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Fate/Aeon Chapter2
1
:
◆Lap.xxnSU.
:2022/08/23(火) 00:52:14 ID:jBK4VyIk0
過ぎ去った時間をもう一度やり直せても
【wiki】ttps://w.atwiki.jp/tamagrail/pages/1.html
357
:
◆Lap.xxnSU.
:2022/10/12(水) 00:10:05 ID:WdYvNwx60
>>ウェザーリポート
躍動感溢れるバトルシーンが読みやすくも奥深く、各々の強さを克明に描き出しているのがとても印象深かったです。
メリュジーヌとアルスの戦いはまさに頂上決戦と呼ぶに相応しい激しさの応酬。生半な手合いでは首を突っ込む事も困難な迫力でした。
オーロラが国会議事堂を占拠したモルガンの存在に気付くのもやはりという展開で、今後の物語の発展性がぐっと広がったように感じます。
危うしの状況だったジャックは情報抹消で逃げ切りと、それぞれのキャラクターの強さと持ち味を悉く描いた理想的な開幕戦でした。
ご投下ありがとうございました。
一身上の都合により期限までの投下が困難になってしまいましたので一度予約を破棄します。
申し訳ございません
358
:
◆IHJrDmiRfE
:2022/10/13(木) 23:39:12 ID:Miv9IkhA0
投下お疲れ様です。
最初は奇襲からの小競り合いが一気に広大な戦闘へと移り変わる描写、
そして、竜二騎の出し惜しみのない戦いがとても煌めいてかっこいい。
最強を自負する二騎だからこそのスケールの大きな戦いが文体と合致して、
読んでいてワクワクさせられました。
予約分、投下します。
359
:
序幕・百騎夜行
◆IHJrDmiRfE
:2022/10/13(木) 23:40:41 ID:Miv9IkhA0
聖杯戦争が本格的なものになってから。
夏油傑はより一層、勝つ為にはどうしたらいいか、といった問題に頭を悩ませた。
主は役立たず。自身も生前に形成した呪術師の仲間達はおらず。呪霊の数もはいないことはないが、数としては物足りない。
つまり、手持ちの戦力が足りなさすぎるのだ。
予選内にて揃えた持ち駒だけで、聖杯戦争を勝ち抜けるかといえば、厳しいと言わざるをえなかった。
これは、夏油が黄金の軌跡を辿るにはといった質問の回答としては、赤点だ。
主が協力的であったのなら、もっと違う道があったのかもしれない。
宵崎奏という主は夏油から見て、言うことだけは大層ご立派な使えない駒だ。
聖杯戦争。生きる為には、求める為には、殺し合うしかない。
少なくとも、彼女に戦争の運命を変えられる程、才覚があるとは夏油は思えなかった。
家に引きこもって何かに熱中しているその後姿に何度ため息をついたことか。
もっとも、変に正義感を発揮させ、自分の行動についてくると言わないだけマシか。
通常、引きこもりで存在感がない女だ、よっぽどの不運を引かない限りは襲われることはない。
それだけは、夏油にとって利点だったか、これが活発に外出し、戦場に躍り出す主であったなら、目も当てられなかった。
彼女を見ていると、捨て去った何かを思い出しそうで苛立たしい。
嘗て得ていたはずのもの。嘗て自身で切り捨てたはずのもの。
人間は汚い。そうした結論を抱き、親友を踏み越えて、見た果ては何にもなかった。
後悔はない、そうするべきだと自身が信じたから。
曲げる気はない、それはこれまで奪ってきたものに対しての冒涜だから。
聖杯戦争という舞台になっても、自身が英霊に成り果てても。
夏油傑は理想の果てを目指し、この汚れきった両手を振るう。
だからこそ、勝利に対しては貪欲であり、最短最適を追求する。
その観点から見て、夏油は眼前の“城”を観察し、秒で結論付けた。
あれは無理だな。
ため息混じりに心中で呟いた言葉には実感がこもっていた。
夏油は眼前に広がる城を見て、即座に攻略を打ち切った。
低級の呪霊が消し飛んだ痕跡を見に来たら、藪蛇を突いたみたいだ。
あの城は難攻不落という言葉でも生温い。
少なくとも、自分一人で乗り込んだら、即座に座へと還ってもおかしくはない。
重ねて言うと、あくまでも、自分一人の場合だ。
英霊になる前、百鬼夜行を束ねた時もそうだった。
手数を揃え、多角的に世界を奪ろうとした。
結果的には負けてしまったが、手法としては間違っていなかった。
故に、舞台と戦争が変わっても、夏油がやることは変わらない。
360
:
序幕・百騎夜行
◆IHJrDmiRfE
:2022/10/13(木) 23:40:58 ID:Miv9IkhA0
「――とまあ、あの“城”について、推論はした。
単独の撃破は不可能。城主をどうにかして引っ張り出すのが最適の手段だとも。
もっとも、君も、私と同じ考えに至っていると信じているけれどね。
それに、――あの城で君臨する者は“悪”だということも」
「同感だ。目立つ形で城を奪う化性だ、自身の強さに疑いがないのだろう」
相対する金髪の男――クリストファー・ヴァルゼライドは黙って聞いている。
自分の推論、国会議事堂に巣食う主従は単体での撃破は厳しいことを。
その推論を聞き、表情を変えず、思考にふけっている。
接触したのは偶然だった。お互い、あの国会議事堂をどうしたものかと偵察に来た際、遭遇してしまった。
出会って秒で殺し合わなかったのは、国会議事堂が前にあったからだ。
敵のお膝元で、消耗など愚の骨頂。勝利が至上である二騎のサーヴァントは効率的に戦いをしないことを選択した。
「だからこそ、攻城戦をするなら、手数がいる。
最低限、あれを潰す……もしくは消耗させるには単体では足りない。
私はね、この聖杯戦争でアレは渦中になると読んでいる」
ヘイトコントロールとして、国会議事堂に君臨するあれは最上級だ。
思想、方針問わず、危険視する主従は少なくないはず、と。
ならばこそ、そこに勝機はある。
「それに、とても“臭い”。早急に潰さない限り、力は膨れ上がる一方だ」
「ならば、一人で突っ込めばいいだろう」
「君はわかっている返答をそんなに聴きたいのかい。悪を滅するのに最善を尽くさない理由が何処にある?
戦いというのは質も大事だが、量で決まる」
「……手数を揃えたとして内部から腐るぞ」
「知ってるよ。だからこそ、新鮮な内に食べてしまうんだ」
一日。もしくは二日で手数を揃えて叩く。夏油が出したプランは早急な決着だった。
長々と味方も相手を肥え太らせる気はない。
「早期決戦は君も望むところだろう。向こうが居城から出てきてくれる愚鈍な豚なら嬉しいがね」
「長々と推論を聞かされたが、結局は殺すだけだろう?」
「できれば、ね」
「できればではない、できなくてはいけない」
これは戦いではなく、戦争である。最後に生き残った主従こそが勝者だ。
「…………ひとまず、アレを倒すまでは仲良くやってくれるということで構わないね?」
「いいだろう。過程がどうであれ、この戦争に勝つのは“俺”だ」
「その自信が口だけではないことを祈ってるよ」
二騎のサーヴァントの邂逅は数十分で終了した。
一日目、二日目と合流する場所を決めて。簡潔すぎる交渉は終わりを告げた。
百鬼夜行の再現を目指し、夏油は再び東京の街を駆け上がる。
それはかつてとった杵柄でもある。謀略、暗殺何でもやろう。
理想の成就は穢れ切った奇跡を以て叶えられる。
361
:
序幕・百騎夜行
◆IHJrDmiRfE
:2022/10/13(木) 23:41:11 ID:Miv9IkhA0
■
実を言うところ、クリストファー・ヴァルゼライドは集団形成による討ち取りを全く期待していない。
あくまでも、プランニングの並行進行――あくまでも、メインプランニングは単独での討伐を仮定している。
刃を収めたのは勝利への確実性が高まるなら、と。夏油の提案を飲んだに過ぎない。
彼の言う通り、あの国会議事堂を一人で攻めるには手が折れる。
無論のこと、城主に単独で勝利する自信はある。不可能を可能とせん気合と根性があれば、何でもできる。
とはいえ、真正面からの激突は消耗を避けられない。城の主とはまだ相対していないが、そう判断できるだけの要素は揃っている。
なればこそ、相手の陣地で戦うならば、数を揃えて攻め立てる。
夏油の提案は、一国を収めたヴァルゼライドからすると、当然のプランニングであった。
しかし、それはそれ、これはこれだ。素直にそのプランニングだけに頼る気はさらさらないし、何なら期待もそこまでない。
ヴァルゼライドは集団の脆さを知っている。
ましてや、聖杯戦争という群雄割拠の世界で、心から背中を預けられるなどあり得ようか。
人は、簡単に歪み、壊れる。生前も、そうだった。
人は善悪問わず、単一なモノこそ、一番強い。
――上手く誘い込めるか。それとも、攻め立てるしかないか。
最終的に殺すことには変わりないが、過程は変わる。
重ねて言うが、ヴァルゼライドからすると、集団を形成することによる期待はない。
ただうまい具合に歯車が噛み合えば、使える可能性はある。
集団にしろ、城主にしろ、歯車の破綻の際、派手に壊れてくれたら、後はもう突き進むのみ。
結局、頼りになるのは自身だけだ。状況を構築してくれる周りはあくまで付随物。
様々な戦場を渡り歩いた真ん中を悠々と歩くのは総統としての当然の行い。
……小難しい事を考えた。
戦場なんて簡単な律で成り立っている。
難しくこねくり回す必要なんてない、正義を証明するべく――思いのままに暴れればいい。
夏油のプランニングが失敗したら、堂々正面から入り、潜む敵を叩き斬る。
最悪、あの城ごと叩き斬ってしまえばいい、と。
どうにもならない場合はそうする他ないのが悲しいところだが。
「――是非もない」
あの城を壊すのは、主の意向とも合致する。機があるなら、逃さない。
そして、城主の次は――誰を斬ろうか。
夏油は知らない。ヴァルゼライドの“刀”が翻る速度は早い。
国会議事堂という巨悪を斬った次を見定めていることを知らない。
【千代田区・国会議事堂(『城』)付近/一日目・午後】
【キャスター(夏油傑)@呪術廻戦】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:軍団の形成。『城主』が手を付けられなくなる前に、1日〜2日で『城』の攻略を目指す。
【バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)@シルヴァリオ・ヴェンデッタ】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:勝利を。正義を成す。『城主』は殺さないといけない。
※夏油傑の案についてはスペアプラン程度の期待しか持ってません。
362
:
◆IHJrDmiRfE
:2022/10/13(木) 23:41:37 ID:Miv9IkhA0
投下終了です。
363
:
◆TPO6Yedwsg
:2022/10/14(金) 19:38:17 ID:GTVhjwU60
宮薙流々&ライダー(スメラギ)、暁山瑞希&アサシン(アンジェ・ル・カレ)予約します
364
:
◆TPO6Yedwsg
:2022/10/14(金) 20:46:54 ID:GTVhjwU60
投下します
365
:
鋼糸を手繰るものたち
◆TPO6Yedwsg
:2022/10/14(金) 20:48:03 ID:GTVhjwU60
「とりあえずライダー君の言う通り、特に変わらず普段通り過ごすつもりではあるんだけどさ」
「うん、それがいい。下手に普段と違うことをするとその違和感を気取られてしまうからね。
その点については、君の胆力は大したものさ。今のところ、振る舞いから違和感を持たれていることはないだろうね」
「けどさあ……学校、終わっちゃったじゃん?」
十二月二十四日、午後。
東京都における大抵の学校においてそれは冬季終業式の日であり、それは再現された異界東京都においても同じことだった。
宮薙流々という少女にとっても同じことであり、彼女以外の大抵の学生にとってもまた同じことだった。
午前のみで終了した学校から帰り、テーブルで納豆ご飯を食べながら茶を啜り、食器を洗い会話に興じる。
そんな中唐突に訪れた、予選終了の知らせ。
ともなると、流石にその話題の方向性は一つに絞られた。
「こうやって時間ができちゃうとねー、流石に色々気になっちゃうんだよね。
別に聞いたところであたしに何ができるとか思ってるわけじゃないけどさ……ライダー君は、これからどうするの?
っていうか、予選期間中って何かやってたの? こう、無茶してないか聞いた手前さ……」
「そうだねえ、気にしなくてもいいとは言ったものの、その意味に拘わらず知的好奇心を満たしたくなるのが人というものか。
それに良くも悪くも君は聞いたところでそれを気にせずありのままに生きる才能がある。ならば、問われるがままに答えるとしよう」
そんな様子に、ライダー・スメラギは苦笑いする。
彼女と彼の間には、いくつかのささやかな約束事があった。
どれも真っ当に生きる分には破りようもない、平凡な約束事。
しかしこの聖杯戦争の只中においては維持することの難しい平凡だ。
そんな平凡を、今も守れているかどうか。
無論、問題はないとスメラギは自答する。
マスターである流々の日常が曇るような行動を慎むこと、それを第一義に彼は動いてきた。
そう、無理をしない程度に、最適な手段を選んできた。
「予選をどう過ごしてきたかだけど……僕が君の側をほとんど離れていないのは知っての通りだ。
実際僕は自分で動くタイプのサーヴァントではないからね」
「うんうん、そんな話してたね。頭脳派だって」
「無論、情報収集はしていたけれど……僕たちの目標と君の安全を顧みるに、そちらも特に今力を入れる理由が無かった。
情報収集は大切だ、しかし情報というものは水物であり流動的だ。予選を様子見で流し隠遁に徹すると決めた以上、集めた情報は八割方無駄になる。
せっかく集めた敵の情報も、予選が終る頃には皆くたばってパーになっている可能性もあるわけだ。
だからそんなことに無茶を通すより、君の傍にいることの方が大切だった」
「うーん……つまり、本当に無茶も何も、特に何もしてなかったってこと?」
流々には小難しいことは分からない。なので半分は聞き流し、自分にとって大事そうな部分だけを捉えて質問する。
そのことはスメラギも承知しており、聞き流した上で後で思い出すこともあるだろうと、解説を重ねていく。
「無茶と言われるような何かはしていなかった、という話さ。深夜にちょくちょく出かけてただけでね。
それにこの情報社会においてはただ座っているだけでも情報は集められる。
君だって学校にいれば色々と胡散臭い噂を聞くだろう? チェンソーの怪物だの、夜な夜な歩き回る亡霊だの」
「あー、聞いた聞いた。ちょっとおかしなくらい一杯。実際に見たって人も結構いたよ」
「無論その大半は与太話……と、いうよりも、マジの話に煽られて流行化した作り話、というべきか。
目撃証言の数や実際の被害を手繰っていけば、その実在性の是非は容易に確認できる。
そういう目立ちたがりの参加者が事件を重ねていくことで、僕もまあ安楽椅子に座りながら状況を分析できるわけだ。
それにこういうバトルロイヤルにおいてはセオリーってものがある。セオリーと情報を組み合わせることで、必要なものの半分は見えてくる」
「おおー、じゃあライダー君には見えてるの? その……状況、ってやつ?」
「勿論。千年の経験は伊達じゃあないとも。ではちょっとした質問だ。この予選を突破した二十四組の主従って連中は、どんな奴らだと思う?」
366
:
鋼糸を手繰るものたち
◆TPO6Yedwsg
:2022/10/14(金) 20:48:55 ID:GTVhjwU60
「どんな……?」
流々は眉間に皺を寄せ、首を傾げる。
その頭の中でイメージするのは、数十もの敵をバッタバッタとなぎ倒す邪神っぽい何かの姿だった。
「そりゃー、予選を突破する、ってくらいだから、ものすんごい強い人達なんじゃない?」
「うん、それは間違っていない。けれどまだ見えてない側面があるね。それは『君』もまた二十四組の主従の一人ってことさ」
「あ! それって」
言葉を受け、視界が一気に拓けた。
そう、彼女はただ日常を過ごしていただけだった。
その結果他のサーヴァントに出会うこともなく、予選を乗り切ってしまったのだ。
「そう、予選を突破した主従には大雑把に分けて二種類の主従があると思う。
一つは君の言ったように聖杯を狙い積極的に戦い勝ち上がってきた精強な主従。
そしてもう一つは」
「あたしたちみたいな主従……」
「積極的に戦う理由のない主従だね。
人を殺してまで叶える願いなんてない主従だとか、戦略的に戦うことを避け隠れることを選んだ主従だとか、理由は色々あるだろうけど。
けどここで重要なことは各々の理由ではなく『予選を突破した主従のすべてが必ずしも強いとは限らない』ということなんだ。
本戦開始まで戦いを避け隠れることを選んだ主従はどうしても自力では強力な主従に及ばない。なら、どうするべきだと思う?」
「んー……逃げるか、別の主従に助けてもらうか?」
「同盟だね。日本の戦国時代とかでもよくやっていただろう? 大名同士の同盟。
小さな勢力が大きな勢力に抗うための手段。やがて小勢力の集まりが大勢力を凌駕し更なる大勢力になると、今度は大勢力が小勢力となる。
さて、小勢力が大勢力になる手段は?」
「えっと、小さい方が大きくなったから、大きい方が小さいってことになって……?
じゃあ小さくなった大きい方はもっと大きくならないと、って、あれ? んん?」
「分かってきたかな。そう、余程自分の腕前に自信のある主従でない限り、ここから先『勢力化』は絶対条件なんだ。
けれど勢力の肥大化はイタチごっこにはならず限界が訪れる。
それは陣営同士の利害の一致が成るかどうかもあるけど、それ以上に残る主従は二十四組しかいない、という数の上の現界点だ。
この本戦における本質は『勢力戦』だ。それが例え終わりには瓦解することが前提のものだったとしても。
より先んじて強力な勢力を築き上げた陣営が出遅れた単騎の主従を駆逐し、やがて勢力同士のぶつかり合いになる。
そしてこのビジョンは、軍略に明るい人物であれば共通見解として認識していることだろう」
「同盟同士の戦いってこと? あぶれちゃったところが弾かれて……えっ。
ら、ライダーくん! それってあたしたちすごいまずいってことじゃない!?」
「お、気づいたね。そう、予選終了までは良かったけど、ここからは勢力戦だ。
つまり協調できる陣営の存在しない場所は一転窮地に陥る事になるんだ。それがどういうことかっていうと」
スメラギがぴんと指を立て流々に向ける。
慌てて右往左往していた流々の視線が指に向かい、落ち着きを取り戻していく。
「どういうことかというとね」
「ど、どういうことかっていうと?」
「無論、僕は既に『同盟候補』にアタリをつけているってことだね」
「…………えー!?」
本日二度目の右往左往。
彼女は困惑のまま、なんとか現状を認識するべく真意を問い質す。
367
:
鋼糸を手繰るものたち
◆TPO6Yedwsg
:2022/10/14(金) 20:49:28 ID:GTVhjwU60
「けどライダー君さっき言ってたじゃん! 予選中は特に何もしてなかったって!」
「おいおい無茶はしてないとは言ったけど、何もしてないとは言ってないぜ。
確かに僕はこの予選中君の近くにいることを第一としたし、情報収集にもそれほど力を入れていない。
ただ、最低限必要な情報一つに的を絞って、それ以外を切り捨てただけでね」
スメラギの予選中の行動といえば、なるほど確かに数える程度で事足りるものだった。
千年を生きる不死者、神祖たる大国主の手腕としては極めて消極的、怠惰と謗られても仕方のないものだろう。
しかし、それでも何もしなかったというわけではない。
「僕は大っぴらに姿を現すわけにはいかなかった。それは君の安全面というのが第一ではあるけど、他にもちょっと嫌な勘が働いてね。
根拠のない勘だけど……僕の姿はおろか、『アメノクラト』を目撃されることさえも危険だと思う。
僕は大抵の相手に負けない自信はあるけど、生前と違って魔力に縛られる身であるし、本戦以降も現在の姿勢をある程度維持する必要性を感じた。
なら必要なものは何か、それは僕たちに代わり外の情報を集めてくれる協力者の存在だ」
「うん……けど、そんな人達あたしは知らないよ? ライダー君が予選で見つけてくれたの?」
「道すがら、たまたま君と同じようにただ帰還を願う主従を発見する。そしてその主従が予選を生き残ってくれることを期待する。
そんなことは全くもって不毛なことだ。だから僕が探したのは、スタンスはどうあれ隠密と生存能力に長けた主従。そして何より、情報収集に長けた主従。
さて、この二つの条件を満たすものが、サーヴァントのクラスには存在する。
僕はそのクラスのサーヴァントであるという一点のみに着目し、情報を集めた。そして……いたんだよ。少なくとも『協定』は結べそうな相手がね」
そして、着信音が響く。
備え付けの家電話ではない、聞き覚えのないシンプルな着信音は、スメラギから聞こえてくる。
スメラギは見慣れない携帯電話――それは、ただの携帯電話ではない。
『鹵獲』スキルによって低ランクの神秘が付与された、サーヴァントが携帯することを可能としたアイテムだった。
「――やあ、もしもし。始まったようだね。うん、こちらも把握しているさ。どうやらサーヴァントが聖杯から受け取る情報に差異はないらしいね」
着信に応じ、スメラギが電話の向こうの相手に語りかける。
そう、同じサーヴァントに対し、状況を共有するべく。
「連絡をくれたということは、その気になってくれたかな? まあ、無くてもこちらからかけるつもりだったんだけどね。
けれども、憶測でものを語り続けることほど愚かなことはない。答えを聞こう」
スメラギがちらりと流々を見る。
その視線を受け、彼女も感じた。
彼は変わらぬ日常を送ることを大切にしてくれている、けれど、やはりここから何かが変わろうとしている。
そのために、何かができるのかもしれない。それは決して特別なことではなくて、いつもの日常の延長線にあることで。
「――アサシンのサーヴァント。答えは如何に?」
例えば、電話の向こうの人と、仲良くなれるのかもしれない、ということだ。
368
:
鋼糸を手繰るものたち
◆TPO6Yedwsg
:2022/10/14(金) 20:57:22 ID:GTVhjwU60
*
「――招待を受けるわ、ライダーのサーヴァント。会合場所は……」
必要な条件を詰め会合を約束し、通話を切る。
アサシン、アンジェは使い捨て携帯電話を見つめ、予選中の出来事を想起した。
予選の間彼女は戦闘を行うことはなく、マスターの日常は保たれていた。
ただ、そう、接触がなかったわけではない。たった一度だけだが、接触はあった。
まさか『アサシンのサーヴァント』かつ『非戦に徹している存在』を予選期間中に徹底的に洗い出そうとするものがいるとは。
ライダーのサーヴァントは諜報を行っていたアンジェの存在を割り出した。それは気配の感知などではない、もっと恐るべき経験則の産物だった。
そして恐らくスキル化しているであろう話術を用い、戦う意志の有無を探り、また戦うつもりのないことを主張した。
その主張を受け、アンジェは一先ず連絡手段として鹵獲済みの使い捨て携帯電話を譲渡したのだ。
そして予選が終了し本戦が開始した今、
「協力、できそう?」
「そうね。恐るべき力の持ち主と見たけど、あの戦意の無さと言葉の内容に嘘はなかったわ。
マスターは同行しなくてもいい、という言質も貰ってるし」
「そっか、ボクにはわからないけれど……アサシンが信じるに足るって思ったなら、アサシンの判断を信じるよ。
同行するかどうかはちょっと、考えるね」
「危険だから私だけで行く、と言いたいところだけど。マスターの判断を尊重するわ。
このワイヤーの続く先が、光明であれば良いのだけれど」
今が、決断の時であるとアンジェは判断し、マスターである暁山瑞希に情報を開示した。
そして、双方の意思が今重なった。
そう、一先ずは話をしよう。
この先に来る非日常、その災厄を乗り越えるために。
【大田区・流々の自宅/一日目・午後】
【宮薙流々@破壊神マグちゃん】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:日々やっとこさ暮らしていける程度
[思考・状況]
基本方針:冬休みに突入したけど、日常を過ごす。釣りにでも行こうかな
1:と思ったらライダー君が突然爆弾を投下してきた件
2:同盟候補ってどんな人だろう……仲良くできるかな
[備考]
聖杯戦争に対し自分なりにできることを模索しています。
ただしそれはあくまで日常の延長線として可能なことで、彼女の芯は変わりません。
会合に参加するか否かは後続の書き手さんに一任します。
【ライダー(スメラギ)@シルヴァリオラグナロク】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:使い捨て携帯電話
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:マスターの安全を第一とし、それ以外を第二とする
1:仕事をせずにのんびりするのって素敵だねえ(仕事はしている)
2:『勘』だけど、嫌な予感がするな……まだ表に出るべきじゃない
[備考]
予選段階でアサシン・アンジェと接触し通信手段を確保していました。
また『勘』により神祖又は使徒が聖杯戦争に参加していることを確信しています。
具体的に誰がいるかはまだ感知していませんが、これにより自身の姿はおろか『アメノクラト』を展開することも今は危険だと認識しています。
アサシンと会合の約束をしました。
会合場所は後続の書き手さんに一任します。
【品川区・瑞希の自宅/一日目・午後】
【暁山 瑞希@プロジェクトセカイ】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:生きて帰る
1:同じことを考えている人がいるのなら、協力できるのかも……?
2:アサシンを見つけ出すなんて、きっとすごい強い相手なんだろうな
[備考]
予選までは日常を過ごしており、ライダー陣営については本戦が開始した後アサシンから開示されました。
現在は半信半疑ですが協力には若干前向きであるとします。
会合に参加するか否かは後続の書き手さんに一任します。
【アサシン(アンジェ・ル・カレ)@プリンセス・プリンシパル】
[状態]:健康
[装備]:鹵獲武装一式
[道具]:使い捨て携帯電話
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:得手を活かし暫くは諜報に徹する
1:本戦が始まった……もう猶予はないわね
2:話術に長けたライダー、彼からは一国の王の風格を感じたわ
[備考]
予選段階でライダー・スメラギと接触し通信手段を確保していました。
ライダーの交渉力を驚異に感じていますが、その言葉に嘘はないと思ってもいます。
ライダーと会合の約束をしました。会合場所は後続の書き手さんに一任します。
369
:
◆TPO6Yedwsg
:2022/10/14(金) 20:57:38 ID:GTVhjwU60
投下を終了します
370
:
◆As6lpa2ikE
:2022/10/15(土) 00:04:01 ID:7LKSbRrE0
シャミ子、ごせんぞ、朝比奈まふゆ、マグちゃんで予約します
371
:
◆As6lpa2ikE
:2022/10/21(金) 22:18:56 ID:0cs.FIDs0
延長します
372
:
◆As6lpa2ikE
:2022/10/28(金) 23:24:42 ID:Cl3fOibE0
すみません。間に合わなそうなので一旦破棄します。本当にすみません。
373
:
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/04(金) 15:17:14 ID:XdZKRWTA0
宵崎奏
三途春千代&セイバー(バーゲスト)
花垣武道&キャスター(五条悟)
デンジ&セイバー(ネロ)
予約します
374
:
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:01:45 ID:f9XxnQYI0
投下させていただきます
375
:
狂人走れば不狂人も走る
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:08:52 ID:f9XxnQYI0
宵崎奏には確固たる目的がある。
それは本来聖杯戦争というかたちに拘るものではないが、今となっては関わりが無いとも言えない。
奏が目指すものは『どんな人でも救える曲』の完成だった。
そして彼女の世界には今、新たに発生した未知の存在がある。
キャスターのサーヴァント、夏油傑。
呪術なるものを用い、人を憎み誹りそして殺すもの。
世界の非情さを目の当たりにし、苦悩の果てに外道に堕ちた人。
奏の住む世界では決してあり得ないかたちの悲劇を背負った彼。
物理法則さえ異なるかもしれない別の世界の人を救うには、何が必要なのだろうか。
奏のやることは変わらない、今もひたすら作曲のために自室に籠もり脳を働かせている。
だがその短期目標が変わったことで、彼女は確実に刺激を受けていた。
そして同時に、行き詰まりを感じてもいた。
キャスターに対し見栄を切ったものの、奏は本当の意味で彼の『絶望』を理解できたわけではない。
夢という形でその生涯を見た、というだけでは足りない。
自分にとってはスクリーン上の映画でも、彼にとっては実際に辿ってきた人生なのだから。
呪術という神秘の業、そこに内包される罪深さを本質的な意味で理解できていない奏の言葉は、彼には届かない。
奏はずっと、彼を理解するための道を探している。
誰も傷つけてほしくないという当然の善性を抱えながら、夏油傑という残忍を肯定するための方法を、探している。
「聖杯戦争……異界東京都、か」
前奏を終えてようやく、彼女は今の『外』について思いを巡らせた。
外の東京は、自分の知る東京ではないという。
キャスター曰く聖杯は数多の世界の要素を収集し、この東京を形成した。
大まかな地理は共通しているものの、彼の世界の渋谷では見られなかった施設がちらほら存在しているらしい。
今までは、そんな現状を気にする暇もなく作曲に没頭していたが。
「……CDショップ、行ってみようかな」
奏とて、完全無欠の引きこもりというわけではない。
クリエイターである以上色々な場所からインスピレーションを受けることは必須だ。
確かに極めて貧弱で不健康で日光に弱いという事実は覆しようがないが、それでも奏はこうして出かけることがある。
今外がとても危険であることは理解しているが、奏にとっては『その程度』のことが作曲に必要なことを自粛することはない。
ひょっとすると、元の世界にはなかった曲がここにはあるかもしれない。
そんなある意味長閑な事を考えながら、奏はジャージ姿のまま外へと出て、
「う……眩しい……そして寒い……」
当然のように日の光を浴びて狼狽え、冬の寒さに晒され猫のように身震いした。
*
376
:
狂人走れば不狂人も走る
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:09:41 ID:f9XxnQYI0
「アハハハハハハ! タケミっちってマジで馬鹿だよね!」
「う、うるせー! 笑うなキャスター!」
渋谷駅スクランブル交差点、ハチ公前。
常日頃、昼夜を問わず大量の人がひしめくこの場所で、膝をついて項垂れる金髪の少年と、それを指さして笑っている銀髪の少年がいた。
忠犬ハチ公を前に懺悔でもするようなみっともない有様は、周囲の通行人も近くを通るのを避けるほどだった。
「だから言ったじゃん。今をときめく大悪党、関東卍會の総長マイキーくんとやらが昼間から渋谷マーク下なんて無造作にうろついてるわけないってさあ。
それなのにタケミっちは通行人の目撃証言なんかにホイホイついていって……」
「しょーがないだろ、オレはこうやって足使うことしかできないんだし……それに今回は大勢の人がはっきり『見た』って言ってたし!
オレ悪くないよなあ!? 今回はオレ悪くねえよ!?」
「まあ確かに。実際いたもんね『写真の男』は。『写真の男』はね……けどさあ……ぷ、くくく」
「チクショウ誰だよ『赤城門次郎』って……何だよ『東大卍會』って!? 紛らわしいわボケェ!」
タイムリーパーであること以外は悲しいほどに普通の少年花垣武道くん。
それでも彼は彼なりに必死にマイキーを探し、時に関東卍會の構成員に襲われるもキャスター五条悟の手を借りて辛くも撃退し。
ようやく見つけた有力な目撃証言がただの『そっくりさん』であったことに打ちひしがれ恥ずかしさに悶えていた。
「びっくりするぐらい清々しいパチモンで笑えたわ。『赤門をくぐるために生まれてきた男』『二浪のモイキー』……あっやばい夢に出てきそう、ぷくく」
「危うく謎のサークル活動に巻き込まれるところだった……なんとか脱出できたけど何かお土産に揚げ物持たされちまったよ」
「入ればよかったのに東大卍會。ねっ、ミチタッケ」
「タケミっちって呼べよ! それ語呂悪すぎるんだよ!」
「このネタ定期的に擦るわ。ウケる」
チェック柄のTシャツをズボンに入れた眼鏡のマイキー。そしてそんな謎のギャグマンガ時空の存在に絡まれ唐突にミチタッケ呼ばわりをされる武道。
東大に憧れる浪人生共の宴に巻き込まれた武道は、彼らが揚げ物を大量摂取して腹を壊している隙きに何とか脱出してきたのだった。
そして何故か脱出直前に唐揚げを押し付けられた。
キャスターはその間霊体化しながらずっと指さして笑ってた。
「はーやれやれ。じゃあそろそろ真面目な話をしようか」
「あ? なんだよ」
「マイキーくんの居場所なら概ね検討は付いてるんだよね。ちょっと前から」
「……は!?」
ひとしきり笑ったキャスターは、突然武道にカミングアウトを行った。
予選中東京を駆けずり回り、不器用ながらも自分にできることを精一杯行ってきた武道。
しかしキャスターは、彼が欲してる情報を既に把握していたという。
「どういうことだよそれ!?」
「東京の中心にでけえ『領域』が出てきたんだよね。十中八九俺みたいなキャスター、あるいはそれに準ずる魔術系のサーヴァントの仕業。
今まではコツコツ土台作りに勤しんでたみたいだけど、まあ完成したってところか。あそこまでデカけりゃ高位の術師の英霊なら区をまたいでも流石に分かる。
俺はキャスターだし、目も良いんでね。んで、そっから関東卍會の連中が出てきてんの。ここまで来りゃもう決まりでしょ」
「知ってたんなら言えよ!? いや……なら今すぐにでもそこに」
「案内はまだしませーん。何故なら最強の俺はともかく雑魚一番星のオマエは踏み入った瞬間ミンチになることが目に見えてるから」
「俺が弱いなんてそんなこと分かってるよ! だからオマエに」
「良いから聞けよ」
詰め寄る武道の額に、キャスターの指が微かに触れる。
ただそれだけで、武道は身動きが取れなくなる。
キャスターの口調は先程までのふざけたものではなく、厳かなものだった。
377
:
狂人走れば不狂人も走る
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:11:02 ID:f9XxnQYI0
「サーヴァントってのは、基本的に『聖杯戦争の存在する世界』を基礎にコンバートされている。だから俺の解釈が全部正解とも限らないんだけど……
いいか、そこにあるのは『領域』って呼ばれるモン、あるいはそれに類する何かだ。
パンピーにも分かりやすいように言えば結界とか陣地とか、とにかく術師のトラップが満載の本拠地なわけ。
要は毒ガス満載の密閉空間と思いな。俺は最強だからそんなのどうってことないけど、タケミっちじゃ一吸いでアウト。
これは例えでもなんでも無くマジ。あのレベルの領域を展開できる術師なら、領域内に必殺必中レベルの術式を常に展開できてると思った方がいい」
「領域……それって、キャスターでも壊せないのか?」
「『出来たはず』だけど、『今は出来ない』」
キャスターは億劫そうに髪の毛をいじる。
極めて不本意だという態度で、その内訳を語る。
「領域への対処法で最も適切なのは、別の領域をぶつけることで相手の領域を中和、上書きすることだ。
その上で、僕は『領域』の宝具を持ってる。発動さえできれば勝ちに行ける、最強の領域をね。
けどさあ……僕の領域、この霊基じゃ使えねえんだわ! 今の霊基、大人になった『僕』じゃなくて少年時代の『俺』だから! はー、マジで聖杯ってクソだわ」
それは五条悟の特殊な来歴故か、そもそも通常霊基における限界点なのか。
ともかく、彼は自身の最強宝具である『無量空処』を封じられここにいる。
もし仮にこの宝具が使用可能であったのなら、すぐにでも関東卍會の根城に殴り込みを行うことも出来たかもしれないが。
「前も言ったけど、雑魚のお守りをする気はない。カチコミ中ずーっとオマエの側で『無下限』しながら戦えって? ゴメンだねそんなの。
というわけで、雑魚のタケミっちが大手を振ってあの領域を練り歩けるような何かを見つけるまでマイキーくんへの挑戦はお預けってことで」
「そんな……クソッ」
「最悪令呪何画かを犠牲に、不完全な形の領域を最初から中和目的で発動することなら何とか出来るかもしれないけどね。
ただ俺の世界の領域は使用直後は術式が焼き切れるんだ、だから基本的に使う以上必殺である必要がある。
一先ず落ち着けよ。この先は『俺だけ強くても駄目』なんだ」
武道の手からパックに入った唐揚げを一つ奪い取り頬張る。
かつての失敗がキャスターの脳裏をよぎる。
最強であることを常に誇示し、己の証としてきた。
すべてをなぎ倒し、へし折り、その称号を欲しいままにしてきた。
しかし、己の『最強』は親友の心さえもへし折った。
最強であることは、彼を救うことは出来なかった。
それは遠い未来の記憶、一癖も二癖もある生徒たちを導く道を選んだその未来は、少年の姿の彼にとっては朧気なものだが。
それでも、その道が間違っていなかったことを覚えている。
「……『俺だけが強くても駄目』、か。確かに、そうかも」
武道はそんなキャスターの言葉に感銘を受けた。
彼は弱い、それは自他ともに認めていることだ。
だからこそ、武道は自分より強いものたちの事をよく知っている。
その武力、その信念、その眼差し、その言葉。
そして――そんな強いものたちでさえ、挫け負けてしまうということを、よく知っていた。
「マイキーくんだって、ドラケンくんだって、あんなに強くてカッコよくても、折れちまうことはあるんだ。
一人じゃ勝てないものがあるんだ。けど、ここには俺の知ってる皆はいない……オレとキャスターだけだ。
オレはずっとオレがなんとかしなきゃって思ってたけど、でも……」
未知の世界に放り出され、検討さえもしていなかった可能性が浮上する。
ここには相棒も、かつての仲間たちもいない。けど、それでも。
「オレは……ここでもう一度、オレなりの『東京卍會』を探すべきなのかも――」
「――下がれタケミっち!」
*
378
:
狂人走れば不狂人も走る
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:12:13 ID:f9XxnQYI0
直後、暴虐の風が吹き荒れた。
武道はわけも分からずもんどり打って、キャスターに首根っこを押さえられる。
轟音、耳鳴り。いや、それは本当に音だったのか。
なにか現実のものとは思えない、音のような何かが、今自分の中にある根源的な何かを削り取ろうとしてきた。
そんな恐ろしいなにかの襲撃を、武道は10秒ほど呆けた後にようやく認識する。
周囲を見れば、交差点内の人々は皆一様に悲鳴を上げ、その場に倒れ込んできた。
目に見えぬ攻撃、奪われてはいけない何かを奪われたゆえの昏倒。
何故自分は無事なのか、それは――
「広範囲への魂喰い……ったく、雑魚のお守りはしないって言った側からこれだ。俺から離れるな、タケミっち。『吸われる』ぞ」
キャスターがその呪術によって彼を守っているからに他ならない。
よってキャスターと武道だけは魔力を奪われず、そしてそれ以外の通行人は皆倒れ伏した。
「な、なんだよこれ、ひでえ……誰だよ、誰だ! こんなことしやがったのは!」
「おー臭え臭え。相変わらずプンプン臭うなテメエはよ」
武道の怒りに応えたのは、交差点の向かいから悠長に歩いてくる男だった。
傍らに大鎧の騎士を連れた、両頬に特徴的な傷を持つ男。
その姿を、武道は知っていた。
この聖杯戦争に招かれる前、その姿は今の姿よりも十二も年をとった姿だったが。
「手土産はもう十分。だから後は関東卍會の下っ端でも絞めて、さっさとマイキーのもとに馳せ参じようと思ったんだがよ。
見つけちまったんだからしょうがねえよなあ? なあ花垣武道、いつまでもマイキーに纏わりつくヘドロゴミクズがよォ!」
「オマエ……三途、くん? そっか、あの時いたのって……!」
三途春千夜との因縁は、本来辿るはずだった未来においてはこれから結ばれるものだ。
今はまだ、武道にとって彼は東京卍會五番隊副隊長であったこと以外を知る由も無い。
ただ、明確な脅威であると。
この惨状を行った敵であると、否が応でもその意識に刻まれることになった。
「オマエ、何やってんだよ!? こんなことを……」
「ガウェインの『魔力喰い』は便利な武器だ。何の前準備もなしにその場で口を開けるだけで行える魔力の簒奪。
生前は令呪だろうと問答無用で食っちまえたらしいが……ま、今の性能でも十分すぎる。
オイ、花垣以外にターゲットはいたか?」
無差別な殺傷、たとえそれを行ったのがサーヴァントだとしても、命じたのは春千夜だ。
しかし春千夜は武道の叫びをまるで聞こえていないかのように、自らのサーヴァントに呼びかける。
首尾はどうか、と。
「……ああ、いたぞ。あの少女だ」
鎧の女騎士は、交差点前のCDショップの入口に倒れている一人の少女を指さした。
それを聞き、春千夜の口角がニヤリと上がる。
それはまるで、獲物を前にした鮫が牙を見せたかのようだった。
「オイオイマジか? サーヴァントが出てこねえってことは余程のボンクラか、負け犬がふらついてるだけか。
何にせよ――手土産が増えたな」
春千夜はゴルフバッグから日本刀を取り出し、鞘から抜き放つ。
そして指し示した少女へと近づいていく。
最早何をしようとしているのかは明白だった。
「オ、マエ、やめろ……やめろッ!」
武道が叫ぶ前に、既にキャスターが弾丸のように飛び出した。
しかしキャスターは立ち塞がるセイバー、要聖騎士ガウェインに阻まれる。
その巨躯から振るわれる剣が、キャスターの足を止める。
「タッパのデカい女がタイプとかじゃないんだよね、僕。どきなよ」
「出来ない相談だ。このガウェインもまた、聖杯戦争に参加するサーヴァントである故に」
379
:
狂人走れば不狂人も走る
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:12:41 ID:f9XxnQYI0
キャスターの拳とセイバーの剣が拮抗する。
その拳が纏う『無下限』に、セイバーの剣は威力を殺され、そして。
「術式反転――赫」
「む――!?」
膨大な斥力が、セイバーを弾き飛ばした。
無下限の反転、収束する力を転じ外に向けることによって、セイバーはいくつものビルを貫通し吹き飛んでいく。
「タケミっち、行け!」
「! あ、ああ!」
キャスターに背を押され、武道は走る。
向かうは何故か少女を殺そうとする三途の背だ。
例え、この世界が作りものだ何だと言われても、武道はその横暴と残酷を許しはしない。
そして、セイバーと対峙することを選んだキャスターはというと。
「……無下限が揺さぶられた」
セイバーの剛力を受け微かに震える手を、眉をしかめ見つめていた。
キャスターは『赫』を使用せざるを得なかった、無下限を破られるかもしれないと判断したからだ。
五条悟の無下限術式は強力無比なスキルだ。
彼が身に纏う『無限』は、そこに触れたものの速度を減衰し、やがて停止させる。
しかし、サーヴァントというフォーマットによって規格化されたことにより、そこにはいくつかの対抗策が生じている。
例えばそれは『必中』『無敵貫通』に類するスキルであるとか、『固有結界』であるとか。
そして、今しがた立ち塞がったセイバーのステータスと、ある特異性をキャスターは宝具『六眼』で粗方看破していた。
彼の眼はスキルや宝具を看破する類のものではないが、それでも『人に属するものではない』という存在そのものに付随する特異性を。
「妖精……『世界のルール』側に立つ存在。存在そのものが領域と言い換えてもいい神秘そのもの。
なるほどね。こいつは――」
そして貫通したビルの向こう側から、数多の『黒い犬』を連れたセイバーが逆襲の風となって飛来する。
弱肉強食の理を『妖精』から『人間』という絶対的な立場をもって押し付けるスキル『ワイルドルール』。
そして強固な護りの領域をごく自然と権能として発露するスキル『ファウル・ウェーザー』。
「久々に、楽しめそうだ」
「人間の魔術程度で、私は揺らぐことはない」
妖精騎士ガウェイン、もとい黒犬公バーゲスト。
彼女は五条悟の無下限の護りをごく自然と破壊することを可能とするサーヴァントの1騎である。
*
380
:
狂人走れば不狂人も走る
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:13:11 ID:f9XxnQYI0
「やめろ、三途!」
「ちッ」
少女に刀を振り下ろそうとしていた春千夜は武道のタックルを受け飛び退いた。
武道は息を切らせながらも春千夜と少女の間に立ち塞がる。
「何やってんだよ、こんなただの女の子に……!」
「ただの女の子ォ? おいおい、そいつの右手を見てみろよ」
「右手?」
倒れる少女を武道は見やる。
苦しそうに呻いているのはまだかすかに意識があるからだろうか。
しかし、その右手にある紋様は既にジャージの袖の外へと露出していた。
「令呪!?」
「せーかい! おら死ねえ!」
「うおッ、あぶなッ!?」
後ろを見た瞬間を狙い斬りかかってくる春千夜に対し、地面を転がりなんとか事なきを得る武道。
ここまでくると武道にも状況が把握できた、何故春千夜がこの少女を狙っているのか。
「敵のマスターをぶっ殺すのは当然だろ? テメエだって聖杯戦争の参加者じゃねえか、間違ってるとは言わせねえ」
「――間違ってる!!!」
「――あ?」
春千夜の主張する正当性を、武道は食い気味に、堂々と否定する。
少女の令呪を見て尚、その姿勢を崩さない。
こいつは、この男は、仮にも予選を突破した身でありながらそんなことをのたまうのか。
この予選中、ひたすらその姿勢を貫いたまま生き残ってきたとでも言うのか。
何一つ変わることのない、中途半端な光。
春千夜の眉間の血管は、爆ぜた。
「あー。あーあーあー、そうかよ。もういいや。テメエはそういうやつだった。ウゼ。
マイキーの闇にへばりつくきたねえ油汚れが……」
ブチギレながらも冷静に状況を横目で見る。
セイバーとキャスターは拮抗しており、状況は完全にサーヴァント同士、マスター同士の戦いに分かれている。
ならば簡単なことだ、このヒーロー気取りと令呪持ちの馬鹿二人を自分が斬り殺してしまえばそれで終わる。
武道を勝手に処刑したことでマイキーの勘気を買うかもしれないが、例えそれで殺されても本望だ。
マイキーの歩む闇の覇道に、こんな薄汚い光は、いらない。
「死ねよ花垣。テメエさえ死ねば全部解決するんだ。死ね、死ねェッ!」
「うるせェ! 何が闇だよ、マイキーくんはそんなんじゃねえ! ぶっ飛ばす!」
刀を振り上げる春千夜、拳を振りかざす武道。
一方は殺すために、一方は打倒するために。
そんな戦うことでしか何かを解決することが出来ない男たちの背中を見つめる視線があった。
「あ……」
少女、宵崎奏は薄れゆく意識の中、彼らを見つめていた。
CDショップに入店しようとした瞬間発生した魔力食いは魔力に対する抵抗力を持たない彼女の魔力を体力ごと奪い取っていた。
しかしマスターの一人として、枯渇するまでには至っていなかった。
彼らは何故、戦っているのだろう。
闇という言葉を暴虐の象徴とする鮫のような少年のどす黒い殺意は、今も倒れている奏に向けられている。
そレを全身で感じながら、絶望と言うにはあまりに狂い捻れ果てた情念を、全身で遮ろうとする少年の背中もあった。
刀という狂気を前に震えを隠さず、しかし決して後退することなく奏の盾となるように奮闘する見ず知らずの少年。
「ひかりと、やみ……」
命をかける理由。
奏はそれを、ぼんやりと感じ取っていた。
まだそれが何なのかは分からない、けれど奏は動かない体で、その背中に手を伸ばしていた。
彼らは何故、戦っているのだろう。
今はただ、それが無性に知りたくて。
「ギャハハハハハハ! 女に刀で襲いかかってるってことはヨォ〜、テメエはぶっ殺していい悪者ってことだぜ!
そして救いのヒーローである俺は女から感謝のチューを貰えるって寸法だ、勿論マウスチューマウスでなァ! ヒャッホウ!」
「えっ」
突如乱入した誰かの一切誤魔化しのない欲望全開の理由に、奏はついつい意識を手放してしまった。
*
381
:
狂人走れば不狂人も走る
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:13:51 ID:f9XxnQYI0
「チェンソーマン、参上!」
頭がチェンソーのバケモノだった。
春千夜も武道も、サーヴァントという規格外を知って尚その荒唐無稽な存在を前に、一瞬大口を開けて固まった。
「チェンソーマン、だあ……? テメエ、まさか巷で噂のチェンソーの化け物……」
「え、なになに、どういう状況なのこれ」
「ハッ、花垣とそこの女に続いて『三匹目』が釣れたってわけだ。寄り道にしてはとんだ入れ食い――」
「死ねェ!」
「うおあぶねッ!?」
それは先程の春千夜と武道の焼き直しのように、問答無用でチェンソーを振るったチェンソーマンに対し、春千夜は地面を転がることで事なきを得た。
「なんだてめーその口元のサメみてーなマークはよ〜。テメエみてーな悪者野郎がサメの真似をしてると思うと無性にムカついてくるんだよ!」
「何だこいつラリってんのか……?」
「ラリってんのは女の子に手をあげるテメエだろうが!」
「突然の正論!?」
人殺しに躊躇いのない春千夜も思わずドン引く支離滅裂さ。
しかしそんな支離滅裂の中に見えた常識的な発言に、武道は光明を見た。
「な、なあ! チェンソーの人……いや、サーヴァントか? とにかくあいつをぶっ倒すのに協力してくれねえか!?」
「うるせえ男は帰って死ね! いい香りのする女の子に生まれ変わってから出直せ!」
「ええー!?」
最早何が何だか分からなかった。
二人の間に突如乱入したあまりに物騒な第三者。
これを無視することは誰にもできず、混沌が広がっていく。
「……チッ、興が覚めた」
「え?」
そんな中、春千夜は現状に見切りをつけた。
刀を納めゆっくりと後退していく。
「命拾いしたな花垣。テメエを殺すにはもっといい機会がある……そういうことで納得してやるよ。
テメエはマイキーの下に引きずり出し俺の手で処刑する。関東卍會に来な、そこで改めて相手してやるよ」
「なッ、待てよ三途! ここまでのことをしておいてお前!」
「あァ〜何だ逃げようってのか? オイオイじゃあ落とし前としてタマ置いてけよ。もうすぐ新年だしお年玉置いてけよ!」
無論、そんな春千夜の勝手を認める理由は武道にもチェンソーマンにもない。
不利と見て撤退するというのならこちらにとっては好機でしかない。
まあ、チェンソーマンは武道の背中ごと春千夜を切り刻みそうな気配がしているが……先程の発言は聞かなかったことにして。
しかしそう言って飛びかかろうとする二人を前に、春千夜は悠々と令呪の刻まれた手を掲げた。
「――令呪を以て命じる。バーゲスト、俺を連れて撤退だ」
黒犬の波が、春千夜を浚う。
令呪によって底上げさせたセイバー・ガウェインの敏捷に追随できるものは、この場にはいない。
「三途!」
「アァ〜!? 何だこりゃ何も見えねーぜ!?」
Aランクを凌駕するスピードでの撤退に、その場の面々はそれを見送る他無かった。
こちらも令呪を切って追撃するべきかどうか、その判断もおぼつかず、そうして渋谷の戦端は終わりを告げる。
その場から、争い合う音は一先ず消えた。
あとに残るは倒れ伏す人々と、静寂。
382
:
狂人走れば不狂人も走る
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:15:07 ID:f9XxnQYI0
「うわ、こんなに沢山の人が倒れてる……これどうしよう」
「どーしようもないでしょ。死んじゃいないし警察に拾ってもろて。俺らも撤収すっぞタケミっち」
「あ、キャスター。良かった、無事だったんだ」
「そりゃ最強ですから、と言いたいところだけど。こっちもさっき数で有利になったもんで、もうちょっとで押し込めそうだったんだよね。
ほらあのオニーサン、敵の黒い犬を乗りこなしたまま銃ぶっ放したりやりたい放題でさあ」
キャスターが顎で示す先にいたのは、これまた巨大な剣を背負った青年だった。
キャスターと同じ銀色の髪を短く刈り詰めた欧風の顔立ちの色男は武道に軽く手を振ると、その横を通り過ぎていった。
「よおデンジ、首尾はどうだ?」
「完璧だぜ、命を狙われてる女の子を救っちまった! こんなのもうカップル成立だろ〜。そっちは?」
「生憎頭からまるかじりされそうなレディ相手だったんで鉛玉をプレゼントしてきたよ。で、その子が?」
「おーよ。俺の恋人(予定)な。見ろよ、すげえカワイイぜ……」
「最初はフリーハグくらいにしとけよ」
やがて、チェンソーマンの頭部と突き出たチェンソーがどろりと液状化する。
その内側からは、武道とそう年の離れていない少年の顔が出てきた。
「うわッ、人間!?」
「は? 人間以外の何だっつーんだよ。けど俺人間でも悪魔でもないって言われてたわ。まあどっちでもいいよな!」
デンジは驚く武道から早々に視線を切ると、倒れる奏を抱え持ち上げる。
大して力を入れないままに、軽い体は片腕でひょいと持ち上がった。
「オイオイセイバーやべーよ、この子超軽いぜ……地上に舞い降りた天使かもしれねえ」
「変な抱え方すんなよデンジ。お前にはエスコートの経験が足りてねえ、何なら代わろうか?」
「はァ〜〜〜? さては俺から天使を奪い取るつもりだな……させねえぜ!」
「お、おい。ちょっと待ってくれよ!?」
流れで解散、ということになる前に、何とか武道は声をかける。
どう見ても無茶苦茶な存在だが、この糸を離してはならない、となんとなく直感したからだ。
そもそも倒れた女の子をどこに連れていくというのだろうか、その時点で見過ごす訳にはいかない。
「その子どこに連れて行くんだよ!? 俺もついていくぞ!」
「はァ〜!? 男はいらねえって言ってんだろ――」
その時、デンジの腹の音と、武道のポケットから何かが落ちる音が重なった。
一仕事終えて空腹なデンジの前に転がり落ちる、ほのかなスパイスと肉と香り。
デンジは目の前に落ちたそれを見て。
「――おい。『ソレ』、俺にくれんならついてきていいぜ」
「え、これ? いいけど……」
「おいおいデンジ、マジかよ」
「何この流れ、ウケる」
そうして、2組の主従と1人の気絶したマスターは一時的に連れ立つこととなった。
果たして一体何が、デンジの興味を惹き同行を許したこの状況の決め手になったのか?
そう――それは、東大卍會の飲み会で押し付けられた唐揚げである。
383
:
狂人走れば不狂人も走る
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:18:48 ID:f9XxnQYI0
【渋谷区・ハチ公前スクランブル交差点/一日目・午後】
【花垣 武道@東京卍リベンジャーズ】
[状態]:疲労(小)
[令呪]:残り3画
[装備]:
[道具]:唐揚げ(取られた)
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:マイキーをぶっ飛ばす
1:今のままじゃ関東卍會に殴り込みをかけられないことは理解した
2:それはそれとして何だこの状況!? とにかくついていこう……
3:東大卍會って……何……?
[備考]
異界東京都に東大卍會が存在することになりましたが特に気にすることはありません。
もしモイキーを使いたい方がいればどうぞ。
【キャスター(五条悟)@呪術廻戦】
[状態]:疲労(小)
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:タケミっちの戦いに協力する。協力はするがお守りはしない。
1:本戦初っ端から無下限を抜いてくるやつか。妖精、いいね。
2:あの銀髪のセイバーもまともな人間じゃないな、悪魔?
3:チェンソーはなんかおもしれーから(どうでも)いいや。
[備考]
宵崎奏が夏油傑のマスターであることには現状気づいてはいません。
【デンジ@チェンソーマン】
[状態]:健康、空腹(小さい)
[令呪]:残り3画
[装備]:
[道具]:唐揚げ
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:聖杯戦争しつつ皆にチヤホヤされたい
1:マキマさん……俺、彼女ができたぜ(できてません)
2:唐揚げくれたし話くらいは聞いてやっか。こいつの名前なんて呼ばれてたっけ……ミチタッケ?
3:あの鮫野郎は殺す
[備考]
右手に奏ちゃんを、左手に唐揚げを手に入れてご満悦のようです。
【セイバー(ネロ)@DEVIL MAY CRY5】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:デビルハンターとして仕事をこなす
1:通りがかりに事件に遭遇とは、この出会いがどう転ぶか
2:デンジが女の子を持ち帰ることに関しては状況からギリギリ許してるが変な方向に行ったらぶん殴る
3:あのガウェインって女は斬る
[備考]
気分は引率のお兄さん。
【宵崎 奏@プロジェクトセカイ】
[状態]:疲労(小),気絶
[令呪]:残り3画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:元の世界に帰る。キャスターを救う曲を作る
1:彼の絶望を本当の意味で理解するには……
2:あの光と闇の行方が、無性に気になってしまった
3:なにあのちぇんそー
[備考]
気絶状態でデンジにお持ち帰りされていますが夕方〜夜には目覚めるでしょう。
魔力食いにより魔力が消耗していますが、奏のこの状況を夏油が認知しているかどうかは後続の書き手さんに一任します。
384
:
狂人走れば不狂人も走る
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:19:33 ID:f9XxnQYI0
「意外だな。貴様がこのような戦術的用途に令呪を用いるとは」
渋谷から大きく離脱し新宿の裏通りに着地したガウェインは、春千夜を放り出しそう言った。
とてつもないスピードをその身に受けた春千夜はふらふらと地面に座り込むが、その表情は尚も不敵だった。
「オレが令呪を使うのはお前に暴れさせる時だけ、とでも思ってたか?」
「ああ。貴様はそういう男だろう。暴力意外に悦を見出すことのできない外道だ」
「ま、そうだな」
ガウェインの言い分については、春千夜も認めるところだ。
実際、予選までの彼ならばそのような用途に使用していただろう。
しかし、今は違う。
「言ったろ、事情が変わったって。マイキーがいる以上、オレの行いはすべてマイキーのためのものだ。
あの寄り道で、3組の主従を把握した。1組はサーヴァントなしの負け犬かもしれねえが……それでも、令呪1画の価値はある」
あの時、致命的な一撃を受ける前に、距離を詰められる前に、三途は極めて適切に令呪を切った。
結果、渋谷にて3人のマスターの所在があぶり出され、春千夜はその情報を関東卍會へと流すことが出来る。
「オレはこの情報を関東卍會に持ち帰り、マイキーの判断を仰ぐ。
オレを殺していいのはマイキーだけだ。オレはマイキーのために死ぬ。オレがオレのために死ねる時間は終わったんだよ。
ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ」
「…………」
不気味な男だ、とガウェインは思う。
ともすれば、故郷の妖精騎士たちを思い出す、人間とは思えない精神性の男。
我欲と忠義が混在し、深い混沌の中で奇妙な調和を見せている。
そのような在り方を、ガウェインは認めるわけにはいかなかった。
彼女は騎士を志し、騎士たらんとするもの。
円卓の騎士の名を拝命し、妖精の邪悪な本能を克服してみせると誓ったものだ。
しかし、それでも。
忠実な騎士を貫くことは、果たして主君の外道を否定することと矛盾するのではないか。
己の在り方に苦悩しながらも、ガウェインはサーヴァントであり続ける。
聖杯戦争において勝利を目指すことは当然のことであると、己を納得させながら。
【三途春千夜@東京卍リベンジャーズ】
[状態]:健康
[令呪]:残り2画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:マイキーに会いに行く
1:思いがけず手土産が増えた、マイキーに会う前に残った主従探しに魔力喰いを続けるのもいいかもな
2:花垣武道……テメエには誰も救えねえ
3:あのチェンソー野郎、マスターとはな……
[備考]
マイキーを認知したことにより令呪を撤退に用いることが選択肢に入りました。
【セイバー(バーゲスト)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:サーヴァントとして務めを果たす
1:私は二度と魔犬に堕ちはしない
2:無下限……結界ではなく存在しない虚無を叩くというのは未知の感覚だった。だが次は砕く。
3:あの銀髪の男……私のブラックドッグたちに跨がったことを後悔させてやるぞ……!
[備考]
食人衝動はまだ発生していませんが、本戦が開始した以上時間の問題でしょう。
385
:
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:19:56 ID:f9XxnQYI0
投下を終了します
386
:
◆TPO6Yedwsg
:2022/11/09(水) 23:40:10 ID:f9XxnQYI0
状態表に複数の誤記があったので訂正します。
サーヴァント側の残り令呪の表記はwiki掲載時にすべて削除。
また三途の現在地は【新宿区・裏路地/一日目・午後】とします。
387
:
◆TPO6Yedwsg
:2022/12/09(金) 19:53:29 ID:9IGRv0yA0
杜野凛世&セイバー(座頭市)
予約します
388
:
◆TPO6Yedwsg
:2022/12/16(金) 01:00:04 ID:B2cKVki60
投下させていただきます
389
:
守り、守られるということ
◆TPO6Yedwsg
:2022/12/16(金) 01:01:39 ID:B2cKVki60
「もりちゃん、またねー!」
「もりちゃん、バイバーイ! また来年!」
「――はい。お二人とも、また」
朗らかな声が耳を打つ。
それは物静かな自分の持たない、太陽のような熱量であると、凛世は思う。
そんな思うところを口にしたら、『じゃあもりちゃんは月じゃん?』『めっちゃ分かるわ』なんて言葉を返されたのは、何時のことだったか。
今からずっと前のことだろうか、それともこの異界東京都に招かれたからのこと?
それは、どちらも。
戯れに以前したことのある質問をしてみたら、まるで同じことを返されたものだから、凛世はつい笑ってしまったものだ。
それは偽者だから?
凛世は、そうは思わなかった。ただ、嬉しかったのだ。
たとえ作られし世界、作られし人々であろうとも、その心根と抱く熱は同じものであると思ったから。
それを信じればこそ、凛世はそれを決して裏切ることなどできようはずがない。
信じたもののために生きる、杜野凛世はそうやって今までを乗り越えてきた。
日常を守ること、それを第一義に、彼女は一ヶ月を生き抜いた。
そして、彼女は一先ず、概ねではあるがそれを守りきったと言えるだろう。
12月24日、午後。
世間の学校は年末年始に向け終業する頃合いであり、彼女の学校も同じく。
先に下校する友人たちの背を見つめ、ほっと息を吐く。
先程凛世が受け取った『本戦開始』の啓示。
それは凛世にとって更なる戦いの予感であると同時に、一つの区切りでもあった。
彼女は、決して姿を隠さなかった。
日常から目を逸らさず……しかしそれは、愛すべき日常に危険が迫るということでもある。
事実、隠れなかったが故に『マスター』としての正体が露見し、戦いに至ったことだってある。
いつか、学校を巻き込み戦いが起きるかもしれない。
隠れ潜むことを厭い平常を装うのは、自分のエゴでしかないのではないか、そう考えなかった夜はなかった。
不安が口から零れ落ちたことだって、何度でもあった。
けれど、その度に。
『凛世さんは、間違ってなんかいませんよ』
『かたぎのお嬢さんが普通に、ありのまま生きることに、何を言われる筋合いがありますか』
彼が、凛世を守ってくれた。
最初はただ竦み、へたり込んでしまうような有様だった凛世を背にして、彼は笑った。
凛世は幸運だった。
それは、座頭市が彼女の力となってくれたこと?
それは、彼女の前に予選中立ち塞がった主従が、少なくとも破壊行為や人質を良しとする悪辣なものではなかったこと?
それは、彼女の日常を支えるものが失われなかったこと?
すべて、そう、すべてだ。
全てにおいて幸運であったのだろうことを、凛世は心の内で反芻する。
「――ありがとうございました。市さま」
あらゆる幸運によって、凛世の日常は守られた。
この一ヶ月、隣で自分のために心を砕いてくれた人がいたから。
だから、改めて凛世は虚空に向けて礼の言葉を呟いた。
この異界東京都にあって、自分ほど恵まれたものはいないのだと、そう思えることへの感謝を。
魔術師としての業、念話の何たるかを知らない故の呟き。
ただ、そこにいることを感覚ではなく事実として知っているからこその呟き。
周囲にはまだ同級生たちが何人かいて、彼が姿を現すことはまだできなかったけれど。
『――いいんですよ。凛世さん』
そんな言葉が、耳を打った。
それは音ではなく、念ですらないのかも知れない。
けれど、きっとそう言ってくれたのだろう、と思える程度には、凛世は座頭市と絆を育むことができた。
本日を以て、学業は終わる。
本日を以て、聖杯戦争は本戦が始まる。
一つの日常に終止符が打たれ、そして……凛世にとって、『覚悟』を決める時となった。
*
390
:
守り、守られるということ
◆TPO6Yedwsg
:2022/12/16(金) 01:03:25 ID:B2cKVki60
「市さま。おられますか?」
「どうしました。凛世さん」
座頭市は、外においては呼ばれない限りは出てくることはない。
自分のようなめくらが近くにいては目立ってしまいますよ、と言って。
彼が常に姿を現し話をすることができるのは、人気のない場所が自宅の中くらいのものだった。
それでも、こうして呼びかければ応えてくれる。
世間の対面だとか何とか、もっともらしい言葉。
けれども凛世の呼びかけは、そんなもっともらしい言葉に勝るものであると、そう態度で示してくれる。
「市さま。コロッケでございます。お一つ、どうぞ」
「ほう……ころっけですかい。そいつはありがてえ」
凛世が買ってきた肉屋のコロッケは、寒空の下ほかほかと湯気を立てている。
この東京で、凛世が友人たちに教えてもらった数多くのこと。
帰りの寄り道、女子高生の嗜み。
この異界東京都においては、凛世がその教えを実践する番だった。
暗闇の中、ただ生きることそのものが恐怖に値する彼。
けれど、卑屈ながらも軽口を好み、談笑の中に微かな希望を覗かせる彼。
そんな彼、座頭市を、凛世は従僕の名で縛り召喚し、この身を守って頂いている。
その、せめてもの心付けとして。
予選期間中初めてコロッケに触れた座頭市は、まるで驚天動地といった具合だった。
この真冬の寒空の中、火が点ったかのように熱く、瑞々しい肉。
食らいつけばサクリと景気のいい音が口の中に響く。
思わず二口、三口と食らいついてしまえば、手の中の火はすっかり胃の中に落ちて、その体を暖めた。
『ああ……いい時代だなあ。いい、時代だ』
凛世のような清らかな少女が、大過なく生まれ育つことができる時代。
道を歩けば見栄と建前、銭のために人を斬る連中がうろついていた時代を生きた座頭市にとって、その暖かさこそが何よりの報酬だった。
情け深い世になった。こんな良き世で、血飛沫を上げる理由なんざないはずだ。
自分は何かの間違いで、それともその罪深さ故か、こんな場所に呼ばれてしまったが。
『市さまがよろしければ、これから何度でも、共にコロッケを分け合いたく思います』
聖杯がこのような少女を自分に充てがったのなら、彼女を守ることこそが座頭市のサーヴァントとしての使命なのだと、彼は思った。
あれから数日、10日、20日、30日と。
そして今も、凛世と座頭市は隣り合い、寂れた公園のベンチに座りコロッケを食べている。
喧騒は通り一つ向こう側に遠く、サクリ、サクリと揚げたての衣を咀嚼する音が響く。
「本日は、クリスマス・イヴでございます」
「くりすます・いゔ……めでたい祭の日、ですかね」
「はい。市さまも、御存知でしたね」
「聖杯の知識、ってやつで。ははあ、他所の国の祭りを一緒になって祝うたあ、この国も景気が良くなった」
「明日は、クリスマスでございます」
「くりすます……お? そいつは、いゔ、ってやつとは違うんですかい?」
「似ていますが、違います。違いますが、けれど、似たようなもの、なのだそうです」
「ははは、今日も明日も祭りってわけですか。そりゃ景気が良い……通りがかる誰も彼も威勢が良いわけだ」
道行けば、どこを見ても浮かれた飾り付けを見る。
目の見えない座頭市には見えはしないがそれでも、町中を飾り立て道すがらにそれを見る人々の声を聞けば、その特別な様相は手に取ったように分かる。
この異界東京都の中では既に、サーヴァントによって起こされたいくつもの凄惨な破壊の痕が刻まれている。
それでも人々が祭りに浮かれるのは、危機感が麻痺しているから、ではない。
信じたいのだ。
この平和が崩れ去らないことを、この平和を崩す必要がないことを信じたい。
誰かが、街に住む一人一人が、乱暴狼藉の類によって身を守る必要がないことを信じる心が、この光景を生んでいる。
今どれだけの数、この光景を怖そうとするものがいるのかは分からない。
そういったものたちは、この光景を惰弱と謗るのかもしれない。
けれど凛世も、そして座頭市も、それが弱さなんてものであるとは欠片も思っていない。
もし、それを弱さだと宣うものがそこにいるのだとすれば。
「……凛世さん」
「……はい。市さま」
そのようなものと対峙することが、自分のなすべきことだと、凛世はこの一ヶ月間で『覚悟』したのだ。
二人は周囲を取り巻く『気配』を認識し、静かに席を立った。
その気配が、紛れもない殺意であると実感しながら。
*
391
:
守り、守られるということ
◆TPO6Yedwsg
:2022/12/16(金) 01:04:03 ID:B2cKVki60
寂れた公園を取り囲むように、一様の白の特攻服に身を包んだ少年たちが現れる。
どこから現れたのか、公園は既に数十人の少年たちによって、凛世を逃さぬよう包囲されていた。
中学生から高校生、もっと上の年のものもいるかもしれない。
その少年たちの正体を、凛世は知っている。
この異界東京都で真っ当に暮らすものであれば、知らない機会はないだろう。
関東卍會。
この聖杯戦争の開幕と同時期、突如として巷の暴走族を壊滅させ傘下に納めた男『佐野万次郎』が結成した、目下最大勢力の暴走族。
彼らは異常な力を振るい、警察は愚か機動隊さえもものともせず、異界東京都に破壊と暴虐と恐怖を振りまいている。
振るう鉄パイプがたやすくコンクリートを砕くほどの、常軌を逸した力。
彼らの纏うその力の正体が何であるのか、例え魔術のいろはを修めていなくとも、マスターたるものであれば理解が及ぶだろう。
予選の最中に、凛世もまた彼らが起こす事件に遭遇したことがあった。
それを見過ごすことができず、介入したことさえも。
救えたものは、決して多くはなかったけれど、それでもないわけではなかった。
だから凛世はそれを後悔はしていない。
その結果、マスター候補として人相を知られ、こうして取り囲まれるに至ったとしても。
「凛世は、幸運でした」
こうなる前に、待ち遠しい冬休みになったから。
こうして自分の正体が露見し、自分を中心に戦いが起こってしまったとしても、もうこの身一つ以外に傷つくものはない。
だから、凛世は覚悟を決めた。
愛すべき日常の中に自分を置き続けることを是としてくれた座頭市に、その上で義を見て成すことをも是としてくれた座頭市に感謝を込めて。
「市さま」
「……凛世さん。いいんですかい」
逃れることは、もうできない。
座頭市は言外にそう言った。
座頭市は盲目の剣客、その敏捷値は走力ではなく瞬発力を表している。
予め、遠く逃れることができないのであれば、後はもう、背について守られる他ない。
或いは令呪の一画でもあれば、しかし凛世にそれを行うつもりはなかった。
英霊の威圧を受けて、気を飛ばしかけた。
血飛沫がかかって、体が凍りついた。
誰かの断末魔を聞いて、心臓が縮み上がった。
それら全ての思い出を、凛世は恐れ、しかし決して捨てること無く。
「お願い致します、市さま」
再三と、宣言しよう。
彼女は、覚悟を決めたのだ。
鉄火場の中に身を置く、覚悟を。
*
392
:
守り、守られるということ
◆TPO6Yedwsg
:2022/12/16(金) 01:09:07 ID:B2cKVki60
直後、少年たちの怒号が公園に響いた。
通り向こうの人々は、それを聞いて聞かぬふりをするだろう。
義侠心で覗き込んだりすれば、命が保証されないことを理解しているからだ。
関東卍會、それは大魔術師の強化が施された尖兵。
洗脳じみた意思統制さえ施されている彼らは、そのガラに見合わず組織的な攻撃さえ行ってみせる。
囲んで殴れば下手なサーヴァントが相手でも勝つほどの膂力。
それが数を揃えて雪崩込めば、分断されたマスターなど一溜まりもない。
事実、この聖杯戦争の予選において関東卍會によって脱落させられたものが二桁をゆうに上回るだろう。
それほどの危険、脅威。
凛世はこの脅威を前に相対することを、既にその尖兵の一部を撃退した時から余儀なくされていた。
だからこそ、そう、覚悟を決めたのだ。
風が吹く。その風は二種類あるだろう。
一つは、関東卍會の族たちが振るう獲物の音。
魔術強化によってありえざる膂力を付与された武器を振るうことによって鳴らされる、禍々しい凶音。
その中に、僅かに、別種の風が吹く。
禍津風を切り裂くように、嵐の面を線で断ち切るかのような風が吹く。
やがて、嵐を構成する一つ一つの風がぽつぽつと消えていくことに、族たちも遠くの人々も気付くだろう。
仕込み杖から抜き放たれた刃によって、一人、また一人、兵隊たちが絶命していく。
それは英霊による華々しい戦いとは程遠い、ただただ音のない刃によってもたらされる死だった。
やがて倒れるものが10にも登れば、ようやく賊の一人が狼狽えるような音をつい口から漏らした。
その刃のあまりの静けさ故に、ようやくこのみすぼらしい男もまた、本戦まで生き残ったサーヴァントであると認識したのだ。
死体を数えることによって、未だ誰もが打撃を与えられていない事実を認識して、ようやく。
「本音が溢れたんじゃないですか? やりたくない、怖い、って本音がね」
音を零した少年はハッとして口を抑え、座頭市を睨んだ。
舐めるな、まだまだ数はこちらが上だ、女を狙え、殺せ、殺せ。
一瞬、恐怖に染まった顔は再び激情に支配される。
少年たちに『恐怖』は許されていない、彼らは尖兵だからだ。
その恐怖に従うことを許されてはいない、より大きな恐怖によって支配されているからだ。
「……可哀想に。あんたたちは、こんなことする必要なんざ無かった筈だ。だが――」
哀れみはある。
悲しみがある。
流す必要のないはずの血であると、その支配を行ったものへの怒りがある。
だが、それでも。
「今のあっしは、凛世さんの用心棒でね。このお嬢さんを傷つけようってなら――斬るしか、ねえな」
*
393
:
守り、守られるということ
◆TPO6Yedwsg
:2022/12/16(金) 01:09:56 ID:B2cKVki60
人知を超えた速度で振るわれる刀の中で、凛世はじっと息を細め耐えていた。
座頭市の瞬速の逆手居合は、後の先の究極だ。
たとえ四方八方を敵に囲まれようとも、彼は敵より後に剣を抜き、敵より先に剣を斬る。
宝具『音と匂いの、流れ斬り』、その真名開放を行わずとも、この程度の相手であれば座頭市は容易くそれをやる。
この鉄火場において凛世の役割は、彼を信じること。
盲目の剣士である彼にとって、守るべき相手が右往左往することは足枷になる。
だからこそ凛世は彼の背に立ち、じっと動かず、祈り続ける。
族の怒声が耳をつこうとも、凶器を手にその寸前まで迫ろうとも。
その寸前を超える前に、座頭市の仕込み刀が自身を守ることを信じ、動かなかった。
凛世を守るため、座頭市もまた振るう刃に容赦なく、族は袈裟に斬られ、首を突かれ、腕を斬り飛ばされ死んでいく。
そうすることを決意したのは、凛世だ。
例え、それが逃れようもなく追い縋ってくる凶悪な意思を持つ何かなのだとしても。
この決意を固めるまでに、実に一ヶ月。
最早いずれ来る本戦を前に、沈黙を保ってはいられないと決意するまで、座頭市は凛世に寄り添ってくれた。
嫌な渡世だ、と彼の言葉が耳を突く。
本当に、こんな事にならないのならどれだけ良かったことだろう、と凛世も思う。
けれど、凛世は決意した。
自らを守り、その道行きを共にしてくれる刃の持つ宿痾から、自分もまた目を逸らさないことを。
自らのいのちを守るために、自らもまた戦うと、決めたのだ。
凛世は、決して目を逸らさない。
血の匂いにむせ返ることはあっても、倒れる少年たちが死にゆくのを見て青ざめることはあっても。
彼女は決して後ずさること無く、座頭市の背につく。
今はそれが、恐怖からくる体の震えによって足が動かないだけなのかどうかも判断がつかなくとも。
座頭市の逆手斬りが舞う、舞う、舞う。
彼は一見剣の合理に反した無茶苦茶な耐性からも、盲人の合理によって敵に剣を御見舞する。
その剣は時に凛世の顔の横を通ることもあるが、凛世はそれに対し決して恐怖はしない。
恐怖するのは関東卍會の兵隊にのみ、座頭市の剣が自らを傷つけることはないと、彼女は信じている。
流石に反射で目をぎゅっと瞑ってしまうが、それでも、後退り離れることはせず。
刃が舞い、血が踊る。
しかし、切先から飛ぶ血は決して凛世に降りかかることはなく。
「およしなさいよ、無駄なこと――」
そうして、哀れな少年たちは物言わぬ屍となって、血の中に倒れ伏した。
数度、座頭市が呼びかけた勧告を受け入れたものは、ただの一人もいなかった。
哀れな子どもたちだ、座頭市は掛け値なしにそう思う。
仮に、こういった所業に及ぶ素養が元からあったのだとしても、恐怖する心さえ取り払ったものがいるのだ。
『悪』があるのだとすれば、それに他ならない。
渡世の若人たちを後に引けぬやくざの道へと引き込む『悪』が。
なんという、無駄な命の取り合いなのか。
座頭市は怒号が収まった後も、超感覚によって気配を探り――
「市さま」
その小さな声を受けて。
ああ、敵はもういないのだと理解して、刃を収めた。
座頭市の感じる凛世は傷一つ無かったが、その身は恐怖で震えていた。
394
:
守り、守られるということ
◆TPO6Yedwsg
:2022/12/16(金) 01:11:06 ID:B2cKVki60
「凛世さん。よっく、頑張りました」
「市さま。凛世は」
「凛世さんがあっしを信じてくれたおかげで、あっしは凛世さんを守りきれました」
信じたものに見捨てられるのは、辛いものだ。
やくざものが凶器を振るうこと、それそのものが恐ろしいのだということは理解できる。
それでも、一度寄せられた信を裏切られるということは心を裂き謂れなき憤怒を宿してしまうほど辛い。
凛世は、自分が生きた時代のものではない。
傷一つ、血溜まりの一つ、死体なぞ見ようものなら全てを見捨て逃げ出して然るべき、平和の中に生きる少女だ。
しかし、彼女は恐怖を否定せず、その上で座頭市に寄り添い、共に生きるための手段を模索しようとした。
何という覚悟か。
それは本来、凛世の抱かなくとも良い覚悟だったのだろう。
しかし、そのような理由で憐れむには、少女はあまりにも強かった。
「凛世は、日常を謳歌しました。市さまのおかげでございます。なので、ここからは凛世が、市さまに報います」
願いなんてものはない。そんなものは、なくていい。
あるのはただ、戦う覚悟。
悪を以て悪を討つ、その悲哀に隣立つための覚悟。
「市さま、凛世をお守りください。そしてその上で、市さまの思うようになさってください。
凛世の望む道と市さまの望む道は、きっと同じ方向を向いていると信じています」
血溜まりの中、凛世の紅い瞳と座頭市の白い瞳が交差する。
例え、その視線は交わっておらずとも。
この日この時、凛世は正しく日常を終え、大切に心の棚にしまい込んだ。
近くまた、棚から出すことを信じて。
杜野凛世は、聖杯戦争を戦うことを決意した。
【杉並区・何処かの公園/一日目・午後】
【杜野 凛世@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]:疲労(小)
[令呪]:残り3画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:日常を守るために、戦う
1:市さまは、この日予選の終了まで凛世の日常を守ってくださいました。ここよりの本戦は凛世が報います
2:予選中は自分のせいで学校が戦場にならないかどうか気が気でなかったが、終業したので一先ず安心
3:関東卍會、人々を操り兵隊としているという市さまの言葉が事実であれば……
[備考]
予選中特に隠れること無く学業と仕事に励んでいたため、一部にマスターとして認知されています。
関東卍會には今日確信を持たれ、兵隊による包囲を受けました。
【セイバー(座頭市)@座頭市(勝新太郎版)】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:凛世さんを、必ず生きて帰す
1:凛世さんの決意、しかと、あっしに届きました
2:こんなお嬢さんに『覚悟』決めさせちまうとは、不甲斐ねえなあ……
3:おれは『悪党』は捨て置けねえ。けれど、何よりも凛世さんを守ることが先決だ
[備考]
関東卍會の洗脳統制された兵隊を見て、それを行ったマスターとサーヴァントをより一層危険視しています。
395
:
◆TPO6Yedwsg
:2022/12/16(金) 01:11:27 ID:B2cKVki60
投下を終了します
396
:
◆TPO6Yedwsg
:2023/01/09(月) 17:09:11 ID:s.KLrMSM0
三途春千夜&セイバー(バーゲスト)
日車寛見&アーチャー(バーヴァンシー)
ランサー(メリュジーヌ)
予約します
397
:
◆TPO6Yedwsg
:2023/01/12(木) 23:54:55 ID:/DJpFn1A0
投下します
398
:
交差する、三途の道行き、その一歩
◆TPO6Yedwsg
:2023/01/12(木) 23:56:43 ID:/DJpFn1A0
「改めて考えてみたんだけどよお」
三途春千夜は右手を空にかざしながらぼやいた。
視線の先には、手の甲に刻まれた令呪。
先の戦いで一画を失い、残り二画となった令呪を、春千夜はどうでも良さげに眺める。
「俺はマイキーの闇を愛してはいるが、そのためにマイキーをどうこうしようとは思ってねえわけだ。
あの闇はあるがままが美しい。誰かに手を加えられて歪んじまった闇は、オレの求めるそれじゃねえわけだ」
「唐突に何の話だ」
この男はおよそ社会に属するものではない、どころかそれを率先して破壊する側の存在だ。
故に強力なサーヴァントを隠す素振りもなく、バーゲストは予選の間も度々春千夜の無駄話につき合わされていた。
大凡騎士道を捧げるに足る存在ではないマスターだが、今のところ戦略的に必要な攻撃以外はギリギリ行っていないのも事実。
魂食いに関しても、敵ではないものは殺すまではしないというバーゲストの主張を春千夜は受け入れている。
故に、バーゲストは見切りをつけることなくサーヴァントとして今も従っている。
「まあ聞けよ。この話はお前にも当てはまるんだからよ。オレはお前の闇を愛してはいるが、そのためにお前を令呪でどうこうする気はないってことだ。
だが令呪ってのはよ、マスターの願望をサーヴァントに伝えるものって話だろ? 仮にオレがお前に令呪で何かしらの攻撃的な命令をしたとして、だ。
その時万が一オレの『魔犬となったお前が見たい』って願望が無意識にでも混ざっちまったら?
そいつは、オレの求める展開じゃなくなっちまうよなあ? オレはあくまでお前がありのまま、闇に堕ちていくことを肯定してるんだからよ」
「…………」
その言い草にバーゲストは眉をしかめる。
しかしそれはそれとして、確かに春千夜は言葉による挑発以外でバーゲストに何かを強要したことはなかった。
それが彼独特の思想によるものだというのなら、今後もそう言ったことは起こり得ないということだ。
「だからよお。結局、オレはこの令呪を攻撃目的でお前に使うことは絶対にない、って今しがた気づいたんだよ。
ならさっきのあの使い方は? オレにとって正しいもんだったってことだよな?」
「貴様、自分語りを切差に采配をしくじったことに関して言い訳をしてないか?」
「いいだろ、ポディシブシンキングってやつだよ。それに炙り出しには成功したんだからしくじってねえだろ」
春千夜は残酷で気分屋だ。
その逸脱した執念からくる策略が時に実を結ぶこともあるが、基本的にこの男は衝動的に生きている。
先の戦い、花垣武道を見つけたことによるバーゲストの魂食いの決行は、隠れたマスターである宵崎奏の発見という利を見出した。
しかしそれと同時にチェンソーマンという強力なマスターを呼び寄せ、春千夜は留まれば死という状況に追い込まれた。
その結果が令呪による撤退であり、まっとうな魔術師であれば大損でしかない。
そう、まっとうな魔術師であれば、だ。
「オレの令呪は攻撃には使わねえ。つまり後二画も全部、撤退目的にしか使わねえってことだ。
そんで、本戦に残ったのは二十組弱。ならオレはこのまま、隠れた連中の炙り出し役に徹するのがオレなりの賢いやり方、ってやつなんじゃね?」
佐野万次郎の闇を讃え、隷属するこの男は、自らの勝利を前提としていない。
マイキーの闇こそが最強であると信じる春千夜は、関東卍會の敵を増やしていくことさえ問題とは思わない。
マイキー率いる関東卍會は無敵であり、敵が一丸となるのならむしろ都合がいいと言わんばかりに。
「貴様の勝手な思想で勝手な制限をつけておいて、賢いも何もないだろう。愚者の采配だな」
「おいおい、お前にとってもいいことじゃねえか? なにせ『令呪で魔犬になることはない』んだからよ」
「その言葉を次に使ったら殺されたいのだと判断するぞ」
バーゲストが睨みつけるが、それさえも春千夜は心地良いと笑う。
英霊の威圧さえも意に介さないのは、春千夜が一角の人物だから、ではない。
単純に、自分が死ぬことをなんとも思っていないからだ。
399
:
交差する、三途の道行き、その一歩
◆TPO6Yedwsg
:2023/01/12(木) 23:57:18 ID:/DJpFn1A0
「おー怖い怖い。んで、これらの方針を踏まえて、だ。やっぱ、まだマイキーの下に馳せ参ずる必要はねえなあ。
魂食いを繰り返して隠れた連中を引きずり出すか。雑魚ならそのまま潰しちまえばいいし、流石に多勢に無勢なら令呪でとんずらだ」
「……顔見せすらもしないのか? 貴様が主を奉じている点については、私も疑う余地はない。
しかしだからこそ、貴様は何を置いても主の下に参ずると思ったのだがな」
「オレにはマイキーが必要だ。だがな、マイキーにオレは必要ない。オレたちはそういう関係なんだよ」
三途春千夜はマイキーのために生きている。
しかし、マイキーは春千夜のことを思ってなどいない、少なくとも、今のマイキーは。
文字通りの手駒、あれば使うし無ければそれでいい、その程度のもの。
そう、純粋な闇が人を気にかける必要などない。
春千夜はそんなマイキーをこそ崇拝しているのだから。
「後ついでに。関東卍會が根城にしてるっていう千代田の国会。アレの主人が『妖精妃モルガン』ってのは、事実なんだな?」
「ああ、間違いない。近くから見れば理解できる。アレはかつて我ら妖精騎士が仕えた城そのものだ。
外装は誤魔化しているし、かつて妖精國にあった城ほど完成度は高くないがな」
「ふんふんふん……モルガン……モルガンか……なら、やっぱこのまま合流するのは面白くねえな」
妖精妃と妖精騎士の関係を、春千夜は既にバーゲストの記憶から把握している。
極めて強力な、英霊の範疇のあるのかさえ疑わしい存在、なるほどマイキーの振るう力として申し分ないだろう。
かつて冬の女王として妖精國を支配し、災厄であるバーゲストに『妖精騎士のギフト』を与えた存在。
そう、かの女王はかつて災厄を封じるために妖精騎士の名でバーゲストを縛った。
それこそが、唯一春千夜と相容れない要素。
マイキーに会いに行くのはいい、しかしもしモルガンに目をつけられたら?
いや、必ず目をつけられるだろう、そしてバーゲストには改めて『ギフト』を付与されるに違いない。
そんな事になってしまったら、バーゲストの美しい闇が封じられてしまうではないか。
春千夜は、ごちゃごちゃと屁理屈を並べながらも結局それを考えていた。
そして、たまさかその屁理屈が現状と歪に合致した。
マイキーにはまだ会わなくてもいい、自分はこれまで通り勝手にマイキーの武器として働くのみ。
令呪は攻撃には使わない、なら今のうちにひたすら場荒らしに徹してきたる関東卍會を中心とした大戦を前に使い切ってしまうのがいい。
モルガンに会うのは都合が悪い、バーゲストの闇が封じられてしまう。
狂人の理屈だ、だがこれを以て、春千夜は方針を決定した。
「よし、日が沈む前にもう一仕事と洒落込むか。東は千代田だからナシ。
西は……さっき締め上げた兵隊が、マスターのガキを追ってるって言ってたな。興味あるが、居所が知れてるなら後回しでいいか。
南は、さっき渋谷で暴れてきたところだからこれもナシ。んじゃ、北だな。ピンと来るところがあったらまた魔力食いするか。
行くぞバーゲスト」
「敵を発見するのは望むところだ。だが……貴様は、本当に分からん奴だな」
春千夜に命じられ、バーゲストは魔力を発しながらそれに続く。
向かう先はここ新宿よりさらに北の区画でかつ、関東卍會の本拠地である千代田と隣接しない場所。
即ち、豊島区である。
*
400
:
交差する、三途の道行き、その一歩
◆TPO6Yedwsg
:2023/01/12(木) 23:57:39 ID:/DJpFn1A0
「……うん。やっぱり、思い出せないな」
メリュジーヌは板橋区上空から離脱し、民家の上で霊体化しながらも、状況を整理していた。
板橋区を拠点とする魔法少女の主従との交戦、そしてそれに乱入した飛竜のサーヴァント。
結局飛竜との交戦はなあなあで終わり解散となったが、元よりメリュジーヌの本命は魔法少女への攻撃だ。
ジャック・ザ・リッパーのスキルである情報抹消は、交戦相手から情報を消し去り、自らに繋がる手がかりを失わせる。
故にメリュジーヌは自らに起こった不可解な記憶の欠落を認識していた。
「けれど、推測はできる。この不可解な情報の欠落はどうやらサーヴァントの能力によるものみたいだけど、片手落ちだね。
あの魔法少女、マスターについての記憶は失われていない」
そう、正しく片手落ちである。
アサシン、ジャック・ザ・リッパーの情報抹消は、スキル保有者の情報を失わせる。
だが、スキル保有者以外の情報を消し去ることはできない。
冷静に思考を纏めれば、抹消された情報の背後に存在するマスターの姿を再認識することができる。
ジャックの運用法として本来正しいのは、彼女を単独行動させ奇襲を繰り返すことだ。
そばにマスターが帯同するということは、それだけで情報抹消スキルの強みを半ば失い、手がかりを残すことになる。
しかしトップスピード……室田つばめは、その選択肢を取ることができない。
守るべき子の強みを活かすよりも、弱みを潰すことを選んだ。
「流しとはいえ、僕にも通用するほどの飛行速度……あの速度で逃げに徹されると、少し面倒かな」
よって、マスターの能力とそのスタンスを、メリュジーヌは理解した。
更に情報こそ消えたものの、自らが受けたダメージの程度から、敵の火力は測定できる。
竜種たる自分が微塵も回避できず受けたということは、何らかの宝具であると推察する。
そしてこれが宝具による攻撃のダメージだとするのなら……やはり、この敵は自身の脅威ではない。
仮に現状からもう一撃受けたとしても、何ら問題はないと判断した。
戦えば、間違いなく勝てる。
しかし先ず姿を再度捉えられるかどうかが問題だった。
あの手の逃走能力の高い敵は出来れば早期に仕留めておきたい。
しかし現段階であまりに追い詰め過ぎれば、敵は拠点を放棄する決断をするかもしれない。
雲隠れされてしまえば、追跡は更に時間をかけることになるだろう。
「これ以上は、僕の独断ではなくマスターに判断を仰ぐべきかな」
故に今、メリュジーヌは板橋区を離れ、その隣の豊島区にいる。
メリュジーヌは明確な意図を持って板橋区の敵を炙り出そうとし、奇襲を受けた。
しかし、まだ特定の主従を狙い撃ちしようとした意図までは露見していないはずだ。
敵主従がこのまま板橋区に留まる決断を下せば行幸。
敵の居場所の当たりをつけたまま、次の襲撃計画を立てることができる。
何にせよ、作戦の立案というのはメリュジーヌの本分ではない、彼女はただあるがままに強い生命体だ。
あの辛気臭い臆病な髭面、ハルゲントに一つ情報を持ち帰ってやるか、とメリュジーヌは飛び立とうとして。
付近に、見知った魔力の波を感知した。
*
401
:
交差する、三途の道行き、その一歩
◆TPO6Yedwsg
:2023/01/12(木) 23:58:05 ID:/DJpFn1A0
同様に、豊島区を訪れている主従がいた。
それは練馬区に残された残穢――術式を行使した時に残る魔力の痕跡を追う主従だった。
惨劇の場に間に合わずともそれを認識し、現場に残った物品の残穢から更にそれを行ったものを追跡する。
それをなせるのは、マスターが元の世界において天才的な呪術師であること。
同時に、下手人が無軌道に魔力を垂れ流し凶行に及ぶ狂戦士である証左でもあった。
「足取りをまるで隠すつもりが見られないな……素人でもここまで垂れ流しにはするまいよ」
『いーじゃん、そのうち追いつくってことでしょ。アレをやった連中がどんなツラしてるのか、興味はあるわね』
残穢は練馬区にて一旦途切れてしまったが、現場に残された物品から魔力の気配を記憶した。
更にその記憶を用いて探索を再開すれば、次の足取りは以外なほどあっさり見つかる始末だった。
果たして、この狂戦士がこの本戦まで生き残っていたのは神がかった幸運によるものか。
仮に規格外の強さを持つものであったとしても、このような凶行を重ねた上で話題にも登らないのは常軌を逸している。
単純な強さではない、冒涜的な力が働いていることを日車寛見は感じていた。
「まだ、どこかに留まる気配はないな……この区にいるのか、それとも更に遠くに行ったのか」
『オイオイまだ待たせんのかよ。あーあ、どっかにつまみ食いできる連中でもいないかしら――あん?』
彼らもまた、戦うべき相手を見定めそれを追うもの。
しかしその行く道を遮るように、近くから魔力の波動を感じ取った。
それは紛れもなく、周囲の主従にその存在を誇示するための挑発。
自分たちが追っているものとは別の、しかしどこか見に覚えのある魔力の波動だった。
それは、そう、妖精の魔力が持つ独特の波動ということだ。
『……へえ。おい、どうやら腐れ縁がいるみたいよ。最も、こんな騎士っぽい真似するやつは一人だと思うけど』
「そうか。ならばどうあれ、その真意を問いたださなくてはな」
そしてアーチャー陣営……日車寛見とバー・ヴァンシーも、その場所に引き寄せられる。
それが意味することは、つまり。
ここ豊島区にて、三体の妖精騎士が一同に集うということである。
*
402
:
交差する、三途の道行き、その一歩
◆TPO6Yedwsg
:2023/01/12(木) 23:58:33 ID:/DJpFn1A0
「……予感はしていたが、こうも機会を与えられるとはな」
バーゲストは、嘗ての同僚たちを前にしても動揺はなかった。
予期していたことではあるし、サーヴァントとなった今彼女にとって妖精國での出来事は自身の根幹であっても依存するものではないからだ。
「あらぁ大食らいのバーゲスト! やっぱりてめえも残ってたんだな!
なんか楽しくなってきたじゃない……妖精國じゃ一応同僚だったけど、今は好きに潰してもいい間柄だものね? 素敵!」
バー・ヴァンシーはその再会に歓喜した。
彼女は哀れなものが好きだ、終わっているものが好きだ、自分より惨めで穢らわしいものが大好きだ。
翻って、妖精という彼女にとってのルーツでありながら彼女が最も嫌悪する種族、その中でも頂点に位置するバーゲストは、彼女のお気に入りだった。
「そうだね、昔がどうあれ今の僕たちはサーヴァント。挑戦には応じるのが礼儀というものだ。
何なら二人がかりでも構わないよ?」
メリュジーヌは、バーゲスト以上に泰然自若だった。
空から降り立ち、屋根の上から二人をごく自然と見下ろすその姿勢は、二人から苛ついた視線を向けられる。
「アレ、何でそんなに機嫌を悪くするのかな……一応僕としても再会を祝しているつもりではあるんだけど?」
「貴様のその態度がいちいち癪に障るからに決まっているだろう」
「私、お前に興味沸かないのよね。帰っていいわよ」
「何で!?」
妖精騎士ランスロットことメリュジーヌ。
バーゲストは妖精國時代、ナチュラルに自分より強いことをアピールしてくるこの女をいつか叩きのめしてやると常日頃思っていた。
バー・ヴァンシーに至ってはあの女はもう一人とセットだからこそ悪い意味で栄えるのであって個人的に興味はなかった。
ランスロットの名を冠するものが持つ、同僚の大半から嫌われるものの宿命だろうか。
「……クク」
そんな妖精騎士たちの会話に、僅かに割って入る音があった。
鮫の牙のような頬から漏れる、愉悦の笑い声。
三途春千夜は目の前の光景を見て、笑いが抑えきれなかった。
「……クックック、ハーッハッハッハ! 全く愉快だ! そう思わねえかバーゲスト!」
妖精騎士、妖精妃、マイキー、城、数多の要素が春千夜の中で組み合わさっていく。
要素は線で繋がり、渦となって荒れ狂う。
その荒れ狂う渦をこそ、春千夜は見ていた。
「以前は『全員殺しちまえ』とか言ったけどよお……ここまでお膳立てされちゃ、乗らない方が失礼だと思わねえか?
このビックウェーブ……マイキーを中心とする大いなる流れってやつによ」
「何を言っている?」
「まあ、ここはオレに任せてくれよバーゲスト」
軽々しくバーゲストの鎧を叩くと、春千夜は前に出る。
前に出てようやく、バー・ヴァンシーもメリュジーヌもバーゲストのマスターである彼を認識した。
「あらバーゲスト、そいつがあんたのマスター? オイオイ、男の趣味変わった?
それともマジで見境なしになったのかよ?」
「? 何のつもりだい? 挑発してきたのはそちら――」
「オレはバーゲストのマスターであり、この異界東京都を席巻する『関東卍會』のメンバーだ」
403
:
交差する、三途の道行き、その一歩
◆TPO6Yedwsg
:2023/01/13(金) 00:00:54 ID:6iHyg/sU0
「――! それは……」
大きく反応を示したのは、バー・ヴァンシーのマスターである日車寛見だった。
暴走族のチームを装ってはいるが、英霊の魔術によって強化されその尖兵となっているのは疑いようもない大勢力。
無軌道に暴虐を繰り返すその存在は、彼にとって看過できるものではない。
よって、この段階で本格的に敵対することは確定となる――はずだった。
確定する前に、春千夜から齎された更なる言葉さえ無ければ。
「我ら関東卍會は、総長佐野万次郎と、そのサーヴァントである妖精妃モルガンを支持するものであり、その願いを叶える尖兵だ!
そう、お前らがよく知る冬の女王、妖精國の支配者の意思によって!」
「……え?」
「な、に?」
寛見は、致命的な場面が齎されてしまったことを悟った。
バー・ヴァンシーの表情は、凍りついていた。
少し前、モルガンについて言及した時と同じように。
それについて考えないようにしていた彼女に、いるとは限らないと思っていた彼女に、まだ直視するべきではなかった事実を突きつけられてしまった。
関東卍會という組織は、寛見の中にほんの僅かに残った信念から、とても許容できるものではない。
しかし、しかしだ。
これでもう、日車寛見は彼らに敵対することはできなくなった。
(やられた……あの男!)
「妖精騎士ども! これより関東卍會は一丸となって、群がる有象無象どもを駆逐する!
すべては無敵のマイキーと、妖精妃モルガンに勝利を捧げるために!」
関東卍會という大嵐、それを操っているのが妖精妃モルガンであるという事実。
春千夜はその事実を知って、今こうして他の妖精騎士たちも本選に残っていることを知り、軌道を変えた。
こいつらはオレ個人でバーゲストに潰させるよりも、嵐の中に巻き込んだ方が面白いことになる、と。
そしてその軌道修正は、春千夜の預かり知らぬ個々の事情により、想定以上の威力を発揮していた。
「関東卍會に集え。何なら敵としてでも構いやしない。威勢のいい敵は大歓迎だ。
この嵐に乗り遅れた奴に、強者を名乗る資格はねえ。きたる大戦の時、オレとバーゲストもそこにいる。どちらについた方が利口か、よーく考えろ」
「……お母様」
バー・ヴァンシーが、かすかに震えた。
その口をつく言葉は言葉にもなってない弱々しい音だった。
母が、モルガンがこの地にいる。
関東卍會という組織を率いて、自分の力を欲している。
その事実を受け入れてしまえば、バー・ヴァンシーは数多のフラッシュバックを受ける。
まだ思い出してはならない、己の愚行と後悔、その残滓。
「なるほど、そう来るか」
一方、純粋に情報として受け取ったのがメリュジーヌだった。
なるほど妖精妃モルガンには不義理を働いた負い目はある。
しかし、自らのマスターをないがしろにするほどでは断じて無く。
メリュジーヌは単純に、この盤面の中心にモルガンという途方もなく強力なサーヴァントが座していることを喧伝した事実を噛み締めた。
この男の真意についてはどうでもいい、しかし近く大きな勢力が動き出すというのなら。
成る程確かに、目を向けることさえできず出遅れたものは一転弱者側に転がり落ちるだろう。
それは個人としてではなく主従として、勢力としての話だ。
あの慎重なマスターも、それは否定することはないだろう。
「いいだろう、鮫の男。三途春千夜、と言ったね?
愚者じみた行いではあるが、確かに君の提案は一考に値する。
この提案はマスターへと持ち帰ろう。ここで争うこともしない。
曲がりなりにも強者の誇りを盾とするのなら、最強種としてどのような形であれそちらに向かうことを約束するよ」
「ああ、楽しみにしてるぜ、妖精騎士ランスロット。
んで、そちらさんは……オイオイ、こりゃロクな返事が来そうにねえな?」
「……持ち帰ることにする。それでいいだろう」
弁護士である寛見をして、最低限の発現以外は口を閉じざるを得ない状況だった。
下手な返事をすれば、それだけで今のバー・ヴァンシーを刺激することになる。
バー・ヴァンシーに勝利を捧げる、その意思は変わりない。
しかしならば、ならば自分は、関東卍會を容認し、それに膝を屈する必要がある。
紛れもなく、今相対していい事実ではなかった。
正しく、最高の相性であり最悪の相性。
三途春千夜はチェンソーマンという不運の次に、日車寛見という幸運を引き当てたのだ。
404
:
交差する、三途の道行き、その一歩
◆TPO6Yedwsg
:2023/01/13(金) 00:03:15 ID:6iHyg/sU0
「あっそ。じゃ、色良い返事を期待してるぜ。
なあ――モルガンの唯一の娘、妖精騎士トリスタン、祝福されし後継のバー・ヴァンシーさんよ」
「ッ!? あ……」
寛見の苦々しい視線と、バー・ヴァンシーの怯え凍てついた視線を受け、春千夜は上機嫌に背を向ける。
ここに、縁は繋がった。いずれ、どのような形であれ妖精騎士たちは関東卍會に集い、悲劇を撒き散らすだろう。
それは深い深い、闇のるつぼ。
「……メリュジーヌと決着をつけるのはこちらとしても望むところだったのだがな。
貴様という男は本当に分からん、一体何を考えて生きている? 人間ではなく妖精だと言われれば納得するところだ」
「何を考えてるかって? そりゃ勿論、より楽しくなりそうなことだろ、なあ?
さて……下っ端を捕まえて今までのこと全部マイキーに伝えるぞ。くく、クククククク……」
繋がった縁が寄り集まるまでに、まだしばしの時間を要するだろう。
しかし、導火線の長さはともあれ今確実に火はつけられたのだ。
妖精騎士たちは散っていく、いずれ約束された再会をその運命に刻みつけられて。
午後の日は既に傾き、冬空の境界線に沈もうとしていた。
405
:
交差する、三途の道行き、その一歩
◆TPO6Yedwsg
:2023/01/13(金) 00:05:18 ID:6iHyg/sU0
【豊島区・住宅地/一日目・夕方】
【三途春千夜@東京卍リベンジャーズ】
[状態]:健康
[令呪]:残り2画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:マイキーに会いに行こうと思いましたが、止めました
1:令呪で魔犬になることを強制したってことになったら癪だよなあ……けどなら勿体ないし全部撤退とか転移に使っていいんじゃね?
2:花垣武道とあのチェンソー野郎はいずれ関東卍會の総力で潰す、その時は必ず来る
3:妖精妃に妖精騎士……面白くなってきやがった
4:ことが起こらない限り、令呪が無くなるまでぶらついて挑発を繰り返すか
[備考]
謎の自己肯定理論を展開し、令呪を攻撃に使用しないという縛りを自らに設けました。
また関東卍會の下っ端を締め上げ、以下の情報をマイキーに伝達しました。
・自分がマスターとしてここにいること
・花垣武道とチェンソーマンと未知のマスターが連れ立って渋谷付近にいること
・妖精騎士トリスタン、妖精騎士ランスロットと遭遇し関東卍會に勧誘したこと
【セイバー(バーゲスト)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:サーヴァントとして務めを果たす
1:私は二度と魔犬に堕ちはしない
2:無下限……結界ではなく存在しない虚無を叩くというのは未知の感覚だった。だが次は砕く。
3:あの銀髪の男……私のブラックドッグたちに跨がったことを後悔させてやるぞ……!
4:この三途春千夜という男、実は妖精ではないか?
[備考]
自らが行使できる魂食いについては一般人を殺すレベルの展開はしないという条件で戦略的に使用に同意しています。
【メリュジーヌ@Fate Grand/Order】
[状態]:疲労(小)、背中を中心にダメージ(小)、室田つばめ&アサシン主従について、現地で得た情報の抹消
[装備]:アロンダイト×たくさん
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:マスターに聖杯を渡し、彼が言う『最強』と戦う。
1:記憶喪失について整理できたため、一旦情報をマスターに持ち帰る。
2:正体不明の謎のサーヴァント(星馳せアルス)とはいずれ決着をつけたい。
3:アサシン主従については面倒で厄介なので居所が割れているうちに最優先で始末したい。
4:関東卍會の起こす『嵐』について、マスターの判断を仰ぐ。どちらにつくにせよ、どのような形であれ参戦はするつもり。
[備考]
板橋区のアサシン主従を現状最優先目標に設定していますが、マスターの采配次第で柔軟に目標を変更します。
【日車寛見@呪術廻戦】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:少なくとも不自由はしない程度
[思考・状況]
基本方針:せめて、悪なる娘に救済を
1:この惨状を生み出した者を……
2:結局、私は何がしたいのだろうな
3:関東卍會……妖精妃モルガン……私は……
4:とにかく、バー・ヴァンシーを落ち着けなければ。今の状態で彼女が母に会うのは時期尚早だ
[備考]
ありす&グリムが起こした惨殺現場(練馬区・民家)を確認しました。
ありす&グリムの残穢を記憶、追跡の続行に成功したため、倒すべき敵としてその行方を追っています。
【アーチャー(パーヴァン・シー)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:敵を殺し、甚振り、蹂躙する
1:獲物がいないのは退屈だけど追跡なんて鬱陶しいことはマスターに任せる
2:あの練馬の惨状、あんな中で生活してたっていう連中には興味があるわ、潰してみたい
3:……お母、様? 私、あの時、あの時……?
[備考]
妖精妃モルガンについてはこの地に召喚されている可能性から目を逸らしていました。
しかし三途春千夜の宣言によりその存在を半ば確信したことにより大きく動揺しています。
この動揺はマスターの説得次第で一旦落ち着き、諸問題から目を逸らすことができるでしょう。
406
:
◆TPO6Yedwsg
:2023/01/13(金) 00:05:39 ID:6iHyg/sU0
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