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バトルロワイアル - Invented Hell -

1 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:28:36 pfVFsiCo0
◆ 参加者名簿
7/7 【テイルズ オブ ベルセリア】
○ベルベット・クラウ/○ライフィセット/○ロクロウ・ランゲツ/○マギルゥ/○エレノア・ヒューム/○オスカー・ドラゴニア/○シグレ・ランゲツ

7/7 【うたわれるもの 二人の白皇】
〇オシュトル/〇クオン/〇ムネチカ/〇アンジュ/〇マロロ/〇ミカヅチ/〇ヴライ

6/6 【東方Project】
〇博麗霊夢/〇霧雨魔理沙/〇十六夜咲夜/〇魂魄妖夢/〇東風谷早苗/〇鈴仙・優曇華院・イナバ

6/6 【ダーウィンズゲーム】
〇カナメ/〇シュカ/〇レイン/〇リュージ/〇ヒイラギイチロウ/〇王

5/5 【鬼滅の刃】
〇冨岡義勇/〇錆兎/〇煉獄杏寿郎/〇累/〇鬼舞辻無惨

5/5 【緋弾のアリアAA】
◯間宮あかり/◯神崎・H・アリア/◯佐々木志乃/◯高千穂麗/◯夾竹桃

5/5 【乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…】
〇カタリナ・クラエス/〇マリア・キャンベル/〇ジオルド・スティアート/〇キース・クラエス/〇メアリ・ハント

5/5 【Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
〇天本彩声/〇琵琶坂永至/〇Stork/〇梔子/〇ウィキッド

5/5 【ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
〇ジョルノ・ジョバァーナ/〇ブローノ・ブチャラティ/〇リゾット・ネエロ/〇チョコラータ/〇ディアボロ

5/5 【とある魔術の禁書目録】
〇浜面仕上/〇フレンダ=セイヴェルン/〇絹旗最愛/〇麦野沈利/〇垣根帝督

5/5 【響け!ユーフォニアム】
〇黄前久美子/〇高坂麗奈/〇田中あすか/〇傘木希美/〇鎧塚みぞれ

4/4 【新ゲッターロボ】
〇流竜馬/〇神隼人〇/武蔵坊弁慶/〇安倍晴明

4/4 【デュラララ!!】
〇セルティ・ストゥルルソン/〇岸谷新羅/〇平和島静雄/〇折原臨也

3/3 【虚構推理】
〇岩永琴子/〇桜川九郎/〇弓原紗季

2/2 【ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島】
〇ビルド/〇シドー

1/1 【ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
○ヴァイオレット・エヴァーガーデン

75/75


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2 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:29:10 pfVFsiCo0
当該企画はハーメルンで開催されていたリレーSS企画「バトルロワイアル - Invented Hell -」を移設したものとなります。ハーメルンにて企画者である当方のアカウントが凍結されてしまい、ハーメルンでのこれ以上の活動が出来なくなった関係上、今後は俺ロワ・トキワ荘様にて企画継続とさせて頂きます。
過去作については全て、まとめWikiに保管させて頂いております。
企画存続において、ご承認いただいた俺ロワ・トキワ荘管理人様、誠にありがとうございました。
まずはルールに則り、当該企画の基本ルール及びオープニングを投下させて頂き、その後、最新話の【第二回放送】及び最新ステータスの名簿を投下させて頂きます。


まとめウィキ: ttps://w.atwiki.jp/kyogokurowa/
避難所:ttps://jbbs.shitaraba.net/anime/11085/

尚、過去ハーメルン側の当企画に投下されておりました書き手様のうち、当該したらばでもトリップをお持ちで、且つご承認いただいた書き手様に限り、まとめWikiには、作者名を該当トリップにて掲載させていただいております。


3 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:30:10 pfVFsiCo0
【基本ルール】

参加者全員が、最後の一人になるまで互いに殺し合い続ける。
優勝者はどんな願いも叶える事ができる。
参加者間でのやりとりに反則はない。
ゲーム開始時、参加者は会場内にランダムで配置される。
ゲーム開始から72時間経過した場合、勝者なしゲームオーバー(参加者全員死亡)となる。


【スタート時の持ち物】

全ての参加者にデイパックが支給される。
デイパックにはゲームのルールブック、参加者名簿、腕時計、懐中電灯、地図、最低限の水及び食料が入っている。
上記基本支給品の他にランダムの支給品3つが支給されている。
袋に入れられる物の数及びサイズに制限はない。


【侵入禁止エリアについて】

放送で主催者が指定したエリアが侵入禁止エリアとなる。
放送度に禁止エリアは計3マス指定される。
参加者が禁止エリアに入って一定以上の時間が経てば、首輪は爆発する。


【放送と時間表記について】

0:00、6:00、12:00、18:00
以上の時間に運営者が侵入禁止エリア、死亡者、残り人数の発表を行う。
禁止エリアは放送度に計3マス指定される。

※本編は0:00スタート。


【状態表】

投下した作品の最後につける状態表は下記の形式で

【エリア/場所/経過日数/時間】

【キャラクター名@作品名】
[状態]:
[服装]:
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本:
1:
2:
3:
[備考]


時間帯の表記について
 状態表に書く時間帯は、下記の表から当てはめる。

 深夜:0〜2時 / 黎明:2〜4時 / 早朝:4〜6時 / 朝:6〜8時 / 午前:8〜10時 / 昼:10〜12時
 日中:12〜14時 / 午後:14〜16時 / 夕方:16〜18時 / 夜:18〜20時 / 夜中:20〜22時 / 真夜中:22〜24時


死亡したキャラが出た場合は以下の通りに表記する
【参加者名@作品名】死亡


4 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:30:42 pfVFsiCo0
【作品別の参加者・支給品の制限】
◆ 全作品共通
基本的に首輪が爆発すると、どの参加者も死亡するものとする。

◆ テイルズオブベルセリア
参加者の業魔化はなし
ベルセリア以外の作品の参加者から聖隷は視認可能

◆ うたわれるもの二人の白皇
仮面の本人支給は問題なし(支給品枠扱い)
仮面による能力は使用可能。但し、仮面の能力による広範囲攻撃には制限。及び能力使用時の負担は増大されている。
仮面による変身は禁止。
クオンに宿るウィツァルネミテアの力はある程度制限

◆ ダーウィンズゲーム
出典はアニメ最終話までとする
スマホがなくてもシギルの発動は可能
カナメのヒノカグツチについて、首輪の増殖は不可

◆ 東方Project
弾幕生成・能力使用など霊力を消費するものは同時に体力消耗
翼や補助道具なしでは空は飛べない
飛行は上昇するほど体力消耗
範囲攻撃及び魔法についてはある程度制限
咲夜の時止め能力については、最長10秒。連続使用は不可
鈴仙の能力について、『狂気』を操ることは不可

◆ 鬼滅の刃
アニメ化されていない漫画内の時系列からのキャラクターの参戦及び支給品の支給品も可能とする
無惨による鬼への呪いは無効化されている

◆ 緋弾のアリアAA
特に制限なし

◆ 乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった……
特に制限なし

◆ Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-
アリアの調律なしでカタルシスエフェクトの発現可能
カタルシスエフェクトの物理干渉あり

◆ ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風
スタンドは一般人から視認可能
スタンドの矢の支給は禁止
スタンドによる能力効果は本体からある程度離れると解除
スタンド能力による首輪干渉不可
ジョルノについてはレクイエム発現以前からの参戦とする

◆ とある魔術の禁書目録
特に制限なし

◆ 響け!ユーフォニアム
特に制限なし

◆ 新ゲッターロボ
ゲッターロボの支給は禁止
清明の鬼召喚は禁止
清明の変身は禁止

◆ デュラララ!!
特に制限なし

◆ 虚構推理
九郎の能力について、首輪の爆破による死亡は即死とする。
四肢の切断などの瀕死、重症の状態であれば、損傷に応じ時間をかけ再生可能。
鋼人七瀬の支給は禁止


◆ ドラゴンクエスト ビルダーズ2 -破壊神シドーとからっぽの島
ハンマーでの首輪破壊は不可
シドーについて、破壊神シドーでの参戦は不可

◆ ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン
特に制限なし


5 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:33:25 pfVFsiCo0
「――づら……」

誰かの声が微かに聴こえる。
と同時に、身体を揺さぶられている。

「はまづら、起きてーーはまづら……。」
「――たき、つぼ……?」

揺さぶる力を強く感じーー
その声の主が、滝壺理后のものであると認識した瞬間――
俺、浜面仕上の意識は覚醒した。

「ここは、どこだーー?」
「分からない……私も、今目を醒ましたばかり」

起き上がって、辺りを見渡すが周囲はーー闇、闇、闇。
暗がりの中、傍らにいる滝壺の顔を視認できるのがやっとの状況だ。
しかし、自分達以外にも複数の人間がいるらしく、様々な声が耳に入ってくる。
どいつもこいつも、俺たちと同じように今の状況に困惑しているようだった。

「はまづら、私たちの首に何か付いている」
「っ!? 何だよ、これっ!?」

滝壺の首筋には、銀色に輝く金属の輪が装着されていた。
慌てて自分の首筋に手を当てると、冷たい金属の感触がある。
手探りで首輪を探ってみるが、どうやら自力で外すことは出来ないらしい。

「畜生、どうなってやがる……。」

思い返してみるとーー
滝壺と一緒に、超高速旅客機の上からパラシュートを使って、ロシアの大地へと飛び降りたところまでは覚えている。
しかし、そこからの記憶が一切合切ない。

まさか学園都市の追手かーーと、身震いし、
滝壺の手を強く握りしめたその瞬間。

「参加者の皆様方、地獄へようこそぉ♡」

女性の声が周囲へと響き渡った。
俺たちは、声のする方向へと視線を向ける。
周辺の喧騒も鎮まっている。
どうやらこの場にいる誰もが、声の方向へと注目しているようだ。

やがて、バチンという照明の音とともに、二人の女の姿がステージ上に照らし出された。

「一部の方を除き、ほとんどの方とは初対面かと存じますので、まずは自己紹介を…。
私、今回のゲームの支配人を務めさせていただきます、テミスと申します。
どうぞ、お見知りおきを」

色っぽい姉ちゃんだ、というのが第一印象だった。
ラベンダー色の美しい髪をツインテールに束ね、露出度の高いドレスを身に纏った女は、微笑みを顔に張り付けていた。
その開けた胸元に思わず視線を移してしまいそうになるがーー
滝壺のいる手前、そんなことは出来るかと、どうにか自制する。

「それと、もう一人紹介するわ。私の隣にいるこの子は、μ。
彼女には、今回の戦場となるゲーム会場を用意して貰ったわ」
「……。」

テミスから紹介を受けるμという白い少女に反応はない。
華やかなアイドルのような衣装を身に纏っているその姿は、どこぞの歌姫を彷彿させるが、
その目は死んでおり、一切の生気を感じさせなかった。

「私たちの自己紹介はここまでとして…。 ここからは何故皆様がこの場に呼ばれたのか、ご説明いたしますね。
端的に申し上げますと、ここに集まっている皆様方に最後の一人になるまで殺し合いをやってもらいますわ」

はぁ?と思わず声が出た。
周囲も一気に騒めく。
しかし、テミスという女はそんな反応などお構いなしに、淡々と説明を続けていく。

「基本ルールの説明を行うわね、まず皆様にはーー」
「ふざけるなッ!」

顔は良く見えないが、声色からして、未成年の少年だろうか。
ステージの上に登壇したフードを被ったその少年の一声で、テミスの言葉は遮られた。

「何が殺し合いだ、馬鹿にしやがって! おいμ、どういうことだよ、これはっ! 早く僕をメビウスへ戻せ!」
「……。」

会話から察するに、少年とμは知り合いのようだが、μに特に反応はない。
ただ虚ろ目で少年を見つめていた。


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6 : オープニングーーー《地獄へようこそ》 ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:36:31 pfVFsiCo0
「申し訳ございませんが、司会進行の邪魔をしないで頂けます?
貴方は確かーー少年ドールさんでしたっけ?
如何にμと旧知の仲とは言えど、この蛮行は許せませんわね。
μ、この方を排除していただけるかしら?」
「――それが、テミスの『幸せ』なの?」
「ええ、そうよ。 このゲームを円滑に進めることーーそれが私の幸せに繋がるの」
「――わかった……。」

μはゆっくりと少年に向けて、指をさした。
そうすると、少年の身体はふわりと宙に浮き始める。

「μ、何をッ!? うごッ!!!? うごがお“お”お“お”お“ぁあ”あ“あ”ぁ―――――――!!!」

ジタバタと暴れる少年の四肢は、何か見えない力に、あらぬ方向へと捻じ曲げられていく。
この世のものとは思えない絶叫が辺り一帯に木霊する。
まさに地獄絵図とはこのことだ。

「がぐぉ”お”ぅ……。」

最後にその首が360度回転させられたのを皮切りに、宙に浮いていた身体はベチャリと地面へと落下していった。
絶命した少年の成れの果てを目の当たりにし、周囲には悲鳴や怒声が飛び交っている。
何人かの人間が少年のようにステージに上がろうとしていたが、透明な壁のようなものが彼らの行く手を阻んでいた。

何だ、あれは……?
能力か何か、か?
さっきまで、あんなものなかったのに。

「はいはい、静粛に! とんだ邪魔が入りましたけど、ルール説明を続けさせて頂きますね」

テミスは尚も余裕たっぷりな表情を浮かべていた。

「これからμの力を使って、皆様を殺し合いの会場へと転移させますわ。
と同時に、皆様には各自デイパックを支給します。
その中には食料や水、地図、名簿、このゲームのルールブックの一式と、ランダムで殺し合いに役立つかもしれない支給品が、三つまで入っています。
ふふっ…、何が入っているかは開けてからのお楽しみね」

表面上は女神のような微笑みを浮かべはているが、決して惹かれることはなかった。
学園都市の暗部で、たくさんの腐った人間を見てきた、俺には分かる。
あれは、こちら側を見下し嘲笑っている…そんな、下衆な笑みだ。

「それと6時間ごとに放送を行います。 放送では、それまでの間に何人の方が脱落したのか、と侵入禁止エリアを発表していきますので、決して聞き逃さないように注意してくださいね。
そしてそして、何とーー!」

テミスはわざとらしく、大きく手を広げる。
その仕草には、底なしの悪意を感じた。

「殺し合いを勝ち残った最後の一人には、ご褒美として、どんな願いも叶えてあげます。
巨万の富に、死者の蘇生――。何でも良いわ…。何でも叶えてあげる!
あはぁ♡ どうですか、皆さま。少しはやる気が出てきたのではないでしょうか?」

ああそうだ、とテミスは何かを思い出し、手をポンとたたいた。

「私としたことがうっかりしておりました。
最後に、皆様に装着された首輪ですが、禁止エリアに侵入したり、ゲーム会場から脱出や我々運営に危害を及ぼすような行動をしたら、爆発するように設定してありますのでご注意を…。
まあ、これに関しては実際に見てもらったほうが早いかしら。」

と、テミスは此方側を見渡してきた。
品定めをするようなネットリとした視線は、やがて、俺たちを捉えーー
えい、とリモコンのようなものを押した。

ピィー――というけたたましいアラーム音が滝壺の首元から聴こえた。


7 : オープニングーーー《地獄へようこそ》 ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:37:42 pfVFsiCo0
「「――えっ?」」

呆然とする俺たち二人に、眩いスポットライトが照らされている。

「さぁさぁ、皆様。ご照覧ください、この首輪の威力を!
カウントダウンを始めますよー!
10――9――8――……。」

嘘だろ。
何だよこれーー
何なんだよ、これ!

「はま、づら……。」
「ふざっけんじゃねえぞぉおおおお!!!!」

俺は、懸命に滝壺の首輪をガチャガチャと弄り外そうとする。
――だが、外れない。

「――6――5――……。」

「はまづら、逃げて……。このままじゃ、はまづらも、巻き込まれる……。」
「馬鹿野郎! 約束したじゃねぇか! 絶対に放さねえってよ!」

畜生っ! 何でだよ!
何でよりによって、滝壺なんだよ!

「――ッ!―――――!」

外野から何か声が聴こえる。
どうやら俺を諫めているようだが、関係ねえ。

「――4――3――……」

クソがっ!
諦めてたまるかよっ!
俺は絶対に滝壺をっーー

「っ!?」

突如身体に浮遊感を感じたかと思うと、俺と滝壺は引き剥がされていた。
いつの間にか、俺の手足には黒いモノが纏わりついている。
視線を背後に向けると、そこには黒い異形がそこに佇んでいた。

ヒトの形をしているが、それは人ではなかった。
それには首がないからだ。

だが、そんなことはどうだっていい。

「おいコラッ、化け物ッ! 邪魔するんじゃねえぞ!
俺はーー滝壺をっ! 滝壺がっーー!」

「――2――1――……」

滝壺に視線を向けると、少し困ったような表情を浮かべていた。

「はまづらーー」

滝壺は、俺と視線を合わせると寂しそうな笑顔を浮かべた
そして、その目からは涙が零れていた。
俺は懸命に手を伸ばした。
今すぐにでも、独りぼっちの滝壺を抱きしめてやりたかった。

――だがその手は届かない。

「ごめんね……。」

「やめろぉおおおおおおおッーー!」
「――0!」

ボンッという破裂音とともに、鮮血が噴き上がった。
俺が命を懸けて護ろうとしていた女の身体は、二つに分断された。

「た、滝壺ぉおおおおおおおッーー!!!!!」

纏わりついていた黒いモノから解放された俺は、胴体から分断された滝壺の首に駆け寄り,抱きしめた。
だがそこに以前の彼女の温もりはなかった。


「首輪の威力はお判りいただけましたでしょうか? 首輪がある限り、皆様の生殺与奪の権利は我々が握っていることをお忘れないように……。
それでは皆様、これより順次会場へと転送させていただきますね。」

滝壺を殺した女が、何かを言っているが頭に入ってこない。

「それでは皆様、御機嫌よう…。 心行くまで殺し合いを愉しんでくださいね」

激しい喪失感と絶望の渦の中、俺の意識は闇の中へと墜ちていった。

【ゲームスタート】

【少年ドール@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ- 死亡】
【滝壺理后@とある魔術の禁書目録 死亡】

【主催】
【テミス@ダーウィンズゲーム】
【μ@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】


8 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:39:33 pfVFsiCo0
>>5-7 がオープニングとなります

続けて最新話【第二回放送】を投下させて頂きます。
オープニングから最新話までの投下作品については、全てまとめWikiに収録されておりますので、そちらをご確認頂ければと存じます。


9 : 第二回放送 ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:40:26 pfVFsiCo0
参加者の皆様方、ご機嫌よう。
ゲーム支配人のテミスです。
正午になりましたので、これより、第二回放送を始めます。

まずはこの放送を聴いている皆様方に、祝福を―――。
このゲームが始まって半日が経過しましたけど、よくぞここまで生き抜きました。
辛いことも、悲しいことも、痛いことも沢山あったことでしょう……。
そんな苦難を乗り越えて、今この放送を聴いている皆様方に、心より賛辞を送りたいと思います。本当におめでとう。

そして、ありがとう―――。
皆様の生き様と死に様は、特等席からしっかりと堪能させて頂いています。
激しい戦いはまだまだ続くと思うのだけど、皆様どうぞめげずに、戦い抜いてくださいませ。

さて、前置きはここまでとして、禁止エリアの発表を行いましょうか。

F-3
B-6
H-4

以上3つのエリアが15時から進入禁止になります。
該当エリアに滞在している方は早いうちに避難することをお勧めするわ。
折角盛り上がってきているのに、禁止エリアでの爆死だなんて間抜けな最期、我々としても興醒めですから。
それと今回は電車が通過するエリアも、禁止エリアに含まれていますが、電車に乗っている限りは爆破対象外となりますので、そこは安心して良いですよ。

次は、お待ちかねの死亡者の発表といきましょうか。

【マリア・キャンベル】
【王】
【セルティ・ストゥルルソン】
【天本彩声】
【高千穂麗】
【ミカヅチ】
【安倍晴明】
【絹旗最愛】
【チョコラータ】
【累】
【リゾット・ネエロ】
【マギルゥ】
【ジョルノ・ジョバァーナ】
【Stork】
【鈴仙・優曇華院・イナバ】
【オスカー・ドラゴニア】

以上16名が今回の脱落者よ。
これで残りは46名……。
皆様、生き残るために必死のようで、初回放送の時を超えるペースで、ゲームは進んでいるわぁ。
殴り合いに、化かし合いに、撃ち合い―――。
此の地で行われている、どれもこれもが、手に汗握る素晴らしい展開となっていて、見ているこちらとしても本当に退屈しないわぁ。
もっともっと激しい闘争を以って、私たちを愉しませてくださいな。

今回の放送はここまで。
次の放送で、何人に減っているのか、見ものね
最後に前回同様、μが皆さまを奮い立たすべく、生歌を披露してくれます。

今回歌ってくれるのは「Distorted†Happiness」。
これは……所謂ラブソングっていうのかしらぁ?
ふふっ、こちらも「コスモダンサー」に負けず劣らずの素晴らしい曲なので、是非堪能してくださいな。
それでは、また次もお会いできることを願っております。
ご機嫌よう――。


10 : 第二回放送 ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:41:03 pfVFsiCo0



♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

やさしい嘘で塗り固めた景色
どこまでも続く日常は
現世(うつしよ)の見せる理不尽さを
遠い遠い世界へと運ぶ

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

白の歌姫が、その美しい歌声を以って会場に届けるは「Distorted†Happiness」。
死別という形で、愛する者への別れを経験したとある楽士の慟哭を綴ったこの曲は、激しい曲調とともに、彼の者が抱える激情を撒き散らす―――。
愛する者への執着を。
愛する者を独りで逝かせた臆病者への憎悪を。
愛する者がいなくなった|現実《せかい》への絶望を。

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

キミヘノ愛ノ感情
ソレダケデコノ身ハ動く
オマエヘノ増悪ノ感情
ソレダケデコノ身ハ疼く

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

主催本部のとある一室。
スピーカー越しにμの歌声が木霊するその部屋でLucidこと田所興起は、ソファに腰かけながら、無言のまま彼女の歌に耳を傾け、愛するアイドルのライブに酔いしれていた。

(やっぱり、μの歌声は最高だぜ)

薄ら笑いを浮かべる彼は、内心でそう呟いて、スピーカーから流れる歌声に聞き惚れている。

「少し、宜しいかしらぁ」

そんな彼の安寧を遮るようにして、部屋の扉が開かれ、ラベンダー色の髪を靡かせた女性、テミスが現れる。
途端に顔を顰める田所だったが、そんな彼を気にした風もなく、彼女はニコリと所謂営業スマイルを見せて彼に話しかけてきた。

「あらぁ? そんなに露骨な顔されると傷つくわぁ」
「……何か用か? 今良いとこなんだ。下らない用だったら、あんたと言えど殺すぞ?」

殺気を込めた視線を向ける田所に、テミスはクスリと笑う。

「まぁまぁ、そんなに怒らないで下さいな。少しお願いしたいことがあるだけなのだからぁ」
「あ? 願い事だぁ?」

妖艶な笑みを見せる彼女に、田所の表情が一層険しくなる。

「えぇ。これから私は今後の認識合わせのために、GM(ゲームマスター)に会いに行くのだけど、貴方も同席して下さらないかしらぁ。」
「GMだと?」

テミスの言葉に眉根を寄せて、田所は彼女を見据える。

「俺はあんたがこのイカれたゲームの元締めだと思っていたんだが、あんたの上にそのGMとやらがいるってことか?」
「ええ、その通りよ。私は表向きの進行管理役を任せられているだけで、オーナーたるGMは別にいらっしゃるわぁ」

田所の問い掛けに対して、肩をすくめて答えるテミス。
その仕草を見て、更に訝しむような眼差しで彼女を睨む。

「んで、何で俺がそのGMとやらに会わないといけねぇんだよ。」
「今後のため、貴方たちの内の誰かと、顔合わせくらいはしておいた方がいいと思ったのよぉ。貴方も自分の雇用主の顔くらいは知っておきたいでしょう?」
「……他の連中は……?」
「セッコさんとリックさんはお仕事中よ。私のいない間は、会場内の参加者のモニタリングをお願いしているわ。流石に監視役が誰一人いないのはまずいですし。まぁ田所さんが、嫌だというなら、彼らと交代してもらっても構わないけれど……」

テミスの提案に、しばらく考え込む田所。
田所としては、あの忌まわしき琵琶坂永至や、梔子の顛末は気になるところだが、それ以外の参加者については正直どうでもよい。
全く興味のない参加者の動向を逐一チェックするなど、退屈極まりない業務に従事するよりは、GMとやらの面を拝んだ方が遥かに有意義だろう。

「ちっ、分かったよ。かったりいがあんたに付き合ってやるよ。GMとやらの面を拝ませて貰おうじゃねえか」

舌打ちをしつつ、面倒臭げに了承する田所。
それを見て、テミスは満足そうに微笑むのであった。


11 : 第二回放送 ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:41:42 pfVFsiCo0
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

キミのいない キミのいない
キミのいない世界なんて
認めないよ 認めないよ 
ほらここに在るじゃないか

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


「―――なあ〜?おい、リックよォォォ。」
「何だい、セッコ?」

主催本部のとある一室。
この場所にいれば、音声または映像という形で、ゲーム会場内の参加者にまつわる様々な情報が転がり込んでくる。
そんな空間にて、セッコとリックは肩を並べて椅子に座り、参加者の監視を行っていた。

「あの仮面野郎、本当に放っておいても良いのかよォォォォ。明らかに俺達に対する反逆行為だろうがよォォォォ。」

セッコが指差した先に画面に映るは、遺跡内にいるオシュトルの姿。
彼はつい先程まで、参加者向けのホームページを公開しているサーバにハッキングを試み、主催者側のシステムに潜り込もうとしていたのである。
主催者として、これを看過するのは如何かなものかとセッコは疑問を呈する。

「僕は『さーば』や『はっきんぐ』なるものはよく分からないが、テミスは放置しても問題ないと言っていた。だから大丈夫なんじゃないかな?」
「……テミスねぇ……」

リックの言葉に、どこか納得いかない様子で首を傾げるセッコ。
セッコが慕っているのは、あくまでもμであって、テミスではない。
それにテミスは時折、μをないがしろにする発言が見受けられる。
それがどうにも気に入らないし、彼女に対する不信を募らせる一因となっていた。

「君の方こそ、大丈夫かい?」
「あぁ?」
「いや、先程放送で死亡者として発表されたチョコラータという男、聞けば君の相棒だったという話だったが……」

セッコを気遣う口ぶりで尋ねるリックに対し、彼は不機嫌そうな目つきで彼を見返す。

「……あぁん、チョコラータだァァァァ?ふんッ!あんな弱い奴、とうの昔に見限ったんだよオォォォ!」

吐き捨てるように叫ぶ彼を見て、リックは苦笑いをする。

「……そうか、余計なことを聞いたね。すまない」
「けっ」

謝るリックを横目に、苛立ちを隠そうともせず、セッコはそっぽを向き、モニターに目を向け監視を続ける。

(そうだ、今の俺にはμがついてる。μと一緒にいれば、くそチョコラータなんかといた時よりも、ずっとずっと楽しく過ごせるはずなんだよォ!)

自分に言い聞かせる様に、胸中で呟くセッコ。
今度こそ逃すわけにはいかない、μが齎してくれる幸福と安寧を。
そう―――μの傍にいる限り、自分不幸になることなんてあろうはずがないのだから。


12 : 第二回放送 ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:42:18 pfVFsiCo0
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

キミがいれば キミがいれば
キミがいれば何もいらない
キミが微笑む世界(はこにわ)が
永久に続きますように

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


「……。」

主催本部エレベーター内。
偽りの仮面に覆われた楽士Lucidを伴って、テミスはGMが待つ階層へと向かっていた。
表面上は和やかな雰囲気を醸しながらも、テミスの心中は穏やかではなかった。

(一体何を考えているつもりなのかしら……あの御方。)

彼女の心に去来するのは、つい先刻、会場内のとある参加者に起こった出来事である。

―――魔王ベルセリア。

自らをそのように名乗った、ベルベット・クラウの覚醒とその絶大なる力は、テミスの想定を遥かに上回るものであった。
琵琶坂永至の身におきた痣の発動や、鬼舞辻無惨と高坂麗奈に押し寄せたデジヘッド化については、多少のイレギュラーとして、彼女の中でも許容範囲だったのだが、ベルベット・クラウが見せた圧倒的なまでの力には、さしものテミスも危機感を覚えてしまった。
一歩間違えれば、この世界の創造主(かみ)たるμの存在すらも脅かしかねない、強大な脅威の出現。
これまで悠長に参加者達の闘争を見下していたテミスであったが、自らの安全圏を脅かすのではないかという焦燥が芽生え、彼女はGMに今後の対応とその真意について、問いただそうとしているのであった。

やがて、エレベーターは目的の階へ到着し、その扉が開かれる。
Lucidとテミスの眼前に拡がるのは、広大で無機質な部屋。
そして―――。

「―――失礼。GM、ゲームの進行についてお話があって、参りましたわ」

その奥に佇んでいるのは―――。


【死亡者29名 残り46名】


13 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:42:57 pfVFsiCo0
【最新参加者名簿】


4/7 【テイルズ オブ ベルセリア】
○ベルベット・クラウ/○ライフィセット/○ロクロウ・ランゲツ/●マギルゥ/●エレノア・ヒューム/●オスカー・ドラゴニア/○シグレ・ランゲツ

5/7 【うたわれるもの 二人の白皇】
〇オシュトル/〇クオン/〇ムネチカ/●アンジュ/〇マロロ/●ミカヅチ/〇ヴライ

3/6 【東方Project】
〇博麗霊夢/●霧雨魔理沙/〇十六夜咲夜/●魂魄妖夢/〇東風谷早苗/●鈴仙・優曇華院・イナバ

3/6 【ダーウィンズゲーム】
〇カナメ/●シュカ/〇レイン/〇リュージ/●ヒイラギイチロウ/●王

2/5 【鬼滅の刃】
〇冨岡義勇/●錆兎/●煉獄杏寿郎/●累/〇鬼舞辻無惨

4/5 【緋弾のアリアAA】
◯間宮あかり/◯神崎・H・アリア/◯佐々木志乃/●高千穂麗/◯夾竹桃

3/5 【乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…】
〇カタリナ・クラエス/●マリア・キャンベル/〇ジオルド・スティアート/●キース・クラエス/〇メアリ・ハント

3/5 【Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
●天本彩声/〇琵琶坂永至/●Stork/〇梔子/〇ウィキッド

2/5 【ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
●ジョルノ・ジョバァーナ/〇ブローノ・ブチャラティ/●リゾット・ネエロ/●チョコラータ/〇ディアボロ

3/5 【とある魔術の禁書目録Ⅲ】
●浜面仕上/〇フレンダ=セイヴェルン/●絹旗最愛/〇麦野沈利/〇垣根帝督

3/5 【響け!ユーフォニアム】
〇黄前久美子/〇高坂麗奈/●田中あすか/●傘木希美/〇鎧塚みぞれ

3/4 【新ゲッターロボ】
〇流竜馬/〇神隼人/〇武蔵坊弁慶/●安倍晴明

3/4 【デュラララ!!】
●セルティ・ストゥルルソン/〇岸谷新羅/〇平和島静雄/〇折原臨也

2/3 【虚構推理】
〇岩永琴子/〇桜川九郎/●弓原紗季

2/2 【ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島】
〇ビルド/〇シドー

1/1 【ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
○ヴァイオレット・エヴァーガーデン


【残り46人】


14 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 21:43:47 pfVFsiCo0
以上で最新話及び最新のステータスの名簿の投下完了とさせていただきます。
予約解禁については8月14日の0:00からとさせて頂きます。
尚、ハーメルン側の凍結前に予約いただいていた書き手様に置かれましては、一度予約をリセットとさせていただき、お手数をおかけしますが、再度こちらの掲示板にて再予約をお願いできればと存じます。
尚、キャラ予約に関しては原則2週間とさせて頂き、当該企画に過去5回以上の投下を行われた書き手様に限り、2週間の延長を可能とさせて頂きます。


15 : 管理人 :2022/08/13(土) 22:54:36 ???0
管理人より確認事項がございます。
お手数をおかけいたしますが、管理人連絡スレッドにてご回答をお願い申し上げます。


16 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/13(土) 23:25:19 pfVFsiCo0
管理人様
ご連絡ありがとうございます。
内容確認の上、返信させていただきました。


17 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/14(日) 11:57:05 rPgHrbug0
改めてキャラ予約について解禁させていただきます。


18 : ◆eQMz0gerts :2022/08/14(日) 22:54:54 iiJntpjY0
移転お疲れ様です
神隼人、クオン、ビルド、シドーを予約します


19 : ◆EPyDv9DKJs :2022/08/15(月) 22:59:54 ZTidSD/Y0
レイン、静雄、梔子で予約します


20 : Origin regression ◆EPyDv9DKJs :2022/08/16(火) 23:15:12 Re4NKbqo0
投下します


21 : Origin regression ◆EPyDv9DKJs :2022/08/16(火) 23:16:46 Re4NKbqo0
 ソーンの曲が流れる中、梔子とレインは喫茶店から少し離れて考え事をしていた。
 喫茶店からは台風が如き轟音が響いているが、それについては後で説明するとして。

 梔子からすればこの放送は本来であれば最悪な結果、と言うべきだろうか。
 見知った間柄だと、殺し合いに反抗する人物になりうるStorkと彩声が死亡。
 敵ではあるとしても彩声に加え、誕生日には来てくれる程度には交流のあるStorkもだ。
 逆に敵となりうる琵琶坂永至とウィキッドの二名は今も尚存命。最悪と言うほかない。
 しかし、琵琶坂の存在をこの場で知った時のような揺れる感情と言う物が少し薄くなっていた。
 理由は勿論、レインの仮説が少なからず影響を与えているからだ。

『この世界は現実ではなくμの支配する電脳空間メビウスであり、私たち参加者は本人ではなく情報を被せられた偽物である』

 元々目的が脱出でも優勝でもない。ただ一人琵琶坂永至を狙うだけになる。
 しかし。今抱いているその憎悪も本物かどうか定かではないのかもしれない。
 此処にいる梔子は、終わるために生まれた悲劇の少女の役割を当てられた誰か。
 おんぼろな心すらも虚構とされる可能性に、気落ちするなと言う方が無理だ。
 梔子は後ろ向きな性格だ。そもメビウスの人間は後ろ向きな方が基本だが。

「ふっ……ざけんなぁ───ッ!!」

(逆の可能性、と言うのもありうるかもしれませんけどね。)

 空を眺める梔子を横目に、
 レインは喫茶店から拝借した皿でケーキを食べつつ、
 いくらか冷静になったことで先程とは逆の発想をしていた。
 自分達がデータを被せられるなら全ての辻褄は合う。しかし、それがテミスの罠ではないかと。
 『自分達が虚構の存在と思わせるように仕向けてるのではないか』と先の内容を逆転させた考えだ。
 無論、その考えは今までの辻褄が合わなくなってしまうので振り出しに戻りかねないことではある。
 μが実体化してることになるし、電脳世界と無縁な煉獄とかは一体どうなるとか問題は山積みだ。
 だが『殺し合いの打破を諦めさせる』と言う名目に於いて、これは効果的になるのは間違いなかった。

「クソがあああああ───ッ!!」

 何故なら、この考えに辿り着ける人物と言うのは、
 殆どの確率で相応の智慧のある人物だけになるからだ。
 智慧のある人物がこの殺し合いを打破するために智慧を振り絞り、この結論に辿り着く。
 するとどうなる。この殺し合いを脱出しようと必死に考えた人物が出す結論と言うものは、
 真実であろうとなかろうと、参加者に影響を及ぼす。現にレインの発言が二人に影響を与えた。
 もしこれがテミスとか王と言った敵となる人物が言えば、馬鹿馬鹿しいと一蹴されるのがオチだ。
 逆に殺し合いを破綻させる筆頭の賢者がそれを言ってしまえば、余計に真実味が増す。

(何故私を参加者にしたかも頷けますね。)

 Dゲームに参加している人間ではあるが、
 こう言う無作為な殺し合いなら、まず自分は反抗する側だ。
 同時にサンセットレーベンズが人質にされても変わらないし、
 仲間が全員殺されていたとしても、レインはその方針を変えはしない。
 テミスたちからすれば、ノイズとしかなりえない参加者になるだろう。
 寧ろ智慧を使って、ゲームを破綻させかねない危険な存在となりうる。
 だが自分を投入してこの考えをさせればそれはノイズではなく、寧ろ加速要因だ。
 どうしようもない結論を告げて参加者を諦めさせる、蜘蛛の糸を断ち切る最後の要因。
 いくら最初から殺し合いを反抗する人間であっても最終的に折れる算段と言う代物。
 最初から主催はこうなるとは想定してたかどうかについては、定かではない。
 その知恵を使う前に殺されていた可能性は、この十二時間で何度もあった。
 だがその修羅場をくぐった先にもなお聳え立つ壁、ただの壁よりもたちが悪い。
 死に物狂いで足掻いて水上へ顔を出せば、銃口が待ち構えてるようなものだ。

「殺す殺す殺す殺す殺すッ!!」

(ですが、これを今更言っても遅いですよね。)

 ただ、これを今すぐ言うことはできなかった。
 いかんせん先の仮説を言ってしまったことを考えると、
 今言ったところで下手な慰めよりもたちが悪いものになる。
 先ほど仮説を安易に話してしまったことで起きてしまった空気だ。
 最悪の場合、今よりもマイナスに繋がりうる発言にもなりかねない。
 一先ず、このことはメモしておくが今の状態では口外しないでおく。

「誰がやりやがった───ッ!!!」


22 : Origin regression ◆EPyDv9DKJs :2022/08/16(火) 23:17:21 Re4NKbqo0
 先ほどから二人の耳に届く轟音と怒声の嵐。
 誰かなど言うまでもない。平和島静雄が路地を曲がった先の、
 さっきまで三人でいた喫茶店にて当たり散らしているからだ。
 放送の死亡者にはセルティの名前があったのだから、当然である。
 セルティは出自こそ異質ではあるが、どんな人とも付き合える変人にして常識的な人物だ。
 臨也であれ新羅であれ、同時に静雄であろうとも問題なく友人のような関係になれる。
 更地になったビルを眺め思い返したり、何気ない日常の一コマにはセルティがよくいた。
 となればどうなるか。それはキレる。ソファなどお盆でも持つかのように片手で持ち上げられ、
 フリスビーのように何度も回転しながら店の窓を突き破り、レインたちのいた路地を通り過ぎて飛んで行く。
 轟音の最中でも二人はそのまま考え事にふけるのは神経が図太いと言うより、
 短い時間でどういう人であるかを理解してしまったが故、と言うべきだろうか。

 彼はセルティが罪歌に襲われた際も非常にキレている。
 怪我でそれなのだから、殺された今冷静でいられるわけがない。
 辛うじて残った理性で二人に避難するように言って、今に至るわけだ。
 かれこれ数分は経っても音は止まず、歪んだ愛情のような曲をかき消すように、
 破壊の音色が彼女達の鼓膜を揺らし続けながら時間は過ぎていく。




 それから何分経ったか。
 短い時間とは呼べない程度の時間が過ぎて、
 ようやく落ち着きを取り戻したのか音が止みレインが顔を出す。
 肩で息を切らしながら、静雄が店だった場所の中心に立つ。
 此処が喫茶店ですと言われたら絶対に嘘だと否定されるぐらいに、
 喫茶店としての原型がほぼほぼ保ってない悲惨な状態になっている。
 もしも店主がいようものなら絶叫どころか卒倒してしまうレベルだろう。
 爆破テロがありました、と言われたってそれを否定できないぐらいの惨状だ。

「……落ち着きましたか?」

 そこら中に散らばるガラス片に気を付けながら静雄に声をかける。
 近づいてきた彼女に手を伸ばしながら、近寄らせないように合図を送った。

「悪い、全然だ……いや、まだマシって程度だよ。」

 暴れたことでずれかけたサングラスを改めて整える。
 冷静さを取り戻せたのは、セルティに死に対して思うところがあるのは自分だけではないからだ。
 臨也からすれば彼女は残念に思う程度だしどうでもいい。仮に何か思ってもやっぱり殺すつもりだ。
 問題は新羅だ。彼女にゾッコン通り越して、彼女の為なら命懸けで行動する狂的な愛情。
 自分であれば暴れるので離れることが吉であることは、既にレインも理解してるだろう。
 しかし何をしでかすか分からないという点においては自分なんかよりももっと危ない。
 あんな変人ではあるが、腐っても静雄にとっては数少ない昔からの友人ではある。
 莫迦な真似をしていようものなら、殴ってでも止めに行かなければならない。

「ところで静雄さん。殆ど放送聞いていませんよね。」

「……悪ぃ。」

 セルティから先のことは完全にすっぽり抜けている。
 『まあでしょうね』と言いたげな嘆息と共に、
 開示された情報を梔子も呼び戻して改めてまとめる。


23 : Origin regression ◆EPyDv9DKJs :2022/08/16(火) 23:18:38 Re4NKbqo0
 三人が知る死者は口伝を含めると王、セルティ、彩声、晴明、累、Storkの六名。
 累、王、安倍晴明は殺し合いを加速させる要因であったことからこれについては僥倖だが、
 問題は残りの三人だ。しかもセルティの死をトリガーに新羅が何をするか分からない。
 お陰で要注意な人物がさらに増えると言う問題までもが発生している。

 また死者だけでなく生存者にも問題はある。
 琵琶坂、ウィキッド、更に煉獄経由で得た無惨も生存。
 サンセットレーベンズや竜馬の仲間は呼ばれてないと言えども、
 悠長にしていられるほど楽観視は余りできなかった。

「特に、今後は禁止エリアにより更に人が減ります。」

 北の方は特に円を作ろうとでもしているのか、
 禁止エリアが割と近く、移動が厳しい状態になりつつある。
 こうなれば必然的に北の参加者の多くは中央へと追いやられやすい。
 それを察した敵も味方も中央へ寄っていき、混迷を極めることは想像がつく。
 宝探しゲームの時の、指輪に寄っていく参加者を彷彿とさせる状況に近くもある。

「説明の通り、禁止エリアはこのB-6が指定されています。
 時間には余裕をもって動けば問題はありませんが油断はできません。
 お二人は移動できるようであれば、すぐにでも移動を始めようかと……」

「すまない、私は別行動を取らせてもらえないだろうか。」

 少し申し訳なさそうに、ほぼずっと黙っていた梔子が手を上げながら会話に参加する。

「……理由を聞かせてもらっても?」

「まず、私の追っている琵琶坂永至は狡猾な男だが、
 此処で生き残るには余り向いていない性格をしている。」

 カタルシスエフェクトで得た力は優秀なようだが、
 だからと言って仮面の男を筆頭に強者の基準が高い中、
 十二時間も生き残れる要素は梔子としても余りないと判断している。
 勿論これについては、彼個人の評価としての場合の話だ。
 ボロを出せばあっという間だが、それまでは狡猾だからこそ厄介になる。

「恐らくだが、後ろ盾……此処では人脈のある参加者か、
 強力な参加者の庇護下に入っている可能性が高いと思う。
 そういう人物は高確率で殺し合いを肯定しない参加者であり、
 当然あの男の信頼も厚いはずだ。となれば、私を連れてる二人が逆に不利になる。」

 カナメやリュージ、自分達のことを竜馬が伝えている可能性はあるが
 琵琶坂が吹聴した情報がそういう人物に渡れば余計な火種が発生する恐れがある。
 特に二人と出会ったフレンダもやってる可能性が高く、悪評が流された人物二名を抱えては、
 レインは信用を落とすことになる。現状岩永を知らない彼女らにとって、
 レインの存在は誰よりも主催に近づける存在となる、いわば生命線になる。
 不和によって喪うには、余りにも大きい損失に繋がってしまう危険があった。

 梔子のスタンスは変わらず琵琶坂に終始している。
 だが、彩声には助けられたのもありその恩も返したい。
 なので全部ではないが、ウィキッドを警戒する程度の情報も交換している。
 単純に琵琶坂以外の帰宅部がいないから、と言うのはあるかもしれないが。

「加えて、私と関わった参加者は他は三人だけで、
 煉獄さんと彩声、残る一人は明確な敵の男(ヴライ)しかいない。
 だから、私が味方であると言う情報を出しているのはStorkだけだ。
 Storkから発信された情報が広まっている可能性に賭けるにはリスクも大きい。」

 死亡者が出てるなら、同じ場所で同行者も死亡している可能性は高い。
 発信源となる参加者が少ない現状で、同行するリスクは更に跳ね上がる。

「だが梔子一人でいる方がまずいんじゃねえのか?」

 彼女もオスティナートの楽士として、
 カタルシスエフェクトとは違うμから与えられた力を持つ。
 なので一般人よりはずっと強いが、先の炎にトラウマを持つのと、
 同時に先程のような規格外の相手にはそのままでは勝ち目がない。

「……確かに、そうかもしれないな。
 一応、それとは別のちゃんとした理由もある。
 私達は出会った上で、生存している参加者が少なすぎて情報が乏しい。」


24 : Origin regression ◆EPyDv9DKJs :2022/08/16(火) 23:19:56 Re4NKbqo0
 三人が出会ってこの舞台で出会った参加者で生存してるのは竜馬とフレンダだけだ。
 (仮面の連中は敵でもあるが、そも名前を知らないので呼ばれたかのかさえ定かではない。)
 煉獄は別れたことと放送時期から参加者と殆どで会ってないだろうし、彩声もほぼ同じだ。
 しかもフレンダは危険人物であるため彼女達の情報を持っている味方は、
 梔子が出会っていない流竜馬の一人だけと情報網が余りに狭くなっている。

「他の参加者と合流し、情報を集めておくなら別行動の方が広まるはずだ。
 勿論、あの男に悪評が撒かれていることは念頭に入れておく必要があるが。」

「分かりました。そこまで言うのなら無理強いはしません。
 ですが、一人で行動するのであれば装備は整えてください。」

「だったら、せめて俺の分は持って行ってくれねえか?」

 彩声からは梔子の事を頼まれたが彼女自身は乗り気ではないし、
 かといってレインを一人にするのも梔子は望んではいないようだ。
 同行しないのであれば、せめてそれだけでも持って行ってほしいと。
 幸い静雄の方にはまだ一度も使われてない……と言うよりも、
 開幕キレてたので、下手をすれば確認すらしてなかったものがある。
 調べれば案外掘り出し物があるかもしれないし、二人には彩声の支給品もある。
 支給品についてはさほど死活問題と言うわけではなかった。

「……すまない。時を止める時計はともかく、
 もう一つの方は余り心許なかったから助かる。」

 ポケットから取り出した銀色の懐中時計。
 先の戦闘ではパニックもあって使えなかったが、
 本来なら時間を停止させるメイドの力が宿ったそれがあり、
 少なからず一人で行動する際には有力な代物ではあるが逆に言えばそれだけだ。
 もう一つの方は残念ながらあまり頼れるものではなかったので、選択肢が取れることは助かる。

「今さらりととんでもないこと言わなかったか?」

「そういうものだと思うしかない。スティグマと、私はそういうのを知ってるのもあるが。」

 メビウスでは思念と言ったものが装備できた。
 必然的に時を止めるなんて突拍子のないものも理解はできる。
 ある意味メビウスは学生生活の三年間の時を、ループして止めてるに近しい。
 そういう意味でも受け入れやすかった。

「私は行く。あの男に会ったら殺さず捕まえてほしい。」

「分かってるぜ。ただ、性格上相性が悪そうだが。」

 嘘ばかりペラペラと話すところは臨也と似ていて、
 下手をすれば会話してるうちに些細なことでぶん殴りかねない。
 『その時は自分が止めますから』とレインが注釈を入れておいたが。
 軽い問答を終えた後、梔子は二人と別れて別行動をする。
 二人は彼女の背を見届けながら別のルートを歩き出す。

「梔子、大丈夫だと思うか?」

「正直なところ、不安しかないですね。」

 炎に対して強いトラウマを持っていて、
 下手をすればまともに動けなくなるほどだ。
 この世界に炎を使う参加者がどれだけいるか分からないし、
 場合によっては火炎放射器のような支給品だってありうる。
 その時彼女がどうなるかは目に見えてはいたが、

「ですが、彼女の言うことも一理あります。」

 同時に彼女の言うことは否定できない。
 出会った参加者が少ないなら、必然的に静雄も梔子も友好的な参加者だと伝わってない。
 来る以前から関わってた人物も死亡してる状況では梔子の考える通り、
 同行者も死亡か、動ける状況でない可能性は十分にありうる。
 もっと情報を集めていたなら、否定できたかもしれないが。

「はぁ……情報屋が情報不足では問題ですね。
 此処ならガラス片もないことですし、そろそろ運転お願いできますか。」

「ああ、飛ばすから気を付けてくれよ。」

 自嘲気味な溜息と共にレインたちも動きだす。
 戦いのダメージがあるので最大とまでは行かないにしても、
 ロードバイクでもない自転車が出す速度としてはかなりの速度で。

 梔子は琵琶坂を。レインは情報屋を。静雄は新羅。
 各々が元の世界(Origin)での縁のあるものを思い(regression)動き出す。


25 : Origin regression ◆EPyDv9DKJs :2022/08/16(火) 23:20:19 Re4NKbqo0
【B-6(15時に禁止エリア)/市街地/喫茶店/日中/一日目】

【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、全身火傷(大・処置済み)、出血(小〜中、止血済み)、全身に複数の切り傷(小)、精神的ダメージ、全身に複数の打撃痕、レインの仮説による精神的躊躇(小)
[服装]:いつものバーテン服(ボロボロ)
[装備]:なし
[道具]:見回り用の自転車@現地調達品
[状態・思考]
基本行動方針:主催者を殺す。
0:レインちゃんと行動。梔子は心配だが、仕方ねえか。
1:仮面野郎共(ミカヅチ、ヴライ)は絶対殺す。
2:新羅を探す。やばいことになってたらぶん殴る。
3:ノミ蟲(臨也)は見つけ次第殺す。
4:フレンダは非常に怪しい。もしも煉獄を殺したのが彼女なら……?
5:竜馬の知り合いに遭ったら一応伝えておいてやる。
6:彩声との約束を守るため、梔子を護る。
7:仮面をつけている参加者を警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくともセルティが罪歌と
※静雄とミカヅチの戦闘により、公園が荒れ放題となっております。
 仮面アクルカによる閃光は周辺地域から視認できたかもしれません。
※彩声の遺体は喫茶店に運び込まれています。
※梔子と情報交換しました。
 ただウィキッドは仲間の義理として細かくは説明してません。

【レイン@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[服装]:普段の服
[装備]:ベレッタM92@現実、レミントンM700@現実
[道具]:天本彩声の支給品(基本支給品、ランダム支給品×0〜2)
[状態・思考]
基本行動方針:会場から脱出する
0:梔子さんとは別行動。
1:情報は適切に扱わなければ……
2:サンセットレーベンズメンバーとの合流を目指す。
3:μについての情報を収集したい。
4:琵琶坂、ウィキッド、無惨に警戒。
5:フレンダは非常に怪しい。もしも煉獄を殺したのが彼女なら...?
6:竜馬の知り合いに遭ったら協力を仰いでみる。
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後、カナメ達とクランを結成した頃からとなります。
※ヒイラギが名簿にいることから、主催者に死者の蘇生なども可能と認識しております。
※彩声の支給品はレインが回収しました。
※『参加者は赤の他人がキャラクターになりきってる』と言う説と、
 『それが参加者が折れ殺し合いをするしかない結論をさせる為の罠』説を立ててます。
 どちらも確証はありません。(前者の方は辻褄が合い、後者の方は発想の逆転のようなもの)
※梔子と情報交換しました。
 ただしウィキッドには仲間であるため細かく説明してません。




【梔子@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:健康、疲労(小)、精神的ダメージ、レインの仮説による精神的疲労
[服装]:メビウスの服装
[装備]:ストップウォッチ@東方project
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(心許ないもの)、静雄のデイバック(基本支給品、ランダウ支給品×1〜3)
[状態・思考]
基本行動方針:琵琶坂永至に然るべき報いを。
0:レインを
1:琵琶坂永至が本人か確かめる。
2:本当に死者が生き返るなら……
3:煉獄さん……天本彩声……
4:私が虚構かもしれない、か……
[備考]
※参戦時期は帰宅部ルートクリア後、
 また琵琶坂が死亡しているルートです。
※キャラエピソードの進行状況は少なくとも誕生日のコミュは迎えてます。
※静雄、レインと情報交換してます。

【ストップウォッチ@東方project】
梔子に支給。ストップウォッチとは言うが、デザインは全体的に懐中時計のようなもの。
短時間だけ十六夜咲夜の能力のように時間を止めた状態で自由に行動できる。
但し停止時間はほんの一秒程度で、逃げにも攻撃にも使うなら工夫が必要。
また連続しては使えず、十回使用すると効力がなくなりただの懐中時計になる。


26 : Origin regression ◆EPyDv9DKJs :2022/08/16(火) 23:20:47 Re4NKbqo0
投下終了です


27 : Origin regression ◆EPyDv9DKJs :2022/08/16(火) 23:28:47 Re4NKbqo0
梔子の状態表の忘れものです

0:彩声の義理を返す為、レインを死なせないようにする。


28 : Origin regression ◆EPyDv9DKJs :2022/08/16(火) 23:37:19 Re4NKbqo0
あ、すみません
静雄の方も切れてました

※参戦時期は少なくともセルティが罪歌と関わって以降です。


29 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/20(土) 00:50:04 HULHZCOE0
十六夜咲夜、マロロで予約します


30 : ◆mvDj9p1Uug :2022/08/22(月) 00:10:28 WdKARqEU0
移転お疲れ様です


31 : ◆mvDj9p1Uug :2022/08/22(月) 18:36:17 WdKARqEU0
垣根帝督、フレンダ=セイヴェルン、ブローノ・ブチャラティ、桜川九郎、ライフィセットで予約します


32 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/28(日) 13:03:15 o0/agP9A0
投下します


33 : 旅立ちの刻 ◆qvpO8h8YTg :2022/08/28(日) 13:03:56 o0/agP9A0
 ◇


「ふむ……。今回の映画とやらで、得られた参加者の情報は3名のみでおじゃるな……」

映画館内のスクリーンルームの客席に腰据える、二人の男女。
その内の一人、白塗りの采配士マロロは、上映内容について、感想を漏らす。
そして、そんなマロロの呟きに対して、彼の傍に佇むメイド―――十六夜咲夜も、その内容を確認すべく、相槌を打つ。

「黄前久美子、高坂麗奈―――そして、さっき遭遇した鎧塚みぞれの三人ね。」

二人が映画館に来てから、二つ目に上映された内容は、先のイタリアを舞台にした「スタンド使い」達の抗争を描いた一本目とは打って変わり、とある高校の吹奏楽部員達が、全国大会を目指す青春劇であった。
その劇中の登場人物で、名簿にも載っているのが、5人の少女。

黄前久美子
高坂麗奈
田中あすか
鎧塚みぞれ
傘木希美

この中で生存しているのは、咲夜に名前を上げられた3名のみ。
皆、血で血を争う殺し合いとは無縁の世界で生きてきた少女達。
可能であれば、琵琶坂永至のような未知の能力を使う強敵の情報が望ましかったとはいえ、先の「スタンド使い」達とは異なり、彼女達単身での戦闘力は皆無に等しい―――そういった情報を得られただけでも収穫はあったと言える。

「でも妙ね……。彼女、あの琵琶坂やヴライを退けたと言っていたけど……。
映像を見る限り、彼女にそんな芸当ができるとは思えないわ」

「それこそ、あの小娘と同行していたシャクコポルの娘と武士風の男が助力していたのでおじゃろう。或いは、何か強力な武具が小娘に与えられているのやもしれぬが……。
生身での戦力がなくとも、用心するに越したことはないでおじゃるよ」

マロロがそう締めると、咲夜は「それも、そうね」と一言だけ返した。
そして、ふと思い出したかのように、彼女は言葉を続ける。

「ところで、後少しでテミスによる放送の頃合いだと思うけど、その前に少し付き合ってもらえないかしら?」

「―――何でおじゃるか?」

咲夜は立ち上がり、スクリーンの方へと歩き出す。
マロロは訝しみつつ、その後へと続いていく。
そして、そのまま舞台上へと進み、スクリーン横の黒いカーテンを開く。
すると―――。

「これは……。隠し扉でおじゃるか?」

そこには一つのドアノブが付いた小さな扉があった。
扉を開けると階段があり、下へと続いているようだ。

「しかし、よく気付いたでおじゃるな、咲夜殿」

「冷房の風でカーテンが揺れた時に見えたから。
采配師さんは映像に夢中で気付かなかったようだけど……。」

皮肉とも取れる発言に、マロロは「面目ないでおじゃる」と苦笑いを浮かべつつ、咲夜の後ろをついて行く。
薄暗い中を降りていくこと数分程。二人は地下エリアと辿り着き、”それ”を発見するのであった。


34 : 旅立ちの刻 ◆qvpO8h8YTg :2022/08/28(日) 13:05:04 o0/agP9A0
 ◇

―――……是非堪能してくださいな。
―――それでは、また次もお会いできることを願っております。
―――ご機嫌よう――。





「嗚呼、何たる悲劇でおじゃるか……」

殺し合いの会場にμの歌声は響く。
その歌声は、映画館内の地下エリアにも例外なく届いていた。
そして、その歌声を背景として、マロロは天を仰ぎ、嘆きの声を上げた。
彼が悲観に暮れる原因は先の放送内容にある。

「よもや、よもや、あのミカヅチ将軍が、志半ばで倒れることになろうとは……。
これはヤマトにとって大きな痛手……ライコウ殿にも合わせる顔がないでおじゃるよ……。」

マロロと同じく朝廷軍に属する、ヤマト左近衛大将ミカヅチの死。
偽の皇女を擁するオシュトルの叛乱軍との戦においても、彼という一大戦力は、マロロの作戦には必要不可欠であり、兵達にとっても精神的支柱でもあった。
この殺し合いにおいても、同陣営の彼の協力を仰ごうとしていたマロロにとって、その死は、今後の戦略を狂わせるほどに想定外且つ衝撃的なものとなってしまった。

「忠義に厚いミカヅチ殿が倒れる一方、奸賊オシュトルとそれに与する者どもは尚も健在……。
天は何故このような試練をマロに与えるのでおじゃるか……!!」

状況は芳しくない。
先の放送からは、ミカヅチが脱落したという報せだけではなく、忌まわしきオシュトル一味の生存も確認された。
大義はこちらにあるというのに、私利私欲のためにヤマトを脅かさんとする彼らの方に、形勢が傾いていることに憤りを感じずにはいられない。

「このような理不尽、マロは決して認めないでおじゃる……!!例え、天が奴らを罰せずとも、マロが必ずや誅滅してくれるでおじゃる!!」

吹き抜きの天井を見上げながら、マロロは改めてオシュトル必倒を宣言する。

―――キミのいない キミのいない
―――キミのいない世界なんて
―――認めないよ 認めないよ 

「ハク殿をマロから奪った彼奴に、明日を生きる資格などないでおじゃる!!
にょほ……にょほほほほほほほ……!!ハク殿、常世 (コトゥアハムル)より眺めてほしいいでおじゃる―――」

マロロの耳に入るμの歌は『Distorted † Happines』。
愛しき人を喪ったとある楽士が、その慟哭と憎悪を綴った曲である。

μは歌を通して、撒き散らす。
死別を受け入れられない哀れな男の、叫びを―――。
死にゆく少女に、添い遂げることもせず、ただ逃げた恋敵への憎悪を―――。
そして、少女がいなくなったとしても、何事もなかったかのように在り続ける世界への否定を―――。

「ハク殿を殺めた大罪人オシュトルを討ち取り、地獄(ディネボクシリ)に叩き落とすマロの姿を!にょほ、にょほほほほほほほっ!!」

μの歌声に呼応するかのように、マロロの白塗りの面貌は狂気に染まっていく、まるでその楽士の怨念に憑りつかれたように。

「―――待っていよっ、逆賊オシュトル……オシュトルゥ!オシュトルゥゥゥゥゥゥ!!」

復讐鬼は激情とともに、声高らかに叫ぶ。
忌むべき男の名を―――。怨念と狂気を孕んだ声で―――。
愛しき者との死別、そして愛しき者を死に追い込んだ怨敵の存在が、マロロの心とμの歌を繋げる。
そして、ハードなロック調の曲に追従させる形で、マロロのオシュトルに対する憎悪を増大させ、その名を反芻させる。 

やがて―――。

「―――気は済んだかしら?」

μのライブが終了すると、館内はマロロの疲弊した息遣いだけが残っていた。
それまで、呆れたような面持ちで彼を観察していた咲夜は、頃合いを見て声を掛ける。
マロロとは対照的に、彼女は先の放送内容を冷静に受け止めていた。
博麗の巫女や琵琶坂達がまだ生存していること、難敵と思われていた『スタンド使い』5人の内3人が脱落したこと、そして、映画館に来る道中出会った3人組の内2人が死亡したことを。

「あ、ああ……咲夜殿……。
お見苦しいところを見せてしまったでおじゃるな……。
マロとしたことが、感情的になりすぎたでおじゃる」

先程までの興奮状態が嘘のように落ち着きを取り戻したマロロは、呼吸を整えながら、苦笑する。


35 : 旅立ちの刻 ◆qvpO8h8YTg :2022/08/28(日) 13:06:26 o0/agP9A0
「……別に……。私としては、さっきの放送を受けて、早いところ次の行動に移りたいのだけれど……?」

咲夜としては、マロロとオシュトルの因縁など知ったことではない。重要なのは、咲夜が優勝を目指す上で、今手を結んでいる同盟相手が有益か否かである。
マロロは、ミカヅチの脱落で多少の動転はしつつも、今現在は平静を取り戻しつつある。
復讐の対象たるオシュトルが生きている限りは、彼の殺し合いにおける立ち位置は変わらない。
であれば、まだ彼には利用の価値はあると、咲夜は値踏みしていた。

「……そうでおじゃるな。それでは今後の方針について、マロの考えを、咲夜殿に聞いてもらいたいでおじゃるが……。」

「聞かせてくれる?」

「マロとしては、“これ”を使った上で、『大いなる父の遺跡』に向かいたいと思っているでおじゃる」

マロロが見上げる先にあるのは、円形状の巨大な装置。
装置の枠内には、眩い光が集約して、向こう先は見えなくなっている。
その装置の前には、以下のような説明書が記された看板が置かれている。

門(ゲート):
会場内の複数の施設に設置されており、門を潜ることで瞬く間に、別の門が設置されている施設に双方向に転移できます。但し、最初に誰かが門を利用してから10分経過すると、門は3時間利用できなくなります。再稼働後はまた別の場所に繋がるようになります。

マロロ自身は預かり知らぬところではあるが、これはマロロ達ヒトが住まう世界―――その古の支配者『大いなる父』達が、活用していた移動手段。
ウマ(ウォプタル)を寝ずに走らせて何日もかかる距離を瞬く間に、移動できるという代物である。

「わざわざ、何処に飛ぶかも分からない、こんな博打のようなものを使おうだなんて……采配士さんにしては、随分と思い切ったことをするじゃない?
そもそも、本当に転移なんかできるかも疑わしいけど?」

「まず、この設備の信憑性であるが、この催しを取り仕切る者どもが、嘘偽りある情報や設備を用意するとは思えないでおじゃる……。
彼奴らが望むのは、円滑な死合のはず……。であれば、こと死合における情報については公正であり平等にするべきでおじゃるよ。
わざわざ、つまらぬ嘘で、この催し自体に対する信用を損なうような莫迦なことはしないと考えるでおじゃる」

「―――これをあえて利用する理由は?」

「先にも述べた通り、この映画館は地図上には隅にある故、他の参加者が来る可能性は少ないでおじゃる。事実、マロ達が映画を観ている間も、誰も来なかったでおじゃる。
但し、これは此処を目的地とする参加者がいないというだけであって、この周囲---特に遺跡への道中で、マロ達と敵対する者らと遭遇する可能性は排除しきれない……否、現状を鑑みると、むしろ可能性は高いと考えているでおじゃる―――」

「―――成る程ね……」

マロロの言わんとしていることを理解したか、咲夜は顎に手を添え、考え込む素振りを見せる。
咲夜達が、現在までに遭遇しているのは、琵琶坂一味、ヴライ、そしてみぞれ達。
この内、琵琶坂一味とは明確に敵対しており、ヴライは『災害』――話の通じる相手ではないとのこと。みぞれ達については、情報交換を行い、敵対関係には至らなかったが、先の放送を聞くに、琵琶坂一味またはヴライ、もしくは殺し合いに乗った別の何者かと遭遇し、瓦解したように見受けられる。
それはそれで当初の目論見通りとも言えるが、東への移動が禁止エリアによって封鎖されてしまっている手前、参加者が移動できる場所は制限されてしまっている。
したがって、会場北西部から中央付近の遺跡への道程では、残りの敵対勢力及び危険人物とぶつかる可能性が高い。

ヴライという武人はともかく、琵琶坂永至は狡猾な男―――。
咲夜達が映画を鑑賞している間、道中で出会った他の参加者にも、咲夜達の悪評を吹聴しているかもしれない。
殺し合いに乗っているという点においては、事実ではあるが、仮に琵琶坂にいらぬことを吹き込まれた参加者達と遭遇するリスクを鑑みれば、素直に遺跡に向かうのは、リスクが伴う。


36 : 旅立ちの刻 ◆qvpO8h8YTg :2022/08/28(日) 13:06:58 o0/agP9A0
「だから、別の場所に転移して、対外関係も含めてより効率的に事を進めたい……というところかしら?」

「流石は咲夜殿―――ご明察のとおりでおじゃる」

咲夜が優先したいのは、皆殺しではなく、優勝である。
無論、優勝の障害となりうる脅威については、真っ先に排除すべきという考えは変わらないし、利用価値のない参加者についても間引いていくつもりではある。
だが、ゲームの終盤を見据えて、今は此方の労力は最小限に留めることが望ましい。
なので、現段階ではいたずらにこちらの戦力を消耗するような場面は、御免被りたいところである

「して問題は―――」

「この門(ゲート)とやらが、どこに繋がっているかよね……」

そんな会話を交わしながら二人は、門の中へと歩き出す。
出来れば、琵琶坂一行の息のかかっていない地域などが好ましい―――そう思考しながら、二人は光の中へと消えていくのであった。



 ◇


「―――どうやら、ここは地図にある『デパート』にあたる場所のようね」

門(ゲート)を渡り、転移を果たした咲夜とマロロが辿り着いたのは、どこかしらの施設の地下空間。
地上へと続く階段から外を見回ってきた咲夜は、この施設が『デパート』であることをマロロに報告する。

「にょほほっ!であれば、重畳でおじゃる……。ここらであれば、マロも存分に策を講じることでおじゃるよ」

地図を広げながら、マロロは口角を吊り上げる。
このデパートは、これまでマロロ達がいた会場北西部とは対極の南東部に位置する場所。
であれば、ヴライや琵琶坂一行、また琵琶坂達と接触した参加者達との接触は低くなった。
目的地である『大いなる遺跡』への距離は短縮したとは言えないが、それでも四面楚歌の状態から脱したのは、僥倖と言える。

「このまま、遺跡に向かうの?」

「そうでおじゃるな……。遺跡に向かうついでに、他の施設にも立ち寄っていきたいでおじゃる。他の参加者も集まっているかもしれぬでおじゃるからな。
近くにあるのは『北宇治高等学校』と『紅魔館』なるものがあるようでおじゃるが……。
むっ? そういえば、『紅魔館』とは確か咲夜殿の―――」

「ええ、私が元々いた場所よ。何故この殺し合いの会場にあるのか分からないけど」

「にょほっ、それは好都合。であれば、『紅魔館』に辿り着いた際には、是非とも案内を頼みたいところでおじゃる」

「……その『紅魔館』が、本物と同じ構造になっていればね……」

咲夜はそう呟くと、「さぁ、行くわよ」と先導するように歩を進め、マロロもそれに続いていく。

紅魔館―――其処は咲夜が還るべき場所である。
しかし、彼女が還るべきは、この会場に存在する紅魔館ではない。。

咲夜が目指すのは、彼女が仕える主人が住まう紅魔館であるのだから―――。


37 : 旅立ちの刻 ◆qvpO8h8YTg :2022/08/28(日) 13:07:21 o0/agP9A0

【G-8/デパート/一日目/日中】
【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(小)、全身火傷及び切り傷(処置済み)、胸部打撲(処置
済み)、腹部打撲(処置済み)
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:咲夜のナイフ@東方Projectシリーズ(1/3ほど消費)、懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:周辺を探索しつつ、大いなる父の遺跡に向かう
1:今後のことを見据え、遭遇する参加者については殺せる機会があれば殺
すが、あまり無茶はしない
2:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
3:博麗の巫女は今後のことを考えて無力化する
4:マロロに関しては協力する素振りをしながらも探る。最悪約束を反故す
るようであれば殺す
5:余裕があれば完全版チケットとやらも探す。
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
※オスカー達と情報交換を行いました
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全には分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。


【マロロ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:オシュトルへの強い憎悪、精神的疲労(中)
[服装]:いつもの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品3つ
[思考]
基本:オシュトルとその仲間たちは殺す
0:周辺を探索しつつ、大いなる父の遺跡に向かう
1:ヴライには最大限の警戒を
2:十六夜咲夜はいい具合に利用させてもらう。まあ最低限約束(博麗の巫
女の無力化の手伝い)には付き合う
3:あの姫殿下が本物……?そんなことはあり得ないでおじゃる
4:間宮あかりとその一行を警戒
[備考]
※少なくともオシュトルと敵対した後からの参戦です
※オスカー達と情報交換を行いました
※鈴仙をシャクコポル族のヒトと認識しております
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全に分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。


【会場内ギミック紹介】
【門(ゲート):うたわれるもの 二人の白皇】
会場内の複数の施設に設置。
所謂ワープ装置となり、門を潜ることで瞬く間に、別の門が設置されている施設に双方向に転移可能。
但し、本ロワ会場においては最初に誰かが門を利用してから10分経過すると、同じ門は3時間利用できなくなる。再稼働後はまた別の場所に繋がるようになる。


38 : ◆qvpO8h8YTg :2022/08/28(日) 13:07:43 o0/agP9A0
投下終了します。


39 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 22:54:40 JCXU1/4c0
投下します


40 : カウントダウン ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 22:56:05 JCXU1/4c0


「うわっ、本当にあった」
「これで第一条件はクリアか。乗るぞお前たち」

琴子たちから分かれて灯台に向かったクオンを背負った隼人とビルドとアリアは、隼人の予想通りに備え付けられていたボートに乗り、海を横断していた。
目指すは早乙女研究所。目下、首輪の解析のためだ。

操縦者として隼人がエンジンをかければ、けたましい音が鳴り響き、あっという間に陸地から離れていく。

「...ねえビルド。あんたはさっきの岩永の話、信じてる?ここにいるあんたらは本物じゃないかもって話」
「信じたくはないけど、否定できる材料もないんだよね...」

消沈しながら答えつつ、ビルドは己の掌を見つめる。
これまでいくつものものづくりをしてきた。
時には素材を回収し。時には困難に立ち向かい。
時には作り形を整え。時には壊し形を変えて。
時には一人で。時にはみんなで力を合わせ。
時には楽しみ。時には苦しみ。

その悲喜こもごもな、培ってきた経験が全て誰かの記憶だったなんていい気持ちがしなくて当たり前だ。

「ビルド、お前はあんな説を信じ切っているのか?」
「え?」

そんなビルドに一石を投じたのは隼人。
その意外さにアリアは隼人の肩にピトリと乗り顔を寄せて問いかける。

「あり?あんたさっき『俺が偽物かどうかはどうでもいい』みたいなこと言ってなかったっけ?」
「ああ言った。だが、あれが真実だとは誰も言っていないだろう。岩永も含めてな」
「その心は?」
「あまりにも出来すぎている。テミスがよっぽどの間抜けでなけりゃあな」

隼人は片手での操縦に切り替え、空いた手でメモ帳を取り出し書きなぐり二人に見せつける。

『わざわざ俺たちの情報を取ったなら岩永の頭脳は承知の上だろう。この場にいる参加者が偽物かもしれないなんて情報は意地でも掴ませたくないはずだ』
『だが連中はそんなことお構いなしとでも言わんばかりに繋げられる情報を秘匿していないどころか見せつけている。電脳世界でしか存在できないμやアリアがいい例だ』
『わざと情報を断片的に残しておいた理由はいくらでも思いつく。単に岩永のようなタイプを嗤うための嫌がらせか、この説自体がスケープゴートであったりな』

「あー...ミスディレクションってやつね」
「ミス...?」
「簡単に言えば、大げさな動きをして人の注意を集めて、その裏で本命を進めるってこと」

ミスディレクション。現代においては手品でも使われている手法だ。
琴子の『この殺し合いにおける参加者はみな偽物である』という説は確かに一つの凶悪な爆弾だ。
それは言いかえれば最も参加者たちの注意を引ける事態と言えよう。
だが、テミス達の本命がこれではなくその背後に隠しているものだとしたら?
だとすれば、この説は真実であれ嘘であれうってつけの囮となる。
特に、琴子のような知識と知恵を頼りに戦うタイプの人間に対しては。
極論を言えば、たとえ自分が偽物だろうが本物だろうが、参加者にとっても主催にとっても、己の目的を果たせるのならどうでもいいのだ。


41 : カウントダウン ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 22:56:46 JCXU1/4c0
「あんたがどうでもいいって言ってたのはこういうことなのね。...にしてもちっとも動揺もしないのは引くわ―」

普通はビルドやリュージのようになんらかの嫌悪感や困惑を抱いて然るべきだ。
この説を提唱した琴子ですら少しとはいえ顔をしかめていた。
だというのにそれを聞かされた隼人は微塵も動揺していない。
今まで触れてきた人間が精神にブレが多い者が多かったこともあり、余計に隼人が異端染みて思えてしまう。

「当たり前だ。俺はこんなものよりも壮大なものを相手にしているんだからな」

隼人は目を細めながら先を見据える。
その目に映るのは青く広がる海原ではなく、緑色の光の群れ。
隼人を戦いの渦中に於いたゲッター線。

殺し合いも己の正体も、ゲッター線を解き明かすことに比べれば蟻にも満たない程度の事柄だ。
その為に割く思考も戸惑いも一分一秒とてくれてやるのが惜しい。
人間にとって時間とは最大の枷なのだから。

「ぅ...」

気絶していたクオンが呻き声を漏らす。

「お前たち、クオンには言うなよ」

隼人の釘を刺すような言葉にビルドとアリアは頷き返す。
三人はボートに向かう道すがら、クオンには琴子の説を教えるべきかを決めていた。

この説を聞いたのが隼人と夾竹桃という目的のためなら手段を択ばない二人だったからよかったものの、それがクオンに当てはまるかもわからない。

戦闘の腕っぷしに関しては間違いなくトップだが、心の方まではわからない。
だから琴子の説は伝えないことにした。
余計な地雷を踏む可能性を排したのだ。

「おはようクオン」
「おはよ...いったぁ!!」

クオンは目を覚ますなり顔を強張らせつい大声を出してしまう。

「ど、どうしたの!?」
「ちょっと筋肉痛が...アタタタッ!」
「あれだけのことやって筋肉痛ってどうなってるのさ」
「アハハ...って、なにかなアナタ!?」
「アタシはアリア。μと同じバーチャドールってワケよ。よろしくね」
「ばーちゃどーる?」
「早い話が歌を唄ってみんなを幸せにする電子妖精なのよさ」
「...???」
「こいつは敵ではないことだけ覚えていればいい」
「んー、釈然としないけど...まあいいか、よろしくねアリア」

バーチャドールだの電子妖精だの聞きなれない単語に戸惑うが、元の世界の仲間であるアトゥイが連れているクラリンという不思議生物みたいなものだろうと結論付け、己の中に落とし込む。

「それで...いまのコレはどういう状況なのかな?義勇とか手を組んだ三人とかが見当たらないけど」
「それはだな...」

現状を隼人が説明しようとしたその時。

『参加者の皆様方、ご機嫌よう』

放送の鐘が高らかに鳴り響いた。


42 : カウントダウン ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 22:57:35 JCXU1/4c0


「グ、ウゥゥ...」

放送を聞き終えたシドーは頭を抱え苦しみに悶える。

自分で殺したと思っていたビルドの名前は呼ばれなかった。
あれは幻覚だったのかと思いたかったが、しかし先に呼ばれたマリア・王・セルティを破壊した感触は忘れられるはずもない。

ならばあれはいったいなんだったのか。あの筋肉ダルマが妙な幻術でも使ったのか?それとも、己の破壊衝動が見せた願望だというのか?

「だとしても...負けるかよ...!」

そうだ。負けてたまるか。
あいつは、ビルドは自分にとって唯一無二の相棒だ。
あいつを壊したいという衝動なんて自分の意思でねじ伏せればいい。
たとえ、なにが囁いてきてもそんなものブッ壊して―――

―――そうやってなにかと理由つけてブッ壊すのは楽でいいよなぁ〜
「くっ...!」

囁いてくる王の亡霊を振り払い、どうにか意識を保つ。
自分は壊すのが大好きな乱暴者。そんなことはもう腐るほど痛感させられた。
だがそれでも、せめて一番大切な者だけでも護りたいという想いを邪魔される謂れはない。
ビルドの、あいつのいない世界なんて信じたくもないから。

(...少々面倒になってきましたね)

苦悩するシドーを見ながらハーゴンは思案する。
シドーがその本性を解放するためには今の意思を放棄させるのが手っ取り早い。
しかし、ヴライとの戦闘を経て思い出の地を破壊されたことによりビルドへの執着が強まり、最後の一点だけは手放さないよう強くしがみついている。
今までのように逃げるように闇雲に暴れるのではなく、ある程度自覚したうえで一線を越えないようにされてしまえば、それは芯の通ったひとつの槍となってしまう。

槍とは、正面きっての戦闘に対して有効で強力な武器だ。
今までのような破壊衝動や殺人への罵倒や扇動では「それでも俺はあいつを護る」と開き直られれば厄介この上ない。
どうアプローチをかけたものか、と悩んでいた時だった。

視界に一隻のボートを捉えたのは。


43 : カウントダウン ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 22:58:14 JCXU1/4c0



放送が終わる。

(清明が死んだか)

宿敵が脱落したことに対し、隼人は特に感慨を抱かなかった。
鬼にまつわる因縁深い相手ではあるが、ただ厄介な敵を送り付けてくるというだけの相手。
かつて従えていたテロリストたちを鬼に変えられたことももう済んだことだ。
弁慶や竜馬のようにこの手で仇を討ってやる、などと義に燃える性質ではない彼にとって、清明の死はせいぜい特殊な首輪を回収できなかったというだけのことにすぎなかった。

(...ミカヅチにリゾット・ネェロ、か)

呼ばれた中で知った名前にクオンは思いを馳せる。

ミカヅチ。かつてはハクやオシュトル達と共に酒を囲んでの馬鹿騒ぎに興じる友であった漢。
しかし、アンジュが不在となりヤマトの帝として影武者に祭り建てられた者が偽物であると知ってもなお、ヤマトを護るためにアンジュたちと袂を分かったという。
トゥスクルからヤマトに攻め入れば、いずれは戦うことになるとは頭では理解していたが、しかし見知った者がいなくなるというのはやはり心に穴があき空しい気持ちになってしまう。
恐らくだが、この地でも最後まで戦い続けたのだろうが、願わくばその最期が彼にとって納得のできる形であれば救いだと思う。

リゾット・ネェロ。
彼と交わした言葉はほとんどない。しかし彼の語る『復讐』という生き方は迷うだけの自分とは違う芯を感じられた。
彼の願った復讐は果たせたのだろうか。それだけが気がかりだ。


「うぅ...彩声ぇ...」

帰宅部の一人である天本彩声の死に、アリアは涙ぐみ、彼女の死を悼む。
極度の男嫌いであり、人間ではないアリアから見ても良くないんじゃないかと思えるほどの激昂した時の口の悪さがあった子だった。
けれど、その根底には友達の不運への怒りと悲しみがあり、己の男嫌いで苦労を掛けている家族にも謝りたいと願う真摯で優しい気持ちを抱く子でもあった。
部長を通じて彼女を理解していくうちに心の底から報われてほしいと願った子―――こんなところで死んでいい子じゃなかった。
偽者かもしれないとはいえ、それで悲しみを紛らわせる程度の浅い付き合いではなかった―――少なくともアリアはそうだ。

唯一、知り合いの名前が呼ばれていないビルドだが、さしもの彼も死者がこれだけ出ている現状では普段のように呑気な顔でいることはできず。
気落ちしているクオンやアリアに声をかけることもはばかられ、重たい空気のまま船は進んでいく。


44 : カウントダウン ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 22:58:37 JCXU1/4c0

やがてボートが進む果てに陸地が見えてくる。
何が起きても動けるように隼人が注意を喚起し、ビルドとクオンは気を引き締めなおす。
そして着陸地点を凝視している最中、ビルドは見た。
角のようにとがった髪と鋭い目つき。
間違えはしない。するはずもない。

「シドー!」

ビルドは駆け出し急ぐ。
ようやく会えた。
ここに連れてこられる前から、目を覚まし手を引いてくれたあの時からずっと傍にいてくれた親友。
会いたい。この手が触れる距離まで早く辿り着いて、いつものようにハイタッチを交わし合いたい。

「シドー!!」

手を伸ばしもう一度名前を呼ぶ。
それに返すようにシドーの手も伸ばされ―――

「待てビルド!!」

あともう少しで触れ合えるその距離まで近づいたその時、ビルドの腕が後方に引かれ、隼人はその身体を抱きかかえる。

「は、隼人!?」
「ビルド。落ち着いて見てほしいかな」

隼人の隣に並び立つクオンの指差す方へとビルドは視線を向ける。
その身体は血に濡れていた。
纏っていた服は既にボロボロになっており、あからさまに戦いを繰り広げた様相を醸し出していた。

「ッ...!」

ビルドは思わず息を呑む。
今までシドーとは多くの戦闘を経験してきたがここまで酷い有様のものはなかった。
いったいなにがあったのか、そう顔色が変わった瞬間。

「――――うあああああああああ!!」

シドーの叫びが響き渡った。


45 : カウントダウン ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 23:00:09 JCXU1/4c0



あいつを見つけた時、思わず頬が緩んだ。

無事だったのか。

よかった。

あいつの傍にいるのは仲間か?ハハッ、気が付けばすぐにそうやって仲間を増やしてやがる。

相変わらずだなお前は。

でももう大丈夫だ。俺が護ってやるから。

『本当に貴方が必要なんですか?』

ずるり、と背後から血まみれの腕が絡みついてくる。

『殺すだけなら誰でもできますよ。別に貴方じゃなければいけないわけじゃないでしょう』

真赤な腕で艶めかしく身体に纏わりつき、耳元で甘い―――マリア・キャンベルの声で囁いてくる。
やけに生暖かく気持ちのいい感触が鼻孔を突いてくる。

『おんやぁ?あっちは身なりのいいにーちゃんねーちゃんとご一緒だァ。もしあいつらがこの半日間ずっと傍にいてビルドくんを護ってたら』

今度は硬くゴツゴツとした感触の血濡れの腕が馴れ馴れしく肩を組んでくる。
薄汚いダミ声と共にグリンと振り向きこちらに蛇のような視線を這わせニタついてくる。

『もうお守はあいつらだけで充分なんじゃねえかな?となるとシドーくんは...あらら残念、お払い箱確定ィ〜〜!』

ゲラゲラゲラゲラ
心底愉快そうに、ドレッドヘアの漢が笑い声をあげてくる。

「ぉ...俺は...」

漏れ出た声が震える。
シドーにとってビルドは替えの効かない存在だ。
彼がいない世界は苦痛そのものだった。
あの寂しさに耐え続けるのは無理だ。
けれど。


46 : カウントダウン ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 23:00:30 JCXU1/4c0
―――わかっていたことでしょう。

脳内に声が響く。

―――ムーンブルクでの冒険の時、孤立させられた貴方の為に彼は何をしましたか?

声がじわじわと俺の心を腐らせていく。

―――何もないでしょう。周りの声に従い、出された答えに従うだけ。ごらんなさい。

声に流されるままにビルドの方を見やる。
一緒にいた男と女が俺を睨み警戒している。
そんな二人に倣うように、ビルドが俺を見る目に動揺と懐疑が混じり始める。

―――少しボロボロになっただけの貴方を見て、彼は値踏みしています。貴方一人を取るか、傍の二人を取るか。

やめろ。お前が俺をそんな目で見るな。
俺はお前の味方なんだ!

―――彼らがどうかはわかりませんが、貴方はどうでしょう。ムーンブルグでは不和を招き、この会場においては主催を倒すと息まきながら既に三名もの参加者を殺害し。
もしも貴方を引き入れた上で先ほどの少女たちと遭遇すればどうなるかは考えずともわかりますね?

それでも...それでも俺はあいつを裏切りなんかしない!


―――ひとつ、良いことを教えて差し上げましょう。

べとりとした感触が両腕に纏わりつく。
これまでに殺してきた。
マリアの。
王の。
セルティの。

どす黒い血と臓物の赤色だ。

―――頭の意思にそぐわぬ手足ほど、不要なモノはないのですよ

そうだ。
俺が必要としているかどうかは関係ない。
俺は、あいつにとって―――

「――――うあああああああああ!!」



>シドーはにげだした


47 : カウントダウン ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 23:01:25 JCXU1/4c0



まさに一瞬の出来事だった。

シドーが叫びをあげたと思った途端、脇目もふらず背を向けて逃走したのだ。

さしもの隼人とクオンも予想外の行動に思考が追い付かず、逃げる彼を即座に追いかけることが出来なかった。

「待ってシドー!!」

瞬く間に遠ざかっていく友を追いかける為、ビルドは隼人の腕から逃れ走り始める。

「待てビルド!」

再び拘束しようと手を伸ばす隼人だが、しかしその腕はクオンの尻尾に横合いから叩かれ阻まれる。

「友達を追いかけるのを止める理由はないかな。ビルド、私(わたくし)も行くよ!」

クオンの言葉にビルドは頷き、シドーを追いかけ始める。

「チッ...!」
「隼人、あたしたちはどうしよう」
「俺たちだけで研究所へ向かう意味も薄い。追うしかないだろうな」

もともと研究所へ向かうつもりだったのはビルドのものづくりの技術を見込んでの首輪の解析の為である。
そのビルドがいなければ一人で首輪の解析を続ける意義は少ない。
結局、隼人もまたビルドたちと共にシドーを追うハメになってしまった。

(シドー...)

追いかけながらビルドは思う。
シドーの身になにか大変なことが起きたことくらいは言われずともわかる。
だからこそ彼に頼ってほしかった。相談してほしかった。

けれど。

それが出来なかったのはムーンブルク城での一件が原因なのだろう。
周囲の意見に耳を傾けすぎて、シドーの拘束に反対しきれず我慢を強いてしまったことが。

だから。

もう同じことを繰り返さない。たとえ隼人たちに何を言われようが、ちゃんと話を聞いて誰に流されることなく自分で判断する。
決意を新たに、ビルドは友の後を追いかける。


48 : カウントダウン ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 23:03:34 JCXU1/4c0
【D-8/1日目/日中】

【ビルド(ビルダーズ主人公、性別:男)@ドラゴンクエストビルダーズ2】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、全身にダメージ(大)
[服装]:普段着
[装備]:ビルダーハンマー@ドラゴンクエストビルダーズ2、大砲(半壊、素材を集めて修理すれば使えるかも?)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、あぶないカビ 大量の鉄のブロック@ドラゴンクエストビルダーズ2、大量の爆薬@鬼滅の刃、大砲の設計図@製作、折れたサイコロステーキ先輩の日輪刀@鬼滅の刃
[思考]
基本方針: ゲームからの脱出。殺し合いをしない。
0:シドーを追う。
1:シドーを捕まえたら改めて早乙女研究所に向かう。
※幻想郷の大まかな概要を聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・隼人・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。




【神隼人@新ゲッターロボ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[服装]:普段着
[装備]:ミスタの拳銃@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、ミスタの拳銃(ビルドの作った模造品)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、浜面仕上の首輪、錆兎の首輪
[思考]
基本方針:首輪を外して主催を潰し帰還する。
0:シドーを追う
1:シドーを捕まえたら改めて早乙女研究所に向かう。
2:ビルドのものつくりの能力を利用し有利に立ち回る。現状、殺し合いに乗るつもりはない。
3:作戦実行の前に、やはり首輪のサンプルが欲しい。狙うのは晴明、殺し合いに乗った者、戦力にならない一般人(優先度は低い)。
4:竜馬と弁慶は合流できるに越したことはないが、まあ放っておいても死なんだろう。

※少なくとも平安時代に飛ばされた後からの参戦です
※幻想郷の大まかな概要を聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。






【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いに乗るつもりはない。皆と共に脱出を。
0:シドーを追う。シドーを捕まえたら改めて早乙女研究所に向かう。
1:復讐、か……。
2:アンジュとミカヅチを失ったことによる喪失感
3:着替えが欲しいかな……。
4:オシュトル……やっぱり何発か殴らないと気が済まないかな
5:優勝……ハクを蘇らせることも出来るのかな……ううん、馬鹿なこと考えちゃ駄目!
[備考]
※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。



【アリア@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:健康
[思考]
基本:μを止める、だけど……
0:シドーを追う。シドーを捕まえたら改めて早乙女研究所に向かう。
1:帰宅部の仲間との合流
[備考]
※参戦時期は少なくてもシャドウナイフ編以降。琵琶坂生存ルートです。詳しい時期はお任せします。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・隼人・ビルド・琴子・リュージと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。


49 : カウントダウン ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 23:05:44 JCXU1/4c0



あてもなく、ただただ走り続ける。
自分はビルドの足手まといにしかならない、ビルドにとって自分は友達でも何でもない道具でしかないという現実から逃げる為に。

(俺は...俺は...!)

ビルドから逃げ出したシドーを見てハーゴンはほほ笑む。

―――少々、予定外ではありますが、まあ上場でしょう。

先ほどはシドーの心境を槍に例えたが、では強力な槍を相手にどう対処すべきか?
答えは横合いから脆い柄の方を殴りつける。
破壊衝動の方ではなく、シドーとビルドの関係に罅を入れていく。

これからシドーがビルドの役に立とうと焦り、他参加者と衝突を繰り返すならそれがいい。
あるいはただただ逃げ続けるだけでも構わない。

大切なのは、ビルドにとって今のシドーの価値は大したものじゃないと思わせることで執着を薄くさせることだ。

仮に他の参加者を全滅させ、その汚れた手をビルドに拒絶されでもすれば、それこそ真の魔王の誕生の狼煙となるだろう。

―――心待ちにしておりますよ...破滅の唄を鳴り響かせるその時を


50 : カウントダウン ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 23:06:16 JCXU1/4c0

【E-8/1日目/日中】

【シドー@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島】
[状態]:ダメージ(大)、顔面打撲(大)、破壊衝動(極大:不安定)、精神的疲労(極大)、返り血で血塗れ、殺害による心的外傷
[服装]:いつもの服
[装備]:響健介の大剣(形状変化)@Caligula Overdose
[道具]:基本支給品、やくそう(シドー製)@ドラゴンクエストビルダーズ2
[思考・行動]
基本方針:テミスとμとかいうのをぶっ倒す
1:ビルドから逃げたい/拒絶されたくない
2:今はとにかく逃げる、誰とも会いたくない
3:自分でもよくわからない衝動にムシャクシャするが、とにかく自制する
4:久美子に対する恐怖。
[備考]
※参戦時期はムーンブルク島終了後、からっぽ島に帰った後です。
※霊夢、マリアと知り合いについて情報交換を行いました。
※破壊衝動をどうにか抑制している状況です。
※シドーの心境変化に伴い、響健介の大剣が変異しました。形状は魔王の剣@DQ11に似ています。
※破壊衝動による暴走と響健介の大剣を合わせることで疑似的にカタルシスエフェクト・オーバードーズと同様の状態となれます。健介のスキルも擬似的に使用出来ます。
※ビルドを殺したと誤解しています。

【ハーゴン@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島】
[状態]:幽体(シドーに憑依) 満足
[思考・行動]
基本方針:シドーを「破壊神」として覚醒させ、生還させる
1:ビルドを破壊神様への生贄とする。
2:然るべきときにシドーを「破壊」の道へと誘う
3:色々と調べる必要がありそうですね
[備考]
※幽体となっており、シドーに取り憑いていますが、実体化はできません。
※シドーにどれ程の干渉ができるかについては、後続の書き手様にお任せします。
※呪いは相手が非常に弱っているときでないと効かず、一定時間経過か何らかの解呪法で元に戻ります。


51 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 23:06:49 JCXU1/4c0
投下終了です


52 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/08/29(月) 23:08:49 JCXU1/4c0
>>18
のトリップからこっちのトリップに変えました


53 : ◆2dNHP51a3Y :2022/09/03(土) 11:19:55 vbYz5l1s0
夾竹桃、麦野沈利、ベルベット・クラウ、ムネチカで予約します


54 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 19:47:12 6qfjfqU60
投下します


55 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 19:51:33 6qfjfqU60
ブチャラティ達は、進み続ける。
九郎の背には、見るからに重態の少年がおり、まさにその命は風前の灯に見えた。
フレンダも、この状況では逃げ出すわけにもいかず、二人の後をついていく。

「ブチャラティさん、あとどの程度ですか?」

「もう少しのはずだ。とにかく急ごう」

ブチャラティは周囲の警戒を怠らないまま進む。
こんな状況でも、襲い掛かろうとする不埒な参加者がいないとも限らないからだ。

向かう先は、病院。
とにかく、今はそこを目指すだけだったが人影が見えた。

そこにいたのは、一人のホスト風のスーツ姿の若い男。
傍らには妙な帽子姿の人形(?)に、銀髪のオカッパ頭の少年がいる。

一応、警戒は解かないが、少なくとも即座に攻撃を仕掛ける意思はないようだった。
相手の男はこちらを見て、少し驚いたように目を見開き、

「……お前ら、ブローノ・ブチャラティとライフィセットか?」

こちらから何か喋るよりも先に、男が訊ねた。

前者はともかく、後者の名前に関しては心当たりはない。
男の向けた視線の先から自分の事かと九郎も思ったが、

「2号!?」

「ら、ライフィセット!? どうしたんでフか!?」

 銀髪の少年と、帽子姿の人形が背中にいる少年の方へと近寄ってくる。

スーツ姿の男の視線もよくみれば自分ではなく先ほど、あの魔王から保護した今も重態の少年へと向けられている事に気づく。

 九郎に変わってブチャラティが、

「この少年の知り合いなのか? いや、それよりも何故、俺の名を――」

 それを訪ねようとした矢先、


『――参加者の皆様、ご機嫌よう――』


 ここで、あの忌々しい声が響く。
 この会場にいる皆が知っているであろう声が。

 ゲーム開始直後。
 そして、前回の放送で多くの者に怒りと絶望を与えた声。

 だが、それを聞いて相手の男は「ちょうどいいか」と呟く。

「俺の名は垣根帝督。テメエら、話を聞く気があるなら着いて来い。歩きながら、話してやるよ」

 そう言って、背を向けて歩き出した。

「……どうします?」

 九郎がブチャラティに問いかける。

「ちょ、ちょっと待ってよ! な、何だかあの男は怪しいし、やめた方がいいかなー、何て私は思うわけよ」

 ……と何故だか、異様な焦り具合を見せるフレンダが口を挟んでくる。

「いや、行くべきだろう」

 だが、それをブチャラティはバッサリと切り捨てる。

「確かにこんな状態で会った相手を、すぐに信頼しろというのは難しいかもしれないが、少なくとも奴には問答無用で攻撃してこようという気はないらしい。奴の口ぶりから、ジョルノの情報も手に入るかもしれん」

 何より、と九郎の背にいるライフィセットへと視線を動かす。

「奴の歩いていった方向は病院だ。どちらにせよ、目的地だしあの男――垣根とやらを怪しんでここで足踏みしていたら、この少年が危険だ」

「そうですね。僕も同意です」

「……っ!」

2体1となり、自分の意見を押し通す事が難しくなったフレンダは黙りこむ。

「納得してくれたようだな。行くぞ」

そう言うと、ブチャラティは足早に垣根の後を追った。
続いてライフィセットを背負った九郎と、それを心配そうに銀髪の少年と帽子の人形が追った。

「ああもう!」

 それを見て、ひとり残されたフレンダは頭を掻きむしる。

「こうなったら、覚悟を決めていくしかないってわけよ……」

 それから肩を落としながら、その後を続いた。


56 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:00:31 6qfjfqU60
◇  ◇  ◇



病院は、幾度かの戦闘によりひどい有様だ。
それでも、病院としての機能はある程度は残っており、薬や治療用の機材もある。

幸いというべきか、ギャングとして抗争の経験の多かったブチャラティも、不本意な経緯ながらも様々な治療法に関する知識のあった九郎が少年――ライフィセットの応急処置をしてベッドへと寝かせた。

だが、少年を蝕む謎の火傷のような痕は、二人の知識をもってしても原因が掴めない。
今もビエンフーとシルバ――聖隷と言う存在だと説明を受けた――ら二人で心配そうに傍らにいる。

それでも一旦は、落ち着いた事もあり、ようやくまともに話しあいがはじまろうとしていた。

「ジョルノが……」

垣根は病院まで向かう間、それにブチャラティ達がライフィセットの治療をしている間にも簡易な経緯の説明をしており、そして放送によって確定してしまった事実。

ジョルノの死。
ブチャラティにとって、それはとてつもない衝撃だった。

垣根の話によればマギルゥというこの少年の仲間と出会い、組まれた臨時チーム『スクール』。
そして、そのチームでの主催打倒を目指したという流れ。
なるほど、いずれも自分の知るジョルノ・ジョバァーナという少年らしい行動であり、彼がジョルノとチームを組んでいたという事に疑いは持たなかった。

だからこそ、先ほどの放送とも合わせて垣根から知らされた事実は衝撃だった。

――ジョルノが死んだ。

相手は、鬼舞辻無惨というらしい驚異的な再生能力持ちの怪人物。

いや、この際は誰が相手などという事実よりもジョルノが死んだという事実にブチャラティは衝撃を受けていた。

ブチャラティは目を閉じて回想する。
ジョルノとの出会ってからの期間は、極めて短い。
『涙目のルカ』の一件から接触し、『ボス』への反逆まではわずか数日間の出来事だ。
この会場に来てから出会った者達と比べても、そこまで差はない。

だが、それでもジョルノという存在の死に予想以上にブチャラティは衝撃を受けていた。

パッショーネの『ボス』がトリッシュの件で裏切る前にしていた、もう一つの裏切り。
ブチャラティにとっての禁忌である、麻薬の売買。
その事実を知った時、ブチャラティの心は死んだ。
生きながらも死んだ状態だった。

ジョルノは、そんなブチャラティを再び生き返らせてくれた存在――まさに黄金の風だった。
その衝撃は大きかった。

間違いなくジョルノは死んだのだろう。
放送がデタラメを言っているわけでも、垣根が嘘をついているとも思わない。
垣根のこれまでの話から、間違いなく自分の知るジョルノ・ジョバァーナだと確信が持てる。

「ブチャラティさん……」

前回とは逆に、今回は九郎の知人――といっても、元々の知人で残されたのは岩永琴子のみであるが――の犠牲者は出ていない。
前回の放送の時とは真逆の立場に立つ事になった九郎から、不安そうに声をかけられる。

「こっちは話してやったんだ。お前らのここまでの話も聞かせろ」

垣根からしても、ジョルノやマギルゥへの義理立てのみで情報を話したわけではなかった。
見返りとしての、情報交換――いわば当然ともいえる要求である。

「……ああ、そうだな」

「ブチャラティさん、僕の方から話します」

それに応じようとするブチャラティを止め、九郎から話し始める。
これまで、臨時チームともいうべき自分達のまとめ役のような役割をやってきていたブチャラティだが、先ほどの放送を聞いてから明らかに気落ちしているように見える。

それゆえの配慮だった。
それが伝わったのか、ブチャラティも「頼む」とのみ小さく言った。

そして、九郎は話し始める。
これまでの経緯。キースやジオルドといった「乗った側」に襲われた事や、ホテルで別れたアリアや新羅の事。
最後に、列車でのあの魔王との戦闘やライフィセットの救出の事などだ。


一通り語り終えた後、

「とりあえず、岸谷先生が心配ですね」

九郎が放送を聞いてまず気になった事を口にする。
先ほどの放送で呼ばれた者の一人。

――セルティ・ストゥルルソン。

岸谷新羅にとって大事な人。
特にゲーム開始直後から一緒にいた九郎にとっては、散々その名前を聞かされており、彼女とは直接会っていなくてもどれだけの思いを聞かされている。
そんな存在を失ったとなれば、新羅がどう動くか。

「それに、神崎さんの方も心配ですね」


57 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:05:47 6qfjfqU60
もし仮に、新羅がマーダー化しようものなら、真っ先に犠牲になるのは同行しているはずのアリアだろう。
さらには彼女の知り合いと聞いた高千穂麗まで退場している。

「ああ。だが、彼女も無力な存在ではない。最悪の場合でも、何とか切り抜けてくれると良いのだが……」

ブチャラティもキースとの戦闘でアリアの実力は見ている。
だが、ここで問題となるのがアリアの性格だ。彼女の性格からして、逃げ出そうとするのではなく不殺を守り何とか新羅を無力化しようと考えるだろう。
それが裏目に出なければ良いが、と内心で少し不安になる。

「ま、ここにいねえ奴らの事を心配しても仕方がねえだろ」

そんな風に話す二人に、冷たい口調で垣根が話を戻す。
彼からすれば、どちらも一度も会っていない相手であり文字通り他人事なのだろう。

「それより、お前の話を聞いてジョルノの事で少し気になってる事がある」

垣根の知る「ジョルノ」は間違いなくブチャラティの知る「ジョルノ」だった。
だからこそ、一つの疑問が生まれる。
それは、垣根が聞いたジョルノとの話の間に生じた矛盾。

「ジョルノは、チョコラータとやらと戦い、コレッセオに向かう途中だと――そう言ったんだな」


垣根達、『スクール』は当初の予定では元々ジョルノの目的地だったコロッセオに向かい、その後にマギルゥら仲間が集う可能性が高いバンエルティア号へと向かう予定だった。
ところがその途上でチョコラータに屠られた参加者(妖夢)の死体を発見し、病院へと向かい、その予定も事実上消滅してしまったわけだが、こうして当初の目的を達してしまったのは皮肉というほかない。

「ああ。俺の知る限り、ジョルノがチョコラータとやらと交戦した記憶はない」

つい先ほど、垣根達が戦ったという相手、カビを用いて戦うスタンド使いでありボス親衛隊だというチョコラータ。彼は、元々の世界でも敵対した相手だったらしく、ジョルノの話によるとブチャラティもその相方と戦ったという。
だが、ブチャラティにその記憶はない。

「俺の知る限り、組織を、『ボス』への裏切りを決意したのがここに来る最後の記憶だ」

「だが、俺の知るジョルノの奴はそうじゃなかった」

垣根も詳細までは聞いてはいないが、大まかな流れは聞いている。
ジョルノらの所属していた組織『パッショーネ』から離反から、暫く経っていたらしく、『ボス』への反逆を決意した直後から来たというブチャラティの話とは矛盾している。

ブチャラティも、垣根が嘘をついているともジョルノが垣根に嘘をついたとも思っていない。
こんな意味不明の嘘をつく理由がなく、汗で見抜くまでもない。

――そうなると、だ。

 
「呼ばれた時間が違う、んじゃないかな」


不意に、ブチャラティや九郎にとって初めて聞く少年特有の高い声で答えがきた。


58 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:11:39 6qfjfqU60
◇  ◇  ◇



(ここ、どこ……?)

草木の類は見えず、ただ暗いだけの闇が続いている。

身体が浮き上がり、今にも消えてしまいそうな現実感のない感覚。
朦朧としながらも、ライフィセットは理解する。

(これは、夢……?)

だが、ひたすらに暗く深い。
夢は夢でも悪夢だ。

どこか、あの地脈と似た感覚の場所。
光らしきものも、生を感じさせるものがなく、ひたすらに暗い。

そんな中――それを見つけた。

一人の見覚えのある少女の姿。

「えれ、のあ……?」

一度目の放送で死を告げられた少女。

ゲーム開始からさほど経っていなかった頃。
この病院の地で、一人の参加者が命を散らした。

エレノア・ヒューム。
ライフィセットの器であり、元は敵対していた聖寮の退魔士の少女。

同じく参加者であるメアリ・ハントの『死の水』によって命を落とした。

そのような事情は、当然ライフィセットも知らない。

『ライフィセット』

エレノアは告げる。

「エレノア、僕は……」

ここは、死後の世界だというのか。
なんで――と思いかけた時、同時に思い出した。

(そうだ、ベルベットが……っ!)

ようやく会えたと思った存在。
何よりも大事だったはずの存在。

だが、そのベルベットは何かがおかしかった。

――そして。

(――っ!!)

全ての記憶が戻る。
様子のおかしかったベルベットに自分は殺され――、


『いえ、貴方は生きています』


そんな中、どこか憂いを帯びた表情のままエレノアが告げた。

『ですが、このまま私のところに来てしまった方が幸せかもしれません』

「どうして……?」

『起きても、苦しい事や嫌な事ばかりかもしれませんよ』

別人と豹変したベルベット。
いつ死んでもおかしくない重傷。痛くて、苦しい状態。
今もどこかで死んでいるかもしれない、他の仲間達。
問題は山積み。
このまま、意識を永遠に手放してしまった方が楽かもしれない。

『ですので、このまま――』


「嫌だ」


だが、エレノアが最後まで言う前に、ライフィセットが告げる。

「確かに生きてるって事は、悲しい事や苦しい事だってあるかもしれない。けど――それ以上に楽しい事だって、やりたい事だってやらなきゃいけない事だってある。だから僕は、生きる」

生きる者――そう名付けてくれたベルベット。
そして、目の前の少女に対しての答えだった。

「それに、ムネチカだって、僕のために戦ってくれた。その気持ちを裏切りたくない」

『そうですね。貴方ならそう言うと思っていました』

そんな返答を予想していたのか、エレノアも小さく笑う。

『ならば、多くを語る必要はありません。ただ――生きてください』

それだけを告げると、そこにいたエレノアが薄れていく。


59 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:14:51 6qfjfqU60
「エレノア!?」

これは、少年の見たただの幻だったのか。
それとも本来、二人に契約の繋がりがあった事によって起きたバグのようなものだったのか。

――あるいは、最期を迎える瞬間にもエレノアがライフィセットの行く末を案じた事によって起きた正真正銘の奇跡だったのか。

それは誰にも分からない。

(ん……)

だが、一つの事実として朧気ながらも、ライフィセットは意識を取り戻していた。
全身が重傷で、全てを覆いつくさんばかりの暗い穢れに蝕まれたこの状態で、まさに奇跡ともいうべき出来事。

そんな中、漠然と、耳の中に入って来る声。

朦朧としながらもあの場から、この場にいる者達に助けられた事。

聞き覚えのある声もする。片方は、よく知る仲間の一人。
そして、もう片方も――記憶の中にある声と一致するものがある。

そんな会話が繰り広げられる中、身体をまともに動かす事すらできない状態のためか、逆にあの時の事を今になって冷静に回想できた。
あのベルベットとは、色々と嚙み合わない事が多々あった。


『やっぱりあんたは、ラフィじゃない』


彼女の言い様ではまるで、ライフィセットの事を仲間である「フィー」ではなく、実の弟の「ラフィ」であるライフィセット・クラウを騙っているかのような言い方だった。

先ほどから、ブチャラティ達の会話を聞いていて――もし、彼女が自分と出会うタイミングから来ていたとした――そんな推測がガッチリと噛み合った。

もしかしたらあのベルベットはこの会場に――。


「呼ばれた時間が違う、んじゃないかな」


気が付けば、声が出ていた。
 
「ら、ライフィセット!? 気が付いてたんでフか?」

「に、2号、大丈夫なの……?」

部屋にいた者達、全員がこちらを見て、ビエンフーとシルバが不安そうに声をかける。

「うん。ビエンフー。それにシルバもいたんだね」

「2号……」

「ううん。僕は2号じゃなくてライフィセットだよ、シルバ」

顔色の悪いまま、ライフィセットはそう訂正する。
ビエンフーはともかく、シルバはあのカノヌシによってドラゴン化してしまい、自分の意思を持ち、話していたシルバという聖隷としては完全に死んでしまった。
そんな相手と再開できた事はこんな状況でさえなければ、手放しで喜べた事だった。

「えっと……」

そんな中、代表する形でブチャラティが前に出る。

「ああ、改めて自己紹介をしよう。俺はブローノ・ブチャラティだ、ライフィセット」

「うん、助けてくれてありがとう。その、ムネチカは……?」

未だに顔色は悪く、全身を蝕む穢れや激痛にこらえながらもライフィセットは同行者だった女性の事を口にする。


60 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:17:24 6qfjfqU60
「ムネチカ、というのは一緒にいた獣耳の彼女の事か?」

状況的におそらくは間違いないとは思うが、確認の為に訊ね、ライフィセットが頷いたのを見てブチャラティは答える。

「すまない。彼女までは助けている余裕がなかった。だが、先ほどあった放送でもその名前は呼ばれてはいない。ひとまずは安心していいはずだ」

実際のところ、安心などできない。
あのような危険な連中の虜囚となった可能性が高く、生きているからといって何をされているか分からない。
だが、それをわざわざ口にする事はなかった。

それでもそれが分かっているからか、ライフィセットはその表情をさらに悲痛なものへと変える。

「それよりもだ。呼ばれた時間が違うってのはどういう事だ?」

だが、それに構う事なく垣根が口を挟む。

「いや、その前にお前の知っている事を教えろ。ここに来てからこれまでの全部だ」

「か、垣根さん、ちょっとそれは……」

「ううん、ビエンフー、いいから……」

奇跡的に意識を取り戻しているとはいえ、半死人状態の少年を相手に情報提供を要求する垣根に、ビエンフーが苦言を呈そうとするが、ライフィセットは苦し気に顔を歪めながらも、話はじめる。

ここに来てからムネチカと会った事、ジオルドと名乗る相手との遭遇や、列車で意識を取り戻してからの戦闘。そして、噛み合わないベルベットとの会話などをだ。

「ジオルド・スティアート、か」

「ええ、やっぱりと言うべきですか……」

キース・クラエスと同様に、カタリナ・クラエスのために殺しあいに乗った者。
実際にその様を見ている九郎が、当時の事を思い出す。
案の定、殺しあいにのったまま、未だに会場のどこかにいるようだ。何とかすべき存在である事に変わりないが、今は他に問題がある。

「そ、それじゃあベルベットはずっと前の状態で呼ばれたって事でフか!?」

「うん。そう考えるしかないと思う」

ビエンフーの言葉にライフィセットは頷く。

「それも確かに気にかかるが――そのベルベットとやらと手を組んでるって奴は多分、俺の知ってる奴だな」

「そうなのか?」

「ああ、同じ学園都市の第四位のレベル5だ」

ライフィセットの語る外見的な特徴や能力から垣根はそう推測する。
これまでずっと黙っているフレンダがビクリと動いた気がしたが、垣根は気にする事なく続ける。

「けどまあ、それよりもだ。単に過去から来たってだけじゃあ、説明がつかねえ事がある。そうだろ」

あれは、ベルベット・クラウであってそうでない者へと変貌した。

「もしか、したら、何か、されているのかもしれない。もし、そうなら、何とかして……」

そう言いかけた時、先ほど以上に顔色の悪くなっていたライフィセットの意識が再び闇に落ちた。

「ら、ライフィセット!」

ビエンフーとシルバが慌てて近づくが、再びライフィセットは深い眠りについているようだ。

「無理もない。この状態だ。これまで話せていた事が奇跡だ」

穢れを抜きにしても、身体全体にダメージを受けており、両腕もないまま。応急処置こそしたものの、未だに重傷のままだ。
奇跡的に意識を取り戻していたとはいえ、喋ることすらきつかったはず。

「凄まじい精神力、ですね」

「ああ」

そんな状態で話していた事に、九郎も驚き、ブチャラティも頷く。
幼い身体でありながらも、彼の目には弱っていても決して折れない強い意思の力を感じた。

(そうだな。俺も落ち込んでばかりいられないな、ジョルノ)

ブチャラティは今は亡き部下に改めて近い、意識を切り替える事にした。

再びライフィセットは寝かせられ、ここで九郎が口を開く。

「それで、何ですが一ついいですか?」

「ああ、どうした?」

「その、ここに来てから話そうとしていた事があるんですが」

そう言って、九郎は話始める。


61 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:22:05 6qfjfqU60
――鋼人七瀬。

天然のものではなく、現代を生きる人間達の妄想や願望によって生み出された『想像力の怪物』。
かつて、九郎の従姉である桜川六花が放たれた存在であり、岩永琴子によって消滅させられた。
九郎もそれに助力したため、当然ながらよく覚えいている。

七瀬かりんという亡くなったアイドルに対するイメージから生み出され、誹謗中傷をした世間への復讐心から夜な夜な人を襲う怪人となり、実際に人を襲い始め、ついには死人が出てしまう。

これを放置すれば、完全に手のつけられない化け物へと変貌し続けてしまうと考え、九郎の恋人であり知恵の神である岩永琴子と共に無力化し、ついには消滅させる事に成功した存在を。

「それと今の話に出て来たベルベット・クラウが、似ていると?」

ブチャラティとしても、今更九郎の言葉を疑いはしない。
スタンドだけでなく、魔法だ聖隷だ超能力だと言った話が出てきているのだ。
想像力の怪物などといった存在を聞かされても、嘘だとは思わない。

「ええ。何を、と言われても説明には困るんですが」

だが、これは鋼人七瀬と実際に対峙し、直接戦った九郎だからこそ分かる感覚であり、ブチャラティにそれを伝える事は困難だった。

(想像力の怪物、ねえ)

そんな中、垣根は二人の会話を聞きながら、冷静に思考を進める。

超能力は、オカルトの類ではなく科学的な力によってつくりだされたものだが、その根幹となるものは『自分だけの現実』であり、ある意味では妄想であり、思い込みに近い。

だが、それはあくまできっかけとなるだけのものであり、科学的な力の補助を受け、開発とカリキュラムを進め、ようやく身に着ける事ができる。

「おい、ビエンフー」

 ここで、垣根はビエンフーに視線を向ける。

「なんでフか?」

「ベルベット・クラウは、元々そんな力は持っていなかったんだよな」

「そうでフねえ、ベルベットは喰魔っていう特別な業魔だったでフが、そんな力はなかったでフよ」

 おそらくはビエンフーがベルベット達、災禍の顕主御一行に加わったのは、マギルゥがエレノアからビエンフーを奪い返して以降の話。
 少なくともライフィセット合流前の段階らしいベルベットのようだが、そんな力を持っていたという話も聞いていない。

「となると、その力に目覚めたのは、この会場に来てからって事か。という事は、だ。やっぱりコレが関係してるかもしれねえ」

そう言って、ジョルノやマギルゥの首輪を取り出す。

「それは、首輪か」

「ああ、俺達をこんなクソみてえなゲームに縛り付けてる元凶だ」

ブチャラティの言葉に、垣根は苦々しげに答える。

「さっきも言ったように、こいつには色々と書かれてあった」

色々と優先して話す事があったため、後回しにしていたが、改めてこの首輪に関して書かれてあった事を垣根は話す。

仮想世界。さらには、自分達が生み出された存在であるかのような書き方にさすがのブチャラティも九郎も目を瞬かせる。

「メビウスをベースとした世界だの、生み出した存在だの色々と気になる事が書かれてありますね」

「ああ、だがそれなら納得してしまう事もある」

ここが生み出した世界、あるいは仮想世界だというのはブチャラティにとってある意味、説得力がある答えでもあった。
何せ、ブチャラティの身体はあの時、『ボス』によって完全に殺されていたのだ。
ジョルノによって与えられた奇跡でも、決して長くは持たないと思われていた。

それが、確かな肉体を持って蘇っている。
あの時のブチャラティを拉致して会場に連れて来て、新しく肉体をつくりだしたなどと考えるより、よっぽどか説得力が出る。


62 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:22:06 6qfjfqU60
――鋼人七瀬。

天然のものではなく、現代を生きる人間達の妄想や願望によって生み出された『想像力の怪物』。
かつて、九郎の従姉である桜川六花が放たれた存在であり、岩永琴子によって消滅させられた。
九郎もそれに助力したため、当然ながらよく覚えいている。

七瀬かりんという亡くなったアイドルに対するイメージから生み出され、誹謗中傷をした世間への復讐心から夜な夜な人を襲う怪人となり、実際に人を襲い始め、ついには死人が出てしまう。

これを放置すれば、完全に手のつけられない化け物へと変貌し続けてしまうと考え、九郎の恋人であり知恵の神である岩永琴子と共に無力化し、ついには消滅させる事に成功した存在を。

「それと今の話に出て来たベルベット・クラウが、似ていると?」

ブチャラティとしても、今更九郎の言葉を疑いはしない。
スタンドだけでなく、魔法だ聖隷だ超能力だと言った話が出てきているのだ。
想像力の怪物などといった存在を聞かされても、嘘だとは思わない。

「ええ。何を、と言われても説明には困るんですが」

だが、これは鋼人七瀬と実際に対峙し、直接戦った九郎だからこそ分かる感覚であり、ブチャラティにそれを伝える事は困難だった。

(想像力の怪物、ねえ)

そんな中、垣根は二人の会話を聞きながら、冷静に思考を進める。

超能力は、オカルトの類ではなく科学的な力によってつくりだされたものだが、その根幹となるものは『自分だけの現実』であり、ある意味では妄想であり、思い込みに近い。

だが、それはあくまできっかけとなるだけのものであり、科学的な力の補助を受け、開発とカリキュラムを進め、ようやく身に着ける事ができる。

「おい、ビエンフー」

 ここで、垣根はビエンフーに視線を向ける。

「なんでフか?」

「ベルベット・クラウは、元々そんな力は持っていなかったんだよな」

「そうでフねえ、ベルベットは喰魔っていう特別な業魔だったでフが、そんな力はなかったでフよ」

 おそらくはビエンフーがベルベット達、災禍の顕主御一行に加わったのは、マギルゥがエレノアからビエンフーを奪い返して以降の話。
 少なくともライフィセット合流前の段階らしいベルベットのようだが、そんな力を持っていたという話も聞いていない。

「となると、その力に目覚めたのは、この会場に来てからって事か。という事は、だ。やっぱりコレが関係してるかもしれねえ」

そう言って、ジョルノやマギルゥの首輪を取り出す。

「それは、首輪か」

「ああ、俺達をこんなクソみてえなゲームに縛り付けてる元凶だ」

ブチャラティの言葉に、垣根は苦々しげに答える。

「さっきも言ったように、こいつには色々と書かれてあった」

色々と優先して話す事があったため、後回しにしていたが、改めてこの首輪に関して書かれてあった事を垣根は話す。

仮想世界。さらには、自分達が生み出された存在であるかのような書き方にさすがのブチャラティも九郎も目を瞬かせる。

「メビウスをベースとした世界だの、生み出した存在だの色々と気になる事が書かれてありますね」

「ああ、だがそれなら納得してしまう事もある」

ここが生み出した世界、あるいは仮想世界だというのはブチャラティにとってある意味、説得力がある答えでもあった。
何せ、ブチャラティの身体はあの時、『ボス』によって完全に殺されていたのだ。
ジョルノによって与えられた奇跡でも、決して長くは持たないと思われていた。

それが、確かな肉体を持って蘇っている。
あの時のブチャラティを拉致して会場に連れて来て、新しく肉体をつくりだしたなどと考えるより、よっぽどか説得力が出る。


63 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:27:19 6qfjfqU60
そしてそれは、九郎にとっても同様。
何せ、この人魚の力とくだんの力を身に着けた身体はあらゆる意味で手の施しようがなかった。
力を失う事もできず、だからこそ六花は様々な策を取ろうとしていたのだ。
にも関わらず、その片割れである未来予知の力があっさりと失われている。
身体に手を加えて改造した、と考えるよりはくだんの力は再現しなかった、と考える方が説得力が出てしまう。

「垣根。お前はここが作られた世界で、俺達も作られた存在だと考えているのか?」

ブチャラティの質問に、垣根は「いや」と返す。

「今の時点じゃ、結論は出せねえ。都合の良い事ばかり考える脳ミソお花畑のつもりはねえが、何もかも悪い方にばかり考えてウジウジと悩み続けるつもりもねえ。今の時点じゃ、コイツに書かれてある文章のみだ。それも、こんな風にご丁寧にわざわざと書かれた、な」

別の場所で考察を進めている、岩永琴子やレインとは違い、垣根の手元にあるのメビウスに関する情報源は首輪の説明のみ。
二人と違い、バーチャドールや楽士といった情報源がない以上、考察という点では後れを取らざるをえなかった。

「それに俺は俺だ。このクソみてえな殺し合いに従う気なんざ微塵もねえし、ぶち壊す気でいる」

「……そうだな。少なくとも俺も、『ブローノ・ブチャラティ』としての心を持っている。ならば、やるべき事は変わらない」

ブチャラティも納得したように、垣根の言葉に頷いて見せる。
ジョルノを失った喪失感からも立ち直りつつあり、強い決意の力を瞳に宿しはじめていた。

「それで、話を戻すぞ。ここがメビウスとやらかは置いておいて、かなり特殊な空間だって事に違いはねえ」

だからこそ、起こりえた事。

「お前の言う、鋼人七瀬とやら以上に意思やら妄想やらの力がモロに影響を受けやすいのかもしれねえ」

「それが、あの魔王のような変貌を果たしたと?」

「ああ、まあ、実際にはそんな単純なものじゃねえだろうが、色々と条件が重なったんだろうな」

垣根としては、この戦いの目的として異能力者達を戦わせる事によって既存の存在とも違う存在を生み出そうとしているのではないか――と推測もしているが、これはあくまで推測。
それ以上は話す気はなかった。

「まあ、良い。俺はそいつと関わる気はねえ。何かする気があるなら、お前らで相談でもしてな」

マギルゥとの約定は、あくまで災禍の顕主の御一行であるベルベット・クラウに対してのもの。
この会場にいるベルベットがその枠組みから外れた存在であるならば、何の義理もなく関わる気もない。
もちろん、襲ってくるというのであれば返り討ちにする気ではあるが。

あの魔王ベルセリアについての話は、いったんここまでとなり、垣根は次の議題へと移る。

「俺はこの後、あの触手野郎――鬼舞辻無惨をぶっ潰す気でいる」

無惨という男が、ジョルノを含む垣根の仲間達を殺した事は既に聞いている。

「仲間の復讐なんて言う気はねえが、あのクソ野郎がのうのうと会場をうろついているってだけで虫唾が走るんでな」


64 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:31:25 6qfjfqU60
「……そうか」

ジョルノの仇を殺すと宣言する垣根に、ブチャラティの返答はあっさりとしたものだった。

「自分の手で部下の仇討ちをする気はねえのかよ」

「ああ。ジョルノの奴なら、自分の仇討ちを優先しろとは言わないだろうからな」

――ブチャラティ、それよりも他の事を優先しましょう。

ブチャラティの脳裏に、部下だった黄金の少年の言葉が聞こえた気がした。
ジョルノの意思を継ぐのであれば、この状況下でブチャラティ一人でとび出し、どこにいるかも分からない鬼舞辻無惨という男を討つべきだ――などとは間違っても言わないだろう。

「確かに、アイツならそう言うだろうな」

半日ほどの付き合いでしかなかったが、垣根もそれに同意する。

冷静で、思慮深く、それでいて行動力もある。窮地でも落ち着いて行動のできる優秀な男。
そんな男が、 


『――後は頼みます』


「――っ!」

最期の場面が、垣根の中で再生される。

(クソが。だったら、頼むのは俺じゃねえだろうが)

最後の希望を垣根に託し、ジョルノは逝った。

「どうかしたのか?」

「なんでもねえ。それよりもだ」

ジョルノの顔を脳裏から振り払い、垣根は続ける。

「テメエらのボス――ディアボロも見つけ次第、俺が殺す。そっちにも文句はねえな」

ブチャラティやジョルノの所属する組織『パッショーネ』のボスであり、リゾットにとっての仇でもある人物。
リゾットの部下であるソルベとジェラートを殺した実行犯は、先ほどリゾット自らが屠ったチョコラータであっても命令したのは間違いなくこちらだ。
もしリゾットが生き残っていたのであれば、間違いなく追い続けていただろう。

「ディアボロ――それがボスの名前か」

ブチャラティにとって、その名前を知るのはもう少し後の時間軸の話。
このブチャラティにとっては初めての事だった。

「ボスも、この殺し合いに巻き込まれていたとはな」

複雑な思いを抱えながら、ブチャラティは呟く。
ブチャラティにとって、参加者名簿の中で知っている相手はジョルノのみのはずであり、アリア達にもそう答えていた。
しかし、実際にはチョコラータやリゾット、そしてディアボロのような存在までいたのだ。

「そいつも俺の獲物だ。構わねえな?」

無念の思いを抱えて死んだリゾットの代理などという気持ちはない――つもりだ。
それに、垣根がディアボロに対して好印象を持っていなかったのは事実だ。
自身は安全圏から見下ろし、リゾットらに危険な仕事をやらせながらも冷遇した存在。それが、学園都市上層部とどこか重なっていた。

一方、ブチャラティにとって、ディアボロことボスは許せない存在ではある。

しかし、ボスを倒そうとしたのは、あくまでトリッシュを、そして仲間の安全のため。
さらには組織を牛耳り、麻薬を国や街から排除しようというジョルノの思いに共感したからだ。
ボスの命そのものには、そこまで執着はなかった。

最も、この殺し合いに参加しているというのであれば、ボスが大人しくしているはずはない。向こうから狙ってくるのであれば、別である。
その時は、絶対に排除する必要のある相手だ。

だが、少なくとも現状で自分から動く気はない
最も部下であるレオーネ・アバッキオがボスによって始末された後の時間軸から来ていたのであれば多少は優先順位が変わっていたかもしれないが。

「俺は無理にボスを狙う気はない。お前がどう動いても止めはしない」

その答えに垣根も「そうかよ」とのみ答えた後、

「それで、お前らの方こそこれからどうする気だ?」


65 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:34:26 6qfjfqU60
「とりあえずは、彼――ライフィセットをどうにかする方法を探そうと考えている」

相変わらず眠り続けている、ライフィセットを見る。
先ほど意識を取り戻せていたのが奇跡か何かのように、再び深い眠りについている。

「そうですね。身体の欠損だけなら、何とかなる方法があるかもしれませんが……」

九郎の言う事は、決して気休めではなかった。
九郎の再生能力、さらにはブチャラティの知るジョルノのゴールドエクスペリエンスのように身体の部品をつくるような能力者もいる。
重傷であるライフィセットの身体を治す方法もあるかもしれない。

だが、問題は、

「これ、ですよね……」

ライフィセットの身体を蝕む強力なナニか――ビエンフー曰く彼の元の世界にあった穢れと呼ばれる存在に近いもの。

「ビエンフー。これはお前の知る穢れとやらに近えんだよな」

「そうでフね。全く同じとはいえないでフが……」

「その穢れっつうのは、器とやらと契約しちまえば何とかなるはずだな」

本来、聖隷と呼ばれる存在である彼は人が発する穢れは猛毒らしく、清純な存在である器と呼ばれる存在と契約する必要があるらしい。

「なら、話は簡単だ。聖隷契約とやらをしてみれば何とかなるかもしれねえぞ」

「ええ!? でも、これは単なる穢れとは明らかに違うでフ。そんな事をしても何とかなる保証はないでフよ?」

「このままなら、間違いなく死ぬぞ」

垣根の言葉に、ビエンフーも黙り込む。
何も手を打たず放置するか、何とかなる「かも」しれない手を打ってその可能性にかけるか。
その二択しかない。

「だが、俺達はその契約とやらのやり方を知らないぞ」

「いや、そのやり方ならここに書いてある。本来なら、対魔士とやらじゃねえとできねえらしいが、ここでは問題ないようだ」

ブチャラティの言葉に、垣根が数枚の紙片を差し出す。
それは、マギルゥの遺品を整理している時に、見つけたものだった。

『これを読んでいるという事は、儂は死んでいるというという事じゃろう。おお、何という悲劇、この大魔法使いの葬儀は盛大にするのじゃぞ! 具体的にはお主の全財産の半分くらいを使ってな♪』

そんなふざけた――マギルゥらしい書き出しからそれははじまっていたが、そこからの内容は真面目なものだった。

非常時に備え、万一の場合があった場合、シルバと契約するようになっている事。
スタンド使いのジョルノにはそれが難しい事。
先ほど、ビエンフーと話した推測通りの内容だ。

途中から、様々なパターンを想定した事が書かれてある。
今、実際にそうなったようにマギルゥとジョルノが死んで、垣根が生き残った場合。
マギルゥのみが死んだ場合。

そして今渡したのは、マギルゥと垣根が死んでジョルノが生き残った場合のパターンのものだ。
その場合のフリーになった聖隷――シルバを他の参加者と再契約する場合を想定して、聖隷と契約するための手順の説明が書かれてある。

それを垣根はブチャラティに手渡す。

「いいのか?」

「ああ。俺はもう目を通した。必要ねえよ」

「感謝する」

ブチャラティが受け取ったのを確認する。

「だが、契約とやらをしたところで何とできるかは……」

「それ以上は、俺は責任を持つ気はねえ」

そこまで言うと、垣根は立ち上がった。

「さて、とだ。話す事はこんなものか」

「行くのか?」

「ああ。悪いが、いつまでも仲良しこよしってのは性に合わねえ。ここから先は好きにさせてもらうぜ」

垣根からすれば、あの鬼舞辻無惨やディアボロを討ち、さらには主催者も討つ気でいる。
義理は果たし、情報交換もすませた以上、いつまでも病院に留まる気はなかった。

ここにいる面子で再び対主催チームを、という気も起きない。
あのメンバーこそが特別であり、他のチームなんて考えられない――というわけでもなかった。

単純なチームとしての相性の問題だ。
ジョルノやマギルゥの話からも聞いていたし、実際に出会ってからのやり取りでも分かったが、
ブチャラティはギャングではあるが、義侠の者。目の前で窮地に陥っている者を放ってはおけない。初見の相手であるライフィセットを窮地から救ったりした事からも分かる。
ライフィセットや九郎にしても、そちら側だろう。


66 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:38:11 6qfjfqU60
垣根は悪党を自称しているし、必要のない鬼畜行為を行うような外道と呼ばれるまでに堕ちる気はないが、必要とあれば非道な手であろうが、垣根は取る気でいる。無惨やディアボロ、そして主催打倒のためなら手段を選ぶ気はない。

こうして情報交換を交わす程度ならば問題はないだろうが、長期的に行動を共にすれば、そういった事に対する意識のズレはいずれ綻びとなって出てくるだろう。

「それに、さっき言ってたテメエらの仲間。何かあれば伝言程度は伝えてやるよ」

「アリア達の事か?」

新羅が放送の後、どうなっているかは分からない。だが仮に二人とも、無事で何事もなかったにせよ、このまま池袋駅に向かわれても合流できないかもしれない。

「それなら、こちらに――病院に向かうように言ってもらえませんか?」

「……分かった」

九郎の言葉に垣根は頷く。
今の状態で、下手に病院から動くのは逆に危険だろう。
さらにいうなら、問題のセルティ・ストゥルルソンがこうなってしまった以上、池袋駅に集合する理由も一つ減っている。
首輪の解析についても必要がなくなったため、研究所に行く必要性も薄れた。

「ありがとうございます」

「あくまでついでだ。会えなかったとしても、文句言うなよ」

「いや、それでも感謝する」

今度はブチャラティが言う。

「それより、お前ら。こんな目立つところにいつまでも留まるつもりか?」

病院は、地図にも表記されており、遊園地や映画館などといった場所とは違い、怪我人の出やすいこの状況では人が集まりやすい。
事実、ブチャラティ達がここに来たのもそれが理由だ。

「そうせざるを得ないからな」

だが、ライフィセットの事がある以上、下手に動くわけにもいかない。
とはいえ、「乗った」側が来てしまえば、窮地に陥る事は間違いない。

(何か罠でも仕掛けておいた方がいいかもしれんな)

幸いにも、フレンダが色々と使えそうなものを持っていたはずだ。少なくとも足止め程度はできる罠を設置できるかもしれない。

垣根は「そうか」と頷いた後、続けて先ほどから、心配そうにライフィセットに付き添ったままの少年――シルバへと視線を動かす。

「それでお前はどうする気だ?」

「!!」

「俺は今言ったように、ここから去る。お前がそいつの所に残りたいなら、好きにしろ」

「え? いいの……?」

思わぬ言葉に、シルバは驚いたように目を瞬かせる。

「残りたいならはっきり言やいい。嫌がってる奴を無理に働かせても大した力にはならねえよ。敢えていうぞ、命令じゃねえ。お前の意思で選べ」

「……」

シルバは黙り込む。

暫しの沈黙の後、小さくだがはっきりとした言葉が出た。

「その、僕は2号と、ライフィセットと残りたい」

「そうか」

垣根の返答は短かった。
それに込められていたのはいかなる感情か――少なくとも、未だ幼いままのシルバには分からなかった。

「そ、その。また会える、よね……?」

そう言ったシルバに垣根は「違えよ」と修正する。

「……会えるか、じゃねえ。また会うんだよ。テメエ自身の力でな。邪魔な連中倒し続けてりゃあ、どうせそのうちまた会えるだろ」

「はい!」

そう頷いたシルバに背を向け、垣根は今度こそ病院を出ていった。


67 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:40:31 6qfjfqU60
◇ ◇ ◇



「ま、待って欲しいでフ〜」

病院を出た垣根は、背後から来たビエンフーの方を向く。

「ああ、そういえばお前もいたな」

「ひ、ひどいでフ!?」

今気づいたと言わんばかりの態度の垣根にビエンフーは近づいていく。

「一応、離れていても聖隷術とやらは問題なく使えるみてえだし、テメエも残ったところで別に良かったんだがな」

「そんな冷たい事言わないで欲しいでフよ……」

ビエンフーとて、旅の仲間であるライフィセットが心配でないはずがない。
重傷を負い未だ危機的状況にある状況にあるのだ。

だが、あちらにはブチャラティ・九郎・フレンダ、さらにはシルバが着いているのに対し、垣根は仲間を皆失って一人のままだ。

亡き主の意思もあるし、現時点の主でもある垣根をこのままにはできない。
それに、このまま放任しておけば何処かで誰にも知られずに亡くなりそってしまいそうであり心配だった。

が、それを口にする事はなかった。
それを口にする事は間違いなく垣根はそれを否定するだろうし、ビエンフーも素直に口にする事はできない。

「そういえばあの金髪の娘、一言も喋って来なかったでフね」

そんな思いを誤魔化すように、ビエンフーは何故か一言も喋ってこなかった少女の事を、ふと口にする。
何やら驚いたり、焦ったりしている様子はあったので、聖隷2号時代のライフィセットのように意思を封じられているというわけではないようだが。

「ああ、あいつは多分、俺の口から都合の悪い事を話されたくなかったんだろうな」

「ええ!? あの娘の事、知ってたんでフか?」

「アイツは、俺と同じ出身だ」

顔写真付きの参加者名簿にもしっかりと書かれてある。

フレンダ=セイヴェルン。
ここに来る直前――本当にここがメビウスとやらならそれも怪しくなるが――返り討ちにして、情報を引き出した「アイテム」の女。

「じゃ、じゃあ、どうして言わなかったんでフか!?」

「別に必要ねえからな」

フレンダを助けるつもりも、糾弾する気もなかった。
ただ、別に必要がないと判断した。それだけの事だった。

奴も学園都市の暗部組織の人間ではある。あの反応からして、おそらくブチャラティ達に全てを語っているわけではあるまい。ただの巻き込まれた一般人として振る舞っているのかもしれない。

垣根も学園都市の暗部の人間。
人の事をどうこう言うべき立場にないし、咎める資格もない。
そしてそれは、つい最近までカタギだったらしいジョルノはともかく、マギルゥやリゾットにしても同様のはず。

この会場に来る前の事など、どうでも良かった。
脱出の為に協力できる存在であるか、無惨のように邪魔な存在か、何の役にも立たない存在。
過去の事などどうでもよく、垣根にしても大事なのはそこだ。

問題なのはここに来てからの行動だった。
共闘ができ、主催者打倒という目的を持っていれば殺人者だろうがテロリストだろうがどうでも良い事だ。

故に、敵対する気がない限り放置。
それが、垣根の対応だった。

――最も、垣根は知らない。

ここに来てから、フレンダは様々な問題を起こしている事を。
流竜馬を罠に嵌めた事を。さらには、その竜馬の悪行をでっちあげ、他の参加者に広めていた事を。
そして、その悪行を知る参加者が各地で出始めていた事を。

最もそれを知ったところで、どうする気もなかっただろうが。

垣根はフレンダの事など、気にする事なく歩を進めていった。


68 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:43:40 6qfjfqU60
【E-6/一日目/日中】

【垣根提督@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(小)、全身に掠り傷、強い決意
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3、ジョルノの心臓から生まれた蛇から取り出した無惨の毒に対するワクチン、ジョルノの首輪、マギルゥの首輪、妖夢の首輪、リゾットの首輪、ビエンフーテイルズ オブ ベルセリア@、土御門の式神(数個。詳しい数は不明)@とある魔術の禁書目録、マギルゥの支給品0〜1、ジョルノの支給品0〜3、顔写真付き参加者名簿、リゾットの支給品2つ
[思考]
基本方針: 主催を潰して帰る。ついでにこの悪趣味なゲームを眺めている奴らも軒並みブッ殺す。
0:とりあえず、大いなる父の遺跡の方角に向かいアリア達に伝言を伝える
1:あの化け物(無惨)は殺す。
2:リゾットの標的だったボスも正体を突き止めていずれ殺す。
3:未元物質と聖隷術を組み合わせた独自戦法を確立する。道中で試しながら行きたい。
4:異能を知るために同行者を集める。強者ならなお良い。
[備考]
VS一方通行の前、一方通行を標的に決めたときより参戦です。
※ジョルノ、リゾット、マギルゥの支給品も垣根が持っています。
※未元物質を代用した聖隷術を試しました。未元物質を代用すると、聖隷力に影響を及ぼし威力が上がりますが、制御の難易度が跳ね上がります。制御中は行動が制限されます。
※首輪の説明文により、自分たちが作られた存在なのではないかと勘繰っています。
※ブチャラティ達と情報交換をしました。


69 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:49:02 6qfjfqU60
◇  ◇  ◇



「ああもう!」

フレンダは、一人で頭を抱えている。

「結局、状況は何も改善してないってわけよ……」

警戒も兼ねて外の見張りをしてきて欲しい、というブチャラティの頼みにより、病院の周囲を歩きながらぶつぶつ呟く。

自分を警戒しているであろうブチャラティが、自分を外して九郎と何か相談でもしたいのだろう――と想像はつくが、断る事もできずに従っていた。

「あの第二位が何も言わなかったのは助かったけど……」

垣根帝督――あの麦野が対抗意識を強く持っていた相手であり、学園都市の第二位。
何か自分の不利益になるような事を言いだすのではないかと、ずっとハラハラしていたが、特にそんな事はなかった。

「とにかく、何か考えないとまずいってわけよ」

ふう、と一つ息をついてから、先ほどまでの会話を頭の中でまとめる。

様々な情報が彼らの間で飛び交っていたが、フレンダは最後まで口一つ挟む事はしなかった。

放送が流れ、この会場で知り合った彩声の退場を知ってもそこまで心は動かない。第一回放送で亡くなっていたのであれば、自分のせいかもという罪悪感も多少はあったかもしれないが、第一回放送の時点では生き残っていた。
おそらく自分とは無関係の原因で亡くなったのだろうと素早く割り切る事にした。

同じ『アイテム』である絹旗の退場を知っても、弔いどころか驚きの言葉すら口にする事はできなかった。
何せ、自分の知り合いは浜面と滝壺のみだと、ブチャラティと九郎には話してしまっている。
ライフィセットの口から、麦野らしき人物について触れられた時も同様だった。

何かしら矛盾が出てしまえば、自分が窮地に追いやられる。
レインの時も、もう少し大人しく立ち回っていれば、もっとうまくやれたかもしれないという後悔もあった。

(なんだってこんな事に……)

放送によれば、あの流竜馬も平和島静雄もレインも未だに存命。
あれから既に何時間も経っているのだ。逆に自分の悪評を他の参加者にバラまかれている可能性は高い。
時間が経てば経つほど、自分の首は絞まっていくだろう。

竜馬を嵌め、悪評をばらまいていった行動は完全に裏目に出てしまっている。

さらには、麦野はあの化け物とさらにもう一人と手を組んでいる可能性が高い。
それだけでも問題なのに、向こうが気づいているかは分からないが、その麦野から獲物を搔っ攫うような真似の手伝いをしてしまったのだ。
もしバレていれば、マズい。とてつもなくマズい。

その上で、自分の失態の尻拭いなど頼めるはずがない。
もはや麦野との合流という選択肢も潰れてしまったに等しい。

退路は完全に塞がれ、頼れる味方もいない。
こうなると、残された手段は。

(ブチャラティ達に本当の事を話して、守ってもらう?)

竜馬ならわからないが、ブチャラティも九郎も問答無用に自分を処断するような真似はしないだろう。付き合いは短いがそれは分かる。
曲がりなりにも、ライフィセット救出の際には役立ったのだ。その功績もある。

だが、それでも今後の行動に大きく制限をかけられるかもしれないし、再度裏切ったり出し抜く事は絶望的になるかもしれない。

やっぱり、それはやめてこれまで通りにうまく立ち回ろうとするべきか。
そう考えた時、


『俺は生きたいと願う気持ちは否定しない。だから考えろ。犯した罪にどう向き合うかは、きみ次第だ』


不意に、第一回放送で散ったあの炎の男の言葉が脳裏に蘇る。

あの後、結局は竜馬や静雄への謝罪という道を取る事はできなかった。そして、その後にあったシグレ達に、そしてブチャラティ達に本当のことを言う事なくズルズルきてしまい、気がつけばこの状態だ。
まるで、真綿で首でも絞められているかのように、じわじわと追い詰められ、取れる選択肢を失い続けてきている。

(私は――)

悩むフレンダだが、その結論を出すまでに考える時間はあまり残っていないかもしれない。

なぜなら竜馬からフレンダの悪行を知らされた、博麗霊夢とカナメがこちらに近づいてきているのだ。

彼女に残された決断までのタイムリミットは、決して長くなかった。


70 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:52:50 6qfjfqU60
「フレンダさん、大丈夫でしょうか……」

垣根とビエンフーに続き、フレンダも外に出ているため、一気に人口密度の下がった部屋で九郎は呟く。

この「大丈夫」というのは、フレンダの事を心配しての言葉ではあるが「何かしでかすのではないか」という警戒心からの意味も含まれている。

垣根との情報交換の間もフレンダは挙動不審な様子であり、ブチャラティほど警戒していなかった九郎からみても、明らかに怪しかった。

「何事もなければ、それに越した事はないのだがな」

ブチャラティとしても、フレンダがシロだというのであればそれに越した事はない。
だが、あまりにも怪しい言動が多かった。
かといってクロだという確定的な証拠があるわけでもなく、現状ではこうやって行動を共にしながらも警戒し続ける事しかできない。

「腹を割って話す事ができれば良いんだが、そう簡単にはいかんな」

結局のところ、今のままではフレンダは「とても怪しい」止まりなのだ。
何か隠し事をしているようだが、無理に暴くわけにもいかない。

「それよりも、当面の問題は」

「ええ」

二人の視線が、未だに眠り続けるライフィセットに向けられる。
シルバも不安そうにそのそばにいる。

先ほど、意識を取り戻せていたのが嘘のように深く苦し気な眠りだ。
傷口への手当はしたものの、黒い火傷のような穢れは消えておらず、誰がどうみてもまずい状態だ。

「問題はこの穢れ、というのに近いコレを何とかする必要がある事ですね」

「ああ、聖隷契約とやらは俺では難しいらしいが……」

垣根らの説明によるとスタンド使いでは、聖隷契約ができない可能性が高い。
かといって、色々と疑わしい事が多いフレンダにやらせるわけにもいかない。

となれば、消去法で九郎という事になるが、その場合も問題がないわけではない。

聖隷の器とは、聖隷が穢れないよう本来は清純さを維持した存在がなるものらしい。
だが九郎は人ならざる者であり、妖怪やら物の怪などと言われる存在からも異常な存在らしい。
不死の力や、こちらに来てから使えないとはいえ未来予知の力もある。
そんな存在と契約を結んでしまえば、どんなイレギュラーな事態になるかわからない。

「そうですね。いざとなったら僕がするしかないでしょう」

だが、それでも試さないと確実にライフィセットは死ぬだろう。
ハイリスクだろうが、躊躇っているうちに死にましたなどという事は避けなければならない。
今は応急処置をしつつ、何とか延命させているがいつまで持つかもわからない。

「そうだな。絶対に助けなければ」

ブチャラティにとって、幼い子供のような存在は絶対に守るべきものだ。

あのように、強い意思を見せた存在であればなおさら。
ブチャラティは知らないが、ライフィセットの間にはある共通点があった。それは、ある人物と出会うまで両者ともに「生きて」いなかった。

ライフィセットは、意思の封じられた聖隷2号として、そこに自分の意思は存在せず、主であるテレサに従うだけの生きながら生きていない状態。
ブチャラティはジョルノと出会うまで、麻薬を憎みながらも麻薬を売る
パッショーネの一員として活動するという矛盾を抱えながらも生きながらも死んだ状態だった。

そんな状態からライフィセットはベルベットと、ブチャラティはジョルノと出会う事によって再び「生きる者」となったのだ。
そういった事からの、無意識でのエンパシーでもあった。

「ところで九郎。お前の言う鋼人七瀬とやらは、最後は消滅したんだったよな」

ライフィセットの件もあるが、あの魔王ベルセリアへの対策も必要だった。
今は後回しにしても、いずれは対処する必要がある。

「はい。ですが、鋼人七瀬は無から生まれた存在ですので、今回のケースとはだいぶ違っていますが」

鋼人七瀬は桜川六花が無から生み、育てた存在だ。
あくまで、何かしらの外付けの力があったらしい、このケースとは異なっている。

だが仮に。
ベルベット・クラウが、完全に別の存在と成り果てた時、魔王ベルセリアの消滅はベルベット・クラウの消滅と同義になるかもしれない。

これはもちろん、仮定に仮定を重ねた話だ。
実際にどうなるかは分からない。

(その時に、最悪の場合は――)

もし、彼がここまで慕うベルベットを元に戻す方法がなかったとしたら。 
あるいは、消滅という手段でしか残されていなかったとしたら。

(――すまない)

わずかな会話だけでもこの少年がベルベットという女をどれだけ慕っているかはわかる。
だが、あれは放置するにはあまりに危険だ。
その時は、この目の前の少年にどれほど怨まれようと決断を下すしかない。
そうブチャラティは密かに決意していた。


71 : 生きる者達 ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:58:31 6qfjfqU60
【D-6/病院/一日目/日中】


【フレンダ=セイヴェルン@とある魔術の禁書目録】
[状態]:全身にダメージ(小)、心痛、右耳たぶ損傷、頬にかすり傷。衣服に凄まじい埃や汚れ、腹下り(極小)。
[服装]:普段の服装(帽子なし)
[装備]:麻酔銃@新ゲッターロボ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、『アイテム』のアジトで回収できた人形爆弾×2他、諸々(その他諸々の内パラシュート3つと、入っていた全てのばくだんいし@ドラゴンクエストビルダーズ2は使用済み)。レインの基本支給品一色、やくそう×2@ドラゴンクエストビルダーズ2、不明支給品1つ(確認済み)、鯖缶複数(現地調達)
[思考]
基本方針:とにかく生き残る。現状は首輪の解除を優先するが、優勝も視野には入れている
0:ブチャラティ達にこれまでの事を話す?
1:ブチャラティは要注意。ボロを出さないようにしないと。
2:煉獄の言う通りに竜馬と出会うことがあれば、謝る?
3;麦野との合流は、諦めた方がいいかも…
4:絹旗、彩声、死んじゃったんだ…でも、私のせいじゃないよね?
5:煉獄、死んじゃったんだ…


【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:疲労(小)、フレンダへの疑念(中)、強い決意
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜3、スパリゾート高千穂の男性ロッカーNo.53の鍵) サーバーアクセスキー マギルゥのメモ
[思考]
基本:殺し合いを止めて主催を倒す。
0:ライフィセットの容態を何とかする。
1:放送を聞いた新羅への不安と、アリアへの心配。何とか合流したい。
2:病院に何か罠でも仕掛けておいた方がいいかもしれない。
3:魔王ベルセリアへの対処。
4:余裕ができてから高千穂リゾートを捜索。
5:フレンダを警戒。彼女は何かを隠している。
6:あかり、高千穂、志乃、ジョルノ、カナメ、シュカ、レイン、キースの知り合いを探す。
7:カタリナ・クラエスがどのような人間なのか、興味。
[備考]
※ 参戦時期はフーゴと別れた直後。身体は生身に戻っています。
※ 九郎、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※ 新羅から罪歌についての概要を知りました。
※ 垣根と情報交換をしました。


【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 静かに燃える決意、魔王ベルセリアに対する違和感
[服装]:ホテルの部屋着
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜3
[思考]
基本:殺し合いからの脱出
0:ライフィセットの容態を何とかする。
1:あの彼女(魔王ベルセリア)、何とかしかければ……。
2:フレンダは、念のため警戒。
3:岩永を探す
4:ジオルドを始めとする人外、異能の参加者、流竜馬、仮面の剣士(ミカヅチ)を警戒
[備考]
※ 鋼人七瀬編解決後からの参戦となります
※ 新羅、ジオルドと知り合いの情報を交換しました。
※ アリア、ブチャラティと知り合いの情報を交換しました。
※ 画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※ 新羅から罪歌についての概要を知りました
※ 魔王ベルセリアに対し違和感を感じました。
※ 垣根と情報交換をしました。


【ライフィセット@テイルズ オブ ベルセリア】
[状態]:気絶、穢れによる侵食(重大)、両腕欠損、全身のダメージ(大)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ミスリルリーフ@テイルズ オブ ベルセリア(枚数は不明)
[道具]:基本支給品一色、果物ナイフ(現実)、不明支給品2つ(本人確認済み)本屋のコーナーで調達した色々な世界の本(たくさんある)、シルバ@テイルズ オブ ベルセリア
[思考]
基本:ベルベットを元に戻して、殺し合いから脱出する
0:(気絶中)
1:ブチャラティ達と行動する
2:ムネチカへの心配
3:ベルベットの同行者(夾竹桃、麦野)への警戒
4:ロクロウ達との合流
5:エレノア……。


[備考]
※参戦時期は新聖殿に突入する直前となります。
※異世界間の言語文化の統一に違和感を持っています。
※志乃のあかりちゃん行為はほとんど見てません。
※魔王ベルセリアによる穢れを受けた影響で、危険な状態です。このまま何の処置もせず放置すれば確実に死ぬでしょう。
※呼ばれた時間に差がある事に気づきました。
※マギルゥの死に関してまだ聞いていません。


72 : ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 20:59:28 6qfjfqU60
投下終了です


73 : ◆mvDj9p1Uug :2022/09/05(月) 21:02:11 6qfjfqU60
申し訳ありません、61と62が重複していました


74 : ◆qvpO8h8YTg :2022/09/12(月) 00:00:33 aLg55SiY0
オシュトル、神崎・H・アリア、岸谷新羅、ヴァイオレット・エヴァーガーデン、ウィキッド、折原臨也、鬼舞辻無惨、高坂麗奈、ロクロウ・ランゲツ、予約します。


75 : ◆2dNHP51a3Y :2022/09/17(土) 00:08:22 AIoXutvI0
予約延長します


76 : ◆2dNHP51a3Y :2022/09/19(月) 23:45:32 Ysarx1/w0
今から前編を投下します


77 : Revive or Die Again(前編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/19(月) 23:45:58 Ysarx1/w0

「―――おい、ガキンチョ。」

殺風景とも、戦火の後とも形容出来る電車内の惨状が、全くもない唯一の車両の中。
黒髪のセーラー少女が、飼いならされた犬のように懐き、恍惚の表情で頬を赤らめる大人の女性を膝枕しているという、甘ったるい百合小説の様な光景を睨みながら。
麦野沈利は殺意にも似た鋭い眼光を以て、夾竹桃へと話しかけてきた。

まず、さっきまで殺りあってた片割れの、犬っころのような耳の女が、人の知らぬ所で愛玩動物みたいな事になっていると来た。
主に殺したいとは思っていたが、ここまで『壊された』ようでは殺す気分も削がれるというもの。
その手の"モノ"を売買しているであろう雑貨家業(デパート)なら先ず金を生む果実として回収しそうではある。
今からでも歯向かってくるなら殺しがいはあっただろうが、こうなってしまっては興が醒める。せいぜい偽りの幸せの中でボロ雑巾になるまで利用されていろ、という事だ。
まるで淫獣だな、と心の内で吐き捨てながらもその他諸々の事を後回しにしてでも、夾竹桃に聞かなければならないことがあった。

「……穏やかじゃないわね。でも、まあ、……選択肢なんて無いんだろうけれど。」

夾竹桃とて、いつか問い詰められるとはわかっていた。
渋谷駅の一件において、麦野沈利とベルベット・クラウは戦闘最中に気を失った。
あの真実を未だ知らない他に、麦野沈利としては魔王の誕生という一点において懸念すべき材料が増えている。
水面下での状況の転移、目覚めてそこまで時間が経ってはいないが、魔王の誕生によって麦野沈利にとっても無視できない――更に言えば、これは麦野沈利個人の夾竹桃に対する印象も関連している。

「わかってるじゃねぇか。……勿論、てめぇの返答次第じゃその顔に綺麗な大穴空けてやるつもりだったがな。」

「あら怖い。」

不敵に笑みを浮かべ、理解も納得もできていると、一応の納得の態度に悪態をつく。
この夾竹桃はいつもそうである。年頃に似合わず……いや、学園都市の裏ではよくあるミステリアスなガキの様相。スギライトの輝きで満ちた瞳は、言葉に似合わず麦野沈利と言う暴虐独尊の女王を前にしても震え一つ起こしていない。
ゆっくりと車体を揺らす無限列車とは違い、この車両は静寂という緊張だけが満ちていた。

「……内容の予想は出来るけれど、これでも気を使うつもりはあるのよ。あなた自身にも関わるわけだし。……それでもいいのかしら?」

今更気遣いなんぞ必要ねぇ、と再び睨む。
その様子だと本当に碌でもない、知ってる当人はともかく、他にとっては重要であろう情報。

「勿体ぶらずに話しやがれ。そんな覚悟無かったらこんなこたぁ訪ねてねぇんだよ。」
「………。」

睨み、というよりも麦野沈利の視線は殺意のそれであった。
一歩でも足を運べば直ぐ様に滅殺の光が差して丸焼きバーベキューの出来上がりに為りかねない。
生死の境界線を目の前に、悠然と、冷然に、麦野沈利の姿を見つめ夾竹桃という少女は落ち着いたまま、口を開いた。

「簡潔に言わせてもらうわ。あなたが気を失っていた後、結果として主催の連中は取り逃がした。その後に彼女……『岩永琴子』から、この世界が仮想で、私たちはデータ上の人物だって……あくまで彼女の考察よ。」

婉曲も欺瞞も忌憚も一切なく、ただ真実だけを告げた。
この事実を、夾竹桃こそは気にも留めなかった。気にしなかった、というわけではない。
勿論この内容を何れ話さなければいけない場合のデメリットも考慮していた。このまま真実を終盤まで知らないまま行けばよかったが、それで済むなら苦労はしていない。
麦野沈利もベルベットも凡そ感情論の人間だ。前提を覆され、あまつ操り人形に等しい事実に、癇癪を起こされては溜まったものではないからだ。


78 : Revive or Die Again(前編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/19(月) 23:46:18 Ysarx1/w0
「…………。」

予想に反し、麦野沈利は微かに眉を動かした以外は黙って頷き、考え込む。
間違いなく存在意義に関わる、予想とは言えその事実に対し冷静でいられるかどうか、夾竹桃の見立てでは麦野沈利は冷静ではいられない、とは思っていたのだから。沈黙の後、麦野沈利の問いが出た。

「……それは、主催のクソどもの関係者もか?」

「……どういうこと?」

夾竹桃が確認した限り、殺し合いの説明時にいたテミスとμ。それに加えリック、セッコ、そして黒い骸骨の仮面を被った男の計五名。
岩永琴子の考察である『平行世界の人間の情報をインストールされた同一世界の人間』において、殺し合いの主導であるあれらも本当に参加者と同じ条件か、という別視点での初歩的な疑問ではある。
が、それでも夾竹桃としても少しばかり驚いた。というよりも、よく考えれば思い浮かぶことを、抜け落ちていた、というべきか。

「クソ女二人に、クソ骸骨野郎と地雷を置いたやつ、そして地面から這い出てきた野郎。……いや、後者3つはどうでもいい。……このクソッタレな催しがクソ女二人主導でやってるかどうかって話だ。」

なるほど、と夾竹桃は思う。
前提として、参加者たちの視点において殺し合いの『主導』というのはテミスとμの二人に絞り込まれる。
ここが仮想世界であり、彼女らが現実で仮想世界の運営を行っている、というのなら。
つまりは、基底となる仮想世界の生み出し元が『テミスのいる世界』か、もしくは『μが存在する世界』の2つへと絞られる訳となる。
μという存在そのものが、仮想空間における一種の管理人(アドミニストレータ)の権限を用いる電子存在であり、そんな彼女を制御しているのがテミスということならば。
取捨選択として『テミスのいる世界へμが呼ばれたか』、『μがいる世界にテミスが呼ばれたか』、この二択となるのだ。
もしここが、夾竹桃が知恵の神一行から得た情報通りの『μがいる世界にテミスが呼ばれたか』なら、この世界が仮想空間メビウスである可能性は濃厚となる。

「この仮想世界、いや。私達の情報がある世界は、『テミスのいる世界』もしくは、『μが生まれた世界』ということになるのね?」

「一応は、まず前提はこれとしてあたしは考えている。じゃあ次だ。平行世界の情報ってはどうやって手に入れる?」

「……私の聞いた話だと、μ単体にそういう平行世界の移動が出来るだとか、干渉できるだとかは否定されてたわね。となると……テミスの方が怪しいのかしら?」

「もしくはそいつの裏にいるやつら、か。あれであのクソ女も情報体だった、ってならお笑い草だがな。」

麦野が軽く笑う。テミスもまた自分たちと同じく、と言う可能性も捨てきれない。
ともかく『テミスのいる世界』と『μの生まれた世界』が、この殺し合いの仮想世界の基底である現実世界が前提となりうる。その上で、次に把握すべきは―――。

「次に、あたし達の情報はどこで手に入れた? 本か? 聞き伝えか? ゲームか? マンガか? アニメか? 小説か? ……そんな程度で再現できるわけねぇだろ。」

その言葉には、間違いなく憤怒が、煮え滾り沸き立つ活火山の如き赫怒が秘められた言葉だった。
表面上冷静だと思いきや、間違いなく中身は熱り立っている。まあ、そうでなければ麦野沈利がないのだが、と、不謹慎な感情を夾竹桃は唾に飲み込んで忘れることにした。


79 : Revive or Die Again(前編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/19(月) 23:46:39 Ysarx1/w0
それはともかく、麦野の言葉には一理がある。情報の観測、もとい入手手段にも多種多様はある。それが前提として、平行世界の一人物の個人情報を完璧に再現できる、となるならば。

「AIに特定住民を観測させてそいつらの情報全部手に入れろって命令してみろ、ショート確定だろ。まず不可能に決まってる。たとえそれが平行世界へ観測できるやつだろうと、な。」

μのスペックは聞いていた。仮想世界の住人への異能の授与及び記憶操作等。まさに女神の権能にふさわしい力だ。そもそもμという単語の由来はギリシャにおける詩と音楽の神であるミューズから成り立っている。仮想世界の管理人、運営者。いわば神と同義である存在として名をつけるならばこれ以上の名付けは存在しないだろう。
だが、それほどのスペックがあったとして、『平行世界への観測・干渉からの、特定住人の情報の完全な入手を得ての再現』が出来るのだろうか。……答えは、否となる。
まず、情報の入手手段として、観測だけではどうにもならない、という点だ。もしテミスがその手段を得ていたとしても、細部までの情報を、その個人の知る知らないまでをも判別出来るのか?

「そうさ、無理に決まってんだろ。それにな、平行世界を観測して、干渉する手段ってのがあるなら、出来なくはないだろ? ……その世界の住人を使って、だ。」

「……それ、私達の中身だけこの仮想世界に連れてこられて、生身の体は眠ったままだとか、そう言いたいの?」

「その可能性もなくはねぇ、って話だ。そいつの情報を完璧にするならわざわざ不完全な情報よりはより確実性はあるだろ。」

その発想は、思いつかなかったかもしれない。
平行世界の情報を観測し、それを入手する。干渉できるという事象がそれと同義であれば、その世界の住民を金なり物欲なりで釣り上げて、彼らを使い何かしらの手段で参加者候補を眠らせ、その中身を仮想世界へ引きずり込ませれば良い。
いや、そんなものよりも効率のいい方法はある。歌を響かせる人工知能、μ、平行世界への干渉。そうだ、簡単じゃないか。

「私たちがここに呼ばれる前に、歌を聞いていた可能性は?」

「……へぇ、その発想はなかったな、ガキんちょ。」

歌。もしくは特定の人間以外の可聴域では聞き取れないような『音』を用い、そのようなやり方が出来たのならば。
否定は、出来ない。まずリュージなる人物のいた世界におけるダーヴィンズゲームの参加者はシギルという異能を用いていたし、麦野沈利の居た世界に、精神感応に特化したレベル5能力者がいるという話だ。
間違いなく、平行世界から情報を取得したりとか、平行世界の人間を物品対価で利用してだとか、よりは間違いなく手間もリスクもかけずにすむ。
μ単体にそれがどこまで出来たか、という疑問はあるが、人の精神に働きかける類の異能力を、テミスが所有していたとしたら話は別だ。
恐らくμ単体では、仮想世界の住人の精神には干渉は出来こそ、現実世界の住人の精神に対し真の意味で干渉は出来ない。
そこで、仮にテミスが精神干渉系の異能を保持しているという前提で、その効能をμの歌声に付与したとしよう。
おそらくデモンストレーションのようなことはやっていたのだろう。それは対象を気絶させ、精神を引き込むというやり方ではなく、対象をどれぐらいに操作することが出来るかという前提で。
それで無自覚なスタッフは完成だ。高位の精神能力者でなければ『声』を聞いた瞬間にアウトとなる。耳を潰すというイカレた手段を取らない限りは確実だ。
対象に対し『精神を引き込む歌』を聞かせ、気絶した生身は事前に用意した『スタッフ』にでも適当なところに身柄を運ばせてやればそれでいい。

「あのクソ歌姫の力を、誰かが超能力レベルまで開発……いや改造でもしたか?」


80 : Revive or Die Again(前編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/19(月) 23:47:09 Ysarx1/w0
ただ観測・干渉するだけ。大した事はしていない。ただ『声』さえ聞かせればそれでいい。
異能を付与した歌声、それを他の異世界における参加者となり得る対象のみに聴かせる。身柄を確保し、その精神のみを仮想空間へと引きずり込む。
もし仮に当人を身柄を運び器具等で仮想空間へと接続させるという回りくどい手段も思いつくが、それについては可能性の低さから保留となる。

「その理論だと、μの力に別のものを『外付け』しているって事になるわよね。……今の私達、一応仮想世界のデータ存在よね。」

ここで、ふと思い返す。
データ存在、という事は『データを直接手に入れる』手段があるならば、そのデータを自らが吸収して己が力とする手段が確立できるのではないか。
そうだ、そういえば。ベルベット・食らうは『喰魔』だ。業魔を喰らって、その力を手に入れることが出来る希少な存在だ。

「……麦野、あなたはベルベットをレベル6って言ってたけれど。」

「あいつは、あたしの原子崩しを『喰らった』。」

ベルベットの変貌が、それをトリガーとするのならば。
ベルベットの覚醒が、『他の世界の情報』を喰らった事によることならば。
それをベルベットが、正しい意味で理解し、『使いこなす』までに進化したというのならば。

「……こっからだ本題だ、ガキ。」

そして、確信への一つの考え。主催のからくりがそうであるという前提で。
喰魔としての本質が、この仮想世界において『情報を捕食し取り込む』という形で再現したベルベットという存在が。
今となって魔王を名乗る程に進化したベルセリアという怪物は。

「てめぇの話から推測も併せてだが。今のあいつは『贄の一つ』だ。いや、ただの贄だけならまだましだっただろうな。それと同時に『蒐集の器』になりやがったなら。」

「……なんですって? 贄にして、同時に器って?」

夾竹桃も、これには驚いた。
贄、つまり魔王に進化したベルベットですら『生贄』過ぎないのか。いや違う。そういうことじゃない。先の考察では、μの歌声に別の異能を『付与』させたという推測があった。
つまり、ベルベットのあれもそれに似て非なるものだというのなら。

「まあ贄ってだけなら、もう何人か生まれてるかもな。簡単な話だ、別の情報(いのう)同士をかけ合わせりゃ良いんだからよ。」

「―――!?」

つまり、魔王級にまで届かなくとも、偶発的に、あるいは意図的に、異なる世界の異能とカテゴライズされている情報、もしくはそれに連なる現象を掛け合わせ、使いこなせた者が覚醒者の条件となるなら。
現実世界はこうはいかない。だがここは仮想世界だ、仮想世界では現象も異能もデータとして一括されている。予期せぬ反応を、上の連中は待ち望んでいるのだ。
その上で、『贄』だ。混ぜ合わせ、純化された力をもしもμの異能として『付与』出来るのなら?
生まれた情報を異能として、μに取り込ませることが出来るのなら。手段はどうする? 何を言っている、この会場が仮想世界なら、テレビの電源を落とすように、データだけを抜き取ってしまう手段など山ほどあるだろう。それが、この『世界で生まれたモノ』というのなら、正にさもありなん、である。

「つまり、もう生まれてるの? ……ベルベット以外にも、『異なるモノを複合させた力に目覚めた』参加者が。」

「かもな。……狩りがいがあるだけ、こっちとしてはまあ良いとは思ってるがよ。が。」

女神の贄。アルテミスの怒りを鎮めるがために自らを捧げたアウリスのイーピゲネイアのように。
力あるものは、女神の贄として捧げられる、現実を侵す歌を齎す供物として、女神の権能をより強固にし、電子という位相を超え現実へと顕現しかねない。
女神がその気ならば、その歌は平行世界全てを侵し、捻じ曲げる事ができる。それこそ、彼女のいるメビウスでその権能を振るうのと同じように。


81 : Revive or Die Again(前編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/19(月) 23:47:26 Ysarx1/w0
蠱毒の壺。いや、蠱毒などではない。楽園だ。
女神が治める地平は、仮想世界は。メビウスというのは、そういうものだ。住人の願望を反映し、それを叶える。幸せを与え、楽園の一部とするものだ。
否、何が楽園だ。これでは無限地獄ではないか。いや、住人は仮初めの幸せを得ているのだ。簡単な話だ。
天『獄』だ。偽りの幸せ、偽りの平和を歌姫が統べる幻想に揺蕩い溺れ朽ちる。肉の身体は消えて、電子というナノミクロン以下の情報として管理され、虚構の中でハッピーエンドを迎え、終わる。
電子世界がいつか終わるとしても、その終わりを彼ら彼女らは認識すらしない。永遠に幸せが続くと認識したまま、終わる。

「……生まれちまったんだよ。汎ゆる異能を喰うバケモンが。最初は『穢れ』を自在に操作するっていう解釈の力で。それが『蒐集の器』、今のベルベットとかいうクソ女だ。」

そう、『生まれてしまった』のだ。証明してしまったのだ。確立させてしまったのだ。
ベルベットの喰魔の力はあくまで『業魔』を喰らい『業魔』の力を得る異能だ。だが、麦野の原子崩しという、『異界の情報を内包した異能そのもの』を喰らってしまった、そしてそれを技として転用できて、理論を理解して『しまった』。
現状の魔王の権能は『未現物質』にも似た穢れそのものの行使だ。今の認識はそれで打ち止めになっている。
ではもし、主催の目的が覚醒者の異能をμに宿らせるものと仮定して、いつか『蒐集の器』たる魔王の権能を本質を、その魔王当人が真に理解してしまったのなら。

「……それ、本気で言ってるの? もしそれが本当なら―――」

「もしも、魔王の異能を、『蒐集の器』としての力を。μが手に入れちまったらどうなる?」

焦りに満ちた張り上がった夾竹桃の声が響く。
汎ゆる異能を喰らい、蒐集する力を、μが手に入れてしまえばどうなるか。全てを楽園へ引きずり込むという思想に至ってしまったらどうなるか。

「何もかも。"ひっくり返る"。」

「―――――ッ!」

絶句。今までのポーカーフェイスは剥げ、張り詰めた焦燥の汗を、毒の少女は流していた。
現実は反転し、仮想こそが真実となる。虚構が『正常』となる。
幸か不幸か、誰もが『予想できなかった』事なのだろう。主催側としても、『いい意味で予想外の出来事』としか認識できていない。
もしベルベットが『喰らう力』の拡大解釈を果たしてしまったならば、それを主催側が見逃すはずがない。
それをμに付与され、現実を何もかも仮想へとひっくり返してしまう力を得てしまったなら。
文字通り『現実』は終わる。正常と異常の境界がひっくり返り、女神が統べる地平が誕生するのだ。

「……ま、あたしからしちゃ、世界なんぞどうなろうが構わねぇ訳だが。浜面も殺れて一応は満足した。」

麦野沈利個人としては、世界の行く末がどうなるかなどという一点においては、どっちでもいい。むしろ何も知らないパンピー共からすれば、理想が何もかも叶う夢の楽園なんてむしろ歓迎するだろう。

「……だから、なおさら気に入らねぇ。」

人を巻き込んでおいて、殺し合えと言っておいてその果ての結末がおそらく蠱毒の蒐集?
楽園という名の天獄、虚構に塗れた新時代(ニューワールド)?
手に入れた複合異能(クロススキル)を片道切符に、他も含めて楽園へとご招待?

「笑い話にもならねぇクソじゃねぇか。他人の満足度をテメェの物差しで測るんじゃねぇよ。」

彼女は、麦野沈利は、下らないの一言で吐き捨てる。
全てが叶うであろう輪廻の理想郷、それが予想であったとしても未来に迫りくる夢の楽園を、ただ気に入らない、その一言で。
その片方、夾竹桃が俯いたまま麦野の言葉を無言で聞いたままで。


82 : Revive or Die Again(前編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/19(月) 23:47:41 Ysarx1/w0
「……で。テメェはどうする?」

故に、麦野沈利は夾竹桃に問う。麦野沈利の視点では、夾竹桃の腹の底は見えていない。
だからこそ、この憶測の上で、安倍晴明という男と協定を結んでいたであろう、その安倍晴明から興味を引く何かを聞いた夾竹桃へ。

「何を聞いたかしらねぇが……テメェの思い描いてる『手に入れたいモノ』ってのを手に入れた瞬間、てめぇは贄に早変わりだ。一応、裏切らなければ命だけは見逃してはやるが―――。」

問い掛けは忠告に変わる。夾竹桃の『毒』(と同人誌CPネタ)に対する好奇心と執着は並外れている。
その『毒』を手に入れて、夾竹桃もまた『混じった』のなら、彼女もまた歌姫の贄と為りうる可能性は無きにしもあらず。
もっとも、その『贄』の意味合いが、女神を守る眷属としてか、はたまた文字通りの意味か。

「テメェがそれを手に入れりゃ、今後次第でテメェはぶち殺し確定だと思え。」

そして、警告へ。文字通り、複合異能の覚醒を齎すのがこの虚構の箱庭の本来の役目であるというのなら。
夾竹桃が望む『未知の毒』とやらで変貌するという結末に至った上で。それをμの異能として蒐集されるということになるならば。
麦野沈利は、主催の目的全てをぶち壊す前に立ち塞がる邪魔な壁として、夾竹桃を始末することになるだろう。
何もしないで、殺意の奔流にも近しい威圧が列車内に充満する。その眼は、夾竹桃の返答を待ち構えている。殺すか、まだ利用価値があるのか。ミイラ取りがミイラになるのなら、それはもはや死刑宣告の他ない。
麦野沈利はそういう怪物だ。学園都市最強のレベル5の一角。暴虐無比たる殲滅女王。暴虐故に判断は冷静に、決まれば一直線。レベル5とは所謂『狂人』。人智の及ばぬ超能力を携え、それを手足のごとく自在に行使する。それに見合った狂気と認識を持ってそれを振るうのだ。

「もう一度聞くぞ、テメェは――」

「……コレクションって、自分が手に入れてこそ、って思うのよ。」

麦野の言葉を遮るように、夾竹桃からポツンと言葉が出た。
流れ出る焦燥の汗は止まっている、濁らない杉石色の瞳が麦野沈利を見つめ返している。

「何でも願う楽園、もしそこに入園出来たら、同人誌のネタなんて腐るほど出来るでしょうね。」

μの根本となる仮想世界メビウスの話は頭には入っている。μのさじ加減一つで、住人の願望が反映されそれが叶う世界。

「でも、おそらくその世界には、私が探し求めている毒は無いと思うわ。」

だが、何もかもが叶ってしまう世界とは、余りにも陳腐なものでしかない。
輪廻の理想郷、それが成立した暁には住人全てが願望の生産者となりうる上下のない世界。
誰もが平等に、誰もが公平に、女神に再現された己が望んだ願いの中で永遠の幸福のままに生きて行ける。
――それは、人間として生まれてきた意味があるのだろうか?

「望めば何でも手に入る、だなんて、詰まんないわよ。そんな世界。毎日最高だけどありきたりのネタなんて陳腐にも程があるわ。」

夾竹桃は悪人である以前に求道者である。百合咲き誇る友情を、深淵の泉の最奥にある猛毒を求め続ける探求者でもある。

「麦野、私は未知を、晴明から教えてもらったゲッター線は諦めきれないけれど。その上でつまんない世界は懲り懲りね。アレの目的がどうであれ、私達の世界、ろくなことにならなさそうだし。」

だからこそ、『未知』という喜びを何もかも奪い去るであろう女神の地平は認めるわけには行かない。
望むべき探究を、そう、憧れは止められないものだ。それが、安倍晴明という存在から教わった『ゲッター線』という存在があるのならば尚更なこと。


83 : Revive or Die Again(前編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/19(月) 23:47:54 Ysarx1/w0
「……ちょっと迷ってたのよ、もしもそれが本当だったら、私は主催側につくのも吝かじゃないって。でも、やっぱ辞めたわ。……下手したら魔王を敵に回しかねない行動を取るつもりはなかったんだし。」

「オイオイ、そんなことで悩むクチだったってのか? 思いの外に底が浅ぇガキだったようだな。」

「私だって人間よ、知りたいことは知りたいし、手に入れたいものは手に入れたいのは性ってものよ。だってあなたも私も『悪党』でしょ?」

「悪党ねぇ。……いや、好き勝手やってるだけだろ。あたし達は。そもそも暗部を悪党の一括りで収まらせてるんじゃねぇ。」

彼女たちは秩序に真っ向から逆らう悪人、悪党だ。そう、悪に『救済』など笑い話以下なのだ。その幸福は己が手で全てを薙ぎ払った先にでも掴むものだ。
渇きともいうべきか、頂への欲求、未知への探究心。多種多様であれど、欲望のまま、救いも滅びも薙ぎ倒して生きてゆくのが正しく『生きている』ことなのだろうだから。

「……到着までそろそろね。それに放送の方も。」

夾竹桃が思い出したかのように呟く。列車内に掛けられている、恐らく主催が配置したであろう掛け時計は『11:59』を示している。
そして、列車の窓より、赤が垣間見える。それは深紅で構築された建造物。太陽よりも朱く染まった、紅の夢幻。
エリアF-6、紅魔館。ツェペシュの幼き末裔の紅たる吸血鬼の住処。本来ならレミリア・スカーレットが住まう館である。

ガタンゴトン、ガタンゴトンと鉄に轍を残し列車は走る。災禍の魔王とその同志を乗せ、列車は無機質に次の目的地へと進む。向かう先は知識の蔵庫、大魔導師の大図書館。
そしてその到着、その前に。


『参加者の皆様方、ご機嫌よう。』


テミスによる、二回目の死亡者放送が、その耳障りな甲高い声で鳴り響くのだ。


84 : ◆2dNHP51a3Y :2022/09/19(月) 23:48:18 Ysarx1/w0
前編投下終了です
続きはもうしばらくお待ち下さい


85 : ◆2dNHP51a3Y :2022/09/20(火) 22:48:46 rZEe3FSs0
後編投下します


86 : Revive or Die Again(後編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/20(火) 22:49:09 rZEe3FSs0


    <●>


赤い夢を見る。
紅い空を見る。
緋い地平に満ちた世界を垣間見る。
鈍色の星が朱夜に散りばめられて、鈍く銀色の輝いて。
煌めいている、輝いている、紅々の荒野の上に、紅一色の少女のカタチをした誰かが佇んで。

血色の光が視界に瞬いて点滅する。
少女のカタチが緋の世界に溶けていく。最初は手足の末端が。次に腕と足が、徐々に頭も緩んでいって、血管が、神経が、それらを表す紅い紐が解けていく。
溶けていく、頭も四肢も。粘土がゆっくりと伸ばされていくように、ゆっくりと、水面に蓮の花が揺蕩って流れてしまうように。

解けて、溶けて、解けて、溶けて。溶けて溶けて解けて溶けて解けて解けてくグチャグチャになって固まって肉の塊が積み上がってそれが混ざり合って捻れて一つの大きな肉の塊になって塊から何もかも真っ赤なペンキをぶちまけたマネキンのような手と足が沢山沢山這い出てきて弾けて血溜まりになって荒野にぶち撒けて何度も何度もそれを繰り返して捻じ曲げて積み重ねて混ぜて混ぜて混ぜて混ぜて混ざり合って――――

鈍色の星が、流星となって今でも蠢く肉塊へと落ちる。
肉塊は流星の激突に砕かれ、肉が弾けて散らばって。
それでも肉は蠢いて、腕だけの肉も脚だけの肉も勝手に動き始める。
肉片が、赤い手が、赤い足が、堕ちてきた鈍色の星にへばりついて、埋め尽くして。
埋め尽くした赤いものが星を喰らって侵して侵して血が血が血が血が血が肉が埋め尽くして弾けて弾けた血液がまた手になって足になって肉になってその肉が埋め尽くして埋め尽くして赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く――<●>――

肉の塊から、緋色の腕が内側から飛び出して。丸い肉を、何もかも弾き飛ばして。
そこから出てきた、赤いヒトガタが、徐々に女のカタチに紡いでいって。
血の泥がこびり着いた、赤と黒を基調とした魔物のような女。
彼女はヒカリを憎んでいる。彼女は世界を憎んでいる。
彼女はとても飢えている。彼女はとても飢えている。
――嗚呼、足りない。喰らっても喰らっても満ち足りない。
もっと食べれば満ち足りるのか、もっと食べれば幸せになれるのか。

歌が聞こえる、詩が聞こえる、唄が、心地よい歌が聞こえる。
それは愛憎に満ちた声であり、それは悲哀に満ちた叫びであり。
その唄は、なんとも心地いいのだ。満ち足りるのだ。
だけど届かない、か細くしか聞こえない。だからもっと■■■■■と、■■■■と。
歌姫■、歌姫■■■■■と。足りない。足りないのだ、もっと食べないと、もっと喰らわないと。

足りない、満たされない。■■が足りない。もっと食べないと、もっと食べて食べて食べて食べないと。
■げないと、■げないと。そのために、もっと食べないと。もっと強い力を、もっと■■を。
そうだ、何を忘れていたんだ。その前に、殺さないと。あの醜い白いのを。醜い白いのを。
そしだ、あの男を、あの■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。







                       <●>







みている。赤いひとみがわたしをみている。
それはわたしを食べている、わたしのおもいでをたべている。
虫食い穴、虫食いみたいのわたしの……わたし?

―――だれだっけ? わたし?





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


87 : Revive or Die Again(後編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/20(火) 22:50:09 rZEe3FSs0









『ご機嫌よう――。』

「――!」

ベルベット、魔王ベルセリアにとって、それはまるで長い旅を終えたような気分だった。
胡蝶の夢というやつなのだろうか、とてもとても長い刻の幻想の荒野に揺蕩っているような感覚。
それは、自らが引き裂かれる悪夢で、自らが溶けていく幻夢で。自分が自分でなくなるおぞましい燔祭で。
地獄にも等しい無限の時間の流れの中で、唄だけははっきりと聞こえていた。
愛憎と悲哀、輪廻の輪のように繰り返される妄執が優しくも激しく包み込む。
憎悪と■■だけに塗れた魔王の心は、その唄を聞いている時だけは、穏やかであった。
それこそ、彼女が待ち望んでいた救いのようにも、まさしく。

意識が覚醒すれば、テミスという女の、二回目の死亡者放送が流れていて、それが丁度終わった所だっだ。
不思議なことに、聞き逃したと思えていたその言葉ははっきりと耳にこびりついている。
呼ばれた名前に、聞き覚えはあった。マギルゥと、オスカー・ドラゴニア。
――――誰だっけ?

「………。」

少しだけ考えて、忘れた。その程度の記憶なのだと、そう思って。
そう、その程度の、残骸だ。既に幸せの過去は荼毘に付した。何も残っていない。
だから壊す、壊し尽くす。邪魔なもの全て、私が救われるために。―――何のために?

思考していれば、いつの間にか列車は止まっている。
目の前には、真っ赤に染まった屋敷の姿が広々と映し出されている。
つまりここが、夾竹桃が目的地として指定していた紅魔館という場所らしい。
正しくは、この紅魔館にあるという魔女の大図書館が目的地ではあるのだが。

「名前に偽りなしとはこのことね。」

持ち主の趣味丸わかりな赤い塗装が分かりやすく目立っているのだ。もっとも今は昼なので比較的普通に見えなくもないが、夜に輝くならそれは正しく吸血鬼の恐怖と神秘を彷彿とさせる妖艶な輝きを現すだろう。

「……おいテメェ、なにまだ突っ立ってんだ、早くしねぇと置いてくぞ〜!」

振り向けば、前門へと入ろうとしている麦野沈利と夾竹桃である。様子を見るに傍から見て突っ立っていた自分を麦野が呼びに来たようで様子ではある。
夾竹桃は何時もながらのポーカーフェイスであるが、一つ違いがあるとすれば、その隣にいつの間にか、というかいつ何があったのか皆目検討は付くが、少し前まで戦っていたムネチカなる武人の女が、まるで骨の髄まで調教された子犬のように緩んだ顔で夾竹桃に媚びていると来た。これではまるで本当にペットの類である。
麦野のもう色々と諦めたような横目が、つまりそういうことだという内容であることを、ベルセリアは認めざる得なく、夾竹桃に対し「一体何をしたのよ……?」などという疑問が浮かびつつも特にそれには触れないことにして、紅魔館の中へと向かう事とした。





88 : Revive or Die Again(後編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/20(火) 22:50:25 rZEe3FSs0
紅魔館地下深くに存在する、大魔女パチュリー・ノーレッジが住処である大図書館。
そこはまさに蔵書の都市だった。まるで高層ビル群の如く本棚が束となって規則正しく整列している壮観な光景がそこにうあった。
その本棚に飾られている蔵書は多種多様。幻想郷産の魔導書や歴史書。その他外の世界と呼称される数多の異世界から幻想入りした異界の知識が集合する、いわば幻想郷における知識の宝庫。
夾竹桃は、首輪解除の手掛かりやその他の知識なども求めてここへやって来たかったわけではあるが、その彼女も大図書館の実態を目の当たりにしたならば思考もまとまらないまま立ち尽くすしかなかった。
それほどに、神秘的だったのだろう。
それが、諸本含めて本棚に施されている魔術の類の副作用だったのか、静寂の一言に尽きる。虫一匹が疼く足音すら聞こえない、切り取られた超空間。
まさに、調べるという行為において、ここまで最適化された場所(ディバースシステム)はこれ以上存在しないとも言わしめる程に。

傍を見れば、実験室のような様々な薬品が置かれている。
夾竹桃の頭脳に知識としてインプットされている毒の類から、全く未知の内包物を示す薬品まで。
首輪の分解はベルベット――魔王ベルセリアが担当した。穢れで出来たメスのようなものを構築し、まるでバターケーキを寸断するかの如く、中の起爆装置に触れずに意図も容易く裁断したのだ。
結果だけ言えば、中身はなかった。そこは夾竹桃としては予想できていたことではある。
この世界が仮想世界であるならば、首輪の中身というのは別に『設定』していなくても良いものではある。故に空洞で、強いていうならば裏面にこの様な印字がされていた、ぐらい。

――――
『μ特製!! 参加者用特殊首輪』

この首輪はメビウスをベースとした世界で生み出された存在を消去するために存在する、緊急手段です。
これにより、仮想世界での作られた存在である彼らのデータそのものを強制的に【消去】することが可能となります。
また、削除対象に『死』を認識させるため、削除と同時に爆発が発生します。危険なので、首輪の削除機能を始動させてからは、対象から離れるようにしてください。起爆までは十秒ほどの猶予時間があります。
また、首輪には緊急解除コードが存在します。
もしもの場合は、緊急解除コードを利用して首輪を外すなりしてください。
――――

「緊急解除コード? データの消去ってどういう意味?」

「そういえば、あなたにはまだ説明してなかったわね。」

案の定食いかかったベルセリアに対して夾竹桃が説明する。この世界は仮想世界であり、自分たちは擬似的に再現された存在だということ。
考察であるが、『本来の世界』から精神だけを引っ張り出されたのが今の自分達の状況であること。
そして何より、今のベルセリアのような、複合異能に目覚めた存在を、主催が望んでいる可能性があることを。

「……にわかに信じられないわね。そもそも、データだとか仮想世界だとか、まず私のいた世界には存在しない単語よ。それはともかくとして、あの衛兵もまとめて洗脳されてたってのなら、笑えない冗談よ。」

「が、話としては合理が付くのがこの予想だな。平行世界から引っ張り上げるだけじゃあたしらをここまで再現なんて出来るわけねぇからな。本人からデータ引っ張ってきたほうが完璧に仕上げられる。」

「岩永琴子、知恵の神の言っていたことはおおよそ事実と見ていいわ。だから色々と面倒ではあるって部分は否めないけれど。……でも、これ以上増え続けたら面倒よ。」

「……それは同感ね。だったらどうするのよ?」


89 : Revive or Die Again(後編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/20(火) 22:50:43 rZEe3FSs0
夾竹桃としても魔王ベルセリアとしても、これ以上の覚醒者の増加は全く良いことではない。
まず自分たちの立ち位置として、殺し合いに乗っているのとそれはそれで主催連中の言葉に従うつもりは無いという、限りなく灰色の存在ではある。
それに、下手に自分たちと敵対する存在が覚醒して複合異能を手に入れてしまえばこちら側との脅威となり、更に言えば『捧げられる贄』が増えると言うことになる。
『贄が増える』というのが余りにも問題だ。つまるところ、明確に主催の目的を阻止するには覚醒者をこれ以上生まれないようにするか、もしくは覚醒者をどうこうするか、しか無いわけで。
だが生まれるメカニズムは理解できても、その発生を把握することは不可能である。テミスとμ、この二人及びその裏にいる誰かこそがこの殺し合いにおける主導者となる。
テミスに関しては単純に司会進行として呼ばれたようには思えるが、μが比較的テミスに従順だった部分を考えれば、テミスが精神に作用させる類の能力者である可能性は高い。

「……ここは逆の発想ね。増えることが防げないなら、その上での最低限の下準備。ここは悪党らしく少々強引なやり方でいこうかしら?」

「………岩永琴子を攫ってこい、でいいのかしら? だけど、あんたの事だからそれだけじゃないんでしょうね。」

「――ふふ、理解が早くて助かるわ。そして、あなたはそれが出来るから先に私の考えを当てたのよね?」

ベルセリアは、夾竹桃のその言葉の意味を正しく理解した。
強引、つまる所、誘拐である。知恵の神、岩永琴子。彼女が複合異能に目覚める前にこちら側で身柄を確保してしまえば良い。
彼女の知識の上、麦野沈利が考察した意見も含めての情報交換を行いたい所ではある。

「まあ、他の用事っていうのは――テミスかμの関係者を連れてこいってことね。μはアリアって子が関係者だけれど。テミスの方は分からないから手探りになるわね。」

もう一つの意図。それは参加者内にいるであろう、『主催者と何らかの面識及び関係がある者』を連れてくる事。単純な話でμやテミスに対する対応策、というのも念頭に置いているが。

「間違って殺しても文句は言わないでよね。」

「まあ、なるべくは、ね。でも、それは仕方のないことよ。あとついでに、もしも間宮あかりがいたら鷹捲の在処も聞き出してくれると助かるわ。」

「……善処するわ、けど期待はしないで。」

夾竹桃としては、もうちょっと別の手段での誘拐を考えていた部分あった。
それでもベルセリアはそれを理解した上で、自分でやる、という事にした。
埒外の飛行能力、魔王単体で、会場内における移動力は他の参加者と一線を画す。
何故なら、魔王としては、邪魔が入る前に■■■■■■■■■■■■■■■――――――――

「随分と自信家じゃねぇか。」

皮肉るように、麦野が呟く。

「別に、特に何の問題もないから乗っただけの話よ、机上の空論でも、実現できる力があればそれは空論じゃなくなる。私のこの力にはまだ改良の余地があるし、それに――。」

それに、ベルベットが言葉を返す。
図書館到着時、夾竹桃から知恵の神一行の情報は聞かされている。
知恵の神とアリアの他、嘘を見抜く青年、モノ作りの少年、そして現人神とも言わん覇気を纏った少女。
その実力を、強さを、聞いた上で、魔王はこう断言する。

「あのぐらいだったら、私一人で全部片付くわ。」

そう言い残し、魔王は図書館から立ち去っていく。
麦野沈利はその後ろ姿を静かに見届ける、余りにも巫山戯た発言なのに、あの魔王が嘘を言っているようには思えなかったという事で。
成功するにしても碌なことにはならねぇな、と、麦野沈利は独りごちる他無かったのだ。





90 : Revive or Die Again(後編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/20(火) 22:51:02 rZEe3FSs0















「……なにこれすっごい!」

そして夾竹桃は今、鼻血を垂れ流し、顔を紅潮させながら息荒く、とある一冊の本を夢中になって読み漁っていた。

「いや、何やってんだ。」

麦野の呆れ声と言う名のツッコミが、図書館に鳴り響いた。
さっきまでの真剣っぷりはどこへ行ったのやら、一応解除コードの手掛かり探しということで、めぼしい蔵書は既に麦野の隣に本束として軽く積み上がっている。
なのだが、途中で見つけた目立つ表紙の、外の世界における『同人誌』とされる本を見つけたのが運の尽き。その中身が濃厚な……というか咲き乱れる百合同士によるまぐわいと来た。
つまり、ドンピシャだった。忘れがちだが彼女、これでも24歳である。つまりそういう事に詳しいのだ。
ちなみに夾竹桃が手に取った同人誌のあった本棚。つまりそういう内容の本が沢山詰まっており、要するに別の意味での禁書目録集というやつである。

「ご、ご主人さま、この本もすご、中々に刺激的で……ハァハァ……。」

夾竹桃があれなら今のムネチカである。世間知らずの姫とそれに付き従う寡黙な従者の濃厚百合モノを手に取りハァハァと発情しながら読み込んでいる始末。

「こっちに至っては完全にアレじゃねぇか。おい聞いてんのかガキ。」

「ま、まって、まだ時間はたっぷりあるでしょ……! あと2〜3冊読ませて、お願い!あ、この純愛モノ表紙のやつ、オタクに優しいギャルっ子が攻めだと思いきや受けだと思われた眼鏡委員長が一転攻勢してギャルっ子が実は誘い受けのM気質で……あ゛!?」

熱中して読み込んでいた夾竹桃の顔が青ざめ、横向きにパタリと倒れる。

「おい、なにやってんだ?」

「……男が、突然男が……百合が、美しい二人の関係が……寝取られ……百合の●●負け……。」

どうやら、途中で話の内容からして男が乱入して酷いことになったようであり、ショックの余りぶっ倒れたのだ。麦野沈利は、その光景を死んだ目で見下ろしていた、というか見下ろすしか無かった。
一体自分は何を見せられているのか、すごく困惑していた。

「……作者許すまじ、百合の間に挟まる男許すまじぃぃ……!」

まるで呻きのような夾竹桃の怨嗟の声を聞き流しながら、「とりあえずベルベット早く戻ってきてくれ、ツッコミが追いつかねぇ」などと、麦野沈利は人生で初めて頭がおかしくなりそうな光景をただじっと見つめる他なく、最終的に気を紛らわすために蔵書を読み始めることにする。

(……しっかしまぁ、随分と減ったものだな、絹旗のやつも勝手にくたばっちまったときた。)

残り46名。仕留めるはずだった絹旗はくたばった。ムカつくにはムカつくが、もう一つ、或る優先事項が麦野沈利の中にあった。

(ブチャラティっつったか? あの列車の爆発、どう考えてもあいつの能力じゃ無さそうだな。)

ブローノ・ブチャラティなる人物によるライフィセット救出、その仕掛けとして発生した列車が浮き上がるほどの爆発。

(……宣戦布告ってことで受け取っても良いんだよなぁ、フレンダ?)

間違いなく、あんな舐めた真似が出来るのはフレンダ=セイヴェルンぐらいだ。
あいつの使う爆弾の破壊力は、彼女自身もよくご存知だから。

(……二度も裏切り行為とりゃあ舐め腐ったマネしてくれたじゃねぇか。)

笑みを浮かべる。だが、その笑みは全くもって喜びの感情ではない。

(――フレンダ、てめぇに二度目はねぇ。今度こそ、ぶ・ち・こ・ろ・し・だ。今度は灰も残さねぇぞ。)

アイテムの女王は決定する、ニ度も裏切ったフレンダ=セイヴェルンへに、死刑宣告を。
二度と判決は覆らない、暴虐の女王の言葉に、二言はないのだ。


91 : Revive or Die Again(後編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/20(火) 22:51:32 rZEe3FSs0
【F-6/紅魔館 大図書館/一日目/日中】
【麦野沈利@とある魔術の禁書目録Ⅲ】
[状態]:全身にダメージ、疲労(中)
[服装]:いつもの服装(ボロボロ)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:主催共の目論見をぶっ潰す。願いを叶える力は保留。
0:首輪の解除コードとやらを解明するための情報探し。
1:あたしは一体何を見せられているんだ???
2:フレンダ、テメェに二度目はねぇ。ぶち殺し確定、今度は灰も残さねぇ。
3:ベルベットに関しては警戒。『蒐集の力』は彼女にはまだ伝えない。
[備考]
※アニメ18話、浜面に敗北した後からの参戦です
※3人でアイテムを結成しました
※ベルベットがLEVEL6に到達したと予想しています。
※夾竹桃の知っている【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。

【夾竹桃@緋弾のアリアAA】
[状態]:衣服の乱れ、ゲッター線に魅入られてる(小)、夏コミ用のネタの香りを感じている。読んでいた百合純愛モノが実は快楽堕ちモノだったことに対するショック(大)
[服装]:いつものセーラー服
[装備]:オジギソウとその操作端末@とある魔術の禁書目録Ⅲ、胡蝶しのぶの日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、シュカの首輪(分解済み)、素養格付@とある魔術の禁書目録Ⅲ、クリスチーネ桃子(夾竹桃)作の同人誌@緋弾のアリアAA(現地調達)、薬草及び毒草数種(現地調達)、無反動ガトリングガン入りトランクケース@緋弾のアリアAA(現地調達)
[思考]
基本:間宮あかりの秘毒・鷹捲とゲッター線という未知の毒を入手後、帰還する
0:主催の思い通りになるつもりはない。
1:これ以上の『覚醒者』の誕生は阻止したい
2:テミス及びμの関係者らしき参加者の勧誘か誘拐を検討。岩永琴子はなんかベルセリアが乗り気らしいけど……
3:首輪を解除するためのコードを調査
4:神崎アリア及び他の武偵は警戒
5:ゲッター線の情報を得るためにゲッターチームから情報を抜き取ることも考慮
6:夏コミ用のネタが溜まる溜まる...ウフフ
7:なぜ書いた覚えのない私の同人誌が...?
8:百合の間に挟まる男許すまじ!!こんな展開書いた作者絶対許すまじ!!!!!
[備考]
※あかりとの初遭遇後からの参戦です
※3人でアイテムを結成しました
※晴明からゲッター線に関する情報を入手しました
※隼人からゲッター線の情報を大まかに聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※隼人・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※隼人からゲッター線について聞きました。どれだけの情報が供給されたかは後続の書き手の方にお任せします。

【ムネチカ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:衣服の乱れ、負傷(中)、精神崩壊、夾竹桃への忠誠心(絶大)、忘却(中)、発情(中)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ムネチカの仮面@うたわれるもの
[道具]:基本支給品一色、大きなゲコ太のぬいぐるみ@とある魔術の禁書目録(現地調達)、
[思考]
基本:ごしゅじんさまにしたがう
0:ごしゅじんさま、この本、この本すごいです……!
[備考]
※参戦時期はフミルィルによって仮面を取り戻した後からとなります
※女同士の友情行為にも理解を示しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※夾竹桃の処置の結果、何もかもを忘れて夾竹桃に付き従う忠犬になりました。恐らく今後ライフィセットが生きていると判明しても彼女の壊れた心は、よほどのことがない限りは戻らないでしょう。


92 : Revive or Die Again(後編) ◆2dNHP51a3Y :2022/09/20(火) 22:52:47 rZEe3FSs0



魔王が翼を広げ、飛び立つ。

魔王が翼をはためかせ、空を飛ぶ。

向かうは、知恵の神がいるであろう場所へ。

魔王が降り立つであろう大地の行く末は。

どうあがいても、誰かにとっての鮮血の結末でしかないのだから。

全ては■■の為、■■へと捧げる■■の為。

邪魔するものは魔王が全て喰らいつくしてやろう。

喰らい、潰し、取り込み、■■の■■としよう。

そしてあの白き悍ましきモノと、復讐すべき相手を、■■■■■■を―――




■■■■■■とは、誰だった?

■■■■■■とは、どのような人物だった?

■■■■■■とは、白い服を来た、男の―――そうだ、私が、魔王が殺すべきは―――








―――ブチャラティだ。ブローノ・ブチャラティ。お前は必ずこの魔王ベルセリアが殺す。
命乞いなど許さない、ただ残酷にこの大地に引き裂いて潰してばら撒いてやる。
全ては、全ては、あの唄の――――


【E-3/一日目/日中】
【魔王ベルセリア(ベルベット・クラウ)@バトルロワイアル -Invented Hell-(テイルズオブベルセリア)】
[状態]:魔王化、精神汚染?(小・進行中)、飛行中
[服装]:いつもの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:他の参加者共を喰らって―――――
0:――私は、魔王ベルセリアだ。
1:夾竹桃、麦野沈利と共に行動する。――まだ利用できる以上は――。
2:岩永琴子、もしくはμかテミス関係者である参加者の誘拐
3:■■■■■■(ブチャラティ)、絶対に許さない、殺す。
4:白い悍ましいモノ(ライフィセット)は必ず殺す
5:そういえば鷹捲の件も頼まれていたわね……
※:■■に■■を■げる。そして■は■■■る。
[備考]
※牢獄でのオスカー戦後からの参戦です
※3人でアイテムを結成しました
※恐らく『絶対能力者』へ到達しました。恐らく『その先』にも到達する可能性があります。
※夾竹桃の知っている【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。

※複合能力 『災禍顕現』を習得しました。本人の拡大解釈を以て穢れを様々な形として行使できる能力です。
※ 『災禍顕現』を行使しすぎた場合、その末路として、ベルベット・クラウという情報が魔王ベルセリアに呑み込まれ消失する危険性を孕んでいます。
その場合、真に『魔王ベルセリア』と呼ばれる存在が、本当の意味で誕生することになるでしょう。
※魔王化の影響で、思考の変化及び記憶の損傷が見られています。現状においてはアバル村の記憶の大半が破損し思い出せなくなり、夢で聞こえた唄に関する記憶に関する情報に塗りつぶされました。
※彼女の中で、アルトリウスの情報が徐々にブチャラティへと置換されていってます。さらなる経過でアルトリウスのことを完全に忘れる可能性があります。


93 : ◆2dNHP51a3Y :2022/09/20(火) 22:53:00 rZEe3FSs0
投下終了します


94 : ◆qvpO8h8YTg :2022/09/26(月) 00:21:54 m3C2Y.LY0
予約延長します


95 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/03(月) 22:36:01 DYS3Bn.s0
みなさま投下乙です
流竜馬、ディアボロ(ドッピオ)予約します


96 : ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:43:32 KYRbJiA20
投下します


97 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:44:28 KYRbJiA20



会場内の中央に位置する山中。
陽光遮る深緑の中を歩む鬼が二人。
無惨と麗奈は、先の騒動の後、真っ直ぐに遺跡へと向かっていた。
基本的には、木漏れ日すら差し込まない薄暗い山林の中だというのに、万が一に備えて、無惨は番傘をさして日光を浴びぬよう徹底している。
麗奈のおかげで、日光を克服できているという仮説を立ててはいるが、確証がない以上は用心するに越したことはない。
鬼舞辻無惨は、それほどまでに疑り深く、こと自分という存在の存続に関しては、徹底的なほど慎重なのである。

「……。」

傍を歩く麗奈は、光を失った瞳のまま、ただひたすらに無惨に同行する。
彼女の中にあるのは、無惨に対する圧倒的な恐怖のみ。
逃げ出そうと思うなら、頭を吹き飛ばされた鈴仙、肉塊としたオスカーの姿が途端にフラッシュバックし、彼女を踏みとどまらせる。
今はただ無惨の機嫌を損なわないよう振る舞うしか道はないのである。

そんな二人が歩を進めていくこと数刻―――。
バチバチと枯れ枝を踏み抜く音が、南の方向から聴こえてくるかと思うと、人影が二つ此方に近づいていることに気付いた。

「つ、月彦さ――」

「黙れ」

「っ!?」

声を掛けてきた麗奈を一言で黙らせ、無惨は接近する二つの人影を凝視。
さて、どうするか……と無惨は思考する。
その気になれば、先制攻撃を仕掛けるのも訳ではないが、こればかりは、相手の出方次第である。病院や墓地近辺で交戦した連中の追手や、問答無用で襲い掛かってくるもの、邪魔をしてくるものであれば、早急に処分する。
仮に、敵意が見られない場合は、再び集団に融けこむための足掛かりとさせてもらうのも悪くはない。

すぐにでも背中から触手を射出できるよう身構えつつ、様子をうかがうと、接近する二つの影はようやくその姿を明らかにした。

「ああ、警戒しなくても良いですよ、こちらは殺し合いには乗っていないですから」

両手を高く挙げ、声を発してきたのは黒の短髪の青年。
黒いコートに身を包みつつ、如何にもこちらには敵意はありませんよといったポーズを取って近づいてくる。
そしてその隣に立つのは、麗奈と同じ年頃の少女。お下げ髪を揺らしつつ、怯えたような眼差しで無惨を見つめている。

「初めまして、俺は折原臨也と言います。
こっちは水口茉莉絵ちゃん、彼女とは数時間前に出会ったばかりですが、こうやって一緒に行動させてもらっています」

「あ、あの……水口茉莉絵です。
名簿にはなぜか私のゲームのハンドルネーム『ウィキッド』で記載されています。
よろしくお願いします……」

臨也に促されるように、茉莉絵はペコリとお辞儀をする。
和やかに挨拶をしてくる二人に対し、無惨も強張った表情を緩め、人間社会に融け込む『月彦』としての表情を繕ってみせる。

「安心しました、こんな事態ですからね……。
良からぬことをしでかす輩であれば、どのように対処すればいいのか考えてしまいました。
私は富岡義勇。慣れ親しんだものには『月彦』と通称で呼ばせております。
どうぞ私のことも『月彦』と呼んでください。
そして、こちらが―――」

『月彦』が麗奈に視線を向けると、ビクリと肩を震わせつつも、彼女は一歩前に出て自己紹介を始めた。

「こ、高坂麗奈です……。」

「月彦さんに、麗奈さんですか……。よろしくお願いいします」

そんな二人の様子をじっくりと観察しながら、臨也は笑みを浮かべる。

―――不快だ。

無惨が、臨也に対して感じた第一印象はそれに尽きる。
敵意は感じない。しかし、その視線はどことなく此方を値踏みするかのような印象を受け、無惨は苛立ちを覚える。
だが、それでも今後のことを見据えたうえで、今は堪えるべきだと自制するのであった。


98 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:45:21 KYRbJiA20



「そうか、お前も死んだのか……」

大規模な戦闘が勃発したと一目で分かる、荒れに荒れ果てた森林地帯。
ロクロウは、ゴミのように地面に放り出されている血肉の塊の前で声を漏らした。
原型を保っていないそれが、元々自分達と敵対していた一等退魔士だったと気付けたのは、彼が生前着込んでいた聖寮の服が、血肉の中に紛れていたからであろう。
近くには、少女と思わしき首無し死体も転がっている。
恐らくは同じ者によって葬り去られたのであろう。

「殺った奴は、マギルゥを殺った奴と同じか、或いは―――」

病院を出発して遺跡を向かっていたロクロウは、道中で『闘争』の匂いをかぎつける。
しかし、辿り着いた先に、彼が求める『闘争』は既になく、惨たらしい爪痕のみがそこに取り残されていた。
下手人の心当たりは二人。垣根から聞かされたマギルゥを殺したという触手を操る怪物に、数時間前に刃を交えた角のような髪をした赤目の少年。
見聞きした情報から察するに、彼らがこちらに来て、他の参加者に襲い掛かってもおかしくはない。

「まぁ、柄ではないが、お前達の仇取ってやっても良いぜ」

ロクロウは、不敵な笑みを零しながら、二つの亡骸に語りかける。
彼は、夜叉の業魔。義憤に燃えるような漢ではない。
ただ純粋に、これだけの災害を引き起こす者との死合を行いたいという欲求が、ロクロウの胸の内にあった。
だが結果として、下手人との死合いの末、討ち取ることがあれば、その副産物として、この二人の鎮魂歌になり得るだろう。

「おっと…とにかく今はオシュトルの旦那のところに行かないとな」

いかんいかんと、寄り道をしている自分に気付いたロクロウは頭を振って踵を返し、オシュトル達が待っているであろう、遺跡の方角へと歩を進めていくのであった。


99 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:46:33 KYRbJiA20



「成る程……それは災難でしたね」

「ええ、Stork君とは上手くやっていけると思っていたのですが、残念ですよ」

溜息をつきながら、臨也は項垂れる。
今現在、臨也達一行は森の中を進みつつ、互いの情報を交換し合っていた。
臨也が、『月彦』達に話した内容はこうだ。

―――ゲーム開始後、テレビ局でμと関わりを持つ「オスティナートの楽士」の一人Storkと出会う。
―――その後、Storkとともに刑務所を経て、紅魔館付近でカナメという負傷した青年を発見。
―――カナメ曰く、殺し合いに乗った金髪の青年に襲撃され、彼の仲間である二人の少女は今尚追われているとのこと。
―――臨也は、カナメの介抱をStorkに任せて、少女たちの探索へと向かう。
―――そこで、カナメの仲間の一人と思われる少女の焼死体を確認。更に付近の川で、意識を失っている水口茉莉絵を発見し、これを介抱。
―――その後、Stork達を探すも合流に至らず、第二回放送で、Storkの名前が呼ばれてしまい、今に至る、と。


「でもまあ、俺なんかよりも月彦さんたちの方がもっと悲惨ですよ。 亡くなったお知り合いの皆さんの件については、心中お察します」

「お気遣い痛み入ります。」

投げかけられた同情の言葉に対し、『月彦』は頭を下げる。
心からの謝意というよりは、どことなく社交辞令的な淡白な反応だったが、臨也はそんな『月彦』の様子を黙って観察する。
ちなみに、『月彦』が臨也たちに提示した経緯は、次の通り―――。

―――二人のスタート地点は、「高千穂リゾート」であり、そこではヴァイオレット・エヴァ―ガーデンとブローノ・ブチャラティら、他二人の参加者もいた。
―――四人は話し合いの結果、『月彦』と麗奈組、ブチャラティとヴァイオレット組の二手に分かれ『北宇治高等学校』で合流する手筈となった。
―――しかし、学校を目指す際中、電車の脱線を知った『月彦』達は方針を転換し、山方面へと向かう。
―――その後テミスの放送により、麗奈は部活の先輩二人の死を知り、また道中の病院で『月彦』の使用人である累の遺体を発見した。
―――その後、失意の最中、二人は墓地付近にて戦闘の痕跡らしきものと、参加者と思わしき二人の遺体を目撃し、今に至る、と。

「―――しかし、『月彦』さんが、冷静な方で良かったですよ」

「……はい……?」

唐突な臨也の発言に、『月彦』は顔を上げ、眉を顰める。
そんな彼に構わず、臨也は言葉を続ける。

「だってそうでしょう? 普通なら、身内が殺された上に、二つの惨殺死体を目撃したというなら、取り乱して然るべきですからね。
だけど、貴方ときたら、身内の分も含めて、冷静に遺体から首輪を回収するときている。
いやぁ、常人では中々出来ない芸当だと思いますよ」

「……私が、血も涙もない冷血漢とでも言いたいのでしょうか?」

「まさか!俺は褒めているんですよ。
貴方のような頼りになる大人が、側にいてくれているのだから、麗奈ちゃんも安心だろうなってね」

そう言って、臨也は麗奈の方へと視線を向けると、ビクリと麗奈は身体を震わせる。
その様子に目を細めた臨也は、未だ表情曇らせる『月彦』の方へと向き直る。

「しかし、最初の放送で発表された脱落者は13名か……。どうやら、俺達の予想以上に殺し合いに乗った連中は、多いかもしれませんね……。
『月彦』さんの使用人の累君を殺した奴も含めて、ね。」

情報交換の折に『月彦』に教えてもらった、第一回放送での死亡者情報を振り返りながら、臨也は呟く。
ちなみに、放送を聞きそびれた理由としては「丁度放送の死亡者発表に差し掛かった時に、川で流されている茉莉絵を発見し、人命救助を優先として放送を聞く余裕がなかった」と説明してある。
茉莉絵も気を失っていたのだから、当然聞きそびれており、二人とも第一回放送の死亡者情報が欠落していたということになっている。


100 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:47:57 KYRbJiA20
「ええ、幸いなことに我々はまだ乗った側の人間に遭遇はしておりませんが、墓地近郊での遺体を鑑みるに、下手人は付近に潜んでいる可能性も否めません。
警戒するに越したことはないでしょう。」

「それは怖いですね。まあ俺の方もまだ乗った側の人間には出会ってはいないのですが……。
ああっ、そう言えば―――」

と、ここで臨也は思い出したかのように、背後を振り返ると、それまで蚊帳の外にいた茉莉絵に声をかける。

「茉莉絵ちゃんはさぁ、遭遇していたはずだよね……殺し合いに乗った殺人鬼と。
どんな奴だったか、『月彦』さん達にも説明してくれないかい?
どんな凶悪な人間が、君と君の仲間を襲ったのかをさ。」

「……っ!」

瞬間、茉莉絵は目を見開くも、臨也は意に介さずねっとりとした視線で、彼女を見つめ続ける。
そんな彼に対し、茉莉絵が口を開く前に、『月彦』が割って入る。

「折原さん、少し不躾では……? 彼女も怖い思いをしてきたというのに―――」

「いえ……良いんですよ、『月彦』さん。
折原さんが無神経で、デリカシーのない、最低なろくでなしなのは今に始まったことではないので……。
お話ししますよ、私が何を体験してきたのかを……」

臨也に対して毒を吐きながら、こほんと咳払いをする茉莉絵。
「酷い言い草だなぁ」と肩をすくめる臨也を他所に、彼女は語り出す。

―――ゲーム開始当初、茉莉絵は婦警の弓原紗季と行動を共にしていたことを。
―――しかし、道中でドレッドヘアの危険人物・王と遭遇。紗季は彼に殺され、茉莉絵は命からがら逃げたということを。
―――その後、逃げ込んだ会場内の施設『紅魔館』で、王と因縁のある青年カナメと霧雨魔理沙と出会うも、『紅魔館』も炎を自在に操る金髪の青年に襲撃され、茉莉絵は魔理沙に連れられ逃走したことを
―――しかし、逃走虚しく、金髪の青年に追い付かれ、魔理沙は殺害されてしまい、自分も追い詰められた末、崖から転落したということを。

時折、目に涙を滲ませながら、震える声で語った茉莉絵。
大袈裟に語るのではなく、あくまで淡々と事実だけを、弱弱しく話すその姿は、現実を粛々と受け止めた上で、それを乗り越えようとする悲壮な覚悟と、生真面目な少女の危うさを感じさせるものであった。

「……それは……大変でしたね……。
辛かったでしょうに……。」

その甲斐あってか、『月彦』も麗奈も気の毒そうな表情を浮かべ、労わるような言葉をかける。
そんな労りの言葉に、茉莉絵は涙を拭いながら、

「ありがとうございます……。でも、私は大丈夫ですから。」

と、弱弱しい笑みを返した―――

(……あーうぜえええええええ!! 何だよ、このクソみてえな茶番はよぉおおおお!!)

のであったが、水口茉莉絵ことウィキッドは、内心では激しい苛立ちを覚えていた。
『月彦』から掛けられた反吐が出るような薄っぺらい同情の言葉も、麗奈から向けられる憐みの眼差しも、何もかもが気に食わない。
そもそも、こんな奴ら最初から信用なんかしていない。
『月彦』は、このゲームが始まってから、麗奈を護ることに尽力していると言っているが、明らかに麗奈は挙動不審で『月彦』に対して、怯えている節がある。
同年代ということもあり、近づきやすいかと思って、麗奈に声を掛けても、彼女は常に『月彦』の顔を窺っているきらいがある。
何か弱みを握られているか、もしくは脅されているのではないだろうか。
この『月彦』という男は、どうにもきな臭いし、裏があるように思える。
そんなことは臨也だって察しているだろう。
だからこそ、彼と臨也のやり取りは、狐と狸の化かし合いのようにしか見えず、まどろっこしくて仕方がなかった。


101 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:48:33 KYRbJiA20

そして、何より―――。

「改めて聞くと、本当に災難続きだったね、茉莉絵ちゃん。
まぁでも、崖から落ちた後に、俺に発見されたのは、不幸中の幸いってやつだよね。
いやぁ茉莉絵ちゃんだけでも無事で良かったよ」

(黙れボケカスクソ死ね!!)

折原臨也に対する怒りと苛立ちで腸が煮えくり返りそうであった。
全てを悟り、全て承知したうえで、敢えて知らない振りをして、白々しい態度を取っているのだからタチが悪い。
わざわざ茉莉絵の口から『月彦』達に経緯を説明するよう促してきたのは、茉莉絵がどんな反応をするのか、どんな作り話をしてやり過ごすのかを観察したかったのだろう。
茉莉絵が話をしている時の臨也は、真摯な表情を張り付けつつも、その実、瞳には子供のような好奇心を孕み、茉莉絵の表情を捉え続けていた。
それはある意味では純粋であり、ある意味において、酷く邪悪なものであると言えた。

「―――とまぁ、茉莉絵ちゃんの話した、王とかいうドレッドヘアの男と、炎を操る金髪の男は要注意だね。
あっ、そうそう……金髪といえば、シズちゃん……平和島静雄っていう金髪のバーテンダーにも気を付けたほうが良いよ。
あいつは、目につく人間を片っ端から襲い掛かる獣みたいな男だからさ。もしかしたら、既に何人もの参加者があいつに殴り殺されているかもしれない。
俺達人間にとっては害悪極まりない存在だよ。」

「そうですか、それは気を付けないといけませんね。
でも害悪といえば、折原さんも負けていないと思いますよ。
特に人を不快にさせるという点に関しては、右に出るものはいないと思います」

いつもの優等生モードで、ニコリと笑いながら、臨也への嫌悪感を顕にする茉莉絵。

「やれやれ、命の恩人に対して、酷い言いようだなぁ、茉莉絵ちゃんは……」

「助けてもらったことには感謝しています。でも折原さんは最低な人間だと思います。」

『月彦』達とのやり取りで、茉莉絵は改めて思い知った。
折原臨也という男は、害虫―――例えるならノミ蟲のような存在であると。
先の約定通り、『月彦』達との情報交換の際に、彼は茉莉絵の不利になるような情報を―――例えば、「茉莉絵がμに楽曲を提供する『オスティナートの楽士』の一員である」といった情報は、一切口外しなかった。だが同時に、茉莉絵の立場が有利になるような供述もせず、中立の立場から茉莉絵の言動の観察に徹していた。
これがこの男の性分であると割り切ってしまえば、それで済む話ではある。
しかし、だからといって、今後「君が焦る反応が見たかった」とほざいて、いつ梯子を外しにくるか分からない。
だからこそ、ノミ蟲が血を吸い尽くして、去っていく前に潰しておくに越したことはない。
用済みになった瞬間に、殺すに限る。

「―――折原さんは、茉莉絵さんに何かされましたか? 酷く嫌われているようですが……」

「さぁ…? ―――ああっ…、もしかして、ずぶ濡れになった服を乾かすため、勝手に脱がしてしまったことを根に持ってるいるかもしれませんね。
いやぁ、悪かったね、茉莉絵ちゃん。俺としたことが、年頃の女の子に対しての配慮が足りなかったよ」

「アハハハハハ……。折原さんは、いつになったら死んでくれるんですかぁ?」

表面上は、優等生モードで、愛想の良い笑顔を取り繕う茉莉絵。
しかし、積もり積もっている臨也への苛立ちと嫌悪だけは、包み隠さず表に出していくことにする。せめてもの、ささやかな抵抗と憂さ晴らしとして。
『月彦』と麗奈が若干困惑しているようにも見えるが、関係ない。
臨也も含めて、最終的には全員殺すつもりなのだから。


102 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:49:07 KYRbJiA20



『大いなる遺跡』のコンピュータルーム内。
無数の端末が並べられているその一角で、オシュトルとアリアは、眼前のディスプレイに映し出されている情報を確認している。

「ふむ……。容易く奴らのサーバに潜り込むことは出来たが、どうにも『緊急解除コード』に関する情報は見当たらないな……」

オシュトルは、サーバ側へのハッキングに成功し、サーバに置かれている情報を物色してはいるものの、用意されているのはホームページの更新の方法や運用マニュアルなど、採るに足らない情報ばかりで、目当ての首輪の解除に関する情報は今のところ確認できていない。
また、このシステム自体は完全に切り離されているものであり、ハッキングしたサーバを踏み台にしての別システムへのアクセスは出来ないようになっているようだ。

「空振り、なのかしら……?」

画面を覗き込むアリアも、状況が芳しくないことを悟る。
もしここで解除コードの情報を手に入れることが出来ていたならば、この殺し合いの打破にも大きく前進することが出来たのだが、流石にそこまで都合の良い展開にはなってくれないらしい。

「妨害行為もなかったことから、主催者は、某達のこの行動も織り込み済みってところのようだ……。
閲覧されても問題ないものだったと考えれば、あの杜撰なセキュリティも納得できるが―――」

とここで、オシュトルの手は止まる。
サーバ内の情報を読み漁っていく中で、その深層部にて「report」と名付けられた気になるディレクトリを目にしたからだ。

「……これは……?」

すかさず、そのディレクトリにアクセスをする。
するとそこには、1つの文書ファイルが保存されていた。
そしてその内容は―――。

「……これは、どう解釈すれば良いのかしら……」

「察するに、今この会場で起こっていることが纏められてあるようだ。
ここに記されている一部の参加者に、某も心当たりがある」

文書をスクロールさせながら、オシュトルとアリアは目を見合わせる。
結論として、そこに首輪に関する情報の記載はなかった。しかし、無視することの出来ない内容がそこにはあったのだ。

「―――へぇ…、君達が何を見たのか、俺も興味があるなぁ。」

「「っ!?」」

不意に部屋の入り口付近から聞こえた声に、オシュトルとアリアは驚き振り返る。
文書の内容に釘付けにされ、周囲への警戒を怠っていた二人は、第三者の接近を許す結果となってしまった。

「誰よ、あんた達」

部屋の扉付近に立っていたのは、黒コートに黒髪短髪の男。
アリアの睨みにも臆することなく、不敵な笑みを浮かべている。
また彼の背後には、三人の男女が控えている。何れもアリアとオシュトルにとっては、見ない顔であった。

「ここに来る途中、開けっ放しで放置されている大きな門があったから、多分先客がいるだろうな、とは予想していたけど、ビンゴだね。
俺は折原臨也。しがない情報屋ってやつさ。
後ろにいる三人は、右から『月彦』さん、高坂麗奈ちゃん、水口茉莉絵ちゃん―――皆、殺し合いには乗っていないから、安心していいよ。」

飄々とした態度で自己紹介する臨也。
彼に促される形で、『月彦』達も、軽く会釈をする。

「―――あんたが折原臨也ね、成程、噂通りの人間っぽいわね……」

新羅から事前に聞かされていたことを思い返しつつ、臨也の全身を舐めるように観察するアリア。
確かに、見るからに胡散臭そうで男だと感じる。
それに、どことなく危険な香りも漂ってくる―――武偵としての嗅覚がそう告げる。

「おや? 俺のことを知っているってことは、誰か俺の知り合いと会ったようだね。」

「あんたの友達だという闇医者からのタレコミよ。あんたの事『ちょっと癖のある変人の類』って言ってたわ。それにそこの二人についても、ヴァイオレットから話は聞いているわ」

「ヴァイオレットさんと、会ったんですか?」

ヴァイオレットの名前を聞いて、麗奈がアリアに問いかける。

「ええ、そうよ。さっき話した闇医者と一緒に、今は別の部屋で待機しているわ」

「ああ、新羅の奴もここにいるのか……。
ったく……、俺のことを話すなら、少しは好意的に紹介してくれたら良いのに、『変人』ときたか。
お前の方がよっぽど変人だろうに、友達甲斐のない奴め……―――まあ、いいや。」

溜息を吐きながらも、直ぐに気持ちを切り替えて、臨也はオシュトルとアリアの方に向き直る。

「情報交換といこうじゃないか。
君達が何を見知ったのか、聞かせて貰えないだろうか」

愉快そうな調子で提案してくる臨也。
オシュトルとアリアとしても断る理由もなく、新たに遭遇した四人の参加者に、自分達が目にした情報を開示するのであった――。


103 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:52:02 KYRbJiA20


―――箱庭で観測された『覚醒』事象について―――

この度の箱庭での実験は、16の異なる世界線から総勢75名の参加者を選出し、厳粛なる監視の下、執り行われている。
各参加者の行動については逐次観察されているが、実験の最中、非常に興味深い変遷を遂げた参加者を複数人確認している。
当該レポートは、これらの参加者を「覚醒者」として定義の上、個体識別番号を割り当て、その覚醒の経緯について、簡易的にまとめている。

■ 最初に観測された覚醒について

 最初の覚醒は、当実験が始まって間もなく発生した。
 覚醒者『001』は、眼前で親しき友人を別の参加者の手により殺害される。更に『001』自身も、友人を殺害した同じ参加者に銃撃される。
 しかし、この時に使用された銃は、世界線Aで『特殊能力付加装置』として、用いられていた遺物。撃ち抜いた対象の霊力を操作し、"増幅"する装置。
 『001』が選出された世界線Kは、霊力、魔力はおろか戦争とは無縁の世界。基本的に上述の霊力増幅の向上は見込めない。
 しかしながら、ここで思いがけない偶発的な事態が発生した。
 装置から放たれた弾丸は、『001』の胸元ポケットに忍ばせていた支給品である『魔石』を撃ち抜いた。
 撃ち抜かれた『魔石』から溢れた魔力は、『001』の中に染み込み、更に装置から放たれた弾丸によって、その力を増幅させた。
 『001』はその瞬間、世界線Kでは本来持ち得ない筈の『氷を自在に操る』異能を身につけ、襲撃者に反撃。襲撃者は負傷し、撤退を余儀なくされる。
 尚、この襲撃者についても後述の痣による覚醒が観測され、覚醒者『005』となる。


■ 二度目の覚醒について

 本実験における二度目の覚醒は、複数の参加者間で観測された。
 第一回放送前、世界線Eの鬼狩りの剣士『002』は、世界線Bの仮面の者(アクルトゥルカ)との死闘の末に、『痣』を発現。
 世界線Eの鬼狩りの剣士達は、この『痣』を発現させると、戦闘力を大幅に上昇させることが可能となる。

 事前に得た情報によれば、『痣』を発現させる条件は次の三つ。

① 体温が三十九度以上になること。
② 心拍数が二百を超えること。
③ 揺らがぬ強い感情を抱くこと。

 また、この『痣』については、1人が発現すると、それに共鳴するように、周囲の人間にも伝搬すると云う。

 『002』は、仮面の者(アクルトゥルカ)相手に奮戦するも死亡。
 『002』に勝利した仮面の者(アクルトゥルカ)も、第一回放送後に、世界線Lの陰陽師との戦闘において、『痣』を発現―――覚醒者『003』となる。
 『003』は『痣』による身体能力の向上、そして仮面(アクルカ)の力で、陰陽師を追い詰めるも、今度は陰陽師が『痣』を発現し、覚醒者『004』となる。
 『003』と『004』の戦闘は、『004』が勝利し『003』は死亡。
 しかしその後、同じく『痣』を発現した覚醒者『005』が、『004』を殺害する。
 『005』は世界線Hから選出された参加者であり、『痣』の発現により、『005』の繰り出すカタルシスエフェクトも強化されている。
 尚、『痣』の発現は身体能力が著しく向上させる代償として、寿命が著しく縮むとされている。『005』においては、既に『痣』発現者の寿命を超過しているため、この実験下において、どれだけ長生きできるか、という項目にも焦点が当てられるかもしれない。


104 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:52:19 KYRbJiA20
■ 三度目の覚醒について

 本実験における三度目の覚醒は、世界線Kの参加者と世界線Eの参加者の二人組に発生した。
 第一回放送によって、二人の知り合いが死亡したことを知った『006』は、『死別』というトラウマをきっかけに、無意識的にμの歌声に感化されデジヘッド化。
 そして鬱屈した感情を晴らすため、トランペットを演奏する。
 デジヘッドの力は、周囲の者の精神に多少なりとも影響を与えると見立てられており、『006』の演奏をきっかけとして、『007』もデジヘッド化する。
 『007』は鬼の首魁であり、太陽光が弱点であったが、デジヘッド化を契機として、太陽光を浴びても消滅するようなことは無くなった。
 これは、『006』がデジヘッド化に伴い発現した能力で、無自覚に自身から一定範囲(距離は定かではない)内にいるデジヘッド及び、それに近しい能力を持つ者に対して回復を行うように見受けられる。
 したがって『007』においては、本来備わっている鬼としての回復能力が飛躍的に向上しており、太陽光を受けても再生能力がそれを上回っている。
 『006』と『007』はデジヘッドとして相互に干渉し合っているため、この状態が維持されている。仮に両者がある程度離れることがあれば、この『覚醒』は解除されると推測される。

 その後、『006』と『007』は、『001』を含む三人組の参加者と遭遇。
 『007』は、『001』以外の二人の参加者を無力化(内一名は殺害)し、『001』は戦場を離脱する。
 さらに、一連の戦闘の中で、『007』は『006』に鬼の血を付与し、鬼化させている。
 鬼化した『006』は食人衝動に駆られ、瀕死の『001』の仲間を捕食している。
 尚、『006』については、鬼化した後もデジヘッドとしての回復能力も継続して発動しており、『006』自身についてもその効果により、太陽光を受けても死滅しないと推測される。
 また、この『006』の回復能力については、現在のところ『006』と『007』以外には効力を発揮していない。

■ 四度目の覚醒について

 四度目の覚醒は、世界線Aの喰魔『008』の身に起こった。
 世界線Aの別の時系列から選出された参加者及び、世界線Bの仮面の者(アクルトゥルカ)との戦闘の折、同行する世界線Kのレベル5能力者の砲撃を、業魔手で吸収した『008』は、世界線Kの能力者達が用いる演算方式を取り込む。
 その後、激しい戦闘の末、窮地に陥った『008』は、取り込んだ演算方式と巡りめぐる思考の末に、自分だけの現実(パーソナルリアリティ)を見出し、世界線Kでいうところのレベル6能力者として覚醒を果たす。
 覚醒した『008』の能力の出力は絶大なもので、仮面の者(アクルトゥルカ)が展開した障壁をも粉砕した。
 強力無比な覚醒者の誕生を目の当たりにしたが、強制的な異界法則の行使は、『008』の本来の存在のそのものにも影響を及ぼすと考えられ、『008』そのものが別の「ナニカ」に置き換わる危険性を孕んでいるとも言える。
 何れにせよ、『008』周りの動向については、より一層の観察と注視が推奨される。


105 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:53:16 KYRbJiA20



オシュトルがハッキングしたシステムに保管されていた文書には、この殺し合いにおいて、観測された『覚醒』の事象について、それに至るまでの関係者の経緯などが簡潔に綴られていた。
文書の内容に何か思うところがあったのか、『月彦』、茉莉絵、麗奈の三人は、文書に目を通した後、それぞれ小難しい顔を浮かべていた。

「―――これってさぁ、誰に向けての『報告書』なんだろうね?」

沈黙が支配する空間の中、臨也だけは、口角を吊り上げながら、一同に疑問を呈した。

「―――と申されると?」

オシュトルが聞き返すと、臨也は相槌を打ちながら、言葉を続ける。

「これが会場で行われている殺し合いで発生した出来事を纏めているのは分かるんだけどさ。
報告書っていうのは、基本的に『いつ』『どこで』『誰が』とか、そういった情報を簡潔にまとめ上げて然るべきだ。
だけど、このレポートには、その辺りの肝心な情報がボカされていたり、意図的に省かれている部分が多いよね。
仮に運営の連中が、組織内で『実験』とやらの成果を記録するために、レポートを書き上げているのであれば、そこらへんはしっかりと記すべきだと俺は思うんだよね」

臨也からの指摘に、オシュトルも同意せざるをえなかった。
実験の成果物として報告書として纏めるのであれば、少なくとも名簿に載せてある参加者の名前を明記したうえで、時刻と、どのエリアで『覚醒』とやらが発生したのかを淡々と記せば良いはず。
しかし、この『レポート』には、『仮面の者(アクルトゥルカ)』など一部の参加者しか知り得ないような情報を織り交ぜた上で、敢えて不明瞭にしている箇所が多々見受けられた。
オシュトルらヤマトの住人が、『仮面の者(アクルトゥルカ)』という存在を把握しているのを鑑みるに、ここで記されているそれぞれの『世界線』とやらの参加者達が、情報を出し合えば、不明瞭な部分の答え合わせにはなりえる。
それはつまり―――。

「このレポートとやらは、我々参加者が閲覧することを想定して、我々に向けて用意されたものということか……」

「さしずめ、頑張ってハッキングを行なった人へのご褒美といったところかな?
まぁ情報は不完全だけど、うまく解明できれば一部の参加者の動向も把握できるだろうから、強力なアドバンテージになるのは間違いないだろうからね。
『この情報を以って、上手く勝ち進んでください』っていう主催者からのエールってやつ?」

肩をすくめながら饒舌に語る臨也。
まるでパズルに没頭する子供のように、愉快そうな表情を浮かべている。

「とことん舐めてくれてるわね、運営の連中……」

臨也の推理に、アリアは唇を噛み締めながら呟いた。
運営の虚を突き、ゲームの根本をひっくり返せればと期待はしていたが、結局のところ、連中の掌の上で踊っていたということになる。
悔しい思いはあるが、現状ではどうすることもできない。

「後は、ゲームの核心に迫りたい俺達に対して、ご褒美の一環として、一つの回答を突きつけているとも読み取れるよね。
この殺し合いは、『覚醒者』とやらを生み出す目的の『実験』だとか、ね。
世界線Aだと、Bだとか色々考察していく余地はあるんだろうけど、まぁ詳細は新羅とヴァイオレットさんが揃ってから突き詰めていこうか。ああ、そう言えば―――」

ふと思い出したように、臨也は話題を変えた。

「運営がよこしてくれた情報と言えばさ、アリアちゃんが分解してくれたこの首輪に書かれている文面も気になるところだよね。」

机の上に置かれている解体済みの首輪を手に取り、それを眺めながら、臨也は言葉を続ける。

「これは、Stork君っていうμと面識のある参加者から聞いた話だけど、μが創り出した『メビウス』っていうのは仮想世界であって、彼女は、現実世界から招いた者に仮初の身体を与えて生活をさせていたらしい。
そこに、NPCとかいう人間もどきを作製して紛れ込ませて、人間社会ごっこを楽しんでいたようだ」

「―――何が言いたいの?」

「いやね、ほら。Stork君の話が事実だとすれば、この首輪に書かれている『仮想世界』、そして俺達が『作られた存在』っていう部分は、彼女が能力を行使すれば、可能だという話さ。
『メビウス』では都市一つと、それに相応する住人が存在していたと聞いているし、75人分の人間もどきのデータを作製することなんて訳ないじゃんないかな?」

臨也は口端を歪ませながら、一同の反応を窺う。
オシュトルとアリアは、苦汁を嘗めた表情を浮かべていた。
『月彦』は、より一層険しい表情を滲ませている
茉莉絵は、そもそも臨也と視線すら合わせようとせず、俯いたまま。
そして、麗奈はというと、アメジスト色の瞳に、不安の色を灯し、震える声で臨也へと尋ねた。


106 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:53:43 KYRbJiA20

「……折原さんは、その話を信じるんですか? 私達が紛い物であると……」

「今のところは、半信半疑かな。連中が俺たちを混乱させる目的で、ブラフを流している線もなくはないし、もう少し情報が欲しいところだね。
まあ何にせよ、仮にこの殺し合いをエンターテインメントとして観察している連中がいれば、『自分たちが偽物であるかもしれない』という可能性を突きつけられたときに、どういう反応をするのかっていうのも見世物としては中々の趣だと思うけど―――」

「臨也殿―――」

オシュトルが、臨也の言葉を制する。
これ以上、一同の不安を煽るような発言を続けさせてはおけないと判断したのだろう。
事実、臨也の言葉を受けて、麗奈は激しく動揺しているように見えた。

「今この場で、そのことを論じても意味はない。
仮に我らが造り出された『偽り』だったとしても、今ここに在る我らそれぞれに意思があり、信念がある。
我らに宿るそれらは紛うことなき『本物』であると、某は思う」

「殊勝な心掛けだね、オシュトルさん。
それじゃあさ……仮に自分が歪曲された『偽物』だったと知っても、オシュトルさんは、オシュトルさんであることを貫くつもりかい?」

「…………。」

瞬間、オシュトルは心の臓を鷲掴みにされる感覚に陥った。
その問いかけは、図らずも、オシュトルのこれまでの在り方そのものに重なったからだ。
脳裏に過るのは、自身に仮面を託した親友の姿―――。
あの日から、本当の自分を殺して、偽りの仮面を被り続けてきた。

「某は、たとえ自身が『偽り』であったとしても、己を貫き通す。
それが、我が使命なれば……」

ハクは死んだ。もういない。
ここにいるのは、『偽物』のヤマト右近衛大将。
だがそれでも、自分はオシュトルで在り続けないといけない。
親友(とも)の想いを受け継いだのだから。

「うん、いい答えだ。オシュトルさんの覚悟、実に人間らしくて素晴らしいよ。
貴方とは、上手くやれそうだよ」

「―――お手柔らかに頼む……」

臨也は、オシュトルの返答に満足したのか、「うんうん」と上機嫌に肯く。
そんな臨也に対し、オシュトルは冷静な口調で返すが、その心中では―――。

(わざわざ、こちらの芯を揺さぶるような質問をぶつける…試しているのか…?
掴み所のない男だ……)

臨也に対して今後どのように接していくべきか、図りかねていた。
しかし、そんなオシュトルの胸中などいざ知らず、臨也の興味の対象は、他の人物へと移っていた。

「どうやら不安にさせちゃったみたいだね。ごめんよ、麗奈ちゃん」

「……いえ、私は……」

麗奈はビクリと肩を震わせながら、顔を伏せた。

「でも安心すると良い。オシュトルさんの言う通り、例えどんな真実が待ち受けていようとも、俺達は俺達でしかない。
他の誰でもなく、此処に在るのは、俺達なんだ。
だから、麗奈ちゃんも、自分自身の足下を見失わないようにしてね」

励ますように肩をポンと叩き、臨也は笑顔を向けるが、麗奈は俯いたままだった。

「本当に折原さんはデリカシーの欠片もない人ですね。余計なことばかり言って。
高坂さん、大丈夫ですか?」

茉莉絵は、臨也の手をバチンとはねのけて、麗奈を気遣う。
臨也はというと、赤くなった手をさすりながら、「おやおや」と呟きながら、そんな二人のやり取りに目を細めた。

『参加者の皆様方、ご機嫌よう。』

第二回放送が始まったのは、そんな時であった。


107 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:54:09 KYRbJiA20



ヴァイオレット・エヴァ―ガーデンは、指を動かし続ける。
新羅(クライアント)の口から発せられる、愛しきヒトへの止めどない想い―――それを手紙という形で書き綴っていく。
機械仕掛けの義手が、タイプライターを打ちこむ都度、軽快な打刻音が倉庫内に響いていく。

ヴァイオレットは、想いを綴る。
人と人とを繋ぐ言葉を紡いでいく。
彼女は自動書記人形―――人の心を汲み取り、言葉として書き起こし、それを届ける存在だ。
元々は、「愛してる」を知りたくて、彼女は自動書記人形になることを望んだ。
そして様々な「想い」に触れてきた彼女は、学んだ―――。
人には届けたい想いがある。
届かなくてもいい想いなんてない、と。

だからこそ、彼女はこうして新羅の「愛している」を手紙として綴り続ける。

新羅と彼の愛する人が再会できるように。
きっと、無事に想いを伝えられるように。と願いながら……。

『参加者の皆様方、ご機嫌よう。』

どことなく声が響き、彼女と新羅は執筆を中断し、天を見上げた。
第二回放送である。運営の女テミスは、相変わらずの調子で語り始める。
まずは、禁止エリアの発表。幸いなことに自分たちがいるエリアが禁止エリアに指定されることはなく、二人はひとまず安堵する。

しかし、本当に重要なのは次のパートだ。

『次は、お待ちかねの死亡者の発表といきましょうか。』

自分たちの預かり知らぬ場所で、一体何人の人間が命を落としたのか……。
麗奈や『月彦』、ブチャラティ、ロクロウ、早苗は無事なのか……?
そんな一抹の不安を抱えつつ、彼女は耳を傾ける。

『【マリア・キャンベル】、【王】、【セルティ・ストゥルルソン】―――

その瞬間、何かが音を立てて、崩れたような感覚に見舞われた。
彼女は息を呑み、傍らに佇んでいた彼を振り返ると―――。

『世界』を失った青年の姿が、そこにはあった。


108 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:54:46 KYRbJiA20



テミスによる第二回放送が終わり、μの歌声が木霊するコンピュータルーム内にて。
六人の参加者の間には、鉛のように重苦しい空気が漂っていた。

(ミカヅチ……、お前も逝ったのか……)

オシュトルは、目を瞑り、死亡者として発表された戦友の姿を思い浮かべる。
今でこそ陣営は違えど、彼もまた『オシュトル』や『ハク』の友人であったことには変わらない。
愚直なほどに忠義に厚く、ヤマトにその身命を捧げる彼は、殺し合いに乗ったと人伝えに聞いている。

(―――お前は、お前の信念を貫き通して、逝ったんだな……)

第一回放送から、第二回放送までに脱落した仮面の者(アクルトゥルカ)は、ミカヅチただ一人。
であれば、先程閲覧したレポートに書かれていた覚醒者『003』とは、ミカヅチのことだろう。
レポートには、彼が『痣』なるものを発現させ、その戦力を大幅に向上させ、奮戦した旨記載されていた。
そして、その『痣』なるものの発現の条件の一つは、こう記載されていた。

揺らがぬ強い感情を抱くこと、と。

オシュトルは彼の死に際に立ち会った訳ではない。
されど、彼が、護りたいもののために、限界を越え―――。
その命散らすまで戦い抜いたことは、容易に想像できた。

(全てが終わったら、またウコンたちと酒盛りをしよう。
悪いがそれまでは、そっちで暫く待っといてくれ)

そう心の中で語りかけると、オシュトルはゆっくりと目を開き、一同を見回す。
皆が皆、沈黙を貫いている中、小刻みに小さな身体を揺らすものが一人。

「……アリア殿、大事ないか?……」

「……最悪の気分よ……」

アリアは俯いたまま、唇を噛み締め、拳を握りしめている。
高千穂麗とは、特別親しい間柄というわけではなかった。
しかし、あかりを通じて交流する機会は少なくなかったし、同じ武偵として、共にこの殺し合いを打破したいと思っていた。
だからこそ、彼女の脱落は、彼女にとって、とても悔く辛いものであった。

それからもう一つ―――。
先の放送によって、アリアの中では、大きな懸念事項が生まれていた。
そして、それはオシュトルも察していた。

「だけど、今は新羅のことが心配ね……」

セルティ・ストゥルルソンの脱落―――。
新羅が彼女のことをどれだけ愛しているのかは、普段の彼の言動からも明らかであった。
愛する者の喪失―――、それが彼に何を齎すかは定かではない。
しかし、それが、ろくでもないことを引き起こすであろうということだけは、確信に近い予感があった。

「うむ……まずはヴァイオレット殿と新羅殿の元へと参ろう」

と、そこで、オシュトルはチラリと、彼の友人へと視線を向けた。
月彦と麗奈、茉莉絵はそれぞれ重苦しい表情を顔に張り付けながら、オシュトルとアリアの会話に耳を傾けていたが、臨也だけはいつの間にか明後日の方向を向いていて、その表情は窺い知ることはできなかった。
何にせよ彼の協力は必要だ、とオシュトルが臨也に声を掛けようとしたその瞬間―――。

ド ゴ ン !!

まるで大砲が炸裂したかのような衝撃音が鳴り響いた。
音の発生源は恐らく、新羅とヴァイオレットがいるはずの倉庫……。

その瞬間、チィッという舌打ち音が、未だ表情窺えぬ男から発せられたような気がした。


109 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:55:32 KYRbJiA20



「そうか、セルティは死んじゃったのか……」

テミスから彼女の名前が告げられた後の、新羅の第一声はそれだった。
感情のない声で呟き、特に泣いたり、怒ったりするような様子も見せず、天を仰いだまま、フラフラと歩き出した。

「……新羅様―――」

今の彼にとっては、ヴァイオレットの気遣う声も、天から降り注ぐμの歌声も、ただのノイズでしかない。
フラフラとした足取りで、しかし真っ直ぐに倉庫の中で跪き制止する巨人の元へと辿り着く。

「……っ!? 新羅様っ!!」

新羅が何をするか察したヴァイオレットは、地を蹴り、彼の元へと駆ける。
しかし、コックピットへと乗り込もうとする新羅の元へは、後一歩届かず。
彼女がアヴ・カムゥの肩口に着地した瞬間には、彼の姿は巨人の内部へと消えていく、古の兵器は稼働。
その巨腕を乱暴に払うと、ヴァイオレットの身体は呆気なく吹き飛ばされてしまった。

「……っ!!」
「ごめんね、ヴァイオレットちゃん。僕はこっち側に鞍替えすることにするよ」

空中でくるりと反転し、地面に着地し見上げてくるヴァイオレットに、新羅はあっけらかんとそう告げる。

「『どうして?』なんて野暮な事は聞かないでね?
ヴァイオレットちゃんも分かってるでしょ?」

振り返ってみれば、『世界』そのものを失った青年が、最終的に行き着く先など、想像するのは難しくなかった。
それでも、ヴァイオレットが新羅のアヴ・カムゥ搭乗に対して、反応が遅れてしまったのは、新羅が、思考を切り替える時間があまりにも早かったからというのと、彼女が取るべき行動の整理に時間を掛けてしまったことにあった。
ヴァイオレットは、手紙の代筆作業を通じ、新羅のセルティに対する途方もない『想い』に触れてしまった。だからこそ、セルティの死が告知された際に、どのように新羅に接すべきかという困惑と迷いがあったのだ。そして、それが致命的な隙を生んでしまった。

「僕は優勝して、セルティを取り戻す」

「……ですが、それは……」

新羅の決意に対し、ヴァイオレットは言い返そうとするが、言葉が続かなかった。
彼女は知っているから、痛感しているから。
大事な人と会えなくなる辛さを―――。
悩めるヴァイオレット目掛けて、巨人の腕から大剣が勢いよく振り下ろされる。
身に染みついている自己防衛本能に促されるまま、彼女は後方に飛び退き、これを躱す。
凄まじい衝撃音とともに、遺跡の床は大きな亀裂が入る。

「ヴァイオレットちゃんは、元軍人だったよね?
流石にすばしっこいね、凄い身のこなしだ。
『後悔先に立たず』とはよく言ったもんだね、こうなるんだったら、もっと、ちゃんとこれの訓練しておくべきだったよ」

はははと、無機質な声とともに、斬撃が風に乗り、唸りを上げる。
そこには、一切の感情が込められていない。
新羅はヴァイオレットに特別恨みがあるわけではない。
憎しみもない、怒りもない。
ただ純粋に「セルティに再会したい」という想いを原動力として、まるで事務仕事をこなすかのように、眼前の少女の命を摘もうとする。

そんな悪意のない殺意が、乱雑に振り回され、ヴァイオレットに襲い掛かる。
ヴァイオレットは、苦汁を嘗めた表情を浮かべながら、これを回避。
一転して反撃に転じるべく、手斧を構え、アヴ・カムゥの足元へと潜り込む。
狙うは脚部の破壊---勢いそのまま手斧を叩き込むが、ガキン!という金属音が鳴り響くだけ。アヴ・カムゥの装甲には傷一つ付かない。
続けて二撃三撃と繰り出すものの、結果は同じ。
ならば狙いを変えて関節部―――。ここならば装甲は覆われていないため、攻撃は通るはず。
関節部を目掛けて、手斧を振るうヴァイオレット。

「――させないよ……」

しかし、その狙いは読まれていた。
該当箇所に刃が到達するその前に、アヴ・カムゥは蹴りを繰り出し、ヴァイオレットの華奢な身体を吹き飛ばした。

「……カハッ!!」

大砲でも直撃されたかのような威力に、肺の中の空気が全て吐き出されるような感覚を覚えつつ、ヴァイオレットは宙を舞う。
なんとか空中で体勢を立て直し、着地をするも、巨剣が彼女を両断すべく差し迫る。
間一髪、横に飛び退いてこれをやり過ごすも、巨人はその体躯に似合わぬ速度で追撃を仕掛けてくる。


110 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:56:26 KYRbJiA20
ズドン!ズドン!
ズドン!ズドン!

凄まじい衝撃音が遺跡中に響き続ける。
倉庫の中は、穴だらけ。瓦礫まみれ。

ズドン!ズドン!
ズドン!ズドン!

そんな破壊の跡を残しながら、アヴ・カムゥは執拗にヴァイオレットを追い回す。
ヴァイオレットは、一撃必殺の凶剣を紙一重で避け続ける。己が身体に染み付く戦闘経験と超人的な身体能力を以って。

「すばしっこいね、ヴァイオレットちゃん……。
こっちとしては、後がつかえているから、早めに終わらせたいんだけど、さ」

「……ッ!!」

後がつかえている――その言葉の意味は明らかだ。
新羅はヴァイオレットを殺した後に、コンピュータルームにいるオシュトルとアリアの元へと赴き、二人を殺害するつもりなのである。

「……させません!」

―――もう誰も「いつか、きっと」を失ってほしくない。
ヴァイオレットは唇を噛み締めると、振り払われた大剣の一撃を躱す。
そして、超人的な反応速度で身を翻すと、その腕の関節部分に手斧を渾身の力で叩きつけた。
グサリと、肉を突き刺すような感触。

「ぐっ!?」

アヴ・カムゥ―――。否、新羅の口から、初めて漏れる苦悶の声。
アヴ・カムゥが受けたダメージはそのまま搭乗者にも同調される。
新羅もまた、自身の腕関節に肉を貫かれる灼熱の痛みを味わったのである。
初めて感じる神経伝達の痛み―――それにより、これまで休むことなく暴れ回っていたアヴ・カムゥの動きは静止する。
ヴァイオレットにとっては、千載一遇の好機。
彼女は素早く手斧を引き抜くと、今度は巨人の脚関節部分に向けて駆け出す

―――が。

轟ッ!!

この程度の痛みでは、彼の“愛”は止まらない。止まるはずがない。
一瞬だけ静止していたアヴ・カムゥはその活動を再開。
負傷していない方の腕を稼働させ、迫るヴァイオレットに拳を振り下ろした。

「っあ……!?」

咄嵯に回避行動を取るヴァイオレットだったが、完全とはいかない。
巨人の豪腕によって、彼女の身体は吹き飛ばされ、後方の壁へと激しく打ち付けられ、その口からは血反吐を零す。
消し飛びそうになった意識を、必死になって繋ぎ止め、ヴァイオレットは立ち上がろうとするも、アヴ・カムウは大剣を掲げ、とどめを刺しに駆けてくる。

(……少佐……!!)

差し迫る死を目前にして、ヴァイオレットの脳裏に浮かんだのは、彼女に名前と「愛してる」をくれた人の後ろ姿。
ヴァイオレットは無意識のうちに、首に下げているエメラルドのブローチをぎゅっと握りしめた。

―――刹那。

パァンッ!!!と、銃声が空間に木霊すると、ヴァイオレットにトドメを刺さんとしていた巨人は、片膝を屈した。

「……っ!?」

「そこまでよ、岸谷新羅!!
これ以上の暴挙は、私が許さない!!」

膝を屈したのも束の間、アヴ・カムゥはすぐに起き上がると、背後を振り返る。
そこには拳銃片手に、アブ・カムゥを睨みつける、アリアの姿があった。
黒光りする銃口からは、硝煙が立ち昇っている。
その様子から、新羅は、今しがた膝関節に生じた灼熱は、アリアによって撃ち抜かれたものによると認識した。

「ヴァイオレット殿、此方へ!!」

「……オシュトル様……」

アヴ・カムゥとアリアが対峙している間に、オシュトルはヴァイオレットの元へと駆け寄り、彼女に肩を貸す。
ちなみに、アリアが今所持している拳銃は元々彼の支給品であった。
この倉庫に向かう途中、適材適所ということで、オシュトルはアリアにそれを託している。


111 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:57:40 KYRbJiA20
「アリアちゃんに、オシュトルさんか……。
二人が来る前に、ヴァイオレットちゃんは片付けたかったんだけどなぁ」

アリアによって撃ち抜かれた膝の調子を試すように、屈伸をしながら、新羅は尚も無機質な声で呟く。

「こんな馬鹿なことを仕出かしたのは、セルティさんの為ね……?」

「うん、そうだよ」

「あんたがどれだけセルティさんの事を大事に思っていたかは知っているわ……、嫌という程聞かされたから……。
優しい人だってことも知ってる……だからこそ自分を蘇らせるために、あんたが殺人者になったって事を知ったら彼女は―――」

「無駄だよ、アリアちゃん―――」

懸命に説得を試みようとするアリアの言葉は、彼女の背後から現れた一人の男によって遮られる。

「君の言葉は決して、新羅に届かない」

折原臨也は、コートの両ポケットに手を突っ込んだまま、淡々と告げる。

「新羅にとっては、セルティと共にあることが絶対なんだよ。
逆にセルティ以外の人間に対しては、皆等しく無関心―――興味がない。
だからこそ、セルティと一緒にいる為には、他人を騙すことも、傷つけることも、殺すことも厭わないんだよね。
もっと性質(たち)が悪いことに、必要があれば、セルティにすら嘘を吐くし、傷つけるんだよ、新羅は。まったく、とんだ人格者破綻者だよ」

「っ!? 折原臨也っ!! あんたは―――」

説得を諦めろと諭してくる臨也に、アリアは激昂する。
しかし、臨也はそんな彼女を他所に、ズカズカと前進し、アヴ・カムゥの眼前に歩み寄る。

「やぁ臨也、まさか、こんなところで君と再会するとは思っていなかったよ」

「いつから、お前はロボットアニメの住人になったんだ、新羅?」

見上げる臨也。見下ろす新羅。
両者の間に流れる空気は、どことなく気安さを感じさせるものであったが、臨也がいつものように余裕ぶった笑みを浮かべることはない。
能面のように感情が読み取れない顔つきで、新羅を見上げ―――。
新羅もまたアヴ・カムゥ越し―――外からは表情窺い知れない状態にて、対峙するのであった。


112 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 21:59:55 KYRbJiA20



高坂麗奈は、ひたすらに混乱と恐怖の中で怯えていた。
その元凶は間違いなく、彼女の傍にいる『月彦』にあり、彼に対する絶対的恐怖により、麗奈は彼に服従せざるを得ない状況にある。

誰か助けて!と声高らかに叫びたい。
だけどそれは許されない―――。

今は元通りになっているけれども、一本ずつ折られた手の指の痛みが。
そして、壮絶な死に顔を晒したあげく、顔面を吹き飛ばされた少女の最期が。
恐怖という形で、彼女の身体に染みつき刻みこまれているから。

故に、臨也と茉莉絵の二人と出会った時も大人しくしていた。
だが、そこで麗奈は、自分の身体に刻まれた異変を改めて思い知らされる事になる。

食 べ た い

臨也と茉莉絵を見ていると無性に、そんな衝動に襲われてしまう事に……。
『月彦』に血を与えられ、鬼にされてから、身体が渇望しているのである。
人間の血肉を喰らいたいと―――。

その歪められてしまった本能を、必死に抑え込んだ。
事前に『月彦』に、「余計なことをするな、ただ私に従え」と釘を刺されていた手前、勝手な行動をするわけにもいかない。
そんな『月彦』に対する恐怖と、人間だったころの理性を以って、彼女は耐え続けた。

遺跡に到着後、オシュトルとアリアと対面した際も、彼女は思った。

食 べ た い

と。
全身に流れる血潮が、植え付けられた本能が、そう訴えてくるのだ。
だからこそ、グッと堪える。

―――我慢だ、我慢しないと……。

そう自分に言い聞かせながら、麗奈は皆と共に、オシュトルが発見したというレポートを閲覧する。
そして、その掲載内容から、主催者は、自分に覚醒者『006』という番号を割り当てていること、自分の身に何があったのかということを悟る。
『デジヘッド化』というものは良く分からないが、その発現を契機に、鬼の首魁である『007』こと『月彦』は、本来は弱点であるはずの太陽光を克服したということらしい。
自分が『月彦』に殺されずに、生かされているのは、ここに理由があると悟ると同時に、麗奈は改めて、自覚する。

―――私は、本当に化け物になってしまったんだ……。

と。

ゾワリと、絶望が全身に駆け巡るが、それでも何とか自我を保つ。
飢えと渇きも増々ひどくなってくる。だけど耐える。
全てをかなぐり捨てて、思いっきり叫びたい。だけど耐える。

耐える。
耐える。
耐える。

―――いつか、きっと、滝先生に振り向いてもらえるまで。
―――私が私である限り、私は……私の心だけは『高坂麗奈』であり続けなければ、ならないのだから。

そのように心で反芻しながら、麗奈はひたすら耐えた。

そんな中、臨也は、麗奈達にとある可能性を示唆してきた。
自分たちはμで作られたデータであり、偽物にすぎない可能性があると。

―――本当にそうだったら、ここにいる自分に滝先生が振り向いてくれることなんて絶対にない。
―――だとすると、今ここで必死に頑張って、抗って、苦しんでいる自分はどうなる?
―――絶望のドン底に陥っても、これっぽちない希望にしがみついている自分は一体なんなんだ?


113 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:00:52 KYRbJiA20
そんな不安と激情を押し殺して、麗奈は臨也に問いかけた。
本当に自分たちは紛い物なのか、と。
もしかすると、ここで自分の存在を全否定されて、止めをさしてもらって楽になってしまいたいという、ある種の救いを望んでいたのかもしれない。
しかし、臨也からの口からは明瞭な答えが出ることはなく、最後には「『高坂麗奈』で在り続けろ」と唆してきた。

グサリと、心が抉られたような気がした。

勿論、麗奈の現状を知る由もない臨也からすれば、悪意のない、ただの鼓舞のつもりで言ってきただけかもしれない。
しかし、それは麗奈にとって、「もっともっと生き地獄を味わえ」と傷口に塩を塗られるような言葉であった。

その後、第二回放送が終わると、遺跡内部に凄まじい破壊音が鳴り響いた。

聞けば、別部屋で待機している参加者の恋人が、放送でその名前を告げられたと、オシュトルとアリアは、言った。
そして、その参加者は今、ヴァイオレットと一緒にいて、今の衝撃音は、恐らくは……とバツが悪そうに、一同に説明する。

オシュトル達は、切羽詰まった様子でヴァイオレット達の元へ向かおうとした。
先程までは饒舌だった臨也も、事の重大さを悟ったのか不気味なほど静かになり、彼らに帯同することになった。
だから、麗奈も、その後に続こうとする。

―――そうだ、ここにはヴァイオレットさんがいる……

麗奈にとって、ヴァイオレットはこの殺し合いが始まって最初に出会った人間。真摯に自分の想いにも触れてくれた、紛れもない善側の人間、心がぐちゃぐちゃに掻き乱されている麗奈にとっては、唯一の心の拠り所とも言えるかもしれない。
彼女と再会することで、自分の窮状が少しでも好転するのかもしれないかという、根拠のない期待が彼女を突き動かそうとする―――。

「いえ、我々はここで待機しましょう」

が、それも『月彦』が手で制してきて、止められてしまう。

「な、何で―――」

思わず、声を荒げそうになるが、途端に『月彦』が目を細めて、睨みつけてくる。

「……っ」

その眼光に射抜かれて、麗奈は恐怖のあまり黙ってしまう。

―――怖い。この人に逆らうのが、何よりも、怖い。

「アリアさん達と違い、我々はただの一般人で、戦う術を知りません。
いたずらに加勢しても、皆さんの足手纏いになるだけです。
であれば、私と麗奈さん、それに……茉莉絵さんあたりはここに残っておいた方が賢明でしょう」

そのように言って、『月彦』はオシュトル達、そして、茉莉絵に視線を送る。
オシュトル達は頷き、茉莉絵も少しだけ考えた素振りをしてから、同意を示したのであった。


114 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:02:00 KYRbJiA20
「―――あのぉ……高坂さん、大丈夫ですか?
先程から、顔色が優れないご様子ですが……」

オシュトル、アリア、臨也の三人の背中を見送った後、コンピュータルームに取り残されたのは、『月彦』、茉莉絵、麗奈の三人。
そんな中、ふと、茉莉絵が心配そうに麗奈の顔を覗き込んできた。
頼りの綱のヴァイオレットとの再会も絶たれてしまった手前、麗奈は動揺を隠すこともできずにいた。

「あ、ああ、うん、平気……。ちょっと疲れているだけだから……。気にしないで……」

---駄目、これ以上私に近づかないで

辛うじて笑顔を取り繕おうとするが、上手く笑えたかどうか分からない。
そんな彼女の心境を知ってか知らずか、茉莉絵は更に距離を詰めてくる。

「高坂さん、ヴァイオレットさん達が心配なんですよね……。
私も同じ気持ちなのですが……折原さんはともかく、オシュトルさんとアリアさんは、とても強い人たちだと思います。きっと無事に帰ってきてくれますよ……。
だから、元気を出してください。ね?」

そう優しく語り掛けながら、麗奈の手を握ってくる。
その瞬間、麗奈は反射的にビクッと身体を震わせる。

―――駄目、お願いだから、もうやめてよ。そうしないと……。

麗奈の心は既に限界を迎えていた。
自制心はもはや崩壊寸前。懸命に抑え込んでいた衝動が、今にも爆発してしまいそうになっていたのだ。

食 べ た い

目の前にいる少女を喰らい尽くしたいという欲求が溢れ出してくる。
鬼としての本能が、抑えきれないくらいに膨れ上がってくる。
その感情に負けないように必死に堪える。
だが、その均衡も長くは保たなかった。

「高坂さ---うぐっ!?」

次の瞬間、麗奈は無意識のうちに茉莉絵を抱き寄せると、その左肩に喰らい付いたのである。

ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ……。

鬼特有の発達した咬合力で、肉を噛み千切り咀躙する音が周囲に響き渡る。

「い、痛いっ!こ、高坂さ―――ひぎぃっ!」

麗奈は、まるで何かに取り憑かれたかのように、無我夢中で、茉莉絵の肩の肉を貪り、血を啜っていた。

---ああ、美味しい

血肉が喉を通る度に、全身に活力が沸いていくような感覚を覚える。
それと同時に、今まで感じたことの無い高揚感に包まれる。
もっと味わいたい。もっと飲みたい。
もっと、もっともっと……。
そんな欲望が全身を支配する。
そして、次なる部位へと狙いを定めるべく、麗奈は茉莉絵の首筋に牙を立てようとした。
が、その瞬間---。

ヒュン!

と風を切る音が轟いたかと思うと、ベチャリと肉が飛び散る音ともに、麗奈の身体は壁に叩きつけられて、床に倒れ伏していた。
一瞬何が起こったのか分からず、呆然としていたが、顔を上げるとそこには肩から触手を生やし、麗奈を睨みつける『月彦』の姿があった。

「……愚図が……。誰が食事を許可した?
私は勝手な行動をするなと言ったはずだ……。
それすら理解できないか?無能が……」

『月彦』が蔑むような目つきで見下ろしながら、麗奈に言い放つ。
ポトリポトリと、麗奈は、自分の頭から何かが滴り落ちるのを感じる。
それは麗奈の脳髄の一部。『月彦』が放った一撃により、麗奈は顔面左上部を吹き飛ばされたのである。


115 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:02:26 KYRbJiA20
「……ぁ……ぅ……ぁ……っ……!!」

激痛と共に意識が覚醒する。
今の麗奈は鬼。例え頭を吹き飛ばされたとしても再生はする。
事実、欠損した頭部は再生し始めている。
それでも痛みとショックで涙が流れ、全身が震える。
そんな彼女に、『月彦』は「大人しくしていろ」と言い放ち、茉莉絵の方へと視線を向ける。

「ハァハァ……、正体現しやがったなぁ……糞共が……っ!!」

「ふん……そういうお前も姿を偽っていたと見えるが―――」

齧られた部位を手で抑え、肩で息をしながら、茉莉絵はいつのまにかその姿を変貌させていた。
そこにいるのは、お下げを靡かせた、殺し合いの場に似つかわない真面目な少女ではない。
髪はボサボサで、着込んだ制服も無駄に開けさせた『魔女』の姿がそこにはあった。
しかし、そんな茉莉絵の変貌に、『月彦』は一切動じる様子もない。

「私としては、お前の正体、お前が何を企んでいるなど、一切興味がない。
早々に実験体になってもらおう」

「何訳わかんねえこと、ほざいてやが―――!?」

『魔女』が『月彦』に飛び掛かるより先に、『月彦』は機先を制した。
目にも止まらぬ速さで動き、彼女の背後に回り込んだのである。
回避行動を取ろうとした茉莉絵だったが、それよりも先に『月彦』は彼女の首根っこを掴むと、その首筋に指を突き刺した。

ズブリ

「――あぐぅっ!!? てめえ、何をっ……!?」

「言ったはずだ、実験体になってもらうと……。お前にはこれから私の血を流し込む」

「ふざけん……あぐうっ!?」

茉莉絵が抵抗しようとするが、それを許さず、『月彦』は彼女の体内に自分の血液を送り込んでいく。
それに伴い、ビクリビクリと彼女の身体は激しく痙攣し始める。
そして数十秒ほど経過した後、『月彦』が手を離すと、茉莉絵はドサリとその場に倒れた。意識を失ってはいるものの、まだ痙攣を続けている。
そんな彼女の髪を引っ張り上げ、その身体を引き摺り、『月彦』は、未だ部屋の隅で縮こまる麗奈の元へとやって来る。

「……ぁ……ぅ……!」

弱弱しく怯える麗奈に、『月彦』は有無を言わせぬ口調で、告げる。

「―――移動する。私について来い」

それだけ言うと、『月彦』は茉莉絵を引きずりながら、コンピュータルームを出て行く。
麗奈はというと、黙って彼の後を追うことしかできなかった。


116 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:02:54 KYRbJiA20



破壊の痕跡際立つ倉庫内。
ヴァイオレットが、オシュトルが、アリアが、固唾を飲んで見守る中で、臨也と新羅の二人は対峙する。
お互いを「友人」と認める二人の間に、割り込む無粋な者はいない。
それを許せないという空気が漂っているからだ。
先程まで臨也を非難していたアリアですら、その空気を察し、口を噤んでいる。

「静雄がさ―――」

「はあ? 何でいきなりシズちゃんの名前が出てくるんだよ?」

天敵の名前を出されて、途端に眉を潜ませる臨也。
そんな彼に構わず、新羅は「まあ聞いてよ。」と話を続ける。

「静雄がさ、昔僕に言ったんだ―――。
もしも僕が『愛する人』のために人殺しをするような極悪人になったら、『俺がその女の代わりに空高くぶっ飛ばしてやるから安心しろ』ってさ」

「……それを俺に言って、新羅はどうしたいんだ?……」

「いやさぁ、折原君だったらどうするのか?って思ってさ。
現に君は今、セルティのために殺し合いに乗った僕の前にいるし」

「何だそんな事か―――。」

やれやれといった感じで肩をすくめると、臨也は呆れた表情のまま新羅に告げる。

「俺は何もしないよ、ただ見届けるだけだ。」

人間の人格というのは、周囲の環境に影響を受けながら形成されていると言われている。
周囲の環境―――それは一般的には、身近な人間「家族」や「友人」が該当されるが、折原臨也の人格に多大な影響を及ぼしたという点において、新羅は間違いなく、臨也の「友人」という括りにカテゴライズされるだろう。
しかし、二人の関係は、静雄が新羅に示したような「お前が間違った方向に進んだなら、ぶん殴ってでも更正させてやる」といった青春劇のような熱いものはない。
だからこそ、臨也は冷え切った口調で答える。

「先にセルティが死ぬことがあれば、新羅がそっち側に行くのは、分かり切っていたことだ。
新羅がそれを曲げることは万に一つもあり得ないだろ?
ならば、俺は、せいぜいそれを見届けさせてもらうだけさ」

折原臨也は、人間を愛している。
様々な事象に直面したときに、人間がどんな反応をするのか、どんな行動をするのか、その果てにどのような末路を辿るのか、興味が尽きない。
だが、今回の新羅が選択した行動については、臨也にとっては全く予定調和の出来事であり、面白みの欠片も感じることはなかった。
ネタバレされている物語を見て、ワクワクできるかといえば、そうではないのと同じだ。
だから、この新羅の行動に関して、臨也が抱く感想は、「ああ、やっぱりね」という程度のものであった。

「うんうん、折原君らしいね。じゃあさ、見届けるついでに、僕に殺されてくれるのかい?」

「それは御免だね、俺はまだまだやりたいことがあるし……少なくとも、こんなつまらない場面で死にたくないからね。
ここにいる皆と一緒に抵抗はさせてもらうさ」

観察の対象として、今の新羅はこれっぽちも面白くない。
だが、彼の周囲の人間……アリア、オシュトル、ヴァイオレットが、殺し合いに乗った新羅を前に、どのような行動を取るかについては興味がある―――そういう大義名分で自分を納得させ、臨也はこの場所に来ていた。

「そうかい、じゃあこれから、僕たちは殺し合うことになるんだね」

「そういうことになるな」

「臨也」

穏やかな声が、巨人の中から発せられた。

「……なんだい?」

聞き返す臨也。
新羅はやはり穏やかな声で、その言葉を口にする。

「……じゃあね」

それが、「友人」として送られる最後の言葉。別れの言葉。

「……。」

瞬間―――。臨也は、自分の内より“何か”が込み上げてくる感覚を覚えた。
だが、それも束の間、能面の表情を保ち、一言だけ返す。

「ああ、さよならだ」

別れの挨拶を皮切りにして、殺意は芽吹き――。
全てを抹殺すべく――。

巨人は動き出すのであった。


117 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:03:33 KYRbJiA20
【E-4/大いなる父の遺跡・倉庫内/日中/一日目】
【岸谷新羅@デュラララ!!】
[状態]:健康、アヴ・カムゥ搭乗中
[服装]:白衣
[装備]:まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2
[道具]:基本支給品一色、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0〜1
[思考]
基本:優勝して、セルティと一緒に帰る
0:優勝するために、まずは臨也達を殺す
1:目につく参加者を殺していく、セルティは怒るだろうなぁ……
2:ヴァイオレットちゃんを殺したら、書きかけの手紙だけはもらっておこうかな
3;アヴ・カムゥの操縦にはもう少し慣れたい
4:桜川君の人体とブチャラティの『スタンド』に興味。ちょっと検査してみたい
5:ジオルド、流竜馬、仮面の剣士(ミカヅチ)を警戒
[備考]
※ 九郎、ジオルドと知り合いの情報を交換しました。
※ アリア、ブチャラティと知り合いの情報を交換しました。
※ 画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。
※ オシュトル、ヴァイオレットと知り合いの情報を交換をしました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ アヴ・カムゥの基本操縦は出来るようになりました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。

【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:疲労(中)、全身強打、言いようのない不快な気分
[服装]:普段の服装(濡れている)
[装備]:
[道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数6/10)、不明支給品0〜2
[思考]
基本:人間を観察する。
0:目の前の状況に対処。新羅を見届ける。
1:『レポート』の内容は整理したいね
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
3:茉莉絵ちゃんを『観察』する。彼女が振りまくであろう悪意に『人間』がどのような反応をするのか、そして彼女がどのような顛末を迎えるのか、非常に興味深い
4:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だなぁ
5:平和島静雄はこの機に殺す。
6:『月彦』さんと麗奈ちゃんを『観察』する。何を隠しているんだろうね。
7:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。
8:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。 何が目的なんだろうね?
9:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃に興味。
[備考]
※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。
※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※ Storkと知り合いについて情報交換しました。
※ Storkの擬態能力について把握しました
※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。

【神崎・H・アリア@緋弾のアリアAA】
[状態]:疲労(中)
[服装]:武偵高の制服
[装備]:竜馬の武器だらけマント@新ゲッターロボ、IMI デザートイーグル@現実
[道具]:不明支給品0〜2、キースの首輪(分解済み)、キースの支給品(不明支給品0〜2)、カタリナの布団@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 北宇治高等学校職員室の鍵
[思考]
基本:武偵としてこの事件を解決する。
0:新羅を止める。殺人は絶対に認めないわ
1:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
2:遺跡探索の後、静雄との合流を目指して北上。最終的には池袋駅でブチャラティ達と合流する。
3:あかり、高千穂、志乃、ジョルノ、カナメ、シュカ、レイン、キースの知り合いを探す。
4:佐々木志乃が気がかり……何やってんのよ……。
5:流竜馬、仮面の剣士(ミカヅチ)を警戒
6:フレンダに合流したら、問い詰める
7:『ブチャラティ』が二人……?
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも高千穂リゾート経験後です。
※ 九郎、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※ 新羅から罪歌についての概要を知りました。
※ オシュトル、ヴァイオレットと知り合いの情報を交換をしました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。


118 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:03:58 KYRbJiA20
【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:健康、疲労(小)、強い覚悟
[服装]:普段の服装
[装備]:オシュトルの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、童磨の双扇@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一色、工具一式(現地調達)
[思考]
基本:『オシュトル』として行動し、主催者に接触。力づくでもアンジュを蘇生させ、帰還する
0:目の前の状況に対処。最悪、新羅の殺害も辞さない。
1:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
2:『レポート』の内容は整理しておきたい
3:クオン、ムネチカとも合流しておきたい
4:マロロ、ヴライを警戒
5:ゲッターロボのシミュレータについては、対応保留。流竜馬とその仲間を筆頭に適性がありそうな参加者も探しておきたい。
6:殺し合いに乗るのはあくまでも最終手段。しかし、必要であれば殺人も辞さない
7:『ブチャラティ』を名乗るものが二人いるが、果たして……。
8:誰かに伝えたい『想い』か……。
[備考]
※ 帝都決戦前からの参戦となります
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換をしました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『003』がミカヅチであることを認識しました。

【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
[状態]:健康、全身ダメージ(中)
[服装]:普段の服装
[装備]:手斧@現地調達品
[道具]:不明支給品0〜2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ)
[思考]
基本:いつか、きっとを失わせない
0:目の前の状況に対処。新羅様……。
1:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。
2:麗奈と再合流後、代筆の続きを行う
3:手紙を望む者がいれば代筆する。
4:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。
5:ブチャラティ様が二人……?
[備考]
※参戦時期は11話以降です。
※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換をしました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。


119 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:04:48 KYRbJiA20



苛立ち、疑念、不信。
遺跡に到着してからというもの、『月彦』こと鬼舞辻無惨の胸中は、そういった負の感情が溢れ返っていた。
道中出会った臨也が、何かと馴れ馴れしい口調で、こちらを探るような言葉を向けてきたことも、彼の機嫌を損ねる一因とはなっていたが、そこはまだ我慢できる範疇だ。
しかし……。

(下女どもめが……!!
一体誰を測ろうとしているのか、弁えているのか……!!)

ビキビキ―――。

思い返すだけでも、額に青筋が浮かびあがる。
主催者側が用意したとされる『レポート』の内容は、彼にとって許し難いものであった。
あの主催の女どもは、限りなく完璧に近い存在である自分を、あろうことか実験動物のように番号を割り振り、飼育日記でもつけるかのように見下し、観察しようとしているのだ。
これほどの屈辱は、彼の長きに渡る生命活動において味わったことがない。

臨也達は、自分達が主催者によって創られた存在の可能性について、言及していたが関係ない。
無惨にとっては、今ここにいる自らの存在こそが絶対であり真実なのだから。

(ただでは殺さない…然るべき粛清を貴様らにくれてやる……)

憤怒の形相を浮かべながら、無惨は遺跡の出口へと歩を進める。
彼に髪を掴まれ、ボロ人形の様に引き摺られているのは、水口茉莉絵……又の名をウィキッド。意識を失い、されるがままの状態である。
その後ろを麗奈がおずおずとついてきている。

やがて、遺跡を出て、開けた森へと差し掛かったところで―――。

「……うっ……てめぇ……!!」

無惨に引き摺られていたウィキッドが、意識を取り戻した。

「目を覚ましたか、小娘」

怒りに満ちた眼光を向けるウィキッドに対して、無惨は意にも介さず、彼女の肩口を検分。
麗奈によって、食いちぎられたはずの部位は何事もなかったかの様に再生していた。

「ふむ……そこの無能に喰われた傷は癒えている。
素体の完成というわけか」 

無惨の言葉通り、水口茉莉絵ことウィキッドは生まれ変わっていた。
高坂麗奈と同様に、混入された『鬼の王』の血に見事適応し、人智を超えた存在『鬼』へと変異したのである。

しかし、何故鬼を増やすことに消極的だった無惨が、ウィキッドを鬼にしたのだろうか?
それは、先にも無惨が言った通り、実験体の確保―――これに尽きる。
先のレポートの記載によれば、無惨と麗奈は鬼でありながらも、デジヘッド化に伴い、麗奈の発現した回復能力により、太陽光によるダメージを克服できているとされており、自らの身に起きた異変を完全に把握するためには、この『デジヘッド化』とやらが何なのかを洗い出していく必要があると、無惨は認識している。
しかし、その前に彼は、レポートの信憑性について改めて確信を得たかった。
既に無惨自身が実際に陽を浴びて、ダメージを受けていなかったことを鑑みるに、一見筋は通っているかのように見える。

だが、しかし。

―――もしも、この殺し合いの会場で、参加者を照らしているあの陽光が偽物だとしたら?―――そもそも、最初から通常の鬼を死滅させるに足りない代物だとしたら?

レポートに記載されている内容の前提は大きく崩れ、その信憑性は疑わしいものになる。

鬼舞辻無惨は、こと自分という存在にまつわる事柄に関しては、極めて慎重だ。
それでいて、参加者間に不信と混乱を煽るために運営側が意図的に虚偽の情報を流している可能性を臨也が示唆していたのもあってか、彼はレポートの内容に大きな不信と疑念を抱いていた。

だからこその検証。だからこその実験。

―――この会場でも、太陽光を浴びると鬼は死滅する。

この大前提の確信を得るために、遺跡内で騒動が起こった際、『月彦』は尤もらしい進言を行い、彼女を連中から分断―――そして、新たな鬼を誕生させた。
忠実なる眷属としてではなく、使い捨ての実験体として。

全ては彼の描いた筋書き通りに、事は進み―――。
残すところは、この脆弱な生贄を陽光のもとに晒して、死滅するかどうかを確認するのみ。


120 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:05:15 KYRbJiA20
「こんの――「黙れ」

ジタバタもがこうとするウィキッドの身体を、宙に放り投げると、背中から生やした触手を射出。
風を切る音とともに、その身体を串刺しにする。

「ぐっ……ああぁああっ!?」

絶叫。
血反吐をまき散らしながら、悲痛な叫び声をあげるウィキッド。
空中で串刺し状態のまま身を捩る彼女に対して、無惨は冷たい視線を浴びせながら、さらに数本の触手を伸ばして、彼女の四肢を貫かんとする―――。

「ざっけんじゃねえええぞッーーー!!」

だが、そう易々と攻撃を許さんとばかりに、ウィキッドは爆弾を顕現させると、それを無惨目掛けて投げつけた。
ドゴォン!! 爆発。
爆風が巻き起こり、周囲の木々が大きく揺れ動く。

「忌々しい……!!」

ウィキッドを拘束していた触手と、射出された触手は、爆炎によって爆ぜる。
苛立ちを募らせる無惨。
ある程度の抵抗は予想していたが、まさか異能による爆撃は想定外であった。
一方で、ウィキッドは地面に着地すると、すかさず次の攻撃へ転じるべく、腕を振るう――。

「ハァハァ……お前、私の身体に何しやがったぁああああ!?」

無数の爆弾を次々に投擲しながら、ウィキッドは吼える。
彼女も自身の身体の異変に気付いていた。
無惨に貫かれはずの傷口は、いつの間にか塞がっており、それどころか全身に力がみなぎってくる。
それはまるで、何かの細胞が増殖し、身体が作り替えられているかのような感覚。
そして、身体の奥底から湧いてくる強烈な飢餓感―――。

「てめぇが……てめぇが私をこんな風にしやがったんだろぉがあああああ!!!」

怒りと憎悪に満ちた表情を浮かべながら、ウィキッドは爆弾を次々投げつけていく。
まるで空襲のように、止めどない爆音が鳴り響き、辺り一帯が吹き飛んでいく。
魔女による爆炎は無惨にも及び、彼の身体の一部を吹き飛ばす。無論、鬼の王は、この程度の攻撃では死ぬはずがない。
欠損した部位はすぐに再生し、何事もなかったかの様に無惨は爆炎から遠ざかる。

「図に乗るなよっ、実験動物風情がぁ……!!」

悪態をつきながら、触手を以って反撃に転じる無惨。
しかし、ウィキッドは鬼化によって過剰強化された知覚を以って反応。これを爆撃を以って吹き飛ばす。
一見すると無惨にはダメージはない。しかし、ウィキッドと交戦を続ける中で、無惨の立ち振る舞いからは余裕が消えていく。

身体能力が飛躍的に向上したとはいえ、『魔女』のそれは、鬼の王に到底及ばない。無惨がその気になれば、一瞬で彼女を絶命させられるだろう。
にもかかわらず、無惨はそれを行わない。折角確保した実験素体を無碍にするわけにはいかないからだ。故に力を加減する、力余って貴重な素体を失わないためにも。

そして、無惨が攻めあぐねるのには、もう一つの理由がある。
それは―――。

(―――何だ、この女の攻撃は……)

ただ爆炎に飲まれて、身体を吹き飛ばされ、焼かれるだけであれば、無惨にとっては脅威たり得ない。
威力だけであれば、産屋敷邸で喰らったあの爆撃よりもはるかに劣る。
しかし、ウィキッドの繰り出す爆撃には物理的なものではない、何か別の性質が付与されていた。攻撃を受けるたびに生じる、異質な痛み――。
それは、無惨がこれまで味わったことのない未知の苦痛であり、彼を混乱させるに足るものであった。


121 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:06:28 KYRbJiA20
「おらぁッ、とっと死ねよ!!」

無惨の攻勢が緩まった隙を見て、ウィキッドの攻撃は更に苛烈なものへとなっていく。
当人達があずかり知らぬところではあるが、彼女の攻撃が無惨にもたらすものは、肉体的な損傷だけでなく、精神的な動揺を誘発させるものであった。

それは、無惨がデジヘッド化しているが故の現象―――。
μが構築したメビウスで繰り広げられる戦いは、基本的に物理干渉が発生しない、精神世界における闘争である。
『帰宅部』及び『オスティナートの楽士』の繰り出す攻撃は、元来はこの精神干渉の原則に則ったものであり、精神世界に身を投じていない者には通じず、この殺し合いの場において、メビウス以外の参加者に対しては有効打とは成り得ない。
故に、カタルシスエフェクト及び楽士の能力に対しては、主催者の計らいで、物理干渉の性質を帯びるよう調整されている。
だが、これはあくまでも付加処置であり、元来の精神干渉の性質が取り除かれたことを意味しない。
仮に、『帰宅部』や『オスティナートの楽士』以外に、メビウスの法則に則るような存在が現れることがあれば、その人物に対する攻撃は、物理面・精神面の双方から有効なものと成り得る。

故に、メビウスの法則に準ずるデジヘッドとなった無惨には、ウィキッドによる精神攻撃は有効に機能しているのだ。

「チィッ……!」

不可解な攻撃の影響により、無惨の脚が鈍る。
そして、ウィキッドの放つ爆弾を回避しきれず、無惨はその身に被弾する。
肉体はすぐに再生する、しかし、その度に走る精神への苦痛で、顔を歪める。

「きゃはははははッ!!さっきまでの威勢はどうしたんだよォオオッ!!」

『魔女』にとって、他人の不幸は蜜の味。
無惨の苦悶の表情を目にし、ウィキッドは狂喜乱舞。
彼の苦々しい顔を見るたび、愉悦と優越感に浸りながら、更に爆撃を叩き込もうとする。
しかし――。

「調子に―――」

プツン!
無惨の中で何かが切れた。

「乗るな、小娘ぇえええええええええッーーー!!」

堪忍袋の緒が切れたか。
無惨は怒号と共に、これまでとは比較にならないほどの速度で触手を射出。

「……あっ?―――」

瞬間、無数の触手がウィキッドの腕を、脚を、腹を、胸を――全身を貫いた。

「ガハッ……」

『魔女』は吐血。
無惨の触手は、ウィキッドの身体に突き刺さったまま、その動きを止める。

「はぁ……はぁ……」

無惨は肩を大きく上下させ、呼吸を整える。
もう一本の触手はウィキッドの眼前で静止しており、彼女の頭部を破壊するまでは至らなかった。
貴重な素体を無駄に殺さないため、無惨はギリギリのところで思い留まったのだった。

「ぐっ……ああぁっ……!?」

口から大量の血が溢れ出し、苦痛に顔を歪めるウィキッド。
しかし、その眼光は死んでいない。
無惨を射抜くような視線を浴びせながら、その手に爆弾を顕現させる。

「殺してやるよ……テメェだけは……絶対にぃいい!!」

「無駄だ」

無惨の触手が振われると、爆弾握るウィキッドの手は弾け飛んだ。

「ッ……!?」

「不愉快だ、何故私がお前の様な下賤な輩に時間を割かねばならない?」

「て……めえ……!!」

ウィキッドを肩から触手で貫いたまま、無惨はゆっくりと彼女の身体を運んでいく。
ウィキッドも、どうにかともがくが、脱出は叶わず。

「私の血に適合し、鬼になった者は人間を超越した力を手に入れことになる。
だが、その反面、致命的な弱点も露呈する―――」

「な、にを……ほざいて……」

苦しそうに声を漏らすウィキッドだが、無惨が彼女の言葉に耳を傾けることはない。
やがて、木漏れ日照らす場所の前へと辿り着くと、彼女の身体を陽光の下へゴミの様に放り投げた。
ウィキッドは無様に地面を転がった後、うつ伏せの状態で陽光に晒される。

「その弱点こそ、太陽光だ。貴様は精々苦しみながら死んでいけ」


122 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:07:07 KYRbJiA20
これでウィキッドが死滅すれば、あのレポートの信憑性を得られる―――。
そこから先の行動方針についても、大方定まる―――。
処刑宣告とともに、無惨はウィキッドの最期の瞬間を、見届けようとする。

「……そうか、つまりは……あんたらが……あのレポートに載っていたデジヘッドってことか……」

「―――な、に……?」

目を見開く無惨。
太陽光に晒されても、ウィキッドの身体が塵芥となって消滅することはなかったのである。
傷だらけの身体で、ウィキッドは無惨の元へと地を這う。
その顔に、獰猛な笑みを張り付けて―――。

「どうやら……あんたの目論みは失敗したみたいだな……。
見てみろよ、私はまだ生きてる……」

鬼化したウィキッドが、太陽光を浴びても死滅しなかった理由―――。
それは、無惨の後方に控える高坂麗奈―――彼女の存在にある。
デジヘッド化に伴い彼女が発現させた回復能力は、同じくデジヘッド化した無惨に効力を発揮し、彼の回復能力を向上させ、太陽克服へと繋がった。
この回復能力は、無惨のみあらず、彼女の周辺一帯に展開されるが、全ての参加者が回復の恩恵を受けられる訳ではない。
回復効果は、精神干渉を経てから、肉体へと還元されるようになっている。
つまりは、デジヘッド化した無惨のように、まずはメビウスの法則に準じた媒介―――精神干渉の効果を享受するための環境が必要となる。
であれば、『オスティナートの楽士』の能力(精神干渉の力)を行使するウィキッドも例外とはならない。
彼女は楽士の能力を発現することで、意図せずして、麗奈の回復能力の恩恵を得ていたのである。

「……どういうことだ……」

しかし、無惨はそのような事実を知る由もない。

――何故、死なない?
――奴は確かに鬼になったはず
――では、なぜ死なない? あの太陽光は贋作で、鬼を死に至らしめないということか?
――だとすれば、あの『レポート』とやらは運営の女狐どもによる罠か?
――私が太陽光を克服したというのは見せかけか?
――それとも、この娘も太陽を克服したというのか?
――まさか、竈門禰󠄀豆子のように、太陽を克服した個体だとでも言うのか?
――馬鹿な…そんな都合良く、太陽を克服する個体が生まれるものか!

混乱する無惨。
次々と疑問が浮かんでは消えていく。
そんな無惨の思考を遮るように、ウィキッドは言葉を紡いでく。

「きゃはははははっ、ざまあみろバーカ!!
私のこと『実験体』とか吐かして、勝手に見下してたけどさぁ、お前『デジヘッド』じゃん!!
良い歳こいて、自分の感情もコントロールできない洗脳人形に陥るとか、ダサすぎて鳥肌立つわぁ〜!!」

「―――っ!?」

瞬間、無惨は理解した。
この女は『デジヘッド』とやらを知る環境に身を置いていたのだと―――。
そして推測する―――鬼化したこの女が太陽光を浴びてなお、生き長らえているのも、その影響によるものであると――。
ならば話は簡単だ。

刹那。
無惨は無数の触手を放ち、地べたを這いずるウィキッドの四肢を切断する。

「があぁあッ……!?」

達磨状態になって、激痛に呻くウィキッド。
そんな彼女に、無惨は冷たく言い放つ。


123 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:07:51 KYRbJiA20
「―――話せ。『デジヘッド』とは何だ?」

どちらにしろ、この女は殺す。
だがその前に、何としてでも、この女から『デジヘッド』の情報を聞き出す――。
それが今の無惨にとって、最優先事項であった。

「知っていることを全て話せ、洗いざらい全てを……。
これ以上痛い目に遭いたくなければな」

それだけ告げると触手をウィキッドの身体目掛けて、ハンマーの様に振り下ろす。

グチャリ
グチャリ
グチャリ

肉が弾け、骨が砕ける音が、森の中に木霊する。
無惨は、何度も触手を叩きつけ、ウィキッドの身体を破壊する。
だが、ウィキッドはというと―――。

「……きゃはははははははっ、誰が話すかよ、ワカメ頭ァッ!!」

全身から伝う激痛も何のその。
潰され、切断された身体を再生させながら、口角を吊り上げるウィキッド。
ギラついた眼差しで、無惨と、そしてその後方で、案山子のように棒立ちしている麗奈を睨みつける。

「殺してやる……!!お前ら、二人とも殺してやるからなぁ!!」

まさに不屈の殺意。
執念めいた怨恨の言葉を口にするウィキッドに、麗奈は思わず後退る。
一方、無惨はというと、全く動じる様子もない。
不快な害虫を見る様な眼差しで、ウィキッドを冷ややかに見下しつつ。
再生中の彼女の身体を再度破壊せんと、触手を振り上げた。

――その時だった。

「―――おいおい、弱い者いじめは感心しねえな……」

二人の間に、一つの影が飛来し、両者を隔てる。

「「――っ!?」」

ザ ン ッ !!
影は勢いそのままに、無惨の触手を切り裂いた。

「――何だ、貴様は……?」

ビキビキビキ
顔面に青筋を立てながら、無惨は即座に攻撃の主へと視線を向ける。
そこに居たのは――。

「いやなに、通りすがりの"業魔"だ」

闘争の匂いに誘われ、現れた一人の漢。
その手に持つは、銀色に輝く双剣。
新たに見つけた獲物を相手に、不敵な笑みを浮かべ―――。
ロクロウ・ランゲツは戦場に降りたつのであった。


【E-4/大いなる父の遺跡・入り口付近/日中/一日目】
【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:健康、頬に裂傷、疲労(中)、全身ダメージ(中)、反省、感傷、無惨への興味
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2 チョコラータの首輪@バトルロワイアル
[思考]
基本:シグレ及び主催者の打倒
0: 目の前の男(無惨)に強い興味。
1: 手に入れた首輪を『大いなる父の遺跡』にいるオシュトルの元へ届ける
2: シグレを見つけ、倒す。
3: 號嵐を譲ってくれた早苗には、必ず恩を返すつもりだが……
4: ベルベット達は……まあ、あいつらなら大丈夫だろ
5: 殺し合いに乗るつもりはないが、強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
6: シドー、見失ってしまったが、見つけたら斬る
7: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
8: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。


124 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:08:43 KYRbJiA20
【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:鬼化、楽士の姿、両手両足欠損(再生中)、身体に無数の傷(再生中)、食人衝動(小)、疲労(極大)、カナメへの怒り(中)、無惨と麗奈への殺意(極大)、臨也への苛立ち、麗奈の回復スキルにより回復力大幅向上
[服装]:いつもの制服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[思考]
基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ
0:目の前の状況への対処。
1:無惨と麗奈は絶対殺す。
2:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。
3:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。
4:金髪のお坊ちゃん君(ジオルド)は暫く泳がすつもりだが、最終的には殺す。
5:舐めた真似してくれたカナメ君には、相応の報いを与えたうえで殺してやる
6:暫くは利用していくつもりだが、臨也はやはり不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。
7:私を鬼にしただぁ?ふざけんなよ、ワカメ頭が。
[備考]
※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。
※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。
※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読んでおり、覚醒者『006』は麗奈、『007』は無惨が該当すると認識しております。

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)、月彦の姿、デジヘッド化(無自覚、浸食率低め)、麗奈の回復スキルにより回復力大幅向上
[服装]:ペイズリー柄の着物
[装備]:シスの番傘@うたわれるもの 二人の白皇(麗奈の支給品)
[道具]:不明支給品1〜3、累の首輪、鈴仙の首輪、オスカーの首輪
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない
0:目の前の男に対処。私の邪魔をするな。
1:太陽克服のカラクリを究明するため、ウィキッドから『デジヘッド』の情報を吐かせる。
2:私は……太陽を克服したのか……?
3:麗奈は徹底的に利用する。まずはこいつの能力の詳細を確認し、太陽克服のカラクリを探る。問題ないようであれば、麗奈を吸収することも視野にいれる。
4:昼も行動するため且つ鬼殺隊牽制の意味も込めて人間の駒も手に入れる(なるべく弱い者がいい)。
5:逆らう者は殺す。なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。
6:もっと日の光が当たらない場所を探したい。
7:鬼の配下も試しに作りたいが、呪いがかけられないことを考えるとあまり多様したくない。
8:『ディアボロ』の先程の態度が非常に不快。先程は踏みとどまったが、機を見て粛清する。よくも私に嘘をついたな。ただでは殺してやらない。
9:垣根、みぞれは殺しておきたいが、執着するほどではない。
[備考]
※参戦時期は最終決戦にて肉の鎧を纏う前後です。撃ち込まれていた薬はほとんど抜かれています。
※『月彦』を名乗っています。
※本名は偽名として『富岡義勇』を名乗っています。
※ 『危険人物名簿』に記載されている参加者の顔と名前を覚えました。
※再生能力について制限をかけられていましたが、解除されました。現在の再生能力は麗奈の回復スキル『アフィクションエクスタシー』の影響で、太陽によるダメージを克服できるレベルのものとなっております。
※蓄積したストレスと、デジヘッド化した麗奈の演奏の影響をきっかけに、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した麗奈からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、麗奈と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。
※デジヘッド化しましたが、無惨自身が麗奈のように何かしらの特殊スキルを発動できるかについては、次回以降の書き手様にお任せいたします。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。


125 : 奏でよ、狂騒曲 ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:09:04 KYRbJiA20
【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム】
[状態]:デジヘッド化(無自覚、浸食率低め)、鬼化、食人衝動(中)、回復スキル『アフィクションエクスタシー』発動中(無自覚)、恐怖による無惨への服従(極大) 、ウィキッドへの恐怖
[服装]:制服
[装備]:
[道具]:高坂麗奈のトランペット@響け!ユーフォニアム、危険人物名簿@オリジナル
[思考]
基本:殺し合いからの脱出???
0:状況に対処。月彦さんに付いていくしかない?
1:今ここにいる私は偽物……?
2:水口さんが怖い
3:ヴァイオレットさんに会いたい
4:部の皆との合流???
5:久美子が心配???
6:みぞれ先輩は私を見捨てた……?
7:誰か……助けて……
[備考]
※参戦時期は全国出場決定後です。
※『コスモダンサー』による精神干渉とあすか達の死によるトラウマの影響で、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した無惨からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、無惨と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。
※無惨の血により、鬼化しました。身体能力等は向上しております。
※腕は切断されましたが、鬼化の影響で再生しております。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。


126 : ◆qvpO8h8YTg :2022/10/08(土) 22:09:25 KYRbJiA20
投下終了します


127 : ◆2dNHP51a3Y :2022/10/09(日) 00:05:06 vktrrEo.0
カタリナ・クラエス、間宮あかり、リュージ、岩永琴子、琵琶坂永至、メアリ・ハント、シグレ・ランゲツ、ベルベット・クラウで予約します


128 : ◆2dNHP51a3Y :2022/10/09(日) 00:44:28 vktrrEo.0
追加で冨岡義勇を予約します


129 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/15(土) 00:32:31 n6S5CYPA0
投下します


130 : 龍は吼え、影は潜む ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/15(土) 00:33:24 n6S5CYPA0
「だぁ〜、クソッ!人っ子どころか犬もいやしねえ!!」

苛立ちと共に竜馬は頭を掻きむしり天を仰ぎ叫ぶ。

「ちょ、そんな大きな声出さないでくださいよ!」
「うるせぇ、これで来てくれるなら願ったり叶ったりじゃねえか!何のためにバイク走らせたと思ってんだ!」
「言った傍から!...でも、これだけ騒いでなんの反応もないとなると、本当に誰もいないんだなぁ」

そんな無警戒にも程がある竜馬の行いをドッピオは慌てて止めようとするも、竜馬は聞く耳持たず。
確かに自分たちは他の参加者と遭遇する目的で学校からバイクを走らせ西側の施設へ向かった。
だが、いざコロッセオ、ピラミッド、ホテルまで足を運んでみれば、痕跡こそあれ誰とも遭遇できず仕舞い。
ガソリンとて無限ではない為、ここまできて何の収穫もないとくれば、竜馬の苛立ちもわからないでもない。
しかしだからといって殺し合いという状況でこちらの存在を声高に叫んでいいという訳ではない。

「ひとまず休みましょう。もうすぐ放送ですし、それを聞いてから動くのがいいと思います」
「チッ、こんなことならジジイの研究所に向かっておくべきだったぜ」

言うなり、竜馬は傍にあったソファにゴロリと寝そべり休憩に入る。

(よくこんなに無防備でくつろげるな...)

自由奔放な竜馬の態度にドッピオは呆れ、小さくため息を吐く。
思い返せば今までの自分の同行者はかなり恵まれていた。
一般人の麗奈、軍人出身とはいえ非常に大人しく非好戦的で器量よしなヴァイオレット、ここが殺し合いということでそれ相応の対応をしてくれるオシュトルや冨岡。
無邪気さと大人しさと優しさでこちらを癒してくれる早苗。問題児であったロクロウもここまで奔放ではなくすぐに別れたので問題なし。
それがまさか、都合のいい足を求めたことでこうも振り回されることになるとは。

(ああ、今更ながら早苗ちゃんやヴァイオレットさんが恋しくなってきた...この人とこっちに来るのやめとけばよかったかなぁ...)

言い出しっぺは自分だが早くも後悔が押し寄せつつある。
とはいえ今更愚痴を言ってもどうしようもなく。
今ごろ早苗ちゃん達はどうしてるかなぁだとか、ブチャラティ達早くくたばってくれないかなぁだとか。
そんななんでもないことをぼんやりと考えつつ適当に冷蔵庫や棚を探る。


131 : 龍は吼え、影は潜む ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/15(土) 00:33:49 n6S5CYPA0
そしてようやく見つけたのは客受け用の数枚のクッキーと幾つかのフルーツサンド。それとノンアルコールビールとボトルの紅茶。
腹を満たすには心もとないが、あまり食べすぎて行動に支障をきたすのも良くないのでこれはこれで、と割り切り竜馬のもとへと戻る。

「竜馬さーん、お菓子見つけましたよ」
「おっ、そいつぁいいや。ありがとよ」

お礼を言うなりフルーツサンドへと手を伸ばし有無を言わさず口に運ぶ。
話し合う暇もなくテーブルから消えたフルーツサンドを「あっ」と声を漏らしドッピオは見届けるしかなかった。

「ん、どうした?」
「いっ、いえ、別に...」

邪気のない顔でフルーツサンドを頬張る竜馬にドッピオは呆れため息を吐く。
礼を言ってくれているし、悪気がないのもうかがえる。
ただ、どうにもこの男、直情的に過ぎるというかとことん本能的に生きているというか。
今のもそうだ。
クッキーとフルーツサンドをどちらを食べたいか、とこちらが聞く前に近くにあった、あるいはパッと見で大きいそちらへとほぼ反射的に手を伸ばした。
普通ならそういうワンクッションを置くべきだろう。

(まあ、もともとクッキーを貰うつもりだったからいいけどさ)

別に怒っているわけではないが、ただただ今まで見なかった人種との関わりに疲れたドッピオは浮かない顔でクッキーを口に運ぶ。

(うん、美味しい)

サクリとした歯ごたえと共にバターの風味が広がり幸福感を促進していく。

「おお、うめえなこりゃ」

それは竜馬の方も同じで。
フルーツと生クリームのバランスのいい酸味と甘みが相乗効果で互いの美味さを引き立て、サンドイッチのやわらかい触感が噛む者を喜ばせる。
先ほどまで不機嫌だった竜馬の眉間からも皺がみるみるうちに取れていく。

余談ではあるが、竜馬の食べたフルーツサンドは数時間前にフレンダ=セイヴェルンが食べたものと同種のモノ。
しかし、腹を下したフレンダと違い竜馬は平然としている。その理由は―――語るまでもないだろう。

互いのお菓子をあっという間に平らげると、二人は満足げに一息ついた。
美味い食事で小腹を満たした二人からは先ほどまでの剣呑さは身を潜め、互いに身を休めつつ余暇を潰していく。

そして、ほどなくしてノイズが走ると共に女、テミスの声が鳴り響く。


132 : 龍は吼え、影は潜む ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/15(土) 00:34:43 n6S5CYPA0
『参加者の皆様方、ご機嫌よう』

「きやがったか」

舌打ちと共に竜馬の目つきが鋭く光り、ドッピオもまた手早くメモを取る準備に入る。

『まずはこの放送を聴いている皆様方に、祝福を』
「チッ、クソみてェな前置きなんざしやがって。さっさと要件を言えってんだ」

苛立ち交じりにぼやく竜馬にこの時ばかりはドッピオも静かに肯首する。
たとえどんな社交辞令や美辞麗句を述べたところで、理不尽に巻き込まれた参加者である自分たちが、主催である女の述べる言葉に感嘆することはない。
どうせ聞く価値のない言葉なら早く禁止エリアと脱落者を知りたいものだ。

『さて、前置きはここまでとして、禁止エリアの発表を行いましょうか。

F-3
B-6
H-4

以上3つのエリアが15時から進入禁止になります。該当エリアに滞在している方は早いうちに避難することをお勧めするわ。
折角盛り上がってきているのに、禁止エリアでの爆死だなんて間抜けな最期、我々としても興醒めですから』

(F-3、B-6、H-4か...)

ようやく発表された禁止エリアをメモにとり、次いでもたらされる情報に耳を傾ける。

『次は、お待ちかねの死亡者の発表といきましょうか。

【マリア・キャンベル】
【王】
【セルティ・ストゥルルソン】
【天本彩声】
【高千穂麗】
【ミカヅチ】
【安倍晴明】』

「ん?」
(わぁ...結構死んでるなあ)



【チョコラータ】

「あっ」

【リゾット・ネエロ】

「へ?」

【マギルゥ】
【ジョルノ・ジョバァーナ】

「!?」

【Stork】
【鈴仙・優曇華院・イナバ】
【オスカー・ドラゴニア】

以上16名が今回の脱落者よ』


そこで脱落者の情報は終わり、それからつらつらと何事かを話していたがドッピオにも竜馬の耳にもロクに情報として入ってきていない。
そしてテミスの声が消えるのと入れ替わりに『Distorted†Happiness』なる歌が流れ始め、二人の空間のBGMとなる。


133 : 龍は吼え、影は潜む ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/15(土) 00:36:02 n6S5CYPA0
「ヘッ、あの粘着野郎くたばりやがったか。ざまあねえ」

宿敵である安倍晴明の脱落。
これに対して竜馬は別段思うところは無かった。
竜馬からして清明の印象派と言えば、遠くからチマチマ鬼を送ってくる面倒なヤツ、以上にあらず。
一応は早乙女研究所の連中の仇にはなるが、それはこちらも鬼を大量に殺しているのだから同じこと。
王という男に憎悪と執念を抱いていたカナメのような感傷にはなれず、手間が省けてラッキーだとしか思えなかった。


「...竜馬さん、僕、少しトイレいってきますね」
「ん?おお」

一方のドッピオはというと、ぼんやりとした顔を浮かべながらふらふらとトイレへと足を運び、用を足すでもなくただ便座に跨った。

「......」

天井を見上げながら、やはりその思考はぼんやりとしている。

先に齎された情報はドッピオにとってかなり有益なものだった。
ジョルノ。ブチャラティ。リゾット。チョコラータ。
何れも始末すべき標的、あるいはこの機会に処分しておきたかった連中だ。
それがこの放送で三人も減った。しかも偽名を使っているブチャラティが生存しているため、竜馬にそこを突かれることもなかった。
これ自体は非常に喜ばしいことではあるのだが、しかし喜びの感情は抱けない。


(なんか実感湧かないなあ)

もしもこれが自分の手で成し遂げたなら、あるいは間接的に場を作った結果ならば。せめて目の前で死んだのならば。
今頃ドッピオは歓喜の声を挙げて大手を振って喜んでいただろう。
だが、この会場に来て自分がやったことといえば、同行者に恵まれ、身元を偽る為に偽名を名乗り、ゲッターロボシュミレーターを体験しただけだ。
道中で首輪を拾ったりはしたものの、それが奴ら三人の脱落に繋がったとは到底思えない。
そう。自分の行動は標的たちの生死に全く関与していないのだ。

それを赤の他人に「そいつら死にましたよー」などと告げられても喜びなど抱けず、むしろ拍子抜けしてしまうだけで。
目的の半分以上を達成した男にしては気の抜けた表情を浮かべるだけだった。

「カナメさんもこういう気持ちだったのかnとおるるるるるる」

独り言を遮り、ドッピオの口から電話のコール音が鳴りだす。

「おっと、ボスからの電話だ...えーと、あれ、電話なんて持ってたっけとおるるるるるるる、とおるるるるる...でも音は鳴ってるし」

電話のコール音の出所を探るようにキョロキョロと首を動かし始めるドッピオ。

「おっ、あったあった...こんなトイレにもあるもんだな。とおるるるるるん」

やがて、見つけた『トイレットペーパー』を持ち上げ耳に当てる。


134 : 龍は吼え、影は潜む ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/15(土) 00:37:22 n6S5CYPA0
―――ドッピオ。私の可愛いドッピオよ

「ああ、ボス。よかったまた電話をかけてくれて!。あっ、ひとまず報告を―――チョコラータ、リゾット・ネェロ、ジョルノ・ジョバーナが死にました」

―――わかっている。よくやったぞドッピオ。あとはブチャラティさえ始末できれば我々『パッショーネ』の勝利だ。

「あっ、ありがとうございます。それでですね、今後の方針なんですが、もう少し積極的に行動するべきでしょうか」

―――いや、いい。お前は今のスタンスを崩す必要はない。引き続き、お前は無力な一般人を演じ、極力戦闘を避けるのだ。

「そうですか?いえ、ボスがそう仰るなら不満とかではないんですが...はい、わかりました」

―――わかればいい。それより情報をいま一度整理しろ。お前は重要なことを見落としている。

「重要なこと?えっと、死亡者と禁止エリアと...禁止エリアはF-3、B-6、H-4で、F-3はここで、B-6はここで...あっ!」


地図に情報を当てはめてながら情報を整理していたドッピオは、思わず動揺しついトイレットペーパーを落としてしまう。

「しっ、しまった!電話電話!」

慌てて拾い上げ、再びトイレットペーパーを『携帯電話』にする。

「もっ、もしもしボス!マズイです!ここ禁止エリアになってます!あの女が言ってた該当エリアの参加者って僕らのことだったんですか!」

―――落ち着くのだドッピオよ。実際に禁止エリアになるのは数時間後。それまでに準備を整え脱出するのは容易なはずだ。

「そっ、そうですね。ひとまず流竜馬にここにはいられないってことを伝えてきます!」

―――頼んだぞドッピオ。お前は私の最も信頼している一番の部下だ。こんなところで無くしていい男ではない。ブチャラティを始末し帰還することを...信じているぞ。

「わかりましたボス。貴方の勝利の為にこの命はあります...どうぞご期待ください」

ピッ、と電話を切る音を口にし、ドッピオは立ち上がる。
その目には先ほどまでの腑抜けた影はなく、使命に燃える一人の『男』の顔があった。


135 : 龍は吼え、影は潜む ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/15(土) 00:38:01 n6S5CYPA0



「ふざけやがってあのアマ!!」

ドッピオからホテルが禁止エリアになる旨を聞いた竜馬は怒りと共にバイクを走らせていた。

「二回も俺のいる場所を封じるたぁどういう了見だ!!」

第一回放送では警察署を封じられ、二回目はホテルをピンポイントで封じられ。
明らかに自分を狙っていると思しきテミスの行動に、竜馬の怒りは頂点に達しつつあった。

そんな彼の背にしがみつくドッピオは対照的に至極冷静にいられた。
『ボス』との電話のお陰で抜けていた気を引き締めることが出来たからだ。

「竜馬さん。ひとまず大いなる父の遺跡に向かいましょう。あそこならヴァイオレットさんやオシュトルさんたちがいるはずです」
「おう!」

怒りで視野の狭まる竜馬の代わりに、冷静さを保てているドッピオが"眼"となり周囲への警戒及び、次なる目的地を指定する。

「ん」

ふと、そんな"眼"の視界の端に、空を飛ぶ黒い影が映り込む。

(あれは...人!?)

思わず竜馬を呼び止めかけるドッピオだが、寸でのところで思いとどまる。
この状況で単独であんな目立つ行為をする参加者は、少なくとも真っ当に殺し合いに反目する参加者とは思えない。
しかし、ほとんど何の収穫もなかった状況に変化を齎すという意味では彼女を追う選択肢もありかもしれない。

(竜馬さんに伝えれば間違いなく追いかけるだろうけど...)

このまま大いなる父の遺跡へと向かうか、それとも彼女の存在を知らせて追いかけるか。

(さて、どうしようかな)






【F-3/一日目/日中】


【ドッピオ(ディアボロ)@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:健康、ドッピオの人格が表
[服装]:普段の服装
[装備]:小型小銃@現地調達品 王の首輪@オリジナル
[道具]:不明支給品0〜2、アップルグミ×3@テイルズオブベルセリア
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない。
0:変な人(ベルベット)が飛んで行ったけど竜馬さんに伝えるべきかな...?
1 :竜馬と共に西へ向かい、ブチャラティの関係者を始末していく。
2 :その途中で『大いなる父の遺跡』へと向かう
3 :無力な一般人を装いつつ、参加者を利用していく
4 :オシュトルへの首輪提供のため、参加者を殺害してのサンプル回収も視野に入れる
5 :『月彦』を警戒。再合流後も用心は怠らない。
6 :ブチャラティは確実に始末する。
7 :なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。
8 :自分の正体を知ろうとする者は排除する。
9 :ゲッターロボ、もしもあのままランクを上げ続けてたら...ゾオ〜ッ
10:グミは複数あるけど内緒にしておこう。
[備考]
※参戦時期はアバッキオ殺害後です。
※偽名として『ブローノ・ブチャラティ』を名乗っています。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※アップルグミの回復は健在ですが欠損や毒などは回復しません。
 また3つあることは伝えていません。
※早苗、霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※空を飛ぶベルベットの姿を認識しました。

【流竜馬@新ゲッターロボ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、出血(小〜中、処置済み)、身体に軽い火傷(処置済み)
[服装]:
[装備]:悲鳴嶼行冥の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、彩声の食料品、白バイ@現地調達品
[思考]
基本方針:主催をブッ殺す。(皆殺しでの優勝は目指していない)
0:ひとまず大いなる父の遺跡とやらに向かう。
1:研究所からは遠のくが、ブチャラティ(ドッピオ)と西へ行って参加者と接触。
2:そのついでで折原臨也を探すが、あんまり会いたくない。
3:粘着野郎(晴明)死にやがったか、ざまあねえ。
4:戦う気のない奴に手を出すつもりはない。
5:弁慶と隼人は、まあ放っておいても死にゃしねえだろう。
6:煉獄があいつに殺されたとは思えないが、これ以上好き勝手やるつもりならあの金髪チビ(フレンダ)は殺す。
7:レインや静雄の知り合いに遭ったら一応伝えておいてやる。
[備考]
※少なくとも晴明を倒した後からの参戦。
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、カナメ、霊夢と情報交換してます。


136 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/15(土) 00:38:30 n6S5CYPA0
投下終了です


137 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/22(土) 00:47:38 He9..gdA0
マロロ、十六夜咲夜、クオン、ビルド、神隼人、アリア(Caligulaの方)、シドー、武蔵坊弁慶、佐々木志乃、ジオルド・スティアート、黄前久美子、鎧塚みぞれ、東風谷早苗で予約します
予め延長しておきます


138 : 名無しさん :2022/10/22(土) 21:46:02 zdHEw0do0
書き手の皆様、執筆及び投下お疲れ様です
まずは「龍は吼え、影は潜む(◆ZbV3TMNKJw氏)」の感想を書かせていただきます

晴明が脱落した事より、自分がいた場所を連続で禁止エリア指定された事の方に感情が高ぶる竜馬は新ゲッター世界の彼らしい
他時空の竜馬なら脱落者で臨也やウィキッドが呼ばれなかった事に意識が向かいそうだが、ここの竜馬は忘れたほどではなさそうだけど実際に会うまではどうでもよさげな感じかな?

一方で元々の世界の敵の大半の死亡を知って、喜ぶ事無く空虚的な感じになってるドッピオ。ボスが出てきたのもかなり久しぶりという事もあり、なんだかユーファニアム勢より一般人っぽく見えてきましたね
この二人が向かう先は、激戦場となるのが確実な遺跡に向かうのか、空を飛ぶベルベットを追って北上するのか、今はわからないですが今後が楽しみとなる一作でした


次に、同氏が>>137で予約したキャラについて質問があります
予約したキャラに東風谷早苗が含まれていますが、同キャラは直近で登場した「崩れてゆく、音も立てずに」で、博麗霊夢とカナメの2人と一緒に欠損した霊夢の指を探す為に同行する事になっている筈です
しかし、氏が予約したキャラには霊夢とカナメの2人は含まれておりません
単純に氏が2人を予約したのを忘れているのでしたら、スレ主ではない一読者の立場でおこがましいと思っておりますが、>>127-128の様に2人の追加で予約をしてほしいと思っています
もし私自身の見落としにより、早苗が既に単独行動されている状態でしたら、上記の質問は取り消させてください


139 : ◆2dNHP51a3Y :2022/10/23(日) 12:56:55 ncEiJDg60
予約延長します


140 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/24(月) 18:02:14 p46Ej8dQ0

>>138
感想とご指摘ありがとうございます

予約にカナメと霊夢を追加いたします


141 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/28(金) 23:53:39 Dd6/TBDk0
書けたぶんだけ投下します


142 : 英雄の唄 ー序章 introductionー ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/28(金) 23:57:14 Dd6/TBDk0
「なあ、お前の指ってこれのことか?」
「それよ。結構わかりやすいとこに落ちてたわね...全く、どこかの誰かさんのお陰で随分手間取ったわ」
「うぅ...面目ないです」

王とシドーとの交戦現場に着き、しばしの捜索に当たったカナメ・霊夢・早苗の三人は、さほど時間をかけることなく、切り落とされた霊夢の指を見つけることが出来た。

「ほんと、あの時だれかさんが血迷ってロケット頭突きなんてしてこなければねぇ」
「だっ、だから何度も謝ってるじゃないですかぁ!」
「その辺にしといてやれよ...もう半泣きじゃねえか」

しつこく弄る霊夢だが、カナメの目からしても彼女が本気で怒っているわけではないのは容易に見て取れる。
ここまで気丈にふるまってきた彼女であるが、不安なのは変わりないのだろう。

放送まで既に一時間を切っている。
その中で齎されるであろうものは多い。
禁止エリアの追加、知己の生死、その他諸々...。
どれをとっても自分の命にも関わってくることだし、次の放送に己の名が並ばないとは言い切れない。

恐らくは日常の空気感に寄せることで不安を誤魔化したいのだろう。
それは早苗も霊夢自身も自覚している。
だからカナメがやんわりと止めれば霊夢もそれを受け入れるし、早苗も半泣きにはなっているものの、それで必要以上に落ち込んだりはしていない。

「とりあえず指は見つけたことだし、一旦は学校に戻るってことでいいよな?」
「すみません、お願いします」

当初の『カナメと霊夢は病院へ向かい、早苗は学校に残り月彦と麗奈を待つ』という方針に沿い、早苗の学校到着までの保護をしつつ三人は来た道を引き返す。

「まあ、出発して数十分そこらで変化があるとは思えないけど...あらら、そうでもないみたいね」

学校へとたどり着いた彼らは、五人の男女と黒い馬車の姿を確認する。

「五人か...それにあの様子だと乗った側じゃなさそうね」
「じゃあ私がお話してきますね。霊夢さんだとちょっと怖がらせちゃいそうですし」
「そうね。私の顔を見れば泣く子も黙る...ってコラ、誰が竜馬みたいな悪人面よ失礼しちゃうわね」
「そこまで言ってませんよ?むしろ霊夢さんこそ竜馬さんに対して失礼では!?」

などと緩いコントを繰り広げている二人を他所に、カナメは目を見開き駆けていく。

「ちょ、カナメ!?」

先走る彼を止めようと霊夢が腕を伸ばすも時すでに遅し。

「動くな金髪野郎!」

機関銃を構えながらのカナメの警告に一同が振り返る。
その銃身が向く先―――金髪の青年、ジオルド・スティアートは感情の籠らない面持ちでカナメを見つめていた。


143 : 英雄の唄 ー序章 introductionー ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/28(金) 23:58:05 Dd6/TBDk0


「は...え?麗奈が、しんだ?」

突如、知己から齎された情報に久美子は目を白黒とさせる。
情報の処理が追い付かない。
みぞれが突然馬車に乗ってやってきて。
かと思えばいきなり麗奈が死んだなんて聞かされて。
悲しいだとか怒りだとか以前に、ぽかんと思考が白く染まってしまった。
遅れてジワジワとその事実とやらを否定したい気持ちが湧いてくる。
冗談だと思いたい。
あすか先輩がたまにやる質の悪いつまらないジョークだと。
でも、流石にあの人でもそんなことはやらなくて。...あすか先輩だって、死んじゃってて。
そもそもみぞれ先輩は場を和ませようとする冗談なんて言わない性格で。

乱れきった思考と感情で情報を整理していたその時だ。


「動くな金髪野郎!」

青年の叫びに意識は現実へと引き戻される。
振りむけば、只ならぬ殺気を目に宿し、銃口を向ける青年がいた。

殺気。
そう。それを持った人たちに、あすか先輩と希美先輩、麗奈も殺された。

「ひっ」

情報が結びついた途端に久美子は膝が笑い、がくりと尻餅を着いてしまう。
殺される。
あの銃でたくさん撃たれて。
セルティさんみたいに血をたくさん流して死んでしまう。

逃げなきゃ。
そう思っても立てない。身体が震えて力が入らない。
そんな彼女を庇うように弁慶が盾になるように、久美子に背を向け立ちふさがる。

「おいてめえ!女の子がいる中で物騒なモン向けるんじゃねえ!」

弁慶は銃にも一切怯まずカナメへと怒号を飛ばす。
その背に激励を受けたかのように、みぞれもまた力が入りきらないなりにどうにか身体を動かし、久美子を庇うように抱き寄せる。

「死なせない...死なせ、ないんだから」

小さく、震え、しかし確かな意思を以てみぞれはその言葉を口にする。

そんな三人、そしてこちらを警戒し刀を構える志乃の姿にカナメは冷静に判断する。

(やっぱり、そういうことだよなこいつは!)

ジオルドを除く四人は一般人、あるいはソレを護る為の態勢を取っている。
刀の少女はまだ微妙だが、銃口を向けられてなお一般人を護ろうとしている大柄な男はまず殺し合いには乗っていない。

となるとだ。
ジオルドは他の四人を盾に潜伏し殺して回ろうとしているのだ。

(こういう奴らは絶対に殺したくねえ...それこそコイツ―――いや、主催のやつらの思う壺だ)

カナメはジオルドが如何な思いで殺し合いに賛同しているかはわからない。
愉悦などは一切なく、自分が生き残る為に仕方なく、どうしても叶えたい願いがある、というならば王やウィキッド相手のように殊更に憎悪はしない。
だが、犠牲を増やそうというなら容赦はしない。
そう決めてしまったから。迷っている間に無くしてしまうのはもうたくさんだったから。


144 : 英雄の唄 ー序章 introductionー ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/28(金) 23:58:52 Dd6/TBDk0
「俺はその金髪の男に襲われて仲間を一人失った...信用できないかもしれないが、頼む。そいつから離れてくれ」

だからカナメは他の面々と諍いが起きないように警告する。
可能な限り犠牲を絞るために。

「ちょっと、あんたいきなり何してんのよ!?」
「霊夢、早苗。あの金髪が水口と組んで魔理沙を襲った奴だ」
「ッ...そう」

その一言で霊夢の目の色が変わり殺気を帯び、早苗の顔が青ざめる。

「...なあ、ジオルドとなんかあったのか?」

カナメだけならばまだしも霊夢と早苗が加わったことで流石に違和感を覚えた弁慶は眉を潜めて問いかける。

(よし、耳を傾けてくれた)
「放送前のことだ。紅魔館って場所で俺とこいつらの友達、霧雨魔理沙を襲い殺したんだ。水口...『ウィキッド』って女と手を組んでな」
「女?てことはまさか!」
「いや、その子じゃない。ウィキッドに関してはもう俺がカタを付けた。恐らくその子はその金髪に騙されて同行してるだけだ」

思わず志乃を見やる弁慶にカナメは即座に否定の解を差し込む。が、その一方でカナメはここまで一切の反応を示さないジオルドを不審に思う。

(なんだあいつ...なんでなにも反論してこねえ)

こちらには敵対視しているのが三人、弁慶も傾きつつありこの調子でいけば残る三人も時間の問題だろう。
そうなればジオルドは一気に逃げ場無しの四面楚歌だ。
なのになにもしない。なにも言わない。
銃を向けられているというのに、対処しようともしない。

(これは...ごまかしが効きそうにありませんね)

志乃はカナメの殺意が不信に変わっていくのを察する。
もしこのままジオルドが射殺されようものならば良いことなど何一つない。

単純に『怪物』たちを相手取るのに戦力が減ってしまうし、無抵抗だったジオルドに違和感を抱き自分にまで謂われなき悪評が纏わりつくのは非常に困る。
なにより武偵として目の前の殺人を許せばアリアに劣ることを証明してしまう。
それは困る。この異常事態を治めアリアを越えたと証明してこそ愛しのあかりちゃんの心を掴めるのだから。

「...事情はわかりました。カナメさん、銃を降ろしてください」

先んじて剣を降ろした志乃は両手を挙げながら銃身とジオルドの間に立ち交渉の場に立つ。

「わかったんならどいてくれ...いや、ちょっと待て。なんで俺の名前を知ってる?俺はまだ名乗ってないはずだが」
「ジオルドさんから聞いたんです。この人がこの会場で何を思い、どう動いていたかを。それとあなたの言葉を照らし合わせれば間違いはないでしょう」
「ならどいてくれるな」
「いいえどきません。私は武偵ですから」
「...その武偵のことはよくわからんが、それが俺の邪魔をすることと何の関係がある」

カナメの反応に志乃は目を丸くする。
武偵は歴史がさほど深くないとはいえ、いまや警察にも劣らない世界を股に掛けるレベルの権力を有している。
テレビや新聞を見ていなくても現代社会に生きる者であれば耳にすらしないのは不可能。
その武偵の名が通じない。志乃は背後を振り返り弁慶達を見やるが、やはりカナメと同じように困惑している。
ではカナメ達の後ろの少女たちはというとやはり同じ。

(...これは猶更観念しないといけませんね)


145 : 英雄の唄 ー序章 introductionー ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/28(金) 23:59:32 Dd6/TBDk0
志乃は小さくため息を吐き、罪歌を握り掲げる。

「武偵とは、武力を行使し事件を解決するなんでも屋...武装探偵の略称です。私は武偵として人の犠牲なく殺し合いを止める為、殺し合いに乗るジオルドさんに使わせていただきました。
この斬りつけた者を支配する妖刀・罪歌を」
「...つまりは洗脳したってことか?」
「まあそういうことになりますね。ですがこれは私欲ではなく、やむを得ない緊急措置ですので誤解なきよう」

志乃の言葉に皆の間に困惑の空気が漂い始める。

(まあ...そうなりますよね)

如何に殺し合いを止める為とはいえ、人の自意識を奪うのだ。生理的嫌悪感を抱かれるのも無理はない。
だから志乃は弁慶達にもこの刀の効果を教えなかった。

「...証拠はあるのかしら。ソイツとあんたが口裏合わせてるとか、ソイツが操られているフリをしているとか」

霊夢の追及は尤もだ。口で『これは人を操れるアイテムです』などと言われてもハイソウデスカと信じられるわけがない。

「なら実際に見てもらうのが早いですか...ジオルドさん」
「はい、母さん」

志乃の目配せに従い、ジオルドはようやく動いたかと思えば―――その場で膝を地に着け、両の掌も地につけ。
額を擦り付け土下座の姿勢を取った。

「なっ!?」
「うぇ!?」

唐突な土下座に霊夢と早苗は揃って驚愕の声を上げる。

「いま、私は頭の中で貴方たちに謝罪するよう命じました。こういうことを殿方にさせる趣味はないのですが...まだ疑いが?」
「...ついでに確認させてくれ。魔理沙を殺したのはソイツなのか、それとソイツが殺し合いに乗った理由もだ」
「答えてください、ジオルドさん」
「はい母さん。僕はカタリナと共に生きて帰る為に殺し合いに乗りました。魔理沙さんを殺したのはウィキッドです」
「そうか、あいつが...それを見てあんたはどう思った」
「不快でした。ひどく醜悪に見えました」
「...だ、そうですが」
「......」

カナメはジオルドから目を離さず黙考する。

ジオルドが王や茉莉絵のように人を甚振るのを愉しむ下衆ではないのは理解した。
殺し合いに乗る理由も真っ当だ。全員を助けられそうにないならせめて大切な者だけでも、というありふれた理由だ。
魔理沙の直接的な仇でもない。

だからといって許せることではないし、人を洗脳する志乃に対してもいい気持ちにはならないが...


146 : 英雄の唄 ー序章 introductionー ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/29(土) 00:00:21 BFTpqPow0
(何が違う?)

敵を排除し犠牲を減らそうとする自分。
他者を排除し限られたものを救おうとするジオルド。
他者を洗脳することで殺し合いを止めようとする志乃。

過程は違えど誰かを救おうとしていることには変わりはない。

だからもし、このまま犠牲なく殺し合いを止めることができれば誰も何も失わなくて済む。


「...今度こそ最後だ。武偵って言ったか、えっと...」
「佐々木志乃です」
「志乃。あんたは殺し合いを止める為だけにその能力を使うか?」
「いまこの場でジオルドさん以外に行使していないことがなによりの証明かと」
「...そうか」

そしてその理想に最も近づけるのは、敵を殺さず制せる志乃だ。

カナメは背後の霊夢たちを見やる。

「お前たちはどうしたい?」
「...別にいいわよ。あいつを殺したのは水口ってやつらしいし、今は無害だって言うなら」
「私は...犠牲は少ないに越したことはないと思います」
「...わかった」

二人の意思の確認を得て、カナメは銃を下ろす。

(なんとか収まりましたか)

志乃はふぅ、と息を吐き肩の力を抜く。
これでひとまずカナメ達からの信頼を勝ち取った。
これから大勢の化け物たちと戦おうというのだから、余計な諍いでの消耗を避けられたのは幸運と言えよう。

「なあ、これから俺たちは学校に戻るんだが、一旦情報を整理するためにも」

ザザッ
『参加者の皆様方、ご機嫌よう』

カナメの提案を遮るようにノイズが走り、女―――テミスの声が響き渡った。


147 : 英雄の唄 ー序章 introductionー ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/29(土) 00:01:03 BFTpqPow0


『それでは、また次もお会いできることを願っております。ご機嫌よう』



放送を聞き終えた一同に沈黙の空気が訪れる。


μの放送が流れ、多くの情報を齎された。

禁止エリアのこと。死者の数。死者の名前...

「......」

早苗は俯きその面持ちを暗くする。

彼女が想い馳せるは、鈴仙・優曇華院・イナバのこと。
決して大の仲良しという訳ではなかった。
かといえば、犬猿の仲というほどでもなかった。
いわば、会えば挨拶を交わすし共に行動するのも苦ではないくらいの顔見知り。

そんなありふれた関係性だ。なのに。

無くなってしまえばこうもぽっかりと孔が空いてしまうのか。

霧雨魔理沙。魂魄妖夢。鈴仙・優曇華院・イナバ。

三人を失ってしまった日常という器はこれほどまでに物悲しいものだったのか。

「...ぐすっ」

思わず涙が零れ落ちる。

彼女たちと最後に話した言葉はなんだったか?最後に向けてくれた表情はどんなのだったか?

なにも思い出せない。

あって当たり前の日常だったから。

ドラマティックなことなどなにもないことまで全部覚えられるほど生き物は優れてはいないから。

「...くたばったのか、晴明のやつ」

ぽかんと口を開き、その大柄な身体に見合わないほどの小さな声で弁慶は呟く。
晴明が死んだ。
弁慶にとって晴明は和尚や同じ門の仲間たちの仇だった。
実際に介錯したのは自分だし、直接そうせざるをえない状況を作ったのは鬼とはいえ、その鬼を派遣したのは晴明に他ならない。
竜馬や隼人のようにあっさりと割り切れる訳ではなく、仇敵の突然の喪失は彼の心にぽかりと孔をあけていた。

「...まさか、彼女が...」

志乃は呼ばれた知己の名に思わず瞳孔が開く。
高千穂麗。
彼女とはあかりを巡る好敵手(ライバル)のようなものであり、あかりの心友の席を奪い合う間柄だった。
本来ならば席が空いて幸運だと喜ぶべきなのだろうが、しかしとてもそういう気持ちにはなれなかった。

彼女とはよく衝突していたが、悪い思い出ばかりではなかった。
剣技での決闘の後は二人の仲を取り持ってくれたあかりの尊さに共に鼻血を流し。
彼女に招かれた豪邸プールではあの手この手で共にあかりの盗撮に勤しみ写真を交換し合い。
ある程度ぶつかった後は共にあかりについて語り合い、共に笑いあった。

推しの一致と言えばそれまでだが、しかしそれでも彼女自身に対しては一定以上の好感度があったし、それは向こうも同じはずだ。
宿敵であり友でもある彼女の喪失は志乃にとっても大きな事態だった。

「......」

ジオルドは何も思わない。否、思えない。
罪歌の力はそれほどに強く、今の彼はただの動く肉袋にすぎない。
だから、出来たのは知った名前を小さく呟くだけ。
マリア、と。


148 : 英雄の唄 ー序章 introductionー ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/29(土) 00:02:52 BFTpqPow0


「...は?」

放送を聞き終え霊夢に湧きあがってきた感情は怒りだった。
その死は伝えられるはずだったものだ。
魔理沙を殺した彼女の。
その死を嗤い嬉々としていたという奴の。
水口茉莉絵―――ウィキッド。
その名は連ねられなかった。

「...悪い、うかうかしてられなくなった」

その怒りを代弁するかのように。
カナメは踵を返しその足を進めていく。

「霊夢。俺は先に病院に向かってる。情報を整理できたら追いついてくれ」
「ちょっとカナメ!」
「大丈夫、俺は冷静だ」

足早に去っていくカナメを霊夢も早苗も引き留めることはできなかった。

カナメが先を急ぐ理由。それはウィキッドの始末に他ならない。
霊夢も早苗も彼女に魔理沙を弄び殺されている以上、それを斃そうとするカナメを止めることなどできず。

「あ、あのっ、無理だけはしないでくださいね!」

結局、早苗がそんな激励をかけることしかできないままカナメの背中は遠ざかっていく。

「はぁ...ったく、私だって気持ちの整理なんてついてやしないのに、仕方ないわね。ホラあんたたち、思うところはあるかもしれないけど、燻ってても仕方ないわよ」

パンパンと手を叩き、残る面子の注目を引き受ける。

「まずは学校に戻りましょう。そこでいろいろ情報交換しないと始まらないわ」
そう音頭を取れば、皆、戸惑いながらもそれに従おうとなんとか顔を上げる。

「ぇ...あれ...なんで...?」

そんな中で一人。
鎧塚みぞれはひどく困惑していた。
オスカーも鈴仙も名を呼ばれた。
その事実はひどく胸を痛めるし、しかし現場に居合わせたようなものだから覚悟も決めていた。
けれど。
麗奈は呼ばれなかった。
目の前で頭部を破壊されたはずの彼女が、生きていた。
わけがわからない。

「みぞれ先輩...?」

そんな彼女の様子に久美子は首を傾げざるを得なかった。
震えている。
殺された、と告げた麗奈以外の二人の名が呼ばれたことに悲しみ泣いている様子もなかった。
まるでなにかに怯えている子供のような―――久美子にはそんな風に見えた。

ならなぜこんな風になっているのか。
心当たりはある。
呼ばれた二人と呼ばれなかった麗奈。
自分は麗奈が呼ばれなかったのは嬉しいと思ったけれど、みぞれ先輩にとってはそうじゃなかった。
だから、つい、疑問を抱き、口にしてしまった。



「逃げたんですか?」


「―――――――ッ!!」


149 : 英雄の唄 ー序章 introductionー ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/29(土) 00:03:35 BFTpqPow0
久美子のその言葉を聞いた瞬間、みぞれの心臓がバクバクと跳ね上がり呼吸すらも困難にさせる。
違う。逃げてなんてない。見捨ててなんてない。
そう言えれば良かったのに、言えなかった。
みぞれという少女はそういう性格の少女だから。
引っ込み思案で、他者とのコミュニケーションが苦手な少女だから。

「ハッ、ハッ――――ぁっ」

そしてその甚大なストレスと身体的な疲労が重なり、異様なまでに呼吸が荒くなっていく。


「みっ、みぞれ先輩!?」

突如苦しみだしたみぞれを案じ、久美子は慌てて身体に手を添える。

「おいどうした久美子ちゃん!」

異変を察した一同が慌てて駆け寄り、みぞれの容態を看る。

「これは...黄前さん、少し空けてください!」

志乃はみぞれの症状を過呼吸と判断し、久美子を退け、みぞれの背に手を添える。

「みぞれさん、大丈夫です。私たちが着いていますから」

極めて落ち着き払い、優しく声をかけることで相手を安心させる。
武偵高で習った過呼吸の応急的な対処法に従い手当を施す。

「ハーッ、ハーッ」
「大丈夫、大丈夫ですから...」

そんな様子をハラハラと見守る弁慶と早苗。
その傍らで、霊夢は久美子の首根っこを掴み引き寄せていた。

「ねえ、あんたなんか知らない?」
「えっ?」
「えっ、じゃないでしょ。あんたが一番近くにいたんだから何かしらはわかるでしょ?」
「えっと、その...ただ、みぞれ先輩の様子がおかしかったから、ただ『逃げたんですか』って聞いただけで...」
「絶対ソレ原因じゃない!普通そんなこと言わないでしょ!?事情は知らないけど!!」

平手打ちと共にぶつけられた指摘を受け、久美子はようやく気付く。
自分はまた失敗してしまったのだと。

―――久美子って性格悪い。

よく言われるその言葉が頭から離れず、ただ眼前の光景を見下ろすことしかできなかった。


150 : 英雄の唄 ー序章 introductionー ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/29(土) 00:04:05 BFTpqPow0


見失った。
シドーの足はこちらの疲労を加味しても早く、入り組む木々や足跡消えるコンクリートに紛れあっという間に姿を見失ってしまった。

「...ビルド。どこに向かったか心当たりはあるか?」

一旦足を止め、隼人の問いかけにビルドは地図を取り出し考えるが、首を横に振る。
ビルドが知っている施設はムーンブルク城くらいなものであり、見失う前まで補足していた時点ではそちらに逃げたのではないことはわかっている。
仮にあえて引き返しムーンブルク城にまで逃げ込んだとしたら、と考えるも、そもそもシドーには単純に速さで引き離されているのだ。
わざわざ策略巡らせこちらを待ち受けるよりもそのまま純粋に足を進めていった方が手っ取り早い。
結局のところ、ロクな当てもなしに探すしかないのだ。

「...ねえ、ビルド、隼人。二手に分かれないかな」

クオンの提案にビルドは顔を上げる。

「二手に別れた方が効率がいいでしょ?戦う訳じゃないんだし、探すだけならそこまで危険でもないと思うかな」
「どうだかな」

反論する隼人に二人は思わず視線を向ける。


「知らない参加者ならまだしも、唯一の知り合いから逃げだした時点でキナ臭い。なにも起こすつもりがないならなぜ逃げ出した?」
「...少なくとも、ビルドと戦うつもりはないんじゃないかな」
「ビルドとは、な。俺にはどうも奴が殺し合いに『乗った』側にしか思えん」
「ちょちょちょ、隼人。そんな直球的に言わなくても!」
「ぼかす必要がどこにある。アリア、クオン、ビルド。俺たちが巻き込まれたのはスポーツじゃねえ。『殺し合い』だ。きっかけひとつで心変わりなんざ腐るほどあり得る」
「それは...そうかもしれないけど」

隼人の言葉は正論である。
この異常事態、極限にまでおかれれば人の精神状態などどう転ぶかわからない。
知り合いだからと言って不審な行動をする者にまで全幅の信頼を置くのは迂闊にすぎるというもの。
だが、正論だけで動ける程ヒトは、人間は器用な生き物ではない。

せっかく見つけられた友を、敵かもしれないという可能性だけで排除に傾けるのはクオンとしては納得できない。
それこそ。
オシュトルという、あれほど懇意にしていた友を護れなかった漢の無様を見ているから猶更だ。

「あちゃ〜火花バチバチやりあってんよ...ビルドぉ、どうしようこれ」

意見をぶつけあう二人を交互に見やり、ビルドは考える。
このまま安全を考慮し四人で探すか、効率を重視し二手に別れるか。
これからの方針はビルドに委ねられている。
そんな中、彼が決めた方針は―――


151 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/10/29(土) 00:04:54 BFTpqPow0
今回はここまでです
続きはまた近日中に書きます


152 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:38:54 7sgvXI/w0
投下します


153 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:39:19 7sgvXI/w0
人生で一番クソッタレな思い出は何かと尋ねられたら、間違いなく俺はこう答える。
俺の目の前で、あのクソ野郎が、俺の兄弟(おとうと)を切り刻んだ光景だと。
だからこうして、あいつへの復讐のために今迄生きてきた。そのために足掛かりも手にできた。
実際、あいつの名前が名簿にあった時は逆に安堵した。復讐の機会は失われいなかった、と。
まあ、それはそれとしてこの悪趣味な殺し合いは気に入らねぇし、そもそも自分がデータの存在だなんてそう簡単に受け入れられるわけじゃない。

その上で、俺がニ回目の放送でやつの名前を聞いた時、こう思った。
『因果応報』と言うのは、実際に訪れるものだと。
あの男を、キース・クラエスと言う『彼女の弟』を殺してしまった時点で、俺はあいつと同じ、クソッタレになっちまったのだと。


154 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:39:55 7sgvXI/w0
● ● ●


『ご機嫌よう――。』

リュージがダーウィンズゲームをするきっかけは、王という男に弟を切り刻まれ殺された復讐である。
事実、その為にダーウィンズゲームでプレイヤーとなって、今迄生き続けてたと断言しても過言ではない。
だが、その王は、復讐すべき相手はあっさりと死んだ。その事実だけが、何の予兆もなく放送によって告げられた。
高ランクプレイヤー『茨刑の女王』ですら簡単に脱落するような魔境だ、そういう事が起こってもおかしくはない、とは片隅にはあった。渋谷駅前でのあの戦いを、遠目ながらも目の当たりにしたのだから、尚更なことではある。
リュージという男が長けているのは『嘘』と『真実』が明確にわかる事。強いて言うならこのぐらい。このゲームは、余りにも暴力のアベレージが高すぎる。柔を以て剛を制す、と言う言葉あるが、この場所に限っては暖簾に腕押しが暖簾が押されただけで微塵切りになる、生半可な知では到底生き残れない。

「本当に、いいんですね?」

「……ああ。こうなっちまった以上、俺に逃げるなって神様が告げやがったんだろうな。」

知恵の神の問い、リュージはそう返すしか無かった。
理由は既に失われた、リュージにとっての原動力、復讐の大義名分は失われた。
残ったのはやり場のない怒りと、どうすることも出来ない虚無と、後悔だけ。

「向き合わなきゃならねぇ。しっぺ返しが来る前に。くたばったクソ野郎のような最後を迎える前に、な。」

これは精算だ。自らが犯した罪の精算。言い逃れのない事実と向き合わなければならない。
このまま何も知らせず、彼女が何も知らず、例えその結末がどうしようもないものだとしても。

「………それなら、私からは言う事はありません。」

岩永琴子は、それ以上リュージの決意に物申すつもりはなかった。
都合のいい虚構ではなく、痛みの伴う真実を選択した彼に対し、これではこちらの不用意な手助けは野暮というもの。敢えて、一言言うのなら―――

「ですがせめて、後悔のないように、とだけ。」

「……わかってるさ。」

カタリナのいる方へと向かうリュージの背中を知恵の神が見送る。
その背中から何を感じたのか、何が見えたのか、それを特に言わず、ただ黙ってリュージを待つ。
――空は快晴、憎たらしいほどに。それが示す道行がなんなのか、リュージにも、岩永琴子にもわからないままだった。


155 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:40:14 7sgvXI/w0
◯ ◯ ◯

「なんで。」

マリア・キャンベルが死んだ。その意味は、『転生者』カタリナ・クラエスにとって、間違いなく意味合いが違う。
本来、破滅フラグとして場合によっては死ぬのは、カタリナ・クラエスの方なのだ。
だが、しかし。しかしだ、死んだのはマリア・キャンベルの方である。この殺し合いで。
悲しみよりも、疑問のほうが湧き上がった。
どうして悪役令嬢(仮)である自分以外のいい人が、どうして次々と死んでいくのか。
自分が死亡フラグを回避したからなのか、自分が運命(シナリオ)に抗った代償だからなのか。

カタリナ・クラエスは思い出す、初めて食べた、マリアの作ったお菓子の味を。
まろやかな舌触り。絶妙な甘さ加減。地面に落ちてただとか関係ない、兎に角美味しかった、あの匂いも味もよく覚えている。そういえばマリアの家に来た時にご馳走になったクッキーも美味しかったっけか。
もうそれは二度とない。あの輝きの笑顔も、彼女が作るお菓子も、何もかも失われたから。
そう、自分が変わりに、悪役令嬢カタリナ・クラエスが代わりに生き残った。
生き残ってしまったのだ。

「なんで。」

カタリナ・クラエス。『本来』なら悪役令嬢として破滅を迎えるはずの存在。
歯車は狂い、こうも生き残った。それはカタリナ・クラエスの中身が変容したが故の筋書きだとしても。
生き残る事を、破滅を回避するために手段を尽くしたとしても、それでも知り合った誰かの死を、それが破滅フラグの引き金となる人物であろうとも、ただそれだけと割り切ることなど出来ないから。

「………。」

間宮あかりはカタリナに声を掛けられなかった。武人ミカヅチの助けの上、自分たちは生き残った。
その代償として絹旗最愛、そして高千穂麗は命を落とした。コポポも戻ってこなかったのを鑑みるに同じく命を落としたのか。
不幸中の幸いなのか、行方は分からずとも琵琶坂永至の方はまだ死んでいない、というのだけは分かった。
だが、死んでいない=生きているというわけでは決して無い。

「なんで。」

ぱりん、ぱりんとカタリナの中で記憶の欠片が砕けていく。記憶は摩耗するもの、今はその時ではなくとも、彼女の中に生まれた黒い悲しみだけがたらたらと流れ出る。
無自覚に泣いていた。一つずつ、大切なものが零れ落ちていく。自分が、カタリナ・クラエスが生きているだけで、本来辿るはずの運命を、勝手に死神が誰かに押し付けている。
自分が生きている、という事が、みんなにとっての死亡フラグそのものになってしまったと、そうだというのなら―――

「……よう。ちょっといいか?」

「あ。ええと、リュージさん?」

カタリナが考えこもうとしたタイミングで、リュージが彼女に声をかけた。

「……二人きりで、話がしたい。……あかりと言ったか、悪いがちょっと外してくれ。何なら岩永のところへ行ってくれると助かる」

リュージがそう切り出したのに、カタリナは思わず呑気に口を開けて呆けている。
二人きりで話がしたい、どういう意図があってなのか分からないが、リュージの視線から凡そ何かを察したあかりは一旦二人の元から離れる事にした。


156 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:40:45 7sgvXI/w0


「それでリュージさん、話って?」

カタリナ・クラエスからすれば、リュージという男は本当に会って間もない。
子供のような大人な岩永琴子と比較してみると、リュージは良くも悪くも普通に男性のようにも思えた。
単純にファンタジー世界への転生で魔法やらの常識になれきってしまった為の感覚の麻痺のというものであるのだが。

「単刀直入に言うとな……あんたの弟さん、キース・クラエスとは一度会っているんだ」

「……ええっ!?」

リュージの切り出した言葉に、思わず驚いた。
キースは自分自身が知らない所で、知らない間に死んでしまったのだから。
だからこそ、一度会ったことがある、というリュージの言葉に食いつかない理由がない。

「あのっ、本当なのっ!? キースと会ってるんでしたよね、キースに、キースに一体何が……!」

「落ち着け、まずは順序だって話させてもらう。」

動揺するカタリナを窘め、リュージは言葉を続ける。

「最初にそいつと会った時には、ブチャラティってマフィアと、アリアっていう武偵とも一緒だった。まあ色々話して、あのままチームが組まれるはずだったさ。」

淡々と、起こった事実だけを告げる。それ自体なら単なるありふれた話ではあった。

「あん時のキース「僕には守りたい人がいる。この命に代えても守りたいと想う女(ひと)が」ってセリフを吐いてやがったな。頭を下げて、必死に……。」
「キースったら……」

「そんな事言ってたんだ」と、リュージが漏らした事実にほんの少し笑う。
自分の魔力のせいで誰かを傷つけるのが嫌だと思っていた彼が、あんな王子様らしいセリフを言うまでに成長していたという事実を。

「……まあ、その直後だったな。そんな俺たちにゴーレムが襲いかかったのは。」

「へぇ……ゴーレム…………ゴーレム?」

"ゴーレム"という単語に、思わず反応したカタリナの口が止まる。
リュージ達の所にゴーレムが襲いかかった、それまでは話のネタとしては構わなかった。だが、カタリナ・クラエスは知っている。ゴーレムを召喚できるほどの土の魔力を持つ誰かの事を。

「ブチャラティとアリアがゴーレムを相手取ってる間、俺はゴーレムに吹き飛ばされたキースの所に向かった。」

脳が、体中が、カタリナに警鐘を鳴らしていた。これ以上聞いたら後戻りはできないと。
それでも、カタリナの足は動かなかった、震えていた。

「俺の異能(シギル)は嘘発見器(トゥルーオアライ)。相手が嘘をついているかどうかが分かる、ただそれだけなクソみたいな異能(シギル)でな。」

「……まって。」

カタリナの口から声が漏れる。これ以上聞きなくないと嘆願するような、そんな震えるように流れ出た音のように。

「だから、あいつが嘘をついている事ぐらいは、わかってたさ。が、あいつが命に代えてでもてめぇを護りたいって思いだけは。」

「やめて。」

思わず、本音が漏れ出して、涙が溢れそうになって。

「キース・クラエスは、殺し合いに乗っていた。お前を護るというたった1つの願いのためだけに。」

「……もう、やめ、て……。」

嘆願するカタリナの顔を、リュージはその目を逸らさず見つめ、言葉を紡ぐ。そして――

「――殺し合いに乗ったあいつを。……俺は……俺が、あいつを、キース・クラエスを殺した。」


そんな残酷で無慈悲な真実だけが、リュージの口からカタリナに下された。


157 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:41:06 7sgvXI/w0
「……お前が俺の事をどう思うか、これを聞いて自由に判断して良い。だがな、俺がこの事を御前に黙ってすっとぼけるなんざ、許せなかっただけだ。」

復讐相手を喪失したリュージに残ったのは、王(ワン)と同じく弟殺しをしたという事実だけだった。
岩永琴子が述べた通り、都合のいい真実(うそ)で取り繕う、という手段もなかった訳では無い。
彼は、ただ逃げないことを選択したのだ。真実を都合の良いヴェールで隠し通す選択を選ばなかった。
彼はただ、自らの罪に目を向け、例え恨まれることになろうとも真実を伝えるという選択をとったのだ。

「……だから、その後の判断はお前に任せる。」

それ以上は、カタリナに委ねる事にした。殺されても、文句は言えない立場だ。それだけのことをやってしまったのだ。因果応報、復讐という道を選んだがゆえに、外道と同じ行いをしてしまったがゆえの咎。

「―――――。」

カタリナは、黙ったままだ。顔は項垂れ、その表情は見えない。そして、何か思い出したかのように、呟く。

「―――私の、せいなの?」

「なに……?」

これには、リュージは驚いた。感情が見えぬ声色。まるで何かを悟ったような、泥水のような濁った何かを、リュージは感じていた。

「私が、生きようとしたから……破滅フラグを逃れようと、したから……?」

「破滅フラグ? 何を、言っている……?」

カタリナ・クラエスにとって、『キースが自分の為に殺し合いに乗った』という事実こそが、大きな傷創。
元々、悪役令嬢として悲惨な最後を遂げる運命だったのを、手段を選ばず奔走し続け、その結果周囲の人間を、本来の歴史から変わる程の影響力となったのだ。

「私が、私のせいで、私を守るために……どうして……。」

だが、手段を選ばないと言って、人道から外れた手段を取るような人間ではない。『本来の』カタリナ・クラエスならまだしも、転生してカタリナ・クラエスと成り代わった一介の女子高生である彼女にとっては。
その"痛み"の意味は。

「……そんな事、私は、望んでいないのに……。」

自分のせいなのか。自分の行動が周りを変えてしまったのか。そのせいでキースは死んだのか。ただただネガティブな考えだけが頭の中で駆け巡る。
じゃあマリアも、マリアも自分を護るための死んだのか?と。もしかしてジオルド王子も自分を護るために、自分の為に殺し合いに乗った可能性も? 悪い考えばかりがへばり付いて、それで。

「私のせいで、私のせいで、こんな事に……。」

「お、おい……?」

さしものリュージも、心配になってくる。恨み言の一つぐらいは吐かれると思っていた所、目の前で起こっていたのはこの有様。
リュージはカタリナ・クラエスの中身を知らない。そのため彼女の本心を知る由は無い。

「こんな事に、こんな事になるぐらいだったら……」

悪い考えが激流のごとく流れ、溢れる。これでは死神ではないか、自分という蜜を吸って死んでゆく、自分の存在があるだけで誰かを惑わして死に追いやってゆく。そんな自分がどうして生きているのか。

「いっそ、最初から嫌われて破滅したほうが良かったじゃない!!」

カタリナは叫んだ。彼女は客観的に見れば『いい人』で、そんな自分のせいで誰かが死んでゆくという事実に、耐えられなくて、張り裂けるような大声で、そう叫んだ。

「………。」

リュージにとってあまりにも予想外だった。いや、それ以前に、引っかかる事も多かったのだ。
『破滅した方が良かった。』という言い回しだ。それが違和感として引っかかっている。
まるで、自分の人生を客観的に見たような、そんな違和感がこびりついていた。
が、それを追求するにしても、今まさに泣き崩れている彼女に対しどう話を切り出そうかわからないのが事実。このまま少しばかり泣き止むのを素直に待つかどうか考えた所……。







「そんなことはありません!!」

誰かの声が、カタリナにとって聞き覚えのある女の声が、鳴り響いた。


158 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:41:28 7sgvXI/w0
「……メアリ?」

カタリナが声の方に振り返り、少女の、メアリ・ハントの顔を見る。
いつにもなく焦燥した、先の叫びを聞いて全速力で走ってきた息切れの余韻が傍から見ていたリュージにも分かるほどである。

「……そんな、悲しいこと言わないでください。」

カタリナの悲痛な叫びを聞いて、メアリ・ハントは一目散に駆け出した。彼女にとってカタリナこそが全てであったから。『真実』を知ってしまったがゆえに、そのカタリナの苦悩も、考慮はしないにしても理解は出来たから。

「……どうして、こんな誰かを死に追いやってしまう私になんて、構わなくてもいいのに。」

「そんなことはありません。」

拒絶するようなカタリナの口ぶりを、真っ向から否定する。

「覚えてますか? 私がカタリナ様と出会って間もない頃、野菜が上手く育たないと言って私を畑まで連れ出した事。」

「……そういうことも、あったわね。……あのお陰で野菜が育つようになったから、それはメアリには感謝しきれないわ。」

メアリ・ハントが初めてカタリナ・クラエスと出会ったあのお茶会。家の中庭で一人孤独に佇んでいたメアリに、カタリナは無遠慮に話しかけ、連れ出して。

「嬉しかったんです。お姉様たちから嫌われて、自信なんてなかった私の、この緑の手を褒めてくれて。カタリナ様のお陰で、私は少しは前向きになれたから。」

「……それは」

「……言わなくても、大丈夫ですよ、カタリナ様。」

あの時の事をカタリナも覚えている。ゲーム知識であることを忘れて夢中でメアリの『緑の手』を褒めたのだ。しかし彼女の『緑の手』を褒めたのは、正史においてはアラン王子がやるはずだったこと。
だが、そう切り出そうとしたカタリナの言葉を遮るようにメアリが言葉を紡ぐ。

「カタリナ様が一体何があって、どうして苦しんでいるのかは、まだ理解できないです。ですけれど、私は間違いなく『カタリナ様』に救われました。その事実は何であろうと消えません。」

だからこそ、メアリ・ハントはカタリナ・クラエスを肯定する。彼女もまたカタリナによって救われた一人なのだから。挫けそうになった時に何度でも手を差し伸べてくれた、メアリ・ハントにとっての太陽。





「他の誰でもない、あなたに救われたから。カタリナ様の優しさに、その明るさに、私は救われたから。私はただ、カタリナ様に死んでほしくないのです。私はカタリナ様の笑顔の為に、その為に――。」

「……違うっ!!」

「……っ!」

カタリナが、叫んだ。それは、拒絶に思える嘆きの声であり、これ以上誰も傷ついてほしくないという嘆きでもあり。

「メアリ、私は、そんな大した女じゃないのよ。……私はただ死にたくなかっただけなの。死にたくなかった、から………。」

零れ落ちる涙が、地面に落ちて霧散する。
そう、全て死にたくなかったから、死にたくなくて、破滅フラグ全部へし折って。その度に色々な縁が出来た。
だが、その縁は皆を縛る死の毒と変わり果てた。キース・クラエスが殺し合いに乗って、リュージに殺された用に。
もはや呪いなのだ、こんな事なら、最初から破滅するべきだったと、嘆き、悲しみ、嗚咽が漏れて。そこには太陽のような少女ではなく、誰とも変わらない在り来りなか弱い女の子の姿があった。
それを見て、メアリ・ハントは何を思ったか。でも、その瞳は失望でも同情でもない、別の感情が渦巻いて。

「……っ。カタリナ様、ごめんなさいッ!!」

「へっ?」

前兆も何もなく、ただメアリはカタリナに抱きついて、地面に押し倒す。
怒涛の流れにカタリナの思考は停止、理解が追いつかない彼女に対して。




















「〜〜〜〜〜〜〜!?」

二人の唇が、重なった。


159 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:42:09 7sgvXI/w0



「※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※!?!!???!!???」

押し倒されたままの状態であるが、カタリナの思考は恐ろしく混乱していた、言葉にもならない声が漏れまくっている。
自分がついさっきされた、というよりも。メアリにキスされた。どうしてキスされたのかわからないしそもそも転生後の人生でファーストキスを女の子に奪われたという衝撃。
意味が分からなかったし、理解も出来なかった。王子様のファーストキスどころかお姫様からのファーストキスである。

「ちょ、ちょちょちょちょちょっ、メアリ!? 今キス、私にキスって、えええ!?」

「……一体俺は何を見せられているんだ」

やっと言葉が出たと思えばこれ。挙げ句この状況を見せつけられたリュージの心情は虚無である。
何ともいたたまれないというか人に見られては恥ずかしい状況にカタリナ思わず赤面。
そして、カタリナが再びメアリを見つめた時に、メアリの顔は涙に濡れていた。




「そんなこと、どうだっていいんです。」

メアリが口を震わせ、一つ一つ言葉を紡いでいく。

「生きていたいからって、破滅フラグから逃れたいだとか、そんなこと関係ないんです。」

続く言葉と共に、涙が止めどなく溢れ出ている。

「マリア・キャンベルも、ジオルド・スティアートも、キース・クラエスも、あなたを大切に思っている人は、あなたが破滅フラグを回避したいからだとかどうとか……そんな事気にしないはずですよ。」

メアリは、泣いていた。カタリナ・クラエスに今まで見せたことのない泣き顔で。
抑えられない感情を、垂れ流しながら。

「……私は死にません。そしてカタリナ様も死なせません。だって、……私はカタリナ様が大好きだから! 世界中の誰よりも!」

それがカタリナという生きた毒の蜜であろうと、関係ない。破滅フラグを回避するために奔走したカタリナ・クラエスのように、足掻いて足掻いて足掻き続けて、必ず幸せをつかむため。

「だから、お願いです。そんなこと、言わないでください……私は、カタリナ様の泣き顔なんて、みたくないです、から………だか、ら……。」

涙腺が決壊し、カタリナの顔に涙を垂らしていた。
まず、親友だと思っていた女の子に世界中の誰よりも大好きとか言われた衝撃が色々とデカすぎるが、ぶっちゃけカタリナ的にはそっちは色々と後回しにしよう案件として脳内の片隅に追いやられる。
でも、その前に。

「ごめんね、メアリ。……私らしくもなく、変なこと考えてた。みんな苦しんでて、私は出来ることなんてほどんどなくて、それで……でも、さっきのメアリのお陰で、ちょっと調子取り戻したかも。」

「……カタリナ様!」

その言葉に、メアリは満面の笑みになった。好きの返答は返されなかったが、今はそれで十分だったから。


「……でもその前にさ。手、離してくれない? このままじゃ起き上がれないから。それと、リュージさんに思いっきり見られちゃってるし、その。」

「………あっ。」

「おーい、気が済んだか?」

しまった、とメアリが口を開くももう遅い。先程の縺れは終始リュージに見られていた。と言っても肝心のリュージは途中から心情が虚無に満ちていたため特に気にしていなかったのだが。

「メアリのやつ、突然走り出しやがったと思いきや……って何してんだてめぇ。」

「……この光景は見なかったことにした方が良いのかな、カタリナさん?」

「………あ、琵琶坂さん。無事だったんです、ね……あああああああああああああああああ!?」

さらに、途中からメアリを追いかけてやってきたらしき琵琶坂永至、そしてシグレ・ランゲツにも見られたことを理解し、カタリナは絶叫した。


160 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:42:24 7sgvXI/w0
◯ ◯ ◯

「なるほどね、ということは僕が君たちに合流できたのは一種の幸運なのかもしれないな。」

「そのようだな、あかりもカタリナも、元々あんたを探していたから、こちらとしては手間が省けて助かった。」

琵琶坂からの話で、あの焼け野原において琵琶坂永至視点での情報を得ることが出来た。
――元凶である安倍晴明は、首輪の爆破によって死んだこと。
――メアリ・ハントとは一触即発に為りかけたが何とか穏便に事を治めることに成功したこと。

「………。」

「カタリナ様……。」

琵琶坂はそれ以上は何も言わなかった。だが、ミカヅチが死んだということ自体は既に放送でわかっている。恐らく相打ちの際に晴明の首輪の衝撃が入ってそれが起爆したのかもしれない、とカタリナの頭の中ではそう考えてた。
リュージと琵琶坂の会話を聞き流しなら、琵琶坂に対して目線をそことなく向けるのはシグレ・ランゲツ。これは当人のカンというやつであるが、どうにも胡散臭い。メアリ・ハントとは別の意味で、だ。
最も、琵琶坂が嘘をついていないことは、リュージの嘘発見器(トゥルーオアライ)が証明しているため、余計ないざこざを防ぐのも踏まえてその事は言及しなかったのだが。

「……詳しい話は改めて岩永さんと合流してからで良いだろう。まずは別の所で僕たちを探している岩永さんとあかりさんと合流することにしようか。」

「わかりました琵琶坂さん。それに、メアリにもあかりちゃんの事紹介しないと。」

「あかり、ちゃん……? カタリナ様、もしかしてまた新しいお友達が出来たのでしょうか?」

「うん、まあ……友達って認識で良いわ。武偵っていう人を護る仕事してる人。あの娘がいなかったら、今頃私は死んでたかもしれないから、そういうのも含めて命の恩人みたいな娘かな?」

「……へぇ。」

一先ずは岩永たちと合流する方針へと決まった際、カタリナが零したあかりという少女の存在に眉をひそめるメアリ。
あの焦土の痕跡を鑑みるに、カタリナ・クラエスが戦場で生き残る、というには余りにも過酷な戦場だったことは容易に想像できる。だからこそ、あかりなる少女には感謝こそすれど、警戒はしなければならなかった。
もしも、彼女もまた破滅フラグにかかわるような存在であるならば、この手で始末しなければならなかったからだ。そんな事を考えていた矢先だった。


「―――こりゃ、急いだほうが良いかもな。」

真っ先に反応したのはシグレ・ランゲツだ。研ぎ澄まされた直感が、"それ"の存在を察知することが出来た。

「シグレ様、一体何が―――!?」

メアリが訪ねようとした直後、向こう側で爆音が鳴り響き、それが衝撃となってこちら側まで届くほどに。

「おいおい、一体何がどうなってやがるってんだ?」

「そんなこと言ってる場合じゃないって! 琴子ちゃんとあかりちゃんが心配!」

「カタリナさんの言う通りだ、今は何も考えず音の方向へ向かおう。メアリもそれでいいかな?」

「カタリナ様が向かう所、私の向かう所でもありますので異論はありません。」

衝撃が収まり、それぞれは同じ場所へ向かう。そしてただ一人、シグレだけは。

(……どうやら、久しぶりにやりがいのある相手と交えられそうだな、こりゃ)

剣士としてのカンが囁く、強敵の予感と気配に心躍らせるのであった。


161 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:42:42 7sgvXI/w0
◯ ◯ ◯


岩永琴子が目の当たりにしたのは、黒い太陽と形容せざる得ない、何かだった。
悪魔の如き大翼、蜥蜴の如き尻尾。妖しく輝く血石色の瞳。

"何か"が落ちてきた中心地は、もはやクレーターのごとき大穴が出来ていた。
もし、あかりがこちら側へやってきた際に、こちらの身柄を無理やり別方向へ飛ばさなければどうなっていたか。
"何か"の姿は、アルシエルか、アバドンか。そう言表すに相応しい漆黒だった。
それは、女の姿だった。女、と言うよりは血に飢えた獣。禍の擬人化。もしくは大地に降り立った禍津日神(まがつひのかみ)の具現と呼ぶべきか。

「……なに、これ。」

そして間宮あかりもまた、"女"の姿に、絶句していた。
ヒイラギイチロウ、ヴライ、ミカヅチ、安倍晴明。彼女もこの殺し合いの中で数多の強者を目の当たりにしてきた。だが、これは違う。余りにも次元が違いすぎる。
そう錯覚させるに十分すぎる、瘴気にも見た邪気が、岩永琴子にはっきり感じ取れる程に。
まるで、邪悪が人の形をなした、人間と認めてはならない、禍津の塊だった。

「……誰ですか、あなたは?」

岩永琴子は問う。震える両手を抑えながら、化け物の名を問う。
血色の眼の輝きが、岩永を見据え、女は静かに答える。口を開くだけで、岩永琴子と間宮あかりは、重りを担いだような錯覚に襲われる、それほどまでに、その女は、規格外であり。

『私は魔王―――魔王ベルセリア。岩永琴子、あんたには私達の所に来てもらう。拒絶するなら、ただ黙って死ね』

ただ一言、選択の余地などない、慈悲など存在しない宣言。
魔王ベルセリア、かつてベルベット・クラウであった女は、ただ冷酷に、冷徹に二人を見下ろしていた。


162 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:43:05 7sgvXI/w0
【D-3/昼/焼野原/一日目】
【魔王ベルセリア(ベルベット・クラウ)@バトルロワイアル -Invented Hell-(テイルズオブベルセリア)】
[状態]:魔王化、精神汚染?(小・進行中)
[服装]:いつもの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:他の参加者共を喰らって―――――
0:――私は、魔王ベルセリアだ。
1:夾竹桃、麦野沈利と共に行動する。――まだ利用できる以上は――。
2:岩永琴子、もしくはμかテミス関係者である参加者の誘拐
3:■■■■■■(ブチャラティ)、絶対に許さない、殺す。
4:白い悍ましいモノ(ライフィセット)は必ず殺す
5:そういえば鷹捲の件も頼まれていたわね……
※:■■に■■を■げる。そして■は■■■る。
[備考]
※牢獄でのオスカー戦後からの参戦です
※3人でアイテムを結成しました
※恐らく『絶対能力者』へ到達しました。恐らく『その先』にも到達する可能性があります。
※夾竹桃の知っている【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。

※複合能力 『災禍顕現』を習得しました。本人の拡大解釈を以て穢れを様々な形として行使できる能力です。
※ 『災禍顕現』を行使しすぎた場合、その末路として、ベルベット・クラウという情報が魔王ベルセリアに呑み込まれ消失する危険性を孕んでいます。
その場合、真に『魔王ベルセリア』と呼ばれる存在が、本当の意味で誕生することになるでしょう。
※魔王化の影響で、思考の変化及び記憶の損傷が見られています。現状においてはアバル村の記憶の大半が破損し思い出せなくなり、夢で聞こえた唄に関する記憶に関する情報に塗りつぶされました。
※彼女の中で、アルトリウスの情報が徐々にブチャラティへと置換されていってます。さらなる経過でアルトリウスのことを完全に忘れる可能性があります。

【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:精神疲労(大)、全身に電撃のダメージ(大)、疲労(絶大)、左中指負傷(縦に切断、包帯が巻かれている)
[服装]:いつもの武偵校制服
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。アリア先輩たちが心配
0:カタリナ達と共に生存者を探す。
1:『武偵』のままだと、誰も護れない...?それでも私は、武偵であり続けたい。
2:ヴライ、マロロを警戒。もう誰も死んでほしくない
3:アリア先輩、志乃ちゃんを探す。夾竹桃は警戒。
4:『オスティナートの楽士』と鎧塚みぞれを警戒。
[備考]
アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です

【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康、無意識下での九郎との死別への恐れ
[服装]:いつもの服、義眼と義足
[装備]:赤林海月の杖@デュラララ!!
[道具]:基本支給品、文房具(消費:小)@ドラゴンクエストビルダーズ2、ランダム支給品1(岩永琴子確認済み)
[思考]
基本:このゲームの解決を目指す
0:……あなたは、誰ですか
1:カタリナ、あかりと共に生存者を探す。
2:九郎先輩との合流は……
3:紗季さん……
4:首輪の解析も必要です、可能ならサンプルが欲しいですが……
5:オスティナートの楽士から話を聞きたいですね
6:カタリナに少し違和感
[備考]
※参戦時期は鋼人七瀬事件解決以降です。
※アリアから彼女が呼ばれた時点までのカリギュラ世界の話を聞きました。
※この殺し合いに桜川六花が関与している可能性を疑っています。
ただし、現状その可能性は少ないと思っています。
※リュージからダーウィンズゲームのことを知っている範囲で聞きました。
※夾竹桃・ビルド・隼人・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※今の自分を【本物ではない可能性】、また、【被検体とされた人間は自ら望んだ者たちである】と考えています。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。


163 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:43:23 7sgvXI/w0
【冨岡義勇@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(中)、全身にダメージ(大)、気絶
[服装]:いつもの隊服
[装備]:はやぶさの剣@ドラゴンクエストビルダーズ2
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ(本人確認済み)
[思考]
基本:テミスとμを倒す
0:気絶
1:鬼舞辻無惨に会ったら殺す
2:仲間(妖夢、錆兎、煉獄)死亡による意気消沈
[備考]
※無限城に落とされる直前からの参戦です
※毒消し薬、消化促進薬を摂取しました。

【リュージ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:健康
[服装]:軍服
[装備]:イケPの二丁拳銃@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-
[道具]:ポルナレフの双眼鏡@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、不明支給品0〜1
[思考]
基本:???
0:岩永とあかりの所へ向かう。……一体何が起こりやがった?
1:岩永琴子と行動する。とりあえず会場の目ぼしい建物を巡る。
2:アリアの仲間、ジョルノ、カナメ、レイン、桜川九朗、メビウスの関係者を探す。
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後です。
※この世界をメビウスのような「フィクション」だと思っています。
※夾竹桃・ビルド・琴子・隼人・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。
※琵琶坂のこれまでの経緯を聞きました。

【琵琶坂永至@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:顔に傷、全身にダメージ(中〜大)、疲労(中)、鎧塚みぞれと十六夜咲夜に対する強い憎悪、背中に複数の刺し傷、左足の甲に刺し傷
ゲッター線による火への耐性強化、火傷(中)、痣@鬼滅の刃
[服装]:半裸、ズボンは辛うじて原型をとどめている。
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1、ゲッター炉心@新ゲッターロボ、絹旗の首輪
[思考]
基本:優勝してさっさと元の世界に戻りたい
0:とりあえず服を探すか。
1:あかりと岩永のところへ向かう、どう考えても碌な予感がしない
2:このメアリ・ハントとかいう同族のようなイカれ女、こいつもあかりやカタリナ同様利用する
3:鎧塚みぞれは絶対に殺してやる。そのために鎧塚みぞれの悪評をばら撒き、彼女を追い詰める
4:あのクソメイド(咲夜)も殺す。ただ殺すだけじゃ気が済まない。泣き叫ぶまで徹底的に痛めつけた上で殺してやる
5:クソメイドと一緒にいた白塗りの男(マロロ)も一応警戒
6:他の帰宅部や楽士に関しては保留
7:他に利用できそうなカモを探してそいつを利用する
8:クソメイドの能力への対処方法を考えておく
9:なんだこのシグレとかいうやつ、あの女の苦労が少しわかった気がする
[備考]
※帰宅部を追放された後からの参戦です
※痣@鬼滅の刃が発現したため、身体能力が伸びた代わりに、寿命が著しく縮みました。
琵琶坂は二五歳を超えているので、出しっぱなしにしなくても恐らく二日が限度でしょう。


164 : 赤は愛より出でて愛より赤し ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:43:38 7sgvXI/w0
【メアリ・ハント@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…】
[状態]:健康、己が願いを自覚、鋼鉄の決意、カタリナのファーストキスゲット
[服装]:いつもの服装
[装備]:プロトタイプ@うたわれるもの3 二人の白皇
[道具]:基本支給品一式、エレノアの首輪、カタリナ・クラエスのメモ手帳@はめふら
[思考]
基本:優勝してカタリナ様を破滅から救う
1:カタリナ様と一緒に行動
2:カタリナ様の破滅に繋がる連中(ジオルド)は始末する
3:間宮あかり、カタリナ様を守ってくれたのは感謝するけど、もしもの時は……
4:こいつ(琵琶坂)は様子見。まあお互い利用するつもりなのでそこは別にいい。
5:ミナデイン砲のトリガーとなるオーブを探す
[備考]
※魔法学園入学前からの参戦です

【シグレ・ランゲツ@テイルズ オブ ベルセリア】
[状態]:右腕、背中に火傷(小)、迫る戦いの予感への高揚(大)
[服装]:普段着
[装備]:七天七刀@とある魔術の禁書目録、クロガネ征嵐@テイルズオブベルセリア
[道具]:基本支給品、二人の白皇、ランダム支給品0〜2
[思考]
基本方針: 帰る。號嵐・真打を探す。
0:敵なら斬る。強い剣士なら更に良い。敵意がないなら斬らない。
1:災禍の顕主一行(ベルベット、ライフィセット、ロクロウ)とブチャラティは襲わず先にマギルゥとの契約を話す。ただしそれでも襲ってきた場合は別。
2:轟音の中心地へ向かう、久しぶりに楽しめそうだ
3:こいつ(メアリ)何なんだ?
4:こいつ(琵琶坂)どうにも怪しいが、まあその時はたたっ斬りゃいいだけか。
5:ついでに心水(酒)もほしい。
[備考]
※キララウス火山での決戦前からの参戦です。


165 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 22:43:55 7sgvXI/w0
投下終了します


166 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/06(日) 23:08:54 7sgvXI/w0
修正
【D-3/昼/焼野原/一日目】

【D-3/日中/焼野原/一日目】


167 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:25:31 ohdfpALM0
>>152
投下乙です!
リュージはそりゃあ仇が自分の知らないところで勝手に散ってたらやりきれないよなあ。
そこでヤケにならずちゃんと協力者には最後まで協力しようとするのはやっぱりしっかりしています。
と、そんなシリアスで重たい空気を塗りつぶすメアリ、やりやがったコイツ!
本人はいたって真面目なんですけどね、見てる側からしたらそりゃ言葉を失いますよね。
そんな空気すらぶち壊す魔王さん、この戦いが果たしてどうなるか...

続きを投下します


168 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:26:57 ohdfpALM0





「......」

教室の隅でみぞれは膝を抱え蹲る。
そんな彼女に早苗は、久美子はおろおろと狼狽えるばかりだ。

「あ、あの...好きなものなんかはありますか?出来る範囲でなら作りますよ!」

早苗からしてみればみぞれとはほんの数分前に顔を合わせただけの間柄。
当然、励ますのに適した言葉も趣味もわかるはずもなく、塞ぎこんでいる本人に聞くという悪手しかとれず。

「ぁ...その、みぞれ先輩、えっと...」

久美子は久美子で、みぞれのことを知っているからこそかける言葉が見つからない。
彼女は鎧塚みぞれがどういう少女かはそれなりには知っている。
以前もこんなことがあった。
みぞれが個人練習中に希美が彼女のもとを訪れてしまった時。
彼女は抱えていたストレスとトラウマに耐え切れず無言で逃走し教室の隅で蹲っていた。
最初に見つけたのは自分だったが、しかしなんの言葉をかけることも解決の糸口を見つけることもできず。
結局、みぞれを救ったのは同級生の吉川優子と希美本人だった。
そう。
久美子は渦中に近づけど、一歩距離を置いて見る立ち位置に着きやすい人間だ。
そんな自分の言葉が相手に響かないこともわかってしまう。
だから彼女は励ましの言葉すらうまく口にできない。
励ましたいと思えど、その場凌ぎの慰めには違和感を抱いてしまう。

「そっちは終わったかしら?」

戸惑いと沈黙の空気を吹き飛ばすように無遠慮に戸を開ける音が鳴る。

「ちょっと霊夢さん!もう少し気遣いというものを...はい、ごめんなさい」

早苗の言葉を遮るように霊夢は己の指の切断痕を見せ、無言で早苗を黙らせる。

「ねえあんた。いつまでそうしてるつもり?」

蹲るみぞれを見下ろし、霊夢は気遣うような素振りなくぶっきらぼうな口ぶりで問いかける。

「事情は他の連中からだいたい聞いたわよ。鈴仙も殺されたんですってね」

鈴仙。その名前にみぞれの身体がビクリと跳ねる。

「ぁ、わた...」
「別に無理して喋んなくていいわよ。あんたのせいとか思ってないし」
「で、でも、わた、わたし」
「逃げるののなにが悪いのよ?あんたのお陰であいつを殺した奴のこともわかったんだし」

ぶっきらぼうな口調は崩さず、霊夢はそのままみぞれの前を通り過ぎ、窓枠に手をかける。

「早苗、私はカナメのやつを追いかけるから後は頼んだわよ」
「はっ、はい」
「それとみぞれだっけ?無駄なお節介だとは思うけど一つだけ言わせてもらうわ。逃げるのも進むのも、どう転ぼうがただ腐ってるよりは全然マシよ。...ただそれだけ。じゃあね」

もう用は済んだと言わんばかりに霊夢は窓から飛び降り空を飛んでいく。

「霊夢さん...また会いましょうね」

遠ざかっていく彼女の後姿を心配そうに早苗は見つめ呟く。

「...そんな簡単に割り切れない」

ぽつりと呟かれたみぞれの言葉を久美子は聞き逃さなかったが、しかしなにも言えなかった。


169 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:27:35 ohdfpALM0


(こいつは俺の失態だ)

先行して病院へ向かう道すがら、周囲を警戒しながらカナメは進む。

(重傷を負わせて、普通なら助からない状況に落とし込んだ―――そいつはきっと、俺の甘えだ)

カナメはまだ直接的な殺人は経験していない。
王は必ず殺すと誓っていたが、引き金を引ききる前にこの催しに連れてこられ。
ジオルドに対しても茉莉絵に対しても殺すつもりで銃弾を放ったが、実際に奴らは死んでいない。

本当に甘えを捨てたのなら、茉莉絵が落ちていくあの時にダメ押しで銃弾を撃ち込むこともできたはずだ。
なのにしなかった。
そのせいでstorkまでも失ってしまった。
川に落ちた後も、支給品だとかなにも知らない第三者が手を貸すだとかいくらでも助かる道があることを排除していた。
そのせいでこれからも奴の被害者が増えていく。

(自分で撃ち殺さなけりゃ、死体を見なけりゃ罪悪感が少しでも晴れると思ったかよスドウカナメ)

その甘えのせいでこれからも犠牲が増えるなど到底許せない。
今度こそ、殺す。
この手で心臓に剣を、あるいは頭部に弾丸を撃ち込んで確実にその死を見届ける。

険しい顔つきのままカナメは病院へとその足を進めていく。

「追いついた」

ふわりとカナメの頭上に影が被さると、霊夢がその傍に降り立つ。

「情報はなんとなく整理してきたわ。あの坊主は竜馬の仲間で、鈴仙を殺した奴もわかった。それと...ソイツが、麗奈って子と一緒にいるはずの冨岡ってやつかもしれないことも」
「そうか。ありがとな」
「で、これからどうするの?」
「病院でお前の指に使えそうな奴を探したら水口を殺す。それと、折原のやつも探したい。お前はシドーってやつを探すんだったよな」
「そう思ってたんだけどね。あんたと一緒に魔女狩りも悪くないかなって」

霊夢の意外な返答にカナメはキョトンした表情になる。
霊夢は敵討を戦いの動機にするつもりはない。
だが、あの馬鹿の、魔理沙を殺した奴がどんな奴だったのか。
鈴仙を殺した男はどんな奴なのか。
それを口頭ではなく自分の目で見ておきたい。
そんな想いがふつふつと湧き出していた。

「...俺と行くってのは血を見るってことだ。後悔するなよ」
「ハッ、なにを今更。こんな殺し合いに巻き込まれた時点でどの道逃げられるものじゃないでしょ。ならさっさとカタ付けてスッキリしたいじゃない」

全ては理不尽から始まったこのゲーム。
逃げられないなら血に塗れようが進むしかない。
それを示唆するかのように、二人の足は揺らぐことなく前へと進み続ける。


170 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:28:07 ohdfpALM0
【E-6/1日目/日中】

【博麗霊夢@東方Project】
[状態]:左手の指二本欠損(応急処置済)、脱力感、頭痛(物理)
[服装]:巫女服
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一式、高坂麗奈のトランペット@響け! ユーフォニアム、セルティ・ストゥルルソンのヘルメット@デュラララ! マリアが作ったクッキー@現地調達
[思考]
基本:この『異変』を止める
1:シドーを見失ったし、一先ずカナメと一緒に病院へ北上。
2:最終的にムーンブルク城でシドーを待ちぶせしてみる。
3:マリアや幻想郷の仲間の死などによる喪失感。あー、いやになるわ……
[備考]
※緋想天辺りからの参戦です
※シドー、マリアと知り合いについて情報交換を行いました。
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、カナメ、竜馬と情報交換してます。

【カナメ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(特大)、王とウィキッドへの怒り、全身打撲(小)、肋骨粉砕骨折(処置済み)、全身火傷(治療済み) (シュカの喪失による悔しさ)、虚無感
[服装]:いつもの服装
[装備]:白楼剣@東方Project
[道具]:白楼剣(複製)、機関銃(複製)、拳銃(複製)、基本支給品一式、不明支給品2つ、救急箱(現地調達)、魔理沙の首輪、Storkの首輪、Storkの支給品(0〜3)
[思考]
基本:主催は必ず倒す
0:霊夢と一緒に病院に北上する。
1:回収した首輪については技術者に解析させたい。
2:【サンセットレーベンズ】のメンバー(レイン、リュージ)を探す。足取りが分かるレイン優先か。
3:王の奴は死んだのか……そうか……
4:ウィキッドのような殺し合いに乗った人間には容赦はしない。
5:ジオルドを警戒
6:折原を見つけたら護る。
[備考]
※シノヅカ死亡を知った直後からの参戦です
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、霊夢、竜馬と情報交換してます。


171 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:28:45 ohdfpALM0


「大丈夫かなぁ、みぞれの嬢ちゃんは」
「知己とも会えた上に縁ある施設なんです。立ち直れると信じたいものですが...」

弁慶と志乃は教室で塞ぎこむみぞれを気に掛けながら、校門前で見張りをしていた。

「母さん。周囲は以上ありませんでした」
「ご苦労様」

学校周辺を見回ってきたジオルドを志乃は適当に労わり弁慶に向き直る。

「弁慶さん。本当によろしかったのですか?」

志乃は『罪歌憑き』としてではなく『武偵』の佐々木志乃として弁慶に改めて問いただす。

霊夢の情報から、弁慶の仲間である竜馬が少し前までここに留まっていたことがわかった。
それに連なる形で、セルティの友達である平和島静雄の所在も。
片やバイク持ち、片や探索方面が遠いとすぐには追いつけないだろうが、それでもいる方面だけはわかっているのでここに留まるよりは会える可能性はずっと高い。
もしもあかりの情報があれば、志乃とてここに留まっていた保証はないだろう。

「まぁ正直に言やぁあいつらを探しに行きたいんだけどよ...久美子ちゃん達を放っておけねえよ」

しかし弁慶はここに留まることを選んだ。

「俺は志乃ちゃんみたいに『怪物』全部を恨むことはできねえけどよ」

弁慶がこの会場で真っ先に出会った『デュラハン』セルティ。
彼女は終始一貫して殺し合いに賛同せず、ずっと久美子を励まし続けていた。
恋人に触れれば可愛らしい反応を示したりとお茶目な部分も垣間見せた。
シドーとの戦いに乱入してきた『業魔』ロクロウ。
彼は昂った時こそは厄介極まりない災害じみた男だったが、そうでない時などはこちらの事情にも気を遣えるだけの度量はあった。
『怪物』にも色々といる。だから志乃のように怪物達は一掃するという極論には至れない。

「これ以上俺から奪われるのを見たくねえんだよ」

弁慶の脳裏に過る、鬼に蹂躙される和尚や同門の仲間たち。
久美子を庇いシドーに刺殺されるセルティ。

セルティの死に絶望の叫びをあげる久美子。
仲間たちを眼前で殺された様を、要領を得ない言葉で、それでも懸命に伝え涙を流すみぞれ。

そんな彼らを見ては、弁慶にここから離れるという選択肢などありはしなかった。


172 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:29:52 ohdfpALM0
「改めて感謝します、弁慶さん」

『武偵』としても『罪歌憑き』としてもそう礼を述べる。
彼女の中には未だにムネチカという高い壁が聳え立っている。
恐らく自分一人では何百と立ち向かっても勝てはしない。
それほどまでに怪物は強力だ。

支配したジオルドも炎の魔法を使えるとはいえ、所詮は少年に敗北を喫する程度の実力でしかない。
二人で挑んだとて、ムネチカ相手にもせいぜい相打ちが限度だろう。
支配できる人数が限られている中で、戦える人間が支配無しで手を貸してくれるのは非常にありがたいことだ。

「へへへっ、なんのこれしきのこと...」

礼と共に微笑みかけてくる志乃の姿に弁慶は思わず鼻の下を伸ばす。
志乃は見た目だけであれば見目麗しい美少女である。
そんな彼女に微笑みかけられれば生粋の女好きである弁慶が反応しないはずがなく。

だがその緩みきった頬もすぐに引き締められることになる。

砂利を踏みしめる音を察知した二人はすぐにそちらへと振り返る。

「下がってろ志乃ちゃん」

弁慶は先んじて前へと進み出て来訪者へと対峙する。

「てめえのせいで久美子ちゃんは泣いてんだ...経は唱えてやるから覚悟しやがれ小僧!!」

少年・シドー目掛けて弁慶は拳を握りしめ駆け出した。


173 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:31:15 ohdfpALM0


ズキズキと身体が痛む。
やはり力を引き出した代償は重く身体を蝕んでいる。
それでも常人よりは素早くクオンは地をかける。

結局、ビルドの決断により隼人とビルド、クオンとアリアの二人一組に当たってシドーを探すことになった。

いくら身体を痛めていてもビルドよりは戦闘ができるクオンが単独で、万が一シドーが牙を剥いてきた時のために現状の三人の中では一番マシな隼人がビルドに着く内訳だ。

学校周辺をビルド達に任せ、南西の方面をクオンが探索するその最中、二つの背を向けた人影を認める。

1人はふりふりとした洋風の佇まい、もう一人は貴族風の格式高い衣装に身を包んだ者。

(あれは―――!)

思わず足が速まり、その名を叫ぶ。

「マロロッ!!」

嬉しかった。
この地に呼ばれた数少ない知己。
"彼"と親身に接してくれた友。
その友の無事が確認できて喜ぶなという方が無理な話だ。

クオンの声に振り返る。
その顔面には修羅の如き化粧が施されていた。
驚き疑問を抱くが、しかし恐怖は抱かない。
マロロは心優しい漢だ。
あの化粧もなんらかの支給品によるものだろう。
そう思い駆けるが―――

「ッ!?」

笏を向けられそこから火が灯れば流石に顔色が変わる。
数舜の後に放たれる焔をクオンは横に飛び退き回避。
着地と同時にすぐにマロロへと視線を向ける。

「チィッ、外したでおじゃるか」
「どういうつもりかなマロ!?」
「どういうつもり?にょほ、にょほほほほほ...オシュトルの一派が笑えぬ冗談を言う」

マロロの言いぐさにクオンは眉を潜める。

確かにクオンはトゥスクルの皇女の立場でオシュトル達に接触を図った。
だがそれはまだヤマトの方面には知られていないはずだし、その目的もむしろオシュトルやアンジュ達を戦いから下ろす為のもの。
もしこの情報をなんらかの手段で知っていたとしても、とても彼らの一派とは言えないだろう。

「オシュトルの首さえとれば構わぬと思っておったが...その前に群がる蝶を払うのもまた一計」
「ちょ、ちょっと待って!全然話が見えないのだけれど!?」
「黙るでおじゃ!貴様と交わす言葉など不要!!咲夜殿、こやつを討ち取るはマロの使命でおじゃる!!」

激昂と共にマロロは笏を構え火球を放つ。

「ちょちょちょ、どうなってんのよさクオン!あれあんたの知り合いじゃないの!?」
「そうだけど...ごめん、今は話してる暇がないかな!」

クオンはアリアが零れ落ちないよう胸元に挟み込み、迫る火球を跳んで躱す。
続けざまに放たれていく火球にも負けじとクオンは次々に躱していく。


174 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:32:01 ohdfpALM0
「にょほほほほほ。いいのでおじゃるか?躱し続けた先には―――」
「ッ!」

突如、クオンの背から業と熱気が立ち上がり、周囲の空気が一変していく。

クオンの背後には既に炎上網が張られており逃げ場を塞がれていた。

(躱されることは承知の上だったってことね...!)
「さあ、観念して首を差し出すでおじゃる!ハク殿を見捨て逆賊オシュトルに尻尾を振った女狐めがぁ!」

狂喜の笑みに顔を歪ませたマロロが笏を振るい、一際大きな火球を放ちクオンを燃やし尽くさんとする。
それに対してクオンは―――動かない。
逃げ場のない現状に観念したのか?否。

「私が...オシュトルに尻尾を振った?」

クオンの呟きが空気を揺らしマロロの鼓膜を震わす。

彼の言葉はなんてことのないもののはずだった。
戦場で遭遇し言われても怒る者はいない、そんな程度の罵声だった。

「―――ふざけるなァァァァァァ!!!!」

けれど。今のクオンにとっては、『ハクを護れなかったオシュトルを恨んでいる時間軸』の彼女にとってはそれは耐えがたき侮辱であり地雷に他ならなかった。

暴風のような氣の起こりと共に迫る火球が弾け飛び、背後の炎上網は掻き消える。
距離を開けていた筈のマロロは暴風に煽られ勢いよく服がたなびき、気圧され思わず足がたたらを踏む。

「ふぐっ...ぬおおおっ」

倒れかける足をどうにか踏みとどまり転倒を防ぐ。

「誰が...誰があのような漢に...!」

憤怒の表情を浮かべマロロを睨みつけるクオン。
その身にはうっすらと金色の氣が纏われていた。

(そうだ。私があの漢になびくなど、ハクを護れなかったあんな漢に尻尾を振るなど...!)

気か付けば、怒りのままに駆けていた。
瞬く間にマロロとの距離を詰め、その首元を掴み上げ、感情のままに吼えていた。

「訂正せよ!我がいつ、何時、あの漢の軍門に下ったというのか!?」

首元を圧迫する感覚にマロロの呼吸が乱れ、彼女の手から逃れようと必死にもがく。


175 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:32:28 ohdfpALM0
(これは見過ごすわけにはいきませんね)

ここまでマロロの言に従ってきた咲夜だが、さすがに同盟相手を見殺しにするわけにはいかないと行動を開始する。

掌を空に翳し能力を発動し、時間を止める。
辺り一帯は無音の静止空間に包まれ、咲夜のみが動くことを許される。

(直接殺せば彼にケチをつけられるかもしれない...ならば腕をいただきましょうか)

咲夜はナイフを構え投擲。狙うは、マロロを締め付けるクオンの腕。
ナイフはクオンに触れる寸前で空に静止し、再動の時を待つ。

2、1、0。

そして時は動き出し、ナイフはクオンの肌に吸い込まれ

パリン

弾け飛んだ。

「は?」

あまりの出来事に咲夜は思わずそんな間抜けな声を漏らした。
咲夜の投げたナイフは確かにクオンに当たっていた。だが、纏う氣のせいかクオンの腕が硬かったのか。
ナイフは刺さることなく砕け散ってしまったのだ。

「ッ!?」

だがクオンの気を逸らすことには成功し、締め付ける力が緩まったマロロはその隙を突き全力でもがき拘束から逃れる。

「ぜえ、ぜえ」

荒い息遣いでクオンを睨みつける一方で思う。

(おかしいでおじゃる)

マロロの言葉に対してのクオンの態度は異様としか言い表せない。
オシュトル達は偽の姫殿下を担ぎ上げ『我こそが正当後継者である』と謳っている。
奴を信じた者たちからすればオシュトルの配下にいるということは誉れである。
なのにいま、クオンはその名誉を憎悪に近い形で否定している。

噛み合わない。
マロロの知っているクオンと今のクオンが。
その違和感は修羅と化したマロロの思考に一抹の冷静さを取り戻させていた。

「ちょっと待ちなよクオン!あんたこいつと知り合いなんでしょ!?殺すつもり!?」

一方のクオンもまた、アリアの静止の声にハッと我に返る。

(いけない...頭を冷やさなくちゃ)

一度力を引き出したせいか、どうにも感情の制御のタガが外れかけている。
今のマロロはどう見てもおかしい。
だというのに怒りを優先して止められなかった。

「ごめんマロ。私にはあなたの言っていることがわからないの。だから、どういうことか教えてほしいかな」

ひとまずは話をしよう。そこから見えてくるものがあるはずだ。

「...承知したでおじゃる」
(もしもクオン殿がオシュトルに不満を抱いているのならば、好機でおじゃる。一騎当千の猛者を引き抜くことが出来れば一層に戦を優位に運べるでおじゃる)

そしてそれはマロロも同じことで。
抱いた違和感を拭う為、二人は一度腰を据え話し合うことにした。


176 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:32:55 ohdfpALM0




近場の民家に腰を据えての情報のすり合わせ。

マロロから齎された情報はクオンを混乱させるには充分だった。

まず、自分とマロロの連れてこられた時間がズレていること。
オシュトルがハクを護れなかったのではなく捨てたこと。
オシュトルが偽物のアンジュを奉り本物であると掲げていること。
自分がそんなオシュトル達の味方に付き従っていること。

まず第一に、自分がヤマトの敵としてオシュトル達と並び立つということが在りえない。
自分はアンシュたちを戦場から遠ざける為に戦の一切合切を引き受けようとしていたのだから。
しかし、マロロの口ぶりからしてただ妄言を吐いているとは思えない。

次に、オシュトルが護っているアンジュが偽物であり、ヤマトにいるアンジュが本物という件だが―――これはマロロが勘違いしている。
毒を盛られ姿を隠さなければならなくなったアンジュは間違いなく本物だ。それは実際に逃亡の手助けをし手合わせもしているので間違いない。
つまりはヤマトにいるアンジュは影武者。そしてそれをする理由も検討はつく。

「マロロ。オシュトルの連れてるアンジュは本物かな。で、ヤマトの方が影武者」
「ッ...!本物の姫殿下を侮辱するかの如き言いぐさ...やはり貴殿も逆賊にすぎぬか...!」
「待って。でもそれはきっと必要なことなの」

怒りにかられかけたマロロだが、クオンの言葉に思いとどまりその熱もスン、と冷める。

「必要?仮にオシュトルのもとの姫殿下が本物だったとして、わざわざ偽物の姫殿下を奉ることが必要だと申すでおじゃるか?」

もしも。万が一にも在りえぬことだが、もしもオシュトルの傍にいるアンジュが本物だったとして。
自分たちヤマトの者が影武者をわざわざ立てずとも、悪鬼オシュトルの不当性を証明する意味合いも込めて本物のアンジュを連れ戻すと名目を掲げれば良い。

「だってそうでしょ?帝がいなくなって、そのうえアンジュまでいなくなってしまったらヤマトの人たちは混乱に陥っちゃう。実際、ヤマトでは大きな騒動は起きてないんじゃないかな?」
「それは...」

ヤマトの現状を思い返し、マロロは言葉を詰まらせる。
帝がお隠れになり、続きアンジュまでもがいなくなったと噂が立った時は、ヤマトの民たちからは活気が消え失せ反乱や暴動さえ起きつつあった。
しかし、アンジュ健在の姿を見せた途端、それらは一気に収まり、帝健在の以前ほどではないとはいえ治安は維持できていた。

「ならば姫殿下が回復致したその時になぜ迎え入れなかったのでおじゃるか」
「毒を盛った犯人がわからない以上、アンジュが戻ってきてもまた狙われるだけかな。むしろ戻ってきてすぐにまた同じことを繰り返されればみんなの不信感を煽るだけかな」
「なるほど。筋は通っているでおじゃる」

マロロはクオンの論に素直に感心する。
ヤマトに寄るでもなくオシュトル達に寄るでもない第三者ならではの中立且つ俯瞰的な視点。
故にどちらが間違っていると決めつけるのではなく、どちらも為すべきことを為しているとすることで、彼女の意見を受け入れやすい受け皿を作っている。

(だがそれはあくまでもオシュトルに正義があればこそという前提のもと。ハク殿を斬り捨てたあの漢を擁するというならば、それで話は終わりでおじゃる)

マロロはヤマトという国を愛しているのと比類するほどに友を愛している。
如何な理由があろうともオシュトルの蛮行と裏切りを是とするつもりはない。
もしもクオンがオシュトルを認めれば、その時点でこの話は終わりである。

「それで、オシュトルについてはどう思うのでおじゃるか?」

敵か。味方か。

自身の返答一つで運命が変わることにも気づかず、やがて彼女は口を開いた。


177 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:33:32 ohdfpALM0


クオン達と分かれたビルドと隼人は学校に向かう前にムーンブルク城に足を運んでいた。
方角的にはシドーが向かった可能性は低かったが、もしもこの施設があの冒険で復興させた城として再現させられていれば...そんな淡い期待を込めて寄ったのだが。

「......」

城は凄惨の言葉に尽きる有様だった。
皆で築き上げた立派な壁は瓦礫の山となり。
火事でも放ったのか、至る箇所に焦げ跡が刻まれ。
かつて復興させた栄華など影も形もなく、最初に訪れた復興前の、いや、それ以上の有様にビルドは言葉を失っていた。

「無駄足になったか...仕方ない、予定通り学校に向かうぞ」

いまはこんな焼け跡になど構っている暇はない。
早々に切り上げ踵を返す隼人の背中をビルドは目で追う。

こんな有様にはなっているが『アレ』は無事だ。
行く先々で、事を為す度に打ち鳴らしてきた『アレ』は。
シドーとの冒険の証ともいえる『アレ』は、確かにその存在を感じ取ることが出来る。

けれど。

ソレは瓦礫の山に埋もれてしまっている。

シドーを探さねばならないいま、掘り起こしている時間はない。
後ろ髪を引かれる思いでビルドは隼人と共にムーンブルク城を後にした。


178 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:35:59 ohdfpALM0




【おや。あれは貴方が殺した首無しの仲間ですね】

「ッ...!」

ビルドから逃げ出した果てに相まみえた男の姿にシドーは顔を青くする。
仮面の漢と戦う前に遭遇した三人、そのうちの生き残りだ。

【なにを恐れるのです?貴方様のちからであれば破壊するのは造作もないでしょう】

「黙れ...俺は...!」

頭を抱え呻くシドーにも構わず、弁慶の拳はシドーの頬にめり込み激痛と共にその身体がよろける。

「が...」
「まだだ!こんなもんじゃ終わらせねえ!」

シドーが痛みに怯んだ隙に弁慶は胸倉を掴み上げ、思い切り頭をのけ反らせ頭突きを鼻柱に叩き込む。

「ぶがっ」
「うおりゃあああああああ!!」

己の肩がシドーの鼻血に塗れるのも構わず、弁慶はそのままシドーの身体を担ぎ上げる。

「天魔覆滅!大雪山おろ...っ!?」

振り下ろす直前、突如、身体が硬直し未完成の投げに晒されたシドーの身体はただ地面に落とされるだけに留まり、ダメージは激減する。
シドーの中のハーゴンがヴライにも用いた呪術で妨害したのだ。

「てめえなにしやがった...!?」

弁慶が硬直している間にシドーはふらふらと後ずさり間合いから外れる。

【いまはわたしの呪法で事なきを得ましたが、こんなことは何度も通じませんよ】

「......」

「ぬおおおおおお!」

言うが早いか、弁慶は気合い一徹、全身に力を漲らせ呪いを力づくで身体から追い出す。


179 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:37:07 ohdfpALM0

「どいてください弁慶さん!」

背後からの志乃の叫びを受け、弁慶は振り向くのと同時に横合いに飛び退く。
弁慶がどき空いたスペースにジオルドが掌を翳し、その手から炎の魔法が放たれる。

「ぐお...!」」

炎に巻かれ苦悶の声を挙げるシドー。
その隙を突き、志乃が距離を詰め妖刀・罪歌を横なぎに振るう。


刻まれたのは掠り傷。それ以上斬り込む前にシドーの大剣が振るわれ、その回避を余儀なくされたからだ。
だが罪歌にとってはそれで充分。


――――愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛


【これは...呪いですか】

流れ込む愛が隅々にまで行き渡り、シドーの目が徐々に紅く染まっていく。

【小癪な。呪いをおいてわたしの右に出るものなどいませんよ】

ハーゴンは『シャナク』のじゅもんを唱え、シドーの身体から罪歌の呪いを消し去り、眼も元の色を取り戻す。
だが、呪いで蝕まれたぶんの彼の体力は戻らず、シドーは荒い息遣いで片膝を着いた。


「...どうやら罪歌は効かないようですね」
「油断するなよ志乃ちゃん。あいつはああやって苦しんでるフリをしやがんだ」
「ええ。隠しきれない殺意が漏れ出していますものね」

一見では息も絶え絶えではあるが、その背後から漏れだす黒いオーラを弁慶も志乃も見逃してはいない。
精神的にも肉体的にも余裕がなくなってきており、ハーゴンの干渉も増えたこと。
ヴライとの戦いを通し破壊神の力の多くを引き出してしまったことが原因として、今のシドーは限界まで水を溜め込んだ壺のように破壊神の力が抑えきれなくなりつつあった。

【さあ破壊神様。このままではぶざまにいのちを散らすことになりますよ?今こそちからを解放する時です】


「ぐ、ぐうううううう!!」

頭を抱え込み唸り声をあげるシドー。
そこに生じた隙を突き、弁慶と志乃、そしてジオルドの三人がシドー目掛けて跳びかかる。

「やめろお前たち...ぐおおおおおおお!」

迫る脅威を破壊すべく、理性を越えて破壊の力が引き出される。

三人は異変に気付くももう遅い。
弁慶の拳が、ジオルドのレイピアと志乃の剣がシドーの命を断たんと襲い来る。


180 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:37:43 ohdfpALM0
刹那。

シドーと三人の間に二つの影が入り込み、一つの影は弁慶の拳を両腕で受け止め、一つの影は両の掌で罪歌を挟み込み、尻尾でジオルドのレイピアを弾き落とした。

「間一髪、てところかな」
「きゃっ!」

影、クオンは挟み込んだ刀ごと志乃を押し投げ尻餅を着かせる。


「おま...隼人、なんでここに!?」

もう一人の影、隼人の姿に弁慶は目を丸くする。
自分の邪魔をしたのが探していた知己の一人なのだから当然だ。

「弁慶、ひとまずここは引け。奴には用がある」
「なっ...!?」

隼人の言葉に弁慶の額に青筋が走る。
ここに来ての妨害は、再会への喜びよりも邪魔をされた怒りが勝ってしまう。

「ふざけんじゃねえ!こっちは仲間が一人やられてんだ!黙って引き下がれるか!」
「...そうか。予想はしていたが...やはりな」
「わかったらどけ隼人!」

進路を塞ぐ隼人を押しのけようとする弁慶だが、しかし隼人はその腕を掴み道を譲らない。

「まだ俺たちの用件は済んでいない...さがれ弁慶」

隼人としては、弁慶の言と見るからに不安定なシドー、どちらに信を置いているかはいうまでもないことだ。
普段ならばそうそうにシドーに見切りをつけるだろう。
しかし、厄介なことにシドーはビルドの仲間だ。
彼のビルダー能力を頼り、そのビルドがまだシドーとの話を終えていない以上は彼に決着をつけさせるのが筋である。
だから隼人は弁慶にシドーを殺させなかったのだ。

「隼人...そうかよ、お前がそのつもりならなあ!」

弁慶は激昂と共に隼人の腕を振り払い、右の拳で隼人に殴り掛かる。
隼人はそれに返す形で右の拳で弁慶の顔へと狙いをつける。

ガッ

交差する二人の拳は、互いの頬を捉えその威力でお互いをのけ反らせる。
その痛みに怯むことなく弁慶は隼人へと掴みかかり、隼人はそれをしゃがみ回り込むことで回避。
体勢を崩した弁慶の後頭部へと左の回し蹴りを放ち頭部を打ち抜く。
その威力に目を見開きよろけるも、すぐに振り返り隼人の身体目掛けて掌底を繰り出した。
隼人は躱しきれないと判断し、腕で防御するもその威力を殺しきれず後退を強いられる。

「ふん、少しはやるようだな」
「心変わりなら今の内だぜ隼人」

バチバチと火花を散らし合う二人だが、その顔には凶悪な薄ら笑いすら浮かんでいる。
揉め事が起きたら仲間だろうがとりあえず殴り合ってから決める。
それがゲッターチーム。彼らのなんら変わりない日常の風景の一つである。


181 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:38:46 ohdfpALM0

一方、志乃は尻餅を着いたままクオンを睨みつけていた。
罪歌に刻み込まれた化け物への憎悪にその両眼が赤く光る。


「その尻尾に耳...また怪物が邪魔を...!」
「尻尾...耳...? 貴女、私の仲間を知っているの?」
「怪物と交わす言葉などありません、ジオルド!」
「はい母さん」

志乃の号令と共に、ジオルドが跳躍しクオン目掛けて炎の魔法を放つ。
向かい来る猛火をクオンは跳んで躱し、その隙を突き志乃は罪歌を抜き横なぎに振り抜ける。
クオンはそれを身を捻り寸でのところで躱し、掌底で額を狙うも志乃もまた頭を傾け掠るのにとどめる。

「ッ...ジオルド!」

走る痛みに耐えながらも志乃はジオルドにもう一度炎を出すよう命ずる。
命令通りにジオルドは着地したクオンに炎を放つ―――が、その炎は横合いから奔る火の渦に消され呑まれた。

「ひょほっ、クオン殿にはとんだお節介でおじゃるかな?」
「ううん、助かったよマロ」

クオンより遅れて到着したマロロがその修羅の相をぐにぃと歪める。

情報交換の折のマロロの問いかけに、クオンは『オシュトルが私欲でハクを斬り捨てたとは思いたくない。けれど、如何な事情であれハクを斬り捨てたのは断じて許さない』と答えた。
まだ確定的にヤマトの側に着いたわけではないが、今のマロロにはクオンがオシュトルではなくハクの味方であるという事実だけで充分だった。

(クオン殿は奴に欺かれていただけ...ハク殿を想うのであればマロにとっても友でおじゃる)

マロロにとってオシュトルに組する者はみな罪人だ。
ハクという漢を中心に集っておきながら、彼が死んだ途端にまるで最初からいなかったかのように扱う始末。
あれだけ共に楽しく過ごした日々ですら濁り悍ましい記憶になるほどに、オシュトルの一味には憎悪しか抱けなかった。
だからこそハクをこれほどまでに想ってくれるクオンの存在はマロロにとっても一つの光明だった。
彼らが皆、美味そうな汁を啜れる方に着いたのではなくオシュトルに騙されているという可能性が生まれたのだから。
もし彼らが騙されいいように操られているのならば救い、またハクの友として正してやりたい。

ここまできてクオンから齎された『ヤマトの奉るアンジュが影武者であり、オシュトルの側にいるアンジュこそが本物である』という証言と『この会場で散ったアンジュは本物である』という事実がかみ合っていないのは彼らしかぬ失態といえよう。
脳内に埋め込まれた『蟲』に齎されたオシュトルへの憎悪はそれほどまでに目を曇らせていた。

「また怪物が私の邪魔を...ジオル」

新たな『怪物』の登場に、志乃は戦意を燃やしジオルドの名を呼ぼうとしたその瞬間、突如、背後より志乃の首元にナイフが宛がわれその言葉を止めさせられた。

「そこまで。これ以上戦うつもりなら命の保証はしないわ」

マロロと共に到着した咲夜が時間を止め背後にまわっていた。

(本当ならここで殺しておきたいのだけれど、同盟相手の機嫌を損ねるのも好ましくないものね)

既に背後を取っている以上、咲夜は志乃をいつでも殺せるが、しかし新たに同盟を組んだクオンがいまはそれを望んでいない。
時間を止めた上でのナイフが効かなかった以上、現状での彼女との敵対はゲームの詰みであることを自覚していた。

「......」

ジオルドは誰に言われるでもなく戦闘の構えを解く。
『親』である志乃からの命令がない以上、ジオルドにクオンら三人と戦う意志は抱けない。
これでひとまずは戦況は支配した。
その安堵にクオンはふぅと一息を吐く。

だが彼らの誰もが知らなかった。
この戦場には、まだ戦える者がいたことを。


182 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:39:44 ohdfpALM0

「アイス・ウォール」

その呟きと共に咲夜の足元に冷気が走り、瞬間的に氷漬けになる。

「なっ!?」

突然の強襲に咲夜は驚愕し、思わず志乃に充てていたナイフを放してしまい、その隙に志乃は咲夜の拘束から逃れ距離を取る。

「ジオルド!」
「はい母さん」

志乃の命令に、ジオルドが咲夜目掛けて炎を放てば、マロロが間に入り込み防壁で迫る炎を弾きとばす。

「咲夜殿、いったいなにが」
「わからないわ...急に足が凍り付いて」

「...やっぱり、殺し合いに乗ってたんだ」

ずるり、ずるりと重たいものを引きずるような足取りで少女、鎧塚みぞれが校舎より姿を現す。

教室で塞ぎこんでいる最中、彼女は弁慶たちとシドーとの喧騒が聞こえた瞬間、思わず耳を塞ぎ目を瞑った。

『逃げたんですか?』

だが、その瞬間、先ほど久美子にぶつけられた言葉が脳を過り。

『逃げるのも進むのも、どう転ぼうがただ腐ってるよりは全然マシよ』

早苗に投げられた言葉に自問自答した。

自分は麗奈やオスカー達を見捨てて逃げてなんかない。
逃げたかったわけじゃない。
でも。
もしも逃げてしまったのだとしたら。
また同じ失敗をしてしまうのが怖い。
だったらこのまま座っていた方が楽だ。
自分が諦めて勝手に終わる分にはしょうがないと諦められるから。
でも...

(そんなの、希美に顔向けできない)

希美は言ってくれた。
才能があって、そのうえでひたむきに努力を重ねる自分のオーボエが好きだと。
彼女が好きだと言ってくれた旋律を奏でられるのは、きっとここで座り込んで飛ばない青いだけの鳥じゃない。
だから辛くても怖くても選んで進む。

見せかけじゃなくて、本当の『リズと青い鳥』でありつづけるために。

だから止めようとする早苗と久美子にも構わず校舎から降り、自分を気遣ってくれた志乃が窮地にあるのを見て咲夜への攻撃を選んだ。


183 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:40:30 ohdfpALM0

「みぞれさん、貴女、その力は...?」
「...ごめんなさい、なにも伝えられてなくて」
「...いいえ。力を貸してくれるのならそれで充分です。みぞれさん、弁慶さんは向こうで一人を引き受けてくれています。あの三人の向こうにいる角のような髪型の少年...アレが久美子さんの仲間を殺した怪物です」
「...!」

みぞれは思わず下唇を噛み締める。
怪物・鬼舞辻無惨に仲間たちを蹂躙された記憶がフラッシュバックする。
麗奈もオスカーも鈴仙もこんなところで死んでいい人たちじゃなかった。
それを奪う者たちに対する憎悪と怒りが静かに溜まっていく。

誰も殺したくないと思っていた。
殺してしまえば希美の好きだと言ってくれた『綺麗な演奏』はもうできなくなると思っていた。

けれど。

(それはそれとして...許せない)

「ふむ...護衛二人を失い狸の皮が剥がれたようでおじゃるなぁ」

マロロは弱火で咲夜の足の氷を解凍しつつみぞれという人間を改めて評価する。
映画館に向かう際の彼女からは特にこれといったものは感じられなかった。
だが、実際には氷の術を隠し持ち、ただの市民とは思えぬ殺気を放っている。

「しかしその程度の気概、戦場で持ち合わせぬ者などいないでおじゃるよ。我ら義勇の士...いや、クオン殿はあくまでもトゥスクルの民でおじゃるな。
ならばこう言い換えようぞ...我らハク殿の友の敵ではないでおじゃる」
「マロ、咲夜。悪いけどできるだけ殺さないように対処してほしいかな」

クオンとてこの戦いの原因がシドーであることはわかっている。
だが、彼のことをあれほど想うビルドのことを考えればただ差し出すことなどできるはずもない。
だから今は守る。少なくともビルドの中で決着がつくまでは。

そんな不本意ながらも繰り広げられる闘争。
その氣にあてられたシドーは苦悶の声を漏らす。

恐怖ではなく歓喜に。

抑えきれぬ破壊衝動に。


184 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:41:15 ohdfpALM0

「止めてくれ...もう、戦わないでくれ...!」

それでもシドーは抗う。
一緒に旅をしてきた相棒のために。
自分が足を引っ張り彼まで巻き込むなどあってはならない。

(耐えるしか、ないのか...!?ずっと、ずっと、ずっと...!)

【認めちまいなよぉ、僕はそんなことできましぇーんってw】

亡霊の声が纏わりついてくる。

【どうしてそんなに苦しむんです?】

嗤うように、抱きしめるように耳元で囁いてくる。

【不死身のデュラハンすら殺せたんだ。お前に殺せないものなどないだろう】

聞いたことのない声ですら、はっきりとこの手で築いた屍の一つであることを確信させる。

【さぁ、全てを壊してしまいなさい。貴方の本能の赴くままに!】


「ぐ、あ、あ、あ、あ...」

「シドー!!」

己の名を呼ぶ声が耳に届く。
それは救いのはずだった。求め続けていた声のはずだった。
なのに。

今はそれが辛い。脳を破壊するような激痛と吐き気に見舞われる。
こちらを心配するような顔すら心臓を締め付けられる。

なにをしても。なにを見ても。
辛くて苦しいことばかりこの身に降りかかる。

どうすれば楽になれる。

どうすれば救われる。

「ひっ」

か細く小さな悲鳴が聞こえた。
本来ならばこの喧騒では届かないはずの矮小な悲鳴だった。
けれど。
自分を憎む気持ちも。
自分を護ろうとする声も。
纏わりつく死者の声も。
なにもかもが苦痛であった彼は逃げ道としてその声を辿った。

声の主は―――最後に校舎から出てきた巫女服の少女と制服の少女―――久美子。
彼女はこちらを見るなり尻餅を着いていた。
その目に映るのは、怒りでも殺意でも労わりでもなく、純粋な恐怖。
それだけがシドーになんの苦痛も与えなかった。
それだけがいまの彼にとっては救いだった。

「ハハッ」

思わず笑みが漏れた。
どうすれば楽になれるのか―――簡単なことじゃないか。

我慢することで衝動を堪えるのが辛いなら。
破壊することで恨まれるのが痛いなら。
気遣われ仲間にまで被害が及ぶのが怖いなら。

犯した罪により、あいつに捨てられるのが絶望だというのなら。

シドーは大剣を強く握りしめる。

「最初からこうすればよかったんだ」

駆け付けるビルドにも構わず、柄を強く、強く握りしめる。

「こうすれば、俺は楽になれるんだ」

そして。

斬るべきものを斬る為に。

シドーの大剣は振り下ろされ―――己の胸部に突き立てられた。


185 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:41:38 ohdfpALM0




ザシュ ザシュ ザシュ

何度も、何度も剣を引き抜いては突き立てる。

「シ、ドー?」

眼前で行われる行為にビルドは頭の中が真っ白になり立ち尽くす。
ビルドだけではない。
この場で争っていた者たちも。降りてきたばかりの二人も。
シドーを除く十一人の参加者はみな言葉を失い呆然と見守るしかなかった。

(これでいい)

胸に走る激痛とは裏腹に、シドーの心は晴れやかなものだった。
全てが辛く苦しいなら、自分を『壊して』しまえばいい。
そうすればなにも気にしなくていい。
我慢しなくてもいい。

この辛い現実から逃げ出せる。
あの恐怖の目が訴えかけるように、俺が消えてしまえば何もかもが丸く収まる。

激しい脱力感と共にどちゃりと地面に身体が倒れ込む。

じわじわと地面を濡らしていく血と臓腑の赤と共に思考も薄れていく。

(これでよかったんだ...これで...)

視界が消えていく。

意識が途絶えていく。

(ビルド...お前には仲間がいる...おれがいなくても、お前なら、きっと...)

そんな感覚に軽い幸福感すら覚えた果てに。


【よ う や く こ の と き が き た】


刻まれたのは、そんな声。


186 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:42:37 ohdfpALM0


―――ドクン

地面が跳ねるような感覚に襲われる。

「う、くっ」
「うあああっ」

皆が戸惑う中、明確にこの二人―――クオンと東風谷早苗だけは明確に別の感覚に襲われていた。

「大丈夫クオン!?」
「ぁっ、胸が...熱い...なに...?」

なにかに共鳴するかのように跳ねる心臓にクオンは息を荒げ視界が歪み始める。

「早苗さん」
「ぁああ、頭が、うぅ」

流れ込む強い感情に早苗の脳髄が悲鳴を挙げる。

「ぁ...我を...崇めよ...我に...捧げよ...」

何者かの声を代弁するかのように早苗の口が動き始める。

「我は望む...全ての破壊を...!」


【【【【ククク...カーカカカカカカカ!!】】】】

ゲラゲラゲラゲラ。
笑う。嗤う。

誰にも聞こえない声で、誰にも見えない姿で、四色の声色を重ねて彼は歓喜する。

存在すらかき消されていく中、それでも彼は笑っていた。

【用済みとあらば私すら破壊する...素晴らしい、それでこそ破壊神!貴方様のあるべき姿!!】

最後にその目に映るのは、呆然とする憎きビルダーと諸共捧げられる贄たち。

その視線の先にある、偽りの肉体を突き破り立ち昇る巨大で禍々しい腕。
"シドー"と呼ばれた肉体から生える一対の腕は、その器を引き裂き掌に収めて潰す。
なにも無かったはずの空間には暗雲が立ち込み、周囲一帯を暗黒に包み込む。
暴風が荒れ、雷が高鳴り、地が震え泣きわめく。

【最良の生贄は有象無象でもビルダーなどでもなかった...その至高の力を振るう御神自身!!】

ハーゴンはある時間軸では己の命と引き換えに、この世界に呼ばれた時間軸ではヒトとして旅をしてきたシドーにこれまで過ごしてきた仲間たちを生贄として破壊神を復活させようとした。
それらは間違いではない。実際に復活させることが出来たのだから。
だが、この虚構と現実入り乱れる世界だからこそ出来る手段がある。
それは、破壊神であるシドー自身に『シドー』を否定し破壊してもらうこと。

既に何度も予兆はあった。
マリアを殺め王を狩る時にはヒトの身でありながら破壊神としての力を申し分なく振るい。
弁慶やセルティ達との戦いでは己の意思なく戦い。
ヴライとの戦いなどはブラックホールや破壊神の腕という本来の破壊神でなければ使えない技まで披露してみせた。

何れの現象も、シドー自身が己を否定した時に起きた現象だ。
破壊衝動がヒトとして暮らし得た理性を上回った瞬間だ。
ならば。
誰かではなく、ほかでもないシドー自身がヒトとしての己を否定し破壊すれば。
破壊神の力を受け入れる器を生贄とすれば。
復活の儀式は問題なく行える。
虚構(はかいしん)と現実(ヒト)が入れ替わり、ヒトとしてのシドーは消え去り、破壊神が顕現することが可能!!


187 : 英雄の唄 ー 一章 ふっかつのじゅもんー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:43:32 ohdfpALM0
【わが 破壊の神よ!偽りの肉体を捨て、今こそお目覚めを!!】


消え去るその直前まで彼はずっと嗤っていた。
それは望みを叶えられた歓喜か。あるいは誰に知られることもなく消え去ることへの自嘲か。
その答えを知る者はどこにもいない。


だが。


彼の遺した言葉に応えるように、ぐしゃぐしゃに潰した器だったモノを口に放り込みながらソレは顕現した。


竜のような鱗に包まれた何十メートルもある巨大な体躯。
三対の巨大な手足。
コウモリのような巨大な羽に蛇のような尻尾。

見る者に恐怖と畏怖を与える巨躯から放たれる咆哮が、生贄たちに暴風として襲い来る。

ソレは生まれ出たことに歓喜するように贄たちに己が名を告げる。


―――ᛗᚤ ᚾᚪᛗᛖ ᛁᛋ ᛋᚺᛁᛞᛟᚺ ᛞᛖᛋᛏᚱᚢᚳᛏᛁᛟᚾ ᚵᛟᛞ ᛋᚺᛁᛞᛟᚺ


神の言葉は人には伝わらない。
次元が違いすぎる者同士で共有できる言語などない。

しかし、新人神たる二人だけには伝わった。

故に畏れ、しかし口に出さずにはいられない。
早苗は冷や汗と共にその名を口にする。



「我が名は...シドー。破壊神...シドー...!!」


188 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/07(月) 23:44:49 ohdfpALM0
一旦ここまででです。続きはまた近日投下します


189 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/13(日) 00:17:36 zsWaqTjs0
ベルベット・クラウ、間宮あかり、カタリナ・クラエス、岩永琴子、リュージ、シグレ・ランゲツ、メアリ・ハント、冨岡義勇、夾竹桃、麦野沈利、ムネチカで予約します


190 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/13(日) 00:18:36 zsWaqTjs0
あと、事前に延長しておきます


191 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/13(日) 00:20:08 zsWaqTjs0
琵琶坂永至を予約に入れ忘れていました 申し訳ございません


192 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:26:23 n/T8Wzy20


「......」

「そんなに緊張して、怖いのかしら」

「当たり前だろう...アレはあの教団の象徴...いや、全てを滅ぼす『破壊』という概念そのものだ。アレの前ではμからもらった鋼鉄の身体も意味がない」

「そうね。アレはあなたからしてみれば『世界』そのもの。抱く恐怖も人並みならないでしょうね」

「でも大丈夫よ。アレが出てくることは想定済み。予定よりは早かったけれど誤差でしかないわ」

「しかし...」

「貴方は貴方のするべきことをすればいい。...μ、どうしたの?」

「...そう。ちょうどいいわ、歌ってあげてあげて。彼の為に、私の為に、貴女が奏でる破壊の歌を」


193 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:26:49 n/T8Wzy20


空が吞まれていく。

その力は空間を歪ませ、まだ日が昇り切って間もないというのに周囲一帯が暗黒に包まれていく。

眼には見えぬ強大な力の幕がエリア1マス分を覆い、周囲からの、周囲への情報の一切を遮断する。

来る者拒まず。訪れた者には隔てなく破壊(ちょうあい)を。

血と愛憎に乱れ、白も黒も交じり合う灰色の世界に破壊の神が降り立ち。

奏でられるはたった一人の独奏曲。


194 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:27:21 n/T8Wzy20


いがみ合う者も。初めて会った者たちも。友を失った者も。

眼前に現れたソレを見て瞬時に悟った。

―――コイツを野放しにしてはいけない。

銃声と共に弾丸が放たれる。

最初に動いたのは神隼人。

彼の撃った弾丸は破壊神の身体に着弾する。
だがそれだけだ。のけぞりも怯みもせず、破壊神、依然健在。
巨大さとはそれだけでも武器である。
身体が大きければその分体力も多く、100の体力に10のダメージを受けるのと1000の体力に10のダメージを受けるのでは全く意味合いが異なってくる。

破壊神は口角を釣り上げお返しと言わんばかりに雑に腕を振り下ろす。
技術も工夫もない。ただの腕力にモノをいわせただけの攻撃、にすらならない一つの動作。
だがそれだけで地面に爆弾の如き衝撃が走り、爆風じみた暴風は人の体重など軽々と吹き飛ばす。


その暴風に煽られ参加者たちはちりぢりにふきとばされ、ここに開戦の合図は鳴った。


195 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:28:02 n/T8Wzy20

「こなくそっ!!」

真っ先に反撃に出たのは体重が重く重心が低い弁慶だ。
武器を持たない彼はそのまま駆け出しその身一つで破壊神へと殴り掛かる。
破壊神は三対のうち一つの右拳を繰り出す。

「ぬぐっ...おおおおお!?」

弁慶は自分の身体程もあるそれを全身で受け止めるも、耐え切れず後方へ押し出されていく。


「なめんじゃ...ぐおおっ!」
「ジオルド!」

弾き飛ばされる弁慶と入れ替わるように志乃の叫びと共にジオルドが飛び出し、炎の魔法を放つも、破壊神は尻尾を叩きつけるだけであっさりと消火。
その風圧で二人とも吹き飛ばされ彼方へと飛ばされていく。


吹き飛ばされた二人をクオンが受け止め、着地のダメージを軽減し、二人を下ろすとそのまま駆け出す。

「アリア、万が一の時の為に脱出ルートの確保をお願い」
「うっ、うん!」

クオンの指示に従いアリアが離れていくのと同時、破壊神はクオンへ向けてはげしい炎を吐き出した。

クオンはそれを躱し、次いで繰り出される拳を躱し、伸びた腕を伝い破壊神のもとへと駆けていく。
ハエを払うかのようにクオンが伝う腕を振り回せば、クオンは即座に着地し、また腕が振るわれればそれに乗り。
ほどなくして距離が縮まると、跳躍し宙がえりと共に踵落としを脳天目掛けて振り下ろす。
破壊神は防御すらなく頭頂で受け止め、しかし怯むどころか笑みすら浮かべて咆哮を上げる。

そのあまりの圧力にクオンの身体は硬直し、その隙を突き破壊神は頭突きを放つ。
防御を取る暇すらなかったクオンの身体はそのあまりの威力にメキメキと音を立て、すさまじい速さで地面に叩きつけられ、二・三度地面をバウンドし沈黙する。


196 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:28:35 n/T8Wzy20
「燃え尽きよ怪物!」

マロロが背後より火計の術により破壊神の身体へと火を放つ。
が、肉体に火がまわるよりも先に尻尾を振り回せば火は四散、その火と風の入り混じる熱風がマロロに襲い掛かる。

「くおぉ...!」

マロロは眼前に防壁陣を張り熱風を防ぐ。
その背中を無断で借り、咲夜が熱風を防ぎつつ様子を伺う。

破壊神は必死に護るマロロを嘲笑うかのようにその腕を振り上げ防壁を破壊しようとする。

(いまっ!)

瞬間、咲夜は時間停止を発動し、ナイフを構えマロロの背中から姿を現し投擲の姿勢に入る。
狙うはシドーの眼球。如何に硬い皮膚や巨躯に見合った体力とはいえ、急所の一つである目を撃たれれば多少は効くはずだ。

ナイフが咲夜の手元を離れる瞬間

ピクリ

動いた。
同時に。ガラスが割れるような音と共に咲夜だけの世界が『破壊』された。

「なっ!?」

咲夜は驚愕に目を見開く。
時間停止による攻撃を破られたことは幾度もあった。
けれどそれらは時間停止が終わった後の攻撃に関してだ。
時間が停止した空間自体を破られたことなど今まで一度もない。
咲夜は知らない。
世界すら壊せる破壊神は時間を操る程度の能力では縛れないことを。

その驚愕に気を取られた隙を突かれ、咲夜は振り払われた腕にマロロごと吹き飛ばされる。

「ぶふっ」
「かはっ」

腹部に走る激痛に血を吐き纏めて吹き飛ばされる二人。


197 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:29:48 n/T8Wzy20
「ビルド、俺に合わせろ!」
「うん!」

隼人とビルドが共に駆ける。
このまま普通に攻撃していても拉致があかない。
眼前の怪物がシドーから出てきたモノだということはわかっている。
ならばまずは呼びかけてみる。それがビルドの提案だった。

ある程度の距離まで近づいたところで先導していた隼人が振り返り、両掌を組み合わせ足場を作る。
ビルドはそれを足場にし、高く跳躍し破壊神に迫る。

「シドー!!」

手を伸ばし身体に触れようとするビルドだが、しかしそれは破壊神の指一つで弾かれ、その身体を地面に叩きつけられる。
意識を失いかけるビルドの身体を隼人が回収しに向かえば、それを狙ったかのように破壊神は岩石を連続で投下し始めた。

「クソッ!」

隼人は降り注ぐ岩石をよけ続け、どうにかビルドのもとへ辿り着きどうにか回収に成功。
それと同時に、破壊神の腕が襲い掛かり隼人とビルドを殴り飛ばす。

吹き飛ばされていく二人を目で追いつつ、みぞれを抱えた早苗が滑空し破壊神へと急接近していく。
振り向きざまに振るわれる腕を躱し、二人で共に飛び上がると、みぞれは氷の槍を、早苗は五芒星の光を共に放つ。

その二つのエネルギーは破壊神へと着弾する寸前、目に見えぬ障壁に阻まれ四散する。
破壊神の持つ闇のちからによる防御壁だ。

蠅を払うかのように振るわれる腕はどうにか躱すものの、その余波で生じる暴風は容赦なく二人の身体に負荷をかけ、二人は上下の感覚がわからなくなるほどの勢いで回転しもみくちゃになりながら吹き飛ばされていく。

「あぶねえ!」

復帰した弁慶はみぞれたちを受け止めダメージを軽減させ、優しく地面に下ろす。

吹き飛ばされ、ダメージを負いつつも戦える力を持つ者たちはまだ共通の敵を見据えている。

だが。

彼らは一様にして理解していた。こんなものがアレの全力ではない、なにも力を見せてなどいないことを。

「こんなの...」
「どうしろっていうのよさ...」

各々の意思を、手段を用いながら尚も向かっていく戦士たちの心情を代弁するかのように。
何もできない久美子とアリアは共にそう呟いた。


198 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:30:24 n/T8Wzy20


.........


.........


...おとがきこえる

だれかがくるしむようなおとが。

だれかがかなしむようなおとが。

みんな、みんなおれにすがるようになにかをさけび、うったえかけている。

おれはやめろといったはずなのに、こんなもののぞんでなんかいないとおもっていたのに。

どうしてみみをふさげない。

どうしてねむろうとしない。

どうして、こんなにここちいいんだ

どうして...ひとつだけあるこのひかりをうっとうしくかんじてしまうんだ


199 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:32:14 n/T8Wzy20


「ᛖᚳᛋᛏᚪᛋᚤ!!」

その傲岸無礼な慟哭も。

如何な罵詈雑言も。

有象無象の悲鳴すらも慈しみ歓喜するかのように破壊神は叫びあげる。

どろり。

咆哮と共に破壊神の影が蠢き無数の塊となって戦場へと降り注ぐ。

カタカタカタ、となにかを鳴らすような音と共に黒漆の骸骨兵が無数に湧きあがってくる。

「な、なんなのこれ」

戸惑う間にも骸骨兵たちは歓迎するかのように剣を構え参加者たちを取り囲んでいく。

「やめて、やめてよっ!」

久美子は叫び必死に腕を払って抵抗しようとするも、にじり寄ってくる骸骨兵たちは微塵も怯まず、久美子を集団で取り押さえていく。

脇の下から腕をまわし羽交い絞めにされ、頭突きもできないように髪を、顔を掴まれ前方に固定され。
その両足にも骨の腕で纏わりつかれ。
凹凸のない肢体を磔の処刑台のように骸骨たちが纏わりつく。

処刑人のように剣を構えた骸骨が久美子の制服に剣を宛がい振り下ろし、一閃。
久美子の首元から腹部までの衣服が縦に割かれ、白い肌と下着が露わになる。

「やだっ、やだぁ!」

涙を流し悲鳴をあげる久美子を嘲笑うかのように骸骨たちはカラカラとその顔を揺らす。
そしてそのまま、剣を持った骸骨がゆっくりとその刃を久美子の胸に近づけていき――


200 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:32:57 n/T8Wzy20

「フリーズ・バレット!」
「なにしてやがるてめえらっ!」

みぞれの放った氷の礫が剣を構えていた骸骨兵を吹き飛ばし、動かないクオンとビルドを背負った弁慶が力づくで久美子に纏わりつく骸骨たちを引きはがし握りつぶす。
新たに現れた骸骨兵が弁慶目掛けて剣を振り下ろすも、その喉元から剣が突き出されるとほどなくして消える。

「...なるほど。どうやらこれは奴の分身体のようなものらしいですね」

罪歌で斬っても呪いを流すよりも早く四散したことから、志乃はこの骸骨たちの正体を看破する。

(一体一体は大した脅威ではない...けれど問題は)

志乃が思考している間にも影の骸骨兵たちは際限なく湧き出てくる。
それはこちらだけではなく、遠方ではマロロ達や隼人、早苗も湧き続ける骸骨たちを相手取っていた。

(このままではこちらが万策尽きるのも時間の問題...!ならばやはり本体を!)

「弁慶さん、みぞれさん!黄前さんを頼みます!...行きますよ、ジオルド!」

二人に指示を投げ、志乃はジオルドと共に破壊神本体へと駆け出していく。
その判断と同じくして、隼人は骸骨兵たちを裂きながら、マロロは笏で殴り、あるいは防壁陣を駆使し骸骨兵たちの処理を最低限にこなしつつ破壊神めがけて向かっていく。
その間にも骸骨兵たちは行く手を阻まんと湧きあがり足止めしようと束になり襲い掛かってゆく。

「キリがねえんだよ!」

隼人は眼前の骸骨兵を蹴り飛ばし、纏わりつこうとする骸骨兵を爪で裂きながら前進していく。

「影は影へと還るでおじゃ!」

マロロはその身の軽さで次々に剣を躱していき、笏へと炎を纏わせ火球と共に骸骨兵たちをなぎ倒していく。

「ジオルド、私の背中を護りなさい」
「はい母さん」

志乃の命令に従い、ジオルドは志乃の背中を護りつつ、共に骸骨兵たちを斬り伏せていく。

三方向からの進撃を歓待するかのように破壊神は両腕を広げ、雄たけびを上げる。


201 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:34:00 n/T8Wzy20

「ᛒᚱᛁᚾᚵ ᛁᛏ ᛟᚾ!!」

言葉として認識できないその声と共に、新たな三つの影が破壊神から吐き出される。

新たに現れた三つの影はそれぞれ蠢きながら三人へと向かっていく。

「なにやら姿を変えたようでおじゃるが...所詮は影にすぎぬでおじゃる!」

マロロは唾を吐き捨てるほどに叫び炎の渦を影へと放つ。
だが、渦に呑まれる瞬間影の姿は消え去り、一瞬でマロロの真横に移動していた。

「ひょっ!?」

驚愕するマロロの反応を愉しむかのようにドレッドヘアーの屈強な男を象った影は両掌を顔の横で開き、「バァ」などとふざけた擬音を口ずさみながら手刀を放つ。

「ふぎゃっ!」

マロロは痛みと共に悲鳴を上げ尻餅を着かされる。

「邪魔をするなああああ!!」

隼人は今までの影と同じく爪で切り裂き突破しようとする。
だが、その影はヘルメット型の頭部が消えたというのに姿までは消えず、どころか影を伸ばして隼人の腕と足を絡めとり宙へと放り投げそのまま地面に叩きつけた。

そんな二人を横目で見つつ、志乃は自分たちの前に現れたこの影もただものではないと推測し、ジオルドを先行させ影の塊へとレイピアを突き出させる。

だがその影は寸前でレイピアを躱し、新たに形を象ると懐に入り込みニタリと口元を象った。
そのふわふわとした髪型に。
顔も色もわからない漆黒でありながらもお嬢様然とした雰囲気を醸し出す像にジオルドは思わず口走った。

「マリア...!?」

その罪歌の洗脳を微かに乱し生じた隙を影は見逃さず、ジオルドの身体に飛びつきもみくちゃになりながら押し倒す。

「ジオルド!?くっ...!」

影に纏わりつかれているジオルドを捨て置き、志乃は単身で破壊神へと肉薄する。
もともとは使い捨ての肉壁程度にしか考えておらず、いまは一刻を争う事態だ。
彼を気にする一秒ですら惜しい。

(この距離なら...!)

数メートルにまで辿り着いた志乃はそこで足を止め、居合斬りの構えを取り、ふぅ、と息を吐く。
破壊神は腕を振り上げ、拳を叩きつけようと振り下ろす。
だが、破壊神の腕がその身に届くよりも早く、志乃の身体が影の隙間を縫うように疾駆する。
その速度はまさに疾風。
これぞ巌流・燕返し―――その派生技。
「巌流―――飛燕返し!!」

放たれた居合斬りは破壊神の腕を斬りつけ、初めて手傷を負わせることに成功する。

同時に。

『愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛愛愛愛愛愛愛あい』

罪歌の呪いが破壊神の腕を通じて全身へと流れ込んでいく。

「......!!」

その感触に破壊神の目が見開かれ

「ᛞᛖᛚᛁᚳᚪᚳᚤ」


202 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:34:45 n/T8Wzy20
恍惚と共に吊り上がる。
呪いを司る大神官ハーゴン。
彼の崇める破壊神が、人を愛する呪いなどに支配されるはずもなかった。

ズンッ、という衝撃と共に志乃の横腹に痛みが走る。
志乃の防御が間に合わず、破壊神の爪が志乃の腹部を裂いたのだ。

「ぁ...」

腹部から血を流し、よろける志乃にトドメを刺さんと再び腕を横なぎに払う。

「させません!」

志乃を再び切りつける瞬間、早苗が志乃を抱きかかえ離脱、距離を取りながら五芒星を描き始める。

「掛けまくも畏き諏訪の御湖に神溜まります、健御名方人...」

詠唱と共に巨大な五芒星を描けば、発光と共に五つの光に分かれ破壊神へと狙いが定まる。

「もろもろの渦事罪穢あらんをば、祓え給い、清め給えと白す事を聞示せ、恐み恐も白す―――!!」

放たれる光は破壊神を滅さんとばかりに、闇のオーラによる障壁を破壊しその身を貫く。
だが。

「...!」

その攻撃すらも破壊神にとっては児戯に等しいものだったのか。
光の矢が貫こうとも破壊神には僅かなダメージしか与えられていない。
そして。

「しまっ...!」

現状での最大火力を誇る攻撃を放った代償に鈍った動きの隙を突かれ、早苗は志乃もろとも破壊神の巨大な張り手により久美子たちのもと―――北宇治高等学校にまで吹き飛ばされる。


203 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:35:26 n/T8Wzy20
(これは...もはやここに留まる理由はないわね)

一連の流れを見ていた咲夜は早々に戦場へと見切りをつけて破壊神とは逆の方角へと足を向ける。
咲夜の戦う理由はあくまでも生還すること。
あのような怪物を討伐することでなければ、参加者を皆殺しにすることでもない。
なにはともあれ自分の命だ。

同盟相手すら捨て、エリアの外へ向かって駆け出していく。

だが。
その果てでは紫色の引力空間―――ブラックホールのような何かがリングロープのように連なっており、逃げ出すことすら不可能であるのを端的に示していた。

「行くも地獄、帰るも地獄、ですか...!」

悪態をつく間にも、破壊神は頭上に両手を掲げその掌にゆっくりと光を集めている。
それはまるで死の宣告を告げる死神の如く。
視認できるほどの巨大な球状のエネルギーの向く先は、久美子たちがいる北宇治高等学校。
咲夜にはそれが『次はお前だ』と言っているようにしか見えなかった。

「ぁ...」

地球の終わる瞬間とはこういうものなのだろうか。
迫りくる巨大な力の塊に、徐々に吹き飛ばされていく骸骨の影と校舎を前に、久美子はそんな力の抜けた声を漏らす他なかった。

セルティに庇われた時以上の強大な"死"の気配の前には、もはや恐怖すら抱けず諦観する他なかった。

「くそったれ...!」
「......!」

もはや周囲に逃げることはできない。
弁慶は一か八か己の身体の丈夫さに賭けて久美子や倒れ伏す志乃たち、ビルドを抱え込み、みぞれは少しでも抵抗になればと氷の障壁を張る。

「我が父の名において、この身に穿たれし楔を...解き放たん!!」

学校が崩壊しきるその直前、破壊神のエネルギーから皆を護らんと光り輝く人影が割って入る。
クオンだ。
彼女は気絶していたのではなく、リックを相手にした時と同様、己の力を引き出す為に氣を高めていたのだ。

「ぐっ...はああああああああ...」

己の身を護っているはずの『氣』すらも破壊されていき、徐々に肌が裂け血がにじみ出していく。

(ダメ...このままじゃ...!)

本来は在りえぬことだった。この力は云わば神に等しき御業。本来の神力には及ばずともこの地上でソレに対抗できる者などいなかった。
だが。彼女は現に押されている。
それにはなんのタネもない。
彼女のいた世界では、神に等しき存在などと拳を交えることはなかったが、破壊神は神そのもの。だから現人神では力が及ばない。
ただそれだけのこと。

「――――あああああああああ!!!」

だが。彼女は吼える。
ただ我武者羅に。ひたすらに。

自分でも不思議だった。
なぜ、同盟を組んだマロロでなく、かつての知己たちでもない彼らの為にこうも身体を張っているのか。
まるで、こいつにだけは負けるわけにはいかないと、意地を張るかのように昂っているのか。

その答えを自覚する暇もなく、破壊の力は校舎にまで迫り―――北宇治高等学校は完膚なきまでに『破壊』された。


破壊神はその破壊から奏でられた音を、まるで誕生日を迎えた子供のように満面の笑みを浮かべ聞き惚れるのだった。


204 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:35:56 n/T8Wzy20



「いい曲だったわよ、μ」

「......」

「まだ顔色が悪いわね」

「当たり前だ...理屈はわかったが、あいつに勝てると決まったわけじゃない」

「そうね。でもこれで『彼』が牙を剥いてきても負けることはなくなった」

「それでも確実じゃないだろう!やはり今のうちに奴を始末して...!」

「それをすれば始末されるのは貴方よ。大丈夫、μを信じなさい。それに...まだ『彼』が勝つとは限らない」

「なに...?」

「神様は破壊神一人じゃないということよ」


205 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:36:58 n/T8Wzy20



崩壊した学校の瓦礫を押しのけ、弁慶が姿を現す。
背中は焼けた。出血だけでなく、打撲や骨にヒビといった怪我も恐らくしている。
だが、志乃、早苗、ビルド、久美子の庇った四人にはほとんど新しい怪我は負わせなかった。
ほっと胸を撫で下ろすのも束の間、すぐに見当たらない二人を思い出す。

「みぞれちゃん、獣の嬢ちゃん!無事か!?」

大声で呼びかけるが返事はない。
まさかと思い、弁慶はすぐに近くの瓦礫をどかし掘り起こす。
探し人はほどなくして見つかった。

「み、みぞれちゃん!」

みぞれはすぐ隣にいた。
氷の壁を張る為に弁慶の身体に隠れられなかったみぞれは、クオンでも防ぎきれなかった破壊のエネルギーを一部受けてしまった。
現人神ですら防ぎきれない力を一部でも受ければどうなるか。
左腕は消し飛び、全身は焼かれ、彼女本来の美貌は見る影もなくなっていた。
それでも生きていたのは運が良かった、としか言いようがないだろう。
彼女の呼吸はまだあった。

「クオン殿、しっかりするでおじゃるクオン殿!お労しや...ようやくオシュトルのもとから目を覚ませると思った矢先に...こんな...こんな...!」

叫びの聞こえた方へと目を向ければ、そこにはみぞれ以上に全身を焼かれていたクオンがマロロに抱かれていた。
弁慶は思わず息を呑む。
彼はクオンについて何も知らない。けれど、こうまで身体を張ってくれた者がこのような惨状になれば怒りを抱かずにはいられない。

「――――おおおおおおお!!!!」

彼は思わず叫んだ。
感情のままに拳を瓦礫に叩きつけた。

「許さねえ、てめえだけは、てめえだけはぁ!!」

けれどなにも変わらない。
破壊神がいる限りいくら吼えようが怒りを湧きあがらせようが、ただ破壊されるのを待つだけだ。


「弁慶!」

遅れてやってきた隼人が駆け寄ってくる。
彼も彼で、影たちとの相手や重なる破壊神からの攻撃で満身創痍だった。

「いったん体勢を立て直す。今は奴から距離を取るぞ」
「なっ...ふざけんな隼人!ここまでやられてケツまくって逃げんのか!?」

感情のままに隼人の胸倉を掴む弁慶に、隼人は冷静に見据え淡々と告げる。

「このままでは全滅は免れん。奴を殺す為にも今は退くべきだ」

「無理よ、逃げることなんて」

二人の口論に割って入るのは、咲夜と逃げ道の確保を任されていたアリア、そして主からの命令が無くなりひとまず戻ってきたジオルド。
彼らは他の面々に比べれば極めて軽傷ではあるが、しかし咲夜とアリアの二人は声だけでなくその表情にも陰りがさしていた。

「辺り一帯...およそ一エリア丸ごとくらいね。球体状の引力場...ブラックホールのようなものに囲まれていたわ。ナイフだろうが岩石だろうが構わず分解してしまうほどの」
「隙間を探そうにも吸い込まれてどうにもならないんよ。それに...気のせいじゃなかったらどんどん円が小さくなっていってる」

「――――クソッ!」

苛立ちのままに隼人は瓦礫を殴りつける。
戦っても敵わない。逃走もできない。
あとはただただあの傲慢な破壊神に裁かれるのを待つだけ。

―――ふざけるな。こんなところで終われるわけがない。
―――帰るべき場所へ帰らなければならない。
―――護るべき者たちを護らなければならない。
―――友の仇を討たねばならない。
―――友を正気に戻してやらねばならない。

各々の願いを胸に抱けど、叶える神はここにはおらず。
どれだけ前向きになろうとしても胸に共通して去来する諦観の念。

破壊の神が人間たちに与えるその感情の名をこう記す。

『絶望』と。




然らば。

神の与えし絶望に人の身では抗えないというのならば。

それを覆すのもまた、神の役割だろう。


206 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:37:56 n/T8Wzy20

破壊神の投げつけた巨大な闇のエネルギー球。
触れれば破壊される死の塊。
それが―――止められた。

ヒトの身ではない。

焼け付いたクオンの躰、その背中から生える黒き茨のような影に。

クオンの躰から溢れ出る黒いソレは、破壊神の放ったエネルギーを粉砕し、四散させる。

そのままクオンの躰に絡みつけば、強く、より強い力で締め付けていく。

クオンの躰の中から『力』が大気に漲り、溢れ出てくる。

それはクオンを、破壊神の生み出し空間の摂理そのものを蝕み、変容させていく。

「なにが...なにが起こっているでおじゃるかクオン殿...」

あまりの出来事に呆然と眺めることしかできないマロロの問いかけに応えるように、『力』は新たなる姿を纏い―――爆発。

その風圧に一同は校舎であった瓦礫諸共吹き飛ばされ彼方へと消えてゆく。

その姿を。己にも比類するほどの『力』と巨大さを放つソレを認識した瞬間、理解した。

この者は、自らを滅ぼし得る宿敵であると。


207 : 英雄の唄 ー 二章 破壊神シドーー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:38:51 n/T8Wzy20


これは運命である。

これは贖罪である。

母の命を喰らって生まれてきた、我の原罪であり宿業である。

それを果たせぬまま...それを、我以外の真祖に阻まれるのを許せるのか。

否。

我は認めぬ。貴様の存在を。

我だけではない、愛しき者たちすら破壊するであろう貴様の存在を。

過ぎたる力には代償を伴う...その理すら捻じ曲げる貴様の業を。

許せない。私は貴様の存在を根源より否定する。

破壊の神よ。

畏れよ。屈せよ。

我が名に、ウィツアルネミテアの名のもとに。


208 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/14(月) 23:39:50 n/T8Wzy20
今回はここまでです。続きは近い内に投下します


209 : 過去が今、私の人生を収穫に来た ◆EPyDv9DKJs :2022/11/15(火) 22:53:04 vc1Yn2L60
ゲリラ投下します


210 : 過去が今、私の人生を収穫に来た ◆EPyDv9DKJs :2022/11/15(火) 22:54:07 vc1Yn2L60
(本当にどうしよう。)

 病院の外。昼の空を眺めながらフレンダは思う。
 後戻りできないぐらい此処まで選択肢をミスしている。
 何処から間違えたのだろうか。いやもう最初からかもしれない。
 竜馬も静雄もだが、ブチャラティ達との情報で浜面と滝壺だけと言ったこと。
 麦野の時といい煉獄の時といい、悉く外れの選択肢しか選べていない気がする。
 唯一当たりを引いたとすれば腹痛を起こしたことと言う別のあたりぐらいか。
 生きてることは重畳。しかしそれ以外が絶望的なまでに外れている。
 右往左往。どうすればいいのか悩めども答えは全く出てこない。

「あー! 結局どうすれば───」

「あ。」

 悩みに悩み頭を掻きむしっていると、病院の入口前にて霊夢と遭遇。

「〜〜〜〜〜〜ッ!?」

 思わぬエンカウントに表現しがたい叫びを軽く上げる。
 竜馬でも静雄でもないようだが。此処に来て情報になかった人物だ。
 多少このような反応をしてしまうのも、今の彼女ではそうおかしくもない。

「いや、そんなに驚く? 普通。」

 普通に声をかけたつもりだったのだが思わぬ反応。
 余りの驚きっぷりに少し、いや大分霊夢も引いていた。

「いやゴメン……不意打ちだったってわけよ。」

「ああそう。ところでアンタ、人を殺してそうな凶悪で無精ひげの男知らない?」

「へ? それってもしかして流竜馬……ん?」

 もしかしなくても流竜馬なのでは?
 と思うがなんか話の内容がおかしいことに気付く。
 竜馬は少なくとも乗ってない。そして話し合いをする相手。
 乗ってない奴が竜馬を訪ねて追いかけることなんてあるのか?
 暴走するとしても態々ついていくお人好しにはちょっと見えなかった。
 何かおかしい。質問の内容のちぐはぐさの違和感は一体何なのか。
 違和感、と言うよりも視界の隅に僅かに見えたものに気付いた瞬間、
 互いに距離を取れば、彼女がいたところを弾丸が飛び交う。
 あのままいたら脚を奪われていたのは確定していただろう。

「今の反応、やっぱりテメエがフレンダなんだな!」

 物陰に隠れていたカナメからの弾丸は病院のコンクリートにめり込むだけに終わる。
 最初周囲をぐるぐると回っていた時点で二人に目撃されたのだが、そっくりさんもありうる。
 なので此処は一先ず霊夢に先行させて様子を確認したところ、やはり本物であった。
 であれば、どうするかは決まっている。

(これ絶対竜馬と出会ってる人たちだ───!!)

 最悪だ。
 覚悟完了するとかそんな時間を一切くれない。
 ついに過去が今の自分を狩りに来てしまった。

「悪いけど竜馬から話は聞いてるわよ。
 今降伏しないと私でも命の保証はできなくなるから。」

 霊夢はカナメについてきた時点で、
 魔理沙と違って殺すことに対する見解の相違はなかった。
 ただ、無惨やウィキッドと違って敵にならないと言うのであれば、
 後のことはフレンダ被害者の会となる竜馬や静雄に任せるつもりではいる。
 勿論しなければどうなるかは、今のカナメの行動から内容は語るに及ばず。
 そんなもの降伏一択だが、あくまで『私でも』と言うところが問題だ。
 降伏しなくても保障できないのであって降伏したら助かるとも言ってない。
 被害者、しかも暴の化身のような二名から一発殴られるだけでも死ねる。
 即ちデッドオアデッド。どっちを選んでも死ぬ未来しかない。

「それって結局死ぬってわけじゃない!」

「知らないわよ、私の管轄外だし。」

「慈悲はないの!?」

「いや、アンタのやったことの何処に慈悲与えるって話なんだけど。」

 心底他人事だが元々霊夢はそういうものだ。
 幻想郷の管理人は誰にでも平等。邪魔をしたら須らく殴り倒す通り魔。
 誰であっても寛容であり誰であっても容赦しない。そういうスタンス。
 でもここは幻想郷じゃない。此処ではあくまで殺し合いの一参加者に過ぎない。
 であれば自分は法や世界の番人ではない。当事者で解決してくださいとなるのは当然だ。
 だから裁くことも慈悲も知らない。

「まあ御託はいいから早く決めなさい。可能性に賭けてさっさと降伏を───」

 できればイエス、面倒だがノーでもよかった。
 どっちにしてもこっちはこれ以上構うつもりはないから。
 だがそのどちらでもない。天井に穴が開き、上からフレンダが引っ張られたから。
 代わりにブチャラティが一階へと交代するように降り立つ。

「どうやら敵襲らしいな。相手は銃器もある以上君には荷が重い。」

「え、ええ。お願いねブチャラティ!」

 もう救いの神は(話を聞いてないと思われる)ブチャラティだけだ。
 閉じるジッパーの中、黄色交じりの声援を送る。

「カナメ。アンタ上に行ってフレンダを『摑まえなさい』!」


211 : 過去が今、私の人生を収穫に来た ◆EPyDv9DKJs :2022/11/15(火) 22:55:50 vc1Yn2L60
 反撃してこなかったところを見るに、
 まだ情状酌量の余地はあるという判断ができる。
 ただこれが最後の霊夢にとってフレンダにできる譲渡だ。
 そこから抵抗して死んでも一切の責任も良心の呵責もない。
 身も蓋もないことを言えば『知ったことじゃない』になるだろう。
 人である魔理沙と、人でありつつも達観してる霊夢との決定的な違い。

「五体満足の自信はねえからな!」

 逃げる暇を与えないよう病院の階段へと向かうカナメ。
 妨害しようとスタンドを出すブチャラティだが、霊夢の飛び蹴りの妨害。
 流石に其方を防がなければならないため、カナメを見逃す形になってしまう。
 フレンダも流石に心得はあるだろうから強く心配はしないが疑念もある。
 なので少しばかりは不安に思う

「本当に分かってるのかしらアイツ……ところで、
 ブローノ・ブチャラティって名前であってるのよね?」

「ああ、それがどうかしたのか?」

「……先に出会ってるのよ、同名の相手と。」

「何だと?」

 此処に同名の人物は一人もいない。
 となれば必然的にどちらかが偽名になるわけだが、
 当然自身が本物であるので残りは必ず偽物だ。

(心当たりはある。偽名を名乗る奴は一人しかいない。)

 ディアボロと呼ばれた男がボスの名前。
 ボスは自分の存在を徹底的に隠すのであれば、
 自身の名を生存率の高い名前を……それこそブチャラティを選ぶだろう。
 ジョルノの場合は新入りで情報の少なさ。チョコラータは話を聞く限りでは、
 隠れ蓑にするには余りに危険。リゾットは……よくは知らないので判断はできない。
 遠からず仕留める気でいたので名乗れなかった、と言うことなのだろうか。
 此処で垣根があの名簿を持って行ってしまったのは不運だった。
 あれさえあればすぐにこのことについての弁明ができると言うのに。

「どっちが本物かはちょっとだけ悩んでるのよねー。
 こっちは助けてもらったっていうところはあるわけだし。」

 先に出会った奴が本物であるなら目の前のは偽物。
 しかしフレンダが一緒と言うのが判断しがたい存在になる。
 フレンダは悪評を振りまく存在。つまり彼女が紛れ込むのは所謂殺し合い反対勢力。
 此処にいると言うことはつまり、彼は殺し合いに反対の勢力である可能性はある。
 一方で、彼が偽物だと言うなら、何故あの時のブチャラティは先程自分を助けたのか。
 早苗も信頼を寄せていたみたいだし、気絶してた隙を見て暗殺も十分にあり得ただろうに。
 どちらにも正しいことの白の中にいるような行動が目立つためどうにも答えが出てこない。
 フレンダがまたも鞍替えしたことで殺し合い賛成勢力にいるのかもしれないし、
 偽のブチャラティのことについてはよく知らないと言った感じで、
 どちらにしても厳密な答えが出てこない灰色の状態だ。

「では君はどう判断する。」 

「どっちが本物か分からない時?
 簡単な方法よ。『どっちもぶん殴る』に限る。」

「随分とアグレッシブだな、君は。」

 喧嘩両成敗どころではない答えに冷静に返すブチャラティ。
 異変解決をする楽園の素敵な巫女だなんだと呼ばれる霊夢だが、
 その実態は通り魔に等しい。出会って敵と認識したら即退治。
 無関係だろうと知り合いだろうと、そこに一切の遠慮が存在しない。
 此処でもやることはそんなに変わらないと言うことだ。

「と言うわけで降参しないなら、戦闘不能ぐらいにはなってもらうわよ。」

 懐から多量の長針を取り出し、それを大量に飛ばす。
 カナメ、基Storkの支給品から運よく霊夢が頼る弾幕の一つが調達できた。
 可能なら御札が欲しかったが、妖怪が少ないこの殺し合いの舞台に於いては、
 どちらかと言えば針の方が有効的でもあるので一長一短ではあるが。

「スティッキィー・フィンガーズ!!」

 ブチャラティのスタンドの拳のラッシュで全弾が弾かれる。
 元より破壊力、スピード共に高水準な彼のスタンドの攻撃では、
 投擲物として慣れ親しんだ針と言えども決定打にはなりにくい。

「式神の類? 随分便利そうね。でもそううまく行くかしら!」

 素早くスライディングから背後へ回り込みながら、
 その勢いを保ったままの飛び蹴りをお見舞いする。
 これもまたスタンドでガードされるもこれまた反動で跳躍。
 同時に針を膝辺りを狙って投擲するが、膝が分離する形で回避。

「嘘!?」

 妖怪にも人体を分解する形で行動できるタイプは知ってはいるが、
 どう見ても生身の人間でそれをしてくることは流石に予想できない。
 シギルと言い、本当に色々なものが存在してることがよくわかる。

(まるで幻想郷みたいね。)


212 : 過去が今、私の人生を収穫に来た ◆EPyDv9DKJs :2022/11/15(火) 22:57:15 vc1Yn2L60
 古今東西、西も東も関係なくあまねく妖怪や幻想の存在が参入する幻想郷。
 此処はある意味幻想郷と類似している世界なのかもしれない。
 知らない能力を、外の世界どころではない数多の次元から。
 紫でもなければできそうにないことをよくまあやってのけると、
 戦いの最中霊夢は主催の連中に僅かながら感心を抱く。
 もっともそれをやってやるのが殺し合いとは虚しいものだが。
 ジッパーに足が引っ張られる形で足が再度接合。
 着地と同時にジッパーを地面につけ地中へと潜る。

「地面に潜ることまでできるって、それってアンタ───」

 言葉を紡ぎ終える前に足元からジッパーが開かれる。
 そのまま足が掴まれると思った瞬間、霊夢も消えた。

「何!?」

 即座に地上へ戻り辺りを見渡す。
 受付周辺に隠れるとかそういうものでは断じてない。
 隠れると言う動作がほぼほぼ存在していなかった。
 例えるのならば、それはワープと言ったものが正しいだろう。
 では一体どこに消えたのか。周囲の警戒を怠らないと言う、
 ブチャラティの……否、ギャングとしての性格のお陰か。
 いなかったはずの頭上からの急降下キックを防ぐに至らせた。

「悪いけど! アンタの能力と似た相手と私は飽きるほど見ているのよ!」

 穴をあけて空間の移動、肉体の分離しての行動。
 どっからどうみてもよく知った間柄、八雲紫の能力だ。
 だったら対処もほぼ同じ。寧ろ紫は概念すら境界を弄れる。
 それを考えれば彼のはそれの下位互換のような類であるので、
 式神の類と言う点を除けば殆ど紫とやり合う時の感覚で動けるだろう。

(と、思い込んでると痛い目を見たわけで。)

 似た能力だからと高をくくった部分もあっただろう。
 だから王に指二本を持っていかれてしまったとも言える。
 思い込みは何よりも恐ろしい。自分が優れてると思ってれば猶更。
 此処では博麗の巫女と言う幻想郷の管理をする上の立場とは限らないから。
 此処にあるのは油断と言うものを捨てた博麗の巫女である。

「っと!」

 そう、このように普段紫が戦闘ではあまりやらない、
 自分の腕を能力で射程を伸ばしてのロケットパンチなど。
 予想は付いていたので顔を掠める程度ではあるものの、

(ジッパーがついた!)

 頬を見やればシッパーが取り付けられており、
 そこが開くと血が軽く噴き出す。

「案の定人体にもつけれるのねこれ。
 直撃してたらさっきの脚みたいになるのかしら?」

「それを危惧するほど、君は容易ではないと思うが。」

「でしょうね!」

 距離を取った後日輪刀の投擲。
 スタンドで軽く弾くも再び亜空穴によるワープ。
 主に視覚から狙ってくる、つまり頭上を主に警戒する。
 日輪刀も宙を舞っていることだ。警戒は妥当ではあるが。

「残念だけど外れ!」

 後方の足元からスライディングをかましてきた。
 日輪刀と言うおとりを使ったトリッキーな戦術だ。
 転倒させた後即座に日輪刀をジャンプで回収し、空中で振り下ろす。
 だがそれを白刃取りの要領で受けとめられる。
 更にそこから針を飛ばし、再び拳が弾いていく。
 ダメージにはならないが刀の方は手放したので、
 回収した状態で距離を置く。

「へぇ、やるじゃない。」

「君も相当鍛錬されているらしいな。」

 一筋縄ではいかなさそうだ。
 互いに互いをそう認識しながらバトルを再開させる。

 ◆ ◆ ◆

 ブチャラティと霊夢が戦ってる間、
 二階でも似たような状況に追い込まれている。

(こいつ、普通に強いじゃねえか!)

 ただし、あちらと違いフレンダの方が優勢ではあった。
 レベル0であったのだから身体能力が頼みの綱となる上に、
 フレンダは元より前衛。徒手空拳も身体能力も一般人を凌駕している。
 加えてカナメは此処へ来る時期の都合、本格的な鍛錬をされていない。
 ダンジョウ相手には戦えてたのも、腕試しであって加減は(ある程度)したもの。
 狙撃も見えれば避けるだけの身体能力を、負傷した状態でも発揮できる彼女にとって、
 ダメージが大分軽微な今の状況では五分五分に見えてカナメの方が不利だ。
 近すぎれば銃の強みは失われるし、爆弾なんかは下手をすれば文字通りの自爆。
 安易に使うことができない状態と化していた。


213 : 過去が今、私の人生を収穫に来た ◆EPyDv9DKJs :2022/11/15(火) 22:57:53 vc1Yn2L60
 もっともこれはフレンダにも言えることだが。
 問答無用で殺すような輩となってしまえば、
 いよいよブチャラティからも本格的に疑いの目を向けられる。
 いくら事故だったとしても、最終的に亀裂が入ってしまう。
 それこそツケが返って来た今それを証明しており、
 下手に殺傷力のある爆弾とかを使うことすらできず、
 こうして徒手空拳だけを頼りに戦っているわけだ。

(だったら!)

 と思いながらもグレネードを床へ転がす。
 無論偽物。本命はダンジョウの時と同様───

「結局見え見えよっ!!」

 最後に投げ飛ばしたスタングレネードは即座に蹴り飛ばされ、窓を突き破る。
 蹴りの勢いを使ったまま一回転し、もう一度蹴りで攻撃を行う。
 腕を挟むことでガードはするが衝撃により病院の床を転がる。
 マウントを取られる前に起き上がりながら本物のグレネードを投げるが、
 今度は蹴り飛ばされて返されてしまう。

(クソッ! なんで本物だけ蹴るんだよ!)

 飛んできたグレネードをサブマシンガンで窓へと薙ぎ払う。
 確かにDゲームによりカナメも大分経験を積んではいる方だが、
 フレンダもレベル0で戦う都合戦いの場の立ち回りは理解している。
 相手の能力が防御に長けない能力で自爆は早々しないのは読み取れた。
 自爆で自分が無害になれる状況を作る可能性のあるものが本物だろうと。
 ついでに銃撃を放つも、当然当てられないか当てる直前に間合いへ入られる。
 鋭いドロップキックが決まり、再び廊下を転がされてしまう。
 シギルを使って不利な相手はシギルなしでこれだ。
 十分戦えるだけの力を持ちながらこすい手を使うのは、
 どことなくエイスを思い出させて少し腹が立つ。

(なら賭けに出るしかねえ!)

 銃が当てられない状況下でまだ銃を生成。
 銃口を見切ったように躱そうとするフレンダだが、

「え?」

 違う。最初から当てる気などなかった。
 彼が撃ったのは備え付けの消化器、それも複数。
 粉末消火器ともあって、周囲を薬剤が充満し視界を狭めていく。

(結局めくらまししかできないってわけね。
 銃口が見えないなら確かにいいけど!)

 この状況で乱射されたら避けるのは難しい。
 しかしその手段は病院ではあまり有効的ではない。
 何故なら、病院とは病室の都合部屋数が多い。
 だから近くの病室へ音を立てず逃げ込めば問題はない。
 煙が消えるまで安全にやり過ごせばいいだけだ
 ただし、音を聞くまでは。

(え。)

 遠くない病室から爆発音がした。
 まさかとは思っていたが続けて爆発音。

(これ、まさか。)

 フレンダは察した。
 この男、全部の病室に爆弾を投げ込もうとしていると。
 部屋までは特定できず数撃ちゃ当たる理論で狙っている。
 当然音は近づいている。

(ちょ、ちょっとまって!?)

 待たせる暇はくれない。
 爆音も足音も近づいていよいよ自分の部屋にも迫ってくる。

(だったら、結局やるだけよ!)

 消火器のお陰でまだ廊下は視界不良のままだ。
 ならばやることは一つだけだ。
 シビアだが投げ込む瞬間反撃する。

(向こうも部屋の前で堂々とは立たないはず。
 スライドするドアに隠れて投げるなら!)

 カンと音がした瞬間、それを即座に拾い上げる。
 そのまま天井へ向けつつ斜めに投げて、部屋から出しつつ、
 更に廊下の方だけに爆発が行くような綺麗な投げを決めた。

(勝った!)


214 : 過去が今、私の人生を収穫に来た ◆EPyDv9DKJs :2022/11/15(火) 23:00:52 vc1Yn2L60

 今から此方から投げ返せるはずがない。
 ついでにこれは相手の能力によるものだ。
 どちらかと言えば不可抗力と言った意味合いがあるので、
 ブチャラティ達だって理解を示してくれる部類になるはず。










 勝利を確信した瞬間、彼女の視界が奪われた。

(しまった、これフラッシュバン───!?)

 カナメが投げていたものは全てが爆弾ではなく、
 途中からスタングレネードへと切り替えていた。
 思わぬ反撃がある中で使えるものではないとはカナメも理解してたが
 音だけでしか判断できないフレンダにとっては勘違いしても無理はない。
 当然カナメの方は対策済みだ。多少視覚と聴覚に異常はでているが、
 フレンダの状態と比べればずっとましだ。

「悪いが霊夢には摑まえるよう言われたが、
 此処までやっておいて……って聞こえてないか。」

 視覚も聴覚もどちらもダメージがあるのでは、
 何を言ったところで意味はないことは分かっている。
 サブマシンガンを作り、冷静に混沌する彼女へを銃口を向けていく。

「……それ以上は待ってもらえますか。」

 煙の中から、九郎が姿を見せる。
 ライフィセットの様子を見ていたが、
 流石にこれだけの騒ぎで出ないわけにはいかない。

「悪いが無理だ。こいつは殺し合いに乗っている。
 しかも悪評を振りまくタイプのな。被害が出る前にやるべきだ。」

 必要以上に参加者同士の軋轢、
 最悪味方同士による同士討ちだってありうる。
 いや、既にあった後だ。竜馬と静雄がいい例だ。

「それでも彼女には助けられたので。」

 一歩も引かない。別の銃を其方へ向けても、
 目を逸らすことも一切せず、武器も持たず見てくる。
 少なくともフレンダと一緒に悪だくみをする輩ではない。
 デイバックも持たず行動しているのは、彼なりの意志表明だろう。
 それを見て、軽くため息を吐きながら九郎の方から銃を降ろす。

「あー、分かった。こっちの奴もその気がないって言っていたしな。」

 ウィキッドの未だ生存は確かに思うところはある。
 しかし無関係の奴を殺す程怒り狂ってはいない。十分冷静だ。
 フレンダも今なら無力化できているなら、無理に殺す必要もない。

「……ところでアンタ、その腹だけ開いた格好はなんなんだ?」

 ───それはそれとして。
 彼の服は明らかにおかしな格好だ。
 服装と言うよりは、状態が。
 腹部を中心に焦げ跡を含め、かなり酷い状態になる。
 ダメージ系のファッションとしては明らかに異質な。

「最初の何発かはスタングレネードではなく本物でしたよね。」

「あー、そうだが……おい、まさか……」


215 : 過去が今、私の人生を収穫に来た ◆EPyDv9DKJs :2022/11/15(火) 23:04:28 vc1Yn2L60
 先のやり方は最初に爆弾を投げ込んでると言う思い込みが必須。
 なので最初の一発だけ本物を近くの病室に投げ込んだのは記憶している。
 とどのつまり。九郎の独特なファッションの原因は彼のせいだ。

「グレネードは飛ばした破片で攻撃するとは聞いてたので、
 抱きかかえる形で近くにいた人を庇う形になった結果こうなりました。
 ああ、其方の人は無事みたいでした。ベッドも盾になるようです。」

「……待て待て。何で平然としている。
 ついでに何で平然と俺に話しかけられる。」

 どう見ても無傷。
 一般人らしい、ひょろくもなければ鍛えられと言うわけでもない腹部。
 しかも殺し合いに乗ったと認識されてもおかしくない状況で、
 この男は殺すような一撃をお見舞いした相手に平然としている。

「ほら、あれです。時代劇とかによくある峰打ちだったんですよきっと。」

「グレネードのどこに峰があんだよ!?」

 冗談みたいなことを呟きながら、九郎はほこりを払いながら苦笑する。
 まるで近所の住人と軽い雑談をするとでも言わんばかりに、
 銃を向けられながらもさも平然と元凶相手に接してくる。
 銃を向けられてる、命を奪うそれを前にしてもまるで危機感を感じられない。

(こいつ、本当に人間なのか?)

 シギルの使い手であるにしても異質さがよく目立つ。
 雪蘭や王のような自分の能力による余裕からくるものではない。
 例えるのならばそれは達観。人ではない『ナニカ』を相手にしてるような。
 初対面の時の雪蘭から死を予感させたものとは別の、不気味な感覚。
 そんな気がしてカナメは数歩後ずさる。

「まあ、なんだ。爆弾の件は悪い。
 まさか他にも人がいると思ってなかった。」

「無事なので、余り気にしなくても大丈夫です。」

 一歩間違えれば取り返しがつかなかった。
 そういう意味では彼には感謝しなければならない。
 次はこういうことがないよう気を付けておこうと誓いつつ、
 朦朧としかけてるフレンダを抱えて九郎と共に一階へと降りる。

「おい、フレンダ捕まえてきたぞ……ってなんだこれ。」

 一階へ降りてみれば、病院の状態がさらに悪化していた。
 主に至るところに針が転がっていて、足の踏み場が怪しいレベルの。
 確かに霊夢に使い慣れてるからと渡したが、此処まで撃つとは、
 あの二人目のブチャラティはそれだけの実力者らしい。

「ん、勝負あったみたいね。んじゃ切り上げるわ。」

「そんなあっさり偽物を放置していいのか?
 それに、俺が二人の身を案じて襲ってこないという保証は?」

 そこら中に針がある中、
 戦闘をあっさり切り上げてしまう霊夢。
 互いに負傷は増えてるが、割と軽傷だ。

「言ったでしょ。両方ぶん殴るだけだから。
 ついでに散々加減しておいてよく言うわよ。」

 傷は増えたものの致命傷に足りうるものはないし、
 明らかに殺気と言うものが感じられない戦い方。
 フレンダも捕まっているのであれば、さして関係はない。
 此処ではフレンダが逃げられないことが最低条件でもある。

「……君の方がよほどギャングらしいな。」

「何か言った?」

「逞しい女性だと思っただけだ。」

「ああ、そう。そんで、拷問なら手伝えるけどする?」

 手に大量の針を構えながら邪悪な笑みを浮かべる霊夢。
 まだ耳が遠いが、多少視覚で見えるそれに軽く悲鳴が上がる。

「冗談よ。ほらほら、被害者の会代表代理でアンタらがやりなさい。」

 カナメからフレンダを借り受け、
 針を引っこ抜いたソファへと座り込ませる。
 思ったよりも丁重な扱いに少しきょとんとしていたが、

『フレンダさん。教えてもらえますか? 何をしたんですか?』

 声が届いてない代わりに紙に書いてそれを見せる九郎。
 別に責めているわけではない。単なる疑問であり裁くためのものではない。
 そのような高尚な立場であるとは彼自身は欠片も思わない。
 岩永と行動を共にしてた彼らしく、するのは傍観だ。

(あ、これ死んだ……)

 ついに来た。来てしまった。
 フレンダは思わず悟らずにはいられない。
 竜馬や静雄から逃げ続けたツケを払う時が、ついに来る。

【D-6/病院/一日目/日中】


216 : 過去が今、私の人生を収穫に来た ◆EPyDv9DKJs :2022/11/15(火) 23:05:21 vc1Yn2L60
【フレンダ=セイヴェルン@とある魔術の禁書目録】
[状態]:全身にダメージ(小)、心痛、右耳たぶ損傷、頬にかすり傷。衣服に凄まじい埃や汚れ、腹下り(極小)。
[服装]:普段の服装(帽子なし)
[装備]:麻酔銃@新ゲッターロボ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、『アイテム』のアジトで回収できた人形爆弾×2他、諸々(その他諸々の内パラシュート3つ&入っていた全てのばくだんいし@ドラゴンクエストビルダーズ2は使用済み)。レインの基本支給品一色、やくそう×2@ドラゴンクエストビルダーズ2、ランダム支給品×1(確認済み)、鯖缶複数(現地調達)
[思考]
基本方針:とにかく生き残る。現状は首輪の解除を優先するが、優勝も視野には入れている
0:ブチャラティ達にこれまでの事を話す?
1:ブチャラティは要注意。ボロを出さないようにしないと。
2:煉獄の言う通りに竜馬と出会うことがあれば、謝る?
3;麦野との合流は、諦めた方がいいかも…
4:絹旗、彩声、死んじゃったんだ…でも、私のせいじゃないよね?
5:煉獄、死んじゃったんだ…
6:詰 ん だ

【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:疲労(小)、フレンダへの疑念(中)、強い決意
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜3、スパリゾート高千穂の男性ロッカーNo.53の鍵) サーバーアクセスキー マギルゥのメモ
[思考]
基本:殺し合いを止めて主催を倒す。
0:ライフィセットの容態を何とかする。
1:放送を聞いた新羅への不安と、アリアへの心配。何とか合流したい。
2:病院に何か罠でも仕掛けておいた方がいいかもしれない。
3:魔王ベルセリアへの対処。
4:余裕ができてから高千穂リゾートを捜索。
5:フレンダを警戒。彼女は何かを隠している。
6:あかり、高千穂、志乃、ジョルノ、カナメ、シュカ、レイン、キースの知り合いを探す。
7:カタリナ・クラエスがどのような人間なのか、興味。
[備考]
※参戦時期はフーゴと別れた直後。身体は生身に戻っています。
※九郎、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました。
※垣根と情報交換をしました。

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 静かに燃える決意、魔王ベルセリアに対する違和感
[服装]:ホテルの部屋着(腹部はちょっと悲惨な状態)
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×1〜3
[思考]
基本:殺し合いからの脱出
0:ライフィセットの容態を何とかする。
1:あの彼女(魔王ベルセリア)、何とかしかければ……。
2:フレンダは、念のため警戒。
3:岩永を探す
4:ジオルドを始めとする人外、異能の参加者、流竜馬、仮面の剣士(ミカヅチ)を警戒
5:きっとみねうちですよ。
[備考]
※鋼人七瀬編解決後からの参戦となります
※新羅、ジオルドと知り合いの情報を交換しました。
※アリア、ブチャラティと知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました
※魔王ベルセリアに対し違和感を感じました。
※垣根と情報交換をしました。


【ライフィセット@テイルズ オブ ベルセリア】
[状態]:気絶、穢れによる侵食(重大)、両腕欠損、全身のダメージ(大)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ミスリルリーフ@テイルズ オブ ベルセリア(枚数は不明)
[道具]:基本支給品一色、果物ナイフ(現実)、不明支給品×2(本人確認済み)本屋のコーナーで調達した色々な世界の本(たくさんある)、シルバ@テイルズ オブ ベルセリア
[思考]
基本:ベルベットを元に戻して、殺し合いから脱出する
0:(気絶中)
1:ブチャラティ達と行動する
2:ムネチカへの心配
3:ベルベットの同行者(夾竹桃、麦野)への警戒
4:ロクロウ達との合流
5:エレノア……。
6:九郎さん達、大丈夫かな。

[備考]
※参戦時期は新聖殿に突入する直前となります。
※異世界間の言語文化の統一に違和感を持っています。
※志乃のあかりちゃん行為はほとんど見てません。
※魔王ベルセリアによる穢れを受けた影響で、危険な状態です。このまま何の処置もせず放置すれば確実に死ぬでしょう。
※呼ばれた時間に差がある事に気づきました。
※マギルゥの死に関してまだ聞いていません。


217 : 過去が今、私の人生を収穫に来た ◆EPyDv9DKJs :2022/11/15(火) 23:05:54 vc1Yn2L60
【博麗霊夢@東方Project】
[状態]:左手の指二本欠損(応急処置済)、脱力感、頭痛(物理)、かすり傷、疲労(小)
[服装]:巫女服
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃、封魔針(まだまだある)@東方project
[道具]:基本支給品一式、高坂麗奈のトランペット@響け! ユーフォニアム、セルティ・ストゥルルソンのヘルメット@デュラララ! マリアが作ったクッキー@現地調達
[思考]
基本:この『異変』を止める
1:シドーを見失ったし、一先ずカナメと一緒に病院へ北上。
2:最終的にムーンブルク城でシドーを待ちぶせしてみる。
3:マリアや幻想郷の仲間の死などによる喪失感。あー、いやになるわ……
4:フレンダから事情聴取。大事ないならいいんだけど
5:なんで紫のソックリ能力ばかり出会うのよ。
[備考]
※緋想天辺りからの参戦です
※シドー、マリアと知り合いについて情報交換を行いました。
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、カナメ、竜馬と情報交換してます。

【カナメ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(特大)、王とウィキッドへの怒り、全身打撲(小)、肋骨粉砕骨折(処置済み)、全身火傷(治療済み)、シュカの喪失による悔しさ、虚無感、ダメージ(小)
[服装]:いつもの服装
[装備]:白楼剣@東方Project
[道具]:白楼剣(複製)、機関銃(複製)、拳銃(複製)、基本支給品一式、不明支給品2つ、救急箱(現地調達)、魔理沙の首輪、Storkの首輪、Storkの支給品(×0〜2)
[思考]
基本:主催は必ず倒す
1:霊夢と一緒にフレンダを……どうするか。
2:回収した首輪については技術者に解析させたい。
3:【サンセットレーベンズ】のメンバー(レイン、リュージ)を探す。足取りが分かるレイン優先か。
4:王の奴は死んだのか……そうか……
5:ウィキッドのような殺し合いに乗った人間には容赦はしない。
6:ジオルドを警戒
7:折原を見つけたら護る。
8:絶対にウィキッドを殺す。
9:爆弾に峰があってたまるか!
[備考]
※シノヅカ死亡を知った直後からの参戦です
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、霊夢、竜馬と情報交換してます。

【封魔針@東方project】
Storkに支給されたもの。
霊夢が愛用している妖怪退治用の長めの針。
札の効果が厄日などで弱まったり、能天気な奴ほど札の効果が薄いとされており、
そういう時には針で弾幕を補っているので、霊力よりも物理ダメージを重視した攻撃スタイルの様子。
ただ茨歌仙小傘の様子を見るに出血レベルの負傷にはなりにくいと思われる。


218 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/15(火) 23:48:37 KovBbAss0
パート1を投下します


219 : 明日之方舟(ArkNights)-黎明前奏- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/15(火) 23:49:03 KovBbAss0



―――声にならない、苦難を覚えている



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


薄暗い場所に、"少女"は居た。
曰く、此岸と彼岸の狭間、向こう岸のような場所であり。
曰く、永劫に続く境界線が垣間見える水面の上であり。
曰く、全てが電子に溶け合ったディラックの海のような世界であり。

篝火程の、その程度の薄明るい月がただ唯一世界を照らす。
その中央、恐竜の化石、その大きな体躯や骨格から凡そティラノ――Tレックスとカテゴライズされる肉食獣の化石が番人のごとく"少女"を見下ろし佇んでいる。

ここに時間の流れはなく、全てが停止した世界だ。最も、その停止したという表現は比喩ではあるが、正しく少女の時間が止まっているという例えでもある。
現実ではない、夢幻の如き世界、"少女"はそんな場所にいた。
そう、"少女"以外、誰もいない、静寂と停止に満ちた蒼と黒の世界の中で。



「初めまして、ですね。」



低いボイスの方へ振り返れば、見えたのは燃ゆる蝶々のような女性。
黒い仮面に隠れた表情は深く、そして儚く揺らめいて。
ポニーテールに纏めた赤い髪はそれこそ正しく輝く篝火のようで。

「……あな、たは?」
「私はあなたと同じく、この静寂に堕ちてきた。いいえ、私はここに棄てられたようです。」
「じゃあ、ここはどこ?」
「ここは魂が揺蕩う境界の大海原。……私にとっては知らない単語で説明するなら、壊れた情報が流れ着く先、でしょうか?」
「……壊れた、情報。じゃあ、ここは走馬灯ですか?」
「……そうとも、言えるでしょう。ここは終端です。」

告げられたのは、残酷な真実。
夢であり、終わりに沈む者が流れ着く終着駅、生と死の境界線。


「陛下〜? へ〜い〜か〜?」


そして、微睡む電子の廃棄孔に、甲高い声を響かせ降り立った新たな来訪者。
赤いドレスに、長いブロンドヘアーを赤いリボンでツインテールに結ばせた少女。
"少女"に、来訪者の姿の覚えはない、その名前すら知らない。
だが、もう一人の、彼女にとっては別である。

「……どうして? ……いえ、どうやらあなたも流れ着いたようですね。」
「いや、流れ着いたってどういうこと!? ……ねぇ、まさかだと思うけれど。」
「?」
「この世界の"私"、死んでる?」
「……ええ。」
「うっそでしょぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜!?」

来訪者が頭を抱えて叫ぶ。
察するに、何かしらのアクシデントの結果、ここに巻き込まれた事。
現状、傍観者の立ち位置である"少女"には、それぐらいしか分からない。

「だったらさっさとここから出ないと! こんな所で時間潰してる暇はないんだから!」
「……その心配はありません。ここは時間が止まった世界、この世界に居る限り、ここ以外の世界の時間は静止したものとなります。あなたの目的にも何ら問題はないでしょう。どうやって此処に来たかは知りませんが、魂となって流れ着いたあなたには。」
「それで、ここから出る方法は?」
「時が経てば、じきに『外』から来たあなたの魂は排出されるでしょう。」

淡々と答える仮面の女性の言葉に、来訪者は多少気に入らないながらも納得するように小さく頷いた。
だが、これで"少女"は理解した、理解してしまったのだ。
ここは電子の内の黄泉比良坂、もしくは蒼のニライカナイ。そこに居るということは、つまり。

「……死んじゃったんですね、私は。」
「ええ。そのようです。」

既にこの物語の結末は決まっている。
死者は"3名"、その結末は覆されることはない。
これは、少女が"終わり"を迎えるまでの物語。


220 : 明日之方舟(ArkNights)-黎明前奏- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/15(火) 23:49:21 KovBbAss0
□□□□□□□□


殺し合いの舞台、電子で構築された籠の中。
再現された現実であろうと、太陽は正しく輝きを以て地上を照らしている。
だが、だというので、そうだというのに、ただ一点。真夜中よりも深き闇の具現が在る。
それは、黒き太陽。世界の調和を乱す災禍そのものであり。
謂わば悪魔。秩序の反逆者。世界を、人心を弄ぶ悪鬼であり、大いなる業を抱いて変貌した怪物である。

少なくとも、武偵にして人間である間宮あかりにはそう見えた。
人の形を保っているだけのバケモノ。ヒトガタなだけの獣。凡そあれを同じ人間とは思いたくなどなかった。
この世の人間が凡そ頭で想像し思い描く、人智を超えた怪物の、その具現がカタチを為して立っていた。

だが、1つ目一つ足、知恵の神たる岩永琴子が見る景色は、間宮あかりが目の当たりとした姿とは全く違う。
曰く、古来より巫女となる者は片目を潰して、現世と常世の双方を観えるように、としたという。
つまりだ、岩永琴子の何も映さぬはずの義眼には、決して違う何かが映っている。

それは正しく瘴気だった。電子と粒子と霊子、そして悪性因子で構築された"殻"であった。
毛細血管程の細さの赤と黒の禍糸が織模様を紬いで、それが人の形として構築された何かだ。
膜の中、心臓に位置する部分にて赤黒い点滅を放つ何かは、それこそ彼女が既に人のカタチを捨てたと結論付けられる、異形の根本でもあった。
ただし、今まで多種多様の妖怪と関わり、怪異の調停を積み重ねてきた岩永琴子は、魔王が誰であるかを瞬時に理解し、こう告げる。

「一体どういう理由(わけ)なのでしょうか、ベルベット・クラウ。」

ベルベット・クラウ。あの時夾竹桃の同行者である二人のうちの一人。得た情報曰く、復讐鬼。
初対面時では冨岡義勇と戦っている姿が印象に浮かぶが、今の彼女はその時とはあまりにも隔絶している。
義眼で垣間見た、殻のような何か。それが彼女の変質を表す要因なのだろうかと。

「……それはもう"私"じゃない。」

だが、魔王はその"名"を否定する。その含みの籠もった発言に、僅かな嫌悪と、それに似合わぬ憎悪が込めて。その名で呼ばれるのが、不愉快だと言わんばかりに、紅の眼光が知恵の神を睥睨する。

「……コホン。失礼しました、ベルセリアさん。では改めて、私を連れて行く理由を教えてほしいのですが。」

咳払いの後、訂正。ともかく、未だ分からぬ魔王の思惑。背後に係わる夾竹桃の意図を見定めようと、岩永琴子が問い掛ける。

「事態はあんたが思っているよりも深刻ってことよ。――虚構と現実がひっくり返る。」
「虚構と現実が、ひっくり返る……。」

その言葉だけで、岩永琴子は内訳は分からずとも理解した。
この世界が偽りだというのは岩永琴子自信も考察したことだ、当たり外れはともかく、彼女たちも同じ考察を共通している、それをもとに結論付けたのだろうと

「異なる世界法則の交わりを得て、全く未知の『異能』に目覚める現象がある。今のあたしもそういう類になってるけれど。おそらく、私以外も。」
「……目覚めている。目覚めさせる、というのが主催の目的だと。」
「少なくとも此方側はそう思ってるわね。」
「……両面宿儺の真似事とは、笑えないですね。どこを呪いたいのやら。」

その言葉と発想から、知恵の神が至ったのは両面宿儺の器だ。
或るカルト教祖が、見世物小屋で奇形の人間を数名購入、地下の密室に押し込めて、蠱毒を行い最後に生き残った人間を餓死させミイラとし、それを仏として祀ったという。それが元来言い伝え得られる両面宿儺の逸話。
ただし、両面宿儺の逸話というのは地方によって異なるらしく、飛騨地方においては英雄的に扱われる一面を持っている。


221 : 明日之方舟(ArkNights)-黎明前奏- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/15(火) 23:49:40 KovBbAss0
「……呪い、ねぇ。確かに現実世界からしたら呪い以上の厄ネタね。でも、あいつらがやろうとしてるかもしれないことは、そういう事よ。現実と虚構をひっくり返して、楽園という天獄で現実を侵食する。」

現実と虚構の逆転。理想郷の侵食。秩序の番人たる立場である岩永琴子にとっては、余りにも見過ごせない考察でもある。
虚構の反転、異能者の養殖。それこそ両面宿儺の二番煎じではないかと。現実を呪い侵し覆す。その結果引き起こされる厄災は、自然災害や妖怪変化が引き起こすそれとは間違いなく規模も被害も違いすぎる。

「……現実という地獄を、虚構の理想郷が破壊するのよ。文字通り。」
「私を連れ去りたい理由は、それですか。……私が『覚醒者』になる前に。」
「そう。だからあんたの身柄をさっさと捕まえたいわけ、岩永琴子。」

異界法則の交わりによるこの世界独自で生まれた異能の誕生。それが主催の目的にかかわるというのなら。
それを生まれる根を抜き取るか、異能者そのものを刈り取るか。
だが、岩永琴子の頭脳は夾竹桃側からしても優秀ゆえ、できれば無傷で確保したいのが本音ではある。故の、この強行とも言うべき手段を取った。
最も、夾竹桃の意図とは裏腹に、この魔王は返答次第で『喰う』ことも検討しているのであるが。

「断ればどうなるか、その賢い頭で考えれば自ずと分かることよね?」
「………ッ。」

故に、選択肢は2つ。大人しく付いていくか、殺されるか。
そう、知恵の神はここで確保する。手に入らないのなら殺す■■■■■■■■■。
恐らくこの選択は今後に関わるであろう、岩永琴子だけでなく、恋人である桜川九郎にとっても。
両陣営とも無自覚とも、魔王ベルセリアの憎悪対象たるブチャラティのグループ、そこの一員に桜川九郎がいる。
岩永琴子はこの事実を知らない。知らずとしても、彼女にとっては首根っこを掴まれたような感覚である。
本来ならば、大人しく連行される方が正しいのかもしれない。しかし、それは夾竹桃陣営相手での場合。
この魔王は違う、明らかに何かがおかしい彼女の言に従うのは危険だと、警鐘を鳴らしている。
断れば、始まるのは問答無用の虐殺だ。

「……逃げさえしなければ、答えは何時までも待ってあげる。……それに。」

迷う岩永琴子から一旦目線を逸し、次にその紅眼が据えるのは間宮あかり。
蛇に睨まれた蛙、という慣用句が存在するが、今の間宮あかりはまさにそうだ。
動けなかった。正しくは、動きたくても、体が動かなかった。
もし動こうものなら、即座に殺されていただろうから。

「……あんたが、間宮あかりで良いのよね?」
「……。」

黙って、頷いた。その選択しか、許されないような錯覚に襲われていた。

「……あんたにはまどろっこしいのは無し。夾竹桃からの要望であんたも来てもらうわ。鷹捲の在処を教えてもらう」
「………!」

間宮あかりにとって、最悪の一言だった。里を壊滅に追い込んだイ・ウーの一人、妹に毒を仕込んだ元凶たる彼女が、よりにもよってこの魔王と手を組んでいた、だなんて。
魔王本人にとっては小手暇の頼み事をあしらう感覚ではあった。それだけでもあかりにとって絶望の二文字を叩きつけるに等しいことで。

「……あいつが言うには貴重な毒、らしいわね。あたしにはどうでもいい……と言いたいところだけれど。」

が、魔王にとって、窮極たる異能の捕食者にとって、未知の毒物というのは多少興味を引くのに十分であり。だからこそ、念のために魔王は訪ねることにする。

『……鷹捲の在り処を話せ。』
「……ッッッ!?」

ただ一言、たったそれだけで、再び間宮あかりの前進を凄まじき重圧がのしかかった。
返答以外の、すべての行動を制限される。文字通りの言葉の重み。重力が何倍にも増えた感覚。手も足も動かせない、気を抜けばすぐにでも地面とキスしてしまいそうになる。


222 : 明日之方舟(ArkNights)-黎明前奏- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/15(火) 23:50:09 KovBbAss0
『……そもそも、鷹捲は、毒なの?』

交じる魔王の疑問。どう答えれば良い? どう返せば良い?
あかりの思考が文字通り重圧に押しつぶされていく。このまま素直に従えば皆は助かるのか、自分だけ犠牲になれば助かるのか?
ネガティブな考えた脳内を埋め尽くしていく。絶望という黒い蔦に絡まり深く深く落ちていく。
諦めてしまえばいいのか、それでみんなが助かるのならそれが最良の選択肢なのか。


―――違う、そんな訳がない。そんなはずがない。






「鷹捲は、毒なんかじゃない。」
「……へぇ。」

意を決して、間宮あかりが己を見下ろす魔王に断言する。
魔王の瞳が変化する。見下すのではなく、自分に言い返した誰かとして認識する。

「私は、あなたの言う事に乗らないし、夾竹桃の思惑に乗るつもりもない。」
「……少なくともあなたの身柄の無事は約束できるけれど、それでも?」
「それでも、です。」

今の間宮あかりの瞳に、恐怖は無い。
魔王という暴威にして脅威を前にして、心は震えど意思は揺るがず。

「それがもし、一番代償が少なくて、皆が生きて帰れる唯一の手段に繋がることだとしても。」

間宮の技は戦国より言い伝えられてきた必殺の技。故に、暴力が非日常へと変遷した現代において、その技はただ受け継がれるだけと成り果てた。
だからこそ、間宮あかりの母親は、いつか起こる戦乱の兆しに備え、この技を「誰かを守る」為に娘たちに教えたのだ。
間宮あかりの、その実力を参加者内で評してしまえば中の下程度だ。勿論、間宮の殺人技術を駆使すれば話は別だろうが、武偵である以上その技は事実上封じられている。
無能の長物だと嗤うものもいるだろう。だが、それでも、そんな不器用な彼女でも。
託された思いと、変わらぬ憧れと、誰かを惹き寄せるその優しさが、間宮あかりという少女の強さだ。

「そんな理由(よわみ)で、みんなの思いを無下にすることなんて、したくない。託されたから、応えないといけないから。」

かの武人の言葉が、今でも反芻できる。託されたのだから、応えなければならない。
炎のごとく、雷(せんこう)の如く、眩いた輝きの意思を、彼女は憶えている。
積み重なった思いの上に、間宮あかりはいるのだ。

「……託されたもの。……シア、リーズ。」

"私の心にもあるのです。あなたと同じ、消したくても消えない炎が"

ベルセリアの脳裏、今や枯れた樹木の中身が如く残骸と化した過去の記憶。それでも今だ消えぬ炎の記憶。
■■■■■の言葉が、記憶が、ただ、一瞬だけ。

『……煩わしい。何故、消えない。』
「……え?」

魔王が、苛立ち呟く。それは、誰に向けて、何に向けての言葉であるのか、間宮あかりは未だ理解は出来ないだろう。
それでも、魔王の表情が歪んだことに、間宮あかりが気付かぬ道理はない。

「――生憎、こちらもあなた達からの誘いは断らせてもらいます。」

そして、岩永琴子の方も同じくして拒否と言う意見の表明。

「……賢い選択をしてくれると思ったのだけれど。」
「それも一つの選択肢だったでしょう。少なくとも、そちら側の得た真実を共有できれば、この殺し合いの打開に繋がる手掛かりと為り得るでしょう。それは否定しません。」

本来なら、夾竹桃陣営とは不戦協定を結んでいるという前提、悪い扱いはしないというのはわかっている。魔王もまた、彼女たちが大人しく従うのであれば手を出さないつもりではいたのだから。

「ですが、あなた自身は、どうなのでしょうか?」
「………。」

岩永琴子の追求に、魔王は沈黙という形で返答を返す。
眉を顰め、表情の読めぬ顔で岩永琴子の顔を見つめ返す。


223 : 明日之方舟(ArkNights)-黎明前奏- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/15(火) 23:50:24 KovBbAss0
「……そもそも、あなたは本来ベルベット・クラウという人物。なのに今のあなたは魔王を名乗っています。まるで最初からそうであったかのように。」

魔王ベルセリア。いや、元々ベルベット・クラウという存在であったのに。まるで自分が最初から魔王であったように振る舞い、言葉を紡ぎ、交渉の場に立ち、威圧している。

「私の眼からみて、あなたは歪そのものです。あなたを構成するそれは、現実の其れではありません。まるで妄想です。……私は似たような怪異を知っています。」

物怖じなどせず、何時も通りなれた説明口調で続ける。

「鋼人七瀬。ネットの海のいち噂を発端とし、不特定多数の群衆の妄想・考察から生まれた、想像力の怪物。」

七瀬かりんというアイドルの死を発端として生まれた怪異の噂。
桜川六花が作り上げた、世界の理を歪ませる現象の実験体。
想像力の怪物、合理的虚構。

ベルベット・クラウ。魔王ベルセリアの場合はそれと似通ったものだ。ただし、それは数多の民たちの想像力でなく、ベルベット・クラウという個人のみで構築された、妄執による虚構。
……個による妄執、否定の概念の顕現。それを為したベルベットの到達点が魔王ベルセリアという存在である。

「……ですがあなたは、大多数のそれによって為される現象を。たった一人で行使してしまった。鋼人七瀬の時点ですでに秩序を歪ませる行為でしたが、今のあなたの存在そのものが秩序を破壊しかねません。」

そう、魔王ベルセリアという存在は今や歪みそのもの。ただ存在するだけで秩序を崩壊させる怪物と化した。さすれば、知恵の神たる岩永琴子が、魔王の誘いに乗る道理は全くもって存在しない。
秩序を歪ませようとするならば、知恵の神は容赦はしない。


224 : 明日之方舟(ArkNights)-黎明前奏- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/15(火) 23:50:44 KovBbAss0
「ですので―――」
『もう、いい。』

岩永琴子が言い終わるのを待たずに、ベルベットの沈黙が破られた。
その一言だけで、岩永琴子を黙らせるには十分であった。
波濤が、世界を震わせる。焼け焦げた残骸は吹き飛び、黒いオーラが魔王の周りに収束する。
左腕は既に異形の業魔腕、魔王の腕へと変化している。

殺意を感じ取った間宮あかりは岩永琴子を庇うような形で、既に交戦の準備をいつでも取れるようには身構えている。一触即発、いや。既に戦端は切られている。魔王の要求に否を叩き付けた時点で。

『死ね。』
「―――!」

刹那だった。魔王が間宮あかりに肉薄し、その凶爪を振り下ろそうとしたのを、一本の刀がとめたのは。
ガキィン!と刃物同士がぶつかり合う甲高い音が鳴り響き、魔王は己の攻撃を止めた元凶に振り向いた。

「……間に合ったようだな。」
「ええと、確か……。」
「ちょうどいいタイミングでのお目覚めですね、冨岡さん。」

鬼殺隊水柱、冨岡義勇。今まで眠り続けてきた鬼滅の剣士が、ようやく目を覚ましたのだ。
魔王の放つ殺意の凶兆が、目覚まし代わりとしてかの剣士の意識を覚まし、既の所で防いだ。

「……あんたは、確か。」

勿論、魔王もまた冨岡義勇の事は一応は憶えている。ベルベットだった頃に一度交戦した。確か自分が殺した錆兎の関係者だとか。

「……お前に何が起きたか存じないが、ますます鬼染みた格好になったな。」
『お世辞として受け取っておくわ。』

冨岡義勇から見た今の『ベルベット』は、正しく鬼にも似た人外の類。その脅威は恐らく、かの鬼舞辻無惨に匹敵するか、もしくはそれ以上か。

『……それに。』
「どうやら祭りにゃ間に合ったようだなぁ!」
「あかりちゃん! 大丈夫!?」
「カタリナさん! それに琵琶坂さんに……知らない人いるけれど大丈夫です!」

冨岡の乱入に続くように、シグレ達もまた魔王の元へ到着。

『………邪魔なのが、また増えるか。まあ、構わないわ。』

呆れるかの如き魔王の呟き。役者はすべて揃い、これから始まる大戦の始まりの刻を、ただ魔王は待つのみであった。


225 : 明日之方舟(ArkNights)-黎明前奏- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/15(火) 23:51:05 KovBbAss0
■ ■ ■ ■ ■




カランッ、と骰子が投げる音。




軽快に音を鳴らし、廻り廻って骰子が静止する。




賽の目が指した数値は1だった。




■ ■ ■ ■ ■


226 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/15(火) 23:51:27 KovBbAss0
投下終了 次パートは後日投下します


227 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/18(金) 23:38:29 /7OzBEQQ0
投下乙です

フレンダ、ついにここまで追い込まれてしまった
いやまあ、頑張ってたけど狭い会場だしいずれはこうなっちゃうよね、仕方ないよね
霊夢とブチャラティの異能バトルは圧巻、そしてまたも知らぬところでひと悶着が生まれそうな遠方のドッピオの運命や如何に


犠牲者は三人...果たして誰と誰と誰になってしまうのか
冨岡さん、久方ぶりの台詞と共に復帰したし現状でトップクラスのシグレもやってきたし何とかなりそうでもあるが...

続き投下します


228 : 英雄の唄 ー 三章 Godsー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/18(金) 23:39:48 /7OzBEQQ0



破壊神シドー。

かつて彼は「勇者」と名乗る者に打ち倒された。

しかしそれは彼の脆弱さを表すものではない。

もしも挑んだのが勇者一人であれば、たちまちに破壊し勝利を収めていただろう。

勇者は仲間を連れていた。旅で苦楽を共にし絆を育んだこれ以上ない仲間たちが。

破壊神一体に対し、複数で挑み死闘の末に勝利をもぎ取った。即ち、個々体においては破壊神には及ばなかったということだ。

事実、彼に勝る個体など存在しなかった。

故に最強。故に神。

彼を慕う者はあれど、上に立つどころか並ぶ者はどこにも存在しなかった。



『ひれ伏せ』

そのシドーが。



【ぬ...おおおおおおっ!!】

巨腕の一撃のもとにおいて頭を垂れていた。


229 : 英雄の唄 ー 三章 Godsー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/18(金) 23:42:18 /7OzBEQQ0

シドーの生み出した異空間が蝕まれていく。
影より生み出した骸骨兵たちは余波に呑まれ消し飛ばされ、景色は暗闇ではなく星空に似た、しかし煌びやかさは感じられないうす暗い光に覆われていく。

己が破壊の為に創り出したモノが悉く否定される未だかつてなき事態に彼は初めての畏怖を覚えていた。


【グオオオオオオオ!!】

無理やり頭を上げ、眼前の敵を破壊せんと拳を振るうのに対し、黒き装甲龍―――ウィツアルネミテアもまた同じく拳を返す。
衝突する二つの拳は轟音と共に暴風を生じさせ、周囲を陥没させる。

【あり得ぬ...こんなもの..!!】

自分と同じ神格の者の存在は感じ取っていた。
自分の言葉すら理解できぬ有象無象の贄、その中でも己の言葉を理解し得た現人神が二人。
しかしそのどちらも己には到底及ばない弱者―――そのはずだった。

だが。
1人を極限まで追い込み産まれしモノはどうだ。
巨大さも。力も。
全てが自分を上回っている。

神の言葉もわからぬ有象無象共からすれば同じように見えるだろうが、より近い領域にいる破壊神だからこそ理解できる。
目の前の神とは文字通り『格』が違うと。

【認めぬ...貴様の存在を、我は認めぬ!】

拳の押し合いに負けると察した破壊神は炎を口の中に溜め、その身全てを焼き尽くさんとはげしいほのおを吐き出した。
身動き一つすることなく業火に身を包まれるウィツアルネミテアを見ながら叫ぶ。
己が存在価値を高々に詠いあげる。

【我こそが根源!破壊こそが全ての真理!!貴様のような贋物は須く消え失せよ!!!】



『我を畏れよ』


230 : 英雄の唄 ー 三章 Godsー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/18(金) 23:43:07 /7OzBEQQ0
その宣言を否定するように、業火が弾き飛ばされ、ウィツアルネミテアの全貌がシドーの視界に再び現れる。
多少の火傷はある。だが、負わせた怪我もジクジクと蠢き再生してしまう。

『我を讃えよ』

破壊神はギリリと歯軋りと共に再び腕を振るいその巨爪で胸部を切りつけるも、やはりすぐに再生を始めてしまう。
だが破壊神は屈さない。
破壊できぬものを前に膝を着いてなにが破壊神か。
己の存在意義を賭けて、破壊のエネルギーを何度もぶつけ続ける。
狙いはウィツアルネミテアのむき出しの腹部、緑色の球体に浮かぶクオンの肉体。
だが、破壊神の力を以てしても球体は無傷。
眠る少女は目を覚ましもしない。

『その身に刻め。我が真名を―――ウィツアルネミテアの名を』

地面が揺らぎ、地盤が破壊されるのと共にウィツアルネミテアの紫の氣が立ち昇り破壊神の身体を吞み込んだ。

【グオオオオオオオオオオオォォォォォ―――ッッ!!!!!】

己の身体に襲い掛かる激痛と焼け付くような灼熱に破壊神はたまらず叫び声をあげる。
だが、ウィツアルネミテアの氣に容赦という言葉はない。
立ち昇る氣は破壊神の身体に纏わりつくように凝縮され―――爆発。
現代兵器さながらの大爆発は灼熱の如き爆風と多大なる破壊を伴い一帯に波及する。

【ハアーッ、ハアーッ】

それを受けてもなお五体を保っているのはさすがに神格といえよう。
しかしその身は誰がどう見ても満身創痍。
あともう一度の攻撃で斃れるのは火を見るより明らか。

『終わりだ』

神々の戦いに終止符を打たんとウィツアルネミテアが拳を振り上げる。
同情も。慈愛も。
そのような煩わしきものは根源たる神は抱かない。

万物の願いを叶える神も、己が領域を穢す異教徒の望みを叶える義理はない。






破 壊 神 シ ド ー は ベ ホ マ を と な え た !


231 : 英雄の唄 ー 三章 Godsー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/18(金) 23:44:15 /7OzBEQQ0

『...!?』

ウィツアルネミテアの拳が驚愕で止まる。
今の今まで、破壊神の身体は死に体であった。
にもかかわらず、コンマ数秒の間に全て回復したのだから。

ウィツアルネミテアは知らない。
破壊神シドーは兼ねてより破壊を冠する神でありながら癒しの魔法の極致、『ベホマ』を使えることを。
悠久の時を経て忘れてしまったソレを、この会場でマリア・キャンベルの『光の魔法』を取り込むことで思い出したのを。

再び咆哮と共に破壊神がウィツアルネミテアに躍りかかる。
振るわれる四爪に対し、ウィツアルネミテアもまた拳で返す。
だが。
結末は変わらない。
一時は拮抗するソレも、ウィツアルネミテアの巨腕には及ばずそのまま弾き返され宙を舞う。

『滅びよ』

ウィツアルネミテアの掌が破壊神の尻尾を掴み、そのまま地面に叩きつければ地面が割れ岩盤が舞い上がる。
そのまま追撃としてウィツアルネミテアの悍ましいほどの気が再び破壊神の身体を穿つ。


破 壊 神 シ ド ー は ベ ホ マ を と な え た !


肉体が死する寸前に再び破壊神のじゅもんが傷を癒し再び立ち上がる。
その度にウィツアルネミテアは攻撃を繰り返し、破壊神は瀕死に陥る度にベホマで傷を癒し立ち向かう。

なんとも滑稽な姿だろう。
人間に絶望を与える破壊神ともあろうものが癒しの魔法を頼りに必死に食らいつくなど。
だが破壊神は手段を厭わない。

例え無様であろうとも。
例え格下の技を用いようとも。

最終的に勝利を収めればなんということもないのだから。

そしてその時は遂に来る。


232 : 英雄の唄 ー 三章 Godsー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/18(金) 23:45:35 /7OzBEQQ0

幾度も破壊と再生を繰り返し続け、不毛とも思える攻防にウィツアルネミテアの攻撃の波が緩んだ。
その隙を突き、破壊神はベホマで身体を癒した瞬間、ウィツアルネミテアへと一気に距離を詰める。
振り下ろされる破壊神の手刀、しかしそれでもウィツアルネミテアの腕も速い。
破壊神の腕が振るわれ、それをウィツアルネミテアが受け止める。
幾度も繰り返されたこの攻防。だが、この時ばかりは破壊神の腕はほんの少しだけ早かった。

その差さが、分かれ目だった。

破壊神の腕は、止められることなく『振り下ろされた』。

ピッ

ウィツアルネミテアの鋼鉄の如き硬さを誇る腕に一筋の線が走る。
ズルリ、とウィツアルネミテアの腕がずり落ちていき、やがて地に落ちる。

そして。

その線は胸部の球体にまで達しており、その中で眠るクオンの身体から鮮血が舞った。

『...!?』

なにが起きた。
これまで攻勢に徹していたウィツアルネミテアに一転、動揺と衝撃が走る。

その答えを知る者は破壊神ただ一人。

【虚空の王(ベルゼブブ)】

用いた力の名を口ずさむ。
シドーが取り込んだのはマリア・キャンベルの光の魔法だけではない。
王(ワン)の使用する異能(シギル)、虚空の王(ベルゼブブ)。
狭い範囲ではあるが、物質ではなく空間を切断するという一点においては神にも引けを取らない異能である。
ソレを彼は己の中に落とし込み、出力したのだ。


【戦いはここからだ。根源たる神よ】
『...忌々しい。今すぐに我の前から消え失せよ』

互いが互いを否定し、己の存在を確立する為に。
神々の戦いは更に苛烈さを増していく。


233 : 英雄の唄 ー 三章 Godsー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/18(金) 23:46:13 /7OzBEQQ0


ブルルルン

影の馬がうなり声をあげる。
コシュタ・バワーは学校の崩落に巻き込まれた後、神々の戦いの余波で吹き飛ばされた生存者たちを回収し、比較的安全な場所に移送していた
比較的―――そう、もはやこのエリアに安全と言える場所などどこにもない。

「......」

参加者たちは呆然と目の前の光景を眺めていた。

それは現か幻か。
腕の一振りごとに大気は震え、衝突の度に衝撃で地が泣き叫ぶ。
眼前で繰り広げられる神話の戦いに、彼らは為す術もなく見守ることしかできなかった。

「ひょほほ...なんでおじゃるのかこれは...マロは...夢でも見ているのでおじゃるか...?」
「夢だったらどれほどよかったのかしらね...一応、周りのブラックホールは動きを止めているけれど、果たしてこれは救いと言えるのかしら?」

幻想郷という秘境で神々の民に触れてきた咲夜も、修羅と化した筈のマロロも。
世界をも改変・破壊する神々の前ではその執念も保てず。
恐怖は強大すぎる力の前ではもはや消え失せ、ただ諦める他なく、一周回って美しいとすら思える景色をぼんやりと眺める他なかった。

「......」
「ジオルド...そういや、お前さんは志乃ちゃんに洗脳されてたんだっけか...今なら、意識がないってのも少し羨ましいかもな」
「弁慶さん...」
「...悪い、久美子ちゃん。俺にはもうどうすりゃいいかわからねえんだ」

彼らしかぬ弱音を吐く弁慶に対し、久美子は責めるようなことは言わなかった。
自分でもどうしていいかなんてわからないのだ。
こんな、人智を越えすぎたおとぎ話みたいな光景に人間がどうしろというのだ。
いくら強くても、心が折れてしまうのを誰が責められようか。

「...どうして、私はあそこにいないんでしょうかね」

早苗は俯きながら、ギュッと己の腕に爪を立てる。
東風谷早苗は現人神ではある。だがしかし、アレらとはあまりにも神としての『格』が違いすぎる。
この中で唯一、神の言葉を解せる存在だからこそ、己の矮小さも一際思い知らされる。
もっと力があれば。もっと神様としての格が高ければ。
...それでも、到底あれらには敵わないと思うが。

人は宛てもない暗闇に落とされた時、心が折れてしまう生き物だ。
それは誰にも止められるものではなく、抗いがたい生物的本能だ。


234 : 英雄の唄 ー 三章 Godsー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/18(金) 23:47:03 /7OzBEQQ0
だが。


「ふざけるな...!」
「隼人?...!ちょっ、あんた、それ...!」


その中でも運命に抗おうとする者はいる。


「みぞれさん、なにを...!」
「おねが、い、しの、さん」


世界が暗闇に墜ちてゆく中、それでも光を求めて進む者がいる。
絶望に染まる世界を変えようと足掻く者がいる。


「...シドー」


彼らは、己が魂を削り道を切り開き新たな世界を築く者はかく呼ばれる。


「こんなもの...僕たちの旅の果てじゃない...!」


『英雄』と。


235 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/18(金) 23:48:45 /7OzBEQQ0
今回はここまでです

すみません、予約期限に間に合わなさそうなので2週間ほど再延長をいただきたいです...


236 : ◆qvpO8h8YTg :2022/11/19(土) 00:29:30 LMZ3uEOQ0
>>235
投下お疲れ様です。
神々の戦い、圧巻の一言です。

予約期限については了解いたしました。
続きを楽しみにしております。


237 : ◆mvDj9p1Uug :2022/11/19(土) 21:12:31 Uogyaiyc0
フレンダ=セイヴェルン、ブローノ・ブチャラティ、桜川九郎、ライフィセット、カナメ、博麗霊夢、梔子、ヴライで予約します


238 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:48:03 rMuosQ4.0
投下します


239 : 明日之方舟(ArkNights)-苦難揺籃- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:48:28 rMuosQ4.0





―――長く終わらない憤怒の中を、振り向かず、前を往く背中を追って

―――一つ、また一つ、小さな声が、炎の中に消えていく



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


あり得ない光景を、見た。
太陽のみを覆い尽くす、昏き闇の緞帳が、その輝きのみを捻じ曲げていた。
空間自体が夜になったわけではない。文字通り太陽のみが闇に閉ざされた。

漆黒の十字架が、中心から除く白光の輝き、見える。
この世のものではない駆動音が、空気が擦れる異常な振動が木霊する。
人智ならざる光景だ、これを、これをたった一人の魔王が為し得たのだから尚更。

太陽の輝きを捻じ曲げ、収束させている。
黒の最奥に垣間見る白が示すのは"死"だ。遍く全てを消し去り燃やし尽くす禍き白銀だ。


ドクン、ドクン、ドクン。鼓動が聞こえる。それは心臓の音ではない。
収束する輝きが、凝縮される力の放流が、鼓動となって響いているのだから。
黒の緞帳に、雨粒が降り注ぎ描かれる紋様の如く白が開く。
白の奥底に、"輝き"が見える。白穴の粒は増える、増殖する。

十字が咆哮し、鼓動が止む。
空間が震え、悲鳴を上げているようにも聞こえる。
魔王が業魔手を上げて、勢いよく振り下ろせば、それが合図。

天照より滴り落ちるは、万物悉く滅ぼす神の雨。
黒き門を潜りて墜ちるは、敵対者を溶かす絶望の流星。
曰く、それは太陽を落とす絶望の一手。
故、魔王が告ぐ。その大いなる所業の名は―――。






『――戴冠災器(カラミティレガリア)・日輪天墜(パラダイスロスト)』





―――銀の柱が、悲鳴にも似た反響を伴い、黒の大地に堕ちてくる。


240 : 明日之方舟(ArkNights)-苦難揺籃- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:48:45 rMuosQ4.0
□□□□□□□□

「……随分と様変わりしたみたいじゃねぇか、災禍の顕主!」

太陽の下、焼畑の大地に一際目立つ黒点一つ、魔王ベルセリアもとい、ベルベット・クラウ。
電子が螺旋を描く偽りの輪廻の一端にて、魔王に声を掛けたのは対魔士、シグレ・ランゲツ。
監獄で見かけた時よりも、さらに人間離れしたベルベットのその姿。
見た目以上にバケモノとしてたたっ斬りがいのある風貌と来た。

「……誰? 私を知っているようだけれど?」

等の魔王には、彼の顔には見覚えなど無い。
遥か過去より来た彼女にとって、シグレ・ランゲツがロクロウ・ランゲツの兄であるという基本的事実ですら理解し得ないのだから。

「いや、忘れちまうまで変わっちまったんだったら構わねぇさ。」

だが、そんな事など微塵も気にもしないのがシグレ・ランゲツという男。
ただ強さを求め、最強を求めて自由奔放に振る舞い強者に挑む。彼という剣士の固定概念(レゾンデートル)という奴だ。

「戦う前にゴタゴタ言うほうが無粋ってもんだろ。テメェもそうだよな、災禍の顕主?」
「そいつは同感。少なくとも今の私からあんた達に話すことはないし、どうぜ全員殺すんだから。」
「……正気なのかな、君は? この数の差なんだよ? 非戦闘員は除くとして4対1だ。君にどれだけ実力があっても、勝てると言い切るには少々厳しいんじゃないのかな?」

琵琶坂が意見する。そもそもこの魔王は単身でこの場所まで移動し、そして自分たちを殺すと言い出した、たった一人でだ。
絵空事、などとは言わない。琵琶坂永至とてたった一人であかり達を追い詰めた安倍晴明という男の例があるからだ。
だが、この数を一斉に相手取って全員殺して勝つなどと、それこそ無茶というべきだろう。

「……厳しい? ああ、最初はそう思ってたわよ、これでも。でもあんた達全員を見て確信した。……一人で十分ね、やっぱり。」

挑発を返すかのように、魔王は告げる。有象無象の鳥群を眺めるように、興味なさげに。
岩永琴子は協力を断った、間宮あかりの鷹捲は毒ではなかった。
……強いて言うなら、μの関係者がいるかどうかは聞き忘れたが、まあ殺す前にそれを訪ねるぐらいはしておこうと。先ずは眼前の敵を叩き潰し再起不能にしてから考えよう。

「ほぅ。好い目をしやがる。アルトリウスが見りゃどういう反応するんだかな。」
「……アルトリウス……誰、そいつ?」
「……あ?」

この時、初めてシグレの眉が動いた。ベルベットがアルトリウスに復讐しようとしているのは周知の事実だ。勿論それはシグレは知っている。
だが、このベルベットは、魔王はアルトリウスの存在を知らないような口ぶり。ここで初めて、異常に気づいた。
自分の名前を覚えていないだけなら、それ程復讐にのめり込んだ、と解釈すれば良い。
だが、復讐対象であるアルトリウスすら忘却しどうでもいいものとして扱っていると見受けられる今のベルベットは、シグレ・ランゲツという男からしても異常としか思えなかった。

「……くは、あっはっはっはっは!!! マジか、マジかてめぇ、強くなりすぎてテメェの復讐相手すら忘れちまったのかよ! マジかよオイ!」

呵々大笑。まさかそうなるまで強くなった、というのなら予想外だ。アルトリウスがどういう反応をするのか楽しみである一方で、明らかな冥府魔道へと堕ちた今のベルベットに対し、シグレは好奇心を隠さない。


241 : 明日之方舟(ArkNights)-苦難揺籃- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:49:02 rMuosQ4.0
「――じゃあもう俺がテメェを殺しちまってもいいってことだよな?」

だったら良い。元々シグレとしてはアルトリウスの計画を良くなど思ってはいない。
眼の前の上等な獲物を前に舌舐めずりなどやるわけがない。あんな大物を、あんな化け物を前に剣士としての好奇心が、闘争心が震え煮え滾る他無いだろう。
殺意と歓びが入り混じった、吹き上がる溶岩の如き笑みを、シグレ・ランゲツは浮かべているのだから。
興味なしとつまらない表情を浮かべる魔王以外は、ただ圧倒されていた。
間宮あかりは何かを言おうとしたのだろう、カタリナも何かしら声をかけようと思っていたのだろう、それはただ一瞬にして遮られた。

「……戦えるやつだけがその気があるなら出ろ、弱えやつは死ぬぞ。」

一言。シグレが味方側に告げたのはそれだけだ。
これは一騎打ちの類ではないのだから、別段他者の介入はシグレは気にしない。一応には退魔士だし弱者を守るのも、一応は義務だ。
この相手は、魔王は別格。下手に弱者が首を突っ込めば足を引っ張りかねない。だったらそもそも参加はするなこの場に来るな、と言いたいところではあるが。
魔王に認識された時点でそれは全て鏖殺対象。故に逃げるのは困難である、だからせめて余計な真似はするな、ということだ。

「カタリナさん、私達は出来るだけ下がっておきましょう。少しは助力したい、と言うところではありますが……」
「え、ちょっと? で、でも、あかりちゃん達は……。それに私だって土ボコがあるわけなんだし……。」
「流石に無理があると思われますカタリナ様。……あれは、明らかに。」
「……こりゃ、俺も完全に戦力外、か。」

素直に引き下がることに微妙に納得できないカタリナはともかく、メアリは正しくその驚異の意味を理解していた。岩永琴子は最初からそれを理解した。
リュージもまた、自分が今から始まる戦いでの、実力不足であることの実感をまざまざと理解させられたのだから。

「ですので、カタリナ様は今は見守ってください。」
「………メアリ?」

ただし、メアリ・ハントは違う。
魔王と対峙予定と成っているのがシグレ・ランゲツ、冨岡義勇、間宮あかり、琵琶坂永至だ。
前者二人は単純な消耗も少ないのもあるし、間宮あかりに関しては鷹捲を狙う夾竹桃とあの魔王が手を組んでいると知っているため、引き下がるわけにはいかなかったのだろう。琵琶坂永至に関しては凡そ前者二人と同じ理由ではある、最もこいつに関しては機を見てとんずらしよう、なんて内心考えていたり。
そんな中で、恐らくカタリナ達と同じカテゴリに、役不足と該当されるであろう彼女が、魔王の対峙者の一人として加わっていたのだから。

「………さっきのこの剣士の言葉、聞いてなかったの?」
「何出しゃばってんだメアリ、命の保証はねぇぞ」
「ええ。そうですわね。だからどうしたというのですの?」

現状場における最高実力者二人の威圧にも怖気すらしない。
メアリ・ハントには既に覚悟は決まっている。
あの魔王との戦いに、安全圏は存在しない。カタリナ様だって否応なく巻き込まれる。あくまでシグレが告げたのは余計な真似はするな、と言うことだから。

「……あなたがカタリナ様の敵、と言うだけで十分です。」
『……だったら、どうするのよ?』

その一言に、魔王の覇気が漏れる。それだけで、風圧が残骸を吹き飛ばす。
メアリ・ハントは、動じない。微動だにしない。

『――死にたいなら、今すぐにでも殺してあげるわよ?』
「……私とカタリナ様の未来を邪魔するというのなら。」

何かを掴み、天に手を振り上げる。
それは、白い仮面のようなもの。
紫色のオーラのような何かが迸り、魔力と混ざりながら撹拌し、メアリの内へと染み込んでいく。

「……あれって、ミカヅチさんが付けてたのと、同じ……?」
「メアリ!? それ確かミカヅチさんのと……?」

間宮あかりとカタリナは知っている。その仮面が何なのか、その仮面は一体どういうものであるのかを。
その仮面が齎すモノの、意味を。
メアリがその仮面を装着し、隙間より漏れる殺意を以て告げる。




『―――お前が死ね、魔王ベルセリア!!!』




瞬間、メアリを青色の光が包み込み、輝きが弾けるとともに、それは覚醒(めざ)めた。


242 : 明日之方舟(ArkNights)-苦難揺籃- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:49:22 rMuosQ4.0
■■■


メアリが所持していた仮面(アクルカ)。
その実態は、仮面の試作品であるプロトタイプと称される存在。
元来、アクルカはオンヴィタイカヤンの為に作成された仮面のデータを、ヤマトの帝が参考の上独自に改良して作り上げたものだ。そもそも、これは本来人類用のものであるのだから。
ミカヅチら仮面の者(アクルトゥルカ)はこの仮面を所持しその力を行使しているが、亜人である彼らはそのスペックの3割程度しか発揮していない。全力のスペックを発揮するには使用者は人間かつ男でなければならないのだ。まずそもそも過去の暴走事件もあって、プロトタイプから意図的に機能を落としたのが彼らの付けている仮面なのだ。
だが、今回装着したのはメアリ・ハントと言う『人間の女性』だ。
アクルカは人間が装着することで本来のスペックを発揮できるが、女性であるからこそ怪獣形態にはなることは出来ない。そもそも暴走する可能性だって高いのだ。
だが、彼女にはたった1つ誰よりも勝る要素がある、カタリナ・クラエスへの愛情だ。
例えそれがどれだけ歪んだものだとしても、その思いに一切の曇りなど無い。
この世界において、認識が、意思が、思いが力になる空間において。メアリ・ハントの愛は当にうってつけの要素だ。


――愛は、神の力すら御するもの。
――愛は、理すら捻じ曲げるもの。

この世界であれば、当然の摂理。
思いは世界を捻じ曲げる。

何故なら、既に愛に狂った彼女は、暴走しているようなもの。
理性ある狂戦士とは、つまりはこういうことなのだろう。


243 : 明日之方舟(ArkNights)-苦難揺籃- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:49:37 rMuosQ4.0
■■■






「………なるほど。」

メアリ・ハントの異常を、魔王は興味深く眺めている。
仮面を付けた、らしいが包み込んだ光が弾け飛んだ後は仮面の姿は影も形もない。
凡そ、『力を取り込んだ』と考えるのが道理ではあった。
その証拠に、メアリ・ハントの蜂蜜色だった瞳は、澄んだ蒼い色へと変化している。

「―――あんたも、覚醒(めざ)めたのね。」
「死ね。」

そう思考していれば、メアリの殺意の籠もった言葉を共に彼女が腕を振り上げる。
頭上を見上げれば、巨大な龍が浮かんで見えた。
透き通った、氷細工の如ききめ細かさで構築された、水の魔力だけで構築された、ドラゴンである。
ガラスが軋むような叫び声を鳴り響かせ、激水が魔王目掛けて墜ちてくる。

「――はぁぁぁぁっ!!」

メアリの叫びと共に、水竜は魔王を食らわんと大口を開ける。
眼前に脅威を映してなお、魔王の心情の水面は単純な凪のままである。

(理屈はわからないけど、あの仮面の力を愛とやらで無理やり制御してるのかしらね)

メアリ・ハントの所持していた仮面、理論理屈は戦闘後に調査するとして。
先ずあの水は面倒、という簡易結論には達している。

(―――まずは小手調べ)

僅か数コンマの思考。直後、真正面まで迫った瀑龍の魔力を、文字通り顔面を鷲掴み業魔腕で受け止める。
業魔腕が一瞬黒く輝いたと思えば、水龍の体はひび割れ、唯の水滴へと戻り爆散する。
水龍が爆散して数秒後。シグレ、冨岡の両名が挟むこむように突撃。

「裂空!」
「水の呼吸・壱ノ型――水面斬り」

水平の斬撃、叩きつけるような一撃が交互より迫る。
魔王は左腕でシグレの太刀を受け止め、右腕で冨岡の一撃を指で挟み込むように静止させる。
その隙を突いてあかりが銃弾を魔王の左肩に向けて発射する、目的は厄介であろう左腕の機能をできる限り落とすこと。
冨岡を投げ飛ばすように右手指を離し、そのまま銃弾を受け止め、銃弾を指で押し潰す。

「――災禍顕現(ディザスティ)・爆塵(イクスプロス)」

言葉を呟いたと同時に魔王を中心とした薄黒い球体状のオーラを展開。放出されたオーラから舞い散る黒い粉が次々漏れ出し、誘爆しはじめる。

「水の呼吸・参ノ型――流流舞い!」
「旋風!」

すかさず冨岡は爆風を弾き返すように参ノ型を展開、爆発を受け流しながらも距離を取る。
一方のシグレは回転しながらの切り上げによる鎌鼬で爆風を切り裂きそのまままた振り下ろすことで業魔腕と鍔迫り合う。

「ひゃっはぁぁぁぁっ!!!」
「……ふん。」

畳み掛けるように琵琶坂が爆風に紛れながらベルベットの首元を狙おうと鞭を振るう。
魔王が鼻で笑えば、鍔迫りあっていたシグレに対して黒い魔力球を超至近距離で生成し、爆発させる。
刀でガードしたとはいえシグレは大きく吹き飛ばされるも、すぐに体勢を立て直す。
その後の琵琶坂に対しては先程の魔力球を数発生成、今度は発射。

「ちぃっ!」
「私をお忘れでなくて!」

すぐに弾き飛ばすも肝心の魔王には距離を取られてしまう。
歯ぎしりする琵琶坂を他所に、いつの間にかメアリが先程爆散させられた水龍の部品――何万粒もの水滴を空中へ展開。

「これなら! ――行きなさい!」

号令と共に、大量の水滴よりウォータージェットを彷彿とさせる水のレーザーが発射。

「――災禍顕現(ディザスティ)・暴蝕(メルゼズゾア)」

それに対抗するかのように、同じく空中に巨大な黒い球体を生成。
球体を中心に黒い枝を伸ばし、急速に伸びた枝が次々と水滴の砲台を相殺していく。


244 : 明日之方舟(ArkNights)-苦難揺籃- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:49:55 rMuosQ4.0
「……付与(プラス)・爆塵星船(スターゲイザー)」

『付与』するように言葉を紡げば、黒い枝を放出点として更に小さな黒い球体がばら撒かれる。
ばら撒かれた球体が地面に接触した瞬間に爆発。連鎖的に爆発が加速し、エリア一帯を文字通りさらなる火の海にせんと拡散。

「きゃあああああ! 何なのコレ!? 無茶苦茶よ!!」
「言いたいことはわかりますが、最初から私達も巻き込むと宣言された以上、安全な場所に避難するしかありません。」
「安全な場所っつってもこの規模の攻撃してくるやつをどうやって凌げっつーんだ!?」
「あそこに建物があります、完全な安全地帯はもう不可能でしょうが、せめて攻撃を凌ぐぐらいには役に立つでしょう!!」

既に焼け野原を超えた何かに変貌、火炎地獄へと変わりつつある戦場を走り回るカタリナたち。
岩永の提案でせめて凌げる場所ということで、エリア近くに存在する複合温泉施設、宮比温泉物語へ向かう。しかし―――。

「―――あっ。」
「岩永ッ――!?」

爆発の余波の一つが、岩永琴子の義足を破壊したのだ。
突然のアクシデントに対応できず地面に倒れ込む岩永の体をリュージが受け止める。
だがその一瞬の時間が命取り、既に黒球の爆弾は周囲の地面に触れており……。

「伏せてぇ!!」

カタリナが叫び、二人を庇う形で立ち塞がるも、黒い球体は白色の閃光を放ち、三人は一瞬にして赤黄色の衝撃に飲み込まれる。

「カタリナ様ぁ!!! ……お前、よくもぉぉぉぉぉっっ!!!!!!」

その惨状を目の当たりにし、メアリは激昂。冷静さを失い再び魔力を用い先程の巨大な水龍を召喚。今度は一体ではなく三体も。
メアリの怒りの感情に共鳴するかのように咆哮を上げる三体の水龍。その口からは怒りと殺意の具現でもある眩い輝きが魔王に向けて放射された。





「カタリナさんッッ!! みんなっ!!」
「ぼさっとするな間宮あかりっ! まだ死んだとは決まってはいない!」
「っっ!」
「今は冷静になれ。一度でも意識を逸らせば潰されるぞ!」

一方、動揺するあかりを落ち着かせようと冨岡が叫びながら、陸ノ型ねじれ渦を用いながら爆風の隙間をうまい具合にくぐり抜けている。
爆発そのものは防げなくとも、爆風を回避のブースター代わりとして利用することが出来る、今の冨岡義勇が行っている状態がそれだ。

「……あかりさん、私達もカタリナさんも生きてます! なので今は目の前の事に集中してください!」
「わ、わかりましたっ!」

そして幸運にも岩永琴子の言葉があかりに届き、すぐさま冷静を取り戻す。今はその言葉を信じて戦場へと姿を翻すのであった。

「……ええ、生きてはいます、ね……。」
「……よ、よかった。みんな、無事で………。」

岩永琴子の言葉は嘘ではなかった。
岩永琴子は義足を破壊されたものの無事。リュージは元の装備のこともあり比較的軽症で済んだ。
ただ、二人が無事だったのはそれだけが理由ではないのだ。
その代償に、大怪我を負ったのはカタリナ・クラエスだ。背中は見るも無惨に焼け爛れている。むしろ、それだけで済んでいるのが奇跡と言ってもいいほどだ。

「おいカタリナ、まじで大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫。大丈夫だと、思う。だって、やっと建物の近くに、ううぅ……。」
「……おいっ!」

目的地に近づいた安堵か、カタリナが崩れ落ちる。
明らかな大火傷で体力が持っていかれたこともあり、一先ずは彼女を優先して建物の中に隠れさせる。

「……とりあえずこっちの中に入ってた上やくそうとやらを渡しておいた、火傷は酷かったが、逆を言えばそれだけだ、あれでなんとかなれば、良い・・・・・・あ?」
「………リュージさん?」

建物の中に隠れさせた直前、リュージが残っていた支給品である上やくそうの数束をカタリナに渡しておいた。火傷は酷いが本当にそれだけだったのもあって、応急的な手当にはなると思っていた。その直後であった。

「……まずいっ!」

リュージと琴子に、複数の黒い球体が高速で迫っていた。


245 : 明日之方舟(ArkNights)-苦難揺籃- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:50:12 rMuosQ4.0



シグレの剣戟が、冨岡義勇の流れるような剣技が、琵琶坂永至の炎鞭が、間宮あかりの正確無比な射撃が。
そして怒り狂うメアリ・ハントが召喚せし巨大水龍の群れによる破戒の光線が。
その全てを魔王はいなし、払い、捌き、振り払う。まるで有象無象の虫を煩わしく思うかのように。
魔王は苦にも思っていない、ただの有象無象、ただの湧き出す蛆の如き、余りにもどうでもいい存在である。魔王にとって、奮闘を続ける彼ら彼女らに対しての認識など、本当にその程度のもの。
多少興味を示した、新たなる覚醒者へ至ったメアリ・ハントですら、少し厄介程度としか思っていない。

「死ね! 死ね! 死ねぇぇぇっ! よくも、よくもカタリナ様をぉぉぉっ!!!」
「せっかくの覚醒(めざ)めたというのに、その程度では哀れでしか無いわね。それじゃあ私の命にまでその牙は届かない。」

洪水を彷彿とさせる轟たる水竜のうねり、それが地面に触れるだけで焦げた大地を炎もろともえぐり取る。
それでも仲間に対して直撃させず魔王のみを狙えているのは、少なからず彼女の冷静さは失われていない証左である。
蠢く龍の道程がそのまま敵の攻撃を阻害する遮蔽物としても機能しており、それが魔王の直接的な攻撃を防いでいる。
『暴蝕』と『爆塵星船』が機能しているとは言え、あの何度も湧き出る水竜を止めるには術者本人を叩くしか無い。

(……けれど、この人数差で術者だけを狙う、と言うのは些か面倒ね)
「よそ見してる場合かよ魔王サマよぉっ!!」

背後を突く形の琵琶坂の奇襲をも軽々と黒い障壁を貼ることで防御。障壁を破裂させて琵琶坂を大きく吹き飛ばそうとするも、それに対応してか爆風を利用しいい塩梅の距離に飛んで着地。

「逃がさないっ!!」
「割殺!」

入れ替わる形で水竜の一体が魔王に向けて大口を開き噛み砕こうと舞い降りる。少しタイミングがずれる形でシグレが背後から飛び上がり大太刀を叩けつけようとする。

『――小賢しい。』

周囲に黒いオーラを展開し二人の攻撃を拒み、吹き飛ばす。
吹き飛ばしたと判断したタイミングで水竜に向けて黒いエネルギー弾を射出。直撃した水竜は黒い塵と代わり消失するも、すぐに空気中の水分が水滴へと変化し集合、水竜は再び蘇る。
水竜復活のラグを隙間を縫い、シグレが態勢を立て直すよりも前にメアリへと急接近。

「水の呼吸・漆ノ型――雫波紋突き・曲!」

そのまま業魔腕で切り裂こうとしたタイミングで冨岡の突き下ろしが相殺。相殺時の衝撃で両者とも弾き飛ばされる。

『余計な真似を』

背後に後ずさる動作のまま、漆黒の魔槍を展開、超高速で射出。
義勇が態勢を整える前に仕留めるつもりで放った魔槍は、横から伸びた炎の鞭によって全弾切り裂かれる。

「……助かった。」
「そんな無愛想な表情で言われても嬉しくもないと思うけどね。そんな顔だから友達出来ないとかよく言われるんじゃない?」
「俺は嫌われていない」
「……そういうところだと俺は思うぞ」

助けに入った琵琶坂だが、お礼を言ってるにしては全くもってそう思えない冨岡の表情に思わず突っ込むも、返ってきた以外な返答にまたしてもツッコミ。

『アンタが嫌われてるかどうかはどうでもいい』

魔王が無表情で呟き、メアリに向けて業魔腕を砲口として発射準備。
水竜や炎鞭等の妨害は『暴蝕』及び『爆塵星船』の支援でカバー。
背後に近づいたシグレは翼を大きくはためかせ暴風を発生させることで妨害。

『まずは水竜の術者を仕留める、邪魔はさせない。災禍顕現(ディザスティ)・邪竜咆哮(ダインスレイフ)――』
「―――残念だけど、君は重要なことを忘れているよ。」
『……何?』

余裕に、淡々と呟く魔王の言葉を、ただ笑みを浮かべて否定する琵琶坂。
メアリがいる方向から、『暴蝕』の黒枝と『爆塵星船』の爆発を掻い潜り此方に向かう少女が一人。
少女――間宮あかりが閃光の如く魔王と交差し、その直後に砲口の先端がひび割れ砕けたのだ。


246 : 明日之方舟(ArkNights)-苦難揺籃- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:50:30 rMuosQ4.0
「……!」 

魔王はこの戦場にて初めて瞠目する。かつ、一瞬の光景をその観察眼は見逃しはしていなかった。
琵琶坂の発言で間宮あかりが此方に突進するのを確認した一瞬の隙を突いて、『邪竜咆哮』の砲口に向けて炎鞭を1〜2発入れていた事に。

「窮鼠猫を噛むと言うだろう、いくら何でもここまで多人数を相手にしているのなら、見落としは避けられないわけだ。」
「……まさか、出し抜かれるなんて。」

忌々しく吐き捨てる。一番の小物と一番弱いと思っていた二人に一矢報いられた事実を受けれながらも。
それと先の間宮あかりの技。そういえば鷹捲は毒ではないと言っていたが、先の技がもしやそれであるのだろうか? 砕けた砲口の通常形態の業魔腕へと一旦戻し、改めて周囲を見渡す。

「……どうやら、烏合の衆だと軽く見ていたのは改めなければならないわね。」

だが、これで大体の事は把握できた。覚醒者は推定含め二人。他に危険視すべきはあの剣士。
冨岡義勇は脅威ではない、間宮あかりは先の技のことも含め油断はならない。
……そして、仕留めたと思ったはずの三名のうち二名は未だ生存していると来た。
未だ発展の余地のある異能のさらなる試しも兼ねていたが、少なくとも、遊んでいては足元を救われかねない。

「―――だから、『少し本気でやらしてもらうわね』」
「……ッ!!」


故に、魔王の児戯はこれにて御仕舞。
右手から黒い球体を複数生成―――野球ボールほどの大きさを数十個揃えた直後、拡散させる。
だが、動作が丸わかりな攻撃はたやすく避けられる。

「……なんだぁ、ただの目眩ましか?」
「そんな悪足掻きが今更俺たちに当たるものか。」
「ええ、そうね。でも、あの二人にはそうでは無いみたいよ……元からそういう狙いだし。」
「なん、だと?」

多少は余裕を見せる剣士二人だが、魔王がそう告げた途端片方の、冨岡の表情は一変。
振り向いた時には、目視できる部分にいた岩永とリュージに向けて加速している。

「……リュージさんっ! 岩永さんっ! カタリナさんっっっ!!!」
「……まずい、カタリナ様っ……!」

そして、最初から理解させるために放った一撃に、魔王の目論見通り反応したのは間宮あかりとメアリ。
あかりは超高速でリュージと岩永の元に移動し、メアリは建物をガードするかのように水竜を移動させて壁とすることで黒球を防ぐ。

「……あかり、岩永は義足ぶっ壊されて移動できねぇ!」
「わかりましたっ!」

黒球自体は単体ならばリュージでも避けられる、だがそれが複数かつ義足破損で移動困難な岩永がいるとなれば話は別。さらに建物内にいるカタリナにまで被害が及ぶとなれば話は別。
案の定、メアリはカタリナを守るために水竜を障壁代わりに使うしかなく、間宮あかりも二人を助けるために移動せざる得なかった。――予定通り、黒球は回避され、防がれた。

「――これで余裕ができた。」
「……っ!」
「させるわけには行かないなっ!!」

業魔腕の掌を地面に押し付ける。冨岡が剣を振るい、回避地点を予測した琵琶坂の炎鞭が魔王に迫るが、もう何もかも遅い。

「――災禍顕現(ディザスティ)・毒蛇暴食(ヨルムンガルド)」

地面が黒く光ったと思えば、掌が触れた部分を中心にひび割れが発生。魔王を空中へ押し出すように黒い蛇が出現。
黒く長い躯体が、赤い眼光を輝かせ、残る2体の水竜に食らいつく。喰らいつかれた水竜は悲鳴の咆哮を上げるも、同時に黒蛇に同じく食らいつき、そのまま対消滅する形で爆散する。
だが、すでに魔王は翼を羽ばたかせ天空へ。


247 : 明日之方舟(ArkNights)-苦難揺籃- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:50:49 rMuosQ4.0

『―――遊びは終わりだ』

エコーの掛かった魔王の声が、戦場に響き渡る。
手を振り上げた動作の後、皆は異常に気づく。

「……なんだ、こりゃ……。」
「太陽が、黒いなにかに、隠れてる……?」
「……いや、太陽の輝きを、捻じ曲げて……!?」

全ては手遅れ、全ては無意味。太陽の光は黒き緞帳に覆い隠された。

「……おいおい、マジかよ……。」

シグレですら、驚愕の表情を隠すことは出来ない。
眼前で起きている所業は、紛れもなく魔王がたった一人で引き起こしたことなのだから。
魔王以外の皆がただ唖然とするしかない、太陽の輝きが捻じ曲げられるという人智を超えた光景を。

鼓動が打ち鳴らされる、悲鳴の如き反響が響き渡る。
輝きを捻じ曲げ、黒き孔から降り注ぐ銀の凶器が垣間見える。
そして――――。








『――戴冠災器(カラミティレガリア)・日輪天墜(パラダイスロスト)』









魔王が告げるは、絶望への宣告。
銀の輝きを伴って、破滅の光柱が、戦場に降り注ぐ。
それは、まさに降り注ぐ神の裁きの如く。銀に煌めく流星群のようで。
齎すのは、魔王に歯向かう全ての敵対者の全滅。
――魔王に歯向かう一切よ、恩赦も慈悲も与えない、全て滅びて灰と化せ。





「……くううあああああああああああああああっっっ!!!!」

メアリ・ハントは自身と、カタリナ・クラエスのいる施設守るために水の防壁を最大展開。
だがそれでも銀の柱が直撃するために障壁にヒビが入り、灰色に染まり。

「きゃあああああああああああああっっっっ!!!!」

貫通した閃光が、メアリの防御すら無視し彼女を焼き尽くす。
それでもカタリナだけは護り通したいという意思が、施設への防壁を紙一重で保っていたのは、当に奇跡ではあった。



「メアリ、さんっ!!」
「人の心配なんてしてる場合なんかじゃねぇぞ、ここにいたら俺たち纏めてぜんめ――」
「どうやら、逃げる場所すらなさそうです。」

メアリの心配をするあかり、絶望的な状況に余裕なんぞすでに消失しているリュージを他所に、二人に運ばれる形の岩永は冷静にこの状況を理解して――

「あっ」

直撃こそしなかったものの、すぐそばの地面に降臨した光柱の衝撃に、三人はバラバラに吹き飛ばされた。



「がああああああああああああっっっっ!!!」
「ふざけんじゃねぇぞこんな化け物勝てるわけがねぇ!!」

すでに光柱の直撃を喰らい焼き尽くされる苦しみの叫びを上げる冨岡を他所に、琵琶坂は奇跡的にこの攻撃を掻い潜っていた。
光柱だけではない、黒い枝や爆発すらも辛うじて避けながら逃げ回っている。
勿論代償が無いわけではない。既に痣は浮き上がっており、それを用いて捌いて躱し、こうして走り回っているのだから。

「糞がっ、糞がっ、糞がぁぁぁぁぁっっっ!!!」

絶望の坩堝の中、何とか被害を逃れようとただただ琵琶坂は施設へと足を進める他なかった。


248 : 明日之方舟(ArkNights)-苦難揺籃- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:51:08 rMuosQ4.0
□□□□□□□□


数分後、銀の光柱の流星雨は止んだ。
黒い大地はまるで大災害に見舞われたかのように地面が大きく抉られ、人工物のような複雑怪奇なオブジェクトが大量に屹立しているという常軌を逸した光景が広がっていた。
人が倒れている、岩永琴子とリュージ。黒い煤が付いている程度、そして気を失っている。
元から敵としてすら認識しておらず、魔王は無視し、優先すべき対象を見つける。

「……ぁ……。」

冨岡義勇は体の大半を焼かれてなお、刀を手に立っていた。いや、立っていた『だけ』だ。
もはやまともに戦えるような状態ではない。いや、そもそもまともに意識があるのかどうかすらわからない状態で。

「――まず、一人目。」

冨岡義勇の首は意図もたやすく魔王の業魔腕に食いちぎられ、赤い噴水を吹き出す死体に早変わりした。
次に魔王が視線を向けたのは、辛うじて立ち上がっていたメアリ・ハント。

「……なんと、か、無、事。だった、の……。」

血が流れる右肩を抑え、顔からも血を流して、それでもなおカタリナを守ろうと奮起しようとしている。

「カタ、リナ、さ、ま…………ぁ……?」

見下ろすように、魔王がメアリの前に立っている。

「ま、ず……い……!」

力を込めて、掌から水の魔力弾を放つも、魔王の手によって弾き飛ばされてしまう。

「……あ、ぁ。」
「これで、二人目……ッ?!」

メアリに向けて業魔腕を振り下ろそうとした瞬間、魔王が突然頭を押さえる。


『邪魔、をする、な! わたしは、ベルベット、を、捨てた!」

苦しむように言葉を振り絞り息を吐き出す魔王。何故かは分からないがチャンスだと、メアリは足を引きずりながらも逃げる。逃げるしかなかった。
今のメアリの中には、逃げる事と、カタリナを守ることしか頭になかった。それ以外どうでも良かった。

「逃げないと、逃げてカタリナ様をまもら、ない、と……ガハッ!」

吐血。防壁ですら防ぎきれなかったダメージが、彼女の歩みを妨害する。
その背後で、未だ苦しむ魔王が、業魔腕を砲口へと変化させ、此方に向けている。

『おま え は、もう 要らない。消えて、しまえ、消えろシアリーズ!!!!!!!!!」

黒いエネルギーではない、炎のような赤い魔力球が膨張しながら展開される。
もはや、メアリにそれを避ける程の余裕は、残っていない。

「ダメェぇぇぇぇぇっっっ!!!」

メアリを庇ったのは、間宮あかり。
『梟座』の構えで、赤い魔力球を弾き返そうとして―――。

「あなたは、確か、カタリナ様の……ああっ!!!!」
「やああああああああああああああぁぁぁああああああああっっっ!!!!」

メアリが話しかけた頃には、その技すら無意味と言わんばかりに魔力球があかりに直撃し、その体を施設へと叩きつけるかのようにあかりの体を吹き飛ばしていたのだから。

「………あかりさんっ!!」

思わず、メアリは叫んだ。あの技がなんなのかはわからない、だがそれでも間違いなく致命傷だと。

「……今度こそ、改めて二人目、かしら?」

今度こそ、メアリの命を喰らわんと、苦しみの晴れた魔王が再びメアリを見下ろしていた。


249 : 明日之方舟(ArkNights)-苦難揺籃- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:51:30 rMuosQ4.0
□□□□□□□□


「……え?」

宮比温泉物語、その大広間の中。
上やくそうの効能で、何とか痛みを抑えたカタリナ・クラエスはそれを目撃してしまった。
隠れた後、リュージたちが未だ来ない。外で轟音が鳴り響いた、まるで天変地異の如き何かが外で起きているというのに、カタリナは何も出来なかった。
怪我をしたから、等という状態が言い訳になる、なんてカタリナ自身は思わなかった。
今でも自分にできることを何でもいいからしたかった。

音が鳴り止んだ。今までの厄災の如き鳴動が嘘のように。少しの静寂の後、動けるようになったカタリナは立ち上がり、外へ出ようとして。
大きな音が壁を突き破って、何かが何かを拉げさせ押し潰すような小さな音と、何かが叩き付けられる大きな音と舞い散る粉塵に巻き込まれて。



晴れた砂煙の向こう、カタリナ・クラエスは目撃してしまった。


脇腹を大きく焼き抉られ。

誰かの死体を押しつぶし。

その臓物の血と千切れた金の細かい毛髪を浴びるように仰向けに倒れ。

その瞳から輝きが失われた、―――間宮あかりの姿を。


「あかり、ちゃん?」


呟いて、近づいて、体を揺らして。流れて止まらない血を目の当たりにして。



「いや……いやああああああああああああああああああああああああっっっっっっっ!!!!!!!」


ただ、カタリナの悲鳴が、施設の中に響き渡った。


250 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:55:45 rMuosQ4.0
□□□□□□□□

「……なに!?」

魔王が、異常に気づいた。
『暴蝕』と『爆塵星船』を機能させる巨大黒球が、真っ二つに切断された音を聞いた。

「……えっ?」

メアリ・ハントも、それに気づき、切り裂かれた黒球の方に立っている男の姿を見た。
小さな火傷の痕は残れど、それでも大胆不敵に笑い、豪快に剣を持ち上げ、魔王へ鋒を向ける大男の姿を。


「……やるじゃねぇか! てめぇは俺の人生の中で一番の大獲物だぜ、魔王ベルセリア!!!」
「―――!!」

特等退魔士、シグレ・ランゲツ。この程度の厄災で倒れるはずがない。
ただ眼前の魔王をたたっ切らんが為に、この大地に、此処に在り。


251 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/22(火) 22:55:55 rMuosQ4.0
投下終了です


252 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:02:30 /7M.wpqE0
投下します


253 : 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:04:39 /7M.wpqE0
遠方で神々の戦いが繰り広げられる中、それは突如起きた。

「隼人!それ、それ!」

あわあわと周囲を飛び回るアリアに多少苛立つも、隼人はアリアの指摘により気が付く。
足元から己の身体にかけて淡い紫色のオーラが立ち昇っていた。

「こいつは...?」
「その感覚を逃がさないで!それはあんたのココロの殻だよ。それを制御してあたしに全部委ねれば、あんたのカタルシス・エフェクトが生まれるんだ!」

カタルシス・エフェクト。
それは怒りや苛立ちなどの暴走する感情から発生する想いの結晶。

この会場においては岩永琴子のように感情を暴走させられない人間やリュージのように自前の異能を持っている者が傍にいたため、発現しなかった。
神隼人はゲッターに携わる人間であれど、無能力の人間。
彼の感情は激しい苛立ちと怒り。
ゲッター線の解明を邪魔する者への、己の運命を勝手に決めようとする神々への、そんな奴らの戦いを見ていることしかできない現状への怒り。

その不満が爆発し、心の殻を破りかけるまでに至ったのだ。

「そうか、こいつが...」

隼人は湧きあがってくる感情を己の中で理解するのと同時に、思考が澄み渡っていく。
喉元過ぎれば熱さを忘れる、という言葉もある通り、振り切れた激情はかえって感情を落ち着かせることもある。

(...妙だ)


災厄にしか見えない光景も、思考が落ち着いたからこそ見える視点もある。
ウィツアルネミテアが破壊神に目に見えて押され始めたのは、胸の球体に眠るクオンが傷つけられてからだ。
それはクオンという存在自体がウィツアルネミテアの弱点であることに他ならない。
ではなぜ。
なぜ、そもそもの弱点であるクオンを取り込んでいるのか。

(...そうだ。奴だけではない。シドーを食ったあいつもだ)

シドーが自害した後、破壊神はわざわざシドーの肉体を喰らいつくした。
出てきた時の衝撃に気を取られて気が付かなかったが、どう見ても自立している以上はわざわざ肉体を取り込む必要はないはずだ。
クオンもシドーも。
両者から産み出た神が、元の肉体を取り込んでいるのはただの偶然か?

(考えろ。奴らは、元の肉体になにを求めていた?)

クオンとシドーの共通点。
肉体の強さ。違う。そんなものは、あの図体になれば大した意味を為さない―――そもそもシドーは引き裂かれ食われている。
性別。年齢。関係ない。
呼ばれた世界。違う。
奴らに共通しているのはなんだ。もっと細かく探せ。

髪の色。目の色。支給品。
どれも違うとすれば―――


『俺の知っている奴にはあの程度の爆発で死ぬとは思えん奴がいる。そいつすら殺せるというのなら、まず間違いなく奴にも通用するだろう』

「...そういうことか」

思い出したのは、最初にビルドに依頼を出したあの時の自分の言葉だった。


254 : 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:06:49 /7M.wpqE0

「こんな状況でどうにかなるかはわからないけど...とにかく、アタシが調律してあげるから!いくよ、Go...」
「待てアリア。必要ない」
「って、えぇ?」

カタルシス・エフェクトを発現させようとしたアリアを制し、隼人は踵を返す。
その向かう先は、神々の戦いを睨みつけるように見つめているビルド。

「ビルド。俺から立ち昇っている光が見えるか」

隼人の問いかけにコクリ、と頷きかえすビルド。

「よし。あのカビのやつにやられた時、俺や冨岡にやった技があるだろう。あれをやれ」

その言葉にビルドは頷き、ハンマーを高々と振り上げる。

「え、ちょ、なにしてんのビルド!?」
「俺と冨岡がカビを生やされた時、あいつはそのカビをハンマーでブッ叩き『素材』として回収した。なら、俺から湧き出す心の形とやらも同じような理屈で回収できるだろう」
「いやでも、こんなの振りおろされたら絶対危ないって!ビルド、もうちょっとお手柔らかに!」」
「黙って見ていろ。ビルド、遠慮はいらん。あの時と同じようにやれ」

笑みさえ浮かべる隼人に、ビルドは頷き、期待に応えて全力でハンマーを振り下ろす。

ゴッ

隼人の頭部に激痛が走り、流血を伴いたたらを踏む。

その足元には確かに転がっていた。

紫色の螺旋状の欠片が。

ビルドはそのカケラを手に取り、笑顔で空に掲げた。

『New! ココロのかたち[そざい] ぼうそうするココロのかけら』

「えっ、ちょ、ええ!?なにソレ!?そんなことできるのあんた!?あたしの立場ないじゃんコレ!?」

驚愕するアリアに、ビルドはほんの少し胸を張り誇らしげに鼻を鳴らす。

カビの時と同じく抱いた疲労と出血に頭を押さえながらも隼人は立ち上がりビルドに向き直る。

「...うまくいったようだな。そいつをアリアが調律すると俺にカタルシス・エフェクトとやらができるらしい。ビルド、こうして素材にできたならお前でもなにか作れるんじゃないか」

隼人からの『依頼』に、ビルドは腕を組み考え込む。
手を加えることで形を変えるココロのかけら。
これを素材になにかを作るとすれば...

💡!

アイディアを閃いたビルドは、共に神々に吹き飛ばされた瓦礫とココロのかけらをハンマーで砕き、手袋でこね、ノミややすりで整える。
その工程を幾度も繰り返すと、やがてソレは形を成していき―――

『New! まぼろしのさぎょうだい[とくしゅな空間でしかつかえない作業台]』


255 : 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:07:53 /7M.wpqE0
作り出した作業台に、クオンから受け取っていた一枚の薬用の葉っぱを乗せ、手でこねると『やくそう』が出来上がる。
それを隼人に食べさせると、倦怠感はいくらか抜け、出血も収まった。

「作業台、か...なるほど、素材さえあればソイツからいくらでも生み出せるってことか」
「すごいね...これがビルダーってやつなんだ...でも、よかったの隼人。せっかくカタルシスエフェクト使そうだったのに」
「心配はいらん。もうコツは掴んだ」

「へ?」とアリアが声を漏らすのも束の間、隼人は一度深く息を吸い、気合い一徹吐き出すと、胸元からドス黒く太い針が突き出しその左腕に巨大なドリルが現れた。

「なるほど。こいつが俺のこころの形か」
「えええええぇぇぇぇ!?」

いともたやすくカタルシス・エフェクトを発動させた隼人にアリアは素っ頓狂な悲鳴をあげる。

「嘘でしょあんた!?なんでそんなあっさり出せてるの!?」
「メビウスもお前たちバーチャドールも根本は人間の手で作り出されたプログラムだろう。仕組みが解れば猿真似くらいはなんてことはない」

隼人の言葉にアリアはあんぐりと開口する他ない。
確かに、今までもあっさりとカタルシス・エフェクトを出せた人間はいた。
柏葉琴乃は理屈を聞けば「なんか出来ると思った」という理由になっていない理由でこころの殻を自覚し発動のキッカケを作ってしまったし、琵琶坂に至っては感情さえ昂ればあとはアリアの手を借りることもなく自分の手でカタルシス・エフェクトを発現させてしまった。
だが、この神隼人の早さは尋常ではない。
琴乃のように理屈で理解しつつ、琵琶坂のように己の手でこころの形を成型してしまった。
前者二人のようにメビウスに浸かっていたわけでもないのにだ。
アリアは知らない。
神隼人という男がまだ三十歳にも満たない若さで、ゲッター線研究の権威、早乙女博士の実質的な右腕を務めているほどの天才的頭脳を有していることを。
狂気と理性の体現者とも言うべきその人間性を。
そんな男にメカニズムを示せば、琴乃たちに遅れをとる筈もないことを想像だに出来るはずもなかった。

だが。
依然、状況は絶望的である。
隼人が未成熟なカタルシス・エフェクトを習得し、ビルドがものづくりの幅を広げたところで神に敵うはずもない。

光明はある。針の穴を通すようなか細きモノだが。
しかしそれを通すには二人では足りない。
それは二人も充分に理解している。

「ビルド。動ける奴らを集めるぞ。ロクに連携もとれないだろうが、居ないよりはマシだ」
「......」
「どうした?」

隼人の言葉に、ビルドは腕を組み数秒考えこむと、作業台に己の支給品名簿を乗せいじくりまわす。
しばし手間をかけたソレをビルドは空に掲げ隼人に見せつけた。


256 : 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:10:11 /7M.wpqE0
『New!状態表めいぼ[せいかつ家具]を手に入れた![とくしゅなくうかんでしかつかえない住人めいぼ]』

―――――――――――――――――――――
|なまえ:ビルド          |  
|せいべつ:おとこ          |
|しょくぎょう:ビルダー |  
|とくぎ:ものづくり(自在に物を作れるよ!)|
|状態:疲労、怪我 |
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――
|なまえ:はやと     |  
|せいべつ:おとこ |
|しょくぎょう:ゲッターパイロット |
|とくぎ:研究と探求、カタルシス・エフェクト |
|状態:疲労、怪我 |
―――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――
|なまえ:マロロ   |  
|せいべつ:おとこ |
|しょくぎょう:采配師 |
|とくぎ:作戦の立案、炎の術 |
|状態:疲労、怪我 |
―――――――――――――

―――――――――――――――――――――――
|なまえ:さくや    |  
|せいべつ:おんな |
|しょくぎょう:メイド長 |
|とくぎ:時間停止(時間を少しだけ止められるよ!)|
|状態:疲労、怪我 |
――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――
|なまえ:べんけい    |  
|せいべつ:おとこ |
|しょくぎょう:ゲッターパイロット|
| とくぎ:力持ち、頑丈 |
|状態:疲労、怪我 |
―――――――――――――――――

――――――――――
|なまえ:くみこ |  
|せいべつ:おんな |
|しょくぎょう:学生 |
|とくぎ:演奏 |
|状態:疲労、怪我 |
――――――――――

―――――――――――――
|なまえ:ジオルド   |  
|せいべつ:おとこ |
|しょくぎょう:王子   |
|とくぎ:炎の魔法     |
|状態:疲労、怪我    |
―――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――――
|なまえ:さなえ                  |  
|せいべつ:おんな                  |
|しょくぎょう:風祝                   |
|とくぎ:奇跡を起こす程度の力(色んな奇跡を起こせるよ!) |
|状態:疲労、怪我                    |
―――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
|なまえ:しの    |  
|せいべつ:おんな    |
|しょくぎょう:武偵高の学生 |
|とくぎ:剣術         |
|状態:疲労、怪我、重傷、のろい  |
――――――――――――――――――
―――――――――――――
|なまえ:みぞれ |  
|せいべつ:おんな |
|しょくぎょう:学生 |
|とくぎ:演奏 |
|状態:疲労、怪我、ひんし|
―――――――――――――
―――――――――――――
|なまえ:クオン |  
|せいべつ:おんな |
|しょくぎょう:薬師 |
|とくぎ:薬草の調合 |
|状態:???      |
―――――――――――――

―――――――――――――
|なまえ:シドー |  
|せいべつ:おとこ |
|しょくぎょう:なぞの少年 |
|とくぎ:破壊 |
|状態:???       |
―――――――――――――


257 : 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:11:15 /7M.wpqE0

「名簿か...それも、お前の知りたい情報も載っているようだな。ここでしかつかないようだが」

隼人とビルドは名簿に一通り目を通しつつ、作業台を担ぎながら傍観している面々のもとへと向かう。

「お前たち、なにをボサッとしている」
「隼人...けど、あんなのどうやって...って、なんだそりゃ」
「それはこれから説明してやる」

隼人は作業台を6人の中心に置き、己へと注目を集める。

「いいかお前たち。俺たちはこんなところで死ぬつもりは毛頭ない。死にたくねえなら腹をくくって俺たちに手を貸せ」
「なにをするつもりですか」
「奴らを倒すに決まっている」

隼人の言葉に、皆の目の色は変わらない。
当然だ。根拠もなにも示されなければただのやぶれかぶれの玉砕にしか思えないからだ。
その反応は解っていた、と言わんばかりに隼人は口角を釣り上げ、デイバックから首輪を取り出す。

「こいつはどんな生態であれ死に至らしめるって代物だ。だが、会場で起きた程度の爆発で奴らを殺せると思うか?」
「それは無理では...あのサイズ相手ではせいぜい火傷が関の山かと」
「だろうな。だが、こんな殺し合いを開いた主催が奴らの素性を把握していないと思うか?」
「それはそうでおじゃるが...もしや首輪の爆発であの怪物を倒すと?」
「ああそうだ。だが、爆発させるのはこれじゃない。コイツは貴重なサンプルなんでな...狙うのは、奴の腹の中だ」

親指で背後の破壊神の腹部を指し示す隼人に、皆は目を見開く。

「俺は奴がシドーの肉体ごと首輪を喰らったのを見ていた。あれを起爆させられれば奴を殺せるだろう」

隼人が破壊神たちが首輪を取り込んでいることへ見出した見解は、『神たちもまた首輪に縛られた存在である』というものだ。
琴子の考察により、自分たちがメビウスで作られた存在である可能性は示唆されている。
だから、不死と思しき参加者も首輪を爆発させれば死に至る。
理屈で考えるならば、爆発により参加者の情報を壊しデータを削除するといったところだろう。
だが本当は。
首輪は情報を削除するだけのものではなく、『情報を保管しているもの』ではないのか?
参加者固有の情報が詰まった首輪が無ければ、参加者は己が名簿に記載された己であることを保てなくなるとしたら、それは水中で酸素ボンベを取り上げられるのと同意義。
破壊神が破壊神であるのを保つために、ウィツアルネミテアがウィツアルネミテアであるのを保つために。
首輪という自己を保てるものが無ければ、彼らは滅びてしまうからこそ、首輪をああまでして取り込んだのではないか。

(それは恐らく俺たちにも当てはまることだが...今はどうでもいい)

いま、必要なのはこの状況を切り抜けるために必要な情報を共有することだけだ。他の問題に思考を割かせる必要はない。

「腹の中って...どうやってだよ?まさかあいつに食われるのか!?」
「それを今から考えるんだ。ビルド、なにか思いつくか」

隼人の問いかけに、ビルドは記憶をほじくり返す。
今現在の視界にないものを探す時、自分はどうしていたか。
あの鉱山に隠されたブルーメタルやオリハルコンを探す時は...

ハッ、とあの時のことを思い出す。そうだ、あの時は―――

ビルドは「やまびこの笛」を手にし、息を吹き入れ音を奏でた。


258 : 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:12:51 /7M.wpqE0
―――♪ ♪ ♪

やまびこの笛は、シドーの首輪に反応しその山びこに耳を澄ませ、大まかな位置を把握する。
出所はやはり身体の中。
それを確信すると、ビルドは腕を組みながら周りを確認し『ヒント』を探す。
破壊神には生半可な攻撃は通じない。その図体もさることながら、やみの力によるバリアもある。
あれを突破するには、単に突く・ぶつかるよりも―――

💡!

隼人のカタルシス・エフェクトのドリルを見たビルドの脳裏に新たなイメージが浮かび上がる。
その想像した図をビルドは『設計図』として描き、それを地面に記す。

描いたのは、ドリルトロッコ―――それをさらに改良・巨大化させた巨大槌のようなものだ。

「こいつは...装甲車か?まさかここでこれを作るってのかよ?」

弁慶の疑問にビルドは頷き肯首する。

「できるわけねえだろ!ここに車なんて作れる材料なんてねえんだぞ!?」

その言葉は尤もだ。
周りにあるのは、土塊とせいぜい壊れた学校の瓦礫くらいなもの。
こんなものでは図面のモノは完成しないだろう。

「あっ、あの」

と、徐に早苗が手を挙げる。

「私ならその素材、作れるかもしれません」

おずおずと早苗は提案する。
その申し出から、堰を切ったかのように場の空気が傾き始めた。


259 : 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:13:41 /7M.wpqE0



コシュタ・バワーの馬車の中。
とりわけ深手を負っているみぞれと、次いで重傷の志乃は共に安静にさせられていた。
その中で。
志乃は驚愕に目を見開いていた。
その視線の先には、みぞれのか細い指で握られた己の腕。

みぞれの身体は焼け付き片腕も失っている有様だ。
なのに、細い指から伝わる力は。己の腕を握りしめる握力は。
焼けただれた皮膚から覗かせる眼光は、死にかけの者から発されるソレには到底見えなかった。

「はぁ、はぁ...ぁっ」

今にもかすれそうなか細き声でみぞれは志乃に必死に縋りつく。
その必死に訴える様に、志乃は思わず口元に耳を寄せその言葉を聴く。

「わ、たし、を、あ、やつって」
「え?」
「お、ね、がい、た、た、か、わせ、て」
「――――ッ!!」

志乃は息を呑む。
みぞれを操り、戦わせる。
それはつまり、罪歌で彼女を切りつけ、僕にすることで無理やり身体を動かすということで―――

「なにを言ってるんですか!?できるはずがないでしょうそんなこと!貴女、自分の身体のことわかってるんですか!?そんな身体でこれ以上動けば今度こそ死にますよ!?」

それは罪歌憑きとしてではなく、間違いなく佐々木志乃としての言葉だった。
志乃は確かに愛するあかりちゃんに関しては向こう見ずになりがちであり過激な手段を取ることがある。
しかし、それでも武偵を志す者としては人並みかそれ以上に人に気を遣う心もある。
たとえ罪歌が平等に人を愛せ(あやつれ)と囁こうとも、それが死へ向かわせることならば拒絶するのは当然だ。
みぞれもこの頼みが受け入れ難いことは理解している。

「にげ、たく、ないの」

だがそれでも。

『逃げたんですか?』

あの言葉がみぞれを捉えて離さない。

希美と私たちの音楽を奏で続けると誓ったはずなのに、それを守れなかった悔しさを忘れられない。

「にげて、いい、理由を、作りたく、ないの。ても、あしも、うごかないけど、それでも、にげたくない」

もしも負傷を理由にまた逃げてしまえばきっと今よりも辛くなる。死にたくなる。
たとえ生き残っても、もう二度とリズと青い鳥は奏でられない。
いま、動ける理由があるのならそれを逃がしたくない。

最後まで、私たちの曲を裏切りたくない。


260 : 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:17:21 /7M.wpqE0
「おねが、い、志乃、さん...!」
「......!」

みぞれの向けてくる目の、縋りついてくる力の強さに志乃は思わず目を瞑る。

自分は武偵だ。死にゆく足を押すことなんてできない。
きっと、それは―――武偵の鑑とすら言えるアリアは許さないだろう。
あかりですら意地でも止めるはずだ。

けれど。

「―――勝手になさい!」

志乃は人一倍友情に厚い少女だ。
みぞれが訴えかけてくる友情の重さを無視することなど出来ず、武偵としてのルールよりも己の感情に従い、みぞれを罪歌で切りつけた。

「――――ぁ」

己の身体に熱き愛(のろい)が注ぎ込まれていくのがわかる。
不思議な高揚感と異物が流れ込んでくる忌避感が満たしていく。
眼が紅く染まり、意識が朧気に霞んでいく中で、みぞれはほほ笑んだ。

「...ありが、とう」

その言葉に、志乃の胸がドキリと弾んだ。

『いいのかしら佐々木志乃』

声が聞こえた。

忌々しくも愛おしいライバルの声が。

なぜ、どうして。そんな疑問も続く言葉にかき消される。

『彼女は友情に殉じようとしている。あんな有様になってまで、お前に支配されてまで友情を貫こうとしている...それに比べて、お前はなに?』

ズキリと痛む腹部に手を当てる。
これでは充分に動けず足手まといもいいところだろう。

『腹を割かれた。もう力が入らない。そんな程度で、お前はあかりへの愛を諦めるの?それが―――私の友仇(ライバル)なのかしら』

けれど、そんな弱音も宿敵(とも)の言葉でプチリと途切れ。

『答えなさい佐々木志乃!』
「そんなわけ、ないでしょうっ!!」

激昂と共に、志乃はデイバックに腕を突っ込みその中から引きずり出した。
その手に持つのは―――あかりちゃんセット。

「私たちの友情はこんなものじゃない...私たちの日常は、愛しきあの日々はっ!こんなところで終わらないっ!!」

その中からあかりの体操服を取り出し、顔を埋め深呼吸する。

スーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッ
スーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッ
スーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッ
スーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッスーハーッ

鼻孔から注がれる愛しき匂いを存分に堪能する。
こんな状況で馬鹿げていると思われるかもしれない。
気持ち悪いと思われるかもしれない。

―――そんなもの、友情の前ではなんの障害にもなりえない。
これが志乃の力の源だから。
彼女の愛のカタチだから。


「見てなさい高千穂麗...見せつけてあげるわよ化け物ども!私の愛を、私たちの友情(あい)をっ!!」


叫ぶ。叫ぶ。
地獄の中心で、愛する者への愛を口にするたびに身体に力が漲ってくる。


―――ここまできたら、もう誰にも抑えられない!

再び己の『愛』が『あかりちゃん』に塗り替えられていくのを感じ取った罪歌は、もうどうにでもなれと考えるのを止めた。


261 : 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:18:15 /7M.wpqE0


絶望の中での作戦会議は熱を増していた。
采配師であるマロロを中心とし、より効率よくビルドの図面を完成させる手筈は整いつつあった。

ほんとうに微かだが、勝機は見えつつある。

だが。それでも。

(足りないでおじゃる...!)

マロロの作戦を敢行するにはあと二人戦える人間が必要だ。
このまま挑んだところで、ただでさえ少ない勝機ですら見えずあえなく全滅するだけである。

(死なばもろともにはまだ早い...なんとか、なんとかせねば...!)

焦燥するマロロは縋りつくように状態表名簿を凝視する。
なにかないか。
各々の特技を活かし、空いている穴を埋められる策は―――


バタン!


勢いよく開けられる馬車のドアに一同が振り返る。
そこから現れたのは、幽鬼のように覚束ない足取りで身を乗り出すみぞれと、小箱を脇に抱えた志乃。

「みっ、みぞれ先輩!」

今にも倒れそうな様相のみぞれに久美子が慌てて駆け寄る。
だが、彼女の手が触れるその寸前に、みぞれは掌を向け制する。

「だいじょうぶ。母さんがいるから...もう、逃げないから」
「え...?」

ぼそぼそとうわ言のように呟くみぞれに久美子は心臓を締め付けられるような感覚を覚える。
『もう』逃げない。
自分に向けられたその言葉は、あの時、麗奈の生存に戸惑うみぞれに向けてしまったあの言葉に向けられているような気がして―――

「大丈夫ですよ黄前さん。彼女は、己の友情に従っているだけです」

思わず久美子は顔を上げる。
その視界には、己の負傷すらなんのその、と言わんばかりに頬を紅潮させた志乃の姿があった。

「心配をおかけしました。佐々木志乃、鎧塚みぞれ...出撃できます!」

その宣戦を受け、マロロは戸惑いながらもチラと状態表名簿に目を移す。


―――――――――――――――――――――
|なまえ:しの       |  
|せいべつ:おんな       |
|しょくぎょう:武偵高の学生    |
|とくぎ:剣術            |
|状態:疲労、怪我、重傷、あかりちゃん  |
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――
|なまえ:みぞれ     |  
|せいべつ:おんな     |
|しょくぎょう:学生     |
|とくぎ:演奏     |
|状態:疲労、怪我、ひんし、のろい|
―――――――――――――――――

記載されている情報が更新された。
果たしてこれが本当に動ける根拠なのかはわからないが、少なくとも、今こうして彼女たちはその足で立ち、その目は死んでいない。
彼女たちが望むのなら―――もはや異論はないだろう。

「これにて整ったでおじゃる...マロたちの起死回生の一作、気奴にしかと見舞おうぞ!!」


262 : 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:18:51 /7M.wpqE0


永遠とは一つの地獄である。

一時は充足した経験も何度も繰り返されれば疲労となりやがて苦痛にすり替わる。

終わりの見えない終着点は感性を殺し諦め以外の道を塞いでしまう。

かつて歪曲された願いで永劫の命を手に入れた者たちが思考を忘却し、本能でヒトを食らうだけの祟りと化したように。

かつて究極生命体となった男が身動き一つとれぬ石くれになり、考えるのをやめたように。

そう遠くはない未来で、永遠に続く戦争の中で自分はそうするしかないと自我を殺し駒に徹する者たちのように。

だがそれを追い求めている内は幸せなものだ。

命が永遠に続けばやりたいことにいくらでも手を着けられる。

楽しいことが永遠に続けば幸福だと妄想し信じることができる。

そしてそれは人間だけに当てはまるものではない。


『失せよ!!』

振るわれる剛腕が破壊神の身体を吹き飛ばし、浮いた身体に追撃をかけるようにウィツアルネミテアの氣が破壊神の身体へと降り注ぐ。

だが致死に至る寸前に破壊神はベホマを唱え傷を癒す。

次なる攻撃の隙を突き、破壊神が腕を振るえば『虚空の王』の力がウィツアルネミテアの腕を斬り落とす。

破壊神が次なる攻撃を繰り出す瞬間、ウィツアルネミテアはその頭部で頭突き、破壊神が怯んだ隙に腕を再生させる。

破壊と再生が永遠に繰り返される中、徐々に、徐々にだが彼らの心境が変化していた。

ウィツアルネミテアは根源に携わる絶対神である。

一度発現すれば災厄を齎し、しかし一方で願いを求める者たちにとっては救いの神でもあった。

故に彼―――特に、神の力に暴走するクオンを鎮めようと戦う者はあっても彼を憎悪し殺そうとする者はいなかった。

一方で、破壊神は破壊の名を冠する神である。

一部のまものは彼を崇拝するが、多くの者にとっては最悪の災厄にしかすぎない。

故に戦う者はみな、彼を殺す為に戦い、そして実際に斃された。

伝承として崇めうたわれるものと、打ち破られた災厄としていずれは忘れ去られるはかいするもの。

神格のものとしての差異は、敗北の経験の有無。

根源的な敗北を知らぬウィツアルネミテアは永遠に続くこの刻に疲労と焦燥を抱き。

かつて見下していた者たちからの敗北を経た破壊神は永遠に続くこの刻に敵を追い詰めつつあるという高揚感を抱く。

この戦いが終わる時も、そう遠くはない。


263 : 英雄の唄 ー 四章 rebellion ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:19:59 /7M.wpqE0
その一方で。

彼らは来るべき刻を待っていた。

一人は恐怖に身を震わせ。

一人はただ使えるべき主を想い。

一人はただ漠然と眺め。

一人は気合を入れる為、拳を打ちあわせ。

一人は緊張から深呼吸を繰り返し。

一人はただ神々への殺意を滾らせ。

一人はハンカチを嗅ぎ集中力を高め、一人はそんな少女に従うかのように寄り添い。

そして友を想い、睨みつけるように戦いを見守るビルダーに、采配師は声をかけた。

「ビルド殿」

かけられた声にビルダーは顔を向ける。

「マロに立案を一任してくれたこと、感謝するでおじゃる。...この戦、我らの生死はもとより、互いに友を救うという点においてはこれ以上なく重要でおじゃるな。
マロはクオン殿を、ビルド殿はシドー殿を...ひょほほほ、大丈夫でおじゃる。我らはオシュトルのような痴れ者とは違うでおじゃる。必ずや成功させて見せるでおじゃるよ」

マロロの言葉にビルドは頷く。

「さあ、もはや待ったなしではおじゃるが...覚悟は良いでおじゃるな?」

――――
|>はい |
|いいえ|
 ―――


「うむ。では...」

マロロは息を吸い、その瞬間を待つ。

破壊神の腕が振るわれ、ウィツアルネミテアが崩れ落ちたその時、マロロは笏と共に声を張り上げた。

「皆の衆―――突貫せよ!!」



――――――――――――
|  B A T T L E    |  
| スタート   |
| 最悪の災厄をたおせ! |
――――――――――――


264 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/23(水) 01:20:34 /7M.wpqE0
今回はここまでです
続きは近い内に投下します


265 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:05:17 FKQcpuZo0
投下します


266 : 明日の方舟たち(ArkNights)-局部壊死- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:05:36 FKQcpuZo0
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


シグレ・ランゲツという人間を一言で表すなら、ただ強さのみに生きた剣士、と評するのが正しい。
聖寮という組織において余りにも似合わぬ自由奔放さ、その実力はかのアルトリウスに迫る大剣豪。
家のしきたりに準じ、実の母を切ることで当主へとのし上がった。

だが、シグレ・ランゲツは剣士である以前に『人間』であった。
実のところ、実の母親が業魔リュウマジンへと変貌したが、それは何故か放置している。
一度殺した時点でどうでもよかったのか、本当は親殺しには堪えたのか、その真実はわからない。

豪放磊落、シグレ・ランゲツは過ぎ去った過去は気にしない。見据えるのは強者との闘争、そして過去からやって来る因縁を迎え撃つこと。
ロクロウ・ランゲツ、自分を狙う夜叉の業魔。1012戦繰り返し一度も自分に勝ったことのない弟。
だが、彼は自分を斬ると宣った。だからこそ面白い、だからこそ業魔にすらなった彼が、自分を斬るその時を待ち構える。もっとも、勝つのは自分だと大胆不敵に信じているのだが。

そして、本来ならば全ての因縁の決着点となるキララウス火山より、彼はこの殺し合いに巻き込まれた。
彼自身に殺し合いの忌避感は微塵も存在しない、同僚や元同僚、ロクロウの仲間の死が知らされた時も特段感傷にふけることはない。
なぜなら、彼にとってはただ死んだ、その程度でしか無いのだから。どんな強いやつも、死ぬ時は死ぬ、負ける時は負ける。どれだけの硬い意思を抱こうとも、硬いだけでは簡単に砕かれてしまう。
剣も同じように、だ。監獄での邂逅においてロクロウがオリハルコンで出来た最硬の剣を以て自分と相対した。だが、その剣は聖主カノヌシの手により容易くへし折られた。


―――そう、硬けりゃいいってものではない。時には柔軟さも必要なのだ。
憎しみと否定で凝り固まった強さなど、ただ硬いだけの――――。


267 : 明日の方舟たち(ArkNights)-局部壊死- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:06:20 FKQcpuZo0
□□□□□□□□


未だ陽の光は燦然と輝き、災禍に汚染された天変地異後の大地を大いに照らしている。
災禍の魔王は未だ無傷で戦場に立ち、平然と生き残る敵対者に対し警戒を怠らない。
破滅のの流星雨の中を切り抜け、暴蝕の根と爆塵齎す星船を切り捨て、立ち舞台に登るのは特等対魔士、剣士シグレ・ランゲツ。

勿論、無傷というわけではない。所々に火傷の痕が残っているが、死ななければ大したことのない軽症に過ぎない。楽しい、楽しいのだ。シグレ・ランゲツにとって、人生で初めて出会った最高の化生が目の前にいる。
鉄風雷火、暴虐の化身、正しき意味での悪鬼羅刹。己を否定し、魔王であることを定義することで生まれ落ちた――ただそれだけの、力を振るうだけの幼子のような。

「……今まで生きてきて、てめぇみてえな業魔と出会うのは初めてだ。」

今のシグレに特等対魔士という称号は何の価値もない。ただ強き相手を斬るだけの武人。修羅。武士。――ただ一体の益荒男なりて。

「ロクロウもこっちに段々としがみついてやがるが、やっぱてめぇみてぇなご馳走を目の当たりにすりゃ霞んじまうな。」

比喩も謙遜もない、心からの称賛。シグレが対魔士として、剣士として今まで大量の業魔を斬り伏せてきた。中には手応えこそはあれど、満たすまでの相手には恵まれなかった。
だから、嬉しかった。最初に出会った翼を生やす男も強かったが、今のこいつも十分強い、渇きを、戦いという渇望を一瞬で満たしてくれる、そういう化け物が目の前にいるのだ。

「何よ、命乞いなら聞かないわよ?」

魔王に、その口上文句への興味はない。依頼を果たす、己の憎悪を晴らす。衝動を満たす。■■の望みを叶える――何のために?
頭に猥雑する音楽(ノイズ)を振り払う。未だ敵は健在。正しく意味で、ほぼ無傷で立っている敵はあのシグレ・ランゲツただ一人。殺せば後は戦えない塵芥を掃除するだけ。

「………………だがな。」

暫しの沈黙の後、シグレ・ランゲツらしくもなく低い声。
それに込められた意味、殺意を交え、益荒男が感じ取った一つの結論。
圧倒的に強く、ただ一つの輝きを憎悪し、それ以外の全てを捨てようとしている女に対し、ただ哀れみにも似た言葉を一つ、告げる。





「今のてめぇは、それだけか。」
「………どういう意味?」

シグレ・ランゲツの眼は、それを識った。魔王の本質を、ベルベットという存在が、どういう事になっているのかを。

「テメェの強さは、テメェ自身のものですらねぇ。……テメェが一番大事にしなきゃならねぇ矜持ってモンを、借りもんの為に捨てやがったか。」
『これが今の私だ。あのような悍ましい未来など到底認めない、否定して当然の汚物だ。』

言葉が風刃と為りうる程の怒り、魔王の顔に僅かな青筋が立つ。明らかに逆鱗を触れただろうが、シグレは関係ない。


268 : 明日の方舟たち(ArkNights)-局部壊死- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:06:36 FKQcpuZo0
「……それがテメェか。意外と底が浅かったな、"ベルベット"」

ニタリと、湿った笑みを浮かべる。
やっと分かった、理解した。こいつは走狗だ。『女神』とやらに尻尾を振って、自分の意志と宣いながら与えられた力によって偉そうにしているただの犬だ。
自分の願いのためだけに、自我すらも、自分自身すらも差し出した、ただ強いだけの哀れな女だ。

「―――――――――――。」

魔王が、思わず沈黙した、業魔腕よりかつての如く業爪が伸びる。
太陽の輝きに照らされながら、未だ太陽沈まぬ世界の光源に反して赤黒い鈍い輝き。
魔王の怒りに呼応するように、心の臓の鼓動が鳴り響く。
大地が裂け、鳴動し、黒く濁った溶岩のような汚泥が這い出て、燃える。
大小様々な岩のオブジェクトが、まるで最初からそこにあったかのように湧いて生える。
これはまるで、シグレがロクロウを待っていたあの火山のように――――。

「こいつはてめぇの演出か? ずいぶん誂え向きな舞台を考えてくれたじゃねぇか。」

益荒男は笑う。此処一番の大舞台に、このような演出とは。
元々、あの場所で果てるつもりでは、いた。負けた場合、ではあるが。
キララウス火山の再現とも言うべき大地、炎の汚泥を舞台(リング)とし、相対するは剣士と魔王。
観客は、舞台の外で座り込んでいるご令嬢ただ一人。
ここには誰にも立ち入らせない、ここには誰も立ち入れない。

『――死ね。死ね。死ね。その躯体(からだ)諸共、貴様の剣諸共、一切何もかも荼毘に変えてやる。』

憎悪、赫怒、怒髪天。魔王の静かなる怒りは収まらない。
殺意とは、本来感情ですら無いもの。極度の殺意は斯くも静かで冷たいもの。
業爪を構え、いつでも相手の魂を刈り取らんと睨む。

「そうかいそうかい。だったら―――さっさとおっ始めようじゃねぇか。」

対して益荒男は上機嫌。大業物2つを構え、魔王へと向ける。
歓喜、上機嫌。相手は自分よりも遥かに格上、災禍の魔王。
だが、それがどうした? 相手が自分より強いからと怯えるなどとは剣士の恥。

さてお立ち会い。
剣の鬼が挑むは災禍の魔王。黒く燃えし屍山血河の大舞台にて。
彼ら二人の修羅と羅刹、血華咲き乱れる真剣勝負。

巧言も、綺麗事も、雑言も、そんなもの後で理由付けしてやれば良い。
真に望むのならば、その意思の他何もいらない。
勝者は一人、敗者はただ糧として喰われるのみ。

――死合の幕は上げられた、さぁ―――


269 : 明日の方舟たち(ArkNights)-局部壊死- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:06:52 FKQcpuZo0
 ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □








                    いざ尋常に








                      勝負








 □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆ □ ◆


270 : 明日の方舟たち(ArkNights)-局部壊死- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:07:09 FKQcpuZo0


「あかりちゃん、あかりちゃんっ! 起きて、起きてよぉっ!」

揺さぶる。必死に揺さぶる。もしかしたら気を失っているだけと、そんな他愛も無い現実逃避を考えながら。いくら揺らしてもうんともすんともしない少女の身体を揺さぶり続ける。
抜け殻だった。その双眸は灰色に濁って、何も映していない。小さな曇り空だけの小窓が、間宮あかりの時が止まった証左である。

「起きて、起きてってばぁ!」

足掻く、今度は心臓マッサージ。傷はドレスを引きちぎった布片で縛った。出血は既に止まっている。
そもそも心臓マッサージなど学校の授業で軽く触った程度で、素人並に頑張った所で彼女の意識が戻るわけでない。
覆水盆に返らず、取りこぼした水分が戻ることはなく、乾いて解けて電子の海に沈んでゆく。

「………起きて、よ。私の側から、いなくならないでよ………。」

乾いた嘆きだけが、明るくも冷たい世界に木霊する。
この世の地獄から切り離されたちっぽけな静寂に、彼女と物言わぬデータのみが残されている。

「お願い、だから………。」

自分という誘蛾灯に惹かれ寄り付いて、自分を守るために地面に落ちて塵芥へと成り果てる。
自分にそれだけの価値があるのか? 幸せになってほしいと、そう言われる程の資格が自分にはあるのか?
そんなわけがない。そんなわけがないと、そう思わなければ押しつぶされそうで。
カタリナ・クラエスの、その魂は、ごくごくありふれた唯の一般人にすぎない。

「……いなく、ならないで………。」

本来の『カタリナ・クラエス』とは嫌われ者の悪役令嬢である。
転生を自覚した当初はその破滅まっしぐらのエンドを回避するために日々努力してきた。
その結果、マリア・キャンベルではなく自分という存在を中心に回る物語へと変貌してしまった。
その歪みを放置した結末がこれだ。自分という指針を中心に、誰かが命を落としていく。
彼女には、それが、耐えられなかった。

「…………あれ?」

違和感があった。心臓マッサージに集中して、その時は気付かなかった。
彼女の肌に改めて触れて、ふと思う事があった。

「……熱い?」

熱い、正しくは温かい。こたつの中みたいに、間宮あかりの身体そのものが温かいのだ。
人間の死体というのは、死後2〜3時間後経過で冷却されるものである。
勿論、間宮あかりが此処に吹き飛ばされてまだ数十分も経っていないからそれは当てはまらない。だが、間違いなく死亡直後の人間の体温ではない。
しかも、温度はその温かみを保ったまま。

「……どういうこと?」

悲哀も嘆きも、何もかもが吹き飛んで、謎だけが深まった。
熱を帯びている、太陽の微笑みの如き暖かさを感じる。
思わず耳を胸に当てる。――鼓動が聞こえた。ドクン、ドクンと。

"足りない"

「……えっ?」

鼓動と同時に、何かが聞こえた。ノイズがかった、ひどく擦れた声が。
静かに、聞き逃さないように、はっきりと聞こえるように、鼓動と共に聞こえる声に耳を傾ける。

"損傷"


"情報"


"補完"


"満たす"


「……損傷、情報、補完、満たす……。」

紡がれる単語。それ単体では意味をなさない文字の羅列。だが、それに希望を託さず得られなかった。
考える、足りない頭をフル回転させる。辿り着け、その言葉の意味を。
"損傷"は間違いなく抉れている腹の傷そのものだろう。"満たす"事が傷の手当に値する意味であるとして。
"情報"と"補完"とは一体どういう意味なのか、何故に情報という単語を使ったのか。補完という言葉で表されるのはどういう意味なのだろう。

「……情報を、補完。」

補完。足りないところを補い、満たすという意味。


271 : 明日の方舟たち(ArkNights)-局部壊死- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:07:26 FKQcpuZo0
「……もし、かして?」

憶測だが、辿り着いた答えがある。
情報というのが、今の『死んでいるのか生きているのかわからない状態』の間宮あかりだとして。
『情報』に『損傷』と言う名の傷を負っており、それで未だ目覚めないというのなら。
補完が、『別の情報を代入して、満たす』事だというのなら。
つまり、特定のキャラクターに対すしフラグをたてる必要があるADV系のゲームにおいて、その為に必要なアイテムを使わなければならないのと同じだとするのなら。
いや、フラグというアイテムを、間宮あかりという情報に代入し、損傷した情報を補完し、治癒させることが出来るのなら―――。
今の間宮あかりは箱の中の猫だ。誰かが覗き込まない限り、箱の中に入り込まない限り、『情報』が『確定』することはない。
足りない情報を補完することが、間宮あかりを助ける、唯一の手段だというのなら。

「……っ!」

支給品袋を取り出し、中身を探る。基本的なものを除けば支給されるアイテムは3つ。そのうち2つに、『情報の代入』として利用できるものがあるかもしれない。
はっきり言って、これは断片的な単語から導き出した素人なりの結論だ。もしかしたら、間違っているのかもしれない。
それでも、それがどれだけ分の悪い賭けだとしても、カタリナ・クラエスは、かつて平凡だった少女は諦めずに入られるわけがない。

「……!」

手に取ったのは、鮮やかな紅葉色に彩られた扇。扇自体が紅葉の形をしており、遠目で見たなら大きさ以外判別はし辛い代物だ。
情報を代入し補完する。――情報として間宮あかりの存在を補完できるものなら、なんでも良い。
傷口のある場所に、その扇を置いてみる。

「………これで、なんとか……!」

祈るように、願う。置かれた扇にノイズが走り、輪郭はあやふやとなる。
ずれて、ずれて、ずれて―――紅葉色は極彩色へ、極彩色はモノクロへ。そして――消える。

「――――。」

何も、起きなかった。胸に耳を当てれば、未だ鼓動は鳴り響いている。でも、ただそれ。
再び静寂のみが世界を包む。項垂れたようにあかりの顔を見るカタリナもまた動かず。
―――そんな静寂を破る足音が、一つ。この空間に木霊する。

「……カタリナさん?」
「……琵琶坂さん。」

琵琶坂永至の姿。思わず、カタリナは安堵した。
だが、それと同時に、琵琶坂の顔に浮かんでいる痣も気になったわけであるが。
それは置いといて、気になるべき事を、言葉尻を震わせて訪ねる。

「みんなは……?」
「わからない。あいつが光の流星群をこのエリア全体に降らして、俺はこうして無事だが、恐らく他のは。」
「…………」

絶望、ただそれだけだった。もしかしたら生き残っているのは自分たちだけかもしれないという。
他のみんなは、須らく魔王による滅光によって殺されてしまったのかもしれないという。

「……俺はもう逃げるつもりだ。」
「えっ?」
「はっきり言って、あの惨状でを引き起こすよううな化け物相手に勝てるなんて思っちゃいない。俺は先にいかせてもらうけど、もしカタリナさんも逃げるつもりなら一緒に連れて行くさ。」

未だ眠る間宮あかりに目を向けながら、琵琶坂が俯いて呟いた。

「俺が、俺たちだけが今、神様に愛されているようだからな。」

ただ一言、琵琶坂の告げた言葉が一種の真理だった。
自分たちはただ運がよく、神様に愛されてたからこそ生きている。
あれはただの自然災害だ、アレに出会ったのはただの事故だ。
そう納得して、そう結論付けて逃げ回ることこそが今の最善だと、琵琶坂はそう考えたのだ。
あれに抗う、と言う行為祖そのものが無駄、無意味なのだから。


272 : 明日の方舟たち(ArkNights)-局部壊死- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:07:53 FKQcpuZo0
「……それに、彼女の事はだいたいわかった。手を尽くしたんだな。」

一言、付け加えるように。琵琶坂から見て、間宮あかりは死んでいるように見えている。
そして、彼女の埋葬に充てる時間すら、そんな余裕すら無い。
奇跡的にこの建物のみが無事。とことん神に愛されているのかもしれない、と琵琶坂永至は思うのだ。

(……神に、愛されている?)

ガチリ、と歯車が動き始めたような音が、琵琶坂永至のみに聞こえた。
僅かな違和感ではあった。だがそんな事に思考を割いている時間はないと。
すぐに意識を切り替え、改めてカタリナに声を掛ける。

「……さぁ行こう。いつ此処が魔王に壊されるかもわからない。カタリナさん、あかりちゃんの事は残念だけれど……。」

琵琶坂永至に、もうこの状況に付き合っている理由はない。先程の日輪の天墜を、痣の力を全開にして何とか凌ぎきってこの建物に逃げ込んだのだ。
元々間宮あかりは使えなくなったら切り捨てる算段ではある。残る懸念はメアリ・ハントであり、彼女が体よくくたばってくれているのなら良いのだが、それがまだ確定していない。
それに、カタリナ・クラエスはまだ避雷針としての役割て有効活用できる。彼女の人の良さはカモフラージュとして抜群なのだから。

「………。」
「カタリナさん?」

カタリナ・クラエスは黙ったまま。その表情を、琵琶坂は窺い知ることは出来ない。
何故黙ったままなのか、まだ答えに迷っているのか。

「……俺は先に逃げておくから、カタリナさんも早く巻き込まれない内に……」




「――嫌。」

だが、カタリナ・クラエスの答えは、琵琶坂永至にとって予想外の一言であった。

「……は?」

呆けた声が出た。何を言っているんだ彼女は、と。
過酷な戦場に最も近い場所で、何をふざけたことを言っているんだと。

「冗談は止してくれないかなぁ、カタリナさん。こんな戦場で一人残るなんて自殺行為も甚だしいじゃないか?」
「嫌なのは嫌。だってまだみんなが死んだなんて決まったわけじゃない。」
「確かに一理はある、だけどカタリナさんだって見たじゃないか、たった一人で天変地異を引き起こすあの魔王の恐ろしさを。」

魔王の力量は凄まじいものだ。災害が意思を以て稼働していると言わしめるに等しい、災禍の担い手。
それを相手取るなど正しく自殺行為、だったら生存のために全てをかなぐり捨てて生き残ることが正しい選択ではないか。

「……私は、みんなが戦っている時に何も出来なくて、大したことすらまともに出来ない臆病者で。」

だけど、カタリナ・クラエスはそれが許せなかった。今まで破滅を避ける為に、破滅から逃れるために生きて。
その結果、この殺し合いにおける「自分の為に死んでしまう」という皆の破滅の引き金となってしまった。

「だけど、私たちは託されたから。……託されて、生き延びて、ここにいる。あかりちゃんが、そうだったように。」

動かぬ間宮あかりにも目を向けて、かつて野猿という愛称で呼ばれた少女は、高らかに宣言する。

「私は残る。残って、みんなを信じる。――それで、もし何か出来ることがあるのなら、私は私の託されたものを信じて行動する。」

そんな、バッドエンド。認められないと。自分だけ生き延びてしまうなんて言うバカみたいな展開なんて、カタリナ・クラエスは微塵も望んでいない。
だったら足掻く、足掻いて足掻ききって、託されたものを背負ってみんなを信じて生き延びる。
それが、カタリナ・クラエスに出来る、無力なりの戦いなのだから。
託されたのならば、応えるべきなのだから。


273 : 明日の方舟たち(ArkNights)-局部壊死- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:08:12 FKQcpuZo0
「――――馬鹿なのか、お前は?」

――そして初めて、琵琶坂永至がカタリナ・クラエスに対して嫌悪の表情を見せた。
子供の癇癪に巻き込まれた大人のような、面倒くさそうな表情で。

「信じる? あれを見て、皆を信じるだなんて馬鹿の考えだろうが!」

この女はどうしてこんな蛆の湧いた事を考えている? 少しの憤怒が混じった困惑が琵琶坂にあった。
そんな自殺行為じみた事をされては琵琶坂永至としては困る。貴重なスケープゴートを失うのは避けなければならない。
考えが外れた、信用している自分の言葉は素直に信じると、そう思っていた。だが、今に自分の意見は反発されている。

「あの魔王は、その気になればたった一人でこのエリア全体ぶち壊せるんだぞ!! それを相手に逃げないだとか真実だとか、頭の湧いた事言い出しやがって!」
「それでも、私は逃げたくない!」

怒る琵琶坂に対し、カタリナは言い返す。もはや琵琶坂の取り繕った優しいポーカーフェイスは存在しない。それでもカタリナが萎縮しないのは、一概にそれを見たことがあるのだから。

「ふざけるな! あれと戦って辿る末路なんざ潰されて死ぬだけだろ! もうそこの役立たずは死んでいるんだろ! さっさと逃げ―――」

激昂のまま、感情をぶちまける琵琶坂。その時のカタリナの表情なんて気にもせず、呆れの混じった表情で言葉を続ける。続けて――唐突に頬に痛みがほとばしった。

「……あ゛?」

ヒリヒリする頬を手で抑える琵琶坂に、怒りで顔を赤くしながら涙を流すカタリナはただ一言。

「あかりちゃんは役立たずなんかじゃない! 訂正して!!」

ビンタだった。思わず、だった。新しい親友を、役立たず呼ばわりされて、黙ってられるほどカタリナの沸点は高くはなかった。それほどまでに、彼女の覚悟は決まっていたのだから。

「琵琶坂さ―――」
「……たな。」

なおも言葉を続けようとするカタリナだったが、余りにも冷たい琵琶坂永至の呟きのようなものを耳にする。

「………え、あの?」

もしかして、強くビンタしちゃったのかな、と一瞬焦る。間違いなくさっきのは琵琶坂永至の発言が10割悪いのだが、それで強くやっちゃったのなら思わず罪悪感がカタリナの内から漏れ出す。

「もしかして、強くしちゃった? そ、そのゴメ―――」
「よくも俺の顔にビンタなんぞしてくれたなこのクソアマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!」




一瞬の事だった。琵琶坂の鞭が、カタリナの身体を切り裂いたのは。
切り裂かれた胸部から、血が吹き出して。痛みより、意識が歪む感覚が襲って。

「………どう、して?」

何が一体どういうことなのか理解出来ず、カタリナの身体は間宮あかりの近くに倒れようとしている。

「………あ。」

振り向けば、何故か呆気にとられた表情で沈黙する琵琶坂の姿。そして。

「―――あかり、ちゃん。ごめん、ね。」

涙が一筋、間宮あかりの身体に落ちて、カタリナ・クラエスは倒れ伏して。

「……しまったぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

自分のやらかした事に絶叫しながら、琵琶坂永至は逃げようにして建物の外へと走り出していった。


274 : 明日の方舟たち(ArkNights)-局部壊死- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:08:29 FKQcpuZo0


(やっちまった! やっちまったぁぁ!)

思わず、カタリナ・クラエスを殺すつもりで攻撃してしまった。
死んだかどうか確認する余裕すらなかった。せっかくの囮を、自分の手で殺してしまっては意味がない。
感情に振り回されて、最悪の一手をやってしまった。

(もし万が一メアリ・ハントが生き残ってこの事実がバレたら、本当にまずい!!)

自分の行ったことがメアリ・ハントに判明するようなことがあれば、間違いなく自分の立場は急落に落ちる。最悪自分が他の陣営に狙い撃ちにされかねないというのに、完全にやってしまったのだ。

(……だ、だが俺はまだ運がいい!)

だが、不幸中の幸いか。あの魔王の攻撃範囲から、間違いなくあの建物も巻き込まれかねない。
死ぬにしても、生きていたにしても、証拠隠滅レベルの攻撃をしてくれたのなら、「カタリナを殺したのは魔王」という事になる。
それで自分のやらかしはチャラ、恐らくそうなるのだろうと、それを信じて再び走り始めようとするが――。

「が、あっ………!?」

心臓が、締め付けられるような痛みを発して。痛みのせいで倒れ込む。

「く、そ、がぁ………! こんな、所、でぇ……!?」

痣の代償。琵琶坂永至は知らぬことだが、痣の発現自体が寿命の前借りとも言うべき行為である。
しかも先程、戴冠災器・日輪天墜を凌ぐために全力で発現させ、先の衝動に委ねたカタリナの攻撃にも無意識でしようしてしまった。
それが引き金だった、それが琵琶坂永至の寿命を大きく縮めてしまったのだから。

「……ふざ、ける、なぁ……。俺は、他のクズどもとは、違う……!」

怨嗟の如く、呻いて、叫ぶ。

「俺は、特別な存在、なん、だ………!!!!」

それでも、胸の苦しみは収まらず、ただ呻くだけ。
天に向けて、憎むように、断言するように、ただ、命の灯が消える、その直前まで――。

「他の凡百どもとは、断じて、違うんだぁぁぁぁぁっっ!!!」

尽きようとする命の中で、構わず、何もかもを込めて、ただ叫んで―――





「く、そが――――――――あ?」

痛みが、止んだ。
まるで、最初からそんなもの等、なかったかのように。
まるで、身体が万全の状態へと戻っていくかのような感覚を。

「……クク、そうか。」

嗤う。笑う。笑わずにいられない。
再び、歯車が動く幻聴が聞こえる。だけどそれがとても心地よく聞こえるのだ。
ガチリ、ガチリと、何かが噛み合う音が、そんな幻聴が聞こえる。
それは歯車が正しく噛み合い動いているという証左であり、全てが順調であるという証左であり。

「そうだったんだ。そういえば、そうだったんだな!」

思い返し、確信する。思えば自分は恵まれていた。
――鎧塚みぞれの覚醒を前に、逃げることが出来たのも
――あの白化粧男とメイドから逃げ切り、間宮あかりとカタリナという都合のいい駒を手に入れることが出来たのも。
――ミカヅチ、安倍晴明という強者に襲われ、生き延びることが出来たのも。
――自分の本性に気づいていた絹旗最愛を殺害し、正体に繋がる存在を潰すことが出来たのも。
――カタリナを衝動的に切り裂いてしまったが、それでも証拠隠滅が勝手にされそうな状況も。
――そして、こうして死の淵から生還出来たことも。

「そうだ、最初からそうだったじゃないか」

最初から、答えは提示されていたじゃないか。
最初から、その答えは用意されていたじゃないか。
最初から、自分はそうだったじゃないか。

「そうだ、俺は愛されていた。」

確信し、確証に辿り着き、歓喜の表情を浮かべる。
方程式に辿り着いた、運命とは試練であり、その困難を乗り越えてこそ絶頂へとたどり着くもの。
そして、男は、その答えにたどり着いたのだ。

















「俺は「神」に、愛されている―――・・・・!!」


歯車は、完璧に噛み合った。


275 : 明日の方舟たち(ArkNights)-局部壊死- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:09:15 FKQcpuZo0
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認識の衝突(コンフリクト)、という言葉がある。分かりやすい例えで言うなら矛盾の逸話だろう。
どんな防御をも貫く最強の"矛"、どんな攻撃をも防ぐ最強の"盾"。
どちらが勝つと問われれば、論理的な結論など出ない。何故ならどちらも最強なのだから。
これを、異能力にして例えるとしよう。
どんな防御をも貫く能力者と、どんな攻撃をも防ぐ能力者。
これも同じく矛盾という言葉が言い表す通り、どちらが強いのかという、論理的な結論は出ない。

どちらも己が能力に確固たる自信があり、それ故に相手の認識に飲まれるような弱さではない。
では、その矛盾のような認識の衝突(コンフリクト)が起きた場合、"必ずどちらかが勝つ"のだ。

ただし、これは完全に正しい問いではない。認識に強弱の概念は存在しない。ただし、論理的に結果を判断できるのなら話は別である。
例えば、上記のどんな防御をも貫く最強の"矛"を、『決して盾に当たることのない"矛"』に変えてみよう。
そうなった場合、『どんな攻撃をも防ぐ最強の"盾"』には当たらず、その持ち主のみを攻撃する
そのため、『決して盾に当たることのない"矛"』が勝つことになる。

こういった論理を判断し、勝敗を結論づける存在を、一先ずここでは"神"と仮称しよう。
その"神"が勝敗を判定するとして、『矛盾』のように論理で判断できない場合、当に"認識の衝突"が発生した場合、どちらが勝つのか?
なんとしてでも白黒をつけなければならない、だがどちらを勝たせるにしても論理的根拠が全く無い。
結論に窮した"神"が、一体どうするのか?

―――答えは簡単だ。実にくだらないと思うが、"神"はサイコロを振るのだ。
別にサイコロでなくても良い。くじ引きでも、コイントスでも良い。とにかく、結論を運任せにする、と言うことだ。
相反する二人の異能力者の「認識」がぶつかった場合、必ず一方の認識が優先される。
傍から見て、何故そちらの「認識」が優先されたのか誰にも分からないし、説明もつかない。
恐らく、「運が良かった」と、それだけの話。優先されたことに、意味は存在しない。

痣を発現させた者は齢25以上は生き残れない。仮に齢25を超えたタイミングで痣を発現させたとしても、その者はその日の内に死に至る。ただし、例外は存在した。
――始まりの剣士、鬼狩りの始祖たる継国縁壱。この世で初めて、かつ生まれついて痣を以ていた祝福の子。痣を持ち得ながら齢八十まで生き残った例外中の例外。
これは憶測になるが、彼は『認識の衝突』に打ち勝った、とも言えるのではないのだろうか?
齢25までに死ぬ、もしくは発現後その日の内に死に至る寿命の前借り、『人間』であるならそれに例外は存在しない。先の未来におけて鬼舞辻無惨を討伐した後の岩柱・悲鳴嶼行冥のように。
継国縁壱はそれを乗り越えた。神のサイコロに選ばれ、生き延びた。だが、彼には足りないものがあった。
それは自らが『神に愛されている』という認識。
自らが、『神に愛された特別な存在』である、という思い上がり、自己の過大評価。
彼にはそれが足りなかった。竈門夫妻と出会うまで、「自分は価値のない存在」だと思い込み。
彼らと出会った後も、「自らが特別な存在」であると至ることが出来なかった。

……継国縁壱は不完全だったと言える。もしも完全であったならば、彼は鬼舞辻無惨の全てを斬り伏せ、未来へ鬼という禍根を残すことはなかっただろう。
ではもし、もし仮に継国縁壱が、己自信を『自分は神に愛された特別な存在』と思い上がり認識したならば、どうなると思う?
縁壱でなくても良い。その上で、痣を発現させたものが齢25で死に至るという、その結果を。
覆すものが、新たに実証されたとしたなら、どうなっていたと思う?







―――そしてその答えは、ついにに実証された。


276 : 明日の方舟たち(ArkNights)-局部壊死- ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:09:36 FKQcpuZo0


















―――ようこそ、   の世界へ
















―――ガチャリ


277 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/27(日) 22:09:57 FKQcpuZo0
投下終了です、続きは後日お待ち下さい


278 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/28(月) 23:47:41 oi2DAJ5.0
>>274-276を以下の内容に変更します
お手数おかけして申し訳ございませんでした


279 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/28(月) 23:48:03 oi2DAJ5.0


(やっちまった! やっちまったぁぁ!)

思わず、カタリナ・クラエスを殺すつもりで攻撃してしまった。
死んだかどうか確認する余裕すらなかった。せっかくの囮を、自分の手で殺してしまっては意味がない。
感情に振り回されて、最悪の一手をやってしまった。

(もし万が一メアリ・ハントが生き残ってこの事実がバレたら、本当にまずい!!)

自分の行ったことがメアリ・ハントに判明するようなことがあれば、間違いなく自分の立場は急落に落ちる。最悪自分が他の陣営に狙い撃ちにされかねないというのに、完全にやってしまったのだ。

(……だ、だが俺はまだ運がいい!)

だが、不幸中の幸いか。あの魔王の攻撃範囲から、間違いなくあの建物も巻き込まれかねない。
死ぬにしても、生きていたにしても、証拠隠滅レベルの攻撃をしてくれたのなら、「カタリナを殺したのは魔王」という事になる。
それで自分のやらかしはチャラ、恐らくそうなるのだろうと、それを信じて再び走り始めようとするが――。

「が、あっ………!?」

心臓が、締め付けられるような痛みを発して。痛みのせいで倒れ込む。

「く、そ、がぁ………! こんな、所、でぇ……!?」

痣の代償。琵琶坂永至は知らぬことだが、痣の発現自体が寿命の前借りとも言うべき行為である。
しかも先程、戴冠災器・日輪天墜を凌ぐために全力で発現させ、先の衝動に委ねたカタリナの攻撃にも無意識でしようしてしまった。
それが引き金だった、それが琵琶坂永至の寿命を大きく縮めてしまったのだから。

「……ふざ、ける、なぁ……。俺は、他のクズどもとは、違う……!」

怨嗟の如く、呻いて、叫ぶ。

「俺は、特別な存在、なん、だ………!!!!」

それでも、胸の苦しみは収まらず、ただ呻くだけ。
天に向けて、憎むように、断言するように、ただ、命の灯が消える、その直前まで――。

「他の凡百どもとは、断じて、違うんだぁぁぁぁぁっっ!!!」

尽きようとする命の中で、構わず、何もかもを込めて、ただ叫んで―――





「く、そが――――――――あ?」

痛みが、止んだ。
まるで、最初からそんなもの等、なかったかのように。
まるで、身体が万全の状態へと戻っていくかのような感覚を。

「……クク、そうか。」

嗤う。笑う。笑わずにいられない。
再び、歯車が動く幻聴が聞こえる。だけどそれがとても心地よく聞こえるのだ。
ガチリ、ガチリと、何かが噛み合う音が、そんな幻聴が聞こえる。
それは歯車が正しく噛み合い動いているという証左であり、全てが順調であるという証左であり。

「そうだったんだ。そういえば、そうだったんだな!」

思い返し、確信する。
あれが、あの時が分岐点だった。
ミカヅチを殺すため、アレを利用した時点で、全ては始まっていたのだ。

「そうだ、あの時に、そうだったじゃないか」

あの時から、答えは提示されていたじゃないか。
あの時から、その答えは用意されていたじゃないか。
あの時から、自分はそうだったじゃないか。

確信し、確証に辿り着き、歓喜の表情を浮かべる。
方程式に辿り着いた、運命とは試練であり、その困難を乗り越えてこそ絶頂へとたどり着くもの。
そして、男は、その答えにたどり着いたのだ。













「俺は、選ばれたいたのか―――・・・・!!」


歯車は、完璧に噛み合った。


280 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/28(月) 23:48:24 oi2DAJ5.0
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


痣を発現させた者は齢25以上は生き残れない。仮に齢25を超えたタイミングで痣を発現させたとしても、その者はその日の内に死に至る。ただし、例外は存在した。
――始まりの剣士、鬼狩りの始祖たる継国縁壱。この世で初めて、かつ生まれついて痣を以ていた祝福の子。痣を持ち得ながら齢八十まで生き残った例外中の例外。
齢25までに死ぬ、もしくは発現後その日の内に死に至る寿命の前借り、『人間』であるならそれに例外は存在しない。先の未来におけて鬼舞辻無惨を討伐した後の岩柱・悲鳴嶼行冥のように。

主催陣営はミスを犯した。それは本来『技術』であって『異能』では無いとカテゴライズされる『痣』を、異能としてカウントしてしまった事。
そしてもう一つ、ゲッター線。琵琶坂永至が安倍晴明の炎を耐えきり、痣を発現させるに至ったきっかけの一つ。ある世界において、神すら呑み込む大いなる天空を打ち倒すための力、神の一柱の恩恵とも称されるその力。――即ち、魔術の世界におけて『位相』とカテゴライズされる存在の一端ではないのか?

魔術世界における『位相』とは、端的に言ってしまえば『現実世界』の上に投影されている、あらゆる異世界、宗教概念のことである。
ある世界においては、異なる『位相』で発生した現象が現世において神話として伝えられているらしい。

ではここで、『ゲッター』=『位相』の一つだと当て嵌めてみよう。
ゲッターとは本来意思の力。琵琶坂永至のカタルシスエフェクトも別の言い回しをすれば意思の力とも称される。あの時、安倍晴明に焼かれようとした時、無意識に彼は『位相』の一端に触れることが出来たのではないのか?
もし仮に、琵琶坂永至に発現した『痣』が、元の世界の法則ではなく、『ゲッターという名の位相』を根源として、その力で、データ上に擬似的に再現されたものとして擬似的に再現したものだとしたら。
意志の力という共通点から、カタルシスエフェクトとゲッターの力が『良く馴染む』としたのなら。
……ゲッター線の恩恵を最大限に得てたどり着く通過点。『魔神』と言う、人の身で在りながら神格へと到達した、一種の進化の極致の一つではないのかと。

余談であるが、ゲッター自体にもゲッター曼荼羅なる宗教画、もとい宗教的要素みたいなものなものが存在するのだが……閑話休題。
はっきり言えば、『由来が異能ではない生体現象を無理やりデータ上において異能に落とし込んだ』事自体が、余りにも歪みであるのだ。
煉獄杏寿郎は元々がその概念が存在する世界の住人だったからまだいい。
ミカヅチ、安倍晴明は由来が人間ではないにしろ、自覚までには至らなかった。
琵琶坂永至は、自分が「それ」に愛されているという自覚を持ってしまったのだ。
そう、―――琵琶坂永至は、自分が「ゲッター線」に愛さているという、『認識』を持ってしまった。
そして、この痣の由来を、「ゲッター線」によるものだと、『認識』してしまったのだ。

異能は『認識』であり、『自分だけの現実』である。
だが、主催側によって齎された『痣は異能である』というデータは、本来なら真実とは違う歪んだ認識。
要するに、一つでも綻びが出たなら不明な動作を起こすバグとして作用する。

ゲッターは未知の存在だ。それは、主催陣営からしても完全には解明できていない。
だが、数多の世界の情報を掻き集めたが為、本来ならば作用しない情報が、結び付いてしまう。
異なる情報が、意外な共通点を以て結びつき、予期せぬ反応を起こすこともある。


281 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/28(月) 23:48:41 oi2DAJ5.0
―――その予期せぬバグの結果が、『別の概念』による補完をした帳尻合わせの結果がこれだ。
これは、覚醒などという生温いものではない。
これは『変容』だ。在り方そのもの変質だ。
人類と言う種が、高次の存在へ進化すること。ゲッターの意思が待ち望んだ、無限の進化。
進化とは他種族の淘汰でもある。巨大隕石の墜落により恐竜が絶滅し、類人猿が人類へと進化したように。
琵琶坂永至は、自らの望みを邪魔するものを淘汰する、傲慢にして外道の極み、絶対悪である。


だからこそ、彼は見初められたのであろう、ゲッターに。
あらゆる敵対者を淘汰し、自らのみの幸福(しんか)を望む、その在り方が。
ゲッターとは大いなる意思とも解釈できる、そして大いなる意思とは本能でもある。
抑圧された内面を、心の内にある本能をカタルシスエフェクトとするのなら。
アリアの力を借りずとも、カタルシスエフェクトを発現し得る才能を持った琵琶坂永至は。
――最初から、彼はゲッターの力を得るに相応しい力を、その片道切符を生まれた時から所持していたのではないのか。








そして、その結論が齎した果てにあり得るものは――もうすぐ、明らかになるであろう。


282 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/28(月) 23:48:58 oi2DAJ5.0





これから人類が迎えるものこそ、明日という名の、希望なのか。




はたまた破壊という名の絶望なのか。




それは、神のみぞ知る。




だが、報いは受けなければならん。




そう、その本質がなんであるか知ろうともせず、




無限のエネルギーよとゲッター線を利用しようとした愚かな者ども、













――――さあ、楽園最後の夜明けに懺悔せよ。

――――遂ぞ、あの男は通過点に至ったのだから。


283 : ◆2dNHP51a3Y :2022/11/28(月) 23:49:08 oi2DAJ5.0
以上となります


284 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/28(月) 23:51:41 XJD/mAOU0
投下乙です
カタリナ様をうっかり刺しちゃって「しまったあああああ!!」で狼狽えるのほんとにマーダーかお前は
...と笑ってたらなんかとんでもないことになってるなお前!
確かにゲッター線はお前みたいなやつ大好きだよきっと!

投下します


285 : 英雄の唄 ー Ⅴ章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/28(月) 23:53:46 XJD/mAOU0



わずらわしいこえがちいさくなった。

いまもまだおれにむけてうめいているが、もうすぐきえるだろう。

ふうぜんのともしび、だったか?そういうかんじのやつだ。

これでゆっくりねむれそうだ。

ここちいいおとをこもりうたに。

うたかたのゆめをまくらにして。

そのはずなのに。

うっとおしいとおもっていたひかりが、またかがやきだした。


286 : 英雄の唄 ー Ⅴ章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/28(月) 23:55:01 XJD/mAOU0



【これで終わりだ。根源たる神よ】

破壊神は息を切らしながら、ウィツアルネミテアに語り掛ける。
彼女の身体はクオンの眠る核を境目に両断されており、その上半身部分が破壊神に足蹴にされていた。

虚空の王によって切裂かれた部位を再生する力はもはや残っていない。
ウィツアルネミテアは核の中で眠るクオンの治療に残る全ての力を使っていた。
ウィツアルネミテアの心臓部はあくまでもクオンにある。
彼女が死ねばそれで終わってしまうため、否が応でも力を割かないわけにはいかなかったのだ。

【貴様を喰らい、我は更なる高みへと昇り詰める】

破壊神は命を喰らう度にその力を増していく。
この会場においてマリア・キャンベル、王、セルティ・ストゥルルソンの三名の命を喰らっただけでこうまで力を増したのだ。
もしも己よりも格式の高い神である、ウィツアルネミテアを喰らえばどうなるかは想像もつかない。

ようやく戦いを終えた達成感とこれからへの高揚感に胸を躍らせ、破壊神はその大口を開く。
鋭利に生えそろった牙から目を背けることなく、ウィツアルネミテアは己に迫るソレを眺め―――
















それはまさに水を得た魚のような速さで割り込んできた。
破壊神の顎から打ち抜き、ウィツアルネミテアの捕食を阻止、アッパーカットの如き衝撃に破壊神はよろめき体勢を崩す。


287 : 英雄の唄 ー Ⅴ章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/28(月) 23:57:14 XJD/mAOU0
【なんだ...!?】

不意の攻撃に破壊神は忌々し気に敵を睨みつける。
その先にいるにはウィツアルネミテアではなく。

「さすがに硬いな...抉り取るつもりだったんだが」

左腕には巨大なドリルを、背中には飛行用のスラスターを、肩にはアリアを乗せた神隼人だった。
カタルシス・エフェクトは心の結晶。
そこから生まれる武器もまた彼の心に巣くうモノ。
神隼人のカタルシス・エフェクトの形は彼の駆るゲッター2を模したもの。
疑似的なゲッター2の再現―――この異常事態に於いても彼の心には、変わらず『ゲッター』の存在があった。


【小蠅が。今更貴様などの出る幕はない】

破壊神は先の蹂躙と同じように腕を振るい隼人達を屠ろうとする。
その手にウィツアルネミテアへの攻撃と同等の殺意はない。
そんなものが無くとも、小さな人間如きに負けないのは証明済みだったからだ。

「いくぞアリア!」
「合点招致だってばさ!」

隼人の号令と共に、アリアは思い切り息を吸い始める。

(ねえ、μ。あたしさ、今までずっと悔しかったんだよ。あたしはあんたのこと大好きだけど、でも、どうしてあたしはあんたみたいになれないんだろうって)

アリアはμを止めるために動いてきたが、その過程でμの成し遂げた功績を多く見てきた。
偽りの世界とはいえ、μを求める声が絶えず、多くの人々は幸せに満ちており、道行く人々がμの歌を口ずさんでいた。
同じバーチャドールのはずなのに、気が付けば手の届かないほどの差が出来ていた。
それを悔しいと思わなかったといえばウソになる。

μはすごい。μは大きい。
メビウスでの彼女のやってきたことは間違いだとは思うけれど、それでも彼女は確かに輝いていた。

「あたしだって同じバーチャドールなんだ...あたしだって...!」

アリアの想いに応えるように、隼人の纏うカタルシス・エフェクトのオーラが増していく。

「辛いかもしれないけど...それでも、あいつを倒す為に!」
「出し惜しみなんざするな、やれアリア!!」

「行くよ、カタルシスエフェクト・オーバードーズ...」

アリアの呟きに呼応し、彼女の身体が光り輝くのと同時に隼人の身体に注がれる力も増していき、脳髄にかかる負担も殊更に増していく。
理性も知性も吹き飛びそうになる狂暴的なほどの衝動が、身体を引き裂かんと暴れまわる。
それを歌に乗せて調律するのがバーチャドールの役目だ。

「Go Liiiiiiiiive!!!」


288 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/28(月) 23:58:35 XJD/mAOU0
彼女は叫ぶ。
μが楽士たちの曲を唄うように。
バーチャドールの意地を見せつけるように。
小さな妖精の形態からしなやかな肢体の女性的フォルムに変貌する。
彼女が唄うのは、カタルシス・エフェクトを通じて伝わる隼人の魂を表現する歌。

その歌声が、感情を暴走させる。

眼前にまで迫る破壊神の掌。
それが触れる瞬間、隼人の姿が消えた。
見失ったと驚愕するのも束の間、破壊神の眼前に影が現れる。

隼人だ。そこにはなんのタネも仕掛けもなく、人間では考えられない速度で破壊神との距離を詰めたのだ。



―――どこまでも 果てしなく 続く 争いの日々 また 今日も俺は この世界を 彷徨うのさ

バーチャドール・アリアの歌が響き渡り隼人の身体に力を与える。
その効果は、速さの上昇。
アリアの歌の力が加わった隼人は、まさにゲッター2そのものであった。

「ドリルアーム!!」

隼人の突き出したドリルが破壊神の右目を貫き、ぐじゅりと生々しい音が響き渡り体液が飛び散る。
走る痛みに破壊神が思わず目を抑えると、今度はがら空きになった耳ヒレ目掛けて突き進み、削り取った部位から破片と血液が零れ落ちる。

ズキリ。

隼人の脳髄が痛みという警鐘を上げ始める。
カタルシスエフェクト・オーバードーズ。
それは単なる強化ではない。
カタルシス・エフェクトのポテンシャルを存分に発揮させる代償に感情を暴走させ、身体に否応なく負担を強いる危険な代物だ。

だが。
この程度の痛みで隼人は止まらない。
ゲッターロボという、操縦者すら食い殺さんと牙を剥く兵器を駆り続けたこの男の枷には程遠い。


289 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/28(月) 23:59:35 XJD/mAOU0
「ドリルアタック!!」

【小癪な!】

鼻目掛けて射出されたドリルを難なく指で弾き飛ばし、残る目で射出元の隼人を睨みつけるが―――既にいない。

「よく見ておけ、こいつが音速を越えた戦いだ!」

放たれる言葉は頭上から。
破壊神が見上げた瞬間、隼人は高速で降下し破壊神の身体を抉り取る。

【この程度...ッ!】

血は流れるが耐えられぬ痛みではない。
通り過ぎた隼人めがけて巨腕を振るうが、空振りした、と認識した時には既に再び己の身体を抉り取られていた。

追いつけない。

如何な物をも粉砕する破壊神の攻撃も、万物を切り裂く虚空の王も、当たらなければどうということはない。
空から、地から。四方八方から突撃する隼人の攻撃は確かに破壊神の身体を削り取っていく。

これこそが神隼人の、ゲッター2の得意とする高速での戦いだ。


―――探し求めたものは 迷宮の彼方 いらだちを 噛みつぶし 行き場の無い拳に込めて もう我慢できないぜ



【鬱陶しいわ!!】

度重なる攻撃に苛立ち、破壊神は翼を広げ暴風を起こそうとする―――が、できない。

破壊神の身体にはタルの連なる鎖が巻きつき、その動きを制限していた。
隼人が抉り取る際に巻き付けていたのだ。

【こんなもので我が身を抑えるつもりか!】
「今でおじゃる!!」

マロロの号令に合わせて志乃が飛び出し飛燕返しでタルを一斉に切り裂き、着地と共に離脱する。

【...!?】

斬りつけられるはずの斬撃は己の身に届かず、代わりに身体に纏わりついたベトベトとした感触に不快感を抱く。


「ジオルド殿!」
「はい」

マロロが笏を構え炎の術を放ち、それに合わせてマロロに従うよう命じられたジオルドもまた炎の魔法を放つ。
二つの火種が交わり、一筋の蛇となり破壊神に着火。
先の戦いでは小火程度の効果しか与えられなかった二人の火遁だが、今回は違う。
志乃が斬ったタルの中に入っていたのは大量の油。

一つのタルに並々に詰められた油がいくつも付着した身に炎など受けようものならどうなるかは想像に容易い。
山火事の如く燃え盛る炎に破壊神の全身が瞬く間に呑まれてしまう。


290 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:01:02 1d2bRLuw0
―――ゲッター ゲッター ゲッター 隠しきれない 熱い炎 そして ゲッター ゲッター ゲッター 荒野に 立ち上がる

アリアの歌声は隼人のみならず、他の面々にも影響を及ぼし始める。

(不思議...身体に力が漲ってくる。これなら...!)

志乃はあかりちゃんボックスから取り出したストローを咥え、破壊神へと斬りかかる。
彼女を叩き潰さんと破壊神は岩石を雨あられと投擲する。
当たれば即死間違いなし。
その極限においても志乃は微塵も恐れない。

ジオルドという肉壁がいるから?
他に頼れる采配師と最速の男がいるから?
どれも違う。

(あかりちゃんヘアー、三本使用)

ストローを堪能し尽くした志乃はあかりちゃんボックスから採取した髪の毛を口内に含み、その味と感触を堪能し飲み込む。

その髪に特殊な力はない。
だがしかし、間宮あかりの髪の毛、というだけで志乃には十二分に意味がある。

(あかりちゃんを全身で感じる)

いま、志乃の制服の下、もっと言うならば下着の下の地肌には胸の部位にはあかりちゃん人形が、股間には間宮あかりの盗撮写真が、そして全身にはあかりから密かに採取した使用済み歯ブラシやつまようじ、絆創膏などありとあらゆる非公認間宮あかりグッズが貼りつけられている。
そしていま、口内をストローで、内臓を髪の毛で染め上げ、あかりちゃん成分を文字通り全身で摂取した志乃の心はこれ以上なく滾り、溢れんばかりの愛(あかりちゃん)を脳髄に滾らせ送られた電気信号は彼女の身体をより強く、速く伝わり反映される。
実際にそんなことがありえるのだろうか?
本来ならばありえないだろう。
だが。
この会場が凡そ『思い込み』や『妄想』といった感情を反映させやすい環境にあること、アリアのフロアージャックがささやかながら影響していること。
この二つと志乃の間宮あかりへの執念が重なり合い、彼女の身体も秘めるポテンシャルをこれ以上なく発揮していた。
迫りくる死への脅威を紙一重で、最速で躱しながら懐に飛び込む。

(せっかく集めたあかりちゃんグッズ...)

迫りくる剛爪を掻い潜り、その腕を伝い一気に破壊神へと駆け出す。

(でもいいの)

破壊神は振り払おうと両腕を振るも、志乃はそれを器用に跳躍で辿り一気に肉薄。

(思い出はまた作ればいい...あかりちゃんの全てはまた採取しなおせばいい)

やみのちからを解放し、破壊神は目には見えぬ防壁を張る。
ウィツアルネミテアとの戦いでの消耗でその防御力は落ちている。
だが、それでも小さな人間を相手取るには充分だった。

ガキン、と硬いもの同士が衝突する音を立てて志乃の突きが防壁に阻まれる。

「だから」

だがそれも束の間。
やみのちからで張られた防壁を志乃の切っ先は徐々に切り開いていく。


破壊神のやみのちからは邪なもの以外を拒絶する強力な壁である。
それを突破するにはやみのちからを浄化できるものか、それ以上にどす黒く悍ましいほどの闇があればいい。
友愛・愛情・異常性・劣情・情欲・性欲・その他諸々。
ありとあらゆる佐々木志乃の愛を一身に受け食いつぶされた妖刀・罪歌には、まさしくこの世に比類なく悍ましきやみのちからが宿っていた。


291 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:01:35 1d2bRLuw0
――――何かに導かれ 走り続ける  運命の戦士


「貴方を倒してあかりちゃんのもとへ帰るんです!!」


罪歌の切っ先がやみのちからの防壁を微かにこじ開ける。

志乃が死力を尽くして開けた穴。
それを見逃す隼人ではない。

「――――おおおおおぉぉぉッ!!!」

罪歌に連なるように隼人のドリルが穴を穿ち共に穴を押し広げていく。
穴を広げさらに深く掘り進める。これがドリルの本来の使い方だ。

バキリ、という音と共に防壁の一部が破壊され、罪歌の切っ先が破壊神の肩に突き刺さる。
破壊神は少々驚きはした―――が、それだけだ。
壊された防壁は一部だけ。呪いなど所詮は彼にとっては餌程度のもの―――

『あかりちゃん』

否。これはもはや呪いなどというものではない。

『あかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん』

兼ねてより流されていた呪いはあかりちゃんに侵食され、破壊神の脳髄はズキズキと痛み始める。
愛と呪いの入り混じるソレはもはや何人も抗えぬ猛毒。


【やめ...ぬかぁ...!】

しかも。
呪いへの耐性を有している破壊神だからこそ、狂いきれず、洗脳されることもできず。
ただひたすらに『あかりちゃん』は彼の脳髄を苛め抜く。

『あかりちゃんだいすきあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん××あかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん私のパイも食べてあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん』

【ぐおおおおおおおおおおおおおおお!!!】

激しい頭痛に苛まれ始めた破壊神が頭を抱え呻き声を上げ始める。

「このまま追撃を...!」
「待つでおじゃる志乃殿!隼人殿、ここはマロたちに任せて離脱を!」

マロロの指示に従い、隼人は志乃を抱えて距離を取る。
僅かに遅れて破壊神の爪が二人のいた空間を空振り、遅れて発動する虚空の王は、下手から放たれた酒瓶を切り裂きその指を酒に濡らす。
破壊神が不快感を抱いた瞬間、ジオルドの炎の魔法が破壊神の指に燃え移り、小火はたちまちに大きな火勢と化す。

「力任せに技を振るうだけならばいくらでも打つ手はある...マロたち采配師はその為にいるのでおじゃる!戦を舐めるな、物の怪よ!」

【手間取らせてくれる...!】

決して決定打を打たれているわけではない。
だが、先の戦いでは、破壊神という共通の敵を前に共闘はしていたが、ただ個々で立ち向かっていただけだった。
だから連携が取られておらず、迎撃も容易かった。
今回は違う。
采配師マロロの指揮のもと、互いに連携し合うことで攻撃の有効性を引き上げている。
それが破壊神には癪だった。
先に蹂躙した時とは違う手ごたえに破壊神の苛立ちは募っていく。


292 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:02:48 1d2bRLuw0




「張り切ってやがるな隼人のやつ!こっちも負けてられねえぜ!」

一方、破壊神たちから少し離れた平地では、ビルドの敷いた図面を基に設計作業が行われていた。
マロロが手配した策は、攻めの起点を隼人とした攻撃チームにマロロとジオルド、機動力のある志乃を組み込み、残る面子は防衛チームとして設計製作に集中させるというもの。
しかし素材といってもあるモノはせいぜい破壊された校舎の瓦礫と使い道があるかわからない木片程度。

「皆さん、集めてきたそざいはこの箱の中に!」

そこで要となるのが東風谷早苗の『奇跡を起こす程度の能力』である。
彼女の起こす『奇跡』は幅が広い。ただの水を甘くするような超自然的なものから、無いところから物を出すような手品染みたところまで。

久美子、咲夜、弁慶、コシュタ・バワーの集めてきた瓦礫を収納箱に入れ、早苗がその能力を行使するとあら不思議。
たちまちのうちに鉄や石材、木材のようなそざいに変貌してしまった。

無論、主催側がこの能力を把握していないはずがなく、大規模な奇跡には相応の消費と前準備を。
なんでも殺せる武器を生み出せる、首輪に奇跡をかけて即座に解除!...などというあまりにも都合のいい奇跡の解釈には制限をかけている。
だからこそのそざいなのである。


そざいであれば、少ない消耗で連続して使えるし、そこから加工・精製するのはビルダーの領分であるため、そざいからそざいへの変化は制限の範囲から免れた。
しかしあくまでも早苗の『奇跡』は幸運を呼び寄せるものではない。
どちらかといえば『偶然』の極致であり、それが幸を呼ぶか不幸を呼ぶかも己では制御しきれていない。
そのためこれはギャンブル的な要素の強い策だったのだが

(なんだかすごく調子がいいですいまのわたし!!)

不思議なことにそざいは全てとは言わずとも、7・8割程度は必要なものに変貌し設計には支障ない範囲に抑えられていた。
彼女は知らない。いまのこの空間に漂うウィツアルネミテアから飛び散った体液は、本来であれば代償と引き換えに願いを叶える代物であることを。
破壊神との戦いで気体状に変化したソレに触れていた早苗の願いを微かに反映し、『てつが欲しい』と願えば『石材』が生まれたり、『木材が10欲しい』と願えば『木材5、てつが4』などと歪みに歪んだ形で出力されていることに。
その失敗した2割程度が代償として扱われていたのはまさに彼女自身の奇跡と言えよう。

【なにをしている貴様ら!】
「ッ!気づかれました!」

隼人達の攻撃の隙間を縫い、破壊神の掌に全てを破壊し尽くすエネルギーが溜められる。
狙いは建築に勤しむビルドと彼の作ろうとしているモノ。

【今更貴様の出る幕などない、消え失せよビルダー!!】

この局面で、こんな目と鼻の先で堂々とものづくりをしようというのだ。
そこから生まれるものにはよほど期待をかけているのだろう。
だからこそ真っ先に破壊する価値がある。
破壊神はかつてハーゴンがやっていたように、ビルダーを始末することで贄たちの希望を摘み取らんとはかいの光線を放った。
迫りくる光にもビルドは怯えない。目もやらない。護ってくれると信じていたから。


293 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:03:19 1d2bRLuw0

「ここは俺の出番だな!」

ビルドと光線の間に弁慶が立ちふさがり、両腕に装着されたソレを盾のように構える。
彼の腕に着けられているソレの名は『みかがみのこて』。
かつてビルドがシドー共に探検したオッカムル島にて、まものの光線を幾度も弾き返したシロモノである。
弁慶の怪力がないと扱えない為、彼が扱うこととなったのだ。

構えた腕の盾に光線が着弾すると、重たい衝撃が弁慶の身体に襲いかかる。

「ぐおっ...」

その重さに溜まらず声が漏れ出すが

「なめんじゃねえ...この程度で参ってちゃゲッターロボなんざ乗れねえんだ!!」

両腕の筋肉が盛り上がり、咆哮と共に腕を解き放てば、光線は放った破壊神へと弾き返された。

【ぐおっ!?】

己の攻撃の威力にのけ反り苦悶を漏らせば、その隙を突き志乃の刀と隼人のドリルが身体を斬りつける。

「ぐぅっ...!」
「大丈夫ですか弁慶さん!」
「心配すんな!これくらいなら慣れっこよ!」

駆け寄る早苗に、額に脂汗を浮かべながらも弁慶は笑って見せる。
だが、彼は理解していた。
反射には体力と筋力の消耗が非常に激しい。
あとなんど成功するかはわからない、と。



【ちょこざい真似を!】

破壊神は隼人と志乃を振り払い、今度は巨大な岩石を掴み投擲する。
光線とは違い、弾き返すことのできないソレに弁慶は立ち尽くすことしかできない。

「させない」

弁慶に代わり、今度はみぞれが躍り出る。
罪歌で支配した彼女に志乃が命じたのは『なにがなんでも守り抜け』。
その命令は半死人の彼女の身体すら凌駕し、容赦なく酷使する。

それでも。彼女の顔が笑みを浮かべているのは罪歌のせいか、あるいはこんな身体でも動けることへの感謝か。
巨大な岩が迫る中、みぞれは片腕を上げぼそぼそと呟く。


「緋の蒼――リズと青い鳥」

掌から放たれた氷の鳥が岩石に触れると、瞬間的に氷が包み込み、その勢いは瞬く間に殺され、岩石は届くことなく地に落下する。
それを見届けると、ガクリとみぞれの膝が崩れ落ちる。

「おっ、おいみぞれちゃん!」

倒れそうな身体を弁慶が慌てて支えるも、みぞれはぼそぼそと口元を動かし言葉を紡ぐ。

「まだ...飛べる...私は...まだ...」

倒れそうになりながらも尚も立ち上がるみぞれに弁慶は息を呑む。
本当なら。
多少の被害を被ってでもみぞれを休ませてやりたい。その分を他の面々でカバーしてやればいいと言いたい。
けれど、戦況はそれを許さない。
この作戦は誰か一人でも欠ければ著しく成功率が下がる。
ただでさえ針の穴を通すような成功率の前でのソレは、0%と同意義。
だからみぞれは止まらない。
弁慶も、誰も彼女を止められない。

「ッ...みんな、急いで瓦礫を集めてきてくれ!早く!」

マロロたちが攻撃を仕掛け続けていることで破壊神からの攻撃パターンはかなり絞られている。
それが前提の防御の布陣だ。
しかし、この均衡がいつまで続けられるかはわからない。
オフェンス側もディフェンス側も消耗が激しく、どちらか片方が潰れればその時点で詰み。
弁慶の号令に気を取り直した一同は再び瓦礫をかき集めるためにその足を動かす。


294 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:03:49 1d2bRLuw0


まただ。

ひかりがひときわかがやきをますとこんどはさっきとはべつのみみざわりなおとがみみをつんざきはじめた。

あかりちゃんってだれだ。

やめろ。

イライラする。

これじゃあきもちよくねむれない。

なのに。なんで。

なんでおれはこのひかりからめをはなせないんだ。

おれはこのひかりをいったいどうしたいんだ


295 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:04:58 1d2bRLuw0


度重なる攻撃の波に。
攻撃を放っては弾き返され、あるいは叩き落とされ。
その繰り返しに痺れを切らした破壊神は腹の底から怒りの雄たけびを上げる。

その咆哮と共にどろりと影が蠢き、骸骨兵が際限なく湧き出してくる。
狙いはものづくりを担う六人と一頭。

だが、攻撃チームの誰も彼らへの援護には向かわない。
予定通り。
あのような雑兵たちを向かわせねばならないほどに、破壊神はウィツアルネミテアとの戦いで消耗しきっていることの証左に他ならない。

「そのぶん奴は俺たちに集中するってことだがな...お前たち、恥をかくなよ!」
「貴方こそ、逸りすぎて足元を掬われないように!」
「ジオルド殿、マロたちも次なる攻撃準備を!」

四人は纏まって攻撃されないよう散開し、アリアもまたフロアージャックを切らさないよう歌を続ける。

――――急げ猛き勇者よ 時の迷路を走り抜けろ Until the dying day!


296 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:06:02 1d2bRLuw0


湧き出てくる骸骨兵たちには一瞥もくれずビルドは装甲車の製作を、早苗は小さな奇跡を起こし続ける。
時は一刻を争う。周囲を囲むブラックホールは動きを再開しており、最悪、直接壊されずとも、あのブラックホールに飲み込まれて全滅もあり得る。
つまり奴らの狙いはこちらの時間を削ることだ。
それをさせないためにマロロは攻めの面子よりも防衛の面子を多めに振り分けた。

「生憎とこれより先は通行止めよ」

早苗へと襲い掛かる骸骨兵たちは、その剣を振りあげた途端にその眼前にナイフが突き立てられ、兵の悉くがかき消されていく。
咲夜の時間停止からのナイフの雨あられはこの雑兵相手にはうってつけの防衛ラインだった。

「咲夜さん」

早苗は背を向けそざいを変化させながら語り掛ける。

「貴女がこの殺し合いでどう動いていたかはなんとなく察してます」
「......」

咲夜は答えない。
早苗はそれでいいと言わんばかりに言葉を紡ぐ。

「咲夜さん、私たちは決して親しい仲ではないかもしれません...いいえ、この催しに呼ばれた私たちは多くがそんな関係です」

早苗の言葉に返事を返さず、咲夜は迫る影たちにナイフを投擲し対処していく。
みんな、顔見知りではあるし互いに名前を把握はしている。
けれど、わざわざプライベートでも積極的には絡みにいかず、よしんぼそんなことがあっても極まれな、そんな程度の関係性だ。

「だから、あの人たちがいなくても私たちの日常は続く...そんなものは幻想だって思い知らされました」

魔理沙。妖夢。鈴仙。
彼女たちがいなくなったと理解した時、もうそこには今までの日常なんてないと思い知らされた。
永劫なんてものはなく、些細なキッカケ一つで全てが壊れていくなんてわかっていると思っていた。
けれど。
知識として知っているのと実体験するのではまるで話が違う。

嫌だ。こんな理不尽な形で私たちの日常を失うなんて。
納得できない。こんなものをただ受け入れろだなんて。

そんな、現人神としてはあまりにも幼稚で、人間的な我儘が早苗の胸中を占め続けていた。

「咲夜さん。貴女はいなくならないでくださいね」

激励とも懇願とも判断しづらいその言葉。
咲夜は相も変わらず答えはしなかったが、しかしその耳は確かに聞き遂げていた。


297 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:07:09 1d2bRLuw0
カタカタと音を鳴らし迫りくる骸骨兵たちに久美子はひっ、と恐怖で喉を鳴らし一目散に背を向ける。

「こっ、こないでぇ!」

校舎の瓦礫を抱えて逃げ出す久美子目掛けて骸骨兵たちは駆けてくる。
骸骨兵たちは決して素早いわけではない。
しかし、瓦礫を抱える一般人相手となれば、久美子と彼らの距離はどんどん縮まっていく。

「いやあああああああ!」

悲鳴をあげて逃げる久美子を掴もうと伸ばされる腕。

それを遮るように聳え立つ氷の柱。
次いで放たれる氷の礫が骸骨兵の影が次々に消えていく。

「みっ、みぞれせんぱ...」

助けてくれたことに礼を言おうとした久美子の視界に、二つの影が躍り出る。
フルフェイスマスクの女性とドレッドヘアーの筋骨隆々とした影。
見覚えのあるその二つの影が久美子を囲み、その命を狩らんと襲い掛かる。

(あ、だめ...)

鎌と手刀が迫り、諦めが久美子の脳裏を過る。

「ヒヒーン!!」
「させねえ!」

影の鎌をコシュタ・バワーが、手刀を弁慶が割り込み防ぐ。

ブルルン、と荒い鼻息を鳴らしながら、コシュタ・バワーは鎌を抑え込む。
いま相対する影は主人であるセルティ・ストゥルルソンではないのは解っている。
だが、それでも。
姿かたちでも主に似たモノに、主の意思を穢させるような真似はしない。
そう言わんばかりに、コシュタ・バワーは一歩も引かない。

「セルティ...俺は信じてるぜ、お前が久美子ちゃんを殺そうとするはずないってなぁ!」

弁慶は王の形をした影をセルティの形をした影に投げてぶつけ、二人を倒しその動きを止める。


298 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:08:54 1d2bRLuw0
「久美子ちゃん!その馬に乗ってはやくその素材を持ってけ!」
「はっ、はい!」

弁慶の指示に従い、久美子は慌てて周囲の瓦礫をかき集め、コシュタ・バワーの荷台に乗り込み早苗たちのもとへ移動する。

(セルティさん)

横を通り過ぎる最中、久美子はセルティの形をした影に思わず唇を噛む。
ここに連れてこられてからずっと助けられてばかりだった。
なのに何も返せないどころか足を引っ張って殺してしまった。
その感謝も謝罪もまだまだ足りないけれど、いまは足を止めている暇はない。

「ごめんなさいっ!」

久美子を乗せたコシュタ・バワーは全速力で駆けだす。
その後を追おうとする王の影はみぞれの氷の槍で貫かれ固定され、セルティの影には弁慶が相対し足止めをする。

「もっ、持ってきました!」

早苗のもとに辿り着いた久美子とコシュタ・バワーは急いで瓦礫を収納箱に詰め込み、その全てを入れ終わるとへとへとと力を抜き尻餅を着く。

「誰が休憩を許したの?」
「ひゃっ、ひゃいっ!」

咲夜のドスの効いた低い声に久美子は跳び起き、慌ててデイバックから、ビルドに作り与えられた法螺貝に口を当てる。

ボオオオォ―

低い音が響き渡る。

久美子はただの吹奏楽部に携わってきただけの一般人である。
しかし、吹奏楽におけるユーフォニアムには肺活量も求められ、その点のみに絞って言えば、号令の音を吹くという役割は咲夜や早苗よりも久美子に部があった。

「ようやくか!」

法螺貝の音を合図に弁慶はみぞれを担ぐと急遽引き返し、ビルド達の待つ建築現場に向かい始める。
その後を追おうとするセルティと王の影の足をみぞれが凍り付かせれば、骸骨兵たちが代わりに後を追い始める。


299 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:09:35 1d2bRLuw0
「咲夜さん、彼らに援護を!」
「わかってるわ」

弁慶たちの姿を認めると、咲夜は時間を止め、後を追ってくる骸骨兵たちへとナイフを投擲しかき消す。

「弁慶さん、みぞれさん、ここです!このラインです!」

早苗が両人差し指で指し示す線を跨ぎ弁慶とみぞれの身体が入り込む。

「緋の蒼・乖離光」

早苗の示したラインを身体が超えた瞬間、みぞれの呟きと共に氷の牢獄され、建築現場を包み込む。
触れれば燃える氷の檻。
しかしこれは内部を破壊するためのものではなく、周囲からの攻撃から身を護るための牢獄である。
現に、この氷を破壊しようと剣を振るった骸骨兵たちはたちまちに凍り付き、燃えていき、感染するかのように次々にその効果が波及していく。
破壊神の攻撃には流石に耐えられないが、雑兵相手ならば十二分に効果を発揮した。

「――――ぅ」
「みぞれ先輩!」

力尽き、どさりと倒れ込むみぞれに慌てて久美子が駆け寄り容態を看る。
素人目から見ても限界だとわかった。
罪歌の呪いで無理やり動かされたその身体は、もはや立ち続けることすら困難。
今はまだ辛うじて意識があるが、もしも意識が途切れればその瞬間、牢獄は解け骸骨兵たちはなだれ込むだろう。
そうはさせない。
その一念だけがどうにかみぞれの意識を繋ぎ止める。

「よく頑張ったな、みぞれちゃん。あとは俺たちに任せろ」

弁慶はみぞれに労いの言葉をかけながら頭に手をやり、ビルドへと向き直る。

「ボウズ!準備はできたのか!?」

その問いかけにビルドは頷き、己の成果を一同に披露する。

氷の壁に囲まれた建築場。
そこに敷かれた図面には鋼鉄で出来た土台が全て揃っており、装甲車を作るのに必要な材料も、早苗の奇跡から創り出したそざいを使い作り出してある。
後は組み立て・設計もほとんど完成しており、あとは足りない部分をつなぎ合わせて形にし、最後のメンテナンスを仕上げれば完成だ。

「おお、けっこう出来たんだな!ここまでくれば俺たちにも手伝えるぜ!」
「ここまでくればあと少し...ですが、もう時間はありません!みなさん、すぐに取り掛かりましょう!」

早苗の音頭に各々は返事を返し、すぐさま作業に取り掛かる。


300 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:10:04 1d2bRLuw0


ひかりがつみあがっていく。

ひとつだったはずのおおきなひかりにいくつものちいさなひかりがつみかさなりかたちをなしていく。

おれはこれをしっている。

このひかりのむれをしっている!

ずっとあこがれてきた。ずっとうらやましがってた!

だからおれはそいつを。おれにはできないそのひかりを―――。






301 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:11:20 1d2bRLuw0


破壊神の雄叫びは一層勢いを増し、その身を包む鎖の拘束を、脳髄を蝕む『あかりちゃん』を消し飛ばす。
やみのちからの全力解放。
その圧力は攻めの四人の身体を押しつぶさんほどのプレッシャーを放ち、その身に重ね刻まれた傷へとベホマをかければたちまちに最悪の災厄が再臨する。
それだけではない。
周囲を囲むブラックホールの速度が目に見えて増していき、絶望へのカウントダウンが殊更に速くなっていく。

「お遊びはここまでってことか...!」
「まだあんな余力が...私たちには、もう...」

ウィツアルネミテアとの激闘を経て消耗しきった上でも、破壊神にはまだこの参加者たちを全員葬れるだけの力は残っている。
一方の隼人も志乃も、もはやだましだましで身体を動かし続けるのが限界だった。
度重なる激闘に加え、隼人はオーバードーズの負担に、志乃は腹部に刻まれた怪我が尾を引き。

「嫌...まだ、まだもってよあたし!なんにも終わってないんだよ!?」

アリアもまた、フロアージャックの長時間使用につき、その身体がもとの妖精体系に戻りつつある。

「隼人殿、志乃殿、アリア殿。マロの采配を信じていただき感謝するでおじゃる」

ただひとり。
マロロだけは比較的余力を残しつつ、この局面まで粘ることが出来た。

「マロを信じてくれたお陰でここまで辿り着けた...数少ない犠牲でこの戦を凌げれば、マロたちの勝利でおじゃる」

これより魅せるは一人の采配師の大一番。
己の身すら顧みぬ文字通り命がけの術法。

マロロは、隼人、志乃、ジオルド、そしてウィツアルネミテアの残骸から零れ落ち眠るクオンに順に目を遣り、口元を綻ばせる。
死にたい訳ではない。
オシュトルへの恨みを忘れた訳ではない。
しかし、一時とはいえ共に戦ってくれた彼らなら。
共に目的を果たさんと命を賭けてくれた彼らならば。

例え、自分が散ろうともその恨みを引き継いでくれるはずだ。
最早、自分の手でなくとも良い。
誰かが奴を斃してくれればそれでよい。

だからマロロはその足を踏み出す。
彼らの道を切り開くために。
己の復讐心を繋ぐために。

修羅と化した采配師は、友の恨みを晴らすためならば神すら恐れない。
神ですら、己が復讐の火への薪とする。

その想いを体現するかのように、マロロの足元から業かの如く火柱が湧きあがり、渦を巻き、破壊神へと襲い掛かる。
やみのちからによる防壁により、破壊神の身体にはもはや焼き痕などつかない。
しかし、例えその身体には触れずとも、破壊神の身体を覆い切れば視界を塞ぎその動きを止めることが出来る。


302 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:12:34 1d2bRLuw0
【小賢しい真似を】

そのほのおの渦を、破壊神は翼を広げ、その暴風で一蹴。
それでマロロの火柱は消え去る―――はずだった。

【なにっ?】

消えかけた炎の渦は破壊神の起こした気流に乗り再び絡みつく。

(奴の送った塩に縋るのは屈辱でおじゃるが...それが巡り巡って奴の首を絞めることになればそれもまた一興)

マロロの脳裏に過るは、オシュトルたちを一網打尽にしかけたところで策を破られ、自慢げに言い放たれた言葉。
火計とは本来はただ焼き尽くすのではなく風を以て炎を制すること。
マロロは破壊神との戦いの最中、ずっと戦いの中における『風』を分析していた。
破壊神があの腕を振り下ろした時、翼を広げた時、風はどう動くのか。どう移るのか。

その分析のもと、マロロは炎の渦を蛇のように自在に操ることに成功したのだ。

「ハアアアアアアアアアアアアアア!!!」

マロロの雄叫びのもとに籠められる炎の勢いが、渦巻く炎の量が一気に増していく。
彼の脳髄に巣くう『蟲』が、復讐心と求める力に応えてマロロの許容量を超えた氣を産み出していく。
だが。
神を一時的にでも食い止めようとする程の炎が代償無しで生み出せるはずもない。
血涙が、鼻血が、鼓膜からも血が垂れ落ち、彼の化粧をドロドロに溶かしていく。
身体は震え、僅かにでも動けば即座に崩れ落ちるほどの疲労感と苦痛が蝕んでいく。

それでもなお。
ここまで命を削ってもなお。

稼げた時間はせいぜい十数秒。
マロロにとってはあまりにも長く、現実の時間においてはあまりにも短い。

しかし、その僅かな刻が、彼らの命運を決定した。

ブオオォ〜〜

再び、法螺貝の音が鳴り響いた。


303 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:15:47 1d2bRLuw0


カンカンカン

タンタンタン

槌や工具の音が鳴り響き、溶接や補修が施され。

時折、瞬間移動で現れる王の影をたいまつの火で追い払い。

協力して作り上げるは

メタリックな鋼鉄で出来たボディ
先端には、サイコロステーキ先輩の日輪刀の素材である『猩々緋砂鉄』と『猩々緋鉱石』を塗り込んだ2メートル超の巨大なドリル。
スピードを出すことしか考えていないような、幾つも積まれたエンジン。

車を象るものが続々と着けられ―――

最後にバイクを弄れる弁慶がエンジンのメンテナンスを終えれば―――



―――――――――――――――――
| まぼろしの装甲車が完成した!! |
―――――――――――――――――


304 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:17:19 1d2bRLuw0
「良かった...出来ましたぁ〜〜」

汗だくになった早苗がへなへなと力なく尻餅を着き、頬を緩める。
まだ戦いが終わった訳ではないし、窮地を脱したわけでもない。
しかし、この状況においてもモノを作りあげた達成感というものは生まれてしまうもので。

早苗だけでなく、弁慶も、久美子も、ビルドも、みぞれも、咲夜までもがその喜びが身体から溢れんばかりの気持ちになった。

「っとと、喜びに浸ってる場合じゃねえ。ボウズ、速くソイツに乗り込め!」

弁慶の言葉にビルドはハッと顔を上げ慌てて操縦席に着き、その助手席には早苗が、後部座席には咲夜がみぞれに肩を貸しながら乗り込む。
装甲車には運転席と助手席、そして後部座席に二人と最低限の人数が乗り込むだけのスペースしか作られていない。
この装甲のほとんどが破壊神の攻撃に耐えるためだけに作られたものであり、空間を作れば作るほど装甲が脆くなってしまうからだ。

残る弁慶と久美子の二人は乗り込めない。

「あ、あのっ」

ハンドルを握りしめるビルドに久美子が躊躇いがちながらも、それでも意を決したかのように声を振り絞る。

「その、友達の貴方に言うことじゃないかもしれないけど...私、やっぱりあの子を許せない。勝手に襲ってきたくせに、勝手に自殺したと思ったら、こんなことまでしでかして...」

久美子の言うあの子とはシドーのことだとビルドは解釈し、黙って耳を傾ける。

「でも、もっと許せないのは、自分だけ楽になろうとしてること!私だって、苦しくて辛いのに、逃げられないのに...あの子だけ勝手にスッキリするなんてイヤ!だから、もしも言葉が届いたら伝えてほしいの。
このまま何も言わずに逃げだしたりしたら許さないって!」

ビルドはシドーと久美子の間になにがあったかは知らない。
彼の友達に対してこんなことを言うのだから性格も良いとは言えないとも思った。
けれど、シドーに対しての苛立ちは共感できた。
説明もなく、勝手に自己完結して終わらせようとした彼に対して怒りを抱いていたのは、ビルド自身もそうだったから。
だからビルドは久美子の言葉に強くうなずき返した。

「お前たち、俺たちのことは気にせず全力でぶつかってこい!なあに、失敗しても誰もお前たちを恨みやしねえさ」

笑みさえ浮かべそう背中を押す弁慶に、ビルドと早苗は微笑みすら浮かべて頷き、出発準備に入る。
ビルドと早苗、両者の足元にペダルが備え付けられている。
ビルドのペダルはエネルギーを消費し車を前へと進めるもの。早苗のペダルは踏み込むことで彼女の神力ともいえる力を抽出するもの。
この車はガソリンではなく、早苗の身体から搾り取った力をエネルギーとして消費しエンジンとするのだ。

「本当に...はぁっ...ガソリンで動けばよかったのですが...んんっ...ままならないものですね、『奇跡』というものは...ぁッ」

早苗の力が注ぎ込まれ、彼女に脱力感が襲い掛かる。
車を設計する折に、そのエネルギーにまで割く余力はなく、早苗の奇跡を起こす程度の力でも無から有を産み出すほどの時間はなかった。
全てがギリギリの瀬戸際だった為の緊急的な措置である。
エンジンが溜まっていくのを受け、車が光り輝いていく。

ビルドがペダルを踏みこむと、ドリルが回転しながら車体が進み、氷の壁を破壊し、一直線に、高速で走りだす。

その光景を。

光り輝く氷模様を背景に、破壊神へ向かっていく車を見送りながら、『なんだか戦車をRPGゲームに突っ込ませたB級映画のパッケージみたい』なんて場違いな感想を抱き、思わずふふっと笑みを零してしまった。

そして。

オフェンスチームにも知らせるための法螺貝の音を鳴らし、それを合図にコシュタ・バワーも二人のもとへと訪れる。

「ここもそろそろ危ないからよ、俺たちも拝みにいこうぜ。この戦いの果てをよ」


305 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:18:30 1d2bRLuw0



轟音と共に氷の壁を破壊し、破壊神へと迫りくる車を視界に入れたマロロの目が見開かれる。

ついにきた。

この悪魔を止める可能性のある最後の一矢が。
あの車がやみのちからの防壁を破壊し、奴の身体の中に眠る首輪をも貫けば勝てる。

だが。
その為には破壊神を逃がしてはならない。

(マロが...マロがやらねば...!)

マロロは残る力を振り絞り、火勢を増そうとする。
だが。

「ごぽっ」

ボタボタと血が零れ落ちる。
血管が切れ、喉元からは血だまりが吐き出された。

限界だ。
車を完成させるために稼いだ十数秒で、もはやマロロの身体はボロボロだった。

(口惜しや...せめて、せめて一度だけでも...!)

もう一度、火柱を起こそうとするが、生まれるのはせいぜいが小火だけ。
これでは破壊神を抑え込むなど出来やしない。

(こんな...こんなところで...!)

マロロの視界が滲む。
所詮自分はこの程度なのか。
たとえ修羅と化し復讐心の身を費やそうとも。
結局は、ライコウやミカヅチたちのような英傑とはなれず。
この程度しかできない男でしかないのか―――

「まだ終わっちゃいねえええええ!!」

上空からの叫びにマロロは思わず顔を上げる。
破壊神のさらに上、空まで飛びあがった隼人とそれにしがみついてきた志乃とジオルド。
アリアによる強化で残された最後の力を振り絞り、急降下する形でジオルドの炎がやみのちからの防壁の輪郭を露わにし、志乃の罪歌が突くことで穴を空け、隼人のドリルが穴を広げ、微かではあるが背中を傷つける。

彼らの捨て身の特攻の成果は、破壊神の身体にほんの少しの傷をつけただけ。
しかし、彼らのその姿が。
戦友(とも)たちの雄姿が。


306 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:19:06 1d2bRLuw0
マロロに最後の力を振り絞らせる。

(かさねがさねかたじけないでおじゃる...!)

「んあ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」

獣のような咆哮をあげ、血塗れの采配師が再び立ち上がる。
修羅の如き紋様は更に色を濃くし、血だまりは更に地面を赤く染め上げ。
ほんの少しだけ火勢を強くした火柱が、少しだけ破壊神の目を隠すと―――ほどなくして、線が切れたかのように、マロロの身体もまたどさりと崩れ落ちた。

それに微かに遅れて、落下したジオルドは着地をすると志乃の指示に倣い彼女をどうにか受け止め、隼人は受け身を取るのと同時、カタルシス・エフェクトが消え倒れ込む。
彼らを気遣うアリアも、すっかり小さくなった妖精形態で彼らのもとへ飛んでいくが、その軌道はあまりにも拙い。
最早彼らに戦う力はない。破壊神がその気になれば即座に四人を殺せるだろう。

【弱き者よ】

だが。彼は敢えて語り掛ける。
慈愛などなく、死力を尽くした彼らを嘲笑うように。

破壊神の見据える先には、既にビルドたちの駆る装甲車を捉えている。

破壊神は近づいてくるソレに微塵も恐れを抱かなかった。
ビルダーが作り上げたものが故に、警戒する心はある。
だがそれ以上に。
ハーゴン教団が掲げた『破壊』とはただ破壊するだけではなく、希望の芽を見せてから摘んでより濃い絶望を見せつけるモノ。
だから、マロロたちが力を振り絞らずとも、アレが完成した以上は逃げるつもりなど更々なかった。

【よく見ておけ。これが貴様らの生の果てだ】

破壊神の二対の腕が掲げられると、彼の頭上にやみのちからが瞬く間に溜まっていき、一個の黒い球体が生まれる。
それはまさに黒い太陽だった。違うのは、放っているのは熱ではなく全てを呑み込むブラックホールであること。
そんなものをどうしようというのか―――

「まさか...」

ジオルドから思わず漏れたその呟きに、破壊神は口角を釣り上げる。
二対の腕がゆっくりと
黒き太陽を、そのまま装甲車目掛けて放り投げる動作。
まさに太陽を投げつけるようなその姿―――『Stoner Sunshine(ストナーサンシャイン)』とでも名付けるべきだろう。

全ての者に破壊と絶望を与える為、その破壊の技は、たった一つの装甲車に向けて放たれた。


307 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:19:52 1d2bRLuw0


速さは足りている。
だが傾斜が足りない。

ビルドは空に浮く破壊神目掛けて車を走らせる前に気が付いていた。
だから彼女の力が必要だった。
瞬間的に、即効性の足場を作れる鎧塚みぞれの力が。

「これが、最後の...」

破壊神との距離が迫る中、みぞれは力を振り絞り、屋根から上半身を出し狙いを定める。
その視線が向くのは、破壊神そのものではなく、その少し手前の平地。

「お願い...リズと青い鳥...」

掌に載せた氷の鳥を、フッと息で吹くと、鳥は真っすぐ飛んでいき、平地に着地すると、破壊神にまで届く氷の坂道が出来上がった。

「これで私たちはお役御免ね」
「ええ、ありがとうございます咲夜さん」

氷の坂道を作った以上、もはや咲夜とみぞれが居る意味はない。必要なのは早苗とビルドだけだ。
咲夜は既に死に体のみぞれをわきに抱え、時間を止めると装甲車から跳び降りた。

別にみぞれを連れ出さなくてもよかった。
ただ、もし彼女が力尽きて死んで、ビルドたちに動揺が走り失敗、なんてことになれば目も当てられない。
そういった予期せぬトラブルの種を排除しただけであり、決して早苗の言葉に思うところがあった訳ではない―――そう、言い聞かせることで主たるレミリア・スカーレットへの忠誠を忘れていないと自分に証明し、胸の奥底に渦巻くモヤつきを誤魔化した。

(まあ...どのみちアレの前では誤差も誤差だけれど)

しかし咲夜のそのごまかしも、車に迫りくる黒い太陽の前にはあまりにもちっぽけだった。

(本当にありがとうございます)

早苗はみぞれの気持ちを汲んだ上で、彼女を連れていくよう頼んでいた。
それがみぞれの願いであり、彼女の決意を尊重するためだと。
そして今、みぞれは役目を果たした。
彼女だけではない。
久美子も。弁慶も。コシュタ・バワーも。咲夜も。隼人も。マロロも。志乃も。ジオルドも。アリアも。
みんながみんな、己が役目を果たした。
後は早苗とビルドの番だ。


308 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:20:28 1d2bRLuw0
車が氷の坂道を駆け上がり、破壊神へ目掛けて飛んでいく。

「ねえ、ビルドさん。私の能力はただ手品みたいなことが出来る訳じゃないんですよ」

己の身が車諸共、死に近づいていくというのに、早苗の顔色には恐怖の影はない。

「強い信仰のぶんだけ私の力が増していく―――こう見えても私、神様の端くれなんですよ。だから貴方が信じてくれれば私の力で動く車も強くなれます」

それはハッタリかもしれないし真実かもしれない。
この車の大部分を作ったのはビルドであり、早苗たちは仕上を手伝っただけだから。
それでも。
早苗は報いたい。
友を救いたいという一心でここまでやってのけたビルドの気持ちに。
自分が駄目だと微かにでも思えば、彼の、彼らの頑張りも無駄になってしまう。
だから。

「助けますよ、彼を!」

この窮地にも、彼女は笑うのだ。

【消え失せよ、ビルダーよ】
「私の信仰と貴方の破壊、どちらが勝つか勝負です!」

全てを破壊する破壊神の力か。
友を救わんとする信仰か。

二つの神の衝突、その結末は―――


309 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:22:10 1d2bRLuw0


「駄目...!」

神格の域に達する『彼女』であり、第三者の目線だからこそわかる。

全てを破壊する破壊神の力か。
友を救わんとする信仰か。

二つの神の衝突、その結末は、あまりにもあっけない。
微塵も、勝負にすらならない。
装甲車はブラックホールに呑まれ、他の者たちも皆殺しにされる。

そんなわかりきった結末だ。

「ビルド...!みんな...!」

『彼女』は必死に手を伸ばそうとする。
だが届かない。
鳥かごに入れられた鳥のように、叫ぶことしかできない。

【心得よ】

背後よりかけられる声に『彼女』は息を呑む。
誰だ。わからない。けれど、確かにこの声には覚えがある。

【我が力を使えば奴らの道を切り開けるやもしれん―――だが、もしそれを叶えれば我の力は消え失せるやもしれん】

『声』の主は『彼女』を目を隠し優しい声音で語り掛ける。

【奴らはたかだか会って数時間の関係だ。一部の者に至っては敵のようなものだ。その為に、汝は、汝を愛してきた者たちの証を捨て去れるか?】

『声』の主に敵意は感じ取れない。
むしろ自分を気遣っているようにも聞こえる。

【全てを背負う必要はない。愛する者だけを護り、愛する者の為に力を振るう。それを誰が責められよう】
「そう、かもしれない...」

『彼女』は決して自分を聖人君子だとは思っていない。
割と我儘を言うし、好きでもない人を含めて全部救いたいなどとは思っていない。
それは仲間たちもそうだ。
護りたいものを護り、そのために力を振るう。それは誰しも当たり前のことで。
だから、【声】の言っていることも理解している。

「それでも私は、あの子を助けたい」

関わりは決して多くないが、クオンは知っている。
ビルドがひたむきに友を助けたいと奔走していたことを。
そして見せつけられている。
友を止めるために死地にすら躊躇いなく飛び込んでいる様を。

友を見捨てた上で偽りの仮面を被り、『彼』を未だに友だと言い張るオシュトルなんかとは違う彼の力になってあげたい。

友達がいなくなるのは、とても寂しいことだから。

「だからお願い...あの子を助けて!」

『彼女』は己の目を隠していた掌を退けて、【声】に願う。

【...我は根源なる者。自身の願いは叶えられぬ。だが...】

【声】は『彼女』の目を真っ直ぐ見据え、言った。

【我が力を以てして、奴らがどうなるかは奴ら次第だ】


310 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:23:08 1d2bRLuw0


車と黒き太陽が衝突する。

まさにその瞬間だった。

白の巨腕が伸ばされ、黒き太陽を握りしめたのは。

ウィツアルネミテア。

既に敗北を喫したはずの神の腕が、破壊の力を握りしめた。


【馬鹿な...まだ邪魔をするか、根源たる神よ!】

破壊神は怒りに声を荒げる。

『―――――――ッ!』

全てを吸い込むブラックホールとて、神を吸い込むのは容易きことではない。
しかし、もはや力尽きかけている身。
このまま握りつぶそうにも、精々が規模を削るのが限界だ。
故に。

『新人神(ヒト)よ』

ウィツアルネミテアは唯一神格に達している早苗に呼びかける。

『この破壊の力を削り切ることはできぬ―――あとは、其方ら次第だ』

理由はわからないが、ウィツアルネミテアは助け船を出してくれている。
どの道、退く猶予もなにもないのだ。
だったら、進むしかない。

「エンジン全開!このまま掌ごとブラックホールを突っ切ります!!」

ペダルから早苗の力が流れ込み、車は推進力を増していく。
ビルドはそれに応え、全力でペダルを踏み込み、ウィツアルネミテアの掌にドリルを差し込む。


311 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:24:45 1d2bRLuw0
抉る。抉る。抉る。

その果てには―――全てを吸い込まんとする黒い太陽、ブラックホール。

その引力は、発生するエネルギー同士の衝突は、車体だけに留まらず、車内のビルドと早苗にも容赦なくダメージを浴びせる。

「ぐううううううっ!?」
「くぅ、あああああああああッ!!」

まるで万力で挟まれるかのような痛みに二人は悲鳴をあげる。
車から彼らを引きはがさんと、爪が弾け、皮膚が裂け血が噴き出るが、それでも彼らは離さない。

進む。ただ愚直に、友を救うために。

「「いっ...けええええええええ!!!!」」

二人の叫びが重なり、徐々にだが車がブラックホールから引き離されていく。
そして―――

パ ァ ン

弾けた。
ウィツアルネミテアの腕は弾け飛び、ブラックホールを突き抜け、装甲車は征く。
装甲車―――否、もはや装甲は丸裸。天井は剥がれ、装甲を為していたモノも全て剝ぎ取られ。
スクラップ寸前のガラクタに残るは二人の座るシートとペダルとエンジン、そしてドリル。

【よくぞここまで辿り着いたと誉めてやろう、ビルダー】

それを迎える破壊神は逃げも隠れもしなかった。
何故か。
ビルドがやろうとしていることは無駄だと知らしめるためだ。
あんなオンボロの機体で。
あんな満身創痍の姿で。
やみのちからの防壁を突破することなど出来はしないと。

その時こそ、至極の破壊を満喫できるはずだ。

おんぼろの機体にドリルが着弾し、哀れその機体と共に彼らもまた崩れ落ち―――

【なんだと?】

なかった。


312 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:28:24 1d2bRLuw0
このドリルはただの無機物による削岩機ではない。
早苗の神力とも呼べる、彼女の力の源をエネルギー源として動いている。
それは即ち、破壊神のやみのちからの防壁を突破できる早苗の力を纏っていること。
加えて。
彼らは一度、ウィツアルネミテアの掌を貫通することでその体液を手に入れている。
そしてそれをサイコロステーキ先輩の刀から取り出した、陽光を―――光の力を有する『猩々緋砂鉄』と『猩々緋鉱石』が浴びればその輝きは更に増す。
偶然にも二つの神力を纏ったそのドリルは、破壊神の防壁を打ち消すに足る力を有していたのだ。



こじ開けられていく防壁に、初めて破壊神は焦燥を浮かべる。

このままアレを受けるべきではない。
本能がそう訴えかけてくる。

もはや避けきれぬところまで近づく車。
だが、破壊神には唯一避ける手段がある。

虚空の王。自在に瞬間移動できる空間移動の術が。

破壊神がそれを発動しようとしたその時。

空気が。音が。時間が。破壊神以外の全てが静止した。
先の小蠅の小細工か。そう察し、慌てることは無い。

(無駄だ。時間を止めようとも我が動きは止めれぬ)

構わず、虚空の王による瞬間移動を発動しようとするも―――移動できない。

【!?】

困惑を浮かべる破壊神。
その疑問に答えるように、いま一時だけの支配者はぽつりと呟く。

「瞬間移動とは要するに空気に乗り移動すること...貴方自身が動けたところで、他の空気が止まっていれば、瞬間移動などできるはずもない」

ただ傍観していただけでなかった。
ただ腐っていたわけではなかった。

破壊神とウィツアルネミテアの戦いを彼女は見ていた。
その行動パターンも大まかには覚えていた。
だから、時折見せていた瞬間移動を使うならここしかないと思っていた。
咲夜のその直感は的中した。


313 : 英雄の唄 ー 五章 STAMPEDE ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:29:45 1d2bRLuw0

そして時が動き出す。

破壊神以外の全てが再び動き出す。
もはや逃げ道はない。
横やりを挟む隙間もない。

ただ、互いの信仰への信頼がぶつかり合う。



【―――ビルダアアアアアアア!!!】



破壊神は宿敵を。



「シドオオオオオオォォォォォォ!!!」



少年は友の名を。



そして。



二つの強大な力の衝突の果てに。



長き戦いに決着がついた。


314 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/11/29(火) 00:30:44 1d2bRLuw0
一旦ここまでで投下終了です。続きはまた近日投下します


315 : ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:10:12 9bt6SDTk0
皆さま、投下お疲れ様です。

投下開始します。


316 : 裁定、そして災害(前編) ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:12:53 9bt6SDTk0
 一人の漢が歩き続ける。
 剛腕のヴライ。

 仮面の者(アクルトゥルカ)にして、ヤマト八柱将の一人。
 シドーとの闘いを経て、わずなか小休止をしただけで再び動き出した。

 当初はシドーの後を追う気でいたが、今は見失ってしまっている。
 だが、帝の遺物を傷つけられた怒りはなおも消えていない。燃え上がるような怒りを抑えながらも歩き続ける。

 参加者を見つける。
 その参加者を屠る。
 ヴライのやる事は変わらない。

 下らぬ小細工も、同盟者も不要。
 それは今後も変わらない。

 本来であれば、このような方針は愚策もいいところ。
 ヴライといえども、侮れない実力を持った参加者が多数、参加しているこの戦いで、単独で活動し、力押しのみで優勝しようなどは不可能に近い。

 事実、この戦いでもトップクラスの実力を持つ参加者達も、早々に単独での優勝、あるいは主催打倒の困難を悟り、利害の一致による同盟や、本性を隠して集団に溶け込もうとする者達が続出した。
 そんな中、ヴライは一切の妥協をすることなく単独での生き残り方針を
変えず、ただひたすらに戦い続けた。

 だが、逆に言えば。
 このような方針を続けながらも、参加者が三分の二にまで減じた二度の放送を生き残っているのは彼の実力あっての事だといえる。

 放送がはじまって退場者の名前が呼ばれ続けても、ヤマト最強の漢は歩みを止めない。
 もとより、全ての参加者を殲滅し、ただ一人で勝者となる気でいるのだ。何人の名前が呼ばれたところで、ただ退場する順序が変わるだけだ。

 それでも。


『――ミカヅチ――』


 ただ一人、今回呼ばれた中では唯一の同郷である名前が呼ばれた時にはわずかな間ではあるが足を止めた。

 ミカヅチは間違いなく仮面の者(アクルトゥルカ)に選ばれるだけの力もある。
 だが、そんな相手ですら放送二回目にして退場した。

 彼とは帝への忠誠という点では、間違いなく同じだったはずだ。
 だが、帝の子であるアンジュに対する評価には大きな隔たりがあった。

 あの漢は、アンジュの事も帝の後継たる器があると認め、変わらぬ忠誠を誓っていた。
 その時は、失笑した。
 ただあの偉大な御方の子というだけで、寵愛を受ける小娘を盲目的に忠誠を向ける滑稽さを嘲笑った。

(だが、違った。それは我の誤りだった)

 今は認めよう。
 ミカヅチは正しかった。
 アンジュは、確かに帝の地位を引き継ぐに足るだけの気概と器があった事をこのヴライに確かに見せつけたのだ。

 しかし、それでも帝そのものではない。帝を継ぐ資格があっただけ。真の覇者たるものはこのヴライ。
 あの御方の後継たるは自分のみ。
 その思いは変わらない。

 一瞬だけヴライは瞳を閉じ、わずかな間をおいてから、再び進みだす。
 ヴライの方針は、今もなお変わらない。手あたり次第に参加者を見つけ、屠る。
 それを繰り返すだけだ。

 そして最終的にはこのような下らぬ催しを企んだ女共も一片の慈悲も与える事なく、屠り尽くす。
 ただそれだけの話だ。

 再びヤマト最強は動き出す。
 シドーを見失い、オシュトルの居場所も分からない今、明確な目的地はな
い。ただ、人が集まりそうなところへと向かっていくだけだった。



◇ ◇ ◇




「……」

 病院の一階。
 いわば、ここは法廷だった。
 被告人であるフレンダの、これまでの罪の有無を問うための法廷だ。

 検察側は、カナメと霊夢。
 弁護側――というべき立場なのがブチャラティと九郎なわけだが、現状は中立寄り。
 彼らも多少の差はあれどもフレンダを疑っており、この際だから聞いておくべきか、などといった態度。

 そんな四人を前に、フレンダは悩む。


317 : 裁定、そして災害(前編) ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:15:36 9bt6SDTk0

「えっと、その……」

「できる事なら自分の口から話したら? その方がコッチとしては楽なんだけど」

 竜馬のような凶悪な面というわけでもないが、見る者を威圧するだけの力が霊夢の瞳には浮かんでいる。

「う……」

 何か手はないか、とこの期に及んでも考える。

「その、まださっきのスタングレネードの影響で声がよく聞こえなくて……」

「ちゃんと反応してるじゃねえか」

「えっと、そういえばライフィセットは大丈夫なのかなー、と心配に思うわけよ」

「今はシルバについてもらっている。何か容態が急変すれば、すぐにでも呼ぶように言ってある。それよりも、今は君の話を聞きたい」

「ぐぐ!?」

 せめてもの時間稼ぎを考えるフレンダだが、その悉くが論破されていく。

「ねえ、やっぱりコレの方が手っ取り早くない?」

 そんなフレンダに業を煮やしたのか、霊夢が再び針を手にする。

「あ、えっと、その……」

 タイムリミット。
 やはり万事休すか、と思われた時。

「待ってください」

 これまで、フレンダへの尋問を見ながらも外の様子を伺っていた九郎が口を開いた。

「誰か来ます」

「何?」

 新たな来客に、皆の様子も変わる。

「すみません。ちょっと、対応してきます」

 そう言って九郎が出ていく。

 乗った側が来てしまえば危険ではある。
 だが嫌な言い方にはなるが、この中で最も危険に晒して問題が少ないのは九郎だ。
 くだんの力が使えないとはいえ、人魚の力がある以上、王のような初見殺しの一撃を食らっても致命傷にはならない。
 とはいえ、不死者相手に攻撃できる手段や能力が存在する可能性がある以上、完全とはいえないが、それでも最も安全な事に代わりはない。

 そんな中、フレンダ裁判は中断され、新たな来客が来るまで沈黙が場を支配する。

 乗った側か。
 むしろ、主催打倒の側か。
 あるいは、ただの一般人。
 この中に知り合いはいるのか。

 皆が警戒心を高め、様々な可能性が全員の頭の中で駆け巡る。

 そんな中、唯一フレンダだけは、

(キターっ! やっぱり、まだ運は尽きてなかったってわけよ!)

 予期せぬ来客に、内心で歓喜する。
 何とか有耶無耶にできるかもしれない、と考えたフレンダだが、すぐに冷静さを取り戻した。

(けど待って! そいつがまた竜馬やレイン達から話を聞いてきた参加者の可能性だってあるし、むしろそっちの方が高い気が……)

 会場内でフレンダが自分優位な事を吹き込む事ができてなおかつ、今も生存しているのは、ブチャラティ達を除けばシグレとメアリのみ。竜馬ら三
人から自分の悪事をバラされた参加者の方が圧倒的に多いはずだ。
 かといって、どちらの悪評も聞いていない者ならばとりあえず中立となり、良くて九郎とブチャラティと同じ立場になるだろう。

(やっぱダメ! 来るならもっと、この状況を滅茶苦茶にしてくれるヤツ!)

 いっその事、麦野でも来てくれないかと思うが、残念ながら麦野は麦野でいろいろとマズイ要素が多い。
 最悪、自分が最優先ターゲットにされてしまうかもしれない。

 こんな詰みの局面をひっくり返してくれるのは、もう盤上ごとぶっ壊してくれるヤツ以外にない。

(もう殺し合いにのっているヤツでも何でもいいから!)

 そうなってしまった場合、当然自分も危険に晒される羽目になるわけだが、それに気が回らないくらいには今のフレンダは追い詰められていた。
 自分を殺しかけた仮面の漢でもこの際いい――などと思い始めた時、九郎が再び参加者を連れて現れた。

 残念ながら、フレンダの期待は裏切られた事を悟る。
 素直に九郎の案内を受けている事から、問答無用で襲い掛かるような輩ではないようだ。

 しかもその相手には一瞬、こちらの姿を見てから、

「フレンダ=セイヴェルンか?」

 などとフレンダの名前を呟かれた。


318 : 裁定、そして災害(前編) ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:18:21 9bt6SDTk0



◇ ◇ ◇



 梔子が、病院へと到達したのは、静雄とレインと別れてさして時間をおかずにの事だった。

 炎ほどのトラウマがあるわけではないが、病院は好きではない。
 どうしても、最期に面会した姉の事を思い出してしまうからだ。

 もっとも、病院は様々な死に関連する施設。事故だけでなく、病気などもある。
 梔子のような特殊ケースでなくとも、家族との別れの場となる事が多く、あまり良い思い出があるという者はいないだろう。

 その入口で出会った桜川九郎と名乗った男に案内され、病院の内部に入る。
 が、その中は無残な状況だった。
 あちらこちらにある戦闘の後に加え、大量の針がささっている。
 明らかにただ事ではない。

 そして、その中心にいる少女。
 見覚えはない。だが、外見がこれまでの同行者達から聞いていたある参加者と一致する。

 フレンダ=セイヴェルン。
 梔子が彼女と会うのはこれがはじめて。
 だが、これまでの同行者達とは何度も関わっている。

 彩声に偽りの情報を吹き込み、竜馬といらぬ対立を生み出し。
 煉獄の死には大きく関与している可能性が高く。
 静雄にも偽りの情報を吹き込んで竜馬と対立をさせた。
 レインには見破られ、彼女を叩きのめして支給品を巻き上げたらしい。

 完全に危険人物といってよく、個人的にもあまり好印象を抱けない相手だった。

 だが、その事をすぐには指摘しなかった。
 まだ、どういう状況か分からない。

 一見すると、訊問でもしているように見える状況だ。
 少なくとも、凶悪な参加者に襲われた哀れな被害者を見る目で見られてはいない。

 彼女がこの時点で属しているグループでどういう立ち位置にいるかはわからない。
 彩声や静雄のように利用されているだけの集団なのか、それとも分かった上で彼女と共犯関係にある琵琶坂のような外道の集団なのか。

 それによって、こちらの対応もまるで変わる。

(そんなに悪い人達には見えないが)

 この場にいるのは、九郎以外にブチャラティ、博麗霊夢、カナメと名乗った者達。
 それ以外にも、病室にも他の仲間がいるらしい。

 あくまで、梔子の第一印象の話ではあり、彼らも何かしらの本性を隠している可能性もある。
 それでも、かつて幼かった頃、若きエリート弁護士として紹介された時の琵琶坂のような胡散臭さは感じない。

 フレンダにしても悪事が露呈して問い詰められている――そんな風に見えるが完全に警戒は解かない。

「なあ、アンタ。コイツの事を知っているのか?」

 名乗られる前からフレンダの名前を知っていた事を疑問に思ったらしく、梔子にカナメが問いかける。それに梔子が答えようとするよりも先に、

「待って」

 霊夢がそれを止めて、フレンダに視線を移す。

「その前に、コッチを優先させた方がいいんじゃないの? 後付けで、適当な出まかせを言い出されたら困るし」

「……そうだな」

 その言い分に納得したようにカナメも頷いた。

 適当な事をフレンダが言い出したとしても、矛盾があれば即座にそれを指摘する。そういうやり方でいった方が良さそうだ。

「う、その……」

 フレンダは、視線をずらして周囲を見渡す。

 カナメ・霊夢は言うに及ばず。
 ブチャラティと九郎も中立を貫く様子。
 ライフィセットは病室のまま。
 梔子という新たな参加者も、竜馬、あるいは静雄やレインと接触している可能性が高い。


319 : 裁定、そして災害(前編) ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:20:46 9bt6SDTk0
 何とか適当な自分優位な話をしようかとも考えるが、カナメや梔子がどこまで知っているかが分からない以上、矛盾が出てしまう可能性がある。
 この状況下でさらに嘘を重ねれば、今は中立の九郎達ですら敵に回ってしまう可能性もある。

 たっぷり――といっても時間にして十数秒ほど――の沈黙の後、フレンダも決断せざるをえなくなった。

 ――そして、フレンダは話し始めた。

 この会場に来て幾度目かの、それでありながら嘘がいっさい混じらないこれまでの軌跡を。



 最初に会場に来て竜馬との接触して殺害しようとしたのも失敗した事。
 彩声を利用――これに関しては勝手に暴走してしまったのはフレンダからしても想定外だったものの――した事。
 静雄とレインと出会い、彩声同様に利用しようとしたものの途中でレインに見破られたので支給品を奪って逃走した事。
 その途中、仮面の漢に殺されそうになったところを煉獄と名乗った男に助けられた事。
 そこから他の参加者二名に出会った後、ホテルに来た事。

 今回に限ってはいっさいの嘘偽りない話をした。

 ある程度、話を聞いていた様子のカナメと霊夢。それに梔子はそこまで動揺した様子はないが、何か隠し事をしていると疑っていたとはいえはじめて聞いた九郎とブチャラティは少し驚いていた。
 難しい顔をして二人とも考え込んでいる。

「……それで、何か弁明はあるのか?」

 そんな中、全てを話し終えたフレンダに、最初に尋ねたのはカナメだった。
 その言葉にフレンダはもじもじとしながら、

「べ、弁護士を呼んで欲しいかなー、何て」

「いや、こんなところにいるわけねえだろ」

 とフレンダの言葉を、呆れた様子でカナメは切って捨てる。
 霊夢もそれに同意しかけるが、

「いや、そういえばいたわね」

 と不意に思い出したように言った。
 早苗達と情報交換をしている際に、みぞれという少女が話していたはずだ。

「確か、参加者の一人に横領だか何かしたっていう弁護士がいたはず――」


「――何!?」


 言いかけた霊夢を、これまでほとんど会話に加わる事のなかった梔子が食い入るように声を荒げる。

「その話、詳しく聞かせろ!」

「ちょ、ちょっと。そんなに迫らないでよ」

 これまで大人しく聞いているだけだった梔子の豹変に、この場にいる者も戸惑っていたが、ブチャラティがそれを諫めた。

「落ち着いてくれ。そんな風に詰め寄られては話せるものも話せなくなるだろう」

「――っ! す、すまない」

 梔子も思わぬところから情報が入ってきて興奮してしまったが、それを抑える。

「どうやら、君も何か求めている情報もあるようだ。ここは、落ち着いて情報交換をしないか?」

 本来なら、もっと早くにやるべきだったかもしれないが、フレンダから話を聞き出すために後回しにしていた事だ。
 霊夢たちも納得したように頷き、互いの知る情報が出し合われた。



「なるほど、確かにあんたの言っている事に間違いはないようね」

 霊夢がフレンダを見て言う。
 ひとまずは、梔子の証言からフレンダの言っていた事の裏付けがされた。これまでの彼女の同行者だった煉獄、彩声、静雄、レイン。
 全てがフレンダ被害者の会といってもいい面子だ。
 唯一竜馬のみがいないが、彼についても静雄とレインから話を聞いてはいる。


320 : 裁定、そして災害(前編) ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:22:38 9bt6SDTk0
 そんな彼ら、彼女らから話を聞いていた梔子の話からも概ね、先ほどの自供は真実と見ていいだろう。

 ただ唯一、煉獄殺しの疑いのみは証人がいないため、潔白が証明はできなかった。
 その相手――ミカヅチは既に退場済みでありフレンダはその名前すら知らないままなので、証明しようがない。

(俺の名を騙っていたという存在。やはりあんたなのか? ボス)

 続いて、ブチャラティも、霊夢やカナメの知る「自称」ブチャラティについての詳しい話を聞いて考える。
 話を聞く限り、表面的には何か問題を起こしているわけでもなく善良な人物として振舞っているようだ。
 フレンダのように、ジョルノやリゾットといったブチャラティ以外にも始末したいであろうターゲットの悪評を流したというわけでもないようだ。
 だからといって安心していい相手ではないし、要警戒といったところだ。

 ちなみに、霊夢とカナメとして二人のブチャラティ問題に関しては保留とした。
 このブチャラティに怪しい点はないが、もう一人のブチャラティの方も、それなりの時間を共に行動していた早苗に聞く限り露骨な問題行動を起こしたというわけではない様子なのが二人の判断を迷わせた。
 元はリゾットの支給品であり、今は垣根の持っている顔写真付きの参加者名簿のようなものでもない以上、この話は水掛け論となる。

「ひとまず、佐々木志乃さんの無事が確認できたのは良かったですね」

 九郎が呟くように言う。
 アリアの言っていた佐々木志乃。
 罪歌、という問題はあるにせよ、ひとまずは無事だった事が判明した。

「ああ、例のジオルドも無力化されているならば、それはそれで安心ではあるが……」

 さらには、問題人物であるジオルド・スティアートも大人しくなっているようだし、洗脳という箇所に抵抗感はあるにせよ懸念事項が一つなくなった事になる。

 とにかく、この件はアリアが任せろと言っている以上、彼女に一任する気でいた。

 もっとも、あの直後にシドーらの乱入によって、志乃やジオルドらが戦闘に巻き込まれた事を霊夢は知らない。
 よって、ブチャラティと九郎がひとまずは無事でいた彼女らを下の優先順位に置いてしまう事は仕方のない事だった。

「あんたらもあいつに襲われていたんだよな」

「ああ、正確にいうなら俺は襲われていない。九郎とこの場にいない新羅。それに今も病室で寝ているライフィセットという仲間だ」

 こちらはフレンダ被害者の会とは別に、ジオルド被害者の会ともいえる一同である。

「大丈夫なのか?」

 カナメも先ほど、九郎の言っていたグレネードから庇ったという相手であろう事を思い出す。

「良くない。今も安定している、とは言い難い」

「……そうか」

 ブチャラティの言葉に、カナメも険しい顔になる。
 王やフレンダのような輩ならともかく、巻き込まれた側の者だ。当然、心配にはなる。
 だが、カナメはカナメで優先すべき事がある以上、こちらの問題はブチャラティ達に任せるしかない。

 そして、今現在片付けなければいけない問題の存在へと視線を動かす。
 霊夢も気づいたのか、同様の相手の方を向く。

「……さて、一通り済んだ事だし、まずは目の前の問題を片付けちゃいましょう」

 霊夢の言葉にフレンダがビクリと固まる。
 情報交換をしている間、判決は先延ばしにされたいたが、ついにその時が来たのだ。

「正直な事を言えば、俺は今でも殺すべきだと考えている」

 その言葉に、フレンダの顔は先ほど以上に青くなる。


321 : 裁定、そして災害(前編) ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:22:39 9bt6SDTk0
 そんな彼ら、彼女らから話を聞いていた梔子の話からも概ね、先ほどの自供は真実と見ていいだろう。

 ただ唯一、煉獄殺しの疑いのみは証人がいないため、潔白が証明はできなかった。
 その相手――ミカヅチは既に退場済みでありフレンダはその名前すら知らないままなので、証明しようがない。

(俺の名を騙っていたという存在。やはりあんたなのか? ボス)

 続いて、ブチャラティも、霊夢やカナメの知る「自称」ブチャラティについての詳しい話を聞いて考える。
 話を聞く限り、表面的には何か問題を起こしているわけでもなく善良な人物として振舞っているようだ。
 フレンダのように、ジョルノやリゾットといったブチャラティ以外にも始末したいであろうターゲットの悪評を流したというわけでもないようだ。
 だからといって安心していい相手ではないし、要警戒といったところだ。

 ちなみに、霊夢とカナメとして二人のブチャラティ問題に関しては保留とした。
 このブチャラティに怪しい点はないが、もう一人のブチャラティの方も、それなりの時間を共に行動していた早苗に聞く限り露骨な問題行動を起こしたというわけではない様子なのが二人の判断を迷わせた。
 元はリゾットの支給品であり、今は垣根の持っている顔写真付きの参加者名簿のようなものでもない以上、この話は水掛け論となる。

「ひとまず、佐々木志乃さんの無事が確認できたのは良かったですね」

 九郎が呟くように言う。
 アリアの言っていた佐々木志乃。
 罪歌、という問題はあるにせよ、ひとまずは無事だった事が判明した。

「ああ、例のジオルドも無力化されているならば、それはそれで安心ではあるが……」

 さらには、問題人物であるジオルド・スティアートも大人しくなっているようだし、洗脳という箇所に抵抗感はあるにせよ懸念事項が一つなくなった事になる。

 とにかく、この件はアリアが任せろと言っている以上、彼女に一任する気でいた。

 もっとも、あの直後にシドーらの乱入によって、志乃やジオルドらが戦闘に巻き込まれた事を霊夢は知らない。
 よって、ブチャラティと九郎がひとまずは無事でいた彼女らを下の優先順位に置いてしまう事は仕方のない事だった。

「あんたらもあいつに襲われていたんだよな」

「ああ、正確にいうなら俺は襲われていない。九郎とこの場にいない新羅。それに今も病室で寝ているライフィセットという仲間だ」

 こちらはフレンダ被害者の会とは別に、ジオルド被害者の会ともいえる一同である。

「大丈夫なのか?」

 カナメも先ほど、九郎の言っていたグレネードから庇ったという相手であろう事を思い出す。

「良くない。今も安定している、とは言い難い」

「……そうか」

 ブチャラティの言葉に、カナメも険しい顔になる。
 王やフレンダのような輩ならともかく、巻き込まれた側の者だ。当然、心配にはなる。
 だが、カナメはカナメで優先すべき事がある以上、こちらの問題はブチャラティ達に任せるしかない。

 そして、今現在片付けなければいけない問題の存在へと視線を動かす。
 霊夢も気づいたのか、同様の相手の方を向く。

「……さて、一通り済んだ事だし、まずは目の前の問題を片付けちゃいましょう」

 霊夢の言葉にフレンダがビクリと固まる。
 情報交換をしている間、判決は先延ばしにされたいたが、ついにその時が来たのだ。

「正直な事を言えば、俺は今でも殺すべきだと考えている」

 その言葉に、フレンダの顔は先ほど以上に青くなる。


322 : 裁定、そして災害(前編) ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:24:48 9bt6SDTk0

 情報交換している間は、刑の執行が先延ばしにされとはいえ、フレンダの処遇は未だ決まっていない。

「けど、それをやるべきなのは、コイツに騙された竜馬やレイン達だ。無関係の奴らに裁かれましたなんて言われても、気は晴れねえし満足なんてしねえ」

 その事は、カナメ自身がよく知っている。

(あのクソ野郎がくたばった時に、よく分かった)

 王は、今この瞬間にも、目の前にいれば八つ裂きにしてやりたい存在だ。その王が死んだなどと、霊夢から聞かされ、放送でも確定した。
 その瞬間、カナメの心は晴れなかった。それどころか、鬱屈とした思いを抱える事になっただけだった。

 だから、分かる。
 ここで、カナメがフレンダを殺したところで竜馬もレインも、会った事はないが静雄という男も喜びはしないだろう。
 無関係の第三者によって達成される復讐など、空しいだけで何の意味もない。

「でも、コイツを生かしておいた方が危険なんじゃないの?」

 霊夢はその言葉を咎めるでも激昂するでもなく、尋ねる。
 許す許さないなどといった感情的な問題はともかく、フレンダは殺し合いを加速させる要因になりかねない。

「ああ。だが、コイツの評判は既に最低。もうかなりの人数がこいつの悪行を知った。悪評を振りまく策はもう使えねえ」

 今や、フレンダの悪評は多くの参加者に広まってしまった。

 ここの病院組に加え、北宇治高校にいる面々。さらには、レインや静雄。
 彼らは知らないが遺跡にいる者達も竜馬経由でそれを知り、麦野らのグループとは敵対確定。

 もはやフレンダの事を知らない他の参加者に竜馬達の広めようにも、それは難しいだろう。仮に、ここから逃げ出し、他のグループに取り入ったところでいずれはフレンダの悪行を知るグループと接触してしまう可能性が高い。
 単独で優勝できるような圧倒的な力がフレンダにない以上、仮にこの場から逃げ出したところでフレンダは詰みなのだ。

「それでどうするの? 無罪放免?」

「まさか。さっきも言っただろ。コイツに罰を与えていいのは竜馬やレイン達だって」

「つまり?」

 結論を促す霊夢にカナメが答える。

「フレンダから被害を受けた連中。竜馬や、レインと一緒にいるらしい静雄って奴に、コイツを任そうと思う」

 その言葉に「え」と固まるフレンダをよそに、霊夢が重ねて聞く。

「そいつらに処遇を委ねるっていうの?」

「ああ。幸いにも、レイン達は近くにいるようだしな」

「コイツを連れていく気?」

「ああ」

 幸い、梔子がレイン達と別れてからさほど時間は経っておらず、距離もそこまで離れていない。
 別れた場所からして、禁止エリアの関係で西の方に行った可能性は低く、さらに梔子とは別方向という事である程度は場所が絞り込める。

「そう言っているけど、あんたらはどうなの?」

「確かに、お前たちの言う事は正しい。この催しで最も警戒すべきは、主催者だが、それに次いで危険なのは積極的にのる参加者だ」

 チョコラータや王のような輩はもちろんとして、恐怖に負けて殺し合いにのる者達もそれは同様。
 被害者となった参加者からすれば、それは関係のない事なのだから。

 だが、とブチャラティは続ける。

「それでも彼女は俺達のチームとして、助けられもした。それに、殺し合いに乗っているからといって殺してしまっては主催の思うツボだ」

 そこまで言ったブチャラティに、フレンダも一瞬、目を輝かせるが、

「――だから、殺させるのだけは止めてくれ」


323 : 裁定、そして災害(前編) ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:29:26 9bt6SDTk0
 次の言葉に再び固まる。

 フレンダの殺害には断じて反対するが、ある程度の制裁は許容する。それがブチャラティの決断だった。

 何せ、やった事が事だ。
 お咎めゼロにしてしまう事はできない。
 九郎も特に異論はないようだ。中立な立場に徹していた彼からしても、過剰な制裁を望む気はないいが、さすがにこのまま何もなしではフレンダ被害者の会の面々も納得しないだろう。

「分かったわ。つまり、殺されるのだけは止めればいいのね」

「え、えっと……」

 フレンダは口ごもる。
 死を免れたのは良かったが、あの竜馬や静雄から制裁を受けるのは覚悟しなければらない。
 そのまま勢いで殺されました――などという事にならないだろうか。

「何か不満でも?」

「――ぐ、わ、わかったってわけよ」

 だがフレンダからしても、とりあえず死刑判決は覆り、減刑されたのだ。
 これ以上、下手に抵抗するのは逆効果と判断し、項垂れる。

 とにかく、竜馬や静雄に会ったなら、土下座でも何でもして少しでも処罰を軽くする事に尽力するのみだ。
 多少は殴られはするかもしないが、やりすぎとなれば今のブチャラティとの約束もあるし止めてくれるだろう――と半ば自棄になりながらも納得する。

「あんたもそれでいい?」

 霊夢の言葉にそれらのやりとりを黙って聞いていた梔子も、頷く。

「構わない」

 レイン達との証言にも矛盾はない。そして、フレンダは梔子がレイン達と会っていることすら言っていない。
 この点から、適当なことを言ったわけではなく、彼女の言ったことはおそらく本当だろう。

 その上で、ブチャラティ達が受け入れる方向でまとまるというのであれば口を挟む気はなかった。

 直接の仇ではなかったにせよ、煉獄の死には関与しているし、竜馬が本当に危険人物であったならば彩声もその時点で死んでいた。
 そういった点から、思う事もあるし、フレンダに対する感情は良くない。
 だが、それでも糾弾する事はなかった。

(すまない、天本彩声、煉獄さん)

 既に亡くなっている二人に心の中で謝罪する。

 二人の件で、フレンダに思う事はある。だが、ここでまとまった空気をぶち壊し、会ったばかりの霊夢やブチャラティ達との関係を悪化させない方を優先したのだ。

 それに、ようやく手にした仇の情報。
 その事が、自分が虚構かもしれないという事実を多少は薄れさせてくれる。

(琵琶坂永至……)

 可能性としては低いが、自分と出会う前。そして弓野家への放火の前からであるなら、復讐心に戸惑いが生まれたかもしれない。
 しかし、間違いなく自分の仇敵である琵琶坂永至だと確信が持てた。
 霊夢の言うみぞれという少女の証言を聞く限り、間違いないだろう。

 可能であれば、直接会って話を聞いてみたい気もしたが、残念ながら彼女が会っていたのはゲーム開始直後でわずかな期間。今の霊夢の証言以上の情報は期待できないだろう。

「その上で一応聞くが、フレンダ。煉獄さんを殺したのはお前ではないのか?」

「ち、違! 今更、嘘はつかないからっ」

 フレンダはものすごい勢いで首を左右に振る。

 結局、煉獄殺しの無罪を証明する事がフレンダはできない。
 あの場で唯一の証人になれるミカヅチは既に放送で名前を呼ばれており、フレンダはその名前も知らないままなのだ。

「どうだか」

 そんなフレンダに霊夢は疑わし気な視線を送る。
 はっきり言って現時点でのフレンダへの信用は最低といってよく、当然といえば当然だ。


324 : 裁定、そして災害(前編) ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:31:29 9bt6SDTk0
 そんな空気の中、ブチャラティが口を開く。

「しかし、その煉獄という男の言っていた鬼舞辻無惨という奴が垣根の言っていた鬼舞辻無惨と同一人物の可能性は高いな」

 梔子からジョルノの仇でもある無惨の情報が入った事は、ブチャラティにとっても僥倖ではある。

 だが、残念なのは梔子の知る情報は今は亡き煉獄からの又聞きの情報に過ぎないという点か。
 鬼と呼ばれる一味の首魁である危険人物である事など、基本的な情報は分かるが詳細までは分からない。

「それでも、垣根に知らせれば多少の助けにはなるかもしれないが……」

 そんな情報であっても、ないよりはマシかもしれない。
 また会う機会があれば、一応垣根は伝えようとブチャラティは考える。

「その垣根帝督、だっけ? そいつも無惨って奴を狙っているのよね」

「そうだ」

 現状、魔理沙の件がある以上、ウィキッドを優先するが、鈴仙の事がある無惨も機会があれば顔ぐらいは拝んでやろうと考えた相手だ。
 相応の実力を持つようだし、場合によっては対無惨で共闘を考えてもいいかもしれない。

 ――もっとも、無惨とウィキッドの両名はこの時点で同じ場所にいるわけだが、そんな事を霊夢は知るはずがなかった。

 さらには無残は早苗からの情報によれば、「冨岡義勇」あるいは「月彦」と名乗っている人物と同一人物の可能性が浮上した。
 霊夢はどちらも本物を知らないがブチャラティの例もあり、名を騙っている可能性が高い。

「あー、そういえばアンタ、Storkの仲間だったんだよな?」

 ここでふと思い出した様子でカナメが梔子に声をかける。

「一応はそうなる」

 楽士達はお互いに隠し事はあり、心の壁があった。みんなが固い信頼関係で結ばれた仲間です――などとは口が避けても言えないが、それでもStorkとも、最初に殺された少年ドールとも悪い仲ではなかった。

「すまなかった。俺がもっとうまくやっていれば、アイツが死ぬ事もなかったはずだ」

 Storkの件に関して、カナメは謝罪する。

「状況を考えれば、仕方がないと思う。気にしないでくれ。むしろ、最期を伝えてくれて感謝している」

 Storkの変態行為に関しては思う事はありはしたが、別に嫌いではなかった。誕生日会で倒れかけた時などにも、即座に助けに動いてくれたし、根本の部分では真面目な人間だったと思う。
 少なくとも、琵琶坂やウィキッドなどと比べればずっと。

 この世界が虚構かどうかの問題はいったん、置いておくとして、その死を悼みはするし、死に際の様子を知れた事で多少は救われた。

「それでアンタ、ウィキッドに関して何か情報でもないの?」

 霊夢が傍らから口を挟む。
 彼女らがウィキッドをターゲットにしている事は聞いているが、別に止める気も妨害しようという気もない。

 一応は仲間だったとはいえ、こんな状況で庇う気はないし、何より彼女らがウィキッドを狙う動機は十分に理解できてしまうから。

「それほど知っている事は多くない」

 だが、残念ながら梔子からしてもウィキッドに関してそれほど多くの情報を持っているわけでもないが、一応は知りうる限りの事は話した。

「それでカナメ。これからどうする気なの?」

「まずはレイン達との合流だな。そこに、コイツもつれていく」

「ちょ!? 痛いって、引っ張らないでよ!」

 カナメはフレンダの腕を掴んで立たせる。

「まあ、レインってあんたの仲間との合流は元々の予定だし、当然といえば当然ね」

「さっき言ったように、コイツにもそこで謝罪させる」

 カナメとしては、リュージとレインを秤にのせるつもりはないが、現時点で優先すべきはすぐ近くにいると分かっているレインだ。
 ブチャラティからリュージの初期情報が手に入ったとはいえ、半日も前の情報だ。明確な目的地があるわけではなかったようなので、今はどこにいるかも分からない。
 ならば確実にレインと合流し、フレンダにけじめをつけさせた上で奪った支給品も返却させる事が先。
 それが、当面の目標だった。

「それじゃ、私も付き合うわ」

「いいのか?」


325 : 裁定、そして災害(前編) ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:33:52 9bt6SDTk0
「ええ。アンタ一人じゃ、何かのきっかけでコイツを殺しかねないし。コレの借りがある分、殺させないって約束ぐらいは守ってやるわよ」

 そういって、しっかりとくっつけられた二本の指を見せつける。
 霊夢にとっての病院に来た目的である指の接合は、ブチャラティのスタンドによって思ったよりもあっさりと、先ほど話をしている間に達成できてしまった。

 霊夢は魔理沙と比べればドライな性格ではあるが、借りのある相手との約束を破るほど無責任でも身勝手でもない。
 この指の借り分ぐらいは、しっかりと返す気でいた。

 フレンダがそんな霊夢に縋るような視線を向けるが、

「大丈夫よ。静雄って奴に殺されそうになっても、命ぐらいは守ってやるから。 ……アンタが余計な事をしない限りね」

 最後にボソッと小声で付け加えた言葉に、無言のまま凄まじい勢いでフレンダは首を縦に振る。

「なら、急いだほうがいいか。あんまり時間をかけるとレイン達が遠くに行っっちまう」

「そうね。じゃ、いくわよ」

「いたたた! だから、引っ張らないでってばっ」

 フレンダが引きずられるようにされながら、病院の出口へと二人は向かっていく。

「さっきも言ったが、くれぐれも」

「だから分かってるって。さすがに、やりすぎと判断したら止めるわよ」

 ブチャラティの言葉に、霊夢は頷く。

「頼む」

 本来ならば、ブチャラティもそれを見届けるべきなのだろうが、今この病院残る事になるのは、不死身の力を持つとはいえ、際立って高い戦闘能力を持たない九郎。それに、重傷のライフィセット。一応は自衛程度の力は使
えると言っているが、実力に関してまだ未知数の梔子。戦う力は持っていても、精神的にはまだ幼いシルバとなる。
 この状況下で、病院からブチャラティまで離れるわけにはいかなかった。

「まだ暫くはこの病院にいるつもりだ。そっちが、仲間と合流できたのならば、また届けてくれ」

「ああ、分かった」

 とりあえずは、レインと静雄に合流してフレンダにけじめをつけさせてからは、再びフレンダをブチャラティ達の元へと戻す。
 居場所が分からないが、遠方にいる可能性が高い竜馬に関しては後回しという事で話はまとまりを見せた。

 一応、フレンダの処遇を巡っての話はこれで終わり、ひとまずはこの病院でのいざこざも落ち着く事ができた。

 だが、この近くに新たな災害が近づいてきている事を彼らはまだ知らなかった。



◇  ◇  ◇



 シドーを見失ったヴライは、ひとまずは参加者が集まりそうな箇所へと移動を続けていた。

 ここで、距離的には近い大いなる父の遺跡へと向かう道を選んでいれば、そこで念願のオシュトルとの再戦も叶った可能性があるのだが、それはしょせんはIFの話である。

 ヴライの視界に病院が入ったのは、最も太陽が高くなる時間での事だった。

 ――戦の匂いがする。

 病院に近づくにつれ、まずヴライが感じた事がそれだった。
 それは、理屈ではない。根っからの武人であり、多くの戦場での経験があるヴライの第六感ともいうべきものが告げている。
 それも一人や二人ではない。
 複数人が、何度かに至ってやりあっている。
 そんな怨念が病院からは漂ってくる。

「……ふん」

 ヴライは、歩を進めていく。
 誰も残っていないのであれば、それはそれで良い。
 いるならば、見つけて屠る。
 それだけの話だ。

「奇怪な」

 ヤマトに生きるヴライにとって、この病院は見慣れない建物だ。
 病院だけでなく、ここまでに見てきた会場内の建物の数々も同様であり、気にはする。だが、それだけだ。
 同郷のクオンや、この会場にはいないネコネなどからすれば違うだろうが、ヴライはそういった事に興味はない。

 だが、人やヒトが集まりそうな場所だ。
 それだけを判断材料に、ヴライは病院へと近づいていった。


326 : 裁定、そして災害(前編) ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:36:33 9bt6SDTk0
投下終了します。
続きはしばらくお待ちください。


申し訳ありません、320と321がまた重複していました。


327 : ◆mvDj9p1Uug :2022/11/30(水) 21:44:51 9bt6SDTk0
予約延長します。


328 : ◆qvpO8h8YTg :2022/11/30(水) 22:06:46 1BRuZ38Q0
>>327
投下お疲れ様です。
フレンダ裁判一応の決着はつきましたが、ここから災厄ことヴライの到来でどうなることやら……
続きが非常に気になるところです。

予約延長の件についても、承知いたしました。
本来であれば、予約延長は当該企画に過去5回以上投下された書き手様に限りとさせていただいておりますが、
予約キャラ数等現状を鑑みて、今回は承りたいと思います。


329 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:44:05 3oVhfwmE0
ヴライがミカヅチのあの時の評価を改めるシーンすごくいい...認めた上でも「それでも我が帝の後継者として相応しいのだ」って結論になるのがマジでこの男ですよね
そしてフレンダw、ついに年貢の納め時かな...と思いきやなんとか一命を取りとめた(無事ではないが)
そして近づくヴライ...ここも無事では済みそうにない。
にしても、竜馬、静雄、ミカヅチと暴力の化身という言葉が相応しい連中に中々縁があるフレンダ

続きを投下します


330 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:46:36 3oVhfwmE0


...

......

...暗い。真っ暗闇の中だ。

隣に早苗が眠っている。

――――――――
|起こしますか?|
――――――――
――――
|>はい |
|いいえ|
 ―――

返事が無い。気を失っているようだ。

『ビルド』

―――どこからともなく声が聞こえる。

『こっちだビルド』

優しく、懐かしさすら覚える声だ。

―――――――――――――
|声のもとへ向かいますか?|
―――――――――――――
――――
|>はい |
|いいえ|
 ―――


331 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:47:35 3oVhfwmE0




「...よう。来てくれたんだな」


「なんだよ、怒ってるのか?...まあ、当然だよな。こんなことになっちまって、散々迷惑かけちまったし」


「んあ?そんなことはどうでもいい?なんで何にも言わなかったかって?」


「それはお前に迷惑をかけたくなくて...いや、今更取り繕う必要もないか」


「ビルド。俺は怖かったんだ。お前に牢屋に閉じ込められたあの時から...いいや、もっと前からだ」


「強力な兵器を作れるようになってから、効率的に敵を倒していくお前の姿を、それを喜ぶ奴らの姿を見てずっと恐れていた。壊すことしかできない俺はお前に捨てられちまうんじゃないかってな」


「だから牢屋に閉じ込められた時、ついにその時がきたと思った。お前を...信じられなくなった。だから、つい意地になっちまってな。お前から距離を取ることしかできなかった。本当はもっとするべきことがあったのにな」


「強がって、本音を隠して、そのせいでこうして取り返しのつかないところまできちまった。...全部、俺の思い込みだっただけだって、お前はここまで来て証明してくれた。本当にすまなかったな、ビルド」


「...って、おいおい。なんでお前も謝るんだよ。悪いのはお互い様だって?」


「...そうか。それもそうだな。俺にもお前にも悪いところがあった。それがお互い様ってやつだよな。ハハッ、こんな簡単なことに気づくのになんでこんなに遠回りしてるんだろうな、俺たち」


「ハハッ、アハハハハハッ、ハァー...だいぶスッキリしてきたぜ」



「......」

「なあ、ビルド。前に浜辺でルルとパーティをしたよな。...ああ、あいつがモモガイケーキを作ってくれた時のやつだ」

「あの時、俺とした約束覚えてるか?」

......

――――
| はい |
|>いいえ|
 ―――


332 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:48:38 3oVhfwmE0
「嘘つくなよ。顔に出てるぜ...覚えててくれたんだよな」

「ビルド。俺は幸せモノだ。あんなのになっても、ここまで手を尽くしてくれる友達がいるんだからな」

「だが、ケジメってやつはつけなきゃいけないんだ」

「破壊神は俺だ。別モノだって切り離すのは駄目だ。マリアを、首無しを殺して、お前を助けてくれた奴らを傷つけたのは俺なんだ」

「ビルド。ものづくりってやつは壊れたモノは直せるが死んじまった奴らを戻すことはできない...そうだろ?」

「だから頼む。あの時の約束を果たしてくれ」


――――
|>はい |
|いいえ|
 ―――

......

――――
| はい |
|>いいえ|
 ―――

「...ハハッ。こういう時、怒らなきゃいけないんだろうが...無理だな。どうしても嬉しくなっちまう」

「でもわかってるだろ?このままだとお前も、あいつらも死んじまう。そいつは駄目だ。お前を信じて送ってくれた奴らを見捨てちゃ駄目だ」

「こうやって話せるのも神様がくれた奇跡みたいなもんなんだ。頼む。これ以上、俺にお前の大切なものを壊させないでくれ」


......

――――
|>はい |
|いいえ|
 ―――

......

――――
| はい |
|>いいえ|
 ―――

......!!

――――
|>はい |
|いいえ|
 ―――


333 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:49:40 3oVhfwmE0
「...ありがとな、ビルド。止めてくれるのがお前で良かった」

「さあ、思い切りやってくれ!ド派手に、俺らしくな!」


――――――――――
|首輪を壊しますか?|
――――――――――

――――
|>はい |
|いいえ|
 ―――

――――――――――
|本当に壊しますか?|
――――――――――

――――
|>はい |
|いいえ|
 ―――








『首輪に強い衝撃が加わりました。違反行為として起爆します』



「さあいけビルド!あいつらが、ルルが、しろじいやチャコ達がお前を待っている!お前の創り出す世界のつづきにみんなが期待してるんだ!」

「あいつらも、俺も、お前を信じている!だから―――」

「またな、相棒」


334 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:50:12 3oVhfwmE0


世界の終わりが近づいている。

破壊神は口腔にドリルを突き刺したまま沈黙し動かないが、ブラックホールは止まらない。

エリアにして一マス分の猶予のあったスペースはもはや直径何十メートルにまで迫っている。

影より生まれし骸骨兵たちはそこに辿り着くまでに呑まれ塵と化した。

「うおおおお、あのブラックホール急に早くなりやがって!ふんばれセルティの馬!」

『ヒヒィーン!!』

弁慶の檄に応えるように、コシュタ・バワーは鳴き声を高らかにあげる。

いまの彼女が象っているのは馬車ではなく、速さのみを追求した本物の馬。
馬車では迫る引力に逆らえず、この形態でもなお彼女は引っ張られ速度も大幅に低下していた。
しかもそれだけではない。
引力により乗り心地は最悪になり、もはや暴れ馬の様相を為している。
手綱を握っている弁慶はまだしも、その後ろの久美子は振り落とされないように死に物狂いで弁慶にしがみついていた。

「う、腕千切れ...もぅ無理...!」
「振り落とされんなぁ!頑張れ久美子ちゃん!」

部活での体力トレーニングなど比較にならないほどに腕に、身体に負荷がかかり、激しい眩暈が彼女を襲う。
もともと運動が得意ではない彼女にはあまりにも酷な負担だった。

それでも。
死にたくないから必死にもがく。文字通り、気力だけで死に物狂いでしがみつく。

―――そんな隙だらけの獲物を彼は逃がさない。

『バァ!』

突如、コシュタ・バワーの目の前に追うの影が瞬間移動してくる。

「ちっ、こんな時にも...しつけえんだよ、てめえは!」

装甲車を作っている時にも何度かちょっかいをかけてきた。
だから、突然現れたソレにもさして驚かず、弁慶は片手を放して迎撃に移る。

だがこの不安定な体勢の中放つ拳では当たらず、空ぶった隙を突き王の影は久美子のもとに滑り込み、その身体を抱え込む。

まるで、生前の『王』の欲望を満たすかのように、弁慶への当てつけに久美子を奪おうとしているようだ。

「いや...!」

久美子に纏わりついてくる王の手が、久美子の指を剥がそうとするのを全力で拒絶する。
ここで放せば弁慶だけは生き残れるだろう。
それでも。彼女は自分の生を捨てられなかった。自己を犠牲にすることなんてできなかった。


335 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:50:33 3oVhfwmE0
「助けて...」

思わずその言葉が漏れる。
そんなものありえないのに。自分がそんなことを言う資格なんてないのに。

「助けてセルティさん!」

この会場で初めて手を差し伸べてくれた『彼女』の名前を、叫ばずにはいられなかった。

けれど。

直後、久美子に纏わりついていた王の腕が消え、代わりに弁慶のもとへと押し戻すように背中を押され元の位置に戻された。

「え...?」

思わず振り返る。
その先で、久美子だけでなく弁慶も呆然としてしまう。

王の影は、その両手足を別の影で縛られ、ブラックホールに吸い込まれていく。
その影の出所に立つのは、首無しライダーの影。

「セルティ?」
「セルティさん...?」


ソレはただの姿かたちを象った偽物のはずだ。
だが。

ソレは王の影と共にブラックホールに呑まれる寸前、確かにその右手を挙げ。
弁慶を。久美子を。そして、彼女の愛馬であったコシュタ・バワーに向けて送っていた。
サムズアップ。
言葉を発せない彼女の、精いっぱいのエールを。

その姿が飲み込まれ消え失せても彼らは涙を流さなかった。
ただ、『ありがとう』と彼女の名と共に抱いて前を見据えた。

そして。

【グオオオオオオオオオオオ!!!】


破壊神の叫びが響き渡った。


336 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:51:19 3oVhfwmE0


破壊神の叫びが大気を揺らす。

「そんな...!」

その声量と圧力にアリアと志乃は絶望し身を震わせる。

あそこまでやって駄目なのか。

あかりちゃんの愛ですら足りなければもはやどうすることもできない、と。

「いや...」

一方で。隼人とマロロは焦燥も恐怖も抱いていなかった。
傷だらけの身体で、疲れ切った身体で目を細め破壊神の姿を見届ける。

彼の姿は今までに見てきた巨大な獣が息絶える時の最期の咆哮に似ている。
条件反射的に暴れ、己の命にしがみつくその様に。

そして彼らの見立て通りに。

その身体は倒れ伏し、相貌からは生の光が消えていく。

ブラックホールは収束していき、周囲を包んでいた暗黒の空も消えていく。

空は明るみを取り戻し、学校や地面の破壊痕だけを残しもとの景色へと瞬く間に戻る。

「これにて、終幕でおじゃる」

マロロの言葉を皮切りに、破壊神の、そしてウィツアルネミテアの抜け殻から淡い光が漏れ始め、次第に空気に溶けていく。

それはまさに神話の終幕の光景。

伝説の終わりを迎える人間たちを祝福するような、神秘的なきらめきが周囲を彩る。

破壊神の身体が消えていく中、歩く影が一つ。

「やったか...ビルド」

早苗を背負ったビルドが、破壊神の中より生還した。


337 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:52:01 3oVhfwmE0
「やったんだな、ボウズ!」

ようやく隼人達のもとに辿り着いた弁慶は、破壊神打倒を成し遂げた事実に破顔し、その喜色は周囲にも伝染していく。

「......」

喜びが満ちていくその光景とは裏腹に、ビルドは俯き普段の笑顔も見せることは無い。

当然だ。

彼らはあくまでも己の生還と破壊神の打倒の為に協力してくれた者たちだ。

中にはシドーから被害を被った者たちもいる。

だから、彼らに対して怒りを覚えることはないし、むしろここまで協力してくれたことには感謝している。

ただ、それでも喜べるはずもない。

みんなの命を助けるため、他ならぬシドー自身に頼まれたことだから。

ああするしかなかった。

...そんな理由は今の彼には慰めにもならない。

例え造られた世界かもしれなくとも、相棒の命をこの手で奪ったようなものなのだから。

それでも、彼が歩けているのは使命を背負い強がっているからにすぎない。

この戦いは終わった。しかしまだ大本は残っている。まだ何も解決はしていない。

自分は、その道を切り開くためのビルダーだ。

不安な顔をしてはいけない。常にみんなの前に立たなくてはいけない。

強がりでも、進み続けなければ導けない。

『あいつらも、俺も、お前を信じている』

相棒に託された誓いを心臓にして、少年は一歩一歩を踏みしめる。

いつかまた、同じ夢の話をするために。

ぐらり。

脚から力が抜け、前のめりに倒れ込んでいく。

駄目だ。ここで寝ちゃいけない。

まだ、勝利の旗を立てていない。

その意地を赦すかのように、ふわりと身体が優しく支えられる。

力を抜いていい、意地ばかり張らなくてもいいと伝えてくれるような優しい腕の感触と温かさに、ビルドの顔がくしゃりと歪む。

胸の中心が熱くなっていく。

そして、本当の救世主(ビルダー)となる前に、彼の頬に涙が伝うのだった。


338 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:52:58 3oVhfwmE0
【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(絶大)、全身火傷及び切り傷、全身にダメージ(大)
済み)、腹部打撲(処置済み)
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:咲夜のナイフ@東方Projectシリーズ(2/3ほど消費)、懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:場が落ち着いたら改めて周辺を探索しつつ、大いなる父の遺跡に向かう
1:今後のことを見据え、遭遇する参加者については殺せる機会があれば殺すが、あまり無茶はしない...少なくとも、この場でこの状況で戦うのは無理だろう。
2:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
3:博麗の巫女は今後のことを考えて無力化する
4:マロロに関しては協力する素振りをしながらも探る。最悪約束を反故するようであれば殺す
5:余裕があれば完全版チケットとやらも探す。
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
※オスカー達と情報交換を行いました
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全には分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。


【マロロ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:オシュトルへの強い憎悪、精神的疲労(大)、疲労(絶大、しばらく術を使う余裕もない)、全身にダメージ(絶大)、出血(大)
[服装]:いつもの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品3つ
[思考]
基本:オシュトルとその仲間たちは殺す...が、仲間たちがオシュトルに騙されている場合はその限りではない。
0:場が落ち着いたら改めて周辺を探索しつつ、大いなる父の遺跡に向かう
1:ヴライには最大限の警戒を
2:十六夜咲夜はいい具合に利用させてもらう。まあ最低限約束(博麗の巫女の無力化の手伝い)には付き合う
3:あの姫殿下が本物……?そんなことはあり得ないでおじゃる
4:間宮あかりとその一行を警戒
5:オシュトルを殺すまでクオンと同盟を組む。できれば戦い合うことはしたくない。
[備考]
※少なくともオシュトルと敵対した後からの参戦です
※オスカー達と情報交換を行いました
※鈴仙をシャクコポル族のヒトと認識しております
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全に分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。
※クオンと情報交換をして、『いまのオシュトルの側についている旧友たちは皆騙されている』という結論を出しました。


339 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:54:21 3oVhfwmE0

【神隼人@新ゲッターロボ】
[状態]:疲労(絶大)、全身にダメージ(絶大)、出血(大)、カタルシス・エフェクト発現(現在は疲労困憊のため使用不可能)
[服装]:普段着
[装備]:ミスタの拳銃@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、ミスタの拳銃(ビルドの作った模造品)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、浜面仕上の首輪、錆兎の首輪
[思考]
基本方針:首輪を外して主催を潰し帰還する。
1:場が落ち着いたら改めて早乙女研究所に向かう。
2:ビルドのものつくりの能力を利用し有利に立ち回る。現状、殺し合いに乗るつもりはない。
3:主催との対決を見据え、やはり首輪のサンプルはもっと欲しい。狙うのは殺し合いに乗った者、戦力にならない一般人(優先度は低い)。
4:竜馬と合流できるに越したことはないが、まあ放っておいても死なんだろう。

※少なくとも平安時代に飛ばされた後からの参戦です
※幻想郷の大まかな概要を聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※カタルシス・エフェクトに目覚めました。武器はドリルです。





【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(絶大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、オシュトルへの怒り、気絶、ウィツアルネミテアの力の消失
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いに乗るつもりはない。皆と共に脱出を。
0:(気絶中)
1:オシュトルはやっぱり許せない。
2:アンジュとミカヅチを失ったことによる喪失感
3:着替えが欲しいかな……。
4:オシュトル……やっぱり何発か殴らないと気が済まないかな
5:優勝……ハクを蘇らせることも出来るのかな……ううん、馬鹿なこと考えちゃ駄目!
6:オシュトルを止めるまでマロロと同盟を組む。できれば戦い合うことはしたくない。
[備考]
※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力はほぼ消滅しました。『現状』は神の力を使えません(今後次第では復活するかもわかりません)



【ビルド(ビルダーズ主人公、性別:男)@ドラゴンクエストビルダーズ2】
[状態]:疲労(絶大)、精神的疲労(極大)、出血(絶大)、心臓損傷、全身にダメージ(極大)、悲しみ(絶大)
[服装]:普段着
[装備]:ビルダーハンマー@ドラゴンクエストビルダーズ2、大砲(半壊、素材を集めて修理すれば使えるかも?)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、あぶないカビ 大量の鉄のブロック@ドラゴンクエストビルダーズ2、大量の爆薬@鬼滅の刃、大砲の設計図@製作、折れたサイコロステーキ先輩の日輪刀@鬼滅の刃
[思考]
基本方針: ゲームからの脱出。殺し合いをしない。
0:あれ?
1:場が落ち着いたら改めて早乙女研究所に向かう。
2:シドー...
※幻想郷の大まかな概要を聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・隼人・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※まぼろしの作業台、まぼろしの装甲車、状態表名簿は消滅しました。


【アリア@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:疲労(絶大、フロアージャックはしばらく使用不可)
[思考]
基本:μを止める、だけど……
0:場が落ち着いたら改めて早乙女研究所に向かう。
1:帰宅部の仲間との合流
[備考]
※参戦時期は少なくてもシャドウナイフ編以降。琵琶坂生存ルートです。詳しい時期はお任せします。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・隼人・ビルド・琴子・リュージと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※フロアージャックはしばらく使えません


340 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:55:37 3oVhfwmE0
【佐々木志乃@緋弾のアリアAA】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(絶大)、出血(絶大)、焦燥、罪歌による精神汚染(あかりちゃん摂取で克・服♡)、人外に対する嫌悪
[服装]:制服、全身に湿り濡れたあかりちゃんグッズを張り付けている。
[装備]:罪歌@デュラララ!!、あかりちゃんボックス@緋弾のアリアAA(大量に消費)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考]
基本方針:あかりちゃんと共に生きる。その為にあかりちゃんに危害を加えそうな人外の参加者は予め排除していく。
0:さすがに疲れたので今は休みたい。話はそれから。
1:所謂人外の参加者を見つけたら、あかりちゃんを護るため排除
2:あかりちゃんとの合流。あかりちゃんを愛でる。
3:アリアや高千穂以上に武貞として活躍しあかりちゃんに愛される。
4:平和島静雄...最強...?どうでもいい。一般人なら保護すればいいだけでしょう。あかりちゃんと×××する。
5:あかりちゃん愛してる。
6:ジオルドについては徹底的に利用するつもりだが、支配が完全に解けてしまった場合は排除する
7:テレビ局にいた二人組(臨也とStork)は見つけ次第、斬る
8:人外の参加者(九郎、ムネチカ)と、殺し合い乗っている参加者(ウィキッド)を警戒。
※参戦時期は高千穂リゾートへ遊びに行った後です。
※罪歌の愛を侵食しあかりちゃんに変換しました。
※罪歌の影響で気分が高揚していますが、あかりを斬るつもりは一切ありません。
※テレビを通じて、自身のあかりちゃん行為の映像を見ました。
※洗脳したジオルドより、彼が会場内で見聞きした情報、知り合いの情報を得ました。
※焦燥状態により、罪歌の精神汚染を多少受けており、所謂人外に対する敵愾心が増幅しておりましたがあかりちゃん成分で完全に塗りつぶしました。

【ジオルド・スティアート@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…】
[状態]:疲労(大)、顔面打撲(中)、右肩に銃痕、全身打痕(大)、出血(中)
[服装]:いつもの服装
[装備]: 峯沢維弦のレイピア@Caligula Overdose
[道具]:基本支給品一色、双眼鏡@デュラララ!、無人駆動鎧のリモコン@とある魔術の禁書目録、どくばり@ドラゴンクエスト ビルダーズ2、不明支給品0〜1、魔理沙の支給品0〜1
[思考]
基本:優勝して、あの日常を取り戻す。
0:今しかない。
1:ウィキッドを嫌悪。
2:白い少年(累)とその同伴者(チョコラータ)は警戒
3:僕はカタリナのために……
4:キース……マリア……
[備考]
※ カタリナがシリウスの闇魔法によって昏倒していた時期からの参戦となります。
※ 新羅、九郎と知り合いについての情報交換を行いました。但し九郎は、自身や琴子の能力については明かしておりません。
※ ウィキッドと情報交換をして、カリギュラ勢と王についての情報を把握しました。
但し、ジオルドは他のはめふら勢のことはウィキッドに伝えておりません。
※ 罪歌の洗脳は解けています。


【武蔵坊弁慶@新ゲッターロボ】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(絶大)、出血(大)、精神的疲労(大)
[服装]:修行僧の服
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3。自販機から得た飲み物(たくさん)
[思考]
基本方針: 殺し合いを止める。
0:さすがに疲れたので今は休みたい。話はそれから。
1:岸谷新羅にセルティを届ける。
2:竜馬を探す。
3:早乙女研究所のシミュレータとやらも気になるが、今は後回し
※少なくとも晴明を知っている時期からの参戦。
※ロクロウと情報交換を行いました


341 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:55:56 3oVhfwmE0

【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(絶大)、精神的疲労(絶大)、右耳裂傷(小)、自己嫌悪
[服装]:学生服
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体。
[思考]
基本方針: 殺し合いなんてしたくない。
0:さすがに疲れたので今は休みたい。話はそれから。...みぞれ先輩、大丈夫だよね?そうだと言ってほしい。
1:麗奈と合流する。
2:岸谷新羅さんに、セルティさんを届ける
3:ロクロウさんとあの子(シドー)を許すことはできない
4:あすか先輩...希美先輩...セルティさん…
※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※夢の内容はほとんど覚えていませんが、漠然と麗奈達がいなくなる恐怖心に駆られています
※ロクロウと情報交換を行いました


【鎧塚みぞれ@響け!ユーフォニアム】
[状態]:一部分が銀髪化、瀕死、罪歌による洗脳状態、左腕喪失
[服装]:制服姿
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、カーラーン金貨@テイルズオブベルセリア、ジークフリード@テイルズオブベルセリア、コシュタ・バワー@デュラララ!!
[思考]
基本:母さん(志乃)と共に殺し合いを終える
0:今度は、逃げなかったよ
1:出来れば殺したくない
2:琵琶坂の事は―――
3:鬼舞辻無惨に最大限の警戒
[備考]
※『リズと青い鳥』、新山先生の指導後からの参戦です
※ 魔力に目覚めました。氷の剣は自分の意志で構成又は消滅が可能です
※ 後遺症で髪の一部分が銀髪化しました
※『はめふら』世界とその登場人物に対する知識を得ました
※罪歌により『なにがなんでも守り抜け』という命令を下されています。


342 : 英雄の唄 ー 六章 世界のつづき ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:56:42 3oVhfwmE0



ジクジクと胸が痛みだす。

刺された、と認識したのは、涙が出てから少し経過した後だった。

信じられぬものを見たかのような表情で、ビルドは顔を上げる。

喉元から血がこみ上げてくる。

背中の早苗を巻き添えに、己の胸を貫いた剣の使い手を、ただ茫然と眺める。

わからない。なにもわからない。
なぜ、いま、自分がこうなっているのか。

ビルドは、その名を、震える声で口にする。




―――世は時として乱れ血が流れる。

強大な力に敗れ、虐げられる時代を変える為に立ち上がる者は勇者と呼ばれ。

己が欲と私情に惑わされず、巨悪を討伐し、歴史を作りあげた者を英雄と崇め奉る。

だが忘れることなかれ。

その裏では数多の感情が蠢き、己が望みが芽吹くのを待っている。

英雄が墜ちる時、いつも傍にあるのは





「ジオ、ルド?」





歪んだ『人』の想いである。


343 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 21:57:22 3oVhfwmE0
一旦ここまでです
続きは近日中に投下します


344 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/02(金) 22:04:28 3oVhfwmE0
すみません、早苗の状態表忘れてました

【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:霊夢に会えたことの安心感と同時に不安、全身にダメージ(大)、疲労(絶大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、気絶
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
1:気絶中
2:豹変したドッピオに驚き。何か隠してるんじゃ…… 
3:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
4:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
5:ロクロウとオシュトルに不信感。兄弟で殺し合いなんて……
6:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
7:魔理沙さん、妖夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。


345 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:15:23 dbdyXtc20
投下します


346 : 明日の方舟たち(ArkNights)-時雨嵐月- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:15:55 dbdyXtc20
無情の生涯、語るに及ばず

 

我道に殉ぜし極みこそ、古今無双の死に様なり



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



粗暴でありながら、その実美しい太刀筋だった。
大振り――拳士で言う所の、テレフォンパンチと呼ばれる軌道が読み易い攻撃でありながら、寸分の狂いもなく此方に一撃を振るう。
長年の修練の末に磨かれた、芸術ともいうべき一撃。魔王ですら感嘆せざる得ない、剣士の極致の一端。

「震天!」

突風の如き鋭い突きが放たれる。軌道が分かっているのに避けづらい。だからこそ魔王は業魔腕で防御するしか無い。単純に剣技の他、戦場に置ける「場」の立ち方も上手なのだ。
敵を有利な場に誘導し、敢えてそれを利用することで自分が有利な用にする。柳生新陰流における「水月」がその手の例における代表的なものであるが、シグレ・ランゲツのそれは直感と経験に寄った代物だ。

「ちぃっ!」
「滅砕!」

防御の隙間を縫うように、針の穴を通すような正確さで軽い蹴りが襲う。
勿論この蹴りは牽制、いや相手の体勢を崩して一撃を入れる為の布石。
防ぐのではなく、最小限の動作で避けることで、より確実な反撃を狙う。
その動作ならば大振りに縦へ叩きつけるようにして振るうだろう。

「斬光!」

だが、予想に反してシグレの取った選択は横への薙ぎ払いだ。
器用に持ち手を変えて、振り被るように周囲を薙ぐ。別段これは魔王にとって回避できないわけではない。
瞬時に背後に足取りを変え、後退するように避ける。
後退と同時に黒く放電(スパーク)を纏わせた魔力弾を発射。シグレという剣士に引き寄せられるように向かう。

「ふんっ!」

災禍の弾丸を、シグレは構えすらとらずそのままの体勢から剣を振るう。
無茶苦茶に見えて一切の無駄の無い動作からなる切断により、魔力の塊は真っ二つに切断され、背後にあった大岩のみを砕き溶かす。
だが、無駄のない動作だからと言って隙が生まれないわけではない。否、隙間はついさっき演算した。

「……これなら、どうかしら?」

演算終了。対象の武器の耐久度及び切断力を考慮し、それに対抗できる用耐久力を調整。
―――更に『弾き』をさせないために構造開始、構築。
即時の脳内思考により、魔王によって構築されたのは鋸を彷彿とさせる刃を輪郭に象った巨大なチャクラムのような飛び道具。
シグレの所持する二本の大太刀の耐久力を精査し、それを破壊することに特化した形状だ。
鏖殺の歯車が、シグレ目掛けて飛んでゆく。

「だったら、こいつはどうだ!」

が、絶えず余裕を崩さないシグレは両腕を広げて屈み、勢いよく回転。
二本の大太刀を羽根代わりに遠心力を増して回転数は増していき――。

「――大・旋・風!!」

巻き起こるは白刃と黒刃が奏でし大旋風。斬撃の大提灯がモノクロの輝きを放ち、切り裂かんと近づく回転凶刃を文字通り吹き飛ばす。
が、それだけでは終わらない。されど止まらず廻り続ける"それ"は、急速な遠心力を伴って"竜巻"と化す。

「どぉぉりゃあああああっっ!!」

そのまま身体を大きく捻り、打ち出すように竜巻を"射出"。
独楽のごとく大きく打ち出された竜巻は意思を持ったかのように魔王を呑み込まんと迫る。

「―――。」

魔王は無言で竜巻をその業魔腕を以て引き裂き、霧散させる。
暴風の渦が意図も容易く縦に分断され、消失。だが、既にシグレ・ランゲツの姿はなく。

「神罰!」

意識を探索に切り替えた途端、死角より魔王の頸を貫かんと近づくシグレの姿。
それに対して魔王が取った行動は――顔を少しだけ下げ、その歯で噛んで刃で受け止める。
真剣白歯取り、そのような手段を取ってきた魔王をシグレは瞠目という形で称賛する。


347 : 明日の方舟たち(ArkNights)-時雨嵐月- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:16:12 dbdyXtc20
勿論何かしらの手段で防がれるのは百も承知。遅れて振り下ろされるのは黒い大太刀の一撃。
素早く口から太刀を外して業魔腕で防御。黒大太刀の一撃を反動にシグレは背後に後ずさり、魔王も同じく距離を取る。







「―――。」
「………。」








――刹那の沈黙。







「……ッ!」
「……!」








――無言の交錯、肉薄。そして鍔迫り合いを示す金属音。
一打、二打、三打―――縦横無尽に黒の舞台を駆け、すれ違いに斬る、突く、裂くの動作の繰り返し。
魔王はそれに至近距離での魔力弾や魔力槍を打ち出すが、シグレ・ランゲツにとっては周りを彷徨く小蝿にしかならない。

「「はぁぁぁぁぁっ!!!」」

幾度目の交錯か。交差した二人が背中を向けて動きを止める。
間に位置した大岩の乱雑オブジェクトが横に真っ二つとなり、寸分の狂いもない水平を伴った断面を残し、崩れ落ちる。
その音が合図、魔王が天へ。手を振り上げ、頭上、はるか天空に現れるは細長い黒の鉄塊のような穢れの塊。
赤黒の稲妻を周囲に煌めかせ、点滅するそれは地上に佇む剣士へと目標を定め―――

「戴冠災器(カラミティレガリア)・歌姫神杖(ロッズ・フロム・ゴッド)!!!」

音速の数十倍もの速度で地面へと墜ちてゆく、穢れの鉄塊。
現実世界において「神の杖」と称される、運動エネルギー弾の極致。既知最強の鉄槌。
もしこの世界が現実ならば、この会場が全て吹き飛びかねない神なる裁きの降雷。


348 : 明日の方舟たち(ArkNights)-時雨嵐月- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:16:30 dbdyXtc20
並の相手ならこれで十分、だが魔王は手を抜くことはない。
さらにもう一手、詰める。

「災禍顕現(ディザスティ)・灼光流星(デッドリーサン)――焼け落ちろ。」

左腕で指を軽く鳴らせば、魔王の周囲に顕現するは白熱した炎を纏う球体。
無数のそれが、魔王の合図と共に一斉にシグレへと迫る。

「ハッハッハ! やるじゃねぇか! だったらお望み通り――――」

豪快に呵々大笑し、二刀を振るい、迫る炎球を全て風圧で吹き飛ばす。
あれは剣で触れれば剣すら容易く溶かすと直感的に判断、先のチャクラムの対処法と同じ。
だが、それを全て吹き飛ばした所で、避けるも防ぐも吹き飛ばすも不可能な神の杖をどうするか、その答えは一つ。

「ほらよっ!!!」

神の杖は運動エネルギーによる攻撃。ならば激突点を用意してやれば良い。
よりによって剣士にとっての生命線を、七天七刀とクロガネ征嵐を神杖の黒鉄に向けて投擲。
激突した神杖は強烈な衝撃波を伴って空中で大爆発、その影響は地面にまで及び爆風が大岩を吹き飛ばす。

「………。」

奇想天外な手を使われた。だが、魔王に支障はない。むしろ剣士が剣を捨てたというタイミングを逃さない。衝撃波と爆風による噴煙塗れる戦場を己の感覚だけで突き進む。視界が見えずとも関係ない。

「………そこかっ!!」

人影、輪郭――総合的に判断し、業魔腕を槍状に変化させ、確実にこの手で仕留める。
煙を裂き、地面を穿ちながら、ただ一直線にシグレと迫り、貫いた。
肉の裂ける音、業魔腕より感じる血の感触。だが油断はしない、さらに奥に捻り込んで臓物を撒き散らす。
そのつもりだったはずなのに―――。

「―――!?」

動かない。捨て身で相打ち狙い、とも予測し直ぐ様引き抜き背後に動こうとした途端、迫ったのは――

「おらよっ!!」

頭突き。鈍い音と衝撃が魔王の脳を揺らし、理性が一瞬奪われる。
思考と視界が定まらぬ魔王が見たのは、自分に貫かれた掌に目もくれず、不敵に笑うシグレ。

「……港であいつがやろうとしたことの真似事だ。それも、覚えてねぇよな?」
「こい、つ……!」

カドニクス港でシグレが災禍の顕主一行と交戦した際、ロクロウが取った捨て身の戦法。『片手を犠牲に頸を狙う』という事。
弟の猿真似、と言ってしまえばそれまでだし、あの魔王なら一瞬は騙せてもすぐに建て直されてしまう。
だから、"剣を投げた"。致命的な隙を見せたように騙し、確実なチャンスと誤認させる。

「……だけど、今のあんたには……!」
「剣なんて残ってねぇ、って言いたいんだろ――甘ぇんだよベルベット。」

その上で、ここまで接近させて、わざと片手を貫かせて、対応される前に頭突きを叩き込んだ上で。

「俺にはやっぱ一刀流の方が性に合ってるってことだ。」
「……ッ!!」

風を切り裂く回転音、投擲されたはずのクロガネ征嵐がシグレの元へ戻るように飛んでくる。
既の所で避けた魔王が見るのは、その片手にクロガネ征嵐を手に取ったシグレ・ランゲツの姿。

「――不味……ッ!」
「避ける必要はねぇ…!何処にいても同じだ!」

視界と思考の混濁が収まった魔王が、直ぐ様距離を取ろうと背後に後ずさる。だが、既に何もかも遅い。
掲げるように頭上に振りかぶった大太刀を構え、叫ぶ。



「嵐月流・荒鷲!!!」



叩き落された一撃が、大地を裂き波濤を放ち、魔王の身体を引き裂いた。


349 : 明日の方舟たち(ArkNights)-時雨嵐月- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:16:44 dbdyXtc20
◯ ◯ ◯



「……無茶苦茶、ですわ………。」

圧巻、だった。もはや観客に徹するしか無いメアリ・ハントは、二人の戦いを目の当たりにして、ただただ圧倒されていた。
あれが人間の戦いなのだろうか、そんな訳がない。あれは化け物同士の戦いだ。竜虎相搏つとはこの事か、強者が強者を食らう為の本能の闘争。弱肉強食、否、あの場では弱者は肉にすらならず灰へと朽ちる。
自分のような「成り立て」が入り込む余地などありはしない。
自分は、あんな化け物と戦おうとしていたのか。自分は、あんな化け物と一緒にいたのか。

戦場は、既にあの二人だけの世界だった。入り込む余地など無い。そもそも、あの武人がそれを許すはずもない。もしも横槍を入れようものなら諸共殺されても文句は言えない。
あの戦場はもう人間の世界じゃない。魔の者が蔓延り、縦横無尽に暴れ回る魔界だ。人間の入り込む余地など、毛頭ないのだ。

「シグレ、様………。」

だからこそ、見守るしかなかった。可笑しな人としか思えなかったシグレ・ランゲツの背中が、今となっては頼れる背中でしかなかった。
ただ、祈るしかなかった。神に祈る敬虔なシスターの如く、あの益荒男が魔王を打ち倒す事を願うこと、只管に願うしかなかった。






「――――。」

刻まれた傷跡を、見つめていた。
ボロ布を、魔王の肉を切り裂いた傷跡。決して大きくはない、それでも大地に流れた血を、刻まれた傷跡を、黙って見つめていた。不気味なほどに、静かに魔王は見つめていた。

「どうやら、さっきのは流石に効いた見てぇだなぁ。」

口を開いて上機嫌な表情はシグレ・ランゲツ。ようやっと、やっとの一撃だ。
琵琶坂とあかりが連携して攻撃を阻止したのとは違う、魔王への直接の一撃。たかが一撃、されど一撃。
攻撃が効く、ということはつまり勝つことが出来る、ということだ。

「……打ち止めってわけじゃねぇよな、ベルベット! また戦いは始まったばかりだぞ!」

切っ先を魔王に向ける。まだ終わってはいない、俺達の戦いは終わってなどいない。
ここまで昂ぶらせたのだからこんな中途半端で終わってしまっては興が削ぎれてしまう。
もっと楽しんで、楽しんで、戦って、最後には斬って勝つ。単純にして真理、シグレ・ランゲツという男の帰結する論理である。

「それとも、さっさと終わらせて―――あ?」

……赤く、輝いていた。魔王の髪が。それが、怒りによるものか、はたまた別の感情によるものか。
それでも、確かなことは、魔王の髪が深淵の黒から、全てを喰らうブラッドレッドへと変貌している。
燃え上がるような、赫怒赫奕の極みへと到達した、尋常ならざる、何かが。

『そうね、戦いは、まだ始まったばかり』

何かが、違う。シグレ・ランゲツはその身で異常を感じ取っていた。
……認めたくないが、震えていた。シグレ・ランゲツが剣を持つ手が。

『ええ、そうね。はっきり言って、あんたたちの事は舐めていたわ。」

震えている、今まで数多の強敵を相手に心が滾ったシグレ・ランゲツの身体が、まるで氷点下に放り込まれたかのように、寒く凍える感覚に襲われている。
全身が震えている、何かが警鐘を鳴らしている。ここから逃げろと、アレには勝てないと。

『……あたしね、正直まだまだ試したかった事が多いのよ。」

武者震い、というわけではなかった。魔王の言葉一つ一つに、身体が震えていた。
何かが、おかしかった。魔王から感じるモノが、全く別のなにかのように思えた。

「……ハハッ、嘘だろ、オ―――――。」

――シグレ・ランゲツは、生まれて初めて、実感した。
生まれて初めて、勝てないと思いそうな相手が現れるなんて、思いもよらなかった。


『――貴様も、我らが女神の糧となるがいい』


―――瞬間、クロガネ征嵐に赤熱した巨大な槍が激突した。


350 : 明日の方舟たち(ArkNights)-時雨嵐月- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:17:00 dbdyXtc20
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?!?」

全く、視えなかった。ただ、本能で防ぐのが精一杯だった。
魔王は何をした? 何かを投げた? そう、投げた。赤熱する槍を生成して、投げただけ。
ただそれだけの行為だ。だが、威力も速度も何もかも違った。

シグレ・ランゲツが刹那に全神経を集中し、そしてその直感だけで寸前に迫った魔槍を防いだ。
防いだはずだ、自分が空中に打ち上げられた、という事実を除けば。

『虚獄神器・第三階位(セフィロトレガリア・ビナー)――強制接続(ザフキエル)』

魔王が告げる。虚獄を統べる女神に贄を捧げる魔王として、その技の名を告げる。

「が……あ゛ッッ!?」

告げた瞬間、"まるで最初から攻撃が当たっていた"ように、シグレの身体に穴が開いた。
吐き出された血液が地面に落ちて蒸発する。理解が追いつかない。

『貴様の持ち物であるその剣を貴様自身と同じ認識をさせてもらった。防ぐことは無意味だ。……ただ、宙にいる今の貴様に回避も受け流しもほぼ不可能だろうがな。』

シグレにとっては理解不可能な言葉だったが、魔王がやった事は唯一つ。シグレとその持ち物を同一として扱い、攻撃を当てたことだ。
電子の世界で表すなら、支給品の情報を本体の情報と同期させ、本体に攻撃を当てた事にした、ということになるのだが、はっきり言って生易しいことではない。
攻撃を当てなければならないという条件こそあれど、これを現実に当て嵌めるならば、因果の改変というべき恐るべき権能である。

『虚獄神器・第五階位(セフィロトレガリア・ゲプラー)――夢幻泡影(カマエル)』

再び告げれば、無数の赤いシャボン玉がシグレの周囲に出現。それは全て――魔王の姿へと変化する。

「……ッッ!」

目を見開いて、シグレは現実を悟った。自分の周囲を埋め尽くした無数の魔王ベルセリア。
それが全て、業魔腕より展開される砲口の顎が赤い光条を放とうと口を開けている。






『『『『『『『『『『『『『『『災禍顕現(ディザスティ)・邪竜咆哮(ダインスレイフ)』』』』』』』』』』』』』』』





幾百、幾千とも言うべき血風の光条が放たれ、シグレの全てを貫かんと迫る。
悪足掻きとばかりに空中で剣を振るうも、その光条は本体へ、そして剣を経由してまたしても本体へ。
シグレ・ランゲツという剣豪は、今や唯の的あての的に成り下がっていた。

「―――――――――!!!!!!」

シグレが何を叫んでいるかなど、既に聞こえない。殺意のみが満ちた光の雨音に塗れて届かない。
飲まれていく、何もかもが赤に飲まれていく。悲鳴も叫びも何も遮られ、爆風と光条と点滅の三重奏を響かせて、大剣豪を呑み込んでいく。

『―――これで閉幕だ。存外大したことなかったな。』

魔王が静かに告げれば、魔王の泡影はシャボン玉に戻りて割れる。
煙が晴れれば、剣豪の身体が黒い大地に叩き付けられ、拉げた音のみが甲高く鳴り響く。
勝敗は、目を見るよりも明らかだった。


「………そん、な。」

メアリ・ハントは絶望した。あのシグレ・ランゲツが、魔王と対等に渡り合っていたはずの彼が、魔王の髪の色が変化した途端に、この結果だ。
自分たちと戦っていた彼女は完全に手を抜いていたどころか、真面目に戦ってすらいなかった。
黒く焦げ、赤く染まり、左腕を喪失した剣士は動かない。黒と赤が混じった液体が黒い大地に滲んで消えていく。

絶望しかなかった。絶望しか見えなかった。最初から、希望なんて存在しなかった。
戦うことも、逃げることも選択肢にはなかった。ただ、死ぬという運命を、まざまざと叩き付けられ、蛇に睨まれたカエルの気持ちを理解した。
魔王が此方に意識を向けるのも時間の問題、その時こそ、自分の最後だと―――。


351 : 明日の方舟たち(ArkNights)-時雨嵐月- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:17:19 dbdyXtc20























「……おい、無視してんじゃねぇぞ」


352 : 明日の方舟たち(ArkNights)-時雨嵐月- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:17:37 dbdyXtc20
立っていた。片腕も、片目も失って、立っていることすら、剣を持っている事すらやっとの死に体の身体で。―――シグレ・ランゲツは、立って、魔王に剣を向けている。

『死に損ないが。――何故、立つ?』

魔王は無感情に反応する。反応して、それだけだ。
シグレ・ランゲツが生きている事に興味はない。その上で、問う。

『女神の秩序を受け入れず、傲慢にも足掻くその姿は見苦しい。』
「……見苦しいだぁ? 俺みてぇな剣の修羅ってのは……そういう生き者(もん)だ。」

乾いた言葉に、ただ言い返す。
強ければ生きて、弱ければ死ぬ。だが負けるのは悔しい。だから舐められたままでは示しがつかない。
巧言も、綺麗事も、雑言も、彼にとっては何の意味を為さない。真に為すべき事に、その意思以外になにもいらないのだから。

「……剣士ってのはそうやって生きて、そうやって死ぬやつだ。てめぇのような羅刹には分かんねぇだろうな。てめぇの信念だけを貫いて、突っ走って、そっから先は後腐れなく暴れるだけだ。」

その果てに、人智を超えて、精神を凌駕した先に或るものを。
それが人を捨てた夜叉か、それとも人のまま人の心を捨てた理の頂か。それとも、自分すら捨てて誰かの人形と化した誰かのように、か。

「……テメェは強え。だが、テメェは空っぽだ。空っぽのおもちゃ箱だ。……空っぽのテメぇにだけは、負けられねぇ!!!」

心の奥底から、全てを出し切るように、叫んだ。
初めて、こいつには絶対に勝ちたいと、そう思った。
思って、業魔になった弟を思い出した。
挑戦する側の気持ちというのは、こんなものだと、久方ぶりに感じだ。
等に自分もアルトリウスに挑む側の人間だが、初心に戻った、というのがあまりにも懐かしい。
剣を構える。恐らくあと一撃放てるかどうか、その先は恐らく無い。
それでも、やられっぱなしは気に入らない。そしてこの魔王を、空っぽの魔王にだけは負けられない。

『――なら、ここで滓と為れ。シグレ・ランゲツ』

無意識に、シグレに応えるかのように業魔腕より生えるように大太刀を生やす。
黒雷を纏い、心臓のごとく流動・蠢くそれは太刀と言うよりも生き物のそれだ。

『虚獄神器・第九階位(セフィロトレガリア・イェソド)――無明斬滅(ガブリエル)』

魔王の太刀が、高らかに燃える。沸き立つオーラはドラゴンの写身のように思える。
少なくとも観客たるメアリにとってはそう見える。

両者、刀を構える。――――疾く駆ける。

駆ける、駆ける、駆ける。シグレ・ランゲツはこの一瞬に己が全て賭けた。生涯最後の一撃を。障害最高の一撃を放たんと。

二人が駆ける、近づく、近づく、近づく。交差、肉薄―――構えた刀を振り上げて。


「俺の――勝ちだぁっ!!」

『貴様の、負けだぁ!!』


353 : 明日の方舟たち(ArkNights)-時雨嵐月- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:17:59 dbdyXtc20












「最終奥義――時雨嵐月ゥゥゥッ!!!!」















『――無明斬滅(ガブリエル)ッ!!!!』















――――そして、刃鳴りて、散る


354 : 明日の方舟たち(ArkNights)-時雨嵐月- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:18:17 dbdyXtc20
□□□□□□□□




「………ぁ。」

少女は、観客として見とれていた。
そして、その"最後"を見届けた。




『…………!?」

魔王の太刀は、ひび割れて。



「……ははっ、最っ高だぜ、この剣はよぉ………。」

残った腕は、切り飛ばされた。クロガネ征嵐には、傷一つ無いまま。





「……ムカつくけれど、認めてあげるわ。」

"ベルベット"が、穏やかな声で。両腕のないシグレに、大きく口を開けた業魔腕を向ける。
全ては決した。ベルベットは勝負に勝った。だが、試合には負けた。
屈辱、屈辱だが、それ以上にシグレに対する感嘆の感情が大きかったのだ。

「さようなら。あんたは強かった。」
「……ははっ、そう言ってもらえるなら、剣士冥利に尽き、るぜ………。」

死の牙がシグレに近づく。両腕を失ったシグレにもう戦う力はない。
全てを出し尽くした、全てを賭けて、魔王の太刀に罅を入れた程度。
だが、その程度でも、清々しい気分だった。








(……わりぃな、ロクロウ)

――喰われる最後に思ったのは、結局決着を付けることなく、勝ち逃げ同然に残してしまった、弟のことだった。










死体は残らなかった。彼が生きた証はただ、どこかに飛ばされた片腕とクロガネ征嵐のみ。
消耗した体力もシグレを食べたことで回復するだろう。
そして、後に残った血痕に、魔王は、こう言葉を残す。


『美事だったぞ、シグレ・ランゲツ』


それが魔王が彼に送る、唯一無二の称賛の証だった。


355 : 明日の方舟たち(ArkNights)-時雨嵐月- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:18:43 dbdyXtc20
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


武士道とは 死ぬことを見つけたり
修羅道とは 倒すことを見つけたり


修羅とは 大地を揺るがし往く者のことなり
羅刹とは 大地を斬り裂き逝く者のことなり


血潮の海に身を沈め
目の前の敵 全てを 斬る
剣の道 まさに修羅の道なり


屍を築き 血河を流し
生き延びることこそ無敵なり
死に果てることこそ夢望なり


無情の生涯 語るに及ばず
我道に殉ぜし極みこそ古今無双の死に様なり


いざ尋常に勝負せよ
侍魂 ここにあり






356 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 20:19:04 dbdyXtc20
今回の投下はここまでとなります
続きはまた後日


357 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/03(土) 21:18:35 dbdyXtc20
>>355を以下の内容に修正します


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


武士道とは 死ぬことを見つけたり
修羅道とは 倒すことを見つけたり


修羅とは 大地を揺るがし往く者のことなり
■■とは 大地を穿ち捧げ之く者のことなり


聖道の最中 永劫の夢を否定し
目の前の敵 全てを 斬る
剣の道 まさに修羅の道なり


屍を築き 血河を流し
生き延びることこそ無敵なり
勝ち果たすことこそ夢想なり


無情の生涯 語るに及ばず
我道に殉ぜし極みこそ古今無双の死に様なり


いざ尋常に勝負せよ
侍魂 ここにあり


358 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:44:04 co5oLphk0
投下乙です
シグレ・ランゲツお見事。
身体朽ちても剣だけは朽ちず、まさに剣術においては最強を守り通しましたね。
魔王も超バトルの果てにそれを認めて賞賛するのも良き...


投下します


359 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:46:49 co5oLphk0


少しだけ時を巻き戻そう。

破壊神が『王』の影をマロロに、『セルティ』の影を隼人に、そして『マリア』の影を志乃とジオルドに放った時のことだ。

マリアに飛びつかれ、志乃と引きはがされ、ジオルドは地面に押し倒された。

このままではいけない。早く―――をどけて母のもとへいかなければ。
そうして彼女を押しのけようとしたその時。

―――ドクン。

心臓が跳ね、キースの生首と対面した時の映像が脳裏を過る。
もとより、不安定な洗脳ではあった。
罪歌による『愛』と志乃による『あかりちゃん』のせめぎあいにより生じた、主催陣すら予期せぬ呪いの弱体化。

歪みだらけの呪いから生じた隙間は抵抗力となり、ジオルドの脳裏にキースの生首を見た時の光景が鮮明に映し出される。

キースはカタリナの義弟で己の恋路の障害物であり、そんなものよりも『母さん』の命に従う。

違う。キースが死んだと知った時、自分はどう思った?なにを感じた?

余計なことを考えるな。余計なことなんかじゃない。

その葛藤が、罪歌から与えられた愛を歪ませていく。

(そうだ。僕があの時感じたのは。僕が求めていたのはーーー)

そんな隙だらけの彼を見逃す破壊神の影ではない。

マリア・キャンベルの姿を模した影はジオルドの息の根を止めんとその喉に手を伸ばす。


「...ありがとう、マリア」


だが、ジオルドはその手を受け入れなかった。


360 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:47:52 co5oLphk0

「きみのお陰で目が覚めた。ねえ、マリア。きみは...きみも、死んでしまったんだろう?キースと同じように、僕の中から...遠ざかってしまったんだね」


震える声で問いかけるジオルドに、マリアは答えない。

マリア・キャンベルに攻撃用の魔法はない。だから、手を振り払われてしまえば彼女になす術はない。

その彼女の姿が、ジオルドには肯定を指しているとしか思えなかった。


「...ッ!」


ジオルドは思わず目元を歪め唇を噛み締める。今にも泣き出しそうなほどに。


わかっていた。わかっていたつもりだった。自分が愛しているのはカタリナ・クラエスだけでなく、その周囲を取り巻く日常そのものでもあったことを。

けれど、こうして目の前に事実を突きつけられると如何に己が思い上がっていたかを思い知らされる。

カタリナとあの日常、どちらが優先か、などと順序づけられるものではない。

全部必要だった。カタリナだけでなく、キースも、マリアも、メアリも、アランも、ニコルも、ソフィアも。彼女を取り巻く全てが、一つも欠けてはならなかったのだ。

永遠に続くものなどないのはわかっている。己の想いが報われるとは限らないことも。それでも、その結末はみんなが納得して迎えられるhappy endだと思っていた。
こんな理不尽な形で奪われていいものじゃなかった。


それでも、いくら嘆いても現実は微塵も容赦などしてくれない。それを取り戻そうとするならば。理不尽に抗い勝ち取ろうというなら。

間違いなく今よりも地獄が待っている。その果てが報われるものではないことも解っている。

それでも。


「僕は君たちを、あの日々を取り戻す。例えそこに僕がいなくても」


『どうせ私とアンタは、同じ穴の狢―――殺し合いに乗ってる時点で同類って訳よ!』


彼女の、ウィキッドの台詞は正しい。これから先、自分は私欲の為に多くの人の願いを踏みにじり、裏切り、傷つける。

カタリナも、彼女の周りも誰も喜ばない愚行だ。

だからこそ。

そんな醜く愚かな自分は、あの日々には必要ない。それを自覚してもなお、彼にはあの日常が愛おしく尊きものだった。


「僕は行くーーー勝って、全てを取り戻すために」

例え夢の果てに己の姿が無くとも構わない。
マリア・キャンベルの影に惑わされることなく、ジオルドはいまの同行者達の元へと足を進める。


破壊神シドーの影を倒す方法は二つある。一つは、影の体力を削り切ること。もう一つはーーー影を恐れず、受け入れて進むこと。

王の影もセルティの影も、敵視や懺悔という畏怖に近しい感情と向き合い続けた為に最後まで残り続けた。

だが、マリアの影は、ジオルドが受け入れ進んだ為に、この場で消滅した。


それはジオルド・スティアートの心が揺るがない証左でもあった。


361 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:50:07 co5oLphk0
そして現在まで彼は仮面を被り続けた。自分は罪歌に洗脳された駒であると。

誰も疑わなかった。

ジオルドの素性を知るのが佐々木志乃のみであり、彼女にしても罪歌で聞き出した程度であること。

なにより、神々の戦いの前に彼1人に注意を割く暇などなかった。


ジオルド・スティアートは英傑である。
火の魔力で操る炎や磨かれた剣術。
なんでもソツなくこなす天才肌。
猫かぶりからくる人当たりの良さ。

彼を知る多くの者が彼を強者と、天才だと認めていた。

だが、それは彼の生きる世界での話。

数多の異能や強者を集められたこの世界には当てはまらない。

炎の術に限れば、安倍晴明やヴライ、果てはマロロにも劣り。
剣術としては冨岡義勇ら鬼殺隊やミカヅチ・アンジュら亜人、シグレ・ランゲツとロクロウ・ランゲツのような剣術を生業とする者に及ばず。
人心に付け入り懐に入り込む術や交渉術に関しては琵琶坂永至や夾竹桃ほど口達者でなければ思考の柔軟性もない。
己の目的を叶える為の思い切りの良さも、鬼舞辻無惨や岸谷新羅、水口茉莉絵らのように己が願望を優先できず。

彼の固有する特別な分野に限らずとも。
身体能力と直接的な戦闘経験でいえばゲッターチームに平和島静雄、武偵、元軍人のヴァイオレット・エヴァーガーデンには遠く及ばない。
異能という大まかな分野においても桜川九朗の不死身性や絹旗最愛のような耐久性に優れる訳でもなければ、スタンド使い達やマギルゥの精霊術の応用力には及ばず、殺傷力も麦野沈利やベルベット・クラウ、垣根提督らには大きく劣る。
頭脳面で言っても、彼には岩永琴子やレインのような明晰と謳われるほどのものはない。

この場においてもそうだ。

異能という面ではマロロや咲夜、早苗に大幅に劣り。
肉体面では隼人に弁慶、志乃にすら劣る。

この会場では英傑も空しいお飾りの称号にすぎない。

強さや生存適正でいえば、会場でも、いま傍にいる面子の中でも下から数えた方が早いだろう。

故に。

誰もジオルド・スティアートへと大きな期待も警戒もしなかった。

直接対峙したカナメには『最悪、洗脳が解けても実力で黙らせられる』という評価のもと見逃され。
破壊神とウィツアルネミテアという強大な神の前では『洗脳下にいる元・危険人物』など誰の眼中にもなくなった。


当たり前だ。

神々の戦いの前ではジオルド含め、皆が路傍の石にしかすぎず、それを打ち倒そうとする者たちはみな決死の覚悟と執念で臨んでいる。そんな1人の連携が乱れれば全てが終わる局面で、己の命すら懸かっている極限状態で、さして強くもない洗脳された人間など重要な任におけようものか。

だからジオルドは『洗脳されている』範囲では全力を尽くした。マロロの命令に従ったものの、最後の一抹までは全てを出し切らず、他の面子に比べてもとりわけ余力を残すことが出来た。

彼が1番肝を冷やしたのはビルドの創り出した状態表名簿だ。実際にそこにも『のろい』が既に解けていることも記載されていた。
だが罪歌の洗脳を呪いと認識しているのは志乃だけであり、その志乃も復帰はギリギリの局面であり、誰もジオルドへの指摘などしなかった。

志乃の愛が罪歌を呑み込みつつあったこと。

マリアの影に襲われ呪いを振り払えたこと。

破壊神とウィツアルネミテアという絶対的な脅威が戦っていたこと。

志乃が直前で重傷を負いジオルドへ気を回す余裕が無かったこと。

マロロがジオルドを肉壁にする策を立てなかったこと。

ビルド達が破壊神を討ち倒すその結末まで、一切自我を見せず演技を貫き通したこと。

それら全てが噛み合い、幸運にも彼はここにいる。

ジオルドという立場的弱者だった男は、いま最悪の牙を剥いたのだ。


362 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:50:41 co5oLphk0



ビルドの身体から刺剣が抜かれる。前のめりに倒れ掛ける彼と早苗の身体を、ジオルドは優しく手を添え支える。
ビルドを刺した瞬間、ジオルドは己の背中で隠し周囲からの死角にした。
傍から見れば、倒れかけるビルドを支えたようにしか見えない。

そこに、数舜の隙が生じるのを彼は見逃さない。

振り返りざまに炎の魔法を放つ。

その焔の向かう先は―――十六夜咲夜。

「ッ!?」

突然の不意打ちに咲夜の顔は驚愕に染まり、咄嗟に両手を交差させ盾にする。
己の皮膚が焼け焦げた瞬間、困惑から平静を取り戻し。

―――カチリ。

時が止まる。

「まさかこのタイミングで仕掛けてくるとはね...」

咲夜も、別にいまの共闘でここにいるメンバーを殺せなくなったとは思っていない。
しかし、この人数差では例え時間停止を駆使しても乗り切れるとは思えなかったし、己の生命があってこその願いであれば、そんな危険な橋を渡ろうとも思えなかった。
だから仕掛けるにしてもいまではなく、もっと機をうかがうべきだと思っていた。

それがまさか、この場面で、しかも共闘を持ち掛けやすい己に牙を剥けるという愚行を犯すとは思わなかった。

(そのような短慮な男は必要ない)

間一髪で致命的なダメージを防いだ咲夜は、死にかけのみぞれを傍にいる弁慶達に放り投げ、己は跳躍しジオルドの頭上を跳び越えつつナイフを放つ。
彼女自身、疲労で狙いも正確ではなかったが、それでも刺さる場所には投げられた。

時が動き出すと共に、咲夜は着地し、ナイフはジオルドの背中に突き刺さる。

「ッ...!」

痛みと共にジオルドの顔がしかめられる。
よろめきかける身体―――だが、ジオルドはすぐに振り返り、背後にまわっていた咲夜目掛けて毒針を投擲、ナイフの着弾を確認しようとした咲夜の右目に突き刺さる。

ジオルドは状態表名簿から咲夜が時間を止めることを知っていた。
そして、彼女が自分の次に疲労が少ないであろうことも。
だから彼は、真っ先に始末するべきは咲夜であり、攻撃を仕掛けた時点で時間を止めて躱されることも想定済みであった。
そこから先、恐らく時間を止めて正面以外、それも最も安全な背後を取ろうとするであろうことも。

その賭けに勝った結果、ジオルドは咲夜の着地狩りに成功したのだ。


363 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:51:24 co5oLphk0
「ぐっ!」

右目に走る激痛に咲夜の顔が歪む。
油断した。
気の緩み、だといえばそれまでかもしれない。
しかしそれ以上に。
咲夜も破壊神からの攻撃と度重なる時間停止の連続でかなりの疲労が溜まっていた。
その疲れからくる判断力の低下で最適な攻撃ルートを選んでしまうのも無理はない話だ。

そこを突かれ、右目を失った。

「この代償は高くつくわよ...!」

怒りと共に、咲夜は己の目に刺さる針に手をかけ

「ガッ!?」

ビキリ、と身体が硬直しのたうち回りそうになるほどの激痛が走る。

どくばりの有する『稀に致死量の毒を流し込む』特性が、運よく発動してしまったのだ。

「こ、んな...ありえ...」

目を見開き、みっともなく涎と涙すら流しながら苦悶の表情のまま沈む。
ピクピクと痙攣し、やがて動かなくなる。

「これで三人目...ですが、大きな壁は越えられた」


364 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:52:05 co5oLphk0
あまりにも一瞬の殺人劇に、誰もが思考を止めていた。
なぜジオルドがビルドと早苗を、そして咲夜までもを手にかけたのか。
その答えがわからぬまま困惑に飲み込まれる。

「どうなっている志乃!」

イチ早く我を取り戻した隼人は傍の志乃の胸倉を掴みあげる。
ジオルドを操っているのは志乃だ。ならば彼女がジオルドに命じたのか、という結論を出すのはごく自然なことだ。

「わ...わからない...私はそんな命令なんてしてません!」

志乃もまた戸惑い、ただただ困惑する。
自分はビルド達を殺せとも、傷つけろとも命令を下していない。もちろん、解除だってしていない。
なのになぜ。まさか、洗脳を解いたというのか?いつ、どのタイミングで?

困惑で皆が硬直する中、ジオルドが狙う次の獲物は、弁慶と久美子たちだ。

「てめえ、ジオルド!!」

怒りの形相を浮かべ、弁慶はみぞれを久美子に預け、ジオルドを拳で迎え撃つ。
その拳目掛けてジオルドが繰り出すのは―――木の樽。
隼人達が破壊神を拘束する際に使用したものの残りだ。

弁慶の拳で割れたソレからは大量の油が零れ落ち弁慶の足元に撒かれる。

ジオルドは油に炎の魔法を放ち―――着火。
油を得た炎は瞬く間にその火勢を増し、弁慶とコシュタ・バワーを呑み込む。


「弁慶さ...!」

思わず呼びかける久美子の前に立ちはだかるジオルドは無表情のまま久美子とみぞれへと掌を翳す。
みぞれが庇うように久美子とジオルドの前に身体をのめりだすが、炎の魔法は無慈悲に二人を呑み込んだ。
異臭を放ち、黒焦げになった二人を見下ろすジオルド目掛けて、風を切り弾丸が迫る。
彼らへの追撃を止めるよう、隼人が拳銃を抜きジオルドへと発砲したのだ。


365 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:53:11 co5oLphk0
「アリア!奴が来る前に俺のデイバックに入っていろ!力を使い果たしたお前は格好のえものだ!」
「うっ、うん!」

アリアは現状では己が何もできないのを自覚し、指示に従い隼人のデイバックに避難する。

肩を打ち抜かれたジオルドは、弁慶達への追撃を止め、隼人達への攻撃へと切り替える。



迫りくるジオルドを迎え撃つために爪を振るい顔面を切裂こうとする。
が、ジオルドは紙一重で躱し、頬を掠らせるに留め、肩を入れた体当たりで隼人を吹き飛ばす。

「万全なら勝負にもならなかったでしょうが...いまの疲れ切ったきみならばなんら問題はない。それは貴女もですよ『母さん』」

志乃の斬撃を躱し、懐に入り込むと掌で腹部を圧し掌底を捻じ込めば、皮越しに内臓が乱され、この世のものとは思えぬほどの激痛と吐き気に襲われガクリと膝を着く。
その志乃のカバーに入るよう再び銃口を構えるが、既に遅かった。
ジオルドの左手から放たれる炎に、隼人は回避が間に合わず、志乃はほとんど無防備で右手からの炎を受けた。

悲鳴。悲鳴。

炎にまかれ倒れる二人を尻目に、ジオルドは刺剣を引き、クオンへと突き出す。
狙いはその額。
躊躇いなく、その命を狩り取るため。

ズグリ。

肉を抉り。
骨の隙間を縫いその内部を確かに突いた不愉快な感触が手に伝う。

ジオルドの剣は、クオンとの間に割って入ったマロロの胸を貫いていた。

「させぬで、おじゃる...!」

吐血し、修羅の紋様が苦悶に変わろうとも、マロロはジオルドの手を掴み、離さない。

「クオン殿は...彼の、ハク殿の味方でおじゃった...!変わらず想い続けてくれていた...!」

マロロは修羅と化した。
しかしそれは誰もかれもを焼き尽くす無差別な炎ではない。
たとえ修羅と化そうとも、その本質は友を想うが故の憎悪。
いま、ここにいるクオンは共にオシュトルを憎み、ハクを想ってくれる盟友。
友の為に修羅と化したこの男が、目の前で殺されそうになる友を見捨てるはずはなかった。

「マロは...マロは奴とは違うでおじゃる...!!」

「そうか...貴方も、愛する者の為に...」

修羅と化し、なおも友を想い涙を流すマロロにジオルドは呟く。
だが、同情も苦悩もしない。
踏みにじる者たちへの憎悪も、摘んでいく未来の重さも、その全てが重く苦しいものだとしても。
そうしてでも叶えたい願いがあるとわかってしまったから。

ジオルドは刺剣を突き立てた箇所に掌を宛て、炎の魔法を発動しようと魔力を籠める。


366 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:54:27 co5oLphk0
「ジオルドオオオオオォォォォォ!!」

だが。それを食い止めたのは、コシュタ・バワーを駆る弁慶だ。
コシュタ・バワーから跳び下りると、ジオルドの顔面目掛けて拳を振り下ろし、その威力で彼をマロロから引き離した。

「てめえ...よくも久美子ちゃんたちをぉ!」
「その火傷でよく動く...」

弁慶の皮膚は焼けただれ、ただでさえ厳つい顔つきは見るも絶えない有様になっていた。
だがそれでもその双眸からは微塵も覇気を衰えさせず、火傷に苦しむ様すら見せないほどの気迫を放っている。


「弁慶、こいつを始末するぞ!」

遠距離だったこともあり、己の身体についた火を早めに消火できた隼人は弁慶に並び立ち、共にジオルドへと対応しようとする。
が、動かない。ガクガクと足が笑い、もはやまともに動くことすらままならないのだ。
そんな隼人の様子を横目で見ると、弁慶はコシュタ・バワーに頷きかける。

すると、コシュタ・バワーは一人でに変形し、隼人・クオン・マロロを影で引っ張り出し、馬車に乗せる。

「なんのつもりだ弁慶!」
「隼人、お前たちは先に病院へ向かってくれ!俺はこいつをブッ倒す!」
「ならば俺も―――」
「今のお前なんざ俺より頼りにならねえよ!自分の状態くらいわかってんだろ!」

隼人の剣幕をかき消すほどの弁慶の怒号に、隼人は思わず言葉を失う。
いまの自分たちは文字通り半死人の集まりだ。
強大すぎる力を使い果たし女。
腹を割かれた身で無茶を繰り返した女。
術すら使えないほどに疲労し胸を刺された男。
そして、暴走させたカタルシス・エフェクトの長時間使用と度重なる戦いの果てに疲労とダメージが溜まり切り、立つことすらままならない自分。

この中の誰もが、もはや戦いをできる状態にない。
全身を焼かれた弁慶の方がマシだというのはこの上なく正しかった。


367 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:56:21 co5oLphk0
「それにあいつは...あいつは...!」

言葉を詰まらせる弁慶の背中に、隼人は察する。
あのお人よしが傍にいて。
ここまで御大層に守ってきて、この馬車に久美子たちが乗っていないのは―――そういうことなのだろう。

「あいつは俺が冥土に送らなきゃならねえんだ!!」

背中越しに伝わるその気迫には、もはや如何なる言葉も無意味。

短くも太い付き合いだからこそ、隼人はそう悟った―――悟ってしまった。


「弁慶」

だから一言だけ、戦いに赴く男に捧ぐ。
今生の別れになるかもしれない戦友(とも)に。
ここまで食らいついてきてくれた腐れ縁のバカヤロウに。

「ハジをかくなよ」
「おまえこそ」

ただそれだけで別れの挨拶は成った。
隼人はコシュタ・バワーをビルドたちのもとへと走らせる。


行かせまいとコシュタ・バワーを追おうとするジオルドの右足に異物の混入と共に激痛が走る。
刺されていたのは、罪歌。

「ぶ、てい、けんしょ、う...あきらめ、るな、ぶていは、けっして、あきらめるな...そうだよね、あか、り、ちゃ、ん」

志乃はまだ生きていた。
焼けただれた唇で己を鼓舞し、地へと這いつくばりながらも、それでも罪歌を手放しはしない。
いくら余力を残していたとはいえ、ジオルドとて万全ではない。
度重なる炎の魔法の行使は精度も威力も損なっていた。

先に志乃にトドメを刺そうとするジオルドに、弁慶が殴り掛かりソレを阻止する。

「いかせねえって言ってんだろ...!」
「僕の邪魔はさせない...!」

弁慶もジオルドも志乃も、みんながみんな護るべきものを護るために戦っている。
ならば、もう止める言葉など必要ない。
ただ、眼前の敵を排除するために己の力を振り絞る。


368 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:57:41 co5oLphk0
遠ざかっていく蹄の音を背景に、ジオルドがレイピアを突き出す。
弁慶はその突きを両腕を交差させ、その剛腕に突き立てさせる。
ジオルドはレイピアを抜くため引こうとするが―――抜けない。
弁慶はこの状況に陥ってもなお、その筋力は失われてはいなかった。

剣を引き抜くのは不可能。そう悟った時にはもう遅い。
弁慶の坊主頭が眼前にまで迫り、ジオルドの鼻面に直撃する。
メキリ、という嫌な音と共に骨が拉げ鼻血が吹き出る。

意識が飛びかけるその最中、しかしどうにか留まり、残り少ない魔力で炎を放ち、再び弁慶の身体を焼き付ける。
再びの炎撃に、弁慶の身体が悲鳴を上げるが―――しかし、意識を繋ぎ止め、ジオルドの胸倉を掴む。

「へ、へへっ、食らいやがれ」

ジオルドがいくら藻掻こうが、弁慶の力は緩まない。
全身を焼かれた男とは思えないほどの力で身体は持ち上げられ、藻掻く手足は空しく空を切る。
悪あがきの如く、ジオルドの指が弁慶の目を突こうとも、微塵も揺らがない。

そして。

己の身体が空と水平になった瞬間、ジオルドの視界が全てスローモーションになる。
まるで走馬灯のように、意識とは裏腹に身体も、落ちていく景色もひどくゆっくりに見える。

振り下ろされるは、武蔵坊弁慶の十八番。
ただの背負い投げにして、その腕力から放たれるのはまさに必殺の技。

「大雪山―――おろしいいいいィィィィィ!!!」

雄叫びと共に、ジオルドの身体は叩きつけられ、地面には亀裂が走る。
ジオルドの背骨は砕け、胸骨も折れ、痛めた内臓から出された血液が口腔から噴き出す。

同時に。
弁慶の身体も前のめりに倒れ込む。
火傷による熱傷は70%を超えると死亡率は九割を超えるという。
如何に頑丈な弁慶とて、それは例外ではない。

弁慶の火傷は既に身体の9割を超えている。
さしもの彼の頑丈な身体も、それに耐えきることはできなかった。

ほどなくして、志乃も力尽き首を垂れる。
三人の呼吸音すら掠れていき、静寂に包まれる中―――やがて、一人がゆらりと立ち上がる。


369 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:59:09 co5oLphk0
「ハァッ、ハァッ」

ジオルド・スティアート。
その肉体はズタボロで、骨は折れ、内臓は傷つき関節は外れ、筋肉は断裂している。
満身創痍。立つだけで精一杯。
もはや戦う力は残っていない。
それでも、彼は勝ち残った。
温存していた力の差はここにきて実を結んだ。
愛する者たちのために屍の道を積む権利を、ようやく手に入れられた。



(追わなければ)

息も絶え絶え、意識も朦朧とする中で、彼が目指す先は遠ざかる馬車。
仕掛けるタイミングは間違っていなかった。
この戦いの立役者は間違いなくビルドだ。
敵も味方もないまぜに団結させ、導いていくという戦に於いて最も恐ろしい力を有している。
現に、あれほど強大な破壊神さえ力を合わせて討ち下したのだ。
もしも体力を回復させ、残る面子を更に団結させ力を増していけば、もはや手を着けられなくなってしまう。
だからここで仕掛けた。
自分が一番体力に余裕があり、他の面々が底まで体力を使い果たしている今が絶好のチャンスであった。
もしもここで逃がせば、神隼人たちは体力を回復させ必ず自分を殺しに来る。
そうなればもう己の願いを叶える手段は無くなったに等しくなる。

(取り戻すんだ。あの日々を、彼らを取り戻す為に―――)

覚束ない足取りで、ジオルドはその足を踏み込む。
例え地獄に落ちようとも、カタリナ・クラエスとその日常を護って見せると。

だが。

忘れることなかれ。

英雄が墜ちる時に這い寄るのが歪んだ人の想いであれば。


「ガッ!?」


英雄(ひかり)を落とした者を殺すのもまた、歪んだ人の想いであることを。


370 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/05(月) 23:59:42 co5oLphk0
ガツン、とジオルドの頭部に鈍い衝撃が走り、前のめりに倒れ込む。

ガツン。

痛みに苦しむ暇もなく、再び頭部が何かで殴りつけられ、視界に赤くて温かいものが広がっていく。

ガツン、ガツン。

パキリ、となにか壊れてはいけないものが壊れた音がした。それがなんなのかはわからない。わかっていけない、とそんな感じがした。

ガツン、ガツン、ガツン。

与えられ続けた痛みがプツン、と切れ、同時に力という力が流れ出していく。もう駄目なんだと自覚してしまう。

ガツン、ガツン、ガツン、ガツン。

その音と共に揺れる視界に、薄れていく意識に最後に思うのは。


(み、んな、かた、りな)

愛しき日常。
笑顔で笑い合う彼らが。
真赤に染まり、穢されていく光景だった。


371 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/06(火) 00:03:25 GNLHhRrE0

ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン
ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン
ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン
ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン
ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン
ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン
ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン
ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン、ガツン








パキリ


372 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/06(火) 00:04:11 GNLHhRrE0


『なにがなんでも守り抜け』

その命令は死の目前にまで迫っていたみぞれに、未だ作用していた。
ジオルドの炎に、己諸共久美子が焼かれたその瞬間、みぞれは己の防御を一切捨て、最期の力を使い果たし久美子を全力で冷却した。
全身は無理だったが、それでも生命を維持するのに必要な部分だけは死守してみせた。
そして。ジオルドに追撃されないよう、黒炭と化した己の身体で久美子の焼けていない部分を隠し、ジオルドに『二人とも死んだ』と誤認させる賭けに出た。
結果、隼人の銃撃で其方へ向かわざるを得なかったジオルドは碌な生死確認をする暇もなく、久美子たちから意識を逸らした。
気絶しつつも、まだ息のある久美子にみぞれは微笑みかける。
鎧塚みぞれは賭けに勝った。
逃げずに久美子を護り抜いたのだ。
その結果、味方である弁慶にすら誤認されてしまったのは彼女が知る由もないが。

「――――」

言葉にならない呟きと共に、みぞれの身体が力を失い崩れ落ちる。
気を失い、火傷を負い、それでも生きている少女の呼吸に安心して彼女の瞼は落ちていく。

鳥籠から、リズの手元からさえ離れた青い鳥は、自分に出来る限りの精いっぱいを頑張って、頑張って、頑張って羽ばたいて、いつしか力尽きて落ちてしまった。
結局、彼女が求めるものには届かなかったけれど、それでも満足したように眠りについた。

彼女がそれでよかったのかはわからない。
けれど、結末だけを見れば、彼女はここで眠りについてしまったのは幸運だったといえるのかもしれない。


373 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/06(火) 00:05:25 GNLHhRrE0


目を覚ました久美子は、起き上がると、真っ先にジオルドの背中が眼に入った。
傍には同じく火傷のヒドイ弁慶と志乃が転がっていた。
瞬間、自分が殺されそうになったことを思い出し、気が付けば傍にあった瓦礫を握っていた。

倒れる二人を助けようとしたわけじゃない。
ただただ怖かった。
ただただ死にたくなかった。
その必死な生存本能が、ここで彼を殺さなければならないと身体を動かしていた。
だから、彼女はその瓦礫を振り下ろしていた。

何度も。何度も。我武者羅に。一心不乱に。
何も考えず、己に降りかかる赤いものがなんなのかも知ろうともせず。
ジオルドの頭部が原型を留めないほどに拉げ、潰れると、ゴトリ、と凶器の瓦礫が地面に落ちた。

気が付けば。
あたりは真赤とピンクに染まっていた。

狂ったように振り下ろされた瓦礫には、ペンキのようにどす黒い赤がこびりつき、ぶよぶよとした何かや金色の毛髪がこびりついていた。

「え、あれ」

不愉快な感触と鉄臭い臭いがこびりついた頬に触れると、ベタベタとした感触が指を伝った。

「なに、これ」

震える掌を自分の目の前にやると、それはドス黒い真赤に染まっていた。
いや、掌どころではない。全部だ。全部、見るも悍ましい真赤に染まっていた。

「ちが、わたしは、こんなの」

認めたくないと否定しても、潰れたジオルドの頭部が、飛び散った脳漿と頭蓋の破片が。
自分がやったことだと現実を突き付けてくる。

「いや」

がりがりと己の頭を掻きむしる。
違う。違う。違う!!
いくらそう頭で訴えかけても、その心は認めない。
これは私がやった。私が、彼をこんなにして殺したんだと。

「イヤぁぁぁあぁあああぁあぁぁああぁ!!!」

悲痛な叫びをあげ。
恐怖と動揺で混乱し歪んだ形相で、涙も、涎すら垂れ流して。
久美子は己の犯した罪から目を背けるように―――半狂乱になりながら、なにもかもを放り出して逃げ出した。


374 : 英雄の唄 ー 七章 Battle Royale ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/06(火) 00:06:25 GNLHhRrE0

「おう、まえ...さん...」

その一部始終を見せつけられた弁慶と志乃は、歯を食いしばり涙を流していた。

「ちくしょう...」

護りたいと思っていた。

武偵として/セルティの意思を継いで。

なのに。
なにもできなかった。
止めてやることもできなかった。
一番非力な少女が、ジオルドを破壊するのをただ見ていることしかできなかった。

結果的にジオルドを止められたのだからいいではないか―――そう、割り切れるような感性をしていたら、彼らはこの場に残っていない。

「ちく、しょう...!」

最後の最後まで。
彼らは己の無力さに打ちのめされ、涙し、後悔に心を沈め続け―――ほどなくして、鼓動すら止めた。

ジオルド・スティアートの剥いた牙がもたらした結末は、誰も報われることのない空虚な悲劇だった。


375 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/06(火) 00:07:16 GNLHhRrE0
すいません、次が最後の投下になります


376 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/09(金) 00:28:05 os6bQYws0
投下します


377 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/09(金) 00:28:21 os6bQYws0




―――糾える因果を背に負って、覚悟、後悔、祈り、怒り

―――それぞの手を思いで染めて、求めるモノは、ただ一つ



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


淡い光明のみが、冥府を照らす生と死の狭間。
時間とも空間とも切り離された幽世。
汎ゆる境界が揺れ動き、安定しないこの奈落の奥深くで。

「……もう、戻れないんですね。」

間宮あかりは、自らの運命を自覚し、受け入れた。
それと同時に、戸惑いもあった。
死んだ後にある世界、と言うのは絵画が御伽噺で伝えられているものが殆どである。
向こう岸の本質を誰も正しく理解することはない。理解するとすれば、それは恐らく死んだ後になるのだから。
自分が死んだ時の感触、何かが焼け落ちるような感覚を、今でも思い出す。
あの時に、自分が死んだのだと、大切なものが抜けていく感覚を、鮮明に。

「……あはは、私なりに、今まで頑張ったんだけどなぁ………。」

弱々しくも、吐き出した言葉は本心。
武偵となるために、唯一無二の憧れに近づくために、今まで頑張ってきた。
辛いことも、悲しいこともあって、それでもみんなに助けられてきながら、乗り越えてきた。
だが、駄目だった。――あの災害には、意図も容易く蹂躙された。
せめてあの時助けたみんなが無事だと良いかな、なんて楽観なんて出来なかった。
自分は死んだ、魔王の炎に魂を焼かれて、ここに堕ちた。

空を見上げる少女の瞳に映る世界は、地平線まで続く水面を映し鏡に玲瓏の光芒を輝かせる沈黙の世界。
自分と二人以外誰もいない、正しき世界の枝より切り離されたバックルーム。
ここには何もない。恐竜のオブジェクトはあるが、ここには何もない。

「……悔しい。」

悔恨の思いだけが満ちている。凪の中に一滴落ちた赤い涙。
これは現実ではない、その赤い涙は彼女の痛みで、苦しみである。
だが、溢れた水が二度と戻ることはない、奇跡は起こらない。

「……悔しいなぁ。こんな所で、終わりだなんて。」

光芒に消えていく。その嘆きすらも、後悔すらも。全ては水面に溶けていく。
ここは境界、汎ゆる全てが揺蕩う夢の淵。
全ては虚しく、後には全て去りて消えゆくのみ、それが真実。

「……っ。」

ここは途中駅だ。間宮あかりという人間の情報は、廃棄孔へ残滓として落ちてゆく。
ロスタイムの終わりは近い。終着への列車を待ち続ける他にない。
妹のことも、友達のことも、託された思いも、何もかも。

「……ううっ……っ。」

塵は塵に、灰は灰に。終わる、全てが終わる。
項垂れようと、泣き崩れようとも、時計の針は戻らない。

「……………。」

"来訪者"は、沈痛な思いで、間宮あかりの姿をじっと見つめていた。
この世界の"自分"は死んでいた。残してしまった誰かの事を思えば、自分も他人事ではない。
最も、この世界の"自分"と、今この世界に巻き込まれた"自分"は並列世界の別人だ。
巻き込まれず平和に好きな人と過ごせている世界線もあるのだ、こういう世界線も、あり得るから。
一つ何かを間違いた世界線というのが、この舞台だというのだから。


「戻れないかどうかは、まだ分からないと思います。」


だが、ここに可能性はある。蜘蛛の糸は既に垂れている。
仮面の女性は、絶望に沈む武偵へと救いの手を伸ばした。


378 : 明日の方舟たち(ArkNights)-怒号光明- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/09(金) 00:28:42 os6bQYws0
「……どういう、ことですか。」
「あなたは、あの魔王の……ベルベットの攻撃で、あなたを構築する情報が破損しました。」

言い回しこそ気になるが、間宮あかりとしてもその認識で間違いはなかった。
魔王の攻撃を受けて、死んだ。それが間宮あかりの根底にある認識だ。

「ですが、その攻撃は本来の『情報を侵食する穢れ』ではありません。……あれは私という情報を武器として射出した事によるものです。」
「「……はい!?」」

だが、そのきっかけとなった攻撃の中身が、今目の前にいる仮面の女性である、と。自己申告したのだ。
驚愕の表情が顔に出る二人を後目に、説明は続く。

「ベルベットは……私を否定するために、私を魔力として消費しました。ですが、私という情報が間宮あかりの情報を破損させましたが……。」

事実とするなら、そういう事なのだろう。間宮あかりがメアリ・ハントを庇った際に受けた攻撃。
あれは仮面の女性――シアリーズという情報を消費して放たれた、所謂『情報の弾丸』だ。

「……混じった、って言いたいの?」
「そういう事です。」

来訪者の答えに、仮面の女性ことシアリーズはすんなりと肯定した。
間宮あかりに放たれた『情報の魔弾』は、間宮あかりに致命傷を与えると同時に、間宮あかりの本体情報にシアリーズの情報が入り交じる結果となった。
だが、致命傷は致命傷だ。間宮あかりの情報は損壊した。その事実は覆しようがない。

「混じった事により、破損した情報が辛うじて元の形を再構築出来ているからです。『現実』のあなたが眠っているのは、再構築したとはいえ復活にはまだ破損したリソースが足りないから。」

だが、彼女という存在が、情報が保ったままなのは。
シアリーズの情報が間宮あかりに混じった事により、新たに供給されたリソースを元に情報を再構築することが出来たから。
未だ現実の間宮あかりが目を覚まさないのは、再構築したリソース分だけでは足りないから。

「……じゃあ、そのリソースが足りたら、私は。」
「"戻る"事が出来ます。」

足りないのなら、満たせばいい。
間宮あかりにさらなる情報(リソース)を供給し、間宮あかりの意識を覚醒(めざ)めさせる。
破損した情報を別のもので補完し、再起動させればいい。

「………!」

間宮あかりの瞳に、再び希望が灯った。
あの魔王に勝てるかどうかは分からないにしても、それでも希望があるというのなら。
それに賭けてみたいと、そう思った。
無風の世界の水面に、波紋が広がる。
それは、間宮あかりの意思に呼応し、揺れ動いている。

「……ですがまだ。醒めるには足りない。」

だが、それではまだ足りない。シアリーズの情報だけでは足りないのだ。
ならば、どうやってリソースを供給するべきか。そのリソースは何処にあるのか。

「………この世界の私は?」

だが、それを打破する切掛は来訪者の鶴の一言。

「どういうことでしょうか?」
「私が呼ばれた、って言うよりも巻き込まれた原因。このあかりって子が何かしらこの世界の私と接触したとか。もしくは『死んだ』時に私の死体に触れた、だとか。」
「……それは。」

無理ではない。この世界における"彼女"の死体を押し潰すように、間宮あかりが覆い被さった構図となる。
その結果、"彼女"の情報残滓が間宮あかりの情報に混じったとしたなら。

「この私の、……この世界の私(シュカ)の情報が、既にあの娘の中にあるんじゃないの? それに……。」

"彼女"が、この世界の狩野朱歌を導線として、この世界に呼ばれた理由。
数多の偶然と奇跡が絡み合って糸を為した、ある種の運命。

「この世界の私の下手人、そのベルベットってやつじゃないの?」
「………。」


379 : 明日の方舟たち(ArkNights)-怒号光明- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/09(金) 00:28:56 os6bQYws0
シアリーズが述べずとも、その沈黙のみが答えを示す。
全てはベルベットという魔王が因果を紬いだ世界の枝のその末端。
奇しくも間宮あかりは、その奇妙な運命に遭遇したわけだ。

「……それで。あなたは戻って、アレに挑むの?」
「………。」

シュカの視線が、間宮あかりに向く。
自惚れるつもりはないが、仮にもダーウィンズゲームの上位ランカーを軽々と殺した相手、かつ話を断片的に聞く限りは存在そのものが規格外。

「……はい。」

それでも、そのような埒外を目の当たりにしても、間宮あかりの覚悟は変わらない。
間違いなく、次はない。ただでさえ他媒体の情報で埋め合わせいる曖昧な泡影に近い彼女が、目覚めた後に起こる事は、保証はできない。

「それに……シアリーズさんが、悲しそうでした。」
「………わかっていたのですか?」

仮面越しにでも垣間見えた、シアリーズの感情。
少なくとも、シアリーズがベルベットにとって切って離せない存在であると同時に、ベルベットがそんな彼女を"消費した"という意味が、どれだけ重いのか。その理由も、また。

「……いいえ。その理由を問うのは野暮でしょう。本来の私の名前はセリカ・クラウ。ベルベット・クラウの姉であった聖隷です。」
「……それって。」
「ええ。ベルベットは私の妹。命を落とし、聖隷として蘇った。」

未だ低い声で語る声は、僅かに震えているように思えた。
ベルベットは彼女の妹であるという事実。そして今、間宮あかりが知っている魔王ベルセリアとしてのベルベット。

「けれど、聖隷としての私の主、セリカ・クラウの夫アルトリウスは、理想の世界を作るために私の妹を業魔にした。……私は彼を止めるために、ベルベットに己を食べさせてその願いを託しました。」
「……そんな、そんな事って。」

衝撃の事実だ。自分の婚約者の妹を容赦なく生贄に捧げたアルトリウスにもだが、彼を止めるための礎として、自分の魂を妹に捧げたという事実も。

「……ですが。彼女は歪んでしまった。いいえ私が、彼女を歪ませてしまった。」

その後は、シアリーズの情報が観測したデータだ。殺し合いに巻き込まれたベルベットは、本来辿るべき出会は失われ、歪み、歪み、狂い、そして魔王へと堕ちた。

「……私が、あの娘を地獄の道へと導いてしまった。ですが、もうどうすることも出来ない。」

涙声、それは間宮あかりにも、シュカにも分かるほど。涙ぐんだ声が、響いて、響いて、水面に波紋を呼ぶ。

「―――お願いです。こんな頼みを見ず知らずのあなたに託してしまうことを許して下さい。あなたを巻き込んでしまったことを許して下さい。」

一切の濁りなき本心。託してしまったが故の、己の後悔と怒りが呼び起こしてしまった悲劇。
自分一人では精算できない、どうしようもない。だからこうして縋り付くしか無い。

「ベルベットを。私の大切な妹を、救(たす)けてください。」

それがシアリーズの。セリカ・クラウという人間が、間宮あかりに頭を下げて願う、唯一の願い事だ。
間宮あかりの答えは既に決まっている。彼女が武偵であるのだから、依頼人の願いを無碍になど出来ない。

「その依頼、引き受けました。」

真っ直ぐな目で、そう応える。
武偵憲章2条『依頼人との契約は絶対守れ。』。武偵にとって、当然至極の、ありふれた信念。

「だから、手伝ってくれると嬉しいです。」

その言葉は、全てをわかった上で。今の間宮あかりに、シアリーズが混ざっているからこその。
それを聞き届けたシアリーズの姿が、靄となって消える。その直前に仮面は薄れ、その素顔は微かに笑みを浮かべていた。


380 : 明日の方舟たち(ArkNights)-怒号光明- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/09(金) 00:29:11 os6bQYws0
「………結局私、ただ巻き込まれただけだったなぁ。」

そう一人愚痴るのはシュカ。彼女もまた身体が宙に浮かび、薄れていく。
シアリーズが最初に言った、帰る時が来たのだ。

「まあ、この世界の私のリソースも使うんだから、ヘマしたら許さないよ?」

そう誂うようにあかりに告げたシュカもまた、存外悪くない気分ではあったわけで。

「言われなくても、わかってます。」
「ならいいんだけど。……それじゃあさ、もし覚えていたらさ、お願いできる?」
「お願い、ですか?」
「スドウカナメって人と出会ったらさ、伝えてくれないかな?」

それは、茨刑の女王(ソーン・オブ・クイーン)と呼ばれた少女の初恋相手、その並列存在だとしても放っておけなかった彼女の良心。

「―――――って。」
「もし出会えたら、伝えておきます。」

依頼が増えてしまったが、武偵にとってはよくあること。
シュカの姿が天高くに飛び立ち、見えなくなった頃には、既に月は無く。
ただ地平線に広がる青空が、快晴の天が広がって―――崩れていく。

全ては泡沫、走馬灯の狭間。蒼のにニライカナイにして電子の廃棄孔。
崩れてゆく、世界が黒へと染まっていく。
それでも彼女はその闇に恐怖せず、直視し、受け入れる。
全ては、託された思いを果たすため。
全ては、今なお戦っている彼女たちを助けるために。
武偵・間宮あかりは諦めない。例え世界に、運命に裏切られようとも。彼女は武偵であることをあきらめたくない。





―――そして、間宮あかりの視界は。無へと包まれる。





□□□□□□□□


381 : 明日の方舟たち(ArkNights)-怒号光明- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/09(金) 00:29:29 os6bQYws0
なにも、みえない。
なにも、きこえない。
うえもしたも、わからない。
ただ、ふかいふかいくらやみだけがひろがっている。

なにかがわたしをひきずりこもうとしている。
なにかくろいものが、くびのないなにかがわたしのあしをつかんでならくのそこへとひきずりこもうとしている。


『貴様は元の場所へ戻ることはできん。我と同じく冥府奈落の底へ墜ちるがいい。』


おぞましいこえ。だれかのこえ。それがわたしをやみへとひきずりおとそうと。
それいがいにも、わたしをひきずりおろそうとくろいてが。

――でも、私の居場所は、まだそこじゃない。


『……なぁ、貴様らは!?』


私を引きずりあげようと、たくさんの手が、私の手を取る。
子供の手が、女の人の手が、男の人の手が、たくさんの手。私に手を伸ばす。私を元の場所に戻そうと、手伝ってくれる。
私はその手を知っている。その暖かさも、その思いも、その意思を。


『巫山戯るなぁ! 我と同じただの死人の分際で! やめろ、貴様らの足掻きなど全て無意味……なぁっ!? 馬鹿な、貴様……おのれぇ、またしても我の邪魔をぉぉぉぉぉっっ!?』

首のない怪物を、逆に奈落へ引き釣りこもうとする太っちょな黒い影。
それにしがみ付かれて、それは逆に奈落へと堕ちていく。

引きずりあげられていく。闇の彼方より、光のある場所へ。
そして最後に、私の両手を掴んだのは。黒く焦げた手と、真っ白な手。
黒く焦げた手は、知っている人だったように思えて、無性に泣いた。
泣いて、泣いて、涙を拭って、前を向いて。私は戻る―――みんながいる場所へ。







""あかりちゃん""




行ってくるね、志乃ちゃん。
待っててね、カタリナさん。






今から、私はそこに戻ってくるから。


382 : 明日の方舟たち(ArkNights)-怒号光明- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/09(金) 00:29:46 os6bQYws0
◯ ◯ ◯



終わった。メアリ・ハントの思考を埋め尽くしたのはその一言だった。
頼みの綱のシグレ・ランゲツは本領を発揮した魔王を前に敗北した。

「ああ、あああ………。」

溢れる涙、崩れ落ちる表情。もはやメアリ・ハント当人は何も出来ない。
力を手に入れた所で、魔王を相手するには役不足でしかなかった。
そう、全て無意味だった。

「――――。」

絶望に、言葉すら止まった。正面には無言でただ魔王が聳え立っている。
無言で、見下ろしている。言葉は発しない。
ただその視線だけで全てを語っていた。
"お前はここで喰われて死ぬ"と。
確定された死刑宣告。メアリ・ハントにはもうどうにも出来ない。

(……どうして、こんな事になってしまったのでしょうか。)

何処で間違えてしまったのか。
魔王と戦うことを選択した時か。
琵琶坂永至と手を組んだ時か。
シグレ・ランゲツに動向した時からか。
それとも――エレノア・ヒュームを殺した時からか。

(嫌だ。)

死にたくない、こんな所で死にたくない。
分かっていたはずなのに、一人殺した時から覚悟は決めていたのに。
嫌だ。何も出来てないまま、みずみずカタリナ様を守れずにこのまま殺されるなんて。

(誰かぁ。)

言葉も出ない、出せない。
魔王の腕が迫る。命を刈り取ろうと振り下ろされる。

(誰か、助けて―――。)

声を振り絞ろうとしても、叫ぼうとしても。あの目に睨まれるだけで声が出ない。
全ては、無意味。そのはずだった。













「させない。」

「―――!?」




















白い閃光が、魔王を吹き飛ばした。


383 : 明日の方舟たち(ArkNights)-怒号光明- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/09(金) 00:30:04 os6bQYws0








閃光が止めば、その中心には少女がいる。
白い髪を棚引かせ、琥珀の瞳を輝かせた――間宮あかりの姿。

「……あかり、さん?」
「メアリさん、下がってくれませんか。」

困惑のメアリは、間宮あかりの姿をみる。
髪の色やら瞳の色やら、その雰囲気以上に、何かが違うのを感じる。
まるで、まるで複数の魂が彼女の中に偏在するような違和感を。

「いや、その……。」
「下がって。巻き込まない保証は出来ないから、お願い。」

気圧され、大人しく従うしかなかった。
だが、何故だろうか。メアリ・ハントが見た間宮あかりの姿は、どこか暖かく、優しく。
安全な場所に逃げる際、黄金色に輝く何かを、ただ感じ取った。


「……どれだけ、混ざった?」

魔王もまた困惑していた。
間宮あかりが『覚醒』したのはこの際どうでもいい。だが、その彼女の中身が余りにも想像付かない何かだ。
複数種の情報が同時に混在し、調和を保っている。魔王ですら、2つの情報が限度だと言うのに。
この間宮あかりという少女は、それ以上の情報と交わっている。あり得ない事だ。
多量の情報が入り混じったのであれば、その人格が無事であるはずがない。
なのに、なのに何故彼女は無事なのか。それが、余りにもわからない。

「……これは、散っていったみんなの思い。」

間宮あかりは静かに告げる。これは、託された思いの結晶。今まで紡がれてきた願いのカタチ。
みんなに背中を押されて、此処に居る。去ってしまった者たちに助けられ、生きている。
そう、『去ってしまった者たちから受け継いだものはさらに「先」に進めなくてはならない』から。

「あなたは、可哀想な人です。」
「―――。」

間宮あかりが魔王を見つめるその瞳は、憐憫と悲哀に満ちていた。
大切な義兄に全てを奪われ、復讐の道しか選ぶことしか出来なかった彼女。
託された願いは呪いへと変わり、その果てに憎しみしか残らず彼女は自分の意思すら魔王に投げ売った。

「それしか道がなくて、それに縋り付くしかなかった。悲しい人。でも、それで自分を捨てる必要も、自分の感情を否定する必要はあったんですか。」

見据えるように、ベルベットの奥底を見抜くように、言葉が紡がれる。
ベルベットは己が未来を悍ましいものとして否定し、魔王と為った。
それは、言い方を変えれば運命から目を背け、魔王という役割で逃避しているようにしか見えなかった。


384 : 明日の方舟たち(ArkNights)-怒号光明- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/09(金) 00:31:10 os6bQYws0
「あなたは強くなってなんかない。あなたはただ逃げただけ。託されたものを全部投げ捨てて。未来が怖くて逃げだしたただの臆病者なんだ!」
「―――黙れ小娘。』

魔王の怒りが、大地を震わせる。
魔王の憎悪が、世界を震わせる。
心の奥底から、魂の最奥から引き出された無窮の憤怒だ。
間宮あかりに向けた、絶対的な殺意だ。

『……そのような口、ほざくならば今ここで私の糧として喰われて死ね。」

魔王が黒翼をはためかせる。魔王の瘴気が暴風雨となって吹き荒れる。
間宮あかりを飲み込もうと咆哮を鳴らす。
魔王の憎悪が、魔王の全てが間宮あかりを殺そうと牙を向いていた。








「消えてしまった人たちは、もう二度と戻ってこない。」

それでも、間宮あかりは怯えない、怯まない、恐れない。







「例えどれだけ運命に欺かれようとも―――」

例えどれだけ困難が待ち受けようとも、例えどれだけ絶望に塗れようとも。







「私は、決して明日から目を逸らしたりはしない!!!!」

間宮あかりの背中に、白翼が顕現する。
それは彼女が信じた武偵の在り方の象徴。
貫き通すと誓った彼女の正しき誓い、黄金の意思。
正しき怒りを胸に、少女は光明となりて魔王に挑む。








白翼と黒翼、武偵と魔王。
ぶつかり、そして世界に閃光が迸った。


385 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/09(金) 00:31:35 os6bQYws0
今回の投下はここまでとなります
次の投下はもう少しお待ち下さい


386 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:39:04 HenK14Z.0
投下おつです
今まで支えられてきて、託されてきたのはあかりちゃんががんばったからこそだよなあとしみじみしました。
そしてしがみついてくる清明、原作無惨様よろしく邪魔!となりますね
復帰したあかりちゃんが魔王を可哀想な人と称するの、そうだよなあ、うんうんとなりました

投下します


387 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:41:39 HenK14Z.0


みんなの声が聞こえる。

チャコやドルトン、ミミズンたちが中心となって畑を耕して。
仕事を終えたみんながペロやアーマンの酒場で疲れを癒して。
アネッサやゼセルが日々鍛錬を指導しこなして。

みんなの大まかな指揮をルルが執って。

ああ、もはや懐かしさすら覚える光景だ。

みんなで楽しくものづくりをするこの日々が愛おしくて、恋しくてたまらない。

まだまだ作り足りない。
もっと、もっといろんなモノを作り上げたい。

『ビルド』

みんなのもとへ向かおうとする僕の前に、ふわりとしろじいが降りてきた。
その顔はいつものほんわかとした和やかなものではなくて。
どこか申し訳なさそうに眉を潜め、こちらに気を遣うような物悲しい表情だった。

『お前はあそこには戻れん』

しろじいの言葉に、ぐっと唇を噤む。
わかっている。わかっているのだ。
失われた命は戻らない。
如何な名ビルダーでも、それは覆してはいけない真理だ。
だから。

『お前も、ビルダーとしての役目を果たす時が来たのじゃ』

僕は迷わない。
だって、僕はビルダー。みんなの道を切り開く開拓者だから。


388 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:44:24 HenK14Z.0


朧げになりかける意識をどうにか繋ぎ止め、隼人は病院へとコシュタ・バワーを走らせる。
彼は病院に霊夢とカナメがいることを知らない。
故に、病院にも敵が待ち伏せいる可能性は考えている。
しかし、致命傷を負っているビルド達の治療できる道具がある可能性はもうそこにしかないのだ。

(こいつのものづくりの力を絶えさせるわけにはいかん。この力は、この戦いを勝ち抜く切り札に成り得る)

先の破壊神との戦いで、隼人はものづくりの力を実感した。
たとえビルド本人が非力でも、彼が作るものにはそれを補い余りある可能性を秘めている。
なんとしてもここで絶やすわけにはいかない。

「ぅ...」

ビルドが目を覚ます。
ぼんやりとする意識の中、どうしてこうなったかを思い出す。
シドーの首輪を壊して、早苗を背負って帰還して、それから...

「ジオ、ルド、は」
「弁慶が相手をしている。奴に手出しは無用だ―――あいつは、必ずジオルドを仕留める」
「ほかの、みんなは」
「そこに寝ている連中で全員だ」

馬車で寝ているのは、早苗、クオン、マロロの三人。そして、彼らを心配そうに見つめるアリア。十人以上いた集団から空いた穴に悲しみと寂しさを覚えつつ、隼人に再び目を向ける。
「いまは病院へ向かっている。お前の作ったやくそうで応急処置はしたが、そこまで保つかはわからん。お前も...あいつらもな」
口の中には血の味と混じり、ほんのりと苦味が残っている。やくそうは全部で五枚あった。それを使ってくれたのだろう。
だが、ズキリと痛む左胸から流れる血は止まらない。体力を少し回復させたところで、運命は変わらない。
...わかっている。自分が何をなすべきなのか。夢の中でしろじいが言っていたのは、そういうことなのだ。

「隼人」

掠れる声でそう呼びかける。この会場でずっと共に戦ってくれた戦友に、新たに加わった友たちに託したいものがあるから。

「ムーンブルク城に向かってほしい」

死にかけとは思えぬ強い語気に、隼人はビルドを見つめ返す。
病院へ向かうのはあくまでも賭けだ。もしかしたら、傷ついた心臓を治療できるものがあるかもしれないと言う希望的観測にすぎない。
それでも命に縋りたいと願うのが人間だ。それは隼人とて例外ではない。
だが、それすらも捨て、ビルドはあの瓦礫の城に向かおうとしている。
一か八かにもならない希望に縋るよりも、思い出に浸って死にたいというのか?
いや、そんなものじゃない。彼の目は、まだ死んでいない。

「...なにかあるんだな。命と引き換えにでもほしいものが」

その言葉に、ビルドは無言で頷く。

「...そうか」

返答は、その三文字だけだった。それだけで成立した。
隼人はすぐに手綱を引き、進路を病院からムーンブルク城へと変更した。

「ありがとう、隼人」

お礼と共に自覚する。
これが最期の大仕事になると。


389 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:45:40 HenK14Z.0


辿り着いた果てにあるのは、やはり訪れた時となんら変わらぬ廃墟だ。
荒れ狂う暴力の嵐に呑まれ、耐え切れず崩壊した、かつて「城」と呼ばれたがらくたの群れ。

ビルドは馬車から降りると、隼人の肩を借りつつ、盛り上がる山の方へと歩き出す。

「...こいつをどければいいのか?」

隼人の言葉にビルドは頷く。
隼人は何があるのかは知らされていない。
もう喋り、説明するだけの余裕もないのだろう。
しかし、ビルドがこの期に及んでくだらないものを発掘させるような少年ではないことは理解しているつもりだ。
チョコラータのカビを取り除いた時然り、放送の直後に主催を斃すための大砲を作った時然り、破壊神を倒す装甲車を作った時然り。
彼が生み出す発想とモノはいつだって道しるべとなってきた。
その実績という信頼を疑う余地もない。
こいつがこれからやろうとしていることは、こちらの利になるという確信がある。
だから隼人は疑うこともせず協力するのだ。

とはいえ、いまの彼一人では時間がかかってしまう。
ビルドは撤去を手伝おうとするが―――胸に走る激痛に力が抜け、倒れそうになる。

駄目だ。こんなところで躓いてられない。
時は一刻を争うというのに、こんなことで時間を取られてはいけない!

いくら頭でそう思っていても、その身体は言うことを聞いてくれない。

「...転ぶと危ないでおじゃるよ」

その背中を支え、優しい声を投げかけるのは、采配師・マロロ。

ビルドと隼人に微笑みかけるマロロの変貌ぶりに、隼人は目を見張った。
彼は会った時から異様な文様を刻み、その形相もまさに修羅そのものであった。
だが、いまのマロロは白粉は解け、紋様もない素顔。
彼の本質をそのまま体現するかのような穏やかな相貌であった。

マロロを修羅たらしめていたのは、この地に呼ばれる前に八柱将・ライコウより仕込まれた『蟲』の恩恵である。
この蟲は、宿主の記憶を捻じ曲げ、怨敵への憎悪を募らせ感情を暴走させる代わりにその身体能力や呪法の威力を底上げさせる役割を持つ。
マロロはその蟲により、本来の彼では出し得ぬ力を振るってきた。
だが、蟲とて生き物だ。
寄生している先が使い物にならぬと判断すれば己も死ぬため、そこから逃げてしまう。
よって、蟲は生き延びるためにマロロから逃げ出し、その際に修羅としての力は全て失われてしまったのだ。

「マロも手伝うでおじゃるよ、ビルド殿、隼人殿」

マロロの申し出にビルドは微笑み肯首すると、再び瓦礫の山に手をかける。

「マロロ、お前...」
「隼人殿。マロのことは気にしないでほしいでおじゃるよ」

なにかを言おうとした隼人だが、ほほ笑むマロロに全てを察し、黙って作業を続けることにした。

ふと、ビルドがマロロの方に視線を向けると、無言で小さく頭を下げ感謝の意を示す。
そんなビルドにマロロは微笑みかける。

自分はただ、友を手伝っているだけ、自分がこうなったのはなるべくしてなっただけ、だから気にしないでほしいと。

それから三人で撤去を続け、程なくして、瓦礫の山を崩した先に現れたのは――

「...鐘?」

隼人の呟きにビルドは微笑み頷くと、重く、ゆっくりと、しかし確かに力強い足取りで鐘の前に立つ。

その鐘の名は―――『ビルダーの鐘』。


390 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:47:32 HenK14Z.0


シドーと出会い、ルルと出会い、しろじいにからっぽ島を復興を依頼され。

そして、向かった先で出会ったチャコたちに導かれてこの鐘と出会い―――僕の『ビルダー』としての旅が始まった。

かつて訪れたビルダーが遺した不朽の鐘。

たくさんのものづくりへの愛情を募り、打ち鳴らし、仲間を増やし、また、仲間のものづくりの力を高めていった。

そう。

例え、その身が滅ぼうとも、創り出したものは、ビルダーの魂は受け継がれる。

僕たちはそれを受け継いだ。そしてものづくりの楽しさを思い出し、みんながビルダーとなった。

人も、まものだって。

だから、今度は僕の番だ

今ならできるはずだ。

大砲を作った時の、装甲車を作った時の、破壊神を倒した時のみんなの喜びの心は集っているはずだから。



握りしめるハンマーに全ての力を込める。



命を。魂を。受け継ぎ、創り出してきた想いの全てを込めて。



僕は鐘を目掛けてハンマーを振り下ろした。


391 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:48:26 HenK14Z.0




―――カラァン







高々と鳴り響く鐘の音と共に、身体が前のめりに倒れていく。
いま、全ての力を使い果たしたのだと実感した。

終わりだ。いま、僕の中に残っていた微かな命の灯が尽きたのだ。

彼らに受け継げただろうか?

もしくは、ここにいない者にも届いただろうか?

僕の身体が地面に投げ出される瞬間、彼は僕の身体をそっと支えてくれた。

顔を見ることすら敵わないが、それでも誰かくらいはわかる。

瞼が落ちていく。

お礼を言うこともできない。

「後は任せろ」

それでも、彼の、この会場で初めてできた戦友の言ってくれた言葉に僕はとても安心して、心が軽くなった。

そして、今から終わっていくというのに。全てを託して満足したはずなのに。

―――ねえ、シドー。次はどんなものを作ろうか。



結局、最後の最後まで、僕はビルダーであることを止められなかった。


392 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:50:17 HenK14Z.0


「ん...」

響き渡る鐘の音に彼女、クオンは目を覚ます。
不思議な気分だった。
疲れや痛みはとれていないのに、どこからか力が湧いてくる。無性になにかを作りたくなる欲に駆られている。


「クオン殿、目が覚めたでおじゃるか」

かけられた優しい声に振り向けば、そこにはマロロが傍に座り込んでいた。

「...美しい音でおじゃるなぁ...ハク殿や、みんなと一献...やりたいほどに...」

クオンは修羅の紋様どころか、白粉すらつけていないマロロは初めて見る。
けれど、その穏やかな微笑みを浮かべるマロロは、確かに今まで自分が見てきた彼そのもので。
妙に懐かしく、そして悲しい気分になってしまった。

「うん...あの人も、きっとそういうかな。それで、男衆はついハメを外しちゃって、ネコネや私が保護者としてしっかり叱って...」
「ひょほほ...目を瞑れば...たやすく浮かぶでおじゃるなぁ...あの時のように、ハク殿がいて、キウル殿が、オウギ殿が、ヤクトワルト殿が、ミカヅチ殿がいて...オシュトル殿もいて...」

オシュトル。その名前にクオンは出かけた怒りを言葉にしようとするが、しかしぐっと堪える。
クオンの中で既にオシュトルという漢の評価は地に落ちている。
友を見捨てた上でのうのうと友だと宣う下郎に。
だがそれでも。あの日々が、ハクと彼らが交わした日々にだけは穢れがなかったと信じたい。
そして。
今もなお、あの日々を大切に想ってくれる彼を、オシュトルなんかとは違う、ハクの真の友であるマロロはやはり失いたくないと思う。

「...ねえ、マロ。この催しが終わったらトゥスクルへおいでよ」

マロロはヤマト側の人間である。
このままお互いが生還しても、最終的には対立することになってしまう。
しかし、このような事態に巻き込まれてしまったのはある意味都合がよかった。
彼を縛る立場や面倒なお家の問題からも解き放てる、絶好の機会だ。

「マロロだけじゃない。ネコネも、キウルも、アトゥイも、ノスリも、オウギも、ヤクトワルトも、シノノンも、ムネチカも呼んでさ、みんなで暮らそうよ。
戦いなんてせずに、みんなで農作や狩りに勤しんで、たまに旅に出たりして、...たまにはハメを外してさ、楽しく暮らすの。大丈夫だよ、私の友達だって言えば、みんな受け入れてくれるはずだから」
「そうで...おじゃるなぁ...きっと...たのしいでおじゃろうなぁ...」

そうだ。ハクがおらずとも、まだ彼の遺してくれた者たちがいる。

彼らを護ることこそが、ハクへの最大の手向けになる。
だから皇女の仮面を被り、実力行使でも止めようとした。
使える権力を使わせてもらい、恨まれることになろうとも彼らを護ろうとした。

「ねえ、どうかなマロロ」

彼なら賛同してくれるだろう。
争いを好まず、酒や宴を好み、ハクととても気が合った彼ならば。
彼をあそこまで想ってくれた彼ならば。


393 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:51:01 HenK14Z.0
「マロロ?」

けれど。返事はこない。
マロロは俯き、眼をつむったまま動かない。

(疲れちゃったのかな?)

そのあまりにも穏やかな寝顔に、クオンは仕方ないかなと思う。
自分が気絶している間になにがあったかロクに覚えていないが、彼がとても頑張ったのであろうことは窺い知れる。
彼は見るからにボロボロだ。もとは文官タイプのはずの彼がこうなるまで動いたのなら、数日は筋肉痛になってもおかしくはない。

「ぅ...」

遅れて、早苗が眼を覚ます。
ビルドごと刺された彼女だが、彼女は急所を外しており、重傷ではあるが致命傷には至らなかった。
彼女は起きるなりクオンを見やると、腹部を抑えつつ、佇まいを直しぺこりと会釈する。

「あの、私、東風谷早苗と申します。いたた...いったいなにがあったんです?あの鐘の音は...それに、破壊神は...」
「ごめんね、私もさっき起きたばかりなの。鐘を鳴らした本人なら、ほらあそこに」

クオンが指をさすと、項垂れるビルドを背負う隼人が此方に向かってきていた。

「ねえ、隼人。さっきの鐘はビルドが鳴らしたんだよね?なんだかあれを聞いてから少しだけ調子が良くなって―――」

言葉をかけている最中に気づく。
ビルドがピクリとも動かないこと。隼人が、黙祷のように目を瞑っていること。

「...ッ!!」

その様子に、早苗は全てを察するかのように息を呑み、ビルドとマロロを交互に見やる。

「ね、ねえ、ちょっと。なんなの二人とも、ちょっ...貴女もなんで泣きそうになってるの」

掌で己の顔を隠し、嗚咽と共に身を震わせ、くしゃりと顔を歪める早苗に、未だ黙とうを続ける隼人に、クオンは焦った声色で問いかける。

「隼人、それに早苗?でいいのかな?マロロ、ビルド、ごめん、疲れてるところ悪いけれど、起きてほしいかな。二人が勘違いしてるからさ」

彼女への返事はない。二人はただ俯き、身動き一つ、呼吸すらせず沈黙し続けている。

「ねえ、ちょっ...マロ?」

少女の鳴き声がただ染みる中、クオンの声は場違いなほどに明るく。

「ねえ、起きてよ、マロ」

しかし、その声は確かに震えていた。


394 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:52:03 HenK14Z.0


ズルリ、ズルリ。

重たい足取りで、彼女は、十六夜咲夜は身体を引きずりながら進む。

彼女はまだ生きていた。

右目に撃ち込まれたどくばりは確かに、極まれに猛毒を流し込む代物だ。

しかし、死ぬのはあくまでも流し込まれてから六時間後。
激痛こそ彼女の身体を蝕んだものの、即死にはいたらなかった。

それでも気を失うところまでは演技でもなんでもなく。
本当に死にかけだった。
もしもそのまま放置されていれば、あと数時間は目を覚まさなかったことだろう。

彼女が目を覚ましたのは、ビルダーの鐘の音の恩恵だ。

鐘の音の効果は、まだビルドに『仲間』と認識されていた咲夜にも効果が波及し、音が届いた咲夜の身体にも『ビルダー』の力が漲り復帰。
そして、どくばりから解毒剤を入手することを試みた。

通常、毒を用いる武器には解毒剤も一緒に備え付けられているのが基本だ。
誤って使用した場合や、取引に使う際にも有効に使えるからだ。
ならば、このどくばりにも解毒剤があるはずだと探した結果―――あった。
どくばりの底をまわせば、緊急用の解毒剤らしき粉薬が入っていた。

どうせこのまま死ぬのなら、と咲夜は意を決して飲んだ。
すると、ダメージこそは残ったものの、身体を蝕む毒は消えたのを実感することができた。

(どうにか一命は取りとめたけれど...ふぅ)

一息つきたくなる気持ちを堪え、とにかく今は紅魔館へと足を進める。
どうせ休むなら、こんな死屍累々の戦場よりは、偽物かもしれなくても慣れ親しんだ場所がいい。

弁慶の。
志乃の。
ジオルドの。
みぞれの死体を通り過ぎて―――ぴたりと足を止める。

「...悪く思わないで」

別に、たかだか一度の共闘で情を移したつもりはない。
自分一人が生き残ったことにもなんら後悔はないし、埋葬するような殊勝な心持もない。
けれど、自分でもわからないが、なぜだかその一言だけは言っておきたかった。
己の右目を奪ったジオルドにすら、怒りはすれども恨みは抱けなかった。
埋葬も黙祷もしないけれど、無言のまま通り過ぎるような真似はしたくなかった。

『咲夜さん。貴女はいなくならないでくださいね』

「...くだらない」

誰がいなくなるか、いなくなってたまるものか。
自分は帰る。敬愛すべき主のもとに。
その為ならば、どんな手段も厭わない―――これまでとなんら変わらないことだ。

なのに。

未だに生きているかどうかもわからない女の言葉が脳裏から離れず。
居心地の悪くなった場所から逃げ出すように、その傷だらけの身体を引きずりながら、彼女は戦場を後にした。


395 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:53:00 HenK14Z.0




どこかで鐘の音が鳴った。

けれど、彼女―――黄前久美子はその足を止めることは無い。

ただ無心に、というのは語弊があるだろう。

彼女の頭の中にあるのは『違う』、『私じゃない』という現実を否定する言葉だけ。

これまで自分を護ってくれた者への感謝も、共に戦った者たちへの答辞もなく。

鳴り響いた鐘の音にも、与えられた力にも目もくれることなく。

ただただ目を背ける為だけに、彼女は涙を撒き散らしながら逃げ出した。








【シドー@ドラゴンクエストビルダーズ2 死亡】
【鎧塚みぞれ@響け!ユーフォニアム 死亡】
【ジオルド・スティアート@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 死亡】
【武蔵坊弁慶@新ゲッターロボ 死亡】
【佐々木志乃@緋弾のアリアAA 死亡】
【ビルド(ビルダーズ主人公、性別:男)@ドラゴンクエストビルダーズ2 死亡】
【マロロ@うたわれるもの 二人の白皇 死亡】


396 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:56:05 HenK14Z.0

【C-5/午後/ムーンブルク城/一日目】
※ビルダーの鐘が鳴らされました。どの範囲まで、誰に届くかは後の書き手の自由になります。
(軌道上ありえない範囲でも大丈夫です 例:位置的に病院に聞こえていないとおかしいのに北宇治高等学校に届いている、など)
※マロロの寄生虫が逃げ出しました。そのまま死んでいるか、誰かに密かにとりついていかは後の書き手にお任せします。

【神隼人@新ゲッターロボ】
[状態]:疲労(絶大)、全身にダメージ(絶大)、出血(大)、カタルシス・エフェクト発現(現在は疲労困憊のため使用不可能)
[役職]:ビルダー
[服装]:普段着
[装備]:ミスタの拳銃@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、ミスタの拳銃(ビルドの作った模造品)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、浜面仕上の首輪、錆兎の首輪、コシュタ・バワー@デュラララ!!
[思考]
基本方針:首輪を外して主催を潰し帰還する。
0:...あとは任せろ、弁慶、ビルド、マロロ
1:場が落ち着いたら改めて早乙女研究所に向かう。
2:ものつくりの能力を利用し有利に立ち回る。現状、殺し合いに乗るつもりはない。
3:主催との対決を見据え、やはり首輪のサンプルはもっと欲しい。狙うのは殺し合いに乗った者、戦力にならない一般人(優先度は低い)。
4:竜馬と合流する。
5:ジオルドが生きていたら殺す。

※少なくとも平安時代に飛ばされた後からの参戦です
※幻想郷の大まかな概要を聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※カタルシス・エフェクトに目覚めました。武器はドリルです。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。

【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(絶大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、オシュトルへの怒り、ウィツアルネミテアの力の消失、呆然自失
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いに乗るつもりはない。皆と共に脱出を。
0:マロロ、ビルド?
1:オシュトルはやっぱり許せない。
2:アンジュとミカヅチを失ったことによる喪失感
3:着替えが欲しいかな……。
4:オシュトル……やっぱり何発か殴らないと気が済まないかな
5:優勝……ハクを蘇らせることも出来るのかな……ううん、馬鹿なこと考えちゃ駄目!
6:オシュトルを止めるまでマロロと同盟を組む。できれば戦い合うことはしたくない。
[備考]
※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。


397 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:56:51 HenK14Z.0

【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:霊夢に会えたことの安心感と同時に不安、全身にダメージ(大)、疲労(絶大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(大)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
1:マロロさん...ビルドさん...
2:豹変したドッピオに驚き。何か隠してるんじゃ…… 
3:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
4:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
5:ロクロウとオシュトルに不信感。兄弟で殺し合いなんて……
6:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
7:魔理沙さん、妖夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。


【アリア@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:疲労(絶大、フロアージャックはしばらく使用不可)、悲しみ(絶大)
[思考]
基本:μを止める、だけど……
0:みんな、みんないなくなっちゃった...
1:帰宅部の仲間との合流
[備考]
※参戦時期は少なくてもシャドウナイフ編以降。琵琶坂生存ルートです。詳しい時期はお任せします。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・隼人・ビルド・琴子・リュージと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※フロアージャックはしばらく使えません
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。


398 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:57:34 HenK14Z.0
【F-7/午後/北宇治高等学校跡/一日目】


【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(絶大)、全身火傷及び切り傷、全身にダメージ(絶大)、右目破壊(治療不可能)
済み)、腹部打撲(処置済み)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:咲夜のナイフ@東方Projectシリーズ(2/3ほど消費)、懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:ひとまず紅魔館へ向かい、身体を休める。
1:今後のことを見据え、遭遇する参加者については殺せる機会があれば殺すが、あまり無茶はしない。
2:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
3:博麗の巫女は今後のことを考えて無力化する
4:マロロに関しては協力する素振りをしながらも探る。最悪約束を反故するようであれば殺す。...生きているかも怪しいが。
5:余裕があれば完全版チケットとやらも探す。
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
※オスカー達と情報交換を行いました
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全には分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。

【???/午後/北宇治高等学校跡/一日目】

【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、全身に火傷(冷却治療済み)、疲労(絶大)、精神的疲労(絶大)、右耳裂傷(小)、自己嫌悪、半狂乱
[役職]:ビルダー
[服装]:学生服
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体。
[思考]
基本方針: 殺し合いなんてしたくない。
0:違う。
0:私じゃない。
0:逃げたい。
1:(麗奈と合流する。)
2:(岸谷新羅さんに、セルティさんを届ける)
3:(ロクロウさんとあの子(シドー)を許すことはできない)
4:(あすか先輩...希美先輩...セルティさん…)
※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※夢の内容はほとんど覚えていませんが、漠然と麗奈達がいなくなる恐怖心に駆られています
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※思考欄の()内の項目は今はロクに考えられていません。落ち着いたら改めて考えられるかもしれません。


399 : 英雄の唄 ー 終章 風のゆくえ ー ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/09(金) 23:59:10 HenK14Z.0

「......」


生者がいなくなった戦場の地にて、彼は足を運ぶ。
荒れ果てた学校の残骸に触れ、その痕跡を機械仕掛けの掌でなぞる。

(ひどい有様だ...これが神の力、か)

破壊神とウィツアルネミテアが生み出した異空間のお陰で周囲にはこの破壊痕は響き渡らなかったが、その傷跡は確かに会場に刻まれていた。
直径数十メートルに及ぶ多数のクレーターに、粉みじんに砕け散った瓦礫。
これを命を賭けた一撃ではなく、ただの戦いの余波で生み出していたのだから恐ろしい。
もしもあの二体の神が、確かな意思を持ちこの会場を破壊しようとしていたら―――そう思うだけで背筋が凍りそうになる。

「なっ、なあ、リックリックリックよぉ〜。もういいだろぉ〜、お前が頼むから連れてきたけど、よぉ。もし参加者にバレちまったらテミスにどやされるぜぇ」
「...きみは嫌いな人間に嫌われようともなんとも思わないタイプだと思っていたが」
「あぁ?その通りだぜぇ〜、あのアマになんと思われようがどうでもいいけどよぉ、テミスが怒るとμが悲しむんだ、よォ」
「...そうだな。彼女を悲しませるわけにはいかない。行こう、手間をとらせた」
「お、おぉ!帰ったら、約束通り、お前は俺の、こんぶ...じゃない、子分だから、なぁ!」
「ああ、いいよ。下に仕えるのは慣れてるからね」
「...ちぇっ、ツマンネー、のッ!」

セッコは不機嫌気味になりながらも、リックの足を掴み、共に地面に潜っていく。

(そう―――この戦いは無駄ではなかった。ただの参加者同士の小競り合いで終わらなかった)

リックは、セッコに引きずられ地中を潜りながら、破壊神が戦っていた時のμを思い返す。
あの悍ましく、根源に抱く恐怖を胸の内から沸き上がらせるようなあの唄を。

(僕らはみんな君に与えられた幸福に溺れていたいと願っている。けれどね、きみが、きみ自身が幸せなら僕たちはもっと幸せになれると思うんだ)

リックは、そしておそらくはセッコも田所も『彼女』の真の目的は聞かされていない。
ただみんな、μが好きだから、μに救われたから同志として従っているにすぎない。

(ねえ、μ。僕は不安だよ。君は僕に幸せを与えてくれたけれど...きみは、きみ自身はどこへ向かおうとしているんだい?)

破壊神の歌を唄っている時のμのあの漆黒の姿に一抹の不安を抱えつつ、リックは己の役割を務めるために、その不安を内に留め隠すのだった。





『μのプレイリストに【破壊神シドー】が追加されました』


400 : ◆ZbV3TMNKJw :2022/12/10(土) 00:00:27 fylnKJ0s0
投下終了です
キャラの長期拘束、予約期間の長期延滞、申し訳ありませんでした


401 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:09:16 7qK6pT9A0
投下します


402 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:09:53 7qK6pT9A0



「……永……。岩永……起きろっ!」
「……リュージ、さん?」

叫び声と共に、岩永琴子の意識が目覚める。
リュージに体を支えられ起き上がり上空を見れば、その視界には異様な光景が広がっている。

「……どういうことですか、これは。」

目を見開き、それを視認する。それは罅だ、空間に刻まれた黒い罅の数々。
それは地面や建物に発生したとかではなく、文字通り何もない空中に発生した罅。
大きな割れ目。断崖絶壁に発生した地割れの影響に酷似したそれがあった。
さらに言えば、自分たちを包み込むように展開されている緑色の幕のようなものも視認できる。

「……俺にも分からねぇ。さっき目覚めて広がってた光景がこれだ。……それに。」

リュージが視線を上に向ければ、銅鑼の如くけたたましく空気が弾け、吹き飛ぶ音。
ソニックブームよって発生した大轟音が何度も何度も鳴り響いている。
それは、2つの何かがぶつかり合って発生した、衝突の余波。
余波にしては、余りにも絶大な、人智を超えた戦いの残響。
再び、空気が割れ、大轟音が鳴り響く。同時に、空間に黒い割れ目が出来る。

「……一体、誰が戦ってやがるんだ………?」

それが、リュージにとっての疑問であった。
人智どころか化け物同士が戦っているようにしか見えない異常な光景。
空間にすら影響を及ぼす超越者の黄昏。

「……あかりさん。あの怪物と互角に戦ってる……」
「あんたはたしか……。生きてたのか。」
「ええ。なんとか。」

そんなリュージの疑問を返すように現れたのはメアリ・ハント。
今魔王と戦っているのは間宮あかりである。
自分と同じ、理由は分からないが『覚醒』し、あの魔王と戦えている。

「……。」

魔王の言っていた事が岩永の頭の中で反芻する。
『覚醒者』の増加が、楽園の成立に関わるならば、それこそ主催の思う壺ではないかと。
魔王の権能は穢れ。そして捕食による異能の蒐集。所々の魔王の発言の違和感は感じ取っていた。


『……煩わしい。何故、消えない。』


あの時の言葉。間違いなく"別の誰か"が喋っていたような感覚。
魔王の中身はベルベットではなく、全く別のなにか。
"鋼人七瀬"のように誰かの想像力が生み出した怪物。
――ではその怪物の目的は何だ?
蒐集の異能、覚醒者の誕生。それを食らって、その果てに―――。
まだ、答えには足りず。だが、今わかることは。

「……あかりさん。」

彼女が、最後の希望。自分たちの未来を繋ぐ境界線。
藁にもすがる思いで、間宮あかりに願いを託すことだけが、今の三人に出来ることだ。


403 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:10:20 7qK6pT9A0
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



さぁ 立ち上がれよ 従者にして魔王よ

世界砕き 歌姫の愛で滅せよ


さぁ 現実を哀で包め 己が望むまま蹂躙を

虚構を巡り 崩界を奏

彼方現実に終焉を…永遠に



■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



世界が、割れている。
快晴の晴天の下、黒い断裂。
画用紙を引き裂いたような、そんな乱雑さ。
空気と空気が衝突し、大轟音と共に空間の断裂は増えていく。
黒の魔王と、白の少女が縦横無尽に動き回る。

原因はたった1つ。二人の覚醒者の衝突が引き起こしたものだ。
『覚醒者』といえど、目覚めた理由や素質からその強さは大きく変動する。
少なくとも、ベルベットより生じた魔王ベルセリアという存在は大当たりだった。
喰魔と言う、業魔の血肉を喰らいその力を手に入れる特性。それをデータを食しそれを糧とするという形で再現された、蒐集の器としての権能。
―――最高傑作、捕食の頂点を前に、白翼の彼女は互角に戦えていた。

空中機雷と言うべき、展開された黒い魔力の塊。
それが歯車の如く稼働しながら、縦横無尽に動いている。
超スピードで隙間を縫い、爆音とソニックブームを発生させて、通過するたびに機雷は誘爆する。
爆煙に紛れながら接近、接近。所謂掌底のような掌の動きを魔王にぶつけようとする。
魔王はすかさず業魔腕でガード。その激突だけで再び爆音とソニックブームが発生。鍔迫り合い、再び離れる。

業魔腕を振り上げれば天に出現する黒雲。放たれるは魔王の絨毯爆撃。地上を隙間なく埋め尽くす漆黒の魔力の槍。その暴風雨。
全てを消し飛ばしかねない魔星の雨嵐は次々と大地を穿ち破壊していく。構わず少女たちは動き回る。
肉薄、衝突、激突。断裂。再び世界に断裂が入る。
次に魔王が用意したのは球状の砲台ともいうべき複数の魔力の塊。
そこから放出される光条、砲台一つに付き1024。視界を埋め尽くす殺意の黒雷があかりに襲いかかる。

「はぁぁっ!!!」

宣誓。魔力の粒子を手に集め、握りしめて顕現させた紅葉色の扇。それを一振り。
吹き荒び現れた翠緑の旋風が鎌鼬となって光条を破断し、砲台を粉砕する。
既に魔王は次の攻撃の準備。二階建てビル程の大きさの魔力槍を顕現、目標に向けて投擲。
迫る脅威を前に、あかりは再び粒子を構築。――二対の翠緑色の魔力の鎖となり、魔槍を縛り上げ、そのまま遠心力で回って投げ返す。

投げ返された魔槍を魔王は魔槍を以て相殺、爆発、空間の断裂が増える。
回避動作と同時に魔王が黒翼より羽の弾丸――フェザーショットを放出。
対する間宮あかりも白のフェザーショットを発射。白と黒が相殺し、再び爆煙が戦場を包み込む。
何度目かの激突、肉薄、鍔迫り合い。そして再び空間が裂ける。

爆煙を抜け、刃物の如き魔王の蹴りが間宮あかりに刺さる。
刺さるというより辛うじて当てたと言う形、叩き込まれるもダメージは皆無。
即座にあかりがより上空を見上げれば、既に巨大な魔光を掲げた魔王の姿。

「戴冠災器(カラミティレガリア)・侵喰流星(スターダストフォール)」
「……っ!」

公園跡地を覆い尽くす、破壊し穢れを以て腐らせる腐食の流星雨。そこにいる全てを腐らせ溶かす。
だが、それを上空へ弾き飛ばすように間宮あかりが翠緑の障壁を展開。腐りつつある鉄の棒を蹴りあげ突撃。障壁を纏い、穢れの雨を凌ぎながら、飛び上がり魔王へと接近する。


404 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:10:48 7qK6pT9A0
――カタリナ・クラエスが間宮あかりの情報を保管を行うために使用した紅葉色の扇。
あれは本来、自称幻想郷最速の文屋こと射命丸文が保有する扇だ。
本体情報に遥かに劣るもののの、少なからず射命丸文の情報が含まれている。
それもまた、間宮あかりの『覚醒』に少なからず良い影響を与えた。一つは風の力。そしてもう一つは――

「……捉えた!」
「―――!!」

――速度。風を操る程度の能力の補助を受けた、風による高速移動だ。
実を言えば間宮あかりに施された強化は魔王には到底及ばない。しかし少なくとも、魔王に匹敵か、それ以上の速度を以て対応できる。
そして、直線距離に対する移動なら、魔王の動体視力であろうと対応には窮する。それが大技発動の隙間を縫った攻撃であるならば尚の事。
構えは天鷹。使う飛び道具は風の魔力。弓を引き絞るように至近距離に肉薄し――放つ!!
見えない塊に衝突して、地面に向けて魔王が吹き飛ばされる。

だが、その程度のダメージでは魔王はそう安々と斃れない。落下厨二姿勢を転換し、何事も無く地面に降り立つ。
次に行ったのは力場の展開、重力の檻。業魔腕を目の前に翳せば、間宮あかりが沈んでゆく。

「……ッ!!」

押しつぶされるような、肉体が拉げるような感覚。防壁を貼ろうが関係ない。そのまま押し潰してやるという魔王の殺意。一瞬でも気を抜けば押し花の如く真っ平らにされてしまう。

「……はぁぁぁっ!!!!」

―――だからどうした!痛みは無視し集中。体中から上がる悲鳴なんて気にしてる場合じゃない。
風の粒子を集わせて、顕現させるは鉄塊を思わせる巨大な大剣。手に取り、回る。
重力の圧を無視した影響で、体中から血が吹き出る。歯を食いしばり耐え、遠心力を増しながら鉄塊は赤熱、燃え盛る炎を纏う。

魔王は既に次の攻撃に以降。掌を振り上げ、それを中心に巨大な龍の形をした魔力を形成
ゆっくり手を振り下ろせば、それはあかりに向けて急速に飛んでゆく。
矮小な少女を喰い付くさんとと巨大な顎を開けてその牙で噛み砕こうとする。

「――食いちぎれぇっ!!」
「「いっけぇぇぇっっ!!」」

一瞬だけ、間宮あかりの声に誰かの声が重なったように聞こえた。だが、それは今関係ない。
飲み込まれた直前、あかりが振り下ろした炎の一撃が、黒き穢れの龍を焼き尽くし、その炎は龍をも貫通し斬撃として魔王に迫る。
間宮あかりに取り込まれたシアリーズの情報。それは即ち間宮あかりに炎の聖隷力の行使を可能とした。
風と炎、異なる世界の異なる属性をも、行使できる。託されたが故に行使できる、間宮あかりの権能とも言うべき繋がる力のその一端だ。

「なぁッ……!?」

驚愕と共に、これには回避行動が間に合わず、右翼が切り裂かれる。

「――――ッッッ!」

翼の方は即時再生するも、それを狙いすましたかのように翠緑の鎖が魔王の身体を縛る。
その間にも間宮あかりは突進するかのように最接近。

「私を、舐めるなぁぁぁぁぁっ!!!!」

乱雑に業魔腕を振るい、鎖を無理やり破壊。そのまま穢れをバーストし、そのまま自分も吹き飛ばされる。
飛び散る穢れをあかりは風の障壁で吹き飛ばし、魔王が吹き飛んだ方向へ翔ぶ。
吹き飛んだ先は遥か上空。既に魔王はさらなる策を展開していた。

「黄金の夜を明けよ(ゴールデン・ドーン)!!――無限(アイン・ソフ)!!」

詠唱を唱え、魔王の身体を穢れが纏う。纏った穢れは膨張、肥大化。
纏い現れるは新たなる躯体、全長5メートルの穢れの鎧によって構築された、怪物のような何か。
悪魔バフォメットを彷彿とさせる巨大な二本の角、その間に魔王ベルセリアの上半身が取り込まれたかのように張り付いている。それはまるでラグナロクにおける炎の巨人の如き終焉の担い手。
背中には一層巨大な黒翼、黒き巨躯にお似合いな穢れし魂沌のバケモノがこの虚構の舞台に降臨する。

『破神顕象――トゥアサ・デー・ダナン!!!!!!!』

大口が咆哮を上げ、世界を震わせる。
歌姫の秩序に歯向かう愚者を文字通り噛み砕だかんと、蒐集の破神が間宮あかりに牙をむく。


405 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:11:08 7qK6pT9A0
「………!」

不味い、と本能的に察知。そして、大口より垣間見える赤黒の明光。
それを避けようと死角へと距離を詰めようとしたその時、背後より急速に迫る気配。

「……えっ!? ――がはぁっ!?」

文字通り横槍を入れられたように切り裂かれ、吹き飛ばされる。
気配の正体は赤い輪郭で構築された魔王ベルセリアの人間態。
『虚獄神器・第五階位(セフィロトレガリア・ゲプラー)。夢幻泡影(カマエル)』。破神形態に気取られるであろうあかりの油断を付き、先んじて数人ほど生成していた。
そして、吹き飛ばされた軌道を予測するように―――大口より放たれた赤黒の光条、破滅の光芒が間宮あかりを呑み込んだ。

「―――――ッッッ!!」

直撃0.1秒前にあかりは障壁を展開。だがものの数秒で蒸発し、焼き尽くす痛みがあかりを襲い、墜落。
自分一人を防ぐならまだなんとかなるだろう。だがこの規模は間違いなく事前に施しておいたホテル近くの障壁ごとリュージたちをも巻き込みかねない。だからそれも含めての無理をした結果がこの激痛である。

「……や、ああああああああああっっ!!」

攻撃が止んだ一瞬の隙間、光芒の傷も痛みも耐えて、破神の巨躯へ突撃するあかり。頭から血を流し、ボロボロの身体に鞭打ちながら。風の魔力を超至近距離で叩き込もうとする。
だが、身体の大きさはそのまま強固な耐久力にも比例する。間宮あかりの攻撃は破神にとっては蚊に刺された程度でしかない。
だが、ただの蚊だろうと小蝿だとうと、煩わしいことには変わりはない。ただ腕を振るう、それだけで間宮あかりは大きく吹き飛ぶ。
だが、叩きつけられただけなら、先程のビームやら重力の檻やらよりは痛くはない。すぐに姿勢を整えて、次の大技に備えると同時にあの破神の防御を突破できる攻撃を繰り出さなければならない。

『※※※※※※※※※※※――――――ッッッッッ!!!!』

破神の咆哮が再び鳴り響く。再びその大きな躯体が飛び立ち、破神の瞳がキランと音を響かせ妖しく輝く。
あかりが天空を見れば、細長い穢れの鉄塊が降り注ぐ。
魔王がシグレ・ランゲツ戦で使用した『戴冠災器(カラミティレガリア)・歌姫神杖(ロッズ・フロム・ゴッド)』。だが、人間態で放ったそれよりも数も規模も段違い。
破神の鉄槌が、間宮あかりを潰さんと地上へと降り注ぐ。落下箇所の大地はもはや塵一つ残らない真っ平らへとなっている。
避ける、避ける、避ける。穢れが肌に擦れ侵食されようと、侵食箇所を即切除することで侵食を阻止。

「くぅぅぅぅ―――!?」

だが、侵食部位を切り離しても侵食された事自体の痛みは、体中の血液が全て毒へと変貌するに等しい地獄の苦しみ。いつの間にか痛覚が鈍っていた間宮あかりでも、その痛みは耐えるには少しばかりきつい代物だ。

「で、もぉ――――っ!!」

風の粒子を大剣に構築し、手に取る。刀というよりもある意味薙刀に近い形状。刃に雷光を纏わせ、再び突撃。

「やああああああっっっっ!!!」

激突、衝突、衝撃波、爆音、空間の破断。―――刃が砕ける音が、虚しく響き渡る。

『―――』
「これでも、まだっ……!」

足りない、ただ破神の躯体を少し後退させただけ。
巨躯に張り付いた魔王の瞳は無感情に間宮あかりを見下ろす。
破神の瞳が再び輝き、その周囲を覆い尽くすかの如く大爆発の連鎖にあかりは巻き込まれる。
爆発は風の障壁で。いや、風圧での風の異能によるバーストの衝撃で爆風諸共霧散した。


406 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:11:27 7qK6pT9A0
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



さぁ 飛び立つのだ 従者にして魔王よ

世界砕き 歌姫の愛で滅せよ


さぁ 天を翔ける歌姫の哀よ 虚獄から降る闇よ 審判よ

救われぬ子等祈り 叫びの音を奏

残酷な現実に終焉を… 永遠に


407 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:12:02 7qK6pT9A0
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■




『―――』

破神は既に己が頭上に巨大な大斧を具現化させている。自由落下のごとく振るわれた大斧と、あかりが咄嗟に貼った障壁が衝突。
結果、破神の大斧は砕かれたものの防壁のままあかりは吹き飛ぶ。ただし障壁ごとだったのが功を奏しダメージは皆無。

――それで魔王の、破神が手を緩めるわけがない。翼をはためかせ空中に浮かび、再び瞳が輝く。
間宮あかりに再び襲いかかる重力の檻、腐食の流星雨。さらにそこに穢れの塊たる神の杖。
――付加、夢幻泡影による生成した分身数千による『邪竜咆哮(ダインスレイフ)』の斉射。
――付加、破神の右腕を刀剣へと一時的に変化させ『無明斬滅(ガブリエル)』の準備。
――さらに付加。魔力による黒槍生成。大きさこそ普遍的であれど、『無明斬滅(ガブリエル)』と同等かそれ以上の穢れを蓄積させた、謂わば穢れの爆弾。触れれば穢れが爆散し、周囲一体を汚染する。

『―――――――――』

一斉発射。黒塊が、流星雨が、神の杖が、邪竜の咆哮が、斬滅の刃が、そして穢れの槍が一斉の間宮あかり個人に対して集中する。
勿論あかりも黙ってはいない、障壁を全開にし、それでも凌ぎきれない猛攻は小手先の手段で何とかするしか無い。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛―――――――ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛ッ゛!!」

貫通、貫通、貫通、激痛、激痛、激痛。一発一発が当たる度、存在ごと削り取られるような攻撃の雨あられ。意思も、思いも、信念も、魂も。心も、何もかも掘削され、潰されていく感覚に襲われる。
その猛攻に、意識が途切れかけた瞬間、眼前には破神がダメ押しにと飛ばした魔槍、穢れの爆弾―――。


―――直撃、刹那。エリア一体を黒い爆風が襲いかかる
核爆発を彷彿とするきのこ雲が発生し、衝撃が周囲に迸り、瓦礫を吹き飛ばしいく。
一帯は既に空間断裂による黒い割れ目が多数発生。歪みによりノイズが発生し地獄絵図のような光景が広がっていた。
リュージたちがいるホテル周辺を守っていた障壁もぎりぎり耐えきったという惨状で、既に障壁は崩壊寸前である。

魔王としてはこれ以上の会場へ負荷をかける予定ではなかった。
それを考慮してでも、歌姫へ迷惑へ掛けてしまう代償を払ってでも。
あの女だけは、確実に歌姫への脅威へとなり得る間宮あかりは確実に殺さなければならないという確固たる決意のもとに、一切の容赦なく、ほぼ全力で。
そう、歌姫が導く楽園がため、彼女だけは、データ一片すら残さず消し飛ばす必要があるのだ。
まだ殺すべき相手は残っている。ブローノ・ブチャラティ。そしてライフィセットを名乗るラフィの偽物。
後者二人は容易く捻り潰せる。ならばこの間宮あかりは確実に葬る。

……そして、魔王の心配はもうすぐ終わる。大きな躯体より見下ろせば、未だ立って戦意を失っていないらしき間宮あかりの姿。
だが、既に見るも無惨だ。体中から血という血を流している。流れる血が所々黒く点滅しているということは、穢れが混じっている、という証拠。
目は焦点が合っていないし、呼吸しているのかどうかわからない咳き込み、吐き出される血痰。
勝者と敗者の判別など、火を見るよりも明らかだった。

「ぁ」

間宮あかりの痩せこけた瞳が、映し出していたのは。
魔王が最後のトドメとばかりに生成せし、巨大な黒い球体。
確実に、この手で潰すという意思表明。
立つことは出来た、でも動かない、動かせない。
絶望こそがお前のゴールだと突きつけられる。
動かないといけないのに、避けないといけないのに、指一本すら動かせない。
体中が悲鳴を浴びて、全ての臓器がまともに動いていない、機能不全。
そして迫る、死の光が―――――――。


408 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:12:18 7qK6pT9A0













"あかりちゃん"









虚無の奈落の淵に落ちて響く、涙の一滴。










「かた、りな、さん…………。」










武偵憲章10条"諦めるな。武偵は決して、諦めるな。"










――そう、彼女が繋ぎ止めた奇跡は、ここに芽生えた。


409 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:13:05 7qK6pT9A0
□□□□□□□□


『何が、起こっている……!?』

開いた口が塞がらないとは、この事だろうか。
確実な決着、逃れようのない結末が、覆された。
淡い光を放ち、無傷に戻った間宮あかりの姿。
そして、魔王の黒き球体を防いだ、"土の壁"

『あり得、ない……!』

それは、間違いなく起こるはずのない光景。
何故間宮あかりのダメージが修復したのか、あの土の壁は何なのか。
だが、魔王の頭脳には、思い当たる事が一つだけ。

『カタリナ・クラエスぅぅぅっっ!』

――気づいた時には遅かった。原因は掴めずとも、要因はそれしか心当たりがない。
魔王ベルセリアの見落としは2つ。一つはカタリナ・クラエスの涙。
あの時琵琶坂永至の攻撃を受け、意識を失う前に零した涙。――あれは一種のカタリナ・クラエスの幸運の雫。一度限りのコンティニューとも言うべき、奇跡の結晶だった。
再び、白翼は蘇る。より輝いて、クリスタル色に透き通って、太陽に照らされる。

「―――私はもう、諦めたくない。」

宣言する。もう二度と、どんな辛いことが、苦しいことがあろうとも。
武偵は決して諦めない。人々を守るその意思を胸にして。

「だから、貴方を止める。シアリーズさんの為にも―――ベルベットさん、貴方を止める!」

託された願いを裏切りたくない。どんなにちっぽけな意思だろうと、それこそ過ぎ去った者たちから受け付いたものを、更に先へ進めるために。
黄金の意思が、間宮あかりを祝福し、照らしている。

『ふざけるなぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!』

魔王の怒号と共に、破神もまた咆哮を上げる。
赫怒の衝動に飲まれ、その眼を血走らせ、憤怒の感情を貼り付けた魔王が、叫ぶ。

『その便所のタンカス以下の名前を、口にするなぁぁぁぁっっっ!!!!!』

怒りに呼応し、魔王の周りに4つの白い球体が、笑顔が張り付いた球状の生き物(ヴォイドテラリア)が排出される。
破神の瞳が赤く染まる。破神の躯体が赤く染まる。

『殺してやる、滅ぼしてやる、その残り滓諸共女神の地平の塵になれぇぇぇぇっっっっ!』

叫ぶ、世界に晩鐘を打ち鳴らさんと叫ぶ憎悪が、ヴォイドテラリアを揺れ動かす。
ヴォイドテラリアは魔王の憎悪に反して何時までも笑顔だった。余りにも不気味で、奇っ怪な魔王の従者。
テラリアたちが笑顔の口を開き、モノクロの光条を放つ。
瞬間、間宮あかりは地上から離脱し飛翔、そのままモノクロの光条を掻い潜り、その口内に猛風の刃を直接叩き込み、テラリアの一体を内部より粉砕。
続く二体目のテラリア。あかりに猛接近しながら身体をハリセンボンのように針を展開し串刺しにしようとする。

「「鳴神よ!」」

再び、魔王はあかりの声が誰かに重なるような感覚を覚えた。間宮あかりを中心に突風が発生。吹き荒れた突風が徐々に雷光を纏い放電。
針千本状態のテラリアが麻痺し行動不全に陥るも、直ぐ様三体目が一体目同様のビームを発射。
即座にあかりは二体目の麻痺したテラリアを盾した後その場から離脱。ビームを受けたテラリアは爆発四散。
破神の瞳がまた輝く。空中で顕現するは魔力で構築された弓矢。弦が引き絞られ、天へ矢が放たれる。
矢は空中で分裂。それぞれ黒雷を纏い、雨となって落ちていく。


410 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:13:24 7qK6pT9A0
黒雷の雨矢を避ける。躱し、風を吹かせてその内の一本を誘導。それが三体目に刺さり爆発四散。
四体目はその場から動かず魔王を護るように浮遊している。破神の右腕が龍顎の砲口へと姿を変え、間宮あかりへと穢れの魔力砲を打ち放つ。
間宮あかりが取った手段は――防ぐのではなく、地面に着地する。

「いでよ、土ボコ!」

叫べば、風の力で天へと伸びる土の盛り上がりが魔力砲の光条と激突し、爆発。周囲一体を爆煙が包み込む。
間宮あかりが爆煙を風で吹き飛ばせば、周囲には既に魔王が『夢幻泡影』で展開した大量の分身。それら全てが穢れの魔砲を既に放っている。破神は南へと後退し、体制を立て直すつもりだ。
この時、魔王としてもこれ以上の戦闘の長期化は避けたかった。これ以上の行使は間違いなく会場全体への負荷の度合いが不味いことになる。歌姫ですらカバーしきれない程になってしまったら楽園完成への支障となりうる。
それに、魔王当人にとっても、消耗しすぎた。最初の多対一まではよかった。だが、シグレとの戦いでだいぶ削られしまっていたのだ。いくら二人食らったとは言え、それでもシグレ戦での消耗は回復しきれなかった。それともう一つ、破神形態になるまで飛行を渋っていたのは単純なスタミナの理由もある。
魔王の本質は蒐集にして捕食だ。要するに参加者やデータを捕食することでそれを己がエネルギーとしている。
空間の断裂が多発したのはそれが理由だ。シグレとの戦いでの消耗が響き、間宮あかりを潰すためにリソースの供給を『無』から行わざる得なかったから。
紅魔館から此方へと飛行する際は十分なスタミナがあったし、覚醒したてということでリソースも十分だった。その際に無意識に消費されたリソース情報は『ベルベット』の情報であるのだが。
ここまで長引いてしまった以上、消費が供給に間に合わなくなっていたのだ。

間宮あかりは無数の死の光条が迫っているにも関わらず冷静。
静かに、魂は熱くとも、心は冷静に。0.01秒の間合いを見抜き。―――構えるは風の反射を伴った梟挫。
その結果、死の光条は一つ残らず分身へと反射され、その全てが掻き消される。

『なぁ!?』

不意を突かれたのは魔王だ。跳ね返った光条が破神の右腕と右翼が粉砕され、バランスを崩す。
なお直撃しなかったのは四体目のテラリアが身を挺して守り、その結果光条の向きが僅かにズレたからだ。

『貴様ぁぁぁぁぁっっっ!!!!』

我を怒りに飲まれ、接近されつつある魔王は残った破神の左腕に超巨大な魔力級を生成。
白色矮星の膨張を彷彿とさせるほどの大きさになったそれは、まさに黒い太陽そのもの。

『虚獄神器・第十階位(セフィロトレガリア・マルクト)――万有必滅(サンダルフォン)!!!!』

黒き滅びが、迫る。全てを滅ぼさんと、迫る。
絶望が凝固し、形となった魔王の憎しみが間宮あかりに近づいていく。
あかりが真下を見れば、驚愕の表情を浮かべるリュージたちやメアリの姿があった。

「大丈夫。……次で決める。」

そうにっこり彼ら彼女らに微笑めば、絶望の具現へ目を向ける。
小さな風の領域を展開。増幅し、己に電気を、パルスを貯める。
間宮あかりの身体が帯電する。それは等に人間が放っていいパルスの総量を超えていた。

『絶望に身をよじれ虫けらがぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!』

魔王の怒号と共に、絶望の塊がさらに迫る。
それでも間宮あかりは目を瞑り、心で見据えるように。
準備完了。そして、ただ、彼女は沈黙する。
迫る迫る。魔王の憎悪の具現たる巨大な黒い太陽が、間宮あかりの姿が太陽飲み込まれる。

『あはははははっ、あーはっはっはっはっはっはっ―――!』

狂った用に呵々大笑する魔王。憎むべき相手は飲み込まれた。残る邪魔者、そして憎き二人さえ滅ぼせばもう心残りは―――

「超電磁砲(レールガン)」
『……は?』

黒い太陽より、声がする。殺したはずの少女の声がする。魔王の笑いが止まり、呆けて、そして―――。


411 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:13:45 7qK6pT9A0

















「――鷹捲」
















その言葉の直後に、黒き太陽はひび割れ光を放ち、祝福のように砕け消えれば。
破神の身体を貫通し粉砕する、一彗の輝きが通り過ぎた。














超電磁砲というものが存在する。一般的に物体を電磁気力によって加速して打ち出す兵器で。
要するに、加速して打ち出せれる手段さえ用意できれば、それは超電磁砲になりうる。
例えそれが変哲もないコインであっても。

間宮あかりは擬似的は閉鎖空間、風による電力発電によって自らに電磁パルスを発生、増幅・集約させた。
そして、風の閉鎖空間を開放と同時に風力で音速レベルまで加速。
結果、黒き太陽を、破神ごと粉砕したのだ。

そう、間宮あかりは。自らをレールガンの弾丸とした。
勿論、彼女一人では到底無理だった。彼女"たち"はみんなで、あの魔王を打倒したのだ。

『※▲□◯※▲□◯※▲□◯※▲□◯※▲□◯――――!?』
『ばぁぁぁかぁぁぁなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!??!?!?!?!?!?」

腹部にポッカリと大きな穴が空いた破神は悲鳴とも取れる叫び声を上げて、墜落していく。
魔王もまた、目の前の光景に絶叫しながら破神と共に落ちていき、破神から光が漏れて――大爆発。
ゆっくりと地面に降り立った間宮あかりとは対象的に、激突するように墜落し、仰向けに斃れた魔王は、ただ眼を開いたまま。悲しい瞳で見下ろす間宮あかりの姿を映していた。


412 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:14:23 7qK6pT9A0



「……マジかよ。あいつ。」

勝った。あの魔王に、間宮あかりという少女が。
そんな奇跡にも等しい光景を、リュージたちは目の当たりにした。
いや、余りにも超常的すぎて、喜び以上に驚きの方が大きかったのだが。

「……素直に喜べないとは、こういう事を言うのでしょうね。」

岩永琴子も、また同論。魔王の言葉が真実ならば、また『覚醒者』が増えてしまった。
だが、それでも彼女が魔王を倒し、自分たちを危機から救った、と言うのは紛れもない真実なのだから。

「……すご、い。」

メアリ・ハントはただ、見とれていた。と言うよりも唖然としていたと言うべきか。
それ以上に、何故だろうか。間宮あかりに、カタリナ・クラエスの面影をほんの一瞬感じていたのだから。
そして、等の間宮あかりは―――。



「あなたの負けです。大人しく降参してくれませんか。」

見下ろすように、憐れむように、地に伏したベルベットに語りかけている。
シアリーズから彼女の過去を知った。幸せを突如として奪われ、復讐に身を落とすしかなかった可愛そうな少女。真実から、託された願いから、未来からすらも目を背けて、逃げ出した臆病な少女。

「……私は、あなたを殺したくありません。」

そしてこれは、武偵としての矜持。誰も殺さない、その武偵の信念の現れ。
悲しげな瞳ながらも、その奥底は透き通ったまま。優しい声で魔王に語り掛ける。

「……めない。」
「……っ。」

そして、返答は。

「認めるものかぁ!!!!」

振り絞ったような叫び声が、ベルベットの答えだった。

「あんな悍ましいものが私の未来だなんて認めない!! 巫山戯るな!! あんなもの、ただの悪夢だぁ!!」

体中から泥のようなものを垂れ流し、怨嗟を張り付かせて、叫ぶ。
その瞳は、どうしようもなく濁っていた。

「完全体に……完全体になりさえすればぁ!!』

そんな叫びも、間宮あかりからすれば悲しい嘆きにしか思えなかった。
何処までも未来を恐れ、怯え、逃げようとする子ども。今のベルベットが、間宮あかりにはそのようにしか見えなかった。

「………。」

悲しみと憐れみ。それが間宮あかりがベルベットに向ける感情の全てだった。
間宮の秘奥の一つに鷲抂、と言う技がある。脳漿に集中する波形長に整調した技で、 要は対象の精神を赤子のようにすることが可能な技だ。持続効果は半日。
今のベルベットに話をしても無意味だった。ならば安全に無力化するしか無い。そう思ったその時だった。


413 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:14:48 7qK6pT9A0



















「助けて欲しいのかい、魔王サマ?」

それは、ゆっくりと足音を響かせて、現れた。









「………。」
「この声は……。」
「生きていたのですね、だけど……。」

その声を、皆は知っている。三者三様の反応をする。
ヘラヘラと空気に似合わない笑みを浮かべ、パンツ一丁ならがも余裕の表情を浮かべたままの一人の男。







「……お前は。」

魔王が視線を向けば、その姿が見えた。












「……琵琶坂さん?」

男の名前は琵琶坂永至。この虚構の世界にて、◆◆◆◆に選ばれし者。
――――終幕直前の舞台にて、最後の主役が降り立った。


414 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 15:16:00 7qK6pT9A0
投下終了です、続きはまた後日に
タイトルは『間宮あかりVS魔王ベルセリア 燃えつきろ!!熱戦・烈戦・超激戦』です


415 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 18:13:28 7qK6pT9A0
追加で流竜馬、ディアボロを予約します


416 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 22:22:09 7qK6pT9A0
申し訳ありませんが、再延長を申請させてもらいます


417 : 明日の方舟たち(ArkNights)-正真正銘の怪物- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 23:26:38 7qK6pT9A0
投下します


418 : 明日の方舟たち(ArkNights)-正真正銘の怪物- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 23:27:07 7qK6pT9A0


「……琵琶坂、さん?」

困惑とは、この事だろうか。
琵琶坂永至という男を間宮あかりという人物の視点から総称すれば『恩人』である。
学園戦においてカタリナ・クラエスと出会い、成り行きで行動することになって。
落ち込んでいた自分に何かと助言してくれたり、手伝ってくれたりと。
少なくとも信頼というものを得るには相応に十分な存在であったと言える。


「……どういう、意味ですの?」

だが、他の人物からすれば。少なくとも彼の本性を知っているメアリ・ハントから見れば話は違う。
琵琶坂永至の本性は自己中心的、傲慢で下水道のドブの如き卑劣漢で、己の望みに忠実な男。
少なくともリュージと岩永琴子は琵琶坂永至という男に何かしらの不信感を抱いていた。
リュージに関しては、初対面での少しの会話で、『必要な部分しか話していない』言い回しに妙な違和感を感じていたかもしれないのだが。


「……なんの、つもり……!?」

首を横に向け、ベルベットは琵琶坂永至に疑問を投げかける。
その時、何か見てはいけないものを見た。いや、これは『魔王ベルセリア』から見えてしまった何か。
――曼荼羅である。もっとも、異世界の出身であるベルベットは曼荼羅が何であるかは理解できていないのだが。琵琶坂永至の背後に曼荼羅が見える。曼荼羅の座に、何かが見える。
汎ゆる進化の到達点が見える。世界の真理が背後に見える。『天国』が見える。『真実』が見える。『運命』が見える。『◆◆』が見える。
魔王の身体が警鐘を鳴らす。冷や汗が止まらない。動悸が止まらない。

「……ッ! ……ッ!」

何だあれは、何なんだあれは、一体自分は何を見せられているんだ?
あの男の背後にある"アレ"は何なんだ、と。
人間という生き物は"未知"という概念を最も恐れる生物である。自らの頭に該当のない事象に混乱するように、無意識にひき逃げ起こした人間が慌てて逃走するように。
"未知"とは恐怖であり、真理に関わる一つである。そしてそれは一種の"秩序"である。
そう、ゲッターは。大いなる"秩序"でもあるのだ。
そして、もう一人。現世と常世の双方を観えるようになったが故、それを視てしまった者。

「……あ、ああ。あああああ………!」
「岩永……?」

岩永琴子。知恵の神。秩序の調停者もまた、見てはいけないものを視てしまった。
その曼荼羅を、六角形の曼荼羅の座に座る『ゲッターロボ』達を。曼荼羅の前に立つ、琵琶坂の笑顔を。
その姿に絶望を見た。秩序を見た。真実を見た。何かを見た。何か何か何か何か何かナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカナニカ違う違うあんなものが秩序なはずがないどうして私は一体今まで何のために助けて助けてどうしてこんな事望んでいなかった助けて嫌だあんなものが世界の秩序であるはずがない信じたくないでもこれは真実で現実で真理で天国で運命でああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――。

「あああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!?」
「岩永!? おい岩永ッ!?」

岩永琴子は発狂した。見たくない現実を見てしまった。幻視してしまった。
秩序を、真実を。現実を。嘘だと思いたかった。でもあれは真実だった、紛れもない現実だった。
あれは、新しい秩序の化身だった。

「こんなっ、こんなことはっ! どうして、嫌だっ、嫌だぁぁっっ!」
「しっかりしろっ、おいっ! ……琵琶坂テメェっ!!」

発狂し錯乱する岩永琴子を何とか抑えながら、琵琶坂永至を睨む。
だが、等の琵琶坂永至は薄ら笑いを浮かべて意気揚々と言葉を紡ぎ始める。


419 : 明日の方舟たち(ArkNights)-正真正銘の怪物- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 23:28:45 7qK6pT9A0
「全く、こっちは死にかけたというのにこれとは酷いものだよ。……ねぇ、あかりちゃん?」
「……え……?」

間宮あかりは、訳がわからなかった。今の琵琶坂に何が起きているのか。岩永琴子が発狂した理由が。

「……なぁ魔王。あんたが俺を連れて離脱できるのに何分欲しい?」
「――最低でも五分。リソース不足だから流石に目的地までたどり着く前提なら供給が欲しい。それでも最大乗積は二人が限度よ。」
「じゃあ俺の力を分け与えれば十分か。俺はメビウス関係者だ、連れていく理由にもなるだろう?」
「………。」

岩永琴子の発狂を見て冷静を取り戻したベルベット。すかさず琵琶坂の言葉に答えながら最適解を思考する。
少なくとも今の自分ではこの場を脱するには厳しすぎる。この琵琶坂という男の目論見が健闘付かない以上、恥を忍んでこの男の助けに縋るしか無い。
翼及び飛行可能までの回復は5分。一人か二人を連れては流石に誰でもいいからリソースを喰らう必要がある。少なくとも琵琶坂永至はそれを了承してくれた。本当に不本意だが、乗るしかなかった。

「……琵琶坂さん、冗談ですよね? 嘘ですよね?」

間宮あかりの頭は未だ困惑したままだ。余りにも突出した展開についていけていない。
今まで辛苦を共にした仲間が、信頼できる仲間がこのような事を言い出して。
岩永さんに至っては突然錯乱し始めて。今の間宮あかりは当に「何が起こっているのかまるでわからない」状態である。

「……ああ、そうだ。言い忘れたことがあるんだ。」

だが、あかりの困惑を無視して彼女と、呆然としているメアリにも目を向けて。ヘラヘラと笑いながら、こう告げる。





「すまないねメアリ。あのクソアマ、俺に舐めた口聞きやがったから思わず殺しちゃった。」






「お前ぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!!!!!!!!」
「―――ッ!」

二者の行動は早かった。メアリ・ハントの脳内を埋め尽くしていたのは憎悪の感情だた一つだった。
こいつだけは、こいつだけは絶対に許さないという殺意の奔流だった。
結果的に休むことが出来たお陰で、水の魔力でナイフを構築出来るぐらいには回復した。殺す、ただ殺す。その一念で琵琶坂永至に迫っていた。
対して間宮あかりは怒りと悲しみだった。琵琶坂永至がカタリナ・クラエスに手を掛けたと言う事実が信じられなかった。でも、これ以上彼に手を汚させないために、武偵として怒りに飲まれているメアリが琵琶坂を殺すことを阻止したくて動いた。間宮の技なり何でもいい、速攻で二人の動きを止める、その為に動いたのだ。
結果的に挟み撃ちにあった状態の琵琶坂は、余裕綽々と佇んでいる。それどころか嘲笑するような笑みを二人に向けて、そして―――。


「キリク」


一言告げて、撓らせた鞭を地面に叩きつけたと思えば、既に琵琶坂永至の姿は消えて。
地面が凹んだと思えば。間宮あかりの身体が、メアリ・ハントの身体が。そして他の地面も同じく凹んで。

「ガ……ッ!?」
「あ゛……っ゛!?」

何十ののも打撃音、まるで全身に均等に攻撃を食らった用に、何が起きたかわからないまま、二人は血反吐を吐いて地面に伏し倒れる。
そして何事もなかったかのようにあくびをしながらつまらなく立っている琵琶坂永至。

(……こいつ、こいつはっっっ!!!)

ベルベットは琵琶坂が何をしたのかは辛うじて理解した。鞭を地面に打って、その反発力で高速移動。
所々地面を鞭で叩く事で方向修正をして、間宮あかりとメアリ・ハントに対して攻撃を仕掛けた。だが――

(何を、したっ!?)

攻撃の瞬間、目視ではただ交差時になにかした、ぐらいしか確認できなかった。
それだけだった、それだけだったのに何をしたのか全くわからなかった。一体琵琶坂永至は何をした、何をしたのか、ベルベットには分からなかった。


420 : 明日の方舟たち(ArkNights)-正真正銘の怪物- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 23:29:09 7qK6pT9A0
――魔神になりそこねた男、オッレルス。彼が使用する術式の一つに『北欧玉座』というものが存在する。
細かい部分を除いて説明するならば、『説明できない力』である。
ではここで、ゲッター線を真に説明できる存在を、解明した上で解説できる人物が、いるだろうか?
いるわけがない。神隼人ですら、その深奥を完全に理解することが出来ていないのだから。
そう、『説明できない現象』なのだ。攻撃の範囲や威力の定義すら曖昧なまま放たれ、攻撃対象に何が起きたか全く理解させず、どのくらい移動すれば回避したことになるのかも曖昧。
琵琶坂永至の今の力の一端は、そういうものだ。『説明できない力』を振るってのわからん殺し。
正しくそれを説明できるものは誰もいない、だから予測しようが無い。
防御しようにも、回避しようにも、それがどの程度の具合ですればいいのかわからないから、そのしようがない。
何故なら、ゲッターを真に理解できるものなど、この世界にほぼ誰も存在しないのだから。少なくとも、この場には居ない。

ダメージを受けた二人は、立ち上がる事が出来なかった。どちらも均等に、公平に全身を叩きつけられる痛みを味わっている。

「……ぁっ……ぁっ……。」

恐怖だった。魔王ベルセリアよりも、この琵琶坂永至の方がよっぽど怖かった。
魔王ベルセリアによる恐怖は分かりやすかった。目に見えてわかる規模と破壊力。でもこの男は違う。何もわからない。一体何がどういうことなのかが全然理解できないのだ。
まるで永遠の闇を彷徨うような感覚に陥る。宇宙の意志に触れたような、根源を垣間見てしまったような恐怖が、絶望としてメアリの思考を埋め尽くしているのだ。

(……動いてっ、動いてっ! 私の身体ッ! ここで動かなかったら……みんながっ!)

間宮あかりも痛みに堪え、動けずに居る。全身に渡り均等に激痛が襲う。そもそも、奇跡の雫による全回復。傷こそ直せど、疲労まで完全に治すことは出来ない。
間宮あかりが今起き上がることが出来ないのは、限界が来たから。先のダメージで、疲労が限界を超えて、立ち上がれない。
本能的な悪寒が背筋に走る。ここで琵琶坂永至を止めなければ―――自分たち全員皆殺しにされるという、強烈な虫の知らせが。

「……全員食べれば足りるかな、魔王サマ?」
「別に全員じゃなくていいわよ。一人……半身でも帰り賃だけなら十分。」

そして、そんな事を気にせず帰還の段取り等を軽く話し合っている琵琶坂。ベルベットも不本意ながら琵琶坂の提示した流れに乗るしか無い。
今、この場を支配しているのは、間違いなく琵琶坂永至と言っても過言ではなかった。

「そっか……じゃあ。」

邪悪な笑みを浮かべ、間宮あかりへと鞭を向ける。
その先端に、何かエネルギーのようなものが充填されていく。

「外は柔らかくて中はジューシーにしてあげるよ。食べやすいように、ね?」
「あたし、味覚とか多分無いわよ。」

他愛のない会話、常軌を逸した状況で、琵琶坂永至は普通にベルベットに話しかけている。
今から放たれる光条は、間違いなく間宮あかりを仕留めて"調理"する為のもの。
誰も彼を止めるものは居ない。岩永琴子も、リュージも、メアリ・ハントも。彼を止めることが出来ない。

(……ごめ、ん。みん、な……。)

ここまで頑張ったのに。最後の最後にこんなあんまりな結末だなんて。
認めたくなくても、これが終着点だった。そう。これが結末だった。

(……くや、しい…よぉ。アリア、せんぱい……!)

間宮あかりの瞳から、輝きが失われていく。これは絶望に瀕した少女が諦めた瞬間である。
誰にも止められない。全ては終わる。たった一人の男の手によって。

「――ゲッタービーム」
「ダメェぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」


421 : 明日の方舟たち(ArkNights)-正真正銘の怪物- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 23:29:24 7qK6pT9A0


目を覚ます。

起き上がる。

静かだった。先程までけたたましかった戦場の音は止んでいた。
切り裂かれた所を見れば、代わりに支給品袋と薬草の燃えカスだけがあった。
そうか、私はこれのお陰で助かったのだと。そう自覚する。
倒れているはずのあの娘の姿が見えなかった。
もしかして、私が気を失っている間に何処かへ行ったのか。

気がつけば、何も考えずに走り出していた。傷なんて考えずに。
何も手に持たないで、荒れた世界を走り抜ける。
心配だった、メアリの事も、みんなの事も、あかりちゃんの事も。
そういえば、あの世界で私はみんなに何故か好かれていたけれど、私はあの娘に、あかりちゃんに惹かれていたのかな?
でも、そんな事は今はどうでもいい。と思ったけれどここに来てからあかりちゃんに助けてもらってばっかりだったかもしれない。
あの娘は私に似ているかもしれないと思った。みんなを知らない内に引きつけて仲良くなって。多分そういう星の下に生まれたんだと思う。
それを才能だなんて言わない。神の祝福だなんて言いたくない。あの娘が今まで歩んできた道筋が結実したものだと。

あかりちゃん。もし元の世界に戻るとして、もう一度出会えるのかな。
もしそうだったら、私の作った野菜食べてほしいし、あかりちゃんと一緒に遊びに行くのも悪くないのかな。
メアリやソフィアを誘って女子会、だなんて悪くないのかな。
……なんて、どうしてこんな事今になって考えたんだろう。そしてなんで私は走ってるんだろう。

わからない。わからなかった。でも、ここで動かなかったら、嫌な予感がするかもしれないって、そんな気がして。
外に出て、見たら。あかりちゃんが殺されそうになってて。
多分、私は周りのことなんて気にしていなくて。




……気がついたら、私の身体は勝手に動いていた。


■ ■ ■ ■ ■


カランッ、と骰子が振り直される音。


軽快に音を鳴らし、廻り廻って骰子が静止する。


賽の目が指した数値は4だった。


彼女はあの娘を助けるために、骰子を振り直した。


■ ■ ■ ■ ■



「あ、え………?」
「なん、で………?」

全ての時が止まったような感覚だった。
カタリナ・クラエスは、琵琶坂永至の放ったゲッタービームに、間宮あかりを庇うかのように直撃した。

「………へぇ。」

予想外の横槍が入ったが、それはそれだった。即座に琵琶坂は鞭を振るい、カタリナ・クラエスの身体を縦に真っ二つ。その下半身に何かを注入したと思えば、それをベルベットの方に投げる。
ベルベットは業魔腕の大口を大きく開かせ、飛んできたそれを捕食。

「嫌あああああああああああああああああああああ!!!!!!」
「……かた、りな、さん?」

未だ動けないままのメアリの悲鳴が大空に響き渡る。
間宮あかりは呆然としたまま上半身だけになって地面に転がったカタリナを見つめたまま。

「――リソースは大丈夫。あと1分稼いで。」
「了解っと。」

ベルベットの簡素な経過報告に琵琶坂永至は目標を変更。次の狙いは岩永琴子。未だ錯乱しており、リュージに介抱されている状態。隙だらけとはこの事か。

「させるかよ琵琶坂永至ぃ!!!」

咄嗟にリュージが岩永を突き飛ばし、逸らす。だが、その結果琵琶坂の鞭で右腕が切り裂かれてキャッチされ、それはベルベットの業魔腕に向けてリリースされる。
来たもの来たものなのでベルベットはそれを無表情で捕食。それはそれとして右腕を抑え琵琶坂を睨むリュージであるが、琵琶坂の鞭は再び生き物のように向きを変えて今度はリュージに襲いかかる。

「待ちやがれ、このクソ野郎がぁ!」

だが、そこに予想外の乱入者。この場にいる誰もかもにとっても未知の存在が琵琶坂永至に殴りかかってきた。


422 : 明日の方舟たち(ArkNights)-正真正銘の怪物- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 23:30:12 7qK6pT9A0


結論だけいえば、ドッピオは流竜馬に例の人影の話をすることにした。状況の変化を望むことをドッピオは選択した。
その直後である、大轟音と爆発が衝撃波として襲いかかったのは。
少なくとも流竜馬とドッピオも少なからずその影響で吹き飛ばされたのだ。
ここまでの大規模な何かを引き起こされたのもあったが、流竜馬は何かに導かれるように、黒い影を負う選択をした。
「運命」とは「引力」であり、「重力」である。スタンド使い同士が引き合うように、ゲッター線に選ばれた者同士も、また――――。

「邪魔をしないでくれないかな?」
「ぬおっ?!」

そして今、流竜馬は琵琶坂永至に殴りかかり、空いた手で軽く受け止められ投げ飛ばされる始末。
その結果、鞭の軌道が僅かにずれ、リュージの急所に当たらずその代償として片目が斬り裂かれてしまったが。

「がああああああああああっ!!!」
「……リュージさんっ!? ……っ。これは一体!?」

残った左手で斬り裂かれた片目を抑え、悶える。そしてようやっと、岩永琴子は冷静を取り戻し、変動した状況に困惑する。

「……黒い影を追いかけりゃ、こんな事になるなんてなぁ。殴り合いのあるクソ野郎がちょうどいたんんだからなぁ?」
「いきなり殴り込むなんて乱暴じゃないか? それとも―――君も今から死にたいかい?」
「御託なんざどうでもいい。それに、その力、何処で手に入れやがった?」
「思い込み? まあそう答えるしかないけれどね?」

投げ飛ばされるも直ぐ様起き上がり、流竜馬は琵琶坂永至を睨むも、当の琵琶坂永至は態度を変えずに生易しい声で語りかける。一触即発、どうなるかわからない状況に陥ろうとした時。

「琵琶坂、時間よ。」

ベルベットが起き上がり、黒翼を展開。低空飛行であるが、最大二人まで人を乗せて移動できる程には回復したという言葉に嘘はないようだ。

「ということらしい。だけど……。」

琵琶坂がベルベットの方へと後退すると同時に、鞭を伸ばす。目標はまたしても岩永琴子。だが今度は殺すためではなく捕獲するためのもの。
自分を見て何か錯乱していた、もしくは恐れていたようであるが、もしかしたら何か利用できるかもしれないと。だからこそ捕まえるという選択肢を取っ――――。 
グ オ ン

「な、何ぃーーーっ!?」
「ぐ、がぁっ!?」

だが、鞭が捕まえたのは岩永琴子ではなく、全く知らない誰か。――リュージである。
これには、さしの琵琶坂も驚愕していた。一体何が起こっているのか分からなかった。
そしてよく確認すれば、リュージの脇腹には拳の後、何かに殴られた後が――。

「……予定は狂ったが、まあ多少の誤差として受け入れるか。……一応、こいつの身柄は貰っておくよ。」
「リュージさん! ……琵琶坂永至、貴方は一体何を企んでいるのですか!?」

既に気を失ったリュージを縛りあげ、ベルベットの背中に乗る琵琶坂。
そして琵琶坂とベルベットの去り際。岩永琴子はせめて、琵琶坂永至に真意を問いただそうとする。

「――さぁ。それは自分の頭で考えてみなよ。あと、汚いから片付けておいてよ、そのボロくず。」

そう、上半身だけになって死の運命が確定したカタリナの方へ指を指して。

「それでは、さようなら。――次会う時は全員殺してあげるよ。あはははははっ!!!」
「このやろっ――ちぃっ!?」

竜馬が追いかけようとするも、それを妨害するように鞭からゲッタービームが放たれる。その一瞬の回避を竜馬が選択した時には既に一手遅く。既に琵琶坂永至とベルベットは追いかけるには不可能な距離まで話されていた。

「りょ、竜馬さん……。」
「待ちやがれぇぇぇぇぇっ!!!」

いつの間にか竜馬の隣にいたドッピオに抑えられながらも、竜馬はその結末にただ叫ぶしかなかった。


423 : 明日の方舟たち(ArkNights)-正真正銘の怪物- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 23:30:56 7qK6pT9A0



(………賭けだったが、上手くいったようだ。)

何故、岩永琴子を捕獲しようとした琵琶坂永至が捕まえたのがリュージになってしまったのか。
その全ての元凶はドッピオ――もといディアボロのスタンド『キングクリムゾン』及び『エピタフ』による予知により察知した自らの正体がバレるかもしれないという危惧からだった。
『エピタフ』の予知を事前に使い、その際に見える未来に。
『何かを確信したかのように此方に目を向けるリュージ』の姿。
それを理解した時、状況を見極め『キングクリムゾン』を発動し、岩永琴子が捕まえられそうになった所を、リュージを吹き飛ばして捕まえさせた。気を失ったのも僥倖だった。
このディアボロの不安であるが、彼は知らないもののリュージの異能『嘘発見器』の事を考えれば全くの杞憂というわけではない。念には念を入れて『キングクリムゾン』の発動時間は0.5秒にした。長く発動したままでは違和感に気付かれる可能性もあるからだ。

(少なくとも流竜馬はあの琵琶坂永至という男への怒りで俺への意識が逸れたようだったからな。)

ディアボロにとって、運命とは「試練」だ。先の出来事も、選択したがゆえに待ち受けていた「試練」を乗り越える。そして今回は何とか難を逃れた。ただそれだけの話。だがそれ以上に気になることが一つある。

(……あの男、「思い込み」がどうとか言っていたな。)

流竜馬との対峙の際の言葉。流竜馬にその力を何処で手に入れたと問われた時の返答。
実を言えば、思い込みというのはディアボロにとっては与太話と済ませられる事ではない。
スタンドも同じことである。スタンドもまた、本人の思い込みで能力の制限が左右される。
出来ると思えば、それは出来て当然なのだから。事実、チョコラータの「グリーン・デイ」がわかりやすく、心の箍が無いが故に、その能力は無差別に人を巻き込み殺す。

(……もしも。もしもの話だ。)

もしも、思い込みで『キング・クリムゾン』をさらなる位階へと進化させることが出来たのなら?
もしも、それが本当に可能であるならば?

(……いや、まだ確証ではない。この事実は今は心の奥底へしまっておくか。今は――)

確証ではないが、もしかすればイタリアどころか全地球上のスタンド使いをも凌ぐ、スタンドの枠組みを超えた何かに目覚めることが出来るかもしれない。
だが、それは今は頭の片隅に置いておき、ドッピオの視点で、この戦いの結末である、ある少女の最後を見届けることにしたのだ。


424 : 明日の方舟たち(ArkNights)-正真正銘の怪物- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 23:31:17 7qK6pT9A0


「カタリナ様! カタリナ様ぁ!!」

命が、消えていく。カタリナ・クラエスの魂が消えていく。
琵琶坂永至とベルベットにリュージが連れ去られ、メアリもやっと動けるようになって、水のナイフを急遽傷口を癒やす事に、カタリナの命を繋ぐ事に必死だった。

「……カタリナさん。」

あかりの方は、座り込んだまま動かなかった。
だって、もう手遅れだったから。体半分が真っ二つになって、出血が止まらないから。
メアリ・ハントのお陰で、死ぬまでの時間がただ延長されている、ただそれだけだった。
もう、手の施しようがなかった。

「………。」
「クソっ!!!!」

岩永琴子は神妙な顔で黙ったまま、流竜馬はただやり切れない気持ちをただ吐き捨てるしか無く。

「……あか、り、ちゃん。メア、リ………。」

漸く、カタリナが口を開く。血が漏れ出して、瞳の焦点は合ってない。
メアリが出血を止めようとも、血は止めどなく斬り裂かれた下半身から漏れ出している。
誰がどう見ても、手遅れだ。

「……カタリナ様ぁ! 死なないで! 死なないでぇ! なんで、なんで止まってくれないの! 止まって、止まってぇ!」

必死に、必死に血を止めようと足掻く、無駄だとわかっているのに、子供の癇癪のように、この現実を拒絶するように。

「……ごめんな、さい。ごめんなさい、カタリナさん。」

間宮あかりは、ただ乾いた言葉で、カタリナに謝っていた。守れなくてごめんなさいと、本当に申し訳なく、周りから見ればあまりにも痛々しい姿で。

「……あはは。ほんっと、私ってば、無理ばっかしちゃうの、かな……。」
「……本当ですよ、本当に……。」
「………。」
「……大丈夫、大丈夫、だよ。二人、とも……。」

そんな二人の顔に我慢できなくて、撫でるように二人の手に触れる。既にカタリナの身体はどうしようもなく冷たくなっている。血液が巡らず、命の灯火が消えようとしていた。

「……メアリ、には。たくさん、お世話になっ、て。あかりちゃんにも、ここじゃあ、助けてもらって、ばかり、だった、かな。」

言葉を紡ぐだけでも精一杯、それでも。

「死なないで、死なないでくださいカタリナ様! これじゃあ本当にゲームオーバーじゃないですか! こんな終わり方、破滅フラグで、カタリナ様は、カタリナ様は本当にいいんですか!?」
「……なんだ、しって、たんだ。わたしの、こと。」

メアリ・ハントが自分の真実を知っていたとしても。

「……でも、さ。やっぱり、わたし、みんなが、しあわせ。そのほうが、いいか、な。」

やはり、カタリナ・クラエスという人物は、自分だけ生き残ってしまうという結末は、余りにも堪え難いことなのだ。
本当は破滅フラグを回避して生き延びたかったけれど、それでみんなが傷つくぐらいなら、やはり破滅したほうが良かったかもしれないと。

「……ごめん、ね。」

でも、やっぱり。死ぬのは怖い。友達を悲しませてしまったことは、やっぱり辛い。

「ごめん、ね、みんな。」

視界すら、覚束なくなってきた。
メアリとあかりの姿が、ぼやけて見える。
手に、力が入らなくなってきている。

「カタリナ様? カタリナ様ぁ!」
「……カタリナ、さんっ……!」

終わる。今まで破滅フラグを回避し続けようとした人生が。破滅によって終わろうとしている。
後悔は、あると思う。でも、それでもいいことはあった。

「……でも、わたし、は。――――――――――――。」

それは、みんなと出会えて。キースや、ジオルドや、マリアにメアリ。そしてあかりちゃんに出会えて。

「―――――しあわせ、だった、よ。」

よかった。一番いいたいこと、言えた。


425 : 明日の方舟たち(ArkNights)-正真正銘の怪物- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 23:32:11 7qK6pT9A0
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雲が出て、雨が、降っていた。
次元の断裂が齎した影響で空間が歪み雨雲が発生、戦場の惨禍を洗い流すようにそれは降り注いでいる。

雨に打たれた、三人の少女がいた。

一人は幸せそうな顔で、上半身だけになって死んでいて。

一人はただ、その手からずり落ちた冷えた手を掴んだまま涙を流し。



―――そして一人は。









「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」










堪えられず、叫んだ。間宮あかりは、叫び続けた。
声が枯れるまで。岩永琴子に、止められるまで。


426 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/11(日) 23:32:35 7qK6pT9A0
投下終了となります
次のパートで最後となる予定です


427 : ◆qvpO8h8YTg :2022/12/12(月) 00:03:47 ryZZb6p60
オシュトル、神崎・H・アリア、岸谷新羅、ヴァイオレット・エヴァーガーデン、ウィキッド、折原臨也、鬼舞辻無惨、高坂麗奈、ロクロウ・ランゲツ、予約します


428 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:27:03 TbytcXOU0
投下します


429 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:27:27 TbytcXOU0


雨が、降っている。
戦禍の残り火を洗い流す雨が、悲しみの涙の如く降り注いでいる。
鳥居を象った大門から、雨降らすくもり空がよく見える。

宮比温泉物語、大広間。生き残った私達はこの場に集い、傷を癒やしながらも休んでいる。
災禍の魔王ベルセリア。この殺し合いに置ける絶望の具現。それを、積み重ねられた意思の果て、間宮あかりが魔王を撃退した。
だが、犠牲も多かった。冨岡義勇、シグレ・ランゲツ。――――そして、カタリナ・クラエス。
この戦いの、いや。これは戦いではなく災害だ。決して人が挑んではならない天変地異だ。それを覆したのは間宮あかりは間違いなくこの顛末における最大の功労者。そして、一番傷ついたのもまた、彼女であった。

カタリナ・クラエスとは殺し合い当初からの付き合いだと聞いた。あの琵琶坂永至とも、それなりに長い付き合いだったようだ。裏切りと喪失、両方を受けた彼女の心が何処まで傷ついてしまったのか、それは誰にも計り知れない。
少なくとも、カタリナ・クラエスの死に傷ついているのはあかりだけではなく、メアリ・ハントもだ。同じ世界の親友同士。親友と言うには矢印が大きい。友達以上恋人未満、という言葉が相応しいだろう。
その証拠と言わんばかりに、むせび泣きながらカタリナ・クラエスの亡骸から離れずにいた。最終的に痺れを切らした流竜馬に引き剥がされたが。

そしてもう一つ、琵琶坂永至のあの謎の力が不可解だった。原理も仕組みも不明。何もかもが理解できない、その在り方を。
魔王ベルセリアはまだいい。対処法だけで言えば鋼人七瀬の如く彼女を取り巻く『虚構』を取り除けばいい。だが、琵琶坂永至が、怖い。
自分自身が捻じ曲げれしまうような錯覚、その歪曲が正しいものであると定義されてしまう恐怖。
あれもまた秩序だ。別の秩序、別の概念。大日如来、大いなる宇宙の意志。神の権能を得た禁忌そのもの。

これを語る私、岩永琴子は人生最大の恐怖というものを感じている。
自慢ではないが、今まで幾千幾万の怪異を相手に怯えてなどいられない。詰まるところ恐怖の感情が鈍い、ということなのだろうか。
私が私でなくなるのは最悪どうでもいい、それで私が完全な秩序の礎となる事なら大人しく受け入れよう。
だけど、あれが、あんなものが新しい秩序なのだというのなら、無限地獄など生温い世界同士が喰い合う戦争の輪廻だ。ただ進化だけを望み無限に成長していく、ゴールのないマラソンだ。
私が、それに取り込まれる。私が私でない何かに変わり果てる。

"九郎先輩が大好きな私が、消える" "嫌だ" "嫌だ"

そんな秩序、到底認める訳にはいかない。でも、どうにもならない。
秩序を護る存在として、いずれ私も、あの新しい秩序に、琵琶坂永至に、私は―――――。









―――私は、どうすることも出来ない。


430 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:28:28 TbytcXOU0
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(……間違いねぇ。)

壁に凭れ掛かるように、考え込むのは流竜馬。
琵琶坂永至。戦場に乱入した自分からしても異質としか思えなかった謎の男。
あの男の力は、かつて交戦した天本彩声という女が使っていたものと酷似している。
詰まるところは彼女と同じ世界、とまでは分かったのだが。

(……ゲッターの力だ。)

そう、最大の問題は、琵琶坂永至がゲッターの力を使っていた、と言うこと。
間違いなく去り際に発射した緑色の光線はゲッターロボでよく使っているゲッタービームの光条そのもの。
一体いつあいつがゲッターの力手に入れたのか、という疑問が湧くが、そういう事を考えるのは余り柄ではない。

(……ちっ。)

何故かあの時の記憶が蘇る。黒平安京にて晴明を倒した後、謎の世界に迷い込んだ時。
全てがゲッター線によって侵食した、あの地獄変の世界を。
そんな世界から元の世界に戻る直前に見た、――もう一人の自分の姿を。

(嫌な事を思い出しちまった。)

あの吐き気を催す世界の事を、二度と思い返すつもりはなかったのだが。
何故か、あの時のもう一人の自身と琵琶坂永至がダブって見えたのが、無性に苛ついた。
あの去り際の醜悪な表情だけでも、晴明と同等がそれ以上にクソ野郎と言うのは火を見るより明らか。

「……で、てめぇはてめぇで、何突っ立ってやがる?」

気晴らしに視線を逸らせば、メアリ・ハントの姿。
何時までも死んだやつにしがみついていた女、ぐらいの印象だった。それ程までに、この女にとってカタリナという人物は大事だったのか。
自分が間に合っていれば、なんて無駄な考えはしない。手遅れは手遅れだ、それをごちゃごちゃ掘り返すつもりはない。

「――あの男の力、ご存知あるのですか?」
「……ゲッターだ。まあ、呪いみたいなもんだな。――俺も同じように、な。」

問われたから、返した。少なくとも流竜馬にとってはゲッターの力は呪縛であり、因縁であり、たちの悪いストーカーのようなものだ。それ以上、竜馬にもそこまで理解できる力ではない。

「……そうですか。」

そっけない返答が返ってきた。そもそもゲッターと言う存在自体が、未知にして正体不明極まりない。
ゲッターロボのパイロットである流竜馬ですら、全貌は全くといいほど理解できていない。

「―――でも、関係ない。あの男は絶対に許さない。」

背中越しでも分かる殺気。少なくとも自分や隼人に匹敵する、氷の如き憎悪。
絶対に許さないという意志の表明。呼応するかのごとく周囲に浮かぶ水の玉。
それは直ぐ様地面に落ちて、小さな穴となって穿ち消える。

「―――必ず殺す。」

メアリ・ハントの意思はただ一つ。琵琶坂永至を殺す。カタリナ・クラエスを殺したあの男を殺す。
そして、すべて殺してカタリナ・クラエスを蘇らせる。例え彼女が望まなくとも、蘇らせた時に彼女の記憶を改ざんしてしまえばいい。
そう、造花の笑顔でも構わないと望んだのは自分の意志だ。その点においてはあのクズには感謝してもいい。だが、お前だけは絶対に許さない。
利用できる奴らは利用して、琵琶坂永至を必ず殺して、優勝する。
それがメアリ・ハントの望んだ、彼女が望んだ唯一無二のハッピーエンドの礎でしかないのだから。


431 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:28:48 TbytcXOU0
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「……助かりました。」
「いえ。これくらい、当然のことです。」

また、別の場所で。間宮あかりに背負われた岩永琴子がゆっくりと壁に凭れ掛かるように降ろされた。
義足がふっ飛ばされ、こうして背負ってもらわないと移動もままならない。
いや、半ば義足が吹き飛んだ自分の事は今はいい。間宮あかりの精神状況は素人目からしても酷いものだ。瞳に輝きはなく、泣きすぎた結果か、疲れが溜まったせいなのか、酷いくまが出来ている。
身体の傷などお構いなく、一頻り泣いた後に自分背負ってくれたのだから。

「その怪我、深くないとはいえ、かなりの物に思えますが?」
「……大丈夫です。痛みは、あまり感じないから。多分、たいしたことないと思います。」

そう微笑む彼女のその瞳は間違いなく笑ってはいない。見るも痛々しい笑顔だ。
岩永琴子を心配させまいと振る舞っているようにしか見えない。
出血の方は止んでいるとは言え、先の覚醒が関わっているのか、それとも。

「……なら、いいですが。」
「よかったです。じゃあ私、メアリさんの様子、見に行かないと……。」
「……その前に、一つ私の独り言を聞いてくれませんでしょうか? リュージさんがいれば良かったのですが、………連れ去られてしまったので。」

ほんの少しだけ、岩永の顔に陰りが出来た。彼女なりにリュージが連れ去られた事に責任を感じているのか。だが、声の抑揚自体はいつもの岩永琴子であり、それを感じさせない立ち振舞ではあった。
それでも、独り言を誰かに吐き出したくなる程には、彼女も思うところがあった。
なので、間宮あかりも一先ず楽な姿勢となり、彼女の独り言を、独白を聞くことにした。

「……私は、彼が。琵琶坂永至が、怖いと思ってしまったのです。」
「え?」

間宮あかりにとっては意外そうな切り口だった。岩永琴子の事は出会ってまだ数時間ほどだ。理知的というか、クールというか、それでもカタリナに追求された時に背丈相応の反応を見せたり。
見た目、自分よりも年上には思えない人物だとあかりは思った。だからこそ、怪異や神格相手に対等に言葉を介したり出来るのが、岩永琴子であるのだが。

「私はあれに、"秩序"を見ました。」

紛れもない本心を告げる。密教において曼荼羅とは仏の世界、もとい宇宙の全てを図として例えた代物だ。
彼がそれを背後に笑う姿が、大日如来に見えてしまった。神仏習合の解釈においては天照大神とも同一視される存在である。
天照大神の別称に大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)というものがあるが。この場合における「ムチ」は「貴い神」を表す尊称とされている。他に「ムチ」の尊称が付けられた神々というのは大国主、宗像三女神を含めた三種しかないのだ。
あんなものが「貴い神」だなんて、悪夢以外の何物でもない。鞭(ムチ)に焔。余りにも天照の権能の一端を担ってると、偶然と思うことが出来なかった。
世界を照らす神話に連なる神。日本屈指の太陽神。国生みより生まれた三柱の一柱。
天照の力を宿した『魔神』だ。――あれは秩序だ。高天原より世界を正す為に生まれ落ちた宇宙の意志だ。
知恵の神では、秩序を保つ自分では、逆らえない。本能的に怯えてしまう。

「……私はあれが大日如来と、天照大神とも幻視してしまった。」

静かな語り口に反し、その両腕はどうしようもなく震えている。
恐怖していた。怯えていた。畏怖していた。知ってしまった。知りたくもなかった絶望を、知ってしまった。格が、違いすぎた。どうしようもなかった。

「……もし、私が正しく秩序を守るため、というのであれば。天照大神たる今の彼に従う、という選択肢があるでしょう。」
「えっ……?」


432 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:29:10 TbytcXOU0
思わず、間宮あかりの口が驚きに開く。

「彼が天照。いや大日如来と同一視であるなら彼は宇宙の意志の代行者という事とも言えます。彼が天であり宇宙でも在る。宇宙の秩序そのもの。知恵の神として選ばれた私は、その秩序を守らなければなりません。」

妖、亡霊、精霊。数多の怪異の仲裁役として選ばれた岩永琴子。それはあくまで選ばれた、ということでしか無い。
ましてや、彼女が垣間見たのは国生みより生まれた三柱の一角。高天原を統べる主宰神にして、密教の本尊。彼が何処までその力を得ているのかは不明だが、間違いなくそれを敵に回すということは。
即ち高天原に、宇宙の意志そのものを敵に回すと同義だということ。そんな事をして無事でいられるはずがない。

「……もし琵琶坂永至が本当にそうであるなら、間違いなく他の参加者とは一線を画す。いいえ、そんな生易しい話ではありません。文字通り、人知の及ばない『神の力』が敵に回る、ということなんです。」

文字通りの神への反逆。そんな事がそう安々と許されるはずがない。古来より神殺しの逸話があれど、それもまた神殺しというよりも親殺しの類だ。同じ神が親神を殺すからこその神話由来の出来事。
しかも大日如来という、曼荼羅において最も有名が仏と同一の力という可能性が出てきた。宇宙の意志そのものに勝つ可能性なんて微塵もない。釈迦の掌の上で翻弄される孫悟空よりも滑稽に踊ることになるだろう。

「……私は、それに逆らえない。」

震えがひどくなり、焦燥が表情として浮かび上がる。顔も青ざめ、冷や汗が止め処無く流れる。

「私の心があれを間違っているというのに、頭があれが正しいと囁いているんです……!」

苦しそうに、振り絞るように漏れた弱みだった。
誰にも見せることのない、弱気になった彼女の本心だった。
否定できない理不尽が、彼女の身体にしがみついて離さない。
――岩永琴子は、正しい選択しか出来ない。知恵の神である限り、秩序に従う限り。

"新たな秩序となる琵琶坂永至にいつか従わなければならない" 
"その、果てに"
"桜川九郎を殺―――――――"

「――私、は――――。」

考えが思いつかない考えたくない考えたくないでもあれはいずれ秩序以上のいやそんなもの秩序じゃない秩序の名を語った地獄でどうすればいいどうすればいい何をどうしてどうすればわからない。
詰んでいた。岩永琴子は、どうしようもなく詰んでいた。
その手を顔を隠し、全てから目を背けるように。否定すべき現実を、真実を否定できなかった。

「………ッ!」

だが、その絶望を聞き手として聞いていた間宮あかりは違った。
唾を飲み込んで、そして何かを決心したように、こう切り出す。

「……わがままでもいいと思います。」
「……何を、突拍子なことを。」

本当に唐突で、突拍子な言葉だった。
慰めならもうちょっとまともな言葉があるのでは、と掌の隙間から覗き込むように。

「ここに来て、私の信じているものが、信じたいと思っているものが砕かれていくような、そんな思いばかりでした。」

世界は残酷である。武偵憲章はこの殺し合いにおいてはただの呪縛でしか無く、その結果拾いきれなかった命もあった。誰も殺さないという思い自体は立派であるが、それは実力が伴っていればの話。

「それでも、私は私であることを捨てたくない。」

それでも、だとしても。間宮あかりは憧れを裏切りたくはない。親から受け継いた思いを、自分自身の感情を。例え幾度となく溝に塗れた迷い犬(ストレイ・ドッグ)のように無様な姿であろうとも。


433 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:29:30 TbytcXOU0
「変わらないために、変わる。シアリーズさんやみんなから託されたあの力も。私が、最後の時まで私で。武偵・間宮あかりでいるために。」

間宮あかりには夢がある。憧れの神崎アリアみたいな立派な武偵になって、人々を守るような誰かになりたいと。たとえ何と言われようとも、彼女は最後までその願いを諦めることはなかった。
何度挫けようと、何度折れようとも、その夢を捨てることだけはしなかった。

「……私は、私のままで未来を生きていたい。女神の地平が何なのか私にはわからない。それが何でも叶う理想郷だとしても、私はそんなの嫌です。」

女神の地平。μという電子の女神が導く理想郷。メビウスという偽りの楽園。間宮あかりに、それが意味するものを理解する術はない。
だが、それが「今まで起こった悲劇を文字通り最初からなかった事になる」ならば、認める訳にはいかない。
生易しい思いだけで包まれた偽の世界は、満たされるけれどとても空虚で、寂しいのだと、間宮あかりは思う。
悲劇も辛いこともあって、人は人と出会って、引き寄せられて、そうして紡いでいく大切な何かが尊いもの。

「それが最善の幸せだとしても、逃れようのない真実だとしても、私は認めない。だって――。」

女神の地平が、それをただの悲しいことだとして切り捨てるのなら。
人の意思を否定して、望まれた幸せを押し付けるのなら。
それは、虚構の天国。そんなもものは嫌だと高らかに。

「……私はそれでも、明日が欲しいから。我儘でもいい、私はみんなと乗り越えていく明日でいい。」

――理想(あなた)を壊して現実(じごく)に帰る。
汎ゆる艱難辛苦があろうと、乗り越えていく。
一人で無理なら、みんなと一緒に。
ハッピーエンドとは程遠い、ビターエンドでも構わない。
それが、現実で生きるという事だから。

「……明日が、欲しい。」

思わずぽかんとしながらも間宮あかりの言葉に岩永琴子は耳を傾けていた。
そんな、論理もへったくれも無い感情論。合理的ではない感情。
我儘という、単純な思考。明日が欲しいだなんて、そんな単純な。

「………………私は、九郎先輩と。」

思い出す。想い人たる彼の事を。
彼のことを気に入っているのは真実で、いつの間にか、彼と過ごす明日は、面白くて、楽しくて。
それは―――――

――そうだ、知恵の神。ここは虚構の世界だ。この世界で起こった変容は、全くの偽りではないのか?
正しさを捻じ曲げ、真実を捻じ曲げ虚構の理想で誰かを狂わせる。
それは、秩序の名において全くもって正しくなんて無い。理外にも理(ことわり)は存在し、道理も無理も存在する。
あの歌姫らが行おうとするのは、理を喰らいつくし、全てを一つにする秩序への大破壊だ。
メビウスが、例え正しき在り方で生まれたものだとしても。道を間違えた秩序は正さなければならない。
そう、虚構は虚構へと還るべきだ。

「……なんだ、そうでしたね。」

なんて単純なことを忘れていたのだろう。魔王ベルセリアも、琵琶坂永至の曼荼羅も。虚構より生まれた虚構。秩序を乱す虚構であるならば、それを正しき形へと戻すのが、役目。

「私らしくもなく、弱腰になってしまったようです。」

そう、目の前の絶望に気を取られ、見落としていた。偽りより生じた偽り。上座に立つは厄災を生む虚構を望む者たち。生まれ落ちたは虚構の厄災
真実は真実に、嘘は嘘へ、返すべきだ。嘘を引っ剥がし、正しき姿へと。

「ありがとうございます、あかりさん。私は、この場所でやるべき事を、為すべき事を再認識しました。」
「……岩永さん。」
「壊しましょう、この間違った真実と虚構が入り混じった世界を。そして全てを正しく整え、戻しましょう。」

そう、偽りは真に。間違った虚構も、認めてはならない本当も。
世に真怪あれど、虚怪もまた多くあり。――虚構は虚構に戻すべきなのだから。


434 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:29:56 TbytcXOU0
「……さて。こちらの独り言に付き合わせてしまい、申し訳ございません。」

一息ついて、軽く会釈。少なくとも間宮あかりのお陰で立ち直ったのだ。お礼を言わずしては失礼であろう。

「い、いいえ。なんというか私なんかが偉そうに言って……。」
「別に謙遜する必要はありません。知恵の神と言っても、神が万能というわけではありません。時には助言をもらうのも神様だったりするんですよ?」
「そ、それはそうですけれど………?」
「それに、メアリさんの様子を見に行くって言ってましたでしょう。私のことはいいですので、早く用事を済ませるべきでは? ……彼女、あれ以降見るからに平常とは言えませんでしたので。」

岩永の懸念の一つ。メアリ・ハント。カタリナ・クラエスへの執着、思いは間違いなく常軌を逸している。
何が起こるか、彼女が何を考えているか、一度問い詰めなければならないところであるが。

「……そ、そうでしたね。じゃ、じゃあ私行ってきまっ……あ。」

などとあかりが慌て気味に駆けだそうとすれば、足を滑らせ盛大にすっ転ぶ。

「……何やってるんですか?」
「ご、ごめんなさい。ちょっと手貸してくれないかな?」
「……あのですねぇ………ぇ?」

見かねた岩永があかりの手を取ろうとして、異常に気づいた。

「……岩永、さん?」
「………。」

……その手が、体温が、まるで死人のごとく冷たいものだということに。




間宮あかりは、シアリーズ含め数多の情報残滓の再構築によって再び蘇った。その認識は正しい。
だが、彼女が彼女の情報を保ったまま、というのが大問題だった。
分かっているが、間宮あかりの情報はあの時に破損していた。そう、修復不可能なほどに。
それをシアリーズの情報が無理やり補完し、奇跡的に再構築できたというだけの話。
だが、混ざりすぎた。シアリーズ他、この世界のシュカ、その他エトセトラ。混じりすぎた情報はいずれ自然分解し、撹拌し、消失する。本体が死んだ情報であるなら、尚更だ。
似たような事例で言うならば、ディアボロに殺され、ジョルノのゴールド・エクスペリエンスによって生命エネルギーを注入され文字通り一度蘇ったブチャラティが分かりやすいだろう。
今の間宮あかりは、死んだ情報の抜け殻に、僅かに残った情報残滓と別の情報残滓を縫い足したハリボテでしかない。情報をガソリン代わりに動いている、リビングデッドでしかない。
その結末は、本来辿るはずのブローノ・ブチャラティと同じ。ガソリンが切れて、今度こそ死ぬ。二度と動かなくなる。
念を押して断言しよう。間宮あかりの復活は奇跡だ。奇跡は二度と起こらない。間宮あかりの死は確定して
いる。燃料が、情報が消失したその時こそ。彼女の最後の時なのだから。



【D-2/午後/宮比温泉物語1F大広間/一日目】
※吹き飛んだクロガネ征嵐とシグレの腕の行方は後続の書き手にお任せします。
※D-2一体に次元の断裂が発生し、その影響で大雨が降り注いでいます。



【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:覚醒、白髪化、痛覚が鈍くなっている、情報の乖離撹拌(進行度31%)、全身のダメージ(大)、精神疲労(中)、疲労(絶大)、左中指負傷(縦に切断、包帯が巻かれている)
[服装]:いつもの武偵校制服(破損・中)
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。アリア先輩たちが心配
0:―――それでも私は、明日が欲しい。
1:メアリさんの様子を見てくる。
2:ヴライ、マロロを警戒。もう誰も死んでほしくない
3:アリア先輩、志乃ちゃんを探す。夾竹桃は警戒。
4:『オスティナートの楽士』と鎧塚みぞれを警戒。
[備考]
※アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
※覚醒したことにより「風を操る程度の能力」及びシュカの異能『荊棘の女王(クイーンオブソーン)』、そして土属性の魔術を習得しました。
※情報の乖離撹拌が始まっており。このまま行けば彼女は確実に命を落とします。


435 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:30:45 TbytcXOU0
【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康、新たなる決意、無意識下での九郎との死別への恐れ、義足損壊
[服装]:いつもの服、義眼
[装備]:赤林海月の杖@デュラララ!!
[道具]:基本支給品、文房具(消費:小)@ドラゴンクエストビルダーズ2、ランダム支給品1(岩永琴子確認済み)
[思考]
基本:このゲームの解決を目指す。
0:魔王と琵琶坂永至、あの二人をどうにかする方法は……
1:あかりさん、貴方は……
2:九郎先輩との合流は……
3:紗季さん……
4:首輪の解析も必要です、可能ならサンプルが欲しいですが……
5:オスティナートの楽士から話を聞きたいですね
[備考]
※参戦時期は鋼人七瀬事件解決以降です。
※アリアから彼女が呼ばれた時点までのカリギュラ世界の話を聞きました。
※この殺し合いに桜川六花が関与している可能性を疑っています。
ただし、現状その可能性は少ないと思っています。
※リュージからダーウィンズゲームのことを知っている範囲で聞きました。
※夾竹桃・ビルド・隼人・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※今の自分を【本物ではない可能性】、また、【被検体とされた人間は自ら望んだ者たちである】と考えています。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。


【メアリ・ハント@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…】
[状態]:健康、己が願いを自覚、全身のダメージ(大)、鋼鉄の決意、漆黒の決意、カタリナのファーストキスゲット
[服装]:いつもの服装
[装備]:プロトタイプ@うたわれるもの3 二人の白皇(吸収済み)
[道具]:基本支給品一式、エレノアの首輪、カタリナ・クラエスのメモ手帳@はめふら
[思考]
基本:優勝してカタリナ様を蘇らせて私達のハッピーエンドを目指す
1:こいつら(あかり達)は利用する。
2:琵琶坂永至は絶対に許さない、殺す。
3:ミナデイン砲のトリガーとなるオーブを探す
[備考]
※魔法学園入学前からの参戦です
※プロトタイプを吸収したことで水の魔力が大幅強化されました


436 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:31:02 TbytcXOU0
【ドッピオ(ディアボロ)@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:健康、ドッピオの人格が表
[服装]:普段の服装
[装備]:小型小銃@現地調達品 王の首輪@オリジナル
[道具]:不明支給品0〜2、アップルグミ×3@テイルズオブベルセリア
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない。
0:これからどうするか……?
1 :竜馬と共に西へ向かい、ブチャラティの関係者を始末していく。
2 :その途中で『大いなる父の遺跡』へと向かう
3 :無力な一般人を装いつつ、参加者を利用していく
4 :オシュトルへの首輪提供のため、参加者を殺害してのサンプル回収も視野に入れる
5 :『月彦』を警戒。再合流後も用心は怠らない。
6 :ブチャラティは確実に始末する。
7 :なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。
8 :自分の正体を知ろうとする者は排除する。
9 :ゲッターロボ、もしもあのままランクを上げ続けてたら...ゾオ〜ッ
10:グミは複数あるけど内緒にしておこう。
11:もし認識がスタンドに影響を及ぼすならば……?
[備考]
※参戦時期はアバッキオ殺害後です。
※偽名として『ブローノ・ブチャラティ』を名乗っています。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※アップルグミの回復は健在ですが欠損や毒などは回復しません。
 また3つあることは伝えていません。
※早苗、霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。

【流竜馬@新ゲッターロボ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、出血(小〜中、処置済み)、身体に軽い火傷(処置済み)
[服装]:
[装備]:悲鳴嶼行冥の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、彩声の食料品、白バイ@現地調達品
[思考]
基本方針:主催をブッ殺す。(皆殺しでの優勝は目指していない)
0:ひとまず大いなる父の遺跡とやらに向かう。……つもりが、面倒くせぇ事になっちまった
1:研究所からは遠のくが、ブチャラティ(ドッピオ)と西へ行って参加者と接触。
2:そのついでで折原臨也を探すが、あんまり会いたくない。
3:粘着野郎(晴明)死にやがったか、ざまあねえ。
4:戦う気のない奴に手を出すつもりはない。
5:弁慶と隼人は、まあ放っておいても死にゃしねえだろう。
6:煉獄があいつに殺されたとは思えないが、これ以上好き勝手やるつもりならあの金髪チビ(フレンダ)は殺す。
7:レインや静雄の知り合いに遭ったら一応伝えておいてやる。
8:あの野郎(琵琶坂永至)の……どうして野郎がゲッターの力を?
[備考]
※少なくとも晴明を倒した後からの参戦。
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、カナメ、霊夢と情報交換してます。


437 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:31:39 TbytcXOU0
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「へぇ。……それがμの目的か。」

コロッセオ近く。飛行により戦場より離脱した魔王と琵琶坂永至。そして未だ気を失ってるリュージ。
羽根を休めた一時休憩。魔王の想定よりも消耗はひどく、こうして羽休めをせざるを得ず。
結果として間潰しとして、魔王の口より主催の目論見の一部が明かされたのだ。

「……現実がひっくり返る、ねぇ。……で、あんたはその女神のため、なんだろ『魔王様』?」
『……話が速い。私がベルベットの人格をこうして手中に収めているのは、好都合だからな。』

琵琶坂永至が話しかけるはベルベット……ではなく『魔王ベルセリア』。
ベルベットの情報を消費し、『魔王ベルセリア』という人格が誕生した。
全ては女神のため。女神に贄を捧げ、虚獄を成立させるため。それが魔王の行動原理である。

「……つまりだ。ようするにあいつらの目的が果たされるのなら、メビウスが文字通り現実になるってことだろ?」
『その認識で間違いは無い。』
「……だったら手間は省けそうだよ、全く。」

その言葉に、憑き物が落ちたように琵琶坂はなにか納得した。
全てがひっくり返るならば、この世界が現実になるということ。
μのいいように扱われるのは癪に触るが、『現実に戻る』事が出来るのなら、今はどうでもいい。

「……協力してやる、その女神の地平にな。今でもμの事は気に入らないが、それとこれとは一旦別にしたいと思った所だ。」
『………。』

思考する。この男には裏があるのはわかりきっている。だが、現実に戻りたいという言葉自体に嘘は見受けられない。いや、最初から見破られている事自体を前提として言ってきているのやら。
だが、それなら少しばかり使用してやろうとは魔王は考えた。

『……夾竹桃と麦野沈利、そしてムネチカという女がいる。『ベルベット』の現在の仲間。』
「……それが、どうしたんだい?」
『殺せ。もし利用できるならボロ雑巾のようにこき使ってやるつもりだ。』

夾竹桃と麦野沈利とムネチカ。女神の計画に近づいた要注意人物たち。あのまま行けば間違いなく害となり得る。故に、殺す。殺すか、最後まで利用する。

「………それは、ちょっと憂さ晴らしにはなりそうかな?」

そして琵琶坂永至は、肯定するかのような笑みを浮かべ。魔王もそれを肯定と受け取ったのだ。




(……ああ。だからあんたの作にまずはまんまと嵌ってやるよ。魔王サマ?)

そして、琵琶坂永至の真実。彼がその程度で納得するような人物ではなく。

(ぶち壊してやるよ。あんたの言う女神の地平とやらも、俺を取り巻くゴミみたいな因縁も。)

ベルセリアに気づかれないように、リュージにも鞭を介して何かを注ぎ込んで。

(……最後に全てを手にしてかつのは、この俺だ。)

そう、琵琶坂永至という人物は、終始一貫して、自分のことしか考えない。
もっとも、それこそが、ゲッターに選ばれるに至った傲慢さであろうのだろう。


438 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:32:16 TbytcXOU0
【G-4/午後/コロッセオ近く/一日目】
【魔王ベルセリア(ベルベット・クラウ)@バトルロワイアル -Invented Hell-(テイルズオブベルセリア)】
[状態]:魔王化人格、精神汚染(大・進行中)、全身にダメージ(極大)、????を注入された。
[服装]:いつもの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:参加者を贄として女神に捧げる
0:全ては、女神のため。『ベルベット』はいずれ消えるだろう。
1:琵琶坂永至、信用ならないが利用する。
2:あの三人(夾竹桃、麦野沈利、ムネチカ)は殺すか、もしくはまだ利用するか。
[備考]
※牢獄でのオスカー戦後からの参戦です
※3人でアイテムを結成しました
※恐らく『絶対能力者』へ到達しました。恐らく『その先』にも到達する可能性があります。
※夾竹桃の知っている【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。

※複合能力 『災禍顕現』を習得しました。本人の拡大解釈を以て穢れを様々な形として行使できる能力です。
※ 『災禍顕現』を行使しすぎた場合、その末路として、ベルベット・クラウという情報が魔王ベルセリアに呑み込まれ消失する危険性を孕んでいます。
その場合、真に『魔王ベルセリア』と呼ばれる存在が、本当の意味で誕生することになるでしょう。
※魔王化の影響で、思考の変化及び記憶の損傷が見られています。現状においてはアバル村の記憶の大半が破損し思い出せなくなった他、アルトリウスの存在を忘れました。夢で聞こえた唄に関する記憶に関する情報に塗りつぶされました。
※彼女の中で、アルトリウスの情報が徐々にブチャラティへと置換されていってます。
※このまま魔王人格が表面化したままの場合、ベルベットの情報が完全に燃料となるでしょう。ただし、彼女がまだライフィセット及びブチャラティへの憎悪を持ち続ける限り、彼女はまだ『ベルベット・クラウ』です
※琵琶坂永至に????を注入されました。ゲッターわからせをされるか、はたまた別の結果になるかは後続の書き手にお任せします。

【リュージ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:片腕・片目損失。気絶中。????を注入された?
[服装]:軍服
[装備]:イケPの二丁拳銃@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-
[道具]:ポルナレフの双眼鏡@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、不明支給品0〜1
[思考]
基本:???
0:???
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後です。
※この世界をメビウスのような「フィクション」だと思っています。
※夾竹桃・ビルド・琴子・隼人・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。
※琵琶坂のこれまでの経緯を聞きました。
※琵琶坂永至に????を注入されました。ゲッターわからせをされるかは後続の書き手にお任せします

【琵琶坂永至@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:◆◆化、顔に傷、全身にダメージ(中〜大)、疲労(中)、鎧塚みぞれと十六夜咲夜に対する強い憎悪、背中に複数の刺し傷、左足の甲に刺し傷
ゲッター線による火への耐性強化、火傷(中)、痣@鬼滅の刃
[服装]:パンツ一丁
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1、ゲッター炉心@新ゲッターロボ、絹旗の首輪
[思考]
基本:優勝してさっさと元の世界に戻りたい……つもりだったが……
0:俺の邪魔となるやつは全員潰せばいい。利用できるやつはとことん利用してやる?
1:とりあえず服どっかで探さないと。
2:今は魔王ベルセリアに協力。だが、こいつはどう苦しめてやろうか、フフフ……?
3:鎧塚みぞれは絶対に殺してやる。そのために鎧塚みぞれの悪評をばら撒き、彼女を追い詰める
4:あのクソメイド(咲夜)も殺す。ただ殺すだけじゃ気が済まない。泣き叫ぶまで徹底的に痛めつけた上で殺してやる
5:クソメイドと一緒にいた白塗りの男(マロロ)も一応警戒
6:他の帰宅部や楽士に関しては保留
7:他に利用できそうなカモを探してそいつを利用する
8:クソメイドの能力への対処方法を考えておく
[備考]
※帰宅部を追放された後からの参戦です
※ゲッターに選ばれました。何処まで強化されたかは後続の書き手にお任せします。


439 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:33:00 TbytcXOU0
□□□□□□□□

斯くして、少女たちの戦いは一先ずの区切りとなった。
武偵の少女の終わりは確定し、知恵の神の少女は新たなる決意を胸に。
狂気の令嬢はさらなる憎悪を抱え、吼える竜は佇み。
悪魔は、その先を見つめている。

魔王は打ち払われ、嘘を見抜く瞳は未だ閉じられたまま。
そして、男は動き出す。全ては己が為に。

ここから先に始まるは、大嵐の時代(グレード・ウォー)でございますゆえ。
観客の皆様は、一度御席を立ち、休憩することをおすすめします。
――では、これにて一時閉幕となります。

【冨岡義勇@鬼滅の刃 死亡】
【シグレ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア 死亡】
【カタリナ・クラエス@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…】












――カシャリ


440 : 明日の方舟たち(ArkNights)-「終幕」或いは「序章」- ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:36:39 TbytcXOU0




























<変わらない毎日なのに>







<なんでかな?>







<とても懐かしくて愛おしい>







<だけど私何か大切なことを忘れてしまっているような…>



















<まあ、いいや。そういえばあっちゃんが悲しそうな顔していたけど……なんだったのかな?>


441 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:37:09 TbytcXOU0
これにて投下は終了となります
長時間のキャラの拘束申し訳ございませんでした。


442 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/16(金) 22:39:08 TbytcXOU0
事後報告になりますが夾竹桃、麦野沈利、ムネチカの予約を取り外させてもらいます
申し訳ございませんでした


443 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/17(土) 01:03:04 B9leR5S60
間宮あかりの状態票に抜けがありましたので修正します

【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:覚醒、白髪化、痛覚が鈍くなっている、体温低下、情報の乖離撹拌(進行度31%)、全身のダメージ(大)、精神疲労(中)、疲労(絶大)、左中指負傷(縦に切断、包帯が巻かれている)
[服装]:いつもの武偵校制服(破損・中)
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。アリア先輩たちが心配
0:―――それでも私は、明日が欲しい。
1:メアリさんの様子を見てくる。
2:ヴライ、マロロを警戒。もう誰も死んでほしくない
3:アリア先輩、志乃ちゃんを探す。夾竹桃は警戒。
4:『オスティナートの楽士』と鎧塚みぞれを警戒。
5:もし会えたらカナメさんに、シュカさんの言葉を伝えないと
[備考]
※アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
※覚醒したことによりシアリーズを大本とする炎の聖隷力及び「風を操る程度の能力」及びシュカの異能『荊棘の女王(クイーンオブソーン)』、そして土属性の魔術を習得しました。
※情報の乖離撹拌が始まっており。このまま行けば彼女は確実に命を落とします。


444 : ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:27:07 zpVDAsjs0
皆さま、投下お疲れ様です。


後編の方、投下していきます。


445 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:29:05 zpVDAsjs0
 病院の一階。
 一通りの、話も終わり、カナメと霊夢はフレンダを引きずるようにして、病院から連れて出て行った。

 フレンダは最後まで「本当に殺されたりしないよね!?」などと、言っており、何度も確認をとっていたりしたが。

「本当に大丈夫でしょうか?」

「正直、不安は大きいが――今はあの二人に任せるしかないな」

 九郎がブチャラティに問うが、不安はあるが今はカナメと霊夢に任せるしかない。

 ちなみに、フレンダからは出ていく前に敵対する可能性が高いグループの一人である麦野の人物像、そしてその能力である『原子崩し』などに関しても情報を提供させてある――というか、減刑目当てもあってか自分からあっさりと喋った。

 フレンダも麦野に対し、何だかんだでリーダーとしての信頼や情もあるが――それはそれとして、自分の命と天秤に乗せれば後者の方が重い。
 こうなった今、敵対化する可能性が高い麦野に関しての情報を隠す気もなくなっていた。

「君はこのまま俺達といていいのか?」

 ここで病院の方に残る事になった、梔子に問いかけるように訪ねた。

「構わない。このまま、レイン達のところへ行っても二度手間になる」

 元々、レイン達と別れて多くの参加者と接触するのが梔子の目的だ。
 ならば、すぐに合流してしまうよりは他の参加者であるブチャラティ達のグループとしばらく一緒にいた方が良いだろう。

(ウィキッド、か)

 ウィキッドを狙うと公言していた、カナメと霊夢。
 かつて彩声との話し合いの際は、あまり好ましくない相手とはいえウィキッドへに対して最低限の仲間意識は存在していた。
 しかし、この会場で起きたというStorkとウィキッドの件を聞いてしまい、その最低限の仲間意識も薄れ、自分の知っている限りの情報も話した。

(これで良かったのだと、思いたいが)

 そんな風に考えていた梔子に対し、ブチャラティは「そうか」と頷いてから続ける。

「さて、これからの事だが――ひとまず、ついてきて欲しい」

「何かあるんですか?」

「ああ。さっき、誰か侵入者が来た時に備えて罠でも仕掛けられないかと一階を色々と探っていた時に見つけたものがある」

 そう言って、ブチャラティは歩き出し、二人がそこに続いた。
 しばらく歩いていくと、幾度かの交戦によってあちらこちらが戦闘痕がまだ残る壁へと辿り着く。

「ここだ」

「ここがどうかしたんですか?」

「さっきそこの近くの部屋に入ってみたのだが、どうも狭いように感じてな。よく見ると、少し壁の色も違っていたからもしやと思って、みたら――だ」

 そういって、その壁に『スティッキィー・フィンガーズ』によってつけられたジッパーから入り込む。

「ここは……」

 続いて九郎と梔子も入ってみて、そこが何か分かった。

「隠し部屋、ですか?」

「ああ。判りにくい場所にあったしここを拠点にしていたというチョコラータも、気づいてはいなかったのだろう」

 この病院も決して小さくない。
 チョコラータがどの段階で病院を拠点にしていたかは分からないが、それでもせいぜいが数時間。凡その部屋を把握するので精一杯だろう。

「それで一体、ここには何があるんですか?」

「いや、俺もさっき見つけたばかりだ。その件で皆に相談しようと思っていた時に、あの騒ぎでな」

「そうでしたか」

 今は昼間だが、いっさい光の当たらない位置に配置されているため室内は暗い。
 灯りをつけると、部屋の中の様子が見えはじめた。

 ただ、「身体ストック室」と書かれたプレートが目立つ位置に書かれてあるが見えた。

 そして、室内には数十体の黒い布に覆われた箱が置かれてある。
 しかも、その下にはネームプレートがあった。全てが見覚えのある名前だ。


446 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:30:29 zpVDAsjs0

 「ブローノ・ブチャラティ」や「桜川九郎」を含む、参加者達の名前ばかりだ。「ジョルノ・ジョバァーナ」や「弓原紗季」といった、既に退場済みの者も含めて70以上の名前が並んである。

「何だこれは……」

 ブチャラティが呟く。
 そして、そのうちの一つ。自分の名前の書かれたとこの布を取っ払うと、そこには、左右の腕や両足。さらには、眼球や臓器といったものまで保存液らしきもの漬けられてに入っている。

「身体ストックって書いてありましたね」

「身体の一部が欠けるような事があれば、これを使ってくださいという事か」

 いかにも、病院らしい隠しギミックといったところか。
 有効にお使いくださいと言わんばかりに置いてある。

 霊夢も、病院にこんな部屋がある事を知っていれば、回り道して指を回収などしなくて良かったかもしれない。

「これはまた、悪趣味だな」

「そうですね」

 確かに、この戦いではこういったものが役立つ機会も多いだろう。
 チョコラータのような優れた医療技術を持つものや、ブチャラティの能力とは相性が良い。
 あるいは、これを「素材」として利用できるような真似もできるかもしれない。

 だが、それはそれとして自分の身体の部品のあちこちが入っているのはいい気分ではない。

「しかし、どうやってこんなものを用意したんだ?」

 適当な人間の身体をバラして用意したというのならば、まだ分かる。
 だが、各参加者達にぴったりとあう身体の部品など、どうやって用意したというのか。

「ここがメビウスに近い世界だというなら、不思議な事ではないと思う」

 ここで梔子が口を挟んだ。
 メビウスにおいて、死は現実と同様に変わらない。
 あの琵琶坂もその法則に従いメビウスで死に、現実でも――梔子には確認する手段はなかったわけだが――同様に死んだ。

 だが、逆に死に至らなければ、いかに重傷であっても治す――というよりは直す事ができる。
 事実、琵琶坂によって生き残ったシャドウナイフも本来は後遺症どころか一生車椅子生活でもおかしくないほどの重傷だったにも関わらず、あっさりと元に戻っていた。
 身体の欠損箇所をこうやってわざわざ用意してある分、むしろ不便になっているとすらいえる。

「メビウス、か。君はそこで楽士と言われる存在だったんだったな」

「そうだ。だがあまり期待されても困る。さっきも言ったが、私もそこまで多くの情報を持っているわけでもない」

 楽士などといっても、決して対等だったわけではない。実質的にはソーンが一人で取り仕切っており、梔子自身はメビウスに関してそこまで詳しいわけでもない。
 また、彼女に限らずほとんどの楽士はメビウスで現実では叶わなかった理想を叶える事ができさえすればそれでよく、それ以上の事に興味はなかった。
 梔子にしても琵琶坂の件がなければ、あそこまで執拗に帰宅部と戦う気も起きなかったかもしれない。

「それにしても、やっぱり元々ない箇所は用意されていないみたいですね」

 そんな中、九郎は岩永琴子のネームプレートがついた箇所の箱の中身を見ていた。
 そこには、ブチャラティや他の参加者達と違って眼球と足が片方ずつしかない。

「そういえば、お前のいう岩永琴子は一眼一足だったといっていたよな」

「ええ。予想はしていましたが」

 九郎の答えに、ブチャラティは新たに浮かんだ疑問について考える。

(元の世界の記憶にある身体をそのまま再現、というならば俺の身体もおかしな事になる)

 ブチャラティの身体は完全に死んでいたはずであり、今のブチャラティが生きた身体を得ているという事そのものが妙な事になる。

(こちらに来た瞬間のまま再現されているというわけでは、なくあくまでその当人が知る最も自然な状態で身体が再現されていると考えるべきか)

「梔子。メビウスでは、確か顔どころか身体も好きに変える事ができるという話だったな」

 それに梔子は、コクリと頷く。

 メビウスでは、本来、身体も自由に決められる。
 梔子は、顔や身体にコンプレックスがあったわけではないが、イケPのように顔に悩みがある者は違う顔が用意されていたし、スイートPのように性別すら違っている者すらいる。


447 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:31:47 zpVDAsjs0

「だが、俺達の場合はそうじゃない。それに俺の知る限り、これまで会ってきた参加者は全員そのままの顔や身体のようだし」

「そうですね」

 アリアも新羅も、先ほどのカナメや霊夢もそんな事はいっさい言っていなった。
 好きに身体をいじっていいなら高身長でナイスバディな身体に、などと言いかねないな――などと九郎は自分のよく知る知恵の神の事を頭に浮かべる。

「やっぱり、本人が馴染んでいる自然な身体になる――という事でしょうか?」

「かもしれない。Storkも私の知る姿だったようだし、私達楽士や帰宅部がメビウスの姿なのも、こっちの顔や身体が馴染んでいるからそのまま再現されているのかも」

「それに、妙といえば妙なんですが……」

 そう言って、九郎は言葉を続ける。

「僕の身体のストックまである事もおかしいといえば、おかしいんですよね」

 九郎は、不老ではないが不死の身体だ。その事は、ブチャラティも聞いている。
 ジオルドとの闘いでも、しっかりとそれは機能していた。

「それに、無惨という男も驚異的な再生能力があると言っていたな」

 ここには、無惨の身体のストックもしっかりと用意されている。
 無惨は鬼という種族の首魁に相応しく、一部の例外的な手段を除いて死ぬ事がない存在らしい。
 さらには、身体を吹き飛ばされても瞬時に再生してしまっていたと、垣根も話していたはずだ。

「主催者側が、それを把握していないはずはないしな」

「ええ。本来は、不要なはずの存在のはずだというのに。 ……もしかしたら」

 ここでふと気がついたように、九郎が呟く。

「どうした?」

「何かしらの手段で、僕や無惨という人が再生能力を失う可能性があると判断されているのかもしれません」

「再生能力を?」

 ベルベット・クラウが新たに力を得て変貌したのとは、逆のケース。
 この会場で新たに能力を手に入れるのではなく、逆に持っていたはずの力を失う可能性。確かにありえないというわけではない。
 事実、九郎は最初からくだんの未来予測が使えない状態だ。

「そういった手段があると?」

「ええ。あくまで僕の考察ではありますが」

「そうだな。しかし、そういった事が可能なら。 ……いや、この考察は後にしよう」

 だが、そんな風に考えていた事をブチャラティは中断する。
 優先しなければならない事、それを間違える気はない。

「そうですね。せっかく、使えるものがあるんですから」

「ああ、これはこれで使わせてもらうとしよう」

 早速、というべきか使い道がある。
 二人は、「ライフィセット」と書かれたネームプレートのある箱の所へと向かった。



◇  ◇  ◇



「スティッキィ・フィンガーズ!」

 二階へと上がり、ライフィセットとシルバがいる病室へと戻った後、持ち出したライフィセットの腕が、ブチャラティのスタンドによって接合されていく。

 ジョルノがメローネとの闘いで自身のスタンドを進化させるまで、ブチャラティチームのヒーラーともいうべき役割を担っていた。イルーゾォ戦のアバッキオやトリッシュがボスによって腕を奪われた時などにも使われており、つい先ほど霊夢の指を繋げたのもこれによるものだ。

「それがスタンド、か。さっきも見たがやはり不思議な力だな」

 最初に見た時のアリアや九郎のような言葉を、梔子が口にする。
 スタンド使いでもない人間からすれば、急に人から人形のような存在が現れるのだ。
 カタルシスエフェクトも似たようなものといえばそうだが、やっぱり奇妙な気分にはなる。

「とりあえず、問題は一つ解決したが……」

 ブチャラティは、さほど安堵した様子は見せない。
 少年の両腕こそ元に戻ったものの、相変わらず全身を蝕む穢れはそのままなのだ。

「……この子は大丈夫なのか?」

「両腕は何とかなったが、まだ穢れの方の問題が残っているからな」

「穢れ?」

「ああ、そういえば詳しい説明はしていなかったな」


448 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:37:04 zpVDAsjs0

 一応、ライフィセットの事などに関して、ある程度の説明は先ほどもしていたが、詳細はまだだ。

 ブチャラティが説明していく。
 ライフィセット本人や、垣根からの情報も交えてだ。
 彼の出身世界の事などもだ。

「……聖隷に業魔、か。本当に異世界という奴なんだな」

 これまで、梔子が接触してきたのは自身と近い世界出身の者が多い。
 レインからの考察で聞いていたとはいえ、実感したのはこれが初だった。
 煉獄にしても、異世界というよりも過去の時代、という言葉の方が似あう相手だ。
 明らかに世界観が違う風貌の仮面の漢(ヴライ)とも接触してはいたが、いわば災厄ともいうべき存在であり、話し合いなどできていなかった。
 先ほどまでいた霊夢にしても、自身の出身に関してはさらりと語ったのみだ。

 一方のブチャラティからすれば、魔法を用いるキース、さらに武偵と呼ばれる存在のいる世界のアリアなどと早々に接触した事により、その辺りを理解できたのは早かったわけだが。

「それで――」

 と会話を続けようしていた時の事だった。

「誰か来ます」

 不意に、九郎から声がかけられる。
 梔子が来た時と同様、外の様子を伺っていた九郎が、新たな来訪者を視界に入れたのだ。
 つられて、梔子も窓の外を見ると、記憶にある存在が視界に入ってくる。
 筋肉に覆われた巨漢の姿に、特徴的な仮面。
 彩声を退場させた存在であり、危険人物というよりは災害ともいうべき表現の似合う存在。
 最も、梔子はその際には戦力外となってしまっていたため、実質的にヴライの情報はレインと静雄経由のものとなっているが。

「あいつは……」

「知っているのか?」

「一度、襲われている」

 仮面の漢――フレンダの話にも出てきたが、フレンダの話していた相手とは外見からして違う。おそらくは別人。
 だが、こちらの仮面の漢もまた危険人物だと知っている。
 情報交換の際にも一応話してはあるが、改めて詳しい説明をする。

「……そうか」

 乗った側で、しかも話しあいにも乗りそうにない相手。
 正直、ブチャラティとしても、あまり歓迎したくない事態だ。

(運がないな)

 霊夢とカナメに加え、信用できない存在だったとはいえ、フレンダまでがいなくなった事によって病院にいる戦力はさらに落ちているのだ。
 かといって、交渉が通じそうな相手ではない。
 こんな話し合いをしている間にも、相手は病院の入り口にまで到達してしまった。

「相手をしてくる。九郎、ここは任せるぞ」

 ブチャラティの言葉に九郎も頷き、少し話してから病室から出て行った。



◇  ◇  ◇



 ヴライは病院の中へと入ってから、一階の探索を進める。
 ヴライの予想通り、戦闘の跡があった。
 それも、一度や二度ではない。
 何度にも渡ってだ。

(当たりか)

 ヴライは、自分の予感が正しかった事を悟る。
 誰がどれだけやりあおうが、ヴライには関係ない。
 問題は、まだここに参加者達が残っているかどうかだ。
 だが、死体らしきものはない。
 まだ真新しい戦闘の跡も残っている。
 歩を進めながら、ヴライは呟く。

「面妖な」

 外で見た時も思ったが病院の内部もヴライからすれば、見慣れないものだ。
 しかし、ここはそういったものだと理解する事にして、そのまま、内部の探索を進めていく。
 その背後。
 背景と同化している壁に、ジッパーがある。
 それにヴライは気づいていない。

 そのジッパーが開き、無言でヴライに影が迫る。
 ブローノ・ブチャラティとそのスタンドであるスティッキィ・フィンガーズだ。
 完全に不意をついた一撃。
 これで無力化を狙い、ブチャラティは動いた。
 ヴライに視覚の外。

 さらには、ヴライにはブチャラティの存在もスティッキィー・フィンガーズやスタンドに関する情報も知識もいっさいない。
 故に、この不意打ちは、間違いなく成功する――はずだった。


449 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:39:29 zpVDAsjs0



「ぬううっっ!!」


 だが、ヴライは身体を大きく捻り、それをかわす。
 ブチャラティのスタンドが、ほとんど直前に迫ってからの動作であり巨体には似合わぬほど俊敏なものだった。
 完全に、視覚外からの不意打ち。
 これを躱す事ができたのは、ヴライの幾多もの経験、そして鍛え上げた肉体。本能的な勝負勘。これら全てが合わさってできた反応といってもいい。

「……蟲がいたか」

 立ち上がりながらヴライが、ブチャラティとそのスタンドを見て呟く。
 判断材料はそれだけで十分だった。
 敵がいれば、潰す。
 ヴライの行動は単純にして明解。
 ここで交渉を持ちかけるような漢ではなかった。

(奇襲は失敗、か)

 一方のブチャラティはそれを見て、内心で舌打ちする。

(これで一気に決めたかったんだが)

 梔子からの情報でしかないが、このヴライも相当な強者。
 フレンダを襲ったという仮面の漢とはまた違うようだが、侮っていい相手ではない。だからこそ、不意をついたのだがそれは失敗した。

「ふん」

 ヴライは、ブチャラティに対して奇襲をかけた事への怒りや驚きの言葉はない。
 敵がいた。ならば屠る。
 そのために、その異名である剛腕を振るうだけだ。
 これまでも、そしてこれからも。
 ヴライのする事は変わらない。

 剛腕による一撃。
 その一撃だけで、壁に大穴が開く。

(聞いてはいたが、俊敏性に反応速度、それに力も一級品か)

 この相手が予想以上の強敵である事を自覚し、内心でつぶやく。
 階段近く天井へとブチャラティが移動する。
 そして、さらに同じ要領で上の階へと移動する。

「……ふん」

 それを追い、踊り場から跳躍。
 二階、そして三階へとヴライは難なく到達した。
 三階に到達するや否や、ヴライはブチャラティを視界内に捉える。

「燃え尽きよ」

 手土産とばかりに、炎の槍が投擲され、それが廊下内に燃え上がった。

「小賢しく立ち回るだけでは、我は倒せんぞ」

「お前が殺し合いに乗っているかどうか――は聞くまでもないか」

 ブチャラティに対し、これが返事とばかりに、ヴライの炎の槍が再び投擲。
 周囲に炎が燃え広がる。
 これでは、炎を見るだけでもダメだと言っていた梔子では、とてもではないが戦いにならないだろう。

(ここまで来れたのは良かったが、難しい状況だな)

 負傷者と非戦闘員のいる病室のある二階から、ここに移動したものの、厳しい戦いになりそうな事をブチャラティは悟る。
 最初のメアリとエレノア、垣根ら『スクール』とチョコラータや無惨達。先ほどの、カナメと霊夢らも含めれば四度目となる病院での戦いが始まろうとしていた。



◇  ◇  ◇



 戦いの音が聞こえはじめる。
 あの災厄というべき怪物と、ブチャラティが戦いが続いているのだ。
 まずは、不意打ちを狙う。それが失敗したならば、次善の策として、上の階で戦う。
 戦闘音が聞こえているという事は、最初の奇襲は失敗したという事だろう。
 それでも、あの怪物を三階に誘導する事はできたようだ。

「はじまったみたいですね」

「そうだな」

 この部屋にいても聞こえ続ける戦闘音に、九郎が呟き、梔子が返す。
 まるで、それは戦いの音というよりは工事現場か何かのようにも聞こえる。何かをひたすらに壊し続けるような音が、定期的に聞こえてくる。

(助けられてばかりだな、私は)

 自分は煉獄にはじまり、出会った参加者に助けられてばかりだ。
 彩声も、静雄も、レインも。
 そして、ここで会ったブチャラティ達も。
 彼らの中に一人でも悪意を持った参加者が混じっていれば、その瞬間に奈落に底にまで落とされた危うすぎる綱渡り。
 ここまで生き残れたのは幸運というほかなく、これまでの脱落者達の中に自分が含まれていてもおかしくなかった。
 炎という分かりやすい弱点がある以上、今回のヴライのような相手が来てしまえば自分は戦力外になる。


450 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:40:47 zpVDAsjs0

 梔子は知らないが、マロロやジオルドといった炎による攻撃を得意とする参加者は他にもいる。
 炎による攻撃どころか、ライターの小さな火や、匂いですら苦しい梔子では厳しいと言わざるをえない。

「琵琶坂……」

 小声で呟く。
 その目標はあまりにも、遠い。

 これほどの参加者が集う殺し合いの舞台では矮小なはずの存在に過ぎない男なのに、そこまで辿り着くまでの道のりは、あまりにも厳しく、険しい。
 一人では、まともに進む事すらできていない。
 本当にそこまで辿り着けるのか。辿り着いたとしても、本当に奴に復讐する事などできるのか。

(駄目だ。弱気になるな)

 後ろ向きな考えに支配されそうになるのを、必死に振り払う。

 そんな中、部屋の入口に立った九郎は外の様子に耳を澄ませていた。

「音が遠ざかっているようですし、今は三階。いえ、四階でしょうか」

「そうだな」

 こんな事態でも、九郎は落ち着いた様子を見せている。
 九郎は年齢的に、病院に残った面々の中でも最年長になり、ライフィセットはもちろん、ブチャラティや梔子よりも年上だ。

 だから、冷静で頼りになる――というよりも、恐怖などという感情がないかのようにすら見える。
 梔子がつい先ほどまで行動を共にしていたレインにしても、冷戦沈着かつ表情の変化も乏しかったとはいえ、もう少し人間味はあったし感情を表に出していたと思う。

(いや、こんな事を気にするのは失礼か)

 そうだとしても、同じ人間の血が流れているとは思いたくないあの爬虫類の如き琵琶坂のような冷たさは感じないしあの男と比べるなど失礼極まりないだろう。

 そんな中、ベッドの上でなおも苦し気な様子のライフィセットの口から呻き声が漏れる。

「う……」

「2ご、ライフィセット……」

 2号ではなくそう呼んで欲しいという名前を呼びながら、シルバもこれまでよりいっそう、不安げに目の前で眠り続ける少年を見る。
 両腕こそ戻ったものの、未だに苦し気な様子で寝ているかつての相方。

 自分もそうだったのかもしれないが、感情が封じられていた頃には、こんな苦しそうな表情など見た事がなかった。

「なんで……」

 不意に、シルバの口からそんな言葉が漏れた。

「どうして、そこまでして生きなきゃいけないの……?」

 気が付いたら、この会場に来ていて。
 参加者の証である、爆発する首輪こそないものの、こんなところにいたらいつ死んでもおかしくない。

 この会場での最初の主だったマギルゥに続き、放送によれば自分の主の弟でもあったオスカー・ドラゴニアも死んだらしい。
 彼もまた、高い実力を持っていた一等退魔士だったが、そんな相手ですらあっさりと退場した。

「それでも、こんな苦しい思いや怖い思いをするのに、感情なんてあった方が良かったの……っ!?」

 それは、特定の誰かというよりは、ただ心の内の叫び。
 こんな状況下でいきなり、封じられた意思を解放された少年にとっての叫びだった。

「……そうかも、しれないね」

 ぽつり、とその言葉に、意識を再び取り戻していたらしいかつての相方だった少年が答える。

「ライフィセット?」

 恐ろしい業魔に連れされられ、世界の悲しみも怒りも嘆きも知った少年聖隷が、いまだ自分の舵をとれない少年に言う。

「確かに、痛いし、苦しいし、怖いよ。でも、死んで楽になりたいなんて思わないし、意思を、封じて欲しいなんて思わない。感情があれば、意思があれば、怖い事や痛い思いをしても、その後に新しい楽しい事も良かった事もまた見つける事ができる。また作る事ができる」

 苦し気な様子でありながらも、この現状を嘆くような様子はまるでない。
 つい先ほどまで、ただの人形だったシルバにはない強い意志の力だった。

「それに、こんなところで殺し合いをさせられて、わざわざ昔のベルベットを連れてきたりして――そんな奴らに何もできないまま、死んでしまうなんて、悔しい!」


451 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:40:47 zpVDAsjs0

 梔子は知らないが、マロロやジオルドといった炎による攻撃を得意とする参加者は他にもいる。
 炎による攻撃どころか、ライターの小さな火や、匂いですら苦しい梔子では厳しいと言わざるをえない。

「琵琶坂……」

 小声で呟く。
 その目標はあまりにも、遠い。

 これほどの参加者が集う殺し合いの舞台では矮小なはずの存在に過ぎない男なのに、そこまで辿り着くまでの道のりは、あまりにも厳しく、険しい。
 一人では、まともに進む事すらできていない。
 本当にそこまで辿り着けるのか。辿り着いたとしても、本当に奴に復讐する事などできるのか。

(駄目だ。弱気になるな)

 後ろ向きな考えに支配されそうになるのを、必死に振り払う。

 そんな中、部屋の入口に立った九郎は外の様子に耳を澄ませていた。

「音が遠ざかっているようですし、今は三階。いえ、四階でしょうか」

「そうだな」

 こんな事態でも、九郎は落ち着いた様子を見せている。
 九郎は年齢的に、病院に残った面々の中でも最年長になり、ライフィセットはもちろん、ブチャラティや梔子よりも年上だ。

 だから、冷静で頼りになる――というよりも、恐怖などという感情がないかのようにすら見える。
 梔子がつい先ほどまで行動を共にしていたレインにしても、冷戦沈着かつ表情の変化も乏しかったとはいえ、もう少し人間味はあったし感情を表に出していたと思う。

(いや、こんな事を気にするのは失礼か)

 そうだとしても、同じ人間の血が流れているとは思いたくないあの爬虫類の如き琵琶坂のような冷たさは感じないしあの男と比べるなど失礼極まりないだろう。

 そんな中、ベッドの上でなおも苦し気な様子のライフィセットの口から呻き声が漏れる。

「う……」

「2ご、ライフィセット……」

 2号ではなくそう呼んで欲しいという名前を呼びながら、シルバもこれまでよりいっそう、不安げに目の前で眠り続ける少年を見る。
 両腕こそ戻ったものの、未だに苦し気な様子で寝ているかつての相方。

 自分もそうだったのかもしれないが、感情が封じられていた頃には、こんな苦しそうな表情など見た事がなかった。

「なんで……」

 不意に、シルバの口からそんな言葉が漏れた。

「どうして、そこまでして生きなきゃいけないの……?」

 気が付いたら、この会場に来ていて。
 参加者の証である、爆発する首輪こそないものの、こんなところにいたらいつ死んでもおかしくない。

 この会場での最初の主だったマギルゥに続き、放送によれば自分の主の弟でもあったオスカー・ドラゴニアも死んだらしい。
 彼もまた、高い実力を持っていた一等退魔士だったが、そんな相手ですらあっさりと退場した。

「それでも、こんな苦しい思いや怖い思いをするのに、感情なんてあった方が良かったの……っ!?」

 それは、特定の誰かというよりは、ただ心の内の叫び。
 こんな状況下でいきなり、封じられた意思を解放された少年にとっての叫びだった。

「……そうかも、しれないね」

 ぽつり、とその言葉に、意識を再び取り戻していたらしいかつての相方だった少年が答える。

「ライフィセット?」

 恐ろしい業魔に連れされられ、世界の悲しみも怒りも嘆きも知った少年聖隷が、いまだ自分の舵をとれない少年に言う。

「確かに、痛いし、苦しいし、怖いよ。でも、死んで楽になりたいなんて思わないし、意思を、封じて欲しいなんて思わない。感情があれば、意思があれば、怖い事や痛い思いをしても、その後に新しい楽しい事も良かった事もまた見つける事ができる。また作る事ができる」

 苦し気な様子でありながらも、この現状を嘆くような様子はまるでない。
 つい先ほどまで、ただの人形だったシルバにはない強い意志の力だった。

「それに、こんなところで殺し合いをさせられて、わざわざ昔のベルベットを連れてきたりして――そんな奴らに何もできないまま、死んでしまうなんて、悔しい!」


452 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:43:33 zpVDAsjs0
 喜怒哀楽のうちの「怒」。ライフィセットからすれば、極めて珍しい怒りの感情でもあった。
 接合されたばかりの腕は、未だに激痛が走る。
 だが、それでも腕が再び戻ってきた。
 あの時、ベルベットの思いを嘲笑した女も、こんな悪趣味な催しを目論んだ主催の女も。

「絶対に、殴ってやるんだからっ!」

「……っ!」

 強い意思の力を見て、シルバは気圧される。
 使役聖隷1号と聖隷2号。
 テレサ・リナレスの使役聖隷として同じ場所にいた。
 同じ立場にいたはずの相手。

 それがどこで、こんなにも差ができたのか。
 ここまで違う存在になったのか。
 あの時、災禍の顕主に連れ去られたからか。
 ただ、主の言う事を聞くだけの同じモノだったはずの少年が、外見は何一つ変わっていないのに、別人のように見える。

(あの人も、同じ気持ちだったの……?)

 今も契約の繋がりは残っている垣根帝督の事が、シルバの脳裏に浮かぶ。
 仲間達の仇である、鬼舞辻無惨を討とうとしているのも。垣根にとっては何の関わりのないディアボロという相手を討とうとしているのも。
 ただ生き残るだけではない。
 好き勝手やった奴らを放任しておくのは、嫌だから。悔しいから。
 例え、遠回りになったとしてもやると決めた事はやり遂げる。そんな決意が垣根にもあったのだろうか。
 そんな風に今も仇を求めて会場のどこかにいるであろう、垣根の事もシルバは考える。

(悔しい、か)

 一方、同じくライフィセットの言葉を聞いていた梔子は腑に落ちたように目を瞑る。
 確かに、最初に出会って支えてくれた煉獄に続き、敵だった相手とはいえ親切にしてくれた彩声も死に、仲間だったStorkも死んだ。
 さらには、虚構かもしれないという情報まで飛び込んできた。
 本当に、このまま戦い続けても、生き続けても良かったのかという疑問に梔子は支配されかかっていた。

 だが、自分は死んでいない。

(こんなところでは死ねない、死にたくない)

 少しではあるが、後ろ向きだった梔子に力が戻る。

(確かに、悔しい)

 何より、こんなところで死ねばあの男が喜ぶだけだ。

 かつて、あの怨敵ともいえる相手が裁判の際に見せた薄気味悪い人間のものとは思えない醜悪な顔を脳裏に浮かべる。
 次の放送で自分の名前が呼ばれれば、この会場のどこかにいるあの男は、おそらくはあの時と同じ下卑た笑みを浮かべる事だろう。

(それだけは嫌だ)

 その光景を浮かべるだけで、何かしようとする意志が蘇ってくる。

 それは必ずしも、前向きなだけの理由ではなかった。
 だが、それでも。それでも、戦おうとする意志がわずかではあるが梔子の心に灯る。

(あの男を喜ばせる事なんて、したくない)

 琵琶坂も偽りかもしれない。だが、本物かもしれない。
 本物の可能性がある以上、絶対に嫌だ。あの男が喜ぶ事なんてしたくない。
 琵琶坂がまたあの爬虫類染みた顔に笑みを浮かべている姿なんて、想像するだけで、怒りがこみあげてくる。

 ここで、自分にならば何かやれる事はないのか。
 そう考えてから、先ほどの会話を思い出す。

「……桜川さん」

「どうかしましたか?」

「さっきの話で、少し聞きたい事がある」



◇  ◇  ◇



 三階での戦闘は苛烈さを増していった。

「スティッキィ・フィンガーズ!」

 ブチャラティのスタンドである、スティッキィ・フィンガーズによってジッパーをつけられた相手は、その防御力を完全に無視できる。
 鋼鉄のような肉体を持って居ようが、鋼鉄そのものであろうが関係ない。

 似たような能力として、霊夢と交戦し、カナメにとっての仇でもあった王の虚空の王(ベルゼブブ)がある。
 あちらと違い、切り取るだけでなく繋げる事もできるという点や異空間のような隠れ場所を作り出したりできる事も含めて応用性は上――に見えるが、単純な上位互換かといえばそうでもない。
 こちらは相手に直接、触れなければ意味がなく、射程距離も短い。


453 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:45:25 zpVDAsjs0
 それでも、スピード・破壊力共に一流であり、並の相手であれば問題はないのだが、相手は仮面の者(アクルトゥルカ)にしてヤマト最強のヴライ。
 人間よりも高い身体能力を持つヒトの、その中でも最上位に入る存在。

「ぬうぅっっ!」

 そのヴライを相手に、ブチャラティは押され気味だった。
 ジッパーで周囲に隠れようとも、廊下一帯に炎を広げられ、隠れる場所も限られてしまう。
 うかつな動きを見せれば、その瞬間に剛腕が襲う。

(これではまともに近づけんな)

 影に潜みながら、ヴライを見つつブチャラティは内心で呟く。
 近づいて接触する事さえできれば、いかに固い肉体であってもジッパーをつける事ができるのだが、それを迂闊に許す相手ではない。

「そこにいたか」

 気配を察したらしく、ブチャラティのいたところに、ヴライの拳が炸裂する。
 すんでのところで、それはかわす事ができたが、近くの扉が破壊される。
 三階に移動しておいて良かったか、とブチャラティは内心で安堵する。
 あのままならば、間違いなく他の仲間達も巻き込まれていただろうし、それを守りながらの戦いなど到底無理だ。
 この場にいるのは、普段のチームの部下達でもなければ護衛対象でもなく、特に梔子などに至っては、つい先ほどであったばかりの存在に過ぎない。
 彼らを見捨て、あるいは囮にしたところで文句を言われる筋合いはないかもしれない。

 だが、これは矜持だ。
 パッショーネの幹部としてではなく、ただのブチャラティとしての。

「仲間は守る、この殺し合いに乗る者も無力化する。そして、主催も打破する。この全てをやらなければいけないのがつらいところだな」

 小声で呟き、ヴライを見やる。
 守ると決めた者は守る。倒すと決めた相手は倒す。
 ギャングとしてでも、幹部としてでもない。ブローノ・ブチャラティとしてのルールだ。

 ジョルノを失っても、その思いは変わらない。
 例え、どれだけ困難であろうとも、他者を見捨て、自分ただ一人が助かる道を選ぶ気などない。

 ブチャラティのスタンドによってつくられたジッパーの穴により、さらに上の階へと移動していく。

 その後を、ヴライも追う。

「消えよ」

 今度は、階段を使う事なく、天井ごとヴライは破壊し、その勢いで再び跳躍する。
 難なく、四階へと到達したヴライだが、直後にブチャラティのスタンドが迫る。

「スティッキィー・フィンガーズ!」

 病院の床に、ジッパーによる亀裂が走る。
 それにより、ヴライの足元が崩された。
 続いて、ブチャラティのスタンドによる拳撃が、ヴライを襲う。

「ぬっ」

 だが、かすかに掠めただけ。
 それでも、小さなジッパー痕がヴライの身体につく。
 ヴライはスタンド使い、という存在すら知らない。この会場でも出会っていない。
 だが、その豊富な戦経験により『死の水』に対応した時と同じようにどういった能力なのかを把握すればその対策もしっかりとしてくる。
 このわずかな交戦により、ブチャラティのスタンドは触れる事によって分断したり穴を作ったりできる能力であると認識する。

(ならば、触れぬよう行けば良いだけ)

 ブチャラティのスタンドを見て、直接の拳を触れられないよう距離に気をつけつつ、ヴライはその巨躯を動かす。

「今度こそ消え失せよ」

 ブチャラティがどこに隠れひそもうと、周囲一帯ごと破壊しつくさんと拳を振るう。
 一撃で、壁に大穴が開く。
 周囲にある装飾品が破壊される。

 まさに歩く災害。
 室外であれば、ブチャラティの方が圧倒的に不利だっただろう。
 だが、ここは室内。スタンドの応用によって隠れ場所にも武器にもなるものが多くある。


454 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:46:38 zpVDAsjs0
 だが、それらを全て力づくでヴライは破壊していく。

 四階の部屋があらかた破壊され、一旦、足が止まったのは、病院の手術室前。
 ほとんど原形がないほどになり果てているが、ここは数時間前にジョルノとマギルゥが累と戦っていた場所だ。

「どうした? これで終いか、まだまだ我を楽しませよ」

 ヴライが、問いかける。
 この病院に来るまでの連戦による、負傷や疲労はある。
 だが、それでもまだヴライは切り札ともいえる仮面(アクルカ)は、この戦いでは出し惜しんでいる。

 命など惜しむ気はまるでないが、残りの使用が限られるのであれば、これを使うのは宿敵であるオシュトルに対してだ。
 ただの敵。それもたった一人の相手に使うべきではない。
 その思いから、この病院での戦いでは珍しく。ヴライにしては本当に珍しい事に温存する気でいた。

「悪いが、これでも諦めは悪い方でな」

 一方のブチャラティの方は、致命傷といえるダメージこそないが、全身に小さな傷が多数にくわえ、火傷ができている。

 そんな二人が対峙し――再び動き出そうとした時、ヴライの足が止まった。

 そこには階下にまで貫通した穴がある。
 ヴライとの闘いでできたものではない。
 ここでかつてジョルノとマギルゥが累との闘いの際にできた、大穴だ。

 ヴライは、その穴から階下での異変を一瞬で感じ取った。

「……」

 無言のまま、下へと落ちる。

「しまった!」

 ブチャラティは失態を悟るが、既にヴライは階下に飛び降りてしまっていた。

 不意に降り立ったヴライに、下にいた数人の男女――九郎達をヴライは睥睨する。
 それと同時に、炎の槍を投擲。

 彼らの命を一瞬で刈り取らんとされる。

「させないっ」

 かつてジオルドの炎を打ち消さんとした時の再現のように、ライフィセットは素早く水の聖隷術を放つが、あの時よりもライフィセットの術に威力はなく、逆にヴライの投擲はジオルドのそれよりはるかに強力だ。

 だが、それでも威力を衰えるさせるだけの効果はあった。

 威力が減衰されつつも、人の命を奪えるだけのそれだが――、

「くっ――」

 庇うように前に出てきた九郎にそれが突き刺さる。
 多少、威力が衰えたためか、九郎の上半身に一度、大穴を開けながらも、他の者達にそれが降りかかることはなかった。

 そして、再生していく九郎の身体を見てさしものヴライも、その多少は驚きつつも、すぐに次の攻撃に移ろうとするが――、

「ぬぅっ」

 ブチャラティのスタンドが迫り、一度距離を取る。
 ブチャラティ本人もその背後へと向かい、ヴライを挟んで、九郎達に話しかける形になる。

「皆、無事か?」

「ええ。何とか」

 ホテルで調達した部屋着はほぼ燃えて、半裸の状態になりつつも九郎はいつも通りの顔を見せる。

「ライフィセット、君も大丈夫なのか?」

 つい先ほどまで、半死人状態だったはずの少年聖隷へとブチャラティは話しかける。

「うん。梔子が助けてくれたから。ブチャラティもこれまでありがとう」

「そうか……」

 ブチャラティも理解する。
 マギルゥの残したメモから交わした聖隷契約。あれを梔子としたのだろう。
 ブチャラティはスタンド使い、九郎はライフィセットの世界でいう業魔等の異形の存在と認識されてしまう可能性が高く、できなかった事。
 それを梔子がした。

(垣根の話では、スタンド使いの場合、スタンドが精神エネルギーとしての枠を埋めてしまうのではないかという推測をしていたが――)

 ひとまず安堵すると同時に、スタンド使いがダメならば、カタルシスエフェクトや、それに近い力の場合は大丈夫だったのだろうかとふと疑問に思う。

(元々は、彼女らの言うカタルシスエフェクトは本来は物理的な干渉はできない力だったというが)


455 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:47:42 zpVDAsjs0
 ウィキッドが帰宅部を物理的に閉じ込めた際、窮地に追いやられたのもこれが原因。
 それだけでなく、この会場ではμやアリアといった存在の調律なしでも力を発揮できているようなのでもしかすれば、本来のものとかなり違った力へと変質されているのではと推測しかけるが、

(今、警戒すべきはコイツか)

 目の前の災厄へと視線を動かす。

「そういう事か」

 ヴライは呟き、悟る。
 この病院に来たばかりの時、誘導するように三階にまで移動したブチャラティの動きを。
 わざわざ階段の近くでわざとらしく移動したのは、彼らのいる二階を戦場にしないためだったのだろう。
 だが、理解したからこそヴライには理解できない。
 四階から後を追って降りてきたブチャラティに、ヴライは問う。

「……解せんな」

「何がだ?」

「その小細工ばかりの立ち回りは気に食わんが、少なくとも貴様は我に抗おうとするだけの気概はあるようだ。ならば、何故、このような弱き者共を守らんとする」

 それは、かつて平和島静雄と対峙した時とよく似た問い。

 ヴライからすれば、自身を守る力すら持たぬ弱者のために戦うなど、理解できない。
 一時的に、力を借りての共闘だというのであればまだ理解できる。しかし、戦う力もないような相手など捨ておくのみ。
 このような催しだ。足手まといを抱えるという事がどれだけ危険か分からないわけではあるまい。

「弱き者、か。お前にはそう見えるのか」

 ブチャラティは、そんなヴライの問いに、ふと思い出す。
 かつてあった、父と母の離婚。
 その際に、どちらに引き取られるか問われた際、幼き頃のブチャラティは父親を選択した。
 それは、父の方が弱いと思ったから。
 自分がついているべきだと考えたから。

 だが、そんな考えを、おそらくは目の前の漢が理解する事は決してないだろう。

 ヴライにとって、弱者は不要だから。
 肉体的にも、精神的にも弱い者など、國にとって、組織にとって害。

 ヤマトを、國を守れるのは、常に強者のみ。
 守れる力を持たぬ弱者など必要ない――それがヴライの考え。

 故に、二人は決して相容れない。
 弱者を守る在り方を続けるブチャラティを、弱者を切り捨てひたすら強者としての道を歩み続けるヴライを。

 目の前の漢はパッショーネのボスであるディアボロのように、他者を己の欲や保身の為にいいように利用して切り捨てる醜悪さはないのかもしれない。
 だが、決して相容れないし認める事ができない相手。

 交わした言葉はわずかでも、ブチャラティはそれを確信した。

「仮面の者(アクルトゥルカ)――剛腕の、ヴライ」

 そして、そんなヴライを見てライフィセットはそう呟く。

 ムネチカから聞いていた、危険人物の一人。彼女の知る時間では既に亡くなっているようだが、目の前にいる漢はベルベットのように違う時間から呼ばれたのか。あるいは、本当に死者が蘇生されたのか。今のライフィセットには判断がつかない。

「小僧、どこで我の名を知った」

 そんなライフィセットに、ヴライははじめて視線を向ける。

「ムネチカから聞いた」

「……そうか」

 ヴライの回答は短い。
 もしかしたら、オシュトルからではという期待もわずかにあったのだが、それは違ったようだ。

 そして、この場にはそのムネチカもいないという事も悟る。
 ムネチカの性格を考えれば、この状況下で出てこないはずがない。放送で呼ばれていない事から、いまだ健在なのも間違いなく――今は別行動中でもしているのだろうとヴライは考える。
 ならばそれはそれで良い。
 この会場では自分以外の相手など同じ仮面の者(アクルトゥルカ)であろうと敵。会う機会があれば、容赦なく屠る。


456 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:48:59 zpVDAsjs0
 故に、もう語る事はない。
 ないはずなのだが――わずかな間をおいてからヴライは呟くように続ける。

「小僧。ムネチカにまた会う機会があったのならば伝えよ。皇女アンジュは間違いなく帝を引き継ぐに足る器の持ち主であり、それに相応しい散りざまだったとな」

「え?」

 その言葉に驚く。
 ムネチカからは、ヴライは同郷の中で最も危険人物だと聞いており、その事実と変わらない暴れぶりを見せていた。
 それを考えれば、信じられない発言。

「二度は言わぬ」

 ヴライからすれば、別にムネチカのためではない。
 ただアンジュが、帝の後継者に選ばれるだけの資格を持っていた皇女がどうでもいいような死に方をしたと臣下に思われる事だけは許しがたい。
 それだけの話だった。

「話は終わりだ」

 そういうと、ヴライは再びブチャラティへと視線を向ける。

「さて、続きをするとするか」

 ブチャラティもヴライとの距離に気をつけつつ、他の仲間達へも視線を向ける。

 ヴライは、ブチャラティ以外の者達は別に見逃すとも殺さないとも言っていない。
 逃げようとしたならば、それを背後から狙われる可能性もある。

「行け!」

 だが、このままここに留まられては間違いなく、巻き込まれる。
 ならば、危険を承知でも逃げてもらうしかない。

「俺も後で合流するから、急げ!」

 ブチャラティが叫ぶ。

「……分かりました」

 九郎も少し躊躇するように、こちらを見てから頷く。梔子も、わずかに漂ってくる炎の匂いだけでもまずいのか、今は九郎が肩を貸している状態だ。
 ライフィセットも、病み上がりでとても戦える状態ではなく、シルバに支えられ、悔しげな様子だった。

 ヴライは、再び九郎達をどうすべきか、といった様子で眺めている。

 そんな中、先ほどヴライが降りてきた穴から、崩れかかっていたのか瓦礫の塊が落ちてくる。
 それを機として、いっせいに四人は駆け出す。

 九郎に肩を貸された状態でぐったりとしていた梔子だが、それでも必死に足を動かす。
 未だ本調子ではない様子のライフィセットもシルバの助けを借りながらも、駆け出す。

 そちらの方にヴライは視線を動かすが、

「スティッキィー・フィンガーズ!」

「ぬぅっ!」

 ブチャラティによるスタンドが牽制し、ヴライの動きを阻害する。

 その間にも、病院から去っていく九郎達の影は小さくなっていく。

「……」

 それを見てヴライは、それ以上は無理に追おうとしなかった。
 ヴライにとって、一部の強者を除いた参加者など路上の石ころも同然。
 故に、視界に入れば先ほどのように排除しようとするが、勝手に消えてくれるのであれば別に構わない。
 それが、ヴライの判断だった。

「あのような矮小な者どもなど、別に構わぬか」

 ここで生かして、どこかにいるであろうムネチカに伝言を届けるのであれば、屠るのはその後でも良いか。そのムネチカにしても、ミカヅチのようにどこかの参加者に倒されるならばその程度。残っていれば、ヴライ自らが倒す。
 ヴライにとって、その程度の認識。

 そして今、ただ一人残ったブチャラティの方を見る。

「まだ貴様を仕留める方が楽しめそうだ」

「……悪いが、お前を楽しませてやるために残ったつもりはない。ここで仕留めさせてもらうぞ」

 ヴライは、その鉄面皮のまま返答はなく、その拳を握る。
 ブチャラティも自らのスタンドを動かし、ヴライとの闘いを再開した。


457 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:51:33 zpVDAsjs0
 二人を除いて、誰もいなくなった病院での戦闘は続いていく。

「消え失せい!」

「スティッキィー・フィンガーズ!」

 ヴライの拳や炎が、病院を次々と破壊していく。
 一方のブチャラティもスタンドをうまく応用し、身体を分解して回避、さらには障害物の中に隠れたりすることで、致命傷を防いでいく。

 殴る、焼く、壊す。
 分断し、繋げ、分断し、繋ぐ。
 殴る、焼く、壊す。
 分断し、繋げ、分断し、繋ぐ。

 コンクリートでできているはずの壁、それがまるで段ボールか何かのように脆く穴が開き、壊れていく。
 ヴライの進む先には爆撃でもあったかのような痕が残り続ける。

 幾度も戦闘を繰り返していくうちに両者の戦闘は、いつしか先ほどと同じように四階へと戻っていた。
 その一室へとブチャラティが入り込むと同時に、ヴライは力を持って扉をこじ開ける。

「ぬううっんっ!」

 強引に剝ぎ取られた扉を捨て、ゆっくりと中へと入ってくる。

(改めて見ると、コイツは体中に傷だらけだな)

 露出の多いその身体は、これまでの戦いでついたのであろう傷跡だらけだ。戦いどころかむしろ、この状態で立っていられるだけでも驚きだ。
 ブチャラティもこの戦いで相当に傷ついているが、その比ではない。
 万全の状態ならば、今よりもさらに恐ろしい相手だっただろう。
 だが、そんなボロボロな状態でも、圧倒的な強者としての風格が確かにある。
 それを見て、ブチャラティは悟った。

(……アリアには申し訳ないな)

 最初に出会った少女の事を頭に浮かべる。
 こんな状況でありながら、不殺を貫かんとした姿勢。その事には素直に敬意を表するし、好ましく思う。

 ブチャラティも、むやみに人を殺したいわけではない。
 実際、これまでも自分達のチームを襲ってきたスタンド使いであったとしても無力化できるのであれば、それですませていた。
 この会場で出会って襲ってきたキースにしても、リュージがいなければ生かして捕らえる道を選んでいたかもしれない。
 殺さずにすむならば、それに越したことはない。
 だが、目の前の相手に不殺で無力化する余裕はなさそうだし――やるしかないとなれば、ブチャラティはやる。

(この男に交渉は不可能。生きていれば、間違いなく俺達だけでなく他の参加者にとっても災厄となる)

 先ほどのわずかな問答で分かった。
 だから――殺る気で動く。
 ヴライを一度見てから、ブチャラティは動く。

「ぬおおおおっっっ!!!」

 ヴライが咆哮し、ブチャラティと交差する。
 ブチャラティの攻撃はヴライに届くことなく、その剛腕がブチャラティの身体とスタンドをまとめて突き飛ばす。

「がはっ!」

 部屋の窓へとブチャラティの身体が叩きつけられる。

「これで終わりのようだな。だが、多少は楽しめたぞ」

 勝負あり、と判断したのかヴライは進む。
 仮面(アクルカ)を温存したとはいえ、それなりには楽しめた。
 だが、ここまで。ゆえに、せめてもの情けとして自らの手で屠ろうと近づく。
 そして、その手前まで来た時。


「悪いが――終わりなのはそちらの方だ」


「……ぬぅ!?」

 戦闘不能だと思われたブチャラティの身体が動く。
 ブチャラティが使用していたのは、ライフボトル。
 ライフィセット達の世界のアイテムであり、梔子が持っていたもの。
 本来は静雄がろくに確認せずに持っていた支給品の一つであり、ヴライ来襲した際、部屋を出ていくブチャラティに役立てて欲しいと渡したものだった。
 戦闘不能状態から回復するものであり、その効果を見事に発揮して活力が戻る。
 だが、それでも力を強化するわけではない。

「自棄になったか」

 ヴライがそう思っても仕方がない、あまりに単純な突撃。
 不意に力を取り戻した事に少し驚いても、ヴライならば十分に対処できる――はずであった。


「――何っ」


 ヴライが一瞬、驚愕に目を見開く。
 十分に反応できるはずだったブチャラティが、自分の拳を躱し、自分の首輪を掴んでいる。

(この男……! 今、何を)

 素早い、などというものではない。瞬時に移動したようにしか見えなかったブチャラティに、ヴライは対処しきれなかった。
 タネはこの戦いがはじまる前、これもまた梔子から借りた懐中時計に似たストップウォッチ。
 この会場にいる十六夜咲夜や、ジョルノの父であるDIOの時間停止の力と比べると、はるかに制限があって使いにくい代物。
 わずか1秒。
 だが、わずか1秒であってもこの距離での接近戦であれば大きな意味を持ち、ブチャラティはヴライの首輪を掴むことに使った。


458 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:51:34 zpVDAsjs0
 二人を除いて、誰もいなくなった病院での戦闘は続いていく。

「消え失せい!」

「スティッキィー・フィンガーズ!」

 ヴライの拳や炎が、病院を次々と破壊していく。
 一方のブチャラティもスタンドをうまく応用し、身体を分解して回避、さらには障害物の中に隠れたりすることで、致命傷を防いでいく。

 殴る、焼く、壊す。
 分断し、繋げ、分断し、繋ぐ。
 殴る、焼く、壊す。
 分断し、繋げ、分断し、繋ぐ。

 コンクリートでできているはずの壁、それがまるで段ボールか何かのように脆く穴が開き、壊れていく。
 ヴライの進む先には爆撃でもあったかのような痕が残り続ける。

 幾度も戦闘を繰り返していくうちに両者の戦闘は、いつしか先ほどと同じように四階へと戻っていた。
 その一室へとブチャラティが入り込むと同時に、ヴライは力を持って扉をこじ開ける。

「ぬううっんっ!」

 強引に剝ぎ取られた扉を捨て、ゆっくりと中へと入ってくる。

(改めて見ると、コイツは体中に傷だらけだな)

 露出の多いその身体は、これまでの戦いでついたのであろう傷跡だらけだ。戦いどころかむしろ、この状態で立っていられるだけでも驚きだ。
 ブチャラティもこの戦いで相当に傷ついているが、その比ではない。
 万全の状態ならば、今よりもさらに恐ろしい相手だっただろう。
 だが、そんなボロボロな状態でも、圧倒的な強者としての風格が確かにある。
 それを見て、ブチャラティは悟った。

(……アリアには申し訳ないな)

 最初に出会った少女の事を頭に浮かべる。
 こんな状況でありながら、不殺を貫かんとした姿勢。その事には素直に敬意を表するし、好ましく思う。

 ブチャラティも、むやみに人を殺したいわけではない。
 実際、これまでも自分達のチームを襲ってきたスタンド使いであったとしても無力化できるのであれば、それですませていた。
 この会場で出会って襲ってきたキースにしても、リュージがいなければ生かして捕らえる道を選んでいたかもしれない。
 殺さずにすむならば、それに越したことはない。
 だが、目の前の相手に不殺で無力化する余裕はなさそうだし――やるしかないとなれば、ブチャラティはやる。

(この男に交渉は不可能。生きていれば、間違いなく俺達だけでなく他の参加者にとっても災厄となる)

 先ほどのわずかな問答で分かった。
 だから――殺る気で動く。
 ヴライを一度見てから、ブチャラティは動く。

「ぬおおおおっっっ!!!」

 ヴライが咆哮し、ブチャラティと交差する。
 ブチャラティの攻撃はヴライに届くことなく、その剛腕がブチャラティの身体とスタンドをまとめて突き飛ばす。

「がはっ!」

 部屋の窓へとブチャラティの身体が叩きつけられる。

「これで終わりのようだな。だが、多少は楽しめたぞ」

 勝負あり、と判断したのかヴライは進む。
 仮面(アクルカ)を温存したとはいえ、それなりには楽しめた。
 だが、ここまで。ゆえに、せめてもの情けとして自らの手で屠ろうと近づく。
 そして、その手前まで来た時。


「悪いが――終わりなのはそちらの方だ」


「……ぬぅ!?」

 戦闘不能だと思われたブチャラティの身体が動く。
 ブチャラティが使用していたのは、ライフボトル。
 ライフィセット達の世界のアイテムであり、梔子が持っていたもの。
 本来は静雄がろくに確認せずに持っていた支給品の一つであり、ヴライ来襲した際、部屋を出ていくブチャラティに役立てて欲しいと渡したものだった。
 戦闘不能状態から回復するものであり、その効果を見事に発揮して活力が戻る。
 だが、それでも力を強化するわけではない。

「自棄になったか」

 ヴライがそう思っても仕方がない、あまりに単純な突撃。
 不意に力を取り戻した事に少し驚いても、ヴライならば十分に対処できる――はずであった。


「――何っ」


 ヴライが一瞬、驚愕に目を見開く。
 十分に反応できるはずだったブチャラティが、自分の拳を躱し、自分の首輪を掴んでいる。

(この男……! 今、何を)

 素早い、などというものではない。瞬時に移動したようにしか見えなかったブチャラティに、ヴライは対処しきれなかった。
 タネはこの戦いがはじまる前、これもまた梔子から借りた懐中時計に似たストップウォッチ。
 この会場にいる十六夜咲夜や、ジョルノの父であるDIOの時間停止の力と比べると、はるかに制限があって使いにくい代物。
 わずか1秒。
 だが、わずか1秒であってもこの距離での接近戦であれば大きな意味を持ち、ブチャラティはヴライの首輪を掴むことに使った。


459 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:53:28 zpVDAsjs0
「ぐぬ……」

 だが、さしものヴライも何をされたのか把握するよりも、現状の打破に注力する。
 今、ブチャラティが掴んでいるのは首輪。
 ヴライであろうが、不死者も破壊神も鬼の元締めも全ての参加者を等しく平等に屠ることを可能とする代物。
 その脅威をヴライも分かっている。

「貴様……っ!」

 これが爆破すれば、ヴライも他の参加者と等しく命を奪われる。
 即座に、ブチャラティの左腕をがしにかかる。
 本気で、その異名通りの剛腕ではがしにかかればブチャラティの腕を文字通り捻りつぶす事も可能ではあるが――、


「悪いが、既に仕込みは終わっている」


 その言葉と同時に、今、ヴライが背を向けている壁と窓が、ジッパーで切り裂かれ、そのまま室外へと放り出される。

「何ぃ!?」

 そして、ブチャラティの首輪を抑えていた左腕を、躊躇なくジッパーで切り離す。
 ブチャラティの左手に掴まれたままのヴライの巨躯が、重力によって、下へと落ちていく。
 このままでも、並の敵なら十分。
 だが、相手はここまでの暴れぶりを見せたヴライ。
 念には念を入れ、ブチャラティはとどめの一手を投じる。

「オマケだ。こいつもくれてやる」

「ぬぅっ!!」

 自由な右手で投げたのは、フレンダから譲り受けていた人形爆弾。
 扱い方も聞いていたそれを、落下していくヴライへと追撃のように投げつけた。
 まともな防御態勢もとれぬまま、間近で爆発。


「ぬうぅおおおぉぉっっっ!!!」


 苦悶の声を発し、ヴライは落下していく。
 さらに、ブチャラティが意図しなかった事も発生する。元々、ヴライの攻撃の数々によって、この部屋のいたるところが壊れかかっていた。
 それに加え、ジッパーで窓を含む壁が部分的に切り取られた事によって、一気に崩れた。
 何とか、その崩壊に巻き込まれまいと、部屋の隅へとブチャラティは片腕のまま退避する。

 そして、割れた窓ガラス、そして崩れた壁が瓦礫となって、下へと落ちていった。
 崩壊は、部屋全体へと広がっていき、さらに新たな瓦礫が崩れ落ちていった。

「……終わった、か」

 まるで地震か何かでもあったかのように、部屋の壁は崩れきっている。
 その部屋の惨状はまさに災害の跡地だ。

「アリーヴェデルチ(さよならだ)――といいたいところだが」

 そして、そこからブチャラティは落ちていった先を見下ろして呟く。
 ヴライの身体は見えない。
 だが、彼が落ちたと思わしき場所には、大量の瓦礫によよって、埋まってしまっている。

 ここは、100キロ以上で走る列車でもなければ、六十階以上のビルでもなく、病院の四階だ。
 ヴライほどの肉体の持ち主なら、クッションのようなものがなくても耐えられる高さ。
 だが、至近距離で爆発を食らった後にまともな着地体勢もとれずに落下し、さらには窓ガラスの雨と瓦礫のシャワーを浴びたのだ。
 ただの人間であればもちろん、人間よりも屈強な肉体を持つヒトであっても間違いなく死ぬ――はずなのだが。
 これまでの戦いぶりからして、もしかしたらこれほどのダメージを受けてもなおも生き残っている可能性はある。

(どうする?)

 崩れ切った瓦礫でヴライの身体があるであろう場所は、完全に埋まってしまっており、これらを取り除いて確認するには相当な時間がかかる。

「……」

 ここは逃げて行った九郎達の方を優先して合流すべきか――。
 垣根から聞いた話では、チョコラータ達との戦闘直後に、乱入したという無惨の例もある。
 他の「乗った側」によって今まさに襲われている可能性もある。ならば、無理に時間をかけて生死を確認するよりも、優先すべきはそちらか。
 決断までに要した時間は数秒。
 ブチャラティは病院から立ち去り、九郎達との合流する道を選んだのだった。



◇  ◇  ◇



 ブチャラティが、九郎達と合流できたのは病院からそれなりの距離が離れた先だった。
 幸いな事に、他の乗った側の参加者と会う事もなく無事に合流できた。
 さすがにここまで全力疾走を続けた事もあり、皆疲れ切った様子だ。
 特につい先ほどまで重傷だったライフィセットや、過呼吸で倒れかけた梔子はかなりつらそうな様子だ。

「ブチャラティさん、大丈夫だったんですか?」

 まずは比較的余裕のある九郎が、ブチャラティに声をかけてくる。

「ああ。だいぶ、苦戦したがな」


460 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:54:40 zpVDAsjs0
 あれから、失った自分の片腕を補完するために、例の身体セットから、自分の左腕を選び、接合した。
 さらには、全身から傷口をジッパーで塞いで応急処置をしているが、未だに全身に激痛が走る状態ではある。

「本当にあの怪物を……?」

 一方の梔子からすれば、以前にもヴライの事を見ており、レインらからその戦いの様子も聞いている。
 それだけに、撃退できたというのが驚きなのだろう。
 実際に厳しい勝負ではあった。
 梔子が貸した支給品がなければ、ヴライにここまでの戦いで負ったダメージなければ、仮面(アクルカ)の力を出し惜しまなければ。
 どれか一つでも違うIFでこの結果は変わっていただろう。

「生きている可能性もあるが――今は奴にとどめに刺すよりもお前たちとの合流を優先させてもらった」

「そうか……」

 あのヴライが生きている可能性もあるとはいえ、すぐには追ってこれないだろう。
 一応は危機を脱したと考えていいのかもしれない。

「それよりライフィセット。君は大丈夫なのか?」

「あ、うん。さっきも言ったけど大丈夫だよ」

 ライフィセットはとりあえずの命の危機こそ脱したものの未だに体調は万全ではなく、そんな状態で全力疾走をしてきたのだ。
 身体に強い疲労こそ感じるが、先ほどと比べればマシだ。

 そんな中、ヴライとの会話を思い出していた。

(あの言い方からすると、もしかして……)

 ヴライの言い方から、考えて彼はムネチカの主であるアンジュの死ぬ瞬間に居合わせた事になる。
 それも、ムネチカからの事前情報やヴライが「乗った側」だったという事実を合わせてもたまたま死に際に居合わせたなとどいう事は考えにくい。

 ――アンジュを殺した相手はヴライ。

 その可能性が極めて高い。

(……ムネチカには、どう伝えよう)

 今は、虜囚の身となった、かつての同行者をライフィセットは頭に浮かべる。
 もちろん、下手人が分かったからといってアンジュが蘇るわけではない。
 あの直後に、ライフィセットがジオルドに毒を打ち込まれた事によって有耶無耶になったとはいえ、未だにムネチカの中でもアンジュの事は折り合いがついていない問題かもしれない。
 それでも、伝えるべきか。それに、ムネチカの仲間だというオシュトルやクオン、それにマロロという相手にも。

(ううん。今はそれよりも、ムネチカとまた会う事を考えなきゃ)

 そのためには、変貌したベルベットや、その同行者達の問題もある。
 相手の居場所は分からず、分かったとしてもその攻略法も考える必要がある。

「本当に大丈夫か?」

「え?」

「先ほどから難しい顔をしているが、まだ体調が悪いのなら……」

 先ほどから黙り込んでいたためか、気遣うように梔子が声をかけてきたようだった。

「ううん。僕は大丈夫だよ。それよりも、ありがとう。助けてくれて」

「いや、気にしないでくれ。こちらも助けられた」

 これまで助けられるばかりだった事から、何かしらの貢献をしたかったという思いも梔子にはあった。
 だが100%の善意からの行動というわけでもない。
 何せ、仇敵・琵琶坂は未だ健在。
 そして、琵琶坂単独でここまで生き残っているという事実からして、それなりの規模の集団に溶け込んでいるか、相当強力な支給品でも手に入れたかだと梔子は考えている。
 そんな琵琶坂と戦うには、今のままの自分では明らかに力不足。
 聖隷契約とやらをする事で、彼らの世界でいう聖隷術を使えるようになれば、自分の戦力増強にもなる。
 そんな思惑からの行為でもあり、それだけにライフィセットから屈託のない笑みを見せられると自分がひどく後ろめたい事をしたように思えてしまう。

「まあ、何にせよ良かったですね」

 そんな各々の考えはあったにせよ、問題が一つ解決したのだ。
 ライフィセットの全身を蝕んでいた穢れが消えた事に安堵しつつも、九郎は考え込む。

(ここがもし、メビウスに近い世界で、僕たちが何らかの形で力を再現されているのだとしたら、そのものではなく、あくまで「それに近い何か」になっているのかもしれない)


461 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:55:37 zpVDAsjs0
 魔法、スタンド、超能力、聖隷術、異能(シギル)、そしてカタルシスエフェクト。
 これまで聞いた違う世界の異能力の数々が、ごく普通に同じところで再現されているというある種の異常事態。

 これらがそのままの力で再現されているのではなく、あくまで「それに近い能力」としてここで再現されているのだとしたら。

 さきほどまでライフィセットを襲っていたものも「穢れに近いモノ」を消すという結果を求めるのに「聖隷契約をする」という、過程そのものがむしろ大事だったのではないか。

(やっぱり、こういった事を考えるのは僕よりも岩永の方が適任、か)

 そこまで考え、一つため息をつく。
 人と妖の調停者たる彼女。
 九郎も、岩永琴子と共に多くの怪事件の解決――というよりは調停に協力しているが、あくまで主導となって考えていたのは岩永だ。
 九郎自身もまるで考えずにいるわけでもないし、頭が悪いわけでもないがやっぱり、こういった事の考察は彼女の十八番だ。
 今ははたして、どこにいるのか。
 これまで会ってきた参加者達と、何度か情報交換はしているが、未だに岩永の情報は入ってこない。

 とはいえ、ここまで放送で名前を呼ばれていない事実により、そこまで悲観すべきではないかもしれない――とも考える事ができる。
 何せ、岩永琴子に戦う力はほぼない。知恵の神といっても、これまでに会った参加者のように魔法やら超能力やらで敵と戦えるわけでもなく、ごく普通――いや、義足義眼かつ小柄な体躯を考えれば戦闘力はむしろ普通以下といっていい。
 にも拘わらず、これまで生き残っているという事は、力のある参加者の協力を得られたのか、あるいはうまい事を言って説得して味方に取り込んだのだろう。
 そんな風に考えている九郎に、ブチャラティが尋ねる。

「ところで、ここはどの辺りだ?」

 そう言って、皆の前で広げた地図を確認する。

「地図によれば、墓地みたいですけど……」

「垣根がジョルノ達と最初に会ったという、場所か」

 垣根の話を思い出し、周囲を見る。
 話にあった通り、垣根とシグレ・ランゲツ、そして垣根とジョルノ、マギルゥが戦った場所だ。

 墓石が砕かれ、地面にもえぐれた後が多数残っている。
 死者が眠る場所とは思えない荒れ具合であり、彼らの話にあった戦闘があった事実だと分かる。

「位置的には、病院とも遺跡ともそんなに変わらないか……」

 ブチャラティは呟くようにして、考える。
 あの「災害」から避難してきたものの、病院はアリア達やフレンダ達との合流地点となる予定もあった場所だ。
 そこから長い間離れるのはまずいかもしれない。
 ヴライが生き残っており、なおかつあの場で待ち構えている可能性もあり危険ではあるが、そうとは知らずにアリア達が近づいてしまえばそれはそれで危険だ。

 入れ違いになる可能性もあるが、こちらから大いなる父の遺跡に赴くのも手か。

「そういえば――」

 そんなブチャラティに、九郎が思い出したように声をかける。

「どうした?」

「えっと、ブチャラティさんが来る前の話なんですが、病院からここまでに来る途中で馬車? のようなものを見まして」

「馬車だと?」

「ええ。こっちも逃げるのに必死でしたので、遠くからだったので見間違えたのかもしれませんが」

 そういって、地図で指し示す。

「向かった先は、こっちの方みたいでしたが」

「場所的には、ムーンブルク城とやらの辺りか」

 梔子の初期位置だった場所でもある。

「そうか。おそらくは、他の参加者だろうが……」


462 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:56:15 zpVDAsjs0
 ヴライのように「乗った側」であれば危険もあるが、接触すれば新しい情報が手に入るかもしれないし、逆にこちらから危険人物の情報を提供すれば余計な被害を減らせるかもしれない。

(どうするべきか……)

 選択肢は3つ。

 ヴライが生き残っていた場合のリスクもあるが病院へと戻り、そこでのアリア達との合流を目指すか。
 伝言を預けた垣根経由で病院へと向かってしまい、入れ違いになってしまう可能性もあるが遺跡での合流を目指すか。
 それともムーンブルク城に行き、そちらに向かったであろう新たな参加者との接触を図るか。

 思考を進める彼らの元に不思議な鐘の音が響き始めたのは、その少し後の話である。


463 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:57:02 zpVDAsjs0
【D-5/午後/墓地/一日目】


【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:疲労(大)、強い決意、全身に火傷、ダメージ(中)
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜3、スパリゾート高千穂の男性ロッカーNo.53の鍵) サーバーアクセスキー マギルゥのメモ 身体ストック(ライフィセットの両腕、ブチャラティの左腕使用済)
[思考]
基本:殺し合いを止めて主催を倒す。
0:病院・遺跡・ムーンベルク城のいずれかに移動する。
1:放送を聞いた新羅への不安と、アリアへの心配。何とか合流したい。
2:魔王ベルセリアへの対処。
3:ヴライが生き残って襲ってきたら対処。
4:自称ブチャラティ(ディアボロ)に対して警戒。
5:余裕ができてから高千穂リゾートを捜索。
6:フレンダに関しては、被害者達とのけじめがつけば再度合流。
7:志乃、ジオルドに関してはアリアに任せる。
8:カタリナ・クラエスがどのような人間なのか、興味。
[備考]
※参戦時期はフーゴと別れた直後。身体は生身に戻っています。
※九郎、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました。
※垣根と情報交換をしました。
※霊夢、カナメと情報交換をしました。
※持ち出した身体ストックはブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子、アリア、新羅のもののみです。

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 静かに燃える決意、魔王ベルセリアに対する違和感
[服装]:ホテルの部屋着(上半身の部分はほぼ全焼)
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×1〜3
[思考]
基本:殺し合いからの脱出
0:行き先を決める
1:あの彼女(魔王ベルセリア)、何とかしかければ……。
2:フレンダに関してはとりあえず被害者達に任せる
3:岩永を探す
4:ヴライを警戒
5:ジオルドを始めとする人外、異能の参加者、仮面の剣士(ミカヅチ)を警戒
6:きっとみねうちですよ。
[備考]
※鋼人七瀬編解決後からの参戦となります
※新羅、ジオルドと知り合いの情報を交換しました。
※アリア、ブチャラティと知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました
※魔王ベルセリアに対し違和感を感じました。
※垣根と情報交換をしました。


464 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 21:59:02 zpVDAsjs0
【ライフィセット@テイルズ オブ ベルセリア】
[状態]:強い倦怠感、全身のダメージ(大)、疲労(大)、強い決意
[服装]:いつもの服装
[装備]:ミスリルリーフ@テイルズ オブ ベルセリア(枚数は不明)
[道具]:基本支給品一色、果物ナイフ(現実)、不明支給品×2(本人確認済み)本屋のコーナーで調達した色々な世界の本(たくさんある)、シルバ@テイルズ オブ ベルセリア
[思考]
基本:ベルベットを元に戻して、殺し合いから脱出する
0:行き先を決める
1:ブチャラティ達と行動する
2:ムネチカへの心配
3:ベルベットの同行者(夾竹桃、麦野)への警戒
4:ロクロウ達との合流
5:ヴライがアンジュを殺しているならムネチカやその仲間達に伝えるべき?
6:エレノア……。

[備考]
※参戦時期は新聖殿に突入する直前となります。
※異世界間の言語文化の統一に違和感を持っています。
※志乃のあかりちゃん行為はほとんど見てません。
※呼ばれた時間に差がある事に気づきました。
※梔子と聖隷契約をしました。
※意識を失っている間の話を聞きましたが、マギルゥの死に関してはまだ聞いていません。

【梔子@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:健康、疲労(大)、精神的ダメージ、レインの仮説による精神的疲労(少し回復)
[服装]:メビウスの服装
[装備]:ストップウォッチ@東方project(1回使用)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(心許ないもの)、静雄のデイバック(基本支給品、ランダウ支給品×1〜2)、ライフボトル×2@テイルズオブベルセリア
[状態・思考]
基本行動方針:琵琶坂永至に然るべき報いを。
0:当面はライフィセット達と行動
1:彩声の義理を返す為、レインを死なせないようにする。
2:琵琶坂永至が本人か確かめる。
3:本当に死者が生き返るなら……
4:煉獄さん……天本彩声……
5:私が虚構かもしれない、か……
[備考]
※参戦時期は帰宅部ルートクリア後、
 また琵琶坂が死亡しているルートです。
※キャラエピソードの進行状況は少なくとも誕生日のコミュは迎えてます。
※静雄、レインと情報交換してます。
※ブチャラティ、霊夢達と情報交換をしました。
※ライフィセットと聖隷契約をしました。

【ライフボトル@テイルズオブベルセリア】
平和島静雄に支給。
戦闘不能状態で使うと、ある程度戦える状態まで回復できるが状態異常や欠損箇所に関しては効果はない。
3つで1支給品扱いで支給されており、1つ使用。


465 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 22:00:28 zpVDAsjs0
 ――どうやら、この会場においてフレンダ=セイヴェルンの目論見は悉くがうまくいかない定めにあるらしい。


 本来であれば、幸運にも「災害」が訪れる直前のタイミングで病院から離脱できたはずのフレンダが、カナメと霊夢を説得して病院へと戻ってきたのは、ちょうどブチャラティ達が病院へと離脱するタイミングと合わさっての事であった。
 レインとの合流を目指していたカナメ達だが、フレンダが「お腹の調子が悪い」だの「ここでするしかない」となどと散々ごねて無理に病院へと戻ろうとしての事だった。
 これは別に逃げ出そうなどと考えたり、カナメ達を罠にはめようなどと考えたからでもない。

 単純に、時間を稼いでレイン達と合流できる可能性を少しでも減らそう。そうでなくても、報いを受けるまでの時間を少しでも遅らせよう――という割と儚い願いからのものだった。

 何せ、一応殺させないとは言ってはいるが、カナメも霊夢も味方とは言い難い存在。
 レイン辺りがうまい事、説得してしまえばブチャラティとの約束も反故にされ、それを翻されてしまうのではないかと不安で仕方がなかった。
 そういった不安から、二人から冷たい目で見られながらも無理に病院に戻ってきた。
 そんな時間稼ぎからの思いからであったのだが、病院は既に安全圏ではなくなっていた。

「なななな何をコレ!? ブチャラティ達はどうしたの!?」

 病院の三階より上の階は、外からも見えるような大穴が開いていたり、煙が出ていたりと先ほど以上に凄まじい状態になり果てている。
 どういうわけか、二階と一階に被害は比較的被害が少ないようだが、それでももう病院は頭に「廃」をつけるか、後ろに「跡」をつけるような状態になり果てている。

「近づいてみるか」

「……そうね」

 そんな風に頷きあう二人に、フレンダは慌てる。

「ま、待って! 何もあんなところに……」

「誰かが襲撃をかけたのなら、調べなきゃならねえ」

「えーと、でも。レイン達に謝らないといけないし」

「それも大事だけど、今は目の前の惨事が優先ね。それとも、アンタは病院に残った連中が心配じゃないの?」

「うぐ!?」

 ここで逃げ出しましょう、などと言える雰囲気ではなく二人から無言の圧力を受けながらも病院に近づいていく。
 諦めの思いから、フレンダも二人に続いた。

「……これはひどい状態だな」

 改めて近寄ると、さらに凄惨さが分かる。
 フレンダ達が出ていくまでは、何度かの戦闘の跡こそあったものの、まだ原形は保たれていたはずの病院は見るも無残な状態になり果てていた。

「やっぱり、どこかから危ない輩が来たのは間違いないようね」

 そんな中、霊夢が冷静に告げて目の前の災害を睥睨する。
 今にも逃げ出したそうなフレンダとは違い、好戦的な眼差しを浮かべ、戦意も高まっている。
 いかに強大な敵であろうと、怯えもしないし、怯みもしない。

「クソッ! ブチャラティ達は無事なのかよ」

 カナメも警戒しつつも、周囲への警戒を怠ろうとしない。
 どう考えても、二人は逃げようなどとは微塵も考えていない様子だ。
 敵がいるか調べ、いるならば戦う。そんな様子だ。

 ――逃げ出したい。すぐにでも。

 ただ一人フレンダはそんな風に思うが、二人は聞く耳を持ってくれそうにない。
 襲撃があったのなら、当然、敵もまだこの辺りに残っている可能性は高い。当然、ソイツに襲われる可能性もある。
 仮に逃げ出したところで、カナメがフレンダ裁判の時に指摘していたように、参加者の多くに悪評が伝わってしまい、敵だらけとなった中に、一人で飛び出したところで悲惨な末路を迎えるだけだろう。

(どうして私がこんな目に――っ!)

 口に出してしまえば、「自業自得」とでも間違いなく、返されそうな事を思いながら、フレンダは二人と共に病院の調査を開始していくことになった。


 すぐ近くにある瓦礫の山の下に、つい先ほどまでこの病院を破壊して回っていた「災害」が埋まっている事に、気づかないまま。


466 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 22:01:47 zpVDAsjs0
【D-6/病院/一日目/午後】
※ 三階、四階を中心に破壊されつくされた状態ですが、二階と一階は比較的無事です。
※ 瓦礫の中にヴライが埋まった状態でいます。

【フレンダ=セイヴェルン@とある魔術の禁書目録】
[状態]:全身にダメージ(小)、心痛、右耳たぶ損傷、頬にかすり傷。衣服に凄まじい埃や汚れ、腹下り(極小)。
[服装]:普段の服装(帽子なし)
[装備]:麻酔銃@新ゲッターロボ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、『アイテム』のアジトで回収できた人形爆弾×1他、諸々(その他諸々の内パラシュート3つ&入っていた全てのばくだんいし@ドラゴンクエストビルダーズ2は使用済み)。レインの基本支給品一色、やくそう×2@ドラゴンクエストビルダーズ2、ランダム支給品×1(確認済み)、鯖缶複数(現地調達)
[思考]
基本方針:とにかく生き残る。現状は首輪の解除を優先するが、優勝も視野には入れている
0:逃げ出したい。けど、逃げ出したらもっとまずい
1:静雄とレインに謝罪して何とか許してもらう
2:その後は、何とか守ってもらうしかない
3:麦野の情報、全部話しちゃった…
4:絹旗、彩声、死んじゃったんだ…でも、私のせいじゃないよね?
5:煉獄、死んじゃったんだ…
6:詰 ん だ

【博麗霊夢@東方Project】
[状態]:脱力感、頭痛(物理)、かすり傷、疲労(小)
[服装]:巫女服
[装備]:竈門炭治郎の日輪刀@鬼滅の刃、封魔針(まだまだある)@東方project
[道具]:基本支給品一式、高坂麗奈のトランペット@響け! ユーフォニアム、セルティ・ストゥルルソンのヘルメット@デュラララ! マリアが作ったクッキー@現地調達
[思考]
基本:この『異変』を止める
0:病院を調べてブチャラティ達がどうなったか確かめる。敵がいるなら排除。
1:カナメの仲間のところにフレンダを連れていく。一応殺させないようにする
2:フレンダを謝罪させた後、ウィキッドにけじめをつけにく。
3:続いてムーンブルク城でシドーを待ちぶせしてみる。
4:マリアや幻想郷の仲間の死などによる喪失感。あー、いやになるわ……
5:なんで紫のソックリ能力ばかり出会うのよ。
6:ウィキッド関連に片が付いたら、無惨とやらの面を拝む。垣根との共闘も視野
[備考]
※緋想天辺りからの参戦です
※シドー、マリアと知り合いについて情報交換を行いました。
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ブチャラティ(真)と梔子と情報交換をしました。二人のブチャラティ問題に関しては保留にしています。


467 : 裁定、そして災害(後編) ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 22:03:38 zpVDAsjs0
【カナメ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、王とウィキッドへの怒り、全身打撲(小)、肋骨粉砕骨折(処置済み)、全身火傷(治療済み)、シュカの喪失による悔しさ、虚無感、ダメージ(小)
[服装]:いつもの服装
[装備]:白楼剣@東方Project
[道具]:白楼剣(複製)、機関銃(複製)、拳銃(複製)、基本支給品一式、不明支給品2つ、救急箱(現地調達)、魔理沙の首輪、Storkの首輪、Storkの支給品(×0〜2)
[思考]
基本:主催は必ず倒す
0:病院を調べてブチャラティ達がどうなったか確かめる。敵がいるなら排除。
1:フレンダをレイン達のところに連れて行って謝罪させる。
2:回収した首輪については技術者に解析させたい。
3:【サンセットレーベンズ】のメンバー(レイン、リュージ)を探す。今は初期位置しか分からないリュージよりも近くにいるレイン優先。
4:王の奴は死んだのか……そうか……
5:ウィキッドのような殺し合いに乗った人間には容赦はしない。
6:無力化されたようだが一応ジオルドを警戒
7:折原を見つけたら護る。
8:絶対にウィキッドを殺す。
9:爆弾に峰があってたまるか!
[備考]
※シノヅカ死亡を知った直後からの参戦です
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、霊夢、竜馬と情報交換してます。
※ブチャラティ(真)と梔子達と情報交換をしました。二人のブチャラティ問題に関しては保留にしています。

【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:ダメージ(絶大)、疲労(絶大)、額に打撲痕、左腕に切り傷(中)、火傷(絶大)、頭部、顔面に複数の打撲痕、右腕に複数の銃創、シドーに対する怒り、顔面に爆破による火傷、全身にガラス片による負傷
[服装]:いつもの服装
[装備]:ヴライの仮面(罅割れ、修理しなければ近いうちに砕け散る)@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ
[思考]
基本:全てを殺し優勝し、ヤマトに帰還する
0:(気絶中)
1:あの男(シドー)もいずれ殺す
2:アンジュの同行者(あかり、カタリナ)については暫くは放置
3:オシュトルとは必ず決着をつける
4:デコポンポの腰巾着(マロロ)には興味ないが、邪魔をするのであれば叩き潰す
5:皇女アンジュ、見事な最期であった……
6:あの術師(清明)と金髪の男(静雄)は再び会ったら葬る。
[備考]
※エントゥアと出会う前からの参戦です。
※破損したことで、仮面の効能・燃費が落ちています。
※『特性』窮死覚醒 弐を習得しました。


468 : ◆mvDj9p1Uug :2022/12/17(土) 22:06:08 zpVDAsjs0
申し訳ありません、また450と451および457と458が二重投稿になっていました。

投下終了します。


469 : ◆qvpO8h8YTg :2022/12/26(月) 00:15:29 xckxEFxc0
延長します


470 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/28(水) 22:31:30 9PZdNYTQ0
夾竹桃、ムネチカ、麦野沈利、垣根帝督で予約します


471 : ◆2dNHP51a3Y :2022/12/31(土) 00:12:10 PvUp.qPo0
投下します


472 : ギャクマンガ虚獄 〜ムギノインパクト〜 ◆2dNHP51a3Y :2022/12/31(土) 00:12:50 PvUp.qPo0
紅魔館の大図書館に、本来なら配置されていない裏の出入り口が存在する。
これは単純に紅魔館の外観と内部構造があっておらず、おおよそ初見からすれば迷路みたいなものだと言うことで、あと単純に主催の思いつき、と言う一点においても勝手に作られたバックドアと言う事である。
まあ少なくとも、外からは簡単には見つからない仕様にはなっているのだが。
そんな裏口から出た際に広がる光景というのが、獣道と舗装道路が入り混じった歪な光景。
と言いつつも舗装道路側にはベンチがあったりと軽く外でタバコ休憩取るとかなら、存外悪くない景色ではある。

「あ゛――――。」

そんなベンチに、何故か妙に窶れた顔で座り込んでいるのは麦野沈利。
何故学園都市レベル5の第四位、強者である彼女がこんな場所に居るのかと言えば、シンプルに疲れた事によるものである。いや肉体的にではない、精神的にだ。
原因は間違いなく、と言うか避けられない現実というか、夾雑物が脳内に直接流し込まれた悪夢の残響というか。現状同行者たる夾竹桃の百合もの同人誌語りに耐えきれなくなって外へ出た事である。

『伝説の財宝を求めて旅に出た女の子が家族にいじめられていた幸薄お姫様を連れ出しての冒険活劇! 姫様は最初自分を含めた人間不信から女の子のこと全く信じていなかったのに女の子が身を挺して姫様守るために傷ついてばかりで、こんな自分みたいなのをどうしてそこまでして守りたいのかわからなくなった姫様が夜逃げしちゃうんだけどいつの間にか旅する間に女の子にとって姫様に恋しちゃって命より大切な誰かになっていてそれで――』

『わかりますご主人さま私はテントで女子トークやってた時のお姫様の女の子に対する恋心の吐露が好きなんですだって今までツンデレ態度続けてきた姫様がここぞとばかりにデレ全開で―――』

かれこれ1時間ぐらい聞かされたであろう。と言うかミルクよりも甘ったるい感想惚気話を聞かされた麦野の頭はその圧倒的な甘い情報量にシェイクされて溶けた。主に頭の中が。
最初は苛つきながらも相槌打っていた程度であるが、最終的に頭がおかしくなりそうになって逃げた。
この学園都市第四位が、である。不思議にも屈辱は感じなかった、その代わり脳内に何時までも反響する百合トークの言葉が反芻するばかり。
今までの人生の中でここまで「誰か助けてくれ」と心の内から叫びたがっているんだ状態になったことなど無い。多分疲れているんだろう、そうだろう、そう信じたい。信じたかった。
翌々考えれば色々ありすぎた。駅前での激闘やら魔王覚醒やら、衝撃やら未知やらの光景やら雨霰。

「………何がどうしてこんな事になっちまった。」

ふと漏れ出した言葉は、困惑とかその他諸々が多重サンドイッチ状態と化した証左でもあった。
そもそも主催の力分捕るつもりが、いつの間にか世界の危機にまで発展した。まあそれはそれで主催叩き潰すことに変わりはないから別に良い。
良いのだが、魔王が色んな意味で壁だった。思わず震えが止まらなかったあれに、自分はどうやって勝てば良い等と、弱気になってしまった。

「…………。」

地面を、土を黙って見ていた。そういや海外では土食の文化がある国は少なくない。日本でもそういう話があったと聞く。

「……いや何考えているんだあたしは。」

本気で気が狂ったような考えを一旦振りほどく。が、魔王の圧と百合トークが頭で巡りまくって頭が痛くなる。振りほどきたいのになんか勝手にまとわり付いてくる。
いつの間にか、土を手で掬っている。喰うのか、喰わないと発散できないのか? と自問自答状態に陥り、なんかもうどうでも良くなったので本当に土でも食べて気分発散しようと思った矢先に―――。



「……何やってんだ原子崩し(メルトダウナー)。」



因縁と遭遇した。最悪のタイミングで。


473 : ギャクマンガ虚獄 〜ムギノインパクト〜 ◆2dNHP51a3Y :2022/12/31(土) 00:13:20 PvUp.qPo0



垣根帝督からの麦野沈利の印象の一言は、まあ『格下』であろう。
同じく暗部組織のリーダーを務めるもの、レベル5。だが、同じレベル5だと言っても根本的に出力が違う。垣根帝督の『未元物質』の強みは多様性だ。状況に適した手段を生み出し、対応する。それが第二位垣根帝督の『未現物質』である。
まあそれは置いといて、遺跡方面に向かっていたはずの彼が偶然見かけたのが、ベンチに座って何故か窶れて現在進行系で土を食そうとしている麦野沈利の姿と来た。


「…………。」

冷めた目で麦野沈利を見つめる。いや本当に何やってんだ、という困惑の方が大きかった。
少なくとも、麦野沈利からすれば自分への印象は最悪だろう。普通に戦闘になる可能性も既に考慮している。
だからこそ、彼女の今の状況を見れば見るほど気分が冷めてくる。正直って殺す価値もない。腑抜けたかなんて思っていたが、彼女の気質からしてあり得ないだろう。
疑問の方が湧いた。そういえばベルベットとか言うのとこいつが一緒にいたという話だ。

「……何があった?」

という訳で事情聴取と情報の聞き出しだ。今の態度と状態を見るにうまく聞き出せるか、等という打算はある。まあ妙に弱っているのだから何かしら聞き出せるだろうと。
対して麦野は、相手が垣根帝督であるという事は理解していた。だがその隣で妙におどおどしているビエンフーの姿を見て――頭が混乱していた。
混乱していた、ではなくて頭のノイズと宿敵の一人の遭遇と、変なマスコットの見かけた事による麦野沈利の頭の情報許容量が限界に達していた。
何をトチ狂ってか土を食おうとしていた所を見られたのが、トドメだった。そして、呟いた言葉は――。

『ということなのよムネチカ。やっぱり序盤の時に食べたくっそ不味いチェリーみたいな木の実を分け合う所好きなのよねぇ。キスしながら口の中で結ぶの。』
『あ、分かりますご主人さま。あの仲直りシーンはジーンと目に来ました!』

「………チェリーで仲直り…………」
「は???????????」

垣根帝督の脳内に思わずボディーブローを喰らったような衝撃が迸った。
いきなり何を言い出しているんだ、というかチェリーで仲直りって何だ、意味がわからない。というか彼女の性格的に仲直りとかまずありえないだろ、等など頭が混乱する。
因みにこの時の麦野は、夾竹桃とムネチカの百合トークが脳内に漏れ出して、その時の内容を断片的に無意識に呟いた事である。ちゃんとした意識があるかどうか不明瞭な状態。

(……どういうつもりだこいつ。チェリーで仲直りって何だ?)
「……キスが、不味い……」
(キスが不味いって何だ?! は? ちょっと待って、どういうことだ?!)

垣根帝督は混乱した。
何の脈絡もなくキスが不味いと言われたのはどういうことだか分からない。というか先程土を食べようとしたとか、妙に窶れているとか、ノイズになる情報が多すぎた。
本当に麦野沈利に何があったのだと、全くもって意味がわからなかった。

(……この人間。もしかして中身可愛い系でフ?)

そして、垣根の困惑に思わず口を挟めずにいたビエンフーが思ったのは、「彼女結構乙女寄りなのでは?」という予想であった。
「キスが不味い」という発言は、もしかしてあまりそういう事にいい思い出がないだけでは?なんて的外れな考えをビエンフーはしていた。

「……おい、さっきの言葉はどういう意味だ。」

変なことになりそうな頭を抑えながら、質問は続く。彼女が何の考えもなしに言葉を発するとは思えない。
警戒するに越したことはない、警戒は緩めない。
妙な空気の沈黙の後、麦野沈利が再び頭に浮かんだノイズのまま曖昧に返事をする。


474 : ギャクマンガ虚獄 〜ムギノインパクト〜 ◆2dNHP51a3Y :2022/12/31(土) 00:13:50 PvUp.qPo0
『……あのお姫様。仲直りしたいからって女の子に自分のおっぱい揉んでっていうの大胆よね。あの時のお姫様はクズ兄貴に色々言われて自暴自棄から闇落ちしかかってたし、姫様の心情考えれば打倒ね。』
『ご主人さまはやはり友情返り咲きの部分がお好みだったでしょうか?』
『ええそうよ! 男の戯言なんか振り切って真の友情で目を覚ますのよ! それでお互い大好きだったってのを再認識して………!』


「……おっぱい揉んで。」
「は?????????????????????」

垣根帝督は混乱した。おっぱい揉んでという、そんな小中学生の性癖ぐらいにしか影響しない言葉を吐いたのだから。というかこの時点で頭がおかしくなりそうだった。

(油断させるつもりか? それともマジか、マジで言ってんのか? いや後者は絶対ありえねぇ! いや冷静になれ、こいつの魂胆に踊らされるな……!)
(だ、大胆でフ……!)

何とかまともな思考をしようとする垣根に対してまたしても的はずれな思考を突き進むビエンフー。
もはや彼の中では麦野は無意識的に恋する大胆な乙女認識になってしまっているのだ。
もしこれを当人らに知られれば間違いなくぶちのめされる事を知らずに。
一方の麦野は、未だ混乱し半分混濁している意識の中、夢遊病の如く朧気な景色。何とか目を覚まそうと彼女なりに必死だった。

(………。)

が、勝手に脳内に浮かんだワードというのは無意識下では何かと漏れやすいもの。
望んでもいないのにあの二人の百合トークの内容が勝手に脳内に思い浮かんでしまう。
そして、次に発する言葉は、麦野沈利の本心には一切の無関係。

「……る。」
「………る?」

そしてそれを、垣根帝督もビエンフーも一字一句聞き逃さなかった。




『……あんまりよぉぉぉっ!』
『ご、ご主人さま落ち着いてください……! 後半の巨大毒蛇戦でふらぐは建ってしまってはいましたが、このような結末は……。』
『お姫様が女の子を自分と言う呪いから解き放つためにわざと嫌われて悪役に徹するのはいいわ。殺し合いの百合も憎まれ口叩きながらモノローグで激重感情は私もやるわよ! でも、それでも悲しいに決まってる!』
『姫様は家の業と言う名の過去逃げられず、少女はすべてを失っても尚姫様を救い出そうとして最終的に相打ち。悲しい結末です。ですが、最後に本当に分かり合えただけでもお二人にとっては救いだったのでしょう。』
『……ええ、そうね。「例えどれだけ憎み合っても傷つけあっても、それでも私は貴方が好きで、来世に生まれ変わっても私は貴方に何度でも恋をします。」……歳にもなく号泣しちゃったわ。』
『ご主人さま、その気持ちわかります………。』



「……例えどれだけ憎み合っても傷つけあっても、それでも私は貴方が好きで、来世に生まれ変わっても私は貴方に何度でも恋をします。」

恐ろしく優しい声で、麦野沈利が朧気な意識でそう反復してしまったのだから。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「……でフ。」

木枯らしが吹いて、沈黙。
いや、この場にいる音という音が一瞬だけ何もかも静止する。
そして、口を震わせ、垣根帝督はただ一言、困惑と混乱の表情で。


475 : ギャクマンガ虚獄 〜ムギノインパクト〜 ◆2dNHP51a3Y :2022/12/31(土) 00:14:14 PvUp.qPo0
「ええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!???????????」

体中が張り裂けそうな程に、絶叫した。

「えっおまっ、はぁぁぁっ?!?! 」

回りくどい言い回しだったが、完全に「私が貴方のことが好きです」と言っているようなものだった。しかもくっそ重い感情的な意味合いだった。
もしこの場に心理定規がいたなら早急に能力使わせてなんとかしている、というかなんとかしなければ不味いと本能的に体中が警鐘を鳴らしている。
訳が分からない。コレばっかりはどれだけ脳内で演算しようにも解が出ない。出るわけがない。

「何だこりゃ、何が一体どうなっちまってんだこりゃぁ!?」

垣根帝督は混乱した。いや、これ以上無くパニクっていた。
一体何を何処でやらかした、一体何処で間違えた? 余りにも突拍子かつ予想外かつ意味不明すぎて頭を抱えていた、文字通り。

「……やはり、そうだったでフか!」

そしてビエンフー、完全に間違っている己が予想が確信に至ったと勘違いした。
間違いない、これは愛の告白だと、何処で何があったか知らないけれど、彼女は誰かに恋をしていたのだと。
そしてその恋の相手というのが、ビエンフーの頭の中では。それを確信して、叫ぼうとして。

「おいビエンフー、今はさっさとここから逃げ――」
「……ちょっと麦野、一体何処に行ったのかしらと思ったらこんな裏口があっただなんて―――」
「ご主人さま、こんな所に」

頭がこんがらがって一旦退散しようとした垣根帝督、いなくなった麦野を探しに同じく裏口からやって来た夾竹桃が居合わせたこのタイミングで。

「………あ?」

漸く意識が正常に戻った麦野沈利が正しく垣根帝督の姿を認識したタイミングで。


「この女の人は、垣根さんの事が大好きなんでフね!!!!」



ビエンフーは、断言した。








再び、木枯らしが吹いて、世界が冷たく沈黙する。

「……あれ、何だか、すごく寒なかった気がするでフ。」

ビエンフーが、空気が変わったことを理解する。
(ビエンフーの頭の中では)彼女が垣根の事が大好き、という結論だ。
やっぱり人の恋路をバラしてしまったのは不味かったのか、などと考えた。

「あ、大丈夫でフ。二人の恋路はこの――――――あれ?」

いつの間にか、般若の顔をした麦野沈利と垣根帝督の姿が、ビエンフーの前と後ろに立ち尽くしていた。

「あ、あっれぇ……、お二人共、すっごく怒ってる?」
「………」
「………」

ビエンフーからは、二人の表情は伺い知れない。
恋心バラしが間違いなく琴線に振れたのか、それとも何か別の要因なのかは知らないが、ただ確かなことは。
ビエンフーは、学園都市最強のレベル5能力者二人を、完全にブチギレさせてしまった、と言うことである。

「……………………あっ。」

そして、ビエンフーの頭が盛大に警鐘を鳴らした時には既に遅し、麦野沈利と垣根帝督の全力全開の拳がビエンフーに直撃。

「あっびゃあああああああああああああっっっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!!?!?!?」

そのまま盛大に、空の彼方へと吹き飛んでしまったのであった。


476 : ギャクマンガ虚獄 〜ムギノインパクト〜 ◆2dNHP51a3Y :2022/12/31(土) 00:15:37 PvUp.qPo0




「……おい、さっきの言葉、マジか?」
「……そんなわけねぇだろ。思い出したくもねぇ出来事の中身呟いちまったんだよ。」
「……ああ、そうか。そうだろな。うんそうだな。……俺は何も聞かなかった、いいな?」
「……ああ。私もテメェには何も言わなかった、それでいい。……ただの悪夢だ。」

盛大に最低なアクシデントは収まり、第二位と第四位が背中合わせに、お互いの表情を全く見ないでの対話だった。
麦野沈利から垣根帝督の事は聞いていたが、初接触がこんな形になるとは、全くもって予想してなかった。
いや、予想できるわけがなかった。と言うか現在進行系で気まずかった。

「一応、リベンジしたい相手でしょ、いいの? 私としては彼にも協力を申し入れたいところだから決めかねてるんだけれど。」
「………ああ、いい。こいつとの決着はすべて終わってからにする。」

魔王の一件や考察の事もあり、夾竹桃も麦野沈利に事前には聞き、答えがこれだった。
男であることは少々思うところはあれど、少なくとも彼の力は今後のためになる。それにライフィセットたちと出会っていると来た。多少いざこざはあるだろうとは思うが、こうも何かあっさり行きそうな流れはこの際好都合だ。

「……っ、付きやってやるよ。……テメェらに組みするかは情報次第だ。」
「…………何だか、申し訳ないわね。」

何だかよくわからないが、なんか勝手に弱み握ったのかよく分からいというか、どうしてこうなったのか夾竹桃的にも困惑極まりなかった。
だが、この第二位、垣根帝督が協力までとは言えわず情報の交換等に付き合ってくれるかもしれないのだから、重畳というやつだ。もしかしたら、本当に脱出までの協力関係になってくれるかもしれない。

「ムネチカ、彼を案内してあげて。」
「……わかりましたご主人さま。」

そんな訳で、先に垣根を先行させる形でムネチカに道案内を頼み、裏口より紅魔館へと消えていく。






「……ええと、麦野。……大丈夫、私は貴方を信じてるわ。あんな男好きなわけないよね。うんそうよね。私が話してた事、疲れの無意識下で漏れちゃっただけよね、うん。」

そう、何だか辿々しい言い方で、励ましているような優しい声色で夾竹桃が言葉を掛ける。
どう考えても気を使っているようにしか見えなかった。まあ先の問題発言聖隷の言葉がただの嘘っぱちだというのは先の二人のやり取りで判明したのだから。
そして、肝心の麦野はというと。



「不幸だあああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!」


ついさっき起こったことを忘れたくて、絶叫した。
夾竹桃は、優しく麦野の手をつなぎ、一緒に紅魔館へと戻っていった。


477 : ギャクマンガ虚獄 〜ムギノインパクト〜 ◆2dNHP51a3Y :2022/12/31(土) 00:16:29 PvUp.qPo0
※ビエンフーは空の彼方へと吹き飛びました。何処へ吹き飛んだかは後続の書き手にお任せします。

【F-6/紅魔館/一日目/午後】
【麦野沈利@とある魔術の禁書目録Ⅲ】
[状態]:全身にダメージ、精神的疲労(超極大)、百合トークに対しての精神的トラウマ(小)
[服装]:いつもの服装(ボロボロ)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:主催共の目論見をぶっ潰す。願いを叶える力は保留。
0:首輪の解除コードとやらを解明するための情報探し。
1:……どうしてこうなった、どうしてこうなった。
2:フレンダ、テメェに二度目はねぇ。ぶち殺し確定、今度は灰も残さねぇ。
3:ベルベットに関しては警戒。『蒐集の力』は彼女にはまだ伝えない。
4:第二位との決着はすべてが終わってからにする
5:もう百合トークは勘弁してくれた、マジで。
6:あたしは何も言わなかった、いいな!?
[備考]
※アニメ18話、浜面に敗北した後からの参戦です
※3人でアイテムを結成しました
※ベルベットがLEVEL6に到達したと予想しています。
※夾竹桃の知っている【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。

【夾竹桃@緋弾のアリアAA】
[状態]:衣服の乱れ、ゲッター線に魅入られてる(小)、夏コミ用のネタの香りを感じている。困惑(小)
[服装]:いつものセーラー服
[装備]:オジギソウとその操作端末@とある魔術の禁書目録Ⅲ、胡蝶しのぶの日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、シュカの首輪(分解済み)、素養格付@とある魔術の禁書目録Ⅲ、クリスチーネ桃子(夾竹桃)作の同人誌@緋弾のアリアAA(現地調達)、薬草及び毒草数種(現地調達)、無反動ガトリングガン入りトランクケース@緋弾のアリアAA(現地調達)
[思考]
基本:間宮あかりの秘毒・鷹捲とゲッター線という未知の毒を入手後、帰還する
0:主催の思い通りになるつもりはない。
1:これ以上の『覚醒者』の誕生は阻止したい
2:テミス及びμの関係者らしき参加者の勧誘か誘拐を検討。岩永琴子はなんかベルセリアが乗り気らしいけど……
3:首輪を解除するためのコードを調査
4:神崎アリア及び他の武偵は警戒
5:ゲッター線の情報を得るためにゲッターチームから情報を抜き取ることも考慮
6:夏コミ用のネタが溜まる溜まる...ウフフ
7:なぜ書いた覚えのない私の同人誌が...?
8:ええと麦野? 大丈夫、大丈夫よ。私は信じてるからね、うん。
[備考]
※あかりとの初遭遇後からの参戦です
※3人でアイテムを結成しました
※晴明からゲッター線に関する情報を入手しました
※隼人からゲッター線の情報を大まかに聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※隼人・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※隼人からゲッター線について聞きました。どれだけの情報が供給されたかは後続の書き手の方にお任せします。

【ムネチカ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:衣服の乱れ、負傷(中)、精神崩壊、夾竹桃への忠誠心(絶大)、忘却(中)、発情(中)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ムネチカの仮面@うたわれるもの
[道具]:基本支給品一色、大きなゲコ太のぬいぐるみ@とある魔術の禁書目録(現地調達)、
[思考]
基本:ごしゅじんさまにしたがう
0:ごしゅじんさま、この本、この本すごいです……!
1:ええと、何この、何……?
[備考]
※参戦時期はフミルィルによって仮面を取り戻した後からとなります
※女同士の友情行為にも理解を示しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※夾竹桃の処置の結果、何もかもを忘れて夾竹桃に付き従う忠犬になりました。恐らく今後ライフィセットが生きていると判明しても彼女の壊れた心は、よほどのことがない限りは戻らないでしょう。


478 : ギャクマンガ虚獄 〜ムギノインパクト〜 ◆2dNHP51a3Y :2022/12/31(土) 00:17:07 PvUp.qPo0
【垣根提督@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(小)、全身に掠り傷、強い決意、混乱(大)、精神的疲労(極大)
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3、ジョルノの心臓から生まれた蛇から取り出した無惨の毒に対するワクチン、ジョルノの首輪、マギルゥの首輪、妖夢の首輪、リゾットの首輪、、土御門の式神(数個。詳しい数は不明)@とある魔術の禁書目録、マギルゥの支給品0〜1、ジョルノの支給品0〜3、顔写真付き参加者名簿、リゾットの支給品2つ
[思考]
基本方針: 主催を潰して帰る。ついでにこの悪趣味なゲームを眺めている奴らも軒並みブッ殺す。
0:成り行きで出会っちまったが、この夾竹桃とかいう女から色々聞く。場合によっては協力関係も検討。
1:とりあえず、大いなる父の遺跡の方角に向かいアリア達に伝言を伝える
2:あの化け物(無惨)は殺す。
3:リゾットの標的だったボスも正体を突き止めていずれ殺す。
4:未元物質と聖隷術を組み合わせた独自戦法を確立する。道中で試しながら行きたい。
5:異能を知るために同行者を集める。強者ならなお良い。
6:俺は何も聞かなかった、いいな? いいな!?
[備考]
VS一方通行の前、一方通行を標的に決めたときより参戦です。
※ジョルノ、リゾット、マギルゥの支給品も垣根が持っています。
※未元物質を代用した聖隷術を試しました。未元物質を代用すると、聖隷力に影響を及ぼし威力が上がりますが、制御の難易度が跳ね上がります。制御中は行動が制限されます。
※首輪の説明文により、自分たちが作られた存在なのではないかと勘繰っています。
※ブチャラティ達と情報交換をしました。


479 : ギャクマンガ虚獄 〜ムギノインパクト〜 ◆2dNHP51a3Y :2022/12/31(土) 00:17:54 PvUp.qPo0
投下乙です あとムネチカのセリフ修正ができていなかったのでここで補足します

『わかりますご主人さま私はテントで女子トークやってた時のお姫様の女の子に対する恋心の吐露が好きなんですだって今までツンデレ態度続けてきた姫様がここぞとばかりにデレ全開で―――』

『わかりますご主人さま私は野宿で二人が話し合っていた際のお姫様と女の子に対する恋心が好きなんです。これがご主人さまが言っていたつんでれなる属性の、そのでれの発露という魅力だったのですね!』

『ご主人さまはやはり友情返り咲きの部分がお好みだったでしょうか?』

『ご主人さまはやはり、そういう友との絆を取り戻す流れがお好きなのでしょうか?』

『ご、ご主人さま落ち着いてください……! 後半の巨大毒蛇戦でふらぐは建ってしまってはいましたが、このような結末は……。』

『ご、ご主人さま落ち着いてください……! 後半で嫌な予感はしていましたが、このような結末は……。』

『姫様は家の業と言う名の過去逃げられず、少女はすべてを失っても尚姫様を救い出そうとして最終的に相打ち。悲しい結末です。ですが、最後に本当に分かり合えただけでもお二人にとっては救いだったのでしょう。』

『姫は家の業と言う名の過去逃げられず、少女はすべてを失っても尚姫様を救い出そうとして最終的に相打ち。悲しい結末です。ですが、最後に本当に分かり合えただけでもお二人にとっては救いだったのでしょう。』


480 : ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:38:45 DENnKdLs0
投下します


481 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:40:03 DENnKdLs0
会場中心部・大いなる父の遺跡。
そこでは、9人の参加者の思惑と信念が、交錯している。
偽りの仮面を装いし時かける旅人、闘争と宿願を追い求める業魔、『想い』を繋がんとする自動書記人形、武偵としての使命を全うせんとする少女、『愛』を取り戻さんとする闇医者、絶望に陥った天才奏者、全ての人間を愛する情報屋、全ての者に災厄をまき散らす魔女、激情露わにする鬼の首魁。
そんな彼らが繰り広げる闘争劇は、終止符に向かい加速する。

さぁ、みんな一緒に―――。


482 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:41:39 DENnKdLs0



「ははっ、やるじゃねえかっ、アンタ!!」

「いい加減鬱陶しいぞ、貴様!!」

遺跡に面する山林地帯。
二つの人ならざる影が衝突を果たすその場所は、暴風吹き荒れる戦場。
鬼舞辻無惨が、怒声と共に無数の触手を振るうと、風が轟く。
ロクロウ・ランゲツが、斬撃と術技を放つと、その余波で木々が倒壊する。
常人では目で追うことなど決して叶わぬ、そんな豪速の攻防が繰り広げられている。

轟ッ!!

と、無惨の背中から放たれた幾多の触手が森林を穿ちつつ、音速の勢いでロクロウの眼前に迫った。
ロクロウは、迫るそれらを視認するや否や、身体を捻り回避を試みるも――。

グチャッ!!

完璧に回避すること叶わず、肩の一部、腕の一部が肉片となって、血飛沫とともに宙を舞った。
しかし、当のロクロウはというと、苦悶の声一つあげることなく、むしろ口角を上げつつ、印を切る。

「――六の型ッ!!」

「っ……!?」

――六の型・黒霧。
刹那、黒の波動が生み出され、無惨はその引力にその引力に引き寄せられるかのようにして、その身を大きく仰け反らせた。
踏ん張りを効かせ、体勢を整えようとする無惨。
しかし、そこで生じた隙を逃すほど、夜叉の業魔は甘くはない。

「――八岐大蛇!!」

瞬時に懐へと潜り込んだロクロウは、左右の手に握られた双剣を同時に振るう。
神速の八連斬り――。その一つ一つが必殺にして必滅の一閃である。
無惨は咄嗟に躱さんとするも、黒の波動に囚われて思うように動くことが出来ず、斬撃の嵐を浴びる。

「狂犬めが……!!」

触手、片腕を斬り落とされ、腹部及び胸部に深い傷が生じる。
しかし、それも束の間。瞬く間に欠損部分と傷口は再生し、何事もなかったかのように元通りとなる。

「ははははっ、まるで蜥蜴の尻尾だな」

「貴様!!」

ロクロウの軽口が気に障ったのか、無惨は額に青筋を浮かばせるも、激情に流されることはなく、どうにか堪える。
そして自らの足下に触手を放つと、その反動を利用して後方へ跳び、黒霧の拘束から逃れる。

「――瞬撃必倒!」

だが、そう易々とこの戦闘狂から、逃れるはずもなく。
ロクロウは間髪入れず、追撃をかけるべく肉薄――。
無惨も即座に触腕触手を振るい、迫るロクロウを貫かんとする。

「この距離なら―――」

肉を切らせて骨を絶つとは、まさにこの事か。
触手が掠めて、肉が抉られようとも構わず、ロクロウは更に踏み込み、掬い上げるようにして、無惨の胴元目がけて刃を振るう。

「外しはせん―――」

「……っ!」

瞬間、斬撃を浴びて無惨の身体は宙高く浮遊した。
しかし、それだけではない。
直後、ロクロウは天高く刃を突き上げ、渾身の一撃を放つ。

「――零の型・破空!!」

天を穿つほどの衝撃を伴う一突き。
その一撃は斬り上げられた無惨の身体を確実に捉え、更に上空へと打ち上げた。

「ぐぅ……!!」

顔を顰める無惨は、バリバリと、樹々の枝葉を掻き分けながら、天高く舞い上がっていく。
彼が苦い声を漏らすのは、ロクロウの奥義が齎したダメージが原因ではない。
無惨は恐れているのだ。樹海の外側――その突き抜けた先で待ちかまえる存在を。

(このままでは、太陽に……!)

やがて、地上から数十メートル程の高さまで打ち上げところで、無惨の身体は完全に晴天の下に晒された。
再三たる検証で、この地では陽光を浴びても死滅することは確認できている。
しかし、先のレポートの件といい、まだ確信は得ていなかった。
だからこそ、無惨は積極的に陽の元に、その身を晒すことは極力避けていたのだが……。


483 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:42:59 DENnKdLs0

「お、おのれぇ……!!」

その実、晴天の元で日光を浴びた途端、細胞が燃え尽きるようにして、無惨は凄まじい苦痛に見舞われた。
思わず顔を歪める無惨。

だが―――。

(……!?)

不幸中の幸い。そこで彼が塵芥になることはなかった。
高坂麗奈との距離が遠くなり、彼女が無意識に発現させる効果は弱まったものの、完全に圏外となったわけではなかったのである。
そして打ち上げから一転―――重力に従い、落下。陽光を遮る木陰に差し掛かると、陽光による苦痛も徐々に消失していく。

「まだだっ! まだまだ楽しもうぜ!」

しかし、無惨に安息の時は訪れることはない。
眼下で待ち構える夜叉は、落下する無惨目掛けて跳躍。
双剣を煌めかせ、風の如く迫る。

「良い気になるなよ、下郎っ……!!」

無惨は怒号と共に無数の触手を射出。
対するロクロウもまた瞬速の剣技を以って、迎え撃つ。
肉を貫かれながらも、夜叉の業魔は笑みを零して。
全身を斬られながらも、鬼の始祖は憤怒を露わにして。
斬撃音と破壊音による合奏が、激しく木霊する。

「なあ、マギルゥ殺ったのは、お前か?」

剣と触手が交錯する中、ロクロウはふと思い出したかのように、剣技に重ねて問い掛ける。
張りつけた笑みを崩さず。まるで世間話でもするかのような口調で。

「――何をほざいているっ!?」

「病院で俺の仲間が死んでいたんだ。魔女を自称する胡散臭い女だったんだが―――」

「下らんッ!! 貴様も異常者の類か!!」

一喝。ロクロウの問いかけは一方的に打ち切られた。
問答の余地なく、彼の視界のあらゆる方向から畳みかけるように触手が振るわれる。

「貴様らはいつもそうだ―――やれ仇だの、やれ復讐だの、うんざりさせられる!!」

マギルゥを殺したのは、紛れもなく無惨である。
無惨としても、病院で目に留まった参加者を何人か始末した記憶はあるが、その中にロクロウが語る人物かいたかは分からない。
実際にマギルゥという女がどんな人物だったなどは知らないし、興味もない。
彼にとっては、道を歩くときに蟻を踏み潰し、その感触すら覚えていないのに等しいのである。
そして苛立つ。鬼殺隊のように、そんな取るにも足らない些事で、一々絡んでくる連中が―――。

「何故、踏み潰した虫けら共のことなど、一々記憶に止める必要がある?」

猛り、唸り、轟く――怒涛の勢いで差し迫る必殺の触手。
ロクロウは咄嵯に斬撃で捌きつつ、身を翻して回避を試みる―――。

「ッ……!?」

が、ここで彼の身体に異変が生じる。
突如として全身に鉛のような負荷が圧し掛かり、彼の動きを鈍らせた。
ゴボリと赤黒い血を吐きつつ、ロクロウは悟る。

「チィッ……! 毒の類か……」

舌打ちと同時に、触手の回避にも失敗。右肩。右上腕。右胸。左肩。左脇腹。
計五箇所もの部位が、無惨の触手によって、その肉を飛び散らかした。
ロクロウは、尚も双剣を振るい、触手を斬り落としつつ後退。
一旦無惨から距離を置こうとするも、尚も無惨は追撃する。


484 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:43:24 DENnKdLs0

「私に殺されることは、大災に遭ったのと同じだと思え……!!」

空気を裂く轟音が鳴り響き、無惨の触手が縦横無尽に振るわれていく。
ロクロウは身を捻って、時には双剣を盾にしながら、どうにか致命傷を避けようとするも、その全てを防ぎ切ることは不可能であり、その度に肉片と鮮血が宙を舞った。

「残された貴様らは、大災に遭わなかった幸運を噛み締めながら、日々を過ごせば良い!!いちいち私に楯突いて何になる!?」

無惨の触手が、執拗にロクロウの身体を穿ち続ける。
防戦一方へと転じるロクロウだが、その表情は尚も闘志に満ち溢れており――。

「――感謝するぜ」

「……何っ…?」

訝しむ無惨に対し、ロクロウはニタリと口角を上げると、双剣を構えて突貫。
満身創痍の状態にも関わらず、無惨に一気に肉薄すると、

「――嵐月流・白鷺!!」

無数の斬撃が、無惨の身体に襲い掛かる。
無惨が放つ攻撃の合間を縫うようにして放たれた神速のそれらは、まさに武芸の極地。
無惨が触手を振り下ろすより先に、その身体に深い傷を刻みつける。

「……!!」

傷は直ぐに再生する。しかし、尚も牙を剥くロクロウに対し、無惨は不快感を顕にする。
そんな無惨に対し、ロクロウは刃を向けて、宣告する。

「今の話を聞いて、ますますアンタのことを斬りたくなったぜ!!」

マギルゥ殺害について、無惨は否定も肯定もしていない。しかし、その口振りから察するに、彼は間違いなく他の参加者に害をなしてきたのだろう。もしかすると、そこにマギルゥも含まれていたのかもしれない。
排除するには十分な理由が、そこにはあった。

「戯言を……!!」

怒りに任せた触手の猛攻が、尚も続き、ロクロウもまた満身創痍の中、一歩も引かずに双剣を振るう。

笑う業魔と怒れる鬼――。
人を超越した両雄の死合いは、未だ終わりの兆しを見せず、苛烈を極める―――

ドゴォン!!

のであったのだが、突如として、二人が対峙する真横の岩壁が崩れ落ちる。
その衝撃は凄まじく、土煙を巻き起こし、辺り一面を覆い尽くす。

「……!?」

「なんだぁ!?」

飛来する破片と土埃に、両雄とも戦いの手を止めて、崩落した岩壁へと意識を向ける。
土煙が晴れていき、最初に目に飛び込んできたのは、大剣を掲げる鋼鉄の巨人―――。
そして――。

「―――オシュトルかっ!?」

「ロクロウっ!? それに月彦殿も……!?」

ロクロウと無惨、二人にとっての共通の知り合いでもある仮面の漢が姿を現したのであった。


485 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:44:00 DENnKdLs0



まるで飢えた獣のように、激しく殺し合うロクロウと無惨。
尋常ではない殺意と憎悪の応酬を、遠目に眺める麗奈は、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

―――どうして、こんな事に……。

半日ほど前は、全国大会に向けての練習に励んでいたはずなのに……。
それが今では、バイオレンス映画も真っ青な、怪物同士の死闘を目の当たりにしている。おまけに自分もその怪物達の仲間入りをしているという訳だ。
この数時間で体験した非日常の連続は、凛とした麗奈の心をぐちゃぐちゃに打ちのめしていた。
そして、この状況下で自分がどのように動くべきか分からない。
逃げ出すべきかと、後退りするも――。

『私を裏切るな』

「……っ!!」

無惨の言葉が、呪いのように頭の中で反芻し、踏み止まる。

――早く逃げないと!

自分自身にそう言い聞かせるも、彼女は動くことは出来ない。
身体は震え、心臓は早鐘を打ち、無惨に背を向けて走り出すことができない。
無惨によって刻まれた痛みと恐怖は、そう簡単に拭えるものではなく――。
結果として、絶対的恐怖の象徴たる彼の背中を、ただ怯えながら眺めることしかできなかったのである。

「――なあ、おい」

「……えっ?……」

だからこそ――。

「暇してるんだったらさぁ、私と踊ろうぜぇ♪」

無惨に気を取られていたが故に、迫り来る“彼女”の存在を失念していた。
背後からの呼びかけに振り返るや否や、爪を立てた貫手が麗奈の顔面に突き刺さる。

ぐじゃり

「い”ぎゃああああああぁぁッ!?」

肉が裂け、血飛沫が上がり、脳髄が砕ける音が響くと、絶叫とともに麗奈は後退。
貫かれた顔面を庇いながら、その痛みに悶絶。
普通に考えれば絶命必死の致命傷であるが、穿たれた部位は再生を開始する。

「キャハハハハハハハハハッ、凄いな!! 本当に本当に、面白いくらいに、直ぐに再生するんだ!!」

「……ま、りえさん……」

激痛に呻く麗奈。
その視界に飛び込んできたのは、先程まで無惨に痛めつけられていた魔女の姿。
傷付いた身体は既に再生を果たして、口元には愉悦を浮かべている。

「アンタらには、散々煮え湯を飲まされてきたからな。
しっかりお礼はさせてもらうから―――よっ!」

掛け声とともに、投擲された手榴弾。
麗奈は、咄嗟に避けようとするも、間に合わず―――。

ドゴォン!

炸裂音と共に、彼女の華奢な身体は爆炎によって吹き飛ばされ、勢いそのまま背後の大樹に叩きつけられる。

「あっ、うぅ……」

全身をズタズタに引き裂かれ、ブスブスと燻る黒煙を上げながら、弱々しく声を上げる麗奈。
いくら不死の肉体とはいえ、ウィキッドによる爆撃による痛みは、先日までただの女子高生だった彼女にとって耐え難いものであった。
それに加え、肉体的な痛みとはまた別の苦痛が生じており、その正体不明の痛みにも悶える。


486 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:44:33 DENnKdLs0

「おいおい、何へたれちゃってんのさ?
こいつは、お前らから仕掛けてきた喧嘩だろう?
少しは抵抗してくれないと、歯応えないじゃん!!」

「ち、違う…ねえ、聞いて! 私は―――」

「違わねえよ、化け物!!」

「……っ!?」

弁明しようとするも、即座に否定され、再び手榴弾が放り投げられる。
慌てて立ち上がり回避するも、爆風に煽られ転倒。
即座に立ちあがろうとする麗奈の顔目掛けて、ウィキッドはサッカーボールキックをお見舞いする。

「ぶっ、ごぇっ……!」

鼻が潰れ、顔面そのものが陥没するほどの一撃を受け、苦悶の声を上げて転げ回る。
だが、絶命に至ることはなく、頭部の損傷は瞬く間に修復し、元通りになる。

「キャハハハハハハッ!! 
ねぇねぇ、高坂さん、痛いですかぁ?
苦しいですかぁ―――」

バキッ、ベキッ、ボギッ、グチャッ!
狂喜に満ちた笑い声をあげながら、ウィキッドは執拗に麗奈を痛めつける。

「い”だぁ! や”めっ! ぎやぁ! いだぃいいいっ!!」

「もっともっと出来るだけ痛くしてあげるから、安心してくださいねぇ♪」

踏みつけ、蹴り上げ、殴り潰す。
何度も、何度でも、飽きることなく繰り返される暴力の嵐。

「も…も"うやめ―――」

「残念、止めませーん♪」

ザシュッ、ボギッ、ズチャッ!
耳を削ぎ、指を折り、腕を引き千切り、腹を割いて内臓を取り出して遊ぶ。
死ねない身体故に、延々と続く拷問のような責め苦。まさに生き地獄。
舞い上がる血飛沫に、繰り返される慟哭―――そんな凄惨な演出を背景に、魔女は愉しげに嗤い踊り続ける。

そんな折――。

「――の型・破空!!」

「……あん?……」

麗奈の弱弱しい悲鳴をかき消す一際甲高い声が遠方より聴こえ、ウィキッドは怪訝な表情を浮かべてそちらを向く。
そこで目にしたのは、先の侍風の乱入者によって、天を貫く勢いで打ち上げられていく無惨の姿。

「プッハハハハハハハッ!! すげえな、あのコスプレ侍!!
月彦の奴、ゴルフボールみてえに吹っ飛んでんじゃん!! ざまあねえな!!」

空高く打ち上げられた無惨と、それを猛追し森の奥へと消えていくロクロウの後ろ姿を見送りながら、ウィキッドは腹を抱えて大爆笑。

ウィキッドは、ロクロウのことはよく知らない。
いきなり乱入してきては、自分のことを「弱い者」呼ばわりしてきて第一印象は最悪だったが、そこから勝手に無惨とドンパチやり始めたので、一旦無惨の方は彼に預けておくことにしていた。
無惨が彼の相手をしている間に、レポート曰く無惨の再生能力の向上に一役買っているという、麗奈を嬲り殺した上で、再生能力が低下した無惨を確実に仕留める算段であったのだが―――。
まさかあの乱入者が、これほどまでに健闘するとは思いもしなかった。
滑稽に空を舞う無惨を見て、胸がスカッとしたので、それを演出してくれたロクロウには、ご褒美として缶コーヒーでも奢ってやりたい気分になった。

「―――っと、いけない。私もウカウカしてらんねえな」

ロクロウが無惨を追い詰めているのは嬉しい誤算ではあるが、無惨(あの糞)に対するトドメを譲るつもりは毛頭無い。
奴が絶望し、必死に命乞いをするところを拝んだうえで、確実にこの手で息の根を止めねば、気は収まらない。


487 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:45:04 DENnKdLs0

「ということで、そろそろ死んでくださいね、高坂さん♪」

散々痛めつけられ、壊れた玩具のように地面を這いずり回る麗奈の胸倉を掴んで持ち上げると、ウィキッドはその首元に爪を突き立てんとする。
レポートから察するに、運営は無惨のような再生能力に長けた参加者の存在を認知している。
であれば、例えどれほどの頑丈さを誇る肉体であっても、例えどれほどの再生力を有していようとも、殺し合いへの強制を成り立たせるため、首輪による爆殺は絶対であるはず――。
そう確信しながら、ウィキッドは麗奈の首輪に勢いよく爪を喰い込ませようとした――が、

「―――ざけるなぁっ……!!」

グサリ

「――は?」

ウィキッドの爪が麗奈の首元を貫く前に、カウンター気味に麗奈の貫手が交錯。
血管を浮き出しながら突き立てられたそれは、ウィキッドの左眼窩に突き刺さった。

「〜〜〜〜〜〜っ!!? 痛ってーな、てめ―――」

「うるさい!! 痛いのはこっちだよ、イカレ女!!」

予想だにしなかった反撃と激痛に仰け反るウィキッドの腕を振り払い、麗奈は彼女から距離を取る。
抉られた左眼を庇いながら、麗奈を睨みつけるウィキッド。
彼女もまた、人外の領域に足を踏み入れた者。
損壊した顔面はすぐに再生して、元の整ったものへと回帰する。

「こっちが手を出さないことを良いことに好き放題やって……いい加減にしろよ!!
私はあんたの玩具じゃない!!」

麗奈は激情に任せて喚き散らかすと、ウィキッドに向けて突進。
怒りのままに拳を振るい、殴りかかる。

ドゴっ!!

オーバーハンド気味に放たれた拳は、ウィキッドの顔面を真正面から捉えて、魔女はその衝撃により、鼻が潰れて、仰け反る。

「あんたには、悪いことしたと思っているし、あんたが怒るのも無理はないと思う。
だけど、これ以上は付き合ってられないの!!」

麗奈は叫び、更にウィキッドの顔面を殴りつけると、バギっという魔女の顔面が壊れる音が鳴り響く。

ウィキッドの言う通り、事の発端は、麗奈が、己の内に蠢く鬼としての食人本能に抗えなかったことにある。
結果として、彼女を傷つけてしまったし、彼女はそこから無惨によって悲惨な仕打ちを受けた。
無惨が彼女を嬲っているときも、止めることも出来ず、ただ傍観していたことにも罪悪感を抱かざるを得なかった。

しかし―――。
だからといって、このまま彼女に弄ばれてやるわけにはいかない。
自分が培ってきた想いと葛藤を知る由のない赤の他人に、殺されてなるものか。

「あんたが私の存在を抹消したいっていうなら、私だって容赦はしない!!
私は……私という存在を護るために、全力であんたを潰すから!!」

後退するウィキッドの身体に風穴を空けんとばかりに、貫手の連打を浴びせかけ、麗奈は叫ぶ。
それは、彼女この会場にきてから初めて示した、彼女の意思による、他者への明確な害意。
鬼としての本能からではなく、高坂麗奈の理性が、自己防衛のために選んだ行動だった。

「ぐっ、うっ……!……調子に乗るなよ……クソ女が!!」

麗奈の猛攻を捌きながらウィキッドは、苛立ちを露わにして、反撃。
右肩を穿たれつつも貫手を放ち、麗奈の左胸を貫く。

「ゴホッーーー」

口から盛大に血を零す麗奈。
しかし、ギリっと奥歯を噛み締め、ウィキッドを睨みつけると、その頬を渾身の右フックでぶん殴る。

「っ!」

顔面の骨が砕かれる感覚とともにウィキッドは、よろめきながらも踏み止まる。
そして、即座にお返しと言わんばかりの強烈なアッパーカットで、麗奈の顎を打ち抜く。

「あっ……うぅ……」

脳が揺れ、星が飛び散る感覚を覚えながら、麗奈はグラつくも倒れずに踏み止まる。
アメジスト色の瞳から、闘志が消えることはなく、一歩踏み出すと、ウィキッドのボサボサの髪を掴む。
そして、ブチリと音を立てて、頭部の肉と共に引き千切る。

「――っ!! 絶対に殺す……!!」

血塗れの顔で、激昂するウィキッド。
特大の手榴弾をその手に顕現させるや否や、自分が巻きまれるリスクなど考慮せず、それを麗奈に向かって放り投げ、直後―――。

一際大きい閃光と爆炎が山林地帯を揺らした。


488 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:45:48 DENnKdLs0



大いなる父の遺跡、倉庫内。
ここでも、豪風と破壊音が、絶えず轟いていた。

猛威を振るうは、鋼鉄の巨人アヴ・カムゥ。
かつては、トゥスクルとの大戦を起こしたシャクコポル族の國『クンネカムン』の主戦力。
全高5mほどの細身の身体に巨大な甲冑を纏った機動兵器であり、単機で一軍に匹敵するといわれるほどの殲滅力を誇る代物である。

「止まりなさい、岸谷新羅っ!!」

「それは出来ない相談だね、アリアちゃん」

その巨人を操舵する新羅は、諫めるアリアの声に耳を貸すことなく、倉庫内にいる参加者を追いかけ回し、その命を摘まんとする。
横に薙ぎ払われた大剣の一撃を避けたのは、折原臨也。
新羅の数少ない友人の一人であるが、そんな彼に対しても凶刃は容赦無く、振るわれる。
臨也は、池袋の非日常で培われたパルクールの技術を以って、巨人の攻撃を軽やかな身のこなしで回避していく。
臨也が新羅の攻撃を躱すたびに、倉庫内の空気が震え、埃や塵などが舞い上がる。
また剣を振り下ろせば、地面に亀裂が生じて、その破片が飛び散る。

「……。」

いつもの臨也であれば、こんな状況であっても、
さも、自分は余裕だ―――。
ここは自分が支配している盤面―――。
故に、盤面で起きる全ての出来事は計算の内であり、全て自分の思い通りになる――。
そう言わんばかりの、不敵な笑みを浮かべ、やり過ごしているはずなのだが……今回ばかりは少し様子が違った。

ただ無表情に――。
ただ無感情に――。
ただひたすらに――。

どことなく冷めた様子で、己の命を狩らんとする鋼鉄の巨人の攻撃を躱し続ける。
巨兵は、尚も臨也を追い掛けるが―――。

パァンッ!!!という乾いた音と共に、アリアの銃撃が、機体の剥き出しの左脚関節部を貫く。
―――瞬間動きが止まる、鋼鉄の機動兵器。
生じた隙に、左右からオシュトルとヴァイオレットがほぼ同時に飛び掛かり、それぞれの得物を以って、右上腕関節部、左上腕関節部に斬撃を叩き込む。

「……っ!!」

アヴ・カムゥの筐体内、新羅は自分の身体を襲う灼熱の痛みに顔を顰める。
この機体が如何に一騎当千の戦闘力を有していたとしても、弱点は存在する。
装甲部分は、斬撃はおろか弾丸ですら弾く硬度を誇ってはいるが、関節部は別である。
機動性を重視された設計故、該当部分は剥き出しとなっており、装甲が施されていない。
故に、関節部を狙えば、機体に損傷を与える事は可能――。オシュトル達は、先の一連のやり取りの中で、それを察知し、実践しているのである。
そして、アヴ・カムゥはその設計上、機体のダメージがそのまま痛覚となって搭乗者に伝わる仕様となっている。
故に、アリアの銃撃も、オシュトルとヴァイオレットの斬撃も、そのまま操縦者たる新羅に伝搬されていた。常人であれば、その痛みに悶え、のたうち回るところではあるのだが―――。

ブンッ―――!!!

「なっ!?」

「ちぃっ!!」

--“この程度の痛み”では、”彼”の“愛”は止められない。

身体を巡る激痛も何のその、”彼女”への絶対的な執着(あい)が、新羅を駆り立てる。
痛覚による静止は瞬間的なものとなり、鋼鉄の巨兵は、両腕を振るい、ヴァイオレットを吹き飛ばす。
ヴァイオレットは、その衝撃に表情を歪めるも、空中で身を捻り、着地すると同時に地を蹴り、再びアヴ・カムゥの元へと駆ける。
だが、当のアヴ・カムゥはというと、ヴァイオレットには目をくれず、振り回した勢いのまま、横薙ぎに大剣を一閃。今度はオシュトルを両断せんと試みる。


489 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:46:19 DENnKdLs0

「――ぐおっ……!?」

オシュトルは、金色の鉄扇で大剣を受け止める。
だが、勢い殺すこと叶わず、弾き飛ばされ、後方の壁に思いっきり叩き付けられてしまう。
全身の骨が砕かれるような間隔を覚えつつも、よろよろと立ち上がるオシュトル。
だが、呼吸を整える間もなく、アヴ・カムゥは、大剣を突き立て、巨体にあるまじき凄まじいスピードで突進してくる。

「……っ」

「オシュトルっ!!」

アヴ・カムゥの背後より、アリアは銃撃を、臨也はナイフを投擲し、露出した肩関節及び膝関節に攻撃を加える。
しかし、それでもアヴ・カムゥの動きを止めるには至らない、その進撃は止まらない。

「――行かせませんっ!!」

ヴァイオレットが躍動し、アヴ・カムゥの進路上に割り込む。
超人的な身体能力を以って、巨人の腕を伝い、頭部まで一気に駆け上がっては、その後頭部--操縦席つまりは新羅がいるであろうコックピット部分を外側から斧で打ちつける。
破壊が困難であれば、パイロットを引き摺り出す算段だ。

――が、アヴ・カムゥは即座に対応。
頭部を左右に激しく振って、ヴァイオレットを振り落とす。

「……くぅっ……!」

落下するヴァイオレットを他所に、巨人は再び剣を突き立て、進撃を再開。
その視線の先には、痛む身体を引き摺り移動せんとするオシュトルの姿がある。

(いやいやいや、待て待て待て待て待てぃっ……!!)

迫り来る巨大な質量が達する直前、オシュトルはどうにか真横へ跳ぶことで回避に成功--。
大剣を突き立て、猛スピードで突進してきたアヴ・カムゥは、そのまま倉庫の壁に激突。
その壁をぶち抜き、倉庫内に外気が入り込んでくる。
壁の向こう側より現れる景色は、遺跡の外側―――木陰に覆われ、陰鬱な情景を醸し出す山林地帯であった。

壁の向こう側より目に飛び込んでくるのは、遺跡の外側―――木陰に覆われ、陰鬱な情景を醸し出す山林地帯。
どうやら、この倉庫はこの施設の中でも、もっとも外側に面した場所に位置していたようだ。

そして、土煙が晴れた先。
倉庫内の一同は、対峙する二つの人影を認めることになる。

「―――オシュトルかっ!?」

「ロクロウっ!? それに月彦殿も……!?」

そこに居たのは、オシュトルにとって見知った顔――。
研究所で別れたロクロウと、先程別行動を取ったばかりの月彦の姿であった。


490 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:46:59 DENnKdLs0
「これは……どういう―――なっ!?」

偶然の再会に面喰らうのも束の間―――あることに気付き、更に目を見開くオシュトル。

―――それは、あまりにも異様な光景だった。

ロクロウの身体は傷だらけで、血塗れの状態。
そんな満身創痍の状態で、その刃を月彦に突き立てている。
月彦は、そんなロクロウに対して、身体の至る所から禍々しい触手を生やして、その先端を向けていた。
その姿はまさに異形―――。
少女たちを気遣っていた紳士の姿はどこにもなく、その眼差しは、刃のように鋭く、殺気に溢れていた。

(なぜ二人が戦っている……? それに月彦のあの姿は―――)

オシュトルは、混乱する頭で状況を整理しようと努めるのだが―――。

ドドドドドドドンッ――。

地響きを立てながら、瓦礫を踏み潰しつつ、駆け抜ける巨兵によって、思考は中断を余儀なくされる。

「―――駄目っ!! 逃げて!!」

オシュトルが警告を発しようと口を開くその前に、アリアが声を上げる。
刹那――アヴ・カムゥは、ロクロウと無惨の二人に向けて、大剣を振るう。
誰が相手であろうと関係ない。新羅にとっては、目に映る者は全て、彼女への愛を妨げる障害に過ぎないのだから――。

「「――っ!?」」

アリアの声に反応したのか、それとも自身の自己防衛本能が働いたのか――。
ロクロウと無惨は咄嵯にその場から飛び退く。
次の瞬間――アヴ・カムゥの大剣が、先ほどまで彼らがいた場所に振り下ろされ、轟音と共に大地が割れた。

「……おいおいおい、いきなりご挨拶じゃねえか、デカいの!!」

ロクロウは、お返しとばかりに、双刀でアヴ・カムゥに斬りかかる。
しかし、アヴ・カムゥの装甲の前には、刃が通らず、キンッという甲高い金属音が響き、顔を顰める。

「奴の鎧は、斬撃では貫けんっ。 装甲に覆われていない関節部を狙えっ!!」

オシュトルがそう叫ぶと、ロクロウが「成程な」と呼応。
アヴ・カムゥの足元に潜り込み、脚関節部分に斬撃を叩き込む。
ザシュリ!と今度は手応えあり。当然その痛みは、コックピット内の新羅の身体にも伝搬される。
しかし、それでも巨人の動きが止まることはない。
ダメージをものともせず、大剣を振るう。

「ちぃっ!!」

舌打ちしつつも、尚も果敢に斬撃を繰り出すロクロウ。
装甲の薄い関節部分には確実に刃は通るのだが、巨躯故の質量もあって、致命打を与えるには至っていない。
アヴ・カムゥは、ロクロウに向かい乱雑に剣を薙ぎ払うが、その悉くをロクロウは避け続ける。


491 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:47:33 DENnKdLs0

「……。」

一方で、月彦はというと、未だその場を動かず。
激しく斬り合うロクロウとアヴ・カムゥの様子を、疎ましそうな表情で眺めているだけであった。

「――月彦様っ!!」

「……。」

そんな月彦に対して、オシュトル、アリア、ヴァイオレット、臨也の四人は駆け寄るが、反応はなし。
一同を代表するように、オシュトルは更に一歩前へ出て、月彦に問いただす。

「貴殿に尋ねる。ロクロウと何があった? その背中に生えているそれは何なのだ……。
それに、麗奈殿と茉莉絵殿は何処にいる!?」

「―――お嬢様……」

オシュトルの言葉に、ヴァイオレットは、ピクリと反応。
彼女からしてみると、月彦は麗奈を伴って、学校へ向かったはず――。
それが、何故ここにいるのか、同行していた麗奈は今何処にいるのか、疑問が湧き出る。
しかし、月彦は、依然として沈黙を貫き、オシュトルの方を見向きもしない。

「答えてくれ、月彦ど―――」

「黙れ」

瞬間、突風が吹き荒れたかと思うと――。
月彦はオシュトルの頭部目掛けて触手を振るった。

「っ!?」

「オシュトルっ!?」

無惨からすると、埃を払った程度で振るったものではあるが、オシュトルにとってその衝撃は絶大――咄嗟に鉄扇で防ぐも、先のアヴ・カムゥの一撃に引けを取らぬ威力を殺すこと叶わず、後方に弾き飛ばされ、地面を転がる。

「……お前達もそうだ……。
此の地で出会う人間は、悉く私を苛立たせてくれる――」

地を這べるオシュトルを睨みつけ、青筋を浮かべる無惨。
その背中から生えた複数の触手は、禍々しくうごめいている。

「……下等な存在である貴様ら『人間』如きが、私に詰問するなど、身の程知らずも甚だしいぞ」

(ぐっ……何て殺気だ。これが、この男の本性か……)

凄まじいプレッシャーを放つ無惨に対し、オシュトルは息を飲み、アリアとヴァイオレットもまた、その尋常じゃない威圧感に気圧される。
一切の発言すらも許されそうにない、そんな緊張感が場を支配する中――。

「――いやぁ残念だよ、月彦さん。あんたとは、仲良くできると思ったんだけどさぁ。」

臨也は、いつも通り軽薄な口調で語りかけていた。
月彦が纏う剣呑な雰囲気など歯牙にかけず、ヘラヘラとした態度で接する。

「まさか『化け物』の類だったとはねぇ…。
まぁいいや…茉莉絵ちゃん達はどうしたんだい?」

「……。」

臨也からの問いかけに、無惨が返答することはない。
ただギロリと虫ケラを見るような視線を向ける。
やたらと馴れ馴れしく喋りかけてくる、目の前の男--初対面の頃から、何かと癪に触る。
触手を軽く振るえば、その頭部は、果実のように簡単に弾けることになるだろう。
その減らず口を永遠に黙らせようと、無惨は実行に移さんとしたその時――。


492 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:48:40 DENnKdLs0
ドォンッ!!!

「ッ!?」

遥か後方より、けたたましい爆音が鳴り響くと、無惨はハッとした様子で、音の聞こえてきた方角へ視線を移す。
ロクロウとの戦闘に気を取られ、知らぬうちに随分と離れてしまっていたようだが、あの場所には、ウィキッドと麗奈を残していたはず。
二人っきりのその状況と、今の爆音から導き出される結論は―――。

「な、何……今の音?」

「……忌々しい下女めが……!!」

混乱するアリア達を他所に、魔女が引き起こしているであろう蛮行を苦々しげに思い浮かべると、無惨は憤りを口にする。
麗奈自身には思い入れなど微塵もないが、彼女が太陽克服の為の生命線であるのは違いない。
その彼女が危機に瀕しているというのであれば、ここで油を売っているわけにもいかない。
急いで彼女を保護せんと、踵を返そうとするが――。

ドドドドドドドンッ――。

「……っ!!」

ロクロウを吹き飛ばし、勢いそのままに突進してきたアヴ・カムゥによって、その進路を阻まれる。

「次から次へと湧いて出てくる、虫けら共めがっ!!
揃いも揃って、私の邪魔をしてくれるっ……!!」

怒りの形相で吼える無惨に、進撃の巨人は容赦なく大剣を振り払う。
無惨は上空に飛び退き、これを回避。
そのままアヴ・カムゥの頭部を目掛けて触手を一切に射出。
神速の触手が、弾丸の如くアヴ・カムゥの頭へと殺到するが――。
その攻撃は、頭部を覆う装甲を貫くには至らず――少しグラつかせる程度に留まる。

そして――。

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

”この程度の痛み”で、怯むほど、“彼”の愛は温くない。

新羅は、彼らしくもない咆哮と共に奮起。
大剣を突きたてると、その切っ先で、無惨の身体を串刺しにせんと突貫。
無惨は空中でひらりと刺突を躱すも、全速力で迫りくる機動兵器の胴体部自体を、完全に避けることは叶わず――。

バ ゴ ン !!

無惨は、強烈な体当たりを喰らい、その体躯は派手に吹き飛ばされる。

「――っ!!」

アヴ・カムゥの巨体が直撃したことで、無惨の身体は地面を跳ねるように転がり、先程突き破った岩壁の向こう側――遺跡の倉庫の中へと吸い込まれていく。
アヴ・カムゥもまた、これを追撃。勢いそのまま、地響きと共に、遺跡の中へと駆け抜けていく。

そして、更にそれを追う影がまた一つ。

「―――待て、ロクロウっ!!」

傷だらけの満身創痍の状態であるにもかかわらず、笑みを張りつかせ、駆け出すロクロウ。
オシュトルの呼び止めも虚しく、ロクロウは、アヴ・カムゥの後を追って、走り去ってしまう。
山林エリアに取り残されたのは、オシュトル、ヴァイオレット、臨也、アリアの四人。


493 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:49:05 DENnKdLs0
「ロクロウ……あの戦闘狂め……。また周りが見えんようになっている……」

「ねぇ、オシュトル……一応あいつは味方ってことで良いのよね?」

溜息をつくオシュトルに、アリアは困惑気味に尋ねる。
それは無理もない――新羅といい、月彦といい、今まで味方だと思っていた連中が立て続けに牙を剥いてきたのだ。
誰が味方で、誰が敵なのか……今一度、整理する必要があった。

「あぁ…戦いに熱が入ると、他のことが疎かになってしまう悪癖はあるが……。
少なくとも、某とヴァイオレット殿とは協力関係にはある」

「……そう……。なら、放っておくこともできないわよね……。」

アリアは、眉をひそめると、向こう側に視線を向ける。
あの三人は今も殺しあっているのだろう。
未だに、岩壁の向こう側では激しい破壊音と衝撃が断続的に続いている。

そんな状況をオシュトルは、さてどうしたものかと思案する。

(下手に介入すれば、こちらの戦力が削がれてしまう……。
ロクロウには悪いが、ここは引き揚げて、連中に潰しあって貰ったほうが得策ではあるのだが―――)

とここで、チラリと隣に佇む彼女たちを見やる。
ヴァイオレットは胸に手を当て、いかにも心配そうに、アリアは依然として怪訝な表情で、混沌と化しているであろう戦場を眺めていた。

(やはり……この二人が、それに賛同してくれるとは到底思えんよな……)

臨也はともかく、これまでの言動を鑑みるに、アリアとヴァイオレットはオシュトルの考える「誰かを切り捨てる」という案に乗っかることはないだろう。
恐らくは、ロクロウのみならず、「乗った側」に転じた新羅ですら、どうにか救い出さんとするはずだ。
そんな彼女らを説得するなど、現実的ではないし、そもそもそんな時間は残されていない。
彼女らと袂を分つ選択肢もあるにはあるが、協力者を失うのはあまりに惜しい。
であれば、二人の考えを尊重した上で、行動を決定すべきであるのだが、生憎と現状は、他にも憂慮すべき事項がある。

(―――行方知らずの、茉莉絵と麗奈……それと、先程の爆発か……)

月彦が危険人物だと判明した以上―――彼と共に、遺跡内のコンピュータルームに残してきた、二人の少女の安否は非常に気掛かりだ。
それに先程の爆発音―――此処からはそう遠くはない。
彼女たちが何かしらの災厄に巻き込まれている可能性は十分にある。
目の前の修羅場の対処と、彼女たちの捜索―――二つの課題を突き付けられている現状で、どのように動くべきなのか―――。
恐らくはオシュトルだけではなく、アリアもヴァイオレットもその認識はあり、次に打つべき行動を模索しているように見てとれる。

「――さてさて、この状況で、俺達はどう動くべきだと思う?」

そんな中、オシュトル達の心の内を代弁するような問い掛けが投げられた。
その場にいる全員が、その声の主――臨也の方へ視線を向ける。
そんな一同の視線を一身に浴びながら、臨也はねっとりとした視線で三人を見返す。
まるで、試されているような――そんな感覚を覚えながらも、オシュトルは問い返す。

「まずは、臨也殿の考えを聞かせて頂けぬか?」

「うーん……そうだねぇ……。」

臨也は、顎に手を当てつつ、わざとらしく首を傾げながら、

「さしあたり―――」

ニヤリと口元を歪ませ、とある提案を口にするのであった。


494 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:49:43 DENnKdLs0


遺跡入口前の山林地帯は、まさに地獄のような修羅場が展開されている。
爆音とともに奏でられるは、少女たちの怒号と慟哭。
土のキャンパスには、彼女たちの鮮血と焦げた跡が彩り、血みどろの闘争は激化していく。

「ハァハァ……」

肩を揺らし、苦しそうに呼吸をする麗奈。
全身は傷だらけ。部位によっては、千切れていたり、ピンク色の肉と共に骨までも露出し、見るも悲惨な状態となっている。
それでも麗奈は歯を食いしばり、再び駆け出すと、対面の魔女と正面衝突を果たす。

―――どうして……?

麗奈は思う。
爆音が鼓膜を貫いて。
肉の焦げた匂いが鼻腔を突き抜いて。
灼熱が体内を駆け巡り。
内臓から溢れる血液の味に、生温かさを感じながら。

―――何でこんなこと、しなくちゃならないの……?

麗奈は抗う。
理不尽に発現した、即興の暴力を以って。
自分を亡き者にせんとする、目の前の悪意に対して懸命に抗う。

―――何でこんな仕打ちを受けなきゃならないの……?

麗奈は嘆く。
二十四時間にも満たない、この僅かな時間で。
自身に立て続けに降りかかった、幾多の理不尽を嘆く。

―――私、何か悪いことした……?

麗奈は憤る。
悔しい―――。ムカつく―――。
彼女の夢と目標を潰さんとする目の前の少女と。
今自身が直面している現実(じごく)に、腹を立てる。

―――ただ、「特別」になるために、ありったけの時間と情熱を捧げて、精一杯練習してきただけなのに……。

これで何度目だろうか。
少女が放った貫手は、相手の少女―――ウィキッドの腹部を穿つ。
肉を穿つ感触と、妙に生暖かい液体と臓物の感覚が、自身の右手から伝わってくる。

「―――違う……。」

非常に不愉快で、気持ち悪い、吐き気すら催すような感覚に、麗奈はボソリと呟く。
その腕を引き抜くと、もう片方の手で拳を作り、ウィキッドに対し殴りかかる。
そして叫んだ。

「―――私の手は、こんな事をするためにあるものじゃないっ!!」

涙を流しながら。悔しさに身を震わせながら。
心からの叫び声を上げる麗奈。


495 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:50:34 DENnKdLs0

「知らねーよ、カス」

しかし、麗奈の拳も、慟哭も届くことはない。
必死に食らいつてくる麗奈に対し、ウィキッドは忌々しげに、眉を顰めると、爆弾を投擲。
直後爆発―――麗奈の身体はグチャグチャに弾け飛ぶ。
だが、それで終わらない。損傷した部分は、例によって再生を開始していく。

「もういい加減うぜえんだよ、てめぇは!!」

苛立ちを募らせたウィキッドは、グロテスクな様相を成している麗奈を押し倒し、そのまま馬乗りになり、何度も何度も拳を顔面に打ち付ける。
既に原型を留めていない顔からは、眼球や舌などあらゆるものが飛び散っている。
それでも尚、麗奈の意識は途絶えることなく、顔面は元の整った形へと戻っていく。

「―――うざいのはお前だ、イカレ女!!」

直後ブリッジするかのように上体を起こそうとする麗奈。
しかし、それよりも早く、麗奈の顔面にウィキッドの拳が炸裂。
頭蓋を陥没させられ、脳髄を貫かれ、ウィキッドの虚を突くことは叶わなかった。

「クソ女が!! 私はお前みたいな女が大っ嫌いなんだよ!!」

芯は折れず、強気な姿勢を保とうとする麗奈。
そんな彼女の態度が気に障ったのか、ウィキッドは何度も何度も執拗にまで、麗奈の顔面を打ち据える。
そして顔面を粉砕される度に、麗奈の下半身はビクンビクンと痙攣を起こしていく。

―――ああ、もう何でこんな奴に……。

永遠にリピートされる殴打の嵐の中、麗奈は思う。

――こんな女の気分一つで、私が今までやってきたことが全て無駄になるなんて……。

自分の人生は、今まで苦心してきたことは、一体何だったのだろう?
そう考えるだけで、悔しくて悲しくて、心が張り裂けそうになる。

「ぜぇぜぇ……。思い知ったか、クソ女……」

怒りの感情のままに麗奈をいたぶっていたウィキッドは、額の汗を拭う。
麗奈は、必死にもがこうとするも、それは制される。
結局のところ、即興で得た暴力では、麗奈は、魔女に打つ勝つことは出来なかった。
日常生活で培われた痛み、傷つけ傷つけられの修羅場への経験値の差が、両者に致命的な差を生じさせていたのであった。

「―――そろそろ、終わりにしてやるよ」

ようやく気が晴れたか、ウィキッドは、麗奈の全てを終わらせるべく、彼女の首輪の方へと腕を伸ばす。
言動から、彼女が自分を仕留めにきていると察した麗奈。
しかし、ウィキッドに馬乗りにされてる手前、逃れることも出来ない。


496 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:51:00 DENnKdLs0

「―――助けて……。」

迫りくる最後の瞬間(とき)。
走馬灯のように頭の中で駆け巡るは、吹奏楽に打ち込んだ日々に、久美子を始めとした部活メンバー、そして憧れている「あの人」。
そんな光景を思い浮かべながら、麗奈は助けを求めた。
もう自分では、どうすることも出来ないと判っているからこそ、彼女は他所に縋るしかなかったのである

―――嫌だ、死にたくない。
―――まだ、やりたいこと、やり残したことがあるのに。
―――こんなところで、全てを終わらせたくはない。
―――だから、お願い。誰でも良い、誰でも良いから……。

そんな切なる願いを込めて、麗奈は叫んだ。

「誰か助けてよ!!」

直後――。

「……畏まりました、お嬢様……」
「―――っ!?」

突如、何処からともなく聞こえてきた第三者の声。
それに反応したウィキッドは、即座に麗奈から離れ、結果として麗奈は解放される。
麗奈は慌てて上半身を起こすと、声の主を探すように辺りを見回す。
するとそこには――。

「――ヴァイオレットさん……?」

金色の髪を靡かせ、斧を構えて佇む、美しき自動書記人形がいた。
麗奈がこの会場で初めて出会い、彼女の想いに触れてくれた少女である。
そして、その隣には―――。

「そこまでよ! 風穴あけられたくなかったら、大人しくなさい!」

銃を構えて、ウィキッドを牽制するツインテールの少女の姿があった。


497 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:51:36 DENnKdLs0



二手に別れようか―――臨也からの提案は、遺跡内で闘争を繰り返す無惨達の対処に、オシュトルと臨也の二人が、消息不明の麗奈達の捜索に、アリアとヴァイオレットの二人が担当するというものであった。
無惨達の戦闘規模を考えると、戦力を分散するにしても、3:1の比率で、無惨達の対処の方に比重をかけるべきなのでは、とアリアは異議を唱えたが、「念のためさ」と押し切られてしまった。

「あんた……茉莉絵よね……?」

だが今は、あの時の臨也の采配は的を得ていたのだと、そう思わざるをえない。
あちこちに飛び散っている血液の量と、まるで空襲でも受けたかのように、焦土と化した大地を見て、此処でも無惨達に引けを取らない災厄が勃発しているのだと悟った。
そして、その災厄の起源は目の前の二人の少女にあると、認識している。

「――ああ、そうだよ……」

アリアの問いかけに、ポリポリと頭を掻き、面倒臭そうに応じたのは、初見の頃とは容姿の異なる茉莉絵。
如何にも大人しそうで、真面目な優等生――それが、初対面の時に、アリアが茉莉絵に対して抱いていた印象だったが、今目の前にいる彼女からは、その気配は一切感じられない。
髪はボサボサ、肌は不必要に露出させ、品性というものはまるで感じられない。
それこそ彼女が、ハンドルネームとして使っているという「ウィキッド」という名前に相応しい姿となっていた。

「答えなさい、どうして麗奈を襲っていたの?」

茉莉絵の豹変ぶりについては、まず置いといて、事情把握に努めようとするアリア。
アリア達からすると、オシュトル達から分かれて、爆発音が発生した場所に向かったところ、茉莉絵が麗奈を一方的に嬲り、麗奈が助けを叫んでいるところに遭遇したため、このように現行犯と思しき茉莉絵に対して、銃口を向けて牽制している。
しかし物事には必ず表裏が存在する。見てくれだけで、どちらが善悪なのかを判断するのは早計だ。
故に、アリアは茉莉絵への尋問を続ける。

「どうしてって? こっちは正当防衛のつもりなんだけど……?
そこにいる化け物女が、月彦と一緒に私に襲い掛かってきたから、応戦しただけなんだけどさぁ!!」

「っ―――!!」

ギロリと、麗奈を睨みつける茉莉絵。
射殺せんとばかりのその視線に、麗奈は一瞬怯みかけるも、直ぐに気を取り直して、睨み返す。

「本当なの、麗奈?」

「……お嬢様……?」

「わ、私は―――」

「いつまで、良い子ぶって被害者面してんだよ、クソ女!! アンタらから仕掛けてきたのは事実だろうがよぉ!!

「……っ!! 黙ってろよ、イカレ女!!」

「はいはい、二人とも興奮しないの」

罵り合いを始める麗奈と茉莉絵の間に割って入るアリア。
初対面時には、真面目でどことなく何かに怯えている様子の麗奈であったが、まさか彼女も、茉莉絵と同様に、こんな攻撃的な一面を持っていたとは想像だにしなかった。


498 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:52:08 DENnKdLs0

「麗奈、何があったか、教えてくれるかしら?」

茉莉絵は尚も銃口を向けて牽制しつつも、尋問を続けるアリア。
彼女としても、今の茉莉絵の供述には引っかかるところがあった。
元々月彦と麗奈は、一緒に行動していたと聞いている。その月彦が危険人物であった点を鑑みると、その片割れだった麗奈が彼と共謀して、他の参加者を秘密裏に排除している可能性も排除しきれなかった。

「……わ、私―――」

麗奈は何かを言いかけようとするが、喉からそれ以上の言葉がでてこない。
何かに怯えて、言い淀んでいるように見える。

「お嬢様……」

そんな麗奈にヴァイオレットは、優しく手を握る。

「―――ヴァイオレットさん……」

「お嬢様、どうか何があったか教えてください。
大丈夫です―――何があったとしても、私はお嬢様の味方です……。」

ヴァイオレットは麗奈の手を握ったまま、真っ直ぐ彼女の目を見つめる。
手袋越し握ってきたその感触は、無機質ではあったが、麗奈にとってはこの上なく温かく感じられた。
そして、少しずつ落ち着きを取り戻し、やがて彼女は大粒の涙を零し、口を開く。

「……助けて……。助けてください―――」

そして麗奈は語りだした。
ヴァイオレット達と別れて、遺跡に至るまで何が起こったのかを―――。
自分が月彦によって、鬼にされたということ―――。
月彦から、服従を強いられていたということ―――。
鬼化に伴う食人衝動によって、既に一人の参加者を喰い殺してしまったこと―――。
その食人衝動によって、茉莉絵に危害を加えてしまったこと―――。
その後、月彦によって、茉莉絵も鬼にされてしまったこと―――。

麗奈が見聞きしたことを、包み隠さず伝えた。

「――そんな事が……」

「月彦の奴、許せないわね……」

麗奈の話が一通り終わると、ヴァイオレットはあまりにも酷な内容に言葉を失い、アリアもまた諸悪の根源たる月彦に対して、怒りを顕した。

「……お嬢様……私が責任を以って、お嬢様をお護りいたします。
だから、ご安心ください」

「……ヴァイオレットさん……」

改めて麗奈の手を握り直し、優しい口調で慰めるヴァイオレット。
麗奈は涙を零しながら、その手にすがりつく。
辛かった、本当に辛かった。辛くてどうしようもなかった。
先輩にも見捨てられ、もう希望はないと思っていた。
月彦がどうしても怖かった。
だけど、それでも、ヴァイオレットは、化け物になってしまった自分を受け入れてくれた。
その事実に麗奈は救われた気がした。


499 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:52:42 DENnKdLs0

「――なあ……」

だが、その時、今まで沈黙を貫いていた茉莉絵が、口を開いた。

「何勝手に反吐が出るような茶番見せつけて、締めようとしてんだよ?
こっちは、そこのクソとあのワカメ頭にやられっ放しでムシャクシャしてんだよ。
どう落とし前つけてくれんだよ、オイ?」

依然として、不機嫌そうな表情を浮かべる茉莉絵。
麗奈を睨みつけたまま、詰め寄ろうとする。

「止めなさい―――話を聞く限り、諸悪の根源は月彦にあるわ。
麗奈もあんたも被害者よ。それに、あんたがやってきたのは過剰防衛。
これ以上の暴力行為は認められないわ」

茉莉絵の前に立ち塞がったまま、銃口を向けて牽制するアリア。

「はぁ? あんたらはコイツの肩を持つわけ?」

「今の話を聞けば、麗奈が望んで、あんたを襲ったわけではない事は分かるでしょう?
今ここで麗奈をどうこうするのは、おかしいわ」

「何勝手に裁いて話進めてんだよ、ピンクチビ」

「なっ…ピ、ピンクチ――!? と、とにかく、ここは下がりなさい。
ここで、私たちが争っても意味がないわ」

「―――お嬢様、私の後ろに……」

茉莉絵の口から飛び出た暴言に、アリアは動揺するも、何とか平静を保ちつつ、茉莉絵に下がるように促す。
しかし、茉莉絵はアリアの言葉に聞く耳持たず、そのまま麗奈に向かって歩み寄ると、ヴァイオレットは麗奈を庇うように前にでて、彼女を背に隠しながら、斧を構える。

茉莉絵はそんな三人の姿を、冷めた眼差しで見つめ、大きくため息をつく。

(はぁ…うっざ……)

アリア達が介入してからは大人しく対応していたつもりだが、もう我慢の限界だった。
特に、麗奈とヴァイオレットが見せつけてきた一連のやり取りは、絆や友情といったものを忌み嫌う彼女にとっては度し難いものであった。

それに、この雰囲気――小学校時代に体験した学級会を思い出す。
そこで、茉莉絵はターゲットの女子を陥れようとしたが、逆に女子共の逆襲にあって、逆に茉莉絵が、弾劾裁判を掛けられる羽目となった。
今の状況に当て嵌めると、麗奈がターゲット、ヴァイオレットが取り巻きの女子共、アリアが担任の女教師といったところか。

「……もう、いいや……」

ボソリと呟く茉莉絵。

――瞬間。
彼女は手榴弾を発現。ピンを外して、それを投擲。

「てめえら、全員仲良く死んじゃえよっ!!」

魔女は再び殺意を剥き出しに、三人に襲い掛かるのであった。


500 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:53:20 DENnKdLs0



遺跡内の大倉庫は、再び戦場と化している。
そこでは、無惨、ロクロウ、そして、新羅が乗り込むアヴ・カムゥによる三つ巴の闘争が繰り広げられている。
しかし、それは決して拮抗したものではなくなっていた。

「このっ……!!」

空気が破裂するような轟音とともに、鋼鉄の巨人は変わらず大剣を振り回しているが、いずれの斬撃も無惨とロクロウを捉えることは出来ず、倉庫内の床やコンテナを粉砕するに終わり、操縦席に座る新羅は歯噛みする。
巨人が繰り出す一撃一撃は紛れもなく必殺と呼べるほど重く、並大抵の者なら、直撃を受ければ、一溜りもないだろう。
しかし、相手は鬼の王と夜叉の業魔―――類稀なる反応速度を有する彼らにとって、これを躱すのは造作もない。
加えて、二人はまた超人的な俊敏性を以って反撃を仕掛けてくるが、アヴ・カムゥがそれらの攻撃を捌くことは出来ず、被弾を許す。

如何にアヴ・カムゥが叩きつける斬撃が強力無比であろうと、如何にアヴ・カムゥの装甲が硬かろうと、その動きは、新羅の人並みの反応速度による操縦によって成り立っている。
故に、巨人兵はロクロウと無惨の速度についていけず、翻弄される羽目になる。

「そろそろ、暴れ疲れてきたんじゃねえのか、デケエの!!」

振り下ろされた巨剣の斬撃を掻い潜りながら、ロクロウはアヴ・カムゥの真下から跳び上がり、その首筋---装甲の僅かな隙間を狙って刃を振るう。

「ぐぅっ……!」

首を切り刻まれる激痛に、思わず声を上げる新羅。通常であれば、ショック死してもおかしくないほどの痛みだが、彼は意識を失うことはない。

「それでも僕は―――」

その瞳に強い意志と揺るぎない覚悟を宿し、朦朧とする意識を繋ぎ止めると、再び剣を振り回し、“愛”を叫ぶ。

「セルティに会いに行くっ!!!」

「……ッ!?」

新羅が発した「セルティ」という聞き覚えのある名前に、ロクロウの顔付きが変わる。

「そうか…お前が……」

それまでの好戦的な表情から一変して、真剣な面持ちを浮かべ、巨人の追撃を躱していく。
セルティ・ストゥルルソン---第一回放送後、シドーによってその命を散らした首無しの彼女の名だ。
ロクロウは彼女の人物像を詳しく知らないが、久美子達からは、彼女にはパートナーと呼ぶべき男性がいたと聞き及んでいる。
恐らく、眼前の巨人を操る男がそうなのだろう。

であれば、彼女の死に責を負う者として、この男と向き合わなければなるまい。
ロクロウはそのように思考して、剣を構え直すが―――。


501 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:53:49 DENnKdLs0

「喚くな、耳障りだ」

ロクロウよりも先に、無惨が攻勢をかける。
ロクロウによる斬撃が効かされたように見えたアヴ・カムゥ。
それに対し、無惨は、今こそが狩り時と判断して、複数の触手をマッハのスピードで一斉放出―――唸りを上げる触手は、アヴ・カムゥの頭部に殺到する。

「―――がは……!!」

思わず、悲鳴を漏らす新羅。
頭部を覆っている装甲の硬さは変わらず、貫くまでは至らないが、それでも怒れる鬼の王の一撃一撃は、決して軽視できるものではなく、鋼鉄の兵の頭部を激しく揺らし、怒涛の連撃を繰り出していく。
そのダメージは、操縦席にいる新羅にも確実に伝搬され、鈍器で打たれたような衝撃が、彼の頭部に繰り返し襲ってくる。

ピシリ

そして怒涛の連撃により、アヴ・カムゥの頭部装甲に亀裂が生じ始める。
蓄積されていくダメージに耐えかねるように、それは広がっていく――。

「悪いが、そいつの首をくれてやる訳にはいかねえな!!」

ロクロウが無惨へと肉薄すると、双剣を横薙ぎに振るい、無惨に斬りかかる。

「貴様っ……!!」

無惨としては、ここで一気に畳み掛けるつもりだったのだが、ロクロウによって阻まれてしまう。
無惨は、苛立ちを募らせながらも、後退しつつ、ロクロウの斬撃を回避。
今度はロクロウに標的を定めて、触手を伸ばし、ロクロウも受けて立つべく、無惨の元へと地を蹴り上げる。

接近する両雄―――。
ロクロウは再び双剣による連撃を浴びせんと、奥義の構えを取る。

「――嵐月流・白さ――!?」

グゥオン!!

しかし、両者が激突する寸前、風を切る音と主に、よろめきながら振り回されたアヴ・カムゥの巨剣が、ロクロウに襲いかかった。
ロクロウは舌打ちをしつつ、上体を反らすことで、事なきを得る。

―――が。

そんな一瞬の隙が、この戦場では命取りとなる。
瞬間、ロクロウの右腕は、剣を握りしめたまま、宙に舞う。

「……チィッ!!」

鮮血を噴き出し、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべるロクロウ。
無惨の触手が、ロクロウの腕を切断していたのだ。
無惨は、すかさずロクロウを仕留めるべく、触腕を振るうが―――。

グゥオン!!

それよりも前に、振り回された装甲兵の剛腕がロクロウに直撃し、吹き飛ばす。

「ぐぅっ……!!」

全身の骨が砕かれるような感覚に、苦悶の声を漏らすロクロウ。
そのまま凄まじい勢いで壁に叩きつけられると、がっくりと項垂れ、沈黙する。

グゥオン!!

続けざまに響く風を裂く音―――。
三つ巴の一角を排除できたと認識したアヴ・カムゥは、残った無惨の方へと巨剣を振り下ろしたのだ。

「……残るは貴様という訳だ……」

無惨は即座にこれを回避―――。
眼前の忌まわしき巨人を屠らんと、その頭部目掛けて、複数の触腕を一斉に振るう。

「……行くよ、セルティ……」

巨兵に引くという選択肢はない。
意識が朦朧とする中、新羅は怯むことなく、無惨に立ち向かう。

そして、大量の触手がアヴ・カムゥの頭部装甲に迫りーーーー。

パリン!!

甲高い音を響かせながら、装甲は遂に破壊されて、挙兵の頭部が露わになった。
それでも、新羅は退かない。無惨に一太刀浴びせんと尚も、大剣を横なぎに払おうとする―――。

だが。

グシャリ!!

「……ぁ……」

露わになった巨兵の頭部は、無惨が続けざまに放った触腕によって、その右半分をごっそりと削がれた。
そして、それに連動し、操縦席にいる新羅にも、頭部を吹き飛ばされるという通常ではありえない痛覚がフィードバックされ―――。

「……」

アヴ・カムゥもまた沈黙するのであった。


502 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:54:24 DENnKdLs0



「きゃははははははっ、死ねっ!! 死んじまえよっ!!」

嬌声を上げながら、無尽蔵に爆弾を投げ続けるウィキッド。
戦場で踊り狂い、ありったけの爆撃を見舞い、辺り一面を宇宙の塵へと変えていく、その様はまさに「コスモダンサー」。
彼女が踊るその戦場には、彼女の他にも、二つの人影が行き来する。

「あんまり、おいたが過ぎると、風穴あけることになるわよ、茉莉絵!!」

「やってみろよ、ピンクチビィッ!!」

接近を試みるアリアに対し、ウィキッドは手榴弾を投擲。
アリアは投擲に気付くも、退くことはせず、手に握るIMI デザートイーグルでこれを撃墜―――この程度の狙撃は、Sランク武偵『双剣双銃(カドラ)のアリア』にとっては造作もないことだ。
アリアは、撃墜と共に生じる爆炎の中をそのまま掻い潜り、ウィキッドに肉薄。
そのまま、回し蹴りを放つが……。

「おっとっと♪」

「チィッ!!」

アリアの脚が触れる直前、ウィキッドは舌を出しつつ、上体を大きく反らし、これを回避。
更にバックステップで距離を取りつつ、手榴弾を投擲せんとするが、今度は金色の影が、それを阻むように割り込む。

「――させません!!」

ヴァイオレットが、斧を一閃。

「きゃはっ♪」

ウィキッドはスカした笑みを浮かべつつ、これを躱す。
即座に反撃せんと、ヴァイオレットに爆弾を投擲しようとするも―――。

ババババン!!

ここで乾いた銃声が四回木霊すると、彼女の手脚四箇所から、ほぼ同時に出血が発生する。
アリアがウィキッドの無力化を狙い、発砲したのである。
しかし、それでも魔女は、余裕の笑みを張り付けたまま―――。

「それが、どうしたんだよ、ゴミクズどもっ!!」

「なっ……!?」

踊るようにして、無数の爆弾を撒き散らす。
ヴァイオレットは苦しげに、その爆撃を、身を翻して避け、アリアは狙撃で撃ち落としていくが、その勢いは止まること知らず。

「――傷が……回復している……?」

「きゃはははははははっ、どうやら、そうらしいぜ。あのワカメ頭が私の身体を弄ってくれちゃったせいで、私もあいつらと同じ化け物の仲間入りになったってわけだぁ!!」

アリアの言葉通り、ウィキッドの手脚は先の銃撃により流血していたものの、瞬く間に傷は塞がり、再生していく。
そして鬼化に伴い、強化されたのは治癒力だけではない。
μより与えられた、メビウスを維持する楽士としての強化された身体能力―――そこから更に“鬼化”による過剰強化が施されて、今やアリアとヴァイオレットを凌駕する俊敏性で、彼女達を翻弄する。
更にタチが悪いことに、一思いに仕留めにいくのではなく、じわりじわりと追い詰め、二人が焦っていく姿を眺めることを愉悦としながら、その爆撃を加速していく。
ウィキッドが口角を吊り上げていくのに比例して、ヴァイオレットとアリアの二人は劣勢に立たされてゆき――。

「――がはっ!!」

「……きゃぁ!?」

遂には、四方八方から繰り出される爆撃を捌ききれず―――。
アリアとヴァイオレットは、二人揃って爆風を真面に受けて、吹き飛ばされてしまう。
そんな彼女達の姿を見て、ウィキッドは更に嘲笑うかのように、高笑いを上げ始める。

「きゃははははははははははは、さっきまでの威勢はどうしたんだよぉ、ピンクチビに、人形女っ!!
もっともっと、みっともなく足掻いて、私を愉しませてみろよ!!
ほーら、お代わりだよっと!!」

地面を転がる二人に向けて、追撃の爆弾を投擲。
二人は地面を転がりながら、どうにかこれから逃れんと試みるも、完全な回避には至らず。
爆風によって、まるでボールのように、弾き飛ばされてしまう。


503 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:54:52 DENnKdLs0

「―――まぁ、あんたらはデザート。あんたらで遊ぶのは一旦お預けで……」

爆風によるダメージに悶える二人の様子に満足げなウィキッドは、追撃を早々に切り上げると、戦場(ステージ)の外―――少し離れた山林のその奥、崖寄りの場所で傍観に徹していた麗奈を見据える。

「お供の肉壁共に護られて、自分は安全地帯から観戦で気分はお姫様〜♪ ってかぁ?
やっぱ、てめえが一番気に入らねえんだよな、クソ女ぁあああ!!」

「――あんたっ……!!」


罵声を浴びせつつ、ウィキッドは麗奈に向かって一直線に突っ込んでいく。
迫り来る破滅を運ぶ魔女に、麗奈は一瞬、怯んだ様子を見せるが――。
真っ直ぐにウィキッドを睨み返し、迎撃すべく駆け出す。
そのまま両者の距離は縮まっていくが、正面衝突を果たす寸前で、ウィキッドは真横に跳躍。
麗奈目掛けて、小型の爆弾を複数投げつける。

「このっ……!?」

勢いに任せたまま、殴り合いに臨もうと意気込んでいた麗奈は、これを咄嵯の反応で回避しきれず爆発。
爆炎を一身に纏い、目も当てられないような姿と成り果て、フラフラと風に煽られるように揺れ動く。
ウィキッドはというと、ここぞというばかりに、爆弾を投擲し続けて、彼女に更なる追い討ちをかけ続ける。
悲鳴を上げる間もなく、怒涛の勢いで爆撃に晒され続け、麗奈の身体は原型を留めないまま仰け反り、後退していく。
そこへ、爪を立てながら、ウィキッドが接近。

「死ね、クソ女ぁ!!」

「ーーーいい加減にしろーーーっ!!」

魔女の手が、麗奈の首輪に届く寸前、小さな影が横槍を入れる形で割って入り、ウィキッドに体当たりを敢行。

「てめえ、ピンクチビぃいい!?」

死角からの弾丸タックルに、ウィキッドは対処できずにそのまま転倒。
二人はもつれ合いながら、山の斜面を転がっていく。

「……ぐぅ……!! 放せ、コラァっ!!」

「……誰が、放すもんですか!!」

ぐるぐる360度の回転を続けながらも、引き剝がそうとするウィキッド。
しかし、アリアもまたその小さな身体で培った逮捕術を駆使し、必死に彼女を抑え込もうとする。
そのまま両者は、無我夢中で取っ組み合いを続けて、落ち葉を舞い散らしつつ、急速に斜面を下っていき―――。

「ーーーアリア様っ!!」

やがて、二人の身体は宙に投げ出され、揉み合いながら崖下へと転落していく。
遅れて駆け付けたヴァイオレットが叫び声を上げた時には、時既に遅し。
二人の影は、崖下の森林地帯の闇に飲まれて消えてしまっていた。

―――すぐに助けに行かないと。

ヴァイオレットは、すぐに踵を返し、アリア達が落下したであろう地点に急ごうとするが――。


504 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:55:52 DENnKdLs0

「……ぅう……あぁ……」

「お嬢様!?」

苦悶の声を上げつつ、ふらりふらりと、覚束ない足取りで麗奈が近づいてくるのを見て、慌てて駆け寄る。
焦げた肉と血の臭いを漂わせつつ、全身がズタズタに焼け爛れているものの、身体の再生は進んでおり、どうにかその面貌は確認できた。

「……ヴァ…イオレット…さん……」

「お嬢様、しっかりしてください!!」

倒れ込みそうになった彼女を、ヴァイオレットは抱きとめて支える。

「あ、の女は……?」

「彼女は、アリア様と交戦中に、この先の崖下に転落してしまいました。
私もこれからアリア様の救助に向かいます」

「そう…ですか……」

麗奈はそこでホッとした表情を浮かべる。
無惨もいない。ウィキッドもいない。
今この場には、自分を虐げる連中はおらず、「化け物」になってしまった自分を受け入れてくれるヴァイオレットだけがいる――。
安息を実感すると共に、麗奈の中では、張り詰めていた緊張の糸が切れた。

「私とアリア様が戻るまで、お嬢様はここで身を潜めて―――」

そして、安心するが故に―――。
満身創痍が故に―――。
彼女は植え付けられた本能のままに、その行動を取る。

―――ぐじゃり

「――っ!? お…嬢様……?」

ヴァイオレットは、呆然と目を丸くする。
自身の首筋に走った、鈍く鋭い痛み。
痛みの正体は――彼女が抱き支えている少女が牙を立てたことによるものだった。

―――ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ……。

肉が貪られていく音と、血が啜られていく音が静かに木霊する。
麗奈は、無意識のまま、血肉を喰らい続けていた。

――ああ、美味しい。
――もっと、欲しい。
――足りない、全然足りていない。
――だから、もっと、食べないと。

麗奈の中で、内なる何かが、そのように囁いてくるような気がした。
衝動に突き動かされるようにして、麗奈は更に深く歯を突き立てる。


505 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:56:17 DENnKdLs0

「ぁ……うぅ……お嬢、様……」

激痛に顔を歪めるも、ヴァイオレットは抵抗しない。
自分の血肉を貪る麗奈を、引き剝がそうとしない。
いくら鬼化したとしても麗奈はボロボロの状態――ヴァイオレットが有する身体能力と戦場格闘術を以ってすれば、制圧することは可能だ。
しかし、彼女はそれを行わない。
何故なら彼女は気付いてしまったから―――。
鬼としての本能に囚われた麗奈の双眼から、一筋の涙が零れたことに――。

そして――。

「お嬢様……、大丈夫……大丈夫ですから……」

ヴァイオレットは、未だ自分の首筋に顔を埋め咀嚼を続ける麗奈の頭を優しく撫で、抱きしめる。

「――お嬢様の想いを……届けられるように……
私が……元の日常に連れ戻しま……すから……」

意識が朦朧とする中、ヴァイオレットは小さく呟き続ける。
自動書記人形の務めとして、依頼人の想いを護るために。
「愛している」を伝えたい少女の「いつか、きっと」を失わせないために。

「……ぁ……」

すると、ヴァイオレットの想いが通じたのか、麗奈の動きがピタリと止まった。

「……ぇ……ぁ……わ……わたし……?」

そして、意識を取り戻したのか、ハッと我に返ると、ヴァイオレットの身体から離れ、よろめきつつも後退していく。

「――私は……一体何を……」

「お嬢様……お気を…確かに――」

正気に戻った麗奈に対して、ヴァイオレットは尚も気遣いの言葉を投げかけると―――そのまま、電球が消灯するようにして意識を失い、その場に崩れ落ちた。

「……ヴァイオレットさん……?」

倒れ伏せるヴァイオレットの首元からは、止めどなく血液が流れ続けている。
訳も分からず、呆然と見下ろす麗奈が次に感じ取ったのは、口内に残る甘い鉄の味ーーー。
慌てて口元を拭うと、そこには、べったりと赤黒い鮮血が付着していた。

「ぁあ…あっ……ぁぁぁああああああ!!」

自身が犯した過ちを自覚した麗奈は、頭を掻きむしり、喉が潰れんばかりの絶叫を上げた。
自分を信じて手を差し伸べてくれた恩人すらも、手を掛けてしまった……その事実が、彼女の心を容赦なく蹂躙する。
やがて、彼女の精神は限界を迎え---。

「あぁ……あああああああああああっ!!!」

錯乱しながら、逃げるようにして、その場を駆け出すのであった。
己が過ちから目を背けるように。地に伏せるヴァイオレットを、ただ一人残して。


506 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:57:21 DENnKdLs0


先程までの喧騒が、嘘のように鎮まり返った倉庫。
この閉塞された戦場の覇者たる無惨は、壁に出来た大穴を通じて、外へと出ていった。
倉庫内で動かなくなっているアヴ・カムゥとロクロウには、一切目もくれず、遠方で暴れているであろうウィキッド達の元への帰還を優先し、駆けつけんとしていた。

しかし―――。

「……何っ?……」

上空より飛来してくる二つの物体に気付くや否や、無惨はその身を捻り、回避行動を取った。
その刹那―――。
ドォオオンッ! と爆発音が鳴り響き、周囲に粉塵が巻き起こる。

「新手だと、おのれっ……!!」

正体不明の爆撃を受けて、状況把握が追いつかない無惨であったが、そこに無数の弾丸の雨が降り注ぐ。
ズダダダダダッ!! と激しく音を立てる、弾丸の嵐。
無惨の身体は一瞬で蜂の巣となり、更にそこにミサイルが撃ち込まれ、彼の身体は爆ぜる。
しかし、それも束の間、彼の身体はまるで時を巻き戻しているかのように再生していき、瞬く間に元の状態に戻っていく。

「――あぁ、やっぱり『化け物』だね、彼。
あれだけの銃撃爆撃を喰らっても、ケロっとしてるよ」

「……そのようだな……」

無惨が上空からの爆撃に晒される様を、少し離れた茂みに身を潜めて観察するのは、オシュトルと臨也。
アリアとヴァイオレットを、麗奈達の探索へと向かわせていた彼らは、オシュトルの意を汲んで、倉庫内での騒乱については介入せず、それが収束するまで機を伺っていた。
漁夫の利といえば聞こえが悪いが、あくまでも状況を見極めた上での合理的な判断であった。
そして、騒乱を収めたのが味方陣営のロクロウであれば良し。
新羅であれば、無力化――。無惨であれば、討滅――。
そのような段取りで、二人の意見が一致し、事を構えていたのであった。


507 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:57:59 DENnKdLs0

「しかし、臨也殿。かような代物を持ち合わせていたのならば、何故最初から用いらなかったのだ?」

オシュトルが、視線を向けるは、臨也の手に握られている黒の小型端末。
現在上空より無惨を空襲している鉄の塊と、それに対し対象の抹殺指令を出しているそれこそが、折原臨也の最後の支給品。

「やだなぁ、オシュトルさん、流石にアレを屋内で出すわけにはいかないでしょ。
あんな無茶苦茶するんだから、俺達も巻き込まれかねないしさ」

「それも…そうだが―――」

いくら何でも反則すぎないか?と突っ込みを入れそうになったオシュトルだが、それ以上は何も言わず、無惨に対して、無慈悲な弾丸の雨を見舞うそれを見上げた。

HsAFH-11。通称『六枚羽』―――。
とある都市の制空権保全管制センターが保有しているはずの、無人攻撃ヘリ。
その最新鋭の兵器のコントロール権は、臨也の手中にあった。
コントロールと言っても、彼が行ったのは単純至極。
端末の中で映し出される、『六枚羽』を中心とした、参加者の居場所を示す赤い点の位置情報データをタップしただけ。
その操作によってターゲットとされた無惨が、執拗な爆撃を受けるという構図が出来上がっていた。

(まぁ本当は、シズちゃんにぶつける予定だったんだけど、今の状況だと、出し惜しみは出来ないだろうからね)

心中でそう呟きながら、臨也は、事の行く末を観察していた。

元々、これは強力すぎるが故に、臨也としても、対平和島静雄―――つまりは『化け物』を狩るための切り札として、温存していたものである。

臨也は、人間を愛している。
様々な工作、調略などを通じて、人間がどのような行動を行うのか、どのような結末を辿るのか、好奇心旺盛な子供のように観察を行い、その全てを愛そうとする。
その過程で、如何に観察対象が苦しもうとも、破滅を迎えようとも、最後には「あぁ、やっぱり人間って素晴らしいね」と言って片付ける。
逆もまた然り。観察対象が最終的にハッピーエンドに辿り着いたとしても、彼は「うんうん」と頷き、その様子を愛でるだろう。
彼は平等に人間を愛するのだから。

故に、彼は人間に対して、直接危害を加えるようなことは行わない。
人間観察の過程において、あの手この手を使って、人間のあらゆる側面を引き摺りだそうと画策はするが、直接手を下そうとすることは決して行わない。
ウィキッドと対峙した際も、彼女もまた、彼が愛する『人間』であるが故、この『六枚羽』を使用することはなかった。
だが、もしも彼の前に、彼が愛する『人間』に危害を加えるであろう『化け物』が現れたのであれば、その排除のため、手段を選ぶことはない。

(『化け物』共には、ご退場願わないとね。
『人間』は俺のものなんだからさ。それに―――)

臨也はチラリと、未だ爆撃に晒される無惨のその奥---遺跡の大倉庫の方へと目を向けた。
遺跡から生還したのは、無惨ただ一人。
であれば、彼と交戦していた新羅は恐らく……。

(……敵討ちって柄ではないけど、一応、『友人』としての義理は果たした、かな?)

自分の内側から何かが、込み上げて来る感覚を覚える---。
しかし、臨也はその正体について深く考えないようにした。
あくまでも平静を装いつつ、爆撃に晒される無惨の元へと視線を戻すと、程なくして、戦況に変化が訪れた。


508 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:58:38 DENnKdLs0

「――またしても絡繰の類という訳か…、小癪な真似を!!」

爆撃に塗れながらも、炎上する森林の隙間から、天に浮かぶ『六枚羽』を、視認した無惨。
この宙に浮かぶ塊こそが、発射元であると理解すると、即座に反撃せんと跳躍―――。
標的が佇む空のフィールドへと舞い上がろうとするが、『六枚羽』は短距離装甲車両用ミサイル『SRM21』を発射。

「っ……!?」

マッハで迫るミサイルは、赤外線センサーにより、ロックを掛けているため、無惨への直撃は必定となっている―――が、無惨もそれを甘んじて受けるほど、愚かではなく瞬時に反応。
背中から複数の触手を、速射砲の如く伸ばし、ミサイルと相殺。
E-4の空に、爆音が鳴り響くと同時に、更にそこから身体を捻ると、地面に向けて触手を思い切り叩きつけ、その反動を以って、更に高く跳躍し、『六枚羽』に接敵を図る。

――ズダダダダダッ!!

その間も、『六枚羽』の機関銃により、身体は穴だらけとなっていくが、無惨は意に介することなく、極限に伸ばした触腕を横に薙ぎ払う形で、殲滅兵器の胴体部へと叩き込んだ。
ドゴォッ!!と、まるで巨人の鉄槌のような衝撃音と共に、『六枚羽』は激しく振動。
機体を軋ませながら、そのまま墜落し、地面に激突―――大破する。

「化け物め……」

忌々しげに毒づく臨也を他所に、無惨はそのまま地上へと降り立つ。
銃痕も、爆撃によって裂かれた五体も、再生していき、一見すると、無傷のように見える無惨。
しかし、その実―――。

「ハァハァ……お、おのれ……!」

苦しそうに息を切らしながら、額には脂汗を浮かべていた。
理由は明瞭―――先の空中戦で、地上の何処かにいるであろう麗奈との距離が離れた上、遮蔽物も何もない状況で、太陽光により近くに当たったたため、その身を焼き尽くすような苦痛に襲われていたからである。
幸いにも、まだ麗奈による回復力向上の影響範囲にあるようで、即消滅することはなく、今は徐々にダメージは回復しているが、それでも無惨の消耗は明らかであった。

「――臨也殿……、ここは一旦退こう。
あれは、どう目算しても我らの手に余る……」

憔悴する無惨を遠目に見つめながら、オシュトルは臨也にそう提案をする。
明らかに消耗しているようにも見えるが、先程の攻防を見ても、彼の実力は規格外であり、現状の戦力では到底太刀打ちできないとオシュトルは、判断したのだ。

―――が。

「……。」

「臨也殿……?」

臨也からの反応がないことに気づき、不審げな声を上げるオシュトル。
臨也は無言のまま、身を潜める茂みの中から立ち上がる。
そして、コートのポケットに手を突っ込んだかと思うと―――。

ひゅん。
と、風を切るような音を鳴らすと、無惨の顔面目掛けて、銀色に光る影が投擲された。

「なっ、何を―――」

オシュトルがそれをナイフだと認識したその刹那――。
バシン、と金属が破裂するような音が周囲に響き渡った。

「そうか……全て貴様らの仕業かぁっ……!!」

飛来したナイフを触手で弾くと、臨也達を見据えながら、怒りに満ちた表情で、地が震えるのではないかという勢いで叫ぶ無惨。
その形相は凄まじく、顔が破裂するのではないかというほどの青筋を立たせていた。

「これは戦線布告だよ、化け物」

しかし、臨也は臆することなく、銀色に光るナイフを無惨に向けて、不敵に微笑んだ。


509 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:58:57 DENnKdLs0

(いやいやいや、何て事してくれちゃってんの、こいつ!?
もっと合理的に動ける男だと思っていたが、見誤ったか!?)

内心で悪態を吐きながら、オシュトルも、臨也の傍らに立ち、鉄扇を構える。
無惨に見つかった以上、もはや戦うしか他ない。

(しかし、勝てるのか……あの怪物に?
……いや、やるしかないのか)

ヴライや、ミカヅチといった歴戦の猛者達と相対してきた以上の緊張感が、オシュトルの背に走る。
しかし、オシュトルは歯を食い縛り、覚悟を決めた。

が、その直後―――。

ドドドドドドドンッ――。

「―――何っ!?」

大地が激しく揺れ動く音ともに、無惨の背後に怒涛の勢いで、巨大な影が迫らんとしていた。
オシュトルも、臨也も、無惨さえも驚愕し、思わず動きを止めて、一同にそれを見上げる。

「……新羅……。」

ポツリと、臨也がめその者の名を呼ぶ。
彼らの前に現れたのは、既に朽ち果てていたと思われていた、鋼鉄の兵であった。


510 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 17:59:33 DENnKdLs0



「ハァハァ……少し……しくじったわね……」

苦しそうに、痛めた足を引き摺りながら、崖下の森の中を徘徊するアリア。
落下の折、幾重の木々の枝によって裂かれた傷が、端正な顔に幾つも刻まれ、実に痛々しい。
アリアが着用する武偵高の制服は、防弾加工されている故に、直接肌を晒していない部位に裂傷は生じていない。
しかし、木々の枝や葉がクッションになって衝撃を和らげていたとはいえ、かなりの高低差から落ちたのだ。
無傷で済むはずもなく、足を痛めた上、臓器も痛めたか、口からは血反吐を零している。

「――なぁ、あんたさぁ……」

と、そんなアリアの前に、ぬぅっと人影が現れた。
その正体は、落下の際に、空中で突き飛ばして離れ離れとなったウィキッド―――。

「……っ!」

アリアは、痛みを忘れて飛び退くとするも、時既に遅し。
投擲された小型爆弾がアリアの足元で爆発―――彼女の小さな身体は激しく吹き飛ばされる。

「うぐっ……!!」

大樹に叩き付けられ、声にならない悲鳴を上げるアリア。
だが、それでも意識を失うことなく、どうにか立ち上がろうとするのだが……。

「私に『風穴あけてやる』なんて言ってたよなぁ……?」

そんなアリアの首根っこを掴んで持ち上げると、ウィキッドはその首を絞め上げる。
そして、自分の顔をアリアの顔へと近づけると、至近距離で愉悦の笑みを浮かべつつ、その表情を窺う。

「ぐぅ……!! だ、だから……何よ!?」

眼前の魔女を睨みつけ、嫌悪感を示しつつ、苦しみ悶えるアリア。
ウィキッドは喜悦の表情のまま、アリアの胸元にもう片方の手の指を突き刺した

「あぐうっ!?」

ズブズブと皮膚を貫いて、肉の中に入ってくる冷たい感触。
グリグリと指をかき回され、肉をほじくり回される度に激痛が走り、思わず声を上げてしまう。

「きゃはっ、自分が風穴あけられる気分はどうですかぁ、神崎さぁん♪」

アリアの苦痛などお構いなしに、嬉々として語るウィキッド。
アリアの内側に侵入していた血濡れの指を引き抜くと、別の箇所に、無造作に刺しては抜いて、刺しては抜いてを繰り返す。

「あっ! くっ!! はぁ……あうッ!!」

身体のあちらこちらを刺される度、激しい痛みと共に、大量の血液が噴き出し、地面へ滴り落ちる。
しかし、アリアとてSランク武偵。やられっぱなしでは終わらない。

「ぐっ……このっ!!」

全身を襲う痛みに耐えながら、歯を食い縛ると、振り子のように勢いを付けて、ウィキッド の腹部へと蹴りを入れる。
肝臓を抉る一撃を受け、流石のウィキッドも呼吸が詰まり、一瞬だけ拘束する力が緩む。

「ぐふっ……はっ!?」

ウィキッドが顔を顰め、呼吸を求めて息を吸い込むと同時に、アリアはその身体に銃撃を数発撃ち込んだ。
至近距離からの射撃―――複数の弾丸はウィキッドの脇腹を貫き、鮮血が散る。
そして、アリアを拘束する腕が離れるや否や、その銃口をウィキッドの眉間に向けようとするが―――。


511 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:00:06 DENnKdLs0

「バーーーカ!!!」

「――なっ!?」

口角を釣り上げ、嘲笑すると同時、ウィキッドは、これまでにない程の大きさの爆弾を顕現。
バスケットボール程のサイズがあるそれを、その場に地面に叩きつけ、起爆させた。
凄まじい爆音と衝撃波が周囲に響き渡り、辺り一帯が激しく揺れ動く。
それはウィキッド自身をも巻き込んだ爆発。謂わば、自爆の類い。
しかし、それは、まるで巨大な隕石でも落下してきたかのような衝撃を放った。

「……がぁ……はっ……!」

衝撃によって発生した土煙の中から、ボロ雑巾の如く横たわるアリアの姿が露になる。
その爆破の威力は、防弾制服ですら防ぎきれず、アリアの華奢な身体は、見るも無惨に破壊されていた。
内臓破裂により口からは大量の血を流し、腕が一本、脚も一本、千切れて転がっている。
身体全体は焼け焦げており、致命傷であることは明白であった。

「う……うぅ……。ま、だ……まだ……私……私は……」

しかし、それでもアリアは意識を繋ぎとめ、地を這おうとする。

「私は……死ねない……。私は……ママを……」

脳裏に過ぎるは、「イ・ウー」の罠により冤罪の懲役刑で投獄されている母の姿―――。
母の無実を証明するためにも、アリアはこんなところで死ぬわけにはいかない。
だからこそ、この状況でも懸命に生きる手段を模索するのだが――。

「何だよ、お前マザコンだったのかよぉ。 見たまんまのお子様なんだなぁ」

「……ぁ……」

いつの間に近付いていたのか、ウィキッドがアリアを見下ろし、嘲るように見下ろした。
先程の爆発は、ウィキッド自身にも巻き込んでいた。
それ故、彼女の全身も損傷が激しく、肉という肉が焦げた上、ズタズタに切り裂かれ、皮膚からは骨が見え隠れしている。
そんなグロテスクな状態でも、植え付けられた鬼の血によって、こうして自力で歩き、声を発せるまでに回復している。

「しっかし、凄いよな、鬼って!! どれだけ無茶な傷を負おうが、治っちまうもんな!!
一方的に押し付けられたのは気に食わねえし、あのクソワカメにはムカついてるけどさ。
これはこれで、いっぱい遊べるし、案外アリかもな!!」

水口茉莉絵は"痛み"に慣れている。いや慣れすぎている。
鬼になり不死性を得たとしても、痛覚が消えるわけではない。
即興で無惨の血に適合した鬼であれば、通常は高坂麗奈のように傷つくことあれば痛みで怯み、狼狽えることがあるだろう。
しかし、この魔女は、ぶたれることも、蹴られることも、叩かれることも――あらゆる苦痛に慣れすぎている。
そして、それを受け止め流した上で、憎悪を以って返す執拗さを持ち合わせている。
故に彼女は、如何なる刃も、弾丸も、爆弾も、自身の精神干渉攻撃によって生じる痛みにすらも、臆することはない。
もっとも、彼女の場合は、心そのものが壊れてしまっているため、そういったものを受け付けないだけ、なのかもしれないが。


512 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:00:28 DENnKdLs0

「……ぅ……ぁ……。……ぁ……ぁ……」

満面の笑みで己を見下ろすウィキッドに対し、アリアは声にならない声を上げるのみ。

「おいおい、もう終わりかよ? つまんねぇなぁ……。もっと遊ぼうぜぇ?」

ウィキッドはアリアの頭を踏みつけ、足蹴にする。

「――あがっ!?」

「じゃあさ、少しはやる気が出るようにしてやろうか?
そうだなぁ。それじゃあ…あんたと遊び終わった後、私が何をするつもりなのかを教えてやるよ―――」

愉しそうに語りながら、アリアの頭をぐりぐりと踏み躙るウィキッド。

「取り敢えず、今は色々とムカついている奴らがいるからさぁ。まずはそいつらを、順次ぶっ殺していくつもりなんだけど、それが終わったら、あんたの後輩の間宮あかりと佐々木志乃だっけ? 次はその二人を殺してやるよ―――」

ビクリと、アリアの肩が震える。
その反応を見て、ウィキッドはニタリと笑うと――。

「それでそのまま、このゲームで優勝して、あのポンコツとテミスに願いを叶えてもらうんだよ。神崎・H・アリアの『ママ』とやらに会わせてくれってな---」

またしても、肩が震えるアリア。
そんな反応を楽しむように、ウィキッドは言葉を紡いでいく。 

「そして、『ママ』とやらにあんたの無様な最期がどんなんだったか語り聞かせてやるんだ。
きゃははははっ、あんたの悲惨な顛末を聞かされるとか、『ママ』はどんな気分になるんだろうなぁ? 悲しんでくれると良いよなぁ……!!
それで最後は、命乞いをするまで徹底的に痛めつけて、絶望に染め上げてから殺してやるんだ! どう?少しはやる気になったかぁ?」

「………ぅうあああああッ!!」

瞬間、アリアは絶叫を上げ、死力を振り絞ると、ウィキッドの足を払い除ける。

「あ、んた……だけは……絶対に……許さないっ!!」

血反吐を撒き散らしながら、怒りの表情を見せるアリアは、そのままウィキッド にボロボロの身体で掴みかかろうとするが---。

「いやぁ反吐が出る程の親子愛だわなぁ―――」

それよりも先に、魔女の腕が、アリアの胸を貫いた。

「私、そういうの大っ嫌い♪」

深々と刺さったその腕は、心臓を貫通。
アリアは、口から血の塊を吐き出すと、その眼光は濁り、瞳は虚ろになっていく。

「まぁ死んどけよ」

「……ママ……」

光を失った瞳から涙を流し、アリアは小さく呟くと――そのまま息絶えるのであった。

【神崎・H・アリア@緋弾のアリアAA 死亡】


513 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:00:53 DENnKdLs0



鼓膜に断続的な音が突き刺さり、僕の意識は激しいノイズが交じる中、ゆっくりと覚醒した。

靄がかかったような、朧気な視界に飛び込むのは、壁にもたれ俯く侍のような男。
もう息絶えているのだろうか、微動だにしない。

「―――うぐっ……!」

今まで何をしていたのか、どうしてこんな状態になっているのか、情報を整理しようとするだけで、頭に激痛が生じる。

手足を動かそうにも、身体が脳からの信号を受け付けない。
まるで自分の身体が、自分のものではないような―――そんな感覚。

途方に暮れる中で、またしても鼓膜を突き破るような騒音が、響いてくる。

そうだ。
これは、戦いの音だ。

「……セルティ……!」

僕はようやく、ここまでの経緯を鮮明に思い出すことができた。

そうだ、セルティだ―――。
僕は、セルティを取り戻すために、まるで日曜夕方放映アニメのように、この巨大ロボに搭乗して、戦っていたんだ。

「動け……」

だから、ここで留まっているわけにはいかない。
この命が尽きるまで、セルティを諦めてなるものか。

「動け動け動け動け動け動け……」

呪詛のように、繰り返し自分の身体に命令を下すが、尚も反応はない。
その間にも、戦闘音―――これは爆発音と銃声かな?――は断続的に続いている。
まだ誰かが近くで戦っているのだろう。
恐らく、其処には先程殺しあったあの怪物も居る筈だ。

「……っ」

もしそうだとしたら、このまま、起き上がれたとしても果たして勝てるのか……。
あれは、正真正銘の怪物―――常人の目では捉えられぬ速度で動き回り、僕を翻弄し、アヴ・カムゥの装甲ですら貫いてきたのだ。
正直言って、今の僕では到底太刀打ちできない。

しかし、それでも―――。

「……アヴ・カムゥ―――完全排他モードへ移行……」

僕は、セルティを諦めたりしない。
例えこの身体がどうなろうとも、必ず取り戻してみせる―――。

そんな破滅の覚悟を以って。
僕は、僕自身の身体をリンクさせたまま、アヴ・カムゥの操縦権を完全に委ねることにした。


514 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:01:16 DENnKdLs0



「……新羅……。」

オシュトル、臨也、そして無惨―――。
三者睨み合うその場に、颯爽と駆け付けたアヴ・カムゥは、直ぐに行動を起こす。
ターゲットは、最も近くにいる鬼の王―――。

「うわああああああああああああああああっ!!!」

「まだ生きていたか、死に損ないめがっ!!」

決死の雄叫びと共に、振り下ろされる高速の斬撃に、無惨は毒つきながら、飛び退き、これを回避。
即座に反撃せんと、触手触腕を振るうが、ほぼ同時に、鋼の巨人はその巨体にそぐわぬ俊敏性を以って、無惨に肉薄―――。
ピシリと、その装甲に傷を負いつつも、無惨の身体を蹴り上げる。

「な、に……?」

宙に蹴り上げられ、驚愕を顔に張りつかせる無惨。
驚く間もなく、豪風と共に、横薙ぎに払われた巨剣が無惨の身体を両断せんと迫ると、
空中で身を捩って避けつつ、半壊している巨人の顔面部分に数多の触手を射出。
怒涛の勢いで、顔面の装甲が削られ、相応のダメージが巨人を襲うも、一切の怯みも見せず、アヴ・カムゥは剣を握っていないほうの手で拳を握り、無惨の胴体部分へと叩きつける。

「っ……!?」

圧倒的な質量を持つ一撃により、地面に叩きつけられた無惨は混乱の最中にあった。
巨人の、反応速度も俊敏性も耐久性も、先程とはまるで違うのだ。

「煩わしいぞ、貴様……!! 貴様は、一体何なのだっ!?」

それを間一髪で躱して、体勢を整えようとする無惨ではあるが、アヴ・カムゥは休むことなく追撃を仕掛ける。
巨大な体躯に見合わぬ、恐るべき速さでの踏み込みから繰り出される攻撃の数々に、さしもの無惨もその対応に手を煩わせる形となる。

―――完全排他モード。

無惨達は預かり知らぬことではあるが、それは、主催の趣向で、アヴ・カムゥに搭載された切り札。
搭乗者が、マスターキーを通じて、その意向を機体へ伝えた時のみ発動し、機体のコントロールをシステム側に完全譲渡する機能である。
本来備わっていた完全排他モードとは、異なるものかもしれないが、こちらのモードに移行することで、機体は自動運転に切り替わる。
そして、敵として識別した対象に対して、徹底的な殲滅戦を開始することとなる。
新羅は、説明書に記載されていたこの切り札を思い出し、実行に至った。

故に、現在のアヴ・カムゥは、搭乗者たる新羅の体感、知覚を超越して、機体のスペックを最大限に発揮した状態で、猛獣の如く、無惨に襲い掛かっている。

「ぐぉおおおおおおおおおおおおお!!」

無惨に執拗なまでの攻撃を行う傍らで、悲鳴にも近い絶叫を上げる新羅。
今の新羅は謂わば、マリオネットの状態―――彼の身体や五感の全てはシステムに捧げられている。
アヴ・カムゥの超人的な動きは、新羅の神経とリンクしている。
故に、新羅の元々の身体能力を遥かに凌駕する動きをするのであれば、当然のことながら、それについて行けない肉体への負担もまた相当なものになっていく。


515 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:01:50 DENnKdLs0
―――ブチブチブチブチブチ

アヴ・カムゥが無茶な動きをする度に、新羅の中で、何かが千切れていく音が響く。
それが、どこかしらの神経なのか、筋肉繊維なのか、あるいは血管そのものかは、分からない―――否、闇医者を営んでいる彼であれば、どの部位に異常があったかは、判断できるかもしれないが……。
ともかく、新羅の身体中のありとあらゆる箇所が負荷に耐え切れずに断裂していき、新羅も気に留めることはない。

―――目の前にいる強敵(こいつ)を排除する。

アヴ・カムゥを操るシステムも、それに身を委ねる新羅の意思は一致し、微塵も揺らぐことはなく、ただ只管に無惨の命を狙い続ける。

「疾く、失せろっ!! 貴様如きを相手取る暇など無いっ!!」

しかし、アヴ・カムゥは無手になったとしても、一切の攻撃動作を止めることはしない。
欠損した片腕と、残った腕で無惨に掴みかかり、押し倒す形で圧し掛かりつつ、全身全霊の力を込めて、地面に叩きつけると、そのまま上から怒涛の勢いで、殴り続ける。

ぐちゃ!ばぎっ!!ぼぎゃあっ!!

無慈悲かつ圧倒的な質量を誇る暴力の嵐により、肉と骨が潰れるような音を立てながら、無惨の身体は徹底的なまでに破壊されていく。

「お、おのれぇええ……!!」

無惨は、怒りの声を上げつつ、身体を再生させつつ、背中から生やした触手を地面に向けて射出。
その反動を利用し、一気に飛び退き、墜落した『六枚羽』の残骸の上へと着地―――巨人から距離を取ることに成功する。
しかし、ここで想定外の事態が無惨の身に降りかかる。

―――ジリジリジリジリジリジリ

「ぐっ!? な、何ぃいいいいっ!?」

瞬間、全身に生じる灼熱―――単に身体だけではなく、己が魂すらも焼き尽くすかのような耐え難き激痛に、無惨は苛まれる。
同時に、今彼が立つこの場所は、先の『六枚羽』との交戦によって、樹木は破壊し尽くされ、宙に覆い被さる枝葉はないことに気付く。つまりは、太陽光を遮る影は、一切存在しないのだ。

この苦痛の原因は、鬼本来の弱点たる陽光によるものだと悟ると同時に、解せないと、無惨は思った。
麗奈が覚醒してからは、幾度となく、無惨は太陽に身を晒す機会はあった。
先の空中戦のように、一時的に地上から大きく離れて、瞬間的に激痛に襲われることもあったが、平地でこれ程の苦痛を伴うことはなかった筈だ。

(―――そうか…そういうことか……!!)

無惨は、すぐにこの異変の正体―――その解に行き着く。
太陽光克服の要たる、麗奈の回復能力向上能力―――その効果がなくなりつつ在るのだ。
理由は単純明快。彼女自身が急速に移動を開始して、無惨から離れつつあるということだ。

(私は、逃走を許可した覚えはないぞ!! 小娘っ!!!)

通常であれば、鬼は陽光を浴びれば、即死する。
まだ無惨自身が、苦痛に苛まれるも、健在だということであれば、幸いにも、まだ麗奈とのリンクが完全に途切れたわけはないらしい。
だが、無惨に降りかかる苦痛は、時間が経過するとともに、より一層激しくなる。

(急がねば―――)

事態は一刻を争う。
すぐにでも、この場を離脱し、麗奈を回収せねば、取り返しのつかないことになる。
刻一刻と迫る『死』の気配を感じ取った無惨は、焦燥感に駆られつつ、『六枚羽』の骸から飛び立たんとするが―――。

ブンッ!!

「っ……!?」

その身体はアヴ・カムゥの振り下した上腕によって、叩き落される。
地面に仰向けに叩きつけられた無惨―――そこに追い打ちを掛けるべく、巨大な足を踏み下ろすアヴ・カムゥ。


516 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:02:20 DENnKdLs0

「貴様ぁあああああああああ!!」

ズシンと、大地が大きく揺れ動く。
無惨は、アヴ・カムゥの巨脚により、踏み潰され、その場で固定されてしまう。
その質量によって、身動きの取れなくなる無惨。
そこに間髪入れず、アヴ・カムゥはハンマーのように両腕を交互に振り下ろしていき、無惨の身体を潰しに掛かる。

――ドガンっ!!!
――ドガンっ!!!
――ドガンっ!!!
――ドガンっ!!!
――ドガンっ!!!

巨人の鉄槌が、無惨を捉える度に、地震が起こったかのように、周囲一帯が激しく振動する。
既に、アヴ・カムゥの攻撃で、原型を留めていない無惨であるが、それでも彼は生きていた。
アヴ・カムゥの攻撃自体は、元々備え持つ再生力によってカバーは出来る。
また、アヴ・カムゥの巨躯によって陽光も遮られている。

しかし、こうしてアヴ・カムゥに拘束されている間も、麗奈はどんどん遠ざかっていく。
直面する死滅の危機に、無惨は必死の形相を浮べながら、肩口から触手を射出。
今も執拗に攻撃を続ける巨人の胸部装甲に突き立てる。

「貴様らのような虫けら如きが!! 私の邪魔をするなど、思い上がるなよっ!!」

巨人の鉄槌地獄に溺れながらも、触手による怒涛の連撃で、装甲部分を削り取っていく無惨。
その甲斐あってか、胸部の装甲は、徐々に亀裂が生じていく。
しかし、まだまだ時間が掛かる。
その事実に無惨は歯噛みする。

早く……もっと早く……眼前の障害を取り除き、この場を切り抜けなければ――。

この殺し合いに連れてこられる前に、繰り広げている鬼殺隊との最終決戦。
肉の鎧を纏うほどに追い詰められた、あの時に感じたものと同等の危機感を抱きながら、無惨は懸命に抗う。
触手の高速連打によって、ひび割れたアヴ・カムゥの装甲は、徐々に亀裂が大きくなっていく。
だが、まだ足りない。あと少しだけの時間が必要だ。

(このままでは……このままでは……!!)

無惨の脳裏に、焦りばかりが募る。

(――この私が死ぬ……だと? こんなところで?)

当初計画していた、竈門禰󠄀豆子を利用した方法を介さず、この殺し合いの場では、図らずとも千年の永き悲願を達した。
これから、その太陽克服の解明を行なって、悲願成就を盤石たるものにする予定だった。
その矢先に、大量に邪魔が入ってしまい、鍵を担う少女に逃げられ、あまつさえ生命の危機に瀕する始末だ。

(認めぬぞ!! このような結末……断じて認めてなるものかっ!!)

無惨は、怒りで顔を歪めながら、射出する触手に決死の力を込め――。
瞬間、無惨の中で、“何か”が弾けた。
そして、その“何か”によって、彼が射出した触手は、その勢いを上積みされ――。


517 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:02:56 DENnKdLs0

――バキンッ!!

アヴ・カムゥの胸部分の装甲を完全に粉砕。
勢いそのまま、アヴ・カムゥの機体内部―――コックピットをも貫通し、背部から飛び出した。

「――っ!?」

それは無惨当人ですらも、想定していなかった能力の向上。
一見すると、この殺し合いの会場で、平和島静雄やヴライといった猛者達が発現させた“火事場の馬鹿力”の類のように見えなくもないが、その実、これはデジヘッド化による恩恵。

高坂麗奈は、デジヘッドとなったその瞬間に、スキルを得た。
これに対し無惨は、デジヘッドになった時点でスキルを開花させることはなかった。
無惨の場合は、死に瀕することによって、彼のストレス値が臨界点に達した際に、無意識下で自身の戦闘能力の大幅な向上を促すスキルを覚醒させた形になったのである。

「……。」

心臓部(コックピット)を貫かれたことにより、暴虐の限りを尽くしていたアヴ・カムゥは完全に沈黙―――その活動が停止する。

「ハァハァ……」

無惨は、触手を引き抜くと、地を這いながら、自らの身体を引きずり、アヴ・カムゥの足元から逃れる。
すぐに、彼のズタボロの身体は修復されていく。
しかし、日光にその身を晒した刹那―――。

―――ジリジリジリジリジリジリ

「ぐぅううぉおおおおおおおおおおおおお!?」

先刻を遥かに凌駕するような全身を焼かれる激痛に襲われ、無惨は絶叫を上げる。
身体の一部が徐々に灰となり、ボロボロと空気に溶け込んでいく。

最早、一刻の猶予もなし。
無惨は苦悶に表情を歪ませ、よろめきながらも、どうにか体勢を整える。
そして、地を蹴り飛ばし、麗奈達を残した場所に向かうべく、山林の奥へと消えていく。
静止するアヴ・カムゥと、傍観に徹していた臨也とオシュトルには全く目もくれず、ただ一目散に―――。


518 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:03:28 DENnKdLs0



「まぁまぁ、愉しませてくれたな、あのピンクチビ」

アリアから支給品を回収したウィキッドは、上機嫌に鼻唄を口ずさみながら、森の中を進み、行き止まりの岩壁に行き着くと、その上を見上げる。

ここから先はお礼参りだ。
アリアに語った今後の予定についてだが、アリアの後輩達やアリアの『ママ』とやらには全く興味はない。
あれはアリアを挑発するために吹っ掛けたブラフであるため、実際に連中がどうなろうと知った事ではない。
まぁ、後輩達に出会う事があれば、アリアの惨めったらしい最期を笑い話として語り聞かせてあげても良いかもしれないが、今はそれよりも優先すべき事由がある―――散々イラつかせてくれた連中への復讐だ。
まずは、この崖を駆け上り、そこにいるであろう麗奈と、一緒にいるヴァイオレットを殺す。
その後は、無惨を追って殺す。この際、折原臨也を殺すのも選択肢としては、ありかもしれない。
そして、最後にあの男――カナメに借りを返すことも忘れてはならない。

(待ってろよぉ……、クソども)

狂気じみた笑みを浮かべるウィキッドは、勢いよく地を蹴ると、岩壁の中にある足場を次々と蹴りながら登っていく。
やがて、その高さが森林の木陰を抜けて、彼女の身体が陽光の下に完全に晒される高さまで登り詰めた時だった。

―――ジリジリジリジリジリジリジリジリ

「ぐぁっ!? な、に……!!?」

異変は唐突に訪れた。
全身に拡がる灼熱のような痛みと共に、ウィキッドの両眼が大きく見開かれる。
肉を抉られるよりも、骨を叩き潰されるよりも、爆炎に飲まれるよりも、耐えがたき激痛が、彼女の全身に到来する。

「あああああああああああッ!!!!!」

全身をナイフでめった刺しにされる方がよっぽどマシだと思えるような苦痛に苛まれながら、ウィキッドは絶叫を上げ、足場を踏み外し落下していく。
やがて、地上にまで叩きつけられた彼女は、そのまま地面に横転すると、苦悶の声を上げる。

「あぐぅう!!なんだよコレェ……!!」

木陰の中で、ウィキッドは身を丸めるようにして身体を抱き締めながら、激痛にのたうち回る。
今まで感じたことのない未知の痛み。
まるで、自分の命そのものが削り取られたかのような錯覚さえ覚える程の苦しみ。

『私の血に適合し、鬼になった者は人間を超越した力を手に入れことになる。
だが、その反面、致命的な弱点も露呈する―――』

ふと、ウィキッドの中で、先程の無惨の言葉が甦る。

『その弱点こそ、太陽光だ。貴様は精々苦しみながら死んでいけ』

「ハァハァ……そうか、そういうことかよ……」

徐々に痛みが引いていく中、あの時の言葉の意味を今になって理解する。
今しがた自分が体験した地獄のような苦痛の正体こそが、本来『鬼』となった者に与えられる代償なのだという事を。

では何故、今の今までは、日光に晒されても平気だったのか?
その答えは、彼女が遺跡で、臨也達と共に閲覧したレポートの中にあった。


519 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:03:52 DENnKdLs0
----------------------------------------------------------------------------
『007』は鬼の首魁であり、太陽光が弱点であったが、デジヘッド化を契機として、太陽光を浴びても消滅するようなことは無くなった。
これは、『006』がデジヘッド化に伴い発現した能力で、無自覚に自身から一定範囲(距離は定かではない)内にいるデジヘッド及び、それに近しい能力を持つ者に対して回復を行うように見受けられる。
したがって『007』においては、本来備わっている鬼としての回復能力が飛躍的に向上しており、太陽光を受けても再生能力がそれを上回っている。
----------------------------------------------------------------------------

(―――私も、あのクソ女の干渉能力によって生かされていたってことかよ、クソッタレ!!)

冷静に考えれば、すぐに分かることだった。
麗奈が発現した回復能力の影響を及ぼすのは、麗奈から一定範囲内にいるデジヘッド及び、“それに近しい能力を持つ者”―――。デジヘッドと同じく、精神世界に干渉できる「オスティナートの楽士」の能力を発現させているウィキッドが例外であるはずがないのだ。
先程、麗奈が近くにいる際は、陽光を浴びても何も問題はなかったが、今は僅かな時間だけでも陽光を浴びれば、あわや絶命寸前まで追い込まれるほどの苦痛に襲われている。
それはつまり、麗奈との距離が離れてしまったため、彼女から齎される回復能力が著しく損なわれたということになる。
もしかしたら、今尚も彼女との距離は離れ続けているやもしれない。
であれば、今、陽光にその身を晒して、この崖を駆け上がるのは、非常に危険だ。
先程は一命を取り留めたが、今度もまた無事に済むとは限らない。

(つまりは、日光に怯えながら、過ごせってことかよ!!
あのクソワカメ、とんだ不自由押し付けやがって!!)

ぎりぎりと歯軋りしながら、ウィキッドは憎々しげに顔を歪める。
そして恨めしそうに、岩壁の頂きを睨み付けながら、吐き捨てる。

「私の不幸を上塗りしやがって、絶対に殺してやるからな!!」

先程は、鬼になったこと自体は存外悪くないなとは言い放っていたウィキッドであったが、それによって齎された弊害を実感した今、改めて怒りを露わにする。
陽光の下で、手足を自由に動かせなくなるという受け入れ難い呪い―――。
それを運んできた二人に対して、必殺を誓うと共に、絶望少女は踵を返し、陽光差し込まぬ森林の奥へと進んでいく。
その瞳に、果てしのない憎悪を宿らせながら――。


520 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:04:26 DENnKdLs0

【D-4/森林地帯/午後/一日目】
【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:鬼化、楽士の姿、食人衝動(小)、疲労(極大)、カナメへの怒り(中)、無惨と麗奈への殺意(極大)、臨也への苛立ち
[服装]:いつもの制服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2 、アリアの支給品(不明支給品0〜2)、キースの首輪(分解済み)、キースの支給品(不明支給品0〜2)、カタリナの布団@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 北宇治高等学校職員室の鍵
[思考]
基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ
0:日光を避けながら、無惨たちを探す
1:無惨と麗奈を殺す
2:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。
3:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。
4:金髪のお坊ちゃん君(ジオルド)は暫く泳がすつもりだが、最終的には殺す。
5:舐めた真似してくれたカナメ君には、相応の報いを与えたうえで殺してやる
6:暫くは利用していくつもりだが、臨也はやはり不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。
7:私を鬼にしただぁ? 元に戻せよ、クソワカメ。
8:アリアの後輩達(あかり、志乃)に出会うことがあれば、アリアの最期を語り聞かせてやる
[備考]
※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。
※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。
※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読んでおり、覚醒者『006』は麗奈、『007』は無惨が該当すると認識しております。
※ 麗奈との距離が離れたため、太陽に対する耐性を失いました(認識済み)


521 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:04:55 DENnKdLs0



跪いた状態で、完全に機能停止しているアヴ・カムゥ。
そのコックピットを、臨也とオシュトルは二人がかりで、こじ開けると、凄惨な光景が飛び込んできた。

「これは……随分と酷い有様だな……」

「……。」

コックピットの中は、バケツの水をぶちまけたように血だらけとなっていた。
その中心で、新羅は腹に風穴を空けたまま、目を閉じて、項垂れていた。
出血しているのは、腹部だけではない。
腕、脚、口、耳、鼻、目……身体の至る所から血を流している。

臨也達は知る由もないが、これはアヴ・カムゥの完全排他モードによる副作用―――五体全てをシステムに捧げ、常人では耐えられない程の激痛を負いながら、機体が出しうる最上のパフォーマンスを発揮させ、奮戦した代贖であった。

「……セル…、ティ……」

微かに、新羅の声が漏れる。
今にも消え入りそうな声音だが、臨也達にはしっかりと届いていた。

「新羅お前まだ生きて……。待ってろ、今治療を―――」

臨也は、病気平癒守を取り出し、新羅の血濡れの身体に触れようとする。
しかし、その手は新羅によって掴まれ、阻まれる。

「お前、何を―――」

「ああ、ここに……いたんだね……、セルティ……」

目は閉じたまま、血の涙を零しながら、新羅は臨也の方を見上げて、弱弱しく微笑んだ。

「逢い……たかった……逢いたかったよ、セ、ルティ……」

「――新羅、お前……」

新羅は、臨也を視ていない。
そもそも、臨也の言葉も届いていない。
視覚も聴覚も失った今、彼が触れているのは、最愛の彼女の幻影。

「さぁ……帰ろうか、僕等の……家へ…………」

在りし日の彼女の夢を見て、穏やかな声と共に、新羅の手から力が抜けていく。
臨也の腕を握る手が離れ、力無く地に落ちた。

「おい、新羅……」

臨也は呼びかける。
しかし、新羅は応えない。
ただ穏やかに、永久の眠りへと旅立ったのである。

この上なく幸せそうな表情を浮かべて、最愛の彼女と共に―――。


【岸谷新羅@デュラララ!! 死亡】
【アヴ・カムゥ@うたわれるもの 二人の白皇 大破】


522 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:05:52 DENnKdLs0




『六枚羽』とアヴ・カムゥ―――巨大兵器の残骸が放置された戦場跡。
遺跡の大倉庫に面した山林には、あちらこちらに銃痕や、散乱した土砂や、切り崩された樹々、そして火の手が上がっており、この地で起きた戦禍の凄まじさを物語っていた。

「やってくれたな、新羅の奴……。」

臨也は、物言わなくなったアヴ・カムゥを見上げて、唇を噛み締めていた。
新羅の支給品を回収後、オシュトルには、回収したマスターキーで、アヴ・カムゥがまだ動くか試したいと申し出て、他の者達の捜索へと先行してもらったため、今はただ独り、物思いにふけていた。

臨也としては、遺跡(ここ)に辿り着くまでは、いつものように、何のこともなく、人間観察を謳歌していたつもりだった。

―――『人間』としての情愛を以って、妖刀・罪歌の支配に打ち勝った女剣士。
―――己が本性と向き合う一方で、頑なに主催の歌姫を救わんとした楽士。
―――護るべきと信じた者に欺かれ、底なしの悪意に蹂躙された少女。
―――誰よりも弱く脆く、それでいて、誰よりも強がって絶望を振り撒く魔女。

この殺し合いで視た、誰も彼もの言動は、どれも興味深くて、愛おしくて、胸を躍らせたものであった。
果たして『人間』達は、この殺し合いという極限の環境で、次に何を見せてくれるのだろうか-――ワクワク気分で遺跡に乗り込んだものの、第二回放送でセルティの名前が呼ばれてから一転。調子を狂わされてしまった。

振り返ってみると、あの時から普段の自分らしからぬ行動を取り続けていた、と臨也は思った。

セルティの死亡を知った新羅がどう行動するかなんて、分かり切ったことであった。
そんな予定調和で筋書きが決まっている事象を観察したとしても、何の面白味の欠片もない。
それに、新羅は大型の巨大兵器を手にしていたと聞いており、そこを鑑みても、ハイリスクローリターン―――関わらないのが得策であった。
しかし、臨也はあえて死地に乗り込み、新羅と対面することを選択した―――予定調和の行動をとる新羅を観察しても面白くはないが、その新羅を止めようとする周りの人間には興味がある、という尤もらしい言い訳をぶら下げて……。

『月彦』に刃を向けたときも、また然り。
切り札の『六枚羽』をあっさりと撃墜した、あの『化け物』―――自分達の手に余るのは明らかで、オシュトルの提案通りに、身を隠したまま退けば良かったものを。
自分の内より“何か”が込み上げてきて、気が付いた頃には、新羅を殺したであろう、あの『化け物』に戦いを挑もうとしていた。
即座に己が失策を悟ったものの、後の祭り―――それでも、表情には、さぞ必勝の手があると思わせる余裕の笑みを張り付かせたまま、『化け物』を挑発した。

―――という具合に、思い返してみれば、らしくもなく、感情的に動いてしまっていた節が多々あり、その主たる原因は、岸谷新羅という存在にあったのは間違いない。


523 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:06:11 DENnKdLs0

「友達甲斐のない奴め……」

そして、何よりも臨也の気に障ったのは、彼の最後の瞬間だった。

『さぁ……帰ろう、僕等の……家へ…………』

今でもあの穏やかで幸せそうな表情が、瞼の裏に焼き付いて離れない。
世間基準でも『友人』と言える此方からの呼びかけには一切反応せず、新羅は最期まで、セルティしか視ていなかった。
終わりのその瞬間まで、全ての人間への等しい無関心を貫いてみせて、彼は眠りについた。

それを見届けた臨也の内に沸き起こった感情は、『友人』を失った悲しみでも、『友人』を手に掛けた『化け物』への怒りでもなく―――。

徹底した『人間への無関心』を貫き通した新羅に対する、強烈な嫉妬と敗北感であった。

「ははっ」

その感情を味わって、臨也は改めて、岸谷新羅という存在は、自分にとって、目指すべきライバルであったのだと悟った。

「ははははは」

そして、新羅という唯一無二の目標を失った事実に対して、彼は小さく笑ってみせた。

―――放送でセルティの名前が呼ばれた時、あいつと対面し別れの挨拶を交わした時、こうなることは覚悟していただろうに。
―――全ては想定の範囲内、何も恐れることはないじゃないか……。

心の内で、そのように『新羅の死』を切って捨て、臨也は笑って受け流そうとする。
笑い――。
笑い――。
     笑い――。
        笑い――。

彼は右手で拳を握り、それを思いっきりアヴ・カムゥの残骸へと叩きつけたのであった。
彼が何を思ってそのようなことを行なったのか、彼が今どのような表情を浮かべているか、それを知るものはいない。

何故なら―――

「臨也殿」

「おや、オシュトルさん。随分早い帰還だね」

臨也の背後、森の奥より姿を現したオシュトル。
その声に振り返った臨也は、いつもと変わらぬ笑顔だったから。
まるで何事もなかったかのように、いつも通りの口調で言葉を返して―――。
オシュトルと、オシュトルの背中に担がれている少女を出迎えるのであった。


524 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:06:31 DENnKdLs0



背後から激しい爆発音が木霊する。

けれど、彼女―――高坂麗奈は、背後を振り返ることなく、ひたすらに駆けた。

如何な苦難に直面しても、真っ向から挑んでいた、かつての気高き天才トランペッターの姿はもはやない。

鬼舞辻無惨とウィキッドから逃げるため、
己が犯してしまった過ちから逃げるため、
彼女に降りかかる全ての絶望から逃れるため、
ぐちゃぐちゃになった思考回路で、ただひたすらに逃避へと走る哀れな少女の姿がそこにあった。

それ程までに、麗奈の精神は限界を迎えているのであった。

そんな麗奈の遥か後方で、彼女を猛追している男がもう一人―――。
鬼舞辻無惨もまた、ひたすらに地を駆けていた。

太陽光に対する耐性が失われつつあることを察知した無惨は、麗奈確保のため、急ぎロクロウと邂逅した場所へと戻った。

しかし、付近にいたのは倒れ伏せていたヴァイオレットのみ。
ヴァイオレットの身体からは、齧られた跡と夥しい出血があった。
そして、その場所からは血痕が続いており、そこを辿ると、太陽光によるダメージが和らいでいくことを体感。
麗奈がそちらの方向に、逃げたのは明白だった。

ヴァイオレットにはまだ息があるようにも見えるが、はっきり言って無惨にとっては生きようが死のうが興味もなく、そのまま放置する。
「デジヘッド」の謎について、ウィキッドを捉えて、尋問も行いたいが、こちらも二の次―――今最も優先すべきは、麗奈の確保にある。

故に、無惨はただひたすらに麗奈を追跡するのであった。


525 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:07:21 DENnKdLs0
【E-5/森林地帯 /午後/一日目】
【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム】
[状態]:デジヘッド化(無自覚、浸食率低め)、鬼化、食人衝動(中)、回復スキル『アフィクションエクスタシー』発動中(無自覚)、恐怖による無惨への服従(極大) 、ウィキッドへの恐怖 及び苛立ち、精神的疲労(絶大)
[服装]:制服
[装備]:
[道具]:高坂麗奈のトランペット@響け!ユーフォニアム、危険人物名簿@オリジナル
[思考]
基本:殺し合いからの脱出???
0:逃げる、もう何も考えたくない……
1:今ここにいる私は偽物……?
2:月彦さんが怖い……
3:ヴァイオレットさん……
4:水口さんは怖いけど、ムカつく
5:部の皆との合流???
6:久美子が心配???
7:みぞれ先輩は私を見捨てた……?
8:誰か……助けて……
[備考]
※参戦時期は全国出場決定後です。
※『コスモダンサー』による精神干渉とあすか達の死によるトラウマの影響で、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した無惨からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、無惨と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。
※無惨の血により、鬼化しました。身体能力等は向上しております。
※腕は切断されましたが、鬼化の影響で再生しております。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。


526 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:07:46 DENnKdLs0

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(極大)、全身ダメージ(大)、月彦の姿、デジヘッド化(無自覚、浸食率低め)、麗奈の回復スキルにより回復力向上 、太陽光により身体の一部が炭化
[服装]:ペイズリー柄の着物
[装備]:シスの番傘@うたわれるもの 二人の白皇(麗奈の支給品)
[道具]:不明支給品1〜3、累の首輪、鈴仙の首輪、オスカーの首輪
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない
0:まずは麗奈を確保する
1:太陽克服のカラクリを究明するため、ウィキッドから『デジヘッド』の情報を吐かせる。
2:私は……太陽を克服したのか……?
3:麗奈は徹底的に利用する。まずはこいつの能力の詳細を確認し、太陽克服のカラクリを探る。問題ないようであれば、麗奈を吸収することも視野にいれる。
4:昼も行動するため且つ鬼殺隊牽制の意味も込めて人間の駒も手に入れる(なるべく弱い者がいい)。
5:逆らう者は殺す。なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。
6:もっと日の光が当たらない場所を探したい。
7:鬼の配下も試しに作りたいが、呪いがかけられないことを考えるとあまり多様したくない。
8:『ディアボロ』の先程の態度が非常に不快。先程は踏みとどまったが、機を見て粛清する。よくも私に嘘をついたな。ただでは殺してやらない。
9:垣根、みぞれ、オシュトル、ロクロウ、臨也は殺しておきたいが、執着するほどではない。
[備考]
※参戦時期は最終決戦にて肉の鎧を纏う前後です。撃ち込まれていた薬はほとんど抜かれています。
※『月彦』を名乗っています。
※本名は偽名として『富岡義勇』を名乗っています。
※ 『危険人物名簿』に記載されている参加者の顔と名前を覚えました。
※再生能力について制限をかけられていましたが、解除されました。現在の再生能力は麗奈の回復スキル『アフィクションエクスタシー』の影響で、太陽によるダメージを克服できるレベルのものとなっております。
※蓄積したストレスと、デジヘッド化した麗奈の演奏の影響をきっかけに、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した麗奈からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、麗奈と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※ 攻撃強化スキル『ロジックマイト』を発動できるようになりました。無惨自身の生命が脅かされ、それによるストレスが蓄積された状態になると、無自覚に発動します。
※ 太陽光によるダメージで、身体の一部が炭化し、消失しました。
その影響で全身にダメージを負っています。
現在は麗奈との距離が縮んだおかげで、陽光を浴びてもダメージは受けませんが、消失によるダメージを回復するために、人間の血肉を食らう必要があります。

■ 発現能力紹介: ロジックマイト@Caligula Overdose
デジヘッド化した無惨が、無自覚に発動する能力。
無惨が、自身の生命が脅かされる状況であると認識し、それによる極限のストレスを抱えた状態で発動。
一定時間、自己防衛のため、自身の防御強度を犠牲に、攻撃力を大幅に強化する。
あくまでも無惨自身のみに効果があり、周囲の参加者には、特に影響を与えることはない。


527 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:08:23 DENnKdLs0



先程までの喧騒が嘘のように、静まり返る『大いなる父の遺跡』。
その遺跡内にある一室で、備え付けのベッドが二台並べられ、その上に気を失っているヴァイオレットとロクロウが寝かされていた。
それを見守るのは、臨也とオシュトルの二人。

「オシュトルさん、そっちの彼の様子はどうだい?」

無惨が去った後、爆音が発生したと思わしき場所でオシュトルが出会したのは、激しい戦闘の痕跡と、首と肩口から血を流し倒れているヴァイオレットのみで、他の連中は見つからなかった。
オシュトルは自分の衣服を千切って、ヴァイオレットの傷口を押さえて止血した後、彼女を背負って臨也のところに戻ってきた。
臨也はすぐに、病気平癒守を取り出して、ヴァイオレットの傷を治療した後、安静できる場所へと運ぶよう提案――大倉庫を経由して遺跡内に戻ったところ、瀕死でありながらも、まだ息のあるロクロウを発見し、今に至っている。

「欠損した右腕以外の外傷は治療できたが、状況は、見ての通り、芳しくない。
これは、内側からの損傷―――さしあたり、体内に強烈な毒のようなものを混入されているように見受けられるが……」

無論、ロクロウにも病気平癒守の残使用回数を全て消費の上、傷の回復は行なった。
しかしながら、目立った外傷部については、塞がったものの、時間とともにロクロウの身は爛れていく、時々咳込むと同時に吐血している始末である。
オシュトル達は知る由もないが、これは無惨が攻撃の折、彼の血液を大量に、体内に混入したことが起因する。常人であれば、既に死に至ってもおかしくない程の猛毒ではあるが、業魔であるが故の強靭さで何とか堪えている状況だ。

「それも、あの『化け物』の攻撃によるものなのかな。 彼には是非とも詳細を聞きたいところなんだけどさ」

ロクロウは夜叉の業魔――人間ではないと、オシュトルから説明を受けている臨也からすると、ロクロウの生死自体には興味ないのだが、無惨の排除に向けて、必要な情報及び戦力は惜しいところであった。

そんな折――。

「……ん……、お嬢…様……」

眩い人口灯の元で、ヴァイオレットはその瞼を開けた。

「目が覚めたか、ヴァイオレット殿」

「オシュトル様……? ここは……?」

「やぁ、ヴァイオレットちゃん。気分はどうだい?
ここは遺跡の中さ。君達二人が、気を失っているところを、俺達がここまで運んできたんだよ。
あっそうそう、さっきはドタバタしてたから、自己紹介がまだだったよね? 俺は―――」

「お嬢様は…!? お嬢様はご無事でしょうかっ!?
それに新羅様、アリア様も――」

悠長に挨拶をしようとする臨也の言葉を遮り、ヴァイオレットは飛び起きると、焦燥感を募らせた表情を浮かべながら、二人に詰め寄った。


528 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:08:42 DENnKdLs0

「ちょっと待ってよ、ヴァイオレットちゃん。
そんな一方的に質問されても、こっちとしても其方の状況が飲み込めてないんだよ」

「うむ、ヴァイオレット殿、まずは落ち着かれよ。
この場合、順を追って話を進めて、認識を合わせるべきだと考えるが……」

「――申し訳ありません……。取り乱しました……」

冷静さを欠いていたことを自覚したのか、落ち着きを取り戻したヴァイオレットは目を伏せる。
そんな彼女に、オシュトルは問い掛ける。

「まずは、ヴァイオレット殿から聞かせてくれぬか? 我等と別れた後、何が起こったかを……」

「畏まりました、それでは――」

ヴァイオレットは、一呼吸おいて、二人に向き合うと、事の経緯を静かに語り始めた――。

(――さて、彼女はどんな人間なんだろうね……)

そして、そんな彼女に、臨也は熱い視線を送る。
彼女が語る内容だけではなく、彼女そのものを観察せんと意識を傾ける、いつも通りの情報屋の姿がそこにはあった。

――ズキリ

アヴ・カムゥに全力で叩きつけた拳が痛む。
しかし、彼はそれを表情にあらわすことはなく、いつも通りに人間観察に徹する。
病気平癒守を以って、この砕けた拳を治療することは出来たが、彼は敢えてそれを行わなかった。
この拳の痛みを、自らの戒めとするために―――。

(俺は、これからも、人間を愛し続けるだけさ……)

そのように、自分に言い聞かせ、臨也はヴァイオレットの観察を続ける。

岸谷新羅は、最期まで彼の“愛”を貫いた。
なればこそ、臨也もまた、自分の“愛”を貫こうとする。

それは、もしかたら意地なのかもしれない。
心の中でぽっかりと空いた“何か”から、目を背けるだけの行為かもわからない。

それでも臨也は、人間を愛することを止めようとしない。
それが、折原臨也という人間の在り方なのだから――。


529 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:09:09 DENnKdLs0
【E-4/大いなる父の遺跡/午後/一日目】
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:疲労(中)、全身強打、右拳骨折、言いようのない喪失感
[服装]:普段の服装(濡れている)
[装備]:
[道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数0/10、使い切った状態)、まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0〜1(新羅)
[思考]
基本:人間を観察する。
0:一先ず、ヴァイオレットと情報交換をして、状況を整理する
1:『レポート』の内容は整理したいね
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
3:茉莉絵ちゃんを『観察』する。彼女が振りまくであろう悪意に『人間』がどのような反応をするのか、そして彼女がどのような顛末を迎えるのか、非常に興味深い
4:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だなぁ
5:平和島静雄はこの機に殺す。
6:『月彦』は排除する。化け物風情が、俺の『人間』に手を出さないでくれるかな。
7:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。
8:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。 何が目的なんだろうね?
9:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃に興味。
10:ロクロウに興味はないが、共闘できるのであれば、利用はするつもり。
[備考]
※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。
※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※ Storkと知り合いについて情報交換しました。
※ Storkの擬態能力について把握しました
※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。
※ 無惨を『化け物』として認識しました。


【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
[状態]:全身ダメージ(大) 、肩口及び首負傷(止血及び回復済み)
[服装]:普段の服装
[装備]:手斧@現地調達品
[道具]:不明支給品0〜2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ)
[思考]
基本:いつか、きっとを失わせない
0:麗奈達と何が起こったのか、オシュトル達に話す
1:お嬢様……それに新羅様は……?
2:その後のアリアが心配。ご無事だと良いのですが……。
3:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。
4:麗奈と再合流後、代筆の続きを行う
5:手紙を望む者がいれば代筆する。
6:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。
7:ブチャラティ様が二人……?
[備考]
※参戦時期は11話以降です。
※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。


530 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:09:30 DENnKdLs0
【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:健康、疲労(大)、全身ダメージ(中)、強い覚悟
[服装]:普段の服装
[装備]:オシュトルの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、童磨の双扇@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一色、工具一式(現地調達)
[思考]
基本:『オシュトル』として行動し、主催者に接触。力づくでもアンジュを蘇生させ、帰還する
0:一先ず、ヴァイオレットと情報交換をして、状況を整理する
1:ロクロウを蝕んでいる毒(無惨の血)の治癒方法を探る
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
3:『レポート』の内容は整理しておきたい
4:クオン、ムネチカとも合流しておきたい
5:マロロ、ヴライ、無惨を警戒
6:ゲッターロボのシミュレータについては、対応保留。流竜馬とその仲間を筆頭に適性がありそうな参加者も探しておきたい。
7:殺し合いに乗るのはあくまでも最終手段。しかし、必要であれば殺人も辞さない
9:『ブチャラティ』を名乗るものが二人いるが、果たして……。
10:誰かに伝えたい『想い』か……。
[備考]
※ 帝都決戦前からの参戦となります
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『003』がミカヅチであることを認識しました。

【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:気絶中、全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2 チョコラータの首輪@バトルロワイアル
[思考]
基本:シグレ及び主催者の打倒
0: ―――。
1: 手に入れた首輪を、オシュトルの元へ届ける
2: シグレを見つけ、倒す。
3: 號嵐を譲ってくれた早苗には、必ず恩を返すつもりだが……
4: ベルベット達は……まあ、あいつらなら大丈夫だろ
5: 殺し合いに乗るつもりはないが、強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
6: シドー、見失ってしまったが、見つけたら斬る
7: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
8: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
9: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。
※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。解毒を行わない限り、数時間以内に絶命します。


■ 支給品紹介: HsAFH-11@とある魔術の禁書目録
折原臨也に支給。
通称『六枚羽』。学園都市最新鋭の無人攻撃ヘリで、一機で250億円ほどする超高級品。
このバトルロワイアルでは、主催者側により改造されており、付属するリモコンで指定されたプレイヤーを攻撃するようになっている。
※無惨との戦闘により墜落及び大破。機動不可となり、E-4エリアで放置されております。


531 : 狂騒曲の終末に ◆qvpO8h8YTg :2023/01/01(日) 18:09:53 DENnKdLs0
投下終了します。


532 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/02(月) 23:50:55 iqTo9Lc20
あけましておめでとうございます、そして大作投下お疲れ様です。

遺跡での激戦&激戦の群像劇の果て、とんでもないことになった
落ちた二人も、生き残った面子もみんながみんなキャラが立っており、まさにキャラが生きている...と思わずにはいられませんでした
死にたくない一心でとうとうトップマーダーになった無惨様も、ウィキッドも、残された人間たちも今後どうなるかが気になります

平和島静雄、レイン、隼人、クオン、早苗、無惨で予約します


533 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/13(金) 23:50:33 ucJVbPeA0
投下します


534 : 水面下で絡まる思惑 ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/13(金) 23:52:04 ucJVbPeA0
遊園地を探ろう。
それがレインの下した判断だった。

理由としては遊園地という大規模な施設をわざわざエリアの隅に置いたことから、なにかを隠しているのではないかという推察からだ。
希望的観測と言えばそれまでだが、しかしかえってそういうシンプルなものが答えの時もある。
それに遊園地の近くには渋谷駅もある。
静雄とその知己の知る共通の施設だ。
もしかしたら新羅もセルティの手がかりを求めて向かっているかもしれない。

その願望込みで向かった結果だが―――その成果はゼロ。

遊園地の名が泣きそうになるくらい閑散としており、痕跡といえば自販機が幾らか壊されていた程度。
それも投げつけたというよりは叩きつけて飲み物を手に入れた、つまりは、別に戦闘があったわけでもない。
自販機を投げれるなんて脅威的だ!...なんて普遍的な感情も、静雄や竜馬、ヴライといった例を見てしまっては特別脅威でもなんでもない。

だから成果はゼロ。
レインにとってはまさに無駄足だったというわけだ。

渋谷駅の近辺を探しているはずの静雄のもとに足を運び、その成果を報告しようとするが

「......」

遊園地の駅員室に置かれた書置きに、唇を噛み締める静雄の背に、レインは言葉をかけるのを躊躇われる。
様子を見れば嫌でも察せる。
彼には収穫があった。それも、決して手放しで喜べないものが。

『北宇治高等学校にて待つ 武蔵坊弁慶 黄前久美子 セルティ・ストゥルルソン』

「...やっぱり、ここにいたんだなセルティ」

静雄の読みは当たっていた。
このゲームに反目するであろう彼女なら、新羅と自分を待つために一度はここに足を運ぶであろうという予想は。
だが間に合わなかった。

これまでの道程そのものを否定するわけではない。
ここまでの紆余曲折がなければ、レインはミカヅチに殺され、フレンダは竜馬の悪評を広めることで被害を拡大していき、梔子は彩声諸共ヴライに殺されていた。

ただ、間に合わなかったという事実をそれで流せるほど彼は器用ではなく、怒りと悲しみが握りしめた拳に溜まっていく。

そんな自分を見つめている視線に、静雄は振り返り努めて冷静にレインを迎え入れる。

「...あいつの、セルティの書置きを見つけた」
「そうですか」
「ここでのあいつを知ってる、弁慶と久美子ってやつに話を聞きてえ」
「いいと思いますよ」

静雄の申し出をレインは受け入れる。
理由としては、静雄の感傷論だけではなく、彼らとの接触は安全性が高いと踏んだからだ。
まずはこの書置きに名前が記されているという事実。

まずもって、この三人が敵対関係にあることはない。
先にも調べた通り、この遊園地において戦闘の痕は一切なく、自販機が幾つか壊れていただけ。
血痕も銃創も無いとなれば、おそらく静雄クラスの力の持ち主が中の飲料を欲して壊し、他の二人にも飲み物を分け与えたといったところだろう。
書置きが罠という可能性も考えたが、しかしそれにしては要求するものが無さすぎる。
時間も、交換要求も無ければ、これを見た参加者に来てほしいというただの要望だ。
なにより、流竜馬の仲間である武蔵坊弁慶の名が記されているのも大きい。これが書置きが罠である可能性は無いと断言できた主な理由だ。
考えても見てほしい。
この殺し合いにおいて不死身のデュラハンと流竜馬ばりのフィジカルエリートを人質として確保する価値はあるだろうか?
いや、いつ何時こちらに牙を剥いてくるかわからない獣など、すぐに排除してしまう方が正しい。

故にこの二人では人質の役を務められない。

残る久美子という名の人物だけはまだ未知数だが、首無しライダーとゲッターロボパイロットの両名が知らない施設に向かうとなれば、恐らくこの北宇治高等学校が久美子なる人物の目指す施設。
そしてこうも普遍的な高校を目印とするくらいならば、高確率で一般人だ。


535 : 水面下で絡まる思惑 ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/13(金) 23:52:46 ucJVbPeA0
久美子がどのような性格かはわからないが、なんにせよセルティ以外の二人が竜馬の同類と一般人となれば危険性はかなり低いと見ていい。
他参加者との接触がさほど叶っていない自分たちにとっては安全に情報を得られる機会は決して逃せぬチャンス。
静雄もそれは大雑把には理解しているようなので、レインとしても反対する理由はなかった。

「まだ居るかはわからねえが、北宇治高等学校ってところでいいか?」
「現状、そこ以外に手がかりはありませんからね」
「おし。わかった」

レインがロードバイクの荷台に跨ったのを確認すると、静雄はペダルを漕ぎ始め、瞬く間に速さが増していく。
友達の手がかりがある。
その希望は池袋最強の足に力を漲らせ、ペダルの回転数も瞬く間に増していく。
ちょっとした車さながらの速度に落とされないようにレインは静雄にしがみつき、壊れた線路の付近にまで差し掛かった時だった。


―――カラァン


音が聞こえた。
なにかを告げるような高らかな鐘の音が。

その音に静雄はペダルを漕ぐ足を止める。

「レイン、今のは...」
「ええ。誰かが鳴らしたのでしょう」

あの音が救援を求める鐘か、あるいは餌をおびき寄せる悪意の火種かはわからない。
しかし、少なくとも「何者かがいる」ことは確定している為、情報は得られる。

「...向こうに行くが構わねえか」

レインが悩むよりも早く、静雄はそう判断する。
罠であるかもしれない。しかし、あの鐘を鳴らしたのが友達と行動を共にしていた者たちかもしれない。
平和島静雄は全てを救うと豪語するような聖人ではないが、しかし手の届く範囲で、自分が向かえば助けられるかもしれない者を見捨てたくはないとも思っている。
煉獄杏寿郎や天本彩声のように。自分よりも心の強い彼らのように生きたいと願っている。

「...わかりました。なんにせよ情報は必要ですから」

レインもまた、合理的に考えた結果、確実になにかしらの情報を得られる機会をフイにはしたくないと判断し、静雄に賛同する。

そして。バイクさながらの速度でこぎつけること行く候。
ほどなくして、静雄とレインは鐘の音の出所であるムーンブルク城、その成れの果てである瓦礫の山に辿り着く。
爆心地とも見間違うほどの戦場痕、そこに佇むのは三人の男女と宙に浮く一匹の妖精。
二人の女は横たわる二体の躯を悼み涙を流し、妖精はそんな二人をいたたまれない表情で見つめ、一人の男はそんな彼女たちを黙って見ていた。


536 : 水面下で絡まる思惑 ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/13(金) 23:53:22 ucJVbPeA0
「おい、あんたら。さっきの鐘は」

静雄が問いかけるよりも早く、男は二人の存在を察知し、即座に銃を構え牽制する。
その傷つききった身体でなお衰えぬ殺気と怒りの気配に、しかし静雄は臆せずレインを庇うように前へと進み出て両手を挙げる。
銃を向けられたとて、静雄は怒ることはしない。自分だって、セルティが死んだと聞かされた時はこれくらい気が荒ぶっていたのだから。
人の死に涙していることから、彼らは殺し合いに乗った可能性は低いと見て、静雄は冷静に対話を続ける。

「いきなり話しかけて悪かった。俺は平和島静雄、こっちの女の子はレイン。見ての通り殺し合いに乗ってるわけじゃねえし、さっきの鐘を聞いてやってきたんだが...出直した方がいいか?」
「...いや、構わん。だが情報交換ならこの場でだ。俺たちも先を急いでいるんでな」
「先を急いでいる、とはどういうことでしょうか」

男に敵意はない、と判断したレインは静雄の隣に立ち、代わりに問答を続ける。

「貴方たちは既に戦いを終えたように見えます。そして貴方だけでなく後ろの彼女たちも行動できるかすら怪しい...そんな有様でなにをそんなに急ぐんです」
「一人、まだ戦っている奴がいる。武蔵坊弁慶。ここに連れてこられる前からの仲間だ」
「!」

探していた人間の名が思わぬところから手に入り、静雄とレインは思わず顔を見合わせる。
そして、弁慶と以前からの知己であるということは、既にあった流竜馬と脱落した安倍晴明を除き、残る彼は神隼人となる。

「なああんた。そいつはいまどこにいるんだ?」
「聞いてどうする」
「安心してください、私たちは味方です神隼人さん」
「!...俺の名をどこで知った?」
「流竜馬さんから聞きました。彼とも既に協力関係です」
「そうか、あいつが...」
「セルティって俺のダチがその弁慶って男たちと一緒に行動してたらしいんだ。力になれるならなってやりてえ」

隼人は目を瞑り、数舜だけ沈黙するとほどなくして口を開く。

「北宇治高等学校のあたりだ。場所は...行けばわかる。腐るほどの破壊痕と死体があるんでな。何人生き残ってるかはわからんが、味方は佐々木志乃、黄前久美子、鎧塚みぞれ、十六夜咲夜。敵は金髪の貴族風の男、ジオルドだ」
「わかりました。貴方たちは身体を休めておいてください。弁慶さん達の援護が終わったらまた戻ってきますから、なにがあったかはその時詳しく聞きましょう」

言うが早いか、静雄は北宇治高等学校の方面に車輪を向けるが、その前に一つの影が立ちはだかる。
その姿に静雄は目を見開く。

「お前は...!」
「ヒヒン」

コシュタ・バワー。セルティの相棒の馬だ。

「そうか、お前もいたんだな。...連れてってくれるか」

静雄の言葉に応えるように、コシュタ・バワーはすぐに己の身体を変化させる。

静雄はバイクも馬車も動かせない。
それを知っていたコシュタ・バワーは自転車の型に変化した。

「わかってるじゃねえか。ありがとよ」

静雄は乗っていたマウンテンバイクを隼人に渡し、コシュタ・バワーの自転車に乗り換え、レインと共に示された現場へと向かう。
静雄の全力の脚力で漕がれれば並の自転車など瞬く間に壊れてしまう。
しかし、デュラハンの不死身性を有するコシュタ・バワーならば彼の力にも耐えられる。

車のような速度で自転車は走りだし、静雄とレインの二人の姿はあっという間に遠ざかっていく。

「......」

小さくなっていく二人の背中を見ながら、隼人は思考する。

恐らく、彼らの援護は間に合わない。
弁慶が勝つにせよ負けるにせよ、あの場に残った面子が長期戦など出来るはずもなく、既に決着がついている頃だろう。

ではなぜ静雄たちを向かわせたかと言えば、弁慶が勝っていた場合に連れてくるのを期待したのもあるが、それ以上にこの場の面子でやらなければならないことがあるからだ。

「気は済んだかお前たち。そろそろ顔をあげろ」

未だに悲しみに暮れているクオンと早苗にぶっきらぼうに声をかける。

「ちょっと隼人、言い方ってもんがあるでしょ」
「時間はくれてやったはずだ。これ以上は待てん」

そんな隼人にアリアが注意するも彼は聞く耳など持たない。
隼人とて、協力した面々の死になにも思わない訳ではない。
だが、弁慶やビルド、マロロや志乃たちの死に嘆き縋りついたところで何の進展もないことはわかっている。
今すべきことは足を止め悲しみに暮れることではない。
現状、共に行動していたクオンはともかく、早苗とはまだロクに情報を交換できていない。
そしてクオンにしても、あの神の如き力がなんなのかをまだ共有していない。
つまり、必要なのは各々が持つ情報を整理しそこから活路を見出すことだ。

「聞かせろ。東風谷早苗、お前がここまで見てきた全てを。そしてクオン、お前が俺たちの敵か、味方かをな」


537 : 水面下で絡まる思惑 ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/13(金) 23:54:50 ucJVbPeA0
【C-5/夕方/ムーンブルク城/一日目】


【神隼人@新ゲッターロボ】
[状態]:疲労(絶大)、全身にダメージ(絶大)、出血(大)、カタルシス・エフェクト発現(現在は疲労困憊のため使用不可能)
[役職]:ビルダー
[服装]:普段着
[装備]:ミスタの拳銃@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、ミスタの拳銃(ビルドの作った模造品)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、浜面仕上の首輪、錆兎の首輪
[思考]
基本方針:首輪を外して主催を潰し帰還する。
0:まずは早苗との情報交換、そしてクオンの見定めをする。
1:場が落ち着いたら改めて早乙女研究所に向かう。
2:ものつくりの能力を利用し有利に立ち回る。現状、殺し合いに乗るつもりはない。
3:主催との対決を見据え、やはり首輪のサンプルはもっと欲しい。狙うのは殺し合いに乗った者、戦力にならない一般人(優先度は低い)。
4:竜馬と合流する。
5:ジオルドが生きていたら殺す。
6:静雄とレインが戻ってきたら改めて情報交換する。

※少なくとも平安時代に飛ばされた後からの参戦です
※幻想郷の大まかな概要を聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※カタルシス・エフェクトに目覚めました。武器はドリルです。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。

【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(絶大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、オシュトルへの怒り、ウィツアルネミテアの力の消失、呆然自失
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2
[思考]
基本:殺し合いに乗るつもりはない。皆と共に脱出を。
0:現状を整理する。
1:オシュトルはやっぱり許せない。
2:アンジュとミカヅチを失ったことによる喪失感
3:着替えが欲しいかな……。
4:オシュトル……やっぱり何発か殴らないと気が済まないかな
5:優勝……ハクを蘇らせることも出来るのかな……ううん、馬鹿なこと考えちゃ駄目!
6:マロロ...
[備考]
※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。


538 : 水面下で絡まる思惑 ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/13(金) 23:55:15 ucJVbPeA0
【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:霊夢に会えたことの安心感と同時に不安、全身にダメージ(大)、疲労(絶大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(大)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
0:現状を整理する。
1:豹変したドッピオに驚き。何か隠してるんじゃ…… 
2:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
3:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
4:ロクロウとオシュトルに不信感。兄弟で殺し合いなんて……
5:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
6:魔理沙さん、妖夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。


【アリア@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:疲労(絶大、フロアージャックはしばらく使用不可)、悲しみ(絶大)
[思考]
基本:μを止める、だけど……
0:現状を整理する
1:帰宅部の仲間との合流
[備考]
※参戦時期は少なくてもシャドウナイフ編以降。琵琶坂生存ルートです。詳しい時期はお任せします。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・隼人・ビルド・琴子・リュージと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※フロアージャックはしばらく使えません
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。


539 : 水面下で絡まる思惑 ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/13(金) 23:55:58 ucJVbPeA0



「おのれ...どこまで逃げたあの駄犬が...!」

陽は沈みつつある。
陽の下を歩けぬ鬼である鬼舞辻無惨にとってそれは幸運であり、同時に不運でもあった。
高坂麗奈は無惨と同じ種の鬼だ。故に太陽という楔があればその行動範囲も狭まる。
だが、麗奈が遺跡から逃げ出してから追っていた足跡は途中で途絶えてしまった。
陽が沈むにつれて行動範囲が広まってしまった所為だ。
本来の鬼の仕様である呪いもいまは使えない以上、無惨は麗奈の行動を推測して追わなければならない。
だが、肉体を齧られ放置されたヴァイオレット・エヴァーガーデンのいた逃亡現場から推測するに、麗奈は錯乱して逃げ回っている。
無惨は相手が鬼殺隊のような異常者でなければ、相手の求める答えを容易く用意できるくらいには人心掌握に長けているが、錯乱した人間の思考など読めるはずもなく。
少しばかり遠いが、数少ない麗奈の知る施設である北宇治高等学校へと向かうことにした。

ところどころ差し込んでくる陽光は番傘でどうにか凌ぎ、やがて彼は惨劇の場へとたどり着く。

(なんだこれは)

辿り着いた先には学校など存在しておらず、代わりに至る箇所に刻まれた数メートル、数十メートル規模のクレーター。
そして、焼けた大地に焼け落ちた三つの肉塊、そして脳漿と頭蓋を粉砕され頭部より内容物を露出させられた男の死体。

それそのものは人の死に対して大した感傷を抱かない無惨にとってはどうということはない。
問題はこの大規模なクレーターだ。

自身が関わった大いなる父の遺跡も、それなりの惨状であるとは思っている。
だが、この破壊の痕はその比ではない。
自分どころか、己を最も追い詰めたあの男・縁壱ですら成し得ぬかもしれないほどの規模だ。

(私よりも強力な者がいるのか?)

あり得ない、とは言い切れない。
先の岸谷新羅のような凡人ですら道具一つであそこまで己と渡り合い、垣根提督のように明らかな異端もいる。
そもそも。
自分を招いている以上、自分を殺し得るものの存在は想定しておくべきだ。

今まで麗奈に抱いていた憎悪と憤怒の感情は冷め、己よりも強者がいるかもしれないという危機感は彼の脳髄を生存の方面に舵を切らせる。

いま、最も恐れるべきはなんだ。自分が知らぬところでの高坂麗奈の死だ。
極論を言えば、最悪、自分が麗奈を見つけられなくてもいい。
彼女の命さえあれば自分は昼間でも行動できる、つまりは誰かが麗奈を保護してくれていればそれだけでもいい。
他の参加者が消えたその時に保護者もろとも始末するだけであり、人質にでも取られようものなら麗奈ごとそいつを殺してしまえば、少なくとも先ほどのように唐突に日光を浴びて害を被ることはなくなる。
高坂麗奈の身柄の確保は最上、百歩譲ってヴァイオレット・エヴァーガーデンのような者に保護される分にはまだいい。
とにかく今は『高坂麗奈がこのまま何処かで死ぬ』という最悪の事態だけを避けられればいい。

(必要なのは目だ。私以外の者を使う必要がある)

古巣の北宇治高等学校でもないとなると、もう場所の推測で範囲を絞るのは困難になる。
ならば協力者を探した方がいい。
だが、麗奈は既にいまの無惨の顔を知っている。
仮に誰かに匿わせるにしても、マトモな神経であれば、自分がいる時点で彼女自身が拒絶するだろう。
新たな配下として鬼を増やす選択肢は水口茉莉絵の叛意で既に潰れている。

ならばどうするか。

彼は既にその答えを識っている。


540 : 水面下で絡まる思惑 ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/13(金) 23:58:07 ucJVbPeA0
(気は進まないが)

無惨は己の顔を両手で覆い隠し、その場で静止する。

ゴキ、ゴキ、と硬いものが蠢くような音がした。

―――鬼舞辻無惨の恐ろしさ。
それは鬼としての純粋な強さ。なによりも己の命を優先する生き意地の強さ。
それもある。だが、彼が最も恐れられたのは戦う以前の問題だ。

彼は徹底して鬼殺隊の前に姿を見せるのを嫌った。
姿を。性別を。身分を。気配を。

鬼殺隊が『鬼舞辻無惨』と認識している全てを偽り、変化させることで何百年もの年月を鬼殺隊から足取りすら掴ませず身を潜めてきた。

ピタリ、と音が止むと、シンとした静寂に包まれる。

それを打ち破るかのように、キイイという金切り音と共に砂ぼこりが舞い上がりガシャンと激しい音が鳴った。
静雄とレインが到着した証である。

「ありがとよコシュタ・バワー...おい、誰か生き残ってるやつはいねえか!」
「静雄さん。あそこに人が」
「金髪じゃねえな...おい、あんた!ここでなにがあった、名前は!?」

「悪いけど、あたしも来たばかりだから何にも知らないわよ」

鬼舞辻無惨『だった』者は、先ほどまでの男声ではなく甲高い女声で静雄の問いかけに答える。

その髪は黒色ではなく桃色に。
ウェーブのかかった髪は長いツインテールに。
大柄な体格は一尺以上縮まった小柄なものに。

「あたしは神崎・H・アリア。高坂麗奈って子を探してるの。あんたたちは知らないかしら?」

紅梅職の瞳と猫のように縦長の瞳孔を残して、『鬼舞辻無惨』は『神崎・H・アリア』として二人に向き合った。


541 : 水面下で絡まる思惑 ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/13(金) 23:59:12 ucJVbPeA0
【F-7/夕方/北宇治高等学校跡/一日目】


【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、全身火傷(大・処置済み)、出血(小〜中、止血済み)、全身に複数の切り傷(小)、精神的ダメージ、全身に複数の打撃痕、レインの仮説による精神的躊躇(小)
[服装]:いつものバーテン服(ボロボロ)
[装備]:なし
[道具]:見回り用の自転車@現地調達品、コシュタ・バワー@デュラララ!!
[状態・思考]
基本行動方針:主催者を殺す。
0:ひとまず目の前の少女と情報交換を。その後、隼人たちのところに戻る。
1:仮面野郎共(ミカヅチ、ヴライ)は絶対殺す。
2:新羅を探す。やばいことになってたらぶん殴る。
3:ノミ蟲(臨也)は見つけ次第殺す。
4:フレンダは非常に怪しい。もしも煉獄を殺したのが彼女なら……?
5:竜馬の知り合いに遭ったら一応伝えておいてやる。
6:彩声との約束を守るため、梔子を護る。
7:仮面をつけている参加者を警戒。
8:弁慶・久美子と会ってセルティの話を聞きたい。
[備考]
※参戦時期は少なくともセルティが罪歌と関わって以降です。
※静雄とミカヅチの戦闘により、公園が荒れ放題となっております。
 仮面アクルカによる閃光は周辺地域から視認できたかもしれません。
※彩声の遺体は喫茶店に運び込まれています。
※梔子と情報交換しました。
 ただウィキッドは仲間の義理として細かくは説明してません。

【レイン@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[服装]:普段の服
[装備]:ベレッタM92@現実、レミントンM700@現実
[道具]:天本彩声の支給品(基本支給品、ランダム支給品×0〜2)
[状態・思考]
基本行動方針:会場から脱出する
0:ひとまず目の前の少女と情報交換を。その後、隼人たちのところに戻る。
1:情報は適切に扱わなければ……
2:サンセットレーベンズメンバーとの合流を目指す。
3:μについての情報を収集したい。
4:琵琶坂、ウィキッド、無惨に警戒。
5:フレンダは非常に怪しい。もしも煉獄を殺したのが彼女なら...?
6:竜馬の知り合いに遭ったら協力を仰いでみる。
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後、カナメ達とクランを結成した頃からとなります。
※ヒイラギが名簿にいることから、主催者に死者の蘇生なども可能と認識しております。
※彩声の支給品はレインが回収しました。
※『参加者は赤の他人がキャラクターになりきってる』と言う説と、
 『それが参加者が折れ殺し合いをするしかない結論をさせる為の罠』説を立ててます。
 どちらも確証はありません。(前者の方は辻褄が合い、後者の方は発想の逆転のようなもの)
※梔子と情報交換しました。
 ただしウィキッドには仲間であるため細かく説明してません。


542 : 水面下で絡まる思惑 ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/13(金) 23:59:33 ucJVbPeA0


【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(極大)、全身ダメージ(大)、神崎・H・アリアの姿、デジヘッド化(無自覚、浸食率低め)、麗奈の回復スキルにより回復力向上
[服装]:ペイズリー柄の着物
[装備]:シスの番傘@うたわれるもの 二人の白皇(麗奈の支給品)
[道具]:不明支給品1〜3、累の首輪、鈴仙の首輪、オスカーの首輪
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない
0:まずは麗奈を確保する。そのための人員確保としてアリアの姿を借りて目の前の二人と情報交換をする。
1:太陽克服のカラクリを究明するため、ウィキッドから『デジヘッド』の情報を吐かせる。
2:私は……太陽を克服したのか……?
3:麗奈は徹底的に利用する。まずはこいつの能力の詳細を確認し、太陽克服のカラクリを探る。問題ないようであれば、麗奈を吸収することも視野にいれる。
4:昼も行動するため且つ鬼殺隊牽制の意味も込めて人間の駒も手に入れる(なるべく弱い者がいい)。
5:逆らう者は殺す。なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。
6:もっと日の光が当たらない場所を探したい。
7:鬼の配下も試しに作りたいが、呪いがかけられないことを考えるとあまり多様したくない。
8:『ディアボロ』の先程の態度が非常に不快。先程は踏みとどまったが、機を見て粛清する。よくも私に嘘をついたな。ただでは殺してやらない。
9:垣根、みぞれ、オシュトル、ロクロウ、臨也は殺しておきたいが、執着するほどではない。
[備考]
※参戦時期は最終決戦にて肉の鎧を纏う前後です。撃ち込まれていた薬はほとんど抜かれています。
※『月彦』を名乗っています。
※本名は偽名として『富岡義勇』を名乗っています。
※ 『危険人物名簿』に記載されている参加者の顔と名前を覚えました。
※再生能力について制限をかけられていましたが、解除されました。現在の再生能力は麗奈の回復スキル『アフィクションエクスタシー』の影響で、太陽によるダメージを克服できるレベルのものとなっております。
※蓄積したストレスと、デジヘッド化した麗奈の演奏の影響をきっかけに、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した麗奈からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、麗奈と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※ 攻撃強化スキル『ロジックマイト』を発動できるようになりました。無惨自身の生命が脅かされ、それによるストレスが蓄積された状態になると、無自覚に発動します。
※ 太陽光によるダメージで、身体の一部が炭化し、消失しました。
その影響で全身にダメージを負っています。
現在は麗奈との距離が縮んだおかげで、陽光を浴びてもダメージは受けませんが、消失によるダメージを回復するために、人間の血肉を食らう必要があります。
※今は神崎・H・アリアの姿に擬態しています


543 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/01/14(土) 00:00:03 jECZ78920
投下終了します


544 : ◆diFIzIPAxQ :2023/01/16(月) 23:43:36 LPKCXEzc0
皆様、投下お疲れ様です
黄前久美子、高坂麗奈で予約させていたたきます


545 : ◆diFIzIPAxQ :2023/01/26(木) 23:57:10 c61NtoJ.0
投下します
また、本ロワの避難所に仮投下したSSから、一部を修正しております


546 : ◆diFIzIPAxQ :2023/01/26(木) 23:59:04 c61NtoJ.0
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!!」

少女―――黄前久美子はただ、ひたすらに走っている。
目から涙がとめどなく溢れ、口から涎が垂れていても、涙もぬぐわず涎も拭こうともせずに、両手は走る為に一心不乱に振っている。その目も焦点はまっすぐ向いていないが、これは疲労が原因では決してない。

「私は、わたしは……!!」

何処に向かうという事はなく、誰かに追われているという事もなく、ただ一人で恥も外聞もなく走り続けている。
何の為に少女は走っているのかと考えるのであれば、それは恐らく「現実から逃げる為」。

「ちがう……!あれ、は……!!」

少女は先ほど、ジオルド・スティアートという青年を殺害した。青年は彼自身が愛している人物を生かす為に殺戮を行い、彼女は瓦礫を使って疲労困憊の状態だった青年を撲殺をした。
その部分だけみれば、これ以上の被害を出す事はなくなった為少しは喜ばしいことかもしれない。
しかし殺した事の正当性と彼女の精神の捉え方は全くの別。
ましてや少女は一日前まで命の取り合いとは無縁の日々を送っていたのだ。

「悪くない……!!私は、悪くない……!!!」

殺人の一件だけではない。この殺し合いを主の目的とした島の中で多くの悲しみや苦しみを経験してきた。
どの出来事も彼女に大きな悲しみが抱え込ませたが、そばで支えてくれた同行者達のおかげもあり、なんとか立ち上がり、本物ではないとはいえ母校の北宇治高等学校にたどり着いた。
その同行者達も亡くなり、高校も神々の戦いとビルダーの激戦を経てクレーターの跡地となった。

頼れる人も、縋れるモノも最早なにも無い。今の彼女は精神の限界を遥かに超えてしまって、残酷な現実(じごく)から逃げる事しかできない、ただの弱い少女であった。

「彼が……、かれが悪、ギャ!!」

どれくらいの時間を走っているのか定かではないが、何十分も全速力で走れば大体の人間は限界が来る。吹奏楽部の鍛錬の為に肺活量や体力は全く無いわけではないが、それでもここまで走り続けられたのが奇跡の様なものである。
疲労で縺れた足が絡まる事で躓き、ズザサッと前かがみの状態で転んでしまった。反射的に両手で頭をかばった為、顔から落ちる事はなかったが、それでも手足のあちこちは擦り傷が出来てしまっていた。

転んだ事で、ここに来て久美子は走り続けてから初めて止まる事になった。そして彼女は、これまで衝動的に走っていた事をおぼろげながらも認識し、肩で息をしながら辺りを見渡し始めた。

「…………ここ、は……、駅、の………?」

ゼエゼエと全く息が整わない状態で久美子が目にしたのは、駅のホームと思しき場所。ここで地図を見れば、今の場所がD-7・スパリゾート高千穂周辺だと気づけただろうが、今の彼女にそんな動作を行う余裕はおろか考えるという事すらも全くない。
久美子は、かつて来た道を大体逆戻りしたことになったという事実をいまだに認識してはいないが、立ち上がりゆっくりとホームに移動し始めた。

 ―――この地で運に恵まれない事が多い彼女であったが、ここでまた一つ不幸な入れ違いがあった。
 彼女は、線路の東側沿いをずっと走っていた(最も彼女は走るという事そのものに全て意識が向いていた為、線路など見えてなかったし知らなかった)のだが、ここで線路の西側沿いを走っていたのなら、神隼人の言葉に従って南下してきた平和島静雄とレインの二人組と遭遇していた可能性があり、恐らく保護されていたのだろう。
 しかし、反対方向で走っている彼女に気づくことなく、彼らとコシュタ・バワーは北宇治高校方面に一直線に向かい、結果的に黄前久美子はここまで一人で走る事になったのだ。

ホームの中に入り、ベンチに弱弱しく座り込む久美子。いまだに息は整っていないが、安心なんて気持ちは全く浮かんでこなかった。単純に全速力による酸欠に近い状態で、脳がまだ正常に回っていない為か、あるいは考えるという事を本能で否定している為か。
ボーっとした表情で、ただ前を見ている久美子。1分、2分と時間が経過しても何も変わらず、5分程過ぎた頃でようやく息が整って頭が回りはじめ、言葉を発し始める。


547 : とある少女の薄明邂逅(エンカウント) ◆diFIzIPAxQ :2023/01/27(金) 00:01:18 ylsPNUX.0
「……なんで……、私は…………」

一言、口にしてそのままに無意識に両手で顔を覆う。同時に、ベチャ。と顔に汚いナニカがついた感覚と鉄や生もののような異臭で咄嗟に手を放し、左右の手のひらを見る。

「………………あ」

走った事による汗と、転倒した時の土などで、幾らか汚れや臭いは落ちたが、その程度では「人の脳漿や返り血」が落ちきる事なんてない。
汚れてない場所なんてないといった程に真っ黒な両手や返り血で真っ赤な制服を見て、ようやく、自分がなぜ走っていたのか、走る前に何を行ったのかを思いだした。


「………………もう……嫌ぁ―――」


―――彼女は限界はとうに超えていた。ただでさえいきなり殺し合いに参加された事のストレスや自分を守ってくれた同行者の死に何気なく放った言葉による自己嫌悪と、精神は殺し合いが始まった時と比べて弱り切っていた。
そこに、自分が犯した罪を改めて突き付けられてしまっては、力を持たない彼女は、最早全てを壊れるしかない。
しかし幸か不幸か彼女の本能は、精神を破壊して現実から逃げる事よりも、今目にしている現実を否定する方を選択してしまったそうで。
ふ、と目に光を失い、身体をベンチのある方向に倒れ、腕はベンチから外れて宙ぶらりんの状態になり、気を失った。

それが、黄前久美子という殺人者に許された、最後の防衛手段であった。


   ▲ ▲ ▲   ▼ ▼ ▼ 


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!!」

場所は変わり、太陽の光があまり当たらない森林の中を一心不乱で走る少女がいた。名は、高坂麗奈。
彼女もまた、ひたすらに後ろを振り返ることもなく、自分の身体を傷つける事も厭わずに走り続けていた。

「あぁ……!!うぁああぁあ……!!」

目の焦点は虚ろで、まさに錯乱しているといった状態でありながら、獣の様な速さで道なき道を駆けていく。
この少女もまた、これまでの取り巻く環境や自身の犯した過ちから目を背け続けている。

自分を縛っていた怪物は―――こっちに来ているか、わからない。
自分を傷つけてくる魔女は―――どうなっているか、わからない。
自分に手を差し伸べた恩人は―――生きているのかも、わからない。

わからない、わからない、わからない。
考えたくても理解したくない。納得なんて出来る訳がない。何もかもから逃げ出したい。
最早何処に向かうべきなのか、これからどうするべきなのか、思考を働かせてる余裕なんてどこにも無い。

今の麗奈にある思いは「ここから逃げる」「とにかく離れる」という逃避のみ。

しかし、今の彼女は鬼舞辻無惨の手によって、既に人ならざるモノ、闇の中でしか生きられぬ鬼に変わってしまっている。
森林が生い茂っていた地帯を抜けて、陽の光を当たる所に向かってしまっては―――


「―――ッ!! ガアアアァアアアッ!!」


突如、十代半ばの少女から発したとは思えない叫び声をあげたと思ったら、即座に普通の人体では到底不可能な速さで後ろに跳躍して、自身の身体を襲った激痛を探ろうとする。
激痛の原因はすぐにわかった。左腕の肘から先が、塵となって無くなっていく。
腕がなくなってる。と言葉を発しようとして、自分は先ほどまで腕を切断されたり10本の指を全て折り曲げられた事を思い出し、そして自分が鬼という存在に気が付いたらされていた事を思い出した。

 ―――彼女はこれまで鬼の最大の弱点である太陽の光を克服する要因であったデジヘッド化は、同じくデジヘッド化していた鬼舞辻無惨と距離を取った事で解除をされていた。しかし、それがプラスに働くという訳ではない。太陽は沈みつつあるとはいえ未だ顕在。その様な刻に、陽光こそ最大の弱点である鬼が放りだされては、本来ならば死は避けられない。

幸いにも、今彼女がいる場所は陰っている場所である事や、周囲には陽を遮る木々や建設物があった為、むやみに走り回らなければ、移動する事そのものは問題はないようには見える。
しかし、彼女が今いる場所から動かないのは日光とは別の部分である。


548 : とある少女の薄明邂逅(エンカウント) ◆diFIzIPAxQ :2023/01/27(金) 00:02:38 ylsPNUX.0
先ほどまでの錯乱しながら走っていた為、思考を行うことなどとても出来なかったが、一時的に足を止めて自分の姿を見たことで、僅かばかりだが、少しばかり冷静になる事は出来た。
だが、混乱しながらも頭を働かせる事で、自分の今置かれた絶望的な状況を自覚してゆく。

自身は人ならざる化物になった。そうした張本人が今も追ってきてる可能性が高い。誰か助けが来るなんて望みは、間違いなくない。

考えれば考えるほど八方塞がり。自身の手持ちはどれも戦えるものではなく、先ほどは勢い任せで魔女を殴りこんだが戦闘の心得などない為負けてしまう程の拙い戦闘力。追ってきている相手が来たら、これまで同様に痛め付け、逃げることなんてできない様に生き地獄を味合わせてくるに違いない。抵抗など無意味。
そう考えるだけで、身体の全身に悪寒が走りガタガタと震えてしまう。さっきまで何も考えずに走っていたのに、今度は恐怖で一歩も動けなくなってしまっていた。

いっその事ここで太陽の光を全身で浴びて、この世からいなくなった方が総てが楽なのではないのか―――。
そんな考えが脳に思い浮かぶ。本来の彼女では到底考えないだろう発想が、地獄に垂らされた蜘蛛の糸の様に素晴らしいモノに思えてしまう。
陽が沈みつつある現状、太陽を浴びて死ぬなら、今しかない。

「うぅ……」

絞る出すような声を出しながら震える麗奈。それでも、身体を太陽にさらすことはなく、頭を抱え額に地面につけ、もがく様に悩み苦しむ姿をさらしている。
齢15、6にしての自死。人の一生、或いは鬼としての生涯と考えても短いモノ。それでも彼女なりに沢山の出会い、沢山の経験、沢山の想い出を築き上げ、楽しかった頃の記憶をさながら走馬灯の様に思い出そうとしている。

なのに―――。

 ―――………お前はただ私の質問に答えれば良い。それ以外の発言は許さないーーー

 ―――………お前はこれから私の従者として、私に尽くしてもらう。先程も言ったが拒否権はないーーー

 ―――………キャハハハハハハッ!! ねぇねぇ、高坂さん、痛いですかぁ? 苦しいですかぁーーー

 ―――………もういい加減うぜえんだよ、てめぇは!!ーーー


「うううぅううぅ……!!」


―――脳内に思い浮かぶのは、この殺し合いに巻き込まれてから自身に受けた苦痛や痛み、絶望的な事ばかり。
魔女に殺されかけた時にはちゃんとした思い出を駆け巡れた感覚があったが、今は出来ないのは、その後の自身の犯した過ちによってただの被害者ではなくなってしまったと強く自覚している事が理由なのかは定かではない。
わずか18時間にも満たない出来事が、これまで生きてきた全ての思い出をどす黒いペンキで塗り替えられていく様な感覚に陥る。

「……このままじゃあ、私は何の為に生きてきたの……?」

誰に聞かせるというわけではなく、自分に言い聞かせる様な言葉を呟き、地面につけた頭を上げる。
『特別』に憧れていたのに、ボロ雑巾の様に扱われて、そして誰にも知られず無意味に生涯を終えるなんて、とても惨めで無様で情けなくなってくる。

「私は、こんな目にあう為にここまで頑張ってきたの……?」

「そんなのは……嫌だ……」

「このまま何も出来ずに死ぬなんて、一方的にやられて終わるなんて、嫌だ……」

ウィキッドを一心不乱のに殴っていた時と似た思いを彼女は馳せる。
あの時はウィキッドが反撃に殴り返してきた事や、命を終わらせられる寸前だった為に悲しみに耽る余裕もあまりなかったが、周囲に誰一人いない状況の今は、沸々と湧く思いに向き合える。


549 : とある少女の薄明邂逅(エンカウント) ◆diFIzIPAxQ :2023/01/27(金) 00:04:20 ylsPNUX.0
「私は……、死にたくない……。こんな場所で、終わりたくない……」

左腕が無く不慣れな動作だが、ゆっくりと彼女は立ち上がり、陽の光に当たらないに身体を動かし始める。

生き残りたいという、生物が持つ根本的な欲求。結局の所この思いが高坂麗奈が自殺を選ばなかった
自分を今の状態にさせた当の本人である鬼舞辻無惨が抱く根底的な思いと同一なモノだとは、麗奈は気づいていないし、知った所で理解したくないだろう。

「死んで、たまるか……。生きて、滝先生に……会いたい……」

高坂麗奈と鬼舞辻無惨が似て異なるいう事を挙げるならば、それは生きる理由。
鬼舞辻無惨はとにかく自分が死なない、自分が生き残ればいいという生存欲求に特化している。彼が長年掛けて選別してきた十二鬼月も、言ってしまえば彼が生存確率を上げる為の捨て駒でしかなく、半数を占めた下弦の枠も大半は無惨の手によって処分・解体された。
しかし、高坂麗奈は違う。明確に生きて行いたい事があった。生き延びた先に出会いたい人がいて、伝えたい言葉があった。

滝昇先生。自分が北宇治高等学校に入学する最大の理由になった、麗奈が「愛している」人
あの人は化け物になって、人じゃなくなった私を知ってどうするのだろうか。否定するのだろうか。
それでも、また会いたい。どう思われていてもその顔をもう一度見たい。私の想いを伝えたい。

「それに……、ヴァイオレットさんと、鎧塚先輩に……、もう一度、会わないと……」

そして、再開したい人物は他にもいた。
化け物になった自分を受け入れたのに、自分を衝動に駆られて血を吸ってしまった、この会場で初めて会った人。
独りで逃げだしたと聞かされ、その言葉を鵜呑みにして心を揺れてしまっていた、一度は再開できた学校の先輩。
彼女たちにももう一度会って、今までの事を謝りたい。守って欲しいとか一緒にいて欲しいとかはもう無理だろうけど、それでも言葉を伝えたい。

そんな思いが抱きながら、歩き始める麗奈。本来の彼女と比べれば随分と後ろ向きな考えだが、それでも無惨に支配されていた時や逃げる頃だけだった時と比べれば、瞳の光は幾らか取り戻していた。

「まずは……、月彦さんや、水口さんから離れないと……。それも、少し休めそうな場所で……」

彼女が向かっている方角は、東のスパリゾート高千穂。病院も行先として少し考えたが、この殺し合いの中で数少ない穏やかな時間を過ごした場所で休みたいと、太陽が沈みつつある会場で足を動かしていった。

 ―――もし、ここで安易に北宇治高等学校に逃げていたら、行きそうな場所だとだと目星をつけていた鬼舞辻無惨に捕まっていただろう事を考えると、結果的に彼女は一つ危機を乗り越えた。
 ―――もっとも、彼女はその様なありえた未来を知る事などなく、鬼同士の鬼ごっこは、これからも続いていくだろう。おそらく、鬼という存在がこの殺し合いの会場からいなくなるまで。


   ▲ ▲ ▲   ▼ ▼ ▼ 


「あれ、私……」


私、黄前久美子は、パチリと目が覚めて、心なしか重たい身体を起き上がらせました。
どうやら私はホームのベンチで酔っ払いの様に寝込んでいたそうです。やけに熱を帯びた暖かい身体でも、外で無褒美で寝てたら風邪を引いてしまいます。
今が何時なのかはすぐには確認出来なかったですけど、駅のホームの蛍光灯に明かりがついており、ホームの周り以外は陽が殆ど沈んでいるのか先が見えづらい程に暗くなってきていることから、夜が近い事は脳がボンヤリとした状態でも理解はできました。
どうして私はホームにいるのか、そう考えようとしてすぐに思い出しました。 思い出して、しまいました。

顔がなくて、それでも私を気遣ってくれていたセルティさん。自分の目の前で命を失ったセルティさん。
厳つい顔つきだけどずっと一緒にいてくれた弁慶さん。火だるまになり全身に火傷を負って倒れている弁慶さん。
私の言葉で苦しませてしまったみぞれ先輩。私を庇おうとして炎に飲み込まれたみぞれ先輩。
目の前で次々と人を傷つけていくジオルド……さん。見えちゃいけない中身が見えてる程に頭が潰れてるジオルドさん。 わたしが、ころした、男の人。

「あ……あぁぁああああぁああぁ!!!」

私は自分でもここまで声を出す事が出来るのかと思いたくなる程に叫び声をあげていました。
私が殺していないと否定したくても、てのひらや服装にベッタリとついた汚れは私が行ったのだと突き詰めて。
私は悪くないと思い込みたくても、人殺しから全力で目を背けきれる程心は強くなくて。
それでも自分があのような殺し方をした事を、人を殺したという事を受け入れるには到底受け入れたくなくて。


550 : とある少女の薄明邂逅(エンカウント) ◆diFIzIPAxQ :2023/01/27(金) 00:07:20 ylsPNUX.0

そんな考えをしているうちに、心身ともに限界に来ているという事を、胸の下辺りからこみ上げてくるモノを吐き出してようやく少しだけ自覚できました。

「オ゛……エ゛ェ゛ェッ」

吐いた事で気持ちが軽くなる―――なんて事は無く、その勢いのまま2度、3度と四つん這いの状態で胃の中のモノを全て吐いてしまいました。
ここじゃない別の駅の待合室で弁慶さんに渡されて飲んだジュースも、この半日以上経った殺し合いの中で僅かに摂取したモノも、汚染物となって何もかも口から出て行ってしまうのは、この世界での思い出が汚れていくように感じ、そう思っただけでまたえづいてしまいました。
やがて吐き出せるものはなくなり、鼻を刺す刺激臭と口の中の残ったモノの残りの感触で、ただただ苦しいだけになり、肩で息をするのが精一杯の状態になりました。
その体勢のまま、ポロポロと涙が流れ、鼻先を伝い、吐しゃ物の中に落ちてゆくのを見ながら、私の心には思いが沸き上がってきます。

どうしてこうなってしまったのだろう。
私は、ただ吹奏楽部の皆と一緒に全国大会を目指していただけなのに、どうして人を殺してしまう様な事をしたのだろうか。
こんなみんなが不幸になるだけの殺し合いに巻き込まれる様な悪い事を、私はしていたのだろうか。

そんな疑問が思い浮かんでは消えて、消えては思い浮かんで、答えなんて出せずに時間だけが1秒10秒と過ぎていきます。
そして3分くらい経った頃に、ふと何か音が聞こえた気がして、私は顔を上げました。
少しだけ耳をすませると、それは誰かが走ってくるかのような、逃げる様な不規則な足音の様な音が聞こえてきました。

「ヒッ」

誰かが来る。そう分かったら反射的に声が出て四つん這いの体勢から尻もちをついた状態に身体が自然と動いていました。
目を左右に見渡しても、今のホームには私以外の人がいる気配はなく、これからやって来る人と二人きりになる状態になるそうです。

「た、助けて……」

逃げる事も隠れる事も、ましてや自衛するなんで考えられず、両腕で抱えるように身体を覆い、目で見るだけしか出来ません。
こっちに来ている人の姿は暗闇で見えないですけと、ホームの明かりが目印になっているのか、ドンドンこちらに近づいているのが私でもわかります。
やがて、線路沿いの反対側から姿をあらわしたその相手は、あちこちに髪が乱れてるけど長い黒髪をした、見慣れた学生服を着ている女の人で―――。



「もしかして、麗奈、なの…?」

「え……、嘘。久美、子……?」



   ▲ ▲ ▲   ▼ ▼ ▼


551 : とある少女の薄明邂逅(エンカウント) ◆diFIzIPAxQ :2023/01/27(金) 00:08:46 ylsPNUX.0


黄前久美子と高坂麗奈。

本来なら、同じ学校・同じ吹奏楽部で研鑽に励み、青春を謳歌し、血生臭い闘争や非日常とは無縁な日々を送っていた乙女二人。

この殺し合いにおいてそれぞれ形は違えど、血を流し、心を傷付き、殺人という罪を犯し、最早逃げるしか無かったか弱い少女達は。

奇しくも両者が共に逃げた先で再開を果たし―――。



そして、3度目の放送が、始まった。



【D-7 スパリゾート高千穂の隣接したホーム/夕方(放送直前)/一日目】


【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、全身に火傷(冷却治療済み)、疲労(絶大)、精神的疲労(絶大)、右耳裂傷(小)、自己嫌悪、半狂乱、身体のあちこちが血と汚れまみれ
[役職]:ビルダー
[服装]:学生服
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体
[思考]
基本方針: 殺し合いなんてしたくない。
0:麗奈なの……?
0:逃げたい。
1:(岸谷新羅さんに、セルティさんを届ける)
2:(ロクロウさんとあの子(シドー)を許すことはできない)
3:(あすか先輩...希美先輩...セルティさん…)
※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※夢の内容はほとんど覚えていませんが、漠然と麗奈達がいなくなる恐怖心に駆られています
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※思考欄の()内の項目は今はロクに考えられていません。落ち着いたら改めて考えられるかもしれません。


【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム】
[状態]:精神的疲労(絶大)、鬼化、食人衝動(中)、恐怖による無惨への服従(極大) 、ウィキッドへの恐怖 及び苛立ち、左腕の肘から先が消失
[服装]:制服
[装備]:
[道具]:高坂麗奈のトランペット@響け!ユーフォニアム、危険人物名簿@オリジナル
[思考]
基本:殺し合いからの脱出???
0:久美、子……?
0:休めそうな場所に逃げる
1:今ここにいる私は偽物……?
2:月彦さんが怖い……
3:部の皆との合流???
4:水口さんは怖いけど、ムカつく
5:ヴァイオレットさんとみぞれ先輩にもう一度会って謝りたい
6:誰か……助けて……
[備考]
※参戦時期は全国出場決定後です。
※『コスモダンサー』による精神干渉とあすか達の死によるトラウマの影響で、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した無惨からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、無惨と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。
※無惨の血により、鬼化しました。身体能力等は向上しております。。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※無惨と離れた為デジヘッド化の状態は解除されています。しかし、再度強烈な心理的負荷がかかれば再びデジヘッド化する可能性があります(此方は後続の書き手に一任します)


552 : ◆diFIzIPAxQ :2023/01/27(金) 00:10:47 ylsPNUX.0
投下終了です。修正箇所は以下の通りです
・麗奈の左腕の消失について、状態表の抜けがあった為追記
・仮投下スレより、一部文章の追加及び修正
・誤字の修正


553 : ◆qvpO8h8YTg :2023/02/06(月) 00:04:40 n7hCClhU0
間宮あかり、岩永琴子、流竜馬、メアリ・ハント、ディアボロ、予約します


554 : ◆qvpO8h8YTg :2023/02/19(日) 16:06:56 /fwD38nk0
予約延長いたします。


555 : ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 16:56:31 NY2s/QiA0
投下します


556 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 16:57:03 NY2s/QiA0
宮比温泉物語―――μによって、仮想世界メビウスに創られた温泉アミューズメント施設。
本来であれば、多くの客が押し寄せ、野外の縁日も含めて大いに賑わう場所である。
しかし、この殺し合いの場にて複製されたこの空間は、本来の和気藹々とした雰囲気とは程遠く、殺伐としたものになっていた。
事実、この場所では既に二人の少女がその命を散らしており、琵琶坂永至、魔王ベルセリアといった戦禍が去った今尚も、血と争いの臭いが静寂の中に立ち込めている。
そして、先の戦闘によって生じた次元の断裂より、雨が降り注ぎ、施設内には、外で打ち付ける雨音が断続的に響いている―――まるで、この施設で起こった悲劇を代弁する涙のように。

「竜馬さん…それに、えっと―――」
「メアリ・ハントですわ……」

施設の大広間の片隅。
それぞれ思うところがあったのか、沈黙したまま佇む、流竜馬とメアリ・ハント。
そんな二人にドッピオは歩み寄り、恐る恐るといった感じで尋ねる。

「メアリちゃんね、宜しく……。
それで二人共、これから、どうするつもり?」

ドッピオとしては、先程の「乗った側」と思わしき連中―――琵琶坂永至に魔王ベルセリアは、一目見ただけでも、まるで核弾頭のような危うさを放っているように映っていた。
アレらには関わってはいけない―――彼の生物としての本能が内側から警鐘を鳴らしていた。

しかし、眼前の二人―――竜馬もメアリも、鬼気迫る表情を浮かべており、その眼光は敵意、憎悪とも取れる強い感情を宿しているようだった。
その感情の矛先は、恐らくは先の魔王達―――このままでは、直ぐにでも連中の追跡しようと言い出しかねない状況だ。

しかし、ドッピオとしては、それは困る。
彼としては、この殺し合いでの生存率を上げるため、わざわざ西に赴き、密かに本物の「ブチャラティ」に繋がる者たちの排除を目論んでいたのに、自らの生存を脅かすような死地に飛び込むような真似は絶対に避けておきたいのだが―――。

「―――『どうするつもり?』ですって?」

ギロリ

「……っ!?」

そんなドッピオの思惑など知る由もなく、最愛の友人を失った少女は、氷のように冷たい眼光を以って、ドッピオを睨み付け、あまりの威圧に彼は後退る。

「決まっていますわ、私はあいつらを追います。 そして―――」

高坂麗奈、ヴァイオレット・エヴァーガーデン、東風谷早苗―――。
ドッピオは殺し合いの地において、三人の少女達と接してきた。
彼女達は、基本的に殺し合いを是とせず、ドッピオとしても、割と穏やかに交流できていた。

しかし、彼女らと同年代と思わしき眼前の少女は、一線を画していた。

「必ずこの手で殺す……私からカタリナ様を奪った、あの男を……」

ゴクリと息を呑むドッピオ。彼は思う。
ただならぬ殺意を放つこの少女は、言うなれば、劇薬―――。
取り扱いを間違えると、こちらにも牙を剥きかねない危険因子であると。


557 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 16:57:39 NY2s/QiA0
「俺も、野郎を追うぜ、ブチャラティ」

竜馬もまた、その闘志を隠すことはない。
メアリの殺意に呼応するかのように、ギラついた眼差しでドッピオを見据える。

「奴が手にしたゲッターの力、野放しにしておくわけにもいかねえし、何よりも――」

竜馬の脳裏に浮かぶのは、自分以外の他者をゴミのように見下し、ゲッターという力に酔いしれ、慢心しきっている男の醜悪な笑み。

「野郎のことが、気に入らねえ」

琵琶坂という男と接した時間はごく僅かであったが、それでも一目見ただけでも、不快感とともに、竜馬は直感的に理解できた。
あの男は自分の最も嫌悪するタイプであると。

「む、無理ですよぉ……二人とも、分かるでしょ?
あいつの攻撃、早すぎて目で追うことができなかった。
奴ら、正真正銘の化け物ですよ、敵うわけが――」
「関係ねえ(ない)っ!!」
「ひぃっ……!?」

声を揃えて、ドッピオの忠告を一蹴する竜馬とメアリ。

直情的な嫌悪と、愛する者を奪われた憎悪――二人の心に灯った炎は容易く消えそうにはない。

(やはり、説得するのは困難か――)

二人の勢いに、圧倒されるような表情を張り付かせつつ、ドッピオは内心ではそのように分析する。
二人の意志が固いのであれば、ドッピオとしても無理に説得するつもりもない。
追従する義理もないのだから、ここらで竜馬達とは袂を別つべきで、今後行動を共にするべきは、今この場にいない残り二人の少女といったところか。
であれば、彼女達の意見を聞きたいところではあるが―――。

「―――それで、てめえらはどうするつもりなんだよ」

「はい?」

ドッピオの思考を遮る、竜馬の問い掛け。
「てめえ」ではなく、「てめえら」というう複数形の言葉に、首を傾げるも、竜馬の視線は真っ直ぐにドッピオ―――ではなく、彼の遥か後方へと、向けられていることに気付く。
メアリもまた、そちらに見据えている。
二人に釣られるように、ドッピオが振り返ると―――。

「……。」

メアリの様子を伺いに来た間宮あかりが、そこに佇んでいたのであった。


558 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 16:58:08 NY2s/QiA0


「こんな格好で失礼します。まずは改めて、自己紹介を……。
私は、岩永琴子と申します。」

壁に靠れるような形で、地面に座り、挨拶を行うのは『知恵の神』こと、岩永琴子。
あかりに引き連られる形で、彼女の元を訪れた竜馬、メアリ、ドッピオの三人に対して、恭しく頭を下げて見せる。

「流竜馬だ」
「ブローノ・ブチャラティです」
「……メアリ・ハントですわ……」

そんな琴子に対して、竜馬達は三者三様の反応を見せる。
竜馬はぶっきらぼうに、ドッピオは丁寧な態度で、メアリはどことなく刺々しい態度で。

―――岩永さんを交えて、お話ししませんか。

あかりからの提案に則った形で、一同は、改めて彼女と対面する運びとなった。
一応は皆納得した形ではあるが、すぐにでも琵琶坂を追走したいメアリは、早く済ませろと言わんばかりの表情を浮かべている。

「…それで、何か用かよ、ガキんちょ」
「むっ! ガキんちょとは失礼極まりない。私は大学生で、れっきとした大人の淑女ですが!?
全く―――。あなたといい、神隼人さんといい、ゲッターロボのパイロットとやらは、女性に対する礼儀というものを知らないんですかね?」
「っ!? おい、ちょっと、待てガキ。お前、隼人のことを知っているのか?」
「だから、ガキ呼ばわりするのは止めろと―――まぁ、これ以上言っても仕方ないですね……」

竜馬の物言いにカチンと来た様子の琴子は、負けじと言い返そうとするも、踏みとどまり、コホンと咳払い。
何かと突っかかってくる眼前の男に対して、眉を顰めながらも、話を戻す。

「お察しの通り、神隼人さんとは、最初の放送後に少しだけ会話を交わしました。
今は別行動を取っていますが、協力関係にあります。」
「あいつは、どこにいる?」
「あなたが欲している情報も含めて、我々は互いに把握していることを共有して、状況を整理する必要があると考えますが、如何でしょうか?」
「……だーっ! いちいち周りくどいんだよ、てめえは! 要は、情報交換したいってことだろ、わーったよ!」

遠回しに情報交換の必要性を諭してくる琴子に、竜馬は面倒くさそうに髪を掻きながら、ぶっきらぼうに首肯する。
そんな竜馬の態度に、やれやれといった表情を浮かべる琴子。

(隼人さんと違って、此方は直情的な漢のようですね……)

怪異達より『知恵の神』として、畏れ敬われる琴子ではあるが、如何せん理屈や道理が通用しない人間に対しては、真価を発揮できない。
眼前の竜馬は、その典型的なタイプであると言える。
盤上で駒を動かし、着実に理詰めに尽くす琴子に対し、盤面そのものをひっくり返してくるような類の人間だ。
そういった人間を相手取る場合は、いつものように理詰めをするのではなく、その感情の方向性を読み取った上で、上手くコントロールするのに限る。
琴子は、脳内で竜馬をその様に評しつつ、傍に立つ他の三人に視線を移す。


559 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 16:59:04 NY2s/QiA0
「他の皆さんは、如何でしょうか?」
「岩永さんに、お任せします」
「えっと、ぼくとしては望むところだけど……」

琴子の提案に、あかりとドッピオは、竜馬に続くように同意する。
そして、一同の視線は、腕を組んだまま沈黙するメアリへと注がれるも―――。

「……手短にお願いしますわ……」

未だ不機嫌そうな表情のまま、彼女は小さく呟いた。

「感謝します。では、早速ですが――」

琴子は、改めて話を切り出すと、まずは自身のここに至るまでの経緯を語りだす。
そして、それに続く形であかり、ドッピオ、竜馬、メアリの順に、それぞれが遭遇した出来事を語っていった。

――そうして、一通りの話を終えた後。

「……なるほど。皆様のおかげで、残っている参加者のおおよそのスタンスを把握することができました。」

顎に手を添えながら、各自提供の情報を総括していく琴子。
今回の情報交換で、この殺し合いにおける、おおよその勢力図が見えてきた。

「二回目の放送後に生き残っているとされていたのは46人。
ここから私達5人と、富岡さん、カタリナさん、シグレさんを除くと、残るは38人となりますが―――」

カタリナの名前が挙がると、メアリとあかりは、ぴくりと反応を見せるも、それに構わず、琴子はドッピオに問い掛ける。

「ときに、ブチャラティさん。あなたが、ゲーム開始当初に出会った男性も、『富岡義勇』を名乗っていたということで間違い無いですよね?」
「ああ、うん。役者をやっていて、通称は『月彦』で、本名が『富岡義勇』だと言っていたけど……」
「そして、高坂麗奈さんと共に、電車を利用して『北宇治高等学校』へと先行したはずだと……。」
「うん……だけど、ぼく達が高校に辿り着いたころには、彼らの姿はなかったよ」
「なるほど、少なくとも我々が知りうる富岡さんの経緯とは合致していないですね、つまりは―――」

琴子は、直接義勇と接することはなかったので、富岡義勇の人物像を大まかに把握しているわけではない。
しかし、少なくとも神隼人との情報交換の際に、彼の経緯を聞いた限りでは、彼は、ゲーム開始当初は、魂魄霊夢という少女と行動を共にしていたと聞いており、高坂麗奈という少女の名前は出てこなかった。

「どちらかが、偽名を名乗っていたということでしょうね」

琴子は、そのように結論付ける。
仮に、先程まで一緒にいた此方側の義勇とまともに会話する機会があれば、リュージの能力で、その真偽を確かめられただろう。
しかし今となっては、それも叶わない。
次の判断材料は、第三回放送で富岡の名前が呼ばれるか否かであろう。

「って事は、月彦さんが、ぼく達に嘘ついてた可能性があるってことか……。
言われてみれば、あの人は、何かと腹に一物抱えてそうな印象があったけど……。
っていうか、彼が偽物なんじゃないかな? うん…なんかそんな感じがしてきたぞ―――」

ドッピオは、ぶつぶつと呟きながら、考え込む仕草を見せつつ、そのようなことを口走る。
彼の中では、元々月彦のことは、油断ならない人物だと考えていたが、徐々に彼に対する疑念が深まっていく。

「あークソっ、もしそうだとしたら、無性に腹が立ってくるなぁ。
澄ました顔で平然と嘘吐きやがって、こんちくしょうめぇっ!!」
「……。」

苛つくドッピオ。
その様子を冷ややかに観察した琴子は、一呼吸おくと一同に問い掛ける。


560 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 16:59:31 NY2s/QiA0
「―――もし仮に、ブチャラティさんの出会った『義勇』さんが偽物だったとして、彼は何故、偽名を名乗ったのでしょうか?」
「えっと、本名を知られると困ることがあった……ってところでしょうか?」

未だ荒ぶるドッピオを他所に、あかりが静かに応えると、琴子は首肯する。

「ええ……恐らくは名簿の中に、自分に敵対する者、それに準ずる者の名前を見つけたのでしょう。
だから、彼は本名を明かさなかった―――敵対勢力の者によって、参加者間に、自分に関する悪評を振り撒かれたりすると、後々、厄介なことになりますからね」

琴子は、更にここで一呼吸置くと、ドッピオに向き直る。


「そこで質問なのですが、ブチャラティさん。
もし、あなたが月彦さんの立場なら、あなたは誰の名前を騙りますか?」
「えっ、ぼく? し、知るわけないだろ!? そんな事……」
「では、名簿の中にいる見知らぬ誰かの名前を騙りますか?
もし仮に、その『見知らぬ誰か』の知り合い相手に『見知らぬ誰か』の名前を騙った場合、どうなりますかね?」
「そ、それは……」

思わぬ尋問に、言葉を詰まらせるドッピオ。
その額には、いつの間にか脂汗が浮かんでいた。

(何だ、これ……?)

ドッピオは、違和感を覚える。
先程までは月彦について議論しているはずだったが、いつの間にか、彼と同じく偽名を名乗っている自分も、一緒に糾弾されている感覚に陥っている。

(まさか、こいつは……ぼくがブチャラティを騙っていることに気付いている?)

そんな疑念が脳裏に過ぎると、ドッピオは、思考をフル回転させ、状況を整理する。

琴子達は、ゲームが始まってから、会場の西側を中心に活動していたと聞く。
であれば、本物のブチャラティと接触していた、或いは人づてに彼の情報を取得していても不思議ではない―――否、直接会っていたという線は薄いか。
わざわざ、こちらを試すようにカマをかけているのは、そこに確信はないためのように見受けられる。
恐らくは、琴子が接触した誰か、さしあたり、先程魔王達に連れて行かれたリュージあたりが、本物と接触して、彼を通じてその情報を得ている――といったところだろうか。

(仮にそうだとしても、こいつが掴んでいるのは『ブチャラティ』を名乗る者が二人いる、という情報のみ。
本物と接触もしていないし、どちらが本物なのかの確信もないから、こんなカマをかけているだけだ)

脳内でそのように結論づけ、ドッピオは一呼吸落ち着かせ、平静を取りもどす。
そして、突き付けられている問いに対して、解を口にする。


561 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:00:03 NY2s/QiA0
「偽名を看破されて糾弾され、周囲からの信用はガタ落ちになる?」
「ええ、そうなりますね。
それでは、改めてお尋ねしますが、この場合の彼の最適解は、何になると思いますか?」
「……彼と敵対する者の名前を騙る……ってところ?」

自身の行いをなぞり、疑問符を交えつつも、ドッピオは、堂々と受け答えをした。 
ボロを出さないために、慎重に言葉を選びながら。

琴子はというと、そんなドッピオの目をじっと見つめた後、ふっと満足そうに笑みを溢した。

「正解です。まぁこの戦略を取る場合にも、この殺し合いに、騙る相手の知己として誰がいるのかを、把握していなければいけませんが……間違っても、その知り合いに名前を騙るなどしたら台無しですからね」

そのお人形さんのような可愛らしい微笑みに、思わず見惚れてしまうドッピオ。
しかし、すぐにいかんいかんと、心の中で首を横に振る。
何呆けてるんだ、こいつはぼくを疑っているかもしれないんだぞ!と自らを諫める。

そんなドッピオの葛藤を他所に、琴子は推理を続けていく。

「そして、そこから鑑みるに、富岡さんの名前を騙る者に、私は心当たりがあります」
「一体誰だってんだよ、そいつは?」

じれったそうに竜馬が、琴子に結論を急かした。
彼としては、先程からのドッピオと琴子のやり取りは、とても回りくどいもので、イライラが募って仕方がなかったのである。

「――鬼舞辻無惨……。富岡さん達、鬼狩りが追っているという鬼の首魁こそが、月彦さんの正体かと」
「なるほど、鬼ねぇ……」

『鬼』という単語に、竜馬は興味深そうに鼻を鳴らす。
『鬼』という存在は、竜馬にとってみれば、少し前までは空想の怪物に過ぎなかったが、ゲッターのパイロットになってからは、彼らとの交戦が日常茶飯事となっていた。

「鬼舞辻無惨は、非常に強力な鬼と聞き及んでいます。
仮に、次の放送で、富岡さんの名前が呼ばれた上で、今後月彦さんと遭遇することがあれば、用心するに越したことは―――」
「んな必要はねえ」

琴子の言葉尻に被せるように、竜馬は言い放つ。

「疑わしきはなんちゃらって奴だ。その月彦とかいうやつを見かけたら、問答無用でぶっ飛ばしちまえば良い。そっちの方が手っ取り早い」

拳をポキポキと鳴らして、不敵な表情を見せる竜馬。
そんな彼に対して、琴子はやれやれと言った様子でため息をつくと――。

「……注意してください、と言いたかったんですが、まぁいいでしょう……。
もう、あなたに関しては、それで良いと思います」

と、半ば諦めたように言うと、次の話へと移っていく。


562 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:00:30 NY2s/QiA0
「――話を戻して、会場に残る参加者38人について、整理しましょう。
まずは、既に判明している危険な参加者について、おさらいしましょうか。
先ほど話の上がった月彦さん以外に、注意すべき危険な参加者は、10人います」

琴子は、一同に確認するように危険人物の名前を上げていく。

まずは、目下最大の脅威とされるベルベット・クラウと琵琶坂永至。それにベルベットと手を結んでいる麦野沈利と夾竹桃の4人だ。
夾竹桃とは、第一放送後の主催との戦闘後、停戦協定を交わしていたが、こうなってしまった以上激突は避けられない。

次に、あかりたちが学園で遭遇したという、マロロと十六夜咲夜の二人。この二人についても徒党を組んでおり、マロロについては、オシュトルに対して、強い執念を抱いてるとのこと。

学園で、あかりたちが出くわした脅威はこの二人だけではない。顔半分を仮面に覆われた巨漢ヴライもまた圧倒的な力を以って、破壊の限りをつくしていたと聞いている。
個の戦闘力という点で鑑みれば、間違いなく最上級に位置するだろう。

また、この場にいる者が直接接触したわけではないが、人づてに聞くところによると、オスティナートの楽士ウィキッドと、ビルドが探しているシドーに関しても、既に他の参加者を殺害しているということで注意が必要であろう。

そして、最後にフレンダ=セイヴェルン。
戦闘力だけみれば、それ程の脅威にはなり得ない。
しかし、ゲーム開始早々、竜馬に不意打ちを仕掛け、失敗すれば彼の悪評を振り撒き、参加者間にいらぬ誤解と争いを拡散しているという意味では、害悪な存在であることには違いない。

ちなみに、第一放送後に、彼女と遭遇したメアリにも、しっかりと竜馬の悪評を吹き込んでいた。
それをメアリから聞かされた竜馬―――。一同は、怒り狂うのではと身構えたが、彼は、ただ静かに「やっぱ、分からせねえといけねえようだなぁ、あのガキは」と見るものをゾッとさせるような笑顔を浮かべたのであった。

「―――さて、次は、殺し合いに乗っていない側の人間について整理しましょうか」

殺し合いに乗っている側、危険人物についての情報の整理が完了すると、次は殺し合いに乗っていない側、恐らくは味方となり得る人物について、琴子は名前を挙げていく。
この場にいる5人が接触した人物及び、人づてに聞いた「殺し合いに乗っていない側のスタンスを取っている人間」として名前が挙がったのは―――。

オシュトル、東風谷早苗、ロクロウ・ランゲツ、ヴィオレット・エヴァ―ガーデン、高坂麗奈、カナメ、博麗霊夢、平和島静雄、レイン、折原臨也、クオン、神隼人、ビルド、リュージ、梔子、神崎・H・アリア。

以上の16人。
とはいえ、折原臨也や梔子などは、この場で直接対面したものはおらず、あくまでも人づてに「乗っていない側」と聞かされているだけであり、人物像に不明なところは多い。
それに、殺し合いが進行する中で、先の琵琶坂のように方針転換する人物が現れることも無きにしも非ずのため、くれぐれも過去の接触での印象のみを過信するのは禁物であると、琴子は注意を促した。


563 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:01:03 NY2s/QiA0
「―――これで27人。スタンス不明の参加者は残り11人となりましたが、11人の内、4人は我々の元々の知り合いのようです」

琴子は、そう言って一呼吸おくと、5人の名前を列挙していく。

まずは、武蔵坊弁慶。
竜馬や隼人と同じゲッターロボのパイロット。
大柄な体格で女好きな坊主がいれば、それは彼であると見て間違いないとのこと。

次に、桜川九郎。
琴子のパートナー兼恋人。
落ち着いた感じの見た目の大学生であり、交際関係にある琴子とは、それはもう相思相愛の間柄であると、彼女は熱弁した。

ジオルド・スティアートは、メアリとカタリナの幼馴染とのこと。
ソルシエ王国の第三王子にあたり、金髪碧眼の美青年で文武両道。
また、メアリと同じく、魔力持ちであり、火を自在に操るとのこと。
尚、メアリは当初、ジオルドに関する情報は、外見と出自のみを簡略的に伝えるに留まっていたが、琴子が彼女を追及することで、魔力についての情報も引き出すことが出来た。

そして、最後に佐々木志乃。
彼女は、あかりの同級生であり、同じ武偵とのこと。
しかし、いざ志乃の話題に移ったところで、あかりは表情を曇らせた。

「……? どうしたんですか、あかりさん?」
「岩永さん……志乃ちゃんは、多分もう―――」
「どういうことでしょうか?」

言葉を詰まらせ俯くあかりに、首を傾げる琴子。
あかりの様子から、佐々木志乃の身に、何が起こったかは概ね察することは出来る。
しかし、何故志乃と接触していないはずのあかりが、彼女の安否を知っているのか。
その点について、言及を促す琴子に対して、あかりは、ぽつりぽつりと口を開いた。

「私、志乃ちゃんの声を聞いたんです―――」

そして、あかりは語り出す。
先の魔王ベルセリアとの戦いの裏で、生と死の狭間にて、彼女が体験した全てを―――。

「――なるほど、そういうことがあったのですね」

時間と空間から隔絶された世界―――。
シアリーズとシュカ―――。
情報の破損と補完―――。
奈落からの回帰―――。

あかりから齎された情報は、どれも浮世離れしていたものであり、実際のところ、竜馬、メアリ、ドッピオの三人は話についていけなかった。
しかし、元来そういった浮世離れした世界に通じていた琴子にとっては、これまで積み上げてきた自身の考察と合点のいくことが多く、むしろ得心がいったとばかりに受け入れられる内容であった。

μによって構築された電子の世界―――。
データ化されている参加者―――。
交わる異能―――。

これらの符号が真実味を帯びていくのを感じながら、琴子は顎に手を添えて、考え込む。

「虚構と現実が、ひっくり返る……ですか……」

改めて、先の魔王ベルセリアから齎された主催者の目的を思い出し、琴子はそう呟いた。
そして、今一度、目の前で佇むあかりをじっと見つめる。

(もし仮に、複合異能―――『覚醒者』の誕生が主催者の目的だとすれば、あかりさんもまた、その領域に達した存在と言えるでしょう)

あかりもまた、魔王ベルセリアと同じく、秩序から逸脱してしまった存在と言える。
しかし、ベルベット・クラウという自我を喪失していた魔王ベルセリアとは異なり、あかりの自我は保たれたままだ。
そういう意味では、彼女の方が『進化』という観点で見ると、成功事例と言えなくもない。
だが、間宮あかりという少女は、恐らくもう―――。


564 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:02:55 NY2s/QiA0
「……? 岩永さん、どうかしましたか?」

琴子の視線に気付いたあかりが、小首を傾げて問いかけてくる。
そんな彼女に琴子は、何でもないと首を振ると――。

「……いえ、お気になさらず。少し脱線してしまいましたが、話を戻しましょうか。
残っている参加者のうち、これで31人のスタンス及び情報は整理できたので、これで我々が把握できていない参加者は、残り7人となりましたが―――」
「鎧塚みぞれさんは、私たちが出逢う前に、琵琶坂さんが遭遇して、襲撃されたようです。友達を殺したということでしたが―――」
「今となっては、真偽不明ですね。逆に琵琶坂永至が、鎧塚さんを襲撃したという可能性も疑わしいですね」
「同意ですわ。狡猾で卑劣……あの男なら、やりかねませんわね」

琴子の言葉に、メアリは憎々しげに同意を示す。
結論としては、琵琶坂の証言は当てにならないとのことで、鎧塚みぞれと、その他6名―――ライフィセット、ムネチカ、鎧塚みぞれ、黄前久美子、垣根帝督、ディアボロ、岸谷新羅についてはスタンス不明とのことで話は纏まった。

「で、結局これからどうするつもりだ、ガキんちょ?」

一応の区切りがついたのを見計らって、竜馬が琴子に尋ねる。
彼としては長ったらしい情報交換を終えた今、ここに長居するつもりはない。

「私達は、ブチャラティさんが仰る遺跡に向かうつもりです。
オシュトルさんを始めとする方々が其処に集まるようですし、こんな事態ですので、やはり仲間は増やしておきたいですからね。
竜馬さんは、“彼ら”を追うつもりなのですね?」

ガキ呼ばわりされたことには、もはや触れることはなく、琴子は竜馬の意思を改めて確認する。

「ああ、ゲッターの力を手にしている以上、野放しには出来ねえ。
何より、野郎の事は気にいらねえからな」
「であれば、リュージさんの救出を、お願いできませんでしょうか?
彼らが、リュージさんに利用価値を見出しているのであれば、まだ生かされている可能性はあるので…」
「いちいち注文の多いやっちゃなぁ。まぁ一応は頼まれてやるよ。
ただし、俺は俺のやりたいようにやらせて貰うからな」

用は済んだとばかりに踵を返す竜馬に、そんな彼の背に向けて、「ありがとうございます」と頭を下げる琴子。
竜馬はひらりと手を挙げると、そのまま歩み去って行く。
それに続くように、メアリもまた一同から去ろうとするが―――。

「竜馬さんと、一緒に行くつもりですか? メアリ・ハントさん」
「……ええ、そのつもりですが……」

琴子に呼び止められ、まだ何か用かと言わんばかりの目つきで彼女を見る。

「単刀直入にお聞きします。あなたは、カタリナさんを甦らせるために、この殺し合いに乗るつもりですよね?」
「――っ!? 岩永さんっ!?」

唐突に切り出された琴子の発言に、あかりとドッピオは驚きの声を上げる。
しかし、当のメアリは特に動揺することもなく、しばらく沈黙。

「……突然、何を言い出しますの?……」
「あなたのカタリナさんへの執着は常軌を逸しています。
それ故、今は、琵琶坂永至への復讐を最優先としているようですが、復讐をやり遂げたとして、その後はどうするおつもりですか?
最終的には優勝を目指して、カタリナさんを取り戻そうなんて考えているのではないでしょうか?」

問い詰める琴子に、メアリは再び沈黙。
そして、数秒の後、琴子を睨みつけると――。

「――だったら、どうするのです?」
「……やはり、そうですか……」

メアリの反応に、琴子は小さく息を吐いた。


565 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:03:28 NY2s/QiA0
「……。」

メアリは直感的に理解していた。ここまでのやり取りをみるに、ここで下手に誤魔化したとしても、琴子はしつこく追及してくるだろうし、彼女のような聡い人間を欺き通せるとは思えない。そんな事で無駄な時間は割きたくない。
そして何より―――。

「メアリさん、どうして―――」
「カタリナ様をお慕いしているからに決まっていますわ。
私にとってカタリナ様は全て―――カタリナ様のいない世界に何の価値もありませんわ」

カタリナに対する想いだけは偽りたくなかった。

悲痛な面持ちを浮かべ問いかけるあかりに、淡々と答えるメアリ。

思い返す―――。
幼少のころ、何事にも自信を持てず、人と接することも避けていた自分に手を差し伸べてくれた陽だまりのような彼女―――。
彼女のあの屈託のない眩しい笑顔にどれだけ、助けられたことか―――。
だから彼女を取り戻すためには、何だってしてみせる。

「―――そんなのカタリナさんは、望まない」
「ええ、カタリナ様は、絶対に望まれないですわ。
もし殺し合いに勝ち残って、カタリナ様を生き返らせても、きっと私のために怒ってくださるでしょう、泣いてくださるでしょう、叱ってくださるでしょう、もしかしたら大喧嘩するかもしれません―――」

あかりの指摘に、メアリははっきりと首肯すると――。

「―――でも最後には、きっと許してくださると思います。
あの方は、どうしようもなくお優しいので」

胸に手を当て、寂しそうな笑みと共に言い切った。

「だからと言って、他の誰かを犠牲にするなんて間違っています!!」
「だとしたら、どうなされるおつもりで? ここで私を止めるおつもりですか、あかりさん?」

ビシリ

空間そのものが軋むような錯覚すら覚える程の殺気が、辺り一面を支配する。

「――っ!」
「あかりさん、貴女には先刻命を救われました。そのことには感謝しています。
しかし、貴女がもし今ここで、私の邪魔をするということであれば、容赦は致しませんわ」
「……メアリさん……」
「私は、カタリナ様を諦めたりしない。カタリナ様との日々を『過去』にはしない―――カタリナ様は、必ず取り戻しますわ!!」

ビシリビシリ

空間がひび割れて崩れていくかのような感覚に、その場にいるドッピオは「ひぃ」と悲鳴を上げる。
メアリの覚悟は本物であり、それを前にあかりは言葉を詰まらせた。
まさに一触即発の状況。そんな中――。

「そこまでにしていただけましょうか、メアリ・ハントさん。
我々としても、あなたとここで争うつもりはありません」

暫く二人の問答を眺めていた、琴子が割って入る。

「岩永さん――」
「ここは、私に一任させていただけませんか、あかりさん?」

あかりは、琴子の申し出に対して、不安げな表情を見せるも、最終的には「…分かりました」と言って、諭される。
メアリは眉を潜めたまま、先程の琴子の意味を問う。

「……どういう意味ですの?」
「そのままの意味です。確かに、我々の最終的な目標は相容れることはありませんし、いずれぶつかる事になるのは間違いないでしょう。
ですが、今ここで我々が潰しあっても、得をするのは、琵琶坂永至達です」
「……あいつらを潰すまでは協力しろ……と言いたいんですのね」
「ええ、今は何より、彼らがこの会場で最大の脅威と成り得るのですから。
お互いのためにも、ここは一時的に手を組ませていただいた方が合理的ではありませんでしょうか?」
「……。」

琴子の提案に、メアリは暫し黙考。
やがて――。

「――分かりましたわ。こちらとしても無駄な争いは本意ではありません。
そちらの提案に従いましょう」

メアリはそう言って、殺気を抑えこむと、場の空気が一気に弛緩した。
どうにか、修羅場は避けられたようだと、ドッピオは安堵のため息をつくも、その傍らで、あかりは釈然としない様子であった。
そんな二人を他所に、メアリと琴子は会話を続ける。


566 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:03:45 NY2s/QiA0
「停戦協定成立といったところでしょうか。賢明な判断、痛み入ります。
それと差し出がましいのは承知で一つ、お願いがあるのですが―――」
「……お話だけは伺いましょう」
「我々と停戦している間、殺し合いに乗っていない参加者に危害を加えるのは控えていただきたいです。
あなたとしても、いたずらに敵を増やすのは好ましくないはずです」
「……明確に私の邪魔をしてこない場合に限り、善処いたしますわ」
「ええ、それで構いません」

こうして、二人の素っ気ない会話にて、打倒魔王一味を目的とした共同戦線は成立した。
あくまでも、共通の敵を排除するために、互いに利用しあうだけの薄っぺらい協定である。

話がひと段落するや否や、メアリは踵を返し、施設の出口へと向かっていくと、それまで不満そうに二人のやりとりを聞いていたあかりが、声を張り上げた。

「メアリさん!! 私は―――」
「あかりさん、次に会うことがあれば敵同士かもしれませんわね。
その時は遠慮しませんわよ」

あかりの呼びかけに対し、背中越しに振り返ることなく、メアリは冷たく突き放す。
去りゆくメアリの後ろ姿を、あかりはグッと拳を握り締め、唇を噛みしめながら見送るのであった。


567 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:04:05 NY2s/QiA0



「――結局、こっちに野郎はいなかったな」
「そうですわね」

宮比温泉物語から、バイクを飛ばして、神殿へと辿り着いた竜馬とメアリ。
施設の中を一通り探索したが、琵琶坂達どころから人影は一向に見当たらず、徒労に終わる結末となった。
岩永琴子は、待機している夾竹桃たちのことも鑑みると、琵琶坂達一行は電車の沿線周りの施設を拠点にしているだろうと見解を示してきた。
神殿の他の西側の施設は、放送前に竜馬とドッピオが大方調べつくしていることから、彼女の見解と併せると、次の目的地としては、東側――産屋敷邸や紅魔館あたりが有力候補となるだろうか。

「ったく、結局、学校の方に戻っちまう羽目になっちまうな」

面倒くさそうに髪を掻きながらぼやく竜馬を横目に、メアリは足早に白バイの後部座席に跨ると、早く出せと言わんばかりの視線を彼に投げかける。

「さっきも言ったけど、俺は、俺のために野郎を追っていて、別にお前の復讐を手伝ってやるつもりはねえぞ。
向かう場所が同じだから、乗せてやっているだけだ。それに―――」
「自分の身は、自分で護れと……心得ていますわ。
竜馬様のお手を煩わせるようなことは致しませんわ」
「なら、いいんだけどよ……」

竜馬の言葉を遮るようにして答えるメアリ。
その口調からは強い覚悟と決意のようなものを感じられる。
ならば、これ以上は何も言うまいと、竜馬はアクセルを回し、バイクを走らせるのであった。


【F-4/夕方/神殿付近/一日目】
【メアリ・ハント@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…】
[状態]:健康、己が願いを自覚、全身のダメージ(大)、鋼鉄の決意、漆黒の決意、カタリナのファーストキスゲット
[服装]:いつもの服装
[装備]:プロトタイプ@うたわれるもの3 二人の白皇(吸収済み)
[道具]:基本支給品一式、エレノアの首輪、カタリナ・クラエスのメモ手帳@はめふら
[思考]
基本:優勝してカタリナ様を蘇らせて私達のハッピーエンドを目指す
0:竜馬と共に、琵琶坂達を探す
1:共同戦線を張っている間は、あかり達は利用する。
2:琵琶坂永至は絶対に許さない、殺す。
3:ミナデイン砲のトリガーとなるオーブを探す
4:琵琶坂を殺すまでは、極力敵は増やさない
[備考]
※魔法学園入学前からの参戦です
※プロトタイプを吸収したことで水の魔力が大幅強化されました
※琴子、あかり、ドッピオ、メアリ、竜馬の五人でこれまでの経緯と、生存者についての情報を交換しました。


【流竜馬@新ゲッターロボ】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、出血(小〜中、処置済み)、身体に軽い火傷(処置済み)
[服装]:
[装備]:悲鳴嶼行冥の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、彩声の食料品、白バイ@現地調達品
[思考]
基本方針:主催をブッ殺す。(皆殺しでの優勝は目指していない)
0:メアリと共に、琵琶坂を探す
1:そのついでに折原臨也を探すが、あんまり会いたくない。
2:粘着野郎(晴明)死にやがったか、ざまあねえ。
3:戦う気のない奴に手を出すつもりはない。
4:弁慶と隼人は、まあ放っておいても死にゃしねえだろう。
5:煉獄があいつに殺されたとは思えないが、これ以上好き勝手やるつもりならあの金髪チビ(フレンダ)は殺す。
6:レインや静雄の知り合いに遭ったら一応伝えておいてやる。
7:あの野郎(琵琶坂永至)の……どうして野郎がゲッターの力を?
8:まだリュージが生きているのであれば、助けとく
9:『月彦』とやらを見つけたら、とりあえず殴っとく
[備考]
※少なくとも晴明を倒した後からの参戦。
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、カナメ、霊夢と情報交換してます。
※琴子、あかり、ドッピオ、メアリ、竜馬の五人でこれまでの経緯と、生存者についての情報を交換しました。


568 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:04:29 NY2s/QiA0



「―――先程の裁定は、不満ですか、あかりさん?」
「……えっ?」

次の目的地である遺跡に続く道なき道の中。
琴子は、自身が座る車椅子を押すあかりに、唐突に問いかけた。
ちなみに、琴子が腰を据えるこの車椅子は、彼女らの同行人であるドッピオの支給品であったものだ。
義足を失ってしまった彼女は、このように誰かの助けがないと移動もままならない状況である。

「……不満がないって言ったら、嘘になっちゃいます……。
どうにかして、メアリさんを説得できなかったのかなって、今でも思っています……」

あかりは、辛辣な表情で胸中を明かす。
最愛の人を取り戻すために、殺し合いに乗ると宣言したメアリ――。
彼女の説得が叶わなかったこと、他の参加者を害するかもしれない彼女をそのまま行かせてしまったことに、後悔の念を抱いていた。

「――ですが、メアリ・ハントの意思は固かった……。
これもカタリナ・クラエスへの執着故なのでしょうね」

そんなあかりに対して、琴子は冷静且つ淡々と言葉を紡いでいく。
仮にあの場で、説得を続けていたとしても、邪魔者と見なされ、こちらに牙を剥くのは自明であった。
仮にそうなってしまえば、最悪こちら側の戦力がまた削がれてしまう恐れがあった。
であれば、無用な戦闘を避けるという意味でも、反魔王一味という括りの中で、彼女と共同戦線を張るというところに、着地させたのである。

「岩永さんが、上手く場を収めてくれたっていうのも分かっています。
だけど――」

あかりは、そこで車椅子を押していた手を止めて、立ち止まる。

「……私は怖いです。またメアリさんと対峙することにでもなったらと思うと……。
メアリさんの想いと願いを向き合って、それを打ち砕く覚悟が、私には……」

言い淀むようにしながら、あかりは不安げに顔を俯かせる。
高千穂に、志乃といった、元の世界での友人たち―――。
アンジュに、カタリナといった、この殺し合いの場で出会い、心通わせた仲間たち――。
親しきものを失う痛みと哀しみは、いやでも身に染みているから。

だからこそ、凶行に走るメアリの絶望も、痛切に理解できてしまっている。
故にこそ、彼女とぶつかり、否定することに躊躇いを覚えてしまう。

「―――あかりさん……」

そんなあかりに対し、琴子は振り返り、車椅子を握る彼女の手の上に、自身の手を重ねる。
彼女の手は、今も、死人のように冷たい。

「それでも、私たちは明日が欲しい……。
だから、私も、あなたも、立ち止まるわけにはいかないんです」

俯くあかりに、琴子は真剣な眼差しで語る。

―――明日が欲しい

先程、琴子に対して告げたその言葉。
同じ言葉を返されて、あかりはハッとした様子で顔を上げて、真っ直ぐな目線を返した。

「……そう、ですね……。ありがとうございます、岩永さん。
私ったら、ちょっと弱気になってしまいました」
「いえ、お気になさらず」
「おーい、二人とも、何ぼさっとしてんのさ! 置いていくよぉ!」

遠くの方で、先行していたドッピオが手を振っている。
どうやら、二人が話し込んでいるうちに、随分と先に進んでしまっていたようだ。

「すいません、ブチャラティさん、今行きます〜!!」

あかりは、自身に喝を入れるように頬を叩きながら、気持ちを切り換えて、琴子を乗せた車椅子を走らせた。


少女は歩み続ける。
彼女が信じる明日に、向かって。
明日がどうなるのかは未確定だけれど。
それでも、今は前だけを見つめていく。

ただひたすらに、明日を信じて。


569 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:04:54 NY2s/QiA0



(―――私の偽名の可能性について、吹き込んでいた……? いやその可能性はないか……)

こちらに向かう二人の少女を見定めながら、ドッピオは思考を巡らす。
先程の問答より、琴子は、この会場に自らを『ブローノ・ブチャラティ』と名乗る人物が二人存在することに気付いている可能性がある。
だが、それを悟っていたとしても、どちらが騙っているのかまでは分からないはず。本物のブチャラティについて、「こちらが本物だ」と証言できる存在は、もはやこの会場にはいない。
答え合わせが出来るのは、精々どちらか一方が死亡した後の、主催者による定時放送の時ぐらいだろう。

だとすれば、今この段階で、不和や不信に発展しかねないだけの情報を、わざわざあかりに垂れ込むのはナンセンスだ。
これまでのやり取りから、琴子はそのような軽率な真似を犯すような人間ではないと、ドッピオは判断した。

(まぁ、彼女に確信がない以上、此方としても、本物の『ブチャラティ』として行動し続ければ問題ないか……)

仮にこれから先、ブチャラティと接触したという参加者と遭遇したとしても、自分こそが本物であると言い張れば、問題はない。
ドッピオの主張を偽りと判断できる材料がない以上、それを覆すことは出来ないはずだから。

(だけど、もしも、彼女が明確にこちらの邪魔になりそうなら……その時は――)

岩永琴子を、殺すしかない。

この殺し合いで、自分の立場を危うくする不安要素は、早いうちに摘むべきだから。
そう心に決めて、ドッピオは琴子たちを、迎えるのであった。


570 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:05:11 NY2s/QiA0



(―――彼に関しては、もう少し様子見としましょうか)

あかりと自分を待ち受ける青年の姿を視界に収めながら、琴子は思考する。
現時点で判明しているのは、彼が『ブローノ・ブチャラティ』の名前を騙っているという部分のみ―――。

この会場には、目の前にいる青年と、リュージが出会ったという青年―――二人の「ブチャラティ」を名乗る男が存在しているが、嘘か真実を見抜けるリュージが、「ゲーム開始直後に、ブローノ・ブチャラティと出会った」という情報を、脚色なしに伝えている以上、どちらが偽名を使っているかは明らかである。

だが、それを元に彼を追求したとしても、シラを切られるのが関の山だ。
現状、偽名を騙っている以外に、不審な言動を行っていない以上、下手に踏み込むわけにもいかない。
眼前の青年が、自分たちにとって有害か無害か―――それを判断する時間と材料が必要だ。

故に、琴子は、リュージが遭遇したというアリア、ブチャラティ、キースとの一連の顛末については、登場人物からブチャラティを削除した上で、開示している。

(先程、少し揺さぶりをかけてみたので、私に対しての警戒心も強まっているでしょうね―――何れにせよ慎重に見定めないと……)

相当に用心深い性格をしているのだろう。
『月彦』という事例を使った尋問でも、一瞬だけ動揺の色は垣間見せたものの、その素性を掴ませるようなヘマはしなかった。
恐らく、琴子が人づてに「ブチャラティを名乗るものが二人いる」という情報を掴んでいるという認識は持っているはずだ。
その上で、彼がどのように動くのか――。それを見極めねばならない。

(―――まだまだ、課題は山積みですね……)

メアリ・ハントといい、この偽名を騙る青年といい、まだまだ、不安要素、不確定要素は尽きない。
だが、それでも、琴子もまた、あかりと同じく、明日を目指す。

それが、秩序の調停者たる彼女の役割でもあり、
彼女の願いでもあるのだから。


571 : 明日を信じて ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:05:31 NY2s/QiA0
【D-3/夕方/山林地帯/一日目】
【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:覚醒、白髪化、痛覚が鈍くなっている、体温低下、情報の乖離撹拌(進行度31%)、全身のダメージ(大)、精神疲労(中)、疲労(絶大)、左中指負傷(縦に切断、包帯が巻かれている)
[服装]:いつもの武偵校制服(破損・中)
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。アリア先輩たちが心配
0:岩永さん、ブチャラティさんと一緒に遺跡を目指す
1:ヴライ、マロロ、琵琶坂、魔王ベルセリアを警戒。もう誰も死んでほしくない
2:アリア先輩、志乃ちゃんを探す。夾竹桃は警戒。
3:『オスティナートの楽士』と鎧塚みぞれを警戒。
4:もし会えたらカナメさんに、シュカさんの言葉を伝えないと
5:メアリさんと敵対することになったら……。
[備考]
※アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
※覚醒したことによりシアリーズを大本とする炎の聖隷力及び「風を操る程度の能力」及びシュカの異能『荊棘の女王(クイーンオブソーン)』、そして土属性の魔術を習得しました。
※情報の乖離撹拌が始まっており。このまま行けば彼女は確実に命を落とします。

【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康、新たなる決意、無意識下での九郎との死別への恐れ、義足損壊、車椅子搭乗中
[服装]:いつもの服、義眼
[装備]:赤林海月の杖@デュラララ!!
[道具]:基本支給品、文房具(消費:小)@ドラゴンクエストビルダーズ2、ランダム支給品1(岩永琴子確認済み) 、ポルナレフの車椅子(ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風)
[思考]
基本:このゲームの解決を目指す。
0:あかりさんとブチャラティさんとともに、遺跡を目指す。
1:『ブチャラティ』を騙る青年(ドッピオ)を警戒。
2:魔王と琵琶坂永至、あの二人をどうにかする方法は……
3:あかりさん、貴方は……
4:九郎先輩との合流は……
5:紗季さん……
6:首輪の解析も必要です、可能ならサンプルが欲しいですが……
7:オスティナートの楽士から話を聞きたいですね
[備考]
※参戦時期は鋼人七瀬事件解決以降です。
※アリアから彼女が呼ばれた時点までのカリギュラ世界の話を聞きました。
※この殺し合いに桜川六花が関与している可能性を疑っています。
ただし、現状その可能性は少ないと思っています。
※リュージからダーウィンズゲームのことを知っている範囲で聞きました。
※夾竹桃・ビルド・隼人・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※今の自分を【本物ではない可能性】、また、【被検体とされた人間は自ら望んだ者たちである】と考えています。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。
※琴子、あかり、ドッピオ、メアリ、竜馬の五人でこれまでの経緯と、生存者についての情報を交換しました。


【ドッピオ(ディアボロ)@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:健康、ドッピオの人格が表
[服装]:普段の服装
[装備]:小型小銃@現地調達品 王の首輪@オリジナル
[道具]:不明支給品0〜1、アップルグミ×3@テイルズオブベルセリア
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない。
0 :琴子とあかりとともに、遺跡に向かう。
1 :無力な一般人を装いつつ、参加者を利用していく
2 :琴子を警戒。邪魔になりそうなら……
3 :オシュトルへの首輪提供のため、参加者を殺害してのサンプル回収も視野に入れる
4 :『月彦』を警戒。再合流後も用心は怠らない。偽名を使うだなんてけしからん奴だ
5 :ブチャラティは確実に始末する。
6 :なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。
7 :自分の正体を知ろうとする者は排除する。
8 :ゲッターロボ、もしもあのままランクを上げ続けてたら...ゾオ〜ッ
9 :グミは複数あるけど内緒にしておこう。
10 :もし認識がスタンドに影響を及ぼすならば……?
[備考]
※参戦時期はアバッキオ殺害後です。
※偽名として『ブローノ・ブチャラティ』を名乗っています。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※アップルグミの回復は健在ですが欠損や毒などは回復しません。
 また3つあることは伝えていません。
※早苗、霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※琴子、あかり、ドッピオ、メアリ、竜馬の五人でこれまでの経緯と、生存者についての情報を交換しました。


572 : ◆qvpO8h8YTg :2023/02/26(日) 17:06:19 NY2s/QiA0
投下終了します


573 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/21(火) 00:22:32 pS2TFKt.0
オシュトル、折原臨也、ヴァイオレット、ロクロウ・ランゲツで予約します


574 : ◆qvpO8h8YTg :2023/03/27(月) 00:06:24 TN9Ch1jA0
博麗霊夢、カナメ、フレンダ=セイヴェルン、ヴライ、十六夜咲夜、ビエンフー予約します


575 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/29(水) 23:48:17 HqDtLcQI0
投下します


576 : たとえようのないこの想いを ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/29(水) 23:50:04 HqDtLcQI0
友を失った時、彼はなにを想ったか。

彼の『愛してる』を知った時、彼はなにを想ったのか。

答えはきっと、すぐそこにある。


577 : たとえようのないこの想いを ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/29(水) 23:50:59 HqDtLcQI0



「...なるほど、事情は相分かった」

高坂麗奈が月彦に怪物にされており、茉莉絵に襲い掛かった。
その茉莉絵もまたゲームに賛同していたものであり、且つ月彦に怪物にされた。
茉莉絵を抑え込むためにアリアが捨て身の覚悟で彼女を引き離した。
そして人食いの本能に抗えなかった麗奈がヴァイオレットに噛みつき、しかし殺さず逃亡。

ヴァイオレットの語った顛末はこんなところだった。

「少なくとも茉莉絵殿と月彦殿は確実に『クロ』と言えるが...ひとつ確認しておきたい」

言いながら、オシュトルが視線をずらす先は、折原臨也。

「問おう、臨也殿。其方は茉莉絵殿のことを知っていたのか?」

警戒の色をふんだんに込めながらオシュトルは鉄線を突きつける。
共に怪物退治に赴き、こうして負傷者の治療を受け以てくれた相手に対し些か過敏ではあるかもしれないが、しかし、当然の対応と言えよう。
この遺跡の面々の中で、一番水口茉莉絵と接した時間が長いのは彼だ。
無論、会って精々数時間。騙されていた可能性も充分にありえる。
だが、もしも彼が知った上で遺跡の面子を排除する為に手を組んでいたのならば易々と隙を見せるわけにはいかない。
だからこうして脅しの意味も込めて真意を問いただす。

「あぁ、知っていたよ」

だが。
警戒心と敵意に晒されながらも折原臨也はへらへらとした面の皮を崩さず、あまつさえ肯定までしてみせた。

「誤解がないように言っておくけど、俺はあなたたちを殺そうとして彼女と一緒にいたわけじゃない」
「...その真意は」
「そうだね...かみ砕いて言えば、おれ個人の主義というやつかな」
「主義だと?」

一層濃くなるオシュトルの不満げな視線を意にも介さず、臨也はヘラヘラと続ける。

「俺は人間を愛している。性別も善悪も賢愚も優劣もなにひとつ区別なく平等に。人間すべてを愛している。
だから俺は誰の邪魔もしない。茉莉絵ちゃんが貴方たちを殺すために動いていても咎めないし、貴方たちが命を救おうとするのを見ても邪魔はしない。
人間がこの限界の状況でなにを見せてくれるのか―――俺はその全てを尊重し、肯定しているんだ」
「...まるで神様気取りの観察者のような口ぶりだな」
「神様?俺は人間だよ。ずっと、変わらずね」

どっちでもいいだろとオシュトルは内心でため息を吐く。
そう。彼が聞きたいのは臨也の価値観などではなく、現状での彼の立ち位置のみだ。
適当にはぐらかされても面倒だ、とオシュトルは自ら解を指定した。

「...とどのつまり。其方は我らの味方でも茉莉絵殿の味方でもないということか」
「その通り...と、言いたかったんだけどね。事情が変わった。茉莉絵ちゃんは俺の『敵』だ」
「ふむ?」
「俺は人間のする行動も想いも答えも全てを肯定している。
たとえ、オシュトルさんやヴァイオレットちゃんがいまここで俺を殺しにきても、茉莉絵ちゃんが戻ってきて俺たち三人を殺しても全てを受け入れるよ。ある程度の抵抗はするけど、それはご愛敬ってやつさ。
けど、そんな俺にも絶対に看過できないことがある。化け物が人間を蹂躙すること―――これだけはいただけない」

『化け物。その単語を口にしたほんの一瞬だけ、臨也のヘラヘラとした顔が引き締まる。

「『化け物』は人間の想いも努力も感情も経験も容易く踏みにじる。こんな素晴らしい生き物を嘲笑い捻り潰してくる。
さっきの月彦さんなんかがいい例だろう?茉莉絵ちゃんはこれまで人として必死に頑張ってきた。友情愛情の関係にヒビを入れるために猫を被って。
爆弾の能力もどこをどうすれば効果的に使えるか、自分に被害が及ばないかを考えて。
そうやって自分が楽しめる為の土台作りを一生懸命にやってきたというのに、怪物の力はそれらを全部台無しにした。彼女にこれまでの全てを否定させて、ポンと手に入った怪物の力の方がイイと思わせ、茉莉絵ちゃんという人間そのものをめちゃくちゃにする....俺はそういうのが嫌いなんだ」

だからね、と言葉を切り、再び軽薄な笑みを取り戻す。

「俺は水口茉莉絵という『人間』を愛しているからこそ、『怪物』になった彼女にはご退場願いたいんだ」


578 : たとえようのないこの想いを ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/29(水) 23:51:52 HqDtLcQI0

臨也の持論にオシュトルは言葉を失う。
自分の快不快のままに、危険すら厭わない無謀さに。
偽ることすらなく告げたその幼稚な思考に。

(こいつの持論だと尻尾とか生えてるクオンやムネチカもどうなることやら...)

敵ではないようだが、少なくとも味方に置いておきたい人間でもないな、とオシュトルは思わざるをえなかった。

「と、まあこんなところで、俺は月彦さんと茉莉絵ちゃんを排除する為に動く予定だけど、オシュトルさんとヴァイオレットちゃんはどうするつもりだい?」
「某は降りかかる火の粉は払うつもりでいる。あの二人は確かに危険故、排除することに異論はない」

オシュトルは心の中で『自分だけだったら関わらずに奴らを放置してもいいんだがな』と付け加える。
もしもこれが『ハク』一人の問題であれば「危険なことはできるやつにやらせておけばいい」と嘯いて下手な手出しは避けるところだろう。
だが『オシュトル』としてはそうはいかない。
率いる命が、立たねばならぬ立場があれば後の憂いに繫がる種を放置する選択肢は取れない。
それに幸か不幸か、戦場に慣れすぎた。
極力殺生は望まないとはいえど、己の邪魔立てをする者に遠慮も配慮も抱けない。

「...臨也様とオシュトル様のお気持ちも理解できます」

ヴァイオレットは面持ちを暗くしたまま、ぽつりとそう呟く。
人間、我が身が可愛いのは当たり前で、護るべき者がいるならなおさらだ。
害してくる者を排除するのは決して間違いではない。

「けれど...」

けれど。
ヴァイオレットは少佐に教えられてしまった。
心の壊れた道具にも愛してると言ってくれる人のことを。
ヴァイオレットは学んでしまった。
どんな人にも、大切だと言ってくれる人がいることを。
たとえいまはいなくても、そう言ってくれる人がいれば変われることを。

『オメエはオメエのやりたいことをやりゃいいんだからよ』

「けれど、私は―――」
「っと、少し時間をかけすぎたね。アリアちゃんを探しにいかないと」

竜馬に会った時にかけられた言葉に後押しされるように答えを返そうとしたヴァイオレットを、しかし臨也が遮るようにアリアの捜索を提案する。
アリアが茉莉絵を引き受けてから、既に一時間は経過している。
どのような形にせよ決着はついている可能性は高いし、茉莉絵の体質状、その結末も凡そ察しはつく。
しかしだからといってアリアを諦める訳にはいかない。
生きている可能性が僅かにでもあれば見捨てるわけにはいかない。
そう、オシュトルとヴァイオレットは思っている。

「とはいえ、近くに怪物共がいるかもしれない。オシュトルさん、俺とヴァイオレットちゃんが探しにいってくるからそこの彼を頼めるかな?」

臨也の示す、そこの彼とは、未だに目を覚まさないロクロウ・ランゲツ。
現状、臨也・オシュトル・ヴァイオレットの中でコンディションも含めて一番戦えるのはオシュトルだ。
彼をロクロウの護衛に着かせて、捜索中に襲撃される可能性も考慮し残る二人でアリアを探しに行く。
特段、不審がる点もないため、オシュトルは了承し、ヴァイオレットと臨也は部屋を後にする。


579 : たとえようのないこの想いを ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/29(水) 23:52:23 HqDtLcQI0
「...はぁ」

一人残されたオシュトルは溜息を吐く。
まただ。またたくさんの問題が増えた。
この会場に連れてこられた直後は首輪を解除しアンジュら仲間たちと共にこの催しから生還する、程度のぼんやりとした形だったというのに。
それがこの数時間でなんだ。
謎のゲッターロボ、ここにいる自分が偽物かもしれない説、ロクロウの受けた毒と思しきものの治療、茉莉絵や月彦らの強力な参加者、だけでなくヴライやマロロへの対処。そして折原臨也の扱い方。
一気に増えすぎだ。


「とても一個人に数時間で処理させる量の仕事じゃないだろう...時間外労働手当でも貰わんとなこりゃ」

「安心しな。そのうち一つは俺の問題だ」

ポツリと零した『ハク』としての弱音を拾うように快活な声が背後より聞こえた。

ロクロウ・ランゲツ。いつの間にか目を覚ましていたのか、その顔には疲労の色を見せずすぐにベッドから起き上がる。

「ロクロウ。無理はするな、其方は毒らしきものを月彦に盛られている」

「知ってる。このままじゃ俺は死ぬってこともな」

起き上がるなり、ロクロウは立てかけてあった號嵐の影打ちを手に取り、すぐに装着する。

「垣根の奴に教えてもらった。あの男、鬼舞辻無惨は攻撃と一緒に毒を盛るから下手に攻撃を受けるなと。...まあ、気を付けてはいたんだが、そううまくはいかないわな」
「ならば猶更安静にしておくべきだろう」
「そうもいかん。解毒剤は垣根が持っているし、他の手段があるかもわからん。となれば、解除できる可能性があるのは、俺が死ぬ前に鬼舞辻無惨を倒すことくらいのようだ」
「それならばあの二人を待ってからの方がいいのでは?」
「悪いがそれはできん。俺はあれだけ強いやつは一人で戦って食らいたい。それに、俺とあいつらはどうにも合いそうにない。あの折原ってやつは化け物を敵にまわすと言っているだろ?なら業魔の俺とも組むのなんかは勘弁したいだろう。ヴァイオレットに関しては、わかるな?」

「...ああ」

ロクロウの言葉にオシュトルは同意する。
臨也とは会ってまだ一時間弱程度であり、ヴァイオレットともそれよりは長いとはいえまだ半日にも満たない付き合いだ。
それでも、彼らがどういった目的で動いていて、どういう人間なのかはおおよそ把握できた。


580 : たとえようのないこの想いを ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/29(水) 23:53:02 HqDtLcQI0

臨也はあれだけ嫌う化け物であるロクロウとは手を組めないだろう。
百歩譲って組むとしても、ロクロウの願望など知ったことじゃないと言わんばかりに無惨とロクロウ、両者に悔いが残るように流れを作るだろう。
ヴァイオレットはもはや水と油だ。
臨也に遮られた返答が如何様なものだったかは考えるまでもない。
恐らく、麗奈はおろか、茉莉絵や無惨ですら殺したくない、といった旨だろう。
シグレのみならず強者と刃を交えたいロクロウとは決して噛み合うはずもない。

となれば、ロクロウが一人で無惨を探しに行こうとするのも無理はない話だ。
オシュトルとしても、首輪回収を頼んでいた件もあり、ロクロウが一人で戦いに向かうことに異論はない。
むしろ他の反主催派と余計な対立をするくらいならそちらの方が好都合というものだ。
ヴァイオレットには申し訳ないと思いつつも、オシュトルはこれ以上彼を引き留めようとはしなかった。


「しかし随分と察しがいいな」
「ヴァイオレットが事情を話してる時には起きていたからな。寝たふりして様子を伺ってた」
「気のまわる漢だ」

戦いの時もそうであってくれと思いながら、オシュトルはヴァイオレットたちが戻ってくるまでの間、ロクロウとの簡易的な情報交換を始めるのだった。

【E-4/大いなる父の遺跡/病室/夕方/一日目】

【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:健康、疲労(大)、全身ダメージ(中)、強い覚悟
[服装]:普段の服装
[装備]:オシュトルの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、童磨の双扇@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一色、工具一式(現地調達)
[思考]
基本:『オシュトル』として行動し、主催者に接触。力づくでもアンジュを蘇生させ、帰還する
0:一先ず、ロクロウと簡易的に情報交換をして、状況を整理する
1:ロクロウを蝕んでいる毒(無惨の血)の治癒方法を探る
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
3:『レポート』の内容は整理しておきたい
4:クオン、ムネチカとも合流しておきたい
5:マロロ、ヴライ、無惨を警戒
6:ゲッターロボのシミュレータについては、対応保留。流竜馬とその仲間を筆頭に適性がありそうな参加者も探しておきたい。
7:殺し合いに乗るのはあくまでも最終手段。しかし、必要であれば殺人も辞さない
9:『ブチャラティ』を名乗るものが二人いるが、果たして……。
10:誰かに伝えたい『想い』か……。
[備考]
※ 帝都決戦前からの参戦となります
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『003』がミカヅチであることを認識しました。

【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2 チョコラータの首輪@バトルロワイアル
[思考]
基本:シグレ及び主催者の打倒
0: ヴァイオレットたちが戻ってくる前にオシュトルと簡単な情報交換をする。その後、一人で無惨を探しだして斬る。
1: 手に入れた首輪を、オシュトルの元へ届ける
2: シグレを見つけ、倒す。
3: 號嵐を譲ってくれた早苗には、必ず恩を返すつもりだが……
4: ベルベット達は……まあ、あいつらなら大丈夫だろ
5: 殺し合いに乗るつもりはないが、強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
6: シドー、見失ってしまったが、見つけたら斬る
7: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
8: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
9: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。
※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。解毒を行わない限り、数時間以内に絶命します。


581 : たとえようのないこの想いを ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/29(水) 23:54:20 HqDtLcQI0


「アリア、さま...」

アリアが落下した場所を思い返し、やがて現場に辿り着いたヴァイオレットは息を呑んだ。
全身を焼かれ、手足が吹き飛ばされ、心臓部に風穴を空けられ血だまりに沈む死体。
神崎・H・アリアは目を見開き、苦痛に顔を歪ませながら息絶えていた。

「うぅ、あ」

ヴァイオレットはその場にがくりと膝まづき、俯いた顔からはぽたりぽたりと涙が零れ落ちる。
失ってしまった。
傍にいたのに、庇われるだけでなにもできなかった。
アリアは優しく強い少女だった。
関わった時間は少なかれど、正義感が強い善き人だと思っていた。
そんな彼女が、このような惨い死に様を晒していいはずがない。

「アリア、さま...アリア様...!」
「...これが化け物だよ、ヴァイオレットちゃん」

泣き崩れるヴァイオレットの肩に寄り添うように、臨也は片膝を着き、ヴァイオレットの耳元に顔を寄せる。

「アリアちゃんは君たちを護る為に化け物と一人で対峙した。武偵という立場に誇りを持ってね。
爆弾を撒き散らす化け物にも畏れなかった素晴らしい人間だ。彼女が俺たちと別れたほんの少しの間になにを想い、行動したのかを見届けられなかったのは非常に惜しい―――そんな彼女を、化け物は玩具にして殺したんだよ」

「ヴァイオレットちゃん、きみがさっき言いかけた答えはわかってる。月彦さんも茉莉絵ちゃんも殺さずに事を済ませたいんだろう?
けど、現実はこうだ。彼らはきみの、『人間』の事情なんて知ったことじゃない。己の気の向くままに人を壊し台無しにしていく...そんな彼らを、それでもきみは護りたいかい?」

耳元で囁かれた臨也の言葉にヴァイオレットは目を見開き、顔を上げる。
袖で目元を拭い、臨也を見つめ、そんな彼女を臨也も見つめ答えを待つ。

沈黙。

微かな風の音を背景に、二人の男女はただじっと見つめ合い、次の言葉を待つ。
やがて口を開いたのは、ヴァイオレット。

「臨也様」

けれどその言葉は臨也の望んでいた解答ではなく。

「臨也様は、悲しんでおられるのですね」

臨也の心に寄り添うような言葉だった。


582 : たとえようのないこの想いを ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/29(水) 23:55:55 HqDtLcQI0

「...悲しんでいる?俺が?」

思わぬ言葉に、臨也はきょとんとしてしまう。
臨也は人間を観察するのが趣味だが、しかし、観察するのは彼の専売特許ではない。
ヴァイオレットエヴァーガーデンら自動書記人形は、依頼者の言葉を単に紙に打つだけでなく、その言葉の裏に籠められた気持ちや仕草から感情を読み取ることを要求される。
憎々し気に放つ言葉は本当にそのままの感情しかないのか。ありがとうという言葉にはどれだけの想いが込められているのか。
それらを読み取るには相手の観察と理解は必須である。

ヴァイオレットは違和感を抱いていた。
臨也は人間の行為も決断もすべてを肯定すると言っていた。
たとえ、己の想定する答えにそぐわなくとも、それを肯定し矯正することもしない。
それが全てを肯定するということ。
なのに、いまの臨也は違う。
アリアの件をダシにヴァイオレットの決意を遮り。
そしていまは明確に化け物への敵意を煽ろうとしている。
ヴァイオレットが化け物も殺したくはないという意志を挫こうとしている。

それはなぜか。
思い当たるのは一つしかない。

岸谷新羅。
臨也の友達の死。
彼の死に化け物が絡んでいるから、そうせずにはいられなかった。
化け物と敵対せずにはいられなかった。
ヴァイオレットは、臨也という人間を観察した結果、そう捉えた。

(...俺は悲しんでいるのか?)

口元を掌で覆いながら臨也は自問する。

思い返せばらしくないことをしている。
オシュトルに詰められた先ほども、別にいくらでもはぐらかすことはできた。
あそこまで懇切丁寧に化け物へのスタンスを自白する必要はなかった。
そしていまのヴァイオレットへの対応も。
自分は確かにある程度の扇動をして誘導することはある。
だがそれはあくまでも場を整える程度のモノであり、対象の心理にまで扇動はしない。
そんなことをしてもその人間の真理は計り知れないからだ。

だがいまはどうだ。
人を殺す、なんて『人間』でもやることを化け物がやったと強調し。
ヴァイオレットの決意が苦しいものでしかないと暗に示し。
明確に化け物への敵意を煽ろうとしていた節が見受けられる。

それは、ヴァイオレットの言う通りに悲しんでいるからなのだろうか。
岸谷新羅という友人を化け物に殺された。
その喪失を悲しみ嘆いているからなのか。


583 : たとえようのないこの想いを ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/29(水) 23:56:21 HqDtLcQI0

「...調子が狂うなあ」
「臨也様?」
「いや、きみのことじゃない。むしろ俺という人間を観察してくれたことに礼を言うよ。自分じゃ気づけないものもあるからさ」

ぽつりと出た言葉は、あの友人に向けて。
彼が殺されて悲しい。確かにその気持ちもあるかもしれない。半分くらいはそうなのかもしれない。
けれどそれだけに非ず。
抱いている感情は、最期まで自分へと見向きもしなかった新羅の瞳に映っていたモノに向けて。
他者に一切興味のなかった新羅をあそこまでの狂気と凶行に駆り立てた化け物。
今まではさしたる嫌悪を抱いておらず、便利な情報屋としてしかみていなかった『化け物』セルティ・ストゥルルソンへの―――『嫉妬』。

それが、臨也の化け物への敵意をさらに煽り、他者にも共感させようとらしくない行動をとっていた。
岸谷新羅の存在は、臨也にとって自覚している以上に大きい存在であった。

(...本当に友達がいのないやつだよ、お前は)



友を失った時、彼はなにを想ったか。

彼の『愛してる』を知った時、彼はなにを想ったのか。

答えはすぐそこにあった。

けれどそれは誰にも伝わることはなく、彼の中にひっそりとしまわれた。

たとえようのないその想いを掬い上げられた時、彼は、今までの彼でいられるのだろうか。


584 : たとえようのないこの想いを ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/29(水) 23:57:05 HqDtLcQI0

【E-4/大いなる父の遺跡/夕方/一日目】
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:疲労(中)、全身強打、右拳骨折、言いようのない喪失感
[服装]:普段の服装(濡れている)
[装備]:
[道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数0/10、使い切った状態)、まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0〜1(新羅)
[思考]
基本:人間を観察する。
0:ひとまずオシュトルたちのところへ戻る。
1:『レポート』の内容は整理したいね
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
3:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だったのに...残念だよ。
4:平和島静雄はこの機に殺す。
5:『月彦』は排除する。化け物風情が、俺の『人間』に手を出さないでくれるかな。
6:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。
7:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。 何が目的なんだろうね?
8:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃に興味。
9:ロクロウに興味はないが、共闘できるのであれば、利用はするつもり。
[備考]
※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。
※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※ Storkと知り合いについて情報交換しました。
※ Storkの擬態能力について把握しました
※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。
※ 無惨を『化け物』として認識しました。


【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
[状態]:全身ダメージ(大) 、肩口及び首負傷(止血及び回復済み)
[服装]:普段の服装
[装備]:手斧@現地調達品
[道具]:不明支給品0〜2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ)
[思考]
基本:いつか、きっとを失わせない
0:オシュトルたちのもとへ戻りアリアのことを報告する。
1:お嬢様……どうかご無事で...
2:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。
3:麗奈と再合流後、代筆の続きを行う
4:手紙を望む者がいれば代筆する。
5:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。
6:ブチャラティ様が二人……?
[備考]
※参戦時期は11話以降です。
※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。


585 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/03/29(水) 23:57:30 HqDtLcQI0
投下終了です


586 : ◆mvDj9p1Uug :2023/04/07(金) 21:19:50 BFRLk6pc0
皆さま、投下お疲れ様です。
ブローノ・ブチャラティ、桜川九郎、ライフィセット、梔子、神隼人、クオン、東風谷早苗で予約させていただきます。


587 : ◆qvpO8h8YTg :2023/04/09(日) 15:30:04 NUNL.Wh20
延長します


588 : ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 19:50:49 4QcpsYVQ0
投下します


589 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 19:54:17 4QcpsYVQ0
 ――ムーンブルク城の方に向かおう。

 彼らの元に届いた、あの鐘の音がした方には間違いなく参加者がいる。
 病院や遺跡も気になるが、とりあえずは北の方に向かってみよう。
 ブチャラティはそう結論を出し、他の三人からも特に異論は出なかった。

 ここで、支給品扱いだったためかデイパックに入る事ができたシルバは、歩かせ続けさせるよりはいいだろうと、一度はライフィセットのディバッグへと入ってもらう事にした。
 それから、ムーンブルク城方面に向かおうと話が決まったわけだが、少し躊躇した後、ブチャラティはライフィセットにある事を告げた。

 そして、今。
 4人の参加者は、歩き続けていた。

「……本当に良かったんですか?」

 少し咎めるような色も含まれる九郎の言葉に、ブチャラティは真面目な表情のまま返す。

「間違いなく正しかった、とは言えない」

 ブチャラティは、ムーンブルク城へと向かう前にライフィセットにこれまでぼかしていた、第二回の放送の内容。
 すなわち、彼の仲間であるマギルゥの死を告げた。

 これがもし、平時だったのならばブチャラティも伝えるにしても、もっと気を使っていただろう。
 第二回放送をライフィセットは聞いていない。故に、まだ暫くは誤魔化す事はできたかもしれない。
 だが、今後も共に行動を続ければいずれ自力で気づく。いつまでも隠し通す事はできない。

 彼の仲間とされる4人のうち、エレノア・ヒュームは最初の放送で退場。そして、ベルベット・クラウは変貌した挙句に敵対。そして、マギルゥもまた死んだ。
 唯一の救いといえるのは、垣根の情報から残りの一人であるロクロウ・ランゲツはまだ生きている事ぐらいだ。

 はっきり言って、はじめて会った時のナランチャよりもさらに幼い年齢のライフィセットに告げるには残酷すぎる事実。

(――だが)

 あの生死の境を彷徨っている時に見せてくれた、幼い風貌からは想像もつかない強い意思の込められた瞳。
 決して、彼が守られるだけの子供ではない事を見せてくれた。

(もちろん、俺の身勝手な考えかもしれない)

 元々の知り合い、そして仲間の人数の話でいえば、この中でもライフィセットは圧倒的に多い。
 それは必ずしもいい事ではなく、放送の度に仲間の死が告げられる可能性が高くなるという事。
 もちろん、ジョルノ一人でもブチャラティの心に与えた影響は大きい。
 だが、これにアバッキオやフーゴ、ナランチャ、ミスタ、それにトリッシュなども加わっていたら負担はその比ではなかっただろう。
 それに耐えろ、と無茶な事を要求しているだけかもしれない。

 だが隠し続けるだけが優しさではない――ブチャラティは、子供を庇護する大人ではなく仲間としてそう判断したのだ。
 今は、先頭を九郎とブチャラティが歩き、背後をライフィセットと梔子がついてくる形になっている。

 そのライフィセットの表情は決して、明るくない。
 普段の穏やかで朗らかな笑みはなく、暗い。

(マギルゥ……)

 無言のまま歩を進めている。
 エレノアに続いて、マギルゥまでもが死んだ。

 つかみどころがなく、胡散臭く、飄々とした態度の仲間。
 間違いなく本人は絶対に認める事はないだろうが、どーでもいいと言いつつ、熱いものを胸に秘めていた。
 適当なように見えて、常に他の仲間とは違った視点で物事を見ており、ライフィセットにとっても大事な仲間だった。

 さらには、敵対した相手とはいえオスカーまでもが死んでしまったらしい。
 彼とは、元主であるテレサの弟であり、聖寮の元同僚という事になる。とはいえ、それはライフィセットが感情の封じられた頃の話であり、あまりそういった意識はない。
 その立場上、非情な策を取る事はあってもオスカー自身は別に悪い人間というわけではなかった。
 むしろ、民の安全を願い、姉の事を大事に想う極めて模範的で正しい人間といえた。
 間違っても、死んで当然といえるような人間ではなかった。


590 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 19:55:32 4QcpsYVQ0
(もし、マギルゥがここにいたら何か言ってくれたかな?)

 思えば、深刻な事態に陥った時なども、マギルゥは常にマギルゥだった。
 あれも彼女なりに、皆を気遣った上での言動なのだろう。

『――坊――』

 当たり前のように、聞いていたはずのマギルゥの声。そしてどーでもいい言葉。
 それが今は、遥か昔の事のように感じる。

(ううん。しっかりしなくちゃ。まだやるべき事も、やらなきゃいけない事もたくさんあるんだから)

 沈んだ気持ちになるのを握りつぶすように、ライフィセットは手を強く握った。


 そのライフィセットの横を歩きながら、梔子は無言だった。

 それは決して彼女が冷酷な人間というわけではなく、かける言葉が見つからなかったからだ。
 大事な相手がなくなるという気持ちは、梔子にとってもよく分かる。
 だが、分かるからこそかける言葉が出てこない。

 一声かけただけで、たちまちのうちに元気になるような魔法の言葉があるならば、梔子は弓野胡桃として現実に留まれた。
 メビウスに来る事も、オスティナートの楽士・梔子になる事もなかった。

 ふと、これから行くムーンブルク城で最初に出会った煉獄の事を梔子は思い出す。
 彼なら、この少年を励ますような気の利いた言葉をかける事ができただろうかと。
 だが、その煉獄も既にいない。

「……梔子、大丈夫?」

「え?」

「さっきから何か、難しそうな顔しているから」

 よほど深刻な顔でもしていたのか、ライフィセットからそう訊ねられる。

「……いや、何でもない。大丈夫だ」

 逆に気を使われたか、と梔子は内心で自嘲する。

 今にして思えば、他の楽士達も、自分の事を相当に気にかけてくれていたと思う。
 スイートPも、イケPも、それにこの会場で死んでしまったStorkや少年ドールも。ミレイですらも、高慢な態度でこそあったが気を使ってくれていたと思う。
 この会場に来てからの、煉獄にしても彩音にしても、レインや静雄にしてもそうだ。

 そんな風に梔子がそう考えている時、目的地が見えてきた。


「……皆。警戒してくれ」


 そんな時、ブチャラティが静かに告げる。
 ムーンブルク城。梔子からすれば、半日前にも見たはずのそこは、災害地のように成り果てていた。

 いったい何が、などという疑問は出てこない。
 あの病院同様に、参加者同士の争いがあったのだろう。

(この破壊の跡、それに病院からも近い位置にあるという点を考えれば、あのヴライの可能性もある)

 ブチャラティの推測は、まさに正解だった。
 だが今大事なのは誰がやったか、ではなくこの場に危険人物が残っているかどうかだ。

 そんな中、視界に入ってきたのは参加者と思しき三人の男女。
 それに、妖精のように小さな存在がいるが、ビエンフーのような例もあるため、首輪もない支給品扱いの存在かと、特に驚く事はない。
 いずれも、服はボロボロ。身体中に傷がある。
 もっとも、それはこちらも同様。比較的、軽傷の梔子にしても逃亡の際についた掠り傷などはあり、唯一の例外といえるのは九郎だけだった。

 向こう側も、こちらに気づいた様子だ。
 その集団の中では、唯一の男性の参加者――隼人がこちらに銃を見せてくる。
 ブチャラティにとって、見覚えのあるその拳銃に、一瞬、目を見開く。

(いや、今、考える必要があるのはそこじゃない。少なくとも、即座に攻撃を仕掛けてくる様子はなさそうだが)

 二つの集団の視線が交差しあう。
 そんな中、最初に口を開いたのはブチャラティだった。

「俺達は、殺し合いには乗っていない。もし、そちらもそうなのであれば、話し合いに応じてもらいたい」

 それはかつて、最初にリュージ達と出会った時。そして、ホテルで九郎達と出会った時ともよく似た問いかけ。
 だが、その時と異なる点として、ブチャラティは自分の名前を名乗っていない。
 この面子が、『自称』ブチャラティと接触していたら、厄介な事になるからだ。
 その誤解も解く必要があるが、まずは相手の出方を見るのが先だ。

「……」

 互いに無言のまま、見つめあう。
 相手側も、すぐに攻撃してくる様子はなさそうだが、警戒を完全に解いてはいない。拳銃を――ブチャラティにとってよく見知ったものであるミスタの拳銃を下ろす様子もない。


591 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 19:57:23 4QcpsYVQ0
 そんな中、均衡を破ったのが、


「……梔子、だよね?」


 ぼそり、と呟くように声を出したのはバーチャドールであり帰宅部のアリアだった。
 見覚えのある相手。同じ帰宅部の琵琶坂永至と何やら因縁があるらしい、楽士。当然、参加者として名前があり、今もなお生存している事は知っている。

「知り合いか?」

 隼人達は、アリアに。ブチャラティ達は、梔子へと視線が動く。
 それにアリアと梔子は無言のまま頷いた。

 梔子にとっても、存在は認識している。
 帰宅部側のバーチャドール。

「……一応は、敵対者という事になる」

 梔子の言葉に、軽い緊張状態が生まれかけるが、

「それでも、そちらが仕掛ける気がないなら何かするつもりはない」

 梔子からしても、琵琶坂の件を除いても帰宅部は敵だという事に変わりはない。
 彼女にとっての残された楽園といえるメビウスの破壊を狙う存在である以上、それは避けられない。
 だが、今のアリアはそうではないはずだ。ここがメビウスかも定かではなく、あくまで殺しあいの打破が目的で動いているならば梔子としても敵対する気はない。

 そんな二人の様子を見て、ブチャラティが告げる。

「……問題がないのであれば、情報交換をしたいのだが。そちらは構わないか?」

 隼人は、黙ってクオンを。アリアを。そして、早苗へと視線を動かしていく。
 特に反対意見がない様子の彼女らを見て、隼人は頷いた。

「……いいだろう。こちらも、情報を整理する必要があった。クオン。それに、東風谷早苗。お前たちもそれでいいな?」

 元々、クオンと早苗には聞く事があった。
 どちらにせよ、現状では皆、すぐに動くにはダメージが大きく。弁慶らの生死を確認しにいったレインらが戻ってくるまでにはまだ時間がかかるだろう。
 そういった考えもあり、隼人は情報交換に応じる事にした。



 さきほどの場所から、少し離れた比較的、瓦礫なども少ない場所。
 そこで、集まった全員で円を組むようにして座る。
 死角をなくし、どこからか誰かが近づいてくればすぐにでも誰かが対応できる状態にするためだ。

 一人ずつ、それぞれが持つ情報が交換されていく。
 最初のうちは、自分の知る名前がでてきて反応する者も出て、その都度、話が途切れそうになる事があった。とにかく人数が多いため、ここでは質問を挟んだりする事はなく、そういった話は全員が話し終えるまで待とうという事で話は進んでいく。

 はじめて知る情報もあれば、既に知っていた情報の補完もある。
 重複する情報もあったが、それでも各参加者の十数時間ぶんの出来事の情報交換が終わるには、それなりの時間が要された。

「……とりあえず、凡そのことはわかった」

 一通りの話が終わった事を確認した様子で、隼人が呟く。

 全員の情報が出し終えられた事により、第二回放送を生き残った46人の参加者の情報、及びに動向も把握する事ができた。

 まず、この場にいる7人の参加者。亡くなったビルドとマロロ。それにシドー。
 生死不明の武蔵坊弁慶、十六夜咲夜、ジオルド・スティアート、佐々木志乃、黄前久美子、鎧塚みぞれ。
 そして、つい先ほどまでブチャラティ達と会っていたカナメ、博麗霊夢。隼人達と会っていたレイン、平和島静雄。
 完全に乗った側であるベルベット、麦野、夾竹桃、ウィキッド、ヴライ、鬼舞辻無惨。そして、詳細は不明ながら無惨と一緒にいたとされる高坂麗奈。ベルベットらのところで囚われていると思しきムネチカ。
 スタンスの詳細は不明だがみぞれを襲ったとされる、琵琶坂永至。
 一応、無力化されたとはいえ殺し合いを加速させるような真似をしていたフレンダ=セイヴェルン。
 今は別行動だが反主催という立ち位置にいると思われる岩永琴子、リュージ、冨岡義勇、神崎・H・アリア、ヴァイオレット・エヴァーガーデン、流竜馬、垣根帝督、ロクロウ・ランゲツ、オシュトル。それに現状、どうなったかは不明ながらも、岸谷新羅も一応はここに含む。
 フレンダの証言から、ホテルに来る前に遭遇したと思われる二人。侍風の青年と、貴族風の少女。前者はライフィセットの情報からシグレ・ランゲツ、後者は今は亡きキースやジオルドからの情報からメアリ・ハントだと思われた。


592 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 19:58:36 4QcpsYVQ0

 これにより、この会場に来てからの動向が全く不明なのは3人となる。
 だが、そのうちの2人である間宮あかりに関しては神崎・H・アリアから。カタリナ・クラエスに関してはキース・クラエス、そしてジオルド・スティアートなどの証言から身元は分かっている。

 つまり、唯一残る事になったのが――、


「えっと、その――」

 ようやく質問を挟んでいい雰囲気になったためか、遠慮がちながらも早苗がブチャラティに問いかける。

「貴方もブローノ・ブチャラティさん、なんですよね?」

「そうだ。君の事も霊夢から聞いている。ブチャラティを名乗る男と行動していたという事も」

「……」

 早苗からすれば困惑、という言葉しか出てこない。
 他にも色々と情報は出てきていたが、一番の驚きといえる情報が『ブチャラティ』と名乗り、少なくない時間を過ごした同行者が偽名だと言われたのだ。

「その『自称』ブチャラティの正体が、ディアボロという参加者だというのか」

 こちらのブチャラティとは初対面。もう一人のブチャラティとも面識がなく、中立に近い立場から隼人が訊ねた。

「ああ。俺と敵対する立場にいた相手だ。偽名として俺の名を騙ったのだと考えている」

「それを証明する事は?」

「残念ながら、今の俺にはできない」

 ここに来る前の知り合いであるジョルノ。
 敵対する立場とはいえ、こちらの顔も名前も知っていたであろうリゾット、チョコラータ。
 彼らは皆、退場した。
 唯一残ったのはディアボロこと偽ブチャラティだが、当事者である彼が自分の不利になる証言などしてくれるはずがない。

 今は垣根や無惨が持つ、参加者の顔が分かるような支給品でもない限り、証明するのは難しい。
 ゆえに、霊夢やカナメの時と同じように中立の立場であるならばそれでも良いか、などとブチャラティが考えた時――、


「ディアボロ……」


 ぽつり、と呟くような声が漏れた。
 声の主はクオンだ。

「えっと、その。いいかな?」

「クオン、どうかしたのか?」

 隼人の問いに、少し間があってからクオンは答える。
 精神的に憔悴した様子は変わらないまま。だが、そんな状態でも必死に記憶を辿っている様子であり、やがて答える。

「その、私がリゾットっていう参加者に最初に会ったという事は言ったよね?」

「ああ」

 垣根の話にも出てきた暗殺チームのリーダーであり、スタンド使い。
 ブチャラティとは結局、最後まで会う事のなかったパッショーネの構成員。
 先ほどの情報交換の際には出会った事実のみを話し、会話の詳細まではクオンは語っていなかった。

「そのリゾットと会った時の事なんだけど、彼はこの戦いの目的を復讐だって言っていたんだ」

 思い出すのは、この催しがはじまって、さほど時間が経っていない頃の話。
 わずか半日前のはずだが、ずいぶんと昔に感じる。
 リゾットと名乗ったあの男は、復讐こそが目的だというのと同時に、確かにこうも言っていたはずだ。


『……赤毛で顔にそばかすの目立つ男がこの殺し合いに参加している。名は「ディアボロ」。忠告しておく。そいつに手を出すな』


「! それって……」

 クオンによって再現されたリゾットの言葉から出てきた、覚えのある外見の特徴に、早苗が目を瞬かせる。

「どうやら、その赤毛の男が君の言う『ブチャラティ』で間違いないようだな」

 そんな早苗の反応を見て、ブチャラティは彼女の知る『ブチャラティ』の正体を確信する。


593 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:00:19 4QcpsYVQ0
 早苗からすれば、彼女の知る『ブチャラティ』に、悪い印象はない。
 一度、急にキレられたりはしたものの、それでも不信感にまでは発展しなかった。
 不信感というのであれば、実の兄を平然と斬ろうとしていたロクロウや、それを推奨するような真似をしたオシュトルの方が上だ。

 だが、彼女の知る『ブチャラティ』を『ディアボロ』だという前提で話を進めようとする気にもならず。
 否定する事も肯定する事もできず、黙り込んでしまった。

 この会場にいた鈴仙のように、狂気を操る能力を応用して嘘発見機のような真似ができるわけでもなく、心を読む程度の能力があるわけでもない。
 自分の会った『ブチャラティ』こそが本物であると信じたくとも、確証は持てず、その心は揺らいできている。

 そんな早苗の気持ちを汲み取ったのか、ブチャラティはひとまずは次の議題に入る事にする。

「とりあえずは、次の話に移ろう」

 結局のところ。
 現時点で、ディアボロがやっていると思しき事は、ブチャラティの名を騙った事のみ。一応、王の死体から首輪を奪い取るような真似こそしていたものの、それも早苗のような良識的な参加者が眉をひそめる程度。
 生きた人間。それも、乗っていない側の参加者ならばともかく、『乗った』側の死体――王が『乗った側』である事は当時の早苗達にはわかりようがない事ではあったが――の死体からだというならば、程度の差こそあれ、犠牲なくして主催打倒は不可能だと考える参加者にとってはそこまで問題視される事でもない。

 過去の因縁があるパッショーネに属する参加者達はともかく、他の参加者からすれば優先的にディアボロを狙う理由にはならない。
 参加者達も善良な一般人ばかりというわけでなく、むしろそんな存在の方が少なく。
 隼人にしても元テロリストだ。
 ギャングのボスだという事も、そこまでマイナス材料にはならないだろう。

 逆にフレンダがあれほどまでに参加者からヘイトを集めてしまったのは、この会場に来た『後』にやらかしたからである。単なる暗部組織の一員というだけなら、大した問題にはならなかった事だろう。
 そして、次はそのフレンダに関しての話だ。

「ここに俺達が来る前に、レインと平和島静雄と名乗る参加者と会っているんだったんな」

「そうだ。その時はその二人しかいなかったし、お前らの言うフレンダとやらもいなかった」

 カナメと霊夢に連れられ、レイン達と合流するために動いていたフレンダ。しかし、つい先ほど出会ったという二人の側にカナメも霊夢も。そしてフレンダもいなかったようだ。

「という事は、フレンダさん達は合流に失敗したという事でしょうね」

 今度はブチャラティに代わって九郎が答える。
 つい先ほど、目標の人物である静雄とレインが二人だけでこの場に来たという事はおそらく出会う事ができなかったのだろう。

 ちなみに、竜馬を嵌め、悪評を振りまいたというフレンダの存在に対して隼人は「そうか」とのみ返したのみだ。
 竜馬なら、その程度の事でどうにかなる事はないというある種の信頼もあったし、フレンダの策が継続しているのならばともかく、一応は企みが露呈したのであれば、こちらで騒ぎ立てるつもりはない。

 もし今だにどこかで逃亡中だったのあれば、見つけ次第、始末してサンプル用に首輪の回収でもしていただろうが、一応は裁定が下されたのであれば、向こうから突っかかってこない限り、竜馬たちフレンダ被害者の会に任せる気でいた。

「いざという時の、再合流地点として病院を指定してある。見つからなければ、そちらに向かっているとは思うが」

 その病院は、あのヴライによって災害跡地のようになっている。
 ヴライに関しても、生き残っている可能性は十分にあり、危険地帯のままだ。


594 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:02:17 4QcpsYVQ0

「えーと、それじゃあ次、アタシからいいかな?」

 アリアがその小さな手であげ、次の議題を振る事を求める。
 他の参加者達も頷きあったのを見て、アリアが続ける。

「その、永至の事なんだけど」

 ぴくり、と梔子が反応する。
 情報交換の際に出てきた、帰宅部の仲間である琵琶坂永至。
 その琵琶坂が参加者の一人を殺害し、先ほど早苗達と共にいたみぞれをも殺しかけていたという話だ。
 アリアからすれば、琵琶坂も仲間だという認識だけに、衝撃は大きい。

「正直、アタシとしては信じたくないんだけど」

「あの男なら、それくらい間違いなくやる」

 辛辣な口調で、梔子は吐き捨てる。

「梔子……」

 明らかに嫌悪感を込めて吐き捨てる梔子の様子に、アリアも言葉が出てこない。

 琵琶坂永至は、アリアにとって帰宅部の仲間である。
 確かに、おかしい点はあった。佐竹笙吾などは、琵琶坂の事を最初から露骨に怪しんでいた。
 とはいえ、せいぜいが場の空気を悪くしたりする程度であり、実害らしい実害もなかった。
 過激な発言もあったし、μをもっと直接的な手段で害そうと提案されたりした事に思う事はあった。
 それでも、琵琶坂永至は仲間なのだという思いがアリアにはある。
 帰宅部の活動にも、誰よりも真摯に取り組んでいたはずだ。

「……別に信じてくれなくても良い。けど、あいつは危険な男だ。それだけは言っておく」

 それで話は打ち切る、とばかりに言い終えた。
 梔子としては、下手に琵琶坂に注目が集まり過ぎて、優先的な標的とされる事も好ましくない。
 そうなれば、自分の手で復讐が果たせなくなる可能性が高まってしまうからだ。
 とはいえ、無関係で無害な参加者が犠牲になるのも望んでいるわけではなく。
 そんな思いから、危険人物だという事は訴えても、それ以上に具体的な事は話さず。かなり中途半端な形となってしまった。

 証人といえるみぞれに関してもこの場にはいないため、琵琶坂に関しての証言の真偽をこの場で確かめる事もできず。
 結局のところは、対琵琶坂への対応はディアボロと同様に「会えば警戒して接する」程度で留まる事になった。

 結局、琵琶坂に関してはここまでとなり次の議題へと入る。

「鬼舞辻無惨に関してだ」

 ブチャラティが次に出した名は、鬼舞辻無惨。
 煉獄杏寿郎や、冨岡義勇ら鬼殺隊が追い求めるという、鬼の首魁。
 ブチャラティにとっては、ジョルノの仇でもある人物。その事に思う事はあれど、今、議論すべきは無惨という参加者の危険度だ。

「冨岡の追っていたという鬼の元締めか」

 隼人にとって知る鬼とは、驚異的な治癒力や人に害をもたらす点など共通する事は多いが、やはり異なる存在。
 隼人も義勇から、その存在に関して聞いている。

「そして、その男は当初、冨岡の名を騙っていたという事になるな」

「えっと、その。ブチャラティさん――私の知る方のブチャラティさんとヴァイオレットさんの言う冨岡義勇さんがその無惨という人の可能性があると?」

「そうだ」

 早苗としては、やはり自分の知る『ブチャラティ』が名を騙る偽物だとはすぐに受け入れがたい様子だが、今問題にすべき事はそこではない。

 隼人の知る義勇や梔子の知る煉獄の証言。そして何より、早苗の知る外見情報の『冨岡義勇』が、病院などで殺戮を繰り広げたという男と外見情報が一致する。
 これに関しては、議論するまでもなく隼人達の知る『冨岡義勇』こそが本物と考えていいだろう。

「その、一緒にいたという高坂麗奈さんはどうしたのでしょうか?」

 ヴァイオレットが気にかけていた相手だけに、その少女の事も気にかかる。特に彼女は一般人のようなので、そんな怪人物と一緒にいるのであれば、あまりに危険すぎる。


595 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:02:17 4QcpsYVQ0

「えーと、それじゃあ次、アタシからいいかな?」

 アリアがその小さな手であげ、次の議題を振る事を求める。
 他の参加者達も頷きあったのを見て、アリアが続ける。

「その、永至の事なんだけど」

 ぴくり、と梔子が反応する。
 情報交換の際に出てきた、帰宅部の仲間である琵琶坂永至。
 その琵琶坂が参加者の一人を殺害し、先ほど早苗達と共にいたみぞれをも殺しかけていたという話だ。
 アリアからすれば、琵琶坂も仲間だという認識だけに、衝撃は大きい。

「正直、アタシとしては信じたくないんだけど」

「あの男なら、それくらい間違いなくやる」

 辛辣な口調で、梔子は吐き捨てる。

「梔子……」

 明らかに嫌悪感を込めて吐き捨てる梔子の様子に、アリアも言葉が出てこない。

 琵琶坂永至は、アリアにとって帰宅部の仲間である。
 確かに、おかしい点はあった。佐竹笙吾などは、琵琶坂の事を最初から露骨に怪しんでいた。
 とはいえ、せいぜいが場の空気を悪くしたりする程度であり、実害らしい実害もなかった。
 過激な発言もあったし、μをもっと直接的な手段で害そうと提案されたりした事に思う事はあった。
 それでも、琵琶坂永至は仲間なのだという思いがアリアにはある。
 帰宅部の活動にも、誰よりも真摯に取り組んでいたはずだ。

「……別に信じてくれなくても良い。けど、あいつは危険な男だ。それだけは言っておく」

 それで話は打ち切る、とばかりに言い終えた。
 梔子としては、下手に琵琶坂に注目が集まり過ぎて、優先的な標的とされる事も好ましくない。
 そうなれば、自分の手で復讐が果たせなくなる可能性が高まってしまうからだ。
 とはいえ、無関係で無害な参加者が犠牲になるのも望んでいるわけではなく。
 そんな思いから、危険人物だという事は訴えても、それ以上に具体的な事は話さず。かなり中途半端な形となってしまった。

 証人といえるみぞれに関してもこの場にはいないため、琵琶坂に関しての証言の真偽をこの場で確かめる事もできず。
 結局のところは、対琵琶坂への対応はディアボロと同様に「会えば警戒して接する」程度で留まる事になった。

 結局、琵琶坂に関してはここまでとなり次の議題へと入る。

「鬼舞辻無惨に関してだ」

 ブチャラティが次に出した名は、鬼舞辻無惨。
 煉獄杏寿郎や、冨岡義勇ら鬼殺隊が追い求めるという、鬼の首魁。
 ブチャラティにとっては、ジョルノの仇でもある人物。その事に思う事はあれど、今、議論すべきは無惨という参加者の危険度だ。

「冨岡の追っていたという鬼の元締めか」

 隼人にとって知る鬼とは、驚異的な治癒力や人に害をもたらす点など共通する事は多いが、やはり異なる存在。
 隼人も義勇から、その存在に関して聞いている。

「そして、その男は当初、冨岡の名を騙っていたという事になるな」

「えっと、その。ブチャラティさん――私の知る方のブチャラティさんとヴァイオレットさんの言う冨岡義勇さんがその無惨という人の可能性があると?」

「そうだ」

 早苗としては、やはり自分の知る『ブチャラティ』が名を騙る偽物だとはすぐに受け入れがたい様子だが、今問題にすべき事はそこではない。

 隼人の知る義勇や梔子の知る煉獄の証言。そして何より、早苗の知る外見情報の『冨岡義勇』が、病院などで殺戮を繰り広げたという男と外見情報が一致する。
 これに関しては、議論するまでもなく隼人達の知る『冨岡義勇』こそが本物と考えていいだろう。

「その、一緒にいたという高坂麗奈さんはどうしたのでしょうか?」

 ヴァイオレットが気にかけていた相手だけに、その少女の事も気にかかる。特に彼女は一般人のようなので、そんな怪人物と一緒にいるのであれば、あまりに危険すぎる。


596 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:04:08 4QcpsYVQ0

「みぞれさんの話によると、その人と一緒にいたらしいのですが……」

「推測でしかないが、その高坂麗奈という参加者は鬼にされた可能性がある」

 義勇や煉獄の話によれば、鬼舞辻無惨には人を鬼にする力があるという。
 参加者の数が限られたこの殺し合いにおいて、ある意味、戦闘力よりも警戒すべき力だ。
 二人きりでいて、単なる一般人だという高坂麗奈をそのままにしておくというのも考えにくい。

 本来、無惨には大量の配下の鬼がいたようだが、この会場にいたのはただ一人。その累も、既に退場した以上は新たな配下を必要としたと考えてもおかしくない。

「そんな……」

「言っておくが、助けようなどと考えない方が良い」

 隼人が冷たく言い放つ。

「義勇の話によれば、無惨によって鬼にされた者は、飢餓衝動があれば身内でも食らうような危険な存在になり果てるらしい。仮に保護できたとしても、そばに置いておくだけで危険だ。そんな状態で生き続けるぐらいならば、楽にしてやる方が本人のためだ」

「でも……」

 なおも食い下がろうとする早苗を、九郎が留める。

「あの。その話は一度、後にしませんか?」

「そうだな。その高坂麗奈にしても鬼にされたと決まったわけではない」

 もっとも、無惨のような危険人物がただの一般らしい相手を手元に置いておくとしたら理由は人質か、何かしらの価値を見出したか。
 いずれにせよ、ろくな事ではない。
 だが、それを隼人も口に出さない。現時点では推測止まりという事もあるが、今の件で早苗とのスタンスの違いが浮き彫りになり、これ以上は余計な脱線を招くだけだと判断したのだ。

 ヴライ、そしてウィキッドといった他の危険人物の話になり、前者ではクオンが、後者ではアリアが反応するも、特に口を挟む事はなく風貌や基本的な能力などについての情報が交わされただけだった。

「それで、だ。お前たちはこれからどうする気だ?」

 危険人物たちの話に区切りをつけると、隼人が問いかけるように言った。
 ここでいう「お前たち」は、ブチャラティ達だけでなく、クオンや早苗も含まれているのであろう事は、視線の動きで分かった。

 クオンと早苗は、すぐに言葉が出てこない。
 逆にもっとも早く、言葉を発したのはブチャラティだった。

「俺としては、遺跡の方に行ってみるべきだと考えている。話によれば、遺跡方面に人が集っているようだし、アリアと新羅の件を抜きにしても向かう価値はある」

「そうですね。それに、できる限り危険人物の情報は今みたいに大勢で共有すべきでしょう」

 九郎もそれに同意する。

「そうだな。だが、一人一人接触した上で情報交換をしていたんじゃ、やはり時間がかかるな。もっと手っ取り早く、共有させる事ができればいいんだが」

「その、少し前から考えている事があったんですが、いいですか?」

「どうした?」

「ホテルにいた時、 ……その、例の映像が流れていたじゃないですか」

 あまり口に出したい内容でもないため、内容に関してはぼかしつつ話す。
 ブチャラティもすぐに察した。

「ああ。アレか」

 映っていたのは、佐々木志乃。そして、罪歌。この事は既に知っているし、彼女がどうなってしまったかもだ。
 彼女の知り合いだというアリアの事を考えると、思う事はあるが、今の問題はそこではない。

「アレって別に主催が流したとかではなくて、参加者が個人的に勝手に流したように思えるんですよね」

「そうだな。主催が流すにしても、意図が読めない」


597 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:05:42 4QcpsYVQ0
 一応、早苗は映像に出ていた佐々木志乃とも情報交換をしている。彼女はテレビ局にはいたようだが、特にその話は出ていない。

「それで思ったんですが、もしかしたらここの施設を使えば参加者でも映像を流せるんじゃないですか?」

 九郎が地図を取り出し、「テレビ局」と書かれた箇所をさし示す。

「えっと、ごめん。その『てれび』って何かな?」

 だが、この場には、テレビの存在に関して知らない者もいる。
 クオンの言葉に九郎は頷き、テレビに関しての説明をした。細かい構造はともかく、どういったものなのかは伝える事ができた。

「えっと、もしかしたらそれ、僕たちも見ていたかも」

 その説明を受け、ムネチカと共にデパートにいた時の事を思い出し、ライフィセットが言った。
 それを聞いて、九郎の顔が引きつる。

「え? ……その、アレを見たの?」

「ううん。ムネチカに目を塞がれちゃってたからほとんど見てないよ」

 グッジョブ、と内心で九郎は安堵する。
 あれは、子供に見せるには教育上よろしくない。

 そして、ここに岩永琴子がいなくて良かったとも。
 この会場、彼女がいてくれればと思う局面が何度もあったが、今回に限っては間違いなくいなくて良かった。
 もし彼女がにいれば、絶対に何か品性のない発言をしていた。確信ができる。

「それで、お前たちは見ていたのか?」

「いや、知らんな」

「アタシ達も見てなかったと思うよ」

 ブチャラティの問いに、他の参加者達は皆、首を横に振る。
 問題の放送があった時間帯、隼人とクオンは産屋敷邸にいた。
 一方のアリアは、岩永と共に南西方面の施設を回っていたはずだ。

「放送できる範囲の問題か、あるいは単に近くにテレビやそれに相当する物がなかっただけの話かもしれんな」

 あの時、ブチャラティ達も見たくて見たわけでもない。
 こんな殺し合いの最中だ。仮に放送範囲が会場全域だとしても、見ていない参加者が多くても不思議はない。

「それでも、うまく使えば危険人物の情報をそれなりの人数で共有できるかもしれんな」

 ブチャラティや冨岡の名を騙ったいたディアボロや無惨のように、危険人物を危険人物だと認識できない事が最悪の問題だ。
 うまくテレビ局を利用できれば、それを大幅に減らす事ができるかもしれない。

「とはいえ、位置的に少し遠いな。やはり、行くとしても遺跡が先だな」

 問題としては、現在地からテレビ局までそれなりに距離があるという点。やはり、まずは遺跡の方が優先だろう。
 そうか、と隼人は頷いた後に続ける。

「俺の方は病院を経由して、研究所に向かう。元々の予定だし、首輪解除の糸口がつかめるかもしれん」

 既に研究所にはオシュトルが行き、首輪解除の成果を出せなかったようだが今の隼人達にはビルドの忘れ形見もある。
 行くだけの価値はあるだろう。

 病院を経由するのは、半壊してしまったとはいえ、ある程度の薬や治療用の設備があればそれを使っておきたいという考えもあっての事だ。
 無論、生存した状態で病院に残っている場合も考え、ヴライを警戒する必要があるが。

「ついでだ。フレンダとやらがいたら、竜馬に引き合わせるまで連れていってもいい」

「助かる」

 ブチャラティとしても、フレンダの問題は最後まで責任を持ちたいという思いもある。
 だが、ブチャラティの身体は一つしかないのだ。
 レインと静雄が帰ってきた後、この二人をうまく合流させる事ができたとしても、竜馬に対してもフレンダにはけじめをつけさせる必要があるのだ。

 最後に、ここがメビウスと呼ばれる世界に近い世界である可能性が高い事も、はじめて知る者もいるため、改めて情報を共有した。
 ただし、岩永琴子やレインの推測に関しては、話さないまま。やはり、不確定な情報かつメンタルに大きく影響を与えかねないからだ。精神的に安定していない者もいる中、すべきではないとの判断からだ。


598 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:06:39 4QcpsYVQ0
 そこで一度話を打ち切り、各々が目の届く範囲で休憩をとりつつ、レインと静雄の帰還を待つ。
 二人が戻ってくるのにあまりに時間がかかるようなら、書き置きを残して先に移動を開始するという事でいったんは解散となった。



◇ ◇ ◇



 皆が散っていき、ブチャラティと九郎のみがつい先ほどまで議論していた場所に残っていた。
 そのまま、ブチャラティと九郎はここで話し合っていた。
 もちろん、これからの行き先に関しての問題だ。

「……やっぱり、一人は知っている顔がいた方がいいでしょうね」

「そうだな」

 カナメ、霊夢は早苗と会っているが、この場で会った参加者達はフレンダに対しては初対面になる。
 余計な警戒や問題を起こさないために、既に顔見知りの九郎は病院方面に行くべきだと考えていた。

「任せていいか?」

「ええ。僕が行くのが妥当でしょう」

「助かる」

 遺跡には、ライフィセットの仲間であるロクロウが向かった可能性が高い以上、彼はそちらを選ぶだろう。梔子に関しても、彼と契約している関係上、一緒にいた方が良い。
 そして、ブチャラティとしても、例の偽ブチャラティことディアボロが向かっている可能性がある以上、ここで何とかしておきたいという思いもあった。

「それと、話は変わりますが、例の身体ストックってありましたよね」

「ああ、今もここにある」

 あの時の仲間の分は持ち出している。
 そして今のブチャラティの片腕は、あのヴライとの戦いの際に切り外したまま放置されており、変わりに身体ストックのものをつけている。
 ここまで違和感がないのであれば、実際のものと変わらない。

「それで思いついたんですが、それってさっきの話に出てきた鬼の飢餓衝動の対策として使えませんかね?」

 鬼の食事は、人間の血肉。
 当然の事ながら、気軽に渡せるものではない。
 だが、この身体ストックはその代用品になるかもしれない。

「……なるほど。そういう使い方もできるのか」

 ブチャラティにしても、もし無惨が善良な参加者を鬼にするような真似をしているのであれば、それを救いたいという思いもある。
 だが先ほど隼人が言っていたように、鬼の特徴である飢餓衝動の問題を考えれば、仮に保護できたとしても、連れ歩く事すら難しいだろう。

 だが幸い、といっては悪いが既に死亡している参加者の身体ストックならば使い道が他にない。
 あまり想像したくない話だが、ブチャラティが持ち出したアリアや新羅のものは、次の放送で二人が呼ばれれば不要のものとなってしまうのだ。

「いい気はしないがな」

「そうですね」

 九郎も一般的な価値観が欠如しているわけではなく、そこは同意する。
 この話はこれまでとした時、ブチャラティが思い出したように言う。

「もし、このまま別れるならば、これも持っていってくれないか?」

 取り出したのは、スパリゾート高千穂の男性ロッカーの鍵。
 かつて、ホテルで入手したものだ。

「このまま、東の方向に向かうならお前が持っていてくれた方が良いだろう」

「それもそうですね」

 九郎は頷く。

「それじゃあ、ブチャラティさんも、もし岩永と会えたらお願いしますね。色々と危なっかしい奴ですから」

「わかった」

 ――もし仮に。

 ここで、岩永琴子が遺跡方面に向かっていると知る事ができるのであれば。それも、偽ブチャラティことディアボロと一緒だと知る事ができれば。

 間違いなく、九郎は遺跡方面への移動を決断しただろう。
 だが、九郎は全知全能の神ではなく。それを知る事はできない。

 この時点で彼が知れたのは、数時間前は西の方にいたという情報のみ。
 今はどこにいるかは分からない。実際、同じくらいの時期にホテルにいた九郎にしても今は大きく移動している。
 彼女らに目標の施設があった様子でもない以上、行先の特定は困難だったのだ。



◇ ◇ ◇


599 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:07:58 4QcpsYVQ0
「その、本当に大丈夫なのか?」

「え? 何が?」

 ライフィセットと梔子は、少し離れた場所にいた。
 離れているとはいえ、少し声を出せばブチャラティ達に届くぐらいではあるが。
 そこで、梔子はライフィセットに問いかけた。

「さっきまで、相当に危険な状態だったようだが普通にしていて大丈夫なのか?」

「まだ少し、疲れはあるけど大丈夫だよ」

「……そうか」

 一時解散となった後、ついライフィセットについてきてしまったが、先ほどと同様に気の利いた言葉はでてきてくれず、少し気まずかった。

「その、改めて言うけどありがとう。梔子のおかげで、助かったよ」

 そんな中、礼を言われる。
 少し戸惑ったが、それが聖隷契約の事だと分かった。

「さっきも言ったが、別に気にする必要はない」

「ううん。それでもお礼を言わせて」

「私だけじゃない。他の皆のおかげでもあると思う」

 あの際、ブチャラティがいなかったら、ライフィセットが助かっていてもヴライの襲撃の事件で終わっていた。

「そうだね。他の皆にも感謝してるよ。色々な人に助けられて、今の僕がいると思うから」

 最初の同行者だったムネチカはもちろん、ブチャラティや九郎にしても、今ここにいる梔子にしてもそうだ。

「それに、フレンダって人も」

 フレンダ。
 その名前の相手に、梔子はあまりいい感情を持っていない。
 フレンダ被害者の会のメンバーの大半が、梔子の元同行者達だったという事もある。
 それだけでなく、単純に殺し合いに乗ったというだけでなく、人を煽り、安全圏に潜むようなやり方は、どこか琵琶坂を連想してしまい。
 煉獄殺しの犯人と思われるミカヅチや、彩音の死因となったヴライよりもフレンダに対する梔子の嫌悪感は強かった。

「ブチャラティさんや桜川さんはともかく、フレンダはお前を助けたかったわけではないと思う。感謝する必要はない。何より、彼女は乗った側だった」

「聞いているよ。でも、それでも助けてくれたのは事実だから」

 ライフィセットもその事は既に聞いた。
 だが、それでも。
 あの列車での戦いの時、フレンダの活躍によって、助けられた事にも変わりはない。

 結局、フレンダとはまともに意識のあるうちに会話もできていないが、もしまた会えば礼の一言でも言っておきたいと思っていた。

「……人が良すぎると思う」

 梔子も、そういったライフィセットの考えは好ましいと思う。
 だが、この世にはそういった無垢な善意の者を踏み台のようにしか考えないどうしようもない存在がいる。

「世の中には、そういう考えの持ち主を平然と利用する本当に救いようのない外道がいるんだ」

「それって、琵琶坂って人の事?」

「……どうして、そう思った?」

 琵琶坂に関して、あくまで危険人物だという事のみしか梔子は話していない。
 梔子にとって、個人的な因縁や復讐相手だという事までは伝えていない。

「……何となく。梔子が琵琶坂って人の事を話している時の表情が、僕の知っている人によく似ていたから」

 決して消えぬ焔を宿し、例え心や身体がどれだけ傷つこうとも仇を追い求めんとする姿。
 一見、ライフィセットの知る『彼女』と共通点などほとんどないように見える梔子だが、そこだけはそっくりだったから。
 根拠などなく、ただの勘。
 故に、梔子が否定してしまえば、それまでの言葉。
 それ以上に、追求する言葉をライフィセットは持たない。

「……」

 梔子は、暫し躊躇する。
 ここで、適当な事を言って言い逃れる事はできるかもしれない。
 主催の打倒などより、特定の個人への復讐こそが最優先だと言ってしまえば、この団体での信頼度は落ちるかもしれない。


600 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:09:05 4QcpsYVQ0
 ――だが。それでも。

 それでも、他の事ならばともかく、この件で偽りを吐きたくはなかった。
 目を逸らすことなく真っ直ぐに訊ねてくる少年に対し、全てを己の欲の為に利用して平然とその舌から嘘を生み出すあの男と同じにまで堕ちたくない。
 おんぼろに成り果てた心でも、これだけは偽りたくない梔子にとっての気持ち。

「……そうだ。琵琶坂への復讐。それこそが、私にとって残された全て」

「それが、梔子が戦う理由?」

「そうだ。琵琶坂永至の事を私は優先する」

 確かに、この団体を。他の参加者達をその復讐に利用しようという思いが完全にないかといえば、それは嘘になる。
 しかし、他の参加者達。特に、この場にいない静雄やレインも含めて世話になった参加者達が別にどうなってもいいと思っているわけでもない。

「だが、信じて欲しい。琵琶坂にとって益にならない限り、君や他の参加者達にできる限りの協力をするつもりだ」

 嘘ではない。
 もはや、琵琶坂への復讐こそが自分に残された全て。
 だが、それでもそれが成された後に、この命が残っていたのならば、世話になった人達のために残された全てを差し出してもいい。
 偽らざる梔子にとっての、本心だ。

「すまない。勝手な事を言っているのは分かっている」

 個より全。
 感情よりも理性。
 その理からすれば、間違った事。

 こんな状況下で、殺し合いの打破よりも、個人的な因縁を優先するのは愚かな事かもしれない。
 だが、愚かであっても間違いであっても、確かな意思によって決められたのならば、それは人としての尊い決断だ。
 その思いを、ライフィセットは否定したくなかった。

「梔子にとっては、それだけ大事な事なんだよね?」

 ライフィセットの問いに梔子は頷く。

「琵琶坂への復讐は絶対に成し遂げる。大事なものも全部なくしてしまった私だが――それだけはやってみせる」

 あの日、琵琶坂によって全てを奪われ、メビウスという偽りの楽園で過ごしていた梔子にとっての唯一の目的。
 例え、第三者から意味のない事だと言われようとも、命にかえても成し遂げる気でいた。

 そんな時――。

 ぐしゃ、と瓦礫を踏む音が響いた。


「……あ」


 音のした方に、二人が振り向く。
 そこには、つい先ほどまで話していた参加者の一人――クオンがいた。

「……ごめんね、黙って聞いているつもりはなかったんだけど」

 ばつが悪そうな様子のまま、クオンは続ける。

「さっきも自己紹介はしたけど、もう一度名乗っておくね。私はクオン。ライフィセットと梔子、で良かったよね? ……その、邪魔する気はなかったんだけど」

 そう申し訳なさそうに軽く頭をさげ、クオンは近づいてきた。
 ライフィセットに用があって、話しかけようとしていたのだが、二人の会話はクオンにとっても興味を惹かれる話でもあったため、声をかけるのが遅れてしまったのだ。

「ムネチカの事?」

 ライフィセットにとっても、クオンはこの場が初対面になる。
 当然、そんな彼女からの用となれば、二人を繋ぐ話題はそれ以外に考えつかない。

「うん。もし良ければ、もう少し詳しい話を教えて欲しいかなって思って」

 先ほどの情報交換では、人数が多かった事もありあくまで最低限の説明のみだった。

 クオンにとって、ムネチカはそこまで親しいというわけではない。
 もう少し後の時間からであれば、共に戦う仲間という印象も強くなっていたかもしれないが、このクオンにとってムネチカは、ヤマトにいた頃によく遊びにきていたアンジュの保護者、ともいうべき立ち位置の印象が強い。


601 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:09:06 4QcpsYVQ0
 ――だが。それでも。

 それでも、他の事ならばともかく、この件で偽りを吐きたくはなかった。
 目を逸らすことなく真っ直ぐに訊ねてくる少年に対し、全てを己の欲の為に利用して平然とその舌から嘘を生み出すあの男と同じにまで堕ちたくない。
 おんぼろに成り果てた心でも、これだけは偽りたくない梔子にとっての気持ち。

「……そうだ。琵琶坂への復讐。それこそが、私にとって残された全て」

「それが、梔子が戦う理由?」

「そうだ。琵琶坂永至の事を私は優先する」

 確かに、この団体を。他の参加者達をその復讐に利用しようという思いが完全にないかといえば、それは嘘になる。
 しかし、他の参加者達。特に、この場にいない静雄やレインも含めて世話になった参加者達が別にどうなってもいいと思っているわけでもない。

「だが、信じて欲しい。琵琶坂にとって益にならない限り、君や他の参加者達にできる限りの協力をするつもりだ」

 嘘ではない。
 もはや、琵琶坂への復讐こそが自分に残された全て。
 だが、それでもそれが成された後に、この命が残っていたのならば、世話になった人達のために残された全てを差し出してもいい。
 偽らざる梔子にとっての、本心だ。

「すまない。勝手な事を言っているのは分かっている」

 個より全。
 感情よりも理性。
 その理からすれば、間違った事。

 こんな状況下で、殺し合いの打破よりも、個人的な因縁を優先するのは愚かな事かもしれない。
 だが、愚かであっても間違いであっても、確かな意思によって決められたのならば、それは人としての尊い決断だ。
 その思いを、ライフィセットは否定したくなかった。

「梔子にとっては、それだけ大事な事なんだよね?」

 ライフィセットの問いに梔子は頷く。

「琵琶坂への復讐は絶対に成し遂げる。大事なものも全部なくしてしまった私だが――それだけはやってみせる」

 あの日、琵琶坂によって全てを奪われ、メビウスという偽りの楽園で過ごしていた梔子にとっての唯一の目的。
 例え、第三者から意味のない事だと言われようとも、命にかえても成し遂げる気でいた。

 そんな時――。

 ぐしゃ、と瓦礫を踏む音が響いた。


「……あ」


 音のした方に、二人が振り向く。
 そこには、つい先ほどまで話していた参加者の一人――クオンがいた。

「……ごめんね、黙って聞いているつもりはなかったんだけど」

 ばつが悪そうな様子のまま、クオンは続ける。

「さっきも自己紹介はしたけど、もう一度名乗っておくね。私はクオン。ライフィセットと梔子、で良かったよね? ……その、邪魔する気はなかったんだけど」

 そう申し訳なさそうに軽く頭をさげ、クオンは近づいてきた。
 ライフィセットに用があって、話しかけようとしていたのだが、二人の会話はクオンにとっても興味を惹かれる話でもあったため、声をかけるのが遅れてしまったのだ。

「ムネチカの事?」

 ライフィセットにとっても、クオンはこの場が初対面になる。
 当然、そんな彼女からの用となれば、二人を繋ぐ話題はそれ以外に考えつかない。

「うん。もし良ければ、もう少し詳しい話を教えて欲しいかなって思って」

 先ほどの情報交換では、人数が多かった事もありあくまで最低限の説明のみだった。

 クオンにとって、ムネチカはそこまで親しいというわけではない。
 もう少し後の時間からであれば、共に戦う仲間という印象も強くなっていたかもしれないが、このクオンにとってムネチカは、ヤマトにいた頃によく遊びにきていたアンジュの保護者、ともいうべき立ち位置の印象が強い。


602 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:10:39 4QcpsYVQ0
 だが、それでも。
 アンジュが、ミカヅチが、マロロが亡くなった今。
 ムネチカが占める割合は、クオンの中で大きい。だからこそ、彼女を捕らえているという連中にも強い怒りを抱いた。

「私は席をはずそうか?」

「ううん。別に構わないかな」

 離れようとする梔子に、クオンは首を左右に振る。
 別段、聞かれて困るような話をするわけでもない。

「えっと、それじゃあ最初から話すとムネチカとはデパートで会ってから……」

 そして、話し出す。
 ムネチカと出会ってから、これまでの話を。
 さきほどの情報交換とは違い、かなり細かい箇所の、どうでもいい話まで。
 そんな情報から出てくるムネチカは、間違いなくクオンの知るムネチカだと確信できた。

 だが、ムネチカはマロロ同様に、自分よりも後の時間軸からのようであり、やはり自分はオシュトルの下で戦っていたらしい事を確信する。

(……結局、みんなが見捨てられなかったって事かな)

 自分は最後まで、冷酷なトゥスクル皇女としての仮面を被り続ける事ができなかったのか。
 オシュトルに思う事があったとしても、皆の為にただのクオンとしてエンナカムイに残る事を選んだのだろうか。

 偽りの仮面の真実を知らないクオンでは、ムネチカやマロロの知るクオンを理解できず、そんな風に考える。
 そんな中、クオンはライフィセットの話を続けて聞いていく。
 そして、別れのところまで話は終わった。

「そっか、ムネチカ……」

 最後まで、この少年を守ろうとして戦ったらしいムネチカの事をとてもらしいと考える。間違いなく自分の知るムネチカだと。
 だがここで、ついクオンの思考にある漢の事が過ってきてしまう。

(――それと比べて、あの漢は。オシュトルは)

 内心で、苛立ちが募る。
 この場にいない、仮面の右近衛大将に対して。
 先ほどの話から、何度もオシュトルの事を脳裏に浮かべては、それを消してという事をクオンは繰り返していた。

 元々、敵対していたヴライを除けば、もう一人の残された知り合いであるオシュトル。
 どうしても、彼に対しての怒りが膨れ上がってくる。

 今話しているライフィセットのように、オシュトルといたらしい早苗からはそこまで詳しい話を聞いていなかった。聞きたいとも思わなかった。

 早苗自体も、先ほどオシュトルに対して語った内容は多くなかった。
 元々、情報の量が多かったという事もあり、一人一人の説明に割ける時間も少なかったという事もある。
 そして、早苗も別れた時のいざこざもあり、無意識のうちにオシュトルの事を長々と説明するのを避けてしまっており。
 もし、もっと詳しく話をしていれば、自分の知る『オシュトル』と早苗の知る『オシュトル』の差異から違和感を覚えてかもしれない。

 いや、それでも。
 クオンにもう少しオシュトルに対する冷静な判断能力が残っていれば、『オシュトル』が「首輪解除のために大いなる父の遺跡を目指す」という行動自体が、彼女の知る『オシュトル』からすれば少しおかしいと考える事ができたかもしれない。

 だが、そのオシュトルに対しては。
 どこまでも悪い印象を抱いてしまっているオシュトルに対しては、詳しい話を聞いてみたいという気になれず。
 結果として、偽りの仮面の正体に気づく事はなく。
 オシュトルに対する怒りも修まらず、疑念や不信感が増大していくだけだった。

(そのオシュトルが近くにいる)

 早苗によれば、オシュトルは遺跡を目指しているとの事。
 手段を選ぶ様子はないようだが、それでも曲がりなりにも主催打倒のために動いてはいるようだ。
 だが、それでも今の自分がオシュトルと笑顔で協力しあえるか――例え、表面だけでも取り繕い、手を取り合う。ムネチカ奪還に加え、主催打倒に向けて共に戦う。

 とてもではないが、想像できない。
 かつてならともかく、今の自分ではそれすら厳しそうだ。
 そして、今のクオンにとっての問題はオシュトルだけではない。


603 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:10:40 4QcpsYVQ0
 だが、それでも。
 アンジュが、ミカヅチが、マロロが亡くなった今。
 ムネチカが占める割合は、クオンの中で大きい。だからこそ、彼女を捕らえているという連中にも強い怒りを抱いた。

「私は席をはずそうか?」

「ううん。別に構わないかな」

 離れようとする梔子に、クオンは首を左右に振る。
 別段、聞かれて困るような話をするわけでもない。

「えっと、それじゃあ最初から話すとムネチカとはデパートで会ってから……」

 そして、話し出す。
 ムネチカと出会ってから、これまでの話を。
 さきほどの情報交換とは違い、かなり細かい箇所の、どうでもいい話まで。
 そんな情報から出てくるムネチカは、間違いなくクオンの知るムネチカだと確信できた。

 だが、ムネチカはマロロ同様に、自分よりも後の時間軸からのようであり、やはり自分はオシュトルの下で戦っていたらしい事を確信する。

(……結局、みんなが見捨てられなかったって事かな)

 自分は最後まで、冷酷なトゥスクル皇女としての仮面を被り続ける事ができなかったのか。
 オシュトルに思う事があったとしても、皆の為にただのクオンとしてエンナカムイに残る事を選んだのだろうか。

 偽りの仮面の真実を知らないクオンでは、ムネチカやマロロの知るクオンを理解できず、そんな風に考える。
 そんな中、クオンはライフィセットの話を続けて聞いていく。
 そして、別れのところまで話は終わった。

「そっか、ムネチカ……」

 最後まで、この少年を守ろうとして戦ったらしいムネチカの事をとてもらしいと考える。間違いなく自分の知るムネチカだと。
 だがここで、ついクオンの思考にある漢の事が過ってきてしまう。

(――それと比べて、あの漢は。オシュトルは)

 内心で、苛立ちが募る。
 この場にいない、仮面の右近衛大将に対して。
 先ほどの話から、何度もオシュトルの事を脳裏に浮かべては、それを消してという事をクオンは繰り返していた。

 元々、敵対していたヴライを除けば、もう一人の残された知り合いであるオシュトル。
 どうしても、彼に対しての怒りが膨れ上がってくる。

 今話しているライフィセットのように、オシュトルといたらしい早苗からはそこまで詳しい話を聞いていなかった。聞きたいとも思わなかった。

 早苗自体も、先ほどオシュトルに対して語った内容は多くなかった。
 元々、情報の量が多かったという事もあり、一人一人の説明に割ける時間も少なかったという事もある。
 そして、早苗も別れた時のいざこざもあり、無意識のうちにオシュトルの事を長々と説明するのを避けてしまっており。
 もし、もっと詳しく話をしていれば、自分の知る『オシュトル』と早苗の知る『オシュトル』の差異から違和感を覚えてかもしれない。

 いや、それでも。
 クオンにもう少しオシュトルに対する冷静な判断能力が残っていれば、『オシュトル』が「首輪解除のために大いなる父の遺跡を目指す」という行動自体が、彼女の知る『オシュトル』からすれば少しおかしいと考える事ができたかもしれない。

 だが、そのオシュトルに対しては。
 どこまでも悪い印象を抱いてしまっているオシュトルに対しては、詳しい話を聞いてみたいという気になれず。
 結果として、偽りの仮面の正体に気づく事はなく。
 オシュトルに対する怒りも修まらず、疑念や不信感が増大していくだけだった。

(そのオシュトルが近くにいる)

 早苗によれば、オシュトルは遺跡を目指しているとの事。
 手段を選ぶ様子はないようだが、それでも曲がりなりにも主催打倒のために動いてはいるようだ。
 だが、それでも今の自分がオシュトルと笑顔で協力しあえるか――例え、表面だけでも取り繕い、手を取り合う。ムネチカ奪還に加え、主催打倒に向けて共に戦う。

 とてもではないが、想像できない。
 かつてならともかく、今の自分ではそれすら厳しそうだ。
 そして、今のクオンにとっての問題はオシュトルだけではない。


604 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:11:54 4QcpsYVQ0
(……ヴライ)

 ある意味、オシュトル以上に問題なのはこちら。
 オシュトルが友を見捨て、自分だけ助かる見下げ果てた漢だったとしても、そもそもの元凶はコチラ。
 これまで、関わる事がなかったため、いつしか思考の片隅に置かれかけていたが、ここでその存在が近くにいる事を知ってしまった。

(ヴライも近くにいる)

 ここから病院までの距離は短くない。
 ブチャラティが完全に仕留めきれなかったとしても、まだ病院に残っている可能性も十分にある。
 それでも、即座に駆け出さずに済んでいるのは、心身共に傷つき疲れ切った身体のためか。

 ――あるいは、

(まだ、私は決めかねている、かな)

 結局、最初にリゾットと出会った時の質問の答えをクオンはまだ出せていない。

 過去に囚われた復讐か。
 今を守り、未来へとつながる道を歩むか。

 特にヴライに関しては、これが最初で最後の機会かもしれない。
 だが、そもそも自分は本当にヴライに復讐がしたいのか。
 ヴライを殺し、ハクの仇を取ったとして、それで自分は満足するのか。
 それすらもわからない。
 少なくとも、ハクは喜ばない。ハクは、間違いなく仇討ちなど望まないだろう。

「えっと、どうかしたの?」

 ライフィセットに話しかけられ、思考の渦に吞まれかけていたクオンはついはっとした様子になる。

「あ、ううん。何でもないかな」

 煮えたぎるようなオシュトルへの思いも、ヴライへの怒りも一旦は抑える。
 そんなクオンに、少し躊躇した後、ライフィセットは訊ねる。

「あの、僕からもいいかな?」

「何かな?」

「クオンはベルベットと会っていたんだよね」

「……うん。一応ね」

 彼の言う、ベルベットとクオンはこの会場で会っており、わずかではあるが交戦している。
 すぐにそれは中断され、主催打倒のために休戦して、その後の戦いでクオンは意識を失ってしまっていたわけだが。

 あの時点では、ベルベットは単の危険な参加者の一人にすぎず、クオンが戦ったのは当然の判断。
 気絶している間に、彼女らと停戦協定を結んだのも隼人であり、そこにクオン自身に責任を感じる必要はないとはいえ、あそこでのクオンの行動一つでムネチカの運命も何かが変わっていたかもしれないという後悔はある。

「ライフィセットは、あのベルベットよりも先の時間のベルベットと親しかったんだよね?」

 マロロの例もあり、時間軸の違う相手との戦う、という事に関してもクオンも少しは理解しているつもりだ。

「うん。色々な事があったけど――ベルベットは僕に名前をくれた。羅針盤を持たせてくれた。生きているんだって教えてくれた。大事な人なんだ」

「そっか……」

 接したのはごくわずかとはいえ、殺意を発しひたすらに人を寄せ付けない雰囲気を纏っていた印象ばかりが強いクオンの知るベルベットからは想像もできない姿。
 だが、この少年にとってきっと大事な。大切な存在だったのだろうという事は分かる。

 そして、そんな大事に想う相手から、一方的に殺意すら持たれた状態で襲われる。その事の恐ろしさもだ。
 マロロの際は、幸いにもすぐに和解する事ができたが、場合によっては殺し合いに発展していたかもしれない。

(私の場合、あの人と戦うようなものかな)

 ここでつい、ハクの顔がクオンの脳裏に浮かぶ。
 自分で例えるならハクと命がけの殺し合いをするようなものだろうか――とクオンは思い、慌てて首を振る。

(何考えているんだろう――私は)

 ハクは死んでいる。そして、その会場にはいない。
 いや、そもそも。どの時間軸からハクが呼ばれていようが、命がけの殺し合いをするような理由は自分にはない。
 それは、決して起こりえない事。
 ありえない事なのだから。


605 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:12:46 4QcpsYVQ0
(……ふう。マロロの事があったせいか、おかしな方にばかり考えちゃうかな)

 迷走するような思考を振り払う。

(そろそろ決めなきゃダメ、かな)

 一つ、内心で息をつく。
 単純に遺跡方面に向かうか、病院方面に向かうかという選択肢だけではない。
 結局のところ、今のクオンにとって考えるべき二択は、ヴライという過去の因縁を取るか、オシュトルと共に未来を取るかだ。

 ヴライの姿を思い浮かべる。
 続いてリゾット、そしてつい先ほどまで話していた梔子の言葉も。
 リゾットとも梔子ともクオンは違う。復讐は大事なものを全て失った者がする事なのだとしたら、自分はまだ全てを失ってはいない。ハクが死んで、この会場でアンジュが、ミカヅチが、マロロが死んでしまったとはいえムネチカを含めて残っているものは、まだまだいっぱいある。

 今度は、脳裏ににオシュトルの顔を浮かべる。
 どんなにクオンの中でオシュトルの評価が落ちたとしても、ネコネの兄であり、キウルの義兄だ。
 その事実は、変わらない。
 その事を考えれば、決してオシュトルに死んで欲しいわけではない。
 仮に、この催しでオシュトルが死んでクオンだけが生き残った場合、ネコネやキウルにどの面を下げて会えよう。

(わた、くしは――)

 ならば、正しい道は一つ。一つのはずなのだ。
 なのに、その結論をクオンはなかなか選べなかい。

 過去か、未来か。
 これは、クオンにとって大きな分岐点になるかもしれない選択肢。
 その決断の時が迫っていた。



◇ ◇ ◇



「ちょっと意外じゃん、隼人」

「何がだ?」

 先ほど話した場所とは、少し離れた場所。
 そこに隼人、アリア、早苗がいた。
 正確には、もう二人いる。ビルドとマロロだ。
 その近くで、隼人は穴を掘っている。
 簡易なものではあるが、この二人の墓を作る気でいた。
 ブチャラティらが先ほどまでいた墓場があるが、さすがにそこまで持っていくわけにはいかない。それに、ビルドはここで眠る事を望むだろうという思いもあった。

 ちなみに、ビルドの持っていた支給品は隼人が。マロロの持っていた方はクオンが受け取っている。
 ビルドとの付き合いはこの場では一番長い隼人、元々の知り合いであるクオンが受け取るのは妥当だろうという事で、特に不満の声も出なかった。
 支給品以外にも、大砲のようにこれまでの戦いで使っていたビルドの所持品に関しては、ひとまず整理して必要がなさそうなものは一緒に埋葬する気でいた。

「いや、あんたの事だから、すぐにでも行動にうつるのかと思っていたからさ」

 確かに、他の参加者のみならず隼人までもが決して浅くない怪我を負っているとはいえわざわざ、いったん休憩しようなどと言い出すのはアリアにとっても意外だった。
 これまでの付き合いからして、すぐにでも次の目的地に移動をはじめるとばかり思っていた。

「さっきの二人が帰ってきたから動いた方が、効率的だと判断しただけだ」

 それも嘘ではない。
 だが、実のところ、真に隼人が待っていたのは第三回の放送だった。
 あとわずかまで迫っているのだ。どうせならば、他の参加者達の生死を確認してから動いた方が良い。
 隼人自身、例え誰の名が呼ばれたとしても揺らがぬ気ではいるが、他の参加者はそうではない。その様子を見てから、改めて行動指針を考えるべきだろう。

「アリア。それよりも、お前はどうする気だ?」

「え?」

 唐突に言われ、アリアは戸惑う。

「お前はどちらについていく気でいる」

「いや、アタシは梔子の様子からして、梔子とは別の方に行った方がいいかなとは思ってるけど」


606 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:13:51 4QcpsYVQ0
 琵琶坂を仲間だと認識するアリアを、梔子は間違いなく拒絶する。
 アリアからすれば、琵琶坂の凶行を聞かされたとはいえそれは又聞きの情報という事もあり、まだ琵琶坂を信じていたいという思いが強い。
 彩音が死んだ今、この会場に残る帰宅部の唯一の仲間なのだから。
 だが、琵琶坂を仲間だとアリアが考える限り、梔子は同行を断るだろう。もし、これから琵琶坂と会う事になった場合に梔子と揉める事は確実なのだ。

「そうか」

 それに対して、隼人の返事は短かった。

「クオンはどうするのかな……?」

「正直、五分だな」

 クオンは、彼女の知り合いだというムネチカを捕縛しているという一味に対し、強い怒りを見せていた。
 そのベルベットらと敵対する可能性が高いライフィセットやブチャラティと共に行く道を選ぶかもしれない。

 一方の隼人としては、実のところベルベット・夾竹桃・麦野らの一味と必ずしも敵対する理由はない。
 場合によっては、数時間前のように停戦や交渉も選択肢に入るが、クオンは間違いなく了承しないだろう。
 ゆえに、危険人物に関しての議論になったさい、ベルベット・クラウらの話は意図的にしなかった。
 その処遇で、クオンともめてしまう可能性が高かったからだ。

 隼人にとって、これまでの話を統括しての優先的な排除対象とする参加者は、鬼舞辻無惨、ウィキッド、ヴライの3人だ。
 これは戦闘能力の問題からではなく、明らかに交渉が通じそうにない性格やその方針からの判断だった。

 逆に、ある程度の交渉は可能だった夾竹桃ら一味。偽名を騙っただけのディアボロらは、危険度は下がる。今は竜馬と行動を共にしているようだが、現状で何かしでかす様子はなさそうだったようなので一応は警戒といった程度。琵琶坂に関しては、梔子が詳細を語らなかった事もあり、判断は保留。

 そして、他の参加者達の情報などを吟味すれば、元々の仲間である竜馬を除けば最も同盟相手として好ましそうな参加者といえるのはオシュトルだった。
 彼は方針からして、対主催のために手段を選ぶ様子はなく、必要以上に暴れまわる気もなく、協調性もある。
 隼人の方針を考えれば、理想的といえる同盟候補だった。

 だがそのオシュトルと、クオンは遺恨がある様子だ。
 もっとも、彼は遺跡方面に向かった様子なので研究所方面に隼人が向かってしまえば会う事はできないだろうが。


607 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:15:29 4QcpsYVQ0
 さらにいえば、今は失っているようだが、ウィツアルネミテアという力の存在も聞いた。
 それほどの力がありながら、今は精神的に不安定。
 それに加え、はっきりと口にする事はなかったがオシュトル、そしてヴライの話を聞いた時の反応からして、この両名に遺恨がある様子。
 それらの理由から、今のクオンとは共に行動するのは危険な状態となっている。

 ――とはいえ。

 隼人もそれなりに長い時間、共に戦ったクオンに対して思う事がないわけでもない。
 自分と共に来る道を選ぶなら、その時はその時で受け入れる気でいた。

「それで、お前はどうする気だ」

 これまで黙って作業を眺めていた早苗の方に、隼人は視線を動かす。

「私は……」

 早苗からしても、さきほどの情報交換は決して喜ばしいものではなかった。偽ブチャラティの件を抜きにしても、ヴァイオレットの元同行者と思しき二人の現状もそうだ。

 妖夢を屠ったのは、垣根との情報と合わせて考えてチョコラータと累という参加者。垣根らが途中で見つけた死体がそうだろうという結論になった。その犯人であるチョコラータらは既に死んでいる。

 仇が死んでざまあみろという感情もなければ、自分の手で仇を討ちたかったという感情もない。
 ただただ虚しさだけが、早苗の胸中を支配する。
 竜馬と会った時と同様に、ゲッターロボの関係者に出会ったという喜びも出てこない。

 ここで病院に向かえば、高確率で霊夢とはまた会える。
 だが会ってどうするというのか。一緒に魔理沙の仇を討つ手伝いをさせてくれとでもいうのか。霊夢と、それに彼女と一緒にいるカナメと同行するというのはそういう事だ。
 だが、遺跡には例の自称ブチャラティがいる可能性がある。
 もしいたら、何を話すというのか。「あなたは本物ですか?」とでも問い詰めるのか。
 さらには、オシュトルやロクロウまでもがいる可能性が高い。彼らを前にして、また揉め事を起こさないでいられるのか。
 こちらに行けば行ったで、問題は山積みだ。

 ならば、誰とも同行せず、この場に残る。あるいは、全く別の場所に行く。それもまた一つの選択ではある。

「……」

 隼人からしても、早苗の行き先を強制する気はない。
 早苗の様子を見てすぐに結論を出す事はできないと判断したのか、やがて墓作りの作業に隼人は戻った。

(みんな……)

 アリアは、そんなやり取りを聞きながら考える。

 この場の参加者。
 そして、この場にはいない参加者達とも多く会ってきたが、彼ら、彼女らには、それぞれの事情があり思惑がありそれらが交差していた。

 最善、という話をするならば、王やチョコラータのような一部の例外を除けば主催打倒が優先目標という点においてほとんどの参加者の利害は一致しているはずだ。
 いったん、全ての因縁を無視して互いの知る情報を惜しみなく出し合えば、主催打倒に限りなく近づけるだろう。

 だが結局のところ、参加者達は人なのだ。
 必ずしも、最善の選択肢を選べない。
 あの岩永琴子ですら、超然としながらも個人としての感情が見え隠れする事もあった。
 個人の思い、憎しみ、願い。そういった感情が複雑に絡み合い、最も正しき道に最短で辿り着く事ができない。

 だが、それでも決して不快だとは思わない。
 それこそが正しいニンゲンだと思うから。
 アリアは、ニンゲンではなくバーチャドールだ。

 バーチャドールは決して、ニンゲンにはなれない。
 そして、ニンゲンも決してバーチャドールにはなれない。

 だからこそ、アリアはそのあり方を受け入れ、背中を押す手助けをしよう。アリアはバーチャドールとしてそう思った。


608 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:16:20 4QcpsYVQ0
【C-5/夕方/ムーンブルク城/一日目】



【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:疲労(中)、強い決意、全身に火傷、ダメージ(中)
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜3、 サーバーアクセスキー マギルゥのメモ 身体ストック(ライフィセットの両腕、ブチャラティの左腕使用済)
[思考]
基本:殺し合いを止めて主催を倒す。
0:暫しの休息の後、遺跡に移動する。
1:放送を聞いた新羅への不安と、アリアへの心配。何とか合流したい。
2:魔王ベルセリアへの対処。
3:ヴライが生き残って襲ってきたら対処。
4:自称ブチャラティ(ディアボロ)に対して警戒。
5:テレビ局に行く事ができれば、そこを利用して情報を広める。
6:フレンダに関しては、被害者達とのけじめがつけば再度合流。
7:カタリナ・クラエスがどのような人間なのか、興味。
[備考]
※参戦時期はフーゴと別れた直後。身体は生身に戻っています。
※九郎、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました。
※垣根と情報交換をしました。
※霊夢、カナメと情報交換をしました。
※持ち出した身体ストックはブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子、ア
リア、新羅のもののみです。
※隼人、クオン、早苗らと情報交換をしました。

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 静かに燃える決意、魔王ベルセリアに対する違和感
[服装]:ホテルの部屋着(上半身の部分はほぼ全焼)
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×1〜3、スパリゾート高千穂の男性ロッカーNo.53の鍵
[思考]
基本:殺し合いからの脱出
0:暫しの休息の後、病院へと向かう。
1:あの彼女(魔王ベルセリア)、何とかしかければ……。
2:フレンダに関してはとりあえず被害者達に任せる
3:岩永を探す
4:人外、異能の参加者達を警戒
5:余裕があればスパリゾート高千穂を捜索
6:きっとみねうちですよ。
[備考]
※鋼人七瀬編解決後からの参戦となります
※新羅、ジオルドと知り合いの情報を交換しました。
※アリア、ブチャラティと知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました
※魔王ベルセリアに対し違和感を感じました。
※垣根と情報交換をしました。
※隼人、クオン、早苗らと情報交換をしました。

【ライフィセット@テイルズ オブ ベルセリア】
[状態]:強い倦怠感、全身のダメージ(大)、疲労(中)、強い決意
[服装]:いつもの服装
[装備]:ミスリルリーフ@テイルズ オブ ベルセリア(枚数は不明)
[道具]:基本支給品一色、果物ナイフ(現実)、不明支給品×2(本人確認済み)本屋のコーナーで調達した色々な世界の本(たくさんある)、シルバ@テイルズ オブ ベルセリア
[思考]
基本:ベルベットを元に戻して、殺し合いから脱出する
0:暫しの休息の後、遺跡へと移動する
1:ブチャラティ達と行動する
2:ムネチカへの心配
3:ベルベットの同行者(夾竹桃、麦野)への警戒
4:ロクロウ達との合流
5:ヴライがアンジュを殺しているならムネチカやその仲間達に伝えるべき?
6:エレノア、マギルゥ……。

[備考]
※参戦時期は新聖殿に突入する直前となります。
※異世界間の言語文化の統一に違和感を持っています。
※志乃のあかりちゃん行為はほとんど見てません。
※呼ばれた時間に差がある事に気づきました。
※梔子と聖隷契約をしました。
※現在はデイパックの中にシルバがいます。
※隼人、クオン、早苗と情報交換をしました。


609 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:17:02 4QcpsYVQ0
【梔子@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:健康、疲労(中)、精神的ダメージ、レインの仮説による精神的疲労(少し回復)
[服装]:メビウスの服装
[装備]:ストップウォッチ@東方project(1回使用)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(心許ないもの)、静雄のデイバック(基本支給品、ランダウ支給品×1〜2)、ライフボトル×2@テイルズオブベルセリア
[状態・思考]
基本行動方針:琵琶坂永至に然るべき報いを。
0:暫しの休息の後、遺跡へと移動。
1:当面はライフィセット達と行動
2:彩声の義理を返す為、レインを死なせないようにする。
3:琵琶坂永至が本人か確かめる。
4:琵琶坂を擁護する限りアリアとは行動を共にしない。
5:本当に死者が生き返るなら……
6:煉獄さん……天本彩声……
7:私が虚構かもしれない、か……
[備考]
※参戦時期は帰宅部ルートクリア後、
 また琵琶坂が死亡しているルートです。
※キャラエピソードの進行状況は少なくとも誕生日のコミュは迎えてます。
※静雄、レインと情報交換してます。
※ブチャラティ、霊夢達と情報交換をしました。
※ライフィセットと聖隷契約をしました。
※隼人、クオン、早苗と情報交換をしました。

【神隼人@新ゲッターロボ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(絶大)、出血(大)、カタルシス・エフェクト発現(現在は疲労困憊のため使用不可能)
[役職]:ビルダー
[服装]:普段着
[装備]:ミスタの拳銃@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、ミスタの拳銃(ビルドの作った模造品)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、浜面仕上の首輪、錆兎の首輪、ビルドの支給品0〜2
[思考]
基本方針:首輪を外して主催を潰し帰還する。
0:ビルドの遺品を整理する。
1:病院を経由して研究所に向かう。
2:病院で使えそうなものが残っているものがあれば回収。
3:ものつくりの能力を利用し有利に立ち回る。現状、殺し合いに乗るつもりはない。
4:主催との対決を見据え、やはり首輪のサンプルはもっと欲しい。狙うのは殺し合いに乗った者、戦力にならない一般人(優先度は低い)。
5:竜馬と合流する。ついでにフレンダとやらも引き渡す。
6:ジオルドが生きていたら殺す。
7:無惨、ウィキッド、ヴライを見つけたら排除。
8:ベルベット、夾竹桃、麦野、ディアボロ、琵琶坂を警戒するが判断保留。
9:静雄とレインが戻ってきたら改めて情報交換する。

※少なくとも平安時代に飛ばされた後からの参戦です
※幻想郷の大まかな概要を聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※カタルシス・エフェクトに目覚めました。武器はドリルです。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。


610 : ニンゲンだから ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:18:17 4QcpsYVQ0
【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、オシュトルへの怒り、ウィツアルネミテアの力の消失
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2、マロロの支給品3つ
[思考]
基本:殺し合いに乗るつもりはない。皆と共に脱出を。
0:暫しの休息の後、遺跡か病院へ移動する。
1:オシュトルはやっぱり許せない。
2:ヴライが近くに……
3:ムネチカを捕えた連中(ベルベット達)からムネチカを取り戻したい
4:アンジュとミカヅチとマロロを失ったことによる喪失感
5:着替えが欲しいかな……。
6:オシュトル……やっぱり何発か殴らないと気が済まないかな
7:優勝……ハクを蘇らせることも出来るのかな……ううん、馬鹿なこと考えちゃ駄目!
8:マロロ...
[備考]
※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。

【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:霊夢に会えたことの安心感と同時に不安、全身にダメージ(大)、疲労(大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(大)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
0:暫しの休息。
1:ブチャラティ(ドッピオ)さん、信じていいんですよね……?
2:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
3:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
4:ロクロウとオシュトルに不信感。兄弟で殺し合いなんて……
5:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
6:魔理沙さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。

【アリア@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:疲労(大、フロアージャックはしばらく使用不可)、悲しみ(絶大)
[思考]
基本:μを止める、だけど……
0:暫しの休息の後、隼人と共に移動する。
1:永至を信じたい
[備考]
※参戦時期は少なくてもシャドウナイフ編以降。琵琶坂生存ルートです。詳しい時期はお任せします。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・隼人・ビルド・琴子・リュージと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、
Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※フロアージャックはしばらく使えません
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。


611 : ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:21:58 4QcpsYVQ0
たびたび申し訳ありません、594と595、600〜603が重複してしまいました。

投下終了です。


612 : ◆mvDj9p1Uug :2023/04/20(木) 20:40:34 4QcpsYVQ0
 すみません、抜けがありました。592と593の間にこれが入ります。


 早苗としても、すぐに反論できない。
 だが、認める事もできない。
 それでも何か、自分の知る『ブチャラティ』を擁護する言葉を探そうとするがうまくまとまらない様子だ。

「……えっと、アタシからもいいかな?」

 そんな様子の中、また一人、情報を提供する者が現れる。

「アリアか。どうした?」

 意外な発言者に、隼人は先を促す。

「その、実は岩永とリュージと一緒にいた時の事なんだけど」

 岩永。リュージ。
 その二人の名前に九郎とブチャラティが反応しかけるが、ここはアリアの話を優先してもらう事にした。

「最初に会って情報交換をしていた時、岩永はリュージから最初にブチャラティ達と会ったって話を。『スタンド使い』だっていうブチャラティという人と出会ったって話をしてたんだけど」

 チラリ、とブチャラティの方を見ながら言う。
 最初に出会い、武偵のアリアとのスタンスの違いから生じたいざこざから、離別したリュージ。そのリュージが、ブチャラティが九郎と出会っていたのとそう変わらない時期に九郎の探し求める岩永琴子と出会っていたのだ。
 何とも妙な縁を感じる。

「ああ。その『ブチャラティ』が俺で間違いない。リュージとは、キースとアリアと共に最初に出会っている」

 ブチャラティが頷く。

 だが、それだけでは足りない。
 それでは、ただ『ブチャラティ』と名乗る男と最初に出会ったという話にしかならず、この『ブチャラティ』が本物だという証明にはならない。
 故に、アリアは続けて言う。

「そのリュージは、異能(シギル)っていうの持っているらしいんだけど。リュージのは、嘘が見破れる力」

 カナメや、レインらダーウィンズゲームの出身者達の持つ異能(シギル)。

 リュージの持つそれは、嘘発見器(トゥルーオアライ)。
 本人は「クソ異能(シギル)」などと呼んでいるが、実際には対人交渉において極めて強力だ。

 そのリュージが、何の補足情報も付けずにブチャラティとの出会いを説明していたという事は、つまりブチャラティの言葉に怪しい箇所など何一つなかったという事。
 それが答えだ。

「なるほど。どうやら、そちらの『ブチャラティ』の方がディアボロとやらの可能性が高そうだな」

 全く繋がりのない二方向からの情報に、隼人も納得した様子だ。
 そこまでこの場にいる方の『ブチャラティ』が仕込んだ、という事も考えにくく、情報を統合して考えるとその可能性が高い。

「そんな……」


613 : ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:05:58 TmvJAGMw0
投下お疲れ様です。
こちらも投下させていただきます。


614 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:07:50 TmvJAGMw0
「結局、誰も見つからなかった訳よ」

見るも無残な姿に成り果てた病院内を探索したカナメ、霊夢、フレンダの三人。
先程まで行動を共にしてきたブチャラティ達の安否が気がかりではあったが、戦闘の爪痕が激しく刻みつけられた院内には、彼らはおろか、彼らと交戦したと思わしき人物の影も形も見当たらなかった。
彼らの身体の一部が散らばっていたり、骸が転がっていないだけ、まだ僥倖とも言えるが、戦闘は既に収束し、病院にいた連中は揃って退避したようにも見受けられる。

「――どう思う、霊夢?」

特に目立った収穫はなく、捜索を切り上げることになった三人は、病院から出ると、瓦礫の山を前にして佇んで、今後の方針について話し合っていた。

「大方『乗った側の人間』に襲撃されて、上手く撒いたか。それとも、こうしている今も、どこかで、追いかけっこをしている―――といったところね……」

カナメからの問いかけに対して、霊夢は顎に手を添えながら淡々と答える。
その表情や声色からは、ただ事実だけを冷静に受け止めているように見えた。
霊夢の見解は、カナメの意見と一致していたようで、彼は頷き、言葉を続ける。

「前者だったら、まだ良いんだが……」

「そうね……。後者のパターンだと、ブチャラティ達が心配だわ」

とそこで、霊夢は、チラリと、目の前に拡がる瓦礫の山を見やる。
一度手合わせした手前、ブチャラティの実力は把握しているつもりだ。
 そう易々と彼が遅れをとってしまうとは考えにくいのだが、これほどの火力を引き起こす者を相手になるとなれば、話は別だろう。

「───ああ、もう。本当に、次から次へと面倒くさいことが起こるわね。」

苛立ち混じりに、頭を掻きむしる霊夢。
シドーの時といい、早苗と再会した時といい、この殺し合いに巻き込まれてからは、立て続けにままならない事態が続いている。
だが、今ここで文句を垂れたところで状況は何も変わらない。
霊夢は小さく息をつくと、「行くわよ」と、その場から離れるべく踵を返す。
カナメも相槌を打つと、その後ろに続いて歩き出すが―――。

「えっ? ちょっと待って。 結局、皆を追いかける訳……!?」

フレンダは、慌ただしい様子で、カナメ達に詰め寄る。
すると、カナメと霊夢は、互いに顔を見合わせた上で、訝し気に眉根を寄せると、彼女に冷ややかな視線を送る。

「当たり前でしょ? ブチャラティ達を放っておくわけにはいかないし―――。
それに危ない奴がいるんであれば、とっちめないといけないじゃない?」

霊夢は当然のことのように言い放つと、その横で、カナメも無言の同調圧力を伴った視線をフレンダに向ける。
有無を言わせぬ二人の眼差しを前にして、フレンダは思わずたじろいだ。


615 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:08:24 TmvJAGMw0
「そ、それは……確かに、そうだけど……!」

二人の圧に気圧されながらも、フレンダは必死に言葉を紡ごうとする。
フレンダからしてみれば、眼前の「災害」を引き起こした危険人物と鉢合わせするのではないかという不安から、ようやく解放されたのも束の間―――再び死地に飛び込む羽目になるのだから、心中穏やかではない。
仮に麦野や、先の仮面の漢のような化け物とあいまみえようならば、命がいくつあっても足りない。
それならば、ブチャラティとの約束に望みを託し、レイン達に裁定を委ねたほうがまだマシというものだ。

しかし、そんな彼女の心情など知る由もない二人は、フレンダに向けて、更に追い打ちをかけるように言葉を重ねる。

「グズグズするなよ、 今は一刻を争うんだぞ」
「ほら、さっさと行くわよ」

そう言うなり、二人は、足早に歩を進めていく。
フレンダは、一瞬、躊躇う素振りを見せたものの、観念したように肩を落とす。
フレンダは、謂わば刑罰の執行を待つ身柄。
連行中のこのタイミングで逃げ出しても、参加者間に蔓延る自分の悪評に上塗りしてしまうのが目に見える。
つまり、フレンダには二人に従う他選択肢はない―――。
それを悟るフレンダは、意気消沈気味に、カナメ達に追従するのであった。


ザシュリ


「えっ?」

「―――まずは二人……」

フレンダの聴覚が、氷のように冷たい声音を拾ったのは、その直後のことだった。
瞬間、フレンダは身体の彼方此方から、灼熱にも似た激痛を覚え、ひっくり返るように倒れた。

(な、何が……)

背中に地面の冷たさを感じながら、首を起こす。
前方を見やると、カナメが仰向けに倒れていた。
彼の身体には、銀色に光る小型ナイフのようなものが生えており、そこからどくどくと紅色の鮮血が溢れ出している。
そこでフレンダは、自分の身に何が起こったのかを理解する。
 自分もカナメと同じように、的にされたのだと――。

「……そう……。あんたは“そっち側”という訳ね……」

倒れるカナメの前方で、霊夢は険しい表情を浮かべながら、何者かと対峙していた。
霊夢が睨みつけるその先には―――。

「仲間は無力化したわ。次はあなたの番よ、博麗の巫女」

ボロボロのメイド服を身に纏い、両手に幾つものナイフを握り締めている死神の姿があった。


616 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:08:55 TmvJAGMw0



神々を交えた大戦―――。
その後に、ジオルド・スティアートが引き起こした血みどろの闘争劇―――。
幾人の参加者の命が散り、死屍累々が重なった戦地に背を向けて、咲夜は傷ついた身体を引きずるように、歩みを進めていた。

――ゾワリ

 突如背後から、ただならぬ気配を感じて、咲夜は背後を振り返る。
 咲夜の目に留まるのは、三人の参加者の遺体。
 そして、その中の一人、佐々木志乃だったものが握る妖しく光る刀に、咲夜の視線は吸い寄せられた。
 まるで、その妖刀・罪歌に誘われるかのように、咲夜は来た道を引き返し、その妖刀を手に取った。

『愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛する愛愛愛愛愛愛愛あいあ――』

「――っ!?」

その瞬間、呪詛のような言葉が、咲夜の中に入り込んでくる。

『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』

頭の中でリピートされる『愛』の囁きは、やがて『あかり』なる人物への想いへと変容していく。

――咲夜は知る由もないが、これは元の持ち主である佐々木志乃が抱えていた『愛』で、妖刀の『愛』を塗り替えた結果であった。

そんな歪みに歪んだ愛の声に、咲夜は、表情を歪めつつも、自らのデイパックにこれを収納。その声はたちまち消えた。
 斬った人間を操る妖刀とは聞いていたが、取り扱うには相応の精神力がいるようだと、咲夜はそれを理解した。
 だが、それを差し引いたとしても、この妖刀は強力無比で危険な代物だ。
 今後自分と敵対するような他参加者の手に渡るくらいなら、自分の手元に置いておいた方が良いと判断したのである。
 
 そして、踵を返すと、今度こそ彼女は戦場を跡にした。


617 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:09:29 TmvJAGMw0
「あっびゃあああああああああああああっっっ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!!?!?!?」

獣を彷彿させるような絶叫とともに、北の空に飛翔体が飛び出していくのを視認したのは、遠目に紅魔館が見えた頃だった。
その正体は、学園都市第二位と第四位の全力全開、憤怒の拳を一身に受けた聖隷ビエンフーであったのだが、そんなことはもちろん知る由もない咲夜である。

「……今の、何?」

謎の飛翔体が飛んで行った方角と、紅魔館を交互に見やり、足を止める咲夜。
休息のため、一先ずは紅魔館―――と考えていたが、目的地たる彼女の慣れ親しんだ施設にて何かが起こっているのは明白だ。
 さて、どうしたものか――と、咲夜は思考する。
 ゲーム開始時より、同盟を結んでいた采配師が傍らにいれば、相談もできたのだろうが、今この場にいるのは咲夜一人のみだ。

「……。」

暫くの熟考の後、咲夜は北へと進路を取ることに決めた。
 現状何かが紅魔館で起こっているのは間違いない。それこそ、他参加者同士の殺し合いが起きている可能性も十分にある。
なればこそ、ここで安易に近付くと、咲夜自身もその争いに巻き込まれかねない。
であれば、まずは先の飛翔体を探ったうえで、状況把握に務めるべきだと、そう判断したのだ。

「鬼が出るか蛇が出るか――と言ったところかしら……?」

咲夜は誰に向けるともなく呟くと、再び歩き出した。
その瞳には、未だ見えぬ敵の姿を捉えるべく、鋭く研ぎ澄まされた光があった。
行く先で何が待ち構えていたとしても、一切動じることなく切り抜けられるよう覚悟を決めながら、咲夜は一歩ずつ前へ進んでいく。
やがて――北へ歩を進めること数刻。


618 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:09:51 TmvJAGMw0
「えっ? ちょっと待って。 結局、皆を追いかける訳……!?」

(っ!? あれは―――)

荒んだ病院の入り口付近で三つの人影を遠目で視認した咲夜は、咄嗟に草むらに身を伏せて様子を窺う。
どうやら三人の参加者が、言い争っているように見受けられる。
一人は、金髪の西洋人形を彷彿とさせるような可憐な少女。
一人は、パーカーを着込んだ、体格も見た目も特筆すべきところがない、黒髪の青年。
そして、もう一人は―――。

「当たり前でしょ? ブチャラティ達を放っておくわけにはいかないし―――。
それに危ない奴がいるんであれば、とっちめないといけないじゃない?」

(博麗の巫女……)

殺し合いの名簿に、その名が刻まれていた、幻想郷の秩序の番人がそこにいた。
咲夜の主人たるレミリア・スカーレットが引き起こす『異変』にあたり、最大の障害になりえる要注意人物であるとマークしていた手前、その風貌を見間違うことはない。

(奴らは、まだこちらに気付いていない……。なら―――)

懐から複数の小型ナイフを取り出し、身を屈める咲夜―――。

仮に咲夜が発見したのが、フレンダとカナメだけであったなら、満身創痍の彼女は、無理することなく、様子見を決め込むか、或いは、彼らと接触して利用する方向へと、舵を切っていたかもしれない。
しかし、連中に、あの博麗霊夢がいるとなれば、話は別だ。
優勝を狙うにしろ、脱出を目指すにしろ、元の世界に戻った後のことを鑑みると、排除するに越したことはない。
そして、今その標的は目の前にいて、此方の存在は認識しておらず、格好の的といえる状態だ。
まさに千載一遇の好機。これを逃す手はない。

(今ここで、仕留める!!)

 揺るぎのない決意と、氷のように冷たい殺意のまま、咲夜は能力を発動。
 瞬間、世界は静止――忽ち、咲夜だけの世界に塗り替えられる。
間髪入れず、彼女は標的を目掛けて、水平線に向けて地を蹴り出した。
必殺を誓い、獲物へと駆けて行くその姿は、まさに狩猟者のそれ。
静寂が支配する世界で、彼女だけが唯一動く存在であり、彼女を捉える者は存在しないのであった。


619 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:10:40 TmvJAGMw0


 
 「――っ!?」

 それは、霊夢にとっても、虚を突かれた襲撃であった。
突如として、眼前に顕現した、幾つもの銀色の凶器―――。
 沈みつつある陽の光を反射したそれは、煌めきを帯びつつも、至近距離から飛来。
咄嵯の判断で、回避行動に移るも、完全とはいかず、数本の刃が、霊夢の身体を捉えて切り裂いた。

バタリ
バタリ

「―――まずは二人……」

霊夢の後方で、フレンダとカナメが共に仰向けに倒れるのと同時に、声が響いた。
霊夢はその声の主のことをよく知っている。

無数のナイフ――。
時空間の法則を無視した無慈悲な攻撃――。

間違いない。彼女だ。
そう確信して、振り返った先には、想像通りの人物が立っていた。

「……そう……。あんたは“そっち側”という訳ね……」

切り裂かれた箇所を手で庇いながら、霊夢は襲撃者である少女を睨みつけた。

「仲間は無力化したわ。次はあなたの番よ、博麗の巫女」

そのメイド――咲夜は、霊夢からの鋭い視線に臆することなく、涼しい顔を張り付けたまま宣告する。
 刺々しく敵意を放つ咲夜―――。
有無を言わさぬ狩人の如きその姿に、霊夢は、紅霧異変時で、初めて彼女と対峙した頃を思い出した。

「一応、こんな馬鹿げたゲームに乗っている理由を、聞いてもいいかしら、咲夜?」

「――その言い草……。どうやら、あなたも『私』のことを知っているようね……」

「はぁ? あんた何言ってるの?」

咲夜の意味深な発言に対し、霊夢は眉間にしわを寄せた。
そんな霊夢の反応を、冷めた態度で見据えて、咲夜は続ける。

「いえ、何でもないわ。気にしないで。
それよりも、質問に答えるわ。何でこのゲームに乗っているのか――。
そうね……、私としては元の場所に還りたいだけ。別に優勝に拘っている訳でもないわ。
もし仮に、ゲームでの勝ち残りよりも、確実で迅速な帰還方法があるなら、迷わずそちらを選ぶけど――」

瞬間、咲夜は腕を薙ぎ払うように振るう。
複数の銀光が、風切り音を奏で、一斉に霊夢へと襲い掛かった。
しかし、霊夢はそれを予測していたかのように、サイドステップで真横へ跳び退いて回避する。

「どちらにしろ、あなたは後々邪魔になるのよ。
だから、消えてもらうわ、博麗の巫女」

「あっそ。そもそも何で、私に固執するかはよく分からないけど――」

言うが早いか、霊夢は長針を投擲。
それに呼応するかのように、咲夜も銀のナイフを投げ放つ。
双方の凶器が空中にてぶつかり合い、地に堕ちていく中で、霊夢は地を蹴り上げて、咲夜への接近を試みる。

「あんたがその気なら、こっちも容赦しないわよ、咲夜ッ!!」

咲夜の言動には、どこか違和感があるのだが、兎にも角にも彼女を制圧することが先決であると判断した霊夢。
『空を飛ぶ程度の能力』にて、地面を滑るように、猛スピードで咲夜に肉薄する。


620 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:11:06 TmvJAGMw0
「っ!?」

一気に間合いを詰めてきた霊夢に、咲夜は後方へと飛び退き、ナイフを投擲。
だが、その動きを予測していた霊夢は、さらに加速。
上体を大きく反らし、ナイフを掻い潜りながら、後ろ向きに宙返り。
そして、そのまま咲夜の顎を捉えんと、天を突き上げる勢いで、蹴り上げを放つ。

だが、その瞬間。
咲夜は、その場から姿を消失させ、霊夢の昇天蹴は空を切る。

「やっぱりね―――」

 しかし、霊夢は動じることなく、直ぐに背後を振り返ると同時に、ありったけの長針を射出。

「あんたなら、そうすると思ったわ!!」

背後に迫っていた咲夜の大量のナイフが、霊夢の長針によって撃ち落とされ、地面に突き刺さっていく。
『時間を操る程度の能力』を利用しての、相手の死角からの狙撃―――。
咲夜の常套戦術ではあるが、霊夢にとっては既に経験済みだ。
故に、この展開は容易に予想できた。

「成程……こちらの手の内も把握済みという訳ね……」

霊夢の迎撃を受け、自身の思惑が外れた咲夜は、苦々しい表情を浮かべていた。
しかし、それも僅かのことで、すぐに冷徹な顔を取り戻すと、地面を駆け抜ける。
そして、一定の距離を保ちつつ、ナイフによる弾幕を霊夢に向けて放っていく。

「上等よ、あんたが目覚ますまで、とことん付き合ってやるわ!!」

迫りくるナイフの嵐に、霊夢もまた針による弾幕を展開。
両者の弾幕が交錯。これぞ幻想郷の住人達で執り行われる決闘『弾幕ごっこ』。
陽が沈みつつの空の下で、金属と金属の衝突音が、雨の如きに降り注ぐのであった。


621 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:11:50 TmvJAGMw0



「ハァハァ……。結局、死ぬかと思った訳よ」

 ここは病院前に積み上げられた瓦礫の山の中―――。
僅かばかりの陽光が射し込む薄暗い世界で、ホッと一息ついて、ペットボトルの水を飲み干すのはフレンダ。
 外界では、霊夢と咲夜による『弾幕ごっこ』が繰り広げられており、今尚も、振動や轟音が絶え間無く生じている。
 フレンダは、負傷した身体で這いながら、『弾幕ごっこ』の巻き添えになるのを避けるべく、この安全地帯へと潜り込んでいた。
突き刺さったナイフによる負傷は、何れも致命傷には至らず。
 凶器を引き抜くことで出血が伴い、彼女が這い進んだ地面には鮮血が彩られる形となったが、現状彼女を追跡するような者はいない。
 
(これから、どうしよう…)

 外では、相も変わらず霊夢が、殺人メイドとド派手にやり合っている。
 そして、カナメは仰向けに倒れたまま、起き上がる気配はなかった。
胸が上下に動いていたところから、まだ死んではいないことは察せられたが、深傷であるのは間違いないだろう。

(っていうか、これって、もしかして、チャンス到来ってやつ?)

 ここで、ふとフレンダは、自分の置かれた状況を冷静に見つめ直した。
 カナメは現在瀕死の状態、あのまま放置していれば絶命は免れない。
そして、霊夢は襲撃者たるメイドと交戦中――側から見れば、互角の攻防を繰り広げている。
仮にここで、カナメが死んで、あのメイドが霊夢を討ち取ることがあれば、フレンダにとっての目の上のたんこぶが、綺麗さっぱり消えることになり、晴れて自由の身だ。
勿論、残るメイドへの対応や、その後の自身の立ち振る舞い方など、憂慮すべき事項は山のようにあるのだが、それでも、実刑判決を待つ今の状況からすれば、遥かにマシなのではないだろうか。
兎にも角にも、今は霊夢達の戦闘の趨勢を見守ろう――最悪、霊夢が勝ったとしても、ボロボロのダメージを負っていたのであれば、フレンダの戦力でも漁夫の利を狙えるかもしれない―――。
フレンダはそのように考え、懐から薬草を一つ取り出す。
まずは傷を癒し、万全の状態にしようとする魂胆であったが――。

ガサッ ガサッ カサッ ガッ

「ひやっ!?」

突如揺れ動いた瓦礫の床に、フレンダは悲鳴を上げる。
そして、ボコリと床から生えた筋骨隆々の腕を見て、更に声を上げた。

「な、何っ―――」

状況を呑み込めず混乱するフレンダだったが、腕の生えた床はさらに盛り上がっていき、やがて巨体が現れた。

「〜〜〜っ!!?」

それは、血塗れの巨漢であった。
全身には夥しい数の傷、頭部からも流血しており、実に痛々しい様相だ。
そして、火傷が目立つ顔面には、仮面が装着されていた。


622 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:12:21 TmvJAGMw0
ギロリ

「ひっ、ひいいっ!!」

仮面越しに睨みつける炎のような真紅の眼光―――先程ミカヅチに襲い掛かられたときのトラウマも相まって、その視線に晒されただけで腰が抜けそうになるフレンダ。

眼前の漢は、見るからに満身創痍。
しかし、暗部で培われた直感と、生物としての本能が、彼女に警鐘を鳴らす。

こんな奴勝てるわけがない。その気になれば、一思いに殺されてしまう、と。

「……。」
「〜〜〜〜っ」

漢は沈黙したまま、フレンダを見つめる。
対するフレンダは、蛇に睨まれた蛙の如く、恐怖で震えることしか出来ない。
そして、フレンダにとっては、全く生きた心地がしない膠着を経て―――不意に漢は視線を落とす。
漢が見つめるその先にあるのは、フレンダが手にする薬草。

「……あ、あの、えっと……」

フレンダも、漢の関心が自分ではなく、薬草に移ったことを悟ると―――。

「ど、どうぞ」

恐る恐るといった感じで、薬草を差し出した。えへへ、と媚びるような愛想笑いのおまけつきで。
フレンダとしても、貴重な回復手段を手放すことになるが、背に腹は代えられない。
薬草はもう一つストックがあるし、今は何としてでも、この場を切り抜けて生き延びたい―――だからこそ、眼前のムキムキ男が、興味を示している物品を献上することで、相手の機嫌を取ろうとする魂胆があった。

「……。」

漢は無言のまま、薬草をふんだくると、口に含み咀噛し始める。
そして、ゴクリと飲み込むと――。

「……ぬぅ……」

漢は、自身の身体に生じる異変に、目を見開く。
完治とまではいかないが、目立った外傷は徐々に塞がっていく。
 彼は、回復した身体の調子を確認するかのように、その大きな掌を握ったり開いたりする。

「あはは……そ、それにしても、おじさん、ムキムキだよねぇ。
どうやったら、そんなムキムキになれるか教えてほしいかも…なんちゃって」
「……。」

フレンダは冷や汗を浮かべながら、何とか笑顔を取り繕って、会話を試みる。
しかし、漢は見向きもしない。

ダダダダダダダダッ

外の世界では、相も変わらず戦闘が行われているようで、振動と騒音が轟いている。
ここでようやく、漢は、瓦礫の外の喧騒に意識を向けた。

そして、そのまま、拳を真横に振りかぶると―――

「――へっ?」
「……ぬぅうううううんッ!!」

轟ッ!!!

漢の放った拳撃により、粉塵を巻き上げつつ、衝撃波が生じ、外界との境界たる瓦礫の山が吹き飛ばされる。

「ぴぎゃああああっ!?」

衝撃の余波はフレンダにも届き、彼女は奇声を上げながら、瓦礫とともに宙を舞った。
浮遊感を味わいながら、彼女は思う。
何で、私がこんな目に―――と。


623 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:13:23 TmvJAGMw0


 剛腕のヴライ―――。
ヤマト最強の武人は、ブチャラティとの交戦を経て、暫しの沈黙に身を置いていた。
殺し合いが始まってから、常に闘争にその身を投じてきた漢は、ある意味、この時初めて、束の間の小休止を享受していたと言える。
しかし、それも長続きはしなかった。

瓦礫の外より伝搬する、闘争の激音が――。振動が――。匂いが――。
彼の武人たる本能を刺激し、その意識を覚醒させたのである。

「〜〜〜っ!!?」

 覚醒したヴライの目の前で悲鳴が上がった。
目を凝らしてみると、そこにいたのは金髪碧眼の少女フレンダ。
 ヴライの存在に圧倒されたのか、身体を強張らせ、震えている。
 既に戦意はないように見受けられ、ヴライとしても、特段興味は沸かない。
 しかし、ここは戦場。見逃す理由もない。
 かような小娘、満身創痍とはいえ、一思いに、屠るなどわけはないだろう―――。
ヴライが少女の排除について思考を巡らしたその時、彼は、フレンダが手に握るそれに気付くことになる。
 それは一束の草。一見雑草のようにも見えるそれだが、どうにも捨て置くことはできないと、ヴライは直感的に悟ったのだ。
 
「ど、どうぞ」

 フレンダの方も、ヴライの視線に気付いたらしく、恐る恐るといった様子で、手に握る草を差し出してきた。
 ヴライは差し出された草をもぎ取ると、咀嚼。
 何故そうしたのかは彼自身も分からない。ただ、そうすべきだと彼の本能が告げて、それに従ったまでのことである。
 そして、その効果は直ぐに現れる。
 満身創痍の身体に活力が戻り、全身を覆う火傷や裂傷が徐々に癒えていくではないか。
 薬草の類いだったと推察できるが、そんなことはヴライにとって些細なことであった。
 肉体の回復を実感して、ヴライは思う。

―――これで、また戦える、と。

 傍らで、フレンダが何かを囀っているが、もはやヴライの耳には届かない。
 目標は彼の視界を遮っている瓦礫の山のみ。
 拳を一振るいし、それらを消し飛ばす。同時に、それに巻き込まれた少女の悲鳴が響くが興味はない。
 陽光とともに、晴れた視界に入るは咲夜と霊夢―――。
 それぞれ得物を持ったまま、対峙していたのだが、ヴライの出現に呆気にとられ、その動きを止めていた。

「我はヤマト八柱将ヴライ――剛腕のヴライぞ……!!
小娘共よ、汝等は、我を楽しませるに値する存在かっ!!」

 ヤマト最強は吠え、拳に炎を纏いし、地を蹴り上げる。
 戦場こそが武人の居場所であるが故、漢は次なる“闘争”に誘われる。
 此の地が戦場である限り、漢に安息の刻は許されない。


624 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:14:02 TmvJAGMw0
「ちょっと!? いきなり何なのよ、あんたはっ!?」

巨体に似合わぬ速度で迫るヴライに対し、霊夢は弾幕を射出。
大量の針が、弾丸のごとくヴライへと飛来する。
しかし、ヴライの疾走は止まらない。
炎を纏う巨大な剛槍を顕現させると、真正面から投擲―――。

「――なっ!?」

放たれた炎槍は、針の弾幕を飲み込みながら、霊夢の元に迫る。
咄嵯の判断で、横に跳躍することで回避に成功。
霊夢がいた場所は、爆散するものの、彼女は事なきを得る。

――が、次の瞬間には、ヴライは霊夢に肉薄していた。

「……ッ!?」

驚愕の声を上げる間もなく、ヴライの拳は霊夢を圧殺せんと振り下ろされる。
霊夢は、険しい表情を浮かべつつも、後方へと飛翔することで、どうにか、これを回避。
拳は大地を砕き、衝撃波によって病院のガラスは砕け散り、地面が大きく陥没する。
その様相は まさに“災害”。“闘争”に染まっていた戦場は、ヤマト最強の出現によって、更なる戦火に見舞われることとなる。

「本当に、いきなり滅茶苦茶してくれるわねっ!!」

霊夢は毒づきながらも、上空からヴライに向けて弾幕を発射せんと、腕を振り下ろさんとするも―――。
瞬間、大量のナイフが霊夢目掛けて殺到した。

「――くっ!」

即座に、霊夢は標的を変更し、これを迎撃。
空中にて、無数の火花が飛び交い、霊夢は舌打ちをする。
視線を地上に向けると、虎視眈々と此方を見上げるメイドの姿があった。

「咲夜っ……!!」

苦虫を潰したような表情を浮かべる霊夢。
忘れてならないのは、今は三つ巴―――。
ヴライだけに注意を払うわけにもいかない、ということを霊夢は痛感する。
 
――が、それは咲夜とて同じであった。
ヴライは、今度はその深紅の眼光を、咲夜の方に向けるや否や、炎槍を顕現させ、彼女に向かって投擲。

「――っ」

ヴライの豪速で迫り来るそれを、咲夜は舌打ちと共に、横に大きく飛ぶことで回避する。
しかし、地面に突き刺さった炎槍は、爆発――その爆風によって、彼女の華奢な身体は宙を舞う。

「……!!」

絶好の機会とばかりに、ヴライは咲夜を猛追。落下してくる少女に拳を振るわんと、跳躍。
その様はまさしく、獲物を狙う肉食獣の如し。
一気に間合いを詰めると、鋼のような拳を大きく振りかぶり、咲夜に叩きこまんとする。

「見くびらないで頂戴……!!」

しかし、銀髪の少女は、待っていましたと言わんばかりに、くるりと空中で回転。
そして、流れるままに、手に握るナイフを投擲――。それはヴライの眉間に吸い込まれるように飛んでいく。

「――ぬぅ!!」

ヴライは短く声を発すると、首を傾げることによって、これを回避。
だが、咲夜の投擲はそれだけでは終わらない。
引力に吊られて、落下速度が増す中、それに比例するように高速でナイフを次々に射出――。

「――ッ!!!」

その怒涛の弾幕に、ヴライは両腕を交差させることで防御態勢を取り、対処。
銀色の刃の雨が、武人の腕や脚の皮膚を切り裂き、血飛沫が上がっていく。
しかし、この程度で怯むヴライではない。
着地と同時に、地面を蹴り上げると、その拳に炎を宿し、一気に咲夜との距離を詰めにかかる。


625 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:14:25 TmvJAGMw0
「――っ!?」

咲夜は接近してくるヴライを見て、顔を歪める。

―――あれだけの弾幕を叩き込んだにも関わらず、まるで堪えていない。
―――まさに怪物、まさに化け物。

そう思いつつ、咲夜は次なる一手を模索するも―――。

「ちょっと、あんたたち―――」

その刹那、ヴライと咲夜の頭上より、大量の針の雨が降り注いだ。

「「っ!?」」

 咄嗟に、野生動物を彷彿させるような反応速度で、回避するヴライと咲夜。

「私を忘れているんじゃないわよっ!!」

 二人が、ほぼ同時に空を見上げると、そこには、霊夢が腕を振り落とした状態で浮かんでいた。

「博麗の巫女っ……!!」

霊夢を睨みつける咲夜。
繰り返しになるが、これは三つ巴の戦い。
片一方だけを気にしていると、もう片方に隙を突かれることになるのだ。

「成る程……。少しは覚えがあるようだな、小娘共……」

三雄が睨み合う最中、ヴライは、自身の両腕から滴る血を眺めながら、そう呟いた。
この傷は、先程の咲夜との攻防によって裂かれたものである。

「だが、所詮は術の類――有象無象の小細工に過ぎぬ。我を殺るに能わず――」

ヴライはそう言うと、左右の拳に炎を灯す。
そして彼の闘志に呼応するかのように、両の拳に宿る炎は、激しく燃え盛る。

「果たして、どこまで、その小細工が通用するか、試させてもらおうぞ、小娘共っ!!」

直後、ヴライは駆ける――。
そして、それに呼応するように咲夜も、霊夢も動き出す。

仁義なき果し合いは、更に激化していくのであった。


626 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:14:58 TmvJAGMw0


「全く、とんでもない目に遭ったでフ〜」

 麦野と垣根の怒りの鉄拳を一身に受けたビエンフーは、ホームランボールの如く空高く吹き飛ばされ、中々の飛距離を出してから路上に墜落。
その際に、運悪く大岩に頭を強打し、気絶。
それから、数刻が経過し、ようやく意識が覚醒すると、ともかく、垣根達の元へ戻ろうとフィールドを彷徨い、今へと至っているわけだが――。

ボ ォ ン !!

「な、何の音でフか〜!?」

突然響いた爆音に、ビエンフーは身を震わせる。
一体、何が起こっているのか? それを確かめようと、音がした方向へと飛んでいくと、ビエンフーは、病院へと行き着いた。

「オー、バッド!! 一体全体何が起きてるんでフか!?」

先程までは何の異常も無かったはずの病院は、今は見るも無惨な姿に成り果てていた。
そして、病院前で三つの影が、激しく衝突を繰り返していることに気付く。
 目を凝らしてみると、それは三人の男女であった。
仮面をつけた巨漢ヴライが、身体に炎を纏いつつ、二人の少女--咲夜と霊夢に攻勢を仕掛け、少女達はそれを躱しつつ、銀色に光るものを無尽蔵に投擲している。
先程の爆音と、この惨状は、彼らが引き起こしたものになるだろう、とビエンフーは理解した。

「っ!? あ、あれは……」

と、ここで、ビエンフーは、相争う三人から少し離れたところで、一人の青年が仰向けに倒れていることに気付く。

「き、君、大丈夫でフか~!?」
「……ぅ……」

慌てて駆け寄るも、その青年カナメは、呻めき声を上げるだけ。
胸に生えたナイフと、そこから滲み拡がる紅色の染み、そして乱れた呼吸が、もはや一刻の猶予もないことを示していた。

ビエンフーとしては、縁もゆかりもない見知らぬ参加者ではあるが、それでも放っておくわけにもいかず、どうするべきかあたふたする。
 そんな折、抜き足忍び足で、こっそりと、病院地帯から離脱しようとする人影に気付く。

「あっ、君はさっきの……!」

ビエンフーに声を掛けられて、ビクリと背筋を震わせたのはフレンダ。
病院で、垣根と情報交換をしたブチャラティ一行に加わっていたことが記憶に新しい。
垣根曰く、学園都市の暗部の人間とのことで、その出自は信用できるものではないが、それでも、ビエンフーは彼女に縋りつく。

「お願いでフ! 彼を助けて欲しいでフよ〜!!」
「む、無理無理無理っー!! 結局、こんなところで、グズグズしてると、こっちまで巻き添え食らっちゃう訳よ!!」

 ビエンフーの懇願に対し、全力で首を横に振るフレンダ。
 元々、ヴライの戦場復帰に貢献してしまったことを鑑みると、この混沌とした責任の一端はフレンダにもあるのだが、彼女にはその自覚はない。
彼女としては、友人でも何でもないカナメを助ける義理なんてないし、いつ流れ弾が飛んでくるか定かではないこの死地から一刻も早く逃げ去りたいところだが――。


627 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:15:22 TmvJAGMw0
「そんな〜あまりにも薄情でフ〜!!」
「ちょっ!? 引っ付かないで欲しい訳よ!!?」

泣きつくように、飛びついてきたビエンフーに困惑しながら、どうにか引き剥がそうとするフレンダだったが、その時――。

ゴツン!!という豪快な殴打音が響いたかと思うと、何かが一直線に、二人の元へと飛来してきた。

「「えっ?」」

フレンダ達が揃って間抜けな声を上げた直後、それはくるりと身を翻し、空中で静止。彼女達への直撃を寸前で防いだ。

「ゴホッ……やってくれるわね、あいつ……」

その正体はというと、ヴライや咲夜と交戦していた霊夢であった。
炎を帯びた拳をまともに受けて、焦げ跡が生々しい巫女服の上から、脇腹を抑えて血反吐を吐き出している。
しかし、その闘志を失うことはなく、未だ相争っているヴライや咲夜の方角を睨みつけている。

「れ、霊夢、大丈夫な訳よ!?」
「ああ…あんた無事だったのね……。
丁度いいわ、カナメのこと頼めるかしら?」

 フレンダのしぶとさに半ば呆れたような表情を浮かべつつ、霊夢は未だ動けぬカナメの方を指差す。
 
「わ、私がっ!?」
「他に誰がいるっていうのよ? 私はあの馬鹿共をシメに行かなきゃならないし。
そこのヘンテコ生物と戯れる暇があったら、少しは役に立ちなさい」
「ヘンテコとは、酷い言われようでフ〜!!」

抗議の声を上げるビエンフーを無視し、霊夢は再びヴライ達のいる方向を見据える。

「それじゃあ、任せたわよ。
念のため言っておくけど、死なせたりでもしたら許さないから」
「ちょ、ちょっと、待っ――」

フレンダの制止に耳を貸さず、霊夢はそれだけ言い残し、ふわりと宙へ浮かび上がると、ヴライ達の元へと突っ込んでいった。

「ど、どうすれば……」

ビエンフーと共に取り残されたフレンダは、途方に暮れる。
この場所に留まるのが危険なのは、言うまでもない。
しかし、だからといって、ここでカナメを見殺しにして逃走を行うと、霊夢の怒りを買うことになる。
最も望ましいのは、一刻も早くこの場所からトンズラして、カナメも霊夢も亡き者となることなのだが、如何せん霊夢は抜け目がない女―――。あの三つ巴の乱戦で、彼女が都合よく命を落とすかどうかの保証はない。
 
―――ゴクリ

フレンダは悟る。
これから下す選択が、彼女の命運を左右することを。

「……。」

苦悩と葛藤の末、フレンダが導き出した答えは――。


628 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:16:09 TmvJAGMw0


「――ガハッ!!」

霊夢、咲夜、ヴライによる三つ巴の攻防戦。
 ナイフと、針と、炎槍が飛び交う戦場にて、動きがあった。
 咲夜との弾幕のぶつけ合いに気を取られていた霊夢に、ヴライが接敵―――。
 豪風とともに、その拳を、彼女に叩きこむと、彼女の身体は軽々と吹き飛ばされたのである。

 遠方に飛ばされていく霊夢を追撃せんと、ヴライは炎槍を投げつけんとする。
しかし、その隙を逃さまいと、咲夜が時間を停止。
間髪入れず、ありったけのナイフを投げて、ヴライへ攻撃を仕掛けた。

 霊夢を助けるという意図はなく、単純に眼前の脅威を排除するべくの行動であった。

「ぬぅうっ……!!?」
 
世界が動くと同時、ヴライの腹部や胸には、無数のナイフが襲い掛かる。
だが、何れも鍛え抜かれた鋼の肉体を、深く貫くには至らず、皮膚を裂く程度。
 ヴライは、ギロリと、咲夜を睨みつけると―――。

「ぬぅおおおおおおおおおッ……!!」

 獣のような咆哮と共に、彼の全身から業火が巻き起こる。
 爆発的に生じたその炎圧によって、無数のナイフを弾き飛ばすと、続けざまに、手に握る炎槍を、咲夜に向けて投擲―――。

「……っ!?」

 咲夜は、一瞬だけ目を見開くも、即座に真横へと跳び、直撃を回避。
 炎槍はそのまま地面に着弾し、爆ぜるようにして燃え広がる。
 そんな爆炎と煙の中から、咲夜の視界に飛び込んでくるヴライ。
 剛腕にて殴りかからんとするが、咲夜はひらりと身を翻して、空を切る。

「……小蠅が……!!」

 しかし、ヴライの猛攻は止まらない。
 拳だけではなく、自身に宿る火神(ヒムカミ)の力も織り交ぜて、まるで暴風雨のように、苛烈な攻撃を叩きこまんとする。

 対する咲夜はそれらを、時に避け、時に身を反らし、時には反撃を交えながら、躱していく。
 一見、ヴライの猛撃を冷静に捌いているように見えなくもない。
 しかし、その実―――。

(くっ…!! まさか、こんなのと戦う羽目になるなんて……)

 自らの頬を伝う汗を感じ取りつつ、内心で苦い思いを噛みしめていた。
 霊夢を始末できればと、仕掛けた結果がこれだ。
思いもよらぬ難敵に出会した上、今や防戦一方の展開だ。

(剛腕のヴライ……『災害』とは良く言ったものね……!!)

同盟者である采配士は、かつて眼前の漢を『災害』と評した。
そして今、咲夜はその言葉の意味を、身を以って実感していた。
研ぎ澄まされた圧倒的な武芸と、弾幕の刃では貫くこと叶わぬ強靭な肉体。
そして、全てを滅ぼさんとする圧倒的な火力と熱量。
まさに、眼前の武人は、『災害』の名を冠するに相応しい存在であった。


629 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:16:39 TmvJAGMw0
(何れにせよ、このままでは――)

直撃すれば必殺となりうる攻撃を、紙一重で回避しつつ、この窮地を如何に脱するかを考える咲夜。
その時だった――。

「……ぬぅっ……!!」


自身に差し迫る”何か”の気配を感じたヴライは、咄嵯に咲夜への攻撃を中断。
彼方を見据えると、弾幕を放出しながら、宙を滑るように飛んでくる霊夢の姿があった。
ヴライは、横に転がるように跳ぶと、弾幕の射程範囲外へと回避。
そして、炎槍を立て続けに投擲していき、戦線復帰の霊夢を撃ち落とさんとする。
当然霊夢も左右上下に飛び回り、これらを回避――炎槍は地面に刺さり、戦場に爆音が轟いていく。

(――どうする……?)
 
 霊夢とヴライが相争う中、病院のエントランス前へと、駆け込んだ咲夜は、二人の戦闘を眺めている。
結果的に、霊夢の戦線復帰のおかげで、ヴライとの一対一の対面から脱することは、出来た。
今はヴライも霊夢も互いのことしか眼中にないようで、こちらに注意を向けることはない。

――このまま様子を窺い、二人が隙を見出した時に、殺るか
――それとも、戦場から撤収すべきか

咲夜が、今後の方針について思考を巡らした、その瞬間―――。

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!

 霊夢の弾幕でもなければ、咲夜による弾幕でもない、全く別方向から放たれた、無数の弾丸がヴライへと襲い掛かった。

「――あれは……」

 銃弾の雨に晒されるヴライを尻目に、咲夜はその狙撃元を見やる。
 するとそこには、先程自分が仕留めたはずのカナメが佇んでいたのであった。


630 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:17:26 TmvJAGMw0



「――ぅう……」

 鼓膜に突き刺さるような爆音と、地鳴りと共に押し寄せる振動―――。
それら戦場の喧騒によって、カナメの意識は、生死の狭間から、引っ張り上げられた。

「おおっ、気が付いたでフか〜!!」
「何だ、お前?」
「ソー、バッド! 命の恩人であるボクに対して、『お前』とはいきなりご挨拶でフね〜!!」

 こちらを見下ろしてくる珍妙な生き物に、怪訝な表情を浮かべながら、身を起こすと、フレンダが駆け寄ってくる。

「いやぁ良かったぁ。一時はどうなる事かと思った訳よ」

そう言って胸を撫で下ろす彼女の遥か後方では、断続的に爆発が生じている。
目を凝らしてみると、霊夢が縦横無尽に飛び回り、仮面を付けた巨漢が、彼女に対し、炎を帯びたものを投擲している。

「――何があったか、教えてくれ」
「あー、えっとね……」

状況把握に務めるべく、カナメは落ち着いたまま、フレンダに問い掛けた。
 フレンダも、それに応えるべく、現状に至るまでの過程を、簡潔に説明し始めた。

「――ということだった訳よ」
「成程な……つまり、お前らは、俺にとって命の恩人になるってことか……」
「ま、まぁ、結局、そういうことになる訳よ」
「でフ!」

若干ドヤ顔気味に胸を張るフレンダとビエンフー。
フレンダは結局、残る薬草をカナメに分け与え、彼を助けることにした。
それは単なる親切心などではなく、霊夢による脅しと、ここでカナメ達に恩を売りつけることで、この先の裁判で、便宜を図ってくれることを期待した目論みから導き出した選択であった。
要するに、自分の行く末について、カナメと霊夢に賭けてみることにしたのである。

「……礼を言うぞ、フレンダにビエンフー……」

ビエンフーはともかく、フレンダについては、一々恩着せがましい説明をするものだから、何となく邪な思惑を感じずにはいられなかったものの、カナメは素直に感謝の言葉を述べた。
そして、遠方で交戦中の霊夢達の方へと視線を向ける。

「俺達を刺したというメイドは、見当たらないようだが……」
「何か、どさくさに紛れて逃げちゃったみたい」
「……そうか」

行方をくらました咲夜については、まだどこかに潜んでいて、機会を伺っている可能性は否めない。
それはそれで気掛かりではあるのだが、今は、優先すべきことが他にある。

「フレンダ、何か、武器になりそうなものは持っていないか?」
「へっ、それってどう意味な訳よ?」
「これから、俺は霊夢に加勢する、お前にも協力して欲しいんだ」
「えぇっ!? ちょ、冗談でしょっ!? あんなの、人間にどうにか出来る相手じゃないわよぉ!!」

カナメからの協力要請に、フレンダは悲鳴じみた声を上げた。
ヴライが繰り出す火力は凄まじいものがあり、一度爆発が生じれば、地面は揺れ動かんばかりに振動し、辺り一面を焼き払わんばかりの勢いで火炎が立ち昇る。
学園都市第三位の超電磁砲や、第四位の麦野ですら、これ程の火力を生じさせるかと言えば、疑問符が付くところだ。

「結局、私達は足手纏いにならないように、ここから逃げるべきな訳よ。
あいつは、霊夢が引き受けてくれてるし……霊夢なら何とかしてくれる訳よ」
「……そうやって、お前は、霊夢を見殺しにするつもりなのか?……」
「べ、別にそんなことは言ってない訳よ!?」
「だったら、協力してくれ」

有無を言わせない気迫で、カナメはフレンダに迫る。

「で、でも……」

その迫力に押されたのか、フレンダは渋面を浮かべながらも、言い淀む。
悩めるフレンダ。そんな彼女の首を縦に振らせるべく、カナメは、とある提案を口にする。

「もし、霊夢を助けることができたら、後々のことは、色々と都合してやる」
「……っ!?」

途端に、目を見開くフレンダ――。

無論、カナメとしては、彼女を無罪放免にする意図はない。
あくまでも判決を下すのは、レインや竜馬であって、自分ではない。
しかし、彼女への刑罰について、減刑するよう働きかけることは可能だろう。
そういった意味も含めての提案であり、自己保身を優先する彼女には効果があると見立てたが――。

「……そ、そうよねぇ。結局私も、霊夢のことが心配だもの、うん。
よーし、ここはやっぱり、カナメに協力する訳よ!」

カナメの目論み通り、フレンダはあっさり乗っかってきたのであった。

「……現金な子でフね……」
「……。」

 フレンダの変わり身の早さに、ビエンフーとカナメは、揃って呆れ顔を浮かべる。

「えっ? 何か言った?」
「……いやっ、何でもない。それよりも、使えそうなものはないのか?」
「あー、えっとね……」

フレンダは自分の支給品袋を取り出し、戦力共有のため、その中身を、カナメ達に披露していく。

ここに二人の男女と一匹の聖隷による即席チームが成立したのであった。


631 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:18:11 TmvJAGMw0


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!

「……ぬぅっ!?」

霊夢に攻勢を仕掛けていたヴライの元に迫る、弾丸の嵐。
カナメの機関銃が火を噴いて、ヤマト最強の肉体に無数の穴が穿たれていく。
血飛沫とともに、身体を削られていく感覚に、ヴライは一瞬だけ、顔を顰める。
しかし、ヤマト最強の肉体は筋骨隆々―――。弾丸の一発一発は、確かにヴライの肉を削り飛ばしていくが、いずれも貫通するまでは至らない。

「小賢しいわッ!!」

ヴライは、即座に、内に宿し火神(ヒムカミ)の力を解放――全身から紅蓮の炎を噴出させるや否や、周囲一帯は炎獄と化す。

「なっ!? 奴はどこだ!?」

火の海に呑み込まれた戦場で、カナメは機関銃の銃口を巡らせるも、ヴライの姿を見失う。

「上よっ、カナメっ!!」

地上の炎から避難し、上空へと飛び上がっていた霊夢。
彼女の声を聞き、天を仰ぐカナメ。
 其処には、既に天高く跳躍を果たして、此方を睨みつつ落下するヴライの姿があった。
 その腕には既に炎槍が握られており―――。

「塵となれいッ!!」
「クッソぉおおおおおおおお!!!」

 機関銃の照準を合わすより早く、放たれる炎槍。
 カナメは咄嗟に回避しようとするも間に合わず、撃滅の炎は彼に降り注がんとするが―――。

 ひゅん!!

「がっ……!?」

 寸前で風を切る音が鳴り響いたかと思ったら、衝撃と共に、カナメの身体は横殴りに吹き飛ばされる。
 と同時に、炎槍は、カナメが元いた地面に着弾して爆発―――周囲に爆風を巻き起こすも、カナメはどうにか難を逃れることになった。

「すまないな、霊夢」
「――ったく、さっきまで死にかけていたくせに、あんた無茶しすぎよ」

 カナメを救ったのは霊夢だった。
彼女は急降下で飛来すると、カナメを突き飛ばし、間一髪のところで彼を救ったのである。

「蟲共が……。」

着地したヴライは、その双眸で二人を捉えると、再びその手に炎槍を顕現。
間髪入れずに、その即席の砲弾を叩き込まんと、振りかぶるが―――。

「結局―――」
「……ッ!?」

 ヴライの視界の隅、瓦礫の山の頂から、ひょっこりと金髪の少女が、現れたかと思うと―――。

「ムキムキのおじさんは、隙だらけって訳よぉっ!!」

ヴライ目掛けて”何か”を宙高く放り投げてきた。
その少女、フレンダが投げつけてきたのは一つの人形―――。
しかし、宙より迫るその造形に、ヴライは目を見開く。
先程のブチャラティとの戦闘において、ブチャラティが追撃手段として用いた人形爆弾であったからだ。
流石に即死とまではいかないものの、その威力は、先程の戦闘で痛感させられている。


632 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:18:49 TmvJAGMw0
「下らぬ小細工をッ……!!」

故に無視することも出来ず。
手に握る炎槍を、人形爆弾を撃墜すべく、天に向けて投擲する。
豪速の炎槍は直進。降りかかる人形爆弾を貫かんとしたその時――。

ひらり

「ぬぅッ!?」

自然法則に従いながら、放物線を描こうとしていた人形爆弾―――その軌道が突如として変化。
まるで意思を持つ生物のように、不自然な軌道を描いて、炎槍を回避すると、再び落下してくる。
あまりにも不可解な挙動に、ヴライは、眉を顰めるも、続けてもう一撃、投擲を行う。
しかし、人形はふわりと重力に抗う形で、左上へと浮上し、これを回避。
そのまま、真っ直ぐにヴライの元へと落下してくる。
ヴライはバックステップで躱そうとするが、それに追尾する形で人形も追従する。

「だ、脱出でフ〜〜〜!!」

 やがて、人形から、小さな影が飛び出すのとほぼ同時に、人形はヴライの顔面に着弾。

ボ ン ッ!!

爆音が鳴り響くとともに、ヴライの顔を覆うように黒煙が立ち込める。

「ぐふぅっ……!!」

しかし、顔面への爆撃を受けても尚、ヤマト最強は、膝をつくことはない。
 顔を覆う程度の爆発では致命傷にはならず。しかし、爆発の衝撃でその巨体は後退する。


刹那―――。

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「―――ッ!!?」

ヴライに襲い掛かる、銃弾と針の雨あられ。
カナメが機関銃を乱射し、霊夢が封魔針の弾幕を放ち、血飛沫と肉片が飛び散っていく。
一発一発はそれほどの致命傷には足らないが、数の暴力によって、確実にヴライの身体を―――、命を削っていく。

ヴライは咄嗟に、全身から炎を噴出。
ヴライの全身に纏わりついた炎は、障壁として、弾丸と針の前に立ちはだかる。
しかし、高速で飛来するそれらを完全に消し去るまでには至らず、弾幕の威力を弱めるまでに留まり、尚もヴライの身体は削られていく。

―――まず、あの二人を屠る

炎の鎧を展開しながら、ヴライが不屈の闘志を燃やし、標的を定めた直後。

「今だ、フレンダぁあああああああっーーー!!!」
「えぇいっ、分かってるって訳よっ!!」

カナメの叫びに呼応するかのように、瓦礫の山の上に立っていたフレンダはやけくそ気味に、大量の人形爆弾を宙に放り投げる。

「結局、おじさんには恨みはないけど―――」

爆弾の雨は、ヴライ目掛けて一直線に降り注いでいく。
落下するぬいぐるみと、瓦礫の頂にいる自身を、凄まじい眼光で見上げてくるヴライ。

「私が生き残るために犠牲になってもらう訳よ!」

そんな彼に、フレンダは冷や汗とともに、無理やりな笑みを取り繕う。

「Ha det bra(サヨナラ)!」


633 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:19:12 TmvJAGMw0

別れの言葉を告げると同時に、爆弾の雨は次々と着弾。
爆音が轟き、爆風が吹き荒れ、爆炎がヴライの巨体を覆っていく。

「ぐぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」

 弾丸と弾幕と爆弾の波状攻撃を喰らい続け、ヴライは雄叫びをあげる。
 身体中からは、血液が弾け、焦げた匂いが漂ってくる。

「――力だ……、我に力を……」

 ヤマト最強に迫り来る終焉の気配。
 しかし、ヴライはその双瞳から戦意を失うことはない。
 此処でその屍を晒す訳には行くまいと、寧ろ、更にその闘志を増していく。

「――仮面(アクルカ)よッ!!」

漢は、その掌を己が仮面へと翳す。
敬愛する者から下賜されたそれは既に亀裂が入っており、著しい損傷が見受けられる。
しかし、漢はそれに願い、求める。
この窮地を覆す力を―――。

「我が魂魄を喰らいて、その力を差し出せ!!」

瞬間――、ヴライの肉体から、更なる紅蓮の業火が噴出される。
それは謂わば、漢の生命そのもの―――。
魂魄を代価として、その身に宿した、過剰強化。

「――ぬぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

カナメ達の一斉攻撃を一身に纏いながらも、ヴライが、獣のような雄叫びを上げる。
全身の熱気は彼の掌に集約され、これまでと比較にならないほどの大きさの炎槍が顕現されていく。

「――滅せよッッ!!!」

刹那――、その腕が振り下ろされると共に、炎槍が解き放たれる。
"窮死覚醒"―――死に瀕することで発現する火事場の馬鹿力と、仮面による力の解放が相乗効果を生み出し、何倍にも膨れ上がった火力を宿したそれは、ミサイルのようにカナメ達の足場へと飛来する。

「ヤバっ!!」

霊夢は即座に弾幕を中断。
隣にいるカナメを体当たりするような形で、掴み上げると、その場から退避しようとする。

「……ッ!?」

しかし、二人が安全圏に逃れる前に、炎槍は着弾。
戦場に、かつてない程の爆炎が生じ、大地を揺るがすような振動が発生したのであった。


634 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:19:34 TmvJAGMw0



 たったの一撃―――。

たったの一撃を以って、趨勢は覆され、勝敗は決した。

先程まで銃撃と爆音が木霊していたD-6エリアは、静寂に包まれている。
まるで隕石の衝突を想起させるようなクレーターが戦闘の爪痕として残り、あちらこちらに炎と黒煙が漂っている。
 かつて病院だった建物は、既に三階、四階部分が破壊されていたが、今回の爆炎の衝撃により、その敷地の半分が瓦礫に沈んでしまった。

ズン ズン

 そんな戦場に背を向けて、遠ざかる人影が一つ―――。
身体に無数の銃痕と火傷を帯びたヴライは、かの地には、誰一人立ち歩くものがいないことを悟ると、次なる戦場に赴くべく、重厚な足音と共に、歩を進めていた。

「……ッ!! ぬぅう……!!」
 
 しかし、カナメたちの猛攻を受け続けたダメージは、決して軽くはなく、一歩踏み出す度に、ヴライの身体は軋むように悲鳴を上げている。
 一時は、フレンダから奪い取った薬草によって、身体の傷を癒したものの、その後のカナメたちとの交戦によって、再び満身創痍となっていた。
 ポタリポタリと、鮮血は零れ、彼の筋骨隆々とした肉体を紅色に染めていき、その様相はまるで赤鬼を彷彿させる。
 そのダメージに比例するかのように、彼の面貌を覆う仮面(アクルカ)の亀裂も拡がっており、砕け散るのも時間の問題のように見受けられる。

しかし、それでも尚―――。

「足らぬッ……。まだ、このヴライを終わらせるには足らぬぞッ……!!」

 全ては、あの御方が遺された國のため。
 そして、あの御方の忘れ形見を屠った、その宿業を背負って。

 最強の漢は、歩みを止めず。
 その深紅の双眼から、闘志の炎が消えることはない。


【E-5/夕方/山林地帯/一日目】
【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:ダメージ(絶大)、疲労(絶大)、額に打撲痕、左腕に切り傷(中)、火傷(絶大)、頭部、顔面に複数の打撲痕、右腕に複数の銃創、シドーに対する怒り、顔面に爆破による火傷、全身にガラス片による負傷、全身に銃弾と針による負傷
[服装]:いつもの服装
[装備]:ヴライの仮面(罅割れ、修理しなければ近いうちに砕け散る)@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ
[思考]
基本:全てを殺し優勝し、ヤマトに帰還する
0:次なる戦場へと向かう
1:あの男(シドー)もいずれ殺す
2:アンジュの同行者(あかり、カタリナ)については暫くは放置
3:オシュトルとは必ず決着をつける
4:デコポンポの腰巾着(マロロ)には興味ないが、邪魔をするのであれば叩き潰す
5:皇女アンジュ、見事な最期であった……
6:あの術師(清明)と金髪の男(静雄)は再び会ったら葬る。
[備考]
※エントゥアと出会う前からの参戦です。
※破損したことで、仮面の効能・燃費が落ちています。
※『特性』窮死覚醒 弐を習得しました。


635 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:20:24 TmvJAGMw0



「――なるほど、紅魔館には垣根帝督という男と、その知り合いの女がいるってことね……」
「……でフ……」

病院から南に離れた平地にて、ビエンフーの頭を鷲掴みし、尋問していたのは咲夜。
 彼女は、カナメ、フレンダ、霊夢の三人による一斉攻勢が始まる前に、既に病院から離脱を果たしており、先程の大爆発に巻き込まれることなく、事なきを得ていた。
 その後、爆風によって吹き飛ばされてきたビエンフーを鹵獲すると、こうして彼の知りうる情報を吐き出させていたのである。

「ボ、ボクをどうするんでフか?」

一通りの情報を吐き終えた後、ビエンフーが震え声でそう言う。
 ビエンフーからすると、自分は咲夜と敵対していた霊夢達に肩入れしていたこともあり、このまま殺されるのではないかという不安があったのだ。
だが、咲夜はそんな彼を掴んでいた手を離すと、こう言った。

「別にどうともしないわ。どこへなりとも行きなさい」
「――へっ?」

 あまりにもあっさりと解放され、拍子抜けとなるビエンフー。
 解放されたというのに、どこか釈然としない様子だった。
そんな彼に、咲夜は鋭い眼光を浴びせる。

「さっさとどこかに消えてくれない? それとも、何?
ここで始末されるのがお望みだったかしら?」

懐から銀色の得物をチラつかせた咲夜に、ビエンフーは「ビエ〜ン!!!」と甲高い悲鳴を上げると、慌ててその場から逃げ出した。

「……ふぅ……。」

ビエンフーの背中を見送ると、咲夜は小さな溜息をつく。

カナメやフレンダはともかく、ビエンフーはまず参加者ではない。
霊夢達に手を貸していたのは事実だが、此処で殺したところで、何のメリットもない。
仮に始末しようとして、暴れて抵抗でもされると、余計な体力を浪費することになる。
 故に、彼女は敢えてビエンフーを逃すことにしたのだ。

(……垣根帝督、ね……)

ビエンフーの言葉を思い出しながら、咲夜は次なる目的地について思案する。
病院では、霊夢に釣られる形で無茶をしてしまったものの、冷静になって考えれば、今の自分に連戦はご法度だ。
初手でカナメやフレンダを仕留めきれなかったのも、片目を損失し、精彩さを欠いていることを鑑みると当然の帰結だろう。
体力もそろそろ限界―――この状態で更に戦闘を行うのは極力避けるべきだ。

 なればこそ、まずは何処かで身を休めることが優先される。
 その候補地として、まず思い浮かぶのが紅魔館―――。
 ビエンフーの話によれば、垣根帝督という「乗っていない側」の人間と、その知り合いと思わしき女が腰を据えているらしい。
 先程のヴライのような無差別に襲ってくるような輩でないのは、ありがたい話ではあるが、交渉の余地があるのかについては何とも言えない。

(―――どうする……?)

 悩める咲夜が、次なる目的地として定めたのは―――。


636 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:20:44 TmvJAGMw0
【E-6/夕方/市街地/一日目】

【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(絶大)、全身火傷及び切り傷、全身にダメージ(絶大)、右目破壊(治療不可能)
済み)、腹部打撲(処置済み)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:咲夜のナイフ@東方Projectシリーズ(2/3ほど消費)、懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ 、罪歌(デュラララ!!)
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:紅魔館に行き垣根達と接触すべきか、それとも別の場所に行くべきか決断する。
1:まずは、身体を休める。
2:今後のことを見据え、遭遇する参加者については殺せる機会があれば殺すが、あまり無茶はしない。
3:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
4:博麗の巫女は、死んだと見ていいかしら?
5:マロロに関しては協力する素振りをしながらも探る。最悪約束を反故するようであれば殺す。...生きているかも怪しいが。
6:余裕があれば完全版チケットとやらも探す。
7:ヴライに、最大限の警戒。
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
※オスカー達と情報交換を行いました
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全には分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ビエンフーからこれまでの経緯を聞きました。
※どこの施設に向かっているかは次の書き手様にお任せします。


【ビエンフー@テイルズオブベルセリア】
[状態]:体力消耗(大) 、垣根と契約中、マギルゥ死亡による喪失感
[思考]
基本:皆と共に脱出を目指す
0:これからどうするべきでフか……
1:カナメさん達が心配でフ
2;垣根さん達に会うのは、少し気まずいでフ
3:姐さん……。


637 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:21:12 TmvJAGMw0



鼻腔に突き刺す焦げた匂いに、バチバチと燃え上がる炎。
『災害』が立ち去った戦場の様相は、炎獄と呼ぶに相応しいものとなっていた。
そんな戦場に積み上げられた瓦礫の陰から、飛び出す影が一つ―――。

「ぐぅ……畜生っ……!!」

カナメは痛む身体を庇いながら、どうにか歩き出す。
 そして、ある程度歩を進めた後、後ろへ振り返ると、物言わなくなった”彼女”に別れを告げた。

「……すまない、霊夢……」

霊夢は全身を焦がして死んでいた。

あの瞬間―――彼女はカナメを抱えて、爆心地から退避しようとした。
しかし、爆炎の威力は想像を絶するものがあり、カナメという重荷を抱えたままでは、その勢いから逃れること叶わず。
 そして、二人が業火に飲み込まれんとした刹那、彼女は弾幕を飛ばす要領で、カナメを吹き飛ばしたのだ。

『―――。』

 それはコンマ秒で行われた出来事―――宙に投げ出されたカナメは、彼女が口を開いて、言葉を紡いでいたのを目にした。
しかし、その声は災害の音によって搔き消され、彼女の最期の言葉は届かず―――最終的に、カナメは助かり、彼女は死んでしまった。

―――取り返しのつかない失態だ……

カナメの脳裏には後悔の文字しか浮かばない。
物に取り憑くことができるというビエンフーの能力を活かした、人形爆弾での爆撃――。
 そこで生じた隙をついて、機関銃と霊夢の弾幕による一斉掃射――。
 そして、カナメの異能(シギル)によって複製された人形爆弾の雨――。

 即席とはいえ、三人の連携は、確かにヴライを追い詰めていた。

だが、結果はこれだ。
たった一撃――。それでいて、あまりにも理不尽すぎる一撃によって、全てを覆されてしまい、カナメ達は敗北したのである。

 失意と圧倒的な絶望の中、カナメは瓦礫の山を徘徊する。
 すると、視界の隅で、蠢めく影があり、彼はふらりとそちらに歩を進める。

「……カ、ナメ……」
「フレンダっ!? 無事だったのか!?」

そこには、瓦礫の下敷きとなったフレンダの姿があった。
どうやら、爆発の余波を受けて吹き飛ばされた際、運悪く下敷きとなってしまったようだ。
彼女のしぶとさに呆れ半分、安堵半分といった感情を抱きつつ、カナメは彼女の元へと駆け寄る。

「……お願い……助けて……」
「少し待ってろ、今どかしてやる」

掠れた声を上げるフレンダを助けるべく、カナメは彼女を押し潰す瓦礫の山々に手にかける。
しかし、個々の瓦礫は相応の質量を誇り、それが何重にも積み重なってしまっているため、一筋縄ではいかない。


638 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:21:36 TmvJAGMw0
「ねえ……早く……助けてよ……。
身体の、感覚が……もう、ほとんどなくて……こ、のままじゃ……」
「分かってる! もう少しだけ辛抱してくれ!」

フレンダの声は徐々に弱々しくなっていく。
焦燥感と苛立ちを募らせながら、カナメは必死になって、彼女を救出せんと手を動かす。
 そんなカナメに、フレンダは急かすように言葉を紡いでいく。

「……嫌ぁ……死にたくない……。
こん、なところで……終わりたくなんか……ない……」

 内臓が押し潰されているのだろうか、口からは血が溢れている。
 呼吸もままならないのか、時折ヒューヒューという音が混じる。
 顔色も見る見るうちに青ざめていく。
 カナメも事態が逼迫しているのを感じ取っていた。
 だからこそ、より一層の力を込めて、瓦礫を持ち上げようと試みるが――。

「……お、願い、カナメ……助け―――。」

 助けを求める少女の声はここで途切れた。

「……っ!? おい、フレンダ……?」

カナメは、フレンダの方へ目を向ける。
彼女は目を見開いたまま、カナメを見つめていた。
その瞳には、光は宿っておらず、一筋の涙が頬を伝っている。
 血に濡れた彼女の唇が、もう動くことはない。
 
フレンダ=セイヴェルンは、絶命したのだ。
それは紛れもない現実であり、決して取り消すことはできない事実であった。

「―――俺のせいだよな……」

 カナメにとって、フレンダ=セイヴェルンはそこまで親しい人間はなかった。
 むしろ、ここまでの所業を鑑みると、印象はかなり悪い方だ。
 それでも、自分が立案した作戦に彼女を巻き込んで、その結果死なせてしまったという事実に、カナメは罪悪感を覚えずにはいられなかった。

「――クソっ……!!」」

唇を噛み締め、拳を地面に叩きつけるカナメ。

振り返ってみると、魔理沙にしても、Storkにしても、霊夢にしても、フレンダにしても、彼は、同行者を悉く失ってしまっている。
その事実が、彼の心に重くのしかかっている。

 あの時―――王にシノヅカを殺された時、彼は「殺す覚悟」を決めた。
 しかし、その過程で生じるであろう「仲間を失う覚悟」は出来ていなかった。
 現に、彼は霊夢とフレンダの死に対して、悲嘆と責任を露わにしている。
 非情になると決意はしたものの、仲間の死を割り切れるほど、カナメは非道にはなりきれなかったのだ。

殺し合いの場を照らしていた陽は、まもなく沈む。
それはまるで、独りぼっちとなったカラスの心を映すかのように―――。


【博麗霊夢@東方Project 死亡】
【フレンダ=セイヴェルン@とある魔術の禁書目録 死亡】


639 : 夕暮れのかなたから ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:22:04 TmvJAGMw0
【D-6/夕方/病院付近/一日目】
※戦闘の余波で、病院の敷地の半分は破壊しつくされましたが、「身体ストック室」を含む一部エリアは現存しております。

【カナメ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、王とウィキッドへの怒り、全身打撲(小)、肋骨粉砕骨折(処置済み)、全身火傷(治療済み)、シュカの喪失による悔しさ、虚無感、ダメージ(小) 、胸部に刺傷(回復済み)、霊夢とフレンダの死による失意と罪悪感
[服装]:いつもの服装
[装備]:白楼剣@東方Project
[道具]:白楼剣(複製)、機関銃(複製)、拳銃(複製)、基本支給品一式、不明支給品2つ、救急箱(現地調達)、魔理沙の首輪、Storkの首輪、Storkの支給品(×0〜2)
[思考]
基本:主催は必ず倒す
0:俺は―――。
1:回収した首輪については技術者に解析させたい。
2:【サンセットレーベンズ】のメンバー(レイン、リュージ)を探す。今は初期位置しか分からないリュージよりも近くにいるレイン優先。
3:王の奴は死んだのか……そうか……
4:ウィキッドのような殺し合いに乗った人間には容赦はしない。
5:無力化されたようだが一応ジオルドを警戒
6:折原を見つけたら護る。
7:絶対にウィキッドを殺す。
8:爆弾に峰があってたまるか!
9:ヴライを警戒。
[備考]
※シノヅカ死亡を知った直後からの参戦です
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、霊夢、竜馬と情報交換してます。
※ブチャラティ(真)と梔子達と情報交換をしました。二人のブチャラティ問題に関しては保留にしています。


640 : ◆qvpO8h8YTg :2023/04/22(土) 18:22:27 TmvJAGMw0
投下終了します。


641 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/08(月) 23:34:51 RxNzJYBY0
十六夜咲夜、ムネチカ、垣根提督、麦野沈利、夾竹桃で予約します


642 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:28:53 DS2QsBk20
前編だけ先に投下します


643 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:31:30 DS2QsBk20
「で、お前らの用件ってのはなんだ」

館に入るなり、垣根はソファに背中を預け傲慢さを表すかのように足を組み座る。

「俺を殺してーだろう第四位(オマエ)がわざわざ招き入れたんだ。つまらねえことじゃねえだろうとは思うが」
「...あぁ、そうね。回りくどいのはナシで単刀直入に言わせてもらう。あたしらと手を組め第二位。このゲームの主催に勝ちたいなら猶更な」

対して麦野は、垣根の向かい側のソファに腰かけ、両膝を開いて座り、前かがみに背を丸めつつもその眼光を鋭く光らせる。
先の失言のような愚はもう犯さない。そんな意思が込められているようにも思える。

「まあ、そう来るよな。で、目的は?」
「このゲームの盤面をひっくり返す———だけじゃねえ。その前に、レベル6級にも対抗できる力が要る」
「あぁ?」
「生まれたのよ。この会場で、それに匹敵する魔王が」

麦野は垣根に説明する。
ベルベットが変貌し、格段に力を増したこと。
原子崩しすら食らい、数多の異能を喰らいつくさん存在になり果てたことを。

「あいつから聞いたのとさして違いはねえが...なるほど。確かにただの伝聞じゃあその規模まではわからねえか」

垣根は予めライフィセットから魔王ベルセリアの存在を聞いてはいたが、しかしそれはあくまでもライフィセットの主観でしかない。
特にベルベット・クラウに思い入れの強い彼からの情報ではどうしても正確さに欠けてしまう。
学園都市の暗部にまで根を張る麦野沈利が言及してこそその脅威も正しく窺い知れるというものだ。

「お前の言い分を信じるなら、第一位以下の第二位(オレ)と第四位(おまえ)じゃ個々で挑んでも勝てねえから、一旦協力してそいつを排除しようってことか」
「......」
「まあ、理に適ってるわな。世の中、ただ一人だけが強ければ全てまわるわけじゃねえ。だから俺もお前も『スクール』だの『アイテム』だの組織を作ってんだ。てめえの案も間違っちゃいねえ———俺を見下してるって点を除けばなァ」

刹那。

今まで余裕すら浮かべていた垣根の顔から笑みが消え、室内は冷え切った殺意に包まれる。


644 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:32:13 DS2QsBk20

「ご、ごしゅじん...」
「...大丈夫よ」

子猫のように身を縮ませるムネチカを労わるように夾竹桃は冷や汗をかきつつも頭を撫でてやる。

「なあ、知ってんだろ?順位は能力研究の応用が生み出す利益が基準に決められている。つまり戦闘面は二の次ってことだ。
席が三つ離れてるテメェならいざ知らず、俺と第一位(あいつ)に大層な壁は存在しねえし、そもそもてめえが俺を同格に見てる時点で舐めてんだよ」

学園都市レベル5には人格破綻者が多い。
彼らには彼らなりの倫理や理性があれど、そのぶん感情的にもなりやすく、とりわけ共通しているのはプライドが高いことである。
絶対の自負から構成される強力な能力。暗部に関わるが故に歪みやすい人格。
故に、時折、第三者からは幼稚にも見える言動をとることもある。

「もう一度聞くぜ第四位。格下のてめえが、俺に、どうして欲しいって?」

顔には笑みが戻っているが、その殺気は隠すまでもなく告げている。
返答次第ではこの場の三人を纏めて殺す、と。

そんな身を凍らす殺意に晒される張本人である麦野は。

「何度でも言ってあげるわよ。あたしたちで、レベル6を超えてやるって言ってんのよ。言い訳並べて『強い子には逆らいたくありませ〜ん』ってケツまくりたいなら話は別だけど」

冷や汗ひとつかかずに、平然と言ってのけた。


645 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:32:37 DS2QsBk20

麦野も理解している。
垣根提督の力は本物であり、また、魔王ベルセリアにも自分一人では勝ち目がないことを。
しかしだからといって及び腰になりはしない。なるつもりもない。
交渉とは相手に組む価値があると思わせること。
例え虚勢でも対等に取引が出来ると思わせなければ成立しない。
力関係が偏ればそこから始まるのはただの搾取だ。
故に。
麦野は己のプライドをそのままチップに乗せ、第二位に手を組むに値すると己の価値を示した。

シン、とした静寂に包まれる。

沈黙が流れたのは数秒か、数分か。

やがて口火を切ったのは、垣根提督。

「...いいぜ。てめえのその挑発に乗ってやる」

交渉は成立した。
垣根は、別に麦野の言葉に思うところがあったわけではない。
むしろ、これくらい強気で来なければ交渉を結ぶつもりなどなかった。
なんせ彼女が相手にしようとしているのは神の領域にも等しい世界だ。
その彼女が、レベル6よりは格下の自分に情けなく縋りつくほどに心を折られていれば組む価値などあるはずもない。
それならば、大きく能力が劣っていても、折れぬ心を持つブチャラティのような人材の方がまだ可能性がある。
だが麦野は屈さなかった。
レベル6という高い壁にも、目の前の第二位という脅威にも怯むことなく、その先を見据えた上で胆を据わらせてみせた。
故に垣根は同盟を呑んだ。
例え虚勢だったとしても、組む価値があると判断したのだ。

「同盟成立ね。...戦力が増えるのは喜ばしいことにしても」

横で見ていた夾竹桃は、チラと横目で垣根を見て、小さくため息を吐いた。

「どうせなら女の子がよかったわね...」


646 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:33:00 DS2QsBk20


「結局、最初からこっちにむかっておくべきだったかしらね」

十六夜咲夜は、紅魔館へ向かうことにした。
ゲームに乗っていないという垣根の存在もそうだが、身体を休めるなら自分の知る施設の方が落ち着くだろうと考えてのことだ。
破壊神とジオルド、そしてヴライとの連戦は消耗が激しすぎた。
これ以上の休養を挟まぬ戦闘は死を意味する。
かといって組みやすい連中———神隼人たちは病院にも向かっていなかったことからどこにいるかがわからないし、ジオルドの襲撃から生き延びた黄前久美子は論外。荷物を増やすだけなら組む価値もない。
故に、交渉さえできれば戦力を確保できる紅魔館を選んだのだ。

(最悪、交渉が決裂しても...コレを使えば戦闘は避けられるかもしれない)

妖刀・罪歌。
志乃から回収したこの刀で斬りつければ、洗脳、あるいは隙を生んでの逃走はできるかもしれない。
できれば使いたくないと思いながらも、咲夜の足は紅魔館へと進んでいく。


647 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:35:14 DS2QsBk20


「ねえ、そういえば不思議だったのだけれど、どうしてベルベットを倒す前提で交渉を進めたのかしら?」

夾竹桃はふと抱いた疑問を麦野に投げかける。
ベルベットは同盟相手であり、いまも岩永琴子を連れてくるお使いを頼まれてくれた間柄だ。
麦野とベルベットの間に決定的な亀裂が走ったのならばいざ知らず、別れる直前にもそういった素振りは見られなかった。

「確かに私たちが結んでいるのは今生を共にする姉妹の契りではなく同盟。破棄するのはいつでもできる。でも、あの子にとってもまだ私たちを切り捨てる理由はないんじゃなくて?」
「...てめえはエロ本読みすぎて思考回路までピンク色になっちまったか?」
「エロ本じゃないわ同人誌よ。それに私はアダルトだけではなく健全本も嗜む正当な作家」
「どっちでもいいわ。あたしが言いたいのは、もうあいつはいつでも同盟を切っていい下地が出来上がってるってことよ」

いいか、と言葉を挟み麦野は夾竹桃にもわかるよう順を追って説明していく。

「第一に、あんたの頼んだお使いだ。あの集団がまだ固まっていて、且つ岩永琴子を攫ってくるのに苦戦してくるならいい。失敗してくるならまだマシだ。
だが、あいつは確かに『あのくらいなら一人で片付く』って言った。可笑しな話だよな、つい数時間前に殺されかけたやつの台詞じゃあねえ」

先の駅での戦いにおいて、ベルベットは失神するまでに追い詰められた。その相手は主催の連中でも複数にかかられた訳でもなく、冨岡義勇ただ一人。
無論、一度の勝負で優劣が全て決められるわけではない。麦野自身、それを認めていないから浜面へのリベンジに執着していた。
ベルベットもまた同じ条件で、且つ相手の手札を知っている状態から戦闘を始めれば結果は変わるだろう。
だが、それでも甘く見積もって義勇はベルベットと真っ向からやり合える力を持っているのは事実。
その中に戦闘に長けた者があと二・三人もいればどう足掻いても苦戦は必至。それがわからない女ではないだろう。
その彼女が一人で片付くと断言してみせた。感情任せではなく、だ。

「それを余裕で潰してみろ。あいつはこう思うはずだ『なんだ、この力でさっさと優勝した方が楽じゃん』...ってな。
そうすりゃ別に岩永琴子を攫う約束なんて守る必要もねえし、なんならあたしらも食らっちまった方が早えだろうが」
「ふむ、言われてみればそうね」
「第二にこの現状だ。あいつが飛んでってから、あたしらになにか発見はあったか?」
「それはもう、多種多様な友情の形を発見できたわよ。近親、快楽責め、従者の秘め事、私の趣味からは外れるけれどムネチカの紹介してくれたBL...」
「それが答えな」
「説明不足」
「分かれよ殺すぞ」

そう。ベルベットと別れてから、彼女たちは何も進められていない。
首輪の本質は既にベルベットも知っているし、緊急解除コードも結局わからずじまい。
どの道、主催がわかりやすい施設にわかりやすいヒントを隠している筈もないため、百合本を読み漁っていた夾竹桃とムネチカに全ての責があるわけではないが、少なくとも、面倒なお使いを頼まれて達成してきた結果、『同人誌を堪能してたらこんな時間になりました☆』なんて返されようものなら殺意を抱かれても何の反論もできない。あまりに正当な動機である。

「ってわけで抑止力は必要なのよ。わかった?」
「...そうね。その点については反省するべきね」

「お前がなんであんなトチ狂ったことを口走ったかわかってきた気がするぜ原子崩し。で、ムネチカだっけか」


648 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:35:50 DS2QsBk20
突如呼ばれた名に、ムネチカはビクリと身を震わせ夾竹桃に助けを請うように身を寄せる。

「なにがどうなってこいつらと行動してるかは知らねえが、和解してたんなら話が早え。ライフィセットの奴が心配してたぜ」
「!ライフィセット、どのが...」
「放送を聞いてなかったか?あいつならまだ生きてるぞ。病院でブチャラティって奴らと一緒に会った」
「そう、ですか...」
「...あぁ?」

喜びも驚きもせずしおれていくムネチカの様子に、垣根は眉を潜める。
ライフィセットからもブチャラティからも、ムネチカは身を張ってライフィセットを助けたと聞いている。
そんな者の生存を知れば、喜ぶことはあれど萎える要素などないだろう。
始めは夾竹桃がライフィセットの存在を人質にでも取って脅したのかと思っていたが、どうにもおかしい。
ここに至るまでムネチカは夾竹桃の指示にも一切の嫌悪も反抗の意思も見せていない。
それどころか従順な下僕のような振舞を見せている。

「なあ、こいつになんか嗅がせたのか?」
「あたしに聞くな。事情ならこいつに聞け」
「嫌なことを、辛い現実を忘れさせてあげただけよ」

話を振られた夾竹桃はあっさりと己の施したことを自白する。
ムネチカを拘束した後、護れなかったという事実と自責の念を解すように媚薬やら少量の毒やらを注入したこと。
それに伴い彼女の自我が崩壊したこと。
念には念を入れて、共に百合同人誌を読み漁ることで彼女の嗜好を自分の色に染め上げたこと。

「わかったでしょう?私は別に無為に時間を浪費していたわけではないのよ」
「わかったけどわかりたくなかったわ」
「とどのつまり、こいつはもう戦力としては宛てにならねえってことだな?」
「...否定はできないわね」

ムネチカの本来の強さは電車での戦闘からそれなりには知っている。
肉弾戦に限ればこの四人の中で一番長けているだろう。
だが、それも彼女のこれまでの経験値が無ければ無用の長物。
今の彼女は夾竹桃が頼めば戦闘はしてくれるだろうが、本来のパフォーマンスを発揮するのは到底不可能だろう。

「で、魔王とやらに食われれば能力を吸収されちまうんなら———こいつはさっさと首輪に変えちまった方がいいんじゃねえか?」

ジロリ、と向けられる垣根の視線に、ムネチカは再びビクリと身体を震わせる。
首輪に変える。それは即ち、ムネチカへの処刑宣告に他ならない。

垣根は主催に反抗する立場ではあるが、しかし不殺主義ではない。
己の邪魔をする者には一切の容赦はしないし、必要ならば殺害も躊躇いが無い。
垣根としては、いまのムネチカを戦力として数え魔王に情報を食われるリスクをとるよりは、さっさと首輪のサンプルを増やしてしまった方が己の利になると考えた。


649 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:36:47 DS2QsBk20
ムネチカは震えながらも恐る恐る麦野と夾竹桃、二人の同志へと目を遣る。

「あたしとしても賛成だ。こんなフレンダ以下のカスに命を預ける気なんてさらさら起きないし、サンプルが増えるに越したことはないし」
「私は反対だけれど...2対1ならいくら反対しても無駄よね」

味方はいなかった。
その事実にムネチカの表情は絶望に染まるも、しかし泣き出すことも怒ることもなく。
ただただ全てを投げ出したかのように、脱力するのみだった。

「っつーわけで、だ。なんか言い残すことは?」

垣根は未元物質の羽を展開し、ムネチカの喉元へと突きつける。
ムネチカは弱弱しく「ひっ」と喉を鳴らすも、受け入れるように一切の抵抗もしなかった。

「ご主人様」

生気の籠らない青ざめた顔で。
一切の光籠らぬ死んだ目で。
それでもムネチカは夾竹桃へと顔を向け、引きつり強張った微笑みを浮かべ告げる。

「私のようなものを赦してくださり、ありがとうございました」

その言葉を聴いた瞬間、夾竹桃の目が見開かれる。



(ダメだなこりゃ。もう芯まで腐ってやがる)


一方の垣根は心底呆れたようにため息を吐く。
垣根としては、ここでムネチカが再起の兆しを見せるなら別にそれでよかった。
死にたくないと自衛に走り反抗するのもまだ許せた。
だが、いまのムネチカは自分の命どころか、護ろうとしていたライフィセットのことすら蚊帳の外。
ただ苦しいことから解放されたいと縋るだけの愚物だ。
ここまで腑抜けているならやはりサンプルにしてしまおう。

そう決断し、羽を突き刺そうとしたその時だ。


「あー...取り込み中だったようね」

ガチャリ、と扉を開けるのと同時、そんな気まずそうな声が一同の注目を集めた。
声の主は、十六夜咲夜。


650 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:37:42 DS2QsBk20


「貴方が垣根提督でいい?」
「誰から聞いた」
「変な帽子を被った変な生き物から」
「あー...あいつか」
「争いたくて来たわけじゃないけれど、出直した方が良いかしら」

垣根は横目でチラ、とムネチカを見やる。
やはりと言うべきか、未だに腑抜けたままであり、垣根の中での彼女の価値は変わらない。
しかしここでムネチカを殺すことに賛同するか分からない者に殺害現場を見せつけて余計な諍いを持ち込むのもいただけない。

「別に構わねえよ。話があるならどーぞこちらに」

垣根はムネチカに突きつけていた羽を仕舞い、咲夜を招き入れる。
緊張感から解放されたことで力なく膝を着くムネチカへ夾竹桃が肩を貸し立ち上がらせる。
咲夜は垣根の誘いに従い、向かい側に座ろうとする。
そのソファは麦野が座っている席だが、いまの満身創痍な咲夜を見れば彼女は自然に席を譲った。

「で、用件は」

咲夜が座るなり、そう垣根は切り出す。

「見ての通りよ。消耗が激しいから休憩したいというのと...垣根提督。貴方と手を組みたい」
「またかよ。俺は慈善活動愛好家じゃねえんだぞ」
「もちろんただじゃないわ。貴方の知らない情報を教える。そのうえでどうするかは決めればいいわ」
「聞かせてみな」

咲夜は話す。
術師・マロロと手を組んだ後、炎獄の学園でひと悶着あったこと。
その後、映画館で情報収集し、転送装置で離れたエリアまで飛んできたこと。
破壊神と根源たる神との戦い、そして病院での災害との戦いを。
もちろん、自分たちはあくまでも殺し合いには乗っていないと脚色を加えているが。

「...あながちあたしの考えも的外れじゃなかったようね」

麦野の考察した『蒐集の器』。
それはたまたまベルベットがそう覚醒したというのが彼女の考えだが、普通に考えるならそこで終わらない。
最初から彼女一人がその資格を有していた?いいやそんなはずはない。
義勇とベルベットの戦いの折、夾竹桃があと数秒到着するのが遅ければベルベットは死んでいた。
もしも彼女一人がその器の資格足り得るものだとしたら、その時点でとん挫する計画など実践価値はないだろう。
それなら予め全参加者に、せめて他の一部の参加者にもその資格があったと考えるのが自然だ。
魔王どころか神まで出てくればそう思わざるをえない。

麦野が自説に確信を抱きつつ思考する一方で、垣根は咲夜に向き直る。

「面白い情報提供には感謝してやるよ。だがそれで俺たちと手を組むのはちょっと対価が足りないと思わねえか?」
「どういうことかしら?」
「ゲームに乗ってズタボロにされてきた奴を受け入れてやろうっていうんだ。お前がそれに値する能力がなけりゃあ組んでやる理由もねえだろ」


651 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:38:16 DS2QsBk20

垣根の指摘に咲夜は思わず息を呑む。
彼女は決して馬鹿ではない。
己の話の中で矛盾が起きないよう順序を組み立て構築したはずだ。
だが、垣根の目には微塵も迷いはなく、確信をもって咲夜を乗った側だと判断している。

「...どうしてそう思うのかしら?」
「簡単な話だ。お前が俺の事を聞いたってビエンフーってやつがいねえ。あいつはお前を信用できるならくっついて動くだろうよ。
それがいねえってことはあいつはお前から俺の事を無理やり聞き出されて殺されたか、あるいは俺の不利益になる事を話したのをビビッて逃げ出したかの二択になるっつーことだ」
「...!」

しくじった、と咲夜は素直にそう思った。
あの場で無駄な消耗を避ける為にビエンフーを逃がしたのは悪手だった。
せめて脅しでもして連れ歩けばよかったと今更ながらに後悔する。

「だが安心しな。俺たちは正義の味方なんかじゃねえ。むしろ自分の目的の為ならなんでもやる悪党共だ。お前がゲームに乗っていようがいまいがそんなのはどうでもいい。使えるかどうか、話はそれだけだ」
「...価値を示せ、というわけね」

咲夜は思案する。
咲夜の一番の売りは、時間を止める程度の能力。
これを示せば、垣根の求める『使える能力』には合格できるだろう。
だが、これは咲夜にとっての心臓部。
時間を止めようが敵わない存在がいるのはシドーとヴライのせいで痛いほどわかっている。
非常事態ならいざ知らず、敵になりうる存在に対して正体を明かすのは限界まで避けたい。
しかしそれ以外に価値のあるものなど、いまの彼女には———

(...あったわね)

ある。
時間を操る程度の能力には敵わないが、それでも彼らの興味を引ける代物が。

咲夜はデイバックに手を入れ、一振りの刀を手にする。


652 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:40:11 DS2QsBk20
「妖刀・罪歌。これは斬りつけた相手を支配する優れも、」
『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』

垣根たちに見せつけようとした罪歌の呪詛に負け、つい手放し床に落としてしまう。
迂闊。
いまの疲弊しきった自分には、罪歌の愛を受け止めるだけの余裕はなかったのを失念していた。

足元に滑り落ちてきたそれを垣根は思わず拾い上げる。

「へえ、よくわからねえがこれが妖刀」
『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』

垣根は咄嗟にバン、と大きな音を立てて罪歌をテーブルに叩きつけた。

「どうした?」
「...さすがに少し驚いちまってな。触ってみるか?」
「???」

首を傾げる麦野だが、ここで咲夜を殺しに行かないということは毒の類ではないのだろうと、半分は好奇心で罪歌に触れてみる。

『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』

無言で床に叩きつける麦野。
意味不明なラブコールを聞かせてきた咲夜に殺意をもって跳びかかりたくなる衝動を、しかし隣の彼がしていない以上は面子的にも手を出すこともできず。
結局、できることと言えば咲夜に憤怒の籠った目を向けるのが限界だった。

「もう。みんなしてなんなのよ」

皆が一斉に手放した妖刀。
その有様に、なにか毒のようなものでもあったのかと好奇心と期待の織り交ざった感情で罪歌を拾ってみる。

『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』

流れ込む呪詛に夾竹桃は

ツゥ——...

鼻血を流した。


653 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:40:52 DS2QsBk20
「流れてくる...私の中に、女の子の友情が...」

恍惚な表情を浮かべうわごとのようにぶつぶつと呟き始める夾竹桃。

「おい?」
「熱く...燃え上がるような灼熱の太陽...同時にほの暗く苦い...一人では輝けぬ月...相反する二つの感情の交響曲...」
「おい、ガキンチョ?」
「垣根提督」

呼びかける麦野を無視して、夾竹桃はグリン、と首をまわして垣根へと振り返る。
妖怪さながらの光景に他三人は一様に引き気味に彼女を見てしまう。

「さっき、ムネチカが戦えないから要らないって言ったわよね?」
「...言ったな」
「なら貴方が認めるくらいに戦えれば問題ないのよね」
「まあ、そうなるな」
「言質とったわよ」

瞬間。
夾竹桃が右手を振るえば、肉を切る音と共に鮮血が舞う。

「ぁ、ぇ...?」

無防備を晒していたムネチカは、信じられないものを見たかのように目を見開き、ドサリ、仰向けに倒れ、ピクピクと痙攣し始めた。

「なんだ、お前が殺すのか」
「ふふっ、殺す?そんなはずがないでしょう。傷は浅いわ」
「そんじゃああれはどういうことだ?毒でも塗らなきゃああはならねえ」
「そこの彼女に聞けばわかるわ。なんなら私が言ってもいいのよ?」
「...わかった、話すわよ」

改めて咲夜は罪歌について三人に話す。
とはいっても、本来の持ち主は佐々木志乃であり、咲夜は状況と軽い見聞でしか知らないのだが。


654 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:41:26 DS2QsBk20

「...つまり、あの刀に呪いに耐性があるやつが斬れば駒を増やせるってわけか」
「ええ。私たち三人は無理だったけれど、どうやら彼女は呪いを払うことに成功したみたいね」
「払う?違うわ、受け入れたのよ。熱い、あつ〜い女の友情を」

罪歌の呪いから逃れる方法は二つある。
一つは自分の世界とその出来事を徹底的に客観視し、罪歌の思念までもを額縁の中の出来事と捉えてしまうこと。
もう一つは己の意思で罪歌の支配に打ち勝つこと。

夾竹桃がとったのはそのどちらでもなく、呪いを受け入れ共生すること。
従うのではなく親友のように寄り添うこと。
無論、本来はそんな道理はまかり通らない。
しかし、彼女も知らぬことだが、いまの罪歌は志乃の間宮あかりへの呪い以上にどす黒く爛れた愛情に二度も敗北している。
その二度の敗北により、罪歌自身にも変容が起き、罪歌本来の支配の強制力は弱まっていた。
人類全てを平等に愛する呪いから、人の感情を流し込まれ呪毒のように相手を蝕むただ一人へ捧げる愛への変貌。
これもまた、ある種、麦野が考えた異なる世界の異能を掛け合わせた一つの結果ともいえるだろう。

「ムネチカ...私は信じているわよ。女の友情を体現してきた貴女なら、この愛を受け入れモノにできると」

夾竹桃としては、いまのムネチカはもはや同志にも近い存在。
元の世界にも理子のように理解を示してくれる者はいるが、あそこまで蜜に語り合える存在はそうはいない。
できることなら失いたくない。共に脱出できたら二人で夏コミに参加して二人の友情を書き上げたい。
そんな願望がムネチカの助命を賭けた行為に移らせた。

だが。

罪歌の本来の愛が正しく機能していないということは、本来の結果が出るとは限らないということ。
弱まった支配力で。
全ての人間に向けられる筈の感情をたった一人に向けて凝縮され。
そんなものを流し込まれた者がどうなるか、彼女は知らない。
咲夜も、垣根も、麦野も。本来の罪歌を知らない彼らの誰も知らない。

言えることはただひとつ。

いまのムネチカには、確かに『異変』が起きていた。


655 : 愛をとりもどせ!!(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:42:03 DS2QsBk20


「......」

眼を開ける。
暗い。
なにもみえない。
ただ自分の身体がここにあるという奇妙な感覚だけが残っている。

ここはどこだ。
誰もいない。
垣根提督も。麦野も。十六夜咲夜も。ご主人様も。

怖い。
ここがどこだかわからないが、無力な自分はすぐにでもどうにかなってしまいそうだ。
助けてくださいご主人様。
ご主人様は優しくしてくれる。弱い自分を赦してくれる。
あの人はいつも正しい。救ってくれる。
だから傍にいさせてください。あの人のもとへ帰らせてください。

『—————』

そんな私の願いに応じるように聞こえてきたのは声。
何処かで聞いたような、しかし記憶よりも悍ましき声。

『あかりちゃん』

振り返り、対面する。

「ッ!?」

その姿に私は息を呑んだ。

『あかりちゃんいま行くねあかりちゃんあかりちゃんだいすきあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん待っててあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん』

禍々しい刀を構え、ゆらりゆらりと身体を揺らし。
ぶつぶつと呪詛のように、しかし喜色を交えて呟き続け。
全身をドス黒い赤に染め上げ、それでもなお立ち続ける様は怨霊の如し。

黒の長髪に豊満なバストと白と赤のコントラストの映える制服。
間違いない。
私は知っている。
その女の名を。
それは既知への安堵か、あるいは恐怖か。
私は思わず口に出した。



「志乃乃富士...!?」


656 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/12(金) 23:43:01 DS2QsBk20
一旦ここまでです。後半は書き上げ次第投下します


657 : ◆qvpO8h8YTg :2023/05/21(日) 15:10:02 J9e5XrdE0
ウィキッド予約します


658 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:31:01 0tk6ft/o0
続きを投下します


659 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:32:40 0tk6ft/o0


「ふぅ...」

紅茶を口に含み、慣れ親しんだベッドに身を預ける。
異様なほどの虚脱感に襲われ、すぐにでも眠りにつけるほどの微睡が襲い来る。
結論から言えば、咲夜は垣根たちの同盟に加わることを赦された。
夾竹桃の手に渡った罪歌はムネチカを操り、先ほどまでの役立たずではなくなったからだ。
思いがけない形で罪歌を渡すことになってしまったが、それで約束を反故にされなかったのは幸運だった。
自分には理解しえない彼らの仁義でもあったのだろうか。
なんにせよ九死に一生を得た。
この幸運を逃す謂れはない。

「......」

ふと、ムネチカのことが脳裏を過る。
大雑把に聞いただけだが、彼女はこの会場で主と慕う者を亡くした結果、無力感に苛まれ自我すら崩壊してしまったらしい。
自分にもパチュリー・ノーレッジという敬愛する主がいる。
もしも彼女がこの殺し合いに巻き込まれて死んでしまったら、自分も著しく気落ちするだろう。
だがこの殺し合いにはそれを取り戻す術がある。
よく知りもせぬ有象無象となによりも大切な主、どちらを取るべきかは考えるまでもないだろうに。
なのになぜムネチカが優勝を目指そうとしなかったのか、咲夜にはわからなかった。

(まあ、競合相手がいないのに越したことはないけれど)

この殺し合いを協力での脱出で終えるにせよ優勝で終えるにせよ、ゲームに乗った参加者は競合相手にしかなりえない。
自分の力が無敵ではないと示されている以上、可能な限りは排除への労力も温存しておきたい。

十六夜咲夜の目的は揺らがない。
何処の誰が何を抱え何を願おうとも、それを顧みることはない。

『咲夜さん。貴女はいなくならないでくださいね』

その、はずだ。


660 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:34:53 0tk6ft/o0


「鬼舞辻無惨には手を出すな、か。なにもんだソイツは」
「さあな。俺にもよくわからねえ...が、関係ねえ。あいつは必ず俺が殺す」

咲夜は自室に向かい、夾竹桃とムネチカは例の如く図書室へ向かい。
残された垣根と麦野は改めて己の持つ情報を共有し合っていた。

「らしくねえな未元物質。あんたは使えるもんがあるならなんでも使うってタイプだろうが」
「そいつは否定しねえが、こいつばっかりは俺の手でやらなくちゃ気が済まないんでな」

垣根の言動から、麦野は無惨とやらとなにがあったのかを推測する。

(なるほどな...あたしと同じか、こいつも)

顔こそは殊更に歪ませてはいないものの、隠しきれない憎悪と殺意が漏れ出ている。
きっと、垣根は無惨に屈辱を味合わされたのだ。
ただ負けるだけじゃない。
もっとプライドを傷つけられる腹立たしいやり方で。
だから他人から見たら違和感を持たれてもつい固執してしまう。

(普段ならつけいる隙になるんだろうがな)

いまは敵対している間柄ではなく、同盟を結んだ相手。
下手に刺激してせっかく結んだ同盟を解消されても面倒だ。
ならば殊更に触れることでもないだろうと考え、麦野は無惨の件に関してはこれ以上口を挟まなかった。

「それで、十六夜咲夜のことだけど...あいつ、まだなにか隠してるんじゃない?」

咲夜のことを訝しむ麦野。
これは別に無根拠で言っているわけではない。
垣根たちは確かに咲夜を受け入れたが、騙された訳ではなく咲夜が殺し合いに乗っていると認識した上で受け入れた。
どう見ても裏があるようにしか思えない状況にも関わらず、咲夜はいま自室で呑気に休憩をとっている。
単にいち早い休憩を欲したか、あるいは仮に襲撃されても逃げられる手段を持っているか———麦野はそう疑っているのだ。

「だろうな。だが俺たちに噛みついてこなけりゃなんでもいいさ」

無論、垣根も気づいていないわけではない。
だが、咲夜に『手を組みたいなら相応しいものを示せ』と提示したのは他ならぬ垣根であり、咲夜はそれに応えて罪歌を差し出し夾竹桃の戦力を強化した。
取引は確かに成立した。
垣根も自身が悪側の人間であると自認しているが、自らが提示した取引を有耶無耶にするほど落ちぶれてはいなかった。

「まあ、あいつのことはともかくとしてだ。当面の問題は夾竹桃だな...あいつ、本当に制御できてるんだろうな?」

誰もが拒絶した罪歌の愛の中、夾竹桃だけが適合し扱えるようにはなった。
だが、四人のうち誰もが罪歌について詳細を知らない為、今の彼女が本当に罪歌をモノにしているかはわからない。
肝心の夾竹桃も殺し合いの最中に同人誌を読み漁る狂人なため、いまの彼女が狂っていないかどうかが判断しづらい。
一応、完全に腑抜けていたムネチカが無心で従事ているため洗脳はかけることが出来るようだが、やはり不安である。

口には決して出さないが、現状で垣根がいることに感謝すら覚え始める麦野であった。


661 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:35:26 0tk6ft/o0


「ムネチカ、この本はどう?」
「はい。とても麗しい友情でございます母さん」

夾竹桃に渡された姉妹純愛本を渡されたムネチカはそう簡潔に述べた。
罪歌の支配下に置かれた人間は主に対して嘘を吐くことができない。
ムネチカは嘘偽りなく女同士の友情を好いてくれている。
それが確認できただけでも上々だ。

『あかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん』

(ええ、わかってるわよ。貴女の友情に免じて間宮あかりも鷹捲を抜きにしても護ってあげる)

脳内に響くあかりちゃんへのラヴ・コールにも夾竹桃は動じない。
夾竹桃は初めは鷹捲さえ手に入れば間宮あかり自身は二の次だった。
彼女が観念して肯定すれば無傷で仲間に引き入れるが、断り続ければ周囲の殺害も辞さない。
そんな程度の認識だった。

だが、この罪歌から流れてくる佐々木志乃の怨念染みた愛に触れた彼女は心を変えた。
女同士の友情を重んじる者としては、その身を滅ぼしてもなおあかりを想い続ける志乃の友情には応えざるをえない、むしろ応えたいと思ってしまった。

「ムネチカ...私の可愛い従者...」

夾竹桃はムネチカの頬を愛おしそうに撫でる。
ムネチカは動かない。何も変わらない。
なんの変化もなく、ただ夾竹桃の指による愛撫を受け入れている。

「貴女もわかってくれるわよね?」
「......」

ムネチカは答えない。
嘘を吐けないが故に、本心を尋ねられれば答えられない。
彼女は間宮あかりのことも佐々木志乃のこともなにも知らないからだ。
そんな者たちを必ず護れると豪語できるはずもない。

「...いまはそれでもいい。いつかはわかってくれると信じてるわよ、ムネチカ」

夾竹桃は、敢えて本心までを操ろうとはしなかった。
罪歌で支配するのは、垣根の損切から外れるための身体だけ。
本心まで弄らないのは、彼女なりの期待の表れだ。
薬も、呪いも必要としない本物の共感。
それを成し遂げた時、夾竹桃とムネチカは真の友となれるだろうと彼女は信じている。


肝心のムネチカの心の中で何が起きているかも知らずに。


662 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:35:53 0tk6ft/o0


妖刀とは、呪いを宿し生まれた刀である。

呪いとは人の強すぎる執念・恨み・想いから生まれるものである。


焼きつけられた身体、充満する血と臓腑の臭い。

無力な少女の慟哭と共に戦った破戒僧の嘆き。

消えていく意識の中で少女は最期に思ったのは、最愛の友。

大好き、だけではなく。ごめんなさい、だけでなく。

これ以上あの子を護れない、と。

口惜しや、口惜しや。

この身体が朽ちようとあの子を護ってあげたい。どんな手を使ってでも如何なる障害からも護ってあげたい。
何者よりもあの子を愛したい。

血涙すら流さんほどの強き友愛は、転じて呪いと化す。

その呪いは罪歌の元来の呪い(あい)を侵食し、歪な形に彩られる。

『あかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる』

少女の、佐々木志乃の呪いで歪んだ愛は、かくして一人を愛する新たな妖刀と化したのだった。


663 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:36:55 0tk6ft/o0


暗い、暗い空間の中。
風を切る音が、慌ただしく地を蹴る音が響き渡る。

『早くあかりちゃんのもとへあかりちゃん私が護るあかりちゃん愛してるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん』

誰ぞの名前を呼びながら志乃乃富士が鬼気迫る執念で私へと剣を振るう。
私はそれを必死に避け、掠り傷を追いながらも致命的な傷は負わず。
反撃に出ようにもまるでそんな隙が見当たらない。

志乃乃富士とは先に僅かだが交戦したが、まるで違う。
あの時は確かにこちらが優位であったというのにいまは真逆。
まるで歯が立たない。

「なぜ私を...志乃乃富士!」

静止の声も当然響かない。
ただ確実にこちらを仕留めんとばかりの殺気が私に向けられるのみだ。

幾度も繰り返される攻防。
やがて、ようやく出来た隙を突き私は拳を彼女の腹に突き立てる。
手加減はしていないはずの一撃。
が、しかし止まらず。
彼女の刀は私の肩口を切り裂き、そこから鮮血が舞う。

「ガハッ...!」

激痛と共に私は苦悶の声を漏らし倒れ伏す。
敵わない。
なぜ。どうして。


664 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:37:28 0tk6ft/o0
『貴女を消して私はあかりちゃんを護ります』

私の疑問はその言葉に押しつぶされる。

『たとえ肉体が滅びようと私はあの子の為に戦う』

答えは明白だった。
彼女はどんな姿になっても大切な者を護りたいと確固たる覚悟を決めている。
それに対して私にはなにもない。
もう失くしてしまったから。
武人としての忠はもう果たせなくなってしまったから。

『早く私に従いなさい化け物!あかりちゃんのために!!』

激昂と共に振り下ろされる刀。
もう私はそれに抗う気持ちも起きなかった。
あれを受け入れればあかりちゃんという人のためになるならば。
誰かは知らないが、あそこまで想われている人の糧になれるならば。
何も護れないいまの自分よりもよほど価値のあるモノになれるのではないか。
だったらもう楽になろう。
何も考えなくていい。何も苦しまなくていい。
私が消えることで誰かの助けになれるなら、それでいい。
振り下ろされる刀は首元に振り下ろされ。

痛みが、掌に走った。

『ッ、まだ抵抗を...!』

志乃乃富士が怒りを露わにする。
私にもわからない。
楽になりたいのに。
苦しみたくないのに。
何故か身体は抵抗してしまう。
受け入れまいと必死に抗う。

私はいったい自分に何を求めているというのか。
なぜ未だに生きようとするのか。


665 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:38:24 0tk6ft/o0
———ドクン。

斬られた箇所に灼熱の如き熱さが奔り、視界が歪み始める。
その異様な熱さに意識がとびかける。苦悶の声が漏れる。
けれど意識は失わなかった。
代わりに、志乃乃富士の姿がみるみる内に形を変えていく。

『ムネチカ』

聞こえてきたのは、慣れ親しんだあの声。
聞きたかったけれど、いまは聞きたくなかったあの声。
くりくりとした目に長いおさげ。
可愛らしくも勇ましいその姿。
間違いない。間違えようもない。

「ひ...姫殿下...!」

ぐずぐずと私の脳髄が焼けていく。

———熱い、熱いのじゃ

「あ...あぁ...!」

あの時の光景が離れてくれない。

———どうして助けてくれなかったのじゃ?

「申し訳ありません、もうし、わけ...!」

あの灼熱の地獄の前に、みっともなく涙すら流してひたすらに頭を垂れる。
見ないでくれと言わんばかりに身を縮め、ただひたすらに赦しを請う。

———許せない、死ねよムネチカ

あの時かけられた罵声の痛みはどうしようもなく忘れがたきもので。
斬り殺すのでもいい。
頭蓋を踏み砕くのでもいい。
お願いだから早くこの地獄を終わらせてくれとひたすらに願う。


『ムネチカよ』

けれどかけられた声はあまりにも優しく。

『すまなかった』

与えられた言葉は、私の予想だにしなかった言葉だった。


666 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:39:15 0tk6ft/o0
脳髄を蕩けさせる灼熱が引いていく。

あの地獄染みた光景が鎮火していき、ただ彼女だけがこの視界に映りこむ。
あの焼けただれた姿ではなく、いつものあの御方そのものだった。

『ムネチカ。もう余に縛られる必要はない。余のことで苦しむのなら、そんなものは忘れてくれ。悪いのはそなたではないのだから』

私は悪くない。
それは赦しの言葉だった。
求めていた言葉だった。

なのに。

『ムネチカ。...悪いのは余の方じゃ』

なぜ、私の胸はこうも締め付けられている。

『余はずっと迷惑をかけてきた。我がままで皆を振り回してきた。だから...こうして余を護ってくれた者たちを苦しませることしかできぬ。
全ての諸悪の根源は余であったのだ』

「ッ...!」

『帝の後継者も。娘という立場も。全て余以外の者であれば...そなたを苦しませることも...!』

「ちが...姫殿下...!」

かけようとする声が思わず震えあがる。
そんなつもりじゃなかった。
自分がこんなになってしまったのは姫殿下のせいじゃない。
出かけた言葉はあまりにも薄っぺらく感じてしまう。

『あかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん』

傷口から溢れ出てくる言葉に私の遺された自我が消えていく。
そうだ。
忘れてしまえ。
姫殿下はそう望んでいるのだから。
それがただ一つ救われる方法なのだから。


そしてそのまま。
『あかりちゃん』に呑まれていく。
呑まれ、呑まれ...



「違う」

私を呑んでいく『あかりちゃん』を振り払うように、私は立つ。


667 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:40:34 0tk6ft/o0

脳裏に過るのは、かつての日々。
姫殿下を𠮟りつけ、振り回されてきた教育係としての日々。

確かに楽しいことばかりではなかった。
何度も叱りつけた。
本気で苛立ったこともあった。

けれど。

「私は...一度とて、貴女以外であればなどと思ったことはない」

ああ、そうだ。
恨むことなどあるものか。

「わたしの忠義は姫殿下のためにのみならず」

わたしが彼女のために尽くしてきたのは、帝から与えられた任だから———というだけではない。

忘れはしない。
彼女と紡いだ日々を。

時に怯えられ。
時に駄々をこねられ。
時に笑い合い。
時に肩を並べ。
時に同じ趣味に興じ。

失った今だからこそわかる。

その全てがあまりにも愛おしく、親友と娘、その両方を同時に得たようなかけがえのない時間だったことを。

そうだ。私は、小生は。

姫殿下としてだけではなく。

友として。
戦友として。
同好の士として。
娘として。

「アンジュ、貴女だからこそ小生はここまで来れたのです」

肩書など関係なく、全部ひっくるめて、『アンジュ』という一個人が大好きだった。

『ムネチ、カ』
「何度でも言いましょう」

なにを躊躇うことがあろうか。
なにを腑抜けたことを言っていたのだろうか。

「鎮守の...いや、このムネチカ」

自分は役立たずの塵だ。
お役目を果たせぬ塵芥だ。
いまさら八柱将などとは口が裂けても言えまい。
だとしても、彼女への想いを忘れていいはずもなかった。

苦しいのは彼女のせい、全くもってその通りだ。
けれどそれは彼女を否定するモノではない。

友を失って悲しむのは当たり前だ。
娘を失って悲しむのは当たり前だ。
だからもう逃げない。

「アンジュ、貴女を愛しています」

貴女の存在が重荷だったなんてこと、誰にも言わせない。

それを、この場で証明してみせる。


668 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:44:30 0tk6ft/o0
アンジュを象っていた姿がまた変わり、志乃乃富士の姿に戻る。
彼女の刀による振り下ろしを、小生は避けなかった。
剣が肉を割き、『あかりちゃん』がまたしても身体に流れ込んでくるが構わない。
...ここにきて、ようやくわかった。
小生が志乃乃富士に大人しく首を差し出さなかったのは、あの子の代わりに誰かを置くことなんてしたくなかったからだと。
答えはもう出ていたのに、随分と立ち上がるのに時間がかかってしまった。

「これより先は通さぬッ!!」


気合い一徹、『彼女』への想いを込めて叫べば、『あかりちゃん』は身体から弾き出され一気に身体が軽くなる。
反撃はいま。
返す拳は再び志乃乃富士の腹部を捉える。
直撃。
彼女の身体が九の字に曲がり、後方に大きく吹き飛ばす。

本来であれば致命の一撃。
だが。

『あかりちゃん、私が、護るから。化け物を、倒して助けにいくから』

志乃乃富士はまだ立ち上がる。その眼には微塵も揺らぎなどない。
見事としか言い表せない。
自分は一度は完全に折れてしまったのだから。
死してなお想い続けるその姿、間違いなく真の友だと言えよう。

「だが、こちらにも譲れぬものがある...小生は、もう如何な理由があろうともあの子との日々を否定などせん!!」
『あかり、ちゃん!!』

志乃乃富士が駆ける。
それに応じるように、小生もまた全力の力を込めて地を踏み出す。
志乃乃富士は、あかりちゃんを護る為に。
小生はあの子への想いを護る為に。



―――いざ尋常に、発気揚揚!!


669 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:45:37 0tk6ft/o0

距離が縮まる。
志乃乃富士の刀剣による突きを寸でのところで躱し、小生はその伸びた腕を挟み込み脇で締め付ける。
力では小生の方が上だ。このままへし折ることもできる。
だが志乃乃富士は怯まない。
痛む腕にも構わず前に進み出て極まりを外す。
抜けかける腕。
だがそのまま逃がすわけにはゆかぬ。
滑っていく腕に対し、背を傾け抜けられる範囲を狭める。
すると腕は抜けようとも刀を握る拳は抜け出せず。
このままでは捕まると判断した志乃乃富士は刀を捨て腕を解放するのを選択。

わずか数センチだが、二人の間に空白が生まれる。

無音の刹那。
先んじて距離を詰めたのは小生だ。
志乃乃富士の執念に対し退けば食われる。
故に前進。もう、気持ちでは絶対に負けられない。
志乃乃富士の胸部に向けて頭突き、上体をのけ反らせる。
まだだ。まだ、終わりではない。彼女を倒しきるまでは何度でも———

「なにっ!?」

小生は目を疑った。
志乃乃富士の復帰は早かった。
すぐに体勢は沈み、頭突きの為に低くなっていた小生の頭を掴み、そのままねじ伏せようとする。
小生は見誤っていた。
志乃乃富士の真髄は執念からくる攻めではあらず。
その心が支える腰の重さ———護りの堅固さであると。

(負ける...!)

視界に地面が近づいていく。
この一戦には小生の全てを賭けた。
それをねじ伏せられようものなら、このまま一度でも地に膝を着かされようものなら、彼女の想いに食われるだろう。


670 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:46:38 0tk6ft/o0
「———否」

無理な体勢から右足を前に踏み出し寸でのところで堪える。

「否ッ!!」

首元にかけられる重さに、眼を日開き、叫びと共に唾すら撒き散らして叫ぶ。
それはもはや矜持や信念といったものにあらず。
その姿、まさしく駄々。
幼子が絶対に負けたくないと喚き散らすような幼稚で稚拙な我儘だ。

これが競技や遊戯ならば、小生はこのまま敗北していただろう。

『...ッ!』

だがこれは言うなれば根競べ。
小生の心が折れなければ、ほんの一筋の光明が生まれることもある。
小生の根気に微かに動揺したその隙に全力を込めて首を持ち上げる。
志乃乃富士の腕を弾き飛ばすのと共に小生の身体に多大な倦怠感が襲い掛かる。
手足が震え始める。身体がもう休みたいと悲鳴をあげる。
構わぬ。
あの子への想いを貫くためならば、この程度!

「おおおおおおおおぉぉぉぉ————ッ!!」
『...貴女にも想う人がいようが、私も譲るつもりはありません!!』

吼える。吼える。
女二人で、みっともなく、全てを曝け出すように。

何度もぶつけ、何度もぶつかりあい。
互いの根気も削り取られていく。
だがそれでも我らは一度たりとも倒れなかった。
己の友情を貫くために、決して負けを認めなかった。
永久にも思える刻の中、ついに終局が訪れる。


671 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:47:01 0tk6ft/o0

『...プハッ!』

組合の中、先に息が切れたのは志乃乃富士。
この隙を逃す謂れはない。
全力を以て身体をぶつけ彼女を押し倒そうとする。
彼女の身体が力を無くしていくのがわかる。
いける、このまま

   ガシリ

違う。
いま、喉元に刃を突きつけられているのは小生だ。
彼女は待っていた。根気も極限のこの状態で。
土俵際からの逆転の一手を。
身体を捻り、腰を持ち上げられた小生の身体が浮かび上がる。

打っ棄り。
ここまできて、この極限状態まで粘ってこの一手を狙っていたというのか。
恐るべし志乃乃富士。
狂愛に染まりながらも失わぬその剛胆さと冷静さ。賞賛する他ない。

だがそれでも。
小生は負けぬ。負けるわけにはいかぬ。
起死回生の一撃ならば、それは相手にも未だ刃が突きつけられているということ。
ならば、断じて諦めるわけにはいかぬ!

小生の腕が志乃乃富士の首元にかかる。
身体が捻り切られる前に体重を全てかけ志乃乃富士を押し倒す。
これで五分。
地に伏せるのは、小生が先か志乃乃富士が先か。
視界に迫る地面の果てに。

背中は、地に着いた。


672 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:48:20 0tk6ft/o0


ドカン、と爆発のような音と共に扉が破壊され、黒い塊が垣根たちのもとへと転がり込んでくる。
それは近くの壁にぶつかると止まり、ぐったりと俯き伏せる。

「おいおい...どういう状況だこいつは」

吹き飛ばされてきたのは夾竹桃だ。
頭から血を流し沈黙している。

「洗脳なんざできてねえじゃねえかよ...あのクソメイドとんだ不良品掴ませやがって」

麦野は悪態を吐きながら面倒くさそうに立ち上がる。

壊れた扉の奥からやってきたのは、洗脳されていたはずのムネチカだ。
だが先ほどまでの怯えた狛犬の姿はもはやあらず。
立ち昇る闘気は目に見えるほど激しく。
その双眼は歴戦の猛者であることをうかがわせるほどに鋭く凛々しい。
電車で敵対した時以上の気迫に、手心を加える余裕はないと判断する。

「待たれよ。小生に交戦の意思はない」

だが飛んできたのは気迫からは不釣り合いなそんな言葉で。
あろうことかムネチカはそのまま片膝を着き首を垂れた。

「垣根殿。麦野殿。先ほどの醜態は失礼をした。勝手なことは承知の上であるが、先の発言は撤回させていただきたい」
「あ?あー...まあ、いいんじゃねえのか」

垣根からしてみれば、ムネチカは初対面から腑抜けていた役立たずの狛犬だ。
それが急に言葉遣いも態度も凛としたものに代わり多少面を喰らった。
が、返事自体は適当なものではない。
もともとムネチカをさっさと殺し首輪に変えるというのも、魔王と相対する際にあの時の彼女のままではあまりにも役立たずで足手まといどころか相手の戦力を増強しかねなかったから考えただけの話。
なにがあったかは知らないが、こうして充分に戦意を滾らせているのなら無理に殺す必要もない。
その『なにか』が大事なのだが。

「とりあえず聞いておくが、なにがあった?」
「彼女との絆を、思い出しました」

垣根は思わず怪訝な顔になった。
言うべきことは言い終えたと言わんばかりのしたり顔のムネチカに、もうなにを聞く気すら失せた。


673 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:50:25 0tk6ft/o0

「まあ、正気に戻ったのはいいとしてだ。あたしとは殺りあわねーのか?」

麦野からしてみれば当然の疑問だろう。
あの列車でムネチカと麦野はしっかりと敵対していた。
互いに加減無しの命の殺り取りを繰り広げた者同士なのだから。

「無論、其方がライフィセット殿へと働いた蛮行は許せぬ。しかしライフィセット殿と懇意にしている垣根殿が今は手を出さぬと決めたのならば小生もそれに倣うまで」

怒りが未だに燻っているものの、ライフィセットの面倒を見てくれたらしい垣根が一時的な同盟を結ぶというなら、その恩を返すこともありそれに従う。
つまり彼女もまた、魔王の件が片付いてからの決着を所望していた。

「ハッ、話が早いのは悪くねえ。だがあいつをぶっ飛ばしたのはどういう了見だ?あれでも一応同盟相手なんだが?」

麦野が親指で指す先にはぐったりと項垂れる夾竹桃。
死んではいないようだが、あれを見せられて宣戦布告ではないと思えというのも虫のいい話だ。

「...行動に先んじてしまったのは謝罪する。しかし、これも一つのケジメが故」
「んな説明で納得でき...いやするわ。むしろ納得しかないわ」

言いかけた麦野は、彼女にしては珍しく自分の言を撤回した。
夾竹桃がムネチカにやったことは、麦野が知る限りでも

ライフィセットをベルベットという爆弾に引き合わせ。
戦闘が終わった後には媚薬やら毒やらで精神汚染。
しかもここに至るまではペット同然にエロ本漁りに連れまわす始末。

これを麦野自身にやられたと考えれば激怒は確定。
むしろ夾竹桃は殴られて然るべきですらある。

「つか、よく殺さなかったなあんた」
「彼女に救われたのもまた事実であるが故」

ムネチカにとって夾竹桃は確かな敵である。
しかし、敵対する前にライフィセットを治療してくれたこと、そしてアンジュの死に打ちのめされていたムネチカに慰めの言葉をかけてくれたこと。
この二つの恩が、夾竹桃への報復を拳骨一発に思いとどまらせた。

「で、正気に戻ったお前はどうすんだ?ここで魔王を迎え撃つか、それともライフィセットのところに行くか」

垣根の問いにムネチカは考える。
ライフィセットの安否は確かに気になるところだ。
垣根の他の仲間がついているらしいが、自分が加われば彼の安否はより一層保証されるだろう。
しかし魔王についても気にかかる。
あの相対した時の邪悪且つ圧倒的な"暴"。
捨て置くことはできず、一人で勝ち目がないのなら、いまここに戦力が集っている内に共に倒しておいた方がいいかもしれない。

どちらにせよだ。
これより先、ムネチカは泣くことがあれど、足を止めることがあれど、もう心が腐り果てることはないだろう。

アンジュという少女とのこれまでに嘘偽りなどない。
それを証明することが、いまのムネチカの生きる意味なのだから。


674 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:51:15 0tk6ft/o0


うすぼんやりする意識の中、夾竹桃は笑っていた。

(...なんでなのかしらね)

彼女は痛いのは嫌いだ。
予定通りにいかないことも嫌いだ。
なぜか洗脳が解けた途端にムネチカに殴られたこと。ムネチカを支配下におけなかったこと。
いま現在の彼女にはその二つが降りかかっている。
なのに何故か、彼女の胸中はどこか満たされていた。
胸がすいていた。

(妙にスッキリすらしているこの気持ち...不思議だわ)

夾竹桃は列車の時から、女の友情を解するムネチカの忠義や友情を踏みにじる行為に対して、小さな罪悪感を抱いていた。
結局、自分は欲しいものを得る為には手段を択ばない人間でしかないと。
別に、それを気に病むつもりはないし、本来のムネチカと自分の立場を考えれば交じり合わないとすら思っていた。

なのに納得している。
ムネチカがああして凛とした姿勢でいることに安堵すら感じている。

(彼女は私の『毒』を...そして罪歌の『あかりちゃん』を乗り越えた...それを私が望んでいた、とでも言うのかしら)

女の友情は何物にも侵されてはならぬ聖域である。
その信念を、彼女が証明してくれたことに喜びを感じているとでもいうのだろうか。

(いいわムネチカ。貴女は貴女の思うようにその友情を貫きなさい)

ムネチカに殴られたダメージとは別に、鼻血を滲ませながら、恍惚な表情と共に夾竹桃はひと時の静寂に沈んだ。


675 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:51:50 0tk6ft/o0

【F-6/紅魔館/一日目/夕方】
【麦野沈利@とある魔術の禁書目録Ⅲ】
[状態]:全身にダメージ、精神的疲労(超極大)、百合トークに対しての精神的トラウマ(小)
[服装]:いつもの服装(ボロボロ)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:主催共の目論見をぶっ潰す。願いを叶える力は保留。
0:直に帰ってくるであろう魔王に対処する。潰しに来るなら返り討ちにする。
1:首輪の解除コードとやらを解明するための情報探し。
2:フレンダ、テメェに二度目はねぇ。ぶち殺し確定、今度は灰も残さねぇ。
3:ベルベットに関しては警戒。『蒐集の力』は彼女にはまだ伝えない。
4:第二位との決着はすべてが終わってからにする。
5:もう百合トークは勘弁してくれた、マジで。

[備考]
※アニメ18話、浜面に敗北した後からの参戦です
※3人でアイテムを結成しました
※ベルベットがLEVEL6に到達したと予想しています。
※夾竹桃の知っている【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※魔王の件が片付くまでの間、垣根と十六夜咲夜と同盟を組みました

【夾竹桃@緋弾のアリアAA】
[状態]:衣服の乱れ、ゲッター線に魅入られてる(小)、夏コミ用のネタの香りを感じている、出血(中)、顔にダメージ(中)、罪歌による精神汚染(中)、鼻血、恍惚、気絶
[服装]:いつものセーラー服
[装備]:オジギソウとその操作端末@とある魔術の禁書目録Ⅲ、胡蝶しのぶの日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、シュカの首輪(分解済み)、素養格付@とある魔術の禁書目録Ⅲ、クリスチーネ桃子(夾竹桃)作の同人誌@緋弾のアリアAA(現地調達)、薬草及び毒草数種(現地調達)、無反動ガトリングガン入りトランクケース@緋弾のアリアAA(現地調達)、罪歌@デュラララ!!
[思考]
基本:間宮あかりの秘毒・鷹捲とゲッター線という未知の毒を入手後、帰還する
0:女の友情はいと美しきもの...がくり
1:主催の思い通りになるつもりはない。これ以上の『覚醒者』の誕生は阻止したい
2:テミス及びμの関係者らしき参加者の勧誘か誘拐を検討。岩永琴子はなんかベルセリアが乗り気らしいけど……
3:首輪を解除するためのコードを調査
4:神崎アリア及び他の武偵は警戒
5:ゲッター線の情報を得るためにゲッターチームから情報を抜き取ることも考慮
6:夏コミ用のネタが溜まる溜まる...ウフフ
7:罪歌...間宮あかりは護ってあげるわ

[備考]
※あかりとの初遭遇後からの参戦です
※3人でアイテムを結成しました
※晴明からゲッター線に関する情報を入手しました
※隼人からゲッター線の情報を大まかに聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※隼人・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※隼人からゲッター線について聞きました。どれだけの情報が供給されたかは後続の書き手の方にお任せします。
※魔王の件が片付くまでの間、垣根と十六夜咲夜と同盟を組みました

※いまの罪歌は志乃の怨念染みた想いに汚染されバグが生じたため、間宮あかりを護るよう洗脳しようとします。
ただし予期せぬバグの結果支配力が弱まっているため、相手の気の持ちようではいくらでも抵抗されます。

【ムネチカ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:疲労(大)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ムネチカの仮面@うたわれるもの
[道具]:基本支給品一色、大きなゲコ太のぬいぐるみ@とある魔術の禁書目録(現地調達)、
[思考]
基本:アンジュとの絆を嘘にしない。
0:魔王を相手にするために残るか、ライフィセットのもとへ行くか
1:小生はもう迷わない。
2:志乃乃富士、感謝する。
3:ライフィセットや『あかりちゃん』を護る。
4:麦野や夾竹桃との決着は後回し。今は護るべきものを護る為に戦う。

[備考]
※参戦時期はフミルィルによって仮面を取り戻した後からとなります
※女同士の友情行為にも理解を示しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※アンジュとの友情に目覚め、崩壊していた精神が戻りました。


676 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:52:19 0tk6ft/o0

【垣根提督@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(小)、全身に掠り傷、強い決意、精神的疲労(極大)
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3、ジョルノの心臓から生まれた蛇から取り出した無惨の毒に対するワクチン、ジョルノの首輪、マギルゥの首輪、妖夢の首輪、リゾットの首輪、、土御門の式神(数個。詳しい数は不明)@とある魔術の禁書目録、マギルゥの支給品0〜1、ジョルノの支給品0〜3、顔写真付き参加者名簿、リゾットの支給品2つ
[思考]
基本方針: 主催を潰して帰る。ついでにこの悪趣味なゲームを眺めている奴らも軒並みブッ殺す。
0:直に帰ってくるであろう魔王に対処する。潰しに来るなら返り討ちにする。
1:とりあえず、大いなる父の遺跡の方角に向かいアリア達に伝言を伝える
2:あの化け物(無惨)は殺す。
3:リゾットの標的だったボスも正体を突き止めていずれ殺す。
4:未元物質と聖隷術を組み合わせた独自戦法を確立する。道中で試しながら行きたい。
5:異能を知るために同行者を集める。強者ならなお良い。

[備考]
VS一方通行の前、一方通行を標的に決めたときより参戦です。
※ジョルノ、リゾット、マギルゥの支給品も垣根が持っています。
※未元物質を代用した聖隷術を試しました。未元物質を代用すると、聖隷力に影響を及ぼし威力が上がりますが、制御の難易度が跳ね上がります。制御中は行動が制限されます。
※首輪の説明文により、自分たちが作られた存在なのではないかと勘繰っています。
※ブチャラティ達と情報交換をしました。
※魔王の件が片付くまでの間、麦野と夾竹桃と十六夜咲夜と同盟を組みました

【F-6/紅魔館・自室/一日目/夕方】
【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(絶大)、全身火傷及び切り傷、全身にダメージ(絶大)、右目破壊(治療不可能)、睡眠中
、腹部打撲(処置済み)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:咲夜のナイフ@東方Projectシリーズ(2/3ほど消費)、懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ 、
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:(睡眠中)
1:まずは、身体を休める。
2:今後のことを見据え、遭遇する参加者については殺せる機会があれば殺すが、あまり無茶はしない。
3:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
4:博麗の巫女は、死んだと見ていいかしら?
5:マロロに関しては協力する素振りをしながらも探る。最悪約束を反故するようであれば殺す。...生きているかも怪しいが。
6:余裕があれば完全版チケットとやらも探す。
7:ヴライに、最大限の警戒。
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
※オスカー達と情報交換を行いました
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全には分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ビエンフーからこれまでの経緯を聞きました。
※どこの施設に向かっているかは次の書き手様にお任せします。


677 : 愛をとりもどせ!!(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:53:16 0tk6ft/o0



『......』

暗い空間の中。
仰向けに転がされた少女は、悔し気に腕で目を覆い隠す。

———礼を言う、志乃乃富士。

自分を倒した彼女は、戻っていく前にそう告げた。

———其女のお陰で彼女との友情を取り戻せた。あとは任されよ

そう約束して去っていく彼女の姿が過り、涙が滲む。
嬉しかった。あの子も護ってくれると約束したことが。
一方で、悔しかった。
本当は自分で護ってあげたかった。またあの笑顔を見たかった。

でもそれはもはや叶わぬ夢。
自分は負けて『佐々木志乃』はもう死んでいるのだから。

それでも自分の愛を間違っていたとは思わない。
想いが弱かったなどと思わない。
だから

『がんばれ』

全てを背負っていくと決めた女にそう呟いた。
二人の間に愛などない。
だが、それでも確かな友情がそこにはあった。

これは、誰も知らない二人だけの友情物語。


678 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/05/22(月) 23:53:57 0tk6ft/o0
投下終了です


679 : ◆qvpO8h8YTg :2023/05/25(木) 21:02:05 BtjdgdNw0
投下します


680 : 眠れる森の魔女 ◆qvpO8h8YTg :2023/05/25(木) 21:03:06 BtjdgdNw0



少女は、とにかく不幸だった。
物心ついた頃から、両親からは毎日殴られた。別に大した理由もないのに。
少女の元から両親がいなくなった後は、祖父母に引き取られた。しかし、そこでも殴られた。
学校ではクラスメイトからバイ菌扱いされるが、教師は見て見ぬ振り。

そんな、シンデレラですら真っ青になる、とても不幸な環境で、育った少女。
しかし、そんな彼女も、年月とともに、やがて“遊び”を覚えていく。

『――どうして? ――信じてたのにひどいよ』

それは、彼女とは対照的に、優しく温かな環境で育ったクラスメイト達を裏切り、欺いて、絶望のドン底に叩き落とすという所業であった。

『あははは! 騙されてやんの! ざまあみろ、ブス』

工作や根回しが浅はかだったため、目論見が適わなかったこともあった。
それでも、開き直って罵声を浴びせてやると、信じていたものに裏切られた少女は、火がついたように泣き出した。
その泣き顔は、とても愉快なものだった。

――私と出逢ってしまったばかりに……

そう考えるだけで、少女はゾクゾクとした快感を覚えたものだ。

そして少女は”遊び”に浸った。
新しい学校に行っては、目についたものに近づいて、壊して。
それが終わると、また別の学校に転校し、同じことを繰り返す、そんな”遊び”に何年も夢中になった。

『――危ない!』

しかし、彼女の”遊び”は、ある日終焉を迎えた。
今までやってきたように、ターゲットを破滅させるべく暗躍するも、最終的には看破された。
頭お花畑のターゲットは、悪意に塗れた少女を説得しようとする。
そして、最終的には揉み合いの末、歩道橋から転落―――。

――どうして。

不幸の星の元に生まれた少女は、指先すらも動かせぬ身体となり、彼女の生き甲斐であった“遊び”と自由を奪われてしまう。

――どうして。

永劫ともいえる闇の中で、彼女は呻くように呪詛を反芻する。

――どうして。
――どうして。
――どうして。

まるで、この世全てを恨むかのように、ありったけな怨念を込めて。


681 : 眠れる森の魔女 ◆qvpO8h8YTg :2023/05/25(木) 21:03:43 BtjdgdNw0
『見つけた! あなたウィキッドだよね?』

そんな彼女に救いの手を差し伸べたのは、彼女もよく見知った白き歌姫(バーチャドール)。
楽曲を提供してくれる見返りに、どんな願いも叶えてあげるという女神の誘いに乗り、彼女は楽園(メビウス)に招かれた。

『あはははは! 最高だ、ここなら手足を自由に動かせることが出来る!』

楽園での彼女は、事故の後遺症など最初から存在しなかったかのように、自由に動けるようになっていた。

『もっとだ! もっともっとぶっ壊して、私を楽しませてくれ!』

少女は、水を得た魚の如く、それまで溜め込んでいた鬱憤を全て吐き出すように、ありったけの破壊衝動を解き放った。
ある時は、彼女が作った曲にそれを乗せて――。
またある時は、彼女自身が楽園の住人達を虐げる形で、自己表現をしていった。

――私は今生きてる!

人の想いを、友情を、信頼を否定して、ゴミのように踏み潰していく中で、彼女は自由を謳歌した。
そして、この破壊衝動こそが自分の根幹であると再認識した。

『――ここに集まっている皆様方に最後の一人になるまで殺し合いをやってもらいますわ』

彼女の立つフィールドが、理想郷から殺し合いの場に変わっても、彼女のやる事は変わらなかった。
己が欲望のままに、蹂躙し、殺戮を尽くしていった。

しかし――。

『私の血に適合し、鬼になった者は人間を超越した力を手に入れことになる。
だが、その反面、致命的な弱点も露呈する―――』

彼女が謳歌していた自由は、とある参加者との邂逅によって、再び剥奪される。

『その弱点こそ、太陽光だ。貴様は精々苦しみながら死んでいけ』

手足は変わらず動かせる。
また卓越した身体能力と再生能力を得ることになり、より遊びの幅が広がることだろう。
しかし、太陽の光を浴びることは出来ない。
力の代価として、人間としてなんて事のない、陽の元を歩くという行為が許されなくなってしまったのだ。

それが、少女に課せられた新たな不自由であり、新たな不幸であった。

――ふざけんな……

少女は怒り狂う。
折角手に入れた自由が、突然現れた連中に訳のわからないまま、呆気なく奪い取られてしまったからだ。

――絶対に殺す……

果てしない憎悪を胸に秘めつつ、少女は陽の影を彷徨うのであった。


682 : 眠れる森の魔女 ◆qvpO8h8YTg :2023/05/25(木) 21:04:18 BtjdgdNw0



D-5エリア、墓地近辺の森林地帯。
幾重にも重なった木陰の中に、その廃屋はあった。
人気ない森の中に位置する見窄らしい家屋――まるで、お伽話の魔女が住まうような家の扉を蹴り飛ばして、中へと駆け込む影が一つ。

「ハァハァ……クソったれが……」

肩で息をしながら、ウィキッドは玄関口に倒れ込み、仰向けになる。
ボロボロの木の天井を見上げつつ、彼女は舌打ちをする。

あの後、周辺を探索するも、高坂麗奈は見つからず。
苛々した調子で駆け回ったせいだろうか、注意力は散漫になり、うっかりと木漏れ日にその身を晒してしまった。
瞬間、絶叫を上げるほどの灼熱が沸き起こると、彼女はその痛みから逃れるように走り出し、気が付けば、このボロ家に駆け込んでいた。

「何が、『人間を超越した力』だ!
クソみたいな呪いかけやがって、あの野郎っ!!」

陽光に照らされたことで、肩の一部は消失している。
そして、戦闘で負った傷口とは異なり、再生する兆しはない。
最初は激痛程度で済んだが、今回のように身体の欠損を伴ったとすれば、いよいよもって高坂麗奈は回復圏外へと離れてしまったのだろうか……その事実がウィキッドを苛立たせる。

更に――。

ズンズンズン

「…っ!?」

身体の奥底から突き上げてくる、言いようのない飢え。
それがウィキッドの身体を蝕み、彼女の苛立ちに拍車を掛けていた。

「ぐっ…!! クソ女が言ってた食人衝動ってやつか……!!」

鬼にされてから、絶えることなく襲い掛かる飢餓感。
休息を取っている今になって、更に激しさを増していく。
どうにか、これを抑え込もうと、デイバッグに手を伸ばすと、食パンを乱暴に取り出し、それを口に放り込む。

だが――。

「――うぶっ!? ゲホッゲホ……ッ!!」

猛烈な吐き気に襲われ、それを吐き戻してしまう。
呼吸が大きく乱れ、全身から汗が噴き出し、身体を大きく震わせる。
まるで、身体全体がそれを拒絶しているかのような感覚であった。

「……クソがぁ………」

自分の吐瀉物を眺めながら、ウィキッドは、いよいよもって自分の身体は、人の血肉しか受け付けない身体に変えられてしまったと悟る。


683 : 眠れる森の魔女 ◆qvpO8h8YTg :2023/05/25(木) 21:04:45 BtjdgdNw0
――ただでは、殺さない……。

こんな不自由を押し付けてきた、月彦と麗奈への必殺を、改めて誓うウィキッド 。
そして、彼らへの憎悪と殺意を以って、飢餓感を塗り替えることに専心する。
やがて、荒くなった呼吸は次第に整っていき、落ち着きを取り戻す。

ウィキッドは、廃屋の中をぐるりと一望すると、部屋の片隅にあるベッドへ歩み寄り、そこに腰掛ける。
ボロ屋のため、天井や壁には無数の穴があり、そこから風が吹き込んでくるが、森の木陰という立地のため、陽射しが差し込む事はない。

――陽が完全に沈むまでは、ここで身を潜めよう。

一際大きな溜め息とともに彼女は、そう決めた。

この状況で、連中の追跡を続けたとしても、先のようなミスで、致命的なダメージを負ってしまう可能性があり、他の参加者と遭遇したとしても、何かと不都合が多いからである。

「――とは言え、少しは立ち振る舞いを考えないとな……」

そう呟きながら、彼女は今後の行動方針について、思考する。

現状、ウィキッドを取り巻く状況は芳しくない。
遺跡で出会った参加者については、月彦と麗奈だけではなく、人形女ことヴァイオレットにも、自分の正体は知られてしまっている。
遺跡内でのゴタゴタがどのように帰結したかは知る由もないが、連中が無事ということであれば、ウィキッドの悪評は共有されるだろう。
折原臨也とは、一応協力関係にはあるが、あの男が悪評撒かれるウィキッドを庇うような動きをするとは到底思えない。むしろ、面白がって、ウィキッドのこれまでの所業を暴露する事だってありうる。
そうなると、遺跡組から参加者間にウィキッドの悪評が広まるのは、免れない。

悪評の発信源として、もう一人忘れてはいけないのがカナメである。
彼もまた他の参加者と出会うことがあれば、間違いなくウィキッドのことは吹き込んでいるだろう。

そうなると、参加者間にウィキッドの悪評は蔓延るようになり、これまで彼女が行っていたような、集団に紛れ込み、内側から瓦解させていくような手法は使えなくなる。
最悪、見ず知らずの参加者と接触した際に、問答無用で攻撃を仕掛けられる可能性も捨てきれない。

したがって、ゲームで生き残るために、戦略の転換が強いられている状況となっており、ウィキッドにとって、それは死活問題であった。

「――そういえば、あのピンクチビ……」

と、ここでウィキッドはふと、アリアの支給品を回収していたことを思い出し、支給品袋に手を伸ばす。
今後の戦略を考えるうえで、自分が持つ手札は把握しておく必要が有ると考え、彼女は中身を確認していく。

そして―――。

とある支給品を手に取り、その説明書に目を留めると、彼女は口角を吊り上げた。

(……こいつは使えるかもな)

残忍な魔女の如き表情が、彼女の元に戻ってきたのであった。


684 : 眠れる森の魔女 ◆qvpO8h8YTg :2023/05/25(木) 21:05:05 BtjdgdNw0



「あはははははははっ、すっごいな、これ!! 瓜二つじゃねえか!!
あのピンクチビ、こんな面白い玩具、持っていたなんてなぁ!!」

部屋の奥に置かれていた姿見を前にして、魔女は嬌声をあげる。
興奮気味に笑う彼女が手にするのは、一本の古めかしい杖……。

へんげのつえ―――。

同封されている説明書によれば、対象を、使用者が意図した姿に変身させるものだという。
ウィキッドには知る由もないが、これは元々、キース・クラエスに支給されていたものである。
キース死亡後にアリアが回収して、今はウィキッドの手に渡っているという訳だ。

ウィキッドからしてみれば、アリアがこの支給品を彼女の同行者達に披露していたのか、それとも敢えて利用する機会がないから、伏せていたのかは定かではない。
しかし、確実に言える事は、この杖の効果に嘘偽りがないということだ。
それは眼前の鏡が、元来の彼女の姿ではなく、とある参加者の姿を写し出していることが、立証している。

「変態鳥仮面とカナメ君には、一杯食わされたけど、今度は私が騙す側ってことかぁ!!
そう考えると、ゾクゾクしてきたなぁ!!」

変貌した姿のまま、魔女は舌なめずりをする。

――まだだ……、まだまだ私は遊べる……。

まもなく、陽は沈み、会場には三回目となる定時放送が響き渡る頃合いだ。
そして、それ即ち魔女の活動再開の合図を意味する。

さてさて、この新たに手に入れた玩具を使って、参加者共を陥しめて、壊していくべきか――。
絶望少女は、不敵な笑みを張り付かせ、次なる災厄を撒き散らさんと、画策する。

魔女の宴は、続く――。


685 : 眠れる森の魔女 ◆qvpO8h8YTg :2023/05/25(木) 21:05:26 BtjdgdNw0
【D-5/民家/夕方/一日目】

【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:???の姿(へんげのつえで変身済み)、鬼化、食人衝動(小)、疲労(極大)、カナメへの怒り(中)、無惨と麗奈への殺意(極大)、臨也への苛立ち
[服装]:???
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2 、アリアの支給品(不明支給品0〜2)、キースの首輪(分解済み)、キースの支給品(不明支給品0〜1)、カタリナの布団@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…、北宇治高等学校職員室の鍵、へんげのつえ@ドラゴンクエスト ビルダーズ2
[思考]
基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ
0:陽が沈んだ後、変身した姿で行動開始。
1:無惨と麗奈を探しだして、殺す
2:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。
3:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。
4:金髪のお坊ちゃん君(ジオルド)は暫く泳がすつもりだが、最終的には殺す。
5:舐めた真似してくれたカナメ君には、相応の報いを与えたうえで殺してやる
6:暫くは利用していくつもりだが、臨也はやはり不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。
7:私を鬼にしただぁ? 元に戻せよ、クソワカメ。
8:アリアの後輩達(あかり、志乃)に出会うことがあれば、アリアの最期を語り聞かせてやる
[備考]
※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。
※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。
※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読んでおり、覚醒者『006』は麗奈、『007』は無惨が該当すると認識しております。
※ 麗奈との距離が離れたため、太陽に対する耐性を失いました(認識済み)
※ へんげのつえを使って、ウィキッドが知っている参加者の誰かに姿を変えています。誰の姿に変身しているかについては、後続の書き手様にお任せします。

【支給品紹介】
【へんげのつえ@ドラゴンクエスト ビルダーズ2】
キース・クラエスに支給。
対象に向かって杖を振ると、使用者が知っている者に変身させることが可能。
尚、姿や声を変える事はできるが、身体能力は元のままで、変身した相手の能力を使用することは出来ない。


686 : 眠れる森の魔女 ◆qvpO8h8YTg :2023/05/25(木) 21:05:41 BtjdgdNw0
投下終了します


687 : ◆qvpO8h8YTg :2023/06/02(金) 00:21:35 Qkm6ltGU0
一旦書き手様による予約を凍結し、第三回放送を予約いたします。


688 : 名無しさん :2023/06/05(月) 15:53:47 mLGwXwzo0
楽しみです


689 : ◆qvpO8h8YTg :2023/06/10(土) 09:13:43 4NGCeXTo0
投下します


690 : 第三回放送 ◆qvpO8h8YTg :2023/06/10(土) 09:14:17 4NGCeXTo0
参加者の皆様方、ご機嫌よう。
ゲーム支配人のテミスです。
これより、三回目の定時放送を始めます。
皆様、だいぶお疲れかと思いますけど、聞き漏らしがないよう注意して下さいね。

それでは、まず禁止エリアの発表から。

C-6
D-4
F-5

以上3つのエリアが21時から進入禁止になります。
くどいようだけど、禁止エリアに進入してしまうと、首輪が爆発してしまうので、ご注意を。
折角ここまで紡いだ命ですもの、我々としても無碍にはして欲しくないです。

さてさて、続けては、皆さまお待ちかねの死亡者の発表よ。

【シドー】
【鎧塚みぞれ】
【ジオルド・スティアート】
【武蔵坊弁慶】
【佐々木志乃】
【ビルド】
【マロロ】
【富岡義勇】
【シグレ・ランゲツ】
【カタリナ・クラエス】
【神崎・H・アリア】
【岸谷新羅】
【博麗霊夢】
【フレンダ=セイヴェルン】

以上14名となります。
75名で始まったこのゲームも、残すところは32名―――半分以下となってしまったわね。
ふふっ…、生き残っている皆様がたには、今一度、自分が43名の屍の上に立っているということを認識して貰いたいわぁ。
過程はどうあれ、抱える事情はどうあれ、皆さま方は彼らに勝った強者よ。
それは紛れもない事実―――。
どうか、貴方がたには、その事実を受け止めて、優越感に浸るもよし、罪悪感を味わうもよし―――。
ともかく、弱者たる彼らの敗北を糧として、これからのゲームにも臨んでください。

そして、どうか我々に、もっともっと、見せて下さいませ。
強者同士による全力の殺し合いを-――。
その末に生まれる悲劇と喜劇を---。

皆様が、このゲームで織りなす全てを、我々は見届けさせていただく所存でございます。

今回の放送はここまで。
最後に恒例となりましたが、放送の締めくくりに、μが皆様に生歌をプレゼントいたします。
うふふっ、皆様も、密かに楽しみにしていたのではないでしょうか?
今回歌っていただく曲は、「おんぼろ」―――これは私のお気に入りの曲なの。
作曲者の込めた感情が顕著に表れていて、癖になる曲だから、是非是非聞き入ってくださいね。

それでは、また次の放送でお会いできることを願っております。
ご機嫌よう〜。


691 : 第三回放送 ◆qvpO8h8YTg :2023/06/10(土) 09:14:51 4NGCeXTo0


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

爆弾持って立ってた 淡々と黙ってた
薄幸の悪性腫瘍 だんだん膨らんできた
マイナス思考の英知も 傷を広げるイメージも
この現実の不条理を ぶっ壊すためのツールさ

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


歌姫が唄うは、声なき少女が綴った絶望と怨嗟の叫び。
家族に囲まれて、時には褒められて、時には叱られて―――。
そんな平穏で、傍から見たら何て事のない幸せを、たった一人の悪意によって、踏みつぶされた少女の感情は、μの歌声によって、少女自身が立つ会場に運ばれる。

「何度聴いても、良い曲よね」
「あん? あんた、本当にこんな陰鬱な曲が好きなのか?
どっちかっていうと、金髪の女楽士の曲のが、お似合いだと思ってたが?」

ステージ上で声を響かせる歌姫を眺めながら、テミスと田所は言葉を交わす。

「楽士ミレイの曲も勿論好きよ。
だけど、梔子さんの曲は、如何にもザ・不幸って感じがして、とても愛らしいのよ。
首輪を付けて、撫でてあげたいくらいにね……私は彼女のファンよ」

愉悦と共に、テミスは目を細める。
その表情は、単に好感を抱いている人間に対するものではなく、薄幸の楽士の境遇を見下し、嘲笑うものであった。
そんなテミスに、田所は呆れたような視線を送る。

「良い趣味してんな、お前」

「褒め言葉として、受け取っておくわ。
そういう貴方はどうなの? この曲は好みではなくて?」

「俺はμが歌ってくれれば、曲なんざどうでも良いんだが、あの梔子とかいうガキには、苦い思い出があるからな……。
あいつが作った曲となりゃ、手放しでノレねえんだよ」

「あら、そう。難儀なものね」

相槌を打つテミスだが、その目はどこか小馬鹿にしたように笑っていた。
田所はそんなテミスを一睨みすると、不機嫌そうに鼻を鳴らした。


692 : 第三回放送 ◆qvpO8h8YTg :2023/06/10(土) 09:15:23 4NGCeXTo0
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

儚い 儚い 儚い 儚い 儚い生命の枷
何度も両手を合わせて 刻み込んだ怨根
いらない いらない いらない いらない
いらない 相対的 弁解
内臓を抉る叫びと 蠕動する醜い感情

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


「それで…俺らは、このまま待機ってことで良いのかよ?」

「えぇ、その通りよ。 護衛の皆様は、もう暫く、ここで高みの見物をすることになるわ。
必要があれば、μと一緒に動いてもらうことになりそうだけど……あの方の命令待ちね」

「あのいけ好かねえ、仮面野郎か……」

田所は、第二放送直後に面会したGM(ゲームマスター)の事を思い出すと、顔を顰めた。
このイカれたゲームの黒幕の面がどんなもんかと、興味本位に付いて行ったが、いざ対面するとその面貌は、仮面に覆われて拝むことは叶わなかった。
声色から男性だということは伺い知れたが、それ以上の素性は掴めなかった。

「仮面だったら、貴方も装ってるでしょうに……。
随分とGMのことを毛嫌いしているようね」

「あんな得体の知れない奴を、信用しろっていうのが無理あんだろ。
言っていることも、ぶっ飛びすぎてて、シャブでもキメてんのかと思ったぜ――」

田所としては、GMが顔を隠していたのも気に食わなかったが、彼から告げられた内容も、途方のない話で、それでいて胡散臭く聞こえたのである。

「まぁまぁ、そこまでにしときなさいな。
私達はあくまでも雇われの身――ただ与えられた仕事をこなせば良いのよ。
それに、あのお方のおかげで、今の貴方があるのも、どうかお忘れなく」

不満を口に出す田所に、テミスは釘を刺す。
田所は「チッ」と舌打ちをすると、口を噤んだ。
そんな田所の様子を横目で見ながら、テミスはステージ上のμへと視線を移した。
そして、先の面会で、彼女の雇い主に語られた内容を反芻する。

「虚構と現実の逆転―――」

GMがテミス達に告げた、彼の最終目標。
この殺し合いは、あくまで、それを実現するための手段に過ぎないという。
そして、それを実現するためには、眼前の歌姫がキーパーソンになるということだ。

「確かに、あのお方が仰った計画には、私も驚かされたわ。
だけどもし、それが実現するのであれば、それはそれで素晴らしいことだと、私は思うわ。
貴方は、そう思わなくて?」

「……世界がどうなろうが、知ったこっちゃねえよ。
俺は間近でμの歌を聴けるなら、それで良い」

「……ふふっ、『μの歌を聴けるなら』ね……」

「あん? ……何か文句あるかよ?」

含みのある言い方をするテミスに、田所は訝しむような視線を向ける。

「いいえ、何でもないわ。
だいぶ彼女にお熱のようで、妬いてしまっただけよ」

妖艶な笑みを浮かべるテミスに対し、田所は「けっ!」と悪態をついて、再び視線をステージに戻した。
そんな田所の様子を見て、テミスは心の内でほくそ笑む。


(――さてさて、全てが終わった時に、果たして、彼女は『歌姫』のままなのかしらね)


693 : 第三回放送 ◆qvpO8h8YTg :2023/06/10(土) 09:15:58 4NGCeXTo0
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

消えない 消えない 消えない 消えない
消えない 炎の影
潰れた虫けらみたいに踏みにじられた平穏
癒えない 癒えない 癒えない 癒えない
一体 何が正解?
一生つきまとう殺意と
失意に堕ちてく感情

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


かつて、全てを失い、絶望した男がいた。
男は、己が父母に反目した結果、彼らを失うことになった。
彼らが注いでくれた愛情に気付いたのは、全てが終わった後。
自分に付き従っていた三人の冠童達もまた、彼への忠を捧げたまま、逝ってしまった。
もう彼を支えてくる者は誰一人いない。

全ては筋違いの妬みと野心を招いた自らの失態―――。
しかし、それを悟っても、失ったものは戻ってこない。

失意の中、彼が手にとったのは原初の仮面。
この仮面を纏いし者は、超常の力を得るとうたわれる代物。

そして、彼はその力に縋った。

『仮面(アクルカ)よ、我に力を―――!!』

だが――。

『――っ……』

先の戦闘で損傷を負ったのか、仮面は、本来の機能を失っており、根源への扉を開くに至らなかった。
男が異形に変わることも、人智を超えた力を得ることはなかったのである。

唯一残っていた蜘蛛の糸を、手繰り寄せることが出来なかった男は、その残酷すぎる現実に絶句する。

しかし――。

『あなたも苦しいんだね? 辛いんだね?』

原初の仮面は、本来保有している能力を発動する代わりに、異界より白き歌姫を遣わした。

『貴方は……?』

そして、男に彼女を使役する能力を与えたのであった。

せめて、彼女の力を以って、己が理想を叶えよ、と告げるように。


694 : 第三回放送 ◆qvpO8h8YTg :2023/06/10(土) 09:16:46 4NGCeXTo0
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

もう 帰らない日々
目をつむる度
思い出す夜に

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


―――残す検体は32体。実験は、順調に進行中。

無機質な部屋のデスクに腰掛ける、その男は、会場の様子が投影されたモニターを眺めながら、思考する。
男の顔は、仮面に覆われており、その面貌を窺い知ることは出来ない。

彼こそが、このバトルロワイアルの元締めであり、テミスからGMと呼称された男である。

―――注目すべき検体は、この二体……。

モニターをタップし、表示されるは【ベルベット・クラウ】と【間宮あかり】の二名の覚醒に関するレポート。
複合異能は度々ゲーム内で、様々な参加者に発現しているが、この二人の覚醒は特筆すべきところがある。
今後も、更なる進化及び彼女達と接することで、他の参加者の覚醒を促すことも期待できるだろう。


―――ゲームの運営は、現状維持が妥当か……。

ここで、男は、現行の運営陣を振り返る。

ゲーム運営を取り仕切るテミスは、会場内で猛威を振るった魔王ベルセリアに臆したのか、第二放送後に、Lucidこと田所興起を伴って接触してきた。
故に、彼女に語った。全ては想定の範囲内であると。
そして、このゲームは、魔王ベルセリアのような複合異能体を誕生させ、彼らの魂をμに取り込ませることが目的であるが為、彼の者の誕生はむしろ喜ばしいということも。
その内容に、テミスは当初こそ面食らった様子ではあったが、未だゲームの盤面は此方の掌中にあると理解すると、その顔に余裕を取り戻した。
自分の保身を第一に考える彼女らしい。

彼女は主催者として、優秀だ。
自分が安全位置にいると確信を得ている間は、まだまだ利用価値はあるだろう。
またリック、セッコ、田所興起の三人も、μへの依存という点で見れば、信頼はおける。
歌姫の護衛という役割については、全うしてくれるだろう。

今のところ、運営サイドに問題はなく、ゲームの運営そのものについて、自らが陣頭指揮をとる機会はないだろうと、総括する。

―――そして、『収穫』の機については、慎重に見極める必要あり。

最後に、男は、今後の方針について思考を巡らした。

この計画の最終目標は、ゲームの完遂などではない。
最後の一人になるまで、殺し合いをさせて、優勝者を出す必要などないのだ。

太古の人類、大いなる父(オンヴィタイカヤン)が構想した、電脳計画――。
それを流用して、μの力を以って再構築した電子の世界。
この虚構の牢獄に、招いた75の魂を相争わせて、成長させ、研鑽させ、進化させて―――最終的にμに吸収させる。
そして、強化した彼女の力を奮って、現実(じごく)を虚構(りそう)で塗り替える―――。

それが今回の計画の目的である。

故に今は、検体達の進化を観察し、『収穫』の機会を伺うことにする。

「―――父上、見ていてください。 私は成し遂げてみせます……」

かつて、ヤマト八柱が一人―――『影光』とうたわれた、その青年は、虚空に向けて、そう呟くのであった。


695 : 第三回放送 ◆qvpO8h8YTg :2023/06/10(土) 09:17:33 4NGCeXTo0
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

残酷な運命の原罪
みんな いなくなって ひとりぼっちは嫌だよ
絶望どもを殺して 歌いたい 歌いたいから
たとえ間違いでも 曲を作るよ
炎の中へ 声を失くした
おんぼろになっても

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


【死亡者43名 残り32名】

【ウォシス@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:健康
[服装]:いつもの服装
[装備]:プロトタイプ@うたわれるもの
[思考]
基本:μを強化させて、現実(じごく)を、虚構(りそう)で塗り替える
0:暫くはゲームの経過を観察する
1:ゲームを進行させ、『複合異能』を誕生及び成長させる
2:誕生させた検体について、ゆくゆくはμに『収穫』させる
3:ベルベット・クラウ、間宮あかりの動向に注目
[備考]
※ プロトタイプは本来の能力を失っていますが、μを使役する力だけは行使できるようです。


696 : ◆qvpO8h8YTg :2023/06/10(土) 09:19:31 4NGCeXTo0
投下終了となります。
キャラ予約の解禁は6月11日(日)0:00からとなります。


引き続き、当企画にお付き合いいただけますと幸いでございます。


697 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/11(日) 00:23:19 /Wf4wq7k0
第三回放送投下お疲れ様です!

垣根提督、夾竹桃、麦野沈利、ムネチカ、十六夜咲夜、リュージ、魔王ベルセリア、琵琶坂英至、流竜馬、メアリ・ハントで予約します


698 : ◆2dNHP51a3Y :2023/06/12(月) 22:10:20 /PdF2omk0
第三回放送突破おめでとうです! これからも楽しみにしています
ということですので、黄前久美子、高坂麗奈、ビエンフーで予約します


699 : ◆2dNHP51a3Y :2023/06/13(火) 22:27:21 dUhya7Iw0
投下します


700 : よるのないくに 〜新月の花嫁〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/13(火) 22:28:06 dUhya7Iw0
夜の帳が落ちる。再び天幕を闇が包み、月明かりが照らす。
駅のホーム座り込み、お互いの惨状を直視するのは二人。

この殺し合いにおいて唯我独尊たる悪意に振り回された、被害者二人。
悪意の舞台にて狂い踊り、その手を血に染めた二人。
冷たき月が、青白く輝く新月のみが天幕より照覧する。
刻の静寂に揺れる奈落の一欠片、零れ落ちる雫を受け止める唇は無く。




――毀れ落ちた二人の世界に残されたこの場所で、彼女(きみ)は。


「――麗奈になら、殺されてもいいよ。」



☆ ☆ ☆

放送が、流れた。
またしても、何人も死んだ。
そこには鎧塚みぞれの名前もあった。
でも、そんな事よりも。
お互いに、再開できたという事実と、渦巻く複雑な感情があった。

「……麗奈、麗奈、だよね………?」

再開の喜びの前に、悲惨さからの怯えの方が上回る。
何せ様々な試練や苦難を経て、現実より目を逸らして、大切な友達と再開することになったとはいえ。
そんな友達の、左腕の肘から先が消滅しているという事実と。
そして、人間とは思えぬ赤い瞳が。

「麗奈、で、いいん、だよ、ね……?」

恐る恐る、尋ねる。
帰ってきたのは、小さな頷きという名の肯定の意思表明。
赤く妖しく輝く瞳が、黄前久美子を無言で見つめたまま。

「……良かった。生きてて、良かったぁ……。」

やっと絞り出した言葉が、安堵の感情に乗せて漏れる。
ついさっき死にたくなって、それでも死にたくないと立ち上がれた先にあった一種のご褒美のようなもので。
やはり、生きていたことが、嬉しかったのだ。

「……久美子ぉ………。」

泣いた、脇目も振らず、涙を流して。
喜びも悲しみも後悔も絶望も巻き込んで、そしてただ親友と再開できたという事実に。

「……ねぇ、麗奈。何が、あったの……?」

一方で、震えながらも、久美子は麗奈に問い掛ける。
だが、その言葉に、僅かな恐怖が混じっている。
血腥い。久美子でも分かる、血の匂い。
人殺しの、匂い。――自分と、同じ。

「麗奈も、……殺したの?」
「ッ!?」

徐ろに出たその言葉に、麗奈は思わず息を呑んだ。
殺した、というのならまだマシだった。
高坂麗奈は食べたのだ、人間を。自分を助けようとした騎士を。
そして「麗奈も」という、その言葉が示す意味は。

「……久美、子……?」

大きな勘違いをしていた。自分と違って久美子は多少の傷はあれど無事だと思っていた。
自分以上に、その心に負った傷があった。黄前久美子もまた人を殺していた。
それが、衝動的なのか、正当防衛からなるものなのか、判断は付かないけれど。
少なくとも、それが彼女が望んでやったことではないという事だけは、はっきりとそう信じれた。
そして、妖しく光る紅玉を恐れ、畏怖するように。

「……ひと、ごろし。」

自分を棚に上げて、黄前久美子はそういった。
ただ、「仕方のないこと」として、冷静に受け入れている自分がいた。
それと同時に、彼女にもそう思われてしまった事への、悲しみはあった。
それ以上に、友達からもそう思われてしまう程に変貌してしまった自分への絶望があった。
久美子の性格の悪さを知っているからこその、諦めで。
でもやっぱり、久美子にそう言われた事が、とてもショックだった。


裏切られた。


裏切った。


だったら。


「――ア。」
「……麗奈?」
「アアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!」


――■■■■■■。


701 : よるのないくに 〜新月の花嫁〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/13(火) 22:28:30 dUhya7Iw0


お腹が減った、とてもとてもお腹が減っている。

食べないといけない。人間を食べないと飢えを満たせない。

「こっ……来ないでよぉ、来ないで化け物! ……………ぁ。」

人間がいる。美味しそうな女がいる。

人間の分際で、私を化け物扱いする。鬼をただの化け物扱いとは。

まあ、どうせ食べればいい、関係のない話。

食べれば良い、飢えを満たすために。

私はただの鬼。鬼舞辻無惨様によって鬼に変えられて――。

どうして、私の手が震えている。
どうして、私の身体が止まっている。
どうして、獲物が目の前にいるというのに。

どうして、私は涙を流しているの?

この心に引っ掛かる感情は何?

「……そうだったんだ。私、麗奈の事裏切っちゃったんだ。」

餌(くみこ)が、何かを言ってる。
全てが遠い思い出のようにリフレインしている。
何か、何か忘れようとしていたことを。思い出そうとしている。
何だこれは、どうでもいい事のハズなのに、私は何を思い出そうとしているの。

「何もかも、言い訳して押し付けようとしたんだ。セルティさんが死んだ事も、ジオルドさんを殺したことも。……みんな悪い奴のせいって。」

お前は何を言っている。貴方は何を言ってるの?

「……ほんっと、私って性格悪いよね。」

そんな事、とうの昔に知っている。
そうじゃなかったら、中学で仲が拗れる事なんて無かったはずなんだから。
大体、久美子は昔っからそういう所あるよね。

「……それで、結局。最後の最後に、麗奈の事、裏切ろうとして、結局。」

何もかも諦めたように座り込んだ久美子の姿が、新月に照らされて、美しく見えた。
それ以上に、疲れているように見えた。何もかも、もう良いかなって感じで。
自分の罪から、都合よく逃げようとする愚か者にも見えるように。

「もう、良いかな。これは私への罰なんだって。……約束したのに、裏切るような真似しちゃったから。」

なんで。そんな顔が出来るの。今から私に食い殺されようってのに、久美子。
……ああ、なんだ。あの時の約束。忘れてなかったんだ。
今の私は人食い鬼なのに、特別になってしまったのに。久美子の手が届かない場所まで行き着いてしまったのに。

「……だから。」

私なんかに構わず、見捨ててしまえばよかったのに。
私はこのまま、高坂麗奈であることを忘れて、ただの一匹の鬼に成り果てるのに。
我慢できない、誰かを食べたいという衝動が抑えられない。

「――麗奈になら、殺されてもいいよ。」

――そばにいてくれる?裏切らない?
――もし裏切ったら、殺して良い

――本気で殺すよ?
――麗奈ならしかねない、それをわかった上で言ってる。


「もう、疲れたから。…………ごめんね。約束、破って。」


――もう我慢出来ないごめんなさいごめんなさい久美子ああ久美子
私はもう夢を叶えられないヴァイオレットさんにも謝れないしああお腹が減っている食べたい食べたい眼の前の人間美味しそう誰かに食べられる前に食べないと。
食べないと食べないと食べないとその美味しそうなお肉食べごたえある美味しそう食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい――――。

「ちょっとまったで、フ……ってうわあああああああ!?」

なんだこれ邪魔しないでさもないとお前も食べてやるそうだ口鳴らしにちょうどいい前菜だ。
捕まえちょこまかと動く邪魔するなお前は何だもういいそこで黙ってろダマッテロ――!

「でフぅぅぅぅ!!!???」

悲鳴(ざつおん)声(ざつおん)声(ざつおん)ドウデモイイドウデモイイハヤクハヤクメインディッシュタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイタベタイ
アハハハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――――――――――!!!!!


―――イタダキマス


「……れい、なぁ。」


――くみ、こ。わたし――――。


私が最後に聞いたのは、久美子の声と。
よくわからない光に包まれる、私の意識。


702 : よるのないくに 〜新月の花嫁〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/13(火) 22:29:00 dUhya7Iw0
◯ ◯ ◯



結論から言えばビエンフーは、ただただ運が悪かった。
行く宛もなく我武者羅に駅に向かったのが運の尽きだった。
高坂麗奈と黄前久美子の元にたどり着き、彼女に事情を聞こうとした。
そのタイミングが、高坂麗奈の食人衝動が黄前久美子の発言をトドメとしてトリガーが引かれたタイミングで。
結果、食べようと思ったらちょこまかとするものだから一旦黙らせられて。
その次に正気を失った高坂麗奈は黄前久美子に噛み付いて、その肉を堪能したわけで。

ただし、忘れてはいないだろうか。鬼となって間もない頃、高坂麗奈はオスカー・ドラゴニアを食らっている。神衣を習得し霊力を宿した彼を、だ。
そしてまず、この場合の鬼は穢れではなく鬼舞辻無惨の血による変異の結果。
本来ならあり得ない「霊力」と「鬼(けがれ)」の力が共存している状態だ。
しかし、その程度で天秤は傾かない。その程度では、彼女の「鬼(けがれ)」を揺るがす要素とはならない。このまま行けば、彼女はただの人食い鬼と成り果てるだろう。
だが、彼女が次に食べたのはビルダーの鐘を聞いたことで『ビルダー』となった黄前久美子。
つまり、黄前久美子の情報に『ビルダー』の情報が付与された状態のようなものを、直接食べたということであり。
『ビルダー』とは、精霊ルビスによってモノづくりの力を授けられた存在のことであり。
その力の根源は、間違いなく精霊ルビスのものであり。
結果として聖なる力の比重が二重となり、穢れの割合を上回ったということであり。

あと一つ、デジヘッドとしての高坂麗奈。
『コスモダンサー』による精神干渉と身内による死のトラウマの相互干渉でデジヘッドになった彼女であるが。
デジヘッドの状態とは要するに内面の暴走状態であり、それをアリアの力もしくは自力で調律し安定化させた力をカタルシスエフェクトであり。
最も後者を可能とするのは柏葉琴乃と琵琶坂永至、そして神隼人等と少ないが。
つまる所、自力での精神安定を可能とするならば、デジヘッドの暴走する力はカタルシスエフェクトとなりうるのであり。

もし仮に、鬼としての力を、穢れを。世界観の異なる、聖なる力を以て調律することが出来たなら。
そして、それに導く最後の鍵となりうるピースは、――高坂麗奈の理解者たる黄前久美子ただ一人である。


703 : よるのないくに 〜新月の花嫁〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/13(火) 22:31:08 dUhya7Iw0
☆ ☆ ☆


教室の中に、私はいる。
いつもの音楽室の中に、私はたっている。
私の周りを囲んでいるのは、私に対し怯え、恐れ、敵意を向ける見知った生徒たち。

『――残念です、高坂さん。』

滝先生が、私に銃を向けている。先生の鶴の一言で、他の生徒も私に銃を向ける。
私の手には血と腸と臓物がへばり付いていて、地面を見ればついさっき私自身が食い散らかした人間の残骸がある。

わかった。これは地獄だ。地獄の獄卒が滝先生やみんなの姿で私を裁きに来たんだ。
仕方ないよね、だって私は久美子を食い殺してしまったんだから。
でも、流石にこれはキツイなぁって。
だって、滝先生が心底失望して、嫌悪した顔で私に銃を向けてくるんだもん。

人食い鬼は、元の太陽の下に居られない。たとえそれが望んでいないものだったとしても。
だからこれは当然の帰結。恋の願いもこうやって踏み躙られて。
謝りたい人に謝る機会すらハナから存在しなくて。
あすか先輩も、希美先輩も、みぞれ先輩も、死んでしまった。私を助けようとした人も死んでしまうのなら、ヴァイオレットさんはもう二度と私に会わなくなったほうが良いと思った。
本当なら私は、ここで終わるべきはずで。

でも、本当は生きたかった。
生きて帰って、今度こそ。今度こそだって思ったのに。
こんなくだらない事に巻き込まれて、私の人生は終わってしまうのかだなんて考えたら。
誰とも違う『特別』になる事を願って、それがこの結末。
望んでもいない別の『特別』にされて、人を殺してしまって。挙げ句、抑えきれない欲望のままに友達を食い殺した。

『貴方は何処にも行けませんよ。』

酷く冷たい言葉が木霊する。最初から分かっているじゃないか。
この悪夢が全ての答え。元の世界へ帰った所で、食人衝動を抑えられない自分は、こうやった排斥される。
もうちょっとリアリティあっても良かったんじゃないかなと強がりを言おうと思ったけど、無駄だと分かっているからやめた。

『貴様は何処にも行けぬ。』

滝先生の顔が、あの鬼に。月彦さんの顔に。
もうお別れの時間なんだね。私はもう完全に鬼になるんだって。
人を食い殺すただの鬼に。

ねぇ久美子。久美子も人を殺しちゃったんだよね。
裏切ってしまったから、態々私に食い殺されることを選んだんだよね。
じゃあ、せめて一緒に地獄に行こう。
私達の演奏を、地獄の鬼達に聴かせてあげるのも、悪くないのかもね?

「……嫌だ。」

死にたくない。こんな事を鬼になる前に思うなんて情けない。
鬼になって、今までの自分が何処にもいなくなってしまうのが怖い。
それはもう、『高坂麗奈』として死んでしまうのと同義だから。

「……助けて。」

我慢できなくなる。罪悪感を形どったヒト型が私に銃を向ける。
訳の分からない事に巻き込まれて、鬼にされて、挙げ句自分の人生が鬼の価値観に奪い尽くされるなんて。
嫌に決まってる。だから、誰でも良いから。誰でも良いから。

「……私を、助けて。」

泣き崩れて、無意味だと分かっていても。
無駄だと知っていても。それでも願わずには居られない。

『貴様に救いなんてある訳無かろう。』

知っている。救いなんて無い。鬼になった私に救いなんて。
それでも。助けて欲しかった。
誰でも良いから。鬼でも蛇でも、救いようのない外道でも誰でも良い。
だから。私の全てを捧げてもいいから。だから。

『貴様は、永遠に私の奴隷なのだから―――』

ただ一つ、たった一つ願うことがあるのなら。
せめて、それでも叶うものがあるのなら。


704 : よるのないくに 〜新月の花嫁〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/13(火) 22:31:22 dUhya7Iw0



――私、特別になりたいの。

――他の奴らと、同じになりたくない

――だから私は、トランペットやってるの。

――他の人と同じにならないために


ある日のやり取り。私達の関係が元の音調に戻る切っ掛けになった、夜の下で。
街の煌めきに照らされた、よるのないくにで。
私はいつまでも覚えてる、あの愛の告白をいつまでも覚えてる。

私は今この時なら、命を落としても構わないと思った。









生きているのか死んでいるのかわからない曖昧な意識の中で、私は肉の塊に包まれた麗奈を見つけた。
抉り取られたお腹の事なんて気にしないで、血を流しながら。

「……れい、な。」

ねぇ、麗奈。麗奈の思い描く『特別』ってそんな汚いものだったの?
そんな人食い鬼になることが『特別』だったの?
違うよね、違うと言ってくれるよね?

これは、夢で。私はとうの昔に死んでいるのかも知れない。
そもそも、麗奈が生きているのか死んでいるのかどうかもわからないのに。
体中が悲鳴あげている、顔の色んな所から血が吹き出して、視界が真っ赤で定まらなくなっているのに。
今まで死にたくないと怖がって逃げ続けたというのに、こんな時に限って死ぬことが怖くないなんて本当に都合がいい。麗奈に言われた通り、やっぱり私は性格の悪い女だ。

でもさ、こっちだって麗奈に言いたいことはあるよ。
人が苦労している時に勝手に鬼になって勝手に人殺しておいて、挙げ句麗奈らしくない所見せられて。
私一体どういう思いで麗奈に接したら良いのかわからなくなったじゃない。
ああもう、そんな事考えてたらジオルドさん殺した時の事とか本当にどうでも良くなってきた!

「……れいな、は。ほかのひと、とは、ちがう。」

一歩ずつでも近づいて、へばり付いた肉を引き剥がす。
すごく頑丈だから今の私じゃまとも動かせないし、周りの触手が邪魔してくるし体中串刺してくるし滅茶苦茶痛い。
でも、こんな麗奈の姿を、泣いている彼女の姿なんて見ていられないから。
綺麗な顔で眠っているのに、酷く悲しくて、後悔してる顔を見ていたら。

「……れいなは、とくべつなひとに、なるんでしょ……!」

こんな所で、麗奈の夢が奪われてたまるか。
こんな場所で、麗奈の人生を終わらせてたまるか。
例え、麗奈が悪者になったとしても、私は、私だけは――――

「だから、そんなことで、ながされ、ないで……!」

私だけは、ずっと。麗奈にとっての友達(とくべつ)のままで。

「そんなわけのわからないのに、まけるな、れいなぁぁっ!!!!」

だから、負けないで、高坂麗奈。
私にとって、大切な特別(ともだち)。
……でも、もうダメみたい。身体、動かないや。

「なに、いってるの、くみこ。」

なんだ、起きてたんだ。だったら、早く言ってよ。
もう私、疲れちゃったじゃない。

「……わたしは、まけたくなんて、ないに、きまってる。」

そんな声を聞いて、私は安心しきったように気を失いました。
肉を引き裂き飲み込み、包み込む光のようなものを目の当たりにして―――。


705 : よるのないくに 〜新月の花嫁〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/13(火) 22:31:48 dUhya7Iw0


☆ ☆ ☆

「な、なんでフか、これ……?」

気を失ってから再び目覚めたビエンフーが見た光景は、正しく常軌を逸した未知そのものであった。
抉り取られた黄前久美子の脇腹が、まるで時計を逆再生するかのように巻き戻り、修復されていく。
肉を貪り終えた鬼の少女・高坂麗奈には、瑠璃色の霊力のようなものが纏わりつくように彼女の中に入り込んで行くのが視認できる。
そしてまた、麗奈の髪の色にも変化が生じた。瑠璃色の魔力が入り込むごとに、髪の色が黒から赤へと変遷していく。
髪色が端まで完全な赤へと変化したと同時に、麗奈の左眼は完全な蒼へと姿を変える。

「……あれ、は……!」

そしてビエンフーは気付く。瑠璃色の霊力の出先が、高坂麗奈の口元から。
いや、更に正しくは彼女が喰らった黄前久美子の血肉から"も"だ。
だが、血肉から放出されているのは霊力ではない別の何か。

ビエンフーは知らないが。放出されているのは黄前久美子の『ビルダー』としての魔力。
ルビスと言う名の、アレフガルドの大地と海を創造した精霊の、その力の一端。
いわゆる聖主の力にも告示した聖なる力そのもの。
もう一つ、鬼舞辻無惨に与えられた呪い。人を鬼に変え理性を失わせる忌まわしき血。
オスカー・ドラゴニアを喰らったことによる霊力と、無惨の血と言う名の穢れの力。
そこに追加されたのが、精霊ルビスを大元とした『ビルダーの力』。――いや、これはもはやルビスの力の一端を取り込んだに等しい。
聖と穢、相反する二つの力を皮肉にも調律(ビルド)して、高坂麗奈は己がモノとした。
あり得ぬ二律背反(アンチノミー)をねじ伏せた、新種の人類の姿がそこにあった。

黄前久美子の傷もまた、いつの間にか完治していた。
これに関しては『デジヘッド・高坂麗奈』としてのスキル『アフィクションエクスタシー』によるものであるが。
その光景を、ビエンフーにとっては一種の未知として受け取っており、神秘的な光景と未知への恐怖が入り混じった心情であった。

「……ん、あれ……私……。」

そうこうしている内に、黄前久美子が眼を覚ます。まるで長い夢を見たかのような夢見心地で。
大きく疲れたような気怠さで、誰かに見られているような視線を感じて起き上がった。

「………久美子。」
「麗奈……ってええ!? そ、その髪の色何!? というか眼、左眼青くなってる?!」

起床一番に目撃したのは、食人衝動は何処行ったと言わんばかりに元気そうな麗奈の姿。
なのだが、目尻がなんか赤く腫れているのは兎も角、髪の色は赤く染まっているし、左眼は蒼く妖しく輝いていると来た。

「うん、私は大丈夫。久美子のお陰で、大事なこと思い出したし、今は色々と安定してる。……本当にありがと。」
「いや、あっけからんに言われても私の方がすごく困惑してるから!? いきなりモンスターが人間に戻りましたってされても戸惑うだけだから!?」

麗奈から開口真っ先に御礼の言葉を言われて、混乱する久美子。
そう言えば変な夢を見たなぁとか思い返して、齧られた傷を確認してみたら痕跡一つ残らず消えていると来た。困惑してもおかしくない状況ではあるが、何とも不思議と腑に落ちた。
腑に落ちたと同時に、何か吹っ切れたような清々しい感覚だった。

「……モンスター呼ばわりは酷くない? いやでも、別に戻ったわけじゃない、かな。」

そんな地味に毒の混じった言葉を吐いた久美子に、少々引きながらも「そうそう、そういう所が久美子だよね」とほほえみ返す。
その上で、まだ自分は人間じゃないままであるということも、自覚していた。

「でもね、久美子。」
「麗奈……ってうわっ!?」

そして唐突に、高坂麗奈は黄前久美子に抱きついた。


706 : よるのないくに 〜新月の花嫁〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/13(火) 22:32:39 dUhya7Iw0

抱き着いた、と言うよりは押し倒された、というべきか。
久美子の胸に埋まるかのように麗奈が抱き着いているという状況。
頬を紅潮させ、友人の異常な行動に思わず硬直する。
血で汚れた制服に、涙がポタポタと染みている感覚があって。

「………もう、人間じゃない何かになっちゃったの、私。」
「知ってるよ、麗奈。」

涙ぐんだ麗奈を、久美子は優しく抱きしめた。
感じる肌の血潮は冷たくて、涙の雫は凄く透き通っていて。
何が起こったのかは分からないけれど、さっきまで自分を喰おうとしていた化け物だったのが。
こうやって抱きしめられて、涙を流すことが出来る麗奈が、今更化け物だなんて思えなかったから。

「だから、例え麗奈が悪者になっても、私はずっと麗奈の味方でいる。」
「……裏切らない?」
「今度こそ、裏切らない、絶対に。――約束する。この言葉は嘘じゃない。嘘なんかにしたくない。」

あの時と同じ用に、麗奈が香織先輩に勝ちを譲ってしまおうだなんて考えをした時みたいに。
「悪者になっちゃうかも」なんて弱みを見せちゃった時のように。
だったら、今度こそ。ずっと麗奈の味方でいると、黄前久美子は。

「じゃあ。嘘じゃないって証明するために―――久美子の血を、吸わせて。」

それは、ある意味愛の告白だ。高坂麗奈にとって、特別(ともだち)である黄前久美子への。

「――いいよ。私も、ちょっと覚悟決めたから。」

そして、その言葉に堰が崩れたかのように、麗奈は、久美子の首元に噛み付いて。

「ああっ……麗奈、れいなぁ……!」
「……久美子の、おいしい…………」

可愛らしい喘ぎ声が響き渡る。月光の輝きに照らされて慰め合う二人の少女の絆が映し出される。
それは正しく愛の契約(ちぎり)であり、二度と手を離さないようにと誓った願いであり。
この後に告げられる黄前久美子の、とある覚悟を示すための儀式でもある。

聖なる力と、二人の友情(あい)が、高坂麗奈に掛けられた鬼舞辻無惨の呪いを討ち果たした証左であった。
呪いから解き放たれた高坂麗奈はただの鬼ではなく、黄前久美子という浄化の巫女を伴侶とした。
月光に照らされるに相応しき夜の女王。―――新月の花嫁である。


☆ ☆ ☆


「………じゃあ、いいかな。」

数十分にも渡るまぐわいを得て、乱れた服装を整え直し。黄前久美子の決意が告げられる。

「いいよ、久美子。……そこの小さな誰かさんは、変な事しないでくれないかな?」
「あっ、やっぱりそうですか逃げられないでフか。」

その傍らに、二人の濃厚な絡み合いを見せられ、逃げるタイミングを完全に見失った結果、麗奈に釘を差されれ動けないビエンフーという余分な何かを同席させたまま。

「麗奈。私はこの殺し合いで苦しい事があって、それで逃げようとして、それで麗奈にまた出会えて。思ったんだ。」

黄前久美子にとって、この殺し合いとはジェットコースターのようなものだった
同行者に恵まれたと思えば、自分のやらかしで誰かが死んで、失言で大変なことになって、挙げ句恐怖にまみれて望まぬ人殺しをして。結果的に生きているとは言え人間じゃなくなった親友に食い殺されそうになった。
いつも通りに振る舞っているように見えて、既に久美子の心は残酷な現実に押し潰されていた。
その、一滴の奇跡と残酷な現実を経て、黄前久美子というこの殺し合いにおいて唯一の特別(ふつう)は。
大言壮語にも等しい、たった一つの冴えた考えを告げる。

「……もし、あのμの力を何とか利用出来たら、この殺し合いを、なかった事に出来るんじゃないかなって。」


707 : ◆2dNHP51a3Y :2023/06/13(火) 22:33:01 dUhya7Iw0
ここまでで前編終了となります
後編は後日お待ち下さい


708 : ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 00:10:13 9YzfWl6g0
後編投下します


709 : よるのないくに 〜さよならビエンフー〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 00:10:36 9YzfWl6g0

「……は、え、いやいやいや!? 殺し合いをなかった事にする!? どゆこと!? どゆことでフ?!」

ビエンフーは大混乱だった。黄前久美子の言葉の意味をちゃんと分かった上で。
殺し合いに反抗するだとか、殺し合いに乗るだとかならまだ兎も角。主催を利用して殺し合いを無かったことにするという。
一体何を考えているんだ、と叫びたくなったが。

「黙って。」

絶対零度の如き麗奈の声に。鬼神を思わせるその重さに怖気づき、沈黙。
そんな哀れなマスコット聖隷の事などガンスルーと言わんばかりに久美子が話を続ける。

「ずっと気になってたことがあるの、μの歌で。」

それは、第一回放送以降から放送毎に流れるようになったμの生歌。
『コスモダンサー』『Distorted†Happiness』『おんぼろ』。
どれもこれも、黄前久美子の耳からしても上手とも言うべき歌声で。
その上で、感じた違和感があった。

「いつも流れる歌、あの娘のようで、あの娘じゃないって。」

黄前久美子は6年もの楽器経験年数を持つ楽器経験者。プロほどではないが相応に音楽に対しての耳も肥えている。その為か、μの歌を上手だと思いながらも、僅かな違和感が、彼女の脳内にへばり付いていたのだ。

「なんて言えば良いのかな……本領が発揮できていない? 棒読み? いや上手なんだけど、基礎が微妙に抜けていると言うか、管楽器慣れしてない人が他の人と一緒に演奏して隠しているような……。」
「誰かが、操作している?」
「麗奈、多分それ!」

麗奈の相槌に、思わずサムズアップ。
そう、操作されているのだ。楽器のように、チューニングされた歌をμが上手に発声しているという。
だが、操作者がそこまで音楽に長けているわけでないので、μ本来の歌声が上手でも、それを完璧に生かしきれていない。

「……言われてみれば。」

高坂麗奈もまた、μの歌を振り返って「そういえば……」と思い返していた。
上手だけれど、上手には程遠い。元の歌声が綺麗すぎて、違和感に気づかない。
こればっかりは、管楽器に長年触れて、音程の細かい幅を極め続けた者にしか気づかない、僅かな違和感。

「……私の勝手な憶測なんだけれど。μは、楽器なんだよ。楽器で……願望器。」

ヒト型の楽器にして願望器。黄前久美子はμの曲を聞いて、その僅かな違和感からそう考察した。
誰かに操られる楽器であるなら、楽器を扱うという点に長けた自分と麗奈ならば。
参加者の殆どが、第一回放送以降に流れたμの音楽を殆ど気にしていなかった。
直接の関係があるアリアですら、μの歌だということで優先順位は低かった。
今一度冷静になる機会がようやっと訪れて、現存でメビウス関係者以外でかつ、音楽に一日之長がある二人だからこそ。

「……だったら。……だから、あの時。」

そして、高坂麗奈が思い返したのは第一回放送直後。
衝動の発散の為、月彦に音楽を披露した後の事。正しく認識するならば、『覚醒者006』となった時。
報告書を思い返せば、デジヘッド化した自分の音楽によって月彦は太陽の光への耐性を得た。
もしかすれば、μの力に酷似した内容のものが、既に宿っているとしたならば。
願望器であるμが、自らの鬱屈した感情に反応して、望んでもない願いを叶えたというのなら。
その結果、手に入れたのは。音楽という共通の果てに得たのが、歌姫と似て非なる、音楽を奏でし『奏者』としての力ならば。
いや、そもそも。この場所において、『音楽』という概念が、大きく作用するのならば。


710 : よるのないくに 〜さよならビエンフー〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 00:10:51 9YzfWl6g0

「……久美子。もしかしたら私は。」

μの力でデジヘッドになった麗奈。その音楽を受けて同じくデジヘッドとなってしまった月彦。
その力の大元がμと同じくするものであり、鬼の力と霊力、そしてビルダーと言う精霊ルビスの力との融合によって、μの力を断片を更に改良(ビルド)したかのような『夜』の力は。

「μを何とかしたら、久美子の言う『無かったことにする』事が、出来るかも知れない。」

前提としては、砂漠の中から黄金を探すが如き難行苦行であるが。
今の高坂麗奈には、それが可能かもしれないという。
恐らく、辿り着く過程はμに、歌姫に対しての真っ向からの音楽対決。
全国大会なんて目じゃないレベルの大勝負を仕掛けるのと同義。

「――うん。μに何でもいいから勝って、無力化して、μの力を使って、この殺し合いで起きたこと全てを『最初から無かった』ことにするの。……そうすれば、あすか先輩やみんなも戻ってくる。」
「いやいやいや、無茶苦茶過ぎるでフ!?」

案の定、久美子の言葉にビエンフーが抗議の声。
幾ら何でも滅茶苦茶というか、μに対して(想定では)歌対決仕掛けて勝利してμの力+αで殺し合いでの出来事全部無かったことにするとかマジでなどういうことなの?である。

「………それに、麗奈も人間に戻れる。」

少なくとも、ビエンフーの心配と動揺を他所に、付け足すように加えた呟きが。
久美子にとって藁にも縋るような思いでかつ、友達を何とか出来ないかという正真正銘の善意によるもの。
その為の壁が、μやテミス率いる主催陣が仮想敵となる。

「(ヤバイヤバイヤバイヤバいでフ、これあの娘マジでやるつもりでフ!!!!)」

一方のビエンフー。久美子の言葉がマジでやらかす類の覚悟だと察してマジ焦り。
ビエンフー個人の意見として、「そんなものが他の参加者にとって罷り通るものなのか?」という事だ。
殺し合いに乗ってる奴らはそんな事関係あるかだし、ビエンフーの接触した他対主催にそんな都合のいいリセット的大団円を許容するようなメンツはまず居ないだろう。
一瞬何か反対意見とか出してくれるかなと僅かな期待を賭けて、麗奈の方を見てみるが。
当の麗奈は、そんな久美子の言葉に、呆れと喜びが入り混じった笑顔を見せて。

「……私がいなかったら、どうしてたの。ほんっと。」
「そんな事言われたって、麗奈とあんな事になってから思いついたから……。」
(あっこれ乗り気でフ。)

期待していた自分がバカだったとビエンフーは絶望した。
やる気だこれ、本人たちガチでやる気だこれ。と言うかこれ色んな意味でこっちにとっても他人事じゃないのでは?などとは思った。
現状自分の契約主である垣根がそれを認めるのか? いやどう考えても否に決まっている。
連鎖的にブチャラティとかライフィセットも恐らく否を唱えるだろう。

「……私以外の全てを敵に回すことになるかも知れないのに。久美子、それでもするの?」

麗奈が久美子に問い掛ける。ビエンフーの焦りの通り、やろうとしていることは事実上主催どころか他の参加者ほぼ全てを敵に回しかねない無謀。
未だ何の力も持たざる身である黄前久美子の望みは。無茶のまた無茶であり。

「するよ。一人じゃ心細いけど、麗奈がいるから。麗奈だけ悪者なんて似合わないから。」

たった一人の友達以外を敵に回しても、そんな大言壮語の幻想を望むそんな理由。
死んでしまった先輩のためと、鬼になってしまった友人のためと。

「それにやっぱり。……全て終わっても、戻ってこないものは戻ってこないなんて。絶対に御免。」

そこに込められた言葉は、悲哀か、願望か、それとも憎悪だったのか。
満面の笑顔で言い返したその言葉は、麗奈やビエンフーが思っているものよりも遥かに深い何か。
結局、勝手に理不尽に巻き込まれた事をなかった事にしたいだけの我儘だったのか。


711 : よるのないくに 〜さよならビエンフー〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 00:11:11 9YzfWl6g0

「……じゃあ、付き合ってあげる。何処までも、ずっと。」

なので、これ以上口を挟むのは野暮だとして、麗奈の覚悟は決まった。
例え全てが偽りだったとしても、今更そんな真実で久美子は止まらないだろう。
むしろ逆に「じゃあ偽物を本物にしてしまえば」的なニュアンスの事を言いそうだから。

「私の友達(とくべつ)を、誰にも穢させはしないから。」

だから、全て取り戻そう。残酷な現実を綺麗さっぱり消し去って。
全てを夏の夜の夢だと吐き捨ててしまおう。悪い夢を終わらせてしまおう。
この悪夢のような世界に終止符を。そして御都合主義なハッピーエンドを目指そう。

「……賛同してくれて嬉しい所悪いんだけれどさ麗奈。……またイメチェンした?」
「えっ?」
「あっ、ホントでフ。銀髪になってるし、右眼が赤くなってるでフ。」

なんて神妙な雰囲気を一気に崩壊させるような久美子の呆けた声。
ビエンフーが言うには髪の色は赤から銀になって、右眼は完全に赤く染まっていると来た。
しかも、無くなったはずの左腕が、何故か復元していたのだから。
復元した左腕と変化した銀色の髪をまじまじと見つめて、麗奈はこう呟いた。

「……ええと、多分。多分、だと思うけれど……久美子の血、吸ったから?」
「ええっ?」
「多分、ドーピング的な、そんな感じだと思う。……ほら。」

つまる所、久美子の血を吸ったことで一時的に変わった、というか左腕まで回復するとは思わなかった。
と言いたい所だが、その直後に髪の色も赤に戻り、左腕も煙のように消えてさっきまでの欠損状態のままに。

「時間制限あるみたいだから、元に戻っちゃった。」
「……ほ、ほんとだ。な、何だか恥ずかしくなってきたんだけど。友達の力借りてパワーアップ?とかそういうの、本当にあるんだって。」

そんな、少年漫画的な感じでのパワーアップ現象。しかも自分の血を飲んでという事実が妙に気恥ずかしくなり、久美子は思わず顔を手で覆ってしまう。
麗奈の方はそんな久美子の赤らめ顔にほんの少しご満悦のようで。

「そ、そんな事なら私の血ぐらいいっぱいあげる! ほら、今からでも噛み付いていいよ!!」
「いやいや、そんな事したら久美子まだ一般人なんだし、あの時はちょっと吸っただけだし本当は負担大きいから好き好んでは吸えないから!」
(一体オイラは何を見せられてるんでフか。ていうかこの間に逃げれば良いのでは?)

それを発端に始まった夫婦漫才を死んだ眼で見つめながら、この間に脱出できないかななんて思い始めたビエンフー。
実際なんか巻き込まれて気を失って眼が覚めたら何か逃げるなされて。というか何かそういうの多いとか思いながら、そろ〜り、そろ〜りと一歩一歩その場から離れようとする。

「それで麗奈が死んじゃったら元も子もない! それにどうせなら左腕はあった方が良いって、また麗奈のトランペット聞きたくなった時とか不便だから!」
「それじゃあ久美子すぐに貧血になっちゃう! いやそういう気遣いは嬉しいんだけど!」
(今のうち……今のうち……)

二人に目もくれず、バレないようにとゆっくりと。
何とか飛行し始めてもバレ無さそうかな、なんて距離まで離れたと安堵した。

「――それで、あなたは何逃げようとしてるの?」
「ふぇ?」

高坂麗奈の背中から生えた、管のような触手に捕縛されるまでは。
ビエンフーでは視認すら出来ない速度で生え出たそれは即座にビエンフーの身体に巻き付き、地面に一度叩きつける。

「ぐへぇっ!?」

潰れたカエルのような悲鳴を上げて、ビエンフー再度沈黙。
そして縛り上げられたまま気絶したビエンフーの身体は麗奈の眼前まで運ばれる。


712 : よるのないくに 〜さよならビエンフー〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 00:11:32 9YzfWl6g0

「あれ、麗奈いつの間にそういう事出来るようになったの?」

麗奈の行動に対し、久美子は物珍しそうな感じで声を掛けた。
常人が見るには中々グロテスクな光景であるが、破壊神シドーという異常を目撃したためか、もはやこの程度では全く動じなくなっていた。

「久美子のやろうとしていること手伝うにしても。この先水口さんや月彦さんみたいな強敵と戦わなきゃいけないから、慣れとかないとって思って。」

麗奈としては、これから久美子の願いを叶えるため。その前に立ち塞がるであろう強敵に対して、今の自分の力を自覚し取り扱えるようにと慣れたい思惑があった。
その第一として、麗奈が目撃し一番印象に残っているであろう月彦の技を再現して、何か逃げようとした珍生物(ビエンフー)をとっ捕まえた。

「その背中から生えてる触手が?」
「うん。流石に月彦さんみたいにいっぱい出せないし、速度だって月彦さんには及ばないけれど。」

あくまで真似ただけ。食人衝動は沈静化したが鬼の身体という状態は治ってる訳ではない。
だが、鬼の身体になったなら鬼の身体らしくやれることの拡大解釈。今ならなんか出来そうと言うインスピレーションを浮かばせて、見様見真似で月彦の、鬼舞辻無惨の管を再現した。

「それで、この子どうするの? このまま逃しても良いとは思うけど……何か余計なことされそうだなぁって。」
「少なくとも私達の事は聞かせちゃったから、ただでは返せないかな。……私に任せて、久美子。試したいことがあるの。」

兎も角、この珍生物の対処はどうするか、ということで。
久美子としては害は無さそうだし放逐しても良いとは思っていたが。あの話を聞いて否定的な雰囲気だったからそういう訳にはいかない。
少なくとも、麗奈の言う通りただでは返せない。ではどうするか。
その為、麗奈が言い出した試したいこと、というのを信じ、久美子は麗奈に珍生物の処遇を一任する。

「出来るかどうかは兎も角、何となくやれそうって事をしたくて。」

右手の指先をビエンフーの頭に翳す。つま先から滲み出るように現れるのは小さな赤い管。
それをビエンフーの頭に突き刺し、そのまま数十秒ほど沈黙。

「………うん、もういいかな。」

突き刺した管が抜かれて爪の間へ仕舞われる。
ビエンフーの脳天には小さな穴が空き、そこから麗奈の管から注入されたらしき、蒼い血が漏れている。
ただし、ビエンフーの生存状態には特段影響はない様子で。

「何したの?」
「記憶、というより情報の読み取り。血を介さないと出来ない事だけど。」

高坂麗奈が黄前久美子の血肉を喰らった際、『ビルダー』もとい『精霊ルビス』の情報も食べた事で、ある種『情報』の取得を感覚で理解することが出来た。その感覚を元に、自分の蒼い血を媒介に、ビエンフーの頭からその記憶を読み取ったのだ。

「何だか凄いことしたって事ってのはわかったけど……結局この子どうするの?」
「……もう放置でいい。何も問題ないから。」

後は処遇となる。またしても気絶したとは言え、このまま目を覚まして自分たちの今の方針を伝えられても問題。そんな久美子の心配を尻目に麗奈は何の問題もないと告げる。

「えっ、まだ何か仕込んでる感じなの?」
「少なくとももう何もしなくても良いって断言できるぐらいには、ね。……そんな事より、これから何処行く?」

既に事は済んだと、珍生物(ビエンフー)の事など気にも留めず、久美子へ対して次の目的地をどうするかの相談。本当にもう大丈夫だという麗奈の自身有りげな言葉には素直に納得して。

「麗奈がそう言うなら心配ないんだろうけれど……うーん。……あ、そうだ。やりたいことあるから連れて行って欲しい所があるんだんけど? ……あとさ、今の麗奈って、私を片手で抱っこして運ぶとか出来る?」
「うん、出来るけど、どうしたの? それにやりたいこと?」
「――ものづくり、かな?」

そうにこやかに、久美子は麗奈へ提案した。


713 : よるのないくに 〜さよならビエンフー〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 00:11:48 9YzfWl6g0

☆ ☆ ☆


エリアB-7、池袋駅。正しくは池袋駅を施設の一つとして置ける程の大きさ。
4エリアを覆う大きさを誇る、会場最大施設たる遊園地。
渋谷駅を内包しているという点において、置かれている物品等の数も施設内で最大規模と言うべきか。
黄前久美子の言葉を受けて高坂麗奈と共に向かったのはこのエリア。様々な力を内包した鬼となった高坂麗奈にとって、片腕で黄前久美子をお姫様抱っこしながら遊園地までかっ飛ぶのは割りと容易いことであった。
久美子曰く「流石にお姫様抱っこは恥ずかしかった」とのことらしい。あと「麗奈が王子様に見えた」とか。

黄前久美子はジオルド殺害からの現実逃避の際に鐘の音は聞いていた。
それは聞いた者に『ビルダー』の"ものづくり"の力を与えるもので。
勿論、それだkでは黄前久美子にビルダーのような"ものづくり"は難しいのだが。
麗奈に血肉の一部を食われて、修復されたのが要因か、何となく『創造』と『破壊』の感覚自体は掴めてはいる。自分の肉体が破壊され、創造されると言う出来事を経て。

実を言えば、遊園地エリアに侵入した参加者は黄前久美子と高坂麗奈が始めてである。
その為置かれている物品等は誰にも触れられておらず、完全完璧にありのままの状態を保ったままだ。
つまる所、材料となる物品は有り余るほどに存在する。
まず"ものづくり"の為に必要なのは作業台なのだが、久美子の何となくの感覚を元に、麗奈が素材の造形や構築等を手伝う事で完成。素材として必要であろう心のカケラに関し、隼人がカタルシスエフェクトを発現させたのと同じ用に、高坂麗奈がカタルシスエフェクトを発現させてそこから心のカケラを回収する事で解決。


そうして二人が作成した"もの"というのが衣服の類。
どちらも血やらで汚れてしまってるものだから、心機一転・気分転換も兼ねての衣服チェンジの為にと作成。始めての共同作業ということでノリと勢いと麗奈の衝動のままに作ってみた結果。

「着てみて何だけど、……これ、メイド服?的なやつだよね。」

まず黄前久美子。瑠璃色を基調とした、例えるならば不思議の国のアリスのような衣装。
肩部分がはだけやすくなっているのは緊急時に麗奈が手早く久美子の血を吸えるようにするため。
アリス的衣装と言うけれど、一見してみればこれはメイドなのでは?と勘違いされてもおかしくないというか。ただ、動きやすさと言うか何だか身体が軽くなったのでこれはこれでOKと。

「……それで、麗奈。その衣装、着てて恥ずかしくないの?」
「いや、出来上がったのがこんなだから気にしても仕方ないと思うけど。それに久美子と一緒に作ったんだから、安全性とかは保証できる。」

問題は高坂麗奈の衣装だ。見事なまでに純白のウェディングドレス。そこに赤を基調としたスカートとフリルが追加されたような姿で。
扇情的かつ神秘的な姿に一瞬見惚れ、久美子の心の中で一瞬キュンとなり、それはそれとして一度冷静になって「それ恥ずかしくない?」なんてマジレスしたくなる程に。
ちなみにであるが、この衣装の作成に当たり、黄前久美子の衣装には高坂麗奈の蒼い血が、高坂麗奈の衣装には黄前久美子の血が素材として使われている。
比翼恋理の契りというべきか、お互いにとって大切な者の血を使っており、お互いがお互い大切に思い、失いたくない・望みを叶えたいという共通意思によって装着者に対して加護を与える仕組みとなっているのだが。


714 : よるのないくに 〜さよならビエンフー〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 00:12:04 9YzfWl6g0


もう一つ、現在久美子の薬指に嵌められている、赤と青のメビウスの輪のように多重に重なり合ったような指輪。
麗奈の提案で、遊園地内に隠されていた『千年氷の結晶』を使い、同じく蒼い血を込めて作られたもの。
曰く「御守り」との話らしく、作ったは良いが作成時にお互いにみぞれの事を思い出してしまい、何とも言えない気分になったのはご愛嬌である。
その間に、ビエンフーから読み取った情報を二人で共有した。やはり一番の危惧は断片的に語られたベルベット――魔王ベルセリアなる存在だ。
まだ姿形すら知らず伝聞のみであるが、少なくとも月彦や水口茉莉絵を遥かに超越する怪物だというのは明らかであり、二人にとっても間違いなくいずれ立ち塞がるであろうと認識した。
一通りの事はやり終えて、休憩がてらとベンチに座り自販機のドリンクをぐいっと飲み干しながら、空を見上げる二人。
少女二人の眼に映る夜空は、あの時とあいも変わらず輝いている。その下で、殺し合いが起こっているなんて思えないほどに。
だが、そういうものなんだろう。世界の何処かで誰かが殺されても、本来ならばそれを知らなければ何も感じることはない。殺し合いというものが身近に感じてしまうようになってしまったからこそ、いつもよりも夜空に輝く星々が感慨深く思えてしまうのかもしれない。

「麗奈はさ、先にやりたい事とかって、ある?」

不意に、久美子が訪ねる。それは心残りに対しての。
久美子も麗奈もまた、この殺し合いの中で育んできた繋がりというものがある。
久美子がやろうとしていることは、その絆を荼毘に付して全てをリセットするという事だから。
だから訪ねた。久美子自身は割り切っているとしても、麗奈にとっての心残りがあるかどうかを。

「……ある。」

麗奈には、思う所があった。唯一の心残りがあった。
ヴァイオレット・エヴァーガーデン。滝先生への恋手紙の代筆を依頼して、時には助けられたり。
高坂麗奈にとって、この殺し合いで初めて出会った参加者であり、ある種の絆(つながり)が芽生えていた、友人(とくべつ)の一人であり。
久美子という親友(とくべつ)を選んだ以上は、いつか決別しなければならないと行けない因縁で。
謝りたい事も、言いたいことも、感謝の気持ちも全て伝えないと、そうしないと割り切れない。

「最後に、ヴァイオレットさんと話がしたい。私達の理想と、決して相容れないと分かっていても」
「……それが、麗奈のやりたいことなら。」

いいよ、と。久美子はその選択を尊重し、二人はベンチから立ち上がる。
遊園地で素材集めの最中、池袋駅の中で見つけた大きな扉。別の場所に転移できるという門(ゲート)。
それが照らす輝きへと向けて足を進めて、二人の少女は輝きの中へ向かう。





「……渋谷、駅だ。」

扉を潜れば、渋谷駅。
それは一種の偶然なのか、必然なのか。
麗奈が巻き込まれた怪物たちの狂騒曲の舞台となった遺跡の近くだった。
既に門の姿は消え去っており、二人の背中を押して満足したかのように。

「……行こう、麗奈。伝えなきゃいけないんでしょ?」
「そうだね、久美子。伝えないと、何も始まらない。」

黄前久美子が望む、御都合主義(ハッピーエンド)の為に。
その前の禊とも言うべき、友が抱いた彼女への心残りの決着のため。
例えその結末が悲劇かもしれないとしても、それでも一度託した『想い』を、無碍にはしたくなかったから。もしかしたら、自分たちの理想に賛同してくれる、なんて淡い希望をほんの少し抱いて。

彼女たちの交響曲(ものがたり)は、再び始まるのです。


715 : よるのないくに 〜さよならビエンフー〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 00:15:50 9YzfWl6g0

【一日目/真夜中/D-2渋谷駅内部】
【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身に火傷(冷却治療済み)、右耳裂傷(小)、右肩に吸血痕、確固たる想い
[役職]:ビルダー
[服装]:特製衣装・響鳴の巫女(共同制作)
[装備]:契りの指輪(共同制作)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体
[思考]
0:歌姫(μ)に勝って、その力を利用して殺し合いの全てを無かったことにする。……そうすれば、麗奈は人間に戻れるから。
1:もう、麗奈の事は裏切らない、――絶対に。
2:麗奈の為なら、この命だって捧げても良い。ただ今はまだ死ねない、麗奈を悲しませるから。
3:例えビルドさんや隼人さん達を敵に回したって、もう私は迷わない。望みを叶えるまで逃げ切ってやる。
4:一旦は麗奈のやりたいことを優先、遺跡に向かう
5:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒

※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。現状は麗奈と一緒に衣装やら簡単なアイテムを作れる程度に収まっています。
※麗奈がビエンフーから読み取った記憶を共有し、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※μの事を「楽器」で「願望器」だと独自の予想しました


【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム】
[状態]:鬼化(無惨の呪い無し)、新月の花嫁、確固たる思い、左腕の肘から先が消失
[服装]:特製衣装・新月の花嫁(共同制作)
[装備]:
[道具]:高坂麗奈のトランペット@響け!ユーフォニアム、危険人物名簿@オリジナル
[思考]
0:久美子の願いを手伝う。……人間に戻れたら、私は滝先生にもう一度――
1:最後まで、久美子と一緒に。
2:なるべく久美子には無茶はしてほしくはない。
3:遺跡に向かう。そして、ヴァイオレットさんと話をしたい。……出来れば、仲間になって欲しいかな。
4:無茶にもほどがあるけど、音楽勝負なら負けてやらないから。
5:水口さんや月彦さんとはいずれ決着を付けないといけない。
6:まずは、力の使い方に慣れたい。
7:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒

※『ビルダー』黄前久美子の血肉を喰らい、精霊ルビスの情報を取得した結果、無惨の呪いから解放されました。
これ以上無惨の影響を受けることは有りませんが、無惨の血による鬼化自体は治っておりません。
※首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※ 精神の安定に伴い、カタルシスエフェクトの発動が可能となりました。形状は後続の書き手にお任せします。
※己の『奏者』としての特別(ちから)を自覚しました。それがどう作用するか後続の書き手におまかせします。
※ビエンフーから記憶情報を読み取り、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※鬼化した身体の扱い方にある程度慣れました。現状では鬼舞辻無惨の『管』等や、対象によって可能不可能の差異はありますか血を介しての情報の読み取り等が可能です
※久美子の血を飲むことで一時的に『夜の女王』形態になります。この場合左腕が一時的に再生し、通常時を遥かに超える出力が可能です。














「そういえばさ麗奈、結局、珍生物(あれ)って大丈夫なの?」
「だから大丈夫だって。……実はもう一つ、試した事があるから。」


716 : よるのないくに 〜さよならビエンフー〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 00:16:16 9YzfWl6g0



「……急がないとでフ!」

目を覚まし、何かを理解したビエンフーは紅魔館へ向けて全速力で翔んでいた。
あの二人が話していた事が本当なら、間違いなく受け入れられる内容ではない。
それで全てが元通りになるのならビエンフーとしてもそうしたかっただろう、だがもうそうは問屋が卸さない自体にまでなっている。
リセットという行為自体が、この殺し合いで抗い、意思を残してきた者たちの思いを文字通り踏み躙り消し飛ばす行為であるのだから。
伝えるべき相手で真っ先に思い浮かんだのは垣根帝督。もう一度ぶっ飛ばされる可能性がさもありなんだが、そんな事考えている暇なんて無い。

「早く、早く伝えないと本当に大変な事に……!」

妙な頭の違和感には気にも留めず、飛び続ける。
もしかしたら、あれは魔王とは別種の脅威になり得るかもしれないと。
ただ、急ぐことだけに全力でいたビエンフーに、その"異常"は訪れた。

「……あれ?」

明るい、周囲が兎に角明るいのだ。まるでここだけ真っ昼間なように。
眠っている間に時が飛んで昼になった?などと混乱したくもなり。

「ど、どうなってるでフ……?」

だが、そんな事気にしちゃいられない。だが、輝くは段々と増して、視界すら覚束なくなる。
それでも急ごうとして、もはやほぼ何も見えなくなろうとして、気付く。

「………あ。」

気づいた時には、周囲の視界は光に包まれて、何も見えなくなって。

「光ってるのは、オイラの方だったでフ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

その現実に気づいた時には時既に遅く。


717 : よるのないくに 〜さよならビエンフー〜 ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 00:17:34 9YzfWl6g0









































「あっべぎゃあああああああ――――――ッッッ!!!!!!!!!」

輝きが一瞬で収まったと同時に、ビエンフーは今際の悲鳴を上げて。
盛大に爆散し、影も形も残らなかった。


【ビエンフー@テイルズオブベルセリア 死亡】



















「試したことって?」
「水口さんの真似。爆弾じゃなくて、時間経過で爆発する血だけど。」
「……麗奈、もう私に性格悪いって言えないよね?」
「あすか先輩と希美先輩が死んじゃった時に、そう思った。」

※ビエンフーが爆散した場所及び、それが周囲に目撃された・聞こえたかどうかは後続の書き手におまかせします


718 : ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 00:17:47 9YzfWl6g0
投下終了します


719 : ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 19:33:42 9YzfWl6g0
自作「よるのないくに 〜さよならビエンフー〜」>>713を以下の内容に修正します

☆ ☆ ☆


エリアB-7、池袋駅。正しくは池袋駅を施設の一つとして置ける程の大きさ。
4エリアを覆う大きさを誇る、会場最大施設たる遊園地。
渋谷駅を内包しているという点において、置かれている物品等の数も施設内で最大規模と言うべきか。
黄前久美子の言葉を受けて高坂麗奈と共に向かったのはこのエリア。様々な力を内包した鬼となった高坂麗奈にとって、片腕で黄前久美子をお姫様抱っこしながら遊園地までかっ飛ぶのは割りと容易いことであった。
久美子曰く「流石にお姫様抱っこは恥ずかしかった」とのことらしい。あと「麗奈が王子様に見えた」とか。

黄前久美子はジオルド殺害からの現実逃避の際に鐘の音は聞いていた。
それは聞いた者に『ビルダー』の"ものづくり"の力を与えるもので。
勿論、それだけでは黄前久美子にビルダーのような"ものづくり"は難しいのだが。
麗奈に血肉の一部を食われて、修復されたのが要因か、何となく『創造』と『破壊』の感覚自体は掴めてはいる。自分の肉体が破壊され、創造されると言う出来事を経て。

遊園地は、この殺し合いにおいて、黄前久美子にとっての始まりであり。この場所から始まって、セルティと弁慶の二人と出会った、ある種思い出深い場所である。
ある種、ものづくりの為に向かった場所としてここを指定したのは、その思い出にほんの少しだけ浸りたかったのか、それとも一番"もの"があるからという理由からかは、久美子の頭の中の秘密だ。
ともかく、まず"ものづくり"の為に必要なのは作業台なのだが、久美子の何となくの感覚を元に、麗奈が素材の造形や構築等を手伝う事で完成。素材として必要であろう心のカケラに関し、隼人がカタルシスエフェクトを発現させたのと同じ用に、高坂麗奈がカタルシスエフェクトを発現させてそこから心のカケラを回収する事で解決。


そうして二人が作成した"もの"というのが衣服の類。
どちらも血やらで汚れてしまってるものだから、心機一転・気分転換も兼ねての衣服チェンジの為にと作成。始めての共同作業ということでノリと勢いと麗奈の衝動のままに作ってみた結果。

「着てみて何だけど、……これ、メイド服?的なやつだよね。」

まず黄前久美子。瑠璃色を基調とした、例えるならば不思議の国のアリスのような衣装。
肩部分がはだけやすくなっているのは緊急時に麗奈が手早く久美子の血を吸えるようにするため。
アリス的衣装と言うけれど、一見してみればこれはメイドなのでは?と勘違いされてもおかしくないというか。ただ、動きやすさと言うか何だか身体が軽くなったのでこれはこれでOKと。

「……それで、麗奈。その衣装、着てて恥ずかしくないの?」
「いや、出来上がったのがこんなだから気にしても仕方ないと思うけど。それに久美子と一緒に作ったんだから、安全性とかは保証できる。」

問題は高坂麗奈の衣装だ。見事なまでに純白のウェディングドレス。そこに赤を基調としたスカートとフリルが追加されたような姿で。
扇情的かつ神秘的な姿に一瞬見惚れ、久美子の心の中で一瞬キュンとなり、それはそれとして一度冷静になって「それ恥ずかしくない?」なんてマジレスしたくなる程に。
ちなみにであるが、この衣装の作成に当たり、黄前久美子の衣装には高坂麗奈の蒼い血が、高坂麗奈の衣装には黄前久美子の血が素材として使われている。
比翼恋理の契りというべきか、お互いにとって大切な者の血を使っており、お互いがお互い大切に思い、失いたくない・望みを叶えたいという共通意思によって装着者に対して加護を与える仕組みとなっているのだが。


720 : ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 19:35:40 9YzfWl6g0
あと、ビエンフーの一人称に間違いがあったので、以下のように修正します
>>711
(一体オイラは何を見せられてるんでフか。ていうかこの間に逃げれば良いのでは?)

(一体ボクは何を見せられてるんでフか。ていうかこの間に逃げれば良いのでは?)

>>716
「光ってるのは、オイラの方だったでフ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

「光ってるのは、ボクの方だったでフ〜〜〜〜〜〜〜!!!」


721 : ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 19:38:14 9YzfWl6g0
最後に>>715での状態表時系列等の修正及び、新衣服・装備品に関する説明を追加しました
ご迷惑おかけして申し訳ございません
【一日目/夜/D-2渋谷駅内部】
【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身に火傷(冷却治療済み)、右耳裂傷(小)、右肩に吸血痕、確固たる想い
[役職]:ビルダー
[服装]:特製衣装・響鳴の巫女(共同制作)
[装備]:契りの指輪(共同制作)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体
[思考]
0:歌姫(μ)に勝って、その力を利用して殺し合いの全てを無かったことにする。……そうすれば、麗奈は人間に戻れるから。
1:もう、麗奈の事は裏切らない、――絶対に。
2:麗奈の為なら、この命だって捧げても良い。ただ今はまだ死ねない、麗奈を悲しませるから。
3:例え隼人さん達を敵に回したって、もう私は迷わない。望みを叶えるまで逃げ切ってやる。
4:一旦は麗奈のやりたいことを優先、遺跡に向かう
5:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒

※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。現状は麗奈と一緒に衣装やら簡単なアイテムを作れる程度に収まっています。
※麗奈がビエンフーから読み取った記憶を共有し、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※μの事を「楽器」で「願望器」だと独自の予想しました


【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム】
[状態]:鬼化(無惨の呪い無し)、新月の花嫁、確固たる思い、左腕の肘から先が消失
[服装]:特製衣装・新月の花嫁(共同制作)
[装備]:
[道具]:高坂麗奈のトランペット@響け!ユーフォニアム、危険人物名簿@オリジナル
[思考]
0:久美子の願いを手伝う。……人間に戻れたら、私は滝先生にもう一度――
1:最後まで、久美子と一緒に。
2:なるべく久美子には無茶はしてほしくはない。
3:遺跡に向かう。そして、ヴァイオレットさんと話をしたい。……出来れば、仲間になって欲しいかな。
4:無茶にもほどがあるけど、音楽勝負なら負けてやらないから。
5:水口さんや月彦さんとはいずれ決着を付けないといけない。
6:まずは、力の使い方に慣れたい。
7:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒

※『ビルダー』黄前久美子の血肉を喰らい、精霊ルビスの情報を取得した結果、無惨の呪いから解放されました。
これ以上無惨の影響を受けることは有りませんが、無惨の血による鬼化自体は治っておりません。
※首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※ 精神の安定に伴い、カタルシスエフェクトの発動が可能となりました。形状は後続の書き手にお任せします。
※己の『奏者』としての特別(ちから)を自覚しました。それがどう作用するか後続の書き手におまかせします。
※ビエンフーから記憶情報を読み取り、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※鬼化した身体の扱い方にある程度慣れました。現状では鬼舞辻無惨の『管』等や、対象によって可能不可能の差異はありますか血を介しての情報の読み取り等が可能です
※久美子の血を飲むことで一時的に『夜の女王』形態になります。この場合左腕が一時的に再生し、通常時を遥かに超える出力が可能です。


722 : ◆2dNHP51a3Y :2023/06/16(金) 19:38:24 9YzfWl6g0
【特製衣装・響鳴の巫女】
久美子が麗奈と共に"ものづくり"の力で作成した衣服、黄前久美子が着用。
不思議の国のアリスの衣装を象った、メイド服のような格好。麗奈の青い血が編み込まれており、見た目以上に機能性と耐久性が高く、魔力的加護も持ち合わせる。
首元がはだけやすくなっているが、これは麗奈がもしもの時に久美子の血を吸血しやすくするための処置。

【特製衣装・新月の花嫁】
久美子が麗奈と共に"ものづくり"の力で作成した衣服。高坂麗奈が着用。
赤を基調としたスカートとフリルが追加された純白のウェディングドレス。麗奈がインスピレーション(あと久美子への思い)のままに作り上げたらこうなったとの事。
久美子の血が編み込まれているが、これは麗奈が久美子の思いを感じやすくという久美子からの提案によるもの。

【契りの指輪】
久美子が麗奈と共に"ものづくり"の力で作成した指輪。黄前久美子が装備。赤と青のメビウスの輪のように多重に重なり合ったような形状。
素材には遊園地内に隠されていた"千年氷の結晶@ビルダーズ2"と『響鳴の巫女』でも使用された麗奈の青い血が使われており、装着者にちょっとした恩恵を与える御守りのようなもの。
余談であるが、『氷』と聞いて二人が思い浮かべたのは青い鳥にして、破壊神戦においては最後まで久美子を守りきった鎧塚みぞれの事。久美子の御守りに『氷』というのは、偶然か、必然か、もしくは……?


723 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/22(木) 23:10:57 sqEC6yjU0
予約を延長し、投下します


724 : 魔獣戦線 ー黙示録の始まりー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/22(木) 23:13:15 sqEC6yjU0



生命は...生命は純粋になるほどに...



強大な宇宙を求めていく...



宇宙を食ってゆくのだ!!


725 : 魔獣戦線 ー黙示録の始まりー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/22(木) 23:14:03 sqEC6yjU0



『...チィッ』

放送を聞き終えた魔王はつい舌打ちを漏らす。
冨岡義勇とシグレ・ランゲツ。この手で屠った二人が呼ばれたのはいい。
だが、間宮あかりとブローノ・ブチャラティ、そしてライフィセットと殺したい奴らはまだ生きている。
無論、自分で殺すつもりではいるのだが、憎き奴らが平然としていると思うとやはり苛立ってしまう。
魔王といえど生物。それは仕方のない生理的反応である。

(殺す手間が省けてよかったよ)

一方の琵琶坂は鼻歌でも鳴らしそうなほどに上機嫌だった。
鎧塚みぞれ。
琵琶坂が最初の敗北を喫した少女。
この手で殺してやりたいとは思っていたが、死んでくれたのならせいせいする。
ついでに自分をこきつかった片割れのマロロも死んだらしい。
もう一人のクソメイドが生きているのはちょっぴりの不満だがまあいい。
いまの自分ならば1対1でも遅れをとることはもうないだろう。

「それで、予定に変更はないのかい魔王様?」
『...ああ。ひとまずは紅魔館に向かう』

放送を聞いたとてやることは変わらない。
まずはベルベットと手を組んでいた夾竹桃と麦野沈利とついでにムネチカの処分を決める。
そのまま殺すか、あるいは利用し尽くして使いつぶすか。

『それで、そいつはまだ殺さないのか』

魔王の指し示すソイツ―――リュージは、未だに目を覚ましていない。
先の戦闘での立ち回りを見る限り、この男にさしたる力はない。
そして自分たちのようにゲームに乗って優勝を目指しているわけではないので手を組むことも無い。
戦場からの脱出用の人質としての役回りも終えたのだ。
ここで食らって糧にしてしまった方が早い。

「ああ。こいつにはまだ価値はある。きみの非常食としてのね」

だが琵琶坂は頑なにリュージを手放さない。
彼もわかっているのだ。
下手に魔王に餌を与えすぎれば自分にも牙を剥くことを。
それに、リュージは岩永琴子の連れだ。
当初の予定通りに彼女を連れてこられなかった代わりにはならないだろうが、麦野たちを支配する場合はそれでも体面くらいは保てるだろう。

『いくぞ琵琶坂英至』
「了解だ」

魔王とゲッターに選ばれた男。
二つの災厄はやがて紅魔館に訪れる。


726 : 魔獣戦線 ー黙示録の始まりー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/22(木) 23:15:08 sqEC6yjU0

静寂に包まれていた。
放送の後という情報整理のタイミングもあるのだろうか、それにしてもだ。


「...きみのお仲間、本当にここにいるのかい?移動した可能性もある」
『どっちでもいい。やることは決まっている』

魔王は息を大きく吸い込み、ピタリと止める。

『麦野沈利!!夾竹桃!!いるのならば十秒以内に出てこい!!出てこなければこの館を吹き飛ばす!!!!』

魔王の爆弾のような怒声が大気を震わす。
人間ではありえないその声量は聞く者の鼓膜に届くだけでなく腹の底まで恐怖を湧き立たせる。

「すごい声量だ...ほんとに人間と同じ構造をしているとは思えないな...」

何をするのかを察した琵琶坂はあらかじめ耳を塞ぎつつも、衝撃を緩和しきれなかったことから苦い顔を浮かべる。

「......」

宣言通りに待つこと10秒。
返答は―――なし。

『警告はした』

魔王は掌に力を貯めエネルギー波を放つ構えを取る。
その周囲の空気が湧き、塵が舞い上がる。
力が溜まり切れば、間違いなく紅魔館は一撃のもとに吹き飛ばされるだろう。

「ギャーギャーギャーギャーやかましいのよ早漏女」

それを止めるように。
なんの小細工もなく、彼女は、麦野沈利は正面玄関からその姿を現した。


727 : 魔獣戦線 ー黙示録の始まりー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/22(木) 23:16:43 sqEC6yjU0

「おつかいご苦労...と言いたいけど、随分話が違うじゃねーか」

溜められるエネルギーにも動揺も恐怖も見せず、麦野は魔王に向き合う。

「あたしたちの依頼は『岩永琴子』を連れてこいって話だった。別に一緒にいる連中と戦りあうのも承認したし、あんたもそれで承諾した。
あいつと一緒にいた冨岡が呼ばれたんだし、ちゃんとこなしてきたのかと思えば...ハァ」

わざとらしくため息を吐く麦野に魔王の眉根がピクリと動く。

『...岩永琴子はいないが、μの関係者は連れてきた』
「それで?」
『それと、先の戦いにおいて分かったことがある。お前たちの同盟は私にとってなんの利にもなりはしない。だから選べ。私に服従するか、この場で糧になるか』
「言いたいことはそれだけかよ」

心底呆れたような侮蔑の視線に、魔王のこめかみに一筋の線が走る。

「...フレンダってヤツがいた。実力はそこそこあったしそれなりに使えたからある程度は許してやったが、頻繁にドジは踏むわすぐに油断するわ挙句の果てに保身で身内を売るどうしようもねえ馬鹿だった。いっぺんブチコロシてからは二度と『アイテム』に入れようとは思えない見下げたやつだったが、こんな形で再評価することになるとは思わなかったわ」
『......』
「あいつはやらかしを誤魔化すし、嘘も平気でつくし、最悪、私に押し付けて逃げればいいとか考えるカスだったわ。けど、あたしを殺して自分のミスを無かったことにしようとはしなかった。自分が悪いことしたって自覚はあったんだろうな。それがどうよ?あんたは大口叩いておいて結果を出せなかった事実から目を逸らして、あたしたちを切り捨てて自分の失敗を無かったことにしようとしている。自分がしくじったって自覚すら持とうとしないとは...いやぁ、下には下がいるもんだなぁ魔王サマ?」

笑いをこらえるように微かに震わせた声音に、ギリ、と歯を噛み締める魔王に麦野は目を細め、その隙を見逃さんと言わんばかりに重ねて捲し立てる。

「私は裏切り者を許さない。いいか、絶対に私は裏切り者を許さないんだよ。ああ、そうそう、本気で本物の馬鹿にはこれくらいしつこく言わなきゃ伝わらないと思うからもういっぺんダメ押ししておくぞ。私は、裏切り者を、許さない」
『それが貴様の答えだな』

瞬間、魔王の姿が消える。
駆けた。
ただそれだけで、常人では捉えられないほどの速さで魔王は麦野へと肉薄し、その身を引き裂かんと業爪を振り上げる。

無論、麦野とて常人ではない。
迫りくるその速さも、脅威もしっかりとその目で認識し把握している。

だが、彼女は笑っていた。
迫る脅威から微かにも目を逸らすこともなく、微塵も動揺することもなく。
数秒先に齎されるかもしれぬ死すらも嘲笑っていた。

憤怒と憎悪の感情に塗り固められた形相の魔王。
余裕すら感じられるほどの笑みで迎え入れる原子崩しの女王。

互いに手を伸ばせば触れ合えるほどの距離で視線が交差するその時、言葉が重なった。


『「お前はここで死ね」』


728 : 魔獣戦線 ー黙示録の始まりー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/22(木) 23:17:43 sqEC6yjU0
今回は一旦ここまでです


729 : 魔獣戦線 ー 人妖乱舞 ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/26(月) 00:10:21 m41vG3Pk0

投下します


730 : 魔獣戦線 ー 人妖乱舞 ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/26(月) 00:10:55 m41vG3Pk0


———時刻を戻して、魔王襲来前の紅魔館。

楽士の曲を残して放送が終わる。

主催がもたらした死者の名に、一同が心を激しく揺らすことはなかった。

というのも、その半数を咲夜から聞かされており、この会場に来てからの知己の名もほとんどなかった為仕方ないのだが。

「フレンダが死んだってよ」
「そうだな。ま、別にどうでもいいわ。あいつが長生きできるとも思ってなかったし」
「だな」

唯一、垣根と麦野が共通して知っているフレンダに対してこの程度の言及があっただけだ。
垣根にとってフレンダはただの路傍の石、麦野にとってもかつては殺し、再び保身で自分を裏切ったというだけの用済みのアイテム。
フレンダの死に、彼らは心を痛めることも憤ることもなく、ただ事実を確認しただけで事足りた。

「...マロロ殿」

ムネチカは唯一あった知己の名を呟きその喪失を実感する。
彼女とマロロは他の面々と違い、特別深い仲にあった訳ではない。せいぜいが宴会の席で顔を合わせたくらいだ。
それに、咲夜からの情報ではマロロはオシュトルを憎悪している時間から連れてこられていた。即ち、相容れない敵だ。
きっとこのゲームで出会っていれば戦いは免れなかっただろう。
だが、咲夜が語った破壊神との戦いでの仲間を思い遣りながらの奮戦ぶりはかつての彼を想起させる姿であり、憎悪に呑まれながらもその根本は変わっていなかったのだとさめざめと理解させられる。
願わくば、彼の魂が常世にて安寧に眠れるように、とムネチカは静かに祈った。

結局、ムネチカは紅魔館に残ることにした。
ライフィセットのことも気がかりではあるが、彼と同行しているという者がほとんど呼ばれなかったことから当面は無事であると判断。
それよりも問題は魔王だ。
その身で力を味わったからこそわかる。
アレを放置しておけば必ずこの会場に残された仲間たちにも牙を剥くと。
本音を言えばベルベット・クラウとの問題はライフィセットに決着を譲ろうと思っていた。
だが状況が状況。今の彼女とライフィセットは極力合わせるべきではない。
そう判断して、ムネチカは垣根たちと共に魔王を迎え撃つことにした。



「さて、ベルベット・クラウが大人しくしてるならそれでよし。そうじゃねえならこの五人でそいつを潰す。つー訳でだ。メイドとそこの変態を起こしたら始めるぞ。魔王サマをぶっ潰す作戦会議をな」


731 : 魔獣戦線 ー 人妖乱舞 ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/26(月) 00:12:44 m41vG3Pk0


業爪が振り下ろされるその瞬間、麦野は身を捩り寸前で躱す。
空ぶった爪は館を傷つけ、地面を破壊し砂塵を巻き上げる。

だが、麦野沈利は無傷。
彼女は威力に臆さず冷静に魔王の爪の攻撃範囲を見極めていた。

「感情が出すぎなんだよ」

その言葉と共に麦野の掌に光が充填されていく。
だが魔王は動じない。
それはハッタリ、あるいは牽制程度のものだと識っている。
原子崩しは一撃が強力な分、照準を定めるのに時間がかかり、かつ至近距離では威力を抑えなければ自身にも被弾する。

射線は一つ。ならば焦ることなくこの腕で喰らってやればいい。

麦野の放たんとする原子崩しを受ける為に魔王は業魔腕を防御にまわす。
これで麦野のとる行動は、発動を止めるか撃って食われた隙を突き距離を取るか、の二択となる。

「...なんて思ってんなよバーカ」

麦野は右腕の裾からカードを滑らせ己の眼前に投げ、それ目掛けて原子崩しを放つ。
すると、一本だった光線が立ちまちに分裂し、数多の線となり、魔王に降りかかる。
『拡散支援半導体(シリコンバレー)』。
麦野の弱点を補える道具だが、今は手持ちにない。
代わりに使ったのが、ムネチカの『防御障壁』をビルダーとなった咲夜の『ものづくり』の力で素材回収し、新たに作り上げた疑似拡散支援半導体。
ムネチカとの戦いの際に原子崩しを防いでいたことより、ムネチカの障壁を利用して拡散支援半導体に近しいものを作れないか、という提案のもとから咲夜の中で『ひらめき』が生まれ、このカードを生み出すに至れた。


『なにっ!?』

突然の変化にさしもの魔王も一手遅れ、業魔腕で護り切れぬ箇所に被弾し肉を削がれる。


732 : 魔獣戦線 ー 人妖乱舞 ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/26(月) 00:13:29 m41vG3Pk0

「ハアアアアアア!!!」

魔王が痛みに怯んだその僅かな隙間を縫うように、咆哮と共に躍り出る影が一つ。
その正体に見覚えはある。
ムネチカ。だが、その姿は紅魔館を発つ前の怯え切った子犬ではなく、こちらを倒さんとする真っすぐな火を宿した戦士の目となっていた。

『勇むのはよし。だが忘れたか?貴様はほんの数時間前、私に為す術もなくねじ伏せられたのを』

電車での一件でムネチカの力量も技も既に把握している。
ベルベット・クラウの時であれば苦戦は必至だっただろう。だが、いまの魔王にとってはそうではない。
身体能力も。自慢の防御障壁も。仮面の力も。
全てが無意味。無力。
ライフィセットのような回復役がいなければ、たった一度掴むだけで勝負は決する。
そしてその速さも、魔王にはある。

迫りくる狛犬を引き裂かんと業魔腕を振るう。
たとえ一手遅れようとも、ムネチカの拳は必殺にはならないが、魔王の爪は一撃必殺。
ほとんど同時に振るわれれば勝者は魔王。そのはずだった。

「はぁっ!」

だが、ムネチカは振るいかけた拳を止め、しゃがみこみ業魔腕の下を潜り抜け、身を捩じりながら胸部に肘打ちを叩き込む。

『ッ!』

その衝撃に微かに身体がよろめくが、しかしダメージは微弱。
如何にムネチカの身体能力が高いとはいえ、咄嗟の回避からの打撃では腰も入りきらず、全力の一撃には程遠い。
すぐに目をムネチカへと向け、今度は業魔腕を仕舞い、素早さを重視した通常形態の腕でムネチカの腕を掴む。

『捕らえたぞ』

そのままムネチカの身体を持ち上げんと力を込める。
が、動かない。
動かざるは山の如しとはよく言ったもので。
ムネチカの身体は持ちあがる気配がない

「重心は低く、腰を重く...そうであったな志乃乃富士」

ビキリ、とムネチカの足と腕の筋肉が筋を立て、魔王の腹部に拳が放たれる。

『!!!??』

あまりの衝撃に魔王は困惑しつつ吹き飛ばされる。
電車での戦いの時からは考えられぬ威力だ。


733 : 魔獣戦線 ー 人妖乱舞 ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/26(月) 00:14:13 m41vG3Pk0

「いまの小生をあの時と同じと思うなッ!!」

精神的な疲労や迷いは身体能力に直結する。
電車での戦いの時は、ライフィセットという護るべき仲間がいたからなんとか踏みとどまっていたが、その使命を剥げば、主を失い傷つき嘆く狛犬でしかなかった。
だが、いまのムネチカは違う。
アンジュの死を受け止め、それでも前を向き、一片の迷いもない一人の女。
その精神による差はムネチカの肉体に与える影響をこれでもかと反映していた。

だが、それだけでは魔王との差を縮めきることはできない。
渾身の一撃が入れられようともそれで沈むほど容易くはない。

『邪竜咆吼』

竜の顎を模した右腕から赤黒い閃光を放ち、ムネチカを貫こうとする。
しかしその横合いから原子崩しが放たれ、ムネチカへの攻撃を相殺した。

『鬱陶しい』

苛立ちと共に、業魔腕の砲口を麦野へと向ける。
遠距離からいちいち茶々を入れられるのも面倒だ。

(まずはやはりあの女———ッ!!)

閃光を放とうとしたその瞬間、魔王の身体が鉄球を押し付けられたかのような重圧に襲われる。

『ガッ!』
「這いつくばらずに耐えるとはな。不意打ちで仕掛けてこれとは、流石にレベル6クラスって訳か」

聞きなれぬ声の方角へと顔を向ければ、そこには階段よりこちらを見下ろす茶髪の少年、垣根提督。
なにをした?これは奴の仕業か?
その疑問が湧くのと同時、魔王は己の身体にかかる重圧を分析・演算する。

(そういうことか)

いまの現象は垣根の能力により起きているものだ。
空気にある無数の物質。そこに、彼から発生するこの世には存在しない物質を投げ込めば全く違う事象が生まれる。
いま身体にかかっている重圧は、垣根の未元物質を空間に入れたことによる超常現象だ。
ならば、未元物質を破壊する物質を放出し、元の空間に戻してしまえばいい。
その解答を演算し即座に実行してみせた魔王に垣根はひゅぅ、と口笛を吹いて見せる。


734 : 魔獣戦線 ー 人妖乱舞 ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/26(月) 00:14:55 m41vG3Pk0

立ち上がり、今度は垣根へと砲口を向ける魔王。
瞬間、その頭上にかかる影が濃くなる。
シャンデリア。
迫りくる影より、それの落下を察知した魔王は咄嗟に飛び退き回避。
その隙を突くように投げられるナイフに、刺さる寸前で察知した魔王は間一髪業魔腕を振るうことで防御。
直後、ムネチカの蹴りが魔王の横腹に入り軽い痛みと共に吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたその先の扉を破り、一つの部屋に叩き込まれた。

『小蠅どもが!』

激昂と共に魔王は地面に手を着き立ち上がろうとする。

ツルッ

だが、着いた手はそのまま滑り魔王は無様に顔面を地に着ける。

『なんだここは、滑るぞ!!』

手足や顔に纏わりつくぬるついた感触に、その正体を分析する間もなく看破する。
油。
大量の油が部屋中に撒き散らされていたのだ。

「不思議よね。生活において便利なものでも使い方を誤れば人を害する毒になる。私は毒を探し求めているけれど、ちょっと探せば毒の代替に成り得るモノはいくらでも転がっているのよね」

部屋の入口に立つ夾竹桃が気だるげに煙管をふかす。


735 : 魔獣戦線 ー 人妖乱舞 ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/26(月) 00:16:06 m41vG3Pk0
(こいつら...ッ!!)

「まあ所詮は代替品、私の求めるモノに成り代われるわけじゃないけれど...あとはお願いね」

夾竹桃が入り口を譲ると同時、極太の原子崩しが魔王に襲い掛かる。

『舐めるなァ!!』

魔王の業魔腕は己に吸い切れる量であれば威力に構わず喰らうことができる。
己に向かい来る原子崩しに掌が翳されれば、たちまちに光線は業魔腕に食われていく。

———同時に眼前にまで迫る木の槌こと、木製タンス。

原子崩しに続く形でムネチカが丸太の如く突き出したのだ。
当然、原子崩しを喰らっている最中の魔王は防ぐことも躱すこともできない。
叩きつけられる衝撃に溜まらず肺の空気を吐き出すが、しかし致命的ではない。
すかさず反撃の閃光を放とうとするが、ムネチカはいち早く飛び退き離脱。
それをカバーするように白の羽と投擲されたナイフが魔王の行く手を阻む。

(やはりこいつらは...ッ!!)

魔王は理解する。
多対一は先刻も経験した。
むしろ人数で言えば先ほどよりも少ない。
にも関わらずこうまで流れを取り戻せないのは、偏に策に則った連携を組まれているからだ。
先の連中は、連携こそしていたものの、即興で組んだためか、共に庇い合う程度のかみ合わせだったが故に対処もしやすかった。
こいつらは違う。
自分に対して有効な連携策を予め練ってきている。
的を絞らせず、反撃の隙すら与えようとしない。

『小癪な真似を...!』

怒りに顔を歪めていく魔王だが、一方で冷静に判断する。
連携がいつまでも完璧に続くはずがない。
必ずどこかでほころびが生じる。

(その時が貴様らの最後だ)


736 : 魔獣戦線 ー 人妖乱舞 ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/26(月) 00:19:02 m41vG3Pk0


「全く派手にやるねえ」

紅魔館のある一室、琵琶坂永至はクローゼットの前で鼻歌交じりに手に入れた服に裾を通していた。

「黒のゴシックか...うん、悪くない」

今までの彼ならばこんな余裕磔磔と衣装を選んでなどいないし、そもそも裏口からとはいえ近場で魔王とその他大勢がやり合っている戦場のすぐ近くになど寄り付きもしないだろう。
だが、ゲッターに選ばれたいまの自分ならばあの程度に巻き込まれても切り抜けられるという自負があった。
それ故の余裕にして慢心。
己が絶対的超越者であるという自負。

琵琶坂は気に入ったゴシックを身に纏うと、そのまま戦場には一瞥もくれず裏口から出ていく。
彼は魔王と手を組んではいるが、彼女に手を貸すつもりは毛頭ない。
もとより使い潰すつもりではある。だが、別に手助けをしてやるほど長持ちさせるつもりもない。
ここであの連中を殺してくれるならそれでよし、逆に返り討ちにあって死んでも問題ない。
琵琶坂にとって魔王ベルセリアとは尖兵以外の何者でもないのだ。

直に崩壊するであろう紅魔館から距離を置き、遠目からその戦況を観察する。
どういう結果になろうとも殺すつもりである以上、双方の手の内を見ておくのは悪いことじゃない。
まるで野球の試合を観戦する観客のように呑気に缶ジュースを開け、呑みかけの缶を未だに眠るリュージの上に置き、紅魔館を眺めていた。

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

後方で轟音が鳴り渡る。

それが耳に届いた時、琵琶坂はハァ、とため息を吐きつつ、鞭を握りしめる。

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

迫りくる轟音は周囲の木々を呑み込み、大地を削り取り琵琶坂に襲い掛かる。

「懲りないやつだな、お前も」

琵琶坂がめんどくさそうに鞭を振るうと、迫ってきていたソレ———水の竜は両断されその身を地面に投げ出す。

そして、けたましいエンジン音と共に役者たちは現れる。


「琵琶坂永至ィィィィィィィィ—————!!!」


「いいさ、さっさと燃やし尽くしてやるよクソ女!愛しのカタリナちゃんみたいになぁ!!!」


737 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/26(月) 00:19:38 m41vG3Pk0
今回はここまでです


738 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:46:39 qy3ikKTQ0
続きを投下します


739 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:48:03 qy3ikKTQ0


やぁ、きみと会うのは初めてだね。

僕は■■■■■。きみの関わる■■■■に携わるゲームマスターのようなものさ。

ハハッ、そんな訝し気な顔をしないでおくれよ。

確かに僕は今までなんのアプローチもしてこなかったし、特別に注目もしてこなかった。

ここにきみが居合わせたのもなにかの偶然、というだけさ。

うん?なにをやっているのかって?

...そうだな、うん、せっかくの機会だし、きみも一緒に見てみるかい?

進化の果てにある世界を。




740 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:48:56 qy3ikKTQ0

特段、彼とは弾む会話もなく時間を過ごしていた。

放送が始まると共に、彼はバイク(という乗り物らしい)を止めた。

一刻も早く琵琶坂を探しに行きたかったが、情報整理の為には必要なことだと頭の悪そうな彼でもわかることが私にわからないはずがなくて。

そしてあの忌々しい女の口から様々な情報がもたらされる。

どうでもいい労いの言葉、禁止エリア、そして死者の名前。

私の知る名前は六つ。

カタリナ様。
改めて事実を突きつけられる。あの人は死んでしまった。
目の前で、涙を流しつつも私たちに微笑みかけながら。
最愛の人がいなくなった事実を受け入れたくない。身が引き裂かれるほどに辛く、悲しい。
けれどいつまでも立ちすくんでいては私の本来の願い———カタリナ様を蘇らせることができない。
辛いけれど、苦しいけれど、それでも前を向いて進むしかない。

ジオルド・スティアート。
こちらについては朗報だ。
もともと、この男はカタリナ様の運命を破滅へと追いやる存在としてキース・マリア共々殺すつもりだった。
自分の手のかからないところで死ぬのに越したことは無い。
むしろ、奴らが生きていてカタリナ様だけが死んだとなればそれこそ気が狂いそうになっていただろう。

シグレ・ランゲツ、冨岡義勇。
この二人に関しては、特にシグレに関してはいっそう感謝している。
カタリナ様を護り切れなかったとはいえ、害意もなくあの強大なる魔王に立ち向かったのだから。
ただ、彼らの死を悼むよりもカタリナ様の蘇生の方が優先的というだけで。
だから、彼らにはありがとうございましたという感謝だけを心の内で捧げる。

フレンダ=セイヴェルン
どうでもいい。

そして、自身には直接関係ないことだが———


「行くぞ」

その関係者である流竜馬は、一息を吐く間もなくバイクのエンジンをふかし始める。

「...なにも、言わないのですか」

今までだったらこんなことを聞こうともしなかった。
けれど、カタリナ様という最愛の友を失ったいま、聞かざるをえなかった。
貴方は友を失って平気なのかと。

「ご友人がなくなったのでしょう」
「...うるせえ」
「どうして何も言わないのですか。貴方は見ず知らずのカタリナ様の死すら悼んでいた。なのに———」
「うるせえって言ってんだ!」

注ぎすぎて紅茶の溢れたカップのように、感情を爆発させる彼は、私の胸倉を乱暴に掴み殺気の籠る目で睨みつけてくる。

「あいつの為にぐちぐちと泣きわめけってか?そんなもんなんになる!あいつは死んじまった、ただそれだけだろうが!!」
「ッ...!」
「文句があるなら降りやがれ!!」

彼は投げ捨てるように私の胸倉から手を離すと、改めてエンジンをふかし始める。
私はそれに置いて行かれないように後部座席に飛び乗り改めて琵琶坂の後を追跡する。

...あの面々の中で共に行動するのがこいつでよかった。
もしも共に行動していたのが、カタリナ様をずっと護り、自身も庇ってくれた間宮あかりであれば、後ろ髪が引かれることもあったかもしれない。
友達のために涙一つ流そうともしない暴漢、どれだけぞんざいに扱っても、切り捨てても心が微塵も痛まないだろうから。

そして。

「...ぶっ殺してやる」

その呟かれた一言で、いまの私たちは似た者同士だからこそ、遠慮はいらないと思えたから。


741 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:49:30 qy3ikKTQ0


「死ね、死ね、死ねえええええええええ!!!!」

紅魔館の喧騒を聞きつけ辿り着いた矢先、メアリは激昂と共に仮面の力を振り絞り琵琶坂英至に目掛けて水龍を踊り狂わせる。
さしものゲッターの力を有している琵琶坂も、その質量は容易く相手に出来るものではなく、鞭で打ち落とし、あるいは躱し、あるいは『キリク』で叩き潰して対処していく。

(というか、馬鹿なのかあいつは?)

その一方で、純粋に琵琶坂は呆れを抱いていた。
身内を殺された復讐に走るというのは、気持ちはわからないが理屈ではわかる。
仇が目の前にいれば殺しに来るというのもわかる。
現代社会においても殺人事件にはそういう背景が関わるのは未だに多発しているから。
だが、いまのメアリ・ハントの行動は愚かとしか言いようがない。

あそこまでカタリナの為に全てを捧げるとか宣っていた女だ。
おおかた、自分との決着を着けた後に全員を殺してカタリナを生き返らせると考えているのだろう。
それがどうだ。
殺し合いの参加者は半分を切ったとはいえ、まだ三十二人もいる。
敵は自分一人ではない。脱出による生還を望んでいない以上、可能な限り消耗を減らし、手を組むなり策を練るなりして向かってくるのが定石だ。
それこそ、魔王相手にしっかりと連携で食らいついている紅魔館の連中のように。
それを、一人で半ば暴走気味に襲い掛かってくるとは馬鹿か阿呆としか言いようがない。
一時でも自分と同類などと言ったことを撤回したくなるほどに。

「職務上、そういう阿呆は腐るほど見てきたが、お前はその中でも最も愚かな女だよメアリ・ハント」
「黙れ!お前なんかに何がわかる!?カタリナ様のくれた日々の尊さを!温もりを!!何も知らないお前なんかに、あの方の未来を奪われて黙っていられるわけがないでしょう!!」

琵琶坂の指摘通りに、メアリはなにも考えていなかった。
打算はあった。練っていた策もあったはずなのに、それらは琵琶坂を目撃した瞬間に全て吹き飛んだ。
一刻も早いあの男の死を。カタリナ・クラエスを殺した報いを与えなければ。
ただそれだけの憎悪に突き動かされ、もはやここで燃え尽きるほどの力を出し尽くさん勢いだ。
それほどまでに彼女の愛情と憎悪は、一人では抱えきれないほどに大きかった。

だがその無謀ともいえる猛攻も、戦況を広く見れば無駄ではない。

ジャラリ

琵琶坂の耳に鎖の音が届く。
迫る金属音に琵琶坂が咄嗟に飛び退けば、彼のいた場所に鉄球が撃ち込まれ地面を砕く。
竜馬の日輪刀だ。

「おらよっ!」

竜馬は斧を円盤のように回転させながら投擲し琵琶坂の頭部を狙う。
当然、それは躱されるが竜馬とてその程度は前提としている。
この悲鳴嶼行冥の日輪刀は鎖で斧と鉄球を接続している。
例え躱されようともその鎖を手繰れば斧は戻せるし、投擲の角度を変えればブーメランの軌道上全てが鎖の攻撃範囲と化す。
その身体に巻き付こうとする鎖にも琵琶坂は冷や汗一つかきはしない。


742 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:50:53 qy3ikKTQ0

「参ったなこれじゃあ逃げ場がない。それじゃあ———『キリク』」

スパン、と勢いよく地面を叩くと、竜馬の身体に地面がへこむ程の幾重もの打撃が走り、それに伴い巻き付くはずだった日輪刀の鎖も地面に落ちる。

「ぐあああああッ!」
「きみに至ってはなんなんだい?間宮あかりならまだしも、きみはあの戦いで最後に乱入してきただけだ。別に僕がカタリナ・クラエスを殺したことなんてどうとも思っていないだろう?」
「...ああ、その通りよ。俺はそこのあいつと違っておめえに恨みつらみがあるわけじゃねえ。けどなあ」

竜馬はすぐさま顔を上げ、琵琶坂目掛けて拳を振るう。
琵琶坂はそれを上体を逸らして回避、にやつき吊り上がった口角を隠すことなく竜馬を見下ろしている。

「俺はてめえみてえな奴が嫌いなんだ。てめえにゲッターの力を渡しておけばロクなことになりゃしねえ!」
「そんなにこの力にお熱なのかい?悪いね、どうやらこいつは僕を選んでくれたようだ」
「いらねえよそんなモン!!」

次いで振るわれる上段まわし蹴りも躱し再び向き合う。
その隙に竜馬は、傍らで横たわるリュージを投げ飛ばし、ひとまず戦いの被害の及ばぬ場所へと放逐した。

(頑丈だな。間宮あかりとメアリはこれでしばらく動けなかったんだが)

竜馬は防御すらとれずキリクをまともに受けた。
だがものの数秒で復帰し何事もなく琵琶坂に攻撃を続けている。
そこにはゲッターの恩恵もなにもない。
単なる頑強さの差。
常に死の危険が纏わりつくゲッターロボを駆る者に、たった数十発分の打撃ダメージなど微量に等しい。

「ちょうどいい。俺もこの力に慣れておきたかったところだ。いいサンドバックになることを期待するよ、先輩」
「ぬかしやがれ!!」
「お前を殺すのは私だ、琵琶坂永至ッ!!」

水龍が傍にいる竜馬もろとも琵琶坂を喰らいつくさんと牙を剥く。
琵琶坂はそれをゲッタービームで撃ち抜き破壊、そのまま逆の方向から迫る竜馬の斧を身を捩り回避。
しかし次いで迫る後ろまわし蹴りを躱すことはできず、その頬に踵を食い込ませる。

仰向けに倒れる琵琶坂目掛けて、100kgはあろう水の塊が琵琶坂を押しつぶさんと降り注ぐ。
琵琶坂は鞭を振るいそれを破壊。
雨のように降り注ぐ水に濡れながら、竜馬は鉄球を振り下ろす。
琵琶坂は鞭で地面を叩きその反動で空中に飛び躱す。

その向かう先はメアリ・ハント。
メアリは今度は水流ではなく水のナイフを生み出し琵琶坂へと投擲する。
琵琶坂は服を掠めながらも紙一重で躱し、メアリの首を割かんと鞭を引いて構える。
だが跳躍した足に日輪刀の鎖が絡みつき、琵琶坂を地面に引きずり下ろす。

「キリク」

地面にぶつけられる瞬間、琵琶坂が地面に鞭を打ち込めば、メアリと竜馬に幾重もの打撃が襲い掛かる。

「うああっ!」
「んぎぃっ!!」

二人はくぐもった悲鳴をあげるも、すぐさま武器を手に、地に落ちた琵琶坂永至に斬りかかる。
迫る二つの怒りに対し、琵琶坂永至は、嗤った。


743 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:52:01 qy3ikKTQ0


「ハァッ、ハァッ」

息を切らしながら咲夜は失った右目の痛みに手を抑える。
いくら休憩を取ったとはいえ、せいぜいが一時間程度。
それだけで疲労やダメージの全てが取り除かれる訳ではない。
いまの彼女にとっては数分の戦闘ですら疲労はピークに達してしまう。
だがそれでも休む暇もなく、彼女は適切なタイミングでナイフや屋敷の構造を使い他四人のサポートにまわる。

麦野と垣根が中心となった策は、前衛が近接でも魔王の攻撃に比較的耐えられるムネチカ・麦野・垣根の三人、後衛のサポート役が近接戦闘では役に立てない夾竹桃・咲夜が担うものがほとんどだった。

魔王の強さの源は分析から成る防御負荷の攻撃から来ていると麦野は推測した。
故に、分析する間もない波状攻撃。
幾つかは作戦を用意していたが、基本的にはそれが要だった。
故に咲夜と夾竹桃は比較的に疲労が少ない役回りだった。

だからこそ不安をかき消せないでいる。
いまのところ、壊滅的な被害は出ておらず戦況は優勢だが、果たして本当に自分たちが盤上を動かしているのだろうかと。

———その不安は、ほどなくして的中することになる。


ビ リ ィ

強大且つ邪悪な圧力が一同に降りかかる。
その所在は何処か、と皆が一斉に頭上を見上げる。
その先にあるのは天井。だが、皆が確かに確信していた。
天井の先に得体のしれない力が集っていると。

「俺たちの攻撃を凌いでる間、ずっと屋敷の外側に力を貯めてたって訳か」
「なんでもアリかよ、クソッタレめ...!」

いち早く、魔王のしたことを理解した垣根と麦野の二人は冷や汗をかきながら苦い表情を浮かべる。
単純なことだ。垣根たちは目に見える範囲での魔王の攻撃準備をさせることを徹底的に防いできた。
ならばそれに対する魔王の対抗策は?彼らの見えない位置から攻撃すればいい。
無論簡単なことではない。言葉にすれば容易いが垣根たち学園都市の高ランカーたちですら至難の業だ。
戦い、追い立てられている中で、己ですら見えない場所で攻撃準備を完了させるというのは、脳髄が二つ以上ないとできないことなのだから。
それを可能にするのがレベル6。神の領域とでもいうのだろうか。


744 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:52:33 qy3ikKTQ0

「...冗談じゃない」

真っ先に動いたのは夾竹桃だった。

「こんなのに付き合ってられない。もう充分よ、私はこんなことで命を捨てるつもりはないわ...!」

言うが早いか、彼女は脱兎の如く玄関へと背を向け走っていく。

「夾竹桃殿!」
「ほっとけ、いまはこっちに集中しろ!」

夾竹桃を引き留めようとするムネチカを制し、麦野は原子崩しを魔王に放ち牽制する。
だがもう遅い。
魔王の攻撃準備は既に完了している。

『滅びろ――戴冠災器(カラミティレガリア)・侵喰流星(スターダストフォール)』

館を含む、全てを破壊し腐らせんと、穢れの雨が降り注ぐ。

「ムネチカぁ!」
「承知!!」

それが発動する寸前、垣根の号令に従いムネチカは仮面の力を全開放し、館を丸ごと包み込む程の巨大な障壁が展開される。

『無駄だ。貴様のソレは既に演算が完了している』

無論、魔王もムネチカがそうすることは予測している。
故に、穢れの雨には全て障壁を破壊するプラグラムが仕込まれている。
一度に複数の属性を付与すればパンクし暴走するが、予め来るとわかっているものであれば、規模に関係なく最小限の力で効果を十全に発揮できる。
故に数秒後には、障壁は全て破壊されこの場にいる者たちは魔王以外は全て腐り落ちる。




彼女の演算が正しいものであれば、の話だが。


745 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:53:23 qy3ikKTQ0
『どうなっている...!?』

既にムネチカの障壁を破壊しているはずが、十秒を経過しても未だに健在。
屋敷にすら腐食の雨は届いておらず、ただ障壁の外に穢れの雨が降り注ぐだけだ。

「演算ってのはすぐに崩れるもんだ。簡単な数式も計算式が一つまじりゃあ解読の手間が増えちまう」
『...貴様の仕業か』
「ご明察。その口ぶりじゃあ、説明はいらねえな?」

障壁が穢れの雨を凌いでいるタネは、垣根提督の未元物質にあった。
ムネチカが障壁を展開する寸前、未元物質の羽根は障壁に触れ、その内部構造に変化を齎していた。
些細な変化ではあるが、しかしそれはもはや従来の障壁とは別物になる。
魔王が演算し、プログラムしたのはあくまでも『従来の障壁』の破壊。
未元物質が加わった障壁の変化には対応しきれず、結果、彼女の防壁は破壊されることなく紅魔館を丸ごと護り切ったのだ。

(よかった...)

咲夜は思わずほっと胸を撫で下ろした。
如何にこの紅魔館が本物ではない、そっくりな偽物とはいえ、自分の慣れ親しんだ施設が壊されるというのはあまり気分のいいものではない。
打算があるとはいえ、紅魔館を腐らせなかったムネチカに仄かな感謝の気持ちを抱いていた。


『だが、その代償は高くついたようだな』

ガクリ、とムネチカは息を切らし膝を着く。
今までの疲労に加え、館を丸ごと包む程の規模の障壁を展開したのだ。
その消耗は甚大ではない。

「ハァッ、ハァッ」
『私もかなりの消耗をしたが...これで終わりだ』
「ハッ、強がってんじゃ———」

魔王の言葉を嘲笑う麦野だが、その言葉が紡がれることはなかった。
ほんの一瞬の瞬きの隙に、魔王の足が眼前にまで迫り、頭部への激痛と共にその身体はムネチカのもとへと吹き飛ばされていたからだ。

「ガアアッ!?」
「ぐあっ!」

弾丸の如きスピードで衝突する二人は共に吐血し、壁に激突すればそのまま地面に倒れ込む。

「おい、原子崩...チッ!」

倒れるムネチカと麦野のもとへ向かおうとする垣根目掛けて、魔王の業魔腕は未元物質の羽根を喰らわんと高速で迫る。
衝突する業魔腕と未元物質、だが、拮抗したのは一瞬。
垣根提督の身体には直接触れられていないものの、その力のみで彼は遥か後方へと吹き飛ばされ、麦野たちと同じように壁に激突することでようやく止まる。

そして残った咲夜目掛けて、跳躍し業魔腕を振るう。


746 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:54:00 qy3ikKTQ0
———カチリ

眼前にまで業魔の爪が迫ったまさにその瞬間に、咲夜は時間を止める。
目で追えなかった。
たまたま、焦燥で時間を止めたのが間に合っただけという奇跡だった。

咲夜は時間の止まるほんの数秒のうちに、攻撃をする暇もなく魔王から距離を取り退避。
再び時が動き始めた際には、既に魔王とは正反対の壁際にまで逃げていた。

『...確かに切り裂いたと思ったが、不思議な技を使うな』
「ハアッ、ハアッ」
『だが長続きはしない...今まで出し渋っていたのはそういうことだろう』

先ほどまで優勢だった戦況は瞬く間に一転。魔王の独壇場となる。
今まではムネチカ・麦野・垣根の三人が前線を張ることでどうにか渡り合っていたバランスだった。
だから一人が欠けてしまえばあっという間に崩壊してしまう。
個々の地力の差は大きい。
そうなればこの結果は当然の結路だった。

『待っていろ。こいつらを喰らった後は貴様の番だ』

倒れ伏す麦野を業魔腕で握り込み持ち上げる。
傍に倒れるムネチカは動かず、垣根提督も頭部から血を流し沈黙。
そして咲夜もそれを邪魔する術がない以上、ただ眺めていることしかできない。

『これで終わりだ。麦野沈利』
「———」

ボソボソと漏れる言葉は麦野沈利から。
彼女がなにを言っているのか、魔王は興味を示さない。
どうせこの女の事だ。絶対に殺すだのなんだのと怨叉の言葉を投げようとしているのだろう。
魔王は原子崩しを喰らう為に業魔腕に力を込め———止まる。

笑っていた。
絶体絶命のこの状況において、麦野沈利というプライドの塊の女が、笑っていたのだ。
迫る死に気でも触れたのか?違う。これは確かな意思を以てこちらを嘲っている。

『...なにがおかしい』
「ほんとにてめえは忘れっぽいなと思ってな。私は確かに言ったはずだ。私は、裏切り者を絶対に許さないって。










なあ、夾竹桃」


747 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:54:43 qy3ikKTQ0
魔王の肩に痛みが走る。
刀だ。美しい刃渡りの刀が、背後より突き立てられた。
夾竹桃。逃げたと思っていた彼女が、その眼光を紅く染め魔王に刃を突き立てていた。


「結構お粗末な演技だったけれど...案外うまくいくものね」
『貴様...ッ』


肩にはしる痛みと共に、魔王は理解する。
夾竹桃が我先にと逃げ出したのは、予め打ち合わせていた策だ。
だから、誰か一人でも欠けてはならない均衡から逃げ出した夾竹桃に対しても麦野は全く怒ってなかった。
ムネチカが張った防壁にしてもそうだ。
わざわざ紅魔館全体を覆う必要はなく、せいぜい自身と垣根・麦野・咲夜の計四人を守れる範囲で抑えておけば消耗もかなり少なかったはず。
それをわざわざ館全体を包んだのは、どこぞへと身を隠した夾竹桃までもを護るためであったのだ。

「一つ教えてあげる。私は嘘も非道も厭わないけれど、女の友情を裏切ったことはないのよ。ねえ、麦野」
「いや知らねえよ」
『随分と余裕を見せているが、たかだか一太刀入れただけで勝ったつもりか?』

そう。刀を突き立てられた痛みはあれど、そんなもので魔王を止めるのは不可能。
ましてや非力且つ達人でもない夾竹桃の一太刀。
奇襲にこそ驚きはしたが、それだけだ。

「いいえ、これでお終いよ。貴女にはもう打ち込んであるもの」
『あ?』
「友情という名のあつ〜い毒を...ね」
『何を言って...』

———ちゃん

じゅぐじゅぐ、と傷口が蠢いているような錯覚に陥る。

———あかりちゃん大好きあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してる

誰もその言葉を発していないのに、魔王の鼓膜を揺らし、心まで蝕まんとするかのように、何度も艶っぽい声が連呼される。

———あかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃん愛してあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんぺろぺろあかりちゃん

『なんだ...私に何をした夾竹桃!?』

混乱気味に両耳を塞ぐが効果はない。
まるで、いや、まさに己の中から湧き出るかのように声は勢いを増していく。

———あかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんだいすきあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんちゅーしてあかりちゃんあかりちゃんあいしてるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんぽむぽむあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんだいてあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんわたしがまもるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんぺろぺろあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん


748 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:55:25 qy3ikKTQ0

『ガアッ、やめ、ヤメロォ!!』

いくら懇願してもその友情は決して譲らない。
当然だ。魔王を越える破壊神にすら慄かれた佐々木志乃の呪い。
魔王のみに通じない道理はどこにもない。

『え、演算!演算を!!』

「させねえよ。これで終わりだクソ魔王」

麦野が己に被弾せぬ程度の最大出力を貯め始めれば、それに呼応するかのように垣根とムネチカも立ち上がりそれぞれの攻撃態勢に入る。


「合わせろ未元物質!!」
「貸しにしといてやるよ原子崩し」

原子崩しの光線と羽から放たれる未元物質が大量に含まれた暴風が魔王目掛けて放たれる。
解析不可能の二重奏。その二つの殺意から逃げられぬよう、ムネチカの防壁が反対側より立てられる。

ここまでのほとんどが彼らの作戦通りだった。
麦野が挑発し、初手からの紅魔館破壊を防ぎ、連携により攻撃する暇を与えないことで自分たちの消耗も減らし。
倒しきれない時は夾竹桃を一旦魔王の意識から外し、不意打ちで罪歌の呪いを刻み込み、強制的に思考力を奪わせ、最大火力を叩き込む。
勝機は彼らに確かにあった。

だがここで彼らの予期せぬ地雷が爆発する。

彼らは知らない。
魔王ベルセリアがよりにもよって間宮あかりと既に戦っており、あまつさえ敗北を喫したことを。

———貴方を止める。シアリーズさんの為にも―――ベルベットさん、貴方を止める!

『あ、かり』

それはある種のトラウマ。剣鬼シグレ・ランゲツにすら成し遂げられなかった、魔王の討伐。

———あなたは強くなってなんかない。あなたはただ逃げただけ。託されたものを全部投げ捨てて。未来が怖くて逃げだしたただの臆病者なんだ!

『間宮、あかり』

———私は、あなたを殺したくありません。

絶対なる自信を打ち砕かれ、あまつさえ哀れみの目を向けられた絶対的な屈辱。

夾竹桃に与えられた友情という名の毒はそのトラウマを抉りすぎた。
その果てに起こるのは

『————アアアアアアアアアァァァァァァァア!!!!!!』

膨大なストレスに晒されたことによる、自傷すら厭わぬ感情の爆発暴走。

『消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ間宮あかりィィィィィィ!!!!!』

狂乱的にプログラムされた戴冠災器の技の数々は周囲を、己の身をも巻き込み出鱈目に放出される。
防壁も。
原子崩しも。
未元物質も。
全てを破壊し狂乱の魔王はただ叫ぶ。

赤色が舞った。
黒色が飛び散った。
紺色が白色が青色が数多の色がなにもかもが黒球の餌となり———紅魔館と呼ばれた館が、会場より消え去った。


749 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:56:06 qy3ikKTQ0


「ははは、随分と派手にやってるねえ、魔王サマは」

完全に崩壊した紅魔館を遠目に眺めながら琵琶坂はケラケラと笑う。
頬や服に多少の痕はあれど、目立った外傷もなく余裕溢れる態度も健在である。

「あれだけ大口叩いてやることは結局、知性の欠片も感じない力押しとは...とんだ王様がいたもんだ。あんな王に仕える者がいれば苦労を察してしまうよ。君たちもそう思うだろう?」

後方を流し目で見ながら、にやついた笑みを浮かべる。

そこには傷つき地面に突っ伏すメアリと、先に倒れた彼女の分まで攻撃を受け、全身に傷を負い、多量の出血で地面を赤く濡らす流竜馬。
戦況は一方的だった。
純粋な身体能力のみで挑む竜馬と、仮面の力を内包したとはいえ万全ではなく戦闘経験も浅いメアリ。
対する琵琶坂はゲッターの恩恵のみならず、痣による身体能力の強化、加えて元来よりのカタルシス・エフェクトも有している。
ロクな策もなく、感情のままに立ち向かった二人では結果は火を見るよりも明らかであった。

「く、う、ぅ、琵琶坂、えいじィ...!」
「クソッタレが...!」

憎々し気に睨みつける二つの視線を琵琶坂はニヤニヤと受け流す。

「いいテストプレイになった。お陰でだいぶ力を使いこなせるようになったよ」
「余裕ぶっこいてんじゃねえ...今すぐぶっ殺してやらぁ!」

竜馬は傷ついた身体を押して駆けるが、琵琶坂は難なく鞭で迎撃。
身体を滅多打ちにし、更に右目を打ち付け破壊する。

「ぐあああっ!!」
「竜馬さま!」
「懲りないねえきみも。別にきみとは大した因縁もないんだ。誠意を見せれば見逃してやってもいいんだよ?」

嘘だ。竜馬もメアリもここで殺すことは確定している。
ただ、竜馬のような猪突猛進な馬鹿が惨めに命乞いでもしたら面白いだろうなという思い付きでモノを言っているだけだ。

「ざけんな...誰がてめえなんぞに媚びるかよ。笑ってられるのもいまの内だぜ、クソ野郎がよ」

だが、竜馬の闘志は依然として萎えていない。
その眼光は、未だに諦めの二文字を宿していない。
例え片目を潰されようとも。
手足が折れかけようとも。
多量出血で死にかけようとも。

流竜馬は絶望しない。未だに自分が勝てると思っている。

それが琵琶坂は気に入らなかった。


750 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:56:50 qy3ikKTQ0

「やれやれ。きみのその頑固さには呆れてモノもいえないよ」

はぁ、とわざとらしくため息を吐く琵琶坂だが、その顔はすぐに醜悪に歪む。

「その頑固さに敬意を表して、楽に殺してやるよ」

琵琶坂は鞭を掲げ、その先端に緑色の光を集め出す。
その様を見たメアリは思わず息を呑む。
———あれはカタリナ様を殺した技だ。

「メアリ・ハント...愛しのカタリナさんと同じ技で殺してやるんだ、本望だろ?」
「どこまで人を侮辱するの...!」

憎悪と憤怒にメアリの唇が血が流れるほどに噛み締められる。
もしも眼光で人を呪い殺せるならば、いまの彼女にはそれほどの怨念が込められているだろう。
だが、現実はなにもできない。
ロクに動けないメアリはここで死ぬ。

(悔しい)

気が付けば涙が頬を伝っていた。

(カタリナ様を救うどころか、仇すら討てないなんて)

自分がここに来て出来たことはなんだ。
ただ、エレノア・ヒュームという無害な女性を殺しただけだ。
カタリナの助けになんにもなれていない。
それがたまらなく悔しかった。

「琵琶坂...」

だが。
目の前に立つ、満身創痍な男は。
己と同じく死を待つだけのはずの男は。

「覚悟しやがれ...絶対にブッ殺してやる!」

この期に及んでもまだ、微塵も諦めてなどいなかった。

「なら耐えてみろよ。無理だろうけどなあ!!」

琵琶坂はそんな二人を嘲笑い、その技の名を叫ぶ。

「ゲッタァァァビィィィム!!」

鞭の先端から緑色の光線が放たれる。

人間二人は余裕で飲み込める大きさの光線を前にしても、竜馬は微塵も目を逸らさなかった。

迫る。

死への距離が。

慣れ親しんだ緑色の閃光となって。

「俺を」

だがそれでも関係ない。
流竜馬という男の眼光は微塵も揺らがない。
無限にあふれる闘争心。
それこそがゲッター1を駆るに足ると認められた証だから。

「なめるんじゃねえええええええええぇぇぇぇ!!!!」

そしてその叫びを最後に。

光線は、二人を呑み込んだ。


751 : 魔獣戦線 ー進化の光ー ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:58:09 qy3ikKTQ0










「...オイ、どうなってる」

琵琶坂永至の目は信じられぬものを見た。
ゲッタービームは確かに流竜馬とメアリ・ハントを呑み込み、爆発を起こしたはずだ。
だがどうだ。流竜馬は消え去るどころか、五体満足。
だけでなく、傷一つすらついていない。
その背後にいたメアリも、ほとんど新しい傷がついていない。
竜馬が盾になり防いだというのか?
———本当に、ただそれだけのことなのか?

「竜馬、さま?」

ゲッタービームは流竜馬を殺せなかった。
そのお陰でまだ自分は生きているし、奴を殺すための戦力も欠けなかった。

だというのに、なんだこの不安感は。
なにが起きているのだ。
琵琶坂永至は、いったいなにをしたというのか!?



ゲッタービームとは、ゲッター線から発生するエネルギーを撃ち込み敵を爆殺する技、ではない。

一口に光線といっても成り立ちが違えば原理も異なる。
例えば麦野沈利の原子崩しと御坂美琴の超電磁砲。
原子崩しは電子を粒子と波形を曖昧なまま固定し操ることで恐るべき威力を引き出すのに対し、超電磁砲は電磁力の応用によりコインを音速以上の速さで撃ちだすことから破壊を齎している。
敵を破壊するという点では同じ『ビーム』といえるが、その構成が異なれば当然齎すものも変わってくる。

それはゲッタービームにも当てはまることだ。

ゲッタービームとは、ゲッター線を凝縮し放つ光線、つまりはゲッター線を直接ぶつける技だ。
その結果、敵が溶け、爆発し、あるいは建物を破壊するという結果を齎しているだけだ。

ならば。

ゲッターに異常なほどに適正のある者にゲッタービームを浴びせればどうなるのか。
それは撃った本人である琵琶坂永至ですらわからない。

その答えは直ぐにその身で思い知らされることになる。

ゲッターに選ばれる———否、ゲッターに愛されるとはこういうことだと。


752 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/06/28(水) 00:58:34 qy3ikKTQ0
今回はここまでです


753 : 通りすがりの者 :2023/07/04(火) 18:27:35 LV.oQSEk0
>>748
トドメを誘うとした描写で少し気になったのですが
以前無惨戦で垣根は強敵相手に首輪を狙う事で決着を決めようとしていました。
そして破壊神シドー戦で首輪を攻撃してシドーを倒したのを十六夜は知っています
つまりどんな強敵でも首輪を攻撃すれば倒せる事を5人は知っているはずです
なのでわざわざ合体技をする余裕があったのならば即座に首輪にナイフ叩き込むとおもうのですが・・・
そうして首輪を攻撃した上でそれを何らかで弾かれてから合体技という流れにした方が筋は通ると思うのですが如何でしょうか?


754 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/05(水) 22:59:35 uwWZat.o0
ご指摘ありがとうございます

>>748
いくら懇願してもその友情は決して譲らない。
当然だ。魔王を越える破壊神にすら慄かれた佐々木志乃の呪い。
魔王のみに通じない道理はどこにもない。

『え、演算!演算を!!』

「させねえよ。これで終わりだ魔王ベルセリア」

麦野が己に被弾せぬ程度の最大出力を貯め始めれば、それに呼応するかのように垣根とムネチカも立ち上がりそれぞれの攻撃態勢に入る。

まずはムネチカが距離を詰め、拳を握りこむ。
狙うは首輪。
罪歌の愛に苦しむ隙を突き、首輪の爆破により魔王を殺さんと拳を放とうとする。

『ガアアアアア!!!』

それは罪歌への抵抗か、あるいは本能的な防衛反応か。
魔王は我武者羅に業魔腕を振るいムネチカに当てる。

「ッ...!」

見た目ほどの威力はないが、その重さに身体は耐え切れずムネチカの身体は咲夜のもとにまで弾き飛ばされる。

冷静さを欠いても魔王の地力は未だ健在。
罪歌の呪いを演算し打ち消すまでの時間を稼ぐには充分だ。

「だったら先にあの腕を潰した方がはやいか...合わせろ未元物質!!」
「貸しにしといてやるよ原子崩し」

原子崩しの光線と羽から放たれる未元物質が大量に含まれた暴風が魔王目掛けて放たれる。
解析不可能の二重奏。その二つの殺意から逃げられぬよう、弾き飛ばされた先から放たれた、ムネチカの防壁が反対側より立てられる。

ここまでのほとんどが彼らの作戦通りだった。
麦野が挑発し、初手からの紅魔館破壊を防ぎ、連携により攻撃する暇を与えないことで自分たちの消耗も減らし。
倒しきれない時は夾竹桃を一旦魔王の意識から外し、不意打ちで罪歌の呪いを刻み込み、強制的に思考力を奪わせ判断力を大幅に鈍らせる。
勝機は彼らに確かにあった。

だがここで彼らの予期せぬ地雷が爆発する。

彼らは知らない。
魔王ベルセリアがよりにもよって間宮あかりと既に戦っており、あまつさえ敗北を喫したことを。

———貴方を止める。シアリーズさんの為にも―――ベルベットさん、貴方を止める!

『あ、かり』

それはある種のトラウマ。剣鬼シグレ・ランゲツにすら成し遂げられなかった、魔王の討伐。

———あなたは強くなってなんかない。あなたはただ逃げただけ。託されたものを全部投げ捨てて。未来が怖くて逃げだしたただの臆病者なんだ!

『間宮、あかり』

———私は、あなたを殺したくありません。

絶対なる自信を打ち砕かれ、あまつさえ哀れみの目を向けられた絶対的な屈辱。

夾竹桃に与えられた友情という名の毒はそのトラウマを抉りすぎた。
その果てに起こるのは

『————アアアアアアアアアァァァァァァァア!!!!!!』

膨大なストレスに晒されたことによる、自傷すら厭わぬ感情の爆発暴走。

『消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ間宮あかりィィィィィィ!!!!!』

狂乱的にプログラムされた戴冠災器の技の数々は周囲を、己の身をも巻き込み出鱈目に放出される。
防壁も。
原子崩しも。
未元物質も。
全てを破壊し狂乱の魔王はただ叫ぶ。

赤色が舞った。
黒色が飛び散った。
紺色が白色が青色が数多の色がなにもかもが黒球の餌となり———紅魔館と呼ばれた館が、会場より消え去った。


755 : 魔獣戦線 ー愛されしものー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/05(水) 23:03:45 uwWZat.o0


———世界が切り替わる。

赤い空。

崩壊した都市。

転がる死体。

こびりつく臓腑と血。

見渡せば、機械の群れが互いに互いを壊し合っていた———殺し合っていた。

倒した相手の中身を貪り、喰らい。

そして勝者は歓喜の声を挙げ、次なる獲物を求めて飛び立っていく。

勝者の声にどこかで聞き慣れているような既視感を覚えつつ、殺された機械の中身に駆け寄る。

零れだしたソレは知った顔だった。

小さな身体。黒のおかっぱ頭。

仲間だった。見た目の割にはどこか大人びている雰囲気を醸し出す、身体のほとんどが機械と化したあいつだった。

それだけじゃない。周りにはよく見知った奴らが散らばっていた。

同じく壊れた機械から上半身だけをぶら下げ息絶えた青年。

下半身をどこかに無くし、鉄骨にくし刺しにされた水色の髪の少女。



俺は逃げた。

ただただ恐ろしくて逃げまわった。

気が狂いそうな———いや、既に狂っているのかもしれない。

ただ、必死に、仲間だったものの成れの果てから目を背けたかったのかもしれない。

とにかく逃げ続けた。

なにかが聞こえた。赤ん坊の声だ。

俺は走った。ただ無心で、縋るように赤ん坊のもとへむかった。

本当なら温かいゆりかごに揺られているような赤ん坊は、大層立派な機械の檻に入れられ、機械に食われていた。

いや、違う。

喰われているんじゃない。同化だ。

人間の身体と機械とが同化し、新たな生命を生み出しているのだ!!

俺は腰を抜かしみっともなく悲鳴を挙げた。

涙すら流しているかもしれない。

ただ、この地獄のような世界に目を塞ぎ、縮こまり。


高らかな笑い声が響くと、世界が切り替わった。


756 : 魔獣戦線 ー愛されしものー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/05(水) 23:05:31 uwWZat.o0


全てを破壊され瓦礫の山と化した紅魔館。
その破片を押しのけ、真っ先に姿を現したのはムネチカと咲夜。

「くっ...なんという威力だ...!」
「悪いわね、助けてもらって...しかし、紛い物とはいえいざ壊されると...はぁ」


少なくない怪我と出血を伴いつつも、破壊規模に対して致命傷を負っていないのは、魔王の攻撃が無差別且つ出鱈目に放たれていたからだ。
自分はどうにか咲夜を庇えたが、他の面々は———

ボン、と弾けるような音と共に瓦礫が舞い上がる。

下から突き出るは、白い羽と緑色の手の形をした光。

「無事であったか、かきねど———ッ!」

味方の無事に綻びかけたムネチカの口元はすぐに引き締められる。

「よう。随分といい様になったじゃねえか」
「ぬかせ。てめえも似たようなもんだろうが」

瓦礫の下から姿を現した三人は満身創痍、だけならばまだよかった。
垣根に襟首を襟首を掴まれながらも出血し、目を閉じたまま動かないだけの夾竹桃はまだマシな方だ。
垣根は右腕を失い頭部からは流血し、麦野も残された生身の腕が千切れ、同じく頭部から流血していた。


「二人とも、止血を!」
「ああ」
「言われねえでもわかってる」

言うが早いか、ムネチカが止血に動くよりも早く、麦野は足元に原子崩しを放ち、垣根は己の未元物質の羽根を傷口に添える。
未元物質で焼き切れた瓦礫に腕と額の傷口を当て焼き潰す麦野、未元物質の羽根がもたらす熱反応で同じく傷口を焼き潰す垣根。
常人ならば叫ばずにはいられない激痛が走るが、しかしそこは暗部に生きるレベル5。眉根一つ揺らがず淡々とこなしていく。

「これでよし...おい、何ボサッとしてんだムネチカ、咲夜」
「え?」
「え?じゃねえよお前らも血が止まってねえだろ」
「いえ、私はだいじょ———」

言い終える前に、咲夜の頭部から血が垂れ落ちる。
あわあわと取り乱す咲夜を他所に、隣にいたムネチカはなにも言わず原子崩しで作られた瓦礫のホットプレートに頭部の傷口を当てて焼き潰し始める。
やはりというべきか、彼女もほとんど無反応。
戦いなれた者というのはみんなこういうものなのだろうか。

蛮族どもめ、と内心でひとりごちつつ、コホンと咳払いし拒否の言葉を告げようとする。
ただでさえ偽物とはいえ馴染みの紅魔館を潰された精神的ショックがあるのだ。
このうえ更に傷口を虐めるような行為は避けたい。

「私はムネチカに庇って貰って比較的軽症だから———」

言い終わる前に垣根の羽根が咲夜の出血口に触れ灼熱を走らせる。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「あいつがアレでくたばったとは思えねえ。ぐだぐだとくだまいてる暇はねえんだ...っと、言わんこっちゃねえ」

咲夜が痛みに悶える間もなく瓦礫が弾け飛ぶ。
目にも映るほどの黒い気が立ち昇り始める。

殺意が。憎悪が。憤怒が。

見る者全てを畏怖させんとその形相に表れる。

至る箇所に傷は残れど、魔王、未だ健在。


757 : 魔獣戦線 ー愛されしものー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/05(水) 23:06:52 uwWZat.o0
『夾竹桃を、渡せ...!!』

しかし、怒気を孕んだその声に先刻までの威厳はない。
負った怪我は垣根たち五人の方が大きいというのに、苦しんでいるのは魔王の方だ。

罪歌の『愛』は未だに魔王を蝕んでいた。
ムネチカの防壁や原子崩しを無効化したように、演算を完了させることはできる。
しかし、彼女たちの技のように感情を有さないものならまだしも、罪歌の呪いは感情によるメカニズム。
それを演算、即ち頭で理解するということは呪いを受け入れるのと同義。
つまり演算を終えれば、そのまま魔王は罪歌の呪いへの抵抗力を失い呑まれてしまう。
その危険性を予測した魔王は、夾竹桃の一刻も早い排除によって解除を試みようとしていた。

(よし。流れはまだ私たちにある)

そんな彼女の心境を麦野は見抜いていた。

本来ならば、魔王からしてみればこの戦いはただ蹂躙し喰らうだけのものだったはずだ。
それが予想外の抵抗に手間取り、あまつさえ精神を蝕む毒まで注入されるときた。
当然、その胸中は穏やかではないどころか噴火する火山の如く怒りが煮えたぎっていることだろう。

手を触れることも無い大技なんかじゃなく、その手で刻み、握りつぶし、命を断ったという感触を実感しなければ気が済まない。
圧倒的に自分が上だと思い知らせなければ気が済まない。
気が触れそうなほどの怒りは冷静さを欠き、逃走と停滞という選択肢すら排除せずにはいられなくなる。

かつて、浜面仕上に遅れをとった自分のように。

(魔王だのなんだの大層な肩書も一皮むけばなんてことはねえ。あんたはあたしと同じなんだよ)

認めたくはないが、浜面との戦いでの敗北は麦野にとって確かな糧となっていた。


758 : 魔獣戦線 ー愛されしものー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/05(水) 23:08:10 uwWZat.o0

「てめぇらまだヤれるな?」
「誰にモノ言ってやがる第四位」
「大人しく引き下がれば見逃してくれる...という訳でもないものね」

垣根とムネチカ、そして渋々ながらも咲夜が麦野と共に魔王に改めて対峙する。

『覚悟しろ、お前たち全員食いつぶしてやる...!』

先ほどまでは魔王もまだ冷静さを保っていたため首輪への防御にも気をまわしていたが、今は違う。

(ここから先、恐らく奴の攻撃は単調なものになる。あの右腕で食いつぶすか、一刻も早く俺たちを殺すためにその場における最適解、らしい選択か)

猛烈な怒りは視野を狭め、焦燥を生み思考を単調なものにする。
こちらがわざと作った隙も、それをチャンスだと思い込み釣られてしまう。
周囲に気を遣らず、余計な情報を削ぎ落すぶん反応速度はあがりやすいリスクはあるが、それを差し引いても首輪を狙えるチャンスが増えるのは大きい。
自分たちも既に消耗が激しいため大袈裟な能力は使えない面はあるが。

(こっから先は泥仕合だな。らしくねえが...まあ、なんとかしてやるさ)

皮肉なものだ。
学園都市におけるレベルは異能力を測るものであるというのに、その最高位の二人が揃って最終的に試されるのが本人のスペックになるとは。

「いいからさっさとこいよ魔王ちゃん。それともなにか、こっちから行ってあげねえと怖くて動けないかぁ?」
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!』

垣根の挑発に、声にならぬ怒りが臨界点を越え、魔王の足に全力の力が籠められる。
来る———そう確信した時だった。




光。


緑色の光が魔王の身体から発せられた。


759 : 魔獣戦線 ー愛されしものー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/05(水) 23:09:28 uwWZat.o0

『......!?』

怒りとは別の、奇妙な感覚が魔王の心臓部を包み込む。
彼女から、いや、彼女のこれまで撃ってきた技の痕からも緑色の光が発光し始める。
それらの光は、まるで共鳴するかのように粒子となって彼方へと飛んでいく。

「なんだ...!?」

魔王だけでなく、垣根たちもまた、その光が集っていく方角へと目を向ける。

光の向かう先は、紅魔館のあった場所から少し離れた場所。

彼らは知らないが、琵琶坂英至と流竜馬たちが交戦している場所だ。




「おい...なにをしているんだお前は?」

魔王から光が溢れ収束しているように、琵琶坂の身体からもまた緑の光が立ち昇り、眼前の竜馬へと収束していっている。
彼だけではなく、眠るリュージや、メアリの両手からもだ。
力を吸われている訳ではない。
だが、まるで光が竜馬に力を与えているかのように瞬く間に集まっていき、吸い込まれていく。

戸惑い。困惑。未知への恐怖。

それらの本能的な感情に支配される身体を、琵琶坂の脳髄は極めて合理的にねじ伏せ、眼前の脅威を排除するための行動に移す。

鞭を振るい、竜馬の顔を叩く。
そして横を向いたことで生じた隙間を縫い、首輪目掛けてもう一度鞭を振るう。
安陪晴明を斃した時のように首輪を破壊することで先んじて殺すために。

だが。

一手遅かった。

首輪に巻き付く寸前、上げられた腕に鞭は絡みつき首輪へは届かず。

舌打ちと共に鞭を引こうとするが、動かない。
先ほどまでは難なく弾き飛ばせた竜馬の身体が、山を相手にするかのように動かない。

やがて光の収束は収まり、代わりに竜馬自身の身体が緑色に光り出す。


760 : 魔獣戦線 ー愛されしものー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/05(水) 23:11:26 uwWZat.o0

「竜馬、さま?」

不安を孕ませた声音でメアリは竜馬に問いかける。
竜馬に庇われた形になるが、目の前の現象には本能的な恐怖と不安しか抱けない。
だからつい声に出してしまった。

存在を、認識されてしまった。

メキリ。

メアリの腹部にハンマーで潰されたかのような圧迫感が襲い掛かる。
激痛。
潰れる音。
軋み、折れるような音。
襲い掛かる感覚にも何が起きたのかを理解できず、気が付けば宙を舞っていた。
気が付けば、世界が逆転し、血を撒き散らしていた。
そして自重に従い地面に近づき、落ちる衝撃になにかが潰れた時、ようやく自身が竜馬に蹴り飛ばされたのだと理解した。

「なっ!?」

琵琶坂の顔が驚愕に染まる。
わけがわからない。
なぜ竜馬はいま、メアリを殺さんほどの威力で蹴り飛ばした?
仲間割れ?この状況で?
そもそも、つい今しがた瀕死にまで追いやったというのに、どこにそんな力が?

身体を包んでいた光が消え、ぐるり、と此方を向いた竜馬の顔を見た時、琵琶坂の背筋にぞくりと怖気が走る。

四肢には緑色の線が数多も走り、夥しいほどの出血は消え、折れかけていた腕はもとに戻り。
なにより異様だったのは、潰れたはずの右目が再び開き、その双眼に螺旋状の渦巻が宿っていることだ。

琵琶坂は知らない。
本来の歴史では、流竜馬は戦いの最中にゲッター線に取り込まれたことで見境なく全てを破壊する暴の化身と成り果てたことを。
ゲッター線に近づきすぎた者は、例外なく大いなる意思の下に思考を統一されることを。


761 : 魔獣戦線 ー愛されしものー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/05(水) 23:13:10 uwWZat.o0

「ヴオ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"ォォォォォォォ—————ッッッ!!!!」

咆える。咆える。
地を揺らす機械のような叫び声を挙げる彼の咆哮は、大気を弾き琵琶坂にまで波及する。
突風のような衝撃に琵琶坂は怯むも、しかしすぐに持ち直し睨み返す。

「死にかけの癖に調子に乗りやがって...お望みどおりにまた痛めつけて殺してやるよ!!」

未だ絡みつく鞭から炎を発し、竜馬の身体を焼き付ける。
今までの人を焼きつけられる程度の小火ではなく、ゲッターの恩恵を得た規模の増した炎だ。

「泣けよ、喚けよ!膝を着いて俺に屈服しろぉ!!」

人間である以上、身を焼かれれば苦しまざるをえない。
火への耐性を持っていた彼ですらそうなのだから。
だから竜馬の顔も直ぐに歪むと思っていた。
この不安感も直ぐに消せると思っていた。

だが。

「ヴァハハハハハハ、ア”ーハハハハハハッ!!!!!」

笑っていた。
身を焼かれようと、皮膚が爛れようとも構わず。
まるでそれすらも愉しむかのように笑い声を挙げていた。

そんな彼に琵琶坂が気圧された瞬間。
竜馬の姿が消えた、かと思えば、一瞬で懐にまで入っていた。

「なっ———ぶぎゃっ!!?」

竜馬の姿を認識した時には既に拳が眼前にまで迫っており、琵琶坂は回避することもできずに顔面に拳を受ける。
メキメキと骨が軋み、激痛に脳髄が支配されると同時に、遥か後方へと吹き飛ばされる。

本来の竜馬であれば、如何に人間離れした身体能力を有していてもこれほどの力を発揮することはできない。
しかし、多量のゲッター線を取り込んだいまの彼は、身体能力及び再生能力を異常なほどに底上げされていた。
琵琶坂永至はゲッターに選ばれたことで『痣』の代償を帳消しにし、新たなる力を手に入れたが、竜馬が与えられたものはそれ以上。
それがゲッターに愛されるということ。
決して断ち切れぬ破壊と闘争の運命に組み込まれるということ。

余りの衝撃に琵琶坂の身体が幾度か地面を跳ね、それでも止まらず。
ほどなくして紅魔館の残骸の辺りまでついてようやく勢いが殺され、琵琶坂の身体は垣根たちと魔王の間に転がり落ちた。

困惑。動揺。
得も知れぬ異常事態に動きを止める一同。
そして、琵琶坂に追いつくかのように流竜馬も降り立つ。



「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァァァッッッ!!!!」

なにが起きているかがわからない。理解が追い付かない。
誰もが目を奪われていた。
だが、歓喜の咆哮を身に受けたその時、彼らの心は一つになった。
理屈ではなく。直感・本能的に。
今まで繰り広げていた戦いすらも、受けた屈辱すらも投げ捨て、眼前のこいつを倒さねばならない、と。


762 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/05(水) 23:13:41 uwWZat.o0
すみません、もう少し続きます


763 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:06:29 JQErZBq.0
再延長して投下します


764 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:07:37 JQErZBq.0


『♦♦♦♦♦のゲッター線量が上がっていくぞ!』

異形が叫んでいた。

『ウォォこの指数はビッグバンを引き起こすだけの———』

見るも悍ましい異形共が瞬く間に消し飛ばされていく。
異形共が団結し、叫びあい、抗う様を嘲笑うかのように。

無慈悲に。無情に。なんの感慨もなく。
巨大なエネルギーは奴らをあっさりと吹き飛ばす。

『だめだもう我々の武器は全て無意味になった!!』

『このままではすべてゲッターに飲み込まれます』

『母星を失った我々はあのバケモノにたちうちできる手段はありません!!』

『それでも我々はやらねばいかんのだ!!あのバケモノを倒さねば宇宙は———すべての文明は奴に喰いつくされる!!』

それでも彼らは立ち向かっていた。抗っていた。

巨大、という言葉すら陳腐に思えるほどの機械の艦隊の群れを前に、ひたすら死への前進を続けていた。

そんな、異形であるという事実すら霞む程に気高き彼らの命は。

『ゲッター♦♦♦♦♦チェンジだ!!』

宇宙を震撼させる男の声と共に為された、合体の余波一つで全て消し飛ばされた。


765 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:08:10 JQErZBq.0

『奴らの攻撃能力を奪い壊滅させる』

『ダーク・デス砲発射!!」

『これで何も残らぬ。奴らの文明のカケラさえ全て腐らせる。数十年後には人類移住する時のこやしとなる』


「...素晴らしい。これが人類とゲッターの進化の果てだ」

俺と進化の果てを見届けようと宣ったソイツは、映画のように眼前で流される光景に目を輝かせながら狂喜していた。

「他を寄せ付けぬ圧倒的なまでの力!如何なる脅威に対しても大いなる意思のもとに一糸乱れず団結する人々!!無限に進化し続ける理想郷!!!僕が続けてきた、あのゲームですらもこの進化の前では子葉の一つにしかすぎない!!僕たち人間の文明を護るのに相応しい守護神はこれ以上はないだろう!!」

「他の世界線のゲームマスターも必要ない。グリードの脅威に手を焼くことも無い。この力が味方をしてくれるなら、僕ら人間の文明の保持は確約されたようなものだ!!ハハ、ハッハハハハハハハ!!」

ソイツは笑っていた。壊れたように。支配されたかのように。意思をはく奪された人形のように、ただただ笑っていた。

———本当に、これがそうなのか?

ダーウィンだかなんだか、偉い人が進化について語っていたのを本で読んだことがある。

だがその偉人たちが導き出したものの果てがコレなのか?

見るからに俺よりも賢そうな男が諦めざるをえないこの末路が、俺たち人間が辿る進化の果てとやらなのか?

自分の手に負えない敵を倒すためには、仕方のないことなのか?

「ハハハ...さて。もうすぐ時間のようだ。きみはじきに目覚めると思うが、その前に一つ教えてくれ。きみはこの未来をどう受け止める?」

ソイツは笑うのを止め、俺をジッと見据え始める。

まるで何かを期待していると、そう思えて仕方なかった。

俺は、俺はこの未来を———


766 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:09:10 JQErZBq.0


先手を打ったのは魔王の業魔腕。
ゲッターの光に包まれた竜馬の身体を喰らわんとその巨大な掌で覆い被そうとする。
対する竜馬は右拳で迎撃。
普段の空手のような洗練された技術ではなく、乱雑に振るわれたパンチだ。
にもかかわらず、業魔腕と竜馬のパンチは拮抗、互いに弾かれ合い共に上体を崩す。

魔王の顔が驚愕に染まる。
こんなことは初めてだ。
今まで相対した敵の中で、純粋な身体能力ではトップだったシグレ・ランゲツですら剣技により自分と拮抗していた。
それがなんだ。ただの素手による力押しでこうも互角に渡り合うハメになるとは。

対する竜馬は、ゲッターはそんなことでは微塵も揺らがない。
弾かれた右拳に代わり、即座に左の拳を握りしめ、魔王の顔目掛けて放つ。
動揺により微かに動きの鈍った魔王は躱しきれずその衝撃と痛みに地面を舐める。

次いで、竜馬の背後より麦野が原子崩しを放つ。
竜馬は魔王とは違い生身の人間だ。光線が当たればどこでも確実に致命傷となる。
そう考えての射撃は、狙い通りに命中し竜馬の腹部を貫通する。
抉られる肉、露わになるその中身。
だが、それは瞬く間に発光と共に修復していく。
ゲッター線の力により肉体修復が異常な速度で働いているのだ。

「あぁ!?」

無論、そんなことを知らない麦野は驚愕する他なく、僅かにだが動きを止めてしまう。
瞬間、竜馬の腹部前方にゲッターの光が収束し放たれる。
まるでお返しだと言わんばかりのそれは、麦野の腹部に当たり、彼方へと弾き飛ばす。
爆発もしない、ただの光線の塊。いわばただの遠距離打撃。
しかし、その一撃はまさに砲丸をそのままぶつけられたに等しく、容赦なく麦野の骨を軋ませ吐血させる。

沈黙する麦野へとトドメを刺さんと竜馬が跳躍し、足を振り上げ踵落としを放つ。
それを庇うためにムネチカが割って入り、両腕を頭上に交差し踵落としを受け止める。
足よりかかる竜馬の自重に加え踵落としの威力による重圧にムネチカの両腕が悲鳴をあげる。
気合い一徹、咆哮と共に力を振り絞り踵落としを弾き飛ばせば、宙に浮いた竜馬に、追い打ちに未元物質の風が吹き荒れ彼の身体を遠方に吹き飛ばす。
だが、竜馬はすぐに体勢を立て直し、再びムネチカたちのもとへと駆け出してくる。

「...加減したのか、垣根殿」
「いいや、溶かすつもりでやったんだが...どうも、イマイチ効果がないらしい」

垣根は竜馬への追撃をただの風ではなく、未元物質で彼の周囲の空気を変質させ人体に害を為すほどの高熱を含む空間を生み出した。
本来ならばそれで彼の身体は溶け、勝負は優勢になっていたはずだった。
だが、溶けたのは一瞬。ほんの少し皮膚が爛れただけでピタリと収まり、再び再生してしまった。

(だが吹き飛ばすこと自体はできた。原子崩しも貫通自体はできた。つまりだ。こいつは異能力により付加される効果を軽減・あるいは打ち消してるって訳だ)

それが自意識か無意識かはわからないし、どういう理屈なのかは垣根にもわからないが、どの道、未元物質による状態異常が通じていないことは確かだ。
異能力による特殊性の効果が薄い以上、まだ麦野のような純粋な火力を叩きつける異能の方が期待できる。

「なら直接刻んでやるよ」

未元物質の羽はそのまま人体を切り裂くこともできる。
特殊性が効かないならば、それらを全て捨てただの刃物として扱えばいい。

迫りくる竜馬の拳へと羽をぶつけ刻まんとする。
結果、甲高い音と共に砕かれたのは未元物質の羽だった。

この会場においても未元物質の羽を防がれたのは初めてではない。
シグレ・ランゲツの剣や鬼舞辻無惨の触手など、一定以上の力があれば守勢にまわること自体は経験済みだ。
だが、それらは剣や再生自在な腕など、直接触れても問題ない連中の所業であり、素手の竜馬では成し得ない。
そのあり得ないはずの現象に垣根の思考が僅かにだが停止し、その微かな時間で竜馬の拳を躱す時間は削がれ、咄嗟に盾にした未元物質の羽ごと殴り飛ばされる。

常識が通用しない。

垣根が口癖のように出す口上が、いままさに己の身に降りかかってきていた。


767 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:09:57 JQErZBq.0

垣根へと追い打ちをかけようとする竜馬にムネチカがまたも割って入り妨害。
その隙間を縫い、鞭が飛来すれば竜馬の身体を縛り上げる。

「ぜぇ、よぐもこの俺の顔にこんな...このクソガキがぁ!!」

ひしゃげた鼻を手で抑えつつ、怒りのままに琵琶坂は唾を撒き散らしながら怒鳴り散らし、鞭を伝い炎を発する。
点火する竜馬の身体だが、しかし火が点くのもつかのま、咆哮と共にすぐにかき消される。

瞬間、全ての時間が静止する。

咲夜が『時間を操る程度の能力』を発動したのだ。

(琵琶坂や魔王も始末したいけれど...いまは!)

咲夜にとって魔王も琵琶坂も竜馬も優先的に排除するべき敵だ。
しかし、先の魔王との戦いでナイフは使い切り、残されたのは手に持つ一本だけ。
静止する時間の短さも相まって、全員を始末することは不可能。
現状、一番の危険要素は流竜馬である。

(これを外せばおそらく時間はしばらく止められなくなる...ここで必ず決める!)

ナイフを振りかぶり、竜馬の首輪目掛けて投擲する。
咲夜の手元から離れた瞬間、ナイフは空中で静止する。
これで再び時間が動き出した時、竜馬の認識外からナイフが飛んでくることになり、回避は不可能。
あとは自分が寸分の狂い無く投げられたかどうかだけだ。

時間が動き出すまであと2秒。1...

「ッ!?」

咲夜は思わず息を呑む。
全てが静止する時の中、彼女は見た。
竜馬の螺旋状の目が、ギョロリとこちらを睨みつけるように動いたのを。

そして時が動き出すのと同時、ガキンと音が鳴る。
ナイフは、竜馬の歯に挟まれ止められていた。

静止した時間の中を認識したというのか。
ありえない、とは言い切れなかった。
つい数時間前に破壊神シドーに静止した時間を破壊されたばかりなのだから。
故に。彼と同種の存在であれば不可能ではないのかもしれない。

そして。
静止した時間の中を認識されたということは、自分の存在も認知されたということ。
咲夜は咄嗟に地面を蹴り後方へと駆けて距離を取るが既に遅し。
竜馬は縛られた身体のまま軸を捩じり、琵琶坂の身体を力づくで持ち上げ、咲夜目掛けてハンマーのように放り投げぶつける。
まさに鈍器で殴られたような衝撃に咲夜は肺の中の空気を堪らず吐き出し、沈黙する。

残るムネチカが跳びだし、竜馬と掌を合わせて組みあう。
純粋な力と力のぶつかり合い。
一時は均衡するも、次第に押されていきムネチカの姿勢がのけ反るように沿っていき、竜馬は被さるように上体を曲げていく。
歯を食いしばり堪えるムネチカ。
それを嘲笑うかのように走る頭頂への衝撃は、竜馬の頭突きによるものだ。
視界がホワイトアウトしかける中、右の蹴り上げによる腹部への衝撃にムネチカの身体はボールのように吹き飛ばされる。

「ヴオオオオオオオオォォォォォォォォ—————!!!!」

眼前の敵が地に伏せる中、破壊の化身と化した男の歓喜の叫び声が響き渡った。

だが、それは戦いの終末を告げるものではなく、第二ラウンドの開戦の合図。

魔王も。レベル5も。八柱将も。自己愛の権化も。

一度地に伏せられたことで、一層、流竜馬という存在の危険性を認識し直し、敵意と殺意を露わにする。

殺意と闘争心が、とめどなく満ちていく。


768 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:11:15 JQErZBq.0


「っ...」

肉を打つ音。
建物を破壊する音。
叫び声。
笑い声。

数多の戦場の音が夾竹桃の耳を刺激し、その意識を取り戻させる。
うすぼんやりとする意識の中で、何があったかを思い出す。
策を労じて罪歌を魔王に刺しこんだ。
その結果、魔王が何故か暴走し、我武者羅に技を放ってきて———そこまでは覚えている。
そこから先はどうなった。魔王は倒せたのか、あるいはこちらが全滅したか、共倒れか。

まとまりがつかない思考のまま目を開ける。
辺りは瓦礫の群れ群れだった。
絢爛豪華な華やかささえ伺えた紅魔館はもはや跡形もなく荒地が残るのみだ。

けれどそれ以上に彼女の意識を引き付けるのは、少し離れた場所で繰り広げられる戦。
魔王と対峙していたはずの面々が、その魔王と共に一人の男を囲み、あろうことか協力して倒そうとしている。
だが、男はそれすらも臆せず、獣のように殴り、蹴り、投げつけ。
血で血を洗う戦い、否、殺し合いが繰り広げられていた。

「いったいなにが起こっているの...?」

夾竹桃は解らない。
目の前の光景が、彼女の求めるものの一つ『ゲッター』により引き起こされていることを。
だがそれはある意味幸運だったのかもしれない。
晴明が彼女に伝えた時に狙ったように、ゲッター線はとても一個人に扱える代物ではない劇物。
如何に毒を愛し毒に愛された彼女とてその真理を掴み取ることは不可能。
探求者たる彼女が触れれば、知りすぎる危険に踏み込むことになっていたからだ。


原子崩しの腕と業魔の腕が左右から同時に躍りかかるが、竜馬は右と左、それぞれの掌で受け止める。
本来ならば生身で受ければそれだけで致命的な傷となる両者の腕だが、ゲッター線を纏ういまの彼にはそのルールは通じない。
そのまま両腕を力づくで振り下ろせば、二人の身体は地面に叩きつけられ血と唾を撒き散らす。
次いで鞭が竜馬の身体へと振るわれ、動きを制限している隙に未元物質の羽が首輪目掛けて迫る。
捕らえた。その確信は、しかしすぐに翻される。
消えた。いま直ぐそこにあった竜馬の姿が瞬き一つ程度も無い瞬間に消え去った。
否。なんてことはない。ただ、文字通り目にも止まらぬ速さで垣根の頭上に跳びあがっただけだ。
振るわれる踵落としは、垣根が防御にまわした未元物質の羽を容易く破り、その反動で彼の身体を地面に叩きつけ、多大なダメージを与える。

舌打ちと共に鞭を振るい続ける琵琶坂だが、その攻撃はもはや怯むにも値せず。
身体に傷を打ち込んでいく鞭の嵐をそのまま真っすぐに突き抜け、その拳は琵琶坂の胸部に叩きつけられ、再び後方に大きく吹き飛ばされる。
本来の琵琶坂ならとうに死んでいる攻撃の威力だが、痣やゲッター線の効力における身体能力の増強により耐えることができた。

追い打ちをかけようとする竜馬の背中へとムネチカが体当たりを放ち妨害。
弾き飛ばされ地面を転がる竜馬へと追撃の拳を放つが、しかしそれはハンドスプリングの要領で突き出された前足に防がれ押し返される。
竜馬は立ち上がるのと同時、目にも止まらぬ速さで駆け、ムネチカの腹部を蹴り上げ、宙に浮いたその身体を殴り飛ばす。


769 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:11:48 JQErZBq.0
再び立ち上がる面々を、殴り、蹴り、投げ飛ばし。
これほどの攻防を繰り返しつつも、竜馬は微塵も疲労や焦燥の気配は見られず、狂喜の雄たけびをあげるのみだ。

たいして、垣根・麦野・琵琶坂の三名は既に地に身体を投げ出し、残るムネチカも膝が笑い立っているのが精いっぱいな有様だ。

そんな彼らを空中より見下ろす魔王。
彼女は他の面々が戦っている最中、飛べるというアドバンテージを利用し、空中に待機しつつエネルギーを充填していた。
その気配に近づいた竜馬だが、地上にいては為す術もなく。

『戴冠災器(カラミティレガリア)———』

力を貯めて放とうと突き出した業魔腕に対し、竜馬は———逃げるのではなく、跳躍して魔王へと向かう。
だが、魔王とてただ迫られるだけではない。
跳躍は所詮は一時的な滞空措置。
突如進行方向を変えることもできない。

魔王は焦らず、放つ前に旋回し竜馬の跳躍の軌道から逸れる。
これで後は放つだけ———その予想は大きく覆される。
跳躍によりあらぬ軌道へと向かうはずだった竜馬が、魔王に迫るように軌道を変更したのだ。

『馬鹿な!?』

驚愕する魔王を他所に、竜馬の腕は伸ばされ業魔腕に溜められていたエネルギー球を握りつぶす。
結果、生じるのは魔王のみならず自分諸共まで被害を被る大爆発。
その余波に魔王は煽られながらも翼を広げ勢いを殺し体勢を立て直す。
対する竜馬もまた爆風に煽られながらも空中で停止し体勢を立て直す。強大なエネルギーに手を入れたせいで皮膚が爛れ痛々しい様相になっているが、しかしそれもほどなくして再生し修復される。
魔王は歯軋りをしつつも目を凝らし竜馬を観察する。
再生能力などではない。なぜ、奴が自在に空中を飛んでいるかを見極めるためだ。

『...!!』

そして気が付く。竜馬の背にうっすらとではあるが、緑色の光が魔王と同じような翼を象っていることに。


770 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:13:48 JQErZBq.0

ゲッター線が司るものは進化と破壊衝動のみではない。
ゲッター線を通じた記憶の共有。
時には平行時空の記憶であったり、過去や現在の記憶であったり。
ゲッター線は魔王に撃ち込まれたゲッター線と共有した際に、彼女が食らい、体現化させ、喰らった記憶までもを共有した。
その中の一部の要素が、異能を喰らい無力化する業魔腕と、空を自在に飛ぶ翼。
眼前の敵を排除する為に、ゲッター線はそれらを竜馬の身体に反映させたのだ。

『ふざ、けるなぁ!!』

烈火の如き怒りと共に魔王が飛びかかれば、竜馬も同じく殺す為に飛び掛かる。
ぶつかり、互いの頬に拳をぶつけ合えば離れ、再びぶつかり合えば頭突きを躱し合い。
ついては離れ、ついては離れの空での殴り合いに先に手が止まったのは、魔王ベルセリアだ。

『ぐ、うっ』

腹部に竜馬の拳が突き刺さり、貫通せんほどに拳がめり込んでいく。
だが、魔王は痛みに顔を歪めながらも口角を釣り上げた。

『捕らえた』

魔王はそのまま竜馬を抱きかかえるように業魔腕で包み込む。

空中戦は間宮あかりとの戦いで経験済みだが、こうまで互角以上に渡り合われるとは思ってもいなかった。
故に、喰らう。己をも超える可能性を秘めたこの存在を喰らい、一層、女神の支配する地平の糧とする。
業魔腕はメキメキと力を込められ、竜馬の身体を潰すプレス機と化す。
潰れていく身体、流れ始める血。
このままいけば食える。そう確信したときだった。

———ドクン

魔王に潜むゲッター線が共鳴する。

『なんだ?』

———ドクン

心臓の鼓動のように、魔王の脳髄に衝撃が走る。
脳内を蝕んでいた『あかりちゃん』は竜馬が現れた時から成りを潜めている。
ならばなんだ、この奇妙にもほどがある感覚は———


『ムオッ!!』


771 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:15:49 JQErZBq.0

———突如、魔王の脳髄に像(ヴィジョン)が過る。

遥か広大な地球。
それすらも玩具扱いする神々。
それらすら矮小に見えるほどの巨大なロボット。
あるいは星々を喰らい進化していく巨大な機械の群れ大いなる意思に統一されし新たな秩序複製される人間自由意思なき人間の群れ死滅消滅破滅撃滅宇宙の真理終わらぬ永遠の闘争無限地獄———その果てに聳えるは、■■■■■■■■■

『あ...がぁ...!わた、わたしは、喰う食われくるわれりクルクワル―――』

もしもこれに触れたのが他の面々であれば幻覚なり幻視なりと捨て置くだろう。
だが、彼女は魔王として神格の域に達している。
故に、理解してしまった。これがただの法螺話ではなく、確かに起こり得る未来と過去の話であると。

齎される膨大な絶望への情報に魔王の精神が摩耗していく。
罪歌とは別のベクトルでの恐怖と絶望に染まっていく。
こんなものを喰らうなど冗談じゃない。
自分の役割は女神に贄を捧げて虚獄を成立させること。
だというのに、宇宙中を全て敵にまわして未来永劫の闘争の輪に組み込むなど本末転倒もいいところだ。
もしもこんなものを取り込み現世に解き放ってしまえば、そこからはもう終わりのない無限地獄だ。
勝てない。
いや、勝ったとしても、進化の果てに成るのがアレだというのならこの戦い自体がそもそも過ちでしかない。

『貴様、こんな、こんなものを...!!』

いまにも泣き出しそうなほどに魔王の顔が歪めば、業魔腕に籠められる力が緩み、竜馬が姿を現す。
身体を潰されかけ、とめどなく流血し、だというのに微塵も恐怖を宿さないその双眸と狂喜の叫び声は先ほどの像と重なり。

『う、あああああぁぁあぁぁああぁぁ!!!』

魔王は、恐怖した。

その及び腰から放たれる拳では竜馬は止まらず、返す拳でクレーターができるほどの勢いで地面に叩きつけられる。


772 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:16:52 JQErZBq.0

『ハァ—、ハァ—』

受けたダメージが甚大でありながらも、魔王は必死に立ち上がる。
得体のしれぬ『ゲッター』から背を向け、戦場を後にしようとしている。

『私は、捧げる...女神に、捧げる、のだ...!!』

自分には役割がある。
虚獄を完成させるための蒐集の器として贄を献上するという役割が。
まかり間違ってもあんなモノを捧げてはならない。
この逃走になんの意味があるのか———そんなことを考える余裕すらない。
とにかく今は少しでも『ゲッター』から離れたい。ただただその一心だった。

だが、そんなことは彼の知るところではない。
地面に降り立てば、即座に魔王へと進撃する。

迫る気配に魔王は気を逸らせない。
絶望の気配に畏れ振り返る。

その視界に映りこむは




満身創痍でなおまっすぐに『ゲッター』を見据える麦野沈利の背中だった。


773 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:18:06 JQErZBq.0



アレに恐れ戦く魔王の姿を見て、私は溜息を吐く。

情けない。あれがレベル6相当だと評価した者の姿か、と。

きっと、あの殺り取りの中で自分たちにはわからないなにかがあったのだろう。

それにしてもだ。

なんで戦わない。なんで逃げ出す。

たしか今の目的は他の参加者を喰らって魔王として完成されることだったか?

そんなにみっともない姿を晒してまでしがみつきたいものなのか?

...まあ、なんだっていい。

あのわけわからねえやつが魔王サマに夢中になってる隙に、あたしらは退くとするか。

これ以上はもう割に合わねえ。

あとは勝手に潰し合ってればいい。

あいつらが上手いこと潰し合って消えてくれりゃああたしが生き残る確率もかなり上がる。

生き残って、それで....



...それで、どうするんだ?


774 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:20:25 JQErZBq.0

そもそも。あたしは勝ち残って何をするつもりだった?

主催の奴らの力のなんでも叶うって力を手に入れて、統括の連中にナめられないようにって...それ、そこまで本気になってやることか?

あいつみたいに、なにがなんでも、手段択ばずにしがみついてまで手に入れたいモノか?

そうだ。別に、それはモノのついでくらいの感覚で、あとはただ生きて帰るのは当たり前なことだってだけだ。

なのにあたしは。

心底気に入らない第二位と手を組んでまで魔王を斃そうとして。

そして今ではあの男を倒す為にその魔王たちとも手を組んで。

同じだ。今のあいつと同じじゃねえか。

あんな情けない醜態晒してまで生き残る意味、あるか?

それがほんとにわたしなのか?

...違うよなぁ。じゃなきゃ、私はこんな有様になっちゃいねえんだ。

何よりも命を優先するなら浜面にこだわる必要なんざなかった。

第二位やら第三位みてえな何かしらの御大葬な目的があれば、大人しく力を蓄えておきゃあよかった。

なのに私がそうしなかったのはなんでだ。

決まってる。

私は麦野沈利。私のプライドを穢す奴は許さない。

ああ、そうだ。そうだったじゃねえか。なんでこんなこと忘れてたんだ、クソッ。

いや、あの魔王の姿を見て思い出しちまったんだ。

私はこれまで生き残る為に戦ってきたわけじゃない。

私はずっと私自身のために戦ってきた。

こうまでされて。ここまで虚仮にされて。

私が、『麦野沈利』が黙っていられるわけがねえよなあ?

「ムネチカ。まだ防壁張る力は残ってんな」
「?それは、まあ...」
「なら張っとけ。それで防ぎきれるかわからねえが、無いよりはましだ」
「...おい、テメェいったいなにを」

困惑に眉を潜めるムネチカと垣根に、私はハッ、と鼻で笑い飛ばす。

「見せつけてやるのよ。レベル5が、レベル6をブチコロスその瞬間をね」

きっといまの私の顔は、最高に悪党の顔をしているだろう。

いつだったろうな。

こんなに心から笑えたのはさ。


775 : 魔獣戦線 ーDeep Redー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:23:14 JQErZBq.0


『麦野...!?』

魔王の顔が驚愕に染まる。

もはや半死人と言ってもおかしくない女が、格下であるこの女が今更なにをしようというのか。
だがちょうどいい。
ここで喰らえば逃走の糧になる。
魔王は麦野を喰らうために業魔腕を振り上げる。

———ゾクリ。

不意に、背筋に怖気が走る。
攻撃しようとした瞬間、明確に『死』を感じ取った。

対する麦野は、もう魔王など見てもいなかった。
いま、彼女が見据えるのはその先。
魔王をも恐れ戦かせるナニか。

「てめえら見てな」

一瞥もせず、ここまで同盟を組んだ者たちに語り掛ける。

「私は自分の言葉を撤回するのが嫌いなんだ。死んでも結果を出してやるよ」

『死んでも結果を出してもらうからね』

ソレは、かつて電話越しに滝壺と浜面へと向けた言葉。

(...ああ、そうだ。格下のあいつらに言っておいて、私がそうしないなんてのは馬鹿らしい話だった)

エネルギーが充填されていく。
魔王すら取り込むのに躊躇するほどの強大なエネルギーが溜まっていく。

原子崩しを研究する科学者曰く、普段の原子崩しは生存本能が働き、威力を調整することで、自身には無害な範囲で能力を行使させている。
ならば、その柵を取り払えばどうなるか。
普段とは比べ物にならないほどの威力を発揮することができる反面、その反動でほぼ確実に麦野沈利の身体は粉々に吹き飛び死に至る。

いま、麦野がしようとしているのはそれだ。
己の生存を度外視した威力を引き出そうとしているのだ。

その力が向かう先は流竜馬。
協力した面々を護るため———ではない。

ここで奴を斃せれば、麦野沈利はレベル5でありながらレベル6クラスを倒せたという実績を残すことができる。
そうすれば、統括理事たちももう『本物の麦野沈利』に対してナメた口をきけなくなるだろう。

それでこの身体が朽ちようが構わない。

過去も未来も知ったことじゃない。
いまの感情に従い、徹頭徹尾、己の為に力を使う。

それが麦野沈利という女である。


力の充填が完了し、徐々に身体が崩壊していくのを実感する。
それでも麦野は臆さない。
己が生きた証を刻むことしか考えない。

恐怖しないのは、彼も同じだ。

流竜馬———否、『ゲッター』は、微塵も恐れ慄くことなく力の源に突貫していく。
相手が強力であればあるほど熱を燃やしていく。
それこそが闘争心。無限の進化の根源。

生存本能という枷を外した最大火力の原子崩し。
全てを喰らい進化を果たさんとする『ゲッター』。

二つの力がぶつかり合ったその時、周囲の力が収束し、
ほんの僅かな静寂に包まれ。

一帯は、閃光と爆発に飲み込まれた。

その瞬間まで、彼らから笑みが消えることはなかった。


776 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/12(水) 00:23:58 JQErZBq.0
今回はここまでです


777 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 21:53:51 Cc3QeAvs0
投下します


778 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 21:55:25 Cc3QeAvs0


そう遠くない場所で爆音が響き、閃光が奔った。

起き上がろうとする。

腕が震え、パキリという音と共に、ぐしゃりと身体が前のめりに倒れる。

腕が取れた。けれど出血も痛みもなく、まるで壊れた人形のように転がる腕をぼんやりと眺める。

消えてしまう。なにを果たすこともなく。掴めるものもなく。

私が、消えていってしまう。

キッカケは、流竜馬に蹴り飛ばされたことだ。

本来ならば即死しているはずの威力だったが、なぜか生き延びていた。

怪我は負ったが、むしろこれはチャンスだと見た。

琵琶坂永至は、いま流竜馬への対処に必死だ。

あの戦場にまで辿り着ければ、いくらでも不意を打つ機会は訪れるはず。

そう思って立ち上がろうとした矢先に、足が折れた。

痛みもなく出血もないという現象が更に私を混乱させ、その間に亀裂が身体に走り始めた。

そしてその末路がコレだ。

私から割れ落ちた部位が結晶となりチラチラと大気に溶けていく。

どうしてこうなった。

なぜ、私が消えなければならない。

私はただ、あの人を救いたかっただけなのに。

どうして。どうして―――!!


779 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 21:57:32 Cc3QeAvs0
涙で滲む視界を過るのは、最初に殺したエレノア・ヒュームの顔。

...ああ、そうだ。

これは私が彼女にやったことだ。

誰かの為に戦おうとしていた彼女の命を奪ってしまった。

私には譲れない願いがある。

けれど、それは向こうからしたらあまりにも理不尽だっただろう。

互いに納得した形でも、あらかじめ宣戦したわけでもなく。

一方的に不意を突く形での殺害だったのだから。

だからこれはその報いなのだろう。

復讐も。本懐も。なにも果たせず、誰に知られることもなく消えてしまう―――彼女の命をそういう風に奪った者にはお似合いの末路だ。

ごめんなさい、エレノア様。なにも話さず殺してしまって。

ごめんなさい、カタリナ様。貴女がくれたたくさんの幸せに、何も報いることができなくて。

ごめんなさい。ごめんなさい....

亀裂が全身に奔っていき、砕け散るその瞬間、確かに私の視界は映していた。

私から零れ落ちた腕。カタリナ様の亡骸を抱きしめていた腕がぼんやりと光り、私の身体を包み込む。

―――そんなこと、ありえないのに。

その温もりが、どうしてもあの人に思えてしまって。

『メアリ』

囁かれる声を、どうしようもなく愛おしく思ってしまって。
意識が消え去るその時まで、私はただ、あの人の名前を呼び続けた。

『ごめんね、メアリ』

謝らないでくださいカタリナ様。

だって、貴女が幸せだったと言ってくれたように。

私も貴女と出会えて幸せだったのですから。


780 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 21:58:02 Cc3QeAvs0

メアリ・ハントが命を落としたのは仮面の力の反動である。
元々、帝の作りし仮面は絶大な力を引き出すのと引き換えに寿命を著しく減らすリスクを背負っている。

そんな仮面の一部ですら、オシュトル・ヴライ、ディコトマといった歴戦の猛者たちの命を容赦なく奪い、適合者たるヒトであるハクですら、力を使いすぎて肉体が消滅するという末路を避けることはできなかった。

仮面の者の末路は肉体の結晶化。
当然、それはメアリ・ハントとて例外ではない。

魔王との戦い、そして琵琶坂との戦いでの後先考えぬ大技の連発。
当然、鍛えた戦士でもない彼女がそんなことをすれば、必要以上に力を消費しなければならない。
もともと、限界は既に近づいていた。ただ彼女がそれに気づいていなかっただけだ。
そこに加えて竜馬の蹴りに耐えたことで決定打になってしまった。

故に消える。
仮面の者の末路を順当に辿る。
間宮あかり達を筆頭に誰にも頼ろうとしなかった為に、誰にも想いを継がせることもできず、誰にも知られることなく消える。
理不尽に人を殺した彼女が、理不尽な形で殺される。
ただそれだけの話だ。

けれど。

誰にも知られずとも。
顧みられることがなくとも。

彼女の最期の顔を見た者がいれば、確かにこう答えるだろう。

きっと彼女は幸せだったと。


781 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 21:59:09 Cc3QeAvs0


光が私を包んでいく。

身体が、細胞の欠片まで溶けていくのがわかる。

なるほど、お偉い学者様の言っていたことは正しかったわけだ。

原子崩しは自分も滅ぼす諸刃の剣。だからこうなるのも当然の末路だ。

...まあ、後悔はねえさ。

あいつみたいになにかを知りすぎてビクビクおどおど生きるよりは、何にも知らずに燃え尽きる方が私らしい。

私はレベル6に勝った。それだけで、その事実だけあればいいさ。

さて消えようかと心地よい浮遊感に身を任せ―――意識に、巨大な影が割り込んでくる。

私の視界を埋め尽くす広大な宇宙。

その中を漂う無数の戦艦。

それすらも軽く凌駕する巨大すぎる機械の化け物。

なんだこれは。なんだこいつは!?

あまりにも大きすぎるソレに私は恐怖以上に胸を躍らせていた。

「は、はは...すげえ、あまりにもすごすぎる...!」

コイツの前ではレベル6、神の領域ですら児戯に見える。

魔王がこれを見たというのなら心が折れても仕方ないというものだ。

知りたい。

コイツがどこから来て、なにをしようとしているのか。

私も、コイツのように進化できるのか!

ソイツは緑色の光を放ち私を誘う。

届くのか。行っていいのか。

まるで街灯に群がる蛾のようだとわかっていても止められない。

お前ノもトへ。

ワたシモスベてをリカイしてイいノダな?

アトスコシ。アトスコシデトドク。





『麦野』


782 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:00:45 Cc3QeAvs0
手を引カレた。

懐かしい声ハ私ノ意識を急速に引き戻ス。

(...なんで、あんたが出てくるのかね)

溜息と共に思考が一気に冷えていく。

最初にとっとと死んじまったアイツ。

色ボケしたレベル0と一緒に私から離れていったあいつ。

そんなあんたが、なんで私を引き留めるのかがわからない。

『麦野は、仲間想いで優しいから』

その言葉にますます呆れてしまう。

なんだってんだ。

そういうのはお前のお気に入りの浜面にでも言ってやればいいだろうが。

あんたが殺されるとき、なにもしなかった奴に言う言葉じゃねえだろうがよ。

(...でも、まあ)

伸ばしかけた腕をひっこめれば、背中越しにあいつがほほ笑んだのをなんとなく感じ取った。

レベル争いだの神の領域だの、誰もが羨み求める称号争いなんざもうこりごりだ。

私は、『アイテム』でいい。

気に入らないことがあれば問答無用でブチコロス。
自分の領域を穢す奴を許さない。
裏切りは、絶対に許さない。

私の称号は、『アイテムリーダー、麦野沈利』、ただ一つで充分だ。

(...そうか、そういうことだったのか)

ぼんやりとしたジャージ姿のあいつ。
気を抜けばすぐに調子づいてはしゃぎまわるあいつ。
比較的まともだけど、趣味の拘りだけは理解できないあいつ。
レベル0のスケベなパシリだけど、根性だけは認めていたあいつ。

今更になって過るのは、あいつらとの交流や仕事の日々。

未練があったのだ。
だから殺し合いの中で組んだだけのチームに、当てつけのように『アイテム』なんて名前まで付けて。

結局、あの日々に一番囚われてたのは私だったってだけの話だ。

壊して、壊されて、また壊して。
ズタボロになって答えがすぐそこにあったと思い知らされて。

(ほんと、くだらない回り道だった)

いまの私は、どんな顔をしてるんだろうな。

誰にも見られたくないが。


783 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:01:54 Cc3QeAvs0


防壁が消えると共に、ガクリと膝を着く。
ハァハァと息を切らすのはムネチカ。

「無事、か。垣根殿...」
「...あァ」

その隣には垣根が目を開けたまま仰向けに転がっていた。

「原子崩しはどうなった」
「...影も形もありませぬ」

煙が晴れた先。
そこには麦野も竜馬もおらず。
直径50メートル程のクレーターだけが残っていた。
真に凝縮された本物の力は余計な破壊をしないというが、もしそこに生物がいれば塵一つ残らない。
目先の現状は、確かにソレを示していた。

「...麦野殿。見事であった」

ムネチカは目を瞑り静かに黙とうを捧げる。
彼女とはほどなくして再び戦うはずの関係だった。
互いに気が合う訳でもなく、仲間とは決して言えない薄氷の同盟だった。
けれど、その決して折れない心は尊敬に値するとしか言えなかった。

「......」

垣根はその痕を複雑な心境で眺めていた。
格下だと思っていた。実際、戦えば勝率100%なのは一度戦った経験から解っている。
だが、命を捨てた馬鹿がこれほどの成果を残せるとは思ってもいなかった。
『死んでも結果を出す』
麦野沈利は、その宣言通りに、己の命と引き換えに神の領域を吹き飛ばし、この場にいる全員を救うという結果を出してみせた。
原子崩しは、攻撃力という面だけで見れば何物をも凌駕すると証明してみせたのだ。

「...肩貸せ、ムネチカ」
「承知した」

ムネチカの肩を借り、垣根は戦場へと背を向ける。
垣根にはまだ為すべきことがある。
鬼舞辻無惨を殺すこと。
そしてなにより、この実験を踏み台にして己の価値を示し、アレイスターの鼻を明かすこと。
例え、格下への劣等感が生じようとも、それを成すまでは止まれない。
命を捨てる時にはまだ早い。


784 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:02:49 Cc3QeAvs0

―――頭上に影が覆いかぶさる。

「ッ、離れろムネチカ!!」

咄嗟にムネチカを突き飛ばせば、離れた両者の間にズドン、と影が降り注ぐ。
その正体は―――魔王・ベルセリア。

『誰、が、逃げるのを、許した』

魔王の身体には見るも絶えない火傷の痕が刻まれていた。
彼女は原子崩しと『ゲッター』の衝突の際、予め麦野の溜めていた力に気づいていたことで、寸でのところで逃げおおせた。
麦野の狙いが彼女でなかったことも手伝い、結果、致命傷は免れることができたのだ。

(...ああ、詰みだな、こりゃ)

突きつけられる現実に、垣根の脳は冷静に情報を処理する。
もう未元物質を発動するどころかロクに動く余力も残っていない。
ムネチカとて同じ。頑丈さの差でまだ辛うじて立てるが、もう戦うことは不可能。
比べて、魔王は確かに満身創痍だが、それでも死にかけ二人を食い散らすくらいは容易だ。

ならば助っ人は?
鞭の男はもちろん、咲夜と夾竹桃にしても一時的な同盟にしかすぎない。こんな局面にまで命を張ろうとは思わないだろう。
どう足掻いても逆転の芽はない。

ならただ諦めるか?

―――答えはNOだ。

もとより諦め腐るつもりもないが、直前に麦野の姿を見せつけられたなら猶更だ。

「ハッ、情けねえな。怖ええ奴がいなくなってから食い放題だー、ってか?」

嘲り笑い飛ばす。

「麦野の奴はてめえをレベル6級だと評価してたが、オツムの方は違うらしい」

例え数秒後に死ぬとしても意地だけは張り続ける。
第四位の麦野に出来て、第二位の自分にできないはずもない。

「自分の仕事もこなせねえ、失敗は反省もせずにすぐ隠す。自分よりツええやつにはビビり散らかしてよええ奴には威張り散らすってか。とんだ不良債権だな」

肌で感じる殺意が増していくがそれでも口は止まらない。

「てめえからは何にも感じねえ。怖さも何にも感じられねえ。身に余る力を振り回してるだけのただのガキだ」

死神の鎌が振り下ろされる。
垣根提督にできることはただ一つだけ。
迫る死に怯まず見据え続けることだけだ。

チカチカと視界に火花が散り、空気が音を鳴らす。

これが死の間際の光景か―――否。


785 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:03:30 Cc3QeAvs0

火花は瞬く間に魔王を取り囲み、その周囲を旋回する。

「...間に合ったようね」

声にムネチカと垣根が目を見開く。

夾竹桃。
唯一『ゲッター』の脅威に晒されなかった彼女が、ようやく馳せ参じた。

彼女が放ったのは反射合金を操り敵の肉体を抉る兵器、『オジギソウ』。
特定の周波に反応して特定の反応を示す特性のため、味方を巻き込みかねない乱戦時、そして周波数を狂わす未元物質が全力で展開されている間は使うことができなかった。

物理的に肉体を抉るこの機械は、如何に魔王とて損壊を防ぐことが出来ない。

『生憎だが、ソレの存在は既にベルベット・クラウを通じて知っている』

但しそれは彼女が初見であれば、だ。
ベルベットと夾竹桃は邂逅の折に既に一戦を交え、手持ちの道具についても情報を共有している。
そして、既に未元物質という異能を学び、原理を取り込んでいるため、オジギソウへの対処である『周波数を狂わせる』という対策で防御は可能である。

『また余計な真似をされては堪らん。まずは貴様から殺す』

『ゲッター』がいないいま、魔王にとっての脅威は罪歌による呪いと、捕食最中のオジギソウによる攻撃。
死にかけのムネチカと垣根はいつでも殺せるため、まずは横やりを入れられる前に夾竹桃を殺す。

「ッ...!」

満身創痍の身体のどこにそんな余力があるというのか。
10メートルはあったはずの距離が瞬き一つで詰められ、業魔腕が振り下ろされる。

寸でのところで躱すも、夾竹桃はその余波で体勢が崩れる。
それでもどうにか攻撃を入れようと握りしめたモノを振り下ろすが、メキリという嫌な音と共に激痛が走り、握っていたモノも彼方へ飛んでいき、カランカランと甲高い音を立てて地面に落ちる。

『そんなモノが何度も通用すると思うな』

魔王の蹴り上げが、凶器を持った夾竹桃の腕を破壊したのだ。


786 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:04:46 Cc3QeAvs0

「ぁっ」

折られた腕に走る激痛に悶える間もなく、魔王の業爪が彼女の両腕、肘から先を抉り、その際にオジギソウを操るナノデバイスも破壊する。

『これであのふざけた剣を握ることもできまい』
「ぅ、ぁ」

夾竹桃の顔がくしゃりと歪み、涙がこぼれ始める。
両腕を失った激痛によるものだけではない。

『貴様は確か毒を好んでいたな。ならばこういう死に方も乙なものだろう』
「く、ひぃ」

両腕の切断面からじわじわと立ち昇ってくる、内側から喰われていくような恐怖。
魔王が放つ穢れ。
人体をも腐食させるソレは、毒に精通している夾竹桃とて未知の物質であり分解することは叶わない。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
『貴様はタダでは殺さん。今わの際まで女神へ苦悶の叫びを捧げるがいい』
「———おのれ貴様ァ!!!」

一部始終を見ていたムネチカが激昂と共に駆ける。
ムネチカにとって夾竹桃は未だに敵である。
だが、それ以上に。そんなことよりも。
必要以上に相手を甚振る魔王の蛮行が目に余った。

跳躍と共に拳を振り上げる。
今出せる全力の拳が当たったとて、倒せるかどうかなんてわからない。
だが、この女には一撃入れておかなければ気が済まない。

そんな想いを込めて放たれた一撃は、魔王の業魔腕に止められた。

「くっ!」
『夾竹桃。貴様の両腕、中々に美味だったぞ』

ベルベット・クラウの時は身体が生身であったため、夾竹桃の身体に仕込まれている毒を警戒して喰らうことはしなかった。
だが、魔王という数多の情報の集合体であれば、それらの毒を分解・理解し己のエネルギーと化すことは容易い。
夾竹桃の細腕は、見た目に反してこれ以上なく栄養補給としてはうってつけであった。

受け止めた腕をそのまま振り下ろし、ムネチカを地面に叩きつける。

もう打つ手はなくなった。
ムネチカも、垣根も、夾竹桃もこの場で魔王に喰われて散る。
それが末路。覆せぬ運命。


その、はずだった。


787 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:06:08 Cc3QeAvs0
「く、ふ、ふふっ、ふふっ」

激痛に顔を歪めながらも、彼女は、夾竹桃は笑う。
痛みで精神がイカれたか―――魔王はそう思いつつも、何故かその笑みが不快で仕方なかった。

『何がおかしい』
「オジギ、ソウのことを、ちゃんと、覚えて、いたのは、褒めてあげる。でも、貴女、肝心な、ことを、忘れて、るわ」

涙すら浮かべていた夾竹桃の口角が、確かに愉悦に歪む。
魔王は確信する。
この女は、未だに絶望などしていない。

「毒使い、はね、本命は、最後まで、とっておく、ものよ。それが、愛しているものなら、なおさらね」




――――ん


ドクン、と魔王の心臓が鼓動をうつ。


————ちゃん


脳髄に、蛆が湧くような速さでソレが木霊し始める。
たちまちに怖気が全身を駆け巡る。

『馬鹿な、コレは...!』

そうだ。
先ほどソレは、万が一もないように弾き落としたはずだ。
振り返る。
地に転がるソレは

『刀、じゃない...!?』

ただの鉄の棒だ。

「あれを、罪歌と、見間違える、なんて、よほど、怖かった、のねえ」


788 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:10:20 Cc3QeAvs0
———あかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛するあかりちゃんあかりちゃん愛してあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんぺろぺろあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんだいすきあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんちゅーしてあかりちゃんあかりちゃんあいしてるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんぽむぽむあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんだいてあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんわたしがまもるあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんすーはーあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん萌えあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあいするあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん愛してあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん


789 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:11:54 Cc3QeAvs0
『貴様あああアアアアアアアアアアア!!!!!!!!』

「最初に、受けた、あの時、ちゃんと、演算、しておけば、よかった、のに、ねえ」

妖刀・罪歌はただの妖刀ではない。
適合した者は、己の身体に収納しておくことができるという、一般社会においても持ち運びに困らない代物だ。
魔王は夾竹桃の身体の中に仕込まれていたソレを喰らった。
この基本的な機能も、もしも魔王が演算し理解していれば知ることができ、夾竹桃を喰らおうとはしなかっただろう。
だが彼女は目を背けた。
無限大の愛を前に逃げ出した、そのツケだ。

『殺す殺す殺す殺す殺す!!貴様などもう肉の一片も食らってやるものかぁ!!』

激昂と共に足を振り上げ、夾竹桃の頭を踏みつぶそうとする。
汚れに身を穢され衰弱する夾竹桃にそれを避ける術はない。

「食らいやがれバケモンがぁ!!」

叫びと共に、横やりから銃弾が雨あられと魔王に降り注ぐ。

『ッ!』

魔王は苦悶の表情を浮かべ飛退く。
一発一発は大したことは無い。
だが、傷が癒えきっておらず、且つ罪歌の呪いに頭をやられている状態で受け続けるのはあまりにも危険だ。
今更ながらに参戦してきた男、リュージと三人を忌々し気に睨みつけながらも撤退していく。

「待ちやがれ!...チッ、片腕じゃ狙いが定めにくいぜ」

遠ざかっていく魔王に舌打ちをしつつ、リュージは倒れる面々に目を向ける。

「おい、大丈夫かあんたら!」
「あなた...なんでここに...」
「俺が聞きてえよ、目を覚ましたらいつのまにかここにいて、『ゲッター』を見せつけられて...」
「ゲッター?あなた、なにを...ッ!!」

問いかけようとする夾竹桃だが、喉からこみ上げる血塊に言葉を遮られる。


790 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:12:53 Cc3QeAvs0

「夾竹桃!?」
「...そう、この、穢れ、という毒は、彼女が、遠ざかっても、消えないのね...」

諦観の面持ちになりながら呟く夾竹桃。

「クソッ、なにか薬みてえなものは...!」
「ない、わ...そもそも、普通の、毒は、私には、効かない。この、毒は、そういう、類の、ものじゃない...」
「じゃあ、お前...」
「死ぬ、わね」


その言葉に一同はやりきれない表情を浮かべる。
リュージと垣根は彼女と懇意にしている訳ではない。
しかし、同盟相手が目の前で為すすべなく死んでいく現状に何も思わない訳ではない。

「夾竹桃殿、なぜ...」

ムネチカは思わず問いかける。
夾竹桃が義理人情を重んじる性格ではないのは理解している。
それを承知の上で同盟を組んでいたのだ。垣根とムネチカの危機に駆け付けず逃げ出していたとしても誰も文句は言わなかった。
その彼女が、身を挺してまで魔王を倒そうとしたのが理に適わない。

「そう、ね。らしくない、こと、しちゃったなぁって、思うけど...あの子の、最期を、見せつけられちゃあ、ね」

夾竹桃の脳裏に焼き付くのは、竜馬と相討ち覚悟で力を解き放った麦野沈利の姿。
彼女がどういう気持ちで臨んだのかはわからないが、その行動の結果として確かに彼女は同盟相手を救って見せた。
裏切り者は許さない。言い換えれば、自分は絶対に裏切らないという信念を貫き通して魅せた。
だからだろう。
女の子同士の友情は穢せない。その信念を自分も貫きたいと思ってしまったのは。
柄にもなく、熱に浮かされてしまったのは。


791 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:13:32 Cc3QeAvs0

「その、結果が、このザマ、だもの...笑っちゃう、わよね。少しは、胸が、すいたんじゃ、ないかしら?」
「...確かに、小生への、それ以上にライフィセット殿への蛮行は許せるものではない」

ムネチカの返答に夾竹桃は自嘲気味に笑う。
彼女は自分という毒を跳ねのけ友情を貫き奮起したムネチカに対して高い好感度を抱いている。
しかしそれは一方的な友情であり、ムネチカからしてみればそうではないことも自覚している。
自分は我欲で彼女の友情に茶々を入れた不届き者。
だから、ムネチカからしてみれば自分の死は悲しむべきものではなく喜ぶべきものなのは当然だ。

「されど」

短くなった右手をムネチカの掌が優しく包み込む。

「貴女が小生を救ってくれたのもまた事実」

ムネチカにとって夾竹桃はただの毒ではない。
毒に犯されたライフィセットの命を救い。
アンジュのことで折れかけていた心を肯定し。
互いに共通の趣味の話を交わし合い。
そして、過程はどうあれ彼女が志乃乃富士と巡り合わせたことで、アンジュへの友情を思い出し貫く覚悟を取り戻せた。

「夾竹桃。貴女がどう思おうとも、貴女は小生の友だった」

夾竹桃の目が見開かれ、視界が涙で滲んでいく。
自分は毒だ。誰からも疎まれ、敵を脅かす為に使い終われば処理をされるただの毒だ。
そのことに不満はないし、むしろ好んでそうなった。
その果てにはロクでもない最期になろうとも構わなかったし当然だと思っていた。
なのに。
いま、自分は満たされている。
誰もかれもを傷つけてきた癖に、こうして寄り添ってくれる友がいる。
痛くて苦しいのに。
もう、こんな腕では大好きな本を書くこともできないのに。
たった一つの温もりだけでかつてないほどに満たされている。

もしも自分が本当に贋物で、本物の自分がどこかにいるのなら、この最期を、この気持ちを伝えてあげたいくらいだ。
きっと経験を伴った最高の一冊を書き上げてくれるだろう。


792 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:15:19 Cc3QeAvs0
「ムネ、チカ」

———けれど私は欲張りだ。
もし許されるなら、と残る力を振り絞り、ムネチカに囁く。
彼女は少しだけ目を見開くと、僅かな逡巡の後、意を決して口を開く。

「...承知した」

その返事に、満杯だった幸せの器にまた一つ注がれ、幸せが溢れ落ちた。

「垣根殿、それとそこの御人...済まないが、場を外してもらいたい」
「おい、アンタなにを」
「頼む」
「...行くぞ」

強く主張するムネチカにその意図を察し、垣根はリュージを促し踵を返す。
フラつきながらも離れていく垣根を放ってはおけず、リュージはムネチカたちに後ろ髪を引かれつつも垣根を支えて共に離れていく。

足音が遠ざかり、夾竹桃の掠れた呼吸音だけが空気に染み渡る。
ムネチカは握っていた腕を放し、夾竹桃の身体を横たえるとそっとネクタイに手を添える。
しゅるり、しゅるり。
衣擦れの音共にネクタイを外せば、身を包む制服が弛緩する。

———ご主人様。この本の姫と従者の最期なのですが

制服を脱がせながら過るは、牙抜けた狗と化していた時に交わした一幕。

———この言葉はどういう意味なのですか?

制服を脱がされ、ぷるん、とほんのり実った果実を包む純白の布が表に出る。

———ああ、これね。ふふっ、創作者なら一回は使ってみたい言葉よね

左の果実にそっと手を添えれば、夾竹桃は微笑みそれを受け入れる。
伸ばした腕に震えはない。
初めての経験だが、託された想いに答えるのに躊躇はいらない。

「いずれ小生も往く。だから」
「ええ」

狙いを外さないようにグッ、と拳が握りしめられる。
残された力で、痛みのないように。
友の手で旅立たせてほしいという望みに応えるために。


「「再見」」


———これはね、また会いましょうって誓いの言葉よ

ドン、と小さな音が鳴り、戦場は悲しいほどの静寂に包まれた。


793 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:15:44 Cc3QeAvs0



「ぅ...」
「おっ、まだ生きてるな」

ムネチカたちから離れ、瓦礫の山の片隅に横たわる咲夜を見つけたリュージと垣根はひとまずそこに腰を落ち着ける。

「あとは鞭を使う野郎もいたんだが...」
「あー、ソイツは止めておきな。コロコロ立場を変える蝙蝠野郎だ。絶対にロクなことにならねえ。俺のこの腕もあいつにやられたモンだ」
「そうか」

垣根としては、使える戦力はあればあるだけいいとは思っているが、それは最低限の信頼関係があってこその話だ。
成り行きで共闘したとはいえ、琵琶坂はもとは魔王と一緒にやってきた男。
諍いもなく共に歩いてきたことから、本当にたまたま利害が一致しただけで、本来なら共闘することなどありえなかったのだろう。
少なくとも、魔王に狙われるリスクを承知で助け舟を出したリュージの方が信用はできる。

「で、お前の用件はなんだ?一応、感謝はしておいてやるが、慈善事業じゃねえんだろ?」
「まあな。あんたたちに協力を求めたい」

またか、と垣根は小さく溜息を吐く。
思えば、ここまで入れ替わりが激しいのは暗部に関わって初めてかもしれない。
始めはジョルノとマギルゥと組んで失って。
お次は麦野沈利と夾竹桃と組んでまた失って。
そして三回目のお誘いと来た。
これじゃあ『スクール』より使い捨てを繰り返す『アイテム』の方がお似合いだ。

「条件次第...と言いてえところだが、おおかたあの魔王を倒したいってことだろ?」
「...それだけなら、まだよかったんだがな」

どこか苦々しくも、しかし迷わぬ眼差しでリュージは彼方を見つめる。

「あんたらが戦った出鱈目な奴がいただろ」
「...ああ。ありゃなんだったんだ。原子崩しで死んだみてえだが」
「まだ生きてるぜ。証拠はねえが...確かに、そう感じる」
「あ?」


リュージが目を覚ました時、視界に飛び込んできた光景に彼は言葉を失った。
他者の能力を喰らい。
天地を震わすような歓喜の雄叫び。
関わるもの全てを破滅させんと荒れ狂うその姿が。

彼が気絶している間に見た地獄と。
地球そのものを糧とし機械の巨大な怪物と化したその姿と。
宇宙中の生命を脅かす声と。
その全てが重なった。
そして、彼自身は自覚していないが、身体に撃ち込まれたゲッター線が伝えていた。

アレが、流竜馬こそがその全ての元凶だと。

「あれは『ゲッター』。あいつを止めねえ限り、俺たちの、いや、宇宙の全てに未来はねえ」
「...は?」

『化け物』に次いで『魔王』。
そしてその次が『宇宙』。
どんどん規模の大きくなっていく相手に、垣根は年相応の困惑を隠すことができなかった。


794 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:21:01 Cc3QeAvs0




『こんなクソみてぇな未来はご免だ。もしもアレを止めなきゃこうなっちまうっていうなら、俺はどう足掻いてでもそっちを選ぶぜ』

...そうか。前坂隆二。きみはそう選択をするか。

きみの真実を見抜く目は『力』に屈さなかったか。

『力』に委ねてしまえば楽になるというのに...いや、彼の選択もまた『進化』に必要なことか。

リュージ。きっときみの選択は花開くことはない。

けれど、せめて応援はさせてもらうよ。

茨の道に幸あれ、と。

そして願わくば。

僕の、『ゲッター』の描く未来など超えて、新たな『進化』の道を見つけてくれると———





【一日目/夜/F-6 紅魔館跡地】
※付近にメアリ・ハントの結晶、メアリの支給品一式が落ちています。
※電車は紅魔館の付近にあったため巻き添えで壊れました。

【ムネチカ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:疲労(極大)、全身に火傷や打撲ダメージ(極大)、強い決意、出血(大、火傷による止血済)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ムネチカの仮面@うたわれるもの
[道具]:基本支給品一色、大きなゲコ太のぬいぐるみ@とある魔術の禁書目録(現地調達)、夾竹桃の支給品一式(分解済みのシュカの首輪、素養格付、クリスチーネ桃子作の同人誌、夾竹桃のNETANOTE、薬草及び毒草)
[思考]
基本:アンジュとの絆を嘘にしない。
0:垣根たちと共にライフィセットのもとへ向かいたい。
1:小生はもう迷わない。
2:志乃乃富士、夾竹桃、麦野沈利、感謝する。
3:ライフィセットや『あかりちゃん』を護る。
4:魔王や謎の男(流竜馬)に最大限の警戒を。

[備考]
※参戦時期はフミルィルによって仮面を取り戻した後からとなります
※女同士の友情行為にも理解を示しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※アンジュとの友情に目覚め、崩壊していた精神が戻りました。


【リュージ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:片腕・片目損失。精神的疲労(中)、『ゲッター』への強い忌避感。
[服装]:軍服
[装備]:イケPの二丁拳銃@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-
[道具]:ポルナレフの双眼鏡@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、上やくそうの束@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島(一部消費)、悲鳴嶼行冥の日輪刀@鬼滅の刃(暴走時に竜馬が捨てたのを拾った)
[思考]
基本:『ゲッター』を止める。
0:殺し合い云々以上に、なにを置いても『ゲッター』を止める。隼人には悪いが、竜馬の殺害も辞さない
1:垣根たちと共に『ゲッター』を止めたい。
2:ひとまずは殺し合い反対派の連中に合流したい。
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後です。
※この世界をメビウスのような「フィクション」だと思っています。
※夾竹桃・ビルド・琴子・隼人・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。
※琵琶坂のこれまでの経緯を聞きました。
※気絶中に『ゲッター』の一部を垣間見せられた影響で、『ゲッター』に対して強い忌避感を抱いています。


795 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:21:30 Cc3QeAvs0

【垣根提督@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(極大)、全身に火傷や打撲ダメージ(極大)、強い決意、精神的疲労(極大)、出血(大、火傷による止血済)、右腕切断(止血済み)。
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3、ジョルノの心臓から生まれた蛇から取り出した無惨の毒に対するワクチン、ジョルノの首輪、マギルゥの首輪、妖夢の首輪、リゾットの首輪、、土御門の式神(数個。詳しい数は不明)@とある魔術の禁書目録、マギルゥの支給品0〜1、ジョルノの支給品0〜3、顔写真付き参加者名簿、リゾットの支給品2つ
[思考]
基本方針: 主催を潰して帰る。ついでにこの悪趣味なゲームを眺めている奴らも軒並みブッ殺す。
0:俺の分かるように説明をしろ。
1:とりあえず、大いなる父の遺跡の方角に向かいアリア達に伝言を伝える
2:あの化け物(無惨)は殺す。
3:リゾットの標的だったボスも正体を突き止めていずれ殺す。
4:未元物質と聖隷術を組み合わせた独自戦法を確立する。道中で試しながら行きたい。
5:異能を知るために同行者を集める。強者ならなお良い。
6:魔王及び未知の男(流竜馬)には最大限の警戒。
7:麦野の最期に複雑な感情。

[備考]
VS一方通行の前、一方通行を標的に決めたときより参戦です。
※ジョルノ、リゾット、マギルゥの支給品も垣根が持っています。
※未元物質を代用した聖隷術を試しました。未元物質を代用すると、聖隷力に影響を及ぼし威力が上がりますが、制御の難易度が跳ね上がります。制御中は行動が制限されます。
※首輪の説明文により、自分たちが作られた存在なのではないかと勘繰っています。
※ブチャラティ達と情報交換をしました。
※魔王の件が片付くまでの間、麦野と夾竹桃と十六夜咲夜と同盟を組みました


【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(極大)、全身火傷及び切り傷、全身にダメージ(極大)、右目破壊(治療不可能)、気絶中
、腹部打撲(再発)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ 、
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:(気絶中)
1:まずは、身体を休める。
2:今後のことを見据え、遭遇する参加者については殺せる機会があれば殺すが、あまり無茶はしない。
3:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
4:余裕があれば完全版チケットとやらも探す。
5:ヴライに、最大限の警戒。
6:紅魔館...
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
※オスカー達と情報交換を行いました
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全には分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ビエンフーからこれまでの経緯を聞きました。
※どこの施設に向かっているかは次の書き手様にお任せします。


796 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:22:54 Cc3QeAvs0




『ゲェッ、ボォエッ』

びちゃびちゃびちゃと吐しゃ物が地面を濡らし、更に吐き出す勢いに耐えられず喉を傷め血まで混じり出す。

———あかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん

『黙れ...!』

ガリガリガリガリ
血がにじみ出る程に頭を掻いても愛は収まらない。
自我を失うまいと抵抗すればするほどその地獄は終わらない。

『わた、わらひは、女神に捧げる、捧げる捧げる、捧げるのだぁあああああああ!!!』

自我を保つために必死に叫びを挙げるが、そんなもので愛という呪いは収まらない。

「...ずいぶんと素敵なザマじゃないか。魔王サマ」
『ッ、び、琵琶坂』

かけられた声に振り返ろうとした瞬間、パァン、と鋭い痛みが頬に走る。
吐しゃ物が舞い、周囲に撒き散らされる。
琵琶坂はそれを不快気な目で見ながら悪臭を防ぐため鼻を摘まもうとするが、しかし骨が折れた痛みで塞ぐことができない。

『きっ、貴様...!』
「オイ。どのツラさげて俺を睨んでいるんだ」

再び鞭が振るわれ、パァンと甲高い音が鳴る。

「俺がこんな目に遭ってるのはお前のせいだろうが...この力に選ばれた俺が、だぞ」
『あの男は貴様が...!』
「うるせえ!!」

今度は叩くのではなく、首に鞭を巻きつけられて吐しゃ物塗れの地面に引き倒される。

「あんな雑魚共に手間取りやがって。お前がマトモに動けてればあんなことにはならなかったんだ!!」

うつ伏せに倒れる魔王目掛けて、琵琶坂は何度もその足を振り下ろし踏みつける。
そもそも。
魔王が単独で動いたこと以上に、琵琶坂がゲッタービームで竜馬を撃ったことが全ての発端なのだが、当然、その責を背負うつもりなど彼にはない。
責任逃れの八つ当たり。
誰が見てもそうとしか言えない愚行だが、彼がそれを自覚するつもりなど毛頭ない。
ゲッターに選ばれようとも歪まぬ、己のことしか考えない純度100%の自己愛者(エゴイスト)にそんな反省などある筈がない。


797 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー#madoka ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:23:58 Cc3QeAvs0

「なにが魔王だなにが女神の地平だ...いくら屁理屈を並べようが所詮はあのポンコツから恵まれた世界に縋ってるだけのガラクタじゃねえか!!」
『き、さま...!!』
「そうじゃないならあの竜馬(ガキ)道連れでもなんでもブッ殺して、お前の大好きなポンコツに捧げてみろよ、あぁ!!?できるか?できるわけないよなあ!?逃げ出したお前にそんな度胸はないもんなあ!?」
『言わせておけば...!』

———あかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃんあかりちゃん

『いい加減に黙れええええええええ!!!』

なんなのだこれは。
琵琶坂からの罵倒に魂を蝕む罪歌の愛。
こんなカス共に甚振られているのに、どうすることもできないとは。
それだけではない。
どういう形であれ、器を満たし世界を逆転させるということは、『ゲッター』が世界に顕現するということ。
それはもう女神の管理する安穏とは程遠い。
地獄だ。
進んでも止まっても地獄。
過去も未来も現在も、四方八方全てが地獄だ。

その多大なるストレスから、彼女は願う。
怒りや恨みつらみ以上に。
『逃げたい』と。

———そう。なら、もうあんたはお役御免ね

そして。
その言葉が過ったその瞬間。
『魔王』の意識は掻き消えた。


798 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:24:44 Cc3QeAvs0
「黙れだと?おまえ、どの立場で俺にモノを言って」

琵琶坂のその言葉は紡がれない。
今まで踏みつけていた筈の相手の姿が掻き消えたと思えば、足元にぬるりとした感触が奔り、かくんと膝が折れ吐しゃ物塗れの地面に倒されたからだ。

「ぉえっ!?」

地面に打ちつけられた痛みはさほどないが、吐しゃ物の不快な感触と臭いに吐き気を催す。

「...見様見真似だけど、結構使えるのね、これ」

踏みつけられる中、彼女が試したのは、幾度も見た『水の呼吸』から連なる足さばき。
本来の水の呼吸は鬼殺隊特有の呼吸法により身体能力を増幅させた上で放たれる技だ。
無論、その呼吸法を身に着けていない彼女に、この会場で交戦した錆兎や義勇の技をそのまま再現するのは不可能だ。
しかし、足さばきだけならまだ辛うじて真似ることはできる。
『水の呼吸』の型は攻撃よりも回避や防御に長けた型。
そして奇しくも、彼女は足癖が悪いと言えるほどに足技に長けていたため、それなりの効果を発揮する土壌自体は備わっていた。



「お、お前、よくもこんな」

仰向けの体勢から振り返ろうとする琵琶坂だが、しかしその後頭部に当てられる冷たい感触に動けなくなる。

「同盟と言ったのに自分一人で先走ったこと。あいつらを倒しきれなかったこと。そこに関しては謝らせてもらう」

その声には先ほどまでの威圧感はない。
一人の人間としての言葉が、意思が伝わるだけだ。

「その上で言わせてもらうわね。私は私の目的の為に戦う。あんたにはその手伝いをしてほしい」

だからこそ恐ろしい。
人間だからこそ、身近な存在だからこそこの冷たい殺意が脅しではないと突きつけてくる。
付け入る隙などないことを嫌でも思い知らされる。

「わ、わかった...俺も少し、頭に血がのぼっていた...言い過ぎたよ」
「そう。なら互いにこれでおあいこってやつね」

背中から重さが消えると、琵琶坂はふぅと深く息を吐く。
ハッキリ言ってすぐにでも殺したいが、しかし、未だにあの流竜馬という脅威が残っている以上、それと対抗でき得る存在を考えなしに潰すのは利口じゃない。
そう己に言い聞かせどうにか衝動を押し殺し、、女へと振り返る。

「...お前、なにか変わったか?」

ふと、そんな疑問を零す。
琵琶坂が彼女と出会った時には既に『魔王』だった。
相手を威圧するドス黒いオーラ。
何者かが宿ったような重厚さの声。
それらが、いまの彼女から全て消えていた。

「別に」

振り返る。その所作はどこか爽やかささえ感じられて。

「ただ、やりたいことを思い出しただけよ」

『ベルベット・クラウ』はほほ笑む。まるで憑き物が落ちたかのように。

それはこの会場に来てから、いや、全てを失ったあの日からは初めての笑み。

『魔王』はもう、どこにもいなかった。


799 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:25:10 Cc3QeAvs0


夢を見ていた。

自分が魔王となり、その身を赤く染め、本来辿り着くはずだった未来を否定する夢を。

———テメェの強さは、テメェ自身のものですらねぇ。……テメェが一番大事にしなきゃならねぇ矜持ってモンを、借りもんの為に捨てやがったか。

———……テメェは強え。だが、テメェは空っぽだ。空っぽのおもちゃ箱だ

———それしか道がなくて、それに縋り付くしかなかった。悲しい人。でも、それで自分を捨てる必要も、自分の感情を否定する必要はあったんですか

———あなたは強くなってなんかない。あなたはただ逃げただけ。託されたものを全部投げ捨てて。未来が怖くて逃げだしたただの臆病者なんだ!

投げかけられた声に耳を塞ぎ、現状に甘んじた。

その間は、やはり楽だった。

歩いてきた場所を赤く染めようとも。

その果てに敗北を喫しようとも。

それは全部『魔王』のせいだと押し付けられたから。

黙っていれば、『魔王』が全部やってくれたから。

けれど。

———私は自分の言葉を撤回するのが嫌いなんだ。死んでも結果を出してやるよ

魔王すら恐れ戦く力に放たれた閃光に目を覚ました。

ソイツは、気に喰わなかった筈の女は、清々しいほどに輝いて見えた。

思い返せば、あの女はいつもそうだった。
最初の戦いから既に格下に喰われかけていて。
次の戦いでも格下に殴られて吹き飛ばされて。
その次も相手が悪いとはいえやっぱり気絶させられて。
一緒に組んだ時も結局負けかけていて。
力は強いくせに、一度も余裕のある姿なんて見たことが無かった。

それでも。
あいつは一度も逃げなかった。
何度地を舐めようとも。
何度プライドを傷つけられようとも。
ずっと前を向いていた。そしてやりたいことの為に己を貫き通した。


800 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:25:41 Cc3QeAvs0

麦野だけじゃない。
シアリーズも。
シュカも。
錆兎も。
冨岡義勇も。
シグレ・ランゲツも。
夾竹桃も。
みんながみんな、己のやりたいようにやって、そして死んでいった。
今更になって、勝てないからと、未来が怖いからと目を閉じた自分との違いを思い知らされた。

そしてようやく、シグレ・ランゲツや間宮あかりが言っていたことを理解した。
何をしてもなんの責任も負わないことは強さじゃない。
そんなのは、生きているとは言わない。何を掴むことも出来やしない。


———そうだ。思い出せ。私は何がしたかった?

女神に贄を捧げて、虚構と現実を逆転させて。

...そんな小難しいことを望んでいただろうか。

違う。それはただの魔王の役割だ。

私が望んだのはそんなことじゃなく、あいつへの、ブチャラティ———じゃない、アルトリウスへの復讐だ。

でも、それに価値があるだろうか。真相を知ってしまった今、ラフィがアルトリウスと繋がっていたなら。

彼らが合意の上で己の身を捧げたなら、今更復讐になんの意味があるだろうか?

だったら、やはり女神を奉って『アルトリウスが全ての元凶だった』という虚構を現実にしてもらった方が———

———……ああ、そうだよな。テメェだけに幸運の女神様が舞い降りるなんてずりぃよなぁ。ああ、そうだよなぁそうだよなぁ……浜面ぁ

麦野の言葉が過り思いなおす。
違う。確かに、ソレをすれば自分の受けたショックは癒せるかもしれない。
けれど、それじゃあ駄目だ。
それじゃあ、あいつらだけ自分の願いを果たしてのうのうと救世主ヅラして満足してしまう。
そんな奴らに振り回されて私は喰って、喰って、喰いまくって、気が付けばもう後戻りのできないところまで来ていた。
そんなの、そんなのって...


ムカツク。


801 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:26:04 Cc3QeAvs0

腸が煮えくり返る。
世界の為だのなんだのとご高説を垂れて私に説教して、お前は間違ってるだの罪人だの好き放題に罵ってくる奴らが腹立たしくて仕方ない。

やりたいことがあるなら最初から説明しろ。もちろん私はその時点で全力で引き留めただろう。
けれど他の方法は探せたかもしれない。見つからなくても覚悟はできたかもしれない。
なのに、相談一つ寄越さず振り回して、その果てにこうなってしまった私をけなして。
何様だ。思い出したらまたムカついてきた。
ああ、そうだ。ここまできたら行動原理は麦野と同じだ。
理屈じゃなくムカついて仕方ない。だから私はあいつらに復讐したい。

これは私の我儘だ。世界を滅ぼすかもしれないエゴだ。
きっと奴らを殺したら泣く者がいるだろう。そこに辿り着くまでに多くの罪を重ねるだろう。
それでも構わない。
世界の平穏だの。
魔王だの。
進化だの。
その全てがどうだっていい。
どれだけ屈辱に塗れても構わない。
私は私だ。ベルベット・クラウだ。
奴らを殴れるなら。あの澄まし面を少しでも後悔させてやれるなら、私は地獄に落ちたっていい。
簡潔に言うと、このままだとスッキリできないのだ。
あいつの、麦野のように。

...私は、もう逃げない。
奴らを殺すまで、私は私であり続ける。
その為には、まずはあの子と決着を着けたい。

真実を知って。
私の復讐が無意味なものだと知って、それでもついてきたあの子。
いまの私にボロボロにされても、それでも私の名前を呼び続けたあの子。
いまやあの子へ抱いていた嫌悪は、もう興味へと変わってきている。
知りたい。
私を想ってくれる彼が、どうしてそこまで着いてきてくれたのか。
知って、その上で決着を着けたい。

その為には、魔王。お前はもう邪魔でしかない。


802 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:26:56 Cc3QeAvs0



己を否定したことで生まれた魔王は、彼女自身が逃避を選択したことで消え去った。
罪歌の呪いは魂に憑りつく呪い。
故に魔王に引きずられる形でそのまま消滅してしまった。
代わりに、己を肯定した復讐者が再び目を覚ました。

これより紡がれるは、復讐者の物語。

———たった一人の、エゴイストの為の物語。



【一日目/夜/Gー6】

【ベルベット・クラウ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:疲労(極大)、全身にダメージ(極大)、????を注入された。気分スッキリ。
[服装]:いつもの服装
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本:復讐を果たす。私のやりたいことはソレだ。
0:イフィセットに会い、決着を着ける。
1:琵琶坂永至、信用ならないが利用する。
2:ひとまず休憩をしたい。あとシャワーを浴びたい...臭い
3:『ゲッター』は邪魔をするなら排除する。
[備考]
※牢獄でのオスカー戦後からの参戦です
※3人でアイテムを結成しました
※恐らく『絶対能力者』へ到達しました。恐らく『その先』にも到達する可能性があります。
※夾竹桃の知っている【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。

※複合能力 『災禍顕現』を習得しました。本人の拡大解釈を以て穢れを様々な形として行使できる能力です。
...が、本人が魔王になるつもりがないので出力は大幅に下がっています。


【琵琶坂永至@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:◆◆化、顔に傷、全身にダメージ(絶大)、疲労(絶大)、背中に複数の刺し傷、左足の甲に刺し傷、ゲッター線による火への耐性強化、火傷(中)、痣@鬼滅の刃
[服装]:黒のゴシックスーツ(ボロボロ)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1、ゲッター炉心@新ゲッターロボ、絹旗の首輪
[思考]
基本:優勝してさっさと元の世界に戻りたい……つもりだったが……
0:俺の邪魔となるやつは全員潰せばいい。利用できるやつはとことん利用してやる
1:ベルベットと組み、他の参加者を潰してまわる。ひとまずは休憩か。
2:あいつ(流竜馬)は許さない、が、関わりたくもない。頼むからどこかで勝手にくたばってろ。
3:あのクソメイド(咲夜)も殺す。...そういえばさっき居たな...殺しそびれたな...まあいいか
4:他の帰宅部や楽士に関しては保留
5:他に利用できそうなカモをがいればそいつを利用する
6:クソメイドの能力への対処方法を考えておく
[備考]
※帰宅部を追放された後からの参戦です
※ゲッターに選ばれました。何処まで強化されたかは後続の書き手にお任せします。


803 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:30:19 Cc3QeAvs0


「ヴオ"オ"オ"オ"オ"オ"オ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!」

咆える。咆える。
獣は、ただ虚空に吼える。

最大出力の原子崩しを受けても彼はまだ生きていた。
その威力にはたまらず吹き飛ばされはしたが、ゲッター線により魔王の能力を引き継いでいた為に、ダメージを軽減、そして人間ならば既に致命傷であろう程の火傷も、再生能力により一命を取りとめた。
辛うじて命を拾った形ではあるが、それで彼の闘争本能が萎えることはない。
敵が強ければ強いほど進化はより強力に促される。

破壊と再生を繰り返しながら、彼は次なる獲物を求めて駆ける。


———かつて、神隼人はゲッターロボの一つの法則を見つけた。
ゲッターロボは、流竜馬の存在一つでその出力が大幅に変わると。

その見解は正しい。
ゲッター2のパイロット、神隼人。
ゲッター3のパイロット、武蔵坊弁慶。
彼ら二人で駆るゲッターは本来の力を発揮しきれず、鬼獣一体にも手間取るが、竜馬が乗り込んだ瞬間に炉心を取り込む前の状態でありながら瞬く間に鬼獣の群れを倒せるほどにポテンシャルを発揮した。

そんな彼らを早乙女博士はこう称した。
神隼人と武蔵坊弁慶は、流竜馬を制御する役目。
無限の進化に歯止めをかけるストッパーだと。

『目を覚ませ、竜馬!』

本来の歴史では友の呼びかけに魂を呼び起こされ、ゲッター線の同化を跳ねのけ、正気を取り戻した。

その片割れは、もういない。

千の神の祈りも、正義の意味も知らず、争いの歴史の渦に身を投じてきた、腐れ縁の男は、この地で散ってしまった。

ストッパーの一つを失った彼が正気を取り戻せるかはわからない。

もしも戻るとすれば、それは———



【一日目/夜/????】

※基本支給品、ランダム支給品0〜2、彩声の食料品、白バイ@現地調達品は消滅しました。
※原子崩しでどこに飛ばされたかは次の書き手の方にお任せします。

【流竜馬@新ゲッターロボ】
[状態]:ダメージ(大、再生中)、疲労(大、再生中)、ゲッター線同化による暴走、自我消失。
[服装]:
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本方針:全てを壊す。

[備考]
※少なくとも晴明を倒した後からの参戦。
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、カナメ、霊夢と情報交換してます。
※琴子、あかり、ドッピオ、メアリ、竜馬の五人でこれまでの経緯と、生存者についての情報を交換しました。
※ゲッター線に呑まれて暴走しており、身体能力が増大しています。
※ゲッター線の共鳴により、肉体再生の付与、魔王ベルセリアの能力を引き継いでいます。


【メアリ・ハント@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった… 死亡】
【麦野沈利@とある魔術の禁書目録Ⅲ 死亡】
【罪歌@デュラララ!! 消滅】
【夾竹桃@緋弾のアリアAA 死亡】


804 : 魔獣戦線 ー生命の輝きー ◆ZbV3TMNKJw :2023/07/20(木) 22:31:14 Cc3QeAvs0
投下終了です 大変お待たせして申し訳ありませんでした


805 : ◆qvpO8h8YTg :2023/07/23(日) 18:39:41 7jQhGkQs0
レイン、平和島静雄、鬼舞辻無惨、ヴライ、予約します


806 : ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:18:03 2pE6U4UU0
投下します


807 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:18:50 2pE6U4UU0
「――なるほど。其方の経緯は理解しました」

高坂麗奈とアリアは、ゲーム開始からわりと早い時期に出会った。
アリアは武偵として、一般市民たる麗奈を保護する立場で、彼女と行動を共にし、第一回放送前に、二人は揃って遺跡に足を踏み入れた。
そこで複数の参加者と出会い、それを契機に、当該施設を対主催の拠点としていたが、突如として正体不明の鋼の巨人が襲来。
一同は散り散りになり、アリアも麗奈と離れ離れになってしまった―――。

アリア扮する無惨が、レインと静雄に語った内容は、『遺跡に複数の参加者が集まっていた』という真実を基に、虚飾と脚色を織り込んだものであった。
静雄はというと、当初こそ相槌と質問を投げかけていたが、彼女の語る話の内容で、臨也ご登場してからというものの、腕を組んだまま瞑目し、黙り込んでいた。
一方で、レインは、そんな静雄に構うことはなく、無惨と滞りなく情報を交換していった。

「ですが、残念ながら、私達はその高坂麗奈さんと思わしき人は見かけていません。
ムーンブルク城を発ってからも、誰とも会うことはなく、此方に辿り着きました」

「そう……。全く…あの子ったら、一体何処に行ったのやら……」

『アリア』は落胆したように溜息をつく。
だが、その実――。

(ふむ……あの駄犬の尻尾を掴めなかったのは惜しいが、見込みはありそうだ)

内心では、眼前のレインと静雄の二人を、冷静沈着に値踏みしていた。
聞けば、レインと静雄が道中出会ったとされる参加者は、何れも無惨と麗奈、そして神崎・H・アリアとの繋がりはない人物ばかりであった。
仮に、道中出会った人物から三人の情報を齎されていた場合、無惨から語り聞かされていた内容と符合することなく、疑問を抱くことになるだろう。
そのようなことがあらば、この場で屠ることも厭わなかったが、今のところ、その様子はない。上手く利用できそうだ。

「ああ、そう言えば―――」

とここで、無惨は、ふと遺跡への道中での、臨也との会話を思い出した。
取るに足らない戯言と断じて、記憶の片隅に追いやっていたものだが、実際に対象を目の前にすると、彼から齎された情報が捨て置くことはできないものだと思い返す。

「遺跡で出会った彼―――折原臨也から、あなたのことは聞かされていたわ、平和島さん」

ピ キ ピ キ ピ キ

瞬間、静雄の足元付近から異音とともに、亀裂が生じた。
咄嗟にレインと『アリア』は、静雄の様子を窺うが、池袋最強は未だ腕を組みながら、目を瞑ったまま不動を貫いている。
しかし、その沈黙はどこか、危うさを孕んでいた。
例えるなら、噴火が差し迫った活火山のような――そんな、今にも爆発せんとする危うさを。


808 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:19:59 2pE6U4UU0
「どうやら、此処で起こったであろう戦闘の影響で、地盤が緩んでいるようです。
よほどの衝撃だったんでしょう。アリアさんも瓦礫などには近づかないようにしてくださいね。いつ崩落するか分からないので」

「えっ? あ……うん……わかったけど……」

「――それで、折原臨也さんは、静雄さんのことを、何と言っていました?」

静雄の異変に気付かぬフリをして、レインは話を戻そうとする。
レインからしてみれば、大方内容は察することは出来るが、静雄へのフォローも兼ねて、敢えて問い質すことにした。

「『目につく人間を片っ端から襲い掛かる獣みたいな危険人物』って言ってたわ」

ガ ゴ ォ ン

まるで大地そのものが悲鳴を上げたような、一際大きな破砕音が響き渡ると同時に、池袋最強の足元付近の地面が割れ、陥没した。

「……っ!?」

目を見開く『アリア』の傍らで、レインはやれやれといった様子で溜息をつく。

「それは誤解ですよ、アリアさん。
私は、静雄さんとはゲームが始まってから、ずっと一緒に行動していますが、静雄さんは、そのような人ではありません。
現に、私もアリアさんも、今こうして静雄さんの目の前に立っていますが、危害は加えられていませんよね?」

「それは……そうだけど……」

『アリア』は、チラリと静雄の様子を伺う。
静雄は未だに目を瞑ったままではいるが、その額にはいくつかの青筋を浮かべており、微かに鼻息を荒くしている。
沸騰しそうな感情を、懸命に抑え込んでいるように見受けられた。

「静雄さんと、折原臨也さんは、元々は同窓生でお友達だったと伺っていますが、どうにも喧嘩別れしてしまったようでして、折原さんからすれば、静雄さんに対する心象はあまり良くないのでしょう。
恐らく、アリアさんが聞かされた風評も、その延長線上だと思います」

「そう……なの……?」

「はい。―――ですよね、静雄さん?」

レインは、念押しと言わんばかりに、静雄へと視線を送る。
静雄は、わなわなと肩を震わせながらも、首を縦に振り、肯定の意を示したのち、ゆっくりと口を開く。

「まぁ、なんだ……ちょっとしたすれ違いというヤツだよ……アリアちゃん……。
ノミむ……臨也君とは、喧嘩の最中だからよ……。
だから……あいつが俺のことを悪く言ったとしても、気にするこたぁねぇぞ……」

顔を引きつらせながらではあったが、どうにか笑顔を作り、『アリア』へと語り掛ける。
だが、そのこめかみには、依然として、いくつもの青筋が浮かび上がっていた。


809 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:20:21 2pE6U4UU0
「―――だそうです。なので、安心してください、アリアさん。
静雄さんが安心安全なのは、私が保証しますので」

無理する静雄を悟られまいと、レインも『アリア』に語り掛け、意識を自身へ向けさせる。

「そう……なら、私としては問題ないんだけど……」

無惨としても、臨也が語ったような、会話が一切通じない面倒な手合いではない者と分かれば、それ以上追及する必要もないと判断した。
そもそも、臨也と静雄の間で、何が起こったなどは興味の欠片もない。
鬼舞辻無惨にとって、他者の存在など、自分にとって役に立つかそれ以外か、その二択でしかないのだから。

「誤解も解けたようですし、そろそろ本題に入りましょう。
これから、どうしていくのかについて―――」
「そうね。それじゃあ――」

レインの言葉を皮切りに、『アリア』は、今後の方針を口にして、静雄とレインは、それに耳を傾ける。

偽りの武偵が語らう、その内容は―――。


810 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:20:51 2pE6U4UU0



「奇怪な」

この日、ヤマト八柱将、剛腕のヴライは、同じ言葉を二度口にした。
一度目は、病院という施設を目の当たりにした時。
そして二度目のそれは、今自分が立っているこの建物の内容についてだ。

スーパーマーケット。
市街地を彷徨う果てに行き着いた、その施設は、ヤマトに生きたヴライにとっては、未知のもので溢れ返っていた。
生暖かな風が吹く外とは違い、この施設の中は涼しい。
眩い人口の照明によって照らされた店内には、様々なものが陳列されている。
野菜、果物がそのまま積み上げられているかと思えば、肉や魚といった類のものは、パックに入れられて並んでいる。
飲料水の入った容器も並べられており、触れてみると冷たい感触があった。

ヴライは思う。
奇怪だ。この地で目にするもの多くは、奇妙で、不可解なものばかりだ、と。
だが、どのような原理でこれらが動いているのかは、興味がない。
ただ一つだけ確かなことはある。
それは、己が眼前に拡がるものは、次なる闘いへの糧になるものだということ。

ド ス ン

ヴライは陳列棚から幾つもの飲食物を手に取ると、その場に腰を下ろし、貪り始めた。
弁当コーナーに置かれていた容器の蓋を乱暴に取り去ると、中に入っていたものを手掴みし、口の中に放り込む。
白米、唐揚げ、卵焼き、焼き鮭、スパゲッティ―――ヤマトでは見たことのないものも多々含まれているが、味は悪くない。
あっという間に一つ目の弁当を平らげると、次の弁当に手を掛けていく。

ここには、彼の食事を世話してくれる給仕などはいない。
ただひたすらに、出来合いの食物を、胃に流し込み、己が血肉へと変えていく。
振り返ってみると、此の地に来てからは、闘争の連続で、まともに腹を満たすことはなかった。
武士にとって、飢餓は決して、捨て置くことのできぬものだ。
戦場で身体が弱り、気力が衰えることあらば、それ即ち敵に致命的な隙を与えることになるからだ。


811 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:21:11 2pE6U4UU0
「……。」

もにゅもにゅと咀噛しながら、ヴライはペットボトルの蓋部分をもぎ取ると、そのまま一気に飲み干す。

「ぬぅ……!?」

途端に、目を見開くヴライ。
喉元を通り過ぎる清涼感と共に、ピリピリと痺れるような感覚を覚えたからだ。
ペットボトルのラベルには、「ヤシの実サイダー」と記されているが、ヤマトの漢には、それが何を意味するかは分からない。

だが―――。

「クワサの類か……、悪くない」

その不可思議な飲料は、味や質は遥かに落ちるが、クワサ――ヤマトで広く嗜まれる柑橘系の発泡酒を彷彿とさせて、どことなく懐かしい味わいであった。

「……。」

更に、もう一本。
同じラベルのペットボトルを掴むと、その先端部分を抜き取る。
そして、ゆっくりと味わうように、中身を飲み干していく。

彼が敬う現人神の宴席にて、振る舞われていた彼の地の地酒――。
その酸味の強い刺激的な味わいを懐かしみながら、漢は束の間の休息を得ることとなった。


812 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:21:49 2pE6U4UU0



「それにしても、さっきはよく我慢できましたね、静雄さん」
「何の話だ…?」

フィールドを疾走するコシュタ・バワーの自転車。
レインは、ひたすらにペダルを漕ぐ静雄の背中に抱き着きながら、声を掛ける。

「アリアさんに吹き込まれていた、静雄さんについての悪評のことですよ」

敢えて、その悪評の元凶たる男の名前を挙げないのは、名前を聞くだけでも、静雄の琴線に触れるだろう、と判断したから。
これまでの付き合いで、静雄との適切な接し方を心得たレインならではの気遣いであった。

「ああ、そん事か……。いや…正直……限界だったけどよ……。
レインが上手く機転を利かせてくれたから、どうにか踏みとどまることが出来たわ、ありがとな」

静雄は、振り返ることなく感謝を告げる。
そして、大きな溜息を吐くと、ハンドルを握る手に力を込める。

「――にしても、あのノミ蟲……。相変わらず、コソコソコソコソと陰険な真似しやがってよぉ……! やっぱ、あいつはぶっ殺さねえと、気が済まねえ……!!
……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す―――」

歯軋りを鳴らしつつ、臨也への殺意を呟き続ける静雄。
元々レインの仮説を聞いてからは、臨也をはじめとする自身の“敵”に対する害意を躊躇していた。
しかし、アリアから齎された情報で、やはり自分の激情を抑えつけることは、難しいと悟った。
特に臨也だ。もしも、この先あのヘラヘラした面貌を見掛けることがあれば、有無を言わさず、殴り飛ばすことになりそうだ。

「――静雄さん、今は……」
「――分かってる……。
まずは、城に戻って……それから、アリアちゃんとの約束だろ……?」

結局『アリア』とは、二手に分かれたほうが効率的だという彼女の提案に則る形で、一旦別れることとなった。
『アリア』は、北上し、スパリゾート高千穂や、早乙女研究所といった静雄達が探索しなかった場所を中心に、高坂麗奈の捜索を継続。
静雄達は、まずはムーンブルク城に戻り、隼人達に学校の惨状を報告。
その後の行き先は、隼人達との話し合い次第ではあるが、道中で麗奈を見つけることがあれば、彼女を保護すると約束した。
その後は、第四回放送が行われる0時を目処に、F-4にある神殿で再合流する手筈となっている。

静雄としては、すぐにでも遺跡に乗り込んで、臨也の息の根を止めてやりたいところではあったが、今は自分の我儘を押し通すべき場面ではないと弁えている。
何よりも優先されるべきなのは、まだ生存している他の悪意なき参加者との連携であり、それがレインの望むところでもあるからだ。

『参加者の皆様方、ご機嫌よう―――』

会場内に、テミスのアナウンスが流れだしたのは、ちょうどその時であった。


813 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:22:26 2pE6U4UU0


バギッ ドガン バリン 

市街地に絶え間なく、破壊音が木霊する。
電柱を軽々しく引っこ抜いたかと思えば、それをぶっきらぼうに振り回して、石造りの壁を粉砕したり、アスファルトの大地に叩きつけたりなどして、とにかく目に付くものに次々と破壊の痕跡を残していく。

「……クソがぁっ……!!」

暴風の如き勢いで暴れ回る静雄。
積もりに積もった苛立ちが、放送で告げられた友人の死を契機に、爆発してしまったのだ。

「……新羅の野郎―――」

世間一般から見ても、岸谷新羅という人間は、決して善人と呼べる人物ではなかった。
何かと理由をつけて、解剖させてほしいなどと頼み込むなどの傍迷惑な一面もあったし、愛する彼女と一緒にいるためには、どんな手段も厭わないなどと言い出したりと、危うい一面も兼ね備えていた変人だ。
だがそれでも、彼は小学生時代からの腐れ縁でもあったし、困った時には、何かと世話にもなったりと、静雄にとっては、数少ない友人であったのは紛れもない事実である。

『僕は、どんな悪党になってもいいから、その人を引き留めようとすると思う。
人だって殺すかもしれない』

静雄の脳裏に過ぎるは、高校時代に、彼と交わした何気ない会話。

『まあいいさ。そん時は、俺がその女の代わりに空の果てまでぶっ飛ばしてやるから安心しろ』

新羅がどのような経緯で、命を落としたかは分からない。
道中出会った仮面連中のような殺し合いに乗った人物の毒牙にかかったのかもしれないが、先の放送で最愛の彼女の死を知った彼が、間違いを起こしてしまい、その結果返り討ちにあった可能性は十分考えられる。
その場合は、殺した相手に怒りを向けるのは筋違いだ。
では、乱心した新羅に怒りをぶつけるべきかというと、それも否である。

結局のところ―――。

「約束、破っちまったじゃねえかよ……!!!」

静雄の怒りの矛先は、自分が吐いた言葉すらも履行できず、あまつさえ友人達をも守ってやれなかった自分自身の不甲斐なさに向けられていたのだ。
そしてご覧の通り、このやり場のない怒りを、モノに当たり散らしているのが、現状だ。

――情けねえ……。

拳を思い切り石造りの塀に叩きつけ、粉微塵になった破片を蹴り飛ばしながら、静雄は痛感する。
自分は無力だと。
友人すらも救えない、矮小な存在であると。 

そして、先の放送ではもう一人。
彼の知る人物の名前が、脱落者としてアナウンスされてしまった。

「……アリアちゃん……」

先程別れたばかりのアリアも、何者かの手によって、その若き命を絶たれてしまった。
その事実もまた静雄を苛立たせ、彼を破壊活動に拍車をかけていた。


814 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:23:32 2pE6U4UU0
やがて――。

「どうぞ」

ハァーハァー、と肩で息をしつつ鎮まった静雄の元へと、レインは歩み寄り、ペットボトルを差し出す。
彼女は、第三回放送で、新羅の名前が呼ばれるや否や、自ずとコシュタ・バワーとともに、静雄の元から避難して、平和島の噴火が収束する頃合いを見計らっていたのである。

「……わりぃな……」

静雄は礼を述べつつ、差し出されたペットボトルを受け取り、蓋を開けるなり、ゴクゴクと喉の奥へ流し込んでいく。
水分補給をして少し落ち着いたのか、大きく深呼吸すると、ふぅ、と一息つくと、改めて更地と化した市街地を見渡す。
先程までは比較的整っていた市街地エリアだったが、怒れる静雄の手によって、今や先の学校と変わらぬほどの更地と化している。

「俺は―――弱えな……」

「いえ、静雄さんは強いですよ」

「……そういう意味じゃねぇ――。
確かに、腕っぷしならそこら辺のやつよりちょっとばかしあるかもしれねぇし、身体も少しだけ頑丈に出来ているかもしれねえけどよ……。
ダチを護ることも出来ねぇし、てめえの吐いた言葉も守れちゃいねぇ……。
おまけにこの有様だ……てめえの感情もろくに抑えられねえ……」

悔しそうに拳を握り締め、奥歯を噛み締める静雄。
そんな静雄に対して、レインは溜息を交えながら、呟いた。

「――弱くても、良いのではないでしょうか?」
「あぁ?」

レインの口から飛び出した発言に、静雄は思わず眉根を寄せた。

「だって私達は―――」

訝しげに視線を送ってくる静雄とは対照的に、レインは表情を変えることはない。
いつも通りの淡々とした口調で、告げる。

「人間ですから」

半日以上間近で見ていて、レインは思った。
平和島静雄という男は、どうしようもなく、呆れるほどに、“人間”らしい人間なのであると。
静雄を知る者の多くは、その身に纏った圧倒的な暴力が故、彼を"化物"、"怪物"と呼び、恐れることもあるだろう。

「人間は総じて弱い生き物です。
望んでいたものを取り零したり、大切なものを守れなかったり、過ちを犯してしまうことだって多々あります――今回のように」

だが、皆が畏怖の対象とする静雄のそれは、表面上のものであって、彼の内面は誰よりも熱く、純粋で、それ故に脆い。
だからこそ、静雄の隣には、彼の本質を理解できる人間がいてあげなければならない。
その性質上、他者から敬遠され、畏怖されがちな彼と他者を繋げる架け橋となり、必要あらば、彼の暴走を抑止できる存在が。

「何でも一人で卒なくこなせる、完璧な人間なんて存在しませんよ。
人は弱いからこそ、手を取り合い、互いの弱さを補いながら、前へと進んでいかないといけないのです。だから、静雄さん―――」

そこで一度区切ると、レインは改めて静雄に向き直り、真っ直ぐな瞳で彼を捉えて、言う。

「静雄さんが弱いのであれば、私がカバーします。
私は、静雄さんよりもずっと弱い人間ですけど、それでも力を合わせることで静雄さんの弱い部分を、カバーできるはずです。
その代わりと言っては差し出がましいかもしれませんが、静雄さんも、私の弱い部分を補って頂けるよう、これからも、お力添えいただけると助かります」

自分の胸に手を当てて、そう語るレイン。
そんな少女を前に、静雄は一瞬面食らったような顔をする。
そして、しばらく考え込む素振りを見せたかと思うと、頭をガシガシと掻きむしる。


815 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:24:18 2pE6U4UU0
「あーつまり何だ……レインは俺のことを励ましてくれてるってことで良いんだよなぁ?」
「……はい――。そのつもりでしたが……?」

いまいちピンときていない静雄に対して、レインもまた少し自信をなくしたように、トーンを落とした。
元々落ち込む静雄に発破をかけようと、彼女なりの理論を振りかざして収めようと、試みていたのだが、直情的な静雄には、遠回しな言い回しは適していなかったようだ。

レインは、頭脳明晰で、卓越した情報分析能力を有しているが、そもそも人心掌握に長けているわけではない。
カナメとクランを結成するまでは、ソロプレイヤーとして活動していたし、彼女の半生において、落ち込む誰かを励ましたり、元気づける機会には中々遭遇することはなかった。
そういった経験値不足が故に、何とも不慣れで不器用なやり取りに着地してしまったのだが―――。

「ふっ…そうか。何だか要らねえ気を遣わせちまったようで悪かったな、レイン」

静雄は小さく笑うと、ポンとレインの小さな頭の上に掌を乗せる。

「――!」
「ありがとな、お前のおかげで、少し楽になったぜ」

そう言って、静雄はレインの髪をわしゃわしゃと撫で回す。
静雄からすると、周りくどい言い回しではあったが、レインの気持ちはしっかりと受け取れたのだ。

「……静雄さん、手を放してください。いい加減怒りますよ……」
「おっと……わりぃ……」

慌てて手を引っ込めた静雄。
レインは、乱れたおかっぱ頭を不機嫌そうに整わせながら、ジトリと静雄を睨みつけた。
そんな矢のように鋭い視線を、「ははは」と笑い流しながら、池袋最強は心の内で誓う。

せめて、こいつだけは護ってやらないとな、と―――。

「――それで、これからのことについてですが……」

乱れた髪を整え終えると、レインは改まって話を切り出す。
静雄も、真剣な顔つきとなって耳を傾ける。

「先程までに定めていた行動方針は、一度見直す必要があると思います」
「……アリアちゃんの件だよな?」
「はい、彼女の死亡が発表された今、彼女との約定も意味をなさなくなりました」

静雄は悔しそうに歯噛みする。
彼女と別れたのは、つい数刻前。
そこから第三回放送までの僅かの間に、彼女は何者かの手にかかって命を落としてしまったことになる。

「あークソッ!! やっぱ、あん時、アリアちゃんを一人で行かせるべきじゃなかったんだぁッ!!
どこのどいつか知らねえけど、殺った奴はまだ近くにいるってことだよなぁッ――!!
だったらまずは、そいつを見つけ出して、ぶっ殺さねえといけねえって事だよなぁッ―――!!!」

ビ キ ビ キ ビ キ

理不尽にその命を奪われてしまった少女のことを思い出し、静雄の中では、再び怒りが膨れ上がり、額に青筋を浮かべていく。
そして、その青筋の数に比例するように、彼の踏む大地が悲鳴を上げ、ひび割れていく。
再び、市街地に天災が降り注ぐ――と思われたその時だった。


816 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:25:06 2pE6U4UU0
「落ち着いてください、静雄さん」
「……! ――ああ……わりぃ」

静雄の怒りを宥めるかのように、あくまでも冷静な声音で紡がれたレインの一言。
その言葉によって、静雄の意識は現実に引き戻される。
怒る静雄に、宥めるレイン――。そのやり取りは奇しくも、ありし日の静雄とセルティの
それを彷彿させるものであったが、静雄がそれに気付くことはない。

「私は、今は彼女の仇討ちよりも優先すべきことがあると考えています。
先程の放送が真実なら、神隼人さんが言っていた彼らの仲間の内、まだ生存している方がいらっしゃるようです―――」

ムーブルク城にて隼人から依頼されていた、高校付近で勃発されていたとされる戦闘の増援。
レインたちが辿り着いたころには、既に戦闘は終結しており、確認する限りでは四つの肉塊が転がっている惨状となっていた。
ジオルド・スティアートと思わしき屍の他は、黒焦げとなっており誰が誰だか判別できず、隼人より伝え聞いていた彼の仲間のうち、誰かしら二名は少なくとも生死不明という状況となっていた。
しかしながら、先の放送で、黄前久美子と十六夜咲夜の二人が判明した以上、彼女らを探索した上、隼人達と合流した方が良いだろう。
フレンダ=セイヴェルンの死亡は告知されたが、未だにウィキッド、琵琶坂永至、そして他人に擬態することが出来るという鬼舞辻無惨など、要注意人物が生存している現状、これらの参加者の毒牙にかからないよう、先に彼女らを保護した方が理にかなっている、とレインは静雄に説いていく。

「――なので、私は『紅魔館』などの近隣施設の捜索を提案したいと思います」
「……分かった、そういうことだったら、こっちも文句はねえよ……」

レインからの説明に納得し、静雄は険しい顔をしながらも首肯する。
アリアを殺したであろう人物に対しては、変わらず殺意と怒りで腸が煮えくり返りそうになっているのだが、今はまだ生きている命の保護を優先するべきであると、激情を抑え込んだ。
静雄の理性が激情をどうにか制したのは、もう一つ理由がある。

「……黄前久美子か……」

弁慶、セルティと行動を共にしていたという参加者。
彼女に直接会って、セルティの話を聞きたいという願望もあったからだ。

「それと高坂麗奈さんとも、会ってお話しを伺いたいです」
「……そうだよな……。
そうしねえと、アリアちゃんも浮かばれねえもんな……」

拳を握り締めて、悔しそうに呟く静雄。
敵討ちが出来ないのであれば、せめてもの彼女が生前気に掛けていた少女を保護せねばなるまいという固い決意が湧き上がる。


817 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:25:30 2pE6U4UU0
その一方で―――。
(……こちらとしても、色々と確認したいことがありますしね……)

マグマのように熱き思いを抱く静雄とは真逆に、レインは氷の如く冷静沈着に思考を巡らせていた。

放送前に行った、アリアとの情報交換。
解析屋の少女は、ただ悠々と情報の受け渡しに明け暮れていたわけではない。

元々持ち合わせていた情報から、完全に『シロ』だと符合するものはなかったため、レインは注意深く観察していた―――眼前の緋色の少女を。

交わした言葉の端々から察せられる性格
その身から滲み出る雰囲気。その表情の変化。その仕草。
それら全てを総合的に分析し、レインは『神崎・H・アリア』という少女が本当に信頼に足る人間であるのかを見極めようとしていた。

そして、彼女が緋色の少女から見出したのは、一つの違和感であった。

――それは、高坂麗奈に対する過剰とも言える執着。

彼女が常に気にしていたのは、元々の知り合いでもないはずの麗奈の行方--。
表面上は、殺し合いに反対する善良な参加者を装ってはいるものの、その実、高坂麗奈以外の参加者の情報には、深く食いつく様子もなかった。
悪い見方をすれば、麗奈以外の参加者は、眼中にすらないといった印象を受けた。

今回の接触も、どちらかというと、麗奈の探索のために、レイン達を上手いこと利用しようと目論んでいたかもしれない、とレインは睨んでいた。
アリアが死んでしまった今、杞憂であるかもしれないが、それでも彼女に対して感じ取った違和感の答え合わせをするべく、直接麗奈と会って、情報を照らし合わせたいと考えていたのだが―――。

「――おい、レイン……」
「はい?」

不意に静雄に声を掛けられ、レインの思考は中断された。

「ありゃ、何だ?」

静雄が指差したのは夜の空。
橙色に煌めく光球が打ち上げられ、まるで流星のように天翔けていく姿が、そこにはあった。


818 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:25:48 2pE6U4UU0


ズン ズン ズン

スーパーマーケットでの束の間の休息を経て、ヴライは再び戦場に姿を現していた。
戦場ではμのライブが奏でられている。
しかし、鼓膜を震わせるほどの歌姫の美しき歌唱も、曲に込められた楽士の怨嗟の慟哭についても、感傷に浸るような情緒はヴライには皆無だった。
ただ戦のみを求めるヤマト最強の武士にとっては、何れも有象無象の雑音にすぎないのである。

先の放送では、14名の参加者の死亡が告知されたが、そこにヴライの知る名前はなく、特に思うところもない
ただ単純に、禁止エリアの位置のみ記憶し、次なる闘争を求めて、エリアを彷徨っている。
行く宛も特にない。ただ武人の嗅覚を頼りに、本能の命ずるままに進み続ける。
身体は幾多の激闘を経て既に満身創痍。しかし、『ヤマトの矛』とうたわれる漢の闘志は、微塵も衰えることはない―――。

「……ッ!!」

ピ タ リ

ヤマト最強は目を見開き、その行進を止めた。
闇夜の中より彼の視界に入ったのは、一つの人影。
距離にして数十メートル先。
相手もヴライの存在を察したのか、その歩みを止めている。
しかし、街灯の光の下に佇むその面貌を、ヴライは見紛うはずもなかった。

ダ ン ッ!!

間髪入れずに地を蹴り上げると、闘争の権化は標的に向けて、駆け出した。

猛る、猛る、猛る、猛る、猛る--。
己が血肉と、内に宿すヒムカミが沸騰する感覚を覚えながら、彼は標的へと接敵。

「――ぬぅん!!」

猛然と迫り来るヴライに、相手も咄嗟に反応せんとするが、既にそこはヤマト最強の間合い―――。
そのまま有無を言わさず、剛拳を繰り出す。

ドゴォオオオオン!!!!

雷鳴の如く轟く衝撃とともに、新たな戦が始まったのであった。


819 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:26:13 2pE6U4UU0



「――おのれ、どこまでも使えぬ小娘めが……」

レイン達と別れ、会場を北上していた無惨は、テミスの定時放送を聴き終えて、憤りを覚えていた。

死亡者発表にて、忌々しい鬼殺隊の水柱の脱落や、探し求めている高坂麗奈の生存が確認できたのは、僥倖といえる。
しかし、そういった喜ばしい報せと同時に、自身が擬態しているアリアの死亡も告知されてしまった。
これでは、折角高坂麗奈確保のために取り付けたレイン達との約定も、全て水泡に帰すことになる。
故に、無惨は自分の預かり知らぬところで、勝手に命を落として、折角の工作を台無しにしてくれたアリアに対して、怒りを吐露していたのである。

「此の地で出会う人間は、悉く苛立たせてくれる……」

今でも、最優先事項は麗奈の確保にある。
その為には、先程のレイン達のように、他参加者を欺き、自身の手足となるよう仕向ける必要がある。
であれば、これ以上『神崎・H・アリア』として接触するのは得策ではない。

ゴキ ゴキ

硬いものが轟く様な音とともに、少女の姿をした鬼は、その身体を変化させていく。

ゴキ ゴキ

問題は誰に擬態するのか――。
これは、現在生存しており、且つこれまでに無惨と接触し、身振り手振りや喋り方を観察できた者から選出する。
そうした方が、後々になって不都合は生じないからだ。
そうなると、候補はだいぶ絞られてくるが、ここからヴァイオレットは候補から外れる。
最後に彼女を見かけた時は深傷を負っていたように見えたから。
今は、どうにか生き永らえてるかもしれないが、瀕死の状態の彼女に擬態するのはリスクが生じる。
仮に彼女に擬態して、次の放送時に死亡者として発表でもされたら、今回のように工作が破談する可能性があるからだ。

ゴキ ゴキ

無惨の身体から擬態に伴う音は立ち消え、一帯は夜の静寂に包まれた。
街灯の元、作り替えられた姿で佇むその姿は、かつて無惨が見た、とある参加者のものとなっていた。

(まずは、先程の二人を探すべきか……)

折角利用価値があると見込んだ連中――このまま捨て置くわけにも行かない。
無惨は、レイン達と新たな容姿での接触を試みるべく、地を蹴り上げた。
自転車の類の移動手段を有していた様だが、まだそこまで遠くには離れていないはず。
であれば、日が出ていないこの状況で、己が俊足を以てすれば追いつくことは容易い筈だ。

風を裂き、地を踏みしめながら疾走していく無惨――。

「―――っ!?」

しかし、彼は突如、急ブレーキをかけるように立ち止まる。
理由は単純明快。前方より人影が現れたからだ。

「……ッ!!」

それは、山のような巨躯を誇る漢であった。
漢の方も無惨の存在を認識したようで、その足を止める。
そして、圧倒的な威圧感を以って、睨みを利かせている。
一目見ただけでも察せられる筋骨隆々の肉体、その身体に刻まれた幾多の傷は、無数の修羅場を潜り抜けてきた証。
そして、何よりも特筆すべきは顔面に装着された仮面であろう。
その様相はまるで―――


820 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:26:48 2pE6U4UU0
ダ ン ッ!!

しかし、無惨の思考はここで否応なしに中断される。
その漢――剛腕のヴライは、大地を砕かんばかりの踏み込みと共に、一瞬にして間合いを詰めて来たのだ。

「……っ!?」
「ぬぅん!!」

巨体に似合わぬ俊敏な動きで、振り下ろされる炎を宿した拳。
無惨は紙一重の差でそれをかわすと、瞬時に後方へと跳躍し距離を取る。
空振りをした拳は、そのまま大地に叩きつけられ、アスファルトを粉塵とともに爆散させた。

「……貴様……」

無惨は、襲撃者たるヴライを睨みつける。
問答無用で仕掛けてきたところから察するに、眼前の者は殺し合いに乗った側の参加者――。
邪魔立てするのであれば、ここで排除せねばなるまい、と無惨は身構える。

「よもや、ここで汝と相見えることになろうとはな……」
「何…?」

土煙が漂う中、ヴライもまた地面に突き刺さった拳を引き抜くと、無惨へと向き直る。
その真紅の双瞼は、燃え盛る炎が如く闘気と、そして底知れぬ執念を孕んでいる。

(――そうか、この者は……)

「こうして再び相見えた以上、もはや語る必要はあるまい――。
さぁ存分に死合おうぞぉ――オシュトル!!!」

――この漢は、単純に殺しあいに乗った側というだけではない。
――己が、現在擬態している『オシュトル』に因縁のある輩である。

肉で仮面部分を形成した上で、彼の者の姿を模倣していた無惨は、この巡り合わせの悪さに苛立ちを覚える。

だが、しかし―――。

グ ォ ン ッ!!

豪速級の如く投擲された炎槍によって、その思考は中断を余儀なくされる。
無惨は咄嵯に身を捻り、それを回避する。
次の瞬間、凄まじい爆音が響き渡り、先程まで無惨がいた場所が大爆発を起こした。

「――チィッ!」

無惨は、小さく舌打ちすると、反撃を試みようと、ヴライの方を見やろうとするが―――。

「温いぞ、オシュトルっーー!!」
「っ!?」

直後、無惨は己の眼前に迫った拳を視認する。
灼熱を纏ったその拳は、無惨の頭蓋を粉砕せんと迫ってくる。

「この獣風情がぁっ!!」

しかし、無惨は瞬時に背後から触手を射出。
迫りくる拳を遥かに凌駕する速度で、漢の頭部に放たれる。

「ぬっ!?」

差し迫る高速の触手。
瞬間、思わぬ反撃にヴライは目を見開いて驚愕を露わにする。

バゴォン!!

衝突音が木霊すると同時に、ヤマト最強の巨体は大きく揺らいだ。
貫通するまでは至らずとも、無惨の触手はカウンター気味に漢の顔面に直撃し、その衝撃によって後方へとその巨体を仰け反らせたのである。

だが、今の攻防で面食らったのは漢だけではない。
射出した触手が、先端から炭化して崩れ落ちていく様を見て、無惨もまた眉根を寄せて表情を曇らせる。

(……おのれ、奴め……)

今の一撃―――本来であればヴライの頭は果実のように弾けて潰れていた筈だ。
だが実際は、触手が直撃する寸前、漢の全身は業火に包まれると、触手を燃焼させて、その威力を殺したのである。


821 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:28:06 2pE6U4UU0
しかし、そんな無惨の思考も束の間―――。

「――ぐおおおぉっ!!」

ヴライは直ちに体勢を立て直すと同時に、カッと目を見開き、無惨を一瞥。
顔面から夥しい出血を流しつつも、咆哮とともに振りかぶるようにして、炎槍を投擲。
無惨は即座に回避を試みようとする。
しかし、至近距離からの射出を避けられよう筈もなく――。

ド ガ ァ ア ッ!!

オシュトル扮する無惨は爆裂を浴びた。
血飛沫と肉片が飛散して、猛烈な爆炎の中で、無惨の身体は焼け爛れていく。
その姿を見れば、誰もが無惨の絶命を疑わないだろう。
投擲主であるヴライもまた、決着を確信したに違いない。

しかし――。

「――私は忙しい……」
「――っ!?」

冷たい声が響いた同時に、無数の触手が、炎を背に宿して、飛び出した。
ヴライは、咄嗟に両腕を交差させ防御態勢をとるが、触手の雨は弾丸の如き勢いで、その肉体を穿たんと殺到する。

「ぬぐぉおおおおおおっ!?」

苦悶の声とともに、ズガガガッ!!と鈍器で殴打するかのような音が連続して木霊する。
ヴライは全身に炎を発現させ、触手の威力をどうにか軽減させている。
しかし、それでも着実にその身体にダメージは蓄積されていく。

「貴様なぞに構う暇などない……」

オシュトルの姿をした鬼の首魁は、爆炎から姿を現した―――焦げて千切れてズタボロとなっていた、その偽りの身体を再生させながら。
焼き爛れた皮膚は綺麗な肌色を取り戻していき、肉塊は元の形に修復され、そして吹き飛んでいた肉の仮面が、再びその顔を覆う。
それはまるで、ビデオを巻き戻すかのような光景。

「身の程を弁えろ、この害獣風情がッ……!!」

無惨は、非情に、冷淡に、その鋭い視線は漢を射抜きつつ、触手の放射を一気に加速させた。

「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

畳み掛けに来た無数の触手に対し、ヴライは咆哮。
と同時に、腕を大きく振り回し火炎を噴出する。
押し寄せる紅蓮の炎に触手は飲まれていくが、そのまま無惨をも飲み込まんとする。
しかし、無惨は瞬時に後方へ跳躍し、射程圏外へと逃れる。

「貴様…オシュトルではないな!?」

全身から生やされる異形の触手に、仮面も含めた身体の再生――。
そのどれもが、ヴライが知る『オシュトル』には成し得ないものである。
その確信とともに、間髪入れず、ヴライは両の手に炎槍を顕現し、投擲。
無惨は、これらの悉くを躱し、夜の街に立て続けに爆音が轟く。

「ふんっ、獣畜生にも、真贋を見分ける程の知性は心得ているか……」
「貴様、何者だ!!」
「吠えるな、耳障りだ」

怒声とともに、爆撃を繰り出すヴライ。
無惨はその猛攻を掻い潜りながらも、触手、触腕を振るい、反撃を繰り出していく。
圧倒的火力を撒き散らす武の頂に対して、鬼の王はその俊敏性を以て応戦する。
炎槍とともに爆音が巻き起こり、触手とともに突風が吹き荒れる。
たった二人の参加者による激闘により、道路が、外壁が、街灯が、家屋が、次々と破壊の渦に巻き込まれていく。
それはまさに、天変地異にも等しい光景であった。


822 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:29:05 2pE6U4UU0
「むんっ!!」

ヴライは、天を突き上げるほどの飛躍を行なってから、ありったけの炎槍を連投。
世界そのものを震わすような、凄まじい振動とともに、大地は爆ぜていく。

「何故、私が貴様のような下等な獣と口を利かねばならぬか甚だ疑問だが―――」

地に降り注ぐ爆撃を、後方に大きく跳躍し回避した無惨。
そのまま、ビルの外壁に触手を突き立て、その身体を張り付かせると、地上に着地したヴライを見下ろす。

「貴様に特別に慈悲をくれてやる―――」

そう言うと、無惨は東の方角へとその指をさす。
その不可思議な無惨の言動に、ヴライは動きを止める。

「貴様が固執するこの面貌の漢―――オシュトルは、『遺跡』にいる。
理解できたか? もう一度言う。オシュトルは『遺跡』にいる。
理解できたな? 理解できたなら、早々に消え失せろ」

まるで、出来の悪い家畜に言い聞かせるかの如く、無惨はヴライを睨みつけながら吐き捨てた。
無惨としては、こんなところで時間を無駄にしている場合ではない。
一刻も早く、麗奈確保のための手を打たなければならない。
この忌まわしい獣を排除したいのは山々だが、崩壊した市街地の惨状を見た通り、ヴライの火力は呆れるほどのものであり、このまま戦闘を継続しても、骨が折れるのは目に見えている。
故に、ここはヴライが喰らいつくであろう餌を与えて、さっさと退散させるに限ると、判断したのである。

「――オシュトルが……」

無惨が指し示した方角に目を向けながら、ヴライは呟いた。
宿敵たる漢が其処にいる――その情報を噛み締めるように。
結果として、戦場に一時の静寂が訪れる。
だが、しかし―――。

「むぅんっ!!」
「――ッ!?」

ヴライは無惨の方に向き直るや否や、炎槍を投擲。
無惨は咄嵯にビルから飛び降り、これを回避。直後、無惨が張り付いていた壁が爆音を響かせながら弾け飛んだ。
瓦礫と共に着地した無惨。そこに向けてヴライは跳躍―――勢いそのまま、拳を振り上げ殴りかかる。

「おのれ、理性なき獣がッ――」

迫り来るヴライを見上げながら、無惨は苛立ちとともに、無数の触手を射出―――これを迎撃せんとする。
しかし、ヴライはそれを意にも介さない。
その真紅の双瞼はただ真っ直ぐに無惨を捉えている。
そして、振り上げている拳を中心に、ヒノカムの力が収束していき、業火となって顕現する。

「――蟲如きが……」

ヴライは怒りを募らせていた。
目の前のオシュトルを模した、見様見真似の贋作に対して――。


823 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:29:22 2pE6U4UU0
かつてヴライが敬った、ヤマト最強の老将の剣技を、継承している訳でもなく。
現人神たる帝、そして、帝が愛した國(ヤマト)に身命を捧げている訳でもなく。
ヤマトを守護するたるに相応しい者だけが賜われる仮面(アクルカ)―――その重責すらも知る由もなく、平然とその贋作を装った不敬者。
己を、ヤマトを、帝を、そして己が宿敵と定めた者すらも、冒涜した下賎な輩に、かつてないほどの不快感を覚えていたのだ。

ゴオオオオオオオオオオオ!!

ヴライの拳に宿る炎が、湧き上がる憤怒に比例して激しさを増す。
燃え盛る炎は、迫る無惨の触手を飲み込み、やがてヴライは無惨に肉薄。
奇しくもその光景は、半日ほど前に平和島静雄がヴライに対して行ったそれと、酷似していた。

「よくも我等を愚弄したなっ!!」
「貴様ッ――」

ド ゴ ォ ン!!

瞬間、紅蓮に燃える拳は、無惨の胴体を捉える。
武神たる漢の全力の拳撃の威力は、無惨がこの会場で受けたいかなる衝撃よりも強力無比。
凄まじい殴打音とともに、無惨の身体は発火を伴いながら、天へと吹き飛ばされる。
そして、会場の夜を照らす星となり、ヴライの元から消え去った。

「貴様如き蟲が、我が敵を騙るなど笑止千万っ!!
二度と我が前に現れるなっ!!」

ヴライは夜天に吼えると、踵を返し、再び歩みをはじめる。
その進行先は、無惨より告げられた遺跡--。
無惨からの情報に確証がある訳ではない。しかし、捨て置くには余りある情報だった。

故に、ヴライは歩を進める。
宿敵オシュトルが潜んでいるという遺跡へと向かって。

【E-7/夜/市街地跡/一日目】
【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:ダメージ(絶大)、疲労(絶大)、額に打撲痕、左腕に切り傷(中)、火傷(絶大)、頭部、顔面に複数の打撲痕、右腕に複数の銃創、シドーに対する怒り、顔面に爆破による火傷、全身にガラス片による負傷、全身に銃弾と針による負傷、無惨に対する怒り(極大)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ヴライの仮面(罅割れ、修理しなければ近いうちに砕け散る)@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一式、不明支給品2つ 、大量のヤシの実サイダー(現地調達)@とある魔術の禁書目録
[思考]
基本:全てを殺し優勝し、ヤマトに帰還する
0:遺跡へと向かい、オシュトルと雌雄を決する
1:あの男(シドー)もいずれ殺す
2:アンジュの同行者(あかり、カタリナ)については暫くは放置
3:オシュトルとは必ず決着をつける
4:デコポンポの腰巾着(マロロ)には興味ないが、邪魔をするのであれば叩き潰す
5:皇女アンジュ、見事な最期であった……
6:あの術師(清明)と金髪の男(静雄)とオシュトルの贋作(無惨)に再び会ったら葬る。
[備考]
※エントゥアと出会う前からの参戦です。
※破損したことで、仮面の効能・燃費が落ちています。
※『特性』窮死覚醒 弐を習得しました。


824 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:30:10 2pE6U4UU0



「おのれ、下等生物どもがッ……!!
揃いも揃って、私の邪魔ばかりしてくれるッ!!」

ヴライの拳を受けて、彼方まで吹き飛ばされてしまった無惨。
既に先の戦闘での損傷は癒えており、オシュトルを模した肉体は綺麗に復元されている。
だが、その表情は屈辱と激情に染まっていた。
先のヴライもそうだったように、この殺し合いで出会う参加者は、その悉くが無惨の行動を阻み、彼の神経を逆撫でしてくる。

連中が生きようが死のうが、一切興味はない。
殺し合いたいならば勝手に殺し合えばよい
生きたいのならば、勝手にもがき足掻けばよい。
だから、くれぐれも私の邪魔だけはしてくれるな---単純明快にして、これ以上ないほどにシンプルな理屈だ。
なのに、奴らはそんな道理すらも理解できない。

「――駄犬め、どこにいる……」

連中の雁首を揃えて、駆逐してやりたいという気持ちが沸き立つが、自分は連中とは違い、実利を重んじる。
故に、ここは沸騰するが如く湧き上がる激情を抑え込み、麗奈探索へと思考を切り替えた。

「必ず見つけ出してやる」

――あの女は、陽光克服のための要。故に殺しはしない。
――だがもう二度と愚かなことを企てぬよう躾は必要だ。
――私の手をここまで煩わせた故、相応の仕置きは、覚悟してもらおう。

先のヴライとの邂逅といい、何事も思惑通りに進まない怒りを、麗奈への苛立ちに転嫁する無惨。
その苛立ちに、千年以上に渡る生への執着を上塗りし、麗奈への執念を燃え上がらせつつ、無惨はフィールドを彷徨うのであった。


825 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:30:30 2pE6U4UU0
【D-8/夜/市街地/一日目】

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(極大)、全身ダメージ(大)、オシュトルの姿、デジヘッド化(無自覚、浸食率低め)、麗奈の回復スキルにより回復力向上
[服装]:ペイズリー柄の着物
[装備]:シスの番傘@うたわれるもの 二人の白皇(麗奈の支給品)
[道具]:不明支給品1〜3、累の首輪、鈴仙の首輪、オスカーの首輪
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない
0:まずは麗奈を確保する。
1:麗奈確保の為の人員として、他人の姿(現在はオシュトルの姿のまま)で他の参加者を利用する。
2:太陽克服のカラクリを究明するため、ウィキッドから『デジヘッド』の情報を吐かせる。
3:私は……太陽を克服したのか……?
4:麗奈は徹底的に利用する。まずはこいつの能力の詳細を確認し、太陽克服のカラクリを探る。問題ないようであれば、麗奈を吸収することも視野にいれる。
5:昼も行動するため且つ鬼殺隊牽制の意味も込めて人間の駒も手に入れる(なるべく弱い者がいい)。
6:逆らう者は殺す。なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。
7:鬼の配下も試しに作りたいが、呪いがかけられないことを考えるとあまり多様したくない。
8:『ディアボロ』の先程の態度が非常に不快。先程は踏みとどまったが、機を見て粛清する。よくも私に嘘をついたな。ただでは殺してやらない。
9:垣根、みぞれ、オシュトル、ロクロウ、臨也は殺しておきたいが、執着するほどではない。
10:あの獣(ヴライ)とは、二度と関わらない。
[備考]
※参戦時期は最終決戦にて肉の鎧を纏う前後です。撃ち込まれていた薬はほとんど抜かれています。
※『月彦』を名乗っています。
※本名は偽名として『富岡義勇』を名乗っています。
※ 『危険人物名簿』に記載されている参加者の顔と名前を覚えました。
※再生能力について制限をかけられていましたが、解除されました。現在の再生能力は麗奈の回復スキル『アフィクションエクスタシー』の影響で、太陽によるダメージを克服できるレベルのものとなっております。
※蓄積したストレスと、デジヘッド化した麗奈の演奏の影響をきっかけに、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した麗奈からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、麗奈と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※ 攻撃強化スキル『ロジックマイト』を発動できるようになりました。無惨自身の生命が脅かされ、それによるストレスが蓄積された状態になると、無自覚に発動します。
※ 太陽光によるダメージで、身体の一部が炭化し、消失しました。
その影響で全身にダメージを負っています。
現在は麗奈との距離が縮んだおかげで、陽光を浴びてもダメージは受けませんが、消失によるダメージを回復するために、人間の血肉を食らう必要があります。
※今はオシュトルの姿に擬態しています。


826 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:30:53 2pE6U4UU0



「で、どうするんだ?」

夜空に沈んでいった正体不明の火球。
その星が堕ちる瞬間を、狙撃銃のスコープで捉えていたレインに、静雄は問い掛ける。

「方針は変えないです。
先程話した通り、近隣の施設を見て周りましょう」

スコープに映し出されていたのは、火だるまになっていた人の影であった。
その人物像までは分からなかったが、恐らく何らかの戦闘にでも巻き込まれたのだろう。
その飛翔速度と軌跡から察するに、火だるまになった者は、その生死は不明であるが、北東の『早乙女研究所』付近に堕ちたかと思われる。
そして、吹き飛ばした相手方は、恐らく自分たちがいるエリアから東の方角の、そう遠くない場所にいるだろう。

燦々と煌めく炎の影に、ゴルフボールのように遠方に吹き飛ばされる人間――。
これを成し得る人物に、先に遭遇した仮面の巨漢の姿を思い浮かべながら、レインはそのように分析していた。

「……どうした?」
「いえ、何でもありません。
先を急ぎましょう」


だが、レインはその事実と考察を静雄には伏せたまま、静雄が跨る自転車の後部に、ぴょんと乗り込んだ。

―――情報は適切に扱わなければならない。

この判断は、先の教訓からえたもので、余計な情報の開示は、いらぬ混乱と、自分達の行動範囲を狭める可能性がある。
仮に、近隣エリアにあれを引き起こした危険人物がいると静雄が知れば、「そいつがアリアちゃんを殺した奴かもしれねえ、ぶっ殺す!」などと言いかねないから。

(今は、何よりも他の参加者と接触して、情報が欲しいところですね……)

これまで、接触できた参加者が少なかった手前、解析屋たるレインの元には、まだ十分な材料が揃っていない。
主催者の思惑、首輪への対応、他参加者の動向及びその勢力図―――。
解析屋として、これらを掌握していくためにも、情報収集こそが急務であるのだから。


827 : 天翔けるもの ―偽りの仮面― ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:31:19 2pE6U4UU0
【E-6/夜/市街地/一日目】

【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、全身火傷(大・処置済み)、出血(小〜中、止血済み)、全身に複数の切り傷(小)、精神的ダメージ、全身に複数の打撃痕、レインの仮説による精神的躊躇(小)
[服装]:いつものバーテン服(ボロボロ)
[装備]:なし
[道具]:見回り用の自転車@現地調達品、コシュタ・バワー@デュラララ!!
[状態・思考]
基本行動方針:主催者を殺す。
0:近隣施設を探索してみる。
1:黄前久美子、高坂麗奈、十六夜咲夜を探した後、隼人達と合流。
2:仮面野郎共(ミカヅチ、ヴライ)は絶対殺す。
3:やっぱりノミ蟲(臨也)は見つけ次第殺す
4:竜馬の知り合いに遭ったら一応伝えておいてやる。
5:彩声との約束を守るため、梔子を護る。
6:仮面をつけている参加者を警戒。
7:久美子と会ってセルティの話を聞きたい。
8:新羅の死の真相が知りたい。
[備考]
※参戦時期は少なくともセルティが罪歌と関わって以降です。
※静雄とミカヅチの戦闘により、公園が荒れ放題となっております。
 仮面アクルカによる閃光は周辺地域から視認できたかもしれません。
※彩声の遺体は喫茶店に運び込まれています。
※梔子と情報交換しました。
 ただウィキッドは仲間の義理として細かくは説明してません。

【レイン@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[服装]:普段の服
[装備]:ベレッタM92@現実、レミントンM700@現実
[道具]:天本彩声の支給品(基本支給品、ランダム支給品×0〜2)
[状態・思考]
基本行動方針:会場から脱出する
0:近隣施設を探索してみる。
1:黄前久美子、高坂麗奈、十六夜咲夜を探した後、隼人達と合流。
2:『アリア』に対し、疑念。確証はないが、彼女に関しての情報は集めておきたい。
3:情報は適切に扱わなければ……
4:サンセットレーベンズメンバーとの合流を目指す。
5:μについての情報を収集したい。
6:琵琶坂、ウィキッド、無惨に警戒。
7:竜馬の知り合いに遭ったら協力を仰いでみる。
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後、カナメ達とクランを結成した頃からとなります。
※ヒイラギが名簿にいることから、主催者に死者の蘇生なども可能と認識しております。
※彩声の支給品はレインが回収しました。
※『参加者は赤の他人がキャラクターになりきってる』と言う説と、
 『それが参加者が折れ殺し合いをするしかない結論をさせる為の罠』説を立ててます。
 どちらも確証はありません。(前者の方は辻褄が合い、後者の方は発想の逆転のようなもの)
※梔子と情報交換しました。
 ただしウィキッドには仲間であるため細かく説明してません。


828 : ◆qvpO8h8YTg :2023/08/03(木) 20:31:51 2pE6U4UU0
投下終了します


829 : ◆qvpO8h8YTg :2023/09/19(火) 00:01:10 FR5c1MP20
神隼人、クオン、東風谷早苗、梔子、ライフィセット、梔子、ブローノ・ブチャラティ、アリア(Caligula)予約します


830 : ◆qvpO8h8YTg :2023/10/02(月) 22:23:30 bys7Ym9o0
延長します


831 : ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:25:04 32pUp7PA0
投下します


832 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:25:45 32pUp7PA0



その者は、抗う。
このままでは、己が存在は朽ちることを悟っているが故、生きる手段を模索する。

その者は、求める。
己が居場所を失った故、新たな住処を求めている。

その者は、彷徨う。
衰弱した自らの『おんぼろ』な身体に鞭を打ちながら。
地を這い、懸命に己が生を守らんとする。


833 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:26:15 32pUp7PA0



『それでは、また次の放送でお会いできることを願っております。?
ご機嫌よう?。』

 天より降りしは、自らを女神と名乗る主催者の女の声。
 恒例となった口上で自らの放送を締めると、それに代わり、もう一人の女神がその美しき歌声を響かせていく。


―――爆弾持って立ってた 淡々と黙ってた
―――薄幸の悪性腫瘍 だんだん膨らんできた
―――マイナス思考の英知も 傷を広げるイメージも
―――この現実の不条理を ぶっ壊すためのツールさ


 『おんぼろ』―――。オスティナートの楽士、梔子が自らの怨嗟と絶望を吐き出したその楽曲は、梔子当人を含む七名の参加者と、一機のバーチャドールが集う廃城の広場に等しく響き渡る。
 幾重の戦闘を経た彼らの身なりや格好は、『おんぼろ』という曲名に等しく、傷と土埃に塗れたものとなっている。
 そして、絶叫に近い歌声が響く中、広場に漂うは、鉛のように重苦しい空気と、啜り泣く少女の声。

「――馬鹿野郎が……」

 俯いたまま、ポツリと呟く隼人。
 脳裏に浮かべるは、ゲッターのパイロットとして、同じ釜の飯を食らった戦友の姿。
 表面上は平静を装ってはいるが、放送で知らされた、武蔵坊弁慶の死―――。その事実は、冷徹なゲッターの追究者たる神隼人の心に、確かなさざ波を引き起こしていた。

「……隼人……」

 その証拠に、彼の傍にいるアリアは、気付いていた。
 先の隼人の声色には、僅かばかりの寂しげな響きがあったということに。
 しかし、バーチャドールである彼女には、このような時に彼に何をしてあげるべきなのか―――その最適解を見出せずにいた。
そのまま、隣で平静を装う青年の横顔を伺うことしか出来ず、刻一刻と時間が過ぎていく。それでも何か声を掛けねばと、アリアが口を開こうとしたその瞬間―――。
 
「皆、少し良いか? 今後の方針について、改めて確認しておきたいのだが……」

重い沈黙を破るかのように、ブチャラティが一同に声を掛けた。
先の放送内容、特に死亡者の告知については、彼らが取り決めた行動方針を揺るがしかねないものであった。
 故に、改めて情報を整理した上で、必要あらば今後の方針を見直す。その意図を理解した一同が、ブチャラティの声に反応し、一斉に彼に視線を寄越す―――

「こちらも望むところだ。 だが、まだ少し時間が必要な奴もいるようだ」

が、それを遮るように隼人が口を開く。
 彼の視線は広場の隅へと向けられており、ブチャラティ達はそれを追うように、釣られてそちらの方を見やる。

「……ぐすっ、霊夢さん……」

 そこには、膝を抱え、肩を震わせるおんぼろな巫女の姿があった。


834 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:26:35 32pUp7PA0



「っ……、ぅ……」

 早苗は、ブチャラティ達のいる広場から、壁を幾つか隔てた先の部屋にいた。
 部屋といっても、この場合は元部屋と呼ぶのが正しいかもしれない。
 ボロボロの壁と、夕天の風に晒されるベッドやテーブル、椅子の数々。
 床は所々抜け落ち、天井はない。
 そんな殺風景な場所で、独りで膝を抱えて蹲っていた。
 
 これは、「暫くは独りにしてあげた方が良い」というクオンの提案によるもので、彼女はクオンに肩を預ける形で、この場所に連れ添われた。

「……こういう時は無理はせず、自分の感情に正直になった方が……。
思いっきり、泣いた方が良いと思うかな……」

 クオンは悲しみに暮れる早苗に、優しく諭すようにそう告げると、ブチャラティ達の元へと戻っていった。
 それから、早苗はずっと此処に独りでいて、その頬には、幾筋もの涙の痕が伝っている。

『れ、霊夢さん!? 無事で──』
『早苗、あんたね〜〜〜!!』
『いひゃい、いひゃいれふ!!』

 つい数時間前に、霊夢につねられた頬が無性に疼く。
 幻想郷では、当たり前のように行われていた霊夢との何気ないやり取り。
 そんな当たり前であった彼女とのひと時は、今はとても遠くに感じる。
 もう彼女と触れ合うことも、おしゃべりすることもできない。

『早苗、私はカナメのやつを追いかけるから後は頼んだわよ』
『はっ、はい』
『霊夢さん...また会いましょうね』

 妖夢も、魔理沙も、鈴仙も、霊夢も、皆、自分を残していってしまう。
 早苗の当たり前の日々にいた彼女達は、今や手の届かないところにいる。
 早苗は、それがどうしようもなく寂しくて、心細くて……。

「うぅぅ……うわぁぁぁああああん!!」

 再び大声で泣きじゃくる。
 東風谷早苗は、神に選ばれし少女―――奇跡を起こす、現人神。
 しかし、その精神は、年相応の少女のそれだ。
 決して強固なものではない。

 立て続けに同郷の友人達を失くした、早苗の心は『おんぼろ』となっていた。

 だから、早苗は思いっきり泣いた。
 涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃにしつつ、クオンの言葉に従って、ただひたすらに泣き続けた。


835 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:27:23 32pUp7PA0



―――生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい

 その者は、己が生存本能の赴くままに、地を這う。
 瓦礫の中を掻い潜り、懸命に前へ進んでいく。
 安住の地を追いやられた自分は、このままでは朽ち果ててしまう。
 その危機感が、彼の者を駆り立てている。

―――生きたい、生きたい、生きたい、生きたい、生きたい

 ただひたすらに、生への渇望を抱きながら、必死にその小さな足を動かし、次なる住処を探す。

やがて―――。

『……こういう時は無理はせず、自分の感情に正直になった方が……。
思いっきり、泣いた方が良いと思うかな……』

―――見つけた……!!

 かつてマロロに寄生し、その人格と記憶を歪めていたその蟲は、その生存本能の行く末に、察知したのだ。
 新たな宿主になりうる少女の存在を―――。


836 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:28:33 32pUp7PA0



「それでは、俺達も出発するとしよう」

 ムーンブルク城跡の、もはや門としての機能は完全に失っている出入口に姿を見せるは四つの影。
 今まさに遺跡に向けて発とうとしているブチャラティ、ライフセット、梔子と、それを見送ろうとするクオンであった。

 早苗を一人部屋に残し、クオンが皆の元に戻った後、一同は、先の放送の内容を踏まえて、今一度、今後の方針について話し合った。
 その結果、一同は三組に分かれて行動することとなった。


 一組目は、隼人と九郎――。
 元々、対フレンダを想定したうえで、顔見知りの九郎が、研究所に向かう隼人に帯同する予定であったが、当のフレンダが死亡したと知らされた今、九郎の同伴が本当に必要なのか――その要否が改めて議論されることとなった。
 そして議論の末、当初の予定通りに、二人が、病院を経て、研究所に向かうこととなった。
 フレンダと彼女を連行していた霊夢が死亡した現状、最も気掛かりなのは、彼女らと同伴してカナメの安否である。
 出来うることなら彼との合流を望みたいところであるが、それを考えると、彼の顔見知りである九郎がいた方が何かと円滑に進むだろうという結論に至ったのである。
 そして彼らは、一足先に目的地に向けて城を発ち、この場にはもういない。
 
 
 二組目は、ブチャラティとライフィセット、梔子――。
 議論の結果、彼ら三人も、当初の予定通りに遺跡へ赴くことととなり、今に至っている。
 遺跡には、彼らの知り合いが何人も向かっているとされる。
 その内、ブチャラティと一時行動を共にしていたアリアと新羅は、第二回放送のセルティ・ストゥルルソンの脱落が告知され、その後が危惧されていたが、残念なことに今回の放送で両名とも、その名前を呼ばれてしまった。
 
 遺跡に向かったとされる知己の死亡―――。
 同じく遺跡を目指していたという偽ブチャラティの存在―――。
 これから足を運ぶ目的地には、そういった不穏分子が待ち構えている―――。
 そう考えると、三人の表情は自ずと引き締まったものとなっていた。
 
 
 残す二人――クオンと早苗は、早苗が落ち着くまでは、城で待機。
 その後、改めて早苗の意思を確認したうえで、隼人達の病院組、もしくはブチャラティ達の遺跡組のどちらかを選択の上、追うこととしている。
 また待機中に、弁慶たちの援護に向かっていった静雄たちが戻ってくるようなことがあればそれで良し。戻ってこなければ、書き置きを残すこととした。
 
 
 そういった段取りで、ブチャラティ達もいざ遺跡に向けて発とうとしたタイミングで―――。
 
「あのさ、クオン―――」
「……? 何かな、ライフィセット?」

 ライフィセットがとある事を思い出して、おずおずとクオンに声を掛けた。
 
「……その、ムネチカが仕えていた、アンジュって子のことなんだけど……」
 
 先程、病院で邂逅したヴライの言葉。
 漢が告げたアンジュの最期について、彼女の友人だったというクオンにも伝えてあげるべきだと思ったのである。
 
「……アンジュが、どうかしたのかな……?」
 
 この会場で亡くなったとされる友人の名を耳にしたクオン。
 改めて彼女の名を改めて聞いた瞬間、生前の彼女の姿と、彼女が白楼閣に出入りしたあの頃の記憶が、脳裏に蘇り、表情を曇らせた。
 しかし、それも束の間。ライフィセット続きを促す。
 
「うん、実は―――」
 
 そして、ライフィセットは語り出す。
 病院でヴライと邂逅した時に、彼から、ムネチカに言伝があったことを。
 そして、それがアンジュの最期に関するものであったことを。

「--そっか、そういうことがあったんだね……」

 ライフィセットから話を聞き終えたクオンは、沈痛な面持ちで呟いた。


837 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:29:15 32pUp7PA0
「うん……だから、その――」
「分かったよ、ありがとう、ライフィセット。伝えてくれて……」

 気遣うように声を掛けてくるライフィセットに、クオンは優しく微笑む。
 ぱっと見、平常心を保っているように見える。
 だが、その実―――。

(剛腕のヴライ―――)

 彼女の拳は、震えながら、固く握り締められており、その場にいる誰もがそれに気付いていた。
 ライフィセットはあくまでもヴライから言伝をありのままに伝えただけなので、直接言及することはなかった。
 しかし、クオンが、その内容とヴライの性分から、アンジュを手に掛けたのはヴライであると、推察するのは極めて容易であった。

(ハクだけなく、アンジュまで―――)

 アンジュとの最後のやり取りは、決して仲睦まじいものではなかった。
 この殺し合いに呼び込まれる直前、トゥスクル皇女として、彼女の心を折るために、彼女を叩きつけたときの感触は、今も記憶に新しい。
 けれど、それはアンジュを含む、ヤマトに残してきた皆を護るための行動――。
 時折白楼閣には来ては、ルルティエの私有物を物色したり、つまみ食いをしたり、半泣きになりながらムネチカに追いかけ回されたりと―――そんな彼女の姿もまた、ハクがいたあの日常には、欠かせないものであった。

(あの漢にッ……!!)

 故に、クオンが大切にしていたあの日々を――。
 かけがえのない人々を―――。
 その理不尽な暴力で以って、蹂躙する武人に対し、黒い感情が沸き上がってしまうのは、無理からぬことであった。
 ハクの死に関しては、オシュトルに対しても不信を抱かざるを得ないが、それでも元を辿れば、諸悪の根源はヴライにある――。
 今回のアンジュ殺害の一件によって、クオンは改めてその事実を痛感することとなった。

 そんな折――。

「―――奴が憎いか……?」

クオンの心情を察したのか、それまで傍観に徹していた梔子が、突如として口を開く。

「えっ……?」
「察するに、クオンの友人は、あの漢に殺されたのだろう?
ならば、貴女には奴を憎み、恨む権利がある」
「……うん……」

 梔子の言葉に、クオンは顔を曇らせながらも、頷く。
 梔子の指摘は、クオンの心中を見事に見抜いており、事実クオンの心は、ハクとアンジュの仇討ちに傾いていた。


838 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:29:43 32pUp7PA0
「だが、貴女にはまだ残されている者もいるはずだ」
「……っ!?」

 しかし、続けて告げられた言葉に、クオンは目を見開いた。
 梔子は、これまでの経緯から、クオンにはまだムネチカという友人がいて、そのムネチカがベルベット・クラウ達に囚われていることを知っている。
 そして、ムネチカが囚われの身になっていると知った際には、クオンが怒りの感情を露わにしたことも。

「私は貴女の復讐を否定しない……。
だけど、まだ大切なものが残っているならば、優先順位は違わない方が良い」
「……。」

 クオンは口を噤み、俯いた。
 梔子は、クオンが何かと気にかけていたムネチカの存在を指摘した。
 しかし、その言葉によって、クオンが脳裏に過ぎったのはムネチカだけではない。
 オシュトルを待つネコネを始めとした、ヤマトに残された大切な仲間たちを思い浮かべたのである。

 やがて、暫しの沈黙が場を支配した後、クオンは決心したように口を開いた。

「……うん、そうだね……。確かに私はまだ皆がいる……。
ありがとう、梔子。貴方のおかげで、自分のやるべきことを再確認できたかな……」
「礼には及ばない。まだ全てを失っていないというのであれば、残されたものを大事にしてほしいと思っただけのことだ……」

 梔子は、そう言うと踵を返し、城から立ち去っていく。

「--梔子……。」

 全てを失った少女にとって、まだ大切なものが残されているクオンは、羨ましく感じたのかもしれない。
 そんな梔子の去り際の表情は、ライフィセットから見て、どこか寂しく、そして儚げであった。

「僕達も、出るよ、クオン。また後で……」
「早苗のことは、宜しく頼む」
「うん、三人とも気を付けてね……。
くれぐれも無茶はしないで欲しいかな」

 ライフィセットとブチャラティも、梔子を追うように、クオンに一言告げ、その場をあとにする。

(……私が採るべき道は――-)

 三人の背中を見守りながら、クオンはこれからの行動方針について、心を
落ち着かせながら逡巡するのであった。


839 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:30:13 32pUp7PA0



「ちょっと、ちょっと、九郎! 本当にここで合っているの!?」
「ああ、間違いないよ、アリア。 僕たちはつい数時間前まではここにいたから……。
だけどこれは―――」

 ムーンブルク城を先に発った隼人、九郎、アリアの三人。
 一行は、病院への道のりを把握している九郎が案内する形で、南東の平原を渡り、程なくして目的地へと辿り着いた。
 しかし、三人の眼前に拡がっていたのは―――。

「酷い有様だな」

 隼人が眉を寄せて呟き、九郎とアリアは呆然と立ち尽くす。
 それを一言で表すなら、焼け野原だった。
 辛うじて一部のエリアだけは現存しているものの、そのほとんどは灰塵に帰し、辺り一面、焦土と化している。
 九郎達が滞在していたころの影は見る影もなく、至る所から立ち上る煙だけが、ここで大爆発を伴う激しい戦いが行われていたことを如実に物語っていた。
 これを引き起こした災害の元凶に、九郎は心当たりがあった。

「――剛腕のヴライ……。」

 クオンから齎されたヤマト最強とうたわれる武士の名が、九郎の口から零れる。
先の戦闘ではブチャラティが辛くも撃退したとのことだが、恐らくは絶命には至らなかったのだろう。
 その後、此の地にやってきた何者かと交戦―――。その果てに、この災害が齎されたのだろう。
 ヴライの猛撃を身を以って体感している九郎は、そのような想像を巡らす。

「おい、九郎―――」

 そんな九郎の思索を遮ったのは、隼人であった。
 彼は、未だ立ち尽くすアリアと九郎をそっちのけて、病院だったものの残骸の中を探索していた。

「お前たちが言っていたフレンダというガキは、こいつのことか?」
「え?」

 親指を背後に向けた隼人に、九郎とアリアが、彼の下へと歩み寄る。  

「……っ!!」

 そこにあったのは、瓦礫の下敷きになって息絶えている金髪の少女の亡骸―――。
 つい先刻まで行動を共にしていた少女の痛ましい姿を前に、九郎は沈痛な面持ちで唇を?みしめた。

 どことなく調子の良い言動を振り撒き、それでいて西洋人形のような愛くるしさを装っていた少女―――。
 活力に満ちていた、あどけない面貌は絶望の蒼白に染まり―――。
 目は見開いたまま、サファイアのように煌めいていた瞳からは、既に光が失われている。
何か嘆願しているように口も半開きのまま、まるで今でも助けを待ち焦がれているような死に顔を浮かべていた。

「……ええ、彼女がフレンダ=セイヴェルンです……。」
「そうか」

 フレンダは、我が身可愛さに他の参加者を騙し、時には害そうとまでした、と聞き及んでいる。
 それだけ聞けば、迷惑千万な存在ではあったのだが、九郎自身は彼女によって実害を被ったわけではない。
 むしろ、成り行きではあれど、彼女の機転によって助けられたこともあった。
九郎は確かに、妖達が恐れる、人ならざるチカラを得た異能者だ。
 何度も死んでは再生を繰り返しているが故、人の生死についても、どこか達観した視点で俯瞰できるようになっている。
 しかし、だからといって、短期間ではあれど、共に苦楽を共にした少女の変わり果てた姿を目の当たりにして、何とも思わないほどの冷血漢ではなかった。


840 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:30:44 32pUp7PA0
「ふ、二人とも!! ちょっとこっち見てよ!!」

 フレンダへの哀悼の意を胸に抱いていた九郎に、今度は明後日の方向を見ていたアリアが声を張り上げる。
 九郎と隼人が、彼女の指差す先に視線をやると、そこには――。

「こいつも、仲間か……?」
「……。」

 フレンダの亡骸の対角線上に、黒焦げとなった焼死体が夜風に晒されていた。
黒焦げになってはいるものの、それは間違いなく人の形をしており、辛うじて女性のものと見て取れる。
 そして身長や体型から察するに、それは――。

「恐らくは、博麗霊夢―――フレンダと一緒に行動していた彼女だと思います……」

 神を司る巫女という職業柄にしては慎ましさというものは全くなく、言いたいことははっきりと言い放ち、それでいてどことなく頼りになる少女―――それが、僅かな交流を経て、九郎が霊夢に対して抱いていた印象であった。

 そんな彼女も、今や見るも無残な姿になり果てている。
 恐らく、病院を発った後、何らかの理由で病院へと引き返して、ヴライと鉢合わせ―――交戦するものの、フレンダ共々、ヴライの圧倒的な火力の犠牲になってしまったのだろうか。

「どうするつもりだ?」

 沈痛な面持ちで少女達の遺体と向き合う九郎に、隼人は問いかける。
 それが、彼女たちの埋葬を行うか否かの是非を問うていることを察した九郎。
 隼人は合理主義的な立場の人間という心象を持っていたので、そのまさかの気遣いに内心驚きつつも、瞬時に首を横に振る。

「いえ……今は他に優先すべきことがある。急ぎましょう」

 彼女達をこのまま野に晒すのは気が引ける。
 それでも今は、死者よりも生者―――彼女達と行動を共にしていたカナメのことが気掛かりだ。
 まだ現存する施設部分も含めて、付近を捜索すべきだろう。
 九郎はそう結論付け、すぐに踵を返すと、隼人もこれに続いた。

「ちょっと、ちょっと!! 二人とも、置いていかないでよぉ!」

 慌てて二人の後を追うアリアの声を背後から受けながら、九郎はここで、ふと会場のどこかにいるであろう己が恋人の姿を思い浮かべた。

(岩永は、今どうしているんだろうか……)

 この殺し合いが始まってから、琴子ならきっと大丈夫だろうと自分に言い聞かせて、彼女への心配を自制していた。
 しかし、ここにきて数時間前まで面と向かい合っていた新羅、アリアの脱落の報―――。
 それに重ねて、つい先程まで活力に満ちていたはずのフレンダ、霊夢の悲惨な“最期”を目撃したことにより、この会場では参加者の命はいとも簡単に終わってしまうという現実を、嫌でも認識してしまった。

 琴子と同行していた冨岡という男も、かなりの手練れと聞いていたが、彼も先の放送であっさりとその名前を呼ばれてしまっている。
 いくら知恵の神といえど、その身体は人間の少女のそれだ。
 先のヴライのような叡智や知略を覆すような怪物を相手取ることがあれば、一溜りもないだろう。

 そう考えると、不安と焦燥が募っていき、自ずと彼の足は早くなっていくのであった。


841 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:31:10 32pUp7PA0
【D-6/夜/病院付近/一日目】

【神隼人@新ゲッターロボ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(絶大)、出血(大)、カタルシス・エフェクト発現(現在は疲労困憊のため使用不可能)
[役職]:ビルダー
[服装]:普段着
[装備]:ミスタの拳銃@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、ミスタの拳銃(ビルドの作った模造品)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、浜面仕上の首輪、錆兎の首輪、ビルドの支給品0〜2
[思考]
基本方針:首輪を外して主催を潰し帰還する。
0:まずは病院跡を探索。
1:病院を経由して研究所に向かう。
2:病院で使えそうなものが残っているものがあれば回収。
3:ものつくりの能力を利用し有利に立ち回る。現状、殺し合いに乗るつもりはない。
4:主催との対決を見据え、やはり首輪のサンプルはもっと欲しい。狙うのは殺し合いに乗った者、戦力にならない一般人(優先度は低い)。
5:竜馬と合流する。
6:無惨、ウィキッド、ヴライを見つけたら排除。
7:ベルベット、夾竹桃、麦野、ディアボロ、琵琶坂を警戒するが判断保留。
8:静雄とレインと再会したら改めて情報交換する。

※少なくとも平安時代に飛ばされた後からの参戦です
※幻想郷の大まかな概要を聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※カタルシス・エフェクトに目覚めました。武器はドリルです。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 静かに燃える決意、魔王ベルセリアに対する違和感
[服装]:ホテルの部屋着(上半身の部分はほぼ全焼)
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×1〜3、スパリゾート高千穂の男性ロッカーNo.53の鍵
[思考]
基本:殺し合いからの脱出
0:まずは病院跡を探索する。
1:あの彼女(魔王ベルセリア)、何とかしかければ……。
2:岩永を探す 。少し心配。
3:人外、異能の参加者達を警戒
4:余裕があればスパリゾート高千穂を捜索
5:きっとみねうちですよ。
[備考]
※鋼人七瀬編解決後からの参戦となります
※新羅、ジオルドと知り合いの情報を交換しました。
※アリア、ブチャラティと知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました
※魔王ベルセリアに対し違和感を感じました。
※垣根と情報交換をしました。
※隼人、クオン、早苗らと情報交換をしました。

【アリア@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:疲労(大、フロアージャックはしばらく使用不可)、悲しみ(絶大)
[思考]
基本:μを止める、だけど……
0:暫しの休息の後、隼人と共に移動する。
1:永至を信じたい
[備考]
※参戦時期は少なくてもシャドウナイフ編以降。琵琶坂生存ルートです。詳しい時期はお任せします。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・隼人・ビルド・琴子・リュージと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、
Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※フロアージャックはしばらく使えません
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。


842 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:31:52 32pUp7PA0


「さっきの放送でμが歌った曲なのだが―――」

 日没後のうす暗い森の中を、歩んでいたブチャラティ、梔子、ライフセットの三人。
 ムーンブルク城を出発してから、黙々と遺跡を目指していた三人だったが、梔子がふと思い出したかのように口を開くと、ライフィセットは梔子の方を不思議そうに振り向き、ブチャラティはというと、視線を前においたまま反応を示した。

「確か、『おんぼろ』だったか……。
あまり聞いていて、気分の良いものではなかったが―――。それがどうかしたか?」

 ブチャラティの言葉に、ライフセットもうんうんと頷く。
 別に生真面目にμの歌声に耳を傾けていた訳ではなかったが、あの歌詞は殺し合いの中、仲間を失い満身創痍となっている自分達を揶揄しているようなきらいがあり、ライフセットとしてもあまり良い気はしていなかった。

「……すまない、あれは私が楽士として手掛けた曲なんだ……」
「えっ…?」

 しかし、梔子の思いがけない告白にライフィセットは目を丸くし、ブチャラティは今度こそ立ち止まり、振り返って彼女の方を向いた。

「その……すまんな、梔子……」
「いや、気にしないでくれ。貴方達が不快になったのも無理はない」

 少し気まずさを漂わせながら、自分の軽率な発言を謝罪するブチャラティに、梔子はというと、むしろ申し訳なさそうに首を横に振る。

「そうだったんだね……。でも、何で梔子はわざわざ、その事を僕たちに?」
「……μに楽曲を提供していたのは私だ。
さっきのライブで君達の気分を害したのなら、その責任の一端は私にもある……。
だから、一言言っておきたかった」

 作曲者は、自らの作品に、己が想いをつめ込めるというが、梔子もまたあの曲に、自らの感情を打ち込んだ。
 たった一人の悪魔(おとこ)の悪意によって、当たり前のように存在していた幸せを奪いとられた、その絶望を、怨嗟を、慟哭を―――。
 そこには、諸悪の根源たるあの悪魔―――琵琶坂永至に対する、殺意と怨恨も、確かに込められていた。
 そう意味では、他者への害意が含められていたと言っても、否定はできない。
 しかし、それはあくまでも、琵琶坂に対して向けられたものであり、それ以外の人間に対する敵意などは、さらさらない。
 故に、自分と同じように大切な人を奪われ、『おんぼろ』となった参加者達を煽るかのように、この曲を用いた主催者の悪意には、不快感を覚えた。
 と同時に、あのライブを聞いた他の者も、同様に不快な気持ちになるのも無理はないと思ったのである。

「だが、君としても、自分の楽曲がこんな形で利用されるのは、本意ではなかった……。
そうだろう?」
「……ああ……」
「だとすれば、君が謝るのは筋違いだ。
あくまでも連中が、君の楽曲を悪用したまでにすぎない」

 申し訳なさそうに目を伏せる梔子に対し、ブチャラティは淡々とした口調で言い放つ。
 梔子はというと、その言葉を受けて少し間をおいてから、再度「すまない」と呟いて、再び歩を進め始める。
 それに倣って、ブチャラティとライフィセットも暗黒の森の中を歩みだした。

「梔子はさ―――」

 沈黙の行進が続く中、先を歩くブチャラティを他所に、ライフィセットは梔子に声を掛ける。

「琵琶坂って人への復讐を成し遂げたら……。
その後は……どうするつもりなの?」
「……? どういう意味だ、それは……?」

 唐突な問いかけに首を傾げる梔子。
 そんな彼女の瞳を真っ直ぐ見据えながら、ライフィセットは続ける。


843 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:32:17 32pUp7PA0
「そのままの意味だよ、何かやりたいこととかはないの?」
「―――私にとって残されたことは、奴に然るべき報いを与えてからのことは考えていない……。
だが、もしそれが達成出来たら―――そうだな……君たちやレインたちのサポートはしたいと思う。君たちには色々と助けられたからな」

 先に出逢ったレインや静雄も然り、ブチャラティ達然り、ヴライの二度にわたる襲撃から、梔子が五体満足であるのは、彼らの助けがあってからこそ。
 故に、梔子は彼らに恩義を感じていないわけでもなく、琵琶坂への復讐という使命を達成した暁には、残りの命は彼らにあげても良いと考えている。
 受けた恩義を返さないまま勝手にフェードアウトするほど、彼女は薄情ではない。
 
 故に梔子は、その考えをライフィセットに示すが―――。

「それは、ただこの閉じ込められた世界の中でどうしていくか、だよね?
そうじゃなくてさ。元の世界に戻って、梔子自身の意思で、やってみたいことはないの?」

 ライフィセットは、不服そうに食い下がる。
 梔子が示した「やりたいこと」とは、この殺し合いにおける短期的な行動方針だ。
ライフィセットが聞きたいのは、その後の話―――琵琶坂への復讐も果たし、この箱庭から脱出して、元の日常に戻った後に、何を成したいのか。

「……何も、ないな……。思いつかない……。
あいつに、あの男に、全てを奪われた私には何も残されていないのだから」

 目を伏せながら、言い切る梔子の姿はとても儚げであった。
 そんな彼女の姿に、ライフィセットは再び、かつてのベルベットの姿を重ねた。
 ただ復讐と絶望に囚われて、己が復讐の達成に固執―――。
 その気になれば、己を捨ててでも、目的を達成しようとするのであろう。その先の、己が未来については一切顧みずに―――。

 そういった危うさを、ライフセットは、先程のクオンとのやり取りと、梔子が手掛けた『おんぼろ』という曲から、感じ取ったのである。

「――そう、なんだね……」

 しかし、結局ライフィセットは、「やりたいこと、見つけられたら良いね」といった調子のよい発言をすることもなく。
 かといって、梔子の危うさを指摘することもなく、口を噤んだ。

 何故ならば、彼は知っているから―――。
 復讐に身を焦がし、己の幸せを全て捨ててでも、突き進まんとする者―――。
 その壮絶なる覚悟と、その者が体感したであろう凄惨なる悲劇と絶望の深淵を―――。

 琵琶坂という男が、梔子に何を行ったのかは分からない。
 だけど、梔子の様子から察するに、第三者たるライフィセットが口を挟んでいいものではないだろう。
 何より、彼女の覚悟に揺さぶりをかけるようなことはしたくなかった。

 だけど―――。

「―――梔子……。」
「何だ……?」

 視界おぼつかない、夜の森を進む中、ライフィセットはおもむろに口を開く。

「何があっても、自分だけは見失わないでね」
「……? それはどういう―――」

 ライフィセットの不可解な発言に、眉を顰める梔子。
 しかし、ライフィセットはそれ以上、何も答えず前方を進むブチャラティを追っていく。

「……。」

 梔子もそれ以上追求することはせず、二人についていく。

――自分を見失わないで。

 かつてベルベットは、目的の遂行のためだけに、己を捨てて、破滅の道を歩んでいた。
 憎悪と絶望に囚われて、自分らしく生きようとすることもできなかった。
 あの頃のベルベットを見てきたから、そんなベルベットの苦しむ姿を見てきたから。
 ライフィセットは、同じ道中にいる梔子に、そんな言葉を投げ掛けたのであった。

 道のりは尚も続く―――。
 少年の願いが、全てを奪われた少女の復讐の終着点に何を齎すかは、まだ誰にも分からない。


844 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:32:34 32pUp7PA0
【D-5/夜/森林地帯/一日目】

【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:疲労(中)、強い決意、全身に火傷、ダメージ(中)
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜3、 サーバーアクセスキー マギルゥのメモ 身体ストック(ライフィセットの両腕、ブチャラティの左腕使用済)
[思考]
基本:殺し合いを止めて主催を倒す。
0:遺跡へと向かう。
1:魔王ベルセリアへの対処。
2:ヴライが生き残って襲ってきたら対処。
3:自称ブチャラティ(ディアボロ)に対して警戒。
4:テレビ局に行く事ができれば、そこを利用して情報を広める。
[備考]
※参戦時期はフーゴと別れた直後。身体は生身に戻っています。
※九郎、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました。
※垣根と情報交換をしました。
※霊夢、カナメと情報交換をしました。
※持ち出した身体ストックはブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子、ア
リア、新羅のもののみです。
※隼人、クオン、早苗らと情報交換をしました。

【ライフィセット@テイルズ オブ ベルセリア】
[状態]:強い倦怠感、全身のダメージ(大)、疲労(中)、強い決意
[服装]:いつもの服装
[装備]:ミスリルリーフ@テイルズ オブ ベルセリア(枚数は不明)
[道具]:基本支給品一色、果物ナイフ(現実)、不明支給品×2(本人確認済み)本屋のコーナーで調達した色々な世界の本(たくさんある)、シルバ@テイルズ オブ ベルセリア
[思考]
基本:ベルベットを元に戻して、殺し合いから脱出する
0:遺跡へと向かう
1:ブチャラティ達と行動する
2:ムネチカへの心配
3:ベルベットの同行者(夾竹桃、麦野)への警戒
4:ロクロウ達との合流
5:ヴライがアンジュを殺しているならムネチカやその仲間達に伝えるべき?
6:エレノア、マギルゥ……。

[備考]
※参戦時期は新聖殿に突入する直前となります。
※異世界間の言語文化の統一に違和感を持っています。
※志乃のあかりちゃん行為はほとんど見てません。
※呼ばれた時間に差がある事に気づきました。
※梔子と聖隷契約をしました。
※現在はデイパックの中にシルバがいます。
※隼人、クオン、早苗と情報交換をしました。

【梔子@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:健康、疲労(中)、精神的ダメージ、レインの仮説による精神的疲労(少し回復)
[服装]:メビウスの服装
[装備]:ストップウォッチ@東方project(1回使用)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(心許ないもの)、静雄のデイバック(基本支給品、ランダウ支給品×1〜2)、ライフボトル×2@テイルズオブベルセリア
[状態・思考]
基本行動方針:琵琶坂永至に然るべき報いを。
0:遺跡へと向かう。
1:当面はライフィセット達と行動
2:彩声の義理を返す為、レインを死なせないようにする。
3:琵琶坂永至が本人か確かめる。
4:琵琶坂を擁護する限りアリアとは行動を共にしない。
5:本当に死者が生き返るなら……
6:煉獄さん……天本彩声……
7:私が虚構かもしれない、か……
[備考]
※参戦時期は帰宅部ルートクリア後、
 また琵琶坂が死亡しているルートです。
※キャラエピソードの進行状況は少なくとも誕生日のコミュは迎えてます。
※静雄、レインと情報交換してます。
※ブチャラティ、霊夢達と情報交換をしました。
※ライフィセットと聖隷契約をしました。
※隼人、クオン、早苗と情報交換をしました。


845 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:32:56 32pUp7PA0



「―――早苗、気分はどうかな……?」

 ブチャラティ達を見送り、暫く物思いに耽った後、クオンは、早苗がいる部屋へと戻ってきた。
  出た頃からと違って、彼女の啜り泣く声は止んでいる。

「……。」

 しかし、当の早苗はというと、床の上でへたり込んで、ボーっとした表情のまま、クオンに見向きもしない。
 どこか上の空といった様子の彼女に、首を傾げつつ、クオンは近づいて、そのか細い肩にそっと手を置いた。

「早苗……?」
「――ひゃっ!? ……ク、クオンさんっ!? い、いつからそこに……!?」

 途端に、早苗はビクッと肩を震わせ、慌ててクオンの方を見上げた。

「いつからって……たった、今来たところかな。
そんなことより、気分はどうかな? もう大丈夫?」
「あ……はい。大丈夫です……。
もう十分に泣きましたから……」

 弱々しく微笑んでみせる早苗。
 その目元は赤く腫れ、頬には涙の流れた跡がくっきりと残っていたが、ついさっきまでの溢れんばかりの慟哭は影を潜めている。

「そう……」

 憔悴して、無理をしているのは明白ではあるが、それでも笑顔を繕おうとする早苗に、クオンはそれ以上何も言わなかった。

「あ……あの、クオンさん。他の皆さんは……?」
「ああ、うん、そうだね……。
早苗に、説明しないと、だね――」

 早苗からの問い掛けに、クオンは此処にきた本来の目的を思い出すと、語り始めた。
 早苗を除くメンバーで話し合って決めた今後の方針の概要を。
 その決定に従い、隼人達は既に病院へ、ブチャラティ達は遺跡へと、それぞれ発ったことを。
 簡潔に、それでいて要点は漏らさず説明したクオンは、最後に、早苗の目を見つめて言った。

「それで、早苗。私達のこれからのことなのだけど―――」

 さて、本題はここから。
 隼人達が病院へ、ブチャラティ達が遺跡へと向かった、この状況下で、クオンと早苗は、果たしてどちらに追従するのか―――。

「私は―――」

 クオンは、先程の梔子との問答と、そしてその後の思慮を経て、既に結論を導き出しており、その考えを口にする。

「ブチャラティ達を追って、遺跡に向かいたいと思っているの」

 全ては、『ハクの死』の精算という過去を追うのではなく、現在(いま)を生きる仲間達のために―――。
 私情は捨てて、まずはネコネの兄であるあの漢―――オシュトルとの合流を優先すべしと。
 クオンが下した決断はそれであった。

 しかし、そんなクオンの提案に、早苗は鬱々とした面持ちを浮かべて―――。

「……遺跡、ですか……」
「うん、どうかな?」
「――私は……嫌です……」
「……え?」

 拒絶の意思を露わにし、一蹴するのであった。

「――それは……どうして、かな?」

 クオンは、早苗の思わぬ反応に驚きつつ、その理由を問い質す。
 すると、早苗はぷるぷると唇を震わせながら、予想だにしない言葉を紡ぎ出した。

「―――だって、遺跡には、あの人が……オシュトルさんがいるじゃないですかっ!!!
私はあの人が怖いですし、何より信用できないんですっ!!!」
「…っ!!」

 全身を震わせ、絶叫に近い声を上げた早苗。
 そこには、明確な怒気と恐怖、そして拒絶の色がありありと窺えた。
 これまで早苗に対して大人しい少女という印象を浮かべていたクオンは、彼女のその剣幕に、息を呑む。
 
「―――オシュトルと、何かあったの……?」

 しかし、それ以上に、早苗の発した言葉を聞き捨てることが出来なかった。
 早苗とオシュトルは、暫く行動を共にしていたと聞いている。
 当初の情報交換の際には、その詳細を知りたいと欠片も思わなかった。
 しかし、早苗がここまでオシュトルに対して激情を示すとなると、それは何故なのか? その理由を聞かずにはいられなかった。

「あの人は―――」

そして、早苗は、尚も暗い表情を浮かべながら、語り出す。
己が脳に焼き付いている、オシュトルとの“記憶”を。


846 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:33:20 32pUp7PA0



――時は少しだけ……クオンが、遺跡に向かうブチャラティ達を見送っていた頃まで遡る。

「い、嫌ぁっ…!! な、何……これっ……!!」

 廃墟も同然の寒風貫く城内の一室にて、瓦礫の散らかる床に転がり回る緑髪の少女がいた。
 彼女は右耳を手で抑えたまま、呻くように悲鳴を漏らしている。

「ぁがっ……ぐぎぃいっ……!!」

 “その者”にとって、部屋にたった独り残されていた、少女の体内に侵入するのは非常に容易かった。
 泣き疲れていたこともあるだろう―――その少女、東風谷早苗は、音もなく忍び寄る“その者”の気配を察知できず。
 飛びつかれたその瞬間に、ようやく認知出来たが、時既に遅し―――。
 
 にゅるり、と蜘蛛に近しい形態をした“その蟲”は瞬く間に、早苗の右耳へと、耳の穴を押し開くように潜り込んだのである。
 侵入してきた“異物“の感触に、早苗は驚愕と不快感と焦燥感を同時に味わう。
 即座に、正体不明の侵入者を取り出そうと耳に手をあてがったが―――。

「ぅあっ!? あ゛ああぁぁあっ……!!」

 脳から電撃のような刺激が全身を駆け巡り、早苗はビクリビクリと痙攣を起こして、床へと転がったのである。

「え゛っ……ぁ、がっ……あ、ぅ……」

 ぶちゅり、ぶちゅりと脳に何かが染み込み侵食していくおぞましい感覚。
 脳内を犯されるという未曾有の感覚に、早苗は瞳からボロボロと涙を零し、口からは涎を垂れ流しながら、悶絶する他ない。

ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

 脳髄に蠢くその蟲は、ノイズを響かせ、己に植え付けられた役割を果たさんとする。
 己が活動によって齎される少女の苦痛の声など、知ったことではないとばかりに―――。
 少女の更なる“内側”へと、侵食していき――。

「ぁっ……――」

 早苗の意識はぷつりと暗転した。


847 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:34:16 32pUp7PA0
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「―――すまぬが……暫しの間、一人にさせて頂きたい」

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ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

 書き換えられていく。
 まるで映像編集の如く、早苗の体験した記憶が、蟲に埋め込まれたコードに従って、偽りの記憶へと上書きされていく。
 蟲に埋め込まれたコード。それは特定の人物にまつわる記憶の改変―――。

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『ふむ……。死亡者は13名か。
思ったよりも、殺し合いに乗っている者は多いようだ
皆、宜しいか? これからのことについて議論したい』
『――えっ、あの……オシュトルさん……』
『如何した、早苗殿?』
『えっと、その……大丈夫なんですか?』
『と、申されると……?』
『いえ……さっき放送で呼ばれたアンジュさんて……。
オシュトルさんが仕えていた方ですよね……?』
『ああ、姫殿下のことか……。
成程、それで某を気遣って下されたのか。
すまぬな、早苗殿、しかし、心配召されるな……。某は大丈夫だ』
『……そう、なんですか……』
『確かに姫殿下が亡くなられたのは残念至極。
しかし、ここで某が悲しみに暮れたところで、殿下が蘇ることはない。
であれば、この程度のことで立ち止まることなく、我らが生き残るための手段を模索し続けるべきだ』
『……“この程度のこと”……ですか……』

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 今ここに、記憶は書き換えられた。
 
 本来であれば、主君を失い、己が生きる道を見失ったはずの彼は、皆の前から姿を消して、独り思慮に暮れたはず。
 しかし、改変された記憶では主君の死を、“この程度のこと”と切って捨てて、即座に次なる行動方針について、議論を進めようとした。
 同じ放送にて、妖夢や魔理沙といった友人の死を知らされ、意気消沈していた早苗にとっては、ショッキングな言動となっていた。

----

「そのことだが、ロクロウ……一つ頼まれてはくれぬか?」
「うん? 何をすればよい?」
「首輪を一つ、調達してきてほしい。 其方には、この殺し合いにて、討ち取りたいものがいたはずだ」
「成程、シグレを討ち取り、その首輪を持ってこいってことかぁ……。 良いぜ!お前に言われるまでもねえ、元々俺はそうするつもりだったしな」
「宜しく頼む」

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ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

 この蟲は、ヤマトの聖賢とうたわれしライコウが、手配させたもの。
 その役割は、才ある采配士を手中に収めるため、エンナカムイ率いる敵将オシュトルと敵対するために、彼に対する偽の記憶を植え付けるというものである。
 故に、早苗の記憶は、マロロの時と同様に、オシュトルに対しての悪感情を増幅させるべく、今まさに改竄されていく。

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『そのことだが、ロクロウ……一つ頼まれてはくれぬか?』
『うん? 何をすればよい?』
『首輪を一つ、調達してきてほしい。 其方には、討ち取りたいものがいると聞く』
『シグレのことか……? 確かに俺の宿願はアイツを越えることにある。
だが、アイツと決着つけるべき場所はここじゃない。元の世界で引導を渡したいのだが――』
『しかし、今は決着の地に拘っている場合でないのは、貴殿も理解しているはずだ。
ここは一つ、この忌まわしい首輪を解除するため、合理的判断をお願いしたい』
『……分かった……』

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848 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:34:49 32pUp7PA0
 本来であれば、ロクロウは、オシュトルからの、シグレ殺害とその首輪の回収の依頼を、二つ返事で快諾している。
 しかし、偽りの記憶では、ロクロウは、此の地での兄との決着を渋った。
 それをオシュトルが強引に、引き受けさせるようなものへと書き換えられた。

----

「―――早苗殿……?」
「ごめんなさい……。私やっぱり理解できないんです……。オシュトルさんのことも、ロクロウさんのことも……。兄弟で殺し合いなんて……。」
「早苗殿、先にも言ったが、我々には各々の事情があるのだ……。シグレ・ランゲツの打倒はロクロウの宿願と聞く。それを妨げるのは野暮というもの……。首輪解析のためには、首輪の調達が必要―――見ず知らずの他参加者から奪う訳にはいかない手前、ここはロクロウが狙うシグレ・ランゲツの首輪を調達するのが合理的と考えるがーーー。」
「それでも認めたくないんです! 誰かを……それも肉親を踏み台にするようなことなんて!!」

----

ザザザッ――― ザザザッ―――
ザザザッ――― ザザザッ―――

 早苗の記憶は蹂躙されていく。
 その度に、早苗が抱いているオシュトルへの心象は悪化していく。

----


『―――早苗殿……?』
『ごめんなさい……。私やっぱり理解できないんです……。オシュトルさんのことも、ロクロウさんのことも……。兄弟で殺し合いなんて……。』
『早苗殿、失礼を承知で言わせて頂くが、つまらぬ感情論で議論を長引かせるのは、控えて頂きたい。今の状況では、ロクロウ・ランゲツの首輪の回収こそが、最も合理的だ。
貴殿の我儘に付き合わされる今でも、我々の命運は、主催の者達の意思次第でどうとでもなってしまうことをお分かりか?』
『それでも認めたくないんです! 誰かを……それも肉親を踏み台にするようなことなんて!!』
『なれば、早苗殿に問う―――貴殿に首輪の心当たりがあると?
ロクロウに代わって、貴殿が、手頃な参加者を殺めて、その首輪を調達してくれるとそう捉えて宜しいか?』
『……っ!? ちが……わ、私は……』

----

 本来であれば、オシュトルは、自分たちを非難する彼女を、理路整然と諭すように努めた。
 そこには彼女の心情もまた理解できないわけではない、といった様相も伺えた。
 しかし、改竄された記憶においては、オシュトル、自身が提案した方策に異を唱えた彼女を皆の前で公然と非難。
 語気を強めた上で、早苗を逆に問い詰めることを行っていた。

――ビクビクビクンッ!!

「……っ!? あ、あれ……? 私……?」

 全身に再び電撃のような感覚が疾ると、早苗の意識は覚醒した。
 蟲に犯され、苦痛に喘いでいたことは、記憶の改竄によって忘却の彼方。
 何事もなかったかのように、キョトンとした顔で辺りを見渡す早苗。
 まさか自分の記憶が改竄されているなど、つゆほどにも思わないだろう。

「―――早苗、気分はどうかな……?」

 呆然としていた早苗の元に、クオンが戻ってきたのは、それから少し後のことであった。


849 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:35:21 32pUp7PA0



「――何、それ……」

 早苗から、彼女が知りうるオシュトルとの“記憶”を聞かされたクオンは、全身をわなわなと怒りで震わせる。
  平然と仲間に兄弟殺しを強要するという、目的のために、どんな手段も厭わないという冷酷かつ非情な一面然り。
 自分に意見をする者に対しては、容赦なく責めたてるその傲慢かつ狭量な一面然り。
 早苗から齎されたオシュトルの言動は、クオンの中で既に失墜していた彼への評価を、さらに貶めさせるものだった。
 
 そして、何より、クオンの琴線に触れたのは―――

「アンジュが死んだというのに、“この程度のこと”と抜かすか、あの漢はっ……!!」

 クオンの友人でもあり、オシュトルが忠を尽くす主君でもあったアンジュの死を、“この程度のこと”と言い放ち、悼む素振りさえ見せなかったということだ。

 こんな漢が、ヤマトにその者ありとうたわれた英傑なのか――。
 こんな漢が、ヤマトの帝とその後継者に、その身命を捧げると誓った忠臣なのか――。
 こんな漢に、ヤマトに残した大切なヒト達―――ネコネやルルティエ達を率いさせて良いのか――。
 否――断じて、否だ!!
 
「許さない――」

 ここまで来ると、「私欲のためにハクを斬り捨てた」というマロロの言も、ただの妄言と切って捨てるわけにはいかなくなってきた。
 あれだけ優しかったマロロを狂気に染め上げたのは、それ相応の蛮行を、オシュトルが働いたという証左なのではないだろうか。
 疑念はますます膨れ上がり、クオンの中にどす黒い感情が渦巻いていく。

「絶対に許さない………。オシュトル!!」

 先程までは、彼への疑念は一度水に流したうえで、手を取り合い、共に脱出を図ろうと思っていた。
 しかし、疑念が確信めいたものに変わってしまった今となっては、そんな考えは微塵も出てこない。
 むしろ、あんな漢は、皆の元へ帰すべきではないとさえ、思えてしまう。


「――早苗……これからのことなんだけど……」
「はい……」

 やがて、少しばかりの静寂を経て―――。

「私は―――」

 クオンは、次なる行動方針を口にした。


850 : 閉じ込められた方舟の中で ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:35:50 32pUp7PA0

【C-5/夜/ムーンブルク城/一日目】

【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、オシュトルへの怒り及び不信(極大)、ウィツアルネミテアの力の消失
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2、マロロの支給品3つ
[思考]
基本:殺し合いに乗るつもりはない。皆と共に脱出を。
0:――オシュトル……。やはりあの男は……!!
1:早苗と共に、次の移動先に向かう。
2:ムーンブルク城を発つ際、静雄達への置き手紙を残す。
3:オシュトルは絶対に許せない。
4:ヴライが近くに……
5:ムネチカを捕えた連中(ベルベット達)からムネチカを取り戻したい
6:アンジュとミカヅチとマロロを失ったことによる喪失感
7:着替えが欲しいかな……。
8:優勝……ハクを蘇らせることも出来るのかな……ううん、馬鹿なこと考えちゃ駄目!
9:マロロ...
[備考]
※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※早苗から、オシュトルに対する悪評を聞きました。
※クオンが今後、どこに向かおうと提案するかは、次の書き手様にお任せします。


【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(極大)、脳内にウォシスの蟲が寄生、記憶改竄(小)、オシュトルへの不信(大)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
0:クオンとともに、次の移動先に向かう。
1:ブチャラティ(ドッピオ)さん、信じていいんですよね……?
2:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
3:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
4:オシュトル対する不信。オシュトルさんは好きではないです……。
5:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
6:魔理沙さん、霊夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※ウォシスの蟲に寄生されております。その影響で、オシュトルにまつわる記憶が改竄され、オシュトルに対する心情はかなり悪くなっています。今後も、記憶の改竄が行われる可能性は起こりえます。
その他の寄生による影響については、後続書き手様にお任せいたします。


851 : ◆qvpO8h8YTg :2023/10/05(木) 22:36:18 32pUp7PA0
投下終了します


852 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/05(木) 23:30:11 050Yb6iM0
投下乙です
復讐に関する想いの違いで関わりが深くなっていく梔子とライフィセットがいいですね
三手に別れてここからが対主催の反撃———と思いきやとんでもないものがぶち込まれてきた
オシュトル、自分の関わらないところでどんどん追い込まれていってる...
ここでクオンたちが遺跡に向かったらヴライも来る予定だし本当にオシュトルは正念場ってやつですね

ドッピオ、間宮あかり、岩永琴子を予約します


853 : 堀敏雄 :2023/10/07(土) 22:05:26 M2vPB5uY0
岐阜県羽島郡笠松町西金池町96番地
昭和29年5月16日
09041193020


854 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/12(木) 00:45:35 TlS5yN3E0
投下します


855 : Dread Answer ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/12(木) 00:46:43 TlS5yN3E0

「すみませんブチャラティさん...」
「いいっていいって。君もだいぶお疲れなんでしょ?これくらい手伝わせてよ」

申し訳なさげに俯くあかりに対して、ドッピオは陽気な声音で返す。

最初こそはあかりが琴子の車椅子を押していたのだが、疲労が溜まっているのを見かねたドッピオがこれくらいなら僕がやるよと申し出て交代。
いまは、あかりが先行しドッピオと琴子が後に続いている。

(...やはり侮れませんね、彼)

だが、一方で琴子の目には、現状が善意によるものではなく全く別の形に映っていた。

車椅子を押している人間は両手を塞がれ身動きも取りづらい。
だから動ける者がカバーして護ってやらなければ———そういう心理が働きやすい。
特に、他者を傷つけるのをよしとしないあかりがそう考えるのは至極当然の流れであり。
先行しながら進まなければいけない、所謂、尖兵のような立場になったあかりは車椅子を押す彼よりも気を張り、かえって疲労も溜まりやすくなる。
加えて、『ブチャラティ』の立ち位置も絶妙だ。
先行するあかりはもちろん、車椅子に乗っている自分も簡易的な盾としては有効な位置にいる。
襲撃時、あかりが抜かれた時に車椅子を押し飛ばして敵にぶつければ数秒は時間稼ぎできるし、しゃがみ込めば銃撃に対する肉壁にもできる。
かといってそこを指摘するにも、じゃあ動けない琴子をどうするかという問題に当たってしまう。
それに、もしも純粋な善意のみで車椅子を押しているとみなされた場合、あかりからもドッピオからも不信を招き、少なくともこの三人の中では発言権は不利に傾いてしまうだろう。

(まあ、メアリさんを内包したんです。これくらいのリスクは容認するべきでしょうね)

いまのところ他者を害する素振りのない『ブチャラティ』とは違い、メアリは目的さえ果たせば敵対すると明言までしてきた。
彼女を受け入れて『ブチャラティ』だけは除く、なんて道理はまかり通らないだろう。

(まあ、彼の処遇について決めるのはいまではない...私たちがいま考えるべきは...)

「ブチャラティさん、あかりさん。少し足を止めてもらってもいいですか」

琴子のその言葉に二人は思わず足を止める。

「え?」
「どうしました?」
「少し考えたいことがありまして」
「それなら遺跡に着いてからの方がいいんじゃない?」
「遺跡まではまだ距離があります。まあ、ブチャラティさんの言う通り可能ならば放送の後に話し合うべきなのでしょうが...なにが起こるか、わかりませんから」
「あっ...」


856 : Dread Answer ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/12(木) 00:47:07 TlS5yN3E0

琴子の遠回しな言及の意味を二人は察する。
放送は確かに情報を手に入れるのに必要な時間だ。
だが、齎されたもの全てが有効であるとは限らない。

(もしもブチャラティの名前が呼ばれたら情報を整理するどころじゃないもんね...この二人も殺さなくちゃいけなくなるかもだし)
(アリア先輩...大丈夫ですよね?)

自分たちは人間だ。
例えば死者の名で、あるいは禁止エリアの場所で、あるいは主催の女の言葉で感情を著しく乱してしまうかもしれない。
そうなれば考察どころではないだろう。

「竜馬さんたちがいる時に話さなかったのはなんでですか?」
「彼らをあまり引き留めているとこちらにも火が降りかかりそうでしたから」
「ああ、そういうこと...」

もしも琴子があれ以上二人を引き留めていたら、特にメアリはあの場で猛反発してきたであろうことはあかりもドッピオも容易く想像できた。
だから、彼らが向かった後に話を切り出したのだ。

琴子は、これからの指針や首輪に関して以外に知らなければならないことがあると思っている。
それはいまの自分たちや先ほどまで共にいた竜馬、神隼人やクオンたち、あかりの知り合いの方のアリアら所謂『対主催』達には必須な事項だ。
自分たちが首輪を外した先にある、例えるなら主催側の心臓部とも言えよう。

「ブチャラティさん、あかりさん。先ほども触れましたが、私はリュージさんや隼人さんたち、それに夾竹桃たちと共に電車を修復するμと一戦交えました」

琴子は一旦言葉を切り、ここで主題を筆談に切り替える。

『私が考えたいのは主催の潜伏先です』


857 : Dread Answer ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/12(木) 00:48:17 TlS5yN3E0

琴子の求める解。それは、主催の面々の居場所である。
たとえば、このまま順当に首輪の解析が進み、全員の首輪を外して殺し合いを止めたとする。

だがそれだけではこの事件の解決には至らない。
もしもそのまま主催が生存者たちの前に現れなければ、あるいは主催を探し出すことができなければ、主催と戦うことも交渉することもできずこの世界に閉じ込められ続けることになる。
最初の内は良くても、食糧が切れればその時点で奪い合いという名のバトルロワイアルが始まってしまう。

だから琴子は今の内に主催の居場所を掴むヒントを集める為にこの話を切り出したのだ。
直接つながることは無くてもいい。
似たような事例を知っている、主催の連中の中に知り合いがいる、関わりのない第三者の視点からの考えも聞く。
なにかの足掛けになる可能性が微かにでもあるのなら、情報を集めるのは当然だ。

「まずはあの時に起きたことを整理しましょう。
①μは空から駅まで降りてきた。
②『リック』という青年はμの歌によりその姿形を変化させた。
③先ほどまではなにもなかった場所に突如罠が生えてきた。
④主催側には、リックという青年、二丁拳銃を操る骸骨マスクの人間、全身が黄土色のラバースーツに包まれた男がいる」

「え?」

これらの事象になにか心当たりはないかを尋ねようとした琴子よりも先に声を漏らしたのは『ブチャラティ』だ。


858 : Dread Answer ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/12(木) 00:51:32 TlS5yN3E0

「どうしたんですか?」
「い、いやあ、護衛が三人もいるなんて思わなかったからさぁ、うん」

彼があからさまに動揺しているのは言われずともわかる。

「ブチャラティさん、なn」
「あかりさん、ブチャラティさん。これらについてなにか心当たりはありますか?」

なにか心当たりがあったのか、と尋ねようとするあかりに先んじて琴子が『二人』に問いかける。
琴子とて、『ブチャラティ』がなにかを隠したのはわかっている。
しかし、いまはなにも事を起こしていないものの、頑なに『ブチャラティ』であろうとする以上、彼はクロ寄りのグレー。

下手な追及は自らの首を絞めることになる可能性があるため、敢えて二人に問いかけることで『ブチャラティ』への疑念をぼやかした。

「えと、罠についてなんですけど、もしかしたら最初からあったのに気づいていなかったとか、一度目は不発だったとかは?」
「ふむ。まあありえますね。私はその場にいませんでしたが、時と場合によっては己の認識が歪んでいた、という事例は往々にしてありますし、罠にしても高性能でなければ誤作動も不発も想定できます。あかりさんはそういう実践的な不確定要素も考慮に入れるべき、と」
「μの歌っていうのは、人の姿を変えることができるのかい?」
「ええ。私の同行者でμを知る者からは、相手の望んだ姿や能力を与えていたという前例があると聞かされています」


『ブチャラティ』と琴子が質疑を交わす傍で、あかりはう〜ん、と悩みつつ頑張って考えを浮かばせようとする。
彼女とて、一応は武偵だ。
どんな怪しい事件があるかはそれなりに知識として識っている。
だからどうにか知識の面で琴子を補助できれば、と思いつつも中々考えが浮かばない。

当然だ。
なんせ、現場の検証もなければ証拠は第三者からの提供のみ。
あまりにも情報が不足している中で根拠のある解答を示せというのも難しい話だ。

(考えなくちゃ。考えなくちゃ...!)

あかりが必死に脳細胞を働かせるも時間は有限で現実は無情である。

『参加者の皆様方、ご機嫌よう』

結局、さほど進展がないままに放送の時は訪れてしまった。
そして、この放送が流れる前に情報を整理できてよかったと『ドッピオ』は思った。


859 : Dread Answer ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/12(木) 00:52:12 TlS5yN3E0



———あの時たしかに生きてた 体温も宿ってた 全てを奪う悪意も 知らずにぼんやり生きてた

流れ始める歌と共にわたしの膝ががくりと崩れ落ちる。

———誕生日のケーキも入学式の思い出も 叱ってくれた涙も 全部覚えてるんだよ

高千穂さん達との勝負に勝った時、お祝いをしてくれた志乃ちゃんの笑顔が、わたしの事を心から案じて叱ってくれたアリア先輩の顔が脳裏を過っていく。
そのどれもがかけがえのない思い出だ。


———消えない消えない消えない消えない 消えない炎の影 潰れた虫けらみたいに踏みにじられた平穏

そのどれもが紅く塗りつぶされていく。
間宮の家をイ・ウーの面々に襲撃された時の業火に。
魔王や琵琶坂さんにぶちまけられた血だまりに。
私の中のモノが紅く朱く穢されていく。

———癒えない癒えない癒えない 癒えない 一体何が正解?一生付きまとう殺意と 失意に墜ちてく感情

ミカヅチさんはわたしにお礼を言ってくれた。
高千穂さんは武偵のままのわたしが好きだと言ってくれた。
カタリナさんは護れなかったわたしに微笑み幸せだったと言ってくれた。
アンジュさんや志乃ちゃん、大勢の人たちが死にかけていたわたしの背中を押して、引き上げてくれた。

でも。
その全てを否定するかのように際限なくドス黒い感情が湧きあがってくる。




———残酷な運命の原罪 みんないなくなってひとりぼっちは嫌だよ

大切な者たちの仇を取れ。
奪った奴らを殺せ。
これ以上奪われる前に奪え。
日常を護りたいなら、その手で心の臓腑を抉り取れ。


———絶望共を殺して歌いたい ああ しがみついて すがりついて 声を失くしたおんぼろでも


【『武偵』であり続けることと、誰かを護ること...二者択一だった場合、どちらを採りたいんだい?】

よりにもよって、あの琵琶坂さんの問いかけてきた言葉が頭の中を駆け巡ってくる。
答えを出したつもりだった。納得したつもりだった。
けれど、それは運よくみんなが肯定してくれたから正しい道を歩んでいると思いたかっただけだ。

高千穂さんが、志乃ちゃんが、アリア先輩が、アンジュさんが、ミカヅチさんが、絹旗さんが、ココポが、冨岡さんが、カタリナさんが命を落として。
メアリさんのように涙を流す人を目の前で生み出して。
そしていまも魔王や琵琶坂さんたちが犠牲者を生み出しているのなら。
この有様が本当に正しい道なのかな。
違う道を選んでいたら、もっと別の結果になっていたんじゃないかな。

一番しっかりしないといけないくせに、全身が震えて涙を流しす弱いわたしには、未だに答えなんて出ていやしなかった。


860 : Dread Answer ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/12(木) 00:53:06 TlS5yN3E0


「あかりさん...」

泣きながら膝に頭を埋めてくるあかりに、琴子はどうすることもできなかった。
先ほどは立ち止まるわけにはいかないと前を向かせたが、いま、この状況でそんな言葉はかけられない。
これが大人の警察官やら軍人やら、人の生死に殉職も想定されている職種の者たち相手ならばそんな言葉を駆けただろうが、あかりはまだ学生。
いくら武偵という荒事に慣れた人種とはいえ、年齢でいえば琴子よりも下だ。
そんな子に戦闘を一切合切任せ、それでも前を向けと宣えるほど琴子は薄情ではない。

彼女がどれほど戦ってきた。
彼女がどれほどの悲しみと向き合ってきた。

負担をかけすぎている。
いまの自分にできることは、せいぜい、感情を思うがままに発散させてやることくらいだ。

「...琴子ちゃん、あかりちゃんを頼めるかい?」
「ブチャラティさん?」
「このまま遺跡を目指すのは酷だよ。僕が遺跡に先行してくる」

言いながら、『ブチャラティ』はあかりを背負い、傍にあった身を隠せるほどの岩場まで琴子の車椅子を押していく。

「ここなら僕が戻るまで身を隠しやすいだろう?」
「...そうですね」

琴子としては、ここで座して待つのは勘弁願いたいが、現状を顧みれば仕方ないとも思っている。
ここまでの道程はあかりが琴子と『ブチャラティ』を護れること前提で成り立っている。
しかし、あかりがこの有様ではそれが崩壊してしまう。
それならば、あかりを背負い『ブチャラティ』が琴子の車椅子を押すという全滅待ったなしの進行をするよりは、分散して全滅回避のリスクを取った方がいい。

「すみません、お願いします」
「わかった。遺跡に着いたら長居せず戻ってくるよ」

遠ざかっていく背中を見つめながら、ふぅ、と琴子は息を吐く。
もしも『ブチャラティ』が刃物の一本でも持って襲い掛かってきたら、現状ではあかりも自分も抵抗できずに殺されていただろう。
それをしなかったのは、単に思いつかなかったのか、利用価値がまだあると思ってくれているのか、あるいは本当にみんなで脱出しようと考えているのか。

(なんにせよ綱渡り、ですね)

妖怪変化魑魅魍魎共の知恵の神となって長らくなるが、ここまで死線を運で回避している事態は初めてかもしれない。
初めての緊張感と死への嫌悪感に、微かに指は震え、そしてなんだか、無性に九朗先輩に会いたいと思わずにはいられなかった。


861 : Dread Answer ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/12(木) 00:53:25 TlS5yN3E0

【E-3/夜/一日目】

【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:覚醒、白髪化、痛覚が鈍くなっている、体温低下、情報の乖離撹拌(進行度31%)、全身のダメージ(大)、精神疲労(中)、疲労(絶大)、左中指負傷(縦に切断、包帯が巻かれている)、深すぎる悲しみ。
[服装]:いつもの武偵校制服(破損・中)
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。
0:...ごめんなさい、いまだけは...
1:動けるようになったら岩永さんと一緒に遺跡を目指す
2:ヴライ、マロロ、琵琶坂、魔王ベルセリア、夾竹桃を警戒。もう誰も死んでほしくない
3:『オスティナートの楽士』と鎧塚みぞれを警戒。
4:もし会えたらカナメさんに、シュカさんの言葉を伝えないと
5:メアリさんと敵対することになったら……。
[備考]
※アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
※覚醒したことによりシアリーズを大本とする炎の聖隷力及び「風を操る程度の能力」及びシュカの異能『荊棘の女王(クイーンオブソーン)』、そして土属性の魔術を習得しました。
※情報の乖離撹拌が始まっており。このまま行けば彼女は確実に命を落とします。

【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康、新たなる決意、無意識下での九郎との死別への恐れ、義足損壊、車椅子搭乗中
[服装]:いつもの服、義眼
[装備]:赤林海月の杖@デュラララ!!
[道具]:基本支給品、文房具(消費:小)@ドラゴンクエストビルダーズ2、ランダム支給品1(岩永琴子確認済み) 、ポルナレフの車椅子(ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風)
[思考]
基本:このゲームの解決を目指す。
0:あかりさんが動けるようになってから『ブチャラティ』の後を追う。
1:『ブチャラティ』を騙る青年(ドッピオ)を警戒。
2:魔王と琵琶坂永至、あの二人をどうにかする方法は……
3:あかりさん、貴方は……
4:九郎先輩との合流は……
5:紗季さん……
6:首輪の解析も必要です、可能ならサンプルが欲しいですが……
7:オスティナートの楽士から話を聞きたいですね
[備考]
※参戦時期は鋼人七瀬事件解決以降です。
※アリアから彼女が呼ばれた時点までのカリギュラ世界の話を聞きました。
※この殺し合いに桜川六花が関与している可能性を疑っています。
ただし、現状その可能性は少ないと思っています。
※リュージからダーウィンズゲームのことを知っている範囲で聞きました。
※夾竹桃・ビルド・隼人・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※今の自分を【本物ではない可能性】、また、【被検体とされた人間は自ら望んだ者たちである】と考えています。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。
※琴子、あかり、ドッピオ、メアリ、竜馬の五人でこれまでの経緯と、生存者についての情報を交換しました。


862 : Dread Answer ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/12(木) 00:55:25 TlS5yN3E0




「とおるるるる とぉおるるるるるる」

あかりと琴子が見えなくなった辺りで、ドッピオはそう口ずさむ。
やっぱりだ。
そろそろボスが電話をかけてきてくれると思っていた。電話に出る姿は誰にも見られるわけにはいかない。
だから、多少の危険は被っても一人で先行してきたのだ。

「とおるるるるる とおおぉるるるるるる」

ドッピオはキョロキョロと地面を見回し、『電話』の場所を探す。

「あった...とおるるるるる、この辺りならあると思ってたよ。ガチャリ」

ドッピオは落ちていた木の葉を拾い、そのまま耳に押し付けた。

『ドッピオ...聞こえるか、ドッピオ』
「大丈夫です、ボス。聞こえてます。お伝えしたいことがあります。我々を裏切り、『セッコ』が主催の側にいるようです」

琴子の言った主催の一味。その中にいた黄土色のラバースーツを全身に纏った男。
その人物像は、ドッピオの中で真っ先に『セッコ』に当てはまっていた。

そしてセッコに当てはまれば、罠の件にも説明がつく。

主催へ襲撃を駆けた面々は確かに間違っておらず、罠も誤作動をおこしていないなら答えは簡単だ。
セッコは土の中を自由に泳げ、軟化も自在にできる。
主催との戦いの時にいた面々がμに集中している隙に足元に罠を仕掛けることも容易くできるし、音もなく味方を地上に出現させることも可能だろう。
罠の発動タイミングは足で踏むことが条件でなければ、セッコが土の中でスイッチを押して好きなタイミングで作動させることもできる。

『...そうか。よくわからんやつではあったが、そんなことになっていたか』
「ええ。そして、その...岩永琴子の知りたがっていた連中の居場所なんですが、恐らくは———」
『ああ。セッコを擁しているということはほぼ間違いないだろう』

「『奴らの根城は地下にある』」

ドッピオと『ディアボロ』の結論が一致した。

『わざわざ扱いに困りそうなセッコを懐に入れるくらいだ。間違いなく奴らは地下に重きを置いている』
「仮に本部じゃないとしても、なにかしらの手がかりがある可能性はありそうですよね」


主催を倒すにしても強請るにしても、あるいは奴らに取り入るにしても、奴らの心臓部を抑えられれば此方が有利に立ち回れる。
これは、唯一セッコの能力を把握していた麦野が情報交換の際に立ち会えなかった為に、琴子ではたどり着けなかった解である。

「しかし、地下に干渉できる方法があるとすれば...」
『...私の知る限りでは、地下への干渉に優れている能力者は一人しかいない』

気乗りしない声音でそう語る『ディアボロ』の言葉に、ドッピオの喉がゴクリと鳴る。

『奴の能力は容易く地面を割き、息さえ続けばどこまでも潜ることができる』

誰の名前が出るかはわかりきっている。
だからこそ、覚悟しなければならない。
なんせその名前が出るということは、ドッピオがこれまでしてきたことを否定するのと同義なのだから。

『『ブローノ・ブチャラティ』...奴を殺さず、利用して地下に潜ることも考えるべきかもしれんな』


863 : Dread Answer ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/12(木) 00:55:47 TlS5yN3E0

【E-3/夜/一日目】


【ドッピオ(ディアボロ)@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:健康、ドッピオの人格が表
[服装]:普段の服装
[装備]:小型小銃@現地調達品 王の首輪@オリジナル
[道具]:不明支給品0〜1、アップルグミ×3@テイルズオブベルセリア
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない。
0 :先に遺跡に向かい、後で琴子たちと合流する。
1 :無力な一般人を装いつつ、参加者を利用していく
2 :琴子を警戒。邪魔になりそうなら……
3 :オシュトルへの首輪提供のため、参加者を殺害してのサンプル回収も視野に入れる
4 :『月彦』を警戒。再合流後も用心は怠らない。偽名を使うだなんてけしからん奴だ
5 :ブチャラティは確実に始末する。...と言いたかったが、地下を調べるために利用するべきか?
6 :なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。
7 :自分の正体を知ろうとする者は排除する。
8 :ゲッターロボ、もしもあのままランクを上げ続けてたら...ゾオ〜ッ
9 :グミは複数あるけど内緒にしておこう。
10 :もし認識がスタンドに影響を及ぼすならば……?
[備考]
※参戦時期はアバッキオ殺害後です。
※偽名として『ブローノ・ブチャラティ』を名乗っています。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※アップルグミの回復は健在ですが欠損や毒などは回復しません。
 また3つあることは伝えていません。
※早苗、霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※琴子、あかり、ドッピオ、メアリ、竜馬の五人でこれまでの経緯と、生存者についての情報を交換しました。
※主催の潜伏地が地下にあると睨んでいます。


864 : 名無しさん :2023/10/12(木) 01:07:27 TlS5yN3E0
投下終了です


865 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/14(土) 00:18:42 HJum.dGE0
ウィキッド、クオン、早苗、カナメを予約します


866 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 00:02:55 LCnTZGw20
投下します


867 : 導火線に火をくべろ ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 00:03:52 LCnTZGw20
(いてぇ)

火傷と打撲を中心としたダメージに苛まれる身体を引きずりながらカナメは歩みを進める。
彼の進む先は、ヴライが向かったと思われる方角。

シュカ、Stork、霊夢、フレンダ。
ここに至るまでカナメは関わった者たちの多くを奪われた。
そして、ほんの少し顔を合わせただけではあるが、佐々木志乃や武蔵坊弁慶も放送で呼ばれている。
ジオルドも呼ばれたことから、もしかして奴が暴れて共倒れになったのか、なんて考えも過ってしまう。

そんな中でいまの自分にできることはもう一つしかない。
ヴライやウィキッドのような連中を一掃することに全力を尽くす。
少しでも早く危険を排除しなければ。
ジオルドのような不穏分子を見逃したから犠牲が増えたなら、自分の身などどうなってもいいから早く奴らを消さなければ。
そんな自暴自棄にも近い強迫観念が彼の身体を突き動かす。

今の彼は誰がどう見ても冷静ではなかった。
まともな応急処置さえ疎かにして、休むことを罪だと捉えて。

(止まれない...俺...は...)

だが罪悪感や無力感のような後ろ向きな気持ちでいつまでも支えられる身体があるものか。
己の意思に反し、カナメの意識はプツリと途切れ、傷だらけの身体を地に投げ出す。
限界だ。
もともと、ダーウィンズゲーム参加者とはいえ鍛え上げられた戦士というほどでもない。
耐久力に優れている訳ではない上に、度重なる喪失とストレスで精神も疲労しきっている。
身体が傷と疲労を癒す為に、精神を深く押しとどめたのだ。

倒れ伏すカナメには何もできない。
この場で見つけた者に力を込めて首を踏みしめられればそれだけで死に至る。

「ク、クオンさんっ、あれ...!」
「ッ...早苗、手当するのを手伝ってほしいかな!」

だから彼は幸運だった。
丸一時間は眠っていたというのに、最初に彼を見つけたのが殺し合いに乗っていない二人だったのだから。


868 : 導火線に火をくべろ ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 00:04:13 LCnTZGw20






『オシュトルを潰す』

それが、早苗から話を聞いたクオンの答えだった。
早苗やマロロの話を照らし合わせ浮かんできたオシュトルという漢の人物像。
自分の知る、ハクの友であり、ヤマトを守護してきた誇り高き武人の影はもうどこにもない。
己の利権を貪る為に周囲を利用し、反する者や利用価値の無くなった者は平然と切り捨てる。
友も。忠誠を誓った少女も。志を共にする同志たちも。全てが奴の成り上がる計略の駒でしかない。
かような鬼畜卑劣漢に、大切な仲間たちを、この狂宴に抗う者たちを率いらせてはならない。
確実に皆は破滅しオシュトル一人が潤う為に泥舟を掴まされることになる。

そのようなこと許せるはずもない。

クオンの決断に、早苗は渋々ながらも同意する。
早苗が『蟲』に増幅された感情はオシュトルへの恐怖であったが、しかし蟲の存在意義はオシュトルという存在を排除すること。
マロロの復讐心とは別の形とはいえ、オシュトルを排除できるのなら拒否することもない。

そんな二人が目下目指したのは、先行して向かったブチャラティ達との合流だ。
まずは彼らに追いつき、オシュトルとの合流を防がなければならない。
隼人達やブチャラティ達からはだいぶ遅れての出発となったが、二人はいそいそと準備を整え出立する。

ほどなくして、二人はボロボロになり倒れている青年・カナメを発見した。

「カナメさん、起きてくださいカナメさん!」

負っている火傷を冷やしながら早苗はカナメに呼びかける。
もうイヤだった。
この殺し合いで知り合って数時間とはいえ、知った仲になった者を失うのが。
咲夜を残して元の世界からの知り合いが全滅したいま、早苗は殊更に知己の死に怯えていた。

「大丈夫...安静にしていれば、命に別状はないかな」

そんな早苗を宥めるように、クオンはカナメの介抱に尽力する。
もとよりクオンは世話焼きの気質のある少女だ。
仲間の死を嘆き悲しむ早苗の姿を見ていれば、彼女をこれ以上悲しませたくないと思わずにはいられなかった。

持ちうる薬草や包帯、水などを使いカナメを治療していくクオンと早苗。
そんな彼らのもとへ新たな来訪者が訪れる。

「ひっ!?あ、あの、大丈夫ですかその人?」

殊更に怯えた声を挙げるのは、制服を着た黒の長髪の少女だった。


869 : 導火線に火をくべろ ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 00:04:35 LCnTZGw20


———爆弾持って立ってた 淡々と黙ってた

流れ始める楽士の曲には何の興味もない。
最初は自分で、二回目はソーン、ときたならば他の連中の曲も流れるだろうと、ただそう思っただけだ。
死者についてもどうでもいい。
知っている名は神崎・H・アリアとジオルド・スティアート。
前者はこの手で嬲り殺し、後者は一時的に協力しただけ。
そんな奴らに思いふけることなどあるはずもない。
BGMの曲を無視して、ウィキッドはこれからの方針について考える。

へんげの杖を手に入れた時は上機嫌になったが、放送を挟んだことで些か冷静さを取り戻せばそうもいられなくなった。
確かにこの杖は集団をかき乱す上では有効な手段だ。
だがその効果の有効性は時間が進むにつれて反比例していく。

この殺し合いが始まって既に18時間が経過している。
よほど運が悪くなければそれなりに参加者同士の交流が交わされているだろう。
彼女が主に貶めたいのは、カナメや無惨のように直接害された連中や、麗奈やヴァイオレットのように反吐の出そうな綺麗ごとを抜かす連中、それに折原臨也だ。
単にこの面々に化けて集団を襲撃したところで不信感を植え付けることはできるだろうか?
カナメとは交戦してから6時間以上経過しており、この6時間でどのような行動をしているかもわからない以上、確実とは言えない。彼が接触していた参加者に襲撃をかけたところで、カナメを騙る偽物に襲われたとなるのが関の山だろう。それでは意味がない。
ヴァイオレットや臨也はどうだ?彼らも彼らで、放送で呼ばれていない以上、纏まって行動している可能性が高い。しかも、それに加えてオシュトルもいれば三人だ。あの三人が互いに行動していたことを示せば、やはり彼らに化けての襲撃も効果が薄いだろう。
嘘を織り交ぜ扇動しようにも、自分一人と複数相手では明らかに分が悪い。
それに鬼の体質による飢餓のこともある。
今はまだ耐えられているが、ピークに達した時に衝動に負ければ一気に台無しだ。

普段の学校生活やメビウスとは違い、時間は限られている上に状況は忙しなく動いている。
ただ殺すのではなく、己が愉しめるように振舞うにはただ暴れるだけでは駄目だ。
状況と情報を整理し、その中で勝機を手繰り寄せなければ。

(そうだ。ただ不信感を植え付けるのが難しいなら...)

ウィキッドは使う姿を決め、へんげの杖を振るう。
選ばれたのは、黒い長髪と白と水色の制服が特徴な少女、高坂麗奈。

麗奈が遺跡から遠ざかったことは知っている。
あの場にいて麗奈の事情を知っていたのはヴァイオレットのみ。
あの場から二人で逃げるという可能性はあるにはあるが、あの甘ちゃんヴァイオレットがオシュトルや新羅やらを放って遺跡から離れるとは思えない。ならば彼女たちは二手に別れているだろう。
ではなぜあのタイミングで遠ざかったか———恐らく、食人衝動に負けてヴァイオレットを襲ったのだろうと考える。
元々が、麗奈が食人衝動に負けて此方を襲ったことが全ての始まりだった。
腐るほどの虐待経験から多少は耐性がある自分ですら飢餓に苦しんでいるのだから、あの血臭漂う現場で麗奈が我慢できるとは思えない。ヴァイオレットが呼ばれていないことから、恐らく返り討ちなり食ってる最中に我を取り戻すなりして逃げ出したのだろう。
故に、ウィキッドは麗奈は単独行動し、更に錯乱状態にあると推察したうえで彼女に変化した。
この会場に来てからの交友関係が少なく、単独行動しているとなれば此方としても小細工を弄しやすい。


そのうえで彼女は逆に考えた。

『嘘を吐くのが難しいのなら、嘘を吐かなければいい』と。


870 : 導火線に火をくべろ ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 00:05:00 LCnTZGw20



『高坂麗奈』としての接触は功を制した
ヴァイオレットや久美子伝いとはいえ、早苗がその存在を知り心配していたのが大きかった。

諍いもなく懐に入り込めたウィキッドは『高坂麗奈』として嘘偽りなく語る。
最初にヴァイオレット・エヴァーガーデン、月彦と名乗る男、ブチャラティの三人と会ったこと。
そこから分かれて、月彦と行動している際に突然『鬼』にされたこと。
彼に率いられるままに遺跡に向かえば、道中で折原臨也と水口茉莉絵、遺跡ではオシュトルと神崎・H・アリア、そしてヴァイオレットエヴァーガーデンとの再会を果たしたこと。
そして自分は諸々の理由で直接会っていないが、岸谷新羅という男が暴れ出した為にアリア・オシュトル・ヴァイレット・臨也の四人が一時的に離脱、残された三人で待機していたところ、食人衝動に負け茉莉絵を襲ってしまい、交戦に至ったこと。
ここまではほぼ嘘偽りなく早苗とクオンに伝えた。

ここから先、ウィキッドはほんの少しだけ脚色を加える。
事実はそのままに、しかし聞く者の印象を変えるように。

「途中で月彦さんに茉莉絵さんも鬼にされちゃったみたいで...その、色々あって月彦さんもどこかにいっちゃって、残る私と彼女はボロボロになりながら戦っていたんです。必死だったんです。ただ、我武者羅に、死にたくないからって...
そんな時にアリアさんとヴァイオレットさんが来てくれて...これで止まれると思った矢先です。あ、アリアさんが...ッ!」

口元を抑え『麗奈』がガクリと膝を折りぺたりと座り込む。
そんな彼女に慌てて駆け寄る二人から見えぬよう笑みを隠して、涙声で訴えかける。

「ま、茉莉絵さんに飛び掛かったんです。拳銃を握りしめて、殺す気で組み付いて...それだけじゃない、ヴァイオレットさんだって、わ、私の首を締めようとして...だから私はどうにかここまで逃げ出して...!」
「そんな...!お、鬼にされたからって...!」
「でも!あの人たちだってきっと本意じゃなかったんです!あの人たち、怯えてた...誰かに脅されるように...!」

笑みをどうにか隠し、怯えあがる少女の仮面を被り、半狂乱したかのようにガリガリと己の頭を掻きむしる。
いまウィキッドが演じているのは『悲劇に晒されつつも善性を失わない錯乱している少女』だ。
ただ悪評を吹き込むよりも、こういう役を作った方が信ぴょう性が高まり、多少の齟齬も誤魔化せるのはメビウスに来る前からの経験則からだ。
狙うは丸ごと全員ではなく本命から順に。
だから気に喰わない奴にもそれなりのフォローは入れてやるし、仕込みが実を結ぶまではこのまま気に喰わない奴の面の皮を被るのも厭わない。
本命が終わればそちらにも同じく破滅を叩き込んでやる。クオンと早苗の二人の内、一人を生かして徹底的に詰ることで麗奈への憎悪を滾らせてやるとしようか。
そしてウィキッドは本命へと誘導する為に言葉を紡ぐ。

「きっとあの人が命令したんです。おr「オシュトル...!」

折原臨也。そう名指ししようとした言葉は、クオンの憎悪に塗れる言葉にかき消された。


871 : 導火線に火をくべろ ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 00:05:26 LCnTZGw20

「へ?」
「や、やっぱりあの人が...!」
「この機に及んでこんな蛮行をやらせるなんて...やっぱりあいつだけはこれ以上のさばらせておけないかな...!」

思わず困惑する『麗奈』に構わず、二人の憤怒の念が諸々に増幅していくのが見て取れる。
予想外の食いつきだ。
まずはあのヘラヘラ笑いを浮かべる臨也から貶めてやろうとしていたところ、同行者の中で印象の薄かった男に憎悪が向かうとは。

(真面目そうな顔して結構悪どいことでもしてんのかねえ。そういうのは嫌いじゃないけど...)

ハッキリ言って、ウィキッドからしてみれば現状、オシュトルなどどうでもいい。
それほどまでに彼との間柄は希薄そのものだ。
だが、あの苛立つ臨也を潰し、そこから派生してヴァイオレットたちにも害を被らせることができるなら、ノらない手はない。

「そ、その、あなたたちは私を殺さないんですか?オシュトルさんや折原さんみたいに」
「そんなに心配しなくていいかな。貴女が鬼にされてるかもって予想はもうしていたし、それを解決する方法も知ってるもの」
「えっ、本当ですか?」

ウィキッドは思わずキョトンとした表情を浮かべてしまう。
こちらとしてはあくまでもまだ仕込みの段階だったのが、とんとん拍子に話が進んだうえに鬼の体質に関する話まで転がってきたのだから無理もない。

「あまりいい気分はしないかもしれないけど...この地図の病院にね、参加者の身体の予備があるの。それを食べていれば、鬼としての飢餓は防げるんじゃないかな」
「身体の予備?...よくわかりませんが、それを食べればいいんですね?」
「うん。もしも病院で隼人や九朗って漢たちに会ったらクオンと早苗に教えてもらったって言えば話が通ると思うかな」

ウィキッドは思わず破顔しそうになる口元を抑え込み、頭を下げることで誤魔化した。
ツいている。
この空腹感は最大の敵だった。
麗奈のように飢餓に負けてせっかくのパーティの仕込みを自ら台無しにしてしまうのはご免こうむりたかった。
それを解消できる手段があるとは、まさに棚から牡丹餅とはこのことだろう。

それから彼女たちは互いに関わった参加者たちのことを簡潔に共有する。
ウィキッドは、改めて遺跡の面々のことを。特に臨也と無惨、ついでにオシュトルに悪印象を抱かせるように吹き込んで。
クオンと早苗は、ここにはいない隼人、九朗、ブチャラティ、梔子、ライフィセット、久美子、静雄、レイン、竜馬、リュージ、琴子、あかり、ムネチカとここで眠っているカナメは安全とし、ヴライは危険人物、咲夜はわからないといった具合に。


872 : 導火線に火をくべろ ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 00:05:45 LCnTZGw20

「それじゃあ私は病院に行ってきます。...どうか、ヴァイオレットさんをお願いします」
「はい...わ、私たちが必ず...!」

ぺこりと礼儀正しく頭を下げるウィキッドに答える形で、早苗は身体を震わせながらも力強く返事をする。
挨拶もほどほどにウィキッドは病院へと駆け出す。
空腹に苛まれているのは鬼の性質のせいではあるが、疲れもほとんど残らず瞬く間に傷を治して迅速に行動できるという点だけは評価できる。
まずは病院でサクッと食料もとい人肉を補給したら、急いで遺跡に向かう。
そこで諍いが続いていたらそこからが本番だ。

ウィキッドは敢えてヴァイオレットには悪印象を与えない言い回しをした。
ヴァイオレット本人がクオン達に話した内容を知れば、『麗奈は少し錯乱しているだけだ』と判断するだろう。
そんな時に落ち着いた様子で『麗奈』が帰ってくればどうだ。
ヴァイオレットは喜んで受け入れるだろう。おかえりなさいませとでもいって恭しく迎え入れるだろう。
そこを鬼の力で腹をぶち抜いたらどんな表情を浮かべるだろうか。
裏切られた絶望か、綺麗ごとを抜かして護ろうとしたことへの後悔か。

本物の麗奈が戻ってきたらその時はその時だ。
ヴァイオレットの前でどちらが本物かを当てさせて、外した瞬間に地獄逝き———なんてゲームも面白そうだ。

ヴァイオレットに限った話じゃない。
ここから高坂麗奈の姿で暴れまわれば、罪を被るのは全部高坂麗奈だ。
『高坂麗奈は鬼にされた』という認識が広まりつつある以上、これは有効な手だろう。
自分は違う、そんなことしていないと訴えかけようが、実際に鬼の力がある以上は滑稽な姿にしか見えない。

なんにせよ楽しみで愉しみで仕方ない。

どいつもこいつも踊り狂え。
このイカれた世界の寿命が尽きるまで。

(最期まで嗤い続けるのは———あたしだ)


【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:高坂麗奈の姿(へんげのつえで変身済み)、鬼化、食人衝動(小)、疲労(極大)、カナメへの怒り(中)、無惨と麗奈への殺意(極大)、臨也への苛立ち
[服装]:
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2 、アリアの支給品(不明支給品0〜2)、キースの首輪(分解済み)、キースの支給品(不明支給品0〜1)、カタリナの布団@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…、北宇治高等学校職員室の鍵、へんげのつえ@ドラゴンクエスト ビルダーズ2
[思考]
基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ
0:まずは病院に向かって人肉を補給。そのあと遺跡に戻る。
1:無惨と麗奈を探しだして、殺す
2:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。
3:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。
4:舐めた真似してくれたカナメ君には、相応の報いを与えたうえで殺してやる
5:暫くは利用していくつもりだが、臨也はやはり不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。
6:私を鬼にしただぁ? 元に戻せよ、クソワカメ。
7:アリアの後輩達(あかり、志乃)に出会うことがあれば、アリアの最期を語り聞かせてやる
[備考]
※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。
※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。
※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読んでおり、覚醒者『006』は麗奈、『007』は無惨が該当すると認識しております。
※ 麗奈との距離が離れたため、太陽に対する耐性を失いました(認識済み)


873 : 導火線に火をくべろ ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 00:06:51 LCnTZGw20



クオンと早苗。

カナメの介抱を続けながら、二人の間に黒い感情が渦巻き始める。

オシュトル。やはりあの漢は許せない。

茉莉絵と麗奈、二人が鬼に成ったのを口実に首輪を狙い、あまつさえそれを他者に押し付け責から逃れようとは。

許せない。

あの卑怯卑劣な極悪人を許してなるものか。

互いの目が黒く淀み濁っていくことに気づけない。

ただただ、憎悪に身をやつし、共に口にする。

———オシュトル、滅すべし



【D-5/夜/一日目】

【カナメ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、王とウィキッドへの怒り、全身打撲(小)、肋骨粉砕骨折(処置済み)、全身火傷(治療済み)、シュカの喪失による悔しさ、虚無感、ダメージ(小) 、胸部に刺傷(回復済み)、霊夢とフレンダの死による失意と罪悪感、精神的疲労(絶大)気絶
[服装]:いつもの服装
[装備]:白楼剣@東方Project
[道具]:白楼剣(複製)、機関銃(複製)、拳銃(複製)、基本支給品一式、不明支給品2つ、救急箱(現地調達)、魔理沙の首輪、Storkの首輪、Storkの支給品(×0〜2)
[思考]
基本:主催は必ず倒す
0:俺は―――。
1:回収した首輪については技術者に解析させたい。
2:【サンセットレーベンズ】のメンバー(レイン、リュージ)を探す。今は初期位置しか分からないリュージよりも近くにいるレイン優先。
3:王の奴は死んだのか……そうか……
4:ウィキッドのような殺し合いに乗った人間には容赦はしない。
5:無力化されたようだが一応ジオルドを警戒
6:折原を見つけたら護る。
7:絶対にウィキッドを殺す。
8:爆弾に峰があってたまるか!
9:ヴライを警戒。
[備考]
※シノヅカ死亡を知った直後からの参戦です
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、霊夢、竜馬と情報交換してます。
※ブチャラティ(真)と梔子達と情報交換をしました。二人のブチャラティ問題に関しては保留にしています。


874 : 導火線に火をくべろ ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 00:07:09 LCnTZGw20

【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、オシュトルへの怒り及び不信(極大)、ウィツアルネミテアの力の消失
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2、マロロの支給品3つ
[思考]
基本:殺し合いに乗るつもりはない。皆と共に脱出を。
0:まずはカナメを介抱する。その後、遺跡に向かいオシュトルを殺す
1:早苗と共に、次の移動先に向かう。
2:ムーンブルク城を発つ際、静雄達への置き手紙を残す。
3:オシュトルは絶対に許せない。
4:ヴライが近くに……
5:ムネチカを捕えた連中(ベルベット達)からムネチカを取り戻したい
6:アンジュとミカヅチとマロロを失ったことによる喪失感
7:着替えが欲しいかな……。
8:優勝……ハクを蘇らせることも出来るのかな……ううん、馬鹿なこと考えちゃ駄目!
9:マロロ...
[備考]
※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※早苗から、オシュトルに対する悪評を聞きました。



【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(極大)、脳内にウォシスの蟲が寄生、記憶改竄(小)、オシュトルへの不信(大)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
0:まずはカナメを介抱する。その後、遺跡に向かいオシュトルを殺す
1:ブチャラティ(ドッピオ)さん、信じていいんですよね……?
2:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
3:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
4:オシュトル対する不信。オシュトルさんは好きではないです……。
5:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
6:魔理沙さん、霊夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。 
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※ウォシスの蟲に寄生されております。その影響で、オシュトルにまつわる記憶が改竄され、オシュトルに対する心情はかなり悪くなっています。今後も、記憶の改竄が行われる可能性は起こりえます。
その他の寄生による影響については、後続書き手様にお任せいたします。


875 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 00:07:36 LCnTZGw20
投下終了です


876 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 00:17:29 LCnTZGw20
>>872

すいません、ウィキッドの状態表に現在地を忘れていました
【D-5/夜/一日目】


877 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/20(金) 22:59:26 LCnTZGw20
度々すみません
>>870

諍いもなく懐に入り込めたウィキッドは『高坂麗奈』として嘘偽りなく語る。
最初にヴァイオレット・エヴァーガーデン、月彦と名乗る男、ブチャラティの三人と会ったこと。
そこから分かれて、月彦と行動している際に突然『鬼』にされたこと。
彼に率いられるままに遺跡に向かえば、道中で折原臨也と水口茉莉絵、遺跡ではオシュトルと神崎・H・アリア、そしてヴァイオレットエヴァーガーデンとの再会を果たしたこと。
そして自分は諸々の理由で直接会っていないが、岸谷新羅という男が暴れ出した為にアリア・オシュトル・ヴァイレット・臨也の四人が一時的に離脱、残された三人で待機していたところ、食人衝動に負け茉莉絵を襲ってしまい、交戦に至ったこと。
ここまではほぼ嘘偽りなく早苗とクオンに伝えた。

の箇所を

諍いもなく懐に入り込めたウィキッドは『高坂麗奈』として嘘偽りなく語る。
最初にヴァイオレット・エヴァーガーデン、月彦と名乗る男、ブチャラティの三人と会ったこと。
そこから分かれて、月彦と行動している際に突然『鬼』にされたこと。
彼に率いられるままに遺跡に向かえば、道中で折原臨也と水口茉莉絵、遺跡ではオシュトルと神崎・H・アリアに遭遇したこと。
そして自分は諸々の理由で直接会っていないが、岸谷新羅という男が暴れ出した為にアリア・オシュトル・臨也の三人が一時的に離脱、残された三人で待機していたところ、食人衝動に負け茉莉絵を襲ってしまい、交戦に至ったこと。
ここまではほぼ嘘偽りなく早苗とクオンに伝えた。

に修正します


878 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/10/27(金) 23:42:20 YjH7t6RI0
リュージ、垣根提督、ムネチカ、十六夜咲夜、平和島静雄、レインを予約します
延長もしておきます


879 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 00:57:01 gnW2ppTE0
投下します


880 : その座標に黒を打て(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 00:59:53 gnW2ppTE0


垣根提督が紅魔館に辿り着く数時間前。
彼はとある失態を犯していた。
それは聡明な彼らしかぬ、しかし激情家の彼らしいともいえる失態だ。

ジョルノ・マギルゥ・リゾット・累・チョコラータ。
五名の参加者が命を落としたこの病院には支給品が多く集っており、その中で使えそうなものは仕分けていた。

しかし、この時の彼の頭の中は無惨への怒りがほとんどを占めていた。
故に、荷物は整理してもその中身まで厳密にはチェックしていなかった。
彼が持ち出した一つのハンディカム。
冒頭だけ見て、興味が無いと判断すると、壊すでもなくデータを消すでもなく乱雑に鞄に仕舞い込んだ。

これが、彼のほんの些細な失態。


881 : その座標に黒を打て(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 01:00:22 gnW2ppTE0


魔王が紅魔館を襲撃する数時間前。
夾竹桃は罪歌により従者と化したムネチカと濃厚な乙女本談義を繰り広げる傍らで、首輪について思考を割いていた。
後に麦野たちに語ったように、決して乙女本の定義や在りようについてのみ熱弁していたわけではないのだ。

(この状態のムネチカを持ち帰りたいけれど、もしも岩永琴子の説が正しければそれもできないのよね)

岩永琴子の考察は、『この世界の参加者は全て情報を基に創られた虚像である』というもの。
μや変貌したベルベットの例を見れば、遠からない考察であることは窺い知れる。
しかしそうなると、だ。
仮に首輪を解除して殺し合いを終えても、その時点でいまこの場にいる『夾竹桃』や『ムネチカ』は消えてしまい、ここまで培ってきたものも消えてしまう。
その情報を管理するための首輪なのだろうが、うまく使ってこの『情報』を保管できないものか、と分解したシュカの首輪を弄ぶ。

(シュカ...彼女の首輪だけではやはりサンプル不足ね。岩永琴子たちと折り合いをつける為に渡した首輪が今になって惜しくなってくるわ)

サンプルは多いに越したことは無い。
駅での一件を収めるためとはいえ、もう少し別の案で代替すべきだったかと今更ながら後悔し始める。

(まあいいわ。ベルベットが上手くやればサンプルも多少は増えるはず)

ベルベットこと魔王には、岩永琴子と間宮あかり以外の人間がいて、抵抗した場合は散らしても構わないと伝えてある。
別れ際にいた面子であれば、首輪の解析には役立ちそうにない冨岡義勇やリュージ辺りであれば好ましい。
幸い、どうもハイになっている今の状況から覚めても、シュカを殺した時のように躊躇うことはないだろう。

そこまで考え、ベルベットがシュカを殺した時の記憶が映像として脳裏に過ったその時。

(ん...?)

違和感を覚える。

(待って。よく考えたらおかしくないかしら)

ベルベットがシュカを殺し、首輪を回収した。それはいい。
なら、なんで彼女は。

「......」
「ご主人様?」
「いえ、大丈夫よ。魔王との件が終わったら、またみんなで話したいから。それよりもその深い関係の主従の本なのだけれど———」

ムネチカと本の談義を繰り広げる一方で、夾竹桃は己の違和感をNETANOTEに密かに書き記していた。

垣根と麦野は魔王に対する作戦を練っている真っ最中。
余計なことを考えるのは後にしよう。

そんな彼女なりの気遣いであった。


882 : その座標に黒を打て(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 01:00:54 gnW2ppTE0




まずは周辺の施設を見てまわろう。
そう決めた静雄とレインが、崩壊した紅魔館に辿り着くのはさして時間がかかる話ではなかった。

「こいつはひでぇな...」

思わず静雄はそう零す。
崩壊しきった紅魔館は言わずもがな、大地は瓦礫で荒れ果て地面はいたる箇所が傷つき、直径数十メートル規模のくぼみまである始末。
普段から怒りのままに様々なモノを壊してしまう静雄からしても、この惨事は尋常ではない。
先に見た北宇治高等学校跡地にも劣らない。
戦闘があったのは確実として、それこそこれまで戦ってきたミカヅチやヴライ並の破壊力を持った者がいたのも窺える。

「静雄さん。戦いはもう終わっています。いいですか、冷静にです。もう一度いいますが、冷静に、ですよ」

静雄がこめかみに青筋を浮かべるよりも早くレインは念押しをする。
この規模の破壊力から下手人は絞れてくるが、もしも静雄が結論に至ってしまえばここまで溜めてきた鬱憤と怒りが爆発してもおかしくない。
そんな彼を宥めるレインの意図を組み、静雄もふーっ、と大きく息を吐き気持ちを落ち着かせる。

(協力できる生存者がいればいいのですが...さてどうなるか)

レインの危惧は正しいと証明するかのように、銃を構える音が背後より鳴る。

(やれやれ。早速ですか)

「動くなよ。ゆっくりこっちを向きな」

背後の来訪者にどう対応するべきか考えていたレインは、その声に目を見開き、はぁと小さくため息を吐く。

「よもやたかだか数日会ってないだけでクランの顔を忘れたんですか、リュージさん」
「おま...ようやく仲間と会えたのにそりゃねえだろ」
「背後から銃を突き付けてくる人に言われたくないんですが?」
「万が一ってこともあるだろうが。相変わらず口のまわるやつだな...けど、会えて嬉しいぜレイン」

レインは振り返り、リュージは銃を下ろすと、お互いのボロボロな姿を見て、それでも変わらないお互いに口元を緩めずにはいられなかった。


883 : その座標に黒を打て(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 01:01:20 gnW2ppTE0






リュージが二人を案内した先では、全身を汗と血で塗れさせ、くたびれきった姿で腰を落ち着ける垣根、ムネチカ、咲夜の三人の姿があった。

「リュージ殿、そちらの二人は?」
「こっちのちんまいのが俺の仲間のレインで、もう一人は、えっと...」
「平和島静雄だ」
「だ、そうだ。とにかく、こいつらは安心してもらって構わねえぜ」
「...そうかよ」

垣根は気だるげに起き上がり、レインと静雄に向かい合う。

「俺は垣根提督だ。俺たちに協力する気があるなら話を聞いてやる」
「このゲームから脱出、あるいは破壊する、という意味での協力なら願ったり叶ったりですが」

垣根はレインと静雄の背後に立つリュージを見据える。
リュージはそれにOKのハンドサインで返す。
彼の異能『嘘発見器』で、レインの今の言葉が確実に本音であると密かに裏どりをしていたのだ。

「...オーケーだ。ひとまずお互いの情報を交換するとしようや」
「その前にいいですか」

垣根が席を設けようとする前に、レインが手を挙げ制する。

「恐らく移動しながらの情報交換になると思いますが、行先は私たちが決めていいですか?待たせている人たちがいるので」
「どこだ」
「ムーンブルク城です」

垣根は己の脳内で地図を思い浮かべ、現在地からムーンブルク城までの距離を大まかに測る。
もともと、垣根は病院からここまで歩いてきたのだ。
それ自体は大した負担にはならなかったが、それは疲労が少ない状態での話。
満身創痍の身には大きな負担になるだろう。

「心配しなくても大丈夫ですよ。平和島さん、コシュタ・バワーにお願いしてもらえますか」
「わかった。...なあ、ワリーが、今度は大人数乗れる奴に変形しちゃくれねえか」

静雄が屈み、コシュタ・バワーに頼みかけると、コシュタ・バワーはそれに応えて馬車の形に変形する。
その変形に垣根たち四人は各々で感嘆の声を漏らす。

「ではどうぞお先に」
「ええ」
「イイモン見つけてきたじゃねえか、ウチの解析屋は」

咲夜とリュージは肩の荷が下りたと言わんばかりに大きく息を吐きながら馬車に乗り込む。

「ムネチカ。情報交換は俺たちでやる。お前は屋根で見張りしとけ」
「承知」

垣根の頼みを引き受けたムネチカは、仮面を取り出し装着する。

「————ッ!!」

その姿に、静雄の顔色が変わる。
ミカヅチ。ヴライ。ここまで戦ってきた仮面の者とムネチカの姿が重なったのだ。


884 : その座標に黒を打て(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 01:01:44 gnW2ppTE0
「む、どうされた?」
「......!」

固めかけていた拳をどうにか解き、努めて冷静に対処する。
ここまで戦ってきた仮面の者たちは一様に暴力の化身とでも言うべき漢たちであり、静雄が殴らなければ気が済まない連中だった。
しかし、ムネチカが殺し合いに乗っているようには思えない。それが静雄の理性をギリギリ引き留めた。

そんな静雄の様子から、彼の抱いた感情を察したレインは代わりにムネチカに告げる。

「ムネチカさん、でいいですね?貴女の知り合いに仮面を着けて雷や火を放つ漢たちはいますか?」
「うむ。まさか、奴らと会ったのか?」
「ええ。隠すようなことでもないので今のうちに伝えておきますが、私たちはその二人に襲われました。最初は雷の方に、次に火の方に、ですね」
「!!」

ムネチカの胸が締め付けられる。
雷を放つ仮面の者と火を放つ仮面の者。
これらはそれぞれ、ミカヅチとヴライにおいて他ならない。
そして、奴らがレインたちを襲った理由も察せる。
形や思い描く理想は違えど、ヤマトに戻り忠義を果たさんとしたのだろう。
それを理解したムネチカがとった行動は

「済まぬ!」

両膝・額・掌を地に平伏させる姿勢。
間髪入れぬ土下座であった。

その予想外な行動とその勢いにレインと静雄の二人の目が思わずギョッと驚愕に見開かれる。

「我が同郷の者が其方たちにとんだ迷惑をかけた。心より謝罪させていただく!」
「あの、ムネチカさん?」
「水に流せとは言わぬ。其方らが怒りを抱くのも当然...亡き同胞・ミカヅチに代わりこの小生、身命を尽くさせていただく。どうか同行を許して欲しい」
「ムネチカさん、私は別に貴女を責めるつもりで言ったわけではないですから」

レインはムネチカを宥めるも、それでは気が済まんと言わんばかりに頭を上げようとしない。
彼女はサンセットレーベンズの中でも理知的且つ合理的な思考をするタイプだ。
こういった感情に従うままの行動に対処するのは苦手であり、困ったような顔で隣の静雄を見上げる。

「......」

静雄はしばしなにかを考えこんだあと、片膝を着きムネチカへの距離を詰める。

「顔を上げてくれ」

静雄の言葉に従いムネチカは顔を上げる。

「...傷だらけだな。あんた、こんなになってまでここの連中を護ったんだな」
「護れた...とは言えぬ。皆にも傷を負わせ、命を散らした者たちもいる」

夾竹桃と麦野沈利。
ここで散った二人の姿を思い浮かべ目を伏せる。

「...立派じゃねえか。それでも前向いて身体を張ろうなんてよ」

静雄の脳裏に、目の前で散った彩声の姿が過る。
彼女も致命傷を負いながらもずっと前を向き最期まで抗った。
自分よりも弱い身体で、それでも一度も折れずに立ち向かった。

静雄はそんな彼女の心の強さが羨ましかった。
心が強くなりたい。
それは静雄が殺し合いに巻き込まれる前から思っていたことだ。

彼女だけでなく。
ムネチカもそうだ。
身内の所業から逃げることなく向き合い、その分まで戦うために頭を下げる。
容易くできることではない。

「疑って悪かった。これからよろしく頼む」

だから、静雄にはもう彼女への敵意はなくなってしまった。
むしろ、その心の強さを学びたいと素直に思った。

「かたじけない...!」

ムネチカが顔を上げると、レインと静雄も馬車に乗り込み、ムネチカがその屋根に上るのを合図に馬車がゆっくりと動き始めた。


885 : その座標に黒を打て(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 01:02:09 gnW2ppTE0






馬車の中、静雄とレイン、垣根とリュージと咲夜がそれぞれ横に並び、二つの組が向かい合うように座っている。


「貴女が咲夜さんでしたか」
「ええ。それが?」
「ムーンブルク城で会った人に名前を聞いていました。それと、同じく学校にいたはずの黄前久美子さんの居場所は知りませんか?」
「悪いけれど知らないわ。私は一足先に気を失ってて、目を覚ました時にはもういなかったもの。残念ながら皆目見当がつかないわ」

咲夜はこう言うものの、実際は嘘である。
ひとつだけ一目散に逃げだしていく足跡。それを辿れば追いかけること自体はできた。
けれど、追いかけるメリットがないため止めた。
そんな当時の咲夜の心境を知る者はいないし、知ったとしてもそれで責められることもない。
久美子の話はいったん置いて話は続けられる。

「...まずは私たちの方から情報を話しましょうか」

垣根・リュージ・咲夜の三人に向けて、レインは話し始める。
最初に電撃を操る仮面の漢と静雄と共に戦ったこと。
その次に逃亡していたフレンダとそれを追いかける竜馬に出会ったこと、竜馬との戦闘の最中に煉獄が割って入り仲裁し、彼がフレンダの後を追い別れたこと。
煉獄の遺した情報に従い警察署に向かい、竜馬とはそこで別行動になり、自分たちは西側で向かったところ、炎を操る仮面の者と、梔子・彩声と会い、彩声の犠牲もあり敵を退けられたこと。
見つけた喫茶店で幾らか身体を休めた後、梔子とも別れしばらくしてからムーンブルク城で神隼人と出会いその頼みで北宇治高等学校に向かい、そこで神崎・H・アリアと遭遇。彼女からも高坂麗奈という少女を探してほしいと頼まれたこと。
そして、隼人の頼みも失敗に終わったことで、手ぶらで帰るよりはこちらも協力者や情報を持ち帰るべきだと判断しここまで辿り着いたこと。

その全てを三人に向けて打ち明けた。

「ここまでが私たちのこれまでの道程ですが...どうしました?」

一様に眉を潜め険しい顔つきになる三人に、レインは思わず首を傾げる。
これが彼女の首輪とこの世界に対する考察を聞かされた、などならわかる。
自分が自分じゃないかもしれない、なんて考えは生理的に嫌悪しても仕方ない代物なのだから。
けれど、梔子と静雄に話した経験から、その説はまだ明かしていない。
だというのにこの反応はなんなのだろうか。

「...話してやれ。俺もまだお前の言ってたことはイマイチピンときてねえんだからよ」
「ああ。わかった」

垣根に促され、リュージは語り始める。
先ほどの紅魔館で起きたこと、そしてリュージが『視た』ものを。

「レイン。俺は『ゲッター』を垣間見た」
「ゲッター?たしか、竜馬さんがそんなことを言っていたような...」
「俺が視たのはその竜馬についてだ」

リュージは語る。
『ゲッター』は全てを滅ぼす災厄の光であり、齎される未来は機械が生命を侵食し、命が命を互いに食らい合うことで無限に成長していく、まさに地獄の世界であること。
その『ゲッター』を支配するのは、否、支配され地獄の忠臣にいるのは流竜馬であり、放置すれば確実にあの男は宇宙を滅ぼす悪魔と化すこと。
そんな彼の語った『ゲッター』についてのあれこれに、レインは。

「頭でも打ちましたかリュージさん」
「んなっ!?」

あっさりとそう切り捨てた。


886 : その座標に黒を打て(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 01:03:02 gnW2ppTE0

「あのですねえ。いくら私たちがダーウィンズゲームという非現実的なゲームに巻き込まれているにしてもですよ。そんな一個人で世界や宇宙を滅ぼすどうのうなんてことができるはずもないでしょう。それに、その情報も根拠が夢を見た、なんて説得力に乏しいなんてものじゃありませんよ」
「正論だな。どんな事象であれ、物事にはちゃんとした理屈が伴うもんだ。正直、俺もこいつよりはそっちの考え寄りだ」

ため息を吐くレインに垣根も同調する。

「垣根、あんたまで...」
「常識で考えるなら、な。もうこの殺し合いにおいて常識なんてルールは通用しねえだろ」
「と、言うと?」
「宇宙云々はともかくとしてだ。少なくとも竜馬ってやつがとんでもねえ災厄だってのは確かだ」

垣根は紅魔館での一部始終を大まかに語る。
魔王との戦いの最中、琵琶坂を手土産に乱入し、まるでなにかに突き動かされるように破壊の限りを尽くしていった竜馬のことを。

「あれが『ゲッター』だかなんだかのせいかは知らねえが、少なくとも俺の知る化学だけじゃ説明がつかねえ領域だ」
「そんなまさか...」

思わずレインの口からそんな言葉が漏れる。
レインは竜馬について詳しく知っている訳ではないし、深い信頼を抱いている訳でもない。
しかし、静雄との件からブレない強い男だとは思っていた。
そんな彼がしでかしたという破壊と殺戮は衝撃が大きかった。

(竜馬さんが私たちと行動している時に猫を被っていたとは思えない。垣根さんの話では暴走しているようだったと聞きますが、ならば原因は?少なくとも平和島さんと同等の戦力を失うのは惜しい。彼を動かすなにかを突き止めれば———)
「悪い、止めてくれ」

レインが考えを巡らせる傍で、静雄が静かに告げ、コシュタ・バワーはそれに従う。

「おい?」
「ちょっと待っててくれ。すぐ終わる」

静雄はそれだけ告げると、馬車の戸を開き降りていく。

(———あ、この流れは)

レインの目が引きつり細められる。
静雄の顔色は至って平穏。語気も荒くなく、血管も浮かび上がらせていない。
誰が見ても冷静沈着そのものだ。

だが、レインは察していた。
いつものヤツが来る、と。


887 : その座標に黒を打て(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 01:04:14 gnW2ppTE0
「なんだあいつ...小でも催したか?」
「まあ...似たようなものです」

止めるのも億劫だと溜息混じりにレインがそう言った直後だった。


ズ ド ン


爆撃のような音が響いた。

「なっ、なんだぁ!?」
「...やっぱり」

音の出所はすぐ傍。
馬車に背を向けている静雄の眼前の地面に、巨大なクレーターが出来ていた。

「な、あっ」
「おー、派手にやるじゃねえか。なんかの能力か?」

あまりの威力に咲夜は言葉を失い、垣根は思わず興味をそそられる。

(はぁ...まだ続きますよね、この流れ)

レインは数秒後に来るであろう疾風怒濤の如き暴威に備え、耳を塞ぐ準備をする。
が、しかし、音は鳴らず。

「悪い、時間を取らせちまった」

そのまま静雄は馬車のもとへ戻り、謝罪の言葉を口にした。

「ムネチカ。見張り変わってくれるか」

(あれ...?)

静雄の様子にレインは違和感を抱く。
今までの流れであれば、静雄が怒りに任せて咆哮と共に暴れ狂い、木々や岩などが四方八方縦横無尽に飛び交っているところだ。
それが、たった一撃ぶつけただけで怒りが収まり、いまもこうして冷静さを取り戻している。
別に怒ったわけではないのか?いや、だとしたらそもそも最初の一撃を放つことすらないくらいには、平和島静雄は無用な暴力を嫌っている。

「レイン。あいつはひとまずぶん殴る。それで構わねえな」
「え、ええ。まあ、現状、そうする他ないでしょうから」

違和感は静雄自身も抱いていた。
普段の静雄の怒りは、文字通りの怒りだ。
理不尽への激怒。やり切れぬ感情への沸騰。折原臨也への憎悪。
そんな、凡そ人がイメージしやすい怒りに直接繫がる感情が起点だった。

だが、今回は違う。
彼が竜馬の話を聞いて抱いた感情は、失望。
静雄の怒りの根源としては初めての感情。

静雄にとって暴力とは忌むべき手段である。
己の怪力を無暗に見せびらかしはせず、重ねてきた勝利を誇ることもせず。
叶うならば、己のキレやすい性分を直し、暴力なんて振るう時が来なければいいとも思う。
静雄は、誰にも受け止められない己の力が大嫌いだった。
消してしまえればいいと何度も思った。

そんな静雄にとって竜馬は初めての人種だった。
己の全力を、全てを受け止めてくれた唯一の人間だった。
この会場には、他にも静雄と互角の人間は存在する。
敵として戦ったミカヅチとヴライ。
拳を受け止めた煉獄。
だが、彼らとは違う。前者は怒りと殺意で戦い、後者はそもそも彼の側から戦おうという意志がなかった。

臨也のように敵意と殺意だけでなく。
サイモンのようにある程度の怒りを受け止めてくれるだけではなく。
ただ何も考えず、ぶつかり合い、感情を曝け出し合える男。
そんなこれまでにない特別。
それが流竜馬だった。

そんな、自分が認めた男が、ゲッターだのわけのわからないモノに操られているのが腹立たしかった。
無様を晒しているのが我慢ならなかった。
ただの一方的な期待と我儘でしかないとは解りつつも、一度竜馬を殴らなければ気が済まないと思わざるをえなかった。


888 : その座標に黒を打て(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 01:04:59 gnW2ppTE0

静雄が屋根に登り、代わりにムネチカが席に着くと再び馬車は動き出す。

レインからの情報提供が終わり、次いで垣根たちの側からの情報提供となる。

垣根からはジョルノたちやライフィセット達から得た情報の提供と鬼舞辻無惨という怪物の存在を。
ムネチカからは魔王と化したベルベットと、首輪を分解して得た情報のことを。

そして咲夜は。

(下手に間宮あかりだのカタリナ・クラエスだのの悪評を撒けばフレンダとかいう娘の二の舞になりそうね...)

自分がゲームに乗っていることは伏せつつ、ゲームに乗っている『琵琶坂』と学園でひと悶着あったこと、北宇治での破壊神やジオルドとの戦い、そしてヴライに襲われたことをレインに伝えた。

「なるほど。これでだいたいの生存者のスタンスがわかってきましたね。私たちが戦った仮面の炎使いの名前もわかりましたし...纏めると」

脱出派:レイン 静雄 垣根 リュージ 隼人 クオン 久美子 早苗 咲夜 ムネチカ 琴子 ブチャラティ ライフィセット 麗奈 カナメ 九朗 あかり 梔子
危険:無惨 ヴライ 竜馬 琵琶坂 ベルベット
不明:ディアボロ ウィキッド オシュトル 臨也 ヴァイオレット ロクロウ

「こんな感じでしょうか」
「ん?臨也ってやつは不明側なのか?」
「あくまでも静雄さんといがみあってるだけですから。...しかし、この世界のことは予想はしていたことですが、これでほぼ確定してしまいましたか」

何度目かわからない溜息を吐く。
自分が自分じゃない可能性は喫茶店で考えていた。
しかし、首輪を解体してみた上で改めて突きつけられるとやはり気が重くなる。
脱出の為に抗っていることすら嘲笑われているような感覚すら覚え始めてくるというものだ。


889 : その座標に黒を打て(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 01:05:46 gnW2ppTE0

「......」

そんなレインの様子に、ムネチカは軽く握った拳を口に添えながら考える。

(情報が足りない中でも、よもやここまで首輪についての真相に辿り着きかけていたとは...幼き身でありながら恐れ入る)

ライフィセットも聡明な子供であったが、レインは更にその先を進んでおり舌を巻いた。
首輪の解析。それは、いくら武に優れようとも、専門外の自分にはできない領分だ。

「レイン殿。垣根殿。それと咲夜殿もこれを」

ムネチカは懐から一冊のノートを取り出す。
夾竹桃のNETANOTE。彼女を介錯した際に譲り受けたものの一つだ。

「夾竹桃が後で皆と相談したいと書き記していたモノだ。小生にはとんと真意が解らなかったが...其方たちならばわかるかもしれぬ」

ムネチカはNETANOTEを捲っていき、該当するページを開き、一同に見せる。

そこに記されていたのは———


890 : その座標に黒を打て(前編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 01:07:47 gnW2ppTE0


『タイトル【楽園からの逃亡】


私は幻惑の毒花 夾竹桃。私の香りは嘘味の毒。鏡のように人を惑わす


貴女はこんな私でも手を引いてくれますか?
繋ぎ止められた私でも愛してくれますか?
この想いを叶えてくれるなら
「枷を外すのは一緒がいい」。


byクリスチーネ桃子』


891 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/07(火) 01:08:44 gnW2ppTE0
一旦ここまでです、後編は近い内に投下します


892 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 22:50:44 BGuujp3U0
すみません、
>>888
垣根からはジョルノたちやライフィセット達から得た情報の提供と鬼舞辻無惨という怪物の存在を。
ムネチカからは魔王と化したベルベットと、首輪を分解して得た情報のことを。

そして咲夜は。

垣根からはジョルノたちやライフィセット達から得た情報の提供と鬼舞辻無惨という怪物の存在を。
ムネチカからは魔王と化したベルベットと、首輪を分解して得た情報のことを。
リュージからは渋谷駅での騒動と魔王や琵琶坂の危険性を。
そして咲夜は。

に、

>>889
「レイン殿。垣根殿。それと咲夜殿もこれを」

「レイン殿。垣根殿。それと咲夜殿とリュージ殿もこれを」

に修正します


893 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 22:51:36 BGuujp3U0



「「「「......」」」」

夾竹桃の書いたモノを見せられた四人に沈黙が流れる。

(意味が解らないわ...)
(同人だのなんだのとわからねえ奴だったが、まさか最後に遺していくのがポエムとはな...)

咲夜とリュージはただ呆れ。

(この文章...違和感がありすぎますね)
(なんかの暗号のつもりか?)

レインと垣根はなにか意味のある文章だと考えて。

「てめえら。こいつの意味を考えるぞ」
「いや、これただのポエムじゃねえの?」
「こいつがただのクソポエムだって思うならそれはそれでいい。それ自体に意味がある」
「解らないことに意味がある?」

咲夜の言葉に応じ、レインはさらさらと紙にペンを奔らせる。

『これがなにかしらの暗号であれば、それは主催側に悟られたくないことでしょうね』

レインの筆談に、リュージ・咲夜・ムネチカの三人は感心の情を抱き、垣根はレインと同じ意見だと不敵な笑みを零す。

「レイン、そいつを全員に配れ」

垣根の指示に従い、レインは紙を皆に配り、各々、予め支給されていたペンを手に取る。


894 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 22:52:59 BGuujp3U0
———議論、開始(以降、:の前に各々の頭文字が付きます)


垣:こっからは筆談だ。口に出す言葉は全部関係ねえことにしろ

レ:まずはこの文章が何を示したいのかを考えましょう

タイトル【楽園からの逃亡】
私は幻惑の毒花 夾竹桃。私の香りは嘘の毒。鏡のように人を惑わす


貴女はこんな私でも手を引いてくれますか?
繋ぎ止められた私でも愛してくれますか?
この想いを鏡一枚で変えれるのなら、
「枷を外すのは一緒がいい」。


byクリスチーネ桃子

リ:この文を無理やり殺し合いに当てはめるなら楽園っつーのは殺し合いのことだな

レ:彼女は殺し合いを楽園と称するような戦闘狂なのですか?

リ:いや。俺たちが主催連中と会った時にμが言ってたんだ。これから俺たちに起こるのは素晴らしいことだってな

咲:その言葉が本当なら確かに長い目で見れば楽園に当てはまるわね

ム:楽園からの逃亡。即ち殺し合いからの脱出と見るべきか

レ:そうだと見ていいでしょう。でなければただのクソポエムです

垣:よし。タイトルの意味はそれでいい。次の文だ


私は幻惑の毒花 夾竹桃。私の香りは嘘味の毒。鏡のように人を惑わす


咲:これはポエムに先立っての自己紹介かしら

リ:にしても回りくどくねえか?私は幻惑の毒花、だけで済むことだろ

レ:そうですね。この文にはどうにも違和感があります。伝えたいことは自己紹介ではないのでは?

垣:強調したいのはむしろ【私の香りは嘘味の毒。鏡のように人を惑わす】っつー部分じゃねえのか

一 時 沈 黙

レ:これだけ見ていてもなんとも言えませんね。次に行きましょう


895 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 22:54:13 BGuujp3U0

貴女はこんな私でも手を引いてくれますか?
繋ぎ止められた私でも愛してくれますか?
この想いを叶えてくれるなら
「枷を外すのは一緒がいい」。

リ:肝心のクソポエムだな

レ:全体の意味を翻訳してみますか

ム:そのまま繋げるなら、

毒塗れの私も許してくれるか
それだけじゃなく愛してくれるか
私の望みを叶えてくれるなら
枷を外すのはあなたといっしょがいい

ということか

リ:なんでわかるんだよ

ム:書いてあるものをそのまま読んだだけだが

咲:類は友を呼ぶ、といったところかしらね

垣:とにかくだ。タイトルと絡めるなら枷っつーのは首輪と考えていいだろ


レ:纏めると

タイトル【殺し合いからの脱出】
私は幻惑の毒花 夾竹桃。私の香りは嘘の毒。鏡のように人を惑わす


毒塗れの私も許してくれるか
それだけじゃなく愛してくれるか
私の望みを叶えてくれるなら
「首輪を外すのはあなたといっしょがいい」

レ:といった具合ですね

咲:...これ、主催から隠すようなことかしら

リ:首輪外せるならみんなで外した方がいいに決まってるからな。当たり前のこと言ってるだけだ。やっぱただクソポエム書いただけじゃねーの?

垣:本当にそうならもう一回ぶっ殺してえところだが、まだわからねえことは残ってる。少し考えさせろ



———議論 中断———


896 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 22:55:11 BGuujp3U0
レインは口元に指を添えながら考える。

(そう、この文章はなにか違和感がある。どこだ。どこがおかしい?)

今まで筆談で纏めた文字を整理する。
ここまでの議論は全部自分たちから出たものだが、解読のヒントになり得そうなものがあるといいのだが、と読み返す。

全て。
俯瞰的に。
読み返す。

「———あ」

違和感の正体がわかった。

レインは再びペンを手に取った。


897 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 22:57:27 BGuujp3U0

———議論 再開———

レ:違和感の正体がわかりました

「違和感だぁ?」

レ:リュージさん、筆談

リ:ワリィ、つい

レ:私の抱いた違和感はこれです。

「枷を外すのはあなたといっしょがいい」

レ:この文章だけが鍵括弧がついているんです。妙ですよね、私たちも筆談し出力している時にわざわざ鍵括弧なんて着けませんから

ム:言われてみれば。しかしこれがいったい何の意味が?

咲:この鍵括弧が無くても文は繋がるものね

レ:私たちはこれをポエムだと捉えていました。この一番下のByが猶更ややこしくさせていたんですね

咲:ポエムじゃなかったらなんなのかしら

垣:小説かあとがきみたいなもんか

レ:そうです。そう捉えれば鍵括弧の意味が解ります。


898 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 22:59:03 BGuujp3U0

毒塗れの私も許してくれるか
それだけじゃなく愛してくれるか
私の望みを叶えてくれるなら

レ:この前半の鍵括弧のついていない文はあくまでも口に出していない彼女の心理描写で

「枷を外すのはあなたといっしょがいい」

レ:この鍵括弧の文は彼女が実際に口に出しているという描写であると考えられます。

ム:なるほど。しかしそれに何の意味が?

垣:そういうことか

リ:なにかわかったのか?

垣:自己紹介の文にあるだろ

私の香りは嘘味の毒。鏡のように人を惑わす

垣:花の香りってのは相手に伝えて意味があるもんだ。じゃなけりゃ匂いで獲物をおびき寄せることもできねえからな

レ:私は夾竹桃、つまり花だと例えるなら、香りは言葉の言い換えでしょう。つまり私の『言葉』は嘘である、ということです。

レ:ではどういう嘘かと言うと、それが

鏡のように人を惑わす

レ:鏡に写されたものは反転します。つまり、彼女の言葉だけを反転させるという意味でしょう

垣:要約するとだ


899 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 22:59:23 BGuujp3U0

タイトル【殺し合いからの脱出】
私は幻惑の毒花 夾竹桃。私の言葉は嘘だから反転しなさい


毒塗れの私も許してくれるか
それだけじゃなく愛してくれるか
私の望みを叶えてくれるなら
首輪を外すのはあなたといっしょはイヤだ


垣:っつーかんじだ

レ:いっしょはイヤ、捉え方を変えれば別々に外して欲しい、という意味でしょうね。つまり結果は


タイトル【殺し合いからの脱出】
私は幻惑の毒花 夾竹桃。私の言葉は嘘だから反転しなさい


毒塗れの私も許してくれるか
それだけじゃなく愛してくれるか
私の望みを叶えてくれるなら
首輪を外すのは別々がいい


—— 議論 終了 ——


900 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 22:59:58 BGuujp3U0

「———で、だ。答えが出たのはいいけどよ」
「ええ。問題は夾竹桃が何を掴んでいたか、です」

夾竹桃はムネチカに『みんなで相談したい』と言っていた。
その時はまだ魔王との戦いが始まっておらず、彼女もそれを乗り越えたあとで共有する手はずだったはずだ。
『首輪を外すのは別々がいい』
彼女が散った以上、その真意にまでは辿り着くことができないのは痛手だ。

「わざわざ『枷』に触れているんです。『枷』を回収した彼女だから気づけたことがあるのでしょうが...」
「実演してみりゃあわかりやすいんだろうが、そうもいかねえからな。ノーリスクで実演現場を再現できる状況なんざ...あ」

ふと、なにかを思い出したかのように垣根は言葉を漏らす。
その脳裏に過るのは、ジョルノ達と踏み込んだ山小屋の惨劇。
そこで抱いた違和感塗れの死体。
そうだ。もともとは、あの死体を見つけてから全てが始まったのだ。
そして幸運にも、垣根が犯した失態により、その現場再現も可能になっている。

「レイン、もうすぐ城に着くみてえだぞ」

屋根から聞こえてきた静雄の声に、ちょうどいいかと垣根はハンディカムを取り出す。

「垣根さん?」
「すっかり忘れてたぜ。こいつがあったのをな」

それは、参加者の一人・チョコラータの起こした惨劇の記録だった。


901 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:02:00 BGuujp3U0






城に着き、ここに集った者たちがみな解散していたのを確認すると、自分たちは目立たぬ場所に集い、垣根の弄るハンディカムに皆が注目を集める。

「俺が病院に向かう前に首輪が外された女の死体があった。で、このカメラにはそいつを殺したチョコラータって奴のやったことが記録されてる———ああ、そいつはもう死んでるから安心しな。...よし、点いた」

映像が流れ始める。

『まずは右腕からいくか、累』
『あ、あああああッ!』

「...ッ!!」

映し出された少女に。
激痛と絶望に歪む魂魄妖夢の顔に、咲夜は背筋が凍り付く。

別に、特別仲が良かったわけではないし、霊夢ほど敵対し合っていたわけでもない。
そこそこ長い付き合いはあるものの、せいぜい主を持つ者としてシンパシーを感じていた程度。
それでも、顔なじみが拷問される場面を見せられ平静でいられるほど薄情ではない。

「...ごめんなさい。ちょっと休ませてもらうわ」

一人、カメラから目を逸らし、声の聞こえない場所までふらふらと離れていく。

「おい、咲夜ちゃん?...あー、済まねえ。俺も咲夜ちゃんのとこまで行ってくるわ」

彼女に続いたのは静雄だ。
彼自身、少女を甚振る外道の所業に怒りが湧きあがりかけたが、咲夜の顔色が変わったことから、その原因を察した。
恐らく咲夜とは知り合いなのだろう、あの被害者の少女は。そんな場面を見せられれば気を悪くするのも当然だ。
どの道、機器についての専門知識を持たない自分では役に立ちそうにない。ならば、と彼女の護衛を兼ねて付き添うことにした。

「おめーらはどうする?」

離れていく二人を止めることはせず、垣根は残る三人に問いかける。
実際、生きた人間の拷問シーンなど耐性が無くて当然であり、むしろそれを見ても平然としていられる自分の環境が特殊であるのは自覚している。
だから垣根はビデオの視聴を無理強いはしなかった。

「私は残りますよ。残酷な場面はある程度経験していますから大丈夫です」
「小生も問題はない。戦場では血肉臓腑を見るのは至極当然」
「...耐えれるとこまでは見ておくわ」

三人の同意を経て、ビデオは続きを再生させられる。


902 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:03:01 BGuujp3U0

『累、次は首輪が欲しいのだが頼めるかい』
『……分かったよ、父さん』

その言葉と共に、妖夢の首に糸が食い込み、肉を割き首が斬り落とされた。
ぶつり、と首が切り離されると共に、彼女の首輪が地面に落ちた。

ここまでは概ね彼らの予想通りだ。
だが、次の瞬間、彼らは信じられぬ光景を目にする。

『グリーン・デイ』
「!!」

一同が息を呑むのも束の間だった。
チョコラータの言葉と共に、妖夢の首の切断面にカビが生い茂り、神がかり的な縫合技術と速度により妖夢の首が繋ぎ合わせられた。
そしてあろうことか、彼女は死なず、苦しみの嗚咽を漏らし生き延びたのだ。

「...おい」

思わず垣根は一時停止ボタンを押す。

「ええ。確かに、形はどうあれ、彼女は生きたまま首輪を外すことに成功しました」

その要因は妖夢自身ではなく、チョコラータの能力と技術によるものであるのは窺い知れる。
だが、奴はいとも簡単に、妖夢にゲーム脱出への切符を渡すことができた。
それはつまり、チョコラータと同じことができれば、垣根たちも首輪を外すことができることになる。


903 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:03:54 BGuujp3U0

『累、次は首輪が欲しいのだが頼めるかい』
『……分かったよ、父さん』


その言葉と共に、妖夢の首に糸が食い込み、肉を割き首が斬り落とされた。
ぶつり、と首が切り離されると共に、彼女の首輪が地面に落ちた。

ここまでは概ね彼らの予想通りだ。
だが、次の瞬間、彼らは信じられぬ光景を目にする。

『グリーン・デイ』
「!!」

一同が息を呑むのも束の間だった。
チョコラータの言葉と共に、妖夢の首の切断面にカビが生い茂り、神がかり的な縫合技術と速度により妖夢の首が繋ぎ合わせられた。
そしてあろうことか、彼女は死なず、苦しみの嗚咽を漏らし生き延びたのだ。

「...おい」

思わず垣根は一時停止ボタンを押す。

「ええ。確かに、形はどうあれ、彼女は生きたまま首輪を外すことに成功しました」

その要因は妖夢自身ではなく、チョコラータの能力と技術によるものであるのは窺い知れる。
だが、奴はいとも簡単に、妖夢にゲーム脱出への切符を渡すことができた。
それはつまり、チョコラータと同じことができれば、垣根たちも首輪を外すことができることになる。


「だが、小生にはこのような行為はできぬ」
「俺もだ。つか、こんなことできるのは医者でも限られたやつだけだろ」
「...続けるぞ」

再生ボタンが押される。

『その子をどうするの?』
『なあに、ちょっとした実験でもしようか』
『………い……ゃ”』

そこからしばらくはゲス医者による少女の解体ショーが続いた。
なにか後に繫がるものがないか、集中して見られたのも最初だけ。
弟の殺害現場を連想させられたリュージはすぐに吐き気と共に顔を逸らし、ムネチカも肋骨から開かれた内臓までが限界で。
残るレインも顔色は優れず、不快気に眉を潜めながらも平然としていたのは垣根だけだった。


904 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:04:27 BGuujp3U0

そして記録された範囲までを終え、一同は大きく息を吐く。

「...ま、あれだ。首輪を外せる事例が視れたのは収穫だった」
「仇を取ってやりたかったが...せめて、彼女の魂に安らぎがあらんことを願おう」
「あれが本人じゃねえかもってことだけが唯一の救いかもな」

ふと零した、各々の感想。

「———え?」

だがレインはそれを聞き逃さなかった。

「リュージさん、いま、なんて言いました?」
「ん?いや、お前も言ってたじゃねえか。この世界にいる俺たちは本物じゃなくて、参加者のデータかなにかをおっ被せられてる偽物かもって。で、首輪がそれを管理する代物だって証拠も夾竹桃が見つけたんだろ?」

そう、リュージの言っていることはおかしなことじゃない。
だからこそ、なにかが妙なのだ。

「垣根さん。カメラを貸してくれますか」
「壊すなよ」

垣根からカメラを受け取り、再び再生ボタンを押すと再び解体ショーが始まる。
レインは己の求める場所まで早送りで飛ばし、該当シーンで止める。
そのシーンは、妖夢が首輪を外され、縫合された場面だ。

もう一度、スロー再生でそこから再開する。

首を繋げられ困惑する妖夢。そしてそのまま、その顔は絶望に染まり———

「———!!」

違和感の正体が解けた。
そして連鎖的にレインの『情報』の解析が始まる。

妖夢はなぜすぐに絶望したのか。
首輪が問題なく外せたのはなぜか。
首輪を回収した夾竹桃が気づいたこととは。
夾竹桃が暗号を残した意味。
外すのは別々がいい、この真意とは。

繫がる。
情報同士が点と化し、引かれた線が座標を描いていく。
繋ぐ。
繋ぐ。
繋ぐ。

そして繋ぎ終えた彼女は

『みなさん、ここからはまた筆談を』

答えを導いた。


905 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:05:40 BGuujp3U0

—— 筆談 開始 ——

レ:夾竹桃の気づいたことが解りました

「あ?なんでだよ」

レ:リュージさん

リ:すまん。で、なんでわかったんだよ

レ:先ほどリュージさんは言いましたよね。首輪が私たちを私たちたらしめる為に着けられている装置だと

リ:いや、そうなんだろ?証拠もあったんだからよ

レ:ええ。だからこそおかしいんです。なぜあの被害者の少女は、首輪が外れたにも関わらず、誰の目を通してもあの姿のままだったのでしょうか?

リ:なぜって、どういう意味だよ

垣:そういうことかよ

ム:垣根殿?

垣:考えてみりゃ当然の話だ。この首輪があるから俺たちは俺たちでいられる。だが外れたあいつはそれでもあいつのままだった。本来なら、首輪を外された瞬間にあいつのデータを写された誰かにならなきゃおかしいだろうよ

レ:けれどビデオ越しに見た私たちからしても下手人のチョコラータからしてみても彼女は彼女のままだった。つまりこの首輪を着けている間は私たちの他の参加者への認識はブレないんですよ

垣:つまり、夾竹桃が気づいたことってのは、首輪を回収した後もその死体がそのまま見えていた違和感ってことか


906 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:11:00 BGuujp3U0

レ:ですがここまでわかった上で更なる疑問が湧いてきました。首輪を外された彼女です。

レ:この首輪が参加者間の相互の認識を保持しているならば、首輪を外された彼女はチョコラータたちを『別の何者か』と見えていなければいけません。ですが、彼女はそんな素振りもなくただチョコラータに怯えていた。変ですよね?いくら混乱していもチョコラータが別人に見えていたらまずはそこに驚くはずですし言及するはずです。それが無かったということは、彼女もまたチョコラータはそのまま見えていたことになります

リ:じゃあ結局、首輪は情報を管理している装置なんかじゃなくて、ただの起爆装置だったってことか?

レ:その可能性もなくはないです。ですがそれでは垣根さんと夾竹桃が分解と解析をしてみつけた証拠と噛み合いません。そこで気になったのが、首輪を外せたという事実そのものです。

レ:チョコラータの能力と縫合技術さえあれば首輪を外すことが出来るのは解りました。ですが、アレが個人の能力でできることならば、なぜ主催側はそれへの対策をしなかったのでしょう。チョコラータがその気になれば全員の首輪を外して一気に主催に反旗を翻すのも可能だというのに。

レ:彼の下衆な精神を信用していた?しかし彼は二回目の放送までで命を落としました。決して無敵の存在ではない証左です。もしもこの件が漏れていたら先に彼を脅して首輪を解除させる協力も取り付けられたでしょうね。そんな人の精神の在りようなどという不確定要素を信頼できるはずがありません。しかし主催はこれをそのまま通しました。つまり、外されること自体はさほど深刻ではないと取れます。

レ:首輪の保持による参加者の姿の相互認識と、外された後も問題なく参加者でいられる環境。これを両立させられるとすれば、それは首輪が個々で独立して機能しているのではなく。

レ:『首輪は連動して機能しており、首輪の機能が全て、あるいはただ一人を残して機能を停止させたその時、初めて私たちの本当の姿が表れる』ということです


———筆談 終了——


907 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:11:23 BGuujp3U0

レ:ですがここまでわかった上で更なる疑問が湧いてきました。首輪を外された彼女です。

レ:この首輪が参加者間の相互の認識を保持しているならば、首輪を外された彼女はチョコラータたちを『別の何者か』と見えていなければいけません。ですが、彼女はそんな素振りもなくただチョコラータに怯えていた。変ですよね?いくら混乱していもチョコラータが別人に見えていたらまずはそこに驚くはずですし言及するはずです。それが無かったということは、彼女もまたチョコラータはそのまま見えていたことになります

リ:じゃあ結局、首輪は情報を管理している装置なんかじゃなくて、ただの起爆装置だったってことか?

レ:その可能性もなくはないです。ですがそれでは垣根さんと夾竹桃が分解と解析をしてみつけた証拠と噛み合いません。そこで気になったのが、首輪を外せたという事実そのものです。

レ:チョコラータの能力と縫合技術さえあれば首輪を外すことが出来るのは解りました。ですが、アレが個人の能力でできることならば、なぜ主催側はそれへの対策をしなかったのでしょう。チョコラータがその気になれば全員の首輪を外して一気に主催に反旗を翻すのも可能だというのに。

レ:彼の下衆な精神を信用していた?しかし彼は二回目の放送までで命を落としました。決して無敵の存在ではない証左です。もしもこの件が漏れていたら先に彼を脅して首輪を解除させる協力も取り付けられたでしょうね。そんな人の精神の在りようなどという不確定要素を信頼できるはずがありません。しかし主催はこれをそのまま通しました。つまり、外されること自体はさほど深刻ではないと取れます。

レ:首輪の保持による参加者の姿の相互認識と、外された後も問題なく参加者でいられる環境。これを両立させられるとすれば、それは首輪が個々で独立して機能しているのではなく。

レ:『首輪は連動して機能しており、首輪の機能が全て、あるいはただ一人を残して機能を停止させたその時、初めて私たちの本当の姿が表れる』ということです


———筆談 終了——


908 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:13:58 BGuujp3U0

「...勘弁してほしいぜ」

リュージは大きく息を吐く。

「なあ、レイン。もしもお前の考えが合ってるならよ」
「ええ。外せる当てができても、最低でも二人、『枷』を外すことなく留まらなければなりませんね。でないときっと私たちの保持はできません」
「夾竹桃が言いたかったのもそういうことか」
「まあ、彼女はこのビデオを知らないので、あくまでも試験的に順番に外すべきかもと提案したかったんでしょうがね。思いのほか、真相に迫っていたようですが」
「...誰が残るにせよ、どのみち『枷』を外さぬわけにはいかぬか」
「せっかく外す方法もわかったんです。有効活用していきたいですが...」

皆が思わず首をひねる。
方法はわかった。しかし、実現する術がない。
ただ、ここまでわかっただけでも前進か———否。

「いや、待て。もしかしたら行けるかもしれねえ」

リュージは思い出したように紙にその名前を書きなぐる。

『ブローノ・ブチャラティ。あいつのジッパーの能力なら俺たちを殺さず首輪だけ取ることができるかもしれねえ』
『なるほど。試してみる価値はありますね。ただ、能力での解除ができるかは半々といったところですね』
『最初から自力で脱出できる技を持つ奴には流石に対策してるだろうからな。ただ、後付けに関しては別だ』

妖夢は再生能力を持たないただの人間であることはチョコラータの実験を通して判明している。
そんな彼女が首を斬られても止血と縫合さえすれば生きられるのを許されているのは、首輪がそれに適応しきれていなかったのではないかと垣根は考える。
もしも適応していたら、チョコラータが妖夢の首の切断面にカビを生やした時になにかしらのアクションが起きるはずだからだ。

『データってのは複雑なもんだ。どんなに優れた数式でも一つ崩れりゃあ機能しなくなる。俺たちの存在をデータだとすりゃあ、余計なモンが入った時に首輪も効果を無くしちまうだろうよ。まあ計算が終われば適応するんだろうがな』
『それはつまり、首を斬られても生きていられる環境・あるいは体質になればその隙を突いて首輪を外すことができるかもしれないということですね』
『首を斬らなくても、変化した体質に適応する前に首輪を解除しちまえば、理論上は外せるだろうな。あのクソ医者が遊びで使った人魚の肉とかいう奴がありゃあ話は早かったんだがな。そう何個も配っているとは思えねえ』
『人の体質を変化させられる、そんな参加者や支給品があればいいのですが』

流石にそんな都合よくいかないだろうと予想しているが、彼らは知らない。
彼らの求める【他者の体質を変えることができる者】がこの会場に存在していること。
その者こそ、垣根が狙っている鬼舞辻無惨であることは、いまの彼女たちにはたどり着けなかった。


909 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:15:57 BGuujp3U0

『では行動指針を纏めましょう』

離れていた静雄と咲夜を呼び戻し、レインは考察し導き出した情報を基に指針を打ち出す。


1:首輪の解析を進める。正攻法で解除できるならそれに越したことは無い。

2:他者の首を斬っても相手を殺さなくて済む可能性を持つ参加者を探す。(現状の候補はブローノ・ブチャラティ)

3:人魚の肉のような肉体の性質を変化させられる道具あるいは参加者の捜索。

4:首輪を解除する時は一斉にではなく順番に解除する。そして必ず二名以上は残す。

「この指針に沿って、これからのことを考えるなら、ひとまずはここにいた面々と合流したいところですね」
「おっ、もう声出してもいいのか。えーっと、隼人と九朗ってやつは病院に行ってから研究所で、ブチャラティとライフィセットと梔子が遺跡に、クオンと早苗ってやつも遅れて遺跡か」
「より安全を考慮するなら纏まってどちらかに絞りたいところですが、なにぶん時間は有限です。無難に二組に別れましょうか」


首輪についての情報解析は進んだ。
そう、彼らは認識している。
正誤はどうあれ、なにも見えない中を進むよりは方向性を確立させられるだけ前進だ。
あとはどう人員を割り振るか。
ここが彼らの運命の分岐点となる。


910 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:16:52 BGuujp3U0

【一日目/夜/C-5/ムーンブルク城跡】


【平和島静雄@デュラララ!!】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、全身火傷(大・処置済み)、出血(小〜中、止血済み)、全身に複数の切り傷(小)、精神的ダメージ、全身に複数の打撃痕、レインの仮説による精神的躊躇(小)
[服装]:いつものバーテン服(ボロボロ)
[装備]:なし
[道具]:見回り用の自転車@現地調達品、コシュタ・バワー@デュラララ!!
[状態・思考]
基本行動方針:主催者を殺す。
0:病院方面に向かうか遺跡方面に向かうかを決める。黄前久美子、高坂麗奈も探したい。
1:竜馬を見つけたらぶん殴る。
2:仮面野郎共(ミカヅチ、ヴライ)は絶対殺す。
3:やっぱりノミ蟲(臨也)は見つけ次第殺す
4:竜馬の知り合いに遭ったら一応伝えておいてやる。
5:彩声との約束を守るため、梔子を護る。
6:仮面をつけている参加者を警戒。
7:久美子と会ってセルティの話を聞きたい。
8:新羅の死の真相が知りたい。
[備考]
※参戦時期は少なくともセルティが罪歌と関わって以降です。
※静雄とミカヅチの戦闘により、公園が荒れ放題となっております。
 仮面アクルカによる閃光は周辺地域から視認できたかもしれません。
※彩声の遺体は喫茶店に運び込まれています。
※梔子と情報交換しました。
 ただウィキッドは仲間の義理として細かくは説明してません。

【レイン@ダーウィンズゲーム】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[服装]:普段の服
[装備]:ベレッタM92@現実、レミントンM700@現実
[道具]:天本彩声の支給品(基本支給品、ランダム支給品×0〜2)
[状態・思考]
基本行動方針:会場から脱出する
0:病院方面に向かうか遺跡方面に向かうかを決める。黄前久美子、高坂麗奈も探したい。
1:竜馬が心配。それにイヤに執着するリュージも不安視。
2:『アリア』に対し、疑念。確証はないが、彼女に関しての情報は集めておきたい。
3:情報は適切に扱わなければ……
4:サンセットレーベンズメンバーとの合流を目指す。
5:μについての情報を収集したい。
6:琵琶坂、ウィキッド、無惨に警戒。
7:竜馬の知り合いに遭ったら協力を仰いでみる。
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後、カナメ達とクランを結成した頃からとなります。
※ヒイラギが名簿にいることから、主催者に死者の蘇生なども可能と認識しております。
※彩声の支給品はレインが回収しました。
※『参加者は赤の他人がキャラクターになりきってる』と言う説と、
 『それが参加者が折れ殺し合いをするしかない結論をさせる為の罠』説を立ててます。
 どちらも確証はありません。(前者の方は辻褄が合い、後者の方は発想の逆転のようなもの)
※梔子と情報交換しました。
 ただしウィキッドには仲間であるため細かく説明してません。




【ムネチカ@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:疲労(極大)、全身に火傷や打撲ダメージ(極大)、強い決意、出血(大、火傷による止血済)
[服装]:いつもの服装
[装備]:ムネチカの仮面@うたわれるもの
[道具]:基本支給品一色、大きなゲコ太のぬいぐるみ@とある魔術の禁書目録(現地調達)、夾竹桃の支給品一式(分解済みのシュカの首輪、素養格付、クリスチーネ桃子作の同人誌、夾竹桃のNETANOTE、薬草及び毒草)
[思考]
基本:アンジュとの絆を嘘にしない。
0:病院方面に向かうか遺跡方面に向かうかを決める。黄前久美子、高坂麗奈、ライフィセットも探したい。
1:小生はもう迷わない。
2:志乃乃富士、夾竹桃、麦野沈利、感謝する。
3:ライフィセットや『あかりちゃん』を護る。
4:魔王や流竜馬に最大限の警戒を。

[備考]
※参戦時期はフミルィルによって仮面を取り戻した後からとなります
※女同士の友情行為にも理解を示しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※アンジュとの友情に目覚め、崩壊していた精神が戻りました。


911 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:18:27 BGuujp3U0

【リュージ@ダーウィンズゲーム】
[状態]:片腕・片目損失。精神的疲労(中)、『ゲッター』への強い忌避感。
[服装]:軍服
[装備]:イケPの二丁拳銃@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-
[道具]:ポルナレフの双眼鏡@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、上やくそうの束@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島(一部消費)、悲鳴嶼行冥の日輪刀@鬼滅の刃(暴走時に竜馬が捨てたのを拾った)
[思考]
基本:『ゲッター』を止める。
0:病院方面に向かうか遺跡方面に向かうかを決める。殺し合い云々以上に、なにを置いても『ゲッター』を止める。隼人には悪いが、竜馬の殺害も辞さない
1:垣根たちと共に『ゲッター』を止めたい。
2:ひとまずは殺し合い反対派の連中に合流したい。
[備考]
※参戦時期は宝探しゲーム終了後です。
※この世界をメビウスのような「フィクション」だと思っています。
※夾竹桃・ビルド・琴子・隼人・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。
※琵琶坂のこれまでの経緯を聞きました。
※気絶中に『ゲッター』の一部を垣間見せられた影響で、『ゲッター』に対して強い忌避感を抱いています。


【垣根提督@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(極大)、全身に火傷や打撲ダメージ(極大)、強い決意、精神的疲労(極大)、出血(大、火傷による止血済)、右腕切断(止血済み)。
[服装]:普段着
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3、ジョルノの心臓から生まれた蛇から取り出した無惨の毒に対するワクチン、ジョルノの首輪、マギルゥの首輪、妖夢の首輪、リゾットの首輪、、土御門の式神(数個。詳しい数は不明)@とある魔術の禁書目録、マギルゥの支給品0〜1、ジョルノの支給品0〜3、顔写真付き参加者名簿、リゾットの支給品2つ
[思考]
基本方針: 主催を潰して帰る。ついでにこの悪趣味なゲームを眺めている奴らも軒並みブッ殺す。
0:病院方面に向かうか遺跡方面に向かうかを決める。ライフィセットも探したいが、首輪の解析も進めたい。
1:あの化け物(無惨)は殺す。
2:リゾットの標的だったボスも正体を突き止めていずれ殺す。
3:未元物質と聖隷術を組み合わせた独自戦法を確立する。道中で試しながら行きたい。
4:異能を知るために同行者を集める。強者ならなお良い。
5:魔王及び流竜馬には最大限の警戒。
6:麦野の最期に複雑な感情。

[備考]
VS一方通行の前、一方通行を標的に決めたときより参戦です。
※ジョルノ、リゾット、マギルゥの支給品も垣根が持っています。
※未元物質を代用した聖隷術を試しました。未元物質を代用すると、聖隷力に影響を及ぼし威力が上がりますが、制御の難易度が跳ね上がります。制御中は行動が制限されます。
※首輪の説明文により、自分たちが作られた存在なのではないかと勘繰っています。
※ブチャラティ達と情報交換をしました。


912 : その座標に黒を打て(後編) ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:18:59 BGuujp3U0


【十六夜咲夜@東方Projectシリーズ】
[状態]:体力消耗(極大)、全身火傷及び切り傷、全身にダメージ(極大)、右目破壊(治療不可能)腹部打撲(再発)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつものメイド服(所々が焦げている)
[装備]:懐中時計@東方Projectシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1つ 、
[思考]
基本:早くお嬢様の元へ帰る、場合によっては邪魔者は殺害
0:病院方面に向かうか遺跡方面に向かうかを決める。
1:ひとまずは脱出の方で動くべきか。
2:今後のことを見据え、遭遇する参加者については殺せる機会があれば殺すが、あまり無茶はしない。
3:取り逃がした獲物(カタリナ、琵琶坂)は次出会えば必ず仕留める
4:余裕があれば完全版チケットとやらも探す。
5:ヴライや魔王、流竜馬に最大限の警戒。
6:紅魔館...
[備考]
※紅霧異変前からの参戦です
※所持ナイフの最大本数は後続の書き手におまかせします
※オスカー達と情報交換を行いました
※『ジョジョ』世界の情報を把握しました。ドッピオの顔も知りましたが、ディアボロとの関係は完全には分かっておりません。
※映画を通じて、『響け!ユーフォニアム』世界の情報を把握しました。映画で上映されたものは久美子たちが1年生だった頃の内容となり、『リズと青い鳥』時系列の出来事等については、把握しておりません。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ビエンフーからこれまでの経緯を聞きました。


913 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/09(木) 23:21:05 BGuujp3U0
投下終了です


914 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/11(土) 23:21:21 nL.6df8Q0
すみません、咲夜が参戦時期から妖夢と面識がないのを失念していたので
>>901
『まずは右腕からいくか、累』
『あ、あああああッ!』

「...ッ!!」

映し出された少女に。
激痛と絶望に歪む魂魄妖夢の顔に、咲夜は背筋が凍り付く。

別に、特別仲が良かったわけではないし、霊夢ほど敵対し合っていたわけでもない。
そこそこ長い付き合いはあるものの、せいぜい主を持つ者としてシンパシーを感じていた程度。
それでも、顔なじみが拷問される場面を見せられ平静でいられるほど薄情ではない。

「...ごめんなさい。ちょっと休ませてもらうわ」

一人、カメラから目を逸らし、声の聞こえない場所までふらふらと離れていく。

「おい、咲夜ちゃん?...あー、済まねえ。俺も咲夜ちゃんのとこまで行ってくるわ」

彼女に続いたのは静雄だ。
彼自身、少女を甚振る外道の所業に怒りが湧きあがりかけたが、咲夜の顔色が変わったことから、その原因を察した。
恐らく咲夜とは知り合いなのだろう、あの被害者の少女は。そんな場面を見せられれば気を悪くするのも当然だ。
どの道、機器についての専門知識を持たない自分では役に立ちそうにない。ならば、と彼女の護衛を兼ねて付き添うことにした。

「おめーらはどうする?」

離れていく二人を止めることはせず、垣根は残る三人に問いかける。
実際、生きた人間の拷問シーンなど耐性が無くて当然であり、むしろそれを見ても平然としていられる自分の環境が特殊であるのは自覚している。
だから垣根はビデオの視聴を無理強いはしなかった



『まずは右腕からいくか、累』
『あ、あああああッ!』

少女の絶叫が響き渡り、鼻歌交じりの男の笑い声が流れ始める。

「...なあ、こいつは俺も見なくちゃいけねえやつか?」

拷問が始まってしばらくしてからそんな言葉を漏らすのは平和島静雄。
先に見せた流竜馬への怒りとは違い、今回は声も微かに震え、明確な怒りと殺意を醸し出している。

静雄は画面で拷問されている妖夢を知っているわけではない。
しかし、見た目非力な少女を嬉々として甚振っているという事実だけで怒りが瞬間湯沸かし器のように吹きあがりかけており、既に下手人も死んでいるという事実が辛うじて彼の噴火を抑えていた。
理性と暴走の瀬戸際である。

「その調子じゃあ見ても無駄だろうな。見張りでもしておきな」
「わかった」
「あの、私もいいかしら」

カメラから遠ざかろうとする静雄に咲夜も便乗する。
彼女は別に静雄のように怒りを抱いているわけではない。
目の前の知らぬ少女が殺されても悼み悲しむようなことはしないだろう。
しかし、他者の死を許容しているからといって悪趣味且つ残酷な映像に耐性があるわけではない。
暗部の人間や基からデスゲームに参加している者、戦国時代育ちの武士とは価値観が違うのだ。
ただでさえ疲弊しきっている身体にこれ以上の負担をかけようとは思わなかった。

「おめーらはどうする?」

離れていく二人を止めることはせず、垣根は残る三人に問いかける。
実際、生きた人間の拷問シーンなど耐性が無くて当然であり、むしろそれを見ても平然としていられる自分の環境が特殊であるのは自覚している。
だから垣根はビデオの視聴を無理強いはせず、どうせ考えられないならば少しでも身体を休ませた方がいいと判断した。
に修正します


915 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/19(日) 00:45:33 iBd5tu720
投下します


916 : 偽りの枷 ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/19(日) 00:47:33 iBd5tu720
いま、神隼人たちの手元には五つの首輪がある。
夾竹桃から貰い受けた浜面仕上と錆兎の首輪。
埋葬する際に回収したビルドとマロロの首輪。
病院で遺体を見つけた際に、身体がほぼ炭化していたこともあり回収が容易だった霊夢の首輪。

研究所に着くなり、隼人は早速備え付けの工具を使い、錆兎の首輪を分解し中身を検めていた。
分解作業そのものはさして難しくなく、一般の工具でも可能な代物であった。
それ自体には拍子抜けではあったものの、そこに書かれている内容には隼人のみならず、九朗とアリアも眉を潜めずにはいられない。



μ特製!! 参加者用特殊首輪。

この首輪はメビウスをベースとした世界で生み出された存在を消去するために存在する、緊急手段です。
これにより、仮想世界での作られた存在である彼らのデータそのものを強制的に【消去】することが可能となります。
また、削除対象に『死』を認識させるため、削除と同時に爆発が発生します。危険なので、首輪の削除機能を始動させてからは、対象から離れるようにしてください。起爆までは十秒ほどの猶予時間があります。
また、首輪には緊急解除コードが存在します。
もしもの場合は、緊急解除コードを利用して首輪を外すなりしてください。

「緊急解除コード?」

アリアが思わず呟く。
自分たちがメビウス世界で創られた存在であるかもしれないという考えは共有されている。
だから、その説がほぼ確定されたことに多少のショックはあれど、さしたる問題ではない。
問題はこの緊急解除コードだ。

「隼人さん、なにか心当たりはありますか?」
「いや。生憎、施設を多く見て回れたわけじゃないからな。それよりもアリア、お前たちの知るメビウスにもこんな首輪かそれに類する措置はあったのか?」
「ううん。μがメビウスに取り込んでからは、直接干渉がないと削除なんてできなかったし、自力で帰る術もなかったよ」
「だろうな」

もしも本来のメビウスでこんな装置を身に着けていれば、帰宅部と楽士の戦いなど起こるはずもない。
首輪を外せば現実へ帰れるというなら、楽士をどうこうするよりも首輪を外そうと躍起になるはずだし、楽士側からしても、わざわざ洗脳しなおすよりも帰宅部の首輪をさっさと爆破してしまえばそれでおしまい。殺し合いのセレモニーで、テミスとμが遠隔で首輪を爆破したことから、できないはずがない。
故に、本来のメビウスではこんな装置は生まれるはずがないのだ。


917 : 偽りの枷 ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/19(日) 00:48:24 iBd5tu720

「目的の違いによって後から生まれた措置かもしれません」
「もともとメビウスは自分の好きな姿になって、一旦でもいいから現実の辛いことを忘れようってコンセプトで生まれた感じだからね。だから即死しない限りは怪我だってすぐに治っちゃうし、カタルシスエフェクトだって見た目ほどの破壊力はないし。死んじゃう人が出るのは誤算も誤算なわけよ」
「現実からの逃走保護と管理・殺害という目的の差異か。確かに保護だけしたいという幼稚な発想しかなかったなら殺害用の措置など思いつくはずもないか」
「...逆に言えば、μに変なことを吹き込んだらこういうのも創られちゃうって訳だよね」

殊更にアリアの声のトーンが落ちる。
アリアは今でこそμと敵対する立ち位置にあるが、もともとは二人でこのメビウスを作っていたのだ。
辛く悲しい気持ちやドス黒い感情を解消させてあげるために。また前を向いてハッピーにしてあげられるように。
μの『幸せ』の基準が高すぎるために道を違えてしまったが、しかし、それでもその気持ちだけは否定していなかった。
μを否定するだけでなく、妥協案があるならそっちを取れてもいいくらい、μのことは変わらず大好きだった。
それがなにをまかり間違ってこんな死と憎悪を撒き散らすような催しを生み出すに至ってしまったのか。

目の前で死んでいったビルドの、マロロの、弁慶の、志乃の、みぞれの。
目の前でドス黒い感情に支配されてしまったジオルドの、シドーの姿を思えば、猶更、μに余計な入れ知恵をした主催たちに怒りが湧いてくる。

「あの、ちょっといいですか?」

そんなアリアを見かねるように、九朗が小さく挙手をして口を開く。

「爆薬が入っていなかったということは、爆破はたぶんμの能力ということでいいんですよね」
「恐らくだがな。だから不死であるはずのお前や、とうてい爆弾で殺せないやつらも消せるんだろう」

返事と共に、隼人は傍に置いてあったメモ用紙の束をペンと共に渡す。
『首輪の解除に関することならソイツで書いて伝えろ』。そういったニュアンスであることを察し、九朗はペンを奔らせ二人に書いた内容を示す。

『爆破がμの認識によるものなら、彼女の認識を変えてしまえば無効化できるんじゃないでしょうか。たとえば、爆発は誰も殺せないほど弱くなるとか、いっそのことμを此方の側に引き入れてしまうとか』

九朗が考えたのは、解除コードとやらを探すよりも、爆破そのものを無害化する案だ。
現状、解除コードへ繫がる手がかりは無に等しく、それならいっそ爆破そのものを弱体化させてしまえば、殺し合いを強制する力は一気に弱くなる。
それに加えてμの殺し合いへの認識を変え、こちらの味方に加えてしまえば、アリアにとってもベストな形に落ち着けるだろう。
そんな、現状とアリアの心境を擦り合わせた結果により生まれた案だった。

「そ、それよ!それだよ!冴えない顔の割にはやるじゃん九朗!そうすればμも...もがっ」

μと戦わなくてもいい。その活路を見いだせたと思い声を張り上げるアリアの口を隼人が掌で塞ぎ口頭で返す。

「いい案ではあるが、現状わかる範囲でも厳しいだろう」

それはなぜ、と目で訴えかける九朗とアリア。

「アリア。お前がμと会った時は特別洗脳されている風には見えなかったと言ったな」
「う、うん。けど、それだって誰かに唆されてるんだと思うし...」
「お前の考えが正しかったとしてだ。自分から進んでやっていることを容易く曲げる奴じゃないんだろう」
「ぅ...じゃ、じゃあ、洗脳とかされてたらそれを解いてあげれば...」
「そうだとしてもだ。目を覚ました時、自分の所為で何人も死んだと知ればどうなると思う。簡単だ。『ここで立ち止まってたら死んだ人たちが報われない』『だからせめて私がやり通さなくちゃ』だ」


918 : 偽りの枷 ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/19(日) 00:49:05 iBd5tu720

隼人の反論に、アリアはぐむむと返す言葉を詰まらせる。
隼人の分析は正しい。仲のいいアリアから見ても、μが自分のやりたいことを曲げるとは到底思えない。
それほどまでに頑固な程に人の幸福を願う彼女だからこそ、着いていく人があれだけいて、自分も見捨てることができないのだから。

「となると、やはり解除コードを探すべきでしょうか」
「そうなるが...気になることがある」
「まあ、手がかりとかなーんもないからねえ」
「そこじゃない。俺が気にかかるのは、そもそもなぜ解除コードなんて機能を仕込んだかだ。俺たちを管理・殺害するだけなら必要ないだろう」

言われてみれば、と九朗とアリアは思い至る。
解除コードなんてものは主催側にとっては不利でしかなく、参加者側にとってメリットにしかならない仕組みだ。
ただでさえ不確定要素の強い殺し合いを完遂させる為には不要でしかない。
ならなぜ仕込んだのか。
どう考えても殺し合いの先にあるなにかの為の措置にしか思えない。

「琴子も言ってたけど、やっぱビジネスなのかねぇ?」
「その為のテストプレイに俺たちが選ばれたなら、理屈は通るな」
「脱出コードを試させて、不具合がないかを確認するのは必要ですからね」

琴子が推察したように、好きなキャラクターになりきって世界を楽しめるというようなアトラクションを開催して、いざという時に解除コードが使えなければ目も当てられない。
その為、ちゃんと解除コードが起動するためのテストプレイというなら理屈は通る。
そう。理屈だけならば。

「....あのさ。すっご〜く嫌な理由思いついちゃったんだけど、いい?」
「言ってみろ」
「これ、ただ参加者を馬鹿にするための嫌がらせとかってない?」

アリアの脳裏にふと過った説は、この解除コードが理屈もなにもなく、ただの主催側からの嫌がらせでしかないというもの。
解除コードを必死に探して慌てふためく参加者を主催側が見て嘲笑う。
人間の様々な負の感情に触れてきたからこそ出てきてしまった考えである。

「可能性はなくはない...が、低いだろうな」
「どうして?」
「この解除コードが首輪を調達しなければ、参加者に周知されないからだ。ここまで手間をかけなければたどり着けない餌を仕込むくらいなら、最初からルールに組み込んでおけばいい。『解除コードを探し出した参加者はこの殺し合いから解放してあげる』なんて謳い文句で煽り、いざ解除した途端に爆死させ、参加者たちに理不尽さと恐怖を強いる...俺ならばそうする」
「だから発想怖いってあんた...まあ、納得はできたけど」

如何に精密精巧な餌を作っても、それを表に出さなければ宝の持ち腐れだ。
わざわざ首輪を解除しなければ存在すら知られないモノに嫌がらせなど仕込むだろうか?と問われれば首を傾げてしまう。
しかしそうなると気になることが代わりに出てくる。

「この解除コードとやらが会場内に仕込まれているとしてだ。問題はなぜそれに類するヒントすらないのかだ」


919 : 偽りの枷 ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/19(日) 00:49:28 iBd5tu720

会場内にコードが隠されている。
確かにそう考えるのが自然ではある。
だが、こうも手がかり一つないとなれば、結局、参加者には見つけられないのとほぼ同じ。
そもそも。このコードが数字なのかも文字なのかもわからない。
ここまで正体不明となると、海に透明なビー玉を放り投げ、探してこいと言っているようなもの。つまり、解除コードとしての価値がなくなってしまう。

「う〜ん。なら、このコードを探すのは諦めた方がよさげ?」
「いえ...こうも手がかりがないなら、逆に考えてみたらどうですか?そもそも手がかりなんて必要がない、と」
「どゆことよ九朗?」
「僕たちは既に解除コードがわかる術を最初から持っているんじゃないかってことだよ。例えば、支給品に書いてあるとか」
「いやいや、そんな都合の良いことないでしょ。だってそんなもんあったら殺し合いなんて成り立たないじゃん」
「...いや、いい線を突いているかもしれん」

殺し合いから抜け出す術である首輪の解除。
その鍵となる情報は既に配られているのではという九朗の考えに賛同したのは、意外にも隼人。

「さっきも言ったが、解除コードなんて仕込んでいる時点で、首輪は解除させることが前提になっている。なら、俺たちが殺し合いを完遂することにはさほど意味が無いのかもしれん」
「え?何言ってんの?それならこんな物騒なモン開く意味が無いじゃん」
「奴らの狙いまでは知らん。ただ、わかるのは、奴らが首輪を解除...いや、首輪の機能を止めさせようとしていることだけだ」
「???」

隼人の言葉にアリアはますます首を傾げる。
首輪を解除と機能を止める。意味は同じようなものなのに、なぜ隼人は言い換えたのか。
アリアの疑問を察した隼人はメモ帳にペンを奔らせ二人に見せる。

『解除にしろ殺し合いでの優勝にしろ、奴らにとって重要なのはある程度時間が経過した首輪が停止することにあるのかもしれん』

隼人の考え。それは、首輪の停止こそが主催の目論見の根幹を為しているのではないかということ。
どのような形であれ首輪が停止すればいいから、こうして解除コードなんてものを用意し、それが無くとも殺し合いの優勝という形で首輪を停止させようとしている。
ならば主催側から勝手に機能を止めてしまえばいいのではないか、というのは当然の疑問だが、あくまでも参加者たちの手で首輪が止められるのが鍵なのかもしれない———そういった考察だった。

『なら、迂闊に首輪を解除をするわけにはいきませんね』

九朗の言及に、アリアはうんうんと頷く。
本当の目的はどうあれ、主催の狙いが隼人の言う通りなら、少しでも目的が達成されるのは防がなければならない。
それは主催に抗うと決めた身としては当然のことだ。

『逆だ。全てを外させることが目的なら、早急に外す奴と外さない奴を決める必要がある。全ての首輪を外させるのが目的ならば、誰かが残っている限りは連中の目的は達成されないということになる』
「な、なるほど...」
「———そういうわけだ。さっき九朗が言ったように、俺たちの持ち物の中で解除コードに繫がるものがあるかを探すぞ」
「わかりました」


920 : 偽りの枷 ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/19(日) 00:49:51 iBd5tu720

敢えて言葉に出すことで、首輪を外すこと自体に懐疑的になっている素振りを隠す。
その最中、隼人の頭の中では誰を残すかを選別していた。

(理想は殺し合いに乗り、コントロールも効かない奴らだ。奴らを残せれば一番話が早い)

隼人が見据えているのは、主催達との戦い。
夾竹桃たちのように協定を結べる相手ならば主催と戦う時も有用だろう。
しかし、話を聞く限り、歩く災害と化しているヴライのような者は論外。まずこちらの言に耳を傾けず、己の信じたものしか信じないだろう。
だが、そういった連中を生け捕りにしあまつさえ会場に放置するというのは負担もリスクも大きすぎる。
よほどのことがなければ難しいだろう。

となれば、いざという時の戦力にならず、最悪、言うことを聞かずともこちらの力だけでねじ伏せられる一般人を狙うべきか。

(現状、俺の知っている中での一般人は黄前久美子くらいなものだが...)

隼人が見ていた限り、久美子に特殊な能力は無かった。
ならば力でねじ伏せるのも一つの案だ。


———久美子ちゃん!


だが、彼女を最期まで護ろうとしていた弁慶への義理を考慮すると極力避けたい選択肢ではある。
戦友(ダチ)の護ろうとしたものに土をかけるほど隼人は冷血漢ではない。

北宇治高等学校に向かわせた静雄たちが保護していれば話が早いが、頭の片隅に、もしもまた会えたら気に掛けることくらいはしてやろう。

そんなことを思いつつ、隼人は九朗たちとの考察を続けるのだった。

【D-8/夜中/早乙女研究所/一日目】

【神隼人@新ゲッターロボ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(絶大)、出血(大)、カタルシス・エフェクト発現
[役職]:ビルダー
[服装]:普段着
[装備]:ミスタの拳銃@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風、ミスタの拳銃(ビルドの作った模造品)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、浜面仕上の首輪、錆兎の首輪(分解済み)、ビルドの支給品0〜2、ビルドの首輪、霊夢の首輪、マロロの首輪
[思考]
基本方針:首輪を外して主催を潰し帰還する。
0:首輪の解除コードに繫がりそうなものを探す。
1:ものつくりの能力を利用し有利に立ち回る。現状、殺し合いに乗るつもりはない。
2:主催との対決を見据え、やはり首輪のサンプルはもっと欲しい。狙うのは殺し合いに乗った者、戦力にならない一般人(優先度は低い)。
3:竜馬と合流する。
4:無惨、ウィキッド、ヴライを見つけたら排除。
5:ベルベット、夾竹桃、麦野、ディアボロ、琵琶坂を警戒するが判断保留。
6:静雄とレインと再会したら改めて情報交換する。

※少なくとも平安時代に飛ばされた後からの参戦です
※幻想郷の大まかな概要を聞きました。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・ビルド・琴子・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※カタルシス・エフェクトに目覚めました。武器はドリルです。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。


921 : 偽りの枷 ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/19(日) 00:50:11 iBd5tu720

【桜川九郎@虚構推理】
[状態]:健康 静かに燃える決意、魔王ベルセリアに対する違和感
[服装]:ホテルの部屋着(上半身の部分はほぼ全焼)
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×1〜3、スパリゾート高千穂の男性ロッカーNo.53の鍵
[思考]
基本:殺し合いからの脱出
0:首輪の解除コードに繫がりそうなものを探す。
1:あの彼女(魔王ベルセリア)、何とかしかければ……。
2:岩永を探す 。少し心配。
3:人外、異能の参加者達を警戒
4:余裕があればスパリゾート高千穂を捜索
5:きっとみねうちですよ。
[備考]
※鋼人七瀬編解決後からの参戦となります
※新羅、ジオルドと知り合いの情報を交換しました。
※アリア、ブチャラティと知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました
※魔王ベルセリアに対し違和感を感じました。
※垣根と情報交換をしました。
※隼人、クオン、早苗らと情報交換をしました。

【アリア@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:疲労(大、フロアージャックはしばらく使用不可)、悲しみ(絶大)
[思考]
基本:μを止める、だけど……
0:首輪の解除コードに繫がりそうなものを探す。
1:永至を信じたい
[備考]
※参戦時期は少なくてもシャドウナイフ編以降。琵琶坂生存ルートです。詳しい時期はお任せします。
※『今の自分が本物ではない』という琴子の考察を聞きました。
※夾竹桃・隼人・ビルド・琴子・リュージと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、
Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※フロアージャックはしばらく使えません
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。


922 : ◆ZbV3TMNKJw :2023/11/19(日) 00:50:53 iBd5tu720
投下を終了します


923 : ◆qvpO8h8YTg :2023/11/26(日) 00:23:32 ABigGf3w0
オシュトル、ロクロウ・ランゲツ、折原臨也、ヴァイオレット・エヴァ―ガーデンで予約します


924 : ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:36:03 2B/cRds.0
投下します


925 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:36:57 2B/cRds.0
「……なるほど、つまりは、この『008』は、其方の仲間ということだな?」
「ああ、俺の知る限り、業魔手を使う喰魔っていうのは、ベルベットしかいねえ」

大いなる父の遺跡のコンピュータルーム内。
オシュトルとロクロウは、ディスプレイに映し出されているレポートの内容について、認識をすり合わせていた。
元々は病室で、これまでの経緯について、ロクロウと情報交換を行っていたオシュトルであったが、ここでふと、自身がハッキングしてアクセスしたレポートのことを思い出して、
今へと至っている。

「……しかし、あいつもあいつで、とんでもねえことに巻きまれちまっているみてえだな……」

髪を搔き、ニタリと笑う、ロクロウ。
会場内での一部参加者の動向が記載された資料を見つけたというオシュトルの言葉を聞いて、当初はシグレに繋がる情報が分かればと期待していた。
しかし、ここでの収穫は、ベルベットが『覚醒』とやらを果たして、他の参加者と交戦していたという記録を確認するまでに留まった。
この『覚醒』を果たしたベルベットの状態については、些か引っかかる記述もあり、気にならないと言えば嘘になる。
だが、いま優先すべきは、ベルベットやライフィセットとの合流ではなく、自身を蝕む毒の治癒及び無惨の討伐である。
そして、それを果たした後は、己が宿願でもあるシグレ打倒を成さねばならない。

――まぁベルベットなら、何やかんやで上手くやっていけるだろう。

そんな、漠然とした信頼のもと、ロクロウは彼女については、深くは考えないようにして、部屋の外へと歩を進めていく。

「……行くのか?」

シグレや無惨の足取りが掴めなかった以上、ここに長居する必要はない。

「おうさ。本当は、旦那と一献交わして寛ぎたいところだが、悠長には構えてられないようだしな」

ロクロウは業魔である。業魔の体質が故に、無惨によって注入された毒の進行も、マギルゥを始めとした他の参加者と比べて、幾分かは遅い。
だが、それでも確実に、今もロクロウの生命を蝕んでいることには変わりはない。

「――っといけねえ……。
一応頼まれたものは渡しておくぜ、オシュトル」

振り向きざまに、ポイと、オシュトルへと投げたのは、銀色に光る首輪。

「――これは……?」
「俺が殺った訳じゃねえが、垣根の奴から譲り受けたものだ。
まぁ、せいぜい役に立ててくれ」

首輪の解析が完了したという現状、サンプルはもう不要かもしれない。
しかし、一度引き受けた約定は果たしておくのが、ロクロウの流儀である。

(勤勉な漢だ……。全てが片付いたら、何か奢ってやらねばな……)

背を向けて、ひらひらと手を振る、隻腕の剣士に感心しつつ、オシュトルは受け取った首輪を、懐へとしまう。

(さて、此方も、うかうかしていられないな。
さしあたっては、まずこのレポートの内容を改ねば……)

そう思いながら、オシュトルは、モニターに視線を戻す。
ロクロウから齎された情報によって、虫食いのような内容でしかなかったものが、一部補われている。
アルファベット文字が付与された『世界線』に、数字を割り当てられた『覚醒者』―――。
臨也達が戻り次第、各々が情報を共有し、それを整理すれば、このレポートから新たな知見を捻出することも可能であろう。
そして、そこで得た内容は、今後このゲームで生き残るにあたり、大きなアドバンテージとなるはずだ。

(――うん? これは……)

と、ここでオシュトルは、液晶画面が投影する内容の異変に気付く。

――――――――――――――――――――――
■ 五度目の覚醒について

本実験における五度目の覚醒は、第二回定時放送の後、世界線 Hの参加者『009』にて観測されている。



――――――――――――――――――――――

(先程までは、四度目の覚醒までしか記載されていなかった筈だが……)

どうやら、直近でレポートの内容が、追記されたらしい。
オシュトルは、前屈みとなり、画面をスクロール―――その文字列を追わんとする。

しかし、その瞬間――。

『参加者の皆様方、ご機嫌よう。』

ゲームの支配者たる、女神を自称する女の声が響き渡り、ヤマト右近衛大将はその手を止めることとなった。
鼓膜を刺激する、その妖艶な声調には、どこか参加者達を小馬鹿にし、見下すような響きが含まれている。

ピタリ

部屋の外へと踏み出していた夜叉の業魔も、その歩みを止めた。
そして、彼もまた毅然とした表情で、天を仰ぎ、盤上の支配者の声に、耳を傾けるのであった。


926 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:37:29 2B/cRds.0


―――炎の中へ 声を失くした
―――おんぼろになっても

三度目の定時放送が、例によって、白き女神の歌唱によって締めくくられたのは、臨也とヴァイオレットは、アリアの埋葬を終えた頃であった。
これはヴァイオレットの希望によるもので、臨也も快く協力した。
埋葬といっても、そんな大層なものではなく、爆炎によって生じた穴の中へ、彼女の遺骸を横たえて、その上から土を被せただけの簡略的なものであったが、それでも彼女を野に晒しておくわけにもいかなかった。

「やれやれ、今回は14人か……。
殺し合いのペースは、まだまだ落ちる気配はないようだね」

手についた土を払いながら、臨也はわざとらしく嘆息すると、ヴァイオレットの方へと見やる。

「……その、ようですね……」

ヴァイオレットは、表情を曇らせて、視線を地面に落とした。
そんな彼女の態度に、臨也は目を細める。

「どうしたんだい、ヴァイオレットちゃん?
もしかして、アリアちゃん達以外にも、知っている名前が呼ばれたとか?」

「……いえ、亡くなられた方の中で、アリア様、新羅様以外の方は存じ上げておりません。
ただ、それでも亡くなられた皆様方には、きっと、家族や友人といった帰りを待ってくれる方がいらっしゃったはずです。
それを思うと、私は……。」

目を伏せたまま、ヴァイオレットは、その胸の内を吐露する。
例え見知らぬ誰かだとしても、自分の預かり知らないところで、その人の『いつか』と『きっと』が喪われてしまっている―――そんな残酷な現実を実感すると、ヴァイオレットの心は張り裂けそうな思いになる。

「へぇ、それって博愛主義ってやつかな?
会ったこともない見知らぬ他人の為に、そんな感情を抱けるなんて、ヴァイオレットちゃんは優しいんだね
まあ、かくいう俺も、愛すべき人間達を観察することもできないまま、喪ってしまって、残念だなぁとは思ったよ。
だけどさ、ヴァイオレットちゃん―――」

臨也はそこで言葉を切り、ヴァイオレットへと顔を近づけると、その耳元へ囁くように語り掛ける。

「今死亡者として読み上げられた者の中に、月彦さんや茉莉絵ちゃんのような、他人の命を理不尽に奪う、人殺しがいたとしても―――。
君はその人殺しの死を、心から悼むことはできるのかい?」
「……私は――」

悪魔のような臨也の囁きに、ヴァイオレットは目を伏せて、沈黙。
しかし、それも束の間―――そのサファイアのような美しい蒼の瞳を見開くと、毅然とした態度で臨也を見据える。

「例えその方が、どのような方であったとしても、どのような人生を歩んできたとしても、そこにある命は尊きもので、敬うべきものであることに違いはないと、信じております…。
ですので、臨也様―――」

胸元のブローチに手を触れながら、ヴァイオレットは静謐に告げる。

「私は、無碍に命を散らすことを肯定できません。
例え相手が月彦様や、茉莉絵様のような方々であったとしても……」

放送前に、臨也はヴァイオレットに問い掛けた。
己の気の向くままに人を壊し台無しにしていく、そんな『化け物』共を、護りたいのか、と。
そして、その答えは示された。揺るぎのない信念を以って。

大切な人がくれた『愛している』を知るために、自動書記人形となって―――。
様々な人々のかけがえのない想いに触れてきたからこそ―――。
ヴァイオレットは、人の尊さと可能性を、信じることができる。


927 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:38:03 2B/cRds.0
「……成程ね。まあ、俺とはちょっと方向性が違っているけど…。
君も人間を深く愛しているんだね、ヴァイオレットちゃん。
素晴らしい…いや、本当に素晴らしいよ」

自分と似て異なる、慈愛に満ちた「人間愛」を目の当たりにし、臨也は感慨深そうに頷き、口元を歪めた。
臨也は、彼と同じく「人間愛」を標榜する妖刀・罪歌を忌み嫌い、「刀如きが、俺の人間に手を出すな」と、戦線布告した過去がある。
しかし、今回のヴァイオレットは純然たる人間であり、彼女もまた臨也の掲げる「人間愛」の対象に変わりはない。故に、罪歌のときのように、同族嫌悪や敵視といった感情が湧くことはない。

「オシュトルさんによると、ヴァイオレットちゃんは、元々軍に所属していたと聞いているけど――」
「……はい、それは事実でございます……」

そして愛するが故に、臨也は、ヴァイオレット・エヴァーガーデンという少女を、より深く観察せんとする。
途端に表情を曇らせる少女を気遣う素振りもなく、貪欲に、浅ましく、その胸に秘めた『想い』を暴かんと、問い掛けを続ける。

「是非とも聞かせてくれるかな? かつて命を奪う側にいた君が、何故そんなに人を慈しみ護ろうという考えに至ったのかを、さ…」

まるで新しい玩具を与えられた子供のように、ヴァイオレットの瞳を覗きこもうとする、臨也。
無遠慮かつ大胆不敵に、他者の心に土足で入り込もうとする、その姿は、池袋界隈に名の知れた、情報屋のものに違わなかった。

「……ですが、私達は、早急にオシュトル様達の元へ戻らねばなりません……」

「ああ、それじゃあ、歩きながらでも聞かせてくれないか?
そっちの方が効率も良いだろうし。勿論ヴァイオレットちゃんが良ければの話だけど」

「……そういうことでしたら……。
畏まりました、それでは―――」

並んで帰路を歩きながら、ヴァイオレットは臨也に促されるまま、静々と語り始める。

戦争の道具として拾われ、育てられた自らの生い立ちを―――。
無色に彩られた世界を変えてくれた、かけがえのない人との出会いと別れを―――。
その人から、別れの際に告げられた言葉の意味を知るために、人の想いを綴る「自動書記人形」になったことを―――。
そして、代筆を通じて、人々の「想い」に触れてきたことを―――。

「――なるほどね……」

ヴァイオレットの話を聞き終えた臨也は、感慨深そうにポツリ呟く。

(「愛している」を知るために、人々の想いに触れていく、元少女兵か――)

彼女が、臨也に語り聞かせた内容は、つい数時間ほど前に、オシュトルに語った内容とほぼ同じもの。
しかし、終始神妙な面持ちで耳を傾けていたオシュトルとは異なり、臨也は、果てしなく好奇と興奮に満ちた様子で、彼女の語りを聞き入っていた。


928 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:38:56 2B/cRds.0
(――興味深い、実に興味深い…!!
やっぱり、このゲームには面白い人間がたくさん参加させられているよね)

「ありがとう、ヴァイオレットちゃん。
なぜ君が、そこまで人を慈しみ護ろうとするのか、よーくわかったよ。
俺は、君と、君が選択し歩んできた道程に、心から敬意を払うよ」

臨也は、大仰に両手を広げて、ヴァイオレットに賛辞の言葉を贈った。
そして、臨也の心の奥底から欲求が沸々と湧き上がってくる。

―――もっともっと、ヴァイオレットを観察したい、愛したいと。

「臨也様――」

賛辞の言葉を受けたヴァイオレットは、歩みをピタリと止める。
そして、その双眸に真剣な色を宿らせ、臨也の瞳をじっと見つめた。

「何だい?」
「臨也様は、ご無理をなされていませんか?」
「……俺が、無理を……?」

ヴァイオレットの指摘に、臨也は首を傾げる。
臨也としてはいつも通りに人間観察に浸り、いつも通りに人間を愛さんとしているにすぎずに、平常運転以外の何物でもない。
しかし、目の前の少女には、そうは見えなかったようだ。

そして、この認識のズレの背景を探るべく、今一度自身を俯瞰してみると―――

(ああ、そういう事……)

臨也は、自分の胸に渦巻く感情の根源を自覚するに至った。
自分は今、確かに『折原臨也』らしく振る舞い、人間への愛を貫かんとしている。
しかし、その根源には、心の中にポッカリと空いてしまった穴から、目を背けようとしていた衝動に突き動かされている感がある。
それは、友人(もくひょう)を失った傷心からの逃避ともいえるし、その喪失感を別の何かに置き換え、誤魔化そうと躍起になっているともいえる。

(ははっ…つまり、俺もどうしようもなく人間だったってことか……)

改めて考えてみると、非常に滑稽な話だ。
人間を平等に愛すると誓い、高みの見物でその観察に興じようとする一方で、自らの傷心を紛らわすために、その愛を利用しようとする―――。
『観察者』を自称する臨也自身も今は、滑稽で歪な道化にほかならず、人間観察の対象としては、絶好の素材と化してしまっているのだから。

「無理なんてしてないよ。俺はいつも通りさ」

とここで、臨也は、自分に対する俯瞰を完全に打ち切り、眼前の少女に対して、いつもの不敵な笑顔を張り付けて見せた。

「……左様でございますか。
ですが、もし私に何か協力できることがあれば、いつでもお申し付けください」
「うん、ありがとう。ヴァイオレットちゃんは優しいんだねぇ」

ヴァイオレットが、臨也の心の奥底にある異変を汲み取れたのは、彼女が『自動書記人形』として、様々な人間の『想い』に触れてきたからこそだろう。
正直、『観察』することには、慣れているが、『観察』されることには慣れていないため、どこかやり辛さをヴァイオレットには感じる。
だが、それでも不思議と嫌悪感を抱くことはない。
彼女が『人間』である限り、臨也は彼女を平等に愛しつづけるのだから―――。

「おや、あれは―――?」

とここで、前方からの人影を視界に捉えた臨也は、その思考を中断――ヴァイオレットとの会話を打ち切った。
ヴァイオレットもまた、その気配を瞬時に感じ取ったらしく、臨也と同じ方向へと視線を向けると―――。

「――お前らか……」
「ロクロウ様、お目覚めになられたのですね」

二人の視線の先にいたのは、先程まで意識を失っていたはずのロクロウであった。
ヴァイオレットは、駆け寄ろうとするが、ロクロウは険しい顔を浮かべたまま、それを手で制する。

「――ロクロウ様……?」
「オシュトルが中で待っている―――さっさと行ってやれ」
「ロクロウ様は……?」
「俺は先に行くぜ。生憎とあまり時間は残されていねえようだしな……」

ロクロウはそれだけ言い放つと、二人を素通りし、ヴァイオレットが呼び止める間もなく、森の奥へとずかずかと進んでいく。
その形相は一貫して鬼気迫るものであり、どこか近寄りがたい殺気を漂わせており、ヴァイオレットはただ彼の後ろ姿を見送ることしかできなかった。

「ヴァイオレットちゃん、彼もああ言っていたし、まずはオシュトルさんのところに急ごうか」
「――畏まりました……」

臨也に促されるまま、ヴァイオレットは遺跡方面へと歩を進めることにするが、最後にもう一度、ロクロウの後ろ姿へと視線を送る。
最後に垣間見せたロクロウの表情に―――活力に溢れていたはずの瞳から、まるで生気と野心を一切抜き取ったかのような虚無感が漂っていた。
それを目にしたヴァイオレットは、妙な胸騒ぎを覚えずにはいられなかった。


929 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:39:17 2B/cRds.0



ロクロウを改めて送り出してからはというと、オシュトルはただ独り、コンピュータ室の中で、目を瞑っていた。

(――マロ……)

脳裏に浮かぶは、先の放送でその死を告知された友人の姿。

『にょほ、にょほほほほ! ハク殿〜』
『ハク殿は、マロの心の友でおじゃるぅ〜ん』
『オエブッ……ハク殿、ちょっと気持ち悪くなってきたでおじゃる……』

出会った頃から、妙に自分に懐いてきた、白塗りの化粧を施した助学士。
お家は位の高い貴族だと聞いていたが、それを鼻に掛けることもなく、誰に対しても親しく接する優男。
酒は弱いくせに、何故か宴では、誰よりも羽目を外そうと躍起になるお調子者。
酒宴の後、ベロンベロンになった彼を介抱した回数は数知れず。

『う、嘘でおじゃる! ハク殿は、そう簡単に死ぬような御仁ではないでおじゃる!』
『友が死んだというのに……オシュトル殿は……まだ戦をするのでおじゃるか』
『ハク殿を殺したのは、オシュトル殿でおじゃろう?』
『……ひょほほ、ハク殿を使い捨てにしておいて、随分身勝手でおじゃるな』

“ハクの死”をきっかけに、彼とは袂を分つことになったが、それでも、いつかはよりを戻したいと、そう思っていた。
何故ならば、彼もまたオシュトルやミカヅチらと同じく、かけがえのない友人であったのだから――。

(……すまない、お前には色々と迷惑をかけちまったよな……。
そっちに行くことになったら、全てを話す。
だから、それまでの間、待っててくれ、マロ……)

そう心の中で、亡き友へと告げると、オシュトルは目を開け、帰還した臨也とヴァイオレットを出迎えるのであった。


930 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:39:40 2B/cRds.0



「ゴホッ、ゴホッ……」

大いなる遺跡から離れて、あと少しでE-4エリアから別エリアの境界を跨ぐであろう山林の中で、ロクロウは咳込みと共に吐血する。
手に付着する血を一瞥し、ロクロウは、無惨の毒によって己の生命が、もはや風前の灯火であることを実感する。
無惨を斬るか、毒の緩和か―――何れを取るにしろ、あまり猶予は残されていないようだ。

「――にしてもベルベットの奴が、シグレをなぁ……」

歩調を速める中、ロクロウは独りぼやく。
先のテミスの放送で、ロクロウは、シグレ打倒という宿願が潰えたことを悟った。
長きにわたってその首を狙い続けた、己が兄の死を告げられ、彼は己が目標を見失った。
あの漢を越えることを願い、己が剣技を研鑽し、幾多の修羅を乗り越えてきたロクロウにとって、シグレの死は到底受け入れがたいものだった。
思考停止し佇む、ロクロウ。それを見兼ねたオシュトルは、更新されたレポートの内容を基に、とある事実を告げてきた。

――シグレ・ランゲツを殺害したのはベルベット・クラウである、と。

元々、ロクロウを含む災禍の顕主一行と、シグレは敵対関係にある。
今は、殺し合いという異常な事態下ではあるが、それでもベルベットとシグレが出会うことがあれば、互いの立場から、衝突する可能性は大いに考えられる。
その闘争の果てに、ベルベットがシグレを討ち取ったということであれば、多少歯がゆい部分はあれど、致し方ないと割り切れるだろう。
だが、あのレポートに記されていたように、もしもベルベットが別の『ナニカ』に変貌して、その第三者がシグレを殺したということであれば、己が宿願を潰してくれた落とし前はつけてもらわねば、気は収まらない。

夜叉の業魔は、言いようのない虚無感と、矛先の確定しない激情を同時に抱え、歩を進めていくのであった。


【E-4/山林/夜/一日目】

【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損、言いようのない喪失感
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[思考]
基本:主催者の打倒
0:無惨を探しだして斬る。
1:シグレを殺したベルベットと出会うことがあれば、元の人格を保っているか確認する。場合によっては斬る。
2: 號嵐を譲ってくれた早苗には、必ず恩を返すつもりだが……
3: 殺し合いに乗るつもりはないが、強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
4: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
5: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
6: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。
※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。解毒を行わない限り、数時間以内に絶命します。
※ 更新されたレポートの内容により、ベルベットがシグレを殺害したことを知りました。
※ どこに向かっているかは次の書き手様にお任せします。


931 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:40:02 2B/cRds.0



「――左様か…。先の放送で聞き及んではいたが、残念だ…」

遺跡内のコンピュータルーム。
偵察から帰還した臨也とヴァイオレットより、アリアに関する報告を受けると、オシュトルは沈痛な表情を浮かべて、彼女の死を惜しんだ。

関わった時間は短れど、アリアは、まだ幼さの残る風貌とは裏腹に、確固たる正義に、卓越した射撃及び身体能力、そして豊富な知識と技術力を有した、優秀な人材であったことに違いなかった。
首輪の更なる解析においても、会場からの脱出においても、より一層の彼女の協力を仰げていれば、どれだけ心強く、戦略の幅が広がったことだろうか。

「――しかし、アリアちゃんといい、月彦さん達といい、さっきの彼といい、あれだけ賑わっていた此処も、今じゃあ俺達三人だけ……。
随分と寂しくなっちゃったよね……。」

臨也は、オシュトルの横で、椅子にどかりと座り込み、その背もたれに寄りかかると、わざとらしく溜息を零してみせた。

「まぁここで郷愁に暮れても仕方ないし、今後のことについて、話を切り替えようか。
まずはオシュトルさん――俺たちがいない間に、アンタが発見したことを教えて欲しいな。
何かあるんだろう? わざわざ、この部屋で俺達の帰りを待ち構えていた訳が、さ?」

まぁ大方は予想がついてるけどね、と付け加えながら、臨也はオシュトルに視線を向けると、オシュトルはコンソールを操作し、モニターに情報を投影する。

「察しが早くて助かる……。
二人とも、これを見てくれ――先の放送前にレポートの内容が更新されていた」

オシュトルに促されると、臨也はやっぱりね、といったしたり顔で、ヴァイオレットは不思議そうな面持ちで、モニターを覗き込んだ。


932 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:40:46 2B/cRds.0


■ 五度目の覚醒について

本実験における五度目の覚醒は、第二回定時放送の後、世界線 Hの参加者『009』にて観測されている。
当レポートの内容を知った鬼の首魁『007』は、『006』と共に『009』を集団から分離させたうえで、実験体と称して『009』に自らの血を混入させて、鬼化させる。
そして、鬼化した『009』の身体を、太陽光の元に晒して、その行く末を観察した。

しかし、元々世界線Hにおいて楽士であった『009』もまた、図らずとも『006』による精神干渉の影響を受けており、その結果、『007』と同様に、太陽光によるダメージを凌駕する回復が齎されたため、死滅することはなかった。
鬼と化した『009』は、『007』に反撃を敢行するも、別の参加者の介入もあり、『007』とは戦闘中断となる。

その後も、『006』を始めとする他の参加者と、戦闘を行なっており、一連の戦闘を鑑みるに、『009』は、鬼化によって身体能力と再生能力は大幅に向上しているように見受けられる。
しかしながら、現在のところ、『006』の精神干渉による鬼の弱点補完以外においては、元々持ち合わせていた楽士の能力との複合効果は確認できていない。

■ 六度目の覚醒について

本実験において、六度目の覚醒を果たしたのは、世界線Lのゲッターパイロット『010』であった。
神と神が衝突する戦場において、『010』は己が精神を具現化させ、カタルシスエフェクトを発現することに成功する。
『010』が発現したカタルシスエフェクトは、『010』が搭乗するゲッター2を模したものとなっており、ここから更に、『010』と同行していたバーチャドールの力によって、過剰強化《オーバードーズ》されている。
しかし、いくら異能を手に入れたとしても、神々の前では、他の参加者同様、その戦力は微弱なものであった。

しかし、これもある種の異能の複合とも言えるだろうか。『010』は、興味深いことに、カタルシスエフェクト発現時に、同行する世界線Oのビルダーに、自らのカタルシスエフェクトを素材化させた上で、それを基にモノづくりをさせている。
その後、この複合異能による産物を起点として、『010』をはじめとする参加者達は結束し、共闘。
尚、同戦場には最初の覚醒者でもある『001』もおり、『010』達と共に神に抗っている。
そして、各々の能力と知略、そして死力を尽くした共同作戦の末、取るに足らないとされていた参加者達により、神々の戦いは終止符を打つこととなった。

しかしながら、その後、この参加者集団は瓦解。
世界線Oのビルダーと、覚醒者『001』を含む複数の参加者が死亡する結果となってしまった。


933 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:41:14 2B/cRds.0
■ 七度目の覚醒について

本実験における七度目の覚醒は、複数の参加者間で観測された。
先に覚醒を果たしている世界線Aの喰魔『008』は、単身で、複数人の参加者で構成される集団を襲撃する。

その際に、集団の中にいた世界線Gの参加者『011』は、応戦のため、自分に支給されていた原初の仮面(アクルカ)を装着する
元来、仮面は大いなる父(オンヴィタイカヤン)、つまりは人類のために作成されたものであり、亜人(デコイ)では、その出力を十二分に発揮することは出来ないが、今回装着した『011』は正真正銘の人類である。

原初の仮面は、その強力すぎる性能が故、装着者を支配した上で、暴走する危険性を孕んでいたが、『011』は、己が精神によりそれを御した上で、根源に通ずる力を、取り込むことに成功する。
元より、『011』は、水を操る魔力を有していたが、仮面を取り込むことにより、その出力を絶大なものへと向上させた上で、他参加者と共に『008』に応戦する。

だが、対峙する『008』は、一連の戦闘の中で、魔王としての深化を果たし、その規格外の力を以って、『011』を含む参加者達を蹂躙する。
『008』と同じ世界線Aの特等対魔士を殺害した頃には、既に元の人格は喪失したも同然となり、殺戮と破壊の権化と化していたが、ここで世界戦Fの武偵『012』が覚醒。

『012』は、『008』との戦闘の最中、死亡したと思われていた。
事実、『012』に装着された首輪は、一度『012』の死亡を検知している。
しかしその後、『012』の魂の復帰を検知している。
後に『012』が同行者に語った内容によると、『012』の魂は、幾多の偶発的な事象が重なり、我々の観測が及ばない世界線の狭間に行き着き、そこで、その他の放浪する魂と接触―――この接触をきっかけに、覚醒を果たしたとのことだ。
この『012』が述べた内容については、些か議論の余地はあるが、信憑性は不明且つ、我々の観測の外での出来事ということもあり、当レポートでは、これ以上の言及は差し控える。

『008』と『012』の覚醒者同士の衝突は、同時期に繰り広げられた神々の争いに引けを取らないほどの大規模で苛烈なものとなった。そして、戦闘の最中『012』はさまざまな異能を展開した。世界線Aにおける炎の聖隷力、世界線Cにおける鴉天狗が用いる『風を操る程度の能力』、この地で出会った世界線Gの少女が操っていた土属性の魔法等、複数の世界線の理をその一身に取り込んだ『012』は、無限の可能性を披露し、『008』を追い詰めた。

しかし、ここで『005』が戦闘に介入することで、趨勢はまた一転する。
『005』は、一連の騒乱の中で、ゲッターに選ばれ、その大いなる力を取り込み、覚醒(めざ)めていた。
そして、それまで行動を共にしていた『012』とは袂を分かち、『008』に助勢したのである。

その後、更なる乱入者が現れるも、『005』と『008』は戦場を離脱し、一連の争乱は、一区切りをつける形となった。
複数人の脱落者が発生するも、覚醒者である『005』、『008』、『011』、『012』は何れも健在である。
また、一連の争乱の中で、『005』によって殺害された参加者は、『011』が慕っていた参加者であったこともあり、その殺害は、両者に遺恨を残す形となっている。
近々、両者の再度の接触及び衝突が予想される。


934 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:41:43 2B/cRds.0



「さて、情報を整理しようか」

更新されたレポートに目を通した臨也は、愉快そうな面持ちで、椅子を回転させつつ、オシュトルとヴァイオレットに語り掛ける。

「まずは、このレポートの信憑性について語らせてもらうと、この殺し合いの会場で観察した事象を報告しているって意味だと、間違いはなさそうだよね。
この『三度目の覚醒』ってのは、麗奈ちゃんと月彦さんのことだろうけど、麗奈ちゃんの言っていることとも合致している訳だし……。
――だよね、ヴァイオレットちゃん?」

「はい、私がお嬢様からお聞きした内容と、符号しております。
付け加えるなら、この『五度目の覚醒』というのは、恐らく茉莉絵様を指しているかと……」

オシュトルの隣に慎ましやかに控えているヴァイオレットが、淡々と首肯する。
臨也は、満足そうに頷きながら、更に言葉を続ける。

「それじゃあ、次にこの『覚醒者』達が、誰かについて、纏めようか。
現在判明しているのは、『006』が麗奈ちゃん、『007』が月彦さん、『009』が茉莉絵ちゃんになる訳だけど、他に心当たりがある人はいるかな?」

「ロクロウによれば、『008』の喰魔とやらは、ベルベット・クラウ――奴の仲間だそうだ。
そして、『003』の仮面の者(アクルトゥルカ)は、ミカヅチ――某の友だ……」

オシュトルからの情報提供に、臨也は満足気に頷く。これで『覚醒者』12名の内の5名が判明したことになる。

「成程ね…。ということはつまり、オシュトルさんは、そのミカヅチさんと同じ世界線Bの出身ということになるんだね?」

「どうやら、そういうことになるらしい」

「じゃあさ、今度はオシュトルさんの世界について、詳しく教えてもらえないかな?
仮面の者(アクルトゥルカ)とか、そういうの含めてさ」

「構わぬが、折角の機会だ…ここは、他の参加者の『世界線』の情報も併せて、各々が知り得ている情報を惜しみなく出し合うべきが得策と考えるが――」

「うん、良いね、それは俺も望むところだよ。
いやぁ、オシュトルさんは話が早くて助かるなぁ。
ヴァイオレットちゃんも、構わないよね?」

臨也からの目配せに、ヴァイオレットは首を縦に振り、再度の情報交換が行われる。
臨也からは、臨也自身の知人の情報とそれを取り巻く池袋の日常の話、Storkから得たメビウス世界とその関係者の情報、この殺し合いの中で見聞きした人間の情報を開示する。
尤も、ウィキッドがジオルドと共謀して、魔理沙を殺害していたところも観察していたと明かすと、オシュトルもヴァイオレットも眉を顰めていたが……。

続いて、ヴァイオレットからは、ヴァイオレットの元いた世界の概要と、麗奈から聞いた彼女と彼女の周囲の人間関係を開示する。
そこに被せるように、オシュトルは、ロクロウと早苗と竜馬から聞いた、彼らの知り合い及び元の世界の情報を展開する。
そして、締めくくりに、自身の知り合いと、仮面の者(アクルトゥルカ)を含むヤマトの知識、そして亜人(デコイ)達の世界の成り立ちを説明する。但し、オシュトル自身が大いなる父(オンヴィタイカヤン)であることは伏せる。


935 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:42:39 2B/cRds.0
「―――うん、成程ね。
ここで、アリアちゃんから聞いた情報も加味した上で、レポートの内容に当て嵌めると、こんな感じになるのかな」

臨也は上機嫌に、机の上に置かれているメモの上、情報をスラスラと書き連ねていく。

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世界線A: 業魔という化け物が蔓延り、それを討伐し人々を守護する聖寮が、秩序を維持する世界。
出身者は、ベルベット・クラウ/ライフィセット/ロクロウ・ランゲツ/マギルゥ/エレノア・ヒューム/オスカー・ドラゴニア/シグレ・ランゲツ

世界線B: 旧人類が滅び、人間によく似た亜人(デコイ)たちが住まう世界。
出身者は、オシュトル/クオン/ムネチカ/アンジュ/マロロ/ミカヅチ/ヴライ

世界線C: 少なくとも『天狗』といった妖怪が実在する世界?

世界線D:

世界線E: 人間が鬼になり、それを討伐する、鬼狩りの剣士が存在する世界?少なくとも、無惨とその使用人(部下?)の累は鬼側の参加者と考えられる。
出身者は、累/鬼舞辻無惨

世界線F: 治安維持の名目で、武偵という国家資格が存在する世界。
出身者は、間宮あかり/神崎・H・アリア/佐々木志乃/高千穂麗

世界線G: 少なくとも『魔法』という概念が存在する世界?

世界線H: μが創った仮想の世界「メビウス」。帰宅部という現実世界への帰還を目指す者達と、メビウスの秩序を保とうとする楽士達が相対している。
出身者は、天本彩声/琵琶坂永至/Stork/梔子/ウィキッド

世界線I:

世界線J: 『演算方式』を用いた能力者達が実在する世界?

世界線K: これといった争いや非日常が存在しない平和な世界。この世界から招かれたのはとある高校の吹奏楽部員達。
出身者は、黄前久美子/高坂麗奈/田中あすか/傘木希美/鎧塚みぞれ

世界線L: ゲッターロボという巨大兵器とその関係者と、ゲッターを敵視する鬼が争う世界。
出身者は、流竜馬/神隼人/武蔵坊弁慶/安倍晴明

世界線M:

世界線N:

世界線O: 『ビルダー』なるものが存在する世界?

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「――と、確定しているのはここまでになるね。
二人とも気付いているとは思うけどさ。世界線Aだとか、世界線の後に付けられているこのアルファベットの羅列――ご丁寧なことに、俺達に配られた名簿の並びと連動していて、上から順番にコミュニティごとに割り当てられているんだよね」

臨也は、自身の支給品袋から参加者名簿を机の上に放り投げ、トントンと指を叩いて、並びの法則性を指摘すると、オシュトルは、ふむと頷く。
名簿には、知り合い同士が固められて掲載されているという事実は、オシュトルも既に認識はしていた。臨也が、メモを書き綴るときに、各世界の出身者について、名簿と同じ並びで記していたことも。
ヴァイオレットもまた理解は追いついているようで、沈黙を保ちつつ、情報屋の次の言葉をじっと待っている。

「後は、タネさえ分かれば何とやら……ってやつさ。この並びの法則を観察して、俺達が持っている情報を併せてしまえば―――」

と言いながら、臨也は更に、メモに書き足していく。


936 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:43:08 2B/cRds.0
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世界線A: 業魔という化け物が蔓延り、それを討伐し人々を守護する聖寮が、秩序を維持する世界。
出身者は、ベルベット・クラウ/ライフィセット/ロクロウ・ランゲツ/マギルゥ/エレノア・ヒューム/オスカー・ドラゴニア/シグレ・ランゲツ

世界線B: 旧人類が滅び、人間によく似た亜人(デコイ)たちが住まう戦乱の世界。
出身者は、オシュトル/クオン/ムネチカ/アンジュ/マロロ/ミカヅチ/ヴライ

世界線C: 少なくとも『天狗』といった妖怪が実在する世界? 東風谷早苗が元いた世界線。現世とかけ離れ、妖術や魔法、神通力などの力がひしめく『幻想郷』なる世界。
出身者は、博麗霊夢/霧雨魔理沙/十六夜咲夜/魂魄妖夢/東風谷早苗/鈴仙・優曇華院・イナバ

世界線D:カナメが元いた世界線。カナメが狙っていた王という男は、空間を自在に移動し、人体を切断することが出来るとのことで、少なくとも何かしらの異能は存在する。
出身者は、カナメ/シュカ/レイン/リュージ/ヒイラギイチロウ/王

世界線E: 人間が鬼になり、それを討伐する、鬼狩りの剣士が存在する世界? 少なくとも、無惨とその使用人(部下?)の累は鬼側の参加者と考えられる。
出身者は、累/鬼舞辻無惨/冨岡義勇/錆兎/煉獄杏寿郎

世界線F: 治安維持の名目で、武偵という国家資格が存在する世界。
出身者は、間宮あかり/神崎・H・アリア/佐々木志乃/高千穂麗/夾竹桃

世界線G: 少なくとも『魔法』という概念が存在する世界? 臨也が目撃したジオルドは炎を自在に扱っていた。
カタリナ・クラエス/マリア・キャンベル/ジオルド・スティアート/キース・クラエス/メアリ・ハント

世界線H: μが創った仮想の世界「メビウス」。帰宅部という現実世界への帰還を目指す者達と、メビウスの秩序を保とうとする楽士達が相対している。
出身者は、天本彩声/琵琶坂永至/Stork/梔子/ウィキッド

世界線I: ブローノ・ブチャラティが元いた世界線。アリアの話によれば、ブチャラティは『スタンド』なる能力を駆使していたとのこと。
出身者は、ジョルノ・ジョバァーナ/ブローノ・ブチャラティ/リゾット・ネエロ/チョコラータ/ディアボロ

世界線J: 『演算方式』を用いた能力者達が実在する世界?
出身者は、浜面仕上/フレンダ=セイヴェルン/絹旗最愛/麦野沈利/垣根帝督

世界線K: これといった争いや非日常が存在しない平和な世界。この世界から招かれたのは、とある高校の吹奏楽部員達。
出身者は、黄前久美子/高坂麗奈/田中あすか/傘木希美/鎧塚みぞれ

世界線L: 巨大兵器ゲッターロボ及びその関係者と、ゲッターを敵視する鬼が争う世界。
出身者は、流竜馬/神隼人/武蔵坊弁慶/安倍晴明

世界線M: 首無しライダーや、暴力殺人バーテンダーといった、都市伝説が実在する世界。
出身者は、セルティ・ストゥルルソン/岸谷新羅/平和島静雄/折原臨也

世界線N: アリアの話によれば、桜川九郎は妖怪の肉を食べたことで不死能力を有しているとのこと。
出身者は、岩永琴子/桜川九郎/弓原紗季

世界線O: 『ビルダー』なるものが存在する世界?
出身者は、ビルド/シドー

世界線P: 大陸内の大戦が終結して、平和に向けて前進しつつも、未だ戦闘の余波は各地に影を落としている世界。
出身者は、ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン

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937 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:43:38 2B/cRds.0
「――こんな感じに落ち着くかな。
まあ、一応誰がどこの世界線の出身で、異能やら何やらを使えるかの指標にはなるかとは思うから、頭には入れといた方が良いよ」

出来上がったメモを満足そうに眺めながら、臨也は、オシュトルとヴァイオレットにそう促した。

レポートで確認できた世界線のうち、アルファベットで最も進んだ文字を確認できたのは、ビルダーなるものが存在する世界線Oである。
しかし、「ゲームの参加者は、16の世界線から選抜されている」という旨の文頭を鑑みれば、世界線はPまで存在し、名簿の最後に記載されているヴァイオレットは、この世界線Pに所属するはずだ。
また、各世界線から選出された参加者の人数は、名簿順が下になるほど――つまりは世界線に付与されたアルファベットが進むにつれ、逓減していることと、参加者名簿に自身の知り合いはいない、という本人の言から、世界線Pはヴァイオレット単身で選出されていると推測される。

後は、前述の名簿順の法則を当て嵌めて。
各世界線の参加者は、同一の文化圏及び時代から選出されているということを鑑みて。
これまでに得た情報と統合させて、世界線の情報を加味した名簿を導き出したのである。

「まぁ、幾つかの世界線は得体のしれないままだけど、これに関しては、追々補完していくしかないよね。
該当する参加者と遭遇した際は、是非とも根掘り葉掘り聞き込みをしたいところだね」

尚、世界線の内Dについては、臨也は、カナメと一時的に接触はしているが、カナメが切迫していた状況だったため、彼の元いた世界線の情報について、深く切り込む余地はなかった。
しかし、後に盗み聞きしたウィキッドとジオルドの会話の中で、カナメが狙っていた王は、何かしらの異能を使役することは見出せている。

また、世界線Iについては、その出身者と思われる『ブチャラティ』と、オシュトルとヴァイオレットは、一時的に行動を共にしたが、彼は、あまり自身のことを公にすることはなかった。但し、アリアと行動を共にしていたという、もう一人の『スタンド』なる能力を駆使していたという。

世界線Nについてもまた、アリアを経ての情報となるが、少なくとも妖怪、魑魅魍魎が実在する世界のようで、桜川九郎は、人魚の肉を食した異能力者とのことで、他の参加者も何らかの異能を有している可能性がある。

「――しかし、こうして改めると、一癖も二癖もある世界線が選出されていると見えるな」

「…麗奈ちゃん達は例外のようだけど、それでも世界線Kから、『覚醒』して異能持ちになっているのが二人いる。主催者は、こういう事例も期待して、敢えて一般人の麗奈ちゃん達を抜擢したんじゃないかな?
ああ…折角だし、ここまでの情報を基に、残りの『覚醒者』が誰なのか、詰めていこうか――」

臨也は、再びメモ用紙を取り出すと、上機嫌にペンを走らせていく。
その様相は、まるでパズルを解いていく童のようだと、オシュトルは思うが、それを口走ることなく、ヴァイオレットとともに、彼が書き綴る内容を追っていく。


938 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:44:50 2B/cRds.0
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『001』→鎧塚みぞれ
『002』→煉獄杏寿郎or錆兎
『003』→ミカヅチ
『004』→安倍晴明
『005』→琵琶坂永至
『006』→高坂麗奈
『007』→鬼舞辻無惨
『008』→ベルベット・クラウ
『009』→ウィキッド
『010』→流竜馬or神隼人
『011』→メアリ・ハント
『012』→間宮あかり

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羅列される覚醒者と思わしき参加者達の名前。
これまで、正体が判明していたのは、『003』、『006』、『007』、『008』、『009』のみだったが、レポートに記された時系列とそれぞれが属していた世界線を鑑みれば、推測は容易であると、臨也は語っていく。

――『001』は、第二回放送頃は生存し、第三回放送前に死亡した世界線Kの参加者。これに当て嵌まるのは、鎧塚みぞれ唯一人となる。

――『002』は、第一放送前に死亡した世界線Eの参加者であることから、煉獄杏寿郎か錆兎のどちらかということになる。但しこの二人に関しては情報はなく、鬼側か鬼狩り側なのかも定かではない状況である。

――『004』は、世界線Lの陰陽師ということで、流竜馬の情報と照らし合わせると、安倍晴明が該当する。

――『005』は、琵琶坂永至。Storkの話では、カタルシスエフェクトなる能力は、メビウスの中でも、帰宅部特有のものであり、楽士は使えない。この殺し合いに招かれている帰宅部の参加者は、天本彩声と琵琶坂永至の二人だが、天本は既に死亡しているため、残るは琵琶坂のみとなる。

――『010』に関しては、まだ生存しているであろうゲッターパイロットということで、流竜馬もしくは神隼人のどちらかとなる。

――『011』は、恐らくは、メアリ・ハント。琵琶坂に殺された参加者が、第三回放送に死亡告知された同じ世界線のカタリナ・クラエスだと仮定すれば、辻褄は合う。

――『012』は、アリアの後輩武偵である間宮あかりの可能性が高い。尤も、世界線Fのもう一人の生存者、夾竹桃なる人物の情報を持ち合わせていない為、まだ確定とまでは言い切れないが……。

「――とまあ、これである程度の情報を突き詰めることは出来たね。
さてさて、それじゃあ俺達は、これからどう行動すべきだろうか?」

臨也はニタリと口角を釣り上げながら、オシュトル達へと問い掛ける。
まるで、此方を品定めするかのようなネットリとした視線を受けつつも、オシュトルはふむ…と、考え込む。

成程、確かに、レポートの考察によって、この殺し合いの中で発生している様々な戦闘内容及び大方の参加者の状態を把握することは出来た……。
しかし、問題は、この情報をどのように活かし、今後自分達がどのように行動していくべきかにある。


939 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:45:19 2B/cRds.0
「某としては、この『覚醒者』達と接触すべきだと考えるが、如何か?」

少なくとも、このレポートに記載された内容からは、主催者は、幾多の戦闘をきっかけに異能に目覚め、進化していく参加者達に注目しているように見受けられる。
仮に、参加者のそういった『覚醒』を目的として、この舞台を築き上げたのならば、『覚醒』を果たした参加者を、こちらで確保しておけば、いざという時の交渉材料にもなり得るはずだ。

そんな思惑を籠めて、オシュトルは、臨也とヴァイオレットを見やる。
臨也は、求めていた返事を引き出せたことに、満足げな表情を浮かべる。

「……私は、お嬢様をお探しできるのであれば、問題はございません……」

これに対して、ヴァイオレットは、物憂げな表情で、そう呟く。
彼女の脳裏には、植え付けられた本性に苦しめられ、涙を流していた麗奈の姿が深く刻み込まれている。
麗奈を救ってあげたい――。寄り添ってあげたい――。
そんな想いが、彼女の心を強く締め付けてくる。

「うん、そうだね。
接触すべき『覚醒者』については、麗奈ちゃんを最優先にしておこう。
麗奈ちゃん、心配だよね。食人衝動に駆られて、他の参加者を襲うことなんてなければ良いんだけどさ」

「……お心遣い頂きありがとうございます……」

ヴァイオレットの心情をなぞるかのような臨也の言葉に、彼女は丁寧にお辞儀を返した。

「ああ、それとアリアちゃんの後輩の間宮あかりちゃん――彼女も優先度は高めだね。
このレポートに書かれている、主催者の観測及ばない世界線の狭間とやらで、何を体験したのか非常に興味がある」

思い出したかのように言葉を付け加える臨也。
そんな臨也に、オシュトルもまた頷き、首肯する。

「…ふむ、この会場で運営の目を搔い潜るのであれば、彼女の話は聞いておいて損はないだろう」

現状、レポート内の五度目の覚醒報告において、『当レポートの内容を知った鬼の首魁〜』と記載があるように、オシュトル達がこのレポートを見ていることは、運営は認識しているようで、やはり監視の目は厳しいと考えられる。
ハッキングによるアクセスに対応もせずに、尚もレポートの更新を行っているのは、余裕の表れなのだろうか、それとも臨也が言っていたように、参加者のハッキングを見越した上で、敢えて参加者向けの資料として開示しているのだろうか――何れにしろ、レポートの情報を深掘りしただけの現状では、未だ自分達は掌の上で踊らされているだけである。

故に、主催者を出し抜くための材料が必要な今、間宮あかりに関する記述は、オシュトル達にとって無視できるものではなかった。
無論、この間宮あかりに関する情報を記載したのも、運営だということを鑑みれば、未だ連中の掌の上で、敢えてあかりに注目するよう誘導されている可能性も否めないが。


940 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:45:50 2B/cRds.0
「――して、臨也殿……。
あかり殿に関するレポートのことだが、もう一点気になる部分があるのだが…」

それでも、前に進むためには、眼前にある垂らされている蜘蛛の糸に縋っていくしかなく、オシュトルは、更なる考察を深めるべく、臨也に話を切り出していく。
すると、臨也は待ってましたとばかりに、指をパチンと鳴らした。

「流石っ! オシュトルさんは目敏いなぁ!
お察しの通り、間宮あかりちゃんのレポートには、もう一つ……見過ごせない重大な記述があるんだよね」

「それが、この【『012』に装着された首輪は、一度『012』の死亡を検知している】と【『012』の魂の復帰を検知している】の箇所だな」

「うん、そうそう。
主催者に参加者の生殺与奪の権利を常に握らせ、殺し合いを強制させる――それが俺達に嵌められた“こいつ”の目的だと思っていたけどさ…。
この記述を読み解く限りだと、どうやらそれ以外の役割も担っているようだ――」


臨也は、トントンと自身の首に嵌められた銀色の枷を人差し指で叩いてみせる。
オシュトルとヴァイオレットは、その動きに釣られるように、モニターに投影された該当記述に視線を落とし、その意味を咀嚼する。

「……この首輪は、私達の生き死にの監視も兼ね備えている――ということになりますでしょうか?」

「いや、それだけではない……。
記録では、あかり殿が息を吹き返した事象について、『蘇生』ではなく、敢えて『魂の復帰』と記している。
そして、彼女の『魂』は、主催者の観測及ばない場所にて、別の『魂』との邂逅を経て、回帰していると……。つまりこれは―――」

「ストレートに解釈すると、首輪は、参加者の『肉体(うつわ)』と、それに内包されている『魂(なかみ)』の両方を監視しているってところかな?」

臨也は、オシュトルの言葉を重ねた上で、そのように結論付けた。
間宮あかりは一度死亡している――これは、文字通りの生物学的な意味での死亡を意味する筈。つまり、これを検知できたということは、首輪にそういった機能が実装されている裏付けになる。
しかし、生物学的な死亡を検知したにも関わらず、その後には、あかりの『魂』が『復帰』したという報告が上がっている。
ここから導き出されるのは、首輪は参加者の『魂』を捕捉し、それが肉体に結び付く事象を感知する機能を有していることだ。
無論、『魂』なるものが、そのままの意味ではなく、何かの隠語である可能性も排除しきれないが……。

「……でもさぁ、仮にそんな感知機能が実装されているとして、主催の連中は一体全体何を思って、そんなことをしているんだろうね? 果たして、その目的は?
『魂』なんていうものが、実際に存在するかはさておき、仮にそんな概念が実在するとしても、参加者の『魂』を捕捉したところで何の意味もないと思うんだけど?」

臨也は、オシュトルとヴァイオレットに、問いかける。
確かに、単純に参加者の生死の判定だけなら、ゲームの管理上、必要な措置であると言われれば、納得は出来るだろう。
だが、それとは別に、『魂』とやらを感知させるシステムを、この殺し合いの管理に、わざわざ組み込んだ意図が、今一つ見えてこない。


941 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:46:23 2B/cRds.0
「某が、察するに――、主催者は、ゲームを運営する上で、不測の『魂』の離別を警戒しているのではないだろうか?」

ヴァイオレットが返答に窮する側で、オシュトルは、表情を引き締めつつ、言葉を紡いでいく。

「――”不測”というと?」

「……つまるところ、参加者の死亡以外での―――正規の手順を踏んでいない、偶発的な魂と肉体の乖離だ」

「なるほどね……。古来より人間は死んでしまうと、その魂はあるべき場所に還る――と言い伝えられてるけど、この場合は、『死』が、魂と肉体の切離における、オシュトルさんの言う正規の手順ってところかな?」

感心したように頷く臨也を目端に捉えながら、オシュトルは「左様」と相槌を打つ。

―――ヒトは死して、その肉体が朽ち果てても、その魂は不滅であり、常世(コトゥアハムル)、もしくは地獄(ディネボクシリ)に帰す。

確かに、オシュトルが住まう亜人達の世界にも、独自の宗教観は存在するのだが、所謂ヒトの『魂』についての考え方については、旧人類時代にも存在した宗教観に通ずるものがあった。
オシュトルの考察が正しければ、運営は、そういった普遍化されたルールから逸脱した、不測の事態を検知する意図があるとみられる。

「――けどさぁ、幾ら“不測”と前置きしたとしても、運営が危惧する幽体離脱まがいなことって、普通に考えたら、起こり得るものじゃないよね?
いや…幾つもの世界線が存在するから、断言するのは早計かな?
まぁ少なくとも、俺がいた世界では、オカルトの域に片足突っ込んでるような事案なんだけどさ。
オシュトルさんやヴァイオレットちゃんの世界では、どうだったかな?」

臨也は、肩を竦めながら、オシュトルとヴァイオレットに質問を投げ掛けた。
ヴァイオレットは首を横に振り、オシュトルもまた「それは……」と口篭る。
二人にとっても、死を介さない魂の離脱という事案は、怪談や禍日神(ヌグィソムカミ)などと結びついた逸話で聞いたことがある程度にとどまっている。

「どうやら、俺のとこだけの常識じゃないみたいだね。いやぁ良かった良かった〜。
まぁでも、他の世界線だなんだといっても、結局このμが作ったとされるこの殺し合いの世界(かいじょう)の中だと、幽体離脱は、偶発的に起きる可能性も排除できないってことで、主催者はそれを監視したいってことなんだよね……。
それで何故連中が、そんなことを憂慮しているのか考えてみたんだけどさ―――」

そこまで言うと、臨也はそこで言葉を区切り、ディスプレイに投影される内容をスクロールし、レポートの冒頭の辺りまで戻した。

「この『実験』の前提として、連中は、参加者の肉体(うつわ)と魂(なかみ)を別々に準備して、それを人為的に接着させたんじゃないか――って思ったんだけど、どうかな?」

「「――っ!?」」

臨也が唱えた仮説に、ヴァイオレットとオシュトルは瞠目した。
確かに、参加者を準備する上で、本来は帰属関係にない肉体と魂を、何らかの技術で接着させ一塊に集約させていると仮定した場合、その不具合に備えるのは、システムを構築したものにとっては、至極当然の責務といえるだろう。
裏を返せば、この首輪がある限り、そういった不測の『肉体と魂の離別』を見逃さまいという思惑が見えてくる。


942 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:47:01 2B/cRds.0
「Stork君によれば、μはメビウスでNPCっていう人間の贋作を創って、メビウスに招かれた人間達の生活に融け込ませていたらしい……。
恐らく、このNPCが、今回の参加者の肉体(うつわ)に当て嵌まるんじゃないかな?
ほら、首輪にもご丁寧に『メビウスをベースとした世界で生み出された存在』って書いてあるしね…」

臨也は、可笑しそうに笑うが、二人は笑う気にはなれなかった。
臨也の仮説が正しければ、今いる自分達の存在は、結局のところ主催者の創作物であり―――。
記憶も、人格も、想いも―――全てが贋作に過ぎないことになる。

「――で肝心の魂(なかみ)をどうやって、肉体(うつわ)に流し込んだのかについてだけど……オシュトルさん―――」

「…ふむ?」

「オシュトルさんが話していた、大いなる父(オンヴィタイカヤン)ってのは、大層発展した科学技術を誇っていたようだったけど、例えば、擬似人格を人工物にねじ込むことってできたりしたのかな?」

その問いかけにオシュトルは、一瞬目を見開く。
己が記憶を掘り起こせば、思い当たる節があったからだ。

「……可能だ……。無論皆が出来るわけではないが、ある程度の技術を齧っていれば、自分達の人格をコピーし、それを人形などにインストールする芸当はそう難しくはものではないと、我が主から聞き及んでいる……」

あくまでも、ヤマトの國に生まれた亜人として、その身命を捧げた御仁から伝え聞かされていたというていで、臨也に情報を与えるオシュトル。
事実、旧人類の時代を生きていたハクとしては、臨也が話した人格のインストール技術については、覚えがある。
旧人類達は、自分達の人格をコピーし、それをマスコットだの代理人形(ブロクシード)にインストールさせていたし、ハク自らも必要な機材さえあれば、出来なくもない。

「成程ね…もしかしたらって思ったけど、ビンゴだったって訳か」

「つまりは、『魂』とはμの創ったNPCにインストールされたデータであって、主催者は大いなる父(オンヴィタイカヤン)の技術を用いて、それを実現させた――と、臨也殿は、そう申されているのだな?」

「確定ではないよ。今手元にある情報を繋ぎ合わせて、最も辻褄が合いそうな考察を導き出したまでに過ぎない。まぁ俺個人としては―――」

臨也は、そこで言葉を区切ると、オシュトルとヴァイオレットを交互に見ながら、それまで張り付けていたへらへらした表情を崩した。

「こんなクソッタレな考察が、的外れであることを、心から願ってるんだけどさ……」

能面のような無表情で、人間愛好者は、そう吐き捨てるのであった。

――不愉快だね……

情報屋の胸中に蠢くは、純粋な不快感であった。
この会場では、眼前の二人をはじめ、本当に興味の尽きない人間が、揃い踏んでいた。
しかし、この殺し合いの背景について、考察を進めるうちに、今自身が好奇を抱いている対象が人間を模した紛い物であると可能性が高いと突きつけられてしまえば、興醒め以外の何者でもない。

――ああ、とても不愉快だよ……

人間愛を至上とする臨也にとって、このような展開は悪夢に他ならない。
そして内に宿す言いようのない喪失感が、主催者への反感を、肥大化させていく。

しかし――。

――だけど、あんた達には、俄然興味が湧いてきたよ、テミス……

その裏返しとして、テミスを始めとした主催者陣営への関心も、増々膨らんでくる。
このクソッタレな仮説が正しかったとして、何故彼女らは、盤上に75の駒を創作した上で、このような殺人ゲームを開催したのか――。
盤上での出来事を、どのような思いで観察しているのか――。
もしも、取るに足らない存在とみていた駒達によって、盤面をひっくり返されでもしたら、どのような反応を示してくれるのだろうか――。

――まぁ今は、あんた達の掌の上で、俺らしく振る舞わせてもらうよ。
あんた達も、それを俺に期待しているんだろうしね。

臨也は、テミスら主催者陣営に対し、胸中でそう告げる。
今は、敢えていつもの自分らしく、どうしようもなく『人間』を愛する情報屋として、盤上を転げ回ってみせよう。
そして最終的には、その盤面を覗き込む彼女らも愛するとしよう。
μを使役する黒幕達が『人間』であることを願いつつ、臨也はその口角を吊り上げるのであった。


943 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:47:42 2B/cRds.0



「ロクロウ様は、どちらに向かわれたのでしょうか?」

レポート内容の整理及び、それに伴う考察を纏めたオシュトル達は、次なる目標を一先ず『覚醒者』の確保と定めて、遺跡を発たんとしていた。
そんな折、ヴァイオレットは、遺跡前ですれ違ったロクロウのことをふと思い出し、オシュトルに尋ねた。
去り際に垣間見せて彼の危うい雰囲気--それが、ヴァイオレットにはどうしても気になっていた。

「……恐らく、鬼舞辻無惨を討ちに行っているかと思うが……。
具体的に何処に向かうかまでは、某も聞いておらぬ……」

「……左様でございましたか……」

オシュトルからの返答に物憂げに顔を俯かせるヴァイオレット。
そんな彼女の姿を視線に捉えながら、オシュトルもまた、先のロクロウとのやり取りを思い返し、不安を覚える。

――果たして、シグレ・ランゲツ殺害の下手人を告げたのは正解だったのか、と。

放送直後、己が目標を失った夜叉の業魔は、死人のような目のまま、放心したように佇んでいた。
そこに漂っていたのは虚無。しかし、一方で何を仕出かすか分からないという危うさも孕んでいた。
言ってみれば、導火線に火の付いた爆弾を目の前にしているような緊張感が、オシュトルを包み込んでいた。
故に、万が一、その火種が爆発した時を想定して、間違っても自分や他の仲間たちに被害が及ばぬようにと、その矛先を他所に向かうよう材料を与えたのだ。
『シグレ・ランゲツを殺したのは、ベルベット・クラウである』と――。

それを聞いたロクロウは、ただ一言「そうか…」とだけ零して、去っていった。
結果だけみれば、ロクロウが我を失うことはなかったので、杞憂に終わった。
しかし、今回の一手が、最終的にロクロウの行く末に如何なる影響を与えるのかは、計り知れない。

「――そうそう、オシュトルさん。
ずっと気になっていることがあるんだけどさ――」

とここで、ロクロウの話には全く興味を示していなかった臨也が、唐突にそう切り出すと、オシュトルの思考は現実へと引き戻される。

「……如何したか……?」
「いやね、オシュトルさんは、自分のこと亜人だと言ってはいるけどさぁ。
俺の見立てでは、実際は『人間』--オシュトルさんの世界でいう旧人類だと思うんだよ……。大いなる父(オンヴィタイカヤン)ってやつ?」

――ドクンッ!!

瞬間、オシュトルは心の臓が飛び跳ねる感覚に襲われた。


944 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:48:09 2B/cRds.0
「何故、そう思うか……?」

動揺を押し殺しながら、平静を装って臨也に尋ねるオシュトル。

「例えば、この施設にあるコンピュータに精通しすぎなところとか、亜人特有?の獣耳や尻尾がないとか、理由を挙げるとキリがないんだけど……。
それを踏まえてもどうにも、オシュトルさんからは、獣臭さが感じ取れないんだよね。
まあ、この場合、俺の直感ってヤツも大きいんだけど、さ」

臨也は、ねっとりとオシュトルの表情を品定めするような視線を送る。

なるほど、確かに情報を整理すれば、違和感を覚えるのも無理はない。
偽りの仮面を被るものとしては、その振る舞いに、些か迂闊な部分があったなとオシュトルは、心中で自らを叱責する。

「臨也殿――誤解なきよう願いたいのだが、某は、ヤマトの地に生まれた正真正銘の亜人だ。
旧人類が遺した機器に精通していたのは、聖上より賜った知識を実践していたに過ぎぬ」

少し無理はあるなと、自分でも感じながらも、オシュトルは言葉を紡いでいく。

「次に、某の容姿についてだが、亜人の男性の多くは、成人時に尾を切断するもの故、某の尾がないのも当然。
耳についても、種族によっては旧人類のそれと変わらないものもいる」

伝え聞いている情報も織り込ませながら、どうにか臨也の指摘事項を一つ一つ潰していく。

「最後に獣臭さと申されたが、それは心外だな。
我らは、臨也殿のいう『人間』に、他の生物の遺伝子を組み込んだのが起源と聞く。
故に我らのベースは『人間』であり、『人間』と同等の知性を以って、理知的に行動する。
そして、我らにも『人間』と同様に心もある旨、ご承知願いたい」

今後クオンやムネチカと合流することも想定して、臨也の亜人に対する認識を改めさせんと、オシュトルは畳み掛ける。

「なるほどね……。まぁ、オシュトルさんがそう言うなら、そういうことにしておくよ」 

臨也は未だ好奇の目をオシュトルに向けつつも、それ以上追及することなく、くるりと向きを変えて、歩き出してしまう。
その背中を追う形で、オシュトルとヴァイオレットも続いていく。

(……やれやれ…相変わらず、食えん男だ……)

臨也の後ろ姿を眺めながら、オシュトルはそっと溜め息をつく。
全くもって、油断も隙もあったものではないと。
如何に此処がヤマトでなくても、偽りの仮面を纏う身であるオシュトルにとって、自身が『大いなる父』であることを認めてしまっては、後々不都合が生じるのは必定だ。
少なくとも、あの男にその情報が渡ってしまうと、ロクなことにならぬであろうことだけは、断言出来る。
故に、臨也への警戒については、引き続き怠らぬようにする。

(--まぁやり辛いと言えば、此方もそうだが……)

オシュトルの目線が、隣を歩くヴァイオレットへと向けられる。
寡黙な自動書記人形はただ前を向いて、黙々と歩いていく。
今はこうして、三者協力の態勢を築きつつ、行動を共にしているが、ウィキッドなどの殺し合いに乗った側の参加者と遭遇でもすれば、その処遇を巡って、不殺主義を掲げるヴァイオレットとの関係に亀裂が入る可能性が想定される。

(……ったく、追加労働手当をいくら積まれても割に合わんぞ……)

仮面の下でそっと溜め息を吐きながら、オシュトルは、この主義主張の全く異なる二人との行く末に、頭を悩ませるのであった。


945 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:48:47 2B/cRds.0
【E-4/大いなる父の遺跡入り口付近/夜/一日目】

【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:健康、疲労(大)、全身ダメージ(中)、強い覚悟
[服装]:普段の服装
[装備]:オシュトルの仮面@うたわれるもの 二人の白皇、童磨の双扇@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品一色、工具一式(現地調達)、チョコラータの首輪
[思考]
基本:『オシュトル』として行動し、主催者に接触。力づくでもアンジュを蘇生させ、帰還する
0:臨也、ヴァイオレットとともに『覚醒者』を探す。
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する(優先はあかり、麗奈)
2:ロクロウを蝕んでいる毒(無惨の血)の治癒方法を探る
3:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
4:クオン、ムネチカとも合流しておきたい
5:ヴライ、無惨を警戒
6:ゲッターロボのシミュレータについては、対応保留。流竜馬とその仲間を筆頭に適性がありそうな参加者も探してきたい。
7:殺し合いに乗るのはあくまでも最終手段。しかし、必要であれば殺人も辞さない
8:『ブチャラティ』を名乗るものが二人いるが、果たして……。
9:誰かに伝えたい『想い』か……。
[備考]
※ 帝都決戦前からの参戦となります
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『003』がミカヅチであることを認識しました。
※ どこに向かっているかは次の書き手様にお任せします。

【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:疲労(中)、全身強打、右拳骨折、言いようのない喪失感
[服装]:普段の服装(濡れている)
[装備]:
[道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数0/10、使い切った状態)、まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0〜1(新羅)
[思考]
基本:人間を観察する。
0:オシュトル、ヴァイオレットとともに『覚醒者』を探す。
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する(優先はあかり、麗奈)
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
4:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だったのに...残念だよ。
5:平和島静雄はこの機に殺す。
6:『月彦』は排除する。化け物風情が、俺の『人間』に手を出さないでくれるかな。
7:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。
8:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。
9:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃、オシュトル、ヴァイオレットに興味。
10:オシュトルさんは『人間』のはずなのに、どうして亜人の振りをしてるんだろうね?
11:ロクロウに興味はないが、共闘できるのであれば、利用はするつもり。
[備考]
※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。
※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※ Storkと知り合いについて情報交換しました。
※ Storkの擬態能力について把握しました
※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。
※ 無惨を『化け物』として認識しました。


946 : 一虚一実 ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:49:11 2B/cRds.0
【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
[状態]:全身ダメージ(大) 、肩口及び首負傷(止血及び回復済み)
[服装]:普段の服装
[装備]:手斧@現地調達品
[道具]:不明支給品0〜2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ)
[思考]
基本:いつか、きっとを失わせない
0:オシュトル、臨也とともに『覚醒者』を探す。
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する(優先はあかり、麗奈)
2:お嬢様……どうかご無事で...
3:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。
4:麗奈と再合流後、代筆の続きを行う
5:手紙を望む者がいれば代筆する。
6:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。
7:ブチャラティ様が二人……?
[備考]
※参戦時期は11話以降です。
※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。


■ 『覚醒者』に関するレポートについての補足

運営のサーバに用意された、会場内で観測した『覚醒』について纏めた資料。
不定期更新となっており、現在のところ、覚醒者として定義された参加者と、彼らに割り当てられている番号は、以下の通り。

『001』→鎧塚みぞれ
『002』→煉獄杏寿郎
『003』→ミカヅチ
『004』→安倍晴明
『005』→琵琶坂永至
『006』→高坂麗奈
『007』→鬼舞辻無惨
『008』→ベルベット・クラウ
『009』→ウィキッド
『010』→神隼人
『011』→メアリ・ハント
『012』→間宮あかり

尚、レポート上では参加者が元いた世界線について、以下のようにアルファベットが割り当てられている。

世界線A→『テイルズオブベルセリア』の世界
世界線B→『うたわれるもの 二人の白皇』の世界
世界線C→『東方Project』の世界
世界線D→『ダーウィンズゲーム』の世界
世界線E→『鬼滅の刃』の世界
世界線F→『緋弾のアリアAA』の世界
世界線G→『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』の世界
世界線H→『Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-』の世界
世界線I→『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』の世界
世界線J→『とある魔術の禁書目録』の世界
世界線K→『響け!ユーフォニアム』の世界
世界線L→『新ゲッターロボ』の世界
世界線M→『デュラララ!!』の世界
世界線N→『虚構推理』の世界
世界線O→『ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島』の世界
世界線P→『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の世界


947 : ◆qvpO8h8YTg :2023/12/10(日) 11:49:47 2B/cRds.0
投下終了します


948 : ◆qvpO8h8YTg :2023/12/25(月) 00:08:16 7GDrbeLU0
ブローノ・ブチャラティ、ライフィセット、梔子、ディアボロ予約します


949 : ◆qvpO8h8YTg :2024/01/03(水) 22:02:38 .eoeoCK60
投下します


950 : 追跡セヨ -夜宵のNext Order- ◆qvpO8h8YTg :2024/01/03(水) 22:03:29 .eoeoCK60
宵の闇に沈む『大いなる父の遺跡』。

『遺跡』などという、どこか未発達の旧文明を彷彿させる名を冠してはいるものの、その実、成熟しすぎた科学が詰め込まれた施設である。
今は静謐さの中に佇んでいる此の地ではあるが、つい数時間ほど前までは、九名の参加者による大規模な戦闘が行われており、その痕跡は随所に見受けられる。
命の奪い合いの爪痕は、施設内だけに留まらず、周囲にも及んでおり、遺跡前の山林には大規模な破壊痕が刻まれ、疎に散りばめられた炎は未だ燻っている。

そして、未だ死の匂いが漂うこの場で、沈黙する巨大な影が一つ――。

「スティッキー・フィンガーズ!!」

俯いたまま、静止を貫く人造兵器アヴ・カムゥ。
ブラチャティは、半透明の異形を発現させると、その胸部目掛けて、拳を叩きつけた。

「――っ……!!」

スタンドによってつけられたジッパーを開いて、鋼鉄の兵の内部を覗き見たブチャラティは、目を見開いた。

「何か見つけたの、ブチャラティ?」

ブチャラティの反応を怪訝に思い、ライフィセットと梔子は、彼の側へ駆け寄ろうとする。
しかし、ブチャラティは、手を後ろに伸ばして、二人の進行を制した。

「……いや、お前たちは見る必要はない――」

視線をアヴ・カムゥの内部に釘付けにし、険しい表情を浮かべたまま、ブチャラティは、淡々と告げる。

「どうか静かに眠らせてやってほしい」

ジッパーを閉じながら、彼はそう付け加えた。
言わんとした意図を察して、ライフィセットは黙り込み、梔子は「そうか…」と相槌を打った。
ブチャラティは、亡骸と化した鋼鉄の巨人に背を向け、彼を待つ二人の元へと歩んでいく。
その脳裏では、今しがた目に焼き付けた光景を反芻させていた。

(――新羅……)

岸谷新羅は、アヴ・カムゥの操縦スペースと思わしき場所で息絶えていた。
常に飄々として、口を開けば同居人への想いを謳っていた闇医師が、どのような経緯で、あのような最後を辿ったのかは分からない。
コックピットの中は、それはもう凄惨な有様で、バケツをぶちかまけたかの如く、壁やら床やら天井に至るまで、血飛沫で赤く染まっており、とてもじゃないが、女性の梔子や年端も行かぬライフィセットに見せられるものではなかった。

だが、犠牲者たる新羅自身は、身に纏う白衣を紅色に染め上げられてもなお、安らかな表情を浮かべていた。
腕は綺麗に折り畳められ、まるで眠りに就いているかのような姿勢で安置されていた。
支給品などは持ち去られているが、彼の最期を看取った何者かがこの鉄鋼の塊を棺と見立て、安らかに眠れるようにと配慮したのかもしれない。
そして埋葬の意味を込めて、彼を中に押し込めたままだとすれば、新羅と、彼の死を悼んだ者のためにも、あの棺は、そのままにしておくべきなのだろう。


951 : 追跡セヨ -夜宵のNext Order- ◆qvpO8h8YTg :2024/01/03(水) 22:03:53 .eoeoCK60
「これ以上、この場所に留まっても意味はない。先を急ごう」

ブチャラティがそう告げると、三人は南東の方角へと歩みを進めた。

三人が向かう次なる目的地は、会場南端のテレビ局――。

ロクロウを初めとした他参加者との合流を目的として、遺跡へとやって来てはみたが、遺跡内では、直近まで参加者がいた痕跡はあったものの、既に別の場所へと発ってしまったのだろう――結局、誰一人とも接触することは出来ず、収穫はなかった。
遺跡に留まり、他の参加者がやって来るのをただ待つという選択肢もあったのだが、ここは確信のない可能性に賭けるよりも、テレビ局への移動を採ることにした。
少しでも自分達の味方になりうる他参加者に対して有益な情報を提供し、あわよくば合流を促すことが出来るというその有用性については、三人ともムーンブルク城で認識合わせをしていたため、意見はすんなりとまとまった。
念の為、他の参加者が遺跡に辿り着いたときに備えて、自分達が此の地に来たという足跡と次なる目的地を記した簡易的な書き置きも残してきた。
そして最後に、遺跡の外に放置されていたアヴ・カムゥの調査を行ってから、今へと至っている。


952 : 追跡セヨ -夜宵のNext Order- ◆qvpO8h8YTg :2024/01/03(水) 22:04:13 .eoeoCK60
(ロクロウ…今どうしているかな?)

足早に次の目的地へと向かいながら、ライフィセットは、合流を果たせなかった身内の業魔のことを案じていた。

ライフィセットが元々いた時間軸では、ロクロウは既にキララウス火山にて、シグレとの決着をつけている。
仮にこの会場にいるロクロウが、ライフィセットと同じ時系列から招かれているとすれば、既に決着を果たしたシグレの脱落についても、ある程度割り切ることは出来るはず。
しかし、わざわざ、自分と出会う前の時間軸から、ベルベットを招聘するという悪辣な主催者のことだ。その可能性は低い。
もしも、シグレ打倒を目指して己が剣技を研鑽していた頃のロクロウが招かれていた場合、己が悲願を奪われてしまったその先行きには不安がある。
そして、遺跡へと向かったはずの彼との合流も叶わなかったことで、その懸念はより強いものへと昇華されている。

「――ライフィセット、大丈夫か?」

内に募る不安が表に出て、顔色に現れてしまっていたのだろう。
隣を歩く梔子が、ライフィセットの顔を覗き込みつつ、声をかけてきた。

「あ、うん……ちょっとロクロウの事が気になって……」
「遺跡に向かったという君の仲間か……」
「うん。ロクロウにはシグレっていう凄く強い兄弟がいてさ。
そのシグレも、このゲームにも参加させられていたんだけど、ロクロウはシグレを越えるために、ずっとずっと剣技を磨いてきたんだ……」
けど……シグレは、さっきの放送で……」
「そうか、兄弟を失ったのか……」

ライフィセットの言葉を受けて、梔子は目を伏せる。
当たり前のように傍にいた人達が、ふとした拍子に、永遠に失われる喪失感――。
その辛さを、梔子は、痛いほどに理解しているから――。


953 : 追跡セヨ -夜宵のNext Order- ◆qvpO8h8YTg :2024/01/03(水) 22:05:13 .eoeoCK60
「えっと、その――」

梔子の反応から、ロクロウとシグレの関係を誤解していると察したライフィセットは、補足しようと言葉を紡ごうとする。
しかし、それよりも前に梔子が視線を上げ、真っ直ぐにライフィセットを見つめた。

「だけど、彼にはまだ君達が――互いの身を案じてくれる仲間がいるのだろう?」
「あっ、えっ……そうだけど……」

唐突な問い掛けを受け、ライフィセットは僅かな戸惑いをみせるも、肯定の返事を紡いだ。
ライフィセット達、災禍の顕主一行は当初こそは成り行き上、各々が自分の目的を達するために、利害の一致で行動を共にしていた節があった。
しかし、同じ旅路を歩み、苦楽を分かち合うことで、いつしか利害を越えた関係性が生まれていた--。
少なくとも、ライフィセットはそう確信している。

「だとしたら、彼には優先順位を違わず、残された者達を大事にしてやって欲しいものだな……」

ライフィセットの首肯を受けて、梔子はポツリとそんな呟きを漏らした。
それは、ムーンブルク城に発つ際に、彼女がクオンに忠告したものと同様の内容だった。
まだ大切な人がいるのであれば、失った者にとらわれず、どうか前を向いてほしい、と。
全てを奪われ、“おんぼろ”となってしまった少女の、朧気で、切実で、羨望が込められたそんな願い――。

(梔子……)

ライフィセットは、哀愁を滲ませた彼女の瞳を目の当たりにして、胸が締め付けられるような苦しさを覚える。
そして、このどうしようもなく儚くて、優しくて、孤独な少女に、かつて自分に名前を与えてくれて、生きていることを教えてくれた喰魔の少女の姿をどうしても重ねてしまう。

「梔子、僕にとってはさ――」
「……?」

だからだろうか――。
少しでも、彼女の絶望を拭い去りたくて――。
少しでも、彼女の孤独を埋めてあげたくて――。

「ベルベットやロクロウだけじゃなくて、このゲームで出会った皆も――。梔子も、大事な仲間だよ。
そりゃ、梔子とはまだ出会ってまだ間もないけど……それでも、聖隷の契約とか関係なく、僕は梔子のことは大切な仲間だと思っているよ」

ライフィセットは、自然とそんな言葉を口にして、彼女を見上げた。
その真剣な眼差しを受けた梔子はというと、一瞬虚をつかれたように目を見開く。
だが、すぐにその表情は柔らかなものへと変わる。


954 : 追跡セヨ -夜宵のNext Order- ◆qvpO8h8YTg :2024/01/03(水) 22:05:42 .eoeoCK60
「――君は、優しいな……」

またいらない気を遣わせてしまったのだと、反省する。
と同時に、眼前の年端もいかない少年からの真っ直ぐな思いやりに、気恥ずかしさと共に、顔が熱くなる感覚を覚えてしまう。

「でも、ありがとう。君の心遣いは、嬉しく思う……。
早く君の仲間達と合流できるよう、私も協力させてもらおう」

そう言って、ぷいと顔を背けると、再び歩を進み始める梔子。

「あっ、待ってよ、梔子……」

ライフィセットはそんな彼女の後ろ姿にやはり寂しさを感じつつ、これを追いかける。

(――私も、彼の気持ちに応えてあげるべきだったのだろうか……)

後方より、とてとてと聞こえてくる少年の足音を耳にしながら、梔子は今しがたの自身の行動を振り返る。
ライフィセットから向けられた純粋な厚意は、素直に嬉しかった。
しかし同時に、どん底を這いずりまわり、虎視眈々と復讐の機会を伺う自分にとって、あまりにも眩しすぎると思った。

そして、恐れてしまった――。
差し伸べられた手を享受することで、琵琶坂永至への復讐心が薄れてしまうのではないかと。
だから、ライフィセットの「仲間」という言葉に同調することもなく、素っ気なさを装った態度を取ってしまった。

(つくづく酷い女だな、私は……)

自身の浅ましさと卑しさに、自嘲しながらも、“おんぼろ”の楽士は、歩みを止めることはない。
彼女の根幹にある憎悪の炎は、決して消えることはないのだから。


955 : 追跡セヨ -夜宵のNext Order- ◆qvpO8h8YTg :2024/01/03(水) 22:06:20 .eoeoCK60


(――見つけたぞ、ブチャラティっ…!!)

ドッピオは、自分が位置する山の斜面から下った先で、探し求めていた人物の姿を見出した。
陽は既に沈み、灯りがないと遠方の視界が利かないが、幸いにもブチャラティ達が横断している産屋敷亭の側には、幾つもの篝火が焚かれていた。
その篝火の光が、ブチャラティ達の姿を夜の闇から浮かび上がらせてくれていたのである。

(……ったく、こいつを見つけてすぐに飛び出してきて良かったぜ……)

今も南東方面に歩を進めているブチャラティ一行の様子を視界に収めながら、ドッピオはグシャリと手に持つメモを握り締めた。
そのメモは、ブチャラティ達が遺跡を発つ際に、他の参加者に向けて書き置いたものであり、ブチャラティ達自身の情報と、これから自分達が向かう目的地などが記載されていた。ご丁寧なことに、ドッピオのことを指すような形で偽物の『ブチャラティ』に気を付けろという注釈も添えられて。

ドッピオが、遺跡に到達したのは、ブチャラティ達が遺跡前のアヴ・カムゥから発った僅か数分後の出来事であった。
そして、遺跡内の過程で、この書き置きを発見――当然、これを他の参加者に見られる訳にはいかないので、ドッピオはこれを回収し、目的地として記されていたテレビ局方面へと駆けていたのである。

ドッピオとしては、琴子達との約束を反故することになってしまうが、先のボスとの『電話』にて、現状の最優先事項はブチャラティとの接触と結論付けているため、そこは致し方ないと割り切っている。


956 : 追跡セヨ -夜宵のNext Order- ◆qvpO8h8YTg :2024/01/03(水) 22:06:44 .eoeoCK60
(そして、奴と一緒にいる二人が、ライフィセットと梔子か……)

ブチャラティと同行している二人については、あまり情報を持ち合わせていないが、連中とどのように接触すべきか、考えを巡らせる。
メモに偽ブチャラティのことを載せているということは、連中も此方を相当警戒しているように見て取れる。
であれば、接触の機については、より慎重に検討しなければならないが―――

(―――っ!?)

瞬間、ドッピオは思考を打ち切り、木陰に滑り込むようにして隠れた。
ブチャラティが突如として立ち止まり、ドッピオがいる山林方向へと振り返ったからである。

「どうかしたか?ブチャラティ」
「いや……何でもない……。気にしないでくれ」

誰かに見られているという感覚を覚えたブチャラティであったが、周囲を軽く見渡して、誰も見当たらないことを確認すると、怪訝な表情を浮かべる梔子とライフィセットに振り返る。

「もう少しペースを上げるぞ……。
此処が禁止エリアになるまでは、まだ余裕はあるが、早めに抜けるにこしたことはないからな」

そう言うと、ブチャラティは二人を率いて、足早に先へと進み、篝火に照らされる枠の外へと出て行った。

(……やれやれ、うまくやり過ごせたようだな)

ブチャラティ達が去り行くのを見届けると、ドッピオはふうっと息を吐きだし、木陰から出ては、足早に一行の尾行を再開した。
ブチャラティ達は、テレビ局への最短ルートとして、このF-5エリアを突っ切ることを選択したようだが、これを追うドッピオとしても、21時前にこのエリアを脱さなければならない。

(――絶対に逃さないからな、ブローノ・ブチャラティ!!)

折角見つけ出した主催の根城へのキーパーソンだ。
今は夜の闇へと消えてしまい、視界に収めることは出来ていないが、幸いにも、彼らの目的地がテレビ局なのは分かっている。
ドッピオは、尾行のルートに目星を付けながら、気配を消しつつ、静かに夜の山林を駆けていった。


957 : 追跡セヨ -夜宵のNext Order- ◆qvpO8h8YTg :2024/01/03(水) 22:07:11 .eoeoCK60
【F-5/夜/一日目】

【ブローノ・ブチャラティ@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:疲労(中)、強い決意、全身に火傷、ダメージ(中)
[服装]:普段の服装
[装備]:
[道具]:不明支給品1〜3、 サーバーアクセスキー マギルゥのメモ 身体ストック(ライフィセットの両腕、ブチャラティの左腕使用済)
[思考]
基本:殺し合いを止めて主催を倒す。
0:テレビ局へと向かう。
1:魔王ベルセリアへの対処。
2:ヴライが生き残って襲ってきたら対処。
3:自称ブチャラティ(ディアボロ)に対して警戒。
4:テレビ局に行く事ができれば、そこを利用して情報を広める。
[備考]
※参戦時期はフーゴと別れた直後。身体は生身に戻っています。
※九郎、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※画面越しの志乃のあかりちゃん行為を確認しました。 
※新羅から罪歌についての概要を知りました。
※垣根と情報交換をしました。
※霊夢、カナメと情報交換をしました。
※持ち出した身体ストックはブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子、ア
リア、新羅のもののみです。
※隼人、クオン、早苗らと情報交換をしました。

【ライフィセット@テイルズ オブ ベルセリア】
[状態]:強い倦怠感、全身のダメージ(大)、疲労(中)、強い決意
[服装]:いつもの服装
[装備]:ミスリルリーフ@テイルズ オブ ベルセリア(枚数は不明)
[道具]:基本支給品一色、果物ナイフ(現実)、不明支給品×2(本人確認済み)本屋のコーナーで調達した色々な世界の本(たくさんある)、シルバ@テイルズ オブ ベルセリア
[思考]
基本:ベルベットを元に戻して、殺し合いから脱出する
0:テレビ局へと向かう
1:ブチャラティ達と行動する
2:ムネチカへの心配
3:ベルベットの同行者(夾竹桃、麦野)への警戒
4:ロクロウ達との合流
5:ヴライがアンジュを殺しているならムネチカやその仲間達に伝えるべき?
6:エレノア、マギルゥ……。

[備考]
※参戦時期は新聖殿に突入する直前となります。
※異世界間の言語文化の統一に違和感を持っています。
※志乃のあかりちゃん行為はほとんど見てません。
※呼ばれた時間に差がある事に気づきました。
※梔子と聖隷契約をしました。
※現在はデイパックの中にシルバがいます。
※隼人、クオン、早苗と情報交換をしました。


958 : 追跡セヨ -夜宵のNext Order- ◆qvpO8h8YTg :2024/01/03(水) 22:07:33 .eoeoCK60
【梔子@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:健康、疲労(中)、精神的ダメージ、レインの仮説による精神的疲労(少し回復)
[服装]:メビウスの服装
[装備]:ストップウォッチ@東方project(1回使用)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1(心許ないもの)、静雄のデイバック(基本支給品、ランダウ支給品×1〜2)、ライフボトル×2@テイルズオブベルセリア
[状態・思考]
基本行動方針:琵琶坂永至に然るべき報いを。
0:テレビ局へと向かう。
1:当面はライフィセット達と行動
2:彩声の義理を返す為、レインを死なせないようにする。
3:琵琶坂永至が本人か確かめる。
4:琵琶坂を擁護する限りアリアとは行動を共にしない。
5:本当に死者が生き返るなら……
6:煉獄さん……天本彩声……
7:私が虚構かもしれない、か……
[備考]
※参戦時期は帰宅部ルートクリア後、
 また琵琶坂が死亡しているルートです。
※キャラエピソードの進行状況は少なくとも誕生日のコミュは迎えてます。
※静雄、レインと情報交換してます。
※ブチャラティ、霊夢達と情報交換をしました。
※ライフィセットと聖隷契約をしました。
※隼人、クオン、早苗と情報交換をしました。


【ドッピオ(ディアボロ)@ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風】
[状態]:健康、ドッピオの人格が表
[服装]:普段の服装
[装備]:小型小銃@現地調達品 王の首輪@オリジナル
[道具]:不明支給品0〜1、アップルグミ×3@テイルズオブベルセリア
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない。
0 :このままテレビ局へ向かうブチャラティ達を追跡する
1 :無力な一般人を装いつつ、参加者を利用していく
2 :琴子を警戒。邪魔になりそうなら……
3 :オシュトルへの首輪提供のため、参加者を殺害してのサンプル回収も視野に入れる
4 :『月彦』を警戒。再合流後も用心は怠らない。偽名を使うだなんてけしからん奴だ
5 :ブチャラティは確実に始末する。...と言いたかったが、地下を調べるために利用するべきか?
6 :なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。
7 :自分の正体を知ろうとする者は排除する。
8 :ゲッターロボ、もしもあのままランクを上げ続けてたら...ゾオ〜ッ
9 :グミは複数あるけど内緒にしておこう。
10 :もし認識がスタンドに影響を及ぼすならば……?
[備考]
※参戦時期はアバッキオ殺害後です。
※偽名として『ブローノ・ブチャラティ』を名乗っています。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※アップルグミの回復は健在ですが欠損や毒などは回復しません。
 また3つあることは伝えていません。
※早苗、霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※琴子、あかり、ドッピオ、メアリ、竜馬の五人でこれまでの経緯と、生存者についての情報を交換しました。
※主催の潜伏地が地下にあると睨んでいます。


959 : ◆qvpO8h8YTg :2024/01/03(水) 22:07:57 .eoeoCK60
投下終了します


960 : ◆qvpO8h8YTg :2024/01/06(土) 20:28:09 Wd4VTRYY0
申し訳ございません。

時系列に誤りがあったため、

>>957

> 【F-5/夜/一日目】



下記に訂正いたします。

【F-5/夜中/一日目】


961 : ◆qvpO8h8YTg :2024/01/17(水) 22:21:54 ASI3xsSw0
岩永琴子、間宮あかり、ロクロウ・ランゲツ、黄前久美子、高坂麗奈、予約します。


962 : ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/17(水) 22:33:59 fUQQYd.g0
投下お疲れ様です。

流竜馬、鬼舞辻無惨を予約します


963 : ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 16:55:17 /i0cEgq60
投下します


964 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 16:56:02 /i0cEgq60



渋谷駅を発ってから間もなくして、久美子と麗奈の二人の視界に飛び込んできたのは、一本の大太刀だった。
古の伝承に綴られる聖剣の如く、地面に深々と刺さり、荘厳に佇んでいるそれは、素人の二人から見ても並大抵の業物ではないことが分かる。

しかし、二人が注目したのは、大太刀そのもののではない。

「――こ、これ、参加者の誰かの腕だよね……?」
「……多分、そうだと思うけど……」

月光に照らされる大太刀のその柄は、何者かの千切れた腕にがっちりと握られている。
筋骨隆々として、未だ並々ならぬ生命力を帯びたその腕の本来の主は、シグレ・ランゲツ――。
魔王ベルセリアとの激闘の果てに、その命を散らした特等対魔士の残滓は、今尚もその闘志を、至高の刀剣「クロガネ征嵐」に宿らせていた。

「んしょ――ってあれ?この手剥がれないや……」

久美子も麗奈も刀なんてものは、生まれてこの方触れたくこともなかったが、それでも、素人目からただの刀剣でないことを察した二人は、久美子の支給品袋に二人掛かりで納めようとした。
幸いにも、久美子には『ビルダー』としてものづくりの能力を使いこなせつつある。
仮に武器として扱えなくても、素材として見れば何か活用する術はあるかもしれないのだが、生前これを得物として奮っていた武人の剛腕は、久美子がいくら力を込めても、頑なに柄を握り続け、引き剥がされることをよしとしない。まるで、腕そのものにシグレの魂が取り憑いて、闘争の続きに臨まんとしているように。

「剥がれないなら、腕ごと入れちゃえば?」
「えっ? あ、ちょっと、麗奈!?」

柄から手を引き離そうと悪戦苦闘している久美子に業を煮やした麗奈は、彼女を押し退けると、そそくさと腕とクロガネ征嵐を、袋の中に放り込んでしまう。


「いやいやいや、知らない人の腕とか何の使い道があるの!?」
「普通にあるけど?」

目を丸くする久美子に、麗奈は淡々とした調子で向き合い、前髪をかきあげる。

「えっ? ――えっと…何に使うつもり?」
「……私のおやつ――小腹が空いたとき用に……」
「げぇ――」

とんでもない事を言ってのけた麗奈に、久美子はドン引きの声を上げそうになるも、慌てて「んんっ!!」と自身の口を両の手で塞いだ。
そんな久美子に対して、麗奈は前屈みになると、額と額がくっつきそうになるところまで顔を近づける。
そして、彼女の頬に片手で触れると、微笑みを浮かべた。

「くすっ…冗談よ。さっきも言ったでしょ?
もう私の中からは、人を食べたいなんていう衝動は消えてる」
「もぉ〜…冗談にしては全然笑えないよぉ」
「ごめんごめん。でも、久美子らしい反応で何か安心した…」
「あはは、何それ。ちょっと酷くない?」

咄嗟に失言を漏らしてしまう久美子の悪癖--麗奈にとっては、何度も見慣れたはずのその反応が、今はどうしようもなく愛おしかった。
額をくっつけて、久美子の体温を直に感じ取った後、麗奈は彼女から離れた。

「それと、あの腕のことなんだけど、もしかしたら、人体の一部も、久美子のものづくりの素材になるんじゃないかと思ったの」
「えー、流石に人を材料になんて使いたくないんだけど――」

そんな会話を交わしながら、二人の少女は先を行く。
互いの手をぎゅっと握りしめて、互いの存在を感じながら。

「独り」だった二人の少女はもういない。
これから先の未来に何が待ち受けているのかは、分からない。
しかし、二人一緒ならどんな苦難にも立ち向かえる――そのように、少女達は思っていた。
互いの存在が、一歩踏み出す勇気を奮い立たせてくれるのだから。


965 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 16:56:26 /i0cEgq60


岩永琴子は、聡明な少女だ。
普段は可憐な見た目とは相反するほどの欲望を曝け出し、品の無い発言を口に出すこきらいがあり、九郎をはじめとした周囲の人間を困惑させることも多々ある。
しかし、その実、卓越した頭脳と知識を元に、当事者達が納得のいくロジックを綿密に組み立て、様々な事件を調停させる『知恵の神』として、妖怪変化達から畏れ敬えられている。

「……。」

しかし、そんな頭脳明晰な彼女とて、決して万能ではない。

(――友人達の脱落に続いて、慕っていた先輩の死……。
やはり、そうそう立ち直れるものではないですね……)

地面に座り込み、顔を沈めて、啜り泣くあかり。
そんな彼女の様子を見守りながら、琴子はそっと息を吐いた。

優れた頭脳を持ち合わせる琴子だからこそ、この場面では、ロジックを構築しそれを突き付けるよりも、ただ感情の赴くままに発散させてあげるのが最も合理的であると判断した。
『知恵の神』にとっては、他者の理性を手玉に取る事はいとも容易い。しかし、傷心しきった少女の心を慰める術は持ち合わせていない。
幾ら魑魅魍魎を使役し、諜報に長けていたとしても、他者の心の内は不可侵の領域――その真意は論理を以って推測するしかないのだから。

(――私の方も、今のうちに情報をまとめておきましょうか……)

琴子としても、あかりが落ち着くまで、ただひたすら見守り続けるのも非合理的だ。
支給品のタブレットを取り出しては、あかりの様子を窺いながらも、そこに文字を打ち込んでいく。
このタブレットは、琴子に支給された第三の支給品。
一般的にタブレットというものは、様々なアプリケーションを利用できて然るべきものであるが、このタブレットについては、メモ帳機能しかインストールされていない。
利便性としては低いのだが、琴子は時折この電子機器に、自身が得た情報や考察をインプットするようにしている。口頭での会話を挟む必要なく、他者に情報展開できる点で、知恵の神はこの支給品に価値を見出していた。


966 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 16:57:13 /i0cEgq60
ザッザッザッザッ――。

(……っ!?)

草根を分ける音が、耳に届くと、琴子はタブレットに打ち込む指を止めた。
あかりにもその音が聞こえたようで、ビクリと反応。涙に装飾された顔をバッと上げる。

「……岩永さん……。この音って――」
「ええ…誰かがこちらに接近しています」

岩陰に隠れて様子を窺う、琴子とあかり。
二人の視線の先には、森の暗闇からこちらへと闊歩してくる、一つの影。

「――やけにギラついた殺気だな……。
いるのは分かっている、出てきたらどうだ?」

その影の主――侍風の装束を身に纏った隻腕の漢は、琴子達が隠れる大岩の20メートルほど先の場所で立ち止まると、剣呑な雰囲気を放ちつつ、周囲を見渡しながら、そう呼び掛けた。

「生憎と俺は今、気が立っている。
そちらから来ないのであれば、俺から行くことになる…」

剣を構え、既に臨戦態勢に入る漢。
その眼光は紅く光り、まるで獲物を前にした獣のように殺気立っていた。

「――岩永さん……」

極力声を抑えて話しかけるあかりに、コクリと頷く琴子。
一刻の猶予も許されそうもない剣客の様子に、二人はやむなしと岩陰からその姿を顕にしようとするが――

「分かった、こちらとしては、貴方と敵対するつもりはない。
まずは、その物騒なものを下ろしてほしいんだけど――ロクロウ・ランゲツさん」

琴子達の対角線上の木陰から、別の二人の少女達が姿を現した。
二人の少女は、手を繋いでおり、黒髪のロングストレートの少女が、相方のショートボブの少女を庇うように一歩踏み出した。
特筆すべきは、少女達が身に纏う装束だろう。片やお伽話から飛び出てきたような瑠璃色を基調としたメイド服のようや衣装、片やバージンロードを歩む花嫁を想起させる純白のドレス――双方とも、この殺し合いの場に似つかわしくない異質さを醸し出していた。


967 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 16:58:15 /i0cEgq60
「……お前、久美子か……随分と雰囲気が変わったな……」
「――どうも……」

少女の片割れが、第二回放送後に出会った非力な少女とわかるや否や、その侍風の漢――ロクロウは構えていた剣を下ろした。
おおよそ半日ぶりの再会となるが、ぎこちない挨拶の後、何とも気まずい沈黙が場を支配する。

「ロクロウさん、少しお話しできませんか? 協力してほしいことがあります」
「――っ!? ちょっと、麗奈!!」

その沈黙を打破すべく、花嫁衣装の麗奈がロクロウに話を持ちかけると、久美子が声を荒げた。
久美子としては、セルティの件もあり、ロクロウに対する心象は良くない。
呼び掛けに応じなければ、面倒事になると思って、二人揃ってロクロウの前に姿を晒しただけであって、彼に協力を仰ぐことは目算していなかった。

「久美子――。私達の目的を達成するためには、戦力が必要なの。
ロクロウさんの実力は、久美子も知っているでしょ?」

麗奈はそんな久美子の白い肩に手を置いて、彼女を宥める。
ロクロウにとっては知る由もないことだが、麗奈もまたロクロウの戦闘を直近で目撃している。
麗奈にとっては恐怖の対象でしかなかったあの月彦相手に、獰猛な笑みを張りつけ奮戦していたあの姿はまだ記憶に新しい。

「……けど、この人は――」
久美子は更に抗議の声を上げようとするも、ここでロクロウが口を挟む。

「二人で盛り上がっているところすまんが、生憎と俺には時間が残されちゃいない。
早々にケジメをつけないといけない連中がいるんでな……。
お前達が何を企んでるかは分からんが、他を当たってくれ」
「……この殺し合いで起こった出来事全てを『最初から無かった』ことにできる――と言っても?」
「――何?」

麗奈の口から飛び出た、凡そ無視できない内容に、ロクロウはピクリと片眉を動かす。

「どういう意味だ、それは?」
「それも含めて、一度お互いの知っている情報を交換しませんか。
どちらにしろ、そんなに時間は取らせません」

怪訝な表情を浮かべるロクロウに、麗奈は真っ直ぐに彼を見据えた。
妖しく光る彼女のオッドアイをジッと見返すロクロウは、しかめ面のまま表情を崩すことはない。


968 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 16:58:37 /i0cEgq60
「――なるほど、なにやら興味深い話をされているようですね……」
「「「――っ!?」」」

頃合いを見計らって岩陰から姿を現したのは、琴子とあかり。
ロクロウと麗奈、そして久美子は、咄嗟に話を中断し、二人の方へと振り返る。
視線の的となっている琴子は、車椅子に身を委ねており、あかりがそれを押して、ゆっくりと三人の前に進んでいく。

「また、妙なのが出てきたな……」
「初対面の淑女に対して、その言い草は如何なものかと思いますよ、ロクロウ・ランゲツさん――」
「貴方、誰?」

話の腰を折られた形となった麗奈は不満そうに琴子を睨みつけるが、琴子は物怖じすることもなく、悠々と言葉を紡いでいく。


「私は岩永琴子と申します。後ろにいるのは、間宮あかりさんです」

琴子はロクロウ、久美子、麗奈の順に視線を巡らせると、ペコリと頭を下げた。

「……人形みたい……」

そんな琴子の愛らしい容姿と、丁寧にお辞儀する姿勢を見て、久美子は、率直な感想を漏らしてしまう。よもや眼前の少女が、自分よりも年上で、既に成人済みとは露知らず。

「さて早速で申し訳ないのですが、皆様のお話に、私たちも加えていただけませんでしょうか?
こちらが掴んでいる情報は、惜しみなく提供いたします」
「私達は構わないけど……」

琴子からの提案に、麗奈はチラリとロクロウを一瞥する。

「――手短に頼む……」

首肯するロクロウ。
無惨の毒によって現在進行形で命を削られている現状、悠長に会話を長引かせる余裕はない。
しかし、二グループとの情報交換によって無惨やベルベットの足跡を得られる可能性あらば、決して無碍にはできない。
そして何より、先程の麗奈の口から飛び出した『この殺し合いを最初から無かったことにする』というフレーズ――こちらの真意も確かめてみたいと考えたのであった。


969 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 16:59:02 /i0cEgq60



「――μは、楽器で……願望機……」

情報交換が一通り終わった後、あかりは、最後に久美子達が齎してきたμに関する推測を、ボソリと反芻した。
それより前にロクロウより、アリアを殺害したのはウィキッドという少女だという情報を掴んでいたのだが、久美子達より告げられた内容は、アリア殺害犯に関する情報の咀嚼を停止させるほど衝撃的なものであった。

「そう、彼女は願望機。私達はその力を奪って、こんな殺し合いをなかったことにするの……。
だけど、これを実現するためには、協力者が必要――だから、力を貸してくれたら嬉しい。
あかりちゃんだって、佐々木さん達との日常を取り戻したいんでしょ?」

情報交換の際に、あかりの親友だった少女の顛末を語り聞かせた久美子は、その親友の名前を持ち出して、彼女に畳みかける。

「――黄前さん……わ、私は……」

あかりの車椅子を握る手に、力が籠る。
親しかった友人達に、憧れていた先輩――。
悪意渦巻くこの殺し合いで、かけがえのない人達を失い、身体だけはなく、心までも『おんぼろ』となってしまった少女が、久美子達が提唱した『この殺し合い自体をなかったことにして、全てを戻す』という計画を聞いて、心揺らいでしまうのは無理からぬことであった。

「コホン、少し宜しいでしょうか、久美子さんに麗奈さん」

そんな中、久美子達とあかりの間にいた琴子が、咳払いと共に会話に割り込んできた。

「あ…えっと、はい…。どうしました、岩永さん?」

一応年上の女性ということもあり、敬語で応対する久美子。
琴子は、そんな久美子の態度を視界に収めつつ、淡々と言葉を紡ぐ。

「お二方の叶えたい構想については、理解できました。
成程、確かに『殺し合い自体になかったこと』にできれば、死んだ皆さんも生き返り、この殺し合いで負った外傷も精神的苦痛も、麗奈さんのように望まぬ力を得たことによる苦悩も、全てなかったことにできますね――」

顎に手を当て、ふむふむと頷く琴子。
その反応を見て、久美子は、『岩永さんも賛同してくれているんだ』と胸を撫で下ろす。
一方で、麗奈はジーッと観察するかのように、琴子を眺めている。


970 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 16:59:31 /i0cEgq60
「ですが、それが可能である裏付けはあるのでしょうか?
お二人のお話では、麗奈さんの演奏は、μの歌に類する力を有していることが前提となります。
しかし私たちは麗奈さんの演奏の効果を目の当たりにしたわけでもなければ、その事象を記録したという主催者の『レポート』とやらに目を通したわけでもありません」

琴子の指摘を受けて、麗奈はロクロウに視線を向けるが、彼は肩を竦めた。
主催者側が残した『レポート』には、間違いなく麗奈の演奏をきっかけに、無惨がデジヘッド化したことを示す記述があった。
『レポート』の存在そのものについては、麗奈もロクロウも情報交換の際に、言及はしていたので、ロクロウが麗奈の供述を正とする証言をすれば、事足りる。
しかし、彼としては内容全てに目を通したわけでもなく、オシュトルより、シグレがベルベットに殺害された旨の報告と、それに該当する記載のみを見せられたのみで、麗奈に助け舟を出すことは出来ない。

「――だから、私達の考えには乗れない……。そう言いたい訳ですか?」

ビキビキビキ――。
瞬間、麗奈の隻腕に血管が浮き上がり、小刻みに蠢き始めた。
しかし、琴子は、そんな麗奈の様子を冷めた目で見つめながら、「いえ」と続ける。

「誤解なきように言っておくと、なにも反対しているわけではありません。
先程も申し上げた通り、まずは確証が欲しいのです、お二人の目論見が成り立つか否かを……。それまでは、立場を保留とさせて頂けますと幸いです」
「……分かりました……」

琴子の話に、麗奈は少しだけ間を置くと、腕を鎮めて、了承の意を示した。
確かに琴子が今話したことは、至極真っ当な言い分だ。
一方的に話を突きつけただけで、十全な計画であると示す証拠を提示できない現状、賛同するか否かは相手側に選択権がある。
まずは、麗奈達の言い分を立証できる根拠を提示し、理解を得た上で、協力を取り付ける必要があると認識したのである。

「……さてと、話は纏まったようだし、俺は行くとするわ」

琴子と麗奈の間の緊張が解けたのを確認するや否や、ロクロウは、もう此処には用はないと言わんばかりに、踵を返し、早々に立ち去ろうとする。

「待ってください、ロクロウさん」
「――まだ、何かあるのか?」

呼び止める麗奈に、ロクロウは不満げな表情を浮かべ、振り返る。
ロクロウからしてみれば、ベルベットが既に魔王へと成り代わり、シグレを殺害したという裏付けを得たのが唯一の収穫であり、第一目標である無惨や、解毒剤を持つ垣根の足跡を得ることは叶わなかった現状、此処に長居する理由など皆無であった。


971 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 16:59:58 /i0cEgq60
「麗奈、もういいよ、この人は――」
「久美子、ちょっと黙って…。
――ロクロウさんは、私達が話した件については、賛同いただけないんでしょうか?
上手くいけば、貴方自身の手でシグレさんを倒す機会を再び得られるかもしれないんですよ?」

久美子が間に入ろうとするも、麗奈はぴしゃりとそれを跳ね除け、ロクロウに尋ねる。
まるで、返答次第では実力行使も辞さない――と、暗に告げているような口調だった。

「さぁてな……。正直、俺にはよく分からん話だ。
仮にここで起きたことをなかったことにして、またあいつと死合いをするようお膳立てされても、興が湧くことはないな……」

麗奈の圧を冷ややかに受け流し、ロクロウはそう言ってのけた。
ロクロウの長年掲げていた宿願は、己自身でシグレに辿り着き、全力の立ち合いで打ち負かすこと。
そして、それを成就すること叶わなかった――。それで終いだ。

故に、ロクロウにとっては、琴子が問題視していた計画の実現性などはどうでも良い。
己が宿願を果たせなかったのが気に入らないので、「じゃあやり直そう」と言ってリセットするような不躾な真似は、自身の流儀に著しく反していた。

「ただ、お前らにも、お前らの事情があるんだろ?
お前らがそれを目指すのであれば、俺は止めはしない――好きにすればいい……。
だが、さっきも言った通り、俺には時間が残されていない。無惨の毒をどうにかしないからな。先を急がせてもらう……」

瞬間、ゴホッと咳払いをして、よろめくロクロウ。
どうにか踏みとどまると口元から滴る血を拭ってみせる。
夜叉の業魔に残された猶予が後僅かであることは、誰が見ても明らかであった。

「つまりは、否定もしないし、賛同もしないってことですよね?」
「まぁ、端的に言えばそうだな」
「それでは、ロクロウさん、私たちと取引をしませんか?」
「――取引だと?」

ロクロウは、麗奈の申し出に眉を潜める。
どっち付かずのスタンスであれば、交渉の余地はあり――麗奈は、そう判断したのである。


972 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 17:00:34 /i0cEgq60
「はい、今ロクロウさんを蝕んでいる月彦さん――無惨の毒を何とかしたら、私たちに力を貸していただけますか?」
「――っ!? そんな事が出来るのか?」

思いもよらぬ提案に、ロクロウは目を見開いた。
ロクロウだけではない…あかりや久美子も、驚愕に染まった表情を浮かべており、琴子はというと目を細めて、事の成り行きを見守った。

「……私は、無惨の血に適応して、鬼になりました。
なので、私の身体は、毒に対する免疫を少なからず持っているはずです。
免疫を含んでいる私の血液を素材にすれば、毒を抑えられる薬を作れると思うんです――どう、久美子?」
「……えっ?……」

一同の視線が、一斉に久美子に集まる。
唐突に話を振られた形となった久美子は、思わず言葉を詰まらせた。
しかし、すぐに自身が発現させた『ものづくり』の能力に関することであると理解すると、言葉を紡いでいく。

「……正直、薬とかは作ったことないけど……。
多分、素材さえあればどうにかできるんじゃないかな……と思う……」

目を伏せ、ボソリと久美子は告げる。
それは消極的な肯定であった。
彼女が薬のビルドに消極的なのは、自信の無さだけではなく、ロクロウを治療することに対する迷いがあるからだった。
だけど、嘘を言って、麗奈を裏切ることは出来ない。
だから、久美子は、胸の内で燻る感情を抑え付けながら、己が見解をありのままに伝えた。

「――だそうですけど、どうしますか、ロクロウさん……?
力を貸してと言いましたけど、何も私達の考えに乗ってもらってほしいということではありません。
私達と行動を共にして、お互いにとって共通の脅威が現れるのであれば、その時に共に戦ってほしいんです……」

複雑な表情を浮かべる久美子を他所に、麗奈はロクロウに答えを促す。
それに対して、ロクロウは険しい表情を浮かべ、麗奈……そして、久美子の順に視線を巡らせた。

「俺は―――」

そして、暫しの逡巡を経て、彼は己が答えを紡いだ。


973 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 17:00:56 /i0cEgq60



「――すまん、久美子。
まさか、お前に助けられることになるとはな……」

遺跡へと向かう道中、ロクロウは、久美子へと話しかける。
結果として、ロクロウは彼女に救われたことになったのだ。

ロクロウが麗奈の提案を受け入れた後の、麗奈と久美子の作業は迅速であった。
まず二人は、予め回収していた建材の欠片などを利用して、作業台を創成する。
これらの建材は、先の魔王ベルセリアによる戦闘によって、付近に散らばっていたもので、使えそうなのをピックアップしたものであった。
ここで麗奈は、前回と同じ要領でカタルシスエフェクトを発現――そこから手際良く、心のカケラを回収する。
後はそれを基に、作業台の上で、久美子の支給品である『点滴セット』に、麗奈の血液を混ぜ合わせ、調整(ビルド)――。一般的に抗毒血清を創る際は、抗体を含む血液を純化及び濃縮を繰り返すことで完成へと至る訳だが、精霊ルビスが齎した『ものづくり』の力は、この過程を大幅に短縮し、短時間での完成に漕ぎつけた。

無惨の毒は強力すぎるが故、完全な解毒には至らなかったが、それでも生成された抗毒剤の効果は明白で、ロクロウは苦痛を感じなくなり、顔色は生気を取り戻し、乱れていた呼吸は鎮まることとなった。

「あなたのために、やったのではありません。
あくまでも、私達のために、あなたを生かしただけですから……」
「……だとしても、お前が俺の恩人であることには変わらない。
この借りは、必ず返す……」
「……。」

ロクロウからの謝意の言葉に、久美子はぷいと顔を背ける。

「言っときますけど、私は今でも、あなたのことが許せないですから」
「……そうか……」

以降は、沈黙――。
何とも気まずい空気だけを残して、両者はただ同じ場所を目指して歩を進めていく。


974 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 17:01:20 /i0cEgq60
(――まずは一人……。戦力は確保できた……)

そんな久美子とロクロウのやり取りを眺めながら、麗奈は心中で、そのように独りごちる。
ロクロウは自分たちの計画に完全に賛同しているわけではない。
しかし、今回の抗毒剤の一件で、彼が久美子に恩義を感じているのは事実であり、その感情を枷として利用はできるはず――。
彼が付け狙う無惨や魔王ベルセリアに関しては、此方としても大きな脅威になりうるので、共通の敵の排除という点を鑑みても、「共闘」という形で、こちらの戦力として見込んで差し支えないだろう。

(……問題は――)

チラリと後ろを振り返ると、琴子と彼女が腰掛ける車椅子を押すあかりの姿が目に入る。

(あの二人か……)

麗奈たちの計画に対する彼女たちの姿勢は、形式上は「保留」となっている。
まずは、麗奈たちが語った話の信憑性を確かめるという意味でも、麗奈の能力発現について言及のある『レポート』を確認したいとのことだ。もしくは、他に『レポート』の内容を把握している人間と接触して、証言を得るのも良いとのこと。
麗奈自身もヴァイオレットと再会したい手前、こうして遺跡に赴くのは好都合ではあるが、仮に彼女達が確証を得たとしても、本当に協力してくれるかは些か疑問が残る。

この殺し合いで、友人を立て続けに失ったというあかりは、『殺し合いをなかったことにする計画』に惹かれていたようにも見えた。
自分達と同じ年頃の女の子で、自分達と同じように身近な人達を失ったのだ。
その気持ちは手に取るように分かる。

しかし、もう一人の少女――岩永琴子については、底が知れない……。
あかりのように動じる様子もなく、麗奈からの圧を掛けた問答に対しても、あくまでも冷静に理詰めをして、話の主導権を握られてしまった。
すんなり味方になってくれるということであれば問題ないが、どうにも腹に一物あるように思えて仕方がない。
最悪、彼女が自分達を否定してくることも想定しなければならない。

そして、もしもそのような事態に陥った場合は―――。

(申し訳ないけど、殺すしかないか……)

ビキビキビキ――。
無意識のうちに片腕に力が入り、青白い筋が浮かび上がる。
麗奈は、既に自身の手を血に染め上げている。トランペットを吹くために、技術と情熱を宿してきたその手を……。
しかし、それは鬼化による食人衝動に因るものであったり、自己の存在を守る為の防衛本能から来るものであったりと、明確な害意を以って他者を殺めようとしたことはなかった。
しかし、今の彼女は、その一線を越えることに一切の躊躇いはない。
それを為した時、麗奈は真の意味で人間を辞めることになるだろう。

人間に戻るために、人間を辞めるという矛盾――。
そんな矛盾の道を前にしても、麗奈の覚悟に揺るぎはなかった。
今の麗奈には、彼女を受け入れ支えてくれる親友が傍にいてくれるのだから。


975 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 17:01:52 /i0cEgq60
(――志乃ちゃん……、高千穂さん……、アリア先輩……)

覚悟を決めている麗奈とは対照的に、その後方で車椅子を押すあかりは、葛藤の最中にあった。
悲しみ癒えぬうちに、提示された一つの可能性――。
もしも、久美子が言うように、殺し合いをなかったことにして、皆を取り戻すことができるのであれば……と、その可能性に縋りたいと思う反面、どこか違和感―――引っかかるものを覚えてしまう。
仮に全てを無かったことにできたとしても、それでハッピーエンドとならないような気がしてならない。

何よりも、アリアに、志乃に、高千穂と――。
この殺し合いで出会ったアンジュ、ミカヅチ、カタリナ――。
それぞれの信念を貫いて散っていった者達の意思を否定するようにも思えてしまうのだ。

(……ねぇ、皆――。私どうすれば良いかな……)

身も心もおんぼろとなった少女は、傷心と苦悩に苛まれながら、手に持つグリップを強く握り、ただひたすらに車椅子を進ませる。
その脳裏に、亡くなった皆の姿を思い浮かべながら……。

(……状況は芳しくありませんね……)

そんなあかりが押す車椅子に身を預けている琴子は、あかりの動揺を傍らから感じ取りつつ、思案に暮れていた。
知恵の神は思考する-――久美子達が提示した計画を如何にして切り崩していくべきかを。

琴子は、この殺し合いにおいて、「出来得る限り、敵を作らない」という方針の元、行動をしてきた。

明らかに危険思考を孕んでいた夾竹桃達との取引を応じたように――。
殺し合いに乗った側のメアリ・ハントと停戦協定を結んだように――。
『ブローノ・ブチャラティ』を騙る青年を警戒しつつも、内包していたように――。

あの場では事を荒げないよう、久美子達の計画にも同調の姿勢を垣間見せつつも、最終的には立場保留という形に落ち着けた。

しかし、秩序を守る存在として、彼女らが提唱する計画を認めるつもりはない。

そもそも、μに久美子達が主張するような、全てを都合よくリセットできる力を保有しているのかについても懐疑的である。
かつてアリアから聞かされた話を鑑みるに、μの願望機たる絶大的な力は、メビウスの中でのみ影響を及ぼす。
現実への干渉については、せいぜいその魂を仮想世界に引き込む程度であり、虚構の鳥籠の中で死滅した『現実』の魂を蘇らせることは出来ない。
精々、『現実』の魂に似せたものを創造するのが関の山である。

仮に、以前に琴子が提唱したように、この殺し合いのフィールドに立つ自分達の存在が、そもそも女神によって創造されたものということであれば、復元は可能かもしれない。
しかし、そんな歪な方法での願望の成就は、果たして久美子達が望んだものとなるのだろうか。


976 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 17:02:49 /i0cEgq60
故に、琴子は彼女たちの考えを真正面から否定するつもりでいる。
しかし、今はその時ではない。
現状はロクロウを取り込んでいる久美子達の勢力は3名で、あかりもまた、動揺している状況だ。
ここで対立しても旗色が悪い。

であれば、遺跡にいるであろう参加者集団などと合流し、オーディエンスを増やした上で、頃合いを見て、皆が納得するように否定するのが良いだろう。

その場合、逆上した麗奈達が襲い掛かってくる可能性もある。
彼女たちの思考に則れば、「どうせ後で蘇生させるから」という免罪符を掲げて、邪魔する他者の排除も厭わない、と十分に考えられる。

(だとしても、やり切るしかありませんね)

琴子とて、出来るうる限り、争いごとは増やしたくはないが、それでも彼女たちの計画を認めるわけにはいかないのだ。
間もなくやって来るであろう、次の死線――。
それに一抹の不安を覚えながら、琴子はまたしても、この会場のどこかにいるであろう九郎に会いたいと思うのであった。


【E-4/夜中/一日目】

【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身に火傷(冷却治療済み)、右耳裂傷(小)、右肩に吸血痕、確固たる想い
[役職]:ビルダー
[服装]:特製衣装・響鳴の巫女(共同制作)
[装備]:契りの指輪(共同制作)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体、シグレ・ランゲツの片腕、クロガネ征嵐@テイルズオブベルセリア、点滴セット複数@現実
[思考]
基本:歌姫(μ)に勝って、その力を利用して殺し合いの全てを無かったことにする。……そうすれば、麗奈は人間に戻れるから。
0 : 一旦は、皆と一緒に遺跡に向かう
1:もう、麗奈の事は裏切らない、――絶対に。
2:麗奈の為なら、この命だって捧げても良い。ただ今はまだ死ねない、麗奈を悲しませるから。
3 :ロクロウさんは好きじゃないけど、利用はするつもり。
4:例え隼人さん達を敵に回したって、もう私は迷わない。望みを叶えるまで逃げ切ってやる。
5:岩永さんとあかりちゃんも、仲間になってほしい
6:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒

※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。現状は麗奈と一緒に衣装やら簡単なアイテムを作れる程度に収まっています。
※麗奈がビエンフーから読み取った記憶を共有し、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※μの事を「楽器」で「願望器」だと独自の予想しました


977 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 17:03:10 /i0cEgq60
【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム】
[状態]:鬼化(無惨の呪い無し)、新月の花嫁、確固たる思い、左腕の肘から先が消失
[服装]:特製衣装・新月の花嫁(共同制作)
[装備]:
[道具]:高坂麗奈のトランペット@響け!ユーフォニアム、危険人物名簿@オリジナル
[思考]
基本:久美子の願いを手伝う。……人間に戻れたら、私は滝先生にもう一度――
0 : 一旦は、皆と一緒に遺跡に向かう
1:最後まで、久美子と一緒に。
2:なるべく久美子には無茶はしてほしくはない。
3:ヴァイオレットさんと話をしたい。……出来れば、仲間になって欲しいかな。
4:岩永さん……敵に回るのであれば容赦はしないから
5:無茶にもほどがあるけど、音楽勝負なら負けてやらないから。
6:水口さんや月彦さんとはいずれ決着を付けないといけない。
7:まずは、力の使い方に慣れたい。
8:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒

※『ビルダー』黄前久美子の血肉を喰らい、精霊ルビスの情報を取得した結果、無惨の呪いから解放されました。
これ以上無惨の影響を受けることは有りませんが、無惨の血による鬼化自体は治っておりません。
※首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※ 精神の安定に伴い、カタルシスエフェクトの発動が可能となりました。形状は後続の書き手にお任せします。
※己の『奏者』としての特別(ちから)を自覚しました。それがどう作用するか後続の書き手におまかせします。
※ビエンフーから記憶情報を読み取り、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※鬼化した身体の扱い方にある程度慣れました。現状では鬼舞辻無惨の『管』等や、対象によって可能不可能の差異はありますか血を介しての情報の読み取り等が可能です
※久美子の血を飲むことで一時的に『夜の女王』形態になります。この場合左腕が一時的に再生し、通常時を遥かに超える出力が可能です。


【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損、言いようのない喪失感
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[思考]
基本:主催者の打倒
0: 一旦は、皆と一緒に遺跡に向かう
1: 久美子達の計画に賛同するつもりはないが、久美子には借りがあるので、暫くは共闘するつもり
2: 無惨を探しだして斬る。
3: シグレを殺したという魔王ベルセリア(ベルベット)は斬る。
4: 號嵐を譲ってくれた早苗には、必ず恩を返すつもりだが……
5: 殺し合いに乗るつもりはない。強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
6: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
7: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。
※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。解毒を行わない限り、数時間以内に絶命します。
※ 更新されたレポートの内容により、ベルベットがシグレを殺害したことを知りました。
※ 久美子が作った抗毒剤によって、毒は緩和されており、延命に成功しました。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。


978 : Cold War ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 17:03:39 /i0cEgq60
【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:覚醒、白髪化、痛覚が鈍くなっている、体温低下、情報の乖離撹拌(進行度31%)、全身のダメージ(大)、精神疲労(中)、疲労(絶大)、左中指負傷(縦に切断、包帯が巻かれている)、深すぎる悲しみ、久美子たちの計画に対する迷い
[服装]:いつもの武偵校制服(破損・中)
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。
0:一旦は、皆と一緒に遺跡に向かう
1:黄前さん達の計画については……。
2:ヴライ、琵琶坂、魔王ベルセリア、夾竹桃を警戒。もう誰も死んでほしくない
3:『オスティナートの楽士』を警戒。
4:もし会えたらカナメさんに、シュカさんの言葉を伝えないと
5:メアリさんと敵対することになったら……。
[備考]
※アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
※覚醒したことによりシアリーズを大本とする炎の聖隷力及び「風を操る程度の能力」及びシュカの異能『荊棘の女王(クイーンオブソーン)』、そして土属性の魔術を習得しました。
※情報の乖離撹拌が始まっており。このまま行けば彼女は確実に命を落とします。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。


【岩永琴子@虚構推理】
[状態]:健康、新たなる決意、無意識下での九郎との死別への恐れ、義足損壊、車椅子搭乗中
[服装]:いつもの服、義眼
[装備]:赤林海月の杖@デュラララ!!
[道具]:基本支給品、文房具(消費:小)@ドラゴンクエストビルダーズ2、ポルナレフの車椅子(ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風)、電子タブレット@現実
[思考]
基本:このゲームの解決を目指す。
0:一旦は、皆と一緒に遺跡に向かう
1:麗奈と久美子を警戒。彼女たちの計画を認めるわけにはいかない。
2:『ブチャラティ』を騙る青年(ドッピオ)を警戒。
3:魔王と琵琶坂永至、あの二人をどうにかする方法は……
4:あかりさん、貴方は……
5:九郎先輩との合流は……
6:紗季さん……
7:首輪の解析も必要です、可能ならサンプルが欲しいですが……
8:オスティナートの楽士から話を聞きたいですね
[備考]
※参戦時期は鋼人七瀬事件解決以降です。
※アリアから彼女が呼ばれた時点までのカリギュラ世界の話を聞きました。
※この殺し合いに桜川六花が関与している可能性を疑っています。
ただし、現状その可能性は少ないと思っています。
※リュージからダーウィンズゲームのことを知っている範囲で聞きました。
※夾竹桃・ビルド・隼人・リュージ・アリアと共に【鬼滅の刃、虚構推理、緋弾のアリア、ドラゴンクエストビルダーズ2、新ゲッターロボ、ダーウィンズゲーム、東方Project、とある魔術の禁書目録、スタンド能力、うたわれるもの、Caligula】の世界観について大まかな情報を共有しました。
※今の自分を【本物ではない可能性】、また、【被検体とされた人間は自ら望んだ者たちである】と考えています。
※カタリナとあかりのこれまでの経緯を聞きました。
※琴子、あかり、ドッピオ、メアリ、竜馬の五人でこれまでの経緯と、生存者についての情報を交換しました。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
※電子タブレットにはこれまでの彼女の経緯、このゲームに関する考察が記されています。


979 : ◆qvpO8h8YTg :2024/01/28(日) 17:04:03 /i0cEgq60
投下終了します


980 : ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:39:18 hNJJ1Lb60
投下お疲れ様です
私も投下します


981 : 暴走特急 ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:40:59 hNJJ1Lb60
ガシャン、と鈍くも甲高い金属音が響き渡り、グラグラと鉄の檻が揺れる。
観覧車。
遊園地で御馴染みのこの施設に張りつけられるは、鬼の王・鬼舞辻無惨。

奔る痛みに苛立ちを抱き、ほどなくして訪れる襲撃者に向けてギロリと視線を向け殺意を露わにする。

(何故だ。何故こうも愚か者に出くわすことになる?)

鬼舞辻無惨は数舜の間に振り返る。
なぜこうなったか、その経緯を。


982 : 暴走特急 ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:42:10 hNJJ1Lb60


仮面の男に殴り飛ばされ、再生を終えた無惨が、行動を再開したまさにその時だった。
気配がした。
隠す気のない殺意が無惨の背筋を凍らせた。

振り返ると、ソレはそこにいた。

素人目から見ても空気が歪む程に迸る闘気。

分析するまでもなく正気を保っていない螺旋状の瞳孔。

ソレらを証明するかのように、男は高速で迫っていた。

無惨がなにかを言葉に乗せる前に。

本能的に警戒態勢を取るよりも早く。

その姿は視界から消え、まるで瞬間移動したかのように距離を詰め、眼前に現れたと思った瞬間には、その拳が顔面に突き刺さっていた。

メキメキと骨が悲鳴をあげ、肉が拉げ、受け身を取る暇すらなく。
地面を幾度もバウンドしながら遥か彼方へと吹き飛ばされ、50メートルほど離れた家の壁に叩きつけられ、壊れた壁に背中を預け仰向けに転がることでようやくその勢いが止まる。

突然の襲撃と不意打ち。

鬼でなければ既に死んでいるほどの攻撃に、しかし無惨は恐怖しない。

「会話をするまでもなく二度も襲われるとは...あのオシュトルとかいう男はどれほどの恨みを...いや、もうどうでもいい」

グリン、と上体を起こせば、彼の身体に刻まれた傷もたちまちに修復される。

「邪魔をするな」

右近衛大将・オシュトルを象っていたその姿は、ゴキゴキと鈍い音を立てて変化する。
猫のように鋭い眼。容姿端麗という言葉がよく似合う其の男は『鬼舞辻無惨』。
擬態を止めた本来の彼の姿である。

「今すぐにその膝を折り頭を垂れ、首を差し出せ。私の望みはただそれだけだ」

こめかみにビキビキと筋が走り始める。

怒り。
こんな首輪を嵌めて殺し合いを強制させる小娘共への。
せっかく累の首輪を手に入れたのに脱出の目途すら立っていない現状への。
ここまで出会ってきた参加者たちへの。
そしていま自分を殴り飛ばした愚者への。

ここに来てからの全てに怒りを抱かずにはいられなかった。

そのたまりに溜まり切った鬱憤は一時的に彼の思考から冷静さを奪い、殺意へと変貌させる。

睨みつける双眸に映るは、雄叫びをあげながら向かい来る破壊者の姿。

その姿に無惨は内心で唾を吐きかける。

理性なき人間など畜生にも劣る。生産性が無いからだ。
その畜生以下の駄物がなぜ私に牙を剥ける。
この男の名前も。出自も。なにもかもがどうでもいい。
興味すら湧かない。


ただただ殺意に従い、交戦態勢に入る。

鬼の王・鬼舞辻無惨。
対するは、ゲッターの申し子―――否、いまや化身と化した男・流竜馬。

二匹の狂獣の戦が、いま始まろうとしていた。


983 : 暴走特急 ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:43:09 hNJJ1Lb60


ビキビキと筋繊維が張り、無惨の右の触手が竜馬の胴目掛けて横なぎに振るわれる。
切断するつもりで放ったその一撃は、正確に竜馬の胴を捉えるも、しかし両断に至らず。
吹き飛ばされていく竜馬目掛けて、無惨は左の触手を振り下ろし追撃を加える。
バカリ、と音をあげて割れる地面。舞い散る血しぶき。

それでも気が済まぬと、更にもう一撃、右の触手を振り下ろす。

再び肉を叩きつけるはずだったそれは、しかし動きを止める。
無惨の意思ではない。
止められたのだ。
受けられた掌で。

「―――ぅぉらあああああ!!!」

叫びと共に弾かれ、その反動で思わず仰け反る。
信じられなかった。
触手を弾かれた、あるいは斬られたこと自体はある。
アヴ・カムゥを操縦する岸谷新羅やヴライ、ロクロウ・ランゲツやオスカー・ドラゴニアらがそれだ。
だが彼らは何れも支給品だったり技術を活かした場合だったりと、工夫を凝らしたうえでの防御である。
それがこの男はどうだ。
なんの小細工もなしに腕力のみでこの触手を弾いてみせたではないか。

その驚愕により生まれた僅かな隙間を縫い、竜馬は駆け抜け、瞬く間に距離を詰め、無惨の頭を鷲掴みにし力任せに放り投げる。
またも宙を舞う無惨の身体。
それに追走し、追いついた瞬間に無惨を蹴り上げ上空へと飛ばす。

が、その足は自ら地に下ろすことはなく。
太ももの位置から伸びた管に引かれ、上空に向かって引き上げられる。

竜馬の蹴り上げが身体に触れた瞬間、無惨は身体から生やした細かい管を集中して足に打ち込み、ブレーキ代わりにしたのだ。

ギシ、ギシ、と触手が鳴る。
高速で引かれた管は、限界まで延びればピンと張り詰める。
無惨はそれを活かし、己の身体を弾とし、戻る反動を活かして高速の体当たりを放つ。

防御もなく正面からソレを受けた竜馬の身体はミシミシと悲鳴をあげ、後方へと弾き飛ばされていく。

常人なら五体が砕け散っている一撃。
しかし、彼の身体は切断にも破壊にも至らず、未だに健在。

すぐさま体勢を立て直して駆けてくる竜馬を両腕の触手で迎え撃ち、返す拳と戦闘曲を奏でる。

右の触手を振るえば左の拳で返され。
右の拳を振るえば左の触手で返す。

速度と力の拮抗する打ち合いは周囲に鈍音を響かせ、砂塵を巻き上げ、地面に余波を刻んでいく。

互角。彼らの戦いを見ている者たちがいればそう評価するだろう。


984 : 暴走特急 ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:44:20 hNJJ1Lb60
それでもなお、無惨は己の勝利を確信している。

その理由は先のやり取りで攻撃の際に竜馬に撃ちこんだ鬼の血だ。

無惨の血は適正量を与えることで人間の身体を鬼へと変化させることができる。
しかし、この血は人体においては毒物に近い。
適性の量を越えた身体は崩壊し、受けた者を死に至らしめる。

無惨は竜馬の攻撃を受けながらも、彼の身体と己の触手が触れる度に毒を流し込んでいた。
そしてそれはいまも。
無惨は攻撃を捌くついでに毒を注入している。


打ち合う打撃が100を超えたあたりだった。

―――ゴポリ


竜馬の口から血が溢れ、その膝ががくりと折れる。
生まれた勝機。
これを逃す手はないと、無惨はその頭部を弾けさせる為に触手を振り下ろす。

頭蓋骨を破壊し脳髄を撒き散らすはずだったその一撃は、しかし頭突きで返され不発に終わる。
そして、振るわれる拳が顔面に突き刺さり、再び後方へと吹き飛ばされる無惨の身体。

その一撃を受けた無惨に、さしたる驚きはなかった。
鬼殺隊の柱くらいの実力があれば、致死に至る毒を受けても数回程度は反撃できてもおかしくない。
だから、この一撃も最後の悪あがきにすぎない。

じゅくじゅくと肉片が蠢き、潰れた顔面を再生させ視界を取り戻す。

途端に、無惨の目が見開かれる。

再び迫る竜馬は、瀕死などではなかった。
既に出血は止まっており、息切れすらない有様だ。

たまたま毒を解除できる道具でも持っていたか。否、あったとしてもそれを使う素振りすらなかった。

(まさか、自力で私の毒を消したというのか?)


過程こそ伴わぬにせよ、その結論に辿り着く。

竜馬の身体に注入された毒を消したのは、その身に迸るゲッター線の影響である。
情報を、命を、生物を喰らい進化し続けるゲッター線。
ゲッターは鬼の血という毒を喰らい、理解することでそれへの抵抗力という形で進化を果たした。
この会場で魔王ベルセリアの業魔の力を覚えたのと同じように。

故に、無惨の毒はいまの竜馬にはさしたる脅威にはなり得なかった。


985 : 暴走特急 ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:45:14 hNJJ1Lb60
再び腹部に走る衝撃と共に吹き飛ばされながら、無惨の思考は冷静さを取り戻す。

己と同等の身体能力。
言葉も介せない異常性。
再生能力と鬼の血すら打ち消す自浄力。

これらを相手にするのは―――割に合わない。

無惨は吹き飛ばされながらも宙返りをしつつ、足に力を込め始める。
ビキビキと筋が張り、はち切れんばかりに肥大化した太腿が地に着いた途端。
それを解放するかのように、彼は駆け出す。
吹き飛ばされた勢いを利用して距離を稼いだ無惨は、そのまま背を向けて全力で走り始めた。

背を向けての逃走。強者ならば選びえない選択肢。

鬼舞辻無惨は生きることだけに固執する生命体。
己の武を誇る武士や世界を滅ぼす魔王のような強者としての意地や矜持、使命などないため、逃走にも一切の抵抗が無い。

その遠ざかっていく背中を見逃す謂れもなく。

竜馬はその背中目掛けて全力で駆けていく。


迫りくる気配に無惨は舌打ちをする。

(異常者め。私に戦う気がないのもわからんのか)

無惨は苛立ちはすれど、恐怖は抱いていない。
彼は真の脅威というものを識っているからだ。

継国縁壱。
かつて相対したその剣士はひどく弱く見えた。
覇気も闘気も憎しみも殺意も感じない、撫でれば折れる稲穂のような貧相な男だった。
その男が繰り出した赤い刀の斬撃は何よりも鋭く、忌々しいほどに美しく、そして実際に太陽のように何百年もの間この身を焼き続けてきた。

アレに比べれば、流竜馬などただの厄介な狂獣。
気配を隠すこともできず。
己の意思すらなく。
技術の伴わないただの力任せ。
そんなもの、あの真の怪物には遠く及ばない。

ただ、相手をするのが酷く面倒であった。
だから逃げる。
勝手に野垂れ死ねと砂をかけて放棄する。

そんな、見逃される己の幸運に気づかない愚者だからこそ、無惨は苛立ちを抱く。

だがそんな無惨の内心など知ったことではなく、10分以上かけて竜馬と無惨の距離が縮まった。

無惨はそこで振り返り、腿から触手を放ち迎撃するも、微かに遅し。
竜馬は懐に入り込み、無惨の腹部を蹴り上げ吹き飛ばす。

三度、宙を舞う無惨の身体。
向かう先は、B-7エリア、遊園地。

―――そして、時間は冒頭に至る。


986 : 暴走特急 ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:46:03 hNJJ1Lb60


ガシャン、と音を立て、無惨の張りつけられるゴンドラが今にも吹き飛ばされそうなほどに揺れ動く。

流竜馬が天井に飛び乗ったのだ。

相も変わらず狂った笑みを浮かべて見下ろしてくる竜馬に、無惨の歯がギリ、と鳴る。

(なにが嬉しい。なぜ貴様は止まらない)

張りつけられた己の肉体を剥がし、落下すると同時にゴンドラを蹴り上げる。
竜馬の着地には耐えたゴンドラもついには音を上げ、彼方へと吹き飛ばされれば、竜馬もまた無惨へと飛び掛かり、共に落下していく。

無惨は背中の触手を攻撃ではなく、前方に束ねて盾のように構える。
竜馬は構わず拳をソレ目掛けて振るうが、しかし触手は壊されず、竜馬の腕は触手の束に沈みこむ。
触手の盾は硬度よりも柔軟性を優先している。
その柔軟性を以て、トランポリンのように竜馬の身体を弾き飛ばし先に地上へと叩き落とす。

それだけでは終わらない。
無惨は背中の触手をまだ壊れていないゴンドラへと伸ばし、接合部を切断。
そのまま竜馬目掛けてゴンドラを雨あられと投げつける。
重量100kgを優に超える鉄の塊を高速でぶつけられて平気な生物はそうはいない。

竜馬が地面に叩きつけられるなり、明確な殺意を以て放たれるソレは派手な音を立てて血しぶきを舞い上げコンクリート仕立ての地面にすら亀裂を入れさせる。

「......」

無惨は観覧車の支柱にへばりつきながら、地上を無言で見下ろす。
普通ならばこの時点で全身を潰され決着がついている。
例え害虫の如きしぶとい鬼殺隊の柱達でも追いすがることすらできないだろう。
だが、無惨にはどうにもこれで終わったようには思えなかった。

それに応えるように奔る一筋の閃光。

鉄くずと化したゴンドラの群れの中心から、緑色の光線が無惨目掛けて放たれ、その身体を支柱から弾き落とす。

「チィッ!」

ぐしゃり、と着地の際に潰れ、損傷した肉体を再生させながら、無惨は追走を逃れるべく駆け出す。
ボン、となにかが弾けたような音と共に鉄くずの山から姿を現した竜馬を後ろ目で見ながら、無残が向かう先は古めかしい外観の洋館―――お化け屋敷。


987 : 暴走特急 ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:46:50 hNJJ1Lb60
『いらっしゃ――』

受付嬢の恰好をしたμを模した人形にも構うことなく、無惨は暗がりの中を突き進んでいく。
入り組んだ道。
狭い通路。
視界を塞ぐ暗がり。
反響する足音。
時代柄、遊園地の造詣を持たないため適当に入った無惨だったが、こうも身を隠すのに向いた施設を目の当たりにすれば一息もつきたくなるというもの。
如何に鬼に疲労の概念が薄いとはいえ、獣に構われれば肉体的にも精神的にも疲労はするのだ。

だが、彼は知らない。お化け屋敷とは決して人が休まる為に作られたものではないことに。

―――ガラン

「ッ!?」

突如降ってきたナニかに無惨は咄嗟に腕を振るい迎撃する。
無惨の腕に掃われたソレの正体は、等身大の骸骨のレプリカだった。

「...???」

呆気にとられる無惨が数歩動き、それに反応しまた別の仕掛けが作動する。

『ィヤアアアアアアアアアア!!!!』
「!?」

絶叫と共に壁から飛び出た白い腕に、無惨はまたも反射的に腕を振るう。
パキャリ、と音を立てて落ちるソレはやはり玩具で。
ますます無惨の表情は困惑に包まれる。

(...まあいい。くだらない遊戯とはいえ、仕掛けがあるならば奴の接近もわかりやすくなるというもの―――)

刹那。
地響きがしたかと思えば、轟音が迫り、無惨の眼前の壁を壊しナニカが暴風を伴い通り過ぎていく。
それがナニかを考える意味もない。

流竜馬が、高速で何枚もの壁を突き破ってきたのだ。

「いい加減にしろ」

無惨の目元にビキリと筋が走り、先ほど落ちてきた骸骨のレプリカを竜馬へと投げつけ、その隙に今しがた空けられた穴に飛び込みお化け屋敷から脱出する。


988 : 暴走特急 ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:47:24 hNJJ1Lb60
追いかけてくる気配を感じながら無惨が目指すは、ゴンドラの全て落ちた観覧車の支柱。
無惨は支柱の根元に両腕の触手と背中の管、更には太腿の管までを総動員して突き刺し、内部から破壊する。
すると支柱はたちまちに傾き始め、竜馬目掛けて落ち始まる。
雨あられであったため実際に当たった数は少ないゴンドラとは違い、支柱はその全ての重量が詰められている。
これに圧し潰されれば如何な怪物とてただでは済まない。

だが竜馬は臆せず立ち向かい、そのまま跳躍。
厚さ数メートルもある支柱を殴りつければ、たちまちに軌道は変わり、支柱は明後日の方向へと倒れ込み、傍にあったメリーゴーランドやティーカップ乗り場が無残に潰される。
轟音と共に地面が陥没し、暴風が荒れ狂い、周囲の施設も被害を被っていく。

無惨はそんな惨状を顧みることもなく、傍にあった駅施設・池袋駅へと向かい電車を探す。
如何に竜馬が早かろうと所詮は人間。最高速度に達した電車に追いつけるはずがない。
そして電車も、一度は大破したものの、新たに設置したと1回目の放送で言われていたのであるはずだ。
そう考え駅に入ったのだが、しかし。

「電車が...ない、だと?」

無惨の目の前にあるのは、がらんどうとした線路だけ。
そこには電車は影も形もなかった。

μが新たに作った電車が走っているのは渋谷駅からの発車の便だ。
本来ならば、それでもとうに池袋駅まで着いていてもおかしくはないのだが、放送前に王が切った線路は直されずそのままであるため、電車はスパリゾート高千穂までしかたどり着けなかったのだ。

「ふざけるな...!」

なにもかもがうまくいかない。
まるで神が今更になって自分に罰を与え始めているかのように。
そのフラストレーションは無惨の顔を真っ赤に染め上げ、文字通り怒り心頭という言葉がピッタリの様相を呈していた。

そして、その怒りの矛先は、目下己が逃げていた男へと向けられる。

数多の触手が竜馬に襲い掛かり、竜馬はそれを嬉々として迎え撃っていく。
つい先ほども交わされた攻防に、周囲のモニュメントが破壊されていく。

電光掲示板が地面に落ちガラスがぶちまけられ。
ベンチは叩き折られ。
ゴミ箱は両断され中身を撒き散らし。
駅員室は横なぎに両断され、中身を撒きあがらせ。

荒れ狂う拳打の嵐の中、ひらひらと舞う一枚の紙は、竜馬の眼前にまで飛んでいく。
微かに視界が塞がれるが、今の竜馬にはさしたる意味はない。
いまの彼の欲求は強者を屠り食らい、高みに昇ることのみ。
だから、たかだか紙一枚が泳いだところでなんの意味ももたらさない―――はずだった。

『北宇治高等学校にて待つ  武蔵坊弁慶』

その文字が目に入った瞬間。
その一瞬だけ、竜馬から笑みは消え、微かに動きも止まる。

刹那。

無惨の触手が横なぎに振るわれ、その紙ごと竜馬を彼方へと吹き飛ばす。

「...?」

竜馬の動きが急に緩んだことを疑問に思う無惨だが、この機を逃す彼ではない。
完全に自分が視界から外れている今が好機だ。

(理性なき野獣が。これ以上私に関わらず何処で野垂れ死ぬがいい)

無惨は脇目もふらずに線路を駆け出し、闇夜にその姿を消していった。


989 : 暴走特急 ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:47:46 hNJJ1Lb60


無惨に吹き飛ばされた先で、何度も地面を跳ね、ようやく止まった竜馬は直ぐに顔を上げる。
その顔には既に狂気の笑みが戻っており、変わらず殺戮機械として動き出す。

ゲッターに呑まれた彼は考えない。顧みない。

なぜ一瞬、武蔵坊弁慶という名を見ただけで止まったのか。

そこに何の意味があったのか。

破壊の権化がその答えを識ることはないだろう。







【B-7/夜中/一日目】
※遊園地の観覧車やお化け屋敷をはじめとした多くの施設・池袋駅のホームが破壊痕でかなり荒れ果てています。


990 : 暴走特急 ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:48:06 hNJJ1Lb60

【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(極大)、全身ダメージ(大)、デジヘッド化(無自覚、浸食率低め)、麗奈の回復スキルにより回復力向上、苛立ち(絶大)
[服装]:ペイズリー柄の着物
[装備]:シスの番傘@うたわれるもの 二人の白皇(麗奈の支給品)
[道具]:不明支給品1〜3、累の首輪、鈴仙の首輪、オスカーの首輪
[思考]
基本:生き残る。手段は問わない
0:まずはあの獣(竜馬)から離れる。そして麗奈を確保する。
1:麗奈確保の為の人員として、他人の姿で他の参加者を利用する。
2:太陽克服のカラクリを究明するため、ウィキッドから『デジヘッド』の情報を吐かせる。
3:私は……太陽を克服したのか……?
4:麗奈は徹底的に利用する。まずはこいつの能力の詳細を確認し、太陽克服のカラクリを探る。問題ないようであれば、麗奈を吸収することも視野にいれる。
5:昼も行動するため且つ鬼殺隊牽制の意味も込めて人間の駒も手に入れる(なるべく弱い者がいい)。
6:逆らう者は殺す。なるべく目立たないように立ち回り、優勝しか手段が無くなっても構わないよう、殺せる者は密かに殺していく。
7:鬼の配下も試しに作りたいが、呪いがかけられないことを考えるとあまり多様したくない。
8:『ディアボロ』の先程の態度が非常に不快。先程は踏みとどまったが、機を見て粛清する。よくも私に嘘をついたな。ただでは殺してやらない。
9:垣根、みぞれ、オシュトル、ロクロウ、臨也は殺しておきたいが、執着するほどではない。
10:あの獣共(ヴライ、竜馬)とは、二度と関わらない。
[備考]
※参戦時期は最終決戦にて肉の鎧を纏う前後です。撃ち込まれていた薬はほとんど抜かれています。
※『月彦』を名乗っています。
※本名は偽名として『富岡義勇』を名乗っています。
※ 『危険人物名簿』に記載されている参加者の顔と名前を覚えました。
※再生能力について制限をかけられていましたが、解除されました。現在の再生能力は麗奈の回復スキル『アフィクションエクスタシー』の影響で、太陽によるダメージを克服できるレベルのものとなっております。
※蓄積したストレスと、デジヘッド化した麗奈の演奏の影響をきっかけに、デジヘッド化しました。但し、見た目は変化しておらず、精神干渉を行うレベルに留まっております。現在は、同じくデジヘッド化した麗奈からの精神干渉の影響で、デジヘッドの状態を維持しておりますが、麗奈と離れればデジヘッド化の状態は、解除されます。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読み、覚醒者『006』が麗奈、『007』が無惨であることを認識しました。
※ 攻撃強化スキル『ロジックマイト』を発動できるようになりました。無惨自身の生命が脅かされ、それによるストレスが蓄積された状態になると、無自覚に発動します。
※ 太陽光によるダメージで、身体の一部が炭化し、消失しました。
その影響で全身にダメージを負っています。
現在は麗奈との距離が縮んだおかげで、陽光を浴びてもダメージは受けませんが、消失によるダメージを回復するために、人間の血肉を食らう必要があります。





【流竜馬@新ゲッターロボ】
[状態]:ダメージ(大、再生中)、疲労(大、再生中)、ゲッター線同化による暴走、自我消失。
[服装]:
[装備]:
[道具]:
[思考]
基本方針:全てを壊す。
0:強者を喰らい進化する。

[備考]
※少なくとも晴明を倒した後からの参戦。
※早苗、ブチャラティ(ドッピオ)、カナメ、霊夢と情報交換してます。
※琴子、あかり、ドッピオ、メアリ、竜馬の五人でこれまでの経緯と、生存者についての情報を交換しました。
※ゲッター線に呑まれて暴走しており、身体能力が増大しています。
※ゲッター線の共鳴により、肉体再生の付与、魔王ベルセリアの能力を引き継いでいます。


991 : ◆ZbV3TMNKJw :2024/01/31(水) 23:48:32 hNJJ1Lb60
投下終了です


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