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オリロワVRC
1
:
◆QUsdteUiKY
:2022/12/18(日) 21:32:46 ID:MZN.pX2U0
彼らは『本物』を手入れるためにもデスゲームに参加する。
叶えた夢、書き換えたい世界、誰もが一度は夢見る美少女徘徊。様々な思惑を胸に、喜劇のイベントは悲劇へと変わる
640
:
だから、刹那は筋を通す
◆QUsdteUiKY
:2024/12/05(木) 20:07:54 ID:3agxMAAA0
「それにしてもなんでオナニーなんてしてたんだ?」
ふと、シエルが刹那に問い掛ける
「あ、それ聞く?聞いちゃう?」
「まあ気になるからな」
殺し合い開始して早々にオナニーなんてどうかしてる。別に疑うわけでもないが、ちょっと気になったというのがシエルの本音だ。
「……実はボク、リアルではほぼインポみたいな感じなんだよ。ホルモンやってっから勃ちがめちゃくちゃ悪くて、全然勃起しないって感じ?」
「……?それがどうかしたのか?」
「シエルンはわかんないだろうけどさー、意外と辛いんだぜ?これ」
「どこらへんが辛いんだ?」
「ボクとjust Hしてみたいって仲良いダチが言ってきたからさ、まあやることになったんだけど……リアルのボクはしなしなちんぽで罪悪感が酷かったよん、あの時は」
――黒百合との初体験をシエルンに教えてやる。まあ黒百合って名前は出さないけどね?流石にダチのプライバシーくらい守るぜっ、ボクは!
ちなみにそれ以降、黒百合とはjust Hしてない。ボクが正直に事情を教えて謝ったら、あいつは快く許してくれたことをよく覚えてる。
「なるほどな。まあたしかにjust HはVRCの文化ってよく聞くし、それに誘われたらリアルでも勃つのが普通って聞くもんな。刹那が罪悪感を覚えるのは……わからないでもねえな。俺はjust Hしたことないからそこまで理解はしてやれねえけど、何か気まずい雰囲気になりそうってのはわかった」
こくこく、と頷くシエルン。
事情が多少はわかったなら、それで良し!
……なーんてボクは思ってたんだけど、シエルンがジトーって見つめてくる
「そんなに見つめてきて、どうしたんだよっ!」
「……そのダチっての、まさか仔猫ちん?でも仔猫ちんがそういうことするの、想像出来ねえな」
「違う違う、仔猫じゃないよん。相変わらずシスコンだにゃ〜、シエルンは」
「じゃあ誰?いのり?」
やたら追求してくるな!?
「ひ・み・つ!でもコセイ隊やぼっちの集いのメンバーじゃないぜっ」
「それなら……いいんだけどさ。いや俺がjust Hアンチってわけじゃないぜ?でもなんとなく、気になっただけだ!」
「なるほどねー、まあシエルンもそういうの気になるよなっ!うんうん、気持ちはわかるぜっ」
テキトーに相槌うっておく。
それにしてもこの反応……さてはシエルン童貞だな?
まあボクも童貞だから童貞煽りはブーメランになるんだけどさ〜。
「……で、そのエピソードと仔猫ちんオカズにシコったこと何の関係があるんだ?仔猫ちんを愛してくれるのは兄貴としては嬉しいけどさ」
「インポで嫌な思いしたし、それにまあアバター姿になったらからつい……ね!ケツの方も嫌な思い出がリアルであったし!」
「つい……で殺し合い始まって早々にシコんないの。最初に見付けたのが俺じゃなかったらあぶねーし、刹那が死んだら仔猫ちんやいのりが悲しむだろ?それに俺も悲しいからな」
それさっきも言われた気がするけど……まあそれだけ心配してるってことかな。なんだかんだ優しいシエルンらしいっちゃらしい。
ボクはホルモンやってる時点で短命確定してんのに、それでもこんなに心配されるってのは悪い気がしない。まあ短命確定してるからってこんなデスゲームで死ぬつもりはないけどにゃ〜。
「わかった、わかった。ボクが悪かったよ」
「……ん、わかれば良いぜ」
こーしてボクはシエルンにわからされた――って言うと何か誤解を招きそうで面白いけど、本気で心配してくれる奴をからかうほどボクも腐っちゃいないっ!シエルンの善意は確かに受け取ったぜっ!
それにしても仔猫は今頃どうしてるんだろうな?変な輩に絡まれたり、襲われてなきゃいいけど。
いのりのバカはバカだからたぶん大丈夫――って状況でもないよなぁ、だってこれガチの殺し合い臭いぜ?ゲームマスターの野郎が悪趣味な死体なんざ見せてきたから、それが否が応でも理解出来る。
641
:
だから、刹那は筋を通す
◆QUsdteUiKY
:2024/12/05(木) 20:09:46 ID:3agxMAAA0
そう考えると……たしかにいくら嬉しくてもオナニーなんてしてる状況じゃなかったにゃ〜、これは。シエルンが心配するのもよくわかる。だってボクも仔猫やいのりが心配だかんな。
もみじ?あいつは何かワケアリな匂いがするから大丈夫じゃねーかな。まあ心配っちゃ心配だけどさ。
だからこいつらと、ぼっちの集いを最優先に探したいわけだけど――見つかるかにゃあ?
まあ色々な場所を虱潰しに探索するしかねーか。
あとは首輪解除の方法。こいつを外さなきゃどうしようもないかんな。
「それで、どこに移動する?ボク達はコセイ隊やぼっちの集いを探さなきゃなんないし、首輪解除の方法も探らなきゃだけど」
「……刹那、まさか首輪外せる技術あるのか?」
「さぁねぇ。気合いでなんとか?」
「流石にこんなモン気合いで外せねぇよ!」
「くふふっ、まあそれくらいわかるぜ。ただのじょーだんだよ、じょーだん」
なーんてシエルンをからかう刹那ちゃん。我ながらkawaii!
でもここはVRCの世界だし、何があってもおかしくない。気合いで外せるってのも――案外あったりして。
主催者が何を考えてるかわかんねえけど、なんでもアリなのがVRCだかんな。
「まあ順当に行くなら、モデリング技術あるやつを探すとか?でも既に完成したモデルをどうこう出来るわけねぇっ、ともボクは思うワケなんでさぁ」
「んー……本当に難しそうだな、首輪を外すの」
「まあそりゃ簡単に外れたら主催者的につまんねーんじゃねえの?でもゲームバランスなんて気にするゲームマスターだ、どっかに穴はあるはずだよん。わざわざハッピーエンド目指すなら首輪外してからなんて言う奴だしな、あのゲームマスター」
「たしかに自分からあんな宣言するってことは何か首輪を外す手段があるってことか」
意外と理解力のあるシエルンにうんうん、と頷く。
「なるほどなぁ」と呟くシエルン。
「刹那ってもしかして頭良い?」
「いや、これくらい常識だろ?まあシエルンはその反応からして、気付かなかったようだけどにゃー」
「ぐぬぬ……」
ボクが少しからかうと悔しそうな表情をする。からかい甲斐があるにゃ〜、シエルンは。表情にすぐ表れるし。
642
:
だから、刹那は筋を通す
◆QUsdteUiKY
:2024/12/05(木) 20:10:54 ID:3agxMAAA0
「まあそれはともかく――」
恥ずかしさから顔を赤くしたまま、シエルンは別の話題を出そうとしていた
「俺は刹那の恋を応援するけど、仔猫ちんと付き合ったらjust Hしちゃダメ。そういうのは好きな人とするもんだろ?」
ピュアッピュアな話題だった。
そういえばシエルン、俺より年下なんだっけ。それにしてもピュアだなっ!
まあでもそこら辺の気持ちがわからないボクでもない。シエルンの言ってることはピュアだけど、それを馬鹿にする気はない。むしろ言ってることは真っ当だ。
「やっぱりシエルンってピュアッピュアだなっ!」
「ピュアっていうか、付き合ったら筋通すのが当たり前じゃねーの?」
「そりゃその通り。それが出来ない奴も世の中多いけど、男の娘としてそこら辺の筋は通していきたいよにゃ〜」
――ボクが目指すのはハーレム主人公じゃなくて、一途な主人公だ。
いや、ハーレム主人公もカッコいいタイプはいると思うよ?でも仔猫に一途で在りたいとは思う。
……昔のボクならそんなこと考えなかったけど、コセイ隊に入ってから変わりすぎたかにゃあ。
ま――悪い気はしないからいいけどさ。
「男の娘でも男らしく筋を通す――か。うん、刹那らしい答えが聞けて良かった!それでこそ俺のダチだ」
シエルンが満足そうにニッと笑うから、つられてボクも笑った。
――それにしても、このデスゲームに黒百合が参加してなくて良かった。
コセイ隊やもみじ、ぼっちの集いはデスゲームに巻き込まれて残念だけど……そこに黒百合まで加わると探すメンバーが増えるし、それに黒百合はちょっとこういう場所だと心配な性格だかんな。
「よし、じゃあ話は済んだな。兎にも角にもボク達が探してる奴らを見付けようぜ、こうしてる間にもどうなってるかわかんないからにゃあ」
「ん、そうだな。まあぼっちの集いはこんなことでどうにかなるわけないって信じてるけど――それでもやっぱ心配。総長(リーダー)の俺がなんとかしなきゃな」
「俺が、じゃなくて俺達が――だろ?ボクもいるんだからさ〜」
「ははっ、それもそうだな。俺達がみんなを助けるんだ。行くぜ、刹那!」
「応!この〝暴風の刹那〟がついてんだ、シエルンはボクにもっと頼ってもいいんだぜ?」
「そう?じゃあ期待してるぜ、刹那」
「ああ、期待に沿ってやんよ。――で、どこに移動する?」
「うーん、そうだな――。俺もそれまだ考えてなかった」
【F-8/一日目/黎明】
【刹那】
[状態]:健康
[装備]:日本刀
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:GMをぶっ飛ばして、技術だけ奪うに決まってんだろっ!
1:シエルンと手を組んでやるよっ!
2:コセイ隊の二人ともみじを探す。……ま、ついでにぼっちの集いも探してやんよっ!
3:アルカードのバカ対策に対吸血鬼用のメタでも考える?
4:首輪解除も考えないとにゃ〜
5:黒百合がこのデスゲームに巻き込まれてなくて良かったにゃあ
6:で、どこに移動すんの?
[備考]
【シエル】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:GM潰すゾ!
1:刹那と手を組む
2:いのり、真白、仔猫ちんを最優先で探す
3:どこに移動しようか考えなきゃな
[備考]
643
:
◆QUsdteUiKY
:2024/12/05(木) 20:11:19 ID:3agxMAAA0
投下終了です
644
:
◆QUsdteUiKY
:2025/01/17(金) 19:08:42 ID:bfBvLXsQ0
投下します
645
:
VS外道人斬(げどうのひときり) 序章
◆QUsdteUiKY
:2025/01/17(金) 19:10:31 ID:bfBvLXsQ0
赤音はレイティアとの戦が〝剣士〟や〝警察〟――いや、それどころか〝人〟としての最後の果たし合いだと決めていた。
それからは、自らのために人の道を踏み外すと――外道に堕ちると。
だがそれでも自身のためでもあるとはいえ、レイティアに恩義を感じて生かしたのは赤音の性格ゆえか。
もっともレイティアが提案に乗らなければ、助けずに居た可能性もあるのだが。
つまりレイティアは自身の覚悟の他、創造武具の性能のおかげで命拾いしたといっても良いだろう
(俺の創造武具が別の性能だったらこの子はどうしてたんだろうな……)
創造武具の性能ゆえに命拾いしたことはレイティアも自覚している。
もちろん赤音がレイティアに恩義を感じたことも大きいのだろうが、それでも提案を蹴ったならばあのまま放置されていた可能性はレイティアも考えている。
だから赤音のふざけた提案に乗ったのだ。まだ死にたくないから。夢を掴み取りたいから。
そのためならば赤音が他者を蹂躙しようとも、構わないと思ってる。そういう意味ではレイティアも外道なのかもしれない。
赤音の外道は己が願望のために剣士としての――侍魂を投げ捨て、人斬りになったこと。
そしてレイティアの外道はそんな赤音の行為を容認し、夢を掴むためなら他者を蹂躙しても構わない心。そのためなら意地でも生きるという気持ちか。
(まあ色々考えても仕方ないか。それにしてもこの子、見た目に反してシンケンジャーの腑破十臓みたいだな。願望のために外道に堕ちるところなんてそっくりだ)
赤音の行動が昔見た特撮の登場キャラに似ていて、ぼんやりとそんなことを考える。
十臓の方は葛藤などはなかったが、彼もまた斬り合うことで快楽を得るために外道に堕ちた身。
だとするならば赤音にもシンケンレッド――志葉丈瑠のようにライバルが現れるかもしれない、なんてレイティアは考えたが……
(シンケンジャーはあくまでフィクションだ。俺が創造武具で相手を強化しても、この子のライバルになれそうな奴なんているのか?)
赤音の実力を身を以て思い知ったからこそ、そんな考えに至る。というかこんな最強クラスがゴロゴロ居ても、それはそれで優勝を目指すレイティアとしては困るのだが。
だから赤音と互角に戦えるなんてそうそう居ないと思っておく。赤音を倒すだけでもレイティアにとっては無理ゲー感が凄まじいのに、こんな化け物と互角に戦えるやつが居てたまるか。
そんなことをレイティアが考える中、赤音はデイパックから拡声器を取り出していた。
(ちょ……アレは拡声器!バトロワの死亡フラグじゃん!)
レイティアはデスゲームものを色々と知っている。そこにはもちろん、バトルロワイヤルというジャンルを生み出した原点の映画やその影響を受けて生み出された作品の数々も含まれる。
ゆえに赤音が拡声器を取り出したのを見て、ギョッとした。
646
:
VS外道人斬(げどうのひときり) 序章
◆QUsdteUiKY
:2025/01/17(金) 19:11:25 ID:bfBvLXsQ0
「そんな表情(かお)をしてどうした?」
赤音が不思議そうにレイティアに質問する。
そこでようやく、自分の内心が表情にあらわれてることを理解したレイティアは――
(何やってんだ、俺!俺は今、26歳のニートおじさんじゃない。美少女軍人、レイティアなんだぞ。レイティアならこんなことで狼狽えないだろ、しっかりしろ!)
そんなことを自分に言い聞かせる。
拡声器は怖い。だがそんなものを恐れていたら、この先生き残れないだろう。
それにレイティアが優勝するには目の前の強大な壁――赤音を倒さなければならないのだ。拡声器に恐れる程度の度胸では、到底そんなこと叶わない。
だからレイティアはレイティアとして軍人らしく自分なりにカッコ良い振る舞いをロールプレイする。そうすることで、少しだけ勇気がわいてくる気がする。もっとも、自分の夢のために他者の夢を蹂躙しようとしている外道に〝勇気〟なんて言葉は似合わないかもしれないが。
「いや、なんでもない。ところでその拡声器で何をする気だ?」
なんとなく察してはいるが――それでも一応確認をするレイティア。
「強者を――私のことを畏れず挑んでくる者を集めるつもりだ。君は私が守るから安心してくれて良い」
(やっぱりそうきたかァ〜〜。まあこの子が守ってくれるなら死ぬ気はしないけど……)
赤音は強い。おそらくこのデスゲームでもトップクラスの強さを誇ると、レイティアは思っている。そんな彼女に守られるのなら、安全は保証されたようなものだ。
(でも、本当にそれでいいのか?)
軍人レイティアとして、考えると――それはあまりにも情けなく、惨めだった。
今の自分には戦うためのチカラがある。それなのに本当に守られてばかりで良いのか?
だが残念ながら――レイティアの得意戦法はまだ使えない。召喚の手袋を再び使うにはまだ時間が必要だからだ。
(こんな時に戦えないなんて……情ねぇなぁ〜〜、俺は)
そんな自分に多少なりとも嫌悪感をいだく。
情けない。不甲斐ない。夢を叶えるために赤音に挑んだのに、その結果がコレだ。
(……でも、まあ仕方ないか。俺は誇り高き軍人じゃない。レイティアというガワを被っても……そこは簡単に変えられるもんじゃないんだわ。それに赤音の提案を呑んだ時に決めたからな。どんな意地汚くて、生き恥を晒しても生きて――夢を掴むって)
この状況が悔しくないと言えば、嘘になる。
だが、夢を叶える為ならばそんな悔しさも我慢しよう。……それくらいの気概がなければ、優勝するだなんて無理だと理解しているから。
それに赤音が能動的に他のプレイヤーを斬って、減らしてくれるなら好都合だ。当たり前のことだが、人数が減れば減るほど優勝に近付く。
その考え方は、外道的だが構わない。夢を叶えるためならば、外道にでも堕ちてみせよう。
647
:
VS外道人斬(げどうのひときり) 序章
◆QUsdteUiKY
:2025/01/17(金) 19:12:03 ID:bfBvLXsQ0
(はは……これじゃまるで美少女軍人レイティアじゃなくて外道衆だな。それでも――俺は夢を叶えたい)
自分はシンケンジャーのような主人公側にはなれない。そんなこと、赤音と手を組むと決めた時からわかってる。誇りや信念なんてクソ喰らえ。それでも意地はある。ゆえに譲れないものだけは――夢だけは叶えさせてもらう。
「成る程。それならば貴君の満足いくように、その道具を使うといい」
「ありがとう」
赤音はレイティアに礼を言うと拡声器に口を近付ける。こんなことにいちいち礼を言うなんて律儀な性格だと思うが、長年剣道をし、警察官という職業でもあったから自然とそういう態度が身に付いたのだろう。
(外道に堕ちた割に、外道になり切れてない感もあるな、この子)
そんなことをぼんやりと考えるレイティア。まあ赤音は満足出来る戦いを求めて外道に堕ちたがゆえに、あまり深く考えるものじゃない気もする。死に物狂いで夢を掴もうとするレイティアとは、求めてるものが些か違うのだ。
レイティアは優勝して夢を叶えるのが目的だが、赤音は強者と戦えるならば優勝だなんて気にもしてないだろう。
そこら辺、才能を遺憾無く発揮してきた者とそうじゃない者の違いを否が応でも思い知らされる。
もっともレイティアはイラストだけなら一流で、イラストレーターとして仕事しないかと声を掛けられたことも何度もあるが――彼が目指すのは漫画家。それも原作付きではなく、ストーリーも自分で考えるタイプだ。
いい歳してそんな夢を見るなんて馬鹿げてる。素直にイラストレーターになれば良いと理解はしている。けれども捨て切れないから夢は〝希望〟にも〝呪い〟にもなるのだ。
(まぁいいか。俺はこの子を利用して夢を勝ち取るんだ。……そのためにも戦闘中、この子の戦術や手癖、弱点とかを分析しなきゃな)
もしもレイティアと赤音のみが生き残った場合、赤音と勝負することになる。
赤音は今は強力な用心棒に成り得るが、いつかまた戦う時が来るかもしれないのだ。その時は容赦なく赤音を襲うつもりでいるし、赤音もそれを望んでいるだろう。
方法は問わない。いくら外道的な方法でも、赤音はいずれ殺す。
だがまだ今は観察する段階だ。そうしているうちに赤音は次々とプレイヤーを屠り、レイティアの優勝も近づくことだろう。
召喚の手袋の仕様――というかストック問題もあるので、レイティアとしては赤音が勝手に暴れてくれるのはありがたい。ストックを溜めつつ参加者を減らせるのは好都合だ。
そして――赤音は拡声器で叫ぶ。
説明書によると、周囲1エリア分に及ぶ拡声器らしく、誰かが釣られることに期待して。
「私は赤音。鬼炎赤音だ。私はこの殺し合いで、外道となり他の参加者を殺すことに決めた。私を止めたければ、F-5まで来てほしい。暫く待って誰も来なければ――私から他の参加者を斬りにいく」
――と、ここまで聞けば他の参加者を集める術としては微妙だろう。赤音は己が強さを自覚しているから、それくらいわかる。
「ちなみにこちらには対象を強化するスキルの持ち主がいる。もちろん強化する対象は君たち――挑戦者だ。だから安心して来てくれ。私を殺さなければ優勝も、ハッピーエンドも無理だ」
そう言い終えると、赤音は拡声器を下ろしてその場に座り込んだ。
(あー、これが強者の余裕ってやつか)
赤音は自分の強さを自負している。そのことがレイティアにも嫌と言うほど伝わる態度だ。
もしかしたらレイティアが裏切る可能性もあるのに――その時は再び勝つつもりでいるのだろう。
それがレイティアにとって苛立ちもするが、同時にこれ以上なく頼もしい相手と組めたとも思った
そして二人は自分達――まあ厳密には赤音のみだろうが、この化け物に挑もうとする勇者を待つ
648
:
VS外道人斬(げどうのひときり) 序章
◆QUsdteUiKY
:2025/01/17(金) 19:12:50 ID:bfBvLXsQ0
【F-5/一日目/黎明】
【レイティア】
[状態]:ダメージ(特大)、覚悟完了
[装備]:我らは大隊、蹂躙せよ(ラストバタリオン)@スキル
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2、召喚の手袋
[思考・状況]基本方針:最後のチャンスとして優勝を目指す
1:赤音と行動する。優勝するにはそれしかないよな……
2:赤音を出し抜く算段は考えておきたい。そのために戦闘になったら弱点などを分析する
3:赤音の頼み通り敵と戦う際はスキルで援護……援護?
[備考]
※召喚の手袋は三時間に一回、召喚権がストックされます。
召喚できるNPCは最大二体、本ロワのキャラシで投下されたNPC十種類が対象です。
【赤音】
[状態]:ダメージ(小)裂傷(軽微)、高揚、鬼修羅の右腕一本腕欠損(時間経過で回復)、覚悟完了
[装備]:赫炎神将・鬼修羅@創造武具、獣狩りの刀
[道具]:基本支給品、ポーション×2、拡声器
[思考・状況]基本方針:満足できる戦いをしたい。
1:戦おう、心行くまで。
2:レイティアと行動する。約束は破らない限り私から破る気はない。
3:拡声器の効果で誰か来るか待つ。来なければ自分から殺し回る
[備考]
※鬼修羅のダメージは時間経過で戻ります。
また、ダメージのフィードバックはありますが、
傷はそのままフィードバックせずダメージだけです。
※鬼修羅は赤音の指示を念じずとも自動的に行動します。
まだ動かしたばかりであるため、簡素な動きしかできません。
また、視認か存在を認識できる範囲を離れられず、七曜の発動も赤音の命令が必要です。
※本名は鬼炎赤音(きえん あかね)です。
649
:
VS外道人斬(げどうのひときり) 序章
◆QUsdteUiKY
:2025/01/17(金) 19:14:11 ID:bfBvLXsQ0
○
痴漢さん、輝月、つばきの三人は支給品を確認した後、中文梗博物館を出て移動していた。
移動手段は車だが、これは三人のうち誰かに車が支給されたというわけじゃない。
つばきが自身のスキルで支給品のうち1つを車に変化させたのだ。発案者は輝月。手元を離れると1分程で元に戻るというスキルの都合上、運転手はつばきだ。
「タヌキに運転させるとは……」
「あら。今のあなたはどこからどう見てもケモミミと尻尾を付けた人間よ」
つばきの愚痴に対して、何の遠慮もなく意見する輝月。彼女が言う通り、今のつばきは人間状態のアバターを使用している。
「そういう問題じゃないのじゃ……。これは人間に化けてるだけで、ワシは本来タヌキなのじゃ……」
とほほ……と呟くつばきだが、輝月と口論しても勝ち目が薄いと察してるのか、仕方なく運転している。
(車の運転が出来るということは、成人以上で確定かな)
輝月からスキルを利用されてるつばきを若干哀れみながらも、痴漢さんはつばきのリアルについて考えていた。
というのも、つばきは謎塗れだ。本人に何を聞いてもまともな答えは返ってこないだろう。
そういうロールプレイはVRCのユーザーでもたまにいるし、なんなら痴漢さんは今まで散々エッチなことをしてきている。
エッチの最中にロールプレイを楽しむ者だってよく見てきたから、ロールプレイを否定するわけじゃないが――つばきは少々、危なすぎる。
こんなデスゲームでもロールプレイを続行するなんて狂人のソレだ。
主催者を説き伏せるためには仲間を集めるのは必須だろう。そういう意味ではいきなり二人も仲間が増えたのは良いが……二人とも何かと危険な要素を秘めている。
ゆえに痴漢さんは二人を冷静に観察する。つばきの情報は些細なことでも覚えておきたい。仲間として行動するには互いのことをよく知る必要があるからだ。正しい情報を聞き出せないなら、推測したら良い――と痴漢さんは考えた。
「痴漢さん、タヌキがVRC出来ると思う?」
楽しそうに質問してくる輝月に、痴漢さんは少し引いた。
(それは私もツッコミたいところだけど……きっとタブーだと思う……)
ゆえに痴漢さんは苦笑いを浮かべて。
「まあ……化け狸なら出来るんじゃないかな……」
と答えた。
650
:
VS外道人斬(げどうのひときり) 序章
◆QUsdteUiKY
:2025/01/17(金) 19:14:49 ID:bfBvLXsQ0
感情が表情に出てしまったのは、輝月があまりにも簡単につばきのタブーに触れようとするから。そして単純に痴漢さんがそういう真っ直ぐな性格だからだ。
痴漢なんてする奴が真っ直ぐなわけない――と思うかもしれないが、痴漢さんは愛ある痴漢を好み、愛なき痴漢は嫌う。
痴漢さんは昔、貧乏だった。
というかホームレスだった時代もある。
それは痴漢さんに非があるわけじゃなく、単純にそういう家庭に生まれたというだけ。
貧乏ゆえにロクに服も買えず、ヨレヨレになるまで着続けた。小学生や中学生の頃、それを馬鹿にされて学年中の女子からハブられた。
そしてまだ弱者だった痴漢さんは、ある日――クラスの男子、複数人からレイプされた。
その時、痴漢さんはエロいことを嫌い、男は穢らわしいと思った。しかし女友達もいなく、女もまた怖いと思っていた。
やがて痴漢さんは人間不信が原因で不登校になる。
そして家計も厳しくなり、ホームレスにならざるを得なくなった。
痴漢さんは今でこそ誇り高き痴漢だが、昔は本当に悲惨だ。
しかしホームレス生活の最中、ゴミ箱を漁っていたら『GOD FINGER 迅』という本に出会った。
その漫画の主人公である社会からはみ出した逸脱者にして、ただの痴漢――鷹取迅は痴漢でありながら誇り高く、レイプ紛いの痴漢を繰り広げる輩と戦っていた。
エロ描写もあるのに不思議と読む手は止まらず、どんどんページを捲る痴漢さん。
そして読み終えた頃には――鷹取迅の生き様に惚れていた。
エロへの嫌悪感も消えていた。
それが痴漢さんが痴漢になった原因。ビギンズ痴漢だ。
その後、痴漢さんはバイトを始めた。たまたま店長がいい人で、身なりを整えて家まで用意してくれたのだ。
ちなみにその頃、他の家族は過酷なホームレス生活で病気により亡くなっていた。母だけ途中で居なくなったが――性病で死んだと知らない男から告げられた。
きっと身体を売っていたのだろう、と痴漢さんは悟った
651
:
VS外道人斬(げどうのひときり) 序章
◆QUsdteUiKY
:2025/01/17(金) 19:15:01 ID:bfBvLXsQ0
だが痴漢さんは折れない。
必死にバイトをしながら、バイトへ行く途中――電車内の逸脱者らしき存在を見定めて痴漢を繰り返す。
相手は逸脱者――つまり痴漢されることを望んでいる者なので警察に通報されなかった。
最初は電動バイブを突っ込んで乗車するわかりやすい逸脱者から慣れていき――経験により目を培う。
そうして、彼女はどんどん痴漢スキルを身に着けていき、一流に至った。ちなみに悪しき痴漢は懲らしめていた。
そしてある日、偶然VRCをネットで知り――バイトで溜めたお金でハイスペックなPCとヘッドセットを購入し、今に至る。
「痴漢さんは嘘が下手なのかしら?」
(う……。痛いところを突かれた……)
輝月の言葉に思わず顔が引き攣る痴漢さん。
彼女は嘘や欺瞞が嫌いだ。そういう意味では輝月やつばきとは相性が悪いのかもしれない。
その時――
『私は赤音。鬼炎赤音だ。私はこの殺し合いで、外道となり他の参加者を殺すことに決めた。私を止めたければ、F-5まで来てほしい。暫く待って誰も来なければ――私から他の参加者を斬りにいく』
そんな声が三人の耳に入った。
痴漢さんと輝月は咄嗟に地図を広げるが、二人の表情は対照的だった。
痴漢さんは罪なき人々を守るために地図を開いたのに対して、輝月は好奇心から地図を確認した。
「……近い場所だな。二人を危険な目にあわせたくはないが――私はF-5に向かいたい」
「あら、奇遇ね。私も気になっていたところだわ」
そんな二人の言葉につばきは背筋が凍る。
「じょ……冗談じゃないのじゃ!どうしてワシが危険地帯に行かなければならないのじゃ!?」
「私達から向かわなくても、きっといつか出会うわよ。鬼炎赤音といえば剣道の達人。そんな彼女が誰も来なければ他の参加者を斬りにいくと言ってるのよ?」
「そんなに強いなら余計に遭遇したくないのじゃ!」
「そんなに強いから、今のうちにころ――倒すのよ。このまま放置したら次々と殺して、赤音のは装備が潤うだけ。そうなったら本当に勝ち目がないわ」
「それはそうじゃが……勝ち目はあるのか?」
「スキルを確認する時に見せたはずよ。私は斬撃波――月牙天衝を放てる。それに痴漢さんも強そうだし」
輝月達は中文梗博物館を出る前にスキルの使い方を確認している。
その時、輝月が面白半分で月牙天衝を真似てみたら――本当に出来たのだ。
「ああ。私は必ず負けない。――つばきちゃん、輝月。君たちを守り抜いてみせる」
輝月の言葉に、痴漢さんが力強く頷く。
「でも、ワシは何も戦う力が……」
「あるじゃない。この車も立派な武器よ。つばきのスキルは使い方次第でいくらでも化けるわ」
「でも……」
「まあ無理についてこなくてもいいよ。私達が歩いて向かえばいいだけだからさ」
怯えるつばきに、痴漢さんは優しく声を掛ける。
つばきの選択肢は――
652
:
VS外道人斬(げどうのひときり) 序章
◆QUsdteUiKY
:2025/01/17(金) 19:15:45 ID:bfBvLXsQ0
【G-5/一日目/黎明】
【痴漢さん】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[装備]:
[思考・状況]
基本:殺し合いの平和的解決を望む。痴漢を第一に優先したいけど少し自制しよう。
1:痴漢の技で殺し合いを止めてみせる。
2:痴漢の技で皆の心を助けたい。
3:とりあえず3人で行動。つばきちゃんは彼女の選択に委ねる
4:赤音と戦う
[備考]
※輝月、かしの葉つばきとある程度情報交換しました。
【輝月】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[装備]:
[思考・状況]
基本:一応生存優先、できれば優勝。
1:この病んでいて面白い人達に何を吹き込むか考えましょう。
2:気になることがあったら基本的には積極的に行動しましょう。
3:赤音と戦う。単純にどうして彼女が殺し合いに乗ったのかも気になるし、面白そうだわ
[備考]
※痴漢さん、かしの葉つばきとある程度情報交換しました。
【かしの葉 つばき】
[状態]:健康、支給品のうち1つをスキルで車に化けさせている
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、プラスマガン(タイプ25)
[装備]:
[思考・状況]
基本:こんなところで死にたくはないのじゃ。
裏:"素の自分"が存在しないことによる、"つばき"でなくなることへの潜在的恐怖
1:とりあえずは輝月と痴漢さんと一緒に行動するのじゃ。
2:ワシは……ワシはどうしたらいいのじゃ?
[備考]
※タヌキの姿になってるのは彼女のスキルの力ですが、彼女はタヌキの姿こそ元の姿と思ってます。
※デイパックもタヌキの状態で背負えるくらいに変化させて小さくなってます。
※普段からタヌキの姿で過ごす場合のイメージトレーニングをしているので、尾のある四足歩行アバターでも行動に支障はありません。
※痴漢さん、輝月とある程度情報交換しました。
653
:
◆QUsdteUiKY
:2025/01/17(金) 19:16:15 ID:bfBvLXsQ0
投下終了です
654
:
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 05:51:10 ID:JG1uEcwQ0
投下します
655
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 05:54:49 ID:JG1uEcwQ0
つばきは暫く迷い続けた。
というのも状況があまりにも最悪だったからだ。
痴漢さんは優しい言葉を掛けてくれたが、彼女達についていかなければつばきはデスゲームで一人ぼっちということになる。
(嫌じゃ……こんな場所で一人ぼっちになるのは嫌じゃ……)
つばきは所詮、ただの人間だ。
かしの葉 つばきという役にのめり込んでこそいるが、常識はあるし、当然死ぬのも怖い。
そして根は普通の感性を持つからこそ、こんなデスゲームで一人ぼっちになることを恐れる。
オルガに擬態していたのだって、ネタではなくデスゲームに対する恐怖心からだ。
(でも……二人についていくと戦いは避けられないのじゃ……。そうなったら最悪、ワシは……)
――殺される。
そう考えるだけで背筋が凍るから、あえてつばきは考えないようにした。
「ワシは……お主たちのように命知らずではない……」
その言葉を聞いて、輝月は嘲笑うかのように「そう」と返した。
命知らず。それはとんでもない侮辱だが、輝月は客観的に見てそういう評価をされても仕方ないと思っている。
しかし、痴漢さんは違う。
「あのなぁ……私達は命知らずじゃない。殺人鬼を止めに行くだけだよ」
「それが、命知らずだと言ってるのじゃ!」
「――――」
そう叫ぶつばきに、痴漢さんは――
「私達の手の届く範囲に、惨劇を繰り広げようとする殺人鬼がいる。きっと彼女を放置したら多くの犠牲が出るだろう。そんな危険人物を見過ごすことは私には出来ないし――それが命知らずだというのなら、それでもいいよ」
656
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 05:57:58 ID:JG1uEcwQ0
本心を包み隠さず話して、つばきを真っ直ぐと見る。
その瞳には曇り一つない。何かに怯える様子もない。
相手は剣道のプロ。輝月曰く、伝説的な存在。
――だが、それがどうした?
痴漢さんは相手が何者であろうが恐れない。どこまでも真っ直ぐで、正義感のある痴漢だ。
悲惨な過去を送ってきたからこそ、他人の痛みがわかる。そして他者の悲鳴が聞こえたら駆け付けるし、悲鳴が聞こえる前に危険人物を止められるならそれ以上のことはない。
「ふふ……。痴漢なのに正義感が強いのね、痴漢さんは」
痴漢は立派な犯罪だ。
ゆえに痴漢さんのことは犯罪者みたいなものだと輝月は認識している。
もっとも彼女の性格は痴漢以外、善良だと思っていたが……まさか正義感が強いとは思っていなかった。
「違うよ、輝月。私はただ誰の悲鳴も聞きたくないだけ。まあ悲鳴が聞こえたら、その人を助けるために駆け付けるけどね」
「痴漢なのに?」
ふふ……と。
輝月は痴漢さんをからかうように笑いながら疑問を口にした。
「私は望んでない人には痴漢しないさ。まあつばきちゃんと出会ったばかりの時は仕方なく痴漢したし、悪人には容赦なく痴漢するけども……」
「へえ。それが貴方の〝痴漢〟なのね」
痴漢の癖して真っ直ぐで正義感が強いなんて――輝月からしてみれば興味を示す対象だ。元々面白そうだと思っていたが、想像以上に面白い。
(痴漢さんは私が見込んだ通りね。問題は――)
輝月はつばきをジッと見る。
「な、なんじゃ?その目は?」
視線を感じて、つばきはつい狼狽えてしまう。
タヌキキャラはどこへやら、実に人間臭い反応だ。つばきのことを精神異常者だと思っていた輝月は、その反応が心底つまらない。
今のつばきは〝かしの葉つばき〟という役にのめり込んだ狂人ではなく、ただの常識人だ。
(つばきは、つまらないわね……)
期待を裏切られた輝月は、つばきをつまらない人間だと思った。
(でも能力自体は使い方次第では面白そうだし……なによりつばきが完全にキャラを維持出来なくなって、素の状態丸出しになった姿を見たくなってきたわね。そうなったらつばきは、どう振る舞うのかしら?心をへし折れば――キャラを維持出来なくなるのかしら)
輝月はそんな腹黒いことを考えつつ、態度には出さない。
ただひたすらにつばきを見つめ、彼女を動揺させて――
「つばき。貴方が私達と別行動するのはいいけど、そうなったら一人よ?」
「そ……そんなこと、わかっておるのじゃ」
「一人の時に誰かに襲われたら――貴方はどうにか出来るの?」
「それは……」
輝月に対して何も言い返せず、つばきは俯く。
「輝月……。流石に言い過ぎだと思うよ」
「でも事実じゃない。一人で行動するより三人で危険人物に挑む方がまだ生存出来るわよ」
「それはそうだが、言い方ってものがある」
「痴漢さん。貴方の正義感や優しさは立派だけど、綺麗事だけじゃ伝わらないこともあるのよ」
「それは……そうかもしれないけど。でも……」
「……もういいのじゃ、痴漢さん」
痴漢さんと輝月の軽い言い争いを、つばきが止める。
輝月の言ってることは正論だと、彼女は受け取った。
厳しい言葉だが、身を案じてのことだろうと好意的に解釈した。
「輝月、お主の言う通りじゃ。たしかにワシ一人では、危険人物に対処出来ないからのぅ」
(なるほど。つばきはコントロールしやすいみたいね)
輝月は内心、ほくそ笑む。
つばきには矜持も誇りもないのか、と。
(――まあ、こんなデスゲームに巻き込まれて矜持や誇りを持ち合わせてそうな痴漢さんが珍しいだけかもしれないけど。それにしても本当につばきの素は一般人と同じような感性をしてそうね)
つばきの本性を見抜いた輝月は、冷静に分析する。一般人と似たような感性ならば、コントロールするのも容易い。
ゆえにつばきが次に口にする言葉も想像がつく――
「……仕方ないのぅ、ワシもお主たちに同行する。ワシはまだ……死にたくないのじゃ」
それはなんとも哀れで利己的な理由だ。
だが、それでいい。これだから人間は面白いと輝月は考える。
(当初予想していた面白さとは違うけど――及第点ね。つばき、貴方がタヌキなら私がその化けの皮を剥がして素の状態に――ただの人間にしてあげるわ)
輝月は決して善人ではない。というかどちらかといえば、悪人だ。
はっきり言えば性格が悪い。好奇心さえあれば他人も殺せるだろう。
657
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 05:59:22 ID:JG1uEcwQ0
赤音にこれから挑むのも、ただの興味本位だ。あの鬼炎赤音がどうして今回、人斬りの道に歩もうとしたのか興味がある。
それに痴漢さんの力量――というか本当に痴漢で危険人物と渡り合えるかも気になるし、自分のスキルで剣道の達人――それも生きる伝説と戦うのも面白い。
(それに――つばきの化けの皮を剥がすのにちょうど良さそうな相手なのよね)
つばきは常識的で、感性も一般人寄りだと輝月は理解した。
かしの葉つばきという役にのめり込んでいるが、どうやら恐怖心に駆られると素が出るらしい。であれば、つばきにはどんどん傷ついてほしい。そして無様に泣き叫んで自分は〝かしの葉 つばき〟ではなくただの無力な人間だと叩き込む。つまり精神をへし折る。
その結果、自殺したりするかもしれないが、それならそれで構わない。輝月にとってつばきは好奇心を満たすためだけの存在なのだから。
「つばきちゃん……本当に大丈夫なのか?」
痴漢さんがつばきに心配そうに声を掛ける。
輝月の言うことも一理ある。たしかにつばきを一人にするのは危険だ。だがつばきを危険な場所に同行させると思うと、少しは心が痛む。
痴漢さんにとってつばきは人間だ。自称タヌキだが、当然そんなことを真に受ける気もないし、そもそも本当にタヌキだとしても殺されたら胸糞悪い。
「大丈夫じゃ。ワシのことはお主たちが守ってくれるのだろう?」
「それは当然だ。私がつばきちゃんと輝月を守る!」
(あら。早速人間くさい弱さが滲み出てるわね、この自称タヌキ)
つばきの言葉が、輝月には自分が守ってもらう前提の姫プレイのように聞こえてクスリと笑った。
やはりつばきは弱い。脆くて、愚かしくて、どこまでも人間臭い。
こういう人間を騙したり、コントロールしたり、信用を得るのは簡単だ。
「ええ。もちろん私達が守るわよ」
そんな気はハナから無いし、なんならつばきにはどんどん苦しんでほしいけど。
そういう本音を笑顔で隠し、つばきの信用を得る
「でもつばき、貴方にも戦ってもらうわよ。それが私達が〝チーム〟になる条件」
Vtuberのつばきにとって、チームという言葉はさぞかし安心するだろう。
なにせ彼女は個人勢じゃない。グループに所属しているタイプだ。チームという言葉は即ちグループとほぼ同じ意味であり、グループ所属のVtuber――それも役にのめり込み過ぎているつばきならば、チームという言葉は大きな意味を持つだろう。
658
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 06:00:17 ID:JG1uEcwQ0
「わかったのじゃ。ワシも出来る限り戦う」
(出来る限り――ねぇ。そういう予防線を張るのも貴方の弱さね)
輝月はつばきの言葉に潜む弱さを見抜いて、内心ほくそ笑む。
「私は全力でみんなを守るよ。この鍛え抜かれた――痴漢技で」
(痴漢さんの性格はつばきとは真逆ね。嘘をついてるようにも見えないし……)
「いい心意気ね、痴漢さん」
「え?ワシは?」
「死闘を目前にして〝出来る限り〟なんて口にする貴方の心意気は、はっきり言って呆れる。まるでタヌキじゃなくて腰抜けの人間ね」
「な、なにおぅ……!」
つばきが怒るのを見て、輝月は内心嘲笑う。本当にこの自称タヌキはコントロールしやすい、と。
「まあまあ。つばきちゃんは荒事に慣れてなさそうだし……」
「それは私もよ。でも私は痴漢さんのために本気で挑むわ。そこの自称タヌキの腰抜け人間と違ってね」
「わ、ワシだって!ワシだって本気で戦うのじゃ!」
「あら、本当にその覚悟があるのかしら?」
必死に睨むつばきと、睨まれようが余裕の態度で煽り返す輝月。
(流石にこれはまずいな……)
二人の様子を見た痴漢さんは、二人の中に割って入った。
「輝月、言い過ぎだよ。それにつばきちゃんもすぐムキにならない。命大事に」
「痴漢さんがそう言うなら、もうこれ以上は言わないわ。本気で戦う覚悟があるなら、戦場で見せてもらえばいいだけでもあるし」
「良かろう。ワシの本気、戦場で見せてやるのじゃ!」
そしてつばきは支給品の1つを再び車に変える。
「さあ、乗るのじゃ!」
こうして痴漢さん、輝月、つばきは赤音が指定した場所へ向かう。
659
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 06:01:44 ID:JG1uEcwQ0
○
(……これは、エンジン音か?)
赤音と共に敵を待ってたレイティアは、エンジン音を聞いた。
それは赤音も同じらしく、なんだか嬉しそうな表情をしている
「どうやら私の誘いに乗ったものがいるようだ!!」
(うわっ、相手は車なんて凶器持ってるのにノリノリすね〜。まあこの子にとって車なんて大した脅威にならねーんだろうけど)
子供のように無邪気な態度になる赤音にレイティアは若干引く。やっぱりこの子、根っからのバトルジャンキーだと再認識する。
だがそれを表情には出さない。赤音の前では美少女軍人、レイティアで在り続ける。
それはレイティアの意地とか誇りではなく、単純にそう振る舞わないと幻滅されるかもしれないからだ。
「貴君にとってはこれ以上ない朗報だな」
「ああ。拡声器を使った甲斐があるというものだ」
「それは良かったな」
とりあえず適当に話を合わせるレイティア。まあ正直、どんな相手が来るのか不安ではあるが赤音がいるなら負ける気はしないし、赤音が誰かを殺せばプレイヤーの数が減るから好都合だ。
(我ながらゲスいこと考えてんな、俺。でもこうしなきゃ優勝なんて無理だし、夢だけは諦めたくないんでね)
ゆえに赤音を最大限に利用する。そこに迷いも躊躇もない。まあ最終的には再び赤音とタイマンすることになるだろうとレイティアは思ってるが、それならばその時までに色々なプレイヤーと当たって疲れたり傷がついたりしてもらわなければ困る。
「そういえば君は夢を諦めた惨敗兵だと自分のことを言っていたな。アレはどういう意味だ?」
「私にも夢があったが……実力不足で叶えられなかったというだけだ」
「そうか。ならこの果たし合いを生き抜いて生還して、再び夢を追わなければな。叶わなかった夢は、死ぬまで後悔として呪い続けると君は言ってたが――それなら死ぬほど努力して夢を叶えるしかない。君にはまだやり直すチャンスがある」
「……貴君のような天才には、私の苦労はわからんさ」
「私は天才じゃない。たしかに周りから剣の才能があると言われてたが……それがプレッシャーに感じることもあったし、血が滲むような努力もした」
(へえ。こんな漫画から出てきたような子でも苦労はあるんだな……。でも……)
660
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 06:02:13 ID:JG1uEcwQ0
「貴君には才能があったから努力が実を結んだ!才能がない凡人は、どれだけ努力しても所詮は凡人なのだ!」
「それでいいじゃないか。君の夢は天才になることなのか?」
「違う!私はただ、やりたいことをやって。それが楽しいから漫画家を目指したのにまともに連載すら出来なくて……っ」
気付けばレイティアの口調は赤音に対するロールプレイから崩れかけていた。
それほどレイティアにとって、漫画家になるという夢は大きかったのだ。
夢というものは呪いであると同時に、熱くさせるものだから――
「それならこの果たし合いが終わった後、再び挑めばいいじゃないか。大丈夫。君の夢は、君が死なない限りチャンスがある。それに才能が全てだ私は思わないぞ」
先程までの子供のような無邪気さはどこへやら。
赤音は落ち着いた様子で柔和な笑みを浮かべていた。それはまるで、レイティアの夢を後押しするように。
「だが、才能がない者は成功しない。それが世の中の常だと、貴君も理解しているはずだ」
「私はそう思わない。事実、君は世間から天才だと呼ばれてる私に怖気付くことなく挑んできた。きっとその時、君は自分の夢を勝ち取るために――惨敗兵のままでいないためにそうしたんじゃないか?」
「貴君は……意外と鋭いようだな。その通りだ」
「それだけ夢にかける想いがあるなら、努力を怠らなければきっと夢が叶うはずだ。私も最初から強かったわけじゃない」
(努力し続ければ夢はきっと叶う――か。まさか天才の口からそんな言葉が出るとはな〜〜。いや……この子も強くなるまで色々と苦労があったかもしれないし、安易に〝天才〟って言うのもよくないかもな)
「ありがとう。貴君の言葉……心に染みた」
それは嘘偽りないレイティアの本心だった。
嬉しかった。自分の努力を認め、背中を押してくれる赤音の存在が――本当に嬉しかった。
だからこの時レイティアは、無自覚的に笑っていて。そんなレイティアに赤音も微笑み返す。
「改めてよろしく頼む、赤音」
「こちらこそよろしく頼む、レイティア」
そして二人は握手を交わした。
他者を蹂躙すると決めた二人だが、そこには確かに絆が芽生えつつある。
(俺……本当にこの子を殺せるのか……?)
しかし絆が芽生えつつあるということは、相手を殺すことに迷いが生じるということだ。
ゆえにその気持ちはレイティアの表情にあらわれ、赤音は微笑む。
「レイティア。どうか私を殺すことを迷わないでほしい。君には私の屍を越えて、夢を叶えてほしいんだ。もちろん私も全力で応戦するが……お互い悔いの残らないように果たし合おう」
それは、気持ちのいいくらい清々しい言葉で。
だからレイティアは迷いを振り切り、最終的には赤音を殺すという目的もブレずに済んだ。
きっとそれを赤音が望んでるのだろうと、わかったから。
「わかった。赤音、貴君は必ず私が殺す」
「良い返事だ。レイティア、君のことは必ず私が殺す」
661
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 06:03:03 ID:JG1uEcwQ0
こうしてなんとも奇妙な友情が二人の間に生まれた。
そして――エンジン音は益々、近くなり。
「――鬼炎赤音はどこじゃあああ!」
車に乗ったつばきが叫ぶ。
「私だが?」
赤音が返事をすると、つばきは即座に全力前進で車を加速させて赤音に突っ込んだ。
「これで終わりじゃ、この危険人物が!」
そして痴漢さん、輝月、つばきを乗せた車が赤音に衝突。
――する前に、赤音が獣狩りの刀で車体を縦に真っ二つに斬った。
刀を振り抜く赤音の姿を見逃さず、殺気を感じ取って嫌な予感がした痴漢さんが咄嗟につばきと輝月を抱えて車から降りたことで三人は無事だったが、一瞬の判断が遅れていたらまとめて殺されていたことだろう。
そしてつばきの手を離れた車は支給品――大きな風呂敷へと戻り、バサリと赤音の体に被さる
そして輝月は――
(月牙天衝!)
手刀から高火力の斬撃波を放った。
「鬼修羅!」
しかし鬼修羅が二本の剣を交差して、輝月の不意打ちを防いだ。
「ど、どういうことじゃ!?今のあやつは視界が見えないはず……」
「きっと殺気を感じ取ったのだろうね」
つばきの疑問に痴漢さんが答えると、風呂敷を捨て去った赤音が頷く。
「そうだ。あんなにも強烈な殺気を感じたら、否が応でもわかる」
「なるほど。輝月の言う通り、なかなかの強敵のようだ」
痴漢さんが相手の強さに納得してる間も、赤音の攻撃は止まらない。
獣狩りの刀をつばきに振り翳し――
「させないッ!」
刃が届くよりも早く、痴漢技の雷が地面を走る。
赤音は咄嗟に攻撃を中断し、ジャンプすることで雷を躱す。
「月牙天衝!」
そんな赤音を輝月の斬撃波が襲うが、鬼修羅が再び相殺。
――が、今度は痴漢さんが たん、 と字面を蹴って上空にいる赤音に迫った。
赤音は獣狩りの刀を振るうが、これを痴漢さんは稲妻を纏った手刀で対処。もう片方の手で稲妻を叩き込もうとするが、鬼修羅が幾重もの斬撃を浴びせようと行動開始。
しかし痴漢さんは片腕を横薙ぎに払い、痴漢技の雷でそれらを防ぎ――赤音の胴体を蹴って字面に宙返り、着地する。
「ふふっ、強いな。君の名を聞きたい」
そんな呑気なことを楽しそうに言いながらも、赤音は上空で大勢を整え、獣狩りの刀を振り翳す。
落下する速度が威力に加わり、それは途轍もない破壊力を秘めた一撃だが――痴漢さんは「フッ……」と笑った。
「なんてことはない。私はただの痴漢さ――」
そして痴漢さんは神速で獣狩りの刀を撫でた。――瞬間、獣狩りの刀に電流が走る。
「……ッ!なかなか面白いスキルを使うな!」
完全に不意を突かれた攻撃に赤音はダメージを受けるが、それ以上に愉しくて笑顔になる。
「スキル?違うよ。これは私の痴漢技さ」
662
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 06:04:02 ID:JG1uEcwQ0
「なるほど。痴漢も極めるとここまで強くなるのか」
(えぇ……?そんなわけわからないことを信じるのかよ、赤音は。どう見てもスキルか何かだろ、痴漢で雷が出るわけないって……)
レイティアは心の中で冷静にツッコミを入れるが、声には出さない。なんとなくこの勝負に水を差したらダメな気がしたからだ。
「そこの軍人さん。貴方も敵かしら?」
そんなレイティアに、輝月は質問を投げ掛ける。
しかしそこで「はい、優勝狙ってます」なんて口にするレイティアではない。召喚の手袋のストックはまだ1体だ。そこでハズレを引けば間違いなく殺される。
ゆえにレイティアは嘘をつく。
「違う。私はあそこの赤音という剣客に利用されてるだけだ」
そう答えるレイティアの瞳を、輝月はジッと見つめる。
(僅かに瞳が揺れてる。きっとこれは嘘ね)
輝月はレイティアの僅かな変化で嘘と見抜くが、あえて口にしない。単純に好奇心が勝ったし、おそらく赤音が言っていた〝対象を強化するスキルの持ち主〟がこの軍人(レイティア)だと思ったからだ。
「そうだったのか……。お主も大変じゃのぅ」
そして嘘を見抜いた輝月とは正反対に、つばきはすっかりレイティアに騙されて同情している。まあこれは元々つばきが騙されやすいというのもあるが、すぐに嘘を見破った輝月がすごいだけともいえる。他人を強化するスキルなんて一人では役に立たないし、仕方なく赤音に従ってる――と考えるのが普通だろう。
「利用されてるだけなら、仕方ないわね。ところで貴方が赤音の言っていた〝対象を強化するスキル〟の持ち主なのかしら?」
一応、確認してみる。
「その通り。私は赤音から、貴君達のように勇敢な者を強化するように言われている」
「……?ワシらを強化して赤音に何の得があるのじゃ?」
「赤音は強者を求めている。そして本人も途轍もなく強い。だから他人を強化してほしいとのことだ」
「じゃあ貴方は今、痴漢さんを強化しているのかしら?」
「していない。……まさか私の強化も無しに赤音と張り合える者がいるとは思わなかったが……」
それはレイティアの本心だ。
赤音はトップクラスに強いと思っていたのに、早速対抗馬が出るとは。
(どうしていきなりこんな強い奴が来ちゃうかねぇ。しかも自称痴漢ってどういうことだよ、ユーザーネームも痴漢さんだしよォ〜〜。もうわけがわからんわ)
そんな愚痴を脳内にぶち撒けながらも、レイティアはあくまでポーカーフェイスを保とうとする――が彼が若干困惑気味なのは、輝月から見れば明らかだった。
そしてそんな三人を無視して、赤音と痴漢さんは熾烈な闘いを繰り広げる。
663
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 06:04:24 ID:JG1uEcwQ0
「まさかこの私を満足させてくれそうな相手が痴漢だとはな!」
「奇遇だね、私も似たようなことを考えてたよ。人斬りは許し難い行為だが……そんな危険人物を相手にしてるというのに、何故だか愉しい!」
「ほう。君は私と似ているかもしれないな」
「笑えない冗談だな。私は私利私欲のために他人を殺したりしないよ」
そんな会話をしながら赤音は鬼修羅と獣狩りの刀で攻め立てる。
対する痴漢さんは殺気を読み、瞬時に後ろに下がることで回避。警察に捕まらないために身に着けていた能力が、ここで活きた。
しかし僅かに頬から血が流れ、赤音の攻撃を完全に躱しきれなかったことを自覚する。
(私もまだまだだな……)
そんなことを考えながら両手を少し曲げて、空気を〝痴漢〟する。
そして両手をいわゆる〝かめはめ波〟の前ぶりのような形にした。
――瞬間、両手の間に空気が密集し、バチバチと雷鳴を轟かせる。
「この痴漢技、キミは受け切れるかな?」
「面白い!君に敬意を評して――私はその攻撃を全力で受け止めよう!」
鬼修羅は赤音を守るようにその剣を交差させて、逆に赤音は正眼の構えを取った。
「天を奔れ、我が痴漢道――!」
そして――痴漢砲が放たれる。
「――――」
対する赤音は目を瞑り――
「イヤァアアアア!」
ビームのような電撃が目の前に迫った瞬間、カッと目を開くと雄叫びと共に刀を振り下ろした。
そして電撃の波動と刀が拮抗し――次の瞬間、赤音が電撃の波動を切り裂きながら痴漢さんの立っている場所へ走り、彼女の胸を斬りつけた。
しかし痴漢さんは咄嗟にバックステップしていたため、軽傷で済み――己が痴漢技を対処した赤音の存在が嬉しくて笑う。
(こんなにスリリングな状況で痴漢をするのは初めてだけど……まさかこんなに愉しいとはね。そしてこんな状況だからこそ、私は更なる高みを目指せる!)
痴漢さんは至近距離の赤音の頭に頭突きをする。
これは痴漢でもなんでもない攻撃だ。しかしまさか頭突きをされると思っていなかった赤音には、見事に命中した。
互いに頭が痛む中、先に動いたのは赤音だ。彼女は容赦なく刀を振り下ろす。
「我が覇道――この痴漢は未来に羽ばたく!」
――瞬間、赤音の脇腹を一匹の白い鳩が抉った。
その痛みに赤音の動きが僅かに鈍る。
「痴漢達よ、今こそ羽ばたけ!」
そして更に無数の鳩が赤音を襲う。
赤音は自らの刀と鬼修羅でそれらに対処するが、全てを対処することは出来ない。
無数の鳩が赤音に当たり、その度にバチリと赤音に電撃が奔る。
痴漢さんのスキルは『満足(サティスファクション)』
その名の通り満足を求めることで強くなり――更なる満足を追求したいと思った時。つまり満足の向こう側に行きたいと思った時、そのスキルは進化する
しかし――満足を求める者は、痴漢さんだけではない。
「それが君の覇道か。面白い!……だが悪いな。その道は、今ここで私が断ち切る!」
鬼修羅が眩く輝き、炎を噴き上げた。
瞬間、鳩のいくつかが焼き尽くされる。
残った鳩が果敢に赤音にぶつかり、その度に電撃が奔るが――そんな痛みも気にせず、赤音は集中。
「この光は……!?」
流石の痴漢さんも鬼修羅の輝く炎に視界を焼かれ――鬼修羅が5本の腕を駆使して剣を振るう。
痴漢さんは殺気を読むことでなんとか躱すが――
「はぁあああ!!」
――瞬間、赤音が渾身の一撃を放った。
この一撃を躱すことは不可能だ。
664
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 06:05:07 ID:JG1uEcwQ0
――ゆえに、痴漢さんはここで命を落とすだろう。
(……今、私が死ねば輝月もつばきちゃんも皆殺しか。そんな残酷な未来は――満足出来ないな……)
「――月牙天衝!」
きん、と金属音が鳴り響く。
痴漢さん達の戦いを見ていた輝月が衝撃波を放ち、赤音が握る刀にぶつけたのだ。
おかげで僅かに隙が出来た。痴漢さんは咄嗟に己が肉体に痴漢をして、電撃を奔らせ――雷速で蹴りを放つ。
――ドゴォ!
凄まじい轟音と共に、赤音は蹴り飛ばされた。
されども、相手は赤音。ただ蹴り飛ばされるだけの女ではない。
赤音は蹴りが着弾するまでの僅かな時間で痴漢さんの胴体を斬りつけていた。
ぽた、ぽた――。
痴漢さんの胴体から血が流れる。
「ま、まずいのじゃ!」
つばきは咄嗟に支給品の中から治療キットを取り出した。
そして内心では怯えながらも、痴漢さんという戦力を失いたくないがために走る。
(あいつの行動を妨害してもいいけど……ここは泳がせといた方がいいよな〜〜。痴漢さんとかいう化け物には他の化け物と潰し合ってほしいし、下手に妨害したら月牙天衝を使える奴に俺が殺されそうっすわ)
ゆえにレイティアは妨害しない。彼は結局、臆病者なのだ。覚悟を決めても、それは優勝するための覚悟。死ぬための覚悟じゃない。
そして赤音にも、痴漢さんにもまだ死んでもらったら困る。
だからこそレイティアは支給品の煙玉を取り出し、輝月に渡すと――小声で話す。
「貴君達はこれで逃げるといい」
「ありがとう。感謝するわ」
輝月はニッコリと微笑むと煙玉を地面にぶつける。
すると、煙幕が張られた。これでは流石の赤音も前が見えないだろうが――
(なんで受け取ってすぐに使うんだよ!?痴漢さんを回収してから使うのが常識――)
シュンッ――
「いっ、てえええ――!!!」
――それは、刹那の出来事だった。
いつの間にか左腕を半分失っていたレイティアは大量に血を流し、その激痛に絶叫する。
更にその後、何故か肩が抉れる。まるで刀を突き刺されたように。
「ぎ、ゃああああ――!!まさかお前、裏切ったな――!」
激痛の中、レイティアは犯人を特定していた。
この煙幕が張られた状況で自分を攻撃出来るのは月牙天衝を使える女――たしかネームプレートには輝月と書いてあった――しかいない、と。
(やっぱり暗い中だと狙いが外れやすいわね。まあいいわ)
そして輝月はつばきと痴漢さんの居る場所へ走り、彼女達の手を掴む。
煙幕を張る前から、位置は把握していた。ゆえに辿り着くのも簡単だ。
「ありがとう、輝月。だが私はまだ……」
「その怪我は危険よ。今は逃げましょう」
そして三人は走り去り――肩と欠損した左腕から血を流すレイティアと、赤音だけが取り残された。
「レイティア!」
レイティアの惨状を見た赤音は、急いで彼に近づくと自分の服を破り、包帯代わりにして止血した。
「……すまない。私としたことが……不覚をとられた」
「君が無事ならそれでいい。それよりその傷、誰にやられた!?」
「輝月とかいう、月牙天衝を使う女だ。彼女は私に友好的な態度をしていたが……急に煙玉を使って煙幕を張ると、私に不意打ちしてきた」
煙玉を自分が渡した、ということを隠しながらも自分の身に降り掛かった災難をレイティアは正直に話す。
「……そうか。私を不意打ちするならともかく、君を不意打ちするとは……許せないな」
赤音は自分が不意打ちされる分には良いと考えてるし、むしろ歓迎だ。試行錯誤して立ち向かって来たら良いと思ってる。
だがレイティアが不意打ちで傷付けられたことには、腹が立った。これは殺し合いだし、そういうことがあってもおかしくないと理解しているのだが――それでも怒りはおさまらない。
665
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 06:06:22 ID:JG1uEcwQ0
「その輝月という女は、私が斬る。レイティアに不意打ちするような卑劣な輩だ、彼女は君のスキルで強化しなくていい」
「ああ。感謝する……」
(輝月は絶対にヤバい奴だ。ある意味、赤音や痴漢さんみたいなチート染みた強さの奴らよりヤバい。なんとしても排除しなきゃなァ〜〜)
【F-5/一日目/早朝】
【レイティア】
[状態]:ダメージ(特大)、左腕半分欠損(止血完了)、左肩の一部が抉れている(止血完了)
[装備]:我らは大隊、蹂躙せよ(ラストバタリオン)@スキル
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、召喚の手袋
[思考・状況]基本方針:最後のチャンスとして優勝を目指す
1:赤音と行動する。優勝するにはそれしかないよな……
2:赤音を出し抜く算段は考えておきたい。そのために戦闘になったら弱点などを分析する
3:赤音の頼み通り敵と戦う際はスキルで援護……援護?
4:輝月は絶対にヤバい奴だ。排除しなきゃな〜〜!
[備考]
※召喚の手袋は三時間に一回、召喚権がストックされます。
召喚できるNPCは最大二体、本ロワのキャラシで投下されたNPC十種類が対象です。
現在のストックは1です
【赤音】
[状態]:ダメージ(中)、胴体へのダメージ(中)裂傷(軽微)、疲労(中)左脇腹が少し抉れている、怒り、鬼修羅の右腕一本腕欠損(時間経過で回復)、覚悟完了
[装備]:赫炎神将・鬼修羅@創造武具、獣狩りの刀
[道具]:基本支給品、ポーション×2、拡声器
[思考・状況]基本方針:満足できる戦いをしたい。
1:戦おう、心行くまで。
2:レイティアと行動する。約束は破らない限り私から破る気はない。
3:拡声器の効果で誰か来るか待つ。来なければ自分から殺し回る
4:痴漢さんとはまた果たし合いたいな
5:輝月は許さない。私が斬る
[備考]
※鬼修羅のダメージは時間経過で戻ります。
また、ダメージのフィードバックはありますが、
傷はそのままフィードバックせずダメージだけです。
※鬼修羅は赤音の指示を念じずとも自動的に行動します。
まだ動かしたばかりであるため、簡素な動きしかできません。
また、視認か存在を認識できる範囲を離れられず、七曜の発動も赤音の命令が必要です。
※本名は鬼炎赤音(きえん あかね)です。
666
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 06:07:28 ID:JG1uEcwQ0
○
痴漢さんたちは逃げた後、つばきの支給品である治療キットを痴漢さんに刺した。先程の戦いの傷や疲労がいくらかマシになる。
「それにしても赤音も危険人物だったけど、あのレイティアとかいう軍人アバの人も危なかったわね……」
「どういうこと?」
「どういうことじゃ?」
疑問符を浮かべる痴漢さんとつばきに、輝月は脇腹を見せる。
そこからは血が流れていた。
「この傷……貴方たちを助けようと走り出す前に、レイティアにやられたのよ」
「なんだって!?」
「それは本当のことなのじゃ!?」
「ええ。だからあのレイティアとかいう女……いや、声からして中身は男かしら。とにかく、気をつけたほうがいいわよ。とんだ策士だわ」
「……そっか。守れなくてごめん、輝月……」
「痴漢さんは赤音とタイマンで戦って、守ってくれたでしょう?それだけでも嬉しいわ、ありがとう」
頭を下げる痴漢さんに、輝月は優しく声を掛ける。
「輝月……お主は優しいのぅ……」
輝月の気丈に振る舞うような態度に、つばきは感心する。
「……ありがとう、輝月」
そして痴漢さんもまた、輝月に感謝した。
(――計画通りね)
そんな二人を見て、輝月は内心ほくそ笑む。
脇腹に傷を付けたのはレイティアじゃない。輝月自身だ。素人の自分では煙幕の中、レイティアを殺し切れないと判断した時、そうした方が面白いと思ってわざと脇腹を自らのスキルで抉った。
痛みはあったが、好奇心の方が勝るからどうでもいい。それにレイティアを襲った理由付けになる
「……だが、レイティアは悲鳴を出していた。アレはどういうことなのかな……?」
痴漢さんが疑問を口にする。それは当たり前の疑問だ。
だから輝月は、こういう疑問を痴漢さんかつばきが口にすると予想していた。
「レイティアに斬りつけられた後、反撃したのよ。そうしたら相手が怯んで……その間に貴方たちを助けに行けたわ」
「なるほど、そういうことか……」
「おそらく赤音もレイティアが上手く丸め込んだのでしょうね。赤音は戦闘狂の脳筋みたいだし、用心棒にでもしたんだと思うわ」
「恐ろしい策士じゃな……。赤音とレイティアはとんでもない危険人物なのじゃ……」
「そうよ。だからこの情報は殺し合いに反対する人が居たら、共有しましょう。また犠牲者が出る前に……」
「わ、わかったのじゃ……」
(……たしかに輝月の言ってることは筋が通ってるけど……このモヤモヤはなんだろう?そもそもどうしてレイティアだけが悲鳴をあげて、先に襲われたはずの輝月は悲鳴をあげなかった……?)
「何かを考え込むような表情してどうしたの?痴漢さん」
「いや……なんでもないさ」
(私の考え過ぎなら良いし、あまり仲間を疑いたくないけど……輝月には危うい一面もある。……困ったなぁ……)
つばきは上手く騙せたが、痴漢さんはそうもいかない。多少は輝月を疑っている。
しかしこの疑問を口にしたらどうなれかわからないので、今は口に出さないことにした。
(それにしてもやっぱり……レイティア?が叫んでいた〝裏切った〟という言葉は引っ掛かる。私が目を離した隙に輝月は何を……?)
(レイティアが今後どうなるか楽しみね。どんどん悪評を広めて追い詰めたいわ。そしてレイティアを殺した人が、いつか自分が騙されてたと気付いた時――その人はどんな顔をするのかしら?)
667
:
それぞれの満足(サティスファクション)
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 06:07:49 ID:JG1uEcwQ0
【F-5(ただし赤音とレイティアの場所からは距離がある)/一日目/早朝】
【痴漢さん】
[状態]:胸に切り傷(治療キットにより止血済み、多少は傷も塞がった)、疲労(中)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[装備]:
[思考・状況]
基本:殺し合いの平和的解決を望む。痴漢を第一に優先したいけど少し自制しよう。
1:痴漢の技で殺し合いを止めてみせる。
2:痴漢の技で皆の心を助けたい。
3:とりあえず3人で行動。つばきちゃんは彼女の選択に委ねる
4:赤音……また戦いたいな
5:輝月の言ってることが、イマイチ納得出来ないけど今は口に出さないでおこう
[備考]
※輝月、かしの葉つばきとある程度情報交換しました。
※スキルが進化しました
【輝月】
[状態]:右脇腹が少し抉れている
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[装備]:
[思考・状況]
基本:一応生存優先、できれば優勝。
1:この病んでいて面白い人達に何を吹き込むか考えましょう。
2:気になることがあったら基本的には積極的に行動しましょう。
3:レイティアが今後どうなるか楽しみだわ。レイティアの悪評はどんどん広めたいわね
4:なんとかしてつばきの素を丸出しにしたいわね。心をへし折るのが手っ取り早いかしら
[備考]
※痴漢さん、かしの葉つばきとある程度情報交換しました。
【かしの葉 つばき】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品、、プラスマガン(タイプ25)
[装備]:
[思考・状況]
基本:こんなところで死にたくはないのじゃ。
裏:"素の自分"が存在しないことによる、"つばき"でなくなることへの潜在的恐怖
1:とりあえずは輝月と痴漢さんと一緒に行動するのじゃ。
2:レイティアは恐ろしいやつじゃ……
[備考]
※タヌキの姿になってるのは彼女のスキルの力ですが、彼女はタヌキの姿こそ元の姿と思ってます。
※デイパックもタヌキの状態で背負えるくらいに変化させて小さくなってます。
※普段からタヌキの姿で過ごす場合のイメージトレーニングをしているので、尾のある四足歩行アバターでも行動に支障はありません。
※痴漢さん、輝月とある程度情報交換しました。
668
:
◆QUsdteUiKY
:2025/02/01(土) 06:08:17 ID:JG1uEcwQ0
投下終了です
669
:
◆QUsdteUiKY
:2025/02/02(日) 01:46:39 ID:GZsA/R0E0
投下します
670
:
運命の分かれ道
◆QUsdteUiKY
:2025/02/02(日) 01:48:01 ID:GZsA/R0E0
「なぁ……起きろよ。起きてくれよ!」
ゆさ、ゆさ、ゆさ――。
ショウはTASの亡骸をひたすら揺さぶっていた。
彼の土手っ腹からは血が溢れ、辺り一面を鮮血が彩る。
TASが死んだのは、誰がどう見ても明らかだ。それはもちろん、ショウもわかる。
だから頭では理解していながら、受け入れたくない。自分が他人を殺しただなんて事実は否定したい。
せっかく獣人(レオンハート)のおかげで一歩を踏み出せたのに。殺し合いに抗うと決めたのに。
その結果が――自分が他人を殺すという最悪の結末だ。
「なぁ、アンタは強いんだろ?死んだフリなんてしてないで、起きろよ!」
TASの死骸を揺さぶる力が強くなり、更に鮮血が溢れ出る。
それはやがてTASの亡骸を揺さぶるショウの手に付着して――
ぬるり、と。
あまりにもリアルな血の感触にショウは――
「うわあああああ――!!」
絶叫した。
今まで散々、現実逃避しようとしたが――血の感触がショウにTASの死を強く自覚させる。
「ち、ちがう。俺は誰も殺してない!だって俺は殺し合いに抗うって決めたんだ!だから俺は悪くない!」
自分に言い聞かせるように、都合の良い言葉を並べる。しかしそれと同時にチクリ、チクリ――とショウの罪悪感が刺激され、ストレスが溜まる。
これがもしも心から自分は悪くないと思えるような狂人ならば、どれほど気が楽だったことか。
しかしショウは一般人的な感性を持ち、社会のルールを守って生きてきた一般人だ。
ゆえに心では否定したいと思っても、頭が理解してしまう。自分は目の前の男を殺したのだ、と。
「くそっ……起きてくれよ……。頼むよ……」
しかしショウはそれでも必死にTASの亡骸を揺さぶる。その姿は、主催者からはさぞ滑稽に見えたことだろう。
もちろんTASが目を覚ますことはない。当然だ、死んでいるのだから。ショウが殺したのだから。
「お前が起きてくれないと……俺は人殺しになるんだよ……。だから頼む。頼むから、起きてくれよ……」
それはショウの心からの願いだった。
ショウは特別、善性が強いわけじゃない。どこにでもいる一般人だ。
ゆえにTASに生きてほしい理由は、TASの命を尊重しているのではなく――自分が人殺しになりたくないから。罪を被りたくないからだ。
ここでTASが起きれば、ショウは人殺しの罪から逃れることが出来る。
しかしこのままTASが死んだら――それはもう、殺し合いに抗うどころじゃなくなる。
むしろそれが誰かにバレたりしたら、危険人物として認識されるだろう。ショウとしては殺し合いに抗いたい。無益な争いはしたくないのだが――他人を殺した時点で、信用を得るのは難しい。
もっとも何か理由を適当に考えて誤魔化すという手段や、敵に襲われたから返り討ちにした、と嘘をつけば危険人物という疑いは晴れるかもしれないが――今のショウはパニックに陥ってそこまで頭が回らない。
(ふざけるなよ……。こんな奴のせいで俺の人生が乱れるなんて……ふざけるな……っ!)
ショウははっきり言えば、今もTASのことが気に入らない。だがこのままTASが死ねば、周りからどんな目で見られるか――
そんなふうに悩んでいるうちに、ショウは血塗れのショートソードを所持していることを思い出した。今は地面に置いているが……こんなものを持ってるところを他の参加者が見たらどう思うだろうか?
「う、わああああ!」
ショウは一心不乱にTASのデイパックを漁る。この状況を打開出来るものがないか。
「……これだ!」
そうしてTASのデイパックから取り出したのは、スコップだ。
それを用いて穴を掘ると、そこにTASを入れようとするが――
「入り切らないか」
多少スコップで穴を掘ったくらいではTASの肉体は入らない。
もっと根気強く掘り進めるのもありだが、それでは時間がかかり――最悪、誰かに見られる可能性がある。
(死体を斬って小さくするか……?)
四肢を切り取り、首を斬り。そうやって死体のサイズを小さくしたら多少は手間が省ける。時間短縮になる。それにショウにはそれを可能とするための凶刃(ショートソード)がある。これを使えば切れることだろう、とショウは考える
(ずっと上から目線だったお前が悪いんだ。恨むなよ……!)
そしてショウはまず、首を斬った。
するとTASにつけられていた首輪も当然、落ちる。
671
:
運命の分かれ道
◆QUsdteUiKY
:2025/02/02(日) 01:49:13 ID:GZsA/R0E0
(首輪が外れた!……まあ当たり前か)
首輪を外すのは殺し合いに抗うのに必須事項だ。まあこんな外し方をしていたら相手は死ぬから論外なのだが……。
(首輪だけ、埋めずに置いておくか。後から誰かが発見して殺し合いに抗うことに活用してくれるかもしれない。俺が持ち歩くのは……誰か殺したと思われる可能性があるからダメだな)
そうしてショウは首輪だけ拾い上げ、適当な場所に置くと今度は四肢を斬る。
骨を断つのにはかなり力が必要だったが、なんとか成功した。
(ハァ、ハァ。後はこれを埋めるだけだな)
そしてショウは先程掘った穴を更に深く掘った後、雑に解体されたTASの死体を投げ捨て――スコップで埋める。ついでに血塗れのショートソードも、怪しまれそうなので埋める。
(これで誰も気付かないはず。隠蔽完了だ……!)
ショウは思わずガッツポーズした。
だがいつまでもこんなところにはいられないし、そもそも居たくない。
だからショウは逃げるようにその場を去った。しっかりとアイテム確保のためにTASのデイパックも回収して。どうして2つデイパックを持ってるのか問われる可能性が考えられないほど、ショウは焦っていた
――ショウの心は壊れて、悪人のような行動をしてしまったのだが本人は無自覚なままに。
【H-4/一日目/早朝】
※TASの四肢と首が解体された死体と血塗れのショートソードが埋められてます
※TASの首輪が放置されてます
【ショウ】
[状態]:健康、疲労(中)、精神的疲労(極大)、ストレス(大)焦燥感、罪悪感
[装備]:レグルス@スキル、スコップ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜4(確認済み)、TAS
のデイパック
[思考・状況]基本方針:殺し合いに反抗する
1:とりあえずこの場から移動する
2:俺は悪くない!あいつ(TAS)が悪いんだ!
[備考]
T.A.Sからマキシムとエクスキューショナーの情報を得ました。
※T.A.Sの創造武具を知りました
※蛮勇を発揮するとスペックが上昇しますが、向こう見ずの勇気なので防御力は下がります。現段階では任意では発動出来ません
【スコップ】
大きめのスコップ。TASに支給。それなりに大きく、長いので鈍器として使えば凶器にもなる
672
:
◆QUsdteUiKY
:2025/02/02(日) 01:49:53 ID:GZsA/R0E0
投下終了です
673
:
だから、シエルは覚悟を決める
◆QUsdteUiKY
:2025/03/26(水) 06:57:09 ID:tU1XZYWg0
「とりあえず進む場所を決めなきゃならないワケだけど、シエルンは何か提案ある?」
「いや……わからねぇなあ……」
刹那の質問に頭を悩ませるシエル。
だが刹那はこういう回答が来ることをだいたい予想していた。
(こう言っちゃなんだけど、シエルンあんまり頭良くなさそうだからにゃあ)
――だからあくまでこの質問に大した意味はなかったりする。
まあでも、もしかしたら何か案があるかもしれないと思ったから聞いたけど……やっぱり何もないか〜って感じ?
そしてそんなシエルンと違って、この†刹那ちゃん†には案があるんだぜ!
「シエルン、ボクに案があんだけど気になる?」
「教えてくれ、刹那。俺、あんまり考えるの苦手でさ」
そんなふうに苦笑するシエルン。まあそこら辺のこと、とっくに見抜いてンだけど本人は気付いてないらしい。ま、そこはどーでもいっか!
「ここに木が生えてるだろ?」
ボクがテキトーに木を指さすと、シエルンもそこを眺める。
「うん。それがどうしたんだ?」
「で、こうやって木の枝を折る」
ぺきり。
ボクがアッサリと木の枝を折ると、シエルンはそれを不思議そうに見る。
「その木の枝がどうしたんだ?」
頭に大量の疑問符を浮かべるシエルンに「くふふふっ!」と笑う
「どうした〜?シエルン。そんな不思議そうな顔して」
「その木の枝をどう使うか考えてただけ。んで、どーすんの?」
「んで!んで!んで!にゃあ」
「???」
「ん?どしたん?シエルン?」
「いや……急に刹那がノリノリになってるとこわりぃけど、ナニソレ?」
「えっ」
「えっ」
お互いにきょとんと顔を見合わせる。
……そういえばシエルン、ボクよりけっこー年下だから通じなかったのかなん?
……だとしたらただの痛々しいやつみたいじゃん、ボク!これじゃまるでいのりと変わらないバカさだぞ!
でも……まあ世代差なんてVRCではよくあるし、多少はね?
とりあえずクールになれ、刹那ちゃん!KOOLじゃなくてCOOLなっ!
「さっきのは昔流行ってた曲だよん。ノリで言っただけ」
「刹那……。お前もしかして、いのり並にバカ?」
「バカじゃなくて、ノリが良いだけだよん。ノリノリ刹那ちゃんって感じ?」
「なるほど、刹那もバカなんだな」
「違いますーっ!刹那ちゃんはノリで生きてるだけ!」
「……殺し合いでいきなりオナニーやってたお前が言うと妙に説得力あるな」
「うるさいっ!」
ぴしゃりっ!
一喝してシエルンの言葉を強引に終わらせる。
「とりあえずこの木の枝で行き先を決めるってワケ」
「どうやって?」
674
:
だから、シエルは覚悟を決める
◆QUsdteUiKY
:2025/03/26(水) 06:57:42 ID:tU1XZYWg0
「こうやってさっ!」
ボクは木の枝を地面に置くと、パタリと北に倒れた。
「ヨシ!北だ、シエルン。北にいくよん」
「え?刹那の案ってこれ?」
「そうだぜっ」
「なんつうか……ただの運任せだな」
「まあ否定はしないよん。でも何もせずグダグダ考えるより、運任せでも進む場所をさっさと決めた方がいいだろ?」
「まあ……こうしてる間にもみんな戦ってるかもしれないもんな」
ボクの言葉に納得して頷くシエルンに「そーいうこと」って返す。
「とりあえず一刻も早く探してる奴らを見つけるのと、首輪解除が最優先だかんね。いちいち歩く場所を考える時間が惜しいってコト」
「わかったよ、刹那。とりあえず北に向かおう」
こうしてボク達は北の方角――とりあえずE-8まで進むことに決めた。
でも成果はなし。てことでもう一度木の枝を倒して、そこから北に。
そこでも誰にも会えなくて、今度は直感で西――D7に。
○
そして今に至るワケなんだけども――
「誰もいないにゃ〜」
「そうだな。まるで人の気配がしない」
「だよねん。でも1つだけわかったことはあるぜ」
「わかったこと?」
「ここらへんで戦闘が起こったってコト。ほら、何か薄いけど煙が見えるだろ?」
ボクがそう言うと、シエルンは目を凝らした
「……たしかに、何か煙があるな」
「コレは炎熱系のスキルか創造武具が使われた証拠だと思うんだよにゃ〜、刹那ちゃんは。
――つまりこの付近に、誰かいるってことだ」
「なるほど……。そいつは敵か、味方か?」
「それはまだわかんないにゃあ。実際に会って見なくちゃね☆」
「まあ、それもそうか。味方ならいいけど……敵。ていうか危険人物なら倒さなきゃな」
「そーいうこと。相手の居場所は煙が来た場所を辿ればわかると思うけど――シエルンは覚悟完了してる?」
「当たり前だろ。ダチを危険な目に遭わせるやつなら、容赦なく倒してやるよ」
「いや――そうじゃないんだなあ」
敵を倒す。
その結果は、ボクも望んでる。
でもシエルンは勘違いしてそうだから、ちょっと訂正
「悪人だろうと人は人だぜ?そしてこれはデスゲーム。死ぬまで止まらない奴も居ると思う。
だから――人を殺せる覚悟はあるのか、聞いてるんだよん」
ボクの声に、シエルンの表情が少し暗くなる。
「俺は……」
シエルンは真剣な表情で右拳を固めて、それを眺める
675
:
だから、シエルは覚悟を決める
◆QUsdteUiKY
:2025/03/26(水) 06:57:54 ID:tU1XZYWg0
「俺は……あまり他人を殺したくねえ。それが悪人でも、だ」
「ま――そうなるわな。大半のパンピーがそう思いそうだし――」「でも!」
ボクの言葉を、シエルンの力強い声が遮る
「大切な奴らを殺されるくらいなら――俺はそいつを殺す」
そのシエルンの言葉には、覚悟とドス黒さが入り混じっていた。
ボクだから日和らなかったけど――いのりや仔猫にはこんなシエルンの声は、聞かせたくないな。
「本当にダチ思いなんだから、シエルンは」
「……違う。俺はただ、もう〝ぼっち〟になりたくないだけだ」
……なるほどねえ。
こいつはなかなかに、闇が深そうだにゃ〜。
それにしてもボクみたいな人種ならともかく、こんなガキの拳を血で染め上げさせようとするなんて――やっぱりこのデスゲームはイカれてるし、反吐が出るぜ。
なんとかして主催者に終止符(オワリ)を叩き込んでやらなきゃ――気が済まねえ
「そっか。ま――シエルンが手を汚さなくてもボクが敵を殺すから気にすんな」
「嫌だ。刹那だけには背負い込ませないぜ。俺も俺なりに覚悟――決めたからさ」
デスヨネー。
まあそう来ると思ってたし、シエルンの気持ちはわからないでもないから……否定はしない。刹那ちゃんは男の娘だから〝漢〟の覚悟を踏み躙るようなことはしないぜっ!
「しょうがないにゃあ。じゃあ――行こうか、シエルン」
――たとえこの先に何が待っていようとも。
ボクは。
ボク達は――止まらない
676
:
だから、シエルは覚悟を決める
◆QUsdteUiKY
:2025/03/26(水) 06:58:16 ID:tU1XZYWg0
【D-7/一日目/早朝】
【刹那】
[状態]:健康
[装備]:日本刀
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:GMをぶっ飛ばして、技術だけ奪うに決まってんだろっ!
1:シエルンと手を組んでやるよっ!
2:コセイ隊の二人ともみじを探す。……ま、ついでにぼっちの集いも探してやんよっ!
3:アルカードのバカ対策に対吸血鬼用のメタでも考える?
4:首輪解除も考えないとにゃ〜
5:黒百合がこのデスゲームに巻き込まれてなくて良かったにゃあ
6:シエルンの〝漢の覚悟〟は踏み躙らないぜっ!
7:煙を辿るよん
[備考]
【シエル】
[状態]:健康、ダチのためなら悪人を殺す覚悟
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:GM潰すゾ!
1:刹那と手を組む
2:いのり、真白、仔猫ちんを最優先で探す
3:どこに移動しようか考えなきゃな
4:殺す覚悟、か……
5:刹那だけには、背負わせねぇ
[備考]
677
:
◆QUsdteUiKY
:2025/03/26(水) 06:58:43 ID:tU1XZYWg0
投下終了です
678
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:27:27 ID:qm4PMQqY0
投下します
679
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:30:52 ID:qm4PMQqY0
意味が分からない。
アクリアが真っ先に出てきた感想はそれだ。
自分を殺したくて仕方がない人、自分をいきなり刺してきた人。
それが一斉に、何故か自分を助けに入ってくるとかいう状況だ。
まるで意味が分からない。ただでさえ戦況はカオスを極めている。
秋月を前に相対するスターマン、そしてこの状況でなんか告白してくる風凪。
更に好感度が限界値を超えてるせいで風凪に対する感情は更に強いものになる。
これが恋なのか? 確かに白馬の王子様に助けられるようなシチュエーションだ。
それについてはスターマンに狙われた時も同じ感想を抱いていたが、今回は更に上になる。
でも相手はいきなり槍で刺してきて、胸を触ってきたり何かをしようとしてきていた相手。
だと言うのに、この感情は何か? 本当に、イナバ辻が言っていた恋だとでもいうのか。
分からない。この殺し合いにおいて誰よりも幼く、誰よりも未経験で、誰よりも知らないがゆえに。
とめどなく溢れる感情ではあるが、この場の共通の敵である秋月は待ってくれない。
「邪魔、すんじゃねえええええ!!」
身体から突き出る無数の杭が、秋月を中心に展開されていく。
範囲、射程共にルナティの影響か圧倒的に広がっており、近接攻撃のはずが最早中距離攻撃に等しい。
ナイトシャークとの時よりも更に伸びる杭は、逃げるにせよ防ぐにせよ、
いずれにしても無視はできない。
「ハハハハハ! 私は止められんよ! スターフラッシュ!!」
その笑いは、まるで涙を流す子供を泣き止ませるような、
頼もしく、応援させたくなるような声色と共にビームを放つ。
瞳から放つ破壊光線は地面を穿ち、秋月自身の位置を吹き飛ばす。
自分を中心とした攻撃。ならば足元を狙えばいいだけの話である。
腐っても自分に関わる証拠を何度も消し続けてきた男。目敏さは一級品だ。
「チッ……なあおっさんよ。そいつら二人渡してくんねえか?
後で殺すけど、今だけはそこの男込みで見逃してやるから勘弁してやるよ。」
「ハッハッハ! それはできないなぁ!」
(もしこの男が俺の情報を掴んだら困るんだよ!!)
余裕の、ヒーローらしい立ち居振る舞いをするも、
内心においては今の状況や提案について毒づいていた。
いつの間にか一人参加者が増えている。あれから短くない時間が経過した。
となると、彼女にも自分の悪行を伝えていると言うことは十分にあり得る。
殺さなくては。正義の味方を演じてると言うのに二人も殺さなければならない。
と言うか最悪後ろで愛を囁いている変態も含めて三人、いや目の前の相手で四人もだ。
こいつらをどうしたものかとなる。全員殺してくれると言うのならばありがたいのに、
こいつも性欲の塊なのかどうか知らないが殺す対象はアクリアとイナバ辻は例外とした。
此処にいる野郎は下半身でしか物事を考えてないのかと思いたくなる状況に、彼と言えども辟易してしまう。
「アクリアちゃん。一緒に逃げよう! 世界の果てまで!!」
「え? ええ!? えええええ!?」
「何この状況で告白してるのよあなた!?」
一方その後ろでは。
此処は殺し合い。しかも現在その真っ只中。
戦闘するしないどころか逃避行と告白をしてくる。
異常でしかないし、ツッコミどころしかない状況だ。
そういうキャラじゃないのにイナバ辻も思わずツッコミを入れてしまう。
680
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:31:44 ID:qm4PMQqY0
「え、でも、その、私まだ13歳で……」
「年は関係ない! 結婚しよう!」
「いやロリコン! それ普通にアリコンだかロリコンでアウト!!」
しどろもどろになりながら、顔を赤らめるアクリア。
風凪の創造武具の効果でもう恋に落ちてると言ってもいい。
けれど果たして本当にこんなのが恋なのか。その疑問が辛うじて理性を抑えている。
なかったらどうなるか? キスをしてそのまま愛の逃避行からの……あとはお察しの通りだ。
「テメエら……ふざけてやがんのかああああああッ!!」
創造武具は精神に影響されやすい。
だからこそアクリアは怒った際の水の量は凄まじく、
秋月がナイトシャークとの戦いでも進化するように強くなった。
こんな戦場でいちゃつくようなことをしている連中に怒るのは、至極当然だ。
身体から生えた杭を引き抜きながら、それを投擲と言う荒業にまで出る。
創造武具は精神の具現化である。できると思えば、大抵のことはできてしまう。
素人の投擲ではあるが狙いはアクリア達と正確なものであることには変わらない。
秋月なんてそっちのけでいた風凪は、アクリアが水で突き飛ばして事なきを得る。
「僕を助けてくれたんだ……やっぱり僕らは運命なんだよ!!」
(やばい。この人。気持ち悪い。)
先ほどからずっと愛を囁いているし、
ずっとときめいてしまってるのは事実だ。
しかしそれはそれとして、生理的嫌悪感と言うものは存在する。
風凪の創造武具は確かに洗脳に近いが完全な洗脳と言うわけではない。
幼い故の未完成な魅了のお陰で、彼に対して魅力以外にも嫌悪感も出てくる。
無論、それでも彼に発情させられてる以上完全な嫌悪には至らないのだが。
「で、どうするんですかスターマン……さん、でいいんですか!
あんな無茶苦茶な攻撃力の創造武具、私達で対処できるんですか!?」
この人が、朱雀の仇。
家族も、友も殺し孤独にさせた邪悪の権化。
最初の印象は、とてもそういう風には見えなかった。
見た目通り、筋骨隆々でピッチピチのスーツはアメコミのヒーローのようで。
顔は独特だが、そのビジュアルの強烈さが逆にインパクトを残してると言える。
アクリアの話では彼女(彼なのだが)殺しに来てたと言っていたのに、
今はこうして助けに入ってきている。相手の目的が不明瞭すぎるのだ。
彼女(彼)が持っているアプリを奪って証拠隠滅したければ見殺しが一番いい。
それができなかったのか? とは思うが、どう見てもそこにできなさそうな原因がいる。
アクリアに余りに執着している、どっかで聞いたような声をしている風凪だろう。
「いや厳しいだろうね少女よ。桁違いに攻撃力が高い。
しかもスターフラッシュを直撃しても防げるだけの杭!
目が光る都合うまく直撃にまで当てられないのもなかなか痛いところだね。」
「じゃあどうするんですか!?」
「此処はアクリア君の力を借りよう!
君は見たところ飛べるスキルを持ってるらしい。
となれば、大量の水の塊を空から叩きつければ、
場合によってはトラックに轢かれたに等しい威力になる!」
これでも大学で教師をやってた人間だ。
ある程度の知識はあり、水の威力は十分に理解している。
だからこそ、そういう意味でもアクリアは早めに始末しておきたい。
あれが成長しきったら、確実に手が付けられなくなりかねないからだ。
「というわけですまないが……え。」
間抜けな声が出た。
さっきまで背後にいたはずのアクリア(とついでに風凪)がいない。
いや、いた。遠くにアクリアを抱き抱えたまま走っている風凪の姿が。
《逃げたああああああああああ!?》
この状況どう考えても協力して倒す場面だろうが。
どんだけあの男は下半身に忠実なのだとスターマンのこめかみ(何処かは不明だが)に青筋が浮かぶ。
だがそんな悠長なことを考えている暇はない。迫りくる無数の杭は一発一発が重傷待ったなし。
イナバ辻は空を飛び、スターマンはスターフラッシュで対処するほかなかった。
三人から全力で逃げ出す風凪。
アクリアも放っておいていいのかと言いたくもあった。
けれど目が離せない。端正な顔立ち。男から見ても女性受けのよさそうな童顔。
胸が高鳴り、そういう文句を言うことも喉がつっかえてしまうように感じてしまっていた。
離れた森にてアクリアを下ろす……と言うより、押し倒す形で大地へと倒れこむ。
「え、え?」
681
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:32:47 ID:qm4PMQqY0
「ゴメンね、本当にゴメンね……でも、我慢が限界なんだ。」
アクリアへの劣情は止まることを知らない。
好感度はとうにカンストをぶち抜き、今もなお上昇し続けている。
たとえるならば好感度500/100と言ったところだろうか。意味が分からないが事実だ。
もう彼がアクリアに対する好感度は数字で示せるレベルのものではないぐらいのものになってる。
自慰行為によって加速度的にアクリアに対する感情は下半身が限界にまで張りつめてるのが証拠だ。
この男の性欲と言うものに限界はない。あったらあんなことにはならないしすることもないだろう。
欲望の赴くままに彼女を愛し、抱きしめ、滅茶苦茶に犯したい。もう今はそれしか頭になかった。
頭がおかしいのではない。彼が諦念した結果辿り着いた風凪にとっての最後の幸福理論。
いや、頭がおかしいでいいだろう。この状況、いつ後ろから秋月が来るかも分からない。
そんなところで彼は情欲を、性欲を満たそうとしているのだから頭は大分いかれている。
小ぶりを通り越して皆無な胸を掴み、キスをせがもうとするも嫌悪感から咄嗟に顔を避ける。
「ヒャアアア!?」
キスには失敗したが耳を舐められ、
あられもない声を出して顔を真っ赤にする。
耳なんて当然舐められた経験などないし、明らかに変な感覚だ。
何が起きてるか分からないまま、発情が止まらず抵抗が弱々しくなる。
ああ、受け入れてくれたんだね。これで合意で愛することができるよ。
今度こそ、と思いながら顔を両手で固定し、キスに至らせる。
嫌だと顔を振るも力差で勝てず、能力もなぜかうまく行使できない。
洗脳によって彼に対する害ある行為をすることに対しても抵抗ができており、
先ほどみたいに拒絶することはできなかった。
なのだが、風凪に起きたのは充足感ではない。激痛だ。
彼の顔面に傘が叩きつけられ、大きく吹き飛ばされていく。
互いに互いの状況の理解に追いつかないでいると、一人の女性が声をかける。
「いや、クドラクのやばさについては見たけれど、
それ以上にやばいのがいるとは思わなかったんだけど……って大丈夫?」
アバターであるのは分かっている。
しかし、赤紫色のドレスを着こなしており、
本当の意味でアクリアが魅了されるような姿をしていた。
無論、これを恋とは思わない。これはきっと、憧れか何かなのだと。
ああいう風に女装できたら、きっと楽しいのかもしれない。そんな風に思える。
まるで劇場のダンサーを見てしまったかのような表情に、ティアラは心配そうに声をかけた。
「……本当に大丈夫?」
「え? あ、はい! 大丈夫です。」
ボーっとしていたアクリアに再度声をかける。
助かったようにも、何処か寂しくもあったような。
不思議な感覚が胸に残っており、何とも言えない感覚だ。
あのまま受け入れていたらどうなっていたのだろう。身体は女でも、
リアルの性別は声色からきっと男だろう。それってどうなのだろうか。
色々思うところはあるのだが、そんなことを考える暇は残されていない。
「ティアラさーん、ま、待ってくださいよぉー……」
「いきなり飛び出したと思ったら相手を殴り飛ばして、何があったんだ?」
続々と、このエリアに人が集合していた。
「ハハハハハ! おらどうしたヒーロー!
ヴィランである俺様を倒すんじゃあなかったのかよ!!」
(クソッ、アクリアの野郎を追いたいがこいつクソ邪魔だ!!)
(杭が多すぎて攻撃手段が上か正面しかできないのがつらい!!)
秋月の串刺し公に、成す術がない二人。
二人で協力し合うことで何か着想を得られたかもしれない。
だが二人は初対面だし、イナバ辻からすれば彼は殺人犯だ。
そんな奴と手を組むと言うのは抵抗が強く、能力の開示もできていない。
だから連携もできない。ぐだぐだと互いに各個で回避、或いは迎撃しかしなかった。
しかもイナバ辻の場合はレーザーブレードの空中からの奇襲は最初の戦闘中に見られた以上通用しない。
消えた瞬間上を警戒し、背後に杭を放出することで完全に不意打ちを警戒している状態だ。
攻撃力の差は二人に更にダメージや疲労を与えていき、次第に状況は不利になっていく。
こうなるとスターマンの攻撃力でなんとかするしかない、そう思っていたところに三者の間に飛来する風凪。
「ア、アゴッ、顎外れて、ない……!?」
痛みでのたうち回りながら、
攻撃を受けてずれたような顎を戻すしぐさをしながら戸惑う。
682
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:33:28 ID:qm4PMQqY0
「何だ? 急に戻って、って言うよりは吹っ飛んできやがったな。」
「……どうやら、敵は一人ね。」
「よぉーしだったらファック&サヨナラだ!!」
「殺すな。こいつには聞きたいことがある。」
ティアラ、クドラク、朱雀。
あてどもなく彷徨っていたところ、
戦闘の音へと足を運んでみてみれば、
レイプ手前の状況に思わずティアラが風凪にホームランをかました。
彼女にとっては余りの地雷の展開に、ほぼ無意識に動いていたと言ってもいい。
女をもののように扱おうとする所業を見たせいで、彼女の表情は怒りの形相だ。
(ゲェー!! なんか仲間連れてきてるんだけど!?)
スターマンにとっては最悪な状況だ。
ますます殺せなくなってしまうではないか。
敵だったらもう逃げ出した方がラッキーだと思うが、
あの様子と人数とアクリアを連れてる様子では完全に殺し合いを打破する側だ。
「いいじゃねえか……より取り見取りだ。
あの事件の女と良い、いい女が揃ってるじゃねえかッ!!」
状況は更に悪化している。
しかし彼にとっては興奮は冷めやらぬ。
ルナティから受け継いだ狂気はこの程度の困難で止まることを知らない。
「事件……?」
その一言を聞くと同時に、身体が勝手に動くティアラ。
彼女にとっての事件。もしかしたら朱雀のことかもしれないが、
未だ犯人が見つからず、家族の死という傷の癒えぬ彼女にとっては、
あちらの事件を想起させるものであり、思いっきり傘をバットのように振るう。
当然、身体から突き出す杭が傘を防ぐ。
「貴方、女子高生をコンクリートで埋めたとかしたことある?」
「んなサイコでサイコーな趣味持っちゃいねえよ。
こちとらちょーっと前までは普通の大学生だったんだよ。
ま、被害にあってそうな女はビデオで見たことあったけどなぁ!!」
こいつ、事件の関係者か何か知っている。
ならば猶更放置することはできない存在だったが、
その一瞬の反応のせいで突き出される杭に対応が遅れる。
ぎりぎり傘を挟むことで胴体の貫通はなかったが傘がひしゃげながら、
身体をくの字に曲げた状態で大きく吹き飛ばされ、大地を転がる。
「想像力が足りねえんだよ、アマァ!!」
「おい大丈夫か!」
「致命傷は避けたわ……お腹は痛いけどね。けど何あの創造武具。かなり厄介よ。」
「精神がイっちまってんだよ。こちとら分かってんだよぉ!!」
同類だからなのかどうかはともかくとして、
ある意味正解を答えながらクドラクが駆け出す。
向かうは巨大な十字架。秋月の串刺し公とは何の因果だろうか。
吸血鬼と呼ばれた串刺し公に、吸血鬼の弱点である十字架が立ち向かうのは。
身体から突き出る杭が、振り回す十字架とぶつかり合う。
十字架が杭をへし折りながら突き進んでいくも、本体にはたどり着けない。
「足りねえ足りねえ! てめえのブツじゃあ届かねえんだよ!」
「あ!? てめえのGIGが足りてねえんだよ!!
そのいかれっぷりだったらこっちは乱パでも誘ってたが、
いかれちまったもんは仕方ねえよなぁ。ぶっ殺す以外ねえってーのが残念だなぁ!!」
加速度的に武器がぶつかり合う。
巨大な武器でありながら片手剣のように振り回す。
それだけの速度と威力を誇りながらもダメージには到達しない。
一応攻撃の衝撃は杭を伝わって受けてはいるが、所詮はその程度だ。
攻防一体と化している秋月の創造武具は、並の攻撃では到達できない。
「だったら───」
「これならどうだあああああ!!」
二人が交戦している最中、さながら元気玉のようにアクリアは大量の水を貯めていた。
スターマンとイナバ辻の指示により水を大量に溜めて、イナバ辻のスキルで空から落とす作戦を行使する。
前述のとおり、水を量次第ではあるがその威力はコンクリートに激突するに等しい威力にもなりうるものだ。
いくら杭を全身から出してると言えども、超重量の水の塊を頭に叩きつけられれば杭どころか首の骨をへし折ることが可能だ。
なお、発情のせいでスキルをうまく扱えなくなりつつあったアクリアではあったが自分で水を浴び、
寒さで強引に誤魔化す形でなんとか水を操る行為自体はできるように行動してるため、なんとかなっている。
秋月が気づくころにには大質量の水が遥か上空から、アクリアの操作によって思いっきり滝のように叩きつけられる。
「しま……!!」
683
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:34:00 ID:qm4PMQqY0
地上に起きた滝とも言うべき水しぶき。
全員も退避しなければならない水が周囲へとなだれ込む。
全員ずぶぬれになったが、アクリアが速乾させたので特に大事には至らない。
「ず、随分派手な能力なんですね……」
(あれ、人柄随分変わったような……)
冷水を浴びたことで冷静になったことで、
先ほどまでのテンションが抜けて落ち着いた性格へ戻る。
何なんだろうこの人とは思いつつも、秋月の様子をうかがう。
「あーーーーー……死ぬかと思った。」
秋月は生きていた。しかも、銀色の状態になりながら。
格闘ゲームで更迭を身にまとった、と言うより更迭そのもののような姿だ。
誰の支給品かは忘れたが、メタルシェーダーと言う身体を鉄のようなアバターにできる支給品があった。
それと自身の創造武具での強引な防御壁を作ることで、水の一撃に耐えきることを選んだ。
結果は見ての通り。ちょっと痛い部分もあるが、精々その程度のダメージでしかない。
「ガキ、やってくれんじゃねえか……てめえの穴と言う穴に杭ぶちこんでやるから覚悟しやがれッ!!」
怒りという薪は狂気も相まって、更に進化を遂げていく。
鉄の身体を得たはずなのに生身の人間とそう変わらぬ速度で近づきながらの創造武具。
さっきよりも射程と太さが伸びており、杭と言うより最早破城槌のようなものになっている。
鉄となった姿で繰り出される際限なき怒りで此処まで進化するのかと、全員が驚かされるものだ。
全員何とか散開することで一撃必殺の攻撃を躱すも、続けざまに来る杭はもう一個人の強さではない。
「何かの事件かは知らないけど、
犯罪関係者を放り込むのはどっちにしろ主催者の趣味が悪いわね……!!」
厳密には秋月は事件に関与はしていないが、
ビデオで見たことがあると言った発言を併円とすることから、
何かしらの事件で録画係でもやっていたのだろうと勘違いするティアラ。
そのボヤキを聞いた瞬間、朱雀と風凪は同時に肉薄するように走り出した。
「朱雀!?」
「風凪君……え?」
この状況で肉薄するなんて、
一体何を考えているのか分からない。
二人は同時に思ったが、スターマンは別の考えもあったのだが。
何故この二人が突撃を始めたのか。
ティアラが『事件関係者』だと言ってきたからだ。
風凪にとっては例の事件の関係者だとバレてしまう可能性。
少なくともティアラやらスターマンやらに睨まれてる状態だ。
とどめにそんな事件の加害者だとバレれば、確実に殺されてしまう。
危険と分かっていても走らざるを得ない。全てはアクリアのために。
朱雀も似たような理由だ。
ティアラの言う事件関係者と言う意味合いを、自分の家族の関係者だと思った。
だから絶対に話を聞かなければならない。こいつが仇の可能性は十分にあると。
朱雀の創造武具であるヘリオスは負の感情が高まれば高まるほど威力を増していく。
だから威力はイナバ辻と出会った時よりもより強いものとなり、燃え盛る。
「無駄だと言ってんだろうがぁ!!」
袈裟斬りを防ぐように突出する杭。
炎も相まって大量の火花が散らされていく。
銀の杭と言う、吸血鬼を元ネタとするものとは矛盾した創造武具。
狂気、怒り、様々なものがないまぜにされたことで化け物じみた強さへと変化する。
「うおおおおお!!」
朱雀の創造武具と攻撃の派手さもあってか運よく存在を気取られず、
同じく肉薄しながらも背後に回られたことに気取られてない風凪。
へっぴり腰ではあるもののその無防備な背中へと突き刺すことに成功する。
「ガッ……テ、メェ!!」
反撃のように振り向きながら杭を出そうとするが、一瞬だけ躊躇う。
風凪の創造武具の洗脳で、一瞬だが魅力的な人物に見えてしまったからだ。
「ハッ、いい面してんじゃねえか!!」
684
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:34:59 ID:qm4PMQqY0
だが、それは逆効果であった。
地獄絵図のように犯されていく女。
人を人と思わぬ鬼畜の所業を見続けた彼にとって、
魅力的な人物とはつまり、壊し甲斐がある人間と言うことだ。
だから朱雀の攻撃を受け止めながらも攻撃の優先順位を風凪に変更。
避けようとするも間に合わず、腹部に風穴を開けられるように杭が彼の身体を突き抜ける。
「風凪君!」
一応は心配しておこうか。
そんな風にスターマンが叫びながらスターフラッシュをかます。
ついでで風凪も死んでくれrればなぁ、なんてことを思いながら放つが、
鋼鉄と化している彼に怯みはすれどもダメージを与えられたようには見えない。
「ハッ!! 無駄だ! 今の俺に叶うものなんざ……」
あるわけねえ。そう豪語しようとしたその時だ。
未だ鍔迫り合いをして凝りねえなと思っていたが変化が起き始めている。
「あああああああああっ!!」
負の感情をさらに爆発させ、熱をまとう朱雀。
鉄と言うのは熱伝導を伝えやすいものであり、
いくら鉄で体をコーティングしてヘリオスの剣を防いでも、
熱そのものは伝道していく上に、彼の身体は現在すべてが鉄だ。
体外への放出ができない状態であり、どんどん高熱にさらされていた。
「アッツゥ!!」
流石の秋月も無視できる温度ではなくなり、
受けるのではなく避けることに専念を始める。
無論串刺し公による攻撃をするが、朱雀と言う人物は復讐を目的とした男だ。
殺すために必死に鍛えた身体は狂気で染まった単調な攻撃を避けるのは難しくない。
「今なら攻勢か。この中であの鉄砕けそうなのは……まあクドラクか私だけか。」
「え、私!? ムムムムムム無理です!!」
「もう突っ込まないわよ……確実性ならあなたの方が適任よ。
と言うより、生身であの創造武具一緒にするのはちょっとやりにくいからね。」」
ティアラには変身もできるが、
それもまた生身で攻撃するものだ。
ヘリオスで高熱になった秋月の身体を攻撃すれば、
どうしたってダメージがこちらにも跳ね返ってくる問題がある。
そこも考慮すると、やはりクドラクで挑むのが望ましいことだった。
「……あの一人オナってる復讐鬼の手伝いとか癪だが、
あいつぶち殺さないと気が済まねえほうがもっと癪だな!」
ティアラに言われて仕方なくもあるが、
十字架を地面に叩きつけながらテンションを上げて駆け出すクドラク。
狂気的な笑みを浮かべながら戦闘に混ざっていく様は、
誰がバーサーカーなのかわからなくなってしまうぐらいだ。
「テメエ、なんで当たらねえんだよ!!」
「最期に聞かせてもらうぞ! 明星の名前に覚えはないか!」
「明星? ああ、一家が一人覗いて惨殺されたあれだっけか。
なんだ? お前その生き残りか! 名前そのままで仇探しとかウケるわ!!」
「知らないようだが、お前のような奴がいるから、神楽耶達は……ッ!!」
負の感情が更にくべられ、ヘリオスは威力を増す。
次々と迫る銀の杭を打ち払い、秋月の左腕を強打する。
焼けるような痛みはさらに増し、同時に左腕にひびが入りいびつな音を出す。
「な、さっきまで平気だったのに……!?」
「てめえの相手はこのあたしだああああああ!!」
続けざまに来る空中から振り下ろされるクドラクの十字架。
杭を出す暇もなく左腕で咄嗟でガードするも、派手な音とともに左腕が砕け散る。
「な、俺の左腕があああああ!!」
「とっとと降参しやがれこの変態リョナラーが!!」
「クソッ、死んでたまるかぁ!!」
後方に何か投げながら、秋月は後退しながら攻撃を避けていく。
避けた後彼の後方に広がるのは、まるで宇宙空間のようなワープホールだ。
元々は目当ての女を連れて逃げるために残しておいたものではあったのだが、
片腕を喪ってこのまま負けるぐらいならば一時撤退をする方が大事だと察したからだ。
「ワープホール!?」
「な、おい待て!」
ワープホールに消えていく秋月を追う朱雀だが、
その手をティアラが怪力を以て引き留めに入る。
「待ちなさい!どこに繋がってるか分からないのよ!?
もし移動先が崖下の可能性もある、リスクが大きいわ!」
「けど……!」
反論をしようとしたところ、ザバァーと言う音が朱雀の頭上から流れる。
そして浴びせられる大量の水。何が起きたか分からず、目をパチクリさせてしまう。
685
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:37:43 ID:qm4PMQqY0
「あ、すみません。頭を冷やした方がいいかなって……すぐ乾かしますから。」
落ち着かないと何もできなくなるのは、
自分が水を浴びて十分に理解したからだ。
それを他人にやるのは少しも酸いわけないと思ったのだが、
彼が思ってるほどではないにしても暴走してない人間なのが幸いし、
余り抵抗感なく行動に移せたのは大きい。
「……悪い。それより風凪だったか。あいつは……」
「ダメです……私の能力って液体を操れるみたいなんですが、
いくら止血しようとしても止血できないと意味がないんです。」
「この大きさの傷を塞いだところで、臓器がいくつもやられてるわ。
残念だけど、彼はもう無理よ。痛みを消す薬ならあるけど、使う義理もないでしょう。」
「いや残念って言うほどか? こいつレイパーだろ?」
「……まあ、そうなんだけど。」
だから使う義理もないと言った。
彼が仕様としていたことはティアラにとって嫌悪する行為の筆頭だ。
いたいけ……かはどうかはまだ分からないとして幼い子供に手を出そうとした。
いくら無法の殺し合いの地であろうとも、それが許される行為ではないだろう。
いかに主催者がそういう無法を許していたとしても、だ。
(ああ、こんなところで死ぬのか僕は。)
厳しい躾にも、必死に性欲にも耐えたりもしてきた。
我慢しきれず発散してしまったのは確かに自業自得ではあるけれど、
誰からも愛されることなく、空しく死んでいく。そんなの、いやだった。
せめて、誰か一人。一人ぐらいいないのか。自分を、本当に認めてくれる存在が。
「えっと、風凪さん……でいいんですよね?」
「アクリア、ちゃん……」
屈みながら、僕を見るアクリアちゃん。
可愛い。抱きしめたい。滅茶苦茶にしたい。
そんな欲望がとめどなく溢れるけれど、身体が動かない。
精々手を動かして、伸ばすことぐらいしかできなかった。
その表情は、まるで恋する乙女のような可愛らしいものであり、
頬を赤らめた姿も可愛いと言うほかないだろう。
「……えっと、その、来世があるか分かりませんが。
もしあるのでしたら、その時は友達になりませんか?」
なんてことのない、恋における振られ方。
ありふれたもので、僕も女性受けがいいから似た風に振ったことは何度もある。
でも、顔がいいとか資産家だからとかそういう色目ばかりの女性たちだった。
だからなのだろう。女を好きにしてもいい、彼のやり方に異を唱えなかったのは。
そして、真に友達として始めてくれる彼女の姿は、まるで天使のようでもあった。
「そっか……両想い、だね……」
いやそれは違うだろ。
彼の姿を見届けていた全員はそう思っていたが、
少なくとも風凪にとっては、幸せそうな笑みでその場に伏せた。
心臓も止まり、死んでいることが確認を終えると、皆が立ち上がる。
「変態にも情けかけるとか菩薩メンタルかしら?」
「多分、誰も求めてくれる人がいなかったんじゃないかなって。
愛されたいとか、助けてほしいとか。そういうのが創造武具になったのかなって
だから、最後ぐらいは嘘でもいいから、何か言った方がいいかなと思いまして。」
「だから洗脳して恋人のように、ね……歪んでいるわ。」
アクリアの洗脳は解除された。
だから風凪にあるのは只管に嫌悪感だけだ。
何がしたかったか分からないが、少なくともよからぬことだ。
変な声を出すことになった耳舐めも、今となっては不快感しかない。
それでも。彼はあくまで中学生。この殺し合いでも最も幼い子供だ。
だから人の死に対して悼む。たとえ、それがどういう人だったか分からないとしても。
「別にいいだろ。殺し合い中にレイプかますド変態だぞ?」
「あの、レイプって何ですか?」
「……ねえ、君歳いくつ?」
「13です。」
「OK。クドラク。ちょっと黙ってなさい。」
圧の強い笑みを浮かべながらクドラクを見やるティアラ。
こんな子供に聞かせる言葉を吐きまくる奴なんぞ近づかせてはならない。
そんな圧が感じ『お、おう』と少し後ずさりしながら離れることにする。
686
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:38:29 ID:qm4PMQqY0
「そうだ! 朱雀君! 貴方の仇なんだけど、
スターマンって人がすぐそこにいて……ってあれ?」
戦闘が終わってみれば、いつの間にかスターマンがいない。
秋月に集中しすぎていて彼が何をしていたかが分からなくなっている。
「まさか逃げた!? それともワープホールに入った!?」
ワープホールに入った可能性はなくはない。
そう分かった瞬間、躊躇することなく朱雀はワープホールへと飛び込んだ。
もし近くに逃げているのだとしたら、ティアラたちが捕まえてくれる可能性が高い。
なら最も逃げられる可能性の高いワープホールへと突入して別行動した方がいいと判断したからだ。
「朱雀!?」
さっき危険な場所に出るって言ったのに、
忠告を一切聞いてない行動にティアラは戸惑うが、そのまま飛び込む。
シンパシーを感じた以上、やはり放っておくことがでできないからだ。
「……どする?」
「流石に朱雀さんが仇討ち優先なら、
秋月って人を放置すると思うのでやめた方がいいかと……」
この人数で左腕一本奪えた程度。しかも相性のいい朱雀とクドラク込みでだ。
今のメンバーで負傷してると言えども追いかけるのは得策とは言えないだろう。
「あの、一旦離れませんか? 相手が準備整えて戻ってくるかもしれませんし……」
「ま、一時撤退か。一人オナ……復讐野郎はティアラに任せておけばいいだろ。」
「そう、なんですかね。」
秋月再来も想定し、
一先ず撤退することを選ぶ三人。
後の四人がどうなったのかと言うと───
「あー、死ぬかと思った……」
適当な物陰に身を隠しながら、秋月は呟く。
左腕がない。出血こそメタルシェーダーでコーティングされたことでない。
だが腕がないと言うのは絶望的だ。女を嬲るのに使える手段が減るじゃないか。
日常生活以上にそっち方面へと汚染されてることに欠片も気づかずに嘆いていると、
「ハハハハハ!」
高笑いをしながら、
異様な速度で走り出すスターマン。
風凪から貰った早くなる薬で全力疾走しているからだ。
出てきた理由は勿論、明星朱雀の存在である。
(朱雀、完全に朱雀だ!
もうアクリアのクソガキから伝わってるはずだ!
今できるのは全力で逃げて準備を整えることだけだ!!)
それから暫くして、
「スターマンッ!!!」
鬼のような形相でスターマンの走った方角か、
どうかは定かではないが朱雀も飛び出してくる。
「待ちなさい朱雀!」
それに続いてティアラも飛び出し、彼の後を追う。
物陰から次々と人が出てくる様子を見て、少しだけ秋月は安堵する。
(全員で襲ってこられたらやばかった……まさか、
朱雀っつー男か女か知らねえがあの変な頭と因縁あったとはな。
まあいいさ。腕は喪っちまったが支給品になんとかできるのがあんだろ。)
楽観的ではあるものの、
希望を捨てることなく己の欲求を満たさんとする秋月。
各地に散らばり、物語は時期に放送を迎えようとしていた。
687
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:39:15 ID:qm4PMQqY0
【風凪 死亡】
【B-6 森/一日目/早朝】
【イナバ辻】
[状態]:腹部にダメージ(中)、一部記憶と想いを忘れたフリ中、性欲を増強する創造武具に対する警戒、ダメージ(中)、全身に刺し傷や掠り傷、疲労(中)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2
[装備]: レーザーブレード
[思考・状況]
基本:優勝する、生きるためにはそれしかない。……でも、迷いも生まれてきた。ジレンマは終わらない……
1:とりあえず朱雀くん以外の他の参加者に会いたい。
2:朱雀くんの頼みはとりあえず出来るだけ実行しようかなと思う。
3:積極的優勝狙いよりもステルスした方がいいのかも。
4:輝月さんや伸史くん(勇者リチャード)は…殺さなきゃいけないけど、
朱雀くん同様出来るだけ後回しにしたい。
5:ヒーロー?…しょせんは虚構だと思ってたけど……私がヒーローになる。あばよ涙、よろしく勇気よ
6:アクリアを利用する。そうすることで覚悟を決めるんだ。……でも、こんなにも純粋な子を利用したくない気持ちもある
7:洗脳染みた性欲を引き出す創造武具の持ち主には出会いたくない。ところで風凪って人の声どこかで……・
8:……残念な、恋、だったね。
[備考]
※明星朱雀とある程度情報交換しました。
※アクリアと情報交換しましたが、朱雀に関しては伝えていません。
また、アクリアの性別を女性と認識しています
※スキルが進化して自分自身もワープ出来るようになりました
【アクリア】
[状態]:疲労(中)、肩に刺し傷(軽微・能力で疑似止血)、風凪に対する魅了と発情(大)、恐怖と不安、軽い人間不信、困惑
[装備]:水瓶(サダクビア・ポッド)@スキル
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2、明星一家死亡事件の真相(アプリに内蔵)
[思考・状況]基本方針:とりあえず殺し合いはしない方向で。
1:明星朱雀を探してみる? でも今人と会うのは怖い。
2:スターマンと風凪(名前は知らない)に警戒。でも、不思議と風凪とは会いたい
3:何、この感覚。怖い。……でも、気持ちいい
4:スキルになれないと戦う選択肢すら取れない。
5:とにかく今は此処から離れたい。
6:やっとまともな人に会えて安心した
7:嘘でも、救われた方がいいかなって。
8:あの人が、朱雀さん……
[備考]
※風凪の精槍・情愛の効果を受けてます
年齢的な未発達と元が男性のためある程度相殺してますが、何かしらのきっかけで状態が悪化します。
効果がいつまで続くかは後続の書き手にお任せします。
※水瓶は杖や魔法陣がないのと、
まだ使い慣れてないため弱いです。
回復能力があることについては気付いていませんが、心を開いてること(女装を打ち明ける程度の間柄等)が条件なのでそもそも今は使えません
また水で飛ぶことを覚えました(身も蓋もないこと言うとマリオサンシャインのホバー)
※イナバ辻と情報交換しました
【クドラク】
[状態]:健康 興奮(中) ティアラへの畏怖、疲労(中)
[装備]:『トリップ・オブ・パニッシュメント』@想像武具
[道具]:基本支給品、レイジング・ブルModel454(2/5) ランダム支給品×1〜2
[思考・状況]基本方針:……どしよこれ。
1:ティアラさん怖い
2:あんな奴(朱雀)とは組みたくねぇから離れたのはいいが、どうすんだこれ?
[備考]
※『トリップ・オブ・パニッシュメント』の興奮剤を吸引してテンションが昂っています。
※明星朱雀の事情を聞いてはいますが、ロクに頭の中に入ってません
※B-6に 風凪の基本支給品、毒蛾のナイフ、足が速くなる薬、風凪の死体があります
【???/一日目/早朝】
【スターマン】
[状態]:疲労(小)、怒りと殺意(極大)
[装備]:スターフラッシュ@スキル、龍の小手
[道具]:基本支給品、マンガ肉、首輪探知機(再使用まで4時間弱)
[思考・状況]基本方針:主催をぶっ殺す。平穏の邪魔をするな。
1:殺し合いに乗るつもりはないので他の仲間を探す。
2:なんで明星朱雀がVRCにいて、なんで一緒に参加してるんだよ!?
3:アクリアのガキを追跡して必ず殺してやる!
4:風凪は利用価値がある内は生かしておく。邪魔になるようなら……。
5:正義の味方らしく名前も知らない男(秋月)を消して承認欲求を満たし、信用も勝ち取る。
はずだったのにどうしてこうなった! どうしてこうなった!
6:逃げる!!! 今はとりあえず逃げる!!!
688
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:39:36 ID:qm4PMQqY0
【秋月】
[状態]:全身に打撃によるダメージ(中)、背中に切り傷(大)、袈裟斬りにより受けた傷(中)、頬に打撲痕、メタルコーディー、左腕欠損
[装備]:串刺し公(カズィクル・ベイ)@創造武具 エア・アンカー
[道具]:基本支給品×3、血の付いたビデオカメラ、ランダム支給品×2〜5
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る。
1:己の本能に従い、嬲り、犯し、殺害する。
2:セイントヴァルキリー・フレイヤは己の手で殺害する。
3:あのメスガキ(イナバ辻)達、いつか絶対嬲り殺してやる
4:サメ女(怪盗ナイトシャーク)は次遭ったら殺す。
5:野郎には興味ねえんだけどなァ……
[備考]
※ビデオカメラに内蔵された映像をいくつか確認しました。
※セイントヴァルキリー・フレイヤの正体は女子高生集団輪姦殺人事件唯一の生存者である赤崎愛奈と考えています。
【吸血姫ティアラ】
[状態]:健康 精神的疲労(小)
[装備]:『コウモリ』@想像武具
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]基本方針:生存
1:生き残る為に行動する。
2:あのエアプといいクドラクといい……
3:この復讐鬼が勝手に野垂れ死ぬのは、何か嫌ね。
4:待ちなさい朱雀!
〔備考〕
※明星朱雀の事情を知りました
【明星朱雀】
[状態]:健康
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜2、文字の書かれた紙切れ
[装備]:焔剣ヘリオス@創造武具
[思考・状況]
基本:敵を探し出し復讐を果たす
1:とりあえずティアラ、クドラクと組んで情報を集める
2:…彼女(イナバ)に思う所はあるが、今は泳がす段階だろう。
3:主催には怒っている…が、場合によっては接触手段も考えるべきか。
4:この世界には、ヒーローも復讐の代行者もいない。だから俺が…俺自身の手で、復讐を遂げなければいけない。
5:復讐さえ果たせれば、俺の命なんてどうだっていい。
6:待て!! スターマンッ!!!
[備考]
※イナバ辻とある程度情報交換しました。
※紙切れの記載内容がブラフな可能性も考慮はしています。
・メタルシェーダー
しろくママの支給品
アバターを鉄に変える。まあ要するにアストロン
実物が売られてる? 知らんなぁ
・ワープホール
秋月の支給品
球体のようなワープホールで、ランダムに選ばれたエリアに飛ぶ。
後から入った参加者も同じエリア、同じ場所に飛ばされる。
何か似たようなものがう売ってるらしいが気のせいだ。
30分で消える。一度使用すると6時間使用不可能
689
:
蝸角之争
◆EPyDv9DKJs
:2025/04/05(土) 19:39:54 ID:qm4PMQqY0
以上で投下終了です
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