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シン・チェンジロワイアル part2

1 ◆5IjCIYVjCc:2023/07/23(日) 19:02:04 ID:lzNpjCwQ0
【当企画について】
・様々なキャラに別のキャラの体を与えてバトロワをする、という企画の第二弾です。
・コンペ形式で参加者の登場話を募集します。
・初心者から経験者まで誰でも歓迎します。

【参加者について】
・このロワの参加者は皆、自分の体とは別人の体で戦うことになります。
・参加者として扱われるのは体を動かす精神の方のキャラクターです。
・精神と体の元になるキャラの組み合わせは自由です。
・ロワでは意思持ち支給品として登場することが多いキャラや、多重人格キャラの副人格に相当するキャラを、身体の主人格に当てはめて参加者とすることもこのロワでは可能となります。

【参加者用ルール】
「基本ルール」
・参加者全員で殺し合い、最後に生き残った1人が優勝者となる。
・制限時間は3日。
・地図で記された場所の範囲外は見えない壁により立ち入りは不可能である。この見えない壁は何人たりとも通り抜けはできないものとする。
・参加者は最初、会場のどこかにランダムにテレポートさせられている。

「優勝者が持つ権利等について」
・優勝者はどんな願いでも叶える権利と元の体に戻れる権利を得る。
・それぞれの権利を使用するか否かは優勝者の判断にゆだねられる。
・優勝者の本来の身体が、別の参加者のものとなっていたために殺し合いの過程で死亡した場合、その身体は優勝者が元の身体に戻るのを望むのならば蘇生される。
・参加者以外で身体が元のものとは別の存在になっている者達は、優勝者が許可するならば元の身体に戻れる。
・優勝の権利を得ることができる参加者として扱われるのは、精神側の名簿に載っている者達のみである。

「放送・禁止エリアについて」
・ゲームの進行状況等は6時間ごとに行われる定期放送で連絡する。
・定期放送ごとに禁止エリアが3か所発表される。
・3つの禁止エリアが有効となるのはそれぞれ放送から1時間後、3時間後、5時間後とする。
・禁止エリアに指定された場所は、時間になると、地図の範囲外と同じように見えない壁に囲まれる。
・時間になった際に禁止エリア内にいる参加者は必ず消滅・死亡する。

「月について」
・本ロワの舞台には『月@ゼルダの伝説ムジュラの仮面』が空に浮かんでいます。通常の月はありません。
・この月は、制限時間である3日後に落ちてきて、そうすると世界が消滅・参加者全員が死亡するものとします。
・優勝者が出て殺し合いが終了すればこの月は止まるものとします。

【書き手用ルール】
・今回は参加者に首輪は存在しません。
・NPCなどは、虫や魚などといった動物も含め存在しません。
・空に浮かんでいる『月』は「ゼルダの伝説ムジュラの仮面」出典のものです。
・身体側の精神が復活する展開はNGとします。
・そもそもの話として、身体側の精神は元から存在しないものとして扱ってください。
・以下のアイテムの登場を念のため禁止したいと思います。以下のものはこちらで登場させたら都合が悪いかもしれないと判断したものです。今後の進行によっては、他に増える可能性があります。
 ・スタンド使いを生み出す矢@ジョジョの奇妙な冒険
 ・天逆鉾@呪術廻戦
・参加者や支給品の力で身体が元に戻る展開もNGとします。
・制限については基本的には書き手ごとにおまかせします。
・なお、精神入れ替え系の能力・アイテムには時間や回数などの制限をつけてください。具体的な制限内容は書き手ごとにおまかせします。
・予約ルールについては現在未定で、本編開始と同時に決定する予定です。
・意思持ち支給品を登場させることができるのは、コンペ時の登場話候補話のみとします。
・仮面ライダーシリーズに登場する変身ベルト・変身アイテムを登場させることができるのも、コンペ時の登場話候補作のみとします。なお、これには怪人・疑似ライダー等への変身アイテムも含まれています。
・スーパー戦隊シリーズ等、他の特撮作品に登場する変身アイテム等についても、登場可能なのはコンペ時のみにしたいと思います。


【その他ルール】
・参加者や、参加者の死体をデイパックに入れることは不可能とします。

511「最強」なのだった ◆5IjCIYVjCc:2024/11/28(木) 23:49:35 ID:uV1YJAyw0
「なるほど、1人だけか。で、こいつは僕らと協力できそうな奴?」
『フルフル』
「そうか…じゃあ、逆にとっても危ない奴だったりする?」
『コクコク』
「なるほどね…」

五条からの質問に真司は首振りで答える。
詳しいことは伝えられずとも、浅倉威は危険人物だということは五条にも分かったようだった。
この殺し合いの環境ではたとえ真司が話せたとしても正確な脅威度は分からないが、とりあえずとして五条の中でも警戒対象には入った。





「それじゃあ次はこっちの名簿を見ようか」


五条は次に身体側の名簿ファイルを開く。
そして真司と一緒にそっちのファイルの内容も確認していく。

「ふむ、こっちでも浅倉威ってのはいるのか。なあ、もしこいつの身体が他のヤバい奴に渡ったら危ない?」
『……ウーン…』

こちらにおいても、早い内に浅倉威の名前を見つけた。
浅倉の身体だけに関しては、仮面ライダーのことを除けば一応普通の人間であるので、それだけでは脅威としてはそこまで高いとは言えないかもしれない。
でも曲がりなりにも凶悪犯の肉体であるため、通常の人間よりは生身でも身体能力は高めかもしれない。
それに今ミラーモンスターとなった自分と共にカードデッキが五条悟に支給されたのと同じように、浅倉威の肉体の元にも同じように仮面ライダーになるためのカードデッキが支給されている可能性ももしかしたらあるかもしれない。
この場合は脅威度をまた一から考え直さなくてはならない。
そのため真司は、YesともNoとも言い難いかのような反応を見せる。

「……まあいいや。先に他の奴を…」

浅倉威の身体側の脅威度のことは一旦置いといて、五条は他の名前を見ていく。

「……うげっ!マジかよ…」

やがて見つけたある名前を見て、五条悟はすごく嫌そうな顔をした。
それは「伏黒甚爾」の名前であった。

「あー、何つーかさ、この伏黒甚爾って奴の体、けっこう強いんだよね。前に僕も殺されかけたことがあるくらい」

五条悟は伏黒甚爾がどんな奴なのかを説明する。
伏黒甚爾とは、呪力が全く無い代わりに身体能力が凄まじく高くなっているフィジカルギフテッドの天与呪縛の持ち主だ。
それに加えて様々な呪具も扱ってくるため、学生時代の五条は最初に戦った時にはものの見事に敗北した。
だけどもそれで一度死にかけたおかげで、当時の五条は呪術の核心を掴んだ。
その後伏黒甚爾へのリベンジも果たし、五条悟は現代最強の呪術師と呼ばれる程になった。
しかしそれは、本来の五条悟の肉体にある六眼と無下限呪術の術式あってのものだ。

「……はっきり言うと、もしこいつの肉体が敵になったとしたら、僕らだけで何とかできるかは難しいと思うんだよね」

少し前に言ったこととは逆になるが、本当のことを言うと今の五条悟は「最強」とは言い難いだろう。
肉体のエディータ・ロスマンの力は、そもそも十全に発揮するために必要な道具が無い。
真司…デストワイルダーが付いてきている仮面ライダータイガのカードデッキは、本来ロスマンの物ではない。
本来ロスマンの肉体で使うべきストライカーユニット等は支給品の中になかった。
そういったこともあり、今の五条ではロスマンのウィッチとしての魔法の力を上手い事使いこなすことはほとんどできないだろう。
ロスマンの体力が低いこともあり、支給品の力を借りても五条は戦いにくいだろう。

カードデッキ以外の支給品としては、1つはサッカーボールを膨らませて射出するベルトがあった。
このボールは膨らまし続ければアドバルーン大までにも膨らむという、とんでもない伸縮性のゴムを使っているらしい。
そしてそのボールは、スイッチの切り替えによって打ち上げ花火にもすることができるということだ。
しかし、花火程度では伏黒甚爾の肉体相手には少し心許ないかもしれない。
しかもボールは1回しか出せない使い切りのものだ。

そして最後の3つ目の支給品は、特殊なベルトに取り付けるための装置だ。
このアイテムの名は、「ブーストマークⅢバックル」という。
ただし、これを使用するためには「デザイアドライバー」というベルトが必要とのことだ。
そんなベルトは、ここには無かった。
つまり、今のところは全くの役立たずなアイテムだ。
しかも、例えデザイアドライバーがあったとしても、「創世の力」というものを宿した肉体でないと力を十全に発揮することができない…というか、使えないかもしれないらしい。
つまりこの場において、このアイテムは完全に宝の持ち腐れということになる。
本来なら自分が持つべきじゃない、別の所に支給されるべき品なのだ。
まあ、もし使えたとしてもこれで伏黒甚爾を何とかできるかどうかは分からないが。

「だからまあ、今のところはこいつの肉体が敵に回らないことを祈るしかないね」

512「最強」なのだった ◆5IjCIYVjCc:2024/11/28(木) 23:50:14 ID:uV1YJAyw0
伏黒甚爾の肉体を持つ者が味方になってくれるのであれば、逆に心強いことになる。
それこそ、元は同じ天与呪縛を持っていた禪院真希であれば、彼女にとっても扱いやすい身体となっていることだろう。
真希の天与呪縛が少し中途半端だったことを考えると、むしろ元に戻った時のための良い経験となるかもしれない。
これこそまさに、希望的観測なことであるが。



「それじゃあ、次はこっち…」
『ガシャアン』
「……ん?」
『!』

身体側名簿を確認した後、五条は次にその他の精神側名簿ファイルを開こうとした。
しかしそうする前に、その手を一旦止めることになった。
どこからともなく、ガラスが割れたかのような音が聞こえてきたからだ。
だがその音は、そこそこ小さく聞こえた。
その音は少し遠いところから来たようであった。

真司もその音には気付いた。
ただし、真司がその音を聞いたのはこれが始めてではなかった。
実は、五条が最初に精神側名簿を確認し始めた時に、真司は同じようなガラスが割れる音を聞いていた。
けれどもその時の五条は、夏油傑の名前を見たことにより動揺していた。
そのため五条は気付かなかったのだ。
そのことと、そもそも今の自分が話せないこともあり、最初の音のことは真司は五条に伝えることが出来なかった。
最初も本当に小さな音だったこともあり、気のせいだった可能性も考えられてしまい、真司も名簿確認の方を優先する動きをしてしまった。
しかしここで五条も反応したことにより、気のせいではなかったことが証明されてしまった。

「今のは…向こうに誰かいるのか?」

五条は小さな音が聞こえてきた方角を向く。
音がしてきたことからそっちの方には人がいることが考えられる。
そしてガラスが割れるという破壊の音が聞こえてきたことから、もしかしたら戦闘が行われている可能性も考えられた。

「……ごめん、中途半端な所だけど、先に向こうの方を確認しに行こう」

五条はミラーワールドの中の真司にそう話しかける。
人がいるのならそれは自分の知り合いである可能性もある、戦闘が行われているのなら自分の味方になり得る人物がピンチに陥っている可能性も考えられる。
そのため、名簿確認の途中だが音が聞こえてきた方に先に向かおうとのことだ。

『コクコク』

真司もその考えには賛成だった。
もし遅れてしまったことで後悔するようなことが起きたら大問題だ。
最初の音には気付いていたのに五条を無理矢理引っ張ってでもすぐ向かおうとしなかったから尚更だ。




「でもその前に、最後に1つだけ確認しておこう。今更になるけど、君の名前を教えてくれないかな?」

五条は移動を開始する前に、先にストップしていたその他の精神側名簿ファイルの確認を行おうとした。
デストワイルダーに宿った真司は今、この殺し合いにおいては意思持ち支給品と扱われている。
意思持ち支給品にされた者の精神はこのその他名簿に記される。
五条はこれまで、真司の名前を聞きそびれて知らないままに話をしていた。

そして今、2人は推定戦闘が行われている場所に向かおうとしている。
その場所へと、共闘相手の本当の名前を知らないまま行くのは少し問題有りと判断した。
少しでも信頼関係を築くため、五条は先に名前を聞いた。

「なるほど、城戸真司と言うのか…。遅れちゃったけど、これからよろしくね、真司」

その他に記された8つの名前の内、自分のものが指さされた時に真司は頷いた。
こうして、五条悟はようやくその名を知る。
その後、この中にも他に知っている名前が無いか聞かれたが、特に無かったためこの話はそこで終わった。
他に五条の知っている名前も特になかった。

「よし!それじゃあ向こうの方に行こうか」

話を切り上げ、五条は真司を連れて今度こそ音の聞こえてきた方へと移動を始めた。



「……なあに、きっと何とかなるさ。今はどこにいるか分からないけど…この舞台には傑だっているんだからね」

移動を開始した辺りで、五条は最後にそんな言葉を呟いた。
それは言葉だけだと楽観的なところはあったが、その顔にはどこか陰りもあった。


(……五条、あんたはその傑って奴と何があったんだ?)

夏油傑の名前を見て空の五条悟は、どこか様子がおかしいところがあった。
そのことに真司も気付いてきていた。
しかしそう思っても、それを五条悟に指摘することはできない。
鏡の中のモンスターは、人に寄り添うことはできない。

513「最強」なのだった ◆5IjCIYVjCc:2024/11/28(木) 23:51:25 ID:uV1YJAyw0

【一日目/G-6とG-7の境目付近/深夜】

【五条悟@呪術廻戦】
[身体]:エディータ・ロスマン@ブレイブウィッチーズ
[状態]:健康、疲労(小)、夏油傑が巻き込まれていることによる動揺・怒り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、タイガのカードデッキ@仮面ライダー龍騎、どこでもボール射出ベルト(花火機能付き)@名探偵コナン、ブーストマークⅢバックル@仮面ライダーギーツ
[思考・状況]基本方針:殺し合い?乗るわけないでしょ。
1:とりあえず音が聞こえてきた方に行ってみる。
2:傑を探す。出来ることなら、あの頃のように共に戦いたい。
3:真希のことも探す。今はどんな状態か分からないけど、先生としてしっかりと導いてあげないとね。
4:他の禪院家(直哉、扇)については…ちゃんと協力できるか少し怪しいところがあるな。
5:伏黒甚爾の肉体の参加者を一応警戒。協力できるような奴ならいいけど…最悪の場合、恵には悪いけどもう一度殺すことになるかも。
6:へぇ、この子(ロスマン)も先生なんだ。この子の教え子や仲間が居たら探すのもありかもね。
7:飛べないのは不便だしストライカーユニットっての、あったら探そうか。
8:あの怪物に入れられた城戸真司は、とりあえず話は通じるようだし危険人物っぽさは無いかな…?
9:浅倉威という人物は一応警戒。
10:主催側が使ったのは精神と肉体を入れ替える術式か、或いは未知の何かか…。
11:最悪の場合は僕の身体が奪われ使われてるかもとも考えとく。一先ず参加者の中にはいないようだ。
12:やはりあの時の奴(羂索)も関わっているのか…?
[備考]
※参戦時期は91話の「渋谷事変⑨」にて、完全に獄門疆に封印された後からです。


[意思持ち支給品状態表]
【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
[身体]:デストワイルダー@仮面ライダー龍騎
[状態]:健康、五条悟に対し少し心配な気持ち
[思考・状況]基本方針:五条に協力して、このこの殺し合いを止める。
1:こんな馬鹿げた殺し合い、止めなくちゃな。
2:浅倉や他に危険な奴が居たら、五条と一緒に戦って止める。
3:五条は傑って奴と昔何があったんだ?本当に会って大丈夫なのか?
4:蓮は巻き込まれてなくてよかった。
[備考]
※参戦時期は死亡後からです。


※二人が聞いたのはG-7の方でポプ子がガラスを割った音です。


【どこでもボール射出ベルト(花火機能付き)@名探偵コナン】
サッカーボールをどこでも射出できるベルト。
バックル部分に付いているスイッチを押すと、バックル中央からサッカーボールが膨らまされて出てくる。
ボールは膨らまし続ければアドバルーン大にまで膨らむ。
また、ここにあるものは劇場版で使われる花火機能付きのものである。
花火ボールは水中でも爆発させることができる。
花火にする場合、ダイヤル操作で爆発するまでの時間を調整することも可能。
なお、ボールを射出できるのはどの場合でも1回までとする。


【ブーストマークⅢバックル@仮面ライダーギーツ】
仮面ライダーの変身ベルト:デザイアドライバーにセットして使うレイズバックルというアイテムの一種。
『仮面ライダーギーツ』の第37話で浮世英寿が母であるミツメから継承した「創世の力」で生み出した特殊なレイズバックル。
本来の持ち主である浮世英寿/仮面ライダーギーツがそのまま使用した時はブーストフォームマークⅢとなり、創世の力により空間を創り変える能力を得た。
しかし、マークⅢのままでは創世の力を制御しきれなかった。
展開して二分割すると「ブーストマークⅨバックル」へと変化し、使用者に超常的な戦闘力やスピードを与えられるようになる。
仮面ライダーギーツがマークⅨで変身してギーツⅨとなった時は、創世の力を自在に操り、破壊と創造や事象の改変等といった神のごとき力を発揮した。
なお、「創世の力」を宿している状態の浮世英寿以外の者がこのレイズバックルを使っても力を発揮できるかどうかは不明。

本ロワにおいては、これを使用する場合の本ロワ独自の時間制限等は無いものとする。

514 ◆5IjCIYVjCc:2024/11/28(木) 23:51:47 ID:uV1YJAyw0
投下終了です。

515 ◆OmtW54r7Tc:2024/12/03(火) 23:04:16 ID:sXnH/I/c0
ゲリラで投下させていただきます

516永遠なんてないけれど、それでも ◆OmtW54r7Tc:2024/12/03(火) 23:05:48 ID:sXnH/I/c0
風間トオルとレミリア・スカーレットの二人は、風間の提案により身体を休めていた。
とはいえ、ただ休むだけというのも時間がもったいない。
名簿は確認したものの、ランダム支給品はまだちゃんと見ていないし、地図でどこを目指すのかも決めたい。
そういうわけで、まずは支給品を調べることになった。

「僕の支給品、一つ目は…」
「…メイド服ね。後藤ひとり…名簿にも名前があった人が着ていたものらしいわね」
「そして二つ目は…」
「…メイド服ね。名簿には名前がないけど、朝比奈みくるって人が着ていたものみたい」

メイド服&メイド服。
風間トオルの肉体もまたメイドである十六夜咲夜であるから、トオルは今、3着のメイド服を手に入れたことになる。

「いやなんでだよ!?なんでメイドの咲夜さんに別のメイド服を支給したんだよ!?」

思わずデイバックを床にたたきつけて突っ込む。
物騒で殺傷力の高そうな武器が欲しかったとは言わないけど、それにしたってあんまりだろう、これは。
着替えには困らないけど、今欲しいのはそういう気遣いじゃ絶対にない!

「ふうん、後藤ひとりの方のメイド服はともかく、朝比奈みくるのピンクのメイド服はうちの咲夜にはあんま似合わなそうね。フラン辺りが着たら似合いそうだけど。でもピンクの咲夜ってのも、それはそれでちょっと見てみたいかも」
「何変な分析してるんですか!?こんなのでどうやって戦えっていうんですか!?」
「何よ、余裕のない男はモテないわよ、トオル?まだ支給品はもう一つあるかもしれないのだし、落ち着きなさい」
「うう…」

レミリアに諭され、ともかくトオルは気を取り直して最後の支給品を探す。
出てきたものは…

「これは…木の棒?」
「良かったじゃない、メイド服じゃなくて」
「これ…なんでしょう?棒の先端にピンク色のナニカがついてる。見た目はソフトクリームっぽいけど…」

トオルはその木の棒を自分の顔に近づける。
その瞬間、プ〜ンといやあな臭いが漂ってきた。
そう、それは形こそ似ているが、ソフトクリームではない。
その正体は、ウ…

「うわああああああ!」

トオルは思わず棒を振り回してそのピンクの物体を振り落とした。
ピンクの物体は、べちゃりと地面に潰れた。

517永遠なんてないけれど、それでも ◆OmtW54r7Tc:2024/12/03(火) 23:06:33 ID:sXnH/I/c0
※ここから先、書かれている文字と実際に喋っている内容が違うことがあります。
 台詞の中の「ウ●チ」は「ほにゃらら」と読んでね。


「な、な、なんでこんなものが」
「トオル、その棒…復活してるわよ」
「え!?」

レミリアの指摘にトオルが木の棒を見ると、取り払ったはずのピンクのそれが再び先端にくっついていた。

「うわあああ!」

再びトオルはそれを振り払うが、やはりピンク色の物体は復活してくる。

「…トオル、私たち、ここでお別れしましょうか」
「なんなんだこれはああ!」

頭を抱えて叫びつつ、トオルは説明書の紙を読んだ。

「なになに…『プリンプリンのウ●チ(※)棒。プリンプリンがウ●チ(※)を投擲するのに使う木の棒。特別仕様としてウ●チ(※)を投擲するとすぐに次のウ●チ(※)が補填されます。いくら投げようが無限に補填されます。』……何の嫌がらせだよ!」
「ま、まあ、ある意味投擲武器として役に立つんじゃないかしら?」
「確かに嫌がる人は多そうですけど……ええっと、まだ続きがあります。『また、この棒を持って強く念じるとウ●チ(※)がトラップウ●チ(※)に変化し、粘着力が上がります。これを踏んだものは身動きが取れなくなります』」
「敵の動きを止めるなんて、結構使える武器じゃない!やったわねトオル!」
「そういいながら距離を取らないでくれます…?」

レミリアはいつの間にか、トオルから3メートルくらい離れた距離に立っていた。

「念じる、か…こ、こうかな?」

トオルは棒を持って念じてみた。

ムクムク

すると、先端のウ●チが一回り大きくなった!

「うわあ!」

驚いて再び棒を振り回す。
トラップウ●チは地面にベチャっと落ちた。

「これが粘着力の上がったナントカって奴ね…トオル、どれほどの効果があるか触って確かめてみたら?」
「触らないですよ!」

518永遠なんてないけれど、それでも ◆OmtW54r7Tc:2024/12/03(火) 23:07:32 ID:sXnH/I/c0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「うう、なんで僕がこんな…」

メイド服なんかよりはるかに酷い支給品に落ち込むトオルを尻目に、レミリアは自分の支給品を確かめることにした。
トオルみたく変なものでないといいのだが。

「これは…トマト?」

一つ目の支給品は、マキシムトマトというらしい。
説明を見てみれば、その効果はなんと食べると体力が全回復。
大当たりといっていいが、一つしかないし使いどころは慎重になった方がよさそうだ。

「次のこれは…巻物ね」

二つ目の支給品は、魔法の巻物。
巻物に書かれた呪文を唱えれば誰でも使える魔法の巻物(消耗品)である。
その効果は『味方の誰かを超人にする』…というものなのだが。
主催陣の嫌がらせか、あるいは実際に使うまで効果が分からないというスクロールの特性を重視したからか、説明書には魔法効果までは書かれていなかった。

「うーん…効果の分からない1回きりの魔法って、使いどころに困るじゃないの」

とりあえず、この巻物はどうしてもという時にだけ使うようにしようと決めるレミリアだった。

「ああ〜!こんなのは僕のキャラじゃないのに〜!こういう下品なのはしんのすけの役回りのはずだろ〜!」
「…まあ、彼よりはマシよね」

咲夜本人は到底しなさそうな狼狽えぶりを面白そうに眺めながら、レミリアは最後の支給品を取り出した。

「これは…バッジ、なのかしら?」

説明書には、「K・Bバッジ。カスカベ防衛隊の証のバッジ」ということしか書かれていない。
特に役に立たなそうでガッカリだが…はて、カスカベ?
どこかで聞いたような…

「それは…!」

ショックから立ち直ったらしいトオルが、レミリアの持つバッジを見て驚いた顔をしていた。
ああ、そうだ、思い出した。
カスカベ防衛隊、それは確かトオルの…

「レミリアさん…そのバッジ、譲ってもらえませんか?その、代わりになるようなもの、メイド服くらいしかないんですけど…」
「…いいわよ、交換なんてケチなこと言わないわ。これはあなたがつけてなさい、トオル」

そういってレミリアは、そのバッジをトオル…咲夜の胸元に取り付けた。

519永遠なんてないけれど、それでも ◆OmtW54r7Tc:2024/12/03(火) 23:08:34 ID:sXnH/I/c0
「う、うう…」

バッジをつけられたトオルは、そのバッジをしばらく見つめると。
その目には、涙が流れていた。

「ネネちゃん、ボーちゃん、マサオくん……しんのすけ」

そのバッジ、カスカベ防衛隊バッジは。
風間トオルにとっての友情の証だった。

『じゃーん!』
『何それ?』
『カスカベ防衛隊バッジのデザインさ』
『バッジぃ?』
『みんなの団結を深めるためにも こういうの必要だと思うんだよねぇ』

この直後、しんのすけが引っ越すと聞いて、ショックで思ってもないことを言ってしまって。
そう、彼らといた時間は、決して楽しいだけのものではなかった。
時には喧嘩して、ぶつかって。
それでも最後には仲直りして、また遊んで。

トオルは知っている。
あの輝かしい日々が、永遠に続くものではないと。
エリートの道を行く自分は、いつかは彼らと違う道を歩まなければならない。
だからこそ、彼らとの今を、大事にしたい。
同じ幼稚園にいる今のうちに、沢山の思い出を作りたい。
それなのに、こんなところで終わってしまうのか。
もうこれ以上、思い出を増やすことはできないというのか。
みんなと、一緒にいられないなんて、そんなの…

「嫌だ…嫌だ!みんな…みんな……!会いたい…会いたいよう…!」

風間トオルは、まだ5歳の子供だ。
どれだけの冒険を経験しようが、ピンチを乗り越えようが、まだ幼い少年なのだ。
そんな彼にとって、殺し合いという環境は、みんなに会えないかもしれないという恐怖は、とても辛いもので。
今までなんとか考えないようにしていたそれに思い至り、限界を迎えた。

「トオル…しっかりなさい」

その場にうずくまり泣き崩れるトオルを、レミリアは口ではたしなめつつも、宥めるように頭を撫でた。

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

トオルとレミリアは、休息を終え出発していた。
目的地は紅魔館。
ここから南西にある、レミリアの屋敷である。

「トオル、屋敷に着いたら、特訓するわよ」
「特訓…ですか?」
「ええ、私が知る咲夜の戦いを、あなたに叩きこんであげる。わたしが…そして、あなたが生きて、みんなと会えるようにね」
「!…はい!」

520永遠なんてないけれど、それでも ◆OmtW54r7Tc:2024/12/03(火) 23:11:19 ID:sXnH/I/c0
【G-2/森/黎明】
【風間トオル@クレヨンしんちゃん】
[身体]:十六夜咲夜@東方project
[状態]:健康
[装備]:プリンプリンのウ●チ棒@コロッケ!、K・Bバッジ@クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 〜サボテン大襲撃〜
[道具]:基本支給品、後藤ひとりのメイド服@ぼっち・ざ・ろっく、朝比奈みくるのメイド服@涼宮ハルヒの憂鬱シリーズ
[思考・状況]基本方針:殺し合いには乗らない
1:紅魔館に向かい、レミリアさんと特訓する
2:レミリアさんと行動する
3:何かあったらレミリアさんを守らなきゃだけど…僕にできるのかな…いや、やらなきゃ
4:身体しか載ってない人って精神の方はどうなってるんだろう…
[備考]
※殺し合いについて理解しました
※映画での出来事を経験しています

【レミリア・スカーレット@東方project】
[身体]:風間トオル@クレヨンしんちゃん
[状態]:健康、主催に対する怒り(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、マキシムトマト@星のカービィシリーズ、スクロール@魔法陣グルグル
[思考・状況]基本方針:主催をぶっ飛ばす
1:紅魔館に向かう。咲夜たちとの合流を期待しつつ、トオルを鍛える。
2:トオルと行動
3:子供の身体なんて…私も舐められたものね
4:トオル…想像していた以上に凄い経験してるわね…
5:いざとなったらトオルに守ってもらうつもり、その為に彼を鍛えるわ
6:咲夜はどう行動するのかしら…
7:フランの身体を扱っている参加者とは極力会いたくない
8:身体しか載ってない者の精神は捕らえられている…?それとも魂だけがさまよっている…?

※G-2のどこかに、トラップウ●チが設置されました。
 踏むと引きはがすことはほぼ不可能です。



【支給品紹介】

【後藤ひとりのメイド服@ぼっち・ざ・ろっく】
後藤ひとりが文化祭で来ていたメイド服。
「オムライス美味しくなれ…へっ」

【朝比奈みくるのメイド服@涼宮ハルヒの憂鬱シリーズ】
朝比奈みくるのメイド服。
ピンクミニの方。

【プリンプリンのウ●チ棒@コロッケ!】
バンカー、プリンプリンの武器である、先端にウ●チがついた木の棒。
特別仕様として、木の棒からウ●チが離れるとすぐに別のウ●チが補充され、念じると粘着力の高いトラップウ●チに変じる。
トラップウ●チを踏んだものは、基本的に引きはがすことは不可能。(靴を脱いだり地面ごとくりぬいたりという抜け道はある)
ちなみに実際のプリンプリンがどうやって大量のウ●チをストックしているのかは不明。

【マキシムトマト@星のカービィシリーズ】
シリーズお馴染みの回復アイテム。
体力を全回復させることができる。

【スクロール@魔法陣グルグル】
6巻でトマが使っていた魔法の巻物。
巻物を開きそこに書いてある「魔の山より大男が生まれた!その男は無敵のつよさ。そのこぶしは岩をもくだく!」という呪文を唱えることで味方をランダムで超人にする呪文を発動させることができる。使えるのは1回きり。
ちなみに説明書には魔法の効果の説明は書かれていない。

【K・Bバッジ@クレヨンしんちゃん オラの引越し物語 〜サボテン大襲撃〜】
風間トオルの提案によりつくられた、カスカベ防衛隊の友情の証であるバッジ。
手作りのただのバッジであるが、映画の敵であるキラーサボテンを倒す切り札として使われ、しんのすけを救った。
2024年公開の『オラたちの恐竜日記』では恐竜のナナにバッジ代わりの首輪を作っており、各映画間でのつながりが基本薄いクレしん映画では珍しく、バッジの存在について言及されている。

521 ◆OmtW54r7Tc:2024/12/03(火) 23:13:12 ID:sXnH/I/c0
投下終了です
そして投下直後ですが、>>519のラストの方にある「ここから南西にある」は、南西でなく北西の間違いでした

522<削除>:<削除>
<削除>

523 ◆NIKUcB1AGw:2025/01/15(水) 21:22:55 ID:jSTVNeBo0
禪院直哉、橋本陽馬予約します

524 ◆NIKUcB1AGw:2025/01/16(木) 21:29:05 ID:q2BOi6TA0
投下します

525君は完璧で究極のフィジカル ◆NIKUcB1AGw:2025/01/16(木) 21:30:43 ID:q2BOi6TA0
RUN RUN RUN

橋本陽馬は、走る。おのれの目的のために。

RUN RUN RUN

走る。走る。この殺し合いを終わらせ、1秒でも早くおのれの肉体を取り戻すために。

(この体……。鈍重そうな外見の割には、それなりに速く走れるが……。
 この程度で妥協できるか!)

走っている間もなお、意にそぐわぬ体を与えられたことによるストレスは陽馬の中で高まっていく。
その苛立ちが限界に達しようかというその時、彼が背負ったデイパックの中からけたたましいブザーの音が響いた。

「なんだ……!?」

想定外の出来事によって我に返った陽馬は、急いでデイパックを降ろして中身を確認する。
そしてブザーの発生源である、タブレットを取り出した。
そこに映るのは、悪鬼が宿る少女の姿。
放送が、始まった。


◆ ◆ ◆


放送で告げられた死者の中に、陽馬の興味を引く存在はいなかった。
強いて言うなら、とうてい人とは思えぬ異形が混ざっていた程度である。
だがすでに、他人と体が入れ替わるという異常事態が発生しているのが現状だ。
化物の1匹や2匹混ざっていてもおかしくないだろうと、陽馬はさほど気にしていなかった。
それよりも重要なのは、肉体を交換できる施設が存在するという情報だ。
むろん陽馬は、最終的には自分の肉体を取り戻したいと思っている。
だがこのまま醜い体でストレスを溜め続けるよりは、一時的に他の体に移る方がよほどいい。
元の体には及ばなくても、今のものよりはまともな体ならいくらでもあるだろう。
ならば、やることは決まった。
手頃な肉体を持つ参加者を生け捕りにし、施設を利用して体を入れ替えるのだ。
その後はこの醜い肉体を殺し、これまでの憂さを晴らすこともできる。

「そうと決まればさっそく……いや、その前に名簿を確認するべきか」

はやる心を抑え、陽馬はダウンロードされたばかりの名簿を開く。
今の彼に、自分の肉体より大切な人間など存在しない。
誰が参加させられていようと、殺すだけだ。
だが、自分はこの名簿を確認しなければならない。
陽馬には、そんな確信めいた予感があった。
そして、それは正しかった。

「くっ……くくっ……」

陽馬の口から、くぐもった笑い声が漏れる。

「あなたも来てたんですね、露伴先生……」

「岸辺露伴」。陽馬がここに来る直前、おのれの誇りをかけて勝負をしていた人間。
彼の名前も、名簿に記されていた。

「ちょうどいい……。もう一度勝負しましょう。
 それまでは死なないでくださいよ、露伴先生」

そう呟きながら、陽馬は口角をつり上げる。

「さて、それじゃあ……うん?」

タブレットをデイパックに戻そうとした陽馬だったが、
そのタイミングでタブレット内に「肉体のプロフィール」というデータがあることに気づく。

「……まあ、見なくてもいいか。こんなやつの情報など、見ても不快なだけだ」

忌々しげに呟き、陽馬は改めてタブレットをしまう。
その際、指先が何か冷たい金属に触れた。

「ん? これは……」

その感触が気になり、陽馬はそれを取り出す。
出てきたのは、特に代わり映えのない金槌だった。

「ああ、個別の支給品というやつか。
 武器というには、少々冴えないが……。
 まあこんなものでも、人を殺すには充分だしな。
 このくらいの大きさなら、走る邪魔にもならないし」

デイパックを背中に戻し、金槌を手にして陽馬は再び走り出す。
行き先は、特に決めていない。
出会った人間を殺す。ただそれだけだ。

526君は完璧で究極のフィジカル ◆NIKUcB1AGw:2025/01/16(木) 21:31:40 ID:q2BOi6TA0


◆ ◆ ◆


陽馬が走る道路の近く。
一人の男がベンチに座って、タブレットを確認していた。
禪院直哉である。

「思ったより、知った名前がおるねえ」

名簿を眺めながら、直哉が呟く。
そこには禪院家の関係者を中心に、直哉の知る名前が数多く記されていた。
その中の一人である禪院甚壱は、すでに先の放送で死亡が知らされている。
放送を信じるなら、直哉が先ほど殺した醜男の中身が彼だったらしい。
図らずも身内を手にかけてしまったことになるが、それについて直哉が何か思うことはない。
血が繋がっているといっても、所詮は当主の座を巡って足を引っ張り合う関係。
知らずに殺したところで、「ああ、そう」で終わりだ。
まだ生きている扇についても、同じようなものだ。
他に夏油傑の名前にも聞き覚えがあったが、こちらもどうでもいい。
直哉にとって有象無象と区別すべきは、二人だけ。
一人は、五条悟。

「僕を止めたければ、現代最強でも連れてこいとは思っとったが……。
 ほんまにおるんやな。
 まあ、今は最強とちゃうやろうけどな」

五条悟こそが、今の世で最強。それは疑いようのない事実だ。
だが今の彼は、別人の肉体に精神を移し替えられているはず。
元が最強なのだから、どんな肉体になっていても弱体化は免れない。
例外として、別の時代の最強―それこそ、宿禰のような―の肉体を与えられてでもいれば話は別だが……。
さすがにそこまでの化物が生み出されている可能性は低いだろう。
そして、もう一人。

「ほんまに君とは縁があるなあ……真希ちゃん」

今の直哉が執着というものを抱く、ただ一人の存在。
禪院家の最底辺だったはずなのに甚爾の域に到達し、自分を二度にわたって打ちのめした女。
禪院真希。その名も、名簿には記されていた。

「他の奴らは、どこでどう死のうがかまわへんけど……。
 君だけは、絶対に僕の手で殺したるわ」

怨嗟に満ちたどす黒い声が、直哉の口から漏れる。
まだ自分は、ここまで人を呪うことができるのか。
直哉自身が、そう驚くほどに。


◆ ◆ ◆


そして、数十分後。
大通りの路上で、二人は遭遇することになる。
まずは無言でにらみ合う二人。
やがて、直哉が先んじて口を開く。

「呪霊やないようやけど……えらいけったいな見た目やなあ。
 ダイエットせえや、デブ」

直哉にとって、それはほんのジャブ程度の挑発のつもりだった。
しかしその言葉は、陽馬の逆鱗を的確に撃ち抜いていた。

「オレが……好き好んでこんなクソみたいな体を選んだと思っているのかぁぁぁぁぁ!!」

絶叫と共に、陽馬は金槌を振り上げて直哉に襲いかかる。
その勢いは、一般人であれば対応が困難なレベルであった。
だが今の直哉にとっては、なんてことのない攻撃に過ぎない。

「その脂肪、そぎ落としたるわ」

飛び込んでくる陽馬の腹に、直哉はカウンターで回し蹴りを叩き込む。
陽馬の体は大きく吹き飛び、近くの建物の壁に激突。
壁は砕け散り、陽馬はその向こう側へと落下した。

(ん?)

その瞬間、直哉は違和感を覚える。

(なんか、あいつの体が微妙に縮んだような……。
 それに殺す気の一撃で、血の一滴も飛んでへんのはおかしくないか?)

顔をしかめる直哉の見つめる先で、陽馬がのっそりと立ち上がる。
その姿には、まったくダメージが感じられない。
衣服も汚れや小さな傷こそあれ、血は付着していないようだ。

527君は完璧で究極のフィジカル ◆NIKUcB1AGw:2025/01/16(木) 21:32:38 ID:q2BOi6TA0
「なんや、おまえ……」

眉間にしわを寄せ、直哉は呟く。

「おかしいやろ。甚爾君の体で蹴り飛ばして、なんでピンピンしとんねん。
 脂肪の防御力っちゅうんは、そんなに高いんか?」
「どうやら、そのようだな」
「あぁ?」

皮肉のつもりで言った言葉を肯定され、直哉の表情はますます険しくなった。

「どうやらこの体、ただの醜い肥満体ではないらしい……。
 オレ自身、まだ理解していないが……。何か特別な力が宿っているようだ」
「特別な力ぁ? 何を寝ぼけたことを……」

不機嫌な声色のまま、直哉は言い捨てる。
陽馬は呪術師でもなければ、むろん呪霊でもない。
その程度のことは、直哉にもすぐわかる。
ただの人間が、「特別な力」など持っているはずがない。
それが直哉にとっての常識だ。
しかし、陽馬の肉体であるファットガムはその常識の外から来た存在。
大多数の人間が、「個性」と呼ばれる異能を宿す世界の住人だ。
ファットガムの個性は、「脂肪吸着」。
その脂肪で、あらゆるものを押しとどめる。
それが、形のない衝撃であっても。
直哉の蹴りを食らった時、陽馬は無意識のうちにその衝撃を吸収していた。
そして壁にぶつかったタイミングで、やはり無意識に衝撃を放出。
結果として直哉の放った蹴りの威力は、壁を壊すことに消費されたのだ。
とはいえ、全ての衝撃を吸収できたわけではない。
それができれば、吹き飛ぶこともなかったのだから。
実際には、陽馬は多少のダメージを受けている。
しかしそれは、見ただけはわからない程度のものである。

「だが……だからといって、オレがこの体を気に入らないのは変わらない」

直哉の反応を無視し、陽馬は一方的にしゃべる。

「その点、君の体は素晴らしいな。
 そこまで鍛え上げられた肉体を、オレはオレ自身以外に知らない。
 オレが入れ替わる肉体は、それにしよう」
「何を勝手なこと言うとるんや、君ぃ」

とうとう不機嫌を通り越し、直哉の顔に明確な怒りが浮かぶ。
主催者が甚爾の肉体を自分に与えたことは、耐えがたい屈辱だ。
だがだからといって、どこの誰かもわからないゴミ屑に甚爾の肉体をくれてやるなど許容できる話ではない。

「もうアカンわ。我慢の限界や。
 元から殺すつもりやったけど、もう絶対に殺すわ」
「奇遇だな。オレも君を殺したくて仕方ない。
 とはいえ、オレが入れ替わりたい肉体を殺すわけにはいかないからな……。
 まずは気絶させて、生け捕りにしよう」

二人は、改めて戦闘態勢を取る。
究極の肉体に心を焼かれた者同士の戦いは、ここからが本番だ。


【G-5 街/深夜】

【橋本陽馬@岸辺露伴は動かない】
[身体]:ファットガム@僕のヒーローアカデミア
[状態]:脂肪消費5%
[装備]:釘崎野薔薇の金槌@呪術廻戦
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:優勝し、元の肉体を取り戻す
1:直哉を倒し、生け捕りにする。
2:肉体を交換できる施設を見つけ、直哉と肉体を入れ替える。
3:露伴を見つけ、再戦を挑む。
[備考]
※参戦時期はトレーニングジムから転落した直後
※肉体のプロフィールをチェックしていません。ただし無意識に発動したことで、個性についてはおぼろげながら理解しています。


【禪院直哉@呪術廻戦】
[身体]:伏黒甚爾@呪術廻戦
[状態]:健康、主催への怒り(極大)
[装備]:絶刀・『鉋』@刀語
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:全て潰す
1:甚爾君を穢したクソアマ共を皆殺しにする。
2:俺を見下し切ったアバズレ共は絶対に呪い殺す。
3:1、2の為に参加者も全員殺す。甚爾君の身体で負けるなんてあったらいかんのや
4:目の前のデブを確実に殺す。
[備考]
※参戦時期は呪霊として祓われた後


○支給品解説
【釘崎野薔薇の金槌@呪術廻戦】
釘崎野薔薇が、おのれの術式に使用する金槌。
彼女以外の人間が使っても市販品とまったく変わらない代物でしかないが、充分に人を殺せる凶器にはなる。

528 ◆NIKUcB1AGw:2025/01/16(木) 21:33:48 ID:q2BOi6TA0
投下終了です
何か問題がありましたら、指摘おねがいします

529 ◆5IjCIYVjCc:2025/02/17(月) 23:01:35 ID:8PU/oNwA0
五条悟、城戸真司、朝倉涼子、あちゃくらさん、ポプ子で予約します。

530 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/01(土) 23:15:15 ID:Bhhzj.yk0
予約を延長します。

531 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:09:31 ID:vSgFBXXc0
遅れてしまい申し訳ありません。
投下を始めます。

532 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:10:53 ID:vSgFBXXc0
「ウオオオオォォォーーッ!!!」

ポプ子は今、街中を走っている。
ロナルド吸血鬼退治事務所を飛び出した彼女の次の目的地は、ここから南東方向にあるH-8エリア、そこにある錦御殿だ。
精神入れ替えが可能らしい物がある場所の把握のため、彼女は施設を片っ端から探すことに決めていた。
そして前にロナルド吸血鬼以下略の中でとりあえず現在地を確認した後、本当に全ての施設を順番に巡ることができるようにするために、南東の端の錦御殿の方に向かおうとしていた。
けれども彼女はまだ、G-7エリアのやや西寄りの方にいた。
元々いたロナルド以下略がそもそもこのエリアのやや西寄りにあったからだ。

そしてそこからまだ脱出できていない段階で、非常事態が起きることになる。
まだ、南東の方へ行くための方向転換をしたばかりの時であった。


「それじゃあ早速、やってちょうだい」
『SHAAAA!』
「何だっ!?」

ポプ子めがけて何かが飛んできた。
その何かを、ポプ子は咄嗟に横に跳んで避けた。
飛んできたものは、黄味がかかった吐瀉物のような見た目の液体の塊だった。
液体は先ほどまでポプ子のいた場所に着弾すると、そこのコンクリートの地面を瞬く間に溶かしていった。
飛んできたものは溶解液だったのだ。

「あら……まあ、とりあえずはこんなものでしょうか」
「てめえは…!」

溶解液の飛んできた方へ顔を向けると、紫を基調としたカラーリングの仮面の騎士が、その場に立っていた。
その隣には、これまた紫の体色をした巨大なコブラが佇んでいた。
仮面ライダー王蛇とその契約ミラーモンスターのベノスネーカーがそこにいた。
溶解液を吐いたのはミラーモンスターの方だ。
彼らの中身は、本来の王蛇である浅倉威の身体となった朝倉涼子と、その並行同位体のあちゃくらさんだ。



「いきなり何すっだてめえぇーーーッ!!!」
「殺し合いにいきなりも何もないでしょう」

ポプ子がロ以下略内の窓ガラスを割った音を聞き付けて、朝倉涼子はこの場に現れた。
標的となる者を見つけたのなら、後は元の世界に速やかに帰還するという自分の目的のために排除するだけだ。
ポプ子を発見した彼女は早速、あちゃくらさんの方に指示を出して攻撃させた。
結果は避けられこちら側にも気付かれたが、ならば次は相手を倒せるまで戦うだけだ。

『SWORD VENT』

朝倉はデッキから取り出したソードベントのカードを杖型召喚機のベノバイザーに装填する。
そうして召喚したベノスネーカーの尻尾を模した武器であるベノサーベルを手に取り構える。

「初対面なところ申し訳ありませんが、私には急いで行かなければいけないところがあるので、この殺し合いを早く終わらせるために死んでください」
「急いでんのはこっちだって同じじゃボケェーッ!!てめえが先に消えろやあーっ!!」

朝倉の言葉に対しポプ子も中指を立てながら叫ぶ。
ムカついたポプ子は移動を一旦止めて、応戦することを決めた。
そして腕を振り回しながら、ベノサーベルを構える朝倉に向かって走って突っ込んでいく。

「おりゃあ!」

ポプ子はパンチを繰り出そうとする。
しかしそれは明らかに、相手に届かない距離からでのものであった。
けれども、それで問題は無かった。

『ビュンッ』
「!」

今のポプ子のレグとしての身体での腕は、前腕から先がロボットらしく機械の外観をしている。
その前腕の更に前半分の部分が、ポプ子が腕を振り回すと同時に割れる。
割れたとは言っても、離れた部分とはワイヤーロープで繋がっていた。

そして割れた先の拳部分が、朝倉の方に目掛けて飛んでいった。
飛んで離れていくにつれて、ワイヤーも体から出て伸びていく。

こうしてポプ子の拳は、ワイヤーを伸ばしながら離れたところからでも朝倉に向かって飛んでいくことができていた。
朝倉はそれに対し、咄嗟にベノサーベルを自分の顔の前辺りを守るよう斜めに立てる形に構え直す。

『ガシィ』

ポプ子は伸ばした手を開き、ベノサーベルの刃部分を掴んだ。
これを掴んでも、その機械の手の平が傷付くことはない。

「でえい!」
『ブン!』
「わっ…」

ポプ子は腕を上に勢いよく上げる。
繋がるワイヤーと離れた手の方もそれに伴って空中へと引き上げられる。
ポプ子の手が掴むベノサーベルを朝倉もまだしっかりと持ち手を握っていたために、彼女も一緒に空中へと放られる形になる。

(お願いしますよ)
『SHAAA!(あっはい!)』

533 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:14:10 ID:vSgFBXXc0
空中に放り出された朝倉は、視線を一瞬ベノスネーカー(あちゃくら)の方に向ける。
その視線から相手が伝えんとしている意図を察知したあちゃくらが行動に出る。
あちゃくらは、もう一度ポプ子に向かって溶解液を吐いた。

「クソッ!」

ポプ子はその溶解液も横に飛んで避ける。

『パッ』

ポプ子がその行動をとった隙に、朝倉はベノサーベルを一度手から離す。
地面に降り立ち、もう片方の手に持っていたベノバイザーを構える。

「私を奴に向けて弾き飛ばしてなさい」
『SHA?(えっ?)』
「いいからやりなさい」
『SHA,SHAA!(は、はい!)』

朝倉はあちゃくらに自分をポプ子に向かって飛ばすよう指示する。

『バシィ』『ビュンッ』『ドゴォ』
「ぐへぇ!?」

あちゃくらは尻尾で朝倉を弾き飛ばす。
朝倉はベノバイザーの下部先端を前に向けながら吹っ飛んでいった。
ポプ子はそれを止められず、ベノバイザーの先端による突きを胸元に喰らう。
その衝撃でポプ子も吹っ飛ばされ、伸びた手の先に掴んでいたベノサーベルの刃も離してしまう。

「ふーん……皮膚は人間とそこまで変わらないようですが…?」

朝倉は先の攻撃の感触からそんな風に感じる。
腕がロープに繋がる形で分離して伸びるところから、相手の身体が普通の人間のものではないことは流石に理解している。
今の自分の身体は一応は普通の人間のもので、戦闘能力は支給品の変身アイテムに依存してしまっている状態だ。
相手の能力はまだほんの僅かなものしか見ていないが、その点からまだ自分の方が一歩劣っているかもしれないと感じる。
けれども相手が衝撃によって苦悶の声を上げるのならば、隙に付け入れられる可能性も見えてくる。
ただ皮膚の感触は人間と変わらなかったが、突いたところは傷が付いたようには見えない。
感触は同じでも、人間よりも頑丈そうでもあった。
そんなことも考えながら、朝倉は後ろに下がって地面に落ちたベノサーベルを拾い上げる。

「で、あなたの方は私にしては反応が鈍いですね。もっとしっかりしてください」
『S,SHAaa…(は、はあ…)』

ついでに朝倉はあちゃくらに文句を言う。
並行世界(スピンオフ)とはいえかつては同じ朝倉涼子という存在だった。
しかしここに来る前まで、ぶっちゃけあちゃくらは本来の自分の使命を忘れかけているくらいにはボケかけているところがある。
これまでは長門有希の家事の手伝いばかりだったため、それも無理はないかもしれない。
おかげで戦闘のための心構えもできていないままここにいる。


「ちっ、やるじゃねえか…」

ベノバイザーで突かれて倒れていたポプ子が起き上がる。
伸ばされたワイヤーロープも仕舞われて腕も最初の状態に戻っている。
ほんの少しの攻防だが、相手は手練れであることが感じられる。
自分もまた、より気を引き締めて戦わなければないことを思わされる。

「そんじゃあ、もういっちょ行きますか!」

ポプ子はもう一度攻撃を試みようとする。
左腕の中からワイヤーを少し引き出し、その先の手は拳を握りしめる。
そして右手でワイヤーロープ部分の途中を掴み、そこを中心に繋がった腕をブンブンと回転させ始める。

「うおおおおおお!!」

ポプ子は腕の回転速度を上げながらもう一度駆け出す。

「おりゃあ!!」

そうして速度を付けたワイヤー先の握り拳を、朝倉に向けて投げ出した。
対する朝倉はベノサーベルでそれを弾き返すことを考えながら構える。

そして、その拳が朝倉の方に届きそうになった時だった。

『ADVENT』

そんな音声と共に、近くに落ちていたガラスから1体の大きな影が飛び出した。
そのガラスは、近くにあるロナルド吸血鬼退治事務所の窓ガラスが割れたものだ。
ポプ子が中から割って吹っ飛ばしたものだ。

『バシッ』『ガキンッ』
「何ッ!?」
「あら…」

影はポプ子と朝倉の間に入り、2人の攻撃を受け止める。
それは白い体に青い縞模様の虎のような姿をした二足歩行の怪物だ。
現れたそいつの正体は、ミラーモンスターのデストワイルダー。
さらに言えばそこに宿された精神、城戸真司だ。

「はいはーい!そこ2人、一旦ストップしてねー」

女の声でそんな言葉が投げかけられる。
声の聞こえて来た方向に顔を向けてみれば、そこには全身を白銀の鎧のようなもので包んだ者がいた。
それは朝倉が変身している仮面ライダー王蛇と同じく、ミラーワールドで活動するための仮面ライダーの1人であるタイガだ。
そして今は姿を隠しているその中身は、エディータ・ロスマンの身体となっている五条悟だ。
彼は、予め支給品のデッキを使って変身した状態でこの場に現れた。

534 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:19:37 ID:vSgFBXXc0


五条悟と城戸真司も、朝倉達と同じくガラスの破壊音を聞きつけてここに来た。
彼らがたどり着いた時にはもう、戦いは始まっていた。
ポプ子と朝倉達はそれぞれ相手方に集中していて五条達が来たことには気づいていなかった。
そのためその隙に、五条はタイガのデッキを使って変身しておいた。
そしてポプ子と朝倉2人を止めるためにそれぞれが攻撃を行おうとするタイミングに合わせてデストワイルダー(真司)をアドベントのカードで召喚した。
良い位置にガラスの破片も落ちていたため、そこに映る鏡像からこちら側に呼び出して2人の間に割り込ませることができた。

(しかしまさか、王蛇のデッキまであったなんて……声からして、体も浅倉のものか?)

自分が片腕で止めているベノサーベルの持ち主を見ながら真司は考える。
浅倉威の身体がこの舞台に存在することは五条から見せてもらった身体側名簿から把握していたが、まさかこんな早くそれと対面することになるとは思っていなかった。
しかもピンポイントに王蛇に変身できるようになっていることも驚きだった。
付属品に自分(デストワイルダー)が付いてきているタイガのデッキの支給先は本来の持ち主である東條悟のものでなかったためにも余計にそんな風に感じていた。
※そもそも、参加者の精神・身体側にも東條悟がいない。
本来の使い手である浅倉の身体ならば、それにしっかりとフィットして力を発揮できるだろうという考えからそこに支給したのだろうか。

(それにあのミラーモンスター、あいつも俺と同じで誰かが中にいるってことだよな……)

王蛇のデッキがあるならば、それに付属してミラーモンスターのベノスネーカーも一緒にいることも必然なことだった。
そしてその中身もまた、自分と同じく人間の誰かの精神が宿らされていることも真司には察せられた。

「さてと、一応言うだけ言ってみようか…。僕は五条悟、君たちはこの名前に聞き覚えは?」
「あ゛ぁ゛っ!?てめえなんざ知るかあ!」
「私もあなたのことは知りませんね」

真司を間に挟んだまま五条の質問にポプ子と朝倉は答える。
ポプ子の方は伸ばした腕を元に戻し、離れた所にいたままに答えていた。
朝倉はともかく、ここにいるポプ子は五条の知識は無いようだった。

「よし、分かった。それじゃあ次に、君たちはこの殺し合いには乗っているのかな?」
「一々聞くんじゃねえよ面倒くせえ!急いでんだよ死ねや!!」
「…………そうですね、私にも急がなければならない用事があるので、どんな形でもこの殺し合いはさっさと終わらせたいです」

五条からの質問にポプ子は殺意で返す。
朝倉も自分の方から仕掛けた手前あまり誤魔化さず、少し遠回しに優勝してでも元の所に帰りたいことを伝える。

『GUO,GAA!(お、おいあんた!)』
『S,SHA!?(は、はい!?)』

真司の方も近くにいるベノスネーカー(あちゃくら)に対話を試みる。
ミラーモンスター同士ならば言葉が通じる、という事実を生前に確認したことがあるわけではない。
けれどもミラーモンスターになっている者同士、少しでも可能性があるのならば相手が何を考えているかを確かめない訳にもいかない。
もしかしたら無理矢理従わされているだけで、本当は人を殺すための道具として利用されることを嫌だと思っているかもしれない、とも真司は考えていた。
そして今声をかけてみた感じ、どうやらこの場においてはミラーモンスター同士ならば言葉は通じるようだった。

『GUU,GUO!GUAO!(あんた、本当はそいつに従うのは嫌だと思ってねえか?それなら、何とか逆らってみないか!?)』

真司としては、ミラーモンスターが契約主を攻撃したことのある事例を知っている。
それこそ件の浅倉威が契約していた3体のミラーモンスターがそうであった。
彼らは浅倉が餌となる野良のミラーモンスターを倒して自分達に与えてくれないために、そんなことになってしまった。
そんな時に対し浅倉は、餌に出来そうな野良ミラーモンスターを倒すために、中学生の少女を囮にした。
ちなみにその時の浅倉はあくまで囮にしただけで助けるつもりは全く無かったが、結果的にはその少女を守る形となり、彼女の心の拠り所になっていた。
これについては少女が両親を上記の野良ミラーモンスターに殺されたばかりだったからということもあったが。
最終的には浅倉を見捨てないことを決めた真司が配慮したこともあり、浅倉は少女を狙っていたミラーモンスターを餌として与えることができた。

535 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:21:16 ID:vSgFBXXc0
話は逸れたがようするに、基本的には命を食うという本能を満たすためにミラーモンスターは契約者に従うが、それが無くなれば攻撃してくる。
ここにはミラーモンスターはライダーのカードデッキと契約状態にあるもの以外の野良は存在しないため、食事が出来る機会は滅多にない、契約継続のための条件を満たしにくいだろう。
そもそも中に人がいる状態だったミラーモンスターを食べたいとも思わないだろう(これについては真司の希望的観測を含む)。
そして本来のミラーモンスターよりも人間らしい思考ができている自分達ならば、より逆らいやすいのではないかという可能性を真司は考えていた。

『Shiii……Aaaa……(いやー……そのぉ……)』

真司に対しあちゃくらは歯切れの悪い状態になる。

『S、SHAAa.(いや、そのですね?私としては別にこの人を見捨てても構わないのですが……何か、いきなり自分を裏切るようなことをしたら私の死亡フラグも立つような気もしてきまして…ね?)』
『GAU?(はぁ?)』

あちゃくらは煮え切らない感じのまま真司にそんなことを伝える。
こんなことを言うのは、ただデッキの契約の力で従わされているからだけではない。
殺し合いが始まって早々に裏切るような真似をするのは読者等に対し悪印象を与えるかもしれない。
そうしたら、早死にするかもしれないみたいな考えも浮かんできていた。
だから今この瞬間はまだ、朝倉のことを完全に表立って裏切るのはまだ早いと思ってきていた。

あちゃくらのそんな思惑までは真司にはあまりよく飲み込めなかった。
特に、『自分』を裏切るという発言の意図が特にクエスチョンマークが浮かんだ。
まあ、まさかライダーと契約ミラーモンスターで、それぞれの中身が並行世界の同一人物同士だなんてことは流石に真司の想像の範囲を超えていたことであったが。
そのおかげで、真司からしてみれば相手の発言は要領を得ないものとしか捉えられない。



「まあ、君達がとにかく急いでいることは分かったけど……だからってどうしても殺し合わなくちゃいけないのかい?」
「ふうん…?」
「はあぁあぁあ〜〜っん!?」

五条はポプ子と朝倉に対し問いかけた。
その言葉に、朝倉は少しだけ耳を傾けるような仕草を見せるが、ポプ子の方はそのような態度にならなかった。

「帰ることが目的なら、無闇に戦って敵を増やすよりも、まずは一緒にこの舞台から脱出する方法を探してみる方が生き残るためにも良いとは思わないかい?」

五条は今ここで行われていた戦いを停戦することを呼び掛けた。
帰ることだけが目的ならば、殺し合い以外にも道はあるかもしれないと言っていた。

「ナメんじゃねえぞ!」

しかしポプ子はその言葉に反発する。

「こちとら今滅茶苦茶ムカついてんじゃ!そこの奴はぶっ殺さなきゃ気が済まねえ!」

ポプ子は声を荒げながら叫ぶ。
自分に対し攻撃を仕掛けてきた朝倉に対する苛つきと殺意は抑えられない。
ここで停戦するなんて彼女の中ではあり得ないことだった。
五条の言葉に対し聞く耳は初めから持っていなかった。

「そうですね……確かに、あなたの言うことにも一理あるかもしれません」

対する朝倉の方は、何と引き下がるような動きを見せた。
ベノサーベルを下ろし、数歩下がって真司から離れる。

「帰るだけなら確かに、あの月と殺し合いの舞台周りに張られているというバリアを何とかできれば良いですよね。ごめんさないね、こんなことをしていて」

朝倉は何と、五条の言葉の方に賛同するようなことを言い始めた。

「身体の方は元に戻さなくても良いのかい?」
「それはまあ……どうせ私の本来のものはありませんし、別にここから帰れた後で解決策を探しますよ」

そしてあくまで、脱出の方が優先事項だということも伝える。

『G,GI,GUAU!(な、何だよ、あんたの相棒、話せば分かる奴じゃんか!)』
『…SHIii……Aaa……?(…いやー……そのー………どうなんでしょう……?)』
『GAU?(え?)』

意外にも朝倉が歩み寄ってくれたと思い、少々楽観的な反応をしてしまう。
しかしそれに対しあちゃくらの方は、先ほどよりも更に歯切れの悪い感じになる。

「あーハイハイそーですかそーですか分かりましたよ!!」

朝倉の言葉に対し五条が何か返事をする前に、ポプ子がうんざりしたような様子を見せながら声を出す。

「お前らが共闘しようが裏切り合おうがどうでもいい!どうせここにナナチはいねえんだ!どのみち視界に映るお前ら全員ぶっ殺せば良いってだけのことよおッ!!」

そう叫んでポプ子は、攻撃のための活動を再開した。

536 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:22:30 ID:vSgFBXXc0


「オラァ!」

ポプ子は元からいた遠距離の方から、再び拳をワイヤーで伸ばして飛ばしてくる。

『グイッ』
『GUO!?(うおっ!?)』
『ガキィン!』

それに対し朝倉が真司を引っ張って後ろにやり、ポプ子の拳をベノサーベルで弾く。

「私を信用できるかどうかは別として、一先ずはアレを何とかしてから話をしましょう」

ポプ子の方に向けて剣を構えながら朝倉は五条に話しかける。
先ほどポプ子がさりげなく裏切りの可能性を指摘していたためか、前もって信頼性の問題にも触れていた。

「……まあそうだね。アイツ相当興奮しているみたいだし」

五条は少し考え込む様子を見せるが、すぐにポプ子の方に向き直る。
先ほど真司を呼び出すために使ったタイガ用の召喚機でもあるタイガとしての武器、デストバイザーという斧を構える。

『バッ』

ポプ子は伸ばした腕をまた一旦元に戻す。
その直ぐ後に、両腕を地面に対し平行な横向きの動きで自分の後ろの方に回す。

「ウオオオリャアァッ!!」
『ビュンッ』

そしてそこから戻すような形で再び横向きに腕を前の方に勢いよく回し振る。
同時に、両腕のワイヤーロープが遠心力に従うように伸ばされる。
それはこれまでよりも速く、そして長く伸びていった。
伸びていく量は明らかに、合計すればこれを出しているポプ子のレグとしての身体の体積を超えていた。
ポプ子が両腕を広げていたことにより、どんどん伸びていくワイヤーの線は、五条や朝倉達をまとめて囲う程に拡がっていく。

「フンッ!」

ポプ子は腕を手前で閉じ、それに伴い伸ばし拡げたワイヤーも閉じていく。
そうして閉じていくワイヤーが五条・朝倉達の方に迫って行く。
位置的には、ポプ子の右腕のワイヤーアームが五条に、左腕の方があちゃくらさんに届きそうになっていた。

「せいっ!」

五条はこれに対し、デストバイザーの刃をワイヤーに向かって振るう。

『ギン』『グニッ』
「むっ…」

ワイヤーはその刃で断ち切られることはなかった。
明らかに金属製のように見えるため、それが束ねられたものが刃程度で斬れるといったことはまあ期待していなかった。
しかしそれだけでなく、ワイヤーの勢いを止めることも出来なかった。
ワイヤーはそのまま進み、五条の体に腹の上から何重にも巻き付いて行く。
その際に、デストバイザーを持っていた右腕も一緒に巻き込まれてしまう。
デストバイザーの持ち手部分ごと右腕を体に固定される。
これにより、五条は左腕以外の身動きが取れなくなる。

『Ju,JURA!SHA!』

あちゃくらも自分に向かってくるワイヤーに対応しようとする。
咄嗟に溶解液を吐いてハイヤーに当てようとする。
…が、高速で迫っていたため狙いを定められず外してしまう。

『グル』

そのままワイヤーはベノスネーカーとしての身体にぶつかり、そこを起点として曲がり巻いて回る。
回るワイヤーはあちゃくらよりもワイヤーの範囲の内側にいた朝倉と真司にも向かっていく。

「ハッ」
『GAU!』

それに対して朝倉と真司は、近くに落ちていたガラスの破片に向かって飛んだ。
そこに映る鏡像から、ミラーワールドの中に飛び込んだ。
こうしてこの世界から姿を消したことにより、迫るワイヤーから避けられた。
彼らのいた場所を通り過ぎたワイヤーは回り続け、あちゃくらの長い身体に巻き付いていった。

『JURAA!』
「させるか!」『ブンッ』
『SHAAA!?』

朝倉が飛び込んだのを見てあちゃくらは自分もガラスからミラーワールドに入ろうとする。
しかしその前に、ポプ子があちゃくらに巻き付かせたワイヤーが繋がる左腕を上方向に振り回す。
それに引っ張られ、あちゃくらは持ち上げられてしまう。
ベノスネーカーとしての巨体を持ち上げる程の力を、レグとしての身体は有していた。

『ズドン』
『SHABRAa!?』

あちゃくらはそのまま、地面に叩き付けられてしまう。

「ハッ!」

その次の瞬間に、朝倉がミラーワールドから飛び出して戻って来る。
ベノサーベルを構えて、ポプ子に向かって斬りかかろうと突撃してくる。

537 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:23:57 ID:vSgFBXXc0
「このっ…」
『STRIKE VENT』
「なっ!?」

これに対しポプ子は、右腕のワイヤーで捕らえた五条を振り回して朝倉にぶつけようとする。
しかしそうする前に、五条の方が行動することに成功する。

ワイヤーで固定されたデストバイザーは逆さまの状態になっており、刃は下向きで足の近くの方にあった。
そこに繋がるカードスロットも同じで、これは普段は虎頭の装飾に隠されている。
この装飾は斧としての持ち手部分と連動しており、これをスライドすることでスロットが出てくるようになっている。
その方に五条は動かせる左腕を何とか持っていき、持ち手を操作してカードスロットを出した。
そして同じく左腕で腹近くのカードデッキにも手を伸ばし、そこからカードを一枚取り出した。
そのカードを身をかがめながらスロットの方に差し込み、装飾を再スライドさせて戻してカードの効果を発動させた。

タイガのストライクベントの効果は、デストワイルダーの手を模した鉤爪付きの手甲であるデストクローという武器を装備することだ。
カードの効果発動により、どこからともなく出現したそれが五条の両手に自動的に装備される。
これにより腕が急に太くなり、巻き付くワイヤーが押しのけられ、体との間に一部隙間も出来る。

「よっと」

そんな状態で五条は巻き付かれた右腕の方のデストクローを外しながら少し跳ぶ。
そうして、五条は自分を拘束していたワイヤーからの脱出に成功する。
ワイヤーが押された分だけ隙間ができたこともあり、このようにすることができた。

「ハアッ!」
『ゴンッ』「グアッ!」
『バシッ』「ブヘッ!」
『ドスッ』「グヘアーッ!」

五条が拘束から抜け出したことに驚いた隙に朝倉が近付いて来た。
彼女が持っていたベノサーベルにより、頭、顔の順で叩かれる。
そして最後の三撃目で、みぞおちの辺りを突かれて吹っ飛ばされる。

『シュル…』『ドサッ』

朝倉の攻撃によりポプ子が怯んだことで、あちゃくらを拘束していたワイヤーロープも緩んだ。
これにより解放されたあちゃくらはコンクリートの地面に落下する。
けれども、先ほど叩き付けられたことにより目を回しており、あちゃくらはそのまま地面の上で倒れてピクピクと痙攣しながら伸びてしまっていた。
それ以上は動ける様子は見られなかった。

「ゲホッ、ゲホッ、この…!」
「あら……これでも駄目ですか」

ポプ子は咳き込みながら、戻した手で胸元を押さえながらうずくまって朝倉を睨む。
対する朝倉はポプ子の頑丈さに驚いている。
杖よりも先端の鋭い剣で突いたのに、これでも相手の体に傷付けることが出来なかった。
だが相手は衝撃から咳き込んではいるため、肺等の内臓は流石に体内に存在するかもしれないことも考えられた。
付け入れられる点があるとすれば、そこだろうか。
体の中から大量のワイヤーを出すにも関わらず、内臓の入るスペースがあるらしいことにも不思議に思うが。

『ADVENT』
「次は僕たちが行こうか」
『GAU!』

朝倉がポプ子の頑丈さに呆気にとられている隙に、五条が動く。
デストバイザーにカードを装填し、もう一度ミラーワールドにいた真司をこちら側の世界に呼び出した。
ガラスの破片の鏡像から飛び出した真司は、朝倉の前に出てうずくまるポプ子と対峙する。

「こいつ…!」
『GAO!』『バシィ』
「ぬおぉっ!?」

真司はポプ子に向かって攻撃を仕掛ける。
そうして動きを止めることを五条が望んでいると、カードの効果を通して伝わっていた。
ポプ子はそれらの攻撃に怯む。
相手の巨大な虎のような手の平の打撃と鉤爪による斬撃に対し、腕で何とか防御しようとする。

「くっ、この…!」
『ビシィ』『バシィ』

しかし、そう上手くは捌けなかった。
相手の攻撃は何撃か顔等にも当たっていた。
これで表面が傷付くことはなかったが、怯まされて反撃が難しい状態にあった。

「それじゃあ、早いとこ決めちゃおうか」
『FINAL VENT』

ポプ子が真司への対応に追われている隙に、五条は最後の決まり手とするための技の準備をし始めた。
デッキからそのためのカードを取り出し、それをデストバイザーのスロットに装填した。
それによる音声が鳴ると同時に、五条の両手に再びデストクローが装着される。

538 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:24:56 ID:vSgFBXXc0
『!』
『ガシィ』
「ぐぅあ…っ!?」

真司の方にもカードの効果により何をするべきかの指令が伝わる。
同時に真司は、デストワイルダーとしての巨大な手でポプ子の胸元を押して地面に倒した。

『ズザザザザッ!』
「アババババババババッ!!?」

真司は片手でポプ子を地面に押し付けたまま引き摺っていく。
その行き先は、五条のいる所だ。
ポプ子はこれに抵抗できないまま、そこに向かって引き摺られていく。

「ハアアァ…」

五条は自分に向かって運ばれていくポプ子を注目しながらデストクローを構える。

「ハアッ!」
『ドスッ』
「ガッハァッ!!?」

そして自分の前までに来たところで、右手のデストクローを地面にいるポプ子に目掛けて突き立てた。
爪が向かった先は、仰向けで引き摺られたことで盛大にこちら側に向けられた腹だ。
5本の爪の内一本は、腹の中央に存在するヘソに突き立てられた。
他の肌の部分には爪は刺さらなかったが、そこだけは柔らかいため刺された。
これによりポプ子は、今までで一番の苦悶の声を上げた。

「ハアアアァ……ハアッ!!」
『ドジャアァッ!』
「ギャアアアアアァーッ!!」

ヘソに爪を刺したまま、五条はポプ子を持ち上げた。
その直ぐ後に、五条はポプ子を地面に向かって思いっきり叩き付けた。
そこから、更に大きな悲鳴が上がった。

地面に叩き付けられた後、ポプ子は爪を刺されたヘソから赤い血のような液体を垂れ流す。
そして白目を剥いたまま、僅かに体を痙攣させる以外は、動かなくなった。



『ビュッ』
「!」

ポプ子が動かなくなったのを五条が確認した直後のことだった。
彼に目掛けて、別方向から攻撃が飛んできた。

『ガキィン!』

五条はデストクローの広い甲の部分でその攻撃を防ぐ。
それが狙っていたのは、五条の腹にあるタイガのデッキ部分だった。
ここ目掛けて飛んできて防がれたそれは、ベノサーベルの刃の先端だった。

朝倉が、五条を裏切って攻撃してきたのだ。

「あら……こうなるのは分かってましたか?」
「そりゃあまあ……色々とあからさまだっだし」

ぶっちゃけた話、五条もこうなる予感はしていた。
自分から停戦を誘ったとはいえ、相手の飲み込みの早さは明らかに不自然なものだった。
実際のところ、言葉にはしなくともお互いにこうなること自体は分かっていたのだろう。
朝倉はやっかいな相手であるポプ子が動かなくなってから、五条の方も倒そうとしていた。
五条がポプ子を倒したから、そうなった直後を隙と見て、ライダーの変身の源となるため弱点となる腹のデッキを狙ったのだろう。
結局は五条の方もそれを直ぐに察していたため、攻撃はあっさりと防がれてしまった。

「月とバリアを何とかできれば殺し合いをやる必要は無いと言ってたけど、それはもう諦めたのかな?」
「確かにそうかもしれませけど、そもそもあなたはそのための解決策に心当たりはあるのですか?」
「まあそれは、人を集めてから考えても別に良いんじゃないかな?」
「そういうことだと思いました。なら、その方法よりも戦いで勝ち残る方が早くてまだ可能性もあるかもしれないと思いましてね」

五条からの問いかけに朝倉はそう返す。
共闘の誘いに乗ったのは最初からフリだけのつもりで、何にしても最後には戦うつもりだったことを示した。

その後朝倉は、後ろ向きに跳んで五条から距離をとる。

「ほら、起きなさい。まだ戦いは終わってませんよ」
『…SHURA?』

朝倉は地面に倒れていたあちゃくらに近付き、ベノサーベルの持ち手部分で小突いて起こす。
あちゃくらは思考がはっきりとしていないような状態のまま、ベノスネーカーとしての頭と鎌首を持ち上げて起きる。

「寝ぼけていないで前を見てください。次は彼との戦います。攻撃してください」
『SHu,SHAa!』

朝倉はあちゃくらに指示を出す。
指示を受け取ったあちゃくらが先に慌て気味に動き始める。
五条の方に顔を向けて、焦るようにそっちに向けて移動しようとする。

「おっと、そうはいかないよ」
『FREEZE VENT』

あちゃくらが動き出した瞬間、五条はデストクローを外し、カードを一枚取り出してデストバイザーに装填した。

『!?(あ、あれ……?動けない…?)』

デストバイザーから音声が鳴った瞬間、あちゃくらは動けなくなった。
尻尾の先や舌先ですらも全く動かすことが出来なくなっていた。
その体は完全に、凍結させられていた。

539 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:28:11 ID:vSgFBXXc0
これが、タイガの持つフリーズベントのカードの効果だ。
ミラーワールドのライダー同士の戦いにおいて、相手の契約ミラーモンスターを凍結させて全く動けなくしてしまうのだ。
これにより、あちゃくらは今はその動きを完全に停止させられてしまっていた。

「そんなカードがあるなんて…」
「どうする?降伏でもしてみるかい?」
「……いいえ、まだ勝負が決まってませんので」

相手のミラーモンスターがまだ動ける分、1対2となり自分の方が不利だということは朝倉も理解している。
だからと言ってまだ自分が負けたわけではなく、手の内を全て晒してもいない。
朝倉はまだ諦めずに五条との戦いを続けようとしていた。

「それじゃあ真司、あいつのことも止めようか」
『……GAU』

五条は真司の方にも戦いを続けるように言う。
そうしてデストバイザーを構えて前に出る。
それに対し真司は少し俯いた様子を見せてから、遅れて前に出る。

「ハアッ!」
「ヤッ!」
『………』

五条と朝倉が武器の打ち合いを始める。
しかし真司は、近くで少し攻めあぐねているような様子だった。
何か迷いがあるのか、少々挙動不審にも見えた。


真司は今、2つの事柄について思うところがあった。
1つは、今戦っている相手についてだ。
浅倉の身体と王蛇の力を手に入れたその相手は、こちらのことを裏切ってきた。
先ほどのベノスネーカー(あちゃくら)の反応からして、そっちはこうなることを分かっていたのだろう。
五条もまた、このことを分かっていたようだった。
少し考えればあんな風な形で共闘の誘いに乗るなんてことは確かに怪しかったのだろう。
それでも、本当に裏切られたことにはやるせない気持ちがある。
今の気分としては、前々に述べたような本来の浅倉が助けた少女を囮だと言い放った時のもののようだった。
浅倉の身体を与えられるような者なのだから、その精神も浅倉に類似するところがあったのだろうかなんてことも考えてしまう。
そんな決めつけるような考え方をしてしまうことも、何だか嫌な気持ちにさせられてしまう。

そしてもう1つの思うことは、先ほど五条と一緒に倒した相手についてだ。
戦わなければ相手を止められないことは理解していたつもりだ。
しかし先ほどの戦いにおいては、真司はファイナルベントの際に、手加減を全く加えなかった。
それは、真司自身の意思には反しているところもあった。
これはきっと、自分が今ミラーモンスターになっているからというのもあるだろう。
そのために、カードの効果により体が勝手にファイナルベントの完遂のために動かされてしまった。

……真司はできることなら、戦いの相手の命までは奪いたくないと思っている。
しかしここに来てからの戦いの中で、五条はその点について、相手を殺す結果になっても構わないような感じがある。
ファイナルベントでの最後の一撃も、容赦はしていなかったように見えた。
殺し合いを止めたい気持ちは同じでも、自分と五条とではどこかすれ違っている点があるようにも感じ始めていた。
だがそう感じていることを五条自身に伝えることはできない。

自分がここではあくまでもミラーモンスターとしてしか動けないこと、それによる弊害で五条に自分が本当にやりたいことを伝えられないこと、そういったこと等が心の中で引っ掛かりがあった。
それに先ほど倒した相手も、確かに酷く興奮はしていたが、もしかしたらまだ話し合う余地はあったかもしれない。
今の自分が喋れないからこそ、問答無用で倒してしまったかのような感覚に陥ってしまう。
そんな後ろめたい気持ちが真司の中で出てきてしまっていた。

そんな気持ちがあったために、真司は何げなく先ほど倒した相手…ポプ子の方へと視線を向けた。
そこで真司は、驚かされることになる。

『!?』
「くっ……そおっ…」

ポプ子はまだ、生きていた。



(嘘だろ…アレでまだ動けたのか!?)

これまでの戦いの中でも、ポプ子が相当頑丈なことは分かっていた。
しかしまさか、腹を刺されて地面に叩き付けられても耐えられる程だとは思っていなかった。
ファイナルベントは強力な必殺技だと真司も認識していたが、これでもまだすぐに意識を取り戻す程だとは想像していなかった。

(いや…あれを食べて回復したのか?)

ポプ子をよく見てみると、片腕に何か持っていた。
それは食べかけの黄色い果実であった。

540 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:32:56 ID:vSgFBXXc0
「ガブッ!むしゃゴクッ」

ポプ子はその果実の残りも全て口に運び平らげた。
彼女が今食べたその果実は「オボンのみ」というものだ。
これはポケモンが食べた場合、最大HPの1/4を回復できるとう代物だ(時代が違えば1/2も回復できることもあった)。
ポプ子の身体であるレグはロボットだが、口からものを食べてエネルギーにすることはできる。
と言うよりは電気でもエネルギーは出来るため、力という概念を取り込んでいるという説もある。
だからオボンのみを食べて体力回復することができた。

しかしいくら効果があると言っても、口に運べるだけの元気が無ければ意味はない。
そこはやはり、レグとしての耐久力の高さがものを言ったところもある。
だがそれだけでなく、ポプ子自身が相手の必殺技を受けてしまった悔しさと憎さをバネに、何とかすぐに意識を取り戻して気力で起き上がったということもある。

「ん?」
「あら…?まだ生きていたのですか?」

このタイミングで五条と朝倉もポプ子のことに気付く。
彼らは咄嗟に自分達の戦いを止めて距離をとる。

「いまのはいたかった…いたかったぞ―――――――――っ!!!!!」

それとほぼ同時に、ポプ子は大声を出しながら右腕を上げて前に出し、手の平を開いた。
機械的なその手の平の中央には、丸いレンズのような"発射口"が存在していた。
開かれたそれは、五条悟の方に向けられた。

ポプ子の手の平にエネルギーが収束する。
この瞬間、五条はほとんど棒立ちな状態となっていた。





『ドンッ!!』
「うわっ!?」

咄嗟に、真司が五条を突き飛ばした。


「はーーーーーーーーッ!!」

ポプ子の右手から、光線が放たれた。
その光は、人一人くらいなら飲み込めそうな程太く大きいものだった。
真司が五条を突き飛ばした瞬間に、その光線が通り過ぎた。

『ジュッ』

光は、真司のデストワイルダーとしての身体の胸辺りから下の全てを飲み込んだ。


『ドサッ』
「……………真司?」

光が消えた後、真司の体が崩れ落ちる。
その身体の光が通り過ぎた後の部分は、完全に消滅してしまっていた。

(………ああ、またやってしまったなあ)

薄れゆく意識の中、真司はここに来る前のことを思い出す。
真司は本来、たまたま近くにいた女の子をミラーモンスターのレイドラグーンの攻撃から庇って負った致命傷が元で死んでしまった。
けれども真司はそれについて、今も前も後悔はしていない。
自分が納得できるだけの願いの答えは見つけられているから。

(でもそれを、五条に言えないのは辛いなあ…)

生前の友である秋山蓮にはその願いが何なのかは伝えられた。
だが今の相棒である五条悟にはそれを教えられていないし、そのための方法もない。
けれども、たとえほんの約2〜3時間くらいのかなり短い付き合いでも、共に戦うと決めていた相手であるからには知ってもらいたい気持ちもあった。
出来ることなら、五条にも今後は誰も殺さずに殺し合いを止めてもらいたいのが理想ではあった。
気持ちのすれ違いも解消したかった。
それもまた、伝えられない以上叶うことのない願いだなとは思ってしまう。

(五条…お前は、夏油って奴に、会えたら、良い、な………)

せめて、彼の過去や思っていることの詳細等は知らなくとも、五条悟自身のここでの望みが叶うことを祈った。
それを最後に、城戸真司の意識は消失した。
ミラーモンスターとしての残る肉体も消滅し、後にはそこに命があったことを示すための光の塊のような、魂のようなものがそこに浮かんでいた。


【城戸真司@仮面ライダー龍騎(身体:デストワイルダー@仮面ライダー龍騎) 死亡】

541 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:35:25 ID:vSgFBXXc0


真司に突き飛ばされた後、五条は呆然としながら地面に尻餅をついていた。
そして真司が消滅した直後、彼が変身していた仮面ライダータイガから"色彩"が失われた。
差色となっていた青色が失われ、全体的な色もくすんだ灰色のようになってしまった。
契約ミラーモンスターが先に倒されたことにより、ライダーからも契約によって得られていた力が失われた。
仮面ライダータイガは今、いわゆるブランク体という大きく弱体化した状態となってしまっていた。
専用召喚機であるデストバイザーからも、虎頭の飾りが消滅してしまっていた。


(まさか、あんな武器まで隠し持っていただなんて…)

朝倉は今、ポプ子の方を大いに警戒していた。
相手が手の平から発した大きな光線はとてつもない威力だった。
それは自分が先まで戦っていたライダーのミラーモンスターを飲み込んだ後も、その先にあった街中の建物にも当たっていた。
光線は建物の当たった部分も貫通して消滅させていた。
その更に奥の建物群にも命中したのか、貫通した後の穴が一直線に並んでいるのが見て取れた。
もしこれが直撃したのならば、たとえライダーに変身していたとしても即死するだろう。
だから今は、ミラーモンスターを失った上に隙だらけの五条よりも、ポプ子の方に注目していた。

「……………やっべ」

しかし朝倉の予想外なことに、ポプ子の方は顔を青ざめていた。

『クルッ』
「うおおおおおおおおぉぉぉーっ!!!」
「あら?」

ポプ子は朝倉や五条のいる方とは全く別の方向へ転換して走り出した。
腕のワイヤーロープを長く引き出し、近く建物の壁を越えて屋上の方へと駆け登っていった。
そしてそのまま様々な建物の屋上を乗り継ぎながら、何処かへと逃げ去ってしまった。
朝倉は相手のまさかの行動に反応できずそのまま見逃してしまった。

「……いや、あれだけ強力なものを今まで使わなかったということは、何らかのデメリットもあったのでしょう」

だから今こうして逃げていったのだろうと、朝倉は少し考えて納得する。
しかしこうして見失ってしまったからには、追いかけても見つけるのは容易ではないだろう。

「仕方ありません、先にあちらを仕留めましょう」

朝倉は五条の方に注目を変更する。
ミラーモンスターを失って弱体化した相手なら、倒すのもそう難しくは無いだろう。
しかも相手は相方を失ったことに対してまだ呆然としているようでもあった。

「ほら、行きますよ」
『SHU!?(え!?)』
「い・き・ま・す・よ」
『S,SHA!(は、はい!)』

ミラーモンスターがいなくなったことで、フリーズベントの効果も消えていた。
あちゃくらも動けるようになっていたため、これから一緒に攻撃の行動に移ることを促す。
あちゃくらは状況に着いていけてなかったのか、少しボケっとしてしまってもいたが。

「さっさと決めてしまいましょう」
『FINAL VENT』

朝倉は時間をかけずに相手を仕留めようとする。
今できる最上級の必殺技であるファイナルベントの発動を行おうとする。
相手がブランク体に弱体化している状態なら、これですぐに決着をつけられると判断してのものであった。

「ハアア…!」
『SHIIA!』

朝倉は五条のいる方へ向かって駆け出す。
その背後をベノスネーカー(あちゃくら)が地面を這って追って来る。

「ハアッ!」
『SHAA!』

朝倉は走りながら跳躍し、空中で宙返りを行う。
その回っている最中の背後に向けて、あちゃくらが口から毒液を勢いよく吐き出す。

「ハアアーッ!」

毒液に押されながら、朝倉はキックを放つ。
そのキックは、左右の足を交互に振るバタ足をしながらの連続キックであった。
これこそが仮面ライダー王蛇のファイナルベント、ベノクラッシュであった。
そんな必殺のキックが、五条悟に向かっていった。

「!」
『サッ』

しかし五条の方も、何もしないわけではなかった。
五条はどこからともなく、1つのゴムベルトを取り出した。

『プシュー』『ポンッ』

五条はそのベルトを手で持ちながら操作した。
するとベルトの丸い金属バックルの部分から、1つのサッカーボールが膨らみながら出現した。

『バシッ』

五条はそのボールを拳で打って、自分に向かってキックしてきていた朝倉目掛けて飛ばした。
ボールは、五条と朝倉の間の距離が1メートルの程もなさそうなところで、朝倉のキックにぶつかった。

542 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:37:32 ID:vSgFBXXc0
『ボォンッ!!』
「!?」
『SHU!?』

朝倉のキックにボールが当たった瞬間、ボールは爆発した。
ただ爆発したのではなく、色彩豊かな火の光を輝かせる、花火として爆発した。
この花火により朝倉のキックの威力は殺される。
それだけでなく、朝倉自身も後方へと吹っ飛ばされた。



『ドサッ』
「あ痛っ」

朝倉は地面に強めに叩き付けられた。
その衝撃により、朝倉は王蛇への変身も解除させられていた。

「あ痛た…」
『SHURA…』

地面に倒れた朝倉にあちゃくらも心配して駆け寄ってきた。

「奴は…」

朝倉は体を起こして五条の方の様子を確認しようとする。
少しの間、周囲は花火の爆発によって発生した煙に包まれ、視界が悪くなっていた。
それが晴れた後、そこに五条の姿はなかった。

「……こちらにも逃げられましたか」

朝倉は地面に落ちた際に腰も強く打ち、痛めた。
少しの間は立ち上がることができない。
立ち上がれるようになる頃には、もう相手にも遠くに逃げられているだろう。
(ポンコツな)相方に追わせるのも難しいだろう。

「けれども…もう十分なようですね」

五条がいなくなった場所をよく見てみると、何か青色の破片のようなものが落ちているのが見てとれた。
それは、タイガのデッキの破片であった。
先ほどの花火が爆発した時、朝倉の方は足先を向けていたため、花火の爆風等は腹のデッキに正面からは届かなかった。
しかし相手の方は、地面に立った状態であったためにそれが正面から届いてしまった。
相手は、自分自身が起こした爆発の影響で、自分のデッキを壊してしまったのだ。
相手はおそらく、花火が使い切りで無い限りは、これ以上戦うための手段は持っていないだろう。
あるならもう使っているはずし逃げもしないだろう。
朝倉の目的はあくまで殺し合いを一刻も早く終わらせて元の世界に帰還すること。
そのために他参加者を殺す役割を持つのは自分で無くとも良い。
逃した相手は、放っておいても長くは生きられないだろう。
なるべくなら死んだところを直接確認できた方が安心できるだろうが、とりあえず今のところは焦って追わなくともそこまで問題は無いと思っておく。

「……アレ、どうします?」
『SHA?』

次に朝倉は空中を漂う光の塊を見ながらあちゃくらに話しかける。
そこにあるのは先ほど相手方のミラーモンスター、デストワイルダー(城戸真司)が消えた後に現れたものだ。
あちゃくらはそれに対し、何か気になる様子で顔を近付ける。

『パクッ』『ゴクッ』
「あら、そうするのですか」

あちゃくらはそれを口に含み、飲み込んだ。
朝倉もその様子を確認した。

(……あっ。つい食べちゃったけど、これけっこうマズイことじゃ?)

あちゃくらは今の自分の行動についてそんな風に思ってしまった。
ここで言うマズイとは、味のことではない。
光る塊を前にした時、本能的に食してしまった。
これは、身体がミラーモンスターのものになっていたためだった。
光る塊は、ミラーモンスターが消滅する際に発生するエネルギーの塊だ。
ミラーモンスターの生態として、活動するにはこれを接種する必要もあるため、つい本能的に取り込んでしまった。

ここであちゃくらが気にしてしまったことは、今のエネルギーと元となったミラーモンスターの精神は、どうも人間のものっぽかったところがあったことだ。
自分は今、人間を補食したも同然なのではないかと感じてしまったのだ。

(いや……私もどうせ元から人間じゃないんだし、そこまで気にすることでもないかな…?………うん、気にしなくていい………はず)

あちゃくらは自分に言い聞かせる。
どうせもう食べてしまった以上戻すこともできない。
過ぎてしまったことは受け入れるしかない。

「それじゃあ次は、どうしましょうかね…」

朝倉は地面に座り込んだまま、体の痛みが引くのを待つ。
そうした後、次はどこに向かい何をするべきかを考え始めた。

543 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:39:31 ID:vSgFBXXc0
【G-7 街 ロナルド吸血鬼退治事務所付近/黎明】

【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[身体]:浅倉威@仮面ライダー龍騎
[状態]:健康、ダメージ(小)、腰が少し痛い
[装備]:王蛇のカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:優勝して元の世界に帰る
1:体の痛みが引くまで少し待つ
2:次はどうしましょうか…
[備考]
※参戦時期はキョンを襲撃する直前


[意思持ち支給品状態表]
【あちゃくらさん@涼宮ハルヒちゃんの憂鬱】
[身体]:ベノスネーカー@仮面ライダー龍騎
[状態]:健康、ミラーモンスターの消滅で発生したエネルギーを摂取
[思考・状況]基本方針:生還する
1:今のうちは、朝倉に従う。裏切るには少し早い気もする
2:さっきのやつ(ミラーモンスターのエネルギー)…本当に食べても大丈夫だった?
3:場合によっては、朝倉を見捨てることも辞さない
4:知り合い……いないのよね?


※G-7の周囲の一部の建物が、火葬砲の影響で一直線に大穴が開いています。
※他のエリアにも影響が出ているかは後続の書き手にお任せします。




「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!」

ポプ子は今も、様々な建物の屋上を次から次へと跳び渡っていた。
彼女は先ほど怒りに身を任せて、今の自分に使える最上の必殺技である「火葬砲(インシネレーター)」を使用した。
これはレグとしての身体の手の平や足の裏に搭載されているレンズのような部分から発射することができる。

この火葬砲はただの熱光線などではない、その威力は常軌を逸している。
火葬砲が当たった物体は何であろうと、分解されたように焼かれながら消滅してしまう。
これはレグが本来存在していた魔境、奈落(アビス)のルールを書き換える程のものだと称される。
具体例を1つ言うと、アビスの「呪い」により不死の体になってしまった者を消し飛ばし、殺すことができたことがある。
それ程強力であり、特殊な武装なのだ。

しかしそうである分、弱点も存在する。
1つは大きなエネルギーを補給しない限りは撃てる回数に制限があること。
もう1つは、一度放てば、10分後にそこから2時間も意識を失って昏倒してしまうというものだ。

これが今ポプ子が問題としていることだった。
ポプ子は先ほど火葬砲を一発撃ってしまった。
もうすぐ昏倒してしまい、2時間は全く動けなくなってしまう。
1人でそんなデカすぎる隙だらけの状態になってしまえば、その間に何が起きるか分からない。
それこそ先ほど戦った者が残っている場所で眠ってしまえば、その間に殺されるかもしれない。
レグの身体は頑丈だが、ヘソ等は例外だし、方法によっては切断することもできる。
下手したら、動けない内に殺されてしまうかもしれない。
それだけは絶対に避けなくてはならない。

だからポプ子は今は必死に逃げている。
火葬砲を撃ってから10分経つ前に、敵を撒いて隠れられる場所を見つけるために。
だが、今のポプ子はかなり焦ってしまってもいた。
自分が今どの方角に向けて逃げているかも分かっていなかった。

そんな彼女はやがて、10分まで後数十秒といったところで、あるものを見つけた。
それは、川であった。
具体的には、F-7の方に位置する街中を西から東へと流れる川であった。


「ここだああああああァーッ!!」

川に気付いた瞬間、ポプ子はそこに向かって建物の屋上から大きく跳んだ。
ポプ子はレグの身体についてあることを思い出していた。
レグは呼吸はするが、もしかしたら呼吸の必要が無い可能性もあるのだ。
本来のレグは長時間水の中に潜ったこともある。
だからポプ子は、水中ならば2時間誰にも見つからずに隠れ続けられるのではないかと考えた。
この考えが間違っていて、もしかしたら溺れてしまう可能性だってまだある。
体の大部分が金属であろうロボットのレグの身体では、簡単に浮くこともできないだろう。
けれども慌てているポプ子にとっては、そんなことまで考えている余裕もなかった。

そうして空中に跳び出したポプ子は、放物線を描きながら川の方へと向かって行った。

「あ゛っ」

その瞬間に、火葬砲を撃ってから10分が来てしまった。
ポプ子は宙を舞いながら、その意識を失ってしまった。
そのために、彼女はあることに気付けなかった。
自分が向かっている先に、誰がいるのかを。

544 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:43:16 ID:vSgFBXXc0


「ぐっ……はあ………ようやく上がれるか」

F-7の川の中から一つの人影が陸に上がろうとしていた。
赤い装飾を身に纏うその小柄な影の正体は、佐倉杏子の身体となっている浅倉威だ。
彼は前の戦いで川の中に突き落とされた。
そうして今、ここまで流されてしまった。
意識は保っていたが、思ったより流れが速く、未だ慣れない女子中学生の肉体であることもあり陸に上がるのに少々時間がかかった。
そして今、このF-7でようやく川の中から出られそうになっていた。
そんな時であった。

『ヒュルルル…』
「ん?」

浅倉は何かが風を切るような音を耳にした。
下半身をまだ水に浸けたまま、浅倉はそちらの方に視線を動かした。

そこからは、レグの身体のポプ子が、浅倉のいる方に目掛けて飛んできた。

『ゴンッ!』
「があっ!!?」

浅倉が振り向いてすぐに、2人の脳天が衝突した。
ポプ子は浅倉の頭の上でバウンドし、対岸の陸の上の方へと落ちた。
浅倉の方は、衝撃で陸にかけていた両腕を思わず離してしまった。

「い゛だっ、でめっ、ぼぶっ…ごのっ、ごぼぼぼ………」

浅倉は再び、川の流れに呑まれた。
衝撃に頭を揺さぶられ、朦朧とする意識のまま東に向かって流されていった。
自分をこうしたものが何者なのか、あまり確認できないままに。

対するポプ子は、思い通りに川の中に飛び込めなかったことにも気づけぬまま、川の近くで眠り続けていた。


【一日目/F-7 川の近く 北側/黎明】

【ポプ子@ポプテピピック】
[身体]:レグ@メイドインアビス
[状態]:健康、昏倒中(約2時間目覚めない)、へそにダメージ(中)、エネルギー消費(火葬砲1回分)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:皆殺し。もちろん魘夢達も殺す。ただし、自分やナナチの身体については保留。
0:………
1:がんばるぞい!
2:意識を失っている中で殺られないことを祈るしかねえ
3:さっきの奴ら(五条悟、朝倉涼子)はムカつくからいつかぶっ殺す
4:自分やナナチの身体についてどうするかは一先ず保留。見つけたら一応捕まえておく。
5:面倒くさいがもしもの時のため取り替えのできる施設を探しておく。
[備考]
※レグの腕は健在です。
※『メイドインアビス』についての知識は一応有しているものとします。
※アニメ版2期の放送より前からの参戦としておきます。
※火葬砲を1発撃ちました。残り何発まで撃てる状態かは現状は不明としておきます。

【オボンのみ@ポケットモンスターシリーズ】
現実でいうザボンという柑橘類をモチーフとした、黄色のきのみ。
ポケモンが食べると最大HPの1/4を回復する。
ポケモンに持たせれば、HPが半分になった時に勝手に食べてくれる。
「Pokémon LEGENDS アルセウス」においてのみ最大HPの1/2も回復してくれる。
ポプ子に支給。


【一日目/F-7 川の中/黎明】

【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
[身体]:佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ
[状態]:ダメージ(中)、頭頂にダメージ(小)、魔法少女に変身中、デイパックなし
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、キック力増強シューズ@名探偵コナン
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:戦いを続ける
1:何だか分からんがぶつかられてまた流されてイライラする
2:シャンクスにリベンジする。
3:戦う相手を探す。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※ソウルジェムは支給品に含まれず、破壊されると死亡するものとします。
※槍は魔法で出したものであるため、支給品に含まれません。
※川の流れに逆らえず西から東に流されています

545 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:44:40 ID:vSgFBXXc0




「………あーあ、やってしまったなあ……」

G-7のロナルド吸血鬼退治事務所から離れた所にあるどこかの路地裏、戦いから逃れた五条悟はそこにいた。
その服装や体にはところどころ傷があるようにも見えた。

先の戦いの結果は、はっきり言って五条悟の敗北であっただろう。
出会ったばかりとは言え、共に戦うと言った仲間を失ってしまった。
その原因は、自分が油断していたからという風にも、五条は感じてしまっていた。

本来の肉体での五条悟は、無下限呪術によりあらゆる害ある攻撃が"無限"に守られて自分に届かないようになっている。
それも、自動的になるようにしていた。
どれだけ気をつかっていても、その時の感覚が抜け切れていなかった。
あの時の相手(ポプ子)が何かただならぬことをしようとしていた時も、避けるという判断が遅れてしまっていた。
だから、城戸真司が突き飛ばして庇った。
1人生き残り、相方をこうもあっさりと死なせてしまったために、余計にそのように感じていた。
五条悟は今、親友が闇堕ちした時や、それを自分が殺した時並みの暗い感情を抱いていた。

残ったデッキも逃げるために使った花火ボールの爆風により壊れてしまった。
逃げられたのも爆風の衝撃に乗れたからというのもあるが、そのリターンにはあまり釣り合っているように感じられない。
その花火ボールも、1回だけの使い切りだ。
残る最後の支給品も、強力でも自分では使えない品だ。

「……………何が最強だよ、クソ……」

そうして彼は一人で、最も彼らしくない言葉を呟いてしまっていた。

【一日目/G-7 ロナルド吸血鬼退治事務所から離れた場所/黎明】

【五条悟@呪術廻戦】
[身体]:エディータ・ロスマン@ブレイブウィッチーズ
[状態]:健康、疲労(大)、ダメージ(中)、夏油傑が巻き込まれていることによる動揺・怒り、自己嫌悪気味
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、どこでもボール射出ベルト(花火機能付き)(使用済み)@名探偵コナン、ブーストマークⅢバックル@仮面ライダーギーツ
[思考・状況]基本方針:殺し合い?乗るわけないでしょ。
1:………真司…………ごめんね
2:傑を探す。出来ることなら、あの頃のように共に戦いたい。
3:真希のことも探す。今はどんな状態か分からないけど、先生としてしっかりと導いてあげないとね。
4:他の禪院家(直哉、扇)については…ちゃんと協力できるか少し怪しいところがあるな。
5:伏黒甚爾の肉体の参加者を一応警戒。協力できるような奴ならいいけど…最悪の場合、恵には悪いけどもう一度殺すことになるかも。
6:へぇ、この子(ロスマン)も先生なんだ。この子の教え子や仲間が居たら探すのもありかもね。
7:飛べないのは不便だしストライカーユニットっての、あったら探そうか。
8:浅倉威という人物は一応警戒。
9:主催側が使ったのは精神と肉体を入れ替える術式か、或いは未知の何かか…。
10:最悪の場合は僕の身体が奪われ使われてるかもとも考えとく。一先ず参加者の中にはいないようだ。
11:やはりあの時の奴(羂索)も関わっているのか…?
[備考]
※参戦時期は91話の「渋谷事変⑨」にて、完全に獄門疆に封印された後からです。

546 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/10(月) 23:45:35 ID:vSgFBXXc0
投下終了です。
事後報告になりますが、登場人物に浅倉威を追加しました。
タイトルは「命(きぼう)の果てに」とします。

547◆N9lPCBhaHQ:2025/03/12(水) 00:35:34 ID:???0
投下お疲れ様です

永遠なんてないけれど、それでも
プリンプリンのあの棒を主催がバッグに詰めてるの想像するとじわじわくる
クレしん&コロコロノリから急にしんみりすると温度差が凄い

君は完璧で究極のフィジカル
確かにフィジカルギフテッドボディは陽馬にとっては理想形ですね
ファットガムの個性と言うギフトの性能をどれだけ理解できるか

命(きぼう)の果てに
し、真司------!その最後はまさに英雄。
うっかり食べちゃったあちゃくらさんかわいい。
巻き添え食らっちゃった浅倉さんかわいそう




ヒミコ、ムスカ、ドクトル予約します

548 ◆5IjCIYVjCc:2025/03/15(土) 18:48:05 ID:.7jgGLeg0
登場禁止な支給品について、以下の物を追加します。
・石化装置(メデューサ)@Dr.STONE

549◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 21:57:40 ID:???0
投下します。

550◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 21:59:05 ID:???0
古代において、夜は死の象徴だった。
今より医学が発達しておらず、明かりも無い世界を出歩く危険性は死を意味した。

「ええい!なんだあの月は!ここは黄泉の国だとでも言うのか!」

ヤマタイ国の女王、ヒミコにとっても夜は恐怖だ。
古代日本においてそうだったかは分からないが、多くの神話において月は死の象徴である。
不気味な顔を浮かべ、3日後に落ちてくるその巨体は、まさに死のメタファーと言えるだろう。
死ぬことを恐れる彼女にとっては、その恐怖は何倍にもなる。

「太陽!太陽はまだ昇らないの!」

太陽信仰は最も原始的な宗教である。
日本各地で太陽へ向けて石を並べた聖地や、火の鳥のレリーフが存在する程だ。
貴人の墓には日輪の祭壇を設けるなど古くから慣習としても伝わる。
昔の人々はただ一つ命の源として生の象徴たる太陽を信仰していた。

「そうだ!」

息を吸い、大きく吐く。
発火の一瞬、眩い輝きを放つと、一直線に炎が放たれた。
燃える草木は彼女の行く道を照らす、たいまつ代わりとなる。

「ホホホ!明るくなった!アン、ドウ、トロア!」

常人なら立つことも出来ない灼熱の大地をものともせず、ヒミコはその上を楽しげにダンスする。
年老いて病に犯されていた頃は出来なかった、軽々しい動きだ。
燃えたぎるマグマで溢れた火山を住処とするオロチの身体は、火炎の最高位呪文すら無効にする。
大魔王ゾーマですら持っていない高い炎耐性を持つオロチならこんな道は余裕だ。
一直線に出来た炎の道筋は、まさに彼女専用のレッドカーペットといえる。

「火を操る力!実に日の巫女たる私にふさわしい!」

古代における火は、明かりであり、調理器具であり、武器であり、ライフラインだ。
日本神話におけるカグツチなど、火を奉る信仰は古くから存在する。
人間は火を扱えたからこそ、繁栄したのだ。

「しかし、暑さは平気とは言え蒸れるな……扇風機とアイスクリームぐらい用意しておかんか!」

そうして火を灯しながら進んでいくと、
玉座が飾られた前方後円墳の影が見えた。
地図で言うところの『玉座のある古墳』である。

「なっ、墓ではないか!?エンギが悪いわっ!」

卑弥呼がどのように葬られたかは作中で語られていないが、魏志倭人伝にこの様な史料がある。
『卑弥呼以死 大作冢 徑百餘歩 ?葬者奴碑百餘人』とあり、
簡単に言えば、『卑弥呼の墓を直径百歩の大きさで作った。奴隷が百人程殉死した』と言う意味。
彼女の墓として有力説とされるのが、奈良県の箸墓古墳である。

「こんなチンケな墓に玉座だと?ふん、女王は私1人で充分じゃ」

276mの箸墓古墳と比べれば、確かに小さいと感じるだろう。
死を忌み嫌うヒミコにとっては縁起でもない施設だが、調べてみる。
わざわざ地図に書かれている程の玉座だ、女王として気になりはする。
頂上へと登れば、座ったものを次王として讃える虎の毛皮が被せられた玉座が置かれている。

「ほう、確かに良い椅子じゃ、座り心地も良い。ヤマタイ国に持って帰るとするか」

ちなみに『玉座のある古墳』と称されているが、この古墳のロケ地は群馬県高崎市にある八幡塚古墳である。
5世紀頃に作られた豪族の墓とされるその古墳は、平成の時代に綺麗に舗装され、復元整備されたものだ。
ん?平成?舗装?

「お前たちの平成って醜くないか?(幻聴)」ダッテージンセーハイッカーイ♪
「誰じゃ醜いと言ったのは!その目つぶしてやる!……気のせいか」

完全に気のせいなのだが、この椅子に座っていると平成を私物化して歴史を舗装する男の声が聴こえそうな気がした。
椅子をヤマタイ国に持って帰ろうかとも思ったが、その気も失せた。

「これはなんだ?虫けらの顔か?」

椅子の脇にはヒミコの目が見てもよくわからない置物がある。
常磐ソウゴが集め、常磐SOUGOが奪い、この古墳で手元に置いていた平成ライダー達のライドウォッチなのだが、意味がわかるはずもない。

551◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 22:00:21 ID:???0
「それになんじゃこの土くれは、墓への供え物か?」

この古墳には道沿いに筒状の円筒埴輪が配置されている。
また、一般的によく知られる人や動物を模した形象埴輪は、少し離れた内堤部分に綺麗に並べられている。
 
「こんな土くれより人間を埋めるのはどうじゃ?
偉大な女王の死を悲しんで何十、何百人も後を追う!フフ美しい話じゃ。映画にすると絶対泣かせるぞ」

埴輪という文化が生まれるのは、彼女の没後から一世紀ほど後の為、それが作られた意味が理解出来ない。
人型の埴輪は無駄に生き埋めとして死ぬ民の命を救うために考えられたものだ。

「しかし!私はヤマタイ国の永遠の女王!墓なんて作る気は無い!いつまでも若く、いつまも美しくあるのだ!」

ヒミコは日本における太陽信仰の祖である。
彼女の名の一説に日御子というのがある、文字通り太陽に使える者だ。
また、一説によればヒミコと、古事記に書かれている天照大御神は同一存在であるとも称される。
火の鳥世界の古事記は、後にヤマトが作り出したプロパガンダのため、この説は採用出来ないのだが、
なんにせよ太陽という火のメタファーを背後に持つからこそ、権力と宗教が結びつき彼女は王女として恐れられた。
カメの甲を火にくべて、その割れ目で罪を決めるなんていう、でたらめな占いであってもだ。

「祝え!これが新たな女王の門出となる1ページ目じゃ!」

大きく炎を吐けば、古墳に飾られた円筒埴輪に沿って一斉に火が走っていく。
まるでウォズがこの場所でゼロワンや常磐ソウゴを祝ったときの光景を再現するかのように。

「目が、目があああああ!」
「何事だ!」

叫び声が上がった。
暗闇の中、急な炎の閃光で目が眩んだらしい。

「貴様もこのヒミコの糧となるがいい!」

叫び声を頼りに進めば、地面に付きそうなほど長い髪に、手足の先まで衣服に包まれた少女が見える。
この様な和装はヒミコの時代にはまだ無かったが、質の良い衣服という事は理解できる。
ヒミコは目を擦る女へと近づき、その面を見た。

「あ、ああ!」

ヒミコは別の意味で目が眩んだ。
それは、目の前の人物があまりに美しすぎたからだ。

思わず天女、あるいは神かと思った。
それは、太陽と対比される存在である月の姫。
かぐや姫として現代まで語られ、その美しさから5人の貴族を虜にした絶世の美女。
まだ竹取物語を知らぬヒミコであれ、その美しさは理解できる。

「……なんて美しいの」
「私と勝負するかね!」

目を押さえて錯乱していた美少女は、次の瞬間には自信満々にドヤ顔を決めていた。
せっかくの美貌もその中身は混沌としていた。

「私は素晴らしい力を持つムスカ大佐DA!」
「ふ、ふん、おだまり!私はヤマタイ国の女王、ヒミコだぞ!」

ヒミコはなんとか気を保つ。
どれだけ相手が美しかろうと自分には力があるのだと、自信を鼓舞する。

「これはこれは王女様ではないか!私はラピュタの正当な王位継承者ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ。君はラピュタ王の前に居るのだ」
「楽太郎だかロビタ王だか知らんが、そんな国は聞いたこともないわ!」

ヒミコが知っているのは火の国クマソやマツロ国、ヨマ国、そして日本国王の印を賜った魏の国といったところだ。
これが返答代わりと、その美しい顔めがけて『ほのお』を思いっきり吹き付けてやる。

「何をする!目がああ、目がああああああああ!」
「ホーホッホ!まっこと醜い!」

歴史に残る程の美貌は一瞬で失われた。
目を抑え、爛れてしまった部分を守るその仕草は痛々しさしか感じない。

「なんと楽な身体よ!」

火を自在に扱える立場になったという時点で、ヒミコにとって自分は神様になったも当然だ。
こんな力があれば、もう自分に敵う人間は居ない。その事がヒミコは嬉しくて仕方がない。
老いて病に伏せていたときとは比べ物にすらならない龍の力を思う存分に震えるのだ、さぞかし格別な気分だろう。

「簡単!!簡単!!」

歴史上において八岐大蛇の名が登場するのは、卑弥呼没後の古事記であるためその伝承を彼女が知っていたかは定かではない。
どちらにせよ、こんなにも強い身体があれば優勝も簡単だろうと慢心するのは変わらない。
強さを得た身体に溺れる様な笑みを浮かべながら、その怪力を振るい止めを刺そうとする。

552◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 22:03:18 ID:???0
「何度でも蘇るさ!」
「えっ」

ムスカが抑えていた手を外せば、顔に覆っていた痛々しい火傷は即座に代謝が進み、シワの一つもない綺麗な白い肌へと戻っていく。
彼の肉体たる輝夜は蓬莱の薬を飲んだことで不老不死の肉体を持ち、外傷を負っても再生する。
稗田阿求によると、同様に薬を飲んだ藤原妹紅は『怪我の治りが異様に早く、大怪我を負っても数日で元通りになる』と称されている。

「おおおおおまえ!その身体!まさか!火の鳥の血を飲んだのか!」

ある意味では近い、輝夜は火の鳥たる藤原妹紅と日頃から殺し合う程の仲だ。
輝夜の身体は炎術を操る彼女と三百年も殺し合い、焼かれることを経験している。
グレートアクターによる耐久の向上も合わせれば、死ぬ程のダメージではない。
この程度の炎ならば、死に達するよりも、治るほうが速かった。
痛みはあるのだが、何度も死んでは生き返る戦法を主体に行うムスカにとっては慣れたものだ。

「おのれ!ならば、そのハラワタ食らいつくしてやる!」

やまたのおろちは生贄として若い娘を好んで捕食していた。
それに引き摺られたのか、思わず食らいたいという言葉が出た。
ヒミコは知らない事だが、蓬莱人の生き肝を食すると食べた人も不老不死になると言われている。
ハラワタを食ってしまえば、ヒミコは念願の不死になれると言えるだろう。

ヒミコは正体を現し、怪竜やまたのおろちへと姿を変えた。
隣の古墳と並ぶほどの巨体になると、5つの頭でもう一度狙いを付ける。
今度は顔面だけではなく全身を覆える程焼き尽くせるように、大きくいきをすいこむ。

「ハハハ!君にぜひ見てもらいたい!ラピュタ王の命乞い!」

『ひのいき』、『もえさかるかえん』、『はげしいほのお』と、次第に威力が高まる炎がムスカへと迫る。
ムスカは避けもせず、地面に伏せ高速で頭を下げた。

「私はGO★MI★DA!許して許して許して許して!いい子だ!いい子だ!私はいい子だから!」

幻想郷で起きた第二次月面戦争ではスキマ妖怪が月人に頭を下げたが、この世界では月の姫が許しを請うという逆の構図となった。

「情緒不安定か!ソーウツ病ならメンタルクリニックに行け!」

MAD動画仕様のツギハギセリフは、急に笑ったり落ち着いたり媚びたりと落ち着かない。
思わず手塚漫画特有の時代背景に合わないカタカナ語が出る。

ムスカのふざけたリアクションは、それだけ余裕があるということだ。
どんな卑怯な手段を使おうが最終的に勝てばよかろうなカオスバトルの住民にとって、命乞いなんて相手のペースを崩すためのただの手段に過ぎない。

「ムス(怒)私をあまり怒らせない方がいいぞ!よく眠れたかな?私は頑丈だよ」

ムスカは土下座をやめ、不機嫌になりつつも煽りで返す。
高温で焼かれた身体は非常に痛々しいが、何一つ意に返さず、じわじわと治っていく。
支給品で向上した防御力や、地に伏せて直撃を避けたのもあるが、『はげしいほのお』は戦闘の経験を積んだ人間なら数発は耐えられる威力。
藤原妹紅に幾度となく焼かれた彼女を即死させるには至らない。
ムスカ自身もカオスバトラーとして、サイヤ人やらウルトラマンやら仮面ライダーやら上弦の鬼やらの強敵達と戦わされてきた男である。痛みには慣れている。
どれだけ高威力な攻撃で爆死しても怯まず、次の瞬間には平気な顔で何度でも立ち上がるのがカオスバトルムスカだ。

「おのれ!火が効かんならば、この牙で食いちぎってやる!」
「歯歯歯歯歯歯歯!読める読めるぞ!」

オロチの5つの頭は、人間が1行動できる間に2度の行動を可能とする。
それなのに噛みつきは何一つ当たらず、ムスカはひらりと身を交わす。

輝夜は『永遠と須臾を操る能力』を持つ。
須臾とは、凄く短い時間の事である
人間が感知出来ない程の一瞬で、彼女はその一瞬の集合体だけを使って行動する事が出来るという。

一瞬の猶予があれば、首の来る方向を読んで回避するのは容易い。
ヒミコの方も慣れない巨体で、感情任せのやみくもな動きというのもあるが、ムスカは28歳(32歳の場合もある)にして大佐に上り詰めた程に狡猾な男。瞬時の判断は速い。
ラピュタ本編でもロボット兵の対処に、即座に冷静で的確な指揮を出していた。

また、ムスカが経験してきたカオスバトルはその多くがノーガード戦だ。
枠に囲まれて回避が出来ず、相手の技に耐えられなければ即座に負けとなる戦いを繰り返してきた。
それと比べれば、今回の戦いは避けていいうえに、グレートアクターで高まった回避と輝夜の能力による猶予時間もあるのだ、楽なものだろう。

553◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 22:04:21 ID:???0
「おのれ!私は日の元の女王だぞ!おとなしく食われろ!」
「汚静かに!私はサンは嫌いです!」

急にもののけ姫をdisったのではなく太陽を意味するSUNだ。
ムスカが属するカオスバトル四天王には松岡修造という者がいる。
太陽の様な暑苦しさを武器にし、何度もムスカと腕を競った腐れ縁であった。

「さっさと逃げればいいものをwwwww」
「何を笑うか!その美しさ!不死の身体!私によこせ!」

欲しいは正義だ。ほんの目の前にある美しく不老不死の身体。
ヒミコが生涯を通じてずっと追い求め、手に入った瞬間に失ったもの。
それが目の前にあって、諦めて逃げるなんて事は出来ない。

「シューティング玉座の的は城壁じゃないか」

だけど、ヒミコの噛みつきはムスカには届かない。
ムスカは空耳語録を駆使し、弾幕を放ち自らを狙うオロチの首を撃ち落とす。
まさに城壁のようだ。

「これは僅かだが心ばかりのお礼だ、とっておきたまえ。見ろ!この巨大な飛行石を!」

ムスカを中心に幾何学模様の魔力が集まり魔法陣となり、宝石の様な輝きを放つ。
それは飛行石ではないが、太陽の輝きにも似た深紅色のルビーを彷彿とさせる。

「見せてあげよう、ラピュタの雷を!」
「雷だと!?おいばか!よさぬか!」

ヒミコの身体が身震いした。
高耐性を持つオロチだが、勇者が放つ雷属性の技は弱点である。
肉体のプロフィールを事前に目を通していた事でその事は知っていた。

「旧約聖書にあるソドムとゴモラを滅ぼした天の火だよ、ラーマヤーナではインドラの矢とも伝えているがね」

大嘘である。

「氏ねえええええええ!」

動画サイトの規制対策に【死】を【氏】として伏せる言い回しだ。
全方位へと放たれたレーザーとヒミコを直接狙う巨大な赤い玉が合わさった弾幕は、幻想郷最速の天狗でもなければ回避は難しい。
やまたのおろちの巨体も、ただの的にしかならない。

ムスカが放ったそのスペルカードは、新難題「エイジャの赤石」。
どこかの不老不死の一族が太陽を克服するために求めた秘石の名前が付けられている。
それが太陽信仰の祖へと放たれたのは、ある意味皮肉だろう。

「うぐっ……雷じゃ、ないのか……」

音声素材の都合ゆえに雷と称しただけで、このスペルカードは雷属性でもなんでもない。
この石の熱さは天狗曰く石焼き芋の石並み。やまたのおろちの熱耐性なら、衝撃のダメージはあるが耐えられた。

「君にぜひ見てもらいたい!最高のショー!」

たび重なる戦いを経験したムスカは、ここで油断して攻めを止める様な男ではない。
取り出したのは善滅薬。心に宿る悪の心を増強させる薬だ。
漆黒のオーラが身を包み、ムスカの力をさらに引き上げる。

「私はメガァアアアアアムスカ大佐だ!」

カオスバトルを始めとするMAD動画において、ムスカはフリー素材の様な扱いをされる。
ネット黎明期から玩具にされ続けた男は、伝統芸能のように同じセリフを繰り返すだけではない。
ライバルの赤い道化師のMADが、新素材により令和ドナルドとして再ブームを起こしたように、ムスカもメガシンカを遂げる。

「凄い!凄い!凄い!」

カオスバトルでムスカが出来ることは、ラピュタ本編のツギハギだけではない。
例えば動画によってはドナスカ大佐というキャラになり、ドナルドと融合させられたこともある。
他のバトラーと協力関係を築き、タッグ技を生み出す事もある。
カオスバトルがMAD動画である以上、素材の追加や組み合わせにより新たな展開はできるということだ。

「封印が解けたのだ!ロリごっこは終わりDA!」

輝夜はロリのように見た目は若いが数億年は生きている。
彼女の『須臾を操る能力』は応用すれば異なる複数の歴史を持てるという。
その詳細には不明な点が多いが、作中でも永夜返しの際に霊夢、魔理沙、咲夜、妖夢、幽々子の弾を使いこなしていた事から、平行世界の力を扱えるのではないかとの考察がある。
その能力によりムスカは、異なる歴史を歩んだ自分を音声素材として追加した。

554◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 22:05:34 ID:???0
「初めて私の姿を見たときから、君はすでに負けていたのだよ。私の恐怖……テラーにね」

音声ツギハギではないスムーズなセリフ。
今のムスカより数十年は年季を得た声。
インターネットにおいてムスカは、俳優ネタで寺田農の関連作品と組み合わされる事がよくある。
善滅薬と輝夜の能力を組み合わせ、ムスカというネットミームに刻まれた悪……すなわち寺田農の演じたヴィラン達のセリフを新素材として追加した。
そうはならんやろ?なっとるやろがい!
ムスカはカオスバトルを無秩序にすると称される程に自由な男。
カオスバトルはルール無用、超展開はよくあることだ。

「こ、怖くなんかないぞ!私は神!私の権力は絶対なもの!なんでもできる!」
「はははははは!嫌いです!さっさと死ねぇ!」

神という言葉は、好敵手たる赤いアフロの教祖様を彷彿とさせ苛立たせる。
信者達が『神ィ!?』として教祖を信仰しているからだ。
あのピエロにラン★ラン★ルーという言葉とともに爆破されたり、ハンバーガーで潰された思いが蘇り、即座にムスカを苛立たせた。
もはや運営に気を使うこともなく、伏せ字もやめた。

「3分間舞ってやる!」

その怒りは隙だらけのヒミコへと、腹いせにぶつけられる。
音MAD用語に『ドラム』という言葉がある。
アニメ等のワンシーンの音を加工し、繰り返すことで文字通りドラムの音にする事だ。
アニメのMADなどでは人を殴るシーンなどを繰り返して使われる事がよくある。

今ヒミコが受けているのがそれである。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ!」
「グァァ!グァァ!グァァ!グァァ!グァァ!」

カオスバトル動画の前身となった、うごメモの『ドナルドVSムスカ』のように逐一妙なポーズを挟みながら竜の頭部へと高く飛びラッシュを決める。
ふざけているようにしか見えないが、その威力は計り知れない。

「アホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホアホ!」
「グァァ!グァァ!グァァ!グァァ!グァァ!」

能力で瞬時に移動し、ヒミコが状況を理解するよりも早く、次の頭部の目の前へ。
肉体の輝夜には巨大な金閣寺の一枚天井を持ち上げたとの逸話もある。
善滅薬でさらに高まったその怪力を振り下ろせば、やまたのおろちの巨体だろうとダメージは入る。

「ゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミゴミのようだ!」
「グァァ!グァァ!グァァ!グァァ!グァァ!」

3分間リンチし続けた。
それはムスカの体感時間であり、実際には数十秒程の光景だった。
ラピュタ本編でも3分と言いつつ50秒で切り上げる男に時間感覚を求めてはいけない。

「グアアアアアアアア!」


ド ン ★


『やまたのおろちを やっつけた!』
『5300の けいけんちをてにいれた』
『やまたのおろちは たからばこをおとしていった!
ムスカは たからばこを あけた!
なんと くさなぎのけん をみつけた!』

テテテッテッテテー!

『ムスカのレベルがあがった! Lv53のようだ!』

カオスバトル仕様で何故か発生した爆発とDQ演出があわさり、非常に騒がしくヒミコは倒された。

【ヒミコ(身体:ヒミコ@ドラゴンクエストIII そして伝説へ)@火の鳥 黎明編 撃破】

555◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 22:06:51 ID:???0

「グ……グオォアア……」

倒されただけで死んでいない。
変身が解け、元の人間態へと戻ったが、まだ生きている。

やまたのおろちは非常にしぶとい魔物だ。
勇者達に一度は倒されても、ジパングの屋敷に逃げ出してすぐに2回戦目を続けられたり、
勇者が火山から撤退するたびに律儀に最深部に待ち受けるせいで、経験値稼ぎやモンスターメダルの吟味にも何度も狩られたり、
勇者達に2度も倒された後も『あやしいかげ』に化けて襲いかかったり、
氷に封印された洞窟にて何体にも増えて再度行く手を阻むなど執念深い。
そのしぶとさから格闘場の人間に捕まり、魔物同士で殺し合わされたうえに勇者達に大金を賭けられた事もある。

また、大魔王ゾーマが倒された後も仮死状態のまま生き延び、ロトの紋章を継いだ者達と『ヤマタノオロチ・強』として激戦を繰り広げたなんて話や、
冒険者の大地アストルティアにて、ジパングからの刺客を名乗るやまたのおろちが現れたなんて噂もある。
そんな逸話が数多くある、タフって言葉が似合いそうな生き汚い魔物である。

「殺される、いやだ……死にたくない……」

肉体的にはまだ戦える。
だけど、その肉体を操る者は限界だった。
ヒミコはそもそも人生で一度も戦った事が無い。
鍛えた己の力ではなく、でたらめな呪術や占いで人を脅して権力を手に入れてしまったのだから当然だ。
拷問や処刑ですらいつも部下任せにしてきたのだ。
初めて受ける暴力の嵐に戦意を喪失してしまった。

日食という現象がある。
月が太陽の光を完全に覆ってしまう事だ。
古事記の中でも天岩屋戸伝説として残っており、ヒミコも若い頃に経験している。
月の姫により、死の恐怖に呑まれた日の女王はまさに、その現象を思わせる。
あの天の怒りに震えて隠れることしかできなかった時を再現するかのように、ヒミコは怯えることしか出来ない。

「ビルが溶け、人が死ぬ。この街では良くあることだ」
「死ぬのか……私はまた、嫌……まだ生きていたい……」
「いつまでも、あると思うな仇桜ってな、イェ〜イ!」
「嫌だ!死ぬのは嫌!死ぬのだけは嫌!」
「おんなじことしか聞かねんだもなぁ、同じこと答えるよ」

ムスカは寺田農が演じた、どこかの風都の黒幕や対話宇宙人や民の党の幹事長のセリフを引用しつつ煽り散らす。

「"ノブレス・オブリージュ"。高貴なる者には背負うべき責任がある。我々呉島は俗物とは違うのだ。分かったな、貴虎」

呉島貴虎ではない。

「……死にたくない……誰かたすけてくれ、そうだ!スサノオは、スサノオはどこだ?」

自分で追放した弟にすら助けを乞う。
その姿はムスカには笑えて仕方がない。
何たる無様か、王の姿かこれがと。

「ハハハ!素晴らしい命乞い!」

ムスカは、カオスバトルでこれまでに何度も死んできた。
死んでは生き返りまた死んで生き返り、バルスされ、爆死する。
終わりがないのが終わりである生と死の因果。
カオスバトルで敗北しようが優勝しようが、待っているのはまた次のカオスバトルだ。
そんなムスカはもはや死を怯えるなんて事はなく、彼女が怖がる理由か分からない。
ムスカにはどんな事をしてでも、戦いに勝ち続けることしか頭にない。
もしかしたら、ムスカの心は繰り返される戦いで壊れているのかもしれない。

「……取り込み中悪いが、聞きたいことがある」
「へぇっ!?医師の制服さん!」

そう笑っていたムスカに白衣を着た男が不意に声をかけた。
カオスバトルで乱入者のエントリーはよくあることである。


■■■

556◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 22:08:08 ID:???0


シャドウ雪子との戦いを終えたドクトルは入れ替え装置を探すため、近くの施設である古墳へと南下していた。
古墳の周辺はオロチの吐いた炎で溢れている。
そんな暑さで長くは居られない様な場所も、ガシャコンソードの炎吸収があれば近づく事ぐらいはできる。

「……放送で言っていた、入れ替え装置を見つけたか?」
「君の家の古い暖炉にあった」
「……………なんだと?」
「君の気持ちはわかるが、どうか手を引いてほしい、君も男なら聞き分けたまえ」
「真面目に答える気はないようだな」

ドクトルは質問が茶化されたことに思うことはない。
医者という職業は会話が通じない人間と数多く会うものだ。
それならば、ただ倒すだけだ。

「君にぜひ見てもらいたいものがあるんだ、死ねぇ!」

戦いを邪魔されたムスカは、答えはこれだと言わんばかりにリボルバーを発射。
ドクトルは即座に仮面ライダーブレイブへと変身し防ぐ。

「ハハハ!凄まじい破壊力!恐るべき科学力のロボット!金属なのか!粘土なのか!木の根なのか!」

仮面ライダーブレイブの姿を見て、そう呟いた。
カオスバトル動画において仮面ライダーシリーズは常連であり、ムスカも何度も手合わせした相手。
同じくエグゼイドのライダーである檀黎斗とは、何度も復活する戦法を使う者同士で競い合う仲だ。
ムスカの相手として不足はなかった。


■■■


「……今のうちに……ひきあげじゃあ……」

ムスカが乱入者の相手をしているうちにと、地面を這うようにゆっくりと逃げ出す。
無様な自分の姿と死の恐怖に涙を流しながら、目の前の現実から少しでも離れようとする。
ふと、少し遠くに何やら渦のようなものが見えた。

「……む……なんじゃ……」

それは、かつてこの古墳で常盤SOUGOが作り出した、平成生まれだけを選んで吸い上げる穴。
――――ではない。

「あれは……」

それはヒミコが無意識に発動した『旅の扉』を作り出す能力だ。
やまたのおろちは倒された後、この力でジパングの屋敷へと逃走した逸話がある。
ヒミコはこの中に入れば逃げられると、感覚で理解した。
渦はすでに消えかけている。
ボロボロの身体を無理して立ち上がり、急いで駆け出した。

「どこへ行こうとyouの金★流行りのムスカは嫌いですか?」

敵をそう簡単に逃がす様なムスカではない。
ドクトルとの戦いを中断し、ヒミコの元へと駆け出す。
一時期Tiktokで流行っていた空耳語録を言いつつ急いで追いかける。

「おおお鬼ごっこ!私と★私と★鬼ごっこ★」

思わずうごメモで人気だったカービィのBGMに合わせたムスカMADのリズムを刻む。
シータを追いまわしたねっとりとしたシーンを倍速したカサカサとした早歩きで駆ける。

「気色悪いわ!ええい!ゴールドアストロン!」
「目があああああああああああああ!」

慌ててバッグから黄色い玉を取り出し、ムスカへと光線を放った。
走りながら光を浴びたムスカは頭から黄金化していき、目を抑えたポーズのまま地面へと倒れた。

これだけで逃げられるわけではない。
敵は1人だけではない。カオスバトルは全員敵のバトルロイヤルだ。
ムスカより出遅れた事で黄金化の範囲外にいたドクトルもまた、ヒミコを追いかける。
咄嗟に炎を放つが、ガシャコンソードに防がれ何一つ効かない。
動きを封じようと放った、やけつくいきは全身を覆ったスーツで防がれる。

「わ、わわわわ、私の側に近寄るなああああああ!!!」

旅の扉まであと数メートル。ヒミコは大きな『おたけび』を放った。
ドクトルは驚き竦み上がった。
その隙を付き、ヒミコは飛び込んだ。
旅の扉は消えていった。


■■■

557◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 22:09:02 ID:???0


「逃げたか……」
 
渦は消えてしまいもう追いかけることは出来ず、静かな時間が過ぎる。
ドクトルからすれば何の成果もない戦いだった。
目を抑えた変なポーズのまま黄金化した麗人を見て、数年前に相手を人形に変える楽士がいたという話をふと思い返したぐらいだ。
支給品でも回収していこうかとも思ったが、バッグも黄金化してしまい、取り出すことは出来ない。

「これは……」

だがよく見れば、黄金化したムスカから少し離れた所に、数粒の薬と紙切れを見つけた。
先ほどムスカが服用した残りが、転んだ際にこぼれ落ちていた。

「……悪の心を解放する薬だと?」

善滅丸とその説明書きだ。
すでにZBRをキメている身。飲んでは自分の身が持つか保証は出来ない。
薬物の過剰摂取が禁忌とされるのは医者ならよく知っている。

「使うにしても、最終手段だな……」

それは悪になりきれないドクトルにとっては特効薬ではあった。
あの子を救えるならば、この身が滅びろうとも構わない。
迷いはしたが、拝借はしていく。
いずれ必要となるかもしれないとポケットに忍ばせた。


■■■


(私はキンカ大佐だ)

黄金化してもなおムスカの意思は続いていた。
ドクトルが薬を拝借しているのを見ていることしか出来ない。

(アホ死ね!私をあまり怒らせない方がいいぞ!!)

黄金化が解除されるまで何もできないことに苛立つ。

(ハハハさっさと逃げればいいものを)

とは言え、ムスカはしたたかな男。
蓬莱の薬の力でこんな黄金化はすぐに解いて、さっきのピエロのように不意を付いて殺してやろう。
ムスカはそう思っていた。

(待て、待て待て待て!お前ここで待て!誤解していた!来たまえ!こっちだ!)

そう思っていたのだが、一向に黄金化が解除されない。
それどころか効果が解けるよりも早く、ドクトルは目の前を去っていく。

(バカ!待て!待って待って待って待って待っていて!返したまえ!3分間待って!いい子だから待って!)

それもそのはずで、黄金化は状態異常を事前に防ぐ呪文、キラキラポーンの効果すらも無効にしてしまうほど。
飲んだ者を元の状態へと戻す蓬莱の薬といえど、この時ばかりは大人しく時間切れまで待ち続けるしか無かった。

「封印が解けたムスカ大佐の復活を祝ってくれたまえ!」

しばらく経ち、ようやく元に戻った時、ドクトルはもう去っていた。

「へぇっ!?」


■■■


「ハァ……ハァ……よかった、生きている」

ヒミコは命からがら逃げ出した。
全身に暴行を受けた痛々しい姿は、従者が見れば『いったいどこで こんな おけがを なさったのやら……』と呟くだろう。

「なんで私がこんな目に合う!ヤマタイ国の女王だぞ!下民とは違う!」

死の恐怖という現実から逃避するかのように、怒りが止まらない。
自分はこんなにも苦しんでいるというのに、不老不死に強さと美貌までも兼ねそろえたムスカが憎くてたまらない。

「にくいっ!!」←バンパイヤ

コマ内に別の手塚漫画のタイトルが書かれそうなほど、牙を出して口元を大きく開いた。
手元のアリシアのナイフ……どこかの憎しみの魔王が抱いた、その始まりの感情を受け継ぐかのように握りしめる。

「私をこんな目に会わせおって!今に見ていろ!あの身体、絶対に手に入れてやる……!」

一生をかけても手に入れたかった、不老不死の身体が手の届く範囲にある。
すぐにでも入れ替え装置を見つけ出して自分のものにしたいのだ。

「だ、だが……もし、装置が見つからなければ……」

鉄で出来た筒の様なものを取り出す。
それは、摂取した者に不死の様な生命力を与えるという道具だ。
今にも飛び付きたい気持ちはあるが、どんな変化が起こるか分からないというデメリットがある。
自らの美しさを維持したいヒミコにとって、元々使う気はない道具であったのだが、先の戦いで考えを改めた。
殺されかけた恐怖に震える彼女に不死の様な生命力は、それだけ魅力的に映るのだ。

「ヒ、ヒヒ……死ぬよりはマシか……」

その道具は、言ってしまえば生命に対しての侮辱だ。
打ったものを生きものの本質から離れた存在へと変えてしまう。
その名前をGウイルスという。

558◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 22:11:06 ID:???0


※D-3を中心にヒミコが吐いた炎が点在しています。このまま燃え広がるか自然鎮火するかは不明です。
※玉座近くに常磐ソウゴが集めたライドウォッチ@劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzerが置かれています。
※ヒミコがどこに行ったかはお任せします。

【一日目/D-3 玉座のある古墳/黎明】
【ムスカ@カオスバトル】
[身体]:蓬莱山輝夜@東方Project
[状態]:一回死亡、善滅薬1粒摂取、全身に所々焼かれた跡(再生中)
[装備]:リボルバー@天空の城ラピュタ、グレートアクター@Caligula2、くさなぎのけん@ドラゴンクエストIII そして伝説へ
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0?3(確認済み)、善滅丸×2@真説ボボボーボ・ボーボボ
[思考・状況]基本方針:見せてあげよう、ムスカの雷を!
1:小僧(パズー)! 君はラピュタ王の雷で焼き払ってやる!
[備考]
※制限により輝夜の肉体は2回までは死亡しても生き返りますが、3回目で完全に死亡します。
※復活のタイミングは自由ですが、制限により死亡後5分経てば強制的に肉体が元に戻ります。復活の場所は元の居場所から視界に入る圏内ならばある程度指定可能です。
※ムスカ側の仕様により死亡時はその場で小規模な爆発を引き起こします。爆発音は響きますが、巻き込まれても大した影響はありません。これにより死体は残りません。
※天空の城ラピュタ内のムスカのセリフ以外の言葉を発する事は出来ません。セリフの組み合わせによるある程度の改変は可能です。
※空耳語録の使用、同音異義語への言い換えは可能とします。
※善滅丸&異なる歴史を持つ能力で寺田農が演じたキャラのセリフ素材も言えるようになりました。
※カオスバトルに参戦したキャラの知識があります。ただし、パズーとドナルドへの執着の方が強いので、なにか切っ掛けがなければわざわざ思い返すことはありません。

【一日目/D-3 玉座のある古墳から離れた場所/黎明】
【ドクトル@Caligula2】
[身体]:鏡飛彩@仮面ライダーエグゼイド
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)
[装備]:ゲーマドライバー@仮面ライダーエグゼイド
[道具]:基本支給品、ズバリ・アドレナリン(残り9個)@ニンジャスレイヤー、タドルクエストガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ガシャットギアデュアルβ@仮面ライダーエグゼイド、善滅丸×2@真説ボボボーボ・ボーボボ
[思考・状況]
基本方針:真莉愛の理想と幸福を叶え、贖罪を終える
1:医者が人の命を奪う。その行為に、最早躊躇いはない。
2:入れ替え装置及びリグレット(肉体)を捜索する。
3:リグレット(肉体)と一旦身体を入れ替え、優勝後にリグレット(精神)と装置を使い身体を返す。
4:善の心を消せる薬か……
[備考]
※参戦時期は第8章前
※リグレットの精神及び天吹茉莉絵が主催の手の内にある可能性を考えています。

【一日目/不明/黎明】
【ヒミコ@火の鳥 黎明編】
[身体]:ヒミコ@ドラゴンクエストIII そして伝説へ
[状態]:ダメージ(中)、死への恐怖(大)
[装備]:アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、イエローオーブ@ドラゴンクエストシリーズ、Gウイルス@バイオハザード RE:2
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本方針:優勝し、永遠の命を得る
1:オロチに変身するのは醜いが、いざという時は仕方がない
2:あの美しく不死身の身体(ムスカ)!欲しい!入れ替え装置を探さねば。
3:Gウイルス……使いたくはないが、死ぬよりは……
4:あの小娘共(椿、チャット)。次会えば喰ってやる。
[備考]本編死亡後からの参戦です。
※DQ3本編で使用した、ひのいき、もえさかるかえん、はげしいほのお、おたけび、やけつくいきは使用可能です。
他媒体でやまたのおろちが使った技については不明です。
※作中で行ったテレパシーによる会話や旅の扉の作成も可能とします。旅の扉は短期間に連続で作成はできません。

559◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 22:11:59 ID:???0


【くさなぎのけん@ドラゴンクエストIII そして伝説へ】
現地調達品。
やまたのおろちを最初に倒した際に、必ず落とす一点物の剣。
どこに隠し持っていたかは不明だが、おそらく元ネタの日本神話同様に体内に隠されていたのだろう。
句楽兼人のヴィクティブレード同様、肉体に付属する武器として現地調達品扱いとする。
中盤の剣としては申し分ない攻撃力を持ち、道具として使うとルカナンの効果で相手グループの守備力を下げられる。
最近のHD2D版では物理ダメージ計算式が変わったため使い所が減った。


【常磐ソウゴが集めたライドウォッチ@劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer】
会場に配置されたアイテム。
ジオウ本編からOQまでに常磐ソウゴが集めたクウガからビルドまでの19個のレジェンドライドウォッチ。
三段重ねのウォッチダイザーに6個ずつ嵌められ、一番上にはディケイドライドウォッチが嵌められている。
映画本編では常磐SOUGOが奪い、玉座近くに置かれていた。この世界でもそのまま置かれている。
ジカンギレードなどライドウォッチを読み取る支給品があればその力を引き出せる。

なお、ジオウライドウォッチが支給禁止の変身アイテムに抵触するためアーマータイムは不可能。
また作中において一部のライダーが、ライドウォッチを使って変身を行っている描写があるが、
これはあくまで本来の変身者や関係者故に可能だったものと思われるため、このロワではライドウォッチ単品での変身は出来ないものとする。

【イエローオーブ@ドラゴンクエストシリーズ】
ヒミコに支給。
このロワの参戦作品ではDQ3とDQ11に登場する黄色い玉。デザインはDQ11のものとし台座は付いていない。
6色のオーブを集めて祭壇に捧げれば神鳥ラーミアの復活や虹の橋を架けるのに使える。
もし今後やまびこのふえが支給されたら、その音に反応してやまびこを返してくる。

DQ11では、このオーブのチカラを解き放つ事で相手を黄金の塊へと変えてしまうゴールドアストロンという技がある。
黄金になった者は1〜2ターンの間一切の行動が出来ない代わりに、何一つダメージや状態異常を受けない無敵状態となる。
このロワでも体力や魔力を消費する事で発動でき、効果の射程は数メートルとし、2名まで一度に黄金化できる。

また、魔王ウルノーガにこのオーブを授けられたマヤはオーブと融合し、鉄鬼軍王キラゴルドとしての装甲を身に纏った。
よく見ると尾の部分にこのオーブが付いている。このロワでもキラゴルドになれるかは不明。


【Gウイルス@バイオハザード RE:2】
ヒミコに支給。
アンブレラ社が作り出したウイルス兵器。
打ったものに不死とも言える生命力と、予測不能な進化を短期間に何度も与える。
作中のメモによると侵食が進むにつれ、自我や言語能力は数日間に亘って徐々に低下していき最終的には喪失するとされる。
これは作中でウィリアム・バーキンが打ったもの。
彼の場合は瀕死状態から即座に立ち上がれる程に回復した……その後G第一形態へと変貌したが。
「強烈な攻撃力と不死とも言える生命力を備えたG生物」byバイオハザード公式X

560◆N9lPCBhaHQ:2025/03/20(木) 22:13:36 ID:???0
投下終了です。

タイトルは554までが
『切って貼った 誇張されたラピュタ王が居たよ 虚構のコラージュを貼るよ』

555からが
『死んでた 老人が隣でじっと見てたよ 生きるため 見てたよ 見てたよ』

でお願いします


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