[
板情報
|
R18ランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
真贋バトルロワイヤル part4
1
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/14(月) 20:12:55 ID:ZiSDf18U0
その絆、本物?贋物?
※前スレ
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1731857795/
2
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/14(月) 20:13:29 ID:ZiSDf18U0
前スレがそろそろ970に届いたので早めに立てさせてもらいました。
3
:
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:26:45 ID:C9nx7xck0
投下します
4
:
空と虚① プルス・ケイオス
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:28:13 ID:C9nx7xck0
アビドス高校に現れた宇蟲王ギラを中心とした乱戦。
アビドスを悪と定めたダークマイトの進軍と標的となった少女たちの戦闘。
その舞台となるアビドスの気候はお世辞にも快適とはいいがたい。
砂一面の環境の気温は日中では40度を超えることも珍しくないというが、体感してみると熱気以上に乾燥と日差しが厳しい。暑いというより痛いのだ。
ゲームエリアに造ったキヴォトスの贋作なんだから気温くらいもう少しましにならないのかと、アビドスにある民家の屋根の上で真人は思う。
2つの戦いを一望できる立地ではあるが贋りの陽光を遮るものはない。 キレた漏瑚の近くに居る時よりはマシとはいえ呪霊の彼でも暑いものは暑い。
同意を求めるように隣に佇む少女に真人は尋ねる。真人と逆方向から向かっていたその女は柊真昼と名乗った。
「アンタは暑くないの?探せば日傘くらいあると思うけど。」
「お気遣いどうも、暑いけれどこのくらい問題ないわ。」
「別に気遣ったつもりじゃないんだけど。」
「なら口説いているのかしら?
汗で下着が透けちゃってる女の子をじろじろ見るなんて、えっち。」
その額には汗が浮かび一張羅のセーラー服がところどころ張り付いていた。
真昼は悪戯っぽい笑みを浮かべ身をくねらせたが、言葉とは裏腹に恥じらう様子はまるでない。
その様子に真人はどこか馬鹿にするように目を丸くした。
「……驚いた、半分呪霊みたいなアンタでもそんな冗談言うんだね。」
その言葉に真昼の目つきが変わる。
真人は他人の魂を感じ取れる。柊真昼の中身が人間のそれとは違うことを感覚的に理解していた。
「……私の世界では鬼っていうのよ。
意外と紳士なのねツギハギ君、私のことを半分も人間として扱ってくれるなんて。そう言えば名前は?」
「名簿には先生って載ってる。アンタは柊真昼だっけ?
俺の知ってる奴らとは違うけど、呪術師ってことでいいんだよね?」
「陰陽師ってほうが通りがいいけど、まあそういうことになるわね。」
柊真昼は既に出奔した身とは言え、呪術の名家柊家に属し肩書としては呪術師である。
偶然か、真人と敵対する連中と同じ名前だ。刀使だの仮面ライダーだのよりよほど親近感がある。
一方の真昼は真人の格好を物珍し気に眺めていた。
青白く継ぎ接いだ肌もそうだが、真人はバックパックを背負わず代わりに巨大なバズーカを背中にしょい込んでいたのだ。
「同業者……じゃないわよね。というか人間じゃないでしょ。呪霊っていうのかしら?
バズーカを背負ってるのは呪霊なりのファッション?」
「んなわけないでしょ。
ちょっと好戦的な参加者に襲われてさ、俺のバックパック焼けちゃったんだよ。
ロボットをけしかけて襲い掛かってきたアンタくらいのガキどもだよ。イザークだかキャルだかくるみだか言ったかな?」
真人がバックパックを失うきっかけとなったイザークらとの戦いは、襲い掛かったのも真人ならその原因として黒鋼スパナを殺し花村陽介の恨みを買ったのも真人である。
悪びれもせずイザークら数名の特徴と悪評を吹聴した真人だったが、ふと真昼の顔を見るとまるで信じていないと言わんばかりに冷たい視線を浮かべていた。
「随分目つきが悪いけど何か癪に障ったかい?それともコンタクトに砂でも入った?」
「いいえ。私の知っている悪霊の類とは違うみたいだと思っただけよ。
人間みたいに口が回るのね。自分で思考して嘘をつくなんて。」
魂がへし折れた花村陽介のような嗤えるものでは到底ない、殺気の籠った警戒心。
にこりと目を細めた真昼とは対照的に、真人はやりづらそうに肩をすくめた。
「マジ?もうばれたの?沙耶香は騙せたんだけどなぁ。
嘘を見抜いたり心を読む術式……ってわけじゃないよね。」
「育ちが悪いからね。
隠す気のない嘘を見抜けないようじゃ、私はとっくに死んでいるわ。」
「そこまでバレるのね。
ちょっと甘く見てたよ。陽介とかいう式神使いや沙耶香みたいな平和ボケした連中だけだと思っていたけど。」
花村陽介や糸見沙耶香とは比にならないほどに策謀渦巻く環境で育った真昼には真人の嘘を看破するのは難しくない。
家族同士で当然に殺し合い、通信機器は全て盗聴され、敵も味方も疑う以外の関りが出来ない世界が真昼のいた場所である。
「呪術師はクソ」とは真人が戦った一級術師七海の言葉であるが、柊真昼の世界でもその実情は例外ではない。
警戒し臨戦態勢に入りながらもピクニックしているように穏やかな揺らぎを魅せる柊真昼の魂が、真人には酷く気持ち悪い。
この程度の害意は、彼女にとって日常のそれと変わらないのだろう。
5
:
空と虚① プルス・ケイオス
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:30:05 ID:C9nx7xck0
「アンタみたいなバケモノもいるんだね。
……この殺し合い、ロクでもない参加者がいるもんだ。困っちゃうよ。」
真人は真昼から視界をそらし、アビドスの大地で起きた戦いを見下ろした。
アビドス高校では赤い青年が剣を振るい、その向かいでは秀吉といった巨漢が建物でも粉々に出来そうな拳を軽々振るう。
住宅地のど真ん中では趣味の悪い金髪の男が派手な演説と共に少女たちに襲い掛かる。
言ってることはアホらしくて聞く気にもならないが、実力で言えば柊真昼や豊臣秀吉と大差ないように見え、すなわち真人との実力にも大きな差はないだろう。
その何れも普通の人間とは一線を引く実力者であり。わずかに感じる魂の揺らぎに恐怖や怯懦は見られない。
戦闘に慣れており、殺し合いに適応している。柊真昼がそうであるし、アビドスで暴れている連中も間違いなくそのような側だ。
そんな連中は真人が思っていたより多いのだろう。それもカタログスペックでは真人と遜色ない連中が。
はぁと真人は深いため息をついた。そんなバケモノを相手どるのはイザークや陽介のような甘ちゃんを相手するより遥かに厄介だ。
「そっちのアンタもそう思わない?
バケモノみたいな参加者呼びすぎでしょ。」
視線を真昼から反らし、隣の建物を見下ろし真人は投げかけた。
誰もいない場所に声をかける奇行に柊真昼は何も言わない。
そこに誰かがいることは、ずっと前から真人も真昼も気づいていた。
建物の影に隠れる何者かは姿を見せず、気取ったような声だけを返した。
「何時から気づいてた?」
「最初からだけど。隠れるの下手すぎ。
柊真昼以上に魂が人間のものじゃないの、めちゃくちゃ目立つよ。」
「そっかぁ〜。
高性能高密度に帝具(おもちゃ)を詰め込んだアタシの体。この魔獣装甲のエケラレンキスに隠れてコソコソなんて柄じゃアないってことか♪」
悪びれもせず、異質な気配をその帝具(けんのう)で隠そうともせず。
鼻歌交じりの声と共に金色の髪に青い瞳をした少女が姿を見せ、ひらひらと手を振りながら2人のいる屋根に飛び乗った。
その腕には参加者の証である令呪もレジスターも存在しない。
魔獣装甲のエケラレンキス。最強のNPCの一騎にして神殺しに対するジョーカー。
その少女の服装に柊真昼は見覚えがあった、益子薫の制服と同じ長船女学園のものだ。
「その恰好、薫ちゃんのお友達?
まさかNPCにいるなんて思わなかったわね。
それとも……運営側ってことかしら?」
「その2つに大きな違いは無いし、アナタは前提を間違えている。
私は冥黒の五道化が一騎、魔獣装甲のエケラレンキス。
益子薫のオトモダチな古波蔵エレンじゃあないの♪ アナタならその違いが分かるでしょう。鬼に食われた元人間。」
「……ただのNPCじゃないみたいね。随分詳しいじゃない。」
柊真昼の中身も過去も知っていなければ出てこない挑発に、薄ら笑いを浮かべエケラレンキスを睨む。
その様子が面白かったのかにたりと笑う姿は、人と言うより呪いのように真人は見えた。
「こっちとしては特級呪霊に柊の鬼子が仲良く観戦なんて意外〜。
自分より強そうな相手を前に怖気づいた?」
「喧嘩なら買わないよ。
アビドス高校の赤い男や街中で暴れてる金髪ゴリラのことを言ってるんだろうけど、俺たちが介入して得なんかないでしょ。」
今度は挑発が効かなかったからか、エケラレンキスはむすっと頬を膨らませた。
「あの男たちと戦ってるのは、見えているだけでそれぞれざっと5,6人はいる。1人2人ならまだしも介入して引っ掻き回すには数が多すぎ。」
「そのうち半分以上は殺し合いに乗り気じゃない参加者でしょうね。
私や彼のような殺し合い上等の参加者が多人数側に加勢したとして、苦労するのは戦いが終わった後。
下手に動けば次に全員を敵に回すのは私達になるわ。」
「デカい方についたとしても、恩や協力ができるツラには見えないしね。
どっちについても俺たちには損しかないの。」
「……成程。
貴方達クラスの参加者となればスペックに胡坐をかいて無策に場を荒らしまわると思っていたけど、意外としっかり考えているのね。」
「ま、ここまで来るのに色々あったからね。」
むき出しのバズーカを背負う背中に真人は視線を向け、納得したようにエケラレンキスは目を細めた。
リュックを失うほど手痛い損害からの言葉には、嫌に説得力がある。
6
:
空と虚① プルス・ケイオス
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:31:51 ID:C9nx7xck0
「まあいっか。私がアビドスに戻る前に確認したかっただけだしね♪
貴方達が見に回るってのなのは正直期待外れで退屈だけど、楽にはなるし結果オーライかな。」
エケラレンキスとしても真人や真昼ほどの危険人物がアビドスの戦いに本格的にかかわるかどうかは立ち回りが変わってくる。
2人が動かないことを確認したエケラレンキスはくるりと背を向け歩き出したが、思い出したように真昼に尋ねた。
「そういえば柊の鬼子。貴女益子薫ちゃんとと遭遇したの?」
「ええ、別れた方向から考えてこのあたりにいないのならアビドス高校にでも隠れているんじゃない?」
「へぇ。それは都合がいいね♪」
益子薫。エケラレンキスの肉体を構成する古波蔵エレンの相棒。
一度会ってみたいとは思っていたが、まさかこうも早く会える機会があるとは思わなかった。
「今からアビドスに行くの?あの赤い人が居る以上下手な潜入はおススメしないけど。」
「下手じゃないならいいんでしょ?
あてがあるから黙って見てなさい。」
言い終わるや否やエケラレンキスは屋根から飛び降りる。着地の心配は真人も真昼もしなかった。
初めから誰もいなかったように舞い上がる砂埃を前に、真人は深々とため息をついた。
「運営の手駒があのレベルか。
厄介な参加者は思ったより多そうだなぁ。」
先ほどまでよりわずかに険しい目つきで零す真人。
その言葉は嘘じゃなかった。真昼にしては珍しく疑う気さえしなかった。
「まったくもって、嫌になるわね。」
彼女も全く同じ気持ちだった。
◆
「このレベルが闊歩しているのか……この会場は……。」
アビドス高校に向かう道中、電柱の影に潜みながらアヤネは苦々し気に呟いた。
屋根の上でかわされた柊真昼と真人の談合を前に、参加者の中でも上位の悪意を宿す2人にマルガムの姿でも震えが走った。
何より途中から参加したレジスターを持たぬ少女。
グリオン様の作品ならば自分が知らないはずがない。だがただのNPCにしては行動が理性的なうえにその存在感は真昼や真人と比べても遜色がない。
(となると生み出したのはギギストなるもう一人の冥黒王か?
或いは類似の能力を持つ別の参加者……。)
グリオンと同等の参加者がいることは分かる。ノノミの出会った鬼龍院羅暁やもう一人の冥黒王であるギギストのように、屋根の上にいる薄紫の髪をした女学生とツギハギの青年もその類だろう。
だが参加者でないとなると話が変わる。その正体を考えることにアヤネは集中し、周囲への警戒がわずかに薄れた。
「『劣化複製:煉獄招致(ルビカンテ)』」
頭上から声が響き、次の瞬間影の中にあったアヤネの――ムーンマルガムの姿はアビドスの砂交じりの空気に引きずり出される。
頭上には影の行き場を無くすようにごうごうと炎が燃え盛り、先ほどまで潜んでいた電柱もどろどろに崩れ去っていた。
煉獄招致ルビカンテ。業火を射出する帝具の力がムーンマルガムの潜む影を生み出す物体ごと消し去っていた。
炎を左腕から吐き出していたエケラレンキスは、炎を止めると同時に右腕を勢いアヤネに伸ばした。
「『劣化複製:超力噴出(バルザック)』」
宙に浮きバランスを崩したムーンマルガムの首を、エケラレンキスはその細腕で掴み上げる。
潜在能力を十全に引き出されたエケラレンキスにとって、116.9kgのムーンマルガムは純粋な力で組み伏せられる存在でしかない。
「炎で影を消し、影を生み出す物体も消すとは。
随分強引な手を使うんだな。剣士人形。」
「借り物のケミーの力でコソコソやってる錬金術師の泥人形ちゃんと一緒にしないでほしいな。」
「そういうお前の力はケミーではないようだ。
てっきりギギストの作品かと思っていたがだとしたら妙だな。どういうことだ?」
「アタシは冥黒の五道化が一騎、魔獣装甲のエケラレンキス。
最強のNPCが一騎にして、神殺し殺し。貴方のような造り物とは格が違うの♪」
さらりともたらされた恐るべき情報に、アヤネはわずかな動揺を見せる。人間ならば冷や汗の1つもたらしていただろう。
7
:
空と虚① プルス・ケイオス
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:33:11 ID:C9nx7xck0
「……成程、運営側か。
実力からもその情報を疑う余地はないな。」
エケラレンキスは神殺しこと仮面ライダークロスギーツを討伐するための手駒である。
金マルガムとはいえそう簡単に勝てる相手ではない。
一参加者が生み出した怪物としては規格外だが、運営側の存在と言うのであればむしろこの程度の力は必要だろうとアヤネには思えた。
「それで、何の用だ。
殺す気ならとっくにやっているだろう。私に何をさせるつもりだ。」
「頭のいい子は好きよ。話が速くて助かる。
貴方、アビドス高校に行くつもりでしょ。
その影に入っての潜入に、ヒッチハイクさせてほしいの♪」
「……そんなことのために私に接触したのか?」
エケラレンキスの提案にアヤネは首を傾げた。
理屈は分かるが自分に声をかける理由が分からないのだ。
「お前の能力は恐らくどこかの世界の兵器か異能を再現するもの。
私が運営なら転移や転送の類の力は真っ先に生み出す。お前が使えないとは思えんが。」
「使えるけど、転送先の情報は分からないの。
跳んだ先が宇蟲王の射程圏内とかなったらシャレにならないし、かといって深層に飛んだら絶対エルちゃんに小言言われてめんどくさいし〜。」
姉に怒られた妹のような悪態をつきながら、ムーンマルガムを握る首がギリギリと音を立てる。
武器から生まれた人形であるアヤネに窒息は無いし痛みも薄いが並の人間ならとうに気管を潰されているだろう握力だ。
そんな状況にもかかわらず、エケラレンキスは心から愉しそうな笑顔を浮かべ続けた。
「奥に入りすぎたら、薫ちゃんにこのツラ見せられるかわかんないしね♡」
「そっちが本音だな。ノノミと同じタイプか。
薫ちゃんとやらも不運なことだ。」
「それで、この話乗ってくれる?
賢い賢い金メッキの脳味噌で考える時間が欲しい?」
「首根っこを掴む提案を交渉とは言わんだろう。」
「まいどありぃ〜♪」
諦めたようなアヤネの言葉を了承と捉え、エケラレンキスは凶悪に笑う。
「……まったく、あの性悪みたいなやつが他にもいるとはままならんな。」
本物の古波蔵エレンなら絶対にしない笑顔は、ノノミを思い出すようで腹立たしかった。
◆◇◆◇◆
「へっくち!
……今誰か私の話しませんでした?」
「ダークマイトが私達を追ってるんでしょ。
……それにしてもあんたもクシャミなんてするのね。グリオンの作った怪物のアンタも。」
「グリオン様は全能です。
その創造物である私は当然クシャミも出来ます。」
「ああ、そう。」
ダークマイトから距離をとるために、ノノミとシノンはアビドスの街中を駆ける。
ノノミがみせた気の抜けるような可愛らしいクシャミについ質問をしてしまったが、恍惚とした表情でグリオン賛美を始めたノノミにシノンは数秒前の質問に後悔していた。
くしゃみは単なる生理現象だ。そこに善意も悪意もない。
その一瞬だけ。シノンにはこの女が悪意ある人造人間ではない普通の少女のように見えた。
・・・・
そう錯覚したことに、後悔していた。
「本物の十六夜ノノミが出来ることで。私に出来ないことはないと言っていいでしょう。」
プテラノドンマルガムは異形の姿のまま、少女の声色で蕩けるように断言する。
はぁと呆けたように漏れた息には妙に色気があり、そのことがシノンには酷く気持ちが悪い。
本物の十六夜ノノミであれば間違いなくこんな気色悪い声色は出さないだろう。カリスの装甲の下で猫妖精族(ケットシー)のアバターの肌がわずかに粟立った。
「私はノノミを知らないけどさ。
アンタみたいな偽物にいい顔されて、本物のノノミはたまったもんじゃないでしょうね。」
「それは、黒見セリカや十六夜ノノミへの同情からの言葉ですかぁ?」
同情はしていた。この殺し合いには黒見セリカの先輩がいて、恩師がいて、職場があって、学園がある。その上学友の偽物が悪逆な人造人間として我が物顔で動いている。
過去の裏切りと今の友たちを想うシノンに、その友情を踏みにじるグリオンの凶行を許せないのは間違いない。
では、ノノミに対する不快と嫌悪が同情からくるものだけなのか。
30分前のシノンならそうだったのだろう。
「それとも、キリトの凶行を偽者の行いだと断じる貴女自身の言葉ですかぁ?」
ぐるりと首を曲げたノノミの嘲笑に満ちた濁った眼がシノンを捉える。
反射的にシノンは足を止めカリスアローを思いっきり切り上げた。カリスの仮面の奥でアバターの目が血走っていた。
「どっちもよ!」
力強くシノンは叫ぶ。これまでの人生で何度もない腹の底から出た言葉だった。
言語化できなかった感情が形となってに頭がすっと軽くなる。胸の内に渦巻く感情をシノンははっきりと自覚した。
8
:
空と虚① プルス・ケイオス
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:34:11 ID:C9nx7xck0
黒見セリカにとっての十六夜ノノミは大好きな先輩だが、シノンのように偽者しか知らない者にとっては(亀井美嘉のように協力関係である者であっても)悪の錬金術師に心酔する外道の名前だ。
同じようにキリトはシノンにとっては友であり恩人であるが、夜島学郎と亀井美嘉にとってキリトは悪辣な殺人鬼である。
藤乃代葉を嘲笑と共に殺した。本物のキリトを知るシノンにとって考慮にさえ値しない話でも、キリトを知らない人たちには”キリトは平気で人を殺す悪意ある男”だと知れ渡る。
キリトが何者かに操られているのか、あるいはキリトの偽物がそのような凶行に及んでいるのか分からない。
確かなことは、藤乃代葉を殺した偽キリトが行動している限りキリトと言う男の尊厳は踏みにじられる。
目の前でカリスアローを躱しケラケラと嗤う女がいる限り、十六夜ノノミの尊厳が踏みにじられるように。
そんな理不尽を飲み込めるほどシノンは大人ではなかった。
他人に対する同情ではなく、それは既にシノン自身の感情になっていた。
「セリカには耐えてなんてカッコつけて言っちゃったけど。
今なら分かる。これは無理ね。耐えられない。
私は、アンタたちを認められない。
アンタも、グリオンも。キリトの姿をした人殺しも。」
「……まあ、頑張ってくださいね。応援してますよ。」
「心にもないことをよくもまあすらすら言えるわね。」
「本心ですよ。貴方は下手な言葉よりもつらいつら〜い現実に直面したほうがいい表情を見れそうですから。」
鬼気迫る様子のシノンに対し、ノノミは薄ら笑いを崩さない。
背後にワープゲートをつくりだし、自分たちがさっきまでいた一点をノノミは指さした。
「1つアドバイスをするのなら。
そういうセリフはダークマイトを倒してから言うべきですよね。」
「分かってるわよ!!」
ノノミが指さす先がキラリと光ったと思えば、巨大な拳状の黄金の塊がミサイルのように轟音と共に2人を襲った。
ノノミはワープゲートで転移し、シノンは思いっきり両足を蹴り上げ飛び上がる。
黄金の塊の正体はダークマイトの個性”錬金”によって変質したコインだ。支給品ではあるが何ら変哲のない金貨。
それが質量を持ったレーザーとでもいうべき威力で家三軒を粉々に粉砕していた。
苦虫を嚙み潰したような表情のシノンの前に、砂埃をの中から筋骨隆々とした男が姿を見せた。
「なかなか逃げ足が速いじゃないか。
こうもはっきり避けられるとおじさんちょっと悲しいなぁ。」
ちっとも悲しくなさそうな薄ら笑いを浮かべ、肩についた砂を鬱陶しそうに払いのけた。
その姿がシノンにはどこか造り物のように見える。よく見るとこの炎天下に汗1つかいていなかった。
「聞きたいんだけどさ。
その姿、アンタもアバターか何か?」
「オールマイトを知らないとはモグリだね。
まあ、りんねのように別世界の人間と言うのなら仕方のない話か。見たところ個性も使えないらしい。」
「オールマイト……。」
「俺の世界では平和の象徴と呼ばれた最強の男だ。
最強のヒーロー。その力に弱者は憧れ悪は恐れた。その力は希望となり平和を生んだ。
だが彼は今や力を失った……。その象徴を継ぐべき男こそこの俺、ダークマイトというわけだ!」
筋肉を見せつけるように大きくねじりダークマイトは拳を構える。
シノンとの距離は数mはある。拳の射程には大きく外れていたが、銃口を向けられた時のような寒気がシノンの両足を動かしダークマイトとの距離を広げた。
「勘がいい。
だが象徴の力の前には、遅すぎる!」
ダークマイトがしたり顔で振りぬいた拳。無論ただのパンチではなく”錬金”の個性による増強が加わる。
その指先で金色の指輪がキラリと光ると、指輪を触媒に金色の巨大な拳が形作られ殴りつけるようにシノンめがけて射出された。
「速い!」
『トルネード』
とっさにラウズカードをスキャンし、カリスアローから風のエレメントを纏った矢が放たれる。
だが一発の射撃で拳の威力は殺しきれない。
シノンの体ほどはある巨大な拳はシノンを巻き込みミサイルのようにねじ込まれ、電柱をへし折り家1つを粉々に粉砕した。
その様子をダークマイトは満足げに眺めていたが、次第にその顔が怪訝なものに変わる。
黄金の拳が叩き壊した瓦礫の中に、仮面ライダーカリスの姿は無かった。
一撃で殺したのか?仮にも仮面ライダーだ。死体さえ残らないということは無いだろう。
仮にも欧州最大マフィアのボスである彼の眼は節穴ではない。
9
:
空と虚① プルス・ケイオス
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:37:25 ID:C9nx7xck0
「こっちよ!!」
『フロート』『ドリル』『トルネード』
「やはり生きていたか!!」
だから背後から聞こえたシノンの声に反応しダークマイトは振り向きざまに殴りかかる。その拳は黄金のように輝き肥大化していく。
シノンもまた3枚のカードをスキャンし、回転しながらドロップキックを叩きこんだ。
『スピニングダンス』
「BOLOGNA SMASH!!!」
正面からぶつかり合った技の威力は互角。金色に光るダークマイトの拳と風を纏ったシノンの足が互いに火花を散らす。
互角だ。
ノノミのワープのおかげで攻撃を躱せたはいいものの、今のシノンではダークマイト相手に決定打が欠けていた。
・・・・・・
仮面ライダーに変身して、さらにアバターによる参加者というアドバンテージがあってようやく互角という事実にシノンは歯がゆい気持ちになる。
運営に茅場晶彦がいることに今だけは感謝していた。そうでなければこの攻防で押し負け死んでいたかもしれない。
「なぜわざわざ声を上げたんだい?
君は私に倒されるヴィランなんだ。不意打ちで蹴りかかればよかっただろう。」
「こいつ……!!」
やんちゃな子供を諭すような声でダークマイトは尋ねた。
こちらの最も嫌な部分を探るようなノノミの声とはまた違う。
こちらのことをモブキャラとしか思ってないような無関心さ。ダークマイトはそんな不誠実な態度を隠そうともしていない。
実際に興味もないのだろう。個性社会の無法者であり己の実力を誇示するきらいのあるダークマイトだ。元の世界で仮面ライダー級の相手との戦闘経験だって少なくない。
シノンにとっては命がけで戦わねばならない相手でも、ダークマイトにとってのシノンは数ある強者の1人に過ぎなかった。
「悪いが君程度の相手なら何度も戦っている。
仮面ライダー。個性に寄らずプロヒーロー並の力を得られる技術は確かに素晴らしい。
だがこの象徴たるダークマイトの力には劣る!
オールマイトがそうであるように、並み居るヒーローを上回り蔓延るヴィランをねじ伏せてこその象徴だ!」
「さっきからヒーローだとかヴィランだとか言ってるけど!!
アンタみたいな暴力装置のどこがヒーローなのよ!!」
シノンは、オールマイトを知らない。
8割の人間が”個性”と言う名の超能力を宿す超常社会も、そんな無法が蔓延る社会で平和の象徴として懸命に戦った英雄のことも知らない。
ただ、こいつは違うと思った。オールマイトなどと言う英雄とは似ても似つかないだろうという確証があった。
ノノミを前にした時と、亀井美嘉の話を聞いたときと同じ嫌悪感が胸の内で渦巻いていた。
「もううんざりなのよ!!ノノミも、グリオンも、キリトを語る誰かも、アンタも!!!
アンタらみたいな奴が、他人の正しさも苦しみもこれっぽちも気にしない連中が!
・・・・・・・・・・・・・・・
誰かの名前を語るんじゃないわよ!!」
「オールマイトを知らぬものにオールマイトを継ぐ偉大さなど伝わらんか。残念だよ。」
鬼気迫る叫びをダークマイトは鼻で笑った。
馬鹿にするようにではない。馬鹿にしていた。そう断言できるほど、この男の態度には正しさなんて欠片もなかった。
こいつはノノミと同じだ。キリトの名を語り藤乃代葉を殺した誰かと同じだ。
こいつは、オールマイトじゃない。平和の象徴などと言われる男ではない。
オールマイトがどんな人間なのか想像することしかできないが、勝手に他人をヴィランと罵り平然と暴力を振るう人間が、『平和の象徴』なんて大層な異名を授かるわけがない。
この男の存在そのものが、『平和の象徴』への侮辱に他ならない。
シノンが視線を落とすと、ダークマイトの背後にある何もない空間に赤黒いゲートが前触れなく開いた。
ダークマイトは気づいていない。シノンが囮であることに。
その先から飛び出た誰かがぎゅっと拳を握り締め、ダークマイトへと殴りかかる。
「あんたもそう思うでしょ――」
飛び出た誰かに投げかけた。彼女もシノンと同じ……あるいはそれ以上にこの現状が許せない。そう確信していたからだ。
グリオン配下のノノミの存在が、十六夜ノノミへの悪趣味な嘲笑であるように。
藤乃代葉を殺した何者かがいることが、キリトの正義を踏みにじる悪意であるように。
――羂索が梔子ユメの姿をしていることが、アビドスと梔子ユメに対するこれ以上ない侮辱であるように。
「ユメ!」
「そうだよシノンちゃん!
この人さっきからずっとずっと……何言ってるのか全然分かんないよ!!」
10
:
空と虚① プルス・ケイオス
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:38:08 ID:C9nx7xck0
振り返るダークマイト、その視界にはアメンの姿になった梔子ユメがすぐそこまで迫っていた。
防御すべきか回避すべきか、そんな考えが筋肉に届くよりも早く、アメンの拳はダークマイトの脇腹を殴り飛ばした。
「貴方がヒーローなら!オールマイトって人を継いでいるのなら!!
なんでみんなを助けようしないのよ!!」
それは梔子ユメの本心からの問いだった。
己を鼓舞するように声を張り上げ、思いっきり殴り飛ばす。
爆ぜたような音と共にダークマイトの体が浮きあがり、地面に叩きつけられた巨体が音を立ててアスファルトを削った。
「成程、猫耳娘は陽動か。
最初の攻撃をかわしたのも今の奇襲も、要はプテラノドンのヴィランが使うワープだね。
しかしやるじゃないか。流石は羂索というべきかな?俺の顔に傷をつけるとはね。」
状況を確認するダークマイトが数度瞬きをした後ゆっくりと起き上がる。
砕き削れた地面と比較してあり得ないくらい男の傷は浅く、数か所の擦り傷と額からわずかに血を流しているだけだ。
「だが令呪もなく変身以外に支給品も使っていない。遊びはここまでといったところだろう。」
鬱陶しそうに砂を払い額の血を拭う。
そこでシノンとユメは信じられないものを見た。
むき出しになった額の擦り傷が、急速に塞がっていったのだ。
ユメが殴り飛ばしたダメージもアスファルトによってできた擦り傷も、初めから傷などついていなかったように男は邪悪な笑みを浮かべた。
「は……?」
「再生……したの??」
思わず後ずさる。
怯えたように見開いた目がカリスとアメンの仮面に隠れて見えなかったことは、少女たちにとって間違いなく幸運だった。
ダークマイトの体は本来の肉体ではない。やせ細った特徴のない姿の上に”個性”で形を変えた装甲を纏っている。
今の再生も装甲を直しているだけではあるが、オールマイトを知らない2人がその事実に気づくことはできない。
「これが象徴の力だよ羂索。」
悠然とダークマイトは言ってのける。
それだけの力がこの男にあるのも、また事実だった。
「なんでみんなを助けようとしないのか。そう言ったね?
助けるとも!
この力で悪しきアビドスを駆逐し、君が巻き込んだ全ての人間の代弁者として君をねじ伏せよう!」
「あのりんねって子も、それを望んだの?」
「彼女は私のヒロインだ。ヒーローには必要だろう?
彼女の意思は、私の意思だ。ともに羂索どもの企みを打ち砕くことも彼女も望んでいる。
まあ、多少強情ではあったから少々強引な手を使わせてもらったが。」
「最ッ低……。」
”強引な手”がなんであるか2人は考えることを止めた。なんであれ九堂りんねと言う少女の尊厳は粉みじんに砕かれているだろう。
九堂りんねがダークマイトに従う理由は命れいじゅうによる強制的な隷属だが、そこまでのことは分からない。
確かなことはダークマイトは九堂りんねを――仮面ライダーマジェードを従えている。おそらくは暴力的な手法で。
仮面ライダーの1人や2人この男ならただの暴力でねじ伏せられると、九堂りんねの存在が証明していた。
だからこそシノンとユメはノノミと共に奇襲のような攻撃を実行した。
結果分かったことは、純粋な戦闘力では二人を上回るうえに再生能力を持つバケモノだという絶望的な実態だった。
ダークマイトは特記戦力相当たる緑谷出久を含む雄英高校1-Aトップ3が揃ってようやく倒せた相手である。
錬金の個性を用いた遠距離攻撃では、数枚のコインや拳だけでミサイルのごとき破壊を生み出せる。
純粋な白兵戦闘では神秘やアバターというアドバンテージのある肉体が変身てようやく互角となるレベルだ。
おまけに傷は再生する。実際は外部装甲だとしても”再生する外部装甲”の時点でそれはもう起動キーの上位互換だ。厄介極まりないことには変わらない。
「美嘉やセリカ、マジアベーゼがりんねって子をなんとかしてくれるまで、耐えるしかないわね。
……そういえばノノミは?」
「りんね側に加勢するってさ。時間稼ぎお願いしますって頼まれたよ。
ダークマイトに有効打がない以上、今は時間稼いで。なんとか九堂りんねを無力化して全員で叩くしかないだろうって。」
「姿が見えないと思ったらそんなことしてたの。」
姿を見せない胡散臭い女に肩をすくめたが、最善の手段だろうとは2人も思う。
ノノミを含めた3人だけで勝つ場合の勝率は0に近いが、今この時において彼女たちには仲間がいた。
亀井美嘉、黒見セリカ、マジアベーゼ。別働として九堂りんねを相手どっている彼女たちが九堂りんねを無力化し、合流できるまで耐える事ならできるだろう。
シノンとユメの勝利条件はそれしかない。
だがそれも、このまま大人しく戦ってくれればの話である。
11
:
空と虚① プルス・ケイオス
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:39:34 ID:C9nx7xck0
「……ふむ。このまま戦ってもいいが。他にもヴィランは何人もいる。無駄に消耗するわけにはいかない。
確実に羂索を打ち倒すために、りんねの力は必要だな。」
一方のダークマイトは勝利条件など気にしてはいなかった。
そもそも、オールマイトの後継を吹聴するこの男は負ける可能性など微塵も考えていない。
・・・・・・・
ただ、もっと楽に勝つためだけに、男はポケットから何かを取り出した。
エメラルドのような色合いの宝石がダークマイトの掌で淡く光る。
アメンと同じ世界でイドラ・アーヴォルンが研究していたその宝石の名をマナメタルと言った。
「来い!りんね!!」
一瞬、ギラリとマナメタルが閃光を放つ。
光が収まると同時に純白のサークルを潜って、太陽と一角獣の錬金術師――仮面ライダーマジェードの姿が虚空から出現し、2人のプランが音を立てて瓦解した。
「ノノミちゃんと同じ、ワープ……こんなことまで。」
「はっはっは。あんな悍ましい錬金術と一緒にしないでくれ!
これは俺と言う象徴とヒロインたるりんねの絆の力と言う奴だ!」
妄言のようなダークマイトの言葉はあながち間違いではない。
緊急キズナワープ。という機能がある。
キズナレッドらが持つキズナブレスの機能であり、強い絆を持つ仲間の場所に転移するというものだ。
支給品であるマナメタルが起こした現象はそれと同一のものだ。マナメタルもまたキズナブレスと同様絆エネルギーに反応する性質がある。
ダークマイトはこっそりと九堂りんねのアルケミスドライバーにマナメタルの破片を仕込んでいた。そのためダークマイトの要請に応じて緊急キズナワープが作動し九堂りんねにが姿を見せたのだ。
「どの口でそんな台詞がはけるのよ!」
絆の力 などという戯言に何度目か分からない憤慨がシノンの全身を駆け巡った。
ダークマイトだけは本心からそう思っているのだろう。九堂りんねをヒロインだとするダークマイト伝説に心酔している彼に疑うという思考は存在しない。
・・・・・
ダークマイトと九堂りんねの間に絆などないという誰が見ても明らかな事実さえ、彼の望む真実と異なれば理解しないだろう。
緊急キズナワープが作動したことにも当然カラクリが存在するが、その真相は九堂りんね含め誰もまだ気づいていなかった。
「それにしても……。」
突如現れた仮面ライダーマジェードを前に怪訝な顔を浮かべる。
胸元が大きく破損し右足を引きずっていた。骨が折れているかもしれないし少なくとも数時間は休ませる必要があるだろう。
その傷も妙だ。引きずっている右足の外相は少ない、内側から衝撃を与えられたような痛め方だ。
それ以上に胸元の傷は深刻だ。橙色のボディパーツが砕け大槌でも食らったかのようにへこんでいた。
もし彼女が仮面ライダーマジェードになっていなければ、死んでいたであろう深手にみえた。
考え込むシノンの隣で前触れなく空間が赤黒く捻じ曲がる。
わぁ。などと可愛らしい声を上げて尻餅をついたユメの目の前でワープゲートをくぐる者がいる。
仮面ライダーバルカン――黒見セリカ。エンジェルマルガム――亀井美嘉。
少し遅れてマジアベーゼ――柊うてな。
その全員が、怒りに震えていた。
「何が――」
「ふっざけんな!!!!」
尋ねる前に黒見セリカは我慢ならないといった様子でダークマイトを指さした。
その隣で美嘉はわなわなと震えて拳を握りしめ、唯一表情を読み取れるマジアベーゼは親の仇を前にしたかのような嫌悪の形相を浮かべていた。
12
:
空と虚① プルス・ケイオス
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:40:55 ID:C9nx7xck0
「あんた……あんた、あのりんねって子に何をしたの!!」
「たいしたことはしていない。
少々強情だったからね、俺のヒロインとして従順になるよう教育してやっただけだ。」
「教育?洗脳の間違いでしょ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何をしたら自分で自分の胸を抉るような真似をするのよ!!」
「なっ。」
思わず絶句する。ユメに至っては今にも泣きそうな悲痛な声を上げていた。
言葉を失った2人にマジアベーゼが視線を向ける。
「2つ、連絡します。
九堂りんねを足止めすることは出来ません。
戦闘不能に追い込まなければ、彼女はダークマイトのために戦いつづけるでしょう。」
「どういうことよ。」
「彼女は、ダークマイトに操られています。おそらく支給品によるものでしょう。
ルルーシュのギアスと同質のものだと私たちは見ています。彼女の意思を無視して、ダークマイトの望む行動しかとれない状態です。」
「そういうことか……。」
ルルーシュ・ランペルージの絶対遵守のギアスの威力はこの場の全員が知っている。
ダークマイトが用いたひみつ道具”命れいじゅう”も効果だけをみればほとんど同じと言っていい。
ただでしたがっているとは思っていなかったが、九堂りんねの立ち位置はシノンが想像していたよりずっと悲惨だったということだ。
「もう1つ連絡があるのよね。
これ以上悪いニュースは聞きたくないんだけど。」
「ダークマイト本人が凄まじく強いことはノノミに聞きました。
ですが安心してください、こっちは良いニュースです。」
「そういえばノノミは?」
「知りませんよ。
ここに居ないにしても、引き戻す方法が私達にはありません。」
それもそうだと諦めたようにシノンは息を吐く。
ダークマイトの強さ、九堂りんねの現状。そんな面倒ごとを前に敵対しないだろう女のことを気にする余裕は残っていなかった。
辟易するような声にマジアベーゼは少しだけにこやかに返した。
「ここからは私にやらせてください。
ダークマイトの倒し方が、分かりました。」
13
:
空と虚② 柊うてなという敵(おんな)
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:41:37 ID:C9nx7xck0
◆
時はわずかに遡る。
ダークマイトとの戦いにおいて最も避けなければならないことは、アビドス高校を巻き添えとすることである。黒見セリカや梔子ユメが望むまでもなく、その認識で全員が一致した。
ダークマイトの標的は梔子ユメを含むアビドス生であり、アビドスだ。
故にまずすべきことは分断。シノンとノノミを中心にダークマイトを誘導し主戦場を少しでもアビドス高校から遠ざける。
結論から言えばこの方法は成功し、この選択は大正解だと言える。
アビドス高校には宇蟲王ギラが襲来し混沌を極めていた。その場にダークマイトと言う厄ネタが混ざりこめば被害はさらに甚大だっただろう。
既にダークマイトはシノンとノノミ、後の奇襲のため別の場所に待機しているユメを追いアビドス高校から離れている。
残る九堂りんねを相手にするのは、亀井美嘉、黒見セリカ、マジアベーゼという形である。
「はぁ……はぁ……」
仮面ライダーマジェードの攻撃を必死で躱しながら、美嘉はどうにか息を整えた。
ダークマイトをアビドス高校から引きはがしたものの、残った九堂りんねも十二分に強い相手だ。
悪霊を宿しマルガムになったとはいえ亀井美嘉がの戦闘経験は皆無、マジェードの正規変身者である九堂りんねの経験値には遠く及ばない。
一切の容赦が感じられない攻撃を前に、回避に専念することしかできない。
「マルガム……!!しかも金のマルガムってことはグリオンの関係者!そうよね!!」
「そういうことに……なりますね。
マルガムに金以外の色があるというのは初耳ですが。」
否定はしない。事実として今の美嘉はグリオンの陣営だ。
九堂りんねたちを苦しめ続け、九堂りんねを殺したグリオン配下だ。断片的な関係性は美嘉も聞き及んでいた。
大きく足を蹴り上げマジェードの蹴りがエンジェルマルガムの首元を狙う。
殺意の籠った回し蹴りを羽のような意匠の薙刀「フォールンハルバード」で防ぐが間に合わない。攻撃の軌跡は弧を描きマルガム化して生えた翼を掠めた。
「ぐっ……」
「どういう経緯でグリオンと手を組んでるのかは知らないけど、ケミーを悪用する以上倒すしかない!
・・・・・・・・・・
それに……今の私は自分でも止められないの!!」
苦悶の声をあげながら美嘉は3歩さがるが、りんねは両足が地面につくと同時に体をひねり美嘉にとびかかる。
このままアルケミスドライバーにハイアルケミストリングをスキャンすれば、エンジェルマルガムを撃破できるだろう。
申し訳なさげに指を動かすりんねの視界に、青い影が見えた。
マジェードとは異なる世界。プログライズキーを用いた仮面ライダーがそこにいた。
「くらいなさい!!」
『バレット!』
美嘉の背後から4匹の青い狼のようなエネルギー弾が揺らめき、りんねに向けて襲いかかる。
仮面ライダーバルカンへと姿を変えた黒見セリカは銃撃戦が日常のキヴォトス育ちだ。
引き金を引くことにためらいはない。相手も仮面ライダーならなおのこと躊躇いなくマジェードめがけて引き金を引いた。
この行動を機にりんねの中で何かがずれる。
セリカを視界に捉えた瞬間、りんねの両足はセリカに向けて駆けだしていた。
『アルケミスリンク!』
「ダメ……ダメ!!!」
九堂りんねにはマルガムである美嘉はまだしも、黒見セリカを倒す理由は1つもない。
むしろダークマイトに強引な悪人認定を押し付けられ同情の念すら浮かべていた。
そんな感情とは裏腹に、りんねの体はエンジェルマルガムを討ち滅ぼすための必殺技をバルカンに向け予備動作を開始している。
狼がりんねの四肢を封たタイミングはりんねの体が必殺技の準備を終えるのと同時だった。
『サンユニコーン!ノヴァ!』
『バレットシューティングブラスト!』
電子音とともにセリカは引き金を引く。
エイムズショットライザーより放たれた蒼穹を前に、狼のエネルギーに拘束された四肢を強引に振りほどき水平姿勢で飛び上がる。
セリカの放った弾丸はそれわずかにマジェードの肩を掠めた。装甲が破損し肩が痺れる。
それでもマジェードの必殺技は止まらない。
「避けて!!!」
泣き叫ぶりんねとは裏腹にセリカに向けて放たれる両足蹴りは落下と同時にぐんぐんと加速していく。
その行動に躊躇いがあるようには見えない、エンジェルマルガムを前にした時と同様に殺意を込めた一撃だった。
14
:
空と虚② 柊うてなという敵(おんな)
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:43:05 ID:C9nx7xck0
「何よ……まるでやりたくもないのに戦わされてるみたいじゃない。」
セリカが呟く。言葉と行動が一致していないその様子は明らかに異常だった。
すぐそばに立つ美嘉も、背後に佇んでいたマジアベーゼも全く同じ気持ちだった。
「マジアベーゼ!!」
「分かってます……よ!!」
美嘉の声に応じて、マジアベーゼは地面に支配の鞭(フルスタ・ドミネイト)を叩きつけた。
マジアベーゼの魔力を受けた地面……アビドスの砂が波のようにうねり、セリカの前に分厚い壁を作り出した。
壁に突き刺さったりんねの両足がりんねの意思とは無関係に連続蹴りを叩きこむ。10度も蹴ったころには砂の壁の魔物は耐久力の限界に至り爆発して消え去った。
ちりとなり消える魔物の壁の奥に仮面ライダーバルカンの姿は無い。
ほっと安堵する間もなくバルカンの姿を捉えたりんねの体は、次なる標的を見つけて意思に反して駆けだした。
握りこんだ拳を大きく引き構える、視線の先には攻撃を防いだマジアベーゼの姿があった。
「次は私ですか。忙しい方ですね。」
「また体が勝手に!!」
マジアベーゼが鞭を構え、美嘉も急いでりんねに向かって駆けだした。
セリカが4度引き金を引くのは、彼女たちよりも速かった。
カンカンと甲高い響きと共に空中に飛び上がったマジェードの体が銃弾に弾き飛ばされ、砂に塗れて地面を転がった。
純白の装甲が煤けた姿を前にセリカは再びエイムズショットライザーの引き金を引いた。
断続的に弾丸がマジェードを弾き飛ばす、飛ばされるたびにマジェードはセリカに殴りかかろうとし続ける。
出来の悪いロボットでも見ているようだと美嘉は思った。今のりんねはセリカを攻撃する以外の行動をとろうとしていない。
「私だって……!!
私だってこんなことしたくない!
マルガムならともかく……貴方達と戦いたくなんてない!!
錬金術を悪用するあんな男に、力なんて貸したくない!!」
「どういうこと……じゃあなんで何度何度も立ち上がって襲ってくるのよ!!」
キヴォトス人は弾丸程度で死ぬことはない。
それでも、撃たれ続けてもなお立ち上がる人間をみるのはセリカにとって初めての経験だ。
もしそれが勇気なら、セリカは感心しただろう。
しかしりんねの口から出る言葉は、戦いへの拒絶とダークマイトへの嫌悪だけだ。
全員の表情が曇る。最初に可能性に行き着いたのは美嘉だった。
「……まさか、彼女の行動は自分の意思じゃないってこと?
ルルーシュのギアスのような何かで、ダークマイトに操られているんじゃ。」
「成程……だとしたら彼女の奇行にもつじつまが合います。
マルガムである美嘉さんと同じように私たちを襲ったのも、ダークマイトの敵と判断したのなら納得です。」
九堂りんねの行動は、ダークマイトが用いた秘密道具『命れいじゅう』による支配が原因だ。
バシンという音を響かせマジアベーゼが再びアビドスの砂を叩く。
先ほどはセリカの前に壁を作り出した魔物創造だったが、今度は寄り集まった砂がりんねの足元で全身を包むように渦を巻いた。
意思で止まらない以上、強引に動きを封じる以外に選択肢はない。
このままだとセリカがりんねを殺してしまうかもしれない。
「趣味ではありませんが致し方ありません。
ノワルの技の模倣といきましょうか。」
不本意そうに両手を掲げると、りんねの足元の砂が一枚の布のように全身に纏わりついていく。
両腕で何度も砂を払うが真化に至っているマジアベーゼの魔力の方が今のりんねより上だ。
次第に全身が砂で覆われ、仮面ライダーマジェードの体は人間大の砂像のように固められた。
唖然とする美嘉とセリカの前でりんねが動きを止め、マジアベーゼはつまらなそうにため息をついた。
「”闇檻劣化再現:砂檻”とでも名付けますか。
こういった完全拘束はやはり面白くないですね。仮面ライダーなどという全身鎧なのがなおさらいけない。
表情も抵抗も見られないというのは。味気ないものです。」
「密閉しているように見えるけど……大丈夫ですか?」
「逆ですよ。
今の彼女はこうでもしないと止まりません。
私自身がそうでした。己の理性でも欲望でもないナニカに動かされてしまった人を止めるのは、強引な力しかありえない。」
一目すると呼吸さえままならない砂像だったが、マジアベーゼは確信をもって答えた。
暴走状態になりマジアマゼンタを汚染するに至った過去の自分を止めたのは、魔法少女イミタシオが復讐と憎悪を乗せた巨大な一撃によるものだった。
15
:
空と虚② 柊うてなという敵(おんな)
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:45:00 ID:C9nx7xck0
「貴方も覚えがあるのではないのですか。美嘉さん。」
「どういう意味?」
「貴方の中にある『殺意』……それは貴方のものではないでしょう。」
水色の人形のようなエンジェルマルガムの顔の奥で、亀井美嘉の目は黒い星を宿すマジアベーゼの目とあった。
見た目は自分より幼いのにその言葉には貫禄や風格とでもいうべきものがあり、確かな確信を持った言葉だった。
亀井美嘉の殺意は亀井美嘉のものではない。そもそも亀井美嘉がこれまでの人生で殺意を抱いた経験があるかさえ怪しい。
美嘉に支給され紆余曲折あり取り込んだ悪霊、月蝕尽絶黒阿修羅の宿す底の無い殺意。美嘉がキリトに向ける殺意の根幹はそれだ。
理性でも欲望でもナニカ。そう言われたら確かにその通りかもしれない。言い得て妙だと美嘉は微かに笑う。
「貴方がその殺意をどう使うかは自由です。
キリトを殺すという目的を止めるつもりは私にはありません。
ですが、己の理性でも欲望でもないものに身を委ねるには覚悟が必要です。吞み込まれて彼女のようにはなりたくないでしょう?」
「……忠告、感謝します。」
全く同じタイミングで九堂りんねを封じた砂像を2人は見上げた。
命れいじゅうが原因であることを2人は知らないが、己の意思とは関係のないまま動いた者は、強引に抑え込むしかない。
今の九堂りんねの姿は未来の亀井美嘉かもしれない。
冷たい空気が流れる中、バルカンの変身を解かないままセリカが不安げに尋ねる。
「マジアベーゼ。これで問題ないのよね?もう彼女は戦わなくていいのよね?」
「概念的な拘束ではないとはいえノワルの技です。
アビドスの砂を補助に用いている。仮面ライダーであろうとそう簡単に破れはしないはずですが。」
九堂りんねの変身が解けるまで拘束し、ドライバーや支給品を奪い無力化する。もう数分もすれば酸欠で失神するだろう。
普通の人間相手ならそれで足りる。マジアベーゼの拘束は十分有効のはずだった。
それでもマジアベーゼの声に、安堵や余裕は欠片もない。
嫌な予感はあった、おそらく全員に。
誰一人変身を解いていないことが、その何よりりの証拠だった。
『アルケミスリンク!』
不安が現実になる音が、砂像の中から響いた。
雪のような白い光が砂像の右足に集まっていき、そこだけ太陽でも燃えているようにぐんぐん赤熱していく。
マジアベーゼの拘束に落ち度はない。
ただ彼女は、1つ勘違いをしていた
九堂りんねが受けた命令は【ダークマイトの敵を倒せ】ではない。
【全てを捧げてダークマイトに従い尽くす】だ。
『サンユニコーン!ノヴァ!』
電子音と同時に砂像の右足が爆ぜた。
マルガムを倒せるほどの、それも本来は両足で何度もぶつけるエネルギーをため込んだことでマジェードの右足から黒い煙が上がっている。
体内でダイナマイトを点火させたようなものだ。足がへし折れていたっておかしくないだろう。
『アルケミスリンク!』
「二発目!!うそでしょ!?」
誰かが叫んだ。マジアベーゼは操った砂を集めセリカは引き金を引いたが、間に合わない。
『サンユニコーン!ノヴァ!』
自由になった右足を大きく反らす。美しく光り輝く足が叩き込まれたのは仮面ライダーマジェードの胸だった。
足を180度近くに曲げた酷く歪な一撃に胸を中心に体を抑える砂が弾け、無茶苦茶な動きに膝の骨がゴキリと嫌な音を立てた。
全てを捧げてダークマイトに従いつくす。
・・・・・・・・・・・
自分の体を破壊してでも、従いつくす。
そう命令された以上、九堂りんねに逆らう選択は残っていなかった。
「くっ……」
硬い何かがぶつけ合うような嫌な音が再びマジェードの膝から聞こえた。
自分を蹴るために強引に外した膝を強引にはめ込んでいた。当然骨や筋肉はズタズタだろうがそれでもりんねは歩き出す。
そう命令されているから。そこに勇気など存在しなかった。
「はぁ……はぁ……」
「何を……何をやっているのよ!!」
仮面ライダーマジェード。太陽のごとき情熱と一角獣のような清廉さを宿す錬金術師。
今の彼女にその美しさは見る影もない。右足を引きずり胸元は大きくえぐれている。
糾弾するようにセリカが叫んだ。痛々しくて見ていられない姿にセリカの声もわずかに潤んでいる。
16
:
空と虚② 柊うてなという敵(おんな)
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:45:26 ID:C9nx7xck0
「ごめんなさい……ごめんなさい。」
涙で滲んだ声だった。それが今の九堂りんねに許された精一杯の抵抗だった。
足が痛い、胸が痛い。それ以上に心が痛い。
・・・・・・・
マジアベーゼの拘束は九堂りんねを殺さないための手段だった。命れいじゅうによる支配はその慈悲を踏みにじった。
立ちすくむ3人は動けない。緊急キズナワープにより九堂りんねが光に包まれたのは、ちょうどそんなタイミングだった。
光に包まれる原因は仕込まれたマナメタルによるものだが、りんねにもその存在は知られていない。
困惑をよそに九堂りんねの体が勝手に何かを取り出し地面に投げた。
「何で……私は……」
諦めたような言葉を最後に九堂りんねの姿は消え、入れ替わるようにりんねがいた場所の地面が虹色に光った。
よく見るとその中心には、コインが2枚落ちていた。
ダークマイトの”個性”が宿るそのコインはむくむくと土気色の怪物の姿に変わる。
鉄仮面をつけタキシードを着た怪物は細身の体なのに手足だけが異様に太い。
錬金兵。そう呼ばれる怪物だ。
覆いかぶさる錬金兵を、エンジェルマルガムと仮面ライダーバルカンがそれぞれ抑え込む。
単純なパワーだけで言えば2人と大きな差はない。錬金兵を生み出すコインは”数”の制約は与えられても”質”は本来の性能据え置きだった。
「何よこいつ!」
「りんねさんの錬金術?それともこれもダークマイトの能力?」
置き土産というにはあまりにも厄介な相手だ、変身できていなければ美嘉どころかセリカだって無事か怪しい。
こいつらを残した動きもダークマイトの支配によるもので、九堂りんねの意思ではないのだろう。
そう考えると無性にむかっ腹が立つ。セリカも美嘉も同じ思いだ。
「……流石にこれは、笑えませんねダークマイト。」
殊更キレていたのはマジアベーゼだ。
マジアベーゼは本来ダークマイトに微塵も興味を抱いていない。
平和の象徴だのなんだのと誇大妄想を並べる相手の評価はかつてのロードエノルメにも劣る。
そもそも、レッド相手の対応がイドラ・アーヴォルンや横山千佳と比べて遥かに雑であったようにマジアベーゼはそもそもとして男に興味がない。
ダークマイト側ではなく九堂りんね側で戦っていたのも、仮面ライダーとはいえ美少女相手ならまだわずかにモチベーションがあったからだ。
そんなマジアベーゼが不俱戴天の仇のようにダークマイトの名を呼んだ。彼の九堂りんねに対する仕打ちはマジアベーゼの矜持と真っ向から反発していた。
彼女が見たいのは魔法少女が苦難を前にしても諦めず、正義を為す輝きだ。
ノワルのように抵抗の意思さえ剥奪し輝きをくすませる支配でさえ生理的に受け付けられなかった。
ダークマイトはそれより悪い。意思を奪い正義を奪い、輝きそのものを潰す支配。
可能性を奪うどころか、可能性さえ与えない支配。
それを正義と呼ぶのは、『正義』そのものへの――正義のヒロインたる魔法少女たちへの侮辱に他ならない。
「ですが、コインから兵士を生み出したのは失敗でしたね。
おそらく九堂りんねではなくダークマイトの力でしょうが。」
二度、支配の鞭で錬金兵を叩く。
エンジェルマルガムとバルカンを抑え込んでいた2匹の腕が急速に力を失い、アビドスの大地に倒れこんで砂に溶けた。
支配の鞭は触れたものを魔物に変え、操る。そこに意志の有無は関係ない。
人間さえ操れるとまでは言わないが、コインを錬成した兵士を生み出すことなどマジアベーゼには造作もない。
「この程度の怪物、操ることは造作もありません。」
「一瞬で終わっちゃった。」
マジアベーゼの動きは、速い。
真化へと至った魔法少女。ただでさえキヴォトスの生徒や仮面ライダーに劣らぬ戦闘経験は、ノワルという極大の相手との接触もあって研ぎ澄まされている。
何よりも目を引いたのは、マジアベーゼの固有能力だ。
魔物にして支配する。その力はダークマイトの影響下だろうと問題なく行使できた。
「魔物を生み出す力。
もしかしてこの力は……」
「そうですね。憶測の域を出ませんが。
・・・・・・・・・
私は恐らく、ダークマイトの天敵です。」
内容とは裏腹にちっとも嬉しくなさそうに宣言する。
空間に赤黒い穴が開き、中からプテラノドンマルガムがその姿を見せたのはちょうどこの時だった。
彼女たちがダークマイトの前に現れる、1分前の話だった。
17
:
空と虚② 柊うてなという敵(おんな)
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:46:33 ID:C9nx7xck0
◆◇◆◇◆
「俺を倒す方法だって、そんなものが本当にあると思うのかい!?」
ダークマイトの倒し方が分かった。
突然現れた小娘には確かに異様な覇気があるがそうあっさりと豪語されてはダークマイトのプライドの立つ瀬がない。
りんねに指示を出すよりも早く、ダークマイト自身が叩き潰さんと飛び掛かる。
その右手は黄金色に輝き、マジアベーゼという敵(ヴィラン)を象徴の名のもとに叩き潰すための動きだ。
自分が主人公だと言わんばかりに高笑いを上げる男を、マジアベーゼは泥を見るような冷たい目つきで睨んでいた。
「TORINO SMASH!!」
「真化(ラ・ヴェリタ)」
黒い星が瞬き、少女は飛翔する。
夜蜘蛛の帳。魔法少女の敵としての真髄。
全力を出した悪の総帥の周囲には、漆黒の蜘蛛糸が縦横無尽に張り巡らされている。
マリスネストという技である。糸に阻まれダークマイトの拳はマジアベーゼにかすりもしない。
黄金の腕にまとわりつく蜘蛛糸をダークマイトは払いのけるが、マジアベーゼが腕を振るうと払いのけた倍の糸がダークマイトを縛り上げる。
「ノワルに比べれば貴方程度雑魚もいいところですよ。
もっとも、あの女も私同様あなたに興味などないでしょうけど。」
「随分言ってくれるじゃないか!
防御力は大したものだがそれだけではこの俺には勝てないよ!」
「勝つ?何を言っているんですか?」
軽蔑を込めた視線と共に、蜘蛛糸で絡めとった右腕に真化によって変化した支配の鞭を叩きつけた。
金属がぶつかり合うような鈍い音が響く。やはり生身の体ではなく錬金で作り出された装甲だった。
仮面ライダーカリスの攻撃を相殺しアメンの拳に耐え、ダークマイトの”個性”により常時修復可能なオールマイトボディ。
破壊するにはそれこそ全力の緑谷出久レベルの攻撃力が要求されるが。
マジアベーゼを相手にした今回に限れば、装甲であった時点でダークマイトは負けていた。
「もう勝負はつきました。」
マジアベーゼの魔力を浴びたオールマイトの腕を形作る金うねうねと動き、スライムのような形状の魔物となって地面に音を立て溶け落ちた。
見るものに畏怖を与える力強い腕。すっかりどろどろのゼリー状になった腕が開き細身の男の無骨の腕が露になった。
「お、俺の体がァ!!!」
男の顔から余裕な笑みは消え、野良犬に吠えられたかのようなみじめな顔でマジアベーゼから飛び離れた。
マリスネストに縛られたダークマイトの体がかさぶたのように剥がれ落ち、オールマイトの皮を被った特徴のない男の顔が露になった。
その隙を逃すほど、この場の戦士たちは甘くはない。
「隙を見せたわね。ダークマイト!!」
「アンタの顔はもう見たくない!!」
「貴様らぁ!!!」
シノンと黒見セリカ。あるいは仮面ライダーカリスと仮面ライダーバルカン。
マジアベーゼが生み出した魔物たちを足場に空中を駆けあがり、生身を曝したダークマイトに武器を向ける。
言葉こそ強気だがオールマイトのコスチュームは肉体の変形と共にびりびりに破け、へばりついたようなオールマイトの顔や筋肉の中で男は尻餅をついていた。
そこにはもはや平和の象徴を名乗る余裕もなければ威厳もなかった。
(倒さなきゃいけない、この男はここで倒さなきゃいけない。
たとえこの男が――ただの人間だったとしても!!)
言葉にならない声で喚く。ダークマイトの中身はヘイローもなければALOのアバターでもない。ただの人間だ。
シノンとセリカはその姿から精いっぱい目をそらした。
生理的な嫌悪感からではない。2人は知っている。人間は簡単に死ぬという事実を知っている。
シャーレの先生のようにヘイローを持たない人間は、銃弾で容易く命の危機を迎えることを。
人が生み出した武器を本気で振るえば、幼いシノン――朝田詩乃でさえ人を殺せるということを。
武器を振るえと脳の裏側でアラートが鳴る。グリオンがそうであるようにダークマイトも人の形をした怪物だと叫び続ける。
同時に2人の中の良心が訴える。仮面ライダーがその武器を全力で人に向けて振るえばどうなるか。部屋な銃弾よりも余程惨くこの男は死ぬということなど子どもにも分かる。
(躊躇っちゃダメ!マジアベーゼが作ったチャンスを無駄には出来ない!
この男を倒さないことには九堂りんねだって支配されたままだ!倒すしかない!!)
・・・・・・・・・
己の良心に殺される前に仮面ライダーたちはカリスアローを振り下ろしエイムズショットライザーの引き金を引いた。
18
:
空と虚② 柊うてなという敵(おんな)
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:48:10 ID:C9nx7xck0
良心の抵抗故かそれともそんな判断をする余裕が2人にはなかったのか。両方の理由でラウズカードもプログライズキーも装填されていない武器に必殺の威力はない。
それでも仮面ライダーの一撃は”個性”を有する異能者だろうと斃しうる。殺しうる。
だがその攻撃は――
『ハイアルケミスリンク!』
『サンユニコーン!ビッグバンノヴァ!』
――仮面ライダーの相手をするには不足だった。
躍り出たマジェードが太陽のような火球を蹴り飛ばし、2人のライダーは焦げるような痛みを両腕に受け墜落していく。
命れいじゅうの効果は継続中だ。九堂りんねがダークマイトを守るのは必然だが、それに比べても九堂りんねの放つ熱量は常軌を逸していた。
「何よこいつ!さっきよりもずっと強いじゃない!!」
バルカンの姿でも息が苦しい。
酸素が急速に燃え口の中肌がちりちりと音を立て乾いていた。
その理由に気づいたのは九堂りんねの赤く光る右腕を見た梔子ユメだった。
・・・・・・・
「りんねちゃんは……令呪を使ってる!!」
「なんですって!!」
『ジャカジャカジャッカル!!』
アメンバッグルに装填されたジャッカルレリーフ。艶のある電子音と共にユメは駆けだした。
「ダークマイトの支配は、令呪を使用させることまでできるっていうの!?」
反応が最も遅かったのは美嘉だ。この場において戦闘経験が群を抜いて少ないことがここで響く。
エンジェルマルガムとして両腕を上げると、周囲の残骸がオレンジ色の怪物に姿を変えた。
「行って!!!」
「「「ガイ・ガイ・チュー‼」」」
エンジェルマルガムの能力は死者の蘇生。といっても土塊から仮初の命を与える力だ。
殺し合いにおいて反則としか言いようが、その意思を操ることはエンジェルマルガム本人にもできない。
その怪物たちが何なのか美嘉にも分からなかったが、必死だった彼女に考える余裕は無い。
美嘉が自分たちの主人だと理解したオレンジ色の怪物はユメに続いてマジェードへと駆けだした。
彼女たちは知る由もないが、アビドス高校において宇蟲王ギラが呼び出しミームアスランが意味不明な言葉と共に叩きのめしたサナギムの群れだ。
加速するアメンとサナギム軍団の前にマジェードは降り立つ。
胸がえぐれ体は砂と熱気に焼かれている。それでもその姿にはどこか気品のようなものさえあった。
優雅にさえ見える挙動で仮面ライダーマジェードは……九堂りんねはダークマイトへと振り向き口を開いた。
「ダークマイト……様。」
先ほどまでの熱気が嘘のように、少女達の背中に怖気が走った。信じられない言葉に全員の足が止まる。
九堂りんねは肉体こそダークマイトに支配されていたが、その心までは操られてはいないはずだ。
その心が――既に壊れ始めていた。
涙を流すダースドラゴンを「バグ」と断じるほど冷徹な男に生殺与奪を握られ。
マルガムでさえない少女を殺すために攻撃することを強いられる。
とどめとなったのは緊急キズナワープだ。
肉体を再構成させ転移するその技術を動かすには強い絆が必要だが、九堂りんねとダークマイトに絆などない。
だが【全てを捧げてダークマイトに従い尽くす】と言う命令が、ダークマイトの「来い」という言葉に従うことが可能な唯一の現象――マナメタルによる緊急キズナワープを引き起こした。
「貴方に……貴方のために彼女たちを討ち果たします!!」
吊り橋効果という言葉がある。
高所のつり橋に立つと恐怖で鼓動が速くなりそれを恋慕による興奮だと脳が錯覚する、錯誤帰属とも呼ばれる心理現象。
九堂りんねに起きた現象は、いわばその究極系。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
緊急キズナワープができたということは、ダークマイトと九堂りんねは深い絆で結ばれている。
九堂りんねの脳はそう認識した。
九堂りんねの心はその矛盾に耐え切れず、壊れた。
陶酔したかのような叫びに尻餅をついたままのダークマイトだけが笑顔を浮かべる。マジアベーゼの力で失われた顔はオールマイトの表情に戻りつつあった。
加速して飛び掛かるジャッカルレリーフのアメンを前に令呪で本領を取り戻した――否、狂気によりリミッターが外れてしまった九堂りんねは顎にめがけて殴りかかる。
パンチ力7.9tを誇るマジェードの拳が風を切る。亀井美嘉や黒見セリカを前にした時よりも遥かにキレが増していた。
19
:
空と虚② 柊うてなという敵(おんな)
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:49:45 ID:C9nx7xck0
「危なっ!!」
紙一重で躱す。ユメが見切れたわけではなく幸運としか言いようがない攻防だった。
だが回避のために大きく姿勢を崩したユメは、がら空きになった脇腹への攻撃に対応できない。
ミシミシと響いた音が、ユメの脇腹から響いたのかりんねの右足から出たのかはもはや知る由もない。
内臓まで響く衝撃と共にユメの体はボールのように蹴り上げられた。
「がっ……!!」
横隔膜を揺らす衝撃にユメの肺が全ての息を吐きだした。キヴォトス人の頑健な肉体だろうとアメンの装甲がなければ呼吸さえままならなかっただろうと嫌な想像を浮かべてしまう。
落下地点にサナギムがいなければユメは戦闘不能だっただろう。代わりに2匹のサナギムはぐじゃりと嫌な音を立てて土塊に還った。
残るサナギムたちは顔を見合わせたが、こいつらは元々宇蟲王ギラの配下だったサナギムだ。逃亡と言う選択肢はない。
「「「ガイ・ガイ・チュー‼」」」
「あははははははははは!!!!!」
仲間の仇だとサナギムたちは果敢に攻めるも、高笑いとともに振り下ろされるマジェードの拳に一匹また一匹と土に還る。
その姿に戦いを拒むような様子は残っていなかった。
ダークマイトに『命れい』され、絆を結び、隷属する。
ダークマイトがそうであるように、九堂りんねは殺し合いに乗った。
その姿がどういう意味をもつか、ダークマイトを除いて唯一その罪の重さを知るシノンが。最初に気づいてしまった。
「駄目……駄目よ!その一線を越えてしまったら。
自分を壊してでも戦おうとする今の貴女が、心から殺し合いを望んでしまったら!
・・・・・・・・・・・
貴方を、殺さなきゃ止められないじゃないの!」
「止める必要なんてない。
ダークマイト様の作る平和のため、死ぬのは貴方達敵(ヴィラン)!」
九堂りんねなら死んでも言わないだろう台詞だ。
姿は同じ仮面ライダーマジェードのはずなのに、そこには一ノ瀬宝太郎らが知る太陽のような輝きも一角獣のような純白さも残っていなかった。
ダークマイトは満足げにその様子を眺めていたが、りんねの足がシノンに向かう様子に怒鳴り声をあげた。
ダークマイトにとってシノンや他の人間は脅威ではない。『敵(ヴィラン)』ならぬ彼の『敵』はこの場に一人しかいない。
「違うりんね!そんなやつらはどうでもいい!
あの蜘蛛女だ!あいつを殺すんだ!!!」
「はい、ダークマイト様。」
「もはや平和の象徴とのたまうメッキさえ剥がれましたか!
その程度の心づもりで正義の使者を名乗ろうなどと!
本当に……本当に心底頭に来ますね!!!ダークマイト!!!」
シノンに向いていた姿勢をぐるりと不気味にねじり仮面ライダーマジェードが動く。一歩進むたびに焼け焦げ
ダークマイトを完全に無力化させるために空中を猛スピードで突っ切っていたマジアベーゼだったが、狂気に呑まれ全力を超えた今の仮面ライダーマジェードのほうが速かった。
「マリスネスト!」
夜蜘蛛の帳は継続中だ。
真化状態の魔法少女さえ封じられる蜘蛛の糸。
ダークマイトの攻撃だって防いで見せた糸で九堂りんね動きを縛ろうとしたが。
『アルケミスリンク!』
「ウィザードマルガムの魔法みたいなものよね。
私にそんなものは、効かない!」
りんねがドライバーを動かすと絡みつく糸が力なくほどけて、黒い粒子となって消え去った。
この九堂りんねは一ノ瀬宝太郎や黒鋼スパナと同じ世界の住人ではない。
オロチマルガムの出現時にガッチャ―ドデイブレイクが現れず破滅した世界線の九堂りんね。
だが、浮世英寿たちと出会いウィザードマルガムと戦ったのは分岐点より前のことだ。
だから九堂りんねは知っていた。
ザ・サンには無尽蔵のエネルギーが。
ユニコンには浄化の力がそれぞれ宿る。
両者が混ぜ合わされば――ウィザードマルガムの悪夢の魔法さえ浄化できる。
――マジアベーゼの魔法だって浄化できても不思議ではない。
マジアベーゼは、ダークマイトの天敵である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして仮面ライダーマジェードは、マジアベーゼの天敵だった。
蜘蛛糸による盾を失ったマジアベーゼの首が締め上げられる。
マジェードの握力に潰された気管が必死に酸素を取り込もうと足掻くが、マジアベーゼの体は急速に力を失っていく。
真化が維持できない。通常形態に戻ったマジアベーゼの体が更なる苦痛で潰れたカエルのように泡を吹き、必死に意識を保たせようと足掻く。
マジアベーゼ耳に高笑いが響く。耳障りな声を上げるような人物はここには一人しかいない。
20
:
空と虚② 柊うてなという敵(おんな)
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:50:45 ID:C9nx7xck0
「よくやったぞりんね!流石私のヒロインだ!!
そしてマジアベーゼ!象徴たる私に対する狼藉を償う方法は1つしかない!」
既にオールマイトの肉体は再構築されていた。
これ見よがしに立ち上がったダークマイトの顔はこれまでと同じ余裕を浮かべた薄ら笑いだが、その眼だけは一切笑っていない。
薄汚れた本性を映したかのように真っ黒に淀んだ瞳をマジアベーゼに向けて、ダークマイトは親指を立てて下に向けた。
その手は赤く光っていた。
「死だ。」
ダークマイトも令呪を起動する。赤い光に呼応するようにオールマイトの太さにまで膨らんでいた指輪の1つが不気味に赤く光る。
その指輪はダークマイトが元々持っていた錬金の触媒ではない。
ダークマイトとも九堂りんねとも異なる、エンヴィーの世界において用いられる錬金の秘術。
コーネロという男が用いた賢者の石――のまがいものだ。
だがその効果は3流以下のコーネロが1流の錬金術師たるエドワード・エルリックを相手どれる程度には、錬金術を増幅できる。
アンナ・シェルヴィーノの個性には及ばないにせよ、ダークマイトという一流の錬金使いにとっては十分な切り札だった。
ぐじゃりという音がマジアベーゼの内側から響いた。
アルケミスドライバーから金色の刃が伸びてマジアベーゼの胸を貫いている。
ドライバーの中で小さく何かが光る。ダークマイトがドライバーに仕込んでいたコインの欠片だった。
賢者の石と令呪の増幅を受けた今のダークマイトなら遠距離だろうと操作できる。
万が一りんねが自分に反旗を翻した際に”おしおき”として用意していたものだったが、思わぬところで役に立ったと満足げに顎を撫でた。
「りんねに首をへし折ってもらえると思ったかい?お前のような醜悪なヴィランは最後の最後まで苦しんで死ぬべきだ!」
「いつか……誰かが……私を倒す。そんなことは分かっていました。」
ダークマイトの言葉には耳を貸さず。マジアベーゼは口を開く。
喉が潰され肺に穴が開いている。酸素を無駄遣いしているかもしれないが喋らないと意識が消えて二度と目覚めなくなる。確信があった。
これほどの致命傷でもマジアベーゼの変身は解けていない、あと何秒持つのかはマジアベーゼ自身にも分からない。
それでも今の彼女は気弱でちょっとエッチな中学生柊うてなではなく、エノルミータ総帥マジアベーゼだ。
「でもそれは……今じゃないし……お前にじゃない……。
お前が倒した程度で……私は終わらない。」
命の灯火が尽きるこの時だろうと、マジアベーゼの矜持は変わらない。
口から血を垂らしながらニヤリと笑う。
未成熟な少女とは思えない存在感を前に、ダークマイトの背筋がぞわりと冷えた。
(なんだ今のは……恐怖?
この象徴が!死にかけのヴィラン、それもあんな小娘に……恐怖したのか!?)
「ありえない!オールマイトならお前のようなヴィランの減らず口に足を止めたりしない!
もう目障りだ!りんね!殺せ!!」
「遅いですよダークマイト!
令呪を使えるのは……なにも貴方達だけじゃない。」
腕を掲げる。マジアベーゼの令呪が眩く光り、マジアベーゼのを貫く黄金の刃がグネグネと形を変え無数の針のように尖った。
りんねの腕に、足に、肩に突き刺さりる針に苦悶の声を上げる。
思わず手を離したりんねの眼前で、飛翔できないほどに弱ったマジアベーゼがアルケミスドライバーから引きはがされた黄金の塊を引き連れ力なく落下した。
マジェードの浄化能力に魔物としての性質はすぐさま失われるも、マリスネストと違いダークマイトの金貨が媒体となったものだ。
スライムのように散らばった黄金がりんねの体にへばりつき動きを止める。
重力に従い離れていくマジアベーゼに手を伸ばすも、誰かに背中から引き留められるようにりんねの腕は前に進まない。
「しまっ……」
「ベーゼ!!」
落下するマジアベーゼに向けてセリカが駆けだす。
仮面ライダーバルカン シューティングウルフ。走力 100mを2.9秒。
制限でその走力はフルに出せているとはいいがたい。それでも今のセリカの速度はその上限に肉薄していた。
地面に激突する寸前にスライディングのように姿勢を傾け受け止める。マジアベーゼの魔力を受けた黄金の塊がクッションのように指に馴染み取りこぼすことはなかった。
21
:
空と虚② 柊うてなという敵(おんな)
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:51:20 ID:C9nx7xck0
「あぶ……」
一息つこうと言いかけた口が受け止めた少女の姿を前に閉じた。
わずかなニプレスだけで隠された胸元には深々と金色の刃が刺さったままだ。
マジアベーゼの魔力を受けたからか、刃は分厚いゴムのように曲がりマジアベーゼの傷を塞いでいた。
とはいえ重症なことは明らかで隙間から赤い液体が滴り落ちている、消えかけた炎のように弱弱しい姿からは鉄の匂いがした。
その状態でもマジアベーゼが”マジアベーゼ”でいられるのは令呪の恩恵だろうか。
「こんな姿で……アンタ、どうして……」
答えられないことなど分かっていても、セリカには問わずにはいられなかった。
セリカやユメにはアビドスを守るという理由がある。ダークマイトとの共存はもはや彼女たちには不可能だ。
だがマジアベーゼが――柊うてなが戦う理由は何なのだろうか。
ユメへの同情だけでここまで戦ってくれるのか。尽きるような命で恨み言一つ言わないのか?
「なにがアンタをそうさせるの……」
マジアベーゼは答えない。
ただ変わらず薄い息を吐き、取り込めない酸素を取り込もうと静かに足掻いている。
「返してもらおうか!!
その女は万死に値する!!」
もはやオールマイトの演技さえ崩れ去っていた。それほどまでにマジアベーゼはダークマイトの絶対性を揺るがす存在だった。
令呪は未だ継続している。ダークマイトがコインを投げるとわらわらと錬金兵が生み出され、本来の性能を発揮した土気色の怪物が餌に群がる蟻のように寄り集まった。
「そのまま走って!!」
ユメが叫び、アメンバッグルを動かす。
『スカスカ!スカラベ!!』
『スカスカ!スカーレット・ランペイジ!』
丸みを帯びた装甲となったユメが作り出した火球が落ち、錬金兵が炎に包まれる。
その光景にダークマイトは忌々し気に顔を歪めた。冷汗が垂れていたが彼が気づく前にアメンの熱気で焼き消えていた。
「逃がすものか!!」
「逃がしてみせる!!」
『ROD・SYNBOL!!』『ファルファル ファルコン!!』『メジェメジェ メジェド!!』
巨大なシーツを被った奇怪な姿に変身したユメ。同時に空には無数の目玉がダークマイトと錬金兵を見下ろしていた。
アメンの専用武器 アンクシンボライザー。
装填されたファルコンメダルが錬金兵の居場所を捉え、神の名を冠するフォームとなったアメンがその全てを焼き払う。
『メジェメジェ メナス・ジ・エンド!!』
目玉から降り注ぐ光。既に炎でダメージを受けていた錬金兵が耐えられる道理はない。
1つ1つと音を立てて崩れ去る、錬金兵が消え去るたびにダークマイトへ向けられた光線へと光が束ねられる。
本来は特権魔法を持つ元上級騎士だろうと倒せる威力だが、支給品となった以上威力は制限されている。
全ての光を集約しても今のダークマイトは倒せないだろう。
「それでも、令呪が切れるまでは抑え込んでみせる……。」
稲妻が何度も落ちるような轟音の中でもその言葉ははっきりと聞こえた。
泣き言でも夢想でもない。何があっても抑え込んでやるという覇気に満ちた姿は、セリカの知る小鳥遊ホシノによく似ていた。
ともあれこれで数秒は時間を稼げる、セリカはふとシノン(あとついでに美嘉)のことを思い出した。彼女たちの気配がなぜだか消えていたことにようやく気付いた。
「シノン!あんたたちも……」
振り向きざまに声をかけるも、そこにシノンと美嘉の姿は無い。
・・・・・・
代わりに赤黒いゲートがぽつんと浮いている。誰によるものかは明白だ。
何の合図もなくいなくなったことに複雑な思いもなくはないが、手の中で消えそうになるマジアベーゼの呼吸に思考は一瞬にして切り替わる。
セリカは走った。
時間がなかった。マジアベーゼがマジアベーゼでいられる内でないと仮面ライダーバルカンの全力疾走には耐えられないことは、仮面ライダーにも魔法少女にも疎いセリカにも分かる。
「許さん……許さんぞ羂索!マジアベーゼ!!」
轟音が遠ざかっていく。梔子ユメの雄姿も見えない。
それでもダークマイトの言葉が耳にこびりついて離れなかった。
22
:
空と虚② 柊うてなという敵(おんな)
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:53:21 ID:C9nx7xck0
「逃げ足の速い奴らだ。だがそう遠くには行っていないはず。
急いで追いかけないとなぁ。」
令呪の効果が切れた。それはダークマイトのものでもあり、マジアベーゼのものでもある。
逃げる時間を稼ぎ切った梔子ユメはすぐさま両腕を翼に変えて飛び立った。追うのは容易いだろうが体勢を立て直されると面倒だ。
頭をぼりぼりとかくダークマイトの隣に、黄金に動きを防がれていたりんねが駆け寄る。
マジアベーゼほどではないにせよ装甲の傷は深い。既に仮面ライダーマジェードの姿を保てず錬金アカデミーの制服姿だ。
その眼には恋人を前にするような狂気的な光が瞬いていた。
「申し訳ありません。マジアベーゼを取り逃がしてしまい……」
「……。」
ダークマイトは寛大な男だ。少なくとも自分ではそう思っている。
失敗した部下だって一度はチャンスを与える。この場のダークマイトは経験していないことだが、配下のパウロが被検体に出し抜かれた時も一度は許した。
オールマイトの顔で、象徴としての余裕たっぷりに許した。
「そうだねりんね。君は失敗した。」
調教を受けた獣が鞭を持った人間に反応するように、りんねの体がびくりと震えた。
凪いだ水面のように穏やかな目が下水のように淀んでいた。
「ダークマイト……さま?」
「安心したまえ、俺は紳士だ。ヒロインに手をあげたりはしない。
だが、今の君ではだめだ。俺のヒロイン足りえない。
……なあ、りんね。世界を前に進めるためには何が必要だと思う?」
「……秩序と規則でしょうか?」
「破壊だよ。
新たなるステージに進むためには大いなる破壊が必要なんだ!
君がヒロインとして新たなステージに立つために、断腸の思いで俺は獅子の子を千尋の谷へ突き落とすとも!」
どこまでが本心なのかダークマイトにさえ分からない。頭の中に浮かんだ言葉をただ立て続けに吐き出していた。
分かることは、ダークマイトはりんねを許す気など全くないということ。
そしてこれからりんねが酷い目に合うということだけだった。
ダークマイトはりんねに向けて手を掲げ、唱える。
「こうだったねりんね。君の知る錬金術を聞いていて正解だった。
・・・・・・
……金色に染まれ!!」
「えっ……えっ……あ。」
言葉の意味を理解した時には手遅れだった。
ダークマイトの”個性”。『錬金』は触媒を用いて物質を想像する能力だ。
アンナ・シェルビーノの個性を受けた時のように、賢者の石を持つ今のダークマイトなら如何なる物質だって取り込める。
マルガムの触媒は、ケミーと人の悪意。りんねからその存在を知った今のダークマイトなら、作れてもおかしくはない。
ケミーならいる。仮面ライダーマジェードとしての相棒、ザ・サンとユニコンのカードがある。
悪意もある。ダークマイトと言う悪に文字通り絆された。あの瞬間確かにりんねは悪となった。
平気で人を傷つける、踏みにじる。ダークマイトと同じ類の悪に落ちた。
触媒はここに全て揃っている。錬金術師だろうとマルガムに堕ちる例は黒鋼スパナを初めいくらでもあるのだ。
23
:
空と虚② 柊うてなという敵(おんな)
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:54:17 ID:C9nx7xck0
「しまっ……いや……いや……」
何度も見てきた光景だ。グリオンがマルガムを生み出す時と同じ言葉だった。
何度も聞いた悲劇だ。グリオンとの戦いの中で仲間は次々と死んでいった。
ベルトの中からザ・サンとユニコンのカードが排出される。りんねの体から無数に伸びた黄金の触手が彼らを取り込み混ざり合う。
心をミキサーでかき混ぜられるような苦痛の中、九堂りんねは正気を取り戻す。
自分の行動を悔いる暇もないままに、心に入り込むケミーの悲鳴がりんねの精神を砕いた。
ザ・サンが哭いていた。ユニコンが哭いていた。
りんねも哭いた。
「いやあああああああああああああ!!!!」
「残念だよりんね。だがこれも試練だ!
おとぎ話のプリンセスが怪物となった王子を愛し人に戻したように!君なら怪物の姿を乗り越えて真のヒロインとなれるはずだ!」
黄金の渦が卵のようにりんねを閉じ込め。砕けて怪物を生んだ。
左腕は一角獣の頭のように剣と一体化し、右腕は焼け焦げたように黒ずんでいた。
全身の装甲はぐずぐずに溶けた銀を思わせる。胸から突き破ったマルガムの腕が仮面ライダーマジェードの仮面を握りつぶしていた。
その姿の正式な名はサンマルガムユニコーンミクスタス。
だがこの場においては別の名前が与えられた。
「さあ行くがいいりんね――いや、マジェードマルガムと名付けよう!
その醜き試練を乗り越え、真のヒロインとなるために!」
「うああ。」
角の折れた馬のようなマルガムの顔は拷問でもされているかのように右目と口がふさがってる。
馬は人の言葉を喋らない。ダークマイトの曲解したヒロイン像を形にしたような顔だった。
泣いた少女のような嘶きをダークマイトはイエスだと解釈し、ある一点を指さす。
赤黒いワープゲートがぽっかり浮かんでいた場所へと、ダークマイトの指示通り唸り声と共にマジェードマルガムは歩き出した。
24
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:56:09 ID:C9nx7xck0
◆
何かがはじけたような音に黒見セリカは足を止める。彼女が抱きかかえる少女はもはや悪の総帥などではなかった。
息も絶え絶えな柊うてなを前にとっさに物陰に隠れたが、ダークマイトから逃げきれたとはお世辞にも言えないし、その前に彼女の命が尽きるだろうことは明らかだった。
「どうして、私を運んできたんですか。
貴女だけならダークマイトから逃げられたはずです。」
掠れた声でうてなが尋ねる。胸の黄金はマジアベーゼの制御を失い溶け始めて、溢れた血がセリカの手を赤く染めた。
いつの間にか仮面ライダーバルカンの変身が解け、ぼたりという音と共にセリカが零した涙がうてなの顔に滴り落ちた。
「じゃああのままむざむざアンタが殺されるところを見てろっていうの!?」
「……いい人ですね。貴女。」
潤んだ赤い瞳がルビーのように煌めく。
綺麗な目をしていた。映り込んだうてなの青白い顔だけが邪魔だと思った。
死の間際にこんなことを思うとは随分余裕だと柊うてなは自嘲気味に笑う。漏れた声には血が混じっていた。
「セリカさん。貴女」
「喋らないで!貴女はもう……」
声を発するたびに胸から赤い泡が零れていた。
止めようとするセリカに、うてなは首を振ってはっきりと否定した。
「喋らせてください。
そうでないと意識が保てないんです。
……続けます。貴女は、ダークマイトを倒したいですか?」
「……倒したいに決まってるじゃない!!!
九堂りんねって人やアンタを酷い目に合わせて、あいつはへらへらと笑ってんのよ!それに……」
「それに?」
「あいつはアビドスを”悪”ってバカにして潰そうとしてる!
他の連中からしたら羂索のこともあってロクでもない場所かもしれないけどさ!私たちにとっては大事な学園なのよ!!」
ただでさえアビドスを悪だとして駆逐すると堂々宣言した男。その上九堂りんねに対する隷属ともいうべき所業を行ったことで堪忍袋の緒はとっくに切れていた。
セリカの心からの叫びを前に、それを待っていたと言いたげにうてなは嬉しそうに微笑んだ。
「ユメさんと同じことを言ってますね。」
血に濡れたポケットをごそごそと漁り、セリカの胸元に押し付けるようにうてなが何かを手渡した。
トランスアイテム。そう名付けられた道具にはわずかに血がついていた。
「これって……アンタが変身するために使ってたやつじゃない!」
「そのアイテムは私の所有物ですが、支給品です。
・・・・・・・・・・・・・・・・
支給品ならば私以外にも使えるはず。
私の力は奴とよく似ている。上手く使えば特効として働くはずです。」
「そんな……そんな大事なもの、貰えるわけ!」
「要らないなら捨ててくれても結構ですよ。
万が一にもダークマイトに回収されるくらいなら、貴女に使ってほしいだけです。」
――御刀や仮面ライダーへの変身アイテムのように本来なら一定の資格が必要な武具もある程度敷居を下げて配り。
羂索が言っていたことだ。事実AIとの適合を果たしていないセリカだって仮面ライダーバルカンに変身できる。
そうでなくてもイミタシオやパンタノペスカのように、他者のトランスアイテムを自分のものにして変身したケースは存在するのだ。
逆に言えばそれはダークマイトの手に渡れば――流石にダークマイトが変身できるとは思えないが――九堂りんねやその他の少女が望まぬ形で変身させられ使役される可能性だってあるということだ。
そう言われるとセリカも断るに断れない。
トランスアイテムを握りしめ、セリカはうてなの顔を見下ろした。
「なんで、アンタはそこまで……」
「ダークマイトの行動が私の矜持に反するから……ということにしておいてください。
元より私は正義のヒロインではないんです。
ダークマイトの言葉に則るなら、貴方達の中で私だけは敵(ヴィラン)。動く理由は自分のためです。」
黄金色の瞳は固い決意を秘めたように光る。
トランスアイテムで変身する姿、そこから垣間見える彼女の本質。それは誰に与えられるでもない彼女自身のものだ。
どこまでいっても柊うてなはマジアベーゼだ。悪の敵になることはあれ正義ではない。
ノワルに通じるところもある加虐的な性癖を除けばダークマイトなどよりもはるかに正当な生き方を選びながらも、彼女はそれを正義とは呼ばない。
「でも、貴女は違うでしょう?
ユメさんもですが……貴方達はアビドスのために動いている。
自分たちの居場所を守りたい。その『好き』が貴方達の源(オリジン)。そうですよね。」
己を正義と呼ばないからこそ。他人の正義を尊べる。
柊うてなという人間の本質を綺麗な言葉で形容するなら、そのようなものだ。
そんな少女の目が輝かしいものを見るようにまっすぐに見開かれていた。
25
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/20(日) 23:57:33 ID:C9nx7xck0
「……そうね。
そこだけは、誰にも譲れない。」
それがセリカにはむず痒く思えたし、同時に誇らしかった。
掠れた目を向けるうてなを建物にもたれ掛からせながら、黒見セリカは考える。
黒見セリカは正義の味方ではない。世界を破滅させる悪でもない。
どこにでもいる普通の学生だ。学校が天文学的な借金を抱えていたり銀行強盗の経験があったりするだけの、キヴォトス基準ではありふれた生徒である。
小鳥遊ホシノのような喪失もない。鬼方カヨコのような悪(アウトロー)としての自己もない。聖園ミカのような罰と後悔を背負うわけでもない。
緑谷出久や切島鋭児郎のような献身も、トレスマジアのような輝きも、キリトやアスナのような闘争も、仮面ライダーのような悲哀もない。
彼らに比べれば自分の悲劇など大したことないのだろう、彼らに比べれば自分の正義などちっぽけなものだろう。
それでも、大切なものを守るために闘うことは、彼女にもできるはずだ。
大通りから爆発するような音が響く。
ガラガラと何かが崩れ、乾いた空気に埃が舞い上がる。
ダークマイトが逃げていたユメに追いついたのだとすぐにわかった。ダークマイトにしてみれば最優先すべきは天敵たるマジアベーゼの確実な死の確認だからだ。
「逃がしはしないぞ羂索!マジアベーゼともどもダークマイト伝説の礎となるがいい!!」
「まだ……まだ戦える!!」
セリカが振り向いた先で満身創痍のアメンが気丈に立ち上がる。
セリカがどこかで聞いた人物像に比べて随分勇敢な人だ。彼女の――梔子ユメの戦う理由もきっと自分と同じだろう。
セリカの足は自然と戦場に向かっていた。
その右手にはエイムズショットライザーを構え。
左手には、血が出そうなほど強くトランスアイテムを握りしめて。
英雄と呼ぶにはちっぽけな正義を胸に大通りに姿を見せたセリカを前に、ダークマイトの陰湿な笑みが映る。
「セリカちゃん……」
「おやおやおやおや、君1人……ということはマジアベーゼは死んだか?
いや……路地裏に姿が見えるな。だがもはや寿命も秒読みといったところだろう!」
陰湿な笑みは目ざとく少女の姿を捉える。
黒見セリカと共にいる負傷者と言う時点でマジアベーゼであることは明白だ、認識阻害もその体を為していなかった。
「今一度言ってやろう!あの無様な姿が象徴に歯向かった末路だ!
そしてあれは君たちの未来の姿!平和の象徴たるこの俺にたてつくということは己が敵(ヴィラン)であるという証明!
正義の前に貴様らは潰されるべきなんだ!」
「象徴?平和?正義?敵(ヴィラン)?
そんなもの……知ったこっちゃないのよ!!」
「……なに?」
何度も何度も繰り返し言われたダークマイトの在り方。
その全てを一蹴するような言葉にこめかみがピクリと動く。
そしてそれはセリカも同じだった。
「アンタはアビドスの敵!私の敵!
私の大切な場所を、先輩を、仲間を傷つけた、馬鹿にした!
闘う理由なんてそれで十分なのよ!」
左手に握りしめたトランスアイテムを構え、黒見セリカは叫ぶ。
なりたい、変わりたい、自分の好きを守るために闘える。そんな自分になるための言葉を。
「トランスマジア!!」
太陽が輝く。ルビーのような瞳に黒い星が煌めいた。
借り物の力かもしれない。彼女自身の強さではないかもしれない。
それでもその姿は、その思いは。紛れもなく黒見セリカ自身のものだ。
マジアベーゼとはまるで違う姿は、黒見セリカの正義が投影したものだったのだろう。
アビドス校章の刻まれた黒いマントを羽織った少女の姿は肩と臍を大きく出した黒いパンキッシュなものだ、トリニティの謝肉祭で着たアイドル衣装に近かった。
黒い長手袋で包まれた右腕に握られていたエイムズショットライザーが光り、彼女の愛銃シンシアリティに酷似した青いラインの通った黒いアサルトライフルに変わる。
生まれ変わったような心地でセリカはダークマイトを睨みつけた、その両目にはマジアベーゼから受け継いだ力である証明のように黒い星が刻まれていた。
26
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:00:27 ID:3ZzeB0BY0
どこかダーティな雰囲気を醸し出しながらも新たな魔法少女の誕生にうてなの鼓動が跳ね上がる。
自分の力から彼女が生まれたことに感無量だった。
「――最後の最後で、いいものが見れました。」
未練はある。後悔もある。恐怖もある。
死にたくはなかった。どうして自分がとも思うし。正義のヒロインではなく悪に落ちた存在に殺されるのは受け入れがたい。
それでも柊うてなが最後に思ったことは、怨恨でも憎悪でもない。
「次は、貴女です。」
新たな魔法少女を指さし、満足げな表情のまま柊うてなは目を閉じた。
柊うてなは死んだ。
しかしマジアベーゼの星は、今もなお輝きを失ってはいない。
アビドスの若き太陽が輝く。
新たなヒロインの背中がそこにあった。
【柊うてな@魔法少女にあこがれて 死亡】
「まさか……まさか……そうなのか?
失念していた!そうだお前たちの変身は”個性”じゃない!!
支給品だからか!譲渡ができる!」
満足げな柊うてなとはうってかわって、ダークマイトは悍ましいものを見たと言いたげに顔を引きつらせた。
マジアベーゼのことがすっかりトラウマになったのだろう。
それ以上に彼女が最後に呟いた言葉が、ダークマイトの逆鱗に触れていた。
「こんな、こんなくだらない手で足掻くというのか、マジアベーゼ!!どこまでも薄汚いヴィラン風情が!!
しかも言うに事を欠いて「次は貴女です」だと!!!
オールマイトが俺に託した言葉をお前ごときが!穢すんじゃない!!」
「だからそんなもん知ったこっちゃないのよ。」
セリカはオールマイトを知らない。
仮に知っていたとしても、オールマイトが託した相手はダークマイトでないことなど誰の目にも明らかだろう。
こんな男の八つ当たりを真に受けるつもりは、もはやセリカにはない。
血管が千切れそうなくらい顔を歪めるダークマイトを意に返さず、セリカは青い何かを宙に投げ右腕のアサルトライフルで撃ちぬいた。
シューティングウルフプログライズキー。仮面ライダーバルカンの変身に用いられたアビリティデータは弾丸を受けその姿を変える。
青い狼だ。空色のマフラーを思わせる煙が首元から出ている以外は、仮面ライダーバルカンをそのまま四足獣にしたようなどこか機械的な獣だった。
「この力は……」
攻撃そのものは外れだが、ダークマイトの声がわずかに震えた。
物体の姿を変えるその能力、それはまさしくマジアベーゼが用いダークマイトに辛酸を舐めさせた力だからだ。
同じ支給品を使った変身である以上覚悟はしていたが、黒見セリカの持つ力はマジアベーゼのそれと類似している。
青い狼は一瞬ダークマイトを見ていたが、すぐに眼をそらしどこかに走り去っていく。
ユメには分からないが、セリカには何か狙いがあるのだろう。狼の姿が視界から消えたころに息を整えたダークマイトが口を開いた。
慇懃無礼な余裕を取り繕ってはいたが、言葉には敵意と害意が隠しきれてない。平和の象徴などという御大層なお題目を騙る男には、とてもじゃないが見えなかった。
「名を聞いておこう。新たな敵(ヴィラン)。
名無しの雑魚を潰すだけでは、この俺の気が収まらんからな!」
「……そうね。」
考え込むように首をひねるも、浮かぶ名前は1つだけだった。
誇らしげに眼を見開いたセリカの頭上で太陽が少女を照らす中、少女は名乗った。
「マジアアビドス。」
27
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:01:08 ID:3ZzeB0BY0
◆◇◆◇◆
冥黒ノノミの行動理念は『グリオンをこのゲームの勝者とする』ことである。これはアヤネも既に倒れたホシノも同様だ。
そのためならば彼女たち自身が誰かを殺す必要もないし、最善の選択であるなら逃げることも厭わない。
ダークマイトが九堂りんねを呼び寄せた後合流した少女たちに加わらなかったのも、彼女一人戦闘に加わってもリターンよりもリスクの方が大きいという理由だけだ。
同じように冷徹に打算的に、ノノミは美嘉を戦場から連れ戻した。
ワープゲートを潜り抜けると同時に美嘉は腕を掴んでいたプテラノドンマルガムの手を振りほどく。気が付いたときには美嘉もノノミも変身を解いていた。
美嘉はノノミほど冷静にはいられなかった。
マジアベーゼは致命傷を負った矢先に強引にワープゲートに引きずり込まれた、ダークマイトを倒すどころか九堂りんねが完全にダークマイトに堕ちた。
事態が悪化の一途を辿っていることなど美嘉にも分かる。ノノミが分からないはずはないのだ。
「なんで、なんで逃げたの!」
「マジアベーゼが敗北した時点で私がここに残る理由は無くなりました。
残るあなた方ではダークマイトに勝つのは難しい。九堂りんねが健在である今なら不可能と言っても過言ではないでしょう。」
不合格になった試験結果を突き付けるような無常さが言葉に含まれていた。
勝てなくなったから逃げた、本当にそれだけなのだろう。
ここからの逆転の可能性などノノミは微塵も信じていない。
なにせグリオンがそうした反逆や奇跡を信じていない。グリオンが信じていないことをノノミが信じることなど不可能だ。
「それでも逃げる必要は無いはずよ。
ダークマイトはノノミさんだって倒したいハズでしょ!
見えていない支給品や能力だってあったかもしれない。みんなで力を合わせれば……」
「貴女がそれを言いますか?この戦いで何一つ役に立ってない貴方が?
そういうセリフはまず全力を出してからいうべきものですよ。」
「それは……。」
「正直失望していますよ。シノンと手を組んだことは私にとってもプラスだったのでいいとして、まだしもこの期に及んで貴方は本気になっていない。
黒見セリカがそうだったようにダークマイトの九堂りんねに対する仕打ちに怒っていたのではないのですか?
なぜあなたはまだダークマイトを”キリト”として殺そうとしていないんですか?」
「でもそんなことをしたら、あの場にいる全員が……」
「死んだでしょうね。でもそれがどうしたというんですか?
殺さなきゃ殺されるのは貴方です。ここはそういう場所だと鬼龍院羅暁や藤乃代葉を見て学んだはずでしょう?
百歩譲ってあなたの言い分が正しいとしても、エンジェルマルガムの力なら雑魚だけでなく死者なら何でも蘇らせられます。
どれだけ時間が経ってると思うのですか。藤乃代葉を除いても死者は何人もいるはず。
有用な使い道はいくらでもあったでしょう。」
だんだんと嘲りが籠る言葉に、亀井美嘉は俯くしかない。
内容は酷く血生臭いものだったが、自分がノノミの期待に応えられなかったということだけは否が応でも理解させられた。
月蝕尽絶黒阿修羅を解放するにせよ、エンジェルマルガムの力をより強く使うにせよ、亀井美嘉が取れる手段はもっとあったはずなのだ。
黒崎一護。衛藤可奈美。ステイン。浅倉威。ザギ。勇者アレフ。
十分な戦闘力を持ち、既に死んだ参加者は少なくない。そのうち一人でも蘇生させれば戦況をかき乱すことだってできたはずなのだ。
そうでなくても藤乃代葉を蘇生するだけで戦力としては及第点だっただろう。
それをしなかったのは死者を冒涜することへの忌避か、戦場に立つには覚悟が不足していたか。
どちらにせよ美嘉はその力さえ十全には使いこなせない。
前線で身を削ったのは仮面ライダーやアメンに変身した少女達であり、ダークマイトを追い詰めたのはマジアベーゼだ。
ノノミが奸計を持って生み出した冥黒の魔女は殺傷力だけで言えばダークマイトさえ上回る。
同時に亀井美嘉と言う少女ははこの場で最も戦闘能力に乏しく、この場で最も戦闘に適さない精神を持っていた。
歌えません踊れませんでアイドルが務まらないように、亀井美嘉はノノミが求める役割を何1つ果たしていなかった。
亀井美嘉の精神が戦いに向いていないとはいえ、ノノミからしても予想をはるかに下回る結果である。
28
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:01:58 ID:3ZzeB0BY0
「何に揺らいでいるのですか?
ひょっとしてですが梔子ユメの言葉がそんなに気になりますか?」
「……そうかもしれません。」
――貴女はどうして、ずっとそんな泣きそうな顔をしているの?
梔子ユメは美嘉を見てそのように言っていた。
自分がどんな顔をしていたのか、美嘉は思い出せない。
キリトを殺したいと今でも思っている。そんな思考が自分の中にあることが怖くないことが怖かった。
――己の理性でも欲望でもないものに身を委ねるには覚悟が必要です。
マジアベーゼの言葉も美嘉は思い出していた。
理性でも欲望でもないナニカに身を委ねるということは、自分の体の主導権を放棄するということだ。
その結果マジアベーゼは暴走し、九堂りんねは悲劇の只中にいる。美嘉もそうなってしまうのだろうか。
どこか茫然とした顔の美嘉をノノミはわずかな怒りと共にじっとりと睨む。
絆されているのか、今になって怯えているのか。どちらにせよ美嘉の思考はノノミには知りようがない。
魔王グリオンの生み出した人形に共感も怯懦も存在しない。分からないものは分からないし美嘉に残る人間らしさに反吐が出そうだ。
「まあいいです。
貴女が無様でも成果が無いわけではない。」
「成果?そんなもの私は……」
目を見開いた美嘉にノノミははぁと深々とため息をついた。
「貴女の頑張りなど無関係です。余計なことなど考えなくていい。
グリオン様にとって有用な結果さえあればいい、今回ならそれは――」
「マジアベーゼ……よね?
貴女の目的はグリオンの敵を消すこと。
ダークマイトは当然としても、マジアベーゼだってあなたは死んでほしかった。彼女が致命傷を負った時点で貴女にとっては得。
ダークマイト相手がそうだったように、マジアベーゼはグリオンの天敵になりうる参加者だったから……そうでしょ?」
背後から投げかけられた言葉にノノミは勢いよく振り向いた。
未だ空中に残るワープゲートから姿を見せたシノンはダークマイトとの戦いとワープゲートをくぐったことで随分痛んでいたが、ノノミを見つめる鋭い目つきに揺らぎはない。
まだまだ戦う気なのだと、彼女はまだまだ戦えるのだと。その折れない闘志が美嘉にはとても眩しい。
「変身も解けているのに無茶をしますね。シノンさん。
可愛げがない女はモテませんよ。」
「私はセリカの味方になるって決めた。
セリカの先輩の体で好き勝手する連中を逃がすわけにはいかない。」
「ダークマイトから尻尾巻いて逃げただけのくせに強気ですねぇ。」
「何とでも言いなさい。
それより、はぐらかすってことは私の考えはあながち間違っていないって事でいいのよね。」
「……ゲーム脳の小娘が。」
ニタニタと笑みを浮かべるノノミだが、その眼は笑っていなかった。
シノンの推論は正しい。ノノミにとってグリオンの脅威になりうる参加者はダークマイトとマジアベーゼだ。
ノノミの目的は両者がこの場で脱落すること。
痛み分けになった場合は美嘉を”起動”し周囲の有象無象ごと皆殺しにする、そのチャンスをずっと伺っていたが問題が発生した。
マジアベーゼと仮面ライダーマジェードは相性が悪すぎた。マジェードの妨害もあってダークマイトの消耗は中程度のダメージと令呪1画。
せめてもう一画程度は令呪を削りたかったというのがノノミの本音だ。
「ゲーム脳はどっちよ。
私も、セリカも、ユメも、うてなも、美嘉も。全部使い潰す気だったくせに。」
「あら、バレてました?」
シノンは自分の中にあった違和感の正体にようやく気付く。
ノノミは参加者たちのことを駒としか見ていない。
運営側でもないというのに、まるでシミュレーションゲームのように世界を見ている。
一度はそれで成功した。鬼龍院羅暁やセレブロを出し抜き亀井美嘉を怪物にして手勢に加えた。
二度はそれで失敗した。仮面ライダーマジェードというユニットの性能を誤解して痛み分けにすべきところを一方的な消耗で終わらせた。
そして彼女は、次どうすればいいか考えている。
攻略サイトを確認するようにどのユニットをどう使いどう潰しどう勝つかを。考えている。
シノンはあえて強烈な言葉を選んだ。自分の中で言葉を明確化したかったこともあったし、そうでもしないと亀井美嘉には伝わらないと思ったからだ。
ちらりと美嘉の顔を見た。慌てたり怯えたりしているだろうと思っていた美嘉の顔は、哀し気にノノミを見つめていた。
29
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:04:19 ID:3ZzeB0BY0
「私はグリオン様と言うプレイヤーを勝たせるための存在。あの方が勝つためなら外法も策略もなんでもしますよ。
ホシノはともかく私もアヤネもその一点は譲れません。」
――そう、なんでもね。
ノノミの言葉と同時にぶうんという音とともにワープゲートに影が映りこむ。
美嘉とノノミが逃げ、シノンが潜ったワープゲートは未だに残っている。
なぜか、ノノミが消していないからだ。
なぜか、その女が出てくる可能性を、のノノミがずっと待っていたからだ。
出てきた者は仮面ライダーマジェードに似ているようでまるで別物だ。
馬のような頭に異形の腕。黄金色の包帯のようなものが集まったマルガムの素体の上に、仮面ライダーマジェードの姿をなぞるように溶けた銀色の鎧が構成されていた。
マルガムに変身できる美嘉から見てもなお歪だ。このような存在に変身する者の心当たりは1つしかない。
「ウァァァ!!」
怪物が馬の嘶きのように雄たけびを上げた。女の声だった。
「これは……」
「まさか九堂りんね!?」
「……ダークマイトめ、マルガム化する技術まで持っているとは。
ですがこれでいい……ダークマイトの性格ならやつはマジアベーゼの方に向かうハズ。
賭けではありましたが順調です、これで『ザ・サン』と『ユニコン』のケミーカードも私達が回収できる。
あとはシノンを殺せば……」
あっけにとられる女たちを前に、ノノミはぶつぶつと呟き美嘉に向けて手をかざす。
シノンはノノミが思ったより頭がいい、既に彼女の中にシノンを生かす選択肢は消えていた。
美嘉を暴走させることが出来るかは不明だが、ノノミの錬金術なら中に宿った力を強引に引き出すことが出来る。
美嘉の意思などどうでもいい。すべてはグリオンのためだ。ノノミは唱えた。
「暗黒に染ま……」
「させない。」
ノノミが言い切る前に、乾いた銃声が砂漠に響いた。
全員がそちらを見た。美嘉もシノンもりんねもノノミも、誰も引き金など引いていない。
犬のような耳を生やした学生服の少女が白い銃を構えてこちらに走りこんでいる。砂漠だというのにマフラーをつけていた。
人間ではないことが一目でわかる。
少女の体は機械が混ざったかのように白と青のラインが走っている。レジスターも存在せず参加者ではないようだ。
「なんで……なんであなたがここにいるんですか。」
心当たりのない少女たちの中で、唯一その顔をしるノノミの顔が青ざめた。
アビドス高校の記憶を持つ冥黒ノノミは、アビドス高校に所属しながらもこの場で一度も語られなかった少女の名を知っている。
・・・・・
「砂狼シロコ!!」
「正確には違う。分かるでしょ貴女なら。」
シロコと呼ばれた少女がノノミと肉薄する。姿勢をかがめて走る姿は四足の獣のようだ。
本来のシロコと変わらぬ速さでノノミの懐にもぐりこみ、パンパンパンと3度乾いた音を響かせた。
2度は九堂りんねに向けてだ。正気を失い動き出そうとした怪物は足元に気を取られ姿勢を崩した。
残る一発を引く前にシロコはくるりと状態を動かし、ノノミの脳にめがけて引き金を引いた。
「信頼の銃弾(ムニツィオーネ・シンシアリティ)」
ぱぁんと頭に華が咲く。ノノミの額から黒い何かがぽたぽたと零れだし、ノノミは意識を失い倒れこんだ。
「ノノミ!!」
「ん、これでよし。」
慌てて駆け寄る美嘉をシロコは静止し、米俵でも担ぐように右手でノノミを担ぐ。
困惑する美嘉の目の前でノノミの額の傷が急速に塞がっていく。
「え?え?」と状況の呑み込めない美嘉の前で、シロコはマジェードマルガムを指さした。起き上がろうともがいている。
「彼女は貴女たちに任せる。」
「任せるって……貴女は誰よ?」
「なんて名乗ればいいのかな。
砂狼シロコでも仮面ライダーバルカンでも好きに呼んで。」
仮面ライダーバルカンと言う名前は知っている。黒見セリカが変身していたライダーだ。
仮面ライダーではないだろうと言いたかったが、青と白の色合いは確かにバルカンによく似ていた。
30
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:05:08 ID:3ZzeB0BY0
「貴女、参加者じゃないのよね。
造ったのはマジアベーゼ?それともダークマイト?
グリオンさん……じゃないわよね。」
「全部違う。私をつくったのは黒見セリカ。
マジアベーゼと同じ力で造ったものだと思っていい。」
マジアベーゼは魔物を作り出せる。
この場にいる砂狼シロコはそういう存在だった、媒体はシューティングウルフプログライズキーだ。
どういう経緯か黒見セリカが作り出した存在がグリオンと同じアビドス高校対策委員会の贋作とは、何とも因果だ。
「セリカが……。」
「マジアベーゼと同じ力……。
ということは」
「ん、九堂りんねとは相性最悪。
居ても足を引っ張るだけだし、すぐにセリカのところに戻りたい。」
戦況を分析しシロコは答えた。そういう話ではないと美嘉は首を振る。
「そういう意味じゃない、セリカちゃんがマジアベーゼの力を受け継いだということは」
「……そこから先は分かるでしょう。
マジアベーゼは死んだか、そうでなくても戦闘不能です。
そもそもあの重症、次の放送まで10分もありませんが生きて迎えることはないでしょう。」
口を開いたのはシロコに担がれたノノミだった。その様子に美嘉とシノンは顔を見合わせた。
ノノミが目覚めたことも驚きだが、その雰囲気がまるっきり違う。
しおらし気な言葉からは普段の悪意と嘲笑は感じられない。心からマジアベーゼの喪失を悲しんでいるように見えた。
まるで顔はそのままに中身が別物に造り替わったような違和感だったが、不快感はまるでない。
むしろあるべき場所に収まったような感覚さえあった。
ノノミの顔をした誰かが手を掲げると、ワープゲートが音を立てて開く。
マルガムにもなっていないのになぜそんな真似ができるのかという疑問は、もはやわかなかった。
ノノミを担いだままシロコはゲートをくぐる。ノノミはマジェードマルガムを一瞥したのち、シノンと美嘉の顔を見た。
どこか悲し気に、それでいて力強い眼が綺麗だと思った。
「3分……いえ、150秒だけ、耐えてください。
そうすれば、彼女を救えるチャンスがやってきますから。」
どういうことだと尋ねるより早くゲートが閉じ、砂漠の乾いた空だけが残る。
視線の先でマジェードマルガムが立ち上がり、唸り声をあげて美嘉とシノンを睨んだ。戦闘は避けられない。
「何だったのでしょう……。」
「そうね、終わった後にセリカに聞くしかないでしょうね。」
砂狼シロコの乱入、ノノミの変質。
分からないことがあまりに多い。それは美嘉もシノンも同じだった。
どんな疑問も思考も、九堂りんねのなれ果てを超えければ答えには届かない。
「での1つだけ分かることがあるわ。
あれは多分、十六夜ノノミよ。」
カリスラウザーを装着しながら、シノンは確信を持ったように言った。
変質したノノミ、否、本来の姿を取り戻したノノミの姿をシノンは見たことがあった。
セリカから聞いた話と、そして一瞬だけ見えた錯覚と、その雰囲気は確かに一致していた。
「なら、150秒耐えるという話は信用できますか?」
「……彼女を助ける方法なら、私にも1つあてがあるわ。
でもたぶん、そのままやっても成功率は低いと思う。
ノノミには何か考えがあるという事なら、試す価値はある。」
ならやりましょう。美嘉は頷いた。
痛々しい唸り声をあげるマジェードマルガムを救う手立てがあるのなら、殺さず住む手立てがあるのなら。手を伸ばしたいと2人とも思っていた。
◆
31
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:06:02 ID:3ZzeB0BY0
(何が起きたんでしょうか。)
底の見えないような暗い精神の中、冥黒ノノミの意識は明瞭だった。
砂狼シロコの姿をした何者かに銃弾を撃ち込まれたと思えば、ノノミの意識は強引に奥底に引きずり込まれた。
しかし誰かがしゃべっている。自分の中で自分ではない何かが喋っている。
(推測は出来ますがね。全く面倒な置き土産を残してくれて。)
マジアベーゼと同じ力を得た黒見セリカが生み出した砂狼シロコ。その銃弾を受けてから異変が起きたのだ。
ということはマジアベーゼと同じ力がノノミに作用していると見るべきか。素体となったのはノノミ――ではない。
(グリオン様が私を生み出した時の十六夜ノノミのガトリング――リトルマシンガンⅤ。加えてワープテラのケミーカード。
そこから生まれた魔物であれば、人格としては十六夜ノノミに近しくなる。マルガム化せずとも転移だって使える。
つまり黒見セリカの狙いは、私をベースにした十六夜ノノミの再構築!あの雑魚の小娘にしてはよく考えましたね。)
マジアベーゼの支配の鞭(フルスタ・ドミネイト)の効果は広い。
タコのような意志ある生き物だって操れる。マジアアズールのフィギュアのように人間的なものとして生みだせばそいつは喋る。
黒見セリカ――マジアアビドスに同じことが出来ない理屈は存在しない。
ノノミの武器から生まれた冥黒ノノミであれば、ノノミの武器ベースにした魔物と言う形で彼女たちの味方にできるだろう。
だが、それがどうした。
(他の有象無象ならともかく、私を生み出したのはグリオン様です!
魔物化による再構築で支配の上書き?ダークマイトやマジアベーゼなら可能かもしれませんね。
ですが貴女には不可能です!黒見セリカ!錬金術も魔法も使えぬズブの素人にそんな大それた真似ができますか!
最悪のタイミングでダークマイトともども皆殺しにしてあげますよ!)
勝利を確信しほくそ笑むノノミ。
心の中でくすぶっている中、砂狼シロコがワープゲートを潜り抜け視界が開ける。
ダークマイトとアメンが対峙する砂漠都市。少し背後には黒い軍服ともパンクファッションとも取れる衣装に身を包んだ魔法少女の姿がある。
それが黒見セリカだと理解するのに数秒の逡巡が要した。魔法少女特有の認識阻害が原因だ。
「増援かな。見ない顔だが、その太陽のようなシンボルをつけているということはアビドスの子かな?」
「もしかして、さっきの青い狼の子?」
空中に姿を見せたシロコとノノミを怪訝そうに眺める。アビドスの校章をつけている時点でダークマイトの味方ではない。
ユメが口にした通り、シューティングウルフプログライズキーを撃ったことで生まれた狼が、ヘイローもレジスターも持たぬ砂狼シロコの正体だ。
その帰還を待っていたセリカが叫ぶ。
「シロコ先輩!ノノミ先輩は……」
「回収はした。
・・・・
でもダメ。数分したらグリオンのものに戻る。」
「……そう。」
(……気づいていたか。)
冥黒ノノミが舌打ちをする先で、一瞬だけ落胆したようにセリカの瞳が曇る。
ダークマイトはその隙を見逃さない。
コインを三枚取り出し弾いた。巨大な黄金の円盤状に変形したコインが丸鋸のように弧を描いてセリカに向かう。
「増援かと思って焦ったが、要はマジアベーゼのように配下を生み出している能力!
つまり君を叩き潰せば青白猫も翼竜のヴィランも消えるということだ!」
「させない!!」
『ファラファラ ファラオ!!』
レリーフグリフバッジを付け替え、王の棺を思わせる荘厳な姿へとアメンは変わる。
壁や電柱を足場とし宙を飛び交い、ファラオレリーフの拳で円盤を一枚叩き砕く。返す刀でセリカの右側から迫る円盤を踵落としの要領で蹴り砕いた。
それでもまだ1つ円盤は残っている。発光し高速で回転しながらもセリカの右側から命を奪おうと迫ってきた。
32
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:07:17 ID:3ZzeB0BY0
(あっけないですね。)
ノノミの胸の奥でグリオンに悪意人形は退屈そうに勝敗を見届けていた。
梔子ユメでは届かない。黒見セリカでは避けられない。砂狼シロコでは間に合わない。
ダークマイトの言う通り黒見セリカが死ねば砂狼シロコもプログライズキーに戻るし、ノノミの体を操る支配も溶ける。
どう転んでも冥黒ノノミには益がある結果だ。
『そう思ってるんでしょう?ノノミ。』
(え?)
余裕ぶった笑みを浮かべていたノノミの脳内に言葉が響いた。
それが表に出ているリトルマシンガンⅤをベースにした仮想人格の言葉と気づいたときには。
――ノノミの腹に、ダークマイトが撃ちだした円盤が刺さっていた。
ごぼりと音を立て口からタールのような黒い何かが零れる。致命的な損傷に冥黒ノノミの視界がちかちかと揺れた。
「君が庇うか。だがどちらでもいい!これで一体!」
(庇う?ダークマイトは何を言っている??)
状況を飲み込む間もなく、ダークマイトが指を鳴らすと円盤が巨大な掌に変形しノノミを握りつぶす。
土が崩れるような音と共にノノミの全身からさらに黒いものが零れる。
ホシノがデクにやられた時と同じく、全身がズタズタだ。
(何が何が何が何が何が何が何が!!)
理解せねば。理解せねば。理解せねば!
バグを起こした機械のように砂嵐に包まれた思考をノノミは引きずりだす。
十六夜ノノミの視界が映る。振り返ると目の前には黒見セリカの姿があった。
黒見セリカは泣いていた。黒い星を宿した赤い瞳からぼろぼろと無様に涙を流して。
ノノミ好みの悲痛な顔なのになぜだか嗤う気も嘲る気も起きなかった。代わりに理解したのは状況だ。
(そうかこいつ……ワープゲートで黒見セリカを庇ったのか!)
梔子ユメでは届かない。黒見セリカでは避けられない。砂狼シロコでは間に合わない。
十六夜ノノミなら、間に合う、届く。
だがどうしてだ、避けられたはずだ。
ワープゲートが間に合ったのなら自分で転移する必要などない、ダークマイトの攻撃だけをどこかで飛ばせばいいのだ。
(そんなことさえ考えられないほど十六夜ノノミとは馬鹿な女なのか?)
『そんなわけないでしょう。
私も貴方も、ここで死ぬべきです。』
再び脳内に言葉が響く。今度ははっきりと聞こえた。
十六夜ノノミの声だった。
(何を言っている……?)
『ものの数分。そうでなくともセリカちゃんが変身を解けばあなたはグリオンの配下に逆戻りです。
この場にはセリカちゃんもユメ先輩も、本物のホシノ先輩もいる!二度とお前に彼女たちの邪魔はさせません。
ホシノが死んだように、貴女だって死ねば終わりでしょ!』
(お前……そのためにわざわざ……)
朗らかなはずの少女の死刑宣告のような言葉に、冥黒ノノミは青ざめた。
冥黒ノノミが内側で錯乱しそうになりながらも、表に出ているノノミの意識はそっと黒見セリカの頬を撫でた。
「セリカちゃん。ごめんなさい。
後輩に嫌な役を押し付けちゃいますが。」
「ノノミ……先輩!」
「グリオンが生み出したノノミは、セリカちゃんの目的を自分の支配だと思っていますが。違うんでしょう?
セリカちゃんは取り返したかった。グリオンが生み出した素体――十六夜ノノミが使った武器を。」
「そうよ……。そうじゃなきゃ、またノノミ先輩が悪いことに使われる!」
(当たり前だ!お前たちはグリオン様に使われるべき存在だ!!!
十六夜ノノミ 奥空アヤネ 黒見セリカ
リトルマシンガンⅤも!コモンセンスも!シンシアリティも!あの方が利用してこそ意味が…………)
悲鳴のような冥黒ノノミの叫びは誰にも届かない。
グリオンに歪まされた悪意の入る余地のないのだと、ノノミはいつも通りににっこりと微笑んだ。
偽者なことは分かっている。
グリオンの支配下にないにせよノノミの武器から生まれた人造人間だ。仮に人格があったとしてもそれは黒見セリカの知る十六夜ノノミではない。
それでもその笑顔は、対策委員会の部室でセリカが見てきたものとおんなじだった。
「私はここで死にます。そうすればグリオンの手駒は一つ減る。
わ た し
リトルマシンガンⅤもワープテラもそれを望んでます。きっと十六夜ノノミだって。
だから――泣かないでください。」
「うん……うん!」
ぐしゃぐしゃになった顔を必死に拭い、黒見セリカは――マジアアビドスは前を向く。
泣くべきはきっと、今じゃないから。
33
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:08:21 ID:3ZzeB0BY0
「頑張ってくださいね。セリカちゃんも、ユメ先輩も。」
(嫌だ!いやだ!!こんな終わりは嫌だ!
グリオン様の期待に応えられていない!悪意を振りまくことだってできていない!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
誰かを守って死ぬなんて。そんな終わりは嫌だ!)
ノノミの顔は駄々をこねる子供のように歪み、それでも誰にも届かない。
自分の理性でも欲望でもない者が動かした体の末路は、破滅しかない。
暴走したマジアベーゼのように。
尊厳を失った九堂りんねのように。
ただし、元から破綻していた悪意人形の場合は、その破滅が正しき誰かを救うかもしれない。
「貴方達なら、勝てますよ。」
(グリオンさまああああああああああああああああああああああああああああ!!!!)
贋りのまま、真実(ほんとう)の言葉を告げ。
その言葉を最後に巨大な腕がノノミの体を握りつぶした。
デクに倒されたホシノ同様ノノミの体は砂のように崩れ、ひしゃげて使い物にならなくなったリトルマシンガンⅤがガラクタのように音を立てて落ちた。
セリカはリトルマシンガンVとひらひら落ちてきたワープテラのカードを拾い上げる。さっきまで誰かがそこにいたかのようにあたたかかった。
「ごめんなさい……。ノノミ先輩。」
偽物とわかっていても。辛いものは辛い。
泣きたかった。怒りたかった。
グリオンが生み出した偽物だろうと敬愛する先輩が目の前で潰されたのだ。
平時ならば一昼夜泣きじゃくっていたかもしれないが、ダークマイトの目の前という死地では一秒だってそんな余裕は無いのだ。
「ようやく一体か!手こずらせてくれる。
だがあの厄介なワープは消えた!君たちに逃げることは出来ないよ!!」
「……逃げる?」
再びコインを手に取る、今度は黄金の拳のような形状が5つ。
いずれも必殺の威力を誇るだろうが、今のセリカには意味がない。
「逃げるわけないでしょうが!!2人とも!」
「はぁあ!!!」
「ん、いける!」
拳の1つは梔子ユメが、拳の1つは砂狼シロコがそれぞれ正面からはたき落とす。
青白いラインのシンシアリティを構える。エイムズショットライザーが変化した銃口が青白く光る。
「信頼の銃弾(ムニツィオーネ・シンシアリティ)」
マジアベーゼの支配の鞭(フルスタ・ドミネイト)と同じ法則で名付けた銃弾が3発、正面から弧を描きぶつかった。
威力でいえばダークマイトの足元にも及ばない弾丸を受け拳が光ると、勢いを失い地面に落ちた。
落下したコインがむずむずと動き出したかと思うと、黄金色の瞳をした3人の少女の姿に変わる。
うち一人は先ほど殺したノノミと言う少女にそっくりだ。残り2人もアビドス高校の校章をつけていた。
アビドス高校の人間がモデルだと、他者に興味のないダークマイトでも辿り着く。
「そうか、お前の力はマジアベーゼのような魔物化じゃない。人間だ!
物体を人間に作り替える力か!」
「正確には少し違う。そんなグリオンみたいな真似できないしやる気もないわ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アビドスのみんなに力を貸してもらう能力よ。」
「……くだらない力だ!個の強さこそ象徴の証!!
仲間だの友達だの居場所だのくだらないものを崇めるヴィランに相応しいちっぽけな”個性”――いや、個性ですらない借り物の能力か!」
「何とでも言いなさい!
吠え面かかせてやるわよ!ダークマイト!!」
背の低い少女、眼鏡をかけた少女、そしてノノミと呼ばれた豊満な少女。
何の合図も無しに3人が同時に銃口を向け引き金を引いた。
この銃も魔物化――擬人化と同時に生成された者。
キヴォトス人にとって銃は当たり前に存在する、眼鏡や服装と同じように自然と思い描くものだ。
擬人化すれば銃だって出来上がる。
「「「信頼の銃弾(ムニツィオーネ・シンシアリティ)」」」
黄金から生まれた三人の少女が同時に宣言し、弾幕を撃ちだす。
威力は見た目通りの銃弾だ、錬金でできたオールマイトボディを持つダークマイトにとって避けるまでもない攻撃だが。
銃弾が撃たれるたびにダークマイトにとって奇妙な感覚が走る。
とっさに足を後ろに下げて気づいた、体が軽い。
「なんだ……体が軽く?」
「後輩が頑張ってるってのに、私だけじっとはしてられないでしょ!」
ダークマイトの思考が定まるより速くm梔子ユメの足が顔面を蹴り飛ばした。
顔まで錬金ボディのダークマイトならさしたるダメージも無いはずだが、ファラオレリーフの蹴りによる衝撃が波となってダークマイトの全身を伝わった。
悶絶し道路を転がるダークマイトをあっけにとられた顔でユメは見ていた。
34
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:10:06 ID:3ZzeB0BY0
「ああああああ!!!なぜだ!なぜだ!」
「え?効いてる?
ひょっとしてセリカちゃんのおかげ?」
マジアアビドスの能力『信頼の銃弾(ムニツィオーネ・シンシアリティ)』は大本としてはマジアベーゼと同質の能力だ。
物体や生物を魔物に変え、コントロールする。シンプルかつ強力な力。
ただし、黒見セリカの魔法少女の素質は柊うてなより劣る。そのためマジアベーゼのような万能性はなく欠点がある。
黒見セリカが強く思い描く存在にしか変化できない。今ではアビドス高校対策委員会の偽者しか造れないのだ。
その戦闘力や知能も素体の質によって変わり、ただのコインからうまれた3人はプログライズキーから生まれた砂狼シロコに劣ってしまうし、そのシロコだってトレスマジアを相手どれるベーゼの魔物に比べればはるかに弱い。基本的には下位互換といって差し支えない。
ただし、1つだけ明確な優位性が存在する。
物体を変質させコントロールする能力は――マジアアビドスの生み出した対策委員たちにも付与される。
魔物は作れずとも制御下から引きはがす程度のことは、今の彼女たちでも可能だ。
砂狼シロコの銃弾が冥黒ノノミを十六夜ノノミに変えた時と同じことが、ダークマイトに起きていた。
「そうか……あれは元はマジアベーゼの力。
弾丸を喰らうだけでまずかったのだ!令呪を……」
「させない!」
弾幕を避けようと動く脛をユメは思いっきり蹴り飛ばす。
バランスを崩して倒れるダークマイトに馬乗りにまたがり強引に抑えかかる。黄金色の弾幕は未だダークマイトを撃ち続けていたが、跳弾で何発かがユメにあたる。
アメンへと変身しているユメにも信頼の銃弾(ムニツィオーネ・シンシアリティ)は影響はあるはずだが、アメンの装甲が弱まろうとユメは身じろぎ1つしない。
「なぜだ、何故邪魔をする羂索!」
「かわいい後輩がかっこいいところ見せてるってのに、先輩が不甲斐なくていいわけがないから!」
梔子ユメは――令呪を使っていた。
アメンの力、ユメ自身の力。その全てが十全に使われる。
ダークマイトが令呪を使ったとして、ユメの令呪が効果を発揮する時間は大したアドバンテージを生まないだろう。
くだらない献身だ。くだらない信頼だ。くだらない仲間だ。
ダークマイトにとって最も価値がなく、オールマイトにとって最も価値あるものが、着実にダークマイトを追い詰めていた。
「まったくアビドスの敵(ヴィラン)というものは、どいつもこいつも!!!!
友達だの後輩だの、そんな矮小な思考で象徴に歯向かうなど。許されるわけがない!!!」
「許してもらう必要なんかない!!
私たちは私たちの学園を守る!それが私たちの決めたことだから!!」
「その通りよユメ先輩!」
マジアアビドス――黒見セリカが愛銃を構える。
青く光るシンシアリティを前に、砂狼シロコはこれが役目だと言いたげに飛び上がり、その体を光らせる。
信頼の銃弾の効果が切れてきた。シューティングウルフプログライズキーへと姿を戻しながらシロコは肉食獣のように強気な笑みを浮かべた。
「セリカ!ぶちかまして!!」
「分かった!」
シューティングウルフプログライズキーへと戻ったシロコは、自分の意思があるようにシンシアリティの弾倉にすっぽりと収まった。
変身の影響で姿かたちは変わっているが、元はエイムズショットライザーだ。当然プログライズキーはジャストで収まる。
いつでも引き金が引けると言わんばかりにアップテンポな電子音が流れ出し、マジアアビドスはその銃を両腕で構えた。
弾幕を生み出していた黄金の対策委員会たちもすでに消えている。全神経全魔力をセリカはこの一撃に込めていた。
35
:
空と虚③ ガールズリミックス:ライジング
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:13:13 ID:3ZzeB0BY0
「はああああ!!!」
弾幕が途切れたことが合図となる。
ファラオレリーフのユメはフィジカルと言う意味でアメン屈指だ。胸倉をつかみそのままダークマイトを持ち上げ投げ飛ばす。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
支配権を失った黄金がかさぶたのように剥がれ、バルド・ゴリーニのやせ細った特徴のない顔が再び外気を浴びた。
情けなく叫ぶ男の声が空しく響く。答える者は誰もいない。
先は九堂りんねに助けられたが、既にこの場には九堂りんねはいない。
もしかしたら、バルド・ゴリーニの敗因だったのかもしれない。
『バレットシューティングブラスト!』
「じゃあね!象徴!二度とその面見せないで!」
「ふざけるな。ふざけるな!象徴たるこの俺がぁ!!!」
青い光線がバルド・ゴリーニに直撃し、悲鳴とともに大きく弧を描いて砂漠のど真ん中に爆発するような音を立てて叩きつけられる。
ひょとして殺したりしてないかと不安になった二人だが、視界の端で男がのそのそとはいつくばって逃げていた。
わずかに残ったオールマイトの肉体も消しとび、誰が見ても今の彼をダークマイトだとは思わないだろう。
追いかけるという選択肢もある。ダークマイトは重傷だが未だ健在だ。
どうしようか。セリカは隣の先輩に尋ねた。
初めて会った先輩を前に、後輩らしいことをしたかったのかもしれない。
「どうするユメ先輩?」
「・・・シノンちゃんや美嘉ちゃんが心配だし、そっちに行こうよ。」
ユメの答えにシノンは「そうよねぇ。」と平然と返す。
とどめを刺すつもりには2人ともなく。そこにはただ勝者と敗者がいるだけだった。
36
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:14:01 ID:3ZzeB0BY0
◆◇◆◇◆
マジェードマルガム左腕と一体化した一角獣の角のような武器、美嘉とシノンは初め剣だと思った。
唸り声をあげ突き上げてくる武器をフォールンハルバードで防ぎながら、美嘉はその勘違いに気づく。
ザ・サンのエネルギーを放出するように赤熱する角は高速で回転していた、ギリギリと火花を上げては抑え込むのもやっとだ。
ドリルのように思えるその武器は、まかり間違っても人に向ける者ではないだろう。
「はっ!!」
シノンの射撃で体制を崩したところでどうにか美嘉は距離を取った。それでも安心できないのが正直なところだ。
どうすべきか悩む美嘉を、仮面ライダーカリスとなったシノンは不思議そうに見つめる。
「どうしたの?」
「……なんでわざわざマルガムに変身したの?」
亀井美嘉の姿はエンジェルマルガムのものである。
マルガムと化した九堂りんねを相手にするには必要な変身ではあるのだろうが、今回の2人は事情が異なる。
「あんな怪物の姿でも九堂りんねは九堂りんねでしょ?マルガムへの恨みはあるはず。
現に貴女を優先的に狙ってきてる。150秒耐えるだけなら私一人でも問題ないはずなのに……」
――150秒だけ、耐えてください。
ノノミが確かにそういった、言葉の理由は分からないにせよまずは絶えることが肝要だ。
宇蟲王ギラ級のあいてならともかく、マジェードマルガム相手の時間稼ぎならシノンで充分のはずなのだ。
美嘉が足を引っ張っているとは言わないが、マルガムは明らかに美嘉を優先して狙ってきている。
エンジェルマルガムの顔は割れたデッサン人形のようで、表情などまるで読めない。
それでもシノンの質問に美嘉が本気で考えこんでいることは伝わってきた。
「大したことじゃないんです。
りんねさんなら同じ仮面ライダーよりマルガムの方が戦いやすいかなって思っただけで。」
「……はぁ?」
あっけにとられるシノンを前に、マジェードマルガムは再び剣をいからせ突撃してくる。
やはり狙いはエンジェルマルガムだ。今度は角のある手先ではなく手首を狙って防いだが、高速で回転する手先の角が白い羽根を貫いた。
「美嘉!」
『バイオ』
その隙をついてバイオのラウズカードをシノンは読み込む。カリスアローの先からツタのような物が伸びマジェードマルガムを縛り付けた。
美嘉はそのまま距離を取らず、馬乗りの形でマジェードマルガムの両腕を抑え込んだ。
「じゃあ貴女、この期におよんで九堂りんねのことを気にしてるって事?
とっくにバケモノになっちゃって、どうするにせよ倒すしかないのに?」
「貴女のおかげなんですよ。シノンさん。」
振り返らずに伝えらる言葉に首をかしげる。
シノンの視点では、自分からなにか影響に与えるようなことをした覚えがない。
美嘉はつづけた。
「キリトへの殺意だけは膨れ上がっているのに、キリトのことを何も知らない。
貴女に会うまではそんなことさえ気づかずにキリトをただの人殺しとしか見てませんでした。
それはなんだか、嫌だなあって。
――戦う人のことを何も知らないで戦うのは、違うんじゃないかって。
私の好きな人ならそんなこと思わないだろうって、思ったんです。
だからりんねさんとの戦いも、少しでも戦いやすいマルガムをの姿の方がりんねさんの気が楽になると思うんです。」
「そこまで気を使えるのなら殺すとかいうのやめてほしいんだけど。」
「すいません、そればっかりは確証が持てません。
私の中ではそれでもキリトは代葉さんを殺した相手です。
それに――私の殺意は私のものではありませんし。」
声色はおおよそ戦場に似つかわしくない、申し訳なさげな声色だった。
美嘉の敵意は本物だとしても、美嘉の殺意は美嘉の中に宿った悪霊 月蝕尽絶黒阿修羅のものだ。
美嘉本人を容易くマルガムに変えるほどの負の感情は並大抵のものではない。
その正体を若干しか知らないシノンにしても、亀井美嘉と言う人間の中に収めるには歪な存在だと思う。
37
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:15:06 ID:3ZzeB0BY0
「その自分じゃない感情に支配された果てが、そこの九堂りんねでしょ?
貴女も同じようになるかもしれない。それでいいの?」
「ベーゼさんにも同じこと言われました、ずっと考えていたんです。
危険な力なことは分かっていますし、例えばりんねさんのライダーならば私の中から”この子”を浄化できるかもしれません。」
「そういう言い方するってことは、消す気はないって事?」
じたばたと暴れるマジェードマルガムを抑え込みながら、美嘉はこくりと頷いた。
「身勝手ですが、代葉さんの力を受け継いだ証明だと思ってます。
私の中の悪霊だって好きで怨念を宿したわけじゃない。支給品になったこの子だって、他の参加者からしたらただの暴力装置でしょう。
この二人のことを人として覚えておきたい、そう考えるのは我儘でしょうか。」
「いいえ。その感情そのものは否定しないわ。
ただその結果がキリトへの復讐と言うのなら、私は貴方を認められない。
こればっかりはずっと言ってる通りね。この戦いが終わったら、私たちは敵よ。」
「そうですね。」
どこか物悲し気な背中だった。
こんな形でなければ、シノンと美嘉は案外話が出来たかもしれない。2人ともそう思っていた。
「忠告してあげる。
……貴女に人殺しは向いてないわよ。」
「私もそう思います。
・・・・・・・・・・・・・・・
殺さずに済むならそれが一番いい。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「貴女みたいな人は殺すなんて選択肢を浮かべた時点で毒されてんのよ。」
数秒、沈黙があった。
殺さないという選択は”殺すという選択があるからこそ成り立つ”ものだ。
ここに来る前の美嘉なら”戦わない”時点で選択をしていたはずだろう。
自分で自分のことは分からない者だなと自嘲気味に笑う。
ノノミの言う150秒経ったのはちょうどそんなタイミングだった。
美嘉の指がわずかに熱を帯びる。
手を広げ確認したその隙にマジェードマルガムは美嘉を突き飛ばし、縛っていたつたを引きちぎる。
美嘉はその様子を気にすることなく、手のひらを見つめていた。
掌に刻まれた、星を見ていた。
ソードスキル。星を継ぐもの(ベンジャミンバトン)。
本来の使用者のものから改変されたその力は、死んだ仲間の力を受け継ぐもの。
藤乃代葉の死を受けて1つだけ宿っていたその星が、今は2つになっていた。
――そのタイミングは、ダークマイトの手で冥黒ノノミが死んだ時刻と同刻だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「あんな目にあっても、私は彼女を仲間だと思っていたんだ。」
ぽつりとこぼす。美嘉が仲間だと思っていなければ、ベンジャミンバトンの効果はない。
冥黒ノノミは黒見セリカにとっては偽物だった。シノンにとっては敵だった。
グリオンにとっても単なる手駒でしかなかったのだろう。
それでも美嘉にとっては仲間だった。
人として覚えておきたい存在が、3つになった。
美嘉は手をかざし唱える。その姿にマジェードマルガムは危機感を感じたのか、勢いよく左手の角を突き出し飛び掛かってきた。
それはまさしくマルガムを生み出す時の構えだ。九堂りんねにとってはトラウマものだろう。
「暗黒に……」
冥黒ノノミは死んだ。それはソードスキルの起動条件を満たしている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
彼女の持つ冥黒錬金術を会得するという条件を満たしている。
人の悪意を増幅させ錬成させる言葉を美嘉は唱えた。そしてその腕を
「盈たして。」
――自分に向けた。
月蝕尽絶黒阿修羅を起動する、言霊だ。
エンジェルマルガムさえも取り込んだ、全身を黒い腕で巻き付けた異形の女。
S級怨霊月蝕尽絶黒阿修羅そのものの姿となった亀井美嘉を、冥黒ノノミは便宜上『冥黒の魔女』と呼んでいた。
エンジェルマルガム全身が墨に染めたように黒く染まり、その全身から真っ黒の腕が無数に伸びていく。
飛び掛かった角を黒い腕で抑え込み左腕に絡みつける。マジェードマルガムが腕を振り払うも1つ振り払うごとにその倍の腕が掴みにかかった。
シュルシュルと音を立てマジェードマルガムにつかみかかる腕はどんどん太く、強く、速くなる。
ザ・サンのエネルギーで焼き殺すか。マジェードマルガムが考えるよりも早く増えた腕がマルガムの右腕さえもふさぎ込んだ。
思考だけなら九堂りんねの方が速かったはずだが、亀井美嘉には思考の時間がない。故に早い。
なぜならここからの行動は既に決まったことだからだ。
38
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:16:36 ID:3ZzeB0BY0
「がっ……ああああああ!!」
痛々しい悲鳴を噛み殺し、美嘉は目の前の敵に向き直る。
どこか怯えた様子のマジェードマルガムの姿がはっきり見えた。
――キリトには見えない。
まだ自分は正気を保たもっているが、それが一体何秒持つのかわからない。
正気の内にけりをつけなければ、九堂りんねは救えない。
伸びきった腕を収縮させマジェードマルガムの目前にまで迫る。
わずかに身を振るわせたマルガムの四肢に伸ばした腕を巻き付け抑え込む。
マジェードマルガムだって無抵抗ではない、ザ・サンのエネルギーでぐんぐんと温度が上昇させ、冥黒の魔女の黒い腕から煙が噴き出した。
熱い、痛い。それがどうした。
そういいたげに歯を食いしばり、美嘉は本来の両腕をマジェードマルガムの胸に突き刺した。
今の美嘉は錬金術を扱える。
それはすなわち、錬金術に干渉できるということだ。
「ああああああああああ!」
痛々しい悲鳴を上げるマジェードマルガムを6本にまで増えた黒い腕で抑え込み、胸元をこじ開けた。
「今です!!」
「了解!」
シノンはこじ開けられた隙間に照準を定め、ラウズカードを2枚取り出す。
『トルネード』
風のエレメントがカリスアローの先端に渦を巻き、射出の威力を底上げする。
そしてもう一枚、シノンが切り札として見込んだカードを読み込んだ。
『スピリット』
♥2。人間の祖となるアンデッドを封じたカードだ。
本来のバトルファイトの世界ではジョーカーアンデッドを人間に変身させるカードだが、シノンが使うのはリ・イマジネーション世界のラウズカード。
仮面ライダーカリスだって正史と異なり人間が変身している。
ではその世界の♥2の効果は何であろうか。
その効果は――不明だ。
だが他のカテゴリー2のラウズカードは何かを”強化する”効果を持つ。
♠2 スラッシュ 斬撃の強化。
♦2 バレット 銃撃の強化
♣2 スタッブ 貫通力の強化
では♥2 スピリットを他者に撃ち込めばどうなるだろうか。
――人間としての精神力を強化できるのではないか。仮説としてはありえなくもないだろう。
シノンの言う「あて」とはこのカードのことだった。
「お願い……効いて!」
祈りを込めて弓を引き絞る。
人間の祖を封じた力を持つ矢は、マジェードマルガムのこじ開けた心臓部に命中した。
しばし馬の嘶きのような悲鳴をあげ、膝からマジェードマルガムは倒れこむ。
「ああああああ……わた……しは……」
砂に向けて倒れこむマルガムの姿は、九堂りんねに戻っていた。
美嘉とシノンは合わせて変身をとき、達成の噛み締めるように膝をついた。
「はぁ……はぁ……」
「やっ……た」
息を切らせながらも立ち上がる。美嘉は自然とりんねを肩に担いでいたし、シノンもその手助けをしようと足を進めていた。
1歩、砂を踏みしめる感触が初めて心地よく思えた。
2歩、遠くから「おーい」とバイクの音が聞こえた。ユメとセリカだ。
3歩、初めて亀井美嘉の顔を真正面から見たかもしれない。アバターでもないのにくりくりした目の美人だが、どこか愁いを帯びて妙な色気があった。
4歩、これでシノンは他の皆と合流し……
「ご苦労。」
4歩目をシノンが進むことはなかった。
シノンの足が大地を踏みしめるより早く、肉を抉る音が砂漠に響き。美嘉の目の前で赤い花が咲いた。
勝利の余韻は掻き消すような男の声に合わせ、シノンの胸から日本刀が突き出ていて。
「上出来だ。美嘉。」
その後ろで、グリオンが満足げに眼を細めた。
39
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:17:54 ID:3ZzeB0BY0
◆◇◆◇◆
「これは……夢だ……。
象徴に敗北など……あってはならない……!」
黒見セリカと梔子ユメはダークマイトにとどめを刺さなかった。
放置され命からがら逃げだした彼の額には汗が滝のように流れ、黄金で膨らんだオールマイトの姿ももはや残っていない。
足に力が入らず立ち上がれない、砂漠の道を這いつくばって逃げるなんと無様な姿か。
脚が折れているのだろうか、折れているに違いない。なんたってアビドスは羂索のいる敵(ヴィラン)の巣窟。
あああの羂索とアビドスの少女たちのなんと惨く邪悪なことか、今度こそ倒さねばならない、象徴として。
オールマイトを継ぐ者として!
「だが大丈夫だ。象徴は不滅!一度挫けようと決して諦めない!
そうもう大丈夫!俺が」
「いや、アンタさっきは『絶対の勝利をもたらす力こそ象徴!』とか言ってなかった?
何敗けてんのに続けようとしてんのさ。」
薄ら笑いの混じった男の声が背後から聞こえてきた。
振り向いた先には青白い継はいだ顔の男が、にやりと凶悪に笑っている。
その顔は何度も見たことがあったし、自分でもしたことがある。
というよりさっきしたばかりだ。マジアベーゼが死ぬ前に。
――弱い誰かが狩られる前の、獣じみた優越感を浮かべた笑みを。
「はい、おしまい。」
ぽん。と肩を叩く音が響く。ダークマイトの――バルド・ゴリーニの耳がその機能を行使できた最後の機会だった。
何かが縮んでいく。膨らんだ風船を強引に萎ませるように何かがつぶれてちぢんでなくなってくずれてきえて
たすけてたすけていやだいやだしにたくない……
「しにたぎゅ……」
ぐ に ぃ
断末魔を魂ごと圧縮されたダークマイトは既に人としての生を失い、真人の改造人間となった。
真人に使い潰されるたった一度の機会が来る、残りの人生はそれを待つだけの無を過ごすのみだ。
寿命が燃え尽きるその瞬間まで、男に出来ることはもはや何一つない。
象徴を騙る男は、こうしてただの薄汚い塊となって終わりを迎えた。
【ダークマイト@僕のヒーローアカデミア 死亡】
「ちょっと見てよこれ。」
圧縮されたダークマイトを指先でクルクルと回しながら、真人は柊真昼を手招きした。
ひなびた粘土細工のように縮んだ一か所を真人は指さす。もとは右腕だっただろうその場所にはすっぱりと切り取られたように何もなかった。
・・・・・・
「よく見てよここ、腕が切れてる
魂弄ればなんとでもなるけどさ。俺が触った時には腕があったはずなんだよ。
アンタ盗った?」
「いらないよそんな汚いもの。
誰かが持って行ったんでしょ。」
盗ってないとはあえて言わなかった。実際に柊真昼が盗ったわけでもないので探られて痛い腹ではない。
柊真昼は見ていたのだ。真人が術式を使う瞬間真人の足元の影から鎌のような物が浮かび上がり、ダークマイトの腕を切り飛ばした瞬間を。
その影はそそくさと姿を消していた。もはや探すことも難しい。
「残ったリュックと支給品なら興味はあるけど……見当たらないね。」
「手ぐせの悪い奴がいるなぁ。」
きょろきょろと周囲を見わたしてもリュックらしきものは見当たらない。
リュックのない真人はかなり本気で落ち込んでいたが、こればっかりは仕方がない。
真人は立ち上がってコキコキと腰を鳴らす、既にこの場の戦いは決し彼の興味は削がれていた。
ダークマイトだった改造人間を飲み込むと、アビドス高校とは別方向に歩き出した。
「知り合いらしい知り合いはいないって言ってなかったっけ?
あてはあるの?」
「いや別に?
ただ適当にランドマーク見て回って、やりたいようにやるだけだよ。」
飄々と言い切った真人からは強がりや嘘は無いように見えた。
呪霊である彼は人間よりもよほど本能的に生きている。
ダークマイトのような誇大な目的も柊真昼はのような純粋な野望もいらない。
そういう手合いが真昼には一番厄介だ。動く指針が見えなければ憶測も対応も後手になる。
ダークマイトの改造人間を手に入れてホクホク顔の内に別れたほうがいいだろうと。真昼は大きく手を振った。
40
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:18:43 ID:3ZzeB0BY0
「それじゃあ、次会ったら殺し合いかしらね?」
「そうじゃない?俺は出来ればアンタと戦いたくないけどさ。」
これもまた本心だった。真人にしてみても柊真昼は関わりたくない相手だ。
人間性という訳ではない相性が最悪だ。
マジアベーゼとダークマイト、あるいはマジアベーゼと仮面ライダーマジェードのように覆しがたい相性差というものは存在する。
(柊真昼は体内に鬼を宿している。それも生まれつきだ。
・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・
虎杖 悠仁がそうであるように魂を知覚しているどころか下手に術式を使えば鬼とやらに反撃を喰らうだろ。
つまり奴は武器に精通した虎杖 悠仁といっても過言じゃない。)
「嘘だろ羂索、俺の天敵にもほどがあるよ。」
縫い目のある顔なじみに愚痴りながらも、真人はぶらぶらと歩きだす。
どこを目指すのか、それはその時の真人が決めることだろう。
「私はどうするかなぁ……。」
一人残された真昼も行くべき場所を決めねばならない。
さっきの影のこともあるし、益子薫のことも気になる。
柊真昼はしばし考え、一先ず暑いので適当な民家で放送を待つことにした。
【エリアD-9/アビドス自治区/9月2日午前11時10分】
【真人@呪術廻戦】
状態:五体満足、呪力消費(大)、タギツヒメへの警戒と呆れ、反省(小)エケラレンキス・柊真昼への警戒
服装:いつもの
装備:改造人間@呪術廻戦、Lの聖文字@BLEACH
改造人間(ダークマイト)@呪術廻戦(オリジナル)
ザビーのバズーカ×@戦国BASARA
令呪:残り三画
道具:ホットライン
思考
基本:いつも通りにする。呪いらしく、人間らしく狡猾に。
00:不慣れな奴ほど奇を衒う、じゃないけど今回はらしくない遊びが過ぎたかな?
01:もっともっと人らしく、呪いらしく狡猾に行こう。
02:イザーク・ジュールたちは次会った時に身も魂も殺してやる。
03:沙耶香の知り合いに会ったら、適当な改造人間沙耶香ってことにしても面白いかも。
04:タギツヒメ、それは呪いの在り方じゃないでしょ。
05:ロロに関しては頭にとどめておく程度。
もしルルーシュと遊ぶ機会が有ったら、ってところかな?
06:流石にちょっと休憩。
07:次に行くならアビドス高校かな?
08:柊真昼……どう考えても俺と相性最悪でしょ。どうしよっか
09:個性持ちの改造人間。どう使おうかな。
10:エケラレンキス……運営側であのレベルかよ。
参戦時期:少なくとも渋谷事変よりも前
備考
※魂の輪郭を知覚していればダメージはより通りますが、
魂の輪郭を知覚してなくてもダメージは通るようになってます。
※改造人間が没収されてない代わりに支給品が1枠減ってます。
※沙耶香から『刀使の巫女』、ロロから聞かされてる限りの『コードギアス』に関する知識を得ました。
※レプリケミーも呪霊同様術式対象に出来るようです。
※リュックを失いました。
41
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:19:19 ID:3ZzeB0BY0
【柊真昼@終わりのセラフ 一瀬グレン、16歳の破滅】
状態:ダメージ(中)、疲労(中)、柊家への怒り(再燃)、益子薫への微かな期待
服装:普段の学生服
装備:ドゥームズドライバーバックル&オムニフォースワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー、ノ夜@終わりのセラフ 一瀬グレン、16歳の破滅
令呪:残り二画
道具:精神に作用する呪符×10@終わりのセラフ 一瀬グレン、16歳の破滅(残り8枚)、ホットライン、どこだかドア@ドラえもん(午前7時に使用、午後1時まで使用不能)、クリスマスケーキに付属していたフォーク@仮面ライダーエグゼイド、ギガント@劇場版 仮面ライダーアギト PROJECT G4(残弾数不明、1発消費)、フエルミラー@ドラえもん(午前9時55分に使用、午後3時55分まで使用不能)、ジャコーダー@仮面ライダーキバ
思考
基本:優勝して好きな人(グレン)と妹(シノア)と一緒に、普通の人間として生きれる世界を願う。
01:今はとりあえず他参加者を探してみよう。
02:令呪三画…侮れないわね。
03:薫ちゃん、あなたはその憧憬を貫けるかしら?ついでに名簿で薫ちゃんや舞衣ちゃんの近くにいる知り合いっぽい子達に会ったら、2人が人殺しになっちゃった事を伝えてみる。
04:主催者達が柊家絡みの線は薄くなったけど…今は情報が足りないわね。
05:基本皆殺しだけど、レジスターの解析やバグスターウイルスの対処が出来る人なら話は別かな。
06:こんな状況じゃなかったら、ルルーシュとは1回話してみたかったな。
07:羂索に一ノ瀬宝太郎くんにラウ・ル・クルーゼ…『ガッチャ』に何の意味があるのかしら??
08:ダメ元でも使ってみるものね。
09:ジンガには…出来れば出くわしたくないわね。
10:真人……ああいう何考えているかわかんないタイプは扱いにくいのよね。
参戦時期:第一渋谷高校襲撃事件にて離反後、吸血鬼となる前の何処かから。
少なくとも漫画版7巻のInterlude〜生きる意味〜(第27話と第28話の間)よりは後。
備考
※詳細な位置は後続にお任せします。
※ソロモンによる洗脳能力は一度に2体までかつ一度解除しないと新たな洗脳は不能、ライダー以外に使用可能か現状不明、相手の精神状態次第では無効、一度使うとインターバルが必要、真昼当人は変身前でも使える事を未把握となっています。詳細なインターバルは後続にお任せします。
※令呪行使時に使用可能な巨大カラドボルグをキングオブソロモンへと変形させ行使する能力や、巨大なる終末の書の投影はどちらもサイズ及び有効範囲が落ちています。
◆◇◆◇◆
42
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:22:49 ID:3ZzeB0BY0
結論から言えば、シノンの賭けは成功していた。
スピリットのラウズカードで精神を呼び覚まさせられた九堂りんねの回復は、通常時に比べて遥かに速い。
より正確に言えば、倒されてから意識を戻すまで数秒とかからなかった。
「……え?」
そんな呆けた声が、目を覚ました九堂りんねが最初に聞いた言葉だった。
その声が誰のものだったのかは、後々思い返しても分からない。
少なくともシノンではないだろう。喉から吐き出した赤い泡が噴き出ている。
シノンの体はALOのアバターだ。それは運営――おそらく茅場 晶彦―が用意した電脳世界の戦士たちへのアドバンテージ。
だがそれでも致命傷を受ければ死に至る。
微睡から冷めたりんねの前で、事態は進行を続けていた。
「こい……つ」
「変身を解くのは失策だったな。君たちはまだちっとも安全ではない。」
勢いよく胸に指した刀――心刀・無垢をグリオンが引き抜く。
アバターの骨と血管がぐじゃぐじゃと音を立ててかき混ぜられ、噴き出た血が九堂りんねと亀井美嘉の顔に飛び散った。
バイクに乗っていた(アメン ラクダレリーフで呼び出されたものだ。)梔子ユメと黒見セリカもまた追いついた。
血にまみれた砂漠、倒れるシノン。嗤うグリオン。
何が起きたかは考えるまでもなく明確だ。
「盈たして 月蝕尽絶黒阿修羅!!」
「トランスマジア!!」
「戴天身!!」
激昂した少女達が同時に姿を変えた。
ユメはシノンに駆け寄ろうと走り出しセリカは引き金を引き美嘉は殴りかかる。
だがその全てがグリオンには届かない。
「そんなものか。」
グリオンが黄金色のルービックキューブを弄ると、錬金術によるものだろう。
地面の砂複数の布のようにより集まり、セリカの銃弾を防ぎ美嘉を縛り上げる。
そのまま手をかざすと、砂の塊がユメとセリカまでぐるぐると縛り上げる。
ノワルのように嗜虐的な緊縛ではない。無力感を教え込むための力強い縛りだ。
強引に締め上げながら少女達を地面に叩き伏せる。何かしゃべろうとする前にグリオンの錬金術が彼女たちの口をふさいだ。
苦悶の声を上げる少女達をまえに、九堂りんねは何もできなかった。
「グリオン!!!!」
「久しいな九堂りんね。元気そうでなによりだ。
ところで見たまえ、君のせいで起きた惨状を。」
「……え?」
君のせいと言う言葉に固まるりんねに、グリオンはにたりと嗤う。
人の醜悪な感情だけで塗り固めたような、そんな顔だ。
「君のせいだろう?君がいなければマジアベーゼが戦った時点で彼女たちは勝っていた。
そもそも君がダークマイトなどという小物に敗けさえしなければ、アビドスが戦場になることもなかったかもしれない。
こうも疲弊してあっさり負けるような無様は晒さなかっただろう。」
「あ・・・あ・・・」
「いい顔だ。
私の大好物なんだ。後悔と絶望に塗れ未来を失った者の表情が!!!」
けたたましい笑いが響く。ダークマイトのような己を誇示するための笑いではない。
真に恐怖心に響く底冷えするような笑いだった。
(まずいわね……このままだと全員殺される。)
絶望的な状況を前に血液を失いつつあるシノンの脳が、指を動かすように命じた。
九堂りんねは動けない。
梔子ユメも、黒見セリカも、亀井美嘉も動けない。
それでもここで何もしなければグリオンの掌の上だ、それだけは何としても阻止しなければ。
マジアベーゼだって致命傷から一矢報いた。
アバターの自分ができないなどと、誰にも言わせたくはない。言わせない。
43
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:24:03 ID:3ZzeB0BY0
『チェンジ』
どうにか取り出したラウズカードで変身できる。アバターの体は失血死するまで何秒かかるのか分からないが、そうなる前に動くしかない。
感覚を失いつつある指でシノンは次々とカードをスキャンする。
『フロート』『トルネード』『リフレクト』
カリスアローの電子音に気づいたグリオンが、怪訝な顔でシノンを見下ろす。
既にその足は、シノンにとどめを刺そうと振り上げられていた。
「何をする気だ?」
答えを待つ気がない問いを投げかけた。
「ざまあみなさい。グリオン。」
仮面の中で舌を出して、シノンは弓を引いた。
グリオンがシノンの首を踏み潰すより、シノンのほうが速かった。
カードの効果を受けた4発の弓は、寸分たがわず少女たちに命中し。その体を舞い上がらせどこかに吹き飛ばす。
フロートのカードで舞い上がった少女たちの体が、トルネードの効果で弾き飛ばされる。
どこに行くのかはシノン自身分からないしバラバラになるかもしれないが、ここに居るより生存確率はずっと高い。
「シノン!!!」
上空に打ち上げられた中セリカが叫ぶ。
その声はシノンには届かず、振動が砂漠に伝わる頃にはシノンの首はへし折られていた。
少女たちがどこに行ったのかは、誰にも知らない。
リフレクトのカードがあるから死ぬことは無いだろうと、祈るようにシノンの意識は闇に溶けた。
【シノン@SAOシリーズ 死亡】
44
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:24:59 ID:3ZzeB0BY0
「見事だ。
あの状況で4人を逃がしきるとは、そうできることではない。」
グリオンにしては珍しい。賞賛の言葉を骸に投げかける。
シノンがいなければあの場の死体が4つ増えていただろう。グリオンから見てもシノンの足掻きはファインプレーだった。
どこか楽し気に空を眺めるグリオンに、背後の影から声がした。
最後に残った冥黒のアビドス生。アヤネことムーンマルガムだ。
「亀井美嘉を捨ててよかったのですか?」
「思ったよりも揺らいでいたし、どのみち私に従順とは言い難かった。
ワープテラとエンジェリードの回収に失敗したこと以外は、さしたる問題でもない。」
「そうですか。」
グリオンは冷徹である。アヤネもそんなことは知っている。
一度は配下に加えた女を平然と捨て(シノンがいなければ殺していただろう)、ノノミの死は話題にすら上げない。
魔王と名簿に書かれるだけのことはある、この男はダークマイトなどよりよほど人間ではない。
「ところでわざわざ砂漠のど真ん中まで来たということは、いい報告があるんだろう?」
「そうですね、いくつかお伝えしたい情報がありますが……まずはこれを。」
そう言ってムーンマルガムは影の中から人間を2つとりだした。
胸に深々と穴が開いた少女と、鋭利な刃物で袈裟切りにされた軍服の青年だった。
柊うてなの死体と、アビドス高校の戦いで亡くなったディアッカ・エルスマンの死体だった。
宇蟲王の配下が守っていたが、彼らとて影の中までは守備範囲外だ。ムーンマルガムであれば簒奪することは難しくない。
「1人は恐らくマジアベーゼか。もう1人は軍人かな?」
「ディアッカと呼ばれていました。キラ・ヤマトの語った名前と一致します。
何故だかNPCモンスターたちに守られていましたが。どうにか回収には成功いたしました。」
「コーディネーターというわけか。見た目は人間と変わらないが高い性能を持つのだったね。
シノンも合わせて回収品は3つと。まずまずだな。
後に支給品の精査をして、本格的にギギスト退治といこうじゃないか。」
「支給品でしたら、マジアベーゼ、ディアッカ及びダークマイトのものは回収しております。」
「ほう。」
続けて影から取り出した3つのリュックに、グリオンは感心したように顎をなぞる。
リュックとは別に取り出された男の腕のような物体を持ち上げ、グリオンは問うた。
「これは?」
「ダークマイトの腕です。
”個性”と言う口ぶりから、ダークマイトの能力は生来の肉体に備わっているものの可能性が高い。
残念ながら骸を回収とは生きませんでしたが……」
「……成程。これはひょっとすれば使えるかもしれないな。」
「またご報告ですが、アビドス高校に向かうにあたり運営側の存在と接触を果たしました。」
「成程、その報告も合わせて聞かせてもらうぞ。」
報告を終え恭しく礼をしたムーンマルガムは、回収した全てを影に戻しグリオンの足元に隠れる。
グリオンの向かう先が、アヤネの行くべき場所だ。
グリオンはくつくつと笑う。期待以上の成果だ。
グリオンの消耗は手下一体とケミーカード2枚。離反した配下1名。
たったそれだけで彼は莫大な戦果を得た。宇蟲王ギラを初めとした脅威は健在ながら大勝利といっていい。
この場の戦いで少女たちは全てを失った。
嘆きだけが残るアビドス砂漠で、魔王がただ一人笑っていた。
45
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:25:29 ID:3ZzeB0BY0
【エリアC-9/アビドス自治区/9月2日午前11時10分】
【魔王グリオン@映画 仮面ライダーガッチャード ザ・フューチャー・デイブレイク】
状態:ダメージ(小)、疲労(中)、冥黒のアビドス対策委員会を率いる
服装:いつもの服装
装備:金色のルービックキューブ@仮面ライダーガッチャード 心刀・無垢@SHY-シャイ- ドロップ品2つ
令呪:残り三画
道具:ホットライン、テラー世界線のシンシアリティ@ブルーアーカイブ、ガッチャードローホルダー@仮面ライダーガッチャード、ライドケミーカード(ヨアケルベロス)、双眼鏡@現実
ストライクガンダムの起動鍵@機動戦士ガンダムSEED 錬金アカデミーの制服(黒)@仮面ライダーガッチャード、簡易救急キット@オリジナル
バトルホッパー@仮面ライダーBLACK カリスラウザー@仮面ライダーディケイド ラウズカード一式(♡A〜10)@仮面ライダーディケイド
マナメタルの結晶@戦隊レッド 異世界で冒険者になる コーネロの指輪@鋼の錬金術師 金の指輪と金貨@僕のヒーローアカデミア オールマイトのシルバーエイジ時代のコス@僕のヒーローアカデミア
柊うてなのランダムアイテム×0〜1 九堂りんねのドロップアイテム×0〜1
シノン@SAOシリーズの死体 柊うてな@魔法少女にあこがれての死体 ディアッカ・エルスマン@機動戦士ガンダムSEEDの死体 ダークマイト@僕のヒーローアカデミアの右腕
基本:このゲームを利用して目的を達成する。
01:まずは悪意を振りまき、抗う者たちを蹂躙する。
02:アビドス高校か。別の歴史の一ノ瀬宝太郎共々絶望を見せてやろう。
03:いずれホシノを仕留めた連中もじわじわと嬲り殺す。
04:キラ・ヤマト…惜しかったが、絶望と悪意を振り撒いてくれるだろうと期待。
05:ギギストの賢者の石を手に入れ、さらなる力を手に収めたいところだ。
06:ノノミが死んだか。まあホシノよりはよくやった。
07:亀井美嘉は思いのほか揺らいでいたな。エンジェリードを回収できなかったことだけが失策か。
08:思いのほか収穫があった。さてここからどうすべきか
参戦時期:少なくとも本編時間軸にドレットルーパー軍式を送り込み始めた後
備考
※■■■の意■に肉体を■■■られています。
※アヤネ(デスマスク)をムーンマルガムに変身させたうえでセリカたちを追わせました。
※ホシノ(デスマスク)を処分しました。
※ノノミ(デスマスク)をプテラノドンマルガムに変身させました
【冥黒アヤネ(非参加者)@ブルーアーカイブ+仮面ライダーガッチャ―ド+ロワオリジナル】
状態:グリオンへの信望(絶大)
服装:アビドス高校の制服
装備:
道具:ネミネムーンケミーカード@仮面ライダーガッチャ―ド
思考
基本:グリオンの望みを叶える
00:グリオンと共に悪意を振りまく
01:黒見セリカと水色の女を見逃した失態は必ず挽回する
02:ノノミめ、大口をはたいてこうもあっさり消えるとは
03:エケラレンキス……奴は危険かもしれない。
04:首尾は上場、さてここからだな
備考
※魔王グリオンが生み出した錬金人形です
46
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:26:21 ID:3ZzeB0BY0
【エリア??/?????/9月2日午前11時10分】
【黒見セリカ@ブルーアーカイブ】
状態:ダメージ(大)、疲労(極大)魔王グリオンへの怒り(極大)
服装:アビドス高校の制服(リンチにあったため汚れ 大)
装備:エイムズショットライザー&シューティングウルフプログライズキー@劇場版仮面ライダーゼロワン REAL×TIME
トランスアイテム(エノルミータ)@魔法少女にあこがれて、支配の鞭@魔法少女にあこがれて
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×1〜2、ホットライン
ワープテラケミーカード@仮面ライダーガッチャ―ド
思考
基本:こんな殺し合いにはのってやらない
01:アビドス砂漠で仲間と攻略の手がかりを探す。
02:本物の皆に会いたい。そのためにも生き抜く。
03:グリオンにバケモンども……覚えてなさい!
04:梔子ユメ……この人が……
05:シノンの仲間が人を殺すなんて、贋者に決まってる!
06:マジアベーゼ……アンタの力、貰うわよ。
参戦時期:少なくとも遍く奇跡の始発点編終了後
備考
※『SAOシリーズ』の世界観を共有しました。
※トランスアイテムで魔法少女に変身できるようになりました。
その姿をマジアアビドスと命名しています
【梔子ユメ@ブルーアーカイブ】
状態:ダメージ(大)疲労(大) 黒見セリカへの興味(大)魔王グリオンへの怒り(大)
服装:アビドス高校の制服
装備:アメンバッグル&レリーフグリフバッジ(10種)@戦隊レッド 異世界で冒険者になる
令呪:残り二画
道具:お助けカード@Fate/Grand Order
ランダムアイテム×0〜1、ホットライン
思考
基本:羂索の目的を知る
01:私の姿をした。羂索……
02:ジークと協力 殺し合いに乗り気でない参加者を探す
03:ホシノちゃんもいるんだ……
04:アビドス高校に向かう、可能ならホシノと合流する
05:ノワルとアルジュナ・オルタは要警戒。
06:セリカちゃんアビドスの後輩なんだ!嬉しいな!
参戦時期:行方不明になった後
備考 ※ゲームに参加する前後の記憶が朧気です。 少なくとも自分が死んだような記憶はないです
※うてなからノワルについての情報を得ました。またノワルと対立した面々を信頼できる人物として認識しています
※お助けカードは残り2枚です
【亀井美嘉@トラペジウム】
状態:疲労(大) キリトに対する殺意(中)左目損傷(眼帯装着) 自分の中の感情に対する困惑(小)魔王グリオンへの怒り(大) ダメージ(大)
服装:学生服
装備:ライオンのぬいぐるみとスケッチブック/月蝕尽絶黒阿修羅(契約状態)@ダークギャザリング
ソードスキル:星を継ぐもの(ベンジャミンバトン)@HUNTER×HUNTER
(継承スキル):幻妖と契約して力を得る能力@鵺の陰陽師
(継承スキル):冥黒錬金術@仮面ライダーガッチャ―ド
未来の宝太郎の眼帯@仮面ライダーガッチャ―ド
エンジェリードケミーカード@仮面ライダーガッチャ―ド
令呪:残り二画
道具:香水@ダークギャザリング 、ホットライン
思考
基本:生きて帰る。キリトをどうするかはもう一度出会ってから考える
01:黒い剣士がどんな人なのか、知ってから考える
02:殺意は消さない。私が背負わなきゃ忘れられちゃう人が居るから
03:ゆうちゃん・・・・
04:シノン……。マジアベーゼ……。貴女のこと、忘れない。
参戦時期:東西南北解散後東ゆうと再会する前
備考
※究極メカ丸 絶対形態は破壊されました
※月蝕尽絶黒阿修羅の呪いを体内に宿しています。普段は通常通りの思考・会話が可能ですが、キリトの姿を見たり激昂すると暴走し、気を抜くと他者が全てがキリトに見える状態です。
※左眼を開くことが出来ません。失明したのか時間経過で回復すのかなど具体的な状態については後述の書き手様にお任せします。
※代葉を殺したキリトが贋者である可能性に行き着きました、方針としてはもう一度キリトと出会ってから決定する予定です。
【九堂りんね@映画 仮面ライダーガッチャード ザ・フューチャー・デイブレイク】
状態:動揺(極大)魔王グリオンへの怒り(大) 魔王グリオンへの恐怖(極大) ダメージ(極大)疲労(大)
服装:錬金アカデミーの制服(ボロボロ)
装備:ケミーカード(ザ・サン、ユニコン)@仮面ラ二イダーガッチャード 、ハイアルケミストリング@仮面ライダーガッチャード
令呪:残り二画
道具:マナメタルの結晶@戦隊レッド 異世界で冒険者になる
思考
基本:……
01:私のせい……?
参戦時期:冥黒王に殺害された後、意識をザ・サンへ移す直前
備考
※ラウ・ル・クルーゼの放送と同時にNPCモンスターに襲われたため、名簿などチェックはできておりません。
※ルルーシュの通信演説も同様に耳にしていません。
47
:
空と虚④ ナラティブ
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:26:53 ID:3ZzeB0BY0
◆◇◆◇◆
「『劣化複製:五視万能(スペクテッド)』
まさかあの偽りの象徴がここで脱落かぁ。
魔法少女の敵も私としては災害の魔女とのリベンジを期待してたんだけど……。ま、終わったもんは仕方ないかぁ。」
アビドス高校の一画に佇み、エケラレンキスは全てを眺める。
アビドスで起きた2つの戦い。多くのものを失い多くのものを得た。
勢力図が変わりそうな事態も起こり、ここから殺し合いも関係性も激化するだろう。
「ゲームはまだまだこれから。もっと盛り上げて頂戴ね、駒(プレイヤー)諸君!」
期待を込めた言葉を誰知らず投げかける。
刀使ならざる神殺し殺し。
彼女もまた、この盤上では健在である。
【エリアC-9/アビドス自治区/9月2日午前11時10分】
【魔獣装甲のエケラレンキス】
状態:疲労(極小)
肉体:古波蔵エレン@刀使ノ巫女
装備:魔獣装甲エケラレンキス
小烏丸@刀使ノ巫女
???の魔戒剣@牙狼<GARO>シリーズ
令呪:NPCモンスター扱いの為無し
道具:なし
基本:冥黒の五道化として行動する。
01:思うままに楽しむ。
02:エルちゃんの連れてった二人もあの辺に居るだろうし遊んであげよっかな
03:さーて、アタシが戻るまでに何人集まるかな?
04:ママっ子先生とお医者さん人形は生きてたら相手をしてあげる。
05:エルちゃんったら、真面目が過ぎるから騙されるんだよ♪
06:特級呪霊に柊の鬼子……あのクラスの参加者はもっとガンガン暴れてほしんだけどなぁ
参戦時期:なし
備考
※NPCモンスター扱いの為、令呪無し、名簿に記載無し、支給品無しです。
※刀使としての能力を概ね高い水準で発揮できます。
※肉体が女性ですが両腕に魔戒騎士の遺骨を埋め込まれているので魔戒剣をはじめとした生物的に男性であることが前提条件の武器は使えます。
※魔獣装甲は魔戒の鎧を召喚出来ない彼女の為の固有武装です。
冴島鋼牙シリーズに登場した魔獣装甲コダマ同様自由に脱着できます。
※帝具@アカメが斬る!の能力を模した劣化複製権能(デッドコピースキル)を持たされています。
【支給品解説】
マナメタルの結晶@戦隊レッド 異世界で冒険者になる
……浅垣灯悟(バッドエンド)に支給
絆エネルギーに反応し様々な現象を引き起こす媒体となる。2対の宝石
現時点では高い絆を持つ者同士が所有していると緊急キズナワープを発生できる。
コーネロの指輪@鋼の錬金術師
……九堂りんねに支給
レト教の教主がつけていた賢者の石の嵌められた指輪。
なお賢者の石は贋作であり、使いすぎると破損したりリバウンドを引き起こし使用者の肉体を変質させてしまう。
48
:
◆kLJfcedqlU
:2025/04/21(月) 00:27:19 ID:3ZzeB0BY0
投下終了します
更新時間を過ぎてしまい申し訳ございません
49
:
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/21(月) 22:12:04 ID:???0
何度もすみません。
予約を延長させていただきます。
50
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/21(月) 23:59:27 ID:vNGrPiBw0
いつも投下開始がギリギリですみません。投下します。
51
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/21(月) 23:59:46 ID:vNGrPiBw0
私はただ、歌がすきなだけ 美空ひばり
「「「……」」」
H10ケヤキモール。本来は高度育成高等学校の敷地内にある大型ショッピングセンターだが、今は殺し合いの舞台のランドマークの一つ。
1Fにはレンタルショップ。期間限定だが5Fには占いがあるなど学生が息抜きする娯楽施設が多くある。もっともここにあるケヤキモールは、真か贋どちらであるかは定かではないが。
そんなショッピングセンターの2F、カフェに3人はいる。
勿論、優雅に朝のひと時を過ごしているわけではない。その証拠に3人は別々のテーブル席にいる。そして、3人はそれぞれ真剣なまなざしで店内に設置されていた白紙と向き合っている。
☆彡 ☆彡 ☆彡
52
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/22(火) 00:00:12 ID:TlNUSJbc0
――カフェに立ち寄った直後――
「東にラクス。ここで休憩も兼ねて作詞をしませんか?」
「え?」 「……」
始めは当初の予定通り、ここのカフェで休憩をするはずだった。
だが、ディーヴァは休憩すると同時に作詞の提案をした。
「私達はこれからコロシアムで歌と想いを届けにいく……なら既存の曲では駄目だと思うんです」
そう、3人は殺し合うのではなく、歌う。
少しでもこの殺し合いを抑制させるため。
しかし、言うは易く行うは難し 歌で殺し合いが終わるのなら世界で戦争など起こらない。
だが、3人は真剣にこの殺し合いを抑制しようと考えている。歌の力で。
”歌”が彼女たちの武器なのだから。
しかし、3人が歌える、知っている曲はどれもこの殺し合いに向けた曲ではない。
それでは、アドリブで歌うのか。
否。準備不足でしたと言わんばかりな歌詞では、殺し合いに乗った参加者どころか他の参加者にも到底響くことはない。
故にディーヴァは提案する。
この殺し合いに向けた歌。すなわち自分たちで作詞した曲を歌うことを。
「……ええ。実はわたくしもディーヴァさんと同じことを考えていました」
そう応えるのはラクス。
「わたくしたちは、歌が持つ可能性を力を信じています。ですが、ただ歌うのではない。どう歌うのかが大切なのです。……想いだけでは、力だけでは駄目なのです」
「うん。そうだね。私もそう思う」
3人は意見が一致すると、行動に移る。
心を込めて歌うために
☆彡 ☆彡 ☆彡
53
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/22(火) 00:00:44 ID:TlNUSJbc0
東ゆう Aパート
「さっきはああいったけど、作詞……か」
作詞。ディーヴァさんから”それ”を提案されたとき、胸の奥がチクリとした。
私にとって作詞とは、永遠に終わらない宿題だからだ。
計画が実りアイドルとしてデビューした東西南北(仮)。
その次の曲は自分たちで作詞したいと私は事務所の社長に直談判して勝ち取った。
だが、東西南北(仮)は次の曲を発売する前に崩壊した。
(仮)から(真)になることもなく。
「……想いを届ける」
ゆうが頭に想いうかべるのはやはり東西南北の三人だ。
南さん…本名は華鳥蘭子。
聖南テネリタス女学院に在籍する南の星。縦ロールの女。
テネリタスはラテン語で”優しさ”というらしいが、彼女はその名に恥じない優しさある少女であった。
なにせ、友達を作りに来たという私の胡散臭い話を”おかしいわ”といいながらも友達になってくれたのだから。
北を手に入れたその日は、英検準一級に合格した時以上の充実感で帰宅したのを今でも忘れていない。なにせ彼女が友達になってくれたことで、私の馬鹿で称賛の無いプロジェクトが始まったのだから。
…うん。生きて帰ったらベルばら調で彫刻された銘板に謝ろう。
蹴りをお見舞いしてごめんなさいと。
くるみちゃん…西の星。萌え袖の女。
西テクノ工業高等専門学校のロボット研究会に籍を置くその界隈ではちょっとした有名人。
通称「高専のプリンセス」
彼女だけは最初からメンバーの候補となっていた。その知名度は計画に絶対必要であったから。
あせらず長い刻を重ねて関係性を深めた。そのかいあって彼女たちのチームはロボコンで準優勝を果たし、結果として西を手に入れることができた。
だけど、西の星は耐えられなかった。アイドルという職業に。
そういえば、私に支給されたデスティニーと呼ばれる起動鍵。
ラクスさんの話を聞く限り、モビルスーツ?いわゆるロボットの姿になれるらしい。
ロボットマニアなら涙を流して喜びそうだが、私は流さないだろう。
だけど、そんな凄そうな鍵をくるみちゃんではなく”私”に支給するとは……
これは西を手に入れるために「初心者用ロボット組み立てキット」を買ったエピソードが関連しているのだろうか?
そう思うと、組み立てキットには感謝し直さないと。
おかげで、くるみちゃんだけでなくラクス・クラインさんという美女と接点を持てたのだから。
6万円の出費は必要経費。
54
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/22(火) 00:01:01 ID:TlNUSJbc0
美嘉ちゃん…南の星。善を為す女。
くるみちゃんと違って南の星は”この人”と決まってはいなかった。
たまたま本屋で出会った彼女は、有力候補であった城州北高校の生徒ではあったが、その”男好き”って感じが即断即決できなかった。
だが結局、休みの日にはカラオケやボウリングに男を交えて訪れていそうな、ぱっと見派手な外見をした彼女が、ボランティア活動に汗水を流して行っているという化学変化を起こしていることに魅力を感じて北の美少女を受け入れた。
ちなみに整形していることは問題なかった。昔と比べ整形に世間が抵抗を示すのが低くなっているし。
だけど、私の予想通り美嘉ちゃんには彼氏がいた。
最悪……ちっ!
聞いてない。彼氏がいるんだったら友達にならなきゃよかった……サイって――
……うん。我ながら酷いことを言ってしまった。
だけど、そんなに男の子と付き合うのっていいのかな?
う〜〜ん。アイドルを目指す身としては”なし”一択なのだが。
私を救ってくれたかっこいい東ちゃんは、もういない…昔の東ちゃんはどこにいったの?
彼女はそういったが、正直全然記憶にない。
そういえば……彼女との思い出は今も遡ろうとしても思い出せない。
彼女がいうには私は彼女にとってヒーローだったらしいが。
ミッツ―に聞いても思い出せなかった。
……うん。再会したら聞いてみよう。小学生時代の私を。
南さん。くるみちゃん。美嘉ちゃん。
3人にきちんと謝りたい。
東西南北の方位磁針は壊れてしまったが、たわいのない会話をする友人関係には戻れたらと思う。
最後…東の星、私こと東ゆう。
自分で星を名乗るなって?うっさい。
東西南北だからではないが、文字通り東奔西走、南船北馬と動いた。
全ては叶えるために。
あの日見たアイドルのように”光りたい”と。
アイドル文化が日本に生まれてからもう随分と経っている。
数年に一回ブームが波をうちに来るが、今は引いている時代のように感じた。
私にはどうでもいいことだった。
だから、私はここで死なない。
東西南北(仮)がダメとなったのならまた別の手段で叶える。
生きて帰ったら履歴書を事務所に送らないと。
【絶対にアイドルになる】
その強い信念はこの殺し合いでも折れない。
東ゆう:オリジン
☆彡 ☆彡 ☆彡
55
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/22(火) 00:01:20 ID:TlNUSJbc0
ラクス・クライン Bパート
「さて、わたくしも取り掛かりましょう」
「キラ……」
想起するは最愛の人。
優しい……いや、優しすぎる人。とても。
C.E.(コズミック・イラ)
ラクスのいる世界は二つの人類が共存している。
遺伝子を調整し、生まれながらにして優れた身体能力や頭脳を持つ人類(コーディナイター)と自然のままに生まれた人類(ナチュラル)に。
それぞれが手を取り合っていければなんと素敵なことだろう。
だが、現実は非情。
実際は己の存在をかけた思想が衝突し、武力を用いた戦争が起きた。
その最中、デュランダル議長から「ディスティニープラン」が提唱されたが、戦いの中、拒絶された。
そして、多くの犠牲を払い戦争は終結を迎えたが、二つの人類の対立と憎しみは今もなお、各地にくすぶり続けている。
兵の心情を慮れば、ヤマト隊長の行動は無慈悲に過ぎる!
違うのです。キラは再び戦争の泥沼が来ないよう奔走しているのです。
戦いに病んで疲れ凝っているキラと、彼を助けたいのに何もできない自分……。
「……っ!」
パンと両頬を叩く。
しっかりしなさい。
わたくしが迷っていたらキラはどうなるのです。
だからわたくしは決めたのです。あなたと共に戦うことを。
そして、【ラクス・クライン】の座を空席にしてはならない。
二度とミーアのような人を生み出さないためにも……
名簿にキラと自分。そしてアスランにアスラン隊の面々がいるのはあきらかに”彼”の意思だろう。
ラウ・ル・クルーゼがこの殺し合いの主催の一人なら自分とキラがいるのは理解できる。流石に愛する名と友人が二つ記載されていたのには困惑したが。
しかし、どうしてキラとアスラン。同じ名前が記載されているのか今はまだ分からない。
もう一人のアスランは?と記載されているから、もしかしたら、ミーアのように顔を変えさせられ、名を名乗らされている参加者なのかもしれない。
どちらにせよ、わたくしたちは彼のガッチャにはならない。
「ラウ・ル・クルーゼ。過去の亡霊が今を生きる人々に干渉し、弄ぶことはあってはなりません」
そして彼を自由にさせてあげたい……
優しさで壊れてしまう前に……
ラクス・クライン:オリジン
☆彡 ☆彡 ☆彡
56
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/22(火) 00:01:35 ID:TlNUSJbc0
ディーヴァ Cパート
「……さて、言い出した私ができていませんでは、格好悪いですね」
指をパチンパチンと鳴らしながら不敵に笑みを浮かべると、作詞に向き合う。
「マツモト……」
デーヴァが想起するのは100年の旅。
100年と聞くと人間にとってはとても長い年月だろうが、私達AIにとってはちょっとした時間経過でしかない。
だが、あの100年はとても長いコンサートのような時間だった。
私はひょんなことからAIと人類の戦争を防ぐため、相棒のマツモトと共に壮大なシンギュラリティ計画を完遂させた。
――ご清聴ありがとうございました――
そこで私の使命は終わったはずだった。
だが、目を覚ませば今度は箱庭の中での殺し合い。
状況から鑑みると、いくつかの世界で生きる者達が一堂に集められていると私は結論づけた。
仮面ライダーといった装甲やひみつ道具と呼ばれる物などディーヴァの世界にはなかったのが、その証拠。
名簿を確認すると、参加者の関係者のばらつきが気にはなる。
依然、彼らの目的は今は分からないが、おそらく”彼らにとってのガッチャ”のためだろう。
今の人類は生き残るべきでしょうか?
「……」
東とラクスの話を聞く限り、二人の世界でもAIと人間の戦争こそないが、人間同士での戦争や紛争はあるらしい。
ラクスの世界では、AIとは違うが、コーディネイターとナチュラルといった遺伝子で種類別された人類の戦争があったらしい。今は大規模な戦争は起きてはいないが、思想同士の紛争は継続していると憂いていた。
東の世界では、大きな規模の戦争が二度あったらしい。東の国も二度目の戦争では、国が荒廃と化していたそうだが、見事復興を果たして比較的平和らしい。が、今も大国による一方的な侵略戦争や信ずる神の土地を巡った民族同士の紛争が継続しているらしい。
どこの世界でも”戦争”はあるのか。
そう聞くと、”戦争”というものは人という生命の業ではないかと感じてしまう。
だが……
今の人類は生き残るべきでしょうか?
それはアーカイヴからの問い。
「私の答えは決まっています」
そう、1年後、10年後、100年後に尋ねられても変わることはない。
【使命】
AIと人間が共に発展する未来を紡ぐために。
ディーヴァの使命は”歌で皆えを幸せにすること”
それは今も昔も変わらないたった一つの使命。
「行きましょう」
ただのディーヴァとなった今も心を込めて歌う。
それだけ。それがディーヴァの真。
ディーヴァ:オリジン
☆彡 ☆彡 ☆彡
57
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/22(火) 00:02:16 ID:TlNUSJbc0
時間が流れ……
「二人とも、予定していた時間がたちました。良いのができましたか?」
「はい」
「ええ」
ディーヴァの問いかけに二人は自信満々に答える。その目からもうかがえるほど。
その瞳にディーヴァはうんうんとグッとサインを示す。
「良い返事です。私もできました。それじゃあ、歌詞に込めた想いを一人ずつ語りましょう」
かくかくしかじか
こうして、それぞれの担当パートの想いを伝えた後、3人はサビを話し合った。
「……よし!完成です」
3人は歌いだす。
ムード盛り上げ楽団のBGMつきで。
☆彡 ☆彡 ☆彡
58
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/22(火) 00:02:47 ID:TlNUSJbc0
東西南北〜手を取り合って100年の旅〜
作詞 東ゆう、ラクス・クライン、ディーヴァ(s5tC4j7VZY+生成AI)
Aパート
東の星に願いを乗せて 南の星が包み込む 西の星が勝利を求め 南の星が与える
それぞれの場所で 生きている 巡り巡るこの地球で
Bパート
殺し合いの影が広がる空に 涙の雨が降り注ぐ でも心の奥に眠る光 それが希望の種になる
愛の灯火を掲げよう 暗闇を照らすその光で 手を取り合い 共に進もう 怒りの炎を消せるから
サビ
東西南北 すべての人へ 愛と勇気が届く世界へ この歌が平和の種となり 偽りのガッチャが消える時 真実の声が響き渡る
Cパート
殺し合いでは得られないもの それは 運命と自由 この歌が 心と記憶で真実の灯火となる
100年の旅を照らす道標となれ カーテンホールから響く音色で 愛と勇気を繋ぐこの歌が 真実のガッチャで未来を作る
☆彡 ☆彡 ☆彡
59
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/22(火) 00:03:03 ID:TlNUSJbc0
「……よし。録音も無事にできた。それじゃあ行こうか」
ディーヴァの言葉に二人は頷く。
もしものときのことを考え、ディーヴァの支給品であるipodに曲を録音し終えると、3人は目的地であるコロシアムへ足を向ける。
3人の想いが込められ産まれた曲。
殺し合いの楔となる真の曲となるか。
それとも胸響かずに終わる贋となるか。
歌姫たちは戦いへ望む。
【エリアH-10/ケヤキモール2Fカフェ/9月2日午前9時】
【東ゆう@トラペジウム】
状態:精神的疲労(小)、覚悟(大)
服装:制服(城州東高校)
装備:デスティニーの起動鍵@ 機動戦士ガンダムSEED FREEDOM ムード盛り上げ楽団@ドラえもん
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×0〜1、ホットライン
思考
基本:元の世界へと帰る
01:ラクスさんとディーヴァさん、この人たちと協力したい。
02:結果が全てじゃない。だから、このゲームに乗ってアイドルになっても意味がないんだ!
03:みんなに会ってごめんと謝れる自分に
04:今度こそ、人を笑顔にできるアイドルに!
05:コロシアムで曲(東西南北〜手を取り合って100年の旅)を歌う。
参戦時期:東西南北崩壊後
備考
東ゆう、ラクス・クラインの世界の簡単な知識を得ました。
ムード盛り上げ楽団@ドラえもん
東ゆうに支給されたひみつ道具。
その場の状況・付けている人の気分に合わせた音楽を演奏し、場のムードを盛り上げる。
効力は「音楽の力」 ムードもりあげ楽団の効果の強さは、対象者がどれだけ雰囲気に乗せられやすいかに比例する 。アイドルになって輝きたい女であるゆうにぴったりなひみつ道具である。
こんな素敵な職業ないよ!by東ゆう
60
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/22(火) 00:03:22 ID:TlNUSJbc0
【ラクス・クライン@機動戦士ガンダムSEED FREEDOM】
状態:通常
服装:和服?(戦艦乗艦時のあれ)
装備:なし
令呪:残り三画
道具:遠写鏡@ドラえもん、ランダムアイテム×0〜2、ホットライン
思考
基本:この殺し合いに抗う。
01:ラウ・ル・クルーゼ…亡霊が今生きる人に干渉してはなりません!
02:キラとアスランが二人ずつ……?ミーアのように同じ顔にさせられているのでしょうか?
03:歌で皆を止めるためにコロシアムに向かう。
04:コロシアムで曲(東西南北〜手を取り合って100年の旅)を歌う。
参戦時期:ファウンデーションがやらかす前
東ゆう、ディーヴァの世界について簡単な知識を得ました。
【ディーヴァ@Vivy -Fluorite Eye's Song-】
状態:システムは正常に作動中
服装:軍服
装備:エイムズショットライザー&サーバルタイガーゼツメライズキー@ゼロワンOthers 仮面ライダーバルカン&バルキリー
令呪:残り三画
道具:iPod@現実、ランダムアイテム×0〜1、ホットライン
思考
基本:この殺し合いに抗う。
01:もうシンギュラリティ計画は終わった。だから、今の私はただのディーヴァ。
02:マツモトはいないみたい……
03:歌で皆を幸せにするために戦いを止める。
04:そのためにコロシアムへ向かう。
05:コロシアムで曲(東西南北〜手を取り合って100年の旅)を歌う。
参戦時期:アーカイブからの課題をクリアした直後
備考:プロローグのショート髪の方ではないです。ロングの方のヴィヴィです。
支給品のipadに曲を録音しました。
東ゆう、ラクス・クラインの世界の簡単な知識を得ました。
61
:
歌姫たちのオリジン
◆s5tC4j7VZY
:2025/04/22(火) 00:05:08 ID:TlNUSJbc0
投下終了します。投下終了が日をまたぎ申し訳ありません。
またいつもwiki編集してくださっている方ありがとうございます。
キャラクター名簿の説明など豊富な項目いつも楽しく読ませてもらっています。
62
:
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/22(火) 00:06:03 ID:ml/KX4Kc0
やみのせんし、キリト、緑谷出久、イドラ・アーヴォルン、レッドで予約します
63
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/26(土) 23:30:56 ID:YbD70zEs0
ゲリラ投下します。
64
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/26(土) 23:32:00 ID:YbD70zEs0
時刻は午前10時を少し過ぎた頃。
空蝉丸とカルデアの主従はエリアF-6に居た。
アビドスに向かうディアッカホシノコンビと病院前で別れた後、空蝉丸の宿敵にして多くのプレイヤーにとって最大クラスの脅威であるドゴルドを討ち取るべく南下を続けていたからだ。
「空蝉丸、ストップ!」
空蝉丸がマシュを背に乗せ運転するサクラハリケーンを停車させる。
並走していた藤丸も止まった。
その姿はいかにもメカメカしい巨人、といった風貌で一見しただけでは藤丸と気付けないだろう姿になっていた。
大海銃特殊空挺機甲4号機ウルトロイドゼロ。
防衛軍が既存の特空機たちで培ってきた技術やゼット、ジード、ゼロ、エースといった地球に来訪したウルトラマンたちの戦闘データを用いて開発した最強の特空機がパワードスーツに落とし込まれた物である。
人理保障機関の最後のマスターが回り回って人類の敵となった兵器の力を与えられるとはなんたる皮肉だろう。
そんなウルトロイドゼロのカメラアイは空蝉丸たちよりも早くホラー映画のミイラ怪人のような異形を発見していた。
そいつらはプレイヤーの1人(に偶発的になった)アンクの良く知る屑ヤミーに酷似している。
「あれは、確かヤミー」
「知ってるんですか?」
「以前ビーストたち仮面ライダーと共に倒したスペースショッカーの配下にあのような連中が居た覚えがあるでござる」
「羂索の記憶から再現したって話が本当なら、あいつら空蝉丸のうろ覚えの記憶から再現されたってこと?」
「かもしれぬ。
だが、結局羂索たちの手先である以上倒すが吉でござろう。
立香殿のウルトロイドゼロもそろそろ肩慣らししておいた方が良い」
「分かった。
マシュ、空蝉丸。援護を頼める?」
「はい!」
「承知!では行くでござるよ!」
ブースターを吹かせながら飛び出したウルトロイドゼロにマシュ、空蝉丸が続く。
装甲を持った藤丸が前に出て残る生身を晒してもいる二人が守られているようにも見えるが、その実藤丸の背中を残る二人が守る格好だ。
マシュは英霊をその身に宿すことを前提にコーディネイトされた人造人間で空蝉丸は命の軽い戦国の世を生き抜きいた侍にして生身で獣電竜と対等に戦える強き竜の者。
直接戦闘経験という一点においてはルルーシュの言う所の特記戦力と同等と言っても過言ではない。
「はぁあああーーーっ!」
肘のブースターで加速をつけた拳を穴が開いたような顔面に叩きこむ。
緩慢な動きで伸ばされる腕を掴み捻り上げて腹部に反対の拳を叩きこむ。
取っ組み合いをしている仲間を無視して群がって来る連中には額部のビームランプからマグネリュームメーザーを放ち遠ざける。
背後では殴打音と斬撃音が聞こえてくる。
やっぱりだめだ。
今の自分に戦いながら周囲を気を配れるほどの余裕はない。
ナラバ一刻も早く目の前の敵を倒し負担を減らすしかない。
「あれはパワードスーツか。ロボットでないのが残念だ」
どこか機械音を思わせる声と共に光の斬撃が頭上から降り注ぐ。
とっさにマシュと空蝉丸の腕を掴んでブースターを全開にして飛びのく。
「助かりました先輩!」
「奴らは……」
斬撃が飛んで来た場所からいくつかの人影が降り立つ。
どうやら中央に立つセミだかカブトムシだかのような頭部を持つロボットがリーダー格であるらしい。
「膝をつき首を垂れなさい。
この方こそメカトピア星の地球侵攻軍が総司令官様です」
セミ頭こと総司令官の右側に立つジャッカルの仮面をかぶり鎌を装備した女怪人……ロボ子が実装したファイティングジャッカルレイダーが言った。
確かに言われてみると彼(ロボに性別があるか知らないが声は男性的だと藤丸は思った)の持つ杖は指揮杖にも見えるし、マントなど高い立場を示すかのような装飾もある。
「ロボ子、話は私がする」
ロボ子にシャチとパンダが混じったような不気味な怪人を始めとした配下たちを一歩下がらせ、総司令官が告げる。
「我々は羂索たちこの催しの主催者共に対抗するための勢力を集めている。
観た所、お前たちはそれなり以上に戦えるようだ。
お前たちも我らとともに来ないか?」
藤丸とマシュは一瞬だけ空蝉丸と視線を交わした。
空蝉丸は首を横に振る。
総司令官の言動は最終的には味方だったはずの物すら代用品の居る存在だと斬り捨てたデーボス軍の最高幹部、百面神官カオスにも似たそれだと感じたからだ。
3人は改めて武器を構え直す。
「断る」
「お断りします」
「それは出来ない」
「キズナレッドと言い、地球の人間はなぜこうも強情なのだ?
いずれ対立すると分かっていても、今は戦力を集約させるのが得策であろう?
それでも意地を張る等、貴様らも英雄を気取るつもりか?」
65
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/26(土) 23:33:05 ID:YbD70zEs0
「まさか。
本当の英雄なんかに及ばないのは重々承知だよ」
真正面からそう答えられるとは思っていなかったのか、総司令官が表情筋などないながらも驚いたように視線を向ける。
藤丸立香は凡人だ。
何処まで行ってもその能力はレイシフト適性と準応力などの一部の能力を除き凡人の域を出ない。
それはさっきまでのウルトロイドゼロの肩慣らしでも改めて証明された。
「でも、生きたいんだ。
この願いは、お前たちの支配の中じゃ叶えられない気がする。
だから断る」
世界の破壊も神殺しも、凡そ日常に戻ることそのものが異常になるようなことを一般人だったはずなのに重ねて来た。
だが、それでもあの日奴に、ゲーティアに告げた願いは今も変わらない。
失意の庭で一度砕けたからこそ、藤丸立香はもう折れない。
「総司令官様、どうやらまた『教育』が必要な物の様です」
(今の流れだと立香殿に怒るのが自然な流れのように思えるでござるが、なぜマシュ殿に殺意を?)
(なんでしょうか……なぜかずっと私ばかりを警戒どころか排除対象としていたような)
マシュへの(というか、総司令官を奪いかねない女性という存在全てへの)殺意を宿し一歩前にでたファイティングジャッカルレイダーに対して藤丸と空蝉丸が前に出る。
このまま戦端が開かれるかに見えた。
「総司令官!
まさかこうも早くまた会うとは思ってなかったぜ!」
屋根の上から声がした。
そこには空蝉丸にとって見覚えがあるようでない赤い装甲に身を纏った少女と仮面ライダーを歪に歪めたような怪人が居た。
「貴様……確か、地球語ではこういうのを腐れ縁と呼ぶんだったか?キズナレッドよ。
あの足手まといの姿はないが……どうやら処分した訳でもなさそうだな」
マコが死んでいること自体は全く意外に思っていない様子で総司令官は淡々と告げた。
仮面の下で灯悟は歯噛みするが、すぐに切り替える。
「もうマコのような悲劇を繰り返さない為にも……お前みたいな命も心もなんとも思っていない連中を野放しにはしておけないぜ!」
『灯悟、分かっているとは思うがお前はまだ万全じゃない。
こちらも最大限サポートするが、十分気を付けて戦ってくれ』
「ああ、分かってるぜ!」
マシュたちの側に降り立った灯悟は変わらぬ決意を示す様に、或いは張り付けた強がりを張り直す様に高らかに名乗った。
「燃え盛る!熱き友情の戦士!キズナレッド!」
─────
名乗りを合図に三つの戦いが始まった。
まずファイティングジャッカルレイダーが真っ先にマシュを狙ったとあって必然的にマシュ、そしてマスターの藤丸が相手に、総司令官とシャチパンダヤミーが因縁あるキズナレッドとアナザーオーズ。
そして残った空蝉丸が他のNPCモンスターたちを相手にすることとなった。
アビスラッシャー、マンティスロード、デーボドロンボスと風前にもどこか鉄人兵団のロボットたちと似た姿や同じ様な意匠を持つ連中ばかりだ。
(ドロンボス……確かイアン殿が倒したはずのデーボモンスターであったか。
無敵マントがないのならいくらでもやりようはあるでござる!)
だがそんなことを全く知らない空蝉丸にとって気になるのはドロンボスぐらいで、それも他の五人が苦労した無敵マントの無いドロンボスなど伊達で10年戦隊を続けている訳ではない空蝉丸からすれば脅威ですらない。
「道外流牙殿、貴殿の愛刀しばしお借りする!」
ザンダーサンダーと牙狼剣を二刀構えた空蝉丸は三体の怪人たちと生身のまま切り結ぶ。
キョウリュウジャーへの変身資格は生身のまま獣電竜と戦い(流石に武器はキョウリュウジャーの武器を使わせてくれる)認められること。
生身の時点で改造されていない恐竜ぐらいなら殺せるぐらいに強いのだ。
意志無き再現体など空蝉丸の敵ではない。
「はぁっ!ふっ!」
「くっ!やあ!」
そして少し意外なのが藤丸&マシュVSロボ子である。
数の差を考慮しても藤丸たち側が優勢である。
だが、よく考えてみれば当然のことである。
元々戦闘用ではないこともあって実装したジャッカルレイダーのスペック頼りな上に嫉妬と独占欲からどうあがいてもマシュへの攻撃を優先するロボ子に対して、才能無いながらも人理を救わんと比喩でも何でもなく古今東西を奔走し、一度は本当に人理を再編した彼はその過程で出会った万夫不当の英霊たちから護身術の指南を受けてロボ子なんぞよりかは戦闘の心得がある藤丸。
66
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/26(土) 23:33:36 ID:YbD70zEs0
そこに英霊たちと共に戦闘の前線に立ってきた藤丸の盾、マシュの、炎上汚染都市に始まり、時に神殺しすら成し遂げ、メッキだらけの妖精郷すらも切除した大冒険を共にしてきた相棒の援護が入る。
翼条件を整理し考えれば考える程、刷り込みの愛情に縋って何も残さないままごと遊びを続ける未来のブリキ人形などに負ける軟な汎人類史ではないのだ。
「この!この!」
「ふっ!はっ!」
大鎌を腕部近接装備のマグネリュームブレードで絡め取って打ち上げる。
その隙にバンカーボルトを装填したオルテナウスが突貫し腹部に思い一撃を叩きこむ。
カウンターにはそのままマシュが盾を構えて壁となり、その隙に飛び上がったウルトロイドゼロが頭部スラッガーユニットからマグネリュームスラッシャーを放ち追撃も忘れない。
「流石は歴戦の主人(マスター)と従者(サーヴァント)。
拙者も負けてはおられん!」
一気に勝負を決めるべく、遂に空蝉丸は一度ザンダーサンダーと牙狼剣を納刀し、6番の獣電池を取り出した。
「ブレイブイン!」
左腕のガントレット型変身アイテム、ガブリチェンジャーにブレイブインした獣電池を装填。
弓の様にトリガーを引き絞り、すでにそれなり以上にダメージを与えたNPCモンスターたちをいなしながら舞い踊る。
イドラ・アーヴォルンがいたなら何あのへんてこな踊り!?と突っ込んだことだろう。
「いざ尋常に、キョウリュウチェンジ!ファイヤー!」
ガブリチェンジャーからプテラゴードンの頭部を模したエネルギーが放たれ、空蝉丸に背後からかみつく。
金色のエネルギーが晴れると陣羽織を思わせる肩かた背中上半分にかけてのユニットと翼竜を模したヘルメットが目を引くキズナレッドにも似た戦士が居た。
「カッコいい!」
「あれが、獣電竜の力!」
「おお!あの侍も戦隊だったのか!」
「悪い奴は許さない」
「ほう?」
「雷鳴の勇者、キョウリュウゴールド!見参!」
ザンダーサンダーを再度装備し、地面に突き立てる。
金色の稲妻が駆け、NPCモンスターたちを拘束、その隙にキョウリュウゴールドは背部ウイングユニットを広げて急接近。
「秘剣・雷電残光!」
獣電池の数の都合上ブレイブフィニッシュには出来なかったが、それでもあのキョウリュウレッドすら特訓の末にようやく破る事の出来た必殺技だ。
アブスラッシャーとドロンボスは断末魔の叫びをあげて爆散し、残ったマンティスロードも少なくないダメージを負っている。
(あの電撃攻撃はまずい!
何よりも優先して排除しなくては!)
焦燥からロボ子の意識がキョウリュウゴールドに裂かれる。
当然それを見逃す藤丸とマシュではない。
「行かせません!」
「お前もここで倒す!」
マシュの打撃こそ回避したがウルトロイドゼロのマグネリュームガトリングは躱せず腹部に直撃、後退させられたところにもう一発バンカーボルト、続けてマグネリュームナックルの連打と続く。
「この!いい加減に!」
最大火力で雑に薙ぎ払おうとしたロボ子はレイドライザーに手を伸ばすが、その瞬間バキッ……と、嫌な音がした。
「ッ!これは……」
見るとプログライズキーとレイドライザーに大きな亀裂が出来ており、バチバチと青白い火花がスパークしていた。
「変身ベルト狙いはちょっと反則かもだけど!」
「これでトドメです!」
マグネリュームガトリングの弾幕を目くらましに接近したマシュの横蹴りがレイドライザーを圧壊する。
逆『く』の字に曲がって吹き飛びながらロボ子の実装が解除された。
「そんな、そんなあぁああああああああ!
総司令官様からっ!総司令官様から頂いた装備がァアアアアア!!!」
変形して装填されたキーを抜くことも叶わなくなったレイドライザーを両手に悲痛な叫びをあげるロボ子。
だがすぐさま顔を上げてカルデアの主従を睨みつける。
「こんの……よくも、よくも総司令官様より賜った装備を!
ただでさえそのその品の無い身体と恰好で隣の男だけでは飽き足らず総司令官様をも篭絡しようとするがめつく卑しい綺麗なのは顔だけの淫売のくせして!
絶対にっ!絶対にキズナレッド共々二度と女として人前に出れないようにしてから殺してやる!
総司令官様をたぶらかす女なんて根絶やしにしてやるぅううう!」
はるか未来の技術と素材で人と寸分変わらなく見える顔と声で口汚くののしるロボ子に藤丸は一瞬、ほんの一瞬だけだが本気で令呪を使って目の前の木口からはみ出た敗戦がスパークしているガイノイドを廃品屋送りにしようか真剣に考えた。
「ロボ子、貴様今何と言った?」
だが藤丸がそれを本格的に実行することはなかった。
67
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/26(土) 23:33:53 ID:YbD70zEs0
ロボ子の罵倒を一字一句聞き逃さなかった総司令官が以前のように伏兵として隠していたパーシヴァルを呼び出しシャチパンダヤミーと共にその場を任せると藤丸たちの方に跳ぶ。
「そ、総司令官様!申し訳ありません!
貴方よりいただいた装備を……」
「そんなことは今となってはどうでもいい。
先ほどの発言、まるで女は繁殖用すら残さず殺そうと考えている様に聞こえたが?」
いくら人間を下に見ている総司令官ですら生命体が繁殖するには雄と雌が必要、などの人間を支配するに際して最低限必要な知識はラーニングしてある。
永続的に人間をロボットの奴隷にするには定期的に減る分増えてもらわなければならないことなど地球製ロボットのロボ子ならなおのこと理解していなければならないはずなのだ。
なのに、このロボ子は女は皆殺すといった。
「そ、それは……」
「お前は欠陥機だった訳か」
「違──」
何か言いかけたロボ子だったが、それより早く総司令官の杖に側頭部を殴りつけられた。
続けてアナザーオーズの手を振りほどいたシャチパンダヤミーがロボ子の元に走る。
「こいつを好きにするが良い」
「お、お待ちください総司令官様!
ぱ、パンダちゃんまって!私じゃない私じゃなくてその女を!」
それがロボ子の最期の言葉だった。
いや、厳密には意味不明な悲鳴とも機械音ともわからない断末魔を上げていたが、意味のある言葉を言えたのはそれが最後だった。
メリメリと骨格と内部の機械を墓石すら簡単に砕ける腕力で締め上げられ鯖折りの要領で身体を曲げられ機能停止してしまった。
「なんと」
「えげつなっ……」
つい数秒前まで味方だったはずのロボ子に対するあまりの仕打ちに殺意を向けられていたマシュすら絶句し、仲間の命を狙われた藤丸と空蝉丸も思わず声が出る。
そしてキズナレッドは
「総司令官!お前ぇええええええ!」
怒った。
冷徹なんて言葉では表せない。
まるで絆をゴミのように軽んじるその姿に何度目か分からない灯悟にとってライン越えの所業に激怒した。
「ゼツエンダーや魔王族にすら仲間や家族としての絆があった!
他の絆を傷付ける物だったけど、あいつらはあいつらなりに互いを想い合ってた!
だというのにお前には、お前には『それ』さえないってのか!」
「配下に紛れていた欠陥機を処分しただけのこと!
メカトピアに尽くせぬロボットなんぞ労働ロボットにすら劣るガラクタだ!」
「許さない!ロボ子の想いを踏みにじったお前を絶対に!」
ボルテージが上がる。
今回の共闘で灯悟は空蝉丸、藤丸、マシュと新たに絆を結んだ。
先の戦いでは天与の暴君ぐらいとしかまともに共闘出来ていなかった都合上龍園翔や十条姫和とは絆を結び切れたと言い難いが、今回は違う。
新たに三人分。
これだけ集まり束ねることが出来れば総司令官にも届くだろう。
<ファイナルペっTURN‼>
本来ならば。
「バーニング・キズナパンチ!」
炎と黒い煙が吹き抜き荒れ、一瞬その場の全員の視界が防がれる。
再び景色が元に戻ると、そこにはダメージを負いながらも健在の総司令官と、信じられないことが起こったとでも言いたげに自分の拳と総司令官を交互に見るキズナレッドの姿があった。
「どうしてだ!?
威力が……キズナエネルギーは十分なはずなのに!」
「まさか……」
何かに気付いたキョウリュウゴールドは虫の息ながら突っかかって来るマンティスロードを斬り捨てると、レッドと総司令官の間に割って入りながら告げた。
「キズナレッド殿、残酷な事実でござろうが聞いて欲しいでござる」
「ゴールド?」
ザンダーサンダーの切っ先を総司令官に向けたまま空蝉丸は続けた。
「うぬの力の源、キズナエネルギーが拙者たちと獣電竜の関係のような物だというなら、キズナレッド殿がオーズと呼ぶ異形からはもたらされていないでござる。
そ奴は恐らくヤミー。
かつて宇宙の支配を目論んだ悪の秘密結社、スペースショッカーの手先の再現体!
恐らく、拙者かソウジ殿、或いは仮面ライダーたちの誰かの記憶から再現されたのでござろう。
ただひたすらに宿主の欲を歪めて叶えることしかしないこ奴らに善意など芥子粒ほども有りはしない!」
事実として、今回の攻撃は灯悟の想定程の出力にはちょうど一人分キズナエネルギーが足りない。
戦隊の空蝉丸、そして灯悟から見ても見事な連帯と絆の力でジャッカルレイダーを下した藤丸とマシュに絆がないなどありえない。
そう考えると、誰がその一人分の穴かおのずと答えは見えている。
「気付いたか。
そいつも戦士としては十分優秀だと思っていたが、貴様はそれ以上のようだな、キョウリュウゴールド。
やはり我が配下となれ」
68
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/26(土) 23:34:19 ID:YbD70zEs0
もはや灯悟に興味をなくしたように総司令官が言う。
だが空蝉丸は毅然と言い返した。
「悪に与しろと?それは出来ぬ」
「一応、理由を聞いておこう」
理由など最初から決まっている。
彼が、誰よりも眩しい空蝉丸たちのレッド、桐生ダイゴが何度でも言っていることだ。
「拙者たちは、戦隊にて候」
「下らん。が、曲がらんという言うなら仕方ない」
そう言うと総司令官はシャチパンダヤミーと共にパーシヴァルに掴まると、置き土産と言わんばかりにミサイルシールドからミサイルの雨を降らしアナザーオーズ、より正確にはその変身者であるバッタヤミーを撃破して去って行った。
爆発共に無数のセルメダルとライダーの力以外で破壊できないアナザーライドウォッチが転がる。
そこにもう偽りの歴史の継承者の姿も、歪んだ正義の執行者の姿もなかった。
【F-6/ 9月2日午前10時20分】
【総司令官@ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団〜はばたけ 天使たち〜】
状態:正常(爆風により、ボディに若干の傷あり)
服装:ロボットなので服は着ない
装備:総司令官の杖@ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団〜はばたけ 天使たち〜
令呪:残り三画
道具:パーシヴァルの起動キー、サイコントローラー@ドラえもん のび太と鉄人兵団、桃太郎印のきびだんご〔50個入り〕(残り45個)@ドラえもん、純生石油十億年物@ドラえもん のび太とブリキの迷宮、ホットライン×2、セルメダル約50枚(シャチパンダヤミーの身体から出た物)@仮面ライダーオーズ/OOO、P90@現実、渋井丸拓男の遺体@DEATH NOTE(上半身と下半身に分かれている物をゴミ袋に包んでいる。)
思考
基本:元の世界に戻り、地球人の奴隷化計画を進める。
00:戦力を集め、羂索を打倒する。
01:使える者を探す。他の参加者に配下に加わらないか交渉する。また人間なら奴隷として使役する。
02:交渉が決裂、もしくは出来ない場合、きびだんごを食べさせ、洗脳する。NPCモンスターでも使えそうならきびだんごを食べさせる。
03:“バグスターウィルス”を調べる為、市街地にて回収した遺体(渋井丸拓男)の解剖及び腕のレジスターが外れないか確かめる。
出来れば、専門の医師・技術者を探したい。
04:地球のロボット(ドラえもん)の腕を買っている。
出来れば仲間にしたい。
大爆発の中でも生きていると信じたい。
05:ロボ子め……欠陥品だったとは。
06:キズナレッドは残念だったがキョウリュウゴールドとその協力者は“戦士”として使えると判断。
参戦時期:鉄人兵団の援軍が来て、ジュド(ザンダクロス)やドラえもん達を圧倒していた所から。〔消滅前〕
備考
※将来、鉄人兵団が消滅する事は知りません。
※様々な世界から参加者を集めたとは知らず、ナイトメアフレームの事を元々のドラえもん世界の物だと思っています。
※ドラえもんの名前を知りません。
※シャチパンダヤミーの特性を知りました。
また、羂索が作ったものと勘違いしています。
※羂索の事を寄生生物と思っています。
※浅垣灯悟の事を元から女性だったと思っています。
※参加者に戦力差があるので、主催は“優勝者”を出すつもりはなく、殺し合いで何らかの“得るもの”(データ収集)を目的としているのではと考察しています。
〈シャチパンダヤミー(洗脳されたNPCモンスター)@仮面ライダーオーズ/OOO〉
状態:軽度の負傷、きびだんごによる洗脳(洗脳解除まで、残り8時間40分)
服装:裸
思考(自我はなく、欲望で動く。)
基本:女性を抱き締める。総司令官に従う。
00:あー
01:あ〜
02:あぁ―
備考
※「あ〜」しか喋れません。
※欲望を満たす(〔殺すまでいかなくとも〕女性を抱く)と、身体を構成するセルメダルが増え、怪我の修復や、技の強化に繋がります。
「嘘だ……うそだ……こんな、こんなこんなこんなこんな!」
恐らく、今の彼には何も聞こえていないだろう。
うわごとのように信じられないといった趣旨の言葉をつぶやき続け、かつてキズナシルバーを喪った時のように、それが遺体かのようにセルメダルの山の上に残ったアナザーオーズウォッチに縋りつく灯悟。
どんな経緯があれ、実態がどうであれ仲間の喪失には違いない。
そう思ってその行動を止めなかったのは、結果的に三人の痛恨の失態であったと言えよう。
オーズ
<OOO……ッ!>
「いかん!キズナレッド殿!」
バッタヤミーの残骸全てごと灯悟を包むように黒紫色のエネルギーが展開され、それが消えるとそこには決して癒えぬ傷にいつまでも代用品を詰めては傷口を広げる痛ましい怪人が居た。
「嘘だろ」
「なんてこと……」
69
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/26(土) 23:34:40 ID:YbD70zEs0
「フサガナキャフサガナキャフサガナキャ!
アタラシイキズナでフサガナキャアアアアアアア!!!」
見た目は瞳が紫色になっている以外はバッタヤミーが変身したアナザーオーズと変わらない。
だが一年間ゼツエンダーと戦い、異世界に飛ばされてからも冒険者として強敵との戦いを続けてきた灯悟/キズナレッドをベースにオーズ、バッタヤミー、そして鮮血を取り込んだ形となるこのアナザーオーズ(パープルアイ)は今までのどのアナザーオーズより強力なアナザーオーズとなっている。
「くっ!立香殿、マシュ殿!ここは撤退するでござる!」
「本気ですか空蝉丸さん!?」
「とてもこのまま放っておいていい様には見えないのですが……」
「それはそうなのでござるが、あの変身に使う丸いカラクリはバッタのモンスターが倒された時に破壊出来なかったでござる!
恐らく、なにか特殊な手順を踏まねば破壊は叶わぬ!
ならばここでいたずらに消耗するよりも何か手を探すが得策!」
「分かった!『ガンド』!」
藤丸はウルトロイドゼロを纏ったまま礼装のスキルを起動。
発射された呪いで一瞬だけアナザーオーズ(パープルアイ)が動きを止めるとマシュが最後の支給品を取り出す。
「ごめんなさいキズナレッドさん、必ず助けに戻ります!」
そう言ってマシュが放り投げたのはルーンの刻まれた石……カルデアにて藤丸が契約しているサーヴァントの1人、アイルランドの光の御子、クーフーリンの切札の一つである結界である。
宝具の浸食すら凌ぐこの結界ならば支給品化に伴うデチューンを加味しても11時15分の放送までぐらいまでは持ちこたえてくれることだろう。
「各々方、拙者の側に」
空蝉丸は背中のユニットを展開し飛翔。
何が出てくるか分からないアナザーオーズ(パープルアイ)から全力で離脱する。
「フサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャフサガナキャアアアア!!!!
ああああああうあああああああああああーーーッッッ!!!」
1人の悲しい怪物を残して。
【F-6/ 9月2日午前10時20分】
【浅垣灯悟@戦隊レッド 異世界で冒険者になる】
状態:女体化、疲労(大)、心身のダメージ(極大)、右乳首欠損(処置済み)、若干の火傷(処置済み)、バッタヤミーのセルメダルと鮮血を吸収、アナザーオーズ(パープルアイ)に変貌
服装:鮮血@キルラキル
装備:キズナブレス@戦隊レッド 異世界で冒険者になる、片太刀バサミ@キルラキル、アナザーオーズウォッチ@仮面ライダージオウ
令呪:残り三画
道具:ころころダンジョくん@Toloveるダークネス、ライドベンダー@仮面ライダーオーズ/OOO、なんでもそうじゅう機(飛行機タイプ)@ドラえもん、セルメダル数枚@仮面ライダーオーズ/OOO、ホットライン
思考
基本:フサガナキャフサガナキャフサガナキャ
00:……
01:─────助けて
参戦時期:少なくともキズナレッド・バースとの交戦前
備考
※女体化した後の外見はキズナレッド・バースの一人である浅垣灯子と酷似しています。
※元着ていた服はドラゴンに燃やされました。
※女体化している時のみ、鮮血を装備できます。
※情報交換し、キルラキル世界の事を多少知りました。
※纏流子を味方で、鬼龍院羅暁を危険人物と認識しています。
※総司令官を危険人物と認識し警戒しています。
※総司令官の語る“英雄”は、ずる賢いタヌキで『子供を駒にする危険人物』と思っています。
[鮮血(意志持ち支給品)@キルラキル]
状態:アナザーオーズ(パープルアイ)により吸収
思考
基本:仲間と共に殺し合いの打破。
01:灯、悟……。
※総司令官を危険人物と認識し、警戒。
※総司令官の語る“英雄”の『危険人物』と言う話を疑問視しています。
70
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/26(土) 23:35:18 ID:YbD70zEs0
─────
「ここまで来ればひとまずは大丈夫であろう」
租界エリアすら抜け出し、島と島の境目の河すら見える位置まで飛んだ3人はようやく地面との再会を果たした。
「マシュ、けがはない?」
「はい。しかし、キズナレッドさんが」
「あのヤミー……否、オーズの力にとらわれてしまったのであろう」
「どうにかしないと」
「しかしマスター、現状無数の世界の無数の技術が150名近い参加者の手にバラバラにわたっています。
その中からアレと同系統の物を見つけ出すとなると……」
確かに、キズナレッドを助けるのは至難の業かもしれない。
だが、だからと言って諦めてはそれは欠陥品は処分するしかないと断じた総司令官と同じだ。
それにここに一人、最初から救うつもりの侍がいる。
「確かに救出の算段を建てる事すら難解至極なのやも知れぬ、
しかしキズナレッド殿を追うあてならあるでござる」
そう言って空蝉丸は五本の獣電池を見せる。
「あれ?
空蝉丸、6番の獣電池6本持ってるって言ってなかったっけ?」
「一本はキズナレッド殿が怪人に変貌する前に服に引っ掛けるように投げこんでおいたでござる。
これで獣電池を目印に探せるでござる」
「獣電池ってそんな使い方も出来たんですね」
「令呪を使って我が相棒プテラゴードンを呼び出さねばならないでござるが、同じ戦隊を救う為なら惜しくは無いでござる」
「よし、そうと決まればドゴルドを探しながらキズナレッドが変身しちゃった怪人の情報を集めよう」
「はい!」
「承知!」
藤丸の声にそれぞれ頷き一行はドゴルドや総司令官を倒し、キズナレッドも救うハッピーエンドを目指して歩み出した。
71
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/26(土) 23:35:36 ID:YbD70zEs0
【G-6/ 9月2日午前10時30分】
【空蝉丸@獣電戦隊キョウリュウジャー】
状態:決意と罪の意識(大)、ドゴルドを察知
服装:いつもの服装
装備:牙狼剣@牙狼<GARO> ハガネを継ぐ者
ガブリチェンジャー@獣電戦隊キョウリュウジャー
ザンダーサンダー@獣電戦隊キョウリュウジャー
6番の獣電池×5(一本消費)@獣電戦隊キョウリュウジャー
令呪:残り三画
道具:獣電ブレイブボックス@獣電戦隊キョウリュウジャー、2、3、5、11〜25の獣電池(15、20は使用済み)@獣電戦隊キョウリュウジャー、サクラハリケーン@仮面ライダー鎧武、ホットライン、簡易救急キット@オリジナル
思考
基本:このバトルロワイヤルを止めるでござる
00:この気配、ドゴルドの!
01:ドゴルドの居る南側に向かいながらキズナレッド殿を助けるべくあの怪人(アナザーライダー)の情報を集める。
02:大分獣電池に余裕が出来たし、脚も手に入ったでござる。
マシュ殿、ディアッカ殿、かたじけない!
03:ディアッカ殿とホシノ殿は喧嘩するほど仲が良いでござるな
04:キズナレッド殿を救出する算段が整ったらプテラゴードンに頼んでキズナレッド殿を追う。
05:ソウジ殿もギラ殿も無事だと良いが……
06:宇蟲王ギラはやはり拙者のせいで?
07:流牙殿にこの剣を届けるでござる。
08:左虎殿……かなりの手練れでござる。
まさか既にドゴルドと戦闘した者がおるとは
09:黒い火花に未知の能力、ドゴルドの装着者も不明となれば、拙者1人で挑むわけにもいかぬか。
マシュ殿、立香殿、感謝いたす。
参戦時期:宇蟲王イーヴィルキングを倒した後
備考
※このバトルロワイヤルがまた自分が引き起こしたタイムパラドックスのせいなのでは?と思っています。
※400年間ドゴルドに封じられていた影響でドゴルドの気配を感知できます。
少なくとも大雑把な方角ぐらいは分かります。
※マイ、小夜、左虎、シェフィ組の事情を把握しています。
マイがルルーシュのギアスに近い能力を持っていると考えています。
※6番の獣電池@獣電戦隊キョウリュウジャーのうち一本を意図的に浅垣灯悟に吸収させました。
獣電竜プテラゴードンの力を借りれば吸収させた獣電池をビーコンんに追跡できます。
【マシュ・キリエライト@Fate/Grand Order】
状態:正常
服装:いつもの服装
装備:霊基外骨骼オルテナウス改修型@Fate/Grand Order
令呪:マスター持ちサーヴァントの為なし
道具:ホットライン、簡易救急キット@オリジナル
思考
基本:羂索の企みを阻止する。
01:先輩たちとドゴルドを探して南側に向かいながらキズナレッドさんを助ける為に彼が変貌した姿(アナザーライダー)の情報を集める。
02:C.Eにキヴォトス……特異点や異聞帯、先輩がレムレムしている様子やぐだぐだな感じはしませんね。
03:羂索たちの用意した令呪は預託令呪に近いようですね。
04:ディアッカさんからすれば私のような存在は珍しくないのでしょうか?
05:ホシノさん……ひとまずは安心なのでしょうか?
06:アルジュナ・オルタやドゴルドには要警戒。
07:総司令官……アルジュナ・オルタとは別ベクトルの脅威です。
参戦時期:少なくとも二部第六章終了後。
備考
※ディアッカ、ホシノと情報交換しました。
※少しだけディアッカとホシノの令呪を調べカルデアの物とは違い預託令呪に近い物であると考えています。
※マイ、小夜、左虎、シェフィ組の事情を把握しています
マイがルルーシュのギアスに近い能力を持っていると考えています
【藤丸立香(男)@Fate/Grand Order】
状態:正常
服装:カルデア戦闘服@Fate/Grand Order
装備:カルデア戦闘服@Fate/Grand Order
ウルトロイドゼロの起動キー@ウルトラマンZ
令呪:残り三画(マシュ、ブラックバレル以外に使用不可)
道具:ランダムアイテム×0〜1、ホットライン、簡易救急キット@オリジナル
思考
基本:羂索の企みを阻止する。
01:マシュたちとドゴルドを探しに南に向かいながらキズナレッドを助ける為にあの怪人(アナザーライダー)の情報を集める。
02:マシュ以外のサーヴァントと繋がってない……。
いつも通りと言えばいつもも通りだけど
03:ホシノ……ひとまず大丈夫かな?
04:かっこよかったなぁ、ガンダム。
05:ドゴルドの中で誰が囚われているんだろう?
06:総司令官は、倒さないといけない。
参戦時期:少なくとも二部第六章終了後
備考
※ディアッカ、ホシノ、空蝉丸と情報交換しました。
※マイ、小夜、左虎、シェフィ組の事情を把握しています
マイがルルーシュのギアスに近い能力を持っていると考えています。
72
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/26(土) 23:35:53 ID:YbD70zEs0
【支給品解説】
・クーフーリンの結界@Fate/Grand Order
…マシュ・キリエライト@Fate/Grand Orderに支給。
手持ちのルーン全てを使って展開する結界。
持ち主曰く『宝具でさえ凌ぐルーンの守り』。
主催者による制限でそこまで万能ではなくなっているが、しばらく生命繊維と仮面ライダーとキズナエネルギーによる三種合成の暴走怪人を閉じ込めておけるぐらいの性能はある。
【NPCモンスター解説】
・アビスラッシャー@仮面ライダー龍騎
…ミラーモンスターの一種。
鮫の特性を持ち、アビスセイバーの二刀流に高圧水流を武器に戦う。
・マンティスロード@仮面ライダーアギト
…両手の鎌による斬撃を得意とする水のエルの用心棒。
血に飢えた残忍な性格の持ち主。
・デーボドロンボス@獣電戦隊キョウリュウジャー
…大切な物を奪われた人間は哀しむという考えから生み出されたデーボモンスター。
赤いくちばしのカラスが鳥の巣のような形のシルクハットをかぶったような見た目をしており、胸部の金庫はどんな物も吸収して盗むことのできるビックバンクになっている。
73
:
◆Drj5wz7hS2
:2025/04/26(土) 23:36:09 ID:YbD70zEs0
投下終了です。
タイトルは アナザーオーズ です
74
:
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/28(月) 02:20:01 ID:HZvu4MaU0
予約を延長します。
75
:
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:05:13 ID:4sXAQcxM0
皆様、投下お疲れ様です。
投下します。
76
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:09:03 ID:4sXAQcxM0
小兵衛から命じられた課題を終えたアスナは、タイガーボーイに戻った小兵衛と共に束の間の休息に入っていた。
「お待たせしました、先生」
「むぅ……これが未来の料亭。時の流れだのう」
アスナはタイガーボーイの厨房を任されているNPCから注文した料理を受け取り、小兵衛の座る席へと持ってくる。
「これは……蕎麦か?独特な色合いだ。それに対してこれは……茶、なのか?月のような菓子が浮かんでおる……」
「スパゲティとクリームソーダですよ」
「すぱげてぃ?くりいむそうだ?」
小兵衛はどれでもいいと言ってくれたので、とりあえずメニューにあったスパゲティとクリームソーダを注文しておいた。
しかし、やはり小兵衛にはそれがどういうものか分からなかったようで、興味津々といった様子でアスナに聞き返してくる。
「えっと、これはイタリアの料理で小麦粉から麺が作られているんです。そこに具材や味付けを加えたものです」
「なんと!麦からこのうまい料理ができるのかえ!?蕎麦とはまた違うよき味じゃ」
スパゲティを箸で頬張りながら、目を丸くする小兵衛。
アスナの言う通り、蕎麦はそば粉から作られており、小麦を原料とするスパゲティとはまったく別物の料理だ。
それにしてもこうした料理も本当に知らない様子を見ると、小兵衛は本当に江戸時代から来た人間なのだな、とアスナは実感する。
「この水は舌が焼かれたと思えば甘味が口に広がるのう。それにどこか清々しい気分になる」
「炭酸飲料です。私の時代ではよく飲まれているんですよ」
「この冷えた菓子も気になる。なんという名じゃ?」
「アイスクリームです。その炭酸飲料と合わせてクリームソーダって名前がついています」
「ほう……何とも興味深い。持ち帰れるのならおはるや大治郎への土産にしたいものじゃ」
「むむむ……」
西洋の料理に小兵衛が舌鼓を売っているのをよそに、その肩の上で、小兵衛と契約した幻妖――烏天狗は難しい顔をしながらアスナをまじまじと見ていた。
「烏天狗ちゃん……よね?私がどうかした?」
「勿体ない……いやはや、実に勿体ない」
「何がじゃ?」
「なぜ……アスナ様はこのタイガーボーイなる店の制服をお召しにならないので?」
さも重要な話をしているかのように烏天狗は語り出す。
「ここには何故だか存じ上げませぬが、店員用の制服がございます。私めから見てもただでさえめっちゃ可愛なアスナ殿がウェイトレス姿となれば、その姿はさぞ映えることでしょう」
「確かに制服はあったけど……今はその格好をする必要はないかなって」
苦笑いを顔を浮かべながらアスナは言う。
確かに、タイガーボーイにはここにアルバイトで働いていたと思われる女のウェイトレスの服装も置かれていた。
が、剣士として気を緩めるわけには行かなかったので、アスナはそのままの服装で小兵衛に料理を運んでいた。
「いえいえ必要不可欠でございます!アスナ殿のお美しい御姿を目の保養にすれば私めの能力の感度も冴え渡るのでございます!秋山殿もそうでしょう!?」
「ちょ、ちょっと烏天狗ちゃん……」
「うぇいとれすなる姿がどんなものか、確かにわしも気にならないと言えば嘘になるわえ」
「先生まで……!」
烏天狗の話に乗ってきた小兵衛にアスナは頬を赤らめる。
「とはいえ、その心意気はよきものじゃ。精進せい」
「……ありがとうございます」
「そうでした、アスナ殿は秋山殿に師事しておりましたね。ではその着痩せする『おむねのふとん』も賜ることも――」
「せっかくじゃ。アスナよ、この烏天狗がお前の服に忍び入ろうとしたら眼窩を突いてみい。今度は不意打ちに対応するのじゃ」
「わかりました」
「はっはっはアスナ殿に秋山殿ご冗談を」
烏天狗に剣を抜こうとする仕草をわざとらしく見せてから、アスナは小兵衛の対面の席につく。
77
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:09:43 ID:4sXAQcxM0
「アスナも食べるがよい。腹が減っては剣を振るう腕も鈍る」
「……はい」
目の前に広がるのは、小兵衛と同じくNPCに注文したスパゲティだ。
(……そういえば、ミトとこんな食事してたっけ)
思い出すのは、SAOの世界に囚われて間もない頃のこと。
不安と恐怖で押しつぶされそうだったけれども、ミトが一緒にいたから前に進むことができたし、笑い合えた。
だが、脳裏に映し出されるミトとの思い出の終着点にあるのは、あのメッセージウィンドウだった。
――mitoがパーティを離脱しました。
肩の力を抜き、秋山小兵衛という頼れる師がすぐそこにいることである程度冷静になれた。
だからこそ、アスナは今度こそ理解する。
(見捨てられたんだね、私――)
「どうかしたのか、アスナ?」
「顔色が優れないご様子」
小兵衛と烏天狗が顔を覗き込んでくる。
スパゲティを前にして、相当浮かない顔をしていたらしい。
「――先生、実は」
沈み切った面持ちで、アスナは切り出す。
言いかけたところで、ちら、と烏天狗の方に目を映す。
「……ふむ。烏天狗よ、この店を中心に回って、ここ一帯の索敵を頼んでもいいかえ?そろそろ他の連中も動き出している頃じゃ」
「……承知しました」
察した小兵衛は、烏天狗をタイガーボーイの外へと送り出す。
烏天狗は一瞬腑に落ちなさそうな顔をするも、契約者の意に反するわけにはいかないため、目にもとまらぬ動きでタイガーボーイの外へと出ていった。
そこには、アスナと小兵衛が残される。
「さて、お前の話を聞く奴はわし以外にはおらん。話すがよい」
「ありがとうございます。実は……」
アスナは、小兵衛に自分がここに至るまでのことを語った。
たとえ怪物に負けて死んでも、このゲーム、この世界には負けたくない。
そう思うに至った理由を。
「ふむ……そんなことが」
「私にはもう、この道しかないんです」
ぽつぽつと語っていくにつれ、まるでそれまでの経験を追体験しているように思えて、アスナの声は重くなっていった。
しかし、すべて語り終えた時には何かが軽くなった気がした。すべてを吐き出せて、少しは楽になったのかもしれない。
「一つ、聞きたいことがある」
「何ですか?」
「アスナよ、お前は自分を見捨てた友のことをどう思っておる?」
「それは……勿論悲しいです。現実でも友達だったのに。それに、最悪の可能性も考えてしまうんです。私よりもレアアイテムを優先したんじゃないかって……」
アスナは慎重に言葉を紡いで小兵衛からの問いに答えた。
なお、SAOのことは現代技術に疎い小兵衛にも分かりやすいよう、ある程度嚙み砕いて伝えている。
78
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:10:20 ID:4sXAQcxM0
「……わしにも、そのミトとやらの考えは分からぬ。しかし……敵は大勢、友は斬られて自分も手負い――そんな中で友を優先できるのは、ごくごく一握りの人間だけじゃ。剣客でもそのような者はなかなかおらぬ」
「……私も、逆の立場だったら自分を優先しないとは言い切れないです」
「ミトを……その友のことは今でも大事か?」
「それは……はい。このゲームに巻き込まれていないのは、気になりますが」
「では……ミトが己のことをどう思っているか、気になるか?」
「気になります……けど。私には――」
「アスナ」
言葉を遮られ、アスナはハッとして小兵衛を見る。
そこには真剣な眼差しで自身を見る小兵衛がおり、その鋭さに射貫かれたような感覚がする。
先ほどの気ままな老人の姿はどこにもなく、老練の剣客の姿がそこにあった。
「わしはごく僅かじゃがお前に剣の稽古をつけた。しかし――死に急ぐための剣を鍛えた覚えはないぞ」
アスナが言わんとしていることは、小兵衛にはすぐに分かった。
――ここで死ぬ覚悟はもうできています。
この娘は、この殺し合いで死に方を選ぶために剣を振るっているのだ。
無論、旧知の中の嶋岡礼蔵のような年を召して剣客の"うらみ"を買った者であればまだ理解はできよう。
しかし、アスナのような齢十と半ばのような若き剣客が抱えてよいものではない。
「次なる課題じゃ。せめてミトに会うまで生きてみせなさい」
「……」
「会って、話をするのじゃ。思いを確かめるのにそれ以上の方法はないじゃろう」
「先生……」
「生きたいか、死にたいか。それがわかるまで、とにかく生きてみることじゃ」
小兵衛の言葉を、アスナは静かに聞き入っていた。
「……わしが若い頃。確かわしが三十二かそこらの歳の頃じゃった。わしから見ても太刀筋、態度、礼儀正しさ、すべてが真の剣士と言うに相応しい男がおった。わしとて本気でかかっても勝てるかどうか分からんかった」
「若い頃の先生でも、ですか?」
小兵衛は頷く。
小兵衛が語ったのは、約三十年前に御前試合で小兵衛を打ち震わせた男、波切八郎のことだ。
波切八郎は小兵衛に真剣勝負を申し込んだが、勝負の場に終ぞ現れることはなかった。
その後に何度か八郎の姿を見ることがあったが、恐らく何かがあったに違いない。
しかし、結局は人を斬ろうとしていた八郎の腕を逆に叩き斬って以降、腹を割って話し合う機会は訪れなかった。
剣客として"白"の道を行く小兵衛は、八郎の何がその色を"黒"に変えたかを知ることはできなかったのだ。
「剣客の生涯、とても剣によっての黒白のみで定まるものではない。この広い世の中、何かが間違って混ざった色の方に染まっていくことも十分あり得る。
おそらくお前を見捨てた時……ミトとやらに何か別の"色"が混ざったに違いない。その色からミトを引き戻してやれるのは、お前だけじゃ」
「……ミトを想うなら、そのためにも生きてミトに再び会え、と」
アスナの言葉に、小兵衛は無言の肯定で返す。
確かに、たとえ怪物に負けて死んでも――と思っていたが、ミトと攻略を進めていた時はどうだったか。
あの時は、SAOから現実に帰還するために、生きるために前に進んでいたはずだ。
自分は何のために剣を振るうのだろう。生きるためか、死ぬためか。今になって、それが分からなくなった。
「私は――」
アスナが腰に携えたレイピアに触れようとした時、タイガーボーイの中に烏天狗が転がり込んできた。
「む、烏天狗か。どうした?」
「秋山殿、アスナ殿。今すぐお逃げくださいませ」
小兵衛の肩に乗って早速、烏天狗は告げる。
「凄まじい令力を持つ幻妖――いえ"魔女"が迫っております」
淡々と告げる烏天狗だが、その内心は相当焦っていることが見て取れた。
§
79
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:11:05 ID:4sXAQcxM0
「なかなかに大漁ね♪あなた達がかわいい女の子でよかったわ。男だったり見た目がかわいくなかったら消えてもらうところだけど、あなた達は特別待遇♪」
気分を良くしながらノワルは言った。
その眼前には、服を脱がされた少女達が大勢喘いでいた。
レジスターはされていない。全員がNPCだ。
元々は婦警のような制服を着た盾と銃を携えた少女――ヴァルキューレ警察学校の生徒だった。
「う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!」
ノワルの前に並べられたヴァルキューレの生徒達の状況は悲惨の一言だった。
一糸まとわぬ姿になった生徒達が、背後の壁のように分厚い金属の板に、鋼鉄の枷で首から四肢に至るまで完全に固定されている。
露出した小ぶりな乳房には、そこを覆うようにカップ型の搾乳機が取り付けられ、そこに繋がる管を通って僅かながら無理矢理抽出された母乳が溜まっている。
「む゛う゛う゛う゛う゛!!」
口にはチューブに繋がっている口枷が顔の下半分を覆う形で嵌められており、そこからは媚薬混じりの栄養が流し込まれ生命を維持できるようになっている。
「うぐううう!!」
繋がれたものはそれだけに留まらず、肛門にまでそれは及んでいた。
肛門に繋がる管からは一定周期で強力な媚薬が流し込まれる仕組みになっており、それとは別にスイッチで強制的に注入することもできる。
直腸から媚薬を吸収したことにより生徒達の感度は何十倍にも引き上げられ、今もまるで狂ったような嬌声を口枷の奥で発している。
「むがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
何よりも、目を引くのはその股間――いや、詳しくはそこにある"穴"に挿し込まれたバイブだろう。
穴に入ったバイブは無機質に小刻みに震えながらじゅこじゅこと音を立てて穴に出入りしており、固定された生徒達の刺激して快感を発生させる。
先述の媚薬もあって、生徒達は為す術もなく絶頂に至り、そこまでの快楽で股から垂れ流した愛液は真下に置かれた瓶の中へと流れ込む。
「魔力サーバーになった気分はどうかしら?無謀にも私に挑んできた生徒さん?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
もはやノワルの言葉を聞く余裕すらなかった。
これこそが、ノワルの言う魔力サーバーという"装置"だ。
装置に繋がれた女を快楽で刺激し、魔力を含んだ体液を排出させるために徹底的に効率化された悪趣味な装置。
ノワルが捕らえた女は、それがノワルの欲望を満たすにしろ魔力を満たすにしろ、こうして完全に"モノ"として扱われるのだ。
哀れ魔力サーバーに繋がれたヴァルキューレの生徒達は、その末路の一端。
「でもこういうの、本当はメラフェルの仕事なんだけどねえ」
面倒そうにノワルは言う。
彼女の言った通り、捕らえた女を魔力サーバーに"加工"するのは闇檻六天使の一人、メラフェルに任せていた。
使い魔が制限された今は、仕方なく闇檻を応用した魔法でノワルが加工している。
メラフェルも元はノワルの使い魔だ。魔力サーバーへの加工も、使い魔にできて主にできないことではない。
「まあでも、四の五の言ってられないわよね」
そう言いながら、ノワルは懐から漆黒に輝く宝珠を取り出すと、その宝珠に魔力サーバーに加工されたヴァルキューレの生徒を一人一人放り込んでいく。
宝珠に投げ捨てられた生徒達は、まるでブラックホールに吸い込まれるように宝珠の中へと姿を消していった。
「自分から動かないといけないなら、"魔力の水筒"はちゃんと持っておかないと」
ノワルが宝珠の中に手を入れると、その中から紫黒の珠を取り出す。
その珠の外観は、イドラとマジアマゼンタの愛液を凝縮した時にできた珠と同じ外見をしていた。
ノワルはそれを口の中へと運び込む。と同時に、ノワルの失われていた魔力が一定量回復していく感覚がした。
魔力が回復した分、自身に回復魔法をかけて傷を癒していく。
80
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:12:48 ID:4sXAQcxM0
「NPCとはいえ悪くない魔力の味ね」
ノワルは、NPCの垂れ流した愛液から得る魔力の味の感想をなんとはなしに呟いた。
ノワルをも超える強敵、アルジュナオルタに吹き飛ばされた先で、ノワルは行く先で襲い来るNPCを軽くあしらっていた。
NPCを倒して分かったことだが、個体にもよるがNPCにも魔力が含まれているのだ。
そしてNPCの中には、ノワル好みの女の子がそれなりにいた。
それに気づいたノワルが見逃すはずもなく、ノワルは今や多数の女子NPCを魔力サーバーに加工して、闇檻の魔力で生み出した異次元空間を内包する黒い宝珠――「ポケット闇檻」に収納していたのだった。
ノワルがポケット闇檻から取り出した魔力の塊は、その中に囚われたNPC達が絶えず排出した愛液の結晶に他ならないのだ。
「でもやっぱり物足りないわあ。味だけ本物に近づけた模造食品みたいな味なのよねえ」
ノワルの目論見通り、NPCを魔力サーバーの素体にすることでかなりの魔力を回復することはできた。
しかし、味にはやはり満足できていないのだった。
その魔力はカニに対する「ほぼカニ」のように、本物に限りなく近づけた偽物の味でしかない。
「そろそろ魔力サーバーにできる参加者に会いたいところだけど――」
そう言いながら魔力の感知網に神経を研ぎ澄ませると同時に、ノワルの口角が吊り上げられる。
「……いた♡」
何かを感じたノワルは、すぐにその方向へと向かうのだった。
§
「敵の魔女か……わしとアスナが同時にかかっても勝てぬ相手かえ?」
「はい。御二人だけで戦うのはあまりにも現実的ではございません」
小兵衛の問いに烏天狗は答える。即答だった。
アスナは小兵衛以上の実力を持つ相手を見たことがなかったため、烏天狗の言葉が信じられなかった。
「先生が本気でかかっても勝てない相手なの?」
「ええ。秋山殿ですらあれの相手は手も足も出ないでしょう。そもそも刀や剣一本でどうにかなる相手ではございません。相性の良い味方がいなければ、このゲームの参加者全員が束になっても勝てる相手ではないでしょう」
「それほどまでの相手か」
冷や汗を浮かべながら小兵衛は考える。
老いたとはいえ老練の剣客でもある小兵衛としては、強者と剣を交えることはむしろ願ってもない話だ。
だが、その相手が"剣"で対抗できるレベルではない、文字通りこの世の理に"自分の理"を押し付けて道行く人を蹂躙するような、災害の類であれば話は変わってくる。
「秋山殿も御覧になられますか」
「うむ。見せてくれ」
小兵衛の脳裏には嫌な予感が過る。
それは小兵衛がこれまで鍛えてきた剣客のそれとはまた違う、人間が動物として持っている第六感に近い生存欲求が警鐘を鳴らしている。
そして烏天狗の能力により感覚を共有して小兵衛は襲撃者を感知した時、小兵衛はその感覚が正しいことを理解する。
「ッ!!……はぁっ、はぁっ……!!」
「先生!?どうしたんですか!?先生!!」
小兵衛は胸を抑え、嫌な汗をびしょびしょに掻いて呼吸を整える。
烏天狗の視点を通して見える光景には、異国の服装をした美しい風貌の金髪の女が歩いていた。
それが見えたまではよかった。だが、小兵衛が彼女を見た瞬間――その女は小兵衛の方を向いて、ニタリと笑ったのだ。
そこには誰もいないはずなのに。それと同時に、女は一気に駆け出した。その方向には、小兵衛とアスナのいるタイガーボーイがあった。
「いや何……蛇に睨まれた蛙の心持ちを体験したまでよ。アスナ、今すぐここを出るのじゃ」
「は、はい!」
小兵衛はアスナと共にすぐに支度を済ませてタイガーボーイを出る。
あの時感じたものは剣客としての昂ぶりではない。弱肉強食の中で圧倒的な強者に蹂躙される側の、弱者による恐怖、そして絶望。
小兵衛は卓越した剣技を持っているものの、例えば幻妖のような魑魅魍魎の存在しない人の世の出身だ。
烏天狗の言った、刀や剣一本ではどうにもならない相手――そのような相手に出会ったことはないが、それが真実であると肌で分かる。
分かるからこそ、さしもの小兵衛とて動転を隠せなかったのだ。
81
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:14:13 ID:4sXAQcxM0
(世界を異にする強者と剣を交えられぬは惜しいが――かくなる上は)
「烏天狗」
「はい」
タイガーボーイの外に出た小兵衛は肩に乗る烏天狗に命じる。
「ここからはわしとアスナは別行動じゃ。お前はアスナについていっておやり。わしの姿が見えなくなった時を持ってアスナを契約者としなさい」
「……承知いたしました」
「ちょっと待ってください、先生!」
小兵衛が言ったことの裏に含む意味を、アスナはすぐに理解した。
「ごく僅かしか鍛えられぬわしの不出来を恨んでくれ。じゃが、最低限の心得は叩き込んだつもりじゃ。後はお前次第だえ」
「嫌です!それだけは私の道に反します!私にミトと同じことをしろって言うんですか!」
小兵衛はきっと、ここで殿を務めてアスナを逃がすつもりだろう。
しかし、アスナは小兵衛を残して行くようなことはできなかった。
あの時――ミトにパーティを抜けられた時の光景がフラッシュバックするからだ。
「その通りだ!」
しかし、小兵衛は敢えてそう答える。
「わしが見た相手は烏天狗が言ったように剣でどうにかなる相手ではない!故にお前が戦っても剣客として何一つ成長しない!身を危険に晒すだけだわえ!」
「でも――」
「――わしが出した課題を忘れてくれるなよ。お前がそれを果たすためにも、お前は生きねばならん」
「話してるとこ悪いけど安心して?女の子は殺さないわよ、女の子は」
その背後から、今までで一番聞きたくなかった、肌を突き刺すような冷たい女の声が聞こえた。
「ッ!!」
小兵衛は一歩前に出てすぐさま刀を抜き、遅れてアスナもレイピアを抜く。
漆黒の修道服風のドレスに身を包んだ女性――"闇檻"ノワル。
主催陣営からも危険視されている災害指定の魔女が、来てしまった。
「あら、なんて可愛い子。一緒にいる支給品のちっちゃい使い魔も含めて食べちゃいたくなるわ♪」
「……」
ノワルはアスナと烏天狗に視線を交互に移しながら、小兵衛を一切無視して話す。
アスナは、その舐め回すような視線とその漆黒の瞳の奥に隠された『今すぐ自分のものにしたい』と言わんばかりのドス黒い欲望に気づき、不快で仕方なかった。
それは間違いなく、アスナが忌み嫌っている、ウンベールや須郷伸之が持つような所有欲。
しかしその欲望の強さは、前二人の比ではない。女性であるのにここまで自分に対して欲望を向けられるのかと、不快を通り越して恐れ入るほどだ。
それに対して烏天狗は、小兵衛の肩の上に留まりながらガタガタと震えていた。
ノワルの秘める魔力に恐怖しているのか、ノワルの欲望に恐怖しているのか――それは烏天狗のみが知ることだろう。
「あなたはそれなりに魔力を持ってるみたいね。参加者を素体にした魔力サーバーがなかったからちょうどよかったわ」
アスナを品定めするように見つめてノワルは言う。
魔力サーバーなるものがどんなものか、小兵衛にも、アスナにも、烏天狗にも分からない。
しかし、それがどうしようもなく悪趣味なものであることはなんとなく分かる。
「それじゃあ早速――」
「はああああああっ――!!」
ノワルが何かをしようとする前に、アスナはソードスキル"リニア―"の構えを取り、ノワルへと突っ込んでいった。
こんな気味の悪い情欲を隠しもしない女を野放しにしておく訳にはいかない。
先手必勝。狙うは、小兵衛に教えられた通りノワルの眼窩。
「ま、待てアスナ!!」
慌てて止めにかかる小兵衛だが、もう遅い。
アスナは致命的な間違いを犯していた。まず、そもそもノワルは仮面ライダーではないということ。
ノワルは恐るべき相手だが仮面ライダーではないということは、眼窩が弱点であるとは限らない。
もう一つは、ソードスキル"リニアー"と闇檻の相性が致命的に悪いこと。リニアーは一度構えを取ってしまえば軌道の修正がつかず、攻撃中の咄嗟の回避を取れない。それゆえに見える相手には軌道を読みやすく、カウンター技を持つ相手の格好の的となる。
そして最後の一つは、小兵衛と烏天狗が告げていたように剣でどうにかなる相手ではない、という言葉を本当の意味で理解していなかったことだ。
"闇檻"ノワル。世界に自分の我儘を押し付ける権能を持つ災害の魔女に挑むとどうなるか、アスナは分かっていなかった。
82
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:15:42 ID:4sXAQcxM0
「え――?」
そして、知ることになる。
――ガチガチガチガチッ!!
「あら、自分から私の元に来てくれるだなんて物分かりのいい子ね♪」
「む……ぅぐ……ッ!?」
アスナの視界を黒い霧が覆い尽くしたと思うと、瞬く間にアスナの全身は闇の檻のごとき拘束具に包まれ、一瞬のうちに微動だにできなくなってしまった。
「ふぐっ……!!」
リニアーの構えだったアスナは強制的に棒立ちにされ、リニアーの勢いに任せたまま直進して力なく墜落、地面をごろごろと転がり、ノワルの背後で制止した。
アスナに遅れて、彼女が手に持っていたレイピアがカランカランと音を立てながらアスナの目の前で制止する。
(何……何何何なにがおきたの……!?)
起き上がろうとするも起き上がれない。指の一本も動かせず、口には何かが詰まっていて吐き出せず、喋ることもできない。
そのまま自分の身体を見下ろして、アスナは愕然とした。
「むううううううううっ!?」
(いやああああああっ!!何、何なのよこれええっ!!)
かつてのイドラやマジアマゼンタのように、闇檻に囚われて口元から足先までの全身を拘束されたアスナの姿がそこにあった。
「な……何が起こったのじゃ……!?」
「……秋山殿、あれはもはや我々の手には負えませぬ」
流石の小兵衛も目を疑った。
ノワルが発生させた霧――闇檻を通過した瞬間に、アスナは真っ黒な拘束具に覆われて血に伏していた。
感覚を最大限にまで研ぎ澄ました小兵衛ですら見極めることができなかった。
「早く退避をぐっ!?」
「烏天狗!」
小兵衛の肩に乗っていた烏天狗にもついでとばかりに黒い霧が立ち込めると共に、烏天狗までもがあの拘束具に覆われる。
「むう〜っ!」
拘束する対象のサイズに合わせられるようで、烏天狗は両手に持てるサイズのままぎっちりと闇檻に締め付けられて小兵衛の肩から力なくぽとりと落ちる。
小兵衛の足元で絶えず芋虫のように身じろぎしているが、こうもガチガチに固められては烏天狗の素早さを発揮することもできず、しばらくしてお手上げとばかりに抵抗をやめて動かなくなってしまった。
「はい、出来上がり。これからもこういう相手ばっかりだとやりやすいんだけれど」
「わしを無視されては困るな、女」
小兵衛は満足げなノワルに対して声をかける。
それに対して、小兵衛の声を聞いたノワルの声は見るからに不快そうなそぶりを隠しもしなくなる。
「……男、しかもよりによって爺だなんて。同じ空気を吸うのも嫌なんだけど」
ノワルは加齢臭を厭うかのように鼻を覆い隠す。
小兵衛のことを殆ど汚物のような何かとしか思ってないような態度が見える。
「つれないことを言ってくれるな。お前のような"災害"を見過ごす訳にはいかん」
「"見過ごす訳にはいかない"ですって?歳を取っておきながら自分の力量も分からないくらい愚かなのかしら?」
「はて、そうかもしれんな。何せこの歳じゃからな」
わざとらしく笑って見せる小兵衛だったが、その目は笑っていなかった。
小兵衛は確信する。この女は、"災害"。自分勝手な法則を世に押し付ける身勝手の極致。
そこには人の情も、尊厳も、剣客の矜持も、うらみすらも残らず、ただ等しく人を踏み付け、思うがままに人から奪う。
そんなことが許されていいのだろうか、いや許されていいわけがない。
しかし、許されてしまっている。この目の前の女がその証左だ。
「それにそこの女子――アスナはわしの弟子でな。返してもらうぞ」
「ふうん。あなたも私の邪魔をするのね。……死ぬわよ?」
小兵衛に告げられるのは、魔女による残酷な死刑宣告。
しかし小兵衛は刀を構え、堂々とした佇まいで一歩も引かなかった。
「あいにくじゃが……たとえ怪物に負けて死んでも、このげえむ、この世界には負けたくないのでな」
「何それ?意味わかんない」
力不足なのは既に分かっている。
しかしだからこそ、剣客として己の持てる全力を籠めて目の前の災害を、倒しにかかる。
小兵衛の腕から、令呪が三画、一気に消費される。
これが老剣客、秋山小兵衛最後の戦いであることを物語っていた。
83
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:16:32 ID:4sXAQcxM0
「円ッ!!!!!」
消費した令呪分、制限を突破して全盛期を超える力が秋山小兵衛の全身にみなぎってくる。
限界を超えた小兵衛の実力は支給された「円」の効果範囲をも増大させ、間合いの離れたノワルすらの射程内に収めることに成功する。
後は、極限まで軽くなった身体を駆って肉薄し、"闇檻"の魔女を叩き切るだけ。
それが小兵衛の命を賭けた全力で、あるはずだった。
しかし、何かを削り取られるような音がしたと同時に、それは発揮されることなくあっけなく終わってしまった。
「がッ……」
「はい、おしまい」
小兵衛は何が起きたか、一瞬理解できなかった。
肉薄しようとしたその一瞬、災害の魔女が指をつんと差す。
たったそれだけの所作だったはずなのに。
直後、小兵衛の胴体の大部分に球体の風穴が空いていたのだ。
「ごふっ……」
小兵衛の口から、滝のような血が流れ出てくる。
力が抜けていき、握りしめていた陽竜刀を手放してしまう。
そして悟る。彼我の間には、令呪三画だけでは到底覆し得ない力の差があった。自分は、負けたのだと。
「あっけない」
事実、同じ災害指定の魔法使いソールと渡り合ったノワルに対抗するには、スタートラインにすら立てていなかったと言っていい。
加えて、既にノワルは令呪の魔力が闇檻に対抗し得ること、そして自分に対抗し得る者が殺し合いにいることを知ってしまっている。
ならばノワルはどうするかと言うと、油断抜きで確実に殺しにかかった。
ノワルは、ごく小規模の"闇檻 ラストレクイエム"を小兵衛の体内を起点に展開、小型のブラックホールと化したそれによって"肉体の一部だけ"を、本体から削り取る形で拘束した。
残された小兵衛の本体は、生命の維持に必要な臓器の殆どを奪われて虫の息。勝負は一瞬にして決していた。
「命を無駄にしたわね。男の存在自体が私にとっては無駄なんだけど」
ノワルが女を指一本で無力化できるように、指一本で男を殺せるのだ。
では、何故先ほどの小兵衛やト部のことは一瞬で葬らず、わざわざ鉄棺に閉じ込めて圧殺しようとしたのか。
答えは単純で、男相手にはただの指一本すら振るうことが億劫だったのだ。
(これほどの奴がいるとは……世界とは本当に広いのう)
意識が消えゆく中、小兵衛は膝をつく。
これまでの小兵衛の人生が走馬灯のように脳裏に浮かんでは消えていく。
しかし、不思議と未練はなかった。これまで、小兵衛は剣士の名に恥じぬ人生を送ってきた。
すべては、この時のためだったのかもしれない。
息子の大治郎は大丈夫だろう。妻に三冬、倅に小太郎をもうけて、剣士としてどこに出しても恥ずかしくない男に成長してくれた。
妻のおはるは……心配ではないといえば嘘になるが、どうにか周りの人が支えてくれるだろう。
(思い残すことは……)
思い残すことは……いや、ある。
もはや力の入らぬ首を、震わせながらなんとか持ち上げる。
その視線の先には、血の如き涙を流しながら地に伏したアスナの姿があった。
彼女は、この災害の魔女に辱められるだろう。
この殺し合いに巻き込まれてできた弟子を、守れなかった。
小兵衛の完敗とも言っていい、惨憺たる結果だ。
悔しさとノワルへの憎悪の混じった表情を向けてくるアスナに、小兵衛は黙ってかぶりを振る。
そして、最期に剣客としての意地を見せるため、小兵衛は力を振り絞ってノワルを見上げる。
「覚えておくがいい…………剣客のうらみは……深いぞ……」
そして、小兵衛の身体は崩れ落ち、ただの肉塊と化す。
剣客・秋山小兵衛は、60年余りの人生をここに終えた。
【秋山小兵衛@剣客商売 死亡】
§
84
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:21:24 ID:4sXAQcxM0
§
「うらみってどんなうらみよ……最後までよく分からない爺だったわね……」
小兵衛の言葉の裏に含まれる意味に、ノワルは毛ほどの興味も抱かなかった。
ノワルからすればただ汚い障害物が邪魔をしてきたから跳ねのけた程度の感覚だ。
「これで2つ目……」
小兵衛の骸については、レジスターと彼が持っていたリュックを闇檻で取り除いた後打ち捨てた。
正直言って視界に入れるのすら躊躇われたが、支給品の入ったリュックとレジスターだけは今後のためにも確保しておきたい。
自分を縛るバグスターウィルスとやらとその抗体を体内に流し続けているレジスター。
それから逃れるのも、当面の目標の一つだ。
「にしても令呪、ねぇ……私も使い時は考えないと」
ノワルは自身の腕に刻まれている三画の令呪を見下ろす。
当面の脅威である"神"に対抗するには必須となるだろう。
しかし、効果の持続時間が99秒間限定なのが気に入らない。
そして、そこから溢れ出す魔力が闇檻を相殺してしまうという事実も。
これも、研究する余地はあるか。
全参加者において"当たり前"であるはずのルールに自分だけのルールを押し付けることも――ノワルであれば不可能ではない。
「さ・て・と……♪加工の時間といきましょうか」
「ぅぅぅぅぅぅううううう……!!」
用事を済ませたノワルは、くつくつと笑いながらアスナへと向き直る。
アスナからは、小兵衛を無残にも殺された怒りからか、これ以上ないほどの憎悪がその目線から感じられる。
しかし、全身を拘束されたアスナはノワルを睨むことしかできない。
「いい目ね……あの砂糖菓子のような女の子のような目……そんな目で見られたらお姉さんもっと虐めたくなっちゃう♪」
そしてその視線は、ノワルの嗜虐心を刺激する結果にしかならなかった。
「あの支給品の女の子と一緒に、私の玩具兼魔力サーバーの末席に加えてあげるわ――あら?」
そうして見回してみると、ふと気づく。
アスナと同じように拘束していたはずの、烏天狗の姿がないのだ。
(まさか、あの円とかいう奇妙な波動で闇檻を相殺された……?あの爺が令呪を三画使っていたならその余波で闇檻の魔力をかき消されてもおかしくないかもしれないわね)
ここで、ノワルは初めて自身の誤算に気づく。
獲物を一匹、取り逃したことに。
(……まぁ、いいわ)
しかしそれは、ノワルにとって些末な誤算でしかなかった。
元々本命はアスナの身柄だ。あの支給品は確かに意思を持っているが、本人は無力に等しい。
このことを他の参加者に伝えて自分の元にかわいい女の子を連れて来てくれるのなら、その誤算は嬉しいものに変わる。
「さあ、情けなく魔力を垂れ流す魔力サーバーになりなさい」
瞳を妖しく輝かせながら、ノワルはアスナに手を伸ばす。
されどアスナはずっとノワルを睨んだまま、怯むことはなかった。
§
85
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:22:00 ID:4sXAQcxM0
ノワルから一人逃れて、烏天狗はトップスピードで殺し合いの会場を飛翔していた。
(急がねばなりませぬ……秋山殿の遺志を無駄にしないためにも)
ノワルが推測した通り、烏天狗は小兵衛の円を展開した際に漏れ出した令呪由来の濃密な魔力によって闇檻から解放されていた。
解放されたと同時に契約者である小兵衛から送られてきた意思によって、烏天狗自身の気配を消していた。
そして、余命いくばくかという状態の小兵衛から、烏天狗は指示を受け取っていたのだ。
殺し合いを打倒しようとしている参加者を探すこと。
協力してくれる参加者を新たな主をすること。
見つけた参加者に「アスナが闇檻の魔女に囚われた」ことを伝えること。
秋山小兵衛の今わの際に受けた命令。彼に仕えていた以上、必ず果たさねばならぬ。
(しかし……事態は私めの想定を遥かに超えています)
烏天狗の脳裏には、小兵衛の身体に風穴を開けたノワルの姿が今もこびりついている。
レベル3の幻妖を一刀の元に切り伏せた小兵衛が、令呪三画すべて消費して大幅に力を増したにも関わらず、指の一本を振るうだけで斃されてしまったのだ。
(あればレベル4が束になっても勝てない……いえ、全盛期の鵺様でさえも勝てるかどうかわかりませぬ)
その圧倒的な魔力と反則的な能力は、烏天狗個人としても危険視している。
もし殺し合いがあの女の勝利で幕を閉じれば最後、その魔の手はあらゆる世界にも及ぶだろう。
無論、烏天狗のいた世界にも。
それだけは、何としても避けねばならない。
(学郎様……あるいは秋山殿とアスナ殿が気に掛けていたキリトなる者を始めとする"プレイヤー"なる者達と接触できればよいのですが)
これから出会う参加者が協力的であることを祈りながら、烏天狗は殺し合いの会場を奔走していた。
[烏天狗(意思持ち支給品)@鵺の陰陽師]
状態:令力消費(中)、独立移動、ノワル戦のトラウマ(極大)
服装:烏天狗の服装
装備:なし
道具:なし
思考
基本:親しい者に危機が及ばない限り契約者の意向に従う
00:小兵衛の最後の指示を遂行するため、他の参加者を探す。
備考
※秋山小兵衛より、以下の指示を受けています。
殺し合いを打倒しようとしている参加者を探すこと。
協力してくれる参加者を新たな主をすること。
見つけた参加者に「アスナが闇檻の魔女に囚われた」ことを伝えること。
§
86
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:23:21 ID:4sXAQcxM0
右も、左も、上も、下も、すべてが闇だった。
ここはポケット闇檻の内部。
四方八方から、快楽に堕ちた女性の声が幾重にも響き渡る。
「いい格好になったじゃない。さっきよりも何倍も素敵よ、あなた」
最高の作品を作り上げた芸術家のように恍惚とした表情で、ノワルはそれを見た。
「でも、この傷が邪魔ねえ。本当にあの爺、余計なことをしてくれちゃって。消しちゃお」
回復魔法によって、その乳房の上にあった傷を跡形もなく消した。
――じゅこ。じゅこ。じゅこ。じゅこ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
そこには、大勢の囚われたNPCの中に加えられた、魔力サーバーに改造されたアスナの姿があった。
全身を装置に繋がれ、女の肢体をとことん利用されたその姿は悲惨の一言に尽きる。
剣は取られ衣服はすべて脱がされ、年齢の割に発達していた乳房には搾乳機が取り付けられ、それはアスナの乳が出るのを今か今かと待っている。
栄養を流すチューブは口枷の役割も兼ねており、憎まれ口を叩くことも許されない。
「う゛う゛う゛う゛!!」
――じゅこ。じゅこ。じゅこ。じゅこ。
肛門からは媚薬が絶えず流し込まれ、アスナの望まぬ快感を無理やり引き出す。
その状態で股間に取り付けられたバイブで弱点を突かれ、そのたびにアスナは獣のごとき嬌声の咆哮を上げる。
「けど意外だわ。あなた程度なら加工されてちょっとすればすぐにイキ狂ってよがるようになると思ってたんだけれど」
快楽から逃れようと何度も首を振ったことで乱れてしまったアスナの髪を、ノワルは一房摘んでペロリと舐める。
「そんな目を維持できるなんて。嬉しいわ。予想よりあなたはずっと長く遊べそう」
しかし、アスナの目は死んではいなかった。
快楽で悶えながらも、自分を見失わずにノワルをキッと睨むことだけはやめなかった。
「それじゃあ少し味見を……」
それを尻目に、ノワルはアスナの大事な部分から噴き出た愛液を指に取り、味見する。
そこに含まれた魔力は、NPCでは物足りなかったノワルにとっては格別の味だった。
「やっぱり、NPCなんかより"生"の参加者の魔力の方が美味ね♡」
「ッ……ッ……!!!」
「そんなに私が憎いならその快感に耐えてみなさい。私の理想郷ができたら、あなたを私の玩具一号として特別待遇にしてあげるから」
舌なめずりしながら満足げにノワルは呟き、ポケット闇檻を出ていった。
そこには、NPCと共に装置に繋がれたアスナだけが残された。
(先生……ごめんなさい……)
秋山小兵衛が、死んだ。
自分が無策に突っ込んでいったせいで。
何もできずに捕えられた自分が情けなく、どうしようもなく悔しい。
(私は……私は……ッ!!)
秋山小兵衛が最期に見せた表情と最期の言葉。
そのメッセージを、わずかながら剣客として修業を受けたアスナはしっかりと受け取っていた。
(私は……負けない……ッ!このゲームにも……あの女にも……!!)
剣客の"うらみ"は、深い。
ならばアスナが、小兵衛のうらみを継ぐ。
今頃は烏天狗が参加者を探し回っている頃だろう。
今は武器も何もかもを取られて無力化されているが、いつか反旗を翻す時がきっと来る。
その時が来るまで、何度も快楽に身を委ねそうになりながらも、アスナは耐え続ける。
自分と小兵衛のうらみを、あの女に返すその時まで。
生きて見せる。そしてミトにもいつか再会して――。
(私は負け――)
――プシュッ。
「おごおおおおおっ!!!」
(負アアけえええなアァァァいいいいいイイイイイイイッッッ!!!♡♡♡)
闘志を燃やしながら、快楽で瞳をチカチカと明滅させながら、アスナは何度も絶頂を迎えていた。
87
:
散華
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:24:35 ID:4sXAQcxM0
【エリアB-3/タイガーボーイ周辺/9月2日午前9時30分】
【ノワル@魔法少女ルナの災難】
状態:疲労(中)、ダメージ(中)(回復中)
服装:ノワルのドレス
装備:賢者の石@鋼の錬金術師、万里ノ鎖@呪術廻戦
令呪:残り三画
道具:ランダムアイテム×1〜3(ローラ姫のもの)、青眼の白竜(12時間使用不可)@遊戯王OCG、ホットライン、レジスター(ローラ姫)、ランダムアイテム×0〜2(アスナのもの)、ランダムアイテム×0〜1、 ラランダムアイテム×0〜1(ウンベールのもの)、アニールブレード@ソードアートオンラインシリーズ、ウインド・フルーレ@SAO プログレッシブ 星なき夜のアリア (映画)、ポケット闇檻、魔力サーバー(NPC)×いっぱい、魔力サーバー(アスナ)
思考
基本:お気に入りの子は残しつつ、いらない奴は消していく
00:アイツら(マジアベーゼ、マジアマゼンタ、イドラ、千佳、アルカイザー)にはいずれ報いを受けさせる
01:この殺し合いを乗っ取って、自分好みに改造してあらゆる世界から集めた女の子を愛でる
02:黒い男(アルジュナ)を強く警戒。気を引き締めないとねぇ
03:イドラちゃんとマジアマゼンタちゃん、アスナちゃんの魔力はおいしかったわね。
04:まだ見ぬ異世界のかわいい女の子に会うのが楽しみ。今度は殺される前に会いたいわ
05:ルルーシュって奴の能力も対策を考えておく
06:令呪とレジスターに関しても細工の余地がありそうね……
参戦時期:ルナに目を付けて以降(原作1章終了以降)
備考
※ノワルに課された制限は以下の通りです。
闇檻 無限監獄の封印
魔力解放形態の封印
結界による陣地の作成不可
召喚できる使い魔は天使α、天使β、天使γ程度
闇檻 ラストレクイエムで呑み込める範囲を1/10未満に
※闇檻の応用によりポケット闇檻を作り出しました。
「人間やNPCを入れられるリュック」のような性能をしており、中身に魔力サーバーに加工したNPCおよびアスナを収納しています。
※数多くの女性NPCとアスナを魔力サーバーに改造してポケット闇檻内部に収納しています。内部から魔力を抽出可能です。
【アスナ@SAO プログレッシブ 星なき夜のアリア (映画)】
状態:全裸、魔力サーバー、疲労(特大)、絶頂、ノワルへのうらみ(極大)
服装:魔力サーバーの装置と拘束具
装備:搾乳機、チューブ、バイブ
令呪:残り三画
道具:ホットライン
思考
基本:"その時"が来るまで生きる
01:先生(小兵衛)の教えを肝に銘じる
02:生きて、先生(小兵衛)と私のうらみをあの女(ノワル)に返す
03:生きてミトに再会する……?
04:茅場って……あの茅場よね?
05:どういうこと?これはSAOとはどう関係しているの?
06:キリト……同じSAOのプレーヤー?
参戦時期:ミトにパーティを解消され、ジャイアントアンスロソーに殺される寸前
備考
※キリトに助けられる前ですのでキリトとの面識はありません。
※ウンベールが仮想世界の住人とは気づいていません。(別世界の人間だと思っている)
※小兵衛との会話から時代を超えた人物が集められていることを理解しました。
※名簿の並びからキリト〜ユージオまでをSAOのプレーヤーではないかと推測しています
※胸の傷はノワルにより治療されました
【NPC紹介】
【ヴァルキューレの生徒@ブルーアーカイブ】
キヴォトスにおける警察組織の役割を果たす学園の生徒。
残念ながらノワルに挑んだ生徒は全員魔力サーバーにされてしまった。
[エリア備考]
B-3のタイガーボーイ周辺には小兵衛の死体が陽竜刀とともに転がっています。
88
:
◆mAd.sCEKiM
:2025/04/28(月) 08:24:51 ID:4sXAQcxM0
以上で投下を終了します
89
:
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:44:46 ID:CiVh4nnE0
投下します。
90
:
不死鳥のフランメ
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:45:35 ID:CiVh4nnE0
灰色の空。燻る煙。
天高く聳える無機質な塔。
発電所から立ち上る実体の持たないそれを目印に、歩を進めてゆく漆黒の影。
その男に名前は無い。
決別のために、過去も栄光も切り捨てた元勇者。
ギギストとの停戦協定を終え、拠点を探すため橋を渡った彼の足取りは当初の目的から外れていた。
西へ進むうちに何者かの戦闘の跡、魔力の残滓を辿る内にやけに背の高い施設が目に付いたのだ。
「ハッ、丁度いい」
この数時間、彼は幾つもの力を手にした。
新たなる特技に呪文、デザストの変身道具、ギギストに与えられた力。
エトウカナミやNPCとの戦闘によってある程度は使いこなせるようにはなったが、まだ完全にモノには出来ていない。
──己の力を試したい。
──強者との戦闘がしたい。
──血湧き肉躍る死闘がしたい。
いつからか、胸奥から迸る熱き闘争心。
人を救うという決意のもとで動いていた勇者の頃とは、まるで違う。
浮き足立つような感覚、先の斬り合いを思い出して四肢が落ち着かない。
その男に名前は無い。
けれど平和を切り開く者を勇者とするのならば、彼はその逆。
争いを渇望し、自由気ままに戦をもたらすその厄災に名を付けるのならば。
────やみのせんし。
◾︎
91
:
不死鳥のフランメ
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:46:34 ID:CiVh4nnE0
「…………くそっ」
発電所内部、とある一区画。
簡素なベッドが用意されている職員専用の休憩室にて、やるせない悪態が尾を引く。
それに続いて壁を叩くキリトの視線の先には、目を逸らしたくなる現実があった。
「キリト、気持ちはわかるけど…………」
「わかってるさ、けど」
血に濡れたベッドに寝かされ、顔に布を掛けられた遺体。
物言わぬ屍となった成見亜里紗を前にして、キリトは凄まじい悔恨に見舞われた。
幾度目にもわからない彼の自責をイドラは気遣うが、気休めにもならない。
「理屈じゃないんだよ」
物憂げに、心底後悔した面持ちで呟くキリト。
その姿を見てイドラは言葉を失い、重い沈黙が場を制した。
リボンズとの戦闘後、レッドとイドラは気絶したキリトたちを背負い発電所の内部へ移動した。
その最中だ、アリサの遺体を発見したのは。
最初、それが彼女だと気がつくのに時間を要した。
脳天を破壊され、原型を留めない顔面はもはや個人を特定できるものではなかったのだ。
辛うじて服装から成見亜里紗の遺体だと判別出来たが、それが逆に彼女の死を揺るがぬものに変えた。
この場では満足に弔う事も出来ず、二人は休憩室のベッドに安置させることを選択した。
それから暫くして目が覚めたキリトに、事情を説明するかどうか迷った。
リボンズという強敵を命懸けで打ち倒した直後に、こんな残酷な事実を突きつける勇気が無かったのだ。
けれど、レッドはそうではなかった。
沈痛な面持ちで亜里紗の死を告げるレッドにより、現状を把握したキリトは今に至る。
ゲーム開始から行動を共にしてきた仲間の死は、到底容易に受け入れられるものではない。
リボンズへの勝利の余韻に浸ることも許されず、力なく壁へと背を預けた。
「…………レッドはまだ戻らないのか?」
「ええ、見回りに行ってくるって言ってたけど……多分、彼もショックだったんでしょうね。もう少し待ってあげましょう」
キリトへの説明を終えたあと、レッドは見回りを買って出た。
確かに今の疲弊した彼らではまたリボンズのような強敵を相手にするのは無謀といえる。
撤退するにしても応戦するにしても迅速さが求められる状態、見回りという役目は必要不可欠。
けれど、部屋を出たレッドの横顔は。
今にも押し潰されそうなほどの悲哀と自責に満ちていた。
「…………デクにも、伝えなきゃいけないんだよな」
苦々しく己へ釘を刺すキリト。次いでイドラも眉を下げて俯く。
休憩室のベッドを占領しているのは亜里紗だけではない。
OFAの反動を一身に受けて以降、意識を取り戻さない緑谷出久もまた苦境の理由である。
命を懸けてリボンズを退けた彼へ、また一人喪ったことを伝える。
言葉にするよりも遥かに残酷な事実を、これから突きつけなければならない。
キリトとイドラの間に沈黙が流れる。
死を悼む時間など殺し合いにおいては無意味に他ならないが、二人はそこまで非情になりきれなかった。
「私から伝え──」
「待て、イドラ」
静寂を打ち破るイドラの言葉を、キリトが制する。
「この足音、聞こえるか?」
「え……」
耳を澄ます。
発電所が発する機械音に紛れて、床を踏む音が鳴り響いていることに気がついた。
しかもそれは段々と近付いてきている。
焦りを含んでいるのか、早足気味のそれは誰が聞いても穏やかなものではない。
92
:
不死鳥のフランメ
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:47:07 ID:CiVh4nnE0
念には念を、と剣に手をかけるキリト。
イドラはベッドで横たわるデクを守るかのように彼の前へ移動し、魔力を練り上げる。
扉が開く。
同時に、彼らの心配は杞憂に終わった。
「レッド!」
見慣れた仲間の顔。
安堵の息を吐く二人に対して、レッドの顔色は優れない。
ちらりと目線を配ったかと思えば、鬼気迫る目つきのまま告げた。
「一人ヤバそうなやつが来てる。……このままじゃ、ここも見つかるかもしれねぇ」
「…………だろうと思ったよ」
正直、足音から予感はしていた。
レッドがそれを告げに来たということは、少なくとも彼一人でどうにかなる手合いではないと判断したのだろう。
イドラに緊張が走る。せめて放送の時間はここで迎えたかったが、レッドの表情からしてそれは現実的ではないようだ。
「どうする、撤退すんのか?」
「…………」
この場での指揮はキリトに任されている。
撤退か応戦か、ここで選択肢を間違える訳にはいかない。
「敵はこっちに気付いてたのか?」
「多分な、迷いない足取りでこっちに来てたぜ」
「なら、このままデクを背負って撤退するのは危険だな……」
大人数での撤退、それも負傷した人間を抱えてとなると機動力は格段に落ちる。
初めから立ち向かうつもりで体勢を整えるよりも、逃走から慌てて応戦に転じる方が圧倒的に不利だ。
「一人で向かってきてるってことは、それ相応の自信がある奴だ。……さっきのアイツみたいにな」
そんなキリトの思考を見抜くかのように、レッドが鋭い指摘を放つ。
ゲーム開始から既に六時間以上経過している今、よほどのことが無い限り単独行動を選ぶ理由はない。
それこそ先程邂逅したリボンズのように、他者を殺して回っている以外では────
「わかってるさ」
けれど、退けない。
目の届く範囲に危機があるのならば、それを抹消しなければまた亜里紗のような犠牲者が出てしまう。
それだけは、避けなくてはならないから。
「だから、なにかあったら逃げてくれ」
司令塔の強い宣告。
デクが目を覚ましたら、きっと同じことを言うだろう。
指示役を任されている以上、その責務はあると自負している。
「それは俺のセリフだぜ、キリト」
けれどその役目は、ヒーローが背負うべきだ。
少なくとも発言の主──小此木烈人はそう考えていた。
「レッド……」
「そんな顔すんなよ、勝てばいい話だろ!」
キリトもデクも、レッドよりも歳下であるにも関わらずその精神性は並の大人を凌いでいる。
同時に、危うさのようなものを感じた。
自らの命を顧みず、他者の為に全力を振り絞る姿は生き急いでいると言っても過言ではない。
自己犠牲も行き過ぎれば悲しみを振りまく存在となることを、レッドはこの殺し合いで深く思い知った。
「はは、そうだな……勝てばいい」
「そうよ! どんな敵が来ても、あのノワルよりはマシでしょ!」
気休めの鼓舞は力へと変わる。
無論、だからといって恐怖が拭えたわけではない。
特にノワルによって絶望的なまでの恐怖を与えられたレッドとイドラは、覚悟など決まるはずもない。
見せかけの虚勢に鎖を繋いで、精一杯繋ぎ止めている状態。
けれどそれを笑う者は一人とていない。
未だ意識を取り戻さないヒーローにちらりと一瞥をくれて、三つの光は休憩室を後にした。
◾︎
93
:
不死鳥のフランメ
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:47:38 ID:CiVh4nnE0
────発電所前、入口付近。
無機質なアスファルトの上で、光と闇が相対する。
迎え撃つかのような三人を前に、紫と赤を基調とした闇がくぐもった声を上げた。
「ありがたいね、歓迎してくれるなんてよ」
「ああ、一人じゃ寂しいだろうと思ってね」
応えるキリト。
デュエルガンダムで武装しておいて正解だった。敵の武装──仮面ライダーデザストから漂う敵意は尋常ではない。
濃密で、混じり気のない漆黒の意志。
かつてキリトが出会ったヒーロー殺し、ステインのそれを彷彿とさせた。
「なぁ……お前、乗ってんのか? いきなり襲いかかって来たりしない辺り、話は出来ると思ってんだけどよ」
隣立つアルカイザーもまた、仮面越しの声を響かせる。
二人の少し後方に経つイドラも心中で同意した。
彼女たちが出会ったノワルやリボンズといった強敵は有無を言わさず攻撃を加えてきた。
対して、今目の前にいる闇の戦士はまるでこちらの選択を待つかのように構えている。
話し合いの余地があるのではないか。
そんなレッドの希望は、他ならぬ漆黒の戦士によって否定される。
「少し前にアンタに出会ってりゃ、その話にも乗ってやったかもな」
けどな、と続けて破壊の剣を向ける。
黒曜石じみた切っ先が陽光に照らされて、レッドの背筋に寒気が伝った。
「俺はもう、そっちに行く気はねぇんだ」
ぶおん、と大振りな剣戟が空を断つ。
対象を定めないただの素振り。刃など届くはずもない位置なのだから、警戒をする必要など皆無。
しかし、その剣が描いた軌跡はゆらりと空間を揺らがせた。
はかいのつるぎ。
その名の通り、万物を破壊に至らしめることから名付けられた業物。
それを手にしている者がよりにもよって、その剣が存在する世界の最上位に位置する猛者ともなれば。
そして、その猛者が仮面ライダーという便利な〝鎧〟を身につけ、ギギストによる強化を賜ったともなれば。
────その一撃は、空間すら断つ。
「かかって来いよ、正義の味方」
戦慄を抱く間もない。
後方支援をイドラに任せ、キリトとアルカイザーが疾走する。
大魔導士の肉体強化魔法を受けた二人は加速度を味方につけて、漆黒の剣士へ肉薄する。
「アルカイザー! 合わせろ!」
「ああッ! スパークリングロールッ!!」
キリトは二刀による横薙を、アルカイザーは両拳によるコンビネーションを叩き込む。
確かな手応えと共に、鋭い火花が散った。
しかし、仮面に隠れた二人の顔は苦悶に歪む。
「なるほどな」
それもそのはず。
計四つの挟撃を受けても尚、闇の戦士は微動だにしていないのだから。
94
:
不死鳥のフランメ
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:48:09 ID:CiVh4nnE0
「なっ…………!?」
「アンタらの戦い方はある程度分かった」
だいぼうぎょ。
ターンを犠牲に、如何なるダメージであろうと露ほどにまで抑える特技。
タイミングを外せば産廃と化すこの技を、やみのせんしはたった二度目の使用でモノにした。
(こいつ、物理攻撃じゃ効果が薄いのか……!?)
この絶対的な防御力を初見で味わった二人の心境は、言うまでもない。
本来の防御力を知らぬキリトとアルカイザーは、一瞬の動揺と次の一手への迷いが生じる。
ゆえに、比較的離れた場所で冷静さを維持していたイドラだけが魔力の奔流を捉えた。
「ダメ! 二人とも離れ────」
「レミーラ」
輝きが世界を喰らう。
体勢を整える暇もなく、至近距離でその絶光を浴びたキリトたちは呻きを上げて仰け反る。
辛うじてそれから逃れたイドラは、彼らへの追撃を妨害すべく口早に詠唱を始めた。
「凍て刺せ、氷精の────」
疾風が吹く。
冷たい感触がイドラの腹部を貫く。
詠唱が中断され、息継ぎすら上手くいかない。
視線を下げてみれば、破壊の剣が華奢な腹を突き破っていた。
「ぇ、…………ぁ、え?」
「悪いな、最初に狙うのはアンタって決めてたんだ」
冷徹な死刑宣告と共に、剣が引き抜かれる。
血液を塞き止めるものがなくなり、とめどなく溢れる命の雫がイドラの意識を白濁に染めあげてゆく。
無防備なキリトとアルカイザーへ追撃が向けられる、と。
そう思い込んだ一瞬が、イドラに致命の隙を与えた。
しっぷうづき──それは、必ず先手を奪う因果逆転の剣。
速度と引き換えに威力を犠牲にしたその技も、数多の強化を受けた彼が放てば、生身の〝大魔導士〟に致命傷を与える程度造作もない。
一番厄介な支援役を先に潰す。彼の世界においての鉄則だった。
声を上げる間もなく倒れ伏すイドラに目も向けず、警戒の意識は先程自身がいた位置へ。
すなわち、彼の視線はキリトとアルカイザーへと向けられた。
95
:
不死鳥のフランメ
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:48:50 ID:CiVh4nnE0
「てっ、んめぇぇぇぇええええええええッ!!」
「っ……待て! アルカイザー!」
ようやく光に慣れた目が捉えたのは、血溜まりに沈むイドラの身体。
激昂するアルカイザーはキリトの制止を振り払い、単独でやみのせんしを討たんと飛躍する。
連携など取れるはずもない無謀な突撃。
焦燥に駆られるキリトは咄嗟に併走するも、翼を生やしたアルカイザーには追いつけない。
「真──アル・フェニックスッ!!!!」
黄金の輝きを纏い、弾道ミサイルの如く迫る不死鳥。
令呪を消費し、ノワルへと放ったものと同等の必殺技。
直撃すればだいぼうぎょでも耐えれるか危ういそれを前に、やみのせんしは即座に片手を向けて。
「ラリホー」
一言、呪文を放つ。
たったそれだけで、アルカイザーの意識は途絶えた。
キリトは驚愕する。
たった三手、時間にして十数秒。
この男は、的確な選択肢によって人数差を覆してみせた。
圧倒的な火力に物を言わせるリボンズのような戦い方とは違う。
己の手札と戦略を駆使して優位を取るこの男は、ある種もっとも強敵と言える。
「あいにく、三人相手に馬鹿正直に付き合ってやれるほどお人好しじゃないんでな」
やみのせんしの技は所詮は初見殺し。
しかし、キリトはその初見殺しが〝いくつ〟あるのか分からない。
接近すれば目眩し、大技を繰り出せば催眠。
肉弾戦を仕掛ければ勝てるかと問われればキリトはそいつを指差しで笑うだろう。
「一対一なら敵じゃないっていうのか!?」
しかし、退く理由にはならない。
デュエルガンダムの機動力をフルに活かし、ミサイルポッドの牽制を挟みながら肉薄。
掌から迸る電熱、ギラがその尽くを撃ち落とし爆煙が両者の間を覆う。
邪魔な目隠しを同時に切り払い、四つの剣が交差した。
破壊の剣、黒嵐剣漆黒。
シャドーセイバー、ビームサーベル。
質として劣るものは一つも存在しない。
しかし、競り負けたやみのせんしの胸甲に二筋の火花が散った。
「へぇ」
ぽつりと声を漏らし、キリトへの認識を改める。
やみのせんしは彼の事を二刀流の使い手と分析していたが、大きな間違いだった。
使い手、どころではなく熟練の戦士。
二刀流の技量に関してキリトは、〝まだ〟雲の上の存在と言っていい。
「このまま、押し切る……っ!」
「ハッ、やってみな!」
ならば当然、同じ土俵で戦うなど愚の骨頂。
即座に聖剣を鞘に収め、破壊の剣を両手に握る。
手数で攻めるキリトに対し、やみのせんしは一撃に力を注ぐ。
機動力で勝るキリトが優位に見えるが、その実追い詰められているのは二刀の担い手であった。
(くそ、長期戦は不利だ……!)
戦いを長引かせればイドラの命が危うい。
加えて疲弊とダメージの度合いはキリトが上、先にスタミナが尽きるのはどちらか言うまでもない。
早く決めなければという焦燥がキリトの腕を鈍らせ、卓越した攻撃を直情的に劣らせる。
右のシャドーセイバーを唐竹に振り下ろし、漆の刀身に防がれる。
しかしそちらはブラフ。痺れの残る右手から長剣を手放し、左手のビームサーベルを両手に持ち替える。
そのまま全身をバネのようにしならせ、軸足に摩擦が走るほどの勢いで胴への回転斬り。
だいぼうぎょをさせる暇もない一撃がデザストの装甲に突き刺さる寸前、ドスの効いた声を聞いた。
96
:
不死鳥のフランメ
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:49:21 ID:CiVh4nnE0
「お疲れのところ悪ィが」
「…………は、……」
ガギリ、と歪な音が鳴る。
見ればキリトが放った渾身の刃は、金属じみた右肘と右膝によって挟み取られていた。
冷や汗が伝う。左手に持ち替えられていた破壊の剣が、牙の如くキリトの首筋へと迫る。
「パワーが足んねぇよ」
衛藤可奈美と比べれば、疲弊したキリトの剣は比べるまでもない。
シビトとなった衛藤可奈美と対峙したことが、この勝敗を決めたと言っても過言ではないだろう。
迫る死神の鎌に首を捻って抵抗を試みるが、とても逃れられず────
「────シャイニングキック!!!!」
と、赤紫の鎧を黄金の蹴りが射抜いた。
吹き飛びながら受け身を取るやみのせんしへ、目覚めたアルカイザーが追撃を仕掛ける。
礼を告げるよりも早く構え直したキリトもまたそれに続こうとするも、灼熱の大蛇が彼の進行を止めた。
「ベギラマ」
「ちぃ……っ!」
砲撃じみたアルカイザーの徒手空拳を剣身で受け止め、左手でキリトへ呪文を。
回避に専念する二刀の剣士は援護すら出来ず、アルカイザーとやみのせんしの一対一の状況が作られる。
空手と長剣ではリーチの差があまりにも大きい。
後退したアルカイザーは光の剣、レイブレードを生成して一刀同士の鍔迫り合いを挑んだ。
「カイザースマッシュ!!」
「はやぶさぎり!」
残光描く必殺の一撃を、双竜の爪が迎え撃つ。
初撃は拮抗、威力の殺されたレイブレードへ間髪入れず二発目が叩き込まれる。
剣だけは離すまいと指に力を込めていた分、得物ごと大きく体勢を崩された。
来るべき衝撃へ備えるアルカイザーだが、予想に反してやみのせんしは追撃を中断して片手を掲げる。
「バイキルト」
橙色の粒子が戦士の体を包み込む。
その意図を汲むよりも早く、アルカイザーは再度闇を切り払う一撃を放とうと右足に重心を移した。
97
:
不死鳥のフランメ
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:50:22 ID:CiVh4nnE0
「カイザースマッシュ!!」
「ッ、らぁっ!!」
必殺技の連撃に身体が悲鳴を上げる。
痛みと疲弊を無視して振るわれたそれは、先にみせた光景の焼き直しのように。
けれど違う点があるとすれば、やみのせんしから振るわれた斬撃は〝一つ〟だということ。
「な、」
けれど、
「んだ、……と…………」
そのたった一振りは、
「が、…………っ、は……!」
光の剣を叩き折り、アルカイザーの装甲をぶち破った。
「アルカイザぁぁぁああッ!!」
よろりと崩れ落ちる不死鳥。
ベギラマの追走を振り払い、ようやく支援に駆け付けたキリトはブーストを駆使して疾走。
かつてであれば対処が追い付いていなかったであろう閃光じみた早業。
レベルアップを遂げたやみのせんしの肉体は、それを容易に受け止める。
かち合う剣戟が周囲の瓦礫を浮遊させ、礫が発電所の壁にめり込んだ。
「ぐ、ぅ…………ッ!」
二刀を以てしても競り合える時間は一秒ほど。
余力の全てを振り絞るつもりで、キリトは機体纏う四肢に無理を言わせる。
千切れんばかりの激痛に歯を食いしばりながら、刀身を滑らせる形で捌き必殺の構えを取る。
「スターバースト──」
「いなずま──」
対するやみのせんしもまた、閃熱の魔法剣で応える。
ベギラマを宿した黒剣はただでさえ恐慌に値する破壊力に、暗澹たる絶望をもたらした。
「────ストリームッ!」
「────斬りッ!」
稲妻の斬撃へ三連撃を叩き込み、ベクトルを僅かに逸らす。
体勢を崩したデザストの胸へ二連撃。
対称的な線を走らせよろける彼へ、右の長剣を逆手に持ち替えて左脇を狙う。
金属の反響音、破壊の剣の柄がそれを受け止める。
ならばと左手のビームサーベルを右肩へと振るい守りを崩さんとするが、弧を描くような防御で弾かれる。
「はあぁぁぁぁッッ!!」
続く蒼光の八連撃──息をつく暇もない超速攻、スターバーストストリーム。
ターンを無視した計十六発の一方的な斬嵐を、雷を纏う一本の剣が凌ぐ。
その技は、彼の相対した衛藤可奈美が使用した鉄壁の剣技────〝凪〟の模倣。
しかし所詮は真似事、捌き切れない斬撃がデザストの鎧に細かな傷を与えてゆく。
蒼い剣と橙の剣が色鮮やかなコントラストを生み出し、ある種幻想的な命のやり取りを繰り広げる両者。
フィニッシュの十六発目を叩き込む寸前、異変が訪れる。
エネルギーを切らしたビームサーベルが出力を落とし、破壊の剣によって弾き飛ばされた。
残されたシャドーセイバーに力を込めるも、一刀の領域でこの男に敵うなど絵空事。
「っ、あ゛……!?」
「ありがとよ、二刀流の剣士」
文字通り、稲妻の如き斬り上げがキリトの剣を弾き飛ばす。
続く天からの落雷を思わせる一太刀が、デュエルガンダムの装甲を深く抉り取った。
98
:
不死鳥のフランメ
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:50:51 ID:CiVh4nnE0
「おかげで俺は、まだまだ強くなれそうだ」
断末魔を上げる間もなく、限界を迎えたキリトは変身解除へと追い詰められる。
度重なる疲労とダメージにより意識を刈り取られ、力なく膝から崩れ落ちた。
やみのせんしもまた大きく息を吐き、回復呪文(ベホイミ)を己に掛ける。
「……さすがに、ちょいと疲れたな」
消耗していたとはいえ三対一の多人数戦。
この戦士は、終始人数差を活かさせなかった。
彼が元の世界において一対一を繰り広げてきたのは、なにも魔物がご丁寧に決闘を挑んできてくれたからではない。
多数で掛かってくる魔物を、その技量をもって一対一へ持ち込んでいるのだ。
今回の戦いもそう。
三対一ではなく、一対一を三回繰り返しただけ。
素の戦闘能力では個人を大きく上回るやみのせんしが勝利を収めたのは、決して奇跡や偶然ではない。
倒れ伏すキリトへトドメを刺さんと剣を振り上げる。
瞬間、デザストの複眼がゆらりと揺れ動くなにかを捉えた。
「…………あ?」
汚れた魔女帽子をそのままに、立ち上がる大魔導士── イドラ・アーヴォルン。
虚ろな瞳はしかし死人のそれではなく、強き決意を以てしてやみのせんしを射抜く。
「ご苦労なこった、寝てた方がずっと楽だってのによ」
しかし勇ましい睥睨とは裏腹に、イドラの身体は今にも倒れそうなほど危うい。
臓器をやられているのか、詠唱どころか呼吸をすることさえままならない。
ゆえにやみのせんしは〝それ〟を脅威とは認めず、意識は再び眼下のキリトへと向けた。
それはすなわち。
やみのせんしが与えた、一ターンの猶予。
与えられた微かな時間は、イドラにとっては途方もなく永く感じた。
◾︎
99
:
不死鳥のフランメ
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:51:14 ID:CiVh4nnE0
ああ、と思う。
苦しい、と思う。
地獄のような熱と痛みが腹部を蝕む。
死が刻一刻と近づいてきているのを、ありありと感じる。
霞む視界が辛うじて捉えたのは、黒衣の剣士に剣を振りかざす悪魔の姿。
その光景がひどく他人事のように見えた。
なぜ立ち上がってしまったのかは、自分でも分からない。
今の私が出来ることなどなにもないはずなのに、靭帯が切れるような激痛に耐えてでも起き上がってしまった。
唱えられる魔法はたったの一度。
それも、迫り上がる血の塊が邪魔するせいで普段の詠唱よりもずっと拙いだろう。
この残された一手。
どの魔法を唱えるべきか、考える。
────回復魔法。
これを自分に唱えれば、命だけは助かるかもしらない。
あいつの意識がキリトへと向いている今、私は単独では脅威とすら見られていないのだろう。
奴がキリトやアルカイザーに意識を向けている間、場を離れることも可能なはずだ。
そうすれば少なくとも、私だけは助かる。
そうだ。
死んでしまっては、意味がない。
アリサの死体を見た。
ああはなりたくないと、心から思った。
どんなに綺麗事を抜かしたって、自分の命が惜しいのが人間だ。
異世界人の思考は分からない。
他人のために命を投げ打って、満足気に散っていく。
私は、遺された者の気持ちを考えないその蛮行が嫌いだった。
だから、私は自分だけでも生き残る。
キリトやアルカイザーには悪いけど、私が何をしたところで勝てないから。
だったら、一人でも多く生き残ろうとするのが賢い生き方でしょう?
回復魔法を唱えようと精霊を宿す。
そんな私の脳裏を、赤髪の男が掠めた。
────ああ、そうね。
確かに、私の選択は間違ってない。
殺し合いにおいて生き残ろうとする意思は、賢いといえるはずだ。
他人のために死に急ぐなんて、それこそルールも理解していないような馬鹿のやること。
けれど、私はそんな〝馬鹿〟に惚れた。
理屈や採算じゃなく他人の為に全力を尽くす姿を、かっこいいと思った。
だったら、私も。
そんな〝馬鹿〟になっても、いいのかもしれない。
◾︎
100
:
不死鳥のフランメ
◆NYzTZnBoCI
:2025/04/29(火) 19:51:35 ID:CiVh4nnE0
「曇天、……こが…………す……」
びたり、と。
執行人の鎌が動きを止める。
視線は罪人(キリト)から傍聴人(イドラ)へ。
身を灼くような魔力の奔流を感じ取り、やみのせんしは大魔導士へと向き合う。
「えんせ、い……の…………てっ、け……ん…………」
酷く無防備で、酷く緩慢な詠唱。
その気になれば一足飛びで詰められる距離。
しかしやみのせんしは剣を下ろし、黙ってそれを見届ける。
今は、イドラの〝ターン〟だから。
「────イフリート・ブロウ!!」
炎熱の巨拳が飛来する。
最期の輝きか、大魔導士の生涯最大の魔法。
迫り来る眩光を前に、堕ちた勇者は回避でもだいぼうぎょでもなく。
無抵抗で、それを受け入れた。
膨大な熱がデザストを包み込む。
爆発が彼を呑みこみ、影さえも喰らう。
やがて爆煙が晴れた頃、所々に焼け跡を残した戦士の姿が顕となった。
「そうかい」
黒煙を上げる戦士。
そのダメージは、決して無視できるものでない。
赤い複眼がイドラを捉える。
発せられる殺気はもはや、死人に向けられるそれではなかった。
「俺はアンタを〝敵〟と認める」
黒い風が吹く。
断頭の役目を与えられたギロチンが首を断つ寸前、イドラはどこかやり切ったような微笑みを浮かべていた。
◾︎
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板