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【日常α】眠らない魔都・異能都市【その19】

699アーリル:2019/02/09(土) 11:05:54 ID:ORmT3UkU0
>>698
「こちらこそ、ありがとうございます。突然このような形で押しかけるようになってしまって。」

アーリルに抱きしめられているアリスは暖かかった。不思議な花の香りがしただろう。
どこか、落ち着くような香り。
不思議なことに暖かくなったり、少し寒くなったり。かといえば少し熱くなってみたり。
それでも、アリスの体を暖めるには十分で、手櫛を入れるのも戸惑われる丁寧に梳かされた髪をゆっくり、丁寧に撫で上げた。
声色で分かった。アリス、この幼い少女は自分の『優しい嘘』を信じ切っていると確信できるものだった。
しかし、アーリルは手紙の内容を知らない。ただそれだけが心配であった。

「なぜ、泣いたか。今、分かった気がします。」

――嬉しかった。思い出の中の兄が気にかけていた子を見つけたから
――嬉しかった。思い出の中の兄が慕われていると思えたから
――悲しかった。思い出の中の兄の死を伝えられなかったから
――悲しかった。兄の死を正直に伝えられなかったから。
――悲しかった。こんな純粋な女の子を騙してしまったから。
―――辛かった。嘘を突き通さなければなければならない、自分が。

湧き上がった感情はアリスのことを見ていなかった。自分のことだけ。
アーリルにとって記憶<記録>の中でしかなかったアリスは『物語の中の一人物』としか捉えられなかった。

―――胸が締め付けられる。

そして、満足したのかアリスを離し、アーリルは立ち上がった。
もうhshsは十分したのか、アリスと同じ赤の瞳には爛々とした輝きが。

「ありがとうございます、アリスさん。服が汚れてしまったので、戻るとしましょう。
 重ねて御礼申し上げます。」

アリスにしっかりと頭を下げて。アーリルが頭を上げるころ、赤い光へと変わり消えているだろう。


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