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ヤング・ロワイアル

1 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:19:11 ID:E5MTgvvM0

独りぼっちの闇の中で、椅子に座った男が笑っている。
彼はこの状況がどうしてもどうしても可笑しいらしく、腹を抱えて身を捩って狂ったかのような哄笑を上げ続けている。
喉が切り裂かれんばかりの金切り声のようなその笑い声は、どうしようもなく悲しげな鳴き声にも似ていた。

宮沢熹一はそんな夢を見た。

目を覚まし、周囲を見回す。
照明がやたらと明るい小部屋の中にいるようだった。

ちらつく視界に頭を振り、これまでの自分の行動を思い返す。
確か……ホワイト・ナイト・バトルの初戦に挑むためにリングに繋がる通路を歩いていた。
そこで謎の三人組に襲われて、つい油断したところをテーザー銃で撃たれて昏倒したはず……。

だが、この状況はどう見てもおかしい。
あの男たちが自分を試合に出させないつもりならこんなところに監禁する前にもっと痛めつけるだろうし、
この部屋に閉じ込めておくつもりなら手足などをキツくを縛るはずで、こんな自由な状態で床に転がしたりはしないだろう。

壁に手を沿え、厚さを計ってみる。簡単には破壊できないほどの強度と厚みだ。
自身の格闘家としての第六感が伝えている。どうやらかなり危険な状況に置かれているようだ。

立ち上がって、さらに状況把握を行おうとする。
眼の前には巨大なスクリーンが設置されているだけで、他には何もない。

いや、一つだけ妙なことがあった。

首輪である。
なぜか自身の首に鉄製の首輪が填められているのだ。
しかも、外そうと試みるが、鍵がかかっているのか外れない。

「おうっ! ワシがこんな状況に尻尾巻いてビビり散らかすとでも思っとんのかいっ!」

熹一は威勢よく声を張り上げたが、返答はなかった。
ふと部屋の隅に目を凝らす。そこには小さなデイパックがぽつんと所在なさげに置かれていた。

何が入っているのだろうか。恐る恐る手を伸ばす。
そして、それに触れようとした瞬間。

パッとスクリーンが明るくなった。

そこに映っていたのは、熹一にとって"ある意味"馴染みの深い人物だった。

B級映画に登場するゾンビマスクを被った筋骨隆々の謎の男。

「――――私はキャプテン・マッスル」

キャプテン・マッスルは朗々とした声で自己紹介を行う。

「キャプテン・マッスル! お前、なんでこんなとこにおるんやっ!」

熹一の問いかけにキャプテン・マッスルは微塵も応えない。
どうやら双方向通信ではなく、一方的に声を届ける仕様になっているようだ。

「この映像を見てる君は選ばれし者。5000万ドルを掴むチャンスを与えられた強き者。
 単刀直入に言おう。これから君たちでちょっと殺し合いをしてしてほしい」

キャプテン・マッスルは平然ととんでもないことを告げる。
そして、それはこの映像を見ている者が熹一ひとりではないということを暗に示していた。

「生き残った一人だけが5000万ドルと願いを何でも1つ叶えてもらった上で元の世界に帰ることができるぞ。
 詳しいことは部屋に置いてるタブレットから確認可能だ。さぁ腕に自信のある者は今すぐドアを開け。
 敵を殺しまくれっ。急げっ。乗り遅れるな。5000万ドルを掴むんだ。"バトルロワイアル・ラッシュ"だ」

"バトルロワイアル・ラッシュ"。
奇しくもその言葉はかつて自身の弟弟子である長岡龍星が、無理やり心臓を奪われかけた時の展開とそっくりであった。

「なっ、なんや! いきなり殺し合いて……何がしたんや!」

すると映像がキャプテン・マッスルから急に切り替わる。
そこには杖をついた老人が立っていた。

「カカカカ……コココココ……」

奇怪な笑い声を上げ、老人は黒服の男たちが運んできた椅子に鷹揚に腰掛けた。
姿は醜悪な老人そのものだったが、そこから醸し出される風格はひとりの王のようであった。

「本来なら……王たるワシがこんな凡愚共の前に姿を現すなど……ありえぬ……! そう、天地がひっくり返ってもありえぬことだが……!
 ワシは今、気分がいいっ……! 先ほど、キャプテン・マッスルから説明があった通り……ワシはこれより"ゲーム"を行う……!」

そう言い、老人は震える膝に鞭を打って立ち上がり、両手を広げた。
周囲の黒服たちがワーワーと歓声を上げる。

「ただまあ……殺し合えと言っても……凡愚共は簡単には動かぬっ……! ワシはそれを誰よりも分かっておる……!
 だからこのように凡愚共を動かす……起爆剤とするために……生贄を用意することにした……! ほれっ……!」

スクリーンの画面が切り替わる。
そこには団子っ鼻の中年男が熹一と同じような部屋に閉じ込められていた。
そして、首には同じように首輪が。

次の瞬間、首輪が起爆した。
パンッという音とともに、男の頭がスイカ割りのスイカのように爆ぜる。
脳漿が飛び散り、いくつかは画面にこびりついてナメクジの這ったような跡を残した。


【大槻太郎@カイジシリーズ 死亡】

2 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:19:29 ID:E5MTgvvM0

うああああああああ(PC書き文字)

凄惨、という他ない状況であった。
これが録画やトリック映像ではないということだけは、幾人もの人体を破壊し、そして治してきた熹一にははっきりと理解することができた。

「コココ……! こうなりたくなければ……動けっ! ネズミのようにチョロチョロと這い回り、ゴキブリのように共食い合ってワシを楽しませるのだっ……!」

再び老人が立ち上がり手を広げる。
周囲の黒服たちがワーワーと歓声を上げた。

「どうも、一部の方を除いてお初にお目にかかります。カラス銀行の宇佐美銭丸と申します。
 先程は大変ショッキングな映像が流れましたが、皆様におきましては今置かれているこの状況がご理解いただけたかと思います」

筋骨隆々のマスクマン、よぼよぼの老人と来て、次に画面に映ったのは糊の効いたスーツを着こなし、薄っぺらい笑顔を顔に貼り付けた優男だった。

「兵藤会長に続いては私が、このゲームの詳しい説明を行わせていただきます」

宇佐美は滔々と"ゲーム"のルールを述べていく。
熹一たちはランダムにマップ上に配置されていること、アイテムがデイパックの中に入っていること、そして禁止エリアが存在することなどが告げられた。

「また、当ゲームの特色として、"ギャンブル・ルーム"が存在することを明言しておきましょう。これはいわば直接的な戦闘以外によって勝敗を決するための空間です。
 ルールは簡単。範囲内に規定人数が入ればゲームスタート。ギャンブルに負けたものは、『松・竹・梅』のレベルに応じたペナルティを受けてもらいます。
 力でも劣るものでも、強者を倒すチャンスです。ぜひ有効にご活用を……」

――パタン、と音がした。
見ると小部屋の一部が崩れ、外へ出られるようになっている。

「それでは、熱く、そして若き心を持たれた皆様。"ヤング・ロワイアル"の開始でございます」

呆然とする熹一を他所に、あくまでもにこやかに宇佐美はそう告げるのであった。


【ヤング・ロワイアル 開始】


5/5【テラフォーマーズ】
○小町小吉/○劉翊武/○アドルフ・ラインハルト/○ジョセフ・G・ニュートン/○テラフォーマー

8/8【ゴールデンカムイ】
○杉元佐一/○アシリパ/○白石由竹/○土方歳三/○鶴見篤四郎/○尾形百之助/○宇佐美時重/○ヒグマ

5/5【ジャンケットバンク】
○真経津晨/○御手洗暉/○獅子神敬一/○村雨礼二/○天堂弓彦

6/6【TOUGH外伝 龍を継ぐ男】
○宮沢熹一/○宮沢静虎/○宮沢鬼龍/○宮沢尊鷹/○長岡龍星/○悪魔王子

4/5【カイジシリーズ】
○伊藤開司/○利根川幸雄/●大槻太郎/○一条聖也/○村岡隆

4/4【LILI-MEN】
○ニト/○黒金ユウト/○ウキョウ/○春日リキヤ

6/6【喧嘩商売】
○佐藤十兵衛/○入江文学/○金田保/○梶原修人/○佐川睦夫/○石橋強

7/7【書き手枠】
○/○/○/○/○/○/○


残り 45/46



【主催者】
兵藤和尊@カイジシリーズ
キャプテン・マッスル@TOUGH外伝 龍を継ぐ男
宇佐美銭丸@ジャンケットバンク

3 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:20:46 ID:E5MTgvvM0
【基本ルール】
「バトル・ロワイアル」の設定を下敷きにしたリレー企画。
参加者のみがいる会場で殺し合いをし、最後まで生き残った一人が勝者となる。
生き残った一人だけが、5000万ドルの贈呈と願いを1つ叶えてもらった上で元の世界に帰ることができる。
ゲームに参加する参加者間でのやりとりに反則はない。
午前9時からゲームが開始し、参加者はMAP上にバラバラに配置される。
参加者全員が死亡した場合、勝者なしとなる。

wiki:
tps://w.atwiki.jp/youngrowa/


書き手枠は名簿で参加が確定している作品の中から出してください。
極めて政治的に高度な判断から「"あの男"@TOUGH外伝 龍を継ぐ男」は登場禁止です。


【特殊ルール】
『ギャンブル・ルーム』が会場内にいくつか存在する。この範囲内に規定の人数が入ると、強制的にギャンブルがスタートする。
ギャンブルには「松・竹・梅」の3段階が存在し、梅から松にかけてギャンブルの難易度と敗者へのペナルティが高くなる。
ギャンブル中はギャンブル・ルームからは基本的に出ることはできないが、無理に脱出を行うと首輪が爆発する。


【持ち物】
参加者があらかじめ所有していた武器、装備品、所持品(義手など体と一体化している武器、装置以外)は全て没収。
また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
ゲーム開始直前に参加者は開催側から「タブレット」「水と食料」「ランダムアイテム×2」の4つを「デイパック」に詰められ支給される。
テラフォーマーズの「小町小吉」、「劉翊武」、「アドルフ・ラインハルト」、「ジョセフ・G・ニュートン」は「変身薬@テラフォーマーズ」をランダムアイテム枠を1つ消費して支給される。

デイパック:他の荷物を運ぶための小さいリュック。
タブレット:位置を確認できる地図や時計機能が内蔵された小型のタブレット。参加者名簿やルールもこれで確認できる。
水と食料:成人男性が普通に消費して2〜3日分。
ランダムアイテム: 何かのアイテムがランダムで2つ入っている。内容は現実出典、各原作出典、オリジナル支給品のいずれか。未参戦作品出典は禁止。


【「首輪」と禁止エリア】
ゲーム開始前から参加者は全員、「首輪」を填められている。
首輪が爆発すると、その参加者は死ぬ。
主催者は、いつでも自由に首輪を爆発させることができる。
この首輪は参加者の生死を常に判断し、主催者へ参加者の生死と現在位置のデータを送っている。
24時間死者が出ない場合は全員の首輪が発動し、全員が死ぬ。
「首輪」を外すことは専門的な知識がないと難しく、下手に無理やり取り去ろうとすると、首輪が自動的に爆発し死ぬことになる。
参加者には説明はされないが、実は盗聴機能があり音声は主催者に筒抜けである。
主催者が6時間毎に1箇所指定する禁止エリア内に10分以上滞在すると、首輪が自動的に爆発する。


【放送】
放送は6時間ごとに行われる。
放送内容は「禁止エリアの場所」、「今回の放送までに死んだ参加者と残り人数」、「兵藤会長のありがたいお話」の3つ。

【MAP】
tps://w.atwiki.jp/youngrowa/pages/10.html
wikiの当該ページを参照のこと。


【予約】
予約期限は一週間とする。
予約せずに投下することも可能。ただし議論や修正のため、トリップをつけての投下を義務とする。


【状態表テンプレ】
【座標/詳細場所/日付・時間】
【キャラ名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:
1:
2:
3:
[備考]


【作中での時間表記】(午前9時開始)
未明:0時〜3時
黎明:3時〜6時
朝:6時〜9時
午前:9時〜12時
午後:12時〜15時
夕方:15時〜18時
夜:18時〜21時
深夜:21時〜24時

4 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:24:18 ID:E5MTgvvM0
というわけで、新企画「ヤング・ロワイアル」を立てさせていただきました。
一番やりとして、獅子神敬一、アドルフ・ラインハルト、尾形百之助で予約させていただきます。
また何か質問等ありましたら書き込みをよろしくお願いします。

5 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:30:23 ID:E5MTgvvM0
それでは早速投下します。

6獅子搏兎 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:31:22 ID:E5MTgvvM0

獅子神敬一は怯えていた。
当然だ。殺し合いに巻き込まれたのだから。

獅子神敬一は悲嘆に暮れていた。
当然だ。理不尽な死に襲われるかもしれないのだから。

獅子神敬一は絶望していた。
当然だ。生きて帰還する見込みがほぼないのだから。


嘘。嘘。嘘。


獅子神敬一は――――


◆ ◆ ◆


約1億ボルト。
雷は、およそ60ワットの電球を8万個以上灯せるだけのエネルギーを一度で放出する。

そんな雷を自由自在に操る男がいた。
男の名は、アドルフ・ラインハルト。

「免疫寛容臓(モザイクオーガン)」を人体に移植するM.O.手術の史上初の成功例であり、
一撃で馬を倒すほどの電流を発生させる、敵を殺傷するために電撃を用いる唯一の生物――デンキウナギの能力を持つ。

アドルフはもちろん殺し合いに乗っていなかった。
ゴキブリ型の異星生命体「テラフォーマー」なら狩ったことはあるが、同じ人間を殺すなどもっての外だ。

アドルフはまだ最初に目覚めた例の部屋から脱出していない。
タブレットを操作し、綿密に作戦を立てる。

まず、地図アプリを立ち上げ、自身の現在位置を確認する。
A-5というのが自分が配置された場所のようである。

ドアの隙間から外を伺い、A-5よりも外側、つまりマップの外を確認する。
特に境界を遮るものはない。脱出可能なのだろうか。

「ま、ムリだろうな」

しかし、アドルフはそれを確かめることもせず、そのまま部屋の中へ戻った。
当然主催者側も参加者がマップの外へ脱出しようとするなんてことは想定済みだろう。
そんなことをすれば、即座に首輪が爆発するに違いない。

次にアドルフは自身のデンキウナギとしての能力を駆使し、身体から粘液を分泌することで首輪を外そうとし、止めた。
タブレットの注意事項に「首輪を無理やり外そうとすると爆発します」という一文が書いてあったことを思い出したからだ。

さて、どうしよう。
アドルフはとりあえず、デイパックの中身を確認することにした。
特に重要なのはやはりランダムアイテムというものだろう。

当たりを引くことができれば、生き残る確率がグッと高くなる。

ふと見ると、『変身薬』が入っていた。
これは、アドルフのデンキウナギとしての能力を引き出すために必須の薬剤だ。

「及第点、か……」

支給品の確認を終え、アドルフは立ち上がる。
まずまずの支給品を手に入れた。

次に必要なのは――

7獅子搏兎 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:31:54 ID:E5MTgvvM0
「ッ……!」

するとアドルフが急に立ち上がり、一目散に部屋の外へ駆け出していく。
A-5と外を繋ぐ境界へと走り、そして足元の石を拾い、それを思いっきり投げた。

石は猛スピードで飛んでいくと、着地点で立っていた男の頭をかすめる。

「馬鹿野郎! 死にたいのかッ!」

アドルフ・ラインハルト。普段の冷静な彼が我を忘れ、激昂していた。
その相手は、ギャンブラー・獅子神敬一。たったいま境界を越え、マップの外へと脱出しようとしていたところである。


◆ ◆ ◆


「いやッ……! 本当にわりぃと思ってるよ」

十数分後。必死に頭を下げていたのは獅子神だ。

「いやね、オレも外に出たらやばいかなーとは思っていたんだが、早る気持ちを抑えきれずつい……」

などと言いながら平身低頭に獅子神は謝る。
アドルフはそちらを見ようともせずに、ただタブレットを弄っている。

「そうか。オレは別にお前が死のうが構わないんだが」

「んだよ、テメー! 助けるのか見殺しにするのか、どっちかにしやがれ」

吠える獅子神だが、その言葉とは裏腹に敵意は感じられない。
アドルフもそれを理解してか、わざとつっけんどんな態度を取っているようである。

アドルフ・ラインハルト――数々の死地をくぐり抜けてきたドイツの英雄はこう考えていた。
次に必要なのは――信頼できる仲間だと。

「ところで、アドルフさんよ。もしかしてアンタも知り合いと一緒に拉致られてきたクチか?」

獅子神は急に真面目な顔になり、人差し指を立てた。

「ああ。オレの知り合いが何人かいる」

「そうかい……」

「お前もか? 獅子神」

「ああ、オレのダチが三人と、知り合いの銀行員が一人いる」

二人の間にしばし静寂が流れる。

「それってもしかして、他の奴らも同じだったりするのか? みんな一定のグループで拉致られてきたのか?」

獅子神の言葉にアドルフはほう、と目を見開く。
最初にマップの外に出ようとしているのを見たときは考えたらずかと思ったが、存外頭が回るようだ。

「まあ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。余計なことに思考リソースを割くと後で後悔するぞ」

アドルフは忠告めいたことを告げ、コートのホコリを払い、立ち上がった。

「ここから先は歩きながら話そう」

アドルフが獅子神を先導し、周囲を注意深く見渡す。
彼はデンキウナギの能力を移植されたことにより、微弱な電磁波によって索敵を行うことも可能としていた。
獅子神の愚行を目視することなく気づいたのもそのおかげである。

薬を長期間摂取していないため、索敵能力は多少落ちて周囲100メートルほどしか確認できないが、
物陰の多いこの街の地形では非常にありがたかった。

8獅子搏兎 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:32:22 ID:E5MTgvvM0
「怖いのか? 震えているぞ」

アドルフは獅子神を冷やかす。
見ると、手足が少し震えていた。

「へッ、ちげーよ。これは武者震いだ。どうやってもここから脱出してやるぞって心意気の表れだよ」

獅子神はどこからどう見ても強がりを吐いた。
臆病な狐は獅子のふりをする。

「アドルフ。ついでにこっちも質問しちまうけど、その口元って――」

「実験中の事故だ」

アドルフは特になんの感慨もなさそうにそう返す。

「へえ、アンタも実験なんかするんだな。理系……っぽくはあるけどな」

「いや、オレ自身が実験生物だった。この火傷はその時に負ったものだ。身体中にもあるが、見るか?」

アドルフはこちらも続けて特になんの感慨もなさそうに返した。

「いや……その……わりぃ……」

先ほどまで饒舌だった獅子神は、ぽりぽりと頭をかき急に黙り込んでしまう。

「気にするな。オレも別に気にしちゃいない」

「いや……そう言われても気にするだろ、普通……」

アドルフはそんな獅子神の様子を見、少し目を細めた。

「じゃあ言葉に甘えてもう一度質問のチャンスをもらうけどよ、あのキラキラ光ってるのって一体何だ?」

獅子神は丘の方を指さした。
確かに何かが燦めいている。しかし、鏡にしてはゆらゆらと揺れているような……。

「ッ……! 獅子神! 伏せろ! あれはスナイパーだ!」

アドルフが獅子神を押し倒す。
次の瞬間、弾丸が飛来し、アドルフの腕をかすめた。

「お、おいッ! 大丈夫かよ!?」

アドルフはマントを少し破き、腕を止血する。
どうやらかすり傷のようだ。

「クソッ……思ったよりも早く遭遇したな。"乗ってる"ヤツに」

驚き慌てる獅子神を他所に、アドルフは呟く。
いくら索敵ができても、超スピードで飛んでくる弾丸が相手だと避けるのは間に合わない。

――しかも。
チラと獅子神を見やり、アドルフは心を決めた。

「おい、獅子神」

「ななな、何だよ。早く逃げようぜ!」

「いや、この距離かつ高低差では逃げ切るのは難しいだろう。それよりも、オレたちであのスナイパーを捕まえるぞ」

「……は?」

とんでもないことを言い出すアドルフに呆然とする獅子神。

「恐らく、相手はかなり手練れのスナイパーだ。だが、あっちは完全に獲物を狩る気でいる。つまり、こちらが反撃してくるとは思ってもいないということだ」

「え、だからこっちから追い詰めるって? アンタ正気かよ!?」

無言で頷くアドルフ。

「いやいや、無理……っていうか、不可能だろ……! あんなに遠くにいるんだぞ!? ここから歩いても5分はかかる!
 その間に何発撃たれるんだよ。お、オレは……っ! オレは逃げる! じゃあな、アドルフさん。少しの間だけど楽しかったぜ!」

獅子神はそう言い、そろそろと遠ざかろうとする。

アドルフはそんな獅子神の姿を見て、「そうか」とだけ呟いた。


◆ ◆ ◆

9獅子搏兎 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:33:27 ID:E5MTgvvM0


尾形百之助は二人の姿を確認し、僅かに気分を高ぶらせる。
仲間割れか。これは非常にありがたい。

敵はまとまっていないほうが狩りやすい。
先に逃げたやつから撃ち、次に向かってくるやつも撃つ。

これで殺害数2だ。

尾形に支給されたのは愛用の三八式歩兵銃――ではない。
最新式のマクミランTAC-50だ。アメリカのマクミラン社が開発したボトルアクションライフルである。
そんな自身の生きていた時代とかけ離れた一品を、尾形はその天性の才能で使いこなしていた。

すると、向かってきた方の男――コートを着ている――がなんと両手を広げて立ち上がり、こちらに猛然と向かってくるではないか。

尾形は一瞬、狙撃手である自身への挑戦かと思い、そしてその頭に狙いをつけた。

「いいぜ。その頭、ぶち抜いてやる」

だが、ハッと気づき、スコープの倍率を下げる。
見ると、金髪の男の方がいなくなっていた。

コートの方が金髪を逃がすためにわざと囮になったようだ。

尾形は舌打ちをくれる。
こんな単純な作戦に引っかかるとは。
新しいオモチャが手に入って、少し調子に乗っていたかもしれない。

「仕方ない。一人分で我慢するか」

尾形は再度コートの男の頭に狙いをつけ、引き金を引いた。
銃弾は寸分の狂いもなく発射され、男の頭を撃ち抜くはず……だった。

だが、弾丸は着弾寸前でぐにゃりと向きを変え、地面に落ちた。

おかしい。

尾形は再度、狙いをつけ、撃つ。
だが、弾丸はやはり命中することはない。

「なぜだ」

理由は単純である。
コートの男――アドルフが人為変態を行い、デンキウナギとしての能力を使用した。
すなわち、周囲に高電圧の磁場を張り巡らせ、弾丸を曲げたのだ。

だが、科学がまだ発達していなかった時代に生まれた尾形にはその思考に至らない。
――いや、仮に現代日本に生きていてもそんな荒唐無稽な技術があるとは思いも寄らないだろうが。

尾形は何発も弾丸を放つ。
だが、その全てが逸らされ、何発かは身体を抉るも致命傷にはならない。

「クソ」

尾形の弾丸がそろそろ尽きようとしていた。
そして、同時にアドルフの変身薬の効果も――

「うおおおおおおおおおおッ!」

すると尾形の後方で叫び声がする。

見ると、先ほど逃げたはずの金髪の男が尾形の方へダッシュで向かってくる。

「おいおい、お前、逃げたんじゃ――」

タックルを背中に受け、尾形は呟いた。

「バーカ。途中で気が変わったんだよ」

獅子神は肩で息をしながら尾形にそう返す。


◆ ◆ ◆

10獅子搏兎 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:34:07 ID:E5MTgvvM0


結局、尾形はあっけないほど簡単に捕縛された。
全身に銃創を負ったアドルフが合流した後、尾形の処遇を二人で決めることにした。

「このままマップ境界の外に放り出すってのはどうだ?」

今回のMVPである獅子神は平然と恐ろしい提案をする。

「いや、武器になりそうなものを奪ってこの辺に転がしておこう。そうすれば少なくとも脅威にはならん」

どこまでも不殺を貫くアドルフはここまで深手を負わされたにも関わらず、そう結論付けた。

「オイオイ、アドルフ、アンタ甘すぎるだろ。コイツはオレたちを撃ち殺そうとしたんだぜ?」

抗弁する獅子神に、アドルフは背を向けた。

「……わーったよ。アンタの言う通りにする。コイツはこの辺に転がしとこう」

獅子神はしばらく考え込む"フリ"をして、アドルフに賛成した。
とっくの昔から獅子神の中でもアドルフと同じ意見だったのだ。

「じゃあな。えーっと、尾形」

獅子神は尾形に手を振り、狙撃手と一戦を交えた小高い丘を立ち去ろうとした。

――しかし。
尾形は完全に無効化されてはいなかった。
彼は無言で足元に仕込んでいたナイフを取り出すと、自身を戒めていたロープを切り、獅子神へ飛びかかったのだ。

「危ないッ! 獅子神!」

咄嗟に二人の間に飛び出すアドルフ。

そして、尾形の虚ろな眼光がアドルフを捕らえた。

首筋を掻っ切られて鮮血を迸らせるアドルフ。
獅子神はその姿を、ただ眺めることしかできなかった。

【アドルフ・ラインハルト@テラフォーマーズ 死亡】
残り 44/46

「――クソッ! テメェ!」

獅子神は無我夢中で尾形からナイフを引ったくると、彼に向ける。

「殺すッ! ぶっ殺してやるッ!」

怒気を滲ませ叫ぶ獅子神。

尾形はそれをぼうと興味なさげに見、脇に打ち捨てられていたTAC-50を抱えると、踵を返して走り去った。

「待てッ! テメエは必ずこのオレが殺してやるからなッ! 覚えてろ!」

獅子神の怒号を背に受けながら。


◆ ◆ ◆


獅子神敬一は怯えていた。
当然だ。殺し合いに巻き込まれたのだから。

獅子神敬一は悲嘆に暮れていた。
当然だ。理不尽な死に襲われるかもしれないのだから。

獅子神敬一は絶望していた。
当然だ。生きて帰還する見込みがほぼないのだから。


嘘。嘘。嘘。


獅子神敬一は――――

獅子神敬一は憤っていた。

この世界の仕組みに。
見て見ぬふりをする人々に。
突如として姿を現す死に。

そして、どうしようもなく弱い自分自身に。

11獅子搏兎 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:34:18 ID:E5MTgvvM0

【A-4/丘/1日目・午前】
【獅子神敬一@ジャンケットバンク】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ナイフ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:主催を倒す
1:尾形……! ブッ殺してやる
2:アドルフ、すまない
[備考]
尾形百之助を仇だと認識しました。


【A-4/丘/1日目・午前】
【尾形百之助@ゴールデンカムイ】
[状態]:健康
[装備]:TAC-50
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:優勝狙い
1:???

12 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:35:13 ID:E5MTgvvM0
これにて投下を終了します。
続いて、鶴見篤四郎、佐川睦夫で予約します。

13名無しさん:2024/03/22(金) 21:39:28 ID:QWpBYGkc0
新スレ立て乙です。
尾形原作でもこのロワでもクソっすね。
獅子神さんの、理不尽相手に悔しい想いをするのが獅子神さんらしくて良かったです。
応援してます。

14 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:41:32 ID:E5MTgvvM0
>>13
感想ありがとうございます。
獅子神さん、本編でもまた活躍が楽しみなキャラです。
こういうキャラが一人いるとロワがギュッと引き締まっていいですね。

それでは、短いですが投下させていただきます。

15死神 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:42:23 ID:E5MTgvvM0

人間は、みんな体の中にこの位のガラス玉が入っているんだ。
そのガラス玉の中は空洞で、その空間は液体で満たされているんだ。

ほとんどの人間は、ガラス玉が割れないうちに一生を終えるんだけど、
僕のは割れちゃったんだよ。

僕のガラス玉の中の液体は、毒だったんだ。


◆ ◆ ◆


佐川睦夫は傭兵だ。
日常的に人を殺し、血を啜り、体内の血を入れ替え続けている。

血が砂にならないように。身体の毒を消し去るために。

「――そうか。そんな過去があったんだね」

睦夫の言葉に鶴見は耳を傾ける。

「悪いのは君じゃない。もちろん、お父さんでも弟さんでもない。
 君は運が悪かっただけなんだ。たまたまガラス玉に毒が入っていただけなんだ」

その言葉に睦夫は涙を流した。

「あ、ありがとうございます……。あなたにそう言ってもらえただけで、僕は、僕は――――」

佐川睦夫と鶴見篤四郎はひっしと抱擁を交わした。

「睦夫君、君のことは私が守る。だが、もし私に何かあったら、君も私を守ってくれるかい?」

「もちろんです。もちろんですッ……!」

睦夫は何度も、何度も首肯した。
その姿に、鶴見は慈愛そのものの笑みを浮かべる。

「さあ、行こうか……! 私たちはとりあえず、他の参加者を殺そうとするような悪人を狙って狩るとしよう。
 睦夫君が教えてくれたこのタブレットで確認したところ、私の部下の宇佐美も来ているようだ。彼は頼りになるぞぉ」

「はい」

睦夫は大人しく鶴見に付き従う。

だが、鶴見は睦夫のある"習性"に気づいていなかった。

そう、睦夫が鶴見劇場の虜になってから先、睦夫は鶴見のことを一度も"名前で読んでいなかった"のだ。

「そうか。そうだったんだ」

睦夫は鶴見の後ろをしっかりとした足取りで歩きながら呟く。

「あなたが――――」

16死神 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:42:53 ID:E5MTgvvM0


【B-1/住宅街/1日目・午前】
【鶴見篤四郎@ゴールデンカムイ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:悪人を狩る
1:睦夫と行動する
2:宇佐美と合流する


【B-1/住宅街/1日目・午前】
【佐川睦夫@喧嘩商売】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:父さんの言うことを聞く
1:悪い奴を殺す
2:そろそろ血を入れ替えたい
[備考]
鶴見を「父さん」だと思いこみました。

17 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/22(金) 21:44:04 ID:E5MTgvvM0
以上で投下を終了します。
続いて、ニト、金田保、村雨礼二で予約します。

18名無しさん:2024/03/22(金) 21:51:53 ID:QWpBYGkc0
投下乙です。あと感想返信ありがとうございます。更新が早い
この回糞野郎ばっかりッスね。忌憚の無い意見って奴ッス。
どっちもスタンスに悪人を殺すって書いてあるのがなんというか…
次の話も楽しみにしてます。

19 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/25(月) 20:39:06 ID:7Tw/PEUQ0
投下します。

20 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/25(月) 20:39:44 ID:7Tw/PEUQ0

ゲーム開始直後。
ニトは独りぼっちでトボトボと街を歩いていた。

「ああ〜〜〜〜ッ! クソッ、どうしたらいいんだよ……」

頭を掻きむしるニト。

部屋を出る前に見せられた映像はショッキングだった。
首輪が爆発して人が死んだのだ。

殖魔(サキュバス)との戦いを経て多くの人の死を目の当たりにしてきたニトだったが、
未だに人が死ぬのは慣れない。特に、自分の周りの人が死んでいくのは。

だが、困ったことにニトには現代社会についての知識が殆どなかった。
よって、タブレットを起動して名簿を確認するのが精一杯だったのだ。

「うう……黒金……」

ニトはマルサ(公安殖魔対策局)に入ってニ番目にできた"仲間"の名を呼ぶ。
彼もこのゲームに無理やり参加させられているのだ。

だが、当然といってもいいが、返答はない。
そもそもこの会場内のどこにいるのかも分からないのだ。
ニトはますます心細くなった。

するといきなりニトの肩に手が置かれた。
誰かが近くにいたのだ。殺し合いに乗っている人間か?

思わず振り向くニト。
その顎に強烈な肘打ちが喰らわされた。

――しかし。
ニトは常人とは全く異なる肉体構造を持つ変異生命体、殖魔である。
そんな攻撃には身じろぎもしない。

「ッてェ! 俺とやんのか!」

すぐさまニトの手の周囲を爆発する筋肉が覆う。
ニトの必殺技『乖筋 序局 爆腕縛手』である。

「お、おおっと……! 勘違いしちゃ困るな」

しかし、そのまま向かってくるだろうというニトの予想に反し、相手は両手を上げた。

「君の顎に蝿が止まっていたんだ。それを叩こうと思ったら意外にも力が入ってしまってね」

青年は殆ど毛の生えていない眉を吊り上げて笑った。

「ほ、ほんとかー……?」

「ああ、本当さ。命を賭けてもいい」

青年は自身の名を金田保と名乗った。
彼の話すところによると、どうやら金田自身も独りぼっちで心細くこの辺りを彷徨っていたようだ。

「金田……!」

「ニト君……!」

自己紹介もそこそこに、意気投合した二人は熱く握手を交わした。

「とりあえず、この辺に殺し合いに乗ってる参加者がいるかも知れない。
 俺はタブレットを使えるから、ここから北上しながら頼れる仲間を探そう」

「おお……! いいのか?」

白く輝く歯を見せ、ニトを先導する金田。

21 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/25(月) 20:40:26 ID:7Tw/PEUQ0

(クソッ、危ない……! 俺の一撃を喰らってピンピンしてるとか、コイツマジで人間か……?
 頭の弱いタイプで助かった。こんな鳥の巣頭の馬鹿、隙を見てブッ殺してやる)

だがこの金田という男、とんでもない危険人物であった。

オリンピック柔道競技100キロ超級金メダリストだが、決して清廉潔白ではなく、むしろプライドと自己顕示欲の塊のような性格で、
ドーピングや闇討ちなどという卑劣な手段も積極的に使い、実の父親すらも自らの手で絞殺しているというおぞましい過去を持っていた。

そして、当然ながら殺し合いにも乗っていた。

(5000万ドルが嘘にしろ本当にしろ、まずは生き残らなきゃ話にならない。
 そのためには利用できる奴は片っ端から利用して殺しまくる必要があるな)

金田はクレバーな男だ。決断力も高いが、いざという時まで本性を隠す狡猾さも併せ持っていた。

(さて、このニトとかいう馬鹿を殺すには手段が必要だ。普段なら後藤に薬を用意させるんだが……)

策謀を巡らせる金田。
しかし、その権謀術数は披露する場をあっさりと絶たれた。

『ギャンブル・ルームだよ!』

幼児用アニメのキャラクターのような声が無情にもゲームの開始を告げる。
そう、このロワイアルの目玉にして特殊ルール、ギャンブル・ルームにニトと入室してしまったのだ。

「どういうことだよッ! 『ギャンブル・ルーム』って部屋のことじゃねぇのかよッ!」

戸惑うニトを他所に吠える金田。
『ギャンブル・ルーム』については事前に宇佐美から聞いていたが、その「部屋」に入らなければ安心だと思っていた。

そこは完全に屋外であり、部屋でもなんでもない横断歩道の一角であった。

『それじゃあ今回のルールを説明するよ〜! デレレレレ……ドンッ!
 難易度【竹】の〜〜〜〜その名も【二人限定ジャンケン】っ!』

ルールはこうだ。
2人のプレイヤーはお互いに「グー・チョキ・パー」の3種類が描かれたカードを3枚ずつと星バッジを3個もらい勝負に挑む。
お互いにカードを出し合って、じゃんけんで勝った方は星をもらい、負けた方は星を失う。
1回勝負が終わるごとに中央の机の穴にカードを処分していき、10分以内に星が3個に満たなかったプレイヤーの負けである。
なお、カードを使い切れないと両者の負け、暴力行為やカードを勝負以外で破棄する行為などは即敗北となる。
今回のゲームで敗北したプレイヤーは、首輪から毒を注入され、どんな参加者も1時間行動不能にされてしまう。

(な、なんて穴だらけのルールなんだ……! このゲームを考えた奴も筋金入りの馬鹿なのか……!?)

どんなデスゲームをニトと行うことになるのかと戦々恐々としていたが、ルールを知って胸をなでおろす金田の袖を、そっとニトが引っ張った。

「大変だ金田! 全くルールが分からん!」

22 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/25(月) 20:41:04 ID:7Tw/PEUQ0

「大丈夫だ、ニト君。このゲームには必勝法がある……!」

ニトに微笑む金田。彼は心の中でも笑みを浮かべていた。
もちろん顔に出しているものとは種類の違う笑いだが。

「必勝法!? なんかカッコいい響きだな、それ」

「ああ、このゲームをやりすごすのは簡単さ。『9回連続あいこ』で問題なくお互いに星3個でゲームを終えられる」

「9回連続…………た、確かにそうじゃん! 金田、お前天才か!?」

「ああ、じゃあ早速カードを処理していこう。順番はグー、チョキ、パーの順番でいいね?」

「おう!」

二人は意気揚々とカードをあいこにし始めた。

――しかし、じゃんけんが7回目になった頃に異変が訪れる。

「あ、しまった!」

なんと金田が(うっかりカードを出し間違えて)ニトに勝ってしまったのだ。

「おいおい、金田ー。なにやってんだよ」

「すまない、次で帳尻を合わせよう。次に俺はニト君に負けるから、とりあえず便宜上として星は貰っておくよ」

続く8回目。
なんともう一回金田が宣言通りのカードを出さず、勝利してしまった。
これで金田は最後の9回目のじゃんけんも勝利が確定し、ニトの星は0個になってしまうことが決まった。

「お、おい金田! これって……!」

「ニ、ニト君……! す、すまないっ! 君が行動不能になった1時間は絶対に君のことを護るから!
 カードを連続で出し間違えた俺を許してくれっ!」

顔を手で押さえ、その場に蹲る金田。
さしもの金田も、バトルロワイアルの舞台に放り込まれれば緊張して手元が狂うか……?

『二人限定ジャンケンの勝者は〜〜〜〜! ドンッ! 金田保で決定!
 敗者のニトは1時間動けなくなってもらいまーす!』

アニメのキャラクターのような声がニトの敗北を宣言し、ニトの首に薬物が注入される。

「か、金田。俺もう、身体が痺れてきた……。1時間は頼んだ……ぞ……」

徐々に身体の痺れたニトは、そのまま昏倒した。

「……く、くくく……! ニト君! 君ってホント〜〜〜〜にバァーカだよなあ!?」

ゲームから開放された金田は、異様なまでに俊敏な身のこなしでニトのデイパックを漁り始めた。

「俺が2回連続でカードを出し間違えた? そんなことを! この俺がするわけないだろ」

中の物を全て自身のデイパックに移し終えた金田は、つかつかとニトに近づき、彼の首に手をかけた。

「さて、アホでバカでノータリンのニト君。君の人生はここでお終いだね。なにか言い残すことは? ……って喋れないか」

嘘だろ、というような、訴えるような目でこちらを見てくるニトの顔に金田は唾を吐きかける。

そして、金田の両腕に力が入り、ニトの首の骨がヘシ折られる……と思われた瞬間。

一本のメスが金田の頬をかすめた。

23 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/25(月) 20:41:35 ID:7Tw/PEUQ0

「そこまでだ」

そこに立っていたのは、今にも倒れそうなほど細身の、眼鏡をかけた男だった。

「その少年を殺すことは許さん」

男はメスを手に、ニトから手を引けと言っていた。

金田は思わず吹き出してしまった。
こんなひ弱な男が、柔道を極めた自分相手に命令? 武器を持っているにしろ、勘違いも甚だしい。

まずは邪魔なこの男から殺してしまおう。
武器と言っても刃先の短い医療用のメスだ。
距離を一気に詰めれば対応できないだろう。

金田は笑みを浮かべながら立ち上がった。

――だが。

金田は感じてしまった。
その男の全身から立ち上る死の香りを。

そのか弱い佇まいからは想像もできないほどの危険な、猛毒を持つ生物が警告色を光らせて周囲の獲物を恐怖させるような怖気が金田を襲った。

全身の毛穴が開き、鳥肌がブツブツと立っていく。

「く、クソッ!」

金田の決断は早かった。
一瞬でデイパックを背負うと、一目散に逃げ出したのだ。

その後には、動けなくなったニトと眼鏡の男だけが残された。

男はメスを片手に、嬉しげに歩み寄った。

「さて、あなたの名前は聞いてる。ニト、あなたをこの私が解剖してやろう」

男は医者だ。
腹を捌き、診断を下す。

男はギャンブラーだ。
心を読み、勝利を攫う。

男の名を、村雨礼二という。

24 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/25(月) 20:42:11 ID:7Tw/PEUQ0

【D-4/大通り/1日目・午前】
【ニト@LILI-MEN】
[状態]:行動不能(回復中)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:黒金を探す
1:金田……嘘だよな……?
2:変な眼鏡だ!
[備考]
金田に支給品を全て奪われました。


【D-4/大通り/1日目・午前】
【金田保@喧嘩商売】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品×4
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく殺す
1:クソッ、あの眼鏡……!
2:ニト君、本当に馬鹿だね
[備考]
ニトの支給品を全て奪いました。


【D-4/大通り/1日目・午前】
【村雨礼二@ジャンケットバンク】
[状態]:健康
[装備]:メス×2
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:ニトを解剖したい

25 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/25(月) 20:46:27 ID:7Tw/PEUQ0
これにて投下を終了するのん。

ここからは余談ですが、このロワは高校鉄拳伝タフから続くタフ外伝(プレイボーイ連載)を除く全ての作品を
ヤンジャン、ヤンマガから摂取することが可能な非常にお得なロワとなっております。
把握も比較的楽だと思われますので、よろしければこれを機会に出典元作品も読んでいただければ幸いです。
それでは、引き続き当企画をよろしくお願いいたします。

26 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/25(月) 20:47:27 ID:7Tw/PEUQ0
すみません、忘れていました。タイトルは「フレッシュ・アンド・ボーン」です。
あと、宮沢静虎、ヒグマ、利根川幸雄で予約もしておきます。

27 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/30(土) 22:53:02 ID:Hdr6IA.A0
遅くなりましたが投下します。

28熊腿(ベアー・フット) ◆4hdo0SZJPA:2024/03/30(土) 22:53:58 ID:Hdr6IA.A0

利根川幸雄。
言わずとしれた帝愛グループの最高幹部である。

そんな男が今、煩悶している。

「ぐっ……! ぐがががっ……!」

実をいうと彼は以前から、このヤング・ロワイアルの存在を認知していた。
いや、それどころか本来なら主催者の一人として兵藤会長と共に死にゆく参加者たちを笑い、酒でも飲んでいるはずだったのだ。

それをあの宇佐美とかいう男が全て持っていってしまった。
参加者の選出からギャンブルのルール決めまで、突如カラス銀行などというわけのわからないところから現れたあの行員が、利根川の仕事を……。

そして今はこのザマだ。
薬で眠らされたところをいつの間にか運ばれ、ヤング・ロワイアルに参戦させられている。
主催者から参加者への降格、というわけである。

利根川は自身が死の淵にいるということはさて置き、ゲームの参加者などというクズの仲間入りをさせられたことが途方もなく悔しかった。

「殺すっ……! 今すぐ全員ブチ殺してやるっ……!」

口ではそう言ってみたものの、それが現実可能かと言うとかなり厳しいというのが現状であった。
なぜなら、参加者には武芸に秀でたものから超常的な能力を操るものまで様々な戦闘力を持った者が名を連ねていたのだ。

極めつけはヒグマたちだ。この殺し合いには、人間でない者も何名か招かれていた。
こいつらは人間ですらない。よって言葉で騙して闇討ちしようにも効果がない。

利根川は意気消沈しながらタブレットの名簿を弄り、こいつはダメ、こいつも殺せない……などと参加者の選別を行っていく。

すると、利根川はなにかに気づき、名簿の途中で指を止めた。

伊 藤 開 司

「クク……ククククっ……! いるではないか、不世出のクズが一人っ……!」

こいつに関しては殺し合いに呼ぶよう進言したのは利根川自身である。
カイジなら簡単に騙せる。そう、あんなクズなどに負けるはずがないのだ。

利根川はデイパックから銃とナタを取り出した。銃は小口径の短銃である。
兵藤会長のせめてものお情けか、利根川のランダム支給品は比較的"使える"モノであった。

「待っていろよ、カイジっ……! 貴様を必ず殺すっ……!」

利根川はまだ見ぬ宿敵への漆黒の意志を強く固めた。

「……グルルルッ」

しかし先ほどから何かが唸るような音がする。
はて、会場内に猫はいなかったはずだが……?

猫……猫……猫!?

利根川はハッと後ろを振り向く。
そこには、腹を減らしたヒグマが唸りながら利根川を睨めつけていた。

「ひっ……!」

利根川は必死でデイパックを漁る。

ナタと短銃が入っているはず。

刃物と銃ならどちらが野生生物に対して有効か。
刃物は取り回しが効くが、銃なら大きな音がする。

29熊腿(ベアー・フット) ◆4hdo0SZJPA:2024/03/30(土) 22:54:22 ID:Hdr6IA.A0

やはり銃だ。
利根川はデイパックから短銃を取り出した。

震える手で取り出し、照準をヒグマの額に向ける。

「死ねっ……!」

しかし。

利根川は初心者が銃を使う時にありがちなミスを犯していた。
そう、安全装置を外していないのだ。

引き金を何度も引くが、奮励も虚しく銃口は空を切る。

「クソっ……クソっ……! クソ〜〜〜〜〜〜っ!」

バ ゴ ス !

ヒグマの一撃で利根川の首は吹き飛んだ。

【利根川幸雄@カイジシリーズ 死亡】
残り 43/46


血に濡れそぼった手をペロペロと舐めながらクマは利根川の死体へと向かう。
これから利根川の肉体を味わうつもりなのだ。

「待ってください」

すると、ヒグマに声をかける人影がいた。
一見すると、冴えないサラリーマンのような姿だが、その体格の逞しさ、
そして全身からみなぎる覇気が、その男を只者ではないと知らしめていた。

「ヒグマさん、あなたのお腹が減っているのはわかります。自然界では、食べたいものを食べていい、それが掟です。
 ですが、ここは人々が住んでいる場所です。大変申し訳ありませんが、ここでは私たちのルールにも従ってもらいますっ!」

そう言うなり男は、体格に見合わぬスピードでヒグマへと駆け寄り、拳をヒグマの鼻先へと突き出した。

「幻魔拳」

しばらく静寂が一人と一匹の間を支配する。
傍目から見ると、何も起きてはいないように見える。

だが、ヒグマの脳内では今、信じられないような現象が起きていた。

――自我の崩壊。

灘神影流に伝わる奥義『幻魔拳』は、寸止めした相手に拳をくらって顔面がグチャグチャになるという幻影を見せ、相手の精神を崩壊させる技である。
それを、ヒグマはモロに食らってしまった。

「……グルル」

ヒグマは静かに唸りながら、時折こちらを気にするような仕草を見せ、そして去っていった。

誰であっても、何があろうとも"たった一人の兄"以外は殺めようとしない。
『静かなる虎』、『地上最強のモラリスト』の宮沢静虎が宮沢静虎たる所以であった。

「間に合わなかった……」

利根川の死体と、そして去っていくヒグマを交互に見やりながらそう呟く静虎。
危険な気の気配を感じ、押っ取り刀で駆け付けたがそれでも間に合わなかった自身の至らなさを悔いているのだ。

――悪い神(ウェンカムイ)。
アイヌ語では、人を一度でも食べたクマのことをそう呼ぶという。
アイヌの人たちはウェンカムイを必ず討ち取り、懲らしめる必要があると考えている。
それは、人の弱さを知って、人の味を覚えた危険なヒグマを野放しにしないようにするためなのかもしれない。

そしてそれは、当然先ほどのヒグマにも同じことが言えるだろう。

ヒグマは怒っていた。
静虎に対し、ひいては人間に対して怒っていた。

自身から美味しいものを奪った罪を。
自身に"こんなもの"を植え付けた罪を。

ヒグマはひたすらに爪を研ぐ。

30熊腿(ベアー・フット) ◆4hdo0SZJPA:2024/03/30(土) 22:54:38 ID:Hdr6IA.A0


【E-4/住宅街/1日目・午前】
【ヒグマ@ゴールデンカムイ】
[状態]:幻魔(小)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:人を喰う
1:もっと人肉を喰らいたい
2:静虎が許せない


【E-4/住宅街/1日目・午前】
【宮沢静虎@TOUGH外伝 龍を継ぐ男】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:弱い参加者を守る
1:すみません……
2:とりあえず他の参加者を探す

31 ◆4hdo0SZJPA:2024/03/30(土) 22:55:21 ID:Hdr6IA.A0
投下を終了します。

32名無しさん:2024/03/30(土) 23:57:20 ID:Vnr3.iUw0
投下乙です。
ヒグマこっわ!!そりゃギャンブル以外なら利根川も勝てんわ
最近あっちのロワでもこっちのロワでもクマが大活躍してんな
人を食ったウェンカムイになってしまうわ、幻魔拳を食らってしまうわ、ヒグマの今後はいかに

33 ◆4hdo0SZJPA:2024/04/15(月) 22:43:23 ID:ro0Vtp4w0
すみません、完全に年度初めの業務とコロナのダブルパンチで倒れていました。
宮沢鬼龍、書き手枠1、書き手枠2で予約します。
明日か明後日には投下できるはず。

34 ◆4hdo0SZJPA:2024/04/16(火) 22:00:08 ID:cVRBP/Eo0
投下します。

35警死庁24時 ◆4hdo0SZJPA:2024/04/16(火) 22:02:15 ID:cVRBP/Eo0

街の路上で二人の男が何やら話し込んでいる。
一人は赤髪をトサカのようにおっ立てた、気性の荒そうな男。
そして、もうひとりは半月状の眼鏡をかけた神経質そうな男だ。

山吹千晴と時雨賢人。
二人は警視庁が誇る捜査2課のエリート刑事……だった。

――だが、彼らは敗けた。
覚醒した獅子と睨めつける蛇の罠にかかったのだ。

「クソッ! あの医者と……獅子神の野郎もいやがる!」

名簿を確認し、思わず壁を殴りつける山吹。
二人を絶望の淵へと送り込んだ「獅子神敬一」と「村雨礼二」の二人もゲームに参加しているのだ。

「……大丈夫ですよ、千晴君。これはギャンブルではなく、デスゲームです。警察学校で訓練を受け、そして早々に結託した我々の敵ではありません。
 しかも……私たちにはこれがありますからね。彼らの頭など一瞬で輪ゴムを巻きすぎたスイカのように吹き飛ぶでしょう」

息を荒げる山吹を制し、時雨が冷徹に笑う。
彼がデイパックから取り出したのは、自動小銃であった。
しかも、山吹と時雨の分を併せて2丁ずつ支給されている。

「ハアッ……ハアッ……」

それを見、山吹も徐々に落ち着きを取り戻し、そして最終的に笑顔を見せた。

「そうだな……あいつらは……"悪"! そして、オレたちが"正義"。銃なんていう強力な支給品を貰ってることからもそれは明らかだ。
 悪ィやつには何をしてもいいからなあ……」

そして山吹も自慢のトサカのような髪型をクイッと上げ、下品に笑った。

そう、なんと二人はゲーム開始早々に奇跡的な邂逅を果たしていた。
ゲームに敗北して電流を受け、死んだはずの時雨がなぜ生きているかなど、それに比べれば些細な問題であった。

二人の、刑事たちの笑い声が道にこだました……。

「ほーお、そうなのか」

その笑い声は一瞬で静まる。

一人の男が道の真ん中に立っていたからだ。

妙に丈の長いコートを着た、壮年の男だった。
眉毛はない。そして、身長が高く、それに比例するかのように肩幅も広かった。
明らかになにかの格闘技をやっている。それは時雨の目から見ても明らかであった。

36警死庁24時 ◆4hdo0SZJPA:2024/04/16(火) 22:02:37 ID:cVRBP/Eo0

「なッ、なんだよ。オッサン!」

山吹がバツの悪そうに詰め寄る。
当然、後ろ手には銃を隠したままだ。

「フンっ、オレに近寄るのなら気をつけろよ。お前らはこの世でもっとも汚く、そして蔑まれる存在……警察官なんだからなあっ」

何をトチ狂ったか、急にこの眉なしの男は刑事である二人の前で警察批判をブチ上げ始めた。
これまでの話を少しでも聞いていたのなら、数的有利、武器の有無、公権力の介入の可能性等からも挑発は避けたほうが良さそうだが……?

山吹はプッと吹き出し、男のコートの胸ぐらを掴む。

「オイ、オッサン。オレらの気が変わらねェ内に消えな。オレらは狙ってるヤツらがいるんだ。
 そいつらをブッ殺すまでオッサンは殺さないでおいてやるから――――」

しかし、山吹は最後まで話すことは叶わなかった。
コートの男――宮沢鬼龍が目にも止まらぬスピードで山吹の顎の骨を外したのだ。

ちなみにこれは灘神影流の技ではない。
ただ物凄いスピードで手を動かし、相手の顎関節を正確に狙って少し揺らしただけである。

「ふがッ……!」

驚き、尻もちをつく山吹。

「オレに近寄るなら命を賭けろと言ったよなあっ? ……お前ら、"悪"になら何をしてもいいってか。オレも悪だよ。悪は悪でも……"悪魔"だがなあっ」

「い、いや、命を賭けろとは言ってな――――」

山吹はそう言いかけ、顎が外れていて発声ができないことに気づいた。
そして男の、宮沢鬼龍の姿が明らかに膨張していく。

「ハアーっ! 気が漲る! 滾るわっ!」

完全に弱者を蹂躙するモードの鬼龍になっていた。
こうなったらもうお終いである。

「ひっ、ひいいいいいっ!!」

山吹と時雨は腰から銃を抜き、鬼龍に突きつけた。
さしもの鬼龍もこれで大人しくなるか、はたまた驚き、許しを請うだろうか……?

答えはNOだ。

灘神影流・弾丸滑り。
命中した弾丸を全て体表から滑らせ、逸らしてしまうという反則技が鬼龍をさらに凶悪な存在へ押し上げていた。
いくら銃弾を撃っても、それら全てが一瞬の内に逸らされていく。

「はあっ」

鬼龍は一瞬で山吹の首の骨を折る。

「かぺっ」

山吹は阿呆みたいな最期の台詞を吐いて事切れた。
刑事・山吹千晴、殉職である。


【山吹千晴@ジャンケットバンク 死亡】
残り 42/46


「ひ、ひいいいいいいいいいいいっ! やめてくださいっ!」

時雨は小便を撒き散らし、地に頭を擦り付けて命乞いをする。

「面白いことを言うなあ、この蛆虫は。お前らは虫のいうことに耳を貸すのか?」

鬼龍の態度は全く変わらなかった。

そして――――


【時雨賢人@ジャンケットバンク 死亡】
残り 41/46


現実は時に残酷なものである。

時雨が鬼龍に負わされた責め苦は、これまでに彼が他者に与えてきた苦しみに見合うだろうか。
いや、それは時雨賢人本人を除いて誰にもわからない。願わくば彼の魂に安らぎが訪れんことを……。

そして、鬼龍はひたすら己の道を闊歩する。
それは究極のエゴイズムと呼んでも差し支えないほどの強烈な自己肯定感が生んだ怪物を越えた怪物のみが持つ力である。
そんな彼に対抗するためには、怪物となる他ないのか。はたまた、元から怪物であれば彼と闘いうるのか――

深淵を覗き込んでいるのは、誰だ。


【D-5/住宅街/1日目・午前】
【宮沢鬼龍@TOUGH外伝 龍を継ぐ男】
[状態]:気の昂ぶり
[装備]:コート
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:皆殺し?
1:はあーっ

37 ◆4hdo0SZJPA:2024/04/16(火) 22:03:20 ID:cVRBP/Eo0
これにて投下を終了します。
書き手枠を露骨に処理し始めたとか言わないで……ねっ。

38 ◆4hdo0SZJPA:2024/04/30(火) 22:21:23 ID:4AzzpStU0
小町小吉、佐藤十兵衛、天堂弓彦、書き手枠3で予約します。

39 ◆4hdo0SZJPA:2024/05/01(水) 19:39:56 ID:z.qgch9.0
投下します。

40霊長類最強の生物 ◆4hdo0SZJPA:2024/05/01(水) 19:40:20 ID:z.qgch9.0

――――最強の生物は何か!?

多種いる地球上の生物たちがルール無しで戦った時……。

興行ではなく……ガチンコ、サイズ差なしの『喧嘩』で戦った時、最強の生物は何か?

今現在、最強の生物は決まっていない。


◆ ◆ ◆

41霊長類最強の生物 ◆4hdo0SZJPA:2024/05/01(水) 19:40:50 ID:z.qgch9.0


畳のど真ん中にちゃぶ台が置かれた、典型的な座敷で二人の男が相対していた。

なぜか既に二人の周囲には険悪な雰囲気が漂っている。

「照英、ガッツ石松、あとはFUJIWARAの原西」

「どこがだよ、似てね―よ!」

「ガレッジセールのゴリは?」

「全然似てね―ってば! ってかゴリラ顔の芸能人ばっかり挙げるな! 悲しくなるだろ!」

ツンツン髪の少年にツッコミを入れるのは、アネックス2号の艦長「小町小吉」である。
小吉は先ほど例の箱から脱出したのでとりあえず周囲でも散策するか、と思って民家に上がり込んだところ、座敷でゴロ寝をしていた妻夫木聡を名乗るこの少年と出会ったのだった。

若い子と仲良くなるにはとりあえず芸能界の話から……ということで、似ている芸能人を挙げてもらうことにしたのだが、2620年から来た小吉と平成生まれの少年――佐藤十兵衛(妻夫木聡)とでは、まるで話が噛み合わなかった。

「しかし、妻夫木(本当に本名か?)くん、ゴリラに似ているのは置いておいてなかなかオツな芸能人ばかり挙げるね……。照英なんか令和時代のアーカイブでしか見たことないよ」

「……えーっと、ショーキチさん、大丈夫? さっきからズレた話ばっかりしてるけど、本当にヤバい人じゃないよね?」

小吉の眼の前に人差し指を立て、催眠術の要領でフラフラと振る十兵衛。
だが、小吉の目は至って真面目であった。

「いや、俺は真面目に2600年代を過ごしているんだが……」

十兵衛の口が一瞬引き攣り、スッと元に戻るのを小吉は見逃さなかった。

「ア……ハイ……ソウナンッスネ……じゃ、俺はこれで……」

十兵衛は明らかにヤバい人を見る目で小吉を見、すっと立ち上がった。

ピーンポーン!

すると、玄関先でチャイムが鳴る。

「あ、誰か来たわ。ちょっと俺、出てくるから」

十兵衛がこれ幸いと席を立つ。

「いやいやいや、座ろうよ! なんか俺のこと勘違いしてるでしょ! ねえ、絶対勘違いしてるって!」

小吉の必死の説得にも耳を貸さず、十兵衛は「はーい」などと白々しい台詞を吐きながらドアを開ける。
そこには、日中の住宅街には似つかわしくない異様な出で立ちの人物が立っていた。

神父である。

なぜか神父姿の眼帯を付けた男がアルカイックな笑みを浮かべて立っていた。

「貴方は神を信じるか?」

小吉と十兵衛は無言でドアを閉めた。

「いや何も言わずに閉めるなよ! 失礼だろ!」

「あれは閉めるでしょ。今日びあんな勧誘の方法、田舎の一軒家でも見ないわ」

「そっ、そんなこと言うなよ! 真面目に……なんか……神を信じてる人だっているんだぞ!」

小吉は十兵衛を制し、ドアロックを解除しようとする。

だが、十兵衛のほうが一手速かった。
超高速の反射で、小吉の心臓に直接打撃を打ち込んだ。

「金剛」

「――ぐッ」

たまらず悶絶する小吉を見下ろす十兵衛。

「やば、思わず使っちゃった」

42霊長類最強の生物 ◆4hdo0SZJPA:2024/05/01(水) 19:41:44 ID:z.qgch9.0

富田流の『金剛』。
相手の心臓に打撃を加え、一瞬で気絶させる技である。
使いこなすには高い打撃力が要求されるが、極めれば大型の猛獣にすら通用するという。

――だが。

「痛ててて……。妻夫木くん、俺の見立てではたぶん剣術とか拳法とかやってるんだろうけど、そういう技は俺みたいなおじさんに振るっちゃダメ」

小吉はまったく怯むことなく起き上がってきた。

「嘘だろ……」

完全に極まっていたはずなのに、この小町小吉を名乗る大男は多少の痛みはあるものの平気の平左なのである。
人類の命運を背負って立つ宇宙船計画の艦長、アネックス2号の小町小吉は伊達ではなかった。

「とりあえず、扉開けない? 俺もちょっとさっきの人は怪しいと思うけどさ、ちゃんと話聞いてみたら――」

「佐藤十兵衛」

「ん?」

「俺の名前。ってかタブレットの名簿には妻夫木聡とか載ってなかったじゃん。マジで信じてたの?」

「いやそんなわけ――いや! 信じてた……かも……しれない……」

竜頭蛇尾に語気が弱まっていく小吉を尻目に十兵衛はこう考えていた。

このおじさん、完全に文さんと同じタイプじゃん!


◆ ◆ ◆

43霊長類最強の生物 ◆4hdo0SZJPA:2024/05/01(水) 19:42:03 ID:z.qgch9.0


十数分後。やはりちゃぶ台を挟んで小吉と十兵衛が向かい合っていた。

「いいか、この殺し合いという異常な状況で生き残るためには、信頼できるグループを作る必要がある」

小吉の言葉にゆっくりと頷く十兵衛。

「この名簿の中で、十兵衛くんの信頼できる参加者はいるか?」

「うーん、この人……ぐらいかな……」

十兵衛は「入江文学」と書かれた部分を指さした。

「――っていうか、俺がさっきから納得行かないことが一つあって、なんか既に死んだやつの名前が載ってるんだよね……」

続いて「金田保」と書かれた名前を指差す十兵衛。

「ああ、それは俺もだ」

小吉は「アドルフ・ラインハルト」と書かれた部分をじっと見つめた。

「……とりあえず、生き返った(のか?)人たちが本当にそのままの彼らなのかが明らかにならない内は接触を控えたほうが賢明だろう。前置きはこれくらいにして、次の行動は――――」

ピーンポーン!

すると、また玄関先でチャイムが鳴った。

「……」

無言で目を合わせる二人。
二人の間に暫しの静寂が流れる。

「いや、いい。俺が出る」

十兵衛に先んじて、今度は小吉がドアを開ける。
そこには、日中の住宅街には似つかわしくない異様な出で立ちの人物が立っていた。

44霊長類最強の生物 ◆4hdo0SZJPA:2024/05/01(水) 19:42:43 ID:z.qgch9.0

ゴリラである。

ゴリラ。学名、ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ。
余計な脂肪が一切無く、その背筋力から繰り出す打撃の威力は推定2〜5トン。その握力は500kg。

霊長類最強の生物が、そこに立っていた。

小吉と十兵衛は無言でドアを閉めた。

――ゴアッ!

だが、そんな脆い木と鉄で出来たただの板などはゴリラにとっては紙切れ同然。
ドアはあっという間に吹き飛ばされ、玄関先で固まる二人の姿は丸出しになった。

しばらく三者の睨み合いが続く。

合図は十兵衛のヒュッという泣き声ともうめき声ともつかない喉を鳴らす音であった。
小吉と十兵衛は今までに発揮したことのないほど素早く靴を履き、居間の窓ガラスを突き破って道路へ逃げ出した。

ゴリラはゴヒューゴヒューと獣特有の荒い息を吐きながら四足歩行で追ってくる。

「じゅじゅじゅ、十兵衛くん! 確かさっきの心臓を止める技、動物にも使えるんだったよね!? ちょっとあのゴリラに使ってみてくれない!?」

「馬鹿も休み休み言えッ! あんな屈んだ体勢のゴリラの心臓ににどうやって金剛当てるんだよ! そもそも富田流はゴリラを仮想敵にしてねーよ!
 ゴリラみたいな人間は仮想敵だけど、人間みたいなゴリラは仮想敵にしてね―よ!」

必死で駆けながらもゴリラを撒こうとする十兵衛たち。
だが、ゴリラは機敏に、しかし付かず離れずのスピードで追ってきていた。

ゴリラは怒ってなどいない。
玩具を与えられた赤子のように遊んでいるだけなのだ。

しかし、だんだんと彼らの距離が詰まり、いよいよゴリラの手が十兵衛の服の裾を掴みそうになった時――

小町小吉は覚悟を決めた。
すなわち、この少年のために獣(オオスズメバチ)と化す覚悟を。

走るのを止め、ゴリラに向き直る小吉。
十兵衛はそれを信じられない、という目で見る。

小吉はデイパックから変身薬を取り出した。

そして、自身の腕に突き刺す。

――その時。

「ピガガーッ!」

ロボットの駆動音のような異音が周囲に響き、気づくとゴリラはアスファルトに叩きつけられていた。

十兵衛が目を擦り見ると、小吉とゴリラの間に仁王立ちになっているのはどこからどう見ても二足歩行のロボットであった。
スマートなフォルムに、デジタルカメラのような頭部。胸部からはコードがむき出しになっている。

「もう一度問おう。『貴方は神を信じるか?』」

そして、二人の方に向き直ったロボットは、先ほどの神父の声でそう言った。

トダー。

かつて最強の兵士として作られた"機械のような人間"ガルシア28号に米軍が差し向けた"人間のような機械"である。
破壊力は3トンとゴリラに匹敵する膂力を持ち、時速100キロで歩行。
鉄パイプで殴打してもまったく傷つかないボディに自己修復機能も備え、ありとあらゆる武闘家の技をコピー、再現することも可能だという。

そんな神のようなロボットを支給された男がいた。

45霊長類最強の生物 ◆4hdo0SZJPA:2024/05/01(水) 19:42:55 ID:z.qgch9.0
名は、天堂弓彦。

先ほど小吉と十兵衛の前に現れ、宗教勧誘的活動を行った神父だ。
天堂は天賦の才と異常な知識量によってトダーの操縦方法を紐解き、既にゴリラ一匹程度であれば撃退することが可能なほどの熟練度を身に着けていた。

天堂の操縦するトダーに叩き伏せられ、ピクピクと痙攣するゴリラ。
一撃で顎の骨を砕かれ、もう永くはないだろう。

「おお、神よ。このような状況下での殺生は罪でしょうか……」

天堂はよくわからないことをぶつぶつと呟きながら、トダーを操りクルクルと舞わせる。
十兵衛と小吉(変身し損ね)はそれを唖然と眺めているだけであった。

グシャッ、という音とともにゴリラの頭が破裂する。
天堂のトダーが彼の頭を踏み抜いたのだ。


【ゴリラ@TOUGH外伝 龍を継ぐ男 死亡】
残り 40/46


「いいえ、いいえ。殺生が罪などということはないでしょう。"私"が、"私"がそれを赦しましょう――」

周囲を鮮血が染め、地面をゴリラの脳漿が汚していく。

「そしてできるならば――――もっと多くの者に救いを求められんことを――――」

ザッザッ

後ろからなにかの歩行音が響く。
これは……先ほど聞いた音だ。
それが重なって響いている。

「……これ、ヤバくね?」

後ろを振り向いた十兵衛がぽつりと漏らす。

そこには隊列を組んだトダーたちが、天堂の操る『トダーたち』が群れを成して行軍していた。

46霊長類最強の生物 ◆4hdo0SZJPA:2024/05/01(水) 19:43:12 ID:z.qgch9.0


【F-3/民家/1日目・午前】
【小町小吉@テラフォーマーズ】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、変身薬、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:脱出方法を探る
1:ゴリラ!?
2:ロボット!?
3:十兵衛を守る

【佐藤十兵衛@喧嘩商売】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:脱出優先
1:ゴリラ!?
2:ロボット!?
3:文さんと合流したい

【天堂弓彦@ジャンケットバンク】
[状態]:トダー操縦中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1、トダー操縦機
[思考・状況]
基本行動方針:罪人を赦す
1:???
[備考]
トダー操縦機によって会場内に配置されていたトダー5体を操っています。

47 ◆4hdo0SZJPA:2024/05/01(水) 19:43:26 ID:z.qgch9.0
これにて投下を終了します。


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