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オリロワA part2

444氷の偶像 ◆H3bky6/SCY:2025/06/08(日) 13:34:15 ID:IwbDKrGw0
「……フレゼア」

朝の草原を一人歩いていたジャンヌ・ストラスブールは、放送で告げられたその名を思わず繰り返すように呟いた。

雲ひとつない青空の下、港湾を目指していたその途中だった。
巨悪ルーサー・キングとの決戦を見据え、ただ前を見据えて歩いていた足が、不意に鳴り響いた定時放送の声に止まる。

耳に馴染んだ看守長の無機質な声。
その口から告げられた十二名の死――そして、その中にあったのは、因縁深き名だった。

フレゼア・フランベルジェ。
その名が胸の奥を貫いた瞬間、何か重たいものが沈む。

ジャンヌは静かに立ち止まり、両の掌を胸の前で重ねる。
薄く目を閉じたその顔には、死者への祈りと慈悲、そして何よりも深い哀惜が滲んでいた。

浮かぶのは、あの狂気を孕んだ狂熱の瞳。
そして無垢な笑顔で自分の名を呼んだ少女の声。
かつて救いの手を差し伸べた少女――そして、やがて戦場で剣を交えた炎帝。

歪んでしまった魂。
だがその歪みを生んだのは、他ならぬジャンヌ自身の存在だった。

彼女はジャンヌに憧れていた。
正義の象徴と信じ、ひたすらに追いかけた。
けれど、その憧れはいつしか歪み、暴走の果て、破滅の道へと変貌していった。

(その魂に……救いは、あったのでしょうか)

その答えは誰にも分からない。
彼女がどのように己が業と向き合い、どんな最期を迎えたのかも、今となっては知る術もない。

この地で、なお罪に囚われたまま逝ったのか。
それとも、ほんのわずかでも救いを掴めたのか。

願わくば、せめてそうであってほしいとジャンヌは思う。

「……どうか、貴女の魂が安らかでありますように」

ジャンヌは草原に膝をつき、祈りを捧げる。
その声は、風に乗って遠くへと届いていく。

「この地に堕ちた者にも、罪に囚われた者にも……どうか等しく赦しが与えられますように」

そよぐ風が、金の髪を優しく揺らす。
露草の匂いが仄かに香り、静かな朝に、たしかな祈りの余韻を残した。

たとえこの地に、救いが見えぬとしても。
たとえ祈りが届かぬとしても。

れでも、自分は正義を信じ続ける。
かつて、自分を正義と信じてくれた少女のためにも。

迷いを抱えながらも、それでも彼女は歩いていく。
自らの罪と、世界の業と、全てと向き合いながら、自らの正義を貫くために、

ジャンヌは顔を上げる。
ジャンヌの翠の瞳には、再び静かな決意の光が宿っていた。

「――――――」

だが、そのジャンヌが目の前の光景に言葉を失っていた。
決意に満ちていた瞳が困惑に揺れる。

ジャンヌの目の前には、鑑写しのように自分自身が立っていた。




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