」
「あんたみたいなのに守られるほど軟じゃないわよ、おじさん」
「おっ、おじさん……」

 軽口に乗らず本気で返事をするとは、これが若さか。露骨に溜息をつき肩を落とす。まったく同行者の二人ともがどうにも硬くノリの悪い連中だとは、なんと運の悪いことだろう。
 やれやれと、再び頭を上げたその時だった。

「……どうした? バーナビー」
 彼を凝視するバーナビーと、その視線が交錯したのは。

「……いえ、なんでもありません」
 伊達に倣うかのように顔を伏せる。表情自体は相変わらず見せることなくいるが、彼が何か思案を抱えていることは明白だった。だが、伊達にはそれがなんだかわからない。
 そうか、とお茶を濁して、ただ歩みを続けるほかなかった。


 ――道中の話題は尽きることがない。地図の次は参加者の話題である。
 バーナビーは伊達に、伊達はバーナビーに聞かせた内容をなぞって説明し、鈴音が彼らの敵を把握したところで、最後は鈴音の番だ。

「さて次は……」
「あたしね」

 軽く頷き鈴音は続けた。ISは未だに格納されず、鈴音の華奢な身体を包みこんで浮遊している。重力すらも切り離して浮かぶこれにも、伊達は強い「世界への疎外感」を見た。だがそんな伊達の想いとは関係なく鈴音は話し続ける。
「あんたらみたいに敵が多くもないし、私の知り合いはみんなフツーの人間よ」
「そりゃあ羨ましいこって」
「みんなISに乗ってるから誰かに襲われても心配ないし、千冬さんはあたしなんかが心配したらおこがましいくらいだわ」
「IS、ねえ」

795 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:48:25 ID:3bWQHa9c0

 伊達はちらりと鈴音を見やる。身体から離れて浮く肩の装甲、流線形を取り入れながらも硬質さを失わないデザイン。女性が乗ること以外全て戦闘に特化した機能性をもつそれに乗るというのであれば、確かに頼もしい戦力となるだろう。
 ぼんやりとそう考える伊達を知ってか知らずか、疑問の声をひとつバーナビーが上げた。

「その兵器、最初に殺されたあの少女が使っていたものと似ていますね」

 はっと鈴音を見る伊達だが、その無表情は動かない。バーナビーと同じ疑問を抱いていた身ではあったが、彼女らが友人である場合のショックを考慮して問わずにいたのだった。だがその情報を必要と判断したのだろう、バーナビーはあえてそれを聞いた。

「……ええ、そうよ。あいつも私の友達」
「……それは……助けてやれずに、悪かった」
「いいのよ。明らかに危険な相手に無理して突っかかってくあいつが悪いんだから」

 伊達の謝罪にもまったく頓着しないというつもりか、鈴音の無表情はやはりそのままだ。それでもこの少女が、何かを隠そうとしていることは充分に伝わった。

「……さっきドクターについて気にしてたよな。あれは……」
「どうなのかしらねー。あたしだって聞いたところで何をするつもりだったのかわからないし、何かしてやろうって気にもならないわ」
「……投げやりなんだな」
「あんなもん見せられちゃ誰だってそうなるってもんよ。あたしに言わせりゃあんたたちやあのワイルドタイガってのの方が驚きだわ」

 お手上げだ、と言わんばかりのジェスチャーと首を振る鈴音。そんな彼女に、どこか思うところがあったのか「虎徹さんは……!」と言いかけ詰め寄ろうとするバーナビーを制し、伊達は言った。
「なんで諦める? お前の友達は諦めなかったんだろう」
「うるさいわね、どうでもいいでしょそんなこと」
「怖いなら、俺達が守ってやる」
「……は?」
「ヒーローのバーナビーと、この伊達明が守ってやる、ってそう言ってるんだよ」

 立ち止り、鈴音は伊達を凝視した。やがてばつが悪そうに目を反らし、何言ってるのよ、と呟く。
 逡巡はそのまま図星だ。どんなに強大な武器を振るおうと、彼女はまだ子供なのだ。高校生ともなればずいぶん大人に近くはあるが、それでもまだ成熟には足りない。そんなぶれやすい時期であるからこそ、彼女は護られる必要がある。

「ISにも乗ってないくせに」
「それでも戦える方法はある、って言ったろ? 大丈夫だ、安心しろ。ガキを守るのは大人の役目だ。だからお前はやりたいことをやれ。あ、殺しはよくないけどな?」
「……くだらない。根拠もないし、戦えばあたしの方が強いわ」

 苦々しげに吐き捨てる鈴音。だがその言葉が強がりからくると理解できない人間はここにはいない。
 ぽんぽんと、ISに乗っているため自分より高い位置にある鈴音の頭を、慈しみをこめて撫でるように叩く。

「強がりたい気持ちもその誇りもわかるがよ、たまには誰かに任してみるのも悪くねえぞ?」

「……っ」
 伊達の曇りのない笑顔が、鈴音の中で一夏のそれと強く重なった。喉元まで競り上がってきた何かを意地で飲み込み、伊達の手を払いのける。幾分と乱暴に追い払われた伊達ではあったが、彼にはそれが拒絶だとはどうしても思えなかった。

「……女だからって馬鹿にしないでよ」
「してねえよ。守られるのが嫌なら一緒に戦う、ってのはどうだ?」
「ああそうですか、好きにして……」

 ISが光の粒へと変化し、急速に収束していく。光の氾濫が収まった後その中に立っていたのは、肩に改造が施してあるIS学園の白い制服を纏った凰鈴音だった。小さな笑いを浮かべて、彼女はいう。

「……さっきあんたたちを殺すって言ったでしょ、あれ嘘。殺して相手が死んじゃったら、それで終わりだもの。誰かの未来がなくなるのは、そいつがどんな人間でもあたしはいけないことだと思う」
「……おう」
「でもあたしは、箒の未来を奪ったあいつを、あたしたちをこんなところに放り込みやがったあの眼鏡を一発ぶん殴ってやりたい」
「……だろうな」
「手伝ってくれる?」

伊達は黙りきったままのバーナビーに目をやった。伊達を見つめていたのだろうか、その仮面に光る目と即座に目線が合致する。何も言わないバーナビーに頷きかけ、伊達は鈴音に向き直った。

「おう、任せろ!」

796 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:51:36 ID:3bWQHa9c0
       ○○○
Q.おしまいってなんですか?
ヒント:悪いことにそれはありません。
       ○○○

(――この人は、本当によく似ている)
 鈴音と言葉を交わす伊達の背中を見つつ、バーナビーは思う。
 スマートではなくどこか粗暴で、それでも優しい思いやり。がさつで遠慮なく踏み込んできて、それなのに心を穿つその言動。
 嗚呼、この人は、本当によく似ている。

(だからだ)
 この心のざわめきは。
(伊達さんが、あまりにも彼に似ていたから)
 それだけだ。
(そうに決まってる――)

 行くぞ、と伊達がバーナビーに呼び掛けた。はい、と返事をこぼし、鈴音と伊達が並んで歩くその後ろを行く。
 鴻上ファウンデーションビルを目指した後はどうするのだろうか? 予定通り調べて回るのか? それとも別の方針を立てるのか?
 愚にもつかない疑問をいつまでも胸中でこねまわし、頭を支配するこの訳のわからない感覚を視界の外に追いやって、伊達が「あれだ」と指し示したビルへと向かってバーナビーは進む。




 ――不明瞭なこの感覚は「怒り」だ。バーナビーはそれに気付きながらも、そこから目を反らしている。それを認めることは、つまりバーナビー・ブルックスJrの“夢”、ワイルドタイガーの敗北を認めることと同義であるからだ。
 理をとらず情をとり、そして結果的に最善を為す、まるっきりワイルドタイガーな伊達。
 ……彼と違って能力減退に悩まされるでもなく、ヒーローをやめることを決意するでもなく、ただ気楽に彼の真似をする伊達。

「それは、虚徹さんがするべきことだ」

 ――なんて、子供の理論にも満たない、ぶつける先のない我が儘。あるいはそれは、かつて栄華を誇った父の老いによる没落を見る、本来なら正常なる男児が乗り越えてこねばならなかったある種の甘えなのかもしれない。
 その甘えは、ここにきて最悪の形で牙を剥く。そんな彼がもし――もし、その「父」と築いた“栄光の軌跡”が踏みにじられたと知ったなら――。
 さて、どうなることやら。
 バーナビーの内なる怒りを抱え、戦う姫君と二人の騎士からなるパーティーは、居城を求め欲望の街をただ進む――。

【一日目−午前】
【E-5/鴻上ファウンデーションビル前】

【伊達明@仮面ライダーOOO】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】バースドライバー(プロトタイプ)+バースバスター@仮面ライダーOOO、ミルク缶@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜2
【思考・状況】
基本:殺し合いを止めて、ドクターも止めてやる。
  1:鴻上ファウンデーションビルの家探しでもさせてもらいますかねっと。
  2:バーナビーと行動して、彼の戦う理由を見極める。
【備考】
※本編第46話終了後からの参戦です。
※TIGER&BUNNYの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。
米ミルク缶の中身は不明です。

797 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:52:01 ID:3bWQHa9c0
【バーナビー・ブルックスJr.@TIGER&BUNNY】
【所属】白
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】バーナビー専用ヒーロースーツ@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:虎徹さんのパートナーとして、殺し合いを止める。
  1:伊達、鈴音と共に行動する。
  2:伊達さんは、本当によく虎徹さんに似ている……。
【備考】
※本編最終話 ヒーロー引退後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、インフィニット・ストラトスの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。

【凰鈴音@インフィニット・ストラトス】
【所属】緑
【状態】健康
【首輪】50:0
【装備】IS学園制服、《甲龍》待機状態(ブレスレット)@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
基本:真木清人をぶん殴ってやる。
  1:伊達とバーナビーについていく。
  2:男だけど、伊達はちょっとは信頼してやってもいいかもね。
【備考】
※銀の福音戦後からの参戦です。
※仮面ライダーOOOの世界、TIGER&BUNNYの世界からの参加者の情報を得ました。ただし別世界であるとは考えていません。

798 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/08(木) 23:54:27 ID:3bWQHa9c0
以上で投下を終了いたします
問題がありましたらご指摘をお願いいたします

そこ!「この展開前見たよ?」とか言わないで!お願い!!

タイトルは
QUESTION & HINT
です

799名無しさん:2012/03/09(金) 02:20:36 ID:0hUsgMq20
投下乙です

いや、これはこれでいいし邂逅話だから似てしまうのは仕方ないかも
兎さんは危うい感じもするなあ。どうなるんだろう?
鈴音は相手が変わってもいい保護者に出会えてよかったなあ
伊達さんはかっけいいw でもそれが兎さんを…

800名無しさん:2012/03/09(金) 08:34:55 ID:DFKzQ9tM0
投下乙です!
伊達さんが実に伊達さんらしくて格好いい! そしてバーナビーが何だか危なくなってるなぁ……
鈴音もどうなるかと思ったけど、今はひとまず安定してるかな?

801 ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:09:08 ID:TvCIWvFU0
投下乙です。
毎度ながら心理描写が濃くて素敵です。
キャラみんなが「らしい」し、鈴ちゃんも無事伊達さんとバーナビー組と合流出来て安心……
と思いきや、バーナビーがやっぱり揺れてるんだよなぁ。でも今のバーナビーの思考考えるならこうなる方が自然なのか。
これが今後どんな形で関わって来るか、続きが楽しみになるSSでした!


それでは自分も予約分の投下を開始します。

802Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:10:57 ID:TvCIWvFU0
 何のためらいも無く命を奪おうとする度し難い「悪」を目の前にして、美樹さやかは人としての義憤と、そして純粋な正義感から来る戦意の高揚を感じていた。
 アポロガイストを放っておけば、きっとまた他の参加者の命が危険に晒される。さやかは所詮“死人”であるが故、奴に生命の炎とやらを吸われる事はないのだろうが、それはこの場に連れて来られた多くの参加者にまで当て嵌まる事ではない。
 だとすれば、唯一対抗出来る自分達が何としてでも此処で奴を討ち取らねばならない。

「アイツは生きていちゃいけない奴なんだ……ここで倒さなきゃ」

 そう独りごち、握ったサーベルに力を込める。
 一瞬ののち、いざ飛び出そうと身を構えたその時、さやかを制するように手を突き出してきたのは、大道克己と名乗った男が変じた白き仮面の戦士、エターナルだった。
 エターナルは、はっとしたさやかには視線すらくれずに言った。

「お前のようなガキに奴の相手はまだ早い」
「……っ、あんた、何様のつもりっ!?」
「いいからまずは黙って見てな。俺がお手本を見せてやる」
 
 まずは、という言葉をやや強調しながら、エターナルは首から下を覆う漆黒のローブを翻した。
 風を孕んだローブはばさりと音を立てて翻り、それを合図にするかのようにエターナルとアポロガイストは同時に地を蹴り駆け出した。
 両者の間に距離がある場合、有利となるのは射撃武器を持っている方だ。それを理解しているのであろうアポロガイストは、懐から取り出した巨大なマグナム銃をエターナルへ向け、大口径の銃弾を数発発射する。
 攻撃を受けても痛みを感じない死人であるなら、それを受ける事すらも厭わぬ覚悟で向かって行ける。実際にさやかならそうするだろうが、だけれども、エターナルは違った。
 赤く光輝くアポロガイストの銃弾がエターナルを穿つよりも早く、エターナルは懐から取り出したコンバットナイフを一閃、二閃と振り抜いて見せる。
 振るわれたナイフの剣圧は、蒼い輝きを伴って、目視すら可能な衝撃波となって迫りくる銃弾を全て打ち砕き、一瞬ののちにはエターナルとアポロガイストの間の距離は無くなっていた。
 一瞬のうちに細身の剣を構え直していたアポロガイストは、エターナルを串刺しにしようと神速の勢いでそれを突き出すが、さやかとは違い、エターナルがその攻撃を受ける事はなかった。
 エターナルの白い仮面を狙った一撃は、僅かに頭部を傾けるだけで、何もない位置を通過してゆく。やにわにエターナルの胸部を狙うも、エターナルが翻したローブに阻まれ剣の軌道は逸れ、それでも剣による攻撃を続けるが、その全てをエターナルは腕一本でいなし、捌く。

(アイツ、強い……!)

 エターナルの戦闘技術の高さは、戦闘についての知識など実質皆無に等しいさやかにとっても驚嘆に値するものだった。
 そもそも、さやかが先程まで大組織の大幹部を自称する強敵と戦って来れたのは、自分へのダメージを度外視し、傷を負う事すらも厭わずに攻撃を続ける事が出来たからだ。仮にさやか程度の戦闘技術しか持たぬ“生身の人間”が同じ戦法を取ろうものなら、最悪最初の一撃だけで殺されていたとしてもおかしくはない。
 それに引き換え、さやかにお手本を見せてやるとまで嘯いたあのエターナルは、アポロガイストの懐に入り込んだところで、奴の攻撃を一度たりとも受けては居ない。一切の無駄を感じぬ動きで、敵の攻撃を回避し、そして今、エターナルは自分の攻撃まで見事に繋いで見せたのだ。
 エターナルの胴部を貫こうと突き出された剣の一撃を、エターナルはローブを翻し宙へ跳び上がり一回転。風を受け大きく拡がったローブがアポロガイストの視界を覆う暗幕となってその動きを一瞬だけ封じる。

「うおおおぉぉぉうりゃっ!!」

 エターナルにとっては、一瞬もあれば十分だった。
 僅かに動きが鈍ったアポロガイストの胸部目掛けて、エターナルは蒼炎を乗せた拳を上段から振り下ろす。
 対するアポロガイストは、完全に回避することは出来ないまでも、太陽を模した左手の巨大な盾で何とか防御する事には成功する。が、エターナルの拳は盾の表面を強かに打ち据え、アポロガイストはその衝撃に堪らず後方へと後じさった。

803Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:11:41 ID:TvCIWvFU0
 
「おのれぇ、死に損ないのゾンビめらが! これ以上は付き合いきれん!」
「ハッ、そうつれない事言うなよ? お前も今から俺達と同じ“死人”になるんだからなぁ?」
「ええい、口の減らない奴なのだ! これでも喰らうがいい、ガイストカッター!」

 エターナルの肩を竦めながらの挑発に気色ばんだアポロガイストは、左手に構えた巨大な盾を車輪のように回転させ、エターナルへと投げ付けた。
 すかさず漆黒のローブの裾を掴んだエターナルは、身を守るように腕を掲げ、前方にローブによる壁を作る。
 ガイストカッターと呼ばれた巨大な車輪状の刃は、エターナルのローブを切り裂こうと回転の勢いを上げ、耳を劈かんばかりの軋轢の音を響かせるが、エターナルのローブが破れる事はない。
 エターナルローブとはあらゆる攻撃を完全に無効化する絶対防御のマントなのだった。

 が、それでもアポロガイストにとっては十分過ぎる時間稼ぎにはなったのだろう。
 最後に「覚えておれ!」と捨て台詞を吐いたアポロガイストは、ガイストカッターに足止めを喰らっているエターナルの足元からさやかの足元まで、弧を描く様に銃弾を連射する。
 放たれた赤い銃弾は容易く固いアスファルトを穿ち、起ち上る火花と煙がさやかの視界を奪った一瞬の隙に、アポロガイストの姿は消えていた。



 アポロガイストを撃退せしめたさやかと克己は、一先ず目前の巨大な塔の中に身を顰める事となった。
 風都タワーと言う名の、この街のシンボルらしいのだが、さやかはそんなタワーの存在を知りはしない。これだけの規模の――それこそ下手な高層ビルなどよりもずっと高く巨大な――風車の塔が日本にあったなら、国内でも有名になっていてもおかしくない筈だが、とさやかは疑問を抱くが、それは今考えても詮無い事だ。
 寧ろさやかは、この殺し合いの事、そしてさやかの危機を救ってくれたエターナル――否、大道克己という存在についての方が、よっぽど興味があった。
 決して小さくは無い風都の街を一望できる風都タワーの展望台から、今や殺し合いの場となった下界を俯瞰しながら、さやかはやや不満混じりに言った。

「っていうかあんたさぁ、殺し合いに乗ってないなら最初からそう言ってくれれば良かったじゃん!」
「はんっ、無茶言うなよ、一方的に攻撃仕掛けて来たのはそっちだろ」
「それに関しちゃ、確かにあたしが悪かったとは思うけどさ……」

 罰が悪そうに目線を泳がせるさやか。
 勘違いされるような言動を取った克己も克己だが、確かにあの状況で一方的な決め付けで攻撃を仕掛けたのは自分だ。
 あの時克己がさやかの刃による連続攻撃にさらされても倒れなかったのは、克己がさやかと同じ“死人”であるからだ。もしも相手が一般人だったなら、さやかは罪のない命を奪っていたのだから、それに関しては心から悪かったと思う。
 だが、そうなると今度は別の……というよりも、それ以上の疑問が浮かぶ。
 口に出す事の躊躇われる話題だが、一緒に行動する上で、その話題を避けて通る事は出来ない。一瞬の逡巡ののち、さやかは意を決して声を出した。

「……ねえ」
「なんだ」
「あんた、さっき自分の事死人って言ったわよね、それって……」
「言葉の通りさ。俺はもう死んでるからな、これ以上死ぬことなど出来ん」
「………………」

 ある意味では想像通りの、分かり切っていた回答にさやかは言葉を無くす。
 さやかはあの時、克己の心臓を突いた。胴を何度も串刺し、挙句アポロガイストの大口径の銃弾まで食らって、それでも克己はダメージなど始めから受けていないかのようにこうして歩いているのだ。
 本人に死人と言われれば、「ああ、そうなんだろうな」と思ってしまう程度には、克己の身体は尋常ではなかった。

804Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:12:14 ID:TvCIWvFU0
 
「そういうお前こそ、どうして死人になった? まさかNEVERって訳でもないだろう」
「ねばー……? って、何それ?」
「不死身の死体兵士NEVER……要するにゾンビだ」

 そう告げる克己の表情には、何の躊躇いも陰りもありはしない。
 死人になった事そのものに絶望しているさやかとは違って、まるで死人になった事を受け入れているかのような、そんな表情だ。
 どうして人ならざるものになって尚、そうやって前を向いて、明日を求めて生きて行く――死んでいるのだが――事が出来るのか、さやかには解らなかった。

「あたしは、そのNEVERってのとは違う。魔法少女よ」
「……はぁ?」

 らしくもなく上擦った声を出す克己。
 突然「私は魔法少女よ」などと言われれば、それはこういう反応をされるのも無理はないと思う。ある意味では想像通りの反応に若干の居心地の悪さを感じながら、それでもさやかは、魔法少女とは何たるかを克己に説明して聞かせた。



 数分後、簡潔に魔法少女の概要を聞き終えた克己は、なるほどな、と一言呟き頷いた。
 魔法少女の説明を始めた当初こそ胡乱な瞳で聞き流しているような素振りを見せてはいたものの、次第に核心に触れて行くにつれ、魔法少女の真相を理解してゆくにつれ、克己の表情は神妙なものとなっていった。

「カラクリは違うが、要するにNEVERと似た様なモンって事か」
「ま、多分そういう事でしょうね」

 NEVERが如何なるものかをさやかは知らないが、不死身の死体兵士、という説明を聞く限りでは、戦う為だけに不死身の戦士と成り果てた魔法少女ともそう差異はないのかもしれない。

「で、あんたの方はどうして、そのNEVERってのになった訳?」
「さあな、もう忘れちまったよ」
「忘れたってあんた……」
「さっきも言っただろ。一度NEVERになったら、過去の記憶や人間らしさが少しずつ抜け落ちていくのさ。もう俺には生前の記憶なんてこれっぽっちも残されちゃいない」
「……それ、さっきも思ったんだけどさ……あんたそんなんで、怖くないの……?」

 何処か気まずそうに、さやかは問うた。
 ろくに知りもしない克己の境遇に絶句したのは、アポロガイストとの戦闘中が最初だ。
 自分が自分でなくなって行くのは……大切な記憶が、優しい思い出が消えて行くのは、とても恐ろしい事だと思う。自分を自分たらしめる要素が無くなっていくのだから、怖くない訳がない。
 さやかの身体は、死人として戦えば戦う程、力を行使すればするほど、人間としての実感が薄れてゆく。が、克己は身体だけでなく、記憶や心まで人間でなくなっていくのだと言う。
 想像してみたが、それはとても、とても恐ろしい事だった。

 さやかが今でも絶望に押し潰されず、心だけは人間であろうと足掻き戦い続ける事が出来るのは、例えどんなに自分が追い込まれようと、この「正義」がきっと誰かを救うと信じているからだ。
「正義」を信じて全てを捨てたのだから、さやかには何処までも「正義」を貫く義務がある。でなければ、捨ててしまったものが無駄になってしまう。逆に言うと、最後に「正義」と云う名の拠り所だけでも残ったから、さやかは戦う事が出来るのだ。
 だけれども、記憶がなくなるということは、その拠り所すらも失うという事。どうして戦いの道を往く事を決意したのか、それすらも忘れてしまったのでは、きっとさやかにはもう「自分は化け物(ゾンビ)である」という事実しか残らない。
 それは、恐ろしく絶望的な事だった。

805Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:12:56 ID:TvCIWvFU0
 
 克己には、さやかの「正義」に相当する何らかの信念はあるのだろうか。
 こんな身体になっても、さやかとは別の意味で人ならざるものへと変わって行く運命だとしても、それでも戦って行ける拠り所が克己にはあるのだろうか。
 あの土壇場で、命を奪わんとする悪に対し「明日が欲しい」とまで啖呵を切った男は、一体何故にそうまで前を向いて居られるのか……それは何の他意もない、純粋な疑問だった。
 克己はさやかの気持ちなどまるで斟酌しない様子で、笑い混じりに答えた。

「怖い? そんな事は考えた事も無いな」
「考えた事も無いって……! 記憶も心も無くなっちゃったら、それってもう、本物のゾンビじゃん……っ、なんでそんな前向きで居られる訳……!?」
「俺はもう、前を見るしか出来ないんだよ」

 そう言って、自嘲気味にハッと笑う。
 その笑みを境に、硝子越しに風都の街を見渡す克己の表情は、変わった。

「そもそも俺には、過去の記憶がない。こうして故郷の景色を見渡しても、懐かしい思い出なんざ一つも思い浮かばん。
 なあ、普通は里帰りをしたら、楽しかった頃の想い出の一つくらい、蘇ってきたりするモンなんだろ?」
「……それは…………」

 克己の言葉に、さやかは何と返していいのか分からず目線を逸らすしか出来なかった。
 かつて佐倉杏子と魔法少女について話し合った事があるが、杏子には「自業自得」だと断じ対応する事が出来た。が、克己にはそもそもその前提となる「過去」が無いのだ。
 思い出せないのは自業自得だ、などとは言えよう訳がないし、だからといって他に掛けるべき言葉など思い付きもしない。
 ただ目を伏せるだけしか出来ぬさやかに、克己は先程までの人を小馬鹿にした態度とは一変、何処か優しげな口調で言った。

「もう一度言うが……過去が消えていくなら、俺はせめて明日が欲しい。
 過去を振り向く事が出来ないなら、未来を目指して足掻き続けるしかないんだよ……お前とは真逆だ、さやか」

 克己の言葉に、さやかは「なるほど」と思った。
 同じ死人ではあるが、さやかと克己では状況が違うのだ。
 さやかには生前の記憶が、過去がある。過去があるからこそ、さやかは未来を見る事が出来なくなって尚、残った過去(正義)を拠り所に戦う事が出来る。
 一方で、さやかとは真逆、克己には拠って立つ過去がない。縋るものなど何もないのだから、ただ未来を見て、明日を求めて戦うしかないのだ。例えいつか完全に人でなくなってしまうとしても、今未来を目指すことをやめてしまえば、それは残った人間性をも放棄する事に等しいのだった。

 過去を見る事しか出来ぬ者と、未来を見る事しか出来ぬ者の違い。

 克己の境遇は一見すれば悲劇的な事だが、ある意味では、羨ましくもある。
 過去も拠り所もないのは確かに辛つらいことだろうが、その分、何者にも縛られることなく、未来だけを見て足掻き続けていられるのなら……「今」を生きる事が出来るのなら、その方が良かったのかも知れないと、自分の境遇と照らし合わせたさやかは、不謹慎にもそう思った。
 過去しか見る事が出来ず、それに囚われて戦い続ける事も、未来しか見る事が出来ず、それを求めて足掻き続ける事も、どちらも甲乙付け難い程につらい事だと言うのはわかるが、それでも。
 そんなさやかの心中を知ってか知らずか、克己はぽつりと独りごちた。

806Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:13:39 ID:TvCIWvFU0
 
「……未来と過去は、どれ程の重さが違うんだろうな」

 何処か意味深に感じられるその言葉に引かれ、さやかは克己の顔を見上げる。
 克己は、最初に出会った時に奏でていたハーモニカを内ポケットから取り出し、それに息を吹き込んだ。
 誰も言葉を発する事のない風都タワーの展望台の中に、克己の奏でるハーモニカのメロディが響き渡る。
 
 さやかが長年想いを寄せて来た少年は、天才と謳われたヴァイオリンの演奏家だ。彼と沢山話をしたいというその一心だけで、さやかはこれまで人知れず、沢山の音楽を聴いて来た。それ故、良い音楽とそうでない音楽、その真贋を見極める能力には、人よりも長けている方だとさやかは自負している。
 聴くのはこれで二度目になるが、克己の奏でるメロディは、音楽鑑賞に精通したさやかをも頷かせる程に静かで、美しかった。

 人ならざる者に成り果ててからというもの、さやかはヴァイオリンの演奏も、好きだった筈の音楽すらも聴く事がなかった。聴いている余裕がなかった。
 癒しのないまま戦い続け、いつからか荒みきっていたこの心に、ずっと忘れていた優しくも懐かしいメロディが響く。
 音楽とは、人の心を和ませるものだ。人の優しさに触れる事の出来る音楽を奏でる事の出来る奏者が、優しい心を持たない訳が無い。自ずと恭介の優しい演奏を思い出す傍らで、克己だって本当は優しい人間なのだろうなという事も、さやかには何となしにわかった。
 ……というよりは、“そう思いたかった”のかもしれない。こんな優しい音色を奏でる人間が悪人であるなどと思いたい訳もない。もっとも、本人が忘れたと言っているのだから、今となってはもう、本当のところは誰にも分からないのだが、それでも。
 数分間の演奏が終わると同時、さやかはほぼ反射的に、小さな拍手を送っていた。

「……悪くないじゃん、あんたの演奏」
「何もかも忘れちまったが、このメロディだけは今でも俺の中で響き続けてるんでね」
「そういや、そのメロディを聴いてると落ち着くって、さっきも言ってたしね」

 さやかと克己を引き合わせたのもこのメロディだ。
 あの時、演奏を終えた克己は、このメロディを聴いていると何故か落ち着くと言ったが、今ならばその理由も何となく分かる気がする。
 やはり、あんなにも優しく美しい演奏が出来る克己は、元々優しい人間だったのだろう。何もかも忘れたというが、唯一覚えているモノが、憎しみでも絶望でもなく、心安らぐ優しいメロディだというのが、その証拠だ。
 心暖まる想い出が、本当ならばあった筈なのだろう。

807Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:13:57 ID:TvCIWvFU0
 
「やっぱ、あんたって元々は優しい奴だったんでしょうね」
「何だ藪から棒に。何故そう言い切れる?」
「だって、あんな演奏が出来るんだから……悪い奴な訳ないじゃん」

 そう言ってにっこりと笑うと、克己は呆れたように目線を逸らした。

「……そんな下らん事を言う奴が、昔、お前の他にも一人居たよ」

 そして克己は、何かを懐かしむように、ぼんやりと空を見上げる。
 克己の瞳が何処か憂いを帯びているように感じたのは、さやかの勘違いだろうか。
 昔、というのは当然、死人になった後のことなのだろうが。死人になっても尚、生前の克己は優しかったのだと言ってくれる相手……。
 もしやと思ったさやかは、若干の期待を胸に、おずおずと訊いてみる事にした。

「それってもしかして……恋人、とか……?」
「お袋だよ」
「あ、ああ……なるほど」

 内心で一瞬でも浮ついた恋愛事情に興味を抱いてしまった自分を恥じる。
 さやかとて一応は一般的な女子中学生だったのだ。人並みに恋愛話にも興味はあったのだが、こうもあっさり否定されてしまうと、やはり人並みに落胆はする。
 そんなさやかを見て、はんっと息を吐き出した克己は、小さく、不敵に笑った。

「……な、何よ、何か文句ある訳?」
「お前もまだ十分人間らしい表情が出来るじゃねえか」
「…………っ」

 そう言われ、はっとするさやか。

「気付いてないのか? お前、最初に出会った時とは大違いだぜ」

 不敵に口角を吊り上げた克己は、ニヒルな笑いを浮かべながら「そっちの方がいい」と付け加える。
 真正面から臆面もなく照れ臭い事を言う奴だと思いながら、さやかはやや目を伏せる。

 だが、確かに克己の言う通りだ。
 僅かとは言え、こんな下らない事を考えたのは、もうずっと久しぶりのように思う。
 ここに至るまでのさやかはと言うと、それは散々なものだった。魔法少女の真相を知ってからそう経たないうちに家出をしたさやかは、幽鬼の如く街を彷徨い魔女の討伐を繰り返し、そして気付いた時にはこんな殺し合いに参加させられていた。
 二人の少女の犠牲に義憤を覚えながらも、この場でも正義を貫き戦って行く事を決意し、克己と出会い、すぐにアポロガイストとの戦いに雪崩込み……そして今、数日ぶりに優しいメロディを聴いて、下らない話をして、一喜一憂した。
 
 殺し合いの場で、自分は何をやっているのだ、という焦りを覚えない事もないが、それでも数十分前よりはやや頭も冷えたさやかは、この出会いも悪くないものだった、と思う。
 最初にさやかと出会った時、克己はさやかに、「生きてる癖に死人みたいな面してやがる」と言ったが、その克己がこうして褒めてくれる程になったのだから、事実克己との出会いはさやかの心にも僅かな変化を与えたのだろう。
 心中の絶望や不安は未だ消えはしないが、それでも。

808Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:14:18 ID:TvCIWvFU0
 


 ゾンビ二人組との戦線から離脱したガイは、これ以上無意味な変身維持の為メダルを無駄に消費する事もあるまいと、アポロガイストへの変身を解除した。
 全身を纏う太陽のオーラが消失した時、そこに居るのは大ショッカーの大幹部などではなく、白いスーツを着こなした壮年の紳士――その名をガイという――だった。
 幸いにも、あのゾンビめらには変身後の姿しか見られてはいない。仮に今この姿を目撃されたとて、すぐにガイ=アポロガイストだと判断され襲われる事は無いだろう。

「やれやれ、ゾンビどもの相手など全くもって馬鹿馬鹿しいのだ」

 誰にともなく独りごちるガイ。
 ガイの能力は、相手の命の炎……即ち生命エネルギーを吸い取る事である。
 例え奴らゾンビどもにガイの攻撃が効かぬとて、いざとなれば生命エネルギーを吸い取ってしまえば、ここまで追い込まれることなどは無かった筈なのだ。
 が、ゾンビとはすなわち、死人だ。当然のように、死人に生命エネルギーなど存在する訳もない。
 例え上手く立ち回り一方的に攻撃を続ける事が出来たとしても、その都度回復されるのではキリがない。それでも攻撃を繰り返せばいつかは、とも考えたが、相手は二人だ、そんな事をしていては、一人分のメダルしか持たぬガイの方が先に辟易してしまう。
 この先いつまで続くかもわからないこの場で、あんな二人相手にメダルを切らしてしまうのは、馬鹿のする事だ。
 ガイも馬鹿ではないのだから、それくらいの判断はついた。

 それからややあって、風都の街を彷徨ったガイは、街の中心部からやや離れた位置に存在する大豪邸の前で立ち止まった。
 ガイの背よりもずっと高い巨大な門に、一軒家にしてはあまりにも広大過ぎる庭園。その奥に聳えるのは、やはり家というには大き過ぎる、ともすれば何処ぞの博物館のようにも見える洋館だった。
 ほう、と一言呟いたガイは、その場でデイバッグを漁り地図を確認する。目印は、ガイの背景に聳える、周囲のどの高層ビルよりも高く巨大な風車の塔――風都タワー。
 そうなると、ガイが今目にして居る大豪邸は、恐らく……地図で見る限り、風都タワーから見れば最も近い位置に点を打たれた施設、「園咲邸」という事になるのだろう。

「ふむ……一先ずここに留まり、情報を纏めるとするか」

 疲労も溜まっている。休息は必要だった。
 同時に、今はまず誰にも邪魔をされぬ一室で少し時間を取ってでも、頭の中の情報を整理するべきだとガイは考える。
 状況は分からない事だらけだ、落ち着いて考えたい事は山ほどある。そもそも、一体何故大ショッカー大幹部たる自分がこのような殺し合いに参加させられているのか。このまま殺し合いに乗り続けるべきなのか、だとすれば、赤の陣営の参加者とは一時的にでも協力すべきなのか、それとも、殺し合い自体を否定すべきなのか。
 
 ガイは、この場に転送されてからあのハーモニカの音色に誘われ奴らゾンビ二人を襲撃するまでの間に、ざっとではあるが名簿の確認をしていた。
 その時点でガイが仲間と判断した人物は、ゴルゴムの世紀王――アポロガイストと同じ大幹部の一人――シャドームーンに変じる男、月影ノブヒコのみ。
 正直言って、知らぬ名ばかりが六十以上も連ねられた名簿の中で、仲間と判断出来る者がたった一人しかいないというのは、あまりにも心細いものであった。
 故にこそ、性急に対処策を考えねばなるまい。そう思い、地図をデイバッグに姉妹込んだガイは、園咲邸の庭園へと一歩を踏み入れた――その時だった。

809Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:14:33 ID:TvCIWvFU0
 
「待って下さい」

 いざ先へ進もうとしたガイの背後から聞こえる声。
 棒読み、と云う訳でもなく、声自体にまるで抑揚が感じられない男の声だった。

「貴様……何奴!」

 いつでもアポロチェンジ出来るように身構え、警戒心を隠しもせずに振り向く。
 刹那、ガイの視界に入ったのは、ガイよりも十メートルほど後方で直立する一人の男。
 男はガイと同じく白いスーツに身を包んでは居るが――その身体は、一目見ても分かる程に、びしょ濡れだった。
 しとどに濡れた髪をオールバックに撫でつけた男の顔色は、蒼白。
 まるで顔から表情が抜け落ちたような……とても生者とは思えぬ程の無表情で、男は瞬きすらもせずにガイを見据える。

 男は何も言わない。
 ただガイを認識すると、手にしていたデイバッグを、ぼとりと取り落とした。
 落としたデイバッグには目もくれず、男はいつの間にかその手に握られていた銀色のバックルをちらりと掲げると、それを――憎き仮面ライダーディケイドがそうするように――腰に当てがった。
 バックルそのものがベルトを生成し、男の腰に装着される。
 もしや何処かの世界の仮面ライダーかと警戒するガイに、男は何の感情も乗らぬ声で、

「赤、ですね」

 一言だけ、ぽつりと告げた。
 まるで迷いなく、ともすれば人形のように、男はやおら長方形の小さな箱を取り出した。
 黄金で彩られたそれは、ガイの知る限りで言うなら、USBメモリによく似ているように見える。ただ少し違うのは、USBメモリ全体を、毒々しい印象の白骨のレリーフが覆っている、という事だろうか。

 ――UTOPIA!!――
 
 男が手にした金のメモリが、野太い叫びを轟かせる。
 先程のゾンビとの戦いでも一度耳にした、やけに耳に残る声だった。
 男の手をすり抜けた金のメモリは、ただ重力に引かれて地へと落下し――腰に装着された銀のベルトの中心に穿たれた穴へと吸い込まれてゆく。
 メモリがベルトの中へと吸い込まれたその刹那、男の身体は蒼の炎に覆い隠され、決して屈強には見えぬその身体を作り変える。
 ガイの目の前に居る男は、最早白服の男などではない。
 そこに居るのは、黄金の鎧とマントを身に纏った見まごう事なき“怪人”だった。

810Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:14:48 ID:TvCIWvFU0
 


【一日目-日中】
【G-5/風都 園咲邸正門前】

【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】疲労(小)
【首輪】80枚:0枚
【装備】
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:参加者の命の炎を吸いながら生き残る。
1.黄金の怪人……!?
2.まさかこの殺し合いは、ゾンビだらけなのか……!?
【備考】
※参戦時期は少なくともスーパーアポロガイストになるよりも前です。
※アポロガイストの各武装は変身すれば現れます。
 

【加頭順@仮面ライダーW】
【所属】青
【状態】健康、ずぶ濡れ
【首輪】84枚:0枚
【装備】ユートピアメモリ+ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、ランダム支給品1〜3
【思考・状況】
基本:園崎冴子への愛を証明する。そのために彼女を優勝させる。
1.目的の為、目の前の赤陣営(=アポロガイスト)を排除する。
2.1が終われば、園咲邸へと向かい、服を着替える。
3.参加者達から“希望”を奪い、力を溜める。
【備考】
※参戦時期は園咲冴子への告白後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。

811Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:15:08 ID:TvCIWvFU0
 





 風都タワーの展望台にて、ある程度の情報交換を済ませた二人は、デイバッグと共に支給された道具を物色していた。
 まず、二人に共通して支給されていたのは、金に縁取られた、紋章の透けたメダル。スーパーの玩具売り場で売られていても何らおかしくないようなちっぽけな外見のこのメダルが、戦局すらも左右するキーアイテムだと言うのだからおかしなものだ。
 シャチの紋章が描かれた青のメダルを神妙な面持ちで眇めるさやかの傍らで、克己は橙にワニの紋章が描かれたメダルを、それこそ玩具でも弄ぶかのように掌で転がしながら言った。

「こんなメダルが俺達のエネルギーに変わるとはなァ……はっ、世の中分からんモンだ」
「有り得ない話じゃないかも。グリーフシードだって、外見じゃただの小物にしか見えないくらいショボかったんだし、このメダルだって」
「グリーフシード……? ああ、さっきの話に出て来た奴か」
「そっ、あたしら魔法少女のソウルジェムを浄化するヤツね」

 克己の言葉にこくこくと首肯しながら、さやかは透けた青い“コアメダル”越しに克己の顔を見る。
 先程一度魔法少女の仕組みについては説明している為、ここで二度目の説明をせずに済むのは有り難い。

「あたしら死人はただでさえメダルの消耗が早いんだ。これがないと、アイツみたいな悪い奴らとは戦っていけない。そう考えると、これは有り難いアイテムだよ」

 思い返すのは、悪の幹部アポロガイストとの戦い。
 さやかは何度もアポロガイストの攻撃をこの身に受け、常人ならば致命傷たり得る傷を負ったが、その都度受けた傷を回復し、同時に体内のメダルを消費し続けて来た。恐らくは同じ死人の克己も、さやかと同じ制限が適用されている筈だ。
 だが、だとするなら、このままではいつメダルが尽きてもおかしくはない。そういった非常事態に備えて、セルメダル五十枚分に相当するコアメダルが支給されているというのは、非常に心強いものだった。
 ルールブックに書かれている通りに、さやかはシャチのコアメダルを自身の首輪へと放り込んだ。それに倣う様に、克己もまた、ワニのコアメダルを自身の首輪へと投入する。
 体内のメダルの総数が増えるのを確かに感じながら、さやかは次の支給品を取り出した。

「で、次がこれね……T2ガイアメモリっていうらしいけど」
「ああ、それは知ってる。俺のはT2エターナル、というらしい」
「何、その口ぶり。まさかあんた、アレだけ使いこなしておいて知らなかったの?」
「俺もエターナル(こいつ)とはまだ出会ったばかりなんでね。悪いが“T2”ってのが何の事なのかは俺にも分からん」

 そう言いながら、克己は真珠色をした“永遠”の記憶を内包したメモリを眇める。
 その眼に宿る光は、さやかへと向けられるそれとは大きく違っていた。まるで仲間、否、それよりももっと大切な……言うなれば、家族を慈しむような優しい瞳で、無限回廊を連想させる「E」を描いたパッケージをまじまじと見詰める。
 克己と“永遠”が一体どのようにして出会ったのかをさやかは知らないが、きっとこのメモリは克己にとっても、大切なものなのだろうなと思う。
 一方で、さやかもまた自分の手元にある緑のT2メモリを眇め、端子部付近のスイッチを軽く押す。

812Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:16:27 ID:TvCIWvFU0
 
 ――UNICORN!!――

 ユニコーン、と自らの名を名乗るT2メモリ。
 その名の通り、一角獣の記憶を内包したT2ユニコーンメモリのパッケージには、さやかも神話や伝説に聞いた事のある一角獣(ユニコーン)を連想させる「U」の文字が描かれていた。

「お前のはユニコーンか……なるほどな? お似合いだよ」
「って、それどういう意味よ?」
「さあなぁ、自分で考えな」

 腑に落ちず問い返すさやかを笑い、克己はそう言った。
 さやかも漠然としか知らぬ事だが、ユニコーンとは、すなわち聖獣である。
 どんな敵をも恐れず、どんな悪にも勇敢に立ち向かってゆく気高き聖獣である。
 途方もなく勇敢なユニコーンは、誰にも屈さず、また誰にも懐かず。ただ孤高の獣として君臨し続けていたが、そのユニコーンが唯一心を開いたのが、穢れを知らぬ、清廉潔白なる処女だという。
 例えソウルジェムに穢れを溜め込もうとも、心だけは気高く、そして清廉であり続けるさやかにこそ、聖獣ユニコーンの加護は相応しかった。
 詳しくは知らぬとて、斯様な聖獣に悪いイメージなど抱こう筈もないさやかは、克己の軽口は聞き流しつつ、T2ユニコーンに付属していたメモに目を通す。

「えー、なになに……T2ガイアメモリは、適合率の高いユーザーと惹かれ合う事で、真の性能を発揮する次世代のガイアメモリです。ただし、もしも適合率の低いユーザーがご使用になった場合は、T2ガイアメモリ自体がユーザーの潜在能力を引き出し、強制的にドーパントとして活動させる性能を持っておりますので、ご注意ください……だって」
「なんだそれは。ちょっと貸してみろ」
「あっ、ちょ――!?」

 さやかの答えなど聞きもせず、克己はさやかが手にしたユニコーンを取り上げ、観察するようにじっくりと眇める。
 付属したメモには、適合率の低い使用者(ユーザー)が手にした場合――というお触れ書きがあった。ドーパントが何なのかなどさやかに分かる訳がないのだが、これが不用意に不適合者の手に渡れば、きっとろくでもない事が起こるのだろうという事は想像に難くない。
 であれば、現時点で適合者として見初められているのであろうさやかは、これを誰にも渡すわけにはいかない。そう思っていた矢先に、克己にメモリを奪われたのだから、さやかとて焦りもする。
 ……が。

「あ、あれ……何も起こらない?」
「ふん。ま、そうだろうな」
「え、ちょっと、どういう事よ。ユニコーンのユーザーはあたしなんじゃないの?」
「それはそうなんだろうだが、」

 克己は左手に持ったユニコーンを眇めながら、左手に持ったエターナルを緩く掲げ、言った。

813Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:17:02 ID:TvCIWvFU0
 
「俺は既にエターナルと惹かれ合っているからな。俺達の間に、ユニコーン(こいつ)が割り込む隙は無かったという事だろ」
「……そういうもんなんだ」

 やはり腑に落ちない様子で、さやかはユニコーンを見る。
 今回は克己が既にエターナルと適合していたから良かったものの、これがもしも不適合者だったら……と思うと、やはり恐ろしい。もっとも、克己は最初からユニコーンに操られるつもりなどなく、自分は大丈夫だという確信でもあったのだろうが。

「何にせよ、コイツを人に触らすのは危険だな」
「そうね、それはあたしが責任を持って管理するよ。だから、さ、返して」
「……悪いがコイツは暫く俺に預からせてくれないか」
「は、はぁ……!?」
「ちょっと試してみたい事があるんでね」

 勿論タダで預かろうとは言わん、と付け足して、克己はやにわにデイバッグから一着の黒いレザージャケット――克己が着ているそれと同じ――に、先程まで大切に持っていた筈のハーモニカを添えて、さやかに差し出した。

「え……これ、どういう意味よ」
「恐らく、俺のジャケットの替えだろうな。デイバッグに数着入ってた」
「わざわざ着替えまで用意してくれるのね……」

 思えば、克己のジャケットは既に串刺しの穴だらけだった。
 全てさやかの剣が空けた穴だ。主催連中は、克己のジャケットが壊れやすいのであろう事を予期して、恐らくは予め着替えを用意したのだろう。

「って! なんでそれをあたしに渡すのよ!?」
「これはお前が着るべきものだ」
「はぁ? 意味分かんないんだけど」
「はんっ、仲間にしてやるって言ってんだよ」

 そう言って、相変わらず人を見下したような冷笑を浮かべる克己だった。
 はぁ、と小さく嘆息する。仲間になるならなるで、もう少し違う言い方があるのではないかとは思う。
 が、だけれども、これまでずっとたった一人で戦い続けて来たさやかにとって、仲間、というものは新鮮なものだった。
 少し前までは巴マミも仲間と呼べる存在だった筈なのだが、そのマミも魔女との戦いで命を落としたのだし、転校生――暁美ほむら――や佐倉杏子だって、信用のおける相手ではない。特に暁美ほむらは、正直言って「嫌い」なタイプですらある程だ。
 まどかや仁美に至っては仲間以前の問題で、魔法少女たる自分からすれば、彼女らは純然たる保護対象だ。戦いに巻き込む訳には行かないし、もしも彼女らが魔女に襲われているなら、自分が救わねばならない。
 
 つまりさやかは、孤独だった。

 たった一人で戦い続けてきたさやかにとって、同じ正義を志す戦士から手を差し伸べられるのは、決して悪い事ではなかった。
 仕方ないなあ、などと呟きながら、不承不承といった様子でNEVERのジャケットを受け取ったさやかは、見滝原中学校の制服の上からそれを着込む。着心地は、存外に悪いものではなかった。

「……で、このハーモニカは? 大切なものなんでしょ?」
「どうせ一度は人に譲ったものだ。これもお前にくれてやる」
「受け取れないっつーの、こんな大切なもの……あんたもう、これしか覚えてないんでしょ?」
「ああ。だからお前にくれてやるんだよ」

 さやかは、克己の言う言葉の意味がまるで理解出来なかった。
 克己が差し出すハーモニカをただじっと見詰め、本当に受け取ってもいいのか、と考える。
 さやかには、過去がある、大切なものがある、守りたいものがある。それが如何に大切なものかは分かっているつもりだ。だが、だからこそ、最後に残った克己の「想い出」を、出会ったばかりの自分が受け取っていいのかというのは、正直言って疑問だった。
 ふと克己の顔を見上げれば、ハーモニカを差し出す克己の瞳は、真剣そのものだ。何か、それが何かは分からないが、譲れないものを宿したその双眸は、逸らされる事無く、じっとさやかを見据えていた。
 居心地が悪い。どうしてこんな重苦しい空気になっているのかと疑問に思いつつも、やがて根負けしたさやかは、克己が差し出すハーモニカをそっと受け取った。

「せめてお前は忘れるな、何もかも」

 笑うでもなく、冷やかすでもなく、克己は静かにそう言った。

814Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:17:23 ID:TvCIWvFU0
 


 大道克己には、誰よりも信頼のおける四人の仲間達がいる。
 いずれも克己自らが選び、そして自らNEVERの仲間として引き入れた精鋭達だ。
 彼ら全員に共通するのは、「個性」である。身体的な特徴は言わずもがな、精神的にも、誰一人として似通った者は居ない。皆が皆、自分だけの「個性」を持っていた。誰にも譲れぬ強い信念を持っていた。
 自分にない強い何かを持った者を、克己は求める。或いは、そういった強い感情を持った仲間を増やす事自体が、欠落し続けてゆく克己の人間性を繋ぎとめてくれているのかも知れない。

 克己が新たに仲間に引き入れたいと、“欲しい”と思った相手は、奇しくも克己の母、大道美樹――今はもう本名を捨て、マリア・S・クランベリーと名乗っているが――の名と同じ姓を持つ少女だった。
 美樹さやかは、強い。何の支えのない今は、まだすぐに折れてしまいそうな柱に他ならないが、それでも、たった一人でも悪に立ち向かってゆくその勇気、ユニコーンにすら見初められるその気高さ……そして、例え孤独に押し潰されようとも、過去しか見る事が出来ずとも、最後に残った正義を拠り所に必死に足掻き続けるさやかのその姿は、克己が求めてやまないものの一つだった。
 故にこそ、克己はさやかを強く求め、欲する。
 NEVERの六人目として、是が非でも傍に置いておきたいと、そう思える程には、克己は美樹さやかという人間を気に入っていた。

 だが、本人すらも気付いているのかどうかは曖昧ではあるけれど、克己がさやかを気に入った理由は、それだけではなかった。
 克己の音楽に触れたさやかは言った。きっと、克己は元々は優しい人間だったのだろう、と。
 そんな事を言ってくれる人間は、今となっては生前の――優しかった、らしい――克己の姿を知る母だけしか居ない筈だった。
 そんな事を言われても覚えていないのだから、全く以て馬鹿馬鹿しい話だと嘲笑う事しか今の克己には出来ないが、それでも母と同じ名を持つ少女の、母と同じ言葉には、感じるものがあった。
 また、余談ではあるが、美樹さやかを選んだユニコーンの逸話において、聖獣ユニコーンが唯一心を開いた処女の名もまた、母のコードネームと同じ「マリア」と云うらしい。
 これが偶然とはとても思えなかった克己は、この出会いを偶然の擦れ違いのままで終わらせてなるものかと強く思う。
 さやかと克己以外は誰も居ない展望台で、新品のジャケットを羽織った克己は、肩をぐるんと回しながら、目の前で剣を構えるさやかに嘯いた。

815Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:17:37 ID:TvCIWvFU0
 
「ハンデだ。俺はエターナルもユニコーンも使わん、全力で来い」
「……ねえ、ホントにこんな事する意味あるの? 今はそんな場合じゃないと思うんですけどー」
「今のお前じゃアポロガイストは愚か、奴よりも弱い敵にも勝てんだろ。だから俺が戦い方を一から叩き込んでやるって言ってるのさ」

 軽快にステップを踏みながら、克己は両の拳を緩く構える。
 相手は剣の使い手だが、まだまだ不慣れで、未熟だ。恐らくは、さやかがどんな戦法で挑んで来ようとも、克己もさやかと同じ不死性を持つ以上、例え剣対生身であろうとも敗北する事はないだろう。
 これは今のさやかに必要な儀式だった。今のままでは、さやかはいつか遠からず、自分の闇に押し潰されて絶望の海に沈む事になるだろう。克己がそこから直接さやかを救い出してやる事は出来ないが、それでもさやかを強く鍛えてやることなら出来る。
 さやかも自分の未熟さについては一応は把握しているのか、不承不承ながらも剣を構え直し、克己の提案に乗った。
 ――要は、さやかを鍛える為のトレーニングをしようというのだった。

「いいかさやか、自分の力意外は頼るな。その剣一本で、お前はもっと強くなれる筈だ」
「はぁ、相変わらず意味分かんないけど、何となく分かったわよ。
 要するに、アレは使うな……っていうか、アレには頼るなってんでしょ?」
「そうだ、“お前の”力を見せてみろ、さやか」
 
 お前の、という言葉を強調して克己は言う。
 さやかの言うアレとは――さやかの最後の支給品――、どんな戦局をも覆し得る可能性を秘めた、言わば切り札だ。
 が、克己から言わせればそんなものに頼るようではまだまだだ。何かに縋り、頼っている限り、その者は何時まで経っても強くはなれない。
 切り札など、本来使う物ではないのだ。そもそも、それに頼らずとも確実に勝てるだけの強さも持たぬ奴が、そんな切り札を持つべきでもない。そしてそれは、さやかの回復能力もまた然りだった。
 大体にして、回復能力に頼り切ったさやかの戦術は穴だらけなのだ。自分へのダメージを度外視しての我武者羅な突撃など、戦術としては最早“問題外”といってもいいだろう。
 克己のように、回避も出来るが敢えて攻撃を喰らってやる、というパターンならばまだしも、さやかはただ純粋に「回避が出来ないから、避ける事を諦めた」だけだ。
 喰らい付いてでも勝利を奪い取ろうとするその根性と精神力だけは、ガキにしては上出来だと褒めてやってもいいかも知れないが、そんな馬鹿な戦い方がいつまでも通用するほど“戦い”というものは甘くはない。
 それが分からないうちは、さやかを一人で戦場に立たせるべきではないと、克己はそう判断すると同時に、これから自分がそれを一から叩き込んでやらねばならないのだと強く思う。

「もしお前が今よりもっと強くなれたら、その時はユニコーンも返してやるよ」
「言ったわね、上等じゃん……! 絶対あんたより強くなって、ユニコーンを取り返してやるんだから!」
「面白い、やってみろ」

 いよいよやる気を出して来たさやかの様子に、克己はふっと笑った。
 克己がさやかからユニコーンを預かったのも、そんな未熟な奴に危険なT2メモリは預けてはおけないと判断したからだ。少なくとも、今はまだ。
 ……もっとも、純粋にメモリの王者たるエターナルで、ユニコーンのマキシマムの威力を確かめてみたい、という好奇心もあるにはあるのだが。

 それから一拍の間を置いて、それじゃあ行くよ、と小さく呟いたさやかが、ゆらりと腰を落とす。
 克己もまた構えは崩さないまま、手招きするようにさやかを誘う。

「さあ来いよ、踊ってやる」
「上等……っ!」

 克己の挑発に乗ったのだろう、さやかは剣を構えたまま、地を強く蹴った。
 こうして、誰の目にも付かないであろう二人きりの密室を舞台に、秘密の特訓が始まった。

816Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:17:55 ID:TvCIWvFU0
 
 
 
【一日目-日中】
【G-5/風都 風都タワー展望台】

【大道克己@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】健康
【首輪】70枚:0枚
【コア】ワニ
【装備】T2エターナルメモリ、T2ユニコーンメモリ@仮面ライダーW、ロストドライバー@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、NEVERのレザージャケット×?@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:主催を打倒し、出来る限り多くの参加者を解放する。
1.さやかが欲しい。その為にも心身ともに鍛えてやる。
2.T2を任せられる程にさやかが心身共に強くなったなら、ユニコーンのメモリを返してやる。
3.機会があれば、T2ユニコーンメモリでのマキシマムドライブを試してみたい。
4.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡す訳にはいかない。
【備考】
※参戦時期はRETURNS中、ユートピアドーパント撃破直後です。
※回復には酵素の代わりにメダルを消費します。
※仮面ライダーという名を現状では知りません。
※魔法少女に関する知識を得ました。
※NEVERのレザージャケットがあと何着あるのかは不明です。
※さやかの事を気に掛けています。
※名簿はまだ確認していません。


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】青
【状態】健康、魔法少女に変身中
【首輪】70枚:0枚
【コア】シャチ
【装備】ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、NEVERのレザージャケット@仮面ライダーW
【道具】基本支給品、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、ランダム支給品1(確認済み、さやかと克己にとっては切り札となり得るもの)
【思考・状況】
基本:正義の魔法少女として悪を倒す。
0.克己を乗り越えてより強くなる。
1.克己と協力して悪を倒してゆく。
2.勝つ為なら自分の身体はどうなっても構わない。
3.T2ガイアメモリは不用意に人の手に渡してはならない。
【備考】
※参戦時期はエルザマリア撃破後〜行方不明中の間です。
※ソウルジェムがどの程度濁っているのかは不明ですが、現在は安定しています。
※回復にはソウルジェムの穢れの代わりにメダルを消費します。
※NEVERに関するの知識を得ました。
※さやかの最後の支給品は、「どんな戦局をも覆し得る可能性を秘めた切り札」ですが、それが何であるかは後続の書き手さんにお任せします。
※名簿はまだ確認していません。

817Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:18:19 ID:TvCIWvFU0
 


 
 
 
・NEVERのレザージャケット
 大道克己がリーダーを勤める傭兵集団NEVERの一員が着るジャケット。
 原作では大道克己が仲間と認めた者にこのジャケットを渡し、NEVERに誘う描写がみられた。
 ジャケットのデザインを担当したのは副リーダーの泉京水だが、勿論機能性は重視されている。

 
・T2ガイアメモリ
 適合率の高い使用者(ユーザー)と惹かれ合う性質を持つ、青い端子のメモリ。使用する為のコネクタ手術は必要なく、従来のガイアメモリと違ってメモリの毒素も存在しない為、誰でもドーパントに変身する事が可能。
 ただし、適合率の低い使用者(ユーザー)が手にした場合は、メモリ自体が使用者(ユーザー)の体内に自動的に入り込み、使用者(ユーザー)を強制的にT2ドーパントとして活動(暴走)させる性質を持つ。
 また、T2ガイアメモリには従来のガイアメモリと違い、使用者(ユーザー)への負荷を和らげる為の措置である「メモリブレイク」のシステムが搭載されていない為、ドーパント時に許容量を越えたダメージを受けた場合でも破壊(メモリブレイク)される事はない。メモリが破壊されない代わりに使用者(ユーザー)の身体には相応の負荷が掛かる。
 
・T2ユニコーンメモリ
 ユニコーン(一角獣)の記憶を内包した緑色のT2ガイアメモリで、使用者をT2ユニコーン・ドーパントへと変身させる。ドーパント態は本編未登場。
 マキシマムドライブとして使用した場合、使用者の攻撃に貫通力をプラスさせる。原作では仮面ライダーエターナルがこれを使用し、ドリル状のエネルギーを纏ったコークスクリューパンチで仮面ライダージョーカーを窮地に陥れた。

818Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ ◆MiRaiTlHUI:2012/03/10(土) 00:28:01 ID:TvCIWvFU0
今回はこれで投下終了です。
タイトルの「U」は分かり易いところでは加頭のUTOPIAとさやかのUNICORN、
あとは死人を意味するアンデッド(克己、さやか、加頭)を意識しての「U」です。
若干こじつけだけど、治癒能力持ちのさやかでアンブレイカブルの「U」もあるかも。
今回も分割確定ですので、>>810のアポロガイストらの状態表までを前編、それ以降を後編という扱いでよろしくお願いします。

ユニコーンメモリも克己が持ってる分にはまだ原作通り(マキシマムとしては使用された)なので、
現状ではオリ展開(ユニコーン・ドーパント)にはならないと判断しそのまま投下させていただきました。
もしこれが問題だというなら、今回の話は成り立たなくなりますので、破棄という事にして下さって構いません。

819 ◆qp1M9UH9gw:2012/03/10(土) 02:29:34 ID:zpOucar20
投下を開始します

820 ◆qp1M9UH9gw:2012/03/10(土) 02:31:07 ID:zpOucar20
【1】

ノブナガが別の参加者と出会うのに、そう時間はかからなかった。
目に付いた場所に偶然居たのもそうだが、何よりもその人物は目立っていたからだ。
青色のスーツに、三角形の髪飾りを付けた珍妙な髪形をした青年である。
少なくとも、会社務めをしている人間の風体ではないのは明らかであった。
彼の姿も目を引くものがあったが、彼の肩に乗った生物もこれまた奇妙である。
それの体毛は雪のように白く、微動だにしない瞳は、ルビーがそのまま埋め込まれた様な赤だ。
耳から生えた腕らしきパーツが、この生命体の異様さを物語っている。
スーツ姿の青年に乗っている事が何だか不釣合いなのもあって、その光景は何とも奇妙であった。

青年を発見してすぐに、ノブナガは接触を試みた。
今の彼は「自我を構成する為のセルメダルの不足」という、一刻を争う状況に置かされている。
このまま何もしなければ、たちまち彼は無機物の山に逆戻りだろう。
そうならない為にも、可能な限り早急にセルメダルを補充する必要があるのだ。
先程交戦した男や自分自身の様に、青年が強力な怪人に変化する可能性もゼロではなかったが、
それを気にしていられる程、悠長に構えている場合ではない。

(ハッ……まさか俺が人に頼る事になるとはな……)

人に物乞いをするなど、以前の自分では有り得なかっただろう。
こうまでしなければ生きられない自分の体を呪いたかったが、
今更そんな事を嘆いても仕方ないはノブナガとて承知していた。

さて、率直に結論を言うと、青年は殺し合いには乗っていなかった。
どうやら運命の女神とやらは、こちらに味方したようだ。

821王【のぶなが】 ◆qp1M9UH9gw:2012/03/10(土) 02:35:49 ID:zpOucar20
【2】

路上で長話をしていると、他の参加者に発見される恐れがある。
友好的な人物ならまだ良いが、形振り構わず襲いかかるような奴に見つかったら目も当てられない。
と言う事情から、青年との情報交換は室内で行う事となった。
ノブナガ達が選んだのは「芦川」という表札が取り付けられた家である。

不潔極まりない空間の中で、改めて情報交換が始まった。
ノブナガも、出来る限り多くの情報を提供するつもりではあるが、
自身がホムンクルス――つまりは化け物である事はあえて伏せておいた。
それが原因で面倒な事が起こる可能性も、ゼロとは言い切れないからである。

「脳噛ネウロ」と名乗ったその青年は、見た目に似合わず実に礼儀正しい男である。
本人曰く、「桂木弥子探偵事務所」なる場所で高校生探偵「桂木弥子」の助手をしているらしい。
彼はその少女を有名人だと言っていたが、ノブナガの記憶の中に「桂木弥子」という少女の名は何処にも無い。
仮に彼女が何かしらの形で新聞の一面を飾っているのだとしたら、彼の頭脳にその名が刻まれている筈だ。
しかしどんなに記憶を調べても、少女の名も、そして彼女が解決してきた事件に関連した事柄も出てこなかった。

「理解し難いな。お前の話した事件は全く聞き覚えが無い」
「妙ですね……日本人なら常識として知っていてもおかしくないのですが……。
 それに、それを言うなら『鴻上ファウンデーション』という企業なんて僕は知りませんよ?」
「……何だと?東京に住んでいるのなら知っていてもおかしくは無い筈だが」

常識と謳われている事件を知らぬ程、ノブナガは世間知らずではない。
かと言って、ネウロが嘘をついている様にも思えない。
では、この会話の食い違いは何によって生まれるのだろうか。

「……ノブナガさんは『パラレルワールド』というものをご存知でしょうか?」

不意に、ネウロがそう尋ねてきた。
彼が言うには、真木清人は平行世界を行き渡りできる能力を何かしらの形で入手しており、
その能力を応用して様々な世界から参加者を集めているらしい。
確かにその理論ならば、ノブナガが「桂木弥子」という名に全く見覚えがないのにも納得がいく。
しかし、そのようなファンタジーの領域にある考えを、果たして認めてしまっていいものなのだろうか。
決定的な証拠もないままこの発想を受け入れるのに、ノブナガは強い抵抗感があった。

「……何かと思えば馬鹿馬鹿しい。『桂木弥子探偵事務所』は"その手"の事件専門なのか?」
「失礼な、先生は現実的な事件専門ですよ。それに、この説は僕だけで考えた訳ではありません」
「ほお……では誰がお前に告げ口したのだ?そいつの顔を見てみたいものだな」
「顔なら何時でも見せてあげるよ。減るものじゃないし」

二人の会話に割り込んできたのは、少年の様な幼い声だった。
ノブナガが声の方向に目を向けると、そこにはあの白い獣が、やはり動きを見せない赤い瞳でこちらを見つめていた。
まさかこいつが人の言葉を理解し、人の言葉で返答をしたと言うのか。

822王【のぶなが】 ◆qp1M9UH9gw:2012/03/10(土) 02:39:16 ID:zpOucar20
「……ネウロ、さっきから気になっていたが、こいつは何者なのだ?」
「『キュゥべえ』という名前の生物らしいです。僕のデイパックの中に入っていたので、支給品の一つと考ええるべきでしょう」

まさか人の言語に対し完璧な対応をする動物が、本当にこの世に実在していたとは。
冗談のような話ではあるが、実物が目の前に居る以上、認めるしかあるまい。

「人の言葉を話す動物とは……随分と奇怪な支給品だな。それで、平行世界の話はこいつから聞いたのか?」
「ええ、彼の言っていた『暁美ほむら』という少女についてなのですが……」

そう言うとネウロは、キュゥべえから聞いた「暁美ほむら」の情報を話し始めた。
彼女はキュゥべえと契約を交わした「魔法少女」の一人でありながら、キュゥべえの邪魔をする謎めいた存在である。
彼女の目的は「鹿目まどか」の救済――どんな犠牲を払ってでも、彼女を救うつもりだったらしい。
その救済に関してだが、ここで平行世界が絡んでくる。
なんと彼女は、目的の達成に失敗したら、自身の能力によって”別の平行世界”に跳躍していたと言うのだ。
挫折の度に世界を行き来し、一人の少女の救済に尽力した彼女の苦労は、想像に難くない。

「これが真実だとするのなら、平行世界の存在を証明できるのではないのでしょうか?」
「確かにそうかもしれんな……本人の口から聞きださぬ限り、完全に信用はできんが」

彼女の話が事実であったのなら、それはすなわち平行世界の存在も事実であるという事を意味している。
どうやら「暁美ほむら」はこの場に連れて来られている様なので、実際に出会えれば話の真偽が伺えるだろう。
それまでは、平行世界に関する考察は保留としておこう。

「しかし魔法少女か……随分と御伽めいた言葉が出てきたものだ」

平行世界の話で出てきた「魔法少女」というワード。
今では日曜朝の女児向けアニメ――あれも厳密には違うのだが――でしか見ないとばかり思っていたが、
まさかこんな殺伐とした場でその言葉をお目にかかる事になろうとは。

「興味があるのかい?残念だけど君に魔法少女の素質は――」
「誰がなりたいと言った、馬鹿が」

823王【のぶなが】 ◆qp1M9UH9gw:2012/03/10(土) 02:44:33 ID:zpOucar20
【3】

「鴻上のビルに向かう」

情報交換を終えたノブナガは、きっぱりとそう宣言した。
その目に一切の迷いは無く、其処に行けば必ず何かが分かるという確信めいたものがあった。

「真木清人は鴻上ファウンデーションの研究員だ。
 奴がいる以上、この殺し合いに鴻上が絡んでいるのは間違いない。
 ならば、奴らの本拠地を調べるのは当然だろう」

鴻上ファウンデーションは、言ってしまえばノブナガの親のような存在である。
この企業が存在しなければ、ノブナガが現世で二度目の生を謳歌する事はなかったし、
この殺し合いでノブナガの名が名簿に載る事もなかっただろう。
生き返らせてもらった恩義なら感じているが、それで恩返しをするかと聞かれれば、そんな事をするつもりは毛頭ない。
第六天魔王に逆らった罪は重い――真木もろとも叩き潰してやろうではないか。

「異論は無いな、ネウロよ」
「おや、僕も同行する事になっているのですか?」
「当然だとも。この世の全ては俺の所有物だからな。
 出会った者も例外ではない――全て俺の配下に加える」

宝であろうが命であろうが、この世のものを所有する権利は一つ残らず己にある。
それを勝手に使い捨てようとする真木が気に喰わないからこそ、ノブナガは反旗を翻したのだ。

「お前の望むものは全て俺が奪い返してやる。
 だから今だけは……桂木弥子ではなく、この俺の助手となるが良い」

そう言って、ノブナガはネウロに向けて手を差し伸べた。
手を向けられたネウロは、何も言わぬまま彼の手を取った。
握手を交わしたという事は、ネウロがノブナガの要求を飲んでくれたという事である。

「僕も自衛の手段がありませんからね。しばらく同行させてもらいましょう」
「……感謝する」

王らしからぬ口調で、ノブナガが言った。
ネウロの顔を見てみると、彼は少しばかり苦笑いを浮かべている。
それが何だかおかしくて、ノブナガも少し笑ってしまった。
その時の彼の笑顔は、ホムンクルスとして生まれて、まだ間もない頃のそれとよく似ていた。



「……そう言えば、『桂木弥子』もこの場に呼ばれていたのだったな……優先して探す必要があるか」
「いえいえ!先生はクマムシ並みの生命力で数々の修羅場を潜り抜けたお方ですから、そう簡単に死にはしませんよ!」
「そ、そうか……」

824王【のぶなが】 ◆qp1M9UH9gw:2012/03/10(土) 02:48:23 ID:zpOucar20
【4】

ネウロが出発する前に用を足したいと言い出したので、ノブナガは家の前で待つ事となった。
何とも間の悪い話だとは思うが、生理現象である以上仕方がない。

(しかし……この戦力差は桶狭間を思い出すな)

戦力は未知数だが、間違いなく強大であろう事は確かな主催側に対し、
首輪によって命を握られ、誰が敵になるかも分からぬ状況に置かれている参加者側。
圧倒的なハンデを付けた状態で戦うのは、久方ぶりである。

(フン、兵が少ないのなら策で乗り越えるまでだ。あの頃と同じ様にな)

戦で真に重要となるのは、数ではなく戦術だ。
いくら最強と謳われる騎馬隊であろうが、数万人もの大軍勢であろうが、
策を練る者が居なければ、それらはただの案山子も同然である。
逆に言ってしまえば、優れた戦術さえあれば、たった数千人の兵でも数万人の兵を相手取れるのだ。
それはこの殺し合いとて同じ事――策を弄すれば、主催の打倒は不可能ではない筈。

(これが織田信長の最後の戦だ……鴻上の首、必ず取ってみせる)

何としてでも主催者を倒して、一人でも多くの民を救う。
それこそが、ノブナガの最期を看取った友――火野映司にできる、唯一にして最後の恩返しであった。
心優しい彼ならば、間違いなく人殺しを容認しないだろう。
彼に欲望があるとするのなら、それは恐らく「人を救いたい」というものだ。
ならば、その手助けをしてやるのが彼の友としてしてやれる事ではないのだろうか?

何時の間にやら、メダルの消費は収まっていた。
自身の欲望――王でありたいという欲望――が満たされているからだろう。
ネウロにセルメダルを要求しようと思っていたが、どうやらその必要は無いようだ。

空に目を向けた。
澄み切った水色は、ノブナガの心を潤してくれる。
こんなに美しいものが、こんなに近くにあった事に、どうしてあの頃は気付かなかったのだろうか。
その感情と同時に沸き起こったのは、この美しい情景を汚そうとしている主催者に対する怒りである。
誰であろうと、この空の色を否定する者を許しはしない。
純粋に、欲望を抜きにして初めて「美しい」と思えたこの空だけは、絶対に守りきってみせる。

825王【のぶなが】 ◆qp1M9UH9gw:2012/03/10(土) 02:53:01 ID:zpOucar20
【5】

「用を足したい」というのは真っ赤な嘘であり、本来の目的はネウロとキュゥべえだけで話せる場所を作る事である。

ネウロの表情からは、先程まであった好青年の印象は消えている。
あの曇りない笑顔は偽りのもので、これこそが脳噛ネウロの本性なのだ。
かつて、魔界の全ての「謎」を喰らった魔人――それが彼の真の姿である。
一方のキュゥべえは、相変わらず無表情のままである。

「……貴様、ノブナガには全てを話さなかったな。何故だ?」

情報交換の最中、ノブナガは「魔法少女」について話を聞きたいと言ってきた。
キュゥべえもそれに応じてはいたが、実際には表面的な部分しか話してはいないのだ。
つまり、ノブナガには全てを話してはいないのである――ソウルジェムの正体を始めとした、魔法少女の残酷な運命を。

「彼が聞かなかっただけさ。君と違って深く追求しなかったからね」

ゆらゆらと尻尾を揺らしながら、キュゥべえ――否、インキュベーターは答えた。
"魔人"ネウロが、床に鎮座したインキュベーターを見据える。

「その様子だと、魔法少女にも真実を教えていないようだな」
「彼女達の質問に対する答え"だけ"を話しているだけさ。嘘は一つも言ってないよ?」
「詐欺師と何ら変わらんな」
「無駄が無いと言って欲しいね」

"魔人"としての脳噛ネウロは、キュゥべえが「魔女の孵化機(インキュベーター)」である事を知っている。
初めてキュゥべえから魔法少女の話を聞いた際に、彼は「魔法少女の真実」すらも引き出していたのだ。
これは、ネウロの卓越した頭脳があるからこそ可能な芸当と言えるだろう。

「成程。その手法で幾多の魔法少女を魔女にしてきた訳だな」
「さっきから君は失礼だね……ボク達は直接魔法少女を絶望に追いやる事はしないよ」

彼女達が勝手に絶望して魔女になるだけさ、と嘯くと、インキュベーターは呆れ気味にため息をついた。
いや、「ため息をついたような」仕草をしただけである。
感情の存在しないこの生命体達に、「呆れ」と言う概念があるものか。

「ボクは嘘をつく気も無いし、騙す気もない。当然、君との約束も守るつもりさ」

ネウロはインキュベーターと、"互いの正体は秘匿する"という約束事を交わしている。
これは自身が魔人であるという事実を隠蔽する為のものだ。
情報の漏洩を防ぐ為なら、手っ取り早くインキュベーターを殺してしまえば良いだけの話ではあるのだが、
彼がそれをしようとしないのは、インキュベーターという人間の進化の礎となった存在に興味があったからである。

「どうやら今は契約もできないみたいだからね。しばらくはキミを観察でもしているよ」
「奇遇だな。我輩も貴様を観察してみたいと思っていたのだ」
「その意見だけは合致するようだね――さてと、ノブナガが待ってる。そろそろ行った方がいいんじゃないかな?」

インキュベーターはそう言うと、踵を返してネウロの元から離れていく。
ネウロもそれに続いて、歩みを進めていった。

インキュベーターの脳内で想起されるのは、最初にネウロと出会った時の記憶。
あの会話があったからこそ、ネウロという個体に興味を抱いたのだ。



脳噛ネウロ。君はどんな願い――いや、どんな欲望で自分の器を満たすんだい?


我輩の欲望は食欲だけだ。欲望に従って――真木清人の純正の謎を食らい尽くす。

826王【のぶなが】 ◆qp1M9UH9gw:2012/03/10(土) 02:54:28 ID:zpOucar20

【ノブナガ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】45枚(増加量が消費量を相殺している):0枚
【コア】サソリ、カニ、エビ、カメ
【装備】バースドライバー@仮面ライダーOOO、メダジャリバー@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:この世の全ては俺の物。故に、それを傷つける輩には天誅を下す。
 1.ネウロと共に鴻上ファウンデーションに向かう。
 2.火野映司と合流する。友として恩を返したい。
 3.コアメダルを集め、グリードに対抗できる力を得る。
 4.平行世界については半信半疑。「暁美ほむら」に出会い真偽を問いたい。
【備考】
※参戦時期は、映司に看取られながら消滅した後です。
※王として頂点に立つ=集団のリーダーになる事でメダルが増加します。
 また、集団の規模が大きくなる程、その増加量は大きくなっていきます。
※肉体・自我の維持にメダルを消費します。
 またその消費量は、内包する甲殻類系のコアメダルが少ないほど増加します。
※甲殻類系のコアメダルによるコンボチェンジは出来ません。
※爬虫類系コアメダルではグリードは復活しません。
※この殺し合いに鴻上ファウンデーションが関わっていると推測しています。
※脳噛ネウロ、キュゥべえと情報交換をしました。
 ただし、「魔法少女の真実」は聞かされていません。


【脳噛ネウロ@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、インキュベーター(キュゥべえ)@魔法少女まどか☆マギカ、不明支給品0〜2
【思考・状況】
基本:真木の「謎」を味わい尽くす。
 1.ノブナガと共に鴻上ファウンデーションに向かう。
 2.表向きはいつも通り一般人を装う。
 3.知り合いと合流する。そう簡単に死ぬとは思えないので、優先はしない。
※少なくともシックス編からの参戦。
※ノブナガ、キュゥべえと情報交換をしました。魔法少女の真実を知っています。

827 ◆qp1M9UH9gw:2012/03/10(土) 02:58:48 ID:zpOucar20
投下終了です

828名無しさん:2012/03/10(土) 03:18:41 ID:9VH194moO
お二方とも投下乙です!

Uの目指す場所
死人コンビの次は自分と似た力を持ったこれまた 死 人 ここでもガイストさんこんな扱いかw
さやかあちゃんは克己ちゃんというパートナーの存在がいいストッパーになるか?原作じゃ一人で突っ走っては毎回絶望にゴールしてたし

王【のぶなが】
出たなQB!(某ゲッ○ー風に)つーか二話続いて人外しかいねえw
あれ、この目的地ってもしや早くもWバースが揃っちゃうのか?装着者が別人28号とはいえ

829名無しさん:2012/03/10(土) 03:51:51 ID:M6C.urhYO
投下乙っす。
このQBは契約することが可能でしかも不死身ですか?

830名無しさん:2012/03/10(土) 07:15:19 ID:wtd2bbO.0
お二人とも投下乙です。

>>829
契約は不可能だってさ。

831名無しさん:2012/03/10(土) 08:50:13 ID:IvjR5S3E0
お二人とも投下乙です!

>Uの目指す場所
ようやく逃げられたと思ったら……また死人かw アポロさん、ドンマイ……
克己はさやかちゃんのいい師匠になってくれそう。そしてさやかはレイカの後輩になる?w

>王【のぶなが】
まさかのQB登場!w ネウロは彼(?)からも謎を引き出してくれるのか……
そしてノブ君もなかなか綺麗だな。でも今の映司と出会ったら、どうなるだろう……

832名無しさん:2012/03/10(土) 09:17:24 ID:9VH194moO
>>829
ついでにこいつは不死身じゃなく「私が死んでも代わりはいるもの」タイプなわけで、一度死ねば当然ロワとしては即退場。

833名無しさん:2012/03/10(土) 14:20:41 ID:NDU5t11cO
>>831
ネウロ「惜しい。謎はある……しかし悪意はない」

834名無しさん:2012/03/10(土) 15:41:10 ID:6fO7texw0
投下乙です

アポロさんはもうねえw
さやかちゃんはロワに巻き込まれたのに原作より恵まれてるんだよなあw
この師弟の行く先が報われるものになって欲しいなあ

ネウロとノブナガだけと思ったらQBキターっ!?
ネウロさん、あんたの性格ならそいつと普通に付き合えるだろうが…
ノブナガが綺麗なだけに今の映司と出会った時が大変だわ

835名無しさん:2012/03/10(土) 17:47:24 ID:sNgG/XmA0
投下乙です

>QUESTION & HINT
年長組ならではの伊達さんの器の広さのおかげで、投げやりになってた鈴音はとりあえずは安心か?
しかしバーナビーの方は「易々と虎徹さんの真似すんなよムカつくわ」って…
二人が似てるとは思ってたけどこの発想は予想外。虎徹への神聖視がなんだか怪しい方向に向かってるなあ

指摘ですが、時間表記が午前になっています。そこはたぶん午後です

>Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ
1レスちょっとで逃亡するアポロさん…もっと粘ってもいいのよ
克己とさやかは師弟関係になったか、恋愛フラグが立ちかねない雰囲気だったけどw
お互いの支えとなる物の確認やアイテム受け渡しなど、ペアの特性の強調が上手

>王【のぶなが】
全てを守り強大な敵にも堂々と立ち向かわんとする威風堂々のノブナガと、QB相手に渡り合う頭脳と根性のネウロ
二人とも色々な意味で強豪、そしてまさにオーズロワのテーマ通り貪欲だ

あと指摘を。時間と場所の表記を忘れてますよ

836 ◆qp1M9UH9gw:2012/03/11(日) 01:26:59 ID:Pqh7a2qc0
失礼しました。時刻と現在位置は【一日目-日中】【F-4/芦河ショウイチ家】とします

837名無しさん:2012/03/11(日) 01:48:20 ID:aKxzqY120
お二人とも投下乙です

>Uの目指す場所/ボーダー・オブ・ライフ
さやかちゃんが珍しく本当に救われようとしている…!
ここから彼女自身がどう変わっていけるのか楽しみです
共通点を足がかりにさやかと克己が良ペアとして昇華していく様子は見ていて溜息が漏れました

>王【のぶなが】
ノブナガが強い欲望で対主催であるのは頼もしいですね
ネウロを配下に入れようとしたり映司の影響が出ていたりで、綺麗なノブナガらしくてかっこいい
きゅうべえとネウロのやり取りすごい好みでした!
ネウロの表情が簡単に想像できてしまう…


仮投下・修正用スレに以前の作品の修正案を投下しました
ご意見をお待ちしております

>>835
すみません、間違えました
時間表記は「午前」ではなく「日中」です
訂正いたします

838 ◆l.qOMFdGV.:2012/03/11(日) 01:49:16 ID:aKxzqY120
酉忘れ失礼しました…

839名無しさん:2012/03/19(月) 21:47:01 ID:CDzSM2Xs0
予約来たぞ

840名無しさん:2012/03/21(水) 12:29:12 ID:f8W0AJVs0
wktk

841名無しさん:2012/03/27(火) 10:38:20 ID:y.xE34TI0
破棄になったぞ

842名無しさん:2012/03/27(火) 13:24:18 ID:48LKHMDA0
残念だけど仕方ないね
次を待とう

843名無しさん:2012/03/28(水) 01:08:25 ID:SQFIWPfQ0
次に期待
余裕があったらまた予約して欲しいな

844 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:42:48 ID:MJJklj4Q0
随分と遅れてしまいましたが、これよりカザリと海東分を投下させていただきます。

845 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:46:05 ID:MJJklj4Q0
 ボードゲームにおいて、その勝敗を分かつ絶対的な条件となり得るモノ、というのは、決して“ただ強いだけの駒”などではない。どんなに強い駒を保有していようとも、それを動かすプレイヤーが無能ならば宝の持ち腐れでしかないのだ。
 そう、真の強者(ゲームプレイヤー)は、如何に不利な状況であろうとも的確に状況を読み込み、最小限の駒を活かして最後には必ず勝利を掴み取るものである。
 それを他の誰よりも理解しているが故、詳細名簿と地図とを幾度か交互に見比べ、その両方の大体の情報を頭に叩き込んだカザリは、次に打つべき一手を決めクスリとほくそ笑んだ。

(ま、単純な話だよね)

 カザリが目を付けたのは、地図上で言う「剣の世界」をスタート地点とする参加者の一人――青陣営のリーダー、メズールである。
 メズールも馬鹿ではないのだから、恐らくは近くに居る青陣営の参加者に接触し、自らの駒とする事から始めるのだろうが……生憎な事に彼女の近くに居る青陣営――セシリア・オルコットと美樹さやかは、詳細名簿を見る限りではこんな殺し合いに乗るような人間だとは思えない。
 であるなら、使える駒も少なく、四面楚歌に近い状態でゲームを始める事となったのは自分だけではなく、メズールも同じだと言える。

(なら、メズールに条件を揃えられる前に潰しに掛かるべきかな)

 条件はほぼ同じ。ならば、メズールが駒を揃える前に潰しておきたいと、カザリは思う。
 これは決して短絡的な思考で至った結論ではない。このゲームに於いて最も重要なのは、如何に他の陣営のリーダーを潰すか――極論を言えば、参加者の間での潰し合いなどはどうでもいい些事である――、だとカザリは考えているのだった。

(だってそうでしょ?)

 カザリが目を付けたのは、このゲームの特殊なルールの一つ……「陣営の頭であるグリードを潰せば、その陣営に所属していた参加者は全員無所属となる」という点だった。
 これは狡猾なカザリにとって、見逃すのはあまりに惜しいルールだった。
 例えば、今カザリに最も近い位置に居るメズールを潰せば、青陣営は全員無所属となる。無所属が増えるという事は、それだけでも黄色陣営に引き込める人員が増えるという事だが、上手くメズールのメダルを全て奪い取れば、青陣営の全参加者を自分の陣営に引き込むことだって出来る。

846 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:47:36 ID:MJJklj4Q0
 
 そう、何も正面から戦う必要はないのだ。黄陣営のリーダーたる自分はただ、逃げも隠れもしながらいつも通り“賢く”立ち回り隙を見てリーダーを潰してゆけば、それだけで優勝する事が出来るのである。
 カザリと比べてずっと単純なウヴァあたりはどうせ、ただ強い者を味方に引き入れ徒党を組む、というところまでは思い付いたとしても、ゲームの法則など考えもせず、そこ思考を止めて慢心しているのだろうなと予想すると、思わず嘲笑が漏れる。
 とにかく強力な戦力で身を固め、現在の自陣営以外は潰す……というのは正攻法ではあるし、見境なく手駒を増やそうとするカザリの策とは違い、獅子身中の虫を引き入れてしまう可能性も少ないのだろうが、それはカザリのやり方とは違う。
 カザリには、様々な策を弄するであろう参加者達を味方に引き入れたとしても、それらを御するだけの智恵と戦略がある。それは、現在の黄陣営が持つ最大の強みでもあった。

「まあ、精々頑張ってね、ウヴァ?」

 あの気に入らない虫頭もいずれ潰してやるが、と胸中で思いながらも、心にもない応援の言葉を空に投げたカザリは、確実で綿密な計画の下に成り立つ勝利を信じて歩きだすのだった。
 



 デイバッグから取り出した小冊子――ルールブック――に載せられている地図を確認し、現在位置が「IS学園」であろう事を確認した海東大樹は、感心した様子で「へえ」と呟いた。
 大樹の眼前に拡がるのは、広大な敷地内に設けられた近未来的なデザインの建造物――学園という程なのだから、恐らくは校舎なのだろうが――の数々。それは学び舎としてのイメージからはあまりにもかけ離れた光景なのだが、ここがIS(インフィニット・ストラトス)なる機動兵器が存在する未知の世界なのだとすれば得心もゆく。
 恐らくは今大樹が居る“円”の内部は、「ISの世界」というのだろう。主催者が一体どのような方法で空に浮かぶこの広大な土地を用意し、その中に幾つもの世界から盗んで来た土地を設置したのか、などという事は気にならないではないが、さほど興味はなかった。
 最終的に自分が生き残る事さえ出来ればそれだけでいいのだから、そこに至るまでの過程など何だっていい。優勝する事さえ出来れば、この世界に数多あるお宝も、真木の持つ未知の技術も、何もかもこの自分が盗んでやればいい話ではないか。

「待っていたまえ、必ず僕が全て手に入れてみせる」

 大きな野望を胸に抱いた大樹は、誰にともなく指で作った鉄砲を向け、ほくそ笑んだ。
 目に見える景色は美しい。海は陽光を受けて煌めき、豊かな新緑の木々は緩やかな風を受けてさざめいている。先進世界にしては随分と明媚な風景に気分を良くしながら、まずは野望への第一歩、この素晴らしい世界に隠されたお宝「インフィニット・ストラトス」を手に入れようと、大樹はデイバッグを肩に担ぎ直した。
 ――その時だった。

「ねえ、そこのキミ、ちょっと待ってよ」

 背後から突然聞こえた声に振り返るのと、ディエンドライバーを構えるのは同時だった。
 大樹の鋭い眼光とディエンドライバーの銃口が狙い定めたのは、その童顔さゆえ、大樹よりもやや年下と思われる、鮮やかな金髪――銀髪のようにも見える――の少年。
 黄色のチェック柄のジャケットに、頭から深く被ったキャップも黄色、髪の毛が金髪である事も相俟って、全体的に“黄色”の印象を抱かせるその男は、おりしも後方のIS学園の校舎内から出て来たばかりなのだろうと推測する。
 男は大樹に銃口を向けられているにも関わらず、まるで覚えた様子もなく、薄ら笑みさえ浮かべていた。この男には、銃を向けられた人間がまず抱くのであろう「恐怖心」というものがまるで見えない。
 この状況を打開する何らかの策があるのか、そもそも現状に現実感を持っていない愚者なのか。男の事はまだ何も分からないが、少なくとも此処は殺し合いの場だ。警戒を怠るわけにはいかない。

「何者だ、名を名乗りたまえ」
「おっ、と……銃を向けられてるんじゃ、下手な真似は出来ないね? ボクの名前はカザリ。キミに危害を加える気はないよ」
「……どうかな」

 まるで緊張感など感じさせぬ態度で大樹の誰何に答えた男の名はカザリ。
 一切の迷いが見受けられぬ、何処か軽い語調。下手な真似は出来ない、とは言うが、本当にそう思っているのかは甚だ疑問だった。

847 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:48:02 ID:MJJklj4Q0
 寧ろカザリの態度からは「銃くらいで自分をどうこう出来る訳がないだろう」と、そんな余裕すら感じられて、それが却って大樹の警戒心を強めさせる。
 何にせよ、この男は信用ならない。信用ならない相手と「正面から向かい合っての一触即発状態」というのは、非情に面倒だ。いっその事、相手に何かをされる前に動いた方が楽ではないか。
 そもそも殺し合いの場で不用意に接近してきたのはカザリの方だ。もしここで撃たれたとしても文句は言えまい。この男がお宝を持っているのならそれも奪い取って、とっととこの場から離れた方が事はスムーズに進む――

「――ねえ、」

 カザリが口を開いたのは、そう考えた大樹がディエンドライバーの引鉄に掛けた指に力を込めた、丁度その時だった。

「良かったらボクと手を組まない? 損はさせないよ」
「……見くびって貰っては困るなぁ。僕らはお互い敵同士だ、そんな言葉に騙される程、僕は甘くはない」
「それが、陣営なんてあんまり関係ないんだよねぇ……参加者全体の犠牲を最小限に抑えて、無駄な争いを避けてゲームに生き残る方法があるとしたら、キミだってその方がいいでしょ?」

 それは確かにそうだが、そんな方法があるなら誰も苦労はしないのではないか。
 一拍の間を置いて、油断なく銃を突き付けたまま、大樹は言った。

「まあ、僕だって無駄に戦いをしたい訳ではないからね」
「なら、ボクの話を聞いてみる価値はあると思うけど?」
「……いいだろう、簡潔に話してみたまえ」

 ディエンドライバーをしっかりと構え直し、此方はいつでもお前の命を奪う事が出来るのだと、立場は此方が上なのだということを言外に伝えながら説明を要求する。
 突き付けた銃は決してハッタリなどではない。所詮相手は名前と顔程度しか知らぬ男、こいつがお宝を得る上での障害になり得るなら、痛い目を見て貰うのも致し方のない事だ。
 対するカザリも大樹の意図を察したのだろう。やれやれとばかりに挙げたままの両の掌を天へ向け、やや小首を傾げたカザリは、「せっかちだね」などと呟きながらも説明を開始した。



 カザリの説明は至って単純だが、要点を的確に押さえたものだった。
 何も参加者一人一人と戦う事はない、倒すのはグリードだけでいいのだ。自分は黄色の陣営の頭で、他のグリード全員にも負けない戦闘能力と頭脳を持っているのだと、最初にカザリはそう伝える。
 掻い摘んで説明すると、「いずれ他の四人のグリードを倒し、全て――とは行かないまでも、可能な限り――の参加者を黄色の陣営に引き込んでから優勝する」という計画を立てているカザリに、今のうちから協力しないか、という話だ。

 特に、海東が属する白陣営のリーダーであるガメルは、悲しくなる程に単純で幼稚な男であるということも加えて説明する。
 実際、単独のガメルに理知的な行動など望めよう筈もない。あの男ならば、今こうしている間にも簡単に騙され寝首を掻かれ、相手が相手ならば、既に敗退していたとしても決しておかしくはない。
 ガメルが敗退すれば、白陣営は消滅する。ゲーム終了までに海東が何処かの陣営に属していなければ、結局敗者として全てを奪われてしまうのだ。であるならば、予めどのグリードよりも頭の切れるカザリに味方しておくのは決して悪い話ではない。

848 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:48:39 ID:MJJklj4Q0
 
 聞けば海東大樹――先程覚えた詳細名簿の情報によれば、確かこの男もオーズと同じ仮面ライダーだった筈――は、何としても殺し合いに勝ち残りたいという欲がある訳でもなく、ただ“お宝”が欲しいだけだという。
 カザリはそんなコレクションに興味はないし、お宝と思しき支給品を手に入れたなら海東に譲ってやっても構わないと考えていた。それだけであの強力な“仮面ライダー”を味方に引き込めるなら、安い取引だ。
 単純な物欲の為だけに戦う男には、この申し出を断る理由もない。この男は、少なくとも今この場では、確実にカザリの手に落ちると、カザリはそう確信していた。

「どうかな、決して悪い話じゃない。キミにはメリットしかないと思うけど」
「そうだなぁ、確かに僕が手を貸せば、黄色陣営を優勝させる事も難しくはないだろう。
 ……うん、これはいい話を聞かせて貰った! なら、僕も黄色陣営を優勝させる為に一肌脱ごうじゃないか!」
「賢明な判断だね、助かるよ」
「なに、気にする事はない。貴重な情報のお礼さ」
「じゃあ――」

 その銃を降ろして、と。そう告げようとしたカザリの耳朶を叩いたのは、海東の持つシアン色の銃が発する銃声。人の感覚を遥かに越えたカザリの目だからこそ捉える事が出来たのは、自分へ向かって真っ直ぐに飛んでくる、海東が放った数発の銃弾。
 全ては一瞬の出来事だった。銃声が聞こえるや否やカザリの身体は人ならざるものへと変じ、腕に装着された鋭利な鍵爪で以て、放たれた銃弾を叩き落した。
 小さく煙立つ自らの鍵爪をまるで他人事であるかのように冷めた目で見ながら、猫科の王たるグリードへと変身を遂げたカザリは、冷やかな声で問うた。

「一体どういうつもりかな?」
「言っただろう、僕は“お宝”は全て手に入れなきゃ気が済まない性質(タチ)だって」

 そんな事は既に知っているが……と、まるで海東の言葉が理解出来ぬカザリは、呆れ半分に猫に似た仮面をやや傾げた。
 意気揚々と語っていた海東だったが、そんなカザリの様子を見るなり、途端に落胆した様子で言った。

「おや。“理解出来ない”というのは悲しいね?
 君はもっと賢い奴だと思ってたんだけど、どうやら見当違いだったようだ」

 やや挑発的にそう嘯いた海東は、右手に持った銃を指先でくるくると回し、構え直す。
 左手に構えるカードは、シアンの仮面ライダーが描かれた一枚のカードだった。

 ――KAMEN RIDE――

 くすりと不敵に微笑んだ海東は、カードを装填した銃を天に向け、発射した。

 ――DIEND!!――

 刹那、電子音と共に海東の身を包んだのは、まさしくカードに描かれたシアンの色の仮面ライダー。
 まるで全身に巨大なカードが突き刺さったようなデザインの、随分と不格好な仮面ライダー――詳細名簿曰く、その名は“ディエンド”というらしい――へと変身した海東は、変身にも使った銃をカザリへと向けながら、嬉しそうに言った。

「僕は運が良い。ISを手に入れに来てみれば、まさかこんな所でコアメダル(お宝)の塊と出会えるとは!
 安心したまえ、リーダーの座と君の野望もこの僕がしっかり継いであげよう。これで黄色陣営は安泰さ!」
「……ああ。なるほど、そういうこと」

 海東大樹。この男は、猫科の王たるこのカザリをただの“お宝の塊”と称し、あまつさえその陣営もコアメダルも、何もかもを奪い取って元の世界に帰ろうというのだ。
 先程言った“貴重な情報のお礼”がこれなのだとしたら、こいつは全く、人を馬鹿にしているとしか思えない。人間の癖に随分と面白くて、そして何よりも、度し難い程に不愉快な男である。
 何にせよ、振りかかる火の粉は払わねばならない。そっちがその気なら、ここで“最後の勝者となるグリード”の力を見せ付けてやるのも悪くはない。クスリと笑うカザリの笑みに、確かな苛立ちと怒気とが込められていた事は、誰の目にも明白な事実であった。

849 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:49:11 ID:MJJklj4Q0
 


 先手を打ったのは、ディエンドだった。
 カザリが動きを見せる前に、牽制とばかりに銃弾を放ったのだ。
 そんな子供騙しも同然の射撃でカザリが倒される事などあろう筈がない、というのは恐らくこの場の誰にでも分かる事だ。カザリが黄色の風を巻き起こし、放たれた銃弾全てを掻き消すが、そこまではディエンドにとっても予定通りだっただろう。カザリの技を見ても特に焦る事もなく、銃撃を続ける。
 一体どんな策があるのかは知らないが、黄色陣営を乗っ取るとまで嘯いた男に全く興味が湧かない訳ではない。まさかこんな凡庸な射撃だけが能ではないだろうと、次の一手に期待しながらカザリは駆け出す。
 飛んで来た銃弾は腕に装着されたクローの甲で受け止め、余裕があれば叩き落とし徐々に距離を詰める。が、ディエンドの銃撃がカザリの脚を遅らせているのもまた事実。
 ディエンドもまた適度に距離を取る為銃撃と同時に数歩後退りながら、腰のホルダーから新たなカードを取り出した。

 ――ATTACK RIDE・BLAST――

 ブラストのカードを読み込み、電子音声を鳴らす銃をカザリよりもやや上方向へ向け、引鉄を引く。
 銃の外見から推測されるであろうスペックを無視して、苛烈な銃弾の嵐が放たれた。それはカザリの頭上で拡散し、文字通り銃弾の雨となって、カザリの身を穿たんと広範囲に降り注ぐ。
 今からでは回避は不可能だ。チッ、と小さく舌打ちしたカザリは、頭上へと向けて黄色の突風を巻き起こし、銃弾の嵐を防ぐ――が。その行動が既に奴の策のうちであった事に、カザリは程無くして気付く。

 ――KAMEN RIDE――

「野良猫の相手を真剣にしてやることほど馬鹿馬鹿しい話はない」

 仮面の下でクスリと笑いそう告げたディエンドは、今度は“カメンライド”と電子音を鳴らす銃を、ブラストへの対処で手一杯なカザリへと向けた。

 ――TIGER!!――

「いってらっしゃい」という言葉と共にディエンドライバーから放たれたのは、銃弾でもビームでもなく、三色の虚像だった。何が起こるのかと身構えるカザリの目前で、放たれた虚像は飛び交いオーバーラップし、人の形を成す。
 一瞬ののち、カザリへと降り注ぐ弾丸の嵐が収まる頃には、黒のスーツに銀色の鎧を身に纏った、“白虎”を連想させる第二の仮面ライダーがカザリの目前に召喚されていた。

「へえ、そういう能力なんだ」

 どうやら“ライダーの召喚”こそが、ディエンドの能力であるらしい。オーズにもバースにもない、実に魅力的な能力だ。信用ならない相手ではあるが、海東大樹という男――ディエンドという力――をここで潰してしまうのはやはり惜しいとカザリは思う。
 だが、この状況から奴を味方に引き入れるのは決して簡単な話ではない。召喚されたライダーとディエンドを二人纏めて叩き潰すのが最も手っ取り早い手段だろうが、流石に二対一は不利ではないか。最悪あのディエンドライバーだけでも奪い取る事は出来ないだろうか。
 そんな姦計を巡らすカザリをよそに、召喚されたライダー――タイガ――は、獲物目掛けて今にも飛び掛からんと構える虎よろしく、腰を低く落とし、両腕の装着された巨大なクローをゆっくりと振り上げた。

「遠慮をすることはない。猫は猫同士、存分にじゃれ合ってくれたまえ!」

 野良猫の相手をするのは馬鹿馬鹿しい、というのは、なるほどそういう事かと理解する。
 人――ねこ――を、というよりもカザリを完全に馬鹿にしているとしか思えないディエンドの言葉を皮切りに、タイガが地を蹴り駆け出した。
 一言も言葉を発する事無く、ただディエンドの敵を討つ為だけに戦いを始めるタイガ……やはり、と言うべきだろうか。見た所、このタイガからは意思らしきものが感じられない。言うなれば、ただの傀儡である。
 基本的に傀儡というものは、個人としての思考・判断能力を持たないものだ。であるなら、タイガを相手取るのは、意思を持ったオーズとバースの二人がかりを相手にするよりはずっと容易であると推測する。

850 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:49:32 ID:MJJklj4Q0
 
(……なら、問題はないね)

 少なくとも負けはない。そんな確信を胸に、やおらカザリは長く伸ばした両腕のクローを掲げ構えを取った。
 タイガからは気迫というものを感じないが、それでも勢いはある。まさしく猛獣――虎――の如き勢いでカザリの目前まで急迫したタイガは、カザリのそれと比べてずっと巨大なクローを乱暴に振り下ろす。一歩身を引いてタイガの攻撃を回避したカザリは、ぶおん!と音を立てて空を裂くタイガの一撃を見るや、その威力の程を実感した。
 単調な攻撃ゆえ回避する事自体は歴戦のカザリにとってはそれ程の苦でもない。が、見掛け通りと云うべきか、こいつの攻撃の威力は決して弱くはない。出来るならこの一撃を受けるのは避けるべきだなと、一瞬の間に思考するカザリを、苛烈な攻撃のラッシュが襲う。
 猪突猛進という言葉をその身で体現するかのように、右から左から、上段から下段からと、遮二無二クローを振り回すタイガ。
 それに対し、カザリは攻撃の度に一歩ずつ身を引きながら、僅かな身体の傾斜とフットワークでタイガの攻撃を回避し続ける。

「ははっ、どんな武器を持っていてもこれじゃあねぇ?」

 嘲笑うように嘯くカザリ。
 余裕の態度でタイガの攻撃をいなし、回避をし続けるが、それは決して無策の対応ではない。軽い言葉とは裏腹に、カザリは今、回避と同時に間合いを計っているのだ。タイガの攻撃のタイミングから、それに伴って生じる隙、確実にこいつを仕留め得るだけの距離感を、一撃を回避する度に脳内で積み重ねてゆく。
 幾度目かの回避ののち、ほぼ完全にタイガの攻撃を“見切った”カザリは、上段から振り下ろされたデストクローを、今度もやや身を引く事で回避し、振り下ろされた一撃に自分のクローを被せ、叩き払った。
 見立て通り、自分自身の武装の重さにやや前傾姿勢へと体勢を崩したタイガの胸元に、今度は自分の両のクローを交差させて、×字型に斬撃を叩き込む。
 一撃の威力ではタイガに劣るであろうカザリのクローであるが、素早さならばこちらが格段に上だ。大きく仰け反ったタイガの身を、一秒にも満たぬ間に一撃、二撃を切り裂いて、トドメとばかりに強風を纏ったクローの袈裟斬りで、タイガの身を後方へと吹き飛ばす。
 ふふんと鼻を鳴らしたカザリは、倒れ込んだタイガへとクローを向け、何処からでも掛かって来いとばかりに構えを取った。巨大なクローを地面に突き立て、ふらりと立ち上がったタイガは、まるで挑発に乗るように再びカザリへ向かって駆け出す。
 何度やっても同じ事だ。もうこれ以上タイガの攻撃を受ける事はないだろうと、そんな絶対なる自信で以て、迫り来るタイガに構えを取って応じるカザリであった――が。

 ――FINAL ATTACK RIDE・Di Di Di DIEND――

 三度目ともなるとそろそろ聴き慣れつつある電子音声が、タイガの後方、ずっと向こう側で響いた。
 タイガの攻撃が来ると予測していたそのタイミングに襲来したのは、既に見切った巨大なクローによる攻撃などではなく、味方であるタイガをも飲み込み己が力へと変えて放たれた、竜巻の如きエネルギーの奔流だった。
 バースのブレストキャノンと同等か、それ以上の威力を誇ると思われるディエンド必殺のディメンションシュート。それは、一瞬の後にはタイガの攻撃が来るものであると予測し慢心していたカザリにとって、完全なる想定外であった。

「チィ……ッ!」

 柄にもなく舌打ちをしたカザリは、咄嗟に自らのエネルギーを纏わせた強風を巻き起こして前面へと展開するが、明らかに手遅れだった。
 僅かに威力を殺す事は出来たろうが、完全に防ぎ切る事などは出来ず、ディエンドが放ったシアンの輝きは風の盾すらも突き破って、カザリの胸部を直撃した。
 気を抜けば意識を刈り取られそうな程の熱量を持ったそれは、カザリの身体を――メダルを飛び散らせながら――遥か後方へと押し出して、数十メートル離れた校舎のコンクリートの壁にぶち当たり、壁そのものを僅かに砕いたところでようやく収まった。
 予想だにしない必殺技の直撃を受けたのだ。如何にグリードといえども、疲労が溜まらぬ訳がない。辛うじて未だ変身状態は保っているが――といっても、本来の姿は怪人態なのだが――、そこに数秒前までの余裕などはもうない。何とか自力で起き上がったカザリの身体は程無くしてがくりとくずおれ、片膝を地に付ける無様を晒す事となった。

851 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:50:42 ID:MJJklj4Q0
 


 主戦闘は召喚した仮面ライダーに任せ、自分は隙を見て必殺技を放ち、確実に漁夫の利を得る。それが仮面ライダーディエンドの基本戦術であった。
 勝利を確信したディエンドは、眼前でふらりと立ち上がったカザリへと銃口を向けながら歩を進める。

「どうだい、黄色陣営の次期リーダーの実力は?」
「誰が……っ!」
「自分の敗北すら認められないとは、見苦しいね? これ以上元リーダーの君が無様な姿を晒す前に、この僕が引導を渡してあげよう。感謝したまえ、野良猫くん」

 首輪に繋がれた野良猫、というのも随分と滑稽な話だが。そう思い、ディエンドの仮面の舌でふっと自嘲気味に笑った大樹は、カザリにトドメを刺すべくディエンドライバーを突き付けにじり寄る。
 口ではああ言ったが、カザリとてまだ体力を残していることは分かっている。今すぐにもう一度ファイナルアタックライドを使ったとしても、連続で二度目ともなると流石に回避されるのが関の山だろう。が、かといって、もう一度隙を作るためにカメンライドを使うのも、メダルの無駄遣いが過ぎる。
 ここは極力手札を温存して勝利し、カザリのセルメダルとコアメダルを纏めて奪い補充するのが得策かと思われた。

 そう判断してから一拍の間を置いて、ディエンドは再び銃撃を開始した。
 ブラストほどの連射力はないものの、ディエンドライバーは単体でもそれなりの連射が可能だ。前進しながらとめどなく銃撃を続けるディエンドに対し、カザリは竜巻を巻き起こす事で対処をして見せる。
 銃弾の殆どはカザリに命中する前に、超常のエネルギーを纏った風によって掻き消され、なんとかカザリの元まで届いた弾丸も、風の影響で随分と失速した末にカザリの鍵爪によって叩き落された。
 が、構う事は無い。ディエンドライバーの銃弾は無限だ。弾切れなど気にする事もなく、ディエンドは前進と射撃を止めようとはしない。
 そうして前進を続けるうちに、カザリの姿が消えた――ように見えたが、それが“消えた”のではなく、単に高速移動でディエンドの射線上から離脱しただけだという事は、同じ能力を持つディエンドを使う大樹だからこそ、考えるまでもなく理解出来た。

「往生際が悪いね」

 ディエンドの後方へと回り込み、クローを振り上げ迫るカザリに対し、ディエンドもまたカザリと同質の高速移動で応じる。
 クロックアップやファイズアクセルなどと比べれば質は落ちるものの、これがカードの力無しに発動可能な能力である事を考えれば、十分過ぎる程に優秀な能力である。
 カザリの動きに合わせて見せたディエンドは、振り下ろされたクローを左腕の装甲で受け止め、右腕に持った銃をカザリの腹部へと突き付ける――が、カザリもさるもの。ディエンドよりも素早く、カザリはもう一方の腕でディエンドライバーを叩き払い、銃口を地面へと向けさせる。ディエンドが放った銃弾は、カザリを討つ事なく真下のアスファルトを穿ち、派手な火花を舞い上げた。
 火花を煙が晴れるのを待つ暇などなく、殺到するのはカザリからの攻撃の嵐だ。先程自分が召喚したタイガとは比べ物にもならない速度で繰り出される連続攻撃に、最初の幾度かは防げたものの、やがてカザリの攻撃を追い切れなくなったディエンドの装甲が傷付けられてゆく。

 これは拙いと判断したディエンドは、一旦距離を取るべく後方へと跳び退った。
 腐ってもリーダーということか、どうやらカザリの体力は大樹の予測を上回っていたらしい。やはりあの厄介な風に遮られ、一撃必殺である筈のディメンションシュートを綺麗に直撃させる事が出来なかったのが痛いか。
 少々勿体ないが、確実に勝利する為だ。あとで確実にこの使用分をカザリから取り戻してやると心に誓い、ディエンドは腰のホルスターから一枚のカードを取り出し、ディエンドライバーへと装填した。

852 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:51:02 ID:MJJklj4Q0
 
 ――ATTACK RIDE・BLAST――

 二度目のアタックライド、ブラスト。
 一度同じ手札を見たカザリは、当然先程得た情報に沿って対処すべく構えを取るが――それ自体が既にディエンドの思う壺である事に、カザリは気付ける筈も無かった。
 カザリの真上を狙って放たれた銃弾に対し、逸早くブラストの“散弾”のエリアから離脱するべく高速移動を発動するカザリ。先程は初見の散弾を回避する術も無く、頭上に突風を巻き起こす事しか出来ずに一手を遅らせたのだから、今回の行動は一見正解かとも思える。

「――が、勝つのは僕だ」

 今度こそ勝敗を決すべく、ディエンドに向かって真っ直ぐに加速するカザリに対し、正面からの銃撃を開始するディエンド。が、確実に獲物の息の根を止めんと走り出した猛獣がその程度で止まる訳もない。ディエンドが放った銃弾は全てカザリのクローによって叩き落される。
 勢いそのまま加速を続け、あと一歩でカザリの爪がディエンドに届く、という局面で――カザリを襲ったのは、背部から迫るブラストの“ホーミング弾”だった。
 


 ブラストは、たった一枚のカードでありながら、複数の効果を持つカードである。
 時に雨あられと敵に降り注ぐ散弾になることもあれば、時に敵を何処までも追尾するホーミング弾になる事だってある。
 先読みしにくいブラストのカードは、トリッキーな戦術を好む大樹が最も信頼する戦術の一つであった。
 今回のカザリの敗因は、ディエンドの戦術を読んだと思い込み、それさえ回避すれば確実に仕留められるのだと慢心した事である。……とは言うものの、普通は一つのカードに二つ以上の効果があるなどとは思わないだろうし、この勝敗が直接「カザリは馬鹿だった」ということに繋がりはしないが。

 それでも勝ちは勝ちだ。
 今度こそトドメを刺すべく、ディエンドは仰向けに倒れたまま動かなくなったカザリへと歩み寄る。
 確かに厄介な敵ではあったが、最期は随分と呆気なかったものだ。この程度で一陣営のリーダーとは片腹が痛くなる。最も、今この瞬間からカザリは黄色陣営のリーダーではなくなるのだが。
 倒れて動かなくなった猫型の仮面を見下ろし、ディエンドライバーを突き付け、

「今まで御苦労さま、野良猫くん」

 ディエンドライバーの引鉄に掛けた指を引く。
 ばぁん、と甲高い銃声が響くが――その刹那、大樹がその身で以て感じたのは、カザリを葬ったという手応えなどではなく。銃を握った自分の腕が、鉄のように硬い何かに跳ね上げられる感覚だった。
 明後日の方向へと放たれた銃弾が、数十メートル離れたIS学園校舎の窓ガラスを粉々に叩き割る破砕音が耳朶を打つと同時。大樹の瞠目が捉えたのは、意識を失っていたとばかり思っていたカザリが真上へ向かってクローを突き出しているその姿と――銃を握る自分の腕から、自分の全身から、ディエンドの装甲が消失してゆくその瞬間だった。

「なっ……」

 確実なる勝利に終わる筈が、一体どうして。
 事態が理解出来ず、ほんの一瞬思考がフリーズした大樹を、下方から突き出されたカザリの蹴り足が襲う。

「――っ!?」

 咄嗟にガードの姿勢を取るが、そんなものは気休めだ。人間の姿の大樹が、怪人態のカザリの蹴りを防ぎ切れる訳も無く、大樹の身体は容易に浮き上がり、地べたを転がる。
 幸いにして、カザリも大した攻撃の意図は無かったのだろう。大樹が負ったダメージも少なく、倒れた勢いを活かして数メートルほど自力で転がった大樹は、起き上がり様にディエンドライバーの銃口をカザリへと向ける。

853 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:51:24 ID:MJJklj4Q0
 
「メダルが切れちゃったみたいだね、ディエンド」
「……なるほどね」

 最早銃口を恐れることすらせず告げるカザリの言葉に、突然の変身解除の理由を悟る大樹。
 元々カザリとの戦闘を開始した時点で、既にメダルは五十枚程度しか残ってはいなかった。そこへ来てディエンドへの変身にタイガの召喚、さらに二度使用したブラストにファイナルアタックライド、果ては高速移動まで使ってみせたのだ。メダルが尽きてしまうのも無理はない。
 この殺し合いに参加している限り、如何なる能力にもメダルは必要で、メダルの有無が勝敗を、ひいては生死すらも分かつファクターになり得るのだという事を身を、こんな形で思い知る羽目になるとは思ってもみなかった。
 ルールによって勝利を阻まれた大樹は、――それが負け惜しみでしかない事は理解しているが――こんな殺し合いの場でさえなければ負ける筈はなかったのに、と渋面をいっぱいに広げて、膝をぱんぱんと払いながら立ち上がったカザリを睨む。
 大樹の視線に気付いたカザリはさぞ愉快そうにくつくつと笑い、自分の頭を人差し指でつつきながら言った。

「メダルが残り少ないなら、もっと頭使って戦わなきゃ」
「君を倒して失ったメダルも補充するつもりだった」
「だとしたら見極めが甘かったね。そんなに甘くはないよ、色んな意味で」
「悔しいが、どうやらそのようだ」

 最後の局面で「もっと早くトドメを刺していれば」とも思ったが、恐らくは大樹が読み切れていなかっただけで、カザリはまだ体力を残していたのだろう。だからこその“死んだフリ”だ。陳腐な作戦ではあるが、あれでディエンドを引き寄せて、油断した隙に逆転する術がカザリにはまだ残されていた可能性だってあるのだ。
 猫科の王にして、黄色陣営のリーダーカザリ。全くもって食えない男である。

「まあ、もう戦う理由もなくなったみたいだけどね」
「なに……?」

 カザリは、訝しげな視線を向ける大樹の首輪をそっと指差した。

「もう白陣営、なくなっちゃったみたいだし」
「……っ!? ランプの色が……!」

 言われて、気付く。
 後方の校舎の窓ガラスに映る自分のランプの輝きは、先程までの無色――白――などではなく、無所属を意味する紫色に変わっていた。
 それが何を意味するのかが分からない大樹ではない。予め白陣営のリーダーがどのような男であるかを聞かされていた事もあって、ランプの変色に気付くと同時に、大樹は一つの結論に至った。

「白のリーダーが、倒された……」
「そういう事。メダルだけでなく所属陣営も失ったんじゃ、もう優勝は無理だね……って言っても、キミは優勝して帰ることさえ出来るなら何処の所属でも関係ないんだろうけど」

 ふふ、と微笑んだカザリは、自分の首輪から二十枚程のメダルを取り出し、大樹の足元へばら撒いた。
 音を立てて地面を転がってゆくセルメダルは、今の大樹が求めてやまないもの。だけれども、それにすぐに飛びつく事など出来るわけもなく、視線だけでそれを追う大樹に、カザリは涼しげな声で問うた。

「さあ、どうする?」
「………………」

 自分自身もそこそこに意地が悪いとは思っていたが、この男はそれ以上だ。
 どうすると質問されたところで、メダルと戦闘能力のみならず陣営まで失ってしまった自分が、いつでも自分を殺す事の出来る“怪人”を相手にに選べる選択肢など一つしかない。もっとも、一つしかない選択肢など選択肢とは呼べないが。
 今の大樹に選べるのは、足元にばら撒かれたメダルを無様に拾い、一度はメダルを奪ってやるとまで大見得を切った相手の陣営に入ること――即ち、カザリに屈服し、その軍門に下る道しかないのである。
 ばら撒かれたメダルを拾い、隙を突いてディエンドに変身しもう一度抗うという選択肢もないことはないが……歴戦の大樹には分かる。カザリはまだ、一切の警戒を解いてはいない。ここでもしもカザリの申し出を蹴る様な真似をすれば、大樹がカードを装填するまでの間に、カザリはその瞬発力と加速力で以て、一瞬のうちに大樹の命を奪うつもりでいるのだろう。
 何よりも自由を愛し束縛を嫌う自分が、生きるためとは言え、誰かに支配されねばならないというのは、かなりの精神的苦痛が伴うことだった。
 プライドが邪魔をして、答えを中々言い出せない大樹を見かねたのか、カザリは「いいよ、いいよ」と呟き、おかしそうにクスクスと笑い出した。

854 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:52:28 ID:MJJklj4Q0
 
「ごめんごめん、少し意地悪が過ぎたね? いいよディエンド、キミをボクの陣営に入れてあげる。そのメダルも分けてあげるから安心しな」
「……言っておくが、例え君の陣営に入ったとしても、僕は誰にも屈服するつもりはないよ」
「そんなこと言ってる場合じゃないと思うけど」

 そう、カザリの言う通り、今はそんな事を言っている場合ではない。
 生き残る為……そして何よりもお宝の為、これは仕方のない事なのだ。
 この屈辱も、最終的に全てのお宝を手に入れ帰還する為の手段だと考えれば、幾らかの気休めにはなる。今はカザリに従うが、いつか必ず反逆し、黄色のメダルも全て奪ってやると大樹は胸中で強く誓った。

「分かった……君の申し出を受け入れよう」
 
 そして、受け入れるならば、割り切った方がいい。
 カザリも此方を利用するつもりだろうが、それならば此方もとことんにまでカザリを利用してやろうではないか。
 此方が下手な真似をしなければ、恐らく純粋に優勝を目指したいだけであろうこの男は、大樹にとっても味方だ。二人掛かりで他の陣営のグリードを潰してゆけるなら、確かに優勝はずっと楽になる。
 何も心までカザリに屈服する訳ではない。最終的に黄色のメダルを奪うことさえ出来ればそれでいいのだから、それまでは。

「ふふ……OK、契約は成立だね」

 大樹の思惑を知ってか知らずか――カザリのことだ、概ね気付いてはいそうではあるが――気分良さそうに笑ったカザリの身体は、一瞬だけ大量のセルメダルに覆われたかと思えば、出会った時の黄色い少年の姿に戻っていた。
 大樹は、悪戯っぽく笑うカザリが投げたセルメダルの一枚を受け入れたのだった。



 お宝のため、IS学園の校舎内を探索する海東大樹の背後を歩きながら、カザリは今後の事を考えていた。
 カザリにとって海東大樹(仮面ライダーディエンド)とは、グリードにすら対抗出来る戦力を持っていながら、力だけでなく頭も切れる優秀な手駒であり、同時に何をしでかすか分からない危険性を孕んだ食えない男でもある。
 事実上自陣営に爆弾を引き入れてしまったようなものだが、この男はウヴァほど単純馬鹿ではない。恐らく当分の間は感情に任せて行動する事もなく、寧ろこのカザリすらも利用しようと立ち回るのだろう。
 が、それが分かっているからこそ、カザリはこの状況を“楽しい”と思えるのだった。

(キミが何を考えているのかは知らないけど、ボクもそう甘くないよ。知恵比べといこうか、ディエンド?)

 前を歩く大樹の背中に向けて、薄ら笑みと共に戦線を布告するカザリ。
 確かに海東は食えない男であるが、それを制してこそカザリの支配欲は刺激されるというもの。
 カザリは、海東大樹という存在を殺し合いを盛り上げる一種のアクセントであると考えているのだった。

(駒は十分手に入れた。次は――)

 今は秋葉原へ向かっている、カザリの言いなりとなった桐生萌郁。
 上手く自分の配下へと引き入れる事に成功した笹塚衛士に海東大樹。
 ……が、手に入れるだけで使いこなせないのではまるで意味がない。もう何処かで行動を開始しているのであろう笹塚はともかく、少なくとも今現在自分の監督下にある萌郁と海東だけは使いこなして見せねば。
 ゲーム開始以来、他のどのグリードよりも自分が最も賢く立ち回っているという自負を抱きながら、ではその駒をどう利用するべきかを今度は考え、

(やっぱり、メズールだよね)

 メズールを潰しにかかるべきだと思考する。
 恐らく戦力としてはカザリとディエンドの二人でも十分だろうが、勝利をより確実なものとするためには、使える駒のフル活用は必須だ。

 幸いなことに、秋葉原に向かわせた萌郁は一応はメズールと同じ青陣営である。
 グリードに配られた詳細名簿を見る限り、萌郁がFBなる人物に依存している事は分かるのだが、そのFBの正体がカザリであることは誰にも知られていない。
 であるなら、これを利用しない手はない。未知の世界の学校を物色し嬉しそうにはしゃぐ大樹の背中を見守りながら、カザリは萌郁へと次の指令を送るべく、支給された携帯電話を取り出した。

855 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 18:52:58 ID:MJJklj4Q0
 


【一日目-午後】
【G-7/IS学園】

【カザリ@仮面ライダーOOO】
【所属】黄
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)
【首輪】90枚:0枚
【コア】ライオン×1、トラ×2、チーター×2
【装備】ヴァイジャヤの猛毒入りカプセル(左腕)@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品、詳細名簿@オリジナル、天王寺裕吾の携帯電話@Steins;Gate、ランダム支給品0〜1
【思考・状況】
基本:黄陣営の勝利、その過程で出来るだけゲームを面白くする
1.メズールが居ると思しき場所へ向かい、青陣営を奪う。
2.「FB」として萌郁に指令を与え、上手く利用する。
3.笹塚に期待感。きっとゲームを面白くしてくれる。
4.海東に興味を抱きながらも警戒は怠らなず、上手く利用する。
5.ゲームを盛り上げながらも、真木を出し抜く方法を考える。
6.『閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)』(笑)
【備考】
※海東大樹を黄陣営に引き込んだ事でメダルが増加しましたが、戦闘での能力使用と海東大樹へ渡した分とで実質打ち消されています。
※対メズール戦ではディエンドと萌郁を最大限に利用するつもりです。一応青陣営である萌郁は意外なところで切り札にもなり得ると考えています。
※カザリがこれから萌郁にどのような指令を送るかは不明です。

【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【所属】黄
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)
【首輪】20枚:0枚
【コア】クワガタ×1(一定時間使用不能)
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド
【道具】基本支給品一式、支給品一覧表、不明支給品0〜1
【思考・状況】
基本:この会場にある全てのお宝を手に入れて、殺し合いに勝利する。
1.今はカザリに協力し、この状況を最大限に利用して黄色陣営を優勝へ導く。
2.チャンスさえ巡ってくれば、カザリのメダルも全て奪い取る。
3.IS学園で「お宝」の情報を手に入れる。
4.他陣営の参加者を減らしつつ、お宝も入手する。
5.“王の財宝”は、何としてでも手に入れる。
6.いずれ真木のお宝も奪う。
【備考】
※「555の世界」編終了後からの参戦。
※ディエンドライバーに付属されたカードは今の所不明。
※ディエンドに掛けられた制限を理解しました。
※仮面ライダーの召喚は一人につき五分間のみで、一度召喚すると一定時間再召喚不能です。
※白陣営から黄色陣営へ移り変わりました。

856 ◆MiRaiTlHUI:2012/04/12(木) 19:05:18 ID:MJJklj4Q0
これにて投下は終了です。
今回は一旦破棄しかなりの長期間お待たせしてしまった事をまずは謝罪します。申し訳ありませんでした。


タイトルは……そうですね、「知略と猫科と必勝法」でよろしくお願いします。


捕捉になりますが、今回ディエンドが使ったタイガのカードは原作では使われていません。
が、「ディエンドは原作で使ったカードしか使用できない」という企画上のルールも存在せず、
仮にもし使えるカードに制限があったなら、セシリア戦の時点でそれに気付く描写がある筈だと思い、
各強化フォームやW以降のライダーなどでない限りは何でも出せるという解釈で書かせて頂きました。
それでは、何か指摘点などありましたらよろしくお願いいたします。

857名無しさん:2012/04/12(木) 19:13:53 ID:TmpHCg9U0
投下乙です!
海東、カザリを圧倒するかと思いきやまさかのメダル切れか……オーズロワ独特のルールを付いたまさかの敗退。
でも黄陣営に入って、これから何かとんでもないことをしそうな予感w
これからこの二人、どんな頭脳戦を繰り広げるのか楽しみになりますね。

858名無しさん:2012/04/12(木) 20:08:49 ID:sf69B6FQ0
投下乙ですー
カザリ敗退かと思ったらメダル切れの事を失念してたなぁ…実にこのロワらしい良いバトルだった
まだまだカザリは余力残してるっぽいし…
海東が黄陣営に組するとなるとだいぶ戦力が整ってきてる感じ

取り合えずメズール逃げてw

859名無しさん:2012/04/12(木) 20:22:22 ID:9ZJifZmE0
投下乙です!

なるほどメダル切れか、ルール活きてるなぁ

しっかし死者数といいリーダー行動不可の脱退といい、白陣営は薄幸だなw
そしてメズールさんもかなりの不幸体質だww

860名無しさん:2012/04/12(木) 23:02:55 ID:UcYTHAEo0
投下乙です

メダル切れとは無念、このロワでなかったら負けなかったかもしれないが
そして海東は黄陣営に行ったら…w
運が無い方が多いなあw

861名無しさん:2012/04/13(金) 23:55:23 ID:cHrdmC9UO
投下乙っす。
そういえば、白陣営はまどかが代わりにリーダーになったから、白陣営は消滅してないんじゃない?

862名無しさん:2012/04/14(土) 12:50:04 ID:sOlaHzNk0
>>861
前話の備考でまどかがリーダーになるまでの数分間リーダー不在の時間があると説明されてたはず。

ただ、常にリーダーが受け継がれ続けていくなら、ルールにあるリーダー不在のタイミング?というのが疑問。

一番メダルを多く持ってる者がリーダーになるなら、まどかがガメルの放出した二枚のメダルを入手するまでの一、二分くらいの間が不在扱いってことでいいのか、それともまどかが走って逃げて体内にメダルを取り込むまでの間がリーダー不在だったのか。

まだこの辺りが明確になってないから、きちんとルール固めた方がいいかもね。

前者だと簡単にリーダー継げて陣営の移り変わりとかがあんまり描写されなさそうだから、個人的には"その色のメダルを最も多く持っている者が体内にメダルを取り込む事でリーダーは継承される"くらいにした方がいい気はする。

863名無しさん:2012/04/22(日) 03:04:05 ID:aAvWUCI60
予約キター

864名無しさん:2012/04/22(日) 22:08:37 ID:5hP3EXrE0
初期の海東とカザリはある意味似たもの同士

865名無しさん:2012/04/23(月) 23:29:53 ID:2.Isvgyw0
二人とも欲しがってる者同士だしな
何だかんだ良ペアだしどうなるのか楽しみだな

866名無しさん:2012/04/25(水) 16:22:00 ID:xYoPxeUI0
ごめん正直に言う
予約入るまでガチで照井のこと忘れてた

867名無しさん:2012/04/28(土) 01:48:47 ID:G0qnENOkO
>>866
ロワの照井は基本何しに来たんだ?なパターンしかないし仕方ない

868名無しさん:2012/04/28(土) 18:56:28 ID:fcf13Zuo0
変身ロワでも即刻退場だったしな・・・

869名無しさん:2012/04/28(土) 20:46:51 ID:/dgeQmoY0
でも役立たずかって言われると違和感がある

870 ◆ZZpT6sPS6s:2012/04/29(日) 22:46:07 ID:pWEzG2QE0
これより、メズール、照井竜の二人を投下します。

871愛と復讐と海の記憶 ◆ZZpT6sPS6s:2012/04/29(日) 22:47:53 ID:pWEzG2QE0



「――――井坂、深紅郎……っ!」

 支給された名簿に記載された名前を見て、照井竜は憎悪の感情を露にした。
 その手は強く握り締められ、その手に持っていた名簿に皺がよる。
 彼はそれを気にすることなく、乱暴にデイバックへと名簿を突っ込んで歩き出す。

 井坂深紅郎は、照井竜の家族の命を奪った怨敵だ。
 彼は家族の仇を討つためだけにアクセルの力を手に入れ、ドーパントと戦ってきた。
 故に、殺し合いという今の状況の異常さも、救うべき市民のことも関係ない。
 今の彼にとっては、復讐こそが何よりの最優先事項だった。

 ……だが、アクセルでは井坂深紅郎の持つウェザーメモリには敵わなかった。
 この殺し合いに呼ばれる前、竜はついに見つけた井坂深紅郎に挑むも、力及ばず敗れた。
 今のまま挑んだところで、前回の二の舞になる事は目に見えている。

 ならば、さらに強力な何かを手に入れる必要がある。
 首輪の事を鑑みても、この殺し合いにはガイアメモリとは違う未知の技術がある。
 あるいは支給された道具の中に、ウェザーを超え得る力かがあるかもしれない。
 であれば、ほかの参加者たちと接触し、そういった支給品を手に入れるべきだろうか。
 そう考え、名簿に記載された参加者を思い返し、

 “なあ……君にとって仮面ライダーとは何なんだ!?”

 不意に、この殺し合いに呼ばれる直前に聞いた言葉を思い出す。
 それは、竜を助けるために無茶をした男の相棒からの問いかけだ。

「俺に……質問をするな………」
 それを、歩みを速めることで振り払う。
 待ち望んだ復讐を前に、余計な雑念はいらない。
 必要なのは、いかにしてウェザーを超える力を得るかという事だけだ。

 そんな風に自分の成すべき事を考えていると、唐突にバイクのエンジン音が聞こえ、遠ざかっていった。

「む、誰かいたのか?」

 すでにエンジンの音は遠い。
 今から行っても間に合わないだろうとは思っていたが、念のためにと音の聞こえたほうへと向かう。
 するとそこには、一人の少女が自分と同様にエンジン音の聞こえた方角を眺めていた。


        ○ ○ ○


 太陽が輝く空の下で、メズールは改めて自分に配られた支給品を確認していた。
 先ほどのセシリアとの小競り合いで、自分にかけられた制限は大体把握した。
 その上で選んだ今後の方針が、支給品による自身の戦力の増強だった。

 メズールの戦闘能力は、ほかのグリードと比べると明らかに低い。普通の人間程度なら問題にはならないが、このゲームでは弱い部類に入るだろう。
 固有能力である液状化は、物理的な攻撃に対しては無敵ともいえる能力だが、その分メダルの消費が激しい。
 それに、極端な高熱や冷気を伴う攻撃も、水の特性として苦手な部類に入る。
 現在のメダルの残量も踏まえて考えれば、頼ることは出来ない。

 であれば、一先ずは弱者のフリをして誰かに取り入り、隙を見て敵対陣営を減らすのが安全な策だろう。
 幸いにして、ドクターのルール説明で自分は、ウヴァとは違い一言も喋っていない。
 不用意なことを口にしたり、怪人態になったりしなければ、いきなり正体が発覚するということはないはずだ。

 ……だがその作戦が通用するのは最初のうちだけで、加えて運も絡んでくる。
 ゲームが後半になれば必然参加者は減り、同時にグリードの特定は容易になってくる。
 ウヴァやカザリも自分が勝ち残るために、ほかのグリードを蹴落とそうと策をめぐらせてくるだろう
 それにどれだけ味方を集めたところで、それを一瞬で壊滅させるような参加者や支給品がこのゲームには存在する。

 ゆえに重要なのは生き残る術。
 どのような状況でも、逆転のきっかけを残せる手札。
 そのために、今は少しでもセルメダルを節約し、コアメダルや戦力となる支給品を集める必要がある。
 それらをどう集めるかが、自分に渡された支給品によって決定されるのだ。

872愛と復讐と海の記憶 ◆ZZpT6sPS6s:2012/04/29(日) 22:48:38 ID:pWEzG2QE0



 そうして取り出した支給品は三つ。
 一つ目はグロックと呼ばれる拳銃。
 装弾数は15発で、女性にも扱いやすいコンパクトな銃だ。
 二つ目は待機形態となっている紅椿。
 ルール説明の際に反抗して殺された篠ノ之箒が使用した物が、そのまま支給されたのだろう。
 そして三つ目が―――

「オーシャンメモリ―――海の記憶を宿すガイアメモリ」

 使用者をドーパントに変身させるこのメモリはメズールと同一の能力を持つ。
 加えてT2メモリであることも考えれば、強力な支給品であることは確かだろう。
 しかし、

「……実質、ハズレね」

 同じ能力であるのなら、当然自分自身の能力のほうが信頼できる。
 あるいは、その能力を取り込めば、より強力な力を得られるかもしれない。
 ……だがそれを試すのであれば、やはり完全態になってからの方がいいだろう。

「ならまずはコアメダルの回収が優先ね」

 第4世代型のISである紅椿を以ってすれば、大概の相手を倒すことが可能だろう。
 だが本来専用機であることも加わって、紅椿の使用には大量のセルメダルが必要となる。
 使用するのであれば、それこそ紫のコアを使うオーズのような強敵相手に限定したほうがいい。

「となると、やっぱり誰かに取り入るのが安全かしら」

 主武器となるのはグロック一丁。
 怪人態への変身を踏まえても、この状態で殺し合いに積極的になるのはどう考えても愚策だ。
 一人ぼっちの参加者を殺すのであればともかく、そうでなければすぐに追い詰められるだろう。

「そうと決まれば、まずは誰に取り入るかだけど………」

 セシリアを追いかけるのもいい。だが彼女の向かった方角には、少々厄介な参加者たちがいる。
 ならば多少の危険を冒してでも、コアメダルが砕かれる前にオーズを殺しに向かうべきだろうか。

 そう考え、デイバックから詳細名簿を取り出そうとした時だった。
 エンジン音を響かせて、一台のバイクが少し遠くの道路を走り去っていった。

「―――あれは……海東大樹」

 あの様子から恐らく、セシリアを追いかけているのだろう。
 そのためか、彼がこっちに気づくことはなかったが、それで行動方針が決まった。

 仮面ライダーディエンドである海東大樹は、カザリと同じく狡猾な人物だ。
 詳細名簿に記載されていた参戦時期からしても、高確率でこちらの支給品まで奪おうとしてくるだろう。
 もし遭遇するのであれば万全の状態で。少なくとも、セルに余裕のない今の状況で相手にはしたくない。

「とりあえず、北東側に向かうことにしましょうか」

 北東はオーズの開始位置だ。彼の周囲には炎を操る参加者が二名ほどいるが、彼らよりも南側にも参加者はいる。
 桜井智樹、鹿目まどか、巴マミの三名は、支給品さえ考慮しなければ強敵ではない。
 であれば、状況によっては彼らを殺してセルメダルを補充するのが得策だろう。

 そうしてメズールは、海東大樹から逃れるように踵を返した。
 だがその先には、赤いジャンパーを着た一人の男が立っていた。
 恐らく、自分と同様にバイクの音に呼び寄せられたのだろう。

“あれは確か、照井竜”

 メズールは男が誰かをすぐに思い出し、同時にどう対処するかを考える。
 アクセルの能力は、彼女にとって苦手とするところだ。
 現状敵対するのは望ましくない。もし戦うなら、不意をついて一撃で殺すのが望ましいだろう。
 となれば、まずは当初の予定通り弱者のフリで取り入るべきだろう。
 そう結論すると、照井竜のほうから話しかけてきた。
 その様子から、照井は彼女がルール説明のときにいた怪人の一人だと気づいてないとメズールは判断した。

873愛と復讐と海の記憶 ◆ZZpT6sPS6s:2012/04/29(日) 22:49:42 ID:pWEzG2QE0

「俺は照井竜、警察だ。君の名前は何だ?」
「私は志築仁美といいます」

 カザリたちがほかのグリードの情報をばら撒いたときの事も考え、ほかの参加者の名前を騙る。
 なぜ志築仁美を選んだかというと、彼女がもっとも弱く、参加者たちの初期位置的にも死にやすいと判断したからだ。
 あとは放送前に照井竜と別れるか、あるいは殺してしまえば、簡単には自身の正体には辿り着けないだろう。

「では志築仁美、先ほどこっちの方角からバイクのエンジン音が聞こえたのだが、何か見なかったか?」
「はい。男の人が一人、この殺し合いに載るようなことを言って、バイクに乗ってあっちに行きました。
 私は怖くて隠れてたから、多分気づかれてはいないと思うんですけど……」
「なるほどな」

 照井竜はそう言って思案を始める。
 海東大樹が殺し合いに乗ったと言ったのは、そちらへの移動を避けるためだ。
 照井竜がメズールを弱者だと見ているのであれば、殺し合いに乗った人物がいる方向への移動は避けるはずだ。その確認の意味もある。

「一つ訊くが、その男はどんな雰囲気だった?」
「えっと……少し軽い感じの、中高校生ぐらいの人でした」
「そうか。なら、とりあえずは安全と思われる場所へ移動するぞ」
「はい、わかりました。……あの、」
「俺に質問をするな」

 先ほどの質問はどういう意味か、と聞こうとすると、バッと手の平で遮られた。
 なるほど。やはり訊いたとおりの人物であるらしい。
 であれば、先ほどの質問の意味も訊くまでもない。メズールが言った男が、井坂深紅郎かを確かめたのだろう。
 そしてメズールの騙った人物が海東大樹ではなく井坂深紅郎だったなら、照井竜は今すぐにでもバイクを追って行っただろう。
 だがそうはならず、メズールたちは彼女の作戦通り、海東の向かった方向から離れる事となった。



 そうして照井の提案で至急品の確認をした後メズールたちは移動することとなった。
 支給品に関してはメズールは、拳銃とコアを一枚見せるだけで誤魔化した。それを見て、照井竜はますます自分を弱者と見たらしい。
 照井は何も言わずに、彼女を庇うように歩き出したのだから。

 だがそれとは別に、メズールは先導する照井竜の背中を見ながら、小さく笑った。
 彼女自身、弱者のフリはどうにも上手くいったとは思えなかったのだが、彼は特に何かに気づいた様子もなく歩いている。
 その理由はやはり、井坂深紅郎への復讐心が先立って、視野狭窄に陥っているのだろう。

 そしてその復讐心が、メズールには心地良かった。
 なぜなら彼の復讐心の強さはそのまま、彼の家族愛の強さとなるのだから。
 もしそれほどの感情を受けることが出来れば、いったいどれほど満たされることだろう。

 そう思い、メズールは静かに愉悦を零していた。

874愛と復讐と海の記憶 ◆ZZpT6sPS6s:2012/04/29(日) 22:50:23 ID:pWEzG2QE0


【一日目-日中】
【E-6/エリア中央付近】

【照井竜@仮面ライダーW】
【所属】白
【状態】健康
【首輪】100枚:0枚
【装備】アクセルドライバー+アクセルメモリ@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
【思考・状況】
基本:井坂深紅朗を探し出し、復讐する。
1.志築仁美(メズール)を、邪魔にならない安全な場所に送る。
2.ウェザーを超える力を探す。
3.ほかの参加者を探し、情報を集める。
【備考】
※参戦時期は第28話開始後です。


【メズール@仮面ライダーOOO】
【所属】青・リーダー
【状態】健康
【首輪】85枚:0枚
【コア】シャチ:1、ウナギ:2、タコ:2
【装備】グロック拳銃(15/15)@Fate/Zero、紅椿@インフィニット・ストラトス
【道具】基本支給品、T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW、
【思考・状況】
基本:青陣営の勝利。全ての「愛」を手に入れたい。
0.照井竜の復讐心(=家族愛)が心地良い。
1.照井竜と同行し、利用する。ただし、第一回放送前に別れるか殺す。
2.まずはセルと自分のコア(水棲系)をすべて集め、完全態となる。
3.可能であれば、コアが砕かれる前にオーズを殺しておく。
4.完全態となったら、T2オーシャンメモリを取り込んでみる。
【備考】
※参戦時期は本編終盤からとなります。
※ISは女性であれば、専用機であっても使用可能です(ただし、相応のメダルを消費します)。


【紅椿@インフィニット・ストラトス】
メズールに支給。
紅い第4世代型IS。篠ノ之箒の専用機。白式の対となる存在で、コンビ運用を前提として開発された機体。
現行機を遥かに凌駕する機体性能に加え、「展開装甲」により攻撃・防御・機動のあらゆる状況に即応することが可能。
単一仕様能力の「絢爛舞踏」は、白式の一対零のエネルギー消滅能力に対して一対百のエネルギー増幅能力となっている。
紅椿の高性能さはこのアビリティーの使用を前提にしており、発動していない時は機体がすぐにエネルギー切れを起こしてしまう。
完全に操れるようになればほぼ無尽蔵のエネルギーが供給される事となるが、発動には操縦者の精神状態が大きく影響する。
待機形態は左手首に巻かれた金と銀の鈴が一対になってついている赤い紐。

【T2オーシャンメモリ@仮面ライダーW】
メズールに支給。
大洋の記憶を内包したT2ガイアメモリで、使用者をT2オーシャン・ドーパントへと変身させる。ドーパント態は本編未登場。
使用者に水弾の発砲・体を液体化させる能力を与える。

875 ◆ZZpT6sPS6s:2012/04/29(日) 22:51:40 ID:pWEzG2QE0
以上で投下を終了します。
何か意見や、修正すべき点がありましたらお願いします。

876名無しさん:2012/04/29(日) 22:54:45 ID:UeXCKO3Q0
投下乙です!
照井……その時期かよ! 一応、仁美(メズール)を守ろうとしてるからまだまともかな……?
そして箒とセシリア、ドンマイw まさかメズールに紅椿が渡ってるなんて……

877名無しさん:2012/04/29(日) 23:33:06 ID:ZW37gRNAO
投下乙です!
よりによって復讐鬼MAX状態からの参戦かよwしかもステルス(?)なメズールと同行とかもう・・・あ、IS電池がこんなところに。

878名無しさん:2012/04/30(月) 01:02:14 ID:EfzOMyjk0
投下乙です
照井は一番美味しい時期からの参戦になったか
そうだよなあ、この時期の照井にとってアクセルは井坂を倒すという目的の手段であって、井坂さえ倒せるならアクセルである必要はないんだよな
ステルスのメズールと一緒に居る時点でもう危ない気もするけど、今後仮面ライダーとして成長していけるのか、はたまたアクセルに代わる新たな力を手に入れて復讐を成し遂げるのかに期待です

879名無しさん:2012/04/30(月) 16:48:44 ID:XOpZHzWg0
乙です、トライアルはないけどまあエンジンブレードがある分いくらかましか・・・

880名無しさん:2012/04/30(月) 17:04:29 ID:nDkKvywk0
投下乙です

言いたい事は既に上で言われているが面白い時期から来てるなあ…

881 ◆LuuKRM2PEg:2012/05/14(月) 20:41:00 ID:yEDv1GJA0
これより、予約分の投下を始めます。

882成長!! ◆LuuKRM2PEg:2012/05/14(月) 20:42:02 ID:yEDv1GJA0

「くそっ……遅かったか!」

 B―5エリアで燃え盛る建物の前で、後藤慎太郎は拳を勢いよく電柱に叩きつけた。
 あの胡散臭い野球帽の男を探すために煙が立ち上る方に向ってみたが、見つけたのはこの惨状と無造作に散らばったデイバッグと荷物だけ。恐らくあの男は太った少年を殺して、それから建物を燃やしたに違いない。
 本当なら今すぐ消火しなければならないが、それに気を取られては野球帽に逃げられてしまう。

「あんな殺し合いに乗った馬鹿者は一刻も早く俺が裁かなければならないのに……何をやっているんだ俺は!」

 苛立ちの混ざった言葉を零しながら慎太郎は辺りを見渡すが、当然の事ながら誰もいなかった。
 あの卑劣な男をこのまま放置しては、犠牲者が増えてしまう。奴はグリードと同じで人を傷つける事を喜ぶような下劣な存在だから、平和を守る使命を持つ自分が排除しなければならない。
 危うさの秘めた強い正義感を胸に、ショットガンを強く握り締めた慎太郎は歩き出そうとするが――その途端に背後から足音が響く。

「誰だ!?」
「待ってください!」

 焦燥と共に振り向いた慎太郎の前に立つのは一人の女性だった。
 思わずショットガンの銃口を突き付けたが、相手の顔が驚愕に染まっているのを見て慎太郎は一瞬だけ後悔するが――その思いをすぐに振り払う。
 彼女の素性が分からない以上、油断するわけにはいかなかった。下手に気を緩めてはまた野球帽の男の失態を繰り返してしまう。
 だから慎太郎は決して警戒を怠らず、対話に持ち込んだ。

「驚かせてしまったようだ……だがあなたに聞きたい事がある。この殺し合いに乗っているのか?」
「いいえ、私は殺し合いに乗っていません……だから、銃を下してください」
「そうか……それに関してはこちらの責任だ。すまない」

 女性の表情が怯えに染まっていたようにも見えて、慎太郎の頭がほんの少しだけ落ち着きを取り戻す。ここで彼女を誤解させたままでは、先程のような失態を繰り返すだけだった。
 だからこそ慎太郎は、ショットガンの銃口を下していく。

「俺は後藤慎太郎と言う。俺だって、こんな殺し合いには乗っていない……いや、乗ってはいけないんだ!」
「それには私も同感です。こんな狂った戦い、許すわけにはいきませんから」

 すると、女性の表情からは先程とは一変して強い意志のような物が感じられた。例えるなら、まるで大切な誰かを守ろうとしているかのように。
 あまりの豹変ぶりに慎太郎は違和感を覚えるが、すぐにそれを振り払った。ここでまた感情のままに行動しては、世界の平和を守るというライドベンダー隊の使命を果たすことができない。

「申し遅れました。私の名前は園咲冴子と申します……慎太郎さんのような頼れる人と出会えて、光栄ですわ」
「……ッ!」

 園咲冴子と名乗った女性の頼りになるという言葉が胸に突き刺さるのを感じて、慎太郎は一瞬だけ顔を顰める。
 醜態を晒してしまったこんな自分のどこが頼れるというのか。殺し合いを止めることも出来ず、犠牲者が出てしまうのを許してしまうと男など、あの腐敗した官僚達と何も変わらない。
 慎太郎は胸中に満ちていくどす黒い感情を言葉にして吐き出したかったが、それを必死に堪える。ここで怒鳴り散らしても何も変わらないし、何よりも守るべき人である冴子を不安にさせてしまうだけ。
 そんな事になっては、真木清人という下劣な男の思い通りになるだけだった。

「あの、どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません……」

 今にも爆発しそうな感情を抑えて、慎太郎は自分自身を落ち着かせながら静かな声で答える。

「俺があなたを何としてでも守ります。そして、平和を乱す奴らはこの手で裁きます……もうこれ以上、犠牲を出してはいけないのですから」
「わかりました。それでしたら、出来る限り私も力になります。どうか、決して無理をしないで下さいね?」
「……はい!」

 そう力強く頷くと、冴子は微笑んだ。
 この時、ようやく報われたと一瞬だけ慎太郎は思う。取りこぼしてばかりだった彼が抱く、ようやく誰かを守りたいという欲望が叶ったのだから。
 その甘い蜜は慎太郎の心を奪い、確実な充足感を与えている。故に、気付くことが出来なかった。
 目の前にいる園咲冴子もまた、慎太郎が忌み嫌う平和を脅かす者の一人であることを。

883成長!! ◆LuuKRM2PEg:2012/05/14(月) 20:42:58 ID:yEDv1GJA0


○○○


(ショットガンを突き付けられた時はちょっと焦ったけど……やっぱり、単純な男だったみたいね)

 園咲冴子はその顔に笑みを作りながら、心の中ではそう呟く。
 協力相手を一人でも多く捜そうと考えた彼女は煙が立ち上っているのを見て、危険人物と遭遇するリスクを犯してB―5エリアに向かって、後藤慎太郎と出会った。
 殺し合いに乗った者を裁くなどと大声で喚いていた馬鹿は、利用するには都合の良い人種だった。一人で突っ走って場を引っ掻き回す危うさもあるが、そうなったら捨て駒として見捨てればいい。
 今は敬愛する井坂深紅郎を守る為にも、慎太郎の上手い利用方法を考える事が最優先だった。深紅朗にとって邪魔となる参加者と潰し合わせるも良いし、いざという時の盾にしても良かった。
 どうにでも出来そうな手駒をこんなにも早く手に入れられたのは予想外だが、まるで天が自分の味方になったように思えて、実に心地良い。

「それで慎太郎さん、これからどこに向かいましょうか? 私達の仲間を捜すのは良いですけど、これだけ広いと何処に行けばいいのか……」

 だから今は慎太郎の警戒を少しでも解く為に、ビジネスを行う際に見せる社交辞令の笑みで演技をする。我ながら臭いと思うが、慎太郎はそれを全く疑っていない。

「……とにかく、今は少しでも情報を集めましょう。それにここにいては殺し合いに乗った奴らに不意を付かれてしまうかもしれないので、まずは安全な場所を目指さないと」
「そうですか……なら、行きましょうか」

 正義の味方のつもりでいる愚かな男が、まるで便利な操り人形のように思えてしまう。意気込む慎太郎を嘲笑いたくなったが冴子は堪えた。
 そして園咲冴子は感じている。利用出来る手駒を得てから欲望が満たされた結果、殺し合いの鍵を握るセルメダルが増幅している事を。

884成長!! ◆LuuKRM2PEg:2012/05/14(月) 20:43:54 ID:yEDv1GJA0


○○○


 後藤慎太郎と園咲冴子が去ってから十分ほど経過した後、炎に包まれた建物の前に訪れる参加者が現れた。
 素晴らしい世界に旅立ったキャスターの遺品である螺湮城教本を抱える志筑仁美は周りを見渡すが、誰も見つからない。激しく燃え広がる灼熱から生まれる熱風が肌に突き刺さるが、今の仁美はそれに関心を向けていなかった。
 彼女の思考を満たしているのは、素晴らしい世界の招待客が見つからなかった事だけ。残念な結果を前に微かな溜息を漏らす仁美の元に、カオスが空から現れた。

「カオスさん、見つかりましたか?」
「ううん、誰もいなかったよ」
「それは残念ですわね」

 首を振るカオスに仁美は頷く。
 空を飛べる彼女に目の届かない範囲の捜索を任せたが、どうやらこのエリアにはもう誰もいないと仁美は判断した。この世界の何処かにいる鹿目まどかや美樹さやか達を早く見つけて素晴らしい世界に旅立ちたいが、まだまだ時間がかかるかもしれない。

「あ! でもね、代わりにこんなの見つけたよ!」

 仁美がクラスメート達との再会を希求していると、カオスが表情を輝かせているのを見た。その小さな白い手には、ストップウォッチのようにもUSBメモリにも見える奇妙な機械が握られている。

「それは、どこで拾ったのですか?」
「あっちの屋根の上に落ちてあったの!」
「そうですの……」

 仁美は知らないが、それはこの焼け跡から素晴らしい世界に旅立ってしまった橋田至に渡されていた仮面ライダーアクセルの強化アイテム、トライアルメモリだった。下手人である葛西善二郎が放り投げたそのメモリを、飛べるカオスが見つけられたのは当然の結果かもしれない。
 しかしこの場で起きた惨劇について何一つ知らない彼女には、トライアルメモリがただの機械にしか見えなかった。説明書も善二郎に破られて、その効果を知る人間は誰もいない。ただ、キャスターの遺品である螺湮城教本のように力を持っているかもしれないと、ぼんやりと予想するしか出来なかった。

「あら? そういえばカオスさん、さっきより背が伸びてません?」
「えっ……? あっ、本当だ!」

 仁美の言葉を受けたカオスは怪訝な表情を浮かべながら、傍らに立つカーブミラーを見上げる。すると、自分自身の姿を見た彼女の顔は一瞬で驚愕に染まった。
 このエリアに到着してから人を捜すために一旦別れた時より、心なしか身長が数センチ程伸びているように見える。

「どうしてなんだろう……?」
「それは、カオスさんが「愛」を得たいと思ったからですわ」
「えっ?」
「「愛」というものは、誰かの為に頑張りたいと思った時にも大きくなりますの。自分にとって大好きな人の力になりたい……その為に、今の自分から変わっていく事も「愛」の一つなのですわ」
「じゃあ、私が大きくなれたのも「愛」の力なの?」
「きっと、そうだと思います! 「愛」を得たいという思いが強くなればなるほど、カオスさんはどんどん大きくなっていけますわ!」
「そっか……なら、もっと大きくなりたいな! もっと「愛」の事を考えて、いつかおねぇちゃんよりもずっと大きくなる!」
「それはとっても楽しみですわね」

 遙か彼方の空で輝く太陽のように眩しいカオスの笑顔を見て、仁美も思わず微笑んだ。
 もしかしたらカオスは成長期に入ったから背が伸びたのだと、仁美は思う。エンジェロイドの事はよく知らないが人間と同じように考えるのだから、人間のように成長するのかもしれない。
 カオスはこれから「愛」の事を学ぶたびに、もっと大きくなっていく。今の仁美にとって、それは素晴らしい世界に行く事の次に楽しみだと感じられた。

(カオスさん、これからどんどん大きくなるのですね……とっても、楽しみですわ!)

 これからどんどん大きくなっていくカオスの姿を楽しみにしながら、志筑仁美は小さくて白い手を優しく握り締める。その姿はまるで、愛娘の成長を楽しみにしている母親のようだった。

885成長!! ◆LuuKRM2PEg:2012/05/14(月) 20:44:24 ID:yEDv1GJA0


○○○


 カオスの背丈が伸びたのには理由がある。
 彼女がこの会場に飛ばされてから最初に吸収した男、至郎田正影はその体内にドーピングコンソメスープという名の劇薬を投入していた。それを打ち込めばどんな人間だろうと、一瞬で筋骨隆々とした肉体を手に入れることが出来る。
 カオスが吸収したのは正影だけでなく、正影の体内にあったドーピングコンソメスープも含まれていた。人体を急激に成長させる薬の成分を、カオスに組み込まれた自己進化プログラム「Pandora」は解析。首輪の制限によってPandoraの機能は落ちているものの、ゆっくりとだがカオスを確実に成長させていた。
 とある世界に存在するカオスは様々な海洋生物を吸収した事で、少女から大人のように肉体を成長させている。それと同じ現象がドーピングコンソメスープによって、ここにいるカオスにも起こっていた。
 しかしその未来を知る者は誰もいないし、これからカオスの身に起こる事も誰にもわからない。それでも、カオスはゆっくりと大きくなっていた。
 全ては「愛」の形を知る為に。

886成長!! ◆LuuKRM2PEg:2012/05/14(月) 20:44:56 ID:yEDv1GJA0

【一日目-午後】
【B-6】


【後藤慎太郎@仮面ライダーOOO】
【所属】青
【状態】健康、強い苛立ち
【首輪】所持メダル100:貯蓄メダル0
【装備】ショットガン(予備含めた残弾:100発)@仮面ライダーOOO、ライドベンダー隊制服ライダースーツ@仮面ライダーOOO
【道具】基本支給品一式、橋田至の基本支給品(食料以外)、不明支給品0〜2(確認済み)
【思考・状況】
基本:ライドベンダー隊としての責務を果たさないと……。
  1:今は園咲冴子を守り、少しでも安全な場所に行く。
  2:殺し合いに乗った馬鹿者達と野球帽の男(葛西善二郎)を見つけたら、この手で裁く。
【備考】
※参戦時期は原作最初期からです。
※メダジャリバーを知っています。
※ライドベンダー隊の制服であるライダースーツを着用しています。
※橋田至の基本支給品(食料以外)とデイバッグを回収しました。


【園咲冴子@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康
【首輪】100枚(増加中):0枚
【装備】ナスカメモリ@仮面ライダーW、スパイダーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、IBN5100@Steins;Gate、夏海の特製クッキー@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:リーダーとして自陣営を優勝させる。
1.黄陣営のリーダーを見つけ出して殺害し、自分がリーダーに成り代わる。
2.井坂と合流する。異なる陣営の場合は後で黄陣営に所属させる。
3.協力相手と武器が欲しい。
4.後藤慎太郎の前では弱者の皮を被り、上手く利用する。
【備考】
※本編第40話終了後からの参戦です。
※ ナスカメモリはレベル3まで発動可能になっています。
※何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※後藤慎太郎という協力相手を得たことで、セルメダルが増加しています。


【共通事項】
※後藤慎太郎と園咲冴子の二人がこれからどこに向かうのかは、後続の書き手さんにお任せします。


【一日目-午後】
【B-5/焼け落ちた民家の付近】


【志筑仁美@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】緑
【状態】全身打ち身(軽度)、カオスへの強い期待、“魔女のくちづけ”
【首輪】195枚:0枚
【装備】江崎志帆のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ、螺湮城教本@Fate/zero
【道具】基本支給品×2、洗剤二本(混ぜるな危険)@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品1〜5(キャスターの支給品を回収しました)
【思考・状況】
基本:みんなと“素晴らしい世界”へ旅に出る。
0.とりあえずこれからどこに向かいましょう?
1.カオスさんと一緒に、カオスさんの「愛」の形を探す。
2.知り合いを探す。
3.カオスさんやジャンヌさん達を儀式に招待する。
4. カオスさんが大きくなるのがとても楽しみ。
5.思考:1〜を終えたら、みんなと“素晴らしい世界”へ旅に出る
【備考】
※“魔女のくちづけ”により、死に対する忌避感がありません。
 またどのような状況・形であれ、思考が現在の基本思考(死への方向性)に帰結します。


【カオス@そらのおとしもの
【所属】青
【状態】健康、成長中
【首輪】200枚:0枚
【装備】上靴@そらのおとしもの、魔力針@Fate/zero
【道具】基本支給品×2、トライアルメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜5(至郎田の支給品を回収しました)
【思考・状況】
基本:このゲームを楽しむ。
1.仁美と一緒に、自分だけの「愛」の形を探す。
2.温かいのが、「愛」?
3.「心」ってなんだろう?
4. もっと「愛」の事を知って、仁美みたいに大きくなりたい!
【備考】
※参加時期は45話後です。
※至郎田正影を吸収しました。
※吸収した至郎田正影の体内にあるドーピングコンソメスープの影響で、アニメ版のように身長が少しずつ伸びています。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より落ちています。
※今後どんなペースで成長していくかは、後続の書き手さんにお任せします。


【共通事項】
※志筑仁美とカオスの二人がこれからどこに向かうのかは、後続の書き手さんにお任せします。

887 ◆LuuKRM2PEg:2012/05/14(月) 20:47:59 ID:yEDv1GJA0
以上で投下終了です。
今回のカオスの成長に関しては若干アニメ版の要素が入りますので、もしもアニメの要素を入れるのが拙いのでしたら
仁美とカオスのパートは破棄にさせて頂きます。

その他に矛盾点などがありましたら、お手数ですが指摘をお願いします。

888名無しさん:2012/05/15(火) 10:57:50 ID:RtgoVcMY0
投下乙です。
カオスは別に問題ないと思いますよ。
まさかDCSの人がこんなところで役に立つとは思わなかったw
後藤さんは冴子に利用される形になっちゃったか……騙されやすそうだしなぁこの人。
果たして冴子の罠から抜け出せる時は来るのだろうか……頑張れ後藤さん

889名無しさん:2012/05/15(火) 20:22:48 ID:UEhgG4/I0
投下乙です!

まさかDCSがこんな形で役に立つとは誰が予想できただろうか……。
後藤さんも冴子に騙されてるし、どうなることやら。

あと、月報です
|3/16-5/15|46話(+ 3)|58/65 (- 0)|89.2 (- 0.0)|

890名無しさん:2012/05/15(火) 20:41:51 ID:Qixxkebc0
投下乙です
カオスは面白いなあ…パンドラがどんな感じに成長していくのか楽しみだw
後藤さんは後藤さんで良い感じに空回ってるし…

891名無しさん:2012/05/15(火) 23:41:20 ID:4oTPsC1wO
投下乙です!
誤藤さんェ・・・いや、これは少し離れた間に変身したタブーを冴子さんと気付かず誤射るフラグかw

愛組はこのままどうなるのやら、つか流石にトライアルメモリ単体で使えたりはしないか?

892名無しさん:2012/05/18(金) 18:22:50 ID:QDzyasM20
投下乙です

まさに誤藤さんだよなw いい味出してるぜw
愛組も先が楽しみな流れでいいわあw

893名無しさん:2012/05/20(日) 20:49:09 ID:p5MTX6Fs0
投下乙です

後藤さんはバースに変身する日が来るのだろうか

894名無しさん:2012/05/23(水) 19:32:26 ID:rLoxGO2c0
伊達さんから奪い取りそうな気がする

895名無しさん:2012/05/24(木) 01:49:06 ID:DbnNWRrc0
予約キター

896名無しさん:2012/05/24(木) 21:31:20 ID:N6fxQPQc0
確かに来てるぞw

897 ◆qp1M9UH9gw:2012/05/29(火) 02:21:05 ID:Ey875H7Y0
投下開始します

898増幅する悪意 ◆qp1M9UH9gw:2012/05/29(火) 02:22:01 ID:Ey875H7Y0
【1】

織斑千冬――世界の注目を一身に浴びている機動兵器「IS」を、最も上手く使いこなせる者。
その立ち振るまいには一片たりとも無駄がなく、故にあらゆる攻撃――例え飛来してくるミサイルであっても――を寄せ付けない。
彼女の驚異的な力を目の当たりにした人々は、恐れと敬意を込めて彼女に称号を与えた。
その名も『ブリュンヒルデ』――北欧神話にその名を残したワレキューレである。

アンクは北欧神話を詳しく知らないが、『ブリュンヒルデ』という名には聞き覚えがあった。
具体的に何をしたかまでは覚えていないが、神話に出てきたのだからきっと凄いんだろう。
そんな「凄い」名前を与えられた千冬は、現在一人の青年を負ぶって移動している。
かれこれかなりの距離を走っているが、彼女の移動ペースは依然として保たれていた。
彼女の持久力の高さに、追跡しているアンクも些か驚いている。
流石は、世界最強のIS使いと謳われたところか。

「……どこに行く気なのかな」

どうやら千冬は前に進む事に必死なようで、後ろからアンクが追ってきている事に気付いていないようだ。
これは都合がいいと言わんばかりに、彼はデイパックから地図を取り出した。
地図で確認した限りでは、どうやら千冬はC−1に所在する病院へと向かって進んでいるようである。
成程、負傷したユウスケに治療を施そうという魂胆か。

ここでアンクは考える。
どこを目指しているかが分かっているのなら、先周りした方がこちらにとっても有利だ。
だが、それはすなわち今よりも早い速度で病院を目指すという事であり、
その道中に居るかもしれない"欠けたボク"を見逃してしまう恐れがある。
どちらにしても一長一短ある選択だ、さて、どうするべきか――。
少しばかり思考に巡らせた後、アンクは再び進み出した。
それはすなわち、これからの方針を決定したという事である。

899増幅する悪意 ◆qp1M9UH9gw:2012/05/29(火) 02:23:21 ID:Ey875H7Y0
【2】


どうにか敵と遭遇せずに病院に辿りつけた事に、千冬は一先ず安堵する。
背負った怪我人を待合室のソファに横たわらせると、彼女は彼を治療する為の医療器具を探し始めた。
かなり距離を走ったが故に、流石にブリュンヒルデと謳われたIS使いにも色が見えていたが、
今は身体を休めるよりも、もっと重大な怪我を負っているユウスケに処置を施す方が先である。
医薬品がある場所と言えば、やはり診察室あたりだろう。
そう考えながら、千冬は病院の散策を始めた。

探し始めて少し経った後に、千冬は妙な風景に出くわした。
廊下の脇で、物言わずに並ぶ病室のドア達――その中でひとつだけが、口を開いている。
さながら、この部屋に入れと言わんばかりにドアは開け放たれており、
スライド式のドアの取っ手は、こちらに向けて手招きしているようにすら思えた。
あの部屋だけドアが開いているという事は、すなわちそこで何かがあったという事だ。
行って様子を確かめようと、千冬はそこに向かって歩みを進めようとする。
だが、どうしてだろうか――何か、とてつもない不安感が胸を絞めつけてならない。
まるでそこに行ってはならないと、全身が行動を拒絶しているかのようなのだ。
しかしそれは、千冬が行動を躊躇する理由にはならない。
例え本能が否定していたとしても、そこに何かがあるかもしれない以上、己の目で見ない訳にはいかないのだ。

一歩ずつ、前へと進む。
そしてその度に、胸を締め付ける悪寒は強くなっていく。
だが、それがどうしたと言うのだ。
何があるかはまま分からないが、恐慌してそこから逃げるのは恥以外の何者でもない。

扉に近づけば近づく程に、身体が重くなっている気がしてくる。
しかし理解はできていた――こんなものは、所詮駄々をこね始めた本能によるものだと。
理性で無理やり押さえつけて、前へ前へと進んでいく。

そして、ようやく部屋の前にまで辿り着く。
遂に千冬は、その空間の全貌を視界に収めた――収めてしまった。

その世界は、まさしく地獄であった。
そこら中におびたたしい量の赤いペンキがぶちまけられており、
清楚な空間の要素なんてものは、何処へと消え去っている。
鼻から息を吸ってみると、強烈な鉄の臭いが鼻腔を貫く。
そして部屋の中央には、さながらオブジェの如く肉塊が転がっていた。
心臓を思わせる真っ赤な塊、そしてそこから突き出るのは白い棒、
工夫を加えたと言わんばかりに散りばめられたピンク色、僅かに見え隠れする肌色。
赤がべっとりと染み付いた白い布――――――――――――――――――――――――――――――白い布?
どこかで見た事のある、かつて白かった服。
いや、間違いなく見覚えのある、あの学園の制服。
着ている者など世界にただ一人しかいない筈の、男性用制服。
まさか、この肉塊は、この人間は、この男は、彼は、あいつは――――――。

「いち……か…………?」

900増幅する悪意 ◆qp1M9UH9gw:2012/05/29(火) 02:32:44 ID:Ey875H7Y0

【3】


「見ちゃったんだね」

そう嘯きながら、膝をついて呆然としている千冬の姿をじっくりと眺める。
こうする事で、彼女の記憶はこちらに筒抜けとなるのだ。
教師であるが故に、やはり生徒達を大切に思っている記憶が多い。
そうだ、それでいい――心の割合を多く占めれば占めるほど、こちらもやりやすくなる。
やはり彼女を誘うには、最も利己的な一面がある「この女」が適任だろう。

物影から出て、千冬にへと近づく。
ただ悲しげに、同情するように接すればいい。
それだけで、全てが上手くいくのだから。

「……見てしまったのですね」

そうして彼女――ラウラ・ボーヴィッヒは、口を開いた。


【4】

「――――教官」

ラウラが呼びかけても、千冬はまるで反応する素振りを示さない。
ただじっと、目の前の肉塊を呆然と見つめているだけだ。
いや、生気の抜けた彼女の瞳は、「視る」という動作をしているのかすら曖昧である。

「辛いのは分かります……ですが」
「ラウラ」

ラウラの言葉を遮ったのは、他でもない千冬であった。
しかしそれは、いつものような芯の通ったものではない。

「こいつは、一夏は、どうして死んだ」

今の千冬の声は、残った気力を振り絞って出したような、貧弱なものだった。
聞いている方まで胸が痛みそうなそれに、ラウラの表情もより一層曇りを見せる。
まさかあの、凛々しいという言葉が服を着て歩いているような彼女が、ここまで衰弱するとは。
いや、無理もないだろう――千冬の目の前で斃れているのは、他でもない彼女の弟なのだ。
溺愛していた弟とこんな残酷な形で再会してしまっては、流石の彼女も平常を保ってはいられないだろう。

「……誰に、殺されたんだ」

千冬は、唯一の血縁者である一夏を何よりも大切にしてきた。
普段彼に見せる厳しさも、彼に対する不安と愛情の裏返しなのである。
そうでなければ、世界最強の栄光を放り投げてまで、彼を助けに行こうとなどするものか。
そして今、その大切な弟が、死んだ。
人としての尊厳すら踏みにじられたような姿になり果てて、千冬の前に現れた。
こんなにも呆気なく、そして、こんなにも唐突に、人は死に直面するものなのか。

「あの男は……火野映司、と名乗っていました」

悲痛を浮かべた表情を浮かべながら、ラウラが口を開いた。
そこから紡ぎだされるのは、聞いた事もない男の名前。
そいつは誰なのか、と千冬が問うのを待たずに、ラウラはその男の事を話し始めた。

火野映司は、ラウラが最初に出会った参加者だという。
最初は善人の皮を被っていたが故に、彼女も簡単に彼を信頼してしまった。
思えば、あの時奴の本性を見極めていれば、こんな結末には至らなかっただろう。
元とは言えど、軍人にあるまじき体たらくだ――そう言ってラウラは、唇を噛み締めた。
嫁こと、織斑一夏と合流できたのは、その後である。
当たり前と言えばそうだが、彼も殺し合いには乗っておらず、必ず箒の敵を取ってみせると決意していた。
映司はその覚悟を、とても格好良いと肯定していた。
ラウラも、彼に賛同する形で一夏を讃えた――その時の映司には、一夏などただの獲物にしか見えていないとも知らずに。
そして、その数十分後に、一夏は映司に殺されたのである。
ラウラが僅かに目を離している隙に、怪人と化した映司は一夏を瞬く間に肉塊に変貌させた。
なんと映司の正体は、リーダーの五人のグリードとは別の、新たなるグリードだったのである。
激情したラウラは怪人を追ったが、結局逃げられてしまったのだという。

「迂闊だった……ッ!奴が最初からグリードだと知っていれば……!」

語り終えた頃には、ラウラの声には嗚咽が混じっていた。
思い人を喪った記憶を回想するのが、余程堪えたのだろう。

「…………教官。私は火野映司を、そしてこの争いを生んだグリードが許せません」

先程とは一転して、はっきりとラウラは宣言した。
そこに潜んでいたのは、死なせてしまった一夏への懺悔ではなく、彼を弄んだ映司達への怒り。

901増幅する悪意 ◆qp1M9UH9gw:2012/05/29(火) 02:33:11 ID:Ey875H7Y0

「私はグリード達を倒す!その為なら……悪魔になっても構わないッ!」

ラウラのその声は、かつて千冬と初めて出会った頃の刺々しいそれに戻っていた。
内側で巣食っていた怨念が、彼女を変えてしまったのだろう。
きっと彼女は、目の前の標的の邪魔になるものは一人残らず消し去る覚悟すらできている。

「教官……あなたは悔しくないんですか……?
 弟をこんな姿にされて、それでもずっと立ち止まっているんですか!?」

案の定、千冬は何も答えない。
相変わらず呆然としたままの彼女に、ラウラは言い様も怒りと悲しみを感じたのか、
拳を強く握りしめ、身体を震えながら大きく項垂れた。

「……私は全てのグリードを倒します。
 もしあなたが邪魔をするのなら……例え恩人でも、容赦はしない」

最後にそう言い残して、ラウラは踵を返して立ち去っていった。
千冬は引き止めようともせずに、今まで同じ方向を見ている事しかできなかった。
それほどまでに、彼女の精神は磨り減っていたのである。

「…………………………………………」

何も言わずに、血まみれの病室の見渡す。
何時間経っても、何度見ても、もうこの景色は消えはしない。
あれほど愛した弟も、もう二度と帰って来ない。

「馬鹿者が……ッ!」

零れたその言葉が、誰に対するものかは、彼女自身にすら分からなかった。
こんな場所で命を落とした弟へのものなのか。
殺し合いに乗る決意をした教え子へのものなのか。
それとも――心が揺らいでいる、自分自身へのものなのか。


――答えを出せぬまま、時間だけが過ぎていく。


【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】健康、疲労(大) 、無気力、絶望
【首輪】120枚:0枚
【コア】クワガタ:1
【装備】シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品一式、地の石@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:???
 0.――――――――。
 1.ラウラを止めたいが……。
 2.火野映司……グリード……。
 2.生徒と合流する。
 3.ウェザー(井坂深紅觔)、門矢士を警戒。
 4.ISが欲しい。
 5.地の石をどうするべきか。
 6.小野寺は一夏に似ている気がする。
【備考】
※参戦時期不明
※一夏を殺した犯人が火野映司だと思い込んでます。

902増幅する悪意 ◆qp1M9UH9gw:2012/05/29(火) 02:40:57 ID:Ey875H7Y0

【4】


目が覚めてから、ユウスケの目に最初に入ってきたのは、真っ白な壁。
何処かの部屋の中で寝かされている事は、すぐに理解できた。
半身を起こして周りを見渡すと、そこが病院のロビーである事が分かった。

「千冬……さん?」

きっと彼女が、気絶した自分をここまで運んでくれたのだろう。
だが、肝心の彼女の姿はどこにも見当たらない。
病院を探索して、使えそうな物でも探しているのだろうか。
寝かされていたソファから降りて、地に足を着ける。
そしてそのまま、病院の奥に向けて歩み始めた。

今やるべき事は、病院内にいるであろう織斑千冬の探索だ。
しかし、そんな簡単な事をやるだけなのに、何故なのだろうか――妙な胸騒ぎを感じる。
それはまるで、病院に得体の知れない闇が蔓延っているかのようで。
それのせいで、千冬が笑顔を失ったのではないかと思えて。
明確な根拠はないのだが、そう考えずにはいられないのだ。

どうか手遅れになる前に、彼女を救い出したい。
彼の心にあるのは、笑顔を守りたいという純粋な思いだけであった。

【一日目-午後】
【C-1/病院内部】

【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】ダメージ(中)
【首輪】0枚:0枚
【装備】アヴァロン@Fate/zero
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
 0.千冬さん……?
 1.仮面ライダークウガとして戦う。
 2.ウェザー(井坂深紅觔)、士を警戒。
 3.士とは戦いたくない。
 4.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし、ユウスケは覚醒した事に気が付いていません。

【5】

「……ちょろい」

病院を抜け出たラウラの表情に、もう悲しみは一片も残されてはいなかった。
その代わりに現れたのは、上手く踊らせてやったと言わんばかりの邪悪な笑みである。
そう、この場には「ラウラ・ボーデヴィッヒ」という少女は存在しない。
今嗤っているのは、彼女の姿を借りた「ダミー・ドーパント」――すなわちアンクなのだ。

以前騙したイカロスは、主には絶対的な忠誠を誓っているという一面がある。
故に、彼女のマスターである桜井智樹に姿を変える事で、いとも容易く道を外させられた。
しかし、織斑千冬と小野寺ユウスケの二人には、そういった「付け込み易い点」がない。
それに加えて、彼らは正義感が――それこそオーズに匹敵する位に――強いのである。
仮にアンクが姿を変えて殺し合いに乗れと迫ったところで、一蹴されるのがオチだろう。
ならば、逆にその正義を利用してしまえばいい。
彼らの中で燃え上がっている正義を、グリード達にぶつけるように仕向けるのである。
このゲームでまず邪魔になるのは、自分と同じくアドバンテージを与えられている他のグリード達と、
コアメダルを破壊できるという、厄介な能力を身に付けた仮面ライダーオーズだ。
奴らを真っ先に潰すように操れば、きっと大きな戦果をあげてくれる筈だろう。

それにしても、まさか織斑一夏が、スタート地点の病院で呆気なく殺害されていたとは。
スタート地点から考えて、恐らく加害者は怪盗Xと考えられる。
とすれば、今のXは「IS学園唯一の男性生徒」として会場を駆け回っている可能性がある訳だ。
尤も、そんな事はアンクにとってはどうでもいい話なのだが。

結局、もう一人の自分を見つける事はできなかった。
もしかしたら道中ですれ違ったかもしれないし、あるいは全く逆方向に移動しているのかもしれない。
だがどちらにせよ、"欠けたボク"とは出会えなかったという事実に変わりは無いのだ。
己の選択を今更悔やんだところで、何の意味もない。
今はそれよりも、これからどう動くかを考えるべきであろう。

「どこにいるの……"ボク"……?会いたいよ……」

依然として雛鳥は鳴いている。
しかし、親なくしても成長するのが生物というもの。
幼き彼は、確かに進化しつつあった。
ダミーメモリの精神汚染と、それを使用する事で使用可能となる悪行から、彼の魂は確実に悪意を成長させつつある。


幼き鳥は、未だ半身を求め続ける。
その悪意を膨らませながら、今か今かと再会を待ちわびているのだ――。

903増幅する悪意 ◆qp1M9UH9gw:2012/05/29(火) 02:41:11 ID:Ey875H7Y0
【一日目-午後】
【D-1/北部】

【アンク(ロスト)@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】健康、愉悦への目覚め(?)
【首輪】90枚(増加中):0枚
【コア】タカ:1、クジャク:2、コンドル:2
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ダミーメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜5(確認済み)
【思考・状況】
基本:赤陣営の勝利。"欠けたボク"を取り戻す。
 1."欠けたボク"に会いに行く。……どこに行ったのかな?
 2."欠けたボク"と一つになりたい。
 3.赤陣営が有利になるような展開に運んでいくのも忘れない。
【備考】
※アンク吸収直前からの参戦。

以上で投下終了です

904 ◆qp1M9UH9gw:2012/05/29(火) 02:44:49 ID:Ey875H7Y0
千冬の現在位置を記入し忘れていました

【一日目-午後】
【C-1/病院内部】

905 ◆qp1M9UH9gw:2012/05/29(火) 02:45:37 ID:Ey875H7Y0
上の表が千冬の現在位置です!何度も申し訳ありません!

906名無しさん:2012/05/29(火) 19:19:20 ID:fgcEGIdI0
乙です。揚げ足を取るわけじゃないけど千冬さんは普段ラウラのことを苗字で呼んでましたよ

907名無しさん:2012/05/29(火) 19:29:22 ID:mfBAzWVYO
投下乙です!
ロスト容赦ねぇ……とはいえ映司の名前だけで身体的特徴まで言ってない辺りまだまだ甘いか?教えるにしろ若干説明に困るけどw

908名無しさん:2012/05/29(火) 19:37:14 ID:RTKHMITU0
投下乙です

ああ、知人の偽物と最愛の弟の遺体を見た後とかならさすがに騙されるわ…
絶望して憎悪に火が付いてる状態はロワではロクな目に合わんぞ。自分も他人も
ユウスケ、なんとかしてくれえ
しかしロストは馬鹿と比べて調子いいなあw

909名無しさん:2012/05/29(火) 20:57:27 ID:vKmHPwIo0
投下乙です!
おお、ロストはまたとんでもない事をするなぁ……今度は千冬先生を揺さ振るなんて。
ユウスケは彼女を支えて欲しいな。

910名無しさん:2012/05/30(水) 17:28:30 ID:XYRIq11c0
>>908
ウヴァさんはバカじゃない
ただ致命的に運が悪くて小物なだけだ

911 ◆qp1M9UH9gw:2012/05/31(木) 21:36:12 ID:S745Sw7.0
拙作をwikiに収録しました。
また、その際にタイトルを「Aの策略/増幅する悪意」に変更しました

912名無しさん:2012/06/06(水) 09:50:45 ID:yLXEmVjI0
投下乙です

このロワには参加してないけど、555の草加にダミー使わせたら
ロストもドン引きなえげつないことしてくれそう

913名無しさん:2012/06/08(金) 01:53:10 ID:q1XVrzUs0
予約キター
しかも大人数

914名無しさん:2012/06/08(金) 02:13:56 ID:WSSh9DZg0
ホントだ
大規模予約キター

915名無しさん:2012/06/08(金) 13:19:57 ID:aobaToZkO
ロスト\スカル/
W『ま た ダ ミ ー か』

……な展開になったりして?ぶっちゃけランスさんのが危ういけどw

916名無しさん:2012/06/12(火) 20:53:42 ID:mybH2BXc0
次スレはまだはやい・・・かな?

917名無しさん:2012/06/13(水) 01:04:49 ID:V1CbPfis0
まだ早いよ

918 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/13(水) 18:09:20 ID:mHjBJ0SM0
仮投下スレに作品を投下しました。
確認をお願いします。

919 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:36:02 ID:MCH5spfw0
これより、予約分の投下をします。

920 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:36:39 ID:MCH5spfw0


 ――――それは、午後も半ばを過ぎ、夕方になろうかというときの出来事だった。
 その出来事の中で、俺達が出来た事はあまりにも少なかった。
 そしてそれが、俺たちの戦いの本当の始まりだった。


        ○ ○ ○


「それじゃあ一先ず情報を整理しようと思う」
 そう言って衛宮切嗣は、思考を切り替える様にアストレアと向き合った。

 そこは空美中学校、新大陸発見部の部室だ。
 食事も済み、支給品の確認も終えた彼らは、これからの行動を選択するに当たりその指針を決めようというのだ。

「まずこの殺し合いの場となった会場についてだ。
 会場は円盤状になっていて、直径はおよそ40キロメートル、厚みは200メートルほどだろう。
 加えて原理は不明だが、空に浮いていると思われる。これにより会場外への脱出はより困難なものとなっている。
 なお、地表及び海上は雲海に覆われていて確認できない。
 当然何かしらの妨害もあるだろうから、飛行手段を用いたとしても不用意な脱出は危険だろう」

 切嗣の説明は簡単なものではあるが、それでもアストレアには難しかった。
 だが切嗣は構わずに続ける。
 なぜならこれは切嗣が最初に言った通り、アストレアへの説明ではなく情報の整理。
 切嗣は敢えて口に出す事で、頭の中を纏めているのだ。

「次に、会場内の市街そのものについてだ。
 地図に書かれた街は一見、複数の街を切り取ったような構造をしているが、これはおそらく複製だ。
 その根拠は会場内の冬木市にある。
 本来、冬木市は海を北に位置するとして、未遠川を挟んで西に衛宮邸、東に言峰教会がある。
 だが地図を見る限り、会場内の冬木市に未遠川はなく、衛宮邸と言峰教会の配置も逆だ。
 アストレア自身もこの空美町に違和感を覚えている様だし、おそらく間違いないだろう」

 その説明にアストレアも頷く。
 基本的に空を飛んで移動していたアストレアは空美町の地理には疎い。
 だがそれでも、慣れ親しんだ場所、見慣れた光景というのはあるのだ。
 ここが本当に彼女の知る空美町であるのなら、違和感など覚えるはずがない。
 しかし彼女がこの街を眺めて感じたのは妙な“ズレ”であり、ここは“違う”という確信だけだった。
 ならば切嗣の言う通り、この街は精巧な複製でしかないのだろう。

「最期に、僕等に掛けられた制限についてだ。
 制限に関しての最たるものは、首輪だろう。
 ランプによりその人物の所属陣営を識別する機能。
 一定の条件下で爆発し、ルールに反した者の命を奪う機能。
 参加者達の能力を制限し、使用するためのメダルを格納する機能。
 更には禁止エリアや放送の事から、参加者の居場所や生死を知らせる機能もあると思われる」

 他に気付いた細かい機能を言えば、死者のランプは点灯していない。
 これはすなわち、死者は無所属にすら所属していないという事なのだろう。
 死者の首輪の爆薬がまだ機能しているかは判らない。
 確認するなら解体するのが手っ取り早いだろうが、確かめるには機材も情報も不十分なので、今のところは保留する。

「真木清人に反抗するには、首輪の解除が前提条件だ。
 ヤツは首輪によって参加者達の命を握っている。これが解除できなければ、殺し合いを止める事など不可能だろう。
 それに仮に止めたとしても、真木清人本人やそのバックにいる組織を壊滅しなくては、同じことの繰り返しになるのは予測できる。
 その組織や技術を推測するためにも、アストレアの様な“異世界の参加者”との接触は必要だろう」

 上手くすれば、その人物とも協力関係を得られるかもしれない。
 敵の戦力が予測できない以上、味方の戦力は多いに越した事はない。
 そして出来れば、ワイルドタイガーの様な人物の協力を得られる事が望ましい。

「それらを踏まえた上で、僕らが次に目指す場所はここだ」
「そこ? 地図には何も載ってないけど」
 地図を取り出して指し示された場所に、アストレアは当惑する。
 なぜなら切嗣が地図で指し示した場所は、エリア【D-1】の森だったからだ。
 そこには森を表す緑色があるだけで、建物は表記されていない。
 だが切嗣は、それを肯定したうえで続けた。

921 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:37:36 ID:MCH5spfw0

「この中学校の屋上からスコープで周囲を見渡した時に、気になるモノを見つけたんだ」
「気になるモノ?」
「ああ。そこでアストレアに聞くけど、君の知る空美町に『城』はあるかい?」
「お城? 私は見た事がないけど……」
「そうか。ならやはり………」

 そう言って切嗣は、考え込む様に俯く。
 彼にとって見覚えのある、空美町にないはずの『城』。
 もしその『城』が想像通りのものであれば、きっと真木清人の居場所の手掛かりになるだろう。

「詳しい事は現地で説明する。今はまず、その場所に向かおう」
「わかったわ」

 そう考えた地図をしまい、デイバックを背負って立ち上がる。
 その際に切嗣は、左手のモノとは別の、右手に元々宿っていた令呪を見る。
 その画数は二画。先ほどよりも一画減っていた。

 中学校の確認が終わった際に、切嗣は令呪を以てセイバーの召喚を命じていた。
 バーサーカーという懸念はあったが、いざという時は令呪で縛ればいいと、戦力の補充を優先したのだ。
 それにより令呪は消費され、しかしセイバーは召喚されなかった。
 その命令がセイバーの仲間も一緒にという多少無茶な物だったからか、それとも制限からか。
 魔力の奔流も起きなかった事から、切嗣は後者だろうと予測していた。

「それじゃあ行こう」
「うん」

 もう用は済んだと、切嗣と一緒に部室を後にする。
 その際に少し振り返って部室を眺める。

 大丈夫。きっとまた、みんなと会えるはず。
 そう信じながら、アストレアは先を行く切嗣を追い掛けた。


        ○ ○ ○


 ワイルドタイガーと別れてから少しして、翔太郎とフィリップは【D-1】にある病院へと到着した。
 傾き始めた太陽に照らされた病院は、まだ昼間だというのにどこか不気味な影を落としている。
 元より人が多く死ぬ場所。こんな殺し合いの場だからか、その負の部分が際立って見えたのだろう。

「お、人がいたのか」
「どうやらそのようだね」

 微かな不安を覚えつつも正面玄関からロビーへと入ると、二人はソファーに座りこんだ一組の男女を見つけた。
 彼らも翔太郎達に気がついたのだろう。男性の方が、顔を上げて翔太郎達の方を向く。だが女性の方は俯いたまま、何の反応も返さなかった。
 それが少し気になったが、翔太郎はまず青年の方に声を掛ける事にした。

「俺は左翔太郎。こっちは相棒のフィリップ。二人で探偵をやっている」
「小野寺ユウスケです。あの人は織斑千冬さん。IS学園という所で教師をやっているそうです」
 そう自己紹介をしながら、ユウスケは千冬の様子を見る。
 目覚めてから病院を探索したユウスケは、すぐに千冬を見つける事が出来た。
 だがその時から彼女は、今のように覇気を感じさせない有様だった。

 彼女にいったい何があったのか。
 すぐにでも病院を調べたかったのだが、失意の底にある千冬を放っておく事も出来なかった。
 故にユウスケは、一先ず病院のロビーで、千冬が落ち着くのを待っていたのだ。
 翔太郎達が現れたのは、そんな時だった。

「それじゃあユウスケ。何があったか教えてくれるか?」
「そう……ですね。わかりました、俺の知っている限りを話します」

 翔太郎の質問に応じ、ユウスケは彼らと出会うまでの事を口にする。
 と言っても、短期間で二度も気絶していた彼が知っている事は少ない。
 それに思い返してみれば、ウェザーの乱入で千冬さんの事情も聞けていない。
 だからユウスケは、その数少ない知っている事を、できる限り正確に話した。

922 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:38:37 ID:MCH5spfw0




「――――なるほどな。大体の事情は理解した。フィリップ」
「そうだね、翔太郎。君達を襲ったのは、井坂深紅郎で間違いないだろう」

 ユウスケから話を聞いた翔太郎たちは、確信を持ってそう断言した。
 それを聞いたユウスケは、彼らの自信に疑問を返す。

「井坂深紅郎?」
「ああ。ガイアメモリの力に魅せられた、凶悪な連続殺人犯だ」
「だが奴は照井竜によって倒され、メモリを過剰使用した反動で死んだはず。
 君の話からして本物なのは間違いが、それなら一体どうやって………」

 真木清人には死者さえも蘇らせる力があるのか。それとも何か別の方法を使ったのか。
 圧倒的に情報が足りない現状では、答えの断片さえ掴めない。
 やはり、一度地球の本棚で検索する必要があるだろう。

 そうやって一人考え込むフィリップに、翔太郎は構うことなく声をかける。

「今はそんなのどうだっていいだろ。井坂のヤロウが地獄から蘇ったっていうんなら、もう一度地獄に叩き落してやるだけだ」
「確かにそうだけど……今の僕たちにはファングもエクストリームもない。
 どうやってウェザーの力に対抗するつもりだい、翔太郎?」
「うっ。そ、それはだな―――」

 そうやって言い合う二人を横目に、ユウスケは再度千冬の様子を見た。
 千冬は変わらず、暗く俯いている。先程の話を聞いていたのかさえ怪しい。
 それは、ウェザーへと一人果敢に挑みかかった彼女の後ろ姿からは想像も出来ない有様だ。

 いったい何があったら、これ程までに彼女を打ちのめせるのか。
 俺はまた、笑顔を守る事が出来なかったのか。そんな自責の念にかられる。
 その思いは千冬に重ねていた面影も加わって、ユウスケに一層重く圧し掛かる。

 そんなユウスケに、翔太郎が唐突に謝罪の声を掛けてきた。

「すまねぇ。俺達がもっと早く駆けつけていれば、協力する事だってできたかも知れなかったのに」
「そんな! 翔太郎が気にする必要はないよ!
 俺がもっとしっかりしていれば、もう少しなんとかなったかもしれないんだから」
「いや、井坂の持つウェザーはそんなに甘くねえ。
 あんたがクウガだってのは聞いたが、多分今の俺達だけじゃ勝てねぇ」
 翔太郎は井坂深紅郎との戦いを思い返しながらそう言った。
 ウェザー・ドーパントの天候を操る能力は強大だ。
 もしダブルだけでウェザーを倒すのであれば、エクストリームへの強化変身は必須だろう。
 ユウスケが変身するというクウガが、どれ程の力を持っているかは判らないが、彼がウェザーを撃退できたのは奇跡みたいなものだろう。

「翔太郎の言う通りだよ、小野寺ユウスケ。
 完璧な人間などいない。君は出来なかったことを悔やむより、あの井坂深紅郎を単身で撃退できた事を誇るべきだ」
「そう……なのかな。でもありがとう、翔太郎、フィリップ」
「気にする事ねぇよ。仮面ライダーは助け合い、だろ?」

 以前会った別の仮面ライダーのセリフを借りてそう告げる。
 彼が今どうしているかは判らないが、もしこの殺し合いに呼ばれているなら、きっと協力出来るだろう。

「仮面ライダー? 翔太郎たちも仮面ライダーなのか?」
「おう。俺たちは二人で一人の仮面ライダー、Wだ」
「君は確か、クウガ、だったね」
「ああ」
「ふむ、仮面ライダークウガ。どこかで聞いたような………」

 フィリップの方はクウガという名前に聞き覚えがあったのか、少し考え込む。
 だが今は先にするべき事があるため、湧き上がる疑問を頭の隅に置く。

「まあそれは後で纏めて検索するとして、先に病院の方を調べよう」
「だな。このままジッとしててもしゃーねぇし」
「あの、俺もついて行く!」

 そう言って唐突に頭を下げたユウスケに、二人は思わず目を合わせた。

「俺、千冬さんに何があったのかを確かめたいんだ。
 だから、お願いだ!」
「だそうだよ、翔太郎」
「しゃぁねえ。俺が彼女を見とくから、二人で言って来い」
「! 二人とも、本当にありがとう!」
「それじゃあ僕と彼で中を調べてくるから、その間彼女を任せたよ」
「翔太郎、千冬さんを頼む」
「おう、任せとけ」

923 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:39:03 ID:MCH5spfw0

 胸を張る翔太郎に礼を言って、ユウスケはフィリップと共に病院の奥へと向かう。
 それを見送った翔太郎は、今尚俯いたままの千冬へと向き直る。

「それじゃあ俺は、こっちを何とかしてみるか」

 依頼人から事情を訊くのが翔太郎。集めたキーワードから推理するのがフィリップの役割だ。
 今の彼女から事情を訊くのは骨が折れそうだが、やれるだけやってみよう。
 そう思い、翔太郎は千冬の対面へと座り込んだ。


        ○ ○ ○


 目的地であるエリア【D-1】に位置する森の最奥。
 バーサーカーの運転するライドベンダーから降りた切嗣は、目の前の森に隠すように建てられた城を見上げる。
 空美中学校の屋上より見えたその城は、やはり彼の予想通りの物だった。

「やっぱり、アインツベルン城か」

 それは、会場が地図の通りに区切られているのであれば、冬木市になければならないはずの城だ。
 だが実際には冬木ではなく、空美町の森に建てられている。
 確かに地図を見る限り、切り取られた冬木市に森はないが、それならばそもそも建てなければいいだけの筈。
 真木清人がそうしなかった理由は判らない。
 だがそれはまるで、作ったのはいいが置き場所がなく、とりあえず別の場所に置いた。といったような適当さだった。

「今からこの城を調べる。何か気付いた事があったら、遠慮なく言ってほしい」
 そう言って切嗣は城の門を開け放ち、城の中へと入っていく。
 アストレアは切嗣の言葉に頷き、彼に続いて城の中へと入っていった。


 見覚えのある扉を開き、見覚えのある部屋をくまなく調べ、見覚えのない景色を窓から眺める。
 部屋の間取りも、家具も、何もかも見知ったものであるのに、一度外を見れば全く見知らぬ景色が広がる。
 そのあまりの違和感に、切嗣はこの殺し合いのために用意された街の異常さを、改めて認識した。

 空に浮かぶ円盤の街。不自然に区切られた街と街の境界。精巧に模造された建物の数々。
 一体どれほどの技術があれば、ここまでのモノを作れるというのだろうか。
 だがこれほどの技術があるのならば、態々街を切り取とった風を装うよりは、実際の街を切り取った方がよっぽど簡単だろう。

 ――――それともあるいは、こんな形ででしか再現出来なかった理由があるのか。

 いずれにせよ、一つ分かった事がある。
 即ち、真木清人は、この会場のどこにもいない、という事だ。
 もう少し正確に言うと、参加者達が用意に近付ける場所にはだが。
 ここまでの物を作れるのなら、参加者の寄り付けない場所を作りそこに隠れる。それだけで安全だからだ。

 切嗣がそう結論すると同時に、アストレアが戻ってきた。

「切嗣、何か見つかった?」
「いや、何も見つからなかったよ。それこそ、“何も”ね。
 判ったのは、複製されたのは形だけって事のみだ」
「形だけ?」
「ああ。本来この城にあるはずの魔術的な護りが、何一つとしてないんだ」

 この城の主であったアイリスフィールがいればもっと何か解ったかもしれないが、彼女は既に死んでいる。
 サーヴァントやマスター達の様に何らかの手段で蘇生されている可能性もあるが、名簿に載っていない以上可能性は低いだろう。

 そこでふと、切嗣はある事を思い出した。

“そう言えば、あの人影はいったい”

 真木清人の説明の時に見た、アイリの様な人影。
 あの暗さと状況で確認は出来なかったが、確かに白系統の長い髪の女性がいた。
 この会場に送り込まれた当初は見間違いだろうと思い直したが、サーヴァントたちの事を考えれば無視は出来ない。

“いずれにせよ、確認する必要はあるだろうな”

 見間違いであればそれでいいが、アイリ本人だった場合は名簿に載っていない人物がいる事になる。
 参加者達の混乱を招くためか、それとも別の理由からか判断は出来ないが、頭の隅に置いておく事にする。

924 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:39:26 ID:MCH5spfw0


「それじゃあ次は、冬木市に向かおうと思う。何か意見は?」
「私にはないよ。ここでジッとしていても智樹達にいつ会えるかわかんないし、それに切嗣に協力するって決めたから」
「そうか、ありがとう」
 アストレアに礼を言い、窓から外を眺める。

 この殺し合いの舞台で、既にどれだけの人が死んだのだろう。
 それが殺し合いに乗った人物ばかりであればいい。だがこういう場で真っ先に死ぬのは、力のない女子供だ。
 ただの一般人にはサーヴァントに対抗することなど出来ない。
 それにバーサーカーと戦っていた少年も野放しになっている。
 一刻も早く“仲間”を集め、力ない人々を保護する必要があるあろう

「まったく、正義の味方も楽じゃないな」
 苦笑と共に自嘲を籠めて呟く。

 間桐雁夜を死なせ、今もこうして力の無さを嘆くしかない自分が情けない。
 これならばまだ魔術師殺しとして活躍していた時の方が気は楽だった。
 そんな風に、早くも自分が背負うと決めたモノの重さに挫けそうになる。

「切嗣、何か言った?」
「いや、何でもないよ」
 アストレアの声に、落ち込んだ気持ちが起き上がる。

 大丈夫だ。まだ耐えられる。弱音を吐くには、まだまだ早すぎる。
 聖杯戦争の終わりに味わった絶望に比べれば、こんなモノは苦痛にもならない。
 それに、子供の様に明るいアストレアが一緒なら、きっと挫けずに戦えるだろう。
 切嗣そう思いながら、アストレア達を連れてアインツベルン城を後にした。


 ――――だが、話はそこで終わらなかった。
 冬木市へ向かおうと、切嗣がライドベンダーへと近づいた、その時だった。

「切嗣……なの?」

 酷く懐かしい、そして愛おしい声が聞こえた。
 それを幻聴ではないかと、思わず己れの耳を疑う。
 ゆっくりと、確かめる様に、そして怯える様に振り返る。

「…………アイリ」
「よかった。やっぱり切嗣だったのね!」

 そしてそこには、記憶にあるままの、アイリスフィールの姿があった。
 幻覚でも、幻聴でもない。確かな命を持って、生きていた。

「っ――――――」
 言葉が出なかった。
 何を言うべきかも、どうするべきかも定まらない。
 ただ、内心を混沌とした感情が、渦巻くばかりだった。
 そんな切嗣に、アイリスフィールは自らの不安を口にする。

「ねぇ切嗣。あの子は、誰? それにバーサーカーまで、一体どうやって」

 言われて彼女達を見れば、アストレアはアイリスフィールを警戒し、バーサーカーは臨戦態勢をとっていた。
 これはまずい、とすぐにアストレアにアイリスフィールを紹介する。

「アストレア、そう警戒しなくていい。彼女はアイリスフィールと言って、僕の妻だ」
「つま? ………って妻!? 切嗣結婚してたの!?」

 アストレアは驚きの声を上げて、アイリスフィールをまじまじと見る。
 その様子から、どうやら警戒は解いてくれたらしい。
 次にアイリスフィールにアストレアを紹介する。

「彼女はアストレア。ここで出会った、僕の協力者だ。
 バーサーカーの方は運良く彼のマスターと遭遇してね。どうにか令呪を得る事が出来たんだ。
 攻撃をしようとしなければ問題はないし、一応警戒もしている」
「そうなの? よかった」

 アイリスフィールはそう言って胸を撫で下ろした。
 どうやら、彼女も安心してくれたらしい。
 そうして彼女が落ち付いた事を確認してから、事務的に事情を聞いた。
 それによると、彼女は見滝原中学校から病院を経由して、偶然ここを見つけたらしい。

「なるほどね。ならアイリ、その道中で誰かに会ったり、何かを見つけなかったかい?」
「ええ、病院でラウラって子に会ったわ。彼女によると、織斑一夏って人が火野映司に殺されたらしいの。
 その子はグリードに復讐するんだって言って、すぐにどこかに行っちゃったけど」
「……そうか。ありがとう、アイリ。参考になったよ」

925 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:39:49 ID:MCH5spfw0

 やはり、既に他にも死人が出ていた。
 その事に、外見は冷静に努めながら、内心で強く歯噛みした。
 また助けられなかった。また手遅れだった。そう悔しく思いながら。

「それじゃぁアイリ、僕は協力者を探しながら冬木市に向かおうと思っているけど、君はどうする?」
「もちろん協力するわ。ただ……」
「ただ?」

 切嗣は言い淀んだアイリスフィールに聞き返す。
 彼女の眼は、なぜかバーサーカーに向けられていた。
 バーサーカーも同様に、アイリスフィールへと不気味な視線を向けている。

「ただ、やっぱり二組に分かれた方が、効率が良いと思うの。
 だからバーサーカーの令呪を、一画でいいから譲ってくれないかしら」
「バーサーカーの令呪を? どうしてだい?」

 二組の方が効率が良いというのはわかる。
 サーヴァントを制するのに、令呪が必要なのもわかる。
 切嗣とアイリスフィール、アストレアとバーサーカーという組み合わせよりマシなのは自明の理だ。
 だが何故わざわざバーサーカーなのか。ただ二組に分かれるのなら、アストレアでもいい筈だ。

「だって、私はアストレアさんの事をよく知らないから、とっさの協力は難しいわ。
 それにサーヴァントであるバーサーカーなら、セイバーの時の様にサポートも出来るでしょう?」
「なるほどね、それなら納得だ。わかった。君にバーサーカーを任せよう」
「ありがとう、切嗣! わかってくれて良かったわ!」
「けどその前に、一つ訊きたい事がある」
「え? 訊きたい事って?」

 アイリスフィールは、切嗣の言葉に不思議そうに首を傾げる。
 彼女から視線を巡らせれば、混乱から持ち直したアストレアは様子を見ている。
 バーサーカーは先程から変わらず、アイリスフィールに不気味な視線を向け続けている。
 それらを見て切嗣は、

「ああ――――君は一体、誰なんだい?」

 自らの愛する妻へと、コンテンダーの銃口を向けてそう訊いた。


        ○ ○ ○


「フィリップと翔太郎は、お互いに信頼し合っているんだな」

 フィリップと共に病院を調べていたユウスケは、なんとはなしに彼に声を掛けていた。
 彼等の様子を見て思う所があったのだ。

「まあね。僕と翔太郎は出会ってからずっと一緒だったから、その分お互いをよく知っているのさ。
 君にはいないのかい? そういう、お互いを支え合えるような相棒は」
「そう……だね。俺は信頼し合えてる、つもりだったんだけど………」
「―――門矢士か」
「………………」

 ユウスケの話から聞いた、彼の仲間だったはずの人物。
 彼が殺し合いに乗った理由は解らない。
 その不可解さが、彼の事を仲間だと思っていたユウスケに影を落としているのだ。

「俺、士の事、なんにも解ってなかったんだ。
 士と一緒に旅をして、色んな人と出会って、一緒に笑いあって。
 それで、それだけで勝手に仲間だと思い込んで、一方的に信頼してたんだ」

 士が俺の事をどう思ってるか、なんて考えもしないで。
 自分が信頼しているから、相手も信頼してくれていると勝手に決め付けて。

 少し話しただけでわかった。
 翔太郎さんとフィリップさんは、本当にお互いを信頼しているのだと。
 きっと彼等は、お互いが何をしたいか、何をしようとしているかを、言葉にするまでもなく理解出来るのだ。
 ―――一人だけわかっていたつもりになって、結局なにもわかっていなかった俺と違って。

「いつも士に助けられてばっかりで、俺はあいつに、何の手助けも出来てなかったくせに……!」
 一体それでどうして、仲間だと、信頼できる相手だと思えるのか。
 勝手について行って、勝手に頼って、勝手に信頼して。
 結局のところ、俺と士は、本当の仲間じゃなかったのだ。

 門矢士の事を考える時、小野寺ユウスケはそんな後悔に苛まれる。
 仮面ライダーとして戦う覚悟を決めても、迷いが消えてなくなった訳ではないのだ。
 だからその言葉は、彼の心に、強く響いた。

926 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:40:20 ID:MCH5spfw0

「ならば今度は、君が彼を助ければいい」

「え?」
 ユウスケは思わず足を止めて、フィリップへと振り返る。
 同様に足を止めたフィリップは、真っ直ぐにユウスケを見据え、そして言った。

「さっきも言っただろ。完璧な人間などいない、と。
 これは僕たちの恩師が残した言葉だ」

 鳴海壮吉。
 言ってしまえば、彼こそが仮面ライダーWの始まりだ。
 彼がいなければ翔太郎とフィリップが出会う事はなく、Wは誕生しなかった。
 そして彼の言葉がなければWは今頃、仮面ライダーではなく、ただの戦闘兵器となっていただろう。

「僕と翔太郎だって、何も最初からお互いを信頼していた訳じゃない。
 何度もケンカをしたし、今でも意見が分かれる事はある。時にはWに変身出来なくなった事さえあった。
 それでも僕達が“二人で一人”でいられたのは、相棒を信じているからじゃない。信じようとしてきたからだ」
「信じようとする……」
「そうだ。何も考えずにただ信じるだけなら、それは依存と同じだ。
 けど相手が何をしようとも、その上で信じ続けられるのなら、それが本当の信じるという事だと僕は思う」

 それは、士の行動を信じられず悩み続けていたユウスケにとって、天啓にも等しい言葉だった。
 フィリップの言葉には、相棒との絆で成り立つWとして戦い続けてきた故の重みがある。
 その絆の経験こそが、今のユウスケに足りない物だったのだ。

「僕は君ほどには門矢士を知らない。彼が殺し合いに乗ったのも、間違いではないだろう。
 けど、君の知っている門矢士は、訳もなく殺し合いに乗る様な人間なのかい?」

 考えるまでもなく、首を横に振って否定する。
 確かに士は、時には何を考えているか分からない様な行動をした事もある。
 けど結果的には、それらは全て、誰かを助ける為の行動になっていた。
 だからこそ、ユウスケは士を信頼したのだ。

「なら、何か理由があるはずだ。門矢士が殺し合いに乗らなければならない理由が。
 だったら君は、その理由から彼を助ければいい」
「俺が、士を助ける」
「お互いを信じて、そして助け合う。それが仲間というものだろ?」
「――――ああ!」

 決断にはまだ遠い。だが迷いは晴れた。
 あとは、士を助ける為にはどうすればいいかを探すだけだ。
 だからたとえ、士と再び出会ったとしても、もう答えを先送りにするだけで終わる事はないだろう。

「フィリップ、本当にありがとう!」
「気にする必要はない。翔太郎も言っていただろう? ライダーは助け合いだって。
 それに僕が何かを言わなくたって、君はきっとその事に気付いただろうしね」
「そんなこと―――」
「君が僕達についてくると言った時、君の目には強い意志があった。
 なら、その意志を最後まで貫き通せば、きっと答えは見つかった筈だ。僕はその手助けを下にすぎない」

 フィリップはそう言って、ユウスケから視線を外して歩きだした。
 それは、もうこれ以上言う意味はない、という事だろう。

「さぁ、もう行こう。翔太郎を待たせてる」
「……ああ、わかった」

 まだ言い足りない事はある。だが翔太郎を、ひいては千冬をロビーで待たせたままなのは心配だった。
 だからユウスケは言葉を飲み込んで、先を行くフィリップの後に続いた。


 ――――そうして彼等は、“ソレ”を見つけてしまったのだった。

 廊下に並ぶ閉ざされた病室の中、不自然に開かれた一室。
 その中に残された、凄惨という言葉では足らない惨劇の跡を。

「――――――――」
 言葉が出なかった。
 一体何をどうすればこんな事が出来るのか、皆目見当もつかなかった。

 一面に撒き散らされた赤は、おそらく血液。
 所々に散らばっている塊は、肉や骨だろう。
 それはもはや、死体と呼ぶ事すら憚れるほど、人の形をしていなかった。

927 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:40:54 ID:MCH5spfw0

「これは…………」
 そしてフィリップも同様に言葉をなくしていた。
 だがそれはユウスケの様な理由ではない。
 フィリップは犯人の殺害方法に驚愕していた。

 扉は開いていた。窓は割れている。室内は一面飛び散った血で汚れている。
 このキーワードから判る殺害方法は、犯人は窓から侵入し、一瞬で被害者を殺害し、悠々と扉から出ていったという事だ。
 なぜなら部屋は汚れてはいるが、争った形跡はなく、また扉から侵入したのであれば、わざわざ窓を割る必要がないからだ。

 問題は、被害者の殺され方だ。
 油断した所を、あるいは抵抗する間もなく、一瞬で殺されたのはわかる。
 だがその場合、急所を突いて殺すのが普通だろう。
 しかしこの被害者の場合は、無茶苦茶に引き裂かれて死んでいる。

 つまり犯人は、自分が殺した死体を解体し撒き散らす異常者か、人外の力で内側から派手に撒き散らした怪物かのどちらかだ。
 そしてわざわざ窓を割って飛び込んできた事を考えて、後者の方だろう。

「最悪……だね」

 フィリップは、現状考えられる最悪の状況に、思わずそう呟いていた。
 おそらく、織斑千冬はコレを見てしまったのだ。
 同時に彼女があそこまで塞ぎ込んでいた理由も推測できてしまった。
 だとすれば、次に彼女が執る可能性のある行動は、――――

「む―――!?」

 そこまでフィリップが考えた時、唐突に彼の腰に赤い機械のベルトが出現した。
 ダブルドライバーと呼ばれるそれは、彼らが仮面ライダーWに変身する際に用いる物だ。
 それは翔太郎がオリジナルを装着することで、フィリップにもコピーが出現する仕組みなのだ。
 そしてそれが出現したという事は、翔太郎がドライバーを装着したと言う事に他ならない。

「翔太郎、どうしたんだ!」
「フィリップ? いきなりどうしたんだ?」

 ダブルドラーバーは装着時、ドライバーを通じて相手と会話が出来る。
 それを知らないユウスケは、フィリップのいきなり上げた声に驚き声を掛ける。
 だがフィリップそれを無視して翔太郎へと声を掛ける。
 事態は急を要するだろう。いちいち教えている余裕はない。

『フィリップ! 今すぐに変身だ!』
「だから一体何があった! 誰に襲われてるんだ!?」
『……千冬さんだ。千冬さんに、襲われてる』
「織斑千冬に!? くそ、考えられる中で最悪のパターンだ。
 なら翔太郎、彼女が行動を起こしたきっかけは分かるかい?」
『わからねぇ。どうにか事情を聴こうとしてたら、いきなり剣を抜いて切りかかられた。
 しかもやたら早くて、避けるので精いっぱいで取り押さえる余裕がねぇ』

 翔太郎の声は、緊張に張りつめている。
 ドーパントと渡り合える力を持つ千冬を相手にして、素手で彼女を取り押さえることなどできない。
 たとえ過剰防衛になりそうであっても、こちらもドーパントと渡り合える力が必要だ。
 おそらく翔太郎は今、千冬と睨み合った状態になっており、その隙にドライバーを装着したのだろう。

「……迷っている余裕はなさそうだね、翔太郎」
《――CYCLONE――》
『すまねぇ、フィリップ』
《――JOKER――》

 サイクロンメモリを取り出し、ガイアウィスパーを響かせる。
 同時にドライバーを通じて、ジョーカーメモリのガイアウィスパーも聞こえた。

「フィリップ! 一体どうしたんだ!? 千冬さんに何があったのか!?」
「すまないが、説明している余裕はない。僕の体を頼んだよ、小野寺ユウスケ」
「ちょっと、それどういう意味だよ!?」

 ダブルに変身する時、フィリップの体は無防備になる。
 故に変身している間の事をユウスケに頼み、サイクロンメモリをドライバーへ差し込む。
 ユウスケは理解できずに戸惑っているが、すぐに事態を察してくれるだろう。

928 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:41:21 ID:MCH5spfw0

「「変身!」」
《――CYCLONE/JOKER――》

 ガイアウィスパーと共にフィリップの意識が転送され、同時に翔太郎の体を中心に風が巻き起こる。
 渦巻く風が止んだ時、そこには右半身を緑に、左半身を黒に染めた翔太郎の姿があった。

「ッ――――――!」
 切り変わった視界の向こうでは、変身した翔太郎を警戒して千冬が距離をとっていた。
 彼の言う通り、千冬が剣を取って襲ってきた、という事だろう。
 そしてその理由も、全てをではないが予想出来ている。

「翔太郎。先に病院で見たモノと、そこから推測した事を伝えておく」
「何があったんだ?」
「人が……死んでいた」
「なっ!」

 翔太郎が息を飲む。
 当然だろう。仮面ライダーである彼からすれば、それは看過できない事だからだ。
 だが、話はここで終りではない。

「その事と彼女の様子から推測するに」

 フィリップは言い難そうに、しかしはっきりと告げた。
 殺された人物が一体誰が該当するのか。
 その、絶望的な答えを。

「殺されていたのはおそらく――――織斑一夏だ」

 現場に残されていた衣服は、引き千切られて入るが、男物と判別できた。
 そして名簿には、織斑千冬と同じ苗字で、男性のものと思われる名前が一つだけあった。
 殺された人物が彼女の知り合いと仮定した場合、それらから推測できる人物は即ち「織斑一夏」一人だ。
 織斑千冬と織斑一夏の関係性は解らないが、その可能性は高いだろう。


「織斑? ってことはまさか………っ、ちくしょう! そういうことかよッ!!」

 その理由に思い至った翔太郎が、悔しさのあまりに声を張り上げる。
 そう。織斑一夏が彼女にとって大切な人物であり、その彼が殺されたとなれば、織斑千冬の執り得る行動は限られてくる。

 一つは僕達の様に、亡くしてしまった人物に誇れる在り方を貫き通す道。
 もう一つは、かつての照井竜の様に、亡くした人物の敵討ちを望んで復讐鬼となる道。

 織斑千冬が選んだのは、おそらく後者。
 断定はまだできないが、こうして剣を向けられている以上、否定はできない。

 そしてそれを肯定するように、千冬は鈍い光を放つ剣を正眼に構える。
 無言で剣を構える彼女の目には、明確な殺意が宿っていた。

「翔太郎、来るよ―――!」
 相手が来ないのなら自分から、という事だろう。
 千冬は一息で距離を詰め、その手の剣で斬りかかってくる。
 Wはそれを咄嗟に避け、追い縋る千冬から距離を取る。

「行くよ、翔太郎」
「ああ……力ずくでも千冬さんを止めるぞ!」

 そう言って仮面ライダーWは、剣を構え迫る千冬へと相対した。
 修羅の道を歩もうとする女性を、その悲しみから助けるために。

「――――――――」
 対する千冬は臆することなくWへと迫り、再びその剣を振るう。

 ―――無表情に。ただ殺意だけを、その瞳に宿して。


        ○ ○ ○


「もう一度だけ聞く。お前は一体何者だ」

 切嗣はアイリスフィールにそう詰問する。
 愛する妻に銃口を向けるその視線に、揺らぎは全く見られなかった。
 そんな、切嗣の明らかに敵と見做した行動に、アイリスフィールは戸惑う事しか出来ない。

「な、何を言ってるの切嗣? 私のことがわからないの?」
「そうだよ切嗣! さっき自分で奥さんだって言ってたじゃんか!」
「ああ。少なくとも、外見上はね」

929 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:41:44 ID:MCH5spfw0

 突然の展開に、アストレアは思わずアイリスフィールを擁護する。だがそれを、切嗣は一言で切って捨てる。
 その冷徹さに、アストレアはおろか切嗣の事を知っている筈のアイリスフィールまでもが絶句した。
 それを待って、切嗣はアイリスフィールに銃口を向けた理由を口にした。

「理由は三つある。
 一つ目。お前は二組に分かれることを提案した時、バーサーカーの令呪が欲しいと言った」
「だってそれは……!」
「ああ、確かに会って間もないアストレアが信用できないというのはわかる。
 けどお前は、真っ先にバーサーカーを指名した。それこそ、初めからそうするつもりだったかのように」
 そして彼女は、アストレアの事を知ろうともしなかった。

 その指摘に、目の前のアイリスフィールは驚いたように目を見開いた。
 それは本当に、隠し事が見抜かれた時の彼女の反応そのままだった。
 けれど切嗣の知っているアイリスフィールであれば、アストレアに挨拶すらしないのはおかしかった。

「二つ目。お前が現れてからずっと、バーサーカーがお前に反応している。
 バーサーカーには、害意を持たない人間には攻撃しないよう命令してあってね。
 そのバーサーカーが反応するという事は、お前は何かしらの害意を持っているという事になる」
「あっ―――!」
「ッ――――!」

 アストレアがそれを思い出し、声を上げる。
 対するアイリスフィールは、一瞬悔しげに顔を歪ませる。
 その表情を、僕は知らないし、記憶にある彼女からは想像も出来ない。
 だがそれを一瞬で消して、アイリスフィールは覚えている通りの仕草で言葉を紡いだ。

「けど、相手はあのバーサーカーよ? 警戒するなって言う方が無理よ」
「そこで三つ目だ。確かにお前の姿形、見た限りの仕草や癖も、記憶にある彼女そのままだ」
「ならどうしてっ」
「だがお前は、あまりにもそのままに過ぎた。まるで、懐かしい映画を見ている様な気分だったよ」

 人間の記憶とは、年月の流れに風化し、美化されるものだ。
 切嗣がアイリスフィールを失ってから五年。それほどの時間で、記憶にある彼女が変化しない方がおかしい。
 だが目の前にいるアイリスフィールは、何もかもが覚えているままだった。
 そしてそれこそが切嗣が、彼女に疑念を懐いた最大の理由だった。

「さぁ、教えてもらおうか、お前の正体を。―――バーサーカー」

 切嗣の指示に従い、バーサーカーは“倉”から一振りの大剣を取り出す。
 その行動に一切の淀みはなく、令呪による抑制を受けていない事は明らかだ。
 命令を撤回していない以上、害意を持たない人間には攻撃できないはずなのに、だ。

「お願い切嗣! バーサーカーを止めて!
 私は本物のアイリスフィールよ!? 私を信じて!」

 それを見たアイリスフィールは、自らの窮地に命乞いをする。
 だが、それこそが致命的な齟齬だ。
 アイリスフィールは、切嗣の理想の為に命を捨てる覚悟を持っていた。
 仮に切嗣の様に死後から呼ばれてもそれは変わらないだろうし、聖杯の“内側”での記憶を持っているのなら、切嗣へ抱く感情は憎悪の筈だ。
 そのどちらも懐いていない彼女は、少なくとも切嗣と共に在った“アイリスフィール”ではない。
 それに何より――――

「信じているさ。お前ではなく、僕と共に生きたアイリをね」

 バーサーカーがアイリスフィールへと一息で距離を詰め、大剣を勢いよく振り下ろす。
 大剣を打ちつけられた地面は粉塵を巻き上げ、一瞬二人の姿を隠した。
 その直後、粉塵から空へと飛び出す赤い影があった。

「……まさか、こんなにもあっさりと見破られるなんて思わなかったなぁ。
 思った以上に厄介だね、衛宮切嗣」

 極彩色の片翼を広げる赤い人影は、物理法則を無視して空中に停滞している。
 だが魔術師の観点から見れば異常なそれも、アストレアやISと言った前例を見た後では驚くに値しない。
 故に切嗣の関心は別の所に寄せられ、即座に赤い影の正体を看破した。

「そうか……お前がグリードか」
「あたり。僕の名前はアンク。よろしくね」

 そう言って赤い影――アンクは、子供の様な仕草で挨拶をした。
 しかし、あいにく切嗣にはアンクとよろしくするつもりはなく、むしろこれを好機とみてバーサーカーに指示を出す。

930 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:42:13 ID:MCH5spfw0

「悪いが、お前と慣れ合うつもりはない。今ここで始末させてもらう。バーサーカー!」
「■■■■■■――ッ!!」

 指示を受けたバーサーカーは、空を飛ぶアンクに対抗するために白式を展開し、一気に飛翔する。
 そしてそのままの勢いでアンクへと迫り、展開した雪片弐型を薙ぎ払う。

「ぅおっと! 危ないなぁ。僕はまだ倒されるつもりはないんだ。だから、さっさと逃げさせてもらうね」

 攻撃は予測していたが、アストレアではなくバーサーカーからの攻撃だった事に驚きながらも、アンクは更に高く跳び上がって撤退する。
 だが切嗣にアンクを見逃すつもりなど、微塵もなかった。

「させるか! 追え、バーサーカー! アストレアも頼んだ! 僕もすぐに追い駆ける!」
「りょーかい!」

 切嗣の指示を受け、アストレアはすぐにアンクとバーサーカーを追って飛び出す。
 それを確認するより早く、切嗣もライドベンダーに飛び乗り、アクセルを全開にする。

 もしアンクが他の参加者と接触し、バーサーカーを危険人物だと言ってしまえば、それを否定する要素はない。
 その人物がバーサーカーに攻撃を加えてしまえば、危険人物という認識は決定的になってしまう。
 それをさせないためにアストレアも向かわせたが、万が一という事もある。

 反射神経を限界まで酷使して木々を回避し、ほんの数分で森を抜ける。
 一応雁夜の支給品から得た切り札があるとはいえ、何事もないに越した事はないのだ。

「頼むから、問題を起こしてくれるなよ……!」

 そう口にしながら、空を飛ぶ三つの影を追う。
 森を抜けるまでの僅かな間に、もう大分離されている。
 彼女達に追いつくのは、どうやら事が終わってからになりそうだ。

931 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:42:39 ID:MCH5spfw0


        ○ ○ ○


 その日々は、今でも鮮明に思い出すことが出来る。

 ずっと、二人で生きてきた。
 一夏と共に両親に捨てられてから、ずっと一人で守ってきた。
 捨てられたときに誓ったのだ。一夏のことは、自分の力のみで守って見せると。

 それは、とても辛く、苦しい日々だった。
 子供だけで生き抜けるほど、世間は優しくなんかない。
 挫けそうに、諦めそうになったことなど、数え切れない。
 けれど、一夏の存在を支えに、耐えて耐えて生き抜いてきた。

 だからそれは、とても幸せな日々だった。

 そうして年を経て一夏も成長し、当たり前に生活する分には庇護する必要はなくなっていた。
 そのころからIS関連の仕事が多くなり、家に帰れることは少なくなっていった。
 それでも一夏の待つ家に帰り、穏やかにすごした時間は、何よりの至福だった。
 一夏がIS学園に通うようになり、私的な時間がより短くなっても、傍にいられることは嬉しかった。

 だから一刻も早く、一夏と合流したかった。一目でも無事な姿を見て、安心したかった。
 そしてその願いは半分だけ叶い、残り半分は、最悪の形で叶わぬものとなった。


 ―――その部屋は、一面が鮮烈な“赤”に彩られていた。
 大分時間が経っていたのか、その赤色はすでに酸化し黒ずんでいる。
 だがそれがまた鮮烈な赤色に、毒々しさを加えていた。

 そこには人間など居なかった。死体すら存在しない。
 あるのはただの残骸だけだ。滅茶苦茶に引き裂かれ捨てられた人形の綿の様な、ただの肉片だけがそこにあった。

 ――――せめて。
 殺人者がもう少し執拗であればよかったのに。

 赤に彩られた男物のIS学園の制服を見て、放心しながらもそう思ってしまった。
 それさえなければ、ただ犯人の異常さに眉を顰めるだけですんだかもしれないのに。
 判別できる程度に無事だった制服は、“残骸”の元となっていた人物が誰であるかを容赦なく突き付けてきた。

 “ソレ”は織斑千冬にとって掛け替えのないモノであり、そしてたった一人の家族である、『織斑一夏』であると。

 ラウラは言った。火野映司という男が、一夏を殺したのだと。
 彼女は全てのグリードを倒すと、その為なら悪魔になっても構わないと、そう言って立ち去った。
 それを止めることが、千冬には出来なかった。
 一夏の無残な死を目の当たりにした千冬の精神は、それほどまでに磨り減っていたし、
 なにより、ラウラの抱いた憎しみを、ラウラ以上に理解できてしまったからだ。


 そうしてふらつくように、その部屋を後にした。
 そこにいる意味はなかったし、小野寺ユウスケのことも心配だった。
 だがそれ以上に、その部屋から、一夏の死という現実から逃げだしたかった。

 後はもう、駆け寄ってきたユウスケに支えられてロビーへと戻り、そこに現れた二人の青年の話を聞き流していた。
 別に何も聞いていなかったわけではない。ただ応える気力がなかっただけの事だ。

 だがその話の中で、一つだけ気になる言葉があった。
 それを何も考えぬままに反芻し、理解し、検討していた。

 そしてその答えを認識すると同時に、考えるよりも早く行動していたらしい。
 気が付けば私は、自分へと気遣うように話しかけていた青年へと剣を振り抜いていた。
 青年は辛うじてその一撃を躱していたが、私は構わず邪魔なデイバックを投げ捨て、剣を構え直している。
 何故そんな事をするのかと思ったが、すぐにその理由に思い至った。

 “――――私はグリード達を倒す! その為なら……悪魔になっても構わないッ!”

 ……ああ、ならばいい。そうしよう。
 それしか他に方法がないと言うのなら、それを成そう。
 そんな諦念にも似た決断をし、再び青年へと足を踏み出した。

 すぐにでも青年をこの手にかけ、その命を奪い取ろう。
 そして他の者も同様に、誰も彼も殺し尽くそう。
 そう、心にもないことを決意して。

932 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:43:00 ID:MCH5spfw0


 ―――そうして今私は、緑と黒の二色をした仮面ライダーとやらへと剣を振るっている。
 感情を凍らせ、心を押し殺し、表情を無にして、

 胸を穿つ、理由の分かりきった躊躇いも振りはらって、剣を振るう。

 ――――――だって誓ったのだ。
 何に代えても守ると。
 だから、



「ハァ――ッ!」
「グ、このッ………!」
 千冬はWへと、必殺の意志を籠めて剣を振るう。
 Wはその一撃を防いで反撃するが、あっさりと躱され、逆に反撃を受ける。

 ―――弱い。
 千冬はWをそう評価する。
 ウェザーと比べると、硬度、速度、威力、そのどれもが低い。
 そしてそれ以上に、戦闘技術の錬度が低すぎる。
 一般人にはそれでも脅威ではあるが、千冬にとっては恐れるに値しない。

 もちろん相手が本気を出せていない、というのもあるだろう。
 だがそれを言うのならば、千冬とて武器が不慣れな西洋剣だ。全力を出せている訳ではない。
 条件で言うならば五分か、若干千冬が有利といったところだろう。
 故に千冬は、ユウスケが駆けつける前に決着を付けようと、一気に攻勢へと移る。

「うお――! とっ! グッ……!」
 千冬から繰り出される高速の三連撃。
 一撃目は飛び退いて、二撃目は半身になって回避し、三撃目は腕を交差して受ける。
 本当に女性、いや、人間かを疑うその一撃の威力に数歩後退り、迫る追撃を大きく飛び退いて躱す。

「ってぇ〜……!」
 千冬の斬撃を受けた腕を振って痛みを誤魔化す。
 一撃を受けた腕には切り傷が残り、僅かに白煙を上げている。
 やはりWに変身したのは正解だ。もし生身の肉体だったなら、守った腕ごと体を両断されていただろう。
 彼女であれば、生身のままエンジンブレードを使いこなすことも可能かもしれない。
 だがそれほどの実力こそが、Wに変身する翔太郎とフィリップを攻めあぐねさせていた。


 剣道三倍段、という言葉がある。
 これは武器を持たぬ者より、持つ者の方が有利である、という例えだ。
 その理由はおもに二つ。
 一つは間合い。ナイフの様な小振りな物を除けば、戦いは基本的にリーチのある方が強いとされる。故にこそ刀剣は廃れ、銃火器が発展したのだ。
 もう一つは殺傷性。これは単純に、怪我の危険がある素の拳よりは、何かしらの道具を用いた方がより躊躇わずに力を籠められる、というだけの事だ。

 その点で言えば、今回は一つ目の事例に該当する。
 Wが千冬を攻撃、あるいは拘束するには、まず彼女の振るう剣をなんとかする必要があるのだ。
 だが素手でどうにか出来るほど千冬の攻撃は甘くなく、ウェザーのように体で受け止められるほど、Wの体表硬度は高くない。
 それにそもそもとして――――

「厄介だね。彼女を相手に手加減は出来ない。けど、」
「本気で攻撃しちまったら、最悪大怪我をさせちまう」

 千冬がウェザーに対抗できたのは、彼女の戦闘技術もそうだが、他にも二つ理由がある。
 一に、ウェザーは能力主体のドーパントであり、持ち主の趣向もあって接近戦はあまり得意ではないという事。
 二に、井坂深紅郎にとって千冬達との戦いは、あくまでも制限を確かめる為の実験だった、という事。
 この二点に、千冬の超人的な剣技が合わさって初めて、人間の身でウェザーに対抗し得たのだ。

 しかし、いかに超人的な剣技を持とうと、千冬はあくまでもただの人間でしかない。
 人間を越える力を持つWの一撃をまともに受ければ、彼女は大怪我を免れないだろう。
 Wの目的は千冬の凶行を止める事であり、もし全力を出して大怪我をさせてしまえば本末転倒だ。
 あるいは千冬であれば対処できるかもしれないが、その“もしも”を考えれば迂闊な攻撃は出来ない。
 そんな厄介の一言に尽きる状況に、翔太郎は彼女がドーパントであれば、メモリブレイク狙いで遠慮なく戦えたのにとさえ思った。

「しゃーねぇ。フィリップ、まずは剣を何とかするぞ」
《――TRIGGER――》
 ドライバーからジョーカーメモリを取り外し、トリガーメモリと換装する。
《――CYCLONE/TRIGGER――》
 それと同時に、Wの黒い左半身が青色へと変化する。
 トリガーは遠距離攻撃を可能とするメモリであり、剣しか武器を持たない千冬に対し有利となる。
 ただしその威力をあまり加減出来ず千冬には危険だが、そこはWの腕次第だろう。

933 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:43:23 ID:MCH5spfw0

「――――」
 Wの左半身の色が変わった事に、千冬は僅かに目を見開くが、瑣末なことと切り捨てる。
「翔太郎、くれぐれも彼女に直撃させない様にね」
「わかってるって。おっし、行くぜ!」
 対するWはトリガーマグナムを取り出し、千冬の足元へと疾風を伴なう光弾を連射する。
 直撃させるのは危険なため、足場を崩して動きを止め、その隙に剣を撃ち落とそうという作戦だ。

 ――だがその目論見は、容易く破られることとなった。

「――――――」
 千冬はWが狙いを定めるよりも早く動き出し、連続で放たれた光弾を回避する。
 更に続いて放たれる光弾も、Wの狙いを予測した上で素早く立ち回り、その狙いを外す。
 いかに高速の弾丸であろうと、その斜線が真っ直ぐである以上、狙いが逸れれば中ることはまずない。
 そしてそれは、刀剣一本で数多のISを打ち破ってきた千冬にとって、そう難しいことではなかった。
 千冬はトリガーマグナムから放たれる光弾の特性を把握し、紙一重で回避しながら徐々にWへと接近していく。

「くそ、速ぇ……!」
「駄目だ翔太郎! 完全にこちらの狙いを見切られている!
 ルナ……いや、メタルに変えるんだ!」
 相棒のその言葉に従い、翔太郎は即座にメタルメモリを取り出す。
 フィリップがここでトリガーマグナムに誘導性を持たせるルナではなく、格闘系のメタルを選んだのは、千冬の速度を懸念しての事だった。
 そしてその懸念通り、千冬は変身の為に銃撃の止んだ一瞬の隙に、一気にWへと接近し剣を振り抜いていた。

《――CYCLONE/METAL――》
「ヅ……! 危ねぇ……!」
 間一髪で変身の間にあったWは、金属のような銀色に変化した左腕で千冬の一撃を受け止める。
 そのままメタルシャフトを取り出し、千冬へと薙ぎ払う。
 千冬はそれを飛び退いて躱し、続いて放たれた突きを剣で受け流して、返す一撃でWの左脚を切り払う。

「うお――っと……!」
 だがWはバランスを崩しただけで、そのまま前転して距離を取った。
 その様子を見て千冬は僅かに目を細める。

 硬度が上がっている。先程の様な傷跡も残らない。
 いかに速度を優先したとはいえ、想定よりもダメージが低すぎる。

「今度はこっちの番だぜ!」
 そう言ってWはメタルシャフトを振り回して攻撃してくる。
 千冬はそれを剣で捌きながら、改めてWの状態を見る。

 左半身が銀色に変わり、武器を出現させただけではない。
 剣から伝わる衝撃で威力が、先程の一撃で硬度が上昇したのが分かる。
 だが代わりに、立ち回りの速度が低下している。

 ―――なるほど。METAL――金属か。
 そう千冬は納得し、同時にWの戦闘技術が低い理由も理解した。
 おそらくWは複数の形態に変化し、その度に攻撃手段が変化するのだ。
 常に相手の弱点となる形態に変身し、故に一つの形態に対する錬度が低くなっている。
 複数の武装を以って戦う場合における、当然ともいえる欠点だろう。

 故に千冬もまた、Wに対応した戦法をとる。
 千冬の武器は剣一つ。またトリガーに変身されては対処が面倒だ。
 ならばより素早い連続攻撃で、そもそも変身させなければ良いだけの事。

「シッ――――!!」
 そう結論し、疾風怒濤と剣を振るう。
 Wはメタルシャフトを盾にその連撃を防ぐが、速度を優先した千冬の攻めに、徐々に防御が遅れていく。
 そしてついには、徐々に体の方に攻撃が当たり始めた。
 一撃の威力は低いためダメージは少ない。だが決して無いわけではない。
 このままではいずれ隙ができ、強烈な一撃を受けてしまうだろう。

 Wがこの攻撃に対処するには、速度を上げるか、そもそも千冬を近づけさせない必要がある。
 だがWが形態を変化させるには、どうしてもメモリの換装が必要となる。
 そしてそれをさせないための、高速の連続攻撃なのだ。

934 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:43:59 ID:MCH5spfw0

『翔太郎、このままでは……!』
「わかってるって! なんとかする――さ!!」
 メタルシャフトを一際強く薙ぎ払う。
 胴は当たった時に危険なため、狙ったのは足だ。

「――――――」
 だが千冬はその足払いを軽く跳躍して回避し、着地と同時に剣を振り抜く。
 狙いはガラ空きの左脇腹。Wには薙ぎ払ったメタルシャフトを戻す余裕はない。
 故にWはその一撃を防ぐ事も出来ず、そして躱す間もなくその一撃を受けた。
「グッ……、の―――!」
 ――――否、受け止めた。

「ッ――――!」
 激痛を耐え抜くと同時に跳ね上がるWの左腕。
 千冬は即座にその狙いを看破し、次撃への選択を捨てて後方へと飛び退く。
 それによって間一髪、千冬の剣を捕らえ損ねたWの左腕は空を切った。
 だが左腕はそのままメタルシャフトを掴み、勢い良く跳ね上げられる。

「ヅッ――――!!」
 それを咄嗟に剣で防ぐが、その威力に剣が手から離れ、高く打ち上げられた。
 千冬は即座に後退し、辛うじて追撃を躱す。

「おっしゃあ――ッ!」
「翔太郎、今だ――!」
《――LUNA/METAL――》
 そうして開いた距離をWは詰めず、今度は右半身を金色に変化させる。
 そしてメタルシャフトの先端を鞭のように撓らせ、千冬へと向けて薙ぎ払う。
 ルナの効果を得たメタルシャフトであれば、千冬を傷つける事なく拘束出来るからだ。

「捕まえた―――あれ?」
 しかしその一撃は、Wの狙い通りに千冬を捕える事は出来なかった。
 千冬は這い蹲る様に地面に伏せることでメタルシャフトの一撃を躱し、更にはWへと向けて疾走する。
 それに思わず咄嗟に防御姿勢をとったWへと飛びかかり、足場として強く踏み抜き更に高く跳躍する。

「なにぃ―――!!」
「僕たちを踏み台に……!!」

 そして未だ空に打ち上げられていた剣をその手に掴み、落下の勢いさえも利用してWへと渾身の一撃を叩き込んだ。

「グァ―――ッ!!」
「クッ! 不味い……!」
 踏み台にされた事で体勢を崩していたWは、千冬のその一撃を防ぐ事が出来なかった。
 そのまま崩れ落ちる様に地面を転がり、どうにか千冬との距離を取ろうとする。
 だが千冬がこの絶好の機を逃すはずがなく、今のWに千冬から逃げきるだけのスピードはなかった。

 ―――故に千冬の攻撃が行われなかったのは、第三者からの妨害しか有り得なかった。

「――――やめて下さい、千冬さんッ………!!」

 その声に、千冬は思わず、今にも振り下ろそうとした剣を押し止めた。
 見れば、病院の入り口に、フィリップを背負ったユウスケが立っていた。

「ッッ………………!!」
 一気に湧き出た心の呵責に更なる躊躇いが生まれ、それを振り切って剣を振り上げる。

「■■■■■■■■―――ッ!!」

 ―――その隙を狙ったかのように、叫び声と共に飛来するものがあった。
 それは彼女達のすぐ近くへと墜落し、粉塵を巻き上げる。

「チィ――――!」
「い、いきなりなんだ!?」

 千冬は襲来したものを警戒して後退し、Wも両方に対処できるように距離をとる。
 飛来したものは土煙に紛れてよく見えない。だが先程の叫び声と、辛うじて見える影から人型だとは判る。
 故にその正体を確かめようと、土煙が晴れるのを待って人影を視認した時、千冬は二度目となる思考停止を味わうこととなった。


「コイツ……いきなり何なんだ!?」
「少なくとも、味方って訳ではなさそうだね」

 翔太郎とフィリップは、結果として千冬から自分達を救った人物を見て警戒心を懐く。
 その人物は全身に漆黒の鎧を纏い、更にその上から、最初に殺された少女と同じような機動兵器を装備している。
 だが判るのはそこまでで、それ以上はどんなに目を凝らしても詳細を判別できない。
 いや。目を凝らせば凝らす程に、鎧の輪郭は曖昧になっていく。
 ただ兜のスリットから覗く赤い眼光だけが、明確な戦意と狂気を表していた。

935 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:44:17 ID:MCH5spfw0

「、………………っ」
 小さく喉を鳴らして唾を飲み込む。
 いかなる意図によるものか。黒い騎士は纏っていた起動兵器を解除した。
 だがそれ以降何の行動も示さず、まるで獲物を窺うかのようにジッとしている。
 あれほど派手な登場をしたのであれば、何かしらの目的がある筈なのに、だ。
 こちらが動くのを待っているのか。それとも別の理由があるのか。
 その目的が分からない以上、迂闊に動く事は出来なかった。

 そんな重苦しい緊張感の中、ただ一人だけ、言葉を発した人物がいた。

「………なぜ、貴様が乗っている…………」

 千冬が顔を俯けたまま、そう言った。
 その声には、さながら地獄からの怨嗟の様な響きが伴っていた。

「それは一夏の……私の弟の物だ……!」

 その色が如何に黒く変色しようと、
 その形が如何に禍々しく変容しようと、
 自分がその機体を見間違えるはずがない。
 黒い騎士が乗るISは、紛れもなく――――

「なぜ貴様が白式に乗っているんだと訊いているんだ……ッ!!」

 ―――織斑千冬の弟、織斑一夏の専用機『白式』だ。

 千冬は剣を握り締め、力の限りに叫ぶ。
 それは、先程まで一言も喋らなかった彼女の声とは思えないほどの激情だった。

 だが黒い騎士は答えず、不気味に沈黙を保ったままだ。
 その態度に、ついに千冬の感情が爆発し、怒りのままに黒い騎士へと剣を振り上げた。

「答えろォォォオオオ――――ッッッ!!!!」
「■■■■■■■■■■■■――――ッッ!!!」

 それに呼応するように、不気味な沈黙を保っていた黒い騎士も咆を張り上げる。
 そしてその咆哮が、新たなる戦いの狼煙となった。


        ○ ○ ○


 アンク――正しくはもう一人のアンクが切嗣達に気付いたのは、本当にただの偶然だった。
 織斑千冬に揺さぶりを掛けた後、病院から南下していたアンクは、不意に聞こえたエンジン音を辿ることで切嗣達を見つけたのだ。

 その時アンクが思ったのは、衛宮切嗣の殺害とバーサーカーの引き込みだった。
 衛宮切嗣は徹底した暗殺者であり、情報を与えれば与えるだけ弱点を晒してしまう事になる。
 加えてエンジェロイドとバーサーカーを従えている今、ともすれば切嗣の独壇場になりかねない。
 故に切嗣が何かしらの情報を得る前に、なるべく早期に殺しておくにこした事はない。
 更に赤陣営であるバーサーカーを制御化に置けば、己自身の戦力も盤石となると考えたのだ。

 そこでアンクはダミーメモリの能力を使って彼等の記憶を探り、アイリスフィールに“偽装”した。
 彼がわざわざ参加者に居ないアイリスフィールに“偽装”したのは、最も厄介な衛宮切嗣を欺くためだった。

 最初はイカロスの時と同様に桜井智樹へと“偽装”するか、あるいは人間態で接触しようかと考えた。
 だが前者ではアストレアが命令に従う可能性は低く、後者ではもし正体がばれれば、以降暗躍する際に動き辛くなってしまう。
 そして切嗣には、ドクター真木の説明会の際にアイリスフィールに似た人影を見た記憶があった。
 外見的特徴からおそらくラウラ・ボーデヴィッヒの事だろうが、切嗣にそれを確かめる術はない。
 更に言えば、切嗣は自らの妻であるアイリスフィールに対してのみ、他の人間に比べると格段に対応が甘くなるからだ。

 後は正体を気付かれる前に、衛宮切嗣から令呪を奪えばよかった。
 令呪を一画でも手に入れれば、後はダミーの能力の応用でどうとでも制御できる。
 ならばバーサーカーにアストレアの相手をさせ、その間に自分は切嗣を始末すればいい。
 切嗣は能力的にも暗殺者向きであり、真っ向勝負でグリードに勝てる要素は少ないからだ。
 故に自身がボロを出さない限り、この作戦には何の問題もない――――はずだった。

936 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:44:38 ID:MCH5spfw0


 ……アンクに誤算があったとすれば、それはバーサーカーの性質と衛宮切嗣の思考パターンを甘く見ていた事だろう。
 例え令呪で縛られていようと、バーサーカーは今尚戦いを求めている。
 いかに狂化されていようと、サーヴァントとしての本能がその機を逃す事はしない。
 その本能が、アンクの内に秘められた、切嗣への“害意”を嗅ぎ取っていたのだ。

 そして衛宮切嗣は、目的の為ならば心を切り離して行動する事が出来てしまう。
 たとえどれだけ似ていようと、僅かでも疑念を抱けば、それを徹底的に暴こうとする事が出来る。
 その結果本物だったとしても、アイリスフィールがより多くを殺す事になるのであれば、彼はそれを阻止するために自ら手を下しただろう。
 ……第4次聖杯戦争を、そうやって終結させたように。

 ―――それに何より、彼は信じていたのだ。
 自分の知っているアイリスフィールであれば、そのような事をする筈がないと。
 それこそが衛宮切嗣が、約束した理想を遂げる為に必要なものとして胸の内に秘めた、“仲間への信頼”だった。


 そうして今、アンクはバーサーカーの追撃から全霊を持って逃げていた。
 それがアンクのもう一つの誤算。バーサーカーが所有する「白式」の存在だった。

 怪盗Xに持ち去られたはずのISをバーサーカーが持っていることは、完全に想定外だった。
 奥の手もあるため、アストレア一人ならどうにでも撒けたし、場合によっては殺す事も出来ただろう。
 だが二人掛かりとなると、今のアンクには逃げ惑う事しか出来なかった。

 だがアンクとて何も考えずに逃げたわけではない。
 白式もアストレアも、どちらも高速特化型。ただ逃げるだけではすぐに追いつかれる。
 そこでアンクが選んだ逃亡先は、先程まで彼がいた、参加者がいる事が確定している病院だった。
 彼女達をバーサーカーに嗾ければ、少なくとも追手はアストレアだけになるだろうと判断したのだ。

 そうしてバーサーカーの攻撃を凌ぎ、時には炎弾で牽制しながら病院に辿り着いた、その時だった。
 目的地に辿り着いたことで、僅かにでも気が緩んだせいだろう。

「■■■■■■■■―――ッ!!」
「しまっ、ッア゛――――ッッ!」

 その緩みを突いて、バーサーカーは一瞬でアンクの背後に回り、強烈な一撃を叩き込んだ。
 アンクは咄嗟に両腕で防御したが、バーサーカー相手にそんな守りはないも同然だ。
 あっさりと胴体まで切り裂かれ、高空から大地へと叩き落とされた。
 その激痛とダメージに、アンクは一瞬気を失ってしまう。


 そうして一瞬の気絶から目を覚ました時、アンクは自身の幸運に感謝した。
 バーサーカーを除き、その場所に居たのは織斑千冬と小野寺ユウスケ、そして仮面ライダーWだった。
 そして都合がいい事に、織斑千冬はバーサーカーへと激情を露わにしている。
 弟の専用機を怪しい黒騎士が使っていれば、それも当然と言えるだろう。

 このまま千冬がバーサーカーに攻撃すれば、バーサーカーは反撃を行い千冬は殺されるだろう。
 そうすれば、小野寺ユウスケ――つまりは仮面ライダークウガも、仮面ライダーWも、バーサーカーを危険人物とみなし、戦いを始めるだろう。
 そして彼等はアンクに気付いておらず、ならばその隙に、こっそりと逃げればいいだけだった。

「答えろォォォオオオ――――ッッッ!!!!」
「■■■■■■■■■■■■――――ッッ!!!」

 そうして織斑千冬は、アンクの思惑通りにバーサーカーへと剣を振り上げた。
 撒いた種が芽吹かないのは残念だが、命には代えられない。
 彼女にはせいぜい、仮面ライダーを始末するための引き金を引いてもらおう。
 そう思いながら戦いが始まるのを待って息を潜めていたのだが、そう都合良くは行かないらしい。

「スト―――ップ………!!」

 遅れてやってきたアストレアが、今にも千冬に斬りかかろうとしていたバーサーカーを勢い良く弾き飛ばしたからだ。
 それにより再び戦いは停滞し、今度はアストレアが注目される番となった。
 だがアストレアはその視線を気にも留めず、というか気付きもせずにバーサーカーへと抗議する。

「何やってんのよ! あんたの相手はあっちの赤いのでしょうが! 関係ない人を攻撃しようとしてんじゃないわよ!」

937 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:45:35 ID:MCH5spfw0

 それにより、ついにはアンクの存在が見つかることとなった。
 ことごとく外れる思惑にアンクは不機嫌になるが、見つかったのなら堂々と逃げればいいと思い直す。
 幸いにして場は混乱している。いきなりの行動には対応しきれないと考えたからだ。
 だがアンクよりも早く行動する存在があった。

「■■■■■■■■■■――――ッ!!」

 バーサーカーが、戦いを邪魔された怒りから一際強く叫び声を上げる。
 破壊を求める彼にとって、戦いを妨害される事は屈辱以外の何ものでもない。
 しかもアストレアに邪魔されたのはこれで二度目となるため、その怒りも一入だった。

 だがいかに激しく弾き飛ばされようと、バーサーカーにアストレアを攻撃する事は出来ない。
 なぜならアストレアはバーサーカーを無理矢理に止めただけであり、害意など微塵も持っていなかったからである。

 故にバーサーカーは、アストレアを無視して再び千冬へと襲い掛かる。
 対する千冬もまた、バーサーカーへの激情を再燃させ一歩を踏み出す。
 その二人を止める影が、今度は二つ。

「少しは人の言う事を聞きなさいよ、このバカァッ!
 えっと……そこの二色の人、あの赤いグリードをお願い!」

 バーサーカーに相対したのは当然アストレア。
 彼女は再びバーサーカーを弾き飛ばし、後退させて追い返す。
 そして自分と同様に動いた人物へとアンクを任せ、バーサーカーを追って加速する。

「いや、いきなりお願いって言われても、こっちだって大変なんだよ!
 って言うか千冬さん! あんたもいい加減、少しは落ち付けって!」
「そこを、どけぇ――ッ!!」
「だぁもう、こっちも聞く耳ねぇし!」

 対して千冬と相対したのも、やはりW。
 翔太郎は翼の生えた少女の考えなしなお願いに当惑しつつも、一先ず千冬を抑えにかかる。
 千冬はそんなWと鍔迫り合いながらも、バーサーカーへと追い縋ろうとする。

「翔太郎、グリードが!」
「わかってる! けど千冬さんをこのままほっとく事だって出来ねぇだろ!」

 その間に逃げ出そうとするアンクを見咎めて、フィリップは翔太郎に声を掛ける。
 だがアンクを追いかけるという事は、逆に千冬を自由にしてしまう事になる。
 今の千冬は文字通り何をするか判らない状態だ。一人にしておく事は出来ない。
 そう思い悩むWに、唯一自由だった人物が声を掛けた。

「翔太郎、フィリップ! 千冬さんは俺が何とかするから、あいつを任せた!」
「けどユウスケ! お前もうメダルが――!」
「俺なら大丈夫だ! 信じてくれ!」
「ユウスケ、おまえ………」

 そう言って懇願するユウスケに、翔太郎は彼の覚悟を感じた。
 故に翔太郎は、千冬を弾き飛ばして距離を取ると、青のままアンクへと身体を向けた。
 それはつまり、千冬をユウスケに任せたという事の意志表明に他ならない。

「……わかった。千冬さんはお前に任せたぜ、ユウスケ」
「いいのかい、翔太郎?」
「ああ。ユウスケなら、千冬さんを止められるさ」
「……! 二人とも、ありがとう!」

 感謝を述べるユウスケの声を背に、Wはアンクの元へと駆け出す。
 それを好機と千冬はバーサーカーへと駆け出すが、今度はユウスケが彼女に立ち塞がる。
 その様子を見届ける事なく、それほども間もなくWはアンクと相対した。

「と言う訳で、あんたの相手は俺達だ。
 どうもあんたはグリードらしいし、やましい事がないんなら大人しくしていてもらおうか」

 翼の生えた少女と黒い騎士は、相手を弾き飛ばすだけの奇妙な攻防を繰り広げている。
 あの少女の様子からして、おそらく最初はこのグリードだけが標的だったのだろう。
 その理由までは分からないが、千冬を助けた事から、彼女は少なくとも悪人ではないと思う。
 それが翔太郎が、正体のわからぬ少女のお願いを聞いた理由だった。

「それはイヤだな。僕はすぐに逃げさせてもらうよ」
 そしてアンクも、当然やましい事はあるので大人しくするつもりはなかった。
 バーサーカーから受けたダメージは大きいが、W程度相手に負けるつもりはない。
 むしろ彼等を倒す事によって、失ったセルメダルを回収しようと考えた。

938 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:45:54 ID:MCH5spfw0

「そんじゃ、力尽くでも大人しくしてもらおうか」
「出来ると思っているの? 君たちが僕に勝つことが。
 それと、彼に彼女を止める事が」
「ああ、もちろん思ってるぜ。あいつなら出来るってな」
「へぇ。それじゃあ、やって見せてよ!」

 アンクはそう言うと、Wへと炎弾を放つ。
 それをWはメタルシャフトで打ち払い、メモリを換装する。

《――LUNA/TRIGGER――》

 相手は黒い騎士と一緒に空から落ちてきた。そこから飛行能力も有すると推測できる。
 加えて言えば、相手は殺し合いを仕組んだグリードだ。千冬の時の様な加減は必要ない。
 ならば遠距離攻撃が可能で、誘導性もあるルナトリガーがこの場での最適なメモリだろう。

「行くぜ、フィリップ」
「ああ、翔太郎」
 Wは相棒と声を掛け合い、トリガーマグナムを構えてアンクへと立ち向かう。

 千冬の事はユウスケに任せた。
 彼ならば千冬を止める事が出来る筈だ。
 ならば今は、自分達に出来る事をやるだけだ。


        ○ ○ ○


 そうして小野寺ユウスケと織斑千冬は相対した。
 ユウスケはただ真っ直ぐ千冬を見詰め、千冬は威嚇するようにユウスケを睨みつけている。

「………そこを退け、小野寺」
「退きません」

 感情を押し殺した千冬の警告を、ユウスケは頭を振って拒絶する。
 千冬が先程までとは違い、幾許か冷静に見える理由はユウスケには分からない。
 だがこれが唯一の、千冬を止められる機会である事だけは理解出来た。

「もう止めて下さい、千冬さん。こんな事をしたって、何の意味もありません」
「意味ならある。私が優勝すれば、私の望みが叶うかもしれない、という意味がな」
「千冬さんの……望み?」

 それは一体何なのか。
 殺し合いを否定していた彼女が、一転して殺し合いに乗る様な望みが、いつ生まれたというのか。

 思い返すのは、目を覚ましてから見た、あの千冬さんの無気力さ。
 そして病院の一室で発見した、あまりにも無惨な死体とも呼べない死体。
 それらから思い至るのは、「復讐」という二文字だ。
 ……だがそれならば、ユウスケ達を敵に回してまで殺し合いに乗る必要性はない。
 その時まで復讐の刃を隠せばいいのだから、彼女が優勝を目指す理由には繋がらない。

「分からないか? 小野寺。
 ならばヒントだ。井坂深紅郎の話を覚えているな」
「井坂深紅郎って………まさか!」

 千冬は出来の悪い生徒を見る様にユウスケを見詰め、その名前を告げた。
 それを聞いたユウスケは、翔太郎達から聞いた話を思い返し、そしてその答えに思い至った。

 井坂深紅郎は、ユウスケ達がこの殺し合いに呼ばれてから最初に戦った人物だ。
 そして同時に、この殺し合いに呼ばれる前に照井竜によって倒され、死んだはずの人間でもある。

「そうだ。私は優勝という戦果を以って真木清人と接触し、一夏の蘇生を望む」
「死者の蘇生だなんて、そんな事………。
 それに、たとえ優勝したとしても、アイツが千冬さんの願いを叶えるとは思えません!」
「そうだな。だが、可能性はゼロではあるまい。そしてゼロでないなら、試す価値はある」
「それは………!」

 死者の蘇生。
 それは大切な人を失った人ならば、誰もが一度は望む願いだ。
 ユウスケとてその例に漏れず、八代藍が死んだ時は望まずにはいられなかった。
 しかし、その人として当たり前の願いは、現実の冷たさに容易く打ち砕かれるものだ。
 そうして時の流れと共に、多くの人は諦めその死を受け入れていく。

 だが織斑千冬は、その願いを叶えようとしているのだ。
 有り得ないかもしれない、僅かな可能性に縋って。
 その手を多くの血で汚す事になろうとも。

「けどそんな事、一夏さんが望むと思ってるんですか!?」
「間違いなく望まんだろうな。あれはそういうヤツだ」
「なら、どうして!」

 その人が望まないと解っているのに、そんな事をしようとするのか。
 その人が悲しむと解っていて、その手を汚そうとするのか。

「私が……そう望んだからだ。
 喜ばれなくてもいい。恨まれてもいい。
 一夏が生き返るのなら私は、悪魔になろうとも構わない!」

939 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:46:16 ID:MCH5spfw0

 それが、織斑千冬の懐いた悲痛な決意だった。
 大切な人を失う悲しみを知っているからこそ、ユウスケにはその決意を止める事が出来なかった。
 千冬を止めるには、彼女自身が願いを諦めるか、力尽くで倒すしかないと、どうしようもない程に理解してしまった。

「戦え、小野寺!
 私を止めたいのなら、誰かを死なせたくないのなら、変身して戦え!」
「千冬……さん」
 千冬は西洋剣の切っ先をユウスケへと突き付ける。
 その確かな殺意を受け、しかしユウスケは動かなかった。
 それを見て千冬はある事を思い出し、ユウスケにある物を投げ渡す。

「そう言えば、貴様はメダルが尽きていたな。ならばこれを使え」
「これは、コアメダル……」
 千冬から投げ渡された物。それは、クワガタを模した、緑のコアメダルだった。

「どうして……」
「貴様には井坂との戦いで助けて貰った恩があるからな。
 そのメダルがあれば、貴様も変身出来るだろう。それで対等だ」

 確かにセルメダルの代用となるコアメダルを使えば、ユウスケはクウガへと変身出来る。
 そして変身さえしてしまえば、ただの人間である千冬を倒す事は、そう難しい事ではない。
 だが仮面ライダーの力をただの人間である千冬がまともに受ければ、最悪の場合、千冬は死ぬ。
 かと言って傷つけないようにすればWの二の舞となり、代用分を超えた瞬間に千冬に殺されるだろう。

 つまりクウガに変身するという事は、織斑千冬を殺すという事に他ならないのだ。

「さぁ、変身しろ小野寺。
 お前が誰かを守るというのなら、私は倒すべき悪だ。戦う義務がある。
 それを躊躇っているようでは、この先で門矢士と相対したとしても、また一方的に弄られるだけだ」
「ッ――――――!」

 そう。これは初めての事ではない。
 門矢士の事も、忘れてはならないのだ。
 士は今もどこかで戦っているのだろう。仮面ライダーを倒すために。

 それは、ユウスケが士との戦いを躊躇った結果だ。
 ユウスケが躊躇ったせいで、誰かが笑顔を失っているかもしれないのだ。
 その過ちを繰り返したくないのであれば、千冬はここで倒さなければならない、敵だ。

「さぁ、変身しろ、小野寺ユウスケ。
 お前が本当に、誰かを守りたいと願うなら」
「俺は…………」

 千冬の言う通りだ。
 今彼女を倒さなければ、彼女はその願いの為に多くの人を殺すだろう。
 それは見過ごせる事ではないし、彼女の為にだってならない。
 ならばここで千冬を倒す事こそが、彼女を救うという事なのではないか?
 そしてそれが、仮面ライダーとして成すべき事じゃないのか?
 だとしたら、俺は――――

「―――変身して戦え! 仮面ライダークウガ!!」
「俺は――――ッ!」

 一際強く、千冬が叫んだ。
 彼女は己が命の取捨選択を、ユウスケに迫っている。
 その声を前にして、ユウスケは歯を食い縛り、コアメダルを強く握り締め、


 ――――拒絶するように、遠くへと投げ捨てた。


「な――――」
 ユウスケのその行動に、千冬は目を見開く。
 彼の行動が、千冬には理解できなかった。

「……どういうつもりだ、小野寺」
「俺は……戦わない」
「なに?」
「俺は絶対に、千冬さんとは戦いません!」

 その言葉に、今度は耳を疑った。
 変身しなければ死ぬと解っていながら、それでも拒絶した彼の行動が、千冬には信じられなかった。
 そんな千冬に対し、ユウスケは己の決意を叫んだ。

940 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:47:00 ID:MCH5spfw0

「この力は……仮面ライダークウガは、誰かの笑顔を守るためにあるんです!
 決して、ただ力で敵を倒すためなんかじゃない!」
「――――――」
「千冬さん、本当にそれでいいんですか?
 それで千冬さんも、一夏さんも、笑顔になる事が出来るんですか!?
 俺は、なれません。ここで千冬さんを倒しても、笑顔になんてなれません」

 それが、小野寺ユウスケの決意だった。
 ただ倒すだけなら、ただ殺すだけなら、仮面ライダーでなくたって出来る。
 けどこの力は、誰かを助ける為の、皆の笑顔を守る為の力なのだ。

「だから何を言われたって、絶対に戦いません」

 ユウスケは、真っ直ぐに千冬を見つめてそう告げる。
 決して変身しないと。決して、千冬とは戦わないと。

「―――怨むぞ、小野寺。
 お前は私に、お前を殺せと言うのだな」

 そして千冬は、小さくそう呟いた。

 直後。千冬は一足で踏み込み、ユウスケへと剣を振り上げる。
 その絶対的な死を前にしてユウスケは、それを受け入れる様に目を閉じた。

「姐さんを、信じてますから」

 そう、確かな信頼を口にして――――


        ○ ○ ○


 ―――それから数分前。
 バーサーカーを相手にして、アストレアは当然の様に苦戦していた。

「このッ! いい加減にしろー!」
 千冬へと向けて突進するバーサーカーを捕え、反対方向へと投げ返す。
 バーサーカーは即座に転進して突撃するが、それを盾で受け止め遮る。

「■■■■■■――――ッ!」
 だが、その程度ではバーサーカーは止まらない。
 バーサーカーは僅かに後退すると、アストレアを突き飛ばすように再び加速する。
 その行動をバーサーカーの胴体を抱えて押し留めるが、力負けして徐々に押し返されてしまう。
 かといって“これ以上”を行えば、その瞬間にバーサーカーはアストレアへと剣を向けるだろう。
 そしてそうなれば、どちらかが倒れるまで戦うしかなくなってしまう。
 それはアストレアでもわかる、避けるべき事態だ。

「ぐっ、ぬぅ……!」
「■■■■■■――――ッ!」

 ……初めの内は良かった。ただ感情のままに突き飛ばせば良かったからだ。
 それは意図せずして害意を持たずに攻撃する結果となり、バーサーカーを空へと追いやる事が出来た。
 アストレアの単純さは、その時は利点となって働いていた。

 だが考える時間が出来てしまうと、その利点は欠点となってしまう。
 この一撃は攻撃ではないのか? この行動は大丈夫なのか? と、思巡する余裕が出来てしまうからだ。
 突発的な感情による行動ならともかく、意図した攻撃に害意を持たせない事は、その道のプロでも困難を極める行為だ。
 ましてや咄嗟の意識の切り替えなど、自他共に認めるバカであるアストレアには望むべくもない。

 対するバーサーカーの執った行動は、至極単純だった。
 バーサーカーが標的にした千冬は、バーサーカーへと激しい敵意を抱いている。
 そこでバーサーカーは、千冬一人に戦意を集中し、その他の一切を完全に意識の外に追いやった。
 つまり “バーサーカーに害意を持つ千冬へと攻撃する”ために行動することで、令呪の呪縛を誤魔化したのだ。
 彼が“倉”にある武具による掃射を行わないのは、千冬の近くにいる人物も一緒に“攻撃”してしまう事になるからだ。

 その結果二人の攻防は、バーサーカーが千冬へと突撃し、アストレアがそれを押し留める形になっていた。
 この戦いの決着は、アストレアが根負けしバーサーカーを取り逃がすが、千冬が戦意を失うかの二つしかない。
 それ以外の決着があるとすれば、それはバーサーカーの現在のマスター、衛宮切嗣による制止だけだろう。

941 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:47:29 ID:MCH5spfw0

“お願い切嗣……早く来て―――!”

 故にアストレアは、切嗣の到着を待ち望んだ。
 切嗣さえ間に会えば、バーサーカーをどうにかできると信じて。

 ―――しかしその想いは、無情にも届く事はなかった。

「ッ―――あ、く! ……ッ、しまった!」

 攻撃せずに抑え込まなければならないという精神的な疲労からか。
 あるいは歴戦の騎士であるバーサーカーが、無意識で行った体捌きによるものか。
 いずれにせよ、ほんの一瞬、アストレアはバランスを崩し、足を滑らしてしまった。
 そしてそれだけで、バーサーカーには十分すぎる隙だった。

 バーサーカーはアストレアを突き飛ばして疾走する。
 その先では、千冬がユウスケへと迫り、剣を振り上げている。
 アストレアも即座に体勢を立て直して追い縋るが、僅かに間に合わない。

「ダメェ――――――ッッ!!!!」

 そのあまりにも遠い距離を前に、アストレアはただ、叫ぶ事しか出来なかった。



 ――――その光景を、彼らもまた同様に目撃していた。

「翔太郎!」
「わかってるって!」
 アンクとの戦いの最中、偶然捕らえた状況にフィリップが声を上げる。
 翔太郎もすぐに理解してアンクとの戦いを中断し、トリガーマグナムを別方向へと向ける。

 その銃口の先には、アストレアを抜き去り、千冬へと迫るバーサーカーの姿がある。
 千冬には今、彼女を止める為に、ユウスケが一対一で向き合っている。
 そこに余計な邪魔を入れる訳にはいかないのだ。
 だが。

「面白くなりそうなんだから、邪魔しないでよ」

 それを、アンクが炎弾を放つことで妨害する。
 その結果、Wは引き金を引く間もなく、炎弾に弾き飛ばされる。

「グァッ! テメェ―――ッ!」
 その事に翔太郎が怒りの声を上げるが、今はそれよりもと体を起こす。
 だが、顔を上げ視界に捉えたモノは、ユウスケに向けて千冬が剣を振り上げる光景だった。

「そんな……まさか!」
 フィリップがその結果に言葉を失う。

「はは! そのまさかだよ!」
 アンクがその結末に嘲笑を上げる

 千冬が剣を振り下ろし、ユウスケを殺すまでは一瞬。
 バーサーカーが“倉”から剣を取り出し、千冬を殺すまでは一秒。

 千冬がユウスケを殺害し、直後に千冬も殺される。
 それがこの光景から予測できる、絶望的な結末だった。

「ユウスケェ――――ッ!!」

 そのもはや不可避となった未来を前に、翔太郎はただ、叫ぶ事しか出来なかった。

942 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:48:08 ID:MCH5spfw0


        ○ ○ ○


「姐さんを、信じてますから」

 その言葉を最後に、小野寺ユウスケは静かに目を閉じた。
 目の前で、織斑千冬が凶刃を振り上げていたにも拘らず。
 それは決して、自分は殺されないと確信していた訳でも、諦めて死を受け入れた訳でもない。

 ただ、信じたのだ。
 根拠もなにもなく、想いのままに。
 今にも自分を殺そうとする、織斑千冬を信じた。

 “相手が何をしようとも、その上で信じ続けられるのなら――――”

 ユウスケがそうする事が出来たのは、フィリップのその言葉があったからだ。
 ただ信じるのではなく、信じようとする。その決意を知ったからこそ、千冬を信じる事が出来た。

 そうして――――

 いつまでも訪れぬ死に、ゆっくりと瞼を開ける。
 ユウスケに死を齎すはずの凶刃は、彼の身体を切り裂く寸前で止まっている。
 それは、彼が剣を防いだ訳でも、誰かからの妨害があった訳でもない。
 ただ千冬の意志によってのみ、押し止められていた。

「………………千冬さん」

 少し躊躇い、彼女の名を呼び掛けた。
 応えはない。千冬は、剣を押し止めたままの状態で俯いている。
 その胸中に、いかなる感情を懐いているかなど、ユウスケには知る由もない。

 だからユウスケは、千冬の言葉をただ待った。
 そうして、彼には永遠の様にも感じられた、実際には十秒にも満たない時間を経た時、

「………一夏は――弟は私にとって、掛け替えのない、ただ一人の家族だった」

 そう、震える声で口にした。


 その日々は、今でも鮮明に思い出すことが出来る。

 幼い頃、一夏と共に両親に捨てられた。
 その時に誓った。一夏のことは、自分の力のみで守って見せると。
 その想いだけを胸に、ずっと二人で生きてきた。ずっと、一人で守ってきた。

 けれど、子供だけで生き抜けるほど、世間は優しくなんかない。
 守ってくれる親のいない生活は、ただ生きていく事さえ辛く、苦しかった。
 それでも、立った一人の家族を守るために、必死に生き抜いてきた。
 何度挫けそうに、諦めそうになっても、その度に立ち上がった。
 私にとって一夏は、それほどに大切な存在だった。

 だから一夏がISについて知る事を、徹底的に禁じた。
 私とISの開発者である篠ノ之束は、小学校以来の旧友だ。
 ISの技術を欲しがる連中が彼の存在を知ったら、間違いなく利用されるだろう。
 その可能性を少しでも減らすために、そもそもISに近付けない事にしたのだ。

 だが、それでも甘い考えだったらしい。
 第二回モンド・グロッソの開催中、一夏が誘拐された。
 それを知った私は、迷うことなく大会を投げ出して一夏を助け出した。
 その代価は、情報を提供したドイツ軍に、一年間教官として着任する事だった。
 一夏のいない日々は寂しかったが、鍛えがいのある部下と、一夏との思い出を糧にすごして来れた。

 着任期間が過ぎた後も、一夏の待つ家にはあまり帰らなかった。
 心のどこかに、守れなかったという、後ろめたさがあったのだろう。
 それでも家に帰り、一夏と共にいた穏やかな時間は、何よりの至福だった。

 そうしてどのような思惑があったのか。
 そもそも誰かの思惑自体があったのか。
 とにかく、一夏がIS学園に通う事となった。
 それも、よりにもよって世界で唯一の男のIS操縦者として。

 その事に最初は苦々しい思いをしたが、すぐに思い直した。
 IS学園には、いかなる国家や組織であろうと、学園の関係者に対して一切の干渉が許されないという国際規約がある。
 この学園に在籍している限りは、私の教師としての権限が許される限り、直接守る事が出来るからだ。
 それにその範囲を超えたとしても、いざという時は全てを振り切って守るつもりでもいた。
 だから教師として許される範囲で、可能な限り一夏を鍛え、助言を与えてきた。
 代わりに私的な時間は短くなったが、傍にいられることは嬉しかった。

943 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:48:42 ID:MCH5spfw0

 だから一刻も早く、一夏と合流したかった。
 一目でもいいから無事な姿を見て、安心したかった。
 全てが元通りとまではいかなくても、あの日常に帰りたかった。
 それなのに――――


「私は一夏を守ると誓った。
 例え何が相手でも、この身を盾にしてでも、守り切って見せると。
 その為なら、悪魔になっても構わなかった。一夏に嫌われても、それでも良かった」

 千冬が、ゆっくりと顔を上げる。
 その表情は、今にも溢れそうな涙を堪え、歪んでいた。
 その姿には、ユウスケが見た凛とした覇気はなく、まるで独り泣き崩れる少女のようだった。

「けれど、お前は一夏に似ていた。一夏の様に、誰かを守るために、勝てぬと解っている相手に立ち向かっていった」

 千冬が殺し合いに乗り、剣を執ったのは、全て一夏が理由だった。
 だからこそ、少しでも一夏の面影を重ねていたユウスケを、千冬は無視する事が出来なかった。

 彼女自身もそうなる事は予測できていた。
 故に感情を凍らせ、言葉を封じ、誰かを殺す事によって覚悟を決めようとした。
 それが崩されたのは、黒い騎士が現れたからだった。
 弟の愛機が見知らぬ他人に扱われるのを見て、頭に血が上らないはずがなかった。

 それでもうダメだった。
 必死に凍らせた感情が溶けたまま、弟の面影を残すユウスケと相対する事になった。
 千冬がユウスケとの会話に応じたのはそのためだ。
 もし感情を凍らしたまま相対していれば、千冬は即座に逃げ出して、他の誰かを殺すことで覚悟を決めただろう。

「お前になら、良かった。お前になら殺されてもいいと、そう思った。
 それなのにお前は、戦うことを拒絶した………ッ」

 それが、千冬がユウスケにコアメダルを渡した理由。
 せめて対等であればと、ユウスケを一方的に殺すことを嫌ったのだ。
 対等でさえあれば、あるいは戦いを理由にユウスケを殺せたかもしれなかった。

 けれどそうはならなかった。
 ユウスケは戦いを拒絶し、千冬は無抵抗な彼を殺さなければならなかった。
 そしてそれを成す事が、千冬には出来なかった。

「私に一夏(お前)を、殺せるはずがないだろう――――ッッ!!!!」

 千冬は剣を取り落とし、両膝を突いて力無く崩れ落ちた。
 彼女の手が血に汚れる事はなく、誰かが死ぬ事もなく、ただ傷跡だけを残して。
 織斑千冬の懐いた、たった一人の家族を蘇らせるという願いが、当たり前の様に潰えただけだった。

 ――――それがこの、戦いにすらならなかった戦いの結末だった。

 千冬は涙を零さず、声も漏らさずに泣き崩れている。
 そんな彼女に掛ける言葉を、ユウスケは見つけられなかった。

「――――――――」
 同じように、大切な人を亡くしたからこそ解る。
 今の彼女に対して安易な慰めをしても、より傷つける結果にしかならない。
 ましてや「気持ちはわかる」などとは、決して口にしてはならない言葉だ。

 それでも、放っておくことは出来なかった。
 彼女が悲しむ姿を、見ていたくはなかった。
 勝手な願望だとわかっていても、彼女に笑って欲しかった。

「千冬さん………俺は――――」
 だから必死に探しだして、ようやく紡いだ言葉は、

「あ〜あ。つまんない」

 くだらない三文劇を見た感想の様な言葉に遮られた。
 思わず声の聞こえた方へと振り返れば、そこには赤いグリードの姿があった。

944 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:49:01 ID:MCH5spfw0


        ○ ○ ○


 それは、避け得ぬはずの結末を前に、叫び声を上げるしかなかった、直後のことだった。

「ッ――――!」
 千冬の剣が止まると同時に、令呪の呪縛によって強制的にバーサーカーの動きも止まった。
 それを見たアストレアは全速力でバーサーカーへと体当たりし、二人から引き離して押さえ込む。
 令呪で縛られていたバーサーカーにそれに対抗する術はなく、あっけなく地面へと突っ伏すこととなった。

「良かった……!」
「おっしゃあ! 心配したぜユウスケ!」

 Wもその一連の出来事に、喝采の声を上げる。
 さすがにあの瞬間はダメだったのかと諦めも過ぎった。
 しかし千冬の剣が押し止められたのを見て、やはりユウスケに任せて良かったと思った。
 これで全てが解決したわけではないが、それでも喜ばずに入られなかった。

 だがその結末に、不服を漏らすものが一人だけいた。

「あ〜あ。つまんない」

 その声に振り返れば、先程までWと戦っていたアンクが、子供のように地面を蹴っていた。
 彼は期待ハズレとでも言いたげな様子で、その言葉通りにつまらなそうにしている。

「おい。そりゃどういう意味だ」
「どうって、そのままの意味だけど?
 せっかく先回りをしてセルメダルを使ってまで嗾けたのに、結局誰も殺せずに終わるんだもん」
「先回りして、嗾ける……?」

 それは一体どういう意味なのか、という疑問が、思わず口を衝いて出る。
 その様子にアンクは、いたずらが成功した子供のように笑った。
 アンクはそのまま一本のガイアメモリを取り出した。

「わからない? いいよ、教えてあげる」
《――DUMMY――》

 そのガイアウィスパーと共に、アンクの体が一瞬ドーパントになり、すぐに別の人物へと成り代わる。
 その幼さを残す身体、腰まで届く銀髪、左眼を隠す眼帯は、紛れもなくラウラ・ボーデヴィッヒの物だった。
 その姿を見て、千冬は驚愕に目を見開いた。

「ボーデ……ヴィッヒ? ――まさか!」
「ええ、その通りです教官。病院にいたのは私です。
 ですが、あなたには失望しましたよ。バーサーカーを相手にしたのであればまだしも、無抵抗の人間一人殺せないとは。
 これではアルファーに期待するしかありませんね」
「アルファーって……あんた、イカロス先輩に何をしたんですか!?」
「何をなどと、決まっているじゃないか、アストレア」
「ッッ――――――! お前……!」

 アンクがラウラ・ボーデヴィッヒから、今度は桜井智樹へと姿を変えながらそう告げる。
 その言葉に、アストレアはバーサーカーを抑えるのも忘れて激昂し立ち上がった。
 だか少しでも情報を得るために、フィリップがアストレアを遮って疑問を投げかける。

「二つほど質問がある。
 一つ目は、君たちは何故こんな殺し合いを始めた? 真木清人は何を企んでいる?」
「さぁね。僕たちはただ、協力して欲しいって言われただけだからね。ドクターが何を考えているかなんて知らないよ」
「そうか。では二つ目だ。
 君は何故わざわざダミーの事を僕たちに教えたんだ? 隠しておいた方が間違いなく有利だというのに」
「ああ、それはね、この状況じゃあ君たちに出し惜しみして逃げ切ることは難しいし、何より」
 アンクはそこで言葉を切ると、アストレアと千冬を見下すように眺める。

 そう。今この状況において、アンクは絶対の窮地にいる。
 ほぼ無傷のエンジェロイドに仮面ライダー。場合によってはバーサーカーも敵となる。
 単純な戦闘能力では、アンクには覆し得ない戦力差だ。出し惜しみをする余裕などあるはずがない。

 アイリスフィールに“偽装”してのバーサーカーの引き入れの失敗。
 そしてラウラに“偽装”しての千冬の復讐鬼化も失敗。
 この上出し惜しみする余裕もないとなれば、

「つまらないじゃないか。それくらいのドッキリがないと」

 せめてこれくらいの喜劇がないと割に合わない。
 そう、本物の桜井智樹には有り得ない、歪んだ笑い顔を浮かべてそう言った。

945 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:49:20 ID:MCH5spfw0

 実際その思惑通りに、千冬は悲しみに沈んでいたはずの感情を混乱させ、アストレアは怒りを露にしている。
 この状況が終われば、千冬はともかく、アストレアはイカロスを捜し求めるだろう。
 そしてアストレアとイカロスが遭遇した時、仲間同士で殺しあうことになるのだ。

 アンクがダミーによる“偽装”を明かしたのは、そういう思惑もあってのことだった。
 問題は、この絶体絶命の状況をどう乗り切るかだ。
 たとえ思惑通りに進行しても、自分が倒されてしまっては意味がないのだから。
 故にアンクは、もう一つの思惑も同時に進行させていた。
 そしてその思惑通りに、事は進み始めていた。

「ふざけるなこのやろ――――ッッ!!」
「■■■■■■■■――――ッ!」

 怒りを抑えきれなくなり、アストレアがアンクへと飛び上がる。
 それに呼応するようにバーサーカーも咆哮を上げ、挟み討つようにアンクへと襲い掛かる。

「その人は、お前なんかがマネしていい人じゃない……!」

 アンクが“偽装”した桜井智樹の浮かべた笑い顔。
 それはアストレアにとって、思い出を踏み躙られたに等しかった。
 ましてや相手は、その顔でイカロスまで利用したのだ。許せるはずもない。

「その人の顔で……その人の声で喋るな……!
 お前なんか、真っ二つにしてやる!!」

 全速力で飛翔し、ほとんど一瞬でアンクへと迫る。
 桜井智樹に“偽装”したアンクに、振り上げたクリュサオルを防ぐ力はない。
 仮にこの一撃を避けたとしても、すぐにバーサーカーの追撃が入る。

「お前なんか――――ッッ!!」

 極光の剣が振り下ろされる。
 まともに受ければ、一撃で死に至りかねない一撃。
 だというのに、アンクは笑い顔を崩さず、再びガイアメモリを取り出し、

《――ZONE――》
「へ? ――――アウッ!?」

 次の瞬間には、アストレアの眼前からアンクは消え、代わりにバーサーカーが一瞬で接近していた。
 全速力を出していたアストレアには、咄嗟に回避することも出来ずに、バーサーカーと激突することとなった。
 その直後、今度はどこからか現れた鎖によって、バーサーカー諸共に拘束された。

「いったい、なにがおきたの……?」

 何が起こったのか、まったく理解できなかった。
 しかも鎖に拘束され、動くことも出来ない。
 せめて消えたアンクだけでも探そうと、唯一自由な首を巡らせる。
 するとそこには、ピラミッドのような形状から、赤いグリードへと戻ったアンクの姿があった。

「ふう、上手くいった。君がバカで助かったよ」

 そう言ってアンクは、自らの策の成功を喜んだ。
 その手には、Wの持つものと同じ形をしたガイアメモリ、『T2ゾーン』が握られていた。
 それを見たフィリップは、驚きに声を上げる。

「まさか、ガイアメモリを二本持っていたなんて! それもT2を……!」
「だれも一本しか持ってないなんて言ってないでしょ?」

 まずダミーで桜井智樹に“偽装”し、アストレアを挑発する。
 次に挑発に乗って突っ込んできたアストレアを、ゾーンによる転移でバーサーカーのところへ跳ばす。
 最後に、神をも拘束する対神宝具“天の鎖”によって、アストレアとバーサーカーを纏めて封じる。
 それがアンクの考えた策であり、ダミーの存在を明かした、もう一つの理由だった。

 彼が最初にバーサーカーから逃げていた時に“天の鎖”を使わなかったのは、制限からか、一度に拘束できる人数は基本的に一人だけだからだ。
 あの状況下では、バーサーカーを拘束したところで、すぐにアストレアに開放されるだけだった。
 しかし、ある一定の条件化でならば、二人以上拘束できるのだ。すなわち、複数の対象が密着している状態だ。
 つまりは、拘束対象と定めた一人に巻き込む形でのみ、複数人数を拘束できるのだ。

946 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:49:40 ID:MCH5spfw0

「こんな鎖なんて―――!」

 しかし“天の鎖”は本来神を律する為のものだ。その真価は、神性をもつ存在を拘束した時にこそ発揮される。
 だがそうでない場合、“天の鎖”はただの頑丈な鎖でしかない。
 故にアストレアは鎖を引きちぎろうと力を籠めるが、

「それに、拘束が一つだけとも言ってない」
《――SPIDER――》
「なッ…………!?」

 アンクが取り出した支給品が、ワイヤーを放ちアストレアを更に拘束する。
 支給品の名はスパイダーショック。Wが用いる、ギジメモリを使ったメモリガジェットだ。
 そのドーパントさえも拘束するワイヤーは、“天の鎖”と相まってアストレアの動きを完全に封じた。

「これで戦えるのは、もう君たちだけだね」
「ッ――――――!」

 最大戦力の二人が戦闘不能となった今、まともに戦えるのはWだけとなった。
 千冬は戦意を喪失し、ユウスケはセルメダルの残量がない。
 そしてアンクにとって、Wは敵にはなりえなかった。
 その理由が、これだ。

《――DUMMY――》

 ダミーのガイアウィスパーと共に、アンクの姿が変わる。
 現れたのは、黒いレザージャケットに、青いエクステの入った髪の青年。
 かつて風都に絶望を齎した悪魔。生ける死者の傭兵。

「大道……克己ッ!」
「マジかよ……ッ!」

 彼らはダミーの能力を知るが故に、アンクの狙いを理解したのだ。
 青年はそれを嘲笑うかのように右手に握られたガイアメモリを、腰のロストドライバーへと挿入する。

「変身」
《――ETERNAL――》

 そうして表れる、白い装甲に黒いマントを纏った、悪の仮面ライダーエターナル。
 その姿を見た二人は、己が敗北を予感する。
 しかし、だからと言って諦める訳にはいかない。

「まずい! 翔太郎!」
「わかってるって!」

 Wはエターナルが動くよりも早く、トリガーマグナムの引き金を引く。
 だが妨害のために放った光弾はエターナルローブによって防がれ、エターナルへと届くことはなかった。
 アンクは見せ付けるようにメモリをエターナルエッジへと挿入し、

「さぁ、地獄を楽しみな」
《――ETERNAL・MAXIMUM DRIVE――》

 発動されるエターナルのマキシマムドライブ。
 エターナルのマキシマムドライブには、T2以前のガイアメモリを停止させる力がある。
 そして今のWに、その力に抗う術はなかった。

「がぁッ――――!」
「ぐぅッ…………!」

 Wの持つガイアメモリがその機能を失い、強制的に変身が解除される。
 それにより翔太郎は地面に倒れ、フィリップの意識は彼の肉体に送還される。

「くそぉ……!」
「このままでは……!」
 アストレアとバーサーカーは拘束され、身動きが取れない。
 千冬は戦意を喪失し、ユウスケにはセルメダルが残っていない。
 Wが戦えなくなった今、アンクと戦えるものは誰もいなくなってしまった。

 その絶望的な状況を前に、翔太郎とフィリップが悔しさのあまりに声を上げる。
 ただの人間に、真正面から仮面ライダーに勝つことはほとんど不可能だ。
 ましてや相手がエターナルともなれば、凌ぐことさえ難しい。

「これで終わりだ。
 お前たちには、俺が勝ち残るための糧になってもらう」
 エターナルへと変身したアンクは、翔太郎たちの下へと近づく。
 先程とは一転して、今度は翔太郎たちが絶体絶命となる。
 それでも諦めまいと、翔太郎は立ち上がろうとする。

 だがそれよりも早く、エターナルと相対する人影があった。

947 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:50:05 ID:MCH5spfw0

「……どういうつもりだ?」
「お前……!」

 エターナルは思わず歩みを止め、目の前の青年を睨む。
 そこには小野寺ユウスケが、その背にいる者全てを守るように立ちはだかっていた。


        ○ ○ ○


 バーサーカーと一纏めに拘束されたアストレアは、拘束を引き千切ろうと力を籠める。
 だが鎖とワイヤーによる二重の拘束は、さすがのアストレアでも破れず、彼女の息を切らすだけに終わった。

「う……動けない………」

 あるいはバーサーカーならば引きちぎる事が出来たかもしれない。だがそこでバーサーカーに掛けられた令呪が枷となっていた。
 バーサーカーが鎖を引きちぎろうとすれば、どうしてもアストレアへの拘束が強くなる。
 それが“害意のない者への攻撃”と判断され、バーサーカーは動くことが出来ずにいたのだ。
 結果、彼女たちは今なお拘束されたまま、何も出来ないまま事の成り行きを見守る事しかできなかった。


 ユウスケがその覚悟を決めたのは、そんな彼女たちを見たからでもあった。
 戦える者のいない状況。決して勝てないだろう強敵。――――守りたいと願う人。
 投げ捨てたコアメダルを探そうにも、Wが敗れた今、探している余裕はない。
 そんな状況を前にして、ユウスケは迷うことなく立ち上がった。
 それが、彼の仮面ライダーとしての覚悟だったからだ。

「小野寺……?」

 そんなユウスケに、千冬が声をかける。
 今の千冬は、懐いた願いが破れたことと、彼女の教え子に扮したアンクによって完全に戦意を失っている。
 彼女の助けがあれば心強いが、それは望めないだろう。
 それに何より、彼女を危険に晒したくなかった。

 そうしてユウスケは一人、エターナルへと立ち塞がった。
 そのあまりに無謀な行動に、アンクは思わず眉を顰め、翔太郎とフィリップが声を荒げる。

「それは何の冗談だ? 小野寺ユウスケ」
「無茶は止めるんだ! 生身で勝てる相手じゃない!」
「コイツは俺とフィリップでなんとかするから、お前は千冬さんを連れて逃げろ!」

 二人の制止の声に、ユウスケは思わず笑った。
 しかし、変身出来ないのは彼らとて同じはずだ。彼らにだって勝てる道理はない。
 それなのに、自分達が何とかすると言っているのだから矛盾している。
 けどそれなら、自分が囮になってもいい筈だ。

「逃げないよ。翔太郎たちの方こそ、千冬さんを連れて逃げてくれ」
「馬鹿言うな! そんな事できる訳ねぇだろ!」
「俺だってそうだよ。翔太郎たちを放って逃げることなんて出来ない」
「な――――!」

 翔太郎が言葉を途切れさせると同時に、より前へと歩いてエターナルと相対する。
 変身出来ない今、自身に勝機が無い事は当然彼も理解している。
 それでも立ち向かうのは、守りたい人がいるからだ。
 だからユウスケは、一切の躊躇いを見せずにエターナルと挑んだ。

「だからお前は……ここで倒す」
「出来ると思っているのか? 変身出来ないお前に」
「出来るかどうかじゃない。やらなくちゃいけないんだ!」

 ユウスケは叫ぶと同時に勢い良く踏み出し、エターナルへと生身の拳を振り被る。
 対するエターナルは、当然の様に拳を受け止め、ユウスケに膝を打ち込む。

「グフッ………、っく―――おッ!」
 腹部に受けた一撃にあっさりと蹴り飛ばされ、強い吐き気を覚えながらも立ち上がる。
 それを見たエターナルは、ユウスケの覚悟を悟って軽く鼻を鳴らす。

「どうやら、本気らしいな。だったら遊んでやるよ」
「ッア――――!」

 一息に迫ってきたエターナルへと、ユウスケは苦し紛れのカウンターを繰り出す。
 そんな一撃がエターナルに通用するはずもなく、反撃の拳は容易く掻い潜られ、その胸部にショルダータックルを受けた。

「、ァ…………ッ」

 その衝撃に、一瞬呼吸が止まった。
 そのまま再び弾き飛ばされ、地面に落ちた衝撃で息を吹き返す。
 咳き込みながらも、呼吸を整えて立ち上がる。

「ハア――――!」
「そら。もう一度だ!」

 エターナルへと再び拳を振り抜くが、あっさりと受け流され転ばされる。
 即座に立ち上がり蹴りを入れるが、受け止められ、そのまま脚を掴まれ投げ飛ばされる。
 地面に打ち付けられる痛みを噛み殺し、繰り返し立ち上がってエターナルへと殴りかかる。

948 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:50:33 ID:MCH5spfw0

「オオ………ッ!」
「無駄だ! その程度じゃ、暇つぶしにも――ッ!?」
「俺を忘れるなっつうの!」

 ユウスケの一撃に対応しようとしたエターナルを、翔太郎が横合いから蹴り飛ばす。
 大したダメージにはならないが、それでもエターナルはバランスを崩す。
 そこを咄嗟のコンビネーションで、二人で合わせて蹴り飛ばす。

「翔太郎!?」
「ったく、お前も意外に頑固だな。しゃーねぇから、二人で時間を稼ぐぞ。
 フィリップはあいつらを頼む!」
「わかった。けど翔太郎も油断しないようにね。相手はあのエターナルだ」
「油断する余裕なんてねぇっての」

 翔太郎の指示を受け、フィリップはアストレア達の所へと走る。
 二人でエターナルを押し止めている間に、彼女達を解放するつもりなのだ。
 たとえWに変身できずとも、アストレア達さえ開放できれば勝機はあるはずだ。
 だがエターナルに“偽装”するアンクは、慌てることなくユウスケたちと向き合った。

「無駄なことを。今のお前たちでは決して俺には勝てない。永遠にな」
「そんなこと、やってみなくちゃわかんねぇだろ! 行くぞユウスケ!」
「はい!」

 アストレアとバーサーカーの相手となれば、エターナルとて苦戦は必至だろう。
 だというのにアンクは余裕を崩さない。その自信は、一体どこから来るのか。
 だが他に勝機はないと、翔太郎とユウスケはエターナルへと挑んでいった。


 そうして――――

 翔太郎とユウスケは、数分と持たずに地面に倒れ付していた。
 彼らがいまだに生きている理由は、エターナルが相手を弄るように戦ったからだ。
 そんな“無駄”な事をするのは、やはり本物の大道克己とは違うからだろう。
 それでも生じる力の差を前に、翔太郎は悔しげ聞こえを漏らす。

「くそぉ……! フィリップ、まだかなのか………!」
「このままでは翔太郎たちが……!」
「こんの、解けろぉ……ッ!」

 スパイダーショックは巧みに逃げ、フィリップの手から逃れて捕まえられず、下手をすれば彼の方が捕まりそうになる。
 かといってアストレアがどれだけ力を入れようとも、二重の拘束はビクともしない。
 それがアンクの自信の理由。拘束は決して解けないという確信だった。

「ははは! 無駄な足掻きはよせ。最初に言った通り、お前たちは俺の糧となるんだ」

 そんな彼等を嘲笑しながら、アンクの“偽装”するエターナルが死刑宣告を告げる。
 それに抗う力が、翔太郎たちにはすでになかった。
 だが。

「ユウスケ……」
「諦めの悪いやつだ。そんなにも早く死にたいのか?」

 小野寺ユウスケが、再びエターナルの前に立ち塞がる。
 彼の体はまだ、ウェザーから受けたダメージは癒えていない。
 いかにエターナルが遊んでいたとはいえ、蓄積されたダメージは翔太郎以上だろう。
 だというのに、満身創痍のその身体の、一体どこから立ち上がる力が湧き出てくるのか。

「もう逃げろ小野寺! 今のお前に敵う相手ではない!」

 その様子を見かねた千冬が、ついに制止の声を叫ぶ。
 彼女はユウスケが倒される姿を、見たくなどなかった。
 だがユウスケは頭を振ってそれを拒否した。

「逃げません。千冬さんや翔太郎たちを置いて逃げるなんて、出来ません」
「どうして……」
「千冬さんは、立ち向かったじゃないですか。
 俺がウェザーにやられた時、勝てないことは解り切っていたのに」

 一歩、エターナルへと踏み出す。
 あの時に見た光景を、今度は自分自身で再現するように。

「だから俺、あの時に立ち上がれたんです。
 あの時の千冬さんの背中を見たから、ウェザーに立ち向かえたんです」

 もし彼女が立ち向かわなかったら、今頃俺は立ち上がれず、ウェザーに殺されていただろう。
 そうならずにウェザーを撃退することが出来たのは、全て千冬のお陰だった。

「俺が一夏さんに似ているとしたら、きっとそのせいですよ。
 一夏さんはずっと、そんな千冬さんの背中を見て育ったんです。
 だから千冬さんの背中を見て立ち上がった俺が、一夏さんに似たのは当然です」

 千冬の弟だという一夏のことを、ユウスケはまったく知らない。
 それでも、イメージすることは出来る。彼が何を見て育ち、どんな思いを懐いて生きてきたかを想像できる。
 けれど。

「けど俺は、決して一夏さんにはなれません。
 千冬さんが姐さんに、八代警視になれないように」
「ッ………………!」

949 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:50:52 ID:MCH5spfw0

 言って、エターナルへと挑みかかる。
 振りかぶった拳は当然のように避わされ、お返しとばかりに殴り飛ばされる。
 とっさに腕で受けたところで、防ぎきれるような一撃ではない。

「ッ……、それでも、千冬さんのお陰なんです!
 千冬さんのお陰で、姐さんとの約束を思い出せたんです……!」

 それでも立ち上がる。立ち上がって、勝てない敵へと立ち向かう。
 だって、約束があったから。貫くと誓った、決意があったから。

「それに俺、クウガだから。だから、戦います」

 だから、何度打ちのめされても立ち上がる。
 生きている限り、意地でも相手に食らい付く。
 守るべき人がいる限り、諦めるわけにはいかない。

 その胸にあるのは、怒り。
 人の心を利用し、踏みにじる外道に対する激情。
 そして強く懐いた、誓い。
 今は亡き人と交わし、守り抜くと誓った約束。
 その手に握るのは、意志。
 みんなの笑顔のために掲げた、誰かを守る拳。

「こんな奴らの為に、これ以上誰かの涙は見たくない! みんなに笑顔でいて欲しいんです!」

 いつの間に見つけ出したのか、ユウスケの手には、彼が投げ捨てたコアメダルが握られていた。
 それは偶然か、あるいは必然か。いずれにせよ、ユウスケは今、戦う力を手に入れたのだ。
 そしてそれに呼応するように、ユウスケの腹部に、赤い光を宿すアークルが現れる。

「だから見てて下さい! 俺の……変身!!」

 そうしてユウスケは、炎の如き赤に包まれ、仮面ライダークウガへと変身した。

「ユウスケ、お前……!」
「あの仮面ライダーは、確か……!」
 その姿に翔太郎は瞠目し、フィリップはある事を思い出した。

「いち……か………?」
 そして千冬はその背中に、もういない、自身の弟の姿を幻視した。

「ウオォリャア……ッ!」
 クウガが拳を振り上げ、エターナルへと打ち抜く。
 エターナルはその拳を受け流し、胴体を殴り飛ばす。
 その一撃に弾き飛ばされるが、すぐに立ち上がって拳を構える。

 変身前と比べ、ダメージは格段に少ない。
 加えてコアメダルを使用した瞬間から、鞘による治癒も行われている。
 ……戦える。勝てるかまではわからないが、エターナルと戦うことが出来る。

「ふん。遊びは終わりだ!」
 エターナルが始めてエターナルエッジを構える。それは即ち、彼の本気の表れに他ならない。
 アンクは感じ取ったのだ。ユウスケが変身した瞬間から、戦いの流れが変わり始めていることに。
 故に、少しでも早く、仮面ライダークウガを倒す必要があると判断したのだ。

「オリャアッ!」
 クウガが飛び上がり、その拳を打ち下ろす。
 エターナルはその一撃を半身になって避け、出来た隙にエターナルエッジを薙ぎ払う。
「フン……!」
 そこから追撃に、払った勢いを利用して回し蹴りを叩き込む。
 クウガは防ぐことも出来ずに、一期は強く蹴り飛ばされる。

「ガァ……ッ、く――オ……ッ!」
 それでも立ち上がる。
 多少のダメージは、聖剣の鞘の力ですぐに回復していく。
 その分メダル――その代用分を消費して変身時間が減るのは困るが、それでも簡単に倒されることはない。

「小野寺、お前……」
 すぐ近くで、千冬さんの声が聞こえた。
 どうやら彼女の傍に蹴り飛ばされたらしい。
 なら丁度いいと、あの時言い損ねた言葉を口にした。

「千冬さん……俺にも、大事な人がいました。
 俺はその人に褒めて貰いたくて、笑顔になって欲しくてクウガになりました。
 その人が言ってくれたんです。笑顔のために戦えば、俺はもっと強くなれるって」

 その言葉が、立ち上がる力をくれる。
 その約束が、立ち向かう勇気をくれる。
 その願いが、俺をもっと強くしてくれる。

「だから笑ってください、千冬さん。
 俺に、千冬さんの笑顔を見せてください。
 それまでは俺が、千冬さんを守ってみせます……!」

950 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:51:28 ID:MCH5spfw0

「あ…………」
 その言葉に何を思ったのか、千冬が茫然と声を漏らす。
 それを背中に聞きながら、地面に取り落とされたままの剣を取る。
 エターナルの攻撃は強烈だ。このままではすぐに代用分がなくなってしまう。
 ならば必要なのは鎧。あらゆる攻撃を寄せ付けぬ鉄壁の守り。
 故に。

「―――超変身!」
 アダマムの光が、赤から紫へと変わる。
 それに伴いクウガの赤い身体が、銀色をした鋼の鎧を纏う。
 更にその手に握った剣が、紫の刀身に金の装飾を持つ大剣へと変形する。

 クウガの持つ四つの形態の一つ、タイタンフォーム。
 守りを主体としたこの形態は、俊敏性の代わりに高い防御力を誇る。
 この形態であれば、エターナルの攻撃にも耐えることが出来るだろう。

「ハッ、それで何が変わる!」
 一歩ずつ着実に近づいてくるクウガに、エターナルが飛び上がって拳を振り下ろす。
 その一撃を敢えて防がず、受け止める。が、その威力に数歩分後ずさる。
 しかし狙い通り殴り飛ばされる事はなく、ダメージも減少している。
 大地を踏み締め、再度一歩、前へと踏み込む。

「チィッ―――!」
「ヅ………ッ!」
 今度はエターナルエッジで切り払われる。
 その斬撃は流石に防ぎきれず、鋼の鎧に切り傷が残る。
 だが、クウガの装甲は肉体の延長。鞘の力によって、即座に修復される。
 タイタンソードを両手に構え、更に一歩近づく。

「これならどうだ!」
 エターナルエッジによる、捻じ切る様な突きが放たれる。
 流石にそれを受ける訳にはいかず、タイタンソードで受け止める。
 だがそこで終わらず、相手の一撃を受け流し、捌いてバランスを崩させる。
 そしてようやく出来た隙へと、タイタンソードを薙ぎ払う。

「ハア――――ッ!」
「グオ………ッ!?」
 一撃。エターナルへと、ようやく一撃を返す。
 この機を逃す訳にはいかないと、一息に踏み込み、タイタンソードを振り抜く。
 だがエターナルはその一撃をエターナルローブで捌き、追撃の一閃をエターナルエッジで受け止め、鍔迫り合う。

 ここでタイタンフォームの弱点が露呈する。
 俊敏さに劣るタイタンフォームでは、エターナルの速度に追いつけない。
 一度でも距離を取られれば、この機は二度と訪れないだろう。

 つまり、鍔迫り合いが解けた瞬間に一撃を叩き込まなければ、敗北が確定するのだ。

「オオオオオオ―――ッ!」
「グ、ヌウウウ………ッ!」

 僅かでも攻めの利を得ようと、迫り合う腕に力を籠める。
 単純な腕力ならば、クウガ・タイタンフォームとエターナルの腕力は互角だ。
 ならば勝敗を決めるのは、意志の強さに他ならない。
 そして今のユウスケの意志の強さに、戯れに戦っていたアンクが及ぶべくもなく。

「オオォオリャアァ――――ッッ!!」
「づおっ………ッ!?」
 クウガはエターナルを押し切り、力尽くでその体勢を突き崩す。
 その絶対の隙に、渾身の力を籠めてタイタンソードを薙ぎ払う。しかし――――

「なめる、なあ――――ッ!!」

 エターナルは崩れた体制のまま、無理矢理に体を回転させる。
 それにより舞い上がったエターナルローブがタイタンソードに絡みつき、強制的に剣筋をズラす。
 そうやって一撃を凌いだエターナルは、そのまま回転に勢いを乗せ、クウガに空跳び回し蹴りを叩き込む。
 その衝撃に、溜まらずクウガはたたらを踏んで後ずさる。

「グッ……! しまった……!」
 不完全な体勢で放たれたその一撃に、大した威力は乗っていない。
 だが、それによってエターナルとの距離が開いてしまった。
 速度のない今のクウガに、エターナルに追い縋る事は出来ない。
 鍔迫り合いの勝敗を分けたのは、力ではなく技。
 アンクが“偽装”した大道克己の戦闘技術によって、辛くも勝利を勝ち取ったのだ。

 ――――だがそれは、この戦いの勝利を意味するものでは、決してない。

「ベルトを狙え! 小野寺ユウスケ!」

 その声が響いたのは、クウガが追い縋ろうと駆け出し、それをさせまいとエターナルが後退しようとした、まさにその時だった。
 ユウスケはその誰のものかも判らぬ指示に即座に従い、タイタンソードを腰溜めに構えて突進する。

951 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:51:58 ID:MCH5spfw0

《――SKULL・MAXIMUM DRIVE――》

 それに合わせる様に響くガイアウィスパー。
 直後に放たれた光弾はエターナルを正確に打ち抜き、その行動を阻害する。
 その最後の好機を確かに捉え、タイタンソードの切っ先がエターナルのロストドライバーへと突き刺さる。

「グアァ………ッ!!」

 その一撃でエターナルは弾き飛ばされ、メダルを零しながら地面を転げまわる。
 同時にドライバーを破壊されたエターナルの変身も、強制的に解除される。
 そして生身となったアンクが、大道克己の“偽装”を解きながら立ち上がろうとするが。

「動くな。そこまでだグリード」
「ッ…………!」

 その背中に、銃口が突き付けられる。
 いつの間にそこにいたのか、アンクには全く気付く事が出来なかった。
 アンクの背後には、仮面ライダースカルがスカルマグナムを構えて佇んでいた。


 その姿を見た翔太郎とフィリップは、思わず目を見開く。
 スカルは彼等にとって、強い因縁のある仮面ライダーだからだ。

「スカル!? まさか、鳴海壮吉!?」
「いや、おやっさんじゃねぇ。あのスカルは帽子をしてねぇ」
「確かに。では一体誰が……」

 アンクにマグナムを突き付けるスカルには、鳴海壮吉のトレードマークであるソフト帽がなかった。
 では誰かという疑問が浮かび上がるが、その答えはすぐに与えられた。

「その声、切嗣でしょ!? 来るの遅いよ!」
「コメンゴメン、アストレア。ちょっと到着が遅れてね」

 スカルの正体を察したアストレアの声に、スカルは頭部のみを変身解除して正体を明かす。
 そして彼女の予測通り、その正体は衛宮切嗣だった。
 拘束されたまま怒るアストレアに、切嗣は恐縮したように謝る。
 その間もアンクに突き付けたスカルマグナムの銃口は、微塵も揺らいでいない。

「それに、正面切っての戦いは僕の流儀じゃなくてね。
 だから遅れた分、必勝の機を狙わせてもらったよ」

 切嗣が到着したのは、アンクがエターナルへと変身した、まさにその瞬間だった。
 彼等の窮地を見てとった切嗣は、エターナルの能力を把握するために隠れ潜んだのだ。
 そこにはエターナルが彼等を弄る様から、すぐに殺される事はないだろうと判断したのもある。
 そしてこの上ない絶好のタイミングでアンク強襲し、その背中に銃口を突き付ける事に成功したのだ。

「さぁ、知っている事を全部吐いてもらおうか。さもなくば」
 お前を殺すと、言外に告げる。
 切嗣のその言葉に、一切の嘘はない。
 彼はアンクが少しでも躊躇えば、その引き金を引くだろう。
 だが全てを吐いた所で、切嗣は引き金を引くだろうことも、アンクは予想していた。
 故に――――

「殺されるのは嫌だね」
「く………ッ!」
 アンクの背中から、前触れもなく極彩色の翼が現れる。
 その翼は背後にいた切嗣へと強襲し、一瞬の隙を作りだす。

《――ZONE――》

 その隙にゾーン・ドーパントへと変身し、その能力で自身を限界まで転移させて離脱する。
 あるいは、切嗣がもう少し早く到着していれば、ゾーンの“転移”も含めた対処が出来ただろう。
 だがアンクがゾーンメモリを持つことを知らなかった切嗣は、アンクを見失い逃してしまった。

 代わりにアストレア達の元へと向き直れば、彼女達は拘束から脱していた。
 “天の鎖”が所有者がいなくなったことで力を失い、ただの鎖と同じになったのだ。
 そしてワイヤーだけで拘束できる程アストレアの力は弱くなく、スパイダーショックもほどなく捕まった。
 つまり、この戦いは決着のつかないままに終わったのだ。

「………逃したか」

 アンクを完全に見失った事を理解した切嗣は、そう呟いてスカルへの変身を解除する。
 そうして今度は、ユウスケ達の方へと向き直った。
 上手く、彼らの協力を得られる事を願いながら。

952 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:52:21 ID:MCH5spfw0


        ○ ○ ○


 そうしてアンクは、切嗣達から完全に逃げ果せた。
 彼は切嗣達に捕捉されていない事確認すると、変身を解除して人間態へと戻る。

「はは。なんだ、怖がる必要はなかったね」

 アンクはそう口にしながら、手元のT2ゾーンを見る。
 T2ガイアメモリは、使用者との適合率が低い場合、暴走する可能性がある。
 その事がアンクに、追いつめられるその瞬間までT2ゾーンの使用を躊躇わせていた。
 しかし空という空域を支配する鳥のグリードであるアンクは、少なくとも暴走しない程度には相性が良かったのだ。

「それにしても、あとちょっとだったのになぁ」
 どうにも上手くいかない思惑に、アンクはつい愚痴を零す。

 実を言えば、アンクにはまだ戦う術は残っていた。
 ダミーメモリは、その能力さえ使いこなせば、最強と言ってもいいメモリだ。
 今回で言えば、切嗣には英雄王ギルガメッシュ。アストレアには空の女王イカロスという、桁違いの戦力を誇る人物の記憶がある。
 それを再現してしまえば、切嗣達に勝ち目はない。

 アンクがそれをしなかった理由は二つ。
 一つは制限。メダル消費の制限は、ダミーで“偽装”した人物の能力にも適用される。
 つまりダミーを使って戦う場合、本人と比べると一段階余計にメダルを消費する事になるのだ。

 しかし、それはアンクにとって――いや、グリードにとっては問題にはなり辛い。
 なぜならばグリードには、他の参加者にはない有利があるのだ。
 それは即ち、彼等の肉体を構成するセルメダルと、五枚のコアメダル。合わせて七百枚相当のメダルだ。
 もしグリードがその身を顧みずに戦えば、メダルや装備の充実していない今、参加者達が苦戦を強いられるのは間違いないだろう。

 そしてもう一つの理由が、アンクが飽きたからだった。
 アンクの思惑通り順調に進んでいた狂宴も、ユウスケの活躍で狂いだし、切嗣の乱入でケチがついた。

 最強ともいえるダミーの能力にも、当然限界はある。
 一つ目は、エターナルのマキシマムなど、完全に再現できない能力があることだ。
 もしエターナルのマキシマムを完全再現すれば、ダミーメモリもその機能を失ってしまうからだ。
 故にその能力は、精々がT1エターナルと同程度までしか再現できなかった。

 二つ目は、ダミーの能力の範囲は、あくまでも個人に限られることだ。
 たとえサーヴァントのマスターに“偽装”しても、サーヴァントとの繋がりまでは再現できない。
 幾つ令呪を再現しても、サーヴァントとの繋がりがない以上、その令呪にサーヴァントへの強制力はないのだ。
 故にアンクは、バーサーカーの令呪を欲したのだ。

 そして三つ目は、ダミーの“偽装”によって発生した能力は、“偽装”が解けると同時に効力を失うことだ。
 つまりあの時に戦おうとすれば、クウガとスカルに加え、Wまで相手にすることになってしまうのだ。

 そして彼には、三人もの仮面ライダーを相手にする気などさらさらなかった。
 悪行による愉悦の味を覚えた彼は、圧倒的暴力で蹂躙するなどという“つまらない事”は避けたかったのだ。


 そうして今、アンクは次なる目的地へと足を進めていた。
 その目的地とは、彼が“偽装”した桜井智樹の命令により、他の参加者を蹂躙しているはずのイカロスだ。

 今回の戦いでアンクが消費したセルメダルは、実はダメージ分を除けば二十枚に満たない。
 コアを一枚使用した事と、細かく変身を切り替えることで、シグマ算で増える消費量を抑えたのだ。
 だがそれでも消費したことには変わらず、それを補充する目的があった。
 そしてその手段は、イカロスの襲撃で弱っているはずの参加者たちを強襲することだ。
 弱っていれば保有数こそ少ないだろうが、不意を突ければ少ない労力でメダルを得られるだろう。

 それに上手くすれば、イカロスを探し出したアストレアとの、道化芝居も見られるかもしれない。
 それを思うと、意識せずとも口の端が釣り上がってくる。

 注意すべきはせいぜい二つ。
 一つは暗躍を続けるためにも、正体をなるべくバラさないこと。
 もう一つは、“欠けたボク”を見逃さないようにすることだ。
 それらにさえ気をつければ、きっともっと楽しめるだろう。

「ああ、楽しみだなぁ………」

 “欠けたボク”に会えるまでに、いったいどれだけの楽しみが待っているんだろう。
 そんな子供のような高揚感を覚えながら、もう一人のアンクは偽りの街角を進んでいった。

953 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:52:54 ID:MCH5spfw0


【一日目-午後】
【D-2/商店街】

【アンク(ロスト)@仮面ライダーOOO】
【所属】赤・リーダー
【状態】ダメージ(中)、悪行に対する愉悦への目覚め(?)
【首輪】65枚(増加中):0枚
【コア】タカ:1、クジャク:2、コンドル:1/コンドル:1(一定時間使用不能)
【装備】なし
【道具】基本支給品一式、ダミーメモリ@仮面ライダーW、T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、不明支給品1〜3(確認済み)
【思考・状況】
基本:赤陣営の勝利。“欠けたボク”を取り戻す。
 0.次はどんな楽しみが待っているんだろう。
 1.イカロスを追いかけ、一先ずメダルを回復させる。
 2.その後“欠けたボク”に会いに行く。……どこに行ったのかな?
 3.暗躍を続けるために、正体(人間態)をバラさないよう気をつける。
 4.“欠けたボク”と一つになりたい。
 5.赤陣営が有利になるような展開に運んでいくのも忘れない。
 6.イカロスの活躍に期待。
【備考】
※アンク吸収直前からの参戦。
※ダミーの“偽装”による再現には、限界があります。
 また自分、及びその場にいない人物の記憶から再現する事はできません。
※ガイアメモリを複数使用しました。どのような後遺症があるかは、後の書き手にお任せします。


【T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW】
イカロスに支給。
『地帯』の記憶を内包したT2ガイアメモリで、使用者をT2ゾーン・ドーパントへと変身させる。
空中を浮遊するピラミッド型のUFOのような姿をしており、任意の対象物を自由に他の場所へ転送する能力を持つ。
エターナルによるマキシマムドライブの発動時は、26個全てのT2ガイアメモリを集結させるが、このロワでは不明。


        ○ ○ ○


「――――検索を始めよう。
 キーワードは『NEXT』、『エンジェロイド』、『IS』、『聖杯戦争』の四つだ。

 “地球の本棚”にアクセスしたフィリップは、幾つかのキーワードから単語を検索する。
 白い世界に存在した本棚はいずこかへと消え去り、幾つかの本が宙に残る。
 残った本の内一冊を手に取り、その検索結果に首を傾げる。

「『DECADE』……これはそのまま、仮面ライダーディケイドの事だね。
 他には『Another World』――異世界か。翔太郎、どういう意味か解るかい?」
「確か、ディケイドは様々な世界を旅していたんだろ? その事じゃないのか?」
「多分そうだと思う。けど俺達が旅をした世界には、必ずその世界の仮面ライダーがいたぞ?」
「でも私は仮面ライダーなんて、テレビの中でしか聞いた事ないよ? それに、『でぃけいど』ってなに?」

 フィリップの検索結果に、他の三人も首を傾げる。
 やはりキーワードが絞り切れていないのか、調べたい事の確信には届かない。
 しかも肝心の検索した事に関する本が、一冊もないのだ。
 だが一人だけ、そのきっかけを知る物がいた。

「更に多くの異世界か………まさか、『第二魔法』が関わっているのか?」
「『第二魔法』? 何か知っているのかい?」
「ああ。詳細は知らないが、“僕の世界”には『並行世界の運営』と呼ばれる、いわば“ifの世界(パラレルワールド)”を行き来することが可能な魔法があるんだ」
「“ifの世界”……なるほど。つまり僕たちは、仮面ライダーのいる世界だけではなく、その他の様々な世界から寄せ集められたという訳か。
 検索したキーワードに関する本がなかったのも、“僕の世界”の地球にはない情報だからか」
「その可能性が高いだろうね。
 けど、それだけでは説明がつかない事もある。おそらくはあと一つ、『時間旅行』も関係している筈だ」

 切嗣が思い返すのは、間桐雁夜やサーヴァントたちの事だ。
 彼等は第四次聖杯戦争が終結した時点で、既に消滅している筈だ。
 だがしかし、この殺し合いには三騎ものサーヴァントが呼び出されている。
 雁夜の事も考えれば、彼等をただ再召喚した、という訳ではないだろう。

 そう考える切嗣と同様に、フィリップもある事を思い出していた。
 Wとディケイドは、何度か共闘した事があるが、その際にクウガとも会っていたのだ。
 門矢士と違い、真正面から話し合った訳ではないが、それでもユウスケもWの事は知っていた筈だ。
 だがここでユウスケと出会った時、彼はWの事を知らなかった。

 『時間旅行』と切嗣は口にした。
 それはつまり、同じ世界の人間でも、この殺し合いに呼ばれた時期が違う可能性がある、という事だろう。

954 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:53:47 ID:MCH5spfw0

「だとしたら今は、他の参加者から情報を集めるべきかな?」
「それが妥当だろう。ましてや僕たちはまだ、グリードや真木清人に関する情報を何も得ていない」

 どれだけ参加者に関する情報を得ても、この殺し合いを打破できる情報がなければ意味がない。
 そう告げる切嗣にフィリップも同意し、“地球の本棚”へのアクセスを終了する。
 メダルも有限だ。次に検索をするとしたら、奴等に関する情報を得た時だろう。
 それにディケイドも、この世界の脱出に関わってくるだろう。
 だがこれは、ユウスケに任せる事にする。

「それにしても、“地球の本棚”か。魔術師(僕ら)で言う、“根源の渦”の様なものか?」
「“根源の渦”? それは一体何だい?」
「有り体に言えば“真理”、あるいは“究極の知識”のことだ。君の場合は、アカシックレコードと言った方が近いだろうね」
「確かによく似ている。もっとも、今の“地球の本棚”は制限が掛っていて、“究極の知識”とは呼べないけど」
「その事についてなんだが、制限が掛っているのは“地球の本棚”ではなく、おそらく君の方だと僕は思う。
 そっちの方が、明らかに“細工”しやすいだろうからね」
「なるほど、確かにその通りだ。
 だとすれば、僕に掛けられた制限を解除すれば」
「ああ。この首輪の解除方法も解るかもしれない」

 どうにかしてフィリップの制限を解除すれば、事は一気に進むだろう。
 あとはどこから、あるいはどうやって制限を掛けているかを調べればいい。
 そうやって切嗣とフィリップは、限られた情報から考察を広げる。

「おいユウスケ。あいつらが何言ってるか解るか?」
「いや、全く解らない」
「“こんげんのうず”ってなに? 食べもの?」

 そんな二人を見て、翔太郎達は頭に疑問符を浮かべていた。
 彼らが切嗣達の会話を真に理解する時は、きっと来ない。



 情報交換も終わり、切嗣達はそれぞれの目的地へと向かう準備を進めていた。
 その最中に切嗣は、翔太郎とユウスケに最後の確認をする。

「とても助かるけど、本当にいいのかい? 僕がこれを持っていって」
「ああ。フィリップがいる俺よりも、あんたが使った方が役に立つだろ。
 俺にはこのメモリと、おやっさんの帽子だけで十分だ」

 切嗣はスカルメモリとロストドライバー、“全て遠き理想郷(アヴァロン)”の三つを手にしていた。
 対して翔太郎の手には、T2ジョーカーメモリと白いソフト帽がある。
 T2ジョーカーメモリは、大桜の所でアストレアが拾った支給品の一つだ。
 そしてスカルメモリとロストドライバー、そしてソフト帽は、間桐雁夜の支給品に三つセットで入っていた物だ。
 Wのドライバーと類似していた事から、彼等と関連がある物なのだろうと開示したのだが、翔太郎はT2ジョーカーとソフト帽だけを受け取ったのだ。

「そうか、ありがとう。この礼は必ずするよ」
「気にすんなって。使いもしないのに受け取って、そのせいであんたを死なせちまったら、おやっさんに合わせる顔がねぇからな」
「そうですよ。それに俺も、アダマムのおかげで傷の治りは早いですし」
「つーわけだ。まあその宝具に関しては、ちょっと惜しい気もするけどよ。
 なにせあれ程やられた傷が、もう完治してんだもんな」
「持ち主を不老不死にする、かのアーサー王の聖剣の鞘だからね。
 その能力を完全には引き出せなくても、回復力は折り紙付きさ」

 戦いが終わった後からずっと、翔太郎はアヴァロンによって傷を癒していた。
 しかもコアメダルを用いて使用したため、彼のセルメダルは消費されていない。
 なぜわざわざコアを使ったかと言えば、再使用までにかかる時間を測るためだ。
 コアがどの程度の時間で回復するかを知っておく事は、能力が制限されている今の状況では重要な事だ。


「それじゃあ僕は、バーサーカーを連れて冬木市に向かう。
 アストレアの事は頼んだよ」
「ああ、任せとけって。絶対にイカロスって子も止めてみせる」

 既に話し合いをして、切嗣は冬木市に。翔太郎達はアストレアと共にイカロスを追う事が決まっていた。
 翔太郎達が発見し、ワイルドタイガーを襲った女の子がイカロスである事は解っている。
 そして彼女が、桜井智樹に成り済ましたアンクの命令で動いている事も。

 切嗣としてはアストレアという戦力がいなくなるのは痛かった
 だがイカロスの戦闘能力を聞いた限り、対抗出来るのはアストレアか、ISを使ったバーサーカーぐらいだろう。
 そして白式は、織斑千冬の強い要望により彼女に返却している。

955 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:54:11 ID:MCH5spfw0

「けど、ユウスケ。本当に置いて行っていいのかい?」
「はい。俺はここで、千冬さんが立ち直るのを待ちます」

 千冬はあれから、織斑一夏の亡き骸を埋葬した後、その場所でずっと佇んでいる。
 今彼女が何を思ってそうしているかは、想像に難くない。
 故に、彼女自身の力で立ち直るしか、彼女を救う方法はないのだ。

 織斑一夏を殺した人物は、おそらくアンクの告げた「火野映司」ではないだろう。
 飛び散った血液の乾き具合から、彼が殺されたのは殺し合いが始まってすぐだ。
 それから今までの時間、アンクが病院でじっとしている理由はまずないからだ。
 それに何より、切嗣達はそれ以降の時間に、白式を操縦する「織斑一夏」に遭遇している。
 つまりは、その織斑一夏の偽物こそが、本物の織斑一夏を殺した人物だと予測できるのだ。


「そうか――わかった。なら動く時は、翔太郎達の所へ向かってくれ」
「わかりました。必ず向かいます」
「ああ、待ってるぜ。アストレア、そろそろ行くぞ」
「あ、すぐ行くから待ってて」

 翔太郎はアストレアへと声を掛け、フィリップの待つダブルチェイサーの元へと向かって行った。
 それを聞いたアストレアは、すぐに立ち上がって返事をする。

 切嗣達が話し合っている時、アストレアはある物を見つけていた。
 それは千冬が翔太郎に斬りかかった際に、投げ捨てたデイバックから零れ落ちた地の意志だった。
 説明書もなく、あったとしても読めないアストレアはそれを自分のデイバックに放り込んで、翔太郎達のもとへと向かった。

「ごめんね、切嗣。私、協力するって言ったのに」
「気にしなくていいさ。イカロスを助ける方が大事だからね」
「ありがとう。それじゃあ切嗣、気を付けてね」
「アストレアも。必ず、また会おう。
 何かあったら、衛宮邸に向かってくれ」

 そう言って切嗣は、バーサーカーの運転するライドベンダーに乗り込み、走り去って行った。
 その姿を見届けるアストレアに、フィリップが声を掛ける。

「さぁ、僕達も行こう。
 イカロスを止めるなら、早い内に合流した方が良い」
「………うん」

 その声に促され、アストレアもダブルチェイサーのサイドカーに乗り込む。
 ちなみにフィリップは、翔太郎と二人乗りの形で乗り込んでいる。

「また会おう、小野寺ユウスケ」
「ああ、必ず」

 ダブルチェイサーが、切嗣達とは別方向に発進する。
 その姿を見届けて、ユウスケは千冬の元へと歩いて行った。

956 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:54:54 ID:MCH5spfw0


【一日目-夕方】
【C-2/エリア北西】

【衛宮切嗣@Fate/Zero】
【所属】青
【状態】健康、ライドベンダー(バーサーカーの背後)に同乗中
【首輪】100枚:0枚
【装備】スカルメモリ+ロストドライバー@仮面ライダーW、アヴァロン@Fate/zero、軍用警棒@現実、スタンガン@現実
【道具】基本支給品(弁当なし)、{トンプソンセンター・コンテンダー+起源弾×12、天の鎖、スコープセット}@Fate/Zero、首輪(間桐雁夜)、ランダム支給品1〜4(切嗣+雁夜:切嗣の方には武器系はない)
【思考・状況】
基本:士郎が誓ってくれた約束に答えるため、今度こそ本当に正義の味方として人々を助ける。
 1.偽物の冬木市に向かい調査する。
 2.1と併行して“仲間”となる人物を探す。
 3.何かあったら、衛宮邸に情報を残す。
 4.無意味に戦うつもりはないが、危険人物は容赦しない。
 5.バーサーカーの動向に気をつける。いざという時は、令呪を使う事も辞さない。
 6.『ワイルドタイガー』のような、真木に反抗しようとしている者達の力となる。
 7.謎の少年(織斑一夏に変身中のX)、雨生龍之介とキャスター、グリード達を警戒する。
 8.セイバーと出会ったら……?
 9.間桐雁夜への約束で、この殺し合いが終わったら桜ちゃんを助けにいく。
【備考】
※本編死亡後からの参戦です。
※『この世全ての悪』の影響による呪いは完治しており、聖杯戦争当時に纏っていた格好をしています。
※バーサーカー用の令呪:残り二画
※セイバー用の令呪:残り二画
※セイバー用の令呪で以下の命令を下しましたが、発動しませんでした。これがどのように影響するかは、後の書き手にお任せします。
 ・仲間を連れての、衛宮切嗣の下への召喚。
※この殺し合いに聖堂教会やシナプスが関わっており、その技術が使用させている可能性を考えました。


【バーサーカー@Fate/zero】
【所属】赤
【状態】健康、狂化、ライドベンダーを運転中
【首輪】80枚:0枚
【装備】王の財宝@Fate/zero
【道具】アロンダイト@Fate/zero(封印中)
【思考・状況】
基本:▅▆▆▆▅▆▇▇▇▂▅▅▆▇▇▅▆▆▅!!
 2.令呪により、一応マスター(衛宮切嗣)に従う。
 3.二度も戦いを邪魔されたことによる、アストレアへの怒り。
【備考】
※参加者を無差別的に襲撃します。
 但し、セイバーを発見すると攻撃対象をセイバーに切り替えます。
※令呪による呪縛を受けました。下記は、その内容です。
 ・害意を持たぬ者への一切の攻撃を禁止する。
※ヴィマーナ(王の財宝)が大破しました。


【C-1/病院】

【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【所属】赤
【状態】健康
【首輪】0枚:0枚
【コア】クワガタ:1(一定時間使用不能)
【装備】シックスの剣@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】なし
【思考・状況】
基本:みんなの笑顔を守るために、真木を倒す。
 1.千冬さんが立ち直るのを待つ。
 2.千冬さんを守る。仮面ライダークウガとして戦う。
 3.井坂深紅觔、士、グリード、織斑一夏の偽物を警戒。
 4.士とは戦いたくない。
 5.千冬さんは、どこか姐さんと似ている……?
【備考】
※九つの世界を巡った後からの参戦です。
※ライジングフォームに覚醒しました。変身可能時間は約30秒です。
 しかし、ユウスケは覚醒した事に気が付いていません。

957 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:55:19 ID:MCH5spfw0


【織斑千冬@インフィニット・ストラトス】
【所属】赤
【状態】精神疲労(大)、疲労(大)、深い悲しみ
【首輪】120枚:0枚
【装備】白式@インフィニット・ストラトス
【道具】なし
【思考・状況】
基本:……少なくとも、小野寺とは戦いたくない。
 0.――――――――。
 1.私は……一夏………。
 2.生徒と合流する。
 3.一夏の……偽物?
 4.井坂深紅觔、士、グリード、織斑一夏の偽物を警戒。
 5.地の石をどうするべきか。
 6.小野寺は一夏に似ている。
【備考】
※参戦時期不明
※白式のISスーツは、千冬には合っていません。
※小野寺ユウスケに、織斑一夏の面影を重ねています。


 ―――優しい、けれどどこか物悲しいメロディが聞こえる。

「翔太郎。僕は、真木清人が許せない」

 俺に支給されていたそのオルゴールを聴きながら、フィリップはそう言った。
 フィリップにとって、家族というものは強い意味を持つ。
 だが織斑千冬の家族は、この殺し合いに呼ばれた事で無惨にも殺されてしまった。
 それがフィリップには許せない事なのだろう。

 俺達の戦いは、まだ始まったばかりだ。
 きっと苦しい戦いになるだろう。俺達が生き残れるかも判らない。
 だからと言って諦める事だけは、絶対にない。

 なぜなら俺達は、二人で一人の仮面ライダーWだからだ――――


【C-2 商店街前】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【所属】黄
【状態】健康、ダブルチェイサーを運転中
【首輪】80枚:0枚
【コア】ウナギ:1(一定時間使用不能)
【装備】ダブルドライバー+ジョーカーメモリ・メタルメモリ・トリガーメモリ@仮面ライダーW、ダブルチェイサー@TIGER&BUNNY
【道具】基本支給品一式、T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW、鳴海壮吉のソフト帽@仮面ライダーW、不明支給品×1
【思考・状況】
基本:「仮面ライダー」として誰かのために戦う。
 1.アストレアと共に、イカロスを止めに行く。
 2.照井と合流する。
 3.何かあったら、衛宮邸に向かう。
 4.コアメダルが再使用可能になるまでの時間を測る。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※仮面ライダーW(基本形態)への変身時は、左翔太郎のメダルが消費されます。


【フィリップ@仮面ライダーW】
【所属】緑
【状態】健康、ダブルチェイサー(翔太郎の背後)に同乗中
【首輪】90枚:0枚
【装備】サイクロンメモリ・ヒートメモリ・ルナメモリ@仮面ライダーW、スパイダーショック@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、マリアのオルゴール@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本:殺し合いには乗らない。この事件の首謀者を捕まえる。
 1.アストレアと共に、イカロスを止めに行く。
 2.照井と合流する。
 3.何かあったら、衛宮邸に向かう。
 4.地球の本棚に関する制限の解除方法を探す。
【備考】
※劇場版「AtoZ/運命のガイアメモリ」終了後からの参戦です。
※“地球の本棚”には制限が掛かっており、殺し合いの崩壊に関わる情報は発見できません。

958 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 13:55:53 ID:MCH5spfw0


【アストレア@そらのおとしもの】
【所属】緑
【状態】健康、ダブルチェイサー(サイドカー)に同乗中
【首輪】140枚:0枚数
【装備】超振動光子剣クリュサオル@そらのおとしもの、イージス・エル@そらのおとしもの
【道具】基本支給品×4(その中から弁当二つなし)、不明支給品0〜2、ラウズカード(♠ A〜K、ジョーカー)、大量の缶詰@現実、地の石@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本:自分で決めた事をする。
 1.イカロス先輩を止める。
 2.知り合いと合流(桜井智樹優先)。
 3.何かあったら、衛宮邸に向かう。
 4.謎の少年(織斑一夏に変身中のX)を警戒する。
 5.また何か拾ったけど、これなんだろう……?
 6.切嗣にシナプスのことをきちんと話した方がいいかな?
【備考】
※参加時期は48話終了後です。
※大量の缶詰@現実は県立空美中学校 調理室から調達しました。


【全体の備考】
※【D-1】の森の最奥にアインツベルン城が発見されました。
※死者の首輪は、所属を示すランプが点灯していません(無所属にすら所属していない)。
※衛宮切嗣、アストレア、左翔太郎、フィリップ、ユウスケが情報を交換しました。下記は特記事項です。
 ・「Fata/Zero」「そらのおとしもの」「仮面ライダーディケイド」「仮面ライダーW」「TIGER&BUNNY」の参加者に関する情報を交換しました。
 ・アストレアからはシナプスに直接関わる情報は交換されていません。
 ・“地球の本棚”に関する制限は、フィリップの側に掛けられていると考えています。
 ・真木清人は『平行世界』『時間旅行』に関する技術を持っていると推測しています。


【スカルメモリ@仮面ライダーW】
間桐雁夜に、ロストドライバー、鳴海壮吉の帽子とセットで支給。
「骸骨」の記憶を内包したガイアメモリで、ロストドライバーを用いることで仮面ライダースカルに変身出来る。
セットの白いソフト帽は鳴海壮吉の愛用で、彼がスカルに変身した際も被っていた。

【T2ジョーカーメモリ@仮面ライダーW】
剣崎一真に支給。
「切り札」の記憶を内包したT2ガイアメモリで、ロストドライバーを用いることで仮面ライダージョーカーに変身出来る。

【マリアのオルゴール@仮面ライダーW】
左翔太郎に支給。
大道克己が母の大道 マリアへと送ったオルゴール。

【スパイダーショック@仮面ライダーW】
アンク(ロスト)に支給。
仮面ライダーWの使用する、メモリガジェットと呼ばれる探偵ツールの一つ。
スパイダーメモリを装填することでクモ型のライブモードとなる、黄色い腕時計型ガジェット。
主にワイヤーによる移動・避難・マーカーを取り付けた標的の追跡などに使われる。このワイヤーは非常に強靭でドーパントの動きをも拘束可能。
制限により、自律行動が可能となるライブモード時は、ギジメモリを起動した人物に従うようプログラムされている。

【天の鎖@Fate/zero】
イカロスに支給。
英雄王ギルガメッシュが、乖離剣エアと同等か、それ以上に信頼する宝具。
神を律する対神宝具で、相手の神性が高い程効果を発揮する。
制限からか、拘束人数は基本的に一人だが、対象に巻き込む形でならば複数人拘束出来る。

959 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/17(日) 14:04:07 ID:MCH5spfw0
以上で投下を終了します。
タイトルは、
>>920-930 Oの喪失/失われた日々
>>931-941 Oの喪失/信じるという事
>>942-951 Oの決意/忘れない約束
>>952-958 Oの決意/交錯する世界
となります。

何か意見や、修正すべき点などがございましたら、お願いします。

960名無しさん:2012/06/17(日) 14:12:41 ID:biZ7h2aI0
投下乙です!
やっぱりみんな格好いいなぁ……
最初、千冬さんがどうなるかと思ったけど何とか一安心かな? てか、手加減されていたとはいえ生身でWと戦うなんて強すぎるw
ロストアンクがまさかエターナルになるとは! 考えてみれば、本編でもスカルになれたし情報さえあればエターナルにもなれそうだな。
でも本物の克己がこの事を知ったらキレそうw
そしてまさか切嗣がスカルになるとは! 考えてみればこの人も、荘吉みたいに士郎に強い影響を与えたんだな……

最後にもう一度、大作見事でした!

961名無しさん:2012/06/17(日) 20:27:38 ID:nVOqV8dQO
投下乙です!
本人は一切気にしてないけどロストってウヴァさん程じゃないにしろ空回り気味のような?ダミー使って扇動しても毎回次の話には無意味になってるしw
にしてもキリツグスカルとか実にハードボイルドだなぁ、しかしこれでわざわざやる意味がないとはいえ物理的にWはジョーカージョーカーが可能になったのか

962名無しさん:2012/06/18(月) 01:30:02 ID:3aSs5bog0
投下乙です

うん、みんなかっこいいは同意だよ。千冬さんは危うい状態だったがとりあえずは…
ロストアンクがエターナルになるわキリツグがスカルになるわいい意味でひでえぜw

963名無しさん:2012/06/19(火) 11:15:30 ID:C4Y7gNQM0
投下乙です

ライダー勢は熱いな



5103を除いて(このロワで)

964名無しさん:2012/06/20(水) 07:32:26 ID:8UtlAk3Y0
投下乙です
相変わらず熱い!
ロストアンクが空回り気味なのは確かにちょっと残念だけど、その代わり対主催がどれも熱くてかっこよくて素敵w
ダブルもハーフチェンジ巧みに利用してるし、クウガは着実に主人公ルート歩んでるし、切嗣組もいい感じに戦力分散出来て今後が楽しみ。
って、何気に千冬姉が白式手に入れてるwwwやばいwwww

965 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:24:08 ID:YAhSFBIY0
これより、予約分の投下を開始します。

966招待& ◆cUQK0jD8Xg:2012/06/25(月) 11:25:09 ID:YAhSFBIY0



 ――――最初に相手を見つけたのは、男の方が早かった。

 先の戦いで受けたダメージは癒えたが、それなりのメダルを消費している。
 あれから少し時間が経ち、自らの欲望により多少増加したとはいえ、初期値の100枚にはまだ足りない。
 欲望によっていずれは超えるだろうが、それまで何もしないのは時間がもったいない。
 そこで彼女達を見つけた男は、手っ取り早くメダルを補充する事に決めた。

 火事によって燃え盛る民家の影から出てきた、仲良く談笑する少女たちを殺す事によって。


 彼女達がその男を見つけたのは、彼が行動を起こすよりは早かった。
 男が家屋の物陰から、忍ぶというには堂々とした足取りで近づいてきた。
 それに気付いた少女たちは、ようやく見つけた招待客に喜び勇んで声を掛けた。
 男は警戒心もなく話しかけられた事に僅かに目を見開くが、すぐに落ちついて少女の話を聞いた。

「初めまして。私は志筑仁美と申します。こちらはカオスさんです。
 もしよければ、貴方のお名前を窺っても宜しいでしょうか?」

 仁美はまず挨拶をして名前を名乗り、カオスを紹介した。
 カオスも仁美に倣って行儀良くお辞儀をする。
 そうしてこちらの名前を尋ねた少女たちの礼儀正しさに、男は思わず感心した。

「これはこれは、とても礼儀正しいお嬢さん方ですね。
 私の名前は井坂深紅郎と申します。以後、お見知りおきを。
 ところで貴女達はここで何をしていたのですか?」
「はい。ここには遠方から火事が見えましたので訪れましたの。
 どなたかいらっしゃらないかと思ったのですが、誰も見つからなくて。
 カオスさんと先程まで、次はどこに向かおうかと相談していた所ですの」
「なるほど。そこに私が現れた、というわけですね」
 そう納得した深紅郎は、改めて少女達を観察する。

 志筑仁美は、年の頃は中学生ごろ。
 佇まいには、「気品」とでも言うのだろうか、どこか園咲家の人間に似た雰囲気がある。
 その話し方からしても、おそらくはどこかの名家の御令嬢なのだろう。
 デスゲームというこの異常な状況で落ちついているのは、その辺りが関係しているのだろうか。

 カオスという少女の方は、年の頃は小学生ぐらいか。
 修道服を着用している事から、どこかの教会のシスター見習いだと推測する。
 感じ取れる雰囲気からしても、外見通りの幼さを感じ取る事が出来る。
 志筑仁美と姉妹という訳ではないだろうが、彼女に良く懐いているようだ。

 ―――そしてどちらも脅威にはならないだろうと、深紅郎はそう判断した。
 懸念事項があるとすれば彼女達の支給品だが、現在彼女達は何も持っていない。
 仮にデイバックの中にあったとしても、取り出す前に殺してしまえば一緒だ。
 そう結論して懐からウェザーメモリを取り出し、

「あの、井坂さん。一つお願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」

 不意に掛けられた仁美からの問いに、思わず動きを止めた。
 ふむ、と少し考え、聞くだけは聞いてあげる事にする。
 まだ若い少女の末期の言葉だ。無下にしては少し可哀相だろう。

「お願いとは何でしょうか? 応えられるかは判りませんが、話してみてください」
「ありがとうございます、井坂さん。
 実は私達、ある儀式を行おうと思っているんですの」
「ある儀式?」
「はい。魂の解放された“素晴らしい世界”へと旅立つための儀式ですわ。
 今はその儀式に参加して下さる方を招待して回っていますの。
 井坂さんには儀式にご招待すると同時に、是非ご協力をお願いしたいのですが、いかがでしょうか?」
「フム………。残念ながら私にもやるべき事がありますので、どちらもご遠慮させていただきます」
「まあ、そうですか……。残念ですわ………」

 仁美の言う儀式とやらは、どうにもカルト的な感じがする。
 どのような宗教に所属しているかは判らないが、訳の分からないモノに付き合う気はない。
 そんなモノよりは、 この世界にある“未知の力”を実験する方が実に有意義だ。

「では――」
「では仕方がありませんね」

 今度はこちらのお願いを、と言おうとしたところで、また仁美に遮られた。
 どうにも間が合わないというか、少女の間が一方的にズレている気がした。
 そしてそれは、少女の言葉によって確信に至った。

967招待!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:26:03 ID:YAhSFBIY0

「井坂さんにも、先に“素晴らしい世界”に旅立ってもらう事にしましょう」

 先程断ったにも拘らず、仁美はそれが決定事項であるかのように宣言した。
 その事に深紅郎は眉を顰め、苦言を呈する。
「私はやるべき事があると断わった筈ですが、ちゃんと聞いていたのですか?」
「あら、怖がる必要はありませんわ。“素晴らしい世界”には苦しみなんてありませんの。井坂さんも絶対にお気に召しますわ」

 話が噛み合っていない。
 仁美は深紅郎の話を聞かず、一方的に決めつけている。
 ……いや、聞いてはいるのだろうが、少女にとっては“素晴らしい世界”とやらが絶対らしい。
 そう理解した深紅郎は、まるで狂信者の様な少女の憐れな様に静かに嘆息した。

 いったい誰に、こんな洗脳された風に至るまでに吹き込まれたのか。
 先程から微笑みを浮かべて静かに様子を見守っている、修道服の少女か。
 それとも殺し合いに呼ばれる前の、全く別の誰かなのか。

 まあいずれにせよ、殺してしまえば一緒だろう。
 そう思いながらメモリをコネクタに接続し、ウェザー・ドーパントへと変身する。

《――WEATHER――》

 だがその異形を見ても、仁美は驚くだけで恐怖を見せる事はなかった。

「まあ、変身とは凄いですわ!
 ………あら? そういえば――――」
「憐れな少女よ、せめて私の糧となって死になさい!」

 今度はこちらが仁美の言葉を遮り、一方的に死の宣告を告げる。
 自身を中心に発生させた暴風は全力ではないが、子供二人を纏めて殺すには十分だろう。

「あらまぁ、そう急ぐ必要はないのですが、仕方がありませんわね。
 それではカオスさん、井坂さんを邪魔な、生きている体から解放して上げましょう」
「うん、まかせて、仁美おねぇちゃん!」
 それを前にしてなお恐怖を見せない仁美の言葉に、もう一人の少女――カオスが元気に応え、数歩前に出た。

 あまりにも理解できない。
 逃げるでもなく、支給品を取り出すでもなく、自分より幼い少女に託す。
 そのあまりの愚かしさに、深紅郎は嘲笑を浮かべた。

「ふん。そんな子供に、一体何が出来る!」
 その言葉と共に解き放たれた風は、二人の少女をあっけなく飲み込み、

 くすくす、という笑い声と共に、あまりにもあっけなく吹き飛ばされた。

「なっ!? 一体どうやって――、ッ!」
 吹き飛ばされた風から顔を庇い、すぐに少女達の方へと視線を戻す。
 するとそこには、刃の如き両翼を広げた幼い少女の姿があった。

 仁美より前に出たために一瞬早く風に飲まれたカオスは、己の翼を展開し広げる様に薙ぎ払った。
 そしてただそれだけで、ウェザーの放った暴風を無散させたのだ。

「その翼は……! なるほど。空に見えた影は君でしたか……ッ!
 ―――いいですねぇ、知りたいですねぇ。貴女のその力が、一体どれ程のものなのかをッ!」

 その異形を見た深紅郎は、恐怖に震えるより先に“未知”への好奇心に胸を高鳴らせ、感情のままにウェザーの力を解放する。
 空を飛行するエンジェロイドに対抗してか、渦巻く暴風は解き放たれる事なく、ウェザーの身体を浮かび上がらせた。

「わぁ、凄いね! なら、もっと高いところで、私といっしょに遊ぼう!?」
「ええ、かまいませんよ? その代わり、君の力を私に見せて下さい!」

 ただ風の力のみで浮かび上がったウェザーに、カオスは面白がって空へと舞い上がる。
 それに応じる様に暴風を解き放ち、ウェザーも空へと一気に飛翔する。

「あらあら、カオスさんったらあんなにはしゃいじゃって。
 遊ぶのは構わないのですが、“素晴らしい世界”へのご案内を忘れてないといいのですけど」

 その様子を地上から見上げながら、一人取り残された仁美は少し悩ましげに微笑んでいた。
 彼女の背後に迫る、姿なき影に気付かないまま――――

968招待!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:26:45 ID:YAhSFBIY0


        ○ ○ ○


 自らの先を飛ぶ少女を眺めながら、ウェザーは己が攻撃手段を検討する。
 状況は空中戦という、大半のドーパントにとっても特異な場だ。
 飛行系の能力を持つガイアメモリを吸収できていれば何の問題もなかったが、無い物強請りをしても仕方がない。

 現在は強力な暴風によって疑似的に飛行しているが、だからこそ攻撃手段は限られる。
 自身を浮かべる風を弱める訳にはいかないため、使えるのは風を主体とした攻撃だ。
 例えば、最も基本的な竜巻。例えば、目に見えず物を切り裂くカマイタチ。例えば、時にはガソリンさえも凍らせる吹雪。例えば――――

「ねぇ、おじさん。「愛」って知ってる?」

 不意に投げかけられた質問に、深紅郎は思わず首を傾げる。
 見れば少女は空中で停滞し、こちらへと向き直っていた。

「また唐突な質問ですね。なぜそのような事を訊くのですか?」
「私ね、「愛」を知りたいの。「愛」を知って、みんなに「愛」をあげるの。
 でも、「愛」って、いろんな形があるんだよね。だからもっと「愛」をお勉強するの。
 だから教えて? おじさんにとっての「愛」ってなぁに?」
「成程、それで「愛」ですか」

 そう深紅郎は納得し、同時に少し考えた。
 井坂深紅郎にとっての「愛」。それは――考えるまでもない。

「そうですね、私にとっての「愛」はドーパントですね」
「どーぱんと?」
「ええ。今の私の様な、人間を超えた能力を持つ超人の事です。
 私はこのドーパントを、延いてはガイアメモリをこよなく愛しています。
 それこそ、食べてしまいたいぐらいに!」
「たべるの? それがおじさんの「愛」なの?」
「その通りです! 様々な“力”を食べる事によって、私のウェザーはより強く進化するのです!!」

 そのためにも、ここでカオスの力を解析し、吸収するのだ。
 そう意気込み、ウェザーは更に纏う風圧を高めていく。
 より強く吹きすさぶ風に煽られ、カオスは僅かに安定を欠く。

「すごい風……羽が切り裂かれそう……。でも―――」

 だが、その顔に浮かぶのは笑み。
 幼い少女は、新しいおもちゃを見つけた子供の様に、瞳を輝かせる。

「私の方もすごいよ……!」

 カオスの刃の様な羽は、文字通り風を切り裂いて飛翔する。
 そして一息でウェザーへと詰め寄り、その小さな拳を振り被る。

「甘いですね。その程度では、私は倒せませんよ?」

 しかしその瞬間、カオスの全身を、無数のカマイタチが切り裂く。
 傷は浅く流血こそないが、その鋭さに無数の切り傷が付く。
 そして切り裂かれた衝撃で、一瞬だが動きも止まる。
 その瞬間を狙い、ウェザーは吹雪を発生させ、カオスへと解き放つ。

「その程度が君の“力”ですか? だとしたらなんと呆気ない……」

 猛然と吹き付ける吹雪は、カオスの身体を容赦なく凍て付かせる。
 ただの人間ならば既に凍りつき、ドーパントや仮面ライダーでも凍傷を免れぬほどの冷気を、少女はまともに受けている。
 このまま終わるのであれば、少女の“力”の価値は飛行能力しかない。

 だが、それではあまりにもつまらない。
 本来ならばもっと“力”を引き出すために、相手の限界ぎりぎりで実験をする所だ。
 しかしながら、現在はメダルの残数が少なく、相手のメダルは総量が知れないため、遊ぶ余裕はない。
 その事を残念に思いながらも、ウェザーマインを取り出し、吹雪の中心にいるであろうカオスへと向けて振り抜く。

「さようなら。可愛いお嬢さ―――ッ!?」

 その直前、黒い炎弾が、吹雪を吹き飛ばして放たれた。
 ウェザーは咄嗟に回避するも、掠めた炎弾に纏っていた風が綻ぶ。
 結果ウェザーが飛行するための浮力が減少し、重力に囚われ地面へと落下する。
 しかし、当然そのまま落ち続ける筈もなく、新たに暴風を纏って再度浮遊する。
 そして少女のいる上空へと視線を上げれば、

「すごいすごい! 体がちょっと凍っちゃったよ!」

 体の所々に氷を張り付かせながらも、無邪気な子供の様に笑うカオスの姿があった。
 あれほどの猛吹雪を受け、身体を凍らせながらも、少女は大して堪えていない。
 その姿に深紅郎は戦慄と、そして強い歓喜を覚える。

969招待!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:27:16 ID:YAhSFBIY0

「……いいですねぇ。もっと……もっとです……! 貴女の力を、もっと私に見せてください!
 そしてその力を、是非私の物にしたい!!」

 ウェザーの攻撃を寄せ付けぬその“力”。
 それを手に入れられれば、一体どれほどウェザーを進化させられるのか。
 それを思えば、多少の苦労など無いに等しい

 メダルの残数を考えれば、狙うは短期戦。
 それで倒す事が出来なくても、セルを奪う事が出来れば次に繋がる。
 故にウェザーは、一際強く、周囲に暴風を唸らせる。

「クスクス……」

 対するカオスも、ウェザーの力を楽しんでいた。
 先程の吹雪によって可変ウィングと四肢の末端が凍結し、機動力及び可動性が低下している。
 ある程度は発生させた炎によって解凍したが、急激な温度変化は装甲強度の低下に繋がる為、完全には解凍できていない。
 ウェザーの放った吹雪は、エンジェロイドであるカオスにそれほどの影響を与えていたのだ。
 その事実こそが、カオスにとっては新鮮だった。

 エンジェロイドではないのに、エンジェロイドにダメージを与えるほどの力を持つドーパント。
 そんな物珍しい遊び相手は、カオスの持つシナプスのデータには存在しない。
 故に。

「さぁ……もっともっと遊ぼう……!」

 カオスは周囲に複数の黒い火球を発生させ、ウェザーと相対する。
 より大きく、より強くなって、より「愛」を知るために。


        ○ ○ ○


 ――――少し、時間は遡る。

 腹を満たし、教会を出た深紅郎は、すぐに火事によって昇った黒炎に気付いた。
 その際に空を飛ぶ何者かの影を見た深紅郎は、すぐにその場所へと向かうことを決めた。
 そこで見つけたのが志筑仁美とカオスの二人だった訳だが、ここで一人、忘れてはならない人物がいる。

 そう。深紅郎と共に行動していた筈の殺人鬼、雨生龍之介だ。
 実のところ、彼は深紅郎とカオスの戦いが始まる直前まで、深紅郎の傍にいた。
 そして今も、仁美のすぐ後ろに龍之介はいたのだ。
 インビジブルメモリの力によって、その姿を完璧に隠しながら。

「フゥ………フゥ………」

 興奮に荒くなる息を押し殺しながら、右腕をゆっくりと持ち上げる。
 ドーピングコンソメスープによって丸太の様に膨張した筋肉は、それだけで仁美の胴のサイズを上回っている。
 この怪力を宿した腕でちょっと小突いただけで、教会にあった硬そうな机は簡単に砕け散った。

 ―――ならば、机よりも遥かに柔らかい人間を、全力で殴り付けたらどうなるのか。

「ハァ………ハァ――――」

 ただ殺す、という行為は、龍之介の持つ、ある種の美学に反する行為だ。
 キャスターと出会いセンスを磨いた事で、その感性は一際強くなっていた。
 ―――だが、試してみたい。この力の全力を、この力の真価を、この力で、何が出来るのかを。

 ……ああ、そうだ。旦那も言ってたじゃないか。何事も挑戦だと。
 ならば躊躇う必要はない。この人間を超えた力で、やりたい事をやればいい。
 そうすれば、今まで非力ゆえに出来なかったパワフルなアートを作り出せるかもしれない。
 それを思えば、これから行う事への期待に、胸が躍る。

「………、スゥ――――ッ!」
 可能な限り静かに息を吸い、振り上げた右腕に全力を籠める。
 丸太の様な筋肉はさらに膨張し、浮かび上がった血管が送りこまれる血液に脈動する。

 この怪力を振り下ろした時、目の前の少女は一体どんな死に様を見せてくれるのか。
 肺に残っていた空気が一気に吐き出されて生じる、おかしな断末魔。
 折れ曲がり拉げる骨と、ミンチになって飛び散る肉片のオブジェ。
 割れた水風船の様に撒き散らされる、真っ赤な鮮血のペイント。
 そして何が起こったのか解らぬままに訪れた死に、茫然と疑問を浮かべるデスマスク。

 そんな、これから自らが起こす人智を超えた惨状を前に、期待に胸を高鳴らせ、

970招待!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:27:58 ID:YAhSFBIY0

「ックハ――――――ッッ!!」
 一息に腕を振り下ろす。

 振り下ろされた腕は、何かを感じたのか、ふと振り返ろうとする少女へと迫る。
 非力な少女に、その怪力を受け止める事など出来る筈もない。
 龍之介は次の瞬間には広がる赤へと思いを馳せ、

「………………アレ?」

 ぐるりと廻った視界と、眼前に広がる壮大な青に首を傾げた。
 次の瞬間。彼の体は、勢い良く地面に叩き付けられた。

「カハッ…………???」
 激しい衝撃に思わず、肺の中の空気を吐きだした。
 同時にインビジブルの力による透明化も解除される。

 訳がわからなかった。
 理解出来たのは、自分が地面に倒れた、という事だけだった。
 だが肝心の、なんで地面に倒れたのかが、まったく理解できなかった。

「あら、ごめんなさい。つい投げ飛ばしてしまいましたわ」

 その声に、混乱していた思考が正常に戻り、即座に声の主から距離を取る。
 見ればその声の主は、自分が先程殺そうとしていた少女だった。

「………マジ?」

 少女はその手に、何も持っていない。
 だが少女の細腕で、この全身を満たす怪力を防げるとは思えない。
 ならばあの少女は、一体どのような手段で生き延びたのか。

「……なら、もう一回!」

 ズン、と地面を踏み砕いて、仁美へと駆け足で襲い掛かる。
 あの少女がどうやって怪力を防いだのか、確かめるのだ。
 また地面に叩き付けられるかもしれないが、問題ない。
 この筋肉の鎧なら、生半可な打撃はもちろん、ナイフだって通じない。
 ましてやあんな少女に、そんな力があるはずない。
 そう信じて龍之介は仁美へと拳を振りかぶる。

 対する仁美は、自身に迫る龍之介に合わせるように一歩下がり、
 振りぬかれた右腕に、己が両腕で斜めに挟み込むように添え持ち、
 その怪力を一切受け止めず、それどころか見事に利用して、
 筋肉で膨張した巨体を、一本背負いで投げ飛ばした。

 だが加速のついた巨体を持ち続けるだけの握力など、当然仁美にはない。
 故に龍之介の体は、今度は地面に叩き付けられることなく、加速の分だけ勢い良く宙を飛んだ。

「う、ウソだろ……?」

 僅かな浮遊の後、地面に落ちた龍之介はすぐさま身体を起こし、呆然と声を発した。
 これほどの怪力が、これほどの巨体が、ああも簡単に投げ飛ばされるなど、彼には信じられなかった。

「あらあら。女性にそのような乱暴はいけませんことよ?」

 そんな、龍之介にとって異常としか思えないことをなした少女は、涼しい顔をしてそう言った。
 それがまた、龍之介には信じられないモノとして見えた。
 これほどの威容、これほどの暴力を前にして、少女は僅かな恐れも見せていないのだから。


 志筑仁美は、ある資産家の令嬢として、多くの習い事をこなしている。
 その習い事は、ピアノ、日本舞踊、お茶など多岐に渡り、そのうちの一つに“護身術”があるのだ。
 そして資産家の令嬢である仁美が習う“護身術”が、一般家庭の少年少女が習うような生半可なものであるはずがない。
 事実、ある平行世界において仁美は、魔法少女となった美樹さやかを(魔法を使わなかったとはいえ)圧倒して見せたのだから。

971招待!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:28:37 ID:YAhSFBIY0

 護身術とはそもそも、非力な女性が力で勝る男性に対抗するための武術だ。
 その技の多くは、“相手の力を利用して無理なく受け流す”事に集約されている。
 故に、高い実力を持つ仁美にとって龍之介は、“ただ異常な筋力を持つだけの巨漢” でしかない。
 加えて龍之介は、ただ真っ直ぐに襲い掛かっただけ。そんな相手を往なすのは、そう難しいことではなかった。

 最初の奇襲にしてもそうだ。
 興奮によって荒くなった息。上昇した体温。背後に立たれることによる圧迫感など。
 姿は消せていても、気配を隠しきれていない龍之介のどこが、変質者と違うというのか。
 そしてそういった変質者への対処法は、護身術で真っ先に学ぶ基本的な技術だ。
 つまり仁美は、背後を確認せぬままに襲われたからこそ、彼の奇襲に対応しえたのだ。

 そして最後に、仁美は“魔女のくちづけ”を受けている。
 “魔女のくちづけ”が彼女から死に対する恐怖を奪っているのは、もう言うまでもない。
 恐怖とは、防御的、生存的な本能的感情であり、特定の刺激に対する生理的な反応でもある。
 これは本来、安全への退避の動機を起こす役目を持つが、時として過剰に反応し、逆に体を硬直させてしまうことがある。
 いわゆる、蛇に睨まれた蛙、というのがこの硬直に当たるだろう。
 だが今の仁美には恐怖がない。故に体が硬直し、動きが阻害されることはないのだ。

 かといって龍之介が仁美に敵わないのかと言えば、そんなことはない。
 いかに仁美が護身術に秀でていようと、今の龍之介ならば仁美を殺すことは、むしろ容易だろう。
 仁美が龍之介を投げ飛ばせたのは、単に彼が怪力に頼っただけの、単純な攻撃をしたからだ。
 故にそれ以外の攻撃。例えば掴みや払い、全力での体当たりをすれば、仁美には対処しきれない。
 それにインビジブルによる透明化とて、仁美は条件反射で対変質者用の対処をしただけだ。
 もし龍之介が再び透明化すれば、彼女に捉えることなど敵わなかった。


 だが仁美のそんな事情を、龍之介が知る由もない。
 故に彼は、三度目の攻撃を思わず躊躇った。
 理由は二つ。最初の奇襲の失敗と、二度も投げ飛ばされたことによる不安だ。
 透明になったとしても、またあっさりと投げ飛ばされるのでは? という疑念が過ぎったのだ。

 その躊躇が、龍之介の有利を一つ、無為にしてしまう。

「え? あ、あれ?」

 龍之介の膨張した筋肉による巨体が、水蒸気を上げて縮み始めたのだ。
 だがそれは、仁美が何かした、というわけではない。
 ただ単に、ドーピングコンソメスープの効果が切れたのだ。
 そしてその結果、龍之介の体は彼本来の形へと元に戻った。

「なんだ、もう終わりかぁ。残念、結構楽しかったのに」

 同時に興奮も冷め、普段の冷静さを取り戻す。
 何であんなに興奮していたのかはわからないが、気分が良かったので気にしない。

「あら、一体どうなさったのでしょう?」

 その声に顔を上げれば、仁美が心底不思議そうに目を見開いていた。
 ドーピングコンソメスープの力で彼女を殺せなかったのは残念だが、効果が切れたのなら仕方がない。
 龍之介はそう思いながら、サバイバルナイフを手に黒いプレート――リュウガのカードデッキを取り出す。

 これは深紅郎に、自分にはウェザーメモリがあるからと渡されたものだ。
 ……もっとも、深紅郎がデッキを渡した理由は、龍之介を使ったただの安全確認でしかないのだが。

「そんじゃ、次ぎ行ってみようか」

 それを知らない龍之介は、サバイバルナイフの刀身にリュウガのカードデッキを映す。
 すると龍之介の腰に金属製のベルト――Vバックルが出現した。
 それを確認すると、躊躇うことなくVバックルのホルダーにデッキを装填する。

「変身っと」

 直後、龍之介の周囲に現れた無数の鏡像が、龍之介に重なり実体を持つ。
 そうしてここに、鏡の世界(ミラーワールド)の黒き仮面ライダー、リュウガが出現した。

《――SWORDVENT――》
 デッキから引き抜いたカードを読み込み、虚空から飛来した剣を取る。
 剣を習った訳ではないが、刃物の扱いには慣れている。目の前の少女を解体するには十分だろう。

972招待!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:29:04 ID:YAhSFBIY0

 だがそれらの現象を見た仁美は、実に楽しそうに笑っている。

「まぁ。次から次に、不思議な人ですわ。
 それに、今度は剣舞ですか。ですが、今は刀剣の類を持ち合わせておりませんの。流石に無手でお相手する訳には参りませんし………。
 ――――仕方がありませんわ。こうしましょう」

 そう言うと仁美は、一冊の本を取り出して左手で掲げ、空いた右手でナイフを取り出した。
 そしてそのナイフを左手首へと当て―――躊躇う事なく切り付けた。
 当然切り裂かれた腕からは血が流れ出し、辺りに飛び散る。

「なっ………」

 その光景に、龍之介は目を疑った。
 平気な顔で自傷するなど、正気の沙汰とは思えなかったからだ。
 だがそれ以上に彼の目を引いたのが、仁美の持つ本だった。

 一目見てすぐにわかった。
 人の皮で装丁されたあの本は、まぐれもなく彼のサーヴァントであるキャスターが持っている筈の魔道書だ。
 そしてそうであるならば、厄介な事になる。と、その力をよく知る龍之介は戦慄する。
 事実その懸念通りに、仁美の事象により飛び散った血から、魔道書に導かれ何匹かの海魔が出現した。

「……どうしてあんたが、その本を持ってるわけ?
 その本は、青髭の旦那の物なんだけど」
「ああ、この本でしたら、青髭さんから借り受けましたの」
「借り受けた? なら今、旦那はどうしてんのさ?」
「青髭さんには、先に“素晴らしい世界”に旅立って貰って、歓迎の準備をなさってますわ」
「……何それ、意味わかんねぇ」

 深紅郎と仁美の噛み合わない会話は、インビジブルで姿を隠していた龍之介も聞いていた。
 仁美の言う“素晴らしい世界”は、その話の中でも彼女が口にしたものだ。

 ――――“素晴らしい世界”
 少女の信奉するそれは、要領を全く得ていない。
 ましてやあのキャスターが、こんな子供に誑かされるとは、龍之介には思えなかった。

「貴方は青髭さんのお知り合いなのですね。でしたら、青髭さんのお手伝いをお願いします。
 大丈夫ですわ。“素晴らしい世界”への御案内は任せてください」
「だから意味わかんねぇって。
 とりあえず、その本は返してもらうよ」

 仁美の言葉を聞き流し、龍之介はインビジブルメモリの効果を発動させる。
 例え少女が透明化を見破れるのだとしても、一瞬の不意は付けるだろうと判断しての事だ。
 そしてしっかりと姿が消えている事を確認して、リュウガは仁美の方へと駆け出す。

「ではみなさん。あのお方を“素晴らしい世界”へと御案内してください」

 対する仁美は、呼びだした海魔へとそう指示を出す。
 その声に従い、海魔は龍之介のいた場所へと蠢きだす。
 だがリュウガはそれらの海魔の間を駆け抜け、あっさりと仁美の元へと辿り着く。
 透明となったリュウガを、仁美はまだ捉えていない。

“それじゃぁバイバイ”
 そう内心で告げながら、黒いドラグセイバーを振り上げる。
 たとえ仁美が自分に気付いて咄嗟に回避しようと、次の一手で殺せる。
 その確信を持って、一気に刃を振り下ろす。

 ――――しかしその瞬間。
 海魔の一匹が、庇うように仁美とリュウガの間に割り込んだ。

「げっ―――やっば」
 咄嗟に振り下ろした腕を止めようとするも間に合わず、ドラグセイバーは海魔を両断してしまう。
 直後、周囲から伸びた海魔の触手が、リュウガを捕えようと伸びてくる。

《――STRIKEVENT――》

 それを掻い潜って躱し、更にカードを読み込んで黒い龍の頭部を模した手甲――ドラグクローを召喚する。
 仁美はいきなり目の前で海魔が両断されたことで、驚き戸惑っている。
 その隙にドラグクローの顎門から、黒い炎弾を撃ち出す。

 しかしその行動を見ていたかのように、数匹の海魔が再びその身を盾として仁美を庇う。
 当然黒い炎弾を受けた海魔は爆散するが、その向こうにいる仁美は爆発の衝撃に倒れただけで、気絶もしていない。

973招待!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:29:35 ID:YAhSFBIY0

「あっちゃ〜、やっちゃったよ……」
 顔に手を突いて天を仰ぐ。
 残った海魔は三匹だけ。しかしそれでも、勝機が遠のいた事を、龍之介は理解していた。
 なぜならば次の瞬間には、両断され、爆散した海魔の肉片から、新たな海魔が出現したからだ。

 それこそが“螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)”による海魔召喚の厄介さだった。
 魔道書によって召喚された海魔はどれだけ駆逐しようと、その死骸を媒介に再生・再召喚される。
 しかもそれは、魔道書の無尽蔵の魔力によって無限に繰り返されるのだ。

 同時に、己の攻撃が二度も失敗した理由も悟った。
 インビジブルメモリによる透明化は、相手の視覚から逃れるものだ。
 しかし、そもそも海魔には目がない。奴等は視覚で物を捕らえている訳ではないのだ。
 故にリュウガの行動は、仁美には見えずとも、海魔にとっては丸見えだったのだ。

「ど〜すっかねぇ……」

 この海魔を完全に倒すのであれば、肉片も残さずに消滅させるしかない。
 しかしリュウガには、それほどの火力を持つ技は存在しない。
 仁美の手から魔道書を奪えばそれで終りだが、その為には海魔をどうにかしなければならない。

 この殺し合いにはメダル制限があるため、魔道書の行使にも一応限度はある。
 だがそれまでの間、殺すたびに増える海魔の相手をし続けるのは困難だ。
 いっそのこと一旦逃げて、油断したところを殺しにかかろうか。
 そんな風に考え始めた、その時だった。

「うお―――!?」
「きゃっ………!」

 突如吹きだした暴風が、近くで未だに燃えていた家屋の炎を巻き上げたのだ。
 舞い上がった炎に煽られ、龍之介も仁美も、思わず腕で身体を庇う。
 その際に龍之介は、仁美の手元で炎の灯りが反射を捉えた。
 仁美の手で灯りを反射した物。それは彼女の血で汚れたナイフだった。

「ラッキー!」
《――ADVENT――》

 即座にカードを引き抜いて読み込ませる。
 直後、仁美のナイフの刀身から、暗黒龍ドラグブラッカーが出現した。
 ドラグブラッカーは周囲の海魔へと黒炎を打ち出し、仁美をその尾で叩き飛ばす。
 彼女を護るべき海魔は全て、黒い炎に焼かれて石化していた。

「、ッ…………!?」

 叩かれた仁美は宙を飛び、家屋の塀にぶつかって地面へと崩れ落ちた。
 ドラグブラッカーの一撃と、塀にぶつかった衝撃に、仁美は激しくせき込む。
 そんな仁美へと、リュウガは悠々と近づいて行く。

「そんじゃ、旦那の本は返してもらうよ」

 散らばったセルメダルと共に、仁美が取り落とした魔道書を回収する。
 これでもうこの少女には、抵抗する術はないだろう。
 そう判断して、今度こそ仁美を殺そうとした、その時だった。

 空から激しい爆音が響いてきた。
 その衝撃に、思わず空を見上げる。

「一体なにごと……って―――!」

 そうして見えた光景に龍之介は、今自分が殺そうとしていた少女の存在を忘れた。

974予兆!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:30:43 ID:YAhSFBIY0


        ○ ○ ○


 カオスが無数の火球を連続して放てば、ウェザーは周囲に暴風を展開しそれを弾き落とす。
 ウェザーが不可視のカマイタチを放てば、カオスは刃の如き両翼を以ってそれを切り裂く。

 そんな、千日手にも等しい攻防を繰り広げながら、ウェザーは周囲に己が能力を波及させていった。
 気付かれぬよう慎重に、されど可能な限り迅速に。
 セルメダルが尽きる前に、一息に決着を付けるために。

「クスクス……楽しいね。おねぇさまたち以外にも、こんなにすごい人がいたんだ」
「ほほう。君には姉がいるのですか。それはぜひ紹介して欲しいですねぇ」
「OKだよ。でも―――私に勝てたらね!」
「それはなんとも、手厳しいですね!」

 カオスが放った一際大きい炎弾を、ウェザーは纏う風を全開にして加速し回避する。
 そして纏った風を一気に圧縮し、暴風の鉄鎚としてカオスへと解き放つ。

 ウェザーの体は風を解き放った事で浮力を失うが、直前の加速による対空によってカオスへと接近する。
 対するカオスは当然の様に暴風を回避するが、その隙を狙われウェザーマインで片足を拘束される。
 そのままウェザーはロープアクションの様に空中を遊泳し、拘束を解くと同時に再び暴風を纏う。
 そしてカオスへと向けて、決め手となる言葉を口にした。

「ですがよろしいので?
 今頃君のお気に入りの志筑仁美は、どうなっているでしょうね」
「へ? おねぇちゃん?」

 その言葉に釣られ、カオスが意識を地上へと向ける。
 瞬間、ウェザーは周囲へと広げていた力を発現させ、

 ―――直後、カオスは灼熱の炎を伴った竜巻に飲み込まれた。


 ……風を主体とする現象には、幾つかの種類がある。
 突風、竜巻、カマイタチ、吹雪、そして―――火災旋風だ。
 火災旋風とは、都市部での地震や山火事など、広範囲の火災によって発生する現象の事だ。
 この炎を伴う竜巻は、時として鉄の沸点をも超える超々高温に達する事さえある。

 そして現在、ウェザーとカオスが交戦していた空の下。仁美と龍之介がいる地上では、一軒の家屋が炎を上げていた。
 通常、たった一軒の火災で火災旋風が起こる事はまずない。しかしそこでウェザーの能力の真骨頂だ。
 ウェザーは戦いの最中に、燃え上がる家を中心に風を集めて上昇気流を作り、徐々に火災旋風が発生する土壌を作り上げた。
 そしてカオスが彼の言葉に気を取られた隙に、一気に大気を収束。強大な火災旋風を発生させた。
 更にそこから、気象を操るウェザーの能力で増幅・制御し、カオスをその内側へと飲み込んだのだ。

 地上にいる龍之介に被害が及ばないようコントロールするのは骨が折れたが、その分威力は絶大だ。
 もはや生み出したウェザー自身でさえ、まともに受ければただでは済まないだろう。
 余程炎に特化しているか、対抗できる能力がなければ、生き残る事は難しい。

 その勝利の確信と共に、龍之介の待つ地上へと降下し始める。
 地上では今頃、龍之介が志筑仁美を始末している筈だ。
 ドーピングコンソメスープによる怪力に加え、リュウガのカードデッキも貸し与えているのだ。
 それらにインビジブルメモリの透明化を合わせれば、あの少女が余程特異な支給品を持っていない限り負ける要素はない。
 あとは力尽きたカオスから彼女の“力”の根源を吸収すれば、それで全てが終わる。
 ――――その筈だった。

「クスクス……クスクスクス…………」

 不意に聞こえた笑い声に、この上ない程に背筋が凍った。
 即座に自らが作り上げた火災旋風の、カオスがいる辺りを確認する。
 直後、少女を飲み込んでいた炎の竜巻は、熱風を吐きだして四散した。
 そして舞い散る火の粉の中、体のあちこちを焦げ付かせながらも、五体満足でカオスは健在だった。

975予兆!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:31:08 ID:YAhSFBIY0

「バ、バカな! まさかこれほどの……ッ!」
「本当にすごいね、おじさん。丸焦げにされたのなんて初めて……!
 OK……OKだよ! でも……今度は私の番だよ!!」
「ッッ…………!!」

 カオスがその両手を構え、今までにない規模で黒炎を収束させていく。
 そして同時に、無数の火球を止めどなく放つことでウェザーの行動を制限する。
 対するウェザーは牽制の火球を防がざるを得ず、故にその全力を以って暴風を発生させる。
 ウェザーの周囲に渦巻く暴風は、カオスの放つ火球を打ち払いながらその規模を大きくする。

「さぁ……これに耐えられる!?」
「オオ…………ッッ!!」

 そしてカオスの手から放たれる黒炎の閃光。
 ウェザーはそれに対抗するため、高めに高めた暴風を解き放つ。
 両者の一撃は互いの中央でぶつかり合い、激しい爆音を響かせる。
 だが、勝ったのはカオスの一撃。黒光は威力を減衰させながらもウェザーへと迫る。
 しかし、自らの一撃が敵わぬと予測していたウェザーは、纏っていた風を解放し、自分自身を弾き飛ばす。
 それによりカオスの減衰した一撃は、ウェザーの身体を掠めるだけに終わった。

 だが、カオスの攻撃がそれで終わった訳ではなかった。

「まだ終わりじゃないよ……!」
「このッ………!」

 カオスは自分がされたお返しの様に、回避の隙を突いてウェザーへと急接近する。
 それに気付いたウェザーは、咄嗟に発生させた暴風で迎撃を試みる。
 しかしカオスはその暴風をあっさりと吹き散らし、その刃の様な羽をウェザーへと突き刺した。

「グッ、ォオ………ッッ!」

 咄嗟に両腕で受け止めたものの、羽の刃先はウェザーの腹部に突き刺さっている。
 重要な内臓器官は無事だが、致命傷には変わりがなかった。
 そんなウェザーに、カオスが笑い声と共に話しかける。

「ねぇ……おじさんの「愛」は、食べる事なんだよね?」
「なに……を―――っ!」
「私ね、もっと「愛」を知って、もっと大きくなりたいの」
「ま、まさか……私を食べる気ですか………!?」
「クスクスクス………!」

 正解、と言わんばかりに深くなる少女の笑みに、ウェザーは戦慄する。

「だから――――いただきます」

 直後、ウェザーは腹部に突き刺さった羽から、己の“力”が吸収されて――否、食べられていることを実感した。

「グ、ヌオォオオ………!!」
 どうにか突き刺さった羽を抜き取ろうと、ウェザーは両腕に力を籠める。
 だが、それをさせまいとカオスの細腕が、ウェザーの首を掴んで締めあげる。

「だめ、逃がさない……」
「ク、ウウウ………ッ!」

 その少女のモノとは思えぬ怪力に、両腕の力が緩む。
 更にそれを後押しするように、ウェザーへの変身が解けた。

「ば……かな………!」

 メモリは体外に排出されていない。
 それなのに変身が解けたという事は、体内でメモリブレイクされたという事だ。
 つまりは、ウェザーメモリの能力が、ほとんどまったく残っていないという事に他ならない。
 その事実に深紅郎は、今まで築き上げてきた物が崩れる様な、心に穴が開いた様な喪失感を覚えた。

 だが、カオスの“食事”はまだ終わっていない。
 カオスは深紅郎の命さえも吸収し、己が糧とするつもりなのだ。
 見れば、少女の身体にあった傷が、修復されていくではないか。
 おそらく、吸収した力を自分の物へと変えていっているのだろう。

 ――――そうして深紅郎は悟った。
 このカオスという少女は、自身が夢見た“進化”の権化に他ならないと。

 ならば、ウェザーと共にこの少女の一部となるのも素晴らしいかもしれない。
 そんな諦念を懐きかけた、その時だった。

976予兆!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:33:46 ID:YAhSFBIY0

「先生――――!!」

 カオスが、不意に現れた黒い竜に弾き飛ばされた。
 同時に深紅郎の身体も解放され、地上に落ち湯より早く引き返してきた黒龍に受け止められる。
 黒龍はそのまま、カオスには目もくれず飛び去って行った。

「ごはん……逃げられちゃった」

 それを見届けたカオスは、それを追い駆けず、地上へと降りていく。
 見れば地上は、ウェザーの生み出した火災旋風により火の手が広がっている。
 こんな場所に仁美を置き去りにすれば、彼女が死んでしまう事は一目瞭然だったからだ。


        ○ ○ ○


 その戦いを、神社の境内から眺める一人の男がいた。
 男の名は、葛西善次郎。彼は橋田至を殺害して家屋に火を付けた後、辺りを警戒しながらここまで来たのだ。

「火火火、絶景絶景。実に景気良く燃やしてるねぇ。
 こりゃあ、おじさんのお株が取られちまったかな?」

 境内から見える景色では、真っ赤な火災旋風が渦を巻いて空へと奔っている。
 あの位置は自分が火を放った家の位置だから、とっとと逃げて正解だったらしいと葛西は安心する。
 あんな事が出来る人間と真正面からやりあって生き延びられるほど、家裁は人間を止めるつもりはない。

「火災の手品師としちゃあ、これを見て張りきんない訳にはいかねぇよな。
 つっても、やっぱ基本は逃げるんだけどな。火火火」

 殺し合いにおいて最適な生き延びる手段は、そもそも他者と遭遇しない事だ。
 なぜなら、そもそも誰にも会わなければ、誰にも襲われないからだ。
 だがそれは、残念ながら勝利を意味するものではない。特に今回の陣営戦では、それが顕著だ。
 例えどれだけ生き延びた所で、自分の所属する陣営がなくなれば、即ち自分の敗北=死亡となるからだ。

 となれば必要なのは、いかにして手早く他の陣営を潰すか、という事になる。
 他の陣営を潰すと言っても、極論すればやる事は同じだ。
 要はその陣営のリーダーを潰せばいいのだ。

 しかし葛西には、人外を殺す様な能力はないし、彼自身も持つ気はない。
 なぜなら「人間の限界を超えない」というのが彼の美学だからだ。

「とりあえず、また別のヤツを探して、情報集めでもしようかね」

 だが葛西にその力がないのなら、力のある奴に殺してもらえばいいだけだ。
 その為には力のある奴と渡りを付け、リーダーの位置情報を入手する必要がある。
 それさえ出来れば、あとは逃げても問題無しだ。

 情報収集には、話の解るヤツが望ましい。
 あのライダースーツや糞餓鬼の様なヒーロー気取りでもなく、どっかの怪盗みたいな自分の目的が第一な奴でもない、ちゃんと“大人”な対応をしてくれる人間だ。

「果たしているかねぇ、そんな“大人”は。
 まあ何にしても、動かなきゃ何にもわからんわな、火火火」

 ふざけた様に笑いながら、善次郎は燃え盛る風景に背を向ける。
 このまま南へ向かうか、別の方角へ向かうべきか思案し、

「ッ…………!?」

 ゾクリと背筋に走った悪寒に、咄嗟に背後へと振り返る。
 そして見えたモノは、あれほど激しかった火災旋風が、今まさに四散する光景だった。
 それは決して自然消滅ではなく、内側から何かに吹き飛ばされた消え方だ。
 その想像を超えた現象を前に、善次郎は思わず咥えていた煙草を落とす。
 炎の手品師を辞任する善次郎でも、あんなぶっ飛んだ消化は出来ない。

「…………コイツぁヤベェな」

 そう呟きながら、落とした煙草を始末しながら、新しい煙草に火を付けて咥える。
 乖離剣を使えばどうにかなるかもしれないが、そもそも使う必要のある状況には身を置きたくない。
 基本事項は生存延命。生きる為には時として危険に身を置く必要があるのは承知だが、可能な限り御免被る。

977予兆!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:34:16 ID:YAhSFBIY0

「小火小火せずに、さっさと逃げるか」

 気を落ちつけるように紫煙を吐きながら、善次郎はエアを肩に担ぐ。
 未だに奔り続ける悪寒は、ここが、というより、自分が危険だと教えている。
 ならば今すぐ逃げるべきだと結論し、逃げる方向を直感で決定して、善次郎は街が燃える光景に背を向けた。


【一日目-午後】
【C-5/神社】

【葛西善二郎@魔人探偵脳噛ネウロ】
【所属】赤
【状態】健康、悪寒
【首輪】所持メダル170(増加中):貯蓄メダル0
【コア】ゴリラ×1
【装備】乖離剣エア、炎の燃料(残量95%)
【道具】基本支給品一式+一人分の食料、愛用の煙草「じOKER」×十カートン+マッチ五箱、@魔人探偵脳噛ネウロ、スタングレネード×九個@現実、《剥離剤(リムーバー)》@インフィニット・ストラトス
【思考・状況】
基本:人間として生き延びる。そのために自陣営の勝利も視野に入れて逃げもするし殺しもする。
 1.悪寒からとっとと逃げる。死にたくねぇ。
 2.殺せる連中は殺せるうちに殺しておくか。
 3.鴻上ファウンデーション、ライドベンダー、ね。
【備考】
※参戦時期は不明です。
※ライダースーツの男(後藤慎太郎)の名前を知りません。
※シックスの関与もあると考えています。
※「生き延びること」が欲望であるため、生存に繋がる行動(強力な武器を手に入れる、敵対者を減らす等)をとる度にメダルが増加していきます。
※何処へ向かったかは、後の書き手にお任せします。


        ○ ○ ○


 カオスが仁美を見つけるのに、そう時間はかからなかった。
 周囲の家屋は、その殆どが火に包まれている。
 ウェザーの発生させた火災旋風によって、一軒だけで済むはずの火事が燃え移ったのだ。
 だがその中で、彼女のいた場所だけが不自然に火の手を逃れていたのだ。
 それはウェザーが、龍之介を巻き込まぬようにと配慮した名残だった。

「おねぇちゃん、大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですわ。
 少しびっくりしましたけど、何の問題もありません」

 カオスの心配そうな声に、仁美はしっかりとした足取りで立ち上がることで答える。
 その言葉通りに大丈夫そうな様子を見て、カオスはようやく安心した。

 仁美が今も生きているのは、深紅郎の危機を見た龍之介が、脇目も振らずに助けに向かったからだ。
 つまり仁美は、間接的にだがカオスに助けられたとも言えるだろう。

「カオスさんの方こそ大丈夫でしたか? お洋服が焦げてますけど」
「うん、平気だよ」
 服はあちこち焦げてしまったが、ウェザーから受けた傷はほとんど治った。
 それよりは仁美の方が心配だったのだが、彼女が大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。

「そうですか……あら? バックに穴があいてますわ」
「あ……ほんとだ……」
 言われて見てみれば、仁美の言う通りデイバックには穴が開いていた。
 穴の縁が焦げている事から、炎に巻かれた時にいっしょに焼け焦げたのだろう。

「カオスさん。何か、落としたりはしてませんか?」
「えっと………“がいあめもり”が失くなってる」
「まぁ、あれを無くされたんですの。
 困りましたわ。この状況では、探すに探せませんし」

 どうやら、空いた穴から支給品を一つ失くしてしまったらしい。
 だがそれを探そうにも辺りは火の海で、支給品自体が無事とも思えない。

「仕方がありませんわ。今回は諦める事にしましょう」
「うん……」
 カオスは仁美の言葉に頷きながらも、せっかくの支給品を紛失した事に若干落ち込む。
 幸いもう一つのデイバックは無事だったので、残った支給品をそちらへと移していく。

978予兆!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:34:53 ID:YAhSFBIY0

「それにしても、井坂さん達は行ってしまわれたのですね。残念ですわ」

 その様子を見ながら、仁美はそう、心底残念そうに呟いた。
 ようやく見つけた“素晴らしい世界”への招待客を、二人もお招き出来なかったのだ。
 これでは先に旅立ってもらった青髭さんに、寂しい思いをさせてしまう。
 だが仁美は、あっさりと気持ちを切り替えた。

「けど落ち込んではいられませんわ。お招きする方は他にもいらっしゃるんですもの。
 井坂さん達は、またお会いした時にお招きする事にしましょう」
「そうだね、おねぇちゃん。次をがんばろう」

 カオスもそう励ましながら、仁美の手を取って繋ぐ。
 周囲の火事は既にウェザーの制御化にはなく、火の手は徐々に広がっている
 そして普通の人間には火事が危険だということぐらい、カオスだって知っている。
 今はまだ大丈夫だが、仁美の為にも、早くここを離れるべきだろう。

 そう思いながら仁美の手を引いた、その時だった。
 ふとカオスの視界に、あるものが映った。

「おねぇちゃん、それ」
 仁美の額から、血が一筋垂れて来たのだ。
 よく見れば、繋いだ左手の手首にも切り傷がある。
 こちらは流血こそ既に止まっているが、傷はまだ生々しい。

「あら? これは……血、ですわね。
 ……まあ大丈夫ですね。すぐに止まりますわ」
 おそらく黒龍の尾に叩かれた時か、壁に叩きつけられた時にでも切ったのだろう。
 仁美はそう思いながら、垂れてきた血を拭って、たいした事ではない様に言った。

「でも………」
「もう、カオスさんたら。本当に大丈夫ですわ。
 それよりも、早く次の招待客を見つけましょう」
「……うん……」

 仁美のその言葉に、カオスは渋々頷く。
 左手首の事もあり、仁美は全然大丈夫には見えない。
 けど彼女が大丈夫というのなら、きっと大丈夫なのだろう。
 そう無理矢理に納得させたのだ。

「ではカオスさん。方位磁針はどちらを刺してますか?」
「えっと………あっちの方」

 カオスが指差した方角は、南方。
 そしてそちら側には、仁美が持っていた螺湮城教本よりも、桁違いに強い魔力を内包する物があった。
 それは即ち、葛西善次郎の持つ宝具――乖離剣エアだ。
 魔力針は針を固定させていた魔道書が離れた事により、今度は乖離剣の内包する魔力を捉えたのだ。

「そうですか。ではあちらへと向かう事にしましょう」

 そう言って仁美は、カオスの手を取って歩き出した。
 カオスは手を引かれながらも、仁美を心配そうに見上げる。

 仁美は自身の怪我を全く気に留めていない。
 怪我をしたら痛い筈なのに、全然平気な顔をしている。
 もしかしたら大きな怪我をしても、大丈夫と笑うかもしれない。

「………………」

 仁美は言った。
 傍にいられると温かくて、傍にいられないと痛い。それが「愛」だって。
 なら怪我をして痛くなるのは、傍にいられなくなるから?
 仁美が怪我をしたら、仁美の傍にいられなくなるの?

「ッ―――、いた……い………?」

 不意に、動力炉が痛くなった様な気がした。
 身体をスキャンしても、動力炉に異常はない。
 なら今のは、きっとただの気のせいだろう。

 なんにせよ、仁美の傍にいられないのは嫌だな、と。
 そう、なんとなく思った。

979予兆!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:36:18 ID:YAhSFBIY0


【一日目-午後】
【B-5/エリア南部】

【志筑仁美@魔法少女まどか☆マギカ】
【所属】緑
【状態】全身打ち身(中度)、左手首に切り傷、カオスへの強い期待、“魔女のくちづけ”
【首輪】180枚:0枚
【装備】江崎志帆のナイフ@魔人探偵脳噛ネウロ
【道具】基本支給品×2、洗剤二本(混ぜるな危険)@魔法少女まどか☆マギカ、ランダム支給品1〜5(仁美+キャスター)
【思考・状況】
基本:みんなと“素晴らしい世界”へ旅に出る。
 0.魔力針の指した南へ向かう。
 1.カオスさんと一緒に、カオスさんの「愛」の形を探す。
 2.知り合いを探す。
 3.カオスさんやジャンヌさん達を儀式に招待する。
 4.井坂さん達をお招き出来なくて残念。今度会ったら改めて招待する。
 5.カオスさんが大きくなるのがとても楽しみ。
 6.思考:1〜を終えたら、みんなと“素晴らしい世界”へ旅に出る
【備考】
※“魔女のくちづけ”により、死に対する忌避感がありません。
 またどのような状況・形であれ、思考が現在の基本思考(死への方向性)に帰結します。


【カオス@そらのおとしもの】
【所属】青
【状態】ダメージ(小)、成長中、服が焦げている
【首輪】210枚:0枚
【装備】上靴(少し焦げた)@そらのおとしもの、魔力針@Fate/zero
【道具】基本支給品×2、トライアルメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品1〜4(カオス+至郎田)
【思考・状況】
基本:このゲームを楽しむ。
 0.動力炉が、痛い………?
 1.仁美と一緒に、自分だけの「愛」の形を探す。
 2.温かいのが、「愛」?
 3.「心」ってなんだろう?
 4.仁美は本当に大丈夫なのかな………。
 5.もっと「愛」の事を知って、仁美みたいに大きくなりたい!
 6.おじさん(井坂)の「愛」は食べる事。
【備考】
※参加時期は45話後です。
※制限の影響で「Pandora」の機能が通常より落ちています。
※至郎田正影を吸収しました。
※ドーピングコンソメスープの影響で、身長が少しずつ伸びています。
 今後どんなペースで成長していくかは、後続の書き手さんにお任せします。
※ウェザーメモリを吸収しました。
※魔力針は現在、乖離剣エアの魔力を捉えています。


        ○ ○ ○


 戦いのあった場所からそれほど離れていない民家。
 火災旋風によって広がった火事から、ギリギリ離れた場所にある衛宮邸に、深紅郎と龍之介はいた。

「先生、大丈夫……じゃないよね、どう見ても」
「ええ……残念ながら、その通りですね」

 腹部を抑える深紅郎の手の隙間からは、血が未だに流れ出てくる。
 数多くの人間を殺戮してきた龍之介には、それが危険な状態だとすぐに解った。

「どうにかして早く止血しないと。
 ……ええっと、針と糸と、あとなんだっけ?」

 だが殺した経験はあれど、生かした経験は殆どないため、咄嗟に適切な対処が思い浮かばない。
 キャスターと共に作り上げてきた生きたオブジェは、キャスターの魔術によって無理矢理に生かしていたので、なおさらだ。
 そうやって慌てる龍之介に、深紅郎は優しく声を掛ける。

「龍之介君。落ちついて、そんなに慌てる必要はありません」
「え? で、でもその出血じゃ」
「ドーパント専門とはいえ、これでも医者です。今一番最適な方法は心得ていますよ」

 そう言うと深紅郎は、デイバックから一本のアンプルを取りだした。

980予兆!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:36:52 ID:YAhSFBIY0

「先生、それって」
「よく見ててください、龍之介君。人体の神秘というものを―――!」

 深紅郎は取り出したアンプル――ドーピングコンソメスープを、躊躇なく己が肉体へと食べさせた。
 直後、血管が浮かび上がり、皮膚は黒ずみ、筋肉が盛り上がっていく。
 その一度は自分も経験した肉体の進化に、龍之介は眼を見開いて驚嘆した。

「コフゥ〜…………どうです龍之介君。この人体の神秘は」

 深紅郎はそう言って立ち上がり、血で赤く染まった腹部を軽く叩いて示す。
 見れば、止まる気配の全くなかった血が、ピタリと止まっていたのだ。
 なんと深紅郎は、隆々と盛り上がった筋肉のみで、傷口を完全に塞いでみせたのだ。

「―――く―――COOLッ! すげぇよ、マジですげぇ! 超COOLだよ先生!
 人間ってそんな事出来んのかよ! 最高だよドーピングコンソメスープ!」
「ええ、そうですね。
 ……………………」

 人間の可能性を垣間見た龍之介は、際限なくテンションを上げていく。
 だがそれを見詰めながらも、深紅郎は気分が盛り上がらずにいた。
 その理由はただ一つ。ウェザーメモリを失ったからだ。

 ウェザーメモリは言わば、深紅郎の獲得してきた“力”の結晶だ。
 それを失ったという事は、今までの努力が無駄になったに等しい。
 これでは、龍之介の持つインビジブルメモリを完成させる意味もない。

 そんな風にテンションが下がり始めた、その時だった。
 コン、という音が深紅郎の耳に入ってきた。
 一体何の音かと目を向けると、信じられないモノがそこにはあった。

「こ――これは………!」

 深紅郎はすぐに音のした場所――縁側に跳び出し、ソレを手に取った。
 それは仮面ライダーたちの使う物に酷似した、「W」の文字が刻まれた銀色のガイアメモリだった。

 そう。それこそが、カオスが失くした支給品だったのだ。
 T2ガイアメモリには、己を最も適性の高い人間の元へと導く力がある。
 その力に導かれたT2ウェザーメモリは、彼女のデイバックに空いた穴から零れ落ち、深紅郎の元へと辿り着いたのだ。


「先生? 一体どうしたの?」
「まさか……いや、しかし………。
 いえ………いずれにしても、試せば判る事です」

 深紅郎はT2ガイアメモリを知らない。故に戸惑いを隠せないでいた。
 だがそのガイアメモリが何であれ、ウェザーメモリと酷似しているのは間違いない。
 ならば何を躊躇う必要があるのか。正体がわからないなら、試せばいいだけではないか。
 そう決断して心の葛藤を振り払い、恐る恐るメモリを起動させる。

《――WEATHER――》
「お――おお………!」

 するとメモリはひとりでに浮遊し、深紅郎の体内へと挿入された。
 それと同時に、この上なく慣れ親しんだ力が、今まで以上の質で体内を満たしていく。
 そして深紅郎の肉体は、ドーピングコンソメスープによって強化された肉体をそのままに、ウェザー・ドーパントへと変身した。

「――――く」
「せ、先生……?」

 ウェザーへと変身した深紅郎は、声を漏らして肩を振るわせる。
 龍之介が躊躇いがちに声を掛けるが、聞こえてないのか、答えはない。

「………ああ、私は何を落ち込んでいたのか。どうして諦める必要があったのでしょう。
 そうです。失ったというのなら、また手に入れればいいだけの事ではないですか!」

 その身に満ちる感情は、歓喜。
 抑えきれぬほどの喜びが、彼の心を満たしていた。
 その様子にはもう、落ち込んだ様子は微塵もない。

「龍之介君! さぁ、食事にしましょう!
 栄養をしっかりと摂り、失った体力を回復するのです!」
「う、うん、わかった。すぐに用意するよ」

 急なテンションの変化に困惑しながらも、龍之介は言われた通りに深紅郎のデイバックから材料を取り出していく。
 その様子を尻目に、変身を解除した深紅郎は火事によって赤く染まる空へと目を向ける。

「待っていなさい。貴女が“進化”の権化であろうと関係ない。
 今度は逆に、私の方が喰らい尽くしてみせましょう!」

 そう、更なる“進化”への決意を懐いて。

981予兆!! ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:37:28 ID:YAhSFBIY0


 一方龍之介は、深紅郎のテンションに置き去りにされたことで、ある事を思い出していた。

「旦那、大丈夫……だよな」

 キャスターがあの魔道書を、簡単に他人に貸し与えるとは思えない。
 ならあの少女と何かあったと考えるのが道理だ。
 まさか殺された、なんてことはないと思うが、心配にはなる。

 それにもう一つ気付いた事があった。
 いつの間にか首輪のランプが、白から紫に代わっていたのだ。
 つまりこれは、白陣営のリーダーが倒された、という事だろう。
 だがこの事については、キャスターと敵対せずに済んで良かったと切り捨てる。

「なんか、疲れたな……」

 ドーピングコンソメスープの影響か、妙に疲れている。
 なら少しでも体力を回復させるために、深紅郎の言う通り食事をして体力を回復させよう。
 そして早く旦那と合流して、魔道書を届けてあげよう。

 龍之介はそう決めて、大量に料理を作り続けた。


【一日目-午後】
【B-5/衛宮邸】

【井坂深紅郎@仮面ライダーW】
【所属】無
【状態】ダメージ(小)、腹部に重度の刺し傷(筋肉で止血)、筋肉モリモリ、興奮状態
【首輪】45枚(増加中):0枚
【装備】T2ウェザーメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品(食料なし)、ドーピングコンソメスープの入った注射器(残り三本)&ドーピングコンソメスープのレシピ@魔人探偵脳噛ネウロ、大量の食料
【思考・状況】
基本:インビジブルメモリを食らう。そのために龍之介を保護する。
 0.ひとまず食事をして、失った体力を回復する。
 1.インビジブルメモリを完成させる。
 2.次こそは“進化”の権化であるカオスを喰らって見せる。
 3.ドーピングコンソメスープとリュウガのカードデッキに興味。龍之介でその効果を実験する。
 4.コアメダルや魔術といった、未知の力に興味。
 5.この世界にある、人体を進化させる為の秘宝を全て知りたい。
【備考】
※詳しい参戦時期は、後の書き手さんに任せます。
※ウェザーメモリに掛けられた制限を大体把握しました。
※ウェザーメモリの残骸が体内に残留しています。
 それによってどのような影響があるかは、後の書き手に任せます。
※ドーピングコンソメスープを摂取したことにより、筋肉モリモリになりました。


【雨生龍之介@Fate/zero】
【所属】無
【状態】疲労(小)
【首輪】100枚:0枚
【コア】コブラ
【装備】カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダーディケイド、サバイバルナイフ@Fate/zero、インビジブルメモリ@仮面ライダーW
【道具】基本支給品一式、ブラーンギー@仮面ライダーOOO、螺湮城教本@Fate/zero
【思考・状況】
基本:このCOOLな状況を楽しむ。
 0.とりあえず言われた通り、食事の準備をする。
 1.しばらくはインビジブルメモリで遊ぶ。
 2.井坂深紅郎と行動する。
 3.早く「旦那」と合流したい。
 4. 旦那に一体何があったんだろう。
【備考】
※インビジブルメモリのメダル消費は透明化中のみです。
※インビジブルメモリは体内でロックされています。死亡、または仮死状態にならない限り排出されません。
※雨竜龍之介はインビジブルメモリの過剰適合者です。そのためメモリが体内にある限り、生命力が大きく消費され続けます。


【共通事項】
※ウェザーの発生させた火災旋風の影響で、エリア【B-5】南部の火事が燃え広がりました。
 具体的にどの程度燃え広がったかは、後の書き手にお任せします。

982 ◆ZZpT6sPS6s:2012/06/25(月) 11:38:47 ID:YAhSFBIY0
以上で、投下を終了します。
何か意見や、修正すべき点などがありましたらお願いします。

983名無しさん:2012/06/25(月) 12:04:49 ID:WPPXCnDIO
投下乙っす。
いやー、まさか仁美が意外に強かったなんて。ちなみにある平行世界とはどの作品の事ですか?

984名無しさん:2012/06/25(月) 12:05:36 ID:TxHAp3AU0
投下乙です!
うわぁ、みんな怖すぎるw 仁美もカオスも井坂先生も龍之介も葛西も怖いよw
てかまさか、先生にT2ウェザーメモリが支給されるとは! メモリがなくなった時はどうなるかと思ったけど、これで一安心?
あと葛西さん……逃げて! マジで逃げて!w

985名無しさん:2012/06/25(月) 12:11:58 ID:TxHAp3AU0
あと、平行世界に関してはゲーム版の話ではないでしょうか?

986名無しさん:2012/06/25(月) 12:49:20 ID:5x/wUCIkO
投下乙です!
どういうことだおい・・・つか護身術パネエw

また敗れたとはいえ井坂先生実質パワーアップしたようなもんだし下手すりゃウェザーウェザーもあり得なくはないのか?

987名無しさん:2012/06/25(月) 13:47:16 ID:AfrEV.pA0
投下乙!仁美マジパナイww
ていうか全員マジで蝶KOOLだw

988名無しさん:2012/06/25(月) 23:15:01 ID:1n55Wnfk0
投下乙です!
マーダー同士で潰し合うのかと思ったらまさかのマーダー強化www
T2ゲットした井坂もウェザー吸収したカオスもやばいぞ…!
カオスは実質ヒヨリの能力まで手に入れちゃって次登場する時が恐ろしい……
龍ちゃんは何気にリュウガ似合ってるねw

989名無しさん:2012/06/25(月) 23:35:03 ID:fVjpaP1A0
投下乙です。
前に雑談スレで言われてたのはこういうことか仁美つええ……
そして葛西は逃げたと思ってるみたいだけどエア持ってる時点で逃げ切れないww
カオスも先生も新しい力手に入れたしマーダー側のエースになってくれそうだから今後が楽しみです

それはそうと、次の予約も入ってるので新スレ立てておきました。
残り10レスちょっとはここまでの感想と雑談で埋めれる……かな?
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14759/1340634337/

990名無しさん:2012/06/26(火) 00:10:27 ID:y0F0azSk0
スレ立て乙です。

最近また予約が入るようになってきたなぁ
マーダー込みの予約が二つも入ってるからどっちも楽しみだ

991名無しさん:2012/06/26(火) 08:40:28 ID:YBSBpyYg0
投下&スレ立て乙です!

おお…思ってたより愛組が凶悪で吃驚
ウェザーの力をも取り込んで進化していくカオスにDCS&インビジブルで強化された龍ちゃんを退ける仁美
なまじ見た目が幼いだけに騙されるキャラもいそうだしこれは今後が楽しみだわw
先生は先生でT2ゲットしてるし…
龍ちゃんもリュウガになるわでこっちもどう場を引っ掻き回してくれるか楽しみ

にしてもDCS便利w

992名無しさん:2012/06/26(火) 09:00:06 ID:Sd/B/BzUO
DCS本人は死んでるのにねww

993名無しさん:2012/06/26(火) 13:07:53 ID:CYq0exx60
投下乙です

言いたい事は既に上で言われているが…
これは先が楽しみだぜw
予約も来て嬉しいなあ

994名無しさん:2012/06/26(火) 19:10:59 ID:kbmVHc.Q0
投下乙です!

あれ?仁美がやばすぎて龍之介がまともに見えてくるwうぇw

995名無しさん:2012/06/27(水) 13:59:48 ID:fI8hXC8o0
2スレ目にも一本投下されたか…!
この書き手さんの話は相変わらず面白くいし
もう一つ入ってる予約の書き手さんはタイバニキャラ書くの上手いしwkwk

996名無しさん:2012/06/28(木) 19:10:41 ID:w42U6osc0
とりあえず、もうこのスレ埋める?

997名無しさん:2012/06/28(木) 19:48:58 ID:CKpXz2xU0
埋めちゃった方が良いかもね
マーダー達も着々と力を付けてるし今後が楽しみ

998名無しさん:2012/06/28(木) 21:03:43 ID:MSXQ2zmkO
しかし↑の作品ホントキチガイしかいないなw

999名無しさん:2012/06/28(木) 22:18:39 ID:SgUzzEdw0
全員感覚的にちょっとズレてる奴らばかりだからなw

1000名無しさん:2012/06/29(金) 00:03:18 ID:7cVdyZW60
1000ならオーズロワ満員御礼

■掲示板に戻る■ ■過去ログ倉庫一覧■