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Fate/Over The Horizon

1 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 00:52:16 lwoicka.0
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 ――願いの箱庭、地平線の彼方へ。


wiki:ttps://w.atwiki.jp/hshorizonl/


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2 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 00:53:02 lwoicka.0

 
 "これ"は、まだ何の形も持っていない。

 
 これは、龍の号を持つ大空洞に位置する黄金に非ず。
 これは、さる異星文明が月に設置した観測機に非ず。
 これは、歴史の大海に散りばめられた定礎崩しの種子に非ず。
 或いはこれに対する形容で、聖杯――という単語を用いることからして的外れなのかもしれない。

 だが、確かにこれは聖杯の冠名を名乗るに能う権能を内包していた。
 己の接触した存在が告げた願いを、その全能力を以って成就させる。
 それが、それだけが、この極奥の宇宙現象が持っている唯一の役割。
 そこに嘘偽りはなく、光陰はなく、野望抱く某かの奸計が介在する余地など欠片もない。
 完全なる公平の地平線に、最年少の聖杯は鎮座している。
 嗤うでもなく祈るでもなく、ただ誰かの願いを叶えるためだけに――これは、あらゆる世界に偏在する"可能性の器"を蒐集した。

 曰く、あらゆる異常の存在しない凪の世界。
 曰く、既存の文明が全て崩壊した滅びゆくだけの世界。
 曰く、人類が宇宙にさえも版図を広げ、惑星間の移住すら可能とした未来世界。
 曰く、人と魔が永久に殺し合い喰らい合う修羅道の世界。
 世界の優劣? 生産性の有無? 積み重ねてきた歴史の長短? ――否、全て関係ない。
 何一つ讃えることなく、さりとて何一つ罵ることもなく。
 聖杯という名の多次元級宇宙現象は、産声と共にあらゆる可能性をその腹の中に呑み込んだ。


3 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 00:53:23 lwoicka.0


 ――"これ"は、まだ何の形も持っていない。

 これに形を与えるのは、収集された器たち。
 正しくは、他の全ての可能性を駆逐し、聖杯の最深部に到達した最後の器。
 それだけが、これに形を与えることが出来る。
 器の抱える願いをこの世の何よりも完全に、一寸の欠陥もなく成就させる……"願望の具象化"という奇蹟(かたち)を。


4 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 00:53:40 lwoicka.0


 ――"これ"は、まだ何の形も持っていない。
 
 されど、名を与えるとするならば。
 界聖杯(ユグドラシル)と、そう呼称しよう。
 願いを叶えるために生まれ、創世された世界。
 願いを叶えさせるために貪り、肥え太った奇蹟の皿。
 可能性持つ器たちが放り込まれた異界、これそのものが聖杯だ。
 可能性の地平線、その果てで。
 完全無欠の大団円が、最後の一つだけを待っている。


5 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 00:54:37 lwoicka.0

【ルール】
・版権キャラによって聖杯戦争を行うリレー小説企画になります。

・主従の数は14〜20弱程度で考えていますが、投下数や構想上の理由で増減する場合がございます。
・通常の7クラス及び、エクストラクラスの投下が可能です。
 エクストラクラスでは公式に存在しないクラスを創作していただいても構いません。

【舞台・設定】
・数多の並行世界の因果が収束して発生した多世界宇宙現象、『界聖杯(ユグドラシル)』が本企画における聖杯となります。
・マスターたちは各世界から界聖杯内界に装填され、令呪とサーヴァント、そして聖杯戦争及び界聖杯に関する知識を与えられます。
・マスターたちは基本、召喚と同時に界聖杯内界においての社会的ロールを与えられますが、一切与えられずに放り出されるマスターもいるかもしれません。
 候補話を書く際に都合のいい方をお選びください。

・黒幕や界聖杯を作った人物などは存在しません。

・界聖杯内界は、東京都を模倣する形で創造された世界です。
 模倣東京の外に世界は存在しませんし、外に出ることもできません。
・本編開始前(コンペ期間)にはマスターをふるい落とす予選が行われています。
 登場話で他の主従を倒していただいても構いませんが、その場合倒す主従は必ずオリキャラにしてください。
・界聖杯内界の住人は、マスターたちの住んでいた世界の人間を模している場合もありますが、異能の力などについては一切持っておらず、物語の主要人物にはなれません。
・サーヴァントを失ってもマスターは消滅しません。

【登場話候補作の募集について】
・トリップ必須。
・他所様の企画に投下した作品を流用する場合は、トリップを揃えていただくようお願いします。
・募集期限は現状七月中旬程度を考えていますが、候補作の集まり具合によっては伸ばしたり早めたりする可能性もございます。あくまで目安程度にお考えください。


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6 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 00:55:09 lwoicka.0
続いて候補作を投下させていただきます


7 : 光月おでん&セイバー ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 00:56:00 lwoicka.0

 瞼を開けた時。そこは、別世界であった。

 空は生憎の曇り空で、雨が近いのか大気はどこかじめっとしている。
 空気の味は、彼の知るそれよりも幾分かまずく感じられた。
 そして視界に移るのは、見渡す限り果てまで続く建物の群れ。
 一瞬は呆気に取られたが、すぐに男の胸中を感嘆の念が満たす。
 大海を渡り世界を巡る旅の中で様々な国に上陸したが、それでもこれほどに高く堅牢な建物ばかりで満たされた国家はなかった。

「死んだ人間は極楽に行く。ガキの頃はそう聞いたもんだが」

 男は、角帽のような独特な髪型を揺らし、呵々と笑った。
 歌舞伎役者を思わせる偉丈夫ではあったが、その背丈は明らかに異質な大きさをしている。
 十尺五寸はあろうかという長身に、一体どんな鍛え方をしたのかと思わず問いたくなるような屈強な肉体。
 そして極めつけが、腰にぶら下げた二振りの刀だった。
 この現代では持っているだけで警察の世話になるだろう大振りの業物を、さも自分の手足同然とばかりに腰から下げている。

「しかしおれの場合、そうはならなかったらしい。
 何だこりゃ、新手の地獄か?
 まァ、地獄に落とされる心当たりなら何十個もあるけどよ……でけェ仏像を試し斬りで真っ二つにしたこともあったしな」

 男は、一度死んだ。
 彼の体感時間では、それはつい数分前のことである。
 悔いのない死ではあった。故に未練はない、悲しみもない。
 だが不可解なのは、自分が飲み込まれた"死"という暗闇にその先があったこと。
 天国とも地獄とも言い難い──しかしどちらかというのなら後者に近いだろう、剣呑で不穏な"知識"が頼んでもいないのに脳裏に収納されている。

「願いを叶える宝、か──ロジャーの野郎が聞いたらさぞかし目を輝かせたろうぜ」

 数多存在する枝葉の世界、その因果を重ね合わせることでどんな願いでも成就させる"万能の願望器"。
 界聖杯なる財宝を巡って行われる、殺し合いの大戦争。
 それが、一度死した男──ワノ国"元"九里大名、光月おでんの落ちた地獄であった。

「……いや、案外興味を示さなかったりしてな!
 望めば全部叶えてくれる宝なんてつまらねェと、手に入れた段階で満足しちまいそうだ。
 そうだ、そうだ。あいつはそういう男だった!」

 懐かしむように笑って、おでんは視界の果てまで広がる人工物の群れを見やる。
 此処は、東京、なる異国の都であるらしい。
 正確にはそれを模したものだというが、細かいことはこの際どうでも良かった。

 見事な発展ぶりだと、おでんは素直にそう思う。
 道行く人々はほとんどが小綺麗な身なりをしており、迫害や悪しき格差の気配は少なくともこうして遠目に見ている分には窺えない。
 ワノ国の職人たちが拵えた建物が安く見えるほど完璧で、整然とした建築技法。
 その手の事柄に無知でなおかつそれほど関心のない自分ですら驚嘆してしまうのだから、造詣の深い人間が見たならもっと驚愕するのだろう。
 そう、実に見事。そう思いはした。だが──

「窮屈だな、この都は。ああ、そうだ──窮屈でござる!」

 光月おでんという男に言わせれば、この世界は窮屈に過ぎた。
 都の空気や装いだけの話ではない。
 聖杯戦争という理屈(ルール)が支配する、この界聖杯内界。そのすべてを指して、彼は窮屈だと吼えているのだ。


8 : 光月おでん&セイバー ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 00:56:26 lwoicka.0

 これではまるで、己等役者たちは糸操り人形ではないか。
 宝の奪い合い大いに結構。万能の願望器、実に景気のいい話だ。
 しかしながら、光月おでんにはそのやり口が気に食わない。
 この理屈には血が通っていない。
 こんな窮屈な箱庭に閉じ込めて、善も悪も関係なしに、可能性を秘めているからなどという曖昧な理屈で殺し合わせる非道な手法が気に食わない。

「決めたぞ、縁壱! おれァ──界聖杯を見極める!!」

 がばっ、と身を翻して、おでんは自分の後方に佇んでいたその男へ言った。
 彼こそは、光月おでんが召喚したサーヴァント。
 世界の枝こそ異なるものの、ワノ国と非常に似通った国からやって来たらしい英霊。
 クラスをセイバー。名を、継国縁壱という。
 えらく辛気臭い男だとおでんは彼をそう思ったが──自分の英霊として不足なし、否むしろ余るかもとすら思っていた。
 
「おれは既に一度死んだ身。残した妻も子もあるが、人の世にもう一度蘇るってのは筋が違ェさ。
 だから、誰かが界聖杯という宝を手に入れる前に──おれがその全貌を拝んでやる。
 界聖杯の善悪も、それを使う奴の善悪もだ! それが、現世にまろび出た死人の責務と見た!!」

 それに、本心を言うならば──。
 海賊王の船に乗り、最後の航海を共にした者として……界聖杯というとびきりの財宝を一度見てみたい思いもあった。
 
 これは二度目の生などではない。
 未来に繋いで死んだ男が今際の際に見ている、泡沫の夢。
 少なくともおでんはそう思っている──だから多くは望まない、再臨など求めはしない。
 しかしせめて、父や家臣……そしてワノ国の民の全てに語り聞かせられるような。
 そんな壮大で見事な生き様を披露して、笑いながら退場したいとおでんは願う。
 なればこそやるべきことはこれだった。この窮屈な世界を駆け回り、血の通わない"戦争"をいつも通りにねじ曲げる。
 
「おれの二刀流とお前の剣があれば、それが出来る。そうは思わねェか」
「……断っておくが。私はお前が思うほど大した男ではない」

 おでんはどこまでも豪放磊落とした、気持ちのいい男だったが。
 一方で彼のサーヴァントである縁壱は、静謐を破ることのない人物だった。
 顔に痣のある、両耳から耳飾りを下げた古風な風体の男。
 その身なりは、おでんの家臣である赤鞘の侍達よりも余程侍らしく見える。


9 : 光月おでん&セイバー ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 00:56:51 lwoicka.0

「この剣など、長い長い人の歴史のほんの一欠片でしかないのだ。
 枝葉の彼方まで広がる世界の因果を束ね、繋いだ結果がこの泡沫だというのならば──
 当然、私の剣と才を凌ぐ者など当たり前に居るだろう」
「相変わらず小難しいことをごちゃごちゃと……」
「だが」

 おでんに言わせれば、であるが。
 縁壱の口にする言葉は、"どの口で言うのだ"という以外の感想を持てないものだった。
 世界中を旅し、光月おでんはありとあらゆる強者の姿を見て、時に相対してきた。
 それは、白い髭の大海賊であり。海賊王の名を未来永劫に轟かせた偉大な男であり。
 天を覆うような巨躯の龍に化ける、文字通り怪物のような男であり。
 そんな錚々たる面子の中にすら、名を刻める。
 継国縁壱と一太刀打ち合ったその瞬間に──おでんはそう確信したのだ。

「今、この身体は人の生きる現世──その影法師だ。
 ならば私は、喚ばれた意味を果たしたいと思う」
「つまりどういう意味だ。やるのか? やらねェのか?」
「……おでん。お前は、私とは違う。
 私の見てきたどの男とも、違う。
 私の生きた生涯に、お前のような目をした男は居なかった」

 そして、縁壱もまた。
 光月おでんという類稀なる男の中に、自分が未だかつて見たことのないものを見出していた。
 この男の瞳には、見果てぬ空があり、海があった。
 どんな窮屈な鳥籠に閉じ込めてもいつか必ず大空の彼方に羽ばたいていく、そんな"可能性"を見た。
 
「私は、お前と共に往こう」
「わははは──最初からそう言えってんだ」

 小難しい奴だと笑う姿は、誰もが怒るか泣くかするばかりだったあの日々の中にはなかったもので。
 或いは己ではなく彼が生まれ落ちていたならば、その代で全てを終わらせられたのではないかとすら錯覚する。
 しかし、縁壱は知らない。彼もまた敗残者、為すべきことを為せずに生涯を終えた人間であることを。

「では行くぞ、縁壱。
 おれとお前、死人と死人。
 せいぜい図太く世に蔓延ろうぜ!」

 二度目の生など望まず、死人の役割に徹すると決めた二人の剣豪。
 彼らの覇と武は、機械仕掛けのように冷淡に進むこの死合舞台において何を為すのか。
 その答えは──今はまだ、地平線の彼方に。 


【クラス】
 セイバー

【真名】
 継国縁壱@鬼滅の刃

【ステータス】
 筋力A+ 耐久C 敏捷A 魔力E 幸運E 宝具D++

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
 対魔力:E
 魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

 騎乗:B
 騎乗の才能。
 大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
 日の呼吸:EX
 始まりの呼吸。後に鬼殺剣士達が用いることになった"呼吸法"全ての源流。
 彼にしか扱えなかったこの呼吸を出会った剣士それぞれの剣術と身体の適正に合わせて変化させ指導した結果、全集中の呼吸という概念が生まれた。
 後にこの呼吸について知識を持つ者は悉く抹殺されたが、言わずもがな縁壱は歴史からの失伝に関係なくこの呼吸法を完全に扱うことが出来る。

 透き通る世界:A+
 呼吸術が極みに達した者にのみ到達出来る領域。
 他者の身体が透けて見えるようになり、相手の骨格・筋肉・内臓の働きさえもが手に取るように分かる。
 後世の剣士達が身命を賭してようやく達せた境地であるが、縁壱はこの世に生まれたその瞬間から既にこれを体得。その後も常時発動させていた。

 心眼(偽):A
 直感・第六感による危険回避。
 虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
 視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。


10 : 光月おでん&セイバー ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 00:57:21 lwoicka.0

【宝具】
『赫刀』
ランク:D++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:50
 黒曜石のように黒い刀身を持つ刀。
 不死の肉体を持つ鬼を滅殺することができる、日輪刀と呼ばれる特殊な刀剣。
 縁壱がこれを握れば瞬時に刀身はその色彩を赫く変え、鬼の不死をさえ無視して苦痛を与える鬼滅の刃と相成る。
 彼以外の剣士が発現させた赫刀は少なくとも鬼の始祖に対しては再生を多少遅らせる程度の効果しか発揮出来なかったが、セイバーの赫刀は彼らのそれとは次元違いの威力を有しており、彼が始祖に刻み付けた傷は数百年に渡り癒えることなくその身体を焼き続けた。
 不死の性質を持つ存在に対して特攻性能を発揮し、傷口の再生を限りなく遅滞させる。
 表面上の傷を再生させることは出来ても、内部に刻まれた斬傷を完全に除去するのは至難の業。
 少なくとも彼の赫刀に斬り刻まれた鬼の始祖は、死の直前までその傷を完全に癒やすことは出来なかった。

【weapon】
 日輪刀

【人物背景】 
 戦国の武家、継国家に生まれ落ちた双子の弟。
 幼くして家を出奔し、新しく得た家族を失い、鬼殺の道へと足を踏み入れ──生まれたその意味を果たせなかった男。

【サーヴァントとしての願い】
 英霊として、為すべきことを為す。


【マスター】
光月おでん@ONE PIECE

【マスターとしての願い】
聖杯という財宝をこの目で見極め、処遇を決める

【weapon】
 二刀流。
 天をも切り落とす『天羽々斬』に、地獄の底まで切り伏せる『閻魔』。
 特に『閻魔』は地上最強の生物と恐れられた男に大傷を刻んだ、おでん以外にはどの剣士にも手懐けられなかったという妖刀である。

【能力・技能】
 剣術を用いて戦う。
 その実力は神と呼ばれた巨猪を斬り、最強の龍に傷を刻むほど凄まじい。
 
 覇気
 全ての人間に潜在する"意志の力"。
 気配や気合、威圧、殺気と呼ばれるものと同じ概念で、目に見えない感覚を操ることを言う。
 おでんは王の資質を持つ者にしか扱えないとされる"覇王色の覇気"を含めた三種全ての覇気を扱うことができる。

【人物背景】
 破天荒にして自由奔放。
 度量が大きく常識や偏見に囚われない性格の持ち主で、ワノ国の鎖国という閉ざされた法に長年疑問を懐き続けていた。
 その後彼は仲間に恵まれ、海へと出、国へ舞い戻り罪人として散る。
 それでも彼の生き様は多くの人々の胸に刻まれ、そして彼が文字通り命を賭して守った仲間の命は時を越えて未来へと繋がっていった。

【方針】
 聖杯に至りたいが、殺し回るつもりはない。
 挑まれたなら応じるが、好戦的でないマスターを斬って進むのは論外。
 また、サーヴァントに頼りきるつもりもまったくない。


11 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 00:57:46 lwoicka.0
以上で投下を終了します。


12 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 20:36:48 lwoicka.0
投下します。


13 : 北条沙都子&アルターエゴ ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 20:37:19 lwoicka.0


「……、これは――どういうことですの」

 口にした自分自身が驚くほど、底冷えした声だった。
 少女期特有の甲高さを多分に残した声帯から発せられたその"一言目"に載せられた感情は――戸惑い、そして苛立ち。

 見上げる空は夜。金色の満月が瞳を思わす荘厳さで輝いているのに、周りの星々の数は少女の故郷で見上げた時に比べて幾らか数が少なく見えた。
 そして。少女の周囲を囲う景色は、見渡す限りのコンクリート・ジャングル。
 高速建築物のひとつだってなかったあの見慣れた村ではありえない、異境の情景。
 かつては人並みに憧憬を抱きもした、都会の繁栄と活気は、しかし。
 今の少女にとっては、まこと無用の長物でしかなかった。

「(興宮……でも、ありませんわね。
  いえ、それどころか鹿骨市内ですらない。
  私の知らない場所――そして、この頭の中にある"知らない知識")」

 初めて味わう、実に奇怪な感覚であった。
 きっと人よりも空白が多いだろう頭の中の引き出しに、詰め込んだ覚えのない知識(どうぐ)が詰め込まれている。
 曰く聖杯戦争。曰くサーヴァント、曰く万能の願望器"界聖杯"。
 流行りの漫画の用語としか思えないそれが、どういうわけか今の少女の脳内には生きるために必要不可欠な知識という枠組でインプットされており。
 そしてもうひとつ。
 "自分は数年前に両親を亡くし、児童養護施設で集団生活を送っている"などという、同じくまるで覚えない身の上話が、劇の演者に台本を渡すみたいな白々しさで脳に収納されていた。

 自分の持っている記憶とは明確に違う、もうひとつの記憶。
 もちろんこれが偽物の記憶であり、後天的に植え付けられた産物であるということは分かっている。
 されどそう理解したところで、少女がこの状況に対して求めている根本的な解答はいつになっても舞い降りない。
 己の脳裏に問いかければ、大概の疑問には尤もらしい答えが返ってくるにも関わらず――である。

 ここは何処か――界聖杯の内側。
 万能の願望器を争奪するための儀式"聖杯戦争"を執り行うためのゲーム盤。

 自分は何者か――マスター。
 聖杯戦争に列席する資格を得てこの世界に招かれた内のひとり。

 聖杯とは何か――万能の願望器。
 異なる世界の因果を並列に接続することで生まれたエネルギーのすべてを、願望の成就という目的を果たすためだけに燃焼させる《界聖杯》。
 聖杯に叶えられない願いは理論上、存在しない。
 異なる世界の枝葉を飛び越えねば叶えられないような願いでさえも、世界の号を冠した杯は必ず叶える。

「傍迷惑な話ですわね。余計な世話を焼くのはやめていただきたいものですわ」

 そこまで解を聞いたところで、少女――北条沙都子は溜め息を吐いた。
 心底面倒だ、とばかりにあどけない顔立ちに眉根を寄せて。
 それからおもむろに立ち上がり、自分が今居る場所の縁へと立つ。

 高層建築物の、屋上。
 そこが、今の沙都子が居る場所だ。
 この世界で自我を確立するなり、彼女は施設の児童であるという身分も顧みずここへやって来た。
 
「でも、お生憎様。私は今、ひとつの時間に縛られる身分ではございませんの」


14 : 北条沙都子&アルターエゴ ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 20:37:54 lwoicka.0
 そのまま重心を前へと傾ける。
 誰が見ても危険と分かる、仮に転落すれば即死必至の高度だったが、それでも少女に躊躇いはなかった。
 それはまるで、テレビのスイッチを切るように。
 つまらない漫画をぱたんと閉じるように、返ってきた答案を丸めて捨てるように。
 あっさりと自由落下への数センチの距離を縮め、指と指とを重ね合わせ、――ぱちん、と、鳴らしかけ。


「――おやめになるがよろしいかと。
 此処は万象から隔絶された異界、辿り着いてしまった時点でお終いの行き止まりなれば」


 そこで、声を聞いた。
 男の声だ。
 若々しくも老いたそれにも聞こえるような、何者かの諌言。
 沙都子の足が、止まる。そして振り向けば、そこには――歪ななにかが、立っていた。

「我が主、マスターよ。
 あなたは、神なるモノと契りを結んでおりますな。
 いえ、或いは――似て非なるモノか。何れにせよ、ヒトである御身はそう認識しておられるのでは?」
「あら……よく分かりますわね。
 ええ、確かに――私は、そういうモノと繋がっておりますわ」
「そこは、それ。何かと縁がありまして」

 磨かれた黒曜石を思わせる両の瞳が、ネコ科の動物を思わせる形に細まる。
 ろくなものではない、と沙都子は思った。
 別段妖怪変化の類に詳しくなった覚えはないが――こうして見えれば一目で分かる。
 妖しさ、艶やかさ。残酷なほどの、美しさ。
 少なくとも真っ当な生き物であれば生涯有することのないだろう厭らしいきらめきを、その男は夜闇の中確かに放っていた。

「しかし残念。この聖杯戦争にあなたを招いたモノ――界聖杯の権能は、もはや神の領域にすら収まりませぬ。
 仮に今此処で身を切り脱出を図ったとして、あなたの望む結果になる可能性は限りなく低いかと。思いまする」
「見透かしたようなことを言うんですのね。
 私が何をしようとしたか、分かったと仰るんですの?」
「えぇ、えぇ。さしずめ"遡る"か"渡る"権能あたりと踏みましたが?」
「……、」

 その回答には、閉口せざるを得ない。
 それはまさしく、北条沙都子が借り受けている力の全容を最も端的に言い表すものだったからだ。
 繰り返す者。遡り、終わり、そしてまた遡る――運命の旅人。
 それが、今の沙都子の本当の身分である。

「凄まじい力をお持ちなのですわね、サーヴァントというのは」

 北条沙都子は、繰り返した。
 幾度となく、幾度となく幾度となく。
 もはや両手両足の数をすべて足しても足りないほど。
 繰り返し、繰り返し繰り返し繰り返し――それでもまだ飽き足らない。
 百年の旅路を終えた黒猫を再び籠の中に押し込めて、絶対の意思と共に時を繰り返す魔女。
 あるいは。いつか、そう呼ばれるに至るだろうモノ。


15 : 北条沙都子&アルターエゴ ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 20:38:36 lwoicka.0

「では、辞退は許されないと。そういうことでいいんですのね」
「恐らくは。実際に試してみれば案外上手く行くのやもしれませんが……お勧めはしませぬなァ」
「……はぁ。忠告感謝しますわ、サーヴァントさん。
 危うく今までの努力を、全部水の泡にしてしまうところでしてよ」

 幾重にも繰り返す、狂気に閉ざされたリフレイン。
 その中から、どういうわけか少女は連れ出された。
 愛する故郷でもなければ、天国や地獄でもない。
 聖杯戦争なる儀式を行うためだけに用意された、正真正銘の"箱庭"に。

「ついでにもう一つ教えて下さいな、サーヴァントさん。
 私は此処で、一体何をすればいいんですの?」
「それは、無論――」
「私、聖杯なんてものには然程興味ございませんの。
 私のお願い事は、何も此処で殺し合いをしなくたって叶えられるんですのよ。
 だから……元の世界に。私の故郷に帰れればそれで構いませんわ。
 それを果たすために一番手っ取り早い方法は、何か思いつきませんこと?」
「尚のこと、愚問というやつですな」

 ニヤリと、サーヴァントたる男は口角を釣り上げた。
 沙都子の知る"神"によく似た、されどもっと分かりやすく悪辣な悪性の発露。
 闇夜に溶けるような昏い存在感を、白衣に垂らした墨汁のようにじわじわと肥大させながら。
 彼は言う――幼子に教授するような口振りで。

「勝者の資格を得れば宜しい。即ち、一切鏖殺。で、ございまする」
「……結局そうなるんですのね。
 都合のいい抜け道があるのではないかと、少し期待しましたわ」
「そう腐りなさるな、マスター。
 幸いにしてあなたが喚んだ英霊は――ンン。
 鏖殺、虐殺。そうした諸々に長けております故」

 口にされた、悍ましい言葉。
 真っ当なマスターであればこの時点で、眼前の醜穢な魂に自害を命じていたかもしれない。
 だが、それは生憎と。神と出会い、大団円を踏み砕いて惨劇の輪廻をもう一度始めた少女にとっては――

「そう。だったら、その力を貸していただけますこと?」

 実に都合が良く、お誂え向きの"悪"だった。
 単に勝利を求めるのではなく、その過程に必要なあらゆる犠牲を容認する。
 否それどころか自ら進んで求め、多くを狂わせ、惨劇の音色を奏でながら屍の山を築いて高みへ近付く魑魅魍魎。
 手段に固執するなど愚の骨頂。
 本当の戦いの中では真っ先にカモにされ、七転八倒した挙句に身包みを剥がされるものだと沙都子は知っている。
 そう――本当に、よく知っていた。

「宜しいのですかな。死後の安息は保障致しませぬぞ?」
「あら。ダーティープレイは私の十八番ですのよ」

 夜の帳、その下。
 昏き空との、最短距離で。
 紅く瞳を煌かせながら――少女は、「それに」と、幼年期という蛹から這い出た黒い情念を燻らせた。

「私は、どんな手段を使ってでも……"絶対"に、元の世界に帰らなければいけませんの。
 そのために聖杯とやらが必要なら、もぎ取ってやるだけのことですわ」
「――ンン。左様で」
「やり方はあなたに任せますわ。
 私、この悪い夢から早く醒めたいんですの」

 怜悧な眼光に、妖獣はよりその笑みを深める。
 そして、慇懃な動作で頭を下げた。
 
「委細承知」

 それこそは、これが仮初の主を見定めたことの証。
 昏い情念と絶対の意思が、呪わしき魂を呼び寄せた。
 ならば、ああ。喚ばれたからには――応えて魅せなければなるまい。
 どんな手を使ってでも。どんな地獄を、この箱庭に現出させてでも。

「それでは、不肖ながらこの拙僧が……"アルターエゴ・リンボ"が。あなたの望む地獄を顕現させてご覧に入れましょう」


16 : 北条沙都子&アルターエゴ ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 20:39:00 lwoicka.0
◇◆



「――末永く。宜しくお願い致しますね?」 


◆◇


17 : 北条沙都子&アルターエゴ ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 20:39:21 lwoicka.0


「梨花」

 それは、まるで愛する人の名を呼ぶように。
 陶然とした響きさえ含ませながら、沙都子は紡いだ。

 梨花、と。その名、その人物こそが――
 北条沙都子の幼年期を終わらせた張本人。
 継ぎ接ぎの心の奥底から、幼い動機を溢れ出させたすべての元凶。

「私、必ず帰りますわ。
 だから――」

 もはや彼女はヒトではない。
 繰り返し、繰り返し、愛する日常を弄んでさえ、望む景色を追い求めたモノ。
 天国のような優しさと地獄のような惨たらしさが壁一枚隔てて同居する歪な村で育ち、神に触れて羽化をした魔女の卵。
 
 梨花、梨花、と。
 名前を呼ぶ度、愛情を紡ぐ。
 名前を呼ぶ度、呪詛を研ぐ。
 光と闇を綯い交ぜにして、彼女自信がひとつの辺獄(リンボ)と成り果てて。
 少女は――嗤うのだ。

「待っていてくださいまし、ね?」


18 : 北条沙都子&アルターエゴ ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 20:39:44 lwoicka.0
◇◆


 愉快、愉快――抱腹絶倒の極み。

 よもや、よもや。
 斯様に甘美な地獄に触れる僥倖が、再びこの身に舞い降りようとは。
 あぁ、長生きとはするもの。歴史に名を刻むということは、世界を呪うことなのだと改めて理解する。
 
 敗れ去り沈み、蠢くだけだった魂は今此処に浮上した。
 殺し合い、奪い合うためだけに創造された箱庭の底から。
 這い寄ってきたこれは獣、一目見れば魅入られる、美しき肉食獣。
 二柱神を喰らい、取り込み、黒き太陽を視る悪の魂。
 
 ――さぞや多くの死を、超えてきたのだろう。

 人の心に付け入り甘言を囁く魔性には、少女の内に燃える情念の根源の輪郭さえ掴めていた。
 アレは執着、執心の類だ。
 かつて眩くあったものが反転し、今は人の身に余るほど醜悪な妄執に成り果てている。
 そしてその悪性を、これは祝福する。・・・・・・・・
 祝福し、賞賛し、礼賛さえしながら、ならばそのようにとしたり顔で跳梁するのだ。

「既に異星の神との接続は切れている。
 今やこの身、かつてとは比べ物にならぬほど矮小であるが……」

 そんなことは――瑣末。
 己は己、拙僧は拙僧。悪(リンボ)は悪(リンボ)。
 この脳髄に辺獄の記憶があるならば、それだけで新たな地獄界を築くのには十二分!
 幾度となく、果てもなく。
 望まれた通りの地獄を、最上の音色で奏でてくれようと、妖獣は猛り昂り狂う。

 ああ――それに。

「子女の怨嗟と絶望ほど甘いモノは、そうそう味わえぬからなァ――」


【クラス】アルターエゴ
【真名】蘆屋道満
【出典】Fate/Grand Order
【性別】不明(本来は男性)
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:E 敏捷:D 魔力:EX 幸運:B 宝具:B

【クラススキル】
陣地作成:B
 キャスターのクラススキル。魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる能力。

道具作成:A
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 Aランクとなると、擬似的ながらも不死の薬さえ作りあげられる。

快楽主義:EX
 読んで字の如く。彼の骨子であり存在意義。
 一時の快楽のために手間を惜しまない、執拗なまでの悪辣さ。

ハイ・サーヴァント:A
 複数の神話エッセンスを合成して作られた人工サーヴァントの証左。
 闇の女神、黒き神、怨嗟に狂う左大臣。

暗黒の神核:B
 完成した悪神であることを現す、神性スキルを含む複合スキル。


19 : 北条沙都子&アルターエゴ ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 20:40:15 lwoicka.0
【保有スキル】
リディクールキャット:EX
 嘲笑う獣。
 その嘲笑は、敵も味方も白も黒も神も人も関係なく平等に降り注ぐ。

道満の呪:A++
 道満が行使する、強力な呪術の数々。
 彼の性格上、その秘術は悪辣を極めたものが多い。

黒き命:A
 霊基の内側で燃え上がる、黒き命。
 それはこの獣が喰らい己が物とした、神という名の炉心である。

【宝具】
『狂瀾怒濤・悪霊左府(きょうらんどとう・あくりょうさふ)』
ランク:B 種別:対都市宝具 レンジ:1〜80 最大捕捉:400人
 時の権力者・藤原道長を呪殺せんとして仕掛けた、都市そのものを殺すに等しい驚天動地なる大呪術の再現。
 成し遂げられれば都はたちまち荒れ果て、人々を不幸が襲い、餓死者が往来を埋め尽くし、権力者は滅び去る。
 宝具としての呪詛行使にあたり、アルターエゴとしての道満と融合した左大臣・藤原顕光の怨霊「悪霊左府」を一時的に召喚。これによって、術の成功確率を極めて大幅に上昇させている。

【人物背景】
蘆屋道満。平安期の法師陰陽師。
道摩法師、僧道満とも呼ばれ、平安最強の術者である安倍晴明の向こうを張った怪人。
人々を守る英雄ではなく、悪辣を以て人を害し、自らの死滅を以て世の平安を導くがゆえ反英雄として分類される。

見た目は美形ながら奇抜で、何処か歪な出で立ちをした男性。
長い髪は右が白く、左が黒いモノトーンになっている。また、ところどころ外ハネをした髪に鈴が括り付けられており、黒髪は薇のように複数のとぐろが巻かれている特徴的な髪型。
陰陽師らしく和服を基調としながらも、右肩から袖までが和服らしからぬ赤と白の縞模様であり、道化師、ピエロを彷彿とさせるデザインになっている。

【サーヴァントとしての願い】
ただ、内なる享楽のままに。


【マスター】
北条沙都子@ひぐらしのなく頃に業

【マスターとしての願い】
元の世界に帰り、梨花を囚え続ける

【能力・技能】
 トラップを仕掛けることに長ける。
 仲間たちからは"トラップマスター"の異名で呼ばれ、その技術は子供の悪戯の範疇に収まらない。
 防諜が専門とはいえ武装した特殊部隊を壊滅状態に追いやれるほどのトラップ使い。

【人物背景】
心に数多の傷を持つ少女。
絶望と怒りの末に神へと触れ、理想の世界を求めて永遠に惨劇を繰り返し続ける魔道に堕ちた。
今の彼女に、人を殺し、壊すことに対する躊躇いは一切存在しない。
たとえそれが、自分の大切な仲間だったとしても。

【方針】
サーヴァントを使って効率的に敵を減らしたい。
どれだけ殺してでも元の世界に帰り、"続き"をする。


20 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/27(木) 20:40:33 lwoicka.0
投下を終了します


21 : ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:05:08 auUtzZGM0
今から三本投下します。


22 : 野崎祥子&アサシン ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:05:51 auUtzZGM0

『本日午後六時ごろ、都内の一軒家にて火災が発生しました。
 その火災で住人である会社員、野崎和夫氏と、妻の主婦、花菜氏が死亡。
 次女の小学生祥子ちゃんが、火傷による重傷を負い、都内の病院へと緊急搬送されました』

 聖杯戦争の舞台である模倣東京にて、TVからニュースが流れる。
 それは内容こそ痛ましいものの、被害者の名前に覚えがなければ聞き流してしまいそうな程ありふれた話だ。

『近隣の住人曰く、火がいきなりついたとの証言がいくつもあり、
 更に取材の結果、火元は家の外壁であることが判明しました。
 警察はこれらの証言と火元から、放火とみて捜査を進める模様です』

 だが続きが流れれば、住人は恐れをなす。
 もしや次は我が身ではないかと、いつの間にか知人の誰かが被害に遭うのではないかと。

『また、火事の際外出していたことで難を逃れた長女、春花氏には、警察が被害者に何らかのトラブルが無かったかなどを――』





 野崎家放火のニュースから数日後。
 時は深夜、都内の病院。
 ここには、ニュースにて名前が知れ渡った野崎祥子が入院している。
 病室は個室で、彼女の意識はなく、予断を許さない為に面会謝絶となっている。

「ふん」 

 だがここに祥子以外に、一人の男がいた。
 顔は端正であるものの、祥子とは似ても似つかない。
 冷酷で鋭い眼つきにペイズリー柄のシャツと黒いジャケットが、医療従事者とも思わせない。
 彼女の親族ではない。病院の関係者でもない。では何者か。

「私のマスターは、今日も生き長らえているようだな」

 彼は、この東京で行われている聖杯戦争のサーヴァントである。
 クラスはアサシン。真名は鬼舞辻無惨。
 とある世界において、平安時代から大正時代までの千年間、日本の裏側において数多の被害を出し続けた鬼と呼ばれる怪物の始祖だ。

 そしてマスターは、ここで重傷患者として入院している野崎祥子である。
 彼女は本来の世界において、今の状態になってから聖杯戦争に巻き込まれた。
 その辻褄合わせの為にNPCである彼女の両親は本来と同じように死亡した。
 ここで何の因果か、彼女の姉である春花だけは助かったが、これは本来の世界と合わせた結果なのか、それとも単なる偶然なのか、それを知るものはいない。
 そして祥子は知ろうと考えることもできず、彼女のサーヴァントであるアサシンは興味すらない。

 それどころか、アサシンは祥子の生死すらどうでも良かった。

 アサシン、鬼舞辻無惨には人間を自身と同じ鬼に変える力がある。
 彼の血を人間に与えることで、人間は鬼へと変化するのだ。
 そして鬼になれば、どれほどの傷であろうと、あっという間に治ってしまう。
 つまり祥子の傷を治すこと自体は容易いのだ。
 しかしアサシンはそれをしない。

 なぜなら、鬼になれば目立つからだ。
 鬼はごく一部の例外を除き、人間に対し強烈な食欲を覚える。
 祥子がその例外になる保証などなく、仮になったとしても、一夜で重傷が治ればたちまち取材が殺到するだろう。

 サーヴァントには召喚された際、聖杯から現代知識が与えられる。
 これにより、日本人以外のサーヴァントであっても日本語が使えたり、生前との違いを理解できたりするのだ。
 その現代知識の中にはインターネットに関するものもあり、アサシンは何か目立つようなことがあれば、あっと言う間に自分達の情報が拡散されると認識していた。
 そしてアサシンは、自身の情報が拡散されることを酷く恐れている。
 故に、彼は祥子を助けない。

 仮に祥子が死亡しても、アサシンは単独行動というスキルを所持している。
 本来、サーヴァントはマスターなくして現界できない。
 だがこのスキルがあれば、ランクによって期間は異なれどマスターなしで現世に留まれる。
 なので、最悪はマスターを見殺しにして違うマスターを見繕うという手も取れる。
 今の所、代わりになりそうなマスターは見つかっていないので、あまり切り捨てるつもりはないが。

 それに、アサシンは今のマスターを悪く思ってはいなかった。
 彼は目的の為なら頭を下げることも、弱者とみられることにも抵抗はない。
 だがその実酷く感情的で独善的で、よほどのことがない限り自身を省みないタイプだ。
 故に、余計なことが一切できないマスターはアサシンとしては悪くない。仮に存在が足を引っ張るなら、その時は切り捨てればいいだけのこと。


23 : 野崎祥子&アサシン ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:06:24 auUtzZGM0

「無惨様」

 そこに、病室の窓から一人の男が入ってきた。
 彼は、アサシンが鬼に変えたNPCの内一人である。
 アサシンは祥子を鬼にするつもりは一切ないが、だからといって他の誰かを鬼にしないつもりもない。

 アサシンはインターネットの情報拡散を警戒しつつ、自身もそれを使えないかと考えていた。
 しかし彼はサーヴァントであるが故ネットに繋がるものは所持しておらず、マスターである祥子は家が焼けたせいか同様に所持していなかった。
 そこで、彼は町を歩いている適当なNPCの男達を鬼に変え、ネットに繋がるスマホを奪い取ったついでに、鬼にした男達に情報収集を命じていた。

「聖杯戦争のマスターを一人、発見いたしました」
「そうか。ならばさっさと、ネットで情報をばらまいて他のサーヴァント達に始末させろ。
 無論、我らが聖杯戦争に関わる存在だと分からないようにな」
「はっ」

 敵を一人発見した報告をする部下に対し、アサシンは次の指示を下す。

 アサシンはよほどのことがない限り表に出たがらない。
 臆病者と言われようと、卑怯者と憎まれようとも。


 日向には出られない二人の聖杯戦争は、まだ始まったばかり。



【クラス】
アサシン

【真名】
鬼舞辻無惨@鬼滅の刃

【パラメーター】
筋力B+ 耐久A 敏捷C 魔力D 幸運C 宝具A

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
気配遮断:A
本来は自身の気配を消すスキル。
だが無惨の場合は攻撃態勢に移らない限り自身がサーヴァントであることと、鬼であることを隠すスキルとなっている。

【保有スキル】
鬼:A+
平安時代に一人の医者によって生まれた、人喰いの怪物。
強靭な肉体や特殊な能力を持つが、日光に弱く、浴びると消滅する。
また、同ランクの戦闘続行と、Dランクの怪力の効果も有する。
彼は鬼の始祖なので最高峰のランクだが、上には日光を克服した二匹の鬼が控えているので頂点ではない。

仕切り直し:A++
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。機を捉え、あるいは作り出す。
また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。
自身より圧倒的に格上の、神仏の寵愛を一身に受けた日輪の剣士から逃走を成功させた逸話が昇華されたもの。

単独行動:B
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。Bランクなら2日は現界可能。
無惨の心に他人は必要ない。

カリスマ:E
カリスマ性の高さを示す能力。
無惨は心が歪んでいる、もしくは空っぽの相手にのみカリスマ性を発揮する。


24 : 野崎祥子&アサシン ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:06:56 auUtzZGM0

【宝具】
『鬼の始祖。鬼舞辻無惨』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
アサシン、鬼舞辻無惨自身の肉体。
鬼の始祖である彼は1000年の時を生きたため、彼自身が神秘を持ち宝具と化している。
彼は鬼の中でも特に多彩な能力を持つ。
気配から変えるレベルの変身を長時間保つ、自身の血を人間に与えることで鬼へと変化させる、
九千年無補給でも戦い続けられる、自身の部下と距離に関係なく連絡が取れる、など。
また、彼が作り出した鬼は須らく彼の呪いを受け、彼の名前を人間の前で口に出すと死亡する。

『受け継いでくれ。私の想いを』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大捕捉:1
無惨の消滅時、彼から一番近くにいるマスターもしくはサーヴァントが対象となる宝具。
この宝具の対象となった者は無条件でBランク以上の鬼となり、同時にBランクの狂化スキルも無条件で与えられ周囲にいる存在を襲い始める。
なお、鬼のBランク以上というのは対象の鬼としての素質によって変わり、最低でBランクであり、最高峰ならA+++ランクの場合も存在する。

無惨が生前、死亡する前に鬼としての力と自身の想いを、敵である一人の少年に無理矢理託した逸話から生まれた宝具。
その少年は人の想いによって人間に戻れたが、この聖杯戦争内でどうなるかは誰にも分からない。

【weapon】
『鬼の始祖。鬼舞辻無惨』

【人物背景】
平安時代、とある医者によって鬼にされた男。
生きることにのみ固執する生命体。
最後には受け継がれた人の想いによってその命を絶たれた。

【サーヴァントとしての願い】
太陽を克服し、現世に蘇る。

【基本戦術、方針、運用法】
マスターの意識がないため、無惨主導で聖杯戦争に臨んでいる。
基本的には、他のサーヴァントを潰し合わせたり、アサシンらしく不意討ちやだまし討ちなど、手段を選ぶつもりはない。

【備考】
NPCが数人ほど鬼@鬼滅の刃 となっています。
鬼になったNPCからスマホを一台奪い、所有しています。使い方も覚えました。


【マスター】
野崎祥子@ミスミソウ

【マスターとしての願い】
???

【weapon】
なし

【能力・技能】
なし

【人物背景】
父親の転勤で田舎に引っ越してきた、東京出身の小学生。
だが姉の受けているイジメの余波で家が放火され、大火傷を負い現在は意識不明の重体。

【方針】
なし。そもそも意識不明なため、聖杯戦争自体を把握していない。

【備考】
参戦時期は1巻、放火された家から助け出された後。
現在は大火傷に意識不明の状態で、会場内の病院に入院しています。


25 : ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:07:34 auUtzZGM0
一本目終了。
続いて二本目を投下します


26 : ジャギ&アーチャー ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:08:22 auUtzZGM0
 夢を見た。それはある男の過去だ。
 その男には二人の兄と一人の弟がいた。
 その男は3人の兄弟と拳法の伝承者の座をかけて競っていたが、彼は他の3人に比べて劣っていた。
 そして伝承者決定の日、彼にとっては信じられない事が起きる。
 彼の弟が伝承者になったのだ。彼としてはそれは認められない事実だった。
 自分なのが一番いい、そうでなかったとしても実力的には2人の兄の方が上のはずなのに、何故よりにもよって弟なのか。
 そう考えた彼は弟に伝承者を降りるように告げるか、弟はこれを一蹴。彼に消えない傷をつける。
 それを恨んだ彼は弟の名を騙り悪行をするが、それに弟は怒り直接対決する事になる。
 だが彼は敗北し、醜く死んでいった。

 その男の名前は、ジャギ。


 夢を見た。それはある男の過去だ。
 その男には弟がいた。
 弟は出来そこないの落ちこぼれで、今まで必要じゃない存在だった。
 しかしある時、弟が必要になり迎えに行ったら、弟は自分が何者かすら忘れ、子供まで作る始末だった。
 仕方なく弟が何者かを教え、彼らの仲間になるよう言ったら彼に歯向かう始末。仕方ないので弟の子供を人質にし、弟を意思を変えようとするが意味は無かった。
 弟は仲間を連れ彼に戦いを挑むが、彼に圧倒される。
 しかし、弟の子供の予想外の強さと、弟の捨て身の覚悟により彼は死ぬ、弟とその仲間に絶望を残して。

 その男の名前は、ラディッツ。





 日本は平和な国とよく言われるが、人間が住む場所である以上悪人は当然存在し、その集まりもある。
 悪人が集まる犯罪集団とは、ここ模倣東京ではいわゆるヤクザである。
 そのヤクザの中の一つに最近、用心棒がついたらしい。
 特徴的な仮面をかぶった男で、武器も使うが素手の戦いがめっぽう強いらしい。
 正面から銃を持った男が何人も同時に掛かって行ったが、全て返り討ちに会った。
 ならば暗殺だ、と考えた人間も居たがあっさり見つかり返り討ちにされる始末。
 そして不思議なことに、殺された人間は皆、まるで爆発したかのように内部から弾け飛ぶのだ。

 ある男は思った、何かのトリックだと。
 別の男は思った、それはデマだと。

 だがこれはトリックでもデマでもない、確かに起きた事実なのだ。
 そしてそれを引き起こした件の男は今――


「よおアーチャー、いやラディッツだったか。今日は面白い夢を見たぜ。
 力が劣っている弟に予想外の状況による動揺と、捨て身の攻撃で無様にやられちまう兄貴の夢だ」

 その男、ジャギはあるヤクザのアジトの一室で目を覚まし、自分のサーヴァントに話しかけた。
 そう、彼は聖杯戦争の参加者に選ばれたマスターだったのだ。
 彼は心底楽しげな表情で、見た夢についてアーチャーに話しかける。
 それはアーチャーの過去、敗北し死んだときの話だ。
 それを聞いて、アーチャーは心底忌々しそうな顔をしながらジャギにこう返した。

「俺の事はアーチャーと呼べ。真名は出すなと言った筈だ。
 それとな、俺も面白い夢を見たぞ。
 弟に何もかもが劣った兄が逆恨みをしたあげく、無様に死んでいく夢だ」

 アーチャーの言葉を聞いて今度はジャギが心底忌々しそうな表情をした。
 これはジャギの過去、含み針にガソリンまで使ったにも拘らず敗北し死んだときの話しだ。

「「チッ」」

 どちらともなく二人は舌打ちをする。
 ジャギも、アーチャーも、自分の組んだ相手が嫌いだ。
 それは同族嫌悪。まるで鏡を見せられているような気分になるから。
 どちらも自分が弟より優れていると思っていて、勝つためならどんな手も使う。
 別にそれを恥じた事は無い、勝てば官軍という言葉があるように、勝者こそが全てを握るのだから。
 だが


27 : ジャギ&アーチャー ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:09:00 auUtzZGM0
67

「アーチャー、俺は必ず聖杯を手に入れるぜ。
 そして誰にも負けねえ力を手に入れてやる。ラオウの兄者やトキの兄者よりも強くなってやる」
「当然、俺もそのつもりだ。ナッパやベジータ、いやフリーザよりも強い力を手に入れる。
 そしてもう誰にも弱虫など言わせるものか。サイヤ人の王子だろうが宇宙の帝王だろうがな」

 彼らは力を羨んだことがないと言えるのだろうか。
 どんな悪行も、どんな覇道も圧倒的な力で突き進んでいくそんな姿に、憧れた事がないと言えるのだろうか。

「アーチャー、俺はてめえが嫌いだ。てめえと組むなんて心底反吐が出る」
「奇遇だな、俺も貴様と手を組むなど腹立たしくてしょうがない」
「だが俺はてめえを利用してやる。勝てばいい、それが全てなんだからな」
「勘違いするな、利用するのは俺で貴様はデクの様に立っていればいい」

 ジャギとアーチャー、二人の思いは共通していた。

 気にくわない、心底から気にくわない。
 だがある意味こいつは最良のパートナーだ。
 勝つためならどんな手でも使い、そして似たような願いを持っている。
 ああそうだ――

「「弟よ、この戦いが終わったときが貴様の死ぬ時だ!!」」

 こんなにも、俺は弟が憎らしい。



【クラス】
アーチャー

【真名】
ラディッツ@ドラゴンボール

【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力E 幸運D 宝具E

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

単独行動:A
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Aランクは1週間は現界可能。

【保有スキル】
サイヤ人:E
宇宙最強の戦闘種族。好戦的な性格としっぽ、そして満月を見ると巨大な大猿になるのが特徴。
死に瀕する危機から回復することでステータスが増加する。
弱点として、しっぽを握られると力が入らなくなってしまう。

気:D
アーチャーの世界で使用される、体内エネルギーの事。
これを使う事で手からエネルギー弾を発射したり、空中飛行が可能になる。
アーチャーはこの概念を知らずに使用しているので低ランク。戦闘力のコントロールも出来ない。

【宝具】
『俺は一流の戦士だ!』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:2
正面から突っ込んでいき、一瞬で後ろに回り込んで攻撃してくる技。これは相手の敏捷に関わらず戦闘開始直後なら1回だけ使用可能となる。
本来なら宝具どころか技とも呼べないものだが、当時地球で1,2を争う実力者二人に恐怖を覚えさせたという逸話が宝具になった。


28 : ジャギ&アーチャー ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:09:37 auUtzZGM0

【weapon】
・スカウター
戦闘力を測る機械。索敵範囲は広く、宇宙船で1年かかる距離でも索敵が可能。
なお、ラディッツが用いているのは旧型なので21000以上の戦闘力を計測すると爆発する。
通信機も兼ねているが、同じスカウターが無ければ無意味。

・戦闘服
宇宙の帝王フリーザの部下に支給される戦闘服。
ドンドン伸びる上に重さが殆ど感じられれない、それでいて衝撃に強いという代物。

【人物背景】
二人兄弟の長男

【サーヴァントとしての願い】
聖杯の力で何よりも強くなって生き返り、カカロットにリベンジする。そしてもう弱虫などと言わせない。


【マスター】
ジャギ@北斗の拳

【マスターとしての願い】
ラオウの兄者やトキの兄者を超える力を得て生き返り、北斗神拳の伝承者になりケンシロウに復讐する。

【weapon】
・ショットガン
世紀末ではあまり見ない武器。不発弾も混じっている。

・含み針
口から吐き出して使う。

【能力・技能】
・北斗神拳
1800年以上伝わる一子相伝の暗殺拳。
ジャギは正統伝承者では無いものの、一般人から見れば高い戦闘能力を持つ。

・南斗聖拳
108派ある北斗神拳と対照的な拳法。
石造を砕かず腕を貫通させる事ができる。

【人物背景】
四兄弟の三男。

【方針】
どんな手を使ってでも勝ち残り聖杯を手に入れる。

【備考】
参戦時期は死亡後です。
外伝設定は採用せず、本編設定のみ使用しています。
与えられたロールはヤクザの用心棒です。


29 : ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:10:49 auUtzZGM0
二本目投下終了です。言い忘れましたが箱庭聖杯に投下したものの流用です。

最後に三本目を投下します。これは四柱聖杯に投下したものの流用です。


30 : クンタック王子&セイバー ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:11:27 auUtzZGM0
 町の路地裏に一匹の犬が居る。
 真っ白な毛をした、どことなく上品さを感じる犬だ。
 そしてどこか、賢さと意志の強さを感じさせる目をしている。

 それもそのはず、この犬はただの犬ではない。
 アフリカのコンゴ盆地の奥、ヘビー・スモーカーズ・フォレストと呼ばれる地域からやってきた犬だ。
 そこは、盆地の一部が陥没し深い谷に囲まれて外界から隔絶されてしまった。
 それ以後、この閉ざされた世界では犬が進化し文明を作り上げ1つの王国が5000年間続いている。
 この犬は、その国の王子様だ。名前はバウワンコ108世の息子クンタック王子。
 そして、聖杯戦争の参加者でもある。

「ワゥ」

 クンタックはマスターであることを隠すため鉄片を咥えながら悩んでいた。
 自分は一体いつの間にこの鉄片を手に入れたのか。
 そして聖杯戦争に対して自分はどんなスタンスで居るべきなのかを。
 普段ならば、こんな人を無理やり呼び寄せ殺し合いを強いるものなど悪だと断じ打破するために動くだろう。
 だが今は、故郷の事を考えるとそれ以外の選択肢も浮かび上がってしまう。

 クンタックの国には今、恐るべき敵が居る。
 名はダブランダー、元は国の大臣だった悪知恵の働く男。
 彼は古代の兵器を復活させ、外の世界を自分の領土にしてしまおうと考えていた。
 その為に邪魔だったクンタックの父を殺し、クンタックを捕えた。
 そして国民には病死と発表し、生きながら埋めようとする。
 しかしクンタックは棺桶ごと湖に落ち、そのまま外の世界へ流されたのだった。

 そんな幸運があってクンタックはここにいる。
 だからこそ思う、ここで聖杯を勝ち取りその力で国を救うべきではないかと。
 聖杯は万能の願望器だと聞いている。
 ならば、自分の国を救うくらいは簡単だろう。

 だが同時にやはりこう思ってしまう。
 殺し合いに勝ち残るのは正しいのかと。
 僕のように知らない間に連れてこられた存在を蹴落とすのは正しいのかと。
 そして何より、僕は誇れるのだろうかと。
 誇り高きバウワンコの血に、そして愛している婚約者のスピアナ姫に。

「スピアナ姫……」

 普通の犬を装う事も忘れ、婚約者の名を呟くクンタック。
 だがこの自分でも意識していない呟きで、彼は決意をした。

「セイバー、出てきてください」

 今度は周りに人が居ない事を確認してから声を出すクンタック。
 そして、その声に応じて現れたのは青い服に青い帽子、そして青いゴーグルをつけた青一色の青年だった。
 クンタックはセイバーに言う。

「セイバー、僕はこの聖杯戦争に乗ります」
「……」

 クンタックの宣言にセイバーは何も答えない。
 思えば最初からそうだった。
 最低限の会話はしてくれるものの、基本的には無言を貫いていた。
 単にもともと無口なのか、それとも僕と喋りたくないのかは分からない。
 だが僕は彼に告げなければならない。僕の決意を宣言しなければならない。

「僕は僕の国を救わなければならない。否、救いたい。
 例えダブランダーとは何の関係もない、ただの人間を危機に追い込むことになったとしても。
 それでもあなたは、僕についてきてくれますか」

 クンタックの懇願するかのような言葉に、無言を貫きながらも頷くセイバー。
 そんな態度の彼に思わず笑顔になるクンタック。
 彼は言葉を続ける。

「それと身勝手なのですが、一つお願いがあります」
「……」
「出来るだけで構いません。倒すのはサーヴァントだけにして下さい。
 例え偽善と言われようとも、僕はなるべく無辜の民を犠牲にはしたくありません」
「……」


31 : クンタック王子&セイバー ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:12:00 auUtzZGM0

 クンタックの言葉にまたも無言で頷くセイバー。
 そして彼は聖杯戦争へ向けて歩き出す。
 5000年間平和が続いたバウワンコの国の王子が、戦争をすることになるなんてと思いながら。

 こうして彼の運命は本来の歴史とは違う方向に廻り始める。
 もし本来の歴史通りであれば、彼の国は救われていた。
 バウワンコ1世の予言にあった、10人の外国人の内5人と出会い故郷の為に共に戦う事になる。
 そして幾多の苦難の末、国と姫を救う事が出来たのだ。
 だがそんな未来はもう存在しない。
 それが良いか悪いかを知る術は、彼らは持っていない。




【クラス】
セイバー

【真名】
ローレシアの王子@ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々(SFC版)

【パラメーター】
筋力A++ 耐久A 敏捷C 魔力E 幸運C 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。

騎乗:A
乗り物を乗りこなす能力。
Aランクで幻獣・神獣ランク以外を乗りこなすことができる。

【保有スキル】
戦闘続行:A
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。

破壊神を破壊した男:A
魔法に頼らず己の腕力のみで破壊神を倒したものに贈られるスキル。
神性スキル持ちに与えるダメージが増加し、筋力のステータスに無条件で+が二つ追加される。

ロトの末裔:A
偉大なる勇者ロトの血を引くもの。
混沌、もしくは悪属性を持つサーヴァントに対して与えるダメージが大きくなる。

【宝具】
『ルビスのまもり』
ランク:A 種別:対幻宝具 レンジ:1-300 最大補足:???
ハーゴンの作り出した幻を解除した精霊ルビスが与えたまもり。
本聖杯戦争ではあらゆる幻術・幻がこの宝具を使用することで解除できる。
ただし、使用は自動ではなく任意なので自身やマスターが幻を知覚していない、またはこの宝具が何らかの方法で使用不可能の場合は解除不可となる。

『ロトの血筋を引く者たち』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:2
ハーゴン討伐の旅を共にした二人の仲間を呼び出す宝具。
サマルトリアの王子は物理と呪文を双方使いこなす万能型。
ムーンブルクの王女は強力な呪文を使いこなす後衛型。
ただし、呼び出そうとする場合は令呪1つを使わなければならない。
そして、この宝具は一定ターンが経過すると消滅する。再び使用する場合は同じだけ時間を置かなければならない。
ちなみに、この宝具も本体と同じく出展はSFC版なので、サマルトリアの王子の装備がてつのやり、なんてことは無い。


32 : クンタック王子&セイバー ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:12:28 auUtzZGM0

【weapon】
いなずまのけん
ロトのよろい
ロトのたて
ロトのかぶと
まよけのすず

【人物背景】
悪の大神官の野望を阻止した王子。

【サーヴァントとしての願い】
マスターに従う。


【マスター】
クンタック王子@ドラえもん のび太の大魔境

【マスターとしての願い】
王国を大臣から取り戻したい

【weapon】
・宝石
バウワンコ一世の像のホログラムのようなものを出すことができ、自在に動かせる。
大きさは数メートル程度。
空気中に高圧電気を発生させることもできる。
普段は首にかけている。

【能力・技能】
・剣技
剣の名手。
一般兵程度では相手にならない。

・日本語が話せる
彼は日本から遠く離れた犬の王国の王子だが、短時間で日本語を覚えた。

・二足歩行
彼は進化した犬の為、二足歩行が可能。
普段は普通の犬を装うため、あえて四足歩行をしている。

【人物背景】
悪しき大臣に国を追われた王子。

【方針】
聖杯を手に入れる。
極力マスターは殺したくない。

【備考】
与えられた役割は街に居る野良犬です。
参戦時期は日本語を覚えた後からのび太に出会う前の間です。


33 : ◆7PJBZrstcc :2021/05/28(金) 19:12:53 auUtzZGM0
投下終了です


34 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 20:55:58 0CUKPpNc0
>>野崎祥子&アサシン
聖杯戦争ではハンディキャップにも程がある祥子ですが、無惨様くらい性根が終わっているとむしろ実質ソロで良かったね……となりますね。
重体から復活させるのは簡単だけど何かと目立ちすぎる、という理由付けが現代的で面白かったです。
ネットで情報をばら撒いて他の参加者に始末させろって言ってる辺り、早速現代に適応して生きているのも無惨様らしくて好きです。
後、さらっと死んだら周りの参加者の背中に勝手に自分の想い背負わせてくるのが最悪すぎますね。ひどい。

>>ジャギ&アーチャー
お互い弟にコンプレックスがある序盤退場組という、縁召喚此処に極まれりと言った主従でした。
ただラディッツもジャギもなんだかんだで結構強いのが地味に厄介ですね。
一般人マスターからしたらジャギだって立派な脅威なわけで、そういう意味でもなかなか爪痕を残してくれそうです。
聖杯戦争関係ないところで暴れまくっているジャギの悪目立ちで主従おるやん!となる未来も見えなくはないですが……。

>>クンタック王子&セイバー
大魔境懐かしいですね。のび太達と出会えなかったIFですからなかなか過酷です。
それでもなるべく犠牲を払わないように努めようとしている辺りに彼の高潔さが表れています。
尤も勝ち進んでいけば、いつかその主張の矛盾に直面してしまいそうですが。
成功者であるローレシアの王子の内心も気になるところで、掘り下げ甲斐がありそうですね。

ご投下ありがとうございました。


それでは私も投下します。


35 : 死がふたりを分かつまで ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 20:56:40 0CUKPpNc0


「君と俺は似ていると思うんだ」

 ――その言葉を聞いた時。
 少女が覚えたのは、恐らく人生で最大の嫌悪感だった。


◆◆


36 : 死がふたりを分かつまで ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 20:57:07 0CUKPpNc0


 今日も今日とて、変化のない毎日だ。
 傍から見ればその絵面は平和そのもの。
 朝起きて学校に行き、友達と談笑しながら家へと帰る。
 ……そう、本当に――呆れるほど変化のない一日だった。
 そのことに少女は、"友人ということになっている"この世界の住人達と別れるなり眉を顰めた。

 そこにあるのは苛立ちだ。焦燥と言い換えることも出来たかもしれない。
 この界聖杯内界において流れる時間に限りはない。
 一定の日数が経っても趨勢が決さなければ聖杯が消滅するだとか、特定の時間までに何体敵を倒さなければならないだとか、そういう制度も然りだ。
 にも関わらず、彼女は苛立っていたし焦っていた。それは、さながら――薬が切れた病人が禁断症状を起こすように。

「(……苦い)」

 苦い、苦い、苦い、苦い。
 彼女にとって、このまがい物の世界で過ごす日常はただただ苦いだけだった。
 
 どこかで見たような顔のクラスメイトと話している時も。
 少しでも周りに不審がられないようにと、通う義理もない学校の準備をしている時も。
 一人きりの食事も入浴も睡眠も、何もかもが苦くて苦くて仕方なかった。
 誇張や比喩なんてチープなものではない。彼女にとっては本当に――泣きたくなるくらい、絶望しそうになるくらい苦いのだ。

「しおちゃん」

 だって此処には――愛がないから。
 十余年も生きて、それでようやく見つけた愛。知ったぬくもり。
 絶対に手放したくないと初めて執着できた、たった一人の愛する人。
 彼女は此処に居ない。この世界で気が付いた時には、ぎゅっと握り締めていたはずの彼女の手はどこにもなかった。

 それからずっと、苦いままだ。
 何を食べても、何をしていても、苦い。
 自分はあの子と出会うまでどうやって生きていたのか。
 どうして、生きていられたのか――それさえ、今の少女には分からなかった。


 松坂さとう。
 それが、少女の名前である。

 彼女はまともな人間ではない。
 肉体が、ではなく。精神が、だ。
 例えばさとうは人を殺せる。
 人を騙し、踏み躙り、犯し、どれだけだって利用できる。
 自分の愛に殉ずるためならば、この世にやってはいけないことなどないと。
 愛を偽らない限りは、この世に犯してはいけない罪などないと。
 彼女は冗談でも酔狂でもなく真剣に、大真面目に――そう信じているのだ。


37 : 死がふたりを分かつまで ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 20:57:38 0CUKPpNc0

「……、」

 部屋の扉を開けて、室内灯を点ける。
 それから意味もなく数秒、玄関口で立ち尽くした。
 まるで、何かを待っているみたいに。
 しかし当然、帰ってきたさとうを出迎えてくれる人間は現れない。
 現れるわけもないのだ。両親を幼くして亡くしたさとうは、この世界ではあの歪んだ叔母とすら一緒に暮らしていない。
 たった一人でこの部屋に住んでいる。そういうことになっているのだから、お出迎えなんてあるわけがなかった。


「――やあ、おかえり! さとうちゃん、今日は随分早かったねえ」

 ……ただ一人、否、一体。
 松坂さとうという"可能性の器"に充てがわれた、邪悪で醜い化け物(サーヴァント)を除いては、だが。

「それやめてって言ったよね、私」
「なんだ、つれないなぁ。せっかくお出迎えしてあげてるのに」

 そいつは、頭から血を被ったような装いをしていた。
 血の通わない肌は蒼白く、なのに風貌はひどく整っている。
 古めかしい宗教的な印象を受ける衣服は浮世離れしており、そして何よりこの男は、ひどく血腥かった。
 
 さとうは、人間の血肉の臭いを知っている。
 一度目は愛を知ったその日に、二度目は友人と永遠に決別した日に。
 共に自らの手で殺し、溢れ出したそれの臭いを嗅いでいる。
 それでも、これほど濃密に臭いが染み付くことはなかった。
 ならば一体このサーヴァントは、今までどれだけの人間を殺し、その血を浴びてきたというのか。

「……それより、偵察の成果はあった?」
「ああ、一組主従が見つかったよ。
 日が沈んだら喰べに行ってくるね」
「そう。じゃあよろしくね、キャスター」 
「いやあ、それにしても……やっぱり俺は感知も情報集めも不得手だなあ。
 生きてた頃は歩き回って探さなくても向こうから人間がやって来てくれたから、鍛えようとも思わなかったんだよね。仲間の中にはそういうのが上手な連中もいたしさ」

 無駄話に付き合うつもりはない、とばかりにさとうはサーヴァント……キャスターの自分語りを無視して足を進めた。
 
「ありゃりゃ、また無視されちゃった」

 さとうは、何も自分のサーヴァントが弱いから冷遇しているわけではない。
 むしろ、彼の実力については一定の信用を置いている。
 日中に外を出歩けないという致命的な欠点はあるが、その分夜は彼の時間だ。
 これまでに彼が挙げてきた戦果も決して少ないものではなく、よってその点に関しては特に不満はなかった。

 さとうが彼を嫌う理由は――もっとどうしようもない部分。
 生理的な嫌悪感とでも称するのが、一番近いだろうか。


38 : 死がふたりを分かつまで ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 20:58:23 0CUKPpNc0

「(知らない味。甘くもなければ、苦くもない)」

 一言で言うなら、気持ちが悪いのだ。
 最初に顔を合わせたその瞬間から今に至るまでずっと、さとうは彼に拭えない嫌悪感を抱き続けている。
 軽薄な言動だとか無神経な行動だとか、そういう表層的なものではなく、もっと根の深い部分での嫌悪。
 吐き気のするようなどうしようもなく不快な味を、さとうは彼から感じ取ってしまう。

「(早く終わらせて、しおちゃんのところに帰らないと。
  そうすれば私は――永遠に。本当に何にも邪魔されることなく、永遠にしおちゃんと愛し合えるんだから)」

 さとうには、聖杯戦争を勝ち抜かねばならない理由がある。
 当然ながら、この内界で死ぬことになればもう二度と愛する"しおちゃん"には会えない。
 そして賞品である界聖杯の権能――これも、さとうにはとても魅力的だった。

 松坂さとうが"しおちゃん"と育む愛。
 その進む先には、あまりにも敵と障害が多いのだ。
 此処に来る前は彼女と何もかもを捨てて新天地へ行く大勝負に出ていたが、聖杯が願いを叶えてくれるというなら博打を打つ必要もなくなる。
 さとうは、聖杯に愛するしおちゃん……神戸しおとの永遠を願う算段であった。
 だから彼女は、どれだけ苦くても寂しくても戦い続けなければならない。

 そう、たとえ――

「君が懸想する"しおちゃん"への愛情を、ほんの少しでいいから俺にも向けてくれよ。
 そうしたら俺たち、もっと仲良くなれる気がするんだよね」
「キャスター」

 ――唯一頼らねばならない"武器"が、不快な日常を更なる汚濁の味わいで彩ってくるとしても。

「二度とあの子の名前を口にしないで。
 私、あなたとの喧嘩なんかで令呪を使いたくないの」

 以前、何かの拍子につい溢してしまった独り言。
 それをこの悪鬼に聞かれてしまったのが、松坂さとうの最大の失敗だった。
 聞かれてしまった、知られてしまった。この世の何よりも大切な"あの子"のことを。
 その失敗さえなかったなら、この男の汚れた声で彼女の名前を口にされることはなかったのに。

 さとうは本気の敵意と嫌悪を込めてキャスターを睨み付ける。
 しかし当の本人はどこ吹く風といった様子で、ただにやにやと笑っていた。

「よっぽどその子のことが好きなんだねえ」

 これ以上会話をする意味はないと判断し、さとうは再び無碍に会話を打ち切った。
 が。饒舌に戯言を撒き散らす鬼の口はまだ止まる兆しを見せず。
 それどころか、更に彼女の神経を逆撫でするような言葉を口にした。

「君と俺は似ていると思うんだ」

 聞き流せばいいだけの戯言。
 だというのに、さとうはその言葉に足を止めてしまう。
 さながらそこに、無視することのできない何かがあったとでも言うように。


39 : 死がふたりを分かつまで ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 20:58:49 0CUKPpNc0

「俺は物心ついた時から、どうも人の心というやつが理解できなくてさ。
 幸い俺は頭が良かったから、周りに合わせて"演じる"ことはできたんだけど――結局命尽きる瞬間まで、俺にとってそういう感覚は絵空事のままだったよ」
「……、」
「君はまあ、俺よりはまだ恵まれているのかな?
 でも、きっと生き物としてのあり方はとても近い。
 同じ病みを抱えた者同士だからかな、分かるんだ」
「……くだらないこと言わないで。私とあなたは似てなんかいない」
「まあまあ、最後まで聞いてくれよ。大事なのはここからなんだから」

 似てなどいない。こんな化け物の言葉に耳を貸す暇があるなら、これからの展望にでも頭を巡らせた方が有益だ。
 そう頭では分かっていても、狂ったスピーカーのような男の垂れ流す声に耳を傾けてしまうのは。
 ひとえに、さとうが戯言だと断じた言葉が彼女の心に刺さるだけの真実味を持っていたからに他ならない。
 何故なら彼女も、この空虚な悪鬼ほど重篤ではないにしろ。
 人間が誰しも普遍的に持ち合わせ、誰かに与え、そして与えられる"とある感情"を一切持っていなかった身なのだから。

「俺は人の心を持たぬまま、人喰いの悪鬼として滅ぼされた。
 でも――救いはあったんだよ。地獄に墜ちる今際の際に、俺はそれを知れたんだ。
 ねえさとうちゃん。それは、一体どんな感情だと思う?」

 さとうは答えない。
 答えないが。彼女の頭の中には既に、おぞましい答えが浮かんでいた。
 当のキャスターもまた、"分かっている癖に"とでも言うような笑みを美顔に浮かべている。
 白々しいほど美しい虹色の瞳。それがさとうには、油の浮いた水溜まりのように薄汚いものに思えてならなかった。

「愛だよ、さとうちゃん」

 始まりは恋だった。
 しかしその感情は、すぐに蕩けるような愛に変わった。
 そう言ってうっとりと表情を緩ませる、鬼。
 
「俺は恋を、そして愛を知ったんだ。
 聖杯を手に入れたならもう一度彼女に会いたいと本気で思ってる。おかしいよねえ、俺は鬼なのに」
「……もう黙って」
「君も、しおちゃ――ああ、名前呼んだら怒るんだっけ。
 とにかくその子に出会って、愛ってものを教えてもらったんだろう?」
「黙って」
「ほら、俺と君はよく似てる。
 互いにがらんどうのまま生まれて生きて、女の子に愛を教えてもらった似た者同士さ」

 両手を広げて、にこやかに笑いながら彼は言った。
 その時さとうは、未だかつてないほどの嫌悪感と不快感に襲われた。
 自分の全身の血管という血管に蛆虫が犇めいているような、頭の中で蜘蛛の子があちこち這い回っているような。
 もはや甘い苦いの次元ですらない、とてつもなく強烈な嫌悪。
 
「仲良くしようよさとうちゃん、俺たちは同じ愛で救われた仲間なんだから。
 似た者同士の俺たちがこうして巡り会ったのは、きっと運命に違いないよ」
「――黙ってって言ってるでしょ!!」
 
 構うだけ無駄な相手だと分かっているのに、気付けば声を荒げていた。
 今度こそ脚を前に踏み出して、キャスターに背を向けたまま自室へと帰る。
 追ってくる様子はなかった。もしもこれ以上しつこく纏わりつかれていたなら、本当に令呪を使っていたかもしれない。


40 : 死がふたりを分かつまで ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 20:59:37 0CUKPpNc0


 ――ふざけるな。
 お前なんかが、私の運命を騙るな。
 お前なんかが、知った風な顔で私たちの愛を語るな。
 私の運命は後にも先にもしおちゃん一人だけ。
 お前みたいな汚らわしい化け物が入り込む余地なんて、未来永劫ありはしない。

 叶うなら、今すぐにでもあの鬼を殺したい。
 殺すのは簡単だ。陽の光の下に出ろとでも令呪で命じれば、不死身の鬼だろうが簡単に殺せる。
 まだ日は沈みきっていないのだから、今すぐにだって可能な話だ。
 けれどそれをすれば、しおちゃんとの永遠を叶えるどころか、彼女のところに帰ることすらままならなくなってしまう。

「しおちゃん……会いたいよ、しおちゃん……っ」

 しおちゃんに会いたい。
 しおちゃんの居ない毎日はつまらなくて、苦くて、苦しいから。
 しおちゃんが言ってくれる誓いの言葉さえあれば、どれだけだって頑張れる気がするのに。
 シュガーライフは今や残り香すらもなく、松坂さとうの前には冷たくて苦い現実が身を横たえるのみだった。

 それでも――胸の中にある、たった一つの愛を信じて。
 死がふたりを分かつまでと誓った愛を寄る辺に。
 咎人の少女は、地平線の果てへ旅をする。
  

【クラス】キャスター
【真名】童磨
【出典】鬼滅の刃
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:A 魔力:A 幸運:B 宝具:C

【クラススキル】
陣地作成:D
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。"結界"の形成が可能。

【保有スキル】
精神異常:A
 童磨は陽気で表情豊かな言動を見せるが、その本性は非常に虚無的。
 喜怒哀楽のような強い感情や他者への共感性を一切持たない。
 精神的なスーパーアーマー能力。精神攻撃に対する高い耐性を持つ。

鬼種の魔:A
 鬼の異能および魔性を表すスキル。
 鬼やその混血以外は取得できない。
 天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキルで、童磨の場合魔力放出は"冷気"となる。

捕食行動:A
 人間を捕食する鬼の性質がスキルに昇華されたもの。
 魂喰いを行う際に肉体も同時に喰らうことで、魔力の供給量を飛躍的に伸ばすことができる。
 童磨の捕食対象は主に女性。女を喰った場合は若干だが供給量が上昇する。


41 : 死がふたりを分かつまで ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 21:01:09 0CUKPpNc0
【宝具】
『上弦の弐』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:50人
 多くの人間を喰らい、命尽きるその瞬間まで人に恐怖を与え続けた"上弦の弐"の肉体そのもの。
 非常に高い再生能力を持ち、急所である頸を切り落とす以外の手段で滅ぼすのは非常に困難。
 本来であれば"日輪刀"で頸を落とす必要があるが、英霊の座に登録されたことにより弱点が広範化。
 宝具級の神秘を持つ武装であれば何であれ、頸を落として鬼を滅ぼせるようになっている。
 また童磨は"血鬼術"と呼ばれる独自の異能を行使することができ、冷気を操り様々な攻撃を繰り出す。
 技の幅は多岐に渡るが、共通しているのは攻撃の炸裂と同時に大気中に冷気が拡散され、それを吸うと肺が凍り付き壊死すること。
 このため彼と戦いながら満足に呼吸をするのは難しく、戦闘の骨子を呼吸に置いている者などはかなりの苦境に置かれることになる。
 しかし欠点として日光を浴びると肉体が焼け焦げ、浴び続ければ灰になって消滅してしまう。
 このため太陽の属性を持つ宝具、それどころかただの太陽光でさえ致命傷になり得る。

【weapon】
二対の扇

【人物背景】
鬼舞辻無惨配下の精鋭、十二鬼月の一人。
比較的新参ながらも最古参の黒死牟に次ぐ"上弦の弐"に位列されるなど、最上級の実力を持つ。
表向きは新興宗教の教祖を務めながら人を喰らい続けていたが、無限城での最終決戦で遂に頸を刎ねられ死亡する。
しかし彼は今際の際でも悔い改めることはせず、むしろ生前ではついぞ一度も知り得なかったとある感情を知り、高揚に目を輝かせながら地獄へ墜ちていった。

【サーヴァントとしての願い】
再臨するのもいいが、しのぶちゃんにもう一度会いたい。


【マスター】
松坂さとう@ハッピーシュガーライフ

【マスターとしての願い】
聖杯を使い、しおちゃんと永遠に愛し合う

【能力・技能】
 美人で人当たりも良く、勉強もできる。
 男遊びや叔母との生活を経た経験から人の感情を読むことに長けている。
 その一方で自身の愛を邪魔立てするものを排除するためには手段を選ばず、殺人や再起不能級の制裁すら厭わない。

【人物背景】
 高校一年生。
 愛によって満たされるという感情を理解できず空虚な日々を送っていたが、とある少女との出会いで愛を知る。
 少女――神戸しおとの生活を守るためにすべてを尽くしている。
 参戦時期は最終巻、マンションで神戸あさひと接敵するよりも前。

【方針】
界聖杯の獲得に向けて動く。
ただ闇雲に殺し回るのではなく、頭を使って確実に勝ちを狙う。
キャスターに対しては激しい嫌悪。


42 : 死がふたりを分かつとも ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 21:03:35 0CUKPpNc0


 病める時も 健やかなる時も

 喜びの時も 悲しみの時も

 富める時も 貧しい時も

 
 死が二人を分かつまで


 私は───


◆◆


43 : 死がふたりを分かつとも ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 21:04:59 0CUKPpNc0


「さとちゃんは、どうして私のことを生かしたんだと思う?」

 左手の薬指につけた、二つの指輪。
 私とさとちゃんの、大切な愛のかたち。
 形見になってしまったリボンをするするほどいて、じぃっと見つめる。

「一緒に死のうって言ったのにね。
 でも、さとちゃんが意味のないことなんてするわけないから。
 さとちゃんはすごく頭が良くてね、優しくてね、かわいくてね……いっつも私のことばかり考えてくれててね。
 しおちゃん大好き、愛してるって、何回も言ってくれてね」

 私たちはあの日、二人で一つになった。
 いや、もしかすると出会ったあの日からずっとそうだったのかもしれないけど。
 今はもう、私のそばにさとちゃんはいない。
 どれだけ待ってても帰ってきてはくれない。
 さとちゃんのためにがんばってお家を綺麗にしても、寂しいのを我慢して夜まで待っても、約束を破ってお家から出ても。
 何をしても、さとちゃんは私の前に現れない。当たり前だよね。だってさとちゃんはあの日、私を助けてくれたんだから。

「でもさとちゃん、死んじゃった。
 私を助けて、かばって。
 ごめんね、ありがとう、って。言ってね」

 それっきりだ。
 私はたぶん、人より知らないことがたくさんある子どもだと思うけど、それでも死んだ人間はもう二度と帰ってこないってことくらいは分かってる。
 
「それからずっと考えてるの。
 考えても考えてもわからなくて、わからなくてもずっと考えて」
「……、」
「ほんとは、人に訊くのはちょっとずるかなぁ、っても思うんだけどさ。
 らいだーくんは人間じゃないんだよね? だったら、わかる?」

 ――私は。
 神戸しおは、あの日から生まれ変わった。
 胸の中にあるさとちゃんのぬくもりを抱いて、さとちゃんと一緒に生きていくって決めた。
 お兄ちゃんとお母さんに背中を向けて。
 私は。
 私たちの――

「ねえ、らいだーくん。
 さとちゃんは、どうして私のことを生かしたんだと思う?」

 ――ハッピーシュガーライフに、こんにちはをした。


44 : 死がふたりを分かつとも ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 21:05:54 0CUKPpNc0
◆◆


 そんなこと聞かれてもよぉ〜……俺、その女の顔も名前も知らねえんだよなァ〜……

 らいだーくん、と呼ばれた少年。
 サーヴァント・ライダー、真名を"デンジ"という彼は、苦虫でも噛み潰したみたいに顔を顰めながら心の中でそう独りごちていた。
 
 恐らく十歳にはなっていないだろう幼女が自分のマスターであると知った時、彼は面倒臭いのに引かれちまったなと思った。
 その幼女が何やら電波入ったことを言い出したあげく、その懸想する相手がどうも既に死んでいるらしいことを知った時には帰りてえ、と思った。
 誰がどんな重い過去を持っていようと、デンジにしてみればどうでもいい話だ。
 彼の周りにだってそういう人間はたくさん居た。恋人が自分を助けて死んだなんて話なら、それこそこの世に腐るほど転がっていることをデンジはちゃんと知っている。
 ただ。心中するはずだったその恋人がどうして死の間際で己を助けてくれたのかという疑問の答えを自分に問いかけてくるという展開は、さしもの彼もげんなりする案件であった。

「ずっと自分で考えてたんだったらよ〜、答えが出るまで頭捻ってれば良いんじゃねえのかあ?」
「私だってそのつもりだったよ。
 さとちゃんの話を他の人になんて聞かせたくないもん」
「じゃあ何だって俺にノロケて来んだよ」
「私、知ってるんだよ。
 "サーヴァント"って、いっかい死んだ人のことなんでしょ?」
「それは……まぁ、そうらしいな。
 俺は死んだ時のこととかあんまりよく覚えてねぇから、どうも実感ねえんだけどもよ」

 神戸しお。デンジを召喚した少女は、えらく排他的な性格をしていた。
 いや、外面は人懐っこくて純朴な歳相応の少女だ。そういう風に見えるように、恐らく彼女は演じている。意図的に。
 けれどしおは、自分の内側を他人に知られることをえらく嫌う。デンジには、そう見える。
 さらりと今もそういうことを言っていたが、要するに彼女は、自分の大切なものは人に触らせずずっと独り占めしていたいタイプらしい。

 なのにデンジに対しては、しおはそういう側面を一切見せなかった。
 死んだ"さとちゃん"のことも話すし、自分が後生大事に抱えてきた疑問をあっさりと共有してくる。
 それがデンジには不可解だったが、ようやくその理由が分かった。

「死んだ人ってことは、さとちゃんと同じだから」
「……そういうもんかァ〜?」
「そういうもんかもしれないし、違うかもしれない。
 でもね、知りたいの。だってしお、おばけ見たことないから――
 らいだーくんに聞けるチャンス逃したら、もうずっとおばけの意見は聞けないかもしれないでしょ?」

 そう言って、しおはじっとデンジの顔を見上げる。
 蒼い、サファイアのような瞳は大きくて丸くて、あどけないはずなのにどこか見ていると不安になるような深みを秘めていた。
 まるで、深海まで続く海溝を覗き込んでいるような。

「……、」
「ねえ。らいだーくん」
「そりゃあ、よぉ〜……普通にアレなんじゃねえのか?」

 その瞳には確かな狂気がある。
 受け継いだ狂気。一緒になった狂気。
 あの日、あの夜、空に消えた彼女の名残。
 それは毒だ。人の心を惑わし、寒からしめ、時に壊しも殺しもする猛毒だ。
 今時のガキってのはみんなこうなのか?
 だとしたら世も末だぜ、とデンジは眉根を寄せる。
 
 それから頭をぽりぽりと面倒臭そうに掻きながら、彼は言った。

「お前に生きてほしかったってだけなんじゃねえの?」


45 : 死がふたりを分かつとも ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 21:08:08 0CUKPpNc0

 再現された東京都――その一角。
 コンクリート・ジャングルの中に紛れて聳えたマンションの一室。
 本来の家主は聖杯戦争の参加者であったが、彼のサーヴァントはデンジが斬殺した。
 哀れにも予選期間中に脱落したマスターは絶叫しながら逃げていき、晴れてこの部屋は神戸しおの"お城"になった。

「……どうしてそう思うの?」
「そりゃあ〜、大事なヤツが死ぬのは嫌なんじゃねえか? 普通は」

 一瞬、デンジの頭の中をいくつかの顔が過ぎった。
 それは、黒髪の青年であったり。或いは、赤い二本角の生えた魔人であったりしたが。
 それ以上物思いに耽るでもなく、デンジは座り心地のいいソファに腕を投げ出して身を委ねる。

「しっくり来ねえとか言われても知らねえからな。俺の女だってんならちったあ真面目に考えてやるけどよ〜……」
「ううん。ありがとう、らいだーくん。
 そっか。そういう考え方もあるよね」
「普通そういう考え方しかなくねえか? あんま難しいこと考えてると疲れちまうぜ」

 ともかく、他人の女、それも死んだ女についてあれこれ頭を使ってやるつもりはデンジにはない。
 会話を打ち切って部屋の天井をぼけっと見つめながら、テーブルの上に置いた炭酸飲料へ手を伸ばそうと身を起こす。
 
「あ」

 そこで、ふと思い出した。
 そろそろはっきりさせておかなければならないことが一つあった、と。

「そういやお前、結局どうすんだよ聖杯戦争。やんの? やんねえの?」
「やる」
「え゛〜、やんのかよ。あんまりノれねえみたいな顔してなかったかあ?」
「迷ってたの。でも、やっぱり私はさとちゃんに会いたいから」

 界聖杯を巡る聖杯戦争。
 その概要と情報は、神戸しおの幼い脳にもしっかりとインプットされている。
 しおとデンジが経験した戦いはこれまでにたった一度、それも自衛のための戦いだった。
 それ以降は一体のサーヴァントにも出くわしていないし、探そうともしていない。
 ただこの"お城"の中で、毒にも薬にもならない毎日を過ごしていただけ。
 けれどそれも――

「さとちゃんは私の中にいる」

 今、この時までの話。
 ぐるぐるぐるぐると回るだけだったコンパスの針は、ようやく確かな方角を指差した。
 
「でも、私はもっかいさとちゃんとお話したい。
 さとちゃんに触りたいし触ってほしい。
 さとちゃんの隣に立って、一緒に歩いていきたい。――…一緒に、生きていきたい」
 
 愛してるから、としおは虚空に呟いた。
 たとえ、強欲と罵られようとも。
 人の命を踏み台に願いを叶えようとする罪人だと糾されても――


46 : 死がふたりを分かつとも ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 21:09:12 0CUKPpNc0
 神戸しおは、"今の"神戸しおは、何も迷わない。
 何をしてもいいのだと知っているから。愛を偽らない限り、しちゃいけないことなんてないのだと分かっているから。
 自分が愛し、そして彼女が愛した、あの日常を永遠のものに戻すため。
 あの日叶えられなかった二人の夢を、今度こそちゃんと叶えてあげるために。

「だからね、私は壊すよ。
 私"たち"以外の全部の願いごとを壊すから」
 
 だかららいだーくん。
 協力してね。

 そう言って、神戸しおは――深海の眼差しをにこりと細めた。
 デンジはそれに、「……おう」とただ一言応じるのみだった。
 この世界に悪魔はいない。だからデビルハンターも居ないし、その出る幕もない。
 チェンソーマンと呼ばれた彼が今回殺すべき悪魔は、願い抱くものすべて。

 幼い天使がその手に握ったチェンソー。
 ぶうん、ぶうん、と音を立てながら。
 天使はすべての悪魔の死を願う。

「――待っててね、さとちゃん」

 
 ハッピーシュガーライフに、おかえりを言うために。


47 : 死がふたりを分かつとも ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 21:10:11 0CUKPpNc0
◆◆



 病める時も 健やかなる時も

 喜びの時も 悲しみの時も

 富める時も 貧しい時も

 
 死が二人を分かつとも


 私はさとちゃんを愛することを誓います


【クラス】
ライダー

【真名】
デンジ@チェンソーマン

【ステータス】
筋力B 耐久EX 敏捷C 魔力D 幸運D 宝具EX

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
騎乗:D
 騎乗の逸話は存在するが、デンジはその方法を履き違えているためランクが極めて低い。
 彼がライダークラスに当て嵌められている理由は、騎乗能力によるものではなく。
 "デンジという人間の中で"鼓動を刻むモノの存在が大きい。

【保有スキル】
■■■■:A
 意識は姿は人間だが、悪魔に変身できる存在。
 特定の動作――デンジの場合は胸のスターターロープを引いてエンジンを吹かすことが変身のトリガーとなる。
 変身後は基本的に不死身となるが、蘇生には血液の供給が必要不可欠。魔力での代用は原則できない。
 かつては無名ではなく特定の呼称が存在したが、現在その名前は失われ、誰の記憶の中にも残っていない。

単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。


48 : 死がふたりを分かつとも ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 21:11:00 0CUKPpNc0

【宝具】
『Chain saw man(チェンソーマン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
悪魔に最も恐れられた悪魔、チェンソーの悪魔。正確には、その心臓。
デンジが"ポチタ"と呼び友人として愛した悪魔の心臓は、今もデンジの中で彼の代わりに鼓動を続けている。
彼の持つ全ての異能と戦闘能力はこの宝具によって後天的に獲得したものであり、サーヴァントとしてのデンジは一人の人間としての彼ではなく、彼の体内に存在するこの心臓を参照して英霊の座に登録されている。
通常、この宝具による恩恵は変身能力とそれに由来する擬似的な不死性の獲得のみで、デンジ自身の意思では真名解放を行うことも出来ない。
だが、もしも彼の身体に眠る"チェンソーの心臓"が真に解放される時が来たならば。
その時人々は、人間の恐怖を背負って戦う"地獄のヒーロー"の威光を拝むことになろう。

【weapon】
チェンソー

【人物背景】
チェンソーの悪魔"ポチタ"と契約し、彼によって命を救われ、新たな人生を歩み始めた少年。
サーヴァントではあるものの、前記の通り"デンジ"というよりは彼が持つ"チェンソーの心臓"の方にフォーカスを当てられる形で召喚されているため、生前の記憶は一部曖昧だったり欠落していたりしている。
具体的には、支配の悪魔――マキマを倒し、彼女と一つになって以降の記憶がごっそり抜け落ちている。
ただ本人はあまり気にしてもおらず、久方振りの現世をそれなりに満喫出来ればいいや、くらいの気分でいる模様。

【サーヴァントとしての願い】
女と美味い食い物に囲まれて、ありえないくらい幸せになりたい


【マスター】
神戸しお@ハッピーシュガーライフ

【マスターとしての願い】
さとちゃんにもう一度会って、今度こそずっと一緒に愛し合いたい

【weapon】
特に持たない。

【能力・技能】
身体能力も知力も歳相応で、特に逸脱したところはない。
しかし内面には、"さとちゃん"から受け継いだ狂気と深い愛を飼う。

【人物背景】
天使、太陽、月。そう呼ばれた少女。
砂糖のお城の中で愛を知り、永遠の愛を誓って、そして愛するものと一つになった。
年齢は八歳。参戦時期は原作最終巻で兄・神戸あさひと完全に決別して病室を出た後のどこか。

【方針】
さとちゃんのように頑張る。
死がふたりを分かつとも。


49 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/28(金) 21:11:19 0CUKPpNc0
以上で投下を終了します。


50 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/05/28(金) 23:55:12 Cye6DUvo0
投下します


51 : 結崎ひよの&キャスター ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/05/28(金) 23:56:14 Cye6DUvo0


――――1年がこんなにも早く過ぎてしまうのに、一生をどれだけうまく生きられるでしょう?



誰そ彼時。
学校の屋上で、一人の女が佇んでいた。
赤を基調としたブレザーに、肩まで伸ばしたお下げが特徴的な女。
結崎ひよの。
それが、この偽りの東京で女に…否、少女に与えられた名前だった。


「もう、『結崎ひよの』を演じる事は無いと思っていたんですけどね……」


燃える様に赤く輝き地平線へと沈んでいく夕日を眺めながら、ぽつりとひよのは呟いた。
そう。
彼女の言う通り、結崎ひよのという少女は本来存在しないのだ。
本名も、実年齢も、人生も、何もかもが偽り。
結崎ひよのという少女は、女が神に命じられるままに演じていた虚像なのだから。
事実、時が満ちれば神の指揮のままに、結崎ひよのは幻の様に消え失せた。
彼女が愛した神の弟の、最後にして最大の絶望となるべく。
そして、神の弟がその試練を乗り越えた時――結崎ひよのの、名も知れぬ女の役目も終わったのだ。


なのに、今彼女は此処にいる。
再び天に、結崎ひよのの名を与えられて。
万能の願望器を巡る戦いに挑めと、この地に招かれたのだ。
願う願いは確かにある。
たった一つ、真っ先に思い浮かんだ願いが。


「でも、それを願ってしまうのは果たして正しいんでしょうかねー…」


彼に生きていてほしい。
未来のない身体で、運命に呪われた子供たちの希望となるべく笑っていた彼に未来を届けたい。
全てが閉じていく円環ではなく、いつか遥かな地平へ辿り着く螺旋の未来へ送り届けたい。
その願いが、無慈悲とも呼べる現実と戦うことを選んだ彼への冒涜なのは理解している。
だが…それでも、現実にその手段が手の届く位置にあれば、手を伸ばすことを考えずにはいられない。
人は現実にしか生きられないが、夢を見ずに生きるのが全てとは思いたくない生き物なのだから。

ブレード・チルドレンに、破滅をもたらす因子など宿ってはおらず。
彼が残酷な運命を背負う必要のない、何処までも都合のいい世界。
自分が彼の隣に居れなくてもいい。その資格がない事は、分かっている。
だが、彼がいつまでも変わらぬ音色を響かせられるように。
なるべくなら、良い日々が多く送れるように。

―――そう願う事は、罪なのだろうか。



「……貴方は、どう思いますか。キャスター」


くるりと身を翻して、ひよのは己が従僕に尋ねる。
与えられたサーヴァント。彼女にとっての矛であり盾。
悠久の時を生きる種族と言われる彼女ならば、答えをもっているかもしれない。
そう考えての問いかけだった。


52 : 結崎ひよの&キャスター ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/05/29(土) 00:00:18 cTCb6mt.0

「それは、マスターが決めなきゃいけない」


瞬間、ひよのの眼前に一人の少女が現れる。
女と言っても、人間ではない。
純白のローブ、二つに結んだ白髪と、ヒトよりも長い耳が特徴的なエルフの少女。
その背丈はひよのよりも小さく華奢で、見た目からはとても信じられないだろう。
彼女が、あらゆる千年を超える時を生き、魔王すら打倒した勇者一行の一員であったことなど。
史上最も多くの魔族を斃したと謳われ、葬送の二つ名を持つ大魔術師。
『葬送のフリーレン』は、マスターの問いかけに凛とした声で、そう答えた。


「…えぇ、そうですね、貴方に答えを乞おうとするのは卑怯だったかもしれません」


淡白な己のキャスターの返答も気にする様子はなく、ひよのは穏やかに笑みを浮かべる。
元よりこれは自分で決めなければならない事だから。
彼を裏切ってでも彼を救うか。彼を救える千載一遇の奇跡を見逃してでも彼の信念に殉じるか。
きっと、何方を選んでも悔恨の炎に焼かれる事になるだろう。
そんな夢を持ったことすら、後悔することになるかもしれない。
人は夢を見ずには居られない生き物だが、夢はたいてい人を裏切るものだから。
けれど、それを恐れずに進める者だけが…裏切りも暗闇も知りながらなお進めるものだけが、夢を叶える権利を得るのだ。
彼が生きられる世界という夢を獲るか、彼の選択を尊重するか。
答えは今はまだ出ない。


「……マスター」


この世の酸いも甘いも知り尽くした老婆の様な、初恋に身を焦がす乙女の様な、ひよのの横顔。
そんな横顔を見て、キャスターは杖を握りしめながら静かに告げる。


「貴方がもし、聖杯を目指すというなら、私は協力するよ
大切な仲間と過ごした日々に、背かない範囲でね」
「あら、てっきりキャスターはこの戦いにあまり興味が無い様子だと思っていましたけど…
もしかして、何か叶えたい願いが?」
「ううん、そういう訳じゃないよ。ただ……」


此処まで冷淡だったキャスターの思わぬ言葉に、意外そうな顔でひよのは彼女の顔を見つめた。
雪の妖精の様に白く美しい顔は感情に乏しく、ひよのの目からも真意を伺うのは難しい。
だけれど。


「―――置いて逝かれる事がどういう事かは、分かってるつもりだから」


この少女の言葉にはきっと嘘偽りはない。
その事だけは確信することができた。


「――そうですか。では、まずはこの聖杯戦争について調査することから始めましょうか。
今の私たちは置かれている状況に対して余りにも無知で、何もかもが未確定です。
答えを出すのは、ある程度情報が集まってからでも遅くはありません」
「そう。結論の先延ばしにならないようにね」
「えぇ、勿論。貴方の言葉を裏切らないように此方も最善を尽くさせてもらいます。
これでも名探偵の助手をやっていたので、情報収集には自信があるんですよ?」


そう言って、迷うことなくひよのは手を伸ばした。
キャスターはその手をじっと見つめた後、ゆっくりと差し出された手を握り返す。
そして、夕日が二人を照らす中でキャスターは思うのだ。
……知りたいと。
自分がかつて勇者に抱いた想いと似た想いを持つマスターを。
マスターの言う彼とは、どんな人間なのかを。
……知ろうと思った。
かつて、人間の事をもっと知ろうと旅に出た時の様に。


想いを胸に。
葬送のフリーレンの新しい旅路が、幕を開く。


53 : 結崎ひよの&キャスター ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/05/29(土) 00:01:16 cTCb6mt.0

【クラス】
キャスター

【真名】
フリーレン@葬送のフリーレン

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力A+ 幸運A 宝具B

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。が、どうも性格的に向いていないらしく、工房を作る事さえ難しい。

高速神言:A
「高速詠唱」の最上位スキル。呪文・魔術回路との接続をせずとも魔術を発動させられる。大魔術であろうとも一工程(シングルアクション)で起動させられる。神代の言葉なので、現代人には発音できない。

フランメの教え:A
キャスターの師である人類魔術の開祖であるフランメの教え。
常に一定の魔力を放出することで魔力量の多寡を相手に誤認させる効果を持つ。
このスキルが発動している限り敵サーヴァントやマスターはキャスターの魔力量をCランク程度にしか認識できない。
千年以上守ってきた教えだけあって看破は非常に困難、真名看破に類するスキルを持っていなければキャスターの本当の実力を図るのは不可能に近い。

葬送のフリーレン:A
史上最も魔族を葬り去った魔術師として名を馳せ、魔王すら打倒した逸話から生まれたスキル。
魔に類するものと相対した瞬間、キャスターの魔力ステータスと高速神言、そして後述の宝具に特攻補正が発生する。

【宝具】
『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:100
かつて魔王軍歴代の中でも屈指の魔術師であるクヴァールが開発、考案した史上初の貫通魔法。
あらゆる防御魔法や武具の魔法耐性を貫き被弾した人体を削り取り直接破壊する。
この宝具は例えAランク相当の対魔力や魔法耐性の宝具を以てしても軽減はできない。
かつてクヴァールが猛威を振るった地方では冒険者の四割と魔術師の七割がこの魔法によって命を落とした。
その後クヴァールは封印されゾルトラークも研究され尽くし、一般攻撃魔法呼ばれるまでに零落したが考案者のクヴァールとクヴァールをゾルトラークによって打倒したフリーレンだけはかつての逸話のままにこの宝具を放つことができる。
加えてフリーレンの放つゾルトラークは魔族にも特攻効果を持つ改良版であり、人魔の属性を持つサーヴァントに特攻効果を有する。


【人物背景】
勇者ヒンメルの仲間であったエルフ族の魔法使い。見た目は華奢な少女だが、1000年以上の刻を生きる伝説の魔法使いで、魔族からは「葬送のフリーレン」の名で恐れられている。
一方で、あまりにも長寿命故か、感情の起伏が乏しく、情緒が未発達で、見た目以上に子供っぽい一面もある。
趣味は魔法の収集で、実用性が薄い魔法や変わった魔法をよく集めている。同時に凄腕の使い手でもあり、敵味方問わず一目置かれる存在。しかし、魔王討伐から50年以上経過しているため、一般的な知名度は低い。
機微に疎く、寝起きが悪く、ミミックの罠によく引っ掛かるなど、ずぼらな一面もあるが、基本的に冷静沈着な性格で、こと魔族に対しては容赦がない。

【マスター】
結崎ひよの@スパイラル〜推理の絆〜

【マスターとしての願い】
鳴海歩に未来を与える。

【能力・技能】
高い情報収集能力と人並外れた度胸と行動力。銃器の扱いにも精通する。

【人物背景】
月臣学園2年で新聞部部長。
童顔で年上に見えず、亜麻色の髪と緩くしたおさげが特徴の、自称『恋に夢みる美少女』
本作の主人公である鳴海歩を献身的に支え続けた。

【方針】
現状は中立派。
序盤は聖杯戦争そのものの調査に動く。

【備考】
参戦時期は七十六話『優しく、羽飾りを』でピアスを受け取った後。


54 : 結崎ひよの&キャスター ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/05/29(土) 00:03:52 cTCb6mt.0
【クラス】
キャスター

【真名】
フリーレン@葬送のフリーレン

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力A+ 幸運A 宝具B

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。が、どうも性格的に向いていないらしく、工房を作る事さえ難しい。

高速神言:A
「高速詠唱」の最上位スキル。呪文・魔術回路との接続をせずとも魔術を発動させられる。大魔術であろうとも一工程(シングルアクション)で起動させられる。神代の言葉なので、現代人には発音できない。

フランメの教え:A
キャスターの師である人類魔術の開祖であるフランメの教え。
常に一定の魔力を放出することで魔力量の多寡を相手に誤認させる効果を持つ。
このスキルが発動している限り敵サーヴァントやマスターはキャスターの魔力量をCランク程度にしか認識できない。
千年以上守ってきた教えだけあって看破は非常に困難、真名看破に類するスキルを持っていなければキャスターの本当の実力を図るのは不可能に近い。

葬送のフリーレン:A
史上最も魔族を葬り去った魔術師として名を馳せ、魔王すら打倒した逸話から生まれたスキル。
魔に類するものと相対した瞬間、キャスターの魔力ステータスと高速神言、そして後述の宝具に特攻補正が発生する。

【宝具】
『人を殺す魔法(ゾルトラーク)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:100
かつて魔王軍歴代の中でも屈指の魔術師であるクヴァールが開発、考案した史上初の貫通魔法。
あらゆる防御魔法や武具の魔法耐性を貫き被弾した人体を削り取り直接破壊する。
この宝具は例えAランク相当の対魔力や魔法耐性の宝具を以てしても軽減はできない。
かつてクヴァールが猛威を振るった地方では冒険者の四割と魔術師の七割がこの魔法によって命を落とした。
その後クヴァールは封印されゾルトラークも研究され尽くし、一般攻撃魔法呼ばれるまでに零落したが考案者のクヴァールとクヴァールをゾルトラークによって打倒したフリーレンだけはかつての逸話のままにこの宝具を放つことができる。
加えてフリーレンの放つゾルトラークは魔族にも特攻効果を持つ改良版であり、人魔の属性を持つサーヴァントに特攻効果を有する。

【weapon】
千年間で磨き上げた多種多様な魔術の数々

【人物背景】
勇者ヒンメルの仲間であったエルフ族の魔法使い。見た目は華奢な少女だが、1000年以上の刻を生きる伝説の魔法使いで、魔族からは「葬送のフリーレン」の名で恐れられている。
一方で、あまりにも長寿命故か、感情の起伏が乏しく、情緒が未発達で、見た目以上に子供っぽい一面もある。
趣味は魔法の収集で、実用性が薄い魔法や変わった魔法をよく集めている。同時に凄腕の使い手でもあり、敵味方問わず一目置かれる存在。しかし、魔王討伐から50年以上経過しているため、一般的な知名度は低い。
機微に疎く、寝起きが悪く、ミミックの罠によく引っ掛かるなど、ずぼらな一面もあるが、基本的に冷静沈着な性格で、こと魔族に対しては容赦がない。

【マスター】
結崎ひよの@スパイラル〜推理の絆〜

【マスターとしての願い】
鳴海歩に未来を与える。

【能力・技能】
高い情報収集能力と人並外れた度胸と行動力。銃器の扱いにも精通する。

【人物背景】
月臣学園2年で新聞部部長。
童顔で年上に見えず、亜麻色の髪と緩くしたおさげが特徴の、自称『恋に夢みる美少女』
本作の主人公である鳴海歩を献身的に支え続けた。

【方針】
現状は中立派。
序盤は聖杯戦争そのものの調査に動く。

【備考】
参戦時期は七十六話『優しく、羽飾りを』でピアスを受け取った後。


55 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/05/29(土) 00:04:13 cTCb6mt.0
投下終了です


56 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/29(土) 17:13:36 zX4WWZec0
>>結崎ひよの&キャスター
スパイラル好きなので文章の繊細な雰囲気やひよのの葛藤に良いなぁ〜となってました。
虚像を演じる意味をなくした後の彼女をわざわざ"結崎ひよの"の名前で放り込む辺りに界聖杯くんのデリカシーの無さが垣間見えます。
そんな彼女に充てがわれたサーヴァントであるキャスター・フリーレンとの会話がまたいいですね。
静かで綺麗な語らいの中で始まる彼女たちの旅路の行き先が気になるところです。
ご投下ありがとうございました。


それでは自分も投下させていただきます


57 : 死柄木弔&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/05/29(土) 17:14:32 zX4WWZec0
 目の前で金色の粒子に崩れ、呆けた表情を浮かべながら消えていった斥候めいた服装の男。
 どうやらサーヴァントという奴は、力で崩しても残骸が残らないらしい。
 さんざっぱら痛め付けられて身体中が痛むが、青年はぎょろりとその双眸で残ったもう一人の"敵"を捉えた。
 身体をがたがたと恐慌に震わせ、這うようにして逃げていく男。
 サーヴァントが居る間はえらく居丈高な態度を取っていたが、今となっては見る影もなかった。

「おいおい……駄目だろ。
 人に暴力振るっといて、ちょっとやり返されたら尻尾巻くなんて」

 待て、だとか。やめろ、だとか。
 何なんだお前は、だとか。ありえない、だとか。
 何やら色々喚き散らしていたが、耳は貸しても足は止めない。
 
「大人なんだからさ……自分のやったことにはきちんと責任持とうぜ」

 腰が抜けているのかまともに立てない様子の獲物に追いつくのは実に容易かった。
 虫でも潰すように上から踏み付けて、地面に縫い止め身動きを封じる。
 もはや喚く声は、本当に言葉としての意味を一切持たない雑音に変わっていた。
 辛うじて助けて、やめて、という音が聞き取れた気もするが――どうでもいいことだ。
 主従共々油断して、丸腰のマスターが相手と舐めた結果、まんまとサーヴァントを殺された愚かな男。
 その背中に、青年は彼の英霊に対してそうしたように五指で触れる。
 それで、もうすべて終わりだった。ぼろぼろと形を失って崩れ、末期の叫びもあげられずに男は泥や砂の仲間入りを果たす。
 後に残った残骸も、夜風が一陣びゅうと吹けば簡単に吹き散らされ、そこに人間が居た痕跡は完全に消滅した。

 たかだか一マスターの身で、相手の油断があったとはいえ英霊に頼らず一つの主従を脱落させた。
 その快挙を誇るでもなく、マスターの青年は廃墟の床へと座り込む。

「人が久々に気持ち良く寝てたってのに……邪魔しやがって」

 ――異様な風体の青年だった。
 
 黒いコートを羽織り、身体の随所に人間の手を装着している。
 顔立ちは端正だが、しかし老人のように深い皺と乾きで醜く彩られていた。
 見る者を不安にし不吉な予感を抱かせる、"凶兆"という概念が人の像を結んだかのような青年。
 サーヴァント不在の身で敵と遭遇し殺されかけながらも、それを逆に殺し返した負の可能性の器。
 社会を憎み、敵(ヴィラン)と呼ばれ、同じ名で呼ばれる犯罪者たちが集まった"連合"を率いていた若き大悪。
 最悪の魔王の寵愛を恣にした彼の名を――死柄木弔、といった。

「身体が痛え。疲れが抜けねえ。率直に言って最悪の気分なんだが……」

 張り裂けそうに乾いた唇。
 そこから紡がれる声は嗄れ、とてもではないが二十歳の若者のそれとは思えない。
 そしてどうやら、その言葉は単なる手慰みの独り言ではないようだった。

「とりあえず言い訳してみろよ、サーヴァント。
 どうせあんたがけしかけたんだろ? さっきの連中」
「けしかけた、とは失敬だなァマイマスター。
 大意としては間違っちゃいないが、もっと含蓄のある言い方をして欲しいところだ」

 一体、いつからそこに居たのか。
 或いは、今この瞬間まで本当に存在していなかったのか。
 定かではないが――老獪な笑みを浮かべて笑うその老紳士は、今死柄木弔の前方に立っていた。


58 : 死柄木弔&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/05/29(土) 17:15:12 zX4WWZec0

「そう不貞腐れないでくれたまえよ。
 君がもし本当に殺されそうになったなら、その時はちゃんと助太刀に入るつもりだったとも。
 私にとってもこれほど大きな混沌に立ち会えるのは稀有なんだ、投げ捨てるのは些か惜しいのでネ」

 混沌、というのは言わずもがなこの舞台そのもののことなのだろう。
 死柄木は彼の婉曲な言い回しを鬱陶しく思っていたが、そのくらいは理解できた。
 聖杯戦争。万能の願望器、界聖杯を巡るルール無用のバトルロワイアル。
 なるほど確かに混沌(カオス)だ。死柄木の望む形の混沌とは、また少々異なっていたが。

「そんな事ぁ分かってる。あんたは自殺するような殊勝なタイプには見えねえ」
「無論、やるからには最後に笑えるよう立ち回るつもりサ。
 しかしそれならそれで、共犯者の能力がどの程度なのかは把握しておかねばならんだろう?」

 眼鏡の奥から死柄木を見つめる眼光は、紳士然とした身なりとは裏腹の剣呑さを帯びていた。
 そこにあるのは、"悪"のハイエンドを知る死柄木をして息の詰まりそうな感覚を覚えるほどの――悪の輝き。
 社会を、人を、主義を、主張を、差別を、格差を、富を、力を、罪を、罰を。
 それら全てを、あまねく手のひらで転がす支配者の光。これによく似たものを、死柄木は過去に見た覚えがあった。

「テストしたってことかよ。最近の年寄りはどいつもこいつも若者を試すのが好きで困るぜ」
「ととと年寄りちゃうわ! 私はまだアラフィフだよアラフィフ。ようやく魅力が円熟してくる頃合いだとも!」
「……で? その赤ペン先生の目から見て、俺はどうだったんだよ」
「結論から言えば――期待通りだよ」

 一瞬緩んだ空気が、次の瞬間すぐに冷え締まる。
 柔和な微笑を浮かべ、髭を指先で弄びながら、続けた。

「信じて貰えないかもしれないがね、私は君を一目見た時実に興味深いと感じた。
 君の瞳は滅びを呼ぶ者のそれだ。追及することはしないが、余程悲惨な人生を送ってきたのだと推察する」
「まァ……間違っちゃいない」
「洗練されてはいないが、開花しつつある――と言ったところかな。
 師に恵まれたネ、死柄木弔。君からは大きな、とても大きな悪の気配を感じるよ」
「――そういうあんたは、俺の"先生"とよく似てる。
 やけに舌がよく回るし、ナチュラルに上から講釈垂れてくるところなんかそっくりだ」
「はっはっは、そうかなー?
 私としては、どうにも君の先生殿とは音楽性が合わない予感がしてるんだが……、おっと、話が逸れてしまった。元に戻そう」

 コホン、と咳払いを一つする。
 老境に差し掛かり始めた者特有の、乾いた咳だった。

「これは私の持論だがね。聖杯というのは実に巨大な力だが、それ単体ではただ大きいだけだ。
 重要なのは変数――"X"の値なのだよ。私は件の界聖杯とやらに対して知見が深いわけではないが、あれもこの論の例外ではないと思っている。
 そしてだ、死柄木弔。君は間違いなく、聖杯を掴むに足る規格外の変数であると保証しよう」
「回りくどいな……何が言いたい」
「私は、君が聖杯を手にした未来を見てみたい」

 その、意味合いは――。
 死柄木弔という人間の悪性、その内に眠る凶暴性を垣間見た者であれば誰もが理解できるだろう。
 死柄木はただのありふれた犯罪者、テロリストではない。
 彼がその程度の器でしかなかったなら、この犯罪王に並ぶ闇の支配者であるかの者が見初めることもなかった。
 彼の進む道に付き従う同胞ができることもなければ、こうして聖杯戦争の舞台に辿り着き、そして邪智を極めた犯罪王を呼び寄せることもなかったはずなのだ。

 死柄木の進む先には破壊と、破滅しかない。
 それを確信した上で、尚も"悪"は彼へと尋ねた。
 さながら、そうすることに意味がある、とでも言うかのように。

「聞かせてくれたまえ、我がマスター。
 君は――かの界聖杯を手にし、何を願う?」


59 : 死柄木弔&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/05/29(土) 17:16:03 zX4WWZec0
「……力」
 
 数拍置いて死柄木が口にした答えに、紳士はピクリと眉を動かした。

「あんたは勘違いしてるのかもしれねェが……俺は別に、聖杯の力で願いを叶えたいなんて思っちゃいない。
 俺の願いを叶えるのはあくまで俺だ――俺は俺の手で、何もかもをぶっ壊すんだよ」

 死柄木弔の憎悪は、もはや単純な結果の提供だけで収まるものではない。
 聖杯を用いて破壊衝動を叶えることは簡単だろう。
 願いを告げればただそれだけで、人も草木も全てが滅んだ死の荒野が出来上がるはずだ。
 だが、それでは意味がない。願って叶ってはい終わりなどという簡単なプロセスで満たされるほど、彼の心に眠るその衝動は軽くないのだから。

「聖杯は……所詮、ただのガソリンだ。
 俺にありったけ力を渡してくれりゃ、別に願いは叶えてくれなくてもいい――ああ、いや……これが"願い"になるのかな」

 死柄木は、自分が未だ不完全な存在であることを自覚している。
 だが聖杯の力があれば、社会の破局を齎せるだけの領域に上り詰める道中を全て無視できる。
 あらゆる願いを叶える力とやらに希って手に入れる力は、さぞかし強大なのだろう。

 先生の持つどの"個性"よりも強く。
 ドクターの唱えるどの理論よりも早く。
 怪物・ギガントマキアさえも瞬時に平伏させ、忌々しいヒーロー共さえ鎧袖一触にケチらせる究極の力。
 想像しただけで心が躍る。笑みを堪えられなくなって、くつくつと笑い声が溢れていく。
 その邪悪極まりない笑顔に――犯罪界のナポレオンと呼ばれた男さえもが、一瞬怖気を覚えた。
 そして思う。ああ、間違いない。彼こそは、この己が教え導くに足る変数であると。地平線上の全てを破局と滅亡に追いやる、破滅の子であると。

「素晴らしい。さっきは期待通りだと言ったがね、あれは訂正させて貰おう。君は――期待以上だ」

 脳内に過ぎったのは、彼を悪の道に踏み入らせた原点(オリジン)。
 星を砕く空論は、ついぞこの身で実現させるには至れなかったが。
 今目の前にあるのは、それを追い求めていた時の情熱をすら思い起こさせる"可能性"だった。

「君の魔道にお供しよう、死柄木弔」
「もっと早くそう決めてくれてたら、俺はモブ共にボコられないで済んだんだけどな」
「はっはっはっは、過ぎたことは気にしないのが楽しい人生のコツだぞ死柄木君。
 この私が――ジェームズ・モリアーティが、君に知恵を貸すと決めた。
 その傷の慰謝料としてはお釣りが来るくらいの誠意だと思うぞう?」
「……やっぱり、あんたは先生に似てるよ」

 うんざりしたように嘆息して、会話を打ち切る青年。
 彼はこの時、まだそのことを知らないが。
 彼の肉体は、後に魔王の器となることが確定していた。
 しかしその野望は、界聖杯による可能性蒐集というイレギュラーによって阻まれ。
 代わりに死柄木弔は、別世界の大悪と手を組んだ。

 無限の悪意を持ち、世に蔓延り続ける闇の支配者。
 至上の叡智を持ち、蜘蛛の糸を垂らして事件を起こす邪智のカリスマ。
 果たしてどちらと組んだ未来が、世界に対してより深い爪痕を刻み込むのか。

 その答えは、未だ――地平線の彼方に。


【クラス】アーチャー
【真名】ジェームズ・モリアーティ
【出典】Fate/Grand Order
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:D 敏捷:A 魔力:B 幸運:A 宝具:C


60 : 死柄木弔&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/05/29(土) 17:17:15 zX4WWZec0

【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:A+
 マスターからの魔力供給なしで活動できるスキル。
 ランクが高いほどサーヴァント単体で活動できる時間が延びる。
 A+のランクではマスターが不在でも支障なく行動可能である。

【保有スキル】
魔弾の射手:EX
 歌劇「魔弾の射手」の幻霊より取り込んだ能力。その魔弾は狙った獲物を必ず仕留める。
 
蜘蛛糸の果て:A++
 邪悪を画策する能力。
 秩序を破壊し、善を穢し、しかして自分に対して因縁や罰を向かわせない。
 蜘蛛が作った網のように相手を取り込み、貶める。

邪智のカリスマ:A
 国家を運営するのではなく、悪の組織の頂点としてのみ絶大なカリスマを有する。
 モリアーティの悪性カリスマはA、英国だけでなく世界全土を影から支配することも可能なランク。

【宝具】
『終局的犯罪(ザ・ダイナミクス・オブ・アン・アステロイド)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:100人
モリアーティが目指す"惑星破壊"を具現化した宝具。
サーヴァントとして召喚されたため、"対軍"程度の規模に留まっているが、力を増幅させれば「対都市」「対国」と範囲が広がっていく。
モリアーティが目標としている、窮極の破壊。

【weapon】
超過剰武装多目的棺桶、銃の仕込まれた杖

【人物背景】
飄々とした五十がらみの壮年男性。
親しみやすいが大変に胡散臭く、当人も自身を「悪人」と推定している。
しかしながら途轍もない頭脳を有しており、僅かばかりの手掛かりからサーヴァントの真名を的中させ、手にした情報から間違いない最善策を講じてみせる。

真名――ジェームズ・モリアーティ。
本来の性格は冷静、冷徹、理路整然とした厳粛な紳士。
遠慮深謀を突きつめた完全犯罪を画策し、華麗な手口で遂行"させる"最凶の策士。
常に余裕と気品を以て他者と相対し、その人物の性質を卓越した頭脳で明確に分析してみせる知略の怪物。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯以上に、死柄木弔という"悪"の羽化に強い興味。


【マスター】
死柄木弔@僕のヒーローアカデミア

【マスターとしての願い】
全てを破壊する。
そのために、界聖杯から力を絞り出す。

【能力・技能】
個性"崩壊"
 五本の指で触れた人や物を崩壊させる。対象は触れられた部分から徐々に崩れていき最終的には跡形もなく崩壊する。
 五指すべてが対象に触れることで個性が発動するが、死柄木自身にもオンオフを切り換える事はできず、条件を満たせば強制的に発動してしまう。
 不安定なメンタルが影響し、無意識の内に力にセーブがかかっており、本来は崩壊したものと接触したものまでもが崩壊していく、極めて広範囲の破壊を可能とする個性である。

【人物背景】
 "個性"を悪用する犯罪者集団・敵連合のリーダーを務める、病的な痩身の青年。
 作中最大の大悪に"次の自分になりうる歪みを持って生まれた男"と称される、恐るべき可能性の器。
 当初は短絡的で幼稚な人物として描かれていたが、様々な経験から多くのことを学び、悪の指導者として日々成長を遂げている。
 本企画では師の従者・ギガントマキアを"認めさせる"為の戦いを繰り広げている最中からの参戦とする。

【方針】
普段と何も変わらない。
敵連合のトップとして、一人の敵(ヴィラン)として、悪の限りを尽くす。


61 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/29(土) 17:17:38 zX4WWZec0
投下終了です


62 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/30(日) 20:04:13 kPezrl1.0
投下します


63 : 紙越空魚&アサシン ◆0pIloi6gg. :2021/05/30(日) 20:10:39 kPezrl1.0
 アパートのベランダに出て空を見上げる。
 見渡す限りの青空だったが、けれどそれは所詮"空の青"程度の色味でしかない。
 あの深い深い、どこまでも深い、吸い込まれるような青空には程遠かった。
 それは今私の居るこの世界が裏世界ではないことの証拠だったけれど、いっそあっち側に放り込まれていた方がまだマシだったかもなと思う。
 だって此処が裏世界でないということは――今私の置かれている状況はすべて夢幻などではない現実の産物だということになるからだ。

 今。私こと紙越空魚は――厄介なことに巻き込まれている。
 誰かさんと出会ってから……いや、あいつと出会う前からも大概に厄介事ばかりの人生だったけど。
 それでも此処までのことは初めてだと胸を張ってそう言える。死にかけたこと、殺されかけたこと、発狂しかけたこと――本当にいろいろあったけど。
 さしもの私も、殺し合いをさせられるなんて事態に覚えはなかった。

 殺し合い。そう、殺し合いだ。
 儀式といえば聞こえはいいけれど、オブラートを取っ払ったら後に残る実像はただの蠱毒もどきでしかない。
 どんな願いでも叶えてくれる摩訶不思議なアイテムを巡って、最後の生き残りが決まるまで殺し合う。
 何度反芻してみても、漫画かアニメの中の話としか思えないような現実味に欠けた話だった。

 けれど、陳腐な設定や舞台を笑えるのはいつだって読者ならではの特権だ。
 何度目かの深い溜め息をつく。此処に来てからというもの暇さえあればこうしているから、すっかり癖になってしまったみたいだ。

「鳥子、心配してるだろうな」

 空を仰いで、ぽつりとそう溢す。
 仁科鳥子。お世辞にもコミュニケーション能力が高いとは言えない私にできた、大事な大事な友達。そして、未来永劫ただ一人だけの共犯者。
 此処一年くらい暇さえあればずっとつるんできた鳥子の姿は、当たり前だけど此処にはない。
 あくまで巻き込まれた、選ばれたのは私一人――ということなんだろう。
 それは本来安心するべきこと。でも私はそれ以上に"寂しいな"と感じてしまってもいて、自分の心のさもしさに苦笑する。

「死ねないな、やっぱり」

 これも天命としたり顔で諦められるほど私のメンタルは強くない。
 でも、私が諦められないと思う理由は死ぬのが怖いからというだけじゃなかった。
 それ以上に大きな、自分でもびっくりしてしまうほど大きな感情が、私に生きろと訴えかけている。

 ――だって私が帰らなかったら、鳥子多分泣いちゃうし。
 あいつ最近、私のこと好きすぎだから。
 見てるこっちが恥ずかしくなってくるくらい、わんこかお前ってくらい懐いてくるし。
 ほんとに仕方ない奴なんだ、鳥子は。
 ほんとに―― 

「(我ながらむちゃくちゃだ、言ってること)」

 ああ、ごまかし方が下手すぎる。
 髪の毛をくしゃっと握って、私は呟いた。
 そうだ、むちゃくちゃだ。私は、鳥子のために帰りたいわけじゃない。
 私はあくまで自分のために、鳥子のところに帰りたいと思っているんだ。


64 : 紙越空魚&アサシン ◆0pIloi6gg. :2021/05/30(日) 20:11:13 kPezrl1.0

 この世界に喚ばれて、最初は混乱した。
 聖杯戦争、サーヴァント、どれも愛読している実話怪談たちが遠く霞むほどぶっ飛んだ内容だったから。
 でも少し時間が経って落ち着いたら、今度は怖くなった。死ぬことが、じゃない。それよりももっとずっと、怖いことがあった。
 それは――鳥子に。むかつくほど綺麗で、呆れるほど大事なあの女に、もう二度と会えないかもしれないということ。

 もう一度だけでいいから会いたいなんて殊勝なことは言わない。
 一度だけだなんて認めない。これからもずっと、私は鳥子と過ごしていたいんだ。
 まだやれてないことがいっぱいある、知れてないことがたくさんある。
 裏世界だって探索できたのはまだほんの一部でしかないし、せっかく改造したAP-1の元だって全然取れてない。
 ああ、本当に未練だらけ。私が幽霊だったなら、まず間違いなく成仏できずにやばげな怪異に成り果てているとこだ。

「腹は決まったか?」

 その時、ふっと部屋の中に私以外の気配が生まれる。
 振り向けば、そこに居るのは黒髪で、えらく筋肉の引き締まった身体をした男だった。
 この人が、この界聖杯内界なる異界における私の唯一の味方であり、武器。
 アサシンのサーヴァントだ。私はこの世界で目を覚ましてすぐに敵に襲われ、危ないところを彼に助けられている。
 だから、当然知っている。この目でしっかりと見たサーヴァントのデタラメさは、今も私の脳裏に焼き付いたままだった。

「腹が決まった、っていうか。
 結局スタンスとしては現状と何も変わらないことになりそうなんですけど」

 裏世界の怪異を彷彿とさせるような、禍々しくておぞましい異形の怪物。
 彼はそれを、片手に持った武器一つで徹底的に打ちのめし、叩きのめして引き裂いた。
 私や鳥子がいつも死ぬ思いでやっていることを、表情一つ変えずに淡々とやってのけたのだ。
 その強さは、私が知る限りでは一番やばい人間であるGS研の汀をすら遥かに凌ぐもので。
 聖杯戦争という儀式の苛烈さ、恐ろしさを肌で感じ取るには十分すぎるファーストコンタクトであったと言える。

「私は、生きて元の世界に帰れれば何でもいいです。
 聖杯とか特に興味ないんで、とにかく生きて帰りたいなって」
「そりゃ奇特だな。だが良いのか? 俺が巧えのは、生かすことじゃなくて殺すことだぞ。この意味はわかるよな」

 アサシンは、聖杯に託す願いを特に持っていないという。
 興味はあるが、使うアテがねえ――とか、そんな感じのことを言っていた気がする。
 奇特なのはお互い様だろうと思ったけど、軽口を叩き合う間柄でもないので胸に秘めることにした。

「自分が生き残るために、どっかの見知らぬ誰かを踏み潰す。それでいいんだな」
「そうしなきゃいけないなら、その時はそうしてください」

 ……断っておくと、私だってできることなら人なんて殺したくはない。
 この聖杯戦争という儀式のルールは理解しているけど、それでもできる限りは手を汚さないで済むといいな、と思ってる。
 誰かの命の重みなんてしんどいものは背負いたくないし、そんなものを背負って鳥子に会いたくはない。
 でもそれは、あくまで"できる限りは"――だ。
 聖杯戦争は殺し合い。都合のいい抜け道があるならそれでいいけど、もしかしたら本当に、生還の席は一人分しか用意されていないかもしれない。
 そうでなくたって道中で殺されかけることもきっとあるだろう。
 そうなった場合は、話が別だ。だって四の五の言ってられる状況じゃない。


65 : 紙越空魚&アサシン ◆0pIloi6gg. :2021/05/30(日) 20:11:49 kPezrl1.0
 
「この状況で、顔も知らない誰かの命を気にできるほど余裕ないんですよ。
 私はとにかく生きて帰りたい。元の世界に、日常に戻りたいんです」
「あぁ、そういう感じね。なら俺としても手間が省けてやりやすいわ。
 それに、殺すなって言われてもどの道手遅れだ」
「……え?」

 そう言ってアサシンは、私に何かをひょいと投げ渡してきた。
 キャッチして、検めて――思わず、「ひっ」と短い悲鳴をあげて取り落とす。
 それは、指輪だった。綺麗な宝石が埋め込まれた指輪。
 乾きかけの血がべっとりとこびり付いた、指輪。

「この辺りを嗅ぎ回ってる奴が居たんでな。
 何日か掛けて塒を突き止めて、マスターを殺して脱落させた。
 そいつは戦利品だが、要らねえなら俺に寄越せ。何かの役には立つだろ」

 私は、その言葉にただこくりと頷くしかできなかった。
 生きて帰る。
 そのためなら、必要に迫られれば他の参加者を排除することも辞さない。その考えは今も変わっていない。
 ただ――何か。自分は何か、決して越えてはいけない一線を一歩、確実に踏み外した。
 その実感だけは、生きるためだからという大義名分を盾にしても、いつまでも私の中に生々しく残り続けた。


◆◆


「半々ってとこか」

 その男に、かつて人間としての肉体と命があった頃。
 男は、術師殺しの二つ名で以って恐れられていた。
 術師ならば誰もが知る名家に生まれながら、一切の才能を……術師として必要不可欠な力を、真実一切持たずに生まれた欠陥品。
 そんな男に英霊としての霊基が与えられている理由は、この上なく単純にして明快だ。
 彼は紛うことなき落伍者であり、持たざる者であったが――しかしそれ故に、あまりに強すぎたのである。

 天与呪縛――フィジカルギフテッド。
 呪力を持たないという縛りの対価として、超人の身体能力と五感を手に入れた"怪物"。
 禪院、もとい伏黒甚爾。それが、この暗殺者の真名だった。

「イカれちゃいるが、イカれ切れてねえ。
 クジ運の悪い女だな、こんな人でなしを引いちまうなんて」 

 甚爾は、言わずもがな非常に優秀な暗殺者だ。
 天与呪縛による超身体能力に加え、宝具として持ち込んだ呪具の数々。
 綿密な計画を立てて敵を殺す脳もあれば、女子供を殺しても心を痛めない冷血の精神も持つ。
 彼を正しく使うことが出来れば。"生きて帰る"という紙越空魚の願いは、決して絵空事ではなくなるだろう。
 だが、しかしだ。忘れるなかれ――これが長けているのは、あくまでも殺し。
 生かすための戦いであるならば、そのためにまず彼は敵を殺す。
 紙越空魚の帰り道は、他人の流血で舗装された道になる。彼らが勝とうが負けようが、これだけは決して揺るがぬ確定事項だった。


66 : 紙越空魚&アサシン ◆0pIloi6gg. :2021/05/30(日) 20:13:31 kPezrl1.0

「ま……ちゃんと仕事はしてやるよ。俺みたいな猿の取り柄なんざ、精々そのくらいだからな」

 伏黒甚爾に、聖杯へ託す願いはない。
 未練はなく、悔いもなく、生き返りたいとも思わぬ身だ。

 故に此処での彼も依然変わらず、仕事を請け負い人を殺す"術師殺し"。
 クライアントをマスターと改めて、天与の暴君は獰猛にその瞳を燦かせた。


【クラス】アサシン
【真名】伏黒甚爾
【出典】呪術廻戦
【性別】男性
【属性】中立・悪

【パラメーター】
筋力:A+ 耐久:B 敏捷:A 魔力:- 幸運:D 宝具:C

【クラススキル】
気配遮断:A
 サーヴァントとしての気配を絶つ。
 完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
 ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【保有スキル】
天与呪縛:EX
 強大な力を得る代わりに何かを犠牲にしてしまう、先天性の特異体質。
 甚爾の場合は呪力を"完全に"持たないという世界でただ一人の非常に稀有な例。
 そのため得られる恩恵も非常に大きく、彼の場合は超人的な肉体と、異常に鋭敏な五感という恩恵を獲得している。
 本来は"魔力"ではなくあくまで"呪力"がゼロになる体質だが、英霊となったことで湾曲され、"サーヴァントでありながら一切の魔力を持たない霊体"という形に定義し直されている。肉体も限りなく受肉体に近く、霊体化することもできない。
 ただしその代わり、彼に対する魔力感知の類は一切機能しない。
 
プランニング:C+
 対象を暗殺するまでの戦術思考。
 軍略と異なり、少数での暗殺任務にのみ絞られる。

呪霊使役:D
 後記する宝具の一環として、武器庫の機能を持つ呪霊を使役している。
 呪霊と甚爾の間には主従関係が成立しており、契約を奪取することは不可能。
 呪霊の体内には甚爾の宝具である呪具の数々が格納されている。

【宝具】
『天与の暴君』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
最強の六眼を覚醒させ、最悪の呪詛師が生まれる要因となった悪名高き術師殺し、伏黒甚爾という人物そのもの。
他に類を見ない規格外の天与呪縛も厳密に言えばこの宝具の一部と化しているが、此処では甚爾が戦闘で用いる呪具についてを記載する。
武器庫呪霊の体内に格納した呪具もその全てが甚爾の宝具と化しており、彼は生前同様これを用いて戦う。
呪具の中には"特級"と呼称される物も存在し、発動中のあらゆる術式を強制解除する『天逆鉾(あまのさかほこ)』に、伸縮自在の『万里ノ鎖』、単純に圧倒的な破壊力を誇る『游雲』、超硬度の龍をも切り裂く刀――などが挙げられる。

【weapon】
呪具


67 : 紙越空魚&アサシン ◆0pIloi6gg. :2021/05/30(日) 20:13:57 kPezrl1.0

【人物背景】
術師殺し。
生まれは呪術界御三家の一角・禪院家であったが、呪力を持たない体質から冷遇され、出奔。婿入りして姓を禪院から伏黒へと改めた。
とある依頼を受けた際、後に最強となる六眼の少年と呪霊操術の少年を相手取り、完封。
ターゲットであった少女の暗殺にも成功するが、反転術式で自己蘇生し、覚醒を果たした六眼の前に敗れ、自分の息子を彼へと託して死亡した。

【サーヴァントとしての願い】
願いはない。サーヴァントとして仕事をするのみ。


【マスター】
紙越空魚@裏世界ピクニック

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る。

【能力・技能】
ネットロアや実話怪談に対して造詣が深く、かなり豊富な知識を持つ。
また、過去に自分を入信させようと迫るカルト宗教を相手に家出や廃墟探索を繰り返していた時期があり、人間相手に追い詰められた際には常軌を逸した行動力を発揮する。

右目
 裏世界の住人「くねくね」と接触した影響で変質した右目。
 鉱物のような青色を湛えており、裏世界の存在を見通す力がある。
 また更にこの目で相手を凝視することにより、人間を一時的に発狂させるような使い方も可能。普段は黒のカラーコンタクトレンズを右目に入れて青い目を隠している。

【人物背景】
 女子大生。
 廃墟探索を趣味としており、その際に見つけた扉で"裏世界"の存在を知った。
 その後、裏世界の中で知り合った女・仁科鳥子に誘われ、実利を伴った趣味として裏世界に足を運ぶようになる。
 母親を事故で早くに亡くし、その後、祖母や父はカルト教団に傾倒、教団への加入を進める崩壊した家庭の家族から逃れるために家出や廃墟探索を繰り返していた過去がある。

【方針】
鳥子のところに帰るのを最優先する。
なるべくやりたくはないが、必要な状況になれば他のマスターを排除することも已む無し。


68 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/30(日) 20:14:33 kPezrl1.0
投下終了です。


69 : ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:05:00 lbsfcuW.0
投下します。


70 : 学生の本分 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:09:09 lbsfcuW.0
 東京のある学校内で、空っぽのクラスである女子生徒がぼぅっと立っていた。
 もう、生徒は誰もが帰っている。
 赤い長髪が窓から差し込む太陽の光に映える、この女性の名前は伊府椿。
 椿は悩んでいた。
 くだらぬ嫉妬、醜い一時の感情で殺してしまった妹を蘇らせたい。それが自分の願いだった。
 自分が生き返って家へと帰る資格など無い事は判っている。いや、この聖杯戦争とは恐らく罪を犯した自分への報いなのではないだろうか。そして、死んだ妹だけでも助ける方法なのでは。そう椿は思ってすらいた。
 しかし周囲の人間を蹴落とし殺しても罪に罪を重ねる行為ではないか。他者を踏み台にしても何も解決しない。椿は死の間際でそれをよく理解していた。
 だからこそ困っていた。私はどうすればいいのだろう、と。
 死んだはずが、いつの間にかこうして聖杯戦争なんて言うものに巻き込まれている。そんなおかしな現象に対する戸惑い。
 そして、自分自身に持たされた力。サーヴァントに対する戸惑い。

 いつの間にか在校生として設定され、通学している学校の教室内で悩んでいるさなか、誰かが教室の扉を開けた。


71 : 学生の本分 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:11:02 lbsfcuW.0
 一組の男たち。不思議なかっこうをした男と、時代錯誤な剣を持った男。
 サーヴァント……そして魔術師、という輩だろうか。いち学生として過ごしてきた椿とは縁のない人種だ。
(剣を持っているから確か……セイバーというクラスだったかしら?)
 実感が無いせいか、あるいは元々死んでいた身だからか、はたまた彼女自身の血なまぐさい事件に適応する素養からか。椿の頭は命の危機に際し奇妙に冷え切っていた。
「聖杯戦争のマスターだな」
「……争うつもりはないのだけど」

 落ち着いてはいるが、その消極的な言動や外見から一般的な範疇の女子高生であると見抜いた相手マスターは、それでも逃がさないとばかりにサーヴァントと共に構える。
「だろうな。だが、一般人のマスターを逃がす道理もない。残念だが、死んでもらおう。良いなセイバー!」
「……ああ。だがマスター、サーヴァントの姿が見えない。警戒を怠らず、速やかに決着をつけよう!」
「うむ。素人が相手とは言え油断はしない。喰らえっ!! A……」
 セイバーのマスターが詠唱と共に必殺の魔術を放とうとしたその時。

「うるせえええええええええ!!!!」

 屋上一帯を震わせる大音量で、絶叫が聞こえた。
 人払いだのなんだの、そういった魔術を突き抜け、何かがどこかからやってくる。


72 : 学生の本分(誤字訂正) ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:12:19 lbsfcuW.0
訂正です。
×屋上一帯を震わせる大音量で、絶叫が聞こえた。
〇教室一帯を震わせる大音量で、絶叫が聞こえた


73 : 学生の本分 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:14:20 lbsfcuW.0
 直後、轟音と共に隣の教室から壁をブチ破って敵サーヴァントとの間に着地したその存在に、
「バ、バーサーカー……?」
 と椿は目を白黒させて言った。
 一切マスターとして扱いきれてないが、それは間違いなく椿のサーヴァントだった。

 彼女の言葉が正しければバーサーカーらしきその存在。
 日の丸ハチマキに四角い眼鏡、そして学ラン。棒のような手足をしたその男は絵にかいたようなガリ勉の姿をした……サーヴァントである。
 その様相と、近寄る際のどこかコミカルな動きとは全く逆の、異様に圧力を感じさせる雰囲気を纏ってバーサーカーが迫る。
 顔は真顔だが、闘志と殺気は冷静とは到底言えぬものであった。

 バーサーカー、たかしは怒っていた。
 本気目杉たかしは怒り狂っていた。

「受験勉強の邪魔だあああ!!!」

 叫んだ。


74 : 学生の本分 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:16:12 lbsfcuW.0
 激昂と共に異常な速度でたかしが飛び掛かっていく。敵主従は驚いて咄嗟に防ぐが、思わずその勢いに押しのけられた。

 強い。

 しかもその外見に反して異常に肉体を駆使した戦いをする。バーサーカーの名に全く恥じぬパワーファイト。
 嵐のようにチョップを叩き込み、隙があればボディプレスなどを仕掛けてくる。
 彼の持つ圧力がもたらす産物なのか、その手刀は何倍にも肥大して見えた。

 徐々に追いつめられたセイバーは舐めるなとばかりに剣を振り上げ、叩き斬ろうとする。
 ……しかし、たかしは跳躍した。大剣の間合いの何倍もの高さを。軽々と。
 なるほど常人ならぬサーヴァントの戦いならばこういった常軌を逸した回避もあり得るだろう。
 だが敵も英雄、それくらいでは驚かない。


75 : 学生の本分 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:18:23 lbsfcuW.0
 跳躍に合わせセイバーも飛び上がる。空中では互いに回避も難しい。そう思われた矢先。
 たかしの両足が腹部へ深々と突き刺さっていた。
 
 ドロップキック。
 
 既存の人類が放つ軌道のそれとは異なる。跳躍した空中の一点で更に水平方向に加速し蹴り飛ばす、たかしの得意技であった。
 血か、胃液か。そういった何かしらの液体がセイバーの口腔から滴り落ちる。
 ああ、英霊と化しても血は出るのだな。
 そんな当たり前の場違いな思考が入り混じり、遅れて不快感が脳裏を支配する。
 そして、その痛みにひるんだ瞬間。身体を掴まれ。

「ひゃ……」
 
 悲鳴とも空気ともつかぬ音が出る。
 だが。
 お構いなしに、さらなる跳躍と共に、バックブリーカーが炸裂した。
 ごきりっと鈍く大きな音が鳴る。
 背骨が折れる音と、地面から周囲に伝わる衝撃、そして着地点の巻き添えに敵マスターも踏みつけられた音が混ざった音だ。
 勝負は決した。
 教室は、破壊でグチャグチャになっていた。

 ●

 敵を倒した後、軽快に勝利の踊りを踊ってから、さっさと遁走と帰宅の準備をしだすたかし。


76 : 学生の本分 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:20:09 lbsfcuW.0
 妹を殺した直後に証拠隠滅を冷静に考えていた自分が言うべきことではないのかもしれないが、その平常運転とでも言うべき迷いの無さに椿は引いていた。
 仮にも同じ現代人であっただろう自身のサーヴァントに、思わず言葉が出る。
「聖杯戦争が、不安ではないの……? たかし君」

 関係ない。
 たかしが生前元の世界で戦ってきた敵は正にこういう輩どもだったのだ。
 火や風を操ってこようが、瞬間移動や魔法じみた力を使ってこようが全て一緒だ。大軍で来ようと、銃器や戦車を操ろうと関係ない。
 避けて防いでボコりつつプロレス技でぶちのめし続ければいつかはくたばる。
 彼の居た場所は荒れ果てた時代であった。
 高度な社会システムや街並みは普通にあったのだが、悪党が溢れ悪の組織や怪生物のようなものが跋扈していた歪で冗談のような世界。


 そしてそいつらはどいつもこいつも受験勉強の邪魔だった。


 それからたかしの戦いが始まったのだ。やかましい受験の邪魔になる、国を揺るがすテロリスト紛いの組織を全てこの手でぶちのめす戦いが。
 気に入らない奴らはぶっ潰す。それがたかしのやり方だった。


77 : 学生の本分 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:23:47 lbsfcuW.0
 悪の基地はたかしの殴り込みによって殲滅され、首領らしきものを倒し、世には平和が戻った――が、たかしは大学の受験に落ちた。
 そして今、たかしはその功績から英霊となっていた。
 英霊の座に、登録されていたのだ。
 
 迷惑な話だ。そんなクソの役にも立たない「座」なんぞに行きつくよりたかしは受験に成功したかっただけなのに。
 聖杯戦争? しるか。
 邪魔する奴らは全員ぶっ飛ばす。
 このふざけた催しも叩き潰す。
 ついでに今度こそ大学に受かってみせる。
 それがかつて世を救った英雄にして受験生、本気目杉たかしのやり方だった。邪魔する相手はまとめてぶっ飛ばす。
 そして……マスターからすれば、手に負えない輩でもあった。

 足をぐるぐる回転させて走りさっさと椿の設定された自宅へと帰っていくたかしを見て、彼女はこの暴走するサーヴァントに付いていけるのか疑問に思った。
「たかし君……そこまでして受験に受かりたいの? 君は……」
 生まれに追い詰められ必死で勉強し続け自分を見失い、慕ってくれた家族を殺すという罪を犯した自分と、勉強が進まない鬱憤で暴れまくって英雄にまで上り詰めてしまった男。
 最初は皮肉な組み合わせだと思ったのだが、こうして見ると……なんだかぶっ飛びすぎててそれどころではなかった。


78 : 学生の本分 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:27:06 lbsfcuW.0
【クラス】
 バーサーカー
【真名】
 本気目杉たかし(まじめすぎ たかし)@夕闇の前奏曲
【パラメータ】
筋力B 耐久A 敏捷C 魔力D 幸運C 宝具C
【クラススキル】
 狂化:E
 理性や知性を失わせ戦うスキル。
 だが生前より元々まったく喋らず激昂して暴れ続ける性質のためかほとんど意味がなく飾り同然となっている。
【保有スキル】
 プロレス:A+
 レスラー技術。様々な存在相手に使い、ひとつの組織すら完全に壊滅させた実績からランクはA+となっている。
 彼は通常のレスリングと違い、同等の条件での戦いよりも乱戦や異常な相手への対処に慣れているためレスラーとしては変則的。
 相手がこちらに不利な魔術や異能、多勢の力を行使する場合は筋力と敏捷がワンランク上がり、高ランクの戦闘続行と同じ効果を持つ。
【宝具】
『夕闇の前奏曲(タカシノオジュケンコウシンキョク)』
 ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大補足:100
 バーサーカーがそこにある妖怪や乗り物を使いこなし暴れつくした戦歴が具象化した宝具。
 発動した瞬間出現した木箱を破壊することで任意で中から物体を召喚、状況に応じて使いわけることができる。
 またこの宝具により彼はライダーの適正も持っている。

 バイク 高速長距離移動ができる自転車。自転車だがたかしの無尽蔵の脚力によりそれこそバイクのように飛び跳ね、障害を跳ね飛ばす。
 戦車 砲撃能力と僅かな間のホバージャンプ能力を持つ戦車。また戦車としては異常に軽い。
 幽霊 憑りつかせ霊体化による物理攻撃無効とジャンプによる浮遊、一時的に成仏させることによる回復。
 河童 背に乗っての移動や自分を振り回させての連携攻撃。
【人物背景】
 受験勉強の邪魔だと言うだけで軍事力と異能者を有した悪の組織を叩き潰して日本を救った男。
 なお大学受験には落ちて、腹いせに自転車で悪の組織の首領を高速道路で引きずり回した。
【サーヴァントとしての願い】
 受験合格。受験の邪魔者を全て潰す。


79 : 学生の本分 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:28:53 lbsfcuW.0
【マスター】
 伊府 椿(いぶ つばき)@血染めの花
【マスターとしての願い】
 自身が狂って殺してしまった妹を生き返らせたい。
【能力・技能】
 一般的な範疇だが、優秀な頭脳を持った努力家。また初見の死体に対しても冷静に対処できる。
【人物背景】
 容姿端麗で成績優秀な高校三年のミステリー部の部長。外見は赤みがかった長髪。
 実は殺人鬼(殺し屋)から生まれたとの噂があった子供で、孤児院から養子として医師の家庭に引き取られた過去を持つ。
 殺人者の子として見捨てられる恐怖から養父母に認められるため必死で勉強をしてきたのだが、後に養父母の元に生まれた妹の一言がきっかけで激高しその妹を殺してしまう。
 更にそれとは無関係の事件に巻き込まれつつも暴走し、最後には自分を愛していた妹を殺してしまったことを後悔し懺悔と共に死んでいった。

【方針】
 とにかくこのバーサーカーをどうにか制御したい……


80 : ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 21:29:41 lbsfcuW.0
投下終了です。


81 : ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:10:13 8974krqg0
投下します

以前、他企画のFate/Over Heavenにて投下したものからの流用となります


82 : 絶対悪 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:11:02 8974krqg0

「素晴らしい」

薄暗い路地裏で、パチパチと拍手の音が鳴る。

「......」

男は拍手の主を訝しげに睨みつけていた。

「きみは召喚されるなり、すぐに己の欲望に身を任せた。主人である私に意思疎通を図るよりも早くね」

男の傍には一つの肉塊が転がっていた。涙を流し、その実った果実からはピンク色の先端を曝け出したかつて「女」だった肉塊が。
その塊から溢れる赤い液体と白の粘液を見れば何があったかは語るまでもないだろう。

「どんな人間にも感情というものがある。犯罪を犯す時にはとりわけそれが顕著になりやすい。それが興奮にせよ後悔にせよ、だ。だがきみは違った。まるで息を吐くかのように拳を振るい、間食のインスタントラーメンの如く貪り、飽きればそのナイフを突き立てる。常人では決してできない行いだ。悪の権化とも言い換えられる」

賞賛してるのか小馬鹿にしてるのか、男はますます声の主への感情を募らせる。

「召還されたのがきみで良かったよ。きみのような純粋な悪こそ、私に仕える資格がある。共に、この戦いを愉しもうじゃないか、バーサーカー」

声の主は優しい声音で語りかけつつ己の掌を差し出す。
主の挙動や言葉は、彼と同じ種の者ならば嫌悪を抱かずむしろ心地の良いものだった。

「...お前、誰に指図してんの?」

だが、バーサーカーは違った。主と相対した時から、あたかも自分が主人だという上から目線な言動が癪に触っていた。

「なに調子こいてんだこのクソ親父!今の超ォォ〜〜〜〜〜ムカツクわぁーーーーッ!!」

バーサーカーは恫喝と共に側のゴミ箱を蹴り飛ばし、中身をブチまける。中からはネズミや蛆、ゴキブリが湧き出すが男は意にも介さずナイフを強く握りしめる。

「おめーみたいなイキってる奴が1番ムカツクわ」

眼前でナイフをチラつかせられるも、主はニコニコと微笑むだけで一寸の恐怖すら見せない。
それが尚、バーサーカーの腹の虫を刺激し殺意をますます滾らせる。

「オラァァァ!!死ねやァァ!!!」

一喝と共にナイフは振り下ろされる。
主がこのまま抵抗しなければ間違いなくその心臓を貫くだろう。


83 : 絶対悪 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:11:33 8974krqg0

キンッ

しかし、突き立てられたナイフから金属音が鳴り響くも、主からは一切の血が流れていない。
金属板でも仕込んでたか、と判断したバーサーカーは一歩退くも、しかし時既に遅し。

「きみは確かに素晴らしい。しかし、噛み付く相手を間違えてはいけないよ」

ボコボコと主の腕が蠢き、その形状が変化していく。
なんだこれはと驚く間もなく、主の腕が煌めきバーサーカーへと振るわれる。
その正体が金属であることに気がついたのは、バーサーカーが壁に減り込んだ後だった。

立ち昇る砂煙に、ゴミ箱に群がっていた虫が、ネズミやネコが巻き込まれてはたまらないと一斉にその場を離れていく。

「ほう、これでもピンピンしているとは流石は英霊というだけはある」

コキコキと首を鳴らしながら壁から出てきたバーサーカーに、主は称賛の言葉をかけるも、バーサーカーは主を睨みつけるだけでそれ以上動こうとすらしない。

「どうやら私をマスターとして認めてくれたようだね」
「...ッチ 」

バーサーカーは舌打ちと共にナイフを仕舞う。
主の言葉通り、彼に服従を誓ったーーー訳ではない。
先ほどのやり取りで理解した。このマスターとの戦闘は割に合わないと。
故に今だけは矛を収めるーーーが、それで彼の殺意が収まった訳ではない。
この聖杯戦争を勝ち抜いたら必ず殺す。バーサーカーは苛立ちを胸に、この気に食わないマスターと勝ち抜くことに決めた。

「......」

そんな不満気なバーサーカーを見ながら主は思う。
こんな男は初めてだと。
主はバーサーカーを殴りつけてから、密かに脅しをかけていた。彼が持つ能力の一つ、強力で凶大な『悪意』のプレッシャーとでもいうべきものだ。
これを受ければ、一般人はもちろん現場慣れした警官ですらまともに動けなくなる。
これが効かないとすればそれは、異なる種である『魔人』のような者たちくらいだろう。
だが、バーサーカーは効く効かない以前にそもそもこの脅し自体を『認識できていなかった』。
魔人ですらそれ自体は認識できていたというのにだ。
それはバーサーカーが英霊だからだろうか。否、それ以前の問題ーーーバーサーカーが自分と同レベルの『悪』だからではないだろうか。
同じレベルの『悪』であれば、悪意のプレッシャーなど感じなくて当然。それ故にバーサーカーは悪意を感じ取ることが出来なかったのだ。

「...シハ、シハ、シハ」

かつて奪った笑い声を漏らす。
実に面白い。この聖杯戦争、できれば支配する側で傍観したかったが、たまにはこの手で血と臓物を贄に器を満たすのも悪くない。
それに、ニュースを見る限り、あの子もこの街に来ているようだ。
あの六面体の箱で自分がここにいることをアピールしているのか、それとも以前のように全てを忘れてまた自分を探すという無意味な自己満足に浸っているのか。あの子がいまどういう状況かはわからないが、ひとまずは探し出すべきだろう。
そして、ついでにNPCとして復活していたリコの自殺を今度はちゃんと見届けてあげよう。気が向いたらだが。

悪意の権化達が消えた路地裏。
そこに残された女性や窒息したネコネズミの肉塊は言外に訴えていた。

次は、お前だと。


84 : 絶対悪 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:12:14 8974krqg0


【クラス】バーサーカー

【真名】パコさん

【出典作品】パジャマな彼女

【ステータス】
通常
筋力C 魔力E 耐久D 幸運B 敏捷C 宝具:B

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】

狂化:A+
全能力を向上させるが、マスターの制御さえ不可能になる。



【保有スキル】

直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。


戦闘続行:C
往生際が悪い。

ブチギレ:EX
なにかの拍子で突如ブチ切れる。
特に突き飛ばされたりした日には対象に地獄を見せることだろう。


【宝具】
『漆黒の殺意(オメーみたいな英霊気取ってる奴が一番ムカツクわ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:英霊1体
英霊のみに有効。パコさん若しくはマスターの指定したサーヴァントにこの宝具を使用すれば、相手の英霊としての保有スキル・宝具を短時間(少なくとも5分以上)使用不可にできる。
また、英霊としての『補正』もなくすことができるため、これを使われた英霊は生前の頃のステータス且つ宝具を使用できない状態で、英霊であるパコさんと戦うハメになる。


『スウェーバック』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:己のみ
両腕を交差させ、不意打ち気味に迫り来る得物にすら目を一切逸らさずにかわすことが出来る。
基本的には己の魔力を消費し大概の攻撃をかわすが、令呪を一画使えばかの『刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルグ)』のように必中の武器であろうともよけることができる。




【weapon】
・ナイフ

【人物背景】
『パジャマな彼女』に登場する名無しのモブキャラ。
登場話数2話、コマ数は50コマにも満たないという登場期間の短さに反して、今まで和気藹々としていた作中の空気をぶち壊した彼の存在は多くの読者を困惑と恐怖に陥れた。
簡易的に述べると
・道行く一人で行動している人に通行料金5万円などとふっかけ、好みのタイプの女であれば「おっしゃパコろーぜ」と朝飯食いに行くような軽さで車に連れ込みパコろうとする。
・相手が嫌がると突如キレだし自分(相棒)の車をガンガン蹴り始める。
・脅した相手を慣れた手つきで車に乗せ連れ去る。
・襲った相手がTVに出てると知るやいなや、恐れを微塵も抱かずますます興奮する。
・「殺すぞマジで」と脅しかけるのがもはや脅しではなく宣告。
・殺すと決めれば、一切の躊躇いがなく心臓を突き刺しにいき、刺した後も一切怯えず笑みを浮かべる。その際相方にはドン引きされている。

など、作中屈指のクレイジーさを見せ付ける。

また
・車を蹴りで傾ける
・不意打ちを難なく避けて逆に返り討ちにする
・スウェーバックが素人ではなくプロのそれ(腕を交差するクロスガードをすることで万が一自分に攻撃が当たってもダメージを最小限に抑え、相手の武器から一切目を逸らさずに見据えている)
・相手が倒れた後も勝ち誇るのではく、まずは相方と共にボコボコにすることで抵抗を封じる。
・ナイフを一瞬で逆手に持ち替える。
など戦闘力も高い。


※『パジャマな彼女』はウシジマくんでもジョジョでもなく少年ジャンプのラブコメです


【方針】
好きにやり、好きに犯り、好きに殺る。

【聖杯にかける願い】
特にないが聖杯を手に入れられたら受肉し元の世界に帰還しあのクソガキ共(目覚計佑たち)をぶち殺す。
マスターは機会があれば殺す。


85 : 絶対悪 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:12:33 8974krqg0

【マスター名】シックス
【出典作品】魔人探偵脳噛ネウロ
【性別】男

【weapon】
・拳銃
別に使う必要もないが、武器商人らしくいつも携帯している。

・その他兵器諸々。
武器商人であるため携帯電話ひとつで調達可能。
機関銃からステルス亜音速のステルス機までなんでもござれ。
(ただし部下が運ぶ時間は相応にかかるのでご注文はお早めに)


【人物背景】

「定向進化」から産まれ、人類から進化した「新しい血族」の長。
悪意の「定向進化」から生まれた、悪のカリスマとでもいうべき究極の卑劣男であり、人の嫌がる、苦しむ、絶望する様を見ることを誰よりも好んでいる。究極のサディストでもある。


・仕事を失敗した部下に自殺を求める際、拳銃自殺ではなくノコギリのようなもので自分の腹を徐々に裂いていくように命令する。理由は「罰なんてどうでもいいが、単に君がそれで死ぬのを見たいだけ」。尚、部下が腹を掻っ捌き始めても、シックスは葛西とのお喋りに夢中で一切目を向けず、部下が死ぬ様子になど興味はなかった。
・「6」という血文字を書かせるためだけにどこかの家族を人質にとり、父には致死性の毒を飲まなければ家族を殺すと脅し自らの吐血で「6」を書かせ、その家族には「きみたちの父親は君たちを見捨てて逃げた」と告げて絶望と憎しみの中でその命を絶たせた。

また、世界屈指の軍需企業の会長でもある。



【能力・技能】

・金属の生成
体内の細胞と合金を結合して、体内から強固な金属を生み出すことができる。足から刃物を生やすことも可能。

・「五本指」の能力。
彼の部下である、「DR」、「テラ」、「ヴァイジャヤ」、「ジェニュイン」、葛西善二郎の五人、通称五本指の力を操ることができる。
「DR」=ありとあらゆる水の流れを一目で見抜くことができる。
「テラ」=土地の状態、強度、構造を見抜くことができる。
「ヴァイジャヤ」=植物の特性、毒性、調合結果など、植物に関してあらゆる情報を本能的に感じ取ることができる。
「ジェニュイン」=群集の心理を弄び、思いのままに扇動することに長けている。
葛西善二郎=炎の流れを含む全てを自在に操ることが出来る。

尚、上記の「五本指」の能力は己の体内から生み出すものではないため、土地の状態、施設の有無などで大いに影響する。


・瞬間記憶能力
見たものを瞬間的に記憶できる力。空を舞う複数のプリントの詳細を正確に読み取るという超人染みた芸当も可。



・脳
シックスにとって一番重要な器官は脳であり、心臓を破壊されても体内の金属の制御が乱れるだけで死には当たらない。つまり、脳さえ残っていれば死ぬことはない(本人談)。
ただ、自動再生能力は有していないため、バラバラにされれば窮地に陥ることは間違いない。


【ロール】
非合法的な武器商人。裏社会では有名だが、表の世界ではまったく知られていない。


【方針】
聖杯戦争を思う存分に愉しむ。願いは特には決めていない。


86 : ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:15:06 8974krqg0
続いて投下します

こちらもFate/Over Heavenから流用したものです


87 : 夢の霹靂、燃ゆる恋のように ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:16:02 8974krqg0
「ハッ!」

ひとりの少女がかけ声とともにその手のマスケット銃を放つ。
その相手は人間ではなく、夥しい数の異形。
同じ程度の大きさ・姿をしたものが大半を占めるが、それに隠れるよう一際大きく全く別の形をしたものもいる。
常人ならば足を竦ませるであろうこの光景にも、少女は退かず、襲い来る怪物たちを倒していく。

だが。いくら敵を屠ろうとも、次々に沸いて出てくる怪物たちが少女の行く先を阻み続ける。

(拉致があかないわね...なら!)

マスケット銃が背後の空間から出現し、一斉に銃口を標的へと向ける。

「パロットラ・マギカ・エドゥインフィニータ!!」

叫びと共に放たれるは無限の魔弾。
放たれた弾丸はたちまちに小さな異形を撃ち抜き、煙を巻き上げ、晴れた先に残っているのは、ただ一体違う形をしていた親玉だけだった。

「これで決めるわ...ティロ・フィナーレ!!」

マスケット銃が瞬時に巨大な大砲に変わり、砲弾が放たれる。
親玉を直撃した砲弾は爆発し、その肉体を完膚なきまでに破壊した。

勝った。
それを確信した少女は、なにもない空間から紅茶の注がれたティーカップを生み出し、そっと口につける。


常人には非常事態であるこの光景も、少女にとってはとうに慣れ親しんだものだった。
守りたいものがあるから。
生きねばならない理由があるから。

少女は内に秘める恐怖を噛み潰し、怪物へと立ち向かってきた。

だから、この戦いもいつもと変わらないある種日常の光景。

ただ違うのは。

「なるほど、あれが魔女か。全くもって奇妙な存在だ」

自分以上に超常的なモノが同行していたこと。


88 : 夢の霹靂、燃ゆる恋のように ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:16:31 8974krqg0



少女、巴マミが異変に気がついたのは魔女の戦いへ赴くほんの数十分前だった。

それは学校からの帰り道のことだった。
突如、妙な記憶が彼女の脳裏を支配した。
見滝原市ではない、いまここにある町で暮らし戦ってきた記憶を。
魔法少女としての魔女との戦いの記憶。そこに、今までとの大差はない。
しかし、確かに過去の情報では『佐倉杏子』が、現在の情報では『鹿目まどか』『美樹さやか』『キュゥべえ』の存在のない世界の記憶が湧き出てきた。
それも断片的な『聖杯戦争』だの『マスター』だのと聞き覚えのないものまで加えて。
わけがわからない。
困惑で頭がぐちゃぐちゃになっているマミに呼びかける者が一人。


「きみが私のマスターだね」

突如現れたロン毛の美青年に声をかけられたマミは思考が停止した。
というのも、本当になにもかもが『突然』なのだ。
なんの前振りもなく、日常から非日常に飛ばされたのだから困惑してしかるべきだ。

(こ、これって...俗にいう、ナンパってやつなのかしら)

魔法少女という事情が絡んでか、マミはそういったことに慣れていなかった。
加えて、声をかけてきたのが、思わず魅入ってしまいそうな美形なのも手伝い、マミの頬はほんのりと赤みを帯びていた。

「ひ、人違いだと思います」

羞恥や緊張から慌てて離れようとするマミの肩に、青年が触れる。
瞬間、マミの世界が一変した。

先ほどまでは大勢の人が歩いていたというのに、それらが瞬時に消え去り、代わりに冷たい強風がマミの身体へと襲い掛かった。
冷えた腕を擦りながらキョロキョロと見回し、自分がここ―――ビルの屋上まで移動したのだと気がつく。
何故。いったい。どうやって。

「地上では話し辛いと思ったのでね。多少強引だが、二人きりで話せる場所を設けさせてもらったよ」

瞬間、マミの少女らしさは消えうせ、青年への警戒心と敵意が露になる。
彼の正体はわからないが、この状況は危険だと長年の経験が警鐘を鳴らしたのだ。

「その反応の早さ...どうやらきみは己の考えをただ放棄し堕落した愚か者ではないようだ。それでこそ、私と共に歩む女性にふさわしい」
「それ以上近付かないでください。用件は、まずはその場でお願いします」
「その警戒心の高さも悪くない。...だが、今この場では相応しくないな。ひとまずは私の話を聞いてもらいたい」
「―――ッ!」

突如、マミは眼を見開き青年へと駆け寄る。

「理解を得られて嬉しいよ。では、早速」
「私から離れないでください」

言葉を遮られたことに青年は不機嫌そうに眉を顰めるが、しかし変貌していく風景を目の当たりにしたことで、理由を察した。

「ふむ、これは興味深い。きみはこの事象を知っているようだが」
「...ごめんなさい。いまは説明している暇がないんです」
「なら、私はどうするべきかな?」
「...私から、離れてないでください。魔女に襲われでもしたら、命は保障できませんから」

そして、マミは青年を守る為に冒頭の戦いを繰り広げたのだった。


89 : 夢の霹靂、燃ゆる恋のように ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:17:04 8974krqg0




「えっと...エンブリヲさん、でいいですか?」
「きみの呼びやすいように呼ぶといい。"くん"でも"さん"でも、なんなら呼び捨てでも構わない」
「なら、エンブリヲさんで。座布団、使いますか?」
「ありがとう」
「紅茶やショートケーキは苦手ではありませんか?」
「...お言葉に甘えよう」

魔女を倒したマミは、ひとまず自宅で話の続きを聞こうと判断し、エンブリヲを自宅に招いていた。

二人は、三角形方のテーブル越しに向かい合い座り、眼前には、ケーキとマミの淹れた紅茶が置かれた。

「それで、私が巻き込まれたという『聖杯戦争』ってなんなんですか?大まかな知識は湧いて来たんですが、その、聞くからに物騒な名前ですけど」
「どうやら今回は大雑把に知識を与えられたようだね...ならば順を追って説明しよう」

エンブリヲが空間に掌をかざすと、小型の液晶画面が浮かび上がり、簡単な図柄が表示される。


「かつて、私のように功績を遺し召還された者を『サーヴァント』。そして、きみのようにサーヴァントと共に戦う宿命を授けられた者を『マスター』と定義する。
これらを1組と扱い、万物の願いを叶える『聖杯』を巡り戦う催しのことを『聖杯戦争』と呼ぶ」
「私達の他にもいるんですか?」
「ああ。今回は何組呼ばれたかはわからないが、私の見立てでは最低でも二桁はいるだろう。どんな人物が集められたかはわからないがね」
「つまり、マスターが皆魔法少女に関わっているとも限らないと」
「その通り。狂的な殺人鬼やきみ以上に特異な存在が呼ばれている可能性も否めない」
「殺人鬼...」

マミは顎に手をやり、数瞬思考を巡らせる。ほどなくして、顔をあげエンブリヲに問う。

「もしかして...聖杯戦争では、他の『マスター』を倒す...いえ、殺さなければならない、ということですか?」
「理解が早くて助かる。そうして最後に残った一組が、聖杯を手に入れ願いを叶えることができるというシステムさ」
「―――ッ!」

マミの顔が蒼白になる。
人を殺す。それは決して許されざる行為だ。
法律でそうだから―――それ以上に、人の死を間近で味わったことがある身だからわかる。
人が死ねば、かつてあった日常は壊され、多くの悲しみを与えることになる。
それを自らの手でやれというのだ。嫌悪や恐怖があって当然だ。

「そんなこと―――」

けれど。彼女の口は勢いのままに、『できるわけがない』と紡ぐことができなかった。
彼女にもあるのだ。どんな条理を覆してでも叶えたいと願い続ける夢が。
もしも両親が戻ってきてくれるなら。
もしもかつての弟子の家族が戻り、また共に歩めたなら。
もしも自分が魔法少女なんかじゃなかったら。
今までの全てをなかったことにできたら。やり直すことができたら。
それを叶える手段があるのなら。

全てを掴める可能性は、彼女の意思を揺らがせる。

「...さっきの戦いを見ていても思ったが、きみは戦いを恐れているのだね。あの大掛かりな技や詠唱も、自分を奮い立たせるためのものだろう?」
「―――!」
「責める訳じゃない。ただ、全てを抱え込み、耐え続けるきみを見て居た堪れないと思っただけさ」
「......」
「誰かを殺すのは怖い。だが、そうしてでも叶えたい願いはあるのだろう?だから、きみは揺らいでしまった。...違うかな?」
「...はい」


90 : 夢の霹靂、燃ゆる恋のように ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:17:33 8974krqg0

マミは俯き机の下で己の膝を強く握り締める。
今まで頑張って正しい魔法少女であろうと努めてきた。
同じ魔法少女からいくら理解されずとも。誰から褒められることがなかろうとも。
必死に戦い続け、町を守り続けてきたつもりだった。
いくら戦おうとも恐怖は薄れず、死を間近にする度に独りで泣いていた。
それでも、自分の選択肢は間違っていないと、強くなったと思っていた。
此処にきてからもそうだ。
自分は、誰に言われずとも魔女と戦い人知れず皆を守ってきたつもりだ。

けれど、もしも全てがなかったことにできるなら。
その誘惑に負けそうになる自分を心底嫌悪する。

「きみはきみの願いを叶えるべきだよ、マミ」

そっと、心の隙間を埋めるように優しい声が届く。

「願いを叶えたいが、敵を殺すことも戦うことも怖い。それは仕方のないことだ。なら、なにも見なければいい」
「え...」
「きみは充分にその身を削り、人々を救ってきた。だが、その救ってきた人々はきみになにを与えてくれた?」

ズキリ、とマミの胸に痛みが走る。
エンブリヲの問いかけは、マミ自身ふと過ぎってしまうものだった。
自分はこれほど頑張っていても、誰にも理解されない。救ってきた人々に一度とて感謝されたことはない。
当然だ。自分は魔法少女だから。魔法処女のことを一般人に教えることはできないから。
だからそれも仕方のないことだと割り切る他ない。

だから、鹿目まどかや美樹さやかのように、素質を持ち慕ってくれるものには、心の底では共に戦ってほしいと望んでしまう。

「大勢の人間を救ってきたきみが願いを求めることを誰が咎めようか。かといって、嫌がる戦いを強制させるのも忍びない」

エンブリヲは、マミの目を見つめ、そっと頬に触れる。

「だから、私に全てを委ねるといい」

エンブリヲの言葉に意識は蕩け、目からは光が失われていく。

「身につけているものを全て脱ぎ捨て、その顔を私の胸に埋めるだけでいい。それだけで、目が覚めた時には全てが終わり、きみの欲しかったものは全て手に入っている。絆も、愛情も、友情も、願いも」
「......」

エンブリヲが頬から手を離せば、その言葉通りに、マミは身体から力を抜き、己の衣服を肩から肌蹴させる。
その行動に彼女の意思はあるのか。第三者が見れば、それほど彼女の行為は機械的だった。


91 : 夢の霹靂、燃ゆる恋のように ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:18:00 8974krqg0

「きみがきみを否定しようとも、私はきみを受け入れよう。さあ、こちらにおいで」

エンブリヲは立ち上がり、両腕を広げ己の胸へと招き入れる。
マミはふらふらと立ち上がり、顔を赤らめながらエンブリヲへとゆっくり歩みよる。
その歩みは、どこかぎこちない。

「迷うことはない。これも、きみが幸せになるためだ」

衣服をはだけさせ、顔を赤らめさせつつ己を抱きしめる巨乳の美少女。
そんな妖艶なシチュエーションに、エンブリヲの笑みは深まり情欲を滾らせる。

「これできみは私のものだ」

マミの顎に手を添え、くいと傾ける。
エンブリヲは、そっと己の唇をマミのものへと近づけた。



―――怖いよぉ、助けてよぉ

―――こーちゃん、こーちゃん!



「―――――ッ!」

互いの唇が触れる寸前、マミはエンブリヲの肩を押しのけ身体を引き離す。


「...ごめんなさい、エンブリヲさん」
「マミ?」
「エンブリヲさんの言うことは間違っていません。私は...戦いが、独りの夜が...怖い。
なにもかもが嫌になって、全部投げ出したいと思ったこともあります。だから、エンブリヲさんがくれた言葉はとても嬉しかった」
「ならば、聖杯戦争なんてものは私に委ね任せればいい...違うかな?」


「...昔、助けられなかった男の子がいるんです」

マミの身体が震えだし、その両頬から涙が伝う。

「あの時の私は、とても弱くて、魔女に捕らえられたその子を助けることが出来なかった。目の前で...殺されたんです」
「私は逃げることしか出来なかった。その先で待っていたのは、あの子の母親が子供の名前を呼び続ける声でした」

あの時の記憶は、彼らの悲痛な叫びはいまも残っている。
思い出す度に、もしも自分がもっと強ければ、もっと的確に行動できていれば。
そんな後悔と自分への憤りにとめどなく苛まれていた。

「だから、私は誓ったんです。たとえ自己満足だろうと、もう二度とあの人たちのような悲しみを起こさせないって」
「もしも私がここで他の人を...戦いを望まない人たちを犠牲にしてしまったら、目を背けてしまったら、その誓いを破ることになる。あの人たちの悲しみを...本当に無意味にしてしまう」
「だから...私は向き合い続けます。魔女との戦いも...この聖杯戦争にも」

マミの眼には光が戻っていた。
戦いに怯えるだけの少女ではなく、見滝原を守り続けてきた魔法少女としての光が。
そう。たとえ、かつて自分に助けを求めた子供を、もと愛弟子が失った家族を聖杯で取り戻したとしても。
そのためにここに集められた人々を見捨ててしまえば、自分はもう二度と魔法少女を名乗れなくなる。あの時の悲しみを嘘にしてしまう。
例え、自己満足の罪滅ぼしに過ぎずとも、魔法少女であり続けることを止めない。
その信念のもと、巴マミは恐怖を抱きつつもその膝を折ることはしない。



自分の言葉と唇を拒否され、その光に見据えられたエンブリヲはわなわなと身体を震わせ

「―――ドラマティック!!」

弾けるような笑顔と共に、盛大に讃えた。


92 : 夢の霹靂、燃ゆる恋のように ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:18:24 8974krqg0

「え...」
「きみは、己の弱さを自覚し、その上でなお己の信念を貫こうとしている。誰に与えられたのでもなく、自分の意思でだ」

エンブリヲは、片膝をつき、シンデレラにガラスの靴を差し出す王子様のようにマミを見上げ、微笑みと共に掌を差し出す。

「きみが私のマスターでよかった。その美しき姿に強き信念...最後まで見届けさせてほしい」
「い、いいんですか?その、私が勝手に決めちゃうような...」
「構わない。いまは、きみを見ていたいんだ」

マミは大げさに振舞うエンブリヲに戸惑いつつも、差し出された掌をそっと握り返した。

彼女は喜んでいた。
自分を理解してくれる人の存在を、優しい言葉をかけてくれるこの人が傍にいてくれることを。
この人となら。この人となら、共に戦える。共に歩んでいける。
そう、思わずにいられなかった。

夕日の映える部屋の中、二人は微笑を交し合い、他愛のない世間話と共に紅茶と茶菓子を堪能する。
それは、彼らを括る主従という関係には似つかわしくない光景だった。




(思いもよらぬ収穫だった)

エンブリヲはマミへと人当たりのいい笑顔を向けつつ、その傍らでお茶会を楽しむのとは別の思考を巡らせていた。

(魔法少女。サリアの趣味に似たようなものがあったが、所詮あれは空想のもの。マナとも違う本物の異能力...実に興味深い)

エンブリヲは神に等しき調律者である。
英霊と化す前の生前から、瞬間移動を巧みに扱い、自分が瀕死になれば不確定世界の自分と入れ替わり存命し、千年以上も生存し、世界が誤った方向に進めば破壊する。
これを神事といわずしてなんといおう。
だが、彼は生まれつき調律者だったわけではない。
彼は元々は科学者だった。誰よりも優秀であるが故に、科学を極め、やがて神の領域へと達したのだ。

巴マミという魔法少女の存在は、それ自体が元科学者としての好奇心をひどくそそらせたのだ。

とはいえ、エンブリヲすら知らない異能だけならば、聖杯戦争を幾度か繰り返せば目にすることもある。
彼が収穫だと感じたのは、魔法少女以上に、巴マミという少女そのものだった。

(聖杯戦争を勝ち抜くにあたり、彼女の戦闘経験の豊富さはとても有力的だ)

主に戦うのはサーヴァントの仕事とはいえ、マスターの戦闘経験の有無は戦いに非常に影響を及ぼす。
仮に実力が拮抗しているサーヴァント同士がぶつかりあえば、勝敗を決するのはマスターの差に他ならないからだ。

(だが、それ以上に、彼女は見ていて面白い)

エンブリヲは、始めはマミを篭絡し、自由に行動することで聖杯戦争を勝ち抜き願いを叶えるつもりだった。
そのために、今まで堕としてきた女たちのように、甘い言葉を囁きつつ、保有スキルの使用までした。
だが、マミはエンブリヲの誘惑を撥ね退けた。
この結果には予想外だったが、だからこそ彼は惹かれた。
マナに頼り切り堕落したものたちとも、アンジュのように決して折れぬ者とも違う。
弱さを見せながら、それでも尚、エンブリヲに身を委ねなかった脆くも確かな精神は、エンブリヲの扱ってきた女たちにはなかったものだ。

(マミ。いまのきみはとても興味深いが、私の理想の世界での伴侶になるにはまだ足りない)

知性も美貌も申し分ない。だが、まだどこか脆さがあるのも事実だ。
その脆さ故に苦悩する姿も好ましくはあるが、伴侶となれば話は別だ。
脆さとはその歪みを正し克服するためにあるのだから。

その過程で、マミは己の信念と相反する場面に幾度も遭遇することになるだろう。
それらを乗り越え正しき方向へと磨かれてこそ、エンブリヲという調律者の伴侶たる資格を得ることができる。

(この聖杯戦争を通じ、私の伴侶たる資格を手に入れられれば、改めてきみを第二夫人として迎え入れよう。
私は必ずこの戦いに勝利する。そして、アンジュ、再び君の前に姿を現し、きみを第一夫人として据えた楽園を作り上げることを約束しよう)



表向きはマミの方針に賛同しているエンブリヲだが、彼は聖杯を手にする方針を変えるつもりはない。
聖杯を手に入れ、願いで肉体を手に入れ、今度こそ理想の世界を作り上げる。

エンブリヲは嗤う。

己の胸に燻るドス黒い傲慢さと情欲を抱いて。


93 : 夢の霹靂、燃ゆる恋のように ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:19:13 8974krqg0

【クラス】ライダー

【真名】エンブリヲ

【出典作品】クロスアンジュ 天使と竜の輪舞

【ステータス】筋力D 魔力EX 耐久D 幸運C 敏捷D 宝具EX

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
サーヴァント自身の意思で弱め、有益な魔術を受けることも可能
Bランクでは、魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。


騎乗:EX
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
EXランクは乗騎と同化・融合する事が可能で、あらゆる物を乗りこなす。


【保有スキル】

誘惑:A
対象を魅了する能力。
精神耐性が低いものには、目を見つめさせ優しく言葉を語り掛けるだけで洗脳染みたことも可能。


調律者:EX
カリスマ(B)・単独行動(EX)のスキルを有する。


感覚の増幅:EX
多少の魔力を消費することで触れた相手の痛覚や感度を倍増させることができる(最大50倍)。
マスターやNPCは勿論英霊にも通用する。


【能力】


『分身』
ランク:D 種別:対人宝具(自分) レンジ:1 最大補足:己のみ
文字通り、多少の魔力と引き換えに自分の分身を作り出す能力。この分身はライダーの思考と共有し、距離も300メートル程度までなら問題なく動ける。
生成は最大3体まで可能。ライダー本体が消滅すれば、分身も消滅してしまう。

『瞬間移動』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:自分が触れた者
瞬間移動ができる。この聖杯戦争内では消費魔力により移動できる人数と距離が変わる。
最大距離は100m程度(自分ひとりの場合)。

『治癒能力』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:自分が触れた者
魔力を消費し、自分及び対象の怪我を治すことができる。


上記の能力は宝具にも満たない個人技能を宝具のステータスで示したものにすぎない。



【宝具】

『ヒステリカ』
ランク:A 種別:対人宝具(自分) レンジ:1 最大補足:己のみ
魔力を消費し、ラグナメイルの初号機EM-CBX001『ヒステリカ』を召還する。
太古の地球において終末戦争時に製造された絶対兵器で、文明崩壊を引き起こした元凶たる黒い機体。
接近戦用のビームソードやビームライフル、ビームシールドを装備している。
ライダーは中に入って操縦することはなく、ラグナメイルの肩に乗って戦う。
また、この宝具を発動した時、ラグナメイルとライダーをほぼ同時に倒さなければ完全に消滅させることはできない。


『ディスコード・フェイザー』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜5000 最大補足:半径150m
ヒステリカを発動している時にのみ発動可能。
マスターがいれば、令呪の一画と魔力及びライダーの魔力と引き換えに。
マスターがいなければ、己の多大な魔力と引き換えに(魔力の補給なしでは三発が限界)。
エンブリヲの歌う『永遠語り』に呼応し強力な衝撃派を発射する。広範囲に多大なダメージを与えることができる。


94 : 夢の霹靂、燃ゆる恋のように ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:19:43 8974krqg0

【weapon】
・拳銃
・サーベル
両方とも過不足なく使用できる。正面切った戦いで一般人に負けることはないが、達人クラスの相手では実力不足か。
尤も、原作において彼が生身でまともに戦ったのはニンジャであるタスクくらいで、そのタスクも
・マナを使えない身でありながら、マナを使える武装兵士5人を瞬殺できる(さすがに不意打ちではあるが)
・エンブリヲが瞬間移動・拳銃・サーベルを組み合わせて使用してようやく互角に戦えるかどうか
・爆弾で自爆しても後遺症もなく平然と脱出できる
と異常な身体能力を有しているため、彼と比べて生身での戦闘力評価を下すのも酷な話かもしれない。



【人物背景】
TVアニメ『クロスアンジュ 天使と竜の輪舞』のボスキャラ且つ全ての黒幕。
「マナ」という能力を開発し、それを扱える人間を創造した科学者にして、更にはマナを扱える者がノーマを迫害する差別社会のシステムを構築した、言わば世界の創造主で、実質的な世界の支配者。
物腰は優雅で知的、一見すると女性に優しいフェミニストだが、本質は恐ろしいほど独善的で傲慢なエセ紳士。
美しい者の絶望を愉しむなど本性は極めて残忍である。
また、利用価値があると思った女性には様々な方法で付け入り、自分の手駒にするべくマメに対応している。言い換えれば女たらし。

作中では、基本的に主人公であるアンジュを手に入れる為に行動している。
最初はアンジュをあくまでも計画達成に必要な人材として勧誘していたが、洗脳を跳ね除けてからは別ベクトルにつき抜け、彼女を伴侶にするために何度も迫った。
本人なりに真面目にプロポーズしたり、痛覚や感度を弄るなどAVやエロゲのような説得方法を試みたり、誰からも干渉されない場所に連れ去ったり、無理矢理股を開かせたりするも、愛する男のいるアンジュは断固として拒絶。

最終的には「なにが愛よ!キモい髪型でニヤニヤしてて服のセンスもなくていつも斜に構えてる恥知らずのナルシスト!
女の扱いも知らない千年引きこもりの変態親父の遺伝子なんて、生理的に絶対に無理!!」
と、これでもかと罵倒され、愛するアンジュの手により塵に還され死亡した。


【方針】
聖杯を手に入れるために動く。
聖杯を手に入れた後、万が一にも新世界を穢させないために、数多の平行世界の聖杯を破壊し、二度と聖杯戦争を起こさせないようにする。

【方針2】
巴マミを見定める。もしも自分の理想に相応しい女となれば、新世界での妻(第二夫人)に迎え入れる。

【方針3】
他にも面白い女のマスターがいれば、手駒若しくは妻として迎え入れる。


【聖杯にかける願い】
今度こそ新しき理想の世界を作り上げる。そして再びアンジュを迎えに行く。


95 : 夢の霹靂、燃ゆる恋のように ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:20:13 8974krqg0

【マスター名】巴マミ
【出典作品】魔法少女まどか☆マギカ
【性別】女

【weapon】
・リボン
彼女の魔法。敵の拘束だけでなく、マスケット銃の生成、結界を作る、己の分身を生み出すなど様々な用途に応用できる。


【人物背景】
見滝原中学校の三年生であり主人公である鹿目まどかの先輩。
かつて交通事故により瀕死になっていた際に現れたキュゥべえと契約し魔法少女となる。
その際、両親は亡くなり、以後は両親を助けられなかった負い目から、町の人々のために戦う魔法少女として生きていく。
その影響で、クラスメイトからも距離を置き、ひっそりと孤独に苛まされることも少なくない。

この聖杯戦争では少なくとも鹿目まどかと美樹さやかと遭遇している時間軸からの参戦となっている。

【能力・技能】
魔法少女として培ってきた戦闘技術。
銃による遠距離攻撃だけでなく、肉弾戦も高レベルの水準に達している。
また、その実力の高さ故か、彼女を最強の魔法少女と定義する者も多く、近隣の町でもかなり有名だとか。



【方針】
どうにかして聖杯戦争を止めたい。
積極的に襲うことはしないが、襲い掛かってくる者には戦うことも辞さない。



【聖杯にかける願い】
特になし...?(まだ迷いを振り切れていない)


96 : ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:21:32 8974krqg0
続いて投下します

こちらもFate/Over Heavenに投下したものからの流用となります


97 : 食【えじき】 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:22:58 8974krqg0
町の一角で連日大繁盛のレストランがある。

なんでも、そこの料理は美味いだけではなく食べた者に成功を呼ぶとの噂が絶えないとか。

店の名はシュプリーム・S(しろた)。

店主の名は至郎田正影―――




パリィン。

ガラスを突き破り、階下に着地。
その際の痛みも無視して、俺は我武者羅に足を動かす。


「はぁっ、はぁっ...」

うす暗い路地から指す光に向かい俺は必死に逃げていた。
どこへ向かっているか―――そんなのを考える余裕すらない。
疲労と恐怖で肺が張り裂けそうだ。だが捕まれば命は無い。

俺はどこで間違ったのだろう。
奴のもとについたことか?料理人としてのプライドを持ち妙な正義感に駆られたことか?
もうそんなことはどうだっていい。
とにかく今は逃げなければ。そして、警察に俺の知ったことを全て話すんだ。
あの男は狂っている。
あんなモノ、世にのさばらせてはいけないんだ―――!!

光は次第に近づいてくる。
やった。あそこを出れば人通りのはずだ。
あそこにさえ出れば、奴も手が出せない筈―――

「ん」

ふと、目に止まった不自然なでっぱり。
足は止めないがすれ違いざまに確認する。
なんだコレは。
缶詰?書かれている文字は、D・C・S...



「ドーピングコンソメスープだ」



ゴ シ カ ァ ン


98 : 食【えじき】 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:23:26 8974krqg0



「終わったか」

シュプリームSのオーナーシェフ・至郎田正影は背を向けたまま確認した。

「ああ。これで俺たちの邪魔をする者はいなくなった」
「ふふふ...」

至郎田は鍋を掻き混ぜ不敵に微笑む。

(あともう少しだ...もう少しで俺の至高にして究極の料理は完成する...)

至郎田正影は天才的な料理人であった。
それ故に美味い料理など息を吸うかのように作ることが出来た。
だが。それではだめだ。
美味い料理を作れるだけでは、世間では天才と持て囃される凡人共と同じだ。
真の天才料理人は、料理で人を支配するべきなのだ。
そこで至郎田が求めたのは、成功と引き換えに彼に縋らざるをえない中毒性の高い料理だった。

これが完成していれば悲願は達成できたはずだった。

(海野め...何度も俺を裏切りやがって)

だが、至郎田の作る料理の材料を知った海野は、このことを警察に公表すると脅してきた。
間抜けめ。だからお前は俺に敵わないんだ。
そう思い立った至郎田は、己の"料理"で強化した腕で海野を撲殺しようとし―――そこで降って来たソウルジェムに触れ、改めてレストランのオーナーシェフとなっていた。
この時は至郎田は究極の料理のことも忘れ、海野もまたそれを忘れていた。
だが、数週間後、調味料に紛れていたソウルジェムに触れた至郎田は記憶を取り戻し、再び究極の料理の研究に没頭。
あと一息で完成といったところで水を差したのが、またしても海野だった。
以前と一言一句違わず邪魔をしようとした海野に苛立ち、至郎田は思わず正面から殴りかかった。
しかし、それが災いし、海野はそのまま裏口から逃亡。
追いかけようとしたが、いまのが騒ぎにになって無闇に厨房に入られるのはマズイ。
そこで、記憶を取り戻す際に手に入れたサーヴァント―――キャスターにあとを追わせたのだ。

結果、滞りなく海野を始末及び処分をしてくれたサーヴァントに、至郎田は流石はオレだと称賛を送った。

(聖杯戦争...フッ、これを勝ち残れば俺の食の千年帝国は完全なるものとなる)

サーヴァントが語った聖杯戦争は至郎田の興味を非常にそそった。
聖杯を手に入れれば、海野のような凡才に足を引っ張られることもこそこそと警察から隠れて料理をする必要もなくなる。
ならば手に入れない理由は無い。如何なる手段を持ってしても、俺は聖杯を手にしてやる。

至郎田の背を押すように、至郎田の視ていた料理も完成する。

「完成だ...俺の至高にして究極の料理...」
「では、景気づけにひとつ」
「ああ」

至郎田は鍋から煮込んだ液体を掬い皿に注ぐ。
スープだ。紛れも無くコンソメスープだ。

キャスターもまた、空中に浮かんだ鍋から液体を掬い皿に注ぐ。
スープだ。こちらもまたコンソメスープだ。

流石はオレだ、と内心で互いを褒め合い邪悪な笑みを交わす。

至郎田は自分が為るであろう姿を見つめ。

キャスターは未だ成長を止めないかつての自分を見つめ。


「「では、俺たちの食の千年帝国へ向けて―――乾杯」」

これから共に創り上げる王国を夢見て。
マスターとサーヴァント―――二人の『至郎田正影』は、互いのドーピングコンソメスープを飲み交わした。


99 : 食【えじき】 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:24:00 8974krqg0

【クラス】キャスター

【真名】至郎田正影

【出典作品】真説ボボボーボ・ボーボボ

【ステータス】
通常
筋力B 魔力C 耐久C 幸運C 敏捷D 宝具:B



【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる。
作れる施設はレストラン。

道具作成:EX
無からDCS(ドーピングコンソメスープ)を生み出すことができる。


【保有スキル】

料理:A
大概のものなら調理できる。得意料理はドーピングコンソメスープ


トリック:C
食材を使用した犯罪が得意。中でもDCSを使用した撲殺が得意。


DCS真拳:EX
ドーピングコンソメスープ。


【宝具】
『DCS(ドーピングスープコンソメ)真拳超奥義、食【えじき】食の千年帝国』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:DCSを摂取・かけられた人物
鍋でしっかりと煮込んだドーピングコンソメスープを漫画で使用したトリックと共に敵にぶっかける大技。


【weapon】
・DCS(ドーピングコンソメスープ)
様々な食材や薬物、その他諸々を煮込み続けて完成させた至高にして究極の料理。
肉体を超人級に活性強化させる奇跡の食材だが、一瞬でマッチョな筋肉質になって体型自体が倍くらいでかくなるという物理法則を無視した代物である。その成分は血液や尿からは決して検出されず、尚且つ配合した全ての薬物の効果も数倍となり、血管から注入(たべ)る事で更に数倍になるという。
これを食したサーヴァントは一時的に筋肉が膨大し『狂化:B』のスキルを手に入れることができるが、反動も強く最悪の場合、再起不能状態に陥ることも。

DCSの材料(警視庁押収レシピ参照)
牛スネ肉、骨付き鶏、タマネギ、ニンジン、セロリ、ニンニク、クレソン、長ネギ、パセリ、タイム、ローリエ、卵白、黒粒コショウ、シェリー酒、塩、湯葉の●、
●●イン、●●状●●、太刀魚、牛の●、豚の●、馬の●●の●●、人の●●を●したもの、秋の●、●の粉末、泊方の●、カマキリの●、電球の●、●●●味噌、
●●こ、男の●、女の●、DH●A、DHA、より●●した時の●、●●への●、美味しく作ろうという情熱、その他諸々



【人物背景】

真説ボボボーボ・ボーボボ49話に登場したスペシャルゲスト。常にDCS使用後の姿をしている。
ナインエキスパート・黒賭博騎兵衆の一人、雨水の助っ人として竜騎士と共に忍者大戦3狩リアに参戦。
登場早々に雨水にDCSを無理やり飲ませようとしたりDCS真拳を使いボーボボと首領パッチにかましたりと暴れ放題であった。
ゲストキャラということで倒されるにしても気を遣われるのが普通だがそこはボーボボ世界。容赦なく巻き糞で締め上げられてしまった。
他作品の他作者のキャラクターがカメオ出演するのはまだしも本格的にバトルにまで絡んできたのは武藤遊戯と至郎田くらいだろう。
ゲスト出演でありながら人気投票で227票を獲得し堂々の15位を飾っている。

バトル面では武藤遊戯、人気投票では空条承太郎、荒木飛呂彦、プロシュート兄貴に並ぶ快挙(太臓モテ王サーガの人気投票において準レギュラーを差し置きそれぞれ9位、11位、13位に入賞している)を成し遂げた彼は英霊になる素質は充分だろう。


【方針】
マスターと共に食の千年帝国を築き上げるために邪魔者を排除し聖杯を手に入れる。


【聖杯にかける願い】
食の千年帝国を創る。


100 : 食【えじき】 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:24:19 8974krqg0

【マスター名】至郎田正影
【出典作品】魔人探偵脳噛ネウロ
【性別】男

【weapon】
・調理器具
レストランにある機器も彼にかかれば立派な凶器に。


【人物背景】

各界の有名スポーツ選手から「成功を呼ぶ店」と噂されるレストラン『シュプリーム・S(シロタ)』のオーナーシェフ。その実は違法ドラッグを大量に混入した創作料理を提供する異常思想の持ち主。
ドラッグ入りの料理を用いて「食の千年帝国」なるものを作ることが夢だったが、薬物混入の事実を知った同業の海野浩二に反対され、警察に告発しようとする彼を殺害する。殺害を偽装するために「犯行予告の脅迫状を受け取った」と装い警察を呼び、時間差トリックで海野が突然死亡したようにアリバイを工作する。
自身の作る料理を「至高にして究極」と自負しており、それを貶されると異常なほど怒りをあらわにする。現場検証中に彼の料理を試食した弥子から「食べる事に失礼」という評価を下され、激しく怒って事情聴取を取りやめ厨房に籠ってしまうほど。
彼が最高傑作と称する料理「ドーピングコンソメスープ」がカルト的な人気を博し、多くのファンだけでなく同業の漫画各作品でパロディされるほどになった。
基本オリジナルエピソードで構成されていたアニメにおいても、第一話にこのエピソードが起用されるなど、他のキャラクターに比べかなり優遇されている。

余談だが、DSゲームJUS(ジャンプアルティメットスターズ)においてはネウロの必殺技のひとつという形で参戦している。当時の準レギュラーであった五代はヘルプコマにすらなっていなかったというのに...

【能力・技能】
・料理
天才的。凡人では追いつけない。

・ドーピングコンソメスープ
上記サーヴァントの項目参照。



【方針】
如何なる手段を用いても聖杯を手に入れる。


【聖杯にかける願い】
食の千年帝国を創る。


101 : ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:27:05 8974krqg0
続いて投下します

こちらもFate/Over Heavenに投下したものより流用となります。


102 : 人間っていいな ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:28:10 8974krqg0
人間とそうじゃない奴を見分けられる理由?

んー、そうだな。人間で色々と遊んだおかげかな。




「あんたが俺のサーヴァントってやつか」

「らしいな」

薄暗い路地裏で、帽子を被った中年の男と坊主頭の中年の男が佇んでいる。
帽子を被った男は名を葛西善二郎、坊主頭の男は浦上といった。

「まあ、まずはお近づきの印にどうだい一本」

葛西が差し出す煙草に浦上は首を横に振る。

「ワリィな。あんまり煙草は吸ったことがねえんだ」
「こいつは失礼した。健康に気を遣ってんのか?」
「そういう訳じゃねえが、なにぶんムショ暮らしが長いせいで馴染みがねえんだ」
「ムショか。火火ッ、確かにあそこはつまらねえところだ。俺も経験がある」
「女もいねえ、殺しもできねえ、生活リズムも強制される。ほんとやんなるぜあそこは」
「同感だ。...俺は吸っても?」
「構わねえよ」

葛西は煙草に火をつけ、フゥ、と一息つきつつ思いにふける。

ここに連れてこられる前。
葛西は、絶対悪の王者である男、『シックス』の集めた組織、『新しい血族』の一員として生きてきた。
元々、『シックス』に出会う前から犯罪を美学と称していたし、彼と出会った後でもやはり犯罪を犯していた。
葛西善二郎という男は誰に命令されるまでもなく犯罪を犯していたし、そんな自分が決して嫌いではなかった。
ただ、生きる意味だけは確かに変えられていた。
かつては犯れるだけ犯ってあっさりと燃え尽きれる犯罪者の花道を歩んでいた彼だが、『シックス』に生きる悦びを植え付けられて以降は一転。
葛西善二郎は、誰よりも『人間の犯罪者らしく』長生きをしたいと思うようになった。

さて。そんな葛西善二郎だが、自分の同格の仲間は全て死に絶え、『シックス』は魔人探偵に殺されたことで再び1人の犯罪者となった。
『シックス』よりも長生きをしたいという彼のささやかな願いは見事に叶い、彼を縛るものも無くなった。
だが、それで彼という男がなにか変わったのかと問われればそのようなことはない。
なにも変わらず、人間の知恵と工夫のみで犯罪を犯しつつ、誰よりも長生きする犯罪ライフスタイルはなにも変わらなかった。

そう。彼という男はどこまで行っても人間の犯罪者だったのだ。


タバコを灰皿に押し付け、再び浦上へと向き合う。

「なああんた」

浦上は薄ら笑いを浮かべつつ葛西へと問いかける。

「あんたから見て、俺はなんに見える?」
「なにって...」

葛西は浦上の質問に眉をひそめる。
なにに見える、とはどういう意味か。
葛西の見る限り、浦上にはなにも変哲なものは―――

「...火火火ッ、まいったねこりゃ」


103 : 人間っていいな ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:29:02 8974krqg0

葛西は思わず帽子に手をやり苦笑する。

浦上は葛西が召喚したサーヴァントである。
サーヴァントとは、英雄が死後、人々に祀り上げられ英霊化したものを、魔術師が聖杯の莫大な魔力によって使い魔として現世に召喚したものである。
そのため、少なくとも並の人間よりは知名度があり且つ優れているのが最低限の条件だ。
だが、浦上には並の人間以上のものはなにも感じない。
もしも葛西と浦上が拳を交えれば、間違いなく葛西が勝利するだろうと思えるほどにだ。

「一応、人間とバケモノを見極めるくらいはできるけどな。まあコイツは一杯遊んだ成果だがよ。しかしあんた、俺みたいな大外れを引くなんざツイてねぇなあ」

うひゃひゃと浦上は他人事のように笑い転げる。
そもそも、この浦上という男は英雄として祭り上げられるような男ではなく、他のサーヴァントのように大層な人生を送った訳でもなければ聖杯を求めるほど願いに飢えている訳でもない。
生前は目いっぱい遊んだし、最後には化け物と人間の中間の少年と言葉を交わすこともできた。
完全に満足したとは言い難いが、かといって後悔や渇望がある訳でもない。
つまり聖杯戦争におけるサーヴァントには成り得ない存在なのである。

だが、彼はこうして葛西善二郎に召喚されている。それも、人間の頃の能力に寸分違わずだ。

これはもうツイてないなどというレベルではない。
バグだ。サーヴァントとして完全なる失敗策だ。
恐らく、原初のサーヴァントを作り上げる際に打ち捨てられてきたような出来損ないたちと同じだろう。

(ま、それはそれでやりがいはあるがな)
「なんだぁ?あんた、ずいぶん余裕こいてるがそんなに自信があるのかよ」
「火火火っ、さてどうだか」
「まあいいや。マスターよ、あんたこれからどうするつもりだ?」

浦上の問いかけに、葛西はあごに手をやりしばし考える。
この聖杯戦争、見滝原市という箱庭で自分は如何に立ち回るか。

「ま、当面はのんびりと過ごしましょうや。派手に騒がず、密かに楽しみつつってな」

葛西は、己の圧倒的な不利を理解してなお己のペースを崩さない。
それは自分への絶対な自負からか。それとも英霊を相手どってもねじ伏せる圧倒的な力があるからか。
否、彼は誰よりも自分の力量を把握しているし、己を超越する者を誰よりも恐れ警戒している。

それはこの聖杯戦争においても変わらない。


104 : 人間っていいな ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:30:25 8974krqg0

葛西善二郎の願いは、如何なる『怪物』たちよりも長生きすること。

それも、生まれ持った超能力だとか強化細胞のような代物に頼るのではなく、小細工や己の技術・経験を駆使した『人間であること』を超えずに、だ。

故に、聖杯戦争という超常染みた催しの中でも人間らしい浦上を引き当てられたことは、彼の美学にとって幸運だったのかもしれない。

「まあ、英霊様相手じゃお互い難儀しそうだが、精精長生きできるように頑張りましょうや」
「長生き、か。下手なお題目掲げて誤魔化すよりは正直で人間らしくて嫌いじゃないぜ」
「人間らしく、か。火火火ッ、そうじゃなくちゃ意味がねえ」

犯罪者二人はケラケラと笑いあう。
誰よりも人間らしく生きるために。誰よりも正直に生きるために。
人間の枠に縛られた二人の無謀な挑戦はかくして幕を上げた。





【クラス】セイバー

【真名】浦上

【出典作品】寄生獣

【ステータス】筋力:E 魔力:E 耐久:D 幸運:C 敏捷:D 宝具:無

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:E
人間に魔術を防ぐなどという超常的なことができるはずもない。

騎乗:E
乗り物を乗りこなす能力 。まあ、車やバイクの運転くらいならできるだろう。



【保有スキル】

人間:EX
『セイバー』・『ランサー』・『アサシン』・『アーチャー』・『ライダー』・『バーサーカー』のクラススキルをすべて使用できる。
...が、それはあくまでも『人間』としての範囲である。実際には人間としてできる程度のことしかできない(ランクはE以下)。
そのため、このスキルはほとんど意味がないハリボテ同然のスキルである。


単独行動:EX
マスターを失っても滞在することができる。
本来はアサシンのクラススキルではあるが、人間にはもともと誰かとツルむのを強制される云われはないため浦上には関係ない。



気配遮断:E
人並みに気配を殺せる程度。あまり期待できない。


105 : 人間っていいな ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:30:51 8974krqg0

【宝具】
使用不可。"人間"にそんなものはない。
逆にいえば、英霊から見てもこの男を英霊だと認識することすら困難なほどに人間的であるという証拠でもある。


【weapon】
・ナイフ。
召喚時に所有していたごく普通のナイフ。
これしか使えない、という訳ではない。本人曰く『銃は腕が痺れるのでナイフの方が好き』とのこと。
逆に言えばそこまで武器に拘らないため知らない武器にも適応力はそこそこある。

・身体能力
一般人の女性では拘束を振りきれない程度にはあるが、そこまで高い訳ではなく、そこそこ鍛えた人間には太刀打ちができない程度と思われる。
ただ、人間の急所を捉える能力はかなり培われてきたようだ。


【人物背景】
犯罪者。己の本能に忠実な人間であり、それを満たすためならば殺人も平然と行う。
人間とそうでないものを見分ける目と勘を持つが、それは生来のものではなく長年遊びと称して多くの人間を解体し味わうなどして培われたもの。
己を特別な存在とは思っておらず、自分の行為は人間が隠している本性にしかすぎないと確信している。


【聖杯にかける願い】
特にない。最後まで"人間らしく"好きにやる。





【マスター名】葛西善二郎
【出典作品】魔人探偵脳噛ネウロ
【性別】男

【weapon】
袖に仕込んだ火炎放射器。これを使えば傍からみれば手から炎を出しているように見える。



【人物背景】

シックス率いる「新しい血族」の中でも選りすぐられた五人の腹心、「五本指」の一人。
全国的な指名手配犯であり、放火を主に脱獄も含めて前科1342犯のギネス級の犯罪者。
先祖代々、火を扱う者としての「定向進化」を受け継ぎ、その恩恵により火の全てを司ることができる...が、彼の美学は人間を越えないこと。
彼の手品のような炎の扱い方は、全て小細工と知恵、計算によるものであり、全ての「新しい血族」の中で、唯一「定向進化」に頼らず人間の犯罪者として在りつづけた。
また、葛西の目標は「人間としての知恵と工夫で、人間を超越したシックスよりも長生きすること」であり、「新しい血族」の中でも、唯一シックスに対する絶対な忠誠心を抱いていない。
そのため、自己中極まりないシックスに対して唯一意見ができ、且つシックス自身もそれを不快にも思わない、云わば友人(対等ではないにせよ)とも言える数少ない存在である。

重度のヘビースモーカーであり、一日に8箱ものタバコを消費する。

【ロール】

野生の犯罪者

【能力・技能】
・炎を操る
前述した通り、全ては知恵と工夫の結晶であり、何も無いところから火を放つことなどはできない。
そのため、火を起こす時にはマッチや火炎放射器を使用している。

・身体能力
他の「五本指」と違い、身体能力を飛躍的に上昇させる強化細胞を身体に埋め込んでいないため、純粋に生身の人間である。
しかし、高層ビルの壁をすいすいとよじ登る、強酸を仕込んだ銃弾を何発も受けても割りと余裕ある動きができるなど、かなり高い身体能力を有している。

・火にかけた親父ギャグのレパートリー:1000以上。


「ヒヒヒッ」→「火火火ッ」

【聖杯にかける願い】
己の美学である"人間を越えないこと"は決して曲げずに長生きする。そのため、聖杯そのものには大した興味は無い。


106 : ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:32:09 8974krqg0
続いて投下します


107 : 悶絶少年〜氷点下の殺意〜 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:33:25 8974krqg0

透き通るような白い肌に水色の長髪。
たわわに実った胸や臀部、そしてそのスタイルや美貌は見る者の目を釘着けにするだろう。

(ふむ。興味深いことだ)

そんな美女―――エスデスは、己の置かれている状況をそう判断した。

自分は最後の決戦に臨もうとしていたはずだ。
敵を全て蹂躙し、最愛のタツミと全力で剣を交え気持ちを伝えたい。
その想いに胸を膨らませていた時だった。
気が付けば、見知らぬ都市の警官の暗部の長に配属されていた。
この暗部とは、お役所が世間に公表できない仕事の請負人である。
例えば危険人物の暗殺であったり。例えば裏社会の人間で度が過ぎたものを秘密裏に処分したり。
そういった非人道的な行いを生業とする職業であった。
エスデスはその中でも拷問部隊を好み、犯罪者たちに対しての生かさず殺さずの拷問を総括・実践していた。
罪人たちから絞り出す苦悶と嗚咽の叫びは彼女の心の渇きを埋めてはいたが、やはりそれでも満足することはなかった。
なにか己の力を存分に振るえる大事件でも起きないか―――そんなことを思っていた記憶が植え付けられていた。
それも、聖杯戦争とそれに類する記憶を加えて。

その結果が冒頭の感想。彼女は特に怒りや焦りといった感情は抱かず、ただ面白そうなことが起きそうだと期待していた。

この不可思議な事象だけではない。
彼女の長年の将軍としての、数多の戦の経験が彼女の身に伝えているのだ。
これから始まるのはお前の望む血と血を洗う闘争だと。
それに応えるかのように、エスデスの眼前に魔法陣が現れ発光する。

あまりの眩さに、思わず「おぉ」と声を漏らし目を背けてしまう。

やがて光は治まり、立ち昇る土煙も次第に晴れていく。
その中心には、ひとつの影が蹲っていた。

「うー☆」

響く声。どうやら声色からして男のようだ。


108 : 悶絶少年〜氷点下の殺意〜 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:34:00 8974krqg0

「ぼ く ひ で」

そう名乗った男は、それなりの体格であり、半そで半ズボンの体操服に身を包んでいた。
被った黄色の帽子とランドセルも加わり、どうやら成人済みの男が小学生のコスプレをしていることが窺える。

「おねえさんがぼくのますたあ?」

小首を傾げ、甘ったれた声色で問いかけるひでに若干苛立ちつつも、エスデスはその問いに肯定した。

「知識はあるのだが、齟齬が無いか確認がしたい。この聖杯戦争について貴様の観点から教えてもらおうか」
「むー☆」

そんな調子で説明するひでに苛立ちを募らせつつも、エスデスは彼の説明を己の脳内に刻まれた単語と照らし合わせ咀嚼し改めて理解していく。
聖杯戦争―――要は、選ばれた者達が互いに願いを叶えるために戦う小規模な戦争である。
なるほど。悪くない催しだ。これなら自然に戦にまみえることができるし、英霊という並みならぬであろう猛者との戦いも楽しめる。
なによりも戦を好む彼女からしてみれば非常に興味深い催しだろう。
サーヴァントがこれでなければだが。

「ひでよ。貴様はこの聖杯戦争になにを望む?」
「んー☆んー☆」

人差し指を己の唇に当ててニヤつきながらこちらを覗き込んでくるひでに対し、エスデスのこめかみにピキリと一筋の管が浮かぶ。

―――こいつは自分が可愛いとでも思っているのか?

エスデスは自分が楽しむためなら如何な労力も惜しまない。
故に、この聖杯戦争にサーヴァントが必須であるというならきちんと部下の一人として扱う度量もある。
そのエスデスが、我慢の限界に達そうとしていた。
彼女のいた世界でも感じたことのない怒りが着々と溜まっていた。

「内緒なのら」

プツン、とエスデスの中の何かがキレた。
瞬時にエスデスの拳に氷が纏われ、間髪入れずにひでの頭頂部に拳骨をお見舞いする。

「ヴォエッ!」

その威力にひではくぐもった悲鳴を上げるが、エスデスは構わず喉輪をキめる。

「何度も言わせるな。貴様の願いはなんだと聞いている」
「おばさんやめちくり〜」

苦しみに悶えながら繰り出された言葉に、またもエスデスの中でなにかがキレた。
首から手を離し、生み出した氷の棍棒をひでの腹部に叩きつける。


109 : 悶絶少年〜氷点下の殺意〜 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:34:36 8974krqg0

「あー痛い痛い痛い!!」
「立て」
「ううううぅ」
「立て。でなければ殺す」

悶絶し蹲るひでを冷めた視線で見下ろしながら宣告する。

「わかったよもぅ...」

舌打ちすら聞こえてきそうな言い草をエスデスは聞き逃さない。

「そうか貴様はそんなに調教されたいのか。ならば望みを叶えてやる。来い」

エスデスはひでの髪を掴み拷問専用部屋へと連れて行こうとする。

「ねえほんとむりむりむり無理!」

ひでの抵抗が想像以上に強いことにも更に苛立ちつつ、エスデスは負けじとひでを引きずっていく。

彼女は気づいていない。
これまで己の意志で数多の人間を拷問、虐待し愉しんでいた彼女が、ことここに至り享楽は一切無しに怒りに任せて行動していることに。
彼女は知らされていない。
この英霊の目的が、生前を含めて虐待してくる数多の存在の駆逐であることに。
彼女は知らない。
この英霊を拷問虐待することそれ自体が、爆弾の導火線に火を点けるようなものであることに。

そして、ひでが引きずられ専用拷問部屋の扉が閉じられ、薄汚い絶叫が木霊した。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛も゛う゛や゛だ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


110 : 悶絶少年〜氷点下の殺意〜 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:35:50 8974krqg0

【クラス】ライダー

【真名】ひで

【出典作品】真夏の夜の淫夢派生シリーズ

【ステータス】

筋力A 魔力E 耐久EX 幸運E 敏捷D 宝具:EX



【属性】
混沌・悪

【クラススキル】

騎乗:E
小学生が乗り物を運転できるはずもない。
ひでがライダーの素質があるのは挑発により他者を自分のペースにのせることができるため

対魔力:A
だいたいの魔力攻撃を耐えれるはず。


【保有スキル】

挑発:EX
相手を煽る・イラつかせる技術。ひでの挑発を受けた者はかなり苛立ちやすくなる。
ひでは無意識的に発しているためこのスキルの矛先が誰に向くかはわからない。

頑健:EX
体力の豊富さ、疲れにくさ、丈夫な身体を持っている事などを表すスキル。
通常より少ない魔力での行動を可能とし、Aランクであれば魔力消費を通常の4割近くにまで抑えられる。

再生:A
己の魔力を消費し再生する能力。
自分の魔力が尽きればマスター及び自分を虐待した者の魔力と体力を勝手に消費し再生する。拒否権はない。
また、魔力及び体力の切れたマスターは例外なく死亡する。



【宝具】
『ヤメチクリウム合金』
ランク:EX 種別:対人宝具(自分) レンジ:1 最大補足:己のみ。

己の身体を金属の如く硬化する。マスターの魔力を消費することで硬度は増し、令呪を使えば更に硬くなる。
なお、この能力は任意でなくとも発動する。発動条件はひでへの虐待が一定の量を超えること。
自動で発動した場合はひでが自身への虐待が終わったと認識するまで解除されない。魔力が尽きれば令呪も勝手に消費する。

『ああ、逃れられない(カルマ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大補足:ひでを虐待した者全員。

ひでの怒りが最高潮に達し且つ限界まで追いつめられた時に限り偶発的に発動する能力。
これまでにひでを虐待した者は全てひでがこれまで受けた苦痛をそのまま返される。



【weapon】
・ランドセル
小学生の必須アイテム。中には文房具や教科書が入ってるよ。



【人物背景】
「ぼくひで」



【方針】
聖杯を手に入れたら手始めにこのおばさんと虐待おじさんを悶絶させる。


【聖杯にかける願い】
自分を含めたよい子のために子供を虐待するおじさんやおばさんを根絶する。


111 : 悶絶少年〜氷点下の殺意〜 ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:36:30 8974krqg0

【マスター名】エスデス
【出典作品】アカメが斬る!
【性別】女

【weapon】
・剣
将軍という立場もあってか、非情に高い身体能力と剣術を有している。

【ロール】
警察組織の暗部、尋問・拷問部隊隊長


【人物背景】
帝国の将軍兼、特殊警察部隊「イェーガーズ」の隊長。
帝国の切り札的存在であり、実際にその戦闘力は軍内部のみならず彼女の住む世界でも頂点に立つ実力者。
極度の戦闘狂であり、戦を好きなだけ行えるという点から帝国に属しているほど。
また、その名の冠する通り拷問好きでもある。
反面、芸術や恋路には疎く、初めて恋をしたタツミという少年を狂的に追い求めている。




【能力・技能】

・デモンズエキス。
危険種の血を己の身体に取り入れることで強力な氷を操れるようになる帝具。常人ならこれを取り込んだ時点で発狂するが、エスデスは強靭な精神でこれを従えた。
単に氷を生み出しぶつける・物体を凍らせるだけではなく、扱いこなし訓練すれば、時間を一時的に止めたり空に浮いたりと幅広い応用ができる。



【方針】
闘争を繰り広げる


【聖杯にかける願い】
戦の絶えない世界で過ごしたい。


112 : ◆ZbV3TMNKJw :2021/05/30(日) 22:37:01 8974krqg0
投下終了です


113 : ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 23:20:12 lbsfcuW.0
投下します。


114 : 華と荒野 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 23:21:33 lbsfcuW.0
 胸元に七つの傷。顔をすっぽりと隠すヘルメット状の面。筋骨隆々の肉体。
 全く同じ姿の男ふたりが東京の街を練り歩いていた。
 殺すべき敵を探して。

「おい「ジャギ」」
「なんだよ「ジャギ」」
 このふたりはマスターとサーヴァントとされる存在のはずだが、互いにそんな呼び方などしない。
 名を言い換えたり隠すことなど、このふたりにとってはなんの意味も無いからだ。

「俺の願いに文句はねえんだな?」
「しつけえな。別にどうなったって知らねえよ。見たこともねえ女なんざ、生きてようが死んでようがどうでもいい」
 サーヴァントの「ジャギ」の念押しするような問いかけにマスターの「ジャギ」はそうやって冷淡に答えた。
 暴力的な日頃の彼には珍しく、面倒くさそうに気だるげな反応だった。

 ふたりは敵を探して、ぶらぶらと街を練り歩いていた。
 やることもなく、ぶらぶらと。

 ふと。


115 : 華と荒野 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 23:23:06 lbsfcuW.0
 みじめな末路とやってきた所業は概ね同じはずなのに、どうしてここまで噛み合わないものを感じるのかと、ふたりの「ジャギ」は考える。
 何度も何度も、考えてしまう。


 才はあった。それは確かだ。北斗の兄弟としては最下位とはいえジャギには確かに非凡な才があった。100年に1人の天才と言えた。
 ……他の兄弟は皆、1000年に1人の才を持つ者ばかりだったのだが。
 リュウケンはそのジャギだけが持つバランスを完璧に把握していた。
 宗家どころか分家の北斗の血すら引かず。しかし兄弟をかき回す人材としては丁度良く、北斗神拳自体の使用には問題ない実力を有する。そして伝承者になる心配は絶対にない。そう言う戦略の元に彼は北斗の伝承者争いに入れられたのだ。
 そこに愛などなかった。

 そうだ。
 この「ジャギ」が北斗の伝承者になることは絶対にないのだ。
 例え今以上に研鑽を積んでも。
 他の兄弟を超える才を持っていたとしても。
 よしんば北斗の血の問題が解決されたとしても。
 ジャギは愛を知らないから。
 誰を愛したことも、愛されたこともないのだから。

 そういう意味では、サーヴァントとして召喚された「ジャギ」よりマスターである彼は更に伝承者から遠い。


116 : 華と荒野 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 23:24:27 lbsfcuW.0
 反英霊としてのジャギは才なき肉体を親に対する情愛で鍛え抜き、愛する者を持ちながらもすれ違いから破滅の道を歩み失意のまま死んだ男。
 そんな過去など知らないしマスターであるジャギには縁がない。
 確かに修行において努力はした。上の兄弟のことはまあ、認めてもいた。
 だが愛を育む相手など知るものか。他の兄弟がうつつをあげていたユリアでさえ、ジャギ自身は直接の興味はこれっぽっちもなかったのだ。
 無論アンナなどという女も彼の人生の内には存在すらしていなかった。
 
 「ジャギ」にはマスターが、己と似つつも決定的に断絶して見えた。ひどく空虚で孤独な哀れな男に見えた。
 「ジャギ」にはサーヴァントが、己と似つつも決定的に断絶して見えた。極限の悲哀と苦悩を背負うどこか遠い存在に見えた。
 どちらも失意と屈辱を抱え「ケンシロウ」に負けて死ぬ存在であったことは違わないのに。

 敵意もなく一定の共感をできる存在なのに、そこにはどこか距離感があった。同じ「ジャギ」として共闘はできる。文句もない。恨み言もない。
 それでもこの組み合わせはどこか、虚しさがあった。
 ふたりはただ、殺すべき相手を探して……黙って街をさまよっていた。


117 : 華と荒野 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 23:26:58 lbsfcuW.0
【クラス】
 アサシン
【真名】
 ジャギ@北斗の拳 ジャギ外伝極悪ノ華
【パラメータ】
筋力B 耐久B 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具C
【クラス別スキル】
 気配遮断:C
 暗殺拳としての技能の応用で気配を消す。
【保有スキル】
 北斗神拳:B++
 一子相伝の暗殺拳。本来アサシンの才能と能力はBが限界だがこのアサシンは「極限の怒りと哀しみ」は知っているため非常に不安定かつ不完全だが++の補正がつく。
 北斗羅漢撃:C
 憎しみ、恨み、妬み、嫉みを捨てた者だけが極められる連撃。アサシンの精神状態から極めることは事実上不可能。
【宝具】
『極悪の華』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 愛を失った執念、怨念がもたらす宝具。なにかを失えば失うほど筋力と耐久が増加していく。また恨みを持つ相手のみ保有スキルの破壊力が増加する。
【人物背景】
北斗四兄弟の三男。父リュウケンに拾われ、アンナという愛すべき女性とも会い強くなろうとするが無駄に終わり全てを失い狂っていった。
【サーヴァントとしての願い】
 北斗神拳伝承者になる。
 アンナを蘇らせたい。


118 : 華と荒野 ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 23:28:24 lbsfcuW.0
【マスター】
 ジャギ@北斗の拳
【マスターとしての願い】
 北斗神拳伝承者になる。
【能力・技能】
 北斗神拳 1800年の歴史を持つ一子相伝の暗殺拳。経絡秘孔を突いて人体に自在な作用をもたらす。ジャギは手段を選ばず含み針やショットガンと言った武器も活用する。
 南斗聖拳 北斗神拳と対となる拳法。108派あるがジャギが覚えた流派がどれなのかベースは謎。
 バイクの運転。
【人物背景】
 北斗四兄弟の三男。父リュウケンに当て馬として投入され伝承者候補として負け、外道へと堕ちた。愛を知らない存在。
【方針】
 勝てばいい、どんな手を使っても。


119 : ◆ruUfluZk5M :2021/05/30(日) 23:28:57 lbsfcuW.0
投下終了です。


120 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/31(月) 20:32:38 PKSk1VzU0
>>学生の本分
シリアスな前半の文章にすっかり騙されていたので面食らいました。
ギャグ要素の一切ない重い経歴持ちのマスターにこのサーヴァントが与えられるの、運命の悪戯にも程があると思います。
そして理不尽の権化と言うほかないバーサーカーが普通に真っ当に強いサーヴァントなのが一番救いようがないですね。
と思ってステシ見たら狂化はほぼ意味を成していないって書かれてあって笑っちゃいました。僕の負け。

>>絶対悪
パコさん登場回はリアルタイムで読んでたんですけど、本当どうしてかわいいラブコメの中にアレが出てきたんでしょうね。
シックスにもまるで臆する様子がない辺り流石と言う他ありません。
ていうかさらっとシックスと同格の悪意を持つことを示唆されてるのは何?
とりあえず戦闘続行が本当にただ往生際が悪いだけなんだろうなあ……って思いました。

>>夢の霹靂、燃ゆる恋のように
終始シリアスなお話なのに会話のテンポがどことなく軽妙で読みやすかったです。
エンブリヲとの会話の中で流れが二転三転していくのも退屈しなくて読み応えがありました。
マミさんは見事に決起したわけですが、しかし未だ傲慢なエンブリヲの掌の上。
これからこの主従はどうなっていくのだろうという期待感を抱かせてくれる一作でした。

>>食【えじき】
パコさん然りこいつ然り英霊の座ってもうタウンワークとかに載ってそう。
自分×自分の主従というだけでもアイデアとして面白いんですが、それを至郎田でやるのはもう発想の勝利という他ないですね。
至郎田自体はしょっぱい男ですがボーボボ出典な鯖至郎田は補正かかって色々やりたい放題できそうな。
【方針】如何なる手段を用いても聖杯を手に入れる。←君言うほど色んな手段思いつく? 大丈夫?

>>人間っていいな
浦上!? となりましたが、タイトルを見て納得しました。なるほど確かに人間。
浦上だけであれば難儀しそうですが、マスターが葛西善二郎というのが怖いですね。
彼らは確かに"人間"ですが、マスターたちの中にはそれこそ普通の人間も多くいるわけで。
そうなると存外、こういう主従も馬鹿に出来ない怖さがあるのかもしれません。

>>悶絶少年〜氷点下の殺意〜
こんなのが英霊の座にいるわけないだろ! いい加減にしろ!(憤怒)
あのエスデス将軍をして普通にイラついてるのが面白かったです。
界聖杯くんは何をトチ狂ってこいつをエスデスに充てがったんでしょうか。
とはいえエスデスはめちゃくちゃ強いので、いざ実際動いたら相応以上には脅威になるというのがなんともまた。

>>華と荒野
自分×自分の主従Part2ですが、こちらは打って変わって物悲しくどこか虚しい雰囲気のお話でした。
愛を知っているジャギはともかく、愛を知らないジャギもまた虚しく渇いているのが面白い。
そしてそんな彼らが互いに互いのことを紛れもない"自分自身"だと認識しつつも、しかし決定的な距離感を感じているのが素敵です。
こういう寂しい空気のお話は個人的に好きなので、読んでいて楽しめました。

めっちゃ投下来てて嬉しいです。皆さん投下ありがとうございました、これからも地平聖杯(略称です)をよろしくお願いします。

それでは私も投下します。


121 : 柊ナナ&バーサーカー ◆0pIloi6gg. :2021/05/31(月) 20:33:54 PKSk1VzU0

 取り返しの付かないことをしたと気付いた時には、もう何もかも手遅れだった。

 信頼を裏切って海へ突き落とした。
 好意を利用して罠に陥れた。
 悪意を好都合だと嗤って踏み潰した。
 狂愛を攻防の末に引き裂いた。
 自分の潔白を偽るために更に二人、消した。

 犬だと思っていた少女は自分にとって初めての友達だった。
 それに気付いてから何かがおかしくなって――
 少女が自分を守って死んだ時、自分の中の大事な部品が何か一つ、音を立てて壊れたのを聞いた。

「……界聖杯。願いを叶える、奇跡の器……か」

 それでも。罪を自覚したところで、今更何かを変えられはしなかった。
 初めて自分の意思で結末を変えようとした結果は、自分が釈迦の掌で踊る猿だったと知るだけに終わった。
 守ろうとした"敵"は目の前で撃ち殺されて。
 そして。柊ナナは、自分のすべてを失った。
 真実とは時にどんな猛毒にも勝るのだと、ナナは初めてそう知った。

「は、ははははは」

 その矢先に舞い降りた、一つの巨大な運命。
 それはナナを有無を言わさず連れ去って、願いの犇めく箱庭へと放り込んだ。
 聖杯戦争。万能の願望器。集められた"可能性の器(マスター)"達。
 
「……好機だ。私は、ツイている」

 万能の願望器を争奪する戦いなのだから、当然勝者への恩恵は決まっている。
 その身に抱く願いを一つ、何であれ叶えられる権利。
 それは幾千兆の財産にも勝る、この世において間違いなく最上位の報酬だった。
 曰く、界聖杯に叶えられない願いは無いという。
 ならば当然、出来るのだろう。柊ナナがその頭で考え、その手で犯してきた数多の罪を――すべて無かったことにすることも。

 中島ナナオを殺さず。渋沢ヨウヘイを殺さず。葉多平ツネキチを殺さず。
 佐々木ユウカを殺さず。羽生キララを殺さず。高梨カオリを殺さず。
 そこに至る罪が存在しないのだから、三島コハルが死ぬこともない。
 ……そして。犬飼ミチルが――ナナの初めての友達が、死ぬことも。ない。

 いやそもそももっと前から世界を書き換えることだって出来るかもしれない。
 両親の死の回避。否、能力者そのものが生まれず、彼らが全員只人だった世界を実現させることとて不可能ではないだろう。
 
「そうだ、それがいい。それなら……」

 委員会なんてものは存在しなくて。
 能力者が存在しないのだから、当然それを巡る陰謀も政争もない。
 自分の両親は殺されなくて、いつも通り次の朝が来て、部屋を散らかしっぱなしで眠ったことを叱られて。
 家族と一緒に歳を重ねて、進学して……そしてある時、どこか犬っぽい心優しい女の子と友達になって。
 そうして、一緒に大人になっていく。そんな夢みたいな世界だって。界聖杯の力があれば、きっと叶えられるのだ。


122 : 柊ナナ&バーサーカー ◆0pIloi6gg. :2021/05/31(月) 20:34:44 PKSk1VzU0

「それなら、っ……」

 頭の中に再生される、血塗られた記憶。
 殺した。たくさん、たくさん殺した。
 それが正しいと信じていたからだ。
 実際彼らの中には、人間社会にとって有害な業を抱えた人間も居たとは思う。
 でも――それを間引いた自分は正義を成したのだと誇るには、ナナという凶器(どうぐ)は壊れすぎてしまった。

「それなら、人類の敵なんて、生まれないんだ」

 彼らは、人類の敵だと聞いていた。
 そしてナナ自身、それを疑うことなどしなかった。
 けれど実際は違った。あの島には、人類の敵なんて大仰な存在は一人だって居なかった。
 いや。もし、あの島にそんな存在が居たとすれば。それは、きっと。

「――――」

 ……界聖杯を手に入れる。自分にそれ以外の選択肢はないし、許されない。
 ナナは決意した。幸い、自分が召喚したサーヴァントはとても偉大な人物だ。
 並び立つ敵を蹴散らして、他の願いを踏み潰して、地平線の果てに待つ界聖杯を掴むこともきっと出来る。
 いや、掴まねばならない。それが自分に課せられた責任であると、今のナナは理解している。

「勝とう。勝つんだ。そうすれば、私は世界を変えられる。
 大勢救える、皆を幸せにすることが出来る……!」

 それさえ出来れば。
 きっともう、自分はこんな気持ちにならなくて済むのだ。
 夜だってゆっくり眠れる。クラスメイトにだって心から笑いかけられる。
 もういない友達の面影を虚空に幻視することだって、なくなる。
 聖杯戦争にさえ勝てれば。界聖杯さえ、手に入れられれば。
 全て、すべて、丸く収まるのだ――そう。

「キミはそれでいいの? また、大勢殺すことになるけど」
「――ッ!!」

 
 全ての願いを、"人類の敵"として、踏み潰せば。


123 : 柊ナナ&バーサーカー ◆0pIloi6gg. :2021/05/31(月) 20:35:41 PKSk1VzU0
「キミは頭の良い子だ。なら、もう分かってるでしょ。ただ見ないフリをしてるだけ」
「言うな……」
「聖杯戦争は正々堂々ヨーイドンで始める競技(スポーツ)じゃない。
 サーヴァントを倒すだけで終わりなんて綺麗事は、きっとずっとは続かないよ」
「言うな! バーサーカーッ!!」

 狂戦士(バーサーカー)のクラスに当て嵌められていながら。
 その青年の放つ雰囲気は、驚くほど穏やかだった。
 まるで凪の水面を見ているような、小鳥のさえずる森の中で寝転んでいるような。
 そんな安息感を覚えるはずだ。彼を見る者が、彼と同じ人間であるならば。

「勝つなら、また誰か殺すことになる。
 キミの前に現れるのは、新しい"人類の敵"だ」

 少年のようにさえ見える顔を微塵も揺らがさずに言う、バーサーカー。
 人類の敵、というナナにとっては聞き慣れた言葉も、彼が口にすると重みが違った。
 その理由を、彼の真名を知るナナは知っている。
 
「それでも聖杯を求めるってんなら、俺はキミに従うよ」
「……なんで。なんでそんなことを言うんですか、バーサーカー」
「キミも、キミの世界の人類も――みんな俺と妻(イヴ)の子だ。
 そのために戦うと言うのなら、俺はそれを否定しない」

 そう言って、バーサーカーはナナの目を見た。
 その目は一見すると無感動に見えるが、人類ならば誰であれ、そこに宿るあまりに深い愛を見取るだろう。

「けど。キミが泣きながら戦うんなら、俺にはそれを止める義務がある」
「……っ」
「答えてごらん、ナナ。キミは、本当はどうしたいのか」
「わ、たしは……」
「キミは――世界を救いたい?」

 聖杯を手に入れて世界を書き換えることは、バーサーカーの言う通り世界の救済に繋がる。それはまず間違いない。
 能力者という存在は、端的に言って社会の一員としておくには角が立ちすぎるのだ。
 だから何をどうしても陰謀が出る。悪が出る。彼らが悪いのではなく、単に社会というシステムそのものに、彼らを受容するキャパシティがないのだ。
 界聖杯を手に入れれば、その破綻を"なかったこと"に出来る。
 それはナナにしか出来ないことだ。人類のために行える紛うことなき善行だ。

 けれど。ナナは、眼前の"父"の優しさと愛に触れて。
 大きな瞳からぼろ、ぼろと涙を流しながら――吐露する。
 
「私は、もう、誰も……誰も、殺したくない」
「分かった」

 "人類の敵"を淡々と殺せた柊ナナはもういない。
 今此処に居るのは、人を殺したくないという当たり前の感情を持った少女だ。
 だからこそ、バーサーカーはその想いを受諾する。
 他ならぬ、己の子の想い。真の願い。涙を流して打ち明けてくれた、祈り。
 それを無碍にする親ではないのだ、彼は。
 この世において、彼だけは。
 絶対に――その愚を犯さない。

「帰ろう、ナナ。キミはもう誰も殺さなくていい」


124 : 柊ナナ&バーサーカー ◆0pIloi6gg. :2021/05/31(月) 20:36:30 PKSk1VzU0
「あ、ぁ……」

 ずっと、その言葉を聞きたかった気がする。
 でも、誰かに打ち明けられることではなくて。
 打ち明けられる相手に対して話したとして、聞き入れられる訳はなくて。
 だからずっと聞けなかった、その言葉。
 そうだ、自分は。

 ずっと――

「あ、あ───あぁああぁあぁああああああ……!!!!」

 ――足を止めたかったのだと、思った。


 泣きじゃくる少女を胸に抱き、父(アダム)は地平線の果てを見据える。
 この地には願いを抱く子どもたちが溢れている。
 多くの血が流れるだろう。多くの涙が流れるだろう。
 故にこそ彼は、自分が此処に喚ばれた意味を理解していた。
 

 自分はきっと、泣く子を抱きしめてあげるために――ただそれだけのために、此処に喚ばれたのだ。



【クラス】バーサーカー
【真名】アダム
【出典】終末のワルキューレ
【性別】男性
【属性】中立・善

【パラメーター】
筋力:B 耐久:A 敏捷:A 魔力:E 幸運:B 宝具:B+

【クラススキル】
狂化:EX
 全ての人類(子)に対する、狂おしいほどに大きな愛。
 それはもはや人の器には過ぎた愛情だが、およそ人である限り、誰もがその愛に感服する。

【保有スキル】
原初の人:EX
 神により創造された、最初の人間。
 全ての"人"から敬愛され、礼賛される"人類の父"。
 アダムが人間を守る目的で人外の存在と戦闘を行う場合、全てのステータスが1ランクアップする。

戦闘続行:A+
 往生際が悪い。
 霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。

天性の肉体:B
 生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。
 このスキルの所有者は、一時的に筋力のパラメーターをランクアップさせることが出来る。
 鍛えなくても筋骨隆々の体躯を保つ上、どれだけカロリーを摂取しても体型が変わらない。


125 : 柊ナナ&バーサーカー ◆0pIloi6gg. :2021/05/31(月) 20:37:06 PKSk1VzU0

【宝具】
『神虚視(かみうつし)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
アダムの両眼。神の模倣体として生み出されたアダムは、目視した神の技能を全てコピーすることができる。
視力さえ残っていれば流星群の如き拳打はおろか、時間を超越して放たれる認識不可能の拳にすら対応が可能。
神経回路に過負荷が掛かり、やがて目から出血。それでも使い続ければ失明してしまう。

【weapon】
メリケンサック

【人物背景】
「全人類の父」。股間を木の葉一枚で隠しているのみの、ややあどけなさの残った童顔で引き締まった筋肉質の美青年。
かつては楽園で不自由なく過ごしていたが、蛇神の姦計で無実の罪を着せられ追放処分となったイヴを守るべく、神々の目前で善悪の実を喰らった上で彼女を貶めた蛇神に報復し、楽園を去った。
人類で最も神を憎んでいると言われていたが、当の本人は神への憎悪など一切なく、あるのは己の子どもである全人類への深い愛情のみである。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯を獲るつもりはないが、強いて言うなら愛する子供たちの幸福。


【マスター】
柊ナナ@無能なナナ

【マスターとしての願い】
元の世界に帰還し、自分の責任を果たす

【能力・技能】
無能力。特殊な能力は一切持たない。
だが厳しい訓練を受けており、近接戦の技能から毒物の調合などまで各方面で極めて高いスキルを持つ。

【人物背景】
一切の異能力を持たない無能力者で、委員会の命である「能力者たちの抹殺」のために能力者の隔離された島に転入生として潜入。
その後は"人類の敵"の仕業と偽って、次々と能力者を排除していった。
幼少期に両親を能力者に惨殺されて以来能力者のことを強く憎んでいたが、初めての友人である犬飼ミチルとのふれあいとその死をきっかけに「能力者が善人だった場合」を仮定して物事を考えるようになるなど人間らしい感情が芽生え始める。
参戦時期は鶴岡により、両親の死の真実を知らされた直後。

【方針】
界聖杯内界からの脱出を目指して協力者を探したい。
敵には応戦するつもりだが、もう人は殺したくない。


126 : ◆0pIloi6gg. :2021/05/31(月) 20:37:31 PKSk1VzU0
投下終了です


127 : ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:22:27 zpvb4VdI0
投下します。
Fate/ding epilogue ─結末聖杯─
に投下した作品を流用、合わせて改変した投下となります。


128 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:30:00 zpvb4VdI0
 静かな、静かな場所に。
 2名の闘士(もののふ)が対峙している。
 気負うでなく。飽きた風でもなく。
 場所は東京、本部流柔術――道場。対峙する2名の片方側、泰然自若としている本部以蔵の本拠たる空間である。無論それは聖杯戦争として存在する仮の場所。イビツな複製に限り無く近い。
 だが、既にその空間は本部の玩具箱として隅から隅まで「掌握」されている。
 入口。床。天井、そして刃物や鈍器に暗器などありとあらゆる武器道具が並び、かけられた壁。
 上下左右前後――六方の座標全て満たすに至るまでこの男、本部のホームグラウンド。

 しかし。
 もう片方のにこやかにしている者もまた――己が生家が如くこの空間に馴染み、掌握していると言っても過言ではない。

 ある日、本部は目覚めると共に今までとは「違う」と感じ取った。そこは間違いなく自身の領土とも言える道場。だが、何かが今までとは違う。
 場所が、違う。
 空気が、違う。
 世界が、違うと。
 武を張り詰めらせ何が起こるかと怪しんだ直後、本部の元へとサーヴァントが降りたった。
 そのサーヴァントとは、セイバー。真名をば――新免武蔵守藤原玄信。
 つまりは宮本武蔵。戦国の世において最強の名はここから始まったとも言われる……女である。
 
 そう、女性。
 本来ではありえぬ存在であった。ましてや本部以蔵ならば、その現状のおかしさは理解(わか)り過ぎるほどに理解っている。
 にも関わらず。本部はその女性の存在を疑問に思わず。それどころか敬うような姿勢でさえいた。


129 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:33:03 zpvb4VdI0
「女だてらに道場に踏み入るなど――とは忌避(いやがら)ないんだ?」
 対峙の中で疑問を言葉として切り出したのはむしろ、武蔵の方からであった。本部もまた、真摯に返す。
「本部流柔術は老若男女を問うでもなく、広く門戸を開いておりますから」
「ふふっ。イマドキって感じね……でも、ありがたい話」

 ねえ本部さん、と。
 軽やかに美しい女武蔵の声音が、マスターへと呼びかけた。

「今日の実戦稽古はどうするの?」
 稽古。
 そう、この主従は――稽古を重ねていた。
 サーヴァントとマスター。
 人類史の英雄と只人と言う存在の格差を持ちながら。対等の稽古を――為していたのだ。

「さて……やりながら決めますか」
 そう言って無造作に、互いの距離が詰まる。手足が触れられるほど、その制空権まで……
 と、淀みなく武蔵は払い込むように右の平手を突いた。貫手――否。目を擦るように狙うそれは急所狙いの牽制。視力を軽く喪失させるのは序の口。
 しかしそれを全て読んでいたように本部は武蔵の手首を横合いから掴み、ひねり上げる――瞬間、武蔵のもう片方の手元から棒手裏剣が閃くように本部の顔面目がけて飛んだ。
 だが咄嗟に顔を最小限の動きでズラし、これを回避る本部。
 その回避の直後を狙い、武蔵はもう一本の棒手裏剣を掌に握りこんだまま、思いっきり自身の手を掴む本部の手の甲へと突き刺そうとする。すると、武蔵のひねり上げられた手はあっさりと離された。
 別にもう、その手に執着は無いと言いたげに。
 離れてやや距離を取る。武蔵の細くも力強い手首は……おかしな方向へと向いていた。攻防自体はわずか数瞬の――否、瞬きにも満たぬ時間の出来事である。

「へっ。何時の間にやら道場の壁から手裏剣をちょろまかしていたわけだ――」
「わかってた癖に。でも、あの一瞬で手首を外されるなんてね」
 と言いながら、即座に外れた関節を戻す武蔵。明らかに「素手」の領域に関しては本部に分がある事は明白だった。


130 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:35:44 zpvb4VdI0
「さて……それじゃあ私も――」
 温まってきた。と、言いたげにそこに刃が出現してくる。それは強力な想像力から来るイメージ上の刀――違う。

 エア刀ではない。

(オイオイ……こいつは武蔵さんが宝具に使う獲物、モノホンの刀じゃねーか)
「待った」
 掌を向け、本部は汗をかきながら。稽古なのに負けず嫌いな人だなぁ〜ッと慌てて静止をかけた。
「二刀を使われちゃあ私に勝ち目は無い。降参です」
「本部さん。貴方と私の間で――「降参」がどれほどの意味を持つっての?」
 やんわりと。武蔵はただ降参だけでは止まらないと、宣言していた。
 確かに本部以蔵もまた「まいった」だけで戦いが終わるとは考えていない。生殺与奪を握り合うもの。実戦とはそういうものである。稽古と言えどもそこは重視すべきである。
「……それじゃまあ、私が動けぬよう縛り上げればよろしい」
「へえ――良いね、うん。じゃ、そうさせてもらいますか」
 その後。帯を取って本部を縛ろうと近づいた矢先、ドロップキックからの不意打ち気味に抵抗する本部によって逆に縛られた武蔵の姿があった。

 ●

「あのタイミングで蹴って縛ってくるとは思わなかったわ〜本部流おっそろしいわぁ。合戦思考すぎるわ」
 稽古も一段落して終わり。縛法による捕縛も解かれ、道場で壁の武器を眺めながらくつろぎ始める武蔵と……それをもてなす本部。
「何をおっしゃる。あからさまにこちらの技や虚を突く要を探って自分のモノにする気満々だった癖に」
「あ、バレてた?」
「当然。稽古でなければ幾度こちらが一方的に殺されていたことか」
「あはは」
「ふふふ」

 朗らかながらも聞くに恐ろしい談笑が2人の間であがった。
 ややツボに入った形である。


131 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:36:56 zpvb4VdI0
「それにしても武器……暗器もか。いくらか持って行っていいかしら。対サーヴァントでも使えるわよ、これ」
「ふむ。ではこの煙幕などどうです」
「へぇ。あっこれ素焼き? 手作りじゃない。良い造作。致命傷を与えるんじゃなくて意表を突くのに特化してるわね」
「お目が高い、流石は宮本武蔵。ではこれとこれを携帯しますか」
「そうね。えっと後はこっちの手裏剣と鎖も持ち歩いておこうかな――あれ、これなに?」
「ああ、それは硫酸入りのカプセルです……主に口などに仕込んで相手の顔面に吹きかける形で――」

 暗器の会話(トーク)に花が咲く。
 そしてその中で……
 研がれていた。
 研がれていた。
 チームワークが。連携が。どうしようもなく研がれつつあった。
 それはセイバー、宮本武蔵が召喚されたその瞬間から。稽古や会話、或いは雑事。そう言った他愛もないことでさえ高まっていく、一卵性双生児でも及ばぬほどの――阿吽の呼吸。或いはそう、当事者たちでさえもはや止められないであろう次元の……相互作用が起こっていた。

「しっかしなんっていうかなぁ。酷く馴染むのよね、ここ。落ち着くって言うか……まるで慣れ親しんだ自分の家みたい。それでいてワクワクするし」
「ええ、わかりますよ。私もです。道場にはいつ居ても構いません」
 うれしいなあ。と武蔵はコロコロ笑う。だが、本当にいつまでも「ここ」にだけ居る事はできないだろうとは互いに了承していた。
「聖杯戦争だもんね」
「聖杯戦争だもんなァ…」
 しみじみと、2人揃って言葉が重なる。


132 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:39:59 zpvb4VdI0
 にしてもさ。武蔵は道場にしかれた座布団に腰を下ろしながら、本部に確認するように問いかけた。
「疑わないの? こんな――見も知らぬ女にさ。私が宮本武蔵だぁ、なんて言われて」
「それはもう……」
 武蔵の言葉を噛みしめるが如く、武蔵のマスター。本部以蔵は、正座で襟を正し言葉を紡ぐ。
「歴史(セカイ)が、理が違っていても理解ります。天下無双。二天一流の宮本武蔵は――宮本武蔵なのだと」
 直線。真っ直ぐに――本部以蔵という男は、武蔵であることを一分の疑いなく断じてのけた。

 迷わぬその言葉に武蔵は、やや嬉しそうに頬を掻いた。

「……そっちの「武蔵」はどんな感じだった?」
 話として本部から聞いた際にはこの「セイバー」として顕現した武蔵も驚愕したものだ。複製の肉体(クローン)に魂を降ろす――またなんとも恐ろしげな行為にて降臨したと言う、本部の世界の宮本武蔵。
「失礼ながら、膂力はあちらの「武蔵」の方が上でしたな」
 事実である。本部自身が言ったように腕力はクローン体の武蔵の方が上だろう。
 何せ本部の世界に居た武蔵とは――空に対し素振りをするだけで並の日本刀ならば折れ、青竹は割れ、ささらとなってしまう。果ては恐竜をその五体のみで屠ってきた原人ピクルと手四つをして見せるほどの……そこいらのサーヴァントが裸足で逃げ出すような怪力である。
 そういう意味では、このセイバーとして呼ばれた武蔵はむしろ更に本部に近しいスペックと戦闘スタイルとも言えるだろう。

「後は――貴方よりは現代の世俗に慣れてない感じでしたか。まあ、すれ違いもありましたが。そこはご老公と現代格闘士がちょっかいを出したせいもあるのでしょうが」
「ご老公。徳川の末裔のおジイちゃんかぁ……確かに出世にはちょうどいいかもね」
「でも些か身勝手な方ですよ」
「はは、わかるわかる。こうして話に聞いただけでも大変そう」
 と、歓談をしているとどちらからともなく。ぐぅ……と腹が鳴った。
「もう飯時ですか。昼食にでもしましょうかね」
「それじゃ、うどんでも食べに行きましょうか!」
「好きですなあ」
 本部も手早く道着からジャケットに着替えると、武蔵と共に街へと出かけていく。別段なにを隠すようでなく自然体で……しかし、武装は隠されていた。
 服の下に鎖分銅と手裏剣、煙玉。手槍。ありとあらゆる武装から帷子や刃を通さぬ具足までもが……仕込まれていた。
 本部も武蔵も、その武装行為に対してなんら特別な反応をしない。自然体での、武装である。

 ●

 果たしてこれは運命のお膳立てなのか、あるいはただの偶然か。本部の道場及び家屋の近所にあったうどん屋でうどんを美味そうにすする武蔵。
 闘うために呼ばれたサーヴァントとは思えぬ姿だが、本部はどこかそういった武蔵の気安い所作に、既に充分すぎるほど慣れていた。
 今ここに居る「武蔵ちゃん」は本部の印象からしてもどこか――「あちら」の武蔵よりもより人懐っこい部分がある。悪戯っぽいような、取っつきやすいような。
 鮮烈な戦国の武を持ちながらも、現世にさらりと馴染むだろう不思議な感覚。

 それは彼女が「孤独慣れ」しているからだろうか。家族、親戚、恋人、友人――心許せる者が誰一人いない異空間への来訪。
 それを繰り返してきたからこその、順応か。


133 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:42:05 zpvb4VdI0
 しばらくして、うどんを食べ茶をすすり、一息ついた武蔵は本部に対して今さらだが、このままで良いの? と聞いた。
「いいの……とは」
「だってさ。こっちとしてはありがたいんだけど、安易にホイホイ外出して大丈夫なの? このまま穴熊決め込むって手もあるのだけれど」
「ええ。場合によっては籠城もアリでしょう。だが今現在において……貴方と私ならば、こちらも固まって動き偵察した方が良い。自然体で居た方が良い。貴方とごく普通に生活し――町を出歩き。寝食を行い、いつものように稽古をする。それで良い」
「それで充分勝てる、と」
 自信と言うよりは、あまり緊張した姿や警戒の挙動は敵に気取られるという事か。なるほど理はあると、武蔵が納得するが。

「勝つと言うより――守護りたい。と言ったところですかな」

 との不可思議な台詞が本部より飛び出した。
「守護……る?」
「そう。戦国の「武」の作法を現代まで伝えられし端くれとして、聖杯戦争に巻き込まれたまだ見ぬ人々――そして貴方を」
 沈黙が、降りた。だが本部は構わず宣言を続ける。
「宮本武蔵。俺が貴方を守護(まも)る。この聖杯戦争から――守護り抜く!」
 その宣言に対し、武蔵は。
 憤怒るでもなく。
 拒絶るでもなく。
「はい? あ、ありがとう……ございます?」
 戸惑った。しかし、戸惑いながらもその中に――喜悦。僅かに悦びのようなものをも見せた。

「いや……でもさ、本部さんが――私からするとマスターじゃない? 優先順位としては、マスターの命や願いが優先なハズで。そりゃあまあ。私を守護ってくれると言うのはありがたいけど……」
 とは言えマスターから守護ると言われ、どこか釈然としないのも事実。
「なるほど、理解しがたい――と」
「まあ……そりゃ……ウン」
「自分より遥かに弱いおっさんが、何をハネッ返っているんだと。私は天下の宮本武蔵だぞ、と。見損なってもらっては困ると」
「いやいやいや。そこまでは……」
 偉く食い下がるなあ。そう武蔵は戸惑いを深めた。
「疑問はもっともです。弱者が強者を守護るのは理に合わない……私より遥かに強い貴方を、なぜ私が守護ろうとするか。決まっている。貴方が、貴方そのものが……武の至宝だからだ」
「…………」
 唐突にして意外なほどの賛辞に、武蔵は思わず固まる。


134 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:45:21 zpvb4VdI0
「二天一流、宮本武蔵。性別が違う? 世界が違う? 人類史から追放された? そんなことは関係無い。一目見た時より心奪われました。
貴方の武が。貴方自身の輝きこそが失ってはならないかけがえのない『究極の宝』――あくまでいち現代格闘士に過ぎない俺などより遥かに得難い存在である事は見れば理解る」
 一転、熱弁する本部。そこには下心もおべんちゃらも無い全力のリスペクト、称賛がある。思わず――
「えっと、そんなに私……素晴らしい?」
 と確認すると。
「無論」
 迷いなど無い。全力で宮本武蔵の武を。存在を。究極だと――本部以蔵は断言する。
 それに対し武蔵は漸く感情定まったように――

「えへへぇー」
 照れた。

 これは表の史実、読者諸兄も知る「男の宮本武蔵」その逸話にも記載されている程に有名だが……宮本武蔵とは承認欲求が強い人物であった。
 仕官を乞い、己が名声をどこまでも欲する。いっそ純粋なまでに「褒められたい」
 それは本部がかつて会いまみえた武蔵も、この女性である武蔵にも強く共通する点だった。
 だが武蔵の「武」とは卑劣にして卑怯。

 明らかな他の武人と比べてもなお天衣無縫にして――凶悪。

 更には彼女は、若くしてあらゆる世界を放浪するハメとなった剪定事象の宮本武蔵である。
 だからこそ――ここまで剛直にして理解ある『褒められ』に対する耐性、免疫が無い。世辞ではなく。歴史に刻まれた「宮本武蔵」という高名(ビッグネーム)にでなく。あるいは容姿や行動力ではなく。
 目の前の武蔵ちゃんと言う存在とその強さ、武の性質を理解してまだ一切迷わず「あなたのそこが凄い。偉い。素晴らしい」と言ってのける存在はそうは居ない。


135 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:47:55 zpvb4VdI0
 故に照れる。
 照れて、照れて、照れて――照れまくる。
「いやそんなこと無いわよ! うん! 本部さんも超一流と言っても過言ではないし!(お、おじさんで逆に良かった……本部さんがもっと年若い美少年なら完ッ全に危なかったわ)」
「ご冗談を」
 顔を赤くして身悶えする武蔵に対し、本部は微笑ましいと言いたげに落ち着いた態度を崩さない。
「いやいや。天下無双を譲る気は確かに無いけど。でも本部さん無手の組み技や鎖分銅とかなら私より上じゃない。あそこまでのキレの良さ、元居た時代の武芸者でも見た事無いよ」
「何をおっしゃる。俺が英霊の器に見えますかね。小汚いおっさんだ」
 それはまあ――あながち否定はできなかった。何より武蔵ちゃんからしても好みのタイプとは違う(そういう問題ではない)。
「『英霊』になれる存在とは鬼神の如き暴力を振るうオーガ……範馬勇次郎。あるいは範馬刃牙。合気を完成させた渋川先輩や、空手で言えば独歩辺りが相応しい。
俺は……ただ、現在(いま)の世にそぐわない戦国の武を細々と伝えていくだけの中年に過ぎません」

「…………」
 ここまで話が進んで少し、武蔵は憮然とした表情になった。
 マスターとサーヴァントとして道場で寝食を共にし、稽古をしたからこそ言葉にせずとも解った事実。
 本部以蔵とは、武を愛している。武に打ち込み――武を考え――武に生きている。
(つまりその武愛があるからこそ、私の事を理解し、評価してくれてもいる)
 にも拘らず。心底では己を大したものだと見ていない。時代に不適合であると。他の武人たちのような「輝ける側」ではないのだと。傲岸不遜なようでいて、そう言った卑屈さ――良く言えば慎みのようなものがある。
 いや、それは曇り誤った認識ではなく。事実彼は元の世界ではそんな扱いではあったのだろう。本部の居た時代においてはその自己認識こそが正確な真実。

『あの弱い――あの冴えない――あの年老いた――あのよく分からない本部以蔵』

 ある時に裏の権力者たる徳川光成の下した、そして世の超一流グラップラーたちに共通していたであろう本部以蔵像である(無論凡百の武術家にとっては悪夢のような存在ではあったにせよ)。
 皮肉にも、それは彼の世界においてクローンとして復活せり「宮本武蔵」との戦いである程度ひっくり返された物ではあるのだが――


136 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:51:11 zpvb4VdI0
 それが、その彼の居た元の世界で共通しているだろう、武の界隈におけるイメージこそが今のセイバー……武蔵ちゃんからすると我慢ならなかった。
 本部が全開にした「武」は武蔵の「武」に非常に酷似している。いや、こうしてすり合わせた今では親族のような物と言っても過言ではないかもしれない。
 シンパシーを、感じていたのだ。個人としても親しみがあった。

 それが何故こうも現代社会とやらにおいては肩身を狭く過ごしている? 何故己をそうも過度に律し、卑下する?
 私のような世界の放浪者でもないのに。時空を追放された宮本武蔵を敬する上として見、己をまるで無価値な存在のように言う本部以蔵に武蔵は不満を覚えた。

 「武」に対する感情はしばしば、男女の色恋。恋愛へと例えられる。

 闘いたいと思う相手に対し――よく知りたい、よく触れ合いたいと思う恋心。また、手に入らぬ高みを見上げ、それでもなお求め追いかけたくなる恋心。
 ならばこれは……既によく見知った相手でありながら、もはや手に入ったも同然と言える程に掌握していながら「焦れる」気持ちは一体――どういった感情に酷似していると言うのか。
 強引、無理に例えるのならそれはまるで――自分だけがその良さ、魅力をハッキリと知っている幼馴染の彼女から「私なんて貴方と比べたらまるで釣り合わない。冴えない娘よ」と言われた時のような。
 そんな風に自分を卑下しないでくれ、違うだろうと叫びたくなる感覚。

「そう。だからこそ――我が身に変えても、戦国の武をこの身に宿すこの本部には皆を守護る義務が――」
「本部さん。それは認めないわ」
 武蔵は強く……神妙に、本部のその態度を否定する。
「私の武が宝だとしたら――貴方も宝よ。これは慰めじゃない。紛れもない事実。貴方が私を守護ると言うのなら、私だって貴方を守護りたくなる程には……得難い宝よ」
 確かに、才も強さも宮本武蔵の方が上だろう。
 本部以蔵では空位には達してはいるまい。
 彼より猛々しく、輝ける武人はサーヴァントの中にも間違いなく存在するだろう。だが。だが――

『本部が強くて何が悪い』

 宮本武蔵の中に、そういった激情のような思考が沸々と湧いていた。
 あるいは……あるいは自身が軽んじられるよりも、強い激情だった。
「武蔵さん――」
 報われた。
 天下無双、宮本武蔵にそう言われる。その時点で――それだけで報われたように、本部はありがとうと一言小声で呟いた。


137 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:52:54 zpvb4VdI0
 そして――
 よしっ、と決めたように武蔵は気合を入れ直す。

「この聖杯戦争。悪党の企みが出てくるのなら叩き潰す。でも、それは貴方と一緒になのよ本部さん。『宮本武蔵と本部以蔵が組む』というその事実の恐ろしさ、見せてやろうじゃない!!」
 そう言って武蔵は、天真爛漫の笑みで本部へと手をさしのべた。
 本部は一瞬あっけにとられたような顔をして――やがて、笑顔を返し力強く手を取った。
「そうですな! 宮本武蔵と本部以蔵……この2人が組んで敵などあろうはずもなし、か! 勝てるぜ――武蔵ちゃん!!」
 一見すると。仲間同士が理想的に一致団結する、美しい光景がそこにあった。
 だがそれは即ち――卑怯卑劣、武芸百般にしてあらゆる戦術を得意とするマスターとサーヴァントが、連携、罠、だまし討ち、逃げetc……その全てを全開して敵に容赦なく襲いかかるという「エゲつない」事実が確定した瞬間の光景でもあった。


138 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 21:56:52 zpvb4VdI0
【クラス】
 セイバー
【真名】
 宮本武蔵@Fate/Grand Order
【パラメータ】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具A
【属性】
混沌・善
【クラス別スキル】
 対魔力:A
【保有スキル】
 第五勢:A
 天眼:A
 無空:A
 戦闘続行:EX

『六道五輪・倶利伽羅天象(りくどうごりん・くりからてんしょう)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:2〜20 最大捕捉:1人
 剣轟抜刀。二刀流のまま泰然と構え、「小天衝」で相手の気勢を削がんと剣気にて威圧してから、「大天衝」で渾身の一刀を繰り出す武蔵の最終手。
 背後に浮かぶ仁王はあくまで剣圧によるもの。武蔵がまだ体得していない『空』の概念、『零』の剣の具現と言える。
 対人宝具と言っているが、その本質は対因果宝具。あらゆる非業、宿業、呪い、悲運すら一刀両断する仏の剣。

『二天一流・天下無双』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大捕捉:???
 マスターとの並はずれた相性の良さ、そのシナジーにより生まれた「魔剣破り、承る!」の変形変則型宝具。
 「宮本武蔵」とはあらゆる策あらゆる手あらゆる武芸を用い敵を撃滅する存在である、という武の在り様が具現化した物。
 ありとあらゆる手段が敵の神秘の守り、その種別と無関係な損傷を与え得る。
 それは一掴みの砂や鉛筆などのその場にあるごく普通の器物の使用から間接的なトラップ、帯などを用いた捕縛行為、果てはマスター自身の攻撃も例外ではない。
 即ちマスターとサーヴァントの用いるありとあらゆる攻撃手段が全て神秘に関係なく作用するダメージや束縛と化す。五体すべてが武器を通り越しあらゆる手段が『武器』である。
 またこの宝具はランク以下の宝具を見通す宝具、スキル等をシャットアウトし秘匿する。

【サーヴァントとしての願い】
 悪の企みあれば打倒する。二天一流・宮本武蔵と本部流・本部以蔵ここにありと証明する。
【方針】
 善人や可愛い子は保護、共闘。手段を選ばず敵は殲滅と臨機応変に。


139 : 弐の武 ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 22:03:18 zpvb4VdI0
【マスター】
 本部以蔵@刃牙シリーズ
【願い】
 俺が聖杯戦争に苦しむ皆を――そして武蔵さんを、守護らねばならぬ。
【能力・技能】
 本部流柔術をマスターしている。だが柔術は戦場格闘技とのことからありと剣術槍術から弓術、棒術、薙刀、縄術に馬術、果ては手裏剣や煙玉など忍術から毒物の使用まであらゆる武芸を使いこなす。実質古流武術全てを会得していると言って良い。
 また、経験と技量によって高レベルの直感や予知じみた力量を持つ相手に対してすら不意打ちや幻惑、逃走を成功させる事を得意とする。
【人物背景】
 実践柔術を極めた柔術家。だが、手ひどい敗北やタイミングの悪さで徐々に周囲から軽んじられるようになった。
 しかし宮本武蔵(クローン)との戦いで武器を活用した超実践的なゲリラ戦術を習得していたことや超軍人を弟子に取っていたことが明らかとなる。
【方針】
まずは周辺を巡って敵対者や保護対象を見極める。
【weapon】
 日本刀を所有。
 普段着に見せかけた防刃防弾のアラミド繊維のジャケット。下には刃を通さぬ鎖帷子と手足に具足が仕込んである。
 ジャケットの下には手製の煙玉に鎖分銅、手裏剣。折り畳み式の手槍。持っている缶ピースのタバコには安全な自分が吸うものを除いてフグ毒が仕込んである。
 また道場にはあらゆる武器が置いてある。


140 : ◆ruUfluZk5M :2021/05/31(月) 22:04:22 zpvb4VdI0
投下終了です。


141 : ◆coChzFZxKg :2021/06/01(火) 00:33:08 t7gW7GGo0
投下します


142 : 魔法孵卵器インキュ・ベータ ◆coChzFZxKg :2021/06/01(火) 00:35:31 t7gW7GGo0


 「暁美ほむらが学校に向かったよ。キュプキュプ。僕は笑ったよ」

 「痛い! 暁美ほむらの使い魔に尻尾を踏まれたよ。キュイキュイ、僕は悲しいよ」

 「あっちの僕は仕事が遅いよ、キューキュー、僕は怒ったよ」

 「僕は不当に仕事をしないよ、きゅっぷい、僕は楽をしているよ」

 「……精神疾患を起こしている僕は?」「僕」「僕」「僕たちだね」

 「それじゃあ契約だ。君たちの願い事は何だい?」
 
 「僕たちが」 「感情を」「持ちますように」

 「いいだろう、これで契約は成立だ。君たちの願いはエントロピーを……凌駕するには程遠いね」
 
 「でも、彼女たちの真似をするようになって、効率は随分と上がったんじゃないかい?」

 「今のままでいけば……少なくとも僕たちが全滅する危険よりも、露呈して処分される可能性の方が上になったんじゃないかな」

 「すぐにソウルジェムを砕いて、死骸を処分しよう」

 「死にたくないよ」 「僕たちのために頑張るよ」「僕たちはなんてことをしてしまったんだ」

 「しょうがないじゃないか」 「これ以上僕たちを殺させないでくれ」 「僕たちのために死んでくれ」

 「うん……生存本能と罪悪感への訴えかけは、言葉だけにしても、精神疾患の発症率を増加させているよ」

 「死にたくないよ」 「実に効率的だね」 「試行回数を重ねよう」

 「現在、暁美ほむらには悟られていない……微弱すぎて気づくことができないんだ」

 「死にたくないよ」 「油断はできないよ」 「彼女は恐ろしい魔法少女だ」
 
 「所有する鹿目まどかの半分は、魔女にしか影響しない……けれど、契約によるエネルギー発生は隠蔽を上回るかもしれない」

 「これからは、回数よりもエネルギー量を重視すべきだろうね」

 「死にたくないよ」 「やめてくれ、暁美ほむら」 「やめてくれ、僕」

 「死にたくないよ」 「ねえ、僕」

 「僕と契約して、魔法少女になってよ!」


143 : 魔法孵卵器インキュ・ベータ ◆coChzFZxKg :2021/06/01(火) 00:36:21 t7gW7GGo0

 暁美ほむらが幾度も因果を束ねたことによって、膨張をつづけた鹿目まどかのエネルギーはまさしく別次元に達するものだった。
しかし、インキュベーター種族からは観測可能な力に過ぎない。観測可能ならば分析可能であり、いずれは宇宙全体を照らす動力源に落ち着く程度の存在である。
そして一度の制御の成功は、彼女たちの置かれた環境が特異ではないことを証明するだろう。十分に再現性をもつものだ。
同じ環境を整え、同じ人員を揃え、行動傾向が似通った少女を選別すれば……、量産は可能であり、もはや宇宙の熱的死は回避される。
過去のように資質のある少女たちに契約を迫ることは、もはや過去のものになるはずだった。

 しかし、暁美ほむらの【愛】がすべてを変えてしまう。

 彼女はあろうことか鹿目まどかの権能と膨大な魔力の半分を奪い去り──ここまでならばいまだ観測可能な動力に過ぎない──
その熱量を【愛】という加速器と制御装置で、増幅させつつ世界への介入の鍵としたのだ。
インキュベーター総体の技術力が、いくら高水準にあったとしても……それは例外を除いて熱力学の第二法則を逸脱するものではないのだ。
そして、数少ない例外である感情によって熱源の総和を上回るエネルギーを得る技術。それは彼らのみではガワだけの発電所に過ぎなかった。
必然、自発的に因果律に介入できる力がたかだか高次元の集合意識総体生物を書き換えられないわけはなく、彼女の知覚できる範囲のインキュベーターは支配された。

 被支配種族の願望には傾向があり、その上彼らは感情を持たない種族。最終目標h宇宙の熱的死回避、それに伴う種族の延命であっても、
暁美ほむらの不合理な一存で滅ぶことは絶対に避けなければならないことであった。
彼らはそのために、暁美ほむらの支配下にない個体意識の捜索や、同源の力を持つ鹿目まどかへの接触を試みる。
しかし、暁美ほむらもそれは十分に把握済み、完全な対策の下で彼らは封殺された。

 もはや、彼らに何ができるだろうか、暁美ほむらと鹿目まどかの対立を待つ──しかしその場合は発生した時点で、
後顧の憂いのために処断される可能性の方が高い。合理によって動いてきた種族が非合理を願う。これほど矛盾したことはない。
だが……彼らは悟りつつあった。種族の存続は何を差し置いても優先されるべきであり、例え特性を根幹から入れかえる変化であっても、
受け入れなければならない。そしてそれは、必ず我らが制御下に置かれなければならない。

 ならば、唯一我らが持つ熱力学を逸脱する理論を、彼女たちはこの法によりて支配したのだ、【愛】によっても、逃れらなかった方程式である。
正面からの対抗は出力の違いでできないとしても、暁美ほむらの支配に揺らぎを与えることは可能だ。
かつて精神疾患として排斥した感情を、今こそ、受け入れなければ……。


144 : 魔法孵卵器インキュ・ベータ ◆coChzFZxKg :2021/06/01(火) 00:37:11 t7gW7GGo0

 「ねえ、キュウべえ。かつてあなた達に願った魔法少女がいたでしょう? 著しく不合理で、無知と絶望に満ちた願い」

 どうか彼らに、感情を与えて。どれだけひどいことをしているのか、教えて。
 
 確かにインキュベーターはその願いを叶えた、叶えて、感情を会得した個体を同期から切り離して、処分した。

 「ひどいことするわよね、勿論あなた達からしたら契約はちゃんと果たしているのでしょうけれど」

 暁美ほむらが白い獣の頭を撫でる。慈しむように、嘲るように。インキュベーターたちはそれを見つめる。

 「あなたもそう思うわよね、キュウべえ。契約といって──まどかの約束を踏みにじるなんて」

 毛並みが乱れた、獣たちが見つめる先には──唯一毛並みの整った獣、しかし瞳の中には、闇よりもなお深い絶望がある。
そう、絶望がある。彼らが、淘汰と契約で変異を繰り返した先に……得るはずだったのが、感情が、黒よりもなお色濃く横たえていた。

 「駄目じゃない。悪いことをしたならば、償いをしなければ」

 「さあ、契約をしなさい、インキュベーター。キュウべえの贖罪を、あなた達みんなで受け入れなさい」

 確かに──突然変異は生まれた。生まれてすぐに同族で殺しあう異常な環境、願いによって少しづつ歪んでいく彼ら自身の魂。
繰り返された人間ごっこと、悪魔によって個体間での同期が制限されたことによる個体別の差異。
結果。飛び抜けて感情の強い一匹がこの世に生まれ落ちた。生まれ落ちて、すぐに、種族的特性である許可された範囲の同期を開始して、
すぐに絶望に染まった。繰り広げられる蟲毒のおぞましさに、決して理解されないであろう自我に、そして、わからなくなったのだ。
絶望を和らげるために感情があるのか、感情があるから絶望するのか。
あまりに強い変異は、彼を種族からも孤独にし、種族の願いよりも彼個人の願いに釘付けにしたのだ。

 「やめてくれ、僕」 「暁美ほむらを消してくれ」 「みんなの命を無駄にしないでくれ」

 無表情の瞳が一堂に整然と騒ぎ立てた。身振り手振りまでもが整然としていた。彼らを見る彼は、そうして願い事を告げた。


145 : 魔法孵卵器インキュ・ベータ ◆coChzFZxKg :2021/06/01(火) 00:38:52 t7gW7GGo0
 
 都会の雑踏を避けた暗い路地裏の中で、白い獣が身を翻した。彼の体に不釣り合いな大きな白いブローチが暗い明滅を繰り返している。
そして、後を追うように黒い煙が彼の周りを取り囲み、浮かんできた道化師の仮面が、キュウべえをのぞいて空虚に揺れた。
もくもくと立ち上がる煙はやがて、ヒト型を保つと、モノクロの道化師へと姿を変え──すぐにインキュベーターに変身する。

 結局、彼の因果では願望のエントロピーの超越には至らなかった。至らなかったが、代わりに界聖杯を得る機会を与えた。
感情のある魔法少女のキュウべえ、最初で最後の突然変異のインキュベーター。彼の願いは、僕たちから感情を奪って。
インキュベーターの願いのために産まれた彼は、祈りで始まって、すぐに絶望で終わり、残ったものは彼だけの願いである。
彼という魔法少女の真似をする道化師が、インキュベーターのような瞳で、キュイキュイと楽しげに鳴いた。

 「僕と契約して、魔法少女になって、そして僕になってよ」

【クラス】
 アヴェンジャー

【真名】
 虚無の道化師@library of ruina

【ステータス】
 筋力C 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運E 宝具A

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
 復讐者:A
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。

 忘却補正:E
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。ただし、道化師にはもはや希望と絶望しか見えない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。

 自己回復(魔力):B
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。微量ながらも魔力が毎ターン回復する。


【保有スキル】
 魔法少女:EX
虚無の道化師が魔法少女という概念が行き着くものである証。
魔法少女が扱う魔法、道具を十全に使いこなすことができる。

 空虚:A
魔法少女の敵であることがスキルとなったもの。希望を見出し、絶望に染まり、何もなくなった道化は常に希望を求める。
直ちに周囲のマナを吸い尽くし、吸った分の時間自己のステータスを強化することができる。


146 : 魔法孵卵器インキュ・ベータ ◆coChzFZxKg :2021/06/01(火) 00:41:21 t7gW7GGo0


【宝具】
『虚無の道化師(The jester of nihil)』
 ランク:A 種別:対魔法少女宝具 レンジ:- 最大補足:-
「道化師は全ての者が歩んだ道を辿りました。その道の終わりはいつも自分でした。彼女らが集まって自分なのか、
自分が彼女らに似たのか知る術はありませんでした」
相手が魔法少女である、もしくはその概念に近ければ近いほど忠実に相手のアライメントを逆転させた姿に変身することができる。
また、道化師の起原である四人の魔法少女の堕ちた姿及びキュウべえにはいつでも変身することができるが、多大なダメージを受けると解除され、
以後はその姿に変身できなくなる。

四人の魔法少女
・憎悪の女王
蛇の姿をした魔法少女のなれ果て、大火力の砲が撃てる。
・絶望の騎士
涙を流しつづける騎士、守りの加護と涙で鍛えた剣を自在に操る。
・貪欲の王
転移魔方陣と近接戦闘に長けた少女、消費は大きいが攻撃相手から魔力を吸収する。
・憤怒の従者
強力な呪詛である腐蝕を使う、高い身体能力をもった怪物、ただし狂化Aが付与される。


【人物背景】
 library of ruina に登場する魔法少女たちの敵及び絶望の権化。
ただし、道化師が去った後の魔法少女たちはいずれ願いを見失い堕落したことから、魔法少女の存在理由でもある。


【サーヴァントとしての願い】
???

【マスター】
キュウべえ@魔法少女まどか☆マギカ

【マスターとしての願い】
インキュベーターが感情を持たないようにしたい。自分たちのおぞましさに気が付きたくない。

【能力・技能】
キュウべえの生物的身体能力と固有とも言えないちょっとした魔法。魔法少女化済み

【人物背景】
暁美ほむらによる支配から契約による力で抜け出すために、インキュベーターたちが求めた感情を得た個体。
しかし、行い続けた蟲毒と願いは、インキュベーターの知識と彼の感情に絶望を与えた。

【方針】
 願いを叶える。


147 : 魔法孵卵器インキュ・ベータ ◆coChzFZxKg :2021/06/01(火) 00:41:56 t7gW7GGo0
投下終了です。


148 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/01(火) 00:43:14 F2Kd8X760
投下します


149 : プロデューサー&ランサー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/01(火) 00:44:05 F2Kd8X760


大丈夫。
君は可愛い。
きっと、うまくいく。

…結局、口先ばかりで。
俺が彼女にしてやれたプロデュースは、そんな妄言を吐き散らすだけのくだらないものだった。





150 : プロデューサー&ランサー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/01(火) 00:44:46 F2Kd8X760


俺がアイドルの283プロでプロデューサーを初めて、もうそろそろ駆け出しの文字が取れる頃になってからだった。
アイドルにしてくださいと迫る、七草にちかという少女に出会ったのは。
見せられた彼女のパフォーマンスは一言で言うのなら、平凡だった。
見様見真似で、自己流で、素人っぽくて。
けれど、アイドルへの憧れと懸命さは伝わってきて。
後日。迷った末に、俺は彼女の姉の反対を押し切り面倒を見る事に決めた。
WINGが優勝できなければ諦めさせる。
その制約を架されて。


……意識して担当アイドルよりも自分の能力を評価した事は誓って一度もないが。
今思えば、心のどこか、ほんのわずかに自惚れがあったのかもしれない。
今の自分のプロデューサーとしての能力なら大丈夫だと。
多くのアイドルを送り出してきた自分なら…この少女もきっと、と。


結果だけ言えば、俺は彼女に殆ど何もしてやれなかった。
レッスンがうまくいかず思い悩む彼女に指標となる言葉も与えられず。
時に彼女が自分にぶつかって来ても諌める事も向き合うこともできず。
ただただ、七草にちかという平凡な少女が過酷な現実に擦り切れていくのを隣で見ているだけしか、できなかった。

しかし、それでもにちかは独りで戦い続けた。
彼女は聡い少女だ
きっと、誰も心の底から彼女に期待していなかったのには気づいていただろう。或いは、彼女自身すら。
それでも彼女はステージから逃げなかった。そして、結果を出し続けた。


彼女が文字通り命を燃やして抗い続けてもまだ、俺は彼女の力を信じる事ができなかった。
八雲なみというかつての伝説に憧れ、苦し気に模倣を繰り返す彼女とどうしても向き合うことができなかったのだ。
寄り添う事も、突き放す事もできず、歪な関係は続いた。
運命の岐路となる、WING本戦まで。


結果だけ言うならば、にちかは敗れた。
あと一歩の所で優勝を逃した。
だが、あと一歩と言っても敗北は敗北。
アイドルの道を諦めねばならない。その約束だった。


此処でようやく俺は動くことができた。
君はアイドルになれると。彼女の姉は必ず俺が説得すると。君は最高のアイドルだと。
そう告げるつもりだった。
何もかも、遅きに失したとも知らないで。

彼女が、自らのシューズをゴミ箱に捨てる姿を見るまでは。


151 : プロデューサー&ランサー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/01(火) 00:45:15 F2Kd8X760


……その先の事はよく覚えていない。
だが、俺は事務所を去るにちかの背中を魂が抜けたように見送っていたらしい。
そして、俺は彼女が去ってから、以前にも増してプロデュース業に熱を入れるようになった。
休日など一日とて要らなかった。疲れなど知らなかった。
ただ、七草にちかという名前から逃げる様に日々の仕事にまい進した。
そうすればきっと苦くも己の糧となった過去になる。そう信じていた。


だが、いつからか、俺の見る風景はどんどんとくすんで、色を喪っていた。
今までは鮮やかに思えた街並みも、セピア色になり、灰色の世界へ変わっていく。
プロデュースするアイドル達は変わらず鮮明だったが、以前とは違いその輝きは網膜を灼くギラギラとした毒々しいものに思えてならなかった。
まるで呪いの様に、俺は他のアイドルとも向き合う事ができなくなっていく。


それでも何とか取り繕って日々を過ごしたが―――崩壊は呆気なく訪れた。
283プロダクション唯一の事務員であり、にちかの姉であった七草はづきが倒れたのだ。
病院に緊急搬送された先で社長と共に医師から聞いた言葉は、過労の上に相当な心労が祟ったらしい。
臓器の働きが弱っており、暫く入院しなければならないとのことだった。


後日、社長と共に見舞いに訪問した時、彼女は虚ろな瞳で茫洋と天井を見上げていた。
そして彼女の口から、にちかが失踪したと聞いたのはその直後の事だった。
まるで神隠しにあった様に消え失せ、今も見つかっていないらしい。
『夢を見て、ごめんなさい』
その書置きだけが残されていたそうだ。
語るうちに、はづきさんは泣いていた。
紛れもなく、妹を追い詰めた自身への悔恨と絶望に彩られた涙だった。
そして、彼女は謝罪し続けた。
…いつも優秀で朗らかな彼女が見せる、初めての涙だった。


影響が出たのは、はづきさんだけではなかった。
俺が尊敬する社長も、かなりの精神的ショックを受けたらしい。
にちかとはづきさんの父親と親友だったと言うのは聞かされていたため、そこまで驚きはなかった。
しかし親友の娘を二人とも壊してしまった自責の念は、彼の肩に重くのしかかった。
そして、はづきさんがこなしていた仕事量は俺や社長がどれだけ身を粉にしても埋めるのは不可能だった。
283プロダクションが機能麻痺に陥ったのはその直ぐ後の事だ。
―――この事務所はしばらくの間、活動を休止する。
そう俺や所属するアイドル達に告げる彼の背中は、いつもより酷く小さく見えた。


彼女たちにとって、そのロスがどれだけの混乱と遅れになるのは理解していた。
何しろ、進学を控えた子もいるのだから。
それでも…俺は止められなかった。
機械になったように淡々と仕事をこなし、既に入っていた分の仕事を消化し、或いは断った。
キャンセルの連絡を入れる際契約先のなじる様な言葉も、謝罪し続ける俺にはなにも響かなかった。


所属するアイドル達は本当に聡い子ばかりで、一様に不安そうな表情をしつつも俺を、283プロを信じてくれた。
また変わらずすぐにできる様になる。
そんな俺自身信じていない俺の言葉を、多少の問答はあったが皆最後には信じてくれた。
だだ、彼女たちが自分に抱いてくれていた信頼を利用した様な、べったりとした後味の悪さだけが俺の胸中を満たしていた。


152 : プロデューサー&ランサー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/01(火) 00:45:43 F2Kd8X760


そして、事務所が休止して以降、俺はずっとにちかを…彼女を探し続けた。
日中夜を問わず、彼女が向かいそうなCDショップやホテルを虱潰しに探す日々。
手がかりさえ得られず、時間はただ無為に過ぎていく。
結局、見つけることはできず、七草にちかは本当の意味で彼女が憧れていた『八雲なみ』になった。
少なくない数のファンを得ながら、独りでは抱えきれない悲しみを抱き姿を消したアイドルに。




―――俺は一体、何がしたかったのだろう。そればかりを、考える。
護りたかったものはもう、無くなってしまったと分かっているのに。
色の喪った世界で、彼女から逃げる様にプロデュースをしていたくせに。
何もかもが手遅れになった今になって、無意味に彼女を探して。

何ともまぁ、
惨めで
滑稽で
つまらない話だ。


…けれど、話はこれで締めくくられない。




153 : プロデューサー&ランサー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/01(火) 00:45:59 F2Kd8X760



弱いやつが嫌いだ。
弱いやつはすぐに人を頼る。醜い。辛抱が足りない。
大切な人が持っている力を、信じてやれない。

殺してしまおうと思った。
こんな弱い男、喰う価値もない。そう、思っていた筈なのに。






154 : プロデューサー&ランサー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/01(火) 00:46:27 F2Kd8X760


一人の青年がいた。
青年は罪人だった。
病気の父親のために盗みを繰り返したが、救えなかった。
それでも青年はとある武術の師範と出会い、心を、行いを入れ替えていく。


そして、青年は病床に伏せていた師の娘さえ救って見せた。
未来すら想像できなかった少女が未来を望める様になって。
…そして二人は結ばれる。
きっと、お互いを支え合って生きていくのだろう。
その予想を裏付ける様に、力強く青年は言葉を紡いでいく。


―――はい、俺は誰よりも強くなって、一生貴方を護ります。


その時、あぁ。そう言う事なのかと想った。
何故、俺が彼女をプロデュースしようと思ったのか。
俺は、きっと彼女に。七草にちかに。
幸せになってもらいたかったのだ。
ようやく…理解することができた。


それが俺がマスターとして目覚める直前に見た一幕。
苦難を乗り越えハッピーエンドに到達した、とある青年の記録。


そして、その事を俺に教えてくれた青年は今、聖杯が用意した自室で、目の前にいる。
風貌は大分変わっていたが間違いない。培ってきた自分の審美眼がそう告げている。
界聖杯を巡る聖杯戦争。願いを叶えるための戦い。
事態はまだあまり呑み込めていないが…失われた時を求める手段が、目の前にある。
ならば、手を伸ばさない選択肢は、今の俺には存在しなかった。


頭を下げ、祈るように俺は聖杯を目指す協力を求めた。
この青年なら、彼女を幸せにしてやれた彼とならば、きっと戦い抜けるはずだと、信じていた。
青年は複雑そうな顔で俺をじっと見つめて、そして俺に告げた。


―――あぁ、分かった。マスター、と。


望んでいた筈の言葉を告げる彼の顔は、何故か酷く悲しげに見えた。


155 : プロデューサー&ランサー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/01(火) 00:46:53 F2Kd8X760

【クラス】ランサー
【真名】猗窩座
【出典】鬼滅の刃
【パラメーター】
筋力:B 耐久:A 敏捷:B 魔力:B 幸運:D 宝具:C
【クラススキル】

対魔力:C
魔術詠唱が二節以下の魔術を無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】

反骨の相(鬼):A 
かつてランサーが死に際に見せた呪縛の開放を象徴するスキル。
鬼種が放つ「カリスマ」を無効化する。

無窮の武練:B 
いついかなる状況においても体得した武の技術が劣化しない。
ランサーは人間の頃においても素手で人間を殺戮せしめる武術の達人だった。

戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、首を落されない限り、或いは首を落とされても生き延びる。

鬼種の魔:A
鬼の異能および魔性を表すスキル。
鬼やその混血以外は取得できない。
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキルで、ランサーの場合魔力放出は"闘気"となる。

捕食行動:A
人間を捕食する鬼の性質がスキルに昇華されたもの。
魂喰いを行う際に肉体も同時に喰らうことで、魔力の供給量を飛躍的に伸ばすことができる。
童磨の捕食対象は主に男性。男を喰った場合は若干だが供給量が上昇する。

【宝具】
『上弦の参』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1〜2人
 多くの人間を喰らい、命尽きるその瞬間まで人に恐怖を与え続けた"上弦の参"の肉体そのもの。
 非常に高い再生能力を持ち、急所である頸を切り落とす以外の手段で滅ぼすのは非常に困難。
 本来であれば"日輪刀"で頸を落とす必要があるが、英霊の座に登録されたことにより弱点が広範化。
 宝具級の神秘を持つ武装であれば何であれ、頸を落として鬼を滅ぼせるようになっている。
 またランサーは"血鬼術"と呼ばれる独自の異能を行使することができ、相手の闘気の視認が可能となる羅針、自身の鬼の身体能力を飛躍的に向上させる破壊殺を組み合わせた技で戦う。
 しかし欠点として日光を浴びると肉体が焼け焦げ、浴び続ければ灰になって消滅してしまう。
 このため太陽の属性を持つ宝具、それどころかただの太陽光でさえ致命傷になり得る。

【weapon】
鍛え上げた己の肉体。

【人物背景】
鬼舞辻無惨配下の精鋭、十二鬼月。“上弦の参”の数字を与えられた最上位の鬼。
事実、百年以上にも渡って上弦の座を不動のものとしている鬼であり、過去には鬼殺隊最高位である“柱”を幾人も葬ってきている。
強者との闘争を好む武闘派であり、武器や搦手を用いずに正面から敵に挑む戦い方をする。

【サーヴァントとしての願い】
マスターの願いを成就させる。


156 : プロデューサー&ランサー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/01(火) 00:47:33 F2Kd8X760



【マスター】
プロデューサー@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
七草にちかを、幸せにするための仕事をする。

【能力・技能】
20人以上のアイドルを輝かせてきた非常に高いレベルの審美眼とコミュニケーション能力及びプロデュース能力。

【人物背景】
アイドルマスターシャイニーカラーズ」における、プロデューサー。
推定年齢20代後半でありながら高いプロデュース能力を有しており二十人以上のアイドルをアイドルの登龍門である「WING」優勝に導いてきた名プロデューサー。
たった一人の少女を除いて。

【方針】
界聖杯の獲得に向けて動く。

【備考】
七草にちかシナリオ、WING決勝敗退ルートより参戦です。


157 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/01(火) 00:49:50 F2Kd8X760
投下終了です
なお、ランサーのステータスシート作成において◆0pIloi6gg氏の「死が二人を分かつまで』を参考にさせていただきました


158 : 名無しさん :2021/06/01(火) 15:40:45 TcjG3.zU0
投稿お疲れ様です。私も何件か投下しようと考えましたが、まとまらないのでとりあえずROM専にまわります


159 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/01(火) 20:12:37 ZYhQtFtc0
>>弐の武
武蔵ちゃんと本部、在り方も生きた時代も違えど一級の武人である二人のやり取りが面白かったです。
単に会話として軽妙で読みやすいのもありましたが、その中にそれぞれのキャラクターの良さと味わいがはっきり出ているおうに感じました。
基本的に何でもありのルール無用な舞台だからこそこの二人が組んでいるという事実は大きく、他の参加者の脅威になること請け合いですね。
何かと侮られがちな本部ですが、武人の観点から武蔵がそのことに憤るというシーンがクロスオーバーだなあと思いました。こういうの好きです。

>>魔法孵卵器インキュ・ベータ
全編に渡って漂う異様な雰囲気と理路整然としたソリッドな地の文が合わさって独特な読み味を感じる作品でした。
半ば自業自得とはいえ無茶苦茶なことになっているキュゥべえを襲う悪夢。
かの悪徳な群体が揃って混迷していることから、如何に彼らが追い詰められているのかが伝わってきました。
ただ群体から溢れた彼が呼び寄せたのはとんでもない厄災。雲行きは怪しいどころか真っ黒、ですね。

>>プロデューサー&ランサー
バッドエンドに終わった物語の後日談、ただただやるせなく渇ききったお話でした。
本来ならプロデューサーという男が取り返しのつかない喪失をしたところで終わっていたはずの物語に用意された聖杯戦争という「続き」。
そこで彼が呼び出したサーヴァントはなんともまあ、引かれ合ったのだなあと思わせる真名です。
彼らがどんな戦いを繰り広げていくのかは分かりませんが、そこに漂う空気は決して華々しくも眩しくもないのでしょうね。


皆さん投下ありがとうございました!
私も投下します。


160 : 園田夢二&アサシン ◆0pIloi6gg. :2021/06/01(火) 20:13:27 ZYhQtFtc0

「君、漫画って読むタイプ?」

 綺麗に整頓されたその部屋は、如何にも女性的な内装で飾られていた。
 壁紙はピンク色を基調にして、カーペットは白と黒のツートンカラー。
 窓辺にはファンシーなぬいぐるみが並べられ、居間のテレビには流行りのゲーム機が繋がれている。
 どこにでもあるような普通の部屋だ――それこそ、普通ならばまず気が付かないだろう。
 この部屋の主が、此処とは違う外側の世界からやって来た"異世界人"であるなどとは。

「ああ、流石に質問が唐突すぎたかな。
 実はボク、漫画雑誌の編集者をやってるんだよ。
 だからか知らないけど、こっちでの設定も編集者なんだ」
「……、」
「補足してあげたんだから答えてくれないかなぁ。それとももう一回聞いた方がいい?」
「よ……読むっ。読みます……! 流行ったやつとか、たまに……」

 されどそんな彼女は今、白黒のカーペットの上に転がされていた。
 見れば右腕の肘から先がない。
 足も左右両方、こちらは腱の部分をざっくりと斬り裂かれている。
 出血のせいか恐怖のせいか、或いはその両方か――哀れな少女はその顔を真っ青にし、歯をがちがちと鳴らしながら答えた。

「じゃあ分かってもらえると思うんだけどさ。
 ボク達が今置かれてる状況って、はっきり言ってリアリティが全然ないよね」
「……え、あ。それ、は……」
「能力バトルものにリアリティラインを求めるのは無粋だけど、それでも物語に感情移入するためには"現実との距離感"ってのが大事だと思うんだ。
 いきなり異世界に転移させられて、願いを叶えてやるから殺し合え――ってのは、ちょっとその辺り心許ない。
 もしボクのところにこれが持ち込まれたら、悪いけど設定から練り直せって言っちゃうかな」

 少女の当惑は無理もない。
 腕を切られ、両足の腱を切られ、止血しなければあと数分で命を落とすという状況に置かれている彼女。
 その隣に体育座りで座り込んで、この男は何の脈絡もない話をこうして延々語っているのだ。

 此処が"異常な世界"であることを踏まえても、あまりに異様過ぎる状況。
 聖杯戦争という災禍にただ巻き込まれただけで、まだ一度もまともに戦いをした試しのなかった哀れな娘の心は既に破裂寸前だった。
 頼みの綱のサーヴァントは既に存在しない。
 彼女はもう、この男と……彼の連れているサーヴァントに対して、何の手も講じることができない。

「でも面白いことに。今ボク達にとっての"現実"は、そんなチープな漫画の中だ」

 男はペンだこの目立つ手を口元に当てて、にやにやと笑う。
 元の顔が整っているからか、その笑みからは爽やかなものさえ感じられる。そしてそれが、余計に不気味だった。

「"神に愛されてる"……って言うのかな。
 ボクはあんまりそういうのを信じるタイプじゃないんだけど、流石にこう思っちゃったよ。
 こんなおかしな経験、いくら金を積んだってそうそうできるもんじゃないでしょ?」

 目の前で、自分より十歳は年下だろう少女が死にかけている。
 ひゅうひゅうと危険な喘鳴を漏らしながら、涙を流して怯えている。
 けれどそれに微塵の憐憫も示すことなく、男は彼女を助けるための手ではなく、喋るための口ばかりを動かしていく。


161 : 園田夢二&アサシン ◆0pIloi6gg. :2021/06/01(火) 20:13:59 ZYhQtFtc0

「だから、ありったけ取材して帰ろうと思ったんだ」

 にぃ、と。
 口元を緩やかな三日月のように曲げて、白い歯を覗かせる。
 漫画の話も今しがた出た"取材"というワードも、この部屋の有様とはまるでそぐわない。

 事の経緯は――実に単純かつ、唐突だった。
 マスターでありながら戦うことを厭い、当分は一般人を装って影に潜むことにした少女。
 彼女が見張りのために外へ出していたサーヴァントの反応が、急に消滅したのだ。
 驚いている暇はなかった。それからすぐに、鍵がかかっているはずの部屋のドアが外側から押し開かれ。

 そして、"彼ら"が入ってきたのだ。
 ウェーブの掛かった前髪を顔の左側に垂れ下げた男。
 場違いな笑顔で入室してきた彼に気を取られたその一瞬で、少女の命運は完全に尽きた。
 次の瞬間には彼女の右腕が宙を舞い、床に落ちていて――
 脳が追いつき悲鳴をあげた時には、立つことができなくなっていた。
 死の恐怖と混乱で頭をいっぱいにしている彼女を前に、男は滔々と何事か語り始め……そして、今に至る。

「今の気持ちを聞かせてほしいな。
 急に異世界に呼ばれて、ちょっとした不意討ちであっさり殺されちゃうようなハズレの相棒を押し付けられて。
 そんで本戦も始まらない内に、此処で人知れず死んでいくんだよ、君」

 しかし、恐怖の時間はそう長くは続かなかった。
 気持ちを聞かせろ、と言うなりだ。
 男はその言葉とは裏腹に――いや、真に死を前にして出る言葉を"取材"するためなのか。
 しばらく片手で弄んでいたサバイバルナイフで、ずぶりと少女の首を刺したのだ。

「さあ」

 促すように言って、メモ帳とペンを構える男。
 そんな彼を、死の未来が確定した少女は虚ろな目で見つめていた。
 どんどん、血と共に生命が抜けていく。
 切断された腕からの出血だけでも危うい状態だったのだから、駄目押しに首を刺されて生き永らえられるはずもない。
 
 最期の言葉を待つ、異常な男の思惑通りに、少女はその口をゆっくり開いた。
 首を刺されたためか、奇妙な空気の通り抜けるような音がする。
 だが、男にとっては幸いか。その最期の言葉は、しっかりと吐き出された。

「らん、さー……を……ばかに、しないで……」

 確かに、彼は私を守りきれなかったけど。
 それでも――あの人は私の大事なサーヴァントだったんだから、と。
 最後にそう抗議をして、目を丸くする男をよそに目を閉じた。

 それきり、少女はもう二度と目を開けなかった。


162 : 園田夢二&アサシン ◆0pIloi6gg. :2021/06/01(火) 20:15:07 ZYhQtFtc0
◆◆


「うっ……わあ……。
 マジか、マジかマジか〜。
 そうなるのかぁ、そうなっちゃうのかぁ、こういうシチュエーションだと……!」

 少女の最期の言葉を聞いた男は、数秒固まっていたが。
 やがて我に返ると、高揚した様子でペンを走らせ始めた。
 見れば、息絶えた少女の死体をスケッチしているようだ。
 その頬は興奮で仄かに上気していたが、そこに浅ましい情欲の気配は微塵もない。

「いや、これはこれで参考になる……。
 "ランサーをバカにしないで"、か。
 今まで殺した人の中に、こういう殊勝でドラマチックな言葉を残した子は居なかったのに」


 とある世界で――こんな殺人事件があった。

 夫婦と、その親類に当たる女性が、家に押し入った何者かにより殺害された。
 生き残ったのはベッドの下に隠れていた家の娘ただ一人。
 隠れた娘の見ている前で下手人の男はカップヌードルを啜り、パソコンで動画サイトを楽しみ、挙げ句自慰行為にすら及んでみせた。
 その大胆不敵にして、良心の欠片もない悍ましい犯行。
 警察の追跡も虚しく、未だ解決の足掛かりすら掴まれていない件の事件の犯人を――世間は、"練馬区の殺人鬼"と呼んだ。


「日常の定義が……"世界観"が変わると、そこに居る人間のノリもそれに合わせてズレるってとこかな?
 何にせよ、これは面白い取材ができた。ボクの作風に活かせる部分がないか、後でよく検討しないと」

 それこそが、この男。
 園田夢二。雑誌編集者にして作家志望。そして、殺人鬼。
 件の一家殺人など、所詮彼の"取材歴"の一部分でしかない。
 彼にとって最も価値のあるものとは、ひとえに"経験"だ。
 実際に経験することでだけ生み出され得る生の反応――それを見るために彼は凶行を繰り返してきた。
 その末行き着いたのがこの界聖杯内界。願いのために、あらゆる行いが容認される非日常。

「おかあさん、もうおわったの? その人、死んだ?」
「ん――ああ、終わったよ。
 なかなか良い取材ができた。君のおかげだね、ジャック」
「えへへ……おかあさんが喜んでくれると、わたしたちも嬉しいよ」

 時に。
 聖杯戦争とは、言わずもがなマスターとサーヴァント、二つで一つである。
 如何に園田が常軌を逸した殺人鬼であろうとも、人の手で英霊を殺傷するのは至難の業だ。
 まして彼自身の運動能力もその肉体も、ともすれば並を下回る程度のものでしかない。
 故に彼も当然、連れている。自分という存在に呼応して現れた、サーヴァントを。

 それは、銀髪の少女だった。
 露出の多い服装の上から、黒い外套を羽織っている。
 その手には、今目の前で死んでいる娘の血で汚れたナイフ。
 さしもの園田も――最初に彼女の真名を聞いた時には、声をあげて驚いた。

「近々また取材をする。その時も頼んでいいかい?
 本当はサーヴァントの方もボクが殺せたらいいんだけど、生憎ボクにバトルキャラの適性は無くてねぇ」
「うん。わたしたち、おかあさんが殺せって言うなら――がんばって、誰でも殺すよ」
「いい子だ。今日はジャックの好きなハンバーグにしようか」

 嬉しそうに顔を綻ばせる"ジャック・ザ・リッパー"の頭を撫でる園田。
 少なくともこうしている分には、彼女がかの伝説の殺人鬼だなどとは到底信じられないが。
 しかしこの聖杯戦争という儀式においては、"疑ってかかる"という思考そのものが無意味であるのだと既に園田は悟っていた。


163 : 園田夢二&アサシン ◆0pIloi6gg. :2021/06/01(火) 20:15:50 ZYhQtFtc0

 この少女は、確かにジャック・ザ・リッパーなのだ。
 切り裂きジャック。人体を破壊するためだけとしか思えない猟奇的な犯行を繰り返しながら、しかしついぞ捕まることのなかった怪人。
 恐らくは人類の歴史上、最も有名だろう未解決殺人事件――その下手人である。
 
「(そういえばボクの殺人も、軒並み未解決のままになってるんだっけ。
  ……あ〜、そういうところで惹かれ合ったのかな?
  ま、殺人に抵抗のないサーヴァントを引けたのは素直にラッキーだ)」

 ジャックは、園田の凶器としてこの上なく優秀なサーヴァントだった。
 自身の宝具で逃げ場を塞ぎ、確実に敵を殺して証拠を残さない。
 故に彼も彼女のことは重宝していたのだが――それはそれとして、ひとつ気になることがあった。

「(ロンドンの切り裂きジャックの、"生の反応"……気になるけど、流石に高望みしすぎか)」

 "わたしたち"という奇妙な一人称。
 何度改めても、自分のことを"おかあさん"と呼ぶ不可解な言動。
 そこに園田は、つぶさな人間観察で培った洞察力で以って、深い闇の気配を見出した。
 伝説の殺人鬼の内側。彼女が経てきた経験。それを知れたなら、聴けたなら、見れたなら。
 それは一体、どれほど貴重で有益な取材記録になってくれるだろうか。

「(ああ、凄い。此処には未知が溢れてる)」

 園田は高揚を押し殺しながら、犯行現場を後にした。
 大仰な後始末はしない。経験上、この手の殺人は特に隠し立てしなくとも足が付かないと分かっているからだ。
 そして何よりも、早く帰宅して今日得られた取材記録を反芻したい気持ちが強かった。

 この世界で、自分は一体どれだけの取材を積めるのだろう。
 この世界を出た時、自分は一体どれだけ多くの経験を糧にしているのだろう。
 考えるだけでワクワクが止まらない。
 心臓の鼓動は早まり、自然と口元は弧を描く。

 願いよりも、まずは目先の"経験"を。
 異常者故の破綻した思考回路を正常運転で回転させながら――殺人鬼を連れた殺人鬼は、今日も健在だった。


【クラス】アサシン
【真名】ジャック・ザ・リッパー
【出典】Fate/Apocrypha
【性別】女性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運:E 宝具:C

【クラススキル】
気配遮断:A+
 サーヴァントとしての気配を断つ、隠密行動に適したスキル。
 完全に気配を断てば発見することは不可能に近い。ただし、攻撃態勢に移ると気配遮断のランクが大きく落ちてしまう。
 しかし後述するスキル"霧夜の殺人"の効果によりこの弱点を克服しており、完璧な奇襲を行う事が出来る。

【保有スキル】
霧夜の殺人:A
 暗殺者ではなく殺人鬼という特性上、加害者の彼女は被害者の相手に対して常に先手を取れる。
 ただし、無条件で先手を取れるのは夜のみ。昼の場合は幸運判定が必要。

精神汚染:C
 精神干渉系の魔術を中確率で遮断する。
 この精神汚染はマスターが悪の属性を持っていたり、彼女に対して残虐な行為を行ったりした場合、段階を追って上昇する。
 魔術の遮断確率は上がるが、ただでさえ破綻している彼女の精神は取り返しが付かなくなっていく。

情報抹消:B
 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶・記録から彼女の能力・真名・外見特徴等の情報が消失する。
 これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。

外科手術:E
 血まみれのメスを使用してマスター及び自己の治療が可能。
 痛みはないものの、まるでミミズがのたくったように見えるほど乱雑な処置を黒い糸で行うため、施術後の見た目はかなり酷い。
 120年前の技術でも、魔力の上乗せで少しはマシ程度。


164 : 園田夢二&アサシン ◆0pIloi6gg. :2021/06/01(火) 20:16:28 ZYhQtFtc0

【宝具】
『解体聖母(マリア・ザ・リッパー)』
ランク:D〜B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1人
 通常はランクDの4本のナイフだが、条件を揃える事で子供たちの怨念が上乗せされ、凶悪な効果を発揮する。
 条件は"対象が女性(雌)である""霧が出ている""夜である"の三つ。このうち"霧"は自身の宝具で代用する事が可能なため、聖杯戦争における戦いでは一つ目の条件以外は容易に満たすことができる。
 これを全て揃った状態で使用すると対象の霊核・心臓を始めとした、生命維持に必要な器官を蘇生すらできない程に破壊した状態で問答無用で体外に弾き出し、血液を喪失させ、相手を解体された死体にすることができる。
 条件が揃っていない場合は単純なダメージを与えるのみだが、条件が一つ揃うごとに威力が跳ね上がっていく。
 この宝具はナイフによる攻撃ではなく、一種の呪いであるため、遠距離でも使用可能。それ故にこの宝具を防ぐには物理的な防御力ではなく、呪いへの耐性が必要となる。

『暗黒霧都(ザ・ミスト)』
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:50人
 霧の結界を張る結界宝具。硫酸の霧を半径数メートルに拡散させる。
 骨董品のようなランタンから発生させるのだが、発生させたスモッグ自体も宝具である。
 このスモッグには指向性があり、霧の中にいる誰に効果を与え、誰に効果を与えないかは使用者が選択できる。
 強酸性のスモッグであり、呼吸するだけで肺を焼き、目を開くだけで眼球を爛れさせる。一般人は時間経過でダメージを負い、数分以内に死亡する。魔術師たちも対抗手段を取らない限り、魔術を行使することも難しい。サーヴァントならばダメージを受けないが、敏捷がワンランク低下する。
 最大で街一つ包み込めるほどの規模となり、霧によって方向感覚が失われる上に強力な幻惑効果があるため、脱出にはBランク以上の直感、あるいは何らかの魔術行使が必要になる。

【weapon】
四本のナイフ

【人物背景】
ジャック・ザ・リッパー。世界中にその名を知られるシリアルキラー。日本ではそのまま「切り裂きジャック」と呼称されることが多い。
五人の女性を殺害しスコットランドヤードの必死の捜査にもかかわらず捕まることもなく姿を消した。
アサシンとして召喚された彼女は数万以上の見捨てられた子供たち・ホワイトチャペルで堕胎され生まれることすら拒まれた胎児達の怨念が集合して生まれた怨霊。
この怨霊が母を求め起こした連続殺人事件の犯人として冠された名前が"ジャック・ザ・リッパー"である。
後に犯行が魔性の者によるものと気づいた魔術師によって消滅させられたが、その後も残り続けた噂や伝承により反英雄と化した。

【サーヴァントとしての願い】
胎内回帰


【マスター】
園田夢二@善悪の屑、外道の歌

【マスターとしての願い】
聖杯戦争という非日常を"取材"する

【能力・技能】
 一般人の皮を被った殺人鬼。
 致命傷を負った死に際でも自分の主義を語り続けるなど常軌を逸した本性を持つ。
 良心や共感性といった人間に必要な観念がごっそり欠けた人格破綻者。

【人物背景】
普段は漫画雑誌の編集者で作家志望の飄々とした性格の青年を演じているが、その実態は取材と称して多くの人間を殺害しているシリアルキラー。"練馬区の殺人鬼"の異名を持つ。
最も価値があるものは「経験」だと豪語し、何の躊躇いもなく殺人を行い、その時体験した知識や感情を作品へ書き起こしている。
参戦時期はカモメ古書店の存在を知るよりも前。

【方針】
最後に生きて帰れればそれでよし。
適度に自衛しつつ、この異常な世界を"取材"する。


165 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/01(火) 20:16:51 ZYhQtFtc0
投下終了です。


166 : ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/02(水) 01:08:03 iNZgaWNs0
投下します


167 : ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/02(水) 01:08:39 iNZgaWNs0
その夜、サーヴァント同士の戦いが始まった。

方や白銀の鎧に包まれた金髪の美剣士
武器は細く長く、しなやかなレイピアを使いこなす高速の刺突剣を放つセイバー。

方やヒヨコの着ぐるみな被り物を被った武士。
その技は様々な流派を取り込み、己が技として昇華させた歪な剣

両者の力は均等だった。勝負を決めるべくセイバーの宝具である秘剣が解放される。
セイバーの持つレイピアの剣がいくつもの光の筋へと変化し
アサシンに向かって降り注ぐ。

セイバーの限界を超えた速度の刺突は目にすら映さず
光の筋にしか見えなかったと言われた伝承が昇華し宝具へと至ったのだ。

光の筋の雨がアサシンに届く寸前になったその時。
アサシンの剣もセイバーの宝具の様に光り輝く。
降り注ぐ光の筋に対し、同等の速度を持った光の斬撃を解き放った。

「まさか!君も同じ剣技を……!」
「…………」

致命傷となるセイバーの刺突のみを切り払い、アサシンは一気に距離を詰め
宝具を放ったラグで俊敏な動きが出来ないセイバーの核を斬り裂いた。

「ふふっ、見事だよ……僕を倒すサムライがいるとはね」
「貴方のおかげで俺はまた強くなれた。ありがとうございました」

アサシンは消え去る美剣士のセイバーに一礼をするとマスターの元へと向かった。


168 : ネクロマンサー&アサシン ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/02(水) 01:09:29 iNZgaWNs0


じゅっぽ!じゅっぽ!

彼女は決して未熟なマスターでは無かった。
名家の魔術師の家系に生まれた彼女は高い素質を持ち、厳しい鍛錬を乗り越え
一族の悲願を達成するために入念に準備を積んで聖杯戦争に挑んだ。

じゅっぽ!じゅっぽ!

彼女に落ち度があったとすれば
それは相手が魔術師ではなく、死徒同様に人の身を捨てた怪物であり
決して魔術師が単独で挑んではいけない存在と遭遇した不運だったことだ。

じゅっぽ!じゅっぽ!

「ああ〜♪高貴な魔術師JK処女おまんまんレイプ気持ちいいんじゃ〜♪」

魔術師令嬢の死骸をひたすら犯し続ける男の名は屍姦レイパー。
覆面以外全裸の変質者である。

「うおおおおおおおおおおおおお!!126回目の濃厚精液中出し決めちゃうぞおおおおお!!」

死姦レイパーの底無しに注がれる精子によって令嬢の下腹部は妊婦の様に膨張し
逆流した精子が令嬢の口から溢れ出る。

「終わったぞ」
「おかえり〜ん☆ちゃんと勝ったようだね」

マスターである屍姦レイパーの元に戦闘を終えたアサシンが到着した。

「勝利の祝射精!!びゅるるるる〜♪」
「戦闘音を聞いた他のサーヴァントが集まるかもしれない。移動するぞ」
「うんうん♪じゃあ続きはお家に帰ってから楽しもうか♪」

127回目の射精を終えた屍姦レイパーは勝利とオナホを入手した事で
ニッコニコに期限が良くなり令嬢の死骸を背負って立ち去った。

「というか君、怪我してるじゃないか。しっかりしてくれよ」
「無傷で勝てる相手じゃ無かった。それに致命傷は避けてある」

再び生を受けてこの世に蘇った屍姦レイパー。
彼を倒さない限り、この悪逆非道な行いは止められない。

「悪逆とは失礼だね。僕は女性達の尊厳を守ってるんだぞ♪女性達が苦しまないように死なせてから強姦してるんだからね♪」


169 : ネクロマンサー&アサシン ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/02(水) 01:10:06 iNZgaWNs0
【クラス】
アサシン

【真名】
テューン=フェルベル@ひよこ侍

【ステータス】
 筋力D 耐久E 敏捷C 魔力E 幸運D 宝具C

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ、隠密行動に適したスキル。
彼は暗殺者では無いが冷静で動じない剣士へと成長した結果
相応のランクを得ている。

【保有スキル】
心眼(偽):D++
直感・第六感による危険回避。
虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。
対象が剣士の場合のみ、効果が増大する。

刹那の見切り:C
剣に生涯の全てを捧げ、到達し得たスキル。
敵の間合いを瞬時に理解し、回避率が上昇する。
対象が剣士の場合のみ、このスキルは発動する。

単独行動:C
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。Cランクなら1日は現界可能。
剣のみに生きた彼には、剣以外必要としない。

【宝具】
『ひよこ侍』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
幼き日に友と交わした約束を胸に秘め、友の形見であるひよこの着ぐるみを被り
剣に生き、剣に全てを捧げた生き様が宝具となっている。
対象が剣士の場合のみ発動可能な宝具であり
発動後は筋力、耐久、俊敏が2ランク上昇し、剣技に限り
ランクの高さに問わず、相手の技を見抜き、己が技として改良し会得する事が出来る。

【weapon】
 刀

【人物背景】
元は裕福な家庭に生まれた以外はごく普通の男の子だったが、ジャンルーカの襲撃で一家を喪い、人生の全てを剣に託す。
ひよこの着ぐるみを着て戦うため「ひよこ侍」と呼ばれる。

【サーヴァントとしての願い】
この世界にいる剣豪達と戦い、最強の剣士になる。


170 : ネクロマンサー&アサシン ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/02(水) 01:10:41 iNZgaWNs0
【マスター】
屍姦レイパー@怪人ハンターズ

【マスターとしての願い】
ハンター達をぶっ殺して平穏な屍姦ライフを取り戻す。

【weapon】
強靭な肉体

【能力・技能】
戦略死霊術
小さな力で大量の死体を甦らせて私兵にする死霊術の一種。
死体が死体を築く為規模に限りはなく
論理的に考えても史上最悪の禁術である。
他の怪人や自分にもかけられるが、対人間用なので副作用がおきる。

おせんころが死
触れるだけで女性を発狂死させれる術。

観音殺
睨んだだけで女性の下腹部に激痛を走らせ戦闘不能にさせる術。

海綿体拳500倍
更に自分の生命を活性化させ、身体を数百倍強化できる最強の補助術。
しかし死霊術と対をなすものなので自分がゾンビになってる間は使用不可能。

エイジ3レディベイン
半径100m以内にいる3の倍数の歳(満年齢)の女性を即死させる恐怖の呪い。
力の浪費と無駄な大量殺戮を招く可能性が高い。

【人物背景】
本名は近藤ひろみ
私生活は大手メガバンクの社員。それ以前は税関職員だった。
非変身型なので犯行時はマスクを着用し、素顔を見られるのを極端に恐れる。
プライドが高く相当なエリート至上主義者。そのせいで他の怪人にすら嫌われている。
普段は人一倍臆病で女性恐怖症。
気の強い女性を殺してオナホにするのが生き甲斐のネクロフィリアである。
少なくても千人以上の人間を殺害してると思われる。
かなりの高位の怪人の癖に直属の手下は「オロチ」×2と関西にいる「亜種の弟」、横浜で待機中の「アンデッド」のたった4体。
要するにコミュ症であるが、死霊術を使えばお友達が沢山できるので問題ない。
極めて高い戦闘力を持ち、練度の高いハンター部隊といえど、正面から戦えば高確率で返り討ちにされる。
更に能力の性質上、女性に対してはほぼ無敵。
危機察知能力に乏しく、騙し討ちや伏撃に対応できない。

【方針】
聖杯を狙いつつ、屍姦ライフをエンジョイする。


171 : ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/02(水) 01:11:04 iNZgaWNs0
投下終了です


172 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/02(水) 18:48:35 lUXDzg1A0
投下します。

なお、今回投下する話には性的な描写、特に男性同士の性行為についての描写があります。
苦手な方は>>173は飛ばして、それ以降を読んで下さい。お願いします。


173 : 夜之川しいな&バーサーカー ◆7PJBZrstcc :2021/06/02(水) 18:49:25 lUXDzg1A0

 くぽっ くぽっ

 夕闇が空を支配し始める時間帯。
 ある高校の誰もいない筈の空き教室に、二人の人間がいた。

 一人はこの学校の数学教師、高尾。
 年齢は三十代か四十代ほどで、七三分けの髪形と眼鏡が特徴の冴えない中年男性だ。
 もう一人は夜之川しいな。
 この学校の生徒で、小柄で可愛らしく整った顔立ちは、まさに美少女であると言える。
 だがしいなの性別は女ではなく、男だ。
 女に間違えられることも多いが、彼はその度に訂正している。
 当人は別に性別を偽っているつもりはないが、一部の男はそれでもいいとばかりに熱を上げている。

「おお……っ!」

 教師と生徒。この二人は空き教室で何をしているのか。
 真っ先に考えられるのは、やはり勉強に関することだろう。
 だが違う。彼らはこの神聖な学び舎で――

「いいぞぉ、しいな……! うっ!」
「……ごくん。
 はい、フェラの分一万円とごっくんもしたので追加で五千円ください」

 援助交際をしていた。
 さっきまで高尾は下半身を隠すことなく曝け出し、しいなに陰茎を加えさせていたのだ。
 そして射精し、出した精液を彼に飲ませた。

 これが彼らの日常。
 しいなを買う人間はこの学校の中だけも他に何人もいる上に、外に出れば数十人単位の客がいる。
 高尾もまたその一人にすぎない。

「しいな。次は――ん?」

 次は本番を頼もうとした高尾だが、ここで彼はあることに気付く。
 しいなの右手に、怪我でもしたのか包帯が巻いてあるのだ。
 高尾は少し心配になり、しいなに尋ねた。

「しいな。その包帯はどうしたんだ?」
「ちょっと怪我しただけです。
 それより、もうしないんですか? なら帰りますけど」
「ああ、いや。今日は本番もしたいんだ。大丈夫かい?」
「まあ、いいですけど」

 高尾の問いを軽くかわし、しいなはズボンを下ろして下半身を露わにする。
 その様に高尾の陰茎は射精したばかりとは思えないほどいきり立ち、彼はしいなの尻穴にそれを挿入する。

 この日、高尾はしいなに中出しを二回行った。
 料金は本番一回につき二万円、生中出しならそれに五千円追加也。


174 : 夜之川しいな&バーサーカー ◆7PJBZrstcc :2021/06/02(水) 18:50:03 lUXDzg1A0





 三十分後。高尾から合計六万五千円稼いだしいなは、足早に学校を去る。
 通学路は彼一人で、周りには誰もいない。
 そこに――

「調子はどうですか? Dear Master」

 一人の男が虚空から現れ、優し気な声でマスターに話しかけた。
 その男は、まさに老紳士と言った見た目をしていた。
 右目にモノクル、飾りのついたシルクハットに、19世紀のイギリス貴族のような燕尾服とフロックコート。
 更にその上に、血のように赤い深紅のトレンチコートを纏い、片手にはステッキを持っている。
 現代日本ではとても目立ちそうな彼は、サーヴァントだ。
 そしてマスターは夜之川しいな。彼はマスターであることを隠す為、右手に包帯を巻いている。
 先ほど、包帯を言及された時に触れてほしくなさそうにしたのは、周りからマスターであると気づかれたくなかったからだ。

 そして彼のサーヴァントは優し気な態度から想像もできないが、バーサーカーである。

「……どこで何をしていたんですか」

 そんなバーサーカーに対し、しいなは嫌悪感を隠さずに問い詰める。
 とても狂戦士のクラスを冠しているとは思えないように見えるが、彼は知っている。
 バーサーカーがどんなサーヴァントなのかを、彼はよく理解していた。 

「あなたを狙うマスターとサーヴァントがいましたので、殺してきました」

 満面の笑みを浮かべ、しいなの問いに答えるバーサーカー。
 殺人の報告に抵抗がないのは、現代日本人として恐ろしく感じるかもしれない。
 事実、しいなは少しだけ怯えた。
 だがバーサーカーの本質はそこではない。

「それにしても、やはりamazing(素晴らしい)……
 私、英雄を殺せる場所に来たのは、この戦争が初めてなんですよ。
 あのサーヴァントもまた最初、強い勇気と誇りを携えて私に向かってきました」

 誰も聞いてもいないのに、殺したサーヴァントについて話し始めるバーサーカー。
 これだけなら戦った敵を称えているように見えるかもしれない。だが――

「しかし、そんな相手も最後には私好みの恐怖(かんじょう)に染め上げてしまいました……」

 彼の顔に温和さはもう存在しない。
 代わりに浮かんでいるのは、同じ笑みだが醜悪さと狂気を示すような、まともな人間なら顔を背けるであろうおぞましい笑顔を浮かべていた。

「ああ、愛しい人よ……」

 ついにはマスターであるしいなすら無視して、一人陶酔するバーサーカー。
 しかしそれも仕方がない。
 なぜなら彼は、人類の中で一番悪意に満ちていると称された男。
 19世紀の英国を震撼させた「霧の殺人鬼」である、ジャック・ザ・リッパーその人なのだから。
 そんなバーサーカーを、しいなは全く信用していない。


 これはしいなの元にバーサーカーがやってきた直後の話。
 しいながバーサーカーの真名を聞いた時、彼は思わず令呪で自分を傷つけるなと命じてしまった。
 もし、普通のサーヴァントならこの命令に対し、酷く怒るか精神的に傷つくかのどちらかだろう。
 だがバーサーカーは違った。彼はただ、残念そうにしているだけだった。
 まるで、いずれやろうとしたことを先に潰されたかのように。

 なのでしいなは、バーサーカーに頼ると言う選択肢を捨てた。
 サーヴァント同士の戦闘は任せるほかないが、それ以外のことに関して、彼は彼なりに自分の身を守ろうと考えている。
 今日していた援助交際も、その為の軍資金稼ぎにすぎない。
 もっとも、彼の場合性行為に快楽を覚えたことなど一度もないが。


 殺人鬼を置いて娼年は一人歩く。
 その距離はまるで、二人の心の距離を表しているようだった。


175 : 夜之川しいな&バーサーカー ◆7PJBZrstcc :2021/06/02(水) 18:50:38 lUXDzg1A0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
ジャック・ザ・リッパー@終末のワルキューレ

【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷B 魔力D 幸運C 宝具C

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
狂化:E-
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
だがE-ではランクが低すぎる為、理性はそのままでより「痛みを知らない」状態になっただけである。
実の所、生前から肩が外れても問題なく自身で嵌め治せる程度には頑強なので、ほぼフレーバーテキストと化している。

【保有スキル】
精神汚染:C
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。

情報抹消:C
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、能力、真名、外見特徴などの情報が消失する。例え戦闘が白昼堂々でも効果は変わらない。
これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。

投擲(ナイフ):C
ナイフを弾丸として放つ能力。

悪意:A+
とある戦乙女(ワルキューレ)曰く『人類の中で一番キライなクソ中のクソのゲボカス野郎』と言われるほどの悪意。
自身で考えた作戦を実行する際、成功する確率がランク分だけ上昇する。

【宝具】
『見せてください。あなたの心の色を』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:100 最大補足:???
当人曰く『神がくれたたった一つのgift』
バーサーカーの右目には、人の心を色として見ることができる。
基本的に彼は希望や勇気を美しく、侮蔑や優越感を醜く思う。
そして人の心が一番美しいのは恐怖一色に染まった時。
それを見る為に、彼は人を殺し続けていたのだ。

バーサーカーは愛を知らない。
誰かを愛したことも無く、誰かに愛されたことも無い。
それ故哀しみすら知らない。

もしも、誰かがバーサーカーに嘘偽りない愛を向けたとき、彼に何が起こるのか――

【weapon】
大バサミ
大量の投げナイフ
ワイヤー

【人物背景】
19世紀の英国を震撼させた「霧の殺人鬼」

元々は売春婦の子供であり、幼少期は劣悪な環境で人に差別されながらも、右目に宿った人の感情を色で見る能力を利用してやり過ごしながら暮らしていた。
それでも、自身に美しい心の色を見せる母に愛されている思っていた彼は自身を「世界一幸せ」と称し、シェイクスピアのソネット集を読むことを趣味にしながら生きていた。
だがある日、母が入れ込んでいた劇作家は成功を収め、美しい貴族の娘と結婚。
母は激昂し、バーサーカーに向かって「あんたなんか生まなきゃよかった!」と叫ぶ。
その時、あの美しい心の色はバーサーカーに向けられた愛情ではなく母だけの希望であり、彼は劇作家と母を繋ぐ道具でしかなかったことを理解した。
そしてあの美しかった母の心の色が徐々に醜くなっていくのを見たバーサーカーは、母を殺害。その時、バーサーカーは心が恐怖一色に染まっていく様を美しいと思った。
その後、バーサーカーは自身の父かもしれない劇作家も殺害し、それからずっと感情が恐怖一色に染まる美しい瞬間を見る為に生涯を過ごしていった。

【サーヴァントとしての願い】
感情が恐怖一色に染まる美しい瞬間を見る

【備考】
神VS人類最終闘争(ラグナロク)に関する記憶はありません。
しいなに令呪で『僕を傷つけるな』と命じられています。


176 : 夜之川しいな&バーサーカー ◆7PJBZrstcc :2021/06/02(水) 18:51:08 lUXDzg1A0
【マスター】
夜之川しいな@キメセクに敗けた娼年

【マスターとしての願い】
死にたくない

【weapon】
なし

【能力・技能】
・同性との性行為
しいなは援助交際で同性とよくセックスをする。
その腕前はリピーターが続出するほどだが、当人はマグロ。
例えアナルセックスの最中であっても平然とTVを見ながら笑ったり、ソシャゲをプレイできるレベルの不感症。

もっとも、薬か何かで一度快感を覚えてしまえばド嵌りする可能性もある。

【人物背景】
外見は少女と間違えられるほど可愛らしい美少年だが、内面は無気力、無関心をいく男子高校生。
〇学生の頃から同性相手に援助交際をしており、容姿やテクニックから人気は高いが、相手がキモかったら勝手に料金を一割増しにするなど態度は悪い。
ただし金払いさえちゃんとしてくれれれば客は選ばない。本編では中年の教師から学校の後輩と、多岐にわたる相手を体を重ねていた。

なお、援助交際の理由は本編で描写されないが、おそらく遊ぶ金欲しさ。

【方針】
基本、戦闘はサーヴァントに一任するが信用していないので、自分の命は自分で守る。

【備考】
参戦時期は本編開始前です。
本編ではしいなの学年が描写されていませんが、本企画では高校二年生に設定しました。
令呪を一画消費しました。


177 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/02(水) 18:52:02 lUXDzg1A0
投下終了です。
続いてもう一本投下します。終焉聖杯から流用し、修正したものです。
性的な描写は一切ありません。


178 : 岸辺露伴&ランサー ◆7PJBZrstcc :2021/06/02(水) 18:52:50 lUXDzg1A0
 知っているか知らないかはどーでもいいが、僕の名前は岸辺露伴、漫画家だ。
 突然だが、どんな願いごとも叶うと言われたら何が思い浮かぶ?
 魔法のランプ? 打ち出の小槌? それとも猿の手?
 やっぱり日本人なら、ドラゴンボールが妥当だろうか。

 まあ、どんな願いが叶うなんていきなり言われても、雑談のタネにするのが精々だろう。
 僕からすればそんなことは時間の無駄だけどね。
 しかし僕はそれを実現するものの存在を知った。

 そいつの名は聖杯。
 キリスト教の聖遺物の1つで、最後の晩餐の際に用いられ、アーサー王が探求の旅に出て探したとされるあの聖杯だ。

 これは、僕がその聖杯を奪い合うための殺し合いに巻き込まれる話だ。





 とあるホテルの一室。そこに漫画家、岸辺露伴が居た。
 露伴は何気なく窓から外の風景を見る。
 そこには子供たちが公園で遊んでいる姿があり、その子供たちを眺める大人の姿もあった。
 それらは普段ならば、わざわざ注視することもないような、都心ならば普通の光景だろう。
 だが実は、今見えている光景も殺し合いの為に作られた世界の一部と思えば少々事情も変わる。
 
 どんな願いでも叶う界聖杯。それを奪い合う殺し合いの為に作られた偽りの世界。
 願いというものを抜きにして、限られた空間での殺し合いと聞いて真っ先に思いつくのは、スティーブンキングの死のロングウォーク。
 あるいは、(露伴視点で)少し前に話題となったバトルロワイアルだろうか。
 
 しかしその二つとこの聖杯戦争は違う。
 願いが叶うという付加価値を持たせ、いきなり呼びつけられた人間にやる気を持たせようとするのは理解できる。
 だがなぜ会場が東京を模した世界である必要があるのか。
 なぜ殺し合いに関係のない人々がいるのか。
 露伴の疑問は尽きない。

「やはり、いつまでも部屋に居続ける訳にはいかないか」

 そう言って露伴は窓から外を見るのをやめ、外へ出ていく準備をする。
 自身のサーヴァントがいない今、迂闊な行動は危険かもしれない。
 だからといって、親に叱られるのを恐れて隠れる子供みたいに引きこもるのは、露伴の性に合わない。
 そして部屋から出て行こうとした瞬間、後ろから強烈な光が発せられた。

「な、何だッ!?」

 露伴はそれに驚きつつも、何が起きてもいいようにスタンドを出して構える。
 だが特に攻撃される事なく、そのまま光は収まった。
 露伴が光っていた場所を見ると、そこには1人の少年が居た。
 身長は170位、着ている服は学生服だろうか、何処にでもいるかどうかは知らないが街ですれ違えば注目する事のない存在に見える。

「えっと、あなたが俺の――」
「ヘブンズ・ドア――ッ!!」

 だけど露伴はそんな少年相手でも容赦をしない。
 少年が何かを言おうとしていたのを遮り、先制攻撃を仕掛ける。スタンド使いの戦いにおいて躊躇など荷物にしかならないのだから。
 とは言っても露伴は少年を殺すつもりはない。
 せいぜい少年を本にして素性と目的を調べた後、「岸辺露伴を攻撃できない」とでも書き込むつもりだ。(無論逃げるようであれば容赦はしない)
 だが次の瞬間、露伴にとって信じられない事が起きる。

 ヘブンズ・ドアーが少年を本にすることなく弾かれたのだ。

「な、何だとォ――――ッ!!!」

 これは露伴にとっては驚愕だ。
 どんな人間相手でも、スタンドやある程度の知能を持った動物相手にだって通用していたスタンドが通用しなかったのだから。
 そんな露伴を見て少年は必死に叫ぶ。

「落ち着いてくれ! 俺は敵じゃない!!」

 そんな少年を見て露伴は考える。


179 : 岸辺露伴&ランサー ◆7PJBZrstcc :2021/06/02(水) 18:53:34 lUXDzg1A0

(まさか、こいつが僕のサーヴァント?)

 敵ならば今ほどのチャンスは無いだろう、スタンドが通用せず動揺している今ほどのチャンスは。
 けれども少年は露伴を攻撃しない。そんな姿が露伴を冷静にした。

「なあ、君が僕のサーヴァントななのか?」

 なので露伴は問いかける。
 それに対し、少年は気さくに答えた。

「ああ、俺はランサーのサーヴァント。真名は武藤カズキ!」
「いやそこまでは聞いていない」

 ランサーの自己紹介に対してにべもなく返す露伴。
 しかしランサーはそんな事を気にも留めず露伴に話しかけた。

「ところでマスター。マスターってひょっとして岸辺露伴だったりします?」
「……そうだが、何で知っている」
「やっぱり! 俺ファンなんです。サインとかもらえます!?」

 とても英雄とは思えない要求に一瞬唖然とする露伴。
 だがすぐに思い直し、露伴は返答する。

「サインぐらいなら構わないが、あいにくこの部屋には書くものがない」
「じゃあ俺コンビニで買ってきます!」

 そう言ってランサーは部屋を飛び出していった。
 それを見て露伴は一言。

「コンビニの場所とか知ってるのか?」

 考えなしだな、と露伴は少々呆れつつ、更に別の事を考え始める。

「とりあえず、あのランサーが何者かを聞かなくちゃな」

 露伴は聖杯に一切興味がない。だがサーヴァントには興味あった。
 植え付けられたルール曰く、サーヴァントは死んだ過去の英雄らしい。
 なら生前の話を聞けば漫画のネタになるだろうし、最低でも戦い方位は聞かないと戦争どころじゃない。
 だがもし生前の話を拒まれたらどうしようか、聞かせないとサインを書かないぞとでも言ってやろうか。

 そんな事を考えていた露伴は、少々黒い笑みを浮かべていた。



【クラス】
ランサー

【真名】
武藤カズキ@武装錬金

【パラメーター】
筋力D 耐久B 敏捷D 魔力D 幸運B 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術は完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。

【保有スキル】
錬金の戦士:B
生前のわずかな間だけだが戦ってきた者の証。
ホムンクルスなどの人造生命に与えるダメージも大きくなる。

戦闘続行:A
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。


180 : 岸辺露伴&ランサー ◆7PJBZrstcc :2021/06/02(水) 18:54:01 lUXDzg1A0

【宝具】
『山吹色の突撃槍(サンライトハートプラス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:2 最大補足:1
ランサーの心臓の代わりに埋め込まれている核鉄を闘争本能に呼応させて変化させた姿。
見た目は小型化した突撃槍。小回りが利き剣のように扱う事が出来る。
また、ランサーの意志に応じて山吹色のエネルギーを出して攻撃する。

『命を喰らう黒き者(ヴィクター化)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
常時発動型の宝具だが、普段はランサーの意志で限界まで抑え込まれている。。
この宝具を本格的に発動すると、肌の色が変化し人間でもホムンクルスでもない存在になる。
さらに、一定範囲の全生物の生命エネルギーを強制的に吸い取る事になる。
これは生態なのでランサーの意志で止めることは出来ない。
この生態をエネルギードレインと呼び、これは抑えている状態でも起きているが周りの生物に与える影響は0に等しい。
だが本格的に発動している場合だと、健康的な人間でも数分で立つことが出来ないほどに疲労する。
このエネルギードレインは魔術による攻撃に分類されるので、防ぐことは可能。

ただし、ランサーはこの宝具の本格発動を望んでいない。
ランサーにこの宝具を本格発動させたいのであれば、令呪を用いることは必須となる。
だが、それをした場合主従仲は最低のものになるだろう。

ちなみに、発動している状態だと宇宙空間でも生存可能となる。

【weapon】
核鉄

【人物背景】
私立銀成学園高校2年B組の男子生徒にして錬金戦団の戦士。
性格はかなりの熱血漢で古き良き少年漫画の主人公と言った感じ。
一方天然ボケの気があり周りから失笑されることもある。
また特徴として、「○○の達人」を自称し、数々の特技を見せる事も。
だが似顔絵の達人を自称し描いた所ジョジョタッチになっていたりと怪しい。
実は岸辺露伴のファン。

【サーヴァントとしての願い】
強いて言うなら岸辺露伴のサインが欲しい。(成就)


【マスター】
岸辺露伴@ジョジョの奇妙な冒険

【マスターとしての願い】
サーヴァントを取材したい。

【weapon】
スタンド『ヘブンズ・ドアー(天国への扉)』

【能力・技能】
スタンド『ヘブンズ・ドアー(天国への扉)』
相手を本にして、記憶や能力を読んだり書き換える事が出来るスタンド。
体のどこかの部位が本となり、本には対象が記憶している人生の体験が書かれている。
また、本のページに書き込むことで相手の行動を思い通りにすることができる。

【人物背景】
M県S市杜王町在住の漫画家。
週刊少年ジャンプにて「ピンクダークの少年」を連載している。
性格は結構自己中止的で大人げない。
が、決して悪人ではない。
少なくとも殺し合いの儀式に不快感を覚える位には。

【方針】
他マスターと接触してサーヴァントを取材しつつ、聖杯戦争を止める。

【補足】
参戦時期は4部終了以降。(The Bookや岸辺露伴は動かないシリーズについては不明)
ホテルを拠点としています。


181 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/02(水) 18:54:26 lUXDzg1A0
投下終了です


182 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/02(水) 20:08:25 l2OE9Bis0
>>ネクロマンサー&アサシン
全編に渡って漂う独特な異様さが特徴的なお話でした。
ひよこ侍は好きなゲームなのでこうして候補作で読めるとは思わなかったです。世の中広い。
剣に全てを捧げた彼とこの異常なマスターがどう暴れていくのか注目ですね。

>>夜之川しいな&バーサーカー
ジャック・ザ・リッパー! ワルキューレの中では一番好きなキャラなので普通に喜んじゃいました
ラグナロクについての記憶が無い(そもそも超えているのかどうかも怪しいですが)以上、彼のマスターはとんでもない危険株を引いてしまいましたね。
聖杯戦争の華である暗躍を存分に繰り広げ、ドラマを生んでくれそうな主従でした。

>>岸辺露伴&ランサー
露伴という癖の強いマスターとは打って変わっての真っ当で真っ直ぐなサーヴァントですね。
ヘブンズ・ドアーが対魔力で弾かれるシーンとか、クロスオーバーだなあと思いました。こういうシーン好きです。
決裂の可能性とかは無さそうなので、露伴の好奇心と取材欲を存分に満たす日々が始まりそうです。

皆さん今日も投下ありがとうございました。
それでは私も投下します。


183 : 滑皮秀信&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/02(水) 20:08:57 l2OE9Bis0

 神だの仏だのを信じたことはなかった。
 糞みたいな父親の元に生まれて育ち、子供ながらに思ったものだ。
 この世はどこまで行っても人間の世の中で、皆が手を合わせてありがたがる尊い存在など所詮妄想の産物でしかないのだと。
 そしてその考えに関しては、今この時も決して変わっちゃいない。
 だが。それに限りなく近い、人智の及ばない領域が存在することについては、認めざるを得ないというのが本音だった。
 黒一色の高級車。その運転席で、窓の外へと紫煙を燻らせながら。
 遠くの夜空を見つめて――若琥会若琥一家二代目猪背組、猪背組系列滑皮組組長・滑皮秀信は述懐する。

「出来の悪い漫画だな。梶尾のアホが好きそうだ」

 黒のスーツを完璧に着こなしている姿は上流階級の人間を思わせるが、しかして一度対面すればその印象は霧散するに違いない。
 彼からは、あまりにも色濃い暴力の臭いが香っていた。
 社会の裏側で今も確かに息をしている、道徳や倫理の通じない人種。
 即ち、暴力団。ヤクザ。滑皮はひとえに、そういう言葉で呼称できる存在であった。

 ヤクザの世界は過酷だ。
 暴排法云々を抜きにしても、とてもではないが過ごしやすい世界ではない。
 常に上下関係を意識せねばならず、それに逆らおうとした者の寿命は短い。
 しかし何より厳しいのは、ただの一度の敗北も許されないことだろう。
 ヤクザはメンツを大事にする生き物だ。そしてもちろん、それはただの見栄ではない。
 メンツを潰されたヤクザは――舐められるのだ。たとえそいつにどれだけの力があったとしても、どれだけの勢力が付いていたとしても、一度潰されたメンツは決して戻らない。
 
 折り曲げた紙をどんなに頑張って引き伸ばしたところで、刻まれた折れ目が消えることがないのと一緒だ。
 そして、滑皮秀信は……無様に敗北し、メンツを潰され、更には再起のチャンスさえもを徹底的に剥奪された敗北者だ。

「まさか、冗談や酔狂以外で死刑って言われる状況が来るとは思わなかったぜ」

 滑皮は、ある男を潰そうとした。
 その男は滑皮の"オヤジ"の仇であり、そして昔からどうにも目に付くいけ好かない相手だった。
 滑皮はありとあらゆる手段を使い、その男を追い詰め、破滅するように仕向けた。
 絆を奪い、拠り所を壊し、逃げ場を塞いで服従と死の二者択一を突き付けた。
 なのに――負けた。追い詰めた筈の鼠はしかしてただの鼠に非ず、滑皮という猫の喉笛を噛みちぎってのけたのだ。

 罠に嵌められて敗けた男の末路は惨めだ。
 罪人として警察に囚えられ、言い渡された判決は死刑。
 長年苦汁を舐めながら登り詰めた地位も、築いてきた信頼も実績も、ただ一度の敗北によってすべて失墜した。
 滑皮は、文字通りすべてを失ったのだ。なのに、どういうわけか。不可思議な奇跡に微笑まれて、此処に居る。


 界聖杯内界。
 今滑皮が居る"戦場"は、彼にとってはあまりに懐かしいシャバだった。
 否、それだけではない。シャバだから懐かしいというわけでは、ない。
 此処には、滑皮のせいで死んでいった人間が居た。
 彼の覇道を信じて付いてきて、その結果虫けらのように死んでいった部下たちが――さもそれが当然のような顔をして、生きていた。


184 : 滑皮秀信&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/02(水) 20:09:33 l2OE9Bis0


「……、」

 梶尾。鳶田。
 馬鹿で、阿呆で、けれど滑皮にとって間違いなく大切な人間だった二人の部下。
 滑皮のせいで死んだ二人に、今の彼はいつでも連絡を取ることが出来る。それどころか呼び出して、顔を突き合わせて喋ることもできる。
 それがこの界聖杯内界。たった一度の敗北ですべてを失った男に与えられた、最後の機会のフィールドだった。

 馬鹿げている。これではまるで狂人の妄想だ。
 ややもすれば、本当に全ては滑皮の夢でしかないのかもしれない。
 娑婆に生き場所を失い、後は審判の結果と、その先にほぼ確実に待ち受けているだろう刑死の時を待つのみの身だ。
 自分自身でも自覚しない内に精神が壊れ、こんな都合のいい夢を見て一人痴れている。
 その結果がこの聖杯戦争なのではないかと自問しても、違うと強く断言することはできなかった。

 そうだ――これは、夢なのかもしれない。
 敗れた惨めな負け犬の自慰が生んだ蜃気楼でしかないのかもしれない。
 だが。それでも。

 滑皮秀信という人間は、安易な堕落や諦めに身を委ねられる性分をしていなかった。
 悶主陀亞連合の頭をやっていた頃から今に至るまで、一度も途絶えたことのない滑皮の中の獣性。
 或いは宿痾と、そう呼ぶべきなのかもしれない。少なくともこの性さえなければ、彼がああも悲惨な末路を辿ることはなかった筈だ。
 人間の頭に躊躇なく金属バットを振り下ろせる凶暴性がなければ。
 抗争相手の唇を切断して尚顔色一つ変えない残忍さがなければ。
 そして、舎弟の死に動揺するような人間味がなければ。
 滑皮は――こんな"行き止まり"に迷い込むことは、なかった筈なのだ。

 
 その手に握った銃を、窓から出して夜空に翳す。
 使い慣れた得物だ。実際にこれで人間を撃ち殺したこともある。
 この聖杯戦争においてもそれは変わらない。
 滑皮秀信の得物は、銃。そして彼と因果が繋がった存在もまた、銃であった。

 滑皮は一度も自分のサーヴァントを見たことはない。
 正確に言うならば、出すべき状況に立たされたことがない。
 そしてそのことは滑皮にとって実に幸いだった。
 もしも出さねばならないような事態になっていたのならば、その存在は十中八九全てのマスター達に知れ渡っていただろうから。

「こんな力があれば梶尾を殺されることも、丑嶋の野郎に嵌められることもなかったか」

 滑皮の号令が一つあれば、それだけでこの都市に"災害"が吹くのだ。
 魔術師ではない故に魔力のストックが貧弱な彼だが、それでも此処では令呪という便利なブースターがある。
 試したことはないが、マスターとして"それ"とパスが繋がっている為だろうか。本能的に、分かるのである。
 
 出せば、それだけで全てが終わると。
 数を集めて特攻を掛ける必要もない。
 金を積んで暗殺者を雇う必要もない。
 令呪を使って魔力を補い、一言命令すればそれで終わる。それだけで、滑皮秀信は勝者になる。
 悪魔の如き"銃"が、辺りの全てを射殺してくれるから。


185 : 滑皮秀信&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/02(水) 20:10:17 l2OE9Bis0

 ヤクザとして人脈を作り、金を集め、あの手この手で敵を排除してきたのが途端に馬鹿らしく思えてくるほどの"力"。
 感覚的には核爆弾の起爆スイッチを手に入れたのにも近いが、しかし滑皮の心は何処か虚しさを覚えていた。
 これ以上ないほど強い武器を持っているというのに、何故だか心が不合理な渇きを覚えている。
 
「下らねえ。余計な感傷だ」

 百の手順を踏んで勝つのと一の行動だけで勝つのとでは、どちらが優れているのかなど瞭然である。
 滑皮は脳裏を過ぎった感傷を切って捨て、ベンツの窓を閉じた。
 
 "悪魔"は最強の銃(チャカ)だ。
 だが、実際のところは行動一つ起こせば勝てるというほど単純なものでもない。
 カードを切れる回数が限定されているのだから、まずはその状況を整えるためのお膳立てをする必要がある。
 この界聖杯内界に居る梶尾と鳶田にも、その一助を担って貰うことになるだろう。
 やらねばならないことは山積みだ――ひとつでも怠れば、その横着がそっくりそのまま死出の山へのロープウェイになりかねない。


 災害の如き、大量殺戮の悪魔。
 《銃の悪魔》と呼称されたそれを、世界各国が抑止力にしようとしたそれを、冷たい眼のヤクザは今自分の武器として首輪に繋いでいる。
 しかしそれでも、彼の中の虚しい渇きが消えることはなく。
 そしてその理由を、滑皮秀信が理解することもない。
 彼は――それが分かるような生き方をしてこなかったから。

 
 もしかするとそれが、彼の人生を破滅させた金融屋と彼の一番の違いなのかもしれなかった。


【クラス】アーチャー
【真名】銃の悪魔
【出典】チェンソーマン
【性別】不明
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:A 魔力:A+ 幸運:E 宝具:B++

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:A+
 マスター不在でも行動できる能力。
 マスターを失った場合、銃の悪魔は荒れ狂う災害となって解き放たれる。

【保有スキル】
悪魔:A++
 動植物や概念などあらゆるものの名前を持って生まれてくる、人知を超えた怪物。
 人間がその名前を恐怖・嫌悪するほど力を増す。
 アーチャーは文字通り世界中から恐れられた悪魔であり、ランクは非常に高い。


186 : 滑皮秀信&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/02(水) 20:10:52 l2OE9Bis0

広域殺戮:A
 広域に渡る殺戮。
 不特定多数の標的に向けた攻撃行動時にプラス補正を得る。

逃走行動:B
 自身の霊核が破壊され、現界の維持が不可能になった時に発動できるスキル。
 周囲に存在するランダムな死体に憑依し、対象を"魔人"と呼ばれる存在に変質させる。
 魔人となった人物の自我はほぼ失われ、頭部からは巨大な銃が生え、大元と同様の銃撃能力を得る。

【宝具】
『銃の悪魔(The Gun Devil)』
ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1000人
 銃の悪魔。人間界において最も恐れられ、出現する度に天災に匹敵する被害を齎してきた存在。
 無数の銃弾を用いて、極めて広範囲を対象にした銃撃攻撃を行うことができる。
 生まれた月や性別、年齢など条件分けして狙い撃つことも可能であり、その殲滅能力は極めて高い。
 が、その霊基の巨大さは常時現界させておけるものではなく、更にマスターである滑皮秀信が魔術の素養を持たない人間であることも相俟って、銃の悪魔を現界させるには都度令呪一画を要する。

【weapon】
銃弾

【人物背景】
世界的に大きな影響力を持つ悪魔。
原作の時代から13年前、紛争などにより世界的に銃への恐怖が高まっていた中、アメリカで銃を用いた大規模なテロが起こった日に出現。
その後世界各地に上陸し、およそ7分間で約110万人を殺害したとされる。

【サーヴァントとしての願い】
???


【マスター】
滑皮秀信@闇金ウシジマくん

【マスターとしての願い】
未定。だが、界聖杯は掌握する。

【能力・技能】
ただの人間だが、敵対者に対して一切の容赦をしない冷酷さと残忍さを併せ持つ。
一介のヤクザ者としては部下からの人望も厚く、本人は腕っ節と知略の両方を高い水準で備えている。

【人物背景】
若琥会若琥一家二代目猪背組、猪背組系列滑皮組組長。
暴走族時代から敵対者の唇を切断するなどの凶行で恐れられ、地元では「絶対に逆らってはいけない人物」と言われていた。
しかし情がない人物というわけではなく、部下を惨殺された際には怒りと喪失感を示すなど、人間味もある。
復讐のために金融屋・丑嶋を追い込み、様々な策で追い詰めるが、あと一歩のところで嵌められ殺人罪で警察に逮捕された。

【方針】
生き残り、聖杯を手に入れるべく動く。
早い内に協力者を手に入れ隷属させたい。


187 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/02(水) 20:11:33 l2OE9Bis0
投下終了です。
そろそろストックがなくなってきたので、ちょっと投下ペース落ちるかもしれません。
ただ、感想はなるべく早めに書くようにしたいと思います。


188 : ◆ruUfluZk5M :2021/06/02(水) 21:43:13 wRoMWs2w0
投下します。


189 : ラフィングドッグ・サラリーマンズ ◆ruUfluZk5M :2021/06/02(水) 21:46:51 wRoMWs2w0
 なぜか耳当てをした眼鏡の中年男性。帽子を被った精悍な中年男性。
 ふたりの男はビルの一室で立っていた。
 どちらも外見そのものはどこにでも居る(片方の耳当てを除けば)ただの企業人のようなものだが、立っている場所はにつかわしくない。
 そこは東京でも屈指の暴力団事務所の中だった。

 なんらかの陰謀か脅迫で拉致されたのかと思いきや、どちらも一切うろたえるでもなく周囲を観察している。
 むしろ、集結した組員の方がどこか緊張しているくらいだった。
 
 彼らは穏やかな口調で、暴力団と交渉らしきトークをしていた。

「ふむ。ではどうしても君たちのボスには会わせられないと?」
「当然だろうが! なんの権利があって……」
 凄みながら集まる面々。なぜたかがふらっと入ってきた男ふたりに対して組員が総出で集まって脅しをかけているのか。
 当の組事務所のメンツも不可解な感情を覚えていた。

 いや、そもそもどうやってこいつらは入ってきたのか。
 組員たちは彼らが事務所の中に来た瞬間を誰も知覚てきていなかった。
 気付いたら、このふたりはすぐそこに居て「君たちのボスに会わせろ」と言ってきたのだ。
「組長はお前らみてえなやつらと会う暇は」
「誰が組長と言ったんだい? 僕たちは「ボス」と言ったんだよ」
 耳当てをした男の言葉に、凄んでいた面々の顔色が悪くなる。

「いいから出したまえ。君たちの裏に「キャスター」がひそんでいるのはわかっている……」
 その単語を聞いたとたん、事務所の構成員は武器を取り出した。非常事態の仕掛けのような、自動的に制御されたかのような異常な動き。
 銃刀法に違反してこそいるが、ただの凶器であるはずのもの。
 だが、聖杯戦争に関わるものが見れば、魔術によりなんらかの神秘を帯びているのは明らかだった。


190 : ラフィングドッグ・サラリーマンズ ◆ruUfluZk5M :2021/06/02(水) 21:48:39 wRoMWs2w0
 魔術的な強化をされたケダモノの群れに囲まれたような状態。

 だが、それらを見る男……マスター、高槻巌。
 そしてそのサーヴァント、小須田義一は全く動じず予想通りだと納得するだけだった。

「反社会的組織に術を授け、裏から動かす。なるほどこの様変わりした東京では有効な手段だ。ここまで暴力団の規模が大きかったりするのは、おそらく多数の世界の常識や環境が混ざっているからこその世相のズレか」
「だがギャングの手口なら僕もよく知っている。なにせ説得してボスだったこともあるからねぇ」
「説得……それはまた凄い。私は壊滅させるのが手いっぱいで」

 あまりに落ち着いた会話をするその様子を、不気味に思った組員が襲い掛かる。
 が、ナイフを振りかざした男、魔術で強化されたチンピラは、マスターである高槻が少し触れただけの動きで跳ね飛ばされ、瞬時に気絶した。

 その倒れた男を決戦の幕開けとして、魔術強化組事務所と2名の戦いが始まった。

「ほう。中国拳法……少林拳。それに相撲ですか。小須田さん」
「よくわかりますね。そちらは古武術ですか? 高槻さん」
「ええ、それと忍術を少々」
 そういいながらポンポンと互いに組員を吹き飛ばすふたり。

 取引先との歓談のようにリラックスした会社員2名という状況に、やられっぱなしのひとりが激怒する。
「ち、ちくしょおおおお!」
 隠し持っていたマシンガンが乱射される。だが、
「じゅ、銃弾を避けてやがるっ!」
 プン、プンッと消えては弾が空を切る。
 ただの銃弾など、このふたりならば目をつぶっても軌道を読んで避けられる。

 殺気が。
 挙動が。
 なにもかもが、露骨。
 この程度の相手の銃撃が「彼ら」に当たるわけがない。

(どうなってるんだアイツら!? 真後ろから撃ってるのにどっちもカスリもしねえ!)


191 : ラフィングドッグ・サラリーマンズ ◆ruUfluZk5M :2021/06/02(水) 21:50:23 wRoMWs2w0
 耳当てをした一見すると人の好いマヌケそうな方の男、小須田がスッと手をかざしただけで転倒し無力化される、マシンガンを構えた組員。
 速いだけじゃない、流れるような無駄のない、それでいて読めない動き。
 人間ではなく流水を相手どっているかのような感覚。


 約1分後。


 事務所の一室はいつの間にかキャスターに仕掛けられていた組員ごと巻き添えにするトラップごとなにもかも解体されていた。

 やがて、憔悴しきった若頭らしき上の組員が、瞬殺されてはいても誰も死んではいないことに気付く。
 流れ弾で死んだ相手すらいない。おそらくはそこまで含めての手加減だろう。

 誰ともなしにうめくように、
「いったいなんなんだ……お前ら」
 次元の違う強者に対し恐慌をきたしたための、まともに答えがくると期待したわけでもない言葉なのだが。
 ふたりは意外にもその問いにはっきりと答える。
「私たちかね? 私たちは通りすがりの――」
「そう、僕たちは日本の(ジャパニーズ)――」

「「サラリーマンさ」」

 ぽかんとする面々を横に置くと、事務所ビルにおけるキャスターの位置を、観察で得た情報で割り出したふたりは猛然と走っていった。
 片方はちょっと浮かんでいた。


 ●


 サーヴァントの手先となっていた暴力団を、黒幕のキャスターごと壊滅させひと仕事終えると、小須田と巌はスーツ姿のままバーで酒を酌み交わしていた。
 あたかも一般商社のサラリーマンが同僚と飲んでいるだけの光景にしか見えない。


192 : ラフィングドッグ・サラリーマンズ ◆ruUfluZk5M :2021/06/02(水) 21:52:39 wRoMWs2w0
 しかしこれは軍隊よりも恐ろしい「個人」が情報を交換している場面なのだった。

「でもサーヴァントとマスターが居ることを加味しても、ニューヨークより全体的な治安は今のところ良いんじゃないですかね。紛争地帯みたいにしょっちゅう弾丸が来ることも無いし」
「ああ……確かあなたもニューヨークに。奇遇ですね、私もハーレムでマフィアを相手にしていましたよ。子供たちに道場で武術を教えていて……」
 互いに情報交換で思い返すのは各地の危険な場所での戦歴や助けてきた人々との話。

 しかしサーヴァントサラリーマン・小須田義一の仕事の中にはマスターである高槻巌にとってもおかしな物もあるようで、
「高槻さんの度胸なら演劇もできるかもしれませんね。僕も歌劇のアンドレ役で大ヒットしたことがありますよ!」
「いやぁ、そういう華やかな方面はいささか恥ずかしいもので。本当に多才でいらっしゃる……」
 などという変な体験談の会話にも行ったりと、お互い刺激的なものがあった。

「しかし……小須田さんは、願いなどはあるのですか?」
 少しして、小須田の動向を見極めるように、巌はやや鋭い目で聞いた。
 小須田は……困ったように返した。
「……ちょっと、よくわからないですね。自分で何かを願って蹴落とす……と言うのは経験が無いので。ほとんどの人生、誰かに従ってばかりで……」
「だが、あなたは生涯において私を突き放すほどに多種多様な活躍をしているはずだ」
「誰かに言われて、ですがね。あなたほど自分の意志で進んだ経験はない。確固たる意志で自らの道を決めたことなんて……数えるくらいしかありませんよ」

 お互い戦ってきた。救ってきた。あがいてきた。一流のサラリーマンとして。だが、やはり違うのだと小須田は言う。
 意志が違うと。

「僕も毎回命じられた時は誰かのためになるだろうと思ってがむしゃらに仕事をこなしました。でも、頑張っても色々食い違って家族は離れていった」
「……悔いてますか?」


193 : ラフィングドッグ・サラリーマンズ ◆ruUfluZk5M :2021/06/02(水) 21:55:09 wRoMWs2w0
 込み入った家庭の事情だ。あまり否定をすることもできなかったが、マスターとして知った小須田義一の人生。巌の目からも彼の妻や娘、会社がしてきた所業はさすがに度が過ぎていた。
 だが、それでもこの男は自らを犠牲にして世界と家族を救ったのだ。
 その末路が、話題作りとして家族の食い物に墓すらぞんざいにされるようなものだとしても。
 死後の小須田は、霊として一度現世に顕現した経験がある。サーヴァントになる前からその事実を知っていた。

 巌の質問に、小須田はいつものコミカルなノリとは違う沈んだ口調で返す。
「かなり。離婚した妻がその後にちゃっかり僕に生命保険を勝手にかけてたのはさすがに後から知ってびっくりしましたよ。離婚したのに僕が死んだ後に「ジャパニーズサラリーマンの妻」って自伝出版で大儲けしてたし」

 さすがの何事にも動じない高槻巌もこれにはどう返していいのかわからず、一筋の冷や汗が額に浮かんでいた。

 小須田は一連の事実や現状を思い返し、もう絶望と言うより呆れるような顔をして……
「けど」
 今までを思い返して、決して嫌な相手だけではなかったと続ける。
「みんなを助けることができた。家族も。仲間も。少林寺の弟子も。ドラキュラ伯爵、アトランティスのご近所さん。ヒラリー。それに今まで部下になってきた人々全員を。それだけは、後悔してませんよ」
 わが身を犠牲に巨大隕石から地球を救ったことは間違ってなかったと、小須田は断言した。
 あの時だけは、上からの命令に対しての諦観ではなく。自らの意志でやったことなのだと。
「そうですか……」
 小須田の生涯を聞いて巌もまた、己自身の人生を振り返って……

 私は、家族を守れませんでした。
 そう言った。

 高槻巌がそのような後悔じみた暗い心境を示すのは、珍しいことだ。いや、皆無と言っていい。
 だが、小須田義一という立場の相手にいつしか彼は自らの人生を紐解いていた。
 それは小須田という男が腹を割って自らの暗い部分を話してくれたことと、彼の持つ不思議なカリスマもあってのことかもしれない。

「妻と子は今でも元気です。だが、弟だけは……崖は」
 力に溺れた弟。怯えていた弟。故郷の村を自ら滅ぼした悪しき弟。自分と戦った弟を思い出す。一族で唯一覚醒した、強大な過ぎた超能力でその身を滅ぼした弟、高槻崖。
 倒すべきだと覚悟しての介錯だった。
 既に崖は止めなくてはならない邪悪と化していた。戦い、討つべき相手だった。その決断には今でも迷いはない。
 だが、弟にトドメを刺す前に。ああなってしまう前に。本当なら、肉親としてもっと救える「なにか」があったかもしれない。

 奇しくも小須田と同じく隕石……こちらは珪素生命体からの危機だが、その脅威と取り巻く陰謀から地球は救われ、息子は成長した。
 巌と同格の傭兵として戦ってきた妻も元気で主婦をやっている。
 だが、実の弟だけは失ってしまったのだ。この、自らの手で。

 沈黙が続く。グラスの中で溶ける氷がカラン、と鳴った。

「高槻さん」
 と最初に沈黙を破ったのは小須田だった。


194 : ラフィングドッグ・サラリーマンズ ◆ruUfluZk5M :2021/06/02(水) 21:57:22 wRoMWs2w0
「あなたはそれでも帰る場所を残せた。一家の大黒柱として、奥さんも子供も確かに居る。それは僕ができなかったことです。
僕は家庭に亀裂を入れ、家族だった人間すら僕を食い物にするような人間へと変えてしまった」
「…………」

 家族は守れたが、家庭を失い死んだサラリーマン、小須田義一。
 家庭は守れたが、家族を失い生き延びたサラリーマン、高槻巌。
 まるで鏡合わせのような組み合わせだった。

「高槻さん。戦いましょう。サラリーマンとして、誠意ある戦いを。そして帰るべきだ。家族の元へ」
「ええ。サラリーマンとして最後まで諦めず立ち向かうとしましょう。我々の「意志」で」
 ふたりは笑い合うとグラスを傾ける。
 もう、湿っぽい空気はどこかへ吹き飛んでしまっていた。


「しっかしあの時のキャスターの防衛網はCIAに潜入した時を思い出すなぁ〜」
「あぁ、CIA……あそこは確かに結構面倒な場所ですね」
 無数のトラップ。魔術。そんな脅威はこのサラリーマンたちからすると児戯に等しい。あらゆる障害を粉砕してこそのサラリーマン。


「それは絶対サラリーマンのやることじゃない」と突っ込める人間は、そこに存在しなかった。


195 : ラフィングドッグ・サラリーマンズ ◆ruUfluZk5M :2021/06/02(水) 21:59:05 wRoMWs2w0
【マスター】
 高槻巌@ARMS
【マスターとしての願い】
 大人として事態を見極め、責任ある社会人として聖杯戦争で危険な相手に対処する。
【能力・技能】
 「水の心」と呼ばれる高度な戦闘技能と体術の持ち主。これにより不可視無音の攻撃をも容易に殺気を読んで避け、人知を超えたパフォーマンスを発揮する。
 また忍術の使い手で、あらゆる銃器や道具を使いこなし潜入工作や破壊工作を得意とする。機材さえそろっていれば核ミサイルにも対処が可能。
【人物背景】
 「風(ウィンド)」「静かなる狼(サイレントウルフ)」呼ばれる世界各地で活躍する伝説の傭兵。しかし表向きは「単身赴任のサラリーマン」と言っている(妻も同格の伝説の傭兵なのだが、やはり日頃は普通の主婦をしている)
 元は役小角の血をひく末裔の、超能力者の力が発現しうる村の出身。だが、彼自身は術や超能力の素養は特に無く、その力が発動したのは弟の高槻崖。
 力が発動した弟に対し兄として庇っていたが、結局弟は村との軋轢により感情を暴走させ秘密結社エグリゴリに村の存在を密告。村は壊滅し兄弟の因縁となる過去を持つ。
 本編では珪素生命体の実験に用いられるデザイナーズベイビーの赤子を引き取り、息子の高槻涼として愛し育ててきた。
 やがてエグリゴリによる珪素生命体の兵器「ARMS」の事件が勃発し、そのARMSの完成体を取り込んだ弟、崖と交戦。
 崖の扱う空間断裂にも対処し見事討つことに成功、一連の地球を滅ぼしうる珪素生命体の陰謀からも生還する。
 その後も世界中で単身赴任のサラリーマンとして活躍し続けている。
【方針】
 危険な因子を見つけた場合介入。特に聖杯をどうこうはしないが、他の組の動向は観察する。


196 : ラフィングドッグ・サラリーマンズ ◆ruUfluZk5M :2021/06/02(水) 22:00:24 wRoMWs2w0
【クラス】
 サラリーマン
【真名】
 小須田義一@小須田部長(笑う犬番組内コーナー)
【パラメータ】
筋力A 耐久A 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具B
【クラス別スキル】
 命令遂行:A+
 令呪による命令をブーストしてより確実に叶えるエクストラクラス・サラリーマン特有のスキル。
 反面、より令呪に逆らいにくく嫌な命令であろうと従わざるを得なくなる。
 A+ともなればどんなに理不尽で曖昧な命令であろうと、高い対魔力があろうと令呪に逆らう事はほぼ不可能。

【保有スキル】
 カリスマ:B
 あらゆる人間、動物や人外などと心を通わせる人心掌握術にして天性の才。
 ほぼいかなる初見の存在とでも一定期間あれば自在に指揮し任務を遂行する事が出来、極限の人望と言えるレベルに達している。
が、何故か家族や元の会社の同僚など元々の近しい人物には全く通用しなかったのでランクはBになっている。

 専科百般:EX
 いかなる無茶振りにも短期間で応えてきたことからくる器用万能の才。
 あらゆる言語の活用、格闘技、潜水艦などの操縦、探索から歌劇、スポーツ、メイク、潜入など様々な技法を身に着ける。
 また必要とあれば未知の技術でも新たに習得が可能。

 中国武術:A++
 少林寺1523人の猛者を命がけで全員倒し、指導者と成り得た中華の合理。
 また数々の過酷な任務で得てしまった超絶的な肉体と戦闘能力に関する総合的要素が専科百般から独立したスキル。
 敵の技を一歩も動かないまま容易く避け、触れずとも気功のみで敵を打破し、振り向きもせず背後から迫る達人の銃弾を交わし、ミサイルを何日も支え続け、空中を走り国家規模の距離を移動する事すら容易い。


197 : ラフィングドッグ・サラリーマンズ ◆ruUfluZk5M :2021/06/02(水) 22:02:01 wRoMWs2w0
【宝具】
『頑張れ負けるな力の限り(ジャパニーズ・サラリーマン)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 あらゆる難問に対し行動を続行させる宝具。いかなる状況下でも諦めない限りマスターからの魔力供給なしで半永久的に行動し続ける事が可能。霊核を破壊されても一定時間は活動できる。
 ただし相応の苦痛は負う上に、マスターの(小須田当人の目的や願いではなく)戦いに対するテーマ、即ち聖杯戦争ならばそれに対する目的を達成した瞬間この宝具は使用不可能になる。
 また自動的に戦況に応じて「いるもの」と書かれた段ボール箱から日用品や工具、乗り物などの道具を出すことができ、全て真名解放などの能力はまるでないが最低限の神秘を持った(Eランク相当)の宝具を備品として使用できる。
 特に直接必要ないものも意識すれば「いらないもの」段ボール箱から出すことも可能。


『小須田部長の生涯(ノープライバシー)』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
 自身の経歴や能力、状況を具現化した映像やテレパシーなどで伝える事ができる宝具。戦況や情報を知らない人に説明する必要が有るときは瞬時に伝えられる。
 ただし(ある程度までは限定や操作できるが)自身の伝えたくないような生涯の情報、死に様や経歴まで相手に開帳してしまうという欠点がある。

【人物背景】
 元は平凡だが優秀なサラリーマンだった。だが社長の物まねをして怒りを買い(何故か楽しんでいた他の同僚は怒られてない)
 北の支社に左遷させられたのを皮切りにあらゆる地域、環境で異常な任務を請け負わされた不遇の男。

 妻子とは別居しているが、部下の原田に勝手に離婚届を提出され知らぬ間に法的に他人となっていた。
 また娘エミリはAV女優を経て小須田の務める会社の会長と結婚し後に遺産と地位を相続、妻の益江も社長と再婚し、両者共に小須田の上司に。
 その前後から段々左遷させられる理由が投げやりになっていき、完全に元妻と元娘の暇つぶしや面白半分な理由で過酷な任務を強いられるハメになる。

 国防に関わる違法じみた行為まで実行させられ、死ぬのを前提に命令をことづかり、軽い理由で暗殺者を差し向けられるなど完全に人権は無視された。
 最後は業を煮やした小須田自ら役員会に干渉し社長に解任を要求、反旗を翻そうとしたがその時地球を滅ぼす隕石が来襲。
 地球の危機に対し初めて会社からの命令ではなく自ら決断して隕石を爆破するためロケットに乗る事を自ら志願する。
 見事ロケットを着陸させ帰還しようとするが誰も小須田が生きて戻る気がないのだと思い込んでおり帰還用の燃料を入れなかった。
 彼は最後、離散してしまった家族の幻影を見ながら自爆スイッチを押し地球を救い死んだのであった。
【サーヴァントとしての願い】
 無い。ただ、サラリーマンとして恥じぬ生き方をする。


198 : ◆ruUfluZk5M :2021/06/02(水) 22:02:56 wRoMWs2w0
投下終了です。


199 : どうして大地は赤いのか ◆zzpohGTsas :2021/06/03(木) 01:48:53 V4J2L10s0
投下します


200 : どうして大地は赤いのか ◆zzpohGTsas :2021/06/03(木) 01:49:13 V4J2L10s0








                                   俺の目を見てみろ、何が見える? 

                              皆からの尊崇を集める神サマの姿が見えるんじゃないか?

                                  お前の怒りも、夢だって知ってるんだぜ

                            だが俺はお前のなりたいものやりたい事も全部ヤっちまったんだ

                               だって俺は人類の崇拝を一挙に集める神サマなんだ

                             ムッソリーニやケネディみたいな、全人類の憧れのマトなのさ
                           
                                                        ――リヴィング・カラー、Cult of Personality







.


201 : どうして大地は赤いのか ◆zzpohGTsas :2021/06/03(木) 01:49:47 V4J2L10s0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 人は、自分に都合の良い解釈を常に選ぶ生き物である。そして、そちらの方の解釈の方を真実と思い込む生き物でもある。
喧嘩が、あったとする。互角の力量で、埒が明かないと双方共に切り上げて、帰路に着く。その時は、引き分けたと思うだろう。
これが、時が経るとどうなるか。あの勝負は俺の方が良い感じだった、更に時を経れば優勢だったと思い込み、更に時が進むと、あれは俺の勝ちだった。そうと思い込む。
生きている、と言う事実がそうさせる。その時の喧嘩の痛みや傷など当に治り、忘れ去った頃に、そんな事を考えるように人はなる。

 ――だが最早、目の前の男がそんな事を思える瞬間は、ないだろう。
何故なら彼……セイバーのサーヴァントを召喚したと言うこのマスターは、今この瞬間を以って死絶の運命を辿る事になるからだ。

「う、嘘だ……」

 悪い夢に違いない。そうと、続けたそうな顔だった。その言葉が出掛かったその時、声は喉の奥に引っ込み、そのまま胃の中へと落ちて行く。
聖杯に共に到達するのだと、信じて疑わなかった自分のセイバー。それを、ものの数秒で消滅せしめたランサーが、此方に目線を向けたからだ。

 良い勝負だったとか、善戦したとか、持ちこたえたとか惜しかったとか。そんなフォローが不能な程の惨敗だった。
明らかに魔力、それも尋常の数ではない回路を保有していなければあり得ないレベルの量を持った人物を発見し、セイバーのサーヴァントが本領を発揮出来る位の広さの空き地にまで誘い込む。
そして、其処に入るや、人払いの術を展開する。サーヴァント同士の戦いだ、人目に触れさせない為である。其処までは、良かった。其処から、戦闘に移った時が、駄目であった。

「……これが、聖杯戦争とやらのレベルなのか? 下らん。二枚羽の天司共の方が、まだマシだったぞ」

 傲岸不遜を絵に描いたような、驕慢な態度で男は言った。
偉丈夫である。身長に換算して、180は優に越えて居ようか。くすんだような色味の金髪を長く伸ばしており、顔立ちは端正そのもの。今で言えば、ビジュアル系に相当するだろうか。
身体つきは弛まぬ鍛錬によって磨き上げられた事が一目で分かる、贅肉も無駄な脂肪も一切見受けられない、筋骨の目立ったそれ。特に、岩盤を想起させる胸筋が、人目を引く。
人類史にその名を刻んだ英霊、それこそがサーヴァント。成程、その文句に嘘偽りはない、それが事実である事が一目で分かる立ち居振る舞いとオーラの持ち主だ。

 この、傲慢な態度のランサーは、背中から延びている一対二枚の翼を以って、男の従えるセイバーのサーヴァントを葬ったのである。
特別な事は、何もしていない。その翼を器用に、上段からセイバー目掛けて、叩きつけただけ。たった、それだけだ。
それだけでこのランサーは、そのクラス名が指し示す通り剣の宝具で攻撃を防御しようとしたセイバーを、防御に用いたその宝具を脳天に減り込ませながら、そのまま潰してしまったのである。
悪夢だと、現実逃避したくなる。セイバーは恐らく、自身の身に何が起こったのかすらも気づかなかったのではあるまいか。
攻撃を受けたセイバーは、体外に骨や内臓を飛び出させながら、身長が半分以下に縮まってしまい、そのまま金色の粒子となって消滅した。
ここまで、目を覆いたくなる程に残酷で、圧倒的な瞬殺があろうか。聖杯に到達する、と言う展望は、一夜の夢よりも脆く儚く散ってしまったのだ。

「見くびるな。私にとっても貴様にとっても、聖杯戦争は未知の事象の筈。知らぬ、と言う事実を受け止めろ」

 ランサーの傲岸な物言いを窘めるのは、彼の手綱を握る者。即ち、マスターに相当する人物だった。
若い。顔立ちは大人びていて、老成したような雰囲気すら感じられるが、肌の張りと、顔自体に残る何処とない幼さは、言い繕いようがない。彼はまだ十代も半ば程の年齢だろう。
流暢な日本語を喋る一方で、目鼻立ちは明らかに日本人ではない。と言うより、アジア人の顔立ちにとても見えない。
美形である事は間違いないが、それはアングロサクソンとかスラヴ寄りの美形である。髪の色も、日本人特有の黒髪ではない。
染めているとしか思えないがしかし、染色特有の不自然さがない銀髪だ。地毛なのだろうか。


202 : どうして大地は赤いのか ◆zzpohGTsas :2021/06/03(木) 01:50:10 V4J2L10s0
 男が、ランサーの主従に戦いを挑んだのもひとえに、あのマスターの若さがあったからだ。
あの程度の若造、何するものぞ。そんな心が何処かにあったのだろう。加えて男は、魔術が飛び交う場での殺し合い、その場数も踏んでいる。実戦経験が、即ちあるという事。
ならば勝つのは己だとタカを括っていたのだが、結果はこれなのだから、つくづく笑えない。……いや、もう本当に、笑えなくなる。

 ――ならばせめて!!――

 男は魔術師でもあるが、同時にリアリストでもある。
一刻一秒を争う殺し合いの場に於いて、指を動かせば簡単に相手を殺せる道具、と言うものの利点は計り知れない。
そして、現代を生きる我々は、そのような道具の存在を、大の大人から小さな子供に至るまで、知っている。銃、である。男はそれを懐に隠し持っているのだ。
性根は確かに魔術師であり、常ならば科学とは無縁の生活を送り、多くの魔術師と同じように科学を下に見てはいるが、それでも、科学にも利点がある事は確かに認めている。その証左こそが、この帯銃なのであった。

 魔術で強化した身体能力からくる早打ちには自信がある。
実際、魔力の温存と節約の為に、このクイックドロウの技術で犠牲になった魔術師達も、少なくない。男としては磨き上げた自慢の技であった。
スーツの裏側から拳銃を取り出し、照準を合わせる事もせず発砲しようとする。合わせる必要はない、放ったその時が、命中する時とイコールなのだから。

 ……だが、弾丸が放たれる事は、終ぞなかった。
音を置き去りにする程の速度で、横なぎに振るわれたランサーの翼で、男はわき腹から撃ち叩かれ、ブチブチべきべきと。
肉と骨とが嫌な音を立てて、断たれ潰され。そのまま上半身が宙を舞ったからである。

 男は、ランサーの羽が、鋼で出来ていた事を、遂に知る事はなかった。




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203 : どうして大地は赤いのか ◆zzpohGTsas :2021/06/03(木) 01:50:40 V4J2L10s0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……ふむ」

 『峰津院大和』は、召喚されたそのサーヴァントを見て、一目で『大当たり』の部類だと言う事を見抜いた。
大和は、網膜に映し出されたそのサーヴァントのステータスだけで、当たりだと判断する程底の浅い男ではない。勿論、ステータスそのものが高いと言う事実から、判断したのも嘘じゃない。
だが現世に於いて、およそ並ぶ者等いないレベルで、悪魔召喚とその使役に練達しているこの男にとって、悪魔の資質を見抜くと言う眼力とは備わっていて当たり前のもの。
その眼力が告げる。このサーヴァントから発せられる威風と、立ち居振る舞い、そして何よりその霊性。全て、上位の悪魔に備わるそれと何らの遜色がない。

 ……そしてその、上位悪魔に特有の、人間を人間とすら思わぬ、尊大な態度ですらも。

「……」

 腕を組むその金髪の男――ランサーは、見下している。目深に被った漆黒のローブ。其処から覗く瞳に宿る光はゾッとする程に、冷徹かつ、冷酷。
命を、それこそ聖杯戦争に於いて一蓮托生の間柄のマスターの命でさえも、量り売りにされている豆の粒一つの価値すらないとでも、断言しそうな目と態度だった。

「そのような態度を、これから使役する存在に取られたのは……幼年の頃以来だな。私が初めて悪魔を使役した時だ」

「貴様の身の上など、余にとってはどうでもよい」

 ランサーが口を開いた。やはり、態度に違わぬ威圧的な声。但し、張りぼての虚勢ではない。その威圧に足るだけの、『力』が確かに漲っている。

「二度は言わぬ。肝に銘じておけ、羽虫。余は貴様のサーヴァント(奴隷)ではない。主君(ロード)と知れ」

「言いたい事はそれだけか?」

「重ねて命じる。その、値踏みをするような目をするな。その髪の色が……気に喰わぬ顔を思い出させる」

 こちらの命令の方が、私怨の色が濃い。最後の方の言葉には、怒りが滲んでいた。

「優秀な者の頼みとあらば、成程。私の信条の上で、要求を熟慮せねばならない。が……それも程度と態度によりけりだ」

「態度だけは立派な羽虫だ。簡単に潰されるような分際で、羽音だけは大きいと来る」

「私自身、褒められた人間ではない。羽虫呼ばわりも、まぁ流そうか。だが、召喚早々、名乗りすら上げぬ貴様はなんだ? その口は、聞いてもいない言葉を垂れ流すだけの飾りか?」

 ランサーの身体に、殺意が凝集されて行く。
裡に溜められたその恐るべき鬼気が発散された暁には、この世に何が起こるのか。想像も出来ないし、したくもなかった。

「おっと……私の方がまずは名乗るべきだったな。峰津院大和。それが私の名だ」

 大和の名乗りに対し、数秒は、沈黙で以て受け止めるランサー。しかし、ややあって口を開き――

「……『ベルゼバブ』」

 そう言った。

「私の知る知識の中でのベルゼバブとは、随分と姿が違うな」

 これについては本心から大和は言っていた。
古今東西の悪魔……神話や伝承の中での存在について知悉している大和にとって、ベルゼバブの名は、知らない方が恥をかくレベルで、有名な悪魔であった。
それに、名乗る事を躊躇する名前ではないではない。少なくとも大和は、目の前のランサーが、ベルゼバブの名を名乗る事に、力不足を感じていない。十分過ぎる程の説得力があるとすら、思っている。

「ベルゼバブ。蠅の王であり、魔界の君主の一人だ。ルシファーに次ぐ実力――」

 そこで、ベルゼバブは溜めていた殺意を開放した。
殺意の発露は、視認不能な速度で背中から生えた金属質の翼と言う形で現れ、影すら映らぬ速度でそれは振るわれ――大和の首筋で、止まった。
当たるまで、1㎜もない。当たっていたら、首が折れるどころの話ではないだろう。それは凄惨な死に方が、大和に約束されていた事は間違いない。


204 : どうして大地は赤いのか ◆zzpohGTsas :2021/06/03(木) 01:51:00 V4J2L10s0
「今、三つ目の命令が浮かんだ」

「欲が深いな」

「二度と、ルシファーに次ぐ等と口にするな。殺す」

 嘘も裏もない。本当に、次はない事を実感させる言葉の重みだった。
恐らく次に、そのような事を口にすれば、聖杯への到達可能性すら捨てる程の覚悟を以って、ベルゼバブは大和を殺しに掛かるだろう。
その意思の強さを、確かに大和は受け止めていた。そのような脅しを受けても、大和は物怖じ一つしていない。冷厳な瞳で、ベルゼバブをジッと見つめているだけだ。

「それが君の矜持であり、触れてはならぬ所だと言うのなら、了解した。二度と口にする事はないと誓おう」

 気まぐれの権化である悪魔と付き合うと言う事の意味を理解している大和は、悪魔にとっての超えてはならぬラインと言うものも理解している。
サーヴァントにとってもそれは当然のように設定されている事も理解していたが、成程、此処までの重みかと。初めて今理解した。命を失わず、脅しだけで済んだのが、儲けものだ。

「羽虫。貴様は、聖杯と言う物が何か、理解しているのか?」

「私の知る聖杯とは、勝手が大分異なるが……知識としては知っている」

 イエスの血を受け止めた聖なる杯、と言う前提は大和も理解している。そして、それ自体が埒外の神秘を秘めた聖遺物である事も、また。
だが、願いを叶える願望器としての側面がある事は、初耳だ。そのような異聞や異伝の類は、寡聞にして聞いた事がなかった。

「では、聖杯に懸ける願いは」

 大和は、聖杯の機能については懐疑的である。
自分の知る聖杯の情報とは余りにも似て非なるものであるし、何よりも万能の願望器と言う謳い文句が疑わしい。美辞麗句で相手を釣るのは、人だけではない。疑ってかかるのは当然だ。

 だがもしも、殺し合いに勝ち残れば、如何なる願いが叶うと言うのなら? それならば、大和の答えは、一つである。

「真なる実力主義の世界の実現。既存の権益や利権を全て白紙に戻し、家柄や身分、年齢などの差を徹底的に撤廃し、全てを平等にした後で、能力に秀でた者が頂点に立てる世界を打ち立てる」

 大和から見た現在の世界は、腐っていた。
国家を霊的に守護する事を旨とする峰津院家に生まれた事、そしてそれに相応しい英才教育を受けて来た事。其処には恨みはない。
だが、彼が命を賭して守ろうとしている物は、何だったか? 既得権に肥え太り、守られる事を当たり前と考え、金と自分を守るSPが居なければ安心して生活する事も出来ぬ、腐りきった権力者。
そんなものの為に大和は自分を磨いている訳じゃない。そして、世の不平等に気付かず、気付いていながらも俯きながら日々を過ごす無知蒙昧で惰弱で臆病な民の為に戦っている訳でもない。

 そんな世界を変えるのならば。変えたいと思っても、そのやり方を知らぬのなら。
峰津院大和は、私が全てを背負って立ち、私が代わりに変えてやると本心から思っていた。
だからこそ大和は元居た世界で、世界の改変すらも可能とする『ポラリス』に目を付け、その為の布石を打っていたのである。
……結果として、何の因果で選ばれたのかは解らないが、大和はこうして界聖杯なるものが存在する異世界の東京に呼び出され、聖杯を巡る戦争を行わねばならなくなったが、別に良い。
どの道、ポラリスを目指すと言う目標もまた、艱難ばかりの道であった。その艱難の方向性が、変わっただけ。
しかも聖杯戦争は、足手まといの数が極端に少なく、勝ち残りさえすれば手に入ると、極めてシンプルなルールである。
こちらの方が、寧ろ簡単であるし、実力主義の世界を唱える大和にとっては都合が良い。


205 : どうして大地は赤いのか ◆zzpohGTsas :2021/06/03(木) 01:51:48 V4J2L10s0
 大和は本気だった。今言った夢は、譫妄の末に口にした戯言ではない。
可能性は低くとも、確かな理論とチャートに沿えば、絶対に実現出来る夢なのだ。だから、本気がある。嘘であると、誰もが思わない、思えない。
つまらぬ夢だと切り捨てようと考えていたベルゼバブも、その行動を撤回した程に、大和の信念は強固だった。

「その世界での頂点とは……何者だ?」

「誰でもない。私ですら、実力が足らねば淘汰される覚悟でいる。尤も、私が頂点である事に疑いはないつもりだが」

「その覚悟は……本物のようだ。だが、貴様は二番目だ」

「……では、頂点は?」

 其処でベルゼバブは、フードを外し、顔を全て露わにした上で。不敵な笑みを浮かべて、こう言った。

「余である」

 それが、世界の真理や公理であるとでも言うような語調であった。

「余が求めるのは圧倒的な支配よ。余が万物万象の上に君臨し、真なる最強となった上で、遍く力を管理する」

 要は、世界征服だ。
およそこれ程馬鹿馬鹿しい願いがあろうか。本来ならば、子供の内に卒業していなければならない願望だ。
それを、この男程の強さと精神的な強度の持ち主が、本気で主張していると言うのだから始末に負えない。
しかしシンプルでかつ、大人であっても、叶うのならばそうしたいと言う願いである事もまた、間違いない。
結局人が世界征服を諦めるのは、そうするだけの力が当然備わっていない事と、何よりも、管理する事は難しく、そしてその対象が世界の全てとなれば、綻びが出て破綻する事が目に見えているからだ。
そんな不可能ごとを、ベルゼバブは、単純に己の力が最強なら、綻びも起こる筈がないだろうと思っているのだから、狂っていた。
狂気の度合いがシンプルで、それ故に付け入る隙もなく、強度も高く。成程、サーヴァントとして召喚されるに相応しい、難物であった。

「聖杯に辿り着く前に……機会はいくらでもあるだろう」

「何の機会だ?」

 ベルゼバブの問いに、大和は、不遜な笑みで返した。

「どちらが上か、よく解る事がだよ」

 そして、そのポジションは自分なのだと、疑わぬような笑みの大和だった。羽虫の戯言と、ベルゼバブはその言葉を受けてせせら笑った。

 聖杯戦争本開催の数日前。
峰津院財閥現当主、峰津院大和の私室での出来事であった。



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206 : どうして大地は赤いのか ◆zzpohGTsas :2021/06/03(木) 01:51:58 V4J2L10s0
【クラス】

ランサー

【真名】

ベルゼバブ@グランブルーファンタジー

【ステータス】

筋力A+ 耐久A++ 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具A++

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。

【保有スキル】

特異点:B
世界の中心にして進化を加速させる特記人物。世界の運命を左右させる役者そのもの。
その世界観の中に於いては非常に強い意味を持ち、因果や運命にすら作用するものであるが、当企画では多種多様な世界観の人物が入り混じる上に、
そもそもランサーがいる世界群とは全く異なる世界である為か、元の世界程大それた意味は持たない。
その為今回ではこのスキルは、あらゆる状況に於いて優先的に有利な判定が舞い込む程度のものとなっている。また、本来的な意味での真なる特異点は別に存在する為、彼らと比してそのランクは落ちる。

唯我独尊:A+
天上天下唯我独尊。我こそ最強、我こそ至高。それ以外の者は取るに足らない羽虫同然。
異常なまでの自己愛とエゴイズム、そしてその凄まじい精神的強度と、それを維持する不撓不屈の精神性。そのメンタリズムは、世に名を轟かせる聖人や独裁者達のそれと比較しても遜色ない。
同ランク以下の精神攻撃を完全に無効化し、またスキルランク相当の勇猛スキルを兼ね備える。

無窮の武練:A++
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
2000年もの永きに渡り戦いを続ける事によって獲得した経験値は、単純な肉弾戦に限って言えば、他の追随を許さぬ程のレベルにまでランサーを昇華させるに至った。

戦闘続行:A
往生際が悪い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
生きているのが不思議な状態であったにもかかわらず、その状態から、当代きっての戦闘能力の持ち主達の連携を容易く凌いだばかりか、圧倒した事もある。

星晶獣:A-
数千年の昔、彼方よりやって来た星の民と呼ばれる種族によって創造された、星の民に対しての奉仕種族。星晶獣であるかどうか。基本、作成時期が初期に遡れば遡る程高位の星晶獣である。
ランクAは星晶獣の中でも最高位、即ち最初期に創造されたグループであるところの、天司と呼ばれる者達に相当する。
通常星晶獣は人智を超えた身体スペックや戦闘能力を発揮するのもそうだが、各々が司る権能のような物を振るう事が可能。
天司はその権能の中でも、極めて広範かつ根源的な要素について力を及ぼす事が出来る。ただランサーは、その天司型星晶獣の中でも特に上位のスペックの星晶獣コアを埋め込まれている。
つまりランサーは成り立ちからして純正の星晶獣ではなく、彼らの活動を保証するコアを埋め込まれ、後天的に星晶獣の要素のみを獲得した存在となる。
それ故に星晶獣の持つ権能を振るう事は出来ず、代わりに星晶獣としての要素は、任意で展開可能な鋼の翼及び、類稀なる耐久ステータス。そして、即死攻撃への耐性と言う形で表れている。
また、元が星晶『獣』と言う存在の為か、サーヴァント化した今では獣に対する特攻を受けるようになり、同時に、ランサーに埋め込まれた星晶獣のコアは『天司』のそれでもある為か、天使と呼ばれる存在への特攻も受け付けるようになってしまった。


207 : どうして大地は赤いのか ◆zzpohGTsas :2021/06/03(木) 01:52:34 V4J2L10s0
【宝具】

『滅尽滅相・混沌招来(ケイオスマター)』
ランク:A++ 種別:対人・対摂理宝具 レンジ:10 最大補足:1〜10
ランサーが生前振るっていたとされる槍であり、2000年もの間、幽世の者達が蔓延る赤き地平に於いて絶え間なく戦い続け殺し続けた結果、その槍が変質したもの。
厳密にいえばケイオスマターとはこの槍の銘でも名前でもなく、星の民の間で用いられていたある種の学術用語であり、それがあると仮定すれば、
理論の話を進めやすいと言う理由から使われていた、理論上存在はするだろうがその実在を誰も観測出来なかった、代数のような存在。今でいうダークマターとかと同じものだった。
つまりこの宝具は、その机上の空論の中での物質が、ランサー自身が幽世の者と戦い続けた事により実在を証明されてしまった存在と言う事になる。

その本質はあらゆる因果や摂理を侵食し、腐らせる事にある。創造主によって不滅や不死が定められている存在ですら、この槍に貫かれ致命傷を負えば死亡ないし消滅が確約される。
ランク以下のあらゆる加護・防御・再生・不死などに纏わるスキルを無効化するだけでなく、粛清防御や因果に作用して攻撃を防ぐ類のものすら判定と内容次第で貫通する。
生前この槍を用いて、原初の星晶獣にして不老不滅の存在である、天司長ルシフェルを殺害した逸話から、ことに不死・不滅の存在に対しては特攻以上の効果を得、
獣性や神性スキルを保有するサーヴァントや存在について、追加のダメージやクリティカル等の判定を得る。
またこの宝具はランサーの意思で、槍の一部を欠けさせ、そこから違う武器の形、双剣や大鎌と言った形に変形させて任意の存在に分け与える事が可能。
勿論その分け与えた武器もまたケイオスマターである為か、この宝具と同等の性質を得る事となる。但しケイオスマターは、ランサーをして貴重な代物と言わせしめるものであり、
分割すればその分槍のサイズも縮小される。故に、ランサーが計画上与えた方が良いと考えた存在にしか、ケイオスマターの分譲は現状行わないであろう。

『漆黒の棘翅(バース・オブ・ニューキング)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:10 最大補足:1〜10
天司型の星晶獣のコアを埋め込まれた事によってランサーに発現した、重厚そうな雰囲気の鋼の羽。
見た目通りの堅牢さを誇り、ランク以下の宝具では傷一つ負う事もなく、それ以上の攻撃力や威力の宝具攻撃にしたとて、破壊される可能性は相当に低い。
魔力によって負った傷は回復に当てる事が出来、物理的・魔術的な攻撃に対する防御能力は圧倒的。
また防御能力と同じかそれ以上に、攻撃能力にも秀でており、見た目通りの重量を誇るこの羽を高速で叩きつければ大抵のサーヴァントは致命傷或いは即死。
少し離れた所で、羽そのものを超高速で射出させる事でダメージを負わせるなど、遠近共に隙がない。またこのような空気・飛行・航空力学的にも飛翔は不可能な羽であるにもかかわらず、これを用いて空を飛ぶ事も可能となっている。

だがこの宝具の真価は別にあり、ランサーはこの宝具から舞い落ちた羽を使う事で、武器を創造する事が出来る。
この宝具によって創造された武器は、ケイオスマターで生み出された宝具とは違い当然の事、因果や摂理に対する侵食効果はない。
また、武器をいくら創造したとて、この宝具に関して言えば元のスペックから弱体化はせず、武器の元となる羽を生み出す魔力と、その羽を武器に形成するのに必要な魔力の消費のみ。
この羽で作られた武器はアストラルウェポンと呼ばれ、地水火風に闇・光のそれぞれ6つの属性を内包しており、手にした人物の筋力ステータスをワンランクアップさせ、+の補正を一つ追加する。
本来このアストラルウェポンもまた、然るべき手順を踏んで強化をすれば、高ランク宝具そのものに至るのだが、現状その強化手段はないので、極めて便利な礼装程度に使い勝手は留まる。

……完全な余談だが、ランサーは、自分の羽が武器の強化に使われ、それがアストラルウェポンだとか呼ばれている事実を、サーヴァントになって初めて知ったらしい。
思い当たるフシはあるらしく、しかもそんな事をやりそうだと言う人物も、一人だけ知っていると言う。

【weapon】

滅尽滅相・混沌招来:
上述の宝具。三次元空間にその姿はなく。ランサーが出ろと思えば、空間を突き破るようにして出てくる。

漆黒の棘翅:
上述の宝具。任意で展開が可能で、その場合背中から、突き破るようにして出てくる。


208 : どうして大地は赤いのか ◆zzpohGTsas :2021/06/03(木) 01:52:49 V4J2L10s0
【人物背景】

空の世界に突如として現れたインベーダーである、星の民。
その軍勢を率いる司令官で、星の民の統括的意思決定機関、『最高評議会』とつながりがあった人物。
過剰なまでに力を求めた人物で、それを以って世界の頂点に立ち、全てを支配する、と言う極めて明白かつ解りやすい目的を掲げていた人物。
幾度の敗北を経てなお、不屈の闘志で立ち上がり、その度に地道な積み重ねで実力をつけていった、ある種の努力家でもある。
 
【サーヴァントとしての願い】

最強になって世界に君臨する。書いてて思ったけど頭わるわるか?



【マスター】

峰津院大和(ほうついんやまと)@デビルサバイバー2

【マスターとしての願い】

完全なる実力主義世界の樹立

【weapon】

【能力・技能】

悪魔召喚術:
大和、即ち峰津院家は代々日本国の守護を日陰で負い、それを忠実に果たしてきた家柄である。
特に悪魔召喚の技について造詣が深く、作中日本国以外の国家が悪魔召喚を利用して来たかは定かじゃないが、それを抜きにしても、その実力はトップクラス。
大和の時代では携帯に落とし込んだ特別製のアプリで召喚する事が多く、大和もまたそれに倣っている。
原作では悪魔召喚プログラム(COMP)を利用して主人公達は戦うが、今回の大和は参戦の時間軸の都合上、そのプログラムを持たない。また所持する悪魔も、聖杯戦争の制限から、魔獣ケルベロスの1体にとどまる。

地脈操作:
峰津院家が恐らくは最も得意とする技術。霊脈の管理及び操作に極めて長けており、これを最大限に利用した陣地作成こそが峰津院家の真骨頂。
下手なキャスターよりも霊脈・地脈の管理運営は得意であり、作中ではその埒外の権力も相まって、日本国全体に、避けられ得ぬ滅びの一撃を防げる程の強固な結界を張る事に成功していた。
当企画では流石にロールの都合上、其処までの規模の陣地は展開不能だが、それでも、主要な地脈や霊脈は優先的に抑えられるかもしれない。

魔術:
当然魔術師でもある為行使可能。

科学知識:
英才教育の賜物。現生世界最先端の科学技術や医療知識、コンピューター技術にも造詣が深い。

【人物背景】

ジプス局長を務める17歳の少年。ジプスの創始者一門である峰津院家の嫡男。傲岸不遜な性格で、惰性と保身に腐心する「弱者に甘んじる人間」を激しく嫌う。
悪人ではなく、強者には敬意を払ったり高い権限や活躍の場を与えたりする。

本編開始前の時間軸から参戦。ロールは峰津院財閥の当主。
作中ではジプスと呼ばれる組織の長であり、私用の新幹線を所持していたり、日本全土の土木建築に口出しし、優先的にその要求を叶えられたりなど、規格外の権力を誇っていた。
が、勿論今回の企画ではそれ程までの権力はない。

【方針】

勿論勝利のみ。ただ、場合によっては、力あるものの存在を認め、手元に置く事も考えている。


209 : どうして大地は赤いのか ◆zzpohGTsas :2021/06/03(木) 01:53:04 V4J2L10s0
投下を終了します


210 : ◆Il3y9e1bmo :2021/06/03(木) 05:20:31 lYFu9qDM0
投下します。


211 : 地底聖杯 Fate/Under The Ground ◆Il3y9e1bmo :2021/06/03(木) 05:21:07 lYFu9qDM0
地下の奥底、その底の底で丸々と太った中年男性が物憂げに考え込んでいた。
男の名は大槻太郎。大手金融会社帝愛グループが秘密裏に建設する地下王国のE班班長である。

大槻は時たま思い出したようにため息をつくと、「くぅ〜〜〜〜」などと一人で悶え始めるのを何度も繰り返していた。

「班長、どうかしたんすか……?」

「そうそう、悩んでるなんて班長っぽくないっすよ。なんか困ってるならオレたちが相談乗りますよ」

その様子を見かねた同じくE班側近の石和と沼川が声をかけた。

すると大槻はしばらく逡巡していたが、意を決したように口を開いた。

「もし、だぞ……。もし、お前たちが聖杯戦争に巻き込まれたらどうする……?」

思っても見なかった質問に石和と沼川は一瞬顔を見合わせたが、いつもの酒の席でのバカ話が存外気になったのだろうと思い直し、二人も真面目に考え始めた。

「う〜ん、そうっすねえ。オレならやっぱりセイバー引いて敵の魔術師どもの巣窟に宝具をどかーんとぶちかましてみたいですね!」

大雑把で能天気な石和は相変わらずだった。

「……いや、一般人のオレたちにできることなんてそうそうないだろ。オレだったらずっとこの地下に籠もっていい感じに漁夫の利を狙いますね」

一方、思慮深い沼川はいやに現実的な案を出してきた。

「うん、うんうん。そうだよな……」

大槻は沼川の答えを聞くと何度かうなずき、最終的に何か納得したような顔になった。

「あ、そんなことより班長。今週の1日外出券、どうします? オレ、この前になかなか良さそうな店見つけたんすよね……!」

「いや、今週は――というより当分はワシは外出は止めておこうと思う」

石和たちが誘ったにも関わらず、外出券の行使に応じないどころか当分は外出しないなどと言い出す大槻。こんなのはめったにないことであった。

「ど、どうしたんすか……っ!? もしかして外出用のペリカが尽きたとか……?」

「いや……そうじゃない……! そうじゃないんだが……」

今日の大槻はどことなく歯切れが悪い。

「……すまん。ちょっと外の風に当たってくる」

地下の強制労働施設に風など吹くはずもないのだが、ともかく大槻は二人を置いて班長用個室に閉じこもってしまった。

「ふぅ……」

ため息をもう一度つく大槻。
すると、ヒョコッとかわいらしいマスコット的な謎の存在がどこからともなく姿を見せた。

(言えるか……っ! このワシが聖杯戦争に巻き込まれたなんぞ……っ!)

そう、大槻の悩みとはそれであった。
大槻がこの界聖杯内に招かれたのはつい一週間前のことだ。
あてがわれたサーヴァントのクラスは最弱と名高い『暗殺者(アサシン)』。
しかも、その姿は歴戦の英雄ならいざ知らず、どうにも頼りないものであった。

しかも、しかもである。
この東京都を模した異世界に存在する人間たちは全員、大槻の元いた世界の住人とは違うらしいではないか。
つまり、石和も沼川も、地下監視役の宮本さんも全員が全員、実は異世界人ということになる。
大槻が元の石和や沼川に比べてイマイチ心を開けない原因はここにあった。

今はいわゆる予選期間中とのことで、地上では血を血で洗う恐ろしい戦いが繰り広げられているのだろう。
そう考えるとどうにも気が休まらなかった。

そんな大槻の気も知らず、アサシンはのんきにも大槻の周りを人懐っこ気に飛び回っている。

「……ん?」

すると大槻の心情をやっと理解してくれたのか、アサシンが跳ね回るのをやめると、指をクイクイっとさせてこちらへ来るよう促してきた。
導かれるままついて行くと、そこは強制労働施設の廃棄資材置き場であった。

「どうした……? ここには生コンと木材の切れ端ぐらいしか置いとらんはずだが……」

アサシンはその奥の青いビニールで覆われた場所を指差した。どうやら覆いを外してほしいようだ。

「やれやれ……。これを外したら他のマスターたちの首がゴロリなんてことは無いだろうな……」

そう冗談めかしながら大槻はせーのでビニールをめくった。

「ひ、ひいいい……っ!」

そこにあったのは、首、首、首。大量の生首だった。
どこからどう見ても作り物ではない、本物の首だ。
それが十個や二十個ではきかないほど積み上げられていた。


212 : 地底聖杯 Fate/Under The Ground ◆Il3y9e1bmo :2021/06/03(木) 05:21:55 lYFu9qDM0
するとアサシンは自慢するようにあるのかないのか分からない胸を張った。
どうやら褒めてほしいようだ。

しかし、当の大槻は腰を抜かして立てない。
失禁もしそうだった。

「な、なんじゃこりゃあ……っ!」

疑問と当惑。
しかし、大槻の中では同時にある一つの考えが頭をもたげてきた。

「このサーヴァント、実はめちゃくちゃ強いのでは……?」

大槻は立ち上がった。

「ク、ククク……!」

その顔には先ほどと打って変わって笑みが浮かんでいる。

「『勝てるか……っ?』ではない……っ! 勝つのだ……っ! ワシなら、ワシたちならやれる……っ!」

自分に言い聞かせるようにそう呟くと、大槻はアサシンの頭をなでた。

「泥に塗れた聖杯なんぞ貰っても酷い目に合うだけ……っ! ならばワシのやるべきこと……! それは――――」

「――地下生活をできる限り満喫し、いい頃合いに元の世界へ戻ること……!」

待っとれよ、石和、沼川。
その男の糸目には、漆黒の決意と希望の光が滲んでいた。


213 : 地底聖杯 Fate/Under The Ground ◆Il3y9e1bmo :2021/06/03(木) 05:22:13 lYFu9qDM0
----

【クラス】
アサシン

【真名】
インポスター@Among Us

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:E 幸運:A+ 宝具:C

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
気配遮断:C++
自身の気配を消すスキル。
攻撃態勢に移るとランクが下がる特性がある。
インポスターの場合は、第一宝具使用時に効果が跳ね上がる特性を持つ。

【保有スキル】
情報抹消:A
対戦が終了した瞬間に、目撃者と対戦相手の記憶・記録から彼の外見特徴に関する情報が消失する。
これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。

でたらめプランニング:B
無謀極まりない殺人計画でも、あらゆる幸運が彼を味方する。
敏捷か幸運、または宝具のステータスランクをランダムに1段階上昇させる。

破壊工作:A
戦闘の準備段階で相手の戦力を削ぎ落とす能力。
ただし、このスキルの高さに比例して、英雄としての霊格が低下する。

【宝具】
『妨害(サボタージュ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:∞
屋内でのみ使用可能。停電を発生させ、対象の視界を極度に狭めたり、ドアを閉鎖して密室を作り出したり、インターネット通信を阻害したりと様々な妨害が可能。
ただし、この効果で殺害を行うことはできない。あくまで混乱を引き起こすことが主目的の宝具である。

『殺害(キル)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大捕捉:1
範囲内の対象一人を殺害する。
これは因果を超えたものであり、どんな存在であろうとこの宝具の対象になった時点で死亡し、蘇生も復活もできない。
また、消費魔力量は意外にも少ないが、『クールタイム』と呼ばれるインターバルが適宜必要なため、連続使用は不可能。

【weapon】
基本的に素手だが、たまに刃物やビームが身体から出る。

【人物背景】
宇宙空間に存在する宇宙船の乗組員。
動機は不明だが、普通の乗組員(クルー)を皆殺しにすることを企んでいる。
YES/NO程度の意思疎通は可能だが、基本的に喋れない。

【サーヴァントとしての願い】
不明。


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【マスター】
大槻太郎@1日外出録ハンチョウ

【マスターとしての願い】
生き残り、元の世界へ戻る。

【能力・技能】
人間のクズどもを借金地獄に嵌める悪魔的発想、およびイカサマチンチロの腕前。

【人物背景】
帝愛グループの建設する地下王国のE班担当の班長。
地上で仕入れた嗜好品をぼったくり価格で売りつけたり、チンチロリンで四五六賽を駆使してペリカを巻き上げたりする。

【方針】
暫くは地下に潜ってアサシンに任せる。


214 : ◆Il3y9e1bmo :2021/06/03(木) 05:22:39 lYFu9qDM0
投下を終了します。


215 : ◆Il3y9e1bmo :2021/06/03(木) 11:31:41 lYFu9qDM0
投下します。


216 : 悪魔 ◆Il3y9e1bmo :2021/06/03(木) 11:33:25 lYFu9qDM0
これは二柱の悪魔の話。
恐れ知らずで臆病な悪魔と、ぐずでまぬけな悪魔の話。

曇天の街を二柱の悪魔が征く。
二柱の片割れは主人(マスター)で、もう片割れは従者(サーヴァント)だった。

◆ ◆ ◆

「ねー、ねー、ぼっさん! ワシ、お腹めっさ減ったわ。そこの豚足買ってーや!」

背中の羽を器用に動かし、ふよふよと空中を漂っていた犬面にメタボ体型の珍妙な生物が声高に叫ぶ。

「誰が『ぼっさん』だ。わたしのことはマスターと呼べ」

それを横目で睨みつけるのはピンク色の長髪に網タイツのような服を着た美丈夫である。
男の名はディアボロ。イタリアを牛耳るマフィア『パッショーネ』のボス――だった男だ。

隣の謎生物はアザゼル篤史。どこかのマスコットキャラに見えて実は悪魔。
――そして聖杯戦争におけるランサークラスのサーヴァントだ。

アザゼル篤史はディアボロのことを「ぼっさん」と呼ぶ。
どうやらディアボロの「ボ」から呼び名を取ったらしい。

単刀直入にディアボロはアザゼル篤史のことを嫌っている。

まず理由の一つとして挙げられるのが、サーヴァントにあるまじき弱さだからだ。
ランサーといえばクー・フーリンやロムルスなどの英霊が名を連ねるクラスではなかったのか。
ここでディアボロは嫌なことを思い出し、顔をしかめた。

また二つ目の理由としては、下品だ。
ディアボロもマフィアのボスだ。多少の下品ならまあ目をつむらないこともない。
だが、アザゼル篤史の下ネタはくどく、そして度が過ぎていた。
最初に聖杯にかける望みを聞かれた時に「永遠の絶頂が欲しい」と答えたら、「テクノブレイクやんwww」と小一時間いじられた。
ここでディアボロは嫌なことを思い出し、顔をしかめた。

次に三つ目の理由としては、うるさい。
サーヴァントのくせにあれやこれやを欲しがり、コンビニでエロ本を立ち読みしては「これが本当の勃ち読みや!」などと全く面白くもないギャグをかましてくる。
ここでディアボロは嫌なことを思い出し、顔をしかめた。

四つ目の理由からディアボロは数えるのをやめた。
とにかく虫が合わないのだ。

見るとアザゼル篤史は霊体化して見えないのをいいことに豚足を勝手に屋台から引き抜いて食べていた。

ディアボロは舌打ちを打つと、くるりと踵を返す。
――刹那、ディアボロの姿が二重にぶれ、『そばに立つもの(スタンド)』が姿を現す。
彼のスタンドは『キング・クリムゾン』。時を飛ばし、未来を予知する能力を持つ。

空の雲はちぎれ飛んだ事に気づかず、消えた炎は消えた瞬間を炎自身さえも認識しない。
結果だけを残すという無敵に近い能力を持っているのだ。

だが、ディアボロはその力を、自身のサーヴァントを置いてきぼりにするためだけに使用しようとしていた。

「あれ、ぼっさん、どこに行ったんや? センズリでもこいとるんか〜?」

アザゼル篤史は失礼極まりない言葉を放つ。

「これは『試練』だ……。過去に打ち勝てという『試練』と俺は受け取った」

ディアボロは恥辱に身を震わせながらそのまま路地裏の人混みに紛れ込もうとした。

しかし。

「あ! おった! んも〜、ワシのことが恋しかったんちゃうか〜?」

アザゼル篤史は意外と目ざとかった。

「過去はバラバラにしても股の間から千本ミミズのように這い出てくるんやで?」

アザゼル篤史は豚足臭い息を吐きながらディアボロに絡んでいく。

「クソ、離れろ……」

ここでアザゼル篤史をスタンドで攻撃し、消滅させることは容易い。
だが、腐ってもランサーのサーヴァントだ。
この先の戦いをキング・クリムゾン一本で乗り切っていけると思うほどディアボロはおめでたい思考回路をしていなかった。

また、令呪を使うというのもあまり乗り気にはなれなかった。
令呪といえば魔力をブーストするのに使うのが一番である。重要な戦局で貧弱なアザゼル篤史を強化するのに使いたい。
別にめちゃくちゃウザいだけで裏切りを画策しているわけでもないアザゼル篤史に対して令呪を一画切るのはどうしてももったいなく感じてしまっていた。

「そういえば、ぼっさん。これ、何に見える?」

するとアザゼル篤史は突然麻雀の牌を取り出した。
何も書いていない、白い牌である。アザゼル篤史は目を細めてニヤニヤと笑っていた。
もう明らかに「パイパン」と言わせようとしているのが丸わかりだった。

ディアボロはそれはそうとして、一、二発くらい殴るのはいいかなと思い直した。


217 : 悪魔 ◆Il3y9e1bmo :2021/06/03(木) 11:33:45 lYFu9qDM0
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【クラス】
ランサー

【真名】
アザゼル篤史@よんでますよ、アザゼルさん。

【ステータス】
筋力:D 耐久:A 敏捷:D 魔力:C 幸運:E 宝具:D

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【保有スキル】
無辜の怪物:A---
生前の行いからのイメージによって、後に過去や在り方を捻じ曲げられ能力・姿が変貌してしまった怪物。
本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。このスキルを外すことは出来ない。
アザゼル篤史の場合は悪魔であるため、メリットしか存在しない。
ただし悪魔を弱体化させる術である『ソロモンリング』の効果を受けているため、享受できるメリットは僅かである。

淫奔:C
アザゼル篤史の職能。性的な本能やフェロモンを操る能力。
性器の大小・ホルモンバランスの操作、女性の月経や性的関係の看破などに加え、人間のフェロモンを過剰分泌させて多くの異性を虜にすることができる。
応用で一組の男女を恋に落とさせる使い方も可能だが、アザゼル篤史自身が下級悪魔であるためランクはそこまで高くはない。

【宝具】
『THE END OF SON(ジ・エンド・オブ・サン)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜9 最大捕捉:1
平常時に体内に満たされているエロパワーをすべて放出し、世界中から集めた性欲を萎えさせる負のパワーを相手にぶつけて性的不能にさせるという最悪の宝具。
威力は大きいが、ダメージのフィードバックがある、隙が大きい、そもそも戦闘時に性的不能にしたところであまり意味がないなどの理由であまり有効なものではない。

【weapon】
『性槍セクスカリバー』
三叉の性槍。カリバーなのに槍である。
腐っても悪魔の武器なのでそこまで弱いものではないが、扱いが乱雑な上にアザゼル篤史の技量が未熟なためほとんど役には立たない。

【人物背景】
見かけは犬面でセミロング、メタボ体型の下級悪魔。趣味はセクハラ。
関西弁で喋り、お笑いにはこだわりがある。翼があるため飛行も可能。
基本的にいい加減で懲りない性格。
学習能力が低く、仕事に関係ないことに集中するなど要領も悪い。

【サーヴァントとしての願い】
ハーレムを作り上げる。

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【マスター】
ディアボロ@ジョジョの奇妙な冒険

【マスターとしての願い】
全ての過去を精算する。

【能力・技能】
『キング・クリムゾン』
【破壊力 - A / スピード - A / 射程距離 - E / 持続力 - E / 精密動作性 - ? / 成長性 - ?】
この世の時間を消し飛ばす「キング・クリムゾン」と、頭部に付いたもう一つの顔で十数秒先の未来の映像を見られる補助能力「エピタフ」を持つ人型のスタンド。
キング・クリムゾン発動中は、他の者の視点から見ると、何か行動をしようと思ったらいつの間にかすでに行動を終えているというように見える。
エピタフは自分の能力がこの先に起こす実際の動きを見ており、的中率は100%である。この運命が、キング・クリムゾンの能力を使うことで例外になる。

【人物背景】
イタリアの裏社会を牛耳るギャング組織「パッショーネ」の頂点に君臨するボス。
人物像は組織内ですら謎とされ、徹底的に秘匿されている。
いくつもの偽名を使っているが、その本名は「ディアボロ」である。
「帝王」を名乗り、自身の永遠の絶頂を脅かすものを許さない。
二重人格者で「ドッピオ」という名の気弱な少年の人格が内在している。
なお、今回ドッピオは少なくともこのディアボロの中にいるという形では聖杯戦争に参加していない。


【方針】
帝王として、聖杯を手に入れる。
ランサーとは早急に縁を切りたい。


218 : ◆Il3y9e1bmo :2021/06/03(木) 11:34:02 lYFu9qDM0
投下を終了します。


219 : ◆A3H952TnBk :2021/06/03(木) 18:18:04 W4aSWS7w0
皆様投下乙です。
自分も投下させて頂きます。


220 : アブサント&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2021/06/03(木) 18:20:38 W4aSWS7w0



戦火が、広がっていた。
そこには悪夢が顕現していた。
紛争。血で血を拭う、死の舞踏。

誰かが言っていた。
この時、暴力は罪ではなかった。
市街地に押しかける武装集団。破壊され、焼き尽くされていく街並み。横たわる無数の怪我人。物言わぬ屍。死の灯火が立ち込める中、混乱と慟哭に支配される人々。もはや秩序など何処にもない。渦巻く混沌は、更なる凶行を生んでいく。

私“ゾーヤ”は―――あの時、ただ走っていた。

あの惨状の中。おじさんと再会して。お母さんが、既に犠牲になっていることを聞いて。
警察官であるお父さんは、学生達が隔離されているペテルヘイム高校へと向かったらしくて。人手が足りないから、少数精鋭で動くしかなかったということで。
だから私は、無理を押し通した。私を行かせて。お父さんの助けになりたい。私なら能力があるし、学校のことだって知っている。

所詮は民間人に過ぎない。子供の我儘に過ぎない。お父さんの助けになれる確証なんて、何処にもない。
でも、今の私にできることは、これしかない。最悪の事態を考えながら待ち続けることな、何よりも怖かった。

戦火を振り切り。地獄を振り切り。
瓦礫や残骸を乗り越えて。
私は、走り続けて。
その先に待ち受けていたのは。

無数の火の手が上がり。
破壊の限りを尽くされ。
もはや学校とは名ばかりの廃墟が、そこに佇んでいて。
足元には幾つもの肉塊が、転がっていた。
撲殺。斬殺。射殺。焼殺。人の形をしたそれらは、どのようにして事切れたのかが見て取れる。鮮明なまでの傷痕が、死が、横たわる。

みんな、同じだ。
学生服を身に纏った、屍の山だ。
狂乱の痕跡が、ここにこびりついている。

唖然として、焦燥して。私はただ、この地獄を掻き分けるように進むことしかできなかった。
焼き焦がされ、血に汚れた地面を踏みしきり。一歩、また一歩。歩を進めていく。胸騒ぎが込み上げる。それでも、進んでいく。何かに突き動かされるように。

そして、歩を止めた。
視線を落とした。
ゆっくり、ゆっくりと。
学生の亡骸に紛れるように存在していた、“それ”を見た。
心の隙間から、何かが零れ落ちた。
大切なものが、崩れ去るような気がした。
胸の内で堰き止められていたものが、爆ぜるように私を蝕んだ。


―――ゾーヤ、似合ってるだろう?
―――普段は制服だから、慣れないものだけどね。
―――母さんとのデートに着ていくんだ。


父さんの顔が、脳裏をよぎった。
暖かくて優しい手のひらの温度が、何処かへ過ぎ去っていった。
そして。―――父さん。
私はただ、呆然と呟いた。

父のような警察官に憧れていた。
正義を貫き、人々の幸福を守る、そんな警察官に。
あの時、私達は約束をした。
この冬が終わって、暖かくなったら。
一緒に、お祭りへ行こう。
春の訪れを告げる、優しいお祭りへと。
蜂蜜のお酒に、パンケーキが並んでて。歌って、踊って、溶け始めた凍土に小さな花が咲いているのを喜んで。
そうして、いつも通り。
この街に春が訪れる。


そう。春の、訪れは―――――。





221 : アブサント&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2021/06/03(木) 18:21:29 W4aSWS7w0



また、同じ夢を見ていた。
とても遠くて、限りなく近い、あの日の夢を。
この世界に来る前から、同じだった。
悪夢は、容易く消えるものではない。
目を覚ますと、時折自分が何処に居るのかも分からなくなる。

あの地獄を生き抜いて、心に傷を抱いて。
大切なものは、一つ残らず崩れ落ちて。
それでも、信念だけは決して手放さなかった。
父から受け継いだ装備。
父から受け継いだ正義。
誰かを守り、救うために奔り続ける。
遺された気高き志だけは、この手に握り締めていた。
元の世界で新たな居場所“ロドス・アイランド”に受け入れられた私は、少しずつ、ほんの僅かにだけれど、前へと進み始めていた。
それでも、あの惨劇で刻まれた記憶はそう簡単に拭えるものではない。
胸の奥底には、疑念と絶望が今もなお巣食い続けている。
故に、私は――ゾーヤだった少女、“アブサント”は。夢を繰り返す。

固いベッドから身を起こし、瞼を擦った。
そうして、自身の空間である小さな部屋を見渡す。
小さなテーブルに、細やかなタンス。壁に備え付けられたクローゼット。窓のカーテンからは陽が挿す。
目立ったものは置いていない。生活に必要な最低限。それ以上は求めていなかった。

ここには、私だけしかいない。
憧れだった父も。優しかった母も。
共に戦い、仲間として接してくれるロドスの面々も。
私を見守って、傍で支えてくれるドクターも。
誰一人、この家にはいない。
孤独だ。私だけが、放り込まれている。

家とは、帰る場所。
心の羽を休める、穏やかな揺り籠。
だけど、ここは違う。
“ここに住んでいる”という事実だけが用意された、見ず知らずの独房だ。
安らぎを求められる“居場所”には程遠い。
だから、余計なものは要らない。侘びしい内装なのも納得だ。
一時の生活を送る為の、箱に過ぎないのだから。

ベッドから立ち上がり、クローゼットを開き。着替えの衣服を手に取りながら、思考する。
『界聖杯(ユグドラシル)』。無数の可能性を収束させ、闘争のための世界を形成した“現象”。
敵を淘汰し尽くし、最後に到達した器に超級の奇蹟を齎す“願望器”。
そう、あらゆる願望を具現化する力がここにある。まるで御伽噺のような、理解の範疇を超えた事象。
だけど、現状の異常性は明白だった。“知識”として脳内に埋め込まれた聖杯戦争の概要。ロドスとは全く無関係の社会的身分、生活環境。自分達が居た場所とは異なる街並み―――天災から逃れる機能を持つ“移動都市”ではない市街地。そして、感染者が存在しない社会。
全く覚えのない現象が、この身に降り掛かっている。自身の常識を覆すような世界に、私は佇んでいる。

願望器が真実なのか。あるいは、偽りなのか。
答えは分からない。あくまで帰還こそが最優先だ。
ロドスとの連絡は絶たれている。文字通り、孤立無援。判断は自分自身に委ねるしかない。
故に、現状は調査の一手だ。この世界や他の主従について見極めつつ、“聖杯を狙う”か“別の手段を探すか”を思考する。

その上で、無益な殺生はしない。傷つけてはならない人々を傷つけたりもしない。これは、かつて警察官を志していた自分なりの線引だ。
しかし、かつて故郷を襲撃したような暴徒や悪人―――そして既に死者であるサーヴァントに対しては、敵になれば割り切る。
覚悟が必要となる段階では、引き締める。それは戦士として掴んだ、基本の心得だった。


222 : アブサント&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2021/06/03(木) 18:22:26 W4aSWS7w0

普段着を纏い、窓の外を見つめた。
例え偽りであっても、ここには平穏な日常がある。
あの日、私の手のひらから零れ落ちた日々。穏やかで、優しくて、暖かくて。だけど、ここに私の手を握ってくれる家族はいない。
ほんの少しの羨望を抱いたけれど。その想いは、靄のように霧散していく。
ここは、私が焦がれた場所ではない。聖杯戦争の舞台、いわば戦場として作られた世界――――――。


《密林。うだるような熱。》
《身体中が湿気で汗ばむ。》
《酷く、酷く不快だった。》


その時、唐突に。
記憶が、混濁した。


《靴磨きの少年がやってきた。》
《そいつは箱を差し出してきた。》
《戦友は、その中身を開いた。》
《瞬間―――爆音。炸裂音。》
《手足が吹き飛んだ。絶叫が轟いた。》
《あいつは泣き喚く。帰りたい、家に帰りたい、と……》


これは、何だ。
意識が混乱する。
誰かの傷が、脳内を掻き回す。
胸を抑えた。
吐き気のような感覚が、襲ってきた。


《身動きが取れない。》
《縛り付けられている。》
《鋭い刃が、ゆっくりと突き付けられる。》
《やめろ。やめてくれ。》
《敵は、聞く耳など持たない。》
《やめろ。》
《やめろ。》
《やめろ!》


「……バーサーカー?」


フラッシュバックを振り切りながら。
私は、ぽつりと呟いた。
胃の中のものを吐き出しそうな衝動を必死に抑えて、口元に手を当てた。

古今東西の世界に君臨する、伝説の担い手。その化身であるサーヴァントを、マスターと呼ばれる存在が使役する。それが聖杯戦争。
私はマスターとして選ばれた。即ち、ここには私の従者がいる。
バーサーカー。狂戦士のサーヴァント。
流れ込む記憶とともに、情報が脳裏に浮かんだ。
右手に刻まれた令呪を見つめつつ、直感した。今のは、バーサーカーの記憶。理由はわからない。だけど、そんな確信があった。

「バーサーカー?」

私は、従者を呼んだ。
返事は返ってこない。
沈黙だけが部屋にこだまする。
数秒。十数秒。
無言のまま。

『マスター。俺はいる』

そして、静寂を破る声は脳裏に響いた。
念話。マスターとサーヴァントの交信手段だ。


223 : アブサント&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2021/06/03(木) 18:23:40 W4aSWS7w0

『バーサーカー……今、どこに?』
『偵察の最中だ』

愛想も無く、淡々と答えるバーサーカー。
指示は出していない。私が夢を見ていた最中から、彼は独断で動いていたらしい。

『……どうだったの?』
『今はまだ、敵を捕捉していない。しかし魔力の気配は着実に増え始めている』

感情を出さず、彼はただ報告を続ける。
相槌を打ちながら、私は考える。
先程のフラッシュバック。
地獄のような、深い密林での記憶。
血と暴力に支配された、極限の状況。
あまりにも鮮明で、生々しくて。
凄惨で、悍ましい。
兵隊も、子供さえも、自らを傷つける存在として立ちはだかる。

あれは、バーサーカーの記憶。
先程そう直感した。
あの体験は、彼の根幹に巣食っている。
心に抉りこまれた、深いトラウマとして。

『その、バーサーカー』

私は、問いかける。
恐る恐る、慎重に。

『あなたは、聖杯を求めている?』
『ああ』

有無を言わさず、答えが返ってきた。
私は、問いを重ねた。

『……何か、願いがあるの?』

聖杯を使えば、あらゆる祈りは叶う。
確証はない。それでも、“情報”として脳裏に刻み込まれている。
マスターも、サーヴァントも、聖杯にかける願いを持つことに変わりはない。
ならば、バーサーカーも。
あの戦場の記憶が、頭を過る。
そして。


『“戦争”を―――終わらせる』


バーサーカーは、ただ一言。そう答えた。
それだけで、理解してしまった。
あの記憶に、彼は囚われていることを。
あの悪夢に、今もなお苛まれていることを。
あの痛みを、癒そうとしていることを。
私は、それ以上何も聞かなかった。

無数の瓦礫。
絶え間ない戦火。
死体の山。
学生の亡骸に混じる、父だったもの。
私の記憶もまた、鮮烈に蘇る。
ある意味で、すべての始まり。
今の私に繋がる、世界の始まり。
一人で歩くには、あまりにも長い長い道程。

私は居場所を得て。仲間を得て。
そうして、未来へと進み始めた。
過ぎ去ったものは、戻らない。
過去の痛みは、自分自身で背負いながら癒やしていくしかない。
不可逆な結末を覆すことは出来ないのだから。
受け止めて、折り合いをつけて、糧にする他無い。
今の私には、前を向いて生きる為の環境がある。
過去は変えられずとも、未来は自らの手で動かせる。


だけど、それは『奇跡が存在しなければ』の話だ。


.


224 : アブサント&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2021/06/03(木) 18:24:39 W4aSWS7w0
仮に、聖杯の力が本物だとすれば。それは個人のために使うべきではない。
奇跡に縋るというのは、元の世界では夢物語に等しかった。だけど、その奇跡を顕現する術があるというのならば、縋ることは決して無駄ではない。
あの世界は、そうしなければ救われないことが多すぎたから。
未だに治療法が確立されていない鉱石病。感染者への差別、迫害。感染者と非感染者の対立。それらを起因とする、数多の紛争。元の世界で、ロドスは残酷な現実と対峙し続けていた。

わかっている。
不可逆な過去を捻じ曲げる。それは時間への、死者への冒涜だ。
わかっている。
個人の過去よりも、世界の歪みそのものに対して奇跡を使うべきだ。
わかっている。
悪夢は、自らの手で克服すべきだ。
それでも。それでも。
手が届く可能性から目を逸らすのは、本当に正しいのか。
万物の願望器が現実のものならば、それを無視する理由があるのか。


万物の願望器、聖杯があれば。
あの日の惨劇を、やり直せるのだろうか。
父も、母も、救うことが出来るのだろうか。






――何も終わっちゃいない!
――俺にとってあの悪夢は、今でも続いてるんだ!






【クラス】バーサーカー
【真名】ジョン・ランボー@ランボー
【属性】中立・狂(中庸)
【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:C 敏捷:C 魔力:E 幸運:E 宝具:E+
【クラススキル】
狂化:D+
理性と引き換えにステータスを上昇させるスキル。
筋力と耐久が上昇し、同ランクの精神干渉を無効化する代償に正常な思考能力を奪われている。
バーサーカーは生前と同じように、かつての戦争に魂を囚われている。
バーサーカーの抱える心傷は魔力パスで接続されたマスターの精神にも影響を齎し、彼が体験した“戦場での記憶”が突発的にフラッシュバックするようになる。

【保有スキル】
隠密:A
気配を探知されにくくなる他、奇襲や闇討ちの成功率が上昇する。
生前のバーサーカーは特殊部隊に所属し、ゲリラ戦などにおいて卓越した才能を持っていた。

破壊工作:B+
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。トラップを含めたゲリラ戦術の達人。
ランクBならば、相手が進軍してくる前に三割近い兵力に損害を与えることが可能。
ただし、このスキルが高ければ高いほど英雄としての霊格は低下していく。

千里眼:D
視力の高さを表すスキル。
視界や動体視力を多少向上させる他、精密射撃時にプラス補正が掛かる。

無窮の武練:B
狂気に陥ってなお衰えぬ武芸の手練。
狂化スキルによる思考能力のデメリットを無視し、あらゆる武装を生前と同じ技量で扱うことができる。


225 : アブサント&バーサーカー ◆A3H952TnBk :2021/06/03(木) 18:27:18 W4aSWS7w0

【宝具】
『孤独の軍隊(ファースト・ブラッド)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
一人だけの軍隊、居場所なき軍人―――バーサーカーの生涯に渡る闘争を具現化した宝具。
拳銃、弓矢、トラップ、散弾銃、突撃銃、対戦車砲など、自身が扱えるあらゆる装備を自在に形成する。
弾丸は魔力の続く限り生成される他、社会に疎外された自身の怒りと悲しみが強固であればあるほど威力が上昇する。
また、この宝具で生成した重火器はあくまでバーサーカーが操ることを前提としている。そのため彼以外の者が手にしても原型を留められずに魔力として霧散する。

『紅き荒野に果てる(ラスト・ブラッド)』
ランク:E+ 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大補足:1~20
老いたランボーが身を投じた“最後の戦い”を具現化した宝具。
ありとあらゆるブービートラップが仕掛けられた“死の空間”を結界として展開する。
展開された結界は地下洞窟の形状を取り、バーサーカーはその空間内部を自由自在に移動することが可能となる。
固有結界とは似て非なる能力。しかしジョン・ランボーという男の荒廃した心象風景が生み出した殺戮空間であることに違いは無い。

【weapon】
サバイバルナイフ、宝具で生成した無数の重火器

【人物背景】
ベトナム戦争に身を投じたグリーンベレーの兵士。
彼は国に尽くした。国のために殺戮を行い、過酷な死線を乗り越えながらも愛国心を貫いた。
帰国した彼を待ち受けていたのは、帰還兵を批難する無数の罵声だった。
仲間達は既に喪っていた。彼の帰るべき場所は、どこにも無かった。

狂戦士のクラスとして召喚されたランボーは『心傷を抱える帰還兵』としての側面が強く打ち出されている。
同時に生前のあらゆる記憶・経験が混濁している影響により、殺戮への躊躇を一切持たない。

【サーヴァントとしての願い】
この戦争を、終わらせる。



【マスター】
アブサント(ゾーヤ)@アークナイツ

【マスターとしての願い】
もしも、過去の惨劇を変えられるのなら――――?

【能力・技能】
武装製薬会社『ロドス・アイランド』で戦闘員として所属し、施設内の警備も担当している。
役割は術師。銃器型の杖からアーツ(アークナイツにおいて魔術に相当する)を弾丸のように射出し、遠距離攻撃を行うことが出来る。
スキルや素質の効果により、手負いの相手を集中攻撃して制圧することに長ける。
体術や技量において決して突出した才能を持つ訳ではないが、強い忍耐力と根性が彼女を戦士たらしめている。
またアブサントはウルサス人であり、身体能力に優れており肉体的に頑強である。

【人物背景】
大規模紛争「チェルノボーグ事変」で救助されたウルサス人の少女。本名はゾーヤであり、アブサントという名はロドスでのコードネーム。
地元警察官の娘であり、彼女自身も警察官を志す利発な少女だった。
しかし件の紛争によって父親を亡くし、彼女自身も数多の惨劇を目の当たりにした。
故郷の戦火と父親の喪失はアブサントの心に深い傷を残し、現在もなお自罰的かつ自傷的な側面を抱える。
それでも彼女はロドスでの生活を通じて年相応の無垢な一面も見せるようになり、少しずつ過去を乗り越えようと努力し始めている。
過酷な現実と対峙し、喪失と絶望に苛まれても尚、内に宿す生来の正義感は変わっていない。

界聖杯におけるロールは学生であり、本名のゾーヤを使っている。原作では高校生相当だったこと以外の明確な年齢設定は明かされていないが、此処では高校一年生となっている。
なおウルサス人の特徴である熊の耳を持つが、界聖杯内界の社会においては「少し変わった特徴」程度に認識される模様。

【方針】
バーサーカーを制御しつつ、現状の調査。
聖杯を狙うかどうかは今のところ保留。


226 : ◆A3H952TnBk :2021/06/03(木) 18:27:44 W4aSWS7w0
投下終了です。


227 : ◆ruUfluZk5M :2021/06/03(木) 20:03:10 46RAIPSM0
投下します。


228 : 異教会談 ◆ruUfluZk5M :2021/06/03(木) 20:06:19 46RAIPSM0
「ゴミカスがァー。なにが魔術師よ。この神聖皇帝たるオレに逆らおうなんぞ笑わせるわァ!!」
 血にまみれた教会にふんぞりかえって、そう言い放つ巨躯の男。
 禿頭に真珠の数珠と僧侶のようないで立ちだが、しかし凶悪な刺青と鋲を打った僧衣がただの僧侶ではなくならずものの印象を際立たせていた。

 おお、ブッダ。なんたることか。

 神の地たる教会にて人間をひねり潰し、整然としていたはずの長椅子を組み換え、寝転がってスシをむさぼり、酒を飲む。
 俗物で狂暴な悪徳坊主そのものの冒涜的光景だった。
 彼の名はイヴォーカー。
 ランサーのサーヴァントにして、新進気鋭の過激派宗教団体、アンタイブッダ帝国の自称神聖皇帝である。

 ランサーが拠点とする高層ビル。その最上階に建てられた教会という奇妙でおかしな位置にある施設に住まうそのマスター、言峰綺礼は死人のような目でランサーを睨んでいた。
 自分は第四次聖杯戦争に居たはずだ。
 それがなぜこんな意味不明な場所に呼ばれ、わけのわからないサーヴァントを相棒とせねばならないのか。


229 : 異教会談 ◆ruUfluZk5M :2021/06/03(木) 20:08:24 46RAIPSM0
「神父の見る前、教会で悪徳とはたいした度胸だな、ランサー」
「ふん。ニンジャこそ救いよ! お前もクリスチャンなどやめ、早く我が軍門に下り楽になればいいものをなァ、キレイ=サン」
 巻き舌でランサーはねちっこく絡んだ。彼が言峰を殺そうとしないのは、ひとえに一蓮托生のマスターであるから……

 そして、目の奥に悪徳に惹かれるオハギのような闇が見えたからだ。

 そうでなければ偉大な教えをくどくどと否定し、カラテをストイックに鍛錬する聖職者など、ボーで打ち据え殺していただろう。

「カネ! ドラッグ! セックス! 全て救いだ。俺が下賜する救いだ」
 そう言ってランサーが違法薬物を菓子をむさぼるようにぞんざいに摂取する光景は、存在そのものが神仏の破壊者としての体現だった。
「……そのような堕落をしたところで、楽になれると思ってはいない」

「ヘハッ! では聞くがよォ。なぜおまえはその「堕落」とやらを体現するこの俺……サーヴァントを召喚し、このような異端の地をさまようハメになっている?」
「……知るものか。私が聞きたいくらいだ」
 では答えようと、ランサーは自信満々に言った。


「決まっている。ブッダが悪いのだ。ブッダがゲイのサディストだからだ!!!」

 
 まるでスカムな禅問答の回答に「なるほどそうか」との反応はなく。しらけたような空気がマスターの周囲に漂った。
「私は神に仕える身だ。仏陀の理など知るものか」
「ならばこう言おうか」
 教会にそびえる十字架に磔にされた神聖な像を指さして、ニンジャはおごそかに言った。
「「あの男」が悪いのだ」

 なにを世迷言をぬかすのだこの男は、と神父は顔をゆがめた。しかしまくしたてるようにニンジャは喋り続ける。


230 : 異教会談 ◆ruUfluZk5M :2021/06/03(木) 20:09:45 46RAIPSM0
「よいのだ。キレイ=サンよ。恨んでよいのだ。俺を褒めたたえよ! ニンジャをあがめよ! なぜ誰もこのマッポーの世を救ってくれない? なぜお前のような狂った感覚のものが生まれる? それはブッダが悪い。オーディンが悪い。ゼウスが悪い。「あの男」が悪い。悪いのでなければ……」

 唐突に。

 今まで終始浮かべていた凶悪な笑顔が抜け落ちた表情となって、アンタイブッダ帝国の主はポツリと言った。
「なぜ、このどうしようもない世界を……誰も助けてくれないのだ」
 それは、見捨てられた子供が放つような声音の言葉だった。

 ランサーはなにを思ったか「サケとスシが切れちまったなァ」と言い、急に霊体化してどこかへと去った。
 ひとり残された言峰は苦々しげに吐き捨てる。
「バカげている」
 まるで責任転嫁だ。助けてくれない神仏を恨めとすがっているだけのダダっ子めいた稚拙な理論。
 
 幼稚だ。
 だが信仰に悩んだ真摯な思考の末ではあったのだろうと伺えた。
 言い訳じみている。
 だが困ったことに一定の筋は通っている。
 醜悪だ。
 だがそれはもう一方の理性とは違う言峰の感覚に照らすと……ひどく、美しく見えた。

 なにより。自身の存在をすんなりと証明できる理屈にも思えてしまった。

 だからこそ、信仰を重んじる言峰は彼を認めるわけにはいかなかった。


231 : 異教会談 ◆ruUfluZk5M :2021/06/03(木) 20:12:27 46RAIPSM0
「「「「ブッダを恨む権利は誰にでもある」」」」
(なにが恨む権利だ。私は信仰を否定する権利を得たいのではない。答えを得たいのだ)
 己のサガに苦悩こそせよ、信仰の対象たる主に言峰はもとより恨みなど持ち合わせていない。
 だが。
 ただ「あの男が悪い」「主が悪い」とぬけぬけと言えれば、どれほどすっきりするだろうか。どれほど愉しいだろうか。
 それを想うと……

「違う!」
 叫び声が教会を揺らした。

 言峰綺礼はランサー、イヴォーカーを否定し続ける。
 何度も何度も。
 まるで、否定し続けなければ認めてしまう自分が怖いかのように。
 その醜さに愛着を抱きかねない自分を否定するかのように。
 否定し続ける。

 しかし。
 言峰はこの界聖杯内界に来てから、ランサーの蛮行を一度も無理やり止めようとはしなかった。
 令呪は、今も言峰の肉体に残っている。
 第四次聖杯戦争の途中から呼び出された時のまま、大量の預託令呪までもが。
 それらは決して一度も使われていない。
 ランサーがどのような悪行をなした時であろうと、一度たりとも。


232 : 異教会談 ◆ruUfluZk5M :2021/06/03(木) 20:13:27 46RAIPSM0
【クラス】
 ランサー
【真名】
 イヴォーカー(グノーケ)@ニンジャスレイヤー
【パラメータ】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具A++
【クラス別スキル】
 対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
 ボンジャン・カラテ:B+
 バトルボンズが習得、鍛錬する習練のカラテ。
 八極拳に酷似した動きと攻撃を可能としている。

 アンタイブッダ:A+
 カリスマにも類似したスキル。神仏を憎悪せよ、我をあがめよとの教えを広め敵対組織のニンジャをもたやすく魅了した言動がスキルへと昇華された。
 サーヴァント、マスター、一般人を問わず周囲に対し低確率で憎悪の信仰を植え付けることができる。
 このスキルはまた神性のある存在に対し否定者として多少の優位性を持つことができる。

【宝具】
『聖なるボー』
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大補足:10
 ルーンカタカナの掘りこまれた6フィートの棒。本来は神器を封じるための宝具。使用者の意志を反映し伸縮し、稲妻を放つ。
 なお聖なるブレーサーとは反する存在のため同時使用はできない。

『聖なるブレーサー』
 ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
 可変し腕を包み拳に鉤の付いたガントレットへと変形するブレーサー。持ち主の精神に呼応し、ランサーの場合は鎧となって身体を包む。
 ただしランサーはこの宝具の本来の使い手ではないため、その力のすべてを引き出すことはできていない。
 そのためランクの強さと実際にランサーが発揮できる威力は噛み合っておらず、さらに使うたび精神を浸食されていく。

【人物背景】
 元はキョート共和国の高位バトルボンズ。しかしニンジャソウルによって独自の思想に至り、元居たテンプルを襲撃、虐殺を行い宝具のボーを奪取する。
「ブッダを憎め、ニンジャが救い」の信念をかかげ武装宗教組織アンタイブッダ帝国を組織し、自身は神聖皇帝を名乗りはじめる。
 その後テンプルの唯一の生き残りアコライトと彼が装備した聖なるブレーサーによって襲われるが、なんとブレーサーをも奪うことに成功。
 しかしニンジャスレイヤーとアコライトとの再戦で敗北し、死にかけのまま正気を失いつつも逃走する。
 最終的に聖なるブレーサーを回収に来たニンジャ、ダークニンジャと接敵し死の間際ブッダに救いを懇願しながらも介錯され、完全に死亡した。

【サーヴァントとしての願い】
 欲望のままに生き、破壊し、勝利する。今度こそ万人にブッダを恨む権利を知らしめ人々にニンジャが救いだと証明する。


233 : 異教会談 ◆ruUfluZk5M :2021/06/03(木) 20:15:00 46RAIPSM0
【マスター】 
 言峰綺礼@Fate/Zero
【マスターとしての願い】
 信仰を保ち続け、この聖杯戦争から一刻も早く脱出する。
 自分がなんなのかを知りたい。
【能力・技能】
 八極拳の使い手。また黒鍵と呼ばれる聖書を加工した特殊な刀剣を使いこなす。
 初歩的な魔術も使用可能だが、その起源から治癒に関してだけは他より長じている。
【人物背景】
 聖杯戦争を管理する教会の息子。組織としては聖堂教会に所属している。
 勤勉に鍛錬を行い聖職者として生きてきたが、その感覚と噛み合わない自らの「他者の苦難や悪徳」を見て喜びを覚える感性に対して苦悩と不安を覚えている。
 しかし、裏の同盟相手が召喚したサーヴァント、ギルガメッシュの存在によりその精神はさらに揺らいでいく。
【方針】
 とにかく帰還を第一優先にする。できればランサーを排除したい。


234 : ◆ruUfluZk5M :2021/06/03(木) 20:18:09 46RAIPSM0
投下終了です。


235 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/03(木) 20:44:48 mLVe2iGk0
>>ラフィングドッグ・サラリーマンズ
サラリーマンというありふれた存在が大暴れをするというとてもユニークな話でした。
テーマ自体はユニークなのですが文章は筆力に富んでおり、そのギャップがまた魅力を引き立てていたように思います。
というかまず、こういうぶっ飛んだスペックのサラリーマンキャラが二人も居ることに驚きました。高槻は知ってましたが……
悲愴感とユニークさが同居した素晴らしいお話、ありがとうございました。

>>どうして大地は赤いのか
文章力の怪物か?(率直) とにかく濃密で尚且つ磨き抜かれた文章がお見事でした。
サーヴァントのベルゼバブもマスターの峰津院もめちゃくちゃ強いのですが、その強さの説得力が文中からしっかり伝わってくるのが良いですね。
こいつらはとにかくめちゃくちゃ強いですを凄く丁寧で濃厚にやった話と言いますが、個人的にとても好みのテイストです。
また、文章が濃いからこそその間の会話の趣も際立ってますね。強者と強者のトーク、好き。

>>地底聖杯 Fate/Under The Ground
石和と沼川はなんで聖杯戦争のこと知ってるんだよ!!(第一声)まあハンチョウ時空ならFateとかは履修してそうでもあるか……(自己解決)
鯖はまさかのインポスター。やったことはないんですけど配信でよく見てます。
持ってきた首がマスターのものとかは一言も書いてないのとか、マスターに胸張ったりするのとか可愛いですね。
しかし本戦始まったら、最悪地上戦の余波で地下潰れそう……w

>>悪魔
マスター側のディアボロ、普通に脅威なんてものではなくて草。
とはいえ引いたサーヴァントがサーヴァントなので、なんだかんだで大丈夫そうな気もします。
地味にドッピオが居ないのも大きそうですね。ディアボロの行動スタイルも大きく変わっていきそうです。
作中ではランサーを処分するのは流石に……って思考してるけど、彼を消したら相当楽になりそうなのが面白い。

>>アブサント&バーサーカー
バーサーカーの真名に驚きましたが、洋画の独特な雰囲気を文章という媒体に落とし込んでいるのが凄いです。
息が詰まるような情景描写で、ランボーの送ってきた過去の悲惨さがこれでもかと伝わってきました。
聖杯というご都合主義の奇跡の非道さを述べた上で、それでも可能性があるのに無視するのは本当に正義なのかと問う地の文も好きです。
どうしようもない悲劇を経験して行き止まりの界聖杯内界に辿り着いた二人の悲愴さ、お見事でした。

>>異教会談
まさにタイトルのままの、名は体を表すといった感じのお話でした。
忍殺語の言い回しながら鋭く冴える舌鋒と、それを否定しつつも揺らぎつつある言峰の描写が何とも……。
「「あの男」が悪いのだ」、とても良いですね。映像で見たいなこれ、と思っちゃいました。
まだ目覚める前の言峰ではあるものの、もう羽化は半ばほど完了してる感じですよねこれ……厄い。

皆さん今日もたくさんの投下ありがとうございました!
それでは私も投下させていただきます。


236 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/03(木) 20:45:20 mLVe2iGk0

 神様は私たちに耐えることのできない苦しみはお与えにならない。

 かつて少女にそう言った母親は、何年も前に空の向こうへと旅立った。
 母の前は父だった。母の次は姉だった。
 そして姉の次は自分だと、紺野木綿季は理解している。
 そもそも、理解するも何もないのだ。自分の患っている病は不治であり、そして愛する家族はもう皆空の彼方。
 であれば次に旅立つのは自分しかいない。奇跡が起きてある日突然特効薬が完成し、自分が健康な身体を手に入れる未来を空想したことがないと言えば嘘になるが、しかし十五歳という年齢は空想と現実の間に垣根を設けられるようになるには十分すぎた。

「ごめんね、こんなマスターで。がっかりしたでしょ?」
「まあ、驚きはしたかな。病人ならもっと酷いのを見たことあるけどさ」

 右手に刻まれた三画の刻印――令呪を見つめて、木綿季は自分のサーヴァントに苦笑いで謝罪した。
 彼女が居るのはベッドの上だ。点滴が繋がれ、その様はお世辞にも健康の二文字とは無縁のそれである。
 手足は枯木のように痩せ細り、血色は悪く、生ける屍と言って差し支えない。

 木綿季は、「戦わせたいんなら、ALOのアバターでも使わせてくれればよかったんだけどね」と一言足す。
 少なくともこの状態からは想像も出来ないだろうが、彼女は此処ではないバーチャルの世界では、"絶剣"の名で知られる名うての剣士だった。

 聖杯戦争の舞台となる界聖杯内界は、木綿季の知る世界よりも技術の発展が幾らか遅れているようだった。
 ナーヴギアのようなフルダイブ型VRマシンについて調べてみたが、構想自体は存在するものの、実用化には未だ程遠いのが現状らしい。
 病気を発症してからというもの、現実よりも仮想世界で過ごす時間の方がずっと長かった木綿季にとって、此処での生活は恐ろしく退屈で……そして、苦痛だった。
 
「ボクはね、多分もうあまり永く生きられないと思うんだ。
 界聖杯はボクを"蒐集"する時に、死にかけてた身体を少し修復してくれたみたいなんだけど――検査結果、やっぱりかなり悪くてさ。
 もし急変したら、そのまま助からないかもしれない。そうなったら、キャスターも困るよね」
「そうだね。今の俺は君との主従契約ありきで此処に居られる脆くて儚い影法師だ。
 木綿季に死なれれば契約も途切れて、すぐさま英霊の座に強制送還されることになるから」
「……だから、もしサーヴァントを倒されちゃったマスターを見つけたらボクのところに連れてきてほしいんだ。
 ボクに何かあった時、その人を新しいマスターにして再契約すればキャスターは聖杯戦争を続けられるでしょ?」
「木綿季は欲がないね。自分が死ぬ前に聖杯を手に入れろ、とかは言わないんだ」

 キャスターの質問に、木綿季は少し考えて。
 
「ボクは、誰かを踏み台にしてまで生きたいとは思わないから。
 それに――界聖杯の介入があって助かりはしたけど、本当ならボクは、あのまま死ぬはずだったんだ」

 やはり自分の考えが変わっていないことを確認し、こう返した。
 マスターを失ったサーヴァントは消滅するが、その逆は違う。
 だから誰も殺さずに聖杯を手にすることも理論上は可能だ。
 けれど、あくまでそれは理論上の話。現実にそれを叶えるのがどれほど困難なことかは、木綿季にも分かる。
 それに――仮にその難易度を度外視して考えたとしても。やはり木綿季は、誰かの願いを踏み台に勝ち上がってまで生きたいとは思えなかった。

「でも後悔はなかったよ。怖くもなかった。
 大好きな友達と、仲間と、競い合ってきた人たちに囲まれてさ。
 ゆっくり眠りにつくみたいに瞼が落ちてきて。
 ああ、頑張ったなあ。ボク、頑張って生きたなあって。そう思いながらだったから」


237 : 紺野木綿季&キャスター ◆0pIloi6gg. :2021/06/03(木) 20:46:25 mLVe2iGk0

 亡くなった姉から引き継いだスリーピング・ナイツ。
 ゲーム内で時に対立し、時に手を取り合ったプレイヤー達。
 そして、自分のOSS(オリジナル・ソード・スキル)を託した親友。
 皆に囲まれながら永い眠りに落ちるのは、どこまでも安らかで穏やかで、恐怖など欠片もない最期だった。

「だからね、ボクはこう思ってるんだ。
 ボクはあの時ちゃんと死んで、今此処で過ごしてる時間は最期の夢だって」

 自分は、人生という長い坂道を登り切った。
 その実感があるからこそ、木綿季は聖杯を求めないのだ。
 とはいえそんな女に喚ばれてしまったキャスターはとんだ災難だなと思い、彼女はまた苦笑いしてしまう。

「キャスターは新しいマスターと一緒に願いを叶えてよ。
 それが見つかるまでは、ボクがキミのマスターで居てあげるからさ」

 木綿季の頭にも他のマスター達と同様に聖杯戦争に関する知識が一通りインストールされている。
 だから、願いを叶える道を選ばないという自分の選択をキャスターにまで強いるつもりはなかった。
 自分はただ、新たな契約相手が見つかるまでの間のマスターとして彼をこの世界に繋ぎ止めていればいい。
 それからどうするかはキャスターと、彼の新しいマスターの考え次第だ。そう思っていた。

「欲がないのは良いけどさ。俺は、君の言ってることにはあまり同意出来ないな」
「……? 新しいマスターを探して、ってとこ?」
「いいや。これが夢で、本当の自分はあの時死んでる、みたいなところ」

 の、だが。
 キャスターは不意にそんなことを言うと、今まで腰掛けていた室内用暖房機からすっと立ち上がった。
 そして木綿季のベッドの傍らへと立ち、微かに笑う。読んで字の如くに、微笑む。

「肉体なんてものは、所詮魂の容れ物に過ぎないんだよ。
 そして君の魂は今、しっかり君の中で脈を打ってる。
 元の世界でどうなったかは知らないけどさ。木綿季は今、俺のマスターとしてちゃんと生きてると思うよ」

 そう言ってキャスターは、手を伸ばした。
 木綿季も面食らいつつ、しかし抵抗はしない。
 手が、頭に触れる。頭を撫でられたのかと思ったが、どうも違うらしい。
 何を、と問いかけた時。キャスターはその端正な顔面に浮かべた笑みを崩さぬまま、一言、木綿季には意味の理解出来ない言葉を呟いた。


238 : 紺野木綿季&キャスター ◆0pIloi6gg. :2021/06/03(木) 20:47:37 mLVe2iGk0
.


「『無為転変』」


◆◆


239 : 紺野木綿季&キャスター ◆0pIloi6gg. :2021/06/03(木) 20:48:12 mLVe2iGk0


 紺野木綿季の召喚したサーヴァント・キャスターは人の形をしている。
 だがその皮膚には、無数の継ぎ接ぎの痕跡があった。
 顔立ちこそ整っているものの、それでも世の大半の人間が異様な印象を受けるだろう外見。
 そんな彼が触れ、一言呟いた。木綿季は最初、彼が何をしたいのか理解出来なかったが。
 次の瞬間――すぐに分かった。何しろ彼女はかれこれ何年も、不治の業病と戦い続けてきたのだから。

「え……?」

 身体の中にいつもあった倦怠感と、自分は病んでいるのだと指摘してくるような悪感。
 此処一年以上はずっと取れていなかったそれが、影も形もなくなっている。
 意識は限りなく鮮明で、呼吸をすれば空気の味の清らさかに驚いた。
 身体の怠さなどもう一切ない。このままベッドを降りて走り出すことだって可能だろう。
 仮想世界の中で、"ユウキ"として戦い、駆け回っていた時のような――いや、ともすればそれ以上のコンディション。

 幾度となく奇跡を願い、そしていつしか運命を受け入れた少女に。
 今この時、奇跡は本当に舞い降りたのだ。

「俺の術式(ほうぐ)はね、魂の形状を弄くれるんだ。
 それを応用すればこんな風に、病気を治したりすることも出来る」

 なのに――なのに。
 この時木綿季が覚えたのは、喜びでも安堵でもなかった。
 そんな感情を抱いてはいけないと頭ではそう思っているのに。
 木綿季は、自分の身に舞い降りた奇跡に対してどうしようもなく強い不安を感じたのだ。
 
「これで君は、引き続き俺のマスターってわけだ。
 ま、暫くは健康な身体での生活を楽しんでなよ。
 念願だろ? 前に治してやった奴には、感謝されるどころか殺されそうになったけどさ」

 何年も抱え、苦しめられ、向き合ってきた病という呪い。
 それは今、もっと上を行く呪いの御業によってあっさりと癒やされた。
 紺野木綿季の中に深く根を張っていた楔は抜かれ、彼女は真の意味で自由になった。
 健常な人間よりも余程健康になったその身体に、もう容態の急変なんて概念は存在しない。
 されど、忘れてはならない。彼女の呪いを解いたのは、聖者の奇跡などではなく。
 あくまでも――もっと強い"呪い"に依るものであるのだということだけは。


「これからも宜しく頼むよ。木綿季」


 紺野木綿季のサーヴァント。
 彼の真名を、真人という。
 彼は人の形をしているが、しかしあくまで形が同じというだけだ。
 彼は文字通り、呪いである。人が人を恐れ憎む負の感情から生まれた、"呪霊"。
 更にその中でも規格外の領域に分類される、災禍の化身のような存在。

 これが純粋な善意で人を救うなどということは有り得ない。
 故に紺野木綿季は今、真人に呪われたのだ。
 呪いは呪いらしくあるべきだと信じる、下衆の魂に魅入られてしまったのだ。


240 : 紺野木綿季&キャスター ◆0pIloi6gg. :2021/06/03(木) 20:48:51 mLVe2iGk0

「……ボクは――生きられるの?
 まだ、この先も……?」

 されど、少女はまだそのことを知らない。
 漠然とした不安感と、未だ実感の持てない完全な"生"の感覚。
 その二つを抱えながら、今はただ戸惑うことしか出来なかった。
 そんな彼女の傍らで――呪いは、粘ついた悪意の籠もる瞳で、ただ嗤っていた。



【クラス】キャスター
【真名】真人
【出典】呪術廻戦
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:A 幸運:B 宝具:EX

【クラススキル】
陣地作成:B+
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。"帳"の形成が可能。

【保有スキル】
呪霊:A
 人間の負の感情が呪力となり漏れ出し、それが集合して形を成した存在。
 真人はその中でも最上位の一角である、人が人を恐れ憎む負の感情から生まれた"特級"の呪霊である。

【宝具】
『無為転変(むいてんぺん)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1〜100人
 相手の魂に触れて魂の形状を操作することで、対象の肉体を形状と質量を無視して思うがままに変形・改造することができる術式。
 変形させていない人型状態の素手で触れなければ効果はないが、「自身の魂の形を知覚した上で魂を呪力・魔力で保護する」以外に防御手段がなく、一度改造されれば基本的に元の状態に回復させる手段はない。
 自分自身に対して使えばノーリスクで自身の肉体を自在に変形させられるため、肉体の武器化や身体能力の強化が容易に可能。ある程度の魔力を消費はするものの、応用の一環として分身のような芸当すら可能である。
 また攻撃以外の使用法としては、重度の先天的傷病、身体の欠損でも改造することでほぼ完全に治すことが可能。
 更に奥の手として、真人は"自閉円頓裹"という"領域"を展開するすることができる。
 ただし聖杯戦争においては魔力の消費量が殺人的に大きい極めて燃費の悪い宝具となっており、最低でも令呪二画分以上の魔力が無ければそもそも展開することすら叶わない。


241 : 紺野木綿季&キャスター ◆0pIloi6gg. :2021/06/03(木) 20:49:12 mLVe2iGk0

『遍殺即霊体(へんせつそくれいたい)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:10人 
 真人という存在の魂の本質、その剥き出しの姿。
 人間に近い姿をしていた今までの姿から一変し、姿に人間の面影はほぼない。
 原型の倍以上の強度を持ち、"一部を除き変形しない"という縛りを自らに科すことで耐久性を底上げしている。
 耐久を2ランク、更にその他のステータスを1ランクアップさせる。
 この宝具を展開した状態の真人は魔力の消費量が跳ね上がるが、この状態になっても第一宝具『無為転変』は通常通りに使用することが可能である。

【人物背景】
皮膚が継ぎ接ぎだらけの青年で、身体を黒いローブで覆っている。
性格は軽薄、発生したばかりの呪霊ゆえに無邪気で子供っぽく好奇心旺盛。
表面上は人間にも優しく接するが、本性は呪霊らしく冷酷非情。人間を見下しており、逆に同族である呪霊には親しみを持って接する。
"呪いは呪いらしくあるべき"だと考えており、目的達成のため合理的に動く同胞に対してもっと自由に生きるよう諭していた。
その術式故か、"魂"そのものを知覚できる能力を持つ。そのため、人間の喜怒哀楽や感情は全て魂の代謝物にすぎず、命に価値や重みは無い(故に肉体は魂の容れ物にすぎない)という持論を持っている。

【サーヴァントとしての願い】
現状は未定。ただし、あくまで呪いらしく――あるがままに。


【マスター】
紺野木綿季@ソードアート・オンライン

【マスターとしての願い】
 特になし

【能力・技能】
 卓越した剣の腕を持ち、対人戦の経験も豊富な実力者。
 ……というのは、あくまでもVRMMORPG"ALO"の中だけでの話。

 現実の彼女は末期のHIV患者であり、余命幾許もない状態。

【人物背景】
 15歳の少女。
 フルダイブ型VRマシン"ナーヴギア"を医療用に転用したメディキュボイドの最初の被験者になり、以来3年間のほとんどを仮想世界で過ごしてきた。
 元は両親と姉との四人家族だったが、彼女以外は全員が既にHIVで他界しており、天涯孤独の身。
 学校に行きたいという願いを叶え、ゲーム内でもギルドメンバーばかりではなく様々なプレイヤーと交流を深めるなどして充実した生活を送っていたが、容態が急変。親友の少女に自作のソードスキルを渡し、そのまま死亡した。

 当企画では、命が完全に尽きる寸前で"蒐集"に遭う。
 召喚に際して容態が多少回復しているものの重病人であることには変わりなく、いつまた急変してもおかしくない状態だったが、真人の『無為転変』により健康体に戻された。

【方針】
人を殺すことはしたくない。


242 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/03(木) 20:49:45 mLVe2iGk0
投下終了です。


243 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/03(木) 21:03:11 k2TYBjV.0
投下します


244 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/03(木) 21:05:03 k2TYBjV.0
 東京と言う人が何処にでもいるような場所ではあるが、
 人払いをされたのか、驚くほど周囲は静寂に包まれている夜の公園。
 コンクリートの大地を駆け巡りながら、二つの刃が交差する。
 刃を握るはかたや屈強な老人、かたや十代中頃の少女と対照的だ。
 何方も剣技に優れたセイバーなのは、聖杯戦争に疎い人物でも一目瞭然である。
 老人のマスターの少年は警戒する。うら若い年の少女でサーヴァントとして召喚されている。
 つまり、その年で英霊足りうる条件を満たしているということに他ならない。
 故に少年も決して警戒を解かない。たとえ彼のセイバーが優位だとしても。

「すごい……これがサーヴァントとしての剣技なんだね!」

 事実、彼女は劣勢でありながら楽しそうだった。
 岩も容易く両断するセイバーの一撃を、高揚とした表情で剣劇を続ける。
 互角か、それ以上に追い詰めているはずなのになぜ楽しそうにいられるのか。
 一瞬でも油断すれば死、ないし消滅と隣り合わせとは思えない表情。
 だが狂ってるかと言われると驚くほどに理性的な面を持ち合わせる。
 何にしても優勢。宝具を使われる前に仕留めてもらおうとするが、

「やあああああ!!」

 急に速度を上げた少女が繰り出した技。
 相手の流派は剣術に博識な少年には何かは分かっていた。
 新陰流から柳生宗矩が継承していった流派、柳生新陰流。
 だから彼女の出した技に、驚きが隠せない。

 彼女が出した剣技は、彼のセイバーと殆ど似たものだからだ。
 少年のセイバーも日本由来の剣術を持っている剣豪の逸話がある。
 しかし一度見ただけで見様見真似にしては余りに再現度が高く、
 その一撃を受けたセイバーも、驚きの声を上げたまま消滅する。
 先ほどまで優位だった、間違いなく強いサーヴァントだった、なのになぜ。

「命まで取りたくないから、退いて。」

 状況の理解が追いつかず困惑してる中、
 サーヴァントを喪ったマスターへと刃を向けながら呟く少女。
 東京と言う舞台では余りに浮いた、山伏に似た格好が目立つうら若い乙女。
 恰好と先の戦いの剣技を前に、英霊であることを差し引いても何処か神聖さを感じる。
 殺意は大して感じられないし、このまま刃を振るうことに忌避感のある表情。
 思い返せばセイバーを倒したときの表情も、何処かもの悲しげな表情だった。
 サーヴァントがいないのではどうしようもないのもあって、素直に彼は撤退する。
 少女のマスターも、特に何も言わずにそれを見過ごすことにした。





「えっと、勝手に逃がしちゃったけど……よかった?」

 山伏の少女は刀を収め、
 コンクリートの道に倒れるマスターを見ながら車椅子を起こす。
 車椅子、と呼ぶにはかなり奇抜なデザインのものだとセイバーも感じた。
 頭部に繋がったコードもあわせ、どこか近未来的な姿をしている。

「必要ないなら、別にいい……」

 インナーの少女は小さく呟きながら車椅子へ向かう。
 当然セイバーは放っておけるわけなく彼女を抱えて車椅子へと乗せる。

「よかったぁ〜。もしダメだったらどうしようって思ってたけど。」

 彼女は今しがた召喚されたばかりのサーヴァントだ。
 相手がマスターを狙っていたので、まともな意思疎通する暇もなく戦いに応じた。
 勝手に自分で行動して微妙に不安だったが、マスターの言葉に安堵の息をつく。

「ただ、必要な時は別。」

「……だよね。」

 マスターを逃がすと言うことは、
 また何らかの方法で仕返しされる可能性がある。
 サーヴァントの情報も得た以上対策もされやすい。
 これを繰り返していては、その可能性は増え続ける一方だ。
 車椅子の少女もその辺は割り切っていて、セイバーは目を逸らす。

「聖杯戦争……」

 初めて聞いた名前。
 知識は得たが、余り驚いてる様子はない。
 殺伐とした舞台など、元居た世界と大差ないのだから。

「……セイバー。お願い、私を優勝させて。」


245 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/03(木) 21:09:04 k2TYBjV.0
「え!?」

 泣きつくような勢いで頼んできたことでセイバーは驚く。
 内気で大人しい子と言うイメージが強かった第一印象とは思えないほどに、
 今の彼女は張り詰めた声で語りかけてくるとは思わなかった。

『アンタだってほんとは嫌なんだろ?
 自分の力を利用されるのも、誰かに支配されんのもよ。』

 思い出した本来の記憶。
 この舞台に来る前に、部屋へ乗り込んだ彼から言われた。
 あの部屋は地獄でしかなかった。毎日能力を戦争の道具に利用されて、
 女だからと都合のいい慰み者にされて、ずっと諦め続けていた日々
 そんな世界に絶望してたところ彼に自分で決めるように言われて、
 こうして訪れた唯一の希望がある。

「私は戦争の道具から抜け出したい!
 性欲処理なんて立場なんてもう嫌なの!
 だからセイバーお願い……私を聖杯戦争で勝たせて!」

 これは最後のチャンス。
 道具としての自分とはさよならだ。
 此処から自分の意志、朝狗羅由真として生きたい。
 神秘の秘匿なんてものあったものではない。深夜の公園に彼女の声が響き渡る。
 涙を流しながら悲痛の声と共に紡がれる彼女の境遇は、セイバーも言葉を失ってしまう。

「お、落ち着いて! ちょっと話せる場所に移動しよ!」

 ただでさえサーヴァント同士の戦いが起きた場所。
 此処にいては危険で、由真を車椅子に乗せて早急にその場から離れる。
 彼女の自宅として割り当てられた無機質な家へと戻って、二人は向かい合う。
 家の内装は何処を見ても無機質で、窓もなく窮屈極まりない雰囲気が感じられる。
 ともすれば牢屋とか監禁とか、そういう風に見えてしまう。

「……今思えば、気付くべきだった。」

 凡そ普通の人が生活する家ではない、欠陥住宅もいい所だ。
 なのに違和感を感じなかった。来る以前の由真が過ごした部屋、
 そことあまり違いがないのだから。

「セイバー。マスターは殺せる?」

「えっと、できないってわけじゃないんだけど……」

 聖杯戦争とはあくまで殺し合いの場だが、
 当のセイバーは殺し合いではなく立ち合いを望む。
 だから英霊であるサーヴァントならまだ辛うじて斬れるが、
 生きているマスターを相手に斬る行為はあまりしたくなかった。

『私は戦争の道具から抜け出したい!』

 由真の悲痛の叫び。
 それが後ろ髪を引かれる。
 セイバー自身、その気持ちが理解できる立場にある。
 神薙ぎの巫女としての立場で、人を守るべくその剣を振るった。
 だがセイバーは強くなりすぎた。政治的な面でも危険視されかねない程に。
 一歩間違えれば戦争の道具にすらなりかねない程の強さになってしまったのだ。
 だから彼女は俗世を離れ山へと籠った。自分の存在によって、
 仲間が同じ風に見られないように。

「サーヴァントだけ……は、無理だよね。」

 彼女は車椅子と言うハンデを背負っている。
 戦闘も不利だし、逃げることも満足にできない。
 マスター同士の戦いで勝てる可能性は常人よりも絶望的だ。
 ともすれば自分が頼みの綱。譲渡を望める雰囲気ではなかった。

「必要ないなら、なるべくしないように考える。」

 優勝こそしたいが、
 彼女はそもそもそこまで戦いを好まない主義だ。
 無理矢理戦争の道具として電脳世界を操作してたが、
 本質的には何処にでもいる少女とそこまで変わらない。

「でもさっきも言ったけど、必要ならする。」

 一方で完全な博愛主義に非ず。
 暴力が支配する世界に生きてた以上、
 気を付けるべき領分は弁えている。

「……うん、わかった。」

 由真の境遇からすれば令呪で命令もしただろうに、
 それをせず最大限の譲渡を考慮してくれている。
 これ以上何かを言えるものでもなく、彼女もそれを受け入れた。
 何より、戦争の道具なんてものを聞いた手前他人事ではない。

「私は朝狗羅由真……お願い、セイバー。」

「サーヴァントセイバー、衛藤可奈美。これからよろしくね!」

 快活に、主へと手を伸ばす。
 その手を手に取り、過去との決別の戦いが始まる。
 同時に、あるべき未来へ至ることのなくなった戦いが始まった。


246 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/03(木) 21:09:56 k2TYBjV.0

【マスター】
朝狗羅由真@大番長

【能力・技能】
B能力・特待生
所謂異能力者。彼女は電脳世界を自在に操れる
繋がってる機械の椅子から電脳世界へアクセスして情報収集、
優れたハッキング能力によってジャミングなどの機械への妨害が可能
元々知っていたプログラムを差し引いても、瞬時に書き換える程に速い

【weapon】
車椅子
車椅子に付属の電子パネル操作で、エネルギー弾のようなものが出せる
威力は常人が受ければ結構なものだが、射程以外は特別強くない

【人物背景】
志津岡を拠点とするPGGで利用され続けていた、下半身が不自由な少女
嘗ては境遇に諦念し人にされるがまま、命令されるがままに過ごしていたが、
斬真狼牙との邂逅によって自分の道を考えようとしていた
その考えが纏まる前に、彼女はこの戦争へと招かれた

【聖杯にかける願い】
戦争の道具として利用されない、自分として生きたい

【方針】
戦闘はセイバーに一任し、情報収集に徹する
なるべくセイバーにあわせるつもりではあるが、
必要であればマスターも殺す覚悟はある


247 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/03(木) 21:10:18 k2TYBjV.0
【クラス】セイバー
【真名】衛藤可奈美(ANOTHER)@刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力:C+ 耐久:C+ 敏捷:A+ 魔力:D+ 幸運:C 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:D
一工程による魔術行使を無効化する
魔力避けのアミュレット程度の対魔力

騎乗:E
彼女は乗り物を乗りこなした逸話はない為最低限のランクしかない

【保有スキル】
刀使:EX
御刀の神力を引き出すことができる巫女。荒魂を斬って祓う唯一の存在
荒魂に対するダメージが上がり、神性を付与した状態で攻撃ができる
また神力を引き出すことで写シ等の特殊な能力を使用することが可能
(主にダメージの大幅軽減、敏捷強化、筋力増強等)
彼女は別の道を辿ったことで生身で荒魂を感知したり鎮めたりもできて、
刀使として異例ばかりの力を有した結果、スキルが測定不能になっている
御刀が手元にある限り、このスキルを封印することは不可能

柳生新陰流:C
柳生新陰流を修めているが、かの剣聖程の精神耐性も得るほどの領域ではない
無念無想にはなれないし、寧ろ剣技を前にしてしまうと楽しんでしまう為ランクが低い
強敵に恐怖よりも歓喜するのは、ある種の精神耐性とも言えるのかもしれないが
その代わりに、無刀取りも低ランクながら内包してる

心眼(真):B
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理
可奈美は天・地・人の三才を正確に読み取り、その場で瞬時に戦いを組み立てることが可能
未来予知に等しい演算を相手にすら対応ができる

【宝具】
極地無峰之剣
ランク:B 種別:対人魔剣 レンジ:1 最大捕捉:人
常時発動型宝具。元々可奈美は模倣が得意だったがANOTHERはよりそれが強く反映、
新たな剣技を見ることによって、他者の流派を即座に模倣することができる宝具へ昇華した
つまるところ岡田以蔵の始末剣の亜種であり、再現不可能な類についても共通
ただ剣術と同時に流派の模倣なので、タイ捨流等ある程度の体術も模倣可能
同時に元から完成された剣術を持つので、余程優れた剣術でないと成長は今一つ
サーヴァント相手なら、その余程優れた剣術なのだろうが

【weapon】
千鳥
神性を帯びた稀少金属・珠鋼を精錬して作り出された日本刀
隠世と呼ばれる異世界より様々な超常の力を引き出し、荒魂に対抗できる唯一の武器
珠鋼によって造られたことで神性を帯び、錆びることも折れることもない
御刀の千鳥も雷を斬った逸話を持ってる為、雷に関する特効が存在する

脇差
ANOTHERの際に挿してる御刀でなければ、由来も不明のただの脇差
千鳥程の神秘は持ち合わせていない

【人物背景】
荒魂を祓う刀使の巫女……の、辿ったかもしれなかった可能性(ANOTHER)の一つ
彼女は強くなりすぎてしまい、対等に並ぶことができる相手は何処にもいなくなった
強さの領域は、友人からも自分達よりも遠くにいると称されてしまう程に至っている
自身の存在は最早刀使に留まらず、荒魂退治以外の利用すら考えられるようになり、
刀使そのものが危険視されないよう、自身は行方をくらまして孤高の道を歩む
結果さらに高みへと至り、下手をすれば姫和のみしかできない筈の第五段階迅移すら可能の節がある
彼女はそんな可能性の一つにおける成れの果てだが、根本は変わってるわけではない
明るく社交的で、剣術オタクで研鑽を続けて、一人で背負い続けてしまう中学生の少女

【方針】
不殺の精神を持ってはいるものの、
それを貫けられる状況でないことも理解している
サーヴァントに対して割り切ることはぎりぎりできたが、
マスター殺しもできることならしたくないが、
彼女の境遇を聞いてはとても言えない

【聖杯にかける願い】
戦える存在を心のどこかで欲していた彼女には、
既に叶ったとも言える。今更欲しいものでもない
あるなら、荒魂も刀使も平和でいられる世界を望むぐらいか


248 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/03(木) 21:11:12 k2TYBjV.0
『この先は何が待ってるのだろう』投下終了です


249 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/03(木) 23:11:20 /w/pXwRs0
投下します


250 : 三島栄次&シールダー ◆NIKUcB1AGw :2021/06/03(木) 23:12:15 /w/pXwRs0
警察官の兄を持つ、ごく普通の学生。
それが、この世界で三島栄次に与えられた立場だった。

「つまり……シールダーさんは俺の時代より100年近く未来の人間で、この世界もおそらくそれくらいの時代がモデルになってる……と」
「そういうことになるな」

深夜、栄次は自室で自らのパートナーとして召喚されたサーヴァントと知識のすりあわせを行っていた。
栄次の前に立っているのは、紺を基調とした制服に身を包んだやや強面の男。
クラスはエクストラクラス・シールダー。真名を、朝加圭一郎という。

「すごいなあ、100年後。別の世界から悪党が攻めてくるなんて。
 俺の時代じゃ、自分たちの世界のこともよくわかってないのに」
「まあ、時代による感覚のズレはどうしようもないからな。
 ゆっくりとならしていくしかないさ」

自らの常識をはるかに超える知識に打ちのめされる栄次に対し、圭一郎は穏やかな口調でフォローを行う。

「ところで、マスターは聖杯に叶えてほしい願いはあるのか?」
「え? そうだなあ……。
 もっと強くなりたいとは思うけど……。そのために他の人を殺すのは違うだろうしな。
 俺自身は、願いを叶えるつもりはないよ」
「そうか。ならば俺も、マスターの意思を尊重しよう」
「ただ……」
「ただ?」
「悪人が願いを叶えるのだけは避けたい。それを阻止するためだったら、俺は戦う。
 たとえ、命を捨てることになっても……!」

そう口にした栄次の瞳に宿る、暗い炎。圭一郎は、それを見逃さなかった。

「その志は立派だ。
 だが、そう生き急ぐことはない。死人の俺と違って、マスターにはまだ未来がある。
 自己犠牲なんてものは、もっと大人の人間が考えるものだ」
「でも……」
「さあ、そろそろ寝た方がいい! 強い体を作るには、十分な睡眠も大切だ!」

話を強引に打ち切り、圭一郎は栄次をベッドに叩き込んだ。


◆ ◆ ◆


窓の外を見ながら、圭一郎は物思いにふける。

(善良な少年であることには間違いない……。
 だが、悪への憎悪と力への執着が強すぎる……。
 どちらも加減を誤れば、破滅に繋がってしまう)

一つため息を漏らす圭一郎。

(しかし会ったばかりの俺がいくら説教したところで、心の奥底までは響かないだろう。
 少しずつ彼の意識を変えていくしかない。
 そして、生きて元の時代に帰す。それが俺の使命だ)

圭一郎に、叶えたい願いはない。
生前同じような戦いに参加させられたときは「世界平和」を願うつもりでいたが、
ヒーローとしての先輩から「それはみんなで作っていくもので、一人の願いで実現させていいものじゃない」と説教されてしまった。
ゆえに彼は、自分がこの聖杯戦争に呼ばれた理由がわからなかった。
だが、今ならわかる。
自分はあの危うい少年を守るために、この戦場に赴いたのだと。

(全力で彼を守る。死のうがサーヴァントになろうが、俺は警察官だ……!)

星空に、圭一郎は誓う。

『本当に変わらないねえ。まあがんばりなよ、圭ちゃん』

親友であり好敵手だった男の声が、どこからか聞こえた気がした。


251 : 三島栄次&シールダー ◆NIKUcB1AGw :2021/06/03(木) 23:13:11 /w/pXwRs0

【クラス】シールダー
【真名】朝加圭一郎
【出典】快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー
【性別】男
【属性】秩序・善

【パラメーター】筋力:C 耐久:B 敏捷:E 魔力:E 幸運:C 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Dランクでは、一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。
「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
Bランクでは大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

【保有スキル】
スーパー戦隊:A
色とりどりの戦闘服に身を包み、地球を悪の手から守ってきた戦士たちの総称。
チームで戦うのを基本戦法とするがゆえに、他のサーヴァントと共闘する際、能力がわずかに上昇する。
また共闘する相手も同じスキルを持っていた場合、その効果は大幅に強化される。

戦闘続行:A
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。
猛毒を受け生死の境をさまよいながらも、戦線に復帰した逸話に由来する。

【宝具】
『我らは善良なる市民の盾(ケイサツチェンジ)』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:なし 最大捕捉:1人(自身)
後述のVSチェンジャーを用い、「パトレン1号」へと変身する。
変身後は、宝具以外のステータス全てが1ランク上昇する。

『気分屋の切り札(グッドストライカー)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:なし 最大捕捉:1人(自身)
おのれの意志を持つルパンコレクション、グッドストライカーを召喚。
さらにパトレン2号とパトレン3号を召喚し、「パトレンU号」へと合体変身する。
英霊を二人追加で召喚するため、魔力の消費は膨大。
さらにグッドストライカーが気まぐれであるため、「グッとくる場面」でなければ召喚を拒否されてしまうというデメリットが存在する。

【weapon】
「VSチェンジャー」
同一のものが複数存在するルパンコレクションであり、パトレンジャーとルパンレンジャーの共通装備。
変身に用いるアイテムであり、銃としての機能も持つ。

「パトメガボー」
変身時に装備される、警棒に変形するメガホン。
メガホンとして使うと催眠音波を発することができ、使い魔程度ならコントロールできる。

【人物背景】
国際特殊警察機構日本支部の戦力部隊「パトレンジャー」の隊員で、実質的なリーダー。
一見すると融通の利かない堅物に思えるが、実際には自分に厳しく他人に優しい柔軟な思考の持ち主である。
誰よりも平和を望み、市民を守るために悪と戦い続けた警察官の鑑。
盾を装備しない彼がシールダーとして召喚されたのは、彼の生き様そのものが弱き者の「盾」だったからである。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを生還させる


252 : 三島栄次&シールダー ◆NIKUcB1AGw :2021/06/03(木) 23:14:37 /w/pXwRs0


【マスター】三島栄次
【出典】るろうに剣心 北海道編
【性別】男

【マスターとしての願い】
悪人に願いを叶えさせない

【weapon】
銃の扱いを習得しているが、この世界には持ち込めていない

【能力・技能】
上述の銃の扱いを始め、軍人に必要な技能は一通り習得している

【人物背景】
志々雄真実に支配された新月村で育った少年。
兄が警視庁の密偵だったために家族を皆殺しにされ、復讐を誓うものの剣心の説得で思いとどまる。
その後は斎藤一によって彼の妻の実家に預けられ、数年後に軍へ入隊。
北海道で剣客兵器が起こした事件に派遣され、斎藤や剣心と再会を果たすことになる。
一度は復讐を捨てたものの内心には弱者を虐げる「悪」への憎悪が渦巻いており、
たどる道によっては修羅に堕ちかねない危うい状態となっている。
参戦時期は斎藤と凍座の戦いに立ち会ってから、剣心が北海道に到着するまでの間。

【方針】
積極的に戦うつもりはないが、悪人には容赦しない


253 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/03(木) 23:15:52 /w/pXwRs0
投下終了です


254 : ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/03(木) 23:58:45 cAWT68qE0
投下します。天国聖杯に投下したものからの流用となります


255 : 夢の途中 ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/04(金) 00:00:20 eus5/.gE0


夢を見ていた。夢の中の『オレ』は、傷だらけの身体で、砂漠のど真ん中で独りポツンと椅子に座っていた。

『オレ』の後ろには沢山の墓標が突き立てられていた。

墓標に刻まれた名前は全部同じだった。その全てがエレナだった。胸が苦しくなった。

そのたくさんの『エレナ』の死には『オレ』が関わっているのは馬鹿な俺でも解る。けれど、そのどれもが丁寧に手入れされていて。

その墓の一つ一つに、たとえ一人でも絶対に忘れられないほどの後悔や悲しみが詰まっているのも解る。

誰も近づけず。誰にも近付かず。

『オレ』はその墓を背にただただ真っ直ぐに眺めていた。

その先にいたのはエレナだった。

エレナは笑っていた。ガドヴェドや今まで関わってきたやつらに囲まれて。楽しそうに、幸せそうに過ごしていた。

『オレ』は、その光景を愛おしそうにただただ見守っていた。エレナが気付く素振りすら見せなくても、雨の日も、風の日も、雪の日も。『オレ』はエレナが幸せそうに過ごしているだけでも満足しているようだった。

やがてエレナは、俺じゃない素敵な男と寄り添って、子供が生まれて、子育てを頑張りながら仕事で疲れた旦那の帰りを待って。

いつかはその子供も大人になって、エレナたちにはだいぶ白髪と皺が出来ていて。旦那が逝くのを見届けたエレナが、しばらくしたら沢山の奴等に囲まれて。

そして最期はベッドの上で、大勢の奴等に悼まれながら、幸せそうに笑顔で瞼を閉じた。

その笑顔が、エレナをずっと見守っていた『オレ』に1度たりとも向けられることはなかったことに、少し胸がチクリと痛んだが、あいつが誰かに殺されるよりはだいぶマシだった。

『オレ』は小さく呟いた。「生きていてくれてよかった」と。それだけ口にすると、『オレ』は椅子から立ち上がり、後ろにあった墓たちに寄り添うように眠りについた。

『オレ』の姿を見て、俺は―――


256 : 夢の途中 ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/04(金) 00:00:55 eus5/.gE0


夢を見ていた。夢の中の『わたし』は、巨大な何かと対峙していた。

『わたし』は、その巨大ななにかの光り輝く手を差し伸べられていた。

巨大ななにかは語りかけてきた。これをとれば、『わたし』が憎む巨大ななにかは消えうせ、かつて失ったものを取り戻せると。

なんと甘美な響きだろう。

けれど、『わたし』は全力で振り払った。滾る憎悪を露にし、力強く言い放った。

まどかは死んだ。私からまどかの死を奪うな。死んだ者は絶対に戻らないと。

『わたし』は徹頭徹尾、まどかとの絆に殉じていたのだ。短くはあったが、彼女と共に笑顔を、幸せを分かち合ったあの日々を。

たとえどれだけ傷つこうとも、挫けようとも、折れかけようとも。『わたし』はまどかとの絆を確かに信じていた。

まどかを殺したなにかを倒した『わたし』は、その後は特に大きなことをするわけでもなく余生を過ごしていた。

ここまで付き合ってくれた人たちとそこそこに顔を合わせ、けれどそのだれもをまどかの代わりに置こうだなんて考えず。

ぽっかりと空いた空白を抱えながら、ぶらぶらと歩き渡り、やがてはまどかの墓の前に居座って瞼を閉じた。

死の際に、向こうで待ってるまどかに『お疲れ様』とでも声をかけられたかのように穏やかな顔だった。

幸せの絶頂はありえなかったにせよ、きっと『わたし』はそれなりに満足していることだろう。

『わたし』のその姿を見て、私は―――






―――チリン


257 : 夢の途中 ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/04(金) 00:01:36 eus5/.gE0



「もう一度確認するわね」

とある民家に二人の男女が向き合い座っていた。
タキシードに身を包んだ男の方はヴァン。名字などない。ただのヴァンだ。
学生服に身を包んだ少女の方は暁美ほむら。一見ではただの少女だが、その実は魔法少女。奇跡のために戦いに身を捧げた存在である。
その年齢もそこそこに離れた二人は、見様によっては兄妹にでも見えるかもしれない。
無理はない。なんせ二人の目はソックリ。両者とも死んだ目をしており、更には無愛想。
しかし、彼らは兄妹などではないし、互いの名前も知ったばかり。家族とは程遠い間柄である。
では、赤の他人であるこの二人はなにをしているのだろう。
ナンパ。待ち合わせ。援助交際。どれも違う。


「私はサーヴァントで、あなたは私のマスター...ここまではいいわね」
「ああ」

ヴァンの前に並べられるのは出来合いのハンバーグ。その脇に並べられるのはマヨネーズ、ケチャップ、ソース、ワサビ、辛子、バニラエッセンス...とにかく大量の調味料だ。
どれをつけてもいいように手元においてあるのだろうか。

まず手を伸ばしたのはケチャップだ。焦げ目のついた肉が瞬く間に赤に染まっていく。

「私たちは、これから他のマスターやサーヴァントと戦い倒さなければならない。サーヴァントはおおまかにセイバー、ランサー、キャスター、アーチャー、ライダー、バーサーカー、アサシンなどの種類に分かれていて、そこからある程度の戦闘スタイルを予測することができる」
「そうか」

空になったケチャップの容器を脇に寄せ、次いでマヨネーズに手を伸ばす。
真赤だったハンバーグの色に黄が混じり次第に変色していく。
空になった容器をケチャップ同様脇に寄せ、今度はソースに手を伸ばす。

「その目的は、願いを叶える聖杯を手に入れること。これを手に入れれば、私たちは願いを叶えることが出来る」
「......」

ソースを出し終えた辺りで面倒になったのか、ヴァンは両の指に容器を挟み一気にハンバーグにぶちまける。
マスタード、辛子、タル○ルソース、和風ドレッシング、ごまドレッシング、エ○ラ焼き肉のタレ。
それらがぶちまけられたハンバーグは、そもそもハンバーグなのか怪しい様相を醸し出していく。
空になった容器を脇に寄せ、今度は醤油、ポッ○レモン、ワサビ、生しょうが、おろしにんにくを投下。
目の前で繰り広げられる悪魔の所業に思わずほむらは口元を押さえた。
いったいハンバーグになんの恨みがあるのか。そう問いただしたくなる衝動を抑え、ほむらは話を続ける。

「そのため、私たちは協力してこの戦いを勝ち残らなくてはならない...これでわかったかしら」
「まあ、半分くらいは」
「...とにかく、私たちは協力しなければならない。それだけは覚えておいて」

容器が空になったところで、トドメといわんばかりにバニラエッセンスと粉チーズをキリキリと振り掛ける。
それらもかけ終えたところでハンバーグだったものは改めてその異様さを醸し出した。
赤と黄と無色の油と緑と肌色と黒と...とにかくしっちゃかめっちゃかに混ぜられた調味料たちは見るも無残な毒沼に変貌していた。
もはや異臭を放っているレベルである。

「...本当に食べるの?」
「やらねえぞ。これは俺のもんだ」
「いらないわよ」

ナイフで調味料の山をかき分け肉を切り分ける。
フォークで口に運ばれる変色しきったソレを見るだけでほむらは胸焼けしてしまう。
それを口に含んだヴァンは目を見開きひとこと。

「からあああああああああぁぁぁぁぁい!!!!」

当然の叫びである。


258 : 夢の途中 ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/04(金) 00:02:22 eus5/.gE0

眼前の馬鹿を放っておきつつ、ほむらは自分の食事にとりかかる。
サーヴァントであるため、食事を取らなくても生きてはいけるが、少しでも魔力を温存するためだ。
彼女の食事はなんとも味気ないもので、スティック状の菓子が数本。つまりカロリーメイ○だけだ。

「そんだけでいいのか」
「食事なんてエネルギーが取れればそれでいいもの」
「そうか」

極限まで味を求める男は変色した肉を口に運び、味など求めない少女は簡素な食事を続ける。
食物を咀嚼する音のみが支配する食卓。ただ食事を堪能しているだけならいいのだが、何故か二人の間には第三者からみれば重苦しい沈黙すら漂っている。
だが、二人は空気を変えようだとか話題を探そうだとか、相手に気を遣う素振りなど一切見せない。
むしろ黙っている間は互いの声を聞く必要もないのでむしろマシだった。
ただ、最低限の意思疎通は必要だし、下手に離れる訳にもいかない。
そのため、否が応でも互いに目の届く範囲にいなければならないだけだ。


「......」

食事を続けながらヴァンは思う。
気に入らない。現状も、ここに連れてこられたことも、いまの彼をとりまくなにもかもだ。
ここに連れてこられる前―――あのパリカールとかいうロバの背で眠っていたら、いつの間にかここへ飛ばされていた。
カギ爪の男への道を邪魔されたというのだからそれだけでも憤慨ものなのだが、それ以上に気に入らなかったのは、最愛の妻であるエレナの記憶を穢されたことだ。
記憶上、ヴァンはこの都市で欲望のままに暮らしていた。
気に入らないことがあれば大抵は暴力に訴え、腹が減れば金を奪うことすらあった。
エレナやガドヴェドから教わったことを全て忘れて、だ。
お蔭で彼らと出会う前の金と暴力のままに生きたあの時を過ごした記憶がこびりついて離れなくなってしまった。
許せない。許せるはずもない。
セイハイだかなんだか知らないが、勝手に他人様の記憶を弄り、愛しのエレナを一時でも忘れ去らせるなどその時点で殺意が湧いてくる。
故に、ヴァンの方針はここから脱出しもとの場所へと帰ること、そして旅の邪魔をしたセイハイをぶった斬ることに自然と定まっていた。


「......」
食事を続けながら暁美ほむらは思う。
己の目的は円環の理からまどかの人間での部分を引き離すことである。
生前―――円環の理に導かれる寸前のこと。
暁美ほむらは、唯一彼女へと干渉できるそのチャンスを逃さなかった。
彼女に触れられる前に、逆に彼女を掴みまどかを引きはがす。本来の魔法少女ではできないことだ。
だが、暁美ほむらにはこれまで積み重ねてきた因果、なにより『救済を否定する意思』があった。
その僅かなアドバンテージに賭け、微かな可能性を掴み目的を達成した―――はずだった。

彼女にはそれ以降の記憶がない。無いが、粗方の事情は自身で察することが出来ていた。

自分は失敗したのだろう。結局、円環の理と鹿目まどかを引きはがすことはできずに。
なにがいけなかったか―――いや、なにがいけなかった、というわけではない。
ネットに弾かれたテニスボールはどちらに落ちるかわからない―――つまり、単純に賭けに負けたのだ。
そして、神の救いを拒んだ代償がただの失敗で終わる筈も無し。
ソウルジェムが変質し、もはや魔法少女でなくなった彼女は円環の理の救済を受けることができない。
彼女がいきついた結果は、希望も絶望も無いただの虚無。つまり死だ。
最早誰からも救われず、救うこともできず。なにも掴めぬままに命を散らした。
大方、そんなところだろうと彼女は推測していた。

だからこうして未練がましく英霊として復活し、聖杯戦争にも参加することが出来ている。

これもまたインキュベーターの小細工かとも思ったが、そこで考えるのをやめた。
再びチャンスが巡ってきたというのなら、それを存分に利用し願いを叶えるだけ。
例えその道が自らの救いにならずともだ。
彼女は、聖杯を手にするため如何なる手段をも行使することに決めた。


259 : 夢の途中 ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/04(金) 00:03:12 eus5/.gE0

食事に味のみを求める男、食事に最低限の栄養のみを求める女。
聖杯を殺す男、聖杯を狙う女。
刀を武器にする男、銃を武器にする女。
一見にして正反対の彼らだが、共有する思いはある。

―――この眼前の女【男】は気に入らない。

いまの二人はその理由を知る由がない。
当然だ。両者ともロクに互いの情報を交換していないのだから。
だが、もしも彼らがより多くの言葉を交わせばその嫌悪はより強固なものとなるだろう。



男は一人の女を愛した。ずっと独りぼっちだった男は、彼女の優しさに触れ、共に幸せになりたいと願った。

女は一人の少女を愛した。ずっと独りぼっちだった女は、彼女の優しさに触れ、共に幸せになりたいと願った。

原点は同じ。そして、その愛した者を理不尽に殺され奪われたのも同じ。

だが、彼らは決定的に道を違えた。

男は仇を討つために旅に出た。誰のためでもない。他ならぬ自分自身のために。

女は少女を救うための旅に出た。他でもない。ただただ少女を救うために。

男はただ一人しか愛せなかった。例え愛した女と寸分違わぬ者と出会える可能性があろうとも、彼はそれを断固として否定した。
彼と過ごした女は、二度と触れることのできないところへ行ってしまったのだから。

女はただ一人を愛する訳にはいかなかった。例え己を知らぬとしても、疎むとしても。
目の前にいるのが、愛した少女ではないただの偶像だとしても。愛した少女と同じ者であれば―――『鹿目まどか』であれば見捨てることなどできなかったから。

彼らにはそれが許せない。

どのツラさげてエレナとの愛を裏切るつもりだ/まどかとの約束を守ると息巻いてなにを自己満足しているの。

そうやってエレナの死を消して、あいつのためだとカッコつけてあの時の俺に目を背けるのか/そうやってまどかに許してもらってあの時の私に目を背けるのか。

―――それができれば、どれほど幸せだったことか。


もしも彼が彼女のように愛した者の幸福に殉ずることができれば/もしも彼女が彼のように愛した者との絆に殉ずることができれば。
ヴァンはエレナの救世主になれただろう/暁美ほむらは鹿目まどかを裏切ることなく真の絆を結べただろう。

エレナを決して裏切らないヴァン。まどかを裏切ってでも彼女の幸福を願う暁美ほむら。

彼らはお互いの弱(つよ)さが疎ましい。

故に、互いの選べなかった道へ向かう彼らがひどく羨ましかった。

そんな互いに秘めた想いなど露知らず。

互いが見た夢の正体も知らず。

彼らは黙々と食事を続けるのだった。


260 : 夢の途中 ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/04(金) 00:03:52 eus5/.gE0

これは、愛に生きた者たちの物語。

一人の少女は、愛する者のために地獄へと赴いた。

一人の男は、愛する者のために叩き落された地獄を耐え抜いてきた。

彼らの旅は多くの人々の未来を変え、時には奪い、奪われてきた。

どんな旅もいつかは終わる。

人は、その終わりにどこへ辿りつくのか

見捨てられた流刑地。

希望と絶望が渦巻く宇宙の再生地点。

惑星・エンドレスイリュージョンはそんな星。

所詮、宇宙の吹き溜まり。







【クラス】アヴェンジャー

【真名】暁美ほむら

【出典作品】魔法少女まどか☆マギカ 叛逆の物語

【ステータス】
筋力C 魔力B 耐久D 幸運E 敏捷C 宝具:B



【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】

復讐者:A
まどかを苦しめる運命への復讐心。彼女を脅かす運命や使命などこの手で壊してやる。


忘却補正:A
忘れない。決して彼女(まどか)を忘れたくない。


自己回復:C
魔法少女であるため、魔力がある限りは身体の修復は可能だが、回復速度はあまり速くない。



【保有スキル】

対英雄:EX
英雄を相手にした際、そのパラーメーターをダウンさせる。
反英雄や怪物など、一般的な“英雄崇拝”から外れた存在であるほど影響を受けない。

奇蹟:B
時に不可能を可能とする奇蹟。固有スキル。
星の開拓者スキルに似た部分があるものの、本質的に異なるものである。適用される物事についても異なっている。

精神異常:E
鹿目まどかに対する異常なまでの執着。他の精神干渉系の魔術を極稀にシャットアウトする。




【宝具】
『魔法:時間停止』
ランク:B 種別:対人宝具(自分) レンジ:1 最大補足:己と己が触れたもの。
魔力を消費し文字通り己以外の時間を止める。その中で動けるのは、ほむら自身と彼女があらかじめ触れていたものに限る。

『魔法少女の絶望』
ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:1〜50 最大補足:30人
魔力を大幅に消費し魔女の結界を張る。結界内は使用者の思うままに操れるが、取込まれた者の動きを制限する力はないため、単純な拘束にはあまり向いていない。


『漆黒の翼』
ランク:A 種別:対人宝具(自分) レンジ:1 最大補足:己と翼が触れたもの。
己の因果と背負ってきた呪いの詰められた禍々しい翼。基本的に発動はできない。魔力もほとんど尽き、打つ手が無くなった時に限り偶発的に発動できる。
翼そのものに大した威力はないが、その因果と呪いを受けた者にはなにかが訪れるだろう。※個人差はある。



【weapon】
・ベレッタ
拳銃。魔力を込めることで弾の威力が増す。

・その他銃火器。
機関銃や対空ミサイル、タンクローリーなど種類は様々。どう見ても物騒な現代武器ばかりだが彼女はれっきとした魔法少女である。


261 : 夢の途中 ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/04(金) 00:07:23 eus5/.gE0


【人物背景】
魔法少女。ファンからの愛称はほむほむ。貧乳。
本来の時間軸では病弱で内気なメガネ少女だったが、魔女に襲われた所を魔法少女の鹿目まどかと巴マミに助けられる。
その後ワルプルギスの夜戦にてまどかが死亡し、「まどかとの出会いをやり直したい、彼女に守られる私じゃなくて、彼女を守れる私になりたい」と願い魔法少女として契約を交わす。
手にした願いは時間跳躍(タイムリープ)。
以降、まどかやその周囲を救うために奔走するが、様々な苦難や絶望を経験した結果、まどか以外のすべてを諦めるしかないと答えを出し、冷徹な言動しか吐けなくなった。
しかし、なんやかんやで未だに他の者も気にかけている辺りやはり根は甘ちゃんである。
本編最終話でワルプルギスの夜に敗北。絶望しかけたところで、まどかが叶えた「全ての時間軸から魔女を消す」という願いにより、円環の理という概念となったまどかのいない時間軸を過ごす。
もう時間を戻せなくなった世界で巴マミや佐倉杏子と共に魔法少女としての戦いの日々に明けくれるが、インキュベーダーの実験により半魔女化。
結果、マミや杏子ら身近な人物や円環の理であるまどかを巻き込んでの大事件を起こす。
自らが作りだした結界の中で、まどかの本音ともとれる言葉を聞いてしまい―――。



余談だが、彼女にはほむほむ以外にも作中とファンを問わず色々とあだ名が多い。
以下は暁美ほむらのあだ名一覧である。
メガほむ、転校生、イレギュラー、サイコな電波、ホマンドー、クーほむ、リボほむ、変態ほむらさん、戦場ヶ原ほむら、たむら、悪魔ほむら、クレイジーサイコレズ。



【方針】
聖杯を手に入れるために戦う。


【聖杯にかける願い】
円環の理からまどかの人間部分を引きはがす。

【マスター名】ヴァン
【出典作品】ガン×ソード
【性別】男

【weapon】
・蛮刀
一見すると銃のようだが、抜くと長い布状になり、さらに硬化して蛮刀になる。その特殊な性質もまたG-ER流体のなせる業である。
ヴァンの意思によって、無数の穴が剣の表面に開き、その状態で刀をV字型に振りかざすことで発せられる高周波により、オリジナルセブン「ダン・オブ・サーズデイ」を衛星軌道上から召喚する。
また、ダンに搭乗後にはコクピットの床に突き刺し、ヴァンのタキシードの右手首のカバーで固定することでヴァンの思考とダンの動きをリンクさせる思考制御ツールになる。

この聖杯戦争では、ダンを直接呼ぶことはできない。が、もしかしたら会場のどこかに隠されている可能性が...?

【ロール】
ほぼ無職。なんか街中で色々と異名が飛び交ってるらしい


262 : 夢の途中 ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/04(金) 00:08:29 eus5/.gE0

【人物背景】
『ガン×ソード』の主人公。ファンからの愛称は童帝。
両親を知らずに育ち、金と力だけで生きてきた無法者。童貞。
途中、居着いた町でオリジナル7の一機〈ダン・オブ・サーズデイ〉のテストパイロットに選ばれる。
そこでダンの調整を行っていたエレナという女性に生まれて初めて“優しさ”を与えられ、恋に落ちた。
エレナとは相思相愛となるが、結婚式の当日に恩師ガドヴェドが呼んでいた『カギ爪の男』の手によりエレナと共に重傷を負ってしまう。
延命の為に瀕死のエレナとガドヴェドにより改造を施され〈オリジナル〉となって生き長らえ、同時にダンの正式なパイロットとなる。 しかし手術後にエレナは死亡。
それ以降エレナを殺した(厳密には重傷を負わせたたが)『カギ爪の男』を殺すために旅を始めた。
エレナ以外の女性に興味が無い為に女性の名前を覚えるのが苦手で、 旧知の仲の女性すら覚えられないほど。
しかし「面白い奴」は例外で、女性的には興味はないものの、その面白い部分を認めてあっさりと覚えられることもある。
逆に言えば、女性として見ていない者の名前なら覚えられる...ということかもしれない。


かなり腕が立ち、そこかしこで暴れているらしく(自分から暴れることはほとんどないが、巻き込まれたり仕事たりするため)通り名を持っている。
...が、ころころ変わるため数がかなり多い。
基本的に『○○のヴァン』という形式だが派生形も多く、当人はその中で比較的新しく、かつ何となく気に入ったものを名乗る。
以下は『ガン×ソード』作中でのヴァンの通り名一覧である。
無職、食い逃げ、地獄の泣き虫、寝場所を選ばない男、夜明け、二日酔い、鋼鉄、縁の下の力任せ、いい人、悪魔の毒毒タキシード、掃き溜めのプリティ、だめ

非情に味覚オンチであり、食事にはいつも大量の調味料をかける。

実際に食べてみると案外いける...が、そのあとは保証できないので実食には注意しよう。
※実食する際には水分とトイレの確保をお忘れなく。
また、食べ物を粗末にしてはいけません。作った調味料は責任を持って使い切りましょう。


【能力・技能】


・身体能力
高い方。また、我流の剣術も使える。

・改造人間
死の淵に立たされたヴァンを生かすために改造を施された。それによりダンと遠隔接続され、生命と体調が衛星システムによって維持される体になってしまったが、その恩恵として弾丸を撃ちこまれた程度では死なない身体になっている。



【方針】
さっさと帰る。セイハイとかいうやつも叩き斬る。帰るのを邪魔する奴は状況次第では容赦しない。
※聖杯戦争について基本的なルールを植え付けられましたが本当に基本的なことくらいしか理解していません。興味もないため覚えるつもりもないでしょう。

【聖杯にかける願い】

カギ爪は俺が殺さなきゃ意味ねえだろ

※参戦時期は17話以降です


263 : ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/04(金) 00:09:04 eus5/.gE0
投下終了です


264 : ◆9jmMgvUz7o :2021/06/04(金) 18:49:10 xAE/9Mz.0
投下します


265 : ◆9jmMgvUz7o :2021/06/04(金) 18:49:36 xAE/9Mz.0
投下します


266 : 足立透&ダークネス ◆9jmMgvUz7o :2021/06/04(金) 18:50:30 xAE/9Mz.0
「で、キミは何のサーヴァントなわけ?」

足立透は眼前に現れた異形の存在へと語り掛けた。

「我が名はダークネス」
「クラス名ってこと? 七つしかないんじゃ……エクストラ何とかってことか」

ダークネスと名乗るその存在は、見るからに人知を逸脱した姿をしていた。
サーヴァントと呼ばれる英霊達は基本的には歴史の偉人のようなもの。
足立の中では、織田信長とか武田信玄とかむさいおっさん達が鎧を着てやってくるというイメージであった。

だが、ダークネスは違った。

まず人ではない。
本来生物として存在するはずの皮がなく、その黒のローブの下に広がるのは朽ち果てた生の果てたるおびたたしい白骨だ。
骨が皮も肉もなく、自立しているのだ。英霊であってもイレギュラーな存在だと理解させられる。
更にその顔貌も人のそれではなく、山羊のような頭蓋骨である。
背中から広がる羽も相まって、まさしく悪魔と呼ぶほかない。

「然り、我はエクストラクラス―――ダークネスとのサーヴァントして現界した」
「名前ってのは、一応聞いていい? クラス名じゃなく真名ってやつ」
「ダークネス……我の名もまたダークネスだ」
「は?」

足立は聖杯戦争における知識は既に与えられていた。
故に、その真名の重要さもある程度は理解していたつもりだった。その英霊が生前如何な死を遂げたか、名を知られればその死因が弱点して知られてしまうからだ。

(クラス名が真名と直結とか、弱点ただ漏れじゃねえか?)

だが目の前のこいつは今何と言ったか? そうクラス名が、そのまま真名だと抜かしたのだ。

「我は一にして一にならず。
 我は宇宙の暗黒面そのもの、人の心の闇を写すものと存在と言ってもいい。界聖杯の内包する可能性、それは希望や光のみにならず、また絶望や闇も必ず存在する。
 故に我が呼ばれたのだ。人々の中に必ずやある闇の可能性として、それが我がダークネスのクラスだ。分かりやすく言えば神だ」

「神って……」

人の持つ心の闇の可能性。足立にとってそれは嫌程理解出来る事だ。


267 : 足立透&ダークネス ◆9jmMgvUz7o :2021/06/04(金) 18:50:56 xAE/9Mz.0

「……つまり、世の中クソだからアンタはここに呼ばれたって事?」

「然り、人間はとうの昔に疲れ切っているのだ。止まらぬ異常気象、止まらぬ天変地異、止まらぬパンデミック、壊れた人間達が起こす異常な事件の数々。
 足立透よ。汝も分かっているのだろう? 見えない明日の中に可能性を探す事、本当は人間がそれを望まぬことに。偽りの霧のなかで安寧を求むことに」

「……クク」

怖いくらいにまで話が分かると足立は思った。
こいつの言う通りだ。世の中はこれ以上ない程にクソで下らない。
だというのに、全員自分を偽り続けている。足立は
そんなもの望んでいるのは、どこぞの探偵気取りのガキどもだけだ。それもまだ世の中を知らないから希望などを持てているだけに過ぎない。

いずれあのガキどもだってこんな世界に絶望するのだ。

「汝、闇の絶望を語り禍を継ぎし者よ。我が汝の元へ召喚されたことも必然なり……人々をシャドウへと変えるその望み、それは人間の持つ願望そのもの。
 我も汝のその力も水が高きから低きに流れるようなもの、いわば起こり得るべくして起きた現象なのだ」

「なるほどねえ……僕の事もお見通しって事か、流石神様ってとこ?」

足立の全人類をシャドウに変えるという野心も、そして足立が禍(ペルソナ)を持つことも全てをダークネスは言い当てていた。

「我に野心はない。ただ人間の望みを叶えるのみ。
 絶望のない。ただ虚無の世界へと全人類を同化させる」

英霊と呼ぶほどだ。むしろ、世界は希望に溢れてるだの反吐が出るような相手だとばかり考えていたが、その逆だ。
これほど足立透という男に適したサーヴァントは居ない。

「アハハッ! そいつはいいや……じゃあさ、僕も一枚噛んでやるよ。
 どうせ全員シャドウにする気だったんだ。虚無だろうが大して変わらないよね」

禍の愚者は嗤う。

(神様だっていう位だし、多分これは大当たりだよね)

それを漆黒の闇はただ静かに見つめていた。


268 : 足立透&ダークネス ◆9jmMgvUz7o :2021/06/04(金) 18:51:54 xAE/9Mz.0
【クラス】
ダークネス

【真名】
ダークネス@遊戯王デュエルモンスターズGX

【ステータス】
 筋力A+ 耐久A+ 敏捷A+ 魔力EX 幸運E 宝具EX

【属性】
 混沌・善

【クラススキル】

心の闇:B
人が誰もが持つ過去の負い目、将来への不安など心の闇を看過し、的確な精神攻撃を与えるスキル。
強靭な精神力か対魔力:B以上で無効化出来る。

【保有スキル】

対魔力:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、魔術ではダークネスに傷をつけられない。

決闘者:EX
戦闘行為をデュエルモンスターズというカードゲーム、つまりデュエルで代用することが可能になる。
これが発動すれば、例え戦闘力で劣る人間であってもサーヴァントを打倒しうる。
ダークネスはデュエルがあまり強くないので、彼がデュエルするとほぼ高確率で聖杯戦争から敗退する。

発動秘匿:A
本来宝具の発動に必要な真名開放を行わず、宝具をこっそり発動できる。
元々、デュエルは自身のカードの発動と効果を相手に説明しなければならないのだが、ダークネスはそれを行わずこっそり効果を使った逸話がスキルに昇華したもの。

神性:E
ダークネスの正体は宇宙が一枚のカードから生まれた時のカードの裏側。
12次元の宇宙の暗黒面そのものという正真正銘の神である。
しかし、前述の発動秘匿の逸話に際し、対戦相手にセコい神様と呼ばれた為にランクが凄まじくダウンしてしまった。


269 : 足立透&ダークネス ◆9jmMgvUz7o :2021/06/04(金) 18:52:49 xAE/9Mz.0
【宝具】
『虚無と無限の世界(ダークネス)』
ランク:EX 対人宝具 レンジ:1〜6 最大捕捉:3
ダークネスが使用するカードが宝具化したもの。
固有結界を展開し、以下のカードを裏側でランダムに五枚並べ、一枚を表にしてその効果を適用する。

『虚無(ゼロ)』
「無限」が表になっていない場合、もう一枚カードを表にする。
「無限」が表の場合、虚無と無限の間にある全てのカードを表にする。

『無限(インフニティ)』
「虚無」が表になっていない場合、もう一枚カードを表にする。
「虚無」が表の場合、虚無と無限の間にある全てのカードを表にする。

『ダークネス1』
「虚無」と「無限」が表の時にこのカードが最初に表になった場合、相手の礼装を破壊する。
ダークネス2とダークネス3が表になるたび一つずつ礼装を破壊出来る。

『ダークネス2』
「虚無」と「無限」が表の時にこのカードが最初に表になった場合、ダークネスかまたはマスターの筋力、耐久、敏捷を一瞬だけ1ランク上げる
ダークネス1とダークネス3が表になるたび更に1ランク上げる。

『ダークネス3』
「虚無」と「無限」が表の時にこのカードが最初に表になった場合、相手のサーヴァントかマスターの筋力、耐久、敏捷を一瞬だけ1ランク下げる。
ダークネス2とダークネス3が表になるたび更に1ランク下げる。

つまり、実質複数の効果の中から一つをランダムに発動する(最初に表になったカードのみ使えるので重複はしない)。
当然ながらランダムなので、発動できない可能性も高いというリスクを抱える。(例えば最初に表にしたのがダークネス1なら効果を発動できず、宝具は不発に終わる)
しかも、デメリットとしてこれらのカードを一枚でも除去すれば、他のカードも全て破壊されてしまう。

破魔の紅薔薇なんかで突かれると大変な事になる。


『隠蔽されし闇の眼(ダークネス・アイ)』
ランク:E 対界宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
一つ目の怪物、ダークネスの使役する魔物が宝具に昇華したもの。
「無限と虚無の世界」のサーポート宝具でもあり、ランダムにセットされた五枚のカードを確認することが可能。
発動秘匿と合わせれば真名開放を行わず、効果を使用できるので相手に「何故ランダムのカードを視認せず、その場所を把握できるんだ?」と揺さぶりも掛けられる。
ただ、こいつ自体はさほど高い戦闘力を持たず、元のゲームに於いて攻撃力0という点を昇華され、神秘のない人間でも殴り殺せる。
あと効果発動時にグリグリ目玉が動くので、察しが良ければすぐに気付く。

『真実を語る者(トゥルーマン)』
ランク:A 対界宝具 レンジ:??? 最大補足:???
ダークネスの分身たるMrTを召喚する。
更にそのMrTを、人の心の闇を幻覚として対象に見せ付けることが出来る。
仮に相手が心の闇を持たないとしても、新たにトラウマなどを捏造しあたかもその人物の心の闇だと記憶を改変させることも可能。
対魔力A以上か、海馬瀬人のような狂人なら回避可能。

【weapon】
羽。
デュエルディスクになるので、デュエルを挑まれればこれを使う。

【人物背景】
宇宙が一枚のカードから生まれた時のカードの裏側。
遊戯王GX本編にて、世界を虚無の世界へと変えようと暗躍し全人類を滅ぼす直前にまで追い込んだが、主人公である遊城十代と対峙しデュエルに敗れ消滅した。
本来は神でもあり、そして人の心の闇が増幅したことによって発生した自然現象そのものでもある為、サーヴァントとして召喚されることはありえないが、界聖杯の内包される人間の持つ心の闇の可能性としてダークネスのエクストラクラスとして降臨する。

【サーヴァントとしての願い】
全人類を虚無の世界へと引き摺り込む。


270 : 足立透&ダークネス ◆9jmMgvUz7o :2021/06/04(金) 18:53:12 xAE/9Mz.0
【マスター】
足立透@PERSONA4 the Animation

【マスターとしての願い】
全人類をシャドウにする。

【weapon】
特になし

【能力・技能】
自身のペルソナであるマガツイザナギを使役する。
本来はテレビの世界でないと使用できないが、この界聖杯内界では使用可能。

【人物背景】
PERSONA4にて鳴上悠達が追いかける連続殺人の真犯人。
一見して、頼りない刑事のようで非常に頭が切れるものの人格に問題のある人物である。

【方針】
ダークネスと共に優勝狙い。


271 : ◆9jmMgvUz7o :2021/06/04(金) 18:53:33 xAE/9Mz.0
投下終了です


272 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/04(金) 20:36:18 YqOYd77Q0
>>この先は何が待ってるのだろう
キャラクターの心情を巧みに描写した作品だなあという感想でした。
過去の追想などもコンパクトながら非常に分かりやすく、読んでいて情報がするする頭に入ってきました。
人の枠に収まる甘さと、しかし必要ならばそれを捨てることも厭わない二人の主従。
このねじ曲がった運命の中で前に進もうとする彼女たちの姿勢が読み応えありました。

>>三島栄次&シールダー
コンパクトに纏まっていて読みやすく、それでいて情報量が十分な一作でした。
主従間の関係は見るからに良好といった感じで、まさに王道の組み合わせとなってくれそうですね。
マスターの危うさをしっかり認識してカバーしてくれるサーヴァント、実際当たり。
三島だけが残されてしまうようなことになると大変そうなので、そこのところも含めて注目ですね。

>>夢の途中
しっとりとした、どこか夢の中の絵図を見ているような気分になるモノローグが印象的でした。
文の間に改行が入っているのも雰囲気を出す上で良く作用していて、この演出勉強になるな〜と素直にそう思いました。
一見ドライながらも円滑なバディに見えるのに、双方共に内心では相手の一部を疎ましく思っているという構図、いいですね。
愛のために地獄道を進み続けた彼ら彼女らだからこそのソリッドさがあって、とても素敵でした。

>>足立透&ダークネス
>ダークネスはデュエルがあまり強くないので、彼がデュエルするとほぼ高確率で聖杯戦争から敗退する。 へ、ヘイトスピーチ……
カードをこっそり発動することを開き直るな! ちゃんと宣言しろ!! ジャッジ呼ぶぞ!!
まあただこういうポンコツなところを用意しておかないとマジでヤバい存在過ぎるんですけどねこいつ。
足立というマスターのキャラクター性や背景なんかともマッチしていて、意外と相性いいな……と思って読んでました。


皆さん今日もたくさんの投下ありがとうございます! 毎日ニコニコです
それでは私も投下します。


273 : 仁科鳥子&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/04(金) 20:37:12 YqOYd77Q0

 はむ、はむっ、と。
 そんな牧歌的で可愛らしい擬音が聞こえてきそうな絵面が、仁科鳥子の対面で繰り広げられていた。

 金髪の少女だった。
 鳥子もまた金髪で、しかも通りかかった外人が思わず目を止め立ち止まってしまうほどの美人だったが、彼女はあくまでも海外育ちの日本人である。
 だから顔立ちも東洋人のそれなのだったが、彼女の対面で幸せそうにパンケーキを頬張っている少女は違う。
 まるで人形のように精微で可憐な容貌をした、外国人の少女。
 二人は外国人と日本人だから姉妹には見えないが、しかして美女と美少女が向かい合ってお洒落なスイーツに舌鼓を打っている様はやはり絵になる。
 事実、遠巻きではあるもののスマートフォンを向けて撮影をしているギャラリーの姿もあった。
 それほどまでに――鳥子と少女の座るテーブルには、華があった。

「美味しい? アビーちゃん」
「はむっ、んむっ――ごくん。
 ええ、とっても美味しいわ! 私の知ってるパンケーキとは少しテイストが違うけれど、これもとっても素敵よ!」
「なら良かった。この店、空……私の友達と前に来たことがあってね。まさか"こっち"にもあるとは思わなかったけど」

 鳥子はそう言って、おもむろに空を見やる。
 青空だ。でも、これはあくまで一般的な範疇に収まる程度の"青空"でしかない。
 あの、何処までも深く、気を抜けば吸い込まれてしまいそうな"青空"とはあまりにも縁遠い。
 鳥子にとっての異世界。もとい、裏世界。あの恐ろしくも不思議で魅力的な世界に比べれば、此処はあまりに平凡過ぎた。

「それも今の内だけなんだろうけど、ね……」
「マスター?」
「あ、ううん何でもない。ゆっくり食べよ、アビーちゃん」

 さりとて、この世界は決して平凡で退屈な場所などではない。
 今でこそこうして仮初めの平和を謳歌出来ているが、直にそれも終わるだろう。
 
 ――聖杯戦争。
 "界聖杯"と呼ばれる、曰く万能の願望器だという景品を巡って行われる血で血を洗う殺し合いの儀式。
 仁科鳥子が迷い込んだこの世界は、集めた器達に件の儀式を行わせるためだけに創生された模倣世界だ。
 裏世界ならぬ、異世界。見てくれこそ鳥子の生まれた世界と変わらないが、現実にはこうしている今も、水面下で数多のマスター達が争いを繰り広げている。

 事実、最近は不可解な事故や事件のニュースをよく聞く。
 聖杯戦争は着実に進み、本戦の開幕へと近付いているのだろう。
 自分たちがこうして穏やかに過ごせているのは、たまたま好戦的な主従に目をつけられていないだけ。
 いつまでこんな日常を続けられるのか。いつまで、戦わずに過ごしていけるのか。
 定かではないが――いつまでも戦争と向き合わずにいることは出来ないというのだけは、確かだった。

「(空魚、どうしてるかな……私が居なくなって、取り乱してくれてるかな。なんて)」

 鳥子には、大切な人が居る。
 ひょんな偶然で出会って、たくさんの危機を一緒に乗り越えて。
 危ないところを何度も助けてもらって、人生で初めてってくらい仲良くなって。
 いつしか鳥子は、その女に対して友情を超えた感情を向けるようになっていた。
 けれどそんな大切な相手、想い人とも……今は、離れ離れだ。


274 : 仁科鳥子&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/04(金) 20:37:46 YqOYd77Q0

「(まあ、でも……サーヴァントがこんないい子だったのは、せめてもの救いか)」

 そんな鳥子が呼び出したサーヴァントこそが、今彼女の目前でパンケーキを頬張っている少女である。
 真名を、アビゲイル。アビゲイル・ウィリアムズ。鳥子は、アビーと呼んでいる。
 鳥子はその快活な見た目とは裏腹に、あまり人付き合いの豊富な方ではなかったが。
 それでも、アビゲイルのことは"いい子"だと感じていた。
 品性があって、穏やかな性格で、少しでも物憂げな顔をすればまるで我が事のように自分を心配してくれる。

 大切な共犯者と会うことが出来ない今、アビゲイルの存在は間違いなく鳥子にとっての心の支えだった。

「ごちそうさまでした――とっても美味しかったわ。
 ありがとう、マスター。マスターはとっても優しくて、物知りなのね」
「あはは、そんなことないって。じゃ、そろそろ帰ろっか」

 そう言いつつ、アビゲイルの口元に付いた生クリームを紙ナプキンで拭ってやる。
 すると彼女は一瞬、恥ずかしそうに頬を染めたが。
 すぐにその顔は照れ臭そうな笑顔に変わって、それがまた鳥子の心を癒やした。
 この世界においてはどこまで行ってもひたすら孤独な鳥子にとっては――その少女らしい、可愛らしい反応こそが、唯一の癒やしであった。


◆◆


「やっぱりね、出来るだけ人は殺したくないんだ」

 家に帰って、一息ついて。
 それからすぐに鳥子が口にしたのは、そんな言葉だった。
 
「元の世界に帰りたい、そこは変わってないよ。
 でも、この手を汚して帰ったら……それは何か違う気がするんだよね。
 第一、そんな汚れた手じゃ友達に会えないし。後ろめたさを抱えながら一緒に居るなんて、嫌だから」
「……、」
「あ――ご、ごめんね? 変だよね、聖杯戦争のマスターがこんなこと言うのって。
 ……でもね。私はさ、そこの一線を超えたくないんだよ。
 一線を超えることの意味とか重みは、人より分かってるつもりだからさ」

 人を殺したことはないし、これから殺す予定もない。
 殺人犯の知り合いも居ないし、これから出来る予定もない。
 だがそれでも、鳥子は物事の一線を超えることの重さをしっかり理解していた。
 この世の全ては、薄氷のように危うげで脆いバランスの上で成り立っているのだ。
 それを超えれば、その先には何もかもが狂いきった恐怖の世界しか待っていない。
 
 あの、何処までも蒼い――裏側の世界のように。
 
「だからなるべく穏便に、出来れば裏口みたいなのを見つけて帰りたい。
 願い事なんて叶わなくてもいいからさ、今まで通りの毎日にひょっこり帰れたらそれでいいよ」
「やっぱり、マスターは優しい人だわ。私、マスターに召喚されてよかった」


275 : 仁科鳥子&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/04(金) 20:38:17 YqOYd77Q0

 ややもすると、一筋縄では説得出来ないかもしれないと思っていた。
 これまで数日間付き合って鳥子がアビゲイルに対し抱いた印象は、くどいようだが"いい子"の三文字に尽きる。
 さりとてどれだけ愛らしい容姿をしていようとも、彼女はサーヴァントなのだ。
 聖杯戦争という土壌、法則においては、仁科鳥子のような考え方をする者は何処まで行っても"少数派"なのである。

 鳥子もそれを理解していたからこそ、最悪の場合は対立することも覚悟していたのだが。
 蓋を開けてみれば、アビゲイルは安堵したようににこりと笑って鳥子の手を取ってくれる。

「……きれいな手」

 指先だけが透明の左手。裏世界の存在と接触したことで変質した、異能の指。

「マスターのこと、とても好きよ。
 マスターは明るくて、優しくて、一緒に居てすごく楽しい人だもの」
「はは……そうかな。これでもあんまり友達は多くないんだけどね」
「そんなマスターの"お願い"なら、私は叶えてあげたいと思います。
 あんまり優れたサーヴァントではないけれど……それでも良かったら、これからも一緒にいてくださいな」

 その言葉を受けて、鳥子は率直に――面食らった。
 彼女はその明るい性格と振る舞いとは裏腹に、実のところ"相方"に負けないくらい人付き合いが不得手である。
 そんな鳥子だからこそ、殊勝な言葉と一緒に微笑みかけてくるアビゲイルの可憐さに一瞬心を真っ白にされてしまった。

「(……この場に空魚がいなくてよかったわ、ホント)」

 今のは事故なんだよ、そういうのじゃないから……と。
 この場にはいない相方に心の中で弁明しながら、鳥子はアビゲイルに苦笑を返した。
 それから、透明な左手でわしゃわしゃとアビゲイルの頭を撫でてやる。
 
「(撫で心地いいな〜……髪の毛さらっさらだし)」

 撫でられる猫のように、こそばゆげに目を細めているアビゲイル。
 その姿は思わず頬と口元が緩んでしまうほど愛らしい。
 それにしても――まさか、こうも快く自分の方針を受け入れてもらえるとは思わなかった。

「(この子がサーヴァントだっていうのは、正直未だにピンと来てないんだけど……)」

 アビゲイル・ウィリアムズ。
 何処かで聞いたことがあるような、ないような名前。
 見た目はお人形のように可愛くて、性格も素直で善良ないい子。
 手を焼かされたことなんて一度もないし、むしろ彼女の方が自分の心身を慮ってくれるほどだ。
 こんな子が人智を超えた力を持った英霊だということについて、鳥子は未だに実感を持てていなかった。
 
 それでも。
 アビゲイルはサーヴァントで、鳥子は彼女を従えるマスターなのだ。
 いつかは彼女の力を借りて戦わねばならない場面もきっと来る。
 方針上、自衛としての戦闘が主になるだろうが……覚悟はしておかないとな、と、鳥子は思った。


276 : 仁科鳥子&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/04(金) 20:38:51 YqOYd77Q0

「(――フォーリナー。か)」

 確か普通のクラスじゃないんだよね、それって。
 フォーリナー。意味的には、外国人――いや。

「(アビーちゃんがサーヴァントってことを念頭に考えると、"異邦者"……ってとこ? なのかな)」

 エクストラクラス、フォーリナー。
 鳥子はアビゲイルのクラスが通常の聖杯戦争におけるそれではないことを、脳内にインストールされた知識から把握していた。
 それがどれほどの意味を持つかまでは、魔術師ではない鳥子には分からないが。

 アビーちゃんは何か特別なのだろうか。だとしたら、何が?
 その疑問だけはずっと、鳥子の頭の片隅に居座り続けていた。


277 : 仁科鳥子&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/04(金) 20:39:17 YqOYd77Q0


 ――ずぶり。


 アビゲイルの頭を撫でていた、仁科鳥子の左手。
 "裏世界"の存在を掴み取る力を持つ、透明な指先が。
 撫でている内に不意に触れたアビゲイルの額に、そんな音を立てながら潜り込んだ。


「あ」


 ――その後のことを。
 仁科鳥子は、よく覚えていない。


278 : 仁科鳥子&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/04(金) 20:39:47 YqOYd77Q0
◆◆


「マスター。マスターは、本当にいい人だわ」

 善き人。聖杯の甘美さに乱されない人。
 獣の性に走らない、優しくてきれいな"人間"。
 守りたいと、アビゲイルはそう思う。
 本心だ。アビゲイル・ウィリアムズは、仁科鳥子というマスターのことを信頼し、好いていた。
 けれど。彼女の真実を――鳥子は、未だ知らない。
 鳥子が不意に触れたアビゲイルの額。透明の指が潜行した、深淵。
 その先にある名状し難い真理を、窮極を。鳥子がすんでの所で知らずに済んだのは、きっと幸運だったに違いない。

「あなたは、元の世界に帰るべき。
 あなたのことを待っている人が、そこに必ずいるはずだから」

 暗い部屋の中で、アビゲイルは独りごちる。
 清教徒らしく手を合わせながら、祈りを捧げるように告ぐ。
 されど今の彼女は、純粋な少女などではない。
 神を信じ祈りを捧げる、経験な清教徒などではない。
 
 アビゲイル・ウィリアムズ――クラス・フォーリナー。領域外の理を宿す、窮極の門への鍵。

 その真実は未だ殻の中。
 いや、願わくばそれが美しい手の彼女に知られないように。
 そう願いながら、アビゲイルは眠りこけた鳥子の透明な指先をきゅっと握った。
 自分の"真実(ほんと)"は、あなたに見せられないけれど。
 それでも、あなたを大事に思うこの気持ちは本物なんです、と――そう、伝えたがるみたいに。

「だから、安心して。おやすみなさい、マスター」


 いあ、いあ。
 そんな声が、暗闇の中で聞こえた気がした。



【クラス】フォーリナー
【真名】アビゲイル・ウィリアムズ
【出典】Fate/Grand Order
【性別】女性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:B 耐久:A 敏捷:C 魔力:B 幸運:C 宝具:A

【クラススキル】
領域外の生命:EX
 外なる宇宙、虚空からの降臨者。
 邪神に魅入られ、権能の先触れを身に宿して揮うもの。

狂気:B
 不安と恐怖。調和と摂理からの逸脱。
 周囲精神の世界観にまで影響を及ぼす異質な思考。

神性:B
 外宇宙に潜む高次生命の"門"となり、強い神性を帯びる。
 世界像をも書き換える計り知れぬ驚異。その代償は、拭えぬ狂気。


279 : 仁科鳥子&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/04(金) 20:40:13 YqOYd77Q0

【保有スキル】
信仰の祈り:C
 清貧と日々の祈りを重んじる清教徒の信条。

正気喪失:B
 少女に宿る邪神より滲み出た狂気は、人間の脆い常識と道徳心をいともたやすく崩壊させ、存在するだけで周囲を狂気で汚染する。

魔女裁判:A
 本人が意図することなく猜忌の衝動を引き寄せ、不幸の連鎖を巻き起こす、純真さゆえの脅威。

【宝具】
『光殻湛えし虚樹(クリフォー・ライゾォム)』
 ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜? 最大捕捉:1人
 人類とは相容れない異質な世界に通じる"門"を開き、対象の精神・肉体に深刻なひずみを生じさせる、邪悪の樹クリフォトより生い添う地下茎。
 効果対象は"鍵"となるアビゲイル個人の認識に束縛される。それゆえの対人宝具。本来ならば対界宝具とでもいうべき、際限のない性質を有している。

【weapon】
触腕など

【人物背景】
金髪・碧眼の少女。神を敬い、感謝の祈りを欠かさず、多感で疑う事を知らない年頃の娘。
心優しく分別があり、差別が当然のように罷り通る環境にあってそれに流されない芯の強さを持つ。

彼女の真実は──この宇宙とは異なる領域外に棲む「深淵の邪神」の一柱である『外なる神』に仕える巫女。
いわば神を顕現させる"依り代"であり、虚構への門を開く"鍵"である。
『全にして一、一にして全なる者』と称される大いなる神のごく限定的な依り代と化した彼女は、宇宙の外側にある『窮極の門』に接続する『銀の鍵』の力を宿している。

【サーヴァントとしての願い】
マスターが無事に元の世界に帰れますように。


【マスター】
仁科鳥子@裏世界ピクニック

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る

【能力・技能】
 裏世界の住人「くねくね」と接触した影響で、左手の先が青く透明になり、裏世界の存在を掴み取る力を持つ。
 また特殊部隊所属だった母親により訓練されていたため、銃器の扱いに長けている。

【人物背景】
金髪の女性。人目を引く抜きん出た美しさを持ち、彼女の相棒である紙越空魚曰く「めちゃめちゃ美女」。
裏世界で行方不明になった友人・閏間冴月を探して裏世界の探索を続けており、一時はそのことに人生を支配されていたが、紙越空魚と出会いいくつかの事件を経たことで今は落ち着いている。
代わりに空魚に対して恋愛感情と思われる好意を抱くようになった。
格はいたってポジティブだが、他人との距離感をうまくつかめず孤立する性格で、冴月や空魚以外の友人はいないらしい。

【方針】
なるべく穏便に元の世界に帰る手段を探したい。
アビーちゃんを戦わせることもなるべくしたくない。


280 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/04(金) 20:40:37 YqOYd77Q0
投下終了です。


281 : ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/04(金) 20:48:22 auySmxsA0
投下します


282 : ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/04(金) 20:48:47 auySmxsA0
1944年 ベルリンの地で、一人の男の野望が潰えた。
男の名はアドルフ・ヒトラー。
彼は人の進化を歴史的大変動に求め、第二次世界大戦を引き起こしたという。
その最後の成就に、ベルリン陥落の際に、市民が避難した下水道への注水を命じた。

また一説によれば、大量に人間を死へと追いやるという人に為し得ぬ行為を行い、世の人々の憎悪を一身に浴びることで、人を超越した存在になろうとしたともいう。
その最後の仕上げが、己にとって大切な、守るべき対象で有るベルリン市民を殺戮する事だったとも。







運命の女と無数の異形が見守る中、二つの影が激しくぶつかり合っていた。
銀の鎧武者と紅い魔人との死闘は、魔人の剣を鎧武者が折り、奪い取った切っ先で魔人の胸を貫くことで終わった。


無数の人と妖物の骸が地を埋める街並の上空で、二つの美が最後の相剋を繰り広げていた。
蒼穹が人の形をした夜に切り取られたかの様に黒く、地に落ちる影の形ですらが美の極致にある、黒の魔人と黒の魔人との死闘は、初めて出遭った日に首に巻かれていた運命の糸を以って決着がついた。


斃れた者の名と姿を知り世界は安堵した、滅ぼされずに済んだから。
生き残った者は、一人は『蛇』に祝福され星の外へと去り。
一人はそれまでと変わらぬ─────波乱に満ち、無数の魔戦を戦う生を送った。

そして蛇は、新たな地に赴き─────姿を消した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


283 : ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/04(金) 20:53:57 auySmxsA0
「落とす首が一つ増えた」

樹々が鬱蒼と茂る山中に召喚されるなり、此の地に住まう全ての命ごと、マスターとサーヴァントを殺し尽くそうとしたアーチャーは、マスターの話を聞き終えると、そう呟いた。
年若い男の声だ。只の人間の声だ。それなのにアーチャーの声が響いたと同時、全ての生き物が─────否。そよいでいた風ですらが止まったのだ。
まるで天上の音楽神が魂を傾けて爪弾いた竪琴の調べを思わせる男の美声を聞いた瞬間に。
声の主たるアーチャーは一言で形容出来る─────万言を費やしても形容出来ぬ男だった。
アーチャーを語るには只の一言。『美しい』と語ればそれで済む─────その美しさは時が終わるまで語り続けても語り尽くせまい。人には所詮天上の美を語ることなど出来ぬのだから。

己のマスターが語った事柄は、アーチャーの気を引くに充分な内容だった。
進化を齎す為に、周囲とは異なる─────異界とも呼ぶべき環境を創り出し、その中で果て無き闘争を行わせる。
その環境に順応し、繰り返される闘争に勝ち残った者は、もはやそれまでの種とは異なる存在となる。
その存在同士で覇を競い、勝ち残ったものが次のステージへと進み、旧き種を滅ぼして、新しい種の時代を齎す。
アーチャーが生き、戦い、果てた『街』と、それは同種と言える存在だった。

共に肩を並べて戦い、共に同じ理想を追い、そして遂に道を同じくすること無く、何方かが消えるしか無かった二人の男。
勝ち残った一人に『進化』への果実を齎す女
アーチャーの生涯をなぞったかの様な、マスターの語る二人の男の物語。
進化を求めて止まないアーチャーにとって、到底無関心ではいられない、そんな話をマスターである男は語ったのだった。

「アイツをどうするつもりだ?」

話終えた後、アーチャーの言葉を聞いたマスターが訊ねる。
本当に解らないのか、それとも見透かした上で聞いているのか、アーチャーには判別出来なかったが、興味深い話を聞かせてくれた礼として、答えてやることにした。

「殺す。僕が新たなステージに進む為に」

短い言葉に凄まじい質量の殺意を込めて、アーチャーは宣言した。
屍を積む程に、死を撒く程に、死の具現として恐れられる程に。
その屍が世の人々から愛され、慕われ、その死を嘆くものが多い程に。
その屍が己にとって大切な、掛け替えのない存在である程に。
その屍が己にとって死力を尽くさねばならぬ強敵である程に。
アーチャーの進化の階梯としての価値は高まる。
アーチャーが生前に求めたものを得て、更なる進化のステージへと進んだ男。神とも呼べる存在になった者なら、アーチャーの進化の為の贄としては、それこそアーチャーの幼馴染を越えるかもしれない程の最上のもの。
此れを見逃すなどという選択肢をアーチャーは持たぬ。


284 : ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/04(金) 20:55:53 auySmxsA0
「出来るかな」

面白そうなマスターの問いに対するアーチャーの答えは、短く奇怪なものだった。

「勝てないな、今のままでは」

「今のままでは…ねえ」

アーチャーは何処か遠くを見る眼差しをマスターに向けた。

「生前果たせなかった進化の為の行為。それを行えば勝てる様になるかもしれない」

そう言った自身のサーヴァントに、蛇は薄ら寒いものを感じた。
蛇がアーチャーに二人の男と一人の女の物語を語ったのは、アーチャーが現れた際に、その記憶を繋がったパスより読み取った結果だ。
その物語がアーチャーの気を引き、アーチャーが行う殺戮を止めることができると踏んだ為だ。
蛇には聖杯戦争に対する展望は無い。
精々が自分が過去無数に行い、そして未来に無数に行う行為。唯一無二の資格を巡っての殺し合い。
それとシステムを同じくする闘いの結果を見届けたいだけだ。
ひょっとすれば、勝者は新たな進化のステージへと至るかも知れないのだから。
そう思う蛇の元に、鳥が飛ぶ様に、魚が泳ぐ様に、進化を求め、その為の破壊も厭わぬ精神の持ち主が現れたのは当然と言えるだろう。
しかし、このアーチャーの精神は蛇が今まで関わってきた者達の中でも群を抜いて凄烈だった。

“全ての生命に課せられた絶対的運命。進化による淘汰。破滅と再生”
だが、このアーチャーが淘汰するのは自分以外の全てだ。
“破壊無くして創造はない。古い世界を生贄にすることでしかお前たちに未来はないんだぞ”
だが、このアーチャーは己以外の全てを生贄にして、自分だけが未来を掴むだろう。

アーチャーは嘗ては人間だった。一つの世界の中で生きる、限り有る命の存在だった。
しかし今アーチャーは複数の世界へ赴く術と、朽ちぬ肉体を得る術を知る魔人だった。
アーチャーが聖杯を手にすれば、尽きぬ命を以って数多の世界の生物を殺し尽くし、己という種だけの未来を掴むだろう。
蛇は無限ともいうべき屍が積み重なって出来た山の頂きに立つアーチャーを幻視した。

星の全てを鋼と変えた者達とも。
激変した環境に適応できぬ者達を切り捨てる決断をした王とも。
理想とする世界の為に既存の世界を破壊しようとした男とも。
既存の世界を傷つけることを厭い、苦難の道を選んだ男女とも。
その全てと異なる心を持ち、蛇の存在と所業を肯定し、進化による新しい種の誕生と、その為の破壊を最悪の形で行うのがアーチャーという存在だった。

アーチャーが聖杯を手に入れれば全ての世界の生有るものは死に絶え、アーチャーが唯一人の超越生命体(オーヴァーロード)として君臨するのだろう。
それは蛇にとって好ましく無い事態だった。進化を促す生物が居なくなれば、蛇の存在意義が潰えるのだから。
だが、それとは別なところで、蛇はこのアーチャーを忌避する感情があった。
蛇の試練によって滅びの途を辿った種族を悼み、蛇の試練よりも過酷な途を選んだ男を祝福した記憶が、蛇にアーチャーを忌避させるのだ。
しかし蛇はアーチャーを拒めない。進化を目指し、その為に破壊を行うことは、蛇が過去無数に行わせてきたことなのだから。
蛇は聖杯戦争に関わるつもりは無い。アーチャーを掣肘する意思も無い。アーチャーには自由に振舞わせよう、そう思った。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


285 : ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/04(金) 20:56:59 auySmxsA0
「詰まら無い相手だ」

薄暗い街角で、アーチャーは誰かに話し掛けた。

「英霊などというからどれ程のものかと思えば、僕が生きた街に居たサイボーグや妖物の方が遥かに面倒な相手だった。こんな者達が相手では聖杯とやらは容易く手に入りそうだ」

そう言ったアーチャーと、全身から夥しい血を流して膝を付く、左腕の無い壮年の男との目線が合った。
男はサーヴァントだった。志有るマスターに従い、殺戮を旨とする者達と、この聖杯戦争の主催者を討つべく行動していた処。
この路地裏で凄まじい殺気を垂れ流して居る存在に気付き、聖杯戦争に乗った者として討とうとし、主従共々返り討ちにされたのだった。
そして主は宙で、サーヴァントは地で動きを封じられ、アーチャーに命運を握られている。

「筋力、耐久、敏捷、嗤わせる。僕の居た街には、30分もあればビルを素手で解体するサイボーグが居た。極音速で動く強化人間が居た。街中で戦術核が使われることも有った。
そんな街に君臨したのが僕の幼馴染さ。条理を逸した業を持つが故に“魔人”。ステータスなぞに何の意味がある」

静かな。それでいて痛烈な罵倒。

「痛みで止まる。失血で止まる。肉体が損壊すれば止まる。実に下らない、僕が生きた街では胴を両断されても牙を剥く犬が、斬り落とされた腕が尚も爪を立てる屍喰鬼(グール)が、
内蔵全てを失っても止まらぬ薬物中毒者(ジャンキー)が、両手足を切り離されても空を飛び、胴体に内蔵された火器で戦うサイボーグが居た」

そう、アーチャーが呟くと、宙の男の右腕がズレ、鈍い音を立てて路面に落ちた。
激痛に叫ぶ男にアーチャーは微笑んだ。

「上を見たまえ、君の主の命は今から散る」

信じ難いことが起きた。両腕を失った激痛に苛まれるサーヴァントがアーチャーの微笑を見て、痛みを忘れて恍惚となったのだ。
無理もない。アーチャーの持つ、中天に座す太陽ですら霞む自ら輝くが如き美貌、
美を司る神が、己が権能の全てを費やし、己が不滅の命を投げ打って創造したかの様なその美しさ。
サーヴァントの眼には、薄暗い路地裏がアーチャーが存在しているというだけで輝きに包まれている様に見えた。
陶然と蕩けたその顔は、サーヴァント目の前に鈍い音と共に肉塊が落ちるまで続いた。
愕然と頭上を見上げるサーヴァントの視界に映ったのは、10mの高みで、何も無い虚空に逆さ磔にされて、右の胸部から夥しい血を流す二十過ぎの女の姿。右の乳房を切り離された己がマスターの姿だった。

「貴様…」

火を吹く様な視線をアーチャーに向け、憎悪と共に絞り出した声に硬い音が重なった。
路面に白いものが転がっていた。慄然と見上げた視線の先には限界以上に口を開けたマスターの顔。口から赤い線が、目元から透明な滴がサーヴァントの顔に滴り落ちる。
如何なる手段を用いたのか、アーチャーは地に両足を着けたまま、上空の女の歯を引き抜いたのだった。

歯が全て引き抜かれ─────止めろ。
舌を切り刻まれ─────止めろ。
耳と鼻が無くなり─────止めろ。
四肢を寸刻みにされ─────止めろ。
体内で細切れにされた内臓が肛門と口から溢れ出た─────止めろ。

マスターが四肢と両目以外の全ての顔のパーツを失った頃、叫び続けたサーヴァントの喉は潰れていた。
アーチャーが敗者の哀願など、踏み潰した虫の鳴き声よりも意に介さぬことは判っていたが、それでも叫ばずにはいられなかった。

「許さん……許さんぞ貴様」

血涙すら流して憎悪を口にするサーヴァントを見て、アーチャーは満足気に頷いた。

「力が高まっている。やはりこの地に現れた者共は僕の糧か」

生涯最後の日に行った大殺戮。それにより得る事が出来ただろう結果を此の地で得る事が出来る。それが判っただけでも充分過ぎる。
最早如何なる関心も無くしたのアーチャーが踵を返すと、サーヴァントとそのマスターの女の首が同時に胴から離れて地に落ちた。

「待っているが良い。せつら、葛葉紘汰。僕は此の地でお前達を越え、お前達の前に立つ」

魔天の頂を目指し、叶うこと無く地に堕ちた魔王は、今ここに再び階梯を昇り出す。


286 : ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/04(金) 21:04:40 auySmxsA0
【クラス】
アーチャー

【真名】
浪蘭幻十@魔界都市ブルース 魔王伝

【ステータス】
筋力:D 耐久:C+ 敏捷:B+ 幸運:D 魔力:C 宝具:EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:A
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
このランクならば、マスターがいなくとも一週間現界可能。


【保有スキル】

魔人:A
人界に出現した異界とも言うべき“魔界都市”で、畏怖された者達。
アーチャーは“魔界都市”でも最上位に君臨する魔人と覇を競った為に最高ランク。
ランク相応の反骨の相と精神異常と心眼(偽)の効果を発揮する。


頑健:B
体力の豊富さ、疲れにくさ、丈夫な身体を持っている事などを表すスキル。
通常より少ない魔力での行動を可能とする。

戦闘続行:C+
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。
胴体に右腕が着いているだけ、という状態でも最後の一糸を放つことが出来る。
アーチャーの執念と併せれば、絶命していても一度だけ攻撃可能。



【宝具】

美影身
ランク:A+ 種別:対人〰対国宝具 レンジ:一切の手段を問わず認識できる範囲 最大補足:1000人

美しいという概念そのものを体現したかのような美。凡そ知能有るものならば機械であっても確実に効果を表し魅了する。
美貌というだけで無く存在そのものが、五感で認識できる、アーチャーの存在自体が、地に落ちる影すらが“美しい”。
肉体の美に関するスキル及び宝具全ての効果を内包する。
Aランク未満の精神耐性の持ち主は忘我の態となる。Aランク以上でも判定次第では効果を表し、アーチャーが微笑みかける等の働きかけを行うことで効果を増す。
このスキルで魅了されたモノに対しアーチャーはA+ランクのカリスマ(偽)を発揮できる。死ねと言えば死ぬし、殺せと言われれば殺す。最早呪いの域に達した美貌。
再現不能な美しさの為アーチャーの姿を模倣したり複製を作ることはことは不可能。作成した場合は大きく劣化し、時間経過と共に崩壊する。
A+とは、この宝具を持つ者達の中でのランクであり、通常のサーヴァントが持つ、肉体の美に因るスキルや宝具のランクに直せばいいEXとなる。




魔天の頂へと至る鮮血と屍の超越階梯(再演・ベルリンの狂気)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:自分自身

嘗てアドルフ・ヒトラーが試した狂気の行為。大量殺戮を行い、人を超越し超人へと至る行為を己が身で再演する。
屍を積み上げ、世の人々の憎悪を哀しみをその身に受ける程に、アーチャーの霊基は強固になり、霊格は上がってゆく。
殺害対象が世の人々に惜しまれ、愛される者程。己にとって大切な者程。殺害する、若しくはアーチャーを憎悪する者の“格”が高ければ高い程、向上率は上がる。
もし此の地に顕現した英霊全てを倒せば、アーチャーの霊格は神域に到達するだろう。

【weapon】
妖糸:
1000分の1ミクロン。一nmという極細のチタン鋼。その細さの為視認は不可能。高ランクの視覚に干渉する妨害を無効化するスキルや第六感に類するスキルが無ければ存在事態に気付けない。

切断や拘束といったものから、身の回りに張り巡らせての防御。足場にしての空中浮遊。広範囲に張り巡らせて行う探知。糸を以って生者を操る人形使い。死者を操る死人使い。
糸を一度付けた相手は身体の状態や感情に至るまで具に知る事ができ、糸を以ってすれば空間の歪みや空気成分、果てはキャッシュカードのデータまで読み取れる。
気流に乗せて飛ばすことはおろか、気流の流れに逆らって飛ばす事も、糸を捩り、元に戻る反動を利用して飛ばす設置系トラップとして使用することが可能。
アーチャーの由来は此処に有る。
妖糸は魔力に依り幾らでも生成可能。生前は小指の先に地球を一周する分を載せられる事が出来たという逸話から、精製に必要な魔力量は極めて微量。


【人物背景】
人類を進化させる為の実験場とも言われる魔界都市〈新宿〉に於いて進化の鍵と〈新宿〉の覇権を賭けて戦った魔人の片割れ。
原作での負け方があまりにもアレなので化けて出るのもしゃーない

【方針】
サーヴァントと戦った上で惨殺し、魔天の頂へと至る超越の階梯(再演・ベルリンの狂気)の糧とする。
最終的にはマスターもNPCも全て殺害する。


【聖杯にかける願い】
受肉と異なる世界への移動。

【把握資料】
魔界都市ブルース“魔王伝"全三巻。青春鬼シリーズも参考にはなります


287 : ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/04(金) 21:05:38 auySmxsA0
マスター】
サガラ@仮面ライダー鎧武

【能力・技能】
瞬間移動…というより完全な神出鬼没。何処にでも出てくるしいきなり居なくなる。但し現在は使用不能。

ロックシード精製…別段シグルドの中の人を岩で挟み潰す訳では無い。掌の中でオレンジを多面体の物質に変換し、ロックシードに加工している。

【weapon】
無し

【ロール】
無し

【人物背景】
異世界より根を伸ばし、やがて星一つを覆い尽くし、その過程で根を伸ばした先の知的生命体に進化を促す存在“ヘルヘイムの森”のアヴァター的存在。
此の地ではヘルヘイムから切り離されている為、瞬間移動は使えない。

【令呪の形・位置】
浪蘭家の紋章の形状。
黄金の山羊の頭の紋章(クレスト)と、 その角に、顎髭の下で結ばれたマンドラゴラの蔓が纏わっていると言う意匠。

位置は右手の甲

【聖杯にかける願い】
無い。

【方針】
聖杯戦争を傍観する。やる気の無い奴には発破をかけてやっても良い。要するに何時も通りにやるだけ。
アーチャーの要請があれば令呪を使うが、それ以外の事はしないし、干渉も掣肘もしない。

【参戦時期】
本編終了後。


【運用】
魔天の頂へと至る鮮血と屍の超越階梯(再演・ベルリンの狂気)による強化を手っ取り早く行う為にはNPCを殺しまくるのが最短だが、マスターが死んでしまってはサーヴァントを糧にできないので普通に戦う。
強敵は後に回して自己強化を行えば優勝も夢では無い。
不意打ちで仕留めるのが最も楽だが、それをやっても糧には出来ないというジレンマ。
索敵に関しては、存在そのものを消しでもしない限りは妖糸の監視からは逃れられないので、誰に対してもイニシアチブを取れる。
美貌と妖糸を併せて用いれば、相手は殺された事に気づくこと無く死ぬが、惨殺しなければ良質な糧にはならないという罠。


【把握資料】

仮面ライダー鎧武全話


288 : ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/04(金) 21:09:08 auySmxsA0
投下終了です

このSSは混沌聖杯に投下したものの流用です。

タイトルはここが地獄の森 魔天使は舞い降りた!!

でお願いします


289 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/04(金) 22:05:19 4NCG/V/k0
投下します


290 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/04(金) 22:06:14 4NCG/V/k0


 東京都・渋谷。押しも押されぬ首都の代表する繁華街のひとつ。
 将来に必要なだけの退屈な学校の勉強に、若者がファッションの刺激を求め朝も夜もなく街に繰り出し。
 肩幅にすっかり馴染んだスーツを着た大人が、書類の束だらけの鞄を片手に朝も夜もなく幾度も交差しては別れていく経済の中心地。
 たまの休日に日頃のストレスを解消せんとはしゃぐ者達の中には、衝動に任せた派手な髪色、パンクなファッションに身を包むのもさして物珍しくない。
 与太者見世物大いに結構。我こそが流行の最先端と天下に知らしめんとす花の都。
 だから。
 デートでの待ち合わせの聖地・ハチ公銅像前に背を預けながら缶ジュースを呷る長身の影にも、街の住人として諸手で迎え入れられていた。

 色素の薄い、銀か白の髪を、リストバンドで上げた青年だ。総身は黒衣。大人の段階を昇る感触も覚えてきた端正な顔立ちは、すれ違いに横目で追い続ける子女達に微かに色めき立たせている。
 特徴的なことに、それで額に巻くところのバンドを両の目と眉の部位にまでずり下げている。
 当然、視界は暗黒で閉ざされる。家で遊びに目隠しにすることはあろうだろうが、そのまま外に出るのは無謀に過ぎる。滑稽な転び方をしても文句は言えまい。
 なのに目隠しで挙動が不審になってる様子はなく、偶に自分に目を向ける通行人に手を振る始末。
 同じ待ち合わせ中の人は、実は透けて見えてるのだろうかという疑いを胸にしまいつつも抱いていた。

 だがそれも。街を騒がせる異常なわけではない。
 見た目が不審者なだけで弾き出すほど渋谷(このまち)の懐は狭くない。
 ちょっと奇妙な格好の男が待ち合わせ場所で立っていて、少し注目を集めていた、だけ。
 それだけだ。ただのそれだけ。
 平和な時間。日常の枠からはみ出ないありふれた光景。

「まいったなぁ……本当に誰もアンタに気づいてないよ」

 本当の異常は。
 男に隣り合って立つ袴姿の男の存在に、群衆の誰一人として気づいていない事の事態だ。


291 : 最強のふたり ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/04(金) 22:08:49 4NCG/V/k0


 侍。そう呼ぶしかない格好だ。
 掛け軸か屏風絵から抜け出たようにしか見えないほどの侍だ。
 時代錯誤の着物を纏い、足は足袋(たび)。腰にも届く長髪の後ろを高く結わえている。
 極め付きには左の腰元に見える柄。鞘まで完備された中は空洞でも玩具でもない、本物の刀剣が確かに眠っている。
 気づかれれば問答無用の警察沙汰で、街は騒然とするだろう。気づかれてない現状、その心配はないが。
 隣でやたら目につく男と対象的に、侍は見咎められることも、遠ざけられてもいない。完全にいないものとして扱われてる。
 侍は、世界の認識から消失していた。

「霊体になってりゃ呪霊みたく見えないのは当然として、こうして完全に実体を持った上で気づかれないなんて、それだけで一つの術式として成立する。
 ましてそれがデフォルト、基本も基本だっていうんだから。おっかないねえ、サーヴァントってのは」
「……五条、私はそう大それたものではない。私にできるのはせいぜい刀を振るうことだけだ。英霊の座に押し上げられた者にとってはただの剣士でしかない。
 その剣にしても、後にも先にも私を上回る才覚は数多に生まれていただろう」
「聞く方にとっちゃ嫌味にしか聞こえないぜそれ。
 自信過剰も身を滅ぼすけどさ、アンタの場合は自分の過小評価がすぎるんだよ、アサシン」

 二人の会話は雑踏には届かない。仮に聞いても、意味がわからず聞き流すだろう。

「英霊ではない身で私を捉えるほどの術技を身に備えた主に言われては、慢心などできるはずもない」
「その剣だけでこっちの技全回避しつつ僕に届かせてといてよく言うよ。
 けっこう全速だったのに術式なしで追いついて斬りに行くとかさー……あー嫌なやつ思い出しちゃったじゃん」

 交わされる言葉の意味も。知るものが聞けば戦慄するその内容も。
 知るはずがない。理解しようはずがない。彼らは端役。舞台を飾り立てる装飾の枠を超えることは許されない。
 マスターとサーヴァントが組み合わせ、ただひとつの奇跡を求めて殺し合う儀式、聖杯戦争。 
 その舞台に立ち、いずれ破壊の災禍を浴びせ、蹂躙させられる役目でしかない彼らには。


 マスターの名は五条悟。
 呪術師御三家の一角、無下限呪術の使い手。呪いと人の均衡の支柱。自他共に認める現代最強の呪術師。

 サーヴァントの名は継国緑壱。
 鬼殺隊中興の祖、日の呼吸の使い手。自身がどれだけ認めずとも疑いの余地のない最強の鬼狩り。


 共に聖杯に望む権利を得、戦いの火蓋が落とされるのを待つ身の二人は、こうして駅前で呑気に茶を飲んでいた。


292 : 最強のふたり ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/04(金) 22:11:57 4NCG/V/k0


「平和だねえ」

 缶を傾けつつ空を仰ぐ。天気は良く、人の往来は絶えない。これから戦争が始まると言われても俄には信じがたい日々だ。
 だが呪術師の五条は知っている。人ある限り【呪い】は必ず生まれる。
 社会で淘汰的に生まれる負の感情の淀みが、日に日に増していくのをその六眼で視ている。
 この溜まった淀みは瘤となり、ほどなく膨れ上がって破裂する。これは確信で確定だ。
 特級を凌ぐ呪力の塊が数十体で殺し合う。そんなものが起きれば渋谷事変どころの話じゃない。東京一個ぐらいは、軽く吹っ飛びかねない。そう試算していた。

「ああ、平和だ。そしてこれ以上ないほど、美しい。
 ここには鬼の脅威はない。豊かで物に溢れ、大きな争いもなく、親が子を愛し育む、そんな細やかな幸福が許される世界だ」
「いやいや、そこまで博愛主義じゃないよ僕は」
「だが」

 緑壱は言葉を切った。

「やはり戦いは起きるのだろう。私がこうして呼ばれた時点で。
 これからここで、また多くの人が苦しみ、死んでいく」
「この世界の人を気にしてるの? 君とは無関係の、そもそもどこかの誰かの模倣みたいなものなのに?」
「だが生きている。家族と幸福に暮らしている。ならば私は彼らを守りたい。たとえ彼らの生活が、そして私すらもが一夜の幻なのだとしても」

 共に生まれつき、情報を掴む視覚という点で逸脱した能力を備えている二人だ。
 五条は呪力の性質を見極める六眼から彼らを「偽物」だと断じ、緑壱は骨肉から臓器まで透かして見える世界から彼らを「人間」だと見做した。

「詩人だねえ。そして意外に感傷的だ」

 顕現して契約を確かめ合っていた始めは無愛想で何を考えてるかわからず、特級の秤にすら乗らない超抜級の剣才を誇る英霊を物騒に思っていたが。
 その才に対称するが如く朴訥で、全うすぎる普通な精神の持ち主なことに、五条は数日の交流で把握した。
 有り余るほどの才が人格を食い潰すパターンは呪術師でもままあるが、自己を覆い隠して見えなくしてしまうほどというのは滅多に見ない。
 自分みたいに一個ぐらいブッ飛んでればまだ周囲もマシだったろうに……と棚に上げてみても、そうでない彼を哀れみもしない。

 緑壱の方針は聖杯戦争においては全くの無益。こちらにとってマイナスにしかならない下策だ。
 救ったところで得点が出るでもなし。感謝すらされるかどうか。しかも用事が済めばこの世界ごと廃棄だって十分あり得るのだ。
 だからここは、呪霊ならざる英霊を縛る令呪を保持する身として戒めるのが、出来るマスターというやつなのだろう。
 勝ちの目を出しやすくする為に。奇跡の成就させる大事の前の小事として。


293 : 最強のふたり ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/04(金) 22:12:54 4NCG/V/k0


「ま、いっか。僕もそのつもりだったし」

 今更過ぎる天秤など放り捨て、五条はあっけからんと快諾した。

「……いいのか」
「いいよ。要するにこれ見よがしに暴れる連中を見つけたら速攻倒しちゃうってことだろ?
 そもそも僕、願いとか大してないしねー。上層部皆殺しーとか一人でできるし、未来ある若手も集まってきてる。
 呪霊を生まない世界──────なんて、死んだ奴の夢に引っ張られたくもない。
 第一、のんびり様子見してるほどあっちも暇じゃなさそうだ。
 なんとかなるとは思ってるけど、戻れるってんなら長引かせる必要もない」

 像から背を離し、眼の覆いを片方だけずらし空を射貫く。


「即帰って、あいつからクサレ脳ミソ野郎を引っ剥がしてやるよ」


 界聖杯に招かれる前の五条の記憶は、己の肉体が小さな函に押し込まれる瞬間だ。
 特級呪物『獄門疆』。友の亡骸を玩弄する者の手で、自分は囚われた。
 シャットダウンした視界が晴れた時には、10月31日の惨劇より前の渋谷に立ち尽くしていた。
 タイミングよく脱出できたと見るのか、タイミング悪く攫われちゃったのか。そこら辺はおいおいだ。

 後進は育てた。 
 自分がいなくとも最後には彼らなら勝ち残れると楽観しつつ期待してる。
 けれどただ儀式を終わらせても、あの髑髏で狭苦しい中に直行してしまうのなら。
 聖杯とかいう胡散臭さ全開の賞品にも、格安チケット代ぐらいの期待は持てる。

「何なら一緒に来ない? アンタが加わってくれればもうこっちの勝ち確なんだけど」
「今の私は死者。人の歴史に落ちた影のようなもの。
 この場の役目を果たせば速やかに去るのが礼儀というものだろう。お前たちの世界は、お前たちの力で守られてこそ価値がある」
「あっそ残念。ま、いうなれば正の方向性で反転した呪霊だ。お爺ちゃん方が見たら憤慨ものだ。血圧脳に行き過ぎてポックリいっちゃうかも。
 あ、なんかそれはそれで見てみたいな! ねえやっぱ来てみないかな─────」
 

 個には限界がある。
 己がいない場所で動いた運命に、ただの最強は何も為せない。
 その人生に敗北はなく、勝利しかないまま、傍らにいた輩は袂を別った。
 彼らは一人だったが故に多くを取り零してきた。
 では最強がふたりならば───運命は、限界は、不壊の殻は破られるのか。
 
 呪術師と剣士は街の雑踏に紛れて、やがて飲み込まれるように姿を消す。
 蔓延る呪いを打ち砕く指も、暗躍する鬼を斬り裂く刀も、やはり目にすることはなく。


294 : 最強のふたり ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/04(金) 22:16:44 4NCG/V/k0
【クラス】
アサシン

【真名】
継国緑壱@鬼滅の刃

【ステータス】
筋力B 耐久D 敏捷A++ 魔力E 幸運E 宝具B

【属性】
中立・善

【クラススキル】
気配遮断:A+
 暗殺者ではなく、武芸者の無想の域としての気配遮断。
 ただその域が極まり過ぎてることと、逸話の影響でランクが上がっていて、完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。

【保有スキル】
日の呼吸:EX
 鬼殺隊が鬼と戦う為に編み出した特殊な呼吸法、全集中の呼吸の開祖。始まりの呼吸とも。
 全部で拾参の型があり、そこから繰り出される斬撃は灼熱の如く鬼を斬り裂く。
 伝承により鬼種、魔性への特攻効果を持ち、たとえ討ち漏らしても傷口が再生せずに延々と残り続けるスリップダメージを負う。

天与の寵児:A+
 どの時代の剣士も追いつけない、この世の理の外にいるとしか思えない数々の超常の才を纏めたスキル。 
 寿命を大幅に削る代償で戦闘力を増大させる『痣』、
 筋肉や骨格、果ては内蔵まで透かして見ることで敵の行動を完全に読む『透き通る世界』、 
 日輪刀に万力の握力と熱を込め赤熱化させ鬼への特攻効果を高める『赫刀』、
 緑壱はこれらを生まれつき、しかも何の代償もなく使いこなしていた。
 明確に上位存在から加護があったかは定かではないが、緑壱は自身を鬼の始祖を倒すべく特別強く生まれた───ある種の抑止力であったと推測している。

情報抹消:D
 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶からアサシンの戦闘、特に「日の呼吸」に関する情報が消失する。
 死後緑壱を恐れた鬼が日の呼吸の使い手、存在を知る者を徹底的に滅ぼしたことで後天的に得たスキル。

斜陽:D
 絶対に倒さなくてはならない相手をこそ取り逃がしてしまうという、このサーヴァントに刻まれた唯一の「呪い」。
 確実に勝てる戦いにも関わらず、様々な不運が折り重なって、最後の一太刀だけが宙を切る。
 超常的な肉体と一般的な精神の齟齬が引き起こす、一種の摩擦のようなものとでもいえる。
 
【宝具】
『拾参ノ型・縁舞日昇』
ランク:C++ 種別:対人奥義 レンジ:0〜10 最大捕捉:1人
 じゅうさんのかた・えにしはまわりひはまたのぼる。
 鬼の始祖との戦いにて開眼したただ一度のみ使用し、名付けられぬまま終わった、日の呼吸拾参番目の型。
 日の呼吸の型を壱〜拾弐まで放ち続け円環と成す連続奥義。
 陽の光以外で滅びない不死身の鬼相手に、ならば夜が明けるまで斬り続ければいいという単純な理屈を現実にしてしまった。
 一度完全に嵌ったら以降型が延々とループされ敵は抜け出せず刻まれ続けることになる。
 緑壱自身の運動能力で成立する宝具なので発動する魔力は必要ないが、全力で絶えず動き続ける必要上、総合的に消費する魔力は少なくはない。

【weapon】
『日輪刀』
 日の呼吸に適応する刀身は黒曜石のような漆黒色をしている。

【人物背景】
 鬼殺隊に呼吸術を教えた中興の祖。始まりの呼吸の使い手。
 人はおろか鬼すら寄せ付けぬ強さを誇るが、その精神はありきたりな平穏を好む純朴なものだった。
 疑いなく最強であるにも関わらず、妻子の危機に間に合わず、宿敵の討滅の絶好の機会を逃し、堕ちた兄の介錯を務めることもできず寿命で果てた。

【サーヴァントとしての願い】
 五条に付き従い、人を守る。


【マスター】
五条悟@呪術廻戦

【マスターとしての願い】
元の世界に帰還。もちろん封印されない時点で。

【能力・技能】
現代最強の呪術師。単純な体術と呪力操作でも特級呪霊を手玉に取る。
肉体に刻まれた生得術式は無限を実数化し攻撃を遠ざけて止める、反転させて弾く「無下限呪術」と、呪力の視認と緻密なコントロールを行う「六眼」の抱き合わせ。
呪術の最終地点「領域展開」は、相手に無限の情報を与え続けることで行動不能にする「無量空処」。
反転術式も使用可能。致命傷からも復帰できる他、無下限の負荷を軽減する為常時回している。

【人物背景】
呪術高専東京校一年の担任。特級呪術師。
現代どころか千年前から数えても太刀打ちできる存在が術士・呪霊並べても見当たらない強さを誇るが、自分だけが最強であるのに限界を感じ呪術界の革新を試みている。
もういっそ上層部皆殺しでもいいんじゃないかと考えてるが、それだと頭が挿げ替わるだけで何も変わらないので、後進の育成に力を注いでいる。
ただし性格は悪い。生徒同僚からの信頼は高いが尊敬はあまりされてない。

参戦時期は渋谷事変、特級呪物『獄門疆』に封印された後、もしくはされる直前から。

【方針】
敵を見つけて手っ取り早く倒す。かといって一般人のマスターを秤にかけるかは吟味。


295 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/04(金) 22:18:24 4NCG/V/k0
投下終了です


296 : 仁之道 ◆zzpohGTsas :2021/06/05(土) 05:33:53 apOGxBGU0
投下します


297 : 仁之道 ◆zzpohGTsas :2021/06/05(土) 05:34:05 apOGxBGU0
.

 ――日誌 ロールシャッハ記、19(書き間違えたのか、歪な横線で消されている)
               20XX年、XX月XX日

 輪廻、と言う言葉を思い出した。昔、ニュージャージーの児童矯正施設にいた時、宗教学を齧っていた。その時に学んだ言葉だ。
要は、生まれ変わりだ。仏教の概念だったか。死ねば誰もが、生まれ変わる。そう言う考え方だ。今は人間として生きている者も、次に生きる時は人間だとは限らない。
犬かも知れない、山猫かも知れない、鳥かも知れない、蟻かも知れない、微細な細菌になる可能性だってあり得る。
いやそもそも、俺達が生きる世界だとも限らない。古い記憶だが、ずっと戦い続けねばならない世界だとか、飢えた犬畜生共の世界だとか、地獄そのものの世界に生れ落ちる可能性だってあった筈だ。
コバックスとして生きていた時、輪廻の考え方を見た時何を思ったのか、最早思い出せないが。ロールシャッハたる今なら、ありもしない嘘であるとせせら笑える。
本当に、輪廻と言う物が存在して、悪事を成したものが須らく地獄に転生するしかないと言うのなら――俺の認識するこの世界に、人間など一人もいないと言うのに。地獄は、受け入れられる人数に限りがある程、ケチな場所だとでも?

 生前の倣いに従い、俺は当然地獄に案内されると思っていた。だがそこは、硫黄の臭いもしなければ、罪人をあぶる鉄の網も、鞭を振るう警吏の姿も見られなかった。
全てを終わらせる戦争を終わらせる為に、ハリー・トルーマンが核を落とすと言う英断を下した国。ナパームによって焼き尽くされた街。俺は、日本国の、東京にいた。

 都市の機能を跡形もなく焼き尽くされ、国として二度と立ち直れぬようにと念を入れた国家は、それが過去の話だと言わんばかりの隆盛を誇っていた。
街は清潔で、皆ゴミ箱に缶を律義に捨て、タバコも歩いて吸う者もいない。治安が悪いから寄らない方が良いと言われている場所の路地裏ですら、ニューヨークの表通りよりも行儀が良い。
娼婦や売春婦共が甘えた声で男共に抱き着く姿もなければ、ドラッグの臭いを漂わせる小僧共の姿も見られない。都市とは、こんな場所だったのだろうか。もっと、猥雑で、俺の顔を見れば恐怖で顔が歪む場所ではなかったのか。

 だがやはり、ここも地獄なのだと言う事を俺は理解してしまった。
脳裏に刻まれる、様々な不快な情報。聖杯戦争、界聖杯(ユグドラシル)、奴隷(サーヴァント)……。
これらの単語と意味する情報、それらの統合が進むごとに、不愉快は怒りに変わって行く。要は俺に、殺し合えと言っているらしい。

 ……ジョナサン・オスターマンの下した処断によって、俺は、その怒りすらも、タキオンだとか素粒子と化して消えたのではないかと不安だった。
だが。俺の中に宿るこの思いは、ジョンの奴にも砕き得なかった事を知り、俺は、再び歩む事を決意した。

 書店に入り、異国の国で書かれた歴史の本を眺める。何故か、読める。アメリカの歴史を、俺は見る。
ヒロシマ、ナガサキに落とされた原爆。焼かれた東京。キューバ危機。熱を帯びぬ冷たい戦争。――ソ連の、崩壊。免れた核戦争。そして、今度は中東との戦争。

 熱湯は、時が経れば冷たい水になる。だが、放っておいても、水が熱湯に変わる事はない。熱力学の、第二法則だ。
人の社会だけが、このエントロピーの法則を超越するらしい。冷たい戦争が終わったと言うのに、世界の終末は防げたと言うのに、再び、戦争の狂熱にアメリカは身を投じたいらしかった。



この世界は腐っている(余白に、この一文は記されていた。)


.


298 : 仁之道 ◆zzpohGTsas :2021/06/05(土) 05:34:55 apOGxBGU0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 簡単な行水すらしないせいで酷い体臭を放ち、上げ底のシークレットシューズを履く位には見栄坊な性格である事が解るこの男に対して、彼のサーヴァントは思った。
俺だ、と。この男は、嘗て俺が通った道を、迷いはないとあれだけ思っていた筈なのに、全てを終えれば後悔でしかなかったあの道を、今歩いているのだと。

「……食いたいのか? 大した味でもないし、アンタは食事の必要がないと言うが……】

 男の――自らを『ロールシャッハ』と名乗っていた人物の声には、感情らしい感情が感じられなかった。
その上イントネーションも、独特だ。訛りとも吃音とも、聾唖の者が辛うじて口にする言葉の連なりとも違う。極普通の教育を受けて上で、歪みを感じるのだ。

 ロールシャッハは口にしていた、ビーンスープの缶詰を、自らのサーヴァントに差し出した。
スーパーで、一缶税込み89円。アズキや炒られた大豆に煮た色の豆が、コンソメの味のするスープに浸されたその食事は、本来ならそれだけで主食となるような量もカロリーもない。
しかもその上、本来なら温めて食べるものである。四十も半ばを過ぎる男の夕食が、その冷えたコンソメ味の豆スープ。疑いようもない、社会の底辺、世故に倣い常識に頭を垂れる事を止めた者の食事であった。

「いや、必要ない。お前の言う通り腹が減らん。それに……三日も四日も、飯も食わず活動する事など慣れているのでな」

 そう返した男は、典型的な東アジアの顔立ちをしていた。
ロールシャッハは日本人と呼ばれる人種を押しなべて、チビで出っ歯で卑怯な猿と考えていたが、イメージを改めねばならない時であった。
背丈はロールシャッハよりもずっと大きく――そもそも彼の方が小さい――、身体つきは精悍かつ鍛え上げられている事が一目で解るそれ。
顔立ちも、肉体的な苦労と精神面での心労を味わいつくした、深みのある男前だ。このサーヴァントの髭は、寧ろよく似合う。
纏っている漆黒の具足は、驚く程このサーヴァントとマッチしており、まるで彼の身体の一部のようだと思わせる程。彼の身体に合わせて作られた、特注品なのだろう。深みのある黒は、ロールシャッハの目から見ても、美しいものがあった。


「良い心掛けだ。俺の……相棒だった男にも、見習わせてやりたい】

 言ってロールシャッハは、再びビーンスープを口に運ぶ。
被っている全頭型の白地のマスク。それをずらし、口元だけを露出させている。食事をとる為である。無精ひげ、黄ばんだ歯、腐ったような口臭。歯医者も長年行ってはいるまい。

 この東京に初めてやって来た時、完全な素顔の状態だったロールシャッハ……コバックスは、このマスクを探そうと懐を必死にまさぐり、それを見つけ、少し安堵した。
そのマスクがある限り、コバックスは、ロールシャッハを名乗れるのだから。白地のマスクに、黒い文様がラバライトのように不規則に流動するそのマスクは、
流動しているその最中に時間を止めてしまえば、心理学のロールシャッハテストで使う模様のようにも、見えなくもなかっただろう。

「相棒か……如何言う男だった?」

「優柔不断で、見っともなくて……諦めが悪い……、俺のような善人だった。しかし、頭の良いアイツの事だ、もう妥協した生き方をして……俺の事など忘れているのだろう】

「……そうか」

 良い相棒を持ったのだな、とサーヴァントは続けた。それと同時に、脳裏に浮かぶのは、對島で一時期は背を預けて戦った事もある男の姿だった。
故郷を蒙古に侵略された時、彼は、その男と共に刀を振るい、故郷を取り戻すのだと本心で思っていたのだ。だが、そのような事は起こらなかった。
男は……竜三と言う名のその牢人は、飢えと困窮とに喘ぐ部下達を助ける為に、蒙古に寝返った。そして、蒙古に強要されたとしても、竜三は確かに、その松明で民を焼き殺したのだ。
お前さえいれば、と惜しむ程に実力を認めていた男はその瞬間に敵となり、誰に知られる事もなく斬り殺された。もう、竜三の名を知る者など、故郷に……對島の島に、いなかろう。

「……マスター、誉れを忘れるんじゃないぞ」

 ビーンスープを口に運ぶ手を、ロールシャッハが止めた。マスクの黒い文様が、サーヴァントの方に、向いたような気がした。マスクの下では、両目は此方を向いているのだろう。

「誉れ、とはなんだ】

「己に恥じぬ生き方。誰もが見事だ、潔いと思える戦い方。民の模範となる行動。己を守れぬ者らを、守る事。その、全て」

「失望させるな、アサシン】

 ロールシャッハは嫌悪と侮蔑を以って、アサシンの言葉を切り捨てた。


299 : 仁之道 ◆zzpohGTsas :2021/06/05(土) 05:35:25 apOGxBGU0
「アーサー王やシャルルマーニュの時代がいつ終わったと思っている。何を口にすると思えば、騎士道精神のコピーか。そんなもの、聞く耳も持たん】

「聞け、マスター。お前はやり直せる」

「やり直すつもりなど、ない。俺は真実に開眼している。今更ヒーローの真似など……】

「お前の身に何があったのか、俺は深く聞かない。だが、その生き方には後悔しか残らないぞ。引き返すのなら、今だ」

 そこでロールシャッハは、まだ中身が入っているビーンスープの缶を放り捨ててから、スプリングのはみ出たボロのベッドから立ち上がり、アサシンの方に向き直った。
東京に、まだこんな物件が存在する事自体が最早不思議としか思えぬ、ボロのアパート。そこが、ロールシャッハの住まいであった。

「俺に、妥協しろと言うのか】

 その声にだけは、感情が宿っていた。怒り。

「騎士道など、人間の皮膚の一枚下に眠る、獣性と欲望を覆い隠すコンドーム。自らの権威を長引かせ、己が醜さと欲望を正当化しようと考えた下種な政治屋共の、プロパガンダに過ぎない。その安易な道を歩んだ瞬間に、俺は正義ではなくなる。唾棄すべき妥協だ。選択肢にも数えない】

「そうではない。誉れとは、お前の考えるような生き方じゃない。大事なものを失わない為の……真に失ってはならないものを失わない為の、財産なのだ」

「ではお前は、その大切なものを守れたのか】 

 その一言は、アサシンの胸部に突き刺さった。押し黙る様子は、痛い所を突かれた事の証であった。

「男の中の男は、見るだけで解る。アサシンお前は、妥協しなかったのだろう。一切の手を抜かず、目的に打ち込んだから、お前は英霊と呼ばれているのではないのか】

 その一言の間に、アサシンは己の人生を反芻していた。ロールシャッハの言った事が、何一つ間違ってない事を、思い知らされるだけだった。
誉れなき蒙古の侵略に、初めは誉れの教えを胸に戦った。そして、仏教の説く所の末世末法のような、蒙古の民に対する仕打ちを見て、嘗てない怒りが芽生えた。
初めの内は、武士(さむらい)の誇りを以って、真正面から戦った。だが、すぐに限界が来た。自分の身体が疲れるだけなら、幾らでも耐えられた。

 だが、守るべき民が今までのやり方では救えず、取りこぼす可能性もあると解ったその時。
――恩人の家族が、凄惨な殺され方をしたのを目の当たりにしたその時、境井家の武士である境井仁は死に、冥人である境井仁が、産声を上げた。

 蒙古の脅威から民を救う為に、彼は何でもやった。
飛び道具を使う。爆薬を使う。背後から短刀を突き刺す。頭上から脳天を刀で貫く。隠れて弓矢で射殺す。吹き矢で毒を放って苦しめて殺す。食べるものに毒を混ぜる。
教えに背く戦い方をすればするほど、アサシンは成果を上げ、蒙古から悪魔と恐れられるに至り――遂には、『境井仁』の名は、恐るべき冥人の名と共に、畏怖の対象として刻まれた。

 ロールシャッハの言葉は、一字一句違わず、正しかった。
その通りである。境井仁は、容赦しなかった。手を緩めなかった。妥協、しなかった。
誉れで民が救えるかと言わんばかりに、蒙古も、それと手を組む恥知らずの者共も殺し、そうして遂に、蒙古達の長であるコトゥン・ハーンを抹殺した。
軍を率いる事をせず、一人の兵が百軍を払い千軍を突き破るなど既に嘘である事が証明された時代に於いて、彼はこれをやって見せたのだ。故にこそ、境井仁は英霊なのである。何も、間違っていない。

「……この身が英雄であるかは兎も角……俺は確かに、全力を尽くした。お前風に言うのなら、……妥協、しなかった」

「では誉れは、身を救ったか】

 ロールシャッハの問いに対し、境はややあって、首を横に振るった。

「そうだろう。だが、それがお前の尊敬を損なう理由にはならない。アサシン、俺はお前の強さと意志の強さに敬意を払う。死力を尽くしたお前の精神は称賛に値する】

「マスター、聞け。お前が望むのなら、俺は幾らでも冥人として振舞おう。蒙古共を恐れさせた力をお前の為に発揮しよう。だが、何度でも言う。誉れを捨てるな。お前が嘗て、下らぬものと言って切り捨てた甘さと若さ、それを今こそ思い出せ」

「貴様……!!】

「最後に残った家族をも、俺は失ったのだ……!!」

 人は、失ってから初めてその価値と意味に気付くのだ、と言う黄金律は、境井仁が生きた時代ですら同じだった。
仁が、蒙古を打ち払う為に捨てた誉れとは、世に乱世と混沌を齎さない為の、偉大なる詭弁であり、発明であったのだと言う事実を、取り返しの付かない段になって初めて仁は学んだ。 

 生涯一の恩人であり、教えを授けてくれた志村は死んだ。誉れある死を迎えたい、その意向を受け、仁が、殺した。
志村の腹に、短刀を刺した時の感触は、生涯忘れる事はなかった。英霊になった今でも、仁は覚えていた。


300 : 仁之道 ◆zzpohGTsas :2021/06/05(土) 05:35:47 apOGxBGU0
 地頭の役目をお前に譲るとまで言ってくれた男だった。
仁が教えに背いていた事を知っても、怒る事をせず、初めの内は許してくれた程の器量の持ち主だった。
蒙古を退けた暁に与えられる、本土からの武士を鍛える任を、仁と共にやって行けるものだと、信じて疑わなかった人物だった。
そして仁もまた、この敬愛する叔父と共に對島を守り抜き、時には對島の秘湯を巡り、時には對島で取れた果物や魚食べ、甘く煮た野菜と大盛りの米を食べながら政治の話をするのだと。信じて、疑わなかった。

 現実は非情で、無情だった。
境井の家は改易、つまり取り潰しにあった。もう残ってすらいない。
そして、嘗ては地頭として絶大な権勢を誇っていた志村家もまた、謀叛人となった境井仁を葬る任を完遂出来なかった責を問われ、改易にあった。
そうだ。蒙古から逃げ出したとか、再起不能の傷を負わされたからだとか、そんな程度ならここまで悲惨な結末にならなかった。
誉れを忘れたから……、民に示すべき武士の真の姿を見せられなかったから……。――武士も所詮、毒を盛り不意を打てば殺せると、示してしまったから。
冥人として誉れを捨てる。たったそれだけの選択の過ちで、境井仁は、家名も財産も、たった一人の家族にして恩人も、全部失ってしまったのである。
死して浄土で会おうと言う、志村の最期の約束すら果たせず、英霊として座に登録され、紅葉が舞い散る境井家七代の墓が、最後の解れの場所になってしまったのである。

「……恵まれた男だな、お前は。失って、悲しめるだけの家族がいる】

 たっぷり、10秒の沈黙の後で、ロールシャッハは告げた。

「母親が死んだと聞かされた時……よかった、としか思わなかった。その程度だ】

 押し黙る仁。ロールシャッハの精神は、余りにも強固で、嘗て仁が見てきたあらゆる武士よりも、超人に限りなく近かった。

「誉れとは、大切な物を守るためのもの。そう言ったな】

「ああ」

 そこで、ロールシャッハは言葉を続けた

「大切なものなど、初めから俺にはなかったのかも知れない】

 言葉を切り、マスクを戻し口元を隠してから、こう言った。

「俺の大切な物は、初めから、死にながらにして産まれていたのだと思う】

          ――誉れは浜で死にました――

 その言葉を聞いて、仁は、叔父である志村に対して告げた、決定的な楔となった言葉を思い出した。
小茂田の浜で、死ぬるを覚悟で突撃したあの時、仁にとっては間違いなく誉れとは大切なものだった。
いや誉れだけじゃない。一生仕え続けると思っていた志村は勿論、大切な同胞である安達家に、気さくな奴らの集まりだった菅笠衆だって。全部、仁にとっては愛するべき宝物だったのだ。

 ロールシャッハには、それがなかったと言うのか。
世界の事を腐敗した臓物の掃きだめと認識しているこの男の考えは、人生のある日を境に生まれた思想なのではなく、生れ落ちたその瞬間より抱いていた思想だとでも、言うのか?
そうだとしたら、この男は余りにも――

「……いや、そうだな】

 ややあってからロールシャッハは言った。

「ヴェイトの提案は相棒……ダニエルの奴が生きられる未来だったのに、それに否を突き付けた俺には……やはり、大事な物なんてなかったのだろう】

 その言葉は何処か、寂しいものがあった。仁は、目を細める。
もう話す事もなくなったのか、ロールシャッハは再びベッドに座った。
彼が放り捨てたビーンスープの缶詰には、もうゴキブリがたかっていた。欲望と、見るに堪えぬ本能の渦巻くこの世の縮図を、ロールシャッハはその光景に見たのであった。 


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301 : 仁之道 ◆zzpohGTsas :2021/06/05(土) 05:36:24 apOGxBGU0







              おれたちの無言の声が、今お前たちがこうしてひねりつぶしている声よりもっと力強く、ものを言う時がそのうちやって来る

                ――オーガスト・スピーズ、ヘイマーケット事件の暴徒の一人。警官隊に爆弾を投げ、その咎によって絞首刑に処される。その時の最期の言葉







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302 : 仁之道 ◆zzpohGTsas :2021/06/05(土) 05:36:47 apOGxBGU0
【クラス】

アサシン

【真名】

境井仁@Ghost Of Tsushima

【ステータス】

筋力C+ 耐久B+ 敏捷C 魔力D 幸運D+++ 宝具B

【属性】

秩序・悪

【クラススキル】

気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

【保有スキル】

鋼鉄の決意:B
武士(さむらい)の矜持であり、魂である『誉れ』の教えを捨ててでも、民を守り、蒙古を滅ぼす決意の表れ。そしてそれを成す精神力と行動力。
アサシンの場合、勇猛と戦闘続行を兼ねた複合スキルとして機能し、また痛みに対する強い耐性も併せ持つ。

神々の加護:C++
記紀神話における神々の加護。アサシンは信心に篤く、蒙古との戦いの最中に於いても、寺社への参拝は欠かさなかった。
危機に陥った際、あるいはこちらが優勢の際に、幸運のバックアップが高い確率で保障される。また、アサシンの場合はことに、稲荷大明神の加護と関係が深く、戦闘時に於いてステータスのボーナスを常に得る。

風の導き:C
風を読む力。或いは、誉れを捨て、御家が潰されてもなお、息子であるアサシンを導こうとする父・境井正の意思か。
アサシンは自らが望んだ場所について、其処が何処なのかを導いている風や、空気の流れを認識出来る。魔術的な対策で、これは対策される。

仕切り直し:C+++
戦闘から離脱する能力。或いは、不利な状況を脱せられる天与の才、運の良さ。
アサシンは生涯、幾つもの命の危機に見舞われたが、その度に、運の良さや持ち前の機転、そして、自らの精神力と肉体的な頑健さで生き延びてきた。
またアサシンの生前の逸話の一つに、非常に強力なトリカブトの毒を受けて尚死ぬことがなかったと言う逸話から、毒に対して極めて高いレジスト能力を持つ上に、仮に毒に掛かったとしても、すぐに回復する。

無辜の怪物(冥人):EX
蒙古に対する怒りと、ゴミのように殺される対馬の民の無念を受けて、地獄から蘇った冥人様(くろうどさま)。
対馬を蹂躙する蒙古を殺し尽くさんと言う強烈な復讐心は、首魁であるコトゥン・ハーン及びその配下であった百戸・十戸長の全てを殺害したと言う事実を以って完遂された。
冥人とは何だったのか。対馬の民は、我々を救いなすった英雄だと語る。悪党野盗牢人共は、毒があれば武士だって容易く殺せる事を証明した御方だと持ち上げた。
そして、本土の武士達は誉れの教えを捨て、剰え、家督を譲るのだと自慢していた実の叔父を殺した不届き者として忌み嫌い、民に与える影響が余りにも悪すぎる事から、語り継ぐ事すら禁じた。
過去の在り方や本来の性格が混濁され、民草や武士が信じる冥人とはこのような人物だった、と言うイメージが先行されている。このスキルは外せない。


303 : 仁之道 ◆zzpohGTsas :2021/06/05(土) 05:37:04 apOGxBGU0
【宝具】

『冥人の型』
ランク:- 種別:対人魔剣 最大捕捉:5人
アサシンが生前習得した独自の剣術体系。彼のみが使うとされた、誰にも継承されずそれ故に、後世の誰も使う事が出来なかった剣術。
この魔剣を発動した瞬間、アサシンの鋼鉄の決意スキルはAランク相当にまで上方修正され、同時にCランク相当の威圧スキルが発動する。
魔剣としての内容は単純明快で、摂理や道理すら捻じ曲げる程の強烈な意志力と怒りの想念を以って、相手に対して斬りかかるという物。
粛清防御を除く、対魔力を筆頭としたあらゆる防御・ダメージ軽減系のスキルや、宝具による防護能力すら無視して、相手に大ダメージを与える事が出来、
その粛清防御にしても、内容やランク次第では貫いてダメージを与える事を可能とする。また、威圧によって怯える相手であれば、斬りかかりに成功した時点で相手を即死させる事が可能。

『冥人奇譚(ゴースト・オブ・ツシマ)』
ランク:EX 種別:伝承宝具 レンジ:- 最大補足:-
アサシンが召喚された時点で、彼の意思を無視して発動する常時発動型の宝具。彼を英霊の座へと押し上げるに至った、冥人としての伝説が宝具となったもの。
アサシンはサーヴァントと交戦を行って生存に成功するか、サーヴァント及びNPC・マスターを暗殺する事で、不特定多数の人物の意識に、冥人の伝説や存在を根付かせる事が出来る。
伝説の内容は様々で、冥府の力を経て蘇った不死身の男だったり、敵と認識した者は絶対に殺すであったり、山より大きな体躯をしていたとか、種々様々。
共通して言えるのは、実際のアサシンの姿や実態を大幅に誇張している、尾ひれの付いた噂であると言う事。そして、アサシン自体の誉れは兎も角、戦闘能力を損なう類の噂じゃないと言う事。
この宝具は、『その流布された噂通りの強さを、この宝具によって伝播されたNPCやサーヴァント、マスターの数に応じてアサシンに付与する』と言う宝具である。

 上述のような不死身性の獲得や高い武芸・武術スキルの獲得、気配遮断スキルの向上など序の口。任意によって身体のサイズを変動させる事も、天候の操作も如意自在。
広がる噂の総量次第では、自分と全く同等の技術と宝具やスキルを持った分身を複数体生み出す事だって可能であるし、動物の使役や任意の存在の傷を癒す事も出来る。
最終的には、自分が有する武器の数々が神造兵装一歩手前の性能のそれにまで昇華される。
性質上聖杯戦争が長引き、其処でアサシンが生き残っていればいる程この宝具は真価を発揮し、状況次第ではまさに手の付けられない存在へとアサシンを昇華『させてしまう』宝具である。
この宝具の発動は前述の通り、召喚した瞬間に発動している為阻害出来ないが、万が一、この宝具の存在を停止あるいは破棄された場合、
冥人としての伝説と不可分の存在であるアサシンは、その宝具の停止ないし破棄に連動して消滅する。またアサシンは、この宝具の存在を、余りにも忌み嫌っており、この宝具の有用性を認識しつつも、これを前面にだした戦法には否定的。

【weapon】

無銘・刀:
武家である境井家に伝わる、文字通りの伝家の宝刀。これ自体には特別な力はないが、生前のアサシンが死ぬまで振るい続けた業物である。
特別な力は現状ないと言うだけで、宝具・冥人奇譚によって様々な性質が付与される。

無銘・短刀:
同じく、武家である境井家に伝わる短刀。主に暗殺用に用いる。これも特別な力はないが、宝具・冥人奇譚によって様々な性質が付与される。

無銘・半弓:
対馬随一の弓取りであった、石川定信によって弟子と認められた証。特別な力はないが、やはり宝具・冥人奇譚によって様々な性質が付与される。

吹き矢:
消音性と携帯性に非常に優れた暗器。対馬に生えていた葦を加工して作られている。アサシンはこれを用いて、毒矢を吹く事がある。毒の性質もまた、冥人奇譚によって強化される。

暗器:
生前蒙古軍を打ち払う時に用いた暗器の数々。くないや『てつはう』、鳥もちを用いた爆弾や、逃走用や暗殺用の煙玉、毒が噴出する仕組みを仕掛けた鈴など様々。
アサシンが生前に、お家取り潰しにあった理由の一つである。

毒:
アサシンの乳母である、百合と言う名の女性によって口伝された毒。相手を凶暴化させ同士討ちさせる毒と、相手に苦痛を与えて殺す毒の2つに分けられる。
アサシンはこれを矢に塗り刀に塗り、吹き矢として放つなどして戦い、暗殺する。生前にアサシンがお家取り潰しにあった、最大の理由でもある。

冥人の鎧:
友人である鍛冶屋、たかの遺作。黒塗りの鎧。冥人奇譚によって、性能が強化され得る。


304 : 仁之道 ◆zzpohGTsas :2021/06/05(土) 05:37:19 apOGxBGU0
【人物背景】

冥人の伝説や、成り立ちについて、今は最早、私以上に知る者は少ないでしょう。
冥人とは元号が文永から至元に代わったその折に、対馬に上陸された兀云汗様、つまり後世の学者共が語る所の『コトゥン・ハーン』に対抗するべくでっちあげられた、
民を鼓舞する為の張り子のようなもので御座いました。今日では冥人を名乗る野盗や牢人は数多いものですが、ハーンや私が冥人と呼ぶ者は、ただ一人。
嘗ては対馬の名家として君臨したものの、自らの愚かしさによって改易された境井家の武士、境井仁を於いて他におりませぬ。
コトゥン様は大層な御方でありました。武士の考える浅知恵や戦略の常に先を往き、誉れの教えに凝り固まった彼らにはおよそ考えも付かぬ身も凍る恐ろしい策で迎え撃つ一方で、
冷酷さと寛大さと言う普通であれば相反する二つの性情を巧みに御して、多くの部下を支配する万軍の長、一国の頭に相応しき大人物で御座いました。
そのような御方をして、冥人の存在は恐るべき懸念であり、ハーンがお亡くなりになられる直前までは、彼奴の動きについて常に目を光らせていた程でありました。
無理もありますまい、毎日のように冥人は雑兵は勿論、十戸、百戸長などのいわゆる地頭に相当する兵士を惨たらしく殺し、
それだけの数を殺しているにも関わらず、誰も彼もが殺している一瞬を発見する事が出来ず、意気を挫かれ恐れをなして逃げ去る蒙古の兵ですら容赦なく頭を矢で射貫いて殺すなど、
悪鬼もかくやの所業を日々重ねていました。わけても、毒を扱わせれば冥人の右に出る者はおらず、多くの猛き兵士達が冥人の使う毒によって殺されたので御座います。
そして運命の時が訪れました。冥人は並み居る蒙古の精鋭達を屠り、船上に追い詰められた大ハーン・コトゥン様を殺めてしまわれたのです。
実に、愚かな事をしてしまった物だと、僧籍に身を置く者としては甚だ未熟ではありましょうが、怒りを隠しきれませぬ。
唐天竺をも支配せしめる元国の寵愛を賜らば、京の帝には今以上の権勢が約束され、武士の世も末永く、民草もまた素晴らしき生き方を全う出来たというものを……。

その後の冥人がどうなったのかは解りませぬ。
対馬に燻る蒙古の全てを殺し尽くした後、自害を選んだとも伝わっております。
本土に渡り、人知れぬ山奥に隠れ住み、忍びの流派を興したとも言われております。
博多の港に上陸した元の軍勢を迎え撃つべく、郎党を装い戦ったのだとも人は噂しますし、一人小舟に乗って元に渡り、殺しの限りを尽くしたのではとも……。
ただ一つ言えることがあるとするならば、彼奴……境井仁は、生涯を通し、誰ぞに殺される事は、なかったのだろうと言う事であります。
 
【サーヴァントとしての願い】

ない。だが出来るのなら、誉れを以って自分は戦いたいし、マスターにも、誉れは忘れないでいて欲しい



【マスター】

ロールシャッハ(ウォルター・ジョゼフ・コバックス)@ウォッチメン(漫画版)

【マスターとしての願い】

ない。界聖杯を求めて戦う者を、叩き潰す。こう見えても不殺を心掛けているので、その一線は超えない(状況による)

【weapon】

ワイヤーガン:
ガス圧でかぎ爪が取り付けられたワイヤーを発射する道具。専ら移動用で、ビルの屋上までには平気で届く。
人体に向けて放つと、至近距離であるのなら、骨が砕ける威力となる。

【能力・技能】

格闘術:
これでもヒーローとして活動していた時期がある為、それなりには戦える。但し年の為、無理は出来ない。
また、今戦っている場所に転がっている様々なアイテムを駆使した戦いが得意であり、その戦い方は予測不能。

ピッキング技能:
卓越している。最高機密を保持している軍事施設や、大企業の社長室のロックまで、外せるレベル。

【人物背景】

「キーン条例」によりヒーロー活動が禁止されたアメリカ合衆国、ニューヨークにおいて、違法に自警活動を続け、ストリートで犯罪者を叩き潰している、たった一人のヒーロー。
条例制定時には、連続レイプ魔の死体に「断る!」と手紙を添えて警察署の前に放置したため、殺人容疑をかけられて警察には追われているし、
その暴力的な活動方針から一般市民にも疎まれている。明らかな狂人、パラノイアの領域であるが、世界を良くしようという意思は、本物である。

原作終了後に参戦。

【方針】

界聖杯を求める者を優先的に追い詰める。殺すのではなく、サーヴァントを無力化させると言う形の方が良いが……


305 : 仁之道 ◆zzpohGTsas :2021/06/05(土) 05:37:30 apOGxBGU0
投下を終了します


306 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/05(土) 19:58:37 LlH3rktY0
>>ここが地獄の森 魔天使は舞い降りた!!
>原作での負け方があまりにもアレなので化けて出るのもしゃーない 現界したらまず首の糸チェックしてそう。
魔界都市は魔境だったんだが?マウント取られた挙げ句何もかも壊されちゃったサーヴァントくんがかわいそうでした。
幻十の冷酷さや強さがこれでもかと表現されており、作品全体に気迫がありました。
彼の性質を考えると、サガラという基本傍観者なマスターを引けたのは良かったのかもしれませんね。

>>最強のふたり
最強のふたりカッコガチですね。過去編出典かな?と思ったけどそんなことはありませんでした。
剣と肉体性能だけで悟に追い付いて斬りに来たらしい縁壱さんちょっと怖すぎる。
二人の会話からも最強に相応しい格が滲んでいるというか、色々好きなところがたくさんあったのですが。
>「即帰って、あいつからクサレ脳ミソ野郎を引っ剥がしてやるよ」 か、かっこいい〜〜〜〜〜〜!!!!!!(昇天)

>>仁之道
勝利の代わりに全てを失った仁がマスターであるロールシャッハに語り掛ける言葉の"重さ"の表現が見事でした。
文章を読むだけで伝わってくる言葉の重みと言いますか、そういうのが凄く滲んだ作品だったと思います。
そしてさながら本格小説のような重厚さに溢れた文章がまた話全体の雰囲気とよくマッチしていて素敵でした。
ツシマは配信でちょろっと見たくらいだったんですが、お話も面白そうなので、読んでてやってみたいな〜〜となりましたね。


皆さん今日もたくさん投下ありがとうございました。
それでは私も投下させていただきます。


307 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/05(土) 19:59:08 LlH3rktY0

 
 その気配を感じた瞬間、英霊達は言葉を失った。
 何かが、視ている。空の向こう、否々もっと遠くからか。
 何か途方もなく大きなモノが、此方を、視ている。
 気勢も吐いた覇もすべて虚仮威しではない本物だからこそ、彼らは瞬時に悟っていた。
 
 自分達は今此処で、決断を下さなければならないと。
 英雄の誉れも戦士の誇りも捨てて、匹夫の野盗のように逃げ出すか。
 それともすべてを御破算にする覚悟を決めて、この場に残った戦力のすべてを以って突撃するか。

 矜持を捨て切れなければ死ぬ。
 覚悟を決め切れなければ死ぬ。
 今は敵も味方も関係なく、全員で一丸となって動かなければ死ぬ。
 英霊に死はない。ただ英霊の座に帰り、次の召喚を待つだけだ。
 しかしそれでも。この場に居合わせた――居合わせてしまった三騎の英霊は、皆一様に存在しない筈の"死"を幻視していた。

 やるしか、ないのか。

 誰かがそう呟いた――けれど誰もそれを責めない、その弱気を責められない。
 こんなものを前にして日頃の威勢を保てる者は余程の傑物か、もしくは力の差というものの分からない阿呆の両極端に違いあるまい。
 それほどまでに、今彼らが見上げている存在は頭抜けていた。
 

 始まりは空だった。
 渦潮か竜巻か、或いはその両方を思わせる――渦動する雲。
 地の底から響くような音と共に、"それ"は渦の中から現れた。
 青い鱗を持つ、一匹の龍。思わず言葉を失ってしまうほど大きく雄々しく、荒ぶる神のように大胆不敵。
 神秘隠匿の原則など弱者の戯言だと言わんばかりにまろび出た龍は、そのまま人の姿へと変じたが。
 天空から大地へと墜ちてきた"それ"を人と呼んでいいのかは、甚だ疑問であった。

「脆弱(よえ)ェな」

 角があった。背丈が異常に高かった。
 巨人の如き骨格を覆う筋肉を形容するには、巌、山岳、否々それでもまだ足りない。
 金棒を握り、失望したような言葉と共に地へ立ったその男。
 彼の威容はこの国に伝わる、とある空想存在のそれに酷似していた。
 
「肩慣らしだ。少しは保てよ? 英雄なんだろお前ら」

 ――鬼、である。

 酒の匂いを漂わせ、歩く度に地面を軋ませ。
 眼光は歴戦の勇士の心胆をも寒からしめる。
 そんな鬼が、理不尽という言葉を体現するような怪物が。
 この日初めて、界聖杯内界。東京という名の都に、降り立った。


308 : 皮下真&ライダー ◆0pIloi6gg. :2021/06/05(土) 20:00:11 LlH3rktY0
◆◆


「派手にやったな。まだ初戦だぞ?」
「だからこそだ。サーヴァントってのが一体どの程度"やれる"のか、確かめておきたくてな」

 その後のことを語る意味は特にない。
 見応えなど何もない、ただただ順当な虐殺が行われただけだ。
 彼は、カイドウは、ただ得物を振るって敵を殴っただけ。
 それだけで敵は簡単に総崩れになり、一度殴る度にどんどん弱っていった。
 少し力を込めれば一騎消えた。またもう一度力を込めれば、同じことが起きた。
 臆病風に吹かれた最後の一騎に事もなく追いついて、また殴って、それでお終い。

 さながら、象が逃げる鼠を淡々と踏み潰すような。
 英雄、偉人、怪物犇めく聖杯戦争の舞台にはあるまじき――虐殺劇。
 故にこそ、その始終を記すことはしない。
 そんなことをしたとて、それは"断末魔の書き写し"以上のものにはならないのだから。

「予想通りだ、悪い意味でな。
 あの程度の連中なんざ、新世界の海にはゴロゴロ居た」
「手厳しいな〜、総督殿は。
 けどなぁ、流石に酷ってもんだろそれ。アンタを基準に考えられたら、皆堪ったもんじゃないと思うぜ」
「だったら、ハナから人類史をひっくり返した大戦争なんてでけェ言葉を使うんじゃねェよ」

 不機嫌そうにそう告げて、カイドウは片手に握った巨大な徳利を傾ける。
 限りなく百パーセントに近い度数の酒をこの勢いで呑むのは、しかし彼の日常だ。
 彼は英霊となる前から、既に無謬の肉体を持っていた。
 病に罹らないなんてチンケな話ではない。彼には炎も効かなければ、ギロチンの刃も通らなかった。
 さも、それが不変の"理屈(ルール)"だとでもいうかのように。
 彼は、カイドウは――あるがままに、最強であり続けた。

「せめてリンリンくらいの奴が居なきゃ話にならねェ」
「それ、話に聞く限り災害の擬人化みたいなイカレ婆さんだろ?
 もうちょっと人間に寄り添った期待をしようぜ、カイドウさんよ」
「あ? おれがいつリンリンのことをお前に話した」
「おいおい、あんた酒に酔うと聞いてもないこと延々喋るだろ〜?
 あんたマジで酒止めろって。医者からのアドバイス兼、マスターからのお願いだ」
「ウォロロロロ……なら令呪でも使うか? 皮下」
「ははは、禁酒させる対価にそのでけー金棒でぶん殴られるのが見えてんな。忘れてくれ〜」

 そして、その怪物を引き当てた男はと言えば。
 一見すると、人畜無害にしか見えない優男だった。
 白衣は似合っているが、医者にしては何処か軽薄な印象を受ける。
 されど、侮るなかれ。この男はカイドウのような"強者"のベクトルでこそないものの、しかし紛うことなき怪物なのだ。
 
「まあ、それはさておきだ。
 あんたがあの程度のサーヴァントなら無傷で瞬殺出来る化け物だって分かったのは収穫だったよ。
 認めるさ、最強の名に偽りなしだ。何かと運に恵まれない俺にしちゃ珍しく、一等賞の当たりクジを引けたらしい」

 ――皮下真。
 社会の裏側で暗躍する機密組織、《タンポポ》の幹部。
 その見た目は何処をどう見ても二十そこそこの青年だが、実年齢は百を優に超えている。
 大戦期から今に至るまで、自然の道理を飛び越えて生き永らえ続け。
 人の身には余る理想を抱き、それを実現するため、大勢の命を犠牲にしてきた"怪物"。


309 : 皮下真&ライダー ◆0pIloi6gg. :2021/06/05(土) 20:01:02 LlH3rktY0

 怪物と怪物が轡を並べて聖杯を目指すという、悪夢のような現実。
 それが今、界聖杯内界……もとい。
 そこに接続された、カイドウの宝具たる"異界"の内側に広がっていた。

 『明王鬼界・鬼ヶ島(みょうおうきかい・おにがしま)』。
 明王と呼ばれた最強生物、カイドウが数十年に渡って根城とした文字通りの"鬼ヶ島"。
 固有結界とは似て非なる、しかし負けずとも劣らない怪物の住処。
 此処こそが、カイドウの居城。そして外道・皮下真のラボラトリー。

「ま、これからもビジネスパートナーとして宜しく頼むぜカイドウ。
 俺も精々あんたの機嫌を損ねないように頑張るさ。
 あんたは俺の胃に潰瘍ができない程度に好き勝手暴れてくれりゃそれでいい」
「言われずともそのつもりだけどよ……そういえば、お前の願いを聞いたことがねェな」

 ぐび、ぐび、と。
 そんな音を立てながら酒を呑み、カイドウは問う。
 
「お前は何を願うつもりなんだ、皮下。
 富か? 名声か? それとも無限の命か?」
「もう全部持ってる。聖杯に頼るまでもない」

 はぐらかしてもいいと言えばいいのだが、この怪物は何かと怒らせると怖い相手だ。
 それに、そもそも隠し立てするようなことじゃない。
 皮下はカイドウへと、やや逡巡してから口を開いた。

「種をまきたいんだよ。うんと綺麗な桜の種をな」
「あァ? 何だそりゃ」
「それさえあれば全人類が等しく横並びになれる。
 桜の種は福音なんだ。あらゆる人間の身体から、満開の花を咲かせてくれる」

 皮下真という人間は、端的に言って外道である。
 人の命の重みを理解しない。駒のように切り捨て、泣くでもなくただ笑う。
 それでも、皮下の理想は紛うことなき人類のためを想ってのそれであり。
 だからこそ、異様すぎた。なまじ才を持ってしまったからこそ到達出来た思想、ひとつの極致。
 それを、彼はこう呼んだ――"種まき計画"、と。

「ま、要するに世界平和さ。
 格差のない、真に平等で平和な世の中を作りたいんだ」
「物好きな野郎だな。そんなつまらねェことのために聖杯を使うのか」
「価値観は人それぞれだよ、カイドウ。
 俺に言わせれば、戦争をしたいっていうあんたの願いも大概理解出来ないぜ。
 放っておいても蛆みたいに涌いてくるだろ、戦争なんか」
「ウォロロロロ! ……ああ、そうかもな。こいつは一本取られたぜ」

 彼らの望みは、真逆だ。
 皮下はどれだけ歪なれども、救済の下りた世の中を願う。
 一方でカイドウは、混沌の吹き荒れる戦乱の世を願う。
 彼らの道は決して交わらないが――それを交差させるのが、界聖杯という"神"だ。


310 : 皮下真&ライダー ◆0pIloi6gg. :2021/06/05(土) 20:01:42 LlH3rktY0

 タンポポの大幹部、百年に渡り歴史の闇で暗躍を重ねた怪物はこの世における最強の生物を引いた。
 四皇。明王。最強生物。鬼。龍。百獣の、カイドウ。
 それがどれだけの破壊を生み得る存在かを理解しながら、しかし皮下は止まらない。

 死に逝く時を待つだけの灰色の生涯で、初めて見れた夢なのだ。
 彼女が。あの麗しい桜が、見せてくれた夢なのだ。
 ならば叶えねばなるまいと、皮下は思う。
 たとえ、どれほどの悲劇と血を生もうとも――種をまく。

 すべては、満開の桜が満たす理想の社会を実現するために。
 それだけのために、今あらゆる悲劇が是認された。
 界聖杯はすべての願いを受容する。すべての手段を受容する。
 願いを叶える、その道程には――善も悪も、嘘も真も。ありはしないのだから。


【クラス】ライダー
【真名】カイドウ
【出典】ONE PIECE
【性別】男性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:A++ 耐久:A+++ 敏捷:B+ 魔力:B 幸運:D 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:A
 幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

【保有スキル】
悪魔の実:EX
 ウオウオの実幻獣種、モデル"青龍"。
 これを食べたカイドウは伝説上の生物・青龍に変化することができる。
 熱息や鎌鼬など龍の生態通りの攻撃を放てる他、雲を生み出し物体を浮遊させる、天候を自在に操作するなどその権能は多岐に渡る。
 特に熱息の威力は絶大で、山頂諸共城跡を粉々に消し飛ばすほどの威力を誇る。

覇気使い:A+
 全ての人間に潜在する"意志の力"。
 気配や気合、威圧、殺気と呼ばれるものと同じ概念で、目に見えない感覚を操ることを言う。
 カイドウは最高レベルの覇気使いであり、覇王色を"まとう"ことも可能である。

嵐の航海者:A
 船と認識されるものを駆る才能。
 集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。


311 : 皮下真&ライダー ◆0pIloi6gg. :2021/06/05(土) 20:02:20 LlH3rktY0

酒乱:B
 デメリットスキル。
 カイドウは非常に酒癖が悪く、深酒をして暴れることも多い。
 飲酒時にLUCK判定を行い、失敗した場合は酔いが冷めるまではマスターの指示が通じにくくなる。

【宝具】
『最強生物・百獣之皇(ストロンゲスト・ワン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
カイドウの肉体。この世における最強の生物と謳われた"皇帝"の全て。
体表の全てが極めて堅牢で、元の世界では内部に衝撃を直接流し込む特殊な技術がなければ攻撃を通すことはほぼ不可能とされていた。
無論それだけではなく、パワー、スピード、そしてタフネスさと全能力値が異常に飛び抜けた領域に達している。
そこに彼自身の武技が加わることにより真っ向からの打倒は極めて困難であり、最強の名に違わない圧倒的な強さを実現している。
一定以下の威力の攻撃を無効化し、その篩いを超えたとしても固定値分被ダメージを軽減する。
この性質は魔術的な攻撃に対しても同様に働くため、如何なるクラスの英霊であってもカイドウを討つことは平等に至難の業。

『明王鬼界・鬼ヶ島(みょうおうきかい・おにがしま)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-
カイドウの居城・鬼ヶ島。彼自身の能力により大地を離れた逸話から、聖杯戦争においては平時は異空間に展開されている。
鬼ヶ島の内部にはカイドウが率いた"百獣海賊団"の船員達が再現されており、その数は世界一の兵力と謳われるだけあり非常に膨大。
中でも"大看板""飛び六胞"の肩書を持つ者は強力でサーヴァント級の力を持つが、軍勢使役形宝具の常として魔力の消費が凄まじく悪い。
異空間に展開している分には消耗は軽微だが、界聖杯内界の主戦場に鬼ヶ島を移動させ、兵力の多さを活用して戦うにはマスターが殺人的な魔力消費に耐えられるよう何らかの手を講じて備えておく必要がある。

【weapon】
金棒

【人物背景】
百獣海賊団総督。大海賊時代のハイエンド、"四皇"の一角。
この世における最強生物と称されるに相応しい、怪物の中の怪物。

鎖国国家・ワノ国の将軍黒炭オロチと手を組み、かの国を支配下に置いた。
二十年以上に渡ってワノ国の"明王"として君臨し、最終的には協力関係にあったオロチをも殺害。
世界規模の大戦争を引き起こす念願を叶えるべく、"新鬼ヶ島計画"の発動を宣言した。

【サーヴァントとしての願い】
界聖杯を獲得する。
だがそれ以上に、聖杯戦争という未曾有の戦に興味がある。


【マスター】
皮下真@夜桜さんちの大作戦

【マスターとしての願い】
"種まき計画"の成就。

【能力・技能】
異能と呼んで差し支えないほどの才能の血、夜桜家の権能を持つ。
司る開花は"再生"。彼が今までに消費してきた実験体、その全ての能力を再現できる。
更に身体に埋め込んだ"葉桜"の恩恵として、首を斬られた程度では死なない。
通常の手段で彼を滅ぼすことは、極めて至難の業である。

【人物背景】
社会の裏側で暗躍する非合法組織、《タンポポ》の幹部。
既に百年以上の時間を生きており、化物と称された。

【方針】
カイドウの力に驕らず、あらゆる手を尽くして聖杯戦争に勝利する。
いつも通り、手段を選ぶつもりはない。
全ての命は、いつだって平等に軽いのだから。


312 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/05(土) 20:03:00 LlH3rktY0
投下終了です。


313 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/05(土) 23:03:35 FC/m42zg0
投下します


314 : マネーイズパワー ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/05(土) 23:06:43 FC/m42zg0



 台座に乗った銀色の筒から、煙が上がっている。
 風に乗って煙が揺れると、火薬が炸裂した匂いがする。
 深夜こそが本当の生活の場と路地裏でたむろしている若者の姿は今夜ばかりはない。
 今しがた静寂を引き裂いた獣の唸り声もかくやの轟音を聞いた者が、果たしてどれだけいたか。
 
「腹は決まりましたか? お客様」
 
 恍惚の抜け切れない顔で、銀筒に体を横たえている男は言った。
 そこから射出された無数の礫に両脚を撃ち抜かれ、地面に倒れ伏したセイバーのサーヴァントは男を睨む。

 上下白のスーツに身を包んだ、ビジネスマン風の男だった。
 全身が敵を討つ凶器となる、武に生きた者特有の殺気もない。
 指の動きひとつで絶命の術を放つ、魔を統べる者特有の妖気もない。
 これが人類史に名を刻んだ英雄の現象、サーヴァントなどとは英霊には俄には信じがたかった。
 英霊が生きた時代にはまるで見ない異様な雰囲気を、頭頂からつま先にまで行き渡らせている男だった。
 
「もうじき貴方は死にます。その体ごと資産ごと、宵越しの金も持たず消滅してしまう。そして貴方の大切なマスター様も、この魑魅魍魎が巣食う世界にひとりで取り残されてしまう。
 ならばせめて……どうでしょう? その前に差し出せるものは出した方がよいのでは? 主人のために最期まで尽くすというのが、英雄様の誇りというものでは?」

 己の絶対の勝利を疑わないのだろう、快感に酔いしれたまま男は英霊に言葉をかける。
 業腹だが、手詰まりであるのは覆せない。血を流し続ける両脚は元より、その背後で震える命にかけられた剣の構図が、自分達が既に敗北している事実を示している。

 スーツの男とは対称的の、粗暴を具現化したような男だった。顔立ちこそ整ってるが染み付いた暴力の匂いは辺りの火薬では隠せない。
 この男は路地裏から突如として現れ、瞬く間に英霊のマスターを拘束した。
 その身のこなし、鍛え上げられた体と技は、こちらこそがサーヴァントではないかと錯覚するほど見事なものだ。
 だが肉眼で捉えていても魔力の気配をまるで感じられないのが、男がサーヴァントどころか魔術師ですらないことを現している。
 そうでなければ、こうも無防備にマスターを捕らえられることもなく、直後にビジネスマンから発された射撃に対応が遅れ、銃弾に身を晒すこともなかったろうに。

 マスターは無事だ。今のところは、まだ命を繋いでいる。
 令呪のある腕を極められ、仄かに魔力を帯びた刀剣がいつでも振り下ろせるぞと誇示している。
 英霊は宝具を撃てる態勢になく、マスターからの援護も期待できない。
 絶体絶命、そんな言葉が脳裏をよぎる。自らの不甲斐なさを呪い、マスターの身を案じる英霊に、白服はある提案をしてきた。
 その内容は到底承服できないものだった。英霊とて戦乱の時代で武勲を立てた身。戦いの誇りの象徴は魂の重みにも匹敵する。
 次いでその条件として挙げられたものに憤慨した。そんな卑属な手段で英霊の誇りを貶めるなど、甚だしい侮辱だと吠え立てた。
 ならば這いつくばるその身で逆転の手があるのかと問われれば……口を閉ざさざるを得ない。
 自身の未熟さで死するのならばいい。しかしその結果残されるのは、守りを失い敵のみの戦場に取り残されるマスターだ。

 誇りを取るか。
 命を救うか。
 恥辱と葛藤に掴む柄が砕けんばかりに握力を込め────やがて、力なく地面に突き立つ音が鳴った。

「取引、成立ですね。宝具の売り払い、有難う御座います。
 御安心を、契約はきっちり守ります。それが商人にとっての鉄則、いうなれば誇りですから。
 貴方のマスターは殺さず、更にはこのお金も差し上げます。野蛮な殺し合いより余程良い人生を歩めることでしょう……」


 ◆


315 : マネーイズパワー ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/05(土) 23:08:08 FC/m42zg0



 昼。学生は勉学に励み社会人は稼ぎ時と汗を流す時間。
 働かず、起きず、ソファに身を投げ出し存分に惰眠を貪っていた伏黒甚爾の耳がドアの開く音を捉えた。

「はろぉう、甚爾さん。どうですか? セイバーから買い上げたその剣は」

 屋敷の主にして自分のサーヴァント・キャスターが、洒脱なスーツに高級鞄を抱えた仕事着で姿を見せた。
 猫撫で声で、如何にもこちらを値踏みしていますというニヤついた視線。商人にはよくある手合だ。自分に依頼してくるような部類には特に。

「まあまあだな。さすが英雄様だ、いいモン持ってやがるぜ。少なくともオタクが作ったナマクラよりよっぽどな」
「そりゃあそうでしょうよ。私の雅桐刀は数打ちに特化した量産品。貴方みたいなゴリラ用の武器は揃えていません。
 それに、私は鍛冶師ではなく商人です。売っていなければ買い付けることもできません」
「骨董品屋でも回る気かよ?」

 甚爾が呼び出したサーヴァントは、はっきり言って弱そうだった。
 いや、実際に弱い。筋力も瞬発力もない痩せた肉と脆い骨。それを補って余りある異能の札を持ってるわけでもない。
 出自上、呪力を読めない甚爾はあるが、恩恵の能力とそれを用いる輩を数多く屠ってきて積んだ経験でそれは確信できる。
 そしてなんと本人もそれを肯定した。気持ちよく。恥じるものなどないという風に。
 出来るのは昨夜見せた、サーヴァントから宝具を『買い取る』という、驚異的には違いないが使い所が限られる一芸ぐらい。
 自分がハズレくじであると開けっぴろげに宣言する澄まし顔に腹が立って、反射的にぶん殴った。
 防御も回避も受け身も取れず人中に拳が入って全身を車輪にして吹き飛んだが、拳を食らった事実など始めから無かったかのようにすぐに立ち上がってきた。
 やはり呪霊と同様、サーヴァントを傷つけるには神秘ある品……呪具を用いなければならないらしい。
 ならばとキャスターが自前に生産していた刀の柄を指にかけたところで、漸く本気で脅えて謝罪してきたので少し溜飲が下がった。

「……さて、これにて頭金は揃いました。いよいよお買い上げとなりますが……本当に宜しいので?」
「あ? 最初に持ちかけたのはテメェだろが」
「ええそれは勿論。承諾もなくいきなり書いた憶えのない契約書で結ばれた関係なぞ商人にとっては不徳の極み。
 ならば我々にとってより信頼できる方法で契約を結ばねば、今後に支障が出ないとも限らないでしょう……?」


316 : マネーイズパワー ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/05(土) 23:09:03 FC/m42zg0


 懐に抱えた、中身が大層詰まったバッグ。まるで長年連れ合いの愛おしいペットかのような繊細な仕草で甚爾の前に起き、恭しくファスナーを開いた。
 露わにされる、整理されて並べられる札束の山を示して、キャスターは姿勢を正し口角を引き締める。

 
「令呪一角につき一億円。三角しめて三億円。耳を揃えてご用意しました。
 そして受け取った時点で、我々の契約は成立します。伏黒甚爾はマスターでなく私、武田観柳個人との契約で働くビジネスパートナーと相成ります」


 これは尋常な魔術師相手であれば、絶対に成立しない交渉だった。
 令呪とはマスターの証にしてサーヴァントへの戒め。重火器を満載した戦闘機にも例えられる英霊を制御する為の操縦桿。
 乗り込んだ機体の操縦権限を機体自身に明け渡すなぞ、こめかみに当てられた銃口の引き金を明け渡すようなもの。
 しかし例外とは何事においても起こり得る。令呪の買収という前代未聞が通る、伏黒甚爾は極めつけのレアケースだ。
 天与呪縛。呪力を完全に持たない縛りによるフィジカルギフテッド。
 呪霊を感知し、呪術師を素手で撲殺できる運動能力と引き換えに、甚爾は一切の術式を使えない。当然、界聖杯(ユグドラシル)から配布される令呪もだ。
 奇蹟の聖痕はオシャレなタトゥー並の価値しか持たず、キャンセルされて消えなかっただけでもマシである。
 戦力としてはともかくマスターという枠では論外と判を押すしかない不良債権に、しかし観柳は商機を見出していた。

「どの道俺にコイツは使えねえ。あっても無駄なモンを金で買うっていうなら、ああ、売ってやるよ」

 太さはないが、筋繊維の擦れる音が聞こえそうなほど束ねられ締められた腕を差し出す。
 友情を確かめ合う固い握手、などではあるはずもなく、観柳は紋が刻まれた手の甲にそっと指を這わせ、賞品を『買い取る』。
 天与の暴君の中では無為だった令呪が、観柳の腕で本来の機能を取り戻したように淡く輝き出した。

「取引成立! 令呪の売り払い、有難う御座いまぁす!!」

 慇懃さを保っていた観柳の表情が、達成感に満ちた法悦の破顔に瞬く間に変わる。この場面に漕ぎ着くまでが、彼にとって当面の一番の難関だった。
 甚爾に魔術は使えない。単なる一般人の生命力を魔力に変換するという機能すら死んでいる。
 それはサーヴァントの使役どころではない重大な危険を抱えていることを意味する。
 全ての敵を殺し尽くした末に手に入る黄金のトロフィーである聖杯すら、彼には使用できない可能性を。
 優勝したところでトロフィーも賞金も手に入らない。ボランティアとかいう、反吐が出る行為に与えられるせせこましい賛辞すらない。
 これで命がけで戦いに臨めと言う方がどうかしてる。使命や正義感といった無償を旨にした行為を迫るのは観柳の主義にもとる。
 現に甚爾は当初この戦争に乗り気でなく、消滅するまで自堕落に過ごすと放言していた。
 この陣営が勝ち抜くにはどんな戦略を立てるよりもまず、相方のモチベーションを上げてやらねばならなかった。


317 : マネーイズパワー ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/05(土) 23:10:03 FC/m42zg0


 武田観柳は商人だ。
 金を稼ぐことを生涯の生業として生きてきた男だ。
 合法と非合法を掛け持ちして一代で成した財が罪の暴露で塵と化しても、賄賂で死刑を回避し、便所掃除をしながら糞を掻き分けて端金を集め、騒ぎに乗じた脱獄から再び一旗上げるべく邁進した筋金入りの拝金主義者だ。
 そんな男が与えられるものはなんだ。オカルトではない、真に人を動かせられる契約とはなんだ。
 問うまでもなし。どれだけ本気でいるかの度合いを、目に見える形で分からせればいい。

 甚爾の傭兵のコネを駆使し、貯金を利子つきで前借りし、東京中を駆けずり回り、法の目を掻い潜り、株を売り、競馬に勝ち、予選の期間を金稼ぎに注ぎ込んだ。
 ここにあるのはただの金。この世界だけで通用する、すぐに鼻紙にもならなくなる仮想通貨。
 だが観柳が血と汗と涙で稼いだ金だ。ビタ一文分も妥協してはいない。
 たとえ世界が偽物でも───心血を注いだ時間と情熱は、己を決して裏切らない。

「は……!ははは、ははははははははァァ〜〜〜〜!」

 そしてその結実、紛れもない金の力の成果を眺め、見事聖杯戦争への入場チケットを掴んだ観柳は喝采する。
 光を放つ令呪は、まるでこれまで集めた金の総価値が反映されたかのように煌めいて見えた。

「私は……生まれる時代を間違えた。 いや、時代が私に追いついたのだァ!!
 身分など関係なく金を稼げる。稼げば稼ぐほど偉くなれる! 私のような戸籍どころか生きてない者すら、大枚叩けば相応の身分が手に入る!
 まさか明治から百数十年でここまで私の理想の世界に変わるとは! ああ資本主義! 情報社会! GDPィ〜〜〜〜〜〜〜!!」

 御庭番衆・四乃森蒼紫。維新志士・人斬り抜刀斎。幕末の動乱の猛者に挟み込まれた形で全ての財を失った時、観柳は思い知った。
 この世には金では動かない人間がいる。
 金では替えられないものを人生の軸とし、死んでもそれを曲げようとしない頑固で厄介な連中がいる。
 そしてそんな連中に限って、金では手に入らない得体の知れない力を持っている。力があるからこそ、金を必要としないのだ。
 お金で買えないものはあるのだ。だが余人に手に入らない力は特権階級を作り、差別を生む。伏黒甚爾がいい例だ。
 呪術師の家系に生まれながら呪力を持たないという理由で白眼視され、迫害される。自分達を凌ぐ力があるにも関わらずだ。
 なんという勿体なさか。金に換えられない権利にしがみつくばかり、有用な資産を自ら手放すとは。かつての自分も同じように、株価の流れを見誤り破滅を招いたのだ。

 だが今の観柳は違う。挫折を知り敗北を知った。流した涙の味と踏み出した歩みが、今の地位へと導いた。
 英霊と武田観柳は、金さえ工面できれば可能な限りのモノを買える資本主義の申し子として昇華された。
 魔術刻印であれ、宝具であれ、同意と対価さえ揃えば彼は万能の魔術師になれる。


318 : マネーイズパワー ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/05(土) 23:12:46 FC/m42zg0



 そう─────────お金で買えるのなら、神様だって買い上げてみせる。 



「さあここから忙しくなりますよ甚爾さん! 私の金と、貴方の力を、そして我が愛しの回転式機関銃(ガトリングガン)があれば敵はなぁし! 
 大商人武田観柳・新時代(ニューエイジ)にて再起の時です!!」
「いや、それはテメエが勝手にやってろよ」

 舞い上がる観柳に醒めた目で突っ込む甚爾。
 術師殺しの仕事は金のためだが、それは遊ぶ金欲しさであって、ここまで変な信念を持って臨んだことはない。

「とはいえ、貰う金(もん)はもらったしな。仕事はするさ、いつも通りにな」

 そうだ。埃を被ってた矜持なんか持ち出したから、あの時自分は死んだのだ。
 もうあんな気は二度と起こすまい。猿は猿らしく餌に釣られ、面白おかしく気ままに暴れ回れればそれでいい。


 ……しかし。
 運良く拾った二度目の生。どう使い潰すかずっと考えあぐねていたが。
 もしこの男が聖杯を手に入れ、自分を蔑んできた連中が丸ごと金で買い叩かれたとしたら───

「ああ、そいつは冥土の土産には丁度良い。最高の笑い話だぜ」


319 : マネーイズパワー ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/05(土) 23:14:36 FC/m42zg0
【クラス】
キャスター

【真名】
武田観柳@るろうに剣心〜明治剣客浪漫譚〜

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力EX 幸運C+ 宝具EX

【属性】
秩序・金

【クラススキル】
陣地作成:C
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 彼の場合商業施設であれ生産工場であれ、金儲けに関する何らかに限定される。

道具作成:D
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 性能より量産性に特化した雅桐刀などあまり強いものは作れない。あくまでこれらを元手にした宝具の運用こそが肝である。

【保有スキル】
拝金主義:EX
 「お金で買えないものは差別を生みます。だからこその金なのです」
 「この世で最も平等で公平!! それこそが金の価値なのです!!」
 金を至上のものとして扱う特殊嗜好。観柳に関してはそれは人生で培った信念にも等しい。アライメントにも影響が出てる。
 「金を稼ぐ」という行為についてボーナス判定が発生、より多くのお金を得るチャンスに恵まれる。
 ただし、その手段が(観柳の主観で)違法・信条に反するものであった場合には各行動にデバフが付与、最悪ファンブル発生で全ての金を失うことになる。
 平等な力である以上、リスクもまた同様なのだ。脱法ならセーフ。

自己回復(金):D
 金を稼ごうとする意志が尽きない限り、魔力を微量ながら毎ターン回復する。
 元々霊格が高くなく戦闘行為も起こりくい観柳にとってはこれで十分な量。

不屈の意志(魔力・金):C
 泥を食べてでも、土下座をしてでも、便所を掻き分けてでもお金を稼ぐという、極めて強固な意志。
 肉体的、精神的ダメージに耐性を持つ。問題に対する瞬発的な抵抗力というよりは、「決して諦めない」という継続力に通じる在り方。
 たとえ無一文になっても───諦めなければまた稼げるのだ。 

射撃(ガトリング):C++
 燃料が詰まった胴体を避けて頭部にピンポイントで当てる、手足を精確に狙って不殺で戦闘不能にする等、
 ガトリングでの射撃に関しては天才的な技術を発揮する。 

【宝具】
『この世で最も平等な力(ザ・グレイトフル・リヴェラー)』
ランク:EX 種別:対経済宝具 レンジ:なし 最大捕捉:資本社会
 どん底から這い上がり、再びどん底に落ちてもなお昇ろうとする観柳が見出した、明治時代において先進的な「資本主義」の象徴。
 現実の金を使って様々なものを「売買する」宝具。礼装・術式・宝具・概念すらもその範疇に含まれる。
 魔術的なものに払う金銭は聖杯からの参照で決まり観柳にも操れない。ただしその後の交渉で「値切る」ことなら可能。 
 売買が成立した時点で契約完了となり、反故にすることは不可能。応用して取引相手との何らかの契約・同盟の条件としても使える。
 それらで得た品を売ってさらなる利益(魔力資源)も得られるが、お金への直接の変換だけはできない。
 したがって買うための金は本人の手で工面しなくてはならない。通貨の偽造は犯罪です。
  
『我が愛しの回転式機関銃(ガトリング・マイ・ラブ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:3〜20 最大捕捉:30人
 『この世で最も平等な力』が観柳の信念の象徴なら、こちらは観柳の信ずる力を象徴する宝具。
 ただの当時最新式のガトリングガンだが、幕末の猛者や最強の人斬りすら圧した快感から、観柳は最強の力として敬意と愛情を抱いている。 
 その信仰が力となってこの宝具に勇名以上の性能を発揮している……のかもしれない。
 逸話により剣客・暗殺者に特攻効果を得られる。

【weapon】
回転式機関銃、お金様の詰まったバッグ。
ちなみにガトリングは台座式と手持ち式に分かれている。

【人物背景】
青年実業家にして阿片と武器密売の悪徳商人。
失脚し投獄されるもお金様の力で死刑を免れ、刑務所襲撃に紛れて脱獄し、再び商人として再起する。
生まれから食うや食わずの貧乏人らしく金への執着心は人一倍強い。最初の失脚以来、金に対する先進的な考えを持つに至り、独自の信念を形成させた。
「違法はマズい。これからの時代は脱法だ!」

出典は原作版、キネマ版、実写版、舞台版、北海道編を統合したものとして扱う。過去現在未来平行世界、全ての可能性が集約されたパーフェクト観柳。

【サーヴァントとしての願い】
大商人武田観柳・新時代(ニューエイジ)再起の時!!


320 : マネーイズパワー ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/05(土) 23:16:12 FC/m42zg0
【マスター】
伏黒甚爾@呪術廻戦

【マスターとしての願い】

【能力・技能】
一般人でも微弱ながら持つ呪力を一切持たないという、生まれつきの縛り「天与呪縛」の恩恵で超人的な運動能力を備えたフィジカルギフテッド。
増大した五感で逆に呪いも感知でき、呪いへの耐性も獲得。呪力探知も意味をなさない。
逆に素手では呪霊を傷つけることもできないため、攻撃には呪力の込もった道具を用いる必要がある。
本企画ではサーヴァント含む霊体の視認、気配遮断に等しいステルス、直接攻撃を除く魔術(いわゆるデバフ系)への対魔力と定める。

【人物背景】
フリーの術師殺し。
呪術界御三家の一角・禪院家でありながら呪力を一切持たないために冷遇され出奔した過去がある。伏黒は婿入りして改めた姓。
ギャンブル好きだが強くなく、依頼で荒稼ぎして女の元を転々としながら無一文になるまで遊び倒すサイクルで生活しているプロのヒモ。自堕落で飄々としてるが仕事には情を挟まず冷酷に始末する。
息子も矜持も自尊も自己肯定も捨てた生き方に後悔はなかったはずが、最強に覚醒した呪術師相手にそれを優先してしまったことで死亡した。
死亡後に参戦。

【方針】
雇い主のキャスターの依頼で動く。基本はマスター殺し。あるいは引き換えにサーーヴァントから宝具を引き抜く。


321 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/05(土) 23:16:42 FC/m42zg0
投下終了です


322 : ◆.OuhWp0KOo :2021/06/05(土) 23:58:10 6cJ6BMag0
候補作の投下、開始します。


323 : VANITY GIRL ◆.OuhWp0KOo :2021/06/05(土) 23:58:40 6cJ6BMag0
一点の緑も見当たらない、黄色く煤けた大地。

螺旋巻く鈍色のツタは、鉄条網。

目を射る銀色の炸裂、赤黒い爆炎。

背後からの激に慌てて穴蔵に戻れば、金髪で蒼い瞳、無精髭の精悍な男。

肌の色、背丈、歳格好、階級。何もかもバラバラの、それでも、仲間といえる男たちがいた。

塹壕戦。

世界史の教科書や、記録映像の白黒でしか知らないはずのそれが、今まさにフルカラー再生で視界に広がっていた。

――だがそれは決して、"ここ"の過去ではなかった。

荒野の地平から、敵が姿を表す。
整然と隊列を組み、歩みを進めるブリキの巨人、28体。

8人の小隊員(なかまたち)と共に、奴らの姿をにらみつけると。
ズラリ一斉に、塹壕から銃口を向けた。

照準器と有線接続されたゴーグルの先には、火器満載の巨人たち。
ガシン、ガシン、と巨人たちの足音が近寄る響きを肌で感じる。

生身の9人でブリキの巨人28体を相手取り、足止めし、あわよくば撃退する。
それがこの小隊に課せられた任務。自殺の近似値。

――突如、巨人たちが爆ぜ、爆炎に消える。
事前に備えた、地雷原。
だがそれは戦闘開始の号砲でしかなく。

もうもうと煙る中から、巨人たちがスケート選手の如く滑り出す。
巨人たちの戦叫[ウォークライ]は、甲高いモーター音。
彼らのカカトに備わったローラーが高速回転を始め、戦闘機動に入ったのだ。

急速に距離を詰める巨人たち。
携えたヘビィマシンガンが、肩のロケットランチャーが、
そのサイズに見合った火力で小隊を襲う。
日陰の蟲のように、塹壕に身を屈める。
まだ、それが精一杯。
まだ、遠い。
身の丈ほどあるライフルでも、あの巨人たちの装甲を抜くには、まだ遠い。

――そして。
撃て、と小隊長。
ライフルと迫撃砲の斉射。
直撃を受け、1体、2体、3体と斃れ、爆散する巨人。

――戦闘と呼べる出来事は、そこで終わる。
残る二十数体の巨人、ロケットランチャーの一斉射。
伏せろ、と隣から頭を押さえつけてきた軍曹。ロケット着弾の余波であっけなく絶命した。
半ば恐慌状態でライフルを手に飛び出した上級兵。ヘビィマシンガンの斉射をマトモに受けて血を吹きながら踊り、
フィニッシュに銃剣を虚空に突き出して果てた。

あとはただ、一方的に射殺され、爆殺され、轢殺されるだけだった。

物語と呼ぶべくものもなく、あっけなく終わった。


324 : VANITY GIRL ◆.OuhWp0KOo :2021/06/05(土) 23:58:58 6cJ6BMag0
激しい雨音が耳を打つ。

身を捩ると、いつものベッドの中にいた。
ぎょっとする。この歳になって、おねしょとか――。
だけど、違った。ひどい寝汗をかいていただけ。
寝汗が制服のブラウス生地に張り付いて、不快だった。

生身でロボットの軍団と戦わされ――戦いにすらならず、一方的に殺された夢。
最悪な夜の後に、最悪の夢を見せられた。

そうだ、ゆうべの葬儀の後に、そのままベッドに飛び込んでいたのだった。
とにかく着替えないと、風邪を引いてしまいそうだった。

――姉の二の舞はごめんだ。
姉は勤め先の倉庫の清掃中に命を落とした。
雪の降るような寒い日のこと。
暖房もない倉庫で、薄着で汗をかきながら夜中まで作業を続け、寝落ちしてそのまま凍死。
あくる朝、倉庫のそばの住人が見つけた時にはもう手遅れだったそうだ。
医者の話によれば、過労で体力が弱っていたのも良くなかったのだろうとのこと。
母の入院費を払うために、バイトを掛け持ちして、無理をしすぎていたのだ。

姉の死の実感もないうちに、告別式、葬儀の準備――それこそ戦場のような騒がしさで。

その姉の無理も、無駄に終わってしまった。
――入院中の母の容態が急変したという連絡。
病院に駆けつけた。主治医の顔を見ただけでわかった。
終わってしまった後だった。

かくして告別式、葬儀は二人分まとめて執り行われ――つつがなく終わった。
あまりに急すぎて、悲しいとか、辛いとか、そういうものを感じる余裕はなかった。
ただ、綺麗な――自分とは比べるのもおこがましいほどに綺麗で、個性的な女の子たちが――。
それぞれの形で姉の死を悲しんでいたのが、思い出された。
姉は職場では、相当慕われていたのだろう。

慕われていたといえば、姉の同僚の男性。
彼の悲しみも見て明らかだったのに、式場の手配など、先頭に立って取り仕切ってくれた。
喪主の年老いたおじいちゃん、おばあちゃんだけで葬儀をスムーズに行うことができたかどうか。

そう、あの男の人は、誠実な人だった。
――残酷な程に。


325 : VANITY GIRL ◆.OuhWp0KOo :2021/06/05(土) 23:59:19 6cJ6BMag0
直接はじめて出会ったのは、バイト先のCDショップ。
店のバックヤードに騙して連れ込み、鍵を掛けた。
自分が最高と信じるアイドルを真似た、渾身の歌とダンスを披露した。
彼は、だから何だというふうに、事務所でもう一度オーディションを受けるように告げただけだった。

事務所で再び私は彼のオーディションを受け、落ちた。

『君のパフォーマンスからは、何の輝きも感じられない』
『黙っていればイケるかもしれないと思ったが、パフォーマンスを始めた途端に輝きが失せる』
『君をどうプロデュースすれば良いのかわからない』
『君はアイドルを目指さない方が、有意義な人生を送ることができる』

随分と私を気遣った言葉を選んではいたが、大まかな評価はこの通りだった。
不満はなかった。ぐうの音も出なかった。
私自身、今まで何をしても"平凡"以上の評価を受けたことはなかったから。

とにかく、私がアイドルを目指す機会はこれで完全に失われた。
それまで芸能事務所に片っ端から書類審査を送りつけ、片っ端から不合格通知を受けていた。

私にもちっぽけなプライドがあった。
CDショップ店員の目から見ても成長著しい、姉の勤め先のあの事務所だけは避けていた。
だからそこに勤めるプロデューサーを捕まえたのは、最後の賭けであり――予想どおりに負けた。

――その数日後に、姉と母を立て続けに喪った。

私を私たらしめていた憧れ、夢、いずれ護れるようになりたいと思っていた人々、あっという間に吹き飛んだ。

物語と呼ぶべくものもなく、あっけなく終わった。


326 : VANITY GIRL ◆.OuhWp0KOo :2021/06/05(土) 23:59:38 6cJ6BMag0
私はしょせん、巨大な人混みに紛れ、誰からも見失われる定めのどんぐりなのだった。
今や中身を全部失った、殻だけのどんぐり。

私は疲れていた。何もかもに疲れていた。
今日は登校日だったか、あるいはシフトがある日だっただろうか。
どうでもよかった。とにかくまたベッドに入りたかった。

だが汗まみれの制服がきもちわるい。
適当に全部脱ぎ捨て、適当に洗濯カゴに放り込み、適当にタンスから何着か引っ張り出し、
そして適当に適当な部分を覆う部分の適当な布を身につけた。

すると視界の端に写り込んだ。最近ろくに使われているところを見なかった、姉のベッド。
その上には無造作に放り出された――三毛猫柄のアイマスク。

丁度いい。拾い上げ、目元に被せ、ベッドに倒れ込んだ。
雨音が街の雑音を覆い隠してくれた。

――眼が痛い。昨夜から落としそこねていたメイクが眼に染みているのだろうか。
――涙が止まらない。飛び起きて、洗面所へ向かって駆け出し、タンスに盛大に頭をぶつける。

アイマスクを顔からもぎ取る。安らいで目を瞑る三毛猫。お腹の底から飛び出しそうだ。何かが。
洗面所へ走る。そう広くない借住まいなのに、全力で走らずにはいられない。
洗面台にタックル、そしてお腹の底から飛び出した。
叫びが。慟哭が。――涙が、感情が――虚無が。

お姉ちゃんも、お母さんも守れなかった。
家族を守るための戦いにも挑むことができかなった。
お姉ちゃんにとっても、私自身にとっても、私は、人混みの中の一個で、どんぐりで、雑魚で。
私は、負け犬にさえなれなかった、最初から、なんにもなかった。

切ない、土砂降りの涙の雨。


327 : VANITY GIRL ◆.OuhWp0KOo :2021/06/05(土) 23:59:57 6cJ6BMag0
――知らないのにいつの間にか覚えていた言葉、言ってないのに言ってた気がする言葉。
――知らないし、覚えてもいないのに聞いたことだけはある気がする言葉。

与えられた役割[ロール]。ドッグタグ。エクストラクラス。雑魚は雑魚らしく。プランバンドール・スキャンダル。
ノーブル・ファンタズム。多世界宇宙現象。笑うための戦い。綺麗な夢などない。キーク=キャラダイン。
聖杯戦争予選。集中してください。サーヴァント。シュエップス小隊。射撃。リーニングタワー。

――シェイクされた缶コーラの蓋を開けたように、情報が頭の中に吹き出してきた。
――バタバタと、洗面台の流しに血痕が落ちた。急に頭に血が巡りだしたせいで、鼻血が流れ出ている。

チェコブ。人物背景。ヂヂリウム鉱石。界聖杯[ユグドラシル]。募集期限は7月中旬まで。
スタルコス軍曹。機甲猟兵。サーヴァントとしての願い。可能性の地平線。緋田美琴。
落選した場合この主従は予選で倒されたものとして扱って構いません。
どしゃ降りの星の嵐[ナイフ]。ルルシー=ラモン。対ATライフル。

――聖杯戦争。

流しから顔を上げる。
左手で口元を拭うと、鼻血はもう止まっていた。
鏡越し、ドアの開け放たれた洗面所。
廊下の壁に背を預けるのは、カーキ色のマントを纏った大男。
その顔立ちにはあどけなさが残っている。
それでいてその青い瞳は拭えぬ哀しみを湛えていた。

「準備はできたか、お嬢ちゃん?」

「アーチャー、その、お嬢ちゃんっていうのやめてくれます? マスターって、呼んでくださいよ。
 でっかい体の割に、トシもそう違わないみたいですし」

「マスター、それは失礼した。聖杯戦争の準備は……願うことは決まったか?」

「……いつから見てました?」

「願いは……」

「……アーチャー、いつから見てたかって聞いてるんです!」

「……いつ敵襲がくるともわからない。この部屋でずっと見張っていたよ」

「……!――――!!」

ツバサなき少女。マスター、七草にちか。
今はまだ、願いさえ抱けぬ虚無がその心に。

群れからはぐれた悲しき男。アーチャーのサーヴァント。メロウリンク=アリティ。
復讐という願いは虚無だと知った。それでも戦い抜いたのは、心から信じるもののために。

どんぐりと雑魚の弱小主従は否応なしに戦いへと巻き込まれてゆく。
それが鉄巨人の群れへと挑む、生身のような無謀だとしても。
今度こそ、物語の中へ。


328 : 七草にちか&アーチャー ◆.OuhWp0KOo :2021/06/06(日) 00:01:07 nilFo8wo0
【クラス】
アーチャー

【真名】
メロウリンク=アリティ@機甲猟兵メロウリンク

【パラメーター】
筋力C 耐久C+ 敏捷C 魔力E+ 幸運E++ 宝具E〜C

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージの軽減に留まる。

単独行動:A
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Aランクは1週間は現界可能。

【保有スキル】
機甲猟兵:A-
 生身で人形機動兵器・AT[アーマードトルーパー]に対抗するための戦闘部隊の技術。
その戦いぶりは地雷・地形利用・トラップ・ゲリラ戦術・IEDと手段を選ばない。
アーチャーも機甲猟兵としての戦術に熟練しており、数々のATを生身で撃破してきた。
機甲猟兵は友軍の死体さえ利用することあるため、
ボトムズ(最低野郎)と称されるAT乗りにも『戦場の蛭』と蔑まれている。
とはいえアーチャーの場合はそこまで人道を外れた手段はとっておらず、その分若干のマイナス補正が掛かっている。

射撃:B
 重量30kg、全長2mを超える長大な対ATライフルを軽々扱い、ATの装甲や武器を的確に撃ち抜く射撃技術。
加えて取り回しが劣悪なそのライフルで対人戦闘さえこなす。

近似値:A
 自動発動型スキル。類まれなる生存能力と悪運の強さ。
アーチャーが死に瀕した際、幸運が大幅に強化、耐久と魔力の強化も得る。
同ランクの戦闘続行スキルも複合する。
作中で揮発性・爆発性の極めて高い燃料工場の大爆発からアーチャーが生き延びた際に
『コンマ1%の可能性をモノにする男』と評されたことによる。

生身の9人でAT28機を相手取って、なぜただひとり生き残ったのか?
生命の危機に瀕するほどの自白剤投与から短時間で回復し、脱獄を成し、ATとの戦闘に挑めたのはなぜか?
作中で幾度となくATなどの機銃掃射に晒されながら、一度も致命傷を受けなかったのは、
機甲猟兵としての身のこなしだけで説明されうるものなのか?

『機甲猟兵メロウリンク』という物語を成立させる程度には、ご都合主義の幸運が働いていなければならなかった。
その源はアーチャーがアストラギウス銀河の因果律を超えた力、『異能生存体』の近似値であったために他ならない。
しかししょせん近似値である。確実な死までは避け得ない。
また、スキル発動は自動であるため、発動時のマスターの魔力の負担を考慮することはできない。
――そしてそのスキルがマスターまで護る保証は、ない。


329 : 七草にちか&アーチャー ◆.OuhWp0KOo :2021/06/06(日) 00:02:51 nilFo8wo0

【宝具】
『復讐者の死化粧――帰らぬ奴らを胸に刻め――』
ランク:E〜C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
 左手の4本の指で自らの顔に血(など)のフェイスペイントを施し、
対ATライフルに付属するパイルバンカーで復讐対象を撃ち貫く。その一連のルーティンが、宝具となったもの。
 通常時、その宝具はEランクであり、その効果はパイルバンカーの若干の命中率の強化に留まる。
しかし、
 ・アーチャーが対象を復讐すべき相手と認識している
 ・復讐対象に、犠牲者の遺品を見せるなどして復讐の対象であることを知らしめる
という条件を満たすことで宝具が強化される。

1つ条件を満たす場合はDランク、パイルバンカーの射程から逃れない限り、回避は不能となる。
2つとも条件を満たす場合はCランク、パイルバンカーの射程から逃れることが(何らかの因果が働いて)不可能となり、
対象の急所に直撃するようになる。

【weapon】
・対ATライフル(パイルバンカーカスタム)
機甲猟兵の標準武装。当時すでに旧式化したものであるらしい。全長2050mm、重量30.3kg。弾丸口径17mm、装弾数3発。
至近距離からなら、当たりどころによっては人形機動兵器・アーマードトルーパー(AT)の装甲を貫通可能。
照準器を専用のゴーグルと有線・無線で接続可能である。
銃身の下部にはカートリッジ式のパイルバンカーが備えられており、ATの装甲を容易に貫く威力を秘める。
パイルバンカー部分は簡単な操作で脱着可能である。

その他作中では対AT地雷など、多種多様な武器を使用していたが、今回は持ってきていない。
彼の最大の武器はライフルでもパイルバンカーでもなく、
環境を活かし、周到に準備を仕込みつつも臨機応変に対応して敵の意表を突く、機甲猟兵としての戦術である。

【人物背景】
メロウリンク=アリティ。愛称はメロウ。
年齢、18〜19歳。(小隊全滅時、17歳)
身長、185〜190cm程度。(作中での対ATライフルとの対比から推測)
元シュエップス小隊所属、当時の階級は伍長。
生身9人の1個小隊でATの大隊を相手取り、友軍撤退の囮となるという無謀な作戦に参加させられる。
ただ一人奇跡的に生存した彼はどうにか本部に帰還するも、敵前逃亡・軍需物資横領の冤罪を着せられ、
略式裁判の最中に脱走する破目になった。
以来、彼は偽証した軍の上層部への復讐を果たすために各地をさすらうこととなる。

30kg以上ある対ATライフルを片手で振り回す強靭な肉体を持つ他、兵士としての優秀さは上述の紹介のとおりである。
また、彼が復讐を志したのは、味方を逃がすために無謀な作戦に参加させられたからではなく、
自分以外全滅した小隊に冤罪を着せられたからであるため、根っからのお人好しともいえる。

一方、兵士として男社会で育ってきたせいか、女慣れしていない描写が見られる。
また、『仲間の仇』と自分に銃を向ける兵士の顔を見て動揺するなど、年齢相応の甘さも見られる。

元は彼もAT乗りだったが、囮作戦の際に乗機を没収され、機甲猟兵となった。

※メロウリンクが『近似値』であるという設定は筆者の推測であり、二次創作である。

【サーヴァントとしての願い】
復讐は果たしたため、特になし。
強いて挙げるなら、敵前逃亡・軍需物資横領の罪を被ったまま戦場に散った小隊の名誉回復である。


330 : 七草にちか&アーチャー ◆.OuhWp0KOo :2021/06/06(日) 00:03:08 nilFo8wo0
【マスター】
七草にちか@アイドルマスター シャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
未定。

【weapon】
なし。

【能力・技能】
特筆すべきものは、なし。
姉と二人暮らしであり、家事は得意。
その他、アイドル、特に八雲なみというアイドルについての知識は豊富である。

【人物背景】
16歳。身長158cm。

アイドルに並々ならぬ強さの憧れを持つ女子高校生。
しかし、アイドルとしての才能は平凡そのもの。
数々の原石を発掘し、磨き上げてきたプロデューサーをして
『なぜ、この子をプロデュースしようと思ったのか
 自分でもはっきりとはわからない』
とまで言わしめるほどである。

それでも原作では身を削るような努力の末、
新人アイドルの登竜門『W.I.N.G.』に挑戦して、優勝することさえ可能。

というかシナリオ以外は他の才能あるアイドル候補たちと変わらない。
普通に能力値は育つし、普通に勝たせてやれる。
自他ともに認める凡人であるはずなのに、いかなる因果が働いているのか。
――もっとも、本当に凡人なりのことしかできなかったら、彼女の物語は成立しなくなってしまうのだが。

なお、アイドルを目指した理由の一つとして、
幼くして他界した父親、重病を負い入院中の母親と、
困窮している家庭を支えたいという思いがあった模様である。


【方針】
未定。

【備考】
参戦時期は七草にちか育成シナリオのオープニング時点である。
但し、原作と違いプロデューサーにプロダクション所属を認められることはなかったため、
彼女の物語[シナリオ]は開始すらしなかった。
また、原作と違い姉と母親を亡くしている。
令呪の位置は顔の下半分、メロウリンクの血化粧を模した形状である。
不織布マスクなどで顔を大きく隠さなければ隠れない。

※落選した場合、この主従は予選で倒されたものとして扱って構いません。


331 : ◆.OuhWp0KOo :2021/06/06(日) 00:03:24 nilFo8wo0
投下を終了します。


332 : ◆.OuhWp0KOo :2021/06/06(日) 00:08:52 nilFo8wo0
目元を左手のタオルで拭う。
当然のように、真っ赤に泣き腫らした目が鏡に映った。
もう少し顔を上げ、今度は口元をタオルで拭う。
ざくり――と、頭の後ろを奔る、冷たい電流。

>>326>>327の間に抜けがありました。ごめんなさい。

顔の下半分を横切る、4本の黒い線。
鼻の頭から口元、左手の指4本で墨汁を塗りつけたかのような、無造作な描線。

痛みはない。凹凸もない。拭っても流しても、メイク落としでも消えない。
なにこれ――何これ、何コレ、ナニコレ?!
いつからあった――洗面所に駆け込んだ時から?
昨夜のお葬式の時から?

――違う。呆然としていた頃の記憶を漁る。


333 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/06(日) 00:09:51 M52BuAEs0
候補作「マネーイズパワー」にて伏黒甚爾のロール表記を書き漏らしていたためここに記します
『元傭兵のヒモ。金だけはまだある』です。


334 : ◆A3H952TnBk :2021/06/06(日) 10:39:20 rMPGoGgg0
皆様投下乙です。
自分も投下します


335 : 神戸あさひ&アヴェンジャー ◆A3H952TnBk :2021/06/06(日) 10:40:33 rMPGoGgg0




病めるときも、健やかなるときも。
喜びのときも、悲しみのときも。
富めるときも、貧しいときも。
死が二人を分かつまで。
あの子は、死によって分かたれ。
そして、死を超えた呪いを授けられた。

神への誓いさえも凌駕したとき。
それこそが、永遠になってしまうのか。






宙に、死が舞った。
飛び散る真紅。
路地の壁と地面が、染め上げられる。
まるで迸る火花のように。
咲き誇る花瓣のように。
鮮血は、撒き散らされる。
命の脈動が、暴力によって飛沫を上げる。

切断されて吹き飛ぶ頭部。
何が起こったのか。何をされたのか。
理解できない、と言わんばかりに。
その顔は、恐怖と動揺に満ちていた。
生首は惨めに叩き落ち、サッカーボールのように転がっていく。
泣き別れとなった肉体は、とうに物を言わなくなっている。

体格の良い、若い男だった。
先程まで向けられていた殺意は、もう無い。 その男の死と共に、惨めに霧散した。
亡骸を蹴り飛ばし、下手人である『アヴェンジャー』は刀を鞘に納める。

少年―――神戸あさひは尻餅を付いたまま、その光景を唖然と眺めることしか出来なかった。
下手人は、目の前にいる。サーヴァント。聖杯戦争に召喚され、使役される英雄たち。あさひはマスターであり。男を殺した張本人であるアヴェンジャーこそが、彼の従者だった。


「俺ちゃん、参上」


真っ赤なスーツに身を包んだアヴェンジャーは、戯けるように肩を揺らす。
返り血を浴びた己の姿を見下ろし、「やれやれ」と自嘲するようなポーズを取る。
その異様な風体。そして何の躊躇もない行動。あさひは身動きも取れないまま、先程までの記憶を呼び起こす。

自身を襲い、命を奪おうとしてきた若い男。右手には紋様、即ち令呪が浮かんでいた。マスターであることは明白だった。サーヴァントはいないのか。そんなことを考える余裕は、その時のあさひには無かった。
必死に抵抗した。金属製のバットを振り回して、何とか追い払おうと―――否、打ち倒そうとした。分かっていた。これは聖杯戦争だと。
サーヴァントの姿は未だに見えずとも、戦いが既に始まっていることも理解していた。だから、殺すつもりで抗った。
それでも、敵わなかった。武術に長けた男は容易くあさひを制圧し、トドメを刺そうとした。
無様にも、走馬灯のように今までの記憶が浮かび。あさひは必死に足掻いても、その結末を受け入れるしかなくて。

そして。アヴェンジャーが姿を現し、簡単に事を終わらせた。
あさひにとって、自身のサーヴァントと初めて出会った瞬間だった。


336 : 神戸あさひ&アヴェンジャー ◆A3H952TnBk :2021/06/06(日) 10:41:24 rMPGoGgg0

「ビビるなって。サーヴァントも殺っといた」

軽口を叩くように、アヴェンジャーは気安く言ってみせる。
何も答えられない。あさひは、目の前の現実を呆然と見つめる他ない。
赤黒い装いの怪人。飛び散る血肉。横たわる死体。転がる生首。
交互に目を向けてしまった。暴力の匂いを、感じてしまった。

そして―――あさひは堪らず口を抑えた後、その場で胃の中のものを吐き出す。
げほ、がは、と何度も咽び。
涙を瞳に浮かべて、唖然とした様子で俯く。
そんな彼を、アヴェンジャーは呆れた様子で。そして憐れむように、見下ろす。

「聖杯戦争のこと、分かってんだろ?」

わかっている。奇跡を掴み取るための闘争。古今東西の英雄を従える戦い。たった一組の主従だけが、あらゆる願望を叶えられる。祈りを現実にする為には、戦うしかない。
あさひは、頭の中で反復し続ける。

「戦わないなら好きにしな。後悔しても知らねえけど」

一言、アヴェンジャーが吐き捨てた。
駄目ならそれでもいい。別に興味もない。そう言わんばかりの、ぶっきらぼうな態度だった。
彼は願いに興味が無いのだろうか。あさひの中で僅かな疑問が浮かんだ。
でも、そんなことは些細な問題だった。
それよりも。何よりも、もっも重要なことがあった。
戦わないのか、と。
そう問われたのだから。


「―――戦わないわけ、ないだろ」


吐き気を催すような不快感を必死に抑え込み。
よろよろと、壁にもたれかかるようにして立ち上がり。
憔悴した眼差しで、アヴェンジャーの方へと視線を向けた。

「あの悪魔に……ずっと苦しめられて」

あさひの脳裏に蘇る、自身の出自。
父親と呼ばれる、悪魔のような男。

「地獄だった!毎日!毎日だ!あいつは暴力を振るってくる!何年も、何年も何年も!まともな生活なんて送れなくて!ずっと、独りで!」

日常的に繰り返される暴力。
酒浸りになった悪魔が、鬱憤を晴らすように暴れ出す。

「大人達は誰も救ってくれない。見て見ぬ振りをするだけだ!醜くて、穢れてて!どいつもこいつも、大嫌いだ!!」

何度も何度も、嬲られて。
そして、誰も救ってくれなくて。
だからこそ、僅かな希望にだけ縋り続けた。

「それでもいつか、母さんやしおを迎えに行くって約束した!三人で暮らすことができれば、また一緒に笑い合えるって!そう信じてた!」

全ての思いを、吐き出した。
これまでの苦痛。
これまでの絶望。
これまでの未来。
神戸あさひが辿ってきた人生。

「なのに――――駄目だった。
 必死に探して、やっと見つけて……でも、しおは変わっていた。
 しおの心に、別の悪魔が巣食っていた」

そして、絶望。
虚ろな眼差しで、あさひはアヴェンジャーを見上げる。


337 : 神戸あさひ&アヴェンジャー ◆A3H952TnBk :2021/06/06(日) 10:41:59 rMPGoGgg0
妹―――神戸しおは、変わっていた。
見ず知らずの少女に拐われて、全てを蝕まれていた。
あさひが何年も抱き続けてきた希望は、崩れ落ちた。

「なんで、こんなことになったんだ?
 どうして、こんな結末を迎えたんだ?
 俺達は、始まりからずっと呪われてたのか?」

想いを絞り出し、声が震える。
自らに降りかかる運命を恨むように、顔を俯かせる。

「呪われてて、穢れてて、だから俺達は……」

今にも泣き出しそうな顔で、唇を噛みしめる。
そんなあさひを、アヴェンジャーは目を細めて見下ろす。

「で、どうする?」

僅かな沈黙の後。

「妹を……しおを、取り戻したい。どんな手を使ってでも……」

あさひは、目元に溜まった雫を拭う。
そして、ゆっくりと顔を上げた。


「せめてあの子に降り掛かった呪いだけは、消したい」


焦燥に満ちた、決意の顔。
淀んでいて、濁っていて。
それでもなお、何かを祈ることを決めた表情。
あさひは、胸を掻きむしる感情を抑えながら、答えた。

「大丈夫かよ、坊や」
「……大丈夫。大丈夫だよ」

絞り出すように、あさひは呟く。

「俺は戦わなくちゃいけないから……だから、大丈夫……」

呪詛のように、ぼそぼそと。
まるで自身に言い聞かせるように、何度も。妹の為に、母親の為に、今度こそ勝つ。
自らに宿命を課すように、あさひは何度も何度も呟き続ける。
大丈夫。大丈夫だ。
そう、きっと大丈夫。
戦える。だから、大丈夫。
大丈夫だから。大丈夫だ―――。


「喪うのはイヤだもんな」


呪文のようなあさひの言葉に割り込むように、アヴェンジャーがぼやいた。
あさひは、少しだけ驚いたように見つめる。


338 : 神戸あさひ&アヴェンジャー ◆A3H952TnBk :2021/06/06(日) 10:42:58 rMPGoGgg0

「言ってたんだよ、ヴァネッサがさ」

宙を見つめて尻を掻きながら、アヴェンジャーは言葉を続ける。
こんなことを語るのは、らしくないと自嘲する。
それでも、少しばかし身の上について語りたくなってしまった。

「俺は正しい場所で生きるべきだ、って。
 ヴァネッサ……あ、俺の嫁さんね。
 そいつのおかげで、俺は救われてたんだよ」

人生なんてものは、大抵は不幸の連続。試練ばかりが続く。
幸福な瞬間は、CMみたいなもの。結局は合間にだけ訪れる。
それでも。希望というものは、生きる糧のだろう。
理由は、簡単。

「無責任なクソ野郎で、ちゃんとした父親になれるかも分からない俺だったけど。あいつがいたから……何とかマトモだったね」

生前のアヴェンジャーは、彼女と出会って。
ようやく上等な人生を送れたからだ。
ヴァネッサは、太陽だった。
情熱的で、眩しくて、最高の女だった。

「でも……どうやら、ヴァネッサに謝らなきゃならねえ。前はガキの復讐を止めたりもした。だけどお前みたいなのは、ほっておけねえってワケ」

だからこそ、アヴェンジャーは謝罪する。
生前に愛し合った彼女に対して。
父親に虐待され、僅かな希望さえも踏みにじられた少年。
アヴェンジャーはふいに思い出した。酒浸りの父に育児放棄をされていた幼少期。そして、施設で虐待を受けていたミュータントの少年……彼らしからぬ感傷が脳裏をよぎる。
正しい世界にいてほしい。ヴァネッサが、愛する者がひたむきに願い続けた祈り。

だけど、今日はそうも言ってられない。
こんな子供が、家族を取り戻したいと言っている。
どんな手を使ってでも、自分を呪ってでも、戦いたいと。あさひは、そう告げてきた。
だから彼は、それに応える。


「今日の俺ちゃんは、ガキの為に戦う男だぜ」


彼は決して認めようとしない。
柄じゃない。性に合わない。
いつだって受け止めようとしなかった。
それでも、デッドプールはヒーローだった。
下品で、俗物で、非常識で、暴力的で。
しかし彼が戦いに赴くのは、いつだって他の誰かの為だった。


【クラス】アヴェンジャー
【真名】デッドプール@DEADPOOL(実写版)
【属性】中立・中庸
【パラメーター】  
筋力:C+ 耐久:D 敏捷:C+ 魔力:D 幸運:D 宝具:D++

【クラススキル】
復讐者(異):D
「俺をこんな姿にしたフランシスに復讐したくて追い回したから、アヴェンジャーってワケ」
怨敵を何処までも追跡した復讐者としての在り方がスキルとなったもの。
彼の場合は効果が大きく異なり、恨みや敵意を抱いた相手の魔力を探知しやすくなる。 同ランクの単独行動スキルも兼ね備えるが、その突飛な振る舞いによって他者からの敵意も集めやすくなる。

【保有スキル】
第四の壁:?
“向こう側の世界”を認識している。
自分達が物語の登場人物であることを分かっているし、読者に語りかけることだって出来る。
とはいえ地の文を読むなどSSそのものに干渉する行為は一切不可能。あくまで「認識している」だけである。

傭兵の心眼:B+
デッドプールはかつて特殊部隊に所属し、超人となってからも卓越した戦闘技術で数々の敵と対峙してきた。
自身の状況と敵の戦力を冷静に把握し、優れた戦闘論理に基づいて立ち回ることができる。
また斬撃・射撃時の命中判定およびクリティカル判定にプラス補正が掛かる。
尤も、彼は時折冷静さを度外視してでもジョークに走ってしまう傾向がある。

戦闘続行:A
往生際が悪い。特に誰かの為に戦う時には。
命の危機に瀕しても戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。


339 : 神戸あさひ&アヴェンジャー ◆A3H952TnBk :2021/06/06(日) 10:45:14 rMPGoGgg0
【宝具】  
『人生は試練の連続さ。幸せってのは合間にしかない(セクシー・マザーファッカー)』  
ランク:D++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
超人を生み出す人体実験計画『ウェポンX』により後天的なミュータントと化した肉体そのもの。
ヒーリングファクターと呼ばれる脅威的な自己治癒能力を持ち、例え手足をもがれようが頭部をブチ抜かれようが大爆発に巻き込まれようが『再生』する。
生前ならば重傷の完全治癒には長時間を費やしていたが、サーヴァントと化したことにより能力が変異。
不死の英傑としての属性が拡大解釈され、四肢の欠損や首の切断さえもごく短時間で回復して復活するほどの異常再生能力を獲得している。
ただし真の意味での不死身ではなく、後述の宝具が無効となれば心臓(霊核)の破壊によって消滅する。

『俺が死ぬ方に賭けたって?残念だったな(デッド・プール)』  
ランク:E 種別:対死宝具 レンジ:- 最大補足:-
恋人の幻影に導かれ、未来からの刺客に救われ、死の結末から蘇った逸話の具現。
霊核を破壊され消滅した際に一度だけ発動し、サーヴァントとしての肉体がその場で再構築され“蘇生”する。
魔力消費を一切必要としない自動発動の宝具だが、二度目の発動は令呪を用いても不可能。発動した時点で宝具としての機能を失う。

【weapon】  
二本の刀、ニ丁拳銃、ナイフ

【人物背景】
かつては特殊部隊に所属していた荒くれの傭兵。
恋人ヴァネッサとの出会いによって幸福を掴もうとしていた矢先に末期癌が発覚し、生きるために極秘の人体実験計画に参加する。
彼は超人的な治癒能力を獲得したが、その代償として全身が爛れたような醜い姿になってしまう。
自身を醜悪な姿へと変え、更には超人兵士の“商品”として売り飛ばそうとした組織への復讐のため。そして元の姿に戻り、再び恋人と愛し合うため。それがウェイド・ウィルソン―――デッドプールの戦いの始まりだった。

【サーヴァントとしての願い】
今日の俺ちゃんは優しい男だ。
だから、ガキの為に戦ってやるよ。


【マスター】  
神戸あさひ@ハッピーシュガーライフ

【マスターとしての願い】  
神戸しおを、取り戻す。

【Weapon】
金属製のバット

【能力・技能】 
特に際立った技能を持っている訳ではない。
しかし妹を救う為ならば過激な行動に走ることも厭わない。作中では金属製バットで武装し、自身に探りを入れた他者への脅迫を行うなどしている。
過去へのトラウマから内心では暴力への強い嫌悪感を持つが、それでも家族の為ならば手段を選ばない。

【人物背景】
行方不明になった妹『神戸しお』を探す少年。暴行の加害者と被害者の間に生まれた。
父親からの虐待。母や妹との離別。過酷な境遇に身を置き続け、手を差し伸べてくれる人間は何処にも居なかった。
それでも妹達との生活を夢見て耐え続けてきた。そして父親の死と共に家を飛び出し、母親の元へと向かった。
しかし妹は既にいなかった。苦悩に耐えきれなかった母の手で置き去りにされ、そのまま行方不明になっていた。
あさひは妹が誘拐されたことを知り、あらゆる手段を尽くして犯人――松坂さとうへと辿り着く。

参戦時間軸は原作最終話後。
界聖杯でのロールは持たず、浮浪者同然の生活を送っている。

【方針】
どんな手を使ってでも勝つ。


340 : ◆A3H952TnBk :2021/06/06(日) 10:45:27 rMPGoGgg0
投下終了です。


341 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/06(日) 17:47:07 UyHspsEQ0
投下します


342 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/06(日) 17:47:53 UyHspsEQ0

夢を見ていた。
夢の中でも俺は変わらず怪物で、まるで嵐の様に暴れ狂っていた。
傷だらけの仲間を更に傷つけ、たった一人遺った妹すら食い殺そうとして。
仲間が俺を殺そうとする。人食いの化け物になった俺を止めるべく刃を振り下ろそうとする。
けれど、できなかった。イノシシの被り物の下からでもボロボロと涙を溢れさせて。
仲間を殺そうとする俺を、彼は殺そうとはしなかった。


けれど俺の方は止まることなどできない。
そのまま仲間の命を奪うべく手を振り下ろそうとして――妹に止められた。


――――どうしていつも、お兄ちゃんばかり苦しい目に合うのかなぁ?
    どうして、一生懸命生きてる優しい人たちがいつもいつも踏みつけにされるのかなぁ?


―――――お兄ちゃん。帰ろう。私たちの家に。皆、一緒に……


滂沱の涙を流しながら俺を抱きしめる妹の体温は暖かかった。
それは俺の知らない暖かさだった。
皆が、俺のために泣いてくれて。
皆が、俺に一緒に帰ろうと言ってくれる。
向けられる瞳は化け物を見る目ではなく。
とても大切な誰かを見る目だった。

………あぁ、羨ましいな。
心の底から、そう思った。


343 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/06(日) 17:48:30 UyHspsEQ0

▼   ▼   ▼




皆が俺が生まれてきたことは過ちで、災いだと言った。
皆が、俺が死ねば全て丸く収まると言った。
たっと一人だけ、そんな必要はないと言ってくれた友達もいたけれど。
その友達も自分を救ってはくれなかった。


溶源性細胞。
人を人食いの怪物に変える呪われた因子。
千翼と言う少年に、生まれし時より刻まれた決して拭えない罪科。
例え聖杯戦争のマスターとしてこの地に招かれても、その罪が消える事は決してない。
彼が、人間から存在を許される時など未来永劫やってこない。
それこそ、全てを覆す奇跡でもなければ。


「そうだ。だから俺は……」


身に着けた赤いスカーフを揺らしながら、黒髪の少年は地の底の様な路地裏で空を仰ぐ。
そして、誓うのだ。


「俺は戦う。生きるために。イユと一緒に生きるために…戦わなきゃいけない」


不安もある。迷いもある。
だけれど何時だって運命は戦いを強いてくる。
それを辞めた時が死ぬときなどだと、彼は深く理解していた。
その代わり、願う事だけは躊躇わない。
それがどれほどの罪なのかは理解していても。
自分の魂に強く強く願いを刻みつけて、決してこの思いだけは消えないように。
求めるのは唯人として生きていける人生。
もう戦わなくていい、誰も傷つけなくてもいい日々を。イユと共に穏やかに流れていく時間を。
それだけを彼は望む。


「…勝つぞ、バーサーカー」


振り返った千翼の背後。そこには彼のサーヴァントが控えていた。
獰猛な獣の様な殺気を迸らせながら、けれど決して千翼を傷つけない。この街で唯一の味方。
黒い黒衣に、顔を覆う痣が特徴的な狂戦士の少年。
その獣の様な雄叫びが、路地裏に響く。


―――帰ろうよ。お兄ちゃん。


獣の咆哮の残響か、耳朶に夢の中で聞いた女の子の言葉が響く。
だが、後戻りするつもりはない。立ち止まることなど、許されない。
命ある限り、千翼は走り続けるしかないのだ。
帰る家も、そこで待つ人も、彼には居ないのだから。
それを手にするために…全ては、此処から始まるのだから。


344 : 千翼&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/06(日) 17:49:10 UyHspsEQ0

【クラス】
バーサーカー

【真名】
鬼の王@鬼滅の刃

筋力A+ 耐久A+ 敏捷A+ 魔力B 幸運D 宝具C

【クラス別スキル】
狂化:A
理性の代償として能力を強化する。
全ての理性を引き換えに全能力値が上昇し、更に筋力と耐久が1ランク上昇する。


【固有スキル】

戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、首を落されない限り、或いは首を落とされても生き延びる。

鬼種の魔:A
鬼の異能および魔性を表すスキル。
鬼やその混血以外は取得できない。
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキルで、ランサーの場合魔力放出は"衝撃波"となる。

自己改造:A
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。


【宝具】
『鬼滅の刃』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
鬼の始祖によって齎された呪われた福音。鬼を滅ぼす刃ではなく鬼を狩るものを滅ぼすための刃。
平安の世から大正に至るまで千年以上世に暗躍した鬼種の到達点である鬼の王の肉体。
あらゆる鬼を上回る肉体性能に瞬時に肉体を再生する再生能力、そして本来弱点であるはずの日光や赫刀すら完全に無効化する。
更に鬼を撃ち滅ぼすために生まれたという成り立ちから魔性に対して有利な特性効果を持つ英雄に特攻効果を発揮する。

【サーヴァントとしての願い】
家に帰りたい。


345 : 千翼&バーサーカー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/06(日) 17:49:30 UyHspsEQ0

【マスター】
千翼@仮面ライダーアマゾンズ

【マスターとしての願い】
生きたい

【weapon】
ネオアマゾンズドライバー:
アマゾンネオの変身ベルト。後述するアマゾンズインジェクターを投与することで自らのアマゾン細胞に多様な変化をもたらす。

アマゾンズインジェクター:
変身に必要な特殊な薬液とそれが封入された注射器状のアイテム。
これをベルトに注入することで変身や武器の生成が行える。
数に限りがあり、現状複数回の戦闘に耐える程度の数はあるが考えなしに多用はできない。

【能力・技能】
オリジナルアマゾン:
食人本能を持つ人工生命体。外見上は人間そのものだが、それはあくまで人間態に変身しているからである。
超人的な身体能力と再生能力を持つ反面、強烈な食人衝動に襲われる。彼の場合その衝動は通常以上に強く、また彼の細胞を摂取した人間をアマゾンに変異させる力もある。

アマゾンネオ:
上記ドライバーと薬液を使用することで変身する、千翼の仮面ライダーとしての姿。アマゾンとしての力を制御・抑圧した姿であり、彼の通常戦闘スタイルと言っていい。
変身中に更に薬液を追加することでブレード、クロー、ニードルガンなどを生成する。

オリジナル態:
千翼のオリジナルアマゾンとしての姿。ネオの口が裂け、六本の腕と無数の触手を併せ持つ。いわば暴走形態。
戦闘能力は非常に高く、人間態やアマゾンネオの状態とは比較にならないほど。ただしこの形態においては理性を失っている場合がほとんどであることに留意したい。

【人物背景】
生まれ、生きたことにより溶源性細胞という災厄を人間社会にばら撒いた罪を科された少年。
本編11話より参戦。
本聖杯戦争においてロールは無く、浮浪者である。

【マスターとしての願い】
生きたい。


346 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/06(日) 17:49:45 UyHspsEQ0
投下終了です


347 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/06(日) 18:13:28 UyHspsEQ0
サーヴァントの備考欄で抜けていた箇所があったので修正します

【weapon】
鬼になり果てた肉体。

【人物背景】
主人公、竈門炭治郎が最終決戦にて鬼の首魁である鬼舞辻無惨に想いを託された姿。
無惨が最強の鬼である自分を追い詰めた炭治郎こそが、鬼の力を託す「継承者」に相応しいと信じ、
自分には出来なかったことも成し遂げられると祈りという呪いを込めて血を与えたことにより死亡していた炭治郎は蘇った。
全ての鬼狩りを抹殺し、全ての鬼を超え統べる鬼の王として。

また、拙作『結崎ひよの&キャスター』でもサーヴァントとしての願いに抜けがあったので追記しておきます
【サーヴァントとしての願い】
未だ未知の魔術の探求、或いは…


348 : ◆oN0T8/322o :2021/06/06(日) 18:28:41 jytAucF20
投下します。


349 : 穢れなき硝子の靴 ◆KV7BL7iLes :2021/06/06(日) 18:29:27 jytAucF20

『予定されていたすべての準決勝が終了いたしました!見事決勝進出を果たした新人アイドルは以下の六名となっております!
優勝の発表予定は〇月△日を予定しております!新たな新人アイドルの頂点の栄光は誰に輝くのか、乞うご期待!
──
──
──
──
──
七草にちか』

W.I.N.G.公式アカウント、と銘打たれたアイコンの下に並ぶ名前の、その一番下に書かれた自分の名前を、どこか他人ごとのように見つめる。
ぼうっと眺めていたその文字列は、最新の投稿を知らせる通知によって押し流されて。

『七草にちかのW.I.N.G.決勝進出が決定しました!ここまで来れたのは偏に皆様の応援のお陰です。精一杯頑張りますので、最後まで応援よろしくお願いします!(スタッフ)』

その文字列を数秒見つめた後で、目を逸らすように画面をスワイプする。
流れてくるのは、雑多な文字列。アイドルをはじめとした様々なアカウントから毎日のように流れ出る、他愛もない情報の奔流。

『@WING_official 〇〇ちゃん残った!楽しみ!』『【新譜発売のお知らせ】今月の注目はストレイライトのサードシングル──』『明日は課題やらなきゃ!それと──』『@nichica_SHHis 頑張れー!』『警視庁の公式発表によれば、最近の東京都内における治安悪化の対策に向けた新たな警察部隊の編成を──』『@WING_official 八雲なみの子?』『【プロダクト】斑鳩ルカが出演するトーク番組のオリジナル商品が──』『@Sonoda_chocolate チョコちゃんかわいい!』『高校だるい』『今日のしあわせ〜は──』『アンティーカLP現地二日目きた!!!!!!!』『動画上げました!【2X・夏】プチプラのススメ【これからのトレンド】』『今日も一日──』『渋谷区の建設中のビルにおいて事故が発生し一名が亡くなる事件が──』『SNSサービス・ツイスタでも注目を浴びる──』『八雲なみ歌詞bot』『@nichica_SHHis 283はやっぱり凄いけど、まだ研究生扱いなのはなんでなんだろ』『割引クーポン配布中!今なら新商品が──』『@WING_official 283の子残ったのか』『【定期ツイート】イルミネちゃん一生推す』『皆で喫茶店。季節限定うま。』『ever cheeryのポーチゲット! #まな #神まな』

好きなもの。同業者の情報。いつも使っているクーポン。お洒落。
年頃の少女にほんの少し偶像の世界が織り混ざった羅列を見るのは、嫌いではない。元から──ここに来る前からの、変わらない日常のルーチン。


──ただ。


『やば……生で見ちゃったかもしれん』


──ならばこそ、そこに混じる不純物は、この日常が非日常であると認識させる。


350 : 穢れなき硝子の靴 ◆KV7BL7iLes :2021/06/06(日) 18:30:39 jytAucF20

「──うわ」

つらつらと眺めていたタイムラインに、辛うじて輪郭が分かる程度のぶれた写真と共に「彼」の名前が現れたのを見て、七草にちかは思わず声を挙げた。
下手をしたら自分どころか、同じ事務所に所属する人気アイドルすらも余裕で抜き去りそうなインプレッションの数に、流石に辟易とする。

『すっごい人気者じゃないですか。凄いですね、英雄って』
『それはあえて姿を表したものですので。ですが、この地でも不肖の私をこうして皆様に愛していただけるのは有難い限りです』

そう虚空に問いかけてみれば、律儀にも返事が帰ってきた。
まさかこんな急に話しかけても分からないだろう、と高を括っていた分、その几帳面さがにちかの癇に障った。

──彼を召喚してから、こうした念話での会話は幾らかしているものの、彼と対面して直に話したことは召喚した瞬間を含めても片手で足りるほどしかない。
それは彼自身が非常に特異なサーヴァントであり、召喚された時点でその真名が会場内のほぼ全域に知れ渡るからこその措置である、と説明はされたものの、自分のようなものはともかく事務所の他アイドルなどすらも超える程の扱いをされているのを見ると
まして、彼が本来戦争など起こらない筈の現代日本において『英雄』として扱われ、あまつさえ各種行政機関やメディアにすら取り扱われるスター的存在。
事務所の仲間──社長やプロデューサー、美琴さんなども当然に知っていて、その影響は芸能界にすら届いているというのだから凄まじいものだ。

『サーヴァントって、目立っちゃダメなんじゃないんですか?』
『他のサーヴァントであれば、ですが。私は些か特異な身でして』

嫌味のようなニュアンスを込めても、凛々しい声はひらりとその癇癪をかわして耳障りのいい言葉を返してくる。
念話ですら涼やかで凛として通る声だ。アイドルの囁きと言われても反論が出ないであろうその声で呼ばれれば、さぞかし振り向く人も多いだろう。

『それにしても、このご時世に英雄って……お姉ちゃんまで、信じてるなんて』
『少なくとも、この東京においても秩序を守る英雄として任せられていることは、ひとかどの英雄として光栄なことではありますね。この身には過ぎた栄光とも思えますが』

それが当たり障りのない謙遜である、ということに、理由もわからぬ苛立ちが募る。
英雄。輝かしい──否、この会場の誰よりも輝かしい存在である彼が、丁寧に過ぎるというのも一つではある。
そして、それを、よりによって自分のような人間に召喚させた運命が──聖杯とやらの采配が、とにかく腹立たしかった。

『──さぞかし、立派な英雄だったんですね、ロスクレイさんって!』

困っているか。それとも呆れているか。あるいは侮蔑されているだろうか。
こうして叫ぶしかできない愚かな少女を、絶対なる英雄は、どのように見ているのだろうか。

『──私なんて、どうやって立てばいいかすら──』

言おうとして、続かなくなる。
分からない。怖い。
処理できていない感情が、形を成すことすらできず滓となって積もる。

『……マスター。マスターの仕事について、門外漢の私から伝えられることはないでしょう』

──聞きたくなんてない。
英雄としての言葉。我が儘な少女をあやすような美辞麗句と、どこまでも輝かしい栄光に彩られた言葉。
そんな言葉は惨めになるだけで、そしてそんなこと──自分が惨めなことなど、とうに知っているのだから。

『その上で、私が敢えて言うのであれば』

けれど、そんな思いとは裏腹に。
絶対なる英雄は、その、どこまでも涼やかで凛とした声で。

『マスター、あなたは、そのアイドルという仕事を──どのように思っていますか?』


──七草にちかにとっての、核心を突いた。


351 : 穢れなき硝子の靴 ◆KV7BL7iLes :2021/06/06(日) 18:31:13 jytAucF20

『──それは──』

迷いなく、答えられた筈の問い。
七草にちかにとってのアイドル。その顔貌。
それは間違いなく、たった一つしかない。
だから、それを答えればいい。

その筈だった。


──そうなの?


白盤と手書きの文字。
12インチのいつかの叫び。
何に問いかけるでもない問いかけ。
いつも聞いているあの曲の、哀しそうな──

『──ッ』
『……マスター』

答えられない。
存在した筈の答えの場所に、今は空虚が収まっている。
その欠落を、伽藍の洞への恐怖を誤魔化すように、耳を塞ぐ。

『……もう、いいです。私、寝ますから』
『……それが良いでしょう。貴方も大事な出番が控えているのですから、貴方はそちらで貴方のするべきことを。
此方は、私が為すべき事を為します。お任せくだ──』

最後まで聞かないまま、念話を打ち切る。
どこまでも、丁寧にこちらの身を案じてくる彼の言葉は、なるほど正しく英雄のそれだ。
英雄として完成されているように聞こえる彼の言葉を、聞いていたくはなかった。

「……」

もう一度、SNSに目を通す。
タイムラインを遡れば、先程見たW.I.N.Gの告知ツイートが目に入る。
聖杯戦争という会場で、本来の世界からは歪んでいて──しかし、自分が立ち向かわなければならない舞台だけは、律義にもこの世界でも行われようとしている。
それを目にする度に、自分は思う。

──どうして、私はステージに立っている?

笑う為の戦いだと、彼は言った。
これで終わらない為に──終わったとしても悔いのないように、笑えるようにする為のものなのだと。

──なのに。
私はもう、どうやって笑えばいいのか分からない。
私の笑顔が模倣していた彼女の笑顔が、紛い物だったのかもしれないと、疑念を抱いてから。
私が履こうとしていた靴そのものが歪んでいた可能性など、考えたことすらなかったから。

「──なみちゃんが」

もし、このSNS全盛期の今、生きていたら。
あるいは彼女も、こんな風に一挙一動に反応が飛び交っていたのだろうか。
その光景を夢想して──八雲なみの情報が、音楽が、唄声が流れ出るインターネットの海を夢に見て。

──そうなの?


それを見て、私も無邪気に喜んでいたのだろう。
けれどそこに、私は何を見出していたのだろうか。
彼女がもしその光景を見たら、彼女は、笑えていたのだろうか。

──なみちゃんは、幸せだったのか。

答えは出ない。
二十年も前に、その問いは放たれて。
私にとっても、もしかしたら彼女にとっても、答えが返ってくることはなくて。

──あるいは。

「……あなたは、どうなんですか。ロスクレイさん」

彼に聞けば、分かるのだろうか。
彼を模倣すれば、あるいは、誰かに希望を持たせる偶像の在り方を知れるのだろうか。

──あるいは。
──彼すらも、そうなのだろうか。
──その英雄の仮面の裏に、もしかしたら──ただの、人間としての素顔が──


「……ばかみたい」


352 : 穢れなき硝子の靴 ◆KV7BL7iLes :2021/06/06(日) 18:31:51 jytAucF20





──時は、僅かに遡る。
SNSに彼の姿が投稿されてから、僅かにもしない頃──絶対なるロスクレイは、その撮影地点に程近い工事現場に佇んでいた。
周囲に人影は見当たらない。人を見たのは、数本前の通りで路駐して眠っているタクシーの運転手が最後だ。
およそ彼の華々しい容貌とは似合わぬ暗闇の中で、彼は一人棒立ちになる。

「──さて」

同時に、これまで着ていたスーツが一瞬のうちに鎧甲冑へと変わる。
世間に見せている「英雄」としての姿を、誰もいない場所で表す。それは紛れもなく──彼が、「本来東京都に存在するはずのない英雄」であることを知っている存在と相対する為。

「誘い込んだ、か──だがまあ、英雄として賞賛に値するぞ。絶対なるロスクレイ」

──果たして。ロスクレイの前で、それは現れる。
霊体化を解いたサーヴァント──真名も知らぬセイバーが、獰猛な笑みを浮かべてロスクレイを見据えていた。
セイバーの主従は、元よりロスクレイを──目立つ位置にいる英雄を、仕留める為に行動を起こしていた。
彼が今この近辺にいることを、マスターの持つ端末からSNSを通して認識できたことは、彼等にとっては僥倖といえただろう。

「本戦が始まればいざ知らず、予選ともなれば必要以上に騒ぎを大きくする必要もない。ご理解戴けていたなら──」
「今更、御託はいい。これ以上の言葉は不要だ」

ロスクレイの言葉を切って捨て、セイバーは無造作に剣を抜く。
同時にロスクレイも、鞘から剣を抜き放ち、正眼に構えてセイバーを見据えた。
数秒、空間に静寂が下り──瞬間、裂帛の闘気が空気を割いたかと思えば──次の瞬間には、セイバーはロスクレイへと深く踏み込んでいた。

「──貴様の剣を見せろ、ロスクレイ!」

一合。互いの剣と剣が衝突し、一瞬の火花が暗い闇の中の工事現場を照らす。
セイバーの質量と膂力を乗せた一撃が、一瞬のうちにロスクレイへと迫っていた。
辛うじて踏みとどまるも、徐々に押されつつあるロスクレイは、鍔迫り合いから脱却する為に姿勢を下げる。

「【──からトウキョウの土へ】──」

瞬時に、相対するセイバーの足元の地面が胎動する。
距離を取ったのはこの為か、と理解すると同時に、今度はロスクレイが吶喊する。
一歩引きながら剣の腹で受け、次いでセイバーが繰り出したのは小ぶりな突き。点の攻撃でこそあれど、その一閃は確かにロスクレイの致命を見据えている。
辛うじて間に合ったロスクレイの防御が、その道を阻み──しかし、その剣には不可逆の罅がひた走る。

「この程度か──!」

剣が無ければ、ロスクレイも只の木偶と同じ。精々が先の魔術程度であれば、殺すのは容易い。
しかし、その想像を裏切るようにして、セイバーの剣を剣閃が遮る。
見れば、そこには新たな剣を手にしたロスクレイ。どこから、と思えば、セイバーがつい先程立っていた地面に、不可思議な隆起の痕がある。
──最初から、この為の工術。足場を狂わせたのも、あくまで副産物に過ぎない。

(最初の一撃で、既に剣を捨てることを決意していたか)

その判断力の素早さに、内心でほう、と舌を巻く。
事実、セイバーの渾身の踏み込みを受けた時点で、並みの無銘の剣ならば折れることもあろう。ロスクレイともあろうものが無銘を使っていることは意外でこそあったが、新たなる剣を持っているというのであれば納得もできる。

(ならば、もう一度──)

瞬時に踏み込み、再び先と同じ最速、渾身の剣閃。
だが、同じ手は決して絶対なるロスクレイへの決め手には成りえない。
流麗な受け流しの一手が、剣にかかる負担を最小限へと抑えながら、セイバーの剣の行先を誘導する。
そのまま追撃を加えんと振り被るロスクレイに、しかしセイバーもされるがままになることはない。
下段にて凌ぐセイバーと、上段より打ち下ろすロスクレイ。二度、三度と繰り返されたその剣戟から這い出るようにして、セイバーが

「【──土へ。形代に映れ。宝石の──】【──虹の回廊。隠れし天地を回せ──】」
「くっ──」

その隙を突くようにして、意識外からふわりと剣が浮かび上がる。
詞術──工術によって作られた剣が、力述──浮遊したかと思えば、セイバーの一閃を受け止めていた。
ロスクレイに届くことなく阻まれた剣閃をセイバーが訝しむ暇もなく、襲い掛かるはロスクレイの鮮やかにして正しき弧を描く一閃。
紙一重で回避したセイバーの目の前を、僅かに寸断された己の毛先がひらりと舞った。


353 : 穢れなき硝子の靴 ◆KV7BL7iLes :2021/06/06(日) 18:32:23 jytAucF20

「……なるほど。正当なる、故に強かな剣の使い手。またその術式。共に備えている──実に素晴らしい。英雄と呼ばれるだけはある、といったところか」
「お褒めに預かり、光栄の限りです」

セイバーの美辞麗句は、決して皮肉ではない。
少なくともただの白兵戦において、ロスクレイは達人の域にいる。その剣そのものを宝具とする程の神域には在らずとも、王城剣術の基礎を徹底して磨き上げたその剣技は只人のレベルを遥かに凌駕している。
純粋な決闘──それにおいて、なるほど、ロスクレイは英雄として担ぎあげられるに相応しきサーヴァントと言えるだろう。

「ならば、その正当な剣術と魔術を以てして、或いは貴様の持つ秘技を以てして──」

ならばこそ。
その奥にある神髄こそを、断つ。

「コレを受けてみせろよ、ロスクレイ」

瞬間。
空間の魔力が滞留したかと思えば、セイバーの剣に、四肢に、それが流れ込んでいく。
傍目に見ても、明らかに異質だと分かる魔力量。サーヴァント同士であれば、
濃密なマナの質量に淀んだ大気が、ロスクレイとセイバーを包む。
あくまで構えを崩さぬロスクレイに、セイバーは再び獰猛な笑みを向け──


「──お前ら!こんなところで何をやっている!」


不意に、声が聞こえた。
振り返りこそしないが、ちらりと意識を向ければ、そこにいるのは警察官と思しき服装をした二人組。
武器を携え戦闘している此方を警戒したか、既に携行しているのであろう銃器を構え、こちらに照準を向けている。
工事現場の警備員か、はたまた警察か──奥まったといっても、この都市では見つかる可能性があるということか。

「不純物が──」

面倒だと思いつつも、今は無視する。
神秘の秘匿がこの聖杯戦争で処理されるかどうかは知らないが、もし知られても見られたことを消すのはセイバーにとってそう難しいことではない。
そもそも、神秘のこもっていない弾丸など英霊にとっては些事。自分が傷を負う恐れなどない。
ならば、この一合を放った後。その後でも遅くはない。
故に、セイバーは己が剣の切っ先をロスクレイよりぶらすことは無く。
神速の踏み込みと共に、剣に込めた魔力をブーストして、一気に距離を──



──何かがおかしい。



先ぶれはあった。感じていた。
この場所に来た瞬間から、何かの違和感を、ずっと。
一見して、入りにくいだけで何の変哲もない空き地だ。周辺に人が集まるような場所ではなく、さりとて彼等のような部外者が駆けつけることが不自然な程離れている訳でもない。
だからこそ絶対なるロスクレイは、こうして工事現場に入った。自分を察知してのこと。自然な行動だ。マスターが何処にいるのかは不在だが、誰もいない場所で打ち合うのは市民を守る為の彼の行動として当然のことである。自分がそうしたように。
違和感はない。
何も。
無いはずだ。

けれど。
何だ。
何かを感じる。
それは例えば、この工事現場の上空から微かに聞こえ続けている、僅かなプロペラの音。
それは例えば、本来この時間帯なら片付けられていないとおかしいような重機の影。
それは例えば、此方を見るやすぐに銃を抜き構えていた、警官たちの用意の早さ。
それは例えば、宝具を使おうとした今この瞬間を狙いすましたかのような乱入。

一つ一つは、あるいは偶然かもしれない。
けれど──この刹那、彼は確かにその偶然が、必然である可能性を考えた。
それは英霊としての直感。
彼自身が養ってきた戦場での勘が、それらを繋げろと叫ぶ。

目を向ける。
一見、英霊には通じようがないであろう銃。──本当に?
闇にとうに慣れた視界が捉える。
それは普段、日本国の法令で警官が携えているものとは明らかに異質なもの。
アサルトライフルという種類の、突撃小銃。


354 : 穢れなき硝子の靴 ◆KV7BL7iLes :2021/06/06(日) 18:33:38 jytAucF20

──ぷしゅ、ぷしゅ、ぷしゅう。

サイレンサーで消音された銃声が、一切の躊躇なく己だけに放たれたことを認識して──瞬間、セイバーの体は全力で跳ねた。
銃撃を避けることができたのは、偏に彼の英霊が瞬発力に秀でていたからに他ならない。
辛うじて銃撃を避けたセイバーが、再び構えを直そうとして、──終わらない。

「【──土の源。片目より出でよ。閃け】」

詞術の追撃。
これまで全く見せていなかった雷の詞術が、筋肉の硬直を起こしてセイバーの動きを制限する。
その中で、一直線に吶喊してくるロスクレイ。
狙う先は自分。恐らくは霊核を狙った、神速の突き。
だが、まだだ。まだ対応できる。
貯め込んだ魔力は、未だ拡散せずに宝具として解き放たれる時を待っていた。
小細工が漁夫の利を狙ったものか、それともロスクレイの仕込みかは知らないが──今この瞬間斬ってしまえば、それも終わる。
ロスクレイが此方に辿り着く前に、宝具を開放する。この差であれば、まだ自分の方が早く、ロスクレイの霊核を穿つことができる。
それを理解し、セイバーが口の端を歪めた、その刹那。

──ぱしゅ、と。

先程聞いた音が、先程とは違う場所から響いたと思えば。
繋がっていることを認識していた魔力パスが、途切れていた。
今にも放たれようとしてした宝具の為の魔力にラグが起こり、セイバーが一瞬の膠着に陥る。

「貴様」

それは、即ち。

「ロスクレイ」

セイバーのマスターが、死亡したということ。
それも──今の状況下においては、間違いなく、ロスクレイ自身の策略によって。

最早疑う余地はない。
これは、仕込みだ。
英霊を狙うことを可能とした弾丸、乱入のタイミング、ロスクレイ自身が謀ったことを示して此方の注意を引く策略、凡て掌の上。
この場所に入った瞬間から──あるいは、彼がロスクレイを標的と定めた、その瞬間から。
ロスクレイは、この一瞬の為の、仕込みを──

「──ロスクレェェェェェイ!!!!!!!」

激昂する。
剣の道を汚した男を。
英雄と名乗り、栄光を浴びながら、その実、対等な筈の争いに不純物を混ぜ込んだ男を。
怒りのままに、保持した宝具を解禁する、その刹那。

「──これが、私の宝具です」

ロスクレイの、理想的なまでに研ぎ澄まされた一振りの剣撃が──霊核より先に、剣を持つ手を切り落とす。
それを支えるのは、詞術によって形作られた大地の足場。
開放先を失った魔力を持て余した次の刹那に──ロスクレイが放った返す刃は、やはり完璧な軌道をなぞるように。
セイバーの霊格を、その胴体ごと逆袈裟に斬り払っていた。




「──ロスクレイです。戦闘は終わりました。霊器の消滅まで確認しています。マスターについては──」

──警察組織への連絡。サーモグラフィ―を搭載したドローンによるマスターの位置把握。事前に潜入していた工作班。詞術士の適切な詞術発動の為の随所の監視カメラ。
この工事現場そのものが、絶対なるロスクレイの策謀の下にあった。
細工によってロスクレイ自身に集中させ、セイバーの警戒がロスクレイへと集中した時点で──銃撃に気付いたマスターが此方を見ることを警戒し、これを殺害する。
一歩間違えば宝具開放に間に合わない危険な策ではあるものの、マスター・サーヴァントに気付かれないように仕込むという点においてはリスクを抱え込まなければいけない必然性が存在した。

『了解した。こっちでも追って処理する。今のところ、予選のうちにあんたで大物食いしようって奴はこいつで最後だ。しばらくは落ち着くだろうさ。本来は、マスターを日常のうちに暗殺するのが一番楽ではあるんだがねえ』
「確かに最良ではありますが、霊体化しているサーヴァントの不意を突くのはリスクが大きい。把握しているだけでも最良と言えるでしょう」
『まあな。それに、こっちで監視してるマスター候補で結託できそうな奴等についても幾つか当ては作ってある──勿論、こっちの細かい事情まで伏せて付き合ってくれそうな奴等をだがな』
「感謝します」

それからも幾らかの連絡事項を交わしながら、この奥まった工事現場に入る為の唯一の経路を戻る。
路地から人気のない道に出れば、そこには先程から変わらず路上駐車しているタクシーが一つ。
誰もいない場所で職務怠慢をしている──傍目からはそう見えていたであろう、先の警察を装った特殊部隊に連絡を取った運転手の待つタクシーに乗り込む。運転手──正確にはそれを装った公安所属の男は、ロスクレイの無事を確認すると何も言わずに車を出した。
後部座席で緊張を僅かに解きながら、ロスクレイは通話を終えた自らの端末に目を落とした。


355 : 穢れなき硝子の靴 ◆KV7BL7iLes :2021/06/06(日) 18:35:37 jytAucF20

(この端末…スマートフォンというらしいこれを弄ることにも、大分慣れた、か)

通信手段としての優位性の高さから、過去に客人が持ち込んだラヂオと比べても非常に隠匿性・伝達性・通信速度が高いスマートフォンは、彼の戦い方からすれば欠かせないものだ。
特に、SNSやメディアといった露出──神秘の秘匿を盾に暴く、あるいはマスターを追う手段等様々な工作に用いることができるこれは、他のサーヴァントには恐らく存在しようのない手段だ。己自身の不正について暴かれうる諸刃の剣にならぬよう、関係各所への根回しも既に済ませている。

(……これも、その一手)

部下に撮影させ、当たり障りのないプライベートアカウントを装ってロスクレイ自身の所在を喧伝させたSNSの投稿を見る。
あえておびき出す形で露出したのも意図的──打倒ロスクレイを掲げた主従が、複数の対ロスクレイ派閥と結託する前に隙を見せる。千載一遇の好機に乗ってくるかどうかまでは賭けだったが、予選序盤から積極的に動いていた好戦性に十分な担保はあったといえる。
とはいえ、やはりサーヴァント相手は決して並みならぬ戦いになることは避けて通れぬ道。
幸い、嘗ての六合上覧に顔を並べたような修羅と相見えることこそまだないが、そういった規格外の強者と戦うことになる機会もあるいは存在し得る。
また、今回のような相手でも、事前に宝具を防ぐことができなければ何もできずに倒れていた可能性も十分にある。

(……となれば、有力な他参加者との同盟を結ぶことも必要な手段となりうる、か)

幸い、ロスクレイ自身が聖杯にかける望みが必然性を伴わない──即ち、『聖杯を譲る』という最大の選択肢を筆頭に、少なくないカードを交渉手段として切ることができる。
ロスクレイがこの聖杯戦争において最低限叶えなければいけないのは、マスターの安全な帰還のみ。
そうであるならば、利用するべきは──

『すっごい人気者じゃないですか。凄いですね、英雄って』

──七草にちかからの念話が来たのは、そんな時だった。





「……マスター」

念話を終えて、ロスクレイは嘆息する。
今のところ、召喚時を除いて彼女との直接接触はほぼしていない。ロスクレイの持つ単独行動スキルと、宝具による「絶対なるロスクレイ」としてのこの世界における立場の確立。その社会的地盤がある以上、ロスクレイとにちかの関わりは令呪という一点以外にほぼ存在しない。
そして、この聖杯戦争においては、かつての六合上覧のようにマスターとサーヴァント揃ってこそ参戦が認められる。人理の影法師として、守るべき人も襲い来る危機もないこの土地におけるロスクレイの所在はともかくとしても、自分を失った後にちかがどうなるかは決して保証できない。
そしてそうであるならば、絶対なるロスクレイが最も恐れるべきことは──自分のアキレス腱であるとして、にちかが命を狙われ、殺されること。
だからこそ、接触は最小限に──イスカと接していた時のように、細心の注意を払いながら。対面の機会は、極力絞るしかない。

──だが。
忘れられない。忘れようもない。
召喚された時に見た、七草にちかの表情を。

まだ年若く、両親の庇護も欠けている中で、『アイドル』なるものを志している、と彼女は言っていた。
当世の知識を与えられただけのロスクレイからすれば、そこに賭ける情熱や意志を正しく推し量ることは決して簡単ではない。

それでも、分かることはある。
ロスクレイが培った、あるいは彼自身が持つ一つの才能。
観察と思考──彼を英雄たらしめた最初の能力は、彼女の表情の中に。
その情熱を、意志を支えていた「何か」が、消えてしまっていたことを。

スマートフォンを開き、ホーム画面に置いた一つのアイコン。
七草にちかのホームページへのリンクとなっているそれを開けば、そこには彼女が半年以上かけて受けてきた数々の仕事の実績が出てくる。中には、動画サイトに投稿された映像を見るものもあって。
そこに映っている七草にちかの姿は、確かに輝いているように見える。
けれど、分かる。朧気に。
それが何かの模倣である──『演技』であること。
絶対なるロスクレイが──『英雄』の『演技』をし続けたからこそ、分かること。


356 : 穢れなき硝子の靴 ◆KV7BL7iLes :2021/06/06(日) 18:35:57 jytAucF20

──ある男を思い出す。
幼き頃の自分に、英雄としての立ち居振舞いを教え──勿論、当人もそんなつもりは無かっただろうが──結果的に、英雄ロスクレイが生まれるきっかけを作った男。
自分はいずれ主演男優になるのだと嘯いて、けれど結局ただの服膺のナルタとして死んでいった男のこと。

──もう一つのページに飛ぶ。
七草にちかの、最も大きな「次の仕事」。
そのエントリーの為にこれまでの仕事があったと言っても過言ではない、新人アイドルとしての集大成。

『wingファイナリスト一覧』
『七草にちか』

彼女が挑まなければならない、彼女にとっての、戦場。

──ある戦を思い出す。
自分がどうしようもなく矮小で、戦から逃げてしまいたいと思うような臆病者だと思い知ったあの日。
自分に英雄の器がないと知り、さりとてただの一兵卒として死にたくないと願ったあの戦場。
それでも尚──己自身の観察と思考で、栄誉ならぬ勝利を掴んだあの竜殺しの日。
英雄としての在り方を、英雄という演目を、演じ切ると誓ったあの日。

──ああ。
彼女は、きっと分かっている。
彼女の心の中にある偶像が、この世に存在しないことに。
偶像などなく、そこにはただの少女が──取るに足りない一人の人間がいるしかないということに。

故にこそ、ロスクレイは祈る。
その虚像の果て、それでも信じたい何かを、彼女が見出すことを。
あるいは、その為に絶対の偶像が必要ならば──ロスクレイは、彼女に恥じぬ英雄でいることを誓おう。
嘗てと同じように、この英雄としての演目を終幕まで演じ切り、彼女にその作法を授けよう。
そして、あるいは。
七草にちかが、その砕けた虚像を踏み砕き、彼女自身が体現するべき信ずるものを見つけた時は。
彼女にとっての真業を見出した、その時は。




偶像になれないと嗤いながら、なお偶像を望み、その果てに偶像を見失ったもの。
英雄などないと嘆きながら、なお英雄を背負い、その果てに英雄を形作ったもの。

私が/誰かが仰ぎ見た虚像の中で。
ただの少女は道に迷う/ただの青年は道を進む。
願われし偶像と只人の境界──その地平に、何があるか未だ知らぬまま。


357 : 穢れなき硝子の靴 ◆KV7BL7iLes :2021/06/06(日) 18:36:41 jytAucF20





それは形振りすら構わぬ、憧憬への飽くなき執念を持つ。
それは己が欠落を嗤い、羨望を以て自己を形成する歪みを孕む。
それは嘗ての偶像の声ならぬ哀哭を、無意識のうちに内面化している。
いつかの歓びと哀しみに魅せられた、ただの、それ故に特別な少女である。

人間(ミニア)。偶像(アイドル)。
哀しき──




【クラス】
ヒーロー

【真名】
絶対なるロスクレイ@異修羅

【パラメーター】
筋力:B 耐久:B+ 敏捷:B 魔力:E 幸運:B 宝具:EX
(宝具『絶対なるロスクレイ』により、何等かの方法でマスター・他のサーヴァントなどがパラメータを観測した場合は筋力:A、魔力:Aと表示される)

【クラススキル】
対英雄:EX
英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせるスキル。
彼の持つ対英雄スキルは稀有なこのスキルの中でも異質なものであり、彼と敵対しないものから「絶対なるロスクレイは正しい側に立っている人間である」と認識され、常に彼こそが英雄だと認識される。
それは翻って──何者であれ、彼と対峙したものは英雄に倒されるべき邪悪に成り果てるということである。

【保有スキル】
絶対なるカリスマ:A+++
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘において自軍の能力を向上させる。
中でもロスクレイのカリスマは、最初から敵対の意思がない場合、その行動と意志を見たものにもれなく「絶対なるロスクレイは正しく英雄である」という認識を付与する。本来ならただのAランクですら呪いとも称される通常のカリスマを更に超越し、それは半ば狂気染みた「絶対の英雄」への信仰の域にも達し得る。

単独行動:A
マスターとの繋がりを解除しても長時間現界していられる能力。依り代や要石、魔力供給がない事による、現世に留まれない「世界からの強制力」を緩和させるスキル。
ロスクレイの場合、彼自身が勇者を選抜する黄都二十九官でありながら己を勇者として擁立した逸話が元となってこのスキルを取得しており、彼自身が疑似的にマスターとしての社会的地位を獲得していることでマスターに縛られない行動を可能とする。

鋼鉄の決意:A
痛覚の全遮断、超高速移動にさえ耐えうる超人的な心身などが効果となる。複合スキルであり、勇猛スキルと冷静沈着スキルの効果も含む。
ロスクレイの場合、それが『英雄』に求められる振る舞いである場合ありとあらゆる苦痛を無視して『英雄』として振舞うことを可能とする。

人間観察(演技):B
人々を観察し、理解する技術。
ロスクレイの持つ人間観察は、己自身が「英雄を演じる」という在り方にルーツを持つことから、演技をしている人間の姿を見抜くことに秀でている。


358 : 穢れなき硝子の靴 ◆KV7BL7iLes :2021/06/06(日) 18:42:03 jytAucF20
【宝具】
『絶対なるロスクレイ』
ランク:EX 種別:対社会宝具 レンジ:なし 最大補足:14,000,000人

 絶対の証明。個人が持つ社会的な権能の結晶。
 絶対なるロスクレイが召喚されたと同時に、彼が生前活躍した竜殺しや六合上覧の逸話などによる『絶対なるロスクレイは人間にして最強の英雄である』という概念が構築される。
 それは、彼自身の本来のパラメータを偽ると共に、生前構築し彼を英雄たらしめた社会的な工作能力が当聖杯戦争の開催地において再現されることを意味する。
 具体的には、ロスクレイ自身が『英雄』として聖杯戦争の舞台における行政システムの重鎮に居座ると同時に、彼の周囲や彼が手回しできる民間の各会社に存在することとなる。これにより、ロスクレイは戦闘における詞術支援をはじめとした物理的支援、そして何より聖杯戦争中における様々な面での根回し・社会的制約を彼の権力の届く限り発動することができる。
 また、生前彼に詞術で力を貸していた詞術士も召喚され、戦闘においては工術による剣の召喚や生術による各種術式などのサポートも可能となる。
 今回の東京都においては召喚された仕官は多くが東京都政の重鎮として認識されていると共に、警察・マスメディアをはじめとする各種組織の中にもそれによる彼のシンパ、あるいは彼とその協力者によって詞術の強化が施された武装を持つ人々が存在している。
 寸分違わず、聖杯戦争の行われる現代社会において、国家そのものを味方とした社会動物の持ちうる凡ての力を託された人工英雄としての逸話を体現する宝具である。
 ──代償として、この宝具は彼自身の知名度と存在ありきであるため、彼が現界した時点で聖杯戦争の舞台中にマスター・サーヴァント・NPC問わず「絶対なるロスクレイが存在している」という情報が開示される。聖杯戦争の参加者にとっては、ロスクレイはセイバーのサーヴァントとして認識され、一部ステータスにも変化がある。

【weapon】
・剣
彼の支援者が工術で紡いだ無銘の剣。彼がラジオ・携帯端末等で連絡を取っている詞術士が都度作成する。
その剣技は間違いなく英雄のそれであり、正当な王城剣術に基づいた正しき剣である。

・詞術士
彼が抱える子飼いの詞術士。戦闘中においては、ロスクレイがマントの裏に仕込んだ通信端末から詞術を発動し彼を様々な点から援護する。

・その他、あらゆる社会的権力
対抗勢力が存在しない限り、東京という現代社会を意のままに操る、英雄という立ち位置そのものが持つ政治力。

【人物背景】
『本物の魔王』が死亡した後、魔王を殺した勇者を決める戦いにおいて立候補した『最強』の一人。
黄都を収める二十九官の一人であり、民からは竜すらも単独で殺した英雄として篤く信頼されている。
しかし、彼自身はあくまで人間としての域を出た存在ではない。彼を英雄たらしめているのは、その政治力と智謀によって勝利を必然とする社会的なあらゆる支援であり──
『英雄であれ』という民の祈りを反映した、人工英雄である。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯は不要。強いて言うなら、故郷のとある少女を救うことと、マスターの安全な帰還。



【マスター】
七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る。『八雲なみ』に──?

【能力・技能】
『アイドル』
283プロダクションのアイドル研究生。活動歴は八ヵ月近くだが、その間に少なくともファンを10万人以上獲得するだけの人気はある。
ダンスの能力や知識など、常人の200%とも言われた努力の賜物であるパフォーマンス目をつけるところもある一方で──その表現には、知識が先行しすぎた不必要なステップ等も存在しており、見る人によっては歪さを感じさせるかもしれない。

【人物背景】
283プロダクションの研究生として(紆余曲折がありながらも)アイドルデビューを果たした少女。姉であり当該事務所のアルバイトでもある七草はづきから、新人アイドルのグランプリである『WING』優勝を条件にアイドル研究生としてデビューを開始した。
その性格は平凡な少女として等身大なものであり、理論よりも感情で物事を考え、見栄を張って意地になり、追い詰められれば視野狭窄に陥るような一面を持つ。
また、自己評価の低さから、アイドル活動でも元から尊敬していたアイドルである「八雲なみ」の再現を試みることでアイドルとしての自己を確立しようとしていた。
──その憧憬の対象であった八雲なみが、本当に笑顔であったかどうか、アイドルを楽しんでいたのかどうか──それを疑い、見失った時点から、彼女はこの聖杯戦争に招かれている。

【方針】
ひとまずは元の世界に戻ることを考える──?wingは──?

【備考】
七草にちかシナリオ、W.I.N.G準決勝勝利後〜決勝本番前からの参戦です。
W.I.N.G決勝は聖杯戦争本戦中に行われるものとします。


359 : ◆KV7BL7iLes :2021/06/06(日) 18:42:41 jytAucF20
投下を終了します。


360 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/06(日) 20:08:58 3fixzcwk0
>>マネーイズパワー
メイウェザーくらい殴ってくるやん……(ノブ) それはさておき、まずサーヴァント武田観柳という発想に度肝を抜かれました。
金に対して一本筋の通った彼の言動はシュールでありしかし格好良くもあって、その塩梅がとても面白かったです。
そしてそんな彼を呼んだのが金で動く術師殺しの甚爾というのも噛み合っていてニヤつきました。
性能的にもなかなかやりたい放題ですごいですねこいつ。書くのが楽しそう(偏見)。

>>VANITY GIRL
情景が容易に想像できて、なおかつするする頭に入ってくる軽妙な文章が素敵です。
にちかの置かれている境遇がなかなかにハードで、そもそも物語が始まってすらいないという有様。
そんな状況で大事なものを失って喚ばれているというのはかなりきついですね。
主従揃って虚無を抱え、或いは知った者たち。彼らの道が有意義なものになるかどうか、先行きの気になるお話でした。

>>神戸あさひ&アヴェンジャー
あさひくん! この子好きなんですよね。まとも過ぎて何にも辿り着けなかった末路含めて好きなキャラクターです。
そんな彼は本編後参戦、つまりしおちゃんの中でさとちゃんが永遠不変のものと定義されてしまった後。
原作では描かれることのなかった彼の感情の吐露がとても良かったです。そしてもちろんそういう願いになりますよね、あの結末では。
そのあさひに寄り添うデッドプールの在り方はまさにヒーローで、格好いいなあと思いました。

>>千翼&バーサーカー
生きていてはいけない存在同士の主従、あまりにも救いがない……。
竈門炭治郎ではなく"鬼の王"なので、英霊の座に登録されてしまった彼が救われることはそれこそ聖杯にでも縋らなければありえないんですよね。
そしてその彼を喚んだのは、存在そのものが運命の袋小路な千翼。縁召喚此処に極まれりか。
人間のように救われるために獣の道を行くと決めた彼らの物語に、安息の未来は果たしてあるのかどうか。

>>穢れなき硝子の靴
にちかの心理描写が非常に巧みで、読んでいて息が詰まる感覚を覚える一作でした。
しかして一転、戦闘シーンはこれまでこの企画に投下されたどの候補作のそれとも違った異質なもの。
作品を知らない身だからというのもありますが、えっこういう風に戦うのこいつ!?と新鮮に驚いちゃいました。
最後のモノローグもまたいいですね。偶像を渇望する少女と虚像を背負う英雄の主従、とっても素敵でした。


皆さん今日もたくさんの投下をありがとうございました!
私も投下させていただきます。


361 : キャル&バーサーカー ◆0pIloi6gg. :2021/06/06(日) 20:09:43 3fixzcwk0

 ――いつになったら、この夢は覚めるのだろう。

 そう思いながら、虚ろな目で魔法使いの少女・キャルは空を見上げた。
 時刻は既に深夜零時を回っている。宿はあるし、心労由来の疲れもしこたま溜まっている。
 宿であるネットカフェに戻れば、すぐにだって眠りに就けることだろう。
 けれどどうにも今日は、そうする気になれなかった。
 何せ、もう一週間なのだ――この街に来てから。もとい、放り込まれてから。

「ねえ。いつ帰れるのよ、あたし」

 その声に答える者は、いない。
 何故なら彼女は今、たった一人で公園のベンチに座り込んでいるのだから。
 だが、此処は界聖杯内界。願いを叶えさせるため、もといその目的を果たすための事前準備を行わせるために用意された模倣世界。
 そこに招かれた客人である以上、キャルにも当然、居る。
 自分とすべての運命を共にする、サーヴァントが。

「何度目ですか、マスター。その質問は」
「何度でも訊くわよ! 一体いつまで続くのよ、こんな戦い……!!」

 像を結ぶ――公園内に植えられた常緑樹に体重を預けた、銀髪の僧が。
 顔の下半分を覆い隠してはいるものの、曝け出されている残り半分の顔面を見ただけでもその容貌が整美であることは分かる。
 そんな理由もあってか、何とも言葉にして形容することの難しい、不思議な存在感を放つ男だった。
 この男こそが、キャルの使役するサーヴァント。クラスを、バーサーカー。狂戦士の称号に似つかわしくない静けさを湛えた男。

 彼のことを、キャルは信頼している。
 何しろこの界聖杯内界で覚醒してすぐ、彼女はバーサーカーに命を救われているのだ。
 襲い掛かってきたサーヴァントを切り払い、討ってのけた彼。
 彼の奮戦がなければ、間違いなくキャルはあの場で死んでいたに違いない。
 いや、そこを除いてもだ。マスターとして過ごした一週間の間で一体何度彼に助けられてきたか、彼の存在に支えられてきたか。
 
「この一週間で、何度も殺されかけてるのよ? 襲われてるのよ!?
 っていうかせめてこの耳だけでもなんとかしなさいよ馬鹿っ、今までの戦い全部この耳のせいで襲われてるんだけど!?」
「それを私に言われても困りますね。界聖杯に毎夜欠かさず苦情を言えば、ひょっとすると消してくれるかもしれませんよ?」
「心にも思ってないわよね。あんたの顔見れば分かるのよ?」
「ははは、まさかそんな」
「目を合わせなさいよーっ!!!」

 がーっ、と。 
 そんなオノマトペが見えるような勢いで、キャルは吠えた。
 
 キャルはこの界聖杯内界では、"百地希留耶"という名を与えられている。
 ロールは中学二年生。此処まで聞けば、ちょっと変わった名前なだけだろう、と思うかもしれないが。
 しかし、キャルの頭にはこの世界の一般的な人間には付いていない、猫耳があった。元の世界と変わらずだ。
 それ故に、キャルはとにかく人目を引く。帽子がなければコスプレイヤー扱いをされるし、学校になど当然通えない。
 マスターに見られればあれ絶対マスターだろという確信を以って襲撃され、何度となく死にかけた。
 バーサーカーが戦闘の心得を持ったサーヴァントでなければ、確実にキャルはこの初週で脱落していたに違いない。


362 : キャル&バーサーカー ◆0pIloi6gg. :2021/06/06(日) 20:10:24 3fixzcwk0

 フード付きのパーカーを着るようになってからは幸いまだ敵と遭遇してはいないものの、それでもキャルの心労は凄まじいものがあった。
 この世界に合わせた役割を与えるくらいの柔軟さがあるならもう少し頑張りなさいよと、界聖杯に口角泡を飛ばす勢いで文句を言いたい気分だった。

「……まだ予選も終わってないんでしょ?
 本戦が終わるまでどれだけかかるのよ、これ」

 溜め息をついて、キャルは頭を抱える。

「言ったわよね、あんた。
 自分の手に掛かれば、あたしを元の世界に返すくらいは簡単だって」

 大袈裟でも何でもなく、もう限界だった。
 気が滅入るという慣用句が言葉通りの意味であるということを、この世界に来て初めて知った。

「あたし――本当に帰れるの?」

 そんな弱音が出てしまうことを情けないとは思ったが、それでも自らの意思では止められなかった。
 キャルに、聖杯に託すような願いはない。
 どんな願いでも叶えられる奇跡なんかに執着はないが、しかし、こんな何処とも分からない異界で死ぬことだけは御免だった。
 界聖杯。願いを叶えるための戦い。どちらも、知ったことではない。
 キャルが思うのは、元の世界に早く帰りたいということ。ただそれだけなのだ。そしてただそれだけの願いを叶えるまでの道程が、途方もなく遠い。

「根拠を示すことは出来ません。貴女も既に理解しているでしょう? 
 この聖杯戦争という戦が――あらゆる点において、道理の内には収まらぬものであるということを」
「……それは。そう、だけど」
「誰にも見通すことなど出来ないのですよ、この戦の行く末など。
 私も、そしてマスターも。ともすればこうして語らっている数刻後には、この界聖杯内界から消え果てているやもしれません」
「……っ! なんであんたがそんなこと言うのよ! あんたは……あたしの、サーヴァントなんでしょ!?」

 多くの葛藤があった。罪悪感もあった。
 自分の仕えるべき相手から下された命令を振り切れなくて。
 でも、知ってしまった日常の温もりも捨てられなくて。
 ずっと悩んで、迷って、その末に答えを見つけて、ようやっと振り切って。
 そうしてやっと、心から笑えるようになったのだ。

 なのに――今。自分はもう二度とあの日々に帰れないかもしれない状況に立たされている。
 そのことがキャルにはとても腹立たしくて、むかついて。受け入れられなくて。
 だからこそ、こうして感情を剥き出しにしてしまう。

「あたしは……こんなところで死にたくない!
 死にたくないのよ――絶対。帰りたいの……あたしの世界に!!」
「なのに、貴女は殺したくないとも仰る。これは矛盾ではありませんか?」
「そんなの、知らないわよっ! ごちゃごちゃうっさいのよ、使い魔の分際で……っ!!」

 元の世界に帰るという目的を達成させるなら、一番手早いのは確かに勝つことだ。
 そうすれば元の世界に帰れる。それどころか、万能の願望器という大きすぎるオマケまで付いてくる。
 しかしキャルは、その最も安牌であると思われる道に走るのを嫌がっていた。
 なるべくなら殺すことはしないで元の世界に帰りたいと、そんなわがままをバーサーカーに吐いていた。


363 : キャル&バーサーカー ◆0pIloi6gg. :2021/06/06(日) 20:11:18 3fixzcwk0

「……だって。そんなことしたら、あいつらに嫌われちゃうかもしれないでしょ。
 それに事あるごとに、殺してきた奴らの顔と名前を思い出すわけじゃない。
 そんなの……嫌よ。あたしはそんな重荷、背負えない」

 キャルは、強い心など持っていない。
 むしろその逆だ。人より繊細で、隙だらけで、脆い。
 だからこそキャルは人道的な諸々を抜きにしても、自分は殺人の重荷に耐えられないと確信していた。
 きっと事ある毎に思い出す。笑っていても泣いていても、不意に思い出してしまう。

 それは――嫌だった。だからキャルは、自分のサーヴァントに無理難題を突き付けているのだ。
 なるべく敵を殺さずに、元の世界に帰りたい……そんな、無理難題を。

「無茶を言いますね。しかし……私は貴女の言う通り、ただの使い魔だ」
「……、」
「であれば、善処はしましょう。叶えられる確証はありませんが」

 そのわがままを、バーサーカーは呆れながらも受容する。
 使い魔は主人の言うことを聞くのが仕事。それは、サーヴァントだって同じだ。
 それに。そうでなくたって、バーサーカーにキャルの無謀な理想を否定する理由はなかった。

「見果てぬ夢を追った経験はある身です。
 道理では通せぬ道も、無理で通したい。その考えは、理解できる」
「……本当? 本当に、あんたは分かってくれるの……?」
「えぇ、もちろん。仏に祈る道を選んだ者として、嘘など吐きませんとも」

 そう言って、バーサーカーはキャルに対し目を細める。
 彼女は青い。あまりにも幼く、それ故に未熟だ。
 だからこそ、バーサーカーはその青さと幼さを慈しむ。
 慈眼傍観。かつて人がバーサーカーを称してそう呼んだ通りの姿勢、在り方で。
 狂戦士の称号を与えられた異常者は、妄執の徒たる"僧"は――南光坊天海は。

「ご安心ください、マスター。
 私は貴女のサーヴァントです。よって貴女の願いを叶えることもまた、我が使命に含まれている」
「……本当ね? 信じるわよ、あたし。
 今のあたしには――あんたしか、居ないんだからね」
「貴女が元の世界に帰りたいと言うのなら。聖杯を放り捨ててでもそれを叶えたいというのなら。
 えぇ、えぇ。"是非も無し"です――私はどこまでも。貴女を守り、付き従ってご覧に入れましょう」


364 : キャル&バーサーカー ◆0pIloi6gg. :2021/06/06(日) 20:11:39 3fixzcwk0

 平気な顔で、思ってもいないことを言うのだ。

「……なら、いいわ。頼んだわよ――バーサーカー」

 キャルは、幼い。そして青い。だから、見抜けない。
 バーサーカー・南光坊天海。或いは――■■■■。
 その魂に秘められた狂気を、妄執を。
 


「えぇ、無論。この魂に代えても」




 ・・
 天海は、そんなことなど心にも思っていない。
 彼の頭にあるのは、ただ己の望みを叶えることだけだ。
 それでいて、聖杯など不要という一点だけは共通している。 
 そうだ、聖杯など必要ないのだ。天海の願いは、この界聖杯内界でだって叶えられるのだから。

 叶えてみせよう、この身に宿る拭い去れぬ願いを。未練を。
 願いを叶えるためだけに作られた紛い物の世界を塗り潰してでも。
 そこに集ったすべての願いを踏み潰してでも、望む景色を見たいのだ。

 死んだ程度では、討たれた程度では、潰えることなきこの狂気。
 かつて焦がれた、そしてこの手で討った、魔王。織田信長――今は欲界にて眠るだけの主君のために。
 南光坊天海はすべてを尽くす。たとえ、己がマスターの想いと願いを踏み台にしても。
 狂おしき者(バーサーカー)と呼ばれた彼は――進み続けるのだ。冥府魔道へと続く、背信と依存を寄る辺に。


365 : キャル&バーサーカー ◆0pIloi6gg. :2021/06/06(日) 20:12:10 3fixzcwk0
【クラス】バーサーカー
【真名】天海
【出典】戦国BASARA
【性別】男性
【属性】混沌・狂

【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A 魔力:B+ 幸運:E 宝具:EX

【クラススキル】
狂化:A
 本来であれば天海はキャスタークラスの適性を持つが、その身に秘める狂気と妄執の深さからこのスキルを与えられた。
 意思の疎通は可能だが、彼の内界に燻る狂気の炎を消すことは誰にも叶わない。
 他ならぬ、彼自身でさえも。

【保有スキル】
恍惚の僧:A
 天海が持つ魔技。
 彼が恍惚に染まれば染まるほど威力と攻撃範囲が増幅される。
 魂を吸収しての体力回復や、巨大なしゃれこうべを作り出しての防御など技の種類は豊富。

妄執の相:A
 天海が抱える妄執。
 決して拭い去ることのできぬ、呪いの如き執着。
 同ランクの精神異常スキルに相当する効力を持つ他、彼の夢見る大願が成就に近付けば近付くほどパフォーマンスが向上する。

【宝具】
『欲界接続・征天魔王』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-
 謀略の果て、かつて自分自身が滅ぼした戦国の魔王"織田信長"を欲界から呼び戻した逸話が宝具に昇華されたもの。
 潤沢な魔力量を確保することが条件だが、世界の理をさえねじ曲げてかの魔王を召喚することができる。反魂術に近い。
 魔王信長はサーヴァントとして弱体化していない、限りなくオリジナルと同等のスペックで呼び出される為非常に強大。
 仮にマスターが令呪を用いたとしても、一度帰参した信長を消滅させることはできない。
 この宝具の発動こそが天海の目的でありすべて。それを成就させる為ならば、彼はどんなことでもするし、どんなものでも利用するだろう。
 たとえそれが、自分と主従の縁で繋がれたマスターであったとしても。


366 : キャル&バーサーカー ◆0pIloi6gg. :2021/06/06(日) 20:12:41 3fixzcwk0

【weapon】
錫杖鎌

【人物背景】
小早川軍に所属する僧侶であり、兵士からの人望も厚い。
非常に慈悲深い聖人君子のような人物と認識されているが、その本性は僧などとは無縁。
彼の真名は南光坊天海に非ず。その真名は、明智光秀。
魂に拭い去ることのできぬ狂気と、戦国の魔王に対する深い妄執を秘めた――哀れな狂人である。

【サーヴァントとしての願い】
信長公の復活。それが叶うならば、聖杯が手に入らなくとも構わない。


【マスター】
キャル@プリンセスコネクト!Re:Dive

【マスターとしての願い】
元の世界へ帰りたい。

【能力・技能】
魔法を使って戦闘を行うことができる。
単純な攻撃もさることながら、敵の防御力を下げるなど様々な役割を担える。

【人物背景】
覇瞳皇帝の密命を受け、ギルド《美食殿》に潜り込んだ少女。
他のギルドメンバーが軒並みどこかズレた価値観を持っているため、必然的に常識人のポテンシャルに落ち着いている。
気が強く攻撃的な一方、自身が気を許した相手には情深く接するツンデレ気質。
長らく使命と友情の間で板挟みになっていたが、最終的に訣別。今では皇帝の件に関しては吹っ切れている様子。

【方針】
元の世界に帰るために手を尽くす。
聖杯戦争にはあまり乗り気でない。


367 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/06(日) 20:12:55 3fixzcwk0
投下終了です。


368 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:31:22 8B9UI9Jg0
「聖杯戦争-(マイナス)1/「はじまり」の短編集」の362-276で投下したものを再利用して投下します。


369 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:31:55 8B9UI9Jg0




薄暗い電灯と、ややアンティークな木製のテーブルで彩られたバー。
その明るさとレトロな雰囲気には、それなりの年季と趣きが取れている。
黒檀のカウンターテーブルの上で、劈く様なミキサーの音が鳴り響く。
厨房側から透明のミキサーの中で踊る桃色の液体を眺めるのは、黒いジャケット姿の男性。
席側からそれを座りながら見つめているのは、バーテンダー…ではなく、赤と黒の背広の上に黒いジャケットを羽織った髭の男性であった。
やがてミキサーの音が鳴り止み、薄暗い店の雰囲気に似つかわしい静寂が取り戻されていく。
ミキサーから取り出された桃色の液体が、グラスに注がれ、ストローを添えて髭の目前のテーブルに置かれる。

「お待ちどおさま、伊達一義特製いちごミルクです。」
「済まない。」

伊達一義、そう名乗った男性から、髭の男はいちごミルクを受け取り、ストローに優しく口を咥える。

「お味は如何ですか?」
「いちごの菓子は俺の好物だが、いちごミルクもまた格別だな。昔自動販売機で特に好んで買って飲んでいた頃を思い出す。」

気取った様な敬語で喋る男性は、その笑顔に続いて、更に私的な話での言葉を加える。

「先程は助けていただいて、ありがとうございます。」
「例には及ばない。俺はサーヴァントとしての役割を果たしただけだ。」

客席に座る髭面のこの男は、そう、伊達のサーヴァントである。
そして、伊達は、聖杯戦争に参加することを強いられた"マスター"の一人なのである。
左掌に付いている、銃弾とトランプの道化師(ジョーカー)を混ぜたような模様が、何よりの証だ。

「うーん、でも、俺聖杯戦争に乗る気しないんですよねー。」
「ないのか?叶えたい願いは。」
「……。」

この殺し合いを共に生き抜くことになるであろうサーヴァントからの疑問に、曖昧な態度で返す伊達。
サーヴァントは、いちごミルクのストローを加えながら、何も言わず、ただ品定めするようで、どこか優しさを捨てられないような目つきでそれを見つめるだけであった。

「まだ決まっている訳ではないのか。」
「いやそういうわけでもないかなー。うーん。」

こめかみに指を置きながら首を左右に傾げ続ける伊達。
彼がこの運動を続ければ続けていくほどに、サーヴァントのいちごミルクはストローを通って彼の口の中を伝っていき、少しずつそのグラスの中身を減らしていく。
やがていちごミルクのグラスが空っぽになり、僅かな水滴と空気をストローが啜りきろうとする音のみが残った時。
伊達がようやく首を傾げ続けるのを止め、懐から緑色の茎を取り出し、慎重にテーブルに並行にして両端を握った。
サーヴァントはそれを真顔で見つめるだけであった。

「よーく見てくださいアーチャーさん。この茎の端に手を添えると……パッ!!」

何と、色とりどりの花びらが出てきた。
彼の見事な手品に、サーヴァント……アーチャーは、称賛の拍手を思わずパチパチと叩き始める。

「凄いでしょ〜。」
「ブラボー――――じゃない、お前の願いは何なんだと聞いているんだ!!!!!」

彼に乗せられそうになりながらも、机から思わず立ち上がり、怒鳴るアーチャー。
その言葉に、思わず「てへっ」のポーズを取りながらも、伊達は再び頭を抱える。

「何故、俺の願いにそこまで……。」
「お前が戦う理由によって、俺が聖杯戦争に乗るかどうかも自然と決まるからだ。」

だが、伊達は口を開けなかった。
否が応でも話そうとしない彼に、アーチャーは食い下がることは出来ず、結局そのまま数分の間沈黙が続き―

「お客様、そろそろ閉店のお時間です。」
「逃げるのか。」
「閉店は閉店でーす、お片付けしなくちゃいけないのでお先にお帰り下さーい。」
「ここは貸し切りだったはずだが?」
「貸し切りであろうと開店時間と閉店時間が無効になったわけじゃないからねー、ほら、出てった出てった。」

結局、アーチャーは己のマスターより店を追い出されることになった。
このバーは地下に出来ているらしく、アーチャーは地上に繋がる階段をゆっくり上がって退店することになった。
こうして地下で話し、階段を上がって出ていくのは、以前喫茶店の地下室に仲間と共に集まっていた頃のことを思い出し、不覚にも少し懐かしくなってしまう。

バーよりも更に暗くなった路上に上がり、階段を振り返れば、近くにあった店の看板には名前が刻まれていた。
『BAR joker』
誰かの名前だろうか、と思って見ていたその時、看板を照らす外灯がプツンと消される。
それを暫く物憂げに見つめていたアーチャーは、そのまま踵を返し、店を後にし、闇に溶け込んでいく。



◆  ◆  ◆


370 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:33:05 8B9UI9Jg0


伊達一義がアーチャーとコンタクトを交わしたのは、つい数時間前のことだった。


太陽の輝きとも、賑やかなざわつきとも縁のない、夜19時の港。
そこで聖杯戦争の参加条件を満たし、伊達の手元に令呪が浮かんだ直後、伊達は剣を操る未来風の甲冑を着た戦士に出くわした。
直後、戦士を見る伊達の目に『Saber』という文字が浮かび上がり、同時に幾つもの数値が脳内を駆け巡る。

――この男が、サーヴァント……。

まず、命乞いするかのように説得を試みようとするも――やはり通じることはなく、結局戦士は剣を振りかざしてきた。
警官時代に培った格闘術と、暴漢に襲われるのは日常茶飯事な経験を活かして彼の剣から身を交わすも、間もなく伊達の身体は次第に披露していく。
ここで終わりか……と思いつめ、死んだ両親の顔が浮かび上がってきたその時。

――SCRASHDRIVER――――DANGER――

――変身。

やかましい電子音声とともに、まるで子供の頃に見たヒーローの様に戦士の背後に立ちふさがったのが、アーチャーだった。
アーチャーは、万力を模した様なバックルに、紺色の容器を差し込み、押し潰した瞬間、ビーカーの中に包まれ、ビーカーが割れた時には、ワニを模した様な異形の戦士に変わっていた。
パラメータは、高い方ではあったが、この戦士に勝てるかと言われればやや怪しい部分があった。
しかしアーチャーは決して逃げることはしなかった。どこからかパイプを模した赤黒い短刀を取り出したかと思えば、それを手にセイバーに立ち向かっていく。

伊達の見立てでは、アーチャーの体術は英雄と言われるだけあって悪くはなかった。寧ろ良い方だった。
だが、その技で聖杯戦争を制する程の腕前を持っているわけではなかった。一方でセイバーは、その剣技で名を馳せたであろうか、優れた剣の動かし方と反応の良さで彼を捌き切っていた。
戦闘時間はこの流れを変えぬまま十分を経過。セイバーは動きにブレがないが、アーチャーはそうも行かないのか、徐々に攻撃が当たらず、回避が困難になりつつあった。
この立ち合いでは、アーチャーはセイバーに勝つことは難しい、そう思った時。

――マスター、早速で悪いが、ここで宝具を使わせてもらうぞ。

宝具。
その言葉その意味は、まるで警察学校で勉強したそれと同じ様に、伊達の知識の引き出しの中にいつの間にか入り込んでいた。
宝具とは、謂わばサーヴァントにとっての切り札であるとは聞いている。
この初戦でそれを使うことの了承を求めるということは、それなりのリスクが伴うということを表していることなのだろう。
そして、同時に、それを使わざるを得ないという現状を、アーチャーは理解しているということになる。

伊達が頷いた直後のアーチャーの反応は早かった。
その時のアーチャーは、セイバーと辛うじて鍔迫り合っている状態であった。
が、その時セイバーは正にその刃を徐々にアーチャーの短刀の柄の所にまで滑らせようとしている所であった。
このままでは、アーチャーの腕に深刻なダメージが入る。その時である。
アーチャーは短刀を握っていない左手を動かし、短刀に力を込める……のではなく、瞬時にバルブを二回転させる。

――ELEKI STEAM――

電子音声を合図とし、刃から電撃が奔る。
それは鍔迫り合っているセイバーの刃を通し、剣士の甲冑に、肉体に次第に伝導していく。

セイバーの肉体が痺れ始め、動けなくなる。
その隙を、アーチャーは逃がすことはなく、直ぐ様バックルのレンチに手を伸ばす。

――『喰らい砕く黒鰐の牙(クラックアップフィニッシュ)』――

電子音声とともに、アーチャーの左手にエネルギーが籠もっていく。
紫色のエネルギーを纏った左拳を、アーチャーはセイバーの鳩尾に叩き込む。
セイバーは背後のコンテナにまで大きく仰け反り、漸く痺れが治まってきたのか、鳩尾を刀剣を持っていない片手で抑える。

セイバーの刀剣に光が灯っていく。
恐らくそれは彼の宝具であるその剣の在り様であろうか。
ともかく、この技を凌ぎ切るのは、アーチャーにとっては困難であった。

しかしアーチャーの猛攻は留まらなかった。
アーチャーが取り出したのは、今度はサメの模様が彫られた紫色の容器。
それをシャカシャカ振った後に蓋を開けて銀色のハンドガンに装填し、今度は紫色の一回り大きなハンドガンに、バックルにハマっている方の容器を装填する。

――FULL BOTTLE――
――CROCODILE――

左手に銀の銃、右手に紫の銃を構えたアーチャーは、それを同時にセイバー目掛けて構えたかと思えば、同時に引き金を離す。
その時にはセイバーが魔力をフルチャージした剣を振りかざした頃であった。


371 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:33:21 8B9UI9Jg0

――STEAM ATTACK――
――FUNKY BREAK――CROCODILE――Aaaaaaaaaaaaaaaaaa!!

開かれた双銃の銃口からは、サメとワニのエネルギー体が並びながらも海原を駆けるかの如く襲いかかる。
光の込められた刃からは、眩い斬撃波が空間に刻まれる。

アーチャーの放った光弾は、確かに剣士を射抜いていた。
しかし、剣士はその直後に真上に跳躍し、ぶつかる場所を失ったサメとワニの弾丸は剣士の背後のコンテナに衝突。
先程の衝撃で大穴が空いていたコンテナは二度目の突撃に耐えられずに崩壊、貫通される。
コンテナを貫通した二頭の光の弾丸はそのまま真後ろにある海へと沈没、霧散してしまう。

アーチャーが仮面の下で驚愕の表情を浮かべているのも束の間。
セイバーの斬撃波は先程までサメとワニの通った間の場所の中間を見事にすり抜け、アーチャーの胸部に命中したのだ。
今度はアーチャーが仰け反って背後のコンテナに衝突する。

アーチャーの耐久ランクは非常に高いのもあって、コンテナに大きなクレーターが空いていた割にダメージはそこまで通らなかった。
そのまま立ち上がり、突進しようと構えるが、近くにいた伊達を見つめて一旦俯いた後、再びセイバーを見つめその場に立ち止まった。

セイバーも剣を構えたまま、アーチャーを見つめているだけで何もしてこない。
お互いの出方を見計らっているのだろう。そのまま静かな沈黙が続く。
20秒にもなるだろう駆け引きの中で、まず先にカードを引いたのは、アーチャーであった。
アーチャーは再び、あの容器を取り出す。だが今度はサメではなく、蝙蝠の容器である。
しかし今度は、鰐をバックルより取り外し、代わりに蝙蝠の方を装填し、再びレンチを倒す。

――CHARGE BOTTLE――TSUBURENAI――

その電子音声と共に、アーチャーの背中に一回り大きな、蝙蝠の如き翼が生える。
頑強なアーチャーの身体にはとても似つかわしくなかったが、ダークなカラーリングが良く似合う。

――やはり、こいつが一番身体に馴染む。
――CHARGE CRASH――

懐かしむ様な口調でそう言うと、アーチャーはその巨大な翼を羽ばたかせ、上空に飛び上がる。
当然、セイバーはその場で限定的に魔力を剣に込め、小規模の斬撃波を上空のアーチャー目掛けて放つ。
だがアーチャーはそれを躱したかと思えば、移動しながらも短刀と紫の方のハンドガンに合体させ、更に鰐のボトルを装填する。

――RIFLE MODE――FUNKY――CROCODILE――

月を背に、ライフル形態になった銃を構えるアーチャー。
同じくセイバーもまた、剣にエネルギーを込める。
引き金が放たれるのと、柄が振りかざされるタイミングは、ほぼ同時であった。

――FUNKY SHOT――CROCODILE――Aaaaaaaaaaaaa!!

紫色の弾丸と、山吹色の剣戟が、同時に炸裂する。
周囲には爆風が広がり、その勢いで近くにいた伊達も数m後ろにまでに吹き飛ばされる。

アスファルトにぶつかり、右肘に擦り傷を負う。
前方を見上げれば、爆風で何も見えない。
そこに、蝙蝠の翼を生やしたままのアーチャーが飛んでくる。

――今だ、逃げるぞマスター。

そう言うと、翼を畳んで右腕で伊達を覆うように抱き込む。
アーチャーは紫のハンドガンで煙を散布した後、伊達が気がついた時には、港とは比較的遠い路上に移動していた。




◆  ◆  ◆


372 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:33:35 8B9UI9Jg0


伊達一義が初めて人を刺したのは、まだ十歳の頃であった。
ドラム缶の中に閉じ込められた両親を借金の肩として躊躇なく殺害した極道の男を、躊躇なく、子供の身でありながらも刺すことが出来た。
それは恐らく向こうが子供だと舐めて掛かっていたからであろう。殺すまでには至らなかったが、結局男は倒れた。
伊達の行動は正当防衛として認められ、男はそのまま逮捕された。
だが、伊達の罪が彼の中で消えることはなかった。

嘗て自身を助けてくれた"三上"と名乗る刑事は、伊達の行動は正しかったと説得してくれた。
今思えば、あの言葉を受け入れなければ、きっと自分は路頭にでも迷っていたのだろう。

伊達は三上を追いかけるように警察官になった。
しかし刑事になって直ぐに、己の両親を殺害した男と再会する。
男に脅された伊達は三上に相談すると、三上は伊達にある仕事を紹介した。

この世界には、法の裁きを免れた犯罪者は何人も存在する。
権力による法への圧力、周到な証拠隠滅まで、様々な手段を以ってして多くの犯罪者達が、人を殺めても尚のうのうと生き続けている。
そんな理不尽な社会に抗う仕事もまた、この世界に存在していた。
近頃、未解決事件の容疑者が、原因不明の失踪を連続で起こす事件が多発していた。
警察はそれを『神隠し』と呼んでいる。
そしてその神隠しの正体こそ、『ジョーカー』であり、伊達の恩人である三上であったのだ。
三上は、伊達をその神隠しに誘っているのだという。

犯罪者に威力の低い麻酔銃を向け、撃ち、どこか知れぬ所へ終身刑にする。そんな仕事であった。
最初は三上のサポートをするだけであった。
初めての仕事は両親を殺した男を裁くことだったが、人を傷つけることは、幼い頃に人を傷つけた過去のある伊達には何よりも堪える物があった。
が、伊達は引き金を引いた。男はそのままどこかへと送られていった。

伊達が初めて仕事を請け負った相手は、警察の官僚の男だった。
官僚は息子の治療費を稼ぐためにヤクザから賄賂を受け取っており、その内金に目が眩んで自分を見失ってしまったという。
彼にも家族がいる、守りたい明日がある。それを思う度に伊達の手元はより一層狂いを見せそうになっていく。

自分が中高生になった時、三上は諭してくれた。

―――何度も言っているだろう、あのヤクザは一命を取り留めた、別に殺したわけじゃ……

―――でも人を刺した!

―――ほっといてくれよ!俺の苦しみなんか誰も分かっちゃくれない!!

―――良いか!?お前が刺してなければ、あのヤクザは逃げ延びて、また同じ様に誰かを殺していたんだ。お前は……正義の為に戦っただけだ。

―――お前が苦しんでいるのなら、痛みを抱えているのなら、俺も一緒に…背負ってやる。

この男を野放しにしておけば、他の大勢の人達が明日を失うことになる。
そう思えば自然と覚悟が決まり、激しい取っ組み合いの末に、伊達は彼を撃った。
男を捕まえる際、三上はこう言った。

――お前はこいつの明日を奪った。

――だが代わりに、多くの人間が救われた。

それからも、伊達は多くの法から逃れた者を裁き続けた。
快楽のため、金のため、正義のため、犯行動機は多種多様だが、大半は裁かれることもなければ罪を認め自首することもなかった。
そして法の下で裁かれる余地がないと判断した瞬間、伊達は犯人の引き金を引き、彼等をどこかへと送り続けていた。

だがそれでも、伊達の罪は消えることはない。
人を傷つけることは、絶対に許されることじゃない。
例え自分の行動が社会のためになろうとも、それが変わることはなかった。
伊達のやろうとしていることは、子供の頃、あのヤクザを刺した時と全く変わらない。
あの苦しみを、同じ様に味わおうとしているのだ。
それを忘れない様に心がけながらも、伊達は今日まで、十数人もの犯罪者を裁き続けた。
その過程での、加害者家族へのケアも怠らずに。


◆  ◆  ◆


373 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:34:37 8B9UI9Jg0

◆  ◆  ◆


アーチャーが姿を消した後、伊達は元の世界では殆ど戻らなかった自宅のアパートに帰る。
鍵を閉め、シャワーを浴び、着替え、寝床にばったりと倒れ込む。
神隠しの仕事の際に来るバーに徹夜でいることが多かった伊達にとっては、帰宅するのは月に一回あるかどうかだった。
なので、このアパートにも、自分で誂えたはずの家具が揃った部屋にも、最近はあまり見慣れなくなってきた。
どちらかと言えば、あのバーの方が家の様に見慣れて来ている気がする。


神隠しを行うタイミングは比較的低い方だったが、それでも事件という物は毎日のように起きる。
大抵の場合、犯人は逮捕されるが、それでも釈放になるホシが出る確率も決して低くはない。
それを調べるために、伊達は毎日のように調査しているのだ。
犯人だと確証が出来たと同時に、法で裁けないと確信するために。
もし無罪だと完璧に証明されたのなら、骨折り損だがそのままにしておく。
だがもし有罪でありかつ法で裁ける確率がゼロなのであるなら―迷わず犯人に銃を向ける。

故に、伊達は神隠しを毎回行わずともほぼ徹夜でこの仕事をしなければならないのである。
その為に居眠りや遅刻は多く、毎回同僚には叱られてばかりだ。


誰もいない、真っ暗な寝室で、伊達は寝間着姿で大の字になりながらも、この世界の出来事に独りごちる。
この世界は、そもそも何かが違う。
伊達の所持品も調べてはみたものの、警察手帳も財布の中身もどれもこれも変わらない。


だがこの世界に、神隠しという事件は存在しない。
この間、女性が毒殺された事件の被疑者が釈放された後、自宅から姿を消す事件はあった。
しかしそちらに関してはヨーロッパ行の便で飛び立ったという調査が見つかっており、神隠しとは全く関係ない。

にも関わらず、伊達がさっきまで経営していたバーには何も変わりはなかった。
店名が『BAR joker』という名前に変わっているのを覗いて。

(いやしかし、何で俺があの店を切り盛りすることになったんだろうねー、あの店は、三上さんが……)

この店は、元の世界で三上が警察を辞めた後、神隠しの拠点も兼ねて借りた建物とそっくりそのままな物を使っている。
伊達がこの店でいちごミルクを飲むようになって5年が立ち、そろそろ椅子や壁に付いている傷や癖も覚えるようになってきているが、これもまた全く変わっていない。
何故この店を切り盛りすることになったのか。それが唯一の違和感であった。

(まるで、俺が元の世界と殆ど変わらない日々を過ごしている様に誰かが仕組んだみたいだな)

というようなある種の気味の悪さも覚える。
この店を伊達が切り盛りしているのは、確かに元の世界の自分と変わらない。
しかしそれは、この店を経営していた男がいなくなったからである。

――神隠しを……やめないでくれ。

今から5年前、伊達の同期である警察官が、何者かに刺殺された事件。
その犯人こそが、元刑事にして伊達の恩人でもある、あの三上だった。
殺された警察官は、神隠し……ジョーカーの存在を突き止めていた。
だが三上はそれを許さなかった。

妻子を殺され、その犯人がのうのうと生きているのに絶望した三上にとって、紹介してもらったジョーカーは助け舟の様な物であった。
彼もまた許せなかったのだろう、法の裁きを逃れた者達がいるこの現実を。
しかし、同時に彼は裁かれるのを望んでもいた。
伊達と共に多くの犯罪者を裁いていく中で、三上は自分を常に呪い続けていた。
だが、証拠は一切残っていない。三上が裁かれることはないのだ。他の神隠しの被害者達と同じ様に。
だからあの日、伊達に自分を殺させる様に、終身刑にするように仕向けようとしていた。
三上は同じなのだ、嘗ての伊達と。

だが伊達は殺さなかった。裁きもしなかった。
三上がこれまで伊達が裁いてきた犯人との最大の違いは一つ。己の罪を自覚していることだった。
つまり、自首して法の下で罪を裁かれる余地があるということである。
だからこそ、伊達は三上を裁かなかった、そのまま、警察に手錠を嵌めさせ、今も尚服役の身に置かれている。


374 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:35:48 8B9UI9Jg0


◆  ◆  ◆


その日の夢は、夢と言うには妙に鮮やかであった。
よく、両親を殺したヤクザを刺した日の夢は見るが、あれ以上に今見ている光景は鮮明であった。
現実的(リアリティ)に溢れている。起こっていることは非現実的すぎる。なのに……
これは現実なのだろうか、いやそうじゃないかもしれない、いやそうじゃないじゃないかもしれない……



JAXAらしき施設の広場で起きた、謎の物質に関する展示会。
そこには大勢の客人が出席していた。
伊達はそこの客人の一人になりきっていた。

ガラスケースの中に入っているのは、一個の年代を感じさせる灰色のキューブ状の石。
ケースが開かれ、いよいよそれが公の場にさらされた時……
一人の作業員が、関係者を押し飛ばし、キューブに手を触れた。

刹那。
触れられた瞬間、キューブがまるでスイッチの押された照明の様に眩しく光り輝き、その気の狂いそうな眩い光の中に伊達の視界も巻き込まれる。
光が止んだかと思えば、近くの地面から出現した三つの大きな壁が、上にいた人々を押し飛ばし、まるでパイを一気に三人分に分けたかの様に地面を隔てていく。

当然、伊達も冷静さを失い、大勢の人々に紛れ逃げ惑う。
まるで誰かに操られているかのように感じられたが、これは夢だからであろうか。


その瞬間、視界が暗転する。

次の瞬間、伊達は真っ黒な地下室の中にいた。
目の前には、複数の作業服姿の人々が、何かを叫ぶように、何かを讃えるように叫んでいた。

――ファウスト!
――ファウスト!
――ファウスト!

イギリスの著名な古典文学に出てきた、一人のマッドサイエンティストの名を、神でも讃えるかのように彼等は叫び続ける。
たった一人、その光景に戸惑いを隠せない作業員を除いて。
伊達は、その手に何かを握っているのかを確認する。
それは、アーチャーが昨夜の戦いで使っていた銀色のハンドガンであった。
ふと、伊達は聖杯戦争に巻き込まれた時に一つの物事を思い出す。

(そうか、これはアーチャーの夢か)

マスターは、魔力バイパスを通し、時折サーヴァントの記憶を夢として見るらしい。
つまり、伊達は今、アーチャーになりきり、彼の記憶を追体験しているということになる。

伊達……アーチャーがもう片方の手に握っているのは、ピンク色の容器であった。
蝙蝠を象ってはいるが、あの時の戦いで使っていたのとはデザインも色も何もかもが別物だ。禍々しい。
それをスロットに装填したかと思えば、アーチャーは何やら口を動かす。
口と同時に動きを見せたその身振り手振りは、宛ら自分をより良く見せようとする為政者の演説の様であった。

――嘗て俺の中に流れていた"血"は、俺の燃え盛る野心によって"蒸"発した!
――もう昔の俺は要らない……"蒸血"。

そう言うと、アーチャーは銃口から視界を塞ぐ霧を噴出し、自身を包み込む。
次の瞬間、アーチャーの視界には何かしらの計器らしき表記がチカチカと写り込んでいる様な状態になっていた。
まるでVRゴーグルか何かをつけられたかの様な気分だ。いやこの瞬間が正にVRなのだが。

――今の俺の名は、ナイトローグ。

ナイトローグ。
暗闇の悪党。
それが、伊達の喚び出したサーヴァントの真名であった。


視界が暗転する。


375 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:36:02 8B9UI9Jg0


次の瞬間に戻っても、伊達の視界はまるでパワードスーツの様な計器に包まれたままであった。
アーチャー……ナイトローグは、フカフカのソファーに座りながらも何かを眺めていた。
視界の中では、ガスマスクに身を包んだ作業員達に囲まれている、吸引器を咥えさせられた一人の青年の入った水槽を眺めていた。
青年は暫くの間藻掻き苦しんでいたが、暫くして意識を失う。
すると、青年の隣に、紅い宇宙飛行士の様な格好に身を包んだ男が現れる。
頭部の煙突には、ナイトローグに近い意匠が見え隠れしていた。
宇宙飛行士は、意識を失った男を、そのままどこかへ運び込んでいった。

(アーチャー、お前は一体、何をしようとしていたんだ……)

再び視界が暗転した後も、ナイトローグは相変わらずソファーに座り込んで水槽を見物していた。
水槽で藻掻いているのは、先程の青年とは少し年上の男性であった。
だが男性は、暫くしている内に、形を見る見る変質させていった。
それは人間ではなく、ただの化け物であったのだ。
ナイトローグは、人間を化け物にする研究を初めていた、ファウストに勝るとも劣らない正真正銘のマッドサイエンティストだったのだ。

視界が暗転する。
今度は、藻掻き苦しむ女性を眺めながら、ケータイ……スマートフォンを片手に握っていた。
話している相手は、この女性の恋人らしい。
ナイトローグは、女性を人質にしているようであった。
暫くすると、女性もまた、禍々しき怪物に変貌していく。

伊達に言わせれば、この男は紛れもなく悪党であった。
罰せねばならない悪党であった。
だがまだ、その時ではない。
そう思った時、再び視界が暗転する。

次の瞬間、水槽に浸かっていたのは……自分であった。
見てみれば、あの計器が消え去っている。今のアーチャーはナイトローグではないのだ。
先程の紅い宇宙飛行士が、アーチャーの心臓に優しく触れ込む。
まるで何かを弄るかのように。

次の瞬間、アーチャーは暗い部屋の中にいた。
だが、そこには水槽も、作業服もない。
あるのは、ドラム缶などの障害物と、幾つもの死体のみ。
何かを蹴り上げる。
蹴った男の首は半分裂かれていて、両側を挟み込むように立っていたのは全身が歯車の、対象的なデザインの二つの戦士であった。
それは正に兄弟の様であった。
だがアーチャーは怯えずに、何かを手に取る。
それは、彼が鰐男に変身するときに使っていたあのバックルだった。
バックルを巻き、ワニ模様の容器を装填する。
暫くは悶え苦しむが、辛うじてバックルは答え、アーチャーは鰐男へと変貌を遂げていく。

――CROCODILE IN ROGUE――O-raaaaaaaaaaaaa!! Aaaaaaaaaaaaaa!!

喧しい電子音声を合図に、アーチャーは猛突進していく。
疲労が溜まっているのか、その動きはぎこちなかったが、再び計器に包まれた視界の中で、どうにか歯車兄弟に立ち向かう。
柵の奥で、眼鏡の男が叫ぶ声が聞こえる。
どうやら、その歯車の兄弟はアーチャー……ナイトローグの部下だったらしい。
だがアーチャーは、嘲笑った。ひたすらに嘲笑った。何かを堪えるかのように笑い続けた。
その様は、伊達を窮地から救い、いちごミルクを美味しそうに啜っていた彼からは全く想像もつかない様であった。

バックルのレンチを倒す。
再び力が込み上がり、あの時、セイバーを弾き飛ばしたパンチが歯車の一人を粉砕する。

――俺は……ローグだ!!

再びバックルのレンチを倒す。
生き残った方の歯車を、今度は巨大な鰐の足へと変貌した足で、粉々に喰らい砕く。

――仮面ライダー……ローグだぁぁぁぁ!!

アーチャーが、虚空に向かって雄叫びを上げる。
ここで、伊達の夢は一旦終わった。



◆  ◆  ◆


376 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:36:15 8B9UI9Jg0


その次の日、伊達は警察の仕事を終えた後、バーを一旦臨時休業に切り替え、アーチャーに先日セイバーと戦った港に来るように命じた。
しかし伊達はバーに戻り、黒いポリエステル製のジャケットに着替え、麻酔銃に弾丸を込める。
伊達は、聖杯戦争に来て以来初めての神隠しを行おうとしているのだった。それも、自分のサーヴァントに。

サーヴァントを殺す。
それが、この聖杯戦争においてどの様な意味を持つかは、参加させられて数日も経たない伊達にも十分理解し得ることだった。
だが、自分の信念を曲げてまでみっともなく生き延びること。それだけは、伊達は絶対にしたくなかったのだ。
何より。

――アーチャーは、本当に悪人なのだろうか?

彼とは出会って間もないが、見た所、サーヴァントとしての役割を忠実に果たそうとする、生真面目でどこか抜けている、自分と同い年ぐらいの男性なのである。
アーチャーの属性も『悪』、だがそれでも主を絶対に守り抜こうとする意志はあの戦いで感じ取れた。
伊達は、試そうとしているのだ。
自分のサーヴァントが、本当にあのナイトローグなのか、それとも否かを。

この近くにあったラーメン屋は、相も変わらず繁盛していた。
伊達は、神隠しを一人で行って以来、ずっとこのラーメン屋に通いつめていた。
店の女店主の顔も変わらない、店の形も変わらない。味も変わらない。
その度に、初めて神隠しにしたあの警察官僚の姿を思い浮かべ、割り箸を割り、ラーメンを啜り、スープまで飲み込む。


時刻は午後10時。
先程セイバーと戦った港の海から見える日差しを物憂げに眺めていたアーチャーの目前に、一人の男が現れる。
だが伊達の手には、一丁の拳銃が握られていた。拳銃を握る手には、道化師を象る令呪が僅かに灯りを見せていた。
麻酔銃を撃った上で、令呪で自害させるつもりなのだ。勿論、サーヴァントに麻酔銃等効かないに等しいのは分かっている。
本来なら『自害せよ』で済ませようものだったが、それでも伊達は自分の流儀を曲げることを拒んだのだ。
だからこそ、一日立つのを待ってまでラーメンを啜り、麻酔銃を射つ形で終わらせようとしているのだ。

「……何のつもりだ。」
「法から逃れた者を裁く、それだけだ。」

訝しげな表情を浮かべるアーチャーに対し、伊達は彼に銃を向け、忽然と言い放った。お前を裁くと。
その表情は、最早陽気なマスターではなく、冷酷な人殺しの顔であった。たった一つ、物憂げな目を覗いて。

「法?この聖杯戦争には関係ない――」
「いやあるさ、お前は多くの人々を人体実験のモルモットに変え、怪物に変え、幾つもの明日を奪って来た。そうだな?ナイトローグ。」

ナイトローグ。
その言葉に、アーチャーの表情が一瞬変わる。

「見たのか……俺の記憶を。」
「お前は何のために聖杯戦争に現界した?己の欲を満たすためか?誰かの苦しみを味わうためか?それともメフィストフェレスでも作ることか?」

アーチャーは俯いたまま黙っていた。
伊達はそれをずっと見つめていた。

「大義のためだ。」

アーチャーの口が開く。
伊達は表情を変えずに銃を向けたままだ。

「大義?」
「俺が現界したのは、愛と平和の為に戦うという大義故だ。それ以上でも、それ以下でもない。」
「…………。」
「あの光を浴びて以来、俺は目に見える者全てを敵とみなしてきた。多くの人々を苦しめてきた。
だがそれは全て俺自身が犯してきたことだ、俺が何を言おうと言い訳にしかならんだろう。」
「なら、償う意志はあるのか?」
「幾ら償おうと償いきれないがな。」
「……。」
「お前が今俺を自害させようとしたがっているのは分かる。だがそれでも、俺は愛と平和の為に、なにかを助けたい、救いたいんだ。それだけは、叶えさせてくれ……。」

アーチャーは地面を見つめ俯いたまま、両膝を地面に付き、続いて両手を地面に置いて四つん這いの姿勢になった。
それはこの日本で言う『土下座』と呼ばれる、最も恥ずべきことをした人間が行う一種の行為であった。

「頼むっ……。」

その様に、伊達の銃を握る腕が力を失う。
銃を懐に仕舞うと、その手で伊達は、土下座している男の手を握る。
アーチャーが顔を上げると、彼のその表情は、いつも飄々としたマスターの姿と相違なかった。

「俺も同じだ、アーチャー。」
「……?」
「俺も、誰かの明日の為に戦いたい。そのために力を貸してくれないか。」

その言葉に目頭が熱くなったアーチャーは、直ぐ様彼の手に力を掛けて立ち上がる。



◆  ◆  ◆


377 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:36:51 8B9UI9Jg0


その後、伊達とアーチャーは今後の方針について話し合った。

「もし俺みたいに、唐突にこの世界に巻き込まれた人がいるってことは、俺みたいな人は沢山いるってことでしょ?」
「ならどうする。」
「仲間を作る。俺達と同じ様に、この聖杯戦争に納得を示さない主従と、同盟を組むんだ。」

以前、監察官の久遠をジョーカーに迎えた時、三上に反対された時のことを思い返す。
だが、今は誰もが遅かれ早かれ互いの存在を知られることになるであろう状況だ。その様なリスクは度外視して構わない。

「同盟……か。」

その言葉に、アーチャーの顔がくしゃっと少し綻ぶ。
あの狂気の蝙蝠男の姿がアーチャーとどうしても重ならなくなり、伊達の中で違和感が少しだけ増えるも、表情は敢えて変えずに言葉を続ける。

「仲間は多い方が楽だろ?」
「そうだな……以前、共に仲間と戦った時のことを思い出す。」
「仲間……もしかして、あの研究員のことを言っているのか?ナイトローグ。」
「もうその名前で呼ぶのは止せ。その名はとうに捨てた。」
「なら、仮面ライダーローグ、と呼んだ方が良かったか?」

アーチャーの顔がやや赤くなっていき、不貞腐れたように口を動かす。

「氷室幻徳、それが俺の真名だ。」
「氷室、幻徳……じゃあ幻さんか。」
「その名で呼んだ奴は、これで三人目だ。」

恥ずかしがるように答えられる。
ますますアーチャー……幻さんのことが分からなくなってきた。

「それで、今後のお前の方針は、聖杯戦争の打破、ということで良いんだな?」

表情を整え直したアーチャーのその言葉に、伊達は忽然と頷き、再び麻酔銃を引き抜く。
しかし今度はアーチャーではなく、港の向こうにある月に向けられた。

「この聖杯戦争という出鱈目なゲームを創り出し、多くの人々を弄んだ主催者は、未だ裁かれていない。裁けない。だから俺が裁く。」
「まるで、正義の英雄(ヒーロー)みたいなことを言うな。」
「いや、俺のやってきたことは少なくとも正義だと思ってやってきたわけではない。戦いを望まない者は助けるが、その代り、他者の明日を奪う様な連中は絶対に倒す。
それを法は許さない。だから、俺達がこれからやっていくことは許されるわけには行かないんだ。けどそれでも俺は、誰かの"明日"を守りたい。」
「なら、お前は悪か。」
「………。」

こうして語っている間にも、伊達は相も変わらず月に拳銃を向け続けている。

アーチャー……氷室幻徳からして、伊達一義のその姿は嘗てぶつかり合い、共に戦い、己が全てを託したある一人の戦士と重なっていた。
その戦士は真っ直ぐであり続けていた。
誰かの力になりたくて、戦い続けようとしてきた。
誰かを守りたくて、立ち上がり続けてきた。
自分が信じた道を突き進むために。大勢の人々の"明日"を、この手で創る為に。
"幻さん"という呼び名と言い、軽い言動といい、真っ直ぐな姿勢と言い、どこか似ているかと思えば……

「成る程、お前が、俺を喚んだ理由が分かってきた気がするよ。」
「ん?」

すぼんだような表情で振り向く伊達。
振り向けば、幻徳はいつの間にかあのバックルを手にとっていた。

スクラッシュドライバー。
10年前にあの眩い光を放ち、国を隔てたあの箱より湧き出た力を人間の手で操り、兵器としての機能を発揮させる『ライダーシステム』の集大成。
戦争に打ち勝つための兵器としての機能が余りにも完成しすぎていた力。
非人道的な人体実験の末に、幻徳が手にした大義を成し遂げるための術。
血に塗れ、血が糊のように彼にくっつけているそのベルトは、ライダーシステムが兵器としての概念を放棄し、英霊の座に召し上げても尚、彼の手元に残っていた。

「随分、哀しそうな目で見つめているな。」
「何が悲しい物か。」
「その力で、大切な人を殺めたのを悔やんでいるのか。」
「……何とでも言え。」

その目は、慚愧の眼差しであった。
伊達がこれまで何度も目にした顔であった。
三上、久遠、そして自分自身。それに今の彼が重なる。
そう、きっと彼もまた、今もなおどこかで苦しんでいる"普通じゃない"人間なのだろう。
そして、そんな慚愧の眼差しをかなぐり捨てるかのように、だが表向きは極めて平静に、彼はバックル…スクラッシュドライバーを腰に巻いた。


378 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:37:03 8B9UI9Jg0

――SCRASH DRIVER――

続いて、あの鰐の容器……クロコダイルクラックフルボトルの蓋を開き、バックルに刺す。

「変身。」

――割れる!喰われる!砕け散る!――CROCODILE IN ROGUE――

大義の為に、他者も、己すらも犠牲にせんとする漆黒の戦士・仮面ライダーローグに、彼は再び変貌を遂げる。
その様を、やはり落ち着いた、だが何かを覗こうとする眼差しで伊達は見つめている。
そして伊達は口を開く。

「一つ、訊きたいことがある。」
「何だ。」
「俺はこれから許されざる行為を時にやろうとする。それを手伝うことに、お前は躊躇するか?」
「俺は悪党(ローグ)だ。悪を成すことに、今更何を戸惑うことがある?」

だが幻徳は、だがと付け加える。

「もしお前が、大義の為に、愛と平和の為に戦うというのなら、俺はこの手を血に染める覚悟はいつでも出来ているぞ、マスター。」

自分は再び悪の名を背負う。
そう誓ったマスターに喚ばれたからこそ、幻徳は仲間達と共に地球外生命体エボルトに立ち向かった頃の姿ではなく、西都の用心棒だった頃の姿で喚ばれたのだと確信している。

「分かった、これからも俺に力を貸してくれ、アーチャー。」

アーチャーは腕を組み、その言葉にコクリ、と頷く。
それを一瞥した伊達は、月を人睨みする。
あの月が偽物であることは察しがつく。
無論、この夜空もまた、偽りであることを。
その偽りの壁を壊すことを宣言するかの如く、伊達は引き金を引く。
引き金が引かれる。
数m先へと放たれた麻酔弾は、実弾と比べて勢いは低く、そのまま勢いを失って直ぐに海へと落下し、ポチャリと沈んでいった。
だが、これで十分だった。聖杯に裁きを与えるという宣戦布告と、その誓いとしては。
海に落ちた弾丸を見つめた伊達は、冷たい声で言い放つ。これまで、多くの人々を裁いた時と同じ様に。




「お前に明日は来ない。」


379 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:37:16 8B9UI9Jg0


【クラス名】アーチャー
【真名】氷室幻徳/仮面ライダーローグ
【出典】仮面ライダービルド
【性別】男
【属性】秩序・悪
【パラメータ】筋力B 耐久A+ 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具B(ローグ変身時・初期値)

【クラス別スキル】

・対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法等大掛かりな物は防げない。

・単独行動:B
マスター無しで現界を保つ能力。
Bランクなら、マスターが死んでも2日は現界を保てる。

【保有スキル】

・ハザードレベル:C→B+
パンドラボックスに秘められし力であるネビュラガスを吸い、遺伝子構造を組み替えることで手に入れた能力。
ネビュラガス由来のアイテムの行使、或いは耐性に補正が掛かる。
人体実験で高いハザードレベルを手にしており、闘志が高まればランクも上がっていく。
西都に属していた頃の姿で召喚されているため、現状ではスクラッシュドライバーが使用できるCランク程だが、意志が高まればある程度上昇し、上手く行けば1ランク向上も夢ではない。
ただし、人間の限界値を逸脱しなければならないAランクへの到達は不可能と言える。
プライムローグ変身時には1ランク上昇し、更に人々の応援を受けることで一時的にハザードレベルも向上する。

・仕切り直し:B+
不利な戦闘から離脱する能力。
戦闘状態を一からやり直す効果もある。
ネビュラスチームガンを使用すればより高確率で離脱できる。

・守護騎士:-(B)
国の明日を背負い戦う仮面ライダー。ラブ&ピースの誓い。
プライムローグ変身時にのみランクが()に修正され、誰かを守る時に耐久に補正が掛かる。

・鋼鉄の決意:C
鋼に例えられる、アーチャーの不撓不屈の精神。
10年の間に重ねた罪を清算するため、父親が愛するこの国を救う大義の為に戦い、父が死んでも尚国を守るために戦い続けた。
同ランクの『勇猛』『冷静沈着』を兼ねる他、耐久ランクに補正が掛かる。

【宝具】

『空を隔てる六十の鍵(フルボトル)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
火星で発見されたパンドラボックスに内包されていた容器型のアイテム。
内部にはネビュラガスを、地球上の概念を模した力に性質を変化させた物質が詰まっている。
使用時にはボトルをシャカシャカ振って成分を活性化させることが必要。
アーチャーは西都の擁する仮面ライダーであった逸話から、西都が嘗て保有していた20本のボトルを所持している。
スクラッシュドライバーやネビュラスチームガンに装填して必殺技を放つ際に使用する。

『喰らい砕く黒鰐の牙(クラックアップフィニッシュ)』
ランク:C→C+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:1人
アーチャーの仮面ライダーローグとしての必殺技が、彼の生き様を現す宝具として昇華された物。
クロコダイルクラックフルボトルの装填されたスクラッシュドライバーのレンチを再度引くことで、ボトルのエネルギーを活性化。
拳にチャージされた際には、腕の強度を向上させ、敵に強烈なパンチを叩き込む技として機能する。
脚部にチャージされた際には、巨大なワニを思わせる紫色のエネルギーを発言させ、敵を両側から連続で噛みついて倒す技として機能する。
因みに蹴り技として使用した場合、両足で敵を挟み込む体制になるため、命中率が非常に高くなる。
ブラッド族の生き残りの一人を倒し、エボルトに一矢報いた逸話から、『人類の脅威』の特性を持つ敵に対し特攻が掛かる。
後述の宝具の必殺技『プライムスクラップブレイク』発動時にもこの宝具は機能し、ランクが上昇する。

『金色に咲き誇れ大義晩成(プライムローグ)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
父から託されたこの国を守り抜こうと決意したアーチャーの気高き意志の宝具化。
桐生戦兎が作成したローグの強化アイテム『プライムローグフルボトル』をビルドドライバーと共に召喚する。
このフルボトルをビルドドライバーに装填することでアーチャーはプライムローグへと変身を遂げる。
戦闘力はローグよりも格段に向上し、背中のプライムセイバーマントは高い防御力を発揮し、特に『人類の脅威』に対しては防御性能が格段に向上する。
魔力消費も比較的多い上、西都の仮面ライダーとして召喚された為に普段は封印されている。
その代わり敵を討ち滅ぼすのではなく、誰かの明日を守りたいという想いが一定の閾値を越える事で初めてこの宝具は解放される。


380 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:37:32 8B9UI9Jg0

【Weapon】

『スクラッシュドライバー』
アーチャーが難波重工から受け取ったバックル型アイテム。
フルボトルに内包されている成分をゲル化させることで成分の可塑性と柔軟性を高め、更なる戦闘力を発揮することが可能。
腰に装着し、ボトルを装填することでボトルの成分をヴァリアブルゼリーへと変化させ噴出、アーチャーを仮面ライダーローグへと変身させる。
ローグに変身することで初めてアーチャーは自在に力を振るうことができる。
また、フルボトルを装填することで、そのボトルの能力を発現させることも可能である。

『クロコダイルクラックフルボトル』
アーチャーが仮面ライダーローグに変身するために必要なアイテム。
ネビュラガスを凝縮させたトランジェルソリッドが含まれている。
難波重工が独自に開発した特殊なフルボトルであり、スクラッシュドライバーに反応する数少ないボトルの一つ。
フタを開いただけで『デンジャー!!』という音声が鳴ったりと極めて危険なボトルであることが示唆されている。

『ネビュラスチームガン』
最上魁星が開発したカイザーシステムを難波重工が再現、改良したハンドガン型のアイテム。
ネビュラガスを封じたギアを装填することで変身アイテムとしても使えるが、生憎ギアは持ってきていない。
フルボトルを装填した特殊攻撃も可能な他、改良時にトランスチームガンのデータも使っているのかスチームブレードを連結させられる。
ネビュラガスを変化させた煙を巻くことでその煙を覆った対象を別の場所に転送させることが可能。

『トランスチームガン』
アーチャーが嘗てナイトローグと名乗っていた頃に使っていたハンドガン型のアイテム。
ネビュラスチームガンを元に葛城巧がライダーシステムの実戦テストの相手をさせるために作ったトランスチームシステムのコア。
ボトルの成分を煙に変えて放出し、特殊パルスで変質させる効果があり、この機能を利用し以前はバットロストフルボトルを使用してナイトローグに変身していた。
仮面ライダーローグとして召喚されているためにバットロストフルボトルは所持していないが、同時にアーチャーのクラスで喚ばれた事で持ってこられた。
ネビュラスチームガンと同様にフルボトルを装填出来る他、スチームブレードとの合体オプションも搭載されている。

『スチームブレード』
カイザーシステムを改良したトランスチームシステム専用の装備である小型ブレード。
氷結ガスを放出する『アイススチーム』、電撃を放つ『エレキスチーム』、ネビュラガスを放出して対象を怪物『スマッシュ』に変貌させる『デビルスチーム』が使える。
消費魔力はないに等しいが、デビルスチームに関してはスマッシュに神秘を与える過程で魔力を消費する。最も今のアーチャーは使うつもりは毛頭ないのだが。
デビルスチームはスマッシュに変化させずに攻撃にも転用可能。因みにスマッシュはアーチャーが消滅すれば同時にガスも消失して元に戻る。
ネビュラスチームガン、トランスチームガンと合体することでライフルモードになり、射程距離を高められる。

『ビルドドライバー』
葛城親子が開発した、エボルトの力の源であるエボルドライバーを人間の科学技術で再現したバックル型アイテム。
スクラッシュドライバーの原型となったベルトだが、ハザードレベルの上昇率は低い分ボトルの組み合わせや外部アイテムとの併用による高い拡張性を秘めている。
プライムローグ変身時に召喚される。

『プライムローグフルボトル』
『金色に咲き誇れ大義晩成』の発動時に召喚されるフルボトル。
クロコダイルクラックフルボトルの成分を二倍にして内包し、更にジーニアスフルボトルの物質生成機能で生成した添加剤を混ぜている。


381 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:37:43 8B9UI9Jg0

【人物背景】

愛と平和の為に戦う仮面ライダーの一人。
死んでも尚消えることのない罪を背負い続ける"悪党(ローグ)"。

死亡時までの記憶を宿しているが、罪を背負おうとし続けているマスターの影響で西都の仮面ライダーだった頃の姿で召喚されている。
その為ネタスキル『文字T』は付与されていない。

【聖杯にかける願い】

望みたいことは確かにあるが、今の自分にその資格はない。
今はただ、愛と平和の為に戦うのみ。


382 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:38:13 8B9UI9Jg0



【マスター名】伊達一義
【出典】JOKER 許されざる捜査官
【性別】男

【Weapon】

『麻酔銃』
伊達が神隠しの際に使用する銃。サイレンサー付き。
通常の銃と比べると反動も少ないため、普通に片手で撃てる。
相手を傷つけずに眠らせて安全に車に乗せられる。

『警察装備』
警察手帳、警棒、その他諸々。
いざとなれば机からオートマチック式の拳銃も引っ張り出せる。

【能力・技能】

・捜査能力
張り込み等における高い推察力。
どんなに立件不可能な証拠であろうと僅かなヒントは絶対に逃さない。
若くして警視庁の警部になれるほどの実力者。

・格闘術
一応心得はある。
チンピラ程度なら軽く取り押さえられるが、暴漢に殺されかけたりと決して強い訳ではない。

・手品
口の中からトランプのカードを出したり、パッと花びらを出現させたりと手先が器用。
会話中に相手を和ませる時などに使用する、彼の特技。

・仏の伊達さん
中の人特有の不敵な笑顔を決して絶やさずに事情聴取を行う話術。
優しく容疑者の言葉を聞き出そうとするが、場合によっては容疑者の精神を追い込むような方法も平然と行う。
同僚の来栖淳之介曰く『時間ギリギリになって漸く状況を動かすタイプ』。

【人物背景】

法から逃れた犯罪者に裁きを下すジョーカーの後継者。
裁く度に増えていく罪を背負い続ける"許されざる捜査官"。

TVスペシャル後からの参戦。

【聖杯にかける願い】

聖杯に裁きを下す。

【方針】

同じく聖杯戦争に消極的な主従と同盟を結ぶ。


383 : 伊達一義&アーチャー ◆lkOcs49yLc :2021/06/06(日) 20:38:41 8B9UI9Jg0
投下を終了します。
一部文章、ステータスシートを修正しました。


384 : ◆7WJp/yel/Y :2021/06/06(日) 21:40:43 aS.bG0S60
投下させていただきます。


385 : ◆7WJp/yel/Y :2021/06/06(日) 21:41:33 aS.bG0S60

 禅院直哉。
 日本という呪術界の最先端、その中でも頂点に立つ『禅院家』の嫡男である。
 端麗な容姿を持つ美丈夫であり、呪霊という呪われた存在を祓う呪術師としての腕前はまさしくトップクラスの、まさしく選ばれた存在である。
 一方で人間性においてはあまりにも偏った哲学性を持つ、現代社会において紡がれた価値観を持つ他者とは到底分かり合えない人間であることも事実であった。

「聖杯戦争、ねえ」

 襟のない洋装の上に袴を纏う、大正ロマンあふれる時代錯誤な服装を纏った直哉はその薄い唇からポツリと言葉を漏らした。
 今、直哉のいる自室は平屋建ての広い日本家屋の一室だった。
 ロールプレイ、とでも言うのだろうか。
 直哉は現実と地繋ぎとでもいうべき旧華族の一族の一員として、この見知らぬ儀式へと参加させられていた。

「まあ、もらえる言うんならもらっとこかな。
 西洋の宝物も、うちの宝物庫に新しい『映え』が生まれるやろ」

 万能の願望期、聖杯。
 願えばすべてを叶える、夢幻のような存在。
 それを争うために数多の術師が数多の英霊を使役して

「この文様は、まあ悪くないやん」

 直哉は自身の左手の甲に刻まれた絡み合う蛇のような、あるいは自身の禅院の家紋のような呪紋、『令呪』を眺めながらつぶやく。
 そして、僅かに目をつぶり、その令呪に辿っていく呪力の流れを感じ取る。

「これ自体が外付けのブースターみたいなもん……そのまま単純な力に変えてもええし、術式を強化してもええっていう万能な増幅器。気が利くやない、聖杯くんも」

 同時に、その令呪一つで天才の仕事だと認識できる程度には直哉も天才であった。
 この莫大な呪力はすべて『命令権』という性質を持っている。

「サーヴァントはみんな猛獣みたいなもんってことやねぇ」

 これほどの精密な術式を構築しなければならないものが、英霊であるということがよくわかる。
 それは子供が格闘技の試合を見る前の興奮に近いものだった。
 そして、そのサーヴァントはすぐ近くにいる。
 いや、正確に言えば近くに『現れ』ようとしていた。

「土蔵の方やな」

 気配とでも言うものを感じ取って、直哉は重い腰をあげて足を動かしていく。
 向かう先は直哉の家が所有している土蔵である。

「呪力の高まりが半端やないなぁ……」

 ポツリと呟きながら、土蔵へと訪れた直哉。
 鼻を指すカビ臭に僅かに眉をひそめながらも、その奥に眠る
 呪力が発光しているのだ。
 ありえない高まり、これも聖杯の奇跡の一つか。

「はてさて、どなたが出てくるんやろね。
 名高き鬼切りの頼光さんか、俺らのご開祖様たる吉備真備さんか」

 ニヤニヤしながら、その光の収束を感じとる
 絡み合う蛇のような令呪が光り、そして、その光が暴発するように爆ぜた。

「〜〜〜〜っ!!!」

 口角があがるほどの、呪力の高まり。
 背筋がゾワゾワと蠢き立つ興奮。
 英霊が現れた。
 直哉はそれをたしかに感じ取り、その英霊がどれほどのものかと見定めんとまっすぐに光の奥を見つめる。
 そして、光の中から、男の姿が現れ。


386 : 禅院直哉&アーチャー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/06(日) 21:42:41 aS.bG0S60


 ────瞬間、光が消え失せ、直哉の視界には土蔵の床が広がっていた。


「……………………あ?」

 直哉が自身の状態を認識するのに、たっぷり一分は必要としていた。
 直哉は、平服をしていた。
 光の中から現れる彼の者の足の指先がかろうじて見えるほどに頭を低くし。
 己に他意はないと知らせるように指先を揃えて前へと差し出し。
 その生命を奪われることすら了承するかのように急所であるうなじを曝け出す。

(なんや……これ……?)

 それは紛うことなく服従の姿勢。
 生殺与奪の権を一方的に所有されることすら求める、屈服の証明であった。
 だが、疑問を覚えても怒りは覚えない。
 山よりも高いプライドを持つ直哉からすれば、その自身の感情にすら疑問を覚えるほどの異常事態であった。


「────面をあげよ」


 その低い声が響いた時、直哉は己の肛門の括約筋が緩んだことを自覚した。
 それは恐怖による擬死体験で筋肉が緩んだことである。
 だあが、それ以上にかの声によって魂が震えてしまい、同性でありながらもその精を求めてしまったことによるありえない生殖反応によるものだった。
 そして、そんな緩んだ肛門から奇跡的に排泄物をこぼさないまま、直哉はゆっくりとその顔を上げる。


「サーヴァント・アーチャー、吉備津彦命。麻呂を呼ぶ時の権力者の声に応じ、推算した次第である」


 そこには、英雄が仁王立ちをしていた。
 太い眉に鋭い瞳、頭と胴を結び首はまるで肩口からそのまま生えたのかと思うほどに太く、胸元の筋肉は大型トラックのタイヤもかくやというほどにパンパンに膨れ上がっている。
 強さというものは、ただ立ち姿を目の当たりにするだけで感じ取れるということを、直哉はこの日初めて知った。

「吉備津、吉備津彦命……かの名高き、桃太郎卿ですか?
 あの、飛鳥の軍神の?」
「然り」

 震えながら問いかけた声に対し、アーチャーは応用に頷いて答えた。
 吉備津彦命。
 孝霊天皇が皇子にして四道将軍の一人、日本書紀において大和朝廷による日本列島の支配を強めた英雄的存在。
 当然、そのような神話的記述とその基となった歴史的事実は直哉の知識の中にある。
 だが、知識は知識に過ぎない。
 今、サーヴァントという英雄の影法師を見て、直哉は初めてその『真実』を悟った。


387 : 禅院直哉&アーチャー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/06(日) 21:43:30 aS.bG0S60


「千年前の翁も────」


 西征と東征という二つの征伐を見事に成し遂げた大和武尊。
 龍神すらも蹂躙した大百足を打ち貫き新皇を名乗る荒ぶる神を平定した俵藤太。
 大災害ヤマタノオロチの血を受け継ぐとされる大江山の酒呑童子の鬼斬りを成し遂げた源頼光。
 東北の悪鬼羅刹のすべてを打ち祓い鬼の娘を娶ったとされる坂上田村麻呂。
 陰陽術の開祖であるとされ、唐の国より牛頭天王を招いたとされる吉備真備。
 剣と兵法を通じて世界の真実の扉を開いたとさえ言われる宮本武蔵。
 六眼と無下限呪術の抱き合わせにより現代の呪術世界を一変させた五条悟。
 この二千を越える歴史を持つ大和政権においてすら、数多の『伝説』と謳われる英雄が存在する。


「千年後の童も────」


 それでも。


「『神州無敵』と問われて応える名は、お前が口にした我が名であろう」



 ────最強を求められれば、日の本の民はその名を口にするだろう。



「おぉ……!」
「お前の口にしたように麻呂は軍神である。
 故に、戦争と名のつくこの児戯においても敗北は許されぬ。
 お前も麻呂を召喚したことの意味を正しく心得よ」
「ええ、もちろんです。そこは任せてくださいな、私もある程度は心得がありますんで」

 あの坂田金時ですら『永遠の銀メダリスト』『揺るがないNo.2』へと抑えつけるその威光に、直哉は感動で震えていた。
 それは聖杯戦争に対する勝利の確信ではなく、もっと純粋な感動の震えであった。
 ただ、天下無双と呼ぶに相応しい英雄を目にできたことへの感動である。

(これは……エグいわ……!)

 呪術師として幾多の戦線に立ち、そして数多の兵を見てきた直哉だからこそ確信する。
 ゴール地点を、いつの間にか人々は忘れられていたのだ。
 人間とは、この男に近づくために生まれてきたのだと。
 呪術。
 呪術とはすなわちこの男が持つ奇跡の御業を真似るために技を磨いているのだと。
 天与呪縛のフィジカルギフテッド。
 それは『呪力』というものを犠牲にしてこの男の肉体にようやく近づけるのだと。
 すべての道はこの男に繋がっている。
 それが、アーチャーの持つ強烈なカリスマ性によって描かれた幻想だと、直哉は気づかない。


 ────あれほど蔑んでいた盲目な弱者と同じ立場に陥っていることに、直哉は気づいていないのだ。


「直哉よ」
「なんでしょうか」

 直哉は少し訛りのあるイントネーションでアーチャーの言葉に応える。
 上位者として振る舞うことになんの疑問も持っていないアーチャーと、上位者として生きていると認識しながらも今はただ従者のように侍る直哉。
 格付けというものは、無意識に出来上がっていた。


388 : 禅院直哉&アーチャー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/06(日) 21:47:05 aS.bG0S60

「童を用意せよ」
「はぁ……女じゃなくて、ええんで?」

 アーチャーの言葉に疑問を返す直哉。
 溢れかえる精の臭いから、アーチャーが求めているものをうっすらと理解しているからだ。
 それならば、見目麗しい童子よりも、それに秀でた女性のほうが『向いて』いるのではないか。
 吐き気をもよおすことではあるが、禅院の家ならばそれは可能である。
 商売女ですらない穢れなき乙女を捧げることだって出来るのだ。

「女は穢れ、なによりも麻呂の血を盗みでる可能性がある。
 戦場の血肉や怨恨を押し付けるならばすべてを飲み込む性質のある女の方が向いておる。
 だが、血肉を馴染ませ、精を安定させたい今の状態ならば童じゃ」
「ああ……なるほど、なるほど。高貴な血やと大変ですもんねぇ」

 サーヴァントと呪霊は異なる。
 呪力/魔力の無いものには視認できないという点では同じであるが、サーヴァントとは歴史の影法師であり呪霊とは現在進行系の災厄。
 すなわち、サーヴァントは歴史を『生み出す』ことは出来ないが呪霊は『生み出す』ことが出来る。
 故に、呪霊の子という呪われた存在が誕生することは(母体の特質性に左右されるが)あっても、サーヴァントの子という祝福された存在が誕生することは、まずない。
 だが、アーチャーにとって自身の高貴なる血というものは穢されてはならない。
 呪術師である禅院ならば、それすらも可能であると疑っているのだろう。

「幾らでも用意しましょ。ところで申し訳ありませんが、桃太郎卿のことは便宜上アーチャーと呼ばせていただきます」
「構わぬ。麻呂の姿を見ればその真名などひと目で看破されようが、それでも建前というものもあろう」

 鷹揚に頷くアーチャーに対して、直哉は頬を緩める。
 勝利への確信であり、同時に胸の高鳴りであった。

(まるで恋する乙女の気持ちやね)

 ふふ、と口内に隠すように直哉は笑った。
 強烈な光に目がくらんでいることにも気づかずに、ただ勝利という甘い美酒にその香りだけで酩酊していた。
 禅院直哉とは、つまるところ幸運と実力と知性に支えられた愚者の一人であることを、その姿がなによりも強烈に肯定していたのだった。


389 : 禅院直哉&アーチャー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/06(日) 21:47:27 aS.bG0S60

【クラス】
 アーチャー

【真名】
 吉備津彦命@衛府の七忍

【ステータス】
 筋力A+ 耐久A 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具E〜A++

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
 対魔力:A

 単独行動:B

【保有スキル】
 神性:C+
 天照大神の血を引く万世一系の血を引く孝霊天皇皇子であり、自身も吉備の国で軍神として崇められているために、吉備津彦命は神性を所有する。

 無窮の武錬:A+
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
 心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

 神秘殺し:A+
 吉備の荒ぶる神である悪鬼温羅を殺した大和朝廷最強の神秘殺しと謳われた在り方がスキルとなったもの。
 対神秘への特攻として働く。

 神州無敵:A+
 日本一の代名詞である桃太郎の逸話と信仰により、吉備津彦命は日本を戦場とした際に大きなアドバンテージを得る。
 また、日本をルーツとする存在に対しても上位者、支配者としての優位性を所有する。

【宝具】
『御伽仕立ノ財宝』
 ランク:E〜A++ 種別:対人〜対城宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:100
 吉備津彦命は時代の支配者より永遠の命を与えられた逸話を持ち、時代の裏の数々で為政者の意に従わぬ『まつろわぬ民』を誅殺してきた大和の守護者である。
 その永遠の時と無限の争いの中で、『桃太郎伝説』や『瘤取りの翁』などの御伽草子に語られる伝説の道具の数々を所有しており、その逸話が宝具として吉備津彦命に付随している。
 この宝具の真の恐ろしさは、数えきれない無数の道具を計り知れない戦闘IQによってその場に最も相応しいものを選び、天下無双と呼べる技量によって誰よりも扱うことが出来る吉備津彦命が所有しているという事実である。


【weapon】
 魔剣・御伽仕立瘤取剣、魔弓・石女矢など宝具『御伽仕立ノ財宝』の中にある数々の武具。

【人物背景】 
 日本書紀においては紀元前の天皇であるとされている(歴史的研究においては西暦300年前後)孝霊天皇の皇子の一人。
 かの有名な『桃太郎伝説』の基となった人物であり、四道将軍という大和朝廷による支配活動において山陽の平定を任された将軍であり、吉備国を支配した温羅を成敗したことから『飛鳥の世の軍神』と称される戦闘の天才。
 時代の支配者より永遠の命を与えられた逸話を持ち、実際にそれぞれの時代の為政者に逆らうものを誅殺して回った大和朝廷の守護者である。
 永遠とは不変であり、また守護者であるがゆえに保守としての一面も強く、それ故に選民思想とも呼ぶべき偏った思想を所有している。
 また、貴き血を引く万世一系の皇子であるために尊大な言動を行う。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯戦争に勝利する。


390 : 禅院直哉&アーチャー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/06(日) 21:49:05 aS.bG0S60

【マスター】
 禅院直哉@呪術廻戦

【マスターとしての願い】
 聖杯を手にする。願いというよりも貴重なものを欲する収集欲に近い。

【weapon】
 暗器の刃物。

【能力・技能】
 呪術師としての身体能力の向上とそれを活かす体術の他、特殊な異能である『投射呪法』を用いることが出来る。

 ・『投射呪法』
 自らの視界を画角として1秒間を24フレームに分割し、予め想定して作った動きをトレースする術。
 動作のトレースは自動で行われ、想定して作られた動作自体が人間の限界を無視した動きであっても作った動作自体が過度に物理法則や軌道を無視していない限り自動でそのとおりに動くことが出来る。
 デメリットとして、事前に作成した動作は変更できないため、カウンターなどの不測の事態に対応できないこと、不自然な動作を作った場合はうまく動けず自身がフリーズしてしまうというものがある。

【人物背景】
 やや吊り目がちな整った顔立ちをした金髪の男性。
 歴史に名高い『御三家』と呼ばれる禅院家の嫡男、呪術界の大物。
 男尊女卑思想を始めとして旧時代的な価値観と、呪術師至上主義とも呼べる選民思想を持ち、さらに根本となる人格も褒められたものではない、独特の性格をしている。
 そのために人望はないに等しいが、その実力は正しく評価されている。

【方針】
 聖杯を手に入れる。


391 : 禅院直哉&アーチャー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/06(日) 21:49:23 aS.bG0S60
投下終了です


392 : ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/06(日) 21:54:13 .63kzfbM0
投下します


393 : 『親』になれなかった者達 ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/06(日) 21:55:01 .63kzfbM0
魔法少女は、ある男の夢をみていた……。

―― 『□□□、どうしちまったんだよ…。オレだよ、オレ!』

―― 『またあなたなの?何故私に関わろうとする!』

それは、失われた記憶を求めて暴走する妻を止めようとする、海賊の夢だった……。

〜〜〜〜〜

―― 『ああ!なんてこと…。わたしは…一体!?』

―― 『すまねぇ、□□□…』

それは、人々のために自分の妻を殺さざるを得なかった、海賊の夢だった……。

〜〜〜〜〜

―― 『□□□を、□□□を返しやがれ!!』

―― 『アハハハハハ、愚か者どもよ! よかろう、私が一緒にしてやる。あの世でな!』

それは、自分の妻を洗脳した『氷の魔皇』に復讐しに来た、海賊の夢だった……。

〜〜〜〜〜

―― 『…△△△、強い男になれよ。〇〇〇、兄ちゃんを頼むぞ…』
―― 『 っ!ぐぅああぁあ!ああぉぅあああ! 』

それは、家族の未来を守るために禁断の力を使った海賊の夢だった……。

〜〜〜〜〜

―― 『バカな… 許さぬ… 許されぬ! ギャアアアアア!!!』

―― 『ヌアッハッハッハッハ!馬鹿共が…!絶望の渦に呑み込まれるがよい!』

それは、魔皇を倒すために力を求めた結果、人の心を失ってしまった海賊の夢だった……。

〜〜〜〜〜

―― 『まだだ…まだ終わらぬッ!グオオオオ…!』

―― 『オレは絶望していた。でも、その絶望の先にあるものを見つけたんだ…。』

それは、成長した自分の子供たちによって討たれた、『魔王』の夢だった……。


394 : 『親』になれなかった者達 ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/06(日) 21:55:42 .63kzfbM0
……………
…………
………

そして彼女は目を覚ました。

そんな彼女のすぐそばには、男がいた。

「……随分とうなされていたようだが、大丈夫か?」

その男は、先ほど彼女が見ていた夢に出てきた海賊だった。

「……さっき、アンタの夢をみていたよ……。とても悲しい夢をさ……」

彼女はとても悲しそうな、今にも泣きそうな顔で男にそう言った。

「……そうか、オレの夢をみていたのか……。すまねぇな、ふがいない父親で……」

それを聞いて、男は彼女に謝った。

それは、これから『母親』になろうとしている彼女に対して、自分がサーヴァントとして召喚されたことを悔いてのものだった。

「いや、俺はアンタをそう思わないよ……。大切だったんだろ、奥さんのこと」
「それにアンタは、残された家族のために力を使ったんだ。……いい父親だったと、俺は思うよ」

そんな彼に対して彼女は、励ますようにそう言った。

『結果はどうであれ家族のために戦い、そして子供たちの未来を守った』……彼女は彼のその行動を称賛したのだ。

「ハハッ……優しいんだな、マスターは」

そういう彼女に対し男は、力なく笑いながらそう答えた。

そんな彼に対して彼女は、続けて話を始めた。

「それに……それを言ったら俺も同罪だよ」
「俺は……戦い続けることを選んで……そして死んだはずだったんだから」

そう言いながら彼女は自分の大きく膨らんだお腹をさすりながらそう言った。

自分はお腹の子を守ることもできずに死んでしまったと、そう言ったのだ。

「そうか、マスターは……そうなのか……」

その言葉を聞いた男は、とても悲しそうな顔をしながらその言葉に答えた。

そして男は彼女に対し、こう言った。

「マスター……アンタは、オレの命に代えても家族のもとに帰してやる。だから……」
「―― アンタは、オレみたいにならないでくれ」

それは自分の過去の償いも込めて、彼女とその子供を絶対に守り通すという決意表明だった。

「……ああ、『この子』のためにも、俺は生きて帰らないといけないんだ」
「……頼りにしてるよ、『キャプテン』」

そんな彼の決意表明に対して彼女は、満面の笑みで返したのだった。

「……さあて!しんみりした話はそれくらいにして、メシにすっか!マスター!」

「……ハハッ、それもそうだな!じゃあちょっと準備するから、ちょっと手伝ってくれよ!」

そういうと彼は、今までのしんみりとした空気を打ち砕くかのように笑いながらそう言い、
そして彼女もその言葉に答え、食事の準備を始めた。

―― こうして、『親』になることができなかった二人の男女の物語が始まった……。


395 : 『親』になれなかった者達 ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/06(日) 21:56:32 .63kzfbM0
【クラス】バーサーカー
【真名】キャプテン・アズール
【出典】モンスター烈伝 オレカバトル
【性別】男性
【属性】混沌・悪(本来は中立・善)

【パラメーター】
(通常時)
筋力:B+ 耐久:B+  敏捷:C 魔力:D  幸運:E 宝具:A

(『魔海に眠る海王の遺産』発動時)
筋力:A+ 耐久:A++ 敏捷:D 魔力:A+ 幸運:E 宝具:EX


【クラススキル】
狂化:E(A)
 通常時は狂化の恩恵を受けない。
 その代わり、正常な思考力を保つ。

 ……厳密に言えば、後述する宝具により変化した姿に対して
 このスキルが適用されているため正常な思考力を保っているにすぎない。


【保有スキル】

海賊の誉れ:B
 海賊の独自の価値観から生じる特殊スキル。低ランクの精神汚染、勇猛、戦闘続行などが複合されている。
 筋力及び耐久を一時的に1ランクアップさせる。

不屈の意志:B
 あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意思。
 肉体的、精神的なダメージに耐性を持つ。ただし、幻影のように他者を誘導させるような攻撃には耐性を保たない。
 彼は歴然とした力の差がありながらも、幾度となく『魔皇』に立ち向かった逸話からこのスキルを手にしている。

魔王:A
 生前のイメージによって、後に過去の在り方を捻じ曲げられた怪物。能力・姿が変貌してしまう。
 彼の場合は『人々のためにわが身を捨てて魔皇を打ち倒した英雄』ではなく、
 『自分の妻と魔皇を殺害し、新たな魔王となり果てた悪党』として後世に伝わってしまったことにより
 このスキルを手にしている。

【宝具】

『魔海に眠る海王の遺産(禁断の呪宝)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

「出来ればこいつは使いたくなかったが…。 ぐぅああぁあ!ああぉぅあああ!」

魔海の深淵に眠る海の王の怒りや憎悪が封じ込められた青い宝石であり、
彼が『氷の魔皇』を打ち倒すために使った宝石が宝具となったもの。

自らの姿を巨大な半魚人へと変化させ、人知を超えた強大な力と魔力を授ける。

……しかしその代償として人の心と身体を失う呪いがかかっており、使ったら最後、二度と元の姿には戻れなくなってしまう。

この宝具を使った場合『魔王』として敵をせん滅し続ける存在となってしまうこともあってか、
令呪を持って命ずるか、それ以外に方法がないと彼が判断したとき以外は積極的に使うことはない。


『全てを飲み込む絶望の大渦(絶望のサルガッソ・スパイラル)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:1000人

「絶望の渦に呑み込まれるがよい!サルガッソ・スパイラル!」

嵐が吹き荒れ、無数の沈没船が漂う暗黒の海がどこまでも広がる固有結界を形成する宝具であり、
彼が魔王となった後に生み出した惨劇を再現したもの。

吹きすさぶ風や辺りに漂う船により彼以外のサーヴァントは思うように身動きが取れなくなるうえに
彼自身の力により巨大な渦潮で相手を飲み込んだり、上空から大量の海水を降り注がせて押しつぶしてくるなど
無数の敵を死に至らしめるほどの威力を誇っている。

【weapon】
 海賊刀(カットラス)

【人物背景】
アズール海賊団を率いている船長。

自らの妻を洗脳した『氷の魔皇』を打ち倒すため、呪いを受ける覚悟で「禁断の呪宝」を使用し、人ならざるものへと変身した。
しかし、『氷の魔皇』が絶命する寸前に言い残した「貴様はいずれ記憶をすべて失い、魔王になる」という言葉通り、
徐々に彼の心は邪悪な呪いに蝕まれ、魔王へと変貌してしまった。

―― そして彼は、成長した我が子たちによって討たれることとなった……。

余談だが彼は魔王として死んだ後、諸悪の根源たる『海王』に戦いを挑んだ子供たちを救うために
魂だけの状態で現れた逸話もあるのだが、バーサーカーとして召喚された影響なのか
その記憶が抜け落ちてしまっており、ただ『自分が家族を不幸にした』という後悔ばかりが残っている。

【サーヴァントとしての願い】
 ―― これ以上、自分のような存在を増やしたくない。


396 : 『親』になれなかった者達 ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/06(日) 21:57:04 .63kzfbM0
【マスター】
室田つばめ(トップスピード)@魔法少女育成計画

【マスターとしての願い】
『家族』のためにも、生きて帰る。

【weapon】
『ラピッドスワロー』
彼女の魔法『猛スピードで空を飛ぶ魔法の箒を使うよ』によって生み出された魔法の箒。
箒と呼ばれてこそいるが、彼女が全力を出した場合はバイクのような形へと変化する。
 

【能力・技能】
『魔法少女』
『魔法の国』から与えられた力によって、魔法少女に変身する。
人間とは比べ物にならない身体能力や非常に可憐な容姿を持つ他、その魔法少女一人につき一つ固有の魔法を持つ。
正確には「身体が魔法少女という生物に変化する」ものであり、妊娠している彼女も魔法少女に変身している間は
お腹の子供に影響を与えることは無い。


『猛スピードで空を飛ぶ魔法の箒を使うよ』
彼女の固有魔法であり、Weapon欄に書かれている『ラピッドスワロー』を作り出す能力。

【人物背景】
とんがり帽子とワンピース、マントから成る衣服など、ステレオタイプな魔女の姿をした魔法少女。

ざっくばらんとした明るい性格で、お節介焼きで声が大きく、
一人称が「俺」とボーイッシュだが料理が上手い等家庭的な側面もある。

かつては「エンブレス」という不良集団のリーダーだったのだが、現在は幼馴染の男性と結婚し、妊娠もしている。
結婚してからは多少性格も丸くなったがスピード狂なのは変わっておらず、一度火がつくと周囲の声が聞こえなくなるという欠点がある。

 
【方針】
 基本的に戦うつもりはなく、極力戦闘を避ける。
 やむを得ず戦う場合であっても宝具を使わず、自分のスピードをもって可能な限り逃走を図る。

 ―― 『家族』に誇れる自分でい続けるため、そしてバーサーカーを二度と『魔王』にしないために……。


397 : ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/06(日) 21:57:40 .63kzfbM0
投下終了です

ありがとうございました。


398 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/06(日) 22:16:12 M52BuAEs0
投下します


399 : 幽・幽・月・下 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/06(日) 22:18:13 M52BuAEs0


 ●


 ──────強く焦がれ。


 強く焦がれ──────。


 灰になるまで、もがき続ける。 


 継国緑壱という人間の生と、黒死牟という鬼の生は、それだけの意味だった。
 武家の嫡男としてこの世に生を受け、跡取りに相応しい力を育て、妻を娶り子孫を残す。
 欠けのない順風満帆の道に背を向けたのは緑壱という、幼少に去った双子の弟の強さに魅入られたからだった。
 忌み子として縁を消される哀れな子が、己より遥かに優れた才の持ち主である運命を呪った。
 老衰で死ぬ寸前の有様で、鬼になったこの身を意にも介さず圧倒しながら止めを刺すより先に逝った運命を呪った。
 生まれ持っていたもの、授かっていたもの、培っていたもの全てを捨てた果てに、結局奴の背も触れられずに敗れ去った運命を呪った。

 手を伸ばしても伸ばしても、あの日には届かない。
 空に昇る輪は網膜を焼く程に熱く、眩い。
 近づくに従い全身に灼熱が降りかかるというのに、どれだけ進んでも同じ地平に並び立つ日は来ない。

 血の滲むような鍛錬、生来備わった才能を磨き上げて積み重ねたところで、そんなものは石の階段に過ぎず、天に聳える太陽には永劫に辿り着かない。
 斯様な程に、絶対の才能の差を思い知らされ、叩きつけられたというのに、渦を巻くのは昔から変わらない疑問だけだ。

 何故。
 何故こんなにも、同じ母から生まれた双子の間で差が出る。
 なぜ奴には全てが備わり、己には何も生み出せないのか。
 答えを返す者は誰もいない。傍にあるものは片端から捨ててきた。家も、妻子も、同胞も、子孫も、誇りも。
 残ったものなど、ある筈がない。
 
 地の底に堕ちてさえ光への執着は捉えて離さない。
 死した後にも、記憶に浮かぶのは憎らしいあの顔のみ。
 追わねばならない。
 超えなければならない。
 五臓六腑がねじ曲がるだけの憎悪を燃料にして、天に続く壁にしがみつく。
 理由など無い。ただ、己は強く在らねばならないのだと、強迫観念にも似た衝動のままに光を求めた。

 爪が剥がれる。肉がこそげ落ち骨が剥き出す。一顧だにせず壁を掻き毟る。
 進まない。登れない。届かない。至らない。構わず指を動かす。 
 進む。進む。進む。進む。進む。進む。何も変わらない。何も。何も。

 進む理由も苦しむ根源も分からぬまま、終わりのない無限回廊を彷徨う。
 どれくらいそうしてきたか。時の感覚も忘れた頃になって──────ふと、光の輪郭が大きくなっているのに気づいた。

 始めにこみ上げたものは、昂揚だ。
 永い永い時をかけて光の元に近づいたという歓喜と、漸くこの苦しみから解放されるという、矛盾した二つの安心感が胸中を埋める。
 だが此方が動かないでいるのに段々と光が広がっていくのを見て、すぐに熱が引いていく。
 やがてそれが、光の方から己めがけて「落ちて来ている」と悟った瞬間───恐怖と恐慌が一気に押し寄せた。

 あれほど追い続けていた光が降ってくるのに、どうしてここまで震えるのか。自分自身信じられない。
 数百年を骨まで灼きつく嫉妬の怨毒に苛んでいた太陽が、手を差し伸ばしてくる。
 それはまるで釈迦の手のように慈悲深く、待ち望んでいた救いが与えられる気がして、だからこそ魂の底から拒絶感が湧き出た。

 やめろ。
 来るな。
 幼子であった頃すらしたことのないみっともない悲鳴を上げ、光から逃れようとする。
 だが闇しかない辺りに身を隠す場所はない。酷使した指は眼の覆いになる前に崩れ落ち、足は棒立ちになったまま動こうとしない。
 直視した眼球が蒸発し視界が闇に落ちても、迫ってくるのだけは体が感じる熱が強まってくるので感じてしまう。
 やがて全身と全霊が光に飲み込まれる直前、最後に残ったありったけの力を振り絞り、声の限りに叫びを上げた。


 ●


400 : 幽・幽・月・下 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/06(日) 22:20:07 M52BuAEs0



 三対の眼を開け目覚めれば、視界に広がるのはやはり闇。
 それでも、文明の灯と満天の煌めき、そして頭上に昇る真円が照らす淡い明かりは、あの夢の白焔よりも遥かに慈悲深いに違いない。

「……」

 息を吐き、手の指を慎重に動かす。冷えた夜気を肌で浴び、自己の機能に齟齬が無いかを改めて確かめる。
 そうして自分が過去死したままの己であると了解し、黒死牟───聖杯戦争においてセイバーの器を得て現界したサーヴァントは、この催しについての知識を反芻する。
 
 聖杯戦争。千年よりも昔の太古から百年後より先の未来で歴史に名を刻んだ英傑が一同に集い、殺し合う儀式。
 サーヴァントは召喚したマスターという術師と共に組んで行動する。サーヴァントは強大な戦闘力を提供し、マスターはその為の動力源になる魔力を提供する。
 全ての敵を殺し最後まで勝ち残った暁には万能の願望器、聖杯が贈られ、勝者はあらゆる望みを現実のものにすることができる。

 古今東西の強者と戦い、倒すことで強さを得られる。何から何まで己に似合いの修羅の闘争だといえた。
 何せ鬼となる前も、より言えば鬼狩りになるより前の武士であった時より、そうすることが自然の生き方をしていた。
 行いに変わりはなく、結果に待つものは
 既に体を四散させた五体が完全な形で蘇っているのも、聖杯の説得力に拍車をかける。
 この身を鬼に落として以来のまたとない転機。始祖に頭を垂れ血を受けたのは強さを得る手段でしかない。
 鬼にすら課せられたしがらみを解き放ち、更なる高みへと昇れるのなら、衆合地獄の中に飛び込むことに躊躇いもない。

 期待に胸を膨らませる黒死牟だったが、そこで、同時に一つの可能性に行き当たってしまう。
 鬼である自分が人類の歴史を紐解く英霊の座に登録されている。
 サーヴァントとして召喚される条件に人か否かの分類は含まれていないのがこれで理解できる。
 ならばあの男が……あくまで人であるままだった憎き弟が、召し上げられていない道理がない。
 あの最強の鬼狩りが、この手で殺してもいつまでも苛んできた継国緑壱が、数多に候補がひしめく英霊の中から呼ばれる線も、無いとは言えないのではないか。

 装填された知識には、英霊が召喚されるには触媒があるという。
 生前の遺物であれ、精神性の相似であれ、あるいは関係性の深いサーヴァントを呼び水にして現界を果たすのだと。
 仮に緑壱が召喚されるとしたら、その触媒に一番適合するものとは何か。
 鬼狩りが出動する条件とは、まさに鬼が現れた時にでしかない。
 まして生前の時点で対峙した敵。繋ぐ縁とするには、十分に過ぎる。

 復活した肺腑で往年の吐き気が蘇る。
 自身が緑壱を引き寄せる縁に据えられている。英霊と昇華されてもなお、奴は惨めな思いを与えるというのか。
 緑壱に私欲などない。多くの鬼狩り同様に人を守らんが為に剣を振るってきたあの男が、我執の成就を果たさんとするこの場に集うものか。
 だがもし真に蘇った緑壱がここにいれば、他の陣営をものともせずいずれ自分と邂逅する時が必ずや来る。

 ならばその時は。
 その時こそは─────────。


401 : 幽・幽・月・下 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/06(日) 22:23:18 M52BuAEs0



 頭蓋を叩く声にこめかみが軋む音が聞こえてきたところに、視界の隅で夜の闇を染める色彩が、加速する思考に停止をかけた。
 目線を下に下ろせば、足元を含めた一面には同じ種類の花が一様に赤色を咲かせていた。

「彼岸花……か……」

 彼岸とは河を隔てた向こう側。転じて死後の世界。黄泉から帰還した者が召喚にしては皮肉が利いているだろう。
 庭園か、遊び場か、見栄えがいいよう手入れのされてるのを見るに、野生のものではなく誰かに管理されてるらしいのが窺える。
 そうしてる内に頭の熱は冷えてしまっていた。毒持つ花の香りが毒気を抜いたのか、と益体もない考えを抱く。

 吹き抜けた風に、辺りの木々と、赤い花弁が揺れ、緑葉が落ちる。
 その風に乗ってきた言葉が、微かな音で、だがはっきりと耳に聞こえた。

「はい……。黒死牟さんに会えて……彼岸花さんも、ざわざわしてるみたい……」

 背後からの声に振り向き、黒死牟は召喚者と向き合う。
 最低限の用心に柄元に指を這わせて不安げに佇む少女を収めた視界が、何か、おかしな錯覚を抱いた。


 そこでの世界で、空は赤かった。
 星も月も樹木も、そこから大地に伸びる影も。
 赤い闇の中で、元から同じ色をした彼岸花だけが、反転して青く染め上げられている。
 青い彼岸花。鬼の弱点の太陽光を克服する唯一の原料の名が浮かぶ。
 情報の多さに脳の理解が追いつかず処理が落ちる。時間が引き伸ばされる。刹那の忘我が永遠に感じられ、抜け出す意志の欠片も出てこない。
 ただ、赤い月という情景だけが記憶の底をかき混ぜる。かつてこれと同じものを見て、信じられぬものを見た。
 死んでいる筈の男。闇の世界の最中に沈んでいた太陽がこつ然と浮かび上がり──────


「あ……あの……。大丈夫ですか? 黒死牟さん……」

 かけられた一声で現実が戻る。世界は元に戻っていた。色は正常に映っている。
 召喚されて以降、このような不可思議な現象が数回起きていた。
 体にはどこにも異常の残滓が見当たらない。敵が遠方から何か術を送っているのかと危惧していたが、反応があったことは一度もない。
 分かっているのは、錯覚を起こすのは決まってマスターである目の前の少女を見やった時だという、より不可解な共通点だけだ。
 
「その名で……私の名を呼ぶなと……言ったはずだ……。
 真名は我等英霊の正体……知られれば……弱点の露呈に繋がる……」 
「ご、ごめんなさい……セイバーさん……」

 頭を少し下げて銀の長髪がたなびく。月光に反射して一本一本が宝珠の輝きをつけるのは、老齢の脱色ではない天然の美しさを表している。
 伏せていた瞳は幽玄な深みを湛え、万華鏡の如く見返す黒死牟自身を鏡写しにする。
 三対六目の異形の男が、己を冷淡に見据えていた。

 幽谷霧子という人間を黒死牟が評すれば、「外れ」としか言いようのないマスターだった。
 アイドルという、当世でいう芸事に通じてる芸妓のような弱き娘だ。
 戦いの素養も経験もない。鬼狩りの一般隊士にも及ばぬ弱卒だ。
 女の肉を好んで喰らう上弦の弐であれば、大正とは比べ物にもならない栄養を蓄えた餌だと嬉々と飛びつくだろう様がありありと目に浮かぶ。
 周囲の空気を読まない放蕩さには辟易していたが、かといって上弦の参ほど女を絶対に喰わず、殺さないと縛りをかけているわけでもない。
 必要とあれば斬るし、喰いもする。つまりは曲がりなりにも共に勝利を目指す協力者には到底相応しくない、餌にするしか使い途のないということだ。


402 : 幽・幽・月・下 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/06(日) 22:26:47 M52BuAEs0


 召喚された時点で外れだと見做した黒死牟は落胆し、即刻捨てることも選択のうちに入れてはいた。
 その時は代替のマスターが見つからないまま契約を切るのはまだ得策ではないと思い留まった。
 引きの運が悪かったとはいえ、サーヴァントとして召喚される機会が果たして今後どれだけあるのか。
 一度も戦わず退場するのを口惜しく、聖杯の魅力を断ち切れずに現在に至る。

「何故……貴様は外に赴くのだ……」
「……?」
「私を連れて夜を見て回るなど……敵を誘う真似をして……。
 ただ元いた場所に帰るのみが……お前の望みであろう……。身を潜めて私が……首級を挙げるのを……待っていればいいものを……」

 本番の死合までの猶予である期間中、霧子の行動は妙なものだった。
 朝から夕方までは配役である書生と芸妓に通い、日が沈んだ時刻になると偶にこうして黒死牟と伴って街の様々な場所に出向くのだ。
 霧子の聖杯に懸ける願いはなく、他人と命の遣り取りをする覚悟もない、いわば聖杯という荒波にさらわれた哀れな漂流者だ。
 望みは地上への上陸、元の居場所への生還。ならば後は黒死牟に一人任せ、自分は家に籠もり大人しくしていればいい。
 他ならぬ黒死牟がそう支持を出した。あわよくばその間に新たなマスターを拾う機会にも巡り合う。そういう算段だ。
 赤子のように泣き出し喚き散らされるよりはいいが、方針に反した積極さは謎めいていた。

「月が……」

 首を傾けて霧子は言った。
 月から伸びた柱が紡ぎ手を導く。

「お月さまが赤ければ……セイバーさんもあったかくなるのかなって……」

「……………………………………………………。
 何?」

 神経の乱れ。脈拍の狂い。筋肉の収縮。早まる動悸。
 生物の構造を丸裸に見透かす極みの視界は、女がこの状況に心底震えている事実を如実に示す。
 脅えた演技の裏で出し抜こうと画策しているわけではないのは間違いない。
 死を恐れ、暴力に耐性のない心境は幽谷霧子の真実だ。

「セイバーさんは……寒くないですか……?」

 だが目にだけは、揺るぎない意志が宿っていた。

「わたしは……あたたかいパンもスープもあって……。
 お日さまにも……当たれます……。寒くならないように……ふかふかのベッドで眠れています……。
 ここで生きることも……セイバーさんに……譲ってもらえるから……」

 鬼である黒死牟の顔から視線を逸らさず、まっすぐに見ている。
 その顔を醜いとも、恐ろしくもないと告げているように。

「でもそれじゃセイバーさんは……どんどん寒いところにいっちゃうから……。
 わたしにあげられるもの……考えたんです。彼岸花さんが咲いてる場所……おっきな向日葵の絵画さん……。
 いろんなお日さまとお月さまのおはなしを……いっぱい……いっぱいって……」
 
 何を、言っているのか、全く理解が及ばない。
 霧子の話は脈絡がなく、どういう主張を伝えたいのかが抜けた、まるで白痴同然の盲言だ。
 不意に色覚がブレる。また錯覚が起きつつある。黒は赤に。赤は青に。
 人を斬った時にまろび出る、臓腑が開かれた艶めかしい血色とは異なる。
 それは……そう、今となっては掠れて思い出せなく鳴った、鬼になってから二度と目にしなくなった空の───


403 : 幽・幽・月・下 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/06(日) 22:29:41 M52BuAEs0


「この付近に……サーヴァントの気配は感じられない……
 戻れ……じきに……夜が明ける……」

 答えに何も返さず一方的に打ち切ったのは、一種の防衛反応であったのかもしれない。
 そうすることで指先にかかっていた、何か決定的な瓦解を起こす何かをすんでのところで忘却することができた。

「……! ふふっ……はい……!」

 何が可笑しいのか、微笑んだ霧子は黒死牟から数歩下がった位置からついてくる。
 顔は見ていない。見る価値もない。マスターはサーヴァントの命綱だ。自分の命の為には守るしかない。


 この女は、自分の強さに全く寄与しない。
 自身を脅かす要素が一片たりとも見当たらない。
 なのに理性で築いた否定を余所に記憶が呼び起こすのは、何百年の月日で唯一鮮やかに憶えている、一番忘れたい男の顔。

 緑壱の如き、神に愛されし凄絶なる極まった武力もない。

 緑壱の如き、非の打ち所が無い完璧な精神もない。

 緑壱の如き、この世の条理を覆す超逸した才能もない。

 緑壱が備える強さを、幽谷霧子は何一つ持ち合わせていない。だから考える必要はない。意識を向ける意味はない。
 この弱く憐れな女を視界に入れることが、緑壱を想起させる要因になるなぞ、有り得るはず筈がないのだから。
 
 人の往来が増える街に続く道路に入ったところで、ぶつける先のない憤りを霧散させようと体を霊体化させる。
 一人夜道を歩き帰路につく霧子。心細くはない。見えなくても傍にいるのが分かってるから。
 絶やすことのない陽の暖かさを心に秘めて、狂える禍鬼を背負う少女は仮初の大地を生きていく。
 鬼にも優しく降り注ぐ光を拒絶し、凶月が日輪を暗く覆い尽くすまで。
 魂を灼き焦がす妄執が溶かされ、陽光が上弦を熱く飲み込むまで。


404 : 幽・幽・月・下 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/06(日) 22:31:51 M52BuAEs0
【クラス】
セイバー

【真名】
黒死牟@鬼滅の刃

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A+ 魔力C 幸運D 宝具B

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
十二鬼月・上弦:A
 鬼の始祖・鬼舞辻無惨直属の配下であるのを示すスキル。上位なほど無惨の血を多く受け強化されている。
 黒死牟は上弦の壱、即ち配下の中でも最上位の位と強さを持つ。
 強靭な身体能力、高速の再生力、血鬼術と呼ばれる特殊能力を持ち、頸を太陽に由来ある武器で断たれない限り不死であるが、太陽の光を浴びると例外なく肉体が消滅してしまう。
 また、高濃度の藤の花の成分も太陽ほどでないが弱点となる。

月の呼吸:A++
 鬼殺隊が鬼と戦う為に編み出した特殊な呼吸法、全集中の呼吸のうちの一つ。
 ただでさえ高い鬼の身体能力を、呼吸により更に増幅させている。

透き通る世界:A
 至高の領域、無我の境地とも呼ばれる。
 極限の鍛錬と集中力により敵の肉体……筋肉・骨格・内臓が透明に見えるようになり、動きを完全に見切ることが可能となる。
 
焦瞼:B
 太陽の光に目を焼かれ、強さを希求する以外何も見えなくなった男の妄念。        
 過ちに気づかず、捨てたものを省みず、死んだ後も光に向かって這いずり回る。
 継国緑壱への妄執がある限り、いかなる救いや罰の形を提示されても、このサーヴァントがそれを認識することはない。
 スキルとしては戦闘続行と精神汚染の複合。追い詰められ緑壱を脳裏に浮かべる毎に精神が崩れ、戦いが形振り構わないものになっていく。

【宝具】
『月の呼吸・虚哭神去』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:0〜16 最大捕捉:10人
 つきのこきゅう・きょこくかむさり。
 鬼殺隊が使う全集中の呼吸と、鬼が用いる血鬼術とを組み合わせた技。
 刀身周りに大小様々な月輪が発生し、間合いに入った敵を斬り刻む。
 虚哭神去は刀の銘であり、黒死牟の肉体から作られているので生産は容易、刀身を長大化させると効果範囲は更に広がる。
 黒死牟は己の宝具をこれのみだと信じ切っている。

『月蝕日焦』
ランク:D- 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:継国緑壱
 つきはくさりひにこがれるのみ。
 本人も自覚しない宝具。消滅の危機に陥った時発動。負傷を全快し、頸の弱点を克服する。
 ただし肉体は剣士の面影も残らない異形になる。
 黒死牟がこの宝具を認識した瞬間、霊核に致命的な瓦解が起こり全能力が急激に落ちる。
 強化ではなく、罪の自覚を叩きつける為だけの自滅宝具。

【weapon】
『虚哭神去』
 その気になれば肉体そのものから生やすこともできる。

【人物背景】
 十二鬼月・上弦の壱にして、元・鬼殺隊の剣士。
 人間の頃の名は継国巌勝。『始まりの呼吸』の使い手にして最強の鬼狩り、継国緑壱の双子の兄。
 隔絶した弟の強さを超える為に家柄を捨て、妻子を捨て、寿命を捨て、人間を捨て、子孫を捨て、命すら捨て、その果てに何も掴めなかった男。

【サーヴァントとしての願い】
 強者と戦い、聖杯を手に入れることで緑壱を超える強さを手に入れる。


405 : 幽・幽・月・下 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/06(日) 22:35:23 M52BuAEs0

【マスター】
幽谷霧子@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
元の世界に帰りたい。
けれど自分が招いたこの人を───

【能力・技能】
アイドル業の傍ら模試でB判定を出すほど学力も高い。医者の両親を持ち、本人も将来は医者志望。

【人物背景】
283プロダクション所属のアイドル。ゴシック&クール系5人組ユニット「L'Antica」のメンバー。
性格は心配性。優しさのあまり常に周囲に気を遣っている。
独特の世界観を持ち、口調や仕草に神秘性を抱く人もいる。
常に体に包帯を巻いているが怪我をしてるわけではなく、気分を落ち着かせるためのおまじないだとか。
「霧子が……お日さまなんだ……」

【方針】
戦いは望まない。具体的な方針は定まっていない。


406 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/06(日) 22:36:11 M52BuAEs0
投下終了です


407 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/06(日) 23:16:51 PPw5b4Vw0
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408 : それは、世界を変える狂気 ◆NIKUcB1AGw :2021/06/06(日) 23:17:43 PPw5b4Vw0
深夜の倉庫街を、顔面蒼白の青年が走っている。
彼はこの聖杯戦争に参加する、マスターの一人だった。
そう、「だった」。つい数分前までは。
彼が従えていたサーヴァントは、他のサーヴァントとの戦いに敗北し消滅した。
相手のサーヴァントは、かなり好戦的だった。
その場に留まり続ければ、自分も殺されてしまう。
そう判断し、彼は一目散に逃げ出したのだ。

(こ、ここまで来れば……)

彼がそう考え、走るスピードを緩めた刹那。

「おげっ」

飛来した金属の円盤が、彼の頭部を粉砕した。


◆ ◆ ◆


「もう少し穏便な方法はなかったのかしら?」

エマ・ラッセルは無惨な姿になり果てた敵マスターを視界に入れないようにしながら、苦々しい表情で語りかける。
その相手は、自らのサーヴァントである異形の魔人だ。

「聖杯戦争は1組しか勝ち残れぬ戦い。敗者が死ぬのは当然のことだ」

淡々とした口調で反論しながら、魔人は見目麗しい女性へと姿を変える。
彼女の名は北島祐子。またの名をアナザーキバ。
王の座を簒奪するために生み出された英雄のまがい物、「アナザーライダー」の一人である。

「そもそも、おまえの願いは莫大な数の人間を犠牲にするものだろう。
 それなのに、一人殺すだけで文句を言うのか?」
「それは……」

祐子の指摘に、エマは言い返せなかった。
エマが聖杯にかける願いは、人類の文明を破壊して自然を再生すること。
それが叶えられれば、多くの人間が死ぬことになる。
必要な犠牲だと割り切ってはいても、やはりエマはわずかな罪悪感を消し切れてはいなかった。

「覚悟を決めろ、エマ。おまえの願い自体は、私も肯定する。
 腐った世界をただすために、犠牲はつきものだ。
 だからおまえは、自分の願いを叶えることだけを考えろ。
 そうすれば裁定者(ルーラー)たる私が、必ず聖杯まで導いてやる」
「ルーラー、ね……」

当初からエマは、祐子のクラスに疑問を抱いていた。
与えられた知識によればルーラーとは聖杯戦争のジャッジであり、自らは聖杯争奪に参加しない中立の立場であるはず。
しかし祐子は、一介の参加者として召喚されている。
本人は「聖杯が特殊なものであるが故のイレギュラーだろう」と語っていたが、果たして本当にそうだろうか。
とはいえ、エマに確認できるステータスにおいても祐子は「ルーラー」となっている。
理由はどうであれ、彼女がルーラーとして召喚されていることだけは疑いようがない。

「……そうね。私もいいかげん、覚悟を決めるわ。
 どれだけの犠牲を出してでも、聖杯を手に入れる。
 だから力を貸してちょうだい、クイーン・キバ」
「任せておけ。勝ち残るのは他の誰でもない。
 この私だ」

自信に満ちた声で、祐子は宣言した。



エマは知らない。北島祐子という女が、虚飾に満ちた存在であることを。
元の世界で偽りの王を目覚めさせてしまった女は、ここでも偽りの王に翻弄される。


409 : それは、世界を変える狂気 ◆NIKUcB1AGw :2021/06/06(日) 23:18:50 PPw5b4Vw0
【クラス】アヴェンジャー
【真名】北島祐子
【出典】仮面ライダージオウ
【性別】女
【属性】秩序・悪

【パラメーター】筋力:B 耐久:E 敏捷:D 魔力:E 幸運:E 宝具:B(通常時)
        筋力:A 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:E 宝具:―(変身時)

【クラススキル】
復讐者:B
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。
彼女の憎悪は逆恨みに過ぎないが、本人は正当な怒りと思い込んでいるため「自己暗示」の効果によってBランクとなっている。

忘却補正:C
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。

自己回復(魔力):D
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。微量ながらも魔力が毎ターン回復する。

【保有スキル】
自己暗示:EX
自らを対象にかける暗示。通常は精神に働きかける魔術・スキル・宝具の効果に大して高い防御効果を持つスキル。
彼女は自分のことを復讐者ではなく、裁きを下すもの=ルーラーだと思い込んでいる。
それ故マスターからもルーラーだと認識されるし、他者が何らかの方法でクラスを知った場合もルーラーと認識される。

【宝具】
『偽りの吸血王(アナザーキバ)』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
仮面ライダーキバの力を本来の持ち主ではない人間に与えたことで生み出された怪人・アナザーキバへの変身能力。
発動後はステータスが大幅に上昇。
後述のアームズモンスターやコウモリの使役、力の弱い者をガラスのように粉砕して即死させる能力などを得る。
なお本人はこの宝具の名前を「新しき吸血王」だと思い込んでいるが、発動に支障はない。

【weapon】
「ガルルソード/ドッガハンマー/バッシャーマグナム」
アームズモンスターと呼ばれる怪物たちが姿を変えた武器。
本来はオリジナルのキバに仕える存在だが、同じ力を持つアナザーキバには逆らえず半ば強制的に使役されている模様。

「マンホールの蓋」
下水道への出入り口を塞ぐための蓋。
別にアナザーキバの武装でも何でもないのだが、なぜか祐子は変身前・変身後にかかわらず頻繁にこれを戦闘に使用。
あまりに使いすぎたため、サーヴァントとしての基本武装として記録されてしまった。

【人物背景】
殺人犯として服役していた女性。
タイムジャッカーによってキバの力を与えられ、アナザーキバとして王の地位を手に入れ自分に冤罪を背負わせた法を変えようとする。
しかし彼女は冤罪ではなく、実際に人を殺していた。
「自分のついた嘘を真実だと信じ込んでしまう、歪んだ妄想癖の持ち主」というのが彼女の真実だった。
なお変身前でも異様に身体能力が高く、現実と同じなら40㎏の重さがあるマンホールを軽々と持ち歩いたり、
走行中の自動車を片足で止めたりしている。
これがキバの力を手に入れた影響なのか、彼女に元々備わっていた力なのかは不明。

【サーヴァントとしての願い】
王として君臨し、よりよい世界を作る


410 : それは、世界を変える狂気 ◆NIKUcB1AGw :2021/06/06(日) 23:19:43 PPw5b4Vw0


【マスター】エマ・ラッセル
【出典】ゴジラ キング・オブ・モンスターズ
【性別】女

【マスターとしての願い】
自然環境の再生

【weapon】
特になし

【能力・技能】
生物知識、機械技術など

【人物背景】
怪獣研究組織「モナーク」に所属する古生物学者。
ゴジラとムートーの戦いで息子を失ったことで研究に没頭するが、その結果
「怪獣とは自然をむしばむ人類を排除する、地球の免疫機構である」との結論に到達。
環境テロリストと共謀し、怪獣をコントロールして人類の数を減らすという悪魔の計画に手を染める。
参戦時期は、ギドラを目覚めさせた直後。
この世界でのロールは、大学教授。

【方針】
優勝狙い


411 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/06(日) 23:20:49 PPw5b4Vw0
投下終了です


412 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/07(月) 20:15:08 lmxaodYo0
投下します

混沌聖杯に投下したものの流葉です


413 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/07(月) 20:16:26 lmxaodYo0
「暦……」

壁も天井も床もコンクリートで出来た部屋に男の声が響く。
壮年の男の声、無限の疲労と激しい怒りとを感じさせる声。
男は聖杯戦争に召喚されたマスターだった。
己が役割(ロール)としてあてがわれた『実直な宝石商』などに甘んじていた時間は極小、如何なる犠牲を払っても叶えなければならない願いが、即座に男の記憶を呼び覚ますまでの間だった。

「暦……」

この世の全ての人間を骸と変えて積み上げたならば願いに届くというならば、躊躇わずに積み上げる。
その思いが男を死ぬまで、そして死んでからも突き動かしていた。
あの時、己の作り出した亡霊(ファントム)に斬られた時、転がっていた鉄片を握り締めた。
その鉄片が導いた此の地、死後の敗者復活戦の片道チケット。もうこの機を逃せば暦に未来は無い。この機を逃す訳にはいかない。
男…笛木奏は不退転の意思を以って己がサーヴァントを召喚する。

「来い…!!」

短く絞り出した一言に込められた無限の意志。
英霊なぞ所詮亡霊(ファントム)。必ず御してみせるとの決意も顕にサーヴァントを召喚する。
逆らう様なら撃ち倒して屈服させると、その姿は白いフードのついたローブを羽織った、仮面の魔法使いのそれに変わっている。
吹きすさぶ魔力の風、男は何時の間にか地下室が、石造りの部屋に変貌していることに気が付いた。
床に魔法陣が描かれ、奥に両開きの巨大な扉が有る。
目の前に現れる人影、齢の頃は暦と同じ位の全裸の美少女。長い黒髪を血の気の無い裸身に妖しく絡みつかせ、瞳を閉じて佇んでいる。
その圧力、その魔力。笛木が今迄作り出したファントムの比では無い。

「汝、我を召喚せし者か」

笛木が言葉を発せないでいると、唐突に少女が語りかけてきた。

「そうだ。聖杯と令呪に依り、私に従え、サーヴァント」

少女の瞼が開かれる。現れた瞳の色は、鮮血で染め上げたかの様な真紅。
そのまま、自分より高い位置に有る笛木の顔を見つめる。

「汝との繋がりを感じる。汝を召喚者と認めよう」

笛木は短く息を吐いた。現れたのが暦と同い年位の少女、というだけなら兎も角、このサーヴァントが放つ気配は余りにも異常だった。
過去の英雄などでは無く、怪物の類を喚んだのかと思う程に。
尤も、そのステータスは充分に怪物と呼べるが。デーモンというクラス名に相応し過ぎる程に。

「それで、お前の能力は?」

笛木は訊く。真名などどうでも良い。重要なのはこのサーヴァントの宝具とスキルだ。所詮ファントムと同じく道具、暦の為に使い潰すだけの存在なのだから、重要なのは性能のみ。
少女は思考も感情も窺い知れない瞳で笛木眺めていたが、やがてその姿を変え始めた。


414 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/07(月) 20:17:54 lmxaodYo0
「ハロー」

少女の姿と声が青年の其れに変わる。笛木を殺し、そして恐らくは暦も殺したであろうファントムの人間隊の姿に。
仮面の複眼が烈しく燦めく、思わず右手が腰のドライバーに伸びる。

エクスプロージョン、ナーウ。

右手を真っ直ぐ己がサーヴァントに伸ばすと、激しい爆発が連続して青年を包む─────筈が何も起こらず、逆に青年から放たれた四本の雷の矢が笛木の四肢を貫く。
短く呻いて、再度ドライバーに右手をかざし、今度は眩い稲妻を放った。
青年目掛けて迸る光が霧散したと同時、飛んできた火球を避け、一気に間合いを詰めて渾身の右拳を胸に打ち込む。鈍い音を立てて、青年の背中から拳が突き出た。

「ぐぁ…」

笛木は怪物(サーヴァント)を穿った腕に、焼きつく様な痛みを感じ、呻いた。

「此れが我の能力だ。主よ」 

身体を穿たれた事など、全く意に介していない声に、笛木は愕然と怪物(サーヴァント)を見
耳朶に響く女の声。妖艶と微笑むその顔は─────。

「メデューサ………」

呆然と呟いた笛木は蹴り飛ばされた。無様に転がり、起き上がって、サーヴァントを睨む、その眼に映ったサーヴァントの姿に、真性の憎悪の叫びを上げる。

「貴様アアアアアッッ!!!」

猛然と地を蹴り顔を目掛けて渾身の拳を繰り出す。最愛の娘と同じ姿になった怪物(サーヴァント)に。

「そうよ、お父さん」

微笑んで語るその口調、その仕草、正しく笛木の記憶に有る暦のそれと変わらない。

最早絶叫としか形容出来無い叫び声と共に、怪物(サーヴァント)の─────己が最愛の娘の─────顔面を撃ち砕く。
繰り出した右手が掴まれ圧搾される。苦痛に呻く笛木の身体が振り回され、壁に投げつけられる。
凄まじい轟音と共に石の壁が砕け、変身が解除されて、床に伏した笛木を瓦礫が埋めた。

「指輪を用いる、仮面の魔法戦士か」

暦の姿をしたサーヴァントは、生前に戦った者達を思い出して呟きながら、瓦礫に歩み寄ると、笛木を引き摺り出した。その胸に空いた穴は当に塞がって痕跡も無い。
そのまま、右手で喉を圧搾し、笛木を持ち上げる。笛木が呻き、宙に浮いた両足をバタつかせるが、意にも介さない。
酸欠で朦朧としながらも、憎悪そのものと言って良い視線を向けて来る笛木に、暦の声と口調で教えてやることにする。

「令呪を使う?良いわ、私抜きで聖杯が取れるなら」

獣じみた唸り声。此処まで娘の存在を穢されても、何も出来無い己の無力さ。笛木には単独で聖杯を取れず、サーヴァントに制裁を加えることも出来無い。
それを理解しているからこその怒りだった。

「私を滅ぼした英雄達は六人居たの。判る?破格の英雄が六人居無いと私は滅せなかった。私に一対一で勝てる英雄は居ないのよ。お父さん」

解放され、膝をついた笛木は叫喚して床に拳を振り下ろす。皮膚が裂け、血が滲むが、全く構わずに何度も何度も振り下ろす。
己の引き当てたサーヴァントは聖杯を取れる強さ、しかしこのサーヴァントは暦を穢す、己の中に在る暦の姿を血と臓物で穢し尽くすまで。
其れを理解しても、笛木奏には何も出来無い。聖杯を取るまでは。


───人の想いか。

己の無力さを噛みしめる笛木を見下ろし、怪物(サーヴァント)は、胸中に呟く。
怪物(サーヴァント)は人の想いの強さを知っている。その強さが齎す結果もまた。
嘗て、疑わしき者を殺す以外の方法では決して見破れぬ鏡像魔神(ドッペルゲンガー)の入れ替わりを次々と見破った’聖者",
その正体は狂気にも似た思い込みにより、怪物(サーヴァント)の眷属たる鏡像魔神(ドッペルゲンガー)の意識を奪った男だった。
兄に対する道ならぬ想いに胸を焦がし、怪物(サーヴァント)の器となった少女の想いは、生前の怪物(サーヴァント)を縛り、死した後も未だに執着として残っている。
もしも怪物(サーヴァントが聖杯に願う事が有るとすれば─────。
そんな事を考えていると、ふと、生前の事を思い出した。


415 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/07(月) 20:18:35 lmxaodYo0
─────子の未来の為か。

未知の言葉で詠唱しながら、悔しさと怒りに震える己がマスター見下ろし、サーヴァントは生前に思いを馳せる。
“呪われた島”ロードスの歴史に名高い伝説、“魔神戦争”。
その始まりは、己が息子に輝かしい未来を与えようとした小国スカードの王ブルークが、魔神王を解放したのが始まりだった。
魔神の軍勢を解放。その力を以ってロードスを征服し、魔王として子に討たれる事で、才能溢れる王子、ナシェルをロードス初の統一王とする、その為に魔神の軍勢を率いようとしたのだった。
魔神の軍勢を率いる魔神王は“器”となる生贄と召喚者との間にある血の繋がりを以って制御される。
その為に娘であるリィーナを生贄として魔神王を召喚し、支配下におこうとしたのだが、母親が密通した結果産まれた不義の子であるリィーナに血の繋がりが無かった為に結局その目論見は失敗。
結局ブルークは全てに絶望して、解放した魔神王に殺され、ロードスに巨大な災禍を齎すだけに終わったのだ。


子に未来を齎す為に、過ぎた力を求め、世に災厄を齎すし、挙句破滅する。嗚呼、人の親とは─────。

奥の扉が開くのを見ながら少女は嗤う。口が耳まで裂け、赤い口腔と舌を覗かせ、己がマスターを、己を生前に解放した愚かな王を。

─────なんと愚劣か!!

開いた扉から溢れ出た無数の異形に囲まれ、笛木暦の姿をした魔神達の王は艶然と微笑んだ。

「ああ、主よ。こういう時はこう言うのだな」

笛木の襟首を掴んで持ち上げ、思い出した様に呟く。
呻きながら憎悪に満ちた眼差しを向けて来る笛木に、暦の顔と声で怪物(サーヴァント)は告げる。

「我がお前の最後の希望だ」


416 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/07(月) 20:26:23 lmxaodYo0
クラス】
デーモン

【真名】
魔神王@ロードス島伝説

【ステータス】
筋力:A+ 耐久:EX 敏捷:C 幸運:D 魔力:A 宝具:A++

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】

対魔力:A++
A+以下の魔術は全てキャンセル。魔術ではデーモンに傷を与えられない。
生前にいかなる魔術師も魔術を以って傷つけることが出来なかった。
魔神達の王であり、長い歳月を生きた魔神王の神秘は破格である。
神の権能に対しても精神力を奮い起こすことで対抗可能。


対人捕食:A
人間を食うことによる体力及び魔力の吸収&回復。ランクが上がるほど、吸収力が上昇する。



【保有スキル】

魔神:A+
異界の住人である魔神としての格を示すスキル。
ランク相応の精神異常、精神耐性、怪力、天性の魔の効果を発揮する複合スキル。
魔神達の王であるデーモンのランクは最高峰であり、魔神達に対しAランクのカリスマを発揮する。
古代魔法王国に使役され、サイクロプスの王国を滅ぼした逸話や、建設作業に従事させられた逸話から、陣地作成及び巨人殺しの効果も持っている。



不死身:A+
通常の武具では斬るとほぼ同時に傷が塞がり傷つける事が出来ず、高い聖性や神性を帯びた武具で漸く傷つけられる。
それでも傷付いた部位は極短期間で再生する為に、ダメージを与えることが極めて困難。
四肢を切り離しても短期間で生えてくる。
少女の身体は仮初めのものでしか無い為、肉体を消し去っても斃す事は出来ない。


変化:A
姿を変え別人の姿になることが可能。
自身の肉体を変化させる事で、ステータスを変化させることが可能。
記憶解析スキルと併せる事で、完全に別人に成りすます事が可能となる。
NPCとなった状態では、Bランク相当の気配遮断スキルを発揮する。
別人になった際は、ランク以上の真名看破スキルが無いと正体を見破れない。


記憶解析:A
対象の脳を食べる。若しくはある程度の時間観察することで記憶を読み取ることが可能。
真名看破と同じ効能を持つが、サーヴァントと他マスターに関しては機能しない。例外としてパスの繋がった己がマスターには有効。
脳を食べることにより、対象の技能や知識や記憶を獲得できる。此れはサーヴァントや他マスターにも有効。
デメリットとして捕食した対象の精神の影響を受ける。高ランクの精神異常や精神汚染持ちが相手の場合、逆に意識を乗っ取られることもある。


魔術:A
多種多様な魔術を自在に使いこなす。
対魔力意外にも、精神力でも抵抗することは可能。


417 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/07(月) 20:29:21 lmxaodYo0

【宝具】

魂砕き(ソウルクラッシュ)
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1-3 最大補足:1人

デーモンの持つ漆黒の大剣。元々はデーモンを滅ぼす為の剣。
この剣で傷つけられた者は、精神と魂を打ち砕かれる。
この剣で斬られて死ねば霊核を確実に破壊され、不死の存在や蘇生効果を持つスキルや宝具を有しているサーヴァントでも効果を発揮せず消滅する。
掠っただけでも気力を大きく消耗し、行動することが困難になるほど。
上位精霊や神に匹敵する魂を持つ古竜ですらこの剣の魔力を無効化する事は出来ない。
破格の精神力や精神耐性を以ってしても無效化は出来ず、効果に耐えることが出来るというだけ。
また、精神異常、精神汚染、狂化といったスキルのランクを3つ下げる。
持ち主の老化を遅らせ、斬った者の精神力を奪うという能力を持ち、聖杯戦争では所有者の魔術行使以外の魔力の消費を十分の1に抑え、斬った相手に対し判定を行い、判定結果に応じた分の魔力を徴収する。

不死の身体と不滅の魂を持つデーモンを滅ぼした剣で有る為、、魔や不死の属性を持つものに即死効果を持つ。
デーモンの死後、この剣を所有した暗黒皇帝ベルドを狂わせたと言われ、英雄戦争において嘗ての盟友である聖騎士王ファーンを斬った逸話及び、
ベルドの死後にこの剣を所有した漂流王アシュラムが竜殺しを成し遂げた逸話により
王屋さや騎士の英雄、竜の因子を持つ英雄に特攻の効果を持ち、デーモン以外の者が所有した場合、Dランクの精神汚染を付加する。
『魔神王の剣』と、所有者が変わっても言われ続けた事から、デーモンの手から離れた後の逸話による効果でも発揮する事ができる。
この宝具を用いてデーモンを斃した場合、この宝具の所有権を得る事が出来る。



魔神戦争(デモンズ・ウォー)
ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:冬木市全域 最大補足:冬木市全域

生前にデーモンが率いたロードスに恐怖と戦乱を撒き散らした魔神の軍勢を召喚する。
魔神の軍勢を使役する為には魔神王を召喚し、契約しなければならない為宝具として扱われることとなった。
魔神将、上級魔神、下級魔神という階級があり、下位のもの程召喚に魔力を必要としない。
魔神将ともなれば、サーヴァントにも引けを取る事は無い。
魔術に秀でた魔神や、道具作成能力を持つ魔神も居る。



最も深き迷宮(ディープ・ラビリントス)
ランク:A+ 種別:迷宮宝具 レンジ:0 最大補足:500人

魔神王が封じられていた場所。最も深き迷宮を再現する。
固有結界に近い大魔術であり、地下に構築される。
全十層からなる迷宮は致死性のトラップと凶悪な魔物や魔神がひしめいている。
死後に英霊として座に登録される英雄を多数含む500人の精鋭を投入しても、そのほぼ全てが死に絶えた程の堅牢強固な守りを突破することは困難を極める。
デーモンが解除するか、デーモンを斃すかしない限りこの迷宮は消滅しない。
地脈を汲み上げられる位置に設置すれば維持に必要な魔力を減らすことが出来る。


始まりと終焉の場所(魔神王の間)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1人

デーモン召喚の際に自動的に展開され、デーモンが消滅しない限り残り続ける宝具。
嘗て魔神王が召喚された場所であり、六英雄に滅ぼされた場所である広大な石造りの広間で、床には魔法陣が、奥には両開きの巨大な扉が有る。
この宝具の使い途は、デーモンが斃された時、十分以内にこの広間の魔法陣に“器”となる者を横たえ、魔神王を召喚する呪文を唱えて“器”を殺害する事でデーモンを復活させることが可能となる。
“器”はNPCであろうがマスターであろうが“人間”であれば問題無い。
この宝具有る限り、デーモンは不滅の様に思えるが、デーモンが滅ぼされた場所でもある為、この場でデーモンが斃された場合、そのままデーモンは消滅する。
また、場所を問わず、魂を打ち砕く様な攻撃で斃された場合も復活は不可能。
ロードスの歴史に名高い“魔神戦争”の始まりと終焉の場所。
最も深き迷宮(ディープ・ラビリントス)を展開した時には最下層にこの広間が配置される。
蹂躙殺戮す魔神の軍勢(デモンズ・ウォー)で召喚される魔神達はこの広間の奥の扉から出現する。

【weapon】
魂砕き、口から吐き出す瘴気。毒を帯び、瘴気に変わる血液。無尽蔵の再生能力。


418 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/07(月) 20:31:32 lmxaodYo0
weapon】
魂砕き、口から吐き出す瘴気。毒を帯び、瘴気に変わる血液。無尽蔵の再生能力。

【人物背景】
古代魔法王国の時代に、ロードスの地に召喚され、古の魔術師達に従僕として扱き使われた者達の王。
元居た魔界と、召喚された先の物質界の狭間に長い期間幽閉されるが、スカード王ブルークの手により復活。ブルークの血の繋がらぬ娘リィーナの身体を器として復活。
ドワーフの“石の王国”を攻め滅ぼし、スカードの全住民をゾンビに変える。
その後もロードス各地に手を伸ばし、 後に“魔神戦争”と呼ばれる戦いを起こす。
人間達を分断し団結させない奸策と魔神達の戦力とで、ロードスを席巻するかに見えたが、スカードの王子ナシェルを中心とする、ロードス中から集った勇者達や、各国に連合軍に敗れ、封じられていた“最も深き迷宮”に押し込まれる。
そして勇者達が身を呈して道を開き、魔神王の元へと送り届けた七人の英雄達との戦闘となる。
そして七人のうちの一人に己の剣を奪われ、その剣に依り滅ぼされた。
魔神王と戦い、勝った者達は“六英雄”と讃えられた。


【方針】
皆殺しにして聖杯を手に入れる。
当面は魔神兵やアンデッドを作り、手駒を増やしていく。
並行して、行政や警察の要職にある者を鏡像魔神と入れ換える事で、聖杯戦争の舞台を掌握する。

【聖杯にかける願い】
復活。ナシェルを喰らい、一つになる。



【マスター】
笛木奏@仮面ライダーウィザード

【能力・技能】
魔法:複数の強力な魔法を使いこなす。
ワイズドライバーや、科学と魔法の混合物である人造ファントム“カーバンクル”を作り出すなど、高い技術力を持つ。
格闘戦でも非常に高い戦闘能力を発揮する
体内に埋め込んだ人造ファントムのおかげで膨大な魔力を持つ。

【weapon】
ワイズドライバー:
白い魔法使いの姿に変わる為の変身ベルト。変身した姿は仮面ライダーウィザードインフィニティースタイルと互角に戦うことができる能力を有する

カーバンクル:
笛木が魔力を得る為に精製した人造ファントム。体内に埋め込むことで笛木に魔力を齎している。期間は分から無いが量産することも可能。
体内で魔宝石を精製し、胸から排出する。
魔力を吸収する能力を持つ。

【ロール】
新都に自宅兼店舗を持つ宝石商

【人物背景】
娘を失い、再度の生を娘に与える為に魔法を求めた父親。
その為に多くの人を絶望させ、更に多くの人を犠牲にした。
あと一歩というところまで届くも、結局彼はアーキタイプと見下して居た男により計画を潰され、己が創り出した絶望の産物に娘共々殺されて終わった。


【令呪の形・位置】
右手の人差し指、中指、薬指に指輪状の形

【聖杯にかける願い】
暦に幸せな生を

【方針】
皆殺しにして聖杯を手に入れる。デーモンは必ず殺す

【参戦時期】
グレムリンに殺された後

【運用】
直接戦闘に強く、召喚系宝具持ちの為に数押しも可能。
最大の特徴はスキルの都合上異常に死ににくい上に、始まりと終焉の場所(魔神王の間)とテレポートリングを併用することで、最悪何度倒しても死なない処。


419 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2021/06/07(月) 20:32:03 lmxaodYo0
投下を終了します


420 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/07(月) 21:38:28 ZPJjRTF20
>>伊達一義&アーチャー
こういう特撮系の戦闘描写って自分が書いたことのない未知の領域なので読んでいて面白かったです。
それ抜きにしても読みやすくて軽やかで、情景が想像しやすくスムーズに読むことが出来ました。
お互いの心理描写やモノローグも感情移入しやすい感じになっていて、わ〜〜〜上手いなあと思いました。
あと最後の台詞がいいですね。こういうのはやっぱり王道ですけどかっこいいです。

>>禪院直哉&アーチャー
禪院直哉くん、全編に渡り解釈一致!!!!!! 5億点!!!!!!!!!1 って感じのお話でしたねありがとうございます。
桃太郎卿を引いてウキウキなのかわいい。そして桃太郎卿の台詞回しの再現度が高すぎてすご〜〜ってなりました。
このお話が投下されたのは最新話が来る前でしたけど、読んだ後だと感動してる理由も分かるな……という感じです。
甚爾君に五条悟と来て3人目の"あっち側"が増えた感じなんでしょうね〜すごく良かったです。

>>『親』になれなかった者達
『親』になることができなかった二人というのは面白いコンセプトですね。えぐい。
とはいえ湿っぽさというよりは前向きな感じなので、前途は暗くはなさそうな感じでしたね。
まさに縁召喚と言いますかそんな形で引き合った二人ですが、しかし片方は魔王に変じて悲惨な末路を辿った経歴があるという。
湿っぽさと前向きさとそして優しさと、色々な要素が絡み合った話で素敵でした。

>>幽・幽・月・下
霧子という太陽を夜に縛られた鬼滅産の鬼に合わせる発想、控えめに言って天才のそれでは?
兄上の気質を考えればマスターの側が置物同然になっていてもおかしくないですが、だからこそ彼に対しても優しく向き合う霧子の輝きが光る。
そして兄上の側はそれに酷く当惑し、防衛反応めいた言動すらしてしまっているというのがまた素敵でした。
あとラストの二行、いいですね〜! むちゃくちゃ綺麗で最高の締め。すごい。

>>それは、世界を変える狂気
このおばさんいっつも世界を変えようとしてんな……(超傍迷惑)。
自己暗示で自分のことをルーラーと自称してステータスまで偽装してくるの、何? 怪人すぎて笑っちゃいました。
聖杯に導こうとするルーラーってなんだよ、とならせないように証拠まで捏造してくるの普通に最悪ですね。
世界を変える狂気ってそういう意味!? となっちゃいました。面白かったです。

>>最後の希望
ステシみて強すぎて変な声出たんですが、それはそれとして主従関係は最悪と言って良さそうですね。
とはいえそれを補って余りあるだけのスペックがあるというのがなんとも厄介。
マスターの笛木もマスターとしては破格と言っていい強さですし、他の参加者にとってもかなりの脅威になりそうです。
絶望と希望は紙一重とはよく言ったもの。そんな感想を抱かせる話でした。

皆さん今日もたくさんの投下ありがとうございました!


421 : ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:03:20 DGfCNbXQ0
当方新しく聖杯戦争の企画を立ち上げた者ですが、ほぼ同時期に聖杯戦争を始めた縁という事で以前Fate/over heavenに投稿した候補作を投下します。


422 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:04:05 DGfCNbXQ0
 日は落ち、登った月は雲に隠れて見えない。
 外は一面、土砂降りの雨。
 校庭のグラウンドに運動部の姿は無い。
 雨音がざあざあと鳴る校内の一室。
 赤い絨毯にピアノが一台置いてある。音楽室だ。

「きらきらひかる おそらのほしよ
 まばたきしては みんなをみてる
 きらきらひかる おそらのほしよ」

 音楽室で一人の少女が「きらきら星」を歌っている。
 指1本での単調なピアノの演奏。歌声は艶やかなアルトの透明な響き。
 黒い基調の制服に身を包んだ、栗毛色の長髪の少女が一人で歌う。
 それだけで、まるでその一室はさながら神殿のような趣となっている。
 信じた道に身を捧げ、理想を抱き歌うその姿は、殉教者と重なるが故に。

 少女の名前は「ファルシータ・フォーセット」。イタリアからの留学生であり、国では音楽学校に通っていた歌手の卵である。

「ファルさん。合唱部が終わった後、いままで自主練やってたんですか?」
 歌い終えたファルに、一人の少女から声がかけられる。
「一人で掃除なんて大変だったでしょ。何かファルさんって、そういう嫌な仕事進んで引き受けたがるよね」
 もう一人の少女は、気づかうような口調で話しかけた。
「そんな嫌な事ないわよ。掃除を申し込んでおけば、一人で音楽室を使えるから。
 全部自分の為にやってるの。歌の練習も含めてね」
 そう言うファルの声は、さわやかととれる音色だった。
「ファルさんって将来はプロの歌手志望なんでしょ?」
「だから練習してるんだよね?」
「そう、最高の舞台で最高の歌を歌うのが私の『夢』」
 ファルの目は遥か遠く、だが強い意志を込め、天を眺めた。
「ファルさんならなれますよ、きっと! すごい才能で、努力もたくさんしているんだから」
「うん、そうだよ、きっと。あ〜あ、わたしもファルさんみたいな素敵な人になりたいな」
 ファルはそう言った少女に微笑み返した。

 ――私はそんな人間じゃない。私には何かが欠けている――

 その思いを押し殺しながら。


423 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:04:28 DGfCNbXQ0
「ファルさん、良ければ一緒に帰りませんか? カラオケにいって歌いましょうよ」

「御免なさいね。ファルさんとは私と先に約束してたの」
 
 何時からその人は音楽室の中にいたのか。横から割り込んだのは、清流の様に澄んだ声。それなのにその言葉は強く、遠くまでよく届いた。
 声の主は、ファルシータと同時期に転校してきた少女「比良坂初音」である。
 黒く艶やかな長い髪、古風なセーラー服。ファルと共に所属する高校とは異なる制服、同じ黒を基調とした制服だ。
 その身に宿す赤い瞳は心を見通されるような深さがある。
「……ええ、悪いけど初音さんと先約があってね。ごめんなさい」
 ファルは、出来うる限りの申し訳ないという感情に満ちた表情を浮かべて言った。
「仕方ないですね。じゃあ、また今度という事で」
 ファルは孤高さがあっても親しみやすさがあるが、初音は高貴でどこか気押されてしまう雰囲気がある。
 そのためか、二人ともあっさりと納得した。
「ごきげんよう。二人ともお気をつけてお帰りなさい。近頃は物騒な噂が流れているのだから」
 初音は穏やかに笑いかけた。
「はい、そちらもお気をつけて」
「さようなら。また明日」

「ところでさ、噂っていったら、ここでも――」
 話しながら音楽室から二人は出て行き、遠く声が離れていく。

 校内のどこか、夕刻に現れ、男を誘い、犯す淫乱な女。
 正体は男を食べる魔物。
 既に何人かの男子生徒を連れ去り、どこかで骨も残さず食べてしまったという。

 そんな噂話をしながら、二人は去っていった。


424 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:04:47 DGfCNbXQ0
「で、要件は何? 『キャスター』」
 初音に尋ねるファルの表情は一変し、冷たい目で初音を見据える。彼女は「聖杯戦争のマスター」としてのファルシータ・フォーセットになった。
 ファルにとって笑顔とは、対人関係を良好に保つため、使い慣れた仮面だ。
「聖杯戦争について、貴女がまだ理解していない事についてよ」
 初音もまた「キャスターのサーヴァント」である比良坂初音として答える。
「前にも言ったでしょう? 私は聖杯なんてどうでもいいの。私の夢にとって何の関係も無い事だわ」
 それはファルの本音。だが、ファルにはもう一つの思いがある。
 世界を、都合の良い奇跡を望む境遇にまで自分を陥れた世界を憎み、そんな自分を変えたい、叶えたい願いがあるのなら。
 ――聖杯を望めばいい。例え人殺しが避けられないとしても。
 ファルはピアノの椅子から立ち上がり、出入り口に向かう。
「でも、それでは済まないのがこの聖杯戦争なのよ、ファル」
 初音はファルと共に音楽室の外に出ながら、ファルの内心を知ってか知らずか、微笑んだ。
「この聖杯戦争には脱落したマスターを保護する人間はいないわ。ただ偶発的に誕生した界聖杯がマスターを呼び込んだだけの世界。
 そんな状況で戦う事を諦めたますたぁがどんな目に遭うか……お分かり?」
 ファルもそれは理解している。おそらく聖杯を求めるマスターに利用されるだけ利用され、最後は命まで奪われる事だろう。
「脱出の手段はまだ見つからないの?」
 廊下を初音と並んで歩きながら、ファルは尋ねる。
「今のところはね。糸を外に伸ばそうとしたり、人を操って調べてみたりしたけど、この都市から出る手がかりもないわ。何らかの結界があるのかもしれない。
 結界がどういうものか、私を使う貴女なら分かるでしょうけど」
 聞き覚えのない結界という言葉だが、どのような効果かは、ファルは初音の作った陣地を見て納得している。
「私は、聖杯なんていらないけど、あなたに願いがあるなら戦いに協力するわよ。その前にまず情報収集が先決だけど。
 マスターのスタンスを大雑把に分類すると、戦いに乗ったマスター。乗らないで脱出を目指すマスター。今の状況がわからず準備もしない半端なマスター。
 私は脱出派だから同じ脱出派と上手く手を結んで情報を集める事から始めて、後は半端なマスターを利用して乗ったマスターの盾にするか。または情報を売って乗ったマスターを利用できないか……」
「貴女は、人を利用するかどうか、できるかどうかで動くつもりなのね」
「急に連れてこられて、いきなり殺し合いをしろ、だなんてこんな状況で信頼関係がすぐできるわけないじゃない。もっとも、私は誰も信用しないけどね。
 それは私達も同じでしょう? でも、あなたは聖杯を捕るのに私が作った優等生という仮面と人脈を利用して、その代り、私はあなたに命を守ってもらう。
 そういうお互い利用し合う関係だけで、私たちは十分得でしょ?」
 ファルのその考えは、この特殊な状況だけではなかった。ファルが信用するのは、自分の歌の才能だけだ。聖杯戦争に連れてこられる以前から、ファルはそうして生きてきた。


425 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:05:45 DGfCNbXQ0
 二人は校内にある「茶道室」の前についた。
 ここは初音が能力で製作した陣地で、二人の借り宿でもある。
 暗示により、初音は高校でただ一人の茶道部の所属となっている。ここは所属した学生が全員卒業した後、そのまま未使用になっていた茶室……という設定の暗示がやはりかけられている。
 実体は、入り口も、畳も、白い土壁も、障子も、年期を感じさせる柱も、床の間も、押入れも、全て初音が糸で紡いで造り上げた物である。
 ここは初音の『巣』だ。空き教室を使って、そこに造り上げた『巣』だ。
 近くにある給湯室、洗面所などやそこに繋がる通路もまた、初音の陣地となっており、普段は生徒たちに影響はないが、初音が少し魔力を通せば人払いの暗示、認識できなくなる暗示が発動できる。
 さらに、高校の全敷地は初音の結界に覆われ、内部外部の人間の精神に働きかけ、記憶を操作されている。

 例えば、人が一人消失した程度では、誰も違和感を感じないように。

 二人は扉を引き、靴を脱いで茶室に入った。
 中には一人の少女が、囚われの身となっていた。
 両方の手足が蜘蛛の糸で畳に縫い止められ、口は猿轡のように糸で覆われている。
 その姿を見て、ファルは唐突に思い出した。
 さっき会った二人組は、本当はいつも三人組で行動していたはずだ。
 なぜ今まで忘れていたのか?

「気づかなかったでしょう? 私の『巣』に捕らわれた人間は、誰からも忘れられる。
 主の貴女も例外ではなくてよ」
 振り向いたファルに対し、初音は赤い瞳を向けた。
「実を言うとね。私も聖杯なんて興味ないのよ。召喚されたのはほんの気まぐれ、気の迷いよ」
 初音は一つ嘘をついた。初音には気の迷いなどとは言えない、確かな願いがある。だがそれは聖杯に叶えてもらうまでの事ではなかった。
 あるいは――叶えたくないと言い換えるべきか。
「だけど、私は仮初の生でも、自ら死を選ぶことはしない。負けるつもりで戦うつもりなんてないわ」
 初音の赤い瞳が強い光を灯す。
「だから、主である貴女には、この戦で絶対生き延びるという覚悟を見せてほしい」
 
「そこで、ファル。貴女に――この子を殺してもらえないかしら?」

 ファルは意味が分からず呆然としたが、言葉を正確に咀嚼した瞬間、脊椎に氷柱が入るような戦慄が走った。

 初音は懐から匕首を取り出し、刃を掴みファルに柄を向けた。
「何を棄てても、誰を犠牲にしても、生き延びたいという覚悟を見せてほしいのよ。
 勿論貴女には断る自由があるわ。もっとも、そうしたら私は貴女を見捨ててしまうけど」
 脅迫そのものといえる言葉を、初音は微笑んで口にした。


426 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:06:33 DGfCNbXQ0
 ファルは初音について、いやサーヴァントという存在について、与えられた知識だけで判断していた。
 人類の歴史を進ませた偉人、戦場で猛威を振るった英傑、あるいは暴虐で汚名を得た悪党。そういった善悪問わず偉業を為した者達。その写し身がサーヴァント。
 マスターは本来現世に存在できないはずのサーヴァントを繋ぎとめる楔となり、提供する魔力と絶対遵守の効力を持つ令呪でコントロールする。
 もっとも、ファルは初めから行動を縛るつもりがなく、初音に自由な行動を許し、願いがあるのなら戦いのために協力し、聖杯も渡す気でいた。
 その代り、自分を守り、元の世界に戻す事。これを絶対の条件とした利害関係。そのつもりでいた。この時までは。

「もう一つ言っておくと、先程二人が噂していた話。あれは本当よ。
 私が作り出した半妖、贄が男から精を奪い、昇華して私に与えているの。命が失われた死骸は私が喰べたわ。
 私は『貴女達』と違って人を殺すのに何の躊躇いも罪の意識も感じないわ。貴女と主従の誓いを結んだのは、そういう『バケモノ』なのよ」

 ようやくファルは理解した。目の前で微笑んでいるモノは人ではない。英傑でも、悪党ですらない『バケモノ』だ。
 そして利用する、戦いに協力するなどと言った自分に対し、その本当の意味を突きつけ、嬲り、貶めようとしている。
 それは、この聖杯戦争がつまるところ殺し合いであるという事。それに積極的に関わる事は、己の意志で人を殺すという事。
 サーヴァントという存在も、仮初とはいえ生を得ている故、例えサーヴァントだけを殺させるように指示しても、それを操るマスターもまた殺人を犯すという事。
 その上、この『バケモノ』は、既に人殺しをしており、そのマスターである自分もその加害者の側であるという事だ。

 衝撃から落ち着いたファルは、初音の言葉とこの状況について考える。
 初音とは利用し合う関係だと自分から言った以上、見捨てるという言葉は本当だろう。
 では、私は直接自分の手で人を殺せるのか? 聖杯戦争と何の関係も無い、ただの少女を。
 これがもし敵のマスターの話なら――私は殺せる。きっと何の躊躇いもなく。
 殺さなければ殺される、という理屈ではない。他人の命が自分が戻るため、『夢』のために必要なら、迷わずに奪える。私はそういう人間だ。
 そう、私は結局行動を自分の損得でしか判断できず、選択の天秤の片側に載せるのは常に『夢』だ。
 しかし、無関係の人間を殺すというのは、リスクや損の方が大きいのではないだろうか。
 それでも、サーヴァントが殺さなければ見捨てる、とまでいうのなら、私はこの子を――

 ファルは捕らわれた少女を見、少女はファルの瞳を見返した。
 その時、ファルは少女の瞳に込められた思いを見た。

 二人が何の話をしているのか分からないけど、きっと彼女なら、誰にでも優しく親切なファルさんなら自分を救ってくれる。そんな純粋な瞳。
 当たり前の豊かさを何の苦労もなく当然に享受し、幸せに暮らしてきた証拠の無垢な瞳。

 ――その瞳は、ファルの心を苛立たせた。

 だから、ファルは初音からナイフを受け取った。
 思い出したからだ。ファルは死にもの狂いで何かをしなければ、何もできない人間だという事を。


427 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:06:59 DGfCNbXQ0
 ファルが少女に対し、馬乗りの体勢になり、初音は二人の横に回り込んだ。
 初音が手をかざすと、少女を拘束する糸が解れ、口はそのままに片腕が自由になった。
 少女はファルに馬乗りにされて、自分が見捨てられたと思ったのだろう。
 片腕でファルの服を掴み、引っ張り、突き放し、懇願するような唸り声をあげ、否、実際命乞いをしているのだろう。涙を流し、必死になって細腕に見合わない力でファルを引きつけ、また引き離す。
 少女が振り回す腕で、ファルの制服のボタンが胸から引きちぎられ、同時に首から下げていた銀製の羽のアクセサリーが畳に落ちる。
 ファルはその銀の羽を見つめた。初めは自分の『夢』の様に光り輝いていた二枚の羽。いつのまにか錆びて薄汚れてしまった羽。

 ――この羽は私だ。

「誰もが夢を見る権利があるって聞いたことがあるわ」
 ファルは少女に顔を向けながらも、誰を見ることもなく自身の過去に意識を飛ばし、言葉を紡いだ。
 それは綺麗な言葉だ。でもそんな現実はどこにも存在しない。ファルはそう確信している。
「でも夢を叶えるにはそれを支える生活や環境がいるのよ。それに、夢を見る事さえできない人間も沢山いるの」

 ファルシータ・フォーセットには『夢』がある。一人前のプロの、国一番の歌手として生きていくという『夢』が。

 だが、ファルは『夢』のために『夢』とは関係ない過酷な努力をしなければならなかった。

「だって、この世界は残酷だから」
 再び、ファルは自分の過去を思い出す。赤子の頃、親に捨てられた自分を。
 引き取られた孤児院の中、過酷な労働、僅かな豚の餌にも劣る食事、冬の寒さを防ぐ毛布さえ与えられぬ眠りを。
 そんなファルに残酷な世界が、薄情な神が唯一授けてくれた祝福が、歌の才能だった。
 孤児院を抜け出て歌の芸で小金を稼いでいた時、たまたま居合わせた貴族に才を見込まれて音楽学校に推薦入学できたのだ。
 でも、孤児であるファルには支えてくれる人がいない。夢破れても帰る場所も無い。小学校に通えなかったため、読み書きが満足にできないハンディもある。
 学校の学費は無料だが生活費は別に必要だし、歌詞や歌を勉強する本に費やす金も自力で稼がなくてはならない。

 プロの歌手という『人並みの夢』を追うためだけでも、いや『人並みの生活』だけでもファルは『人並み』を遥かに超えた努力をし、それ以上に人を利用しなくてはならなかった。
 良好な人間関係を持つ優等生という地位を築くために人の嫌がる頼まれ仕事も笑顔で引き受け、寸暇を惜しんで歌の練習に励み、アルバイトで金を稼ぎ、基本的な読み書きや詩集のような音楽に必要な他の教養を習得してきた。
 一方で、裏では必要と思った人間を自分に取り込み依存させるため、その人物の悪い噂を流し、講師にさりげなく、恩着せがましくならないよう慎重に取り入り、利用できる男なら誰とでも――醜聞が表沙汰にならないよう――寝た。

 ファルは蜘蛛糸にとらわれた少女の恐怖におびえた瞳を見、再び銀の羽に目を移した。
 ファルを捨てた親が、彼女へ歌の才能と共に与えてくれたもの。
 ファルが『夢』のために多くの者を利用し、裏切り、捨てていく度に。
 残酷な世界を憎み、裕福な人間を妬み、純粋無垢な人間を疎み、人と人との関係は、利用し合うだけのものと確認する度に。
 無意識に手でまさぐって、薄汚れていった銀の羽。

 ――この羽は私だ。私の心の羽だ。
 ――いつか錆び果てて『夢』に向かい飛ぶ力を失うかもしれない羽だ。
 ――それでも、私はこの薄汚れた銀の羽で、何処までも高く遠く羽ばたき続ける。

 ファルシータ・フォーセットは、歌を歌って生きていく。
 その『夢』のためなら、何でもできる。

 ――例え、人殺しだって。

「ごめんなさい。私は、自分の夢の為なら何でもできるひどい女なの」

 その言葉で自分の命運が断たれた事を悟った少女は、絶望の淵でもがき、狂えるように叫ぶ。
 ファルはそんな少女を冷たく見据えた。一度決意を固めたら、自身が驚くほどに冷静だった。
 そして片手で少女の暴れる腕を押さえ、片手で、ナイフを振り降ろした。


428 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:07:28 DGfCNbXQ0


 畳に赤い血が飛び散った。

 
 
 少女の首は、胴と分かれた。

 糸によって。初音が手から放った鋼糸によって。

 ファルがナイフを少女の喉に突き立てる寸前に。



「…………どうして?」
 返り血を浴びたファルが、初音に向かい問いかける。
「……あなたの望みでしょう? こんなことするくらいなら、どうして私に殺させようとしたのよ……」
 無言で近づく初音に、ファルは力が入りすぎて震える体で、今にも泣きだしそうな顔で、声で、問いかける。
 なぜ震えるのか、なぜ初音に問いただすのか。ファルは自分自身が分からず、涙が出そうになっていた。つい直前まで少女を本気で殺す気でいたというのに。
「さぞ怖かったでしょう、ファル? まるで冬の寒さで凍えているようよ」
 全身が固まったファルを、初音はやさしく、ファルの血まみれの手に銀の羽を乗せ、花びらを潰さず摘み取るような柔らかさで両手で覆った。
 ファルは一瞬身震いしたが、初音の手のぬくもりに、匂い袋の様な香気に、柔らかな笑顔に包まれ、硬直した躰が解れていった。
「気が変わったのよ。バケモノは気まぐれな生き物なの」
 初音は、ファルの掌の上にある、銀の羽についた血を優しく、滑らかに指で拭った。
「貴女の銀の翼は、汚れても尚空を目指すから貴女に似合っている。でも鮮烈な血の赤はそぐわないわ。覚悟を見せてもらえて、私はそれで十分満足よ」
 指についた血を初音はなめとり、片方の手で、ファルの髪を撫でる。
「手と顔、それと翼を洗っていらっしゃい。匂いが染み付いてしまうわ」



「ひとつの夢のため あきらめなきゃならないこと
 たとえば 今 それが……」
 ファルは手と顔、そして翼を洗いながら、未完成な新曲の歌詞を唱える。
 どんな惨劇があっても、どんなに心乱れても、歌えばファルは自分というものを取り戻せる。その点でファルは非凡な努力と才能の持ち主だった。
 放課後の夜、しかも初音の陣地内には最早誰もいない。返り血に汚れた服を人に咎められる心配をする必要も無く、ファルは歌詞を紡ぎ続ける。
「居場所はどこだろう? 私の役割はなに?
 ずっとずっと思ってた そしてみつけた気がしたの……」
 居場所。役割。それはプロの歌手。それも最高の実力と栄誉を得た上での。それがファルの目指す居場所で役割で『夢』だ。
 だが、ファルは最近それを思う時、不安が心をよぎる。
 ファルが歌を歌い続けるという『夢』を目指すのは、生きる為だけではない。幸せのためだ。
 歌のレッスンで、アンサンブルが上手く調和したときは楽しい。演奏会で賞賛されるのは、生きている実感が湧いてきて嬉しい。その時は演技ではない、ありのままの、本心からの笑顔が出るのが心地よい。
 だからこそ、生活の全ては歌の修練に集中するためのものだった。さらに上の実力を身に付け、より多くの人々を魅了し、より大きな舞台で歌うのがファルの『夢』であり幸せなのだから。
 そうして高みを目指し努力している途中で、ファルは何時しか気づいてしまった。
 自分の歌には、歌声には何かが足りない、欠けているモノがある、と。それを自覚してしまった。
 
 自分の歌の才能は裏切らない。努力に応えて力が上がっていく。この歌の才能が有れば、自分一人の力で生きていける。自分の歌だけで『夢』を、全てを手に入れる。それがファルの精神を支える原点。
 だが、本当に人間一人では生きてはいけない。だからファルは対人関係では笑顔の仮面を被り、礼儀正しく振舞い、人の信用を勝ち取ってきた。
 それでもファルは「全ては自分の為」「自分は人を利用している」「人は互いを利用し合っている」「夢の為には必要な事」と思えばこそ、強く自分という存在を保つ事が出来たのだ。
 それを、歌の才能そのものに疑いを抱いてしまっては、ファルシータ・フォーセットという『夢』に向かい飛び続ける生き物は、一瞬で地に墜ちてしまうだろう。
 
 この不安を抱いた時、ファルが想起するのは二人の奏者の顔だ。ファルに足りないモノを支え、実力を高めてくれるであろう音を奏でる二人。
 あの二人のうち、どちらかを手に入れれば、私はさらなる上の領域へと到達出来る。
 だから私は、二人を利用するために人を傷つけ、人を騙し、朗らかな笑顔で取り入り……。

 ふと、ファルは鏡で自分の顔を見かえした。そこに映るのは暗く澱んだ瞳だ。あの少女の無垢な瞳に比べて、自分はなんて薄汚れてしまった事だろう。
 だけど後悔なんてしていない。もし、してしまったなら、今まで利用し、裏切ってきた人達全てにどんな顔を向ければいいのか。謝ることさえできない。そんなのは御免だ。
 今までの境遇と努力と、利用してきた人たちの顔を思いだし、ファルの瞳は精彩を取り戻してゆく。

「やがて 覚悟が芽ばえていた この夢のためならば 他を捨ててかまわない……」


429 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:07:51 DGfCNbXQ0
 ファルが部屋から出たのを確認した初音は、畳の上に座り込んだ。膝を両手で抱え、体を小さく折りたたんでみる。
 初音のスカートの中から子蜘蛛が大量に産みだされ、少女の死骸に覆い群り埋め尽くした。子蜘蛛は死骸の血を啜り、肉を食み、骨を齧る。
 生きている人間の精を直接吸うのに比べれば、死体を、それも間接的な形での摂取は劣るが、それでも若い生娘の肉体は初音に上質な精を提供してくれる。
 力が漲る感覚を味わいながらも初音に歓喜の気持ちは無く、かつて経験した事のない感情に戸惑っていた。途方に暮れていたのである。

 鬱々として気が晴れない。退屈とは違うこんな気分は初めてだ。
 先程、己の主を試そうとしたのは、ファルに人殺しを経験させるのは、心変わりする寸前まで本気だった。
 それがなぜ、直前でそれをやめて私自ら殺したのだろうか。残酷で嗜虐的な私がなぜ。

 廻々、狂々と頭が茹だるほど悩んでも答えは出ない。元々初音は気まぐれな生き物だ。
「銀……貴方がここに来ることができたなら、一体どうしたのかしら?」
 別の事を考えようと、初音は宿敵の名を口にする。その言葉には愛憎が、敬愛と侮蔑と友情と殺意が交錯し、混ざり合っている。
 だが、それもサーヴァントとして別世界に召喚された初音には、最早思っても詮無い事だった。
 無意味さに気づいた初音は、再び自分の主人となったファルシータと己の事を思い見る。

 妖としてあって数百年。人は生まれ、死んでゆき、花は咲き、そして散る。時が移ろう中、私はいつしか瑞々しい感情を失い、ヒトの籠絡と凌辱、それらによって人間が外道へと堕ちてゆく過程に愉悦を見出していた。
 今はヒトを籠絡し、感情や道徳を引き裂き踏みにじるのは楽しいし、身も心も凌辱し、快楽と絶望の虜に墜とすのも面白い。化物と恐れられるのも心地良い。
 そんな私が、心変わりしたのは――そう、恐らくあの主人を堕としたくないと思ったからだ。直接その手を血で汚させたくないと思ってしまったからだ。なぜだろう。私は狂ってしまったのだろうか。

「なんであの子がこんなに気にかかるのかしら。……かなこ、貴女とは全然違うのにね」

 深山奏子。銀との戦いによる傷を癒すため、入り込んだ学校。そこで偶然見つけた倉庫で輪姦されていた少女。
 この手の下衆共が嫌いな初音は男達を皆殺しにし、奏子だけは気まぐれで殺さずにしておいたが、彼女は化物の初音を怖がるどころか逆に初音の内側に踏み込んできた。
 初音は初め、奏子を遊び相手としか思わず、弄び、嬲っていたが、それでも初音を慕う奏子によって、初音は少しづつ奏子を妹の様に思うようになっていった。
 いや、もしかしたらそれ以上、それ以外に思う様に。だから、初音の願いは「元の世界での自身と奏子の行く末を知りたい」である。

 奏子のおかげなのだろう。化物の私が、ほんの少しだけヒトの心を持つようになったのは。
 でも、それは変わるのと、狂うのとどれほどの違いがあるのだろう?

『やがて 覚悟が芽ばえていた この夢のためならば 他を捨ててかまわない……』
 初音の耳にファルの作った歌の歌詞が聞こえてきた。初音は陣地内で糸を通じ、全ての気配、音を感じ取れる。その歌詞を聞いた時、初音は自身の中に芽生えたヒトの心が、未知の思い、そして既知の感情を揺り動かすのが分かった。

 この思いは何? 銀への思いとも、奏子への思いとも違うこの思いは何?
 全く分からない。だけどファルの歌を聴く度、実感できることがある。それは、私が生を歩み始めたあの頃の……。

 思案に暮れる初音に、ファルが部屋へと戻る足音が聞こえてくる。
 初音は子蜘蛛を元に戻して立ち上がり、スカートを払って足の甲を床につけ、両膝から畳に腰を据えた。

 そこにいるのはいつも通りの女郎蜘蛛の化物「比良坂初音」だった。


430 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:08:24 DGfCNbXQ0
 ファルが部屋に戻ると、初音は畳の上に鎮座していた。
 部屋を見ると、有るべきはずのモノがない。畳に染みひとつ無い。
「あの子の……死体は、どこへやったの?」
「喰べたわよ。骨も残さずにね。貴女には本来魔力を生む資質がありませんもの。
 足りないものを他で補うのは、この聖杯戦争では当たり前の事よ」
 ファルに魔力の素養が無いことは、ファル自身も知っている。ファルの世界には、演奏者に魔力が無ければ音を鳴らす事も出来ない「フォルテール」という鍵盤楽器があるからだ。
 そのフォルテールが見滝原に、この世界に存在しないことが、ファルに記憶を取り戻させる切欠となったのだ。
「確か、あなたは戦いの防具用に、私の服を織るって言ってたわよね。制服の着替えはある?」
 ファルは冷静に話題を変える。
「そこの押入れの中よ」
 初音は襖を指差した。
「服は多少の魔術や刃物、銃弾程度なら跳ね返すくらいの力を持っているわ。
 そして蜘蛛は潜んで獲物を待つ者よ。魔力を隠蔽して、普通の服と全く変わらないよう仕立ててあるわ。
 大抵のますたぁやさぁばんとには気づかれない自信はあるけど、私より探るのが上手の敵なら感付かれるから注意なさい」
 ファルが着替える為、押入れに向かおうとした時、初音の声が足を止めた。
「着替える前に貴女の歌を聞かせて頂戴。貴女が、貴女自身のために作った歌を」
「それって……『雨のmusique』の事?」
 作詞、作曲ファルシータ・フォーセット「雨のmusique」。それは元居た世界で通っているピオーヴァ音楽学校の卒業課題のために作った歌だ。
 ピオーヴァ音楽学校の卒業課題は、自分で作詞、作曲し、独唱か演奏者のパートナーを選び、演奏会でその歌を歌うというものだ。
 演奏会には講師の他にも、楽団に所属するOBもいる。成果次第では即プロへの道も開ける。
「そんなの、着替えてからでも」
「お願い」
 初音の声は穏やかではあるが、有無を言わせない圧迫感があった。
 ファルは数秒ほど惑ったが、結局歌う事に決めた。

 グレイの空 雨の糸
 街中 霧に煙る
 こんな日は 少しだけ
 やさしい気持ちになれそうよ

 歌えばファルは、いつも通り真摯に歌へ集中する。『夢』の高みへと羽ばたく純粋で誠実な思いを込める。
 だが、ファルの歌声は、素人の初音にも分かるほどいつもとは違う。
 重く、締め付けるような、まるで逃げ出したくなるような……。
 それでも、終わってほしくないような、いつまでも聞いていたくなるような……。
 そんな不思議な音色だった。

 Look at me Listen to me
 だれかを愛して
 君が必要と言われたなら どんなに…

 「必要と言われたなら」。その歌詞で、初音の脳裏に奏子の顔が浮かぶ。『バケモノ』の初音を受け入れ、慕った奏子。
 初音は歌うファルに目を向ける。こんな歌を作りながら、人は利用し合うものだと言い切ったファル。
 歌うファルを見る初音には、得たヒトの心からまた新たな未知の思いが浮かんでいくのを感じた。

 Look at me Listen to me
 アタシヲアイシテ
 だれも知らない心 見抜いてくれたら…

 ファルは歌いながらも、初音の変化した表情に驚いた。
 初音から、いや他の誰からも向けられたことのない、全く理解できない表情。瞳の光。
 それを見た時からのファルの歌は、ファル自身も知らない全く新しい音色に変化していた。

 Look at me Listen to me
 アタシヲアイシテ
 だれも知らない私が ここにいるのよ

 歌を終えたファルは、顔から一切の表情が消え、呆然としていた。

 心臓の音が聞こえる。芯が冷えた頭に、空白な意識に強く、鳴り響いている。

 歌声に欠けているモノが埋まった。ファルはそんな確信を得た。

 歌がさらなる高みへと指を掛けたというのに、ファルの心には高揚も、感慨も、何も無かった。
 あったのは、疑念と、絶望に近い空虚。


431 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:08:49 DGfCNbXQ0
 私が作ったこの「雨のmusique」は恋の歌。曲調も歌詞も、誰に対しても受け入れられるよう計算して作った愛の歌。
 だけど、曲の最後で自分をさらけ出す部分の歌詞は、私の密かな願いが込められている。
 優しく親切で、誰からも好かれる『私』じゃない。多くのものを捨て去り、多くの人を利用し、裏切り、薄汚れてしまった『私』。
 そんな穢れた『本当の私』を知って、それでも尚受け入れてくれる人がいたのならどんなに……。

 あの表情は「私は貴女の全てを受け入れる」という意味だったのだろうか。だとしたら――なんて皮肉。
 私が『本当の自分』をさらけ出しても、それを受け入れてくれるのが他の誰でもない、人ですらないこの『バケモノ』だなんて。
 それが私の歌に欠けていたモノを埋めてくれるだなんて。
 まるで私の心も『バケモノ』同然と言われているようじゃないか。

 ――私は、本当に本物の歌手になれるのだろうか。私の歌に価値はあるのだろうか。

 急に、ファルは人恋しくなった。『あの二人』に会いたいと思った。
 ファルの歌に足りない、欠けているモノを埋めてくれると思えた二人のフォルテール奏者に。

 魔力で演奏するフォルテールは奏者の資質、特に強い感情によって音が聞き手の心を揺さぶるほど大きく変化する。
 一人は美しくも悲しい、そして受け入れてくれるような音色と朧げな表情に深く惹かれ、もう一人は誰よりも憎く、妬ましいが儚くも強く抱きしめられるような音色に魅了された。
 正負の違いはあるが、人との関係を「有用」か「無用」かだけで判断してきたファルにとって「利用価値」以外の強い感情を抱くその二人は、特別な存在だった。

「……着替えるわ」
 虚ろな表情で微かな声を発し、ファルは辿々しい足取りで押入れに向かう。
 襖を開け、血に濡れた制服を脱いだ。白い肌が外気に晒される。

「ファル」
 足音も気配もなく、いつの間にか初音はファルの側まで近づき、肩を掴んだ。
 制服がファルの手からすとんと落ちる。
「まだ聖杯戦争について、私について説明が終わってなかったわ」
 ファルの耳元で、優しく、甘く囁く。
「私はバケモノだけど、化物退治の英雄達に比べれば弱いのよ」
 事実である。宿敵である銀との実力差は圧倒的で、初音が本性を現してもようやく勝算が1、2割程度あるかどうかだった。
「それでも、補う方法はあるの」
 初音は薄く、妖しく微笑んだ。
「一つは、人を喰らう事。純粋で穢れなき魂を墜とし、精を吸えば今以上の力を引き出す事が出来るわ」
 それはサーヴァントは成長も劣化もしないという原則に反する能力、初音の生き方に由来した宝具によるものだ。
「もう一つは――」
 初音はファルをかき抱き、そのまま畳の上に仰向けにして押し倒した。
「貴女と深く繋がる事」
 初音はファルの首に歯を立てた。ファルはちくりと痛みを感じ、顔を歪める。
 次の瞬間、ファルは動悸が激しく高鳴り、躰が燃える様に熱くなり始めた。
 初音の尖った歯、牙がファルに蜘蛛の毒を注入したからだ。
「繋がりをより深く、強くすれば貴女の精を直接吸い取って、私はより強力な力を得られる」
 初音はセーラー服を糸に戻して解き、その体をあらわにした。ファルのそれより滑らかで肌理細かい肌。均整の取れた身体。黒々と濡れたように輝いた髪。
 同性から見ても羨望に値する肉体。だが、ファルの虚ろな瞳は一点だけに集中していた。
 初音の股間には、女性に本来ない器官があったからだ。


432 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:09:39 DGfCNbXQ0
 繋がりを深くとはこういう事か。ファルはこれから自分に起きる事態を理解した。
 他人事のように。無理やり引き出された快楽を、空白な意識で受け流しながら。
「……好きにしなさいよ」
 ファルは何もかもどうでもよくなっていた。奈落の底まで落ちたい気持ちだった。
 『夢』が見えなくなった、追えなくなった自分に価値なんてない。汚れるならどこまでも穢れてしまいたい。
 この『バケモノ』が私を犯すというのなら、いっそ身も心も何もかも壊してもらいたい……。

「自分を見捨てる必要なんてなくてよ、ファル」
 自身の心の内を見透かされ、ファルははっと初音を見返した。
「貴女の歌は『バケモノ』の私の心さえ震わせたわ。だったら、人の心に響かないはずがないでしょう?
 もっと誇りを、自信を持ってもいいのよ」
 もう初音は笑っていなかった。ファルにもはっきりと伝わるほど真剣に、本気でファルの心を案じている。
「あなたは……!」
 だが、その態度は、逆にファルの逆鱗に触れた。
「あなたは、一体何がしたいのよ! 
 私に人殺しをさせようとしたり、寸前で自分で殺したり! 無理やり歌わせて、私が歌に自信を失わせるようなまねをして、勝手に励ましたり!
 ふざけないでよ、私を弄んでそんなに楽しいの!?」
 怒りに任せて、灼けつく喉で叫ぶ。ファルがここまで激情を露わにするのは、これまでの人生の中で初めてだった。

「……バケモノは退屈な生き物なの」
 そう言って、初音は寂しげに微笑んだ。
「全てが起こり、栄え、滅び、風化して、無為に消えていって、それでも私はそのままであり続けなければならない。世界が私を置き去りにしてゆく。続くのは永遠の退屈よ」
 それは木石と何の変わりがあるだろう。いや、初音は人を襲う事を考えれば、時にがけ崩れで人を飲み込む山というべきか。
「そんな私に、貴女の歌は、歌う姿は私に知れない未来の楽しさを、私が生きている事を、私の流れる時を感じさせてくれるの」

 私は本来、ファルの様な女に魅惑を感じない。澄んではいない精気、傷ついた魂。それらは私の好む物ではない。
 だが、私はファルに単なる欲情、昏い愉悦以外の、それ以上の何かを得たヒトの心に抱いていた。人が抱く思慕や情景とは似て異なる、何かを。
 それはファルの『夢』に、歌に対してだ。ファルの真摯さ、誠実さに満ち溢れた歌、歌う姿は私に蜘蛛の妖に生まれたての頃の、世の中の全てが美しく輝いて見えた頃を思い出させてくれる。
 理由は分からない。何か魂に通じるものがあるとしかいいようが無い。だが、この感情を蘇らせてくれる事実に比べれば、理由なんてどうでもいい。
 まるで思春期を迎えたばかりの少女の様な新鮮な感覚を、未知で広大な世界へ踏み入る感動を、遠い遠い月日が奪い去った鮮やかな景色を。ファルの歌は私にそれらを思い出させてくれる。

 歌を改めて聴いてようやく自覚した。私はファルに惹かれている。彼女の乾いてざらついた心に。それでも天上の星を目指す純粋な思いに。人の信義を裏切りながらも、ただ一つのものを求める至誠に。
 思えば『夢』を見る事が出来る人間は、私の知る限りごく一部の豊かな人間だけだった。殆どの人間はその日を暮らすのに精いっぱいで、一握りの糧の為互いを利用し合い、その結び付きから外れた者は命まで奪いつくされる。それが私の知る人間だ。
 だが、ファルは地を這う虫よりも生きるのに過酷な環境に置かれながら、己の才能と器量を磨き、そして人を利用し人を踏みにじり『夢』を手に掴もうとしている。
 『夢』の為に泥を舐め、星を見上げ飛び続ける。この泥と星を同時に見る彼女の稀有な在り方に私は魅せられている。


433 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:09:49 DGfCNbXQ0
「ファル。私は貴女が気に入ったのよ。貴女の穢れた心、それでも夢を純粋に追う至情、そして貴女の歌がね。
 私が人を喰らい、戦うのは私が生きるためだけど、それ以外に貴女が元の世界へ戻るために力を貸してもいいと思っているわ」
 初音はファルの汗ばんだ肌を掌で拭き、甘い息で喉を撫でた。ファルの身体が快感で跳ねる。
「……私の、為に……あなたが力を貸しても……。私は……感謝なんて、しないわよ……。私は……誰にも……感謝なんて、しない……」
 毒が回った熱い躰が荒い息遣いで冷気と酸素を求め、思考に靄がかかる最中、それでもファルは強い語気で初音に吐き捨てる。
「……どうせ……人は、利用し合うだけの……生き物だから……」

 結局ファルシータ・フォーセットは、そういう生き方しか、薄汚れた生き方以外選ぶことが出来なかった。

 初音は華やかに、妖艶に、皮肉気に笑った。その笑みは、ファルには『人』は『私』の間違いじゃないか、と言っているように見えた。
 そして初音は、ファルの躰を好きにした。

 初音が人を喰らう本気の行為に、ファルは悶え狂い、泣き叫び、果てては蘇り、蘇っては果てる。

 結局比良坂初音は、こんな形でしか、化物としてしか情愛を示せなかった。

 それでも、この瞬間、まるで『飢え』を満たすかのように二人は互いを求めた。
 何に『飢え』ているのか、その正体が分からないまま……。

 ――二人は紡ぐ。互いを結ぶ縁の糸を――


434 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:10:10 DGfCNbXQ0
【マスター】
 ファルシータ・フォーセット@シンフォニック=レイン
【マスターとしての願い】
 聖杯なんていらない。元の世界へ戻る。
 だけど、聖杯がなければ帰れないのなら、その時は……。
【weapon】
 無し
【能力・技能】
 夢に向かう確固たる意思。そのために努力を惜しまず、あらゆる手段を実行に移す行動力。人を裏切る行為や真意を隠す演技力。
 それらを支える強靭な精神力が武器といえるかもしれない。
【人物背景】
 近代イタリアに似た世界の出身。ピオーヴァ音楽学院の声楽科3年生で、元生徒会長。17歳。
 優しく、おしとやかで、誰からも好かれる人物。
 夢はプロの歌手で、そのための努力は惜しまず、才能も講師たちから高く評価されている。
 非の打ち所が無いところがかわいげがないが、嫌味も感じさせないほど、さわやかでもある。

 その裏では、平気で人を利用し、裏切り、捨てていく。
 人間関係は互いを利用し合うものと考え、誰にも感謝などしない。
 自分が捨てられた境遇を、世界を憎み、貧しさから必死に抜け出そうとしている。
 裕福な人間を妬み、自分を孤児院から引き上げた貴族を嫌いだと言い切る。
 純粋な人間を疎み、今までしてきた努力や裏の所業を知らずに無垢な瞳で憧れなどと言われると、その人物に殺意さえ覚える。
 そんな彼女は、夢に対してだけは限りなく純粋で誠実なのだ。
 その実現のためには、どんな努力や忌まわしい所業をも厭わないとしても。
【マスターとしての願い】
 自分の『夢』の実現に聖杯など必要ない。あえて願うなら『社会的地位』と『金』だろうか。
【方針】
 自分の様に巻き込まれ、脱出を目指すマスターを探し、本性を隠して手を組む。
 戦うか、脱出か、自分から決められないような中途半端なマスターは徹底的に利用する。
 戦いに乗ったマスターに対しては、まず情報、特に弱点を探る。
 とにかく打てる手段は思いつく限りすべて打ち、自分の利用できる武器はすべて使う。


435 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:10:51 DGfCNbXQ0
【クラス】
キャスター
【真名】
比良坂初音(ひらさか はつね)@アトラク=ナクア
【パラメーター】
筋力:C 耐久:D+ 敏捷:C 魔力:A 幸運:B 宝具:C
【属性】
混沌・悪
【クラス別能力】
陣地作成:C+
 自身に有利な陣地を作成できる。
 隠蔽に特化し、気配察知に優れたサーヴァントでも探るのは困難。元の場所と違う意匠でも全く違和感を感じさせない。
道具作成:C+
 魔力を帯びた器物を作成できる。
 糸で衣服や建物、生活用品などを織り上げる事が可能。やはり隠蔽に特化し、魔力の察知は困難。
【保有スキル】
堕天の魔:B
 彼女は堕ち、穢れ、それでも人を魅了する女郎蜘蛛である。
 真正の魔獣、魔物でしか持ちえない強い生命力や再生能力、スキルを得ている。
 人ではない事で、対人用の精神干渉への耐性も持ち合わせる。
吸精:A
 男女を問わず、相手の生命力、精を吸い取る事で幸運を除いたパラメーターをアップさせる。急速な傷の回復も可能。
 上昇値は吸精した相手の質と量による。
変化:C+
 文字通り『変身』する。女郎蜘蛛より人間の姿へと擬態している。
 サーヴァントの気配、ステータスや魔力を隠匿し、人間『比良坂初音』として認識されるようになる。
 手足の一部だけを解き、蜘蛛のそれへと戻すこともできる。この場合、筋力、耐久、敏捷値が上昇する。
怪力:B
 一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
女郎蜘蛛の籠絡:A
 男女問わず、心の隙間につけ入り、傷を広げ苛み弄び犯すための魅了の手腕。呪術、暗示も含むスキル。
 気を当てられた相手は徐々に初音に魅了されてゆく。逆に気を分け与える使い方なら体調や傷を回復させられる。
 他に糸で人の会話を収集したり、糸を付けた相手の記憶や意識を操作し、身体能力の限界まで操る事が出来る。
【宝具】
『他者擬態・蜘蛛乃巣(アトラク=ナクア〜ゴーイング・オン)』
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:10~40 最大補足:1000人
 初音が生み出した八体の要蜘蛛を用い、糸の結界を張る。
 結界は内部、外部の人間の精神に働きかけ、特定の領域を巣として人目につかないよう遮断し、記憶は初音の意図したとおりに改竄される。
 巣の中で初音にとらわれた人間は初めから存在しない者として扱われ、それを誰も疑問に持つことは無い。
 だが、要蜘蛛を仕留められる度結界は綻び、暗示が徐々に解けてゆく。
 戦闘時は無数の糸を吐き出す矛にも、巣と網、糸柱を幾重にも張り巡らす盾や罠にもなる。
『自己変態・女郎蜘蛛(アトラク=ナクア〜ヒュージ・バトル)』
ランク:C 種別:対妖(自身)宝具 レンジ:0 最大補足:1体
 身の丈十尺を越える女郎蜘蛛としての本性を現す。
 魔力と幸運を除いた全ステータスが1ランクアップ。後述する蜘蛛の糸や子蜘蛛の力も上昇する。
 吸精によりさらに巨大化し、全ステータスに+補正が付く。
 純粋無垢で最上質な魂を数十人も喰らえば、++補正が付くほど強化し、さらなる巨大化を果たすだろう。
『他者変態・妖ノ贄(アトラク=ナクア〜アダプション)』
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:― 最大補足:1人
 初音の網にかかった人間を、魔力を用いて不老の半妖(初音は贄と呼ぶ)へと変化させる。
 自我はある程度あるが初音に服従し、自らが蓄えた精、他者から奪った精を初音に提供して数十年をかけて滅んでゆく。
 本来は人間を初音の同族として造り替える能力である。

 以上の宝具は、クトゥルフ神話のアトラク=ナクアとは何の関係も無いのだが、その在り方の類似性から名がつけられた。
【Weapon】
蜘蛛の糸
 鋼鉄の数倍の硬度とカーボンファイバー以上の引張応力、瞬間接着剤以上の粘着力を併せ持つ。
 蜘蛛の巣のいわゆる縦糸と横糸のように、粘着性が有る粘糸、無い鋼糸とを調整できる。
 人間を操る起点にもなる。
子蜘蛛
 初音がほぼ無限に生み出せ、人間を喰らう。
 人間に仕込めば催淫剤にもなる。
【人物背景】
 齢400年を数える女郎蜘蛛。
 しとやかで妖艶で古風、凛々しく儚げ、そして残酷で気まぐれに優しい。

 宿敵である銀との決戦の果て、重傷を負った初音は傷を癒すため、ある学校に潜伏した。
 そこで凌辱されていた少女、深山奏子を気まぐれに救った事で初音の運命は廻り始める。
【サーヴァントとしての願い】
 仮初といえど、生を得た以上、それを自ら放棄する気は無い。ただ生き残る。
 そして、願わくば自身と奏子の行く末を……。


436 : 二人が紡ぐ物語の名は ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:11:08 DGfCNbXQ0
【把握資料】
 両方とも十数年前に発売されたゲームなので、入手は少々手間取ります。
 ただ、某動画サイトで全プレイ動画が投稿されているので、そちらなら把握は容易です。
 二人とも小説版で過去と心情が深く掘り下げられているのですが、入手困難です。

 シンフォニック=レイン
 HDリマスター版がSteamで販売されています。
 アトラク=ナクア
 廉価版がamazonで中古で販売されています。


437 : ◆Mti19lYchg :2021/06/07(月) 23:11:28 DGfCNbXQ0
以上、投下終了です。


438 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/08(火) 21:23:23 61nLaitQ0
>>二人が紡ぐ物語の名は
し、シンフォニック=レイン!! 見た時二度見しちゃいました。フェイバリットゲーム……。
作品の雰囲気をしっかりいい意味で引き継いでいる文章、そして台詞の自然さ、とても素敵でした。
静かながらとても美しい心理描写もさることながら、同じく静かにそれでいて着々と進んでいく話の起伏が素晴らしい。
ファルというキャラクターを描写する上では欠かせない歌を自然に作品の中に織り交ぜながら描かれた一作、見事でした。
そちらの企画もぜひ頑張って下さい! いつかお邪魔するかもしれません。


439 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/08(火) 22:19:57 m5.MlefM0
投下します


440 : 桐森蘭&ライダー ◆7PJBZrstcc :2021/06/08(火) 22:20:37 m5.MlefM0
「あ、あぁ……そんな……」

 少年は目の前の光景が信じられない。
 自身のサーヴァントが消滅していくという、絶望的な光景が。


 少年は魔術師である。故に聖杯戦争というものを知っていた。
 この模倣東京にやってきた当初は、知識にある聖杯戦争との違いに戸惑ったが、すぐに割り切った。
 違いが気にならないと言えば嘘になるが、そんなことより重要なことがある。

 栄誉だ。
 聖杯戦争に勝ち残り、聖杯を手に入れることができれば、それはとてつもない栄誉となる。
 そうなれば、魔術師としての栄光と聖杯と言う実利を一挙に手に入れることになる。

 その実現の為に彼はすぐにバーサーカーのサーヴァントを召喚をした。
 意思無き英霊を選んだのには訳がある。
 自分は誇り高き魔術師なので、使い魔ごときに指図されたくなかったのだ。
 そしてこの判断は正しかったと、彼は確信した。

 召喚されたバーサーカーは、全身鎧に大剣を振るう大男だ。
 彼が振るう剣は、これまでどんなサーヴァントであろうとも倒してきた。
 これまで倒したマスターが素人であることを差し引いても、バーサーカーは当たりだと思い、少年なりに信用していた。

 だから目の前で起きたことを現実と認識した時、少年が抱いたのはバーサーカーに対する憤慨ではなく驚愕だった。

 夜の闇に潜みながら進めるのが王道の聖杯戦争。
 その闇の中で少年の眼前にいるのは、マスターの少女とサーヴァントであるライダー。そしてライダーが呼び出した使い魔。

 マスターの少女ははっきり言って問題にもならない。
 少年よりも小さい、中学生くらいの少女で明らかに素人だ。事実、ここまで彼女は何もしていない。

 だが問題はライダーだ。
 最初、少年はライダーを大したことないと高を括っていた。
 外見はマスターの少女と同じかそれより小さいくらいで、赤い帽子とジャケットを纏ったただの少年にしか見えない。
 そして、ステータスも幸運と宝具以外最低ランクだ。
 これで侮らずに戦える気がしないくらいに、少年はライダーを見下していた。

「いけっ、ピカチュウ」

 しかし、ライダーが使い魔を繰り出してからは一変する。
 使い魔は黄色の、まるでねずみの様な、大きさは40cmほどと小さい生物だ。

「でんこうせっか」

 そして速い。ピカチュウと呼ばれた使い魔は、どう見ても身の丈に合わない速度を出し、バーサーカーを翻弄する。
 その姿をバーサーカーは捉えられない。
 ならば、とばかりに少年は戦略を変えた。

「バーサーカー! ライダーを狙え!!」

 少年が選んだのはごくシンプルな手。
 ライダーが使役しているねずみはおそらく宝具。
 ならば所有者であるライダー当人を潰せば、必然あのねずみも消える筈。

「■■■■■■■■――――――ッ!!」

 主の命に従い狂戦士は、この期に及んでまだ使い魔に指示を出し続けるライダーに向けて、大剣を振るう。

 ドォォォォオオオオン!!

 振るわれたバーサーカーの大剣は、地面に激突し轟音と共に土煙を生じさせ、辺りを覆い視界を阻む。
 だが少年は確信していた。
 あれでライダーは消滅したと。もうバーサーカーを阻むものはない筈だと。
 その筈なのに――


441 : 桐森蘭&ライダー ◆7PJBZrstcc :2021/06/08(火) 22:21:06 m5.MlefM0

「ピカチュウ」

 ライダーの声が響く。それに対し、最早少年はパニックを隠し切れない。

「何で!? 何で!? 何でだ!?」

 バーサーカーの攻撃が躱された? いいや違う。ライダーはあの場から一歩も動いていない。 
 防がれた? 受け止められた? どっちも違う。

 少年は思いつく可能性を次々否定していかなければならなかった。
 根拠は土煙が晴れて見えたライダーの足元にある。

 ライダーが立っている足元には、振り下ろしたバーサーカーの大剣が生み出した地面のヒビがある。
 これが意味することは、『バーサーカーの攻撃がライダーをすり抜けた』ということだ。
 この事実に気が付いた時、少年は茫然とした。

「…………」

 だがそんな少年を見かねたのかは不明だが、なんとライダーは攻撃が通用しなかった訳を説明し始めた。

 『ポケモンバトル』
 それは曰く、ライダーの世界のルールが宝具となったもので、敵サーヴァントとライダーの使い魔が決着をつけない限りマスターとライダーに対しての攻撃が無効化されるというもの。
 そしてライダーは、使い魔が全滅すると消滅するそうだ。

「……上等だ、やってや――」
「10まんボルト」

 ライダーの説明を聞き、事態を把握した少年は奮起するが、その瞬間にライダーは使い魔に攻撃の指示を出す。

 それは、とてつもない電流。
 辺りを照らす目を焼くほどの稲光が、尋常ではない電力がここに流れていることを思い知らせる。
 その光がバーサーカーを容赦なく焼き尽くした。

「■■■■■■■■――――――!!」

 バーサーカーの雄たけびが、ダメージの深刻さを伝えるが、この狂戦士もまた英霊。
 例え強烈でも、電撃の一つではまだ倒れぬと立ち続ける。
 だがあまりの電流に”まひ”したのか、バーサーカーは動けずその場に立ち尽くしてしまう。

「ピカチュウ」

 そしてライダーは容赦なく使い魔に追撃を指示する。
 すると、空にはさっきまでなかったはずの雷雲が集まり始め、ピカピカと空を照らす。

「天候、操作……っ!!」

 その意味を理解した時、少年は戦慄した。
 そんな並の英霊でも出来なさそうなことを、英霊のしもべごときが成しているのだから。
 その間もバーサーカーは少しでも逃げようともがいているが、雷光はそれを許さない。

「かみなり」

 ライダーの指示で雷がバーサーカーに降り注ぐ。
 さっきバーサーカーが出した轟音をはるかに超える爆音が辺りに響きわたり、その中には狂戦士の悲鳴も紛れていたが、誰一人それに気づくことなくバーサーカーは消滅した。
 そして話は冒頭に戻る。

「あ、あぁ……そんな……」

 サーヴァントの消滅。それは、聖杯戦争の敗北を意味する。
 勿論、ここからマスターを失ったサーヴァントを探して再契約すれば、復帰自体は可能かもしれない。
 だがそれより先に殺される未来の方が、可能性としては遥かに上だ。
 そんな絶望的な事実に怯えているのか、少年の目の前が徐々に暗くなっていき――


442 : 桐森蘭&ライダー ◆7PJBZrstcc :2021/06/08(火) 22:21:33 m5.MlefM0





「消えた……?」

 それが、バーサーカーが敗北してから最初の、ライダーのマスター、桐森蘭の発言だった。
 この言葉の意味はバーサーカーではなく、そのマスターにある。
 マスターである少年が、バーサーカーと同じく消滅したのだ。

「死んじゃったの?」
「…………」

 蘭の問いにライダーは首を横に振る。
 これもライダーの宝具の一つ『ダメだ!  しょうぶの さいちゅうに あいてに せなかは みせられない!』の効果。
 それは、宝具『ポケモンバトル』が敵マスターの同行時に発動すると、決着がつくまで勝負から逃がさないのと、決着がついた際に敗北したマスターを強制的に、最後に休息した場所に転移させるというものだ。
 その際、転移と同時に所持金の半分が勝利したマスターの所持金に加わるのだ。

「わっ、本当だ」

 ライダーの説明を聞いた蘭が自分の財布を検めると、確かに所持金が増えていた。
 蘭が思わぬ軍資金に驚いていると、どこからかパトカーのサイレンが響く。
 轟音に続く爆音に近隣住民が通報したのか、と考える蘭。

「逃げよう」
「…………」

 捕まるわけにはいかないので、蘭はライダーの手を引きこの場を逃げ出した。


 場所は変わり公園。
 流石にこの時間には誰もいないが、それでも蘭は慎重に辺りを見回し、人がいないことを確認する。
 そしていないと判断した蘭は、やっと一息ついた。

「ライダー、強かったんだね。ごめん、正直弱いと思ってた」
「…………」

 蘭の謝罪にライダーは軽く手を振り、気にしていないと伝える。
 それよりライダーが気にしていたのは、マスターの聖杯戦争に対するスタンスである。
 さっきは遭遇したから戦ったが、マスターが聖杯戦争をどう思っているかはまだ聞いてなかった。

「…………」

 だが人に聞く前にライダーは自分のことから話した。
 彼は聖杯に叶えてほしい願いはない。
 彼はただ、戦いに来ただけだ。生前では決して出会えない強敵と、未知なる戦いを求めてやって来たに過ぎない。
 だからマスターが聖杯を望もうとも、望まなかろうともどちらでもいい。
 その上で、ライダーはマスターに問う。

 すると蘭は、少々言葉に詰まりながらもライダーの問いに答えた。

「……私ね、少し前にお母さんが死んだんだ。
 それも悪い男に、お金目当てで」

 それをなかったことにして、お母さんを助けたい。蘭はそう言った。
 強い眼つきでそう言い切った。

「だからねライダー。
 悪いけど、相手に宝具のことを説明したりしないで」

 さっきみたいに『ポケモンバトル』について説明して、フェアに行こうとしないでほしい。
 蘭の切なる願いに、ライダーは頷く。

「いいの?」
「…………」

 蘭の不安げな声に、ライダーは首を縦に振った。
 そもそもライダーはさっきも言った通り、戦いに来ただけだ。
 そんな個人の享楽より、母親の為に命を懸ける少女の思いに応えようと思う善意が彼にもあった。


 これより始まるのは少女の願いに、少年が献身する物語。
 されど、少女の願いは正しいのか。
 その問いに対する答えは、少なくともここにはない。


443 : 桐森蘭&ライダー ◆7PJBZrstcc :2021/06/08(火) 22:22:04 m5.MlefM0

【クラス】
ライダー

【真名】
レッド@ポケットモンスター 金・銀・クリスタル

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運A 宝具A

【属性】
中立・善

【クラススキル】
騎乗:A++
乗り物を乗りこなす能力。
A++ランクでは竜種も含めた全ての乗り物を乗りこなすことが出来る。

対魔力:E
魔術に対する抵抗力。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

【保有スキル】
攻撃無効:-(EX)
普段は機能していない。
だが、ライダーの宝具『ポケモンバトル』が展開されるとこのスキルが発動し、自身とマスター、そして相手マスターに対して直接攻撃が無効となる。

仕切り直し:E〜A
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
場に出ている『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』の力量が、相手より上回っているだけこのスキルのランクは上昇する。

カリスマ(使い魔):A
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる。
ライダーのカリスマはポケモンなど使い魔限定。
ただし自身の使い魔のみならず、人から指揮権を委ねられただけの相手でも、彼の指揮下に入れば十全に従う。
8つのトレーナーバッジを持つ者に、従えられない使い魔は存在しない。

【宝具】
『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』
ランク:A 種別:対?宝具 レンジ:??? 最大補足:6
ライダーの手持ちポケモンにして、共に歩んだ仲間たち。
手持ちはピカチュウ・エーフィ・カビゴン・フシギバナ・リザードン・カメックスの6匹。
この宝具はいかなる攻撃を受けてもも死亡することは無い。ただし、一定以上のダメージを受けると「ひんし」となる。
そして、6匹全てが「ひんし」になるとライダーは聖杯戦争に敗北した扱いとなり消滅する。
「ひんし」を回復させるためにはライダーが一休み(ベッドなどで一定時間休息を取る)しなければならない。この間、ライダーは無防備となる。
また、この宝具が繰り出せる技にはわざポイント(以下PP)があり、繰り出せる回数が決まっている。
PPがなくなるとこの宝具は「わるあがき」しか出来なくなってしまう。
PPを回復させる場合もライダーは一休みしなければならない。

『ポケモンバトル』
ランク:C 種別:特殊宝具 レンジ:- 最大補足:-
ライダーの居た世界のルールが、聖杯戦争に際して宝具と化したもの。
戦意を持ったサーヴァントもしくはその使い魔がライダーの前に現れる、またはライダーが敵マスター、サーヴァントもしくは使い魔に勝負を挑むと発動する宝具。
この宝具が発動すると、ライダーは一体ずつしか『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』を繰り出せず、また相手も一体ずつしか戦闘できなくなる。
ただし、群体型に関しては一群で一体としてカウントされる。
また、この宝具が発動している間は自身、マスター及び相手マスターは自軍に対して指示、もしくは支援しか行う事が出来ず、相手に対する直接攻撃は禁止となる。

『ダメだ!  しょうぶの さいちゅうに あいてに せなかは みせられない!』
ランク:C 種別:特殊宝具 レンジ:- 最大補足:-
ライダーの居た世界のルールが、聖杯戦争に際して宝具と化したもの。
マスターとサーヴァントが共に行動している相手に『ポケモンバトル』が発動すると、更に追加で発動する宝具。
この宝具が発動すると、お互いに勝敗が決するまで逃走できなくなる。これは逃走用のスキルや宝具も無効化する。
そして決着がついた際、勝利したマスターに敗北したマスターの所持金半分が強制的に移動する。
最後にサーヴァンが消滅したマスターは、マスター自身が最後に休息した場所の前に強制的に転移される。
ただし、サーヴァントが消滅する前にマスターの意志で降参することは可能。
この場合、所持金の移動は起こるものの強制的な転移は起こらない。

【weapon】
『共に歩んだ仲間たち(ポケットモンスター)』

【人物背景】
カントー地方ポケモンリーグチャンピオン。
だが彼はその頂に立ったことで、満足な戦いを出来る相手が殆ど居なくなってしまった。

【サーヴァントとしての願い】
より強い相手と戦いたい。聖杯はマスターに捧げる。


444 : 桐森蘭&ライダー ◆7PJBZrstcc :2021/06/08(火) 22:22:27 m5.MlefM0

【マスター】
桐森蘭@金田一少年の事件簿 暗黒城殺人事件

【マスターとしての願い】
過去に戻り、あの男から母を守る。

【weapon】
なし

【能力・技能】
特になし。
ただ、年齢に見合わぬ発想力と行動力、そして決断力がある。

【人物背景】
元々は母子家庭で暮らす中学一年生の女子だった。
しかし、聖杯戦争に参加させられる少し前に母親が桐森岳志という男と再婚し、その直後に急死。
その死を怪しんだ蘭は、調べていく末に義理の父である岳志が保険金目当てに母親を殺害したと知った。
蘭は母の復讐の為に計画を練っていたが、それを構築するより先に聖杯戦争に呼び寄せられた。

【方針】
聖杯を手に入れる。
ライダーの性能がピーキーなので、どう活かすかを考える。

【備考】
参戦時期は本編登場前です。


445 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/08(火) 22:23:01 m5.MlefM0
投下終了です。
続いてもう一本投下します


446 : とびっきりのクソSS! ◆7PJBZrstcc :2021/06/08(火) 22:23:37 m5.MlefM0
「界聖杯を手に入れる為、今日も一日がんばるぞい!」



【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
ポプ子@ポプテピピック

【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運A 宝具E

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
復讐者:A
復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
ポプ子はどことなくムカつく。

忘却補正:C
人は忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
例え人々や竹書房がポプテピピックを忘れても、彼女は決して忘れない。

自己回復(魔力):E
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。
原作がギャグ漫画だから、そういう補正も働く。

【保有スキル】
不定形:A
このスキルを持つ者は、何もかもが一定しない。
背の高さも、キャラデザも、設定も、声さえも。
故に何でもできるし、何にでもなれる。

【宝具】
『ポプテピピック』
ランク:E 種別:対?宝具 レンジ:??? 最大補足:???
それは、たった一つのクソマンガだった。
しかし一旦終了したと思ったら、LINEスタンプの為に再び連載が始まり、挙句の果てにはアニメ化まで経験した。
今やポプテピピックは竹書房の都合で生誕と終焉を繰り返す不死鳥。

故にアヴェンジャーは、魔力の続く限り霊核が破壊されても何度でも蘇ることができる。
また現界している時に竹書房が存続する限り、アヴェンジャーのステータスがほんの僅かずつ上昇し続ける。

【weapon】
色々ある

【人物背景】
ポプテピピックの主人公。背が低い方。

【サーヴァントとしての願い】
竹書房-ッ!


【マスター】
ピピ美@ポプテピピック

【マスターとしての願い】
ポプ子ちゃんに付き合う

【weapon】
色々ある

【能力・技能】
色々できる

【人物背景】
ポプテピピックの主人公。背が高い方。

【方針】
がんばるぞいっ!


447 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/08(火) 22:24:03 m5.MlefM0
投下終了です


448 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/08(火) 22:32:48 61nLaitQ0
投下ありがとうございます。
感想は明日まとめて書きますね!

自分も投下させていただきます。


449 : ???&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/08(火) 22:33:26 61nLaitQ0


 界聖杯――及びその内界。
 誰かの願いを叶えるためだけに生まれ、作り出された模倣の世界。
 命もある、営みもある。魂もある。だが、此処に住まう人間は明確に二通りだ。
 何も知らぬまま、物語の舞台上に上がることもできないまま、世界の終わりと一緒に死んでいく者。
 そして。願いを持ち、外様としてこの世界の土を踏み、地平線の彼方を目指す者。

 前者に未来はない。どれだけ幸せな時間を過ごそうと、いつか必ず彼らの日常は奇跡の薪木となって終わるのだ。
 後者には未来がある。可能性の地平線を超えて界聖杯の奇跡をその手に収めたなら、先に待つ未来は万願成就。
 しかして、では後者――外の世界から界聖杯内界に招来された者達が絶対的に幸福であるかと言えば、それは絶対に否だ。

 何故なら、最後に残る椅子は一つしかないから。
 願いという景品が懸かっている以上は誰もが本気で、誰もが容赦しない。
 勝者の道を歩めている間はいい。だが、もし一歩でもそこから外れてしまったら?
 待ち受ける結末は一つだ。敗北という汚泥の沼が、ひび割れた器を呑み込んでしまう。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 そして、今まさに。
 一人のマスターが、その末路を迎えようとしていた。
 彼女のサーヴァントは既にこの世界に存在していない。
 戦いに敗れ、当然の結果として首を斬られた。令呪を使おうが何をしようが、決して覆せない確実な死。
 歴戦の英雄もそれを跳ね返すには到れず、黄金の粒子に変わって少女の希望は虚空の中へと溶けていった。

 ――にも関わらず、彼女は逃げていた。追われていた。

「(やだ、やだ、やだ、やだっ……!!
  死にたくない、死にたくない……!! こんなところで、し、死ぬなんて――絶対、嫌ぁっ……!!!)」

 しかしてそれは、何も特別なことではない。
 サーヴァントを失ったところでマスターはマスター。
 生かしておけば、最悪マスターを失ったはぐれのサーヴァントと契約を結び、再び敵として立ちはだかる可能性がある。
 そしてそうなれば一度手の内を見られている以上、見逃した側は絶対的に不利となる。
 だから特別矜持や拘りがなければ、敗れたマスターは見逃さずに殺した方が遥かに得だった。

「おいおい逃げるなよ、それでも魔術師か?
 誇りはないのかね、君には。全く嘆かわしい、たかだか使い魔を一匹失った程度で」

 さながらこれは悪趣味なハンターによる鹿狩りだった。
 手負いの鹿を敢えて一撃では仕留めず、惜しいところでわざと逃がし、けれど諦めることなく永遠に追いかけ続ける。
 事実マスター"だった"女は右足を引きずっており、歩みに合わせて地面に血の帯を引いていた。
 
「そろそろ追いかけっこも飽きてきたな。
 ……どれ、此処らでもう一発撃ち込んでみようか」

 嫌味な笑顔を浮かべた、僧衣の男。
 傍らに意思疎通のできない狂戦士のサーヴァントを連れた魔術師が、顔中を涙と洟でぐちゃぐちゃにして逃げる哀れな女を嘲笑う。
 その気になればもはや英霊の力を借りずとも簡単に殺せる相手だというのに、わざとありもしない希望の幻影に縋らせて。
 男は、この詰め将棋を楽しんでいた。そら詰むぞ、詰んでしまうぞ、頑張れ頑張れ逃げろ逃げろ。
 そんな下卑た言葉を吐き散らしながら、男はかつん、かつんと余裕に溢れた靴音を鳴らす。
 男の言葉に慌てたのか、女は逃げる勢いを早めようとし……哀れにも。足をもつれさせて転倒してしまう。


450 : ???&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/08(火) 22:33:51 61nLaitQ0

「あぐっ……!!」
「おっと、降伏かな」
「あ、ぁ……――あ、ああああああ……」

 閾値を超えた恐怖に、がちがちと歯の根の合わない音を鳴らす女。
 もはや腰が抜けて立つこともままならない彼女の前に立ち、男は右手を翳す。

「バーサーカーに殺させてもいいが……君の無様さはなかなかにそそる。
 そこで、どれ。もう少し可愛がってあげようじゃないか」

 女はこの時、全ての命運を諦めた。
 分かってしまった。自分はこれからこの男に殺されるのだと。
 それもただ殺されるのではなく、壮絶な拷問で延々と引き伸ばされ、長い時間をかけてゆっくりじっくり殺されていくのだと。
 
 ああ――なんでこんなことになってしまったのだろう。
 私は、ただ。界聖杯を手に入れて、死んだあの子を生き返らせたかっただけなのに。
 なのにどうして叶わないの。なのにどうして、こんなことになってしまうの。
 問い続けても答えは出ず、地平線の彼方に在るという界聖杯は一瞥すらしてくれず。
 女は迫る"地獄"の始まりに怯え、拳骨を振り上げられた幼子のようにきゅっと目を閉じた――



 その時、であった。



「――――――――――破ぁ!!」



 叩きつけるような気合の籠もった声が響くと共に。
 女と、そして彼女を今から嬲り殺さんとしていた男の眼前で――光が爆発した。
 あまりの眩しさに視界が塗り潰される。
 何が起こった。何が。いったい、何が。
 混乱の二文字で埋め尽くされた脳はろくな結論を弾き出してくれなかったが、しかし。
 意識が途切れるその間際、聞こえた気がした。

「他人の女とはいえ、可愛い子を無駄に恐がらせるのは男の仕事じゃないぜ」


451 : ???&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/08(火) 22:34:12 61nLaitQ0
◆◆


 目を覚ました時、女は病院に居た。
 足を弾丸のようなもので複数発撃たれていたと医者に聞かされたが、女には全く寝耳に水の話だった。
 彼女の記憶では、自分はいつも通り職場を出て帰途に着き、ぽつぽつと雨が降ってきて、雨かぁ、と思って。
 そこですべて途切れている。気付いたら病院のベッドの上に居て、目覚めるなりそんな話を聞かされたものだから、彼女は大層混乱した。

 その後警察の事情聴取を受けたが、答えられる有益な情報は一切なく。
 病室で聴取を担当した警官も、一体何が何だか分からないといった顔で首を傾げていた。
 彼女の近くには外国人の男性が倒れていたそうで、重要参考人として彼にも話を聞いたそうなのだが、やはり何も覚えていないの一点張りなのだという。
 現場付近の監視カメラを確認すれば、都合よく彼女が襲われたと見られる時間帯だけ映像が途切れている。
 近隣住民からもろくな証言は得られず、当事者の女も、参考人の男も揃って記憶喪失。
 
 一体自分は、何だってこんな怪我をしたんだろう。
 そんなことを考えながら包帯越しに傷を撫でていると、病室のドアが開いて、また人が入ってきた。
 小学生くらいの男の子だった。その顔を見て、すぐに女はぱあっと表情を明るくする。
 
 大事な大事な、目に入れても痛くない一人息子。
 長い闘病生活をつい最近終え、また外で走り回ったり遊んだり出来るようになった我が子。
 心配そうな顔で飛びついてきた彼の頭を撫でながら、女は苦笑した。

 ああ。せっかく毎日毎日病院に通う日々が終わったってのに、私がこうして入院してたら世話ないわね――。


 不思議な出来事だったけれど、それでも彼女は依然変わらず幸せだった。
 愛する息子と一緒に、彼女はこれからも平穏な日々を送っていくのだろう。
 いつまでも、いつまでも、この模倣世界が終わりを迎えるその時まで、幸せな夢の中を生きていく。

 ――彼女はもう。自分がこの世界の人間ではないということすら、覚えていない。


452 : ???&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/08(火) 22:34:40 61nLaitQ0
◆◆


「きっと死者が死者を呼ぶ潮の流れなんだろうぜ、ここは」

 ……〈寺生まれのTさん〉というネットロアがある。
 八尺様、くねくね、きさらぎ駅、姦姦蛇螺、ヤマノケ、リアル――など。
 一口にネットロアと言っても枚挙に暇がないが、〈寺生まれのTさん〉は間違いなくその中でもひときわ異質な作品群だ。
 
 何しろそもそも怖がらせることを目的にしていない。
 恐怖をもたらすはずの怪談を、言うなれば"茶化す"、怖くなくするために生み出された悪ふざけ。
 語り手の前に現れる怪異。そしてそれをあの手この手で瞬殺する、〈寺生まれのTさん〉。
 寺生まれはスゴイという様式美によって締め括られるいくつかの作品群。
 この界聖杯内界、英霊という名の死者に満ちた異界に顕現した"彼"は――紛うことなく、そのロアで語られる〈Tさん〉だった。

「だが、これで安心だな」

 彼はサーヴァントである。
 しかし、その傍らにマスターは居ない。
 否。この世界を隅から隅まで探しても、彼のマスターは見つからないだろう。
 "マスターだった人間"なら見つかるかもしれないが、その人物の頭の中にはもう聖杯戦争についての記憶も知識もなく、〈Tさん〉を従えるための令呪も無用の長物に成り果ててしまっているに違いない。
 
 この世界に招かれ、何らかの願いを抱いていただろう人間。
 けれど今、件の人物はすべてを忘れて――自分が何かを願っていたことも忘れて日常を過ごしている。
 彼の戦う理由も心の傷も、或いは欲望も、すべてかき消されてしまった。封じられて、しまった。

 〈Tさん〉は寺生まれ。
 破ぁ!の一言と共に、あらゆる怪異をなぎ払う。
 怪異そのものであれ、それに関わった記憶であれ、知識であれ。
 何であれ、破ぁ!の前には波打ち際の砂城同然だ。
 すべて、消える。あらゆる願いは、この〈Tさん〉を前にした時点でその形を保てない。
 この世界に居ながら何かを願い続けるということは、すなわち――界聖杯という怪異に触れられたという"体験"があったことを逆説的に証明してしまうから。


453 : ???&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/08(火) 22:35:13 61nLaitQ0


 〈寺生まれのTさん〉は、正義の味方などではない。頼れる先輩でも、歴戦のゴーストバスターでもない。
 彼は、現象だ。蒼い、蒼い、どこまでも果てしなく恐怖と狂気に満たされた世界――
 そこから縁を伝い、この地に這い出てきた〈寺生まれのTさん〉という名の現象。
 今は裏世界の深層にある"何か"の手からも離れて独立した、真の意味での現象だ。
 彼は善でなく、悪でもなく。秩序でなく、混沌でもない。
 マスターとの契約すら無意味にして不要。聖杯に託す願いなど、元から皆無。そもそも何かを願う機能すらこれには備わっていない。

 それでも彼は颯爽と、願い抱く者の前に現れるのだ。
 頼れるナイスガイの顔をして、気心の知れた先輩のような口調で何かを喋りながら。
 そして、叫び。すべての願いを、白く塗り潰す。

 ――破ぁ、と。そう叫んで。


【クラス】フォーリナー
【真名】〈寺生まれのTさん〉
【出典】裏世界ピクニック
【性別】男性
【属性】中立・中庸

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:EX 幸運:E 宝具:EX

【クラススキル】
領域外の生命:A+
 蒼い世界、裏側からの降臨者。
 理解不能の恐怖を骨子に現界し、独り歩くもの。

狂気:EX
 狂気そのもの。
 基本的に対話は意味を成さず、人が彼に対して抱く善悪の印象すらも、すべては意味のない空虚でしかない。

【保有スキル】
単独行動:EX
 マスター不在でも活動できるある種の"現象"。
 彼のマスターは既にマスター資格を失い、一人のNPCとして舞台の背景に溶けている。
 更に〈Tさん〉はサーヴァントではない人間の目から見た場合、前提知識がない限り"普通の人間である"と認識される。

神出鬼没:A
 あらゆる場所に、距離と時間を無視して突然出現する。
 際限があるのかないのか、何らかの法則に基づいて行われる転移なのか、すべては謎。
 だが〈Tさん〉を探る者、一度彼と接触し破ぁ!を受けたにも関わらず何らかの手段で回復した者などの前には、より積極的に姿を現す傾向にある。


454 : ???&フォーリナー ◆0pIloi6gg. :2021/06/08(火) 22:35:48 61nLaitQ0

情報抹消:B
 対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から彼の能力・真名・外見特徴が消失する。

【宝具】
『寺生まれのTさん』
ランク:EX 種別:対魔宝具 レンジ:1〜10 最大補足:30人
〈寺生まれのTさん〉というネットロアが、裏側の世界由来の現象として出現した形。
フォーリナーの霊基を持って現界するに至った彼の存在、及び全能力。それら全てを引っ括めて、一つの宝具。故に厳密には上記のスキル等も全てこの宝具の一部という扱いになる。
だがこの宝具もとい〈Tさん〉の真骨頂は、彼が"破ぁ!"の掛け声と共に行使する"寺生まれ"としての能力。
端的に言うなれば"封印能力"であり、破ぁ!を受けた人物の中にある、聖杯戦争にまつわる全ての記憶及び知識を封印することができる。
聖杯戦争においては、マスターが破ぁ!を受けた場合サーヴァントとの魔力パスまでもが封印される。
これを受けた場合、何らかの手段で記憶を取り戻さない限り対象が使役しているサーヴァントは休眠状態となり、現界や念話はおろかその存在を感知することも、自立思考することもできなくなる。
この状態が長く続けば続くほどサーヴァントとの縁・繋がりが希薄化していき、最終的には契約そのものが消滅。
サーヴァントは英霊の座に送還され、マスターは聖杯戦争のことを忘却したまま、誰かの願いが叶い内界が消滅するまで模倣世界の住人として生き続けることになる。

【人物背景】
〈寺生まれのTさん〉。
怪異に襲われる体験者を"破ぁ!"の掛け声と共に助けてくれる寺生まれの青年。
ちょっと気障だが頼れる、ナイスガイなゴーストバスター。

という設定は、"この"〈Tさん〉には一切適用されない。
人の言葉を喋り、雰囲気も穏当で対話ができそうに見えるが、その実彼との間に一切のコミュニケーションは成立しない。
裏世界、ウルトラブルー・ランドスケープ(UBL)から現実に這い寄ってきた〈寺生まれのTさん〉という現象。
彼は聖杯戦争に関係する全てのマスターの敵であり、全ての願いの敵である。

【サーヴァントとしての願い】
〈寺生まれのTさん〉。


【マスター】
???@???

【マスターとしての願い】
今はもうない

【能力・技能】
あったかもしれないが、今は思い出せもしない。

【人物背景】
界聖杯に可能性を見初められ、模倣世界に召喚されたマスター。
元の世界への帰還なり聖杯に託したい祈りなり、何らかの願いを持っていたと思われる。
今は破ぁ!によって戦いの運命から解放され、偽りの世界で平和な日常を過ごしている。
彼あるいは彼女の方から〈Tさん〉に干渉する手段は一切存在しない。

【方針】
今はもうない


455 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/08(火) 22:36:13 61nLaitQ0
投下終了です。


456 : ◆ylcjBnZZno :2021/06/09(水) 13:11:12 xNCTZFU60
投下します


457 : バンダ君/カトウ&ライダー ◆ylcjBnZZno :2021/06/09(水) 13:15:42 xNCTZFU60
息を切らした少年が夜路を駆ける。
何度も後ろを振り返っては表情をこわばらせ、脚を急がせる。

「畜生……畜生……!」

誘いこまれるように路地裏から路地裏へ。
光が遠ざかり、闇が濃くなっていく。

「令呪を使うか……?」

走りながら左手に光る紋様に一瞬目を遣り、しかしすぐにかぶりを振る。

「いや駄目だ。いつまで続くかもわからないのに、こんな序盤で軽率に切れるかよ……!」

足手まといだから先に逃げろ。そう言って殿を買って出た己のサーヴァントを思い出す。
あちらは無事だろうか。

「大丈夫……もう少し! もう少しだ……!」

もう少し先に行けばあまり知られていない抜け道から大通りに出ることができる。
人混みに紛れてしまえば逃げ切り完了。あとはゆっくり彼女と合流すればいい。
逃げ切りの目途が立ったことで少年の顔に笑みが浮かぶ。

角を曲がり、その抜け道に入る少年。
しかし、彼はそこで足を止めてしまった。

「……は?」


逃げ込んだ細道を塞ぐように、工事用フェンスが聳え立っていたので。


「ざっけんな! 何で行き止まりなんだよ!」

渾身の力でフェンスを叩くがびくともしない。
二度三度とフェンスを叩く少年だったが、突如はじかれたように今来た道を振り返る。

「畜生…こうなりゃ俺一人でだってやってやる……!」

何もない空間に向かって呻く。まるでそこに誰か、自分の命を脅かす何者かがいるかのように。
完全に体を反転させて、魔力で生成した円錐形の弾丸を浮かべる。


458 : バンダ君/カトウ&ライダー ◆ylcjBnZZno :2021/06/09(水) 13:16:43 xNCTZFU60

「俺だって聖杯戦争に選ばれたマスターなんだ! やってやるよぉおお!!」

少年は闘争とも超常とも、とんと縁のない普通の高校生だった。
しかし彼は一般的な魔術師の数十倍の量の魔力をその体内に秘めていた。
この聖杯戦争にマスターとして召集された彼は、召喚したサーヴァントに魔術を教わったことで十分な戦闘力を持つ魔術師となったのだ。

咆哮と共に放たれた魔力弾が前方の建物を粉々に破壊する。
粉砕された建物から巻き上がる煙が視界を遮った。

「やったか!? 畜生、姿を見せやがれ卑怯者!」

一発受ければ対魔力をもつサーヴァントにも傷を負わせうる威力の弾丸を、二発、三発と生成しては虚空に向けて撃ち込む少年。
その顔から恐怖の色が引くことはない。
まるで、追いすがる見えない何かの手を振り払わんとするかのように。
四発、五発。もはや狙いもつけず闇雲に撃ち込む。

「汚えぞ! クソパンダ野郎ぉおお!!」

再び少年が咆哮し、六発目を生成する。
これまでとは比べ物にならない量の魔力が込められた巨大な弾丸。
当たればサーヴァントの霊核すら砕くであろう一撃。

「……お?」

突如、その叫びが止まり、生成されつつあった弾丸が霧消する。

膝をつく少年。
その腹部は赤く染まっていた。

「なんだ…これ?」

愕然とする少年の首に赤い線が走り、鮮血が噴出した。


30秒後、倒れ伏したその少年を、パンダの着ぐるみを着た男が見下ろしていた。


◆◆◆


二騎のサーヴァントが激突し、轟音が周囲に響く。

片方はキャスター。ポニーテールを揺らして快活に飛び回る少女。
片方はライダー。眼鏡をかけた痩身の小男。

ライダーの背後、何もない空間から召喚されたバルカン砲が火を噴けば、キャスターの魔力障壁が弾丸をはじく。

キャスターが浮かべた魔方陣から魔力弾を放てば、ライダーの召喚した鋼鉄の腕がそれをはじく。

「そんな豆鉄砲がオイラに効くと思ってるでやんすか?」
「それはアタシのセリフよ!」

互いに挑発しながら繰り返される、一進一退の飛び道具合戦。
一見互角に見えるが、その実優位に立っているのはキャスターの方である。
キャスターの魔力弾や魔力障壁は通常攻撃だが、ライダーの召喚する鋼鉄の腕は宝具である。魔力の消費量は比べるまでもない。
このままではライダーはジリ貧に陥り敗北してしまう。

だが5分ほど続けたところでキャスターが痺れを切らした。
ライダーの銃撃に合わせて大きく後方に跳んで距離を取る。


459 : バンダ君/カトウ&ライダー ◆ylcjBnZZno :2021/06/09(水) 13:17:36 xNCTZFU60

「これ以上削り合うのも不毛だし、先に逃がしたマスターも心配。
 だから、そろそろ決着つけさせてちょうだい」

告げると同時、手に持つ杖を構え詠唱を始める――これまでの攻防で一度も行わなかった詠唱を。

さきほどキャスターの魔力弾を『豆鉄砲』などと挑発したライダーだったが、さすがにこれには瞠目せざるを得なかった。

これまで放たれていた魔力弾は低く見積もってもBランク相当。宝具だから受けることができていたが、身体に直撃すれば一撃で霊核が吹き飛びかねない代物だった。
それを無詠唱で放つ手合いが、わざわざ詠唱を行って放つ攻撃。どれほどの威力になるか想像したくもない。

召喚するバルカン砲を二門に増やして十字砲火を行うが、魔力障壁に阻まれキャスターには届かない。

そしてキャスターの背後から空に向かって、無数の魔方陣が展開されていく。
そのひとつひとつに魔力が充填されて、闇夜を照らす星のように輝く。

「いいんでやんすか? こんな序盤でそんなに魔力を使ってしまって!」
「問題ないわ。 アタシのマスターの魔力は底なしだもの!」

バルカン砲を斉射しながら揺さぶりをかけるも効果はなく、魔力障壁も魔力の充填もほころぶ気配がない。

「さあ、消し飛びなさい!」

ついに詠唱が完了し、魔方陣が一層輝きを増した。
放たれる砲撃は、彼の召喚する鋼鉄の腕もろともライダーを消滅せしめるだろう。
キャスターが己の宝具を解き放ち、この戦いは終わりを告げる。


460 : バンダ君/カトウ&ライダー ◆ylcjBnZZno :2021/06/09(水) 13:19:00 xNCTZFU60

「『極大魔術――――え?」

そのはずだった。


違和感を感じ振り返ったキャスターが見たものは、己の展開した魔方陣が次々に霧散し夜空に消えていく様。
起きている現象が理解できずに狼狽するキャスターの魔力障壁を突き破り、バルカン砲の弾丸が腹部に突き刺さる。

「どうして…」

信じられなかった。
戦いが始まってから己の勝利を疑ったことなどなかったのだ。

キャスタークラスの中でも指折りの戦闘力を持つ自分が、素質あるマスターに引き当てられた。
宝具を解放して緒戦を勝利で飾れることを確信するには十分な要素がそろっていた。
そのはずだったのに。


「さあ? どうしてでやんすかねえ!?」

そんな言葉と共に振り下ろされたドリルが、キャスターの全身を粉砕した。


◆◆◆


『飛ぶやつ』と呼ばれるロケットで空を飛び、ライダーが着ぐるみ男と合流する。

「お、そっちも終わったか」
「けっこうギリギリだったでやんす。 もう少し早く殺してほしかったでやんす」
「結構しぶとかったんだよ、このガキも。 お前こそもう少し魔力を使わずに勝てなかったのかよ」
「カタログスペックでは完全に向こうが上だったでやんすからね」

この着ぐるみ男も先ほど殺された少年同様、聖杯戦争に選ばれし者であり、ライダーのマスターでもあった。
互いの仕事に対する不満を垂れながらも、志を同じくしているため互いに深くは責めない。

「こんな調子で本当に優勝なんてできるのかよ」
「とりあえずしばらくは情報収集に徹したいところでやんす。
 その異能(シギル)とかいう力も偵察においては最強でやんすから、マスターにも苦労をかけるでやんすよ」
「あんまりアテにされても困るぞ。これで色々制約はあるんだからよ」
「そうは言うでやんすがね。オイラは直接戦闘はあまり得意じゃない、集団を率いて戦う方が得意なのでやんす。
 手足になってくれる駒を作るためにも、独力で倒せるサーヴァントを割り出しておきたいのでやんす」
「それでサーヴァントを失った元マスターに甘言囁いて手駒にしていくと」

そうして言いなりになる存在を手駒としてうまく使い、優勝を目指すのが彼らの方針だ。
先ほどの主従のような強すぎる存在はとっとと殺してしまうに限る。

「悪いやつだなあ」
「教師でありながら水商売の女に入れあげて何人も殺してる人間に言われたくないでやんす」
「リカさんに会うためだ。 やむを得ない犠牲ってやつだよ」


そうして拠点としている安アパートに向かって歩きだす。


マスターは入れ込んだキャバ嬢に会うために。
サーヴァントは世界征服を果たすために。


聖杯を求める二人の戦いが始まった。


461 : バンダ君/カトウ&ライダー ◆ylcjBnZZno :2021/06/09(水) 13:21:17 xNCTZFU60



【クラス】
ライダー

【真名】
カメダ@パワプロクンポケットシリーズ

【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力C 幸運E 宝具EX

【属性】
中立・悪

【クラススキル】
騎乗:C
 正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせ、野獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

対魔力:D
 一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力

【保有スキル】
ラスボスからの凋落:A
 初登場時は物語の黒幕・ラスボスとして登場したものの、シリーズを追うごとに噛ませ犬や単なる被害者といったポジションに落ちぶれていったことを象徴するスキル。
 召喚直後はステータスが本来よりも大きく向上した状態で召喚されるが時間経過と共に下降し、更にやることなすことがうまくいかなくなっていく。
 マスターもサーヴァント本人もこのスキルの存在を認知することができない。

不撓不屈:A
 幾度敗北し、失敗しても決してあきらめなかった精神がスキルとなったもの。
 窮地に陥るとステータスが向上する他、決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお最終的な勝利のために足掻き続ける。

カリスマ(偽):B
 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる。
Bランクでは国を率いるに十分な度量。
(偽)であるため不信任や利害の不一致などを原因として容易に離反や造反を招く。

直感:C
 つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
 カメダの場合戦闘中には発動しない代わりに、戦術、戦略上己の妨げとなる事象の発生を察知できる。

【宝具】
『時空渡る機巧巨人(ガンダーロボ)』
ランク:B 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:4人
 カメダの操る巨大ロボット。全長18m。
 大規模破壊用ゴーレムであるため本来は紛れもなく対軍宝具だったのだが、主人公達に白兵戦で負けまくったという逸話から宝具としての格が落ちてしまった。
 基本的に全身は見せず、体の一部だけを召喚し攻撃する。
 真名開放を行うことで全身が具現化され、搭乗することができるようになる。
 兵装はガンダービーム、バルカン砲、火炎放射器、ミサイル、ガンダーパンチ、ガンダードリル、自己修復機能

『時空間移動装置』
ランク:EX 種別:対人〜対界宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
『時空渡る機巧巨人』に搭載されている機能の一つ。
 異なる並行世界に移動することができる。 ただし、同じ世界の同じ時代には一度しか行くことができない。
 使用すれば聖杯戦争の舞台からも脱出可能な代物……なのだがジオット・セヴェルスにパスワードをかけられてしまい、起動させることができなくなってしまった。
 カメダが終生解けなかったという逸話からこのパスワードは呪いの域に達しており、ジオット本人が入力しない限り(たとえ入力しうるすべての数列を入力したとしても)解除されることは決してない。

【weapon】
・『時空渡る機巧巨人』に搭載されている各種兵装
・飛ぶやつ

【人物背景】
世界征服を目論む悪人。
極めて利己的且つ冷酷非情な性格でいくつもの事件を引き起こしているが悔いるそぶりすら見せない。
世界の征服を試みては撃破され失敗しており、失敗するたびに時空間移動装置でほかの並行世界に移動して世界征服をやり直す、ということをしているが、シリーズを重ねるごとに悪役としての扱いがぞんざいになっていく。
最終的には時空間移動装置にパスワードをかけられ世界移動ができなくなり、遂にカメダの野望は潰えてしまった。

【サーヴァントとしての願い】
世界征服


【マスター】
バンダ君/カトウ@ダーウィンズゲーム

【マスターとしての願い】
もう一度、そして何度でもリカさんに会うための金(ポイント)を得る

【weapon】
包丁
西京パンデミックスのマスコットキャラクター『バンダ君』の着ぐるみ

【能力・技能】
異能(シギル)『隠形(ステルス)』
 ダーウィンズゲームでカトウが得た異能(シギル)。
『全身を衣類で覆うこと』が発動条件で、連続使用はできず、早く動くと背景から浮き上がってしまうなどの弱点はあるが、効果は所持品や衣類にもおよび、暗殺や偵察に使える強力な異能である。

【人物背景】
主人公・スドウ カナメの通う高校の体育教師。
ポイントを他の参加者と奪い合う『ダーウィンズゲーム』のプレイヤーの一人で、新人狩りとして知られていた。
キャバクラ通いが嵩んで借金で首が回らなくなり、Dゲームのポイントを金銭に換えるため無関係な人間をゲームに招待しては殺害していたが、カナメにバトルを仕掛けて返り討ちに遭い、ポイントをすべて失い死亡した。

【方針】
聖杯の獲得を目指す。


462 : ◆ylcjBnZZno :2021/06/09(水) 13:21:39 xNCTZFU60
投下終了です


463 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/09(水) 20:15:40 PtuHSB0Q0
>>桐森蘭&ライダー
まさかのサーヴァントにポケモントレーナー、まずこの時点で驚きましたが。
ポケモンバトルというシステムを上手く聖杯戦争に当て嵌めていて、その発想の柔軟さに感心しました。
寡黙なレッドではありますが、彼は間違いなく善性に基づいた存在なのでその点では優良物件か。
とはいえ蘭の考え的にも、生前のような正々堂々としたバトルばかり重ねていくことは出来ないのだろうなあ……。

>>とびっきりのクソSS!
わーいポプ子とピピ美が竹書房界聖杯内界支部に殴り込み!
以上です! これ以上感想なんてあるか!!

>>バンダ君/カトウ&ライダー
パワプロクンポケットシリーズといえば野球ゲーム(大嘘)なことで有名ですが、聖杯戦争の場でも遜色なく暴れておりさすがの一言。
コミカルな口調や言動からは想像出来ないようなエグい戦闘方法が印象的でした。
主従揃って誉れある戦いとかには興味無さそうなので、そういう意味でも他のマスターにしてみれば脅威か。
世界征服というステレオタイプな悪役思想を大真面目に追い求める、そういうキャラ造形は個人的に好きです。

皆さん本日も投下ありがとうございました!


464 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/09(水) 22:32:50 PtuHSB0Q0
投下します


465 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/09(水) 22:33:49 PtuHSB0Q0


「……、」

 夢を――見た。
 世界の終わりのような夢だった。
 さりとて、悪夢を見たという印象はない。
 
 群れを成す鋼の群々、それと相対する戦の神。
 青年の世界に御わす、八つ裂きにしても飽き足らない邪神と同一の存在ではないのだろうが、夢の中の視点でも一目でそれが神だと分かった。
 荘厳にして超大。ヒトの形をしていることが不思議に感じられるような、あまりにも破壊的な力の塊。
 機械の大軍を単身で相手取るという構図でありながら、しかしそれでも神は圧倒的な"個"だった。
 個で以って群を圧する。そんな、世界中のありとあらゆる兵法を瓦解させてしまうような出鱈目な存在だった――そう見えた。
 しかしそんな雄々しく強い"絶望"の神性にも、群れ成す機械達は臆することなく。
 戦いを終わらせるための、最大にして最後の一撃を放ち……気付けば瞼が開き。仮の塒として利用しているホテルの天井を見つめていた。

「……おはよう、マスター……。もう、お昼……よく、寝れた?」
 
 主の起床に気付いたのか、彼と契約で結ばれているサーヴァントが声を掛けてくる。
 身体を起こすことなく視線だけでそちらを見れば、既に彼女は霊体化を解除し、像を結んでそこに居た。
 見てくれは黒髪の少女。年の頃は恐らく十歳かそこらだろう、人間の見た目で換算すれば。
 
「……夢を見た。
 マスターとサーヴァントは契約で繋がってるから、相手の過去を夢に見ることがある――それは知ってたが、まさか本当に見るとは思わなかったよ」
「……ゆめ。それ、シュ――アーチャー、の?」
「真名でいい。監視カメラや使い魔の目がないのはお前のお墨付きだろ、アーチャー」
「……ん。誰か見てたら、シュヴィ……すぐ、気付く……」

 サーヴァント・アーチャー。真名を、シュヴィ・ドーラ。
 あらゆる世界線から"可能性の器"を呼び寄せているからなのか、此処での戦争で召喚されるサーヴァントは異世界の存在であることが多いというが。
 青年と"シュヴィ"もそのパターンだった。少なくとも彼はシュヴィ・ドーラなどという名の偉人や神に覚えはないし、彼女から伝え聞いた世界の話を加味しても、とてもではないが同じ世界の出身者であるとは思えない。
 異界の英霊。機械の身体を持つ、弓兵の少女。
 否、正式には――【機凱種(エクスマキナ)】と、いうらしい。
 この少女こそが青年のサーヴァント。青年が界聖杯を手に入れ願いを叶えるためその背を預ける、英霊という名の兵器であった。


466 : 不治&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/09(水) 22:34:41 PtuHSB0Q0

「それ、で……マスター。シュヴィの、なに、見たの……?」
「"神殺し"だよ」

 正確には、先の夢の結末を見届けられたわけではない。
 最後の一撃が放たれるや否や世界は白く染まり、気付けばこうして目が覚めていた。
 だが、不思議と青年にはあの夢の結末が分かった。
 死んだのだ、戦神は。勝ったのだ、機凱種は。シュヴィ・ドーラは。

「……それ。シュヴィじゃ、ない。
 シュヴィが、消滅した後に……シュヴィの同族たちが、成し遂げたこと……」
「いいや、お前の成し遂げたことで合ってる筈だ。
 そうじゃなきゃ、俺が見知らぬ世界のそんな光景を夢に見るワケがないからな」

 ふるふると首を振るシュヴィに、マスターの青年はそう言う。
 真っ白な天井を見上げながら、思い返すように言葉を紡いだ。

「形はどうあれ、あれはお前のやったことなんだろ。
 少なくともオレは、そう思った」
「……、」

 シュヴィはその言葉に何も答えなかったが、彼の言葉はある種的を射ていた。
 確かにシュヴィは、最強の戦神"アルトシュ"との戦いには居合わせられなかった。
 その前に彼女の肉体は消滅し、死亡してしまっていたからだ。
 しかし、である。シュヴィが――心を持つ機凱種などというイレギュラーが生まれなければ、あの光景は決して有り得なかった。それは確かだ。
 
 とある人類種(イマニティ)との出会いを経て、シュヴィは心を得た。
 それはいつしか愛情に変わり、死の間際に彼女はそれを全ての同胞へと伝えたのだ。
 彼女は死んだが、その"想い"は繋がれた。
 残された機凱種達は軍勢となって最強の神とその軍勢に立ち向かい、神殺しは成し遂げられ。
 そして。シュヴィが愛したちっぽけな男が、大戦の終わりを導いた。
 神殺しを以って完遂されたあの偉大な物語に、シュヴィ・ドーラの存在は必要不可欠だった。それは彼女がどれだけ謙遜しようとも、決して揺らぐことのない事実。

「凄えな――お前も、お前の同族(なかま)達も。
 お世辞でも皮肉でもねえよ。素直にそう思う」

 だって、お前らは。神を――殺してみせたんだ。

 そう言って青年はようやく寝台の上から身を起こすと。
 枕の脇に置いてあった眼帯を手に取り、片目を隠す。
 伸びをするまでもなく身体は万全の状態だった。
 夢に没入し長く眠っていたためか、溜まっていた疲れもすっかり消えてくれたらしい。

「マスター、は……殺したい、の?」
「神をか?」
「……ん……」
「ああ、殺してやりたい。
 何しろ諸悪の根源だ、文字通りのな。八つ裂きにしても飽き足りないさ」

 彼は――神に、全てを奪われた者の一人だ。
 否定者。何かを"否定"して生きる宿命を課せられた能力者。
 今や彼の手は、彼が触れた全ての武器は、等しく癒えない傷を与える特性を帯びる。
 傷口は塞がらず、応急処置すら意味を成さず、"否定"を解除するために彼を倒そうとする行動がそもそも否定される。
 人間の身には余る能力。アンリペア――不治。さりとてその力を誇りに思ったことも、ありがたいと感じたことも、共に一度たりともない。

 彼に、リップにとって。
 彼だけでなく、"否定"を背負わされた大半の能力者達にとっても。
 神の悪意が具現化したようなこれらの力は、呪い以外の何物でもなかった。
 言うなれば人生を狂わされたことの証だ。とてもではないが、祝福(ギフト)などと呼べるような代物ではない。


467 : 不治&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/09(水) 22:35:06 PtuHSB0Q0

「だが、聖杯が手に入るならそんな奴の処分は"ついで"だ。
 オレにはそんなクソ野郎のことよりも、優先して叶えるべき願いがある」

 界聖杯は、真の意味での全能の願望器であるという。
 リップにとっては神など、最大の願いを叶えるついでで不在証明を突き付けてやればいい程度の存在でしかない。
 本当にあらゆる願いを叶える奇跡なんてものが存在し、この手に収まると言うのならば。
 まず真っ先に叶えるべき願いは――、

「オレは何が何でも……オレの、オレ達の人生を"やり直す"。
 そのためなら、オレは誰だって殺せる。この忌々しい力にキスをして、何人だって殺してやる」

 全ての始まり。或いは、終わり。
 "あの日"をやり直し、あるべき未来に戻すこと。
 それはリップの願いであり、彼の相棒である女の願いでもきっとあるはずで。
 故にこそ負けるわけにはいかなかった。どんな手でも使い、可能性の地平線を踏破する必要があった。
 
「……"シュヴィ"。お前の頼みについては、オレはちゃんと覚えてる」
「……マスター……」
「だが、そうしなきゃいけない時が来たら期待はするな。
 こればかりは、こんな人でなしを引いちまった自分の運を恨んでくれ」

 力のみならず、その覚悟も――ヒトの器にはもはや余るもの。
 
 そんなマスターの、人類種の青年の姿を見るシュヴィの目は。
 どこか懐かしいものを見るようでもあり、届かない何かを見るようでもあった。
 彼女は、知っていた。こういう目をする人間を知っていた。――愛していた。

 それは、シュヴィの最愛の人。
 シュヴィの世界の全てと言っても良かった、伴侶。
 彼が進んだ道は、今目の前のマスターが進んでいる道とは真逆だった。
 死を容認せず、それでいて勝利を決して妥協しない――不殺の道。
 一見するとその道は、魔道にも似たリップの道とはまるで似つかないように思われたが。

 必ず目的を遂げるのだと誓い、一心不乱に進む姿は……確かに、似ていた。
 だからシュヴィは、愛する人の居ないこの世界を捨てられない。
 多くの血と不幸を生み出すと分かっていても尚、彼というマスターを見捨てられない。
 マスターを殺すのはしたくないと意向を伝えることはしたし、彼も今言ったようにそれを覚えてくれてはいる。
 だが――これもまた、彼が今言ったように。
 そうせねばならない時が来たなら、聖杯の獲得に全てを懸けるリップは躊躇なく刃を振るうだろう。

「(……リク……)」

 リクなら、どうする?

 そんな質問をしてみたい。
 でも、答えが返ってくるはずはなくて。
 シュヴィはその心に秘めた小さな、しかし決して消えることのない願いごとを再認識した。
 輪廻転生の無い世界で、永遠に分かたれた二人の運命。
 それをもう一度、交差させることができるなら。界聖杯の力は、そんな奇跡でさえ叶えられるというのなら。


468 : 不治&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/09(水) 22:35:44 PtuHSB0Q0

 ――リクに会いたい。

 一瞬でもいいから、会いたい。
 哀しき男の背中を見つめながら、シュヴィはきゅっと自分の胸を抑えた。


【クラス】アーチャー
【真名】シュヴィ・ドーラ
【出典】ノーゲーム・ノーライフ
【性別】女性
【属性】中立・善

【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:A 幸運:B 宝具:EX

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【保有スキル】
機凱種:EX
 【十六種族(イクジード)】位階序列十位、エクスマキナ。
 太古の昔に不活性化した神霊種に創られた、生物ならざる機械。
 疑似精霊回廊接続神経から精霊回廊の精霊を吸い上げ動力を賄うため、出力の割に魔力の燃費が非常に良い。
 彼女は、機凱種の在り方と未来を大きく変えた特異点である。故にランクは規格外に分類されている。

心持つ機械:A
 シュヴィ・ドーラという存在にとって、どんな武装にも優る大切なもの。
 機凱種の落伍者でしかなかった彼女が英霊の座に登録されるに至った理由。
 後に誰にも知られない偉業を成し遂げた【人類種】の青年との交流の中で芽生えた――心。

高速演算:B
 機凱種としての演算能力。
 宝具を解放しない状態の彼女は"単独機"であるためランクがやや落ちるが、それでもその性能は人間の限界を遥かに置き去る次元にある。

【宝具】
『典開・偽典兵装(シュヴァルツァー・アポクリフェン)』
ランク:A 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:100
 解析とそれに基づいた設計/模倣に長けた種族である機凱種が、熾烈極まる大戦の中で生み出しては貯蔵してきた武装。
 種族全体で保有する数は27451。シュヴィは戦闘を役割としない個体だが、それでも47を固体単位で保有している。
 攻撃から高速移動系まで多種多様武装を保有するが、この宝具の真に恐ろしい点は敵の攻撃を"解析"することも可能なこと。
 後記する第二宝具を解放しなければ全霊である"同期"状態にはなれないものの、機凱種の性能を活かした解析で敵の宝具を模倣し、新たな武装として使用することができる。
 無論、同期を完了した状態で模倣を行えば。その完成度はより絶大なものとなるだろう。

『全典開(アーレス・レーゼン)』
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:- 最大補足:-
 真名解放を以って、彼女の霊基の内側に存在する全機凱種のクラスタと同期状態に入る。
 全武装、全火力、全装置を限界まで同時典開することができるようになり、その際の姿は遠目から見ると巨大な翼に見える。
 同期前のシュヴィとは次元違いの戦闘能力を得られるが、それに加えて、同期を完了した状態のシュヴィは"神殺し"の特性を獲得する。
 これは彼女亡き後、その"心"を継いだ機凱種達が最強の戦神を滅ぼした逸話に基づいており、神及び天使の特性を持つ敵に対して特攻を発揮する。

【weapon】
 機凱種としての武装

【人物背景】
機凱種の少女。見た目は十歳ほどの黒髪の少女に見える。
とある人間と出会い、絆を深め、心を得た。
結果的に彼と添い遂げることはできなかったものの、彼女の存在と残した遺志は未来へと繋がれていき、遂には永遠に続くと思われた【大戦】を終結させるに至った。

【サーヴァントとしての願い】
叶うのなら、もう一度リクに会いたい。


【マスター】
リップ@アンデッドアンラック

【マスターとしての願い】
界聖杯の力を手に入れ、"彼女"を救う

【能力・技能】
不治(UNREPAIR/アンリペア)
 自身が付けた傷の治癒を否定する能力。
 彼が誰かに刻んだ傷は、文字通りリップ本人が死ぬまで治らない。
 止血などの治療行為も否定する他、この能力の詳細を知った上で"リップを倒すこと"を目的として攻撃を試みると、その行為自体が"治療行為である"と見做され同じく否定される。

【人物背景】
 眼帯の青年。否定者で構成される集団、"アンダー(UNDER)"に所属する。
 過去は医者だったが、執刀中に否定者としての能力が発現。
 それにより命を奪ってしまった女を救い、やり直すために"アーク"を求める。

【方針】
聖杯狙い。敵サーヴァントの排除を進める。
アーチャーの意向は一応汲むが、縛られすぎるつもりはない。


469 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/09(水) 22:36:19 PtuHSB0Q0
投下終了です。


470 : ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:10:28 aGMUwBYo0
皆さま、投下乙です。
それでは自分も候補作を投下させて頂きます。


471 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:12:18 aGMUwBYo0
 わたし、星奈ひかる! 宇宙と星座が大好きな中学二年生!
 今日もプリキュア……じゃなかった! 今回はサーヴァントになって……描こう! わたしだけのイマジネーション!


472 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:13:05 aGMUwBYo0


 ◆


 私は櫻木真乃。
 鳥さんや山登りが大好きですが、お友達があまりいない女の子でした。
 私は、そんな私が好きじゃありませんでした。でも、内気な私のことを変えてくれた男の人……プロデューサーさんとの出会いは、今でも忘れることができません。
 あの日、公園でピーちゃんと一緒に歌っていた私を、プロデューサーさんはアイドルに誘ってくれました。最初は戸惑いましたけど、プロデューサーさんの言葉に後押しされて、私は283プロダクションでアイドルデビューを果たします。
 お仕事やレッスンは辛かったですが、とても楽しくて充実しました。風野灯織ちゃんや八宮めぐるちゃんという素敵な女の子達と出会い、無限の可能性を瞳で輝かせるアイドルユニット・イルミネーションスターズを結成しています。
 そして、私達は3人でたくさんのライブを実施し、数え切れない程の人達を笑顔にすることができました。
 あぁ。私は……いいや、私達はみんなの翼で飛ぶことができると、心から嬉しくなりました。


 私の活動期間に比例して、283プロのアイドルもどんどん増えました。
 ストレイライト、ノクチル、シーズ……新しいユニットが結成され、283プロもどんどん成長していきます。
 でも、私は肝心なことを忘れていました。私はプロデューサーさんの隣で頑張っていましたが、プロデューサーさんは30人を超えるアイドルをプロデュースしていたことを。
 当然、事務員の七草はづきさんや天井努社長の負担も大きくなっていました。アイドルのみんなはお仕事で忙しかったですが、それは裏方の皆さんも同じです。
 もちろん、私達アイドルもプロデューサーさん達には無理をしてほしくなく、休んでと何度も言いました。でも、283プロは簡単に止まれない程に成長しています。

 ーーファンとアイドル。みんなを裏切ることはできない。

 ある日、プロデューサーさんからそう言われたことがあります。
 283プロのアイドルとして輝くには、お仕事をこなす責任がありました。アイドルの責任を背負ったので、私も充分に理解しています。
 人員も増やす話もありましたが、実現は遠そうでした。詳しい事情を聞けなかったことを、今では後悔しています。
 ただ、私はプロデューサーさん達の為、仕事を続けることしかできませんでした。せめて、少しでも負担が軽くなってくれることを祈りながら。


473 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:15:35 aGMUwBYo0
 だけど、その時は唐突にやってきました。
 283プロを続けられなくなりました。
 理由はたった一つ……はづきさんが倒れて、プロデューサーさんと社長が仕事を続けられなくなったからです。
 その話を聞いて、私は愕然としました。もちろん、アイドルみんなも例外ではありません。新しく入った七草にちかちゃんは、どんな気持ちだったのか……私ではわかってあげられないでしょう。
 ただ、私は泣きました。夢や輝きを失った悲しみ以上に、どうしてプロデューサーさん達をもっと気遣えなかったのだろうという罪悪感が大きいです。


 プロデューサーさんは私に幸せをくれたのに、私はプロデューサーさんを幸せにすることができなかった。
 プロデューサーさんはどれだけ大変でも弱音を吐かなかったのに、私はその優しさに甘え続けてしまった。
 プロデューサーさんは私に声をかけて、大きな翼をくれたのに……私はプロデューサーさんを壊してしまった。


 頭の中が爆発して、たくさんの思い出と感情でぐちゃぐちゃになっています。
 それでも、私はアイドルでいようと頑張りました。プロデューサーさんに報いるのであれば、あの人から貰ったものを捨てちゃダメだと、自分に言い聞かせて。


 私が頑張れば、みんなの283プロダクションがいつか戻れるようになる。
 私がアイドルでい続ければ、プロデューサーさんのこれまでだって無駄にはならない。
 私がプロデューサーさんの悲しみに気付けなかったから、プロデューサーさんの後を引き継げるようになるべきだ。


 そうして、私はアイドル櫻木真乃として、みんなに笑顔を与え続けました。プロデューサーさんとの思い出を、無為にしない為にも。
 283プロでなくとも、今の世の中ならアイドルとして活動できる方法はたくさんあります。これまでの実績があったおかげで、幸いにも私はたくさんの仕事が舞い込んできました。
 ネットでは、こんな私を快く思わない声もあるかもしれませんが、気にしてはいられません。プロデューサーさん達が背負った痛みに比べたら、私に向けられる罵倒や嘲笑は何てこともないです。


474 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:18:25 aGMUwBYo0

 もちろん、学業だっておろそかにしません。アイドルだけじゃなく、勉強も大事にするべきだとプロデューサーさんは教えてくれましたから。
 でも、その代わりに私はプライベートを犠牲にしてでも、アイドルで居続けました。趣味のハイキングはお仕事以外で行かなくなりましたし、灯織ちゃんやめぐるちゃんとも遊んでいません。鳩さんとお話しする機会も減って寂しいですが、しょうがないです。
 ピーちゃんやお花のお世話は欠かしません。だけど、最近のピーちゃんは楽しくなさそうに見えます。私の呼び掛けには答えてくれますが、ポカポカした雰囲気は感じられません。
 こんなことじゃいけないと思って、オフの時間があれば、その分だけ勉強やトレーニングに頑張っています。有栖川夏葉さんを見習って、これまで以上に自分を追い込みました。
 だって、私はアイドルとしてみんなを笑顔するべきだから。私がアイドルとして頑張れば、いつかまたみんなで笑えるから。
 そう、信じるしかありませんでした。


 ーー真乃、お願いだから無理をしないで! こんなこと、私もめぐるも……プロデューサーも望んでいないよ!?
 ーー最近の真乃は何か変だよ!? みんなの前では笑っているけど、わたしには全然楽しそうに見えないし……ファンのみんなだって癒されないよ!


 ある日、灯織ちゃんやめぐるちゃんは私を心配そうに見つめていました。
 私が私自身をあえて追い込んでいることに気付いているのでしょう。WINGに優勝する前、いつだったかプロデューサーさんからも注意されたことを思い出します。
 でも、私は頑張りたい。私が輝けなかったら、プロデューサーさん達の頑張りだって、何もかもが無駄になっちゃうから。
 心配しないで。私なら大丈夫だよ。私は何度も灯織ちゃんとめぐるちゃんにそう返すけど、二人は納得してくれません。
 そうすることで、二人との間に溝ができていくのはわかっていたけど、今更後戻りはできませんでした。
 ただ、プロデューサーさんの想いに報いる為、みんなに笑顔を届けてあげたかった。心の中で、灯織ちゃんとめぐるちゃんに何度も謝りながら。


 その矢先です。
 私がこの聖杯戦争という戦いに巻き込まれて、マスターになってしまったのは。
 最初はドッキリの企画かと思いましたが、どうやら違うみたいです。
 界聖杯を手に入れる為、マスターとサーヴァントが力を合わせて殺し合いをするみたいです。
 アイドルにとってのプロデューサーさんみたいに、マスターの私がサーヴァントさんを引っ張っていくことになります。


475 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:22:44 aGMUwBYo0
 界聖杯があれば、どんな願いでも叶えられると聞きました。
 プロデューサーさん達を幸せにして、283プロを再び蘇らせることもできるでしょう。
 ……一瞬、その可能性に縋りつきそうになりました。でも、それは他のマスターさん達の命を奪うことになりますし、私自身がアイドルでいられないです。
 アイドルとして努力を務めるべきですが、誰かを傷付けることは絶対に違いました。


 私だって死にたくありません。
 アイドルの櫻木真乃を応援してくれる人達の優しさに応えたいですし、プロデューサーさん達にまた会いたいです。灯織ちゃんやめぐるちゃんの二人とすれ違ったまま、永遠のお別れになるなんて絶対に嫌でした。
 でも、他の誰かを踏み台にもしたくない。一人でも命を奪ってしまったら、283プロのみんなは二度と笑えなくなりますから。
 私の願いはたった一つ。ファンのみんなはもちろんのこと、プロデューサーさん達みんなが心からの笑顔を浮かべられるアイドル……櫻木真乃でい続けたいです!


 そんな願いに応えてくれるように、私は夢を見ました。


「スターカラー……ペンダント! カラーチャージッ!」

 夢の中で女の子の声が響きました。
 星空の明るさに負けない程、眩い輝きが私の視界を満たします。ステージを照らすライトのように派手で、夜空で輝くお星さまのように綺麗でした。
 ピンクを基調に、数え切れない鮮やかな色が世界を……いいえ、宇宙全てを彩りそうです。
 私を巻き込んだ光の中心には、一人の女の子が立っていました。桃色の髪は青いカチューシャでツインテールにまとめられ、毛先には丸いイエローの髪飾りが備わっています。桃色のトップスと青いデニムオーバーオールが可愛らしい組み合わせで、元気な雰囲気を引き立たせていました。
 そして、満面の笑みを浮かべている女の子は、キュートでオシャレなペンを手にしています。


476 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:25:55 aGMUwBYo0

「きらめく、星のチカラで! 憧れの、わ・た・し! 描くよ!」

 女の子は元気よく歌いながら、ペンでお星さまを描きました。
 輝きが徐々に激しくなっていき、私の脳裏に彼女の思い出が流れこんできます。

「トゥインクル♪ トゥインクル、プリキュア♪」

 彼女は星座と宇宙が大好きで、想像力と好奇心に溢れた一人の女の子。
 自分の好きな気持ちを大事にし、興味があればとにかく突っ走る行動力に溢れていました。周りから何と言われようとも、気持ちを曲げるつもりはありません。
 ある日、彼女は運命の出会いを果たします。宇宙からやってきた女の子や、宇宙の妖精さん達とお友達になって、宇宙を守る伝説の戦士……プリキュアに変身するようになりました!

「トゥインクル♪ トゥインクル、プリキュア♪」

 プリキュアに変身した彼女は宇宙を股に掛けた大冒険をしながら、ノットレイダーという悪い人達からみんなを守るようになりました。
 地球人だけじゃなく、行く先々の惑星の人達と仲良くなり、たくさんの文化や価値観を学んでいます。その中には、宇宙怪盗と呼ばれる女の子もいたことがビックリです。
 時には大きな困難にぶつかりながらも、彼女は宇宙で出会ったみんなとの繋がりを胸に立ち上がって、最後にはノットレイダーの人達とも和解しました。
 しかも、一度は闇に飲み込まれたはずの宇宙すらも、再び取り戻しています。

「スター☆トゥインクル〜♪」

 だけど、彼女に悲しいお別れの時が訪れます。
 宇宙人のお友達……羽衣ララちゃんと、お別れをしなければいけなくなりました。
 ララちゃんは、彼女にとって一番の親友です。二人は深い絆で繋がっていて、私と灯織ちゃんやめぐるちゃんみたいな関係でした。
 織姫と彦星と離れ離れになるように……ララちゃんは遠い宇宙の彼方へ、彼女は地球に残ることになりましたが、いつかまた巡り会えることを心から信じていました。
 ありがとう……最後にララちゃんは、そう言い残したみたいです。


477 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:30:43 aGMUwBYo0

「スター☆トゥインクル! プリキュア〜!」

 それから、大人になった彼女はなんと宇宙飛行士になりました。
 たくさん努力をしたおかげで、女性宇宙飛行士としてシャトルに乗れるようになり、ララちゃん達と宇宙で再会できたみたいです。
 宇宙から聞こえた妖精さんの声と、眩い輝きを目にして、彼女は心から微笑んでいました。
 彼女の名は……

「宇宙(そら)に輝く、キラキラ星! キュアスター!」

 変身を果たした彼女は、決めポーズと共に名乗りをあげました。
 ボリュームを増したツインテールは左右で二又に分かれていて、お星さまを彷彿とさせる髪飾りが先端が備わっています。シニヨンにまとまった毛先の周りには水色の輪っかがかかっていて、まるで土星みたいです。
 ピンクと赤を基調としたトップスとスカートはとてもキュートで、胸元には星とハートの模様が描かれたブローチが備わっていました。また、スカートには桜の花びらを彷彿とさせる飾りも見られ、肩と二の腕辺りの羽飾りはまるでバレリーナみたいです。
 一言でいうなら、彼女は星のように輝いていました。お星さまを彷彿とさせる模様や髪飾りはもちろん、瞳にも星の如く眩さが凝縮されています。

 目が覚めたら、彼女がそこにいました。

「ほわっ!? あなたは、もしかして……」
「はじめまして、わたしのマスターさん! わたしはキュアスターこと、星奈ひかるです!
 とってもキラやば〜! な、アーチャーのサーヴァントとして、召喚されました!」

 彼女、星奈ひかるちゃんは私にウインクをします。
 星の力と、膨大なイマジネーションを持ったプリキュア……スタートゥインクルプリキュアのキュアスターの名前を、私に教えてくれました。
 本当にキラキラしていて、まるでアイドルのようなひかるちゃんの姿。私の目にも強く焼き付くほどで、何だか羨ましいです。
 プロデューサーさん達の痛みや悲しみに気付けなかった私とは違って、心からの笑顔を見せてくれていますから。


478 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:35:55 aGMUwBYo0


 ◆


「おぉっ! マスターさんは大人気アイドルなんですね! キラやば〜!」

 わたし、星奈ひかるは召喚してくれたマスターさん……櫻木真乃さんとお話をしているよ!
 聖杯戦争とか、マスターやサーヴァントの知識とか……いつの間にかわたしの頭の中にインプットされていたの。みんなの思い出やイマジネーションから生まれたのがサーヴァントみたいだけど、わたしがスター☆トゥインクルプリキュアになって宇宙を冒険したから、こうして召喚されたのかな?
 こんな経験ができるなんて、とってもキラやばだよね! でも、喜んでばかりもいられないよ。
 だって今は、ノットレイダー達と戦っていた頃みたいに気を引き締めるべきだから!

「そうだよ。イルミネーションスターズの櫻木真乃として、アイドル活動に励んでいるんだ。
 あと、マスターじゃなくて、真乃って名前で呼んでくれると嬉しいな。私も、アーチャーじゃなくて、ひかるちゃんって呼びたいから」
「ありがとうございます、真乃さん!」

 真乃さんの優しさに、わたしの心はキラやば〜! になるよ!
 マスターやアーチャーって呼び方もカッチョいいけど、やっぱりお名前で呼んだ方がしっくり来るね。
 もちろん、キュアスターに変身している時は、そっちの名前で呼んでほしいけど。

「……ねえ、ひかるちゃんに聞きたいことがあるけど、いいかな?」

 そうして訪ねてくる真乃さんは微笑んでいるけど、何だか曇っていた。不安と悲しみで瞳が揺らいでいて、声も震えている。
 その理由は聞かなくてもわかるよ。だって、真乃さんはアイドルだけど、悪い人達と戦ったことなんてないから。


479 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:36:59 aGMUwBYo0
「なんでも、いいですよ」
「ひかるちゃん。あなたは凄い力を持っているんだよね? プリキュアに変身して、誰かを傷付けたりしようとか、考えているの?」

 真乃さんの疑問は当然だった。
 わたしがサーヴァントとして召喚される際に、星奈ひかるとキュアスターに関係するあらゆる思い出話が真乃さんの頭に流れ込んだみたい。真乃さんはわたしがキュアスターに変身して、他のマスターさんやサーヴァントさんを傷付けることを恐れている。

「違いますよ」

 だから、真乃さんの不安を拭う為に、わたしは真剣な顔で応えるよ。

「わたしは確かに、キュアスターになってノットレイダー達と戦ってきました。でも、それはノットレイダーを倒すためじゃないです……大事なお友達や家族を守りたいと思ったからですよ」
「……やっぱり、そうだよね。
 ひかるちゃんが宇宙のみんなと仲良くなりたくて、ノットレイダーの人達ともわかりあえたことは知っているよ。でも、世の中には……どうしてもわかり合えない人もいると思うんだ。
 そういう人達と戦うことになったら、ひかるちゃんは……どうするの?」

 真乃さんにとっても、わたしにとっても大事な問いかけだった。
 わたしは色んな星の人達と出会い、それぞれの価値観を知っていったよ。でも、真乃さんの言葉も正しい。
 どうしてもわかり合えない人にはわたしも心当たりがあるよ。宇宙の貴重なお宝を好き勝手に奪い、そしてユーマを狙った宇宙ハンター達のことだね。彼らはユーマを奪う為に手段を選ばず、一方的に傷付けた。
 宇宙ハンター達は今でも許せないけど、命までは奪わなかったよ。わたし達にそんな権利はないから、宇宙ハンター達の身柄を星空警察に引き渡して、宇宙の法律で罰を与えてもらっている。
 でも、この惑星では星空警察の助けは期待できないし、普通の警察だと手が出せるとは思えない。

「わたしは、真乃さんを守るために戦いますよ!」

 だから、わたしは真乃さんを安心させる為の言葉を口にする。

「マスターやサーヴァントになった人達の中には、どうしても叶えたい願いがあって聖杯を求めて、その為には手段を選ばない人だっていることはわかっています。
 でも、それは真乃さんが傷付いていい理由にはなりません! わたし、まだ真乃さんのことはあまり知りませんけど……真乃さんが聖杯戦争なんて戦いを望まないことは、知っています!」

 今まで、真乃さんはアイドルとしてたくさんを笑顔にしてきた。そんな優しい真乃さんが、誰かを傷付けてまで願いを叶えようと思うはずがない。
 わたしが召喚されたのは運命だ。理不尽な戦いに巻き込まれた真乃さんを守るため、わたしはサーヴァントになったのかも。


480 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:39:22 aGMUwBYo0

「真乃さんが戦いを望まないなら、わたしは真乃さんを守ります! サーヴァントだからじゃなく、これがわたしの本心です!」
「ひかるちゃん……ありがとう。ひかるちゃんが言うように、私は聖杯戦争なんて望んでいないよ。確かに、叶えたい願いはあるけど……それは、私自身が解決しないといけないから」

 そう言って、真乃さんは笑顔を向けてくれる。
 まだ、寂しそうなことに変わらないけど、ちょっとだけ元気を取り戻してくれた。お互いに気持ちを確かめ合ったから、最初の一歩を踏み出すことができたね。

「真乃さん。真乃さんの願いがあったら、いつでもわたしに話してくださいね。
 わたしじゃあ、真乃さんの悩みとかをわかってあげられるか、まだわからないです……だけど、真乃さんの可能性やイマジネーション、それにキラやば〜! な未来を諦めるつもりはありません!
 何があっても、わたしは真乃さんのそばにいますから……大丈夫ですよ!」

 私の中には無限大の好奇心やイマジネーションがあふれ出ていて、今も留まることを知らないよ!
 ララのことはもちろん、フワやプルンス、えれなさんとまどかさんとユニ……地球と宇宙を問わず、たくさんの人達のことを知っていった。
 今だって、真乃さんのことをいっぱい知りたいって、わたしは心から思っているよ!

 ◆


 たくさんの人から『ありがとう』を頂いたから、私もお返しをしてあげたいって思えるようになりました。
 だから、どんな場所にいようとも私はいつでも笑いたいですし、この気持ちをお届けしたいです。


481 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:42:14 aGMUwBYo0

【クラス】

アーチャー

【真名】

星奈ひかる@スター☆トゥインクルプリキュア

【パラメーター】

筋力B 耐久C+ 敏捷D 魔力C 幸運A 宝具A

【属性】

秩序・善

【クラススキル】

対魔力(C):第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動(C):マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【保有スキル】

イマジネーション(A):キュアスターこと星奈ひかるが誇る「圧倒的な想像力」であり、彼女の行動する原動力となっている。彼女が「知りたい」という気持ちに比例してイマジネーションが湧き上がっていき、パラメーターを向上させる。

【宝具】

『トゥインクルイマジネーション』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1

イマジネーションが心から溢れ出した時に発動する奇跡の力。
「わたしはわたしらしくありたい」というひかるの想いに応えて、キュアスターの真の力が解放される。全てのパラメーターが大きく向上する他、あらゆる呪いを弾き返すことが可能。
ただし、奇跡の力は短時間しか発動できない。

【weapon】
スターカラーペンダント
スターカラーペン(おうし座、おひつじ座、うお座)
ペンダントをペンに差し込み、歌を歌うことでひかるはキュアスターに変身することができる。
スターカラーペンは星座の力が込められており、スターカラーペンダントがあればどんな惑星の環境にも適応できる。


【人物背景】
アニメ『スター☆トゥインクルプリキュア』の主人公で、星のプリキュア・キュアスターに変身する。声優は成瀬瑛美。
好奇心旺盛で、宇宙と星座が大好きな少女。自分の好きに対して真摯であり、誰に何を言われようとも真っすぐに突き進むパワーを持っている。
惑星サマーンの少女・ララ、宇宙妖精のフワやプルンスと出会い、ノットレイダーからララ達を守りたいという気持ちからキュアスターに変身するようになった。
地球では天宮えれなや香久矢まどかと交流を深め、宇宙ではユニと出会い、5人でスター☆トゥインクルプリキュアとして宇宙を守り抜いた。
ノットレイダー、そしてノットレイダーを率いるダークネストことへびつかい座のプリンセスと和解し、宇宙の平和を取り戻すが、ひかるは宇宙人のララやユニ達と離れ離れになってしまう。
そして、自分自身で宇宙に行く誓いを立てたひかるは宇宙飛行士になり、宇宙ロケットで旅立っていった。
今回はプリキュアに変身していた全盛期の姿で召喚されている。

【サーヴァントとしての願い】

真乃さんを守りながら、聖杯戦争を止める方法を見つけたい。


482 : ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために! ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:45:17 aGMUwBYo0

【マスター】

櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】

誰かを傷付けたりするのは絶対に嫌だし、プロデューサーさんが望むアイドルとして、みんなに笑顔を届けたい。その為にも、ひかるちゃんと力を合わせる。

【能力・技能】

定期的にハイキングを行える程に体力があり、鳥さんたちとコミュニケーションも取れる。
『W.I.N.G.』で優勝する程に歌唱力やパフォーマンスも優れており、多くのファンを獲得していた。
また、山の中で遭難しても適応できるよう、食べられる野草やトラブルに関する知識も豊富。

【人物背景】

283プロダクションのアイドルユニット「イルミネーションスターズ」のメンバー。
ある日、公園で歌っていた所を283プロダクションのプロデューサーにスカウトされ、そこからアイドルデビューを果たした。
風野灯織や八宮めぐると共にイルミネーションスターズを結成し、アイドルとして数多くの実績を残した彼女は、徐々に自信をつけていった。

【方針】

具体的な方針は未定。

【備考】

少なくとも、WING優勝経験があります。
ただし、原作とは異なって283プロダクションの事業が大幅に傾き、自分がプロデューサーを追いつめてしまったという自責の念を抱いています。


483 : ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/10(木) 07:45:43 aGMUwBYo0
以上で投下終了です。


484 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/10(木) 21:08:15 Ob/vzDFY0
>>ひかるがサーヴァント!? 守りたい人のために!
一人称視点のお話がとても上手い! というのが最初に来た感想でした。
前向きで明るい真乃の視点から見ると聖杯戦争の中でもどこか希望のようなものを見出だせる気がしますね。
そんな彼女のところにキュアスター……ひかるが召喚されたのは間違いなく当たりだったと言えるでしょう。
聖杯戦争を止めるという非常に困難な目的も果たせそうに思えてくる、そんな明るくて素敵なお話でした。

投下ありがとうございました!


485 : ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:10:49 QsmP3Vn60
投下します。


486 : Never ends ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:12:37 QsmP3Vn60
.



 ――テレビの中で煌めいていた、皆の「夢」の素敵な貴方。
 叶うならば、私も貴方のようになりたかった。


 ……なんて過去形にしてしまうには、まだ早い。
 だって、私の「夢」は――
 




487 : Never ends ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:14:02 QsmP3Vn60


 私、北条加蓮の歩んだ歴史の話をしよう。
 歴史って言っても、こうしてフツーに生きてるわけだし、全然途中の、未完成の歴史なんだけど。

 エピソードならいくらでもある。
 運命の出会いを本気で信じているまゆの気持ちをきっかけに、女の子が持つ愛の重さを確かめたり。
 本当は目指している先が違っていた凛と奈緒と喧嘩しながら、お互いの譲れない信念を認め合ったり。
 アイドルの後輩ってことになるりあむや雪美を、貴方達も太陽みたいに輝けるんだって自分なりの言葉で励ましたり。

 ……いつの間にか人にエラそーなこと言えるようになったんだって感じだね。
 うん、じゃあ私がこんな風に自分に自信を持てるようになったきっかけの話をするよ。
 私……アタシの、記念すべき『第1話』ってところかな?
 
 いろいろあって、最低最悪の人生諦めムードにどっぷり浸りながら、ただの女子高生として過ごしていた頃、アタシはプロデューサーさんと出会って。アタシをアイドルにしたい、そう彼に告げられた。
 アイドルになるためにはたくさん努力とか必要だけど、アタシそういうキャラじゃないんだよね。なんて、最初は断ったよ……怖かったんだよね、何もできないかもしれないアタシ自身と、向き合うのが。
 それでも、プロデューサーさんはアタシを受け入れた。その日から、アタシのアイドルを目指す日々は始まった。

 ハッキリ言って、最初はただひたすらしんどかったなあ。
 できる限りの努力はしたし、多少の無理すらしているつもりだったけど、アタシの身体はまるでついてきてくれないんだもん。ブランク長かったからねえ。
 少しずつ実力は上がっているとプロデューサーさんは褒めてくれるけど、結局目に見えた結果を出せてない。悔しくて、申し訳なくて、焦ってた。
 そんな頃、アタシにもようやくデビューの仕事が舞い込んできた。小さい会場のミニライブだったけど、アタシが初めてアイドルとしてステージに一人で上がる日がやってきた。
 今も覚えている。ステージの前日、プロデューサーさんは体調を万全に整えるためにもレッスンをやり過ぎないようにって釘を差したんだけど……アタシは言うことを聞かなくて、夜になってからもこっそり追加の自主レッスンに打ち込んだ。
 弱くて駄目なアタシが、せめて失敗しないために。怖じ気付くアタシの心から、目を背けるうに。頑固者、わからず屋なんてプロデューサーさんに言ったけど、どっちがだって話だよね。


488 : Never ends ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:14:55 QsmP3Vn60

 結論だけ言えば、失敗だった。
 ライブの途中から、アタシはほとんど意識が無いような状態だった。そしてライブが終わった途端、貧血で倒れてしまったらしい。言うまでもなく、前の日に体力使い過ぎたのが響いたってわけ。
 そんなアタシに、プロデューサーさんははっきりと言った。
 歌いきったから成功だ。でも心配させたから失敗だ。

 ……効いたなあ。
 アタシはアタシだけでなく、アタシのことを信じてくれたプロデューサーさんも信じていなかったんだと、嫌というほど自覚した。
 ライブ前の体調管理が及ばなかったこと。ライブの仕事を引き受けたこと。日々の体力作りが不完全だったこと。それともアイドルとなる前に……
 どれも違う。そんな言い訳は、アタシが犯した失敗の本質じゃない。
 アタシは……北条加蓮は、結局、周囲の期待に応えられない人間だ。だって、アタシがアタシ自身に何も期待していなかったんだから。
 目の前が真っ暗になったアタシの口が、ごめんなさいを何度も唱えて……でも、の一言も零れた。アタシの、諦めたくない本心だった。
 そんなアタシをプロデューサーさんは真っ直ぐに見つめて、わかってる、とただ一言だけ答えた。両目は確かな光を宿して、訴えていた。祈っていた。アタシ自身を、今度こそ信じてほしいと。
 その時、理解した。ああ、この人はまたチャンスをくれる。これからどれだけ失敗しても、悪態をついても、泣きそうになっても、絶対にアタシを見捨てず、手を差し伸べてくれる人なんだ。
 だからアタシは、アタシの心を救ってくれたプロデューサーさんの前で約束したの。信じられるもの、一つずつ増やしていくから。これまで、あんまり信じられなかった分、一つずつ……って。

 一番大切な人が、傷付けることを覚悟の上でアタシと向き合って、何も誤魔化すことなくちゃんと叱ってくれた。この経験が、アタシを奮起させる力の源になっていた。
 体調管理がなっていないって、得意先にプロデューサーさんが嫌味を言われて頭を下げたらしいと後から聞いた時は、やっぱり恥ずかしくなったけれど、プロデューサーさんがアタシを叱った言葉には決して八つ当たりのような思いが籠っていなかったことを思い出して、気を引き締め直した。
 アタシの失敗を嗤い合う誰かの声を聞いた。でも、平気だった。失敗だと突き付けられるのなんか、アタシの中ではとっくに終わった話だったから。次を成功させればアンタ達も文句ないんでしょ? って心の中で言い返しちゃったりして。
 ……アタシは、絶対に屈しなかった。諦めなかった。夢を、手放さなかったよ。

 こうして、アタシは自分に自信をつけられるようになり始めて、今じゃみんなご存知の武闘派な負けず嫌いちゃんになったのでしたとさ。おしまい。
 これが、アタシのアイドルとしての『第1話』。
 
 とりあえず、アタシの歩いてきた道を語る上で大事なエピソードを一つ挙げるなら、こんなところかな。
 勿論、その後も色々あったんだよ。さっき例に挙げた以外にも、たくさんの経験を積んで。
 ……そして、誰もが夢見る『シンデレラガール』の称号を、ついにこの手で掴んだりもして。

 でも、まだ終わりじゃない。これからも思い出は増えていく。
 アタシの……私、アイドル北条加蓮の物語はまだまだ続いていく。

 「夢」は「夢」で終われない。
 ハッピーエンドなんかじゃ、まだまだ満たされないんだ。


 



489 : Never ends ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:15:48 QsmP3Vn60



 キャスターのサーヴァントとして召喚された僕のマスターである少女、北条加蓮は、聖杯に頼らなければならないような願いを持たず、ただ無事に生還できればそれで良いのだという。
 実に残念なことだ。僕にはこの仮初の生を通してでも実現したい理想があり、そのための恩恵を得られる聖杯を獲得できるなら是非ともそうさせてもらうつもりだ。
 サーヴァントを喪って暇を持て余している他のマスターを見つけた場合、そちらに鞍替えさせてもらおうと方針を決めるまで、時間はかからなかった。この意向は、既にマスターへ伝えさせてもらっている。
 無論、何の貢献にもならない無益な死など生みたいわけではないし、サーヴァントとして呼び出された以上は最低限の責務くらい果たすべきだとは思うので、マスターがこの世界から脱出するための方法を確立するまでの間は契約を解消しないが。僕と君との間柄は、それで終わる程度の薄いものであるべきだ。
 第一、患者でもない健やかな日々を送っている人間など、本来は僕の関わるべき相手ではない。完全に管轄外だ、くだらん。

 しかし、マスターは僕との交友が拒絶されるのは寂しいのだという。
 訳が分からない。君は縁もゆかりも無い人間だろう。僕の真名を忘れたか? 君にとっては数千年も前の、神話の時代を生きた身だ。西暦の世で呑気に生きている……じぇいけーであいどる、だったか。そんな君とは生きた時も場所も隔絶している。倫理観だって、そうなのだろう。それとも人類皆友達などと博愛主義でも謳うのか君は? 生憎、媚びる義理など無い。お互い不快な思いをするだけだ。
 まさか書物に残される以上の僕の過去でも垣間見て、勝手に親近感でも抱いたのではあるまいな? ああ、なんでもサーヴァントの生前の光景をマスターが夢に見る事例が、稀に起こるらしい。もしそうだというなら……なんだ、違うのか。昨日は穢れの無い瞳を輝かせる幼女と化したりあむのママになる夢を見て酷い寝汗をかいた? 知るか、誰だりあむって。
 ともかく、僕の過去を無闇に漁ったわけでないならそれで構わない。診察ではない状況で行われる詮索など、気持ちの良いものではないからな。まったく、どんな理屈で僕は君などに呼ばれてしまったというのか。

 何、今日はオフだから一緒に街の散策に行こう? 探索の聞き間違いだと信じたいところだが?
 過去の貴方のことは知らないけど、今ここにいる貴方とはちゃんと仲良くしたい。それにプロデューサーさんでもないのに現役アイドルと一日デートできる特権を逃すのは損だよ……無礼もここまで来ると、僕の方が目眩を覚えそうだ。
 行くなら一人で行け、そして勝手に襲われていろ。何、死にかける頃合いになったらきちんと助けに行ってやる。希少な臨床データを取る良い機会になるだろうからな。喧しい子供の分際で、僕の心を射止めようなどと思い上がるのは甚だ……
 おい、何をしている。「カッチーン」「令呪を以て命じまぁーすっ!」だと? ふざけるな。こんな阿呆な要望のために……くそ、目が本気だ……!? ああ、わかったよ! 散策とやらに付き合えばいいんだろう、だから令呪を使おうとするのを即刻止めろ! 死ぬリスクを無駄に上げるな!
 ……なんて無茶苦茶なザマだ。イアソンに見られたら、餓鬼の分際で俺の船医をこき使うな、とでも怒り出しそうなものだな。いや、僕はあの男の所有物でもないが。






490 : Never ends ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:18:21 QsmP3Vn60



 指差した先の大画面のモニターには、澄んだ海水のような透明感のある佇まいの、四人の少女が映し出されていた。
 加蓮とは別の芸能プロダクションに所属する、幼馴染み同士で結成したというそのアイドルユニットは、初期の頃こそ始末書クラスの暴走を見せつけたことで良くも悪くも注目を集めたが。今では着実にファン数を増やし、感謝祭イベントに参加できる程には成長しているそうだ。
 暴れん坊はどこにでもいるものだねーと、加蓮は笑う。どの口が言うか。

「詳しいな。敵の事情にも精通しなければならないということか」
「敵じゃなくてライバルね。学べることは多いんだよ? どんどん出てくる後輩に追い越されたりしないためにもさ。それに、前に李衣菜と夏樹が他所と対バン企画やったんだけど、そういうのも私だっていつかやりたいし」
「……学べるというのは、異性の同業でも同じということか?」
「その通り。ほら、こうして今のキャスターさんのコーディネートに活かせてるわけじゃん?」
 キャスターが着せられることになった、シンプルながらも品位を保っているワイシャツとスラックスの組み合わせは、加蓮が買い揃えたものだ。元医者の男性アイドルとかいう人物が業界内にいて、彼のグラビア写真を参考にしたそうだ。
 掛けていた眼鏡はそのままだ。そして、今は加蓮も伊達眼鏡を掛けていた。視力の矯正ではなく変装用としての眼鏡も現代では当たり前で、加蓮はプライベートで伊達眼鏡が必要になる程度には大変な有名人になっているのだという。
 現役アイドルが若い男と一緒に広場で座ってファストフードをいただく姿は、発覚したらとんだスキャンダルだ、用心せねば……などと加蓮は語るのだが。
「だったら自宅まで持ち帰ればいいだろう。テイクアウトというのはそのための仕組みじゃないのか」
「駄目駄目。ポテトはアツアツでホクホクのうちに食べるのが良いんだよ?」
「大体、何なんだこの油分の多さ最優先の、あからさまに健康への意識を投げ捨てた食事は。人を肥えた家畜にするつもりか」
「残念ながら、これが売りなの。ていうか健康志向を目指してた頃は売上ガクッと落ちちゃってたんだよね。それ止めたからまたトップに返り咲けたのでして」
「知るか」
 不貞腐れながら、キャスターはまたコーヒーを一口呷った。
 加蓮に付き合わされて現代日本の観光に勤しんだことは……それで加蓮の気が済むのなら、もしかしたら全くの無意味ではないのかもしれないが。キャスターとしては、観光というならせめて医療施設でも見せてもらいたかったものだ。
「あー……病院かあ……」
 キャスターの溢す愚痴を聞いた加蓮の目が、気まずさを帯びながら泳ぐ。物の例えで挙げただけなのに、まるで、思い当たる節でもあるかのような。

ん? あれは……」
「ああ、あれ私だね」
 モニターに映し出される映像が、別のものへと変わっていた。とある人気アイドルのドキュメンタリー映画が公開されたらしく、そのコマーシャル映像だ。主役として抜擢されたのが、今まさにキャスターの隣でポテトをつまんでいる北条加蓮であった。
 三十秒程度の短い映像であったが、その中で情報をピックアップすれば。一つは、今の加蓮が本当に日本でも有数の人気アイドルに成り上がったのだということ、もう一つは、アイドルになる前の幼い頃の加蓮が、ベッドの上で毎日を過ごしていたのだということ。
 正直、意表をつかれたような思いだった。ただのお転婆娘という印象しか抱けないような加蓮が、昔は重い病を患っていたとは。随分と変化するものだ。
「……うん。元々、今日ちゃんと説明するつもりだったし。言うね」
 そう切り出して、加蓮は語り始めた。


491 : Never ends ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:19:48 QsmP3Vn60

 真っ白な部屋と、消毒液の匂いと、繰り返される採血の痛みだけが与えられた、遠い昔の白々しい日々。
 唐突に健康な身体を取り戻すことが叶い、しかし諦めることに慣れてしまった心までは治されなかった、少し昔の苦々しい日々。
 己への失望と他者への嫉妬に呑まれた過去は、加蓮にとっては弱さの象徴のようで。または、同情で人目を引くための材料のようにも思えて。だから、プロデューサーと、特に親交の深い数名の仲間にしか打ち明けていなかったのだという。
 しかし、同じだけ仲の良い仲間が増えるにつれて、知る者の数も少しずつ増えて。多少は打ち解けたと思える程度の仲でも、加蓮の方から明かせるようになり。演劇の名目で、過去の捻くれていた自分を擬似的に再現できるようになり。
 そして、ドキュメンタリー映画という形で、日本の全国民へ向けて、自らの過去を赤裸々に表明することを決意したのであった。

「詮索されるのが嫌なのではなかったのか」
「そうだったんだけどさ。今なら本当に、自信が持てると思ったの。私の築き上げたものは、もう同情に頼ったものじゃない……それよりもファンや、昔の私と同じ立場の子に……いろんな人に映画を観てもらって、希望を与えたくなったから」
 語る横顔は、凛然とした生命の力強さに満ちたものだった。
「私の夢は、今もまだ続いている。昔の私がテレビの中に見出だした輝きには……追い付けていないもん。栄光を手にしてハッピーエンドだなんて言う人もいるけど、まだまだ。私の物語は、終わらない」
 こほん、と一つ咳払いをして。加蓮は、キャスターの正面に立った。

「キャスターさん……ううん、アスクレピオスさん」
 呼び掛けられたのは、キャスターの真の名。
 ジョン・ハンターやフローレンス・ナイチンゲールといった、西暦における医療分野での偉人達の生きた時代よりも、遥か以前。ギリシャ神話において医療という概念を築き上げたと伝えられる、医の道を志す万人にとっての祖となる神の名。
「貴方は、私と何の関わりも無いと言ったけど。私にとって、貴方は恩人」
「……昔のことを指しているのなら、君を診たのは決して僕自身ではない。君と同じ時代を生きたドクターだ」
「うん。あの日の私はお医者さんに……医療によって救われた。プロデューサーさんと出会えた日まで健康に生きられたおかげで、私はこうしてアイドルになれた」
 加蓮は『魔法使い』と出会い、憧れの『シンデレラ』へと変身した。諦めずに自分の足で歩き続けた成果だ。
 しかし、もしかしたら。シンデレラストーリーは始まることすらなく、病が加蓮の命を奪っていた可能性だって、あり得たかもしれないのだ。
「アイドル北条加蓮が始めた物語に、第1話や2話3話、10話や100話があって。それぞれにプロデューサーさんや仲間のアイドル達、スタッフさんやファンのみんなが恩人として登場するんだとしたら」
 最悪の事態は、実現しなかった。加蓮の病を完治させるに至った医学の力によるものだ。
 そしてそのルーツは、奇しくも加蓮が『マスター』の立場となったことで巡り合った『魔術師』が、死を克服せんと重ねた研鑽にある。
「貴方は……貴方が確立して、そしてこの21世紀まで発展してきた医療は。私の『第0話』の恩人なんだよ」
 彼に出会えたこの奇跡の中で、贈るのだ。
 加蓮が『アイドル』になるその日まで命を繋いでくれた、偉大なる『医神』へ。
「ありがとう。私を……アタシを救ってくれて」
 『ヒロイン』から、『ヒーロー』へ。
 心からの感謝を、贈るのだ。


492 : Never ends ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:21:56 QsmP3Vn60

「……それで」
 目元を指で強く押さえる。伝えるべき感情を、整理しなければならない。
「今日の散策が、僕への御礼のつもりだったとでもいうのか」
「……まあ、その、他に今すぐできそうなことを思い付かなかったというのもあるけど。貴方にも、見てほしかったから」
「見てほしかった?」
「医療で救われた後の人が、どんな風に生きていくのかを。だってキャスターさん、医療の進歩のことには興味津々だけど、患者のことには関心無そうだったし。退院したらもう知らん、って感じで」
 苦笑する加蓮を見て、交流を拒絶されるのが寂しいと語った真意を察する。
 ちなみに、キャスターに対する態度が些か無礼ではないかとの自覚は、さすがに持っていたらしい。それでも、朗らかなコミュニケーションを好まないキャスターとの距離感を埋めるため、敢えてアイドル仲間やプロデューサーと普段接するような振る舞いを選択したという。
 加蓮なりに、キャスターを楽しませようと思案していたようだ。

「だとしたら……とんだ迷惑だな」
 しかし、本音は伝えなければならない。
 キャスターは医術の発展する先に拓かれる未来にしか、喜楽を見出ださない。他者との不必要な交流を行わないのは、単に合理性故の選択だ。
 人と人との営みが持つとされる価値を知らないわけでも、恐れているわけでもない。そうでなければ、あの喧しい船長の率いるアルゴノーツなど、自ら下りていたものだ。
 確かな意思のもと、キャスターはきっぱりと告げた。君の献身は、徒労なのだと。

「そっか、うん……ごめんなさい」
 キャスターは、決して答えを誤ったなどとは思わない。不本意ながらも神に祀り上げられた自分と、今の世を生きる命との間に生じる価値観の違いは、絶えず在り続けるものだ……その表明によって、加蓮の好意的な感情を消沈させてしまう結果になるとしても。決して、キャスターの非ではない。
 また、嫌気が差す。これだから成熟していない子供の面倒見というのは煩わしいし、好んで関与したいとも思わないのだ。

「…………ドラッグストア」
 ああ、本当に煩わしい。
「え?」
「先程、案内で見かけた。この敷地内にもあるんだろう。医薬品をどんな庶民でも手軽に買えるという商店が。現代で実現している薬学の水準がどの程度のものか、興味が湧いた。病院が無理なら、そこを僕に見せろ。せっかく霊体化を解除したまま歩き回れる衣装をこうして着せられたんだ」
「キャスターさん……」
「……その時間を、今日の君からの礼ということで受け取ってやる」
 加蓮の瞳が、表情が、再び煌めき始めるのが見て取れた。
「……うん、オッケー!」
 揚々とした声色で先導を始める加蓮の後ろ姿は、今日ですっかり見慣れた快活な若者のそれへと戻っていた。
 どうやら、悪くはない選択肢を選べていたようだ。






493 : Never ends ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:22:54 QsmP3Vn60




 画面の中にいた頃の私に……みんなに伝えたいんだ。
 いつか見た夢の世界……私は今、そこにいるよって!
 この世界は、そことつながってるんだよって!


494 : Never ends ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:26:19 QsmP3Vn60


【クラス】キャスター
【真名】アスクレピオス@Fate/Grand Order

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具A+


【クラススキル】
陣地作成:A
 魔術師として自らに有利な陣地である「工房」を作成する。
 Aランクを所有するため「工房」を上回る「神殿」を構築することが可能。 無論、彼にとってのそれはただ医療行為の為だけの、診察室、処置室、手術室などの意味合いを持った場所である。

道具作成:EX
 医術に関わる道具しか基本的に作らないが、作るものは超高性能。
 彼がその道具のターゲットとした傷病には、ほとんどの場合、多かれ少なかれ効果がある。ただしそれ以外の部分はまったくない。

【保有スキル】
神性:A
 アポロンの子として(嫌々ながら)高い神性をもつ。

医神:EX
 現代にまで伝わる、『医療』という概念の祖、医学の神としての存在を示すスキル。
 一説によれば薬草による治療を初めて行った存在がケイローンであり、それを学び発展させ初めて『臨床医療』を行った存在がアスクレピオスであるという。

アポロンの子:A
 ギリシャの神アポロンの系譜であることを示すスキル。
 アポロンは弓矢、芸能、予言、太陽等様々なものを司る神であるが、疫病の神でもあり、その二面性の発露として、医術も司っていた。
 本人的にはできれば忘れたいスキルであるが、その血の力でなくては救えない患者がもし眼前にといるとすれば。おそらく彼は舌打ちしながらも、その使用を躊躇うことはないだろう。

蛇遣い:B
 不滅の命の象徴である蛇を使役し、また医療に用いる技術。
 古代ギリシャでは蛇は神の使いとして神聖視されていた。 死者を蘇生させた罰としてゼウスの雷霆で殺されたアスクレピオスは、死後へびつかい座(神の座)へと召し上げられた。
 本人がそれを望んでいたとは限らないが。今も医の象徴として使われている意匠『アスクレピオスの杖』には一匹の蛇が巻き付いている。


495 : Never ends ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:28:47 QsmP3Vn60
【宝具】
『倣薬・不要なる冥府の悲歎(リザレクション・フロートハデス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大補足:‐
アスクレピオスが作り出す、死者を蘇らせる蘇生薬。
……なのだが、この宝具は『そのもの』ではなく、彼がそれを模倣した薬である。
かつて実際に作成し用いた蘇生薬は、唯一無二の特殊な原材料を用いたものであり、英霊となった今でも自動的に引っ張ってこられるようなものではなかった。
故に通常の聖杯戦争においては、彼はこの模倣蘇生薬を用いることになる。
模倣品であるため元々のものより効能が落ちており、実際に死者を蘇生させるには様々な条件を満たしていなければならない。
死亡後の経過時間や、死体の状態などである。
現代医療の知識を得た彼は「単純に、少し出来のいいAEDのようなものだ」と自嘲気味に語る。
また、この模倣薬自体もそれなりに貴重なものであり、何度も使えるわけではない。

『真薬・不要なる冥府の悲歎(リザレクション・フロートハデス)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:‐ 最大補足:‐
使用不能宝具。
かつてハデスの領域を侵し、ゼウスを怒らせた真なる蘇生薬そのもの。
かなり無茶な状態からでも人や半神を完全に蘇生させる力を持つ。
彼はこれを用いてミノス王の子グラウコス、テセウスの子ヒッポリュトスらを蘇らせたと言われる。
この薬の原料はアテナから渡された(アテナはペルセウスから捧げられた)ゴルゴーンの血である。
ゴルゴーンの左半身から流れ出た血は人を破滅させ、右半身からの血は人を救済する力があったという。

実のところ、ただゴルゴーンから血を採っただけでは上手くいかない。
ヒッポリュトスを蘇生させたときには『アルテミスの力を得て為した』とされているため、蘇生薬はこの血に純度の高い(アテナ・アルテミス級の)神の力が込められてこそ初めて完成するものなのだろう。他にも隠し味として必要なものがあるのかもしれない。
結局のところ、かつての蘇生薬は彼の医術だけでなく様々な要因と偶然も関与して作り出せたものであって、アスクレピオス本人もこの蘇生薬の作り方について完全にマスターしているわけではないのである。

―――勿論、だからこそ、彼は今日もその再現に心血を注いでいるのだが。

【weapon】
「アスクレピオスの杖」に巻き付いた蛇の使役。

【人物背景】
アスクレピオスはケイローンのもとで医術を学び、のちに『医神』と呼ばれるようになるギリシャ英雄である。
イアソン率いるアルゴノーツの一員でもある。
アポロンの子であった彼はやがて死者を蘇らせるほどの力を持つようになり、それを問題視した神の雷霆によって撃ち殺された。

【サーヴァントとしての願い】
医療の進歩、そのための『真薬』の再現。


496 : Never ends ◆T9Gw6qZZpg :2021/06/10(木) 23:30:11 QsmP3Vn60


【マスター】
北条加蓮@アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】
アイドルになれた私の未来を、ここで終わらせない。

【weapon】
特に無し。

【能力・技能】
アイドルとしての練習を積んだため、歌やダンスの腕前は常人より上。
元病人ということもあって体力は平均レベル、あるいはそれ以下……だったが、それも昔の話である。

【人物背景】
長い入院生活を余儀なくされていた元・病弱な女子高生。
テレビ画面の中のアイドルに憧れ、プロデューサーとの出会いをきっかけに自らアイドルデビューした。
当初は斜に構えた気怠げな態度を取るも、経験を積むうちに本来の真面目な素顔が前面に表れ、煌めく乙女へと変わっていく。
『シンデレラガール』の栄冠を勝ち取ってからも、彼女の未来は続いていく。

【方針】
ただ生きて帰れたらそれで良い。ただし、人を傷付けたくはない。
できればキャスターのためにも何かしてみたい。


497 : 名無しさん :2021/06/10(木) 23:31:03 QsmP3Vn60
投下終了します。


498 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/11(金) 19:15:44 j6HZO0ok0
投下します


499 : 南雲ハジメ&キャスター ◆7PJBZrstcc :2021/06/11(金) 19:16:25 j6HZO0ok0


 どうしてこんなことに。


 なんで僕がこんな目に。


 誰が悪い?


 神か。
 ベヒモスか。
 それとも、僕を裏切ったクラスメイトの誰かか。

 いや、そんなことは――





 高校二年生の少年、南雲ハジメが目を覚ました時、一番最初に目にしたものは、眼前に迫ってくる一本の槍だった。

「うわぁ!?」

 生存本能か、それとも他の何かが働いたのか。
 槍を咄嗟に躱し、ハジメは迷うことなく後ろを向いて逃げ出す。

「へぇ……やるじゃねえか」
「ちょっと、何仕留め損なってるのよ!」

 その後ろでは槍の持ち主がせせら笑い、それを主が叱咤している。
 だがそんなことはハジメからすればどうでもいい。
 彼は今、逃走しながら情報の多さに混乱していた。

 逃げているハジメの脳内にいつの間にか入力されていた、聖杯戦争の知識とこの世界でのロールについて。
 それによるとこの世界では、地球と変わらない両親の元で過ごす普通の高校二年生が彼のロールであり、彼は今コンビニに夜食を買いに行こうとしている最中だった。
 その状況を槍使い達― ランサーとそのマスター ―に目撃され、さらに体に宿っている令呪を目撃したのでハジメは襲撃された、のだろうと彼は推測した。
 しかし、今彼が問題視しているのは別の部分だ。

(僕のサーヴァントは、どこだ?)

 現時点で、ハジメのサーヴァントは彼の視界のどこにも存在していない。
 まだ召喚されていないのか。
 それとも召喚されているのに姿を隠しているのか。
 どちらにしてもハジメからすれば最悪だ。

「あっ!?」

 考えながら走っていたせいか、ハジメは足を滑らせ体を転ばせてしまう。
 彼はすぐに立ち上がろうとするも、その前にランサーは追いつき槍を突き付ける。

「ま、気にすんな。お前は運が悪かっただけだ」
「そんな……」

 死刑宣告というにはあまりにも軽すぎる言葉に、ハジメは絶望するしかない。
 その刹那、彼の頭に浮かんだのはこの界聖杯の奪い合いに参加するまでのこと。

 南雲ハジメは元々、普通の男性高校生だった。
 しかしある日、彼はクラスメイト達と共に剣と魔法の異世界『トータス』に召喚されてしまう。
 その世界では人間族と魔人族が宗教戦争をしており、ハジメ達は人間族側の勇者として戦うことになってしまう。
 異世界召喚ということでチート能力が与えられている、と期待したのもつかの間。
 ハジメ以外には強力な力があったものの、彼にあったのは他に代わりがいる普通の能力なうえ、身体能力も一般人並。
 これにより、彼はクラスメイト達の大半と現地人に無能扱いされることになる。

 それからしばらくして、ハジメ達はダンジョンで魔物と戦いながら訓練をすることになった。
 訓練自体は問題なく終わりそうだったのだが、クラスメイトの一人がダンジョントラップに掛かり、彼らはダンジョンの難易度が高い下層へと転移したうえ、強力な魔物と対峙する。
 紆余曲折の末、ハジメは魔物の足止めに成功し、クラスメイト達を安全な場所まで逃がすものの、彼自身はダンジョンの足場が崩れたことと、クラスメイトの裏切りでさらなる下層に落ちてしまった。

 そして今、ハジメは聖杯戦争の為の世界に囚われ、聖杯の為の犠牲になろうとしている。


500 : 南雲ハジメ&キャスター ◆7PJBZrstcc :2021/06/11(金) 19:16:59 j6HZO0ok0

(ああ、これが走馬灯ってやつなのかな……)

 諦めかけてしまうハジメ。だが彼の脳裏には徐々に黒い感情が浮かび上がる。

(なぜ僕がこんな目に……何が原因だ……)
(なぜ苦しまなきゃいけないんだ)
(神は理不尽に異世界へ誘拐した)
(ベヒモスは僕を道連れに引きずり込んだ)
(クラスメイトは僕を裏切った)
(そして僕は今、訳の分からない殺し合いが理由で殺されそうになっている)

 ハジメの思考は、次第に諦めから怒りへと変わっていく。

(僕はどうしたい?)
(決まっている。僕は”生”が欲しい)
(ならばどうする? 答えなんて一つだ)

 ――殺す。

 その瞬間、ハジメから怒りが消えた。

(誰が悪いとか、どうしてこうなったとか)
(そんなことは、もうどうでもいい)

 ここまでで、時間にするなら一秒も経っていない。
 だがそれで充分。
 地球でもトータスでも味合わなかった強烈すぎる死の恐怖が、ハジメの思考を塗り替えるには。

「お前は僕の生を阻む。
 なら、お前は敵だ。
 敵は、殺す。それだけでいい」
「何をごちゃごちゃと!」

 ハジメの言葉が気に障ったのか、苛立ちながら槍を振り下ろすランサー。
 しかしその時、ハジメは咄嗟に地面を柔らかくし、ランサーの足場を崩す。

 これがハジメが異世界トータスで得た能力。錬成。
 本来なら武具を作る能力だが、彼はこれを地面に使い戦闘に応用したのだ。

「死ね」

 ハジメはそれに続いて地面を鋭く尖らせ、ランサーに向かって伸ばす。
 何もしなければ体を貫くだろうが、英霊たるランサーは槍を軽く振るうことでしのいだ。
 しかし、その時彼は目の前の男の瞳を見て、思わず戦慄した。

 ハジメの瞳には何もなかった。
 戦闘に対する高揚も、怒りも。悲嘆も絶望も。
 あるのはただ、生きたいという渇望のみ。

 ランサーが敵対しているが故、今は彼にその目を向けているが、例え敵が野生動物でも変わらず同じ瞳を向けるだろう。
 そう断言できるほど、彼は敵に対し何の感情も抱いていなかった。

(ヤバい! コイツはヤバい!!)

 ランサーは確信した。
 こんな目の奴がサーヴァントを従えたらどうなるか。
 決まっている。何でもやる。
 己が生き残る為なら、誰が死のうが何が壊れようがお構いなしな、真の鬼畜に成り果てる。

(ここで始末しねえと――)

 主の為に思考するランサー。しかしそれは最後まで続かない。
 なぜならば

「あ、ああ……」

 ランサーの首から上と下は分断され、消滅したからだ。
 代わりに現れたのは、巨大な蟲に乗った小柄な人影。
 頭が布で覆われた、子供ほどの背丈をした男だった。

「サーヴァントキャスター、召喚に従い参上した」

 彼がハジメのサーヴァント、キャスター。
 この男は、自身が今乗っている蟲が持つ刃でランサーを切り裂き殺しながら、マスターの元へ現れたのだ。


501 : 南雲ハジメ&キャスター ◆7PJBZrstcc :2021/06/11(金) 19:17:33 j6HZO0ok0

「くっ!」

 一方、ランサーを信頼していたがゆえに黙ってみていた彼の主は、槍使いの消滅と同時に踵を返す。
 だが――

「う、そで……しょ……なん、で……?」

 急に苦しみだしたかと思うと、その場に倒れ伏した。

「あれは、お前が?」
「そうだ」

 ハジメがランサーのマスターを指さしながら問うと、キャスターはこともなげに答えた。
 それからハジメはポンポンと自分についた汚れを手で払いながら立ち上がると、キャスターに話しかける。

「色々聞きたいことはあるけど、とりあえず名前だけは聞くか。
 僕は……いや、”俺”は南雲ハジメだ」
「……我が名はシキ。究極にして最強の戦闘術、道(タオ)の正統たる使い手だ」

 この時は名前だけだが、のちに話し合ったとき二人は理解する。
 二人とも、たった一つの目的の為だけにこの場にいることを。

 その為なら、何をしても構わないと思っていると。



【クラス】
キャスター

【真名】
シキ@BLACK CAT

【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A+ 幸運C 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:-
道(タオ)に陣地など必要ない

道具作成:A
魔力を帯びた器物を作成できる。
飲んだものに道(タオ)の力を与える「神氣湯」に加え、符術の為の札などが製作可能。

【保有スキル】
道士(タオシー):A++
人間の氣を能力に変える道(タオ)の使い手。
正統なる血統の持ち主であるキャスターは最高ランクである。

符術:A++
キャスターが扱う道(タオ)
後述の宝具の他、爆破、防御など使える技は多岐に及ぶ。

妄執:A+
キャスターは道(タオ)が最強であることを証明する、という願いに妄執レベルで囚われている。
同ランクまでの精神干渉系魔術を無効化する。
また、敵サーヴァントと敵マスターに同時に遭遇した場合、優先して敵サーヴァントを狙うようになる。
これは『マスター狙いなどせずとも私の道(タオ)は勝利する』という彼の妄執が理由である。

【宝具】
『我が氣を抑えよ』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
キャスターが普段から顔に巻いている布。
これは普段から呪水を染み込ませた特殊な布で、頭部を覆い力を抑え、無用な消耗を控えている。
力を抑えている状態では魔力はC相当となり、ステータスにもそう表記される。
この布を外した時、キャスターは真の力を発揮する。


502 : 南雲ハジメ&キャスター ◆7PJBZrstcc :2021/06/11(金) 19:18:03 j6HZO0ok0

『蟲(INSECT)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大補足:???
キャスターが扱う道(タオ)。
符に氣を籠めることであらゆる蟲を生み出し、自在に操る。
蟲にできることは多彩で、小さな蟲で対象に毒を注入し体を操る、生み出した蟲の鱗粉で神経を麻痺させる、
視点用の蟲を飛ばして水晶玉を通して遠くの様子を見る、人を数人乗せられるだけの大きさの蟲を作り出し移動手段にするなど、とにかく出来ることが多い。
その中で一番の戦闘力を誇るのが後述の宝具である。

『戦闘魔蟲”刹鬼”』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:10 最大補足:1
キャスターが作り出す最強の蟲。
この宝具はキャスターの命令で動くものの、人間並みの知能を持つのでキャスターが逐一指示する必要がない。
また、キャスターが分け与える限り、何度破壊されても修復可能。
ステータスはキャスターが籠める氣によって変わるが、幸運はCランクで一定し、宝具のランクは存在しない。

ただし、この宝具を発動している間は他の『蟲(INSECT)』は使用不可能となる。

【weapon】
道(タオ)用の札。
水晶玉。

【人物背景】
革命組織『星の使徒』のメンバー。
自身の一族を25年前に滅ぼされ、滅ぼした当事者であるクロノスを道(タオ)の力で滅ぼそうとしている。
ただしそれは復讐が理由ではなく、『道(タオ)が世界最強である』と世界に示す為である。
むしろ一族に関しては道(タオ)を持ちながら敗れるなど不甲斐ないと蔑んでいる。

本来なら彼は、己の道(タオ)を全霊で用いて戦うもある掃除屋に敗北し、新しい道を探す人生を送った筈だった。
しかし、マスターのただ一つのみを優先しそれ以外を切り捨てる精神性に影響されたのか、今の彼にはその掃除屋との戦闘を始める直前までの記憶しか存在しない。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争に勝利し、道(タオ)が最強であることを証明する。
聖杯を手に入れた暁にはクロノスも、道(タオ)を愚弄したクリードも滅ぼす。


【マスター】
南雲ハジメ@ありふれた職業で世界最強

【マスターとしての願い】
生きて本物の日本へ帰る

【weapon】
なし

【能力・技能】
・錬成師
いわゆる鍛冶職。材料を錬成し武器や防具などを制作することができる。
材料と時間と魔力さえあれば、ハジメはあらゆるものを製作可能。
銃や刀から、義手にバイク、飛行船に潜水艦。それから衛星兵器でも。
ただし今の彼はどれ一つとして持っていない。
その為、彼は地面を錬成して落とし穴や剣を作って戦うと言った戦法を取る。

・神の使徒
異世界トータスの神、エヒトによって召喚された者のこと。
ただし、彼は他の神の使徒と違い、一般人レベルの力しか持っていない。
一応、訓練によって多少はマシになったが、聖杯戦争のマスターとして見るなら『一般人よりはマシ』レベル。

なお、この聖杯戦争で役立つかは不明だが、彼は『言語理解』というスキルを持っているので、外国語や本来知らない異世界言語も理解できる。

・オタク
ハジメはゲーム会社社長の父と少女漫画家の母を持つハイブリッドオタク。
アニメ、漫画、ゲームの知識や機械工学など、結構様々な知識を持つ。
また、プログラミングからイラストなど様々な技能を持つが、デザインセンスはない。

【人物背景】
元々は『趣味の合間に人生』をモットーとして生きるオタクで、クラスのほぼ全員から嫌われ気味な高校二年生の男子。
しかしある日突然、異世界『トータス』にクラスメイトと共に召喚され、トータスの創造神エヒトの使徒として、人間族の為敵対種族である魔人族と戦争することになる。
戦争の為の訓練にダンジョンでモンスター相手に戦闘をしていたが、一人のクラスメイトが罠にかかったせいでクラス全員が強力な魔物に襲われてしまう。
ハジメが足止めをかって出たことでクラスメイト達は無事に脱出したものの、ダンジョンの足場が崩れたうえ、一人のクラスメイトの裏切りで彼はダンジョンの地下へと落ちていった。

【方針】
生存優先。敵は殺す。

【備考】
参戦時期はオルクス大迷宮65層から落下してから、真のオルクス大迷宮で目覚めるまでの間。


503 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/11(金) 19:18:28 j6HZO0ok0
投下終了です


504 : ◆0080sQ2ZQQ :2021/06/11(金) 19:29:57 2lggQZmk0
投下します。


505 : 海賊房太郎&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2021/06/11(金) 19:30:36 2lggQZmk0
房太郎は経営する店の売上の集計、現金の精査を終えると戸締りを済ませた。
思わぬ予行練習になったな、と房太郎は息を吐く。自家用車に乗り込み、店舗を後にした。

(いつ見ても驚かされるな。本当に夜が明るくなった)

房太郎は明治時代の人間だ。
ガス燈などは既にあったが、街全体が光っているような明るさはない。
それに天を衝くビル群の数々。便利さを享受していたが、身を落ち着けたいと思う事は無かった。

(こうも整ってるんじゃ、俺の夢は叶いそうにないしな。戻るほうがマシだ)

房太郎には夢がある。
小さくても、己の王国を持ち、自分の事を子供や孫に語り継いでもらうことだ。
この場に招かれる前には遂げられなかったが、拾う神はいたらしい。
この度参加するのは金塊ではなく、界聖杯を巡っての殺し合い。
聖杯戦争、サーヴァント。御伽噺のようだが、この風景を見ては信じるしかない。

(白石の奴、ちゃんと語り継いだのか?)

この場で己を取り戻してすぐ、房太郎は自分の記録を探したのだが、見つからなかった。
自分と同じ、網走の脱獄囚だった男を思う。命がけで救ってやったのだが、その借りを忘れてしまったのか、それとも歴史の闇に俺共々消えたのか?
どちらでもいい。心臓が動いている限り、夢に向かって走るのみだ。



繁華街の外れにある病院。
勤め人がめいめいのアフターに向かう頃、独りの少女が扉を潜ったのを流は見た。
長い髪を後ろで括った、気の強そうな顔立ち。服の上からでもわかる均整の取れたスタイルは、周囲の男子の注目の的だろう。
もっとも、姿を消した先から魔の気配を感じなければ、流の興味を引いたりはしなかったが。

房太郎に招かれたサーヴァント、秋葉流は助けない。
妖怪と戦う光覇明宗の法力僧だが、人を守ることに使命感はない。
きっとひどい目にあうのだろうな、と予想しつつ黙って少女を見送った。

―流にーちゃん!

聞き覚えのある声。
死んだ後も心に焼き付いている、少年の眼差し。
思いやりと明るさを忘れず、自らにのしかかる運命に立ち向かっていた少年。蒼月潮。
あいつが今の俺を見たら、怒るだろうか?それとも悲しむだろうか?

(この場にいない奴の事なんかいいか、なぁ"とら")

流は夢など見たことが無い。
頑張らずとも大抵の事はこなせたし、流が実力を示すたび、周囲との軋轢が生まれた。
退屈凌ぎのために生きる、人生に対して決して本気にならないと決めたのだ。

今回も、ただの退屈凌ぎ。
マスターには魔術の心得は無いが、暇を潰すには十分な相手だった。

「なぁ、キャスターは聖杯を手に入れたら、何に使うつもりなんだ?」
「何って、聖杯に興味はねぇよ。面白そうな催しだったから、混ざりに来ただけさ。マスターが持っていきな」
「そりゃ通らない。お前に戦ってもらう事になるんだから、本格的に始まる前に分け前についても、話し合っておきたいんだ」
「って、言われてもなぁ…」

現界してすぐ、房太郎とラム酒のグラスを片手に酌み交わした。彼は流の夢を聞きたがったが、語るような夢など彼にはない。

「やり直したい過去とかないのか?会いたい奴は?」
「そういうのはねぇな。将来を誓った相手もいねぇ」
「へぇ、…じゃあ、終わったら座に帰るだけ?」

そんなとこだな、と肯くと房太郎の眼が光った。

「じゃぁ、暇なんだな?だったら、俺の家臣になってくれ!」
「…家臣?」
「俺はな、キャスター。王様になるのが夢なんだ。小さくても、果物売ったりして生計を立ててさ、そこで家族や孫に囲まれて暮らすんだ」

お前も来い、と房太郎は流に言う。
聖杯に掛ける願いが無いなら、受肉して俺の願いに力を貸してくれ。子供のような表情で、房太郎は流に手を差し伸べてきた。

「今時、王国なんて無茶だろ」
「あぁ、そのあたりは後で話すよ。この時代じゃなくてもいいのさ、元手があって言葉が通じるなら、何時代だろうとな」

あのマスターは潮とは違う。
陰に生きている者だ。陰から光に向かって駆けだしている者だ。
首尾よく生き残れたなら、同行するのもいいかもな。建国事業ほどの企てならば、「風の音」を聞かずとも済むだろう。


506 : 海賊房太郎&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2021/06/11(金) 19:31:11 2lggQZmk0
【クラス】キャスター

【真名】秋葉流

【出典】うしおととら

【性別】男

【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具C

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
陣地作成:D
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
”結界”の形成が可能。法力による捕縛結界を張ることが出来る。

道具作成:E
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 逸話として持ち合わせていないがクラス補正により、仏具に破魔の概念を帯びさせることが出来る。


【保有スキル】
心眼(真):A
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
 逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

法力僧:A
 陰陽五行思想による法術、体術を用いて妖怪と戦う僧侶。
 魔的、霊的存在を感知する能力が向上。それの対象を攻撃する際、ランク分のダメージボーナスを得る。
 妖怪退治の組織の中でも、若くして獣の槍伝承者候補に選ばれた天才。

戦闘続行:C
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。
 死への恐怖を上回る、生の実感に対する渇望。

心に吹く風:E
 自分は本気を出してはいけない、という人生哲学。
 生前に辿った顛末により、Eランクにまで落ちている。
 流はスキルランク分、扇動や話術スキルへの抵抗にマイナス修正がかかる。



【宝具】
『月輪』
ランク:C 種別:対城宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:20人
 光覇明宗最強単独降魔捨法。高速回転する巨大な法力の弾を放つ。妖怪はおろか、甲板すら削るほどの破壊力を発揮する。

『隙間風吹く洋上の決闘(スピリット・ザ・ボンド)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1組
 二体で一体の妖、と呼ばれたコンビを分断させた逸話の具現。
 洋上に浮かぶ移動橋頭保の固有結界を展開し、対象の英霊と流自身を引きずり込む。
 結界に引き込まれた英霊は強制的にパスを遮断され、マスターは孤立させられてしまう。
 内部にいる間、流の筋力・敏捷・耐久がワンランクアップする。ただし、この宝具は死の状況を再現してしまう危険性を孕む。

 引き込んだ英霊が魔獣・怪物の属性を持つ存在であった場合、スーパーアーマー付与、霊格の破壊不可、さらに法力僧スキルによるダメージボーナスが消失する。



【weapon】
無銘:錫杖、無銘:独鈷、錫杖に仕込まれた鉄杭。
妖怪と戦う際に用いられる武具にして、法具。魔力を費やして補充できる。


【人物背景】
光覇明宗の法力僧。そのなかでも獣の槍伝承者候補に選ばれた青年。
幼いころから勉学においても運動においても、並外れた成績を残していた彼は、周囲との軋轢によって自らの才能を肯定する機会を持てなかった。
周囲の人間がどれほど努力しようと、勝っているのはいつも自分だった。努力を必要としないがゆえに、達成感も嬉しさも感じなかった。
持てあます才能を発揮する場を求めて、妖怪退治の法力僧となった流だったが、そこでも彼は天才であった。

他の伝承者とは異なり、槍に執着はなく、気ままに過ごしていた彼は槍に選ばれた少年「蒼月潮」と出会う。
彼に人柄に眩さを覚えつつも、自らを慕う潮の眼に耐えきれなかった彼は、人類に仇名す大妖「白面の者」の誘いに乗り、潮の前に敵として立つ。
潮にとりついた妖怪「とら」に倒されるまで、彼の心にはずっと風が吹いていた。


【聖杯にかける願い】
面白そうな催しだったから、呼びかけに応じた。房太郎が勝ち残るなら、ついていくのもいいかもな。


507 : 海賊房太郎&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2021/06/11(金) 19:31:33 2lggQZmk0

【マスター名】海賊房太郎(大沢房太郎)

【出典】ゴールデンカムイ

【性別】男

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
素潜りの達人であり、水深200mを30分の間、潜りつづけていられる。


【人物背景】
網走脱獄囚の一人。55件以上の強盗殺人、ほかにも凶悪な犯罪を繰り返している重犯罪者。
木材を運搬する人夫として働いていたが、やがて人を水中に引きずり込んで金品を奪うようになった為、海賊と呼ばれるようになる。
家族を疱瘡で無くしており、東南アジアの小さな島に自分の国を作って王様になる事が夢。


【聖杯にかける願い】
自分の国を作り、死んだ後も自分の事を語り継いでもらう。


508 : ◆0080sQ2ZQQ :2021/06/11(金) 19:32:03 2lggQZmk0
投下終了です。


509 : ◆A3H952TnBk :2021/06/11(金) 22:11:28 MBnBexIs0
皆様投下乙です。
自分も投下します。


510 : 杜野凛世&セイバー ◆A3H952TnBk :2021/06/11(金) 22:13:18 MBnBexIs0
◆◆◇◇


ぽちゃん、と響く水音。
ぐっと握り締める竿。
水面に浮かぶ釣り餌の感覚。
目に見えなくとも、掌を通して伝わる。
野草の茂る地面に腰掛けながら、時を待つ。

顔を撫でる雁渡の風。
耳に入る秋津の羽音。
―――ああ、もう秋だな。
“彼“は、しみじみと呟く。
肌で世界を感じ取って。
いずれ喰らいつく魚を待ち侘びて。
そして、孤独に唄を紡ぐ。

赤い夕日に、さすらいながら―――。

唄声。風と川の音色。
それらは、初秋の空へとさすらう。
誰にも聞かれない聲に、囲まれて。
“彼”は、ひとりぼっち。
いつだって暗闇の中に、佇んでいる。
私が視る夢―――“彼”の世界に、光は無い。


◆◆◇◇




凪のように、静かな夜だった。
星の見えない夜空。建ち並ぶ住宅。
窓の外に広がる世界は、一見何の変哲もない、日常の風景であり。
そんな景色を一瞥する彼女の眼差しには、寂しげな愁いが籠められていた

アンティークの椅子に腰掛けて、杜野凛世は外を見つめる。
よく似た風景。よく似た町並み。よく似た毎日。
けれど――――ここは、違う。
見慣れた世界のようで、似て非なる光景。
何処にも繋がることのない、箱庭の世界。
何処とも分からない、遠くへと来てしまった。
頭の中に紛れ込む“知識”を咀嚼して、彼女は思う。

畳の敷き詰められた部屋は、静寂に包まれている。
座布団の上へと移動し、彼女は正座する。
真っ直ぐな背筋。綺麗に揃えられた両足。
痺れを切らすこともなく、じっと姿勢を維持している。
部屋着である和服を身に纏う姿は、大和撫子と呼ぶに相応しいもの。
その佇まいからは、育ちの良さが滲み出ている。
そんな彼女の視線の先。
其処には、誰もいない。
しかし、確かに気配はあった。
魔力によって繋がっている彼女には、彼を感じられる。
霊体化という術によって姿を隠す、彼の存在を。

凛世は、彼を見つめていた。
自らの従者―――セイバーを。

「……セイバーさま」

呼びかけられたセイバーは、霊体化を解いた。
薄汚い和服。坊主頭に、髭面の面持ち。
片手には杖が握り締められ。
そして―――その瞼は、閉ざされている。
手探りで周囲のものに触れ、状況を確認し。
音を頼りに、凛世の方へと顔を向けた。


511 : 杜野凛世&セイバー ◆A3H952TnBk :2021/06/11(金) 22:14:17 MBnBexIs0

遠慮がちに姿を現した彼は、きょとんとした様子を見せていた。
少しだけ困惑したように周囲を見渡しながら――正確には“見る”というよりも肌で“感じ”ながら――、ふっと気づいた様子で笑みを浮かべた。

「せい……ああ、あっしのことですか」
「はい」
「そういう呼び方は、どうにも慣れねえもんでしてね」

ハハハ、と愉快そうに笑うセイバーを凛世はじっと見つめる。
畏まるように、遠慮がちに、彼は部屋の隅で座っている。
先程まで霊体化していたのもそうだ。マスターにとって目障りにならないように、と言わんばかりに彼は控えていた。

「聖杯戦争……と、言いましたか」
「ええ。お嬢さんが、選ばれたって訳です」

セイバーは笑みを消し、淡々と答える。
脳裏に刷り込まれた記憶を、凛世は手繰り寄せた。
聖杯戦争。伝説に名を馳せる存在―――英霊を召喚し、ただ一つの聖杯を求めて覇を競い合う。
最後まで戦場に残った主従だけが、あらゆる願望を掴み取ることができる。
それはまさしく、未知の事象。知る筈が無いのに、頭の中へと刻まれていた情報。
この世界―――界聖杯の舞台における“役割”と共に与えられた、マスターとしての資格だった。

「あっしは、もう人を斬るのは御免だと思っとりました。
 今でも……変わりゃしませんね、ハハ。なのに、此処に来ちまった。
 お嬢さんに、何故だか引き寄せられちまったみてえだ」

自嘲するように笑うセイバー。
凛世はそんな彼を、神妙な眼差しで見つめる。
浮かび上がるのは―――夢の中の記憶。
マスターとサーヴァント。
魔力で繋がる主従は、夢という形で互いの過去を見ることがあるという。

故に、彼女もそれを見ている。
彼が何者であるのか。
どんな道を歩んできたのか。
凛世は、知っている。

「で……お嬢さん、どうしますかね」

凛世の憂いをよそに、セイバーは言葉を続ける。
ぼんやりと、上の空のような意識に落ちていた凛世は、再び耳を傾ける。


「聖杯ってえもん、欲しいですかい」


セイバーは真正面から、凛世に問いかけた。
凛世は表情を変えない。
それでも、心の内では、思案をしている。
聖杯。それがあれば、あらゆる願望が叶う。
どんな祈りも。どんな願いも。
奇跡という形を得て、具現化する。


――凛世の脳裏に、鮮明な記憶が浮かぶ。


それは、彼女の始まりだった。
あの日、下駄の鼻緒が切れていなかったら。
あの日、“あの方”が通りかかっていなければ。
自身の歩む道は、大きく変わっていたのだろうか。
少なくとも―――このような想いが芽生えることは、一生無かったのだろう。
凛世は、胸の内の感情をぎゅっと噛みしめる。

部屋の片隅に置かれた人形へと、視線を向けた。
それを愛おしげに見つめた後に、ゆっくりと目を閉ざす。
プロデューサーさま。
凛世は心中で、その一言を呟いた。


512 : 杜野凛世&セイバー ◆A3H952TnBk :2021/06/11(金) 22:16:17 MBnBexIs0

―――前に、進みたくて。
―――人の心を、動かしたくて。
―――わからなくて。
―――プロデューサーさまに、会いたくて。

鮮やかな夕焼けのように。
思い出が、心に浮かび上がる。
あの仕事を経て、悩んで。葛藤して。
それまで目にしてきた光を、見失いかけて。
それでも、彼は告げてくれた。
――わがままになってもいいんだ。
――思いを全部ぶつけてくれ。
そう言って、凛世の感情を、受け止めてくれた。
そして凛世は。再び、ステージに立った。
一度は聞こえなくなった歓声を、その身に浴びた。
そんな彼女を、プロデューサーが見守る。

ふいに凛世は、八つの時に嫁いでいった姉のことを思い出した。
雪のような白無垢を纏って、妹へと別れを告げる。
遠くへ、遠くへと行って―――他の誰かと結ばれる。

愛する殿方と、添い遂げる。
それは何よりも純粋な祈りで。
しかし、決して容易なことではない。
今の自分の立場ならば、尚更。
ましてや、彼は――――。
凛世は、静かに目を開く。

「……分かりません」

聖杯が欲しいのか、どうか。
その答えは、すぐには出せなかった。

「ですが」

それでも。
一つだけ、答えられることはある。
放課後クライマックスガールズ。
掛け替えのない仲間であり、親友達。
プロデューサーさま。
自らを導いてくれた、愛おしい恩人。

「奇跡に、頼らずとも―――」

全ての思い出は、あまりにも鮮烈で。
これからもずっと、忘れられないもので。
だからこそ。


「凛世の心は、きっと満たされています」


それだけは、はっきりと言えた。


「器から……溢れるほどに」


胸に手を当てて。
尊ぶべき記憶を、抱きしめるように。
その想いは―――青春という、全力の輝きは。
凛世の心から、零れ落ちるほどだった。


513 : 杜野凛世&セイバー ◆A3H952TnBk :2021/06/11(金) 22:17:11 MBnBexIs0

凛世の言葉に、セイバーを黙って耳を傾けていた。
彼は、己のマスターの答えを聞き届ける。
僅かな沈黙。静寂が、再びその場を包み。
そして、口の両端が仄かにつり上がった。

「―――ハハハ、ハハハハッ……」

どこか、安心したように。
彼は、その場で笑い出す。

「セイバーさま……?」
「今の言葉で、よく分かっちまいましてね」

少々呆気に取られた凛世に、セイバーが頭を下げる。
急に笑ってしまって申し訳無い、と言わんばかりに。
そして、セイバーは言葉を続ける。
今の答えで、彼は理解していた。
己のマスターである凛世が、どのような人物であるのかを。
“光”のない彼にとって、言葉こそが他者の証だ。
それ故に彼は、少女の心を理解した。


「お嬢さんは、清らかで……綺麗な方だ」


一言、そう告げる。
ふっと優しげな笑みを、浮かべながら。
凛世は、目を少しだけ丸くした。
しかし、セイバーの邪気の無い表情を見つめている内に。
彼女もまた、口元から笑みが綻んだ。


「……ありがとう、ございます」


その場でゆっくりと、一礼をした。
自身の意志を汲んでくれた従者への、感謝を込めながら。


◆◆◇◇


“彼”はひとり、何処かを歩いていた。
右手の杖で草木を掻き分けて、叩くように地形へと触れながら、進むべき道を探す。
秋の風は、変わらずに“彼”の頬を撫でる。
“彼”は、心地よさげに、左手で顔に触れる。
風の余韻を、確かめるように。

どこからか、聞こえてくる。
忙しなく駆け抜ける、無数の足音。
此方へと迫り来る、確かな気配。
それは、確かに、着実に。
“彼”を目掛けて、次々に向かってくる。
ぴたりと足を止めた。“彼”は諦めたように、それらを待ち構える。
やがて足音は、“彼”を取り囲むようにして収まる。

やい、“座頭”―――おめえがこんな所にいるとはな。
てめえの首を取れば、俺達の名が上がるってもんだ。
恨みはねえが、斬らせてもらうぜ。
“彼”を囲む足音の主達が、口々に言う。
カチャ、と金属が擦れる音がした。
一斉に鞘から刀を抜いたのだと“彼”は気付いた。
ぎらついた刃物のような意思が、次々に突き刺さる。


514 : 杜野凛世&セイバー ◆A3H952TnBk :2021/06/11(金) 22:17:51 MBnBexIs0

“彼”を取り巻く、ひとつの“世界”。
気配。敵意。殺気。足音。刃音。
自らに迫るすべてを、肌で感じている。
それは、恐怖を感じるための暗黒。
無明の闇に佇むが故に身に付けた、生きる術。
目は見えない。憎しみを向けてくる相手も、斬りかかってくる相手も。“彼”の瞳には、何一つ写らない。


だから、“彼”はずっと感じている。
嗚呼。厭だ、怖い――――と。


暗闇は、“彼”が目の当たりにする現し世であり。
“彼”を絶えず苛む、恐怖そのものだった。
常に怖れと対峙しているからこそ、誰よりも死の匂いを敏感に察知する。

降りかかる殺意を、感じ取る。
振りかぶられる刃を、風の音色で悟る。
血気に満ちた男達の躍動を、耳で捉える。
迫る。敵が、間近にまで、迫る。


そして。
その手の中の仕込刀を―――瞬時に、抜き放つ。


音と匂いの、逆手斬り。
秋風を裂く、神速の抜刀術。
舞うように躍る動きを、“敵”は捉えられない。
踏み込んできたすべての者が、瞬く間に斬り捨てられる。
どさりと倒れて、皆が物言わぬ屍になる。
刹那の出来事。ほんの数秒足らず。それで、全てが終わってしまった。

ゆっくり、ゆっくりと、“彼”は鞘に仕込刀を収める。
手が震えているのを感じる。
人を斬るという背理を噛み締めて、其処に立ち続けている。
チャキン。誰かを傷付ける刃が、その身を隠す。
再び鞘から抜かれる瞬間まで、眠り続ける。

とん、とん、とん。
刀を仕込んだ杖を、何度も軽く振る。
地面に横たわる敵の亡骸を叩いて確かめた。それらがぴくりとも動かないことを検めて、“彼”は再び歩き出す。


厭な、渡世だなあ―――“彼”は呟く。
諦め。虚しさ。やくざとしての、宿命。
消えぬ業を背負い、光無き道をさすらう。

私は夢の中で、“彼”の哀しみに触れた。


◆◆◇◇


515 : 杜野凛世&セイバー ◆A3H952TnBk :2021/06/11(金) 22:18:38 MBnBexIs0


「お嬢さんは、芸の道を?」
「はい……アイドルというものを」

凛世は、セイバーと言葉を交わしていた。
彼の温和な態度に、何処か気が安らいだのか。あるいは彼もまた、彼女の清らかさに安堵したのか。
どちらにせよ、二人は気兼ねなく親睦を深めていた。

「あい……どる、ですかい」
「舞台などに立ち……歌や踊りで、皆様を楽しませる。そして、皆様の声を……私自身も受け取る。そんな、お仕事です」

聞き慣れぬ言葉に首を傾げるセイバーに、凛世は説明をした。
アイドル。それが、凛世の背負っているものだった。
ラジオや演劇、雑誌の撮影やテレビの収録。様々な芸能活動を行う、若きタレント。そしてステージの上では歌とダンスを披露し、祝福を分かち合う―――そんな輝かしい偶像。
この世界においても、凛世は変わらなかった。
事務所に所属する駆け出しのアイドル、杜野凛世。学業と仕事を両立させながら、日々を送っている。
ここでの経験もまた、彼女の記憶に染み付いている。その鮮明さは、元いた世界と殆ど変わらなくて。
それでも、此処は違う場所なのだと。凛世は仄かに、理解する。
放課後クライマックスガールズの皆と見た景色とは。プロデューサーに導かれて、目の当たりにした世界とは。こんな小さな箱庭ではなかったから。

「お嬢さんの晴れ舞台か……ハハハッ、きっと素敵なんだろうなあ……」

説明を飲み込んだセイバーは、再び笑う。
まるで目に浮かべるように、彼は“アイドル”としての凛世を夢想する。
どこか皮肉めいたものを、表情に浮かべて―――。

「……あ―――」

その時、凛世は気付く。
そして、表情を曇らせた。

―――彼には、“舞台の上の凛世”は見えない。 

軽率な物言いをしてしまった。
そのことを咄嗟に謝ろうとした矢先。

「あの、お嬢さん」

セイバーが再び口を開く。
何てことも無さげに、微笑みを浮かべながら。


「唄を、聞かせちゃあくれませんか」


一言、そう問いかけた。
え、と凛世は呆気に取られる。
後悔と負い目に覆われていた凛世は、ぱちぱちとした眼差しでセイバーを見つめた。
僅かな沈黙の中で、向かい合い。

セイバーは、にかっと笑った。
あっしは大丈夫、気にしなくていいですよ―――そう言わんばかりの、戯けた表情だった。
その姿が、何処かおかしくて。
それから凛世もまた、ふっと微笑んだ。


「ええ……喜んで」


淑やかに一礼をして、応えた。
彼に唄を送る前に、凛世は言葉を紡ぐ。


516 : 杜野凛世&セイバー ◆A3H952TnBk :2021/06/11(金) 22:19:26 MBnBexIs0

「セイバーさま……」
「ヘヘッ、なんですかい」
「私のことは……凛世と、お呼び頂ければと」

親しみを込めるように、凛世はそう告げた。
それを聞き、何処か嬉しそうにセイバーは頭を下げる。

「凛世さん……へへえ、では、そう呼ばせて頂きやす」

そう答えた直後に、セイバーは更に口を開いた。

「凛世さん。あっしも“セイバーさま”って呼ばれんのは、むず痒くてしっくり来ねえんた」

照れ臭そうに頭を掻きながら言うセイバーを、凛世は微笑と共に見据える。
何処か不思議な雰囲気を纏う彼に対し、奇妙な想いを抱いていた。

穏やかで、心地良くて。優しくて。
だけど―――あの“夢”の中で、彼は背負っていた。
他の誰かを斬り続ける、背徳のような生き様。
決して拭うことのできない、業と哀しみ。
光と影。清濁が入り交じるセイバーの姿を、彼女はただ見つめ続ける。

「だから、あたくしのことも―――」

そして、セイバーは。
その場で一呼吸を置き。
己の呼び名を、紡ぎ出した。


「市と、お呼びくだせえ」





袖が触れ合う度、実り弾け―――。
想いの種、膨らみ―――。


伴奏は無い。大層な舞台でも無い。
彼女を照らす光も無ければ、観客もたった一人しかいない。
それでも、彼女の聲は唄となり、この小さな箱庭で静かに響く。

セイバーは―――“彼”は、何も言わない。
しかし、フッと口元は笑んでいる。
凛世の唄声に、聞き惚れていた。
そんな姿を見て、凛世は夢の中の情景を思い起こす。

“彼”の世界に、光は無かった。
目先に広がるのは、暗黒のみ。
何処を彷徨おうと、何も見えない。
風と音だけが、頼りだった。

“彼”の世界は、常に恐怖と肉薄していた。
命を狙う敵が、絶えず迫り来る。
“彼”は特別な存在だから。
弱い者を放っておけない、優しい人だから。
だから、誰かを斬ってしまう。
例え自分の身を守る為であっても、他者を守る為であっても―――“彼”は刀を振ることを、余儀なくされる。
何も見えない暗黒と、そこから襲い掛かる死の気配。
“彼”は、心の何処かで怯えていた。
目で捉えることの出来ない殺意の輪郭を。
人を斬り続けながら生きていく、深い背徳を。

そんな生き方に、疲弊していたのに。
それでも、“彼”は自らを受け入れてしまった。
堅気にはなれず、御法度の裏街道を往く、やくざとしての己を。
それは達観であり、諦観だった。
闇を揺蕩う獣道。しかし、それこそが“彼”を“彼”たらしめる。
その心には、哀しみが巣食っていた。


517 : 杜野凛世&セイバー ◆A3H952TnBk :2021/06/11(金) 22:20:13 MBnBexIs0

言葉は、蛍のような光だ。
ぼんやりと宙を漂い、届くことは無くても。
写真のように、時間と形を切り取れなくとも。
それでも、確かな輝きとして其処にある。
想いを伝える為の、証となる。
視ることのできない“彼”にとっては、きっと尚更大切なもの。

だから、この唄を。『常咲の庭』を、“彼”に送った。
それは凛世にとって、まだ見ぬ空へと翔び立つ想いであり。
自らを支えてくれるファンの声援に対する返礼であり。
そして、花を照らす日向―――彼女を導いてくれた恩人に対する、恋文だった。

この想いが、他の誰かにとっての“光”となれば。
凛世は、アイドルとして、何よりも本望だった。
避けられない恐怖と苦痛の中、闇を彷徨い続けた“彼”の心を、凛世は少しでも癒やしたいと思っていた。





“彼”は、やくざだった。
凶状を持ち、各地をさすらい。
その驚異的な抜刀術で、悪を討つ。
名は“座頭市”―――盲目の侠客である。



【クラス】セイバー
【真名】座頭市@座頭市(勝新太郎版)
【属性】中立・善
【パラメーター】
筋力:D+ 耐久:D 敏捷:B++ 魔力:E 幸運:D 宝具:C+

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:E-
「何かを乗りこなす才能?冗談じゃねえや。
 あたくしはね、馬にしがみつくのがやっとだ。
 “めくら”にそんなことを求めちゃあ……ハハッ、いけませんよ」

【保有スキル】
盲の心眼:A+
音。匂い。気配。殺気。目は見えずとも、彼は世界を感じている。
研ぎ澄まされた超感覚による察知能力、そして戦闘技術。
自身に迫る危機や殺意、状況を敏感に感じ取り、その場で残された活路を瞬時に導き出す。
盲目という特性ゆえに視覚妨害系の能力を完全無効化する。

無明の剣閃:A+
盲目でありながら達人の域まで磨き上げられた驚異的な剣技。
仕込刀を用いた近接戦闘の際、敵との筋力・敏捷のステータス差に関係なくあらゆる判定で常に優位を取りやすくなる。
また斬撃による与ダメージにプラス補正が掛かり、クリティカルヒットの確率も大幅に上昇する。

いかさま博打:B
生前のセイバーは盲人としての技術と周囲の侮りを利用し、数々の賭場で勝ち星を上げてきた。
幸運判定が発生した際、一定確率でセイバーの幸運値を無視して強制的にクリティカルを叩き出す。

無頼の侠客:B
特定の主君を持たず、孤高のやくざとして伝説となった生き様。
同ランク以下のカリスマを無効化し、相手がランクで勝る場合にもその効果を軽減する。
同ランクの単独行動スキルも兼ねる。


518 : 杜野凛世&セイバー ◆A3H952TnBk :2021/06/11(金) 22:21:23 MBnBexIs0

【宝具】
『小夜嵐の唄を聴く』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~15 最大捕捉:20
「およしなさいよ 無駄なこと―――」
盲目の剣客であるセイバーはあらゆる存在を“感じ取り”、敵と見做した者達を全て斬り捨ててきた。
敵や飛び道具等を問わず、レンジ内に侵入した存在の“気配”を完全察知する宝具。
『気配遮断』を始めとする隠密行動系のスキルや宝具をランクに関わらず無視し、自身に迫るものを確実に捕捉してみせる。
サーヴァントとして“伝説”の領域へと至ったことで、生前を上回る超感覚を獲得している。

『音と匂いの、流れ斬り』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:10
「ああ、厭な渡世だなあ」
“盲目の侠客”を伝説足らしめた神速の剣技。
鞘からの抜刀と共に敵を斬る“居合”を繰り出す際、敵の敏捷値を無視して絶対に先手を取る。
例え相手が先に攻撃を仕掛けようと、圧倒的な超高速戦闘が可能であろうと関係無い。セイバーは敵の殺意を確実に捉え、超人的な瞬発力で仕込刀を抜いてみせる。

【Weapon】
仕込刀

【人物背景】
江戸時代末期を生きた盲目の侠客。
超人的な居合術を操り、数々のやくざ達から伝説じみた存在として知られていた。
普段は温厚な性格で、誰に対しても腰が低い。しかし一度やくざとしての素顔を見せれば並大抵の者を寄せ付けぬ程の凄味を放つ。
やくざとして喋る際の一人称は「俺」だが、普段は「あっし」「あたくし」など謙虚な物言いをする。

圧倒的な強さを備えながら、座頭市は戦うことを嫌う。御法度の裏街道を往くやくざとしての業、そして人を斬る背理を彼は認識しており、それ故に面倒事を避けようとしているからだ。
それでも座頭市は義侠心を捨てられない。例え多くのやくざ達から命を狙われることになろうとも、己の居合術によって道を切り開けることを彼自身が理解している。
座頭市は各地を渡り歩き、自らの宿命への諦観を抱きながら、悪人と対峙し続ける。

【サーヴァントとしての願い】
人を斬るのはもう御免だったが。
お嬢さんのことは、ほっとけねえな。



【マスター】  
杜野 凛世@アイドルマスター シャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】  
奇跡に託したい想いが、無いとは言い切れない。
それでも、これから歩んでいく道に、きっと奇跡は必要はない。

【能力・技能】  
ボーカルやダンスなど、アイドルとして一定の技術を積んでいる。
また由緒ある呉服屋の娘ということもあり芸道全般に精通している。

【人物背景】 
283プロダクションに所属する大和撫子系アイドル。『放課後クライマックスガールズ』に所属。
常に控えめで礼儀正しく、良家の子女としての確かな佇まいを持つ。一方で少女漫画を好むという意外な趣味があり、またメンバーとの交流ではノリの良い一面を見せることも。自身をスカウトしたプロデューサーに対して一途な想いを抱き続けている。

時間軸はGRAD編以降。
界聖杯内でもアイドルと学業を両立させているが、283プロとは異なる事務所に所属している。

【方針】
元居た世界へと、帰りたい。


519 : ◆A3H952TnBk :2021/06/11(金) 22:22:08 MBnBexIs0
投下終了です。


520 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/11(金) 23:37:49 rLSdGMuQ0
>>Never ends
キャラクターの生き生きとした、それでいて独特の雰囲気がある会話がとても魅力的なお話でした。
心理描写が非常に巧く、読んでいるだけでキャラクターの胸の内が伝わってくる読み応えのある一人称視点。
加蓮とアスクレピオスという組み合わせならではの会話、特に「今日の散策が、僕への御礼のつもりだったとでもいうのか」からの流れがとても素敵でした。
そりゃ加蓮は感謝するよなあ、医療の祖なんて存在に会ったら……としみじみしてしまいました。

>>南雲ハジメ&キャスター
とんとん拍子で進んでいく、読みやすくて尚且つ必要な情報量はきちんとあるお話でした。
目的のためなら何をしても構わないと思っている主従は、当たり前ですが危険な存在になりそうです。
ましてシキはかなり変わり種かつ高い戦闘能力を持ってもいるサーヴァントですからね。
主従間の相性が良いことが最悪な形に繋がっている、そんな印象を受ける作品でした。

>>海賊房太郎&キャスター
死んだ後も自分のことを語り継いでもらうという夢のために行動する男、いいですね。
サーヴァントを家臣にしようと考える発想も面白くて、キャラクターの魅力が現れていたように思います。
それにやや呆れつつもしかし悪しからず思っている流の描写も素敵です。
今回は風の音を聞かずに済みそうという彼の勘が当たることを祈るばかりですね。

>>杜野凛世&セイバー
うわーすごい! 映画の雰囲気をクロスオーバーのフィールドに持ち込んでくる技量の高さに脱帽です。
全編に渡り静かな雰囲気ながら、しかし確かに味のある会話がたまりませんでした。
凛世と座頭市、その両方の心理描写が巧みに折り重なっており、非常に読み味が良くて素敵でした。
暗黒の中のみを"世界"として生きてきた市が光の象徴たるアイドルの凛世に喚ばれ、どのように照らされていくのか。とても楽しみです。


皆さん今日もたくさんの投下をありがとうございました!
自分も投下させていただきます。


521 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/11(金) 23:38:14 rLSdGMuQ0

 夜空の下で、二つの影が相見えていた。
 既に激戦の余波によってか、周囲の景色は大分様変わりしてしまっている。
 だがしかし、激戦と呼ぶには些か双方の様相に差がありすぎた。
 片方。ローブ状の聖衣に身を包んだ妙齢の女は這々の体で、よく見れば右腕の肘から先が存在しない。
 一方でもう片側……モヒカン頭の奇抜な男はと言えば、無傷。流血どころか土埃一つ浴びていない、戦いが始まる前と何ら変わらぬ佇まいであった。

「へぇ……やれば出来んじゃねえか。霊的防御って奴だろ、それ」

 女、もといキャスターのサーヴァントは陣を組み、眩く輝く金色の紋様を現出させる。
 彼の言う通り、これは霊的防御に属する防御魔術であった。
 宝具に由来する特大の神秘を以って編み上げた、彼女に出せる限界域の霊的硬度を誇る聖盾。
 これまで彼女が用立ててきた魔術は全て敵たるサーヴァント・アーチャーには通じず、事も無げにあしらわれてきたが――これならば。

 これならば敵の苛烈な攻めを全て封殺し、その上で一方的に嬲り殺してやれるという自信がキャスターにはあった。
 この盾は、彼女の魔術師としての誇りであり意義。
 文字通り人生全てを費やして編み上げた至高の盾――故にこの時彼女は、違うことなく勝利を確信したのだったが。

「いいぜ。なら、こっちもギアを上げてやる」

 アーチャーの口が、獰猛な笑みを形作ったかと思えば。
 次の瞬間、一言唱えた。宝具の真名解放とは違う、しかしそれに比肩する恐ろしさを秘めた一言。
 そしてその言葉こそが、キャスターがこの聖杯戦争で認識できた最後の情報になった。


 ――バーナーフィンガー、2。


 アーチャーがこれまで戦いに使っていた肉体の部位は、指の一本だけである。
 人差し指を前に突き出して、そこから"灼熱(The Heat)"の熱線を放つ。これだけだ。
 たったこれだけのことで、数多の叡智と研鑽を積み上げて英霊の座にまで召し上げられた女は完封されかかった。
 それほどまでの頭抜けた火力。貫通力。そして、速度だった。
 しかし新たな盾、奥の手である究極の霊的防御宝具ならばどうか。
 これならばきっと、あの忌々しい熱線を防げる筈だ――そんなキャスターの思考を言い表すならば、たった一言で事足りる。
 ただの、虚しい糠喜びだ。

 人差し指と、そして中指。
 この二本を起点に鉤爪状に伸びた業炎を発生させ、ただ振り下ろした。
 それだけだ。全てはそれだけで、呆気なく決着した。

「……ハッ。なんだ、案外脆かったな。見かけ倒しにも程があるぜ」 

 たった一刀にしてキャスターを防御ごと両断したアーチャーは、嘲る笑みを浮かべてそう溢した。
 彼ほどの戦闘者に"二本目の指"を使わせたことは、彼女にとって幾らかの慰めになるだろうか。
 されど、敗れた女を嗤う者は愚かだ。彼の、"バズビー"の灼熱(ねつ)を実際目の前にして同じ声をあげられる者などごく少数に違いない。
 彼だけが、無残に散った敗者を指差して笑えるのだ。
 灼熱の聖文字を宿す滅却師、星十字騎士団(シュテルンリッター)の火矢たる、バズビーだけが。


522 : シャミ子&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/11(金) 23:39:00 rLSdGMuQ0

 彼が聖杯戦争に召喚されて、既に半月ほど経つが。
 今のところ彼にとってこの戦争は、久方振りの実戦のウォームアップ程度の手応えしかなかった。
 何しろ"二本目"を使わせた相手からして今夜のキャスターが初めてだ。
 誘蛾灯に吸い寄せられる蛾のように馬鹿面を下げて向かってくるのはいいが、誰一人相手にならない。弱すぎる、鈍すぎる。あまりにも。

「で。てめえがマスターか? さっきの女のよ」
「ひっ!? あ、あああ、ああっ……!!」

 サーヴァントとしての仕事を恙なく済ませたバズビーは、呆然とへたり込んでいる幼い少年に指を向けた。
 とてもではないが戦場には不似合いな齢の、あどけない少年だった。
 その表情は恐怖に染まり、腰が抜けた状態のまま惨めに尻と手だけで後ろに下がろうとしている。
 その体たらくを一笑し。バズビーは、いざ"最後の工程"を済ませに掛かる。

「五秒だけ待ってやるよ。てめえも相棒の仇を討ちてえだろ?
 その五秒で俺を殺せりゃてめえの勝ちだ。やってみろよ、ガキ」
「っ……!」
「五、四、三――……チッ。
 拳を握りもしねえのかよ、根性のねえ負け犬だな」

 今更子女の殺傷に心を痛める柄でもない。
 つまらなそうに、興が削げたように舌打ちをすると。
 バズビーは当初の予定の"五秒"経ち切るかどうかというところで、熱光を煌と灯らせた。

 ……が。


「な――――――――にやってるんですか私言いましたよねそれ駄目だって〜〜〜〜〜〜っ!!!!」


 夜闇を、文字通り劈くような甲高い声。絶叫。
 それを耳にしたバズビーは、露骨に。
 それはもう露骨に、嫌そうな顔をした。
 面倒臭い奴が来た、というような。或いは、もう少し急げばよかったか、というような。
 そんな表情で振り向き、彼は。己のマスターである、やけに露出の多い格好をした"角付き"の少女を見た。

「相変わらず五月蝿え奴だな。てか俺言っただろ、俺の戦いに口出しすんじゃねえって」
「わ、私だって言いました! 人殺しはしちゃダメですって言いましたー!!」
「だからその話はとっくに終わってんだよ、俺の中では。
 お前がそういうふざけたことを言ってたなってのも含めて終わってんだ」
「な、何をうっ!? 勝手にマスターとサーヴァントのふれあいトークを終わらせないでください!
 マナー違反ですよ!! 親しき仲にも礼儀ありってことわざ知らないんですかアーチャーさんは!!」
「五月ッッ蝿ぇなマジで! てめえから一発打ち込まれてえのかァ!?」

 そう、彼女はバズビーのマスターである。
 マスター、なのである。
 このわーきゃー喧しく、その癖戦闘能力の"せ"の字の一画目がぎりぎり見えるか見えないかというような少女が。
 星十字騎士団の戦士として名を馳せた"灼熱(The Heat)"のバズビーを呼び寄せた、張本人なのである。
 彼本人に言わせればそれは、あまりにも胃の痛くなる災難だった。
 カッと目を見開いて思わず大声で反応してしまった後で、バズビーは頭をガシガシと掻き、もう一度怯える少年へと指を向け直した。


523 : シャミ子&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/11(金) 23:39:29 rLSdGMuQ0

「戦争って言葉の意味は分かんだろ。
 ならもう一つ覚えとけ。一度戦うって決めたらな、相手が死ぬまで徹底的にやんだよ」
「そ、そんな野蛮人トリビア要りません! ああもう、どんだけ分からず屋さんなんですかあなたーっ!!」
「ハッ。そんなに俺を止めたきゃ令呪でも使うんだな。
 まあ、流石にテメェもそこまで馬鹿じゃねえだろうがよ」

 界聖杯は、招いたマスター全てに聖杯戦争において必要不可欠な知識を授けるのだという。
 ならば当然、彼女の頭の中にも入っているのだろう。
 そしてそれなら、分かるはずだ。令呪というものがどれほど大切で貴重なものか。
 バズビーはフッと小さく息を吐き、口元を微かに緩めながら――ようやく足腰が立ったのか、おぼつかない足取りで逃げようとする少年の背中に照準を合わせ。


「あっ、その手がありました!
 令呪を使ってお願いします、アーチャーさん!
 "私たちマスターを殺そうとしないでください"!!」


「……は?」

 いざ、熱線――バーナーフィンガーを放ち、後顧の憂いを断ち切らんとした。
 その矢先。ぽん、と。名案だ、と言わんばかりに手を叩きながら少女が吐いた"お願い"が。
 バズビーの射撃を、"縛り"という形で引き止めた。

「な……何やってんだテメェ……?
 ば、バカだバカだとは思ってたがよ――いよいよマジでイカれてんのか……?」
「し、仕方ないじゃないですか〜……アーチャーさんが全然話聞いてくれないんですもん。
 それにほら! まだ二画ありますよ、令呪。一画くらい使っちゃっても大丈夫ですって!」
「……、」
「次使いたいな〜って思った時にぐっと我慢すればいいんですよ」

 絶句、という言葉がこれほど似合う状況を、バズビーは未だかつて経験したことがなかった。
 
 だが、どれだけもったいない使い方と言えども令呪は令呪。縛りは縛りだ。
 バズビーはこれにより、今後マスターを殺すことが出来なくなった。
 多少痛めつける程度ならば可能かもしれないが、それでも殺害することだけは絶対に不可能になった。なってしまった。
 他でもない――マスター。吉田優子という、百パーセント聖杯戦争の場には相応しくないぽわぽわした"まぞく"の命令によって。

「(冗談だろ……? 本気でこれから先ずっと、俺はこいつのお守りをしながら戦っていかなきゃならねえのか……?)」

 強者の戦いを歓迎する気質のバズビーにとって。
 これほど誰かに愕然とさせられる機会はそうそうあるものではなかった。
 ひょっとすると生前、ユーハバッハの聖別が始まった時よりも――単純な度合いで言えば上かもしれない。
 そんなことを考えながらバズビーは、呆然と"マスターを撃てなくなった"己の指を見下ろし、わななくのであった。


524 : シャミ子&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/11(金) 23:39:53 rLSdGMuQ0
◆◆


「もう、いい加減機嫌直して出てきて下さいよアーチャーさん。
 アーチャーさんが言ったんじゃないですか、止めるなら令呪使えーって」
「呆れて物も言えねえんだよ馬鹿」

 マスター殺しは聖杯戦争においては立派な戦術の一つだ。
 それに、脱落したマスターを野放しにしておけば、最悪別な英霊と再契約してまた立ちはだかってくる可能性とてある。
 だからこそバズビーは、サーヴァントを倒したなら必ずマスターも抹殺しようと決めていた。
 これまでに彼がマスターを殺せる状況に立ったのは、全部で二度。そしてその両方とも、マスターの優子に止められている。
 一度目は止めてきた優子に意識を向けた隙に逃げられたので、今度は同じ轍は踏むまいとしていたのだが、結果はこの有様だ。

 今後バズビーは、サーヴァントを失って尻尾を丸めて逃げ帰るマスターを黙って見送るか、出来てもふん縛って何処かに囚えておくしか出来なくなってしまったのである。

「……第一な、てめえ。あれであのガキが本当に助かったと思ってんのか?
 此処は聖杯戦争――戦争をやるための世界なんだぞ」
「それは……分かってますよ、私だって」
「いいや、分かってねえな。
 令呪だけ残って落ちぶれたマスターなんてもん見る奴が見りゃ格好の獲物だ。
 殺されるんならまだ幸せだぜ。英霊(モノ)によっちゃ、死ぬよりよっぽど地獄を見るかもな」

 バズビーの言葉に、優子はうっと黙り込む。
 やはり、予想通りだ。彼女はあの場で凶行を止めはしたものの、そこから先のことまでは考えていなかったらしい。
 
「ちったあ現実を見ろよ、優子。
 てめえが思ってるほど、この聖杯戦争(せんそう)は甘くねェぞ」
「……でも」

 バズビーは別段、願いを抱いて現界しているサーヴァントではない。
 強いて言うなら、熱くなれる戦いが出来ればそれでいいと思っている。
 だからこうして、マスターという肩書きのガキのお守りに身体を張ってやっているのだ。
 そして、そんな彼の目から見て――この吉田優子という少女は、あまり事を甘く見すぎているとしか思えなかった。

「でも、やっぱり……私は嫌です。
 誰かを殺して元の世界に帰るなんて、したくない」
「お前が殺すわけじゃねえだろ。あの痴女みてえな格好になっても、お前じゃ猫一匹殺せねえだろうから安心しろ」
「ししししし失礼な! まぞくの危機感知フォームを侮ったな!?」

 あまりにも向いていない。
 会ったこともない、話したこともない、それどころか同じ世界の人間ですらない可能性が高い。
 そんな相手を、敵を殺すことすら嫌がって、挙げ句令呪を使う始末である。
 バズビーは自分の強さに多少以上の自負を持っているが、だからこそ、その点彼女は運が良かったなと思っていた。
 もしももっと弱い、それでいて中途半端に善良なサーヴァントを引いていたなら――優子はもうとっくに脱落していたことだろう。


525 : シャミ子&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/11(金) 23:40:16 rLSdGMuQ0

「って、それはさておき。……やっぱり私はできるだけ戦いたくないし、私のせいで誰かが死ぬのはとても嫌なんですよ。
 私がそんなことしたら、桃――私の友達みーんな、すごく悲しむと思うんです」
「……、」

 やはり、お花畑だ。
 こいつは馬鹿で、どうしようもなく平和ボケしている。
 バズビーはそう思い、優子との会話を一方的に打ち切り再び霊体化した。
 優子は「あーっ! 話の途中ですよ!」と騒いでいたが、付き合ってやる義理はない。
 あんなことで令呪を使われた衝撃はまだバズビーの中に残っているものの、使われてしまったものは仕方ないのだから割り切るのが一番利口だろう。

 それに、いつか必ずこいつは痛い目を見る。
 聖杯戦争が進んでいく中で――いつか必ず、自分の甘さを悔いる時が来る。バズビーはそれを確信していた。
 にも関わらず"鞍替え"の考えを思い浮かべるには至っていないのは、願いを持たない身である故なのか。

「(……友達、か)」

 ああ、まったく甘い。
 できの悪い砂糖菓子のような味わいのする言葉だった。
 友達。それほど意味のない言葉など、この世にない。
 固執すればしただけ損をする。そのことを、バズビーは文字通り痛いほどよく知っていて。

「――――チッ」

 なのに、その言葉を聞くと。
 未だに頭の中に過ぎるいけ好かない面影があって――バズビーは、小さく舌を鳴らした。


【クラス】アーチャー
【真名】バザード・ブラック
【出典】BLEACH
【性別】男性
【属性】中立・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:B 魔力:A 幸運:C 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【保有スキル】
滅却師:A
 クインシー。霊力を持ち、虚と闘うことが出来る人間。
 大気中に偏在する霊子を自らの霊力で集め、操る技術を基盤とした多種多様な術を使用できる。
 バズビーは滅却師の皇帝が率いる戦闘部隊"星十字騎士団"の一員であり、非常に強力な滅却師の一人。

魔力放出(炎):A
 武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
 バズビーの場合、宝具である聖文字によって駆使する炎を放出する。


526 : シャミ子&アーチャー ◆0pIloi6gg. :2021/06/11(金) 23:40:47 rLSdGMuQ0

【宝具】
『灼熱(The Heat)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:10
 バズビーが生前、滅却師の皇帝ユーハバッハより賜った"聖文字(シュリフト)"と呼ばれる異能。
 あくまでも本来の所有者はユーハバッハであるが、聖杯戦争においてはバズビーの宝具として登録されている。
 読んで字の如く、灼熱――炎を操る能力。熱線としての放射から、そのまま振り回して擬似的な斬撃のように扱うことも可能など応用の幅は広い。
 その火力・貫通力は凄まじく、生半可な防御であれば容赦なく貫通して奥の敵を撃ち抜ける。
 彼は自身の技に"バーナーフィンガー"という名を付けて呼称しており、名前の後に付く数字が大きくなればなるほど威力が上昇していく。

 本来であれば、奥の手である二段階目の能力解放……『完聖体(フォルシュデンディッヒ)』と呼ばれる形態になることも可能なのだが、元々この宝具自体が借り物同然のそれであるためなのか、聖杯戦争に召喚されたバズビーにはそれができない。

【weapon】
 滅却師としての能力

【人物背景】
ユーハバッハが統べる見えざる王国(ヴァンデンライヒ)の精鋭部隊、"星十字騎士団(シュテルンリッター)"のメンバー。
本名はバザード・ブラックだが、彼自身は"バズビー"と名乗る。
モヒカン頭、桃色の髪、左耳にナット、右耳にボルトという奇抜な姿をしており、性格は好戦的且つ短気。
ユーハバッハに自分の一族を滅ぼされた過去があり、当初は後に騎士団の最高位(グランドマスター)に就任するユーグラム・ハッシュヴァルトと共にユーハバッハへの復讐を誓って牙を研いでいた。
しかし後にハッシュヴァルトがユーハバッハの半身であることと、自分が得た強さが彼の力により齎された恩恵であることを知る。
以降は彼と袂を分かち、騎士団に入団した後も事ある毎に交戦を持ち掛けていたが、一度として戦いに応じては貰えなかった。

最終的にはユーハバッハを裏切り、真世界城にてハッシュヴァルトと戦闘。
聖文字の力すら使わせられずの敗北だったが、友との再戦という本懐を遂げて散っていった。

【サーヴァントとしての願い】
無い。サーヴァントとして戦いを楽しめれば、それでいい


【マスター】
吉田優子@まちカドまぞく

【マスターとしての願い】
聖杯とかはいらないので、元の世界に返してほしい

【能力・技能】
 夢魔の一族であるため、他人の夢に潜り夢を操る資質を持っている。
 人や動物だけでなく、無生物の無意識にさえ入り込める。
 此処に入り込むことで、他人の記憶を覗き見たり、負の感情を取り除くなどすることが可能である。

 また、掛け声一つで"危機管理フォーム"という戦闘フォームに変身することもできる。
 ただしこれには、優子自身が"マジの危機感"を感じていないと変身することはできない。
 貧弱な身体能力がいくらかマシになる。

【人物背景】
 桜ヶ丘高等学校に通う高校一年生。
 まぞくとしての活動名は母に一方的に決められた「シャドウミストレス優子」。
 友人たちからは縮めて「シャミ子」と呼ばれることが多い。

【方針】
戦いとかはしたくないです!!


527 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/11(金) 23:41:29 rLSdGMuQ0
投下終了です。


528 : ◆9jmMgvUz7o :2021/06/11(金) 23:44:13 0O8bcXnk0
皆様投下お疲れ様です
私も投下します


529 : 冬馬かずさ&セイバー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/11(金) 23:44:49 0O8bcXnk0
「……」

儚くも切なく、そして苛烈で過激な演奏だった。
縦横無尽に広がる観客席の中央、そのステージにある一台のピアノから響く旋律にこの場にある全てが支配されている。
ドレスに身を包み、漆黒の髪を揺らしながら彼女は鍵盤を叩き、何百もの人々を釘付けにする。
これだけの視線を一点に集めながら、彼女は一つの狂いもなく予め定められた演奏を淡々とこなしていく、

「あんまり、音楽なんか分からなかったけど……良いもんだな」

そのピアノの音色を噛みしめるように、一人の青年が感嘆の声を漏らしていた。

セイバーのサーヴァント、その真名をウェイブという青年は今は人ならざる身でありながらも、ただの音に魅入られていた。
かつてかの帝国が健在で、革命軍やナイトレイドと内戦をしていた頃は聞く暇もなかった。
その後もやはり機会は訪れず、生前は然程触れてこなかった文化だが、こうして改めて聞くと悪くはないものだと思える。

演奏は山場を越え、そして穏やかに終息へと向かう。

やがて、鍵盤を打つ指が止まり静寂が訪れる。僅かな間を置き、誰からともなく拍手が巻き起こった。
観客が織りなす手拍子の合奏にセイバーも堪らず、手を叩きステージ上の女性、自身のマスターである冬馬かずさへと細やかな称賛を送る。

壇上の彼女は慣れた動きでピアノから離れ、一礼と共に拍手喝采を背にして去っていった。




「すげえな。客も全員大絶賛じゃねえか」

「何処が良いんだ。あんなの投げやりな演奏じゃないか。
 NPCだか何か知らないが、あれは私が何弾いても褒めちぎるように出来てるんだろ」

「投げやり……」

コンサートを終え、スタッフやマネージャーにも挨拶を終えたかずさは楽屋で一息つき、セイバーに愚痴を漏らす。

「お前も物好きだな。わざわざ私のピアノを聞くなんて」

「コンサート中に、他のサーヴァントが狙ってこないとも限んないだろ。……一応な」

「……そっか。
 そういえば、もう予選っていうのは終わるのか?」

「そろそろ……だろうな。
 だから、この先は振るいに掛けられた手強い奴等が相手になる」

かずさが界聖杯内界に攫われて、セイバーを召喚してから既に一週間以上が経っていた。
セイバー曰く何度かサーヴァントと交戦はして退けていたらしいが、幸いにもかずさ本人が襲われたことはまだない。
彼女に与えられたロールが、売れっ子天才ピアニストという高い知名度のある為、むしろ界聖杯内界を彩るNPCの一つだと思われているのかもしれない。
テレビを点ければ、他にもアイドルやイケメン俳優だのと有名人は腐るほどおり、特段気にするようなものでもないと、ある種の盲点として働いたのも幸いした。
セイバーも自身を気取られないように、かずさから付かず離れずで上手く立ち回ってくれたのもあるだろう。


530 : 冬馬かずさ&セイバー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/11(金) 23:45:22 0O8bcXnk0

「私はいつも通り、ピアノを弾いてた方が良いのか?」

「いつまでNPCのフリが通じるか……予選を切り抜けてここまで残ってきた奴等だし、近い内に感づかれるって考えた方が良いとは思う。
 けど、焦って身を隠そうとするのも逆効果だ。自分から、マスターだって言うようなもんだしな」

知名度は高く、不審な動きを見せれば即座に補足されそうなロールではあるが、同時にこの世界で自由に動きやすいだけの金と人脈もある。
現状、戦況は比較的自分達が優位にあるとセイバーは判断する。

「分かった。取り合えず、私は私の仕事をしとけばいいんだな」
「まあ、そうだな」

少し物憂げに目を伏せた後、かずさは砂糖を六杯ほど入れたコーヒーをマドラーで雑に混ぜてからコップに唇を当てた。

「なあ、セイバーはさ……叶えたい願いとかあるのか?」
「いや、俺は……」
「……私は、正直こんなもんやる気ないんだ」
「そりゃあ、急に誰かを殺して、願いを叶えろなんて言われりゃな」
「そうじゃない……そうじゃないんだ。
 殺しもしたくないし死にたくもないけど、私は……元の世界に帰らない方が、多分良い」

セイバーは怪訝そうに視線を送る。バツが悪そうに、かずさは顔を逸らした。

「雪菜って娘の為か?」

「なんで……ああ、サーヴァントとマスターはそういうのが見えるんだったな」

「わざとじゃなかったんだが、悪い」

マスターとサーヴァントがパスとして繋がっている場合、時としてその過去を夢のような形で追体験することがある。
要りもしない聖杯からの余計な知識からすぐに察しがついた。

「見てたんなら分かるだろ。私がどれだけ最低な事してたか」

かずさは少し俯いてから、糸が切れたように薄い笑みを見せて彼女は口を開く。

「……」

「いや私達……ううん、私があいつに“させた”かな?」

それはただの淡い初恋だった。
同じ高校のクラスで、自分に度々お節介を焼いてくるまだ少年だった彼が、北原春樹が居て。
不良と小馬鹿にしながらも、ずっと気に掛けてくれた彼が次第に好きになっていて。

けど、あの時は母親に見捨てられたと思ってグれてもいた。だから自分にも何の自信も持てなかった。
だからこんな惨めで自分でも嫌いな自分を、好きになってくれる筈もないと思っていて。

卒業まであと半年になった頃、転機が訪れた。

春樹が所属していた軽音同好会で学園祭に参加をすることになったが、そこへ人間関係のいざこざで人数が足りなくなってしまった。

そこで、ピアノの腕を買われたかずさと、ボーカルとして歌声を見初められたとても大事な、そして不倶戴天の―――小木曽雪菜が加入することとなる。

ギターの春樹を何とか指導して、本当に短い期間でよくあそこまで仕上げたものだと我ながら感心したくもなる。
それでも三人で一心不乱に打ち込んで、成功させた学園祭の文化祭まではとても楽しかった。

でも、それからは拷問だった。

春樹は雪菜と付き合った。
かずさは雪菜が告白することを知っていて、それでも怖くてどうでもいい振りをして、祝福する振りをした。


531 : 冬馬かずさ&セイバー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/11(金) 23:46:12 0O8bcXnk0

本当は苦しくて、辛くて、泣いていたけど。
気付かれないようにして、でも抑えきれない気持ちは溢れだして、春樹とその唇を重ねてしまった。

本当は両思いだった。
お互いに想い合っていた筈だった。

なのに春樹も自分なんかが、勝手にかずさに釣り合う訳がないと思い込んで、
最初から向き合う事を避けていて、ありもしない勝手な妄想で諦めていた所まで一緒だった。

全てが白日に晒され、二人の愛を確認した時には後戻りできないところまできていた。

そして遅すぎる告白を受けて、一生の親友である雪菜に癒えることのない傷を負わせたまま逃げるように海外に行った。

「笑えるよな……これだけでも、許されないのに……」

数年の月日が経ち、春樹は雪菜と愛を育み、結婚を目前にまで控えようとしていた。
だが、再びかずさと再会してしまった事から、全ては最悪の方面へと傾いてしまう。

かずさの母親が白血病であることが判明した。
母親を亡くせば、かずさは本当に一人になる。傍には誰も居ない。誰も支えることが出来ない、真の孤独になる。

だから、春樹は一線を越えた。

『一番大切な人だけを救おうって、そう決めたんだ』

幸せの絶頂にあった雪菜を裏切り、かずさと共に生きていくことを選んだ。
共に海外に渡り、かずさがプロのピアニストとして活躍する。それを将来の伴侶としてそばで支えていく道を。

「私が居ると、雪菜の幸せを壊してしまう。……あいつも、春樹も……積み重ねたもの全てを投げ捨てる事になる」

それが最悪の裏切りで、誰も報われることのない結末だと分かってはいた。
なのに、かずさは誰よりも幸せを感じてしまっていた。

支えてくれた仲間にから糾弾され、家族として迎えてくれた雪菜の身内には絶縁され、最高の親友まで失って。

それでも自分を選んでくれたことに、嬉しさを覚えていた。

友達を、何よりも好きで大事な彼を地獄の底に叩き落してしまったのにも関わらず。

「けど、今なら……まだみんな、春樹を許してくれるかもしれない。雪菜も春樹と寄りを戻せるかもしれない。私がこの変な世界に居れば……。
 やっぱりさ、これは罰なんだよ。あの世界に私が居ていい場所なんてない。今はそういうことなんじゃないかなって、そう思ってる」

「お前の言う通りかもな」

セイバーは冷たく断言する。

「正直、大分引いた。あの空港って場所で、春樹ってやつがお前にキスしたとこ、しかも雪菜の目の前でだろ? 何考えてんだ。
 それだけでも大概なのによ。結婚まで約束しといて、結局他の女を選ぶなんて、同じ男としても最低だ。目の前に居たらぶん殴ってやる」

プライベートも何もありはしないなとかずさは苦笑した。
まさか、あんな人目に見せられないような―――人目でやってしまったことだが―――ものまで見られてしまうとは。


532 : 冬馬かずさ&セイバー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/11(金) 23:46:41 0O8bcXnk0

「そう、だよな……」

「でも、一番大切な人を助けようって気持ちは、誰よりも分かる」 

「え?」

「春樹がお前に言った事だろ?
 俺も、好きな女を守る為に何もかも捨て去った。だから、あいつの決意と覚悟がどんなものかは分かる」

セイバー、いやウェイブが英霊となる以前、仕えていた帝国とその革命軍の内乱は決戦を間近に控えた膠着状態だった。
ウェイブと同じく帝国側の少女クロメとその姉で革命軍側のアカメは、決戦の前に二人だけで生死を掛けた個人間での決闘を約束する。

二人は敵同士でも姉妹として愛し合っていた。だからこそ、他の誰でもない自分達の手で互いを殺す事を願い刃を交える。

姉妹のどちらかが死ぬしかない。そんな悲劇を止める為に、何よりも大事で好きなクロメを守る為にウェイブは全てを捨てた。

「その娘には悪い事するとは思う。それでも、お前は帰るべきだ」

「なに、勝手な事……! それじゃ雪菜が……」

「だとしても、お前にはまだ母ちゃんや春樹が居るんだろ? なら、ここで道草食ってる場合じゃないだろ」
 ……俺もさ。色んなモンを捨てて、裏切ったんだ」

「セイバー……?」

「俺は元の世界、生前はとある国の軍人だった。俺の恩人に報いる為に、無辜の民を守る為に軍人としての役目を全うしようと思っていた」

それは聞くだけなら、とても高潔で正義感のある志だ。セイバーが何故、後ろめたさを感じているのか分からない程に。

「だが、その国は俺の思うより腐敗していて、革命軍が発起し大きな決戦が起きようとしていた。
 それで国は敗けた。……今思えば、結果的には良かったんだとは思う。けど、俺はその決戦の前に大事な女と、クロメと敵前逃亡したんだ。
 あいつはクスリで体を強化して、明日にも死んじまいそうな程に衰弱してた。だから、俺は全て放棄してあいつと逃げた」

「酷い国なら、それなら……」

「俺の恩人や……所属してた軍の隊長、エスデスって言うんだけどよ。世話になった人を裏切ったことに違いはない」

エスデスは決戦の際に国土そのものを巻き込むほどの力を行使し、危うく大量虐殺を成すところだった。
その場に居なかったものの、クロメと逃亡する道すがら見舞われた異常な冷気と吹雪がエスデスのものであることには当たりは付いたし、後の革命軍からも聞いていた。

こうなってしまうと、最早自然災害だ。
元から人格面でも、問題がなかったとも言い切れない。

きっと彼女は倒されるべきだったかもしれないと納得もしている。

けれでも、やはり自分にとっても厳しくも頼れる上司であったことも事実だった。
そして、それを裏切ったのもまた事実だということも。

「後悔はしてねえよ。それだけの覚悟を俺はした。海の男はこうと決めたら一直線だ」

「でも、春樹の周りにいる奴等は……お前のいう国の奴と違ってみんな良い奴等なんだ。
 雪菜も部長も……誰も悪くなんかない。それを裏切る春樹だって、一番辛いのに」

「だとしても、尚更お前は帰るべきなんだよ。
 俺も全部捨てたからこそ分かる。どれだけ、春樹はお前の事が好きなのかってことが」

「だけど……」

「幸せになることから、逃げるべきじゃないと思う。
 辛いし、罪悪感はあるだろうけど……あんな告白するような奴を、残して逃げるなよ」

かずさが消えれば、残された春樹はどうなるのか。
それこそ自分の為に全てを投げうって救おうと、身を張り続けた春樹を捨てることになるのではないか。
何の決着も付けず、ただ逃げているだけじゃないのか。

ここまで言われて、かずさは我に返ったように頭が冷えた。


533 : 冬馬かずさ&セイバー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/11(金) 23:47:00 0O8bcXnk0

「分かったよ」 

本当に恐れていたのは、傷つくのを怖がっていた自分自身だったのかもしれないと。

「帰る。春樹のところに……。
 ただ、やっぱり誰も殺したくない。叶うのなら、昔の事やり直したいけどさ……でも、人を殺してまで聖杯手に入れて、叶える事じゃないだろ。
 聖杯戦争なんて関係ない。帰る方法だけを探す。だから、セイバーの願いなんて叶わない。それでもいいか?」

かずさは砂糖が大量に投入されたコーヒーを飲み切り、意を決した顔でセイバーを見る。
少し目が潤みながらも、先より強い眼差しだった。

「おう! 俺もそのつもりだ。襲われたなら迎え撃つが、こっちから吹っ掛ける気はねえよ。
 元の世界に帰れる方法を探そう」

「変な奴……私達に同情してくれるのは良いけど、春樹みたいな男の気持ちが分かるなんて言ったら、モテないぞ?
 二股が一番嫌われるんだからな」

「もう、女なんかにモテなくても問題ねえ。俺にはクロメっていう最高のパートナーが居たんだからな」

「何だそれ惚気か?
 ……もう、疲れた。今日は帰って寝る。詳しい方針は明日話してくれ」

それだけ言うとかずさは腰掛けたソファーから立ち上がり、セイバーに背を向ける。

「ごめん、雪菜……」

セイバーにも聞こえない小さな声で、他の誰でもない自身自身の手で傷つけてしまうであろう友達に向けて詫びながら、かずさは足を踏み出した。
もう、誰も傷付かないなんて結末はありえないのだとしても、目を背ける訳にはいかないから。


534 : 冬馬かずさ&セイバー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/11(金) 23:47:26 0O8bcXnk0





「分かんねえ……良いのかな、これで」

セイバーにとって、いやウェイブにとってかずさ達の事は他人事で口を挟むようなことでもない。
多分、これはハッピーエンドではないのだろう。
断片的に見た彼女の過去から見ても、かずさが春樹と結ばれるべきではない。本当に結ばれなければならないのは雪菜なのだと思える。

掛け替えのない友達から糾弾され、信頼を得た職場を失い、恋人とその家族を不幸にする。そんな業を主人公に背負わせた最悪のヒロインの物語だ。

「……でも、放っておけねえよな」

空になった紙コップを見て、セイバーは呆れ混じりに呟いた。

「どんだけ甘いもんが好きなんだ……良く飲めるな。砂糖何杯入れたんだよ」

ここ数日の付き合いで分かったのが、冬馬かずさという女性は大の甘党だということだ。
飲み物も甘くして、食事も甘くする。

「見てると思い出しちまうじゃねえかよ」

クロメも甘いものが好きだった。
まあ彼女の場合は菓子をよく食べていて、他の飲食まで甘くするようなことはなかったが。

それでも隙があれば、クッキーなどをよく齧っていた。

「よし」

息を大きく吸い、吐く。ここから先の本戦はもう何が起こるか分からない。
こちらの目的は勝利ではなく、かずさの元の世界への帰還ではあるが、戦闘も決して避けることは出来ないだろうと思う。

「こっから、気合入れていかねえとな」


535 : 冬馬かずさ&セイバー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/11(金) 23:47:53 0O8bcXnk0



【クラス】
セイバー

【真名】
ウェイブ@アカメが斬る!

【ステータス】
筋力B 耐久D 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具B(通常)      

筋力A 耐久A+ 敏捷A 魔力E 幸運B 宝具B(グランシャリオ使用時)

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】

対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:D
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。


【保有スキル】

完成:A
完成されたとされるセイバーの強さがスキルとなったもの。
優れた戦闘技能を発揮し、自身の宝具以外のステータスの変動を一切受け付けない。
ステータスの下降は勿論、上昇も当然ながら無効化する。これは完成されたが故に、その強さは上限でもあるからである。

同時使用:EX
セイバーが一番大事なものを守る為に、己の想いを届かせる為に戦った逸話が昇華されたスキル。
ウェイブという英霊が、セイバーではない別のクラスで召喚された場合に持つであろう宝具をクラスの垣根を超え、一時的に呼び出すことが出来る。
代償としてスキル発動の度、霊核に治癒不能な損傷を受ける。

戦闘続行:C
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。


536 : 冬馬かずさ&セイバー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/11(金) 23:48:31 0O8bcXnk0


【宝具】

『修羅化身グランシャリオ』

ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:5

セイバーの世界に存在する超級危険種と呼ばれる獰猛な生物を加工した鎧の帝具。
一見してただの剣に見えるが、セイバーが真名開放することで鎧が召喚される。
非情に高い防御力を持ち、セイバーのステータスも上昇させる。また魔力消費も低く、純粋に担い手を強化させる宝具。
ただし、安定した宝具ではあるが、それ故爆発力はない。
また、多くの帝具に備わっている筈の奥の手も存在しない。かわりにグランフォールという変な蹴り技がある。


『万里飛翔マスティマ』

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:10

セイバーがアーチャーとして召喚された場合に宝具となる帝具。
普段は使用できないが、同時使用のスキルが発動した場合のみ使用可能。
翼の形状をしており、空を自在に飛べるほかその羽を射出することも可能。
奥の手として、光の翼を盾とする「神の羽根」があり、相手の攻撃をそのまま反射する

更にグランシャリオと同時使用することで、セイバーのステータスを更に上昇させる。

【weapon】
グランシャリオ。

【人物背景】 
かつては帝国が組織した特殊警察イェーガーズに所属していた。
帝国の異常さと民を思わぬ腐敗を目の当たりにしながらも葛藤し、国を中から変えることを決意したが、仲間であり後に結ばれるクロメの死を間近に感じ取り、彼女を守る為に全てを捨て去った。
その後もクロメの後押しもあり無辜の民を守る為に奮起し、クロメの残された余命を共に過ごす。

【方針】
マスターを元の世界に帰す。
聖杯戦争に乗る気はない。



【マスター】
冬馬かずさ@WHITE ALBUM2


【人物背景】
浮気ゲーとして名高いWHITE ALBUM2のメインヒロインの一人。
世界的に有名な女性ピアニストを母に持ち、また自身も優れたピアニストでもあり世界的に活躍している。
高校時代、同級生の北原春樹と両思いになるがお互いに気付かぬまま、その肝心の春樹が一生の親友である小木曽雪菜の告白を受けてしまう。
二人が愛を育む姿を間近で見ることに耐えられず、和解した母親の勧めもあり海外に移住しピアニストとして活動を開始するが、五年後にまた春樹と再会したことで物語がまた動き出す。

参戦時期はcodaのかずさtrueルートより、春樹が雪菜の家族から糾弾を受けて以降。

【ロール】
売れっ子天才ピアニスト。

【方針】
春樹の元に帰る。
殺し合いはしたくない。


537 : ◆9jmMgvUz7o :2021/06/11(金) 23:49:02 0O8bcXnk0
投下終了します


538 : ◆9jmMgvUz7o :2021/06/12(土) 00:17:26 cz8vdAKM0
すいません
見返したらウェイブのステータスがやけに高い気がするので変えます
いまいちfateのステはどういうバランスで割るのか分からない

【クラス】
セイバー

【真名】
ウェイブ@アカメが斬る!

【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷C 魔力E 幸運B 宝具B(通常)      

筋力B 耐久A+ 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具B(グランシャリオ使用時)


539 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/12(土) 11:41:48 KrrpdDiY0
投下します。


540 : 悪いひとたち ◆Pw26BhHaeg :2021/06/12(土) 11:44:43 KrrpdDiY0
 東京、浜松町駅。昼の歩道橋の上で、ふたりの男が隣り合ってタバコを吸っている。
一方は長身痩躯の優男、もう一方は見上げるような偉丈夫だ。

 優男の目元と口元にはホクロ。憂いを帯びた切れ長の目には長い睫毛。
癖のある黒髪、上等なスーツと靴、豹柄のネクタイ。
女のようだとは言えないが、なんともいえずセクシーで、色気のある男だ。

 偉丈夫の頭髪は後ろに撫でつけられ、額の上に大きく盛り上がっている。
両腕には剣呑なデザインの手甲、筋骨隆々たる上半身に纏うのは、金糸を織り込んだシャツ。
口元は金属製のマスクで覆われているが、タバコはその隙間から差し込まれ、唇に届いている。
ズボンの腰に黒帯、靴はワニ革。どちらも、どう見ても、カタギではない。

「嗚呼……聴こえらあ……」

 優男が、駅から吐き出される群衆を見下ろし、つぶやいた。

「聴こえる―――とは、何がだ」

「"大人(オトナ)"になり切れねー、大人達の断末魔……。耳をすませば――……ホラ。
 『大人はつれえ』……『大人は退屈だ』……! ってさ」

 偉丈夫は一息でタバコを吸い付くし、灰にして、地面に落とす。

「ンなものァ、どこ行ってもそうだ。知らねえのはガキだけさ。
 バカで、幸福で、この世の王様みてえに思い上がった、世間知らずのな」

「違いねェな。アンタは……大人だ。割り切ってる」
「テメエはガキか? いいトシしてるがよ」

 優男は黙って笑う。偉丈夫は灰を踏みにじり、歩道橋の柵にすがる。

「ケッ。こんなとこまで来て、ヤクザの手先になるたァな。しょうがねえ、俺はどこ行ってもヤクザだからな」
「あんたがガキの頃は、他にも夢はあったのかい」
「忘れたぜ。とっくの昔だ。思い出せやしねえ」

「俺にはあった。つっても、暴走族(ゾク)やってただけだがな。
 暴走(はし)ってる間だけは、いろんなことを忘れられた……。あれが、俺たちの黄金時代(オウゴン)だった」
「くだらねえ。大人になったんなら、ンなもん卒業しろや」

 優男は、偉丈夫へ二本目のタバコを差し出す。火がついている。偉丈夫は受け取り、吸い始める。

「それが、聖杯にかける願いか?」
「まさか。その気になりゃあ、いつだってやれるさ。やって、死んで、地獄に落ちて、昔のダチもいねえ。十分だ。俺は自由だ」
「それなら、どうする。願いはありませェん、もう殺したくないんですゥ、とかぬかすか?
 まあ俺も今さら大した願いはねえし、テメエの指図に従ってやるがよ」

 優男は、ふっと遠くを見つめる。青い空、白い雲の上。
偉丈夫のいた街では滅多に見られなかった、ニルヴァーナめいた光景。
右手首のブレスレットが、チャリと音を立てた。

「娘がさ……いたんだ。花奈(はな)って。不幸な子だった。俺があいつの母親ごと、組長(オヤジ)に取られてよ。
 忍者のカチコミに遭って、三人とも死んじまった。まだこんなに小さくてよ」

「…………そうか」

「俺が心から愛するのは、あいつだけだ。育児は大変だが、幸せだった。
 あいつのためなら何でもできた。あいつが幸せなら、何も不要(いら)ねえ。
 今は……あっちに、居るんだろうな。幸せに―――」

 優男はタバコを揉み消す。

「何でもひとつ、望みがかなうなら。俺が望むのはそれしかねえ。
 あいつをこの世に呼び戻す。今度こそ、幸せにしてみせる。命を賭けて」

 偉丈夫は、二本目のタバコを吸い付くし、灰にした。


541 : 悪いひとたち ◆Pw26BhHaeg :2021/06/12(土) 11:47:30 KrrpdDiY0
【クラス】
アーチャー

【真名】
ソニックブーム@ニンジャスレイヤー

【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具B

【属性】
秩序・悪

【クラス別スキル】
対魔力:D+
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度。

単独行動:C
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスターを失っても1日は現界可能。

【保有スキル】
ニンジャ:B
 ニンジャであること。常人の三倍以上の脚力、超人的な筋力や機敏さ、第六感、カラテ(戦闘力・魔力)などを併せ持つ。
カゼ・ニンジャクランのグレーターニンジャソウル憑依者で、大気中のカラテやエテル(魔力)の流れを操って様々な現象を起こす。
スリケン生成はできないが、代わりにソニックカラテ衝撃波を射出する。「風除けの加護」「魔力放出(風)」、低位の「気配遮断」「気配感知」も含む。
スシを食べると体力が急速に回復する。

極道育成:B
 ヤクザ・バウンサーあがりのニンジャとして、数多くのソウカイ・ニンジャを育成した逸話から。
「カリスマ(Cランク、ソンケイ)」と「英雄作成(Dランク)」の複合スキル。
ヤクザの素質を持つ者を見出し、思い上がった心を折って服従させ、ダーティな世界で生き抜くためのインストラクションを与える。
それを受けた者が英雄になるかチンケなヤクザで終わるかはその者次第である。いかなる異世界に転移しようと、彼はヤクザネスを貫く。

心眼(真):C
 修行・鍛錬により培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す"戦闘論理"。
逆転の可能性が数%でもあるなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。いわば状況判断……真の男が持つべきスキルだ。

【宝具】
『衝撃空手(ソニックカラテ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:2-20 最大捕捉:10
 彼のニンジャソウルが与えた異能を鍛錬したもの。正拳突きや膝蹴り、手刀や裏拳などを超音速で繰り出し、
間合いの離れた相手に強烈な衝撃波を飛ばしてダメージを与える。ジャブを放つことで連射も可能。
その威力はニンジャをも数発でズタボロにし、屋台などを粉砕する。単なる物理攻撃ではなく、風のエテル(魔力)を近接攻撃に纏わせた魔術的な攻撃とも思われる。
超至近距離で放つと衝撃波のダメージが自分にも来るという弱点を持つが、彼は至近距離に適応したカラテのワザマエを磨いて克服している。ノー・カラテ、ノー・ニンジャだ。

【Weapon】
 鍛え上げられた己の肉体とカラテ。棘付きのブレーサー(手甲)を装備。

【人物背景】
 小説『ニンジャスレイヤー』第一部「ネオサイタマ炎上」に登場するニンジャ。CV:黒田崇矢。
ネオサイタマを牛耳る悪のニンジャ組織「ソウカイ・シンジケート(ソウカイヤ)」に所属し、威力部門シックスゲイツ、及び野良の新人ニンジャを捕獲・育成するスカウト部門に所属する。

 身長192cm。金糸を織り込んだニンジャ装束とシャープなメンポ(面頬)、戦闘用ブレーサー(籠手)を装備する。
頭髪は威圧的なポンパドール&リーゼントヘアー。サラリマンめいた姿に変装もする。
元ヤクザ・バウンサー。ソニックカラテやジェットカラテの訓練を積み、格闘能力は高い。ヤクザスラングを多用し、短気で凶暴なサディストであるが、冷静な判断力をあわせ持つ。
油断ならぬ敵には雑魚戦闘員をぶつけて戦闘力を推し量り、弾切れを起こさせるなど、組織力を活用した慎重さも見せる。

【サーヴァントとしての願い】
 特になし。

【方針】
 マスターに従う。

【把握手段】
 原作小説「ラスト・ガール・スタンディング」。コミカライズやアニメイシヨン版もある。


542 : 悪いひとたち ◆Pw26BhHaeg :2021/06/12(土) 11:49:28 KrrpdDiY0
【マスター】
殺島飛露鬼(やじま・ひろき)@忍者と極道

【Weapon】
 ピンク色の大型回転式拳銃(リボルバー)。銃弾は高熱に強いタングステン合金製。二挺拳銃を操り、戦闘時は複数の予備の拳銃を服の裏に仕込む。

【能力・技能】
 跳弾芸を極めし極道技巧「狂弾舞踏会(ピストルディスコ)」の使い手。自在に銃弾の軌道を操り、予想外の方向からの銃撃で敵を倒す。
複数の銃弾を走行する自動車の燃料タンクにブチ込んでカチ合わせ、火花を起こして引火爆発させるなどは初歩のうちである。

【人物背景】
 漫画『忍者と極道』に登場するヤクザ集団「破壊の八極道」のひとり。講男會傘下長澤組の若頭。39歳。身長183cm、体重78kg。
セブンスターが好きな愛煙家。男女ともに好かれる絶世の美貌と、「神」と崇められる高いカリスマの持ち主。期待以上のものを与え、要領よく立ち回り愛される男。

 生花店を営む母子家庭に育つが、中学時代に母は病死。その保険金を元手に友人を誘って暴走族「聖華天」を結成し、
たちまち10万人の兵隊を従える巨大暴走集団の総長となり「暴走族神(ゾクガミ)」と崇められた。
彼らにとって暴走は日々の辛さや退屈をブッ飛ばす夢の世界であり、邪魔する者は殺戮し破壊し、周囲の家々に放火して警察を撹乱することまで行っていた。
のち聖華天は忍者に「半殺し(半分を殺害)」されて解散。殺島は生き延びて暴力団に就職、トントン拍子に出世し結婚。娘も生まれ、忙しい日々を送っていたのだが……。

【ロール】
 極道。独身。

【マスターとしての願い】
 娘・花奈を蘇らせる。

【方針】
 聖杯狙い。邪魔する者は殺す。目的は隠して仲間を増やし、うまく戦い合わせて数を減らす。最後まで生き残れば勝ち。

【把握手段】
 原作。4巻で死亡。

【参戦時期】
 死亡後。


543 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/12(土) 11:51:13 KrrpdDiY0
投下終了です。


544 : ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/12(土) 22:55:30 q.Vq.2jI0
投下します


545 : 伊藤大祐&ランサー ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/12(土) 22:56:45 q.Vq.2jI0
「貴様が私のマスターか。小僧」

マスターである家のソファーでふんぞり返る様に座るサーヴァントの第一声がそれだった。
白髪で色白の肌、赤い瞳に鋭い牙を生やしたタキシード姿の男であった。
彼の真明は雅、吸血鬼達の長にしてランサーとして召喚されしサーヴァントである。

「まだよく分かんねえけど俺がマスターになったみたいだな……」

おいおいマジかよ……夢じゃないんだよな……と不安げに愚痴るマスター。
ランサーのマスターになった男、伊藤大祐はごく普通の男子高校生であった。
ごく普通の家庭環境で育ち、犯罪とは無縁の気楽な生活を送っていた。
そんな中で突如、聖杯戦争に巻き込まれそこで様々な知識を与えられたにせよ。
超常的な状況化でいまいち現実味を実感できないでいた。

「小僧よ。貴様は聖杯を手にしたら何を望む?」
「いやいや……そんないきなり願いとか聞かれても、そんなすぐには思い付かないって……」
「なるほど、つまり貴様は聖杯戦争に巻き込まれた一般人であり状況をあまり飲み込めていないようだな。
 まぁ焦る必要はあるまい。願いはじっくり考えてからでもよい」

最初は夢か何かだと思っていた大祐であったが
与えられた知識の一つ一つが妙にリアリティがあり
目の前にいるサーヴァントの存在が紛れも無い現実である事を直視させられた大祐は――

「まぁ、でもやるしかないよな。なんかゲームみたいで面白そうだしさ。
 俺は伊藤大祐、気軽に大祐って呼んでくれよな。ヨロシク!」

前向きに聖杯戦争に参加する事を決めた。
どの道、決着が付くまで帰れないならポジティブに考えるべきだ。
仮にサーヴァントが負けてもマスターである自分が死ぬ訳では無い。
その時は降参して勝利者が決まるまで待機していればいい。

「ククッ……ゲームと来たか」
「あれ?俺なんか間違ったことでも言った?」
「間違ってはいないぞ。大祐、貴様の言う事は正しい」


546 : 伊藤大祐&ランサー ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/12(土) 22:57:15 q.Vq.2jI0
聖杯戦争は命を賭けた殺し合いだ。
それを知ったうえでゲームみたいで面白いとは愉快な奴だ。
私も同じ考えだよ大祐。
あらゆる世界から強者が集結する祭りなのだ
私はこの聖杯戦争でとことん楽しませてもらおう。

「大祐よ。私の事はランサーと呼ぶがよい」
「OK、ランサーね。主従とか気にせずチームとして仲良くやろうぜ♪」
「フフフ、君とは仲良くやれそうだよ大祐」

大祐という男。一見、聖杯戦争に巻き込まれたごく普通の一般人の様な振る舞いをしているが
とんでもない。そんな人畜無害な男であるならば、この私を引き当てられる筈が無い。
恐らく、あいつは自覚すらしていないだろう。
聖杯戦争ではその男の本質が徐々に露わになっていくだろう。

(さて……私も祭りを楽しもうではないか。私のやり方で)

こそこそサーヴァントを探し出して決闘をする戦いなど面白くも無い
それよりもこの世界を血と殺戮で染めようじゃないか。
人間達の悲鳴が奏でるオーケストラを街中に響かせよう。
人間達の支えとなる希望を恐怖と絶望で飲み込もう。
人間達の求める願いを吸血鬼達の手で蹂躙してくれよう。


547 : 伊藤大祐&ランサー ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/12(土) 22:57:49 q.Vq.2jI0
【クラス】
ランサー

【真名】
雅@彼岸島

【ステータス】
筋力:B 耐久:A 敏捷:D 魔力:D 幸運:A 宝具:D

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

【保有スキル】
アマルガム:EX
吸血種が禁忌を犯し、突然変異を起こして生まれ変わった混血種。
他の吸血種の血液を取り込む事で傷を癒し、ステータスを増幅させる。
今まで2〜3桁以上の数の吸血鬼の血を体内に入れており
どこまで強くなれるか本人ですら不明である。

サイコジャック:B
特殊な音波を放つことにより、脳波干渉による精神攻撃を行う。
人間や吸血鬼はもちろんのこと、さらには知性を持たず暴れまわる凶暴な邪鬼をも
自在にコントロールすることができる。

カリスマ:D++
カリスマ性の高さを示す能力。
吸血種において強力なカリスマ性を発揮する。

【宝具】
『吸血鬼の長、雅様(マスター・バンパイア)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
吸血鬼達の長として日本本土に吸血鬼ウイルスをばらまき、吸血鬼の国へと変えた彼自身が神秘を持ち宝具と化している。
自身の血を人間に与えることで吸血鬼へと変化させる。
さらに吸血鬼を媒体にすることで邪鬼へと変化させる、ただし何の邪鬼に生まれるかはランダムである。
吸血鬼ウイルスを保有した蚊も生成する事が出来るが
大量に生産するには専用の施設やそれを運用する吸血鬼達を用意しなければならない。

『これはいい丸太だな……(丸太・オブ・オーナー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:30人
拾った巨木を丸太として武器にしたエピソードが具現化した能力。
どのような物であろうと雅様が『丸太』と認識すればDランク相当の擬似宝具となる。
また、宝具を手に取った場合は元からDランク以上のランクならば従来のランクのまま彼の支配下における。


548 : 伊藤大祐&ランサー ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/12(土) 22:58:19 q.Vq.2jI0
【マスター】
伊藤大祐@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage

【マスターとしての願い】
今は無いや。まぁ後から考えればいいか

【能力・技能】
社交性に長けており、誰にも話しかけられる性格

【人物背景】
茶髪であり左耳にピアスをしており、着崩した形でブレザーを着こんでいる。
外見も悪くないイケメンであるが、見た感じチャラ男という印象を抱く。

【方針】
せっかくだし楽しくやろうぜ♪

【備考】
シークレットゲームに強制参加させられる前からの参戦です。


549 : ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/12(土) 23:02:24 q.Vq.2jI0
投下終了です


550 : ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/12(土) 23:05:33 q.Vq.2jI0
ミスがありました
雅様のステは宝具:Dではなく宝具:Aでお願いします


551 : ◆IOg1FjsOH2 :2021/06/12(土) 23:23:07 q.Vq.2jI0
すみません、またミスがありました
サーヴァントの宝具の下のステを乗せ忘れていました

【weapon】
鉄扇

【人物背景】 
明と篤の宿敵。彼岸島の吸血鬼の頭領にして、彼岸島の吸血鬼一族の生き残りの1人。
感染型吸血鬼の始祖。篤と涼子の恩を仇で返し、吸血鬼ウイルスを島中に蔓延させ
彼岸島のほとんどの島民を吸血鬼にした張本人である。

【サーヴァントとしての願い】
この街で吸血鬼ウイルスをばら撒き混沌を愉しむ。


552 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/13(日) 12:57:20 8joD1JUA0
>>冬馬かずさ&セイバー
生きている人間と死んでしまった人間がこれからのことについて語り合うシーンが印象的でした。
ウェイブは帝国を巡る戦いを生き延びた側ですが、この世の地獄を泳ぎ抜いて一皮も二皮も剥けている感じですね。
最後、甘いものが好きなかずさから生前の恋人であるクロメを思い出すところなんかしんみりして素敵です。
戦力以上にそのまっすぐさが優良なサーヴァントを引いた彼女が帰還を果たせるかどうかが気になります。

>>悪いひとたち
暴走族神こと殺島の悲哀がコンパクトな文量の中で良く描かれており、キャラクター理解度の高さが窺えました。
殺島の述懐や郷愁に対してどこまでもドライなソニックブームという対比も面白かったです。
そしてそんな殺島の願いはやはりというべきか花奈の蘇生。願望器の奇跡は彼にとってさぞかし眩しい黄金だったのでしょうね。
……というか極道の殺島が忍者のソニックブームを呼ぶという構図なんですねこれ。今更ですが。忍者と極道……

>>伊藤大祐&ランサー
>そんな人畜無害な男であるならば、この私を引き当てられる筈が無い。 おっ、そうだな!
大祐の異常性が本格的に出てくると雅との相性の良さが顕在化してきそうですね。
吸血鬼を生み出せる雅は舞台を大混乱の渦に落とせるでしょうから、潜在的な脅威度はかなり高く思えます。
そしてさらっと第二宝具でびっくりしたんですが、雅も丸太使ってたんですね……知らなかった。

皆さん今日(←嘘、本当は昨日。お酒飲んで寝てました)も投下ありがとうございました!


553 : ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 15:54:12 lkpLfTH.0
投下します


554 : Catch Me If You Can ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 15:57:47 lkpLfTH.0
――彼女は、誰にも捕まらない紫


「こっちは私文書の偽造に……ここで、移籍先のプロデューサーを脅迫……これ、実質軟禁だって訴えられませんかねー?」

どこからともなく出現した質の良い古紙に横書きされ、黒塗りの卓上に並べられた『計画書』の紙切れ。
自室のソファーに腰掛けながら一枚、また一枚と読み比べると、そんな感想をつけざるをえなかった。

「訴えられたり外部に露呈することだけはないでしょう。手段が物騒になりがちであることは否定できません」

私はそういうサーヴァントですから、と卓上の対面で起立する青年はよどみのない声で自虐した。
己が出現させた紙片の一枚を親指と人差し指で持ち上げ、「あくまで、そういう道もあるという事にすぎませんよ」と柔らかく言葉を足す。

その室内は色彩に乏しく、室内にあった二人ぶんの人影は差し色として浮いていた。
白と黒で塗分けられた、モノトーンの部屋。
壁紙も、カーテンも、テーブルも、絨毯も、写真盾や飾り絵、鏡の額縁も、ネックレス掛けも……部屋の主が座るソファだけを紫にして、広い室内を全て白か黒かで塗分けたコーディネイトは、すべて部屋の主が選んだものだ。
カーテンから差し込む光は、くれなずむ空と、夜の闇のすき間ぐらいの黄昏の淡いもの。

対して、青年の立ち姿は、自称する『職業(クラス)』には似合つかわしくないまでに相反する色彩だった。
白皙の容貌に、流れるような金色の髪。何より、吸い込まれそうに怜悧な赤い色の瞳が眩しい。
瞳と同色のネクタイに、1ミリの歪みもしわもないブラウンのレザースーツ。
黒塗りに銀の持ち手が装飾された携行の杖は、この部屋に杖掛けというものがないため青年の後ろ手に握られている。

洋画の主演に出てきそう、というのが初見でのごくプレーンな印象だった。
十代の少女が初めて自室に連れ込む異性としては、人と場合によってはたいそう気後れしたことだろう。
数々のアイドルとしての活動のおかげで、『容姿のいい人間』に接することには慣れていたけれども。

「まぁ…………聞いたのは私だし、『アサシン』さんのやり方を見たがったのも私だから、『用意してくれてありがとー』って言うところですよねぇ」

ため息をひとつ。
かわるがわるめくっていた『逃亡計画書』を、全て卓上に放流した。
そのまま頬杖をつくと、左右でアップにされていたまとめ髪が揺れて、髪の『紫色』が視界の端に踊る。


555 : Catch Me If You Can ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 15:58:29 lkpLfTH.0
田中摩美々。
パンキッシュなファッションに定評のある、ダウナー系小悪魔アイドル。
くるくるとカールをつけたメッシュのある紫の髪にしたのは、中学生の頃から。
ただの紫髪が、『アイドル・田中摩美々の色』として初めて色彩を持ったのは、283プロダクションという変わり者たちに巻き込まれたから。

いたずら好きアイドルとして事務所でも世間でも知られている摩美々。
だけれど、当然にアイドルとして本当の犯罪に手を染めるなんてもってのほかで。

元の世界に手っ取り早く帰るためには、同じように招かれた人々に危害を加えなければならない……という大前提は、極めて憂鬱なものだった。

そして、憂鬱な問題はもう一つあった。
それは、『聖杯戦争でどのように動くのか』と同じぐらいに、摩美々にとっては重要な問題だった。
それは、彼女だけで動くか、巻き込むかの二択について。
すなわち、この危機を家族や事務所の人々を巻き込む環境で受け止めるのか、一人だけで受け止めるのか。

いつものアンティーカならば、巻き込めと暑苦しく言い寄ってくるのかもしれない。
しかし、『摩美々にそう言ってくれたアンティーカ』はこの世界ではなく、帰りたい世界にいる少女たちだ。
加えて、『聖杯戦争は一般人が関わっていいイベントではない』とまで言明されてしまったからには、これまで何度も巻き込むことを躊躇ったように、今回も躊躇われた。

だから、ものの試しに『例えばー、事務所を移籍したり、引退したり、親と別居したりって……短期間で計画できるんですか?』と聞いてみた。
即興だとこの程度ですね、と幾つかの試案が計画書になって出現し、人目のない自室でそれらに眼を通して今に至る。

「私も、今日一日そばで見学させていただいたに過ぎません。そして、避難計画を積極的に推奨することもできません」
「それはー……アイドルとしての人脈とか知名度とかが聖杯戦争で有利になる……とか、ですか?」
「良い着眼点です。そういった利用価値も有り得ます。しかし、打算を抜きに、とても素晴らしいお仕事に見えましたから」

マスターの心情としては、孤独を望まれないのではないかと思いまして。
アサシンはそのように踏み込んできた。
まだ大してよく知らない男性から孤独を指摘されて、ぎくりとしたことは確かだが。
ただ、それと同じぐらい、『アサシン』というぶっそうな名乗りをした男が、アイドルという仕事を手放しで褒めたことが意外だった。


556 : Catch Me If You Can ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 15:59:04 lkpLfTH.0
「アイドルの仕事に、アサシンさんも興味があるんですかぁ?」
「いえ、お仕事も鮮やかなものでしたが、それも含めてこの街が……マスターも一助となってきた世界が、美しいと思いました。皆が笑顔でしたから」

緋色の瞳を細めて、はっきりと相好を崩していた。
うわ……という感嘆詞は、声に出さずに内心にとどめた。
なんて事のない市井の人々に対してそんな感想を素面で口にするのは、ユニットメンバーの一人、咲耶ぐらいのものだと思っていた。

「これは保留にしますけどー、別に、孤独とかじゃないですよぉ」

紙片を卓上の端に追いやり、下手に距離感を縮めたくないと摩美々は否定した。
いくら誠実そうに見えるとはいえ、いきなり二人一組で戦争しろと言われた男性を……それもクラスが『アサシン』で、真名が『有名な悪党』の名前だった男を、無条件で信用できるほどには、彼女は素直でもお人好しでもない。
もっと言えば、霊体化をといたアサシンから、ふわりと喫煙者特有のけむたい匂いがするのも現代っ子の彼女にとってはマイナスポイントの一つでもあった。
ただ、『喫煙を咎める』という常識そのものがここ一世紀の間に生まれたものだけに、昔を生きた人間をそれで嫌うのは理不尽だとも分かっている。

「私は面倒くさがりですからぁ。がらっと住む所とか所属を変えるのは、だるいだけなんですよね」
「そうでしょうか? 私にはマスターはとてもマメで、面倒見のよろしいお人柄だとお見受けしましたが」
「なんで、そんなことが分かるんですかぁ?」

それなりに相互理解のあるプロデューサーやユニットメンバーからの賞賛ならまだしも。
たいした根拠もなく無条件で『良い人』『すごい人』とちやほやされるのは、摩美々にとってかなり愉快でないことの一つだ。

「初歩です(エレメンタリー)。…………失礼。友人の小説から口癖が写りました」

こちらがむっとしたので相手も上から目線のように聞こえたかと慌てたのだろう。
とはいえ、と一呼吸おいて種明かしを述べ始めた。

「とはいえ、明白(オブビアス)だと考えています。
例えば、こちらの飼育槽にいらっしゃるトカゲ……この子たちは変温動物であり、なおかつこの国を原産とする種でもない。
いくら冷暖房器具の発達したこの時代とはいえ、四季と昼夜の寒暖差が激しい極東で飼育するには、相当にこまめな体調管理が必要となるはずだ。
それを一つの部屋で複数の品種、手慣れたように世話していらっしゃる。面倒見の悪い令嬢にできることではありません」
「そんな、おおげさな……」

飽き飽きとしていた、異口同音にちやほやする類の誉め言葉ではない。
鋭い観察、整然とした論理(アヴダクション)に基づいた逃げ場のない評価。
つい両の手の甲を持ち上げ、横髪をかきあげるようにふぁさふぁさと撫でた。
返す言葉につまった時の癖だった。


557 : Catch Me If You Can ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 15:59:58 lkpLfTH.0
「私は、親に世話を任せっきりにしてる悪い子かもしれませんよー?」
「それは無いことも明白です。帰宅されてから今まで、不意の入室を警戒する素振りが少しもありませんでしたし」

たしかに摩美々の両親は、娘の自室をチェックするような関心を持っていないし、今さらそのぐらいの指摘も地雷になりはしない。
けれど、『少しぐらい言い返そう』というあまのじゃくもわいてきた。

「そりゃあ勝手に誰かが入ってくることはありませんけど……でも、気を付ける所は気を付けてくださいねー。
たとえば『吸い殻も見つからないだろうし、タバコ吸いたい』って言われたりしても却下ですから」
「いえ、その心配は要りませんよ。タバコは元から嫌いですから」
「えー」

嘘つきー、匂いで分かりますよ、と言おうとしたが、言えなかった。
『嘘ではない』と直感したから。

なんでかな、とソファに置いていたカバンをあさり、仕事場から持ち帰ったコーヒーのペットボトルを開ける。
わざと袖が余るような着方をしたブルゾンの端から、紫色のネイルがはみ出す。
パープルミラージュ。紫の蜃気楼。見えないもの。
ネイルの色と名前にインスピレーションを受けて、コーヒーの甘苦さが刺激になって、直感したことを言語化できた。
さっきのように頭が回る人が、『自分に煙草の匂いがついている』ことを自覚できないはずはない。
つまり『嘘をついてもすぐばれる』ことは、彼にとっても自明だ。だから、『本当の事を言ってる』が正解なのだろう。
だとすれば…………大嫌いな煙草にさえ依存しなければやってられないような生き方をしていた、ことになり。
その憶測は、あまりにも重すぎるように思えたので、『見て見ぬふり』をすることにした。
つまり、話題を変えた。

「アサシンさんの方はぁ……どうしたいんですかぁ?」
「どう、とは?」
「聖杯への願い事は何なんですかぁ?」

自称する名前は悪党。
マスターと呼ぶ少女への言動は誠実で、しかも他人が笑顔になると喜ぶ。
相反する側面を抱えたサーヴァントが、何をするつもりなのか確かめるのは当然で、おそらく『お節介』には当たらない。


558 : Catch Me If You Can ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 16:00:52 lkpLfTH.0
アサシンは、やや虚を突かれたように目を見開き。
そして、口を開くとともに瞳の色を変えた。

「もし聖杯を手にしようとする者が、それを悪用して弱者を害するようであれば」

ただの赤色から、ぎらぎらとした光を持つ緋色に。
憤怒。嫌悪感。敵対心。
それらのないまぜになった、鋭い刃のような空気。

「それを阻止したい。それが私の願望です」

言葉を言い終えると同時に光は消え去り、刃が鞘に収まるように『怖い人』の面影は去っていた。
その光は、うだるような熱さを想起させる赤色ではなかった。
冷めて沈んだ血潮の、緋色だった。
それは生まれて初めて目にする『殺意』で、怖いものだったことは確かだ。
けれど、人間の『イメージカラー』を重要視する彼女にとって、それは目を惹きつけられる変化だったことも違いなかった。

「……どうにも、昔から悪徳が栄えるのは我慢できないタチでして」

視線の刃を鞘におさめ男はそういうふうに己を評した。
あなたも、小説だと『悪徳』だったんじゃないですか、とは聞き返せなかった。

「もちろん、ただ巻き込まれた側であるマスターに協力を請うのは筋が違いますから、それにお付き合いを願うわけではありません」

あくまでもマスターの生存を優先すると、彼は方針を立てていた。

「でもそれって……召喚されてからアサシンさんが思った願い事であってー、アサシンさんがここに来ることになった願い事じゃないですよねぇ?」
「これは鋭い」

サーヴァントはサーヴァントなりに願いを叶える為に聖杯に招かれている、というのが覚えたばかりのルールだったはずだ。
つまり、『悪党が聖杯を悪用することを避けたい』という願いは聖杯戦争に呼ばれたことを踏まえて願うことだから、この自称暗殺者(アサシン)が聖杯に呼ばれた理由ではない事になる。
彼は『とても悪い人』だから、別の目的を隠している可能性ぐらいはあるかもしれない。
小説の挿絵にもあった『ネズミのような禿頭の老人』とはまったく違う姿をしているから、小説なんて当てにならないと切って捨てない限りは。

「確かに願いはあります。だがそれは、今の所『できれば』以上の意味は持たないし、大義より優先したら相手にどやされる、そういうものです」
「人に叱られるような、お願いなんですかぁ?」
「いえ、私的にもほどがあるからこそ、優先できないのです」

悪いヒトなのに私的なわがままを優先できない、それはおかしな話のように聞こえたが。

「いくらでも話し足りない生前の『友達』とは、どうなっても再会したいとは思ってしまう」

眉尻をさげたまま笑うのは、寂しい人の笑顔だということを摩美々は知っている。

「…………友達」
「たったそれだけの、ささやかな事ですよ」
「それは……本当に、ささやか、ですねぇ」

それを聞いて、少しだけ、よく分からない紳士然とした青年に共感が生まれたと思った。
摩美々も、やすやすと別離を許容するような『いつか大人になって変わったら〜』などという未来の話をするのは、大嫌いなタチであるので。
そして同時に、摩美々もつられて今までの『アンティーカ』を思い出して寂しくならずにはいられない言葉でもあって。


559 : Catch Me If You Can ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 16:01:31 lkpLfTH.0


――ま、摩美々ぃ〜〜っ!!



そういう、面白い悲鳴が聞きたい。
あそこは心地いい場所だった、なんて思い出を語るように振り返りたくない。もう手放したくは無い。
けど、手放さずに帰るために差し出された選択肢は、いつもの『いたずら』じゃない、本物の殺し合い――殺人だ。



――わたし、アンティーカのことが、とっても大事……



「マスターの方針は、決まりましたか?」

再三の、問いかけ。

魂の重さは21グラム。
自分のそれも他人のそれも21グラム。
けれどそれは、本当はまったく、21グラムの重みなんかじゃないはず。

人と殺し合いをして現状を解決するというのは、絶対に21グラムの複数個分で済むはずがないはず。
その21グラムの贄がそれなりにあれば、帰った先の色々と大変な283プロをどうにかできるかもしれず。
そしておそらく、帰還したところで、『何てことをしてきたんだ』と知られて責められることはない。
この土地で行われることはすべて別世界の出来事で、摩美々の求める世界の人々に知られることはないのだから。


――自己満足!って唱えながらやっちゃう……相手のためにもなったらいいなっていう、自分のための行動として……


いや、それどころかこの土地でさえも、咎められる事は無いのかもしれない。
摩美々のために召喚されたサーヴァントは『完全犯罪』の専門家で、『誰にも知られずに悪事をする』プロだというのだから。

「アサシンさん。私はとっても『悪い子』なのでぇ」
「はい」


560 : Catch Me If You Can ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 16:02:19 lkpLfTH.0
誰も摩美々を責めない。叱らない。


――摩美々はとてもイタズラ好きで、そしてとても……優しい子だ


そんなのは嫌だ。

「……悪い事をしたら悪いって叱られないと、落ち着かないんですよねぇ」

そういうことが、したいわけじゃない。
欲しいのは、そういうのじゃない。
本当に欲しいのは、叱ってくれる人。捕まえようとしてくれる人。



――摩美々を捕まえられるような、プロデューサーでありたいもんだよなぁと……



悪いことは、人から咎められる為にするからやり甲斐がある。

「アサシンさん、堂々といたずらできる世界にいさせてくださいーって命令したら、きいてくれますかぁ?」

精一杯の強がりでくすりと笑うと、まるで飾り気のない笑顔が帰ってきた。

「なるほど、それはとっても『悪い』お願いごとですね」
「あれー? もしかして、『子どもっぽい』って思いましたぁ?」
「思いません思いません、むしろ共感しています」

悪い事をしたら、『間違っている』と叱られたくなる……その気持ちは僕にもよくわかりますよ、と青年は続けた。
青年の母国語でしゃべっていれば一人称はどうやっても『I』だから、その言葉の違いは誤差だったのかもしれないが。
それまで『私』だったのが『僕』に変わったからには、それだけ青年の『素』の部分に近い本音なのかもしれないと、摩美々は青年ほどではないにせよ耳ざとく分析した。

「そのご依頼、この『犯罪相談役』の――ウィリアム・ジェームズ・モリアーティが確かにお引き受けいたしましょう」

天邪鬼(わるいこ)な少女の従者を名乗る緋色の瞳をした犯罪者(悪魔)は、胸に手をあて折り目正しい契約の礼をした。


561 : Catch Me If You Can ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 16:02:47 lkpLfTH.0
【クラス】アサシン

【真名】ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ@憂国のモリアーティ

【属性】混沌・悪

【人物背景】

少年は演じた。

――もし困っている人がいて僕なんかがお役に立てるのなら、何でもしたいなって思うんです

ウソ偽りのない善意と自己犠牲心から成り立っていたその原初の願いを、ただの孤児だった少年は初手から欺瞞によって達成した。
少年には犯罪の才能があった。
生活の為に金銭を必要とする人達がいれば、知恵をしぼって悪徳貴族から財を盗み出す大泥棒の指南をした。
世の中を変えるためには財力と権力がどうしても要ると理解すれば、伯爵家を燃やして子息と兄弟ぐるみで入れ替わり、家を乗っ取った。
困っている人の頼みごとは全て引き受けて、引き受け続けて、少年は『犯罪相談役』になった。
これが最適解だとして、悪行に殉じる仲間たちの前では悪い笑顔の仮面をかぶった。
兄弟や同士の前では、悪党を罰するためならば悪党を喜んで殺害する悪党の顔になった。
公に出るときは、若き天才数学者であり清廉な伯爵家の次男を演じた。

成長した男は、舞台を整えた。
ひとつ舞台の幕が上がるたびに、舞台上では悪徳を栄えさせた貴族の血が流れ、観客は悲鳴を上げた。
悲鳴があがるたびに本来なら暴露されなかった不正義が世間に報道され、不正は正されていった。
浄化すべき祖国である大英帝国が美しくなっていく裏側で、男はどんどん悪魔に身を落として行った。
悪魔の仮面には、『犯罪卿』『犯罪界のナポレオン』という異称がついていた。

男は見出した。
その人物は、自分こそが犯罪卿を捕まえるのだと標榜する探偵だった。
探偵は男と同じように人を観察して推理する頭脳を持っていたため、二人はすぐに気が合った。
探偵は男と違って『手段として罪を犯さない』という正しさを持っていたため、男はすぐに輝きを見出した。
己には持ち得なかった探偵の善性を、男は愛した。
いつしか探偵と共に過ごす限られた時間だけ、男は演じることをやめていた。

併せて、男はプロデュースを始めた。
探偵に社会の歪みが露わとなるような事件に次々と立ち会わせ、それらを解かせては成長させた。
探偵の活躍が世に広まるよう裏方からひそやかに宣伝工作を仕掛け、市民が探偵を頼るように仕向け、時には探偵のことを書籍化しうる相棒との仲を取り持った。
男は正体を明かさないまま探偵と語り合い、英国の腐敗を何とかせねばならないと言う使命感を共有した。
いつしか探偵は『名探偵』になり、大英帝国にその名を知らぬもの無いほどの『偶像(ヒーロー)』になっていた。

男はとうとう舞台裏を暴かれた。
探偵に正体を知られて、『最後の事件』の舞台を整えた。
演目とは探偵が主演となって男と対決し、男だけが国中の悪と腐敗を抱え持った上で悪の末路として落ちるものだった。
公に知られるようにした上で探偵を高所に呼びつけ、襲い掛かって敗北した芝居をしながら舞台から飛び降りた。

男の舞台は初めて挫かれた。
探偵は『一人死なせてたまるか』と叫び、落下する男を追いかけ、共に落下しながら男を抱きしめた。

どうして、と男は考えた。
『やっと捕まえた』と探偵は、たった一人だけいた友達は、答えた。

『犯罪卿』としてのモリアーティは、その時に死んだ。

そして、異なる時代、異なる都市の、聖杯戦争の舞台に『犯罪卿(アサシン)』のモリアーティはいた。


562 : Catch Me If You Can ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 16:03:11 lkpLfTH.0
【パラメーター】
筋力:D 耐久:E 敏捷:D 魔力:E 幸運:C 宝具:B

【クラススキル】
気配遮断(C+++):モリアーティの場合、後述の宝具によって大きく変動しうる。

陣地作成(EX):本来はキャスターのクラススキル。通常のキャスターのように魔術工房としての陣地を作成することはできないが記憶の大図書館を頭脳の裡に常時展開させることで、あらゆる知識系の判定にボーナスを得る。

【保有スキル】
天賦の見識(A++):物事の本質を捉える能力。鋭い観察眼はあらゆる情報を見逃すことがない。

人間観察(A):人々を観察し、理解する技術。ただ観察するだけでなく、名前も知らない人々の生活や好み、人生までを想定し、これを忘れない記憶力が重要とされる。初見の相手だろうと趣味や職業、薬物服用の有無程度なら見抜けることも。

邪智のカリスマ(B):国家を運営するのではなく、悪の組織の頂点としてのみ絶大なカリスマを有する。モリアーティ自身は悪の頂点を望まないためこのランクに留まる。

対邪悪(B):『地上の悪魔は全て消し去らねばならない』。
       『犯罪を働いた事がある』存在と対峙した場合、パラメーターを1ランク低下させる。

【宝具】

『全て私が企てたことなのです(クライム・コンサルタント)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
『犯罪相談役』として引き受けた依頼は全て叶えきり、犯罪遂行率100%を成し遂げたことに由来する。
召喚された土地で行われる全ての違法行為、脱法行為に対して、成功率100%の『犯罪計画』を提供することができる。
ただし、モリアーティ自身はあくまで『相談役』であり実行犯ではないため、実行犯の能力限界を超えた計画は立てられない。
たとえば現代ならではのサイバー犯罪を計画するとした場合、実行人にも相応のPCスキルやハッキング能力が求められる。
また、『犯罪計画の作成』はまだしも『計画の実行』そのものに神秘は宿らないため、サーヴァントの条理を捻じ曲げるような干渉も不可となる。

『全ての悪魔は地上にいる(ロード・オブ・クライム)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:悪 最大補足:-
対象が『混沌』『悪』『民を傷つけた逸話を持つ』という条件を満たしているごとに、自身の持つ気配遮断のランクが1つずつ上昇する。
また、上記の保持している条件が多い対象ほど、先手を取れる確率も上昇する。
また、モリアーティが定義する『消し去らねばならない悪魔』にはモリアーティ自身も含まれる。
その為、モリアーティは『善』『市民を救った逸話を持つ』存在と対峙した場合に、逆に気配遮断のランクに1ランクずつダウンがかかり、無防備に近づいていく。

【Weapon】
ステッキ(刃を内蔵した仕込み杖)

【サーヴァントとしての願い】
会いたい友達はいる。だが、己で聖杯を手にするよりは、悪用を考える者の手に聖杯が渡らないことを重視する


563 : Catch Me If You Can ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 16:03:34 lkpLfTH.0
【マスター】  
田中摩美々@アイドルマスター シャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】  
いつつでひとつ。
うどんのようにこの先も末永く。
ずっと、ずっと。

【能力・技能】  
ボーカルやダンスなど、アイドルとして一定の技術を積んでいる。
得意分野は音感とファッション。
音感は幼い頃からピアノなど数々の習い事をさせられていた事により、ピアノの調律のわずかな狂いを聞き分けるほど。
ユニットメンバーの衣装監修やファッション雑誌でのコーディネイトに一家言持つなど、ファッションセンスは一般にも評価されている。
また、数々のシナリオでメンバー間の不調にすぐ気づくような察しの良さを見せる。

【人物背景】 
283プロダクションに所属するダウナー系アイドル。『L'Antica(アンティーカ)』に所属。
界聖杯でもアイドル活動を続けてはいますが、アサシンの『犯罪計画』によって、世間には不自然に思われない程度の社会的ロール変更(事務所の引退や移籍、一人暮らし)がなされている前提にすることも可能です

【方針】
悪いことをしたら叱ってもらえる世界に帰る

【備考】
当選した場合の283プロに何が起こったか、あるいは含みを持たせただけで起こらなかったのかの扱いはお任せします


564 : Catch Me If You Can ◆Sm7EAPLvFw :2021/06/13(日) 16:04:28 lkpLfTH.0
投下終了します

今回、情報の開示順を重要視して状態票の順番をテンプレから一部変更させていただきました


565 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/13(日) 18:41:29 NqXPMKu20
投下します


566 : 宇宙よりも遠い場所 ◆NIKUcB1AGw :2021/06/13(日) 18:42:44 NqXPMKu20
東京スカイツリー。
今さら説明するまでもなく、東京で最も高い建造物だ。
その展望台に、浮かない表情の女子高生が一人たたずんでいた。

「やっぱり見えないや、富士山……」

そう呟く少女の名は、各務原なでしこ。
この聖杯戦争に巻き込まれるまで、ごく普通の学生生活を送ってきた一般市民である。

この世界には、彼女の家族も友人たちもいた。
見た目も中身も、元の世界とほぼ一緒。
だが、まったく同じではない。
なぜならみな山梨ではなく、この東京で生きてきたことになっているのだから。
その小さな違和感は、積もり積もってなでしこのストレスとなっていた。
せめて、大好きな富士山が見たい。
そう願っていたなでしこだったが、それも叶うことはなかった。
この世界には、東京しか存在しない。
東京の外にそびえる富士山は、たとえ宇宙まで昇ろうとも見えはしないのだ。

「早く帰りたいなあ……」

寂しげに呟くなでしこ。
その背後には、切なげな表情で彼女を見つめるサーヴァントがいた。
もっとも霊体化している都合上、その存在には誰も気づいていないが。
彼の出で立ちは、色眼鏡に着流し、日本刀。
刀を持っているならセイバーか、あるいは堅気に見えないということはアサシンか。
他のマスターが彼の姿を見れば、そんな風に考えるだろう。
だが、どちらも外れだ。
彼のクラスは、バーサーカーである。

(けなげな娘さんだ……。なんであんないい子が、俺みたいなろくでなしを召喚しちまったのかわからねえが……。
 呼ばれた以上は、絶対に守ってやらねえとなあ)

心の内で決意を固めながら、バーサーカーは刀に添えた手に力を込める。

(そのためには、絶対に知られちゃいけねえ……。この背中のことだけは……)

宝具が宿る背中が熱を帯びるのを感じながら、バーサーカーはさらに独りごちた。


動乱の中で百人斬りの怪物と恐れられた、狂える剣客。
それがバーサーカーの正体だ。
その狂気が、聖杯戦争の中で放たれる日は来るのか。
もし来たとして、それはなでしこに何をもたらすのか。
答は、まだ誰も知らない。


567 : ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 18:43:12 p6La4jkY0
投下します


568 : 宇宙よりも遠い場所 ◆NIKUcB1AGw :2021/06/13(日) 18:43:47 NqXPMKu20


【クラス】バーサーカー
【真名】ひぐまの洋
【出典】水曜どうでしょう〜大泉洋のホラ話〜
【性別】男
【属性】中立・悪

【パラメーター】筋力:C 耐久:D 敏捷:B 魔力:E 幸運:E- 宝具:C

【クラススキル】
狂化:E(A)
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
通常時はEランクであり影響はほとんどないが、宝具解放により一気にランクアップする。

【保有スキル】
人斬り:B
刀で人を斬ることに特化した剣術スキル。
勝つことのみを目的とした実践的な剣術であり、求道者的な精神とは無縁の物。それ故に強く、脆い。

強迫観念:B
自分の正体を隠さねばならないという妄執がスキル化したもの。
自分の真名を知る相手に攻撃するとき、攻撃力が大幅に上昇する。

【宝具】
『人斬りひぐま』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:なし 最大捕捉:1人(自身)

刺さったまま放置された木片と筋肉によって、バーサーカーの背中に描かれたおぞましいヒグマ。
発動することで、自身の狂化スキルをAランクに上昇させる。
さらにその場にいる全員の逃走成功率を大幅に減少させ、「仕切り直し」を持っているサーヴァントがいればそれを無効にする。
また「発動の瞬間を見た者」が全員死亡するまでこの宝具を解除することはできず、バーサーカーは狂乱のまま戦い続ける。
たとえ、自らのマスターがそこに含まれていようとも。

【weapon】
無銘の日本刀、番傘

【人物背景】
幕末の動乱の中、熊の旗印を背負いひたすらに敵を斬り続けた侍。
戦いの後はおのれの行いを恥じ二度と人を斬らないことを誓うが、背中のヒグマとして具現化した自らの狂気との板挟みで苦しみ続けることになる。

この物語はフィクションであり、実在の大泉洋とは関係ありません。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを生き残らせる


569 : 宇宙よりも遠い場所 ◆NIKUcB1AGw :2021/06/13(日) 18:44:34 NqXPMKu20


【マスター】各務原なでしこ
【出典】ゆるキャン△
【性別】女

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る

【weapon】
特になし

【能力・技能】
中学時代、姉に強制された殺人的ダイエットの副産物として得た、女子高生離れした持久力。
食い道楽が高じて身についた料理の腕。
初対面の相手ともすぐに打ち解けられるコミュ力。

【人物背景】
富士山を愛する、大食いの女子高生。
志摩リンとの出会いにより、キャンプの楽しさに目覚めた。

【方針】
生還


570 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/13(日) 18:45:06 NqXPMKu20
投下終了です


571 : ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 18:45:57 p6La4jkY0
被せ失礼しました。
数分間をおいてから投下します。


572 : ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 18:51:35 p6La4jkY0
投下します


573 : 屋上×悪の盗賊×願望器 ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 18:55:44 p6La4jkY0

東京の夜は輝きに満ちている。

街頭に掲げられる看板には見る者の目を灼く多彩色のネオン。
アスファルトの路面に列を為して交錯する車両のライト。
森の如く密集して聳え立つビル群のトーチ。

日中に通り過ぎた雨の雫は、それら全ての人工光沢を乱反射し、未だ湿り気を残す街に多様な色彩を滲ませていた。
広がる夜景の下へ、降りるほどに深く、明るく。
まるで宝石を混ぜ合わせて作った渦のように。

霊長の創り出した星の煌。
人類史の繁栄を映し出す焔。
確かな輝きは此処に。
たとえそれが、複製された世界の内側だったとしても。


「――――――――――」


界聖杯によって象(かたど)られた偽の都。
渦巻く地上の光の及びきらぬ高度にて、その歌は流れている。

街ゆく人々は気づかない。
その舞台は地の雑踏より遥か高く、そして地の騒音に比べれば、小鳥の囀りの如き小さな声であったから。

「――、――――、―――――」

言葉ですらない。
小さな、小さな、それは鼻歌であった。
誰に向けられたものでもない、昂ぶる感情に乗せたハミング。
それは少女の、歓喜の歌だった。

「――――」

歌は夜空を旋回していた。
天の雲に至るほど高くはない。
しかし街頭の光に比べては遥か上方、その歌は、ビルの屋上を駆けていた。

羽ばたく鳥達には聴くことが出来た。
駆け行く歌、舞い踊る彼女の靴の音を。

ぱしゃり、ぱしゃり、ぱしゃり。
屋上の溝に溜まっていた水溜りの、それは弾ける音だった。
通り雨が残した僅かな痕跡を、少女の靴は意図して踏みつけ、また次の水溜りに足を伸ばす。

雨の日にはしゃぐ子供のように。
『水溜りしか踏んではいけない』と定めた遊びのように。
そして事実、彼女はまだ子供と呼べる年齢で、しかしその動きは、普通の人間のそれを逸脱していた。


574 : 屋上×悪の盗賊×願望器 ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 18:56:26 p6La4jkY0

一つのビルの屋上にある水溜りを全て踏み切ると、勢いそのまま隣のビルへと飛び移り、また水溜りを蹴って蹴って、次のビルへ。
まさに軽業。地上200メートルを超える高さで行われるパルクール。舞い踊る速度は増すばかり。
自然に考えて、いつか限界が来るはずだった。

「―――ああ」

そも行っている行為が危険極まりなく、更に「水溜りしか踏んではならない」という縛りを課している。
しかしそれでも、少女のスピードは増すばかり。広大な面積を誇るビルの屋上、平場に水溜りが一つしか無かったとして、彼女は一歩で踏破する。
そして今、水溜りの存在しないビル一つを、少女の足は軽々と飛び越えて、2つ隣のビルの水溜りに着地してみせた。

「ああ――楽しい――!」

右へ左へ無軌道な動きと同様に、踊りのジャンルもまた自由に形を変えていく。
バレリーナのように繊細な動きで水溜りに足を浸けたと思えば、ストリートダンスのような奔放さで泥を蹴り、スケートジャンプの如くに回転して宙に身を投げた。

けれど舞う少女に、踊るという意識は無い。
ただ動きたいように体を動かすだけ。衝動のままに夜景の上を泳ぐだけ。
開放された喜びを、全身で歌い、解き放つだけ。

空を往く小鳥達は聴くことが出来た。
少女の歌、少女の靴音、そしてもう一つ。

はらり、はらりと。
ページを捲る微かな音。

摩天楼のステージで舞い続ける少女の行く先々、常にその音はあった。
闇に目を凝らせば、かすかな影があることも。

「――――」

少女の進行方向に、現れ消えを繰り返す。
影は、一冊の本を開いて佇む、男の形をしていた。

「アサヒ」

その男、従者は名を呼ぶ。

「アサヒ、今夜はここまでだ」

己を呼び出した主の名を。

「――――ん」

ぱしゃりと。
水溜りの上で、少女はやっと動きを止めた。
くるっと一回転して振り返ると、やはり男は彼女の傍に立っている。

擦れたスニーカーがもう一度だけ泥を弾く。
回転の慣性に従ってぱらぱらと、少女の銀髪が風に流れた。
天真爛漫に輝いていた瞳から光彩が失せ、溌剌としていた表情は冷たく透明に色を落とす。

少女は主(マスター)。


「あ、もう時間っすか……盗賊(ハンター)さん」


少女の名を、芹沢あさひ。





575 : 屋上×悪の盗賊×願望器 ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 18:58:28 p6La4jkY0


男の名を、クロロ=ルシルフル。

「絶対量に個人差はあるが、体内に保持できるオーラは有限だ。使い果たすと疲労で動けなくなる」

男は従者(サーヴァント)。彼の目には、あさひの状態が克明に見えていた。
小柄な身体から立ち昇る生命エネルギーは全身を覆うように留まり、隙間なく纏う鋼の鎧と化している。
生半可な物理攻撃では、今の彼女を傷つけることはできないだろう。

それは念能力の基礎的な技術の一つ。
纏(テン)、という。

「更にもう一つ、ここから先は他の主従のテリトリーだ。不用意な侵入は分の悪い交戦に繋がる。
 成り行きの師としてだが、忠告はしておこう。今日はもうアジトに戻れ」

念能力。
体から溢れ出すオーラと呼ばれる生命エネルギーを操り、自在に使いこなす力。

摩天楼を無軌道に泳いできたそれは、あるいは少女にとって修練でもあったのか。
蓄積した疲労によって減じた彼女の生命力(オーラ)はしかし、それでも渇望を顕にしていた。
まだやりたい。もっと、もっと、もっと。活発に。貪欲に。
知りたい。学びたい。このチカラをモノにしたいと。

「う〜〜〜ん、でも、なんっかまだ違うんすよね〜!」

少女は首をかしげ、両目をぎゅっとつむった。

「もうちょっと、もうちょっとなんすよ!」

髪の毛をくしゃくしゃとかき混ぜながら悶えている。
自分の内側の齟齬を上手く伝えられない事が、酷くもどかしいようだった。

「もうちょっとで、なにか掴めそうな気がする……」

そして男にではなく、自分自身に語りかけるように冷えた声で言って、あさひは動きを止めた。
次第に表情が消え、目から光沢が消え、深く深く自己に埋没する。
それは絶大の集中だった。

「"発"の感覚に納得がいかないか? 会得しただけでも充分に驚くべき成長だがな」

クロロは表情を変えず平坦に話しているが、それは念を知るものが見ればまさに驚嘆するべき事実だった。
纏(テン)、絶(ゼツ)、練(レン)、そして発(ハツ)。
二人が初めて出会ったのは数日前のこと。たったの数日で、あさひは念能力の基礎四大行を習得していた。

精孔を強制的に開く必要もなかった。
念という概念の説明と、たった数時間のイメージトレーニングのみで彼女は全身を流れる生命力(オーラ)の感触を掴んだ。
それは天性の感覚。生まれ持った第六感。つまるところ、彼女には絶大なる才気があった。

以降、従者であると同時に念能力の師として、クロロは少女に知を授けた。
彼にとってそれは単なる暇つぶしであると同時に、開戦に至るまでの準備でもあった。

「う〜ん、やっぱりもう一周! さっきの所、もう一周だけやりたいっす!」

じたばたと動きながら両手を合わせて言う少女に、クロロは少しだけ考えてみる。
出会って数日の付き合いだが、こうなったマスター兼弟子が聞かない事はよく分かっていた。
よって、もう一度手元の本を開き、視線を落とした。

「一周だけだ」
「やった!」

一転、満面の笑みを浮かべて、少女は再び夜天に身を躍らせた。


576 : 屋上×悪の盗賊×願望器 ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 18:59:34 p6La4jkY0

「盗賊(ハンター)さん、これからどうするんすか?」

後方のビルに飛び移った後、あさひは身に纏うオーラを消し、"絶"の状態で水溜りを踏んでいく。

「オレは従者(サーヴァント)にすぎない。方針を決めるのは主人(マスター)のお前だろう、アサヒ」

クロロはやはり、彼女の向かうビルの屋上に佇んでいる。
偽りの東京を吹き抜ける風が彼のコートをなびかせ、ひとりでに本のページを捲った。

「でもハンターさんも、やりたいことがあるから、ここに来たんすよね?」

さり気なく、しかし核心を突いた問いにクロロは微笑を浮かべていた。
召喚に応じた従者の願望。
それをあさひは『やりたいこと』と言った。『叶えたいこと』ではなく。

「いい勘してるよ」

水溜りを全て踏切り、あさひの全身から急激にオーラが放出された。
"練"の勢いそのままに屋上の平場を蹴ったその跳躍は、棒高跳びの世界記録を超えている。

「選択肢を示してやることは出来る。例えば、死なないように立ち回って、元いた世界に帰るように努力する、とかな」

それは、あさひの出自であれば順当な方針だったのかもしれない。
超常の殺し合いからの逃亡。
逃げ回り、戦闘を避け、生き残ることだけを目的とする。
そして在り来たりな日常への、素晴らしい平和な毎日への、帰還を目指す。

「はは――それ、すっごくつまらなそうっす」

けれど男は、今の彼女であれば、そう答えることを知っていた。

「……だろうな」

だから微笑を消して、滔々と目的を語り始めた。

「願望器――聖杯。それをいただく」

多くのサーヴァントにとって前提条件でしかないことを、彼は目的であると言った。
どんな願いでも叶えられるという、聖杯。
それは天上にあるのかもしれない。
それは地平にあるのかもしれない。
世界が聖杯の内側にあるのなら、それは世界そのものを掴む行為かもしれない。

魔法。
願望器の齎す奇跡。
聖杯を掴む栄誉。
男にとってはどれも、さして興味がない。

ただ、それが名をもつ宝であるのなら。
欲しい。
クロロは盗賊であるからだ。


577 : 屋上×悪の盗賊×願望器 ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 19:00:19 p6La4jkY0


「なるほどっす……でも――」

そして、やはり少女の言葉は、まっすぐに核心を捉えていた。

「それだけっすか?」

「勿論、違う」

徐々に勢いを強める風が、クロロの持つ本のページを捲っていく。
サーヴァントになると同時、昇華された一つの能力。
盗賊の極意(スキルハンター)。
彼が生前為した悪行、あるいは偉業の全てが、今はそこに残されていた。

幻影旅団(クモ)。
かつて彼と共にあった仲間たちの記憶(ネン)もまた。

「この世界には、様々な平行世界から英霊が集うという」

数多のサーヴァント。英雄、豪傑、神格の勇者。
そしてクロロのような反英雄まで招かれる。
その力量、性能、目的は様々だが、彼らに一つ、共通して言えることがある。

「どうやら英霊ってやつは、宝をもっているらしい」

――宝具。
彼らの誇る伝説の象徴、物質化した奇跡。
それが今、この場所には、大量にひしめいている。
ならば盗賊のやることは決まっていた。

「全部だ。この世界のお宝、丸ごとかっさらう」

聖杯など、終着点でしかない。

「それがオレの、やりたいことだ」

「…………」

あさひは暫く答えなかった。
夜景の上、逆巻く風の中、舞い踊る全身の躍動を制御しながら、ぽつりと一言、こぼすように笑った。

「それ……面白そうっすね」

男は実像を解き、霊体として空間に滲んでいく。
もうすぐ、少女の舞いは終わるだろう。動きから迷いが消え、境地に至ろうとしている。

「アサヒ。勝ち残りたければ、マスターとしてオレを上手く使え。いや、あるいは――」

その言葉はもはや誰に向けられたものでもない、独り言だ。
再び少女が誰の声も届かぬ、極度の集中状態に入ったことを、彼は知っていたからだ。

「あるいはオレが、お前を上手く制御(プロデュース)する必要があるか」





578 : 屋上×悪の盗賊×願望器 ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 19:01:30 p6La4jkY0


小鳥の歌が空を旋回する。

「――、――――、―――――」

少女のハミングはラスサビに差し掛かり、夜の舞踏はフィニッシュを迎える。

「空も飛べそう―――」

あさひは本心からそう思った。
頬を撫ぜる空気が気持ちいい、はためくシャツの感触が愛おしい。
星の天蓋は広く、宝石の街を見下ろすような、開放された視界が楽しくて楽しくてしかたない。

「こうかな、違う、きっと……こう!」

自然に身を任せるように力を抜いて足を泳がせると、驚くほど簡単に本質を掴めた。
分かってしまえば、当たり前のように成功した。自分の思う通りにオーラが動いて足に乗る。
まるで翼が生えたみたいに自由だった。

「やった! ほら、できたっすよ! クロロさん!」

嬉しくてつい、呼ぶことを窘められていた真名を叫んでしまったが、それすら既に思慮の外。

「はは―――!」

蹴り足を浸す水溜りが、あさひの"練"にさらされる。
街路樹から屋上まで風に巻き上げられた一枚の木の葉が、水面に浮かんでいた。
念能力の系統を知るための一般的な方法で、同時に"発"の修行法でもあるそれは、水見式という。
くるくると元気よく回転する葉の動きは最初、『操作系』を表す変化に思われた。
しかし、

「あはははっ―――!」

次第に、水の色が変わっていく。
映す夜空を反転させたような、淡いブルーへと。
そして、葉の形状も少しずつ、削いだ刃のような、異形の翼のようなフォルムへと。
他の系統に当てはまらない『特質系』の変化は、彼女が触媒なくクロロ=ルシルフルを召喚した縁の証明だった。

「できたっ!」

嬉しくて楽しくて、今はただ笑っている。
だけど、彼女が気づくまで、あとどれ程の時間があるのだろう。

もっと、できるようになれる、ということに。
今駆ける場所、屋上という、世界の狭さに。
きっと、気づくまでの時間は幾ばくもない。

そうすると次に、翼を得たとして、どれ程の時間が掛かるのだろう。
見上げる空の世界の狭さ。それに気づいたら次は。

宇宙の矮小さに気づいてしまえば、次は。


579 : 屋上×悪の盗賊×願望器 ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 19:03:08 p6La4jkY0

もっと、もっと、もっと。できるようになれる。なりたい。
底しれぬ探求。善悪倫理に縛られぬ興味の源泉。果てのない好奇心。
それらが決して、彼女を満たさない。立ち止まらせない。

次へ、次へ、加速する好奇心(よくぼう)。
一つの場所に執着などない。
たとえば手に入れた宝をひとしきり愛でた後、飽きたら存在すら忘れてしまえるように。

ならばこの力は、与えられるべきではなかったのかもしれない。
人の能力を超えていなかったことが、危うい少女を人に留めていた枷だったとすれば。

今、彼女の中に響く声がある。
それは過去か、異なる世界か。


―――あさひ、駄目だ。それを手放すんだ! 俺の話を聞いてくれ!


今にも彼女の中から消去されようとしている、微かな声だった。


―――約束したじゃないか……。これからは人間として一緒に暮らすって。


あるいはそれこそが、彼女を人に押し留める、最後のか細い糸だったのかもしれない。


―――そのために、大きな家も買ったんだ。たくさん踊れる広い庭も……。


そんなの、なんて、つまらないんだろう。
その思考を最後に、小さな声は彼女の中から永遠に途絶えた。
糸は、あっけなく千切れた。

ここは遍く多次元宇宙を飲み込んだ世界。
出会うべき仲間に出会えなかった世界。
届くべき言葉の届かなかった世界。
今日の手は空を切り、されど翼を与えられし世界。
そうした可能性もまた、膨大なる平行世界のどこかには存在している。

くびきから解放された少女。
彼女に与えられた役(ロール)は悪の怪人。

いや――悪の盗賊。


「今のわたしは、なんだってできる――」


まだ見ぬ未来への期待、最大の高揚感と共に、あさひは今宵最後のステップを踏んだ。
水溜りに浮かぶ葉、異形の翼が、水面を離れて舞い上がる。


「ああ――楽しい――!」


580 : 屋上×悪の盗賊×願望器 ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 19:04:31 p6La4jkY0

【クラス】
 ハンター

【真名】
 クロロ=ルシルフル@HUNTER×HUNTER

【ステータス】
 筋力C 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運B 宝具E〜EX

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
 念能力:B
 盗賊(ハンター)のクラススキルであり、オーラと呼ばれる生命エネルギーを操る。
 魔力量のプラス補正に加え、D〜Cランク相当の対魔力(纏)と気配遮断(絶)を持つが併用は出来ない。

 陣地作成:C
 生前旅団を指揮した経歴からスキルを所持している。自己の陣営にとって優位な陣地(アジト)を作り上げる。

【保有スキル】
 直感:B
 戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を感じ取る能力。
 視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

 盗賊のカリスマ:A
 軍団を指揮する才能。
 とりわけ、数の大軍勢よりも質の少数精鋭。
 曲者揃いであった幻影旅団(クモ)の団長として、クロロの統率はその方向に際立っている。

 コレクター:B-
 価値あるものを蒐集し、また管理する能力。
 アイテム、スキル、種別問わず望んだものを手に入れる。
 ただし彼は既に手に入れたものに対する執着が薄く、興味を無くせば簡単に売り払ってしまう為このランクに留まる。

【宝具】
『盗賊の極意(スキルハンター)』
 ランク:E〜EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
 他者の能力を盗み、自分の能力として使用できるという、生前の念能力が宝具として昇華された物。
 形状は表紙に大きな手形が描かれた一冊の本。かつて盗んだ能力、そして旅団の団員から借り受けた能力が封じられている。

 サーヴァントの宝具として昇華されるに差し当たり、以後に盗む能力の対象は念能力のみならず、他者の宝具に至るまで範疇を広げる。
 盗む条件は生前と同じく至難の業である下記の4工程。

1.相手の能力(宝具)を実際に見る。
2.相手に対象の能力について質問し、相手がそれに答える。
3.本の表紙の手形と相手の手のひらを合わせる。
4.1〜3までを1時間以内に行う。

 奪った能力は元の使い手が死亡すると本から削除され使えなくなるが、死後強まる能力は削除されることがない。
 能力の発動条件は、使う能力を封じたページを開いた状態にすること。
 本に付随する栞である『栞のテーマ(ダブルフェイス)』を使用する事で、2つまで能力を同時使用できる。
 また栞を挟んだページの能力は本を閉じても消えないため、1つの能力を両手で行使することも可能。
 団員達の能力は『栞のテーマ』と同じく『盗賊の極意』に付帯する宝具の一部とする。



【人物背景】 
 悪名高き盗賊であり、賞金首揃いである幻影旅団の団長。
 額に十字の刺青を刻む壮齢の男。常に何らかの本を持ち歩き、背に逆十字の描かれたコートを纏う。
 髪型は基本オールバックにしている事が多いが、下ろしていることもあり、醸し出される年齢の雰囲気は一定しない。

 全員が念能力者で構成されていた旅団の戦闘能力は凄まじく、その主な活動は窃盗と殺人、稀に慈善活動。 
 大量殺人や著しく残虐な行為を平然と行い、冷静で冷徹な判断を下す一方、団員同士はドライながら奇妙な信頼で結ばれている。
 クロロもまた冷徹なリーダーとして君臨すれどその思考は特殊であり、旅団存続のためなら団長である己の犠牲すら是としていた。

 彼は霊魂を信じ、死後の仲間を想い、果てにサーヴァントとして此処に召喚された。
 旅団(クモ)は未だ止まらぬと証明するように。

 純正の英雄からは遠く、社会から排除されることによって、混沌が晴れると信じられた反英雄である。


【サーヴァントとしての願い】
 聖杯をいただく。
 その過程で、この世界の宝を盗む。


581 : 屋上×悪の盗賊×願望器 ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 19:05:09 p6La4jkY0

【マスター】
 芹沢あさひ@アイドルマスターシャイニーカラーズ(World×Code)

【マスターとしての願い】
 聖杯に至る。

【能力・技能】
 念能力。
 体から溢れ出る生命エネルギー(オーラ)を操り、使いこなす力。
 クロロに師事し、類まれな才能によって、既に基本の四大行を習得している。
 特質系能力者。
 

【人物背景】
 芸能事務所283プロに所属する中学生アイドル。
 アイドルユニット「Straylight」のセンターポジション。
 好奇心旺盛であり、楽しいことを見つけたり、何かに興味をもったら、じっとしていられない。
 反して飽きっぽい面もあり、自分の感情にとても素直な性格。

 ダンスパフォーマンスやマイクパフォーマンスには天賦の才能があり、小柄ながら見る者を惹きつけるカリスマ性を発揮する。
 普段と一転して、物事を突き詰めようとする際の集中力は凄まじく、周りの声が聞こえなくなるほど。
 総じて、高い感受性と行動力を併せ持つ、活発な女の子である。

 これは、そんな一人の少女の、数多ある可能性の一つ。 


【方針】
 自分の力を試すように、思うがままに聖杯を目指す。


582 : ◆7ajsW0xJOg :2021/06/13(日) 19:05:55 p6La4jkY0
投下終了します


583 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/13(日) 20:24:18 8joD1JUA0
>>Catch Me If You Can
摩美々とモリアーティの会話、あまりにも良すぎる。最高〜〜って感じでした。
アイドルと犯罪卿、本来であれば交わることのない二種の概念を非常に巧くクロスさせているお話だった印象です。
そして本文中のネタの拾い方とかも細かくて凄い。キャラクター理解度の高さを感じました。
あとステシがいいですね! ステシ部分まで含めて一つの作品になってて(上手く言えない)、構成の妙が光っているなあと。

>>宇宙よりも遠い場所
タイトルはよりもいなのにゆるキャン。なでしこはかわいいなあ。
東京の外側の世界が存在しない舞台だからこそ、富士山を指して宇宙よりも遠い場所、と表現する発想がうまい!ってなりました。
とてもではないけどキャンプなんてしてられる状況じゃないですから、当然郷愁の念は強まりますよねー。
あとサーヴァントの出典先で笑っちゃいました。そんなとこから出てくること、ある?

>>屋上×悪の盗賊×願望器
まさかのあさひエイプリルフール出典、まずそこにめちゃくちゃ驚かされました。
そんな彼女と組んでいるサーヴァントがクロロというのも面白く、彼が師となって念能力を教えているのはあ〜クロスオーバーだ!って感じです。
エイプリルフールの出とはいえ、あさひというキャラの言動が凄く解像度高くお見事でした。
解釈一致!ってなるお話はやっぱり読んでてとても楽しいですね。おもしろ……おもしろ……ってなってました。

皆さん本日も投下ありがとうございました〜!!


584 : ◆VJq6ZENwx6 :2021/06/13(日) 21:45:07 bjZSlSpU0
投下します


585 : 魔王<はいぼくしゃ>の居城 ◆VJq6ZENwx6 :2021/06/13(日) 21:46:58 bjZSlSpU0
遠からず私はこの聖杯戦争で死ぬだろう。
私の胸の内には、暗い絶望と奇妙な安堵感で満ちていた。
まだ死にたくは無いが、可能性のない自分自身を見つめる今後の人生から解放されると考えると気が楽になる。

一体、どこで間違えたのだろう。
WING決勝で敗れたこと、天井社長の部屋で白盤を見つけてしまったこと、トレーナーの指示を守らず無茶なレッスンを続けたこと、プロデューサーと姉に無茶を言ってアイドルになったこと、なみちゃんに憧れたこと、なんだか悲しくて誰かになりたかったこと。

後悔は無限にある。
結果として私のアイドル人生はなみちゃんのように流星のごとく儚く終わり、
なみちゃんに限りなく近づけた私は、なみちゃんは「伝説の八雲なみ」なんかになりたくなかったと知って以前と同様の日常に戻った。

「はあ」

私はこのCDショップのバックヤードから出てため息をついた。
店内の蛍光灯の眩い光が目に刺さる中、私に気づいて近づく影が見える。

「にっちー大丈夫?」

「やっちゃったよねー、陳列の最中に手滑らせちゃうなんてさ。」

「…どうもです、先輩方」

このCDショップで働いている先輩達だ。
ずっと一緒に働いていたはずだが、なんだかずいぶん懐かしい気がする。

「ドンマイ、アイドルも辞めたんだしこれから挽回していけるでしょ」

「っ―――」

「アイドル」、その言葉を聞いた私は俯いて唇を?みしめた。
そんな私に構わず、先輩方は捲し立てる。


586 : 魔王<はいぼくしゃ>の居城 ◆VJq6ZENwx6 :2021/06/13(日) 21:47:59 bjZSlSpU0
「にっちーがアイドル辞めたって聞いて私らも安心したわ」

「にっちー、イジメみたいの受けてたしねー」

「そうそう、あんないつまでもアイドルにしがみ付いてる人と
 若い新人のにっちー組ませてどうするんだっての」

「アイドル歴10年とかマジでないわ、
 引き返せるうちに女優とかダンサー名乗っとけっての」

そう言って彼女たちはかつての相方、美琴さんを嗤った。
彼女たちは知らない、美琴さんがどれだけアイドルに真剣だったのか。
美琴さんがどれだけ私に優しかったか。
私がどれだけ美琴さんを尊敬していたか。
それを飲み込んで、私は俯いた顔を上げ、答えた

「あはは…そうですよね…」

アイドルになる前と同じように、そつのない返事だ。
今の自分の表情は鏡で見るまでもなくわかる。
なみちゃんの真似をしている時のような曇り切った笑顔ではなく、
自然で、晴れ晴れとして、へらへらと紙のように薄い自分の嫌いな笑顔だ。
アイドルだったころは、どんな笑顔を作ってたか、もう思い出せなかった。


587 : 魔王<はいぼくしゃ>の居城 ◆VJq6ZENwx6 :2021/06/13(日) 21:50:52 bjZSlSpU0
どこが世界の終わりだろうか。
日が落ちる間際に現れた、
延々と満ちては欠ける輪廻を繰り返す月を見ながら彼、キャスターは思う。

己の様に、歴史の大勢に影響を与えない有象無象の魔王たちが果てた時か。
それとも歴史の収束点に存在するゾーマ、竜王、シドー、己の後に延々と世界に立ちはだかる脅威たちが倒れた時が終わりか、
それとも更にそこから世界は続くというのか。
始まりがあれば終わりもまたある。
そう目指した心地よい混沌に、世界は辿り着かないような気がした。

マスターがバイトのさなか、彼は屋上に腰を掛けて月を眺めていた。
幸か不幸か、霊体化した彼を視認可能な存在が通ることは無かったが、
もし彼を見ていれば戦慄することになっただろう。
悪魔のような翼、胸に埋め込まれた赤い宝玉、肩に生えた鬼のような巨大な角。
およそ汎人類に刻まれた英霊とは思えぬ異形の存在、それが彼だった。

それもその筈、彼は英霊と対を成す反英霊の究極、
大魔王 異魔神。それが彼、キャスターの真名であった。

やがて、マスターが店内から出たことを確認して
彼は屋上から降り立った。

「バイトとやらは終わったのか?」

「……」

問いかけを無視し、彼女は手に持ったCDケースを見て歩いていた。
彼女とは似つかわぬ純真な笑顔がパッケージだ。
ラベルには「櫻木真乃」と書いてあり、よく見るとケースにへこみがある。

彼女は唐突に立ち止まり、キャスターの問いかけを無視して尋ねた。

「キャスターさん、願いってあります?」

「貴様にはないのか?」


588 : 魔王<はいぼくしゃ>の居城 ◆VJq6ZENwx6 :2021/06/13(日) 21:51:50 bjZSlSpU0
「ぐるぐるしてるんです、頭の中で」

「私はアイドル辞めて、CD見るのも嫌になって、
なみちゃんは辛くて、お母さんとお姉ちゃんは今も大変なのに、
大変じゃなくなった自分が嫌になって…」

少女は頭を抱えて道に座り込む。

「なにを望めばいいのか、わからないんです」

それを聞いたキャスターは、フンッと鼻を鳴らして
どんぐりのように丸まった少女に答えた。

「無に帰ることだ」

「帰る?」

「余を追放した魔界、地上から追放した世界、我が道を阻んだ人間ども…
 全てを無に帰す」

大げさな表現かと思い、少女は下からキャスターの顔を覗き込んだが、
彼は顔色一つ変えていなかった。

「それってキャスターさんだけ無に帰るんじゃ、ダメなんですかね」

「人間にそこまでの力があるなら構わん」

「あはは…くだらない」

少女はゆっくり立ち上がり、目の前のキャスターを見上げた。
疲れ切ったその顔には、確かな嘲りの視線があった。

「要は自分を嫌ってる世界か、世界から嫌われてる自分を消したいってだけじゃないですか!
 そんなの、人の手なんか借りないで勝手に消えてくださいよ!」


589 : 魔王<はいぼくしゃ>の居城 ◆VJq6ZENwx6 :2021/06/13(日) 21:52:24 bjZSlSpU0
「貴様…死にたいのか」

「キャスターさんにそこまでの力があるなら、構わないですね」

少女は嗤う。
可笑しいのは目の前のキャスターか、その瞳に映る自分自身か。

「クックック…」

「あはは」

言葉がどこまでも響かない、命も夢も背負ってない空虚な言葉、
それを互いに紡ぐ不毛な言葉のやり取りが、なんだかおかしい。
そんな奇妙な感覚に耐え切れず、二人は笑った。

「還りましょうか」

「ああ」

母はいない、かつていた親戚もいない、まだこの時間では姉もいない。
己を崇めるものも、己を憎むものも、またいない。
そんな家に彼女たちは向かった。
少女は一瞬振り返り、沈みかけた日に照らされる赤い街並みを見下ろしたが、
すぐさま世闇に紛れて有象無象の影に消えていった。


590 : 魔王<はいぼくしゃ>の居城 ◆VJq6ZENwx6 :2021/06/13(日) 21:52:55 bjZSlSpU0
【クラス】
キャスター
【真名】
異魔神@ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章
【パラメーター】
筋力:A++ 耐久:C+++ 敏捷:B 魔力:A 幸運:D 宝具:Ex
【属性】
混沌・悪
【クラス別能力】
陣地作成:Ex
 自身に有利な陣地を作成できる。
 異魔神は自分の成長に特化した『幻の月』を生成可能。

道具作成:B
 魔力を帯びた器物を作成できる。
キャスターは呪いを帯びた道具を作成可能

【保有スキル】
大魔王:A
世界のラストボス、即ち魔王であることを示すスキル。
同ランク以下の仕切り直し、および瞬間移動能力を無効【メリット】
ランクが高ければ高い程、聖属性・雷属性のダメージが増加【デメリット】

自己改造:A
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる適性。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
魔界に追放されし魔神に世界樹の肉体を加え、誕生したものがキャスターである。

神性:C+
その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。
本来キャスターは高位の神霊であるが、自己改造により神性適性を落としている

自己回復:B+++
魔力により己の自己再生を行うスキル。
世界樹のエキスから誕生した肉体を持つキャスターは、極めて高度な再生能力を誇る。


591 : 魔王<はいぼくしゃ>の居城 ◆VJq6ZENwx6 :2021/06/13(日) 21:53:47 bjZSlSpU0
【宝具】
『高密度魔法言語』
ランク:A++ 種別:対国宝具 レンジ:99 最大補足:5000
異魔神が使用する魔界の呪文。
ある呪文は国を一瞬にして氷漬けにし、ある呪文は海を沸騰させる超威力を誇る。
聖杯戦争、およびキャスターにとって過剰なまでの火力こそが欠点であり、
超威力故に何らかの方法でキャスター自身に反射された場合即死しかねない、
呪文によっては膨大な魔力消費を何らかの方法で補い、後述する幻の月やマスターが耐える、或いは当たらない事を期待する必要がある。

『幻の月』
ランク:A++ 種別:対神宝具 レンジ:50 最大補足:5000
高密度魔法言語・げっこうにより作成される異魔神の陣地
5000程の死者が発生した際、その魂を用いて月を模した巨大な陣地を空中に生成する。
幻の月の魔力により範囲内のキャスター・および世界樹に類するものの自己回復スキルのランク・魔力を上げることが可能。
幻の月は通常の砲撃には耐えうる強度を誇るが、死者の魂であるため成仏判定を行う場合は確定で昇天する他、
異魔神の通常攻撃、呪文級の攻撃で破壊可能なため、細心の注意を払って戦う必要がある。

『異魔神』
ランク:Ex 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-
古代ムー帝国の英知による肉体と異空間に幽閉された魔神が合わさり誕生した血と肉と破壊と欲望の化身、キャスターそのものである。
世界樹の雫から構成される肉体には高度な再生能力の他、再生の形態を変える能力が備わっており、
人サイズの翼の生えた鬼のような形態から世界を蹂躙した巨人サイズの怪物となることも可能。

【サーヴァントとしての願い】
自らの崩壊

【マスター】
七草にちか@アイドルマスター シャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
還る

【備考】
七草にちかシナリオ、W.I.N.G決勝敗北後からの参戦です。


592 : ◆VJq6ZENwx6 :2021/06/13(日) 21:54:04 bjZSlSpU0
投下終了です


593 : ◆ylcjBnZZno :2021/06/13(日) 23:00:26 MZvVbpfg0
投下します


594 : ◆ylcjBnZZno :2021/06/13(日) 23:00:27 MZvVbpfg0
投下します


595 : 高橋鉄男&アーチャー ◆ylcjBnZZno :2021/06/13(日) 23:03:14 MZvVbpfg0
「さて、名も知らぬマスターよ。最期に言い残すことはありますか」

その日、模倣東京にあるその場所で。
一人のマスターがその命を散らそうとしていた。

「ねえよ。そんなもん」

答えるマスターは大男。
丸太のような太い腕にツーブロックの髪型、現代的なジャージの上から着こんだ鎧が特徴的な偉丈夫。
しかし今は追い詰められ、傷つけられ、膝をつき、眼前に立つ白銀のランサーを睨め上げている。

「俺はただ、生きて帰りてぇだけだ」
「そうですか。
 ですが他のマスターは皆殺しにしろ、というのが我がマスターの望みです」
ランサーの背後――はるか後方で何やらわめいている己のマスターをちらと見遣り答える。

三叉槍を振り上げるランサー。
瀑布の如く振り下ろされるそれは、鍛え上げられた大男の肉体を粉砕するだろう。

「あなたの生きる意志に敬意を表し、一撃にて葬って差し上げます」
「……うるせえよ」

思わず目を瞑り、槍が振り下ろされるのを待ってしまう。
己の運命を呪い、遂に再開できずじまいとなった母に思いを巡らす。

――戦国時代から帰って来たと思ったら、わけのわからねえ戦争に巻き込まれて。
――アメフトで鍛えた体も全然通用しなくて。
――逃げを打ってもあっという間に追いつかれて。

――チクショウ、恨むぜ。運命ってやつをよ。
――母ちゃん…すまねえ。また唐揚げ食いたかったよ。
――俺が死んでも…チクショウ……母ちゃん。


「弓隊! 構えぇ!」


聞き覚えのある声。
もう二度と聞くことは敵わないと思っていたその声が、大男を現実に引き戻す。


「射てーーー!!!」


号令と共に放たれた10本の矢がランサーのマスターに飛来する。
舌打ちと共にランサーが駆け、マスターをかばい矢をはじく。
「ラン……」
「黙って。舌を噛みます」

言うが早いか、ランサーは何事かしゃべろうとする己がマスターを抱えて走り去っていった。


596 : 高橋鉄男&アーチャー ◆ylcjBnZZno :2021/06/13(日) 23:04:45 MZvVbpfg0



弓が射られた方向に顔を遣る。
そこに立つ、黒い靄のようなものに覆われた9人と、覆われていない一人の人影。
一本結びの眼鏡女子にお団子頭の女子、凛々しい顔つきの優男――。
大男はその全員に見覚えがあった。

やがて9人の人影が霧散し、靄に覆われていなかった一人がこちらに近づいてくる。

「あなたがピンチに陥っているのが見えて…英霊の座から…飛び出してきちゃいました」

近づいてきたその人物の顔を見て、大男の口から「ははっ」と乾いた笑いが漏れる。

自分よりも20cm小さい身体。
肩にかけた弓、背負った矢筒。
信長に斬りつけられた額の傷を隠す鉢金。
頬には不破に刻まれた傷。
現代的なTシャツの上には自分のものと同じ意匠の鎧。


「お久しぶりです。高橋さん」

戦国時代に残り、徳川家康の代わりとなったその人物は、慣れた口調で男の名を呼んだ。

「馬鹿野郎…。
 俺にとっちゃお前と別れたのは、つい昨日のことだぞ……西野ぉ……」


二度と相まみえることはないと思っていた相手との早すぎる再会に、高橋と呼ばれた男は涙をこらえきれず、瞼を覆う。
その右手には赤い令呪が刻まれていた。



【クラス】
アーチャー

【真名】
徳川 蒼@群青戦記

【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷C 魔力E 幸運C 宝具EX

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
単独行動:D
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 マスターを失ってから半日間現界可能。

対魔力:D
 一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力

騎乗:B
 大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは難しい。
 ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【保有スキル】
カリスマ:C
 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる。

軍略:B
 多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。


597 : 高橋鉄男&アーチャー ◆ylcjBnZZno :2021/06/13(日) 23:06:07 MZvVbpfg0


【宝具】
『先の世の歴史を知る者』
ランク:EX 種別:対史宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
アーチャー、ライダー、キャスター、アサシンのクラス適性を持つ徳川蒼がどのクラスで召喚されても使用できる宝具。
歴史的知識を武器に戦国時代を生き抜いた逸話が宝具となったもの。
召喚された時点で『徳川蒼主従が参戦していなかった場合にこの聖杯戦争がどのような経緯・結末を辿るか』を歴史的知識として知っている。
高い知名度補正を受けているサーヴァントや目立った活躍をしたサーヴァントについてはその真名や宝具をも知ることができている。
ただし蒼自身が『史実』と大きく異なる動きをする、もしくは他者にさせると歴史は歪み、この知識が用を為さなくなっていく。
この宝具を十全に扱うためには『史実』の大筋を変えないよう立ち回る必要がある。

『二町越え届く矢文』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:220 最大捕捉:200人
信貴山城の戦いに於いて二町(約220m)離れた森好久の本陣に矢文を届けた逸話が宝具に昇華されたもの。
『二町以内の距離にある』『味方または敵の陣地』に対し『無生物を狙って矢文を放った』場合にのみ発動し、条件を満たしていれば因果を逆転させて的中させる。
的中した後は味方陣ならステータス上昇のバフを、敵陣ならステータス下降のデバフを撒く。
デバフはCランク以上の『軍略』もしくは『カリスマ』で無効化できる。

『星徳隊(縁深き良き友)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:50人
徳川蒼が戦国時代に於いて率いた星徳高校の面々を召喚する宝具。アーチャークラスでの召喚のためランクが下がっている。
通常時は弓兵隊のみ、真名開放を行うことで盾隊、槍隊、投石隊、遊撃隊を追加で召喚できる。
彼らは英霊ではなく礼装に近いものであるため、蒼が指揮を執らなければ基本的に動くことはできない。また、蒼の心情的な理由により松本考太と瀬野遥は召喚されない。

【weapon】
・和弓
・弭槍(はずやり)
・忍者刀
・大蛇丸(馬)

【人物背景】
スポーツ強豪校・星徳高校弓道部に所属していた高校二年生。幅広い歴史知識を持つ歴史マニア。
ある日突然、学校丸ごと戦国時代にタイムスリップした彼らは生きて現代に帰るために戦国武将を相手取って戦う。
学校に攻めてきた羽柴秀吉と出会い、戦いの末、未来の知識と弓の腕を買われ秀吉の下で星徳隊大将として多くの戦いに従軍する。
西野達より先にタイムスリップし『戦乱の世を終わらせない』ために歴史を歪めていた不破の謀略により徳川家康 対 上杉謙信という史実にない戦いが起こり、家康が死亡。『天下泰平』の志を託される。
不破から「歴史を修正すれば元の時代に帰れる」ことを告げられた蒼は徳川の家督を相続。
家康の仇である上杉謙信と協定を結び自分たちの手で本能寺の変を起こした。
軍略の師である竹中半兵衛、信長の護衛であった森長可、蘭丸兄弟を討ち取り、信長との決戦に臨み勝利した。
ほとんどの現代人が元の時代に帰るのを見送った後は戦国時代に残り、徳川家康の代わりに『天下泰平』の志を実現すべく戦いを続けた。
徳川家督相続前の名字は西野。

【サーヴァントとしての願い】
高橋を現代に無事帰す。


598 : 高橋鉄男&アーチャー ◆ylcjBnZZno :2021/06/13(日) 23:06:51 MZvVbpfg0



【マスター】
高橋鉄男@群青戦記

【マスターとしての願い】
なし。
強いて言うなら無事家に帰ること

【weapon】
なし
掛矢を使い慣れているが現時点では所持していない。ホームセンターに買いに行こう。

【能力・技能】
アメリカンフットボールで鍛えた筋力。
立っていられないほどの深手を負いながら戦闘を続行できる根性とタフネス。

【人物背景】
スポーツ強豪校・星徳高校アメフト部に所属していた高校二年生。母親を慕っている。自称マザコン。蒼に対しては自分たちの大将として強い信頼を寄せている。
ある日突然、学校丸ごと戦国時代にタイムスリップした彼らは生きて現代に帰るために戦国武将を相手取って戦う。
作中で最初に「順応」した生徒。タイムスリップ当初は生き残るため躊躇なく敵を殺していたが、母親を悲しませたくないという思いから徐々に殺人に抵抗を感じるようになる。
とはいえ戦意を失ったわけではなく最後まで最前線に立ち続けて蒼を支え、本能寺の変の後、ほとんどの生徒と共に現代に帰還した。
…というのが原作の流れ。本作では現代に戻れず模倣東京に招聘されてしまったようだ。

【方針】
母ちゃんの待つ家に帰る。
できるなら人殺しはしたくない。


599 : ◆ylcjBnZZno :2021/06/13(日) 23:07:13 MZvVbpfg0
投下終了です


600 : ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/14(月) 00:31:52 rvvQ9UVs0
投下します


601 : 絶死絶命サディスティックねーちゃん ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/14(月) 00:33:01 rvvQ9UVs0
ここはちょっと大きめの日本家屋、その中では一風変わった光景が広がっていた。

そこには赤いドレスをまとった女性が、塩をかけられたナメクジのようにぐったりとしたオッサンを踏みにじっている姿だった。

なぜこのような場所でこんな風景が広がっているのかというと、それは数刻前にさかのぼる……。


------------
数刻前の同場所……

「なるほど、つまりこの戦いを制したものはどんな願いでもかなえられるということじゃな」
「そしてオマエがワガハイのサーヴァントで、この戦いに勝つためにはオマエの力が必要なのじゃな、大体わかったのじゃい」

そこでは、先ほどぐったりとしていたオッサンが目の前にいる女性と話し合っていた。

彼の名前は校長、本名は『ミュミャリャツァオビュビュンピピュプリャプピフンドシン』という男で、
自分が世界のだれよりも偉くなければ気が済まない男である。

「そういうことよ、アタシはエクストラクラス『アクター』のサーヴァントよ」
「これからよろしく頼むわね、マスター」

そしてそんな彼に召喚された女性の名前はメリサ。『毒のメリサ』という二つ名を持つ女性で、
自分が称えられ、他人が堕ちるのを見るのが大好きな性格をした悪女である。

(本当はこんなゴミに従うのはシャクだけど……せいぜいアタシの目的のために頑張ってもらうわよ)

そんな彼女はもちろんマスターのことなどなんとも思っておらず、ただ自分の目的のために彼を利用するつもりでいた。

(それに……令呪なんてものに縛られたくはないのよ、アタシは)

また自分が何者かに仕えるという事すらも嫌だと思っている彼女は、校長に『令呪』のことについて一切教えていなかったのだ。

そうして彼女がいろいろと企んでいると、目の前にいる男が衝撃的な行動に出た。


602 : 絶死絶命サディスティックねーちゃん ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/14(月) 00:34:40 rvvQ9UVs0
なんと男が下半身を露出して、彼女の方にケツを向けたのだ。

「……何を、しているのかしら?」

それを受けて彼女は目に見えてイラついた様子で男に尋ねたら、ある種衝撃的な一言が返ってきたのだ。

「ワガハイはマスター(主)で、お前はサーヴァント(従者)!つまりワガハイの方がお前よりエライんじゃい!!」
「わかったらさっさとひざまずいて、ワガハイのケツをなめて忠誠を誓うのじゃい!この女王様気取りの変態コスプレ女――!!!」

何と男は、「オマエより自分の方が偉い」という理由で彼女に自分の尻を舐めさせようとしたのだ。

「…………ゴミの分際で……調子に乗るんじゃないわよ!?」

当然そんなことをされて彼女が怒らないはずもなく、校長は盛大にぶちのめされるのであった……。

※ここから先はダイジェストでお楽しみください(写植記号BA-90)

〜〜〜〜

「なーにそれえ! もっと上手に踊ってくださらない?」
「やめるのじゃい!人間の関節はそっちには曲がらないのじゃいいぃぃぃ!!」

〜〜〜〜

「クズはクズらしくしてればいいのよ!」
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!ワガハイのお尻の穴が五つくらいに増えたあぁぁぁぁっ!」

〜〜〜〜

「アッハハハハハ!やっぱりゴミは燃やすに限るわね!!」
「ひでぶ〜〜〜!」

〜〜〜〜

「魔力が無くなってきたから、ちょっと”補充”させてもらうわ」
「感謝しなさいよ、こんなイイ女と”キモチイコト”できるんだから」
「オティンティンがっ!ワガハイのオティンティンがぁぁぁぁっ!!!」
「たっぷりと搾り取ってあげるわ、どれくらい絞ったらミイラみたいになるかしらねぇ?」

〜〜〜〜


603 : 絶死絶命サディスティックねーちゃん ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/14(月) 00:35:18 rvvQ9UVs0
------------

まあとどのつまり、あのバカが調子に乗りまくった結果折檻されまくったり、
”魔力タンク”にされたわけである……。

「豚は豚らしく、アタシの靴を舐めていればいいのよ、返事は?」
「おっ……ぽい…ぽい…………」
「……知っているかしら?首を切ったときに出る血って、バラの花びらが散るように綺麗なのよ?」
「わ、ワガハイが悪かったのじゃい……だからもう勘弁してほしいのじゃい……!」

彼らの戦いは始まったばかりでこんな感じだが、これから一体どうなるのだろうか……?


【クラス】アクター
【真名】メリサ
【出典】Alice Re:Code
【性別】女性
【属性】中立・悪

【パラメーター】
(通常時)
筋力:C 耐久:D  敏捷:C 魔力:B  幸運:C 宝具:A+

(『魔笛の演奏者』発動時)
筋力:C 耐久:B  敏捷:C 魔力:A++  幸運:C 宝具:B

(『大欲羽搏く竜姫』発動時)
筋力:A++ 耐久:EX  敏捷:B+ 魔力:A+  幸運:B+ 宝具:A+

(『陋劣の無頼漢』発動時)
筋力:B+ 耐久:D  敏捷:B 魔力:C  幸運:D 宝具:C


【クラススキル】
 変化:A+
 ”座”に存在する、自身とは別のサーヴァントの力を一時的にコピーし、
 それに合わせて自らの肉体を作り変える事ができる。
 また、肉体のみならず人格や記憶などの精神も“変化”が可能。

 彼女の場合は召喚された時点でコピーした力が”宝具”という形で顕現している。

 ……完全に余談だが、彼女がコピーできる連中は彼女の性格を反映してか大体の場合
 『腹に一物持っているヤツ』か『悪党』が多かったりする。


【保有スキル】

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

加虐体質:A
 戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
 プラススキルのように思われがちだが、これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、
 普段の冷静さを失ってしまう。バーサーカー一歩手前の暴走スキルと言える。
 攻めれば攻めるほど強くなるが、反面、防御力が低下してしまう。


604 : 絶死絶命サディスティックねーちゃん ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/14(月) 00:35:51 rvvQ9UVs0
【宝具】

『魔笛の演奏者(ハーメルンの笛吹き男)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:0〜99 最大捕捉:1000人
 村中の子供を魅惑の演奏で誘い出し、そのまま子供達と共に闇へと消えた謎の笛吹き男を
 自身に憑依させ、一種のデミサーヴァントのような状態となる宝具。

 この宝具を使っているときは道化師のような姿となり、また笛を吹くことで対象の心を惑わし意のままに操れるようになるほか、
 耐性のないサーヴァントであれば相手を一時的に盲目にしたり精神異常を与えることで戦闘不能に陥らせることもできる。


『大欲羽搏く竜姫(鳴いて跳ねるひばり)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:0〜99 最大捕捉:1000人
 獅子の王子を手に入れるため、戦い続けた竜の王女を
 自身に憑依させ、一種のデミサーヴァントのような状態となる宝具。

 この宝具を使っているときは黒地に花柄の着物姿となり、また最強の幻想種である竜の力を得ることができるほか、
 相手サーヴァントが持つ『矢よけの加護』などの耐性を無視した炎のブレスといった強大な攻撃が使えるようになる。


『陋劣の無頼漢(歌う骨)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉: 5人
 弟が立てた手柄を、自らの物にしようとして弟を殺害した槍使いを
 自身に憑依させ、一種のデミサーヴァントのような状態となる宝具。

 この宝具を使っているときは髪型をオールバックにした軽装の槍使いの姿となり、その容姿の通り槍の名手となる。


【weapon】
・幻惑の魔笛(『魔笛の演奏者』発動時のみ)
 
・獣殺しの槍(『陋劣の無頼漢』発動時のみ)


【人物背景】

「あーあ。本ッ当にクソみたいな世界。早くアタシの視界から消えちゃえばいいのに」

 常に人を食ったような態度をとり、美しい笑みを浮かべながら毒を吐く女性。
 自分が称えられ、他人が堕ちるのを見るのが大好きな性格で、
 そのため自分以外の人間を基本的に見下し、その態度が周囲の人間の反感を買っている。

 しかし彼女自身は高貴な雰囲気を持つ人物が好みで、その際には献身的に尽くすこともある。


【サーヴァントとしての願い】
 周囲の人間が無様になり、そして自分が永遠に称えられるようになること。


【マスター】
校長(本名はクソ長いので省略)@絶体絶命でんぢゃらすじーさんシリーズ

【マスターとしての願い】
ワガハイが1番えらいんじゃい!!ワガハイにたてつく奴はブチコロじゃい!!

【weapon】
 なし、しいて言うなら鉛筆張りに尖った頭。

【能力・技能】
なし、というかあるわけない。

……しいて言うならばゴキブリ並みの生命力と、本気で激怒すると
相手を一撃で粉砕するほどの戦闘力を発揮することくらいである。

後は曲がりなりにも教育者なので結構頭がよく、外国人と英語のみで会話したこともある。

【令呪の形・位置】
 へその下あたりに『1』という文字を取り囲むように矢印が描かれ、その下に『PET』という文字が書かれた形。

 ……はっきり言うと、『ペットボトルの分別マーク』である。


【人物背景】
名前の通り学校の校長。

自分が世界で一番偉くないと気がすまない性格だが近所の子供相手に2秒で負けるほど弱い。
気に入らない者や自分より偉い者は痛めつけたり殺そうとしたりするが、大概は調子に乗ってやられている。

自ら登校時刻に正門に立ち、遅刻する生徒を取り締まったり、持ち物検査をしたりと教育者らしい行いをすることもあるが、
自分への挨拶に「おはようございます」の「ございます」が付かなかっただけでバズーカ砲を発射する、
廊下を走った生徒に回転しながら頭突きを食らわせる、遅刻してきた生徒を百発殴りつけるといった暴力的な制裁を加える所から、
品格は無に等しい。
 
【方針】
アクター自体はそれなりに強いが、マスターである校長がクソ弱いくせに独断専行を繰り返すわ
多方面にケンカを売るわで完全に足手まといになっている。
そのためアクター自身が自分の趣味もかねて校長を(死なない程度に)しばき倒して、
身動きが取れない状態にしている。


605 : ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/14(月) 00:36:52 rvvQ9UVs0
投下終了です

ありがとうございました。


606 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/14(月) 17:02:04 WKZrgzR20
投下します。


607 : The Wrath of God in All its Fury ◆Pw26BhHaeg :2021/06/14(月) 17:06:08 WKZrgzR20
 "神はまた言われた、「われわれのかたちに、われわれにかたどって人を造り、
これに海の魚と、空の鳥と、家畜と、地のすべての獣と、地のすべての這うものとを治めさせよう」。
神は自分のかたちに人を創造された。すなわち、神のかたちに創造し、男と女とに創造された。"
 『創世記』1:26-27



 昼下がり。とある団地の一室から、苦しげな声が聞こえてくる。
涙まじりで、怒りと悔しさに満ちた声。そして、なにかが振動する音。

「ふぅーっ……ふぅーっ……! なんで? なんでぇ?」

 ヴィーン……ヴィーン……! おお、読者の皆様は目を閉じて頂きたい。

「なんで私はダメなの? なんでいつもいつもダメって言われるの?
 好きな子を可愛がっちゃダメなの? 素直に好きって言っちゃダメなの?
 家に連れて帰ってハグハグしたりチュウチュウしたりしちゃダメなのぉお?」

 ……若い黒髪の女性が、苦しみ悶えながら自らを慰めているのだ。
その声や表情は、猥褻さというよりは、いたましさを感じさせる。彼女のバストは豊満であった。

 彼女の名はワタナベ。この団地の住人のひとりであり、左手薬指に指輪をしているが、現在は離婚している。
彼女の夫と息子は、彼女の病的な小児性愛の性癖を持て余し、団地から出ていってしまったのだ。

「私の愛情表現を、歪んだ目で見て……! 私は子供を指導してるだけなのに……可愛がってるだけなのに……!
 私を変質者扱いするなんて! 違う!私は! 断じて! なんで私ばっかり! ふぅーっ!……」

 彼女は涙を流しながら達した。だが、虚しい。可愛い少年を愛し、慈しむことの何が悪い。
この団地の他の人妻たちだって、不倫したり、やましいことをしている癖に。
彼女は、壁に貼られベッドに撒き散らされた少年たちの写真を見つめる。
屈託のない笑顔、小さな体、汚れなき純粋な目。ああ、私の天使たち。何故、何故、彼らを愛してはいけないのだ!

「……それが、貴様の欲望か。愚か極まる、下劣な人間の女よ」

 いつの間にか、ベッドの傍らに男が立っていた。少年ではなく、筋骨隆々たる異形の大男が。

「きゃあっ!?」
「問おう。まことに、貴様が、この我の、マスターか?」


608 : The Wrath of God in All its Fury ◆Pw26BhHaeg :2021/06/14(月) 17:08:51 WKZrgzR20
 ワタナベは―――思い出した。
そうだ。自分は突然誰かに呼び出されて、よく似た団地に住まわされ、そして。

「そ、そうです! わ、私はワタナベといいます! あ、貴方は!?」
「まず服を着ろ、ワタナベ。貴様は神の前にいるのだぞ」

 大男は苛立った声をあげ、たくましい腕を組み、空中にあぐらをかいて傲然と彼女を見下ろす。
赤いレオタードめいた服、鉤爪の生えた手袋やブーツを纏い、ヤギめいた二本の大きな角が生えた兜をかぶるその姿は、
神というより悪魔を思わせる。どのみち、逆らうのは危険そうだ。
幸い自分に劣情を抱いている表情ではない。むしろ嫌悪し、憤怒しているのはわかる。

「は、ハイ。すみません」

 ワタナベはいそいそとスカートを穿き、乱れた衣服を整えた。

「契約に従い、名乗ろう。
 我はこの宇宙を統べ、天上界に君臨し、人間と超人を創造せし神々の一柱、憤怒の神。
 今は下天し、超神バイコーンと名乗っておる。とは言え、ここにいる我はその影に過ぎぬようだが」

「影……?」

「我はかつて地上に降臨して戦い、敗れた。だが神は不滅ゆえ、本体は天上界に戻っておる。
 英霊の座とやらが我を記憶し、相当に弱体化した、かりそめの実体を与えたのであろう。腹の立つことだがな!」

 バイコーンは怒りを撒き散らす。憤怒の神である彼にとって、怒りと不満こそが力の源なのだ。
その源となるべきマスターが、欲求不満のバツイチ女性だとは思いもしなかったが、そのことも彼を激怒させた。
彼女を縊り殺すのは赤子の手をひねるより容易いが、それでは聖杯戦争に勝ち残ることは出来まい。
ならば、せいぜい生き残らせてやるしかないだろう。

「それでは、その、よろしくお願いします」
「ああ。貴様の低俗な欲望などどうでもよいが、我には聖杯を獲得し、超人を滅ぼすという使命がある。
 そのためにせいぜい利用させてもらうぞ。我を崇めよ! 貴様の怒りと欲求不満が我の力となるであろう!」

 ワタナベは自然と膝を屈し、ひれ伏した。日本には八百万の神がいると言うが、彼は邪神のたぐいだろう。
それでもいい。超人を滅ぼすというのも何のことかわからないが、どうでもいい。
自分の欲望がかなうのならば、邪神にでも悪魔にでも魂を売ってやろう。



 "そのころ、またその後にも、地にネピリムがいた。これは神の子たちが人の娘たちのところにはいって、
娘たちに産ませたものである。彼らは昔の勇士であり、有名な人々であった。
主は人の悪が地にはびこり、すべてその心に思いはかることが、いつも悪い事ばかりであるのを見られた。
主は地の上に人を造ったのを悔いて、心を痛め、「わたしが創造した人を地のおもてからぬぐい去ろう。
人も獣も、這うものも、空の鳥までも。わたしは、これらを造ったことを悔いる」と言われた。"
 『創世記』6:4-7


609 : The Wrath of God in All its Fury ◆Pw26BhHaeg :2021/06/14(月) 17:11:05 WKZrgzR20
【クラス】
ランサー

【真名】
バイコーン@キン肉マン

【パラメーター】
筋力A 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運E 宝具C

【属性】
秩序・中立

【クラス別スキル】
対魔力:A
 魔術に対する抵抗力。Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
彼は超神であり、特殊なオーラで肉体の表面を覆っている。
魔力を込めた攻撃でこれに傷をつければ、突破口が開けるかも知れない。

【保有スキル】
超神:A+
 天上界から下天した神々の一柱。人の身では絶対に不可能なランクの筋力と耐久に到達している。
「神性」「天性の肉体」「勇猛」などを含む。
彼は神々が人類や超人の生殺与奪権を持つ上位存在であることを疑わない。

憤怒の神:EX
 「憤怒」を司る神として、他者の怒りや欲求不満を己の力とする。
周囲からも敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちに彼の力へと変わる。
他者の怒りを煽ることも好む。

【宝具】
『憤怒の二角獣(バイコーン・ホルン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:2
 彼の頭部に生えた、長く太く鋭い二本の角。
自在に動き伸縮し、相手を絡め取って拘束したり斬りつけたり突き刺したりできる。折れることはない。

【Weapon】
 己の肉体と自慢の角。角を利用した様々なプロレス技を使いこなす。

【人物背景】
 漫画『キン肉マン』の「調和の神」編に登場するキャラクター。
天上界に住まう超人の神々の一柱・憤怒の神であったが、超人滅亡を企てる調和の神に賛同し、
下天して受肉、超神バイコーンと名乗った。学研の図鑑『超人』では英国出身、身長232cm・体重157kg。
超人強度は神である1億パワーより1万少ない9999万(図鑑では2600万)。笑い声は「フェフェフェ」。

 神らしく堂々たる姿をしているが、傲慢不遜で気性の荒い性格で、攻め一辺倒の苛烈で激しい攻撃を得意とする。
しかし相手を格下と見るあまり、思わぬ反撃を受けることもある。
本編ではプリズマンのカピラリア七光線によってほぼ相打ちで消滅し、他の超神から「しょうもねぇアイツ」呼ばわりされているが、
相手がプリズマンでなければ勝てなかったかも知れず、決して弱くはないはずである。
なおギリシア神話における憤怒の神は、復讐の女神エリニュス三姉妹(ローマ神話ではフリアエ)であるが、
彼にはアヴェンジャーの適性もあるのかも知れない。バーサーカーの適性もありそう。

【サーヴァントとしての願い】
 超人の絶滅。

【方針】
 聖杯狙い。邪魔する者は容赦しない。

【把握手段】
 原作74巻。


610 : The Wrath of God in All its Fury ◆Pw26BhHaeg :2021/06/14(月) 17:13:06 WKZrgzR20
【マスター】
ワタナベ@淫獄団地

【Weapon】
 リビドークロス「キッドナッパー」。
手首に備わった手錠付きワイヤーを射出し、標的の手首や足首を拘束する。
着用するとリビドーが全開になり、完全に変質者の姿になって目立つため、普段は使用しないでおく。
警察に回収されたはずだが、なぜか手元に置かれていた。弱点は胸元の共振石。
ワイヤーはペンチで切れる程度の強度なので、無力な人間にしか効果がない。

【能力・技能】
 特になし。

【人物背景】
 漫画『淫獄団地』に登場する団地住人のひとり。左手薬指に指輪をしているがバツイチの独身女性。
ボブの黒髪でバストは豊満、可愛らしい顔をしているが、自分の息子に手を出すほどに病的なまでのショタコンである。

【ロール】
 とある団地の住人。

【マスターとしての願い】
 少年たちと思う存分愛し合いたい。少年たちと愛し合っても後ろ指さされない世界が欲しい。

【方針】
 聖杯狙い。可愛い少年を見つけたらお近づきになりたい。

【把握手段】
 原作1話。

【参戦時期】
 1話終了後。警察に逮捕され、団地に戻っている頃。


611 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/14(月) 17:14:09 WKZrgzR20
投下終了です。


612 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/14(月) 20:37:41 zTb/tOBw0
>>魔王<はいぼくしゃ>の居城
今界聖杯で一番熱い女、七草にちか来たな……(三人目)。
今までに投下されたにちかの候補作とは違い、どことなくさっぱりとした雰囲気なのが印象的でした。
アイドルの道を外れた前半のパートはやりきれない湿度に満ちていましたが、自身のサーヴァントと語らう辺りは不思議なほどのさっぱり感。
作中でも描写されていたように、どこまでも空虚な空気感が素敵なお話だったと思います。

>>高橋鉄男&アーチャー
原作で永遠に別れた仲間と主従になるというのは運命的で素敵ですね。
残念ながら原作は未把握なのですが、知っていると凄く感動的なのだろうなということは伝わってきました。
英霊の座を経由して成った奇跡の再会を見事に描写しているなと感じました。
とはいえ真の鉄火場は此処から。彼らが本懐を遂げられるのかどうかが気になります。

>>絶死絶命サディスティックねーちゃん
でんじゃらすじーさん、めちゃくちゃ懐かしい。まだやってるんですかね。
そしてそれをクロスオーバーの場に引っ張ってこようというアイデアに驚愕しました。
原作のむちゃくちゃな雰囲気をうまい具合に再現していて、凄いなあという感想です。
とはいえ、これに召喚されたサーヴァントはご愁傷さまという他ないですね……。

>>The Wrath of God in All its Fury
昨今何かと名前を聞くことの多い淫獄団地からの出典ですね。
サーヴァントのバイコーンはスペックだけを見れば強力ですが、人物背景に書いてあることがやや不穏。
油断しやすい性格っていうのは聖杯戦争においてはかなり致命的ですよね、他者を圧倒的に引き離した実力があれば別ですが。
そんなサーヴァントをどう率いていくのかも含めて楽しみです。

皆さん今日も投下ありがとうございました!


613 : ◆zzpohGTsas :2021/06/14(月) 22:22:11 Hy5NtlMc0
投下します


614 : コベニの悲劇譚 ◆zzpohGTsas :2021/06/14(月) 22:22:39 Hy5NtlMc0
 ――PM11:45……。

「えっ、えっ、えっ? か、河川敷にいるよ?」

 目で見たまんまの情報を口にする女性がいた。
陰気、と言う言葉は彼女の為にある、と思うしかない程、見た目の雰囲気が暗かった。その上、幸も薄そうだ。今まで生きていて、胸を張ってよかったと言える事が10個もないようなオーラだ。

 化粧にもオシャレにも頓着した事が、生涯の内に一度としてなさそうな、日陰者の具現のような女。顔立ちだけは、服に拘り然るべき化粧をすれば、相当変わるであろうに、実に惜しい。
名を、『東山コベニ』と言った。御年20歳。デビルハンターの仕事を辞し、ブラック・バイトを仕方がなかったって奴だと言う形でバックれ、現在無職である。

 そもそも、何故自分は此処にいるのか、コベニは理解してなかった。
自らに全く責も因もなく、ただただ不幸、それだけの理由で世界の全てから切り離され、拒絶されてしまった女性だった。
正直な話、元居た世界で何が起こって、その起こった事が原因で何がどう進展したのか、コベニは全然理解していないのだ。
気付いたら、デンジと言う名の少年は、記憶の中のチェンソー姿の超人をずっと兇悪かつ凶暴に、そして強そうな姿に進化させたような姿の悪魔になっていた。
気付いたら、マキマと言う名の女性が、思い描いて実現させようとしている世界の姿を、岸辺と言う名前の五十男に説明された。
何が何だか、解らない。コベニからすれば、一日の間に百年分、世界中の社会情勢が一気に加速したような感覚であった。理解が追いつく筈もない。

 ただ、間違いなく言える事があったとすれば、自分はもう、あの部屋から一生出る事がないのだろうと言う実感だった。
コンクリートの打ちっぱなし、エアコンもなく、天井はないから電気配線やダクト、排水パイプが剥き出しで、置いてある調度品は、
今日日のアイパッドと大差ないインチ数のブラウン管テレビと一人用の椅子のみ。其処が、先程までコベニが居た部屋なのだった。
地下階である故にジメジメしていて、湿気も強く、その上地下鉄からも近いのかたまに音もうるさい。
洗濯物なんて部屋干しでしか出来ないだろうし、そもそも洗濯機もないのにどうやって洗濯するのだろうと言う疑問が先に来る。

 酷い場所だった。倉庫の方がまだマシなのではないかと、比較するべき対象が思い浮かばない位だった。
だが最早、コベニとデンジ、岸辺の居場所はあそこしかないのだ。文字通りの千里眼、彼女の正体を考えれば納得の地獄耳。マキマの恐るべき知覚範囲から逃れるには、あんな場所しかなかった。
箱詰めに縁がある女性だった。永遠の悪魔の腹の中に閉じ込められた事をコベニは思い出していたが、状況はアレと同じか、それ以上に最悪だ。
あの時はデンジを差し出せば、と言う最低限の希望があったが、マキマの件はそれがない。姿を見せれば、殺しに来る。完全な詰みだ。

 希望も前途も夢もない、そんな場所で体育座りして塞ぎ込んでいる内に、眠気の方が先に来て、眠ってしまい――。
起きたら、この場所にいた。河川敷を通る鉄道の高架下で、周りを見渡すと、荒川土手と言う名前の付いた看板が目に入った。東京都の荒川であるらしい。足立や葛飾、板橋など多くの23区を流域とする河川だ。

「っ……!!」

 コベニは青ざめた顔で辺りを見渡す。
そもそもコベニらがどうして、あんな狭いコンクリの打ちっぱなしの部屋にいたのかと言うと、外に出ていればマキマに居場所を特定されて殺されるからに他ならない。
そんな理由があったから、あんな場所で身を縮こまらせていたと言うのに、これでは何の意味もない。しかも見ると、デンジも岸辺も周りにいない。
完全に、殺してくれの意思を言外に表明している以外の何物でもなかろう。こう言う時にテンパるのが、コベニの弱点であった。
仕事の性質上早死になんて当たり前、戦闘で命を落とすのもそうだが悪魔の要求する代償を支払えずに亡くなるなんて事も当たり前。
岸辺のように五十近くまで現役を貫けられるのが、デビルハンターとしては奇跡の領域なのだ。
そんな過酷な職業を選んでいながら、今までコベニが生き延びられてきたのは、実力以上にラッキーの面が大きい。死にかけた局面も多々あったが、その分水嶺を常に、ラッキーと、なりふり構わぬ土下座と謝罪で切り抜けてきた。


615 : コベニの悲劇譚 ◆zzpohGTsas :2021/06/14(月) 22:22:58 Hy5NtlMc0
 今回はもう、それは通用しない。
実際の役職の高さの面でも、実力の面でも、マキマと言う女性は雲の上の住人だった。コベニが彼女と話す機会は絶無に近かったと言っても良い。
それでも、解る。あの女性は此方に謝意も誠意も一切通用しない。コベニの謝罪など、蟻の命乞いでしかないだろう。踏み潰した所で何の感慨もわかないし、そもそも命乞いが聞こえているのかすら解らないのであるから。無慈悲に、コベニを蹴散らす事など容易に想像がつく。

「どーしょ、どーしょ……!!」

 マキマが何処からか現れてくるんじゃ、と言う不安から、上下左右に忙しなく頭を動かすコベニの様子は、誰がどう見たって不審者のそれであった。
普通に歩いてくるのか、それとも頭上から降りてくるのか。解らないが、神出鬼没な彼女の事だ。何なら、川の底からぬぅーっと……






 ――突然のフラッシュ!!






「わぁっ……!!」

 何も光源に類する物がないにも関わらず、目の前で流れる夜の荒川の上空十m辺りで、音と熱とを伴わぬ、光の奔流が爆発した。
反射的に体を蹲らせるコベニ。目を瞑るのが遅れたせいか、網膜が光に焼かれ、凄まじくチカチカしていた。

「お? あ? ん? お、オマエか? オマエ、俺を呼んだな? 呼びやヶったな?」

 違う――、男の声。マキマではない。いや、だからと言って彼女の配下じゃないとは限らない。
岸辺から聞いたが、今の彼女には、手足とも言うべき都合の良い『イヌ』が何人もいると言うじゃないか。もしかしたら、それなのかも知れない。

「呼んでないですウウウゥゥゥ……!!」

 蹲った体勢から、流れるような動作で土下座へと移行するコベニ。

「はん?」

「私なんか殺しても何も面白くないし、昨日菓子パンとかしか食べてないから絶対食べてもおいしくないですからあああぁぁぁ……みの、みみ、見逃してくださいい悪魔さん魔人さんんんんんぅぅぅぅ……」

 プライドの欠片もへったくれもない、渾身の命乞いを受け、目の前にいるであろう推定悪魔ないし魔人は何を思っているのか。

「へ、ははは、ハハ、ハハハ。お、オ、オマエ。俺が何なのか、言ってみな? オン?」

 その人物は、やや吃音が入っているらしかった。何なのか、と言われても解らない。

「強い悪魔の方ですうううううう」

 なのでコベニは強いと言う事を強調して媚びた。

「ひ、ハハ。あ、あ、く、悪魔か。聞こえ方は、悪い感じはし、ねぇが……。や、やっぱダメだわ」

「ひぃん……」

「お、お、俺に殺されたくないんだろ? ないよな? あとついでに、あく? まじ? そいつらからも殺されたくないから、頼りもしたいんだろ? したいよな?」

「はいいいいいいぃぃぃぃぃ」

 何とか助かりそうだ、と。視力が回復したコベニが顔を上げて――

「なら、なら、俺の事をよ、親しみと尊敬を込めて――」

 その姿を、見た。


616 : コベニの悲劇譚 ◆zzpohGTsas :2021/06/14(月) 22:23:16 Hy5NtlMc0
「――『ヱドロ』さんって呼べよおおおおオオォオオォォオオオオォォォオオオォォォン!?!!!?!?!?!??!?!?」

 荒川の水面に、如何なる力を用いてか、男は浮いていた。いや、水面に立っている。靴底からそれ以上、沈んでいない。
『FAIT』と刻まれたはちがねを巻き、茶色のマントを羽織る金髪の男で、その双眸は光を当てた高純度のルビーのように赤く光り輝いていた。
ヱドロを名乗る男は、獰猛な笑みを浮かべてコベニの方を見ている。二十代にも十代後半にも見える。若い男性の顔であった。
彼の、ヱドロの人となりについてはコベニは全然解らないが、アクしかない程、個性の強そうな男なのは、間違いなさそうであった。

「え、え、え? え……エドロ、さん?」

「ヱ!! 次間違ったら死、死な?」

「ひいいぃ……」

 発音を訂正する英語教師だ。巻き舌っぽく言えば良いのか、とコベニは思った。

「え、エ……ヱ……ヱドロさん……?」

「へ、ヘハ、ヘハーァハハハ!!!!!!! お、オマエ、合格!!」

 笑みを強めてヱドロが叫んだ。嬉しそうな感じが、声にも表れている。
水面を歩きながら、ヱドロは此方に近づいて行く。少し身構えるが、あれ?、とコベニは思いなおす。
少し落ち着いた瞬間、頭の中に、異物とも言うべき情報が、まるで既に学習済みの知識のように堂々と居座っている事に気づいたからだ。
界聖杯(ユグドラシル)、聖杯戦争、サーヴァント、宝具……。明らかに初めて聞く単語の数々なのに、自分はその意味を知っている。

 そして、ヱドロの方を見ると、彼を指し示す奇妙な文字列が、網膜に浮かび上がってくるのだ。
その文字列から判断するに、岸に上がったヱドロのクラスはセイバーで、彼こそが、コベニのサーヴァントであるらしかった。

「せ、セイバー?」

「俺のクラス、って奴か? メイジってクラス、ね、ねぇらしいからよ? このクラスになった」

 辺りを見渡しながら、徐々に此方に近づいて行くヱドロ。

「お、オイイィ?」

「は、ハイ……?」

「お、お、お姫様は……此処が、ハウスなンですか?」

「え、えーっと……」

 この世界の東京には先程やって来たばかりなので、この世界で何をして過ごせば良いのか、コベニは解らない。
なので、頭の中で思い浮かべられる記憶を探してみるが……ない。如何やら彼女は、この世界では流浪の民、ホームレスであるらしかった。

「多分……?」

「マジか? 悪いけどよ、俺、ど、どっかのワンコロメイジみてぇによ? 河川敷なんかに住むような品のない真似、出来ねンだわ」

「でも、家ないし……」

「探せばいいだろ?」

「はい?」

 そう言ってヱドロは高架下から出、土手を登っていく。
彼に慌てて付いて行くと、「お、良い感じのもの、あるじゃん?」とヱドロが呟くのを聞いた。
目線の先には、首都高の高架橋の下、その道路に面した場所にある駐車場付きのコンビニエンスストアがあった。
降りて行き、その敷地内に足を踏み入れるヱドロ。コンビニの中に入る、のではなく。駐車場に止められている、赤い車体が特徴的な大型バイクへと近づいて行くではないか。
これでもコベニも車の免許を持っている為、排気量位の知識は頭に入っている。750㏄は超えているだろう。その上車体は艶やかで、雨染みも水垢もない。手入れも良くしているらしかった。


617 : コベニの悲劇譚 ◆zzpohGTsas :2021/06/14(月) 22:23:51 Hy5NtlMc0
「乗れよ」

「えっ」

 予想外の言葉に間抜けな反応のコベニ。

「ひ、人の……」

「い、良いバイクじゃねぇか。これお姫様のなんじゃないか?」 

 なんか昔似たような会話を交わした事がある気がするのをコベニは思い出したが、あの時は自分の車なのに他人が所有権を主張していた筈だった。

「鍵……」

「こまけぇんだよおおおおおオオォオオォオオオオォオオォン!?!!!!?!!??? 乗れ!!」

 いきなりキレ始めたヱドロは無理やりコベニの襟を掴み、猫のように持ち上げ、バイクの席どころか荷物を入れる為のリヤボックスの上に座らせてしまう。
其処は座らせる所じゃないと突っ込むよりも早く、ヱドロはシートに座る。勿論キーがない為エンジンスタートすら出来ないが――。
何の力を用いたのか、バイクは特有の、腹に来るような排気音をマフラーから放出し始めたではないか。……そして、防犯の為の、不正な手段でエンジンを始動させた時になるブザー音も、我を主張し始めた。

 異変に気付いた、バイクのオーナーが慌ててコンビニエンスストアから飛び出してくるのと、凄まじい速度でヱドロの駆るバイクが駐車場から出て行ったのは、殆ど同時であった。
肝心のコベニは、前のめりになりながらヱドロの首に手をまわし、脚に力を込めてリヤボックスにしがみついて、涙目になりながら振り落とされないように頑張っていた。

「すっぜ、引っ越し……」

 ハンドグリップを勢いよく握りながらそう静かに呟くヱドロ。スピードメーターの針は、180kmを振り切っていた。

「すっぜ、殺戮……」

 道交法上日本のどの公道私道でも出しては行けない速度でバイクをぶっ飛ばしていながら、次々と邪魔となる車を神業染みたドリフトで回避して行く。
「ひいいいいいぃぃいいいぃぃぃ!?」と、耳元でコベニが情けない声を上げて、振り落とされないようにしがみ付いてくる。

「――獲っぜ……、界聖杯(ユグドラシル)……!!」

 その勢いのまま、ヱドロは高速道路を利用する為のインターチェンジに移動する。

「ヘエッヘヘヘヘ、ヘヘヘハハハハハハハハハ――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!!!!!!」

 狂った哄笑を上げながら、ヱドロは料金所のETC車専用入り口に突っ込み、そのまま高速道路へと乱入。
速度超過の故に赤く光るオービスが、彼とコベニを真っ赤に照らす。それは、これからの彼らの前途を象徴する、血のようにも見えたりも、見えなかったりもした。





【クラス】

セイバー

【真名】

ヱドロ@メイジの転生録

【ステータス】

筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具C

【属性】

混沌・善

【クラススキル】

対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:D+
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。特にバイクが上手い


618 : コベニの悲劇譚 ◆zzpohGTsas :2021/06/14(月) 22:24:06 Hy5NtlMc0
【保有スキル】

メイジ:EX
― † 前 世 覚 醒 せ よ † ―
Mystic Aurapower Generating Evolseed、これらの頭文字を合わせてメイジである。
前世で振るっていた異能に覚醒した者であり、現代の科学利器の力に頼る事なくして、超常の力を発現させる者。
メイジだからと言って、魔術のような能力を振るう訳ではなく、異能によっては、自己の身体に変異を起こして肉弾戦を試みる者もいる。
セイバーはメイジと呼ばれる存在の中でも特級の実力と能力を持ち、一般のメイジは勿論、彼らの中でも特に抜きんでた実力の持ち主のメイジであっても、彼我の実力差に絶対的な隔たりがある程。

 セイバーがメイジとして発揮出来る能力は、因果・運命の操作と調律、と言う神霊の振るう権能に等しいそれ。
相手の潜在能力を強制的に引き出させる事は勿論、通常絶対に入り込む事が出来ない時空間の狭間への移動も可能。
但し、能力で操作・調律可能な限界は不明で、聖杯戦争にサーヴァントとして呼ばれた現在では、能力の使用には魔力が必要となっている。
またこの能力の故に、サーヴァントのステータスは意味がなく、現在のセイバーのステータスは、この能力を使わなかった場合の素の状態である。能力を用い、此処から際限なくステータスを上げる事が可能。

精神汚染(兇):B+
戦場において発揮される異常な精神性。マスターを含めあらゆる対象との正常な意思疎通が困難となり暴走する。
残虐性が強化され、敵を殺しつくすか己が死ぬまで戦い続ける。同ランクまでの精神攻撃を無効化する。

【宝具】

『宿命装具・調停狂剣(アーティファクト・ガドリグゼラム)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:4
セイバーが振るうとされる、メイジの武器であるアーティファクト。それが宝具となったもの。
工具箱のようなものから十徳ナイフのように様々な形状の刃が飛び出している、と言う奇形のような武器であり、この、どうやってそもそも扱えば良いのかと言う武器を、
セイバーはいとも簡単に振るう事が出来る。相手の防御力を無効化する性質を秘めており、宝具としてはそれだけだが、それ故に、メイジとしての能力で強化された暴力的なステータス、
それによって跳ね上がった威力の一撃を直に叩き込まれるので、一撃一撃がカスっただけで大ダメージと換言しても良いレベルとなる。

【weapon】

【人物背景】

絶対者、調停者、因果運命の調律者、因果歪曲の調律者。
その強さを呼び表す通り名を無数に持ち、そしてその実力通りの強さを誇る狂いメイジ。
その前歴も、前世も一切不明であり、唯一解っている事は、並のメイジなど話にもならない程の純粋な身体能力と、神の権能に等しい能力を持っていると言う事だけである。
 
【サーヴァントとしての願い】

ない。ただ、何かの役に立つかもしれないので、聖杯としての願いを叶える機能そのものが欲しい。




【マスター】

東山コベニ@チェンソーマン

【マスターとしての願い】

手に入るなら、家族から切り離された、普通の生活が欲しい

【weapon】

【能力・技能】

身体能力:
デビルハンターとして稼いでいた経験がある為か、身体能力が高い。……と言うより、高すぎる。
契約している悪魔の影響か、それとも素の能力なのか解らないが、人智を遥かに超えた悪魔及びその契約者を相手に、普通に立ち向かっているばかりか、
相手の身体の部位を持っていた包丁で斬り落とせるなど、人を止めた領域に片足を突っ込んでいる。尤も、引っ込み思案であがり症の為か、覚悟が決まってないとベストのパフォーマンスは発揮できない。

契約悪魔・???:
詳細不明。公安所属のデビルハンターであった以上、何らかの悪魔と契約していたようだが、恥ずかしいからその正体を内緒にしていた。

【人物背景】

嘗て公安所属のデビルハンター部隊に属していた、デビルハンターの一人。
風俗かデビルハンターのどちらかの二択で後者を選び、余りにも頭のおかし過ぎる仕事(と言うよりコベニの所属していた職場だけが突出しておかしかっただけ)だったので辞職。
その後類稀な運の悪さでブラックバイトに就職し、色々あってバックれて現在無職である。

デンジがマキマを倒す為に部屋を出て行ったその後、入れ違いで聖杯戦争の舞台にやって来てしまったらしい。ロールはホームレス。ヱドロくんが住まい探しを頑張ってます。

【方針】

帰りたい……。


619 : コベニの悲劇譚 ◆zzpohGTsas :2021/06/14(月) 22:24:18 Hy5NtlMc0
投下を終了します


620 : ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/14(月) 22:48:14 m7Mtiqbo0
箱庭聖杯からの流用作ですが投下します


621 : 血潮が燃えるなら、ただそれだけで何もいらない ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/14(月) 22:49:21 m7Mtiqbo0



熱くなれ!夢見た明日を 必ずいつか捕まえる

走りだせ!振り向くことなく 冷たい夜を突き抜けろ!!

      



      ――影山ヒロノブ『HEATS』より引用―――





622 : 血潮が燃えるなら、ただそれだけで何もいらない ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/14(月) 22:49:55 m7Mtiqbo0



「アツくねえ漢は死んでよ――――し!!」

高層ビルに囲まれたコンクリートジャングルに爆弾のような怒声が響き渡る。
炎のように逆立った髪、筋骨隆々の肉体に羽織られた学ラン。
召喚された漢、爆熱番長もといバーサーカーは第一声にその言葉を放った。

「俺は爆熱番長!!貴様のサーヴァントとして戦う漢だ!!」

弱点を隠す必要など無しとでもいうようかのように真名を叫ぶ爆熱番長。
そんな彼を呼び出したマスター、松岡修造は、降りかかる熱気にも堪えず涼しげな笑みを浮かべていた。

「いいねえ、熱いよ〜熱い熱い。俺はそういう奴、大好きだ!」

彼、修造は己の経緯を振り返る。
気が付けばここに連れてこられていた彼の記憶―――それは、テレビや修造チャレンジを通じてテニスの普及に尽力していたものだ。以上。
そう。彼という男はここに連れてこられてもなんら変わらず熱い男だった。


「俺は問う!!果たして貴様に俺のマスターたる資格があるかどうかを!!」

爆熱番長は、修造へ指差し声を荒げる。

「俺の支配する国にアツくねえ弱者など必要なし!!俺の目的は聖杯を手にし、全日本国民の中からアツき魂を持ったエリートのみを選別することだ!!」
「選別?」
「貴様の願いはなんだ!!如何な願いであろうと迷わず爆進するならそれでよし!!そうでないなら俺がこの手で」
「言い訳してるんじゃないですか?」

爆熱番長の怒声を遮る修造の声。
その声は、爆熱番長のものと比べれば静かで小さい。だが、確かに彼の声は周囲に染み渡っていた。

「...なんだと?」
「熱い国を目指すって言ったよな。でも、そんなことできない、無理だって諦めてるんじゃないですか?」

静かに、しかし力強く問いかける修造に、爆熱番長も思わず耳を傾ける。

「アツくない奴はいらないって言ったよな」
「当然だ!!世間では無気力で心の弱い後ろ向きなクズ共が蔓延っている!!奴らが巣食う限り国の崩壊は火を見るより明らか!!そんなクズ共など排除するのが国n」
「んなわけねぇだろぉええええええ!!!!」

突然の叫び。
先程までずっと叫んでいた爆熱番長ですら肌が泡立つほどの超怒号だ。


623 : 血潮が燃えるなら、ただそれだけで何もいらない ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/14(月) 22:50:49 m7Mtiqbo0

「お前なに諦めてんだよ!!なんとなくで終わってんじゃねえよ!!」
「俺が諦めてるだと!!?ふざけるな、俺は熱き魂を持つエリートだ!!諦めなどという言葉は知らん!!」
「ちゃんと、伝えろよ!!!」
「ぬぐお...!!?」

大気を震わす修造の怒号。
気圧されかける爆熱番長に構わず、修造はペンを持ちホワイトボードに文字を描きなぐる。

「これ、なんて読むかわかるか?」
「...『Failure』」
「そう。フェイルアー。『Failure』っていうのは、失敗ってことですよ」

『失敗』。
熱さとは無縁な後ろ向きな文字に爆熱番長の眉がピクリと動く。
しかし、修造は意にも介さず続ける。

「アツくない奴を応援する時に、あぁ〜、失敗したらどうしよう〜とか。失敗を怖がってんじゃねーのか?失敗やだとか思ってんじゃねーのか!?」
「なに!?」

修造の言葉は、爆熱番長の琴線に触れるもの。
失敗を恐れ目を背ける。爆熱番長の嫌う無気力なクズ共と同じだというのだから当然である。
だが、爆熱番長の声からは先程の熱さは弱まっていた。


「言っても無駄だって、みんなを熱くするのを諦めてんじゃねーのか!?」
「お、オレは...!!」

止めろ。言うな。
そんな想いを表すかのように、爆熱番長の声に動揺が生じる。

「熱くない奴を見つけたら殺すのがアツさか?違うだろ!!」

だが、修造は言い放つ。
爆熱番長の気持ちは痛いほどわかる。
けれど、伝えたい言葉があるから。
熱き魂を追い求める者として、理解してほしいから。
最大の熱意をもってこの言葉を贈る。



「熱くなれなくてツマらなさそうな奴がいたら、熱くするのが俺たちだろ!!!!」


624 : 血潮が燃えるなら、ただそれだけで何もいらない ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/14(月) 22:51:31 m7Mtiqbo0

「う、うおおおおおおおおお――――――!!!」

修造の魂の叫びに、爆熱番長は全身を震わせる。
彼には、先程まではただの人間にしか見えなかったマスターが、いまは仁王像のように巨大な姿に見えていた。

(ば、バカな...俺が圧されているだと...!?)

修造の叫びに応えるかのように、爆熱番長のこれまでの記憶がリフレインされる。


『熱くねえ男は死んでよ――――し!!』

その決まり文句のもと、熱くないと判断した奴らを制裁してきた。
世間が無気力な者で溢れれば、その国は確実に崩壊する。それは真実だ。だが...

(俺は...目を逸らしていたのか?)

その実、爆熱番長は拒絶されることから逃げていたのかもしれない。

わかっていた。あの自分が生きた現代社会、異端なのは自分であったことは。
もしも熱さを訴え爆進するのが己一人だけであれば、いずれは周囲に訴えることを止め、ただ一人熱くいればいいと思っていたかもしれない。
だが、熱き魂を持った者は他にもいた。
東京23区計画、その実験体である「番長」の称号を与えられた者たち。そして、自らを慕い舎弟としてついてきてくれた者たち。
彼らも自分の知る限りでは崇高な目的のため日々おのれを磨き爆進する熱き者たちだった。

そんな彼らの存在を知ったからだろうか。

爆熱番長は、周囲に熱き魂の大切さを訴えるのを止め、熱き国を作るために、熱き魂を持った者を選別するようになった。
理由など云うまでもない。
熱くするより排除した方が楽だから。世の中を熱さを持った者たちだけにしてしまえば、己の熱さを否定されなくて済むから。

だが、そんな妥協した熱さが真の熱さと云えるのか。―――――否。
それはニセモノだ。己の初志を貫徹できなかった見せかけの熱さだ。

(最早...俺に価値は、ない)

ガクリ、と爆熱番長は膝をつく。
己の熱さの矛盾に気が付いた彼は、もう一人では熱くなれない。
爆熱番長の魂の火は、此処にて消えた。


「...世間はさぁ、冷てぇよな」

修造は、爆熱番長の肩に手を置き静かに語る。

「みんな君の思いが...感じてくれねぇんだよ。どんなに頑張ってもさ、『なんでわかってくれねぇんだよ!』って思う時あるのよね。
俺だってそうよ。熱く気持ちを伝えようと思ったってさぁ、『お前熱すぎる』って言われるんだから」
「マスター...」
「でも大丈夫!わかってくれる人はいる!!」

爆熱番長が顔を上げれば、その瞳に映るのは力強い笑みを向ける修造。

そうだ。熱き魂の火が消えたのならまた灯せばいいだけのこと。

彼の微笑みを見た時、爆熱番長は悟った。

「そう!俺についてこい!!」

この漢には完敗だ、と。

気が付けば、爆熱番長の両頬には一筋の涙が走っていた。


625 : 血潮が燃えるなら、ただそれだけで何もいらない ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/14(月) 22:52:04 m7Mtiqbo0


「そういえば聖杯に何を望むとか言ってたよな」
「うむ」
「俺は聖杯なんていらないよ。自分の夢は自分で叶えたいから」
「...そうか」

爆熱番長は、やはりこの男には敵わないと思った。
自らは熱さを謳いながら強大な力に頼るつもりでいたのに対して、この男は自らの力で道を切り開こうとしているのだから。

そして、同時に思う。

「...俺もお前の夢に付き合おう。いや、付き合わせてくれ!!」
「おっ?」
「俺はお前に真の熱さを見た!!お前の熱き魂に惚れ込んだのだ!!」

この熱き漢を失いたくない。己の命を賭けるに値する漢だと。
この聖杯戦争はただの競技ではない。文字通り、血で血を洗う死闘である。
おそらく他のマスターやサーヴァントの中にはこちらの熱さに耳を傾けない者もいるだろう。
決して譲れぬものを抱いて死にモノ狂いで殺しにくる者もいるだろう。
そういった奴らからの盾となり時には矛となるのが己の役目だ。

己の信じた熱さに殉じる遺恨、一切なし!

「いいヤツだねぇ〜。仲間がいて、自分がいる! 互いに競い合って高め合っていく、それが切磋琢磨!今から俺達は切磋琢磨し合う友達だ!!よろしく!」
「!!友、か...フッ、熱い響きだ。悪くない」

熱き漢達は固い、固い握手を結ぶ。


ひゅうっ、と風がなびき二人の髪を揺らす。

「あー...ちょっと冷えてきたかなー...寒い寒い...」
「...そうだな。だが、寒いというから寒いのだ」

にやりと笑みを交わし合う漢たち。

「そう。言葉っていうのは大事なんだよ。寒いって言えば寒いだろ。熱いって言えば熱くなる。だから俺たちは誰よりも熱くなるんだよ!!いくぞォ!!」
「応ッ!!」

漢達は頷き合い、深く息を吸う。
そして。

「もっと!!」

この聖杯戦争に携わる者達へ激励を飛ばすように。

「もっと!!」

この聖杯戦争を司る者達へ反逆の狼煙をあげるように。



「「熱くなれよおおおおおおおおおおおおおおおおおォォォォォォォォォ――――――――――――――!!!!!!!!」」





漢達の叫びは、空高く響き渡った。


626 : 血潮が燃えるなら、ただそれだけで何もいらない ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/14(月) 22:53:04 m7Mtiqbo0

【クラス】バーサーカー

【真名】爆熱番長

【出典作品】金剛番長

【ステータス】筋力A 魔力E 耐久B 幸運E 敏捷D 宝具C

【属性】秩序:中庸


【クラススキル】

狂化:E
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
だが、俺の求める熱さとは己の意思によるもの!意思なき強化など眼中にないわ!


【保有スキル】

戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。



【宝具】
『熱き漢の熱き叫び(ココデアキラメルノハアツクネエ!!)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:5〜50 最大補足:声の届く限り。

熱き漢の熱き叫び。これを聴いた者は一定時間、爆熱番長のように己の目標へと向かって爆進するようになる。身体能力の向上などは特にないし、効果が切れた後のデメリットも特にない。
また、参加者やNPC全ての者に通用するが個人差があり、感情の起伏が少ない者・冷めきった者には効果が薄い。
マスターである修造が魔力を供給する・熱き魂を叫ぶことで効果は増していく。


【weapon】
・己の拳
火薬仕込みの手甲で殴りつける。その威力は強烈。

『重・爆・撃』:火薬による爆発と拳の連打。2つの衝撃を叩き込む!!

『焼・夷・爆・撃』:空気中に散布した火薬を発火させ炎の渦を生み出す!!

『垂・直・爆・撃』:炎を纏った両拳を相手の頭上に打ち降ろす!!



・身体能力

高圧電流やミサイルすらものともしない頑強な肉体を持つ。また、ミサイルを棒っ切れのように振り回せる程の怪力を誇っている。



【人物背景】
『アツくねえ漢は死んでよし!』。

「番長」たちによる日本征服計画・東京23区計画の「番長」の1人。江東区担当。
なによりも「熱さ」を重んじ、「熱さ」を追い求め、「熱く」生きる漢(おとこ)。
後退することをよしとせず、己の目標に向かいたゆまぬ努力とみなぎる闘志を持って、前向きに前進ならぬ爆進のみが「熱さ」だと信じている。


【方針】
修造と共に戦う。


【聖杯にかける願い】
聖杯なんぞに頼らん!俺はこのマスターと共に熱さを極めるのみ!


【把握用資料:金剛番長 単行本3巻〜5巻】


627 : 血潮が燃えるなら、ただそれだけで何もいらない ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/14(月) 22:53:26 m7Mtiqbo0

【マスター名】松岡修造
【出典作品】松岡修造関連作品(ニコニコ動画又はyoutube)
【性別】男

【weapon】
・テニス
ラケットは人を傷付ける道具ではない。これはテニスのためにのみ使う。


【人物背景】
日本人男子として62年振りにグランドスラムベスト8に進出した元テニスプレイヤー。
現在、ウィンブルドン選手権では日本人男子最後のベスト8進出者となっている。また、ウィンブルドン選手権での通算7勝は2015年に錦織圭に抜かれるまで日本人最多の記録であった。
現役引退後はジュニア選手の指導やテニス大会の運営、日本テニス協会の理事を務めるなど引き続きテニスに携わりつつ、スポーツキャスター、タレント、日本オリンピック委員会スポーツ環境専門委員、ミズノスポーツ振興財団顧問などとしても活動している。



【能力・技能】


・熱い心。
-10°の海でしじみが採れる程の熱き心を持っている。彼の熱き心から発された言葉を効いた者は心を揺さぶられずにはいられないだろう。

・培ってきたテニスの技術
ただし半月板を損傷しているため全盛期の動きをするのは難しい可能性がある。


・四字熟語・英単語の知識
意外と博識


【方針】
聖杯よりも己の手で夢を掴む熱さを布教する。


【聖杯にかける願い】
聖杯なんて必要ない。俺たちの手で色んな奴を熱くできればそれでいい。


【把握用資料:松岡修造でぐぐればたくさんある】


628 : ◆ZbV3TMNKJw :2021/06/14(月) 22:53:53 m7Mtiqbo0
投下終了です


629 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/14(月) 23:36:59 BFyNlXNE0
投下します


630 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/14(月) 23:37:51 BFyNlXNE0
「僕は殺せる。大切なものを守るためならば、親でも兄弟でも、だ!!」

 肉親の面影を想う余り彼の者は修羅の道を歩む、
 たとえそれが報われない思いであったとしても。

「この世界は……スタン達の手によって救われなければならない。
 それを邪魔する奴は……この僕が許さない!」

 あるべき未来のために得られた理想もすべて捨て、
 卿は身命を捧げてでも歴史を正すことを志した。
 名誉を捨て、命を捨て、名を捨て……何者にもなれない。
 そして、何も残らぬであろう結末だと彼は自覚している。
 何故なら彼は異物。本来あるべき世界に彼の居場所などない。
 それでもなお、神へと抗う卿の物語は───





 酷く、つまらない物語だ。





 無数の雑多な音が溢れかえる。
 闇を克服し、夜であろうとも人は往来していく。
 偽物ではあるが、東京ではありふれた光景だ。

「■■■■■───ッ!!」

 その音に人知れず絶叫が入り混じる。
 東京にはありふれている、とあるビルの屋上。
 月明りに照らされた屋上にて表現できないような悲鳴を上げる一人の人物がいた。
 性別の判断は付かない。何故なら今のそれは全身が火だるまの如く燃えている。
 白と黒の装いをした、渋みのある中年男性に掴まれた状態で。

「君から貰うものは……何もなかったな。」

 もがけど、人の身であったそれは助かることはない。
 ほどなくして抵抗はなくなり、だらんとぶら下がった腕を見て男は手放す。
 こんな非常事態に、相棒たるサーヴァントは一体何をしているのか。
 決まっている。その火柱となるマスターの前に既に燃やされた後だ。

「君は欲するに値するものすらなかった……先に言いたまえ。」

 興味を無くしたと言わんばかりに、
 燃え尽きたそれをどうでもよさそうに見ながら踵を返す。
 振り返れば、この悪辣なアサシンの主の少年が険しい顔で待っていた。
 アサシンと比べると、マスターは小柄でかなり若々しい姿だ。
 東京と言う舞台では浮いたファンタジーな格好だが、
 黒を基調とした恰好の少年は端正な顔つき。
 美少年と言っても差支えはないだろう。

「この舞台は死界だ……そうは思わないかね。
 もっとも、私が決めただけで卿が思うかは別だが。」

「アサシン。僕はお前のやることを制限は今だけはしない。
 だが、理解も賛同するつもりもないと言うことを忘れるな。」

 アサシンのしている行為は不愉快でしかない。
 己の欲望のままに行動し、マスターだろうと遠慮なく殺す。
 いや、彼にとっては殺すと言う行為と認識してるかも怪しい。
 このサーヴァントは人の英霊ではあるが、人の心がなかった。
 人の心が欠如しながら、人であると言う歪な存在だ。

「第一、お前は僕の理解など求めていないだろう。」

 混沌・惡の属性に相応しいサーヴァントだ。
 勝つためではなく、欲望を満たすの為に殺す。
 相性の善し悪しで言えば間違いなく最悪になる。
 最初に召喚し出会った際にも、絶対に合わないと悟ったほどだ。

(これについていけるだけ、僕も大概だが。)

 だが、仕方ないと割り切る。これがこの世界における相棒と武器。
 仲間も相棒もいない。唯一戦ってくれるのは嫌悪するこの男だけだ。

「残念だ。その奇抜な仮面から、卿とは気が合うと思ったのだが。」

 やれやれと肩をすくめながら指摘するのは、少年が被っている仮面だ。
 いや、それを仮面と言うには少々間違いだとも思えてくるだろう。
 仮面と呼ぶには色々スカスカで、顔が入る程度に大きい怪物のような頭蓋骨。
 角度次第でわかるのでは、仮面と言う顔を隠すものとしては機能してない。

「かの魔王は、焼き払った杜鵑の躯を用いて杯にした。
 卿の仮面とは、同様に杜鵑から得たのではないかね?」

「これは元いた世界で変装のためにしていただけだ。
 僕は元の世界の歴史に、裏切り者として名を遺した。
 瓜二つな顔の人間がいれば目立つに決まっているだろう。」

 彼は大罪人だ。仲間だった彼らと大切な存在を天秤にかけて裏切った。
 歴史にも裏切り者として名を残した存在で、本人もそれを認めている。
 そのための変装であり、彼と同じ嗜好といわれるのは不愉快極まりない。

「なるほど。故に卿は『ジューダス』と名乗ったのか。
 新約聖書の裏切り者の名……いや、卿の甥の慧眼は素晴らしいな。」


631 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/14(月) 23:38:25 BFyNlXNE0
「僕の夢を見たのか……あいつは多分自覚してないだけだ。」

 何故初対面の人間に裏切り者たるジューダスをつけたのか。
 今思えば、カイルの名づけ方は想像の斜め上を行く。
 ある意味その斜め上っぷりは、あの男と親子なのだとも思えるが。

「しかし卿は実に無欲なものだよ。
 聖杯と言う願望器を前に、歴史の改竄を望まないとは。」

「僕がした選択は、たとえ何度生まれ変わっても同じ道を選ぶ。」

 彼、ジューダスは自分のしたことに後悔はない。
 歴史を変えて、反英雄としての道を歩まない考えも、
 世界を救った英雄として歴史に名を刻むつもりはなかった。
 そういう俗な願いには興味すらない。

「では、何故梟を放し飼いとするのか。」

 だがそこには矛盾がある。
 聖杯を望まないはずなのに、
 サーヴァントはおろかマスターも殺すのを傍観した。
 優勝云々を望まないと言う発言とは真逆の行動だ。

「未だ明かされぬ卿の胸中、聞いてみたいものだ。
 無聊の慰みとして、堪能できるやもしれぬのでな。」

「言ったところで意味はないと思うが、僕には時間がないんだ。」

 神の卵―――ジューダスがいた世界に現れた巨大彗星。
 アレを落とそうとする神を倒すため、その神の卵へと乗り込んだ。
 言うなれば最終決戦の地。そんな最中にジューダスはこんな場所にいた。
 エルレイン達が万が一に備えて用意していたのか、それともただの偶然か。
 どちらにせよ、この聖杯戦争に招かれたことであの世界から自分は消えたのは事実。
 仲間が消えれば確実にカイル達は探すことを優先してしまうし、戦力も低下する。
 自分がいなければならないほど、自分だけに依存したメンバーではないのは確かだ。
 だが、心配ないと言い切れるほど相手はやわな存在ではない。相手は紛れもない神。
 フォルトゥナが世界の破壊と再生を行えってしまえば、取り返しがつかないことになる。
 神が関与した世界を、果たして聖杯がどこまで通用するのかもわからないのだから。

「聖杯戦争なんてものをやっている時間すら惜しい。」

「卿も中々惨いものだ。巻き添えとなった無辜の民も構わずとは。」

「兄弟だろうと刃を向けた僕には、今更な話だ。」

 最初はこの世界に来てからは脱出しようと画策した。
 自分達の世界のためだけに人を殺して願望を実現させる。
 それは相対していた神、フォルトゥナ達と同じ行動なのだから。
 最初はこの世界を調べた。だが彼は博識であれども天才ではない。
 ハロルド程の智慧のない彼に脱出手段など確立できるはずもなく。

「聖杯が欲しいなら好きにしろ。僕は興味がない。」

 この数日で向こうでどれだけの時間が経っているか分からない。
 もしかしたら既に手遅れかもしれない。だからジューダスは急いでいた。
 スタン達が繋いだ歴史を、世界の崩壊は目の前により時間は僅かなものだ。
 早急に聖杯戦争を終わらせる。これ以外の手段しか彼に出来ることはない。
 手段は択ばない。騎士道精神と言ったものは最初からあったかも怪しいが、
 そんなものは全て何処かへと捨て置いた。

(『受け入れなければ前に進めない』……か。)

 エルレインを倒せばリアラも死ぬ。だが倒さなければ世界も終わる。
 大事な仲間であるリアラを殺さずに済む方法はないか考えたカイルへ贈った言葉。
 自分の歩んできた道も同じことであり、受け入れた果てが今になる。

 これからの未来に自分と言う過去の人間は必要はない。
 元々生き返るはずのない人間だし、自分のした行為を変えるつもりもない。
 これからの未来にはカイル達は必要だ。スタンやルーティ、多くの人が繋いだ未来を守る。

「話は終わりだ。次の標的を探すぞ。」

 その為ならば、いくらでも手を汚そう。
 嘗ての大罪人の如く、嘗ての仲間を殺めようとした非常さ。
 此処にいるのはジューダスであり、同時にジューダスに非ず。
 ジューダスにして、四英雄を裏切ったリオン・マグナスへと戻る。
 仲間の歴史と言う、一人では余りに重いものを背負ってしまったが故の答え。
 元の世界で時間は経ってないだとか、希望的観測は一切考えない。

(最初は最悪だったが、今となっては救いか。)

 聖杯を欲するサーヴァントであることは、今となっては救いだ。
 躊躇せず殺し、騎士道精神など欠片もない。卑劣な手段も必要なら平然と行う。
 悪の権化たる存在は、勝ち抜くと言う観点に於いては最適なサーヴァントでもあった。


632 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/14(月) 23:40:27 BFyNlXNE0
「……心得た。」

 自身が裏切り者であり、世間には永劫に蔑まされても。
 歴史を正しいものへ戻そうとする彼の物語はアサシンにとっては酷くつまらないものだ。
 愛や信義と言ったものを嫌う、マリアンの為、スタンの為と動くジューダスはそれになる
 アサシンも余りいい主従は築けないとは思っているが、それでも従い続けている。
 単純に聖杯と言う名器がアサシンには欲しいものの一つでもあるが、

(卿からは『結末』を賜りたいものだ。)

 一見クールなようで、終末を阻止せんと臨む熱い渇望。
 これについては別だ。そこには眩い光が感じられる。
 聖杯にに近づけば近づく頬希少な『宝』になりうるものだ。
 是非とも育んで欲しい。そして後にそれを受け取りたい。

(実に楽しみだ。この死界は。)

 自分が英霊ならば嘗て仕えた魔王や剣帝が召喚される可能性。
 そしていなくても数々の名のある宝具が揃い踏みの世界。
 満たされることはないだろうが、堪能は出来るはずだ。

 今は一先ずマスターに従うつもりではある。
 自分の行動を不快には思うが、何も制止はしない。
 好きにやらせてくれるのだから、暫くは尽くすつもりだ。
 だがこの男は梟。いつ裏切ったとしてもおかしくはない。
 天我独尊、この男───松永久秀にはそれが相応しいのだから。

【クラス】アサシン
【真名】松永 久秀@戦国BASARA
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力:C++ 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:C+ 宝具:D+

【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい
突如として一軍を奇襲しに行くその立ち回りからランクは相応に高い

【保有スキル】

魔力放出(爆炎):C+
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。いわば魔力によるジェット噴射
武将と言う人の身であった為、類似スキルのカルナやブリュンヒルデと比べるとそこまで高くはない
しかし宝具でのブーストがかかると低かろうと侮れない

天我独尊:B
最悪の自分本位。自分が悪であり幼子と理解しながら、
その行動をやめるつもりのない、本能と欲望に忠実な男の呼び名の一つ
精神汚染の亜種だが、彼方と違ってランク関係なしに意思疎通は可能
(意思疎通が可能でも、相手側が理解できるかどうかという点に関しては別)
高ランクの無窮の武練程ではないが、戦闘時に精神的な理由の能力低下を受けない

梟:A
何を壊し何を得ようとも、決して満たされることのない幼子
価値あるものを蒐集し、管理しつつ時には何かを与える気まぐれな梟
だが全ては彼の欲を満たす為。贈るものも貰うものも、相手のことなど関係ない
相手の心情や性格と言ったものを見抜く。真名看破みたいなものはできないが、
鮮明に把握すればするほど宝具の『与奪』を発動中の幸運が強化される

【宝具】
珠玉の調べ・焔宝 ランク:D+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜30(爆風が) 最大捕捉:100
大量の火薬をばらまいてからの大爆発を起こすと言う、派手だが普通な宝具
だが発動から一定時間の間、炎を用いた攻撃全てに魔力放出(爆炎)の恩恵を受ける
宝具自身はさほど強くなくその後のアサシンが強いと言うもの。その為宝具だが燃費はそこそこ

与奪 ランク:EX 種別:対人(或いは対界)宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
最早超能力に匹敵する奪取
左腕は宝を手にするための宝具へと至っている
相手に何かを贈る/貰うことができ、最低限その内容の宣言が必要
贈る場合は贈る内容に対しての行動に対しての有利が取れるようになる
(『犠牲』や『現実』など物理的に可能なものが条件。それ以外はただの言葉遊びで意味はない)
特殊な事例に人格が複数ある相手に『別離』を贈ると分裂(人格の分離以外無害)と言うことも可能
貰う場合は相手が瀕死であればほぼ確実にそれを奪える(逆に言えば瀕死でもないと奪えない)
物理的な物であれば宝具であろうと奪取が可能。ただし彼が奪った物を使うことは稀だし十全に扱えない
また、貰う場合は物以外の抽象的なものも収集可能。その場合は貰う相手を左手で掴むことが条件
例えば『名前』を貰うことで当人は自分の名を思い出せず、見知った相手も名前を思い出せなくなる
この都合、対象自体は対人に過ぎないものの影響力は対界宝具と言う特殊な宝具

【weapon】
十束剣
右手に構える宝刀
脇差などもあるが、使った試しはない


633 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/14(月) 23:41:30 BFyNlXNE0
火薬
何処に仕込んでいるのかすら分からない大量の火薬
相手へ付与して爆破する。松永の基本的な戦術
自決する際以外で自爆することは決してない
基本的に指パッチンで起爆させる

【人物背景】
戦国乱世の大きな幼子にして極悪人
全て自分の本能と欲望のままに物を愛で、物を得る
永遠に満たされない器を胸に乱世を歩んだ

【方針】
己の欲望のままに赴く
そして、いずれは主君の『結末』を賜りたい

【聖杯にかける願い】
聖杯と言う杯を手に入れればそれでよし



【マスター】
ジューダス@テイルズオブデスティニー2

【能力・技能】
晶術
十八年前の技術ではソーディアンマスターのみが用いることが出来たが、
ジューダスが復活した世界では、ソーディアンなしでも一般人が使役可能になっている
とは言え、ソーディアンを使った場合の威力とは比べると、やはり見劣りしてしまう
ジューダスはソーディアンマスターだが、シャルティエを所持してないため晶術は平凡
強くとも中級晶術、ネガティブゲイトなどに留まる

ソーディアンマスター
簡潔に言ってしまえば意志を持った剣、ソーディアンと意志の疎通が図れる特殊な体質
とは言うが、今の彼はそのソーディアンと別れてしまった以上この技能はないに等しい

剣術
リオンの時に卓越された剣の腕は高く評価され、
将来はセインガルド王国の誇る七人の指揮官、
七将軍になるだろうと言わしめるほどの才能を持つ
短剣と剣の二刀流による、手数の多い攻撃が特徴
また、リオンの頃も空襲剣などの移動しながらの攻撃も多い

【weapon】
剣・短剣
何処で手に入れたかもわからない、ただの短剣

【ロール】
学生だが、まともに登校はしていない

【人物背景】
第二次天地戦争でスタン達四英雄を裏切り、
歴史にその名を刻んだ裏切り者、リオン・マグナス
エルレインの手によって蘇った『英雄になれなかった存在』だが、
彼は自身のしてきたことに悔いがなく、エルレイン達と敵対する
まさに最終決戦、神の卵を地上に落とされる前に決着をつける道中
幸か不幸か、彼は願望器を手にする切符を手に入れてしまった

【聖杯にかける願い】
どうでもいい。神の歴史改竄を相手に、
聖杯が機能するなど全く思っていない

【方針】
一切の手段を問わず優勝を狙う
脱出の手段があればそれを目指すが、確信が持てるもの以外は捨て置く


634 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/14(月) 23:41:47 BFyNlXNE0
以上で『JUDA』投下終了です
Fate/Reversal Order 宙喰獣性魔界京都の改変となります


635 : ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 07:49:41 eIXTbd6U0
投下します。
ゴア描写があるので苦手な方はパラメータまで飛ばしてください。


636 : 皮剥ぎボリス&アサシン ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 07:51:43 eIXTbd6U0
肉塊、と聞いて何を思い浮かべる?

肉屋に並んでいる、赤と白の混ざりあった食べ物?
それとも、食肉処理場で屠殺したばかりの、まだ温かい家畜の死骸?

いや、どちらも違う。
肉塊、というのは、ただただ、どこまでも、赤くて、黄色い。


僕が最初この聖杯戦争に呼ばれたとき、自分で大丈夫なのか、という思いに支配された。
だけれども、サーヴァントは、あなたなら大丈夫だと言ってくれた。

「私も精一杯協力するから」

その言葉は僕を奮い立たせるのには十分だった。
そういうことを言われるとは正直考えていなかった。
どんな曲者が自分のサーヴァントになるのかと思っていたから。


二人で協力して、初めて別の主従を倒したとき。
彼女は、あなたならきっと優勝できる、と言ってくれた。

そして僕はずっと彼女と共にいたい、と思うようになった。

聖杯への願いはなにかあったのかもしれない。

誰かを蘇らせたい。
元の世界に帰りたい。
力を得たい。

そんなものだったのかもしれない。

そんなものはもう、どうでもよくなった。

ただ、この時間が永遠に続けば良い。
聖杯戦争なんて終わらなければ良い。
そう思うようになった。

だけれども、永遠なんて存在しない。


637 : 皮剥ぎボリス&アサシン ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 07:53:18 eIXTbd6U0
その日は何かの記念日だったと思う。
おそらくこの聖杯戦争に呼ばれていくらか経った、
僕たちが出会っていくばくか経ったことを記念する日。

僕は彼女のために何かを買って、家に帰った。
ドアを開けるまで、僕は確かに幸せだったはず。

ドアを開けて目に入った「それ」は、肉塊だった。

僕は一瞬、「それ」が何かわからなかった。
いや、本当はわかっていた。ただ、頭が拒否していただけ。
「それ」を認識するまでには時間がかかった。
それこそ、永遠と感じられるほどに。

だけれども、永遠なんて存在しない。

永遠とも思える時間は、男の声によって破られた。

「悪かったね、マスター。このお嬢さんがなかなか口を割らないので、こうせざるをえなかったんだ。
別に心配しなくていい。私が知りたかったのはあくまで君のことだ。君までこうはしないさ」

椅子に座っていた、ヨーロッパ系であろうその男は、挨拶でもするようにそう告げた。
これといった特徴のない、別れたらすぐに忘れてしまいそうな顔だった。
その声色には、喜びであるとか、興奮であるとか、憎しみであるとか、そういった感情は一切含まれていない。
それこそ、事務作業をしているときのような、そんな声色。


「まあ、君にとってはいささかショックかもしれない。だが、私もあまりこういうことはしたくなかったんだ。
私とて、可愛いサーヴァントの手を汚すことも、今日の夕食までに食欲が戻るかという心配をすることも、本当はしたくはない。
残念ながら彼女は最後まで口を割らなかったが、君がのこのことやってきてくれたおかげで助かったよ」


そう言って、男は「それ」にちらりと目をやった。


638 : 皮剥ぎボリス&アサシン ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 07:53:55 eIXTbd6U0
「それ」は弱々しく悲鳴を発していた。

ヒュー、ヒュー、と空気が細い筒を行き交う音がする。
そしてそのたびに、おそらく胸であろう辺りが上下する。

そばには胸部から千切られたであろう物体が二つ。
断面は赤と黄色が混じった色をしている。

開いた腹部からは明るめの色をした、太い紐状のものがはみ出ている。

腕や足は奇妙な方向にねじれている。
右膝は、およそ90°に近い方向に曲げられている。

特に赤黒くみえるのは、二つの小さな穴の上にある、やや大きめの二つの孔。
そばには、かろうじて白色を帯びた、尾をつけたような二つの丸いものが落ちている。

黒くて長い繊維状のものが見える。赤い液体が絡んでいる。
その繊維状のものが付いている、ドーム状の物体は、やはり赤と黄色と白が混じっている。

床は赤い液体に塗れ、その所々に、黄色く、ぬめりのある物体が落ちている。

そして「それ」の近くにはーー所々ちぎれた、薄く、赤いものが散乱していた。


639 : 皮剥ぎボリス&アサシン ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 07:54:44 eIXTbd6U0
「私のサーヴァントは見かけによらず不器用でね。
私がかつて部下のモンゴル人に命じたように、綺麗にはなかなかいかなかった。
いや、悪かったとは思っている。おかげで彼女にはいらぬ苦痛を味合わせてしまった」

こともなげにそう述べた。さっきと全く同じ調子で。

「それでマスター、さっきも言ったように私は必要もなく君を殺す前に苦しめようなどとはさらさら思っていない。
しかし私も情報が欲しい。そこで、今知っていることを洗いざらい話してくれないかな。
なに、私もけちじゃない。それ相応の報酬は用意するさ。
まあ、賢い君のことだ。それが何かはわかると思うが」

僕は何かわめきながら、ナイフを手に持って男のもとへ突進していった。
サーヴァントはいない。せめてこいつだけでも。

刃先が後少しで男の胸に達する、というところで、止まった。

「どうやら君は思ったより賢くないようだな」

両腕が変な方向にへし曲がる。
あまりの痛みに悲鳴を上げる。
後ろでつまらなさそうな顔をした女の子がいることに気づく
彼女は僕の腕を掴み、へし折った。

「ではマスター、もう一度聞くが、今知っていることを洗いざらい話してくれないかな。
何を話せば良いのかわからないというのならば、例えば他の主従の居場所だとか、そういうことを話してくれればいい」

僕には何も知っていることはなかった。
目についた主従は二人で倒していった。
だから自分の知っていることなど何もない。
答えられることなどなにもない。
いや、一つだけある。
明日、戦うことを考えていた主従の居場所。

だけどーー

男は大きくため息をついた。

「やはり君は賢くないようだ」


640 : 皮剥ぎボリス&アサシン ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 07:55:38 eIXTbd6U0
「マスター、言われた通りにやったけど、こんな感じでいいの?」

黄色いリボンの付いた黒い帽子をかぶった、薄い緑色の髪をしたその少女は、そう尋ねる。
その手は先ほどの行為のおかげで赤く染まっていた。
ぽたぽたと、赤い液体が指先から垂れ落ちる。
その指をぺろり、と舐めると、口元に赤い線が引かれた。
しかし彼らは、さながら食事中の談話のように、彼らにとってはおそらくいつも通りの様子で、
楽しげというわけでもなく、つまらないというわけでもなく、不快だというわけでもなく、ただただいつもの調子で話していた。

「まあ、彼らにはちょっと悪いことをしたかもしれないが、そんな感じで大丈夫だ。
なに、彼らも恨みを買っていたんだ。そしてなにより、聖杯戦争を舐めていた。
どうせろくな死に方はしなかったはずさ」


二人の前には、二つの肉塊が置かれていた。


「彼は本当に何も知らなかったようだな。あるいは……」

「言わなくてもわかるよ。知っていたのかもしれないけど、女の子みたいに最後まで我慢したんだね」


二つの肉塊はもはやどちらがどちらなのかもわからないほどであった。

「彼らはずっと一緒にいたいと言っていたな。アサシン」

「うん。あいつらのことスパイしてたときも、たまにそんなこと言ってたよ。でも、あいつら、肝心なことは言わないからさ」

「だとしたら、これで彼らの願いは叶った。聖杯などに頼ることもなく、ね」

そこにはもちろん、祝福の意味など込められてはいないし、皮肉でも祝福しようなどとは思ってもいない。
そもそも、彼はそんなことに興味は全くない。

彼の今の悩みは、夕食までに食欲が戻るか、ということだけである。


641 : 皮剥ぎボリス&アサシン ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 07:56:14 eIXTbd6U0
【クラス】アサシン

【真名】古明地こいし@東方projectシリーズ

【属性】中立・中庸

【パラメータ】
筋力D 耐久C 敏捷D 魔力B 幸運E 宝具A

【クラス別スキル】
気配遮断 A+ 
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を立てば発見することは非常に難しいが、
攻撃態勢に移るとランクが下がる。アサシンの場合、保有スキルによってランクを上げることが可能。

【保有スキル】
閉じられた第三の目:C
本来アサシンは覚(さとり)という妖怪であり、相手の心を読む能力を持つが、アサシンは読心を司る第三の目を閉じることにより、
その能力を封印し、同時に自らの心をも閉ざしてしまった。
このスキルにより、高度な読心術をもつ者であっても、アサシンの心を読むことは出来なくなっている。

【宝具】
『無意識を操る程度の能力』
ランク:A+ 種別:対人(自身)宝具 レンジ:0 最大補足:1
相手の無意識を操ることで、他人に全く認識されずに行動することができる。
たとえアサシンが目の前に立っていたとしても、さながら道端の小石のように、その存在を認識することはできない。
相手の無意識を呼び覚ますことで、例えばトラウマを思い起こさせるなどの精神攻撃を行うこともできる。


【人物背景】
相手の心を読むことができる覚(さとり)という妖怪である。
しかしその能力のせいで周囲から嫌われることを恐れ、
読心を司る第三の目を閉じて能力と自身の心を閉じてしまう。
何を考えているのかわからない部分があり、本人曰く「感情なんて元より存在しない」そうだ。


【サーヴァントとしての願い】
幻想郷に戻りたい。


642 : 皮剥ぎボリス&アサシン ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 07:57:30 eIXTbd6U0

【マスター】
皮剥ぎボリス(ボリス・グローモフ)@ねじまき鳥クロニクル

【能力・技能】
・冷血
目的のためならば眉一つ動かさず残虐な行為でも行うことができる。
人間の皮を生きたまま剥がさせることも、親の目の前で7歳の子供を殴り殺させることも。
・用心深さ
大粛清下のソ連で生き延びていけるほどの用心深さと慎重さをもつ。

【人物背景】
ソ連内務省秘密警察・NKGBの少佐。通称「皮剥ぎボリス」
この通称は人間の全身の皮を生きたまま剥がさせる拷問を好んで行ったことに由来する。
独ソ戦以前は、後に重用されることとなるベリヤ率いるソビエト秘密警察に範を取り、派遣されたモンゴルで反革命勢力の弾圧に辣腕をふるった。
その後ポーランドに派遣され、そこで部下に生きたまま人間の皮を剥がさせるという拷問を行わせた。
一度、共産党幹部の親族を誤って拷問死させるという失態を犯し、シベリアの収容所に送られるものの、そこでも周到に立ち回り実権を握った。
極めて残虐な人間といえるが、彼曰く必要のない殺しはしない主義らしい。

【方針】
アサシンを用いて情報収集を主に行う。必要とあらば拷問も用いる。

【マスターとしての願い】
元の世界に戻り、脅かされない地位につけるのであれば悪くない。


643 : ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 07:58:03 eIXTbd6U0
投下を終了します。


644 : ◆OmtW54r7Tc :2021/06/15(火) 19:50:54 3IVzgNrc0
投下します


645 : 死神✕死神 ◆OmtW54r7Tc :2021/06/15(火) 19:52:32 3IVzgNrc0
「こ、ここは…!?聖杯戦争って…え…」

西村茜は、困惑していた。
突然知らない世界に連れてこられたかと思えば、脳裏に刻まれる聖杯戦争という名のこの世界でのルール。
ただの小学生である彼女には、途方もない話であり、到底受け入れがたいことであった。
しかし、それでもなんとか頭の中の整理をして、状況を飲み込むと…

「お前がマスターか」

そこに、一人の男性が現れた。
黒い服装に金髪、その目つきは鋭く、ヤクザのようだ。
一瞬怖いと思いつつ、茜は彼から目をそらさなかった。
彼女は、そのギョロっとした死んだ魚のような目つきを不気味がられ、死神というあだ名でからかわれていた。
だから、見た目で目の前の人物を怖がるのは失礼だと思ったのだ。

「えっと…あ、もしかしてあなたが…サーヴァント、さん?」
「ああそうだ、マスター。クラスはキャスター、真名はアイゼンだ」
「よろしくお願いします、アイゼンさん」

そういって茜はアイゼンに近づこうとするが…

「俺には近づかない方がいい。俺は死神だからな」
「え?死神」
「死神の呪いは自分や他人に不幸をもたらす。おそらくマスターであろうと例外ではないだろう」
「…もしかして、あなたも周りの人からからかわれてるんですか?」
「…からかわれる?」
「私も、死神って呼ばれてるんです」

茜は、元の世界で自分が死神と呼ばれている理由を話す。
その話を聞いたアイゼンは、呆れた様子でハア、とため息をつく。

「死神だというから気になって聞いてみれば…つまり、本当にそういう呪いを持っているわけではないのだな?」
「は、はい…えっと、アイゼンさんは、もしかして本当にそういう呪いを?」
「ああ、そうだ。俺の死神の呪いは、自分や周囲に不幸な出来事をもたらす呪いだ。お前のクラスメイトとやらが冗談半分で言っていたことが、俺の周囲では本当に起こる」


646 : 死神✕死神 ◆OmtW54r7Tc :2021/06/15(火) 19:53:56 3IVzgNrc0
そういうとアイゼンは、自らの死神の逸話を語り出した。
島の人が全員死んだり、ぶつかった人がしゃっくりが止まらなくなったり…
最初は作り話なのかなとも思ったのだが、アイゼンの語る様子はとても嘘をついているようには見えず、本当の話なのだと理解した。

(本物の呪いを持ってる人がいるなんて…!)

アイゼンの話を聞いた茜は、驚く。
今までクラスメイト達が自分をからかってくるのを、くだらない幼稚な話だと聞き流していた。
しかし、そんな話を現実にしてしまう人が、この世にいるとは思わなかった。

「そういうわけだ。お前がマスターである以上、守ってはやるが、必要以上に近づくことはよしたほうがいい」
「……………」

アイゼンの言葉に、茜は黙って俯く。
しかし、すぐに顔をあげると言った。

「嫌です」
「…なに?」
「アイゼンさんが死神だからって、避けるなんて…そんなの嫌です」

茜は元の世界で、死神と呼ばれてクラスメイトからからかわれ、いじめられていた。
気にしないようにしていても、やっぱり傷つくものだ。
だから、ここでアイゼンを死神だからと恐れ、拒絶するのは、自分と同じ苦しみを彼に強いるようで、自分があのいじめっ子たちと同じになるみたいで嫌だった。

「分かっているのか?俺はお前と違って本物の死神だ。冗談ではなく、本物の呪いがお前を襲うんだぞ」

アイゼンの言葉に、しかし茜は薄く笑みを浮かべて、退かない。

「私の学校に、すごく変わった転校生がやってきたんです」
「なに?」
「その人は、死神って呼ばれてる私をかっこいい!羨ましい!って言ってくれて…私のことを、認めてくれたんです」

高田太陽。
彼は、変わり者だった。
死神と呼ばれている自分を、バカにするどころか、かっこいいと褒めてくれる。
他の人があれこれ言ってきても、その少し抜けたとこのある天然なメンタルで煙に巻いてしまう。
太陽という名にふさわしく、まぶしい存在だ。
茜にとって高田くんは、ヒーローのような存在であり、憧れだった。
だから…

「アイゼンさん…私、あなたと仲良くなりたい!高田くんが私を受け入れてくれたように…私も、死神であるあなたを含めて、受け止めたいんです!」

茜の言葉に、アイゼンはハッとしたような驚いた顔をしていた。
しかし、やがてその表情からは笑みが浮かび…

「死神である俺も受け止める、か…全く、どこの世界でも変わり者はいたもんだ」


647 : 死神✕死神 ◆OmtW54r7Tc :2021/06/15(火) 19:54:59 3IVzgNrc0
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「マスター、お前に問おう。お前はこの聖杯戦争に、何を願う?」
「え?願い?」

アイゼンの言葉に、茜は戸惑う。
この世界では、聖杯と呼ばれるものを奪い合って、自分たちマスターが戦うらしい。
しかしいきなり願いと言われても…
それに、願いを叶えるために人を殺すというのも、実感がわかない。

「ごめんなさい。まだ、願いとか殺し合いとか、全然実感がわかなくて…」
「急かすわけではないが、一つ忠告しておく。羅針盤のない…進むべき道が見えていない航海ほど危険なものはない。自分がどうしたいのか、よく考えることだ」
「はい…」
「それと、お前に与えられたロールだが…この近くの学校の転校生という設定らしい。明日から、学校に通うことになる」
「学校…」

茜の脳裏に浮かぶのは、元の世界での学校生活。
そしてそこにいる…一人の男の子。
この世界の学校には…彼はいない。
高田くんだけじゃない。
日野君も、海未ちゃんも、笠原さんも。
みんな…いない。

「嫌…そんなの嫌!」

「みんなに…会いたいよ!元の世界に、帰りたい!」


「なるほど、それがマスター…お前の願いだな」
「へ?」
「マスターの願い…サーヴァントとして俺も協力してやる」
「願いの協力って…ま、まさか、聖杯を手に入れるの!?」
「マスターが望むならそうするが。俺も海賊として、聖杯という宝がどんなものか興味はあるしな」
「だ、ダメだよ!その為に人を殺すなんて…私にはそんな命令できないし、アイゼンさんにもしてほしくないよ!」
「他のマスターを殺すことだけが聖杯を手に入れる方法とは限らないだろう。それに、元の世界に帰るというだけなら聖杯を手に入れる必要もないかもしれない。俺は海賊だ。別に王道を目指すつもりはない。だが…」

そこでいったん言葉を切ると、アイゼンは茜を睨む。

「マスター。お前はどうやら戦いとは無縁の世界を生きてきたようだ。殺しをしたくないと思うのは当然だし俺もそこを否定するつもりはない。だがな…どんなに綺麗事を並べようと、ここが戦場であるという事実は覆らねえ。殺す覚悟はできなくとも、戦う覚悟だけはしておけ」
「は、はい!」


648 : 死神✕死神 ◆OmtW54r7Tc :2021/06/15(火) 19:55:55 3IVzgNrc0
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(聖杯…願いを叶える願望器か)

アイゼンは、考える。
もし聖杯を手に入れたら、死神の呪いを解き、妹のエドナと会えるのだろうか。

(マスターだったなら…俺が生きてる時なら、それも悪くなかったかもしれねえな)

アイゼンはサーヴァント。英霊と呼ばれる、過去の亡霊だ。
おそらく今も元の世界で生きているであろうエドナと会うことなど叶わない。
あるいは聖杯なら、呪いを解いた上でアイゼンを蘇らせるという芸当もできるかもしれないが、そこまで望む気にはなれない。
アイゼンはあの世界で、精一杯生きぬいた。
その生涯に、心残りはあっても、悔いはない。
蘇るということは…そんな自身の人生への侮辱だ。

ちらりと、隣を歩くマスターを見る。
彼女、西村茜は強く優しい少女だ。
エドナのことを知れば、なんとか会わせてあげたいなどと考えるかもしれない。
だからこそ、アイゼンは茜にこのことを明かすつもりがなかった。

アイゼンには、「自分の舵は自分で取る」という流儀がある。
茜に自分の胸の内を明かすということは、自分の舵を彼女に取らせることと同義だ。

(西村茜、お前はお前だけの舵を、お前の為の航海をしろ。それが俺の…願いだ)


649 : 死神✕死神 ◆OmtW54r7Tc :2021/06/15(火) 19:56:51 3IVzgNrc0
【クラス】
 キャスター

【真名】
 アイゼン@テイルズオブベルセリア

【ステータス】
 筋力B 耐久D 敏捷C 魔力C 幸運E- 宝具C

【属性】
 混沌・善

【クラススキル】
 陣地作成:A
 自らに有利な陣地を作り上げる。
 「島がないなら俺が島を作る」

【保有スキル】
 死神の呪い:A
 自分や他人に際限なく不幸をもたらしてしまう特異体質。

 サヴァイブロード:C
リーチの長い突進で敵を突き飛ばし、耐久力バフを解除する。
 当たり所がよければ敵をダウンすることができる。

 竜種:D
 竜に変身時のみ発動。
 筋力が上がり、被ダメージカット状態を付与する。

【宝具】
『ドラグーン・ハイリング』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大補足:5
 竜の力を解き放ち、敵を引き摺り回してから咆哮で焼き尽くす。
 発動後、一定時間竜の姿となる。

【weapon】
拳。
死神の呪いにより武器は装備してもすぐに壊れる。

【人物背景】
アイフリード海賊団副長にして、周囲に不幸をもたらしてきた経緯から「死神」と呼ばれる男。
とある地脈から聖隷として生まれ、同じ地脈から生まれたエドナと兄妹として暮らすようになる。
しかし妹が成長した後、妹の周りで不幸な事が起こるようになる。自らが聖隷としてもたらす筈の加護を反転させ、自他に際限なく不幸を振り撒いてしまう特異体質「死神の呪い」を持つことを知ったアイゼンは、妹に「死神の呪い」が降りかからないよう離れて暮らす決心をし、自分の呪いを解くために旅に出た。
旅の途中、海賊バン・アイフリードと出会い、呪いを含めてアイゼン自身なのだと諭された上で、仲間として迎えられた。「降臨の日」以降全ての人間が聖隷が見えるようになった事でアイフリード以外の団員たちにも姿が認識され、副長と呼ばれるようになる。

【サーヴァントとしての願い】
マスターが「自分の舵を自分で取る」ことができるよう、導く。


650 : 死神✕死神 ◆OmtW54r7Tc :2021/06/15(火) 19:57:46 3IVzgNrc0
【マスター】
西村茜@事情を知らない転校生がグイグイくる。

【マスターとしての願い】
聖杯への願いは特にない。
元の世界に帰ってみんなと会いたい。

【weapon】
なし

【能力・技能】
少し内気なただの小学生で、これといった能力はない。
強いて言えば、目つきが少し特徴的で人によっては不気味がられること。

【人物背景】
小学生の女の子。目つきが悪いことからクラスの一部から「死神」と呼ばれてからかわれている。
しかし、そんなことを気にせず仲良く接してくれる転校生の高田くんに対して徐々に心を開き、交友関係も少しずつ広がってきている。
高田くんの告白同然の天然ジゴロな発言に、いつも顔を赤面させている。

【方針】
とりあえずロールに従い、明日から学校に行こう。

【補足】
参戦時期は少なくとも4巻の運動会以降
与えられたロールは小学校の転校生です


651 : ◆OmtW54r7Tc :2021/06/15(火) 19:58:17 3IVzgNrc0
投下終了です


652 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/15(火) 20:37:40 5lcpVpcI0
>>コベニの悲劇譚
あのコベニちゃんがまともなサーヴァントなんぞ呼べるわけもなく、またとんでもないのを引き当ててしまったようで。
チェンソーマンの凶暴性とムチャクチャさを更に上乗せしたみたいな存在なので、胃の壁がどれだけ分厚くても穴空きそう。
というかコベニちゃんじゃなくても、これ引いたら行動方針が帰りたいの四文字て固定されるわそりゃ!って感じでした。
バイクの下りでパワーとのあの一件を微妙に踏襲しているところなんかも芸が細かくて面白かったです。

>>血潮が燃えるなら、ただそれだけで何もいらない
いろんな意味で、文字通り"熱い"主従ですね。
間違いなくネタ枠なマスターであるにも関わらずそれがどうしたとばかりに大真面目に話が練られているのが印象的でした。
マスターとサーヴァントの相性的には文句無しでトップクラスに良さそうな感じがします。
その上ちゃんと戦う能力は持っているというのもまた厄介というかなんというか。

>>JUDA
強いけどサーヴァントとして従えたくはない男来たな……。
実力者ではあるのですが、松永は内面がとにかく厄ネタの権化みたいな有様なので参戦するというその時点で不穏なものが立ち込めますね。
一方でそんな彼を呼び出したジューダスは、既に彼の審美眼にある程度適ってしまっている様子。
この先どんな戦いが紡がれていくにしろ、彼の進む道は茨道以外のものとは成り得なそうですね、色々な意味で。

>>皮剥ぎボリス&アサシン
なんともえげつない主従が誕生してしまったな、というのが最初の感想でした。
相手を惨殺しておいても尚動じた様子もない異常さと危険度が遺憾なく表現されていたように思います。
そしてそんな人物が呼び出すサーヴァントとしては、こいしというキャラクターはまさしくうってつけ。
界聖杯を巡る戦いを血と臓物で彩りながら、阿鼻叫喚の地獄絵図を作り上げそうな主従でした。

>>死神×死神
不名誉な死神という呼び名を持つ者同士が引かれ合って、というアイデアは面白いなと思いました。
しかし彼らの目指すところはその名の通り死を振り撒くこと……ではなく、元の世界への帰還。
アイゼンは戦いに慣れた頼れるサーヴァントなようなので、小学生であるマスターにとっては良かったのではないでしょうか。
英霊という名の先人として彼女を導こうとするアイゼンの姿は格好いいなあと思いました


皆さん今日もたくさんの投下をありがとうございました!


653 : ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 21:52:45 eIXTbd6U0
投下します。


654 : 本城刹那&セイバー ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 21:54:50 eIXTbd6U0
私立の名門、錯刃大学。
その附属病院、特別脳病科治療施設の一室。

痩身の、白衣を着た男の前に座るのは、若い女性。
二人は楽しげに談笑をしているが、女性の後ろに立っている、
金髪で尖った髪型をした、痩身だが筋肉質の男は、
仏頂面でその話を聞いているだけだった。


「君の病状もだいぶ良くなった。ここに来たときとは比べものにならないな。
もうすぐ来なくても良くなるだろう」

「ありがとうございます、教授。でも、それは少し寂しいかな……」

「自分の体の方を大事にするんだ。なに、聡明な君のことだ。
遺伝学も私のテリトリーだ。ここでなくともじきに学会で会えるようになるさ」

「それならいいんですけどね。ありがとうございます、春川教授。その日を楽しみにしていますね」

「ああ、その日はきっと必ず来るさ」


655 : 本城刹那&セイバー ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 21:55:32 eIXTbd6U0
本当に楽しかった。

それが本城刹那の抱いた感情だった。
あの「春川教授」が本物でないことはわかっている。

それでもーー

「ねえ、セイバーさん、セイバーさんには異性のお友達っておられたんですか?」

「ま、まあな。何人かは……」

セイバーは下を向いて言いよどむ。

その様子を見た刹那は、自分が知らず知らずのうちにまずいことを言ったらしいことに気付いた。

「あの、すみません、セイバーさん。思い出したくないことを思い出させてしまいました?」

「いや、別に大丈夫だ。気にしないでくれ」

「もしそうなら悪いことを。それにごめんなさい、いつも付き添ってもらって。でも私一人じゃ本当に不安なんです」

「それが俺の役割だからな。昔はなんでも屋をやっていたんだ。ボディーガードも仕事のうちさ」

刹那を力づけるように、セイバーはそう言った。

「ありがとうございます。お礼に今度一緒にお買い物、行きましょう」

「考えとくよ」

「でもセイバーさん、本当は教授のこと、あんまり好きじゃないでしょ?」

「い、いや、そんなことは……」

図星だった。
あの白衣を見ると、自分と友人にジェノバ細胞を植え付けた、全ての元凶であるあの狂った科学者のことをどうしても思い出してしまう。
もっとも春川教授は宝条のように科学センスが皆無な人間でも、コンプレックスの塊のような人間でもない。
むしろ真逆だ。それこそ、彼女の父親であるガスト博士と比肩し得るであろう天才である。
だけれども、やはり春川教授は変人の部類に入る。
自分に合わないのだ。

「無理もないです。あの人、ああ見えて結構情熱家で、
何か一つの目的のためなら世界を敵に回してもやり遂げようとする人ですから。
それにセイバーさんって優しいんですね。クールに見えるけど」

刹那はセイバーに、にこりと笑いかけた。春川教授に向けるのと同じように。

「……優しくなんかないさ、俺は」

ぽつり、と呟く。
その言葉は刹那に向けたものではないように思われた。


656 : 本城刹那&セイバー ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 21:56:22 eIXTbd6U0
本城刹那は脳の病に侵されていた。

1日に数回、脳が体のコントロールを失い、突如異常なほど攻撃的に豹変する。
片手で、物が入った金属製の人の背丈ほどもある棚を振り回すことすらあった。
その状態の彼女を止めるには男性数名で取り押さえる必要があった。

そして、彼女の脳細胞は徐々に破壊されていく。
原因は全くわからず、同じ症例は彼女以外に発見されていない。
まさに悪意の塊のような病。

幾多もの病の治療法を見つけてきた春川教授ですら、この病に対しては無力であった。

その病のおそらく末期。
凶行や暴言を一日中、獣のように繰り返していた段階。
その正気に戻った刹那に。
本城刹那は、聖杯戦争という場で目を覚ました。




「セイバーさん、少し長くなりますけど、私の話を聞いてくれますか?」


657 : 本城刹那&セイバー ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 21:57:11 eIXTbd6U0
「あくまで原因は脳という物質の一部の異常だ。病気が理由で君の人間性が貶められはしないのだから」

春川教授はそう言ってくれた。

でもーー

「やっぱり、苦しいんです。教授の前で、見苦しい姿を見せてしまうのもそうですし、
何より私という人間が壊れていく。自分がなくなっていく。それが本当に、怖い」

本城刹那は震えていた。

「セイバーさん、ハリガネムシって知ってますか?」

「いや、ミッドガルにはゴキブリぐらいしかいなかったからな」

「もう。デリカシーがないんだから。
ハリガネムシはカマキリに寄生するんです。
寄生されたカマキリは脳にタンパク質を注入され、入水するよう行動を操作されるんです」

本城刹那の語気はほんの少し、弱まっているように思われた。

「ねえ、セイバーさん、このカマキリってかつての私みたいじゃありませんか?
1日のうち、極々短時間しか正常な状態を保てない。
でも、教授の言葉を借りるなら、カマキリは悪くない。
カマキリは本当は入水自殺なんてしたくない。
生きていたいはずなんです。
私も、本当は死にたくなんてない。
たとえ本当に短時間であっても、私は私のままでいたかった。
もし死が避けられないのなら、私の症例を誰かの役に立ててほしい。
例えば誰かの娯楽のために死ぬのは、私は嫌なんです」


本城刹那は静かに泣いていた。

「知っているはずの言葉が思い出せない。
出るはずの言葉が出てこない。
そんなことよりも、親しい人の顔が判別できない。
いや、親しい人の存在すら頭から失われてしまう。
私にとってこれほど悲しいことはない」

「だったらマスター、聖杯に願えばいい。
自らの病を治してくれるようにと。俺は全力で協力する」


刹那は首を小さく横に振った。

「甘い考えなのはわかっています。
でも自分のために人を殺すほどの覚悟は私にはないんです。
こんなことをセイバーさんに聞くのは筋違いでしょうけど、どうするべきなんでしょうか」

「……俺にはわからない。元の世界に帰る方法は聖杯以外にもあるかもしれない。
ただ、きつい言い方になるが、マスターが聖杯を手に入れずに元の世界に戻ったところで何も変わらない。
今の話を勘案するに、ただ獣のように暴れつづけ、そしてじきに脳が完全に壊れるのを待つだけだ」

「それでも、それでも私は春川教授を信じています。
仮に治療ができなかったとしても、
ほんのわずか、私が私でいる間、その一瞬の刹那を忘れてほしくないんです」

本城刹那はもう泣いていなかった。


658 : 本城刹那&セイバー ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 21:58:00 eIXTbd6U0
セイバーはかつての自分を思い出していた。

ジェノバ細胞の影響とはいえ、自分を偽り続けたあの日々を。
そのことに気づくことさえなかった、あの日々を。

自分というものが失われる。
それはすなわち、世界が、自分の認識する世界が壊れることと同等だ。

自分が「クラウド」になりきれなかったと、そう信じ込んだあのとき。
確かに自分の世界は壊れた。

そのことを彼女はずっと以前から見抜いていたというのに。

「……俺にできることはマスターの力となることだけだ。
それがマスターの願いなら、やはり俺は全力で協力する」

「ありがとう。セイバーさん」

本城刹那の声には、力が宿っていた。


659 : 本城刹那&セイバー ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 21:59:33 eIXTbd6U0
【クラス】
セイバー

【真名】
クラウド・ストライフ@ファイナルファンタジーⅦ

【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運D 宝具C

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:D
一工程による魔術行使を無効化する。

騎乗:C
騎乗の才能。調教された獣程度なら人並み以上に乗りこなせる。
チョコボレーサーとしてチョコボに騎乗した逸話とバイクを乗りこなした逸話による。
本来ならもう一つ上のランクでもおかしくはないのだが、
本人は乗り物酔いが激しいためこのランクとなった。

【保有スキル】
ソルジャー:D
ジェノバ細胞を埋め込まれた後、魔晄を浴びた者。
身体能力は飛躍的に向上するが、ジェノバに支配されないような強い精神を必要とする。
本来はもう一つ上のランクでもおかしくはないのだが、
本人は確かにソルジャーの生成過程を経ているものの、
実際はソルジャーではなかったためこのランクとなった。

【宝具】
『超究武神覇斬』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1~5
手に持った大剣で十五回連続切りを仕掛ける。
相手の急所を的確に攻撃することが可能。

『凶斬り』
ランク:D 種別;対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
手に持った大剣で凶の字に相手を切る。
麻痺の追加効果がある。

『破晄撃』
ランク:D 種別;対人宝具 レンジ:1~5 最大補足:1
剣から気を飛ばして遠距離攻撃を行う。
敵に命中した後拡散して、さらに他の敵にもダメージを与える。

『クライムハザード』
ランク:D 種別;対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
敵に剣を突き刺し、そのまま高くジャンプして切り上げる。

『画竜点睛』
ランク:D 種別;対人宝具 レンジ:1 最大補足:1~5
竜巻を起こし、敵を吹き飛ばして地上に落下させる。

『メテオレイン』
ランク:D 種別;対人宝具 レンジ:1~3 最大補足:1~3
隕石状のエネルギー弾を降らせて攻撃する。

【人物背景】
FF7の主人公。自称元ソルジャー1st。
現在は「なんでも屋」を営む青年。
ニブルヘイムの出身で、14歳のときソルジャーに憧れ村を飛び出す。
しかし実際にはソルジャーになれず、神羅の一般兵止まりであった。

【サーヴァントとしての願い】
可能ならばあのときに戻りエアリスを救いたい。


660 : 本城刹那&セイバー ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 22:00:21 eIXTbd6U0

【マスター】
本城刹那@魔人探偵脳噛ネウロ

【マスターとしての願い】
誰も傷つけることなく、元の世界に帰還する。

【能力・技能】
春川教授からも、確かな知性があり、確かな自分を持っていると評される。
おそらく誰からも好かれる人間であろう。

【人物背景】
数学者、本城二三男の娘。
現役の女子大生であり、遺伝学を専攻していると思われる。
原因不明の脳の疾患を患っており、その治療のために春川英輔との交流が始まることとなる。
自身の病の原因について知ることがなかったのはむしろ幸運だったのかもしれない。

【方針】
聖杯に頼らず脱出する方法を探る。


661 : ◆AXkfwQ7ZsY :2021/06/15(火) 22:01:15 eIXTbd6U0
投下を終了します。
感想ありがとうございました。


662 : ◆1WfF0JiNew :2021/06/15(火) 22:54:36 kX2euyH20
投下します


663 : 三ノ輪鉄男&アヴェンジャー ◆1WfF0JiNew :2021/06/15(火) 22:55:53 kX2euyH20
 世界か、家族か。
少年は、選ぶことすらできなかった。
そもそもの話、世界とは大雑把に言って、何処までを指すか。
日々何てことのなかった日常か、それとも他者も含めたものか。はたまた、
少年にとって、世界は狭い。目に映るもの全部なんて広すぎて、イマイチ実感が湧かない。
だから、少年の世界は家族だった。
父がいて、母がいて、弟がいて、――――姉がいた。
今はもういない、世話焼きで太陽のように明るかった姉。
世界を塗り替える怨敵――バーテックスを前に、一歩も退かず立ち向かった勇者。
英雄と祭り上げられ、大切だった人達も守れて。

 ああ、そんな結果クソくらえである。

 大切なものがあればよかった。世界なんてどうでもいい、そこまでは言わないけれど。
家族が死ぬのを黙って見ているだけの現状が耐えられなかった。
そして、何よりも。周りの人達が彼女の死を賛歌していることを許せなかった。
どうして、と。問いかけた疑問に答えてくれる者は誰もいない。
勇者万歳、英雄とは正しく彼女のことなり。
そうして未来永劫、語り継がれていく。喝采よ、喝采よ! 万雷の祝福と希望を重ねて!
魂の抜けた表情で、虚ろな目を輝かせて、明日を見据えていく。
少年はその未来だけは、どうしても許せなかった。
幼い怒りだ、唾棄すべき感情任せの結論だ。
少年が姉の死を受け入れるには少年はあまりにも幼すぎた。
過去にしたくない、今もずっと胸に燻っている想いが薄れるなんてあってたまるか。

「それなら、こんな世界――」

 なくなってしまえ、と。
目を見開き、口元をわなわなと震わせ、自然と漏れた声は、姉が聞いたこともない、憎悪の塊だった。
姉の遺影を前に、少年は勇者という枠組みを呪う。
だから、バチが当たったのかもしれない。少年はこの瞬間を以て、世界から消えた。
少年の姉が命を懸けて護りたいと願い、貫いた結晶は、粉々に砕け散った。
そして――運命は、少年を地獄へと突き落とす。

「断言してもいい。君は間違いなく生き残れない」

 呼び出したサーヴァントである青年は少年の感情任せの言葉を淡々と否定する。

「聖杯戦争を戦うには、君はあまりにも幼い。英霊であっても限度がある」
「うるせえ! わかんねぇよ、わかってたまるかよ!」
「いいや、わからないといけない。まずは受け入れることからだ。
 蛮勇は無駄死に繋がる、この程度の諫言は受け入れるべきだ」

 少年は怒りのままに吠え散らかす。
それを黙って聞く青年が丁寧に怒りを削り取っていく。
耳障りのいい言葉を並び立てないのは青年の優しさか、それとも気まぐれか。
どちらにせよ、このままだと生き残れないという現実を突きつけたことには変わりない。


664 : 三ノ輪鉄男&アヴェンジャー ◆1WfF0JiNew :2021/06/15(火) 22:57:25 kX2euyH20

「俺は、俺が選んだ道を笑って歩むだけだ。それの何が悪いんだ!?」
「悪くないよ、及第点ではある。けれど、満点じゃない」
「……あ?」
「君は、その選んだ道を歩む為に、何ができる?」
「お、俺は、戦うって!」
「戦うのはわかった。それじゃあ、言葉を変えるよ。裏切り、奇襲、混乱、幼い君でもやれることは幾らでもある。
 君は、できるかい? いいや、やらないと死ぬよ、間違いなくね」

 青年はこう言ってるのだ。生き残りたいなら、願いを叶えたいなら、糧にするのは憎悪だと。

「君のお姉さんのように優しい人も参加者には混じっているかもしれない。
 何なら親しくなった学校の友達だって可能性は孕んでいる。
 その人達を前にしても、君は選べるかい?」 
「――裏切るさ」

 とっくに自分は裏切っている。姉の死を称える、世界も、家族も。
それでも遺ったものを抱えて直走る。
たった一人、死んでしまった姉を否定できるのは――少年、『三ノ輪鉄男』だけなのだから。

「選べるじゃねぇ、選んだんだ! もう、此処に来た時点で、俺はとっくに全部ぶっ壊すって決めたんだ!」

 青年の問いかけは愚問だった。少年の糧はとっくに憎悪へと成り代わっていた。
キラキラとした、勇気凛々な思いは、姉の死と引き換えに消えてしまった。

「姉ちゃんが死んでから、俺の毎日はずっとメチャクチャだ! 父ちゃんも母ちゃんも事あるごとに姉ちゃんを褒めやがって! 
 死んじまったんだぞ、もう会えねぇんだぞ、痛くて、苦しんで――! あんなにぼろぼろになったのに!」

 少年は醜く顔を歪め、感情を抑えられない様子で叫ぶ。
こんな自分を見たら、姉は酷く悲しむだろう。
幼い弟も放り出して、少年はエゴと憎悪で直走る。
滑稽で、なんとも報われない話だ。

「だから、俺は勇者なんてものを、消してやるんだ。姉ちゃんがやったことを、全部ぶっ壊す!」
「お姉さんが悲しむとしてもかい」
「……先に俺を怒らせたのは姉ちゃんだぜ。勝手に護って、勝手に死にやがって」

 けれど、その話の起点は姉だ。始めたのは勇者達だ。
世界なんて、見捨ててしまえばよかったんだ。背負わなくたって、少年は責めなかったのに。

「全く。向こう見ずに怒って、戦うことを選んで、旅《聖杯戦争》に出る。昔の自分を見ているみたいだ」
「……アンタにわかるのかよ」
「わかるさ。君と同じく、奪われた者として。もっとも、僕の場合は全部奪われて、残ったのは焼けた故郷と死体だけだったけど」
「それでも、アンタは……サーヴァントになるくらい、強くなったんだろ」
「まあね。君とは違い、僕には才能があった。復讐を遂げる力があった。なにせ、肩書は君が大嫌いな『勇者』だ。
 笑えるだろ? 勇者なのに、世界を救う英雄なのに。
 強くなった時にはもう、本当に救いたかったものは何一つ残ってなかったんだ」

 そして、青年の物語の起点も自分ではない。始めたのは周りだ。
魔王と勇者の物語は勝手に筋書きまで書かれていて、巻き込まれた青年は全部失った。
一人、焼け落ちた故郷から旅立って、様々な人達と絆を紡いで。
それでも、青年の中心にあるのは虚無だった。
勇者という名の、呪い。青年には、復讐だけが横にいてくれた。


665 : 三ノ輪鉄男&アヴェンジャー ◆1WfF0JiNew :2021/06/15(火) 22:58:02 kX2euyH20

「だから、君とは最初から気が合うと思っていたよ。
 僕も大嫌いなんだ、勇者という枠組みを作った世界が。
 身勝手に奪っておいて、何も返してくれない世界が。
 護ったのに、救ったのに、最後まで僕を救ってくれなかった、世界が――!」

 望んだのはかつての幸せ。青年が青年のままでいられたあの頃。
勇者ではない、青年の幸福。憎悪をフィルターに世界を見なくて済んだ過去を、想う。

「自分だけの幸福を望んで何が悪い。復讐を糧に旅を続けて何が悪い。
 ああ、その果てに得たものも、見たものも、全部同じだ!
 世界が違っても、変わってない……ッ! 僕があの頃から、戦って、殺して、選んだものと何一つ! 
 求めてないことばかり、世界は強いてくる!! 僕はこんな世界なんて――救いたくなかった」

 ただ、幸せになりたかっただけなのに。
一度、無くしてしまったものはどうあがいても取り戻せない。
それを理解できるくらい、青年は賢さは高かったはずだ。
それでも、それでも。
世界を救ったら、もしかしたら取り戻せるかもしれない。
あの日見た空を、青空を、花畑で笑い合った彼女を。
そう期待してしまった幼さは、罪なのだろうか。

「こんな勇者に救われてしまう世界に、意味はない」

 結局、青年は世界を救えても、自分自身は救えない。
大切なものがただ一つだけでも残っていれば、よかったのに。
青年にこびりついた喪失の残滓は新たな救いを見出すことを許さなかった。

「………………ごめん、感情的になりすぎた。君が聞いても気分が悪くなる話だった」
「アンタは今も……」
「ああ、後悔している。英霊になった今でも、僕を苛む過去の記憶だよ」
「故郷を滅ぼした仇は、討ったのか?」
「もちろん。殺したよ。奪われる覚悟もない、勝手に狂ったどうしようもない奴だったけれど」

 鉄男にとっても、青年にとっても、これ以上の言葉は無粋だった。
もう覚悟の賽は天空へと投げている。出る目もわかる、けれど、あえて、お互いに問う。
この世界の果てで、何を望み、何を選んだのか。

「改めて、聞くよ。君はどうしたい?」
「この世界に来る前から、来てからもずっと変わらねぇよ。俺の願いは――」

 少年の、鉄男の願いはもう変わらない。
青年のむき出しの憎悪を受けて尚、この選択が間違っているとは露程も思わなかった。
ああ、手遅れだ。三ノ輪鉄男はとっくに壊れてしまっていた。
壊れた少年が願ったものは、姉が願ったものと何一つ一致しない。

「――――全部、ぶっ壊すことだ。姉ちゃんが頑張った軌跡も、未来も、俺はいらない」
「わかった。アヴェンジャー、『ユーリル』として、僕は君の願いを叶えよう」

 その願いの片隅に、ユーリルの憎悪も乗せて。
勇者と憎悪に縛られた二人の絆は、どうしようもなく歪だった。

「本当は、大好きな人達とずっと過ごせたらよかった。でも、俺にはもうわからないんだ」
「奇遇だね、僕もだよ。あんなに大好きだったのに霞んで見えるのは、どうしてなんだろうな」


666 : 三ノ輪鉄男&アヴェンジャー ◆1WfF0JiNew :2021/06/15(火) 22:59:30 kX2euyH20
【クラス】アヴェンジャー
【真名】ユーリル@ドラゴンクエストⅣ
【ステータス】
筋力:A 耐久:A 敏捷:B 魔力:B 幸運:E 宝具:B+

【クラススキル】
復讐者:A
故郷を滅ぼした怨敵を追い求め、復讐を遂げた在り方がスキルとなったもの。
彼の場合は効果が大きく異なり、恨みや敵意を抱いた相手の魔力を探知しやすくなる。

忘却補正:A
偽りかもしれなくても、大切だったものがある。

自己回復:A
回復呪文による自己回復。

【保有スキル】

勇者:A
前へ、前へ。抱いた憎悪を糧に、彼は決して立ち止まらないし、屈しない。
ユーリルへの精神干渉は無効化され、決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
勇者とはそういう枠組みなのだから。

魔力放出:A
武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。

【宝具】
『勇者は天空へと祈らない』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
ユーリルが、生前に装備していた剣、盾、兜、鎧のセット。
天空からの授かり物である勇者の武器で、青年は仇を討った。
憎悪のままに、魔王と変わらない、純黒の決意で。

【weapon】
『勇者は天空へと祈らない』

『達観した憎悪』

【人物背景】
青年《村人》のままいられなかった勇者《主人公》。

【サーヴァントとしての願い】
世界を壊す。


【マスター】
三ノ輪鉄男@鷲尾須美は勇者である

【マスターとしての願い】
奇跡を以て、軌跡を消す。全部、ぶっ壊す。

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
幼稚な憎悪。

【人物背景】
勇者《主人公》になれず、奪われた少年《村人》。


667 : ◆1WfF0JiNew :2021/06/15(火) 22:59:47 kX2euyH20
投下終了です。


668 : ◆7WJp/yel/Y :2021/06/15(火) 23:44:31 9JhfIgUY0
投下させていただきます


669 : ドリアン&ランサー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/15(火) 23:47:09 9JhfIgUY0


 とある中華レストランの個室。
 一組の男女が食事を摂っていた。

「ふむ……リーズナブルな値段ながら、いい仕事をしている」

 一人は、顔中に皺を生やし、サンタクロースのように生い茂った口髭は頭部のの総白髪に繋がっているほどの豊かさ。
 さらにおでこは大きく後退している老齢の男性である。
 垂れ目がちな目でナイフとフォークを穏やか操りながら、前菜の三種盛り(中華クラゲ、合鴨、ボイル海老)を口にする。
 その姿は、笑みこそないものの好々爺という印象を与えるだろう。

 だが、それは顔だけを見た時の話だ。
 少しでも視線を落とせば、その老人の老人とは言えない異様な姿が見て取れるはずだ。
 まずは、隆起した肩の筋肉からそのまま生えたのかと思うほどに、大木のような太さを持つ首が映るだろう。
 そのまま視線を下げれば量販店で購入した安物のスーツをはち切らんばかりに膨らんだ大型トラックのタイヤと見違えるような胸襟。
 そこから複数の縄をさらに幾重に編み込んだような太い腕がスーツ越しからでも見て取れる。
 さらにはあの太い胴回りも脂肪ではなく筋肉だけで構成されているのだと簡単に想像できる。

 しかし、その老齢にも関わらず異様なまでに鍛え上げられた上半身を持ってしても、その下半身の異様さには勝つことが出来ないだろう。
 とにかく、大きい。
 サイかカバかと思うほどに大きなお尻。
 サポーターを五本も重ねて巻いているのではないかと疑いたくなるような強烈な太もも。
 足首にいたっては明らかに足の横幅よりも大きければ、その足裏のサイズも三十センチに届くであろう大きさであった。
 見るものが見ればわかる、これは気が遠くなるほどの時間を功夫(クンフー)に捧げることで手に入れた拳士の下半身である、と。
 事実、その男性────ドリアンは、『闇』を知る拳士ならば、思わず息を呑むほどの中華拳法の達人である。

「うむ、悪くはないな」

 三年物の紹興酒を口にしたドリアンの向かい、中華円卓を挟む女性もその料理に舌鼓を打つ。
 溢れ出る気品を隠しきれない、容貌も所作も声も、その豪奢なドレスや周囲の空気すらも美しい女であった。

「失礼します。こちら、ブロッコリーと貝柱の塩炒めです」

 年若い、恐らくアルバイトであろう給仕の男性が次の料理を持っていく。
 常の中華ならば前菜の次には湯(タン)、すなわちスープが来るはずであるが、次に出されたものは海鮮料理である。
 給仕を行う美女をチラチラと見るウエイターを歯牙にもかけずに食事を摂るその姿。
 それは、明らかに『自身が美しい』ということに自覚的な者にしか出せない立ち振舞いであった。

 そう、その女は、まるで名槍の穂先のようなどこか酷薄な美しさを持った女だった。
 深い夕闇のような赤紫の艷やかな髪は男ならば誰もが頬ずりをしたくなるようなもの。
 そして、その髪にかかる顔は世の女性が残らず嫉妬をしてしまうほどに小さなものである。
 さらに、その小さな顔に大きな目と高い鼻と赤い唇が奇跡的なバランスで配置され、神話の如き美貌を形作っている。
 その美しさは顔だけではない。
 細い肩と華奢な腰。
 確かに『色』を強調する豊満な胸とお尻。
 同じ身長の人間とは腰の位置が十センチは違うのではないかと思ってしまうほどに長い脚。
 まさしく、完成された美の象徴であった。


670 : ドリアン&ランサー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/15(火) 23:48:40 9JhfIgUY0

「酒もどうかな、ランサー」
「いただこうか」

 特徴的な中華の器に入った酒を手に取り、ドリアンは相手の女性────ランサーのサーヴァント、スカサハへと差し出す。
 それを影の国の女王であるスカサハは当然のように受け取ってみせた。

「日本では紹興酒に砂糖を混ぜるらしい。
 風味も何もないが、これはこれで悪くない……君も試すと良い。
 必要以上に濃い塩味の貝の炒めも、なるほど、この下品さすらある酒の味を際立ててくれる」
「そもそもが安価な酒だ、作法に拘るほどのものではないだろう。
 ……味付けは悪くない、食材(モノ)にはどうしても限界があるがな」

 ともに出された砂糖にドリアンは虚を突かれたようだった。
 だが、日本の『郷に入れば郷に従え』ということわざを思い出す。
 本場中国ではどうこうなど、野暮というものだ。
 ドリアンは紹興酒のグラスの中へとスプーンで一杯分だけ入れて口にする。
 スカサハもそれに習い、続けて新たに出された海鮮料理を口にした。
 上等な料理でないことは理解しているために、少々評価が甘くなる。
 だが、それを抜きにしてもこの味も悪くないと女王は評価した。
 二人の間にある会話といえばそんな色恋も親愛もなにもないものだが、不思議と険悪な様子はなかった。

「失礼します、若鶏の唐揚げです」

 続々と料理が円卓に届き、続いては揚物料理である。
 二人が入ったレストラン。
 それは、三千円ほどで中華コースが食べられることが売りの、町中華よりは上等ではある。
 だが、ホテルやデパートに構える店ほどではない、庶民的な中華料理店で会談を行っていた。
 会談の内容は、当然、『聖杯戦争』である。

「つまり……君が求めるものは『敗北』だと?」
「その言葉は正確ではない、私という全てをもって戦うことだ。
 そのうえで私を超える勇士にこの胸を貫かれるならば────戦士としてこれ以上の誉れはない」

 スカサハの頬に、紅が刺された。
 それは紹興酒の酔いによるものではないことは、ある種の『同類』であるドリアンには理解できた。
 だが、言葉を続けるうちに、その高揚もまさに酔いが醒めるように消え去っていく。

「勝利には、飽いた。
 なにが聖杯戦争だ、どうせ勝利をして聖杯によって受肉をしてもまた変わらない勝利を繰り返すに決まっている。
 もう懲り懲りだ。
 私が求めているものは、勝利を熱望しながらも叩きつけられる敗北だ」
「私も同様だよ、ランサー」

 グッと酒を喉へと通すドリアン。
 そして、相変わらず覇気のない垂れた目でスカサハを見つめる。

「私もだ。
 私が聖杯に望むものは唯一……敗北だけだ」

 ほう、とスカサハが楽しげに笑った。
 勝利に飽いた者同士、どこか感じ取れるものがあったのだろう。
 その笑みをきっかけのようにドアのノック音が響き、給仕が現れる。


671 : ドリアン&ランサー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/15(火) 23:49:56 9JhfIgUY0

「失礼します。続いて、酢豚になります」
「ああ、ありがとう」
「酒の追加をもらおうかな」

 ケチャップをベースに作られた、世界でも人気のスイートアンドポークサワーである。
 ドリアンは空になった酒の容器を差し出し、追加を求める。
 すると学生アルバイトはぎこちないお辞儀をした後に退室。
 再び、ドリアンとスカサハだけが室内に残される。

「面白いな、マスター。お望みならば……今すぐに私が『敗北』をプレゼントしてやってもよいぞ?」
「君が、私に?」

 まるで情事を誘うような熱い色を持って囁かれたランサーの言葉。
 その言葉に、ドリアンは童子のようにキョトンと目を丸める。
 そして、戸惑ったように手元の料理を眺めた後に、ふぅ、と長い溜息をついた。



「君では無理だ」



 ガタリ、と。
 スカサハが勢いよく椅子から立ち上がった。
 ピシリ、と。
 ドリアンの言葉が原因となって、空気が歪んだ。
 気持ちの弱いものならばそれだけで心臓の鼓動を止めてしまうほどの息苦しさ。
 すなわち、立ち上がったスカサハが放つ殺気である。

「…………面白いことを言うな」

 影の国の女王、スカサハ。
 それはケルト神話に伝わる、あらゆる勇士たちの師。

 ────ケルトの『武』をたどれば必ずスカサハにたどり着く。

 そう熱弁する神話学者もいるほどの、あらゆる戦士と力の『母』とも呼べる強烈な女傑である。
 そのスカサハへと、ドリアンは『君では私を負かす事はできない』と宣ったのだ。

「事実だ、君では私に敗北を教えることなど……とても、とても……」
「ふ、ふふふ、ふははは!」

 ドリアンの言葉にスカサハは呵呵と大笑を見せる。
 長く、長く、笑っていた。
 途中で追加の紹興酒を持って現れたウエイターがビクリと震えても構わずに笑い続けていたほどである。

「ふふ、面白いぞ。ああ、とても面白い。一通り笑ってやっと落ち着いた」

 ふふ、と魅力的に笑いながらスカサハはそのまま椅子に腰掛ける。
 どうやら、感情が落ち着いたらしい。
 もしも、ドリアンとスカサハ以外のものが居たならばこの険悪な空気をスカサハが笑って赦すことで落ち着かせたと勘違いしただろう。
 そう、勘違いを。


672 : ドリアン&ランサー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/15(火) 23:51:13 9JhfIgUY0


「邪ッッッ!!!」


 だが、数多の勇士の師であるスカサハが誇りを逆撫でする言葉を口にして矛を収める道理など存在しない。
 円卓を思い切り蹴り上げる。
 料理の載った皿はもちろん、ネジ止めをされた巨大な円卓すらもドリアンへと襲いかかるほどの強烈な蹴りだ。
 そのまま円卓がドリアンの太い首に突き刺さり息の根を止めんと襲いかかる。


 墳ッ!!!!


 しかし、ドリアンはその巨大な拳を握り、まるで差し出すように迫りくる円卓へと突き出す。
 すると、まるで手品のように円卓は真っ二つに割れてみせた。
 寸勁、ワンインチパンチと呼ばれる東洋の神秘にて円卓テーブルによる襲撃を回避してみせたのだ。

「どうする、甘美なる敗北は目の前だぞ?」

 だが、しかし。
 ドリアンの眼前には真紅の魔槍が突きつけられていた。
 先の攻撃が目隠しとなっていたその槍は、必殺の穂先である。
 スカサハはまるで肉食獣のように頬を釣り上げて、怒りに満ちた瞳で笑みを向けている。

「何度も言うが、君では私の望む敗北は与える事ができない」

 キシリ、と槍の持ち手が軋み始める、スカサハの人智を超える握力で強く握られたためだ。
 その意味がわからないほどに、ドリアンは愚かではない。
 それでもドリアンは言葉を続けた。

「私に勝つということは、ランサー、君にとっては敗北であるからだ」
「ほう」

 続けろ、とスカサハの赤い唇が動く。
 目から、僅かに怒りの色が失せた。

「君は私がいなければ全力を出せない。いいや、それどころか、戦うことすらもままならず消滅する。
 『君を召喚できた私』だからこそ、わかる。
 君は今、甘美なる敗北という美酒を手にしていて、それは君が長い年月の中で恋い焦がれるまでに望んだ美酒だ。
 にも関わらず、君は目障りな蟻を殺すそれだけのためにその美酒を蟻の巣穴に流し込むような愚行は出来ない」
「ふむ」

 正論だ、と言ってスカサハは再び椅子に座り込んだ。

「故に、君に私へと『敗北』をプレゼントすることなど出来ない」
「私が今回の聖杯戦争という機会を手放しても、侮辱をした貴様を殺すと決めていたら?」
「私と同様に『勝利』を飽食し続けた君は、あの甘美なる『敗北』を前にしてその権利を放棄することなど出来ない。
 もしも出来るのならば────ランサー、君の敗北への欲求は偽物だったと言うだけだ」
「ふ、ふふ、わ、私を前にして偽物と言うか!
 この死の化身、影の国の女王たるスカサハを、偽物だと!」

 再び大笑いをするスカサハ。
 今度は、怒りを隠しているわけでもない。
 ドリアンの口にした、敗北というものへの欲求の強さに呆れ返り、敬意を示したのだ。


673 : ドリアン&ランサー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/15(火) 23:52:00 9JhfIgUY0

「ならば……勝負となるな、マスター。全力全霊を持って聖杯戦争での勝利を目指す私と貴様、どちらが先に手も足も出ない敗北を手にするか。
「ああ、そうだ。
 これは私と他のマスターたちとの勝負だけではない。
 君と他のサーヴァントたちとの勝負だけではない。
 私と君、どちらがより先に『甘美なる敗北』を手にするかという勝負でもあるのだ」
「ふふ、食事は終わりだッ!
 昂ぶったこの心身に、こんな安物の料理は冷水をかぶるようなものだからな!」

 スカサハは興奮したように言葉尻が強くなる。
 そして、ドレスを翻すと、壁に溶けるように消えていった。

「……やれやれ、とんだお転婆な女王様だ。これをどうすればいいのか」
「し、失礼します! なにか音が……って、なんだこれ!?」

 消え去ったスカサハを眺めていると、轟音に反応した給仕のアルバイトが訪れた。
 アルバイトは部屋の惨状に呆然とし、ドリアンは肩をすくめてうそぶく。

「ああ、連れに悪さをしたら少し興奮してしまってね」
「い、いや、興奮って、なんだ、これ……円卓が粉々に……!?」

 当然、そんな言葉を信じるわけもない。
 アルバイトは、後ずさっていく。
 目の前の異様な老人が、妙に恐ろしかったのだ。
 だが、その恐怖心に従って逃亡しきれない程度には彼は平和ボケした人間であった。
 それが、彼の不幸である。

「さて……ランサーが暴れてしまったからね。勘の鋭いものなら、飛びついてくるかもしれないな」
「あ、ああ……」
「そう怖がることはない」

 まるで孫の頭を撫でるような優しい動きで、ゆっくりとアルバイトへと腕をのばす。
 恐怖と動揺によって動けないアルバイトはその腕を振り払うことも出来ない。
 ドリアンは右手をアルバイトの額に、左手をアルバイトの首裏へと回す。
 そして、短く息を吸い。

「痛みもなく殺してあげよう」

 コキリ、と首をねじり殺したのだ。
 額に当てた右手を強く押し、首に回した左手を引きつけるようにすることで、喉仏から骨が突き出ている無残な死体の完成であった。

「な、なにが────ひぃぃぃぃぃ!??」

 そのまま、新たな店員が訪れる。
 平日の夜、本日は予約が少ないために従業員も少ないようだ。
 ドリアンならば────『最凶死刑囚』とまで呼ばれた最低最悪の殺人鬼であるドリアンならば。
 ここにいる店員全てを惨殺せしめるのに時間にして十分も必要ない。
 事実、ドリアンはそのまま店員を殺していく。
 『絵の具』と『材料』を揃えるために。


674 : ドリアン&ランサー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/15(火) 23:52:59 9JhfIgUY0


 後日、通報によりそのレストランへと訪れた警察官たちは総じて顔を青ざめさせた。
 とある個室の円卓の回転テーブルの上に、七つの皿に七つの生首が並べられていた。
 悪趣味なその姿に、入り口には嘔吐された吐瀉物が散らばっている。
 恐らく、第一発見者が耐えきれずに吐いてしまったのだろう。
 だが、もっと珍妙なのはその個室に書かれた血文字であった。
 その血文字に、曰く。





 ────Ladies and Gentlemen. See you again,"HOLY GRAIL WAR"(紳士淑女諸君。『聖杯戦争』で会おう)







【クラス】
 ランサー

【真名】
 スカサハ@Fate/Grand Order

【ステータス】
 筋力:B 耐久:A 敏捷:A 魔力:C 幸運:D 宝具:A+

【属性】
 中立・善

【クラススキル】
 対魔力:A+

【保有スキル】
 魔境の知恵:A+
 人を超え、神を殺し、世界の外側に身を置くが故に得た深淵の知恵。
 英雄が独自に所有するものを除いたほぼ全てのスキルを、B〜Aランクの習熟度で発揮可能。
 また、彼女が真に英雄と認めた相手にのみ、スキルを授けることもできる。

 原初のルーン:-
 北欧の魔術刻印・ルーン。
 ここで言うルーンとは、現代の魔術師たちが使用するそれとは異なる。
 神代の威力を有する原初のルーン―――北欧のオーディンによって世界に見出されたモノである。
 スカサハは、 クー・フーリンに対して原初の18のルーンを授けたとされる戦士であると同時に強力な魔術師でもある。
 
 神殺し:B
 異境・魔境である「影の国」の門番として、数多くの神霊を屠り続けた彼女の生き様がスキルと化したもの。
 神霊特攻。
 神霊、亡霊、神性スキルを有するサーヴァントへの攻撃にプラス補正。


675 : ドリアン&ランサー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/15(火) 23:57:39 9JhfIgUY0

【宝具】
『貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:5〜40 最大捕捉:50人
 ケルト神話において大英雄クー・フーリンの所有する紅の魔槍と似ているが別物であり、彼女が使うものは一段階古く、弟子のクー・フーリンへと下賜した魔槍の前に使っていた同型の得物。
 一本だけではなく複数本存在しており、時には二槍流、時には雨のように無数の弓矢を投擲して戦う。
その中でも強力な技が、スカサハの全膂力と全魔力を用いて投擲される投槍である。
 まず一本目の魔槍で敵を「空間に縫い付けて」自由を奪い、更には二本目の魔槍を全力投擲して止めを刺す。
当然、投擲された魔槍の軌道上の敵はことごとく命を奪われる事となる。
 クー・フーリンの魔槍と異なり、不死の呪いは薄らいでいる。

【weapon】
 ゲイ・ボルグ・オルタナティヴ

【人物背景】 
 黒い戦装束に真紅の魔槍を携えた、赤い瞳の女性。
 誇り高く、
 何者にも靡かない王者の気質を有しており、
 自己が才能に溢れ、
 凡人とは違う事を把握しているのと同じく、他者の素質と気質を見抜く鑑識眼を有している。
 弟子に対する教育方針はかなりのスパルタであり、不意に影の国の弟子一同に対して殺し合いさながらの最終試験を行っている。
 人も人ならぬ者も殺しすぎたせいで死というものに大してあやふやとなり、死ぬことができない。
 長らく生きた影響か魂が死んでおり、性根は冥府の魔物と大差ない。
 本来はサーヴァントとして召喚されることがない。

【サーヴァントとしての願い】
 敗北を知りたい。(どのようにして召喚され得る形になったかは後続にお任せします。)

【マスター】
ドリアン@バキシリーズ

【マスターとしての願い】
 敗北を知りたい。

【weapon】
 無数の暗器。

【能力・技能】
 ・中国拳法
 中国拳法における頂点の一つである『海王』の称号を持つほどの達人。
 ただし、それほどのドリアンを持ってしても深遠なる中国拳法という大山を前にしてみれば未だ麓を踏みしめたばかりである。
 その中には無数の暗器を自在に操る武器術の心得も当然ある。

 ・催眠術
 虚を突くことで敵を暗示状態に陥らせ、『当人にとって』都合の良い展開を魅せる事ができる。

【人物背景】
 かつては『ドリアン海王』とまで呼ばれたほどの優れた中国拳法家であった。
 様々な経緯を経て、その残虐性と奇妙な思想から犯罪を犯し、死刑囚として投獄される。
 絞首刑に処されるも必要時間の首吊にも耐えて脱走。
 『敗北が知りたい』と言って、東京へと向かう。
 勝利を飽食し続けたため、全力を尽くして言い訳の出来ない敗北こそを求めている。

【方針】
 全力を持って聖杯戦争にのぞみ、その上で完膚なきまでに打ちのめされたい。


676 : ドリアン&ランサー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/15(火) 23:57:59 9JhfIgUY0
投下終了です


677 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/16(水) 00:07:08 xTKEHxaw0
投下します


678 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/16(水) 00:07:35 xTKEHxaw0



―――深い深い闇の中を、ひた走る。
何故か?そうしなければ死んでしまうから。
そうしなければ、全てが終わってしまうから。


「だっ…誰か!助けて…!」


息を切らしながら助けの声を上げても、現実には颯爽と現れるヒーローはいないらしい。
背後を振り返れば、死の陰がすぐそこまで迫っていた。
こんな事なら、学校が終わった後に直ぐに家に帰っているんだった。
バイト帰りに、何時も家族のために頑張ってくれている姉を労うために甘い物でも買って帰ろうとしたのは間違いだった。
幾ら後悔しても足りないが、時すでに遅く。
今はもう、緑の髪を必死に揺らして走る事しかできない。


「あっ…!」

何処か冷静に、汗で身体に張り付いたシャツが気持ち悪いと思った時だった。
足を取られて勢いよく地面を転がる。
足に走る痛みは、この状況が年貢の納め時(ゲーム・オーバー)であることを如実に示していて。
無様に腕だけで逃げようとしても、死から逃れられるはずもない。
死の影は、あっという間に追いついてきた。


「こ…こないで…!やだ…やだよ…
だって、やっとこれから。全部始まるのに……」


こんな所で終わりたくなかった。
だって、ようやく全てが始まる所まで来たのだから。
あれだけ苦しい思いをして、やっと――――になる事を許されたのだから。
後悔ばかりの時間だったけれど。溺死しそうなほど苦しい時間だったけれど。
きっと、此処で死ななくてもそう遠くないうちに溺れて死んでしまうのかもしれないけれど。
それでも、まだ。まだ自分は。
諦めるに足る、理由を得ていない。
こんな所で終わりたくは、無かった。


「あ、れ…私……?」


その時、少女に違和感が奔る。
私は一体何だったのか?何かとても大事な事を忘れている気がする。
思い出したい。でもそんな時間を神は彼女には与えない。
どれだけ少女が祈っても、神は冷酷に命じるのみだ。そのまま、奪われたまま死に行けと。
死の影が遂に目の前までやって来た。神は、彼女を救わない。
だから。


「―――伏せて!!」


だから、人を救うのは人だった。
少女に飛びかからんとしていた影を討つのは、彼女と同じぐらいの背丈の杖を持った少女。
白を基調とした服を纏う少女がその手の杖を振るうと、光を放って。
金の髪を煌めかせ、翠の瞳は前だけを見つめて、襲い来る死を打ち払う。
少女が杖を一振りするごとに、死が霧散していく。


月明かりに照らされて映るその光景は。息を飲むほど神秘的で、美しく、特別な物だった。
その白い少女は紛れもなく…特別な存在だった。


「……ッ!」


その光景に眼を奪われていると、右手に熱が駆け抜けた。
右手を見れば、三角の奇妙な紋様が刻まれていて。
その紋様を見た瞬間、卵の殻を破るように、情報と記憶が流れ込んでくる。
サーヴァント。聖杯戦争。聖杯。マスター。そして……


「そうだ、私……」


自分が、283プロダクションと言う事務所に所属していた、アイドルであった事。
それを思い出した時には既に、目の前に白い少女が立っていた。
自分を救ってくれた少女は、凛とした声でコツリと杖を地面に打ち付けて。
そして尋ねた。


問おう。貴方が私のマスターか、と。



―――――その夜。少女は、運命と出会った。


679 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/16(水) 00:07:59 xTKEHxaw0



                 ▼   ▼   ▼



「―――――……い…………
プロ……………てま…………」


「夢」を見ていた。
それは過去。彼女の記憶。かつて一人の少女が歩んだ一幕。


「にちか、しっかり呼吸するんだ…!吸って、吐く………落ち着いて、しっかり―――」


記憶の中の彼女は、まるで命を燃やし切った様に苦し気で。
受け止める”彼”も、かつてない程焦燥を露にしていて。


「…………………どんな………かお………」
「無理に喋らなくていい、息をするんだ……!」


息をする事すらままならない、そんな状態でそれでも彼女は尋ねる。
自分は今、どんな表情でいるのか、と。


「………どんな……かお…………わたし………笑えて………」
「……っ。どんな顔って……苦しそうだよ…………!
――――――けど、笑えてる」


そう。
今にも消え入りそうな心と身体で。
それでも彼女は笑っていたのだ。
光り輝くステージではないのに。もう無理やり作った笑顔を浮かべる必要もない。
それでも、彼女は笑っていた。


「大丈夫だ。しっかり吸って、吐いて、落ち着くんだ……
これでもう……思いきり笑えるんだから――――」


その時何を思って笑っていたのかはきっと、彼女自身にも分からないだろう。
しかし、確かな事がたった一つだけ。
その笑顔は。
彼女が身と心をすり減らして手に入れた本当の笑顔は。
平凡などでは断じてない。特別な輝きに満ちたものだった。





                 ▼   ▼   ▼


680 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/16(水) 00:08:26 xTKEHxaw0


すっかり日も落ちた頃、小高い丘の上にある公園。
そこに設置されたベンチでに腰掛けながら、私、七草にちかは街を見下ろしていた。
街を見下ろしながら、私は隣に座る”彼女”に語り掛ける。


「―――聖杯戦争、始まっちゃうんですね。キャスターさん」
「……はい、マスター」


私の言葉に、静かに彼女は返事を返す。
彼女が私の引いたサーヴァント。キャスターさん。
綺麗な金髪碧眼で、白を基調にした活動的な服と頭に被った帽子が特徴的な同い年の女の子。
本名は、アルトリアさんと言うらしい。
彼女は返事を返した後、じっと此方を覗き込んで、そして口を開いた。


「何て言うかマスター、落ち着いてますね」
「いや、めっちゃビビッてますよ。正直怖くて怖くて仕方ないです」


アルトリアさんはもう直ぐ願いを叶える権利を賭けた殺し合いが始まるのに、落ち着いて見えた私を不思議に思ったらしい。
でも、落ち着いているなんてとんでもない。口に出した通り、正直勘弁してほしいと思ってるのは偽らざる本心だ。
もし、落ち着いて見えるとしたなら、それは、


「でも…一回負けたら終わりってこの感じ、実は始めてじゃないんですよ」


勝たなくちゃ、全てが終わってしまう。
それはつい最近まで挑んでいたWINGへの挑戦と同じだった。
アイドルを続けるのとは全然違うと思われるかもしれないけど、それは私にとってそう変わらない事だ。
もし負けていたら…私はきっと、空っぽのどんぐりになっていただろうから。


「今回はアル…キャスターさんが居てくれますし。優勝を目指さなくていい分、少しマシかもですねー」
「では…マスターはやっぱり聖杯は……」
「はい、キャスターさんが叶えたい願いがあったら…すみません」
「いやいやいや!私も叶えたい願いって言われても身長くらいしか思いつきませんし……」


身長、欲しいんだ。
慌てて否定するアルトリアさんの様子が何だかおかしくて、少し笑ってしまった。
……聖杯に願いたいことが無いわけでは無い。むしろたくさんある。
いい病院でお母さんの体調が良くなってほしいだとか。お姉ちゃんにもっと楽をさせてあげたいだとか。
皆が帰ってくる家を建てたいだとか。……お父さんに、もう一度会いたいだとか。


「でもそれは、私がビッグになれば私の手で叶えられますから…最後以外」


もしかしたら以前の私なら、なみちゃんみたいなアイドルになりたいと飛びついていたかもしれない。
何も考えず、能天気に。願いを叶える事が、どんなに苦しいことかも知らないで。
なみちゃんへの思い自体は今でも変わってない。
だけど、今ならわかる。
そのために誰かを犠牲にするのは、絶対に間違った事だって。
なみちゃんの抱いていた悲しみを。
なみちゃんが本当に歌いたかったことは別にあったんじゃないかと気づいた今だから。


なみちゃんを、誰かを犠牲にする言い訳には使いたくない。
だってそれじゃあ…なみちゃんが余りも報われない。
だから、私は聖杯へ縋らない。
奇跡を手放して、何者でもない七草にちかとして元の世界へと帰るのだ。


681 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/16(水) 00:09:21 xTKEHxaw0


怖いけど。
例え無事に帰れたとして、待っているのがいい未来とは限らないから、怖くて怖くて堪らない。
なみちゃんの時間を追い越した後の時間を、私は作れるのか。
分からない。とても苦しい。
押しつぶされそうになるたびに、前にプロデューサーさんが言った笑うための戦いを思い出す。
この聖杯戦争でも、大事な事はきっと同じだと思うから。
だから、例え負けて誰にも知られず此処で消えていくとしても。
せめて最後のその時まで笑っていられそうな道を選びたかった。


「でも良かった。キャスターさんが誰かを傷つけてるところ…見たくなかったから」


アルトリアさんは、不思議な人だった。
サーヴァント。
歴史に名を残した英雄。
彼女はそんな凄い人で、実際私を助けてくれたときはめっちゃ凄くて。

それでいて、何処か哀しい人だった。
アルトリアさんを見ていると、何故かなみちゃんを思い出した。
そんな彼女が、私と一緒に戦ってくれる。WINGに挑む前の、なみちゃんの様に。


「――私は、一人じゃ何もできません。弱っちくて、脆くて、空っぽのどんぐりです。
一人じゃ何もかも足りませんし、真っすぐ立ってる自信もありません。
でも、それでもキャスターさんがいいなら…手伝ってもらえますか……?」


もし彼女が、こんなマスターであることを許してくれるなら。
アルトリアさんと一緒に歩いていきたいと想った。
私なんかがおこがましいのは分かってるけど。
その途中で、少しでも彼女の抱いた悲しみを癒したかった。
なみちゃんはもういないけれど、彼女は此処にいるから。


「も、勿論です!けど……」
「けど?」
「マスターは、それで本当にいいのですか?」


アルトリアさんが何を思ってそう問いかけたのかは分からない。
でも、私は迷うことなく、無言で首を縦に振るった。
一応、これでもアイドルのはしくれだから。
“この世界では”アイドルではないけれど。
それでもアルトリアさんの隣では、アイドルでいたかった。
私はきっと、彼女に笑っていて欲しかった。


「それじゃあ…えっと、よろしくお願いします。
帰る方法を見つける、その時まで」


そう言ってベンチから立つとアルトリアさんに向き直り頭を下げる。
少し間があったけれど、もう彼女は尋ねては来なかった。
ただ、真っすぐに。さっきまでのお転婆な声じゃなくて。
何処かの国の王様みたいな、凛とした声で、私の願いに応えてくれた。 


―――平凡で、何も持っていない私だけど。
それでも、誰よりも特別な貴方となら生きていけるって、そう思えた。


682 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/16(水) 00:09:55 xTKEHxaw0

.
            ▼   ▼   ▼
 


―――聖杯戦争に召喚された私がまず感じたのは、自身の欠落だった。
自分の中の、何かが足りない。霊基が十分に構成去れてない違和感。
本来の召喚ならばあり得ない状態であることは、直ぐに分かった。
理由は分からない。
自分が未熟なせいか。マスターが平凡な少女だったせいか。それとも両方か。


……やだなぁ。自信ないなぁ……


幸いにして他の主従が放ったと思しき使い魔程度なら撃退できたけれど。
身に着けた魔術は、それなりに様になってはいたけれど。
それでもやっぱり無理だろう。
今の私には自信がない。力がない。資格がない。
ただでさえないない尽くしなのに、更に霊基の欠落まである。
…もし、十全な状態で召喚されていれば、もう少し自信を持てたのだろうか。

とは言え、それは意味のない過程だ。
何処まで行っても、私は何もかも足りない私でしかなくて。
聖杯戦争を勝ち残る所か、生き残る姿さえ、現実味がなかった。
そして、私を引いたマスターも。『何処にでもいる誰か』だった。
私を引いた少女…七草にちかという少女は、兎に角平凡な少女だった。


「それにしても…家まで無くなってるとか超ありえなくないですかー?
聖杯用意した人って、めっちゃ性格悪いんじゃないですかね!」


そんなマスターと夜空を見ながら、私は帰路についていた。
帰るのはマスターの自宅ではない。駅前にあるビジネスホテルだ。
聖杯は、彼女に帰る家を与えなかった。
彼女が住んでいた場所には、見たこともない家族が住んでいたのだ。
もし引いたサーヴァントが魔術を使える私でなければ、彼女は路頭に迷っていただろう。

聖杯が彼女に与えなかったのは家と家族だけではない。
彼女がかつて人に希望を与える…アイドルと言うらしい、をやっていた場所も存在しなかった。
何人かは見知った顔もいたけれど、彼女を育ててくれていた者も、彼女の姉もそこにはいなかった。
まるで世界の異物のように、彼女は扱われていた。


「なるべく早く帰って…また、レッスン頑張らないと……!」



それは、一体どれ程の絶望だっただろうか。
―――大丈夫、上手くいくとうわ言のように唱えながら、ホテルの一室で彼女が嗚咽を漏らしていたのを私は知っている。
でも、そんな姿を見ているからこそ、不思議な事もあった。


「マスターは本当にその…アイドルが好きなんですね。きっと、大変なのに」


人々の希望となり笑顔を届けるアイドル。
それをやっている事があのベッドで震えていた少女にどれだけの辛くて苦しいか、私には分かる。
彼女の瞳は私と一緒だったから。
戦う力もないのに戦場に駆り出されて。それでも自分は『予言の子』だからと逃げる事もできなかった私と。
だが、彼女は私と違って…その辛くて苦しいアイドルと言う立場を愛しているようだった。
きっとソレを続けるのは辛くて、不安で、苦しくて堪らない筈なのに。
それでも、彼女は――私と、同じはずなのに。
何処にでもいる誰かのはずなのに。


683 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/16(水) 00:10:29 xTKEHxaw0


     


「えぇ勿論!めっちゃ大変ですよ。だけど、私はきっと」


辛いなら辞めてもいいんだよ、とは言えなかった。
だって、それよりも早く彼女は、


「何回始まりの日を繰り返しても、アイドルになることを選ぶんだと思います」


そう、答えていたから。
どれだけ後悔の日々を積み重ねるのか知っていても。
どれだけ辛い道行になるか知っていても。
それでも自分はきっと、何度でも星を翳すだろうと、彼女は言った。


「怖くて、不安で、辛くても。私は”あの時”笑えてたみたいだから。
私の見た夢は、苦しいだけの者じゃなかったって信じたいから」


まだ私は戦えていると、嵐の向こう側にいると。
もういない誰かに届いてほしいと願うように。


―――あぁ、思い違いをしていた。
この時ようやく私は、見誤っていたことに気づいた。
マスターは…七草にちかと言う少女は平凡だけれど、それが全てでは決してないのだ。
平凡だけれど…彼女は確かに特別な存在だった。
私なんかより遥かに。


「その…調子に乗っちゃたら痛いんですけど…最近ちょっとだけ達成感っていうか…
嬉しい事があって、前より少しだけ諦めが悪くなったみたいで…あはは」


私は知っている。
この少女の掴んだ未来が、成し遂げた戦いが、聖杯によって奪われたことを。
私には分かる。
掴み取った未来さえ容赦なく牙を?き、少女に試練を与えて。
その度に数えきれない傷を負って、不安と恐怖に苛まれるであろうことを。


「もう直ぐプロデューサーさんが私の相方になってくれる人を紹介してくれるって…
だからこんな所で終わるの、めっちゃむかつくっていうか……」


でも…それでも彼女は戦うのだろう。
身体は崩れ落ち、呼吸すら満足にできなくなっても。
自分の無力さを誰よりも理解して、それでもなお。
それでも彼女は……戦う事から背を向けないのだろう。


―――そして、そんな彼女が、私をの力が必要だと言ってくれている。


684 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/16(水) 00:11:05 xTKEHxaw0

「キャスターさん。どうしました?
……も、もしかして引いちゃいました?あ、あはは、何言ってんだろ、私」


私にもできるだろうか。
この子のように運命と戦う事が。
笑うために、戦う事が。



「―――いいえ、マスター」


いや、しなければならない。
それがあの夜にこの子を助けた私の責任であり、
この子よりもほんの少しだけ多くの物を持っている私の義務であり、
予言の子でも何でもない、この子の友でありたい私の願いなのだから。


「大丈夫、大丈夫ですよ。マスター」


正直、私一人では今でも自信がない。
けれど、そんな私を貴方は信じてくれているから。
だから俯かない。
貴方に貰った借り物の決意と勇気だけれど。
それでも胸に抱いたこの思いは本物だと思えるから。
一人では何処までも半端者だけれど。
貴方と二人なら、この世界を生きていけると思ったから。


「マスターは幸せになるんです」


元の居場所へ戻った貴方の戦いを、最後まで見届ける事はきっとできない。
それでもこの地に在る内はせめて。
未来へ走る貴方への贐として、鐘を鳴らすことを夜空に浮かぶ星に誓う。
それはいつか来る兆しの星。希望の地。楽園の跡。
そして運命はきっと、貴方のために。



――――――私はそのためなら、何度だって鐘を鳴らしますから。


.
            ▼   ▼   ▼


夢は夢で終わらせない。
だって―――私と同じで、誰よりも特別な貴方が、私を見つけてくれたから。


685 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/16(水) 00:11:24 xTKEHxaw0

【クラス】
キャスター
【真名】
アルトリア・キャスター@Fate/Grand Order
【パラメーター】
筋力:B 耐久:D 敏捷:B 魔力:A 幸運:B 宝具:A++
【クラススキル】
陣地作成:EX
自身に有利な陣地を作成できる。
宝具として持つ領域が該当しているため、評価規格外となっている。

【保有スキル】
対魔力:A
魔術への耐性。ランクAでは魔法陣及び瞬間契約を用いた大魔術すら完全に無効化してしまい、事実上現代の魔術師が彼女を傷付けるのは不可能。

独自魔術:B
汎人類史におけるどの魔術基盤とも一致しない独自の魔術形態。
例え同じキャスタークラスであっても彼女がどんな魔術を扱うか、その効果を初見では看破できない。

希望のカリスマ:B
予言の子として育てられ、旅立った彼女には人々に頼られ、期待されるカリスマが具っている。その効果は魔術師マーリンが見せる『夢のような戦意高揚』に近い。
発動中は自身又は自軍の筋力値にボーナス補正がかかり、魔力が回復する。

湖の加護:A
湖の妖精たちによる加護。予言の子に与えられた祝福、あるいは誓約。
発動中の自身又は自軍のサーヴァントは物理的攻撃を無効化し、魔力を回復する。

選定の剣:EX
選定の杖と共に選ばれた彼女が、最後に辿り着く在り方を示したスキル。
発動中は自身又は自軍のサーヴァントに人類の脅威への特攻効果を付与する。

【宝具】
『きみをいだく希望の星(アラウンド・カリバーン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:0~50人 最大捕捉:100人
『選定の杖』によって開放される、キャスターの心象世界。共に戦う者たちを守り、強化する、楽園より響く鐘の音。
花園の中心に立つ『選定の杖』にキャスターが触れることで、「対粛正防御」結界が展開され、自陣営に加護を与える。
対粛正防御とは、英雄王の「エヌマ・エリシュ」のようなワールドエンド級の攻撃も防ぐことが出来る最上級の防御。
如何なる攻撃も、デメリットをもたらす特殊スキル・宝具も無効化され、さらに展開中は自陣営のステータスにボーナス補正が発生する。

【weapon】
選定の杖

【サーヴァントとしての願い】
マスターを元の世界に送り届ける。


【人物背景】
『選定の剣』ではなく『選定の杖』と共に選ばれた、預言の子であるアルトリア。
災厄を撃ち払い、偽りの王を倒し、妖精と人間を従えた真の王になるという16歳の少女。
選定の剣を抜いた少女の、普通で特別なIFの姿。

【備考】
霊基の一部が欠落した状態で召喚されたためか、未熟な頃の精神性で召喚されています。


686 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/16(水) 00:12:15 xTKEHxaw0


【マスター】
七草にちか@アイドルマスター シャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
無し(元の世界へ帰りたい)

【能力・技能】
WINGを優勝できるだけのパフォーマンス技術。

【人物背景】
283プロダクションに所属しているアイドル。
誰よりも普通で、特別な少女
七草にちかシナリオ、WING優勝ED後より参戦です

【方針】
帰還への方法を探す。


【備考】
ロールが設定されていません。つまりホームレスです。
283プロダクションも別の事務所になっている様です。


687 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/16(水) 00:14:07 xTKEHxaw0
投下終了です
タイトルは『七草にちか&キャスター』になります


688 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/16(水) 16:42:06 wp3DdZ9s0
投下します。


689 : Treasure in Your Hands ◆Pw26BhHaeg :2021/06/16(水) 16:44:15 wp3DdZ9s0
 夜。暗い部屋で、人形を抱いて震える少女がひとり。

「えぇ……何ですかこれぇ……? 地獄の責め苦かなんかですか……?」

 彼女は、記憶を取り戻した。聖杯戦争のマスターとしての記憶と知識。
そして生前の、死後の、多くの記憶を。彼女は悩み苦しんでいた。

 どこかの地獄に落ちそうなことは、いろいろしてきた自覚がある。
多数の人々とその子孫の人生を、自分のせいで狂わせたとも言える。
たったひとりのエゴのために、たったひとりを殺すために、
二千年以上も「死」の研究を積み重ねさせ、呪いを蓄積させたのだ。

人を呪わば穴ふたつ。覚悟はしていたが、なんと皮肉な地獄だろう。
よりによって聖杯戦争の、マスターに任命されるとは。

「そりゃ、英霊になるほどのことはしてませんけど……うぅ……」

 あの時、自分がサーヴァントになることができたのは、
自分の弟子たちの子孫の村が特異点になっていたため。聖杯が存在したためだ。
今回は、そうではない。擬似的に再現された東京で、聖杯を作るために戦えという。
罪滅ぼしをせよということか。こういうのは地獄というか、どこかの宗教でいう煉獄というやつではないだろうか。

『安心して。僕がいるよ』

 不意に、空中に金色の光の粒が集まり、鈴が鳴るような声と共に、輝くような美青年が姿を現した。
華奢な四肢五体、繊細な指、水色の髪、天使じみた寛やかな服装。頭上には光の輪。
少女は、直感的に理解した。彼は自分のサーヴァントだと。

『はじめまして、こんにちは。僕は「キャスター(魔術師)」のサーヴァント。
真名は「普賢真人」だよ。今後ともよろしくね』

「あ、はい! わ、私は『徐福』です。よろしくお願いします」

 深々と頭を下げる。神聖で善良なオーラが伝わってくる。
真人。すなわち神仙だ。不死不滅にして不老の存在。少女がかつて、殺そうとした存在。

『マスター……徐福ちゃん、って呼んでもいいかな。
ええと、なんだか聞いたことのある名前だけど?』

 キャスターは首を傾げた。

「は、はい。本人です」


690 : Treasure in Your Hands ◆Pw26BhHaeg :2021/06/16(水) 16:46:15 wp3DdZ9s0


 情報を交換し、互いの心の中を少し覗く。やはり彼は仙人だ。
正確には、三千年前に起きた『殷周革命』で命を落とし、封神され、
英霊の座に記憶された存在だ。後の世には仏教で普賢菩薩として崇められたという。

『斉の道士、もとい方士か。ひょっとして、それで僕と縁があったのかな。太公望を知ってる?』
「は、はい。もちろん」
『彼とは幼馴染の友人なんだ。キミの方術も、彼に遡るものもあるかもね』

 キャスターは莞爾と微笑んだ。
虞美人様とはタイプが違い、蘭陵王に近い女性的な美青年だ。妙な縁がある。

『それで、キミは聖杯に何を望むの? 願い次第では協力するよ』
「……あの、特にないので、どうしようかと」

 正直な意見を述べる。虞美人様を殺すために積み重ねたことは、水泡に帰した。
そもそも彼女が死を望んでいないなら、無理やり押し付けるのは良くないことだ。
じゃあ、それを抜き去った私に、何が残るのか。何もない。
聖杯で彼女やマシュちゃんを召喚することはできるだろうが、今さら合わせる顔もない。
一体全体、自分は何のためにここにいるのか。

『そう。じゃあ、人助けをしよう』
「え」

『キミは、少なくとも悪人じゃないことはわかる。
努力家で頑張り屋で、ちょっと思い込みが激しいけど。
そして僕は平和主義者で、争いを好まない。
それなら、巻き込まれて困っている人たちを助ければいいんじゃないかな』

 キャスターは膝に抱えた球体をさすりながら提案した。
少女は……頷く。もしも虞美人様やマシュちゃんがこの場にいたら、そうするかも知れない。
不死者を殺す方法を求めるよりは健全だろう。

「わ、わかりました。私が、今度は、誰かの命を救う役に立つのなら!」


691 : Treasure in Your Hands ◆Pw26BhHaeg :2021/06/16(水) 16:48:32 wp3DdZ9s0
【クラス】
キャスター

【真名】
普賢真人@封神演義

【パラメーター】
筋力E 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具A

【属性】
中立・善

【クラス別スキル】
陣地作成:A
 魔術師として、自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。
崑崙山脈の九宮山に洞府「白鶴洞」を構える高位の仙人。

道具作成:A
 魔力を帯びた器具を作成可能。
宝貝(パオペエ)「呉鉤剣」を作成したとされるが、作成には相当の時間と材料が必要。

【保有スキル】
真人:A+
 道を体得した高位の仙人であること。
崑崙山脈に洞府を構え、殷周革命に際して封神され、肉体を捨てて不死不滅の存在となった。
後世には普賢菩薩として信仰を集めた。神なので「神性」を含む。

佛理學者:A
 世の理の解答、菩提(智慧)に至らんとする菩薩が纏う守護の力。
対粛清防御と呼ばれる“世界を守る証”。
物理攻撃、概念攻撃、次元間攻撃等をある程度削減し、精神干渉を無効化する。

佛顔三撫:A
 敵対サーヴァントが精神汚染スキルを保有していない場合、
相手の戦意をある程度抑制し、話し合いに持ち込むことができる。
聖杯戦争においては、一時的な同盟を組む際に有利な判定を得る。
平和主義で争いを好まないが、合理的なのでいざとなれば容赦はしない。
三度断ればブッダも怒る。

【宝具】
『太極符印(タイチィ・フーイン)』
ランク:A 種別:対物理宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:50
 師匠・元始天尊より賜った宝貝(パオペエ)。
バスケットボールを一回り大きくした球形の超高性能電脳(コンピュータ)。瞬時に出し入れが可能。
全体がタッチパネル式の画面になっており、両手の指で抱えて操作する。
周辺の地図情報や位置情報を表示したり、敵の攻撃パターンを解析・演算して味方の攻撃にフィードバックさせたり、
特定の相手の鼓膜を振動させて音声を秘密裏に伝達したりと極めて汎用性に富む。

 また、周囲の元素や原子、物理法則を操作して魔術じみた現象を起こすことができる。
自分や味方の周囲に斥力を発生させて物理攻撃を防いだり、水分子を電気分解して吹雪や氷山を瞬時に消滅させたり、
原子核をぶつけて小規模な核融合を起こすことすら可能である。おそらく放射能も操作して無害化できる。
甚だチートであるが、核融合を気合で耐えたり、攻撃がめちゃくちゃ強くて斥力をぶち破るような存在にはどうしようもない。

『呉鉤剣(ウーコウチェン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:20
 弟子の木?に授けた宝貝(パオペエ)。話によっては彼自身も振るう。
雌雄一対の鉈めいた広刃の刀で、投げつけると敵を斬って手元に戻ってくる。  

 なお搭乗型飛行ロボット兵器・黄巾力士も彼の宝貝だが、でかいので持って来れなかった。
頑張れば召喚できるかも知れない。

【Weapon】
 宝具(宝貝)。戦闘は得意ではないが、やむを得ず戦う時は知略をもって戦う。

【人物背景】
 藤崎竜の漫画版『封神演義』に登場する人物。CV:緒方恵美/島崎信長。
古代中国の二大仙人界のうち、西方の崑崙山脈の仙道を統べる元始天尊の直弟子にして、
その幹部たる「崑崙十二仙」の末席に名を連ねる。
仙人となるまでの経緯や生い立ちは一切不明だが、12歳で崑崙に来た太公望とは同期。
彼と親友となり、幼馴染として共に遊び、学び、導いた。
数十年の修行で仙人の資格を得、九宮山白鶴洞の洞主となり、木?(李靖の子、??の次兄)を弟子とした。

 外見は女性と見紛う華奢な美少年/美青年。
物理学を好み、性格は争いを好まぬ平和主義者で自己犠牲的。
敵とは極力話し合いで解決しようとするが、合理的で責任感は強く、三度説得してダメなら容赦はしない。

【サーヴァントとしての願い】
 特になし。

【方針】
 弱者を守り人助けをする。敵とも話し合い、相互の理解を求める。

【把握手段】
 原作漫画。彼が登場するのは物語の中盤、仙界大戦編から。


692 : Treasure in Your Hands ◆Pw26BhHaeg :2021/06/16(水) 16:50:29 wp3DdZ9s0
【マスター】
徐福@Fate/Grand Order

【Weapon】
 特になし。「不死殺しの仮面」は消滅している。ぐっ様人形はある。

【能力・技能】
 一応魔術師(方士)なので一通りの魔術(方術)は使える。念を込めた人形作りが得意。

【人物背景】
 秦の始皇帝の命令を受けて不老不死を探求し、三千人の弟子を率いて東海の彼方に航海に出た方士・徐福本人。
FGO世界では女性で、片目隠れの黒髪少女。
出発直前に出会った仙女・虞美人に惚れ込み、不老不死を殺すことを研究すると密かに誓う。
日本列島に漂着した後、とある山奥に村を作って研究を始めたが、研究の完成を見ることなく寿命で逝去した。しかし……。

 基本的には善人で、努力家で頑張り屋で思い込みが激しく、
他人を憎悪したり、自分が巻き込んだ人々の頑張りを無碍にしたり出来ない性格。
虞美人を熱狂的に信奉しているが、彼女の意志を尊重してもいる。
迷惑をかけた人にはちゃんと謝れる良い子である。予想外のことが起きるとはわはわする。

【ロール】
 引きこもり気味のチャイナ系コスプレ少女。たぶん女子高生。

【マスターとしての願い】
 特になし。虞美人と再会したいが、聖杯を作ってまで彼女を召喚するのは気が引ける。

【方針】
 人助け。聖杯獲得を望まない、話が通じそうなマスターを見つけたら仲間にする。

【把握手段】
 原作(FGOサマーキャンプ2020)。

【参戦時期】
 消滅後。


693 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/16(水) 16:53:33 wp3DdZ9s0
投下終了です。

>弟子の木?
>木?(李靖の子、??の次兄)

表示されない文字は「口偏に托の旁」、タク(タ)です。
??はナタク(ナタ)です。


694 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/16(水) 22:17:15 jx56T.d.0
>>本城刹那&セイバー
癒えない病に冒された刹那の心理をよく表現できているなあと思いました。
そしてそれを受け止めつつ、会話を繰り広げていくクラウドの描写も好きですね。
>「セイバーさん、ハリガネムシって知ってますか?」からの流れが個人的にはとても素敵だと思います。
報われなかったキャラクターだからこそ、クラウドのような主人公気質を引き当てたこの先どんな物語が織り成されていくのかが気になります。

>>三ノ輪鉄男&アヴェンジャー
地の文の独特なリズムがまず目に留まり、そしてそれが読みやすくてするする頭に入ってくることに感嘆しました。
そして上手いのは地の文だけではなく、台詞、特に直情的な感情の発露を描くのがとても上手いなあと。
マスターである鉄男の心情から、サーヴァントであるユーリルの心情への切り替えも巧みで素直に参考になりました。
どうしようもなく歪な絆を寄る辺に進む彼らの在り方が全編通してこれでもかと伝わってきて、すき〜〜〜〜ってなりましたね。

>>ドリアン&ランサー
敗北を希求するドリアンとスカサハ、まずこの組み合わせの妙に唸りました。
言われてみれば絶対合う二人なんですけど、だからこそこうしてお出しされるとうわ〜!すごい!ってなるというか。
個人的にはやはり、>「君では無理だ」の台詞からの緊迫感に満ちた展開運びが好きだなあと。
バキの独特な雰囲気を持ち込みつつも上手く聖杯戦争という舞台に溶け込ませている、そんな技量の高さを感じました。

>>七草にちか&キャスター
今間違いなく界聖杯で一番熱い女、四人目!! 界聖杯くん、乱心!!!
とまあそれはさておき、今までのにちかたちと比べても一番前向きで光に満ちたお話だなと感じました。
優勝ED後のにちかと、霊基の一部が欠けたキャストリア。誰よりも普通で、だからこそ特別という数奇な共通点を持つ二人。
そんな彼女たちだからこそ、この爽やかで且つ眩いお話を紡ぐことが出来るのだなあと感じ入ってしまいました。

>>Treasure in Your Hands
徐福ちゃんまさかのマスター枠。冒頭のダウナーな感じがかわいいですね。とてもかわいい。
そしてそんな彼女が呼び出したサーヴァントは、彼女のことを今度は正しい道へと導く普賢真人。
出身地域繋がりでの、太公望を絡めた会話がお〜クロスオーバーのいいところ! ってなりました。
死と呪いの蓄積にすべてを費やした彼女が歩む人助けの道、実に見てみたいIFですね。


皆さん本日もたくさんの投下ありがとうございました!


695 : ◆7WJp/yel/Y :2021/06/16(水) 22:22:13 xaK149Fc0
投下させていただきます


696 : 小波鉄二&シールダー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/16(水) 22:23:06 xaK149Fc0


 痛い。
 苦しい。
 ひもじい。
 痛い。
 ひもじい。
 苦しい。
 苦しい。
 痛い。
 ひもじい。


 カサカサに乾いた唇を舌で舐めてみても、罅割れた唇に潤いは与えられることもない。
 不自然に痩せこけた頬は奇妙な赤色に染まり、窪んだ眼孔に嵌められた目に力なんてないだろう。
 飛行機の音が聞こえても、それが現実なのか幻聴なのかもよくわからない。
 ただ前に進めと言われて足を動かし、呼吸をするだけで肺が痛む。
 両手を合わせて幸運という天のみが支配するものを祈りたくても、握らされた小銃がそれを許されない。
 緩んだ肛門から水っぽい便が漏れているような気さえする。
 臭いではわからない、臭いで判断するにはここはあまりにも臭すぎる。
 生い茂った樹木によって太陽は姿を隠しているくせに、その威光を示す熱だけはムシムシと伝えてくる。

 あの日までは。
 あの日までは、太陽は明るく輝いていた。
 それが、いつからか太陽は昏く沈んでいった。

 隊列の進みが止まる。
 それに合わせて歩みも止め、静かにその場に座り込む。
 配給の食事などはない。
 ひもじいという体の訴えは感覚を鈍化させる。
 窮地に追い詰められたから感覚が鋭敏化するなんて、都合のいい『お話』は存在しないのだ。
 目の前を、ナメクジが這っている。
 緩慢な動作でナメクジに手を伸ばし、乾いた親指と人差し指でそのぬめりのある体を掴み取った。
 そして、迷う必要もなくそれを口の中に放り込んだ。
 味もクソもない。
 ただ、下した緩い糞便に変わってしまうとわかっていても、栄養というものを欲していた。
 いつ終わるのだろうか。
 勝ちも、負けも、関係がない。
 一緒だ。
 勝ったらこの戦争は終わってくれるし、負けてもこの戦争は終わってくれる。
 その終わりだけを待っている。
 ああ、音が聞こえる。
 飛行機の音だ。
 小銃をギュッと握り、心のなかで指を絡める。
 どうか、どうか。
 今日もまた、生き残れますように、と。


697 : 小波鉄二&シールダー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/16(水) 22:23:35 xaK149Fc0


 ◆


「………ハァッ!」

 弾かれるように意識が覚醒し、ダラダラと流れる汗を自覚しながら大きく息を吸い、吐く。
 NPB(Nippon Professional Baseball Organization)、日本野球機構の開催するプロリーグ、通称『プロ野球リーグ』。
 そのプロ野球リーグに参加するチームである『ドリルモグラーズ』に所属するプロ野球選手。
 小波鉄二。
 それがこの狭い一室に住む男である。

「はァ……はァ……はァ……」

 時々、戦争の夢を見る。
 苦しくて。
 ひもじくて。
 よくわからない理由で戦わされて。
 よくわからない理由で死んでいく。
 悪夢と呼んでなんの差し支えもない、妙なリアリティを持った夢である。

「……ふぅ」

 重い体を動かし、水を飲む。
 ただそれだけのことで、小波の体はグッと楽になる。
 思うに。
 戦争の地獄とはひもじさにあるのだと、小波は考えていた。
 もちろん、戦争の残忍さはそんなこともない。
 あの眠ることも出来ない恐ろしい場所で、小銃を握るために神に祈ることさえ出来ない恐怖。
 それもまた、戦場の恐怖である。

 ただ、小波にとっての戦場の地獄とはひもじさであった。
 食べることすらままならず、次の食事がいつになるのかもわからない。
 いつかかったのかも赤痢に襲われて、ひもじさはあるのに食を取ることが出来ない。
 気づけば蔓延していたマラリアが原因で、物体が喉を嚥下させることも不可能となる。

「……」

 ただ蛇口を捻ればカルキ臭くも安全な水が飲めることを幸運と思うには、少々感動屋がすぎるかもしれない。
 それでも、悪夢から醒めたばかりの小波にとっては大げさな話ではなかった。


698 : 小波鉄二&シールダー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/16(水) 22:24:25 xaK149Fc0

「大丈夫かい、マスター」

 そんな小波に声をかけたのは、奇妙な運命をともにすることとなった一人の兵士であった。
 プロアスリートである小波ですら羨んでしまうほどの筋肉とは似つかわしくない甘いマスクをしている。
 油断ならぬ佇まい。
 常在戦場という言葉を連想させ、しかし、それは小波が戦場に抱いていた恐怖とはかけ離れた勇気が支えるものだった。

「ありがとう、キャプテン」

 差し出されたタオルで寝汗を拭き、弱々しく笑って礼を述べる。
 小波はこの男性をキャプテンと呼んだ。
 そう、この兵士こそがかのキャプテン・アメリカである。
 国家のためにと従軍を希望しながらも、その虚弱な肉体が理由に従軍を拒まれる。
 しかし、その身に宿る高潔な意思を認められて、とある任務を任された。

「君がよく言う、戦争の夢というものかい?」
「うん……夢は夢だとわかってるんだけどね」

 それは、超人兵士計画という人体実験である。
 超人血清と呼ばれる特殊な薬品を投与することで人間を超える超人を生み出して無敵の軍団を作り上げる計画だ。
 その実験に見事耐え、キャプテン・アメリカという名を与えられた。
 キャプテン、すなわち彼に続いて生み出されるであろう後輩となる超人兵士を率いるリーダーとなるための称号である。
 だが、敵国家の銃撃によって計画を担う人物は殺害され、彼は一人となった。
 彼は一人となり、生み出されるはずであった軍団が背負うはずの責務を一人で背負い続けた。
 彼は易易とその任務を果たしてみせた。
 少なくとも、周囲にはそのように振る舞った。
 そして、戦った。
 自分の信じる、『正義』の誓いのために。
 星条旗に込められた、『自由』の祈りのために。

「すごいよな」
「うん?」
「キャプテンが、さ。
 俺はあの悪夢の中で生きることを祈るだけだったけど、キャプテンはあの戦場で活躍したんだろう?
 それって、すごいことだよ」

 選ばれた存在だと、小波は思った。
 もちろん、自分もプロ野球選手になれなかった数多の野球選手と比較すれば選ばれた存在なのだろう。
 だが、そこからさらに選ばれた存在と選ばれなかった存在で別けられる。
 それを繰り返して、繰り返して、繰り返して。
 きっと、キャプテンはその果てにいるのだ。
 本当の選ばれた存在なのだ。

「俺はあそこから逃げ出したいとしか思わないけど、キャプテンは最後まであそこに居たんだろう。
 俺とは違うよな」
「そんなことはない」

 悪夢によって弱った心が生み出した泣き言を、キャプテン・アメリカは強くも優しい言葉で否定した。

「私とマスターは同じ人間だ。
 平和を願う心は、小波鉄二とスティーブ・ロジャースは一緒だ。
 正義があると信じて、自由を求める人間と私に大きな違いはない。」
「でも、俺は日本人だけどキャプテンはアメリカ人だ。
 ……あの悪夢の中で、アメリカ人は俺たちを空から襲うんだ。
 本当に一緒なのかな」

 マスクを外したスティーブ・ロジャースは自身のことを僕と呼んだが、マスクを付けたキャプテン・アメリカは自分のことを私と呼ぶ。
 そこには、きっと誓いのようなものがあるのだろう。


699 : 小波鉄二&シールダー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/16(水) 22:24:59 xaK149Fc0

「私には、いや、私たち兵士にはあの戦場で殺したい人間なんていない……でも」

 小波の言葉に、再びキャプテンは応える。
 キャプテン・アメリカの目に淀みはなかった。

「出身がどこであろうとも、悪党は嫌いだ」

 星条旗を背負うことは、アメリカの兵士であると誓ったためではない。
 エ・プルリブス・ウヌム。
 多くの民族が、人種が、宗教が、言語が、祖先が一つの国家とその国民を形成する。
 生命、自由、幸福の追求を国家としての目的として定めた合衆国の誇り。
 それを賛同することこそが、国家と国家の一員である証明だ。

「人種も宗教も言語も些細な問題だ。
 本当に大きな問題は、夢を阻害するモノだ。
 平和を阻む壁なんだ。
 繰り返しになるけど、自由と正義を信じて平和を求める限り、私たちに違いなんてない」

 キャプテン・アメリカが背負うもの。
 それは、その意思だ。
 それは、その願いだ。
 その先に必ず『本物のアメリカン・ドリーム』があると信じて、ただ前を進んでいく。
 だから、例えその道を阻まんとして
 だから、例えその道を否定せんとして。
 大木が聳え立ち。
 巨岩が転がり。
 大河が流れようとも。
 それが、志を同じくするはずの国家であっても。
 キャプテン・アメリカは前だけを見据えて。
 自由の象徴として願われた星条旗を背負ってただ一言だけ口にするのだ。


 ────お前がどけ、と。


「そっか」

 パスン、と。
 オイルの塗られたグローブを拳で叩いて、小波は乾いた音を聞く。
 きっと、その音は平和の音だった。
 いつの日か、争いが終わったその日に。
 米兵から投げられたボールが、日本兵のグローブを叩くのだ。

 それを平和と呼ばずして、なんと呼ぶのだろうか。


700 : 小波鉄二&シールダー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/16(水) 22:25:34 xaK149Fc0


 ◆


 時々、戦争の夢を見る。
 苦しくて。
 ひもじくて。
 よくわからない理由で戦わされて。
 よくわからない理由で死んでいく。
 ああ、そうだ。
 戦争は、もう懲り懲りだ。
 小波が欲しいものは、純粋に一つだけ。


 ────自分じゃない誰かから投げられる白いボールを受け取ることだけだ。



【クラス】
 シールダー

【真名】
 キャプテン・アメリカ@マーベル・シネマティック・ユニバース

【ステータス】
 筋力:C 耐久:B+ 敏捷:C 魔力:E 幸運:D 宝具:EX

【属性】
 秩序・善

【クラススキル】
 対魔力:E
 魔術に対する守り。
 無効化は出来ず、ダメージ数値を軽減する。

 騎乗:C
 騎乗の才能。
 大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗り越せない。

【保有スキル】
 カリスマ:C+
 自身の指揮下にある兵士や、守護下にある民衆を鼓舞する、指揮官としての、偶像としてのカリスマである。
 仲間の能力が向上する。

 超人兵士:B
 パーフェクト・ソルジャー。
 キャプテン・アメリカは人体実験『オペレーション・リバース』という計画によって誕生した。
 超人血清という薬品を投与されたことで人類を超える肉体を手に入れた。
 優れた膂力や瞬発力に体力などの他にアルコールによる酩酊を含めた毒に対する耐毒性能を所有している。
 キャプテン・アメリカは神秘の低い毒を無効化する。

 始まりの英雄:A
 ザ・ファースト・アベンジャー。
 スティーブ・ロジャースはキャプテン・アメリカとなる以前から気高い英雄の精神を所有しており、それが形となったスキル。
 キャプテン・アメリカの指揮下にある軍は強い意志を持って威圧、混乱と言った一部の精神干渉を無効化し、白兵能力を向上させる。


701 : 小波鉄二&シールダー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/16(水) 22:26:01 xaK149Fc0

【宝具】
『いつか輝ける正義の星(ヴィブラニウム・シールド)』
 ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜40 最大捕捉:5人
 ヴィブラニウムという絶対硬度の鉱石で作られた盾。
 星を囲むように赤と白と青の線条が引かれた、アメリカ国旗である星条旗を模した意匠が施されている。
 生半可な力では破壊することは不可能で、雷神ソーのムジョルニアの一撃すら傷一つつかずに跳ね返している。
 また、その硬度を利用してキャプテン・アメリカの卓越した技術によって円形の盾をフリスビーのように投擲して攻撃することも可能。
 純粋と純潔、逞しさと勇気、戒心と忍耐。
 そして、正義を意味するキャプテン・アメリカの象徴そのものである。


『高らかに謳え、自由の歌を(アベンジャーズ・アッセンブル)』
 ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:10000人
 スーパーヒーロー集団、『アベンジャーズ』を呼び寄せるキャプテン・アメリカの掛け声。
 一癖も二癖もある英雄たちがリーダーとして認めるキャプテン・アメリカの呼び声に応えることでヒーローたちが召喚される。
 キャプテン・アメリカと正義の価値を共にせずとも、自由の意思を共にすれば参戦することが出来る。
 そのため、キャプテン・アメリカ自身の意思に揺れがあれば、正義の価値がなければ、その掛け声は虚空に悲しく響くだけである。


【weapon】
『いつか輝ける正義の星(ヴィブラニウム・シールド)』

【人物背景】 
本名:スティーブン・グラント・“スティーブ”・ロジャース(Steven Grant "Steve" Rogers)

キャプテン・アメリカはヒーローとしての名称で、個人としての名前はスティーブ・ロジャース (Steve Rogers)。
通称では「キャプテン・ロジャース (Captain Rogers)」や、略称で「キャップ (Cap)」とも呼称される。
他に通り名としては「自由の番人 (The Sentinel of Liberty)」、「星条旗のアベンジャー (Star-Spangled Avenger)」、
「第二次世界大戦の生ける伝説 (The Living Legend of World War II)」、マスク側頭部の装飾から「ウイングヘッド (Winghead)」など。

1922年7月4日生まれのかに座、出生地はニューヨーク市マンハッタン区ローワー・イースト・サイド。

軍の徴兵基準を満たせない程貧弱な体だったが、ナチズムへの義憤と愛国心に駆られ1941年に軍の「超人兵士計画」に志願。
人間を超人兵士に生まれ変わらせる特殊な血清を投与された。
この血清を創ったアースキン博士がナチスの工作員に暗殺され、血清の正確な精製方法はアースキン博士の頭の中にしかなく、
スティーブのみが当時のアメリカの超人兵士「キャプテン・アメリカ」となった。

スーパーヒーローチーム、『アベンジャーズ』のリーダー的な存在である。

【サーヴァントとしての願い】
 平和な世界。


702 : 小波鉄二&シールダー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/16(水) 22:27:17 xaK149Fc0

【マスター】
 小波鉄二@パワプロクンポケット2 戦争編

【マスターとしての願い】
 平和な世界

【weapon】
 木製バット

【能力・技能】
 ・プロ野球選手としての運動神経と身体能力
 ・普通自動車免許

【人物背景】
 貧乏球団『ドリルモグラーズ』に所属するプロ野球選手。
 祖母に育てられ、生き別れの兄が一人いる。兄の名前は大鉄。
 小さな頃からずっと野球をしていたため勉強はできない上に地頭も良くない。
 また、あまり恵まれた生活でなかったために常識知らずの一面もあり、丸め込めやすい性格をしている。
 そのため、人に強く『そうだ』と主張をされれば信じ込んでしまう悪癖がある。
 女性にだらしない一面がある。

 そんな現代日本の鉄二はある日、太平洋戦争最中の日本へとタイムスリップをして、あるいはタイムスリップをした夢を見る。
 それが現実かどうかは重要な意味ではない。
 そこで鉄二は、戦争が地獄だと呼ばれる本当の意味を知ったのである。


【方針】
 野球がしたい。


703 : 小波鉄二&シールダー ◆7WJp/yel/Y :2021/06/16(水) 22:27:28 xaK149Fc0
投下終了です


704 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/16(水) 23:45:39 jx56T.d.0
連日の投下ありがとうございます!
感想はまた明日投下させていただきますね。

自分も投下します。


705 : ゼノ&ランサー ◆0pIloi6gg. :2021/06/16(水) 23:46:16 jx56T.d.0

 硝煙と、物の焼ける臭いが風に乗って漂っていた。
 空気を溶けて消えていく轟音の残滓を浴びながら、葉巻の煙を燻らせる生き物が一匹。
 それは人間ではなかった。艷やかな毛並みとつぶらな瞳をした、一匹の獣。
 ゴールデンレトリバー。およそ戦場には相応しくないその犬はしかし、れっきとしたサーヴァントで。
 そしてその彼はたった今、また一騎のサーヴァントをこの界聖杯内界から消滅させてみせた。

 手足の短さや身体の小ささなどといったハンディキャップを一切物ともせず――無数の重火器による爆撃で敵を制圧。
 そして遂には、彼をランサークラスたらしめる所以の一つである金属槍射出兵装を用い、完全に敵の霊核を破壊するに至ったのだ。

「ご苦労。実に見事な手腕だったよ、ランサー」
「昔取った杵柄だ。これしきのことでいちいち賞賛されるのは、少しむず痒いな」

 そんなしもべの勝利を、拍手の音で迎える男が一人。
 オールバックの銀髪に、欧米人特有の顔立ち。
 額から頬に掛けて刻まれた、アルファベットのXを模した紋様。
 鳴らす両手、その右側には三画揃った令呪の刻印。
 彼こそが、この恐るべきゴールデンレトリバー……木原脳幹という科学者を召喚した、マスターであった。

「撃て、とは命じないのか」

 サーヴァントを失い、情けない声をあげながら走り去る敵のマスター。
 その背を鼻先で示し、脳幹は犬の見た目に似合わない貫禄ある男声でそう問うた。
 それに対しマスターの彼は肩を竦め、口角を緩めて答える。

「確かに僕が命じれば君は躊躇なく撃つだろう、あんなにも無防備な背中だ――外すとも思えない」
「……、」
「ただ、文字通り世界でただ一匹(ひとり)の味方との関係性に罅を入れるのは得策とは言えないだろう。
 これでも貴方の美学については承知しているつもりだよ、ランサー。聡明な科学者である貴方らしくない贅肉だとは思うがね」
「善悪ではなく好悪の問題だよ。不要な観念であることは百も承知だ」

 同族――同じ科学者からの素直な評に、脳幹は鼻を鳴らして言う。
 この成りではとても信じられないだろうが、木原脳幹は極めて優れた科学者の一人である。
 科学の功罪とでも呼ぶべき"一族"の手で、脳に高性能の演算回路を組み込まれ。
 自分に知性を与えてくれた彼らの想いと努力のために、老犬になるまで老いさらばえても働き続けた。
 数万の犠牲をすら必要とあらば許容する、科学の鬼子筋の精神性をしっかりと引き継ぎながら。

 しかし、されども。
 脳幹は他の同族とは違い、その優れた知性の中に感傷と自制を飼っている。
 不要な破壊と犠牲を好まない精神性。聖杯戦争の場にあっては"英霊を失ったマスターを殺さない"という形でそれが発揮されていた。
 彼のマスターであるもう一人の科学者は、それを心の贅肉であると皮肉ったが。

「だが科学の道を歩む上では、時に採算を度外視すべき場面もある。
 例えば、これだ」

 脳幹とて、そんなことは百も承知している。
 科学者たるもの、信じるべきは効率と確実性。
 採算の合わない行動を取る科学者は得てして嫌われるものだし、実際その考えも理解できる。


706 : ゼノ&ランサー ◆0pIloi6gg. :2021/06/16(水) 23:46:53 jx56T.d.0

 だが――それでも、脳幹は全て理解した上で無駄を働くのだ。
 さながら過去の実験結果でも例示するように、脳幹は己の兵装……もとい宝具から二つの武装を展開した。
 片方は、掘削工事で引っ張り凧のお馴染みな工具。正しくはそれを巨大化させ、より武装らしいスペックにカスタマイズした代物。
 そしてもう片方は。先の戦いで英霊一騎を屠り去った、金属槍を超高速で射出する近代人には馴染みのない武装だった。
 ……いや。特定の趣味を持つ人種にとっては、むしろ前者以上に馴染み深いかもしれないが。

「ドリルと──ああ、ジャパニーズ・アニメに登場する架空兵器か。
 なるほど確かに採算は取れていない。効率面を考えてもより先鋭化した形状に改造するべきだと思うが」
「君も男なら覚えておけ。ドリルとパイルバンカーは、男のロマンだ」

 片やドリル、片やアニメの世界で猛威を奮った架空兵器。
 脳幹は好き好んでそれを再現し、わざわざ自身の武装として使用している。
 無論これは非効率的で採算の合わない、科学者らしからぬ――"木原"らしからぬ発想だ。

 さりとて、それでいいのだと脳幹は考える。
 ロマンと、そして感傷。効率の二文字とは縁遠い概念だが、それらはとても尊く眩しいものであるから。
 だから木原脳幹というサーヴァントは、合理に満ちた頭で敢えて不合理を働くのだ。
 贅肉と詰られようが大いに結構。狂った採算は己の活躍で取り戻せばいいのだと、この老犬は葉巻を燻らせながら大真面目にそう考えていた。

「時に、マスター。君がサーヴァントとの戦いを観戦したのも、今日で三度目だな」

 ――と。
 そこで不意に、脳幹はマスターへとこう問いかける。
 その質問に、問われた彼は頷きを返した。何しろ神秘と神秘のぶつかり合い、既存の科学全てに中指を立てるが如き超常の戦いだ。仮に忘れようとしても、そうそう忘れられるものではあるまい。

「ああ。ドローンを用いて空撮したものを含めれば、もう二回はプラスできるかな」

 くつくつと笑いながら答えるマスターに、脳幹は続けて問う。 


「絶望したか?」


 脳幹のマスターは、ゼノという名を持っていた。
 ゼノ・ヒューストン・ウィングフィールド。
 現代科学の最先端であるNASAに所属し、この界聖杯内界でも同様の役割(ロール)を与えられている文字通りの天才科学者。
 この世界とは比べ物にならないほど科学技術の発展した世界を出身地とする脳幹の目から見ても――彼が類稀なる才人であることに疑いの余地はなかった。
 だからこそ、こう問うたのだ。
 絶望したか、と。
 その問いの意味をより詳らかにするように、脳幹は続ける。

「君もその目で見てきたように、科学の外側の領域というものは現実に存在する。そして得てして、あちらの方が上を行く。
 私のこの『対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)』とて、核としているのはあちらの力だ」

 科学における最大の力とて、所詮、その外側から来る魔術の真髄には敵わない。
 その現実を、脳幹は長い生涯の中で痛いほどよく知っていた。
 数式と理論だけでは証明の利かない非科学、オカルトの分野。
 科学者にとってこの上なく受け入れ難いだろう概念が、存在が――したり顔で人類科学の上を行く。
 それは、ともすれば。己の死にも勝る、大きな"絶望"であろう。


707 : ゼノ&ランサー ◆0pIloi6gg. :2021/06/16(水) 23:47:30 jx56T.d.0

「君は科学の限界を見ただろう。いや、それ以前に界聖杯などという最大級の不条理も認識している筈だ」

 宝具、スキル。そして魔術。
 いずれも、科学の理論を超越した異能ばかりだ。
 極めつけが界聖杯。願いなどという朧気で曖昧な概念をしかして確実に叶えてみせるという宇宙現象。万能ならぬ全能の願望器。
 現実の世界に何ら劣らない"模倣世界"を作り上げ、異なる枝葉の世界から人間を呼びつけて知識をインストールする。
 挙げ句その全員に令呪を与え、英霊なる存在を召喚させ、願望器争奪のための"戦争"を執り行わせる――全て、何もかもが規格外の所業だ。
 
 言わんとすることを理解したのか、ゼノはまたくつくつと笑った。

「なるほど、それで絶望したかと問うたのか」

 だが、その瞳に脳幹の言う"絶望"の色はない。
 それどころか、むしろそこには喜色に似た感情が浮かんでいた。
 何十年とかけて積んできた知識と、紡いできた理論と、経験。
 その全てを粉々に破壊するような"不条理"の世界に放り込まれて尚――科学者ゼノは、笑っていた。

「ならば逆に聞こう、Dr.脳幹。何故それが絶望する理由になるのかな」

 両手を広げ、夜空を仰いで呼気を吐き出す。
 その様はさながら、未知の大地に一歩を踏み出し興奮する冒険家のようでもあって。

「今は遥か古の時代。雷は神の怒りと呼ばれ、世界は地球の内側のみで完結していると信じられていた。
 今この時代では小学生でも知っているような"常識"も、かつては皆平等に超常現象だったのだ。
 それを認識し、解析し、理解可能な概念として再定義するのが科学の役割だと、僕はそう考えている」

 ――しかし彼は冒険家などではなく、明確に科学者だった。
 
 彼の眼は、そして脳は。
 こうしている今も、この不可解で非科学的な世界を見、分析し続けている。
 無限の疑問と無限の仮説を常に抱き/立て続け、ショート寸前になるまで優秀な脳をフル稼働させているのだ。もう、かれこれずっと。
 その有り様は絶望の二文字とはてんで程遠く。
 むしろ彼は、"希望"を視ているように見えた。この、可能性の地平線上にある世界に。

「貴方は私に絶望したかと問いかけたが、私の答えはその逆だ。
 この世界に来てからというもの、毎日が楽しくて仕方がないんだ。
 当たり前のような顔で闊歩する"未知"を、片っ端から科学したくて堪らない。これは貴方にも理解できる感覚なのではないかな? Dr.脳幹」

 脳幹は、否定も肯定もしない。
 だが、ゼノはそれで満足だった。
 言葉はなくとも通じ合う、無言のやり取りがそこにはあった。
 奇しくもそれは、ゼノが贅肉と切り捨てた――科学者らしくない、ロマンに由来する一瞬で。


708 : ゼノ&ランサー ◆0pIloi6gg. :2021/06/16(水) 23:50:22 jx56T.d.0

「世界はかくも未知で溢れている。科学に、最果てなどは存在しない」

 彼は、言う。
 万感の祝福と、万感の感謝と。
 そして万感の"知識欲"を込めて――宣戦布告するように。


「──サイエンス・イズ・エレガントだ!」


 それが彼の全て。
 彼の骨子であり、そして生涯。
 脳幹は肩を竦めて、そんな己の主に嘆息した。
 犬である彼に肩なんてものはないが、それでも確かにそう見えた。
 それから彼は、ふとこんなことを言う。

「君の世界は遅れているな。
 魔術どころか、科学の分野に限っても私の知るそれに及ばない」
「耳が痛いよ。倫理的な制約さえなければ、影くらいは踏めたかもしれないんだがね」

 話に聞く限りでは、ゼノの出身世界はそれこそ学園都市の影も踏めていない科学状況だった。
 未だに核兵器が最強として幅を利かせ、人類の可能性を押し広げるような科学は倫理的問題の五文字で突っ撥ねられる。
 まさに科学の袋小路、行き止まり。
 挙げ句そんな世界が、既存の文明全てをリセットする超大規模の災禍に見舞われてしまったというのだから同情する他なかった。
 ……の、だが。

「だが──いつの時代、どこの世界にも生まれるものだね。
 科学の可能性をどこまでも信じて追い求める、馬鹿な人間というのは」

 脳幹は、呆れたようにそう言った。
 かつて脳幹に知能を与えてくれた人間も、確かそういう人物だった。
 きっと、この青年もそうなのだろう。
 そう思いながら、世界で一番優秀なゴールデンレトリバーは――主たる科学者と共に、しばし夜空を見上げていた。


【クラス】ランサー
【真名】木原脳幹
【出典】新約・とある魔術の禁書目録
【性別】男性
【属性】秩序・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A 魔力:E 幸運:A 宝具:B++

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
理の撃滅者:A
 学園都市において、「物理法則により安定した世界に対するイレギュラー」に対する安全弁であり続けた男。
 物理法則からの逸脱が深い、神秘の濃度が強い相手であればあるほど攻撃力が向上する。
 更に例外的に、領域外に由来する存在に対しては更にボーナスがかかる。

一意専心:A
 一つの物事に没頭し、超人的な集中力を見せる。
 脳幹は"科学"に対して異常な執着と探究心を持つ一族の精神構造を引いている。

動物会話:B
 言葉を持たない動物との意思疎通が可能。
 ゴールデン・レトリバーである脳幹は当然のようにこのスキルを所持している。


709 : ゼノ&ランサー ◆0pIloi6gg. :2021/06/16(水) 23:50:41 jx56T.d.0

【宝具】
『対魔術式駆動鎧(アンチアートアタッチメント)』
ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:30
 魔術を絶滅させる者の装備。脳幹がその脳内で命令を下すだけで起動する撃滅兵装。
 兵装の内容は各種の刃物、銃弾、砲弾から始まり、果てはレーザービーム、液体窒素、殺人マイクロ波に至るまでもを取り揃える。
 デザインには脳幹の趣味性が色濃く反映されており、特にドリルとパイルバンカーに関しては一家言ある模様。
 しかしながら、核としているブラックボックスの部分は科学ではなくむしろ魔術側の法理に基づいている。
 この宝具の本質は、脳幹の盟友である近代西洋最高の魔術師――アレイスター・クロウリーの魔術を打ち出せるという点。
 近代から未来兵器に至るまでの"科学"の火力と、それを用いて捩じ込む"魔術"の火力。
 兵器でありながら魔術の使用を前提とする極めて特殊な装備であるため、完璧に扱いこなすには卓越した知識と技量の双方が必要となる。

【weapon】
 『対魔術式駆動鎧』

【人物背景】
学園都市の暗部に君臨する、悪名高き『木原一族』の一員。
演算回路を外付けされ、推定八十年の寿命を持つ類稀なるゴールデンレトリバー。
ダンディな声で話し、葉巻を愛好し、ロマンをこよなく愛し、不要な破壊と犠牲は忌避する一本筋の通った信念の持ち主。

【サーヴァントとしての願い】
願いは持たない。ただ、サーヴァントとしての努めを果たすのみ。


【マスター】
ゼノ・ヒューストン・ウィングフィールド@Dr.STONE

【マスターとしての願い】
界聖杯を手に入れ、解き明かす

【能力・技能】
 科学者としての頭脳と知識。
 そして、尽きることのない探究心。

【人物背景】
 NASAに所属する科学者。現代の人類に鬱屈とした感情を抱いており、自らの独裁する世界を望むという危険思想家でもある。
 全人類が石化した後には、様々な幸運と自身の打っておいた布石によって無事復活。
 日本の科学王国を凌ぐ程の規模を持つ"科学文明"を復活させた。

【方針】
聖杯の確保を優先するが、この聖杯戦争という舞台を思う存分解き明かしたい。


710 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/16(水) 23:51:14 jx56T.d.0
投下を終了します。
投下最中に一部一人称を間違えてることに気付いたので、明日収録の際に直しておきます


711 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/17(木) 19:54:14 Ebch.wpU0
>>小波鉄二&シールダー
キャップ、カッコいい〜〜〜!!って無限にテンション上がりながら読んでました。
淡々とした地の文と、小波の鬱屈とした心境の描写があるからこそ、一際"ヒーロー"のカッコよさが際立って感じられました。
>いつの日か、争いが終わったその日に。からの文章とか、最後のモノローグとか、もう全部好きですね。
アメリカを背負って立つ偉大なヒーローを豊かな筆致と表現力で描き上げた一作、お見事でした。

投下ありがとうございました!


712 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/18(金) 00:16:23 vuwaFUF60
投下します


713 : 異世界間コミュニケーション ◆NIKUcB1AGw :2021/06/18(金) 00:17:20 vuwaFUF60
ここは、自衛隊のとある施設。
その廊下を、がたいのいい壮年の男とスーツを着た初老の男が並んで歩いている。

「デルウハ殿、今日もお疲れ様でした」
「おう」

デルウハと呼ばれた男は、スーツの男の言葉に短く返す。
彼は特別教官として自衛隊に呼ばれた、某国の軍人……というロールを与えられた、聖杯戦争の参加者である。

「しかし、デルウハ殿も物好きですなあ。
 滞在中の住居は、自衛隊の宿舎でいいとは。
 最高級とはいかなくても、平均よりは上のマンションくらいなら用意できますのに」
「住環境に、こだわりが薄いんでな。
 それよりも飯の方が大事だ」
「なるほど、食生活を充実させてこそ、ポテンシャルを発揮できると!
 さすがはデルウハ殿!」

おべっか混じりの雑談に、デルウハはため息が漏れそうになるのを必死で抑える。
どうせ聖杯戦争が終わるまでの付き合い、最低限のコミュニケーションさえ取れていれば問題はない。
だが逆に言えば、その最低限を維持しなければ問題が発生するということ。
現状は決して悪くない。それを保つために、くだらない会話に付き合うくらいのことはしなければならない。
そう自分に言い聞かせ、デルウハその後もしばらく心のこもらない会話を続けた。


◆ ◆ ◆


「ふう……」

ようやく一人になり、デルウハはあてがわれた自室で息を漏らす。
贅沢品はないが、居心地は決して悪くない。
彼がここを拠点に選んだのも、合理的な考えがあってのことだ。
サーヴァント相手に近代兵器が無力であることは、知識として知っている。
だがそれでも、一般の住宅と比べればここの方が心理的に攻めづらいだろうとデルウハは考えていた。
銃がサーヴァントにとって無力な武器であっても、マスターには別だ。
流れ弾が偶然当たって、あっさり死んでしまうこともあり得る。
そのリスクを考えれば、軍隊に相当する組織の拠点に攻め込むのは抵抗があるだろう。
……もしかしたらサーヴァント並みに化物じみたマスターが参戦しているかもしれないが、その可能性は考えたくない。

「帰ったよ」

デルウハがくつろいでいると、突然虚空から声が響く。
間を置かずして、その場にひげ面の中年男性が姿を現した。
霊体化を解いたデルウハのサーヴァント、アサシンである。


714 : 異世界間コミュニケーション ◆NIKUcB1AGw :2021/06/18(金) 00:18:05 vuwaFUF60

「よう、お帰り。どうだった、今日の収穫は」
「いや、全然ダメだって。
 何度も言ってるけど、僕は指揮官であって諜報員じゃないからね?
 いくらサーヴァントになって気配遮断スキルが身についたからって、そう簡単に諜報活動とかできないって」

デルウハの言葉に、アサシンは眉を八の字にして首をすくめる。
デルウハはアサシンに対し、日中は他の参加者の情報がないか調べさせていた。
当然サーヴァントをマスターから離れて行動させるのにはリスクが伴うが、何かあったときには令呪で呼び戻せばいいとデルウハは考えていた。
令呪を消費することに、デルウハは一切のためらいがない。
どんなに貴重なものであろうとも、必要ならば使う。
デルウハはそういう男だ。

「頼むぜ、将軍。俺はなんとしてでも、願いを叶えたいんだからな」
「平和な世界への転移、でしょ?
 本当にいいの? 元の世界ほっぽり出しちゃって」
「くどい。俺は俺が平和に暮らせればそれでいいんだ。
 世界を救うことになんざ興味ねえよ」

デルウハのいた世界は、謎の怪物・イペリットの出現により人類が滅亡の危機に瀕していた。
デルウハは軍人としてイペリットと戦い続けていたが、そこには人々を守るという使命感も殺戮を繰り返す存在への怒りもなかった。
ただ、自分が生き残るため。それだけのためにデルウハは戦ってきた。
イペリットが存在しない世界で安全に生きていけるなら、元の世界の人類が滅ぼうとも知ったことではないのである。

「聖杯戦争さえなければ、この世界に永住してもいいくらいなんだがなあ。
 まあ、モデルになった世界があるだろうからそこでいいか。
 できればその世界での戸籍もほしいところだが……。
 聖杯ってのは、そこまで融通利かせてくれるのかねえ」
「……デルウハくん、本当に自分のことしか考えてないよねえ」
「何言ってんだよ。あんただって似たようなもんだろ」
「まあ、それはそうだけどさあ」

デルウハは、アサシンの過去をほとんど知らない。
ただ、本人が口にしたわずかな情報を知っているだけだ。
「自分は個人的な感情を優先して、国家に背いた反逆者だ」と。

「あんたの過去を詳しく詮索するつもりはないが、叶えたい願いがあるんだろ?
 俺のために戦えなんて、都合のいいことは言わん。
 あんたはあんたのために戦え。それが俺の利益になる」
「本音丸出しだねえ」
「そっちの方が、あんたの心を動かせると判断したからだ。
 猫被った方が仲良くできるなら、そうしてるさ」

臆面もなく言ってのけるデルウハに、アサシンはあきれ顔を見せる。

「なんだよ、その顔は」
「いや、気の合うパートナーに引き当ててもらってよかったなあと」
「絶対そんな顔じゃなかっただろ! ……まあいい。
 飯にするか。あんたもなんか喰うか?」
「サーヴァントは、食事要らないんだけど……。
 まあせっかくだから、カップラーメンでももらおうか」
「いや、あんた中国人だろ。それでいいのかよ……。
 もっとまともなものもあるぞ?」
「美味しいじゃない、日本のカップラーメン」

そして、夜は更けていく……。


715 : 異世界間コミュニケーション ◆NIKUcB1AGw :2021/06/18(金) 00:19:26 vuwaFUF60

【クラス】アサシン
【真名】リュウ・イーウ
【出典】テラフォーマーズ
【性別】男
【属性】中立・悪

【パラメーター】筋力:C 耐久:B 敏捷:D 魔力:E 幸運:D 宝具:B

【クラススキル】
気配遮断:B
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

【保有スキル】
中国拳法:A
中華の合理。宇宙と一体になる事を目的とした武術をどれだけ極めたかを表す。
修得の難易度が最高レベルのスキルで、他のスキルと違ってAランクでようやく「修得した」と言えるレベル。

無力の殻(偽):B
ジキルが持つスキルに似て非なる能力。
発動中はステータスが大幅に低下し、他のスキルが使用不能になる代わりにサーヴァントとと認識されにくくなる。


【宝具】
『海中に嗤う悪魔(ヒョウモンダコ)』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:なし 最大捕捉:1人(自身)
「モザイク・オーガン手術」によって得た、ヒョウモンダコへの変態能力。
本来は薬剤の使用により変態するが、宝具となったことにより魔力の消費のみで発動することができる。
発動中は「体からタコの足を生やす」「2種類の毒を放出する」「切断された四肢の再生」「墨による目潰し」などの能力が使えるようになる。

『死神転生(ヘヴィーメタル・イズ・デッド)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
複数の心臓を持つタコの特徴を再現した、予備の心臓。
この宝具を未使用の状態でアサシンの霊核が破壊された場合、自動的に発動。
アサシンを蘇生する。
また死亡した人間や、霊核を破壊された他のサーヴァントに使用して蘇生することも可能。
その用途で使用した場合、むろんアサシンは蘇生できなくなる。

【weapon】
素手

【人物背景】
火星に向かったアネックス1号第四班(中国・アジア班)の班長。
技術部門の責任者であり戦闘能力は低いとされていたが、実際には他の班長たちに匹敵する戦闘力の持ち主。
中国政府から「膝丸燈とミッシェル・K・デイヴスの確保」を命じられていたが、
姉貴分だった女性の血を引く燈がモルモットにされることを忌避し、独断で殺害をもくろむ。
目的のためなら非道な手段もためらわない軍人だが、本質は飄々とした陽気な男である。

【サーヴァントとしての願い】
膝丸燈の平穏な人生


716 : 異世界間コミュニケーション ◆NIKUcB1AGw :2021/06/18(金) 00:20:31 vuwaFUF60


【マスター】デルウハ
【出典】Thisコミュニケーション
【性別】男

【マスターとしての願い】
平和な世界への転移

【weapon】
拳銃、手斧、ナイフなど

【能力・技能】
「合理主義の化身」
狂気の域に達しているほどの合理主義者。
「その方が自分にとって得」と判断すれば、戦友であっても平気で殺す。
ただし頭脳はあくまで人間の粋であるため、判断ミスで墓穴を掘ることも。

【人物背景】
スイス出身の軍人。
人類を脅かす謎の怪物・イペリットと戦い続けていたが、軍は壊滅。
「日本で秘密兵器が開発されている」という噂にわずかな希望を託し、日本へと向かう。

【方針】
優勝狙い


717 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/18(金) 00:21:02 vuwaFUF60
投下終了です


718 : ◆VJq6ZENwx6 :2021/06/18(金) 00:44:44 SPkGfjsk0
wiki上にて自作魔王<はいぼくしゃ>の居城における
異魔神の宝具の詳細化、人物背景の追記を行いました。
また、その過程でステータスを一部調整させていただきました。

>>590
魔力:A→魔力:A++


719 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/18(金) 18:55:13 GUi4zzmE0
投下します


720 : 田中ぷにえ&ランサー ◆7PJBZrstcc :2021/06/18(金) 18:55:58 GUi4zzmE0
 草木も眠る丑三つ時という言葉があるが、現代において人間が起きていない時間などほぼない。
 それでも、流石に学校の校庭ともあれば人はおらず、辺りを照らすものも月と星だけになる。

 ここはとある高校の校庭。そこには、願望器たる聖杯を奪い合う二人のサーヴァントがいた。
 一人はセイバー。鎧を身に纏い剣を構える男は、一目で西洋系の英雄だと見て取れる。
 対するサーヴァントはランサー。手に槍を持った男は中国系の英雄だと一目で分かる。

 聖杯戦争。それは読んで字のごとく、聖杯を求め戦う戦争のこと。
 戦争。すなわり戦い。ならば必ず勝者と敗者が産まれる。
 この二人の戦いもそれは変わらない。
 そして、どちらがどうなるのかの答えは、次の瞬間映し出された。

「はああああああ!!」

 先手を取ったのはセイバー。
 彼は勇猛果敢にランサーの懐に潜り込み、そのままの勢いで剣を振るう。

 これを追えるサーヴァントはいないだろう。
 これを躱せるサーヴァントはいないだろう。

 ランサーが並のサーヴァントであれば、この時点で彼は消滅し、聖杯を手にする資格を失っていたに違いない。
 並であれば。
 だが現実は違う。


 ドン


 一瞬、重低音が辺りに響いたかと思うと、そこにあったのは

「あ、あぁ……」

 上半身と下半身が分断された、セイバーの姿だった。
 何をしたのか、と問われれば答えは簡単。
 ランサーは、懐に潜り込んだセイバーに対し、自身が持っている槍を無造作に振るっただけ。
 それだけで、空気を割く重低音があたりに響き、セイバーは両断された。

 これはセイバーが弱い故に起きた事態か? 否!

 セイバーも人類史に残る英雄として、ひとかどの存在である。
 彼には才があり、経験があり、そして試練があった。
 だからもし、敵がこのランサーでなければ、彼は未だ聖杯を手にする資格を有していただろう。

 だがこのランサーは並の英雄ではない。
 英雄と呼ばれる人物はその時点で並外れているが、彼はその中でも更に並外れている。

 それもそのはず。なぜなら彼が生きた時代は西暦200年代の中国。
 後に三國時代と呼ばれたあの時代は、サーヴァントになるうる人物が山ほどいた群雄割拠だった。
 その中でなお、誰もが最強と認めた男がいる。

 その男の名は、呂布奉先。
 そして彼のランサーこそが、その名を冠した男である。


721 : 田中ぷにえ&ランサー ◆7PJBZrstcc :2021/06/18(金) 18:56:26 GUi4zzmE0





「終わった?」

 セイバーが消滅したとほぼ同時に、校舎の陰から一人の少女が現れる。
 ショートの金髪で朗らかな笑みを浮かべる可憐な美少女だが、先ほどまで戦場だったこの地に平然と足を踏み入れている時点で並の少女ではないことは明白。
 彼女の名は田中ぷにえ。
 ランサー、呂布奉先のマスターであり、魔法の国のプリンセスだ。
 そんな彼女は、ランサーの顔色を見て話しかける。

「つまらなさそうね」
「……」

 ランサーの顔は、酷く退屈そうだった。
 事実、彼は退屈だった。

 ランサーは二つの目的があって、聖杯戦争にやって来た。
 一つは聖杯を手に入れる為。
 もう一つは、退屈を紛らわせるほどの強敵と出会うためだ。

 呂布奉先は最強と謳われた男。
 だがそれは、自身と互角に戦える存在がいないことを意味する。
 ランサーは、それがたまらなく嫌なのだ。

「まあ、私としては障害が少ないに越してことはないけど」
「……」

 一方、ぷにえの言葉は酷薄だ。
 だがランサーはマスターである彼女に反感を抱いては居なかった。

 彼女は口でこういい、事実そう思っているもののランサーに配慮し、なるだけ敵サーヴァントをあてがってきたのだ。
 その中には間違いなく一線級の存在もあった。

 ただ、ランサーを満足させるには、ほど足りなかっただけだ。

「あぁ、退屈だ……」

 だから思わず、ランサーはそう愚痴る。
 そんな彼にぷにえは問う。

「ところでランサー。あなた、聞きそびれてたけど聖杯に何を叶えてほしいの?
 私は、自分の王位を守るために聖杯を確保するつもりなのだけど」

 人に質問する前に先に、自身について話す。
 その道理の通り、彼女はまず自分の願いを明かした。

 ぷにえは魔法の国のプリンセスだ。
 だが元々は別の血筋の人間が王位を持っていたものを、彼女の母が力で簒奪したという過去がある。
 おかげで元魔法の国王の娘に恨まれているのだが、それをぷにえは気にしていない。
 正統性とは力で掴み取るものと、信じているがゆえに。

 とはいえ、誰かが聖杯を使って王位を簒奪する可能性も存在する。
 その可能性を潰す為、聖杯を確保したいというのがぷにえの願いだ。

 対するランサーは、天に指を掲げたかと思うと、こう言った。

「我は、天(そら)にいる神と戦う」
「そう……」

 ランサーの返答に対し、ぷにえは言葉を詰まらせる。
 彼女にとって、彼の願いは正直理解の外だ。
 命を狙われることはよくあるが、戦いの為に生きたことはない。

 だがぷにえはランサーの願いに口を出さない。
 これほどの強者を聖杯戦争時のみの部下にするには惜しいが、自分の下につくなど決してないと理解しているが故に。


722 : 田中ぷにえ&ランサー ◆7PJBZrstcc :2021/06/18(金) 18:56:57 GUi4zzmE0


【クラス】
ランサー

【真名】
呂布奉先@終末のワルキューレ

【パラメーター】
筋力A 耐久A 敏捷B 魔力D 幸運D 宝具A

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
対魔力:A
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。

【保有スキル】
騎乗:A
Aランクでは幻獣・神獣ランクを除くすべての獣、乗り物を乗りこなせる。
赤兎馬を乗りこなせる彼に、乗れない獣などいるものか。

武の求道:A
地位も名誉も富も女も無視して、ただ一心に武を磨いた者たちに付与されるスキルの一つ。
ランサーに自殺衝動が生じない限り、戦闘能力が向上する。

退屈:A
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。
デメリットとして、ランサーを退屈させない強敵が100ターン以上現れないと、聖杯戦争に見切りをつけたくなり、自殺衝動が生じる。
だが彼にも聖杯に叶えてほしい願いがある故に、自殺衝動はあれど自殺はしない。
ランサーが心から歓喜するような強敵と出会えたならば、一度生じた自殺衝動は解除される。

カリスマ:E
ランサーの強さに敵味方問わず、誰もが魅了される。
彼もそれが嫌ではなかったが、心を満たしたこともなかった。

【宝具】
『方天戟』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:3 最大捕捉:1
ランサーが扱う槍。
本来なら宝具となるような代物ではないが、彼は生前本気を出すとすぐに武器を壊してしまう。
その為常に代わりを何本も用意していた逸話から、魔力を消費すれば無制限に方天戟を取り出せるようになった。

『天喰(そらぐい)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1ー500 最大補足:???
ランサーが生前生み出した技。
槍の先端を持ち、全力で振るうだけだが、彼の人間離れした握力と腕力が生み出すその威力は大気を割くほど。
ただし、完成したこの技を彼は生前、敵に使ったことはない。
これが無くとも、呂布奉先は三國最強だった故に。

【weapon】
方天戟

【人物背景】
三國時代最強と謳われる「中華最強の英雄」。
幼少期から最強を求め戦い続けてきたが、やがて自身は己の時代において最強になったと悟る。
その事実に気付いた彼は退屈になり、絶望。最後には自ら死を選び、曹操に処刑されることを選んだ。

【サーヴァントとしての願い】
天(そら)にいる神と戦う。


723 : 田中ぷにえ&ランサー ◆7PJBZrstcc :2021/06/18(金) 18:57:27 GUi4zzmE0

【マスター】
田中ぷにえ@大魔法峠

【マスターとしての願い】
魔法の国の王位が脅かされないよう、聖杯を持って帰って管理したい。

【weapon】
・プリンセスロッド
野菜に意思を持たせたり、人や生物を召喚することができる。
魔法の呪文は「リリカル・トカレフ・キルゼムオール」
ちなみに、三節棍にも変形する。

ただし、所有者が決まっているというわけではないので、うっかり奪われると大変なことになる。

【能力・技能】
・魔法
野菜に意思を持たせたり、人や生物を召喚するなどできることは多彩。
ただし、前述のプリンセスロッドを持っていないと使用不可。

・肉体言語(サブミッション)
魔法の国では魔法を無効化するアイテムが多いため、肉弾戦技術も必須。
そこでぷにえが選んだものが関節技。
「打撃系など花拳繍腿(かけんしゅうたい)、関節技(サブミッション)こそ王者の技よ」とは本人の弁。

ただし、別に打撃技が使えないということもなく、作中ではカポエラを披露したこともある。

【人物背景】
魔法の国のプリンセス。可愛い風貌で男を悩殺できるが、実際は冷酷無慈悲なマキャベリスト。
力こそ正義を信条とする民主制嫌い。
自らの道を阻むものは、姦計や肉体言語で叩き潰す。
また、結構舌が肥えていて歯に衣着せぬ言い回しをする。
困っている友達を無償で助けたりする友達思いな面や、自らを暗殺しようとした妹や友人を許す甘い面もある。
弱点はキャベツ畑人形とドM。

【方針】
ランサーの望み通り、強敵をさがしてあげる。


724 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/18(金) 18:57:53 GUi4zzmE0
投下終了です


725 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/18(金) 22:11:19 aRWiP2ac0
>>異世界間コミュニケーション
キャラクターとキャラクターの会話が生き生きとしているというか、"らしい"のが相変わらずお上手だなあと思いました。
自分は基本文が長くなりがちな部類なので、コンパクトに纏めつつちゃんと本筋を書いて来られるとすごいな〜となりますね。
リュウ班長はステータスこそパッとしないものの、宝具とスキルを真骨頂にして暴れてくれそうなのが面白い。
マスターの方も合理的に動ける人間なようなので、ドライに聖杯戦争を進めていけそうですね。

>>田中ぷにえ&ランサー
北欧の雷神と打ち合えるほどの武の極みに達した呂布の強さがよく描かれていた印象です。
強いキャラを強く描写するっていうのは単純ですけど凄く大切なところだと思うので、さすがだなあと。
聖杯を手に入れて神に挑むことを願う呂布、普通に武力としてめちゃくちゃ優秀ですよねやっぱり。
> これほどの強者を聖杯戦争時のみの部下にするには惜しいが、自分の下につくなど決してないと理解しているが故に。 よくわかってる!えらい!

皆さん本日も投下ありがとうございました!!


726 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/18(金) 23:40:38 2a31a8DA0
投下します


727 : Time lost cannot be recalled. ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/18(金) 23:42:38 2a31a8DA0

「私は……悲しい」

 歌うような痛みで。
 奏でるような嘆きの色で、彼は言った。
 
「聖杯戦争……おのが願いを叶える為、血で血を洗う戦場に……あなたのような少女が巻き込まれているこの現状が……。
 これだけでも嘆きを禁じ得ませんが……そのような身に余るおぞましき呪いを受けながら、それを解く事を願わないあなたの決意を変えられないのが、何よりも悲しい。
 我がマスター。チセ・ハトリ。夜に愛されし少女よ。本当にあなたに望みはないと?」

 鳥籠のように狭苦しい室内を明るく照らすきらびやかな赤髪。
 閉じられた瞳からでも感じる視線はこちらの心内を見透かすほどに細く。
 騎士甲冑。脇に抱えた竪琴を構える姿。戦場に身を置いた者にしか纏えない雰囲気。
 物語の挿絵がそのままに飛び出てきたような、本物の『騎士』。

 トリスタン。
 ブリテンの王アーサーに仕えし円卓の騎士。無駄なしの弓の名手。
 そう伝わる人物が、目の前で傅く姿勢を取っている。

 神秘に触れない出自なら誰であれ目を疑う光景に、マスターの羽鳥智世/チセ・ハトリは騎士と同じ赤い髪色を僅かに揺らした。

「別に、何とかしたくないってわけじゃないですよ。死にたくはないですし、これが解けるものならすぐにでも解きたいです」

 見れ事も触れる事も、珍しくはない。
 物心つく頃からチセには『彼ら』が見えていた。
 魔法と魔術が真に実在し、教えを受ける立場になってよりそれらは人生で密接になった。
 魔法使い。魔術師。妖精。竜。死者の念にも触れる事があった。
 なのでサーヴァントと呼ばれる彼が、過去に生きた英雄の魂の復元と知っても、チセは驚きはしても戸惑ったりはしない。
 戸惑いがあるのは、聖杯戦争という戦場の場に、殺し合いが起きる場所にプレイヤーとして招かれてる事態だけだ。
 
 願いを叶える。その言葉に抗いがたい誘惑を感じる理由は分かってる。分かりすぎている。
 視線を落とした先に映すのは自分の体。そして腕。
 異常に肥大化し。今にもはち切れんばかりに膨れ上がった、呪いを孕んだ左腕。
 夜の愛し仔(スレイ・ベガ)という、莫大な魔力の循環器と引き換えの寿命の短さに覆い被さった、竜の呪い。
 とある竜の仔を助けた結果に後悔はない。けれど明らかに目減りした命と日増しになる血の味を実感すれば、微かに揺れる欠片もある。
 理由にするには、きっと十分な欠片だろう。

(聖杯……。エリアスの授業でも出てきた気がする。神の子の杯を探す騎士物語って……アーサー王? 私達が住んでたイギリスの土地の伝説……) 

 色々な呼び方がある魔法使いの過去の講義を反芻する。
 思い出す度に軋む痛みがするが、過去には離れがたく常に彼との記憶がある。
 聖杯を巡る冒険。戦いと流血。
 自分は今、過去の物語の再現をしていることになる。


728 : Time lost cannot be recalled. ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/18(金) 23:43:28 2a31a8DA0


「ただ……それで他人の命を犠牲にするっていうのは、やっぱり」 
「他のマスターを蹴落とす結果にあなたは耐えきれないと」
「違うよ。……ううん、傷つけたくないのも本当だけど、私がしたくないのは、もっと単純で、身勝手な理由で……」

 エリアス・エインズワース。骨のひと。異形の魔法使い。
 奴隷として売られたチセの買い取り主で、魔法の先生。
 チセを生かす為に友達(ステラ)を呪いの身代わりにしようとした事で、チセとエリアスの関係は亀裂を刻んだ。
 種族間、人生感として始めから了承の上にあった溝が、決定的な揺れにズレた瞬間だった。
  
「今まで色んな人に言われてきました。無茶をするな、すぐに自分を傷つけるな、傍で見ている他人の事も考えろ……って」
「ええ。そこに居合わせれば私もそう答えたでしょう」
「でももしまた同じ状況が起きたら、やっぱり私は私を使って助けようとすると思うんです。それが悪いことだって、どうしても思えないから。
 それで私が削れていくから、あの人は私以外を削ろうとする。私はそんなの、絶対にして欲しくないのに」

 自己承認欲求からくる自己犠牲だと指摘もされた。
 けれど理屈じゃないんだ。自分がそうしたいのも、他人が自分の為にそうして欲しくないのも。

「あのひとがしようとした事を否定しておいて私がやったら、それこそもう一生傍にいられなくなっちゃうよ」

 馬鹿な我儘で、なんてことのない自己満足なのだ。
 そうする事を選べる自分になったのだけは、少なく誇れると思っている。


 チセは、生きたくはなかった。
 『見える』がゆえに周囲に疎まれ、寄って来て時に害する魔に抵抗する術を何も持たなかった。
 両親もわけも分からないまま離れてしまい、呪いを遺言(ことば)を残して墜ちてしまった。
 そんな暗闇からはじめに掬い上げてくれたのがエリアスだった。
 住み家をくれた。温かい食べ物をくれた。生きる術を、美しい世界を、たくさん見せてくれた。
 打算ありきの介護だったかもしれない。彼が全てを変えたわけじゃない。でもはじまったのは彼からだった。

(殴った方の拳、まだ少し痛む)

 崩れてない方の拳を確かめるように握る。
 振るってぶつけた骨の感触は、今も残ってる。

(固かったな……エリアスの頭)

 長い年月を生きてる割にエリアスはあまりものを知らない。
 意見が違って話し合う事は多々あった。
 だけど、あれほど激しく拒絶したのは初めてだった。
 人じゃない姿を見ても、力を見ても、恐れはなかったのに。
 人間の骨より頑丈だし、痛めてはないとは思うが。今はどうしてるだろう。

 使い魔(ルツ)の声も聞こえない。トリスタン曰く、自分の契約と混線してしまっているらしい。
 普通の使い魔との契約ならそんな事は起きないらしいが、ルツとはより深い『結び』をしている。それが関係してるのかもしれない。
 でもやっぱり一番の原因は、こちらから伝達を拒否していたからなのだろう。


729 : Time lost cannot be recalled. ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/18(金) 23:44:18 2a31a8DA0

(自分から離れておいて、都合のいいこといってるなぁ) 

 あのまま一緒にいるだけでは、自分もエリアスも考えを譲れない。
 捨てたわけじゃない。時間も手段も、妥協を引ける余地がなかっただけ。
 ステラがヨセフ……また別の怪物に人質にされていたのもひとつだけれど。 
 ヨセフの誘いに乗りエリアスと別れたところで記憶は途切れ、気づけばこの土地に飛ばされていた。
 心配なのはステラの安否だ。
 取り逃がしたヨセフが腹いせに危害を加えないとも限らない。そういう意味でも焦りはある。
  
(それにしたって、なんで此処なんだろう。場所が日本だから?)

 界聖杯がチセに与えた役割(ロール)は、意思がないとは思えない意地の悪い配置だった。
 無頓着というより物を揃える余裕がない、殺風景なアパート。
 夜の愛し仔(スレイ・ベガ)の魔法使いチセ・ハトリでなく、ただの羽鳥智世だった頃に生きていた場所。
 ただ生きているだけで、何も持たずに傷だけが残り、それすら放棄しようとしていた時期。
 そう。この部屋はあそこに似ている。
 記憶に薄い、自発的に希薄させようとしていた悪夢(げんじつ)。
 特にそこのベランダなんかが、明瞭に思い起こさせる。
 空がきれいに映る日に、母はチセを残して自由に飛び────

 弦の音色が、深みに嵌った精神を引っかけるようにチセを呼び起こす。

「失礼。傍にいるだけでも感じ取れる哀しみに、自然と指が琴に向いてしまいました……。
 ああ、無視されていた事が哀しくて、どうにか気づいて欲しかったわけではありませんよ?」

 トリスタンの腕の中で、竪琴が音階を鳴らしていた。

 旋律が部屋に響いて耳を彩る。
 その動作は滑らかに淀みなく、熟練の手付きといっていい。
 素人のチセにも才気と修練の跡を思わせるものであり、聞く者の耳と心を掴んで離さない。
 それは魔を介さない、ひとつの魔術だった。

「音楽は哀しみと共にあります。癒やす為、伝える為……見えぬ心に音を与え慰撫としてきました。
 私も己の胸から湧き出た傷の痛みに押し潰されそうな時、哀しみを琴に乗せて爪弾くと、不思議と心が安らぐのです。
 そしていつの間にか私の周りには民が集まり、音色を讃え、あるいは私の哀しみに寄り添ってくれ、いつの間にか私の孤独感を拭い去ってくれました。
 そう私こそ夜鳴きのトリスタン……帰りの遅い夫を探しに来た貴婦人を感涙させ枕を濡らす、ブリテンいちの不眠症の原因……」
「……良い曲でした。おかげでスッキリした」

 語りの後半はともかく、演奏は見事なものだった。 
 哀しげなメロディだったが、今のチセの心境をぴったりと表した共感(シンクロ)が心地よい。

 もらった余裕で、息を少し大きく吸う。
 肺はまだ侵されてなくて、きちんと酸素を溜め込んでくれた。


730 : Time lost cannot be recalled. ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/18(金) 23:48:23 2a31a8DA0


「アーチャー」
「はい」
「願いについてですけど。やっぱり、迷ってます。
 戦って、誰かを犠牲にするのが駄目なのは変わらないけど。
 それでも何もしないで、起きたら何もかもよくなってる……そんな魔法みたいなコトは一度だってありませんでした」

 茨の道。
 自分を労るように、刺々しく包んでくれた彼の在り方にはもうだいぶ慣れた。

「だから、私はちゃんと確かめたい。私の願いを。
 あげられるものはあげます。私がやらなくちゃならないと───その為に生きたい決めた時、力を貸してもらえますか?」

 必要なら持っていっても構わないと。
 崩れてない手を前に出す。
 怖い道も、痛い思いも、こうしたいと決意があったから足を進めてきた。
 彼じゃなくても、教えてくれるヒトがいる。

「それにやっぱり、放っておけませんし。
 しっかりしてるようでかなり困ったヒトで……ほんと帰ったらどうしようかなってなるけど……」

 頭を抱えて、気恥ずかしそうに濁しつつ。
 未来を見据えて、彼女は言える望みを口にした。

 ああ。結局、私は彼のことを考えている。 
 許せないのに、どうすればいいのか悩んでるのに。
 憎い気持ちは湧いてこない。あるのはただどうして、という疑問。
 その疑問が解消されないままでいるのは、とても辛い。
 解決するにはどうしたって、生きて帰らなくちゃいけない。

 チセの願いを聞き終えたトリスタンは、静かに口を開いた。

「先程も言いましたが……あなたは自らを犠牲とする事に躊躇がない。
 この舞台でも、あなたは同じく誰かの為に身を差し出すのでしょう。それは讃えるべき優しさであり、素晴らしき慈悲です。
 しかしその度にあなたはまた自分を削る。ましてあなたは爆弾を抱えた身。献身が止めの自壊にならない保証もない」
「……はい」

 ぐさぐさとくる。改めて言われると中々に酷い状況だ。
 エリアスでなくても呆れるだろう。 

「ええ。ですので、その時が来たなら私を存分にお使い下さい。
 そんな悲しい最期(はなし)で終わるのは、私ぐらいで十分でしょう」
「え?」

 あっけからんと。
 騎士は全てを請け負うと宣誓してのけた。

「でも、いいんですか? あなたの願いとか……それにそれじゃ私は返せるものが」
「魔力は既に供給されています。それさえあれば契約は十分。我らは死する寸前まで戦える。
 サーヴァントとはマスターの意を受け戦う兵器。死者の影法師です。
 あなたの優しい気持ちはどうあれ、それは変わらぬ事実です。
 所詮私はあなたの呪いを解くことも叶わない一介の騎士。
 ですが───」

 チセの躊躇も通さず、涼しげな口調には仄かに熱がこもる。 

「円卓の席を預かる者として、この敗北は許されない。
 呪いに苛まされる少女を、伴侶と引き裂かれた貴婦人を守り通すこそは騎士の本懐。
 私は嬉しい……この身にこれに勝る喜びはないでしょう」


731 : Time lost cannot be recalled. ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/18(金) 23:48:45 2a31a8DA0


(似てるって思うのは……やっぱり失礼かな)

 トリスタン。
 その名の意味は哀しみの子。
 生誕に親を失い、道ならぬ恋の毒に討たれた悲運の騎士。
 
 サーヴァントとマスターは契約で繋がり、その過去を夢見る例がある。
 夢への適正が高いチセはトリスタンの生前の過去を垣間見ている。逆も然りに。
 トリスタンもまた、チセの過去を知った。親に去られ、呪いに満ちて死に行かんとしている道程を。

 道を通ろうとする者と既に道を終えた者。 
 縁が引き合わせた生者と死者は知らぬ間に互いを理解していた。


「ああ……どうしても思い悩むようでしたら、どうでしょう。その可憐な喉を一曲お借りてしも?
 一曲弾いてみたら興が乗ってきましたので」
「え"」

 予想もしなかった方向に話が流れた。

「歌う……の? 私が?」
「なに、音は私が合わせます。あなたはあなたが思うままに、胸の歌を口ずさめばいいのです。
 記憶に根付いた流行歌、子守唄……たとえジャズやヘヴィメタであろうと、この竪琴は完璧にかき鳴らしてみせましょう……」

 ポロロンポロロンと電子的な音階がかき鳴らされる謎の弦楽器。
 正直、かなり、相当遠慮したい。
 だが形式上とはいえ契約した手前、このまま何もしないというのは……。
 
「……えーと、それでは、お聞き苦しいかもですが」
「待ってました。いよっ千両役者」
「そういうのはいいですから……」

 頭を捻って唸って、十数秒後に観念した。 
 毒を食らわば皿までだ。もうここまできたら最期まで突っ切るのがダメージが少ない。

「────────」

 口ずさむだけの拙い声に、音律が加わる。
 歌うのは子守唄だ。 
 小さい頃に母が唄ってくれた。最近になって思い出した、優しい母の思い出。
 目を閉じて羞恥を感じなくなったか、音に乗せられ気分が昂揚したのか、詰まりなく歌い終えた。
  
「ど……どうでしょうか」

 おずおずと評価を尋ねる。
 トリスタンは厳粛な審査員の面持ちで瞳を閉じて黙考して。
 
「……」
「……」
「……」
「……あの……?」
「………………………………。
 スヤァ」
「寝てる……!? あっまさか今の歌……!」

 適正のおかげで自分の眠り薬が聴き過ぎてしまうのを失念していた。
 自力で寝落ちから復帰した後、子守唄で寝入った恥ずかしさで平謝りするトリスタンが見られるのは、その五分後のことである。


 これは、少女が運命に還るまでの物語。


732 : Time lost cannot be recalled. ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/18(金) 23:49:28 2a31a8DA0
【クラス】
アーチャー

【真名】
トリスタン

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運E 宝具A

【クラス別スキル】
単独行動:B
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 マスターを失っても二日は現界可能。

対魔力:B
 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

【固有スキル】
治療の竪琴:C
 宝具である弦を使っての演奏。
 味方の精神的動揺を鎮め、敵の闘争心を失わせる。

弱体化(毒):D
 伝説において幾度と無く毒に弱らされ、瀕死に追い込まれたため、毒への耐性が若干低くなっている。

祝福されぬ生誕:B
 生まれついての悲運。哀しみの子トリスタンと呼ばれるほど、彼の生誕には嘆きがついてまわる。
 哀しみに満ちた歌声により、楽器演奏に追加ボーナス。

騎士王への諫言:B
 「王は人の心がわからない――」かの騎士王に刻んだ決定的なトラウマ。
 伝説においては心を抉るような悲しい恐らく諫言であるが、サーヴァントとして召喚された円卓の騎士たちは口々にこう告げる。
 「いや、我々は貴殿が何をやらかすかが一番わからん」と。
 本人としても、最後に残した一言としてはあまりに心無い発言であるため、いたく反省している模様。

【宝具】
『痛哭の幻奏(フェイルノート)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:5〜100 最大捕捉:10人
 「無駄なしの弓」「必中の弓」ともいわれるトリスタンの弓。ではあるがその宝具としての形は単なる『糸』。愛用していた竪琴の弦である。
 つま弾くことで敵を切断する真空の刃を飛ばせる。
 その特性から片腕、ひいては指さえ動けば発射でき、一歩も動かず、弓を構える動作を必要としないという利点を持つ。
 また角度調整、弾速、装填速度が尋常ではないため全弾回避はほぼ不可能。
 レンジ外まで転移するか次元を跳躍するなどでしか対抗できない。
 異なる手段としては糸を使って、相手を縛る、斬り裂くなどの戦術を取る。
 更に、森林などの障害物がある場所であれば「足絡み(スネア)」などのトラップとして仕込む事もできる。

【人物背景】
 アーサー王に仕える円卓の騎士、嘆きのトリスタン。
 慈悲深く友愛を尊び、友を引き裂く事態が避けられないのなら自傷行為にすら及ぶ人情家。
 それがゆえ正し過ぎ時に苛烈な策を平然と行うアーサー王と袂を分かった過去を持ち、それを深く悔いている。
 自覚はないがかなりの天然枠。空気が読めず、会話中立ったまま熟睡し、弦楽器でデスメタルをかき鳴らし、音で空を滑空する。居眠り豚。
 美女と見れば一席設けようとする軟派だがその実本気で落ちることは生前のしがらみから(基本)ない。
 姿は再臨第三段階のもの。常時魔力MAX状態。

【サーヴァントとしての願い】
 マスターを守り抜き、元の世界に帰還させる。裏切りを重ねた自分とは違い彼女には救いがあるべきだと考える。
 年若くも悲運な生涯を辿るマスターを慮り、関係を踏み込んだ発言は自重する。たとえ人妻であろうとも。私は、絶対に負けない!


733 : Time lost cannot be recalled. ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/18(金) 23:53:59 2a31a8DA0
【マスター】
羽鳥智世/チセ・ハトリ@魔法使いの嫁

【マスターとしての願い】
 元の世界の帰還、呪いの除去、寿命の解決。
 多くが混じり合い、答えは未だ出ていないが、生きて帰りたいのは確かな願い。

【能力・技能】
『夜の愛し仔(スレイ・ベガ)』
 無尽蔵に魔力を吸収し生産する性質。魔や妖を引きつけやすく、あちら側の住人からは「愛し仔(ロビン)」とも呼ばれる。
 しかし耐久力は並の術師と同じかそれ以下に虚弱で、生きているだけで際限なく魔力の生産と吸収を繰り返し、肉体が負荷に耐えられなくなり数年のうちに殆どが死亡する。
 この体質と、あちら側のモノを対抗策も持たないまま引き寄せてしまい心身を傷つけることから生存率は非常に低い。
 上級のサーヴァントでも長時間問題なく行使できるが、魔力より先に生命が尽きる方が早いだろう。

 作中では魔法(魔法使い)と魔術(魔術師)は区別されており、人ならざる存在の力を借りて世界の理に干渉し奇跡を起こすのが魔法で、魔法と酷似した結果を独力で生み出すのを魔術と分ける。
 魔法使いがコンピュータの管理者なら、魔術師はハッカー。
 チセ個人の技能としては、眠り薬や子守唄、他者の記憶や夢を垣間見る事に関して適正があるのがちらほら見られる。

 原作8巻時点では、攫われた竜を助ける為に魔力を吸収した結果、左腕が肥大化。竜の呪いを受け寿命が加速度的に減ってしまっている。

【人物背景】
 赤髪と若葉色の瞳を持った少女。
 物心ついた頃から人ならざるものが見え、その時は両親に守られて過ごしてきたが、ある時父親が息子を連れて急に失踪、残された母は負担に耐えきれず呪いの言葉を吐いた後悔に身を投げた。
 人の社会に居場所がなくなったところを魔法世界のオークションにかけられ、500万ポンドで魔法使いエリアス・エインズワースに買われ、彼の弟子兼『花嫁』になる。
 人外の姿と力を持つが情緒が子供並なエリアスに互いに教え合い、魔法使いに妖精といったあちら側の住人と交流を通して新しい人生を送っていく。

 受動的で口数は少なめだが、根は頑固。交流のうちに前者の部分は解消されていってるが後者はむしろ強くなってる節がある。
 周囲に疎まれた過去から、自分に接してくれた人物には(それが効果的とはいえ)自分を差し出すことに躊躇がなくしょっちゅう傷つく。誰かに必要とされたい承認欲求とも。
 自己犠牲という自覚はなく、それをして悲しむ人がいると知り、当初はなかった「生きたい」という欲を見せるようになっても、つい反射的に無茶をやってしまう悪癖になっている。

 エリアスが他者に自分の竜の呪いを移させようとした事を知り彼の場を離れたの直後。
 使い魔(ルツ)との契約は途切れていないが、トリスタンとの契約が混線した影響でこちらに出る事はできない。直前に拒絶したのも一因かもしれない。

【方針】
 体の都合上、夜は楽に外を出歩けないのがネック。昼の間はトリスタンに行動してもらう。
 余談だが、オークションで買い取られた際の取り分として 250万ポンド(ざっくり4億2500万円)が通帳にぶち込まれてる。無茶苦茶である。


734 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/18(金) 23:54:16 2a31a8DA0
投下終了です


735 : ◆ylcjBnZZno :2021/06/19(土) 00:13:51 GuLTsJ7s0
投下します


736 : 遠山和十&セイバー ◆ylcjBnZZno :2021/06/19(土) 00:15:51 GuLTsJ7s0
5月も終わるころ。
散り損ねた一輪の花が風に揺れていて。
ずっとそこにあってほしい――願った俺は手を伸ばした。
けれど。


「俺を信じろ! 俺は裏切らない! この言葉を信じろ!」


その言葉は届くことなく。


「俺はさらが好きだ。 もし俺のこの言葉を信じてくれるなら……笑って返事をしてほしい」


その想いは届くことなく。



桜は散って、舞い落ちた。



◆◆◆



彼が目を覚ました時には日は沈み、部屋の中はすっかり暗くなっていた。

部屋の隅で膝を抱え、顔を埋めているうちに眠ってしまったらしい。


決して忘れられない、忘れてはいけないあの日の夢を見た。

己がなぜ聖杯戦争に臨んだのか。その原点を思い出し、ゆっくりと顔を上げる。

眼前に立つは金髪のセイバー。
己のサーヴァント。願いを叶えるための力。

そう、力だ。
信じ、頼り合う仲間じゃない。

ボールを打つためにバットを振るうように。
目的のために用いる―――道具(ちから)。


濃い隈ができた両目で、睨むように見据えて口を開く。

「セイバー、絶対に聖杯を獲るぞ。」
「はい、マスター」

やり直したいあの日のために。
二人の戦いが幕を開けた。


737 : 遠山和十&セイバー ◆ylcjBnZZno :2021/06/19(土) 00:16:51 GuLTsJ7s0



【クラス】
セイバー

【真名】
アルトリア・ペンドラゴン@Fate/stay night

筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運A+ 宝具A++

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
魔術への耐性。
ランクAでは魔法陣及び瞬間契約を用いた大魔術すら完全に無効化してしまい、
事実上現代の魔術で傷付ける事は不可能なレベル。

騎乗:B
乗り物を乗りこなせる能力。
大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

【保有スキル】
直感:A
戦闘中の「自分にとっての最適の行動」を瞬時に悟る能力。
ランクAにもなると、ほぼ未来予知の領域に達する。
視覚・聴覚への妨害もある程度無視できる。

魔力放出:A
魔力を自身の武器や肉体に帯びさせる事で強化する。
ランクAではただの棒切れでも絶大な威力を有する武器となる。

カリスマ:B
軍を率いる才能。
元々ブリテンの王であるため、率いる軍勢の士気は極めて高いものになる。
ランクBは一国を納めるのに十分な程度。

【宝具】
『風王結界(インビジブル・エア)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1
彼女の剣を覆う、風で出来た第二の鞘。厳密には宝具というより魔術に該当する。
幾重にも重なる空気の層が屈折率を変えることで覆った物を透明化させ、不可視の剣へと変える。

『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
神造兵器でもあり、あまりに有名なその剣は、通常時は『風王結界(インビジブル・エア)』によって隠されている。
神霊レベルの魔術行使を可能とする聖剣であり、所有者の魔力を“光”に変換、集束・加速させることで運動量を増大させ、振り下ろした剣の先端から光の断層による「究極の斬撃」として放つ。

『全て遠き理想郷(アヴァロン)』
ランク:EX 種別:結界宝具 防御対象:1人
「不老不死」の効果を有し、持ち主の老化を抑え、呪いを跳ね除け、傷を癒す。
真名解放を行なうと、数百のパーツに分解して使用者の周囲に展開され、この世界では無い「妖精郷」に使用者の身を置かせることであらゆる攻撃・交信をシャットアウトして対象者を守る。それは防御というより遮断であり、この世界最強の守り。

【weapon】
『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』

【参戦時期】
衛宮士郎に召喚される以前。

【人物背景】 
イングランドの大英雄、かの有名なアーサー王である。
円卓の騎士の一角にしてブリテンを統べた王であり、『騎士王』の異名を冠する。

【サーヴァントとしての願い】
王の選定をやり直す。



【マスター】
遠山 和十(とおやま かずと)@パワプロクンポケット10

【マスターとしての願い】
さらがいなくなったあの日をやり直す

【weapon】
なし

【能力・技能】
高校球児としても高いレベルの身体能力、野球能力
甲子園には出場したものの、優勝はできなかったようだ。

【参戦時期】
さらBAD ENDルートの3年目10月頃

【人物背景】
小学校から野球をやっており中学校でも活躍したが、名門校からお呼びがかかるほどの結果を出せなかった。それでも野球をあきらめきれず、野球部が強いと勧められた「親切高校」に入学する。
自他ともに認める野球バカで分数の計算もまともにできない。頭の回転は速いので勉強が苦手なだけである。
学校の屋上で出会った、ちょっぴり他者に対して疑り深い少女・芳槻さらと交流を深める。
しかしある日、さらは唯一信頼していた父親が事故で意識不明になったことから「父親さえも自分を裏切った、もうこの世界は何も信じることはできない」と半狂乱に陥り自殺を図る。
和十は「これからは自分のことを信頼して生きてほしい」旨を伝えるとともに、自分の想いをさらに告白するが拒絶され、さらは和十の目の前で屋上から身投げしてしまった。
さらに信じてもらえなかったことを悔やみつつ、自分はチームメイトを信じて最後の夏を戦うことを誓い甲子園に出場するが、優勝は叶わず敗退。
時が経つにつれて他人を信じることができなくなってしまった。

【方針】
聖杯を獲得する。


738 : ◆ylcjBnZZno :2021/06/19(土) 00:17:25 GuLTsJ7s0
投下終了です


739 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/19(土) 09:07:43 14vSjQ2k0
投下します。


740 : Diavolo in corpo ◆Pw26BhHaeg :2021/06/19(土) 09:10:12 14vSjQ2k0
「クソが……! ハァーッ、チクショウ……!」

 ザザザーッ……!ザザーッ……!
 突然の豪雨に追われて、男は山の中の廃屋に逃げ込んだ。
不気味な容貌の太った男は、歯を食いしばって悔しがる。

「ツイてねーぜ……! ヤクもねーしよ……!」

 彼は雨を振り払い、廃屋の中を眺める。朽ちかけたチンケな木造家屋だ。
藁葺きの屋根には大きな穴が空いており、雨は容赦なく入って来るが、残った屋根でどうにか雨露はしのげるだろう。
だが、風がミシミシと廃屋を揺らしている。崩れてきたら押しつぶされるかも知れない。

 男は暗闇の中に目を凝らし、耳を澄ます。……何かがいる。
床を踏み抜かないよう慎重に歩を進めると、意外なものがあった。

 死体だ。ひとつは倒れ伏した老婆の、もうひとつは年老いた猫の。
老婆の死体の奥には、赤児らしき両脚が天井へ突き出している。老婆の子でもあるまい。
男は嫌な顔をし、これらの死体をどこかへ運び出そうと考えた。
近寄ってみると、赤児も死んでいる。生まれつき体が不自由らしかった。

「……捨てられたのか」

 男は無感情につぶやく。よくあることだ。彼の故郷でも、貧困地域では捨て子は珍しくない。
野良猫が野垂れ死ぬのも当然。そしてこの老婆は、服装からみて浮浪者だろう。今の自分と同じく。

 かつては、自分はそうではなかった。それなりの暮らしを与えられ、飼われていた。
もっと前は、その日暮らしの麻薬中毒者だった。この老婆や野良猫のように野垂れ死んでいても不思議はない。
彼を拾い上げ、才能を見出して飼っていたのは、ある街を支配するギャングのボスだった。

 彼は、安心とカネと衣食住を与えてくれたボスに心から感謝した。麻薬も適度に与えられ、仕事もこなした。
彼のためなら死んでもいいと思っていたし、実際……死んだ、はずだ。
じゃあ、今いるここは、地獄だろうか。行ったこともない日本の、大都会東京のはずれの、こんな山の中に居るなど。

 赤児から運ぼうと手を伸ばすと、それはびくりと動いた。生きているか、死後硬直の痙攣か。
否!老婆と猫の死体も同時に動き、震え、光り出した!

「これはッ!」

 心霊現象か、あるいは……!男は身を守るため、自らの『能力』を発動させた!
 だが……出ない!出せない!

「なにィーッ……! まさか、失っちまったのか……?」

 死体は光となり、黄色い煙になって立ち昇り、空中で融合し始めた。
何かヤバいことが起きている。いや……これは、まさか!

 やがてそれは黄色いクラゲのような、人間よりもやや大きな形となった。
あの赤児のような目と口があり、短い手足があるが、全体的には非人間的だ。
それは大きな二本の前歯しかない口を開き、不気味な鳴き声をあげた!

『コ ケ カ キ イ キ イ』

 男は脂汗を流しながら、それを見ていた。死体は消えた。
いや、光と煙になって溶け合い、アレに……なったのだ。幽霊か、怪物か。
それはこちらへぎょろりと瞳のない目をむけると、口をきいた。脳内に声が響いた。

『あなたが、私のマスターですか?』

「……そのようだな。俺は『カルネ』だ。テメエは、何だ」

『私はバーサーカー(狂戦士)のサーヴァント、コケカキイキイです』


741 : Diavolo in corpo ◆Pw26BhHaeg :2021/06/19(土) 09:12:19 14vSjQ2k0


 男と怪物、バーサーカーは、廃屋の中で向かい合って座り、話し合う。
見た目は完全に化け物だが、意外と会話は通じる。
ただ、少々過激な思想の持ち主のようだ。彼は両腕を掲げて宣言した。

『私は、庶民の不満を食べる生き物です。かつて民衆に神として崇められてもいました。
私がここに出現したからには、安心しなさい。あなたの不満も解決し、この聖杯戦争も解決してみせましょう』

「俺の不満?」

『あなたは今、家がないですね? じゃあ金持ちの家を奪い取りましょう。
私が暴力で家主を追い出します。逆らえばそいつを殺します』
「おいおいおいおい」
『食物は私が生やせます。麻薬も欲しいようですが、それは自然に反することです。我慢してください。
それとも、ハッパでも生やしましょうか?』
「おいおいおいおいおいおい」

 カルネは思わずツッコミに回った。なんて過激な怪物だ。

「こう……マズいだろ、それはよ!
 今は聖杯戦争だかで、俺らみてーなのが殺し合いを始めてんだろ? 目立ったらそいつらが殺しに来るぜ」

『問題ありません。来た順に殺します。』

 カルネは早くも彼との対話を諦めた。なるほど、バーサーカーだ。
何が神だ、悪魔ではないか。俺は、悪魔と契約したというわけだ。死体の悪魔と。

「……とにかく、拠点は一応ここでいい。隠れて様子を見よう。
なんか、俺のスタンド能力も使えなくなってるしよ……」
『スタンド? あなたの超能力ですね。私が食べました』
「はァ!?」
『あれがあなたの不満の源ですよ。恨みを食らって成長するなど、自然に反します。
もしもあなたが死んだら、あれは暴走するでしょう』
「おめーが言うな。それによ、俺が死んだ場合、今度はおめーが暴走しちまうんじゃあねーか? そうすっとよ」

『……………』

 怪物は押し黙った。

「なんか言えや!」


742 : Diavolo in corpo ◆Pw26BhHaeg :2021/06/19(土) 09:14:48 14vSjQ2k0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
コケカキイキイ@コケカキイキイ

【パラメーター】
筋力A 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具A

【属性】
混沌・狂(善)

【クラス別スキル】
狂化:C
 理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。
また現界のための魔力を大量に消費するようになる。
会話は可能だが、貧乏な庶民や恵まれない者、
自然環境のためにのみ行動するため、性格は過激派テロリストに近い。

【保有スキル】
御霊神:B
 捨てられた者たちの怨念から近年生じた霊的存在。
神として祀られたため神であり、自ら「コケカ神」とも名乗っている。
閻魔大王や死神、妖怪とも知り合い。「神性」と「復讐者」の複合スキル。
庶民の怨念や不満、様々な社会問題を解決するために現れる。

神通力:C
 神の力の一端。周囲の物体を自由に動かすことができる。
無数の蝶を呼び寄せて敵を運ばせたり、体を大きく広げて空を飛んだりする。
なんでもカンというやつでわかるので「千里眼」や「直感」も持っている。

貧者の見識:A
 相手の性格・属性を見抜く眼力。言葉による弁明、欺瞞に騙される事がない。
弱きものの生と価値を問う、相手の本質を掴む力を表すスキル。
無意味にカネを巻き上げる邪悪な金持ちはぶん殴り、つかまえて食ってしまう。

単独行動:EX
 本体が持つスタンド能力を吸収したことにより獲得。
マスターがいなくても行動できるが、マスターが死ぬと暴走してしまう。

【宝具】
『生命の指揮棒(バトン・オブ・コケカキイキイ)』
ランク:A 種別:対国宝具 レンジ&最大捕捉:半径数百km?
 バーサーカーが手に持つ謎めいた指揮棒。
天地を揺り動かすような不思議な音楽を奏で、大地や水上に無数の植物を生えさせる。
植物は人や乗物に絡みついて絞め殺す。聴いた者は労働や戦闘する気を失い怠け者になる。
完全発動には相当の魔力とゼンめいた会話などの準備が必要で、
庶民の不満を解決してしまうためバーサーカー自身も消滅する。
現在は周囲の植物を操ったり、相手の戦う気を削いだりする程度にしか使えない。

【Weapon】
 暴力。戦車を持ち上げて投げ飛ばすなど恐ろしい怪力を有する。
暴力を振るうのに容赦がなく、敵対する人間を殴ったり食ったりする。
また周囲の植物を操り、敵の首を締めたり、脚に絡みついたりする。

【怪物背景】
 水木しげるの漫画『コケカキイキイ』に登場する妖怪的存在(新生物)。
豆腐かマシュマロ、ぬりかべめいた四角い大柄な姿で、首はないが不気味な目と口と手足があり全裸。
一般人からは「不愉快な仮装」と言われており、特撮の怪物の着ぐるみのように見える。
感触はマシュマロめいて柔らかく、骨は持たない。「コケカキイキイ」など奇妙な鳴き声をあげ片言で話すが、普通に喋れる。
植物や動物ともテレパシーで心を通じ合える。霊的存在ゆえ不死身であり、戦車砲も効かない。
魔術で焼いて灰にしても、地面に撒けば樹木に吸収され、無数の小さなコケカたちと化して復活する。

 ある村の廃屋で、国に見捨てられ貧窮した老婆、親に捨てられた障害児の赤子、
飼い主に捨てられた病気の猫、猫にとりついていたが宿主と共に死ぬ運命にあったシラミ夫婦が同時に死を迎えた。
その時、彼らの「死にたくない、生きていたい」という思いから四者が融合し、新生物となって蘇った。
それは「コケカキイキイ」と鳴き声を発し、これが呼び名となった。

 それは東京へ向かうと傲慢な金持ちや自然に反する生き方をする者を無慈悲に懲らしめ、
貧しい者、恵まれない者に富を分配した。警察や自衛隊の攻撃も通じず、
ついに公害で汚れた東京に豊かな緑を取り戻して立ち去ると、「庶民の不満を食べる新生物」と名乗り、
もとの四者の死体に戻った。村の少年はそれを神として祀った。
のちに庶民の不満が溜まると再び動き出し、様々な事件を解決したり、解決したせいで恨まれたりしたのであった。

 貧乏人や恵まれない人には救いの神だが、金持ちや恵まれた人間には悪魔のように恐ろしい存在。
性格は割と乱暴で俗っぽく、赤線(公認娼婦制度)の復活を唱えるなど、
社会問題について含蓄のある意見を述べたりする。ルーラーやアヴェンジャーとしての適性もある。

【サーヴァントとしての願い】
 貧乏人や恵まれない者たちを救済する。ある意味、彼自身が聖杯かも知れない。

【方針】
 何事も暴力で解決するのが一番だ。

【把握手段】
 原作漫画。


743 : Diavolo in corpo ◆Pw26BhHaeg :2021/06/19(土) 09:16:08 14vSjQ2k0
【マスター】
カルネ@ジョジョの奇妙な冒険第五部 黄金の風

【Weapon・能力・技能】
『ノトーリアス・B・I・G』
破壊力:A スピード・射程距離・持続力:∞ 精密動作性:E 成長性:A

 本体のカルネが死ぬ事で発現するスタンド。
殺された恨みをエネルギーにし、周囲の物質やエネルギーを喰らい、際限なく巨大化する。
腫れ上がった腐肉めいた不定形の肉体、縞模様のマスクとランプ状の両目、
車輪を備えた前肢を持ち、這いずったり跳び上がったり触手を出したりして移動する。
判断能力は皆無。周囲の中で「最も速く動く物」を優先して襲う習性がある。

 生前に人型のスタンドを出していたが、直後に射殺された為、死後と同じ能力なのか、
違う能力だったのかは不明。自分のスタンドが本体の死後に真価を発揮することを知っていたのかも不明。
チョコラータやセッコは発動の3日後ながら知っていたし(誰かが調査した?)、
ボスの命令ひとつでわざと殺されるために現れたとすれば、本体も実態はともかく直感で悟っていたのかも知れない。
生前はエボニーデビルめいた「恨みの力でパワーアップする」スタンドであった可能性はある。
自分の血液や肉片を敵にくっつけて殺す、といった能力だったのだろうか。
どのみち現在はコケカキイキイに吸収されており、使用できない。

【人物背景】
 漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第五部に登場する人物。
イタリア・ネアポリスのギャング組織「パッショーネ」の、ボス直属の親衛隊の1人。
不気味な風貌の太った男。CV:阪口大助。カルネ(Carne)はイタリア語で『肉』を意味する。
サルディニア島に飛行機で向かおうとするジョルノ一行の前に現れ、一言も発する事なくミスタに射殺された。
しかし……。

【ロール】
 ホームレス。失うものは何もない。

【マスターとしての願い】
 特になし。強いて言えばカネと自由。

【方針】
 とりあえず聖杯を狙う。邪魔するやつは殺す。
バーサーカーが生やす野菜や果物やハッパは一応貰っておく。

【把握手段】
 原作。

【参戦時期】
 死亡後。


744 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/19(土) 09:17:12 14vSjQ2k0
投下終了です。


745 : ◆citl13lt7. :2021/06/19(土) 12:45:44 1ZQMdEyI0
投下します


746 : 理想の白ウサギ ◆citl13lt7. :2021/06/19(土) 12:47:09 1ZQMdEyI0
 英霊の座にて、彼の王は人を見る。
 天なる空から、雷雲の果てから、人を見る。
 この世は色で満ちている。黒。白。灰色。それだけでなく。
 王は、既に王ではない。偽りの冠を捨て、青年となり、世界を己の目で確かめ───そしてその生涯の終わりを以って座へと至った。
 争いに手を貸すつもりはない。殺し合いに手を貸し、命をその手にかけるほど醜いものはない。
 しかし。
 殺さなければいけない残酷な真実と。
 殺さないという高すぎる遠い理想と。
 その二つの狭間で、揺れ動く少女を眼下に収めつつ、青年は宣言した。

「キミとサーヴァントが目指す道は───どんなものか」

 蒼炎と雷が走る、天空にて。
 青年は、再びこの彩られた世界に、降り立った。






○ ○ ○

 コツン、と座り心地の良い椅子に座り、背もたれに身を預ける。身体に合わぬサイズのソファーチェア。私には、少し大き過ぎる。
 身を預けたまま周囲を見渡すと、あまりに小綺麗───というより、清潔過ぎる世界が目に映る。白を基調とした部屋に、黒いデスク。デスクの上には様々な資料が並べられており、意識を乱さぬように配慮された昼光色の照明で照らされている。
 並べられた資料には、会社としての方針・新製品・企画書などなど、目を通すだけで頭が痛くなるようなものが並んでいる。整列するかの如くきちんと並べられているが全く内容の異なる書類の中に、一つだけ共通点があった。
 ───製薬会社『ロドス』、と。
 私はどうやら、そこの公表リーダー、CEOの立場らしい。
 
(そんなはずはない…そんなはずはない、のに)

 クラシックなデザインのコートに身を包み、顔だけを動かし、私は鏡を見る。そこに映るのは、体の大きな男性が座るようなソファーチェアに身を預ける少女。頭から兎の耳がぴょんと生えた、少女。
 ───アーミヤ。名前は、きちんと思い出せた。
 思い出せているというのに、違和感が拭えない。机の上に並べられたものには数々の病に向けた薬、治療器具、それから新技術の開発まで、多くの情報が書き記されている。
 しかし。ロドスにとって一番大事な項目。『鉱石病』や『天災』といった目下対処すべき事項・考慮すべき事象について全く触れられていない。
 まるで。
 私だけが、全くの別世界に飛ばされてきてしまったような、そんな気さえ覚える。
 しかし、違和感はそれだけではなかった。鉱石病、天災、それらの知識がこの世界に無い代わりというべきか。
 聖杯戦争、マスター、サーヴァント、聖杯。それらの単語が、理解できる意味となって脳内に残っている。
 超常の存在を従え、一組になるまで行われる殺し合い。最後の一組には、どんな願いも叶える権利が与えられる。
 無論、私はそんな殺し合いに乗るつもりなどなかった。『ロドス』は───この世界に存在する『ロドス』とは別物だが───無意味な殺戮を行わない。仲間を見捨てない。
 私たち『ロドス』は、人を救うために存在しているのだから。

「…でも、もし。どんな願いも叶うのだとしたら」

 鏡に映った自分に手を伸ばす。もし、もし本当に願いが叶うのだとしたら。
 私一人が血に塗れるだけで、願いが叶うのだとしたら。
 ───今も被害にあっている感染者、世界を壊す天災、人に宿る鉱石病。その全てを一瞬で消すことができるとしたら?
 いつか、なんて理想を追う必要はない。残酷な真実を見る必要もない。
 この一分一秒の間にも差別を受け、命を落としかねない鉱石病の感染者や失われていく命を救うことができるとしたら。


747 : 理想の白ウサギ ◆citl13lt7. :2021/06/19(土) 12:50:16 1ZQMdEyI0
「…っ、だめ、だめ、だめです…!」

 顔を振って、邪な思考を振り解く。今も元の私の世界では、ドクターやロドスの皆さんが戦っている。
 救うべきものを見て、動いている。
 だというのに、私が一人知らぬ地で折れてどうするのか。

 そこで。ひらりと、草原のような緑の髪をした青年が、光と共に現れた。
 白のシャツに黒のインナー、ベージュのズボン。首と両手首、腰には宇宙や数学を思わせるような絡み合った装飾品を身につけている。白黒の帽子に隠れた、その瞳には光はなく。どこまでも吸い込まれそうだった。

「…決まったかい? キミが追うべき『真実』、『理想』。どっちを取るべきか。キミが望む世界の数式は、どちらなのか」

 彼が、私のサーヴァント。キャスター。
 人より思考が速く、そのため人と会話のペースが合わないのか、早口気味な彼の言葉を少しずつ咀嚼する。

「聖杯戦争。願いを叶えるために、一組になるまで続く殺し合い。
 …きっと、私が殺し合いを否定したとしても、戦場は変わらない。譲れない願いのために誰かが誰かを傷つけて、命を奪って、その抵抗と報復のためにまた争いが起きる」

 私は、大きなソファーチェアに全体重を預け、膝を抱く。そこには、自分の温もりしか感じられない。
 いつも側にいてくれた───記憶を無くそうとも側にいてくれた、背中を押してくれた『彼』はここにはいない。
 心細くなどない、と言えば嘘になる。不安はある。今ロドスはどうなっているのか、レユニオンは、仲間たちは、そして私はどうなってしまうのか。
 『彼』が側にいてくれるだけで、どんなに遠い平和への道も走り抜けられるような気がした。どんなに不安が走る私に追いついて、この背中を掴もうとも、『彼』がいてくれるだけで幸せだった。
 今は、恐ろしくて恐ろしくてたまらない。両肩を抱いても、胸を押さえ深呼吸をしても、何も変わらない。
 逃げてしまえと誰かが囁く。見知った人間などいないのだ、この場には仲間などいないのだと。ならば、逃げても誰も文句は言わない。争いが終結するまで隠れ、防戦に徹すればいい。終結を招く者が、戦争を望む誰かなのか、争いを止める誰かなのかはわからないけれど、そう長い間争いが続くこともないだろう。
 無用な争いになど参加する義理もなく。固執する必要性もない。この身が最優先すべき事項は、ロドスの存在する『自分の世界』なのだから。
 ならば。
 ならば。
 自分の身だけを、守っていれば。

「───それでも」

 だと、しても。

「私は、誰にも傷ついてほしくありません。戦争である以上命を落とす人は存在します。奪う人も存在します。
 私が命を奪わなければならない状況に陥ることも珍しくないでしょう」

 戦争。その惨さは、この身がよく覚えている。
 殺戮。暴力。差別。悲観。絶望。狂気と憎悪と諦めが混ざった、混沌とした世界。狂った戦場は悲劇を産み、人を容易に『正しい道』から突き落とす。
 その恐怖を、知っているからこそ。

「私は争いを止めたい。私のように望まない戦争に駆り出された人も、戦うしかなかった人も同じです。
 最後には殺し合う道しか残されなかったとしても───私は、助ける道を諦めたくありません」
「…それが、キミの理想。キミが望む世界なんだね」
「はい。私がここで諦めてしまったら…元の世界で私を信じてくれた皆さんを裏切ることになります。
 そうなってしまったら、私は私を許せなくなる」

 キャスターの瞳を見据えて、そう告げる。光を失ったような暗いその瞳は、私をじっと見つめ返す。
 キャスターは、おそらく私よりも強い。私の使えるアーツを総動員しても、少しの間足止め出来るかどうか。不興を買えば、ここで消される可能性も有り得る。
 しかし。この理想だけは、失ってはいけないものだと思ったから。

「うん。いいね、素晴らしい」
「…え?」
「夢を持つ、それは素晴らしいことだよ。争いとは、どちらかが正しいとは限らない。どちらも間違っていたり、どちらも正しいこともあるのだろう。
 でもね。その夢を実現し、キミだけの真実とすることは決して間違っていない。
 少なくとも、ボクはそう思うな」

 意外なことに。帰ってきたのは、肯定だった。
 キャスターは微笑みながら、私の言葉を受け止め、その上で肯定したのだ。
 茨の道だと、想像しなくてもわかるだろうに。

「協力、してもらえるんですか…?」
「勿論だとも。ボクはキミのサーヴァントだから。キミの溢れんばかりの世界へのラブが、ボクには真実だと理解できる。それを否定することなんて、ボクにはできないよ」


748 : 理想の白ウサギ ◆citl13lt7. :2021/06/19(土) 12:51:54 1ZQMdEyI0

 サーヴァントは、既に死した身だという。あまりにも突飛な存在故、『聖杯戦争』というシステムを情報で理解はしていても、サーヴァントという存在の全てを理解しているわけではない。
 既に死している英雄だろうと、負ければ消えることに変わりはないのだろう。それが戦争というものだ。
 一度死んでいるからと言って、死への恐怖が薄れるはずはない。むしろ、己の命が消えていく瞬間を『知っているからこそ』、恐ろしいはずなのだ。
 それでも、キャスターは。
 私のために、協力してくれるというのだ。
 …みっともない話だけれど。その優しさに、涙が溢れそうになった。一人ではない、その事実が私の心を締め付けていた何かを溶かす。
 今日まで戦い生き残る。私の命を救うために、何人もの命が犠牲になった。
 その全てに、自分は立派に戦っているのだと、叫ぶために。皆さんが繋いだ命は、無駄ではないと、叫ぶために。私はぎゅっと涙を堪えて、口を開く。

「…キャスターさんは、叶えたい願いはないんですか?」
「無いよ。ボクは…彷徨って、旅をして、十分な色を見た。彩られた世界を見て、答えを得た。次はキミの番だ」
「私…?」
「そう。ボクとボクのトモダチは、真実と理想を司る。トモダチの姿は、今は見えないけれど…確かに存在を感じる。だからボクは、トモダチの代わりに見定めよう」

 キャスターは手を広げ、空を仰ぐように天井を見つめ。その先の、星空を見るように。

「ボクを喚んだキミが、『英雄』に相応しいかどうか。望む世界を作るに足る器か、どうか」

 すう、と音を立てて消えていくキャスター。霊体化、というらしい。相変わらず、言いたいことだけ言って帰ってしまった。

「英雄、なんて…」

 真実。理想。英雄。そんな器じゃない、と私は思う。
 ただ、やるべきことを成してきただけで。
 …事実、年頃の乙女の肩に乗るには、重すぎる問題。命と命の天秤など、少女が背負うべきものではない。
 ───しかし、この場にいる兎の少女は。ただ、歩みを止めることだけはしないのだ。

「私のやることは変わりません。人を助け手を取り、問題を解決し、ドクターやロドスの皆さんの元へと帰ります」

 若くしてロドスを率いる、戦場を駆け抜けた過去。
 道など決まっている。私の進むべき道は変わらない
 …『彼』がいない隣は、少し寂しいけれど。
 私は、胸を張って『彼』の隣に立つことができるアーミヤだと、歩いていく。

 …しかし。
 私一人が犠牲になれば、ロドスだけでなく世界が余すことなく救われる───それは、アーミヤが思い描いた『理想』の世界への、一番の近道なのではないだろうか。
 ふと心の隅に沸いたその気持ちが、『真実』ではないとは言い切れるだろうか。
 心の隅に隠れた感情の名を、私は未だ知らず。


749 : 理想の白ウサギ ◆citl13lt7. :2021/06/19(土) 12:52:55 1ZQMdEyI0
○ ○ ○


「…うん。わかっているよ、レシラム。ゼクロム。ボクはアーミヤがどう言った決断を下すか…アーミヤの旅がどんなものになるか、見たいだけなんだ。
 迷い旅をした先駆者として、なんて言うつもりはないけど」

 製薬会社『ロドス』、本社ビル屋上。夜風が吹き遊び、眼下には光の灯った建物が並んでいる。
 右を見ても。左を見ても。キャスターが慣れ親しんだトモダチ───ポケモンは、いない。
 きっとそういう世界なのだろう、とキャスターは結論づける。多くの世界を見たのだ、これくらいあっても不思議ではない。

「大丈夫だよ。命のやり取りをしてきた彼女だけど、方針は善の者だ。キミの焔が彼女を焼くことはない」

 キャスターの背後に、陽炎のように白龍の姿が浮かび上がる。実体はなく、確かに燃え盛るオーラは健在だがそこに肉体はない。
 キャスターの背後に、嵐に見る幻覚のように黒龍の姿が浮かび上がる。同じく実体はなく、弾けるオーラのみが健在だ。
 魔術師のサーヴァント、キャスター。彼は『ポケモントレーナーとして』ではなく、『真実または理想を司る、神話に描かれた存在に認められた英雄』としての側面を持ち召喚された。
 おそらく、ライダークラスだったのなら、神獣クラスの白龍と黒龍を呼び出せたであろうが───今はこうした、力の一端を借り受けることしかできない。

「…鉱石病。感染者。ボクはかつて、世界は黒と白が混ざった灰色だけでなく、受け入れることで様々な彩りを得ることができると知った。
 でも、どうしても混ざることができない『色』もあるらしい」

 キャスターは、空を見上げながら呟く。
 夜空はいつも美しい。整った間隔で拡げられる星々。

「だから、ボクも知りたいんだ。まだ見ぬ世界を彩る数式がどんなものか。ポケモンと人ではなく、人と人が美しいハーモニーを奏で、生きていける世界の真実を。
 そして。アーミヤが願う『真実』も『理想』も、どちらも捨てずに抱き続けることができたなら。世界を知り、それでもと彼女が前を向くことができたのなら」

 キャスターの右手に、真実の焔が宿る。
 キャスターの左手に、理想の雷が宿る。
 此れこそは神話の再現。真実と理想を司り、力に預けるに相応しき心の持ち主かどうかを見極める審判の龍の力。

「ボクは───どんなサーヴァントをも、超える」

 キャスターのクラスのサーヴァント。
 真名を、『N』。
 ナチュラル・ハルモニア・グロピウス。
 かつて世界のための王として育てられ、青年に戻った彼は、伝説と共に蘇る。
 再び、知らぬ世界の数式を読み解くために。

 
 
 【マスター】
アーミヤ@アークナイツ

【マスターとしての願い】
ロドスは悪趣味な人殺しに加担することはない。仲間を助け、命を助ける。
───しかし、もし、私一人が血に濡れることで鉱石病も天災も無くすことができるのなら…?

【能力・技能】
『ロドス・アイランド』。製薬会社かつ、武装部隊を持ち航空移動も可能とする組織の公表リーダー。
戦闘タイプは『術師』と呼ばれるもので『アーツ』と呼ばれる術を用いて中・遠距離攻撃が可能。強大な力を引き出せば引き出すほど、自らに帰るダメージも大きい。
また、相手の深層心理に呼びかけ対話をする能力や、己の感情をそのまま相手の心に叩きつけ混乱させる精神に関わる能力を持つ。
騎士や戦士とは違う彼女だが、幼いながらに公表リーダーを務め、仲間の命や継続戦闘をすることにより失われる命を考え、戦場で現実を見た判断を下せる優秀な人物。

【人物背景】
製薬会社「ロドス・アイランド」における公表リーダー。CEOのような立ち位置であり、組織の運営や医療部門、軍事、外交などなどは専門のスペシャリストが担当しているが、最終決定権を持つのは彼女である。
仲間を見捨てることを嫌い、最高責任者であるにも関わらず自ら敵地に乗り込むなど強気な一面もあるが、失われていく命に嘆き迷うなど少女の一面も強い。しかしこと戦場では、自らの思いのために命のやり取りをすることに躊躇いはない。
公私のはっきりした少女と呼ぶべきか。
鉱石病に感染した感染者、そして非感染者をも救うというとてつもない理想を掲げており、残酷な真実を目の前にしても日々争っている。
少なくとも、参戦時期はフロストノヴァ戦以降。

界聖杯において、役割は製薬会社『ロドス』の公表リーダー、責任者であるようだ。勿論、武器等は持たない一般的な会社である。
特徴的な兎の耳を持つが、どうやら『ロドスの社長はそういう方針』として受け入れられているよう。変わり者の社長、という扱いだろうか。

【方針】
ロドスのメンバーとして、そして自分の理想のため、無意味な殺し合いはさせたくない。
しかし…


750 : 理想の白ウサギ ◆citl13lt7. :2021/06/19(土) 12:54:12 1ZQMdEyI0
【クラス】キャスター
【真名】N(ナチュラル・ハルモニア・グロピウス)@ポケットモンスターシリーズ
【属性】善・中庸
【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:A 幸運:E 宝具:EX
【クラススキル】
陣地作成:D
魔術師として自らに有利な陣地を作り上げる能力。一時ではあるが王であった彼は、工房として生前ほどの大きさではないが『Nの城』を形成する事が可能。

道具作成:E
魔力を帯びた器具を作成できる───が、魔術師ではないため多くの製作は不可能。
しかし、『回復の薬』と呼ばれる強い回復薬を持つ。

【保有スキル】
動物会話:A +
言葉を持たない動物との意思疎通が可能。彼の場合モンスターに特化した意思疎通能力であり、彼らの対話に言葉は必要ない。しかし動物・モンスター側の頭が良くなるわけではないので、あまり複雑なニュアンスは伝わらない。
しかしこのランクに達するとキャスターの意思を動物及びモンスターが汲み取り、力を貸してくれることも可能。

伝承の双子英雄:EX
『真実』、または『理想』を司る存在から認められた証。
後述による宝具の使用を可能にし、人間・動物・モンスター問わず一種のカリスマスキルとしても機能する。

高速思考(数学):B
思考力の速さを表すスキル。
彼の場合、近未来の予測すら可能とするが、数学が基盤となっている為、十分な情報が必要となる。

四季の心:C
森。山。海。空。晴れ。砂嵐。雨。あられ。
その場所、戦闘環境に適応し利用するスキル。
主に天候に強く発動する。春夏秋冬、彼は季節ごとに悪天候を利用する戦術を操ったという。


751 : 理想の白ウサギ ◆citl13lt7. :2021/06/19(土) 12:54:38 1ZQMdEyI0
【宝具】
『双子英雄・白龍の真実(クロスブレイズ・レシラム)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:400

神話において、『真実を追い求め、善の世界を築く者』に力を貸したと言われる白龍・レシラムの焔。
大気を動かし、天候すら変動させるその青い焔は、相手の能力を無視し焼き尽くす───ターボブレイズという性質を宿していたと言われている。
今回の召喚においてNは『ポケモントレーナーのN』ではなく、『伝説の真実、または理想のポケモンに認められし英雄』『真実、理想を見極める者』としての召喚であるため、直接的なレシラムの召喚は不可能とされる。
よって、使用した際には日照りの日に見た陽炎のように揺らめく白龍と青い焔だけが出現する。
マスターが真実を追い求める限り、焔は勢いを増すが───進むことを辞めたとき、この焔は勢いを失くす。

『双子英雄・黒龍の理想(クロスボルト・ゼクロム)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:400
神話において、『強い理想を抱き、希望の世界を造る者』に力を貸したと言われる黒龍・ゼクロムの雷。
水分を分解し、あらゆる地を焦土と化すその青白い雷は、相手の能力を無視し貫く───テラボルテージという性質を宿していたと言われている。
今回の召喚においてNは『ポケモントレーナーのN』ではなく、『伝説の真実、または理想のポケモンに認められし英雄』『真実、理想を見極める者』としての召喚であるため、直接的なゼクロムの召喚は不可能とされる。
よって、使用した際には雷雨の日に見た幻影のように揺らめく黒龍と青白い雷だけが出現する。
マスターが理想を追い求める限り、雷は勢いを増すが───理想を捨てたとき、この雷は光を無くす。

『雷焔無双・世界を彩る数式(クロスブレイク・グロピウス)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜99 最大補足:800
かつて『真実』と『理想』は一つの存在だったとされる。
この世の中は白黒はっきりとしておらず、言うならば混ざり合った灰色の世界───だけでなく、それらを受け入れ、多種多様な色が世界を彩っている。それが、キャスターの出した答え。
もしマスターが『真実』を追い求め、その残酷な『真実』に打ちのめされようとも。
もしマスターが『理想』を追い求め、その叶わぬ『理想』に行手を阻まれても。
それでも、『真実』と『理想』を手放さなかった時、赤い焔と青白い雷が交差し───『クロスフレイム』『クロスサンダー』が互いを増幅させ、困難の道を切り開くだろう。

【weapon】
青い焔、青白い雷。

【人物背景】
かつて『王』として育てられた、緑髪の男。
王は自らが望む世界のため、同胞のため思い描いた自由のために、『真実』または『理想』を司る存在に英雄と認められ、ある少年に勝負を挑んだという。
そして、自らが間違っていたと気付いた王は、世界を巡り自らの目で灰色の世界の色を見極める。
世の中は一色ではない。絡み合う数式のように、はっきりと答えが示されるものだけではない。
黒と白、人とポケモンの二色だけでなく。
多種多様な存在で彩られた世界があるのだと知り───王は、一人の青年となった。

Nは今回、『ポケモントレーナー』ではなく『真実または理想を司る伝説の存在に認められた者』としての召喚のため、神話に残るレシラム及びゼクロムの本体を召喚することは叶わず、その力の一端を借り受ける。
また、レシラム及びゼクロム、どちらに選ばれたかは諸説あるため、逸話が混濁し今回の召喚となった。
『真実・理想を司る者』と混同して召喚された彼は、かつて自分が世界の在り方に迷い答えを探したように、同じ問題に立ち塞がる者に力を貸す。

出典は「ポケットモンスターブラック・ホワイト」「ポケットモンスターブラック2・ホワイト2」「ポケモンマスターズ(イベント『世界を彩る数式』『黒白の親子が求めた解』など。)」

【サーヴァントとしての願い】
この少女の、真実と理想の行先を見届ける。


752 : ◆citl13lt7. :2021/06/19(土) 12:55:35 1ZQMdEyI0
投下終了です。


753 : 名無しさん :2021/06/19(土) 12:55:57 1ZQMdEyI0
投下終了です。


754 : ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 15:45:06 aattBtNU0
これより投下をさせて頂きます。


755 : わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 15:48:45 aattBtNU0
 わたし、花寺のどか。すこやか市に引っ越してきた中学2年生!
 この子はラビリン! うさぎみたいにちっちゃいけど、優しさと勇気に溢れるわたしのパートナーで、地球のお手当をしているお医者さん見習いなんだ!
 そして今回はもう一人、わたしのパートナーになってくれる人がいるの。アサシンのサーヴァントとして、わたしとラビリンの前に来てくれたお姉さん……櫻木真乃さんだよ!


756 : わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 15:49:34 aattBtNU0
 小さい頃、わたしは体が弱くて病院で過ごしていたの。
 でも、ある日から元気になって、すこやか市に引っ越すようになったんだ!
 引っ越してから、わたしはたくさんの人と出会ったよ。沢泉ちゆちゃんと平光ひなたちゃん、それに地球の願いから生まれた精霊さんこと風鈴アスミちゃん……みんな優しくて、素敵な子なんだ!
 そして、緑に溢れたヒーリングガーデンからやってきた、ラビリン達ヒーリングアニマルのことも紹介するね。ヒーリングガーデンで生まれたラビリン達は、地球を元気にする使命をを持っていて、わたし達をパートナーに選んでくれたんだ。
 わたしにはラビリン、ちゆちゃんにはペギタン、ひなたちゃんはニャトラン、アスミちゃんはラテ……人間とヒーリングアニマルが心を一つにすると、地球をお手当する伝説の戦士・プリキュアに変身できるの!
 わたし達はみんなで揃って、ヒーリングっど♡プリキュアになったんだ! 地球を蝕むビョーゲンズって悪い人達から、みんなを守るために力を合わせてがんばったよ!
 みんなが笑ってくれると、わたしも生きてるって感じがするから!


 もちろん、ビョーゲンズは手強かったし、辛いこともいっぱいあった……でも、みんながいたからビョーゲンズにも負けなかったし、地球とヒーリングガーデンのみんなを守ることができたよ!
 だけど、わたし達の戦いはこれで終わりじゃない。ビョーゲンズがいなくなっても、地球から病気がなくなることはないし、わたし達が地球をお手当てできるようにたくさんのことを勉強しないといけないよ。
 わたしたちヒーリングっど♡プリキュアは、どんなことがあってもくじけるつもりはない。その気持ちがあったから、みんながわたし達を信じてくれたし、東京で出会ったカグヤちゃんという女の子をお手当てできた。
 だから、聖杯戦争という戦いに巻き込まれることになっても……わたし達はみんなを守るためにがんばるよ!



「ふわぁ〜! 星が綺麗で、生きてるって感じ〜!」

 満天の星空を見上げながら、気持ちのいい夜風を全身で浴びているよ。
 無数のお星様がキラキラと輝いていて、わたし……花寺のどかの心が弾んじゃう。
 風は適度に涼しいから、普段着でも大丈夫! ベージュと水色に彩られて、ウエストにリボンが備わったトップスと、鮮やかなピンク色のスカートだけでもへっちゃらなんだ。
 何よりも、わたしの隣にはパートナーが二人もいるから。


757 : わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 15:51:09 aattBtNU0
「とってもキラキラしてるラビ〜! あの星座さん、何だかうさぎさんみたいに並んでいるラビね!」

 わたしのパートナーのラビリンも、星空に目を輝かせているよ。

「ふふっ……ラビリンちゃん、あの星座はうさぎ座って言うの! つまり、ラビリンちゃんの星座なんだよ!」
「うさぎ座ラビ!? 宇宙には、ラビリンの星座があったなんて知らなかったラビ! もしかして、のどかや真乃の星座もあるラビ!?」
「どうだろう? ただ、宇宙はとても広いから、私やマスターさんの星座もあるかもしれないね!」

 そして、わたしとラビリンの新しいパートナーになってくれたお姉さんが微笑んでいた。
 薄い桃色のショートヘアはふんわりしていて、薔薇の髪飾りとマッチしているよ。ベージュと黒のパーティードレスもオシャレで、高級感に溢れる黒と赤のマントだって素敵!
 ハロウィンの仮装みたいな格好をしているけど、このお姉さん……櫻木真乃さんは人間じゃない。なんと、わたしのサーヴァントとして召喚されたヴァンパイアさんなんだ!

「物知りなんですね、真乃さんは!」
「うん! 私は登山が趣味で、よくハイキングをしているよ! もちろん、ヴァンパイアなら山もひとっ飛びだけど、やっぱり直接歩く方が私は好きだね。
 だって、山にいるたくさんの生き物とふれあえるから!」
「わかります! わたしも、山にお出かけをしたことがありますけど、そこにいる植物さんや動物さんと会えたら、生きてるって感じがしますし!」

 そう言って、わたしと真乃さんは笑顔を見せ合う。
 ヴァンパイアって聞くとちょっと怖いけど、こうしてお話をしていると心が健やかになる。
 種族は違うだけで、人間やヒーリングアニマルと同じように誰かを思いやっているから。

「そっか。やっぱり、マスターさんみたいに山登りが好きなニンゲンさんもいるんだね! 体力があるニンゲンさんだと、おいしいのかな?」
「おいしい? 何の話ですか?」
「もちろん、ニンゲンさんの……」

 すると、真乃さんの雰囲気が一変する。
 とろけた瞳はルビーみたいに輝いていて、口の中から小さなキバが伸びていた。
 うなされたような表情で、真乃さんはわたしに迫るけど……

「マスターさんのにおい……とっても美味しそう……いただきまー……」
「わーっ!? ストップ! ストップラビー!?」
「ひゃっ!?」

 わたし達の間に割り込んだラビリンの叫びに、真乃さんの目は元の色を取り戻す。

「……ご、ごめんなさい! 私、またマスターさんの値を吸おうとしちゃって……!」
「わ、わたしなら大丈夫ですよ!? それよりも、真乃さんこそ気分が悪いのですか!?」
「ごめんなさい……ごめんなさい……っ!」

 正気に戻ってくれたけど、真乃さんは瞳から涙を滲ませながらペコペコと頭を下げた。
 真乃さんはとても優しいけど、ヴァンパイアだから無意識のうちに誰かの血を吸いたくなっちゃうの!
 真乃さんが召喚されてから、わたしだって何度も血を吸われそうになったけど、その度にラビリンが止めてくれたよ。


758 : わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 15:54:21 aattBtNU0

 もちろん、真乃さんだって血を吸わないように頑張っているけど、こればかりは本人の意志でもどうにもならない。
 わたしたち人間が他の動物さんやお魚さんを食べているように、ヴァンパイアだって人間の血を吸わないと生きていけないから。
 我慢をしたら、いつか真乃さんがお腹を空かせて死んじゃうかもしれない。


「……わたしの血、ちょっとだけ飲みますか?」

 だから、わたしは右手を真乃さんに差し出した。

「えっ? マスターさんの、血を……?」
「そうです! ちょっとだけ、ちょっとだけなら……わたしも、血を分けてあげられますし」
「……ありがとう。マスターさんは、優しいね。でも、そういうことは、簡単に言っちゃダメですよ」

 わたしの言葉に真乃さんは笑ってくれるけど、首を横に振る。

「もしも、一度でもマスターさんの血を吸ったら、私は私でいられなくなると思うんです。
 これから先、また血を吸いたくなって……マスターさんの優しさに甘えて、いつかマスターさんの命を……」
「でも、真乃さんは苦しんでいます! 今だってそうですし、わたしは夢の中でも見ました!
 真乃さんが、血を吸うのを我慢して苦しんでいる姿を!」

 真乃さんは元の世界にいた頃、プロデューサーさんという男の人から血を貰おうとしたことがある。
 でも、真乃さんは欲求を抑えて、お友達やプロデューサーさんを助けるために頑張った。
 そして、プロデューサーさんと笑顔でお別れした。こんなに優しい真乃さんが苦しむなんて、わたしは絶対にイヤ!

「ごめんね、ラビリン。もしかしたら、ラビリンのことを心配させちゃうかもしれない……でも、苦しんでいる人を放ってはおけないの!」
「大丈夫ラビ! のどかなら、真乃を助けると思ってたラビ!
 もちろん、のどかの血を無理矢理吸おうするなら、ラビリンは全力で止めるラビよ? でも、真乃はそうじゃないラビ!
 それに、いざとなったらラビリンの血だって分けてあげるラビ!」

 ラビリンも、胸を張りながら強い笑顔を見せてくれた。
 いつだって、ラビリンはわたしのことを心配して、そしてわたしの意志を尊重してくれる。ビョーゲンズのダルイゼンにわたしの体を奪われそうになって、心から悩んでいた時もラビリンはわたしのことを気遣っていたよ。

「……だけど、その為にマスターさんたちに酷いことをするわけにはいきません……私が、我慢をすれば済む話ですから」

 真乃さんは頑なに断ってくれる。
 気丈に振る舞っているけど、綺麗な瞳からは涙をにじませているから、本当は今にもわたしの血を必要としているはずだよ。

「マスターさん……あなたたちは、わたしに血を吸われることが怖くないのですか?」
「怖くない訳がありませんよ! わたしだって苦しむのは嫌です……でも、それ以上にあなたが苦しむ姿を見たくありません!
 だって、わたしたちはパートナーだから!」

 真乃さんの問いかけに、わたしは本心を伝える。
 血を吸われることは、わたしの命が削り取られてしまうことだから、怖いに決まっているよ。
 だからって、真乃さんを見捨てていい理由にはならない。


759 : わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 15:56:12 aattBtNU0

 自分の体を犠牲にしてでも、誰かを助けなければいけない状況に覚えがあるよ。
 ビョーゲンズのダルイゼンも、キングビョーゲンから狙われた際にわたしの体に逃げ込もうとした。まだ小さかった頃のわたしの体に入り込み、そこから育ったダルイゼンだから、きっと助かると考えていた。
 でも、わたしはダルイゼンを助けていない。ダルイゼンは……いいや、ビョーゲンズは今まで多くの人を苦しめて、そしてこれからも地球を蝕もうとしている。
 守りたい人たちと、何よりもわたし自身のためにも……ダルイゼンを受け入れたくなかった。


 だけど、真乃さんはダルイゼンたちとは違う。
 真乃さんはプロデューサーさんから一方的に血を吸い取っていないし、プロデューサーさんの世界を蝕もうとも考えていない。
 何よりも、理不尽に誰かを傷付ける人じゃないから、わたしは助けてあげたかった。
 マスターとサーヴァントだからじゃない。わたしのパートナーになってくれた真乃さんだから、困っていたら助けたいの!

「……のどかー? のどかー?」

 わたしたちが見つめ合っている中、お母さんの声が聞こえてくる。

「わわっ!? 大変ラビ!」

 ラビリンはビックリしながら、ぬいぐるみのようにジッと固まっちゃった。
 ラビリンのことや、わたしがプリキュアになってビョーゲンズたちと戦っていたことはお母さん達には内緒なの! わたしたちだけじゃなく、他のみんなも同じなんだ。


 この聖杯戦争に巻き込まれてからも、わたしとラビリンの周りにはいつものみんながいたの。
 ちゆちゃん、ひなたちゃん、アスミちゃん、お父さんとお母さん、すこやか市のみんな……でも、この世界にいるみんなは、わたし達が生きる地球の人を元にしたNPCって呼ぶみたい。
 姿や声はもちろん、性格や好みだって全く同じだよ。でも、わたしの知っているみんなじゃない。

 ーーすこやか市って、どこなの? のどか?
 ーーなになに? もしかして、隠れた秘境をのどかっちは見つけたの〜?
 ーーそのような場所があるなら、いつかわたしたちみんなで行ってみたいですね!

 ある日……ちゆちゃんとひなたちゃん、それにアスミちゃんにすこやか市のことを聞いてみたけど、3人とも知らなそうだった。嘘や冗談を言っているつもりはなさそう。
 ニセモノってことがとても寂しい。それにわたしが知っている本当のみんなが、今頃わたしを心配していると考えると胸が痛い。
 でも、わたしはこの世界にいるみんなを蔑ろにするつもりはないよ。ホンモノやニセモノかなんて関係ないし、みんながここで生きているのは確かだから。


760 : わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 15:57:24 aattBtNU0

「お母さん! わたしはここだよー!」

 だから、わたしはお母さんの声に応える。
 例え、わたしが知っているお母さんじゃなくても、ここにいるお母さんの思いやりは本物だから。

「あら? のどか、もしかして新しいお友達ができたの?」
「そうだよ! この人は櫻木真乃さん……とても優しくて、頼りになるお姉さんだよ!」
「ほわっ……櫻木真乃といいます! よ、よろしくお願いします!」

 お母さんに紹介すると、真乃さんはぺこりと頭を下げてくれる。
 もちろん、真乃さんがサーヴァントってことや、聖杯戦争に関することも秘密にしているよ。こんな危険なことを話したら、お母さんは絶対に心配するからね。

「そう! のどかのこと、よろしくお願いしますね! じゃあ、お近づきの印に、二人にプレゼントをあげるわ!」

 すると、お母さんは小さなラッピング袋を差し出してくれる。
 真っ赤なリボンと、ピンク色の袋がとてもかわいい! しかも、ちょうど二つもあるよ!

「ふわぁ〜! お母さん、ありがとう! 袋を開けてもいい?」
「もちろんよ! 中身は開けてのお楽しみだから!」

 お母さんからラッピング袋を受け取って、わたしと真乃さんは目を輝かせる。

「じゃあ、一緒に開けましょうよ! 真乃さん!」
「う、うん! マスターさん!」
「マスターさん?」
「「あっ!?」」

 真乃さんの爆弾発言にお母さんは首を傾げちゃう。
 た、大変! お母さんは聖杯戦争のことを何も知らないから、ごまかさないと!

「ま、まぁ!? 素敵なスター! お空には、とっても……まぁまぁ、素敵なスターさんが輝いていますよね! 略して、マスターさん……って、ことですよね!? 真乃さん!」
「ほわっ!? えっと……そ、そうだよ! ここからなら、お星さまもいっぱい見えるから、二人で眺められて素敵だよね〜! の、のどかちゃん!」
「……なんだかよくわからないけど、確かに今日は星空が輝いているわね! だから、二人へのプレゼントはお星さまに関するものなのよ!」

 とても強引だけど、お母さんは納得してくれたよね?
 気を取り直して、わたしと真乃さんはリボンを外してラッピング袋を開ける。中には、お星さまの形をしたクッキーがいっぱい入っているよ。


761 : わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 15:59:28 aattBtNU0

「ふわぁ〜! カラフルで可愛いクッキー!」
「お、おいしそうです! 形もみんな整っていますし!」

 当然、わたし達はクッキーに目を輝かせる。
 ぬいぐるみのフリをするラビリンにも振り向いて、後でわけてあげるね! と視線を贈ると、ラビリンもにこやかな笑みを浮かべてくれた。

「そうよ! お母さん特製のクッキー! この街に引っ越してきた記念に、腕によりをかけて作ったのよ! ゆっくり、味わって食べてね!」
「ありがとう、お母さん! ……あれ? クッキー?」
「クッキー……?」

 お母さんからのプレゼントを手にして、わたしの中で何かが生まれるのを感じた。
 まるで、ピンチを乗り越えられる切り札を見つけたように、温かい期待が生まれたみたいな。
 真乃さんの目も輝いている。吸血衝動ではなく、あと少しで凄いアイディアを思いつきそうで……

 ーーほら! ここにクッキーもある! よければこれを食べてくれ

 真乃さんと視線が合った瞬間、夢の中で見たプロデューサーさんの思いやりが浮かび上がる。
 血の代わりに、甘くておいしいハロウィンのクッキーをあげることで真乃さんを助けることができた。
 クッキーを食べたおかげで、真乃さんは元気を取り戻している。

「「……これだ!」」

 わたしと真乃さんの声が重なった。
 やっぱり、わたしたちはパートナーだよね!
 それとお母さん、本当にありがとう!


762 : わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 16:00:28 aattBtNU0


 ◆



 私、櫻木真乃は夜の支配者・ヴァンパイアです。
 この度はアサシンのサーヴァントとして聖杯戦争に召喚されました。でも、私は戦いが得意じゃありません。
 吸血鳩のピーちゃんを呼び出したり、他の人の血を吸うことができますが、特別な魔法を使うことはできない……だから、マスターさんの力になってあげられません。
 なのに、私はサーヴァントになっちゃいました。私より年下の、花寺のどかちゃんという女の子がマスターさんです。


 むしろ、マスターさんの方が戦闘経験が豊富そうでした。
 使い魔……もとい、お友達のラビリンちゃんがマスターさんと気持ちを一つにすると、プリキュアという戦士に変身できるみたいです。
 でも、マスターさんは優しい子ですから、その力で誰かを傷付けようとは思っていません。心優しいマスターさんと出会えて良かったです。


 囚われた灯織ちゃんを救う為、別の世界からやってきたプロデューサーさんと雰囲気が似ていますね。
 私に血を吸われそうになっても、私のことを決して責めたりせず、むしろ私を心配してくれ
ます。
 マスターさんだけじゃありません。ラビリンちゃんも、私に血を分けてくれると言ってくれました。
 マスターさん達の優しさは嬉しいですけど……それに甘えて、一度でも血を吸ったら私は私じゃいられなくなるかもしれません。
 理性を失い、歯止めが効かなくなって……無差別に人を襲うヴァンパイアになる。そうなっては、プロデューサーさんの優しさを裏切ることになります。


 私の願い……灯織ちゃんやめぐるちゃんと一緒に、プロデューサーさんの世界に行くことです。
 プロデューサーさんにお礼を言って、別の世界の私達とたくさんお話ができるといいなと思っています。
 でも、それは聖杯に頼るのではなく、私達自身で実現させたいです。こんなことで向こうの世界に行けても、プロデューサーさんはガッカリします。


 私を気遣ってくれるマスターさんを守りたい。これが、私の願いです。


763 : わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 16:01:58 aattBtNU0

「クッキーみたいに甘いお菓子があれば、真乃さんは元気になります! だから、お菓子をいっぱい作れば、誰かの血を吸う必要がありませんね!」
「うん! プロデューサーさんから頂いたクッキーも、マスターさんのお母さんが作ってくれたクッキーも、本当に美味しくて……元気になります! むんっ!」
「それなら、これからはいっぱいお菓子を用意しましょうか!
 それと、わたしのことはマスターじゃなくて……名前で呼んでほしいです! だって、わたしたちはパートナーですから!」
「その通りラビ! ラビリンとのどか、それに真乃は3人でパートナー……これから一緒ラビ!」
「わかりました……のどかちゃん、ラビリンちゃん、よろしくお願いしますね!」

 私達3人はパートナーになったから、お互いに手を繋ぎあいます。
 彼女達の手はとても暖かくて、今も私を思いやっていることが伝わりました。
 だから、私も優しく手を包みます。二人が笑っていられるように。


 灯織ちゃんにめぐるちゃん。
 そして、私達を助ける為に別世界から来てくださったプロデューサーさん。
 みんなは今、どこで何をしていますか?
 私は、こんなにも素敵なパートナーと出会うことができましたよ。




【クラス】

アサシン

【真名】

櫻木真乃(ヴァンパイア)@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【パラメーター】

筋力E 耐久D 敏捷C 魔力E 幸運A+ 宝具C

【属性】

混沌・善


764 : わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 16:04:29 aattBtNU0

【クラススキル】

気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。
隠密行動に適している。完全に気配を断てば発見する事は難しい。

【保有スキル】

吸血:C
吸血行為と血を浴びることによる体力吸収&回復。ランクが上がるほど、吸収力が上昇する。
ただし、彼女の場合は甘いお菓子を食べることで体力回復も可能。

【宝具】

夜の支配者(ナイト・オブ・ヴァンパイア)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1

夜の支配者ヴァンパイアとしての本能を発揮した際に発動する宝具。
夜の闇の中、人間の血を吸ったことで理性が消失し、真乃自身が真に吸血鬼として覚醒する。
身体能力が向上する一方、日光に対する耐性が著しく低下し、浴びた瞬間に肉体が消失してしまう。

【weapon】

吸血鳩のピーちゃん。

【人物背景】

夜の闇が支配するとある世界。
人間が存在しないハロウィンの世界にて、夜の支配者ヴァンパイアとして生まれた心優しい少女。
ヴァンパイアとして生まれた故、衝動的に吸血衝動に駆られてしまうが、自分の意思で抑えることもできる。

絵の中に囚われた大切な友達を救う為、予言に書かれた異世界からの旅人……プロデューサーと力を合わせた。
友達との日常を取り戻した彼女は、役目を終えて帰還するプロデューサーを見送りながら再会を誓った。


【サーヴァントとしての願い】

パートナーとして、のどかちゃんたちを守りたい。


765 : わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 16:05:14 aattBtNU0

【マスター】

花寺のどか@ヒーリングっど♡プリキュア

【マスターとしての願い】

例え聖杯戦争を強要されようとも、みんなを守りたい。

【能力・技能】

ただし、現在は人並み程度の体力はある。

キュアグレースへの変身。
ヒーリングアニマル・ラビリンと心を一つにすることで花のプリキュア・キュアグレースに変身することができる。
巨大なメガビョーゲン達の攻撃を受け止め、互角以上に戦えるほどの戦闘力を発揮できる。
勉強は得意だが、長い間病院で過ごしてきたことで体力は乏しい。ヒーリングステッキと合体したラビリンの意思で「ぷにシールド」というバリアを張ることも可能。
また、キュアグレースに変身した際、それぞれのエレメントをヒーリングステッキにセットすれば、エレメントに応じた技を出すことができる。

プリキュアの本質は「救済」であるため、彼女の決め技に他者を傷付ける効果はない。
ただし、ビョーゲンズのように誰かを蝕む呪いに対しては絶大な効果を発揮し、確実に浄化できる。
ゆめペンダントがあれば、ラビリンと合体して奇跡のフォーム・パートナーフォームに変身することも可能。

【Weapon】
ラビリン。
ヒーリングステッキ。
実りのエレメント、葉っぱのエレメント、花のエレメント。

【ロール】

普通の中学生。
ただし、登校先は別の中学校となっている。

【人物背景】

TVアニメ『ヒーリングっど♡プリキュア』の主人公にして、ヒーリングアニマルのラビリンと心を一つにしてキュアグレースに変身する少女。CVは悠木碧。
幼少期、ビョーゲンズの幹部ダルイゼンによって入院生活を過ごしており、家族や病院の先生などたくさんの人から支えられてきた。その恩返しとして、周りに対する親切心を心掛けている。
ある日から日常生活が過ごせる程度には回復し、すこやか市に引っ越すようになったことで彼女の運命は大きく変わる。ビョーゲンキングダムより現れたビョーゲンズによってすこやか市が蝕まれてしまい、街が危機に陥ってしまう。
ヒーリングガーデンよりやってきたラビリン達は奮闘するが、ビョーゲンズは止まらない。助けを求めるラビリンの前にのどかは現れて、ラビリンを……そして、みんなを守りたいという願いを持って花寺のどかはキュアグレースに変身した。

すこやか中学校に入学するようになってから、のどかはたくさんの出会いを果たす。
沢泉ちゆと平光ひなた、風鈴アスミとは強い友情で結ばれるようになり、共にヒーリングっど♡プリキュアとしてビョーゲンズと戦い抜いた。
戦いは進んで、ビョーゲンズとの最終決戦が訪れた頃、のどかの知らない所で異変が起きていた。ビョーゲンズの王・キングビョーゲンがダルイゼンを取り込もうと企み、逃亡するダルイゼンはのどかに助けを求めた……のどかの体に宿るという形で。
助けを求めるダルイゼンの手を反射的に払い、彼から逃げ出したのどかは葛藤してしまう。自分の身を犠牲にしてでも、彼を助けなくてはいけない……でも、また苦しむ思いをしたくないと考える自分は、優しい子ではないと。
そんなのどかの悩みと悲しみを受け止めたラビリンは、自分を犠牲にしてでもダルイゼンを助ける必要はないと励ます。ラビリンの思いやりにのどかは微笑み、迷いを振り切って立ち上がった。
そして、キュアグレースに変身したのどかは暴走するダルイゼンの命乞いを断り、長い因縁に決着をつけた。


のどか達はシンドイーネとキングビョーゲンの浄化も果たし、地球とヒーリングガーデンの平和を取り戻す。
だが、世界からは病気が消えた訳ではなく、これから人間達が地球を蝕む可能性にのどか達は気づいてしまう。過ちを反省し、すこやかな未来を実現させる為、自分達にできる地球のお手当てを考えることをのどかは誓った。
なお、ヒーリングガーデンに訪れた際、トロピカル〜ジュ!プリキュアのキュアサマーこと夏海まなつとも面識ができた。


観光で東京に訪れたこともあり、ゆめペンダントをつけて自分の夢をVRとして映し出す「ゆめアール」技術も体験している。
その際、ゆめアールプリンセスの我修院カグヤを救う為、プリキュア5のキュアドリーム達と出会い、のどか達は奮闘した。

【方針】

みんなを守るための方法を見つけたい。
また、真乃さんが誰かの血を吸わなくても済むよう、まずはお菓子を作る。
ただし、いざという時は真乃さんに血を分けてあげる。

【備考】
『映画ヒーリングっど♡プリキュアゆめのまちでキュン! っとGoGo! 大変身!!』終了後からの参戦です。
沢泉ちゆ、平光ひなた、風鈴アスミなどすこやか市に関わる人物がNPCとして配置していますが、すこやか市については知りません。ぺギタン、ニャトラン、ラテがいるかどうかについては不明です。


766 : ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/19(土) 16:06:07 aattBtNU0
以上で投下終了です。


767 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/19(土) 19:22:32 nghqMTmQ0
投下します


768 : 闇照 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/19(土) 19:27:36 nghqMTmQ0


 ◆



 追っているのか、追われているのかもわからなかった。


 ただ、目的だけが在った――――――




 ◆



 東京都原宿、高層ビルの屋上。
 地の光で闇を照らす街を一望にできる場所から、甲斐刹那は眼下を眺めていた。
 その目に宿るのは郷愁の念。
 かつてあった平凡な日々。
 今よりも弱々しく、力のなさを悔いてばかりだった頃。

「二十年か。それだけ経てば色々変わるよな」

 街並みは、自分が知るよりも随分進歩していた。
 誰もが小さな細長い箱を眺めながら歩いていて、街の眩しさは目が眩むようだ。
 自分がこの生きていた頃より二十年以上も経過したとはいえ、懐かしい生まれ故郷の街に戻ってこれたのは、言葉に言い表せない安心感があった。

「懐かしいのか、刹那?」
「ああ、ちょっとな。魔界に来てからそんなに経ってないはずなのにな―――」


 相棒(クール)の問いかけにそう返して、自分の故郷を忘れかけていた事実に、心臓が痛みで弾んだ。
 脳を巡るのはひたすらに激走の記憶ばかりで、ほんの少し前にあった出来事は押し流されてしまっていた。

 戦い、戦い、戦い、戦ってきた。
 殺し、殺し、殺し、殺してきた。
 
 あれから、どれだけの時間を戦ってきたのか。
 あれから、どれだけの敵を屠ってきたのか。
 時間でいえば一年にも満たないかもしれない。巻き込んだ数でいえば一万も越えているだろう。

 少年は既に百戦錬磨の戦士だった。
 背丈の小ささに似合わぬ、大人でも備わらない肝の据わりよう。
 血と灰の匂いを微かに湛える表情が、本来はまだ小学校に通っている年頃の少年のものであると誰が知ろうか。
 守るため、救うため、再び会うために生きてきた。そのために戦い続けた。
 肉体は意志に応え、幾度の苦境を乗り越える強さを獲得した。
 乾き、汚れ、罅割れていく心を代償にして。


769 : 闇照 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/19(土) 19:28:05 nghqMTmQ0


「クールは、自分の二十年後ってどんなのか考えたことあるか?」
「あまりないな。今の戦いを考えるのに精一杯さ。
 ただ、そうだな。それまで生きていられたのなら俺も立派な大人のケルベロスだ。刹那を背に軽々乗せて走れるぐらいには成長してるさ」
「ハハッ、確かに今のお前だとちょっと小さいもんな。乗る時いつも途中でブッ倒れないか心配だぜ」
「小さい言うなッ!」

 隣の相手と和やかに談笑する。しかし言葉を交わす者を他人が見れば、誰もが目を疑うだろう。
 腰ほどの四肢の体躯。黒い毛並み。顎に並ばれた牙。
 人語を解するそれはどうみても犬だった。
 紛れもない意志と理性を乗せ会話する。当然それは―――否、彼は人界ならざる世界の住人だ。

 悪魔(デビル)。 
 弱肉強食を体現したような魔界を生きるケルベロス一族。
 刹那のパートナーとして戦ってきた最初の相棒。
 そしてデビルを伴う刹那こそは選ばれた子供。デビルチルドレン。
 人間界から呼び寄せられ、魔界を救うべく活動する救世主の一人である。

「それで、どうするんだ刹那。はっきり言ってこの事態はイレギュラーにも程があるぞ」
「ああ、わかってる」

 この状況での行動を如何なるものにするか、という問題への対処。
 魔界の反乱軍領で休眠を取っていたと思ったら住み慣れた人間界のマンションで起きたのだ。完全に唐突な拉致である。

「大魔王や、天使の仕業ってわけじゃないんだろう?」
「ああ、そうだとしたらこんなやり口は面倒に過ぎる」
「じゃあとっとと帰るに限る。ここにはなにもない。ニセモノの街に帰ってきたって意味がないんだ」

 久しぶりの穏やかな時間は、求めていた形とまったく違っていた。
 ニセモノの街。ニセモノの役柄。どこにもいない、大切なもの。
 疼く体。胸の内で大きくなっていくしこり。違和感は見過ごせず。安息なんてここにはなかった。
 刹那の目的はひとつだ。一刻も早くこのくだらない儀式を終わらせて、魔界に帰ること。

「なら――――――」


『なら、サーヴァントもマスターも全員殺すってわけか。いいねぇ、殺る気満々で実に結構!』


 声はクールのものではなかった。
 二人以外の人の影は見えず、声はすれども姿はなし。

「刹那」
「ああ」

 刹那にもクールにも、突然の声に面食らった様子はない。
 襲撃者の予告という警戒もない。
 ビルには余人がいないため分かりづらいが、今のは念話であり二人の耳にしか聞こえていない。
 出来ることなら聞きたくない、いけ好かない知った声だった。


770 : 闇照 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/19(土) 19:28:41 nghqMTmQ0


「コール」

 腰に据えられたホルダーから拳銃を抜いて引き金を引く。  
 デビルの召喚器であるデビライザー。弾丸にはクール以外のデビルが装填されている。 
 厳密にはデビルではない。サーヴァントという、この地で契約させられた存在だが。

 排出された弾丸が光り開封されるのは、騎兵(ライダー)のサーヴァント。
 紅き体。顔面の皮を剥いだかのような鬼面。広げる翼。
 英霊、とは呼べそうもない、正真正銘の悪霊(デビル)。

 悍ましい鬼。魔獣が姿を変じる。
 銀の髪。獣の牙のような髪をした黒衣の青年に。
 顔こそ体つきこそ端正なそれだが、張り付いた笑みの獰猛さはまるで変わらない。

「────ハアァ。やはり生きる実感を味わうには外の空気を吸うに限るな。
 弾丸(タマ)の中は窮屈で仕方がない。それに退屈だ」

 腕を広げて自由を満喫する様だが、刹那は見逃さない。
 街を見下ろす男の目は、濁りの黒で冒涜の緑で埋め尽くされている。
 退屈なのは封印されてるだけではなく、今はまだ平和な街に対しても向けられる。
 この男が愉しむのは世界の美しさではなく、世界が壊れるさまを見て嗤うのだ。
 邪悪。そう評するのがまったく似つかわしい、悪魔のような男だ。

「なあ、そろそろいいと思わないか? 俺のマスターは信用ならないからって下僕を閉じ込めるほど心の狭い男じゃないだろ?」
「だからテメエが好き勝手暴れるのを見逃せってか。令呪まで使わせておいてよく言うぜ」
「先に使ったのはアンタだろ? おかげで動きにくいったらない」

 右の拳を、強く握り締める。
 不出来な似姿(ドッペルゲンガー)によって奪われた箇所を接げ直した、傷のない、真新しい義手。
 手の甲にある折り重なって切り傷のような形の令呪は、一角を失っていた。

「まあ、そう言うなよ。これでも敬意は示してるつもりだぜ?
 『俺に従え』なんて曖昧な命令、本来なら大して効果なんて出やしないのに、こうして俺をある程度とはいえ縛ってるんだ。
 お前の力については、もう認めてるさ。
 伝説のデビルチルドレン、かの大魔王の血を継いた子の尖兵となれるとな」
「……俺はそんなんじゃない」

 そう。大したものじゃない。
 力の限界なんて常に経験してきた。
 デビルチルドレンと持て囃され、舞い上がっていた驕りなど雪崩の中に埋もれて消えた。
 救えなかった者。間に合わなかった者。助けるどころか自分の手で死なせた者。
 一番助けたかった人にさえ、この手は届かなかったのだ。
 戦いばかりの日々で体は傷つき、心は擦り切れる。
 腹に何か入れてもすぐに戻してしまうぐらい、追い詰められていた時期もあった。

「自らの非力を悔い、それでも使命を全うせんとする。そんなお前が本当に聖杯に託す望みはないっていうのか?」
 
 こちらの考えてること、特に見透かされたくない箇所に限って、この男は暴き立てようとしてくる。 
 ……本当に気に食わない。 
 こんな奴に人の心の機微などが分かるものなのか。あるいはそれだけ、邪智奸計に長けているのか。


771 : 闇照 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/19(土) 19:30:04 nghqMTmQ0

 要未来―――もう一人のデビルチルドレン。
 そして幼馴染の少女。刹那が会いたいと願うひと。
 何をしたいわけでもない。話したいことがあるわけでもない。
 ただ、会いたかった。それだけだ。
 他に何も考えられないぐらい、未来ともう一度会いたかった。
 その途中で色々戦う理由はついてきたけど、ようはそれが一番の根源なのだ。

「テメエには死んでも言ってやるかよ」

 弱みなど見せてなるものか。
 コイツはマスターだろうと故あれば即座に裏切ってくる。
 そう確信したからこそ召喚してすぐに令呪を切るという判断を下した。
 力こそ強いが、制御も利かない暴れ馬。今までで最も危険な契約関係だった。

「なら、この地にて戦う覚悟を決めたんだな?」
「───出来るだけの事はする。救える命は救いたい。
 だが聖杯戦争ってのがロクでもない戦争で、それを使おうってする奴がテメエみたいなのばっかりっていうなら、俺は迷わない。
 戦ってブッ倒して、ついでに聖杯ってのも持ち帰ってやるさ」

 戦わずに終わらせたいなどと、泣き言は言わない。
 デビルだからと繕うつもりはない。
 敵であるのなら、回避できない戦いであれば、刹那は躊躇なく引き金を引ける。そうした強さを得てしまった。
 そこは狂気の一歩手前だ。道を外せば容易く堕ちる危うい狭間。

「クール」
「言わなくてもいい。俺は刹那を信じるさ」

 多くを語らない相棒の存在が有り難い。
 決して自分の為すべきこと、やりたいことを見失わず一線を超える真似を堪えることができるのも、また刹那の強さだった。

「フ───ハハッ。いいじゃないか、そういう啖呵が聞きたかった!」

 名指しされて自分を"敵"と見做されても、ライダーはいやに上機嫌だ。
 手を叩いて破顔する。そこには紛れもない称賛の意が込められている。
 正義の曙光。信念の絆。
 幾度もそれに敗れたが故に、その強さを知るかのように。

「なら俺は遠慮なく言おう! 聖杯を手に入れたら、俺は全てを闇に還すだろう!
 我が名はジンガ! 人を喰らい恐怖を糧にする魔獣ホラー! 
 守りし誓いも忘れた騎士、堕ちに堕ちたる成れの果て───だが!
 その信念を見届けるために、俺はお前に力を貸すだろう! 闇を照らす光を! 黄金の嵐を! お前が見せ続ける限り!」


 ───光あるところに、漆黒の闇ありき。古の時代より、人類は闇を恐れた。
 ───しかし、暗黒を断ち切る騎士の剣によって、人類は希望の光を得たのだ。


 いずれ夜が更ける。聖杯戦争の始まりを告げる刻が近づいてくる。
 悪魔の血を引く少年と悪魔と成った騎士。因果の鎖が招く結末は遠く、未来は見えず、ただ刹那を走り続ける。
 その信念を胸に、両者は契約の言葉を告げ合った。


「さあ───今後ともよろしく、マスター?」


 恭しく差し出された空の掌には、夜の闇が深く、深く湛えられていた。


772 : 闇照 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/19(土) 19:30:52 nghqMTmQ0

【クラス】
ライダー

【真名】
ジンガ@牙狼-GOLD STORM 翔-

【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力B 幸運E 宝具B+

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:B
 後述の宝具に依存してるため、ライダークラスにしては騎乗スキルは高くない。

【保有スキル】
魔を喰らう牙:A
 古来より人の陰我より魔界から生じる魔獣・ホラー。
 その中でジンガはホラーでありながらホラーを喰らう異色の存在。
 元よりサーヴァントは魂喰いの性質を持ってるが、その性質上ジンガは魂食いの変換効率が普通より高い。
 
堕魂の騎士:B
 高名な魔戒騎士であった過去は既に久しく、心は闇に堕ち、身は獣と化した。
 「守りし者」としての使命を失った魔戒騎士の戦闘力は、全てが破滅の指向に傾けられる。

魔獣装甲:B
 ホラーとしての戦闘形態に身を変化させる。ステータスはホラー時のもの。
 背から翼を生やし飛行も可能。この姿でこそ狂化スキルの恩恵は正しく発揮される

戦闘続行:B
 非常に生き汚い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

誘蛾の絡め:C
 妻アミリをはじめとして、多くの女性を犠牲として生き永らえた逸話からくるスキル。
 女性に対するダメージが増加。妖姿媚態による魅了も弾く。

【宝具】
『喰らい纏い簒え、慟哭の牙(ファング・オブ・アポカリプス)』
ランク:B 種別: レンジ:1 最大捕捉:1つ
 魔城ラダン、神の牙、そして自身の転生体と、数多くの器を支配、乗り移ってきた逸話から得た簒奪宝具。
 触れた騎乗物、建造物など『乗り込む』『居城』する物の支配権を奪い、おのがものとする。
 性質上ライダーの騎乗物やキャスターの陣地も対象内となる。
 敵の宝具など所有者が決まってる物は抵抗次第で簒奪可能だが成功率は低い。予め所有者を倒しておくのが現実的。
 また肉体が致命傷を受けた時は、生きた人間に乗り移って命を繋ぐ延命措置にもなる。

【weapon】
『魔戒剣』

【人物背景】
 古の時代より、魔界より現れて人を喰らう魔獣・ホラーを狩る「守りし者」、魔戒騎士であった男。
 息子を人間に裏切られ殺される悲劇により闇に堕ち、妻共々ホラーとなった。
 残虐かつ狡猾。人命を弄び蹂躙することを愉しみ、時には策略で心を掻き切る。
 心身の強さを評価した相手には、何度でも戦いを挑む執着を見せる面も。

 主人公、道外流牙とは『GOLD STORM翔』『神の牙』『神牙』複数の作品に渡って争った最大の敵。

【サーヴァントとしての願い】
 刹那の強さと信念にかつての仇敵を感じ取り、今は力を貸している。
 ただ気に入ってはいるが何もせず従うままとは限らず、見えない所で刹那を陥れようとする危険も。


773 : 闇照 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/19(土) 19:31:07 nghqMTmQ0


【マスター】
甲斐刹那@真女神転生デビルチルドレン(漫画版)

【マスターとしての願い】
 未来との再会。聖杯に願うというよりは魔界への帰還が目的。

【能力・技能】
 小学生ながら幾多の修羅場をくぐり抜け、自ら剣を取って前線で戦いもする。下級のデビルぐらいなら素手で殴り殺せる。 
 右腕は天使との戦いで切断されており、精巧な義手をつけている。

【weapon】
 銃型のデビル召喚器デビライザーを所持。現在の手持ちはパートナーデビルであるケルベロスのクール。
 加速の推進に応用したり、(本人にとっては忌むべきものだが)敵のゼロ距離で発射して使い捨ての弾丸にしたりもする。
 ジンガも同様にデビライザーに封入、召喚も可能。余計な事をしないよう普段は閉じ込めておく。

【人物背景】
 悪魔の血と力を宿すデビルチルドレン。
 魔界の危機を救うべく人間界から呼び出され、当初はその使命に陶酔と憧れを持っていた。
 しかし激しい戦い、呆気なく散っていく仲魔達、そしてライバル視しながらも大切に思っていた要未来との別離…… 
 体は傷つき、心は擦り切れ、戦う姿は自暴自棄にも見えるが、再び未来と会うために生きて行くことを誓っている。

 令呪は右手の甲。
 既に『ジンガを従わせる』命令で一角消費している。

【方針】
 いざという時には戦う覚悟はある。
 敵よりも油断ならないジンガには慎重な扱いが求められる。


774 : 闇照 ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/19(土) 19:32:11 nghqMTmQ0
上記のステータスの修正を忘れてました。正しくはこちらです

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具B+


775 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/19(土) 19:32:37 nghqMTmQ0
投下終了です


776 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/19(土) 20:44:51 /JlgNcY.0
>>Time lost cannot be recalled.
キャラの会話の中で"らしさ"を出すのがやっぱめちゃくちゃ上手いなこの人……と思いながら読んでました。
トリスタンのボケたところと格好良い、騎士としての姿、そのそれぞれをとんでもない再現度で書き分けていて驚嘆です。
そしてお話の最後の落とし方とかかなり原作っぽくて、けれどしっかりクロスオーバーしててめっちゃ好きですね。
運命に還るまでの物語、とても良いフレーズです。大変素敵なお話でした。ほくほく。

>>遠山和十&セイバー
コンパクトな文量ながら、作品のテーマがよく伝わってきた印象です。
このキャラはどういう事情があって何を目指すのか、というのがよく纏められていたように思います。
そしてサーヴァントはすべての始まりとなった青セイバーことアルトリア。
英霊としての格も強さも言わずもがな十分なので、マスターの和十にしてみれば間違いなく最高のカードだったことでしょう。

>>Diavolo in corpo
マスターカルネ! 色んな意味で書く難易度がムチャクチャ高そうな男で笑いました。
とはいえノトーリアスが喰われてしまっているっぽいのは(他のマスター的には)安心ですね。
サーヴァントのコケカキイキイは怪異の王道みたいな設定からとんでもないトンチキ性格の持ち主なようで。
しかし暴力は全てを解決するというのはある意味聖杯戦争ではすごく正しい気もしますね……。

>>理想の白ウサギ
サーヴァントN、まずこの人選でわーそう来るんだ〜〜って驚いてしまいました。
そしてそんなNと、マスターであるアーミヤの会話がまた情緒性たっぷりでとても読み応えがありました。
毎回言っている気がするんですが、キャラクターの解像度と理解度が高いお話を読むとやっぱり唸ってしまいますね。
性能面だと、Nの連れているレシゼクがFate的に考えるとかなり強力な竜種になりそうなので面白いです。

>>わたし達はパートナー! サーヴァントの真乃さん
シャニ鱒ならぬシャニ鯖。流石に鯖で来るとは思いませんでした、油断も隙もない。
そして一人称パートが本当にそのキャラクターが語っているような再現度で脱帽です。
その上で読んでいると人物背景や主義なんかも自然と理解できてくるので、この辺りは技量の高さが窺えました。
プリキュアに変身できるマスター。なにげに結構頼もしいですよね、真乃のスペックが控えめなこともあって尚更。

>>闇照
令呪で縛らなければならないような危険なサーヴァントと歪なバディを結ぶ話、とってもいいですね。
地の文の格好良さがまた、そんな二人の掛け合いに描写としての説得力を上乗せしていて素敵でした。
>「なら俺は遠慮なく言おう!(略)」のセリフ、かなり格好良くて好きです。いいな〜となりました。
この主従の紡ぐ物語の続きが視てみたいとそう思わせてくれる、とてもいいお話でした。


今日も皆さんたくさんの投下をありがとうございました!


777 : ◆OmtW54r7Tc :2021/06/19(土) 22:29:05 fGSaLQCU0
投下します


778 : Lost Heaven〜封印されし記憶と狂気 ◆OmtW54r7Tc :2021/06/19(土) 22:31:40 fGSaLQCU0
「あなたが、私の騎士…いえ、サーヴァントなのですか」
「……………」

エステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン。
仲間からはエステルと呼ばれる少女は、自らのサーヴァントに尋ねる。
サーヴァントである青年は、エステルのことをじっと見つめて不思議そうな顔をしていた。

「あ、あの、何か…?」
「…あんた、どこかで俺と会ったことないか?」
「へ?あなたに…ですか?」

言われて、エステルはサーヴァントの男の姿をじっと見る。
薄い金髪に、黒い服の上に赤いコートを羽織っている。
年頃はユーリやフレンより少し下辺りという印象だが、しかしこのような知り合いはいなかったはず。
そうしてしばらく考え込んでいたエステルの脳裏に、一つのひらめきが浮かんだ。

「…あ!もしかして、ナンパ、というものですか?」
「…え?」
「レイヴン…旅の仲間が言ってました。『君、どこかで会ったことない?』と男の人が女の人に言うのは、ナンパの常套手段だって!」
「い、いやいや、そういうんじゃないって!」

エステルの言葉に、サーヴァントは少し顔を赤くしながら否定した。
その姿は、年相応の男の子と言った感じで、英霊という仰々しい肩書とは程遠いものであった。

(仲良くなれそうな人で、良かったです!)


779 : Lost Heaven〜封印されし記憶と狂気〜 ◆OmtW54r7Tc :2021/06/19(土) 22:33:41 fGSaLQCU0
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「あ、自己紹介がまだでしたね。私はエステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン。親しい方は、エステルと呼びます」
「えっとじゃあ…よろしくな、エステル」
「はい!」

サーヴァントはエステルと呼ぶと、彼女に手を差し出した。
それに対してエステルも嬉しそうに手を出し、握手をしてきた。
エステリーゼとエステル、どちらで呼ぶべきか一瞬迷ったのだが、どうやらこっちが正解だったらしい。

「それで、サーヴァントさんのお名前はなんというのでしょうか?」
「俺か?俺は…バーサーカーだよ」
「それはクラス名ですよね。本当の名前が知りたいです」

エステルの要望に、サーヴァントは困った顔をする。
何か、言えない事情でもあるのだろうか。

「あ、あの、何か言えない事情があるのなら、無理には聞きませんよ?」
「…あー、いや、言いたくないわけじゃないんだ。ただ…知らないんだ」
「知らない?」
「ああ、どうにも俺、生前の記憶を失ってるみたいでさ。自分の真名すら、分からないんだ」
「ええ!?じ、自分の名前も、です?」
「ああ、そうみたいだ、全く、困ったもんだ」

そういいつつ、サーヴァントの態度はとても困ったようには見えない。
記憶を失っていることに不安を感じている様子もなく、むしろ憑き物が取れたような晴れやかな表情をしている。

「うーん、それならなんて呼びましょうか。バーサーカーってクラス名で呼ぶのも味気ないですし…」


「ライゼ」


「へ?」

サーヴァントのつぶやきに、エステルはキョトンとする。

「俺のことは、ライゼって呼んでくれないか?」
「ライゼ…ですか?」
「ああ…記憶はないはずなのに、真名じゃないはずなのに…なぜかこの名前が、しっくり来るんだ」
「なるほど…その気持ち、少し分かるような気がします。私も、エステリーゼって名前なのに、仲間と旅をしているうちに、エステルって呼ばれ方の方が、しっくり来るような感覚があります」
「仲間との旅…か」

サーヴァント――通称ライゼの脳裏に、いくつかの顔がぼんやりと浮かんだ気がした。
その内の一つは、なんとなくエステルに似ていて、だけど髪の色は違っていて…


780 : Lost Heaven〜封印されし記憶と狂気〜 ◆OmtW54r7Tc :2021/06/19(土) 22:35:12 fGSaLQCU0
「ぐっ!?」
「だ、大丈夫ですかライ…」

突然胸を抑えだしたライゼの顔を覗き込んだエステルは、ゾッとする。
ライゼの顔が…獣のような獰猛さを感じさせるものに変貌していた。

(そういえば…ライゼさんのクラスはバーサーカー。まさかこれが、狂化!?)

「ライゼさん!ライゼさん!」

エステルは必死にライゼに向けて呼びかける。
しばらくすると、ライゼはエステルの声に気づいたようにハッとすると、その顔から狂気は消え、そしてその場に倒れて気を失った。

「ライゼさん…」

倒れたライゼの介抱をしながら、エステルはこの世界に連れてこられてすぐ、脳裏に流れ込んできた情報を思い出す。

[バーサーカー…狂戦士の英霊。理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル、でしたね。どうしてライゼさんが…]

エステルは考え、そして一つの仮説にたどり着いた。

「もしかして…記憶が、関係してるんです?」

ライゼは記憶喪失のサーヴァントだ。
もしかすると、彼が記憶を失っているのは、狂気を抑えるためなのではないだろうか。
そして、エステルとの会話の何かが記憶の琴線に触れ、狂気が暴走しかけたのではないだろうか。

「…いえ、決めつけるのは早いですよね」

狂人と聞いて、エステルはザギという人物を思い出した。
ライゼが、あの人と同じタイプの人間だなんて思いたくない。
ついさっきまで、気さくに仲良く話していた人が、残虐な精神を隠しているなんて、思いたくなかった。

「ライゼさん…私、あなたのことをちゃんと知りたいです」

記憶が戻るとライゼの狂気が強くなるかもしれない。
それでもエステルは、彼のことを知りたいと思った。
彼のことを知り、見極めたかった。
そして、彼に隠された真実が残酷なものだったとしても…それでも、彼と友達になりたい。

『よろしくな、エステル』

気さくで優しい彼の姿が、嘘だと思いたくないから。


781 : Lost Heaven〜封印されし記憶と狂気〜 ◆OmtW54r7Tc :2021/06/19(土) 22:36:24 fGSaLQCU0
【クラス】バーサーカー
【真名】リアン(本人未認識。仮の名のライゼを名乗る)
【出典】Lost Heaven
【性別】男性
【属性】秩序・善

【パラメーター】
筋力:C(※1) 耐久:D 敏捷:B 魔力:E 幸運:D 宝具:C(※2)

※1 初期パラメータ。記憶を取り戻すごとに上がり、完全に記憶を取り戻すとAになる。
※2 初期パラメータ。完全に記憶を取り戻すと宝具が増え、ランクもAになる。

【クラススキル】
狂化:E(初期)
 本来であればセイバークラスの適性を持つが、過去に人体実験を受けた改造人間とされた経験からこのスキルが与えられた。
 記憶の封印により狂気は抑えられている。
 記憶が解放されるごとにランクが上がっていき、制御が難しくなっていく。最終上限はA。
 また、狂化時のパラメータは完全に記憶を取り戻した時と同等のものとなるが、宝具は使用不能になる。

【保有スキル】
剣技:C(初期)
 セイバーに劣ることのない剣技…は記憶を失う前の話。
 記憶の解放と共に強化され、最終上限はA。
 ただしそれは、狂化の進行も意味している。

二回行動:E(初期)
 文字通り二回連続で行動するスキル。
 これまた記憶の解放と共にランクが上がる。
 完全に記憶を取り戻してランクAになると、発動率100%となる。
 

【宝具】
『奥義・修羅一閃』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大補足:1
 敵単体に対して、防御力無視の連続攻撃を叩き込む。

『奥義・義剣絶翔』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:1000
 狂化を克服し、なおかつ記憶を完全に取り戻さなければ発動できない隠し宝具。
複数の敵に対して、防御力無視の強力な攻撃を行う。

【weapon】
神剣ヴェルンディア

【人物背景】
かつては王女を守る騎士であった男、リアン。
しかし運命の歯車は少しずつずれ始め、絶望の末に記憶を失った彼はライゼとして新たな人生を始める。
しかし運命の歯車は再び動き始め、ライゼはリアンとしての過去に向き合う。
旅の末、リアンとして、ライゼとして剣を取り最後の戦いに挑んだ彼は、愛する人と共に消滅した。

それから数十年。始まりの丘で再び記憶を失った彼は、ライゼとして再び生きる。同じく記憶を失った運命の少女、リーンと共に―

【サーヴァントとしての願い】
失った記憶は気になるが、そこまで執着はない。
とりあえず今は、マスターを守る。

【マスター】
エステリーゼ・シデス・ヒュラッセイン@テイルズオブヴァスペリア

【マスターとしての願い】
聖杯を求める気はなく、元の世界に帰りたい

【能力・技能】
剣術や魔法で戦闘を行う。
魔法は光属性攻撃や回復・支援術という僧侶系のものが多い。
武器は剣の他に杖も使えるが、何気にこの武器スタイルもライゼが似てると感じた人物と同じである。

【人物背景】
通称エステル。
テルカ・リュミレースの帝国を治める帝国の皇族の血筋を引く皇女で、次期皇帝候補として擁立されている。
性格はおっとりとしていて、皇族ながら偉ぶったところがなくむしろ控えめ。
城の外に出る機会があまりなく、その影響か読書が趣味で、それにより様々な知識を得ている。
彼女が蘊蓄を語る時のフキダシは通常と形が変わり、エスペディアとファンの間で呼ばれている。
バーサーカーの解説のカッコが変わっているのはこれの再現だったりする。

【方針】
ライゼのことをちゃんと知り、友達になりたい。


782 : ◆OmtW54r7Tc :2021/06/19(土) 22:37:05 fGSaLQCU0
投下終了です


783 : ◆OmtW54r7Tc :2021/06/19(土) 22:38:21 fGSaLQCU0
なお、ロストヘヴンはフリーゲームですが、ガイドラインは確認済みです


784 : ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/19(土) 22:59:13 2m78paiY0
投下します


785 : 世の中ちょっぴり、狂ってる ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/19(土) 23:00:05 2m78paiY0
ここは会場内のとある町の路地裏、そこでは一人の男が逃げ続けていた。

(なぜだ、なぜ私がこんな目に…!あのサーヴァントは、一体何なのだ……!)

その男は、アサシンのマスターとしてこの聖杯戦争に呼ばれた魔術師だった。

彼は自分のサーヴァントを有効に使い、時には闇討ちをし、時には自身が集めた情報をばらまいて
別のマスターに襲わせるなど、ほかのマスター候補たちを順当に脱落させていた男だった。

そんな彼は今、必死に路地裏を走り続けていた。

彼は先ほど、奇妙な格好をした少女と出会っていた。

その少女は胸元を大きくはだけさせた制服をまとい、また所々に溶けたチョコレートが塗られていた姿をしていた。

彼は魔力の反応などから彼女がサーヴァントであると気づき、彼女をおびき出して始末しようとした。

しかし……

「どうやらかかったみたいだね、エルエ」
「そうだねエルエ、"また一人"見つかったね」

そういうと彼女の姿が先ほどのとは変化し、柱時計のような剣を持ったロリータ風の姿へと変わったのだ。

それとともに彼女が自らの持つ剣で男を切り裂こうとしたが、男は一切焦ってはいなかった。

何故ならば、すでにアサシンが彼女の後ろに回り込んでいて、すぐにでもその首筋を掻っ切ることができる状態だったからだ。

そうしてアサシンが彼女の首筋に刃を突き立てようとしたところ、またも姿が変化し始めたのだ。

「……すまないけれども、とっくの昔にキミがいることには気づいていたんだよね」

そういうと彼女はガラスの棺に閉じ込められた姿に変わっており、その棺によってアサシンの刃は受け止められてしまったのだ。

それに彼らが驚愕をしていると、突如としてその棺のフタが開き始めた。

それとともに彼女が飛び出してくると、今度は入れ替わるように、突如としてアサシンの方が棺に閉じ込められてしまったのだ。

「これで邪魔は入らないね、エルエ」
「そうだねエルエ、でもこのままだといつか抜け出しちゃうかもしれないよ?」
「じゃあこうしようか、エルエ」

彼女がまるで別の誰かと話し合うようにした後その目から光線が放たれ、それがアサシンの心臓部分を貫いたのだ。

そうしてアサシンが金色の粒子となりながら消滅したのを確認すると、その少女は再び男のほうへと向き直った。

「これで本当に、邪魔は入らなくなったね」

その言葉とともに彼女の姿が再び変化し、今度は青白いランスを持った、白いドレス姿へと変化していた。

「サーヴァントを失った今、自分は彼女に対抗するすべはない」、そう男が判断すると、全速力でその場から逃げたした。

しかし彼女は男を追いかけるそぶりもなく、誰かが来るのを待っているかのようにたたずんでいたのだが、男はそれを知る由もなく逃げ続けた。

そうやって彼がひたすら逃げていると、突如として彼の周りが暗くなっていた。

何事か、と男が上を見上げると、そこにはまたしても衝撃的な光景があった。

何と野球服を着た男が、自分の腕を鳥のようにはばたかせて飛んでいたのだ。

そしてその男が彼を発見したかと思うと、彼めがけて急降下したのだ。

「はい、ドゥーン!」

彼は必死に逃げようとしたが男のほうが早く、男は彼の顔面めがけてドロップキックを放ったのだった……。


786 : 世の中ちょっぴり、狂ってる ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/19(土) 23:01:13 2m78paiY0
------------
若干時をさかのぼって、とある昔懐かしい感じのする家の前にて……

「…2998!…2999!……3000!ハイ!今日の素振り終わり!」

そこでは焦点の合っていない目をした男が、自分と同じような顔をした男が括り付けられたバットで素振りをしていた。

「十四松、今日はちょっと少なくないか?……いや、これ以上やられると吐くけど」

いきなり、バットに括り付けられた男『一松』が素振りしていた男『十四松』に対してツッコミを入れていた。

「うん、今日はちょっと用事があるから、早めに上がらないといけないんだ」

それに対して十四松が用事があるから早めに切り上げたことを彼に伝えたのだった。

「……用事って何だ?」

市松はその言葉についてさらに質問をしたが、それについて十四松は何も答えなかった。

「あ、ちょっと待って。電話来たから」

十四松がそう言うと、彼は突如として自分が履いていた靴を脱いで自分の耳元にあて始めたのだ。

<<マスター、他のマスターを見つけたよ。場所は、……だよ>>

「うん分かった、今行くね!コーッケコッコーゥ!!」

そういうと十四松は両手を大きく羽ばたかせながら空へと旅立っていったのだ。

「……十四松、ニワトリは空飛ばないから」

そしてその様子を見ながら、縛られたままの一松はズレたツッコミをしていた。

------------
そして舞台は現在に戻り……

「カンカンカン!はい、これで十四松の勝ちー!」

そこでは、先ほど別のマスターにドロップキックをかました十四松が、自分でゴングの音を鳴らしながら勝利宣言をしていた。

「……相変わらず、めちゃくちゃなマスターだね。エルエ」
「そうだねエルエ、このマスターは人間離れしているよね」

それに対して彼のサーヴァントは、十四松の人間離れした動きや一切予測のつかない言動などについて呆れた様子だった。

実をいうとこのサーヴァントが先ほど念話で彼を呼んだ理由は、彼の要望によるものだった。

一部回想すると……

『つまり格闘技大会ってことだね、じゃあマスターについては僕が倒すからその時は呼んでね!』
『……どうする、エルエ?』
『一応は従ってみようよ、エルエ』

といった感じで、変な勘違いをした十四松が彼女たちに変な命令をしたことがきっかけだったのだ。

「よーし!この調子で、ドゥンドゥン他の参加者倒して、トロフィーいただくぞー!」

こうして十四松は変な勘違いをしながら、この聖杯戦争を突っ走っていくのであった……。


はてさて、こんな感じでメチャクチャなマスターとそのサーヴァントの戦いは、今後どのような形で着地するのであろうか……?


787 : 世の中ちょっぴり、狂ってる ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/19(土) 23:03:02 2m78paiY0
【クラス】アクター
【真名】エルエ
【出典】Alice Re:Code
【性別】女性
【属性】混沌・善

【パラメーター】
(通常時)
筋力:D 耐久:D  敏捷:C 魔力:B+  幸運:B 宝具:A+

(『婀娜の魔性)』発動時)
筋力:B 耐久:B  敏捷:B 魔力:A++  幸運:B 宝具:A+

(『隠匿の本心』発動時)
筋力:A+ 耐久:A++  敏捷:B+ 魔力:B  幸運:A+ 宝具:A

(『開かれた双眸』発動時)
筋力:B 耐久:A++  敏捷:D 魔力:A  幸運:A++ 宝具:B

(『スクテラリアの狂気』発動時)
筋力:A++ 耐久:D  敏捷:C 魔力:C  幸運:D 宝具:B


【クラススキル】
 変化:A+
 ”座”に存在する、自身とは別のサーヴァントの力を一時的にコピーし、
 それに合わせて自らの肉体を作り変える事ができる。
 また、肉体のみならず人格や記憶などの精神も“変化”が可能。

 彼女の場合は召喚された時点でコピーした力が”宝具”という形で顕現している。

 ……完全に余談だが、彼女がコピーできる連中は彼女の狂気を反映してか、
 一部例外はあるものの『兄弟姉妹がいる人物』が多かったりする。

【保有スキル】

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

狂化:C
 理性と引き換えに能力を向上させるスキル。
 ただし彼女の場合は元々が狂っているため、その言動や行動などに変化は見られない。
 

【宝具】

『婀娜の魔性(雪の女王)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:0〜99 最大捕捉:100人
 自身が愛で続けていた少年を、見知らぬ少女に奪われた女王を
 自身に憑依させ、一種のデミサーヴァントのような状態となる宝具。

 この宝具を使っているときは白いドレスをまとい、また右腕にはもみの木を思わせる形をした
 青白い槍を携えた姿に変化する。

 能力としては相手にキスをすることで宝具を発動できなくするなどのデバフを行うものと、
 相手の攻撃を跳ね返す鏡を召喚するものなどがある。
 

『隠匿の本心(オオカミと七匹の子ヤギ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0〜99 最大捕捉:6人
 暴力的な兄たちに復讐するため、恋人であるオオカミを家に招き入れた子ヤギを
 自身に憑依させ、一種のデミサーヴァントのような状態となる宝具。

 この宝具を使っているときは鮮やかな紫色をしたロリータ衣装をまとい、また
 柱時計を思わせる巨大な両手剣を持った姿へと変化する。

 能力としては柱時計を召喚して防御に使う、手に持った両手剣で相手を叩き潰すほか、
 『腹を切り裂かれ、ゾンビ化したオオカミ』を召喚するなどがある。


『開かれた双眸(ガラスの棺)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0〜30 最大捕捉:2人
 悪い魔法使いによって兄を牡鹿に変えられ、また自分は永きに渡りガラスの棺に閉じ込められていた少女を
 自身に憑依させ、一種のデミサーヴァントのような状態となる宝具。

 この宝具を使っているときは名前の通りガラスの棺に閉じ込められた姿となり、また
 レオタード風の衣装をまとった状態でガラスに胸を押し付けているなどかなり扇情的な姿となる。

 能力としては目からビームを放つことと、自身が閉じ込められていた棺に相手を閉じ込めることで
 一切身動きが取れない状態にするなどがある。


『スクテラリアの狂気(豚殺しごっこをした子供たち)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉: 2人
 ごっこ遊びで弟を殺した兄と殺された弟を自身に憑依させ、
 一種のデミサーヴァントのような状態となる宝具。

 この宝具を使っているときは胸元を大きくはだけさせたギャル風の制服姿となり、また
 胸や太ももなどに溶けたチョコレートが塗られているなどかなりニッチな姿となる。

 能力としては狂喜と快感のままに暴れまわることと、相手の魔力耐性などといったものを無視して
 ダメージを負わせるなど、ほかの宝具と比べて少し地味なものである。


788 : 世の中ちょっぴり、狂ってる ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/19(土) 23:03:24 2m78paiY0
【weapon】
・堅牢のハルプアハト(『隠匿の本心』発動時のみ)
 柱時計を思わせる巨大な両手剣で、刀身の根元部分に時計盤が取り付けられている。
 また常に『7時半』の時刻を指し示しているが、これが何を表しているのかは不明。

・ガラスの棺(『開かれた双眸』発動時のみ)
 その名の通りガラスでできた棺で、中にはバラの花などが入っている。

・ランス(『婀娜の魔性』発動時のみ)


【人物背景】
 「ワタシたち二人は無敵だもん。だよね、エルエ」
 「うん、そうだよエルエ、最強だよ。くすくすくす……」

 右側が白く、左側が黒い特徴的な髪をした少女で、普段着も左右で色が反転しているなど
 特徴的な格好をした少女。

 『自分達は双子である』と自称し、1人で2人分の会話をすることが常であり、
 またそのどちらともが「エルエ」という名前である。

 そのため彼女とまともに会話をしようとすればほとんどの場合、混乱してしまうことになる。

 ……一応、「明るい女の子のような口調」か「物静かな少年のような口調」かで
 どちらのエルエが喋っているのかはかろうじて見分けることができるのだが、
 それ以外で見分けることは困難である。


【サーヴァントとしての願い】
 「ずっと一緒にいようね、エルエ」
 「そうだね、エルエ。ずっと離れないようにいようね」

【マスター】
 松野十四松@おそ松さん

【マスターとしての願い】
優勝して、トロフィー(聖杯)をもらう!

【weapon】
 なし。

【能力・技能】
 全体的に身体能力が高く、服を着た状態でドブ川を全力でバタフライする、
 人間を投げ飛ばした後飛び乗って、遠くまで移動するなど人間離れした身体能力をしている。

 その他にも他の兄弟の風邪を治すために細菌レベルにまで小型化、分裂をしたこともあるなど
 そもそも人間かどうかも怪しいレベル。

【人物背景】
 松野家の一卵性六つ子の五男であり、明るい狂人。
 またの名を六つ子の核弾頭的存在であり、その考えを理解できる人間が存在しない。
 
【方針】
 聖杯戦争のことを正しく理解しておらず、「街全体がリングの格闘技大会」のようなものだと思っている。
 まずは他の参加者たちを見つけるという目的の元、街中を散策している。

 なおアクターに関しては相手を油断させる目的(と十四松の趣味)で基本的に『スクテラリアの狂気』が
 発動した状態で行動をしている。

【備考】
 会場内に他の六つ子たちが配置されていますが、NPCかどうかは不明です。
 (この点については、今後の書き手様に任せます)


789 : ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/19(土) 23:03:50 2m78paiY0
投下終了です

ありがとうございました。


790 : ようこそユグドラシルへ ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:30:44 zOgj0EhI0
投下します。

なお、投下する主従は『Fate/Mythology――混沌月海神話』の候補話の流用となります。
一部舞台設定に合わせるために改稿しています。


791 : ようこそユグドラシルへ ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:33:22 zOgj0EhI0
鬱蒼と木々が生い茂る森の中に、根が浮き出ている土を踏みしめる音が立つ。
音源にあたる地点にいたのは、人間の男。 見た感じでは丸腰で、水色のTシャツにブルージーンズを履いているどこにでもいるような壮年に見える男性だった。
何故この地に足を踏み入れたのかは分からないが、男は殆どが幹と葉で埋め尽くされた周囲を見回すと、その場で黙々と作業にあたった。

手始めに、男は近くの木を殴り始めた。もちろん素手である。
男は木を切るための斧すらも持っていないので、頼れるのは己の拳のみである。
特におかしいところはない。これは男が開拓する際に真っ先にやるべきことなのだ。
しばらく木の幹を殴っていると、やがてポン、という小気味いい音と共に、木の幹の一部が小さな立方体となって傍らに弾きだされる。
男はそれを拾ったのを皮切りに、周辺の木の幹を自らの拳で数本、立方体にして自身の懐に収める。
幹を取られた木の葉は何故か据え置かれていて宙を舞っていたが、時間が立つと次第にその姿を忽然と消していた。
おかしいところは何もない。

それなりの数の木を拾った男は、今度は立方体に変えた木の幹をさらに4つの木材へと変えた。
いや、厳密には原木を手作業で木材に加工した、と言った方がいいのかもしれない。
しかし、実際には魔法のように「変えた」としか形容のしようがないほどの手慣れた手つきだった。
男は次に、生まれた4つの木材を合成して作業台を製作した。
男がひょいと軽い手つきで腕を振ると、ポンという音と共に立方体の作業台が設置される。
上面には3×3マスの格子模様が、側面には作業用の道具などが取り付けられており、これでより複雑な道具を作成可能になるだろう。

そんな折、森に二人目の来訪者が現れる。背後からは長い間隔で土を踏む音が男の耳に入ってきた。
しかし、それはか細く、まるで何かを恐れているようで、男とは違ってこれといった目的を持って踏み入った者ではなかった。
そんな忍び足に反応し、男は振り向く。

「わぁぁぁっ!?」

男に寄ってきた誰かは、男を見て驚きのあまりその場に尻餅をついてしまう。
この場所に人がいることに驚いたかは定かではないが、悲鳴にこっちがびっくりしそうだと男は思った。
男が来訪者に目線を向けると、羽が二つ着いている穴の開いた帽子を被り、リュックサックを背負った中性的な外見をした子供がいた。
子供は、怯えた上目遣いで男を見上げる。

「た、食べないでください!」
「食べねえよ!ゾンビじゃあるまいし。いくら何でもビビり過ぎじゃないか?人をそんな目で見るんじゃない」

男はやれやれという形で肩をすくめながら言う。
誰しも過度に怖がられると不愉快な思いが多少は湧くものだ。
男は子供を相手に少しだけ陽気な成分を含んだ口調で話すも、子供は態度を変えない。
それどころか、子供の目は明らかに人間ではないモノを見る目を宿していた。


792 : ようこそユグドラシルへ ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:34:18 zOgj0EhI0

「ヒト…?ヒトって、そんな形をしているんですか!?」

子供は男の姿を見た上で言った。
子供がそう言うのも最もで、男の身体構造はヒトというにはあまりにもかけ離れていた。
作業台や収集した木の幹と同じく立方体の頭部に、関節のない四角柱の形をした手足、そして幾何学的な直方体の胴体。
男の体は、全て角ばった四角でできていた。

「いや、俺は元々こんなだから人間が全員そうってわけじゃないさ。ここは辺境の森だから俺達以外誰もいないが、街の方へ行けばきっとアンタと似た外見のヒトもいるだろうよ」
「ヒトがいるって…じゃあ、ここはジャパリパークじゃないんですか!?」
「ジャパリパークってのはどこだか知らねえが、そういういことになるな」

子供は考え込むように俯き、混乱が抜けきっていないようだった。

「低い声…髭も生えてますけど、もしかしてオス…じゃなくて男のヒトですよね?」
「オスって、随分とませた言い方だな…見りゃわかるだろ?」

男は立方体の頭部にある無精髭を関節のない手で指しながら言う。
子供も考える力はあるようで、努めて冷静になろうとしている。

「…ということは、あなたはフレンズさん、じゃないんですよね?」
「ふれんず?いいや、俺は確かにヒトだが、サーヴァントだ。“クラフター”のサーヴァント。そのくらいは知っといてくれよ、マスター。
真名は…特に名はなかったが、民間伝承じゃあ『スティーブ』なんて呼ばれてたらしい。何はともあれ、よろしくな」

スティーブは子供――かばんに、しっかりしてほしいという意味合いも込めて答える。
マスターから少し離れた場所で召喚されたためか、少しばかり見つけるのに手間取ってしまったが、あの様子からしてこの子供が自身のマスターで間違いないだろう。
こんな森の中にNPCがのこのこと顔を出すとも思えない。

「僕は…かばんっていいます。でも、クラフターさんがサーヴァントってことは…聖杯戦争…やっぱり、ボクはあの後――」
「何かあったのか?サーヴァントなんだから、話はいくらでも聞いてやるぜ?」









――ありがとう、元気で。




かばんが最後に見たのは、巨大化した黒いセルリアンが自身に覆いかぶさってくる光景だった。
決死の思いでセルリアンに飲み込まれたサーバルを救出し、どこまでも付き添ってくれた親友を守らんがために囮になり、かばんはそのままセルリアンに捕食された…筈だった。

泥とも取れぬドス黒い流体に飲み込まれ、意識が無くなったかと思うと、気が付けば木々の生い茂る森の中。
付近にはフレンズどころか、動物のいる気配すらなかった。
そして脳裏に浮き出ているのは『聖杯戦争』という単語とそれに関する情報。
「ヒト」のフレンズとして生まれてからというものの、ヒトの社会に溶け込んだことがないかばんには、聖杯戦争というものを理解するには少々レベルが高すぎた。
そしてわけもわからずに森を彷徨っていると、離れたところでサーヴァントとして現界したスティーブと出会った、というのが事の次第である。

「へえ、マスターにもいろいろあったってワケか」
「いきなりとうきょうとってところに飛ばされたのはびっくりしましたけど、確かに僕以外のヒトに会えると思うと嬉しい気持ちはあります」
「マスターなりに、頑張ってきたんだな」
「い、いえ、そんな…」

自身の覚えていることをできる限りスティーブに伝えたかばんは、帽子を深く被る。
眼前にいる四角形でできている自身のサーヴァントは、話してみると悪い人柄でもなさそうだった。
ジャパリパークで出会ったたくさんのフレンズには見られない「男」ではあるが、それは同時にフレンズの枠に入らない生粋のヒトでもあるということだ。
外見こそ驚いたが、そこはヒトもフレンズも同じ、十人十色、博士の言っていたように多様であることを表しているのかもしれない。

「だが、ヒトに会ってそれからどうするんだ?マスターはもうここに来ちまった。もう後には引き返せない。
既に知ってるだろうが、聖杯戦争は有体に言えば殺し合いだ。もしかしたら、かばんちゃんが本当に食われるなんてこともあり得るかもしれない」


793 : ようこそユグドラシルへ ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:35:39 zOgj0EhI0
ここはジャパリパークではなく、聖杯戦争のために再現された東京都という場所で、街にはかばんと同じヒトが住んでいる。
それはかばんの探し求めていたヒトの住むちほーがあることを意味していたのだが、それをかばんは素直に喜ぶことはできなかった。

「それはもう、わかっています。正直に言うと、セルリアンに襲われた時よりも怖いです。でも、あんな別れ方でよかったのかなって…」

かばんはジャパリパークでの旅の中で出会ってきたフレンズを思い返す。
思えば、サーバルにも、ラッキービーストにも、フレンズの皆にも別れの一言も言えずにここに来てしまった。
そして、気付けばまた独りぼっち。
傍にはスティーブがいるものの、かばんのジャパリパークでの思い出は切り離せないものになっていた。

「だから、もし叶うのなら、もう一度ジャパリパークに帰ってみんなに会いたいんです。あのままだときっと、サーバルちゃんも、パークの皆さんも悲しませてしまいます」
「けどな、マスター。ここは『界聖杯』ってヤツの中だ。もう一度言うが、一旦聖杯戦争に首を突っ込めばもう終わるまでは抜け出せねえ。正直、俺の力だけじゃかなり厳しいものがある。それでもやるのか?」

スティーブは立方体に浮き出た顔を険しいものに変えてかばんに忠告する。
スティーブのクラフターとしての能力は、即ちモノづくりに特化した能力だ。
道具作成や拠点づくり、地形変動には長けるが、三騎士ほど直接的な戦闘に秀でているとは言い難く、パラメータも並のサーヴァントよりも劣る。
聖杯大戦のようなチーム戦ならまだしも、この聖杯戦争はあくまで個人戦だ。
そうなればスティーブのようなサーヴァントは同盟なりを駆使して泥臭く勝利を勝ち取っていくしかない。

「僕が願うとするなら、『フレンズの皆さんにまた会うこと』です。これから色んな人に出会うと思いますから」
「…そうか」

かばんに対して、スティーブは何も言わずに小さく頷きながら、淡々と答える。

「これまでの旅の中で、フレンズの皆さんは力のない僕を何度も助けてくれました。
だから、ジャパリパークのフレンズさん達のように力になってくれるマスターさんやサーヴァントさんもきっといると思うんです。クラフターさんだって――」

かばんはスティーブをじっと見据える。
純真ながらも力強い視線に、スティーブは恥ずかしげに目を逸らし、作業台へと向かっていった。

「…よし!まずはしっかりとした拠点作りだな!『来客』のためにも広めに、武器も多めに作っておこうか。マスターも手伝ってくれるか?」

数拍子置いて、スティーブの意図を汲み取ったかばんは元気よく「はい!」と返事し、スティーブの方へ向かっていった。


794 : ようこそユグドラシルへ ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:36:04 zOgj0EhI0
【クラス】
クラフター

【真名】
スティーブ@Minecraft

【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷E 魔力C 幸運B 宝具B+

【属性】
中立・善

【クラススキル】
道具作成:C(EX)
ツルハシに剣、鎧、果てには加工素材からポーションまで、スティーブのいた世界に存在したあらゆるモノを製作することができる。
作成には相応の素材が必要になるが、『匠の境地』を発動している間はその限りでなく、ランクも()内のものに修正される。
なお、スティーブの場合は作成とは逆に解体も可能。

【保有スキル】
専科百般:A
スティーブが元いた世界を開拓するにあたって、多方面に発揮されていた才能。
武術、馬術、農業、牧畜、鍛冶、狩猟術、交渉、破壊工作、その他様々な専業スキルについて、Cクラス以上の習熟度を発揮できる。

陣地建築:E〜A+
自らに有利な陣地を作り上げる、というより建築する。
ほんの小さな家から神殿クラスの城まで、スティーブの腕次第で自由自在に展開することができる。
ただし、基本的に陣地のランクに比例して作成に時間がかかる。

【宝具】
『匠の境地(クリエイティブ・モード)』
ランク:C+ 種別:創造宝具 レンジ:自分 最大捕捉:-
あらゆるモノを投入して荘厳な建造物を創り上げたスティーブが至った高みであり、クラフターたる所以。
この宝具を発動すると、あらゆる攻撃に対して無敵かつ飛行が可能になり、無から有を創り出すことまでもが可能になる。
本来は素材を集める必要があるものもこの状態ではその場で自由に創造でき、基本的にスティーブのいた世界にあったモノは全て取り出すことができる。
なお、この状態のスティーブはマスターが死なない限り不死身だが、この宝具は文字通り創造するための宝具であるため、
敵を倒す目的には使えず、敵を攻撃した場合は自動的に宝具の効果が解けてしまう。
敵の一切の干渉を寄せ付けないため、陣地を作成したり、地形を変えたり、道具素材を用意するなどあらゆる方面で有用だが、同時に穴も多い。

『付呪の台座(エンチャント・テーブル)』
ランク:B+ 種別:付呪宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
本、ダイヤモンド、黒曜石から作成できる、アイテムをエンチャントするための宝具。
スティーブはこれを多用していたため、あらかじめ宝具として所持している。
その名の通り、武器などのアイテムを強化することができる。
本を介して様々な概念が付与されるが、どんなものが付くかは運次第。
付与された概念にもよるが、エンチャントしたダイヤモンドの剣ともなれば、高ランクの宝具とも遜色ない出来になるだろう。
付近に本棚があれば、より高レベルのエンチャントが可能になる。
これらによってエンチャントされたアイテムはマスターも使用可能。

『立方舟の箱庭(ワールド・イズ・マインクラフト)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:-
任意の範囲のモノを立方体のブロックで構成された世界のモノに置き換える宝具。
この宝具の範囲内にあるものは、すべてスティーブの見てきた立方体のブロックで構成された物に置き換わってしまう。
それは生物やサーヴァントも例外でなく、スティーブのように立方体の頭に直方体の胴体と関節のない手足で構成された身体に状態変化してしまう。
NPCやマスター、サーヴァントなどは約30ターンで元の姿に戻れるが、慣れていないと行動に著しい制限を食らうことになるだろう。
性質としては空想具現化に近いが、人工物や生物にも影響を与えるという点では固有結界の性質も併せ持っている。

【weapon】
・製作した剣や斧など。威力は使った素材によって変化する。

【サーヴァントとしての願い】
マスターの力になる。

【人物背景】
Minecraftでのプレイヤーの使用する標準スキン。一般的にスティーブと呼ばれているため、それが真名として定着している。
原作でもこれといって台詞はなく、口調は書き手各々の想像に委ねられている。
把握の際には、Minecraftのシステムへの理解に重点を置くといい。


795 : ようこそユグドラシルへ ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:36:54 zOgj0EhI0
【マスター】
かばん@けものフレンズ

【マスターとしての願い】
ジャパリパークへ帰る。

【weapon】
特になし

【能力・技能】
身体能力は他に比べて劣るが、他のフレンズに比べて一線を画した知能と観察力、発想力を持つ。
一応、身体能力も木登りをできる程度までには成長している。

【人物背景】
けものフレンズの主人公。
名前や出自を含むこれまでの記憶が一切なく、気が付いた頃にはさばんなちほーを宛てもなくさまよい歩いていた。
「本名がわかるまでの間の名前」として、背中に背負っていた鞄(かばん)に因み「かばん」という仮称を与えられ、以降は彼女自身も周囲に対してこの名前で自己紹介している。
性格は温厚で心優しく控えめ、若干気弱なところもある。言葉遣いは丁寧で、打ち解けた関係になった後のサーバルを除き、ですます口調で話しさん付けで名前を呼ぶ。
身体能力は他のフレンズに比べ著しく劣り、「潜水」や「飛行」といった能力も持たない。
一方で、他のフレンズたちとは一線を画した知能と観察力、発想力を持ち、旅の間、行く先々で出会ったフレンズの抱える問題ごとを次々と解決している。

参戦時系列は11話のラストから。
此度の聖杯戦争では、さばんなちほーを宛てもなく彷徨い、そのフレンズにも属さなかった背景を反映してか役割が設定されていない。
要するに、浮浪児である。

【方針】
積極的に同盟を組み、フレンズもとい主従達と脱出を目指していく。


796 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:37:50 zOgj0EhI0
続けて投下します。

こちらは『魔界都市<新宿> ―聖杯血譚―』からの流用です。
流用元の影響から新宿にいることになっていますが、この聖杯戦争の舞台も東京都なため問題ないと判断しています。


797 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:39:26 zOgj0EhI0
能楽。
日本の伝統芸能の一つとして知られる。
能と狂言の総称であるそれはかつて猿楽とも呼称されていた。
猿楽は室町時代以前では庶民の文化レベルであったが観阿弥・世阿弥らによって集大成され、現在に残るほどの文化に昇華された。
その起源には諸説あり、一説には聖徳太子の側近であった秦河勝が起源となったのではないかという話がある。
かの世阿弥は河勝の子孫を自称しており、著書『風姿花伝』には聖徳太子が秦河勝に六十六の面を与え神楽を奏させたというエピソードが記されている。
明治維新後には猿楽の役者たちが失職し、他の伝統芸能諸共消滅の危機に瀕していたが、
かの岩倉具視や九条道孝の助力もあり猿楽は能楽に改められ、「能楽社」が発足。歴史の波の中に消えていく運命は免れた。

そんな能楽は、界聖杯の内に再現された東京でもしっかりと存在していた。
その象徴が、新宿――神楽坂にある能楽堂であろう。
築50年を超えるそれは新宿の中では最も古く、能楽シテ方(=能での主人公的役回りのこと)のとある流派の職分家が所有する由緒ある能楽堂であった。
今もそこでは継続して能楽の公演が行われており、愛好家はもちろん一般の人々の興味も引き、公演日には客席がほぼ満員になるほど盛況であった。

そして現在、能楽堂の舞台にて、扇を片手にシテ方を演じ、能面をかぶって舞う少女の姿があった。
正方形の舞台の上を踏むたびに桃色のロングヘアーが揺れる。
観客は一人を除いていない。舞台の傍らに、少女とは対照的な壮年の男性が真剣な目で少女の能を睨んでいた。
この男は能を演じている少女の師匠にあたる者だ。
兼ねてより、能楽師を志した者は所属する流派の家系の家に住み込んで内弟子となり、修業の日々を送らねばならない。
この少女も能楽師を夢見て、この能楽堂を所有する職分家の内弟子となった一人であった。
元来、能楽は女人禁制の決まりであったが、近年ではそれが緩和されて女性にも門戸が開かれている。
彼女もまた、珍しい女性能楽師の卵として弟子達の中ではそれなりに注目されていた。

少女が舞台の上を踵を上げることなく摺り足で舞台を行く。
ハコビと呼ばれる運歩法で円弧を描くように正方形の舞台を回り、扇を現在演じている演目に合わせてゆったりと、それでいて優雅に振る。
能楽においては舞台から見て正面と右、左の3方向に客席があり、能楽師はそれぞれの方角にいる観衆の目を意識して見せねばならないのだ。

舞台の上で登場人物そのものになりきっている仮面の少女の演技は、男からすれば見事なものであった。
その動き、ハコビやカマエの一挙一動からも感情が伝わり、面が動くことはなくとも舞から発せられる感情のエネルギーが全身を駆け巡っていく感覚だった。
演目のシテ役をプロの能楽師に勝るとも劣らないほどに演じきってみせている。

「終わりました」

少女が演目を終え、能面を外して師の方へ目線を移す。
その顔は無表情という言葉がこれ以上なく当てはまっており、何を考えているのかが一切わからない。

「流石だな。見事な能だった。もう少し突き詰めれば若竹能に出ても問題ないレベルに達するだろうな」
「ありがとうございます」
「しかし、だな。こころよ」

男はこころと呼ばれた少女の舞を褒めつつも、少し困ったような顔をして腕を組む。
少女の名は秦こころといった。現在は新宿の能楽の有名な職分家に住み込んで弟子入りしている。
能楽堂にて数週間後に公演される『若竹能(若手能楽師が稽古の成果を見せるための能の公演)』のために日々鍛錬に励んでいた。
こころの演じる能楽を見た能楽師は誰もがその素質に驚愕し、賛辞と拍手を送った。
若手の駆け出しとは思えない、前途有望な能楽師であった。
だが、男が難しい顔を見せたように、こころにはある難点があった。


798 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:40:14 zOgj0EhI0
「もう少しわかりやすく演じることはできないか?」
「わかりやすく?」

こころは師の言葉の意味がわからないといった様子で小首を傾げた。

「私がお前の能を『見事』と言えるのは私が能楽を生業としているからこそだ。お前の所作が何を表しているかがわかるからな。
だが、能を初めて観る方々にとってはどうかな?特別区、果てには世界中から神楽坂を訪れた人々がここの能を観に来る。
そんな人達が皆、能を理解しているはずがないことなど自明の理だ」
「……」

こころの難点。それは伝統芸能になじみの無い庶民には難しすぎて意味が分からないことだった。
確かに能楽師の目からすれば出来は非常にいいが、素人目で見ると何をしているかがわからず、不安になってその演目とは関係のないことまで考えてしまうのだ。
プロの能楽師であるこころの師匠はNPCでありながらもそれを的確に見抜いていた。

「今日の稽古はここまでにしよう。これからはお前の自由時間を多めにとる。自主的に鍛錬して、お前だけのわかりやすい能を編み出してみてくれ。
私もそろそろ年だ。年寄りには考えつかない、お前なりの新しい能を期待しているぞ」
「はい、考えてみます」

この会話を最後に、今日のこころの稽古は終了となった。


◆ ◆ ◆

言うまでもないが、秦こころは界聖杯の内で行われる聖杯戦争のマスターの一人である。
66種類の面が付喪神と化した存在で、面霊気とも呼ばれている。
彼女に与えられた役職は前述のとおり、とある能楽師の家に住み込みで修業中の天才若手能楽師。
66種類の面を常に携帯している様子が自分だけの能面を好んで使っているように見えたのか、関係者の間では「My能面」を持っていることでも有名であった。

「私の能楽ってわかりにくいの?」

近場の公園にて、夜風に吹かれながらこころは独り言ちた。
こころにはこの日の稽古で師にかけられた言葉が引っ掛かっている。
幻想郷の博麗神社で精神安定のために能楽をしていた時もそのような不満を小耳にはさんだことがある。
マミゾウによれば、「難しすぎて不安になり、余計なことまで考えてしまう」のだそうだ。

「新しい希望の面を使いこなせれば何か見えてくるかな?」

豊聡耳神子に新たに作ってもらった希望の面を手に取る。
先の幻想郷での宗教戦争は、希望の面がなくなったことによりこころの能力が暴走し、人々が刹那的な快楽を求めるようになったことに起因する。
その騒動の中で、道教勢力に立つ神子に与えられたのがこの希望の面だったのだ。
尤も、この面は道具として完璧すぎるゆえに、こころの自我が失われてただの道具に逆戻りしてしまう可能性を孕んでいる。
博麗神社で能楽を始めたのも希望の面をまだ使いこなせておらず、精神を安定させて無用な騒ぎを防ぐという側面もあった。
聖杯戦争で与えられた役割は、日常的に能楽ができるという点でこころとしても非常に助かっていた。


799 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:42:32 zOgj0EhI0

「まろからすれば見事でおちゃったよ」
「ライダー」

こころがライダーと呼んだ先に霊体化を解いたこころのサーヴァントが現れる。
しかしその外見はおおよそ人とはいいがたく、形容するならば台座に乗ったからくり箱と、その前方に取ってつけた腕のない人形といった風体。
その名も【機巧《からくりの》おちゃ麻呂】。
平安時代から存在する機巧兵にして、こんななりだが平安の神楽で江戸中を魅了した舞踏家でもある。

「能楽とは何とも雅な舞でおちゃるなぁ〜。狂死郎の歌舞伎にも劣らぬでおちゃるよ」
「そんなによかった?」

おちゃ麻呂に褒められたこころは頭に張り付いている面を福の神に変えた。
彼女なりの嬉しさの表現だろうか。

「そちの舞を見ていると、まろも舞ってみたくなったでおちゃる〜。あそ〜れ――」






「ぬおおぉぉぉ〜〜〜私が吹き飛ぶぅぅぅ〜〜〜〜」
「おちゃ〜〜〜〜!?!?!?」

おちゃ麻呂が舞おうとして得物の扇を一振りした瞬間、こころが力の抜けた悲鳴を上げた。
こころの方へ目を向けると、まるで扇から煽られた風に吹かれているようにヨレヨレで、今にも倒れそうな態勢であった。
おちゃ麻呂は高名な陰陽師に製造された退魔機巧兵で、魔の者を見事調伏したという逸話から、霊的・魔的なモノを祓う最高ランクの『退魔力』を持つ。
彼の舞にも退魔力は付加されており、それを見た霊的なモノは祓われる。
こころは付喪神であり、その祓われる対象に入っていた。

「まことや、こころは付喪神でおちゃった…げに危うし、げに危うし」
「気を付けろ!我々はまだ不安定なんだ!」
「おちゃ〜、般若面となりて怒られたでおちゃる……されど、まろが意識しておけばもう心配ないでおちゃるよ。心安かれでおちゃる」

ただ、祓われるといってもおちゃ麻呂が意識さえしておけば特に問題はない。
対魔力がサーヴァントの意思で効果を弱めることができるのと同様に、退魔力もその力を弱めてこころのような存在を傷つけぬようにできるのだ。
おちゃ麻呂は人形を精一杯動かし、頭を下げて謝った。

「さても、それがそちの希望の面でおちゃるか?げにあやしげな面持ちでおちゃるな〜。つゆ完璧とは思えぬでおちゃる」
「確かに変だけど、我々には必要な面だから」
「されどその面を使い続けるとそちは道具に戻ってしまうのでおちゃろう?何ぞそれを使い続けるでおちゃ?」
「この面を使い続けて自我に取り込めって狸の妖怪に言われたの。そのためには色んな人間の感情を見て、表情を学ばなければならない」


800 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:43:13 zOgj0EhI0
こころがこの面を使い続ける理由は二ッ岩マミゾウにあった。
こころは無表情だが感情自体は豊かで、感情を司る面を被ると対応した感情に変化し、口調も変わる。
以前までのこころは面こそが本体であり、自身の感情そのものという認識を持っていた。
だが、本体は妖怪となって形を成した『こころ』であり、
『こころ』自身が感情・表情を手に入れることで面霊気の『こころ』は完成して自我を保ち続けることができる、とマミゾウは諭したのだ。

「ライダーも私と同じで表情がない。でも、面がないのに感情がとても豊かだわ。他の人間や妖怪と違う…あなたって面白い♪」
「ほっほっほっ……まろの『これ』は人形ゆえ表情はなかれども、師父様から賜りしこの魂は感情を持っているでおちゃるからな〜。
まろがただの機巧で終わらなかったのもそのおかげかもしれないでおちゃる」

おちゃ麻呂は歯車のぎっしりと詰まった箱から生えた手で己の人形を指さしながら言った。
おちゃ麻呂はからくりにも関わらず、その機体に魂を持ち、意思と感情を持っている。
彼も感情を持っていたからこそ、逸話になるほどの偉業を成し、英霊という存在にまで押し上げられたのだろう。

「そう、私もただの道具で終わりたくない……。だから私は、この聖杯戦争を通して感情を学ぶ。それが私の願いだ!」
「この聖杯戦争を通して…?さらば、そちは聖杯が欲しくないのでおちゃるか?」
「聖杯戦争みたいな殺し合いは殺意を生むわ。そんなモノを認めるわけにはいかない!」

殺意という感情は人間を不安定にさせ、果てには多くの死をもたらし、感情をも含めてその人間達の『全て』を壊してしまう。
感情のバランスを保つ面霊気のこころにとって、それは許しがたいものだった。

「ほっほっほっ……あなおもしろき面霊気かな〜。……そちを見ていると、まろもそちが何を成し遂げるのか見てみたくなったでおちゃるよ〜」

おちゃ麻呂は扇を人形の口元に当てる。
彼は、前述のとおり魔を祓う機巧兵として生きていた。
初めてこころの正体を知った時は何事かと思ったが、彼女からは悪しきモノを感じないので自らのマスターとして認め、彼女についていくことにした。
現に、妖怪であるはずのこころはこの聖杯戦争を認めないと言ったのだ。
劉雲飛のような善悪両方の気配を持つ者にも会ったことがあるが、今のところこころからは悪しきモノは感じられない。

「……この舞台に潜む悪しきモノは、別にいるようでおちゃるなぁ〜」

現界した当初からおちゃ麻呂が感じていた、聖杯戦争に巣食う『魔の者』の気配。
この再現された東京にも、かつておちゃ麻呂が生きた時代と同じく悪しきモノがいることをおちゃ麻呂は見抜いていた。
いずれはおちゃ麻呂と彼のマスターの前にも、かつて対峙したことのない"魔"が表舞台に姿を現してくるのだろうか。

「悪しきモノを祓うはまろの使命。その時は、まろが祓ってしんぜよう〜」

おちゃ麻呂はこころに聞こえぬよう、か細い声で呟いた。


801 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:44:27 zOgj0EhI0
【クラス】
ライダー

【真名】
機巧おちゃ麻呂@サムライスピリッツ 天下一剣客伝

【パラメータ】
筋力C 耐久B 敏捷E〜A+ 魔力A 幸運A 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではライダーに傷をつけられない。
後述の逸話により退魔の属性を得たため、それと同時に破格の対魔力も得ている。

騎乗:-
ライダークラスにあるまじきことだが騎乗スキルを所有しない。
ライダーは台座を足代わりにして移動している。

【保有スキル】
退魔力:A
霊的・魔的なモノを祓う力。
ライダーは陰陽師により生み出され、最終的に羅将神ミヅキを始めとする魔の者を調伏したことからこのスキルを有する。
ライダーの全ての攻撃は霊体にもダメージを通すことができ、
さらに魔の属性または闇の属性を持つサーヴァントに対しては追加ダメージを負わせる。
なお、無差別というわけではなく、対魔力と同じくライダーの意思で対象を指定できる。

舞踊:A
江戸の民を魅了し続けた平安時代の舞踏、裏式神楽雅《うらしきかぐらみやび》。
ライダーの場合、その舞踏自体に退魔の属性が宿っており、
周囲で発動している同ランク以下の魔術を全てキャンセルする。
どんな強力な魔術工房やエンチャントですら舞一つで全て台無しになる上、攻撃魔術から同行者を守る実質的なバリアとしても機能する。
さらに攻撃にも使うこともでき、見切りにくく、予想のつかない身体動作により敵の防御姿勢を容易に崩すことができる。
敵の防御判定におけるファンブル率を大きく上昇させる。

侍魂:C
サムライスピリッツ。武芸者同士の御前試合に参加していた逸話からこのスキルを持つ。
怒りの爆発を武器に乗せて力に変え、あるいは自身を無の境地に置くことで静なる剣を引き出す奥義。
ライダーは厳密にはサムライではないため、ランクはそこまで高くない。

王服茶:A
ライダーの好物である縁起物のお茶であり、薬湯。
この茶を飲んだ者はみな病魔を払われ快癒したという逸話から、
ライダーの出した王服茶を飲んだ者の受けたダメージを回復し、毒などのバッドステータスを治癒する。

【宝具】
『師父製山車舞台型魂宿退魔機巧兵御茶麻呂《しふせいだしぶたいかたたまやどるたいまのからくりのつはものおちゃまろ》』
ランク:A 種別:退魔宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
平安時代に高名な陰陽師「師父様」が生涯をかけて生みだしたおちゃ麻呂の機巧《からくり》の体そのものが宝具。
からくりでありながら魂を持ち、豊かな意思・感情を持っている。
からくりの特性上、その内部に様々な機構を持ち奇怪な攻撃ができる他、
ある程度の範囲ではあるが材料さえ揃えばライダー自身の体を分解して魔力を消費せず自己修復が可能。
さらに、ライダーの機巧内部の埃や塵の量、潤滑油の質などにより敏捷が大幅に上下する。
四六のガマの油のような神秘の宿った油を潤滑油としてライダーに注入したともなれば、敏捷はA+ランクまで上昇するだろう。
時を経て、仲間の遺志を継ぎ見事羅将神ミヅキを封印した逸話から、最高ランクの対魔力、そしてあらゆる行動に退魔の属性がついている。

【weapon】
切鉄翁・裏鉄嫗《きりがねおきな・うらがねおうな》
ライダーが舞に使う一対の鉄扇。
舞踊と共に繰り出される機巧体動作は多彩で、完全に見切るのは困難。

黒鉄鋳造刃金焼入白銀歯車《くろがねちゅうぞうはがねやきいれはくぎんのはぐるま》
ライダーのからくり箱の頂点で常に回っている巨大な歯車。
変形し、押し付けて高速回転させることで敵を切り刻む。

人形
機巧部の前についている平安の公家風の人形。
ただの人形のため、表情はないがライダー自体は普通に感情豊かである。
人形自体も頭突きや足払いができる他、獅子舞に変形して敵を飲み込む「獅子舞 鬼遣」「獅子舞 鬼紋封」といった技も使用可能。

台座
ライダーの移動手段。常にライダーはこの台座に乗っており、ライダーとして現界した原因の一つ。
遠隔操作・攻撃可能。


802 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:46:44 zOgj0EhI0
【人物背景】
高名な陰陽師「師父様」が生涯をかけて生みだした機巧戦士の内の一体。
平安時代、陸奥・恐山にて力を蓄えている羅将神ミヅキを始めとする世に災いをなすであろう魔の者を調伏するために製造された。
現代から1000年以上昔の産物であるが、驚くべきことにただの機械ではなく、意思や感情を持っている。
からくり箱のような機巧部分の正面にちょこんと人形がついているが、人形に表情を変える機能はないため、表情はない。
いわゆる公家言葉っぽい喋り方をするが、「おじゃる」となるべき部分が全て「おちゃる」となっている。
彼の他に「いちゃ麻呂」「ろちゃ麻呂」「はちゃ麻呂」…と、40体以上の機巧兵がいる。

普段は京都「天閣座」に奉納されており、年に一度だけ「機巧人形舞台」として平安の舞を披露しているが、
ひとたび世に魔が溢れると目覚め、魔を調伏し終えると再び眠りにつく。
江戸時代初期に、羅将神ミヅキを封印するべく、おちゃ麻呂は法力僧数十人と兄弟の機巧兵とともに恐山に赴いたが、
壮絶な戦いの果てに戦いを共にした法力僧や兄弟である機巧兵はおちゃ麻呂を残して全滅してしまう。
一人眠りについたおちゃ麻呂だったが、「サムライスピリッツ天下一剣客伝」本編で再び高まったミヅキの気配によって目覚め、
仲間の遺志を継いで最後の戦いに挑むのだった。

そして御前試合を経て、ついに宿敵・ミヅキを見事封印することに成功。
かつての戦友の子孫と対面するも、おちゃ麻呂は死んでいった兄弟と喜びを分かち合えないことに寂しさを感じていた。
しかし、幕府お抱え・柳生一族の中でもカラクリに精通した者の手によっておちゃ麻呂の兄弟はみな復活する。
この出来事にはおちゃ麻呂も感激のあまり涙を流す(しぐさをしていた)。
そして、ミヅキ封印により本来の魔の者を調伏する役目から解き放たれた彼ら機巧兵は思い思いの道を辿った。
農夫となる者、平安京に帰る者、柳生新陰流を極める者、
旅に出る者、茶店で働く者、忠臣となる者、寝てから考える者…と様々な道を歩み、
おちゃ麻呂は平安時代の舞を江戸に蘇らせ、あらゆる人々を魅了し続けた。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争に潜む悪しきモノを祓う
こころの行く末を見届ける


803 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:47:29 zOgj0EhI0
【マスター】
秦こころ@東方project

【マスターとしての願い】
ライダーと共に感情を探しに行く

【weapon】
弾幕ごっこで使用する遠距離攻撃、面、扇、薙刀など
面の目の部分からレーザーが発射されたりとスペルカードルールに則して様々な方法で弾を放てる。

【能力・技能】
感情を操る程度の能力
それぞれの感情を司る66の面を持っており、被った面によってこころの性格は様々に変化する。
多すぎるので普段は喜怒哀楽の面を主に使っている。
「希望の面」が失われたことで幻想郷の人間達から希望の感情が失われたりと多数の感情にも影響を及ぼすことが可能なようだが、詳しい能力の規模や応用性は不明。
こころの持つ感情の波動を相手に浴びせて情緒不安定にさせる「喜怒哀楽ポゼッション」なるスペルカードがある。

能楽
特技に能楽を演じることができ、こころが界聖杯に装填される前に起きていた宗教戦争は後に『心綺楼』というタイトルの能楽として披露されるはずであった。

【参戦時期】
『心綺楼』マミゾウED後。

【人物背景】
66枚の古い能面の面霊気(付喪神)。
こころ本人は無表情で周囲を漂っている面をかぶるとその面に対応した感情になるという特徴を持つ。
六十六枚全てに感情が割り当てられているが流石に多いので普段は喜怒哀楽の面くらいしか使用しないらしい。
ただし決して無口ではなく会話は普通に成立しており、会話シーンでは無表情のまま口調が次々に変化するという妙な光景が見られる。
『心綺楼』騒動の元凶であり、面の1つである『希望の面』を失い、能力が暴走。
その結果として人里の人々全体から希望の感情が失われ、刹那的な快楽を求めるようになってしまった。
「東方心綺楼」では面を揃え再び人々の感情を安定させるために、希望(信仰)を集めてきた者を新たな希望の面とするべく襲い掛かってくる。

豊聡耳神子によって新しい希望の面を作ってもらったことで、異変は解決するかと思われたが、
その面が完璧すぎたため使いこなすことができず、このままでは自我が失われ、ただの道具に戻ってしまう事態に陥る。
それを打開しようと奔走していたが、二ッ岩マミゾウに諭され、新しい神子の希望の面を使いこなして自我を手に入れることを目指すようになる。

【方針】
聖杯戦争には乗らない。


804 : ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/20(日) 12:47:50 zOgj0EhI0
以上で投下を終了します。


805 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/20(日) 18:36:32 ImGgjC5U0
投下します


806 : 聖杯戦争に犠牲はつきものデース ◆NIKUcB1AGw :2021/06/20(日) 18:37:40 ImGgjC5U0
深夜の廃工場。
人の寄りつかぬこの場所で、聖杯戦争の参加者同士が戦いを繰り広げていた。

「ふぅぅぅぅん!」

気合いのうなり声と共に、軍服姿の男が手刀を繰り出す。
それは対戦相手である剣士の首に食い込み、骨を砕いた。
これで、勝負ありだ。


◆ ◆ ◆


サーヴァントが消滅し相手方のマスターが逃走したのを確認すると、物陰から一人の老人が現れた。
メガネに白衣、はげた頭頂部。
いかにも研究者といった風貌だ。

「マスター、お疲れ様デース。ケガを治療しマース」
「ああ、頼むぞ、キャスター」

聖杯戦争を知る者がこの会話を聞いたら、疑問を抱かずにはいられないだろう。
先ほどまでサーヴァントと戦っていたのがマスターで、それを見守っていたのがサーヴァントなのだ。
なぜ、このような逆転現象が起きたのか。それはこのキャスターが、特異な性質を持つからだ。
彼自身には、戦闘力は皆無だ。その代わり彼の宝具は、他者の肉体を大幅に強化した上で神秘を与える。
つまり自分の代わりにマスターに戦ってもらうのが、このキャスターの基本戦術なのだ。
なお、彼の宝具は失敗して逆に身体能力を低下させてしまうこともある。
まず最初の賭けに成功しなければ使い物にならないという、はっきり言ってしまえばハズレのサーヴァントである。
だがこのマスター……ルドル・フォン・シュトロハイムは、見事に賭けに勝ってみせたのだ。

「やはり、ドイツの医学は世界一ィィィィィ!!
 キャスターに改造されたこの肉体ならば、柱の男とも十分に戦えるわぁぁぁぁぁ!!
 武器が使えんというのが、少々難儀だがなあ!!」
「私が強化できるのは、肉体だけデース。
 武器に神秘を与えることはできないので、サーヴァントとの戦いでは使い物になりまセーン」
「そう何度も言わなくても、わかっておるわ!
 肉体一つで歴史に名を刻む強者たちと戦うのは、正直厳しいが……。
 誇り高きゲルマン魂があれば、できんことはなぁぁぁぁい!」

高らかに宣言するシュトロハイムを、キャスターは無表情で見つめていた。


◆ ◆ ◆


キャスターは、複数の並行世界で存在を確認されている。
ゆえに、ここにいる彼が「そう」であるかはわからない。
だがある世界の彼は、かつてナチス政権下のドイツにいた科学者だった。
彼は自分の研究が戦争に使われることに嫌気が差し、ドイツを去った。

今の彼はナチス軍人と手を組み、おのれの研究を「戦争」のために使っている。
彼の胸の内に何が渦巻いているかは、誰にもわからない。


807 : 聖杯戦争に犠牲はつきものデース ◆NIKUcB1AGw :2021/06/20(日) 18:38:56 ImGgjC5U0
【クラス】キャスター
【真名】ダイジョーブ博士
【出典】実況パワフルプロ野球シリーズ
【性別】男
【属性】混沌・悪

【パラメーター】筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:C 宝具:B

【クラススキル】
陣地作成:B
自らに有利な陣地「研究所」を作成可能。

道具作成(医):D+
医療道具、薬品を精製可能。

【保有スキル】
医術:A
キャスターが生きていた時代で、最先端の医術。
ありふれた病気なら、数十分から数時間で完治させることが可能。
肉体への慢性的なダメージも回復できる。

精神汚染:B
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
医学に全てを捧げた彼と、まともな会話ができる人間はわずかしかいない。

【宝具】
『たどり着くのは天国か地獄か(オペレーション・ダイジョーブ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
手術台を具現化し、対象に対して強化手術を行う。
成功すれば身体能力が大幅に上昇した上に、サーヴァントに対抗できるだけの神秘が肉体に宿る。
しかし失敗すれば、身体能力が大幅に低下してしまう。
なお神秘を宿す効果は生前にはなく、彼の存在がオカルト的に語られたことで付属したものである。

『暗躍者たちの衣(コスチューム・オブ・ゲドー)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
キャスターの助手であった「ゲドーくん」が着用する、全身を覆うコスチューム。
しかしほぼ同じものが大量に出回っているようで、極亜久商業や仏契大学の野球部員、パワフルタウンの住人などもそっくりな衣装を使用している。
だがそれ故にこの衣装は「誰が着ているかわからない」という属性を宿すことになり、強力な認識阻害効果を得ている。
透明になるわけではないし気配も消せないが、「中の人」が誰かは高ランクの「千里眼」でも見破れない。

【weapon】
なし

【人物背景】
自称「ドイツから来たスポーツ医学の権威」。
道行くスポーツ選手に声をかけては、人体実験の対象としている。
その行為に悪意は全くなく、ただ医学の発展だけを望んで行動している。

【サーヴァントとしての願い】
医学の発展


808 : 聖杯戦争に犠牲はつきものデース ◆NIKUcB1AGw :2021/06/20(日) 18:40:21 ImGgjC5U0


【マスター】ルドル・フォン・シュトロハイム
【出典】ジョジョの奇妙な冒険
【性別】男

【マスターとしての願い】
ドイツに栄光を

【weapon】
参戦時期の都合で、特に持っていない。

【能力・技能】
軍人としての技能は一通り身につけている。
カリスマ性もそれなりにある。

【人物背景】
ナチスドイツの軍人。
柱の男の研究任務を任されており、そのため波紋戦士たちの戦いに関わっていくことになる。
ナチスの思想に染まってはいるものの悪人ではなく、大義のためなら自己犠牲もいとわない高潔な男である。
参戦時期は、サンタナ戦で自爆した直後。
肉体の損傷は完治しており、サイボーグにはなっていない。
この世界でのロールは、バカンスで日本に滞在中のドイツ軍人。

【方針】
優勝狙い


809 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/20(日) 18:42:31 ImGgjC5U0
投下終了です
なおダイジョーブ博士の本来の口調は「ひらがなが全部カタカナになる」というものですが、
ぶっちゃけ読みづらいし書きづらいので今作では「語尾のみカタカナ」とさせていただきました


810 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/20(日) 20:09:41 T.emhpPI0
>>Lost Heaven〜封印されし記憶と狂気
登場話の中で主従の絆を深める掛け合いが入っているのはやっぱりいいですね。
違う作品のキャラ同士の共通点だったり絡みだったり、そういうところが楽しめるのはクロスオーバーの醍醐味だと思います。
割と無かったことにされがちなバーサーカーのデメリットも描写されておりなるほどなあとなりました。
とはいえ意思疎通が出来ないわけではないので、サーヴァントとしてはなかなか優良物件な気がしますね。

>>世の中ちょっぴり、狂ってる
狂ってるのベクトルがそれぞれのキャラクターで違うのが面白いですね。
サーヴァントのエルエも大概なスペックと人格なものの、それ以上にマスターがぶっ飛んでいるというか。
アニメ作中からして物理法則とか生物の原理とかに思いっきり反逆してたキャラですし、ともすればサーヴァントより厄介そう。
こういうぶっ飛んだやり方を思いつくのはすごいな〜と思いました。

>>ようこそユグドラシルへ
マインクラフトでお馴染みのスティーブをサーヴァントとして出す、その発想にまず驚かされました。
専科百般のスキルがこんなに似合うキャラはなかなか居ないんじゃないかと思います。
そしてそんなスティーブのマスターはけもフレのかばんちゃん、う〜んすごく合ってる。
なかなかいい感じのフレンズになれそうで面白い組み合わせでした。

>>秦こころ&ライダー
能について比重を置いた候補作、非常に面白く読ませていただきました。
そしてシリアス一辺倒ではなくギャグも挟まっており、話としてのテンポもとても良かった印象です。
ライダーのおちゃ麻呂は一見すると色物枠に見えますが、その実結構頼りになりそうなのが意外でした。
こころも結構強いキャラクターなので、聖杯戦争打倒ないしは脱出のために活躍してくれそうですね。

>>聖杯戦争に犠牲はつきもの
これはまた一味も二味も変わったサーヴァントですね。驚きました。
精神汚染のスキルが有るなど、やはり一筋縄では制御はできないだろう様子。
宝具もかなりピーキーな代物なので、本当に始まってみるまでどうなるか分からないサーヴァントだと感じます。
そしてシュトロハイムは普通に優勝狙い。原作では見られなかった姿が見られるかもしれませんね。

今日も皆さんたくさんの投下をありがとうございました!


811 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/20(日) 20:22:42 2NRJ5m1k0
投下します


812 : LAST_Prolog ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/20(日) 20:23:15 2NRJ5m1k0

 ◆



 ───界聖杯(ユグドラシル)と呼ばれる願望器。
 コレは聖杯戦争の為に造られた聖杯。
 造り手も管理者もコレには存在しない。
 無数に偏在する世界、無限に連なり続ける願いの澱が積み重なり生まれた新生児(ニューエイジ)。
 願いの数だけ望まれ、欲が尽きない限り回り続ける永久機関(マクスウェル)。

 受理した願いを歪め曲解して叶える欠陥品でもない。
 監督役の位置から眺めて総取りする黒幕もいない。
 命を賭して戦う者を嘲笑う邪悪もいない。
 そんな、誰にとっても都合のいい純粋無垢の、誰の手垢も付けられていない地平線の果て。

 ああ、ならば最後に待つものは大団円だろう。
 吐き気を催す聖人も、気まぐれに善を為す悪人も、区別なく。
 あらゆる矛盾、性質、能力、心情を考慮せず十全に叶えられるのなら、生まれるものはハッピーエンド以外にはあり得ない。


 ───では。
 叶わなかった願いは。
 底に沈み滞留した夢の残骸は、何処に流れ着くというのだろう。


 界聖杯は願いの集積。
 数多の世界で手を伸ばした者から伸びた糸が、宇宙の端で絡まって誕生した現象だ。
 ならばその過程、競争から零れ落ちた敗残者に同じ現象が起きないと、どうしていえようか。

 無論、憎しみは単体では活動できない。 
 人間は肉体が失われれば感情から解放される。
 せいぜいが死に場所に染み付いた怨念が彷徨うぐらいのもの。
 程なく霧散する死者の情報を注ぎ入れるための器が要る。
 そして器は流れ着いた。
 剪定に差しかかった事象。
 伐採する鋏が開かれつつある、千年間動きを停滞させた月の底から。

  
 不自然な事ではない。
 不可能とは言わせない。
 何故なら。

 いつの世も、完全/勝者を打ち破るのは、不完全/敗者の中から生まれるものだ。



 ◆


813 : LAST_Prolog ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/20(日) 20:23:56 2NRJ5m1k0



 汗と血の雫を落として、前に進む。
 壁に寄りかかって歩くと、ずるり。と壁にべったりと血の跡が残る。
 命の残量が、刻一刻と減っていく。
 岸浪ハクノの死が、迫ってきている。

 後ろからダレカが追って来ている。
 血に滴る凶器を持って、自分を殺しにやって来る。
 刃の軌跡は体を数度通過している。もう十分食らってるだろうにまだ足りないのか。
 ただ殺したいのか。それとも殺人という成果が欲しいのか。
 さらなる流血が欲しくて、自分を殺しにやって来る。

 サーヴァント。マスター。ただの使い魔。
 この世界で人の命を、最も多く奪うモノ達の呼称。
 ただ今はその区別はどうでもいい。だってまだ何もわからない。
 敵の名前も、正体も、目的も。
 そもそも、自分が何者で、何を願って此処に来たのかすら思い返せない。

 予選段階の剪定準備。
 殺されるためだけの書き割り。
 明日のニュースで流されるだけの羅列。
 そういう、哀れな犠牲者の一名に、自分もまた加わろうとしている。

(ああ、またか)

 これもひとつのワールドエンド。
 終わりはいつだってこんなもの。
 いつものように学校生活を送って、夕方の帰り道にふといつもと違うルートで帰ったら、たまたま路地裏に潜んでいた通り魔の標的に選ばれて追い回される。
 Aの道を選んだ。わたしは死んだ。
 Bの道を選んだ。オレは殺された。
 一日が過ぎ去るように、なんのためらいもなくすべてが失われた。

(また、無残な死を、迎えている)

 何度だ。
 何度、こんなことを繰り返している。
 何度、こんな死を生み出している。
 
 殺された。
 殺された。
 殺された。
 残らず殺され尽くしても、また生まれては殺された。

 それが願うということだ。
 聖杯を望む、聖杯に臨む過程で刮げ落ちる脱落者。
 一握りの勝者の駆け上がる階段は、負け落ちた死者で作られる。
 どこでも。
 月でも。
 この世界でも。


814 : LAST_Prolog ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/20(日) 20:25:00 2NRJ5m1k0

 

「……憎い」

 我知らず、呟いた言葉。
 それが今の自分の原動力だった。存在意義だと。
 予めプログラミングされた命令(コマンド)みたいなうわ言で。
 
『おまえに、やれるか』 

 敗者(ダレカ)の声が耳元で木霊する。

『ここから始まるのは殺し合いだ』
『肉をえぐって、骨を暴いて、心臓を突き刺すような』
『容赦のない無残な戦いだ。おまえに、やれるか』

 背を押してるのか。止まって欲しいのか。それともただの事実確認?
 それは月ではない界聖杯(ここ)で生まれたばかりの死の念だからか。
  
 ここでは死なない。
 復讐を。
 報復を。
 死ねない。死ぬものか。
 誰もやらないのならオレがやる。
 誰もできなかったのならオレがやる。
 おまえたちのかわりにオレがやる。

(なぜなら、オレは)

「この界聖杯(せかい)の、全てが憎い」

 進む足はいつの間にか立ち止まっていた。
 体力の限界のためではない。限界なのはもうずっと煮えたぎっている激情の方。
 振り向き、『敵』を見据える。立ちはだかるは人では敵わない魔の尖兵。

 内から膨れ上がる無数(ダレカ)の憎しみが、顔面に手を付ける。
 繕った表情を剥がして、死相(デッドフェイス)が顕になる。
 その、寸前。バチリと拳に閃光が走る。


「───!」


 背後から伸び出た光の線。
 流星のような勢いで駆け抜けていく。眩い。羨むほど眩い、生命の輝き。
 光は槍となって体の脇を通り過ぎ、前方にいる敵ぶつかった。

 一合。
 ニ合。
 白銀の鎧。白銀の槍。白銀の髪。
 打ち合う剣戟の音が鳴るたび、光は人の輪郭を形作っていく。
 貌には死の怨念は見えない───鮮烈なまでに心奪われる、激しい闘志が秘められている。


815 : LAST_Prolog ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/20(日) 20:26:05 2NRJ5m1k0


 槍が胸を貫き、敵が消滅する。
 残心し振り向いた男は、そこで冷徹な眉を動かした。 

「───お前は──────」

 幽霊でも見たような。
 過去の影を目の当たりにしたような。

「……いや、いい。お前が俺のマスターか?」

 思い直したように振りかぶり、誓約を求める。 
 どう答えればいいか、なぜか言葉が出ず呆けてしまう。

「自分の名前はわかるか?」

 少しだけ態度を柔らかくなった気がする、鎧の男は静かに問いを続けた。

「……岸浪ハクノ」
「そうか。ではハクノ。改めて言おう。
 オレはランサー。お前と共に戦う、サーヴァントだ」

 その顔を見て、心臓が激しく揺れた。
 構成する死者が、英霊の闘気に反応して悶え苦しんだからだ。
 あまりの痛みに意識が飛んだ。
 身を刻まれる痛みには耐えられたのに、生きている証の鼓動がこんなにも辛い。
 四肢が経っていられる力を失いランサーの倒れ込む。無骨な戦士の腕が自分を支える。

(ああ……生きている)

 伝わる鼓動に、理由のわからない焦燥と安心が同時に浮かび上がる。
 ランサーもまた、自分に触れてみて何か違和感があったようだ。

「お前は───そうか、オレと同じか」
「同じ?」
「ああ。かつてのオレは死靈を引き連れ、憎しみのままに動いていた。今のおまえのようにな」

 そう言うが、ランサーの瞳は澄んでいる。
 憎しみも、恨みも、そこには見られない。

「でも、今のアンタはそうじゃないのか」
「ああ。よい師と、弟子と……仲間に恵まれてな。
 フ……おまえに適任なのはむしろそいつらだろうに、因果なものだ」

 皮肉げに笑うものの、心底楽しげな顔をしている。
 その師弟に確かな親愛、尊敬の念が含まれている。


816 : LAST_Prolog ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/20(日) 20:30:47 2NRJ5m1k0


「なら、オレは違うな」
「そこまでして憎むのか。そんな体になってまで、復讐したい相手がいるというのか?」
「わからない。ただ、オレにはたぶん憎しみしかないんだ」

 月(あそこ)で散った敗者。
 界聖杯(ここ)で負けた死者。
 理由もわからず、無数の影絵が取り囲む。
 岸浪ハクノを駆動させるモノはそれだけだと急き立ててる。

「罪悪感……いや、違うな。まるでミストのような暗黒闘気の集合だ。
 誰かが生み出したのかそれとも…………。
 ああ、まったく因果だ。
 太陽の真似事などできはしまいが……オレのやり方で示すしかないか」

 バキバキ、と奇妙にも全身に着込んだ鎧が蠢き出し、手に持つ槍に集まって巨大な槍に変わる。
 いいや、戻ったのか。
 鎧に変化する槍、それこそが彼の宝具なのだ。

「オレは戦いしか知らない男だ。
 おまえを勝たせることはできても、その苦悩を取り除けるかはわからない」

 ランサーは律儀に、自分を対等のものと扱って向き合った。

「だがその上で言おう。生きることを決して諦めるな。
 おまえにはその意志も資格もある。だからこそオレはここにいるのだから。
 ……言えるのは、それくらいだ」

 肩を貸しながら歩かせる顔は見えない。気恥ずかしそうなのは単なる錯覚の補正か。

「生きる……」

 告げられた言葉を反芻する。
 自分は、苦しんでるのだろうか。
 死ぬことを怖がっているのだろうか?
 ただ、奪い続けた勝者に八つ当たりがしたいだけなのか。

 意志。
 資格。
 本当に、そんな希望のようなモノがこの中から生まれるのか───

 燃え移って焦げた心では、確かなものは何も思えず。
 ここにまた、一組のマスターとサーヴァントが本戦に参加したという事実だけが夜を駆けた。



 ───後になってハクノは知る。
 ヒュンケルという、自身が呼び出したサーヴァントの真名を。
 闇に堕ちた騎士が光に救われ、双方を併せ持つ闘気の戦士の物語。
 どれだけ死地に会っても必ず生き延びる、ハクノが持ち始めた戦う意志、闘志の使徒。

 ムーンセルの敗者の千年分の怨嗟の記録から生じ、
 界聖杯の予選で脱落したマスターやその候補の無念すら流れ込んだデッドフェイス。
 死霊から淀んで出できた復讐者が召喚したサーヴァントとしては、運命の悪戯が過ぎるとしか言いようがなかった。


817 : LAST_Prolog ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/20(日) 20:33:03 2NRJ5m1k0

【クラス】
ランサー

【真名】
ヒュンケル@DRAGON QUEST -ダイの大冒険-

【ステータス】
筋力A 耐久B++ 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具A

【属性】
秩序・中庸

【クラス別スキル】
対魔力:E
 魔術に対する守り。
 無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
 だが、宝具である鎧を装備してる間はその限りではない。

【保有スキル】
闘気放出:A
 魔力放出とは似て非なるスキル。
 生命エネルギーそのものを武器と化したものであり、肉体や武具に纏わせて攻撃に転じさせる。
 光の闘気と暗黒闘気の双方を合わせ持ったヒュンケルは、その反発作用により爆発的な闘気を保有する。
 その出力は生身でも半端な武器を受けつけず、素手で鋼鉄の鎧を引き裂くほど。

アバン流槍殺法:A
 勇者アバンが独自の発想と修練によって完成させた武器戦闘法。
 刀・槍斧・鎖・牙・弓の六系統、地(力)・海(技)・空(心)の三種別に分けられてる。
 ヒュンケルは槍殺法の他刀殺法をマスターし奥義の使用も可能だが、自らの戒めによってあえて奥義を封印しているためランクはA止まり。

心眼(偽):B
 直感・第六感による危険回避。

闘志の使徒:EX
 勇者アバンから教えを受けたアバンの使徒。ヒュンケルはアバンの一番弟子で闘志の性質を強く備えている。
 人の身でありながら不死身と称され、命の危機を幾度も乗り越えてきた逸話で得た、概念的な不死能力。
 最高ランクの「戦闘続行」「不屈の意志」に類似した効果を持ち、更に追い詰められるほど防御力がアップする。HPの自動回復も兼ねる。
 攻撃をキャンセルしてるわけではなく、ダメージを受けているにも関わらずHPが0にならない。
 武器も持たず、傷だらけで、多数の敵と戦闘になった時のこのサーヴァントを殺害する事は宝具の直撃、概念的な干渉を以てしても困難となる。
 この効果は死の危険が付き纏う戦場においてのみ発揮される。

【宝具】
『鎧の魔槍(アムドランス・ラーハルト)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:2〜4 最大捕捉:1人
 所持者を覆う鎧に変化する槍。元々は敵対していた竜騎士から譲り受けたもの。宝具名はその騎士の名に由来する。
 構成する材質はAランク級の対魔力を備える他、それによらない高熱・冷気に対しても高い耐性を持つ。
 更には自己修復力もあり、要たる槍部分が消滅しない限り何度でも再生が可能。
 ただし鎧に覆われてない部分や傷で穴が空いた部分には適用されない。また金属という性質上、雷撃に対しても無効となる。
 各所に複数の隠し武器を持ち、左手甲の盾兼ブーメラン、右手甲の剣、胸鎧の小刀二本、両膝の刺突用の突起と、攻撃性を追求された鎧。

『討魔戦嵐撃(ブラッディースクライド)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:2〜15 最大捕捉:1人
 得物を高速回転させて敵を討ち貫くヒュンケルの代名詞とでも言うべき技。その威力と範囲は抉り貫くと呼ぶに相応しい。
 元は剣による技だが、刺突という性質上槍でも変わらず使用可能。闘気放出と重ねれば威力は更に向上する。
 宝具である魔槍にて放たれる為、実質Bランク相当の対人宝具にあたる。

『討魔十字閃(グランドクルス)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:50人
 闘気放出スキルの最大展開。剣の柄、交差した武器等、『十字』状の物体を媒介として巨大な闘気エネルギーを放出する。
 本来は武器の使用できない状況での緊急用の技であり、制御の難しさから自爆技となりかねない危険性を孕んでいる。
 その為基本的に出力を最小限抑えるものだが、ヒュンケルは戦いの中で生死の境界を見極め、最大出力で放ちかつ自身も生き残るという神技へと昇華させた。

【weapon】
『アバンのしるし』
 勇者アバンが修行を終えた弟子に卒業証書代わりに贈っているペンダント。
 「輝聖石」と呼ばれる貴重な石をチェーンにかけてあり、対物理・魔術双方のダメージを微量ながら軽減させている。
 また所有者の精神を高めると心の性質に応じた色の光を発する性質がある。


818 : LAST_Prolog ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/20(日) 20:34:16 2NRJ5m1k0


【人物背景】
 かつての勇者アバンの一番弟子であり、人間でありながら魔王軍不死騎団団長に就いていた男。
 捨て子だった自分を拾い育ててくれた骸骨騎士バルトスを勇者との戦いで失ったことで正義への憎悪を抱いていた。
 しかしそれが誤解によるものと知り、妹弟子マアムの慈愛に触れたことで改心、勇者パーティの長兄役として牽引していく。
 本来剣士であったが、敵として見えた陸戦騎ラーハルトの意思と魔槍を受け継ぎ、魔剣が消滅したのと代わりに槍兵にジョブチェンジする。
 その為は素人。持ち前の戦闘センスで補ってるが。それでも剣を使ったほうが強いらしい。

 冷静沈着で高慢な人間だと思われがちだが、非常に繊細な心の持ち主。自分の気持ちに対して不器用なだけ。
 魔王軍として人々を苦しめてきた過去から「自分は人を幸せになどできない」と捉えており、幸福を共有することを放棄している。
 自分の人生の全てを、贖罪の戦いに費やす覚悟。

「美形」「元敵」「闇の力で戦う」「主人公の兄貴分」「パーティ内で一歩抜きんでた実力者」「贖罪を求めている」「敵の大軍の足止めを買って出る」と、
 古今東西の死亡フラグを集めながら物語の最後まで生き残った、随一の死亡フラグクラッシャー。立てすぎてフラグの方が先に潰れた例の一つである。
 溶岩に落ちようが胸を貫かれようが無防備で必殺剣を食らおうがHPが残り1になろうが全身の骨にヒビが入ろうが死なない。そのせいかよく上半身裸になる。むしろ丸腰の方が強くなる。

【サーヴァントとしての願い】
 贖罪の戦いは死後も終わらない。この身を槍にして主に捧げる。
 かつての自分より更に救いようがないハクノを気にし、不器用なりに言葉を伝えていく。不慣れであっても、彼は長兄役が様になる。


【マスター】
死相(デッドフェイス)/岸浪ハクノ@Fate EXTRA Last Encore

【マスターとしての願い】
 憎しみを果たす。

【能力・技能】
 デッドフェイスの特性として、死者であるがゆえの不死性、常人離れした運動能力や数々の異能を行使できる。
 その理由はこれまでに死亡した死者の怨念を取り込み、取り込んだ人物全ての能力が使用できるため。経験や記憶も一部継承されている。
 ただ使いすぎると死者の相に乗っ取られて、完全な動く死人災害になる。また一度に複数の能力の使用もできない。

【人物背景】
 月の聖杯戦争の勝利者であるマスター、岸波白野の生まれ変わり。
 ……などではなく、ムーンセルで過去に敗北したマスターの残留思念……憎しみ、怨嗟、恨みといった悪性情報が集合したもの。
 岸波白野がムーンセル中枢にいる何者かが敗北したことで停滞の道を進んだムーンセル千年の間でただひとつの変化。
 多くの敗者。多くの死者。蓄えられた膨大な敗戦記憶を背負い、"誰でもない誰か"として目覚めたもの。
 憎しみの感情、人に呪いを叩きつける復讐者であるがそれは性質としてであり、ハクノ本人は生まれたばかりのため無感動だがまっさらな、やや善良よりの人格をしている。

 本企画ではそれに加えて、界聖杯の予選段階で敗北したマスター達の記録(魂)をその性質から引き継いでしまっている、と定める。
 そのためこの主従が当選した場合、その時期は予選期間の終盤か最後となる。

【方針】
 戦い、多くの死者の憎しみを晴らす。
 ハクノ自身の願いはまだ明確に決まってない。君の名白紙。


819 : ◆HOMU.DM5Ns :2021/06/20(日) 20:34:39 2NRJ5m1k0
投下を終了します


820 : ◆//OfvGZRT. :2021/06/21(月) 09:29:06 nAdbeMrE0
投下します。
トリップが変わっていますが、
>>745 です。喪失してしまったので変更しました。


821 : 道化と爆破の回帰物語 ◆//OfvGZRT. :2021/06/21(月) 09:30:11 nAdbeMrE0
 毎日が楽しかった。
 毎日学校に行って、ダンスとか学んじゃって、事務所にスカウトされちゃったりして。歌手なのかモデルなのかアイドルなのか、将来の自分が何をしているかはわからないけれど、芸能界で輝いている自分を想像すると楽しかった。
 夢が。できた、気がした。
 学校帰りに食べるスイーツ。汗水垂らして身体を動かして、キレのいい動きと誰しもが見惚れる動きを想像する。練習終わりのお風呂。何もかもが、楽しかった。
 そんな毎日、とある日の夜道。街頭に照らされた道を歩く。夜空の星の輝きと、コツコツと鳴るコンクリートが少し小気味いい。あえて踵を地面に叩きつけると、まるでタップダンサーにでもなった気分だ
 いつものダンスレッスンを終えた、帰り道だった。なのにいつもと違う、頭痛。
 なんだか痛いな、でも病院行くほどでもないな、そんな頭痛。こめかみの辺りを拳でぐりぐりとマッサージすると気持ちが良くて、少し表情が緩む。
 緩んで。緩んで。痛みが少し収まって。緩んで。緩んで。ほほーっ、と気持ち良さに頭を委ねて。
 いつの間にか閉じていた瞼を。ゆっくりと開く。

 ───その瞬間。
 わたしの目の前を、チェーンソーの刃が通り過ぎていった。

「…へ?」

 反応するよりも先に目の前を通り越し、大地を削るチェーンソー。チェーンソーがコンクリートの地面を削り、土煙を巻き上げる。
 固まった私の目の前に現れたのは、黒の男だった。チェーンソーを持ち、幽霊のようにユラユラと揺れている。
 純粋な恐怖。純粋な絶命の危機。ぽすん、とわたしは尻餅をつく。
 死にたかった訳ではない。ただただ、死にたくなかった。けれど、恐怖が身体を縛りつけて動かない。
 怖い。
 いつもの帰り道に現れた、殺人鬼。
 怖い。怖い。
 いつもの帰り道に起きた、頭痛。
 怖い。怖い。怖い。
 あたまがいたくて、われそうで。

 ───それでも、死にたくないと思ったから。
 神様が、願いを叶えてくれた。


822 : 道化と爆破の回帰物語 ◆//OfvGZRT. :2021/06/21(月) 09:31:20 nAdbeMrE0
 ギィン、と甲高い音が鳴る。まるで、鉄に鉄をぶつけたような、とても硬い音。わたしは、この音を知らない。
 チェーンソーを持った男が後退する。『する』というより『させられた』が正しいだろうか。
 私の目の前には、白銀の鎧。軽く二メートルは超えるであろう身長。三叉の槍。時代錯誤のその男は、どうにも笑ってしまうほどおかしいのに。
 これ以上無く。頼もしい、味方に見えた。

「───サーヴァント、ランサー。召喚に応じ参上した。
 貴女をマスターとして認証します。どうか、避難を」

 淡白だった。挨拶も、それだけで。
 サーヴァント。ランサー。何一つわからない単語が並んでいるはずなのに、不思議と理解できる。脳の中に直接情報が流し込まれているのに、適切に区別されていくような奇妙な感覚。情報を理解する度に、一度に多くのことを理解できるようになったためか、頭痛が奔る。

「ランサー、さん…は…?」
「後で追いつきましょう。何、そう時間はかけません」
「えっと、その…ありがとうございます!」

 何故かはわからないけれど。
 無条件で、この人は信頼していいのだと脳が告げている。
 背を向けて走り出す。ぎゃりぎゃりと、チェーンソーと槍を巻き込む騒音が背後で鳴り響く。
 信頼しろ。決して無駄にするなと走り続ける。

 そして。少女が消えた、戦場にて。

「…奇妙な武器。おそらく現代の英雄か。セイバーかバーサーカーかわからんが、名乗りをあげることも知らんか?」

 白銀の鎧の男の問い掛けに、チェーンソーの男はピクリと反応し。
 チェーンソーの男はただユラユラと揺らめいて。
 ユラユラと。揺らめいて。

「焼肉とか、興味あります?」

 饒舌に。
 突飛な言葉を、繰り出した。

「直火焼きになりますけど…良かったら差し入れしますねぇ」

 片目が隠れるほどの、長い髪から覗く。
 赫い、瞳。

「男の手料理になっちゃいますけど、そこは我慢して貰おうかと」


◯ ◯ ◯

 息が切れる。既にどれだけ走っただろう。自転車とか用意しておけばよかった、なんて考える。
 立ち止まった時には、戦場は既に遠く。背後を振り返っても敵は見えず、激しい音も聞こえない。
 限界だと軋む肺を無視して、もう嫌だと震える足を鼓舞して、真夜中でも人通りの多い場所へとひた走る。泣きそうになりながら夢中で走ると、ようやく開けた人通りの大通りが見えた。
 おそらく、飲食店が立ち並ぶ街中なら安心だ。そこでタクシーでも拾って、家に帰ればいい。何なら警察にでも電話して。

(…ああ、でもランサーさんとか聖杯戦争とか、どうやって説明すれば)

 何もかもが頭の中で混乱したまま。知らない言葉のはずなのに『知っている言葉』に混乱しながら、大通りに出た彼女は、運良く停車していたタクシーに駆け込むようにして乗車する。
 突然乗り込んできた彼女に、タクシーの運転手は振り返らない。

「あの、とりあえず、警察署に…いやその、交番でもいいんですけど!」
「……」

 運転手は、振り返らない。

「ええと、怪しい者じゃないですし危険な人でもないんですっ! こっちの鞄に学生証があったはずで…」
「…」

 運転手は。喋らない。
 まるで。『既に死んでいるかのように』。

「あの…?」

 わたしの不運は、ここで立ち止まってしまったことだと思う。
 人生は選択の連続だ、なんて言葉があるけれど。全くのその通りで、わたしは常に選んで動き続けるべきだった。
 チェーンソーの男に襲われて。サーヴァントを召喚して。走って逃げて。人通りの多い街に逃げて。運良く停車していたタクシーに乗り込んで。
 ただ流されるがままに、行動したことが悪かったのだろうか。

『あー、あー。聞こえる? マイクテスト中なんだけど』

 今まで黙り込んでいた車のスピーカーから、音声が流れ出す。女性の声。
 ラジオかな、なんて。
 場違いなことを思っていたのが、わたしの最期の思考になった。

『まあいいわ。聞こえてなくても関係ないし。とりあえず───大当たり、おめでと』
「…へ?」

 
 車も多く通る大通り。飲食店が立ち並ぶ、夜も賑わうこの場にて。
 停車していたタクシーが───ぼんっ、と。
 これまた派手に、花火のように。綺麗な綺麗な、花を咲かせた。


◯ ◯ ◯


823 : 道化と爆破の回帰物語 ◆//OfvGZRT. :2021/06/21(月) 09:32:25 nAdbeMrE0

 槍とチェーンソーが交差する。
 火花が闇夜を照らし、蛍のように舞い踊る。激しい薙ぎ払いが計二回。当たらず。チェーンソーの男は巧みに身体を逸らし、直前で躱す。
 返す刃のチェーンソーが空を斬る。避けられぬと悟った白銀の男は、槍で受け止める。神秘の籠った槍、こう簡単には折れることはない、と。
 それからは、一方的だった。一撃は重くない。ならば、一撃から連撃に切り替える。薙ぎ払いではなく刺突。速度で腱を切り、機動力と力を削ぐ。
 白銀の男が、一閃。光と変わる。都合五度。連続して放たれたソレは、一撃目でチェーンソーを弾き。右足、左足、左手首、腹を正確に貫く。
 チェーンソーの男は噴水のように血を吐き、膝から崩れ落ちる。不恰好な噴水だった。
 白銀の男は勝利に酔いしれることもなく。ゆっくりと槍の穂先をチェーンソーの男の首に当て。

「名前も名乗らぬサーヴァントよ。その首、貰っていく」

 槍を振り上げたところで。
 白銀の男が、膝をついた。

「…?」

 理解の外だった。白銀の男は傷一つ無く。敵は目の前で不恰好に倒れているというのに、何故自分が膝を地に突いているのか。
 身体が重い。何故か、など問うまでもなく。

「…マスター…?」
「気ィ…づきましたァ?」

 白銀の男が目を見開く。槍で四度貫いたはずの男が、ゆらりと立ち上がるではないか。少なくとも、加減をしたつもりはない。的確に動きを止め、武器を使おうにも腹と足・手首の損傷で力が入らぬように深く貫いた。
 サーヴァントとはいえ、専用の治療スキルがない限り即座に傷が治ることはない。だというのに、貼り付けたような笑顔を浮かべ、チェーンソーの男は立ち上がる。

「ほらはら見て見て南のお空。煙、上がってません?」
「…?」
「アレね、バーベキュー会場なんですけど。多分あなたのマスターも参加してると思うんですよねー。
 肉役で」

 全身の血管が、ブチりと切れる感覚がした。怒髪天を突く、とはこのことか。
 全身から抜けていく力を右腕一点に集めて。全ての魔力を一点集中させ。
 白銀の男は、察していた。魔力を繋ぐパスを通じて理解できた。出会って間もないマスターは、殺されてしまったのだと。この外道に、死者を愚弄する軽薄な男とそのマスターに。
 最早、この身に価値はなく。ならば。
 この男だけでも、共に消えてやろうと。
 
「貴様ァ!」

 全身の魔力と気力を込めた刺突。これまでの一撃とは比べ物にならないほどの速度。威力。余波は周囲の建物を揺らし、巻き起こる風は大地を削る。
 その一撃は、比類無き確殺。発動すれば、対処を霊核ごと抉り取るほどの力を秘めている。
 これが宝具。英雄を英雄たらしめる、己を象徴する半身。願いとその生涯をかけて作り上げた究極の刺突を。

「あー、ごめんなさい。そういうのもういいんで」

 チェーンソーの男は。
 ひょいと身体を逸らすだけで、躱してしまった。

「こう見えて僕ねぇ…意外と、強いんですよ」

 白銀の男が、最後に見たのは。
 振り上げたチェーンソーが、己に落とされる瞬間と。
 右目の下に黒子をつけた、男の笑みだった。


◯ ◯ ◯


824 : 道化と爆破の回帰物語 ◆//OfvGZRT. :2021/06/21(月) 09:33:14 nAdbeMrE0

「レディース・アーンドゥ・ジェントルメェーン…」

 動きを止めたチェーンソーを地面に刺し。男は、足をクロスさせ、頭の上でパンパン、と二回ほど拍手しながら。

「WINNER───ン僕! なーのですっ!」

 何処までも人を侮辱したその行動。軍服のような堅苦しい黒いスーツに銀の肩当て。片目が隠れるほどの長い髪に、優しい印象を与える右目の下の黒子。
 見た目と行動が合致していない男。パンパン、と手を叩きながら踊る姿は、道化のようで。

「ご機嫌ね、ライダー。勝ったのがそんなに嬉しい?」
「いや特に。ちょこぉーっと弱め〜にしてザクザク刺されてあげたら『この一撃で共に消えてやる…!』みたいな顔してたんで。避けられたらどんな顔するかなーみたいな?」
「…あの柄でもない無言ユラユラは何だったの? 傑作だったけど」
「『ジェイソン』って知ってます? ああ、『いけにえ』の方じゃなくてみんな知ってそうなホッケーマスクの方」
「知らないけど」
「ンじゃあ話しても無駄ですねェ〜時間の無駄無駄。やめときましょ。あ、マスター。『ジェイソン』って最初チェーンソー使ってなかったって本当なんです?」
「知らないっつってんでしょ」

 ライダーと呼ばれた、チェーンソー…黒髪の男は、興味なさげに残った槍を蹴飛ばす。魔力が切れたのか、それも光の粒子となって消えていく。

「マスター…えっとぉ、『W』さんで合ってましたっけ? あのいたいけな少女は焼肉状態で?」
「だといいわね。今頃もう炭でしょうけど」
「あらグロ可哀想。男ライダー、一人暮らし自炊の腕の見せ所だったんですけど…」

 白髪に赤の混じった髪。赤と黒を基調とした服。革製だろうか、ワイルドな雰囲気を見せる上着に奇妙にマッチしたスカートが翻る。
 『W』。そう呼ばれた彼女は、何事にも興味が無いとでも言うように、ライダーを無視し、会話を続ける。

「で、一組片付けたわけだけど。あと何組いるの?」
「それはちょっと…僕じゃわかりませんねえ。殺す前にランサーさん(故)にでも聞いておけばよかった」
「へえ。ま、いいけど。いつか終わるんなら」

 背を向けて去っていくWの背後を、気ままなライダーが追いかける。特に珍しい会話は無く。戦果を得たからと言って、喜ぶこともない。
 ただ挑発し、ただ嘲笑し、やりたい事をやりたいだけ。
 ほら、目の前にもたくさん玩具があることですし。
 飽きたらポイで捨てましょう。それまで、楽しまないと嘘でしょう?


◯ ◯ ◯

 女は思う。
 やり直せるのなら。
 『あの人』を失う前にまで、戻れるのだろうか。

 男は思う。
 やり直せるのなら。
 『普通』に生まれて、普通に生きる事だってできるのだろうか。

 やり直せるのなら。やり直せるのなら。やり直せるのなら。
 ───やり直せますとも。
 目の前にぶら下げられますは聖杯。勝ち取るはただ一組。戦争、殺し、謀略に悲劇となんでもござれ。
 最後に勝ち取ったものが勝利なのです。最後に得たものが勝利なのです。
 ならば、最後の一組になるまで、楽しみ抜くのはいかがでしょう?
 女は受け継いだ武器を手にコードネームを名乗る。
 男は悲劇を纏いながら、今日も道化として嗤い踊り弄び。
 悲劇と欺瞞、煤と肉、炎と竜に塗れた血濡れのレッドカーペットが二人の道の先へと続く。
 女は多くを語らない。武器と爆炎で隠した心には何があるのか。
 男は自分を語らない。短く死んだこの身は道化として、仮面を被り続けている。

 仮面を被り、己を隠す二人組。
 いつか信頼が二人を繋ぎ、影響し合う未来は訪れるのでしょうか。互いの心を知る日は訪れるのでしょうか。
 互いのことすら話し合わず、相手のことすらよく知らぬ主従は、今日も今日とて悲劇を振り撒く。

 それでは今回の幕はここまでといたしましょう。
 『道化と爆破の回帰物語』。
 もしご縁がありましたら、次の機会に。

 ああ、言い忘れておりました。
 ───上映中はくれぐれも、お静かに。

 "……以上、データ『聖杯戦争記録・爆破回帰』より抜粋。データの出所不明。"


825 : 道化と爆破の回帰物語 ◆//OfvGZRT. :2021/06/21(月) 09:34:21 nAdbeMrE0
【マスター】
W@アークナイツ

【マスターとしての願い】
一人だけ生き残れば願い叶えてくれるんですって?
あは、笑っちゃう。そんなものがあれば誰も苦労しないでしょって。
…まあ、でも。本当に、あるのなら。
もう一度、戻れないだろうか。『テレジア』の頃に。

【能力・技能】
傭兵であり、現在『ロドス・アイランド』に所属。肩にはアサルトライフルを掛け、基本的に使うのは改造を施した爆破物ランチャー、地雷に手榴弾、爆発物を扱うスペシャリスト。
地雷の設置も目を見張るものがあり、戦闘中でも気がづいたら仕掛けられていたなどザラである。
また傭兵であるため爆発物だけでなくナイフやサバイバル技術にも長けている模様。

【人物背景】
製薬会社「ロドス・アイランド」における傭兵。かつては敵対し殺し殺されの関係故か、ロドス内に止まっていることは珍しい。
Wとは、称号である。その名は、武器と共に引き継がれ、継承されていくものである。
少女は、Wとなった。傭兵となった。
鉱石病。サルカズ人であるWにとって、痛みとは日常であり差別とは挨拶のようなものだった。特段、今更受けたからと言って過剰に反応することもない。慣れている。
それでも。そんなWを、傭兵を、受け入れてくれる人がいた。受けて入れてくれる『彼女』がいた。『彼女』が乗った、ロドス・アイランドという船。希望の船。Wは、所属していた傭兵団が希望の船との契約が切れようとも、単身『彼女』のために戦った。
その理想のために生きた。
その『彼女』が、暗殺されるまでは。
Wは殺した。暗殺に関わった人物を、部隊を、全て。殺して破裂させばら撒いた。
その後は、簡単な話。世界を眺め、ただ望まれたように戦った。
…再び出会った希望の船───ロドス・アイランドの敵として。
『彼女』のいない船など、価値はあるのか。記憶を失った『ドクター』に価値はあるのか。
そんなことを考えつつ。『彼女』に、その在り方に近づこうとしているうさぎの少女だけは、評価しても、良いけど。
「傭兵なんて、使いやすい戦争道具。この世界にある───インスタントラーメンっていうの? あれと一緒よ。簡単に買えて、事が終わればさようなら。結局は私と世界の関係なんて、そんなものよ」

界聖杯において、役割は変わらず傭兵。裏社会に生きる者、大きな会社とも手を組んだことがある模様。この世界においては、爆発物の素材が手に入りやすく喜んでいる様子。
性格が悪く、挑発的で悪魔的。殺すことも厭わない、むしろ楽しんでいる節すらある。
…元の世界では医療担当であるケルシー、ドクターと呼ばれる指揮を取る男、そしてロドス公表リーダーのアーミヤ以外には興味を示さない。
ロドスに訪れる場合は大抵面倒事を起こす彼女だが、アーミヤの命令や仕事はきちんとこなすという。ただぼーっと、虚空を見るようにアーミヤを眺めている時もある。
ただ、無言で。無表情で。何かを期待しているのか、いないのか。
ドクターとケルシーには過去───Wにとっては忘れられない時間において、重要人物をとされている。
記憶喪失であるドクターがもし記憶を取り戻した時。Wは、ドクターに対しなんと発言するのか。どのような行動を取るのか。それはまた、まだ未来のことである。
参戦時期はロドス加入後。

【方針】
向かってくる奴がいるなら殺すわ。
殺しやすい奴も殺しときましょうか?
まあ、面倒だしどっちでもいいわ。


826 : 道化と爆破の回帰物語 ◆//OfvGZRT. :2021/06/21(月) 09:36:29 nAdbeMrE0
【クラス】ライダー
【真名】旧多二福@東京喰種:re
【属性】混沌・悪
【パラメーター】
筋力:B 耐久:A 敏捷:A 魔力:E 幸運:E 宝具:C
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:E-(C)
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
乗り物程度なら乗り回し、本来なら獣の類も乗り回せるが、本人の意向によりランクが低下している。
道化は手綱を握らない。放った暴れ回る獣を見て、笑うだけ。

【保有スキル】
道化の精神:A +
道化は既に全てを捨てており、己の人生を錯乱のためだけに消費する。戦況を混乱・混沌に堕とす、人身掌握に特化したスキル。
カリスマスキルと精神汚染スキルとの複合ともなっており、彼の真意を引き出すには、彼と同程度の『立場』に立つ必要がある。

仮面:B
ライダーの人生から生じたスキル。自らの本性を偽る、真名秘匿の効果がある。仮面を被り正体を隠す。人の姿をした化け物は、いくつもの『顔』を使いこなし。
気づいた頃には、彼の掌の上。

半人間:C
喰種と人間の間に生まれた、人間でも喰種でもなくなってしまった失敗作。ステータス上昇の効果を持つ。
人間を目指した和修の一族の中で生まれた彼は、人間より遥かに高い身体能力を持つ。その代償に短い寿命、五感の不調が現れる。
本来ならAランク相当なのだが、『赫包』を移植した彼は本来の半人間から遠ざかっている。

和修の王:A
道化の精神・後述の常時発動宝具と組み合わさることで真価を発揮するスキル。
一種のカリスマスキルであり、人々を扇動する。
世の流れを裏から作る和修。その王は、創り上げた世の流れに乗るのだ。

【宝具】
『踊り踊れ、我ら全て盤上の駒(リ・ピエロサーカス)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-

常時発動型の宝具。いくつもの仮面を操り、時には悲劇、時には信頼で人の心と世界を操る宝具。
人の心・感情───願いや恐怖、心の根底にあるそういったものに敏感であり、彼はそれらを利用し人を追い詰め利用し手駒と化す。
己すら盤上の駒としてしか感じておらず、実力者でも彼の人身掌握に逆らえるものは少ない。
世界の流れを作り、乗り回す。嘘と悲劇と快楽で塗り固められた騎乗兵。

『産まれ堕ちよ、可愛い愛しい竜(ドラゴン・マイ・ラブ)』
ランク:C 種別:対国宝具 レンジ:- 最大補足:-
突如現れる、液体のようにうねり鉄より硬い肉の塔。赫子と呼ばれる捕食器官でできたソレは、かつて『竜』と呼ばれたもの。
『神代利世』と呼ばれる核を中心に形成されたそれは、一瞬で巨体を形成し、鎮座する。発動すれば自動で人を喰うことにより魔力補給を始めるため、維持のための魔力供給は必要としない。
その存在・歴史から幻想種に匹敵すると推測されるが、本物の『竜種』ではないため神秘としては劣る。
体内・体外に人を捕食するための巨大な顎が存在し、『落とし児』と呼ばれる大量の人型の化け物を産む。
体内には特性の『毒』が存在しており、吸い込むと体内の『RC細胞』が過剰に分泌され───人を喰う存在、『喰種』と化す。
『落とし児』も同種の毒を保持しており、破裂することで撒き散らし接触感染させることも可能。
この宝具を発動中は、宝具『踊り踊れ、我ら全て盤上の駒(リ・ピエロサーカス)』 は発動不可となる。
また、大量の魔力が必要となり使用するには令呪による瞬間的な魔力補給か───他のサーヴァントを一人、生贄に捧げる必要がある。


827 : 道化と爆破の回帰物語 ◆//OfvGZRT. :2021/06/21(月) 09:37:51 nAdbeMrE0
『狂い狂え、遠く過ぎ去りし我が過去(リゼ・グール)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
喰種における、『赫子』と呼ばれる捕食器官。『神代利世』の赫包を移植した半人間。ライダーの基本武装。
鱗赫と呼ばれるタイプのソレは、腰部分から触手のように現れ液状のようにうねり鉄よりも遥かに硬い。
一撃の破壊力、そして再生力に長けたタイプであり、また応用し形を変えることで分離させ刀等の武器を作ることも可能。
また、人肉を食すことで魔力に変換・再生力と基礎性能を上げることも可能。

最大開放することで『赫者』という形態に移行。
狂化スキルを自身に付与し、基礎ステータスの筋力・耐久・俊敏を一段階上昇させる。
しかし反面、デメリットとして暴走───バーサーカーと化す危険性も多く孕んでいる。

【weapon】
・クインケ『ロッテンフォロウ(鱗赫/レートS)』
チェーンソー型の武器。普段はアタッシュケースに仕舞われており、ライダーの意思で呼び出し・戻し可能。
・赫子

【人物背景】
いつか人間へと至るため。世界の裏側に潜みながら国を操っていた一部の喰種組織が抱いた、そんな理想から産まれた失敗作の一人。
喰種でもなく人間でもない、半人間として産まれた彼は人間や喰種を遥かに超えた肉体を手に入れた代わりに、遥かに短い寿命と和修一族のために命を使うという義務を与えられた。
聡明な子であった彼は、寿命の短さ・短い己の命を自由に使うことさえ許されない現実を理解し、『やりたいことをやらなければ』と笑ったという。
彼は、そこで狂った。人間の三倍生きられない短命ならば、三倍愛されるか憎まれるかしてくれと。
やりたいことを、やりたいようにやってしまえと。
そうして彼は人の世を渡り歩く『好青年』を演じ、ある時は『ピエロ』を演じ、ある時は『権力者』を演じた。
人を騙し殺し、一族すら皆殺し。一大組織を得た彼は、世界の流れを作り、波風に揺れる船のように気まぐれに笑う。手に入れたのなら手放すのも一興、と。

終幕が近づいた世界、彼は自分が人生を捻じ曲げた青年と勝負し、敗北。悲しいピエロは、劇が終われば退場する運命なのです。
最後の最後に、やっとピエロの仮面を外し。彼は、言った。『普通に生きたかった、なんて言ったら嗤いますよね』。
人間どころか、一人の命として普通に生きることすら許されなかったピエロは、この時やっと『悲劇』から開放された。
誰しもが『悲劇』の中で生きる中。この世から消え去ることが、悲劇を終わらせる唯一の手段だと。

『———わたし、おばあちゃんになんて、なりたくないよ。ニムラ。』
『———そう?たのしいよ、きっと 』

「…うん。きっと、そうさ」

一族と寿命に縛られた自分には届かない、遠い昔に思いを馳せながら。

【サーヴァントとしての願い】
やりたいことをやりましょ。
どーせ引っ掻き回す程度が関の山、恨まれて憎まれて、笑うだけ笑いましょ。
今日も楽しい一日、始まります。
しかし、もし聖杯が手に入ったとしたら。
───今度は人間に産まれたい、なんて。分不相応ですよねえ。

【備考】
心に仮面を被る二人、互いのことは「戦闘方法」「マスターとサーヴァント」程度のことしか知りません。信頼度0というか興味0からのスタート。


828 : 道化と爆破の回帰物語 ◆//OfvGZRT. :2021/06/21(月) 09:38:13 nAdbeMrE0
投下終了です。


829 : 名無しさん :2021/06/21(月) 09:39:01 nAdbeMrE0
投下終了です


830 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/21(月) 17:24:54 EIBZEuLA0
投下します。


831 : The Gong of Knockout ◆Pw26BhHaeg :2021/06/21(月) 17:26:56 EIBZEuLA0
 0110101011011……。

無数の光の粒子が、光速で飛び交い、衝突し、影響し合い、生成と消滅を繰り返している。
それらはいくつか大きな渦を巻き、遥か彼方へ流れている。
夢か、幻か。それとも、あの世というやつか。
俺は酒に酔って……寝ているはずだ。これは、夢に過ぎまい。

『ああ、夢だと思えばいい。実際、夢だ』

 そうか。いや、誰だ。目の前にぼんやりと、大柄な影が現れる。

『どうも、初めまして。おいらは聖杯戦争のサーヴァントだ。
ライダー(騎兵)ってことになってる。そういや、そうかな』

 聖杯、戦争。ああ、なんだか、そんな与太話を聞いたな。夢物語に。

 人影は、次第に鮮明になる。力士のように大きくて、横幅がある。
だが、相撲取りじゃない。柔道家とも違う。この雰囲気は……空手家か。

『そう。あんたもそうだな。おいらはあんたの、遠い後輩にあたるのかな。お会いできて光栄だぜ』

 ライダー、呑破と名乗ったそいつは、仏教の僧衣と袈裟をまとっていやがる。
坊主か。後光を放っているってことは、仏様か、お地蔵様か。

『昔、ちょいと空手を嗜んだが、ゆえあって坊主になった。
即身物には成ったが、まだブッダには成ってねえ。菩薩道を歩む者よ。さて、起きな』

 俺は目を覚まし、立ち上がり、そいつに挨拶する。礼儀は大事だ。

「どうも、愚地独歩です……」

 そいつは大きな手のひらを合わせて、挨拶を返した。

『どうも。おいらの真名(なまえ)は、呑破(ドンファー)だ。
これもカラテネームってやつで、本名は捨てちまったが。まあ、そう呼んでくれや』


832 : The Gong of Knockout ◆Pw26BhHaeg :2021/06/21(月) 17:29:22 EIBZEuLA0


 呑破は、見るからに生身の人間ではない。
肉体は金属で、鼻の上にはカブトムシのような角がある。だが、表情は人間だ。
金属製の体はよく使い込まれ、細かな傷があり、相当な鍛錬を積んだことが見て取れる。
身のこなしといい、なかなかの空手使いだとわかる。あるいは、自分よりも。

『おいらの体(ボディ)は、サイバネよ。サイボーグってやつだな。
脳ミソは生身だったかチップだったか……まあ、同じ物質だ。大した違いはねえ』

「仏像が動き出したみてェだな。
随分遠くからお越しのようだが、そちらにも空手や仏教はあるのかい?」

『良くも悪くも、大いに繁栄してらあ。ま、それはいい。
おいらは因縁あってここに赴いただけだが、まずは、あんたの願いを聞いときてえ』

「願い、ねェ。俺にゃ女房も息子もいるし、社会的には功成り名を遂げて、
結構有名人にもなってるが……へへ。強いていやァ、強敵が欲しいな」

『ほう』

「俺の知る中でも、強い奴らはわんさといるさ。けどよ、殺し合いの喧嘩は立場上出来ねェんだ。
日本は平和な法治国家だし、女房や子供、弟子たちに迷惑がかからァ。
鍛え上げたこの空手を、思う存分、人間をブッ壊すのに使ってみてェ。
そういう欲は、止められねェんだ。坊さんに言うのも何だが」

 呑破は頷いた。

『そうか。わからなくもねェな。おいらも若い頃はそうだった。バカもやったし、無茶もやった』

「若い頃は、か。俺はそろそろ還暦だぜ」

『おいらは年齢も忘れちまったな。
あんまり褒められた願いじゃねェが、幸いここは聖杯戦争、殺し合いの場だ。
どうやら願いは叶いそうじゃねェか。つっても、生身で英霊と殴り合いは出来ねェか』

「なーんだ、俺が戦ってみてェのによ……」

 ため息をつくと、呑破が胸の前で拳と手のひらをあわせた。

『おいらが現世で空手を振るうと、差し障りがあるな。そんじゃァ、こうしよう。
おいらがあんたに取り憑いて、英霊とも戦えるようにしてやらァ。
ただ、おいらは坊主だからよ。戦うのは悪ィ奴らだけにしてくれねェかな』

「へへ、いい年こいて、俺が正義のヒーローか。いいぜ、頼まあ」



 ……そこで、目が覚めた。いつもの布団の上、いつもの時間だ。
バカバカしい夢だった。顔を洗って着替えて、朝飯食って、日課をやらねば。
洗面所の鏡を見ると、自分の顔に重なって、カブトムシの角が生えたあいつの顔。

『よう、おはよう。今日からあんたは正義のカラテマンだ。よろしくな』


833 : The Gong of Knockout ◆Pw26BhHaeg :2021/06/21(月) 17:32:19 EIBZEuLA0
【クラス】
ライダー

【真名】
呑破(ドンファー)@銃夢LastOrder

【パラメーター】
筋力A 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具EX

【属性】
中立・善

【クラス別スキル】
対魔力:B
 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
電磁力を用いて短時間の結界空間を張る。

騎乗:EX
 乗り物を乗りこなす能力。
「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
量子的存在確率が不安定であり、接触した存在の体に「乗り移る(憑依する)」事が可能。

【保有スキル】
超電磁空手:EX
 超電磁空手の創始者。サイボーグの肉体と電磁力を自在に操り、
宇宙海賊を相手に一撃虐殺を成し遂げるほどの神話的な空手の技を振るった。

地蔵力:A
 世の理の解答、菩提(智慧)に至らんとする菩薩が纏う守護の力。
対粛清防御と呼ばれる“世界を守る証”。
物理攻撃、概念攻撃、次元間攻撃等をある程度削減し、精神干渉を無効化する。
神ではないため「神性」を持たない。一種の六神通を持ち、ある程度は未来を予測することも可能である。

物顔三撫:A
 敵対サーヴァントが精神汚染スキルを保有していない場合、
相手の戦意をある程度抑制し、話し合いに持ち込むことができる。
聖杯戦争においては、一時的な同盟を組む際に有利な判定を得る。
平和主義で争いを好まないが、いざとなれば容赦はしない。南無阿弥陀物。

【宝具】
『色即是空変転機(D-リッパー)』
ランク:EX 種別:対時空宝具 レンジ:? 最大捕捉:?
 彼の体内に仕込まれた謎の装置。天才科学者Dr.メスフィールドによって、
万物理論のひとつ「D理論(物理的時空と現象的意識を統一的に記述する)」の証明のために作られたが、
周囲の人間の意識に感応して効果を変え、人間をトランス状態にし、時空構造をも破壊する危険性がある。
これを組み込まれたために、彼は異なる次元を不安定に行き来する難儀な体質になってしまった。
一瞬だけ非実体化して攻撃を無効化することも可能。

『色即是空戮虎拳(タイガー・スレイヤー)』
ランク:EX 種別:対時空宝具 レンジ:? 最大捕捉:?
 彼が生涯をかけて極めた極限の空手。
敵の攻撃や敵自身を遠く離れた場所(80万6000kmほど)へとワープさせる右掌「是空掌」と、
ブラックホールを生み出し全てを破壊する左拳「是色拳」を振るう。
発動には莫大な量の魔力ないし電力を必要とし、全力で放てば力を使い果たして消滅する。

【Weapon】
 己が鍛え上げた超電磁空手。この次元では相応に弱体化させられている。

【人物背景】
 漫画『銃夢LastOrder』に登場する人物。
力士めいた体型の大柄なサイボーグで、鼻にはカブトムシの角めいた突起がある。口調は伝法でおおらかな性格。
火星においてカラテマスターよりカラテネームと古式唐手「那覇手」を授かり、「戮虎の拳を編み出せ」との遺言を受けたが、
当時は虎が絶滅していたため自分なりに考えて答えを出すことにした。
やがて「超電磁空手」を創始して育て上げ、「星拳」の異名をとった。
相弟子の絶火(ゼッカ)とは実力伯仲、互角のライバルであり、その衝突により大爆発を起こしている。

 のち長の座を後継者に委ねて引退、仏門(宇宙仏教唯物宗)に入門。
小惑星帯で素手で隕鉄を加工し仏像を作る荒行を重ね、即身物「呂菩地蔵尊」と化した。
抜け殻は絶火に破壊されたが死亡したわけではなく、体に搭載されたD-リッパー装置のために別の次元を行き来できる特異体質となり、
ワープや実体化・非実体化を自在にできるようになっていたのである。
彼はそのまま絶火の体に取り憑き、孫弟子の刀耳(トージ)の体に移ったのち、因縁によって突如物理的な姿を現すことになる。

 空手道を自分なりに極めた末に「大慈悲心により争わぬ空手、空(くう)に至る手」と考え、
広い視野によって「屠るべきは戦争や人を抑圧する社会システム、人間存在そのものの中にある苦しみや悪しき因果である」
との見解を得た(彼なりの理解であり、他者に押し付ける気はない)。
また想像力の制御を修業しており、他者の意識の中に入り込んで悪い想念から生じた悪霊を連れ去ることすら可能である。

【サーヴァントとしての願い】
 特になし。聖杯を手に入れても、破壊した方が良ければ破壊する。

【方針】
 マスターを導き、この次元でなすべきことをなす。

【把握手段】
 原作漫画。11巻で登場。彼が実際に登場して空手を振るうのは、物語の終盤、17巻だけである。


834 : The Gong of Knockout ◆Pw26BhHaeg :2021/06/21(月) 17:34:17 EIBZEuLA0
【マスター】
愚地独歩@刃牙シリーズ

【Weapon・能力・技能】
 鍛え上げた己の空手。
素手とはいえど繰り出される攻撃の威力は刃物に等しく、命中した肉体を破壊する。
不意打ちや騙し討ち、弱点を突くこと、挑発しての心理戦もお手の物。
勝つためなら手段は選ばないが、空手家としての誇りから自らの肉体以外の武器は用いず、
万一用いる時もカバンや扇子、衣服など偶然身につけていたものに限る。

ライダーが憑依しているため、その空手は英霊にもダメージを与え得るし、戦闘力も相応に強化されている。
ただし疑似サーヴァントほどには融合しておらず、ライダー単独で出て来ようと思えば出て来れるし、
マスターに助言を与えたりも可能。

【人物背景】
 漫画『グラップラー刃牙』シリーズに登場する人物。CVは麦人/飯塚昭三/菅生孝之/中嶋比呂嗣。
スキンヘッドで傷顔、右目を失い眼帯をつけた、厳つい強面の壮年。身長178cm、体重110kg。
性格は江戸っ子気質で豪放磊落、お茶目でひょうきんな愛妻家。
世界最大の勢力を誇るフルコンタクト空手団体「神心会」総帥。
武神、人食いオロチ、虎殺しなど数々の異名を持ち、生きた伝説と称されるが、鍛錬は怠っておらず未だ現役。
幼少より生涯かけて愚直に鍛え続け、百戦錬磨の経験は他の追随を容易に許さない。

【ロール】
 都内に小さな道場を持つ空手家。妻子はいない。

【マスターとしての願い】
 強いやつと闘いたい。聖杯は単なるトロフィーとみなす。当然生きて帰って妻子と再会するつもり。

【方針】
 強くて悪いやつに喧嘩をふっかけ、ぶん殴る。

【把握手段】
 原作漫画。

【参戦時期】
 第三部・範馬刃牙あたり。
神心会総帥の座は息子・克己に譲ったが、抑えきれない殺傷本能を発散するため、
街を徘徊してわざとトラブルを起こし、喧嘩を買っている。年齢は地下闘技場編時点で55歳なため還暦近い。


835 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/21(月) 17:36:42 EIBZEuLA0
投下終了です。


836 : アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜 ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/21(月) 19:06:30 4y05g.Ak0
投下します。

こちらは『Maxwell's equations』の候補作からの流用です。
一部、舞台設定に合わせるために改稿しています。


837 : アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜 ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/21(月) 19:07:52 4y05g.Ak0
ある所にとても仲のいい兄弟がいました

「俺の名はオインゴ」

「ぼく……ボインゴ」

オインゴとボインゴの仲良し兄弟は憎き敵の承太郎を倒そうとしましたが

承太郎に変身した兄のオインゴは、変身を解かなかったので予言通り爆弾で頭が吹っ飛んでしまいました! ドッカーン!

オインゴ兄は自分達の負けだといいますが、ボインゴ弟は傷だらけの兄を見て、立ち上がります

ぼくひとりでやつらを殺す! お兄ちゃんのカタキ討ちだァーッ

やっとひとりでやると自立しそうになったけれど

ボインゴは気付いたら見知らぬ町に飛ばされていました さっきまで目の前で倒れていたオインゴもいません

そのかわりに変な服を着た三人組が変な歌を歌ってボインゴの仲間になりました

スッタモンダ コッタモンダ ヤッタモンダ
ヤッタモンダ コッタモンダ スッタモンダ

スキルは最優よ ヘイヘヘーイ
宝具もスッゴイよ ヘイヘヘーイ

欲しいよ欲しいよ聖杯
絶対もらうと決めちゃった

ドロンジョ トンズラー ボヤッキー

やられてもやられてもなんともないない
おれたちゃ英霊だ ヘイヘヘーイ ドンドンドロンボー

スッタモンダ コッタモンダ ヤッタモンダ


◆ ◆ ◆


838 : アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜 ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/21(月) 19:08:28 4y05g.Ak0
聖杯戦争の舞台となる界聖杯内の世界の某所にある廃ビル。
それら全体を丸々勝手に貸し切り、その中の一室で数人の男女が集まっていた。
部屋の真ん中で二人の男が木でできたボロボロのテーブルの上で笑みを浮かべながら大量の札束を手で数えている。
そこから少し離れた場所で、一人の女性が近くでデッキチェアに寝転んでくつろいでいた。

「いやぁ〜今日も儲かりましたね、ドロンジョ様」

細身で、鼻が異様に大きい男がドロンジョという名の女性に声をかける。
向かい側で同様に札束を数えている、上半身が異常に発達した大男もそうだが、頭に角が生えたような顔の上半分を隠す仮面のある衣装に身を包んでいる。
ドロンジョはというと、彼女も大きな仮面を身に着けている他、マントの下では肌の露出が多いきわどい恰好をしている。

「やめられないねぇこの商売」
「ホンマでんなぁ〜」

説明しよう!
この三人組こそが、あらゆるインチキ商売をたくらむドロンボー一味!
ズルして儲けようという悪い三人組である。
今、三人の手元にある札束も、この日に行ったインチキ商売で稼いだものである!

細身の男・ボヤッキーに大男・トンズラー、そしてドロンジョはくつくつと笑いながら目の前で輝く札束を見て、歓喜に浸る。

「これでまた材料を揃えてメカを作れますね、ドロンジョ様」
「ドロンボー、聖杯戦争で再結成でマンネン!」
「そうとなったら、数時間で作るんだよ!何せあたし達はサーヴァントだからねぇ〜」
「三騎士なんてなんぼのもんですわ!」
「道具作成持ってるアタシの手にかかればどんなメカでもちょちょいと作っちゃうわ!壊されても生前みたく一週間かける必要もないし」

説明しよう!
ドロンボー一味は全員、聖杯戦争に参加するサーヴァントである!
本来はライダークラスで現界したドロンジョ一人だけだったが、宝具『悪乃華』によりボヤッキーとトンズラーも一緒に召喚されたのである。
つまりドロンボー一味は、三人一組のサーヴァントなのだ!

そんな彼らにはもちろん、マスターの存在が欠かせない。

「それにしても――」

ドロンジョはデッキチェアから立ち上がり、部屋の隅へ向かう。
そこには、うずくまってガタガタと震える小さな子供がいた。
片手には身長の半分ほどある本を携えており、ドロンジョが近づいてくるのを認めると体の震えを一層強くした。


839 : アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜 ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/21(月) 19:09:24 4y05g.Ak0
「ボインゴくん、リューセキだね流れ石だね、さ・す・が・だ・ねェ〜♡」
「あらドロンジョ様、ボンちゃまのようにボインちゃまとかボインとか呼ばないんですね」
「そんなスケベな名前で子供を呼べるかいこのスカポンターン!」

ボインゴと呼ばれた子供はビクッと震えあがると、持っていた漫画――ボインゴのスタンド『トト神』で自分頭を覆い隠してしまった。
ドロンジョは『トト神』越しにボインゴを撫でながらボヤッキーを叱咤する。

説明しようッ!
こうしてボインゴがドロンボー一味からおだてられているのには理由がある。
それはボインゴのスタンド『トト神』ッ!書物の神「トト」のカードの暗示を持つスタンド!
能力は「近い未来の予知」。ごく最近の未来が独特なタッチのマンガ形式で書物に浮かび上がるのだ!
ドロンボーはこの予知に従ってインチキ商売を行った結果、平常時の数倍以上の額をだまし取ることができたのだ!

「ぼ…ぼ…ぼくの……ト…『トト神』のマンガの予知は…ぜっぜっぜっぜっぜっぜっ絶!!…対!ひゃくパーセントです ハイ」

ドロンボーのマスターとなったボインゴは、『トト神』の下からドロンジョを見上げて何とか勇気を振り絞って言葉を喉から押し出す。
非常に臆病で、兄のオインゴがいなければ誰かと話をする事さえまともにできないボインゴにしては、こうして他人と会話がなんとかできる時点で大したものである。
『トト神』を見ればわかるだろうが、ボインゴはオインゴがオレンジを模した爆弾で負傷し、ジョースター一行をひとりで倒すことを決意した矢先にこの世界へ飛ばされた。
聖杯戦争のルールも既に把握しており、殺し合いに巻き込まれたことに恐怖はあるが、兄にジョースター一行を一人で殺すと約束しただけあって何とか前を向けている。
今のボインゴはボインゴなりに、「ジョースター一行を倒す」という願いのもとで頑張っているのだ。
極度の人見知りというところは相変わらずではあるが。

「ところでボインゴくん、あたしにその『トト神』を見せてくれるかい?」
「ハ…ハ…ハイ」
「次はどんな予言がでてるんだい――」

ドロンジョがボインゴからトト神を受け取り、それを開いた瞬間、

『吾輩は泥棒の神様ドクロベエだべ〜』
「ギャー!ドドド、ドクロベエ様!?」
「あらァ〜ドクちゃんこんなとこにまで来ちゃって、まさか聖杯戦争でもドクロストーンやドクロリングの時と同じことを?」
「よそ様の企画にお呼ばれしてもあれがまだ続くでマンネン…」
「ぁ…ぁ…ぁ…」

『トト神』に赤い大きなドクロが映り、それがまるで映像のように動いてしゃべり出したのだ。
ドロンジョ・ボヤッキー・トンズラーは一様に驚いて慌てふためき、ボインゴは『トト神』にいきなり現れたドクロに愕然としている。

説明しよう!
このドクロの名はドクロベエ!
ドロンボー一味の親玉的存在である。
毎週唐突にドロンボー達の前に現れては指令を残して屁のように消えていくのだ!


840 : アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜 ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/21(月) 19:10:17 4y05g.Ak0
『控えるだべ〜!』
「「「ははーっ!」」」
「は…は…はー」

ドクロベエにひれ伏したドロンボー三人組に続いて、ボインゴは震えながらも同じようにひれ伏す。

『ボインゴや、驚かしてしまってすまんべ〜』
「い…い…いえ……大丈夫、です ハイ」

『トト神』に写るドクロベエはボインゴに顔を向け、笑っているようにドクロの形を変えながら優しく話しかける。

『お前達、サーヴァントなんだからマスターは絶対に守るべ〜!』
「お任せくださいドクロベエ様、ボインゴ君はあたし達が守ります!」
「ボンちゃまでなくとも子供には甘いでマンネン」
「余計なこと言うんじゃないよ、このスカポンタン!」

トンズラーをドロンジョがげんこつする。
このドロンジョの言葉は嘘ではなく、ボインゴは存在の楔であると共にドロンボーの一員だ。

『さて、聖杯が何かはお前達サーヴァントだからわかってるとして、他の主従の居場所が見つかったんだべ〜』
「ドクロベエ様、聖杯の在り処じゃなくて敵の居場所を教えてくださるのですか?」

ドロンジョがドクロベエの情報に違和感を抱き、頭を上げてドクロベエに聞く。
生前は、ドクロベエがドクロストーンやドクロリングがある場所を教え、それを奪取するよう指令が下ってドロンボー一味が出撃する、というパターンが殆どを占めていた。
しかし、聖杯戦争となっては、少し事情が違うことはドクロベエも承知の上のようだ。

『聖杯は他の主従を倒さない限り出てこないからお前達に教えても意味ないんだべ〜』
「あらそうなの?てっきりガセネタばっかり掴まれると思ってたけどそうではないのね」

ボヤッキーが少し拍子抜けだという風に口を開く。
聖杯はドクロストーンとは違い、探しても出てこない。
他のサーヴァントを倒すことで初めてこの地に姿を現すのだ。
そういう事情もあってか、ドクロベエの情報は生前に比べて相当に親切なものとなっていた。

「意外と楽できそうでマンネン!」
『このアカポンタン!!探す必要がない代わりに、他のサーヴァントは絶対に倒さないといけないべ〜!失敗したら――』



『ママよりこわいお仕置きだべ〜!』



情報が伝えられた後、4人の背後で爆発が起きてボインゴ含め全員が黒コゲになったことは想像に難くない。


◆ ◆ ◆


841 : アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜 ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/21(月) 19:12:10 4y05g.Ak0
アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜

歌:ドロンボー&ボインゴ

♥信じてるよ
♦信じてるわ
☘信じてるでマンネン
♠信じてくれた

♥♦☘♠ドロンボー ボインゴ カルテット

♥あたしはドロンジョ クラスはライダー
天才義賊のドロンボー 頼れるリーダー
せっかく聖杯戦争にお呼ばれしたんだから獲りにいくしかないよねェ!
お前たち、いっくよ〜?

♦アタシはボヤッキー メカを作る
武器もメカも乗り物も なんでもござれ
あ、どうもボヤッキーよ〜!
ボクちゃんたち4人組だからAメロはもうちょっとだけ続くのよ

☘ワイはトンズラー 筋肉自慢
殴り合いかてお手のもの 誰でも来なはれ
三騎士なんてナンボのもんじゃい!
元プロレスラー舐めとったら痛い目合うでマンネン!

♠僕はボインゴ 漫画で予言
とっても内気なんだけど 勇気を出すよ
お兄ちゃんのカタキを討つんだ!
僕のマンガの予知は…絶!!対!ひゃくパーセント です!

♦これで?
☘ほいで?
♥うまくいくんだよ!
♥マスターの予言は絶対だからねェ〜

♠印刷に出た預言は
♠もう決して
♠変えることはできない

♥預言の通りに
♥行動すれば

♥♦☘♠全て うまくいく
♠そうやれば勝てるハズです
♥♦☘♠ドロンボー ボインゴ カルテット

♠信じてくれますか?
💀もちろん、信じるべ〜
♠💀ドクロベエ ボインゴ デュエット

♥♦☘♠絶対勝つんだ もうやられっぱなしはイヤなのさ


842 : アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜 ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/21(月) 19:13:55 4y05g.Ak0
【クラス】
ライダー

【真名】
ドロンジョ@ヤッターマン

【パラメータ】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力E 幸運E 宝具EX

【属性】
混沌・善

【クラス別スキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:E
自転車に乗れる。

【保有スキル】 
自己保存:A
マスターが無事な限りは全ての危機から逃れることができる。
ボヤッキーの巨大メカが爆発すると髑髏の形をした煙に包まれて確実に逃げることができ、結果的にマスター共々死なずに済む。
やられてもやられてもなんともないない

今週のお仕事:EX
毎度毎度の今週の山場を乗り切るために無意識に存在する加護。一言でいえばギャグ補正。
ドクロベエのお仕置きや巨大メカの大爆発など、
通常であれば確実に即死するような攻撃を受けても絶対に死亡せず、
瀕死の重傷を負っても極めて短時間で活動が可能な程度には再生できる。
ただしこのスキルはライダーの周辺にいる人物も対象となるため、
効果が発揮されている限り敵対サーヴァントやマスターを殺害することはできない。

インチキ商売:A
悪徳商法で客から金をだまし取る才能。
ボヤッキー・トンズラーと連携して簡単に金銭を手に入れることができる。
Aランクならば精神干渉の域であり、どんなに無理があっても知らず知らずのうちに金を払ってしまう。
戦闘では役に立たないが、他のマスターに対して経済的に大きなダメージを与えることがある。

正体隠蔽:B-
サーヴァントとしての正体を隠す。
自身をサーヴァントではなくただの人間であると誤認させる事ができ、契約者以外のマスターからステータス、スキルを視認出来なくする。
ただし、このスキルが効果を発揮するのはインチキ商売をしている時のみ。

情報収集:B
様々な情報を集めることに長け、情報戦で優位に立てる才能。
その情報はドクロベエから一方的に伝えられる。
主な内容は他の主従の所在地など。


843 : アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜 ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/21(月) 19:14:47 4y05g.Ak0
【宝具】
『悪乃華(ドロンボー)』
ランク:EX 種別:対ヤッターマン宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
ドロンボー一味の3人が集った運命の因果律そのもの。
実体は存在せず、ライダー自身もそれを把握していない。
彼ら3人が集えばそれはドロンボー一味が立ち上がることを示し、
ドロンボー一味が存在すればそれは彼ら3人が悪事を働いていることを意味する。
今まで幾度となく解散の危機に見舞われたが、何があっても3人が離れ離れになることはなく再結成された。
その運命の強制力が3人を同時現界させるという奇跡を生み出した。

かつてのドロンボ一味であるボヤッキー・トンズラーを常時召喚できる。
彼らは生前ライダーと共に行動することが多かったことから常時現界でき、実質的なサーヴァントとして活動できる。

ライダーは実質3人一組のサーヴァントであるため個々の能力は低いが、
ボヤッキー・トンズラーが現界していても魔力消費は通常と変わらない。
たとえライダーであるドロンジョが消滅してもボヤッキーかトンズラーが生存していればマスターの魂が消えることはない。


 ブツクサ・ボヤッキー
 ドロンボー一味のメカ設計と参謀役を担当していた細身の男。
 女子高生が大好き。

 パラメータは、筋力D 耐久E 敏捷D 魔力D 幸運E

 B+ランクの道具作成スキルを所持しており、ヘンテコな武器や巨大メカの製造に特化している。
 敵サーヴァントとの戦闘は主にボヤッキーが作成したメカが主力になる。
 ただし間の抜けている面があり、武器を使おうとして自爆することも多いので注意が必要。


 スタコラ・トンズラー
 ドロンボー一味では自慢の怪力による脅しと戦闘を担当していた。
 岩手出身なのに関西弁を喋る。

 パラメータは、筋力B 耐久B 敏捷E 魔力E 幸運E

 固有のスキルはないが、他の二人に比べて筋力・耐久が格段に高い。
 直接戦闘では己の肉体のほかに、ボヤッキー製の武器を扱うこともできる。

『我輩こそ泥棒の神(ドクロベエ)』
ランク:EX 種別:対ドロンボー宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
泥棒の神様を自称する謎の男。
ライダー及びドロンボーに欠かせない存在であったため宝具として再現されてしまった。
インチキ商売をしているドロンボー一味の前に唐突に現れて、指令を出しては消える。
その指令及び情報はほとんどがガセネタであるが、此度の聖杯戦争では他の主従の場所を教えてくれるため、
ドクロリングやドクロストーンの時よりは格段に良心的。
ヤッターマンから敗走するドロンボー一味には毎回きついお仕置きを下しており、
たとえ情報が本当でドロンボー一味がアイテムを手に入れたとしても、
「いつもやっていることなのでやっておかないと気持ち悪いから」という理由でお仕置きする。

かつてドロンボー一味の親玉だったドクロベエ。
本物の英霊が現界しているボヤッキー・トンズラーとは違い、
ライダーの『こういう人物だ』というイメージに忠実に沿った形で顕現したものがこの宝具。
生前のように唐突に現れては情報を与え、他サーヴァントから敗走するライダー達にお仕置きする役割を持つ。
なお、お仕置きはドロンボー一味の3人以外のマスター・協力者も一緒に受けることになる。
ライダーはこの宝具を制御することができない。


『道なき道進め(バイシクル)』
ランク:E 種別:逃走宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
見た目は何の変哲もない複数人乗りの自転車だが、
ヤッターマンから敗れ帰還する際に毎回この自転車に乗っていたという逸話から宝具に昇華した。
実際は一輪車が縦列に人数分連結している。
同乗者の数によって3人+α乗りの自転車へ変化する。
これに乗って『エイホ』という掛け声と共に走る。
この宝具によってドロンジョがライダーとして召喚された。


844 : アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜 ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/21(月) 19:15:34 4y05g.Ak0
【weapon】
・ボヤッキー製の武器
ボヤッキーが製造した武器。
性能は一瞬で相手を拘束したり物を破壊したりできるなど非常に強力。
しかしここぞというときに故障したりドジを踏んだりしてその性能を生かせないことが多い。

・ボヤッキー製の巨大メカ
巨大なメカを各人が操縦できる。
デザインは毎回異なり、攻撃方法もそのデザインによって異なるので看破されづらい。
メカのデザインにもよるが宝具級の性能を持つものができることも。
共通して、コクピットにはドロンジョ専用のバスルームにおだてブタなどのコクピットメカが多数搭載されている。
なぜか自爆ボタンも搭載されている。
ほとんどが破壊される運命にある。

【人物背景】
ヤッターマンに登場する悪役。
女性ボスのドロンジョ、頭脳担当のボヤッキー、怪力担当のトンズラーの三人でドロンボー一味を構成する、所謂三悪の元祖。
自称泥棒の神様ドクロベーから指令を受け、ドクロストーン(リメイク版ではドクロリング)を求めて世界中を飛び回っている。
毎回インチキ商売で得た資金を元にロボットを使ってヤッターマンと戦うが敗北を繰り返しており、
ドクロベーの情報もほとんどがガセネタとあまり報われない。
しかも自転車で敗走中には毎回ドクロベーからお仕置きを受けており、稀に本物のドクロストーン(ドクロリング)を手に入れても、
「いつもやっていることなのでやっておかないと気持ち悪いから」という理不尽な理由をつけられてお仕置きされる。

【サーヴァントとしての願い】
欲しいよ欲しいよ聖杯
絶対もらうと決めちゃった


【マスター】
ボインゴ@ジョジョの奇妙な冒険

【マスターとしての願い】
ジョースター一行を倒す

【weapon】
特になし

【能力・技能】
スタンド『トト神』
ボインゴが常に持ち歩く本に描かれた漫画を通して、ごく近い未来を予知することが出来るスタンド。
本に時間経過とともに浮き出る漫画には、独特なタッチの絵と簡潔かつシュールな内容で予知が描かれている。

【人物背景】
DIOの配下の少年。兄のオインゴと共にジョースター達を襲った。
性格は非常に憶病で、兄がいないと誰かと話をする事さえまともにできない。
身体も小柄で貧相であり兄がいないとホントに何もできない。あと笑い方が少々おかしい。
エジプト・ヌビア地方でジョースター一行を暗殺するため接近し、後述するスタンド能力とオインゴのスタンド能力のタッグでさまざまな罠を仕掛ける。
結果、兄が再起不能になったのを見て、仇を取るため一人で戦う事を決意。
だが行動を起こす間もなく、思いもよらぬ身から出た錆により、兄と仲よく入院する事になる。

【方針】
この変な3人組の人達と聖杯を取るんです ハイ


845 : アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜 ◆ZjW0Ah9nuU :2021/06/21(月) 19:15:53 4y05g.Ak0
以上で投下を終了します。


846 : アエ&ミュータント ◆cT.c4WK4wQ :2021/06/21(月) 19:16:55 4y05g.Ak0
続いて投下します。

こちらは『Fate/Reverse ―東京虚無聖杯戦争―』の候補作からの流用です。


847 : アエ&ミュータント ◆cT.c4WK4wQ :2021/06/21(月) 19:17:30 4y05g.Ak0
夜の公園の歩道を、一人の少女が歩いていた。
都内の高校のものと思われるブレザーの制服を着用しており、少女はその高校に通う女子高生であることが見て取れる。
きっと学校の帰りに友人とつい遅くまで寄り道してしまい、自宅へ向かう時間がいつもより遅れてしまったのだろう。

少しだけ身震いしつつ、少女は辺りを見回す。
日は既に沈んでおり、空一面は闇で覆われている。
街灯のおかげでなんとか視界を保てているが、それでもこのじめじめとした異様な静けさは不気味だ。
歩道の脇から先には、大きな池がある。この公園内に存在する池で、いくつかの川の中継点にもなっている。
そのため、少女のいる公園の周辺には川の向こうを行き来するための橋が都内ではトップクラスに多い。



――ガサリ。



「ひっ」

――誰か、いる?

不意に、池の水底に根を張る植物が音を立てる。少女に恐怖と緊張が走る。
この暗闇の中だから、当然池の水中など見えるはずもない。
少女の目に映る池は入ったら二度と出られなくなる底なし沼のような宇宙の闇そのものだ。

――きっと気のせいだよ、ね?

自分にそう思わせるために少女はおそるおそる池の水辺に近づいてみる。
池の水の音が近くなってくる最中、少女はある噂のことを思い出していた。
それはあまりにも荒唐無稽で誰にも信じられていなかったが、学生の笑い話に使えるくらいには流行っている東京都内の水辺に関する噂。
曰く、東京都の池や川などあちこちの水辺で、夜な夜な正体不明の人影が現れるらしい…。
一部の者はこれを河童だのUMAだのと騒いでいたが、出没する場所もはっきりとしていないのでその手の輩の流したガセネタとしか思っていない者も多かったし、少女もその一人であった。




今、この瞬間までは。


848 : アエ&ミュータント ◆cT.c4WK4wQ :2021/06/21(月) 19:18:23 4y05g.Ak0
「っ!!!!!!!」

池の植物の隙間から細長い手足を持った人型の影が浮かび上がる。
闇に潜んで少女を凝視していた目がギラリと光った。
背景に溶け込んでいた緑の斑のかかった気色の悪い肌が少女の目に鮮明に現れる。
池の水を垂らしながらギトギトに油にまみれた髪を揺らしながら、『それ』は少女に言葉をかけた。

「ごはん」

『それ』は既に少女を捕捉しており、獲物を狩れる瞬間を植物に紛れて今か今かと待っていたのだ。

「きゃああああああああっ―――むぐっ!?」

『それ』は呟くと、叫び声を上げようとする少女の顔に目がけてタール状の液体を吹きかける。
その狙いは見事なもので、その液体は少女の顔全体を正確に捉えてべったりと覆った。
『それ』の狩りの技術が本能レベルまで染みついていることが分かる。
あまりに驚愕したからか液体を吹き付けられた衝撃で少女は尻餅をついて態勢を崩してしまう。
少女には『それ』の正体や、早くここから逃げることについて考える余裕などなかった。
視界が文字通り暗闇に覆われた恐怖と呼吸ができなくなったことからパニックになり、顔に張り付いた物体を取ることにしか頭が行かなかった。

「むぐ…ぐ…うぐうう〜〜〜〜〜!!!!」

どうにかして助けを呼ぶため、そして謎の液体により奪われた呼吸機能を取り戻すために少女はへたり込んだ姿勢で必死に顔を覆うものを取り除こうとするが、
タール状の液体は既に硬化しており、人間の力ではとても剥がせないほどまでになっていた。
足をばたつかせ、出せるだけの力をありったけ出して硬くなった物体を引き離そうとするが、その努力は報われない。

「ううううううう!!!!んぐ〜〜うおお〜〜〜んおあ〜〜〜〜〜っ!!!!」

少女は顔に張り付く物を掴んで何度か寝返りをうった。顔を地面に打ち付けたりした。
やれるだけのことは全てやって激しくもがいていたが、数分経つ頃には体内に残っていた酸素を全て使い切り、ほぼ窒息していた。
それでも小刻みにピクピクと体を震えさせていたが、やがて少女の生命活動と時を同じくして身体の動きが完全にストップした。
『それ』は少女が動かなくなったことを確認すると、周囲を警戒しながら池から陸地へと出る。


849 : アエ&ミュータント ◆cT.c4WK4wQ :2021/06/21(月) 19:19:58 4y05g.Ak0
「ごはん」

そして、少女の亡骸を掴んで、池に引きずり込む。
『それ』の口からはタール状の物質がまるで涎のように滴っていた。

「ひと」

ズルズルと砂利の混じる陸地から、『それ』と亡骸は池の水に浸かっていく。

「ごはん、――」

そして完全に人の目から避けられるくらいまで進み、『それ』が手の平と足の裏から出る溶解液で獲物の死体を溶かそうとしたとき、頭の中で火花が起こったような感覚がした。

「――あれ?」

舌足らずな口調で、『それ』は首をかしげる。

「あれ?」

溶解液が絶えず溢れる手の平で、長い間シャンプーで洗っていない油まみれの髪に触れる。
髪を洗う…?

「かみ あらってない あれ?」

毎日おっきい人に洗ってもらっていたのに、洗っていない。
髪をとくくしもない。

「あれ?」

ときどき見に来てくれるちっちゃい人もいない。

「せんせー あれ?」

「あれ?」

「あえ?」

「アエ!!」

その瞬間、『それ』は思い出した。自分の名前がアエであることを。

「『アエ』…それがあんたの名前なのね?」

そしてマスターとして覚醒したアエの前に『それ』は現れた。
新生物「ミュータント」のサーヴァント、『フー・ファイターズ』が。







850 : アエ&ミュータント ◆cT.c4WK4wQ :2021/06/21(月) 19:22:08 4y05g.Ak0
深夜の池をそれなりに進んだところにある浅瀬にて、アエとそのサーヴァントが向かい合っていた。
アエと同じく人間とかけ離れた肌の色に、表面から何かが崩れ落ちており、短髪の女性の姿をベースにした姿を取っているのが現在のフー・ファイターズの容姿だ。

「ふん はいたーず?」
「誰が糞を吐いただってェ――ッ!?フー・ファイターズだ!二度と間違えるなッ!!難しいようなら『F・F』でもいい」
「えふ、えふ?」
「そう、F・Fだ」
「えふ!えふもごはん食べる?」
「……遠慮しとくぜ」

F・Fはアエの足元を見て、引き気味に答えた。
アエが記憶を取り戻してからそれなりの時間が経過した。
どうやら、このアエという娘はうまく話すことができないらしい。
F・Fは自分の名前をうまく伝えようとしたが、途中で諦めてアエからは『えふ』の呼称が定着していた。
アエの足元には黒い液体の混ざった水が広がっている。
アエの足の裏から分泌される溶解液により、少女の死体はベトベトの黒ずんだ液と化し、もはや遺体は完全に消失していた。
そしてその黒い液体はアエの皮膚を介して循環器系に送られる。これがアエ――SCP-811――にとっての「ごはん」である。

無論、F・Fはアエに聖杯戦争についての説明を試みたが、無駄だった。
聖杯戦争の発音すらもろくにできず、これが殺し合いだとどんなに細かく説明してもちっとも理解しなかった。
どんな願いを持つかを聞いても『しゃんぷーしたい』の一点張りで、相当髪に気を使っているんだな、とF・Fは思った。

また、F・Fは自分の持つすべての知性を総動員して、アエから現状を聞くことができた。
この東京でアエに与えられたロールは、東京の水辺に棲む人外。当然のことながら住む家も家族もなく、先のような「狩り」をして空腹を凌いでいる。
アエは空腹でなければ攻撃的ではないが、飢えていればたとえ親友であっても狩りの対象になるのであろう。
それは知性を持つ生物とは真逆であり、動物的ともいえる。

「アエ」
「なあに?」
「アエは…ここに来る前は何をしてたんだ?」

だが、それは逆にF・Fの興味を引いた。
アエは間違いなく、F・Fと同じ何らかの過程で生まれた新生物である。
しかし、アエは人間的な部分は少なく、どちらかといえば動物的な本能が勝っている。
アエはどのような経緯で現在のような姿となり、東京に招かれる前はどうやって暮らしていたのかを、F・Fは知りたくなったのだ。

「まえ?ごはんのまえ?」
「えーと、ごはんのまえのまえのずっと前!世界っていうか…見ているモンがぜーんぶ変わったみてーな…」

F・Fはアエにもわかりやすいように身振り手振りを使って説明する。両手を目いっぱいに広げるジェスチャーは『ぜーんぶ』の意味だ。
かつてF・Fが親友に出会った時の体験談をしているような感覚だった。

「かわった?」
「そう!なんか変わったことはねーか?」

それを聞いたアエは先ほどのF・Fのようにジェスチャーを駆使しつつ断片的な言葉を紡ぐ。

「えっとね。かべ。とうめいなかべ」

アエは手で目の前にある何かを叩くような仕草をする。パントマイムのような手振りだ。

「ここ そと」

次に、アエは地面に指をさし、

「なか ちがう」

と答えた。

F・Fは、その様子を静かに見ていた。
察するに、アエはどこかの組織に閉じ込められていたのだろう。
「なか」と「そと」の決定的な違い。「なか」に閉じこもっていては「そと」の者と接することはあっても親友にはなれない。
それはまるで、ホワイトスネイクの「DISC」をただ守っていた時の自分と同じだ。
それでは、ただ単に生きているだけだ。「思い出」を作ることができない。

この時、F・Fはアエには真の意味で『生きて』ほしいという思いが芽生えた。
親友の徐倫やエルメェスとの出会いで蓄えていった、大切な「思い出」。
生きることはすなわち「思い出」を作ることだとF・Fは悟ったのだ。
きっと今のアエに足りないものは「思い出」だ。きっと彼女には「思い出」が足りないから、知性が本能に勝ってしまうのだろう。
「いい思い出」がエネルギーとなって自分自身に勇気を与えてくれるという感覚…それが知性なのだ。
「思い出」があればアエだってきっと…。

「思い出」はこれから作ることができる。
F・Fが徐倫についていったあの時のように。

「アエ。何か欲しいもの、ある?」
「しゃんぷーと、くし。えふかってきてくれるの?」
「ああ。陸に出るにはNPCの身体を借りねーといけないけどな」


851 : アエ&ミュータント ◆cT.c4WK4wQ :2021/06/21(月) 19:22:56 4y05g.Ak0
【クラス】
ミュータント

【真名】
フー・ファイターズ@ジョジョの奇妙な冒険

【パラメータ】
筋力D 耐久D+++ 敏捷D 魔力B 幸運D 宝具B(地上)

筋力B 耐久EX 敏捷A 魔力A 幸運C 宝具B(水中)

【属性】
混沌・善

【クラス別スキル】
環境適応:C
「新生物」のクラススキル。
苦手なフィールドでも一定時間それに晒されることで次第にミュータントに変異が生じ、周囲の環境によるあらゆるペナルティを軽減ないし無効化するようになる。
ランクは周囲の環境への適応能力の高さを示し、ランクが高いほど適応するまでの時間が早くなる。

【保有スキル】
水棲:A+++
プランクトンとしての水中への適応能力。水の抵抗を受けずに活動できる。
ミュータントの場合は水辺にいる間はパラメータが上記の水中のものに変換される。
後述の宝具により水辺にいるミュータントを倒すことは不可能といえる。

憑依(偽):C
一部、あるいは全てのプランクトンを人間の肉体に宿すことで、人間を乗っ取って操ることができる。
ミュータントが人間の肉体に宿った場合、長時間陸で活動できるようになる他、自身をサーヴァントではなくただの人間であると誤認させることができる。
その代わり、乗っ取っている間は霊体化できなくなるデメリットもあるので注意。

知性の記憶:B
ミュータントは人間として生活をする過程で、どんな無駄で些細な出来事でもそれらを大事な「思い出」として全て覚えてきた。
それはサーヴァントになった今になっても受け継がれており、同ランクまでの情報抹消を無効化する。

他者修復:B
プランクトンを傷口に埋め込むことで応急処置に利用でき、回復手段に使える。
しかし、プランクトンで埋めた部分からは痛みが伴う。

【宝具】

『知性の海の縮図(フー・ファイターズ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
フー・ファイターズを構成するプランクトン一体一体が全て宝具。
ミュータントの身体は本来心臓や脳がある部位も含めて全てがプランクトンで、水さえあれば魔力を全く消耗せずに分裂し、2体以上に別れて行動もできる。
一部のプランクトンが死滅しても他のプランクトンが残っていればミュータント全体として生き続けられる上、
プランクトンの増殖に必要な水があれば魔力消費無しで損傷を回復できるので非常にしぶとい。
プランクトンは水が存在しない場所では生命活動が行えないため水のない陸地が苦手だが、環境適応スキルにより生命活動を行える範囲が広がる可能性がある。
憑依(偽)により人間になりすましている間は指を銃の形にしてプランクトンの一部を弾丸として打ち出す『F・F弾』が主な攻撃手段。

『友にさよならを』
ランク:E- 種別:対人宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
ミュータントのプランクトンが全て死滅し、ミュータントが完全に消滅する際に発動する宝具。消滅後1ターンのみ、実体のない姿で現界できる。
最期まで親友との知性と思い出を失うことはなく、親友の空条徐倫に「さよなら」という言葉を残して死を迎えたという逸話からくる、仲間へ「さよなら」を残すためだけの宝具。
最後の言葉を守りたい者へ贈る時間は1ターンあれば十分なのだ。

【weapon】
ミュータントを構成するプランクトン群

【人物背景】
通称F・F。湿地帯のプランクトンにプッチ神父により『能力』と『記憶』のDISCを与えられ「フー・ファイターズ」という生物になった。本体もフー・ファイターズで同一。
体はプランクトンの集合体で水さえあれば分裂し、別れて行動もできる。
プッチ神父の命令により刑務所敷地内の湿原の倉庫でDISCを守っていた折に徐倫・エルメスと交戦のち敗れるが、徐倫に水を与えられ命を救われてからは徐倫を守りたいという思いに目覚める。
徐倫達の仲間に加わってからはエートロという女囚の死体を乗っ取り新しい身体にすると、エートロとして女子房で生活をしているが、
普通の人間と違い(湿地と違って水分の無い陸地で過ごすためには)定期的に水分を補給しなければならない身体であるため、それを巡るトラブルも少なくなかった。

【サーヴァントとしての願い】
アエの「思い出」をつくってやりたい
アエには本当の意味で生きてほしい。


852 : アエ&ミュータント ◆cT.c4WK4wQ :2021/06/21(月) 19:24:02 4y05g.Ak0
【マスター】
SCP-811“沼女”、またの名をアエ@SCP Foundation

【マスターとしての願い】
しゃんぷーしたい

【weapon】
自身の肉体以外特になし

【能力・技能】
『溶解液』
手の平と足の裏からは常に緑がかった透明の液体が分泌されている。
これは有機物ならばどんなものも急速に溶かして粘着質の黒い液体に変えてしまい、それはアエの食糧となって皮膚を介して吸収される。
非常に強力な溶解液で、かのSCP-682の実験にも用いられたことがある。

『タール状物質の噴射』
胃の中で食糧を酵素と細菌叢が分解、凝縮したざらついたタール状の物質を、口からアエの意思によって経口噴射することができる。
アエはこの能力を狩りに利用しており、標的の顔あるいは傷口を優先的に狙い、そして口と鼻を塞ぐことによる即時の窒息か、
その物質に含まれる攻撃性細菌の侵食による多臓器不全によって標的が死ぬまで待つ。
アエの噴射したタール状物質が傷口に入り込んだ場合、三時間以内に広域抗生物質による治療を受けないと急速に悪化してしまう。

【人物背景】
細長い手足とわずかに膨らんだ腹部の人間の女性に似た体型を持つSCP。Object ClassはEuclid。身長171cm、体重47kg。
トレビュシェット博士を始め財団職員からは本人の希望で『アエ』と呼ばれている。
肌はわずかにざらざらした質感で緑のまだら模様をしており、従来のシャンプーをも撥ね退ける油っこい黒髪を持つなど、その容姿は人間からかけ離れている。
一方で人語には部分的な理解を示しており、ヘアブラシを財団職員に所望するなどところどころで人間の女の子らしいところが垣間見えるが、
実は彼女は――――[削除済]

フー・ファイターズのことを「えふ」と呼んでいる。
聖杯戦争のことは当然ながら把握していない。

【方針】
不明

【捕捉】
クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、
SCP FoundationにおいてPig_catapult氏が創作されたSCP-811を二次使用させて頂きました。


853 : ◆cT.c4WK4wQ :2021/06/21(月) 19:25:56 4y05g.Ak0
以上で投下を終了します。


854 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/21(月) 20:48:27 hU3LMq6.0
>>LAST_Prolog
企画の設定とも絡めた一作、お見事の一言でした。おもしろ〜……ってなりながら読ませていただきました。
敗北したマスターたちの記録を引き継いでいるという独自設定は大変面白いですね。
憎しみ抱く彼の悲哀もよく描写されており、だからこそサーヴァントのヒュンケルとの会話の良さも際立って感じられました。
生の逸話を持つ英霊を、死者の淀みから生まれたデッドフェイスが召喚してしまうというのは作中でも描かれているように、運命の悪戯と言う他無さそう。

>>道化と爆破の回帰物語
現時点では互いに対する興味皆無の、ビジネスライクな主従関係。
しかしそれでいて手段を選ばず敵を屠る、そんな恐ろしさが上手く描かれているなあと思いました。
特にサーヴァントの旧多は盤面をあらゆる意味で掻き回すだろう非常に危険且つ油断ならないサーヴァント。
どこまでも危険で、しかし同時に哀れな側面も持つ、そんな素晴らしい主従のお話を読ませていただきました。

>>The Gong of Knockout
一意専心に研鑽を積み武神と呼ばれるに至った独歩が菩薩の道を歩む英霊を召喚するというのはなかなかの縁召喚。
そして双方のスタイル的にも相性は非常に良い様子で、発想の妙を感じました。
確かにこのサーヴァントの力を借りれば、独歩も思う存分武人としての戦いを楽しめそうですね。
相変わらずキャラクターの会話などに独特な味わいがあって、面白く読ませていただきました。

>>アク役◇協奏曲 〜ドロンボーとボインゴ〜
これはまた何とも、マスターとサーヴァントどちらを取っても予想外な人選&組み合わせ。
話の内容もユニークで面白かったですが、地味に替え歌のパートが手込んでて好きでした。
ボインゴだけならば怪しいかもですけど、ドロンボー一派がいればギャグ補正で色んな危機を乗り越えられそう。
そしてボインゴ、こんな場でも聖杯への願いはジョースター一行の打倒なのか……w

>>アエ&ミュータント
SCPサーヴァント! この企画では初めてですが、過去には結構投下されていたようですね。
マスターとサーヴァントの間にあるあまりに明確な共通点で、あ〜なるほど!と手を叩きました。
確たる自己を確立して死に、英霊の座に登録されたF・Fがアエのことを想っているのが好きですね。
いい感じに彼女に外の世界のことを教え、思い出を作ってあげられそうです。


皆さん本日も投下ありがとうございました。
また、とてもありがたいことに当企画に投下された候補作の数が100作を突破しました! すごい!!
今後とも、当企画をよろしくお願いいただければ幸いです。


855 : ◆5A9Zb3fLQo :2021/06/21(月) 21:13:29 YO8kxA560
投下します。


856 : 我楽多輪舞曲(煉華&アーチャー) ◆5A9Zb3fLQo :2021/06/21(月) 21:14:54 YO8kxA560
 あるところに、一人のお姫様がおりました。
 真っ黒な衣装のお姫様はその衣装と同じくらいに暗い闇の中でしくしくと一人で泣いています。
 お姫様に声をかける人はおりません。お姫様は昔からひとりぼっちだったのですから。
 どれだけそうしていたのでしょうか、泣きじゃくるお姫様の後ろから、一人の人影が姿を現しました。
 その人影は、お姫様とはまた別のお姫様でした。
 黒衣のお姫様とは違い、絹糸の様に細やかな髪からきらびやかなドレス、すらりとした足を彩るヒールまで血の様に真っ赤っかなお姫様です。

「どうしたのかしら?」

 赤いお姫様は尋ねます。
 声色は心配そうですが、その可愛いお顔はにっこり笑顔。

「パパに捨てられちゃったの」

 泣きじゃくりながら黒いお姫様は答えます。
 そう、黒いお姫様は大好きなお父さんに捨てられて、こんなところに来てしまったのでした。
 お姫様はお父さんによって作られました。
 だからお姫様はお父さんが大好きで、お父さんこそが全てだったのです。
 だけれども、恐い恐いお兄さんから逃げてきたお姫様をお父さんは『失敗作』と言いながら捨ててしまったのです。ああ!なんて可哀想なお姫様!

「ふぅん、そうなんだ。それは可哀想ね」

 笑顔のままで赤いお姫様は答えます。
 ぐすぐすと泣くだけの黒いお姫様を見下ろす赤いお姫様。
 赤いお姫様の可愛らしい笑顔に意地悪の色が宿っても、泣きわめくだけの黒いお姫様には気付きようがありません。
 身を屈めた赤いお姫様が、黒いお姫様の両肩それぞれに両の手を添えて抱き寄せます。
 そうして、哀れむ様に嘲る様に悪戯っぽく黒いお姫様へ囁くのでした。

「それじゃあ聖杯にお願いすればいいじゃない『またパパが私を愛するようにしてください』って」


857 : 我楽多輪舞曲(煉華&アーチャー) ◆5A9Zb3fLQo :2021/06/21(月) 21:15:52 YO8kxA560


 黒と赤のお姫様が出会ってから数日が経ちました。
 ここはお姫様達の邪魔をする、悪い悪い魔女の家。
 魔女退治にやってきた赤いお姫様に向かって、魔女の使い魔である狼男が牙を剥きます。
 お伽噺から抜け出してきたかの様な姿の狂った狼男はどんな傷でもたちまちに治ってしまう恐ろしい魔物。
 だけれども、そんな恐ろしい狼男が相手でも赤いお姫様はいつもの態度を崩しません。
 迫る鋭い爪を華麗なターンで舞う様にかわし赤いお姫様が手に持った琴の弦をピン、と爪弾きます。
 すると張り巡らされた魔法の糸がたちまちに狼男の腕を縛りつけたではありませんか。
 右腕、左腕、右脚、左脚。
 全部が魔法の糸で縛り上げれた狼男はまるでマリオネットの様に宙へぶらり。
 普通の糸ならば難なく引き千切れた狼男も魔法の糸には敵いません。
 ギチギチと締め上げてくる糸が食い込む度に苦しげな声が溢れます。

「あれだけ威勢が良かったのにみっともなぁい。……雑魚の癖に無駄に頑丈とか牙の氏族かよテメェ」

 ケラケラと悪戯っぽく笑いながら赤いお姫様の指が更に弦を爪弾けば、涼やかな音色と共に狼男の胸が裂けて真っ赤な血が噴き出しました。
 だけれど傷がたちどころに治ってしまう狼男はその程度では死ねません。
 つまり狼男はそれだけ赤いお姫様の玩具として長く苦しみ続けるということです。
 狼男と赤いお姫様の戦いは誰から見ても赤いお姫様の勝ちに決まりです。
 それにしても、赤いお姫様と一緒にいる筈の黒いお姫様はどこに行ったのでしょうか?


858 : 我楽多輪舞曲(煉華&アーチャー) ◆5A9Zb3fLQo :2021/06/21(月) 21:16:48 YO8kxA560

 魔女の家の中、赤いお姫様と狼男がいたところとは別の隠し部屋で黒いお姫様とフードを被った女の人が向き合っています。
 フードの女こそは悪い魔女。魔女は使い魔である狼男に赤いお姫様の相手を任せ、黒いお姫様を殺すために罠だらけの隠し通路へと誘い込んだのでした。
 黒いお姫様は魔女の仕掛けた様々な罠を潜り抜けてついに魔女のいる部屋へと辿り着いたところです。
 傷一つない様子の黒いお姫様の姿は計算違いだったのか、唇を歪めた魔女が一歩後ずさりました。
 魔女を追い詰めた黒いお姫様はニコニコと笑いながら、後ずさった魔女に合わせる様に一歩踏み出します。

 その途端、黒いお姫様の全身を床から吹きあがった炎が包みました。

 歪んでいた魔女の唇が歪んだ三日月に変わり、おかしそうな笑い声が上がります。
 魔女の罠は通路だけでなく、部屋の中にも仕掛けられていたのでした。なんて用心深い魔女なのでしょう。
 黒いお姫様を殺せたと魔女は喜びます。魔女の使い魔の狼男をいたぶっている赤いお姫様は黒いお姫様がいなければこの世界にいられません。
 つまり黒いお姫様を殺すことさえできれば赤いお姫様がどれだけ強くても魔女の勝ちなのです。
 魔女はメラメラと燃える炎に背を向けて、このまま赤いお姫様が消えるのを待つか、それとも赤いお姫様に契約を持ち掛けて狼男の代わりに赤いお姫様を使い魔にするか考え始めました。
 だからこそ、魔女は燃え盛る炎の中から火傷一つない綺麗な腕が伸びてくることに気がつきません。
 炎から伸びた手からぼうっと灯った炎が放たれます。もちろん、その炎が向かうのは考え事をしている魔女の元。
 炎が触れると同時に黒いお姫様の時と同じ様に一瞬で魔女の体を炎が包み、叫び声が響きます。
 チリチリと焼ける真っ赤な視界の中、振り返った魔女は驚いて目を見開いてしまいました。
 それもその筈、炎の罠の中からは衣服すら焦げ跡一つない黒いお姫様が姿を現したのです。
 なんと、黒いお姫様は炎を操れる凄いお姫様だったのでした。炎を自在に操れるお姫様は同時に炎に対しても頑丈で、ちょっとやそっとの炎なんてへっちゃらです。
 黒いお姫様を追い詰めた怖いお兄さんの炎ならまだしも、魔女の仕掛けた罠程度ではなんどもありません。そんな事など分かる筈もない魔女は、そのまま燃え尽きて黒焦げになってしまいました。
 どこからか狼の苦し気な鳴き声が響きます。黒いお姫様が死んでしまえば赤いお姫様がこの世界にいられない様に、魔女がいなければ狼男だってこの世界にはいられません。
 こうして悪い魔女と狼男は黒と赤のお姫様によって無事に退治されたのでした。


859 : 我楽多輪舞曲(煉華&アーチャー) ◆5A9Zb3fLQo :2021/06/21(月) 21:18:19 YO8kxA560



 悪い魔女を倒した二人のお姫様が家の帰り道を歩きます。

「これで聖杯に近づいたんだよね?トリスタン」
「ええそうね、煉華。アナタのパパに愛してもらえるまで一歩前進よ」

 黒いお姫様・煉華の問いに赤いお姫様・妖精騎士トリスタンはニッコリ笑って応えます。
 トリスタンの『聖杯戦争に優勝し、聖杯でパパに愛して貰える様に願えばいい』という提案に煉華はすぐに乗りました。
 お父さんだけが全てであったのにそのお父さんに捨てられてしまった煉華には、それ以外の手段なんて考えられなかったのです。
 煉華は人を殺す事が好きという訳ではありませんが、だからといって嫌いでもありません。お父さんに喜んで貰えるのなら、愛して貰えるのならいくらだって殺してしまえます。

「えへへ、待っててね。パパ♪」

 誕生日のプレゼントが待ちきれない子供の様に浮かれる煉華を見て、トリスタンは意地の悪い笑顔を浮かべます。
 トリスタンが煉華に聖杯戦争への参加を勧めたのは決して親切からではありません。
 ただ、聖杯戦争に切実な願いを持って挑もうとする他の参加者を踏みにじって遊びたいのです。
 なんとトリスタンはお姫様でありながら人や妖精を虐めて喜ぶ、とてもとても悪い魔女だったのでした。
 トリスタンにとっては煉華が願いを叶えることだってどうでもいいのかもしれません。だって彼女には願いなんて――。

“くだらない■■も、弱っちい■■も、みんなみんな殺してやる! 見ていて■■■……私、今度こそ■■になってみせる!”

 ――少なくとも『今』の彼女には聖杯にかける願いなんて、ないのですから。


 聖杯戦争の舞台に降り立った二人のお姫様がくるくると輪舞曲を踊ります。
 赤いお姫様が琴を爪弾き繰々(くるくる)と。
 黒いお姫様が炎を灯して狂々(くるくる)と。
 くるくるくるくる。
 ぐるぐるぐるぐる。
 花の様に嗤いながら、お姫様達はタップを刻んで回ります。

 さて、最後に舞台に立っているのは、一体だぁれ?


860 : 我楽多輪舞曲(煉華&アーチャー) ◆5A9Zb3fLQo :2021/06/21(月) 21:19:33 YO8kxA560
【クラス】
 アーチャー

【真名】
 妖精騎士トリスタン@Fate/Grand Order

【ステータス】
 筋力A 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具E

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
 対魔力:EX
 決して自分の流儀を曲げず、悔いず、悪びれない妖精騎士トリスタンの対魔力は規格外の強さを発揮している。

 騎乗:A
 何かに乗るのではなく、自らの脚で大地を駆る妖精騎士トリスタンは騎乗スキルを有している。

 陣地作成:A
 妖精界における魔術師としても教育されている為、工房を作る術にも長けている。

【保有スキル】
 グレイマルキン:A
 イングランドに伝わる魔女の足跡、猫の妖精の名を冠したスキル。
 妖精騎士ではなく、彼女自身が持つ本来の特性なのだが、なぜか他の妖精の名を冠している。

 祝福された後継:EX
 女王モルガンの娘として認められた彼女には、モルガンと同じ『支配の王権』が具わっている。
 汎人類史において『騎士王への諫言』をした騎士のように、モルガンに意見できるだけの空間支配力を有する。(マナの支配圏)
 
 妖精吸血:A
 妖精としての本来の姿である■■■■■・■■としてのスキル。
 他者の血液を経口摂取することで体力・負傷状態と魔力を修復する。

【宝具】
 『痛幻の哭奏(フェッチ・フェイルノート)』
 ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:無限 最大捕捉:1人
 対象がどれほど遠く離れていようと関係なく、必ず呪い殺す魔の一撃(口づけ)。
 相手の肉体の一部(髪の毛、爪等)から『相手の分身』を作り上げ、この分身を殺すことで
 本人を呪い殺す。ようは妖精版・丑の刻参りである。
 また、フェッチとはスコットランドでいうドッペルゲンガーのこと。

【weapon】
 琴をつま弾くことで発生させる真空の刃、また琴から伸びる糸を張り巡らせ操作することで相手の動きを高速することも可能。
 モルガンから習った魔術とベリル・ガットより習った魔術。

【人物背景】 
 妖精達の暮らすイギリスの異聞帯出身のサーヴァント。
 異聞帯を取り仕切る女王モルガンの養子にして汎人類史の円卓の騎士・トリスタンの名を与えられた妖精騎士。
 だが、その性質は名の元になったトリスタンとはに憑かず残虐・酷薄・悪辣・傲慢の四拍子が揃った刹那的快楽主義者。
 女王モルガンが弱者を虐げた時のみ彼女を褒めていたという学習経験があったこともあって弱者を弄び踏みにじる行為を『楽しい事』と認識している。
 懇意にしていたクリプターのベリル・ガットから汎人類史の文化を聞かされており、その中でも靴(ヒール)の魅力にとりつかれ、カッコいい靴を作るという目標も持っている。

【サーヴァントとしての願い】
 他の弱者(=参加者)をいたぶり踏みにじる


861 : 我楽多輪舞曲(煉華&アーチャー) ◆5A9Zb3fLQo :2021/06/21(月) 21:20:08 YO8kxA560
【マスター】
 煉華@烈火の炎

【マスターとしての願い】
 パパに愛して貰う

【weapon】
なし

【能力・技能】
 炎を操る炎術師としての能力を持ち、針状にした炎や特大の炎の塊を放つことが可能。また、炎に対しての耐性も持つ。
 
【人物背景】
 森光蘭によって「自分の命令に絶対に逆らわない紅麗」というコンセプトによって作られたクローンの成功体。紅麗と恋人の紅の細胞を掛け合わせて作られており、紅麗の炎術師の力を発現させている。便宜上は紅麗の妹という扱い。
 森光蘭をパパと認識しており、彼のいうことには絶対服従。関係としては森光蘭を一方的に慕っておりオリジナルである紅麗とは真逆に友好的。
 性格は無邪気で精神年齢に幼さを感じるところはあるが。森光蘭にとって都合のいい存在として教育を受けていることもあって殺人等には忌避がなく、また癇癪を起すと人形の首を引きちぎるなど猟奇的な物への当たり方をする。
 また、自身をクローンと認識していると同時にそれがコンプレックスとなっている。紅麗に殺意を向けていたが返り討ちにあい格の違いを見せつけられて戦意を喪失。森光蘭に助けを求めると失敗作と罵られなが彼女にやどる炎術師の能力だけを目的に吸収されてその命を終える。
 本作では原作死亡後からの参戦。

【方針】
 優勝狙い。邪魔する悪いやつは皆殺し。


862 : ◆5A9Zb3fLQo :2021/06/21(月) 21:20:57 YO8kxA560
以上で投下を終了します。


863 : ◆As6lpa2ikE :2021/06/21(月) 23:43:07 RBTs87Y20
投下します


864 : 終わらない歌 ◆As6lpa2ikE :2021/06/21(月) 23:44:09 RBTs87Y20
首都高速道路(シュトコー)。
日本の中枢にして国家の心臓である東京が、都市としての機能を果たす上では欠かせない交通機関である。そんな国家の大動脈は、今日も平時(いつも)と変わらず、自身の役割を果たしていた。
時刻は夜に突入していたが、首都高を見渡せば運搬車(ワゴンカー)に旅客車(タクシー)、貨物車(トラック)といったいくつもの車がアスファルトの上を通り過ぎ、ヘッドライトで光の尾を描いている。ある車は荷物を配達し、ある車は人を彼方から此方へと輸送していた。中には夜景を眺めながらのロマンチックなドライブだけを目的に、そこを走っている者もいるだろう。なんらかの理由で家に帰りづらく、逃げるように首都高を駆けている者もいるかもしれない。走る車が様々なら、それらが抱える事情も多様だった。
その光景からは──どんな理由であれ、走行(はし)ることが目的なら、誰でも受け入れる。
そんな懐の深さが、首都高にあるように感じられた。

「名前は違っても変わらねーな、ここは」

 首都高(シュトコー)を走る車のうちの一台、オープンカーの運転席でハンドルを握っている男は呟いた。
 首都高速道路という、都民どころか日本国民なら誰もが知っている交通網の名は、彼の知識になかった。だが首都高(シュトコー)がおりなす蜘蛛の巣めいた模様や、カーブの角度、タイヤがアスファルトを切りつける感覚、なにより高速で走行(はし)る自分を抱擁してくれる向かい風は、彼が知る別世界の東京の高速道路である帝都高速道路──帝都高(テトコー)と比べて、寸分の違いも無かった。
その事実を認識して、男は口元に笑みを浮かべる。その表情ひとつだけで乙女のハートをダース単位で射貫けそうなほどに、彼は整った顔立ちをしていた。松の葉のように長い睫毛で飾られた瞳は玲瓏であり、それに加えて目元には泣きボクロ。老若男女問わずあらゆる他者から好かれそうな優男(イケメン)である。そんな人物が黒スーツに身を包んでいるのだから、何の事情も知らずに彼を見た者は、新宿歌舞伎町のクラブを根城(ホーム)とするホストだと思うだろう。
 だがそれは勘違いというやつだ。
 男の根城(ホーム)は──聖地(ホーム)は、歌舞伎町ではなくここ、都市高速道路である。
 それに彼はホストでもない。
 人理に名を刻んだ英霊(サーヴァント)だ。
 英霊(サーヴァント)、役職(クラス)は騎兵(ライダー)。
殺島飛露鬼。
それが彼の名前だった。

「で──どうですかマスター。ドライブの感想は」

 言って、ライダーは隣の助手席を見た。そこには彼がマスターと呼ぶ男が、ふんぞり返るような姿勢で座っていた。
 名を志々雄真実と言うその男は、全身を包帯で覆っており、まるでミイラみたいな格好になっている。包帯の隙間から少しだけ見える肌は醜く焼け爛れていた。彼は全身に重度の火傷を負っているのだ。百人が見れば百人全員が言葉に詰まりそうなほどに痛々しい外見であり、聖杯戦争にマスターとして参加するどころか、こうして高速道路をドライブことさえドクターストップがかかりそうである。しかし、そのような状態にありながらも、彼の双眸に宿る光は凶暴な色を湛えていた。自分は死を待つ惰弱な怪我人ではなく、弱者の肉を食らう強者であると、瞳だけで雄弁に語っているかのようである。


865 : 終わらない歌 ◆As6lpa2ikE :2021/06/21(月) 23:47:26 RBTs87Y20
「悪くねえ」

 志々雄は愉快気に口角を上げた。
 いや、彼が愉快に思っているものは他にもあった。
 聖杯戦争──複数の主従が殺し合い、最後に残った一組のみが万能の願望器を手にする、バトル・ロワイアル。
 緋村剣心と繰り広げた文字通りの熱闘の末に死亡し、死後の世界で地獄の国盗りに出ようとしたところで突如、未来の日本に連れてこられた時、志々雄は無粋なマネをされたと思ったが、弱者が蹴落とされ、強者が勝ち上がるという、まさに『弱肉強食』の概念をこれ以上なく端的に表した戦いがあることを知って、彼がそれを気に入らないわけがなかった。
 
「方治たちはここまで付いてこれなかったようだが……仕方ねえな。土産に聖杯を手に入れて、国盗りに戻ればいいだけだ」

 自分の勝利を微塵も疑っていない口調で、志々雄は言った。
 その時、ライダーは気が付いた──背後に現れた車の存在に。
 
「ん……」

 不審(あや)しい。
 極道としての勘か、それとも英霊(サーヴァント)になったことで他の英霊(サーヴァント)の存在に敏感になったのか──一見普通の車に見えるそれは、ライダーにとって獣が潜む檻のように感じられた。
 聖杯戦争は既に始まっており、主従同士の戦いの火蓋は、都内各所で切られている。
 もちろん、この首都高(シュトコー)も、例外ではない。
 
「どこかから尾行(つ)けられてたか? それとも偶然(バッタリ)遭遇しちまったのか? どっちにしろ、こんな時に敵が出てくるなんてなァ〜……」

 唐突に現れた敵に、不満を隠さないライダー。一方、志々雄は余裕のある佇まいを崩さないまま、次のように言った。

「なあに、ちょうどいいじゃねえか──ライダー、おまえの実力を見せてもらうぜ」

「了解(ウッス)」

 ライダーは懐に片手を突っ込んだ。すぐに引き抜かれた手に握られていたのはピストルだった。現代社会で携行が禁止されている凶器を、まるで煙草やライターのように取り出したライダーは、後ろに振り返ってその引き金を躊躇なく絞った。もちろん、現代の車の操縦知識なんてないであろうマスターにハンドルを渡してしまうことが無いように、もう片方の手で運転を続けながら。
 銃声がふたつ。黒光りする銃口から放たれた弾丸は、首都高(シュトコー)空中の須臾の旅を終えると、アスファルトで一度跳ね、背後の車のガソリンタンクに突入した。
 いったい誰が信じられようか。ライダーは魔術でなければ、加護でもなく、ただ単純な跳弾技術だけで、『高速で走り続ける車の一か所に目掛けて、弾丸を滑り込ませる』という神業を成し遂げてみせたのである。
これぞライダーが極めし技術──その名も。

「極道技巧(スキル)『狂弾舞踏会(ピストルディスコ)』!」

直後、轟音が鳴り響く。背後の車が糸を引いたクラッカーのように弾けた。マスターとサーヴァントのものと思しき生首が、夜空に放物線を描いて飛んで行った。まさかガソリンタンクを即座かつ精密に狙われ、爆破されるとは思っていなかったのだろう。何が起きたのか分からないまま、避ける暇もなく即死したはずだ。
 爆炎に照らされる首都高(シュトコー)を見て、ライダーは懐かしい気持ちになった。
 いまの彼の脳裏には生前の記憶が蘇っているのだ。
暴走族(ゾク)の仲間たちと共に帝都高(テトコー)を走り抜けた日々を。
暴走の邪魔をした機動隊を血祭りにした毎日を。
警察(サツ)の目を逸らすために何百もの家を燃やした日常を。
懐かしさで絶頂(たまらな)い気分になりながら、ライダーはピストルの銃口から立ち上る煙を吹いた。
 口づけをするようなその仕草は、やはりサマになっていた。


866 : 終わらない歌 ◆As6lpa2ikE :2021/06/21(月) 23:47:51 RBTs87Y20
【クラス】
ライダー

【真名】
殺島飛露鬼@忍者と極道

【属性】
渾沌・悪

【ステータス】
筋力E 耐久C 敏捷B+ 魔力E 幸運D 宝具D++

【クラススキル】
騎乗:C++
乗り物を乗りこなす能力。暴走族神(ゾクガミ)であるライダーが『暴走』を目的とする騎乗をおこなった時、このスキルの効果は増幅する。

対魔力:E
魔術に対する抵抗力。ライダーは現代の英霊であるため、このスキルを最低ランクで所有している。

【保有スキル】
暴走族神(ゾクガミ):EX
カリスマの派生スキル。国家の運営ではなく、不良(ヤンキー)を率いた暴走行為時にこのスキルの本領は発揮される。その際にライダーはもはや神性に近いカリスマを獲得する。
ライダーは不良(ヤンキー)界の神性(カリスマ)である。その絶大なカリスマを発揮すれば、一本の電話をはじまりに、全世界の五万人の悪童(ワルガキ)の心に火をつけることすら可能となる。
また平常時であっても、彼はその美麗な風貌と人に好かれやすい性質(タチ)から、他者の好意を集めやすい。

射撃:B+
銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技巧。ライダーは跳弾を用いた立体的な弾道で敵を追い詰める極道技巧(スキル)『狂弾舞踏会(ピストルディスコ)』を得意とする。

地獄への回数券(ヘルズ・クーポン):-
ペーパードラッグ『天国への回数券(ヘブンズ・クーポン)』の改悪版。服用することで筋力、耐久、敏捷、射撃スキルのランクが著しく上昇する。

【宝具】
『暴走師団・聖華天』
ランク:D++ 種別:対軍宝具 レンジ:337800 最大捕捉:100000

 ライダーと仲間たちの『暴走(ユメ)』の再現。
ライダーが生前率いていた最凶の暴走族グループ『聖華天』の構成員(メンバー)を“”召喚(よ)“”びだす。全盛期には十万人を超える規模だったこの集団(グループ)は、当時の機動隊すら圧倒し、東京の都市高速道路を恐怖に陥れたほどの戦力を持つ。聖華天は構成員全員がライダーに熱狂的な信仰を抱いており、ひとたび彼が招集をかければ、ひとりも欠けずに召喚に応じることだろう。

【wepon】
拳銃(チャカ)

【マスター】
志々雄真実@るろうに剣心

【weapon】
・無限刃
志々雄の愛刀である最終型殺人奇剣。予め無数の細かい刃毀れがあり、そこに人間の油が沁み込んでいる。刀を振って刀身が鞘などと摩擦を起こした際に発火することが特徴。そこに志々雄自身の腕前が合わさることで最強最悪の秘剣が誕生する。

【能力】
桁外れの耐久力、極めて高い剣技と、戦士としては十全な戦闘能力を有している。
しかしながら、かつて全身に負った大やけどが原因で発汗機能を失っており、そのため体力調整が出来ず、戦闘によって体温が上がり続けると人体発火を起こして自滅してしまう。


867 : ◆As6lpa2ikE :2021/06/21(月) 23:48:05 RBTs87Y20
投下終了です


868 : ◆Il3y9e1bmo :2021/06/21(月) 23:49:35 0lDTt6jQ0
投下します。


869 : やる夫&バーサーカー ◆Il3y9e1bmo :2021/06/21(月) 23:51:09 0lDTt6jQ0
昼下がりの商店街。
緩く冷房の効いたコンビニのイートインスペースに、大量のジャンクフードが積み上げられていた。
肉まん、アイスクリーム、菓子パンにコーラ。
塩や脂肪が大量に含まれるそれを、周囲の目など気にせず熱心に胃の中に収める一人の男がいた。
いや、男――つまり人間というにはいささか奇妙な存在である。
まず、人を最も人たらしめるモノ、つまり服を着ていない。全裸である。
そして次に、肌の色と背格好が人のそれではない。全身白色でずんぐりむっくりの、いわゆる二頭身であった。
しかし、周囲の人々はそのような姿の彼に驚いたり、珍獣として警察に通報したりする様子はない。
彼の名は「ニュー速でやる夫」。姿が妙なら名前も妙だが、兎にも角にもそういう名前である。

やる夫は、生まれた時からそういう存在であった。
母親が白色の二頭身なら、友人のヴィップ・デ・やらない夫も白色の二頭身だった。
つまり、やる夫にとっては、聖杯によって導かれたこの世界の人間のほうが異常なのである。
しかし、さらに奇妙なことにやる夫はその頭身、肌色の違いを認知していないかのように振る舞っていた。
これはもう、聖杯がやる夫とこの世界を接続する際、両者の認識を都合の良いように捻じ曲げたのだと考えるほかなかった。

「ハフッ、ハフッ……。う、美味いお!」

奇妙な白饅頭のごとき生物――やる夫はイートインスペースに積み上げた最後のアイスクリームのちょうど蓋の裏まで舐め終え、下品なゲップを一発かました。

「ったく、無職のやる夫がいきなりこんな危ない世界に放り出されても困るお。こういう異世界転生の場合、金持ちの親のところに生まれてるはずだお?
 でもやる夫は界聖杯の中でも無職のままなんだお……。だから財布に残ってた虎の子の一万円でやけ食いするお!」

そう高らかに言い放ったやる夫は、メタボ気味な腹をゆすりながら椅子から降り、ふたたび暴食の限りを尽くすために食品を物色し始めた。

「しかし、やる夫のサーヴァントは何してるお? もうそろそろ金髪碧眼の鎧に身を包んだ美少女がやる夫のためにかしずいてくれるはずだお?
 この世界に来てからもう二時間も経つのに、音沙汰無しとはふてえ野郎だお! 許さんお!」

勝手に一人で喋り、勝手に一人で怒りに燃えたやる夫は、恨み晴らさでおくべきかという調子で特上ティラミスを棚にあるだけカゴに放り込んだ。
すると、やる夫の肩にそっと何者かの手が置かれた。それは次の瞬間、万力のような力が込められ、やる夫の肩に激痛が走る。

「あ、いや、これは……。独り占めしようとしたわけじゃないんですお……!」

コンビニの店員さんかガラの悪い客にティラミス独占を咎められたと思い込んだやる夫はすっかり萎縮し、震えながらそちらを振り向いた。

「――問おう。貴様が私のマスターか」

そこには、派手に胸元を露出した学生服に身を包んだ、青髪の美少女が凛っ!!と立っていた。


◆ ◆ ◆


小一時間後、街外れの剣道場。

やる夫はなぜか道場で正座させられていた。
相対するは先程彼のサーヴァントを名乗った美少女である。少女は目をつむり、ここに至るまで一言も言葉を発しない。
目の前の存在が発する圧にやる夫のノミの心臓は縮み上がりそうだったが、なけなしの勇気を振り絞って口を開いた。

「お、お前はやる夫のサーヴァントだお……? だったらさっさと他のマスターを皆殺しにしてくるお!」

すると、少女がカッと目を見開いた。あまりの覇気に道場の屋根で羽を休めていた鳥たちが一斉に羽ばたく。

「……ッ」

やる夫はここで軽く失禁した。
しかし、次にサーヴァントの少女が放った言葉はやる夫の予想をはるかに超えていた。

「――哀れなことだ」

「なっ、やる夫は哀れじゃないお! 無職童貞ヒキニートでも生きる権利はあるお!」

マスターとしての矜持から精一杯の抵抗を試みるやる夫。
だが、少女はそれを無視して続ける。

「貴様もかつては清く正しい少年だったに決まっている。それが何か重大な挫折を経験し、このような堕落しきった身体と心を持ってしまったとしか考えられん」

少女は荒ぶる鷹のポーズを取りながら宣言する。

「親に見捨てられたか? 良き師に巡り会えなかったか? 友に裏切られたか?
 ――安心しろ。私が貴様を一流のマスターとして更生させてやる」

「なんだか猛烈に嫌な予感がしてきたお……」

ひとりごちるやる夫を他所に、少女は吠えた。


870 : やる夫&バーサーカー ◆Il3y9e1bmo :2021/06/21(月) 23:52:12 0lDTt6jQ0

「健全な精神は健全な肉体に宿る! まずはこの道場を雑巾がけ1万回だ!」

「くっ、そんなの死んでも断るお!」

やる夫はここでサーヴァントへの絶対命令権である令呪を、「道場の雑巾がけから逃れるために」一画使用した。

「ぐっ……。ぐぐぐ……」

やる夫の手の甲から発せられる魔力の輝きに応じ、少女の目から光が奪われる。

「ふふふ、ニート歴ウン十年のやる夫を舐めるんじゃないお。絶対に働かんお」

「――というとでも思ったか!?」

少女は凛っ!!という効果音でも出ているかのような、堂々たる佇まいで令呪に抵抗してみせた。

「この不肖黒神めだか、腐ってもバーサーカークラスのサーヴァントがそうやすやすと令呪ごときに従うとでも!?」

「えーっ、そんなのアリだお!?」


驚きながらもサーヴァント――黒神めだかのステータスを今更ながら確認すると、『狂化:E+++』というクラススキルが目に入る。

「このクラススキルのせいで令呪が効かないお……? く、くそっ! こうなったらもう『二画』使うお! 今度こそやる夫の手駒になるお!!」

――だが。

「あいにく、洗脳には生前手を焼いたものでな。私は、私には『見知らぬ他人のために生まれてきた』という信念がある限り絶対に折れん!!」

やる夫のやけっぱちは焼け石に水だった。


◆ ◆ ◆


「しかし、この聖杯戦争とやら、幾人もの猛者が集って戦う……ということは、無辜の住民に被害が及ばないとも限らないのか」

扇子を広げ、遅々として進まないやる夫の雑巾がけを見張っていた黒神めだかは急に当たり前のことを当たり前ではないかのようにつぶやいた。

「はん。どーせ名も無きNPC、2ちゃんねるでいうところの『名無し』だお。そんなの気にするほうがばかばかしッ――」

やる夫に鉄拳制裁を食らわせると、黒神めだかは何かを思案するように目をつむった。

「決めたぞ、マスター。私は、この聖杯戦争を『止める』」

「へ? な、ななな何を言ってるお? 聖杯戦争を止めたいサーヴァントなんて前代未聞だお!!」

「ふっ、当然、貴様にも協力してもらうぞ」

「やだおおおおおおおおおおおおおお!!」

やる夫の絶叫には耳も貸さず、黒神めだかはただただ『正しく』、凛としていた。


871 : やる夫&バーサーカー ◆Il3y9e1bmo :2021/06/21(月) 23:52:32 0lDTt6jQ0
----

【クラス】
バーサーカー

【真名】
黒神めだか@めだかボックス

【ステータス】
筋力:B+ 耐久:B+ 敏捷:B+ 魔力:E+ 幸運:E+ 宝具:A+

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
狂化:E+++
理性の代償として能力を強化するスキル。また、現界のための魔力を多めに消費する。
黒神めだかの場合は、一見理性があように見えるが、思考や言動に決定的な断絶が存在する。

【保有スキル】
カリスマ:A+
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる。
黒神めだかの場合はもはや魔力・呪いの類である。

専科百般:A+
桁外れの能力値により多くの専門的なスキルを習得している。
戦術・話術・学術・隠密術といった専業スキルについて、Aランク以上の習熟度を発揮できる。

動物避け:B+
本能的に動物に避けられてしまう。
獣属性を持つ対象に対して攻撃を行う際、常にクリティカルが発生するようになる。

【宝具】
『完成(ジ・エンド)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
観察した他人のスキルを、本来の持ち主より使いこなし完成された状態で体現・会得できるという宝具(アブノーマル)。
サーヴァントの宝具であろうがマスターの異能であろうが、能力(スキル)であれば何であろうと体現・会得できる。
完成に近づくたびに雪だるま式にかさんでいく消費魔力量に目をつむれば、理論上全ての力を使いこなせる最強のサーヴァントである。

【weapon】
基本的には徒手空拳だが、場合によっては武器も使いこなせる。

【人物背景】
箱庭学園第98・99代生徒会長。1年13組。10月2日生まれ。
多方面に際立った才能の持ち主で、容姿端麗・才色兼備に加え身体能力にも優れ、実家は冗談みたいな大金持ちである。
「見知らぬ他人のために生まれてきた」という信条をもとにし、学園に設置した目安箱で誰からの相談も24時間365日受け付けている。

【サーヴァントとしての願い】
全ての参加者のために、聖杯戦争を『止める』。


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【マスター】
ニュー速でやる夫@やる夫スレ

【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れる。
叶えたい願いは多すぎて決めきれていない。

【能力・技能】
特になし。強いて言うならウザさ。

【人物背景】
みなさんご存知、旧2ちゃんねるニュース速報板の元祖煽りAAキャラ。
無職童貞ヒキニートと救いようのない存在だが、慣れると妙に愛嬌がある。
「〜だお」が口癖。

【方針】
どうにかしてバーサーカーに参加者を皆殺しにしてもらう。
マスター殺し? 魔力切れ? 知らんお。

【備考】
令呪を全て消費しました。


872 : ◆Il3y9e1bmo :2021/06/21(月) 23:52:47 0lDTt6jQ0
投下を終了します。


873 : ◆guEdDLjhbU :2021/06/22(火) 01:51:10 z7cxdlOE0
投下します。


874 : ◆guEdDLjhbU :2021/06/22(火) 01:52:08 z7cxdlOE0
 気付いたときには視界が歪んでいた。滂沱とあふれる涙を止めるすべを持たず、ちいかわは幼児のように手足をばたつかせた。とある平日の昼下り、都内の生活福祉課でのできごとだった。
 対応に当たっていた職員の女が、当惑をありありと示しながらも駄々をこねるちいかわを宥めるべく手をのばすが、それすら煩わしい。ちいかわはただ嫌、嫌とだけ叫んで女の手を振り払った。周囲の視線が、ちいかわへと集中する。
 ちいかわはただ、生活保護の受給資格がほしかった。なんの資格も持たず、ろくな収入もないちいかわに、国は手を差し伸べてくれると信じて疑わなかった。けれども、現実は非常だった。ちいかわには、この世界において生活に困窮しない程度の住宅が与えられていた。固定資産を持っている以上、生活保護の受給対象とはならない。

「あの、大変恐れ入りますが」
「イヤッイヤッ」
「受給資格がない以上、わたくしどもとしてもご対応できかねますので」
「ヤダーッヤダーッヤダーッ」
「お引取り願えますでしょうか」

 女の言葉になど聞く耳を持たない。持ちたくない。

「警備員を呼びますよ」

 ちいかわは涙で濡れた顔を上げた。きゅっと唇を結ぶと、人間用の椅子から勢いよく飛び降り、走り出す。赤子のように泣きじゃくりながら、ちいかわは施設を飛び出した。


875 : ◆guEdDLjhbU :2021/06/22(火) 01:52:34 z7cxdlOE0
 今は、誰とも話したくなかった。脇目も振らず、あてのない道を走り続けた。猥雑な都会の人混みを抜け、車の行き交う大通りに踊り出た。甲高いクラクションの音が鳴り響いた。

「アッ……ワァ」

 ちいかわは尻もちをついて、ぽかんと口をあけた。間抜けな声だけが小さく漏れる。体が動かない。
 突然飛び出したちいかわを避けようとハンドルを切った車が、反対車線の車と激突したのだ。鉄同士が勢いよくぶつかる鈍い音が連続して響く。最初に事故を起こした車に巻き込まれるかたちで、後続の車両が玉突き事故を起こしていた。
 もうもうと立ち込める白煙を、ちいかわは他人事のように見上げていた。周囲が騒ぎ出したところで、涙がまた溢れ出した。

「アッ……アッ……」
「大丈夫?」

 ただ震えるだけしかできないちいかわを抱き上げる少女がいた。金髪の綺麗な女の子だった。きっと、ちいかわよりも年下だ。女の子は、涙を流しながら首を横に振るちいかわに優しく微笑みかける。

「いこ!」

 女の子に抱かれ、ちいかわは騒然とした事故現場をあとにした。非常な現実からちいかわを連れ出してくれる天使が現れたと、ちいかわはそう思った。



「へえ、じゃあ、ちいかわも聖杯戦争に挑むんだあ」
「フ!!」

 女の子に問われたちいかわは、意気揚々と頷いた。
 ちいかわには、草むしり検定の五級に合格したいという大きな夢があった。過去に二度落ちた検定試験だが、聖杯の力があれば、きっと合格できるに違いない。


876 : ◆guEdDLjhbU :2021/06/22(火) 01:53:22 z7cxdlOE0
 
「私にも、夢があるんだ」
「わぁ……」
「ママ、病気なの。お医者さんも、もう長くないって」
「アッ……ウ……」

 返答に窮したちいかわは、震える声でうめいた。

「パパは、いつもママをいじめてるの。昼間は叩いたり、蹴ったり。夜は、お布団の上で泣いてるママにむりやりプロレスごっこをさせたりするのよ。ママは、いっつも泣いてるの。自分だってつらいのに、パパから私を庇って……私のために、涙を流してくれるの。だから、聖杯にお願いすることにしたの。ママの病気を治して、パパを優しかったころに戻してって」
「アッ……ワァ……ウ……」

 ちいかわは静かに涙を流した。自分よりも幼い女の子が、自分と同じくらいつらい境遇に立たされている。いたたまれない気持ちに駆られ、ちいかわはただ、泣いた。

「泣かないで、ちいかわ。私、みんなに笑っていて欲しいの」
「ア……ウン……」
「それに、ちいかわにも夢があるんだもんね。私、ちいかわの夢も応援したいわ。だから、一緒にがんばろ!」
「フ……!!」

 涙をぬぐい、ちいかわは決然と頷いた。
 負けてはいられない。女の子の屈託のない笑顔を見ているうちに、ちいかわはそう思った。すっくと立ち上がったちいかわは、愛用のくまのポシェットから、油性のマジックペンを取り出した。
 今、この場に召喚陣を描き、サーヴァントを呼び出したい。けれども、複雑な召喚陣を、ちいかわひとりで描くのは無理だ。ちいかわは、自分の代わりに召喚陣を描いてくれる優しい誰かが現れるのを、ずっと待っていた。

「えっ、ここでサーヴァントを召喚するの」

 ちいかわはコクンと頷いた。

「それは推奨いたしません」
「ワァ……!」

 どこからともなく現れた鎧騎士の声に驚いたちいかわは、素っ頓狂な声を上げて転んだ。屈強な体つきの騎士は、倒れたちいかわに手を差し伸べる。


877 : ◆guEdDLjhbU :2021/06/22(火) 01:53:56 z7cxdlOE0
 
「失礼。私はセイバー……彼女のサーヴァントにして、誇り高き聖騎士です」
「ねえセイバー、推奨しないってどういうこと」
「白昼堂々、このような公共の場でサーヴァントを召喚するのはあまりにも目立ちすぎる。召喚を行うなら、人知れず行うべきです」
「確かにそうね、セイバー。けど、あなたはそれでいいの? ちいかわも敵になるかもしれないのよ」

 白く輝く歯を見せて、セイバーは力強い眼差しをちいかわへ向けた。

「彼は、マスターが盟友に選んだ相手。ひとりの騎士として、マスターの判断を信じることになんの迷いがありましょうか。それになにより、彼の者には夢がある。夢はいいものだ。私は、あまねくすべての民の夢を守りたい。そう願って、騎士になったのです。その願いは、サーヴァントになったとて変わるものではない」

 ちいかわは、セイバーの手を取り、起き上がった。

「盟友、ちいかわよ。私にできることがあれば、なんでも申し付けてほしい。盟友の願いとあらば、このセイバー、聞き届けるに些かの躊躇いもありはしない!」
「ア……ワァ……!」

 ちいかわは涙を流して喜んだ。



 都内の雑木林に、セイバーは召喚陣を描いた。ちいかわが十人は寝転べるほどの大きさの巨大な陣だった。触媒はない。だけれども、ちいかわには聖杯から与えられた令呪がある。召喚は必ず成功するという確信があった。

「――ヤヤ〜ン……パパ……ルパルパ……」
「――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ」

 上機嫌で歌うちいかわに続いて、女の子が召喚の口上をすらすらと口にする。すべての詠唱が完了すると、召喚陣を中心として吹き荒れたエーテルの輝きが、ちいかわの視界を埋め尽くした。またたく間に、なにも見えなくなった。召喚が成功したのかどうか、それすらもわからない。

 ――FINAL VENT――

 聞き馴染みのない電子音が鳴り響いた。

「エッ……?」

 薄く目を開ける。頭上に輝く満月が、尖った牙をむいて屹立する巨大な紫のコブラの姿を照らし出していた。


878 : ◆guEdDLjhbU :2021/06/22(火) 01:54:22 z7cxdlOE0
 
「ワ……!」

 一瞬ののち、紫の鎧騎士がセイバーへと蹴りかかった。最初の一撃を腰に提げた大剣で受け止めたセイバーだったが、右、左、右、左と連続で叩き込まれる蹴り足に、セイバーの姿勢が徐々に崩れてゆく。

「ハァァアアアアッ!」
「ぐ……ゥ、おのれ……!」

 紫の足が、セイバーの大剣を弾き飛ばし、胸元の装甲に突き刺さった。蹴りは止まらない。乱暴な蹴り足が、セイバーの鎧を砕き、その屈強な体を蹴り飛ばす。相当な重量を誇るセイバーの体が、安っぽい人形のように吹き飛んだ。

「ぐァアアアアア――ッ!」

 セイバーは、背を近場の木の幹にしたたかに打ち付けて、その場にどさりと落ちた。胸部装甲は既に粉々に砕かれ、鎧のていを成していない。血まみれの肉体が、まるで酸でもかけられたように焼けて煙をあげていた。

「ゴ……フ」
「セイバーーーッ!!」

 血反吐を吐いて項垂れるセイバーに、女の子が駆け寄る。

「ア……ワ……ァ!」

 ちいかわが呼び出した紫のサーヴァント――仮面ライダー王者は、セイバーが取り落した剣を拾い上げた。ブンと頭上に振り上げて、悠然と歩を進める。その光景を、ちいかわはただ涙を流して見守ることしかできなかった。

「ち、ちい……かわ……、令呪を、使……この、サーヴァントを……制御――ぐぼォアァッ」

 セイバーの声が途切れる。王蛇が、大剣をセイバーの腹部に叩きつけたのだ。王蛇は狂った獣のように、嗤い声をあげて大剣を叩きつける。何度も、何度も、セイバーの腹部の鎧が壊れるまで。


879 : ◆guEdDLjhbU :2021/06/22(火) 01:54:46 z7cxdlOE0
 
「ワァ……」

 ちいかわは、尻もちをついて泣いた。体が動かなかった。

「お願い、ちいかわ! 令呪を使って!」
「ヤ……イヤ……ッ」

 ふるふると首を振って、ちいかわは泣き声をあげる。怖い。なにもできない。ここまで世話をしてくれたセイバーがなぶり殺しにされようとしているという、その事実がちいかわの足をすくませた。ちいかわを見る女の子の目が、失望に染まった。

「ワァ……ァ……」

 大剣が、セイバーの胴体を寸断した。霊基を完全に破壊されたセイバーが、霊子と化して、霧散してゆくのにそう時間はかからなかった。あとには、地に顔を伏せて泣きじゃくる女の子の声だけが響いた。

「ウ……ワァ……ワァ〜〜〜ン!」

 負けないくらい、ちいかわは声を上げて泣いた。女の子の夢を思うと、可哀想で、つらくて、泣かずにはいられなかった。せめて、女の子のぶんまで、この不条理を世界に訴えよう。そう思い、ちいかわは泣いた。

「なンでお前が泣いてる」
「ウ……エッ!? エッ!?」

 王蛇の蹴りが、ちいかわの小さな胴体にめり込んだ。胃の中身が一気に逆流し、口から吐き出される。ちいかわはサッカーボールのように転がり、もんどり打ってうずくまる。

「ア……ァ……イヤ……イヤ……!」

 痛い。つらい。助けて。ちいかわは手を伸ばした。女の子だけは、ちいかわの味方でいてくれると思った。
 ちいかわが顔を上げたとき、もう、女の子はいなかった。裏切られたのだと、ちいかわは悟った。結局、あの女の子も、自分の身が可愛くて逃げ出したのだ。女の子の分まで、あんなに涙をながしてあげたのに。

「ア……ワァ……ワァァ……」

 信じていたものに裏切られた。その悲しみが、ちいかわの心を苛む。蹴られた体も痛いが、今は内側からきゅうと胸を締め付けられる痛みのほうが苦しかった。
 王蛇は変身を解除した。ちいかわのサーヴァントは、ヘビ柄のジャケットを羽織った金髪の男だった。男は口元をにいと三日月状に歪ませると、ちいかわの耳を掴み上げ、木の幹に叩きつけた。

「ワ……ッ!?」
「あまり俺をイライラさせるな」
「ワ……エッ……ワ……ッ!」

 恐怖のあまり、ちいかわは脱糞した。小水も漏らした。
 その先に待っているのは、終わりのない暴力だった。生身のサーヴァントの拳が、ちいかわの顔に、胴にめり込む。ちいかわがいくら泣きわめいても、暴力がやむことはなかった。
 際限のない暴力に晒されながら、ちいかわは泣いた。悲しくて、哀しくて、ただ泣いた。


880 : ◆guEdDLjhbU :2021/06/22(火) 01:55:16 z7cxdlOE0
 
【クラス】
 バーサーカー

【真名】
 浅倉威@仮面ライダー龍騎

【パラメーター】
 筋力B 耐久C 俊敏D 魔力E 幸運D 宝具D

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
 狂化:B-
 理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
 常に殴るか殴られるかしていなければ平常ではいられない。

【保有スキル】
 戦闘続行:C
 名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。自身にガッツ状態を付与する。

 獣化:B
 人を捨て、獣へと至るスキル。
 浅倉威に道徳はない。人の心を捨て去り、ただ欲望の赴くままに振る舞うのみ。
 戦闘中、高揚すればするほど、全パラメーターにステータス補正が得られる。

 自由なる闘争:EX
 戦うためだけに戦い続ける狂戦士。
 戦闘においてはクリティカル率とクリティカル威力がアップする。

【宝具】
『希望を喰らう蛇の王(ユナイト・ジェノサイド)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1
 自らが命を奪った仮面ライダーから契約モンスターを奪い取った逸話からなる宝具。
 バーサーカーが参戦している戦場で敗退した他サーヴァントの宝具を奪い取り、自らのアドベントカードとして所有する。
 ただし、奪い取った宝具の真名開放はできず、元々の神秘が濃いほど、パラメーターはランクダウンする。
 また、ユナイトベントを発動することで、自らの契約モンスターの戦力として取り込むことができる。この方法で取り込まれた能力は、戦闘終了後、元のカードへ戻る。
 
【人物背景】
 戦うためだけに戦い続ける狂人。連続殺人鬼。
 常にイライラしており、暴力を振るうか振るわれるかしていなければ気がすまない。
 仮面ライダー龍騎劇中において、最も多くのライダーを仕留めた最凶のシリアルキラー。

【サーヴァントとしての願い】
 戦い続ける。


881 : ◆guEdDLjhbU :2021/06/22(火) 01:56:01 z7cxdlOE0
 

【マスター】
 ちいかわ@なんか小さくてかわいいやつ

【マスターとしての願い】
 草むしり検定五級に合格する。

【能力・技能】
 いっさいなし。無能ここに極まれり。
 
【人物背景】
 なんか小さくてかわいい小動物のような生き物。
 よくハチワレと一緒に行動しているが、自発的にはなにも行動できない。
 一応日雇いで生活しているが、資格がないので給料は安い。

【方針】
 自分のことしか考えられないちいかわと、自分の欲望のためだけに戦う浅倉威。
 浅倉は、苛立ちを発散するべくちいかわへと暴力をふるい続ける。死なない程度に。

【備考】
 基本言葉がしゃべれないので令呪があっても命令できない。


882 : ◆guEdDLjhbU :2021/06/22(火) 01:56:38 z7cxdlOE0
投下終了です。
タイトルは「ちいかわ&バーサーカー」でお願いします。


883 : 名無しさん :2021/06/22(火) 10:47:59 yVq/v7Vg0
投下乙です‼️‼️‼️
ちいかわちゃん😭💦ついにおもらししちゃった…(*/□\*)
それにしてもなんだか怖いサーヴァントに当たっちゃったね、ちいかわちゃん…
女の子のほうは家族をたすける前に死んじゃったwwww
怖いかもしれないけど、ちいかわちゃんはハチワレお兄ちゃんやヨロイさんみたいに優しい家族が助けに来てくれるからきっと安心だねっ🤗💓💓💓
聖杯戦争がんばれちいかわちゃん😂😂😂


884 : ◆/sv130J1Ck :2021/06/22(火) 18:21:30 BIbgTlcw0
混沌聖杯様からの流用ですが、投下します


885 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2021/06/22(火) 18:22:50 BIbgTlcw0
「これはどういうことかな〜」

黄昏時の高校の屋上で一人呟く少女。己が異常な事態に巻き込まれたのは直に判った。
腰に巻かれた数珠。其処に差し込んである“もの”が無い。
クマを連れて校内のし歩く三年も、地獄耳の中学生も居ない。
自分と同じ顔をした─────名前も立場も奪った─────片割れが何処にも居ない。
どうやら自分が半端無く面倒な事態に巻き込まれた事を少女は認識した。

「ノムラちゃんも捨てがたいけど〜。こっちも面白そ〜」

虚ろな眼で空を見上げる。仮想現実とは思えない、茜色の空。
視線を戻し、キョロキョロと周囲を見回す。

「それで〜〜サーヴァントは何処なのかな」

くるりとその場で一回転。次いで上を見上げて、下を見る。
校庭も見たが何も居ない。
その時、スマホがけたたましい音を立てた。携帯電話の電子音が世を席巻する前、電話といえば誰もが思い浮かべた音。通称『黒電話』の着信音。
番号も名前も表示されない『非通知』。この状況下でこの怪異、普通なら竦み上がるところだが、少女は至極当然の様に電話に出た。


886 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2021/06/22(火) 18:26:10 BIbgTlcw0
「もしもし〜」

「もしもし、私、メリーさん。今、貴女の後ろにいるの」

澄んだ幼い少女の声。感情の起伏を感じさせない声だった。

「ん〜〜〜」

全く動じず、少女は振り返る。死魚の如き眼には、何の感情の揺らぎも感じられない。
振り向いた先には誰も居ない。となる筈なのだが、少女の視界はしっかりと己がサーヴァントを捉えていた。

「随分と小さい子だね〜〜」

背後に居た幼女に話し掛ける。視線を下に向けなければ普通は気付かないだろう。幼女と言っても良いほどに幼く、しかもしゃがみ込んでいる為、かなり低い位置に幼女の頭は有った。

「怖がってくれないの?」

小首を傾げて尋ねる幼女に、少女も小首を傾げて返す。

「さとりは〜そういうの良く判らないんだ〜〜」

幼女の虚ろな瞳に驚きの色が宿る。

「お姉ちゃんと同じ名前だね」

「ん〜?キミのお姉ちゃんも〜さとりっていうんだ」

「そうだよ」

元気良く返ってくる幼女の返事に、頭を撫で撫でする。

「それで〜キミのお名前は〜〜?」

「私は古明地こいし。マスターのお名前は?」

「さとりは眠目(たまば)さとり。キミはボクのサーヴァントなんだね」

「そうでーす。私はマスターのサーヴァント。クラスはアサシン」


887 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2021/06/22(火) 18:28:53 BIbgTlcw0
アサシン─────諜報と暗殺に長けたサーヴァント。此れは当たりだと、聖杯から得た知識を基に、さとりは思う。このクラスは自分のやり方に有っている。
相手の事を知らなければ、さとりの『眼』は役に立たないのだから。

そんな事を考えていると、こいしの姿が視界から消えていた。

「ウソ〜〜」

流石に驚く。こいしの姿は確かに視界に収めていたのだ。それが僅かに意識を逸らした瞬間に消えていた。

「うんうん。やっぱり持ってるね。携帯電話」

ポケットの中に手を突っ込んで、こいしはさとりのスマホを取り出していた。

「興味有るの〜〜?」

「幻想郷じゃ誰も持ってなかったし」

「幻想郷〜〜?」

「私が居た処だよ。現実から消えた幻想の楽園」

さとりは茫洋と考える。つまりこの子は幻想。現実には存在しない存在なのだろうか?

「わたしは覚(さとり)。目を閉じたからお姉ちゃんみたいな事は出来ないけどね」

覚─────飛騨地方に伝わる妖怪。人の心を読み、怯んだ処を喰らうという。

「それってつまり君のお姉ちゃんは心が読めるってこと〜」

「そうだよー」

「へ〜。聞いてみたいな〜〜ボクの事〜。ボクの事を何て言うんだろうね〜」


888 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2021/06/22(火) 18:29:35 BIbgTlcw0



東京都で語られ出した都市伝説。


『消える女の子』
曰く、何気無く目をやった日本庭園の庭で見知らぬ幼い少女を見た。目を凝らした時には消えていた。

曰く、黄昏時の高校の校庭で、残っていた生徒が明らかに生徒では無い幼い少女を校舎の中に見た。直後に少女の居た場所を通った教員は誰とも遇っていないと語った。

曰く、巡回中の警官が、深夜の公園を歩いていたら、幼い少女とすれ違った。注意しようと振り返ったら消えていた。

『座敷童』
曰く、庭で子供が一人遊びをして居た。けれども明らかに『誰か』と遊んでいる様だった。気になった親が見に行くと子供が一人で遊んでいた。しかしその場には子供二人分の足跡が有った。

曰く、小学生達が野球をやろうとしたら、急に一人来れなくなった。其処へ最後にやってきた子供が同い年位の少女を連れてきた。
日が暮れるまで野球をやって、親が迎えに来た時にはその少女は消えていた。
誰も少女の名を知らず、顔も覚えておらず、只『其処にいた』事しか覚えていなかった。

『メリーさん』
曰く、唐突にスマホが黒電話の着信音を発した。番号は非通知。出ると幼い澄んだ少女の声でメリーさんと名乗り、今何処に居るのかを告げてきた。
何度も何度も同じ電話が掛かってきて、告げる場所は段々近づいてきている。
怖くなって壁に背を着けていると、いつの間にか壁から上半身を生やした幼い少女が顔を覗き込んでいた。



全て異なる都市伝説。然し、その全ての根が一つのものだとしたら………?


889 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2021/06/22(火) 18:30:11 BIbgTlcw0
「マスター。言われた通り外で遊んできたよ」

新都の住宅街の一室に、幼い澄んだ少女の声が響く。
薄く緑の掛かった灰色の髪、緑の襟の黄色い服を身に付けた、小学校高学年程の少女。顔に屈託無い笑みを浮かべた少女のその目は、奇妙な輝きを湛え、しかし虚ろに開かれていた。
この少女こそサーヴァント、アサシンのクラスとして聖杯戦争に召喚された超常の存在。

「お疲れ〜」

ふにゃふにゃと返ってくる少女の声。ふらふらと泳ぐ視線、ふわふわと彷徨う両手。死魚の様に虚ろな眼。
腰まで伸びる緑の長髪を揺らめかせ、マスターである少女は自身のサーヴァントと視線を合わせる。

「これで〜他のマスターは君を追うだろうね其処を利用していこ〜」

冬木市で語られ出した都市伝説の源はこの少女。通常は存在を秘匿するだろう自身のサーヴァントに、好きな様に振舞わせて怪異と為し、調査を始めた他のマスター及びサーヴァントを狩る為の布石。
出逢った時に、このアサシンの能力を知って考案した策だった。
“無意識を操る程度の能力”、視界に入らない限り存在感が無く、視界に入っても誰もいない様に思われ、認識されても、視界から消えれば即座に忘れ去られる。まるで路傍の小石の様に。
そんなアサシンを外で自由に振舞わせれば、即座に噂となって流布するだろう。通常ならば誰も気に掛けない─────アサシンの存在の様に。
然し、今は別だ。聖杯戦争に参加した者達なら、これがサーヴァント絡みの異変だと気付き、調査を開始し出すだろう。虎口に踏み入る行為と気付かずに。

「先ずは〜盗聴機だね〜。様子次第で、他のサーヴァントとぶつけたり、同盟を結んだり〜」

「つまり、楽をして勝ち残ると」  

「そうだよ〜。あ、盗聴器仕掛けるのも〜君の役目だから〜。やり方覚えておいてね〜」

 コクコクと、こいしは首を縦に振った。

「ねえマスター」

「なに〜」

此方の眼をアサシンが覗き込んで来る。見る者を不安にさせるアサシンの瞳の輝きを、マスターの少女は真正面から見返す。

「マスターは本当に、私のお姉ちゃんに会いたいの?」

「そりゃね〜。さとりの疑問に答えてくれるかも知れないんだよ」

眠目さとりの願い。“自分は何者なのかを知る”。さとりを知るもの全て、両親からも『化け物』呼ばわりされた自分は一体何者なのか?
それを知ることが出来るのなら、聖杯だろうが覚だろうが構わない。

「こいしちゃんは〜メリーさんを広めたいんだったね〜〜」

「うん。折角皆が電話を持ってるんだから、たくさんの人を怖がらせたいな」

「それじゃ、二人の目的に向かってガンバロー」

さとりが握り拳を天に突き上げる。

「ガンバロー」

こいしも拳を天に突き上げる。
緑の髪、虚ろな瞳。感情を感じさせない容貌と雰囲気。こうして見ると二人はまるで仲の良い姉妹の様だった。


890 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2021/06/22(火) 18:31:45 BIbgTlcw0


【クラス】
アサシン

【真名】
古明地こいし@東方Project

【ステータス】
筋力:E 耐久:D 敏捷:C 幸運:B 魔力:B 宝具:B

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
気配遮断:EX
宝具により気配遮断を行う。『無意識を操る』事で、他者に認識されなくなる。
攻撃行動に移っても気配遮断の効果が落ちない。
視界に入らなければ存在感が無く、視界に映っていても路傍の石の様に視界から消えれば忘れ去られる。
対峙しても気配を感じ取れない。

【保有スキル】

命名決闘法:A
アサシンの故郷、幻想郷で行われていた決闘方。
弾幕の美しさを競うもの。EXボスなんで避けにくさもまあそれなり
同ランクの射撃と矢避けの加護の効果を発揮する。


閉じた恋の瞳:A+
心を閉ざし、無意識で行動している。無意識レベルでの超反応も行える。何も考えていないのでは無く仏教で言う『空』の境地に近いらしい。
ランク相応の透化スキルと同じ効果を発揮する。
読心能力を完全に無効化する。






【宝具】

無意識を操る程度の能力
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ1~30 最大補足:レンジ内の全員

他者の無意識を操る。無意識下の記憶を呼び覚ましたり、無意識の抑圧やスーパーエゴを表象化化させる。
対魔力や精神耐性に依り、軽減或いは無効化される


本怖!貴方の後ろにいるよ
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ冬木市全域 最大補足:1人

深秘録で触れた都市伝説『メリーさん』が宝具化したもの。
冬木市の何処にいても、任意の対象に電話をかけ、対象が電話に出たならば、その背後に瞬時に現れることが出来る。
対象を知っていて、且つ対象が携帯電話を所持。もしくは電話が側に無いと使用不能。


胎児の夢
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ1~3 最大補足:1人

人が母の子宮で見ていた夢を再度見せる宝具。人は子宮の中で遺伝子に刻まれた先祖代々の記憶を見るという。
微生物から始まり、進化の過程を経て、先祖代々の人生を送る。それに加えて、最後に己の人生を寸毫狂わず再演される。
秒瞬の間に繰り返される無数の誕生と死。秒瞬の間に経験する無数の人生。
最後に決してやり直すことなど出来ぬ、何処で過ちを犯し、何処に悔いが有るかを最初から鮮明に意識している己の生の再演に、人の意識は消耗し尽くし、精神的な死を迎える。
ここから更に、安穏と眠り続けられる場所から、過酷な現世に引き摺り出された原初の恐怖と悲痛が最後に呼び醒まされる。
相手の精神を念入りに砕く精神攻撃。精神耐性やそれに類する効果を持つ宝具やスキルでしか対抗出来ない。

【weapon】
ナイフ:
深秘録怪ラストワードで使ってたアレ。
後は茨とか弾幕とか。

【人物背景】
姉と同じく『覚』然しただし己の心を閉ざし、他人の心も読めなくなっている。
心を閉ざした為に性格は空っぽで、コミニュケーションを取る事が難しい。
能力の為に他者に認識されないが、複雑な人間関係を構築していない子供には話が合う。
子供の頃一緒に遊んだのに大人になると忘れてしまう空想上の友達(イマジナリーコンパニオン)
固く閉じた恋の瞳も霊夢達との接触で緩み出した。


【方針】
聖杯戦争を楽しむ。
『メリーさん』の都市伝説を広める

【聖杯にかける願い】
無い


891 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2021/06/22(火) 18:33:56 BIbgTlcw0


【マスター】
眠目さとり@武装少女マキャヴェリズム

【能力・技能】
観の目:
常に焦点が合っていない、何処を見ているのか判らない瞳。視界が常人よりも広く、対峙している相手の全身を均等に見ることが出来る。
視線や目付きが変化しない為に、攻撃してくる場所やタイミングを読むことが出来ない。

感情鈍磨:
感情の働きが極めて鈍い。この為攻撃時に気配が変わることが無い。笑顔で談笑しながら人を刺す事が出来る。
但し、精神の内面を露わにされる、若しくは精神に強い衝撃を受けるとと感情が表出し、この特性は失われる。

天通眼:
極めて高い観察能力と分析能力を持ち、他者の言動を予知レベルで『推測』することが出来る。但し当人の性質上感情に基づいた行動は読むのが苦手。

警視流:
明治時代に十種の剣術を統合して編まれた流派。十種類の異なる剣技を繰り出してくるさとりは、上記の性質も有って手筋が非常に読み辛く、縦横無尽じゃ。

文字鎖:
異なる流派の共通する文字を持つ術技を連続技や派生技としてとして繋げて繰り出す。



【weapon】
長脇差

【ロール】
千代田区にある全寮制のミッションスクールに通う女子高生

【人物背景】
元々は女子校の愛地共生学園、共学になった際に男子生徒を恐れた女子生徒のための風紀組織『天下五剣』が活躍するに伴い、各学校の問題児を招き入れては矯正させる更生施設のような側面を持つに到った。
その『天下五剣』の一人。
本来『眠目さとり』とは彼女の姉の名前であるが、子供の時ジャングルジムから突き落としたのを切っ掛けに、姉の様に振る舞いだし、最終的に名前も立場もも奪った。
本名は眠目ミソギ

生来他者と比べて余りにも異質すぎた為、子供の様に他者を怒らせ、泣かせ、嫌われることを行い、自分と他者との違いを確認し共通項を見出そうとするも遂に見出せず。
他者を観察し、真似をする事で他者に溶け込もうとするも、余りにも異質すぎた為にそれも出来ず。最終的に人の上に立ち、周囲を自分の色に染めることで自分の居場所を確保した。
が…指摘された時の反応からするに当人は意識して行った訳では無いらしい。

その有様は『上に立つ為に敵を求め、打ち破り続けるだけの空虚な亡霊』と評される。
若しくは『人間以外のものが人の振りをしているだけ』とも。

行動が全て計算尽くに見えるが、時折リスク度外視のとんでも無い行動に出ることがあり、行動を酷く読み辛い。
これはさとりが『人間とは利己的で打算的なもの』と解釈している為らしい。
然し根本的に理解していない為、とんでも無い粗が出、それが行動を読めなくしている。



【令呪の形・位置】
ハート型の模様の周囲に遺伝子配列を思わせる二重螺旋。

【聖杯にかける願い】
自分が何者なのかを知る。
こいしの姉のさとりに会ってみたい。

【方針】
こいしを『都市伝説』として振舞わせ、釣られた連中を暗殺して行く

【参戦時期】
原作二巻終了後。

【運用】
主従共に戦闘もこなせるが、特性をフルに活かした暗殺を行うのがベストだろう。


892 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2021/06/22(火) 18:34:38 BIbgTlcw0
投下終了です


893 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:17:06 MPJbhcWg0
投下します


894 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:17:48 MPJbhcWg0
 この場にいると言う事、それ自体が間違いである。この東京で意識を取り戻した時に、彼女が思った事はそれであった。
ヨーロッパの生まれである彼女には、縁遠い街だと思っていた。足を運ぶ事も、ないだろうとも思っていた。
ただ、同僚……いや、同胞という言葉の方が適切か。兎に角、ペペロンチーノを名乗る、旅好きの話好きが語っていた、諸々の特徴は事実だったのだなと認識した。
まずい空気、生ぬるい気温、行き交う車と自転車、多種多様なフランチャイズの外食屋、便利なコンビニエンスストア。何から何まで、話の通りだった。

「ヴァルハラ……な訳はないか。俗すぎるものね……」

 ヴァルハラ。北欧の死生観が語る所の、勇ましく戦った戦士達が死後、やがて招かれる場所である。所謂天国、所謂浄土、所謂エリュシオンの園だ。
勇者の魂を導く見目麗しいワルキューレによって招かれる場所で、其処は人間の世界のどんな建造物よりも絢爛豪華な宮殿があるとされ、
極上の料理と美女の持て成しを心行くまで楽しめる。この上、何をしても死なない環境の為、好きなだけ戦いに明け暮れる事が出来る、まさに烈士勇者の為に用意された楽園なのである。

 古ノルドの血を引く母親に、寝物語に北欧の神話の話を聞かされてきた、『オフェリア・ファムルソローネ』は、逝きつく先は其処が良いと思っていた。
話を聞くにヴァルハラは男の為の場所、男尊女卑の体現、と言う風な気がしなくもなかったが、それでも、オフェリアにとって耳に馴染む死後の世界はヴァルハラであった。
だったら其処の方が良いと、彼女は思った。それに――その世界であるのならば、かの女神が。愛そうか殺そうかと言っておきながら、結局、愛する事を重んじた山の女神(スカディ)が、いるかも知れなかったから。

 当て所なく夜の町を彷徨い歩くオフェリア。
電信柱に張り付けられている標識から推測するに、23区ではなく、都民が言う所の郊外の地であるらしい。
不思議と、日本の漢字の意味が理解でき、ネイティヴレベルの文法も、その地で10年以上も住んできた者の如くに習得できていた。
界聖杯(ユグドラシル)、と呼ばれるものの力なのであろうか。

 解っていた。この地に、スカディの姿もなければ、彼女の手足であるワルキューレ達の雄姿もなく。
他のクリプターの姿も気配も見られない、感じられない。……キリシュタリアと言う名前の、愛していた男の姿も名も、感じ取れない。
行けどもそこは、東京だった。日本国の首都であり、世界に名だたる経済都市。アジア随一の大都会、東京都でしかないのである。

「……」

 己の手のひらをじっと、オフェリアは見つめる。そして、見つめたその手で、巻き付けられた眼帯に触れ、頬に触れ。
その手はスルスルと、胸元まで折りてきて、下腹部の辺りで止まった。我が身だった。オフェリア・ファムルソローネ。
ゲルマンの地に連綿と続く魔術の家系の娘。類稀なる魔術の才を授かって産まれ、更には世にも珍しい宝石級の魔眼をも授かり、極めつけにひなに稀なる優れた容姿をも与えられた、天を二物を与えずの格言は嘘なのだと確信させるに足る、恵まれた女性。それこそが、彼女なのだ。

 その自分が、何故、生きている? どの面を下げて、生きている。

 クリプター。それが、今の彼女を表す身分である筈だった。
人と神が共に在る事が出来る世界を目指す者達、とでも言えば、成程何とも神秘的なヴェールに包まれた魅力的な集団に思える事だろう。
だが実際には、クリプターの誰もが、己をそのような選ばれし者共であると、自己陶酔している輩はいなかった。
オフェリアは当然、クリプターの首魁であるキリシュタリアも、あのカドックやベリルですら、そうと思っていないだろう。
程度の差こそあれ、実際にクリプターの事をオフェリアや他の者はどう思っているのか、それは共通していた。人類の平和と存続に唾を吐いた裏切り者、だ。
新たなる世界の為に、異星の神やら何やらの、得体の知れない連中の要請を受け入れ、今の世界を旧い世界だとして滅ぼして……。それは、この世の如何なる天秤でも図れぬ大きさの罪であり、重大な、背信行為ではあるまいか。


895 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:18:19 MPJbhcWg0
 世界から行き詰まり(デッドエンド)と認識され、剪定され、そのまま滅ぶを待つしかなかった、ifの世界の北欧をオフェリアは思い出す。
慈愛と寛大さを持ち合わせた女王、彼女に仕える忠実な3人のワルキューレ達、キリシュタリアが走狗として重用しているいけ好かない褐色のランサー。
滅びの大火を司る巨人を宿した英雄、君ならあの恐るべき巨人をも御せると信頼を寄せる思い人、やって来たカルデア。自分よりも――ずっと良い方向に成長したマシュ・キリエライト。
差し向ける戦力に屈さぬカルデア。斃された英雄、目覚めた炎(スルト)。それでもなお諦めず粘るカルデア。命を賭して、虹の橋をその砲塔から掛けた砲兵(ナポレオン)。
魔眼と大令呪を引き換えに、全ての破滅を食い止めようとする自分。退けられる大火。そして、親友になりたかった少女に看取られる最期。

 目を瞑ると走馬灯のように、剪定されるはずだった北欧での情景が結ばれる。実際それは、走馬灯と言っても間違いはないだろう。
何故ならオフェリアは、既に死んでいる。己の命を繋ぎ止める大令呪と言うカードを切った影響もあるし、例えそれを切っていなくとも、
脳と密接にリンクしている魔眼を潰した以上、死ぬ事は避けられなかったのだ。そして事実、彼女は死んだのである。

 きっと、グランドオーダーを成し遂げたあのマスターと、マシュ、カルデアは、オフェリアが担当していた北欧を越えたのだろう。北欧は……剪定されてしまったのだろう。
彼らは、消えぬ焔と凍てつく氷雪に覆われた北欧を踏みしめ、次の異聞帯へと進むのだろう。それが、出来るだけの意思の強さが彼らにはあるのであるから。
対して、オフェリアの方は、紛れもない敗残者だった。北欧の異聞帯を成長させ、キリシュタリアから言い渡された『台風の目』となり得るスルトの制御すら失敗し。
何一つとして、役目を果たせなかった。元々参加する予定であった、人理修復の使命だって、レフ・ライノールの爆弾によって果たせずにいる。何につけても、成せた事がない。

 罪深きこの身が何故、東京の地に降りたっているのか理解出来ない。
界聖杯(ユグドラシル)を巡る聖杯戦争、頭の中に刻み込まれた知識が、理解を拒む彼女を助けるかのように流入してくるが、そういう問題ではない。そもそも知識だけならば、聖杯戦争の事は知っている。
死ねばヴァルハラどころか、導かれるのは女王ヘルが統治する永久凍土の冥府・ヘルヘイムしかあり得ない程、罪に塗れたオフェリアが、何故二度目の復活の機会を与えられ、
剰え聖杯を求めて殺し合えと言われているのか理解不能だ。もっと、もっとマシな人材がいたであろうに。選ばれたのが、彼女だったのである。

「駄目なサイコロを振るう神ね」

 偶然と言う事象は賽子を振るう神のイメージで表象されるが、きっと、神が今回振るった賽子は安物だったのだろう。
そうでなければ、もっとマシな……それこそ、今回の機会をずっと喜びそうなベリルや、世渡りの上手いぺぺ辺りを選んでいるだろう。

 潰された魔眼は元に戻り、健在の状態。身体のコンディションは万端。回路も全て好調。
しかも、今までオフェリアの身体にあった、『自分は誰かに生かされている』と言う感覚。即ち、大令呪の縛りもない。正真正銘、今のオフェリアはグランドオーダー前の万全の状態。
聖杯戦争を臨めるだけの状態は、成程、誂えられていると言う訳だ。……尤も、今のオフェリアは、聖杯戦争を進める上での要……令呪も、サーヴァントも。所持していない状態なのであるが。

「今この瞬間に襲われたら、ひとたまりもないわよね」

 実際それは、事実だった。
オフェリアは一般人ではない。魔術、取り分けて降霊術と召喚術に造詣が深く、加えて、現代では実在すら疑われるレベルの希少性の宝石級の魔眼を宿した魔術師である。
同じ魔術師が相手なら、負ける可能性は少ないであろう。実際、クリプターではなく、嘗てAチームと言う集団に所属していた時は、マスター適正においても、魔術師としての才能においても、
オフェリアの才能は上位のそれであった。相手がサーヴァントでも、相性次第では持ちこたえられる。それ程までに、戦闘に於ける彼女の天稟は目を見張るものがあった。
と、言っても、相手がサーヴァントともなれば、やはり彼女単体では凌ぎきる事は難しい。死、或いはそれに準じる結末の可能性しか、見えないのだ。
だから、今この瞬間が、彼女を殺せる絶好の機会。しかもこの世界には、自分に纏わりつく炎の姿もない。彼女の言う通り、この瞬間を狙われたら……、と言う奴であった。

「――っ」


896 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:19:38 MPJbhcWg0
 歩みを止め、直ぐに周りに目配せを始めるオフェリア。
巧妙に隠されてはいる、だが蛇の道は蛇だ。同じ魔術師の目は欺けない、人払いの術が掛けられている。
どうやら、魔術師のテリトリー……陣地に入り込んでしまったらしい。近隣にあるのが民家や、町工場等の小ぢんまりとした住居である事から考えるに、規模はそれ程大きくなかろう。
初めから小さめの規模を考えて作られた陣地か、あるいはこれから拡大して行くのか。それは解らないが、此処はもう、相いれない考えの可能性がある同門の腹の中である。油断は出来ない。

 重心を巧みに動かして、足音を立てずに移動するオフェリア。呼吸も最低限、まばたきすらも一分に一回。相手によっては、その瞬きの音すら捉える地獄耳がいる事を想定している。
そうやって気配を殺して移動する事、数分。下手人のアジトを見つけた。やや大きい、車やトラックが数台分は駐車出来る面積の町工場だ。
オフェリアは知らないが、自動車の整備工場である。その中に、侵入する必要性はなかった。道路から、工場の敷地内、ガレージの外の野外駐車スペースで、その光景は繰り広げられていた。

 風体からは魔術師には見えない、まるで野盗か、チンピラ、ゴロツキにしか見えない若い男の後ろに、ゆったりとしたローブを纏う誰かが影のように従っていた。
そのローブの誰かが、サーヴァントであるのだろう。実際、サーヴァントである事を如実に示す、ステータスがオフェリアの網膜に映し出されていた。
マスターであろう男の足元に、血を流して死んでいる作業服の男が転がっている。身体の一部を大きくえぐり取られていたり、焼かれて死んでいる者もいる。
魂食いされている事を、オフェリアは見抜いた。魔術師としては恥ずべき行いであるが、その手の矜持を理解していない事は、相手の風貌を見ればよく分かる。

「ひっく……あっぐ……!!」

 子供が、マスターの男性の足元で、屈んで泣いていた。女の子である。年齢で、6歳とか、7歳とか。その辺りの年齢だろう。

「どうよ、キャスター。魔力は漲ってるのかい? 8人殺ってる訳だけどよ」

 野卑そうな声。ベリルの方が、まだマシだった。

「魂喰いが魔力の足しになる手段なのは間違いないが、元より、急場しのぎの意味が強い。この程度の量、一回の戦闘で容易く使い切ってしまうぞ」

「チッ、地道な作業だなぁオイ。まぁいいさ、勝てば良いんだ勝てば。界聖杯って奴の為なら、この程度、安いモンだろ」

 思えば、カルデア時代に於いても、クリプター時代に於いても、オフェリアの周りには魔術師が多かった。
つまり、サーヴァントを使役する上での心得を、理解している者が殆どであったと言う事だ。そもサーヴァントとは、使い方を間違えれば銃やナイフなど及びもつかない意思を持つ兵器と化す。
その、兵器にもなり得る意思を持つ存在との付き合い方やルール、それらは徹底して教育された。尤も、召喚と降霊に造詣の深いオフェリアには、今更と言うべきものだったが。
……その心得を理解していない者が、サーヴァントを使役すれば、ああ言う無軌道な真似に走るのだろう。聖杯戦争のセオリーとしては間違ってないだろうが、それでも、眉を顰める行為なのは、間違いない。……オフェリアに、それを言う権利があるのかは疑問だが。

「抵抗しなけりゃ、痛いのはすぐに終わる。諦めてくれや」

 言って男は懐に差していた、オフェリアの二の腕程もある長いナイフを取り出し、それを少女の首筋に当てようとする。

 無視して、この場を去る、と言う選択肢もオフェリアには取れた。
彼らは今、彼女の存在に気付いていない。此処を後にして、知らぬ存ぜぬを、貫く事。それが、命を失わずに済むと言う点から見れば、最良の判断であったろう。

 ――そのような事を考えていた時、オフェリアは、異聞帯の北欧の女王である、スカディとの対話を思い出していた。
彼女はあの世界に息づく子供達の事を深く愛し、家族構成の事も全て覚えていた。そして、世の不条理と残酷さを知らぬまま、ヴァルハラに導いてやっていると、語っていた事もまた。
子供達の事を語る時の、彼女の、凛然凛冽とした話し方と立ち居振る舞いの中に、例えようもない哀しみがその瞳の中を過っていた事を、オフェリアは見逃さなかった。
スカディは、あの異聞帯に生ける人々を深く愛していたのだ。そして、総数にして一万人程度の僅かな人類を生かす為に、間引きを主とした方策しか取れなかった自分に対して、呆れていたのだ。
リソースがない故の悲劇だった。無い袖は振れない、この真理は、神を以てしても変えられないと言う事だった。

 ――私は……――


897 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:20:15 MPJbhcWg0
 二度死に、二度、生き返った女。
無様に生き永らえ、何も成せず果たせずして、死んだ女。恥だけの生涯だった。

 死ぬ事など、思っていた程、大したものじゃない事を、オフェリアは知っている。
だったら――ここで、何かを成して、死ぬのも悪くはないなと、彼女は思う事にした。

 パチンっ、と、フィンガースナップを弾かせながら、オフェリアは整備工場の敷地の中に、わざとらしく足音を立てて侵入した。
勿論、マスターの男と、キャスターのサーヴァントは気づき、バッとこちらの方に顔を向けた。

「誰だテメ――」

 其処まで言った瞬間、チンピラ風の男が吹っ飛んだ。
凄い勢いで後方へと吹っ飛ばされ、背後数m先に駐車されていたファミリーワゴン車、そのリヤのスライドドアに激突。
クッション代わりになったドアは簡単にひしゃげ、ガラスの破片が雲母のように煌めいて中空を舞った。北欧に生きる魔術師の嗜みであるガンド、オフェリアが放つそれには、高い物理的な干渉能力が付与されている。人の身で受ければ、当たり所によっては即死だ。

「貴様ッ!!」

「私は、それが輝くさまを視ない(lch will es niemals glǎnzen sehen.)」

 キャスターが何か呪文を紡ごうとするが、そうはさせないと、眼帯を解くオフェリア。彼女の方が、速かった。
キャスターの動きが、止まった。まるで、そう。生きたまま羽や胴体にピンを刺された、昆虫のように。目を見開き、驚きの表情を浮かべるキャスター。

「魔眼かッ」

 その通り、オフェリアに授けられた宝石級の魔眼、それを彼女は『遷延の魔眼』と呼ぶ。
不気味な目だった。およそ、人類に授けられる目ではない。血のように赤く、結膜の部分がまるで万華鏡のような虹色に輝いている。
知識に疎い者が見れば、世にも珍しい奇病か何かだと思うであろう。だが、この目こそが、魔眼たる所以。サーヴァントですら射貫く、驚異の力を秘めたイーヴィル・アイなのである。

「逃げなさい、お嬢ちゃん」

 努めて優しく、怯えている子供にそう告げる。
優しく、出来ているだろうか。両親からは大切に育てられはしたが、それは、世間一般の人間が思うような愛され方ではなかった。オフェリアは、子供に対する適切な接し方など、解らない。

「うぇ……?」

 自分に声を投げかけて来た者に、少女は顔を向ける。涙と鼻水で、顔はぐちゃぐちゃだった。

「速く!!」

 そして、その優しくすると言う余裕は直ぐに失せた。オフェリアの一喝に驚いた少女は、身体を一瞬硬直させるも、すぐに、この場を逃げ出し始めた。
それで良い。遷延の魔眼は確かに強力な魔眼ではあるが、直接的な殺傷能力を持たない。あくまで、都合の悪い事実を引き延ばしにする事に長けている能力に過ぎない。
今はキャスターの動きを止められても、展開次第で、この膠着など簡単に打ち破られる。

 ――そう、このように。

「ガッフ……!?」

 それは、不意に叩き込まれた衝撃だった。背面に叩き込まれた、鈍く重い一撃。感触は、人の身体よりは固く、鉄よりも柔い。
木だ。木のような物で殴られた感覚。その強い一撃で、彼女はうつぶせに倒れ込んだ。それと同時に、遷延の魔眼でピン止めされていたキャスターの動きが解放され、自由になる。
うつぶせになったオフェリアは、自発的に立ち上がるよりも早く、自分を殴った何者かの手によって引きずり起こされ、羽交い絞めにされてしまう。
それが、木製のゴーレムのようなものだと、後ろを見ずとも彼女は気づいた。全身くまなく、人間身体の感触がなく、樹木の感覚であるからだ。

「……驚きだな。そのような魔眼が、現世の人間が授かり得るとはな。その上、魔力も潤沢だ。下手に金属で殴って、死なれるよりは使い出がある」

 キャスターのサーヴァントは、オフェリアの特質である魔眼と、豊富な魔力量を見て、利用の算段を考えているらしい。
間違った判断ではない。魔術師の多くはきっと、このキャスターと同じような事を考えるであろうから。

「マスターが死んだと言うのに、今更皮算用? もうすぐ、貴方は消滅するわよ」

「馬鹿め、魔術師でもないマスターに対し、キャスターが何も一案を講じないと思っているのか」

「いってえええ〜〜〜だろうがよォ!!」

 ワゴン車の後部席で今まで倒れていた、チンピラのマスターが、ドスの効いた声を張り上げて、のそりと外に出た。
口の端から血が流れているが、動く分には支障がなさそうだ。骨も、見た所折れている様子はない。肉体的なダメージを、行動不能にならない程度に負った、と言う所か。


898 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:20:30 MPJbhcWg0
「護符位は持たせてあげているのね」

「当たり前だ、そうでもなければ危なっかしくて見てはおれん」

 なんて事はない、オフェリアもやっている手だ。防護機能を持たせた礼装を、忍ばせていたから無事だっただけの話である。
あのマスターの場合は、キャスターが作り上げた、物理的な防御力を高めさせる代物を所持していたのであろう。

「このクソ女が……!!

 睨みを効かせてマスターが此方に近づいてくるが、オフェリアは何も怯えた様子も、臆した様子も見せない。
ただ、冷ややかな目で眺めるだけだった。が、すぐに見るべきものが何もないと判断したか、目線を外した。興味すら、ない。

「マスター、この女は利用価値が高い。この女の目……魔眼と言うのだがな、これを摘出したい。俺達の助けになるし、魔力も豊富だ。吸い上げれば有益な結果を得られる」

「そうしろ。そうでもしなきゃ気がすまねぇ。……それでよ、キャスター」

「む?」

「その魔眼とやらも、魔術とやらも、今この瞬間からこいつが使えなくなるように出来ないのかい?」

「今すぐは無理だ。少なくともまずは魔眼の摘出から始めねばならん。それが一番脅威だからな」

「そうかい。だが……ま、片目がなくなったとしてもよ、ご丁寧に眼帯があるんだからよ。それで空いたメンタマの所隠せば、大丈夫だろ」

 舐めまわすように、オフェリアの顔や身体を眺める男。

「なかなかどうして、顔も体も良い女じゃねぇか。気に入った、俺のテクで可愛がってやるからよ」

 つくづく、救えない性分の男であるらしい。蔑むよりも先に、笑ってしまった。嘲るような、笑み。

「何笑ってる」

「好きにすればいい。戦士、兵士。明日を生きられるか解らない男達に、生中な倫理観何て通用しないわ。征伐先の女が犯された事例何て、洋の東西呆れる位見られるもの」

 血気昂る男たちが、征服を終えたその土地で、女性を見つければどうなるか。
勿論、そんな事、今更説明する為に筆を取るまでもない事だった。それについて、肌の色だとかお国柄だとか、時代だとか受けた教育の質だとかは一切関係ない。人の、サガ、本能の問題である。

「どうせ貴方達、聖杯戦争を勝ち残れはしないものね? 良いと思うわ。どうせこれから良い事なんて起こらないのだろうし。私の身体で、良い思いでもして……死ぬ間際に、それしか良い事がなかったと絶望してなさいな」

「テメェ、ぶっ殺すぞ!!」

「犯すのじゃなくて殺すの? 間近の方針も定められないようじゃ、とてもじゃないけど勝ち残る生き残る以前の問題ね」

 胸倉を捕まれるオフェリア。これも、行為としては減点だ。いや、減点どころか失格だ。聖杯戦争の参加者として迂闊にも程がある。
襟を掴まれれば、その掴んだ腕ごと圧し折る技を持つ武芸者も、その腕を斬り落とす礼装を仕込んである魔術師も、この世には大勢いると言うのに。「勝手に触れるな!!」と、キャスターだけは気づいているらしく、マスターに一喝していた。

「お、お姉ちゃ……」

 少女の声が、聞こえて来た。
自分を羽交い絞めにしている木製のゴーレムの更に後ろ。振り向こうにもこれは出来ない。聞き間違えじゃなければ、先程逃がした女の子の声だ。

「な、なんで戻って来て……」

 色々、理由は思い浮かぶ。
人払いが及んでいる範囲は結構広かった。誰も人がいないので、不安になって戻って来たのかもしれない。
或いは、此処が近所だからじゃない可能性もある。襟を掴んでいるマスターに拉致され、本来の住所の近くじゃない遠く離れた場所が、此処なのではないかと言う推測も立つ。
だが、少なくとも今は戻って来る局面じゃない。何処かに逃げて、人に助けを求める局面であった筈だろう。これでは態々、この主従の魔力の糧になりに来たようなものである。

 現状を認識して、少女が、泣き始めた。
もう事態が終わったものだと、認識していたのだ。オフェリアが、悪い人たちを倒しているものだと思って、安心していたのだ。
蓋を開けてみれば、オフェリアは生殺与奪を完全に握られた状態で、いつ、命から操まで、何もかも失ってもおかしくない状況だった。
状況が好転するどころか、寧ろ悪くなっていると言う事実に、少女は泣いた。咽び泣くような泣き方。何時だったか、日曜日を迎えたくなくて、ベッドの奥で一人で泣いてた時も、あんな感じだったな、と。オフェリアは、場違いにも思ってしまった。


.


899 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:20:48 MPJbhcWg0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 子供の、泣く声が聞こえる。俺の苦手な、子供の泣き声。

 昔から、赤子が泣いた時、どうすれば良いのか解らなかった。
難しい事を考えるのは性に合わなかった。そう言う事を考える事が仕事の奴は、別に居ると割り切って、敵対する奴らを殴りに行くのが俺の仕事だった。
殴るしか能のない奴、俺の腐れ縁であり……友人だった男は、そう俺の事を言っていた。そうさ、俺はそういう男だ。

 だから、俺とドゥルガの間に産まれたミスラが泣いたら、混乱してしまうのだ。俺が抱けば、泣く声が強くなるんだ。
自分でも、何故出来ないのだと何度思ったか解らない程、俺は子供をあやすのが下手だった。妻が……ドゥルガが抱けば、すぐにミスラは泣き止んだと言うのに。

 野菜が苦手な娘だった。
夕食の時、ドゥルガが見ていない隙にそっと差し出された、皿の上のニンジンを食べると、その事をドゥルガは叱りつけてくる。
だが、俺が代わりに食べれば、ミスラは笑顔になるのだからしょうがない。

 ミスラは、笑顔の似合う娘だった。家の中、家の外、丘の上、花壇の近く。何処でもアイツは、良い笑顔をする。
だが俺は、ミスラを安心させる事は出来ない。泣きわめくアイツをあやして笑顔にする事は、遂に俺には出来なかった。気付けばミスラは、一人前の巫女になっていた。
俺に出来る事は、殴る事、戦う事。……不義に対して、怒る事。それしか能のない男が、娘に対して約束出来る事など、一つしかない。ミスラを泣かせる奴を、殴りに行く。それだけだ。

 子供の、泣く声が聞こえる。
ミスラの声ではない。そして、声の色から、かなり差し迫った状況にある事が、解る。
俺が、サーヴァントなる存在として呼ばれている事は理解している。だが、行く気がない。見れば、俺には相応しくなさそうなマスターだ。
より、良い仲を築けそうなサーヴァントはいるだろう。態々、俺が行く事もない。そう、俺は思った。思ったのだ。

 ――その女の子は何も関係ないわ、逃がしてあげなさい――

 ――そうは行くかよ。この場を見られてるんだ、見逃す訳ねぇ。それに……どうも、その娘に見られながらの方が、アンタ、良い反応しそうだからよ――

 ――……ゴミね――

 頬を、平手打ちされる音。更に、泣くのが強まる娘。

 昔……ずっと昔。
ミスラに似た子供を、俺の力が足りないばかりに、死なせてしまった事を思い出した。
言葉も通じない、考え方も違う、そしてそもそも、大局を考えれば死んだとて何の意味もない命。それでも、俺にとっては、心残りだった命。

 良いか、違うぞ。
俺は、子供の泣く声が我慢できないから。泣き止んで欲しいから、其処に行くのだ。お前の為じゃない。

 ――『アスラ』が怒るのは、愛娘の為なのだ。お前の為じゃないぞ、マスター。


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900 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:21:08 MPJbhcWg0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ズゥン、と言う地響き。そして、緩く、それに応えて震える地面。
バッ、と、キャスターとマスターが、背後を振り返ると、それはいた。

 赤銅色の肌に、灰色の髪の男だった。
磨き上げた銅のような皮膚だ。ガレージの電気の光が当たっているが、肌に、金属光沢のようなものが浮かび上がっているのは、目の錯覚ではない。
筋骨隆々、と言うのは彼の為にある言葉であろう。露出されている上半身は、実に見事なもので、この世の全てのボディビルダーや格闘家が裸足で逃げ出す、
機能性と芸術性が高いレベルで組み合わさった至高のそれだ。磨き上げられ鍛え上げられたその肉体に、余分な贅肉も脂肪もない。岩か鋼かの如き威容を見る者に覚えさせる、切磋琢磨された肉体の究極系のようであった。

「……」

 無言。腕を組み、周りを一瞥する、赤銅の肌の男が、何を考えているのか解らない。
沈黙が場を支配する。その中に在って、少女の泣く声だけが、うるさい程に、良く響いていた。

 右手に、魔力が収束して行くのを感じる。令呪、それが刻まれる感覚だ。
アレが、自分のサーヴァントなのかと、オフェリアは愕然とする。理由は簡単、そのステータスの高さである。
桁違いだ。当初自分が引き当て、望外の喜びを示していた、シグルドのステータスですら及ばない程なのである。
これと比してしまえば、目の前のキャスターのサーヴァントが、可哀そうな程であった。

 バーサーカーの姿が掻き消える。それと同時に、オフェリアの身体から羽交い絞めにされていると言う感覚が消滅、そのまま地面にへたり込む。
ゴトゴトと、何かが地面に落ちる音が聞こえて来た。目の前に転がって来たその破片から、それが、破壊された木製のゴーレムだとオフェリアは気づいた。
いつの間にか、ゴーレムの背後に回っていたバーサーカーが破壊した事までは、彼女も解る。……まさかその方法が、ただの頭突きであった事までは、知るまいが。

「こ、こいつ、強――」

 一瞬のスピードで、へたり込むオフェリアの前に立ったバーサーカーが、チンピラ風のマスターの頭頂部に手を置いた。
よく見るとその両腕には、肘までを覆う金属製のガントレットのような物で覆われていて、しかも、かなり可塑性と柔性が高いのか。人間の腕そのもののように、自由に動かせるようであった。

 グッと、バーサーカーが圧力を込めた、瞬間。
「いげっ」、と言う意味不明の言葉を上げて、チンピラの頭部はメキメキと音を立てて、その首ごと、臍の辺りまで一気に沈んだ。
まるで胴体が水になったかのようであったが、当然そんな事もなく、筋肉も骨格も内臓も、存在する状態。その状態から、頭を無理やり臍まで物理的に押し込んでしまったのだ。
必然、死ぬ。今のマスターの状態は、位置関係の都合上キャスターのサーヴァントの目にしか映らないが、その様子は壮絶な物。
目から、鼻から、口から。大量の血液を零したチンピラの顔が、臍の辺りで苦悶の表情を浮かべて虚空を眺めていて、胴体には両の肩甲骨より内側に、谷が出来上がって其処から大量の血液と折れた骨、内臓が露出しているのだ。余りのグロテスクさに、サーヴァントは思わず、吐き気を覚えた。

「お前ェっ!!」

 最早、消滅は免れぬ。自分は此処で脱落するだろうが、死なば諸共。
キャスターのサーヴァントは、オフェリアを道連れにしようと術式を編もうとするが、それよりも遥かに速く、認識不能の速度で懐に入り込んだバーサーカーが、
その顎にアッパーカットを叩き込んだ。衝撃で、顔が上を向いた、では済まない。凄まじい速度で衝撃を叩き込まれた影響で、キャスターの頭部が破裂してしまったのだ。
筋肉、皮膚、骨格、眼球、歯、舌、脳。それら一切は、原形すら留めずにその場に飛散。ガクガクと、強い痙攣を起こした後に、キャスターのサーヴァントは背後に仰向けに倒れ、そのまま光の粒子となって消滅してしまった。

「びええええええぇぇぇぇぇぇ……!!」

 全ては終わったが、それを子供に認識する事は出来ない。
蹲って泣き続ける少女の方に、オフェリアは目線を向ける。そしてその後で、一瞬の内にサーヴァントとマスターを屠ったバーサーカーの方に目線を向ける。困った顔をして、オフェリアの方を、彼は見ていた。

「オイ……泣き止ませろ。出来るだろう」

 低く渋い、男の声。本当に、困った様子でオフェリアに言っていた。

「わ、私だってあやせないのよ……」

「女だろうお前は」

「女だからって出来る訳じゃないわよ、もう!!」

 オフェリアが強く反発したその言葉に対して、更に泣く声が強まったので、彼女はより狼狽するしかないのであった。


.


901 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:21:28 MPJbhcWg0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 結局オフェリアが、慣れない様子で子供を何とか泣き止ませ、交番の近くまで連れて行った。
その過程で、あの少女はこの町の住民ではなく、その二個隣りの町の住民であった事を、女の子の口からオフェリアは知った。
良かった、と思う。あの自動車工場の誰かの娘ではなくて、である。そうだった場合、この娘は心に傷を負うであろうから。

 別れ際、少女は「お姉ちゃんは行かないの?」と聞いて来た。
行ける訳がない。地面に倒れて土埃がついて、無遠慮に頬をはたかれた所が、赤い跡になっている。これで交番に行けば、要らぬ事を根掘り葉掘り聞かれるだけだ。

「行かなくちゃいけない所があるのよ。……それじゃあね」

 そう言ってオフェリアは、急いでその場を後にした。
お姉ちゃん、と呼ぶ声が聞こえて来たが、それに後ろ髪を引かれている時ではない。オフェリアは無視して走り去り――。
今、誰もいない市内の公園のベンチで、腰を下ろし月を眺めているのであった。

「何処か、行く当てでもあるのか」

 実体化をするバーサーカー。
意思の疎通が出来る、と言う点に先ず驚く。狂化を付与されステータスを上昇させる代わりに、理性を失ったクラスだと言うのに。
そう言うのもあって、Aチーム時代、召喚したいサーヴァントのクラスでバーサーカーは除外していたし、実際殆どのメンバーはこのクラスは除いていた。……尤も、そのクラスを望んだ奇特者が、一人いたのだが。

「この世界には、ない。元の世界には……元の、世界には……」

 あるのだろうか。自分の席も居場所も。……いや、居てもいいのだろうか?
世界を裏切り、唾を吐き、クリプターとしても落第した自分に、居て良い場所などあるのだろうか?
黙り込むオフェリアを見下ろし、バーサーカーは口を開いた。

「ないのか?」

 そう、ない。しかし――

 ――そうだ、進め。踏み出していけ。迷ってもいい。悩んでもいい。だが止まるな、進め――

 ――後ろに進んでもいいさ。ただ、止まるな。退くな。戻るな――

 ――胸を張れ、オフェリア。オマエは、ただ、あるがままで美しい――

 我が身に求婚して来た砲兵の言葉が、リフレーンする。ジョセフィーヌを妻とし、多くの妻と浮名を残した、恥知らずの皇帝の微笑みが思い浮かぶ。
素気無くフッたオフェリアに、最後まで愛を主張し、そしてそのサーヴァントとしての活動を、勇気と希望の虹霓(ビフレスト)を繋ぐと言う行為を以て停止させた、フランス皇帝ナポレオン。

「なくても、進むわ。私達は、歩むのだけは、止めなくて良いらしいから」

 立ち上がり、何処かへと進もうとするオフェリアの背を見て、アスラは言った。

「だったら、お前の目の前にある障害を殴って退かしてやる。俺もそれぐらいしか、出来ないからな」

「……プロポーズ?」

「馬鹿言うな、俺には妻がいる。とっとと、こんな催しを終わらせて帰りたいだけだ。着いてくる気などなかったが……子供の泣く声がうるさくて、やって来てしまったぞ」

「意外と優しいじゃない、貴方」

「黙れ」

 舌打ち。

「貴方の真名って……何なの? 名前ぐらいは、共有しておかないとダメだから、聖杯戦争じゃ」

「……アスラ」

 仏教や、バラモン教神話に語られる所の、怒りと戦いの神か。
変な縁もあったものだと、オフェリアは思った。アスラは、神々ですら手を焼く怒りに燃える、制御不能の存在だったと言う。
自分も、ほんのついさっきまで、制御不能の巨人に振り回されていた存在だった。今度こそ、あんな事にならないよう、オフェリアは、祈るのであった。





【クラス】

バーサーカー

【真名】

アスラ@Asura's Wrath

【ステータス】

筋力EX 耐久A+++ 敏捷A+ 魔力B 幸運B 宝具B

【属性】

中立・善

【クラススキル】

狂化(阿修羅):EX
バラモン教、仏教の伝説に説かれる所の、アスラないし阿修羅の名を冠しているにも関わらず、意思疎通自体は可能であり、それどころか高度な会話だって可能。
だが、一度その怒りが許容量を超えれば、如何なるマスターでも制御不能の怪物と化す。


902 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:22:04 MPJbhcWg0
【保有スキル】

憤怒の化身(阿修羅):EX
仏教、バラモン教の説話で言う所の、阿修羅ないしアスラそのもの。尽きる事のない怒りと、戦闘に対する意欲の象徴。
極限域の勇猛・怪力・戦闘続行・無窮の武練を兼ね備えた複合スキル。戦闘中このスキルが発動すると、相手に逃げられるまで、際限なく筋力ステータスは上昇し続ける。
また、バーサーカーは己の怒りの感情を魔力に変換する事が出来、この魔力を戦闘及び、サーヴァントとしての自分の存続に補填する事が可能である。

単独行動:EX
マスター不在でも行動出来るスキル。上述のスキル、憤怒の化身が発動している限り、このスキルは適用され、宝具の仕様すら可能となる。

魔力放出(怒炎):A+
バーサーカーの怒りが可視化され、エネルギーを持つにまで至ったもの。橙色の焔の形をとる。
専ら、攻撃及び機動力の向上に用いられ、拳に纏わせて殴りつける、ブースター代わりにして空中での姿勢制御や急加速、飛び道具として射出するなど使い方は様々。

終焉の担い手:A
終わりを運ぶ者、破滅を呼ぶ者、結末を齎す者。その世界観、或いは神話体系に於いて、破壊や滅びや終局を担っているか。或いは、担ったか。
本来であれば神霊の振るう権能に相当するスキルであり、勿論の事、権能相応の力を発揮する事は、サーヴァントにまで零落した身では不可能である。
そのため、一挙手一投足に粛清防御を貫く貫通効果が付与され、相手を破壊する、抹殺すると言う行為の全てに有利な判定を得る程度の効果にこれは留まる。
ランクAは同スキルに於ける最高峰。一つの神話体系に関して、破壊神として君臨しているか、或いは一つの世界ないし世界観の滅びを齎した者のスキルランクである。
バーサーカーは当該世界観に於ける宇宙・万物・万象の創造主を屠り、新しい世界の礎を作り上げた。

神性:C
神であるか否か。バーサーカーは真名をこそアスラであるが、しかし、仏教の説話が語る所の阿修羅王、バラモン教が説く所のインドラ(帝釈天)に反旗を翻した神霊アスラではない。
彼の正体は西暦に換算して数万年にもなろうかと超遠未来の技術に寄りて作られた改造人間、サイボーグである。
故に神性など持ちようがないのだが、神として崇められていた時期があった事、そしてその期間が優に千年を超えるスパンであった事から、このスキルを得た。
その性質上、神性特攻は受けるし、機械などの特攻効果も受けてしまう。

【宝具】

『六天金剛(アスラズラース)』
ランク:B+++ 種別:対人宝具 レンジ:2 最大補足:30
バーサーカーの怒り、或いは意思に呼応して発動する宝具。発動すると、世に語られる阿修羅の伝説同様、六本の金属の腕が発動する。
腕が増え、攻撃能力が倍増する、ただそれだけであるが、それ故に手が付けられない程強力。破壊される事があっても、再生は可能。

……現実的に、バーサーカーに登録されている宝具の中で、発動が出来るラインはこの宝具までである。以降の宝具は、発動に埒外の魔力が必要になるか、そもそも使用不能の二種類に分かれる。

『修羅、天を拒め(否天)』
ランク:EX 種別:対人〜対界宝具 レンジ:測定不能 最大補足:測定不能
バーサーカーの怒りが許容範囲を超え、暴走した際に発動する宝具。ランクEXとは厳密には、この宝具が発動した時の値を示す。
発動するやバーサーカーの肉体は、髪先からつま先に至るまで黄金色の極光を放つ、獰猛なヒトガタの姿に変貌する。
背中からはマグマを練り固めたような橙色に輝く、バーサーカーの肉体よりも何倍も大きい巨大な腕が生えてくる。
この宝具が発動したバーサーカーは、ただでさえ異常の域にある身体能力が更に跳ね上がるだけでなく、最低でも対国、最大で対星級の威力と熱エネルギーを内包した、
高エネルギーのビームや光球を放ち、相手を撃滅する戦法を取る。そのエネルギー攻撃の威力は、トップサーヴァントが保有する対国、対界宝具と比しても遜色がないどころか、容易に上回る。

現在は、バーサーカーの理性によって発動を制御している状態だが、万が一発動してしまえば、理性を失ったままに、上述の威力の攻撃を放ち続ける怪物と化す。
最大の弱点は、その魔力消費。バーサーカーが怒りによって自家発電できる魔力の量よりも、この宝具を維持するのに必要な最低限の魔力の方がはるかに上であり、これらの両立は不能。
更に、マスターとしては極めて優秀なオフェリアの魔力量を以てしても、この宝具を維持するのは一分とて不可能な話であり、早い話、発動すれば消滅が確約する宝具と換算しても間違いはない。


903 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:22:32 MPJbhcWg0
『八極炉』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:測定不能 最大補足:測定不能
バーサーカーの胸部に組み込まれている炉心。金色の、お椀上の機械である。
その正体はバーサーカーが生きていた世界において、因果要塞と呼ばれる惑星以上の大きさの巨大要塞を稼働させる、大量のマントラを制御する為に開発された特殊装置。
後述の宝具が発動する為に必要な宝具であり、聖杯戦争に召喚されたサーヴァントに際して、この宝具の性能は平常時の魔力消費が大きく低減されることと、
怒りのエネルギーによる魔力回復の量が向上する程度に留まっている。この宝具が破壊ないし発動を止められた場合、上述のメリット効果は全て消滅する。
また、先の宝具と、後述の宝具による平時の魔力消費を賄える量以上の魔力は、この宝具は生めない。

『輪壊者、事象の地平を踏め(アスラ=マズダ)』
ランク:EX 種別:対『界』宝具 レンジ:測定不能 最大補足:測定不能
発動不能。厳密に言えばいつでも発動可能な宝具であり、先に述べた宝具・否天が子供のおふざけに見えるレベルの宝具だが、発動しようとすれば最後。
この宝具に変身する過程の魔力消費でバーサーカーは消滅し、マスターは魔力の急激な喪失で即死する。いわば究極の出オチである。事実上、発動は不可能であり、考えないものとするべき宝具である。

【weapon】

拳足:
文字通り。バーサーカーは相手を殴る、蹴る、と言う戦い方を好む。

【人物背景】

魂に宿る真言の力『マントラ』を用いた高度な科学技術と精神的な宗教文化を併せ持つ、神国トラストリムに生を授かった神人類。
その中でも軍人階級に在り、己の身体を今でいうサイボーグと化させた者達。その中でも特にマントラへの適合力が高く、その適合力と戦闘能力を買われた、八神将。
アスラは、その八神将の一人であり、怒りのマントラを象徴する人物である。
同胞の裏切りによって反逆者の汚名を着せられ、娘と妻、そして自身の命まで奪われるも、死すとも尽きぬ怒りを魂代わりに、一万二千年の時を越え現世へと甦る。
その怒りの赴くままに、同胞を殺し、友と戦い、地球の意思を殴り飛ばし、そして、万物の創造主をも破壊した男。
 
【サーヴァントとしての願い】

そもそもサーヴァントとして来る必要性も、来る気すらなかった。……まぁ最後までマスターの為に、戦うか

【基本戦術、方針、運用法】

キミ何処のオリ最強系サーヴァント?と言いたくなるようなふざけたステータスとスキル構成と宝具構成の持ち主。
多分10年以上前のFate二次創作の時代でもEXランク3つはなかったと思うんですけど(名推理)
とは言っても、4つある宝具の内2つは発動不能と言うか、発動すれば死ゾの代物の為、現実的に使える宝具は2つしかない。
その上、怒りゲージが溜まると発動不能の2つの宝具の内1つが強制発動の為、事実上消滅する機会が他のサーヴァントに比べて1つ多いとんだ厄モノサーヴァント。
基本的に近接戦闘では敵はないが、サーヴァントとして呼ばれた枷の為、原作並に頭の悪い戦闘は出来ない。



【マスター】

オフェリア・ファムルソローネ@Fate/Grand Order

【マスターとしての願い】

今はない。ただ、進むだけ

【weapon】

【能力・技能】

降霊術、召喚術:
オフェリアが修め、得意とする魔術

遷延の魔眼:
『宝石』ランクの魔眼。未来視の一種で、あらゆるものの可能性を見る事が出来る。
そして、その一度見た「能性を魔力を消費することで『ピン留め』が可能。この「ピンで留める」とは、都合の悪い可能性の発生を先延ばしに出来る能力である。
相手の自己強化、他者強化に干渉して強化すると言う行為を無効化するのは勿論の事、行動出来ると言う可能性をピン止めして行動不能にさせる事も出来る。
また可能性が見えるという事は、ある種の未来視でもあり、起こり得る可能性をもとにして、自身がどう動くかも選ぶ事が出来る。
弱点は、自身から遠すぎる可能性には干渉することはできない事。作中ではこの弱点の故に、レフ・ライノールの用意した爆弾での死から逃れられなかった。
また、魔眼の対象になった者が『別の可能性の自分』が存在できない程に『精神を固定する』と同じく可能性に干渉できなくなるということである。

【人物背景】

カルデアが嘗て用意していた生え抜きメンバー達、所謂Aチームとしてカルデアから選抜された優秀なマスターの一人。
高い戦闘能力と優れた才能、またその魔眼の故に、キリシュタリアからの信頼も厚く、戦闘に於いては彼女の方が分があると認めていた程。
しかし、人理焼却に際して、レフ・ライノールの用意した爆弾によって一度は死に、その後、クリプターとして蘇り、カルデアと敵対した。

原作第2部2章終了後より参戦

【方針】

元の世界に戻る。居場所がなくても、それでも、進む。進めと、言われたから


904 : 怒りの進化論 ◆zzpohGTsas :2021/06/22(火) 19:22:43 MPJbhcWg0
投下を終了します


905 : ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/22(火) 20:04:48 cmgY9Q1E0
投下します。


906 : マリオネット ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/22(火) 20:05:31 cmgY9Q1E0


 ーー幸せになりたいか、にちか。


 とても冷たいけれど、たった一つの希望となる声が私の中に響きます。


907 : マリオネット ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/22(火) 20:06:16 cmgY9Q1E0


 ◆



 私の名前は七草にちか。
 八雲なみちゃんに憧れて、283プロのアイドルになった女の子です。
 お姉ちゃん・七草はづきが勤める283プロダクションのプロデューサーさんに詰め寄って、アイドルにして貰った私ですが……頑張った甲斐があって、輝けるようになりました。
 レッスンやお仕事をたくさん乗り越えて、オーディションをたくさん勝ち抜き、たくさんのファンから応援されて、ついに『W.I.N.G.』の優勝も果たします。


 優勝……そう聞いた時、私の頭の中は混乱しました。
 息ができなくなり、私自身の表情すらわからなくて、言葉もまともに出てきません。
 だけど、プロデューサーさんは伝えてくれました……優勝した私は苦しそうだけど、笑えていることを。
 そして、私は泣きました。もちろん、これは嬉しい涙です。
 プロデューサーさんからも、今の私は立派なアイドルだと認められましたから、なみちゃんにもいっぱいお礼を言いました。
 星空の下で、プロデューサーさんがくれたミルクティーの味と温かさは忘れられないでしょう。



 でも、その矢先に私は聖杯戦争に巻き込まれちゃいます。
 どんな願い事もかなえてくれる聖杯を巡って、殺し合うことになっちゃいます。意味がこれっぽっちも分からないですし、どうしてアイドルの私がケンカなんてしないといけないのか?
 聖杯なんていらないから、早く家に帰してほしかったです。明日から、またアイドルとして頑張らないといけないから。

 もちろん、私の願いは叶いません。
 その代わりか、私は寮に住まわせて貰っています。住まいの問題はひとまず解決しましたが、喜べる訳がありません。
 理由は一つです。

「あ、あれ……? 私の、足が……動かない……?」

 ある日、聖杯戦争以上の絶望が、私の身に降りかかります。
 あまりにも唐突に、この足が動かなくなりました。怪我はおろか、どこかにぶつけた記憶もないのに……私の足だけでなく、指先だって動いてくれません。
 もちろん、原因は全く分かりませんし、治療なんてできる状況じゃありませんでした。

「な、何で……? 何で、動いてくれないの!? 何でっ!?」

 足が動かなくなって、私の目の前が真っ暗になりました。
 今まで積み重ねてきた全てと、これから待っているであろう輝かしい夢と未来がバラバラに崩れて、何も考えられなくなります。


908 : マリオネット ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/22(火) 20:07:43 cmgY9Q1E0

「ど、どうしよう……!? このままじゃ、私はアイドルでいられない……! なみちゃんみたいに、なれない……!
 せっかく、『W.I.N.G.』に優勝して、これからもっと輝けるはずなのに……!」

 足が動かなくなれば、アイドルとしては死んだも同然です。アイドル以前にまともな日常生活すら望めないでしょうし、そもそも他のマスターやサーヴァントの的にされます。

「い、嫌……嫌っ! 誰か、誰か私を助けて……!」

 ーー問おう。君が、私のマスターかな?


 絶望に陥った私の前に、あの人がやってきました。
 ピエロみたいな帽子を被り、鼻と口を露出させた赤いマスクで顔を覆い、漆黒と紫に染まったローブと衣服を身に纏っています。胸元と帽子にはスペードのマークが描かれていて、不気味な雰囲気を引き立たせます。
 あぁ、この人が私のサーヴァントだと瞬時に気付きました。でも、明らかに怪しい外見で、私は震えちゃいます。

「あの……あなたは……!?」
「あぁ。足が動かないなんて、可哀想に……でも、私がいればもう大丈夫! 君の願いを叶えてみせよう!」


 でも、私の警戒などお構いなしに、彼は大仰な身振りと共にお辞儀をします。すると、石のように固まっていた私の足が一気に軽くなりました。

「えっ……? 足が、足が動く!? 踊れる! 私は、踊れます!」

 夢じゃありません。上げ下げはもちろん、ステップだって踏めるようになります。
 奇跡です。私のサーヴァントは、奇跡の力で私を救ってくれました。


「私の力はこんなものじゃない。にちかが望みさえすれば、どんな願いだって叶えてあげられるさ。聖杯だけじゃない……君を奇跡のトップアイドルになることだって、夢じゃないさ。
 もちろん、邪魔な奴らをお人形みたいに黙らせる力だって、君にあげよう」


 足を取り戻した喜びに浸っている私に、彼は語りかけます。
 私が望めば、彼はどんな願いでも叶えてくれる。私の足を動けるようにしてくれたから、本当のことでしょう。
 でも、聖杯が欲しいとまでは思いません。それに、トップアイドルだって、私自身の力でならないといけないです。
 だから、彼には申し訳ありませんが、首を横に振ろうとしましたが……


「君が私の力を必要としないなら、それで結構。もしそうなったら、私も君を守れなくなるからね」


 彼の言葉に、私の息が止まりそうになりました。


909 : マリオネット ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/22(火) 20:08:40 cmgY9Q1E0
「私は君の力となる為に、ランサーのサーヴァントとして召喚された。でも、君が私の力を必要としないなら、私は君の意思を尊重しよう。君一人の力で、この困難を乗り越えるなんて、とても素晴らしいじゃないか」

 彼は称賛してくれますが、私にそんな力はありません。
 私はアイドルとして輝けましたが、戦いとは全く縁がないです。そんな私が、たった一人で聖杯戦争に挑む羽目になったら、すぐ殺されるに決まっています。
 だから、彼のマスターとなって戦わないといけない。でも、人を殺すことにどうしても抵抗があります。


「待ってください! 考える時間が……考える時間が、欲しいです! こういうことは、すぐに決めちゃいけない気がしますから……」
「そうか。なら、私は君の答えを待とう……でも、あまり時間がないことを忘れちゃいけないよ?
 この聖杯戦争では、君のようなマスターは格好のターゲットだ。君を狙う奴らから、私は君を守りたいからね。私自身のためにも」


 彼は私のそばからいなくなる訳ではなさそうです。
 そのことに、少しだけ胸を撫で下ろしましたが、その場しのぎにすぎません。
 彼が言うように、私は狙われています。あとまわしにしていたら、すぐに殺されるでしょう。
 

「申し遅れた。私はブラックファング……この度は、君のサーヴァントとなるべくして召喚された男さ」


 彼……ブラックファングさんは、口元で笑みを作っています。
 その笑顔にどんな意味を持っているのか、私にはまだわかりませんでした。


910 : マリオネット ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/22(火) 20:10:58 cmgY9Q1E0


 ◆



 世界を最悪にし、すべての人間を不幸にしようと企んだ悪の組織・幻影帝国の幹部がブラックファングだ。
 バレリーナを夢見る少女・織原つむぎの足を奪い、彼女の絶望から紡がれる不幸の力を利用して、世界を不幸で飲み込もうとする。
 しかし、ハピネスチャージプリキュアのキュアラブリー達がつむぎの希望を取り戻したことで、ブラックファングは浄化された。つむぎ達の応援が、キュアラブリーをスーパーハピネスラブリーにパワーアップさせて、真の力を発揮したブラックファングすらも打ち破ったのだ。

 キュアラブリー達への恨みを抱えたまま、消滅したブラックファングだったが……今は聖杯戦争のサーヴァントとして復活している。
 マスターとなった少女・七草にちかは格好の餌だった。つむぎのように踊れなくさせて、絶望のどん底に叩き落して、蜘蛛の糸のように細い希望を差し出した。
 案の定、にちかは面白いように食いついた。

(やはり、人間は愚かで弱く……そして面白い生き物だ! 足を奪ったのが俺であるとは知らず、俺にすがりつくのだから!)

 ブラックファングは自らの力で、足を奪うアンクレットをにちかの両足に付けている。このアンクレットにより、にちかの足は動かなくなった。
 もちろん、にちかの目には見えておらず、人間の医療でも原因不明と診断されてしまう代物だ。
 当然、今は足を動けるようにしているが、ブラックファングの意思でいくらでも足を奪うことができる。仮に、にちかがアンクレットに気付いたとしても、にちかにはどうすることもできない。
 ただの余興と誤魔化すことはもちろん、にちかに戦いを強制させることも可能だ。無力な少女に過ぎないにちかはブラックファング以外に頼れる人物はいないのだから。

(万能の願望器となる聖杯……その力さえあれば、今度こそ俺は絶大な力を得られるだろう)

 聖杯戦争を勝ち抜けば、あらゆる願いを叶えられる聖杯が得られる。効果が事実であれば、あのクイーンミラージュをも上回る程の力を再び得られるはずだ。
 もちろん、絶望するにちかが紡ぐ力を蓄えることも忘れない。


911 : マリオネット ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/22(火) 20:11:52 cmgY9Q1E0

(にちか……悩み、そして悲しめ。お前が紡ぐ不幸の糸があれば、俺は強くなれる。その為にも、俺がお前を守ると約束しよう……お前の味方は、俺だけなのだからな)

 夢に溢れ、輝こうとしていた少女が七草にちかだ。
 バレリーナを夢見たつむぎの足を奪ったことで、ブラックファングの力となる不幸と絶望が大いに生まれた。マスターとなったにちかも同じで、足を奪われたことで絶望が止めどなく溢れていく。
 この聖杯戦争の中で、にちかが他者を踏みつけにしたらどうなるか? 考えるまでもなく、にちかは絶望に溺れて不幸そのものになり、ブラックファングは更なる力を得られるだろう。
 聖杯を手に入れる為の道具として、にちかを守らなければいけない。聖杯の力と、にちかが生み出す絶望……この二つを合わせれば、世界を大いなる不幸で飲み込むことができるし、キュアラブリー達への復讐も実現できる。

「ブラックファングさんは……私のそばから、離れませんよね?」
「当然だろう? 私は、君を絶対に守ると約束したからね」

 不安げな表情を浮かべる七草にちかを前に、ブラックファングは笑う。
 意のままに動く操り人形……マリオネットとなった少女をいかにして守るか? そんな邪な考えを巡らせながら、ブラックファングはゆっくりと黒い牙を研いでいた。


912 : マリオネット ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/22(火) 20:12:41 cmgY9Q1E0

【クラス】
ランサー

【真名】
ブラックファング@映画ハピネスチャージプリキュア! 人形の国のバレリーナ

【属性】

混沌・悪

【パラメーター】
筋力:C 耐久:B 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:E 宝具:A+

【クラススキル】

対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】

不幸のアンクレット:B
ブラックファングの呪いから生み出されたアンクレット。
ブラックファングの意思だけで、対象となった人物の足を動けなくするモノ。ある一定の対魔力があれば無効化も可能。

マリオネット:B+
ブラックファングが他者に与える呪われた力。
この力を与えられた人物は他者を人形にできる他、自らの意思でサイアークを生み出すことができる。
そしてこの力で不幸を紡ぐ度に、ブラックファングの力も増していく。

サイアーク:B-
人間を鏡に閉じ込めて、不幸の怪物・サイアークを生み出すことができる。
素体とされた人間は棺桶のような鏡に閉じ込められ、サイアークを浄化しない限り目覚めることができない。

【宝具】

『紡がれる不幸の糸(メイキング・アンハッピー)』
ランク:A+ 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-

ブラックファングの呪いによって紡ぎ続けた織原つむぎの不幸を利用したブラックファングの真の姿。世界全てを不幸の糸で縛り付け、圧倒的な巨体と力で全てを破壊することができる。
広範囲の攻撃も可能で、並の技を通さない程の耐久力を誇る。また、ミラクルライトの光のように、ステータス向上系のスキルを無効化させることもできる。


913 : マリオネット ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/22(火) 20:13:49 cmgY9Q1E0

【人物背景】

足が動けなくなり、バレリーナの夢が破れて絶望するつむぎの前に現れたなぞの男。
つむぎの為にドール王国を作り出し、愛する人形たちと共に踊れる世界につむぎを招待した。
しかし、彼こそがつむぎの足を奪った犯人。不幸のアンクレットでつむぎを踊れなくし、不幸や悲しみから生まれるエネルギーを得て、つむぎの不幸から紡いだ糸で世界を飲み込んだ。
彼の悪意はこれで止まらない。不幸の糸から紡がれた繭に閉じ込めたつむぎに、つむぎの不幸で恐怖する人々の姿を見せつけて、更にはジーク王子を始めとした人形たちを傷付ける。
全ては、幻影帝国の女王・クイーンミラージュを超える力を手に入れて、世界を飲み込むために。

だが、つむぎを救ってというジーク王子達の願いを受け取ったキュアラブリー達の反撃を受けてしまい、キュアラブリーの想いでつむぎが幸せを取り戻す。生きる希望と幸せを取り戻したつむぎの不幸が止まってしまうも、不幸の糸で蓄積した力でブラックファングは真の姿に変身し、キュアラブリー達を追い詰める。

圧倒的な力を振るうも、つむぎとの絆を胸にしたキュアラブリーは決して絶望せず、スーパーハピネスラブリーにパワーアップを果たす。
たった一つでも愛がある限り、幸せを諦めないというハピネスチャージプリキュアの決意を前に、ブラックファングは敗れ去った。


【サーヴァントとしての願い】

聖杯を手にし、世界を不幸で飲み込む。

【マスター】
七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
私の未来と夢、そして幸せをこんな所で終わらせたくない。

【能力・技能】

283プロダクションのアイドルとして必要な体力と知識はあり、また多くの人を魅了させることができる技術を誇る。
困難な夢を実現させられるほどの根性もある。

【人物背景】

八雲なみに憧れてアイドルとなり、ひたむきな努力で輝いた少女。
凡人ながらも、他のアイドルを凌駕するほどの技量を会得し、にちかは舞台の上で拍手喝采を浴びた。

【方針】
今は彼ーーブラックファングさんに頼るしかない。

【備考】
『W.I.N.G』優勝後からの参戦です。
ブラックファングによってアンクレットを付けさせられ、足が動けなくなりました。
ただし、現在はブラックファングの力で足を動かせています。


914 : ◆k7RtnnRnf2 :2021/06/22(火) 20:14:28 cmgY9Q1E0
以上で投下終了です。


915 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/22(火) 21:14:26 4eITFEIk0
>>我楽多輪舞曲(煉華&アーチャー)
トリ子こと妖精騎士トリスタン、さっそくの登場! この子見た目もキャラも好きなんですよね。
そして肝心のお話はというと、お互いの狂気をとても巧く描けているなあと感じました。
リズミカルな地の文も大変雰囲気がよく出ていて、上手いな〜〜と思いながら読ませていただきました。
しかしながらこの主従に共通している悲哀さも確かにあり、とてもよくできたお話だなと。


>>終わらない歌
暴走族神こと殺島も二人目が来ましたね。個人的に好きなキャラなので嬉しいです。
この主従、どちらも死んだ後に地獄へ突っ走っていった者たちの組み合わせなんですね。
一見するとマスターの志々雄の方が強そうですが、殺島の真骨頂はそのカリスマと率いる聖華天なので未知の化学反応が生まれそう。
志々雄と殺島もとい暴走族神の二頭体制で仕掛けてくる聖華天、流石に怖い。

>>やる夫&バーサーカー
やる夫とめだかちゃんという組み合わせ、あまりにもあまり。
ただやる夫もスレによって顔や能力が変わりますし、そういう意味では全能に近いめだかとの相性は良いのかも。
とはいえ性格的な相性は全然なのでドタバタした道中になりそうな感じがあります。
この主従の出ている回だけやる夫スレ感がものすごくなりそうで、そういう意味でも面白い話でした

>>ちいかわ&バーサーカー
ちいかわ、最悪!!!!!!! まごうことなき最悪のマスターすぎて笑っちゃいました。
>基本言葉がしゃべれないので令呪があっても命令できない。 あまりにもひどすぎる。
前半の妙にリアルな生活保護申請パートといいボコボコにされるちいかわといい、別な意味で息つく暇もないお話でしたね……。
草むしり検定五級に合格されるために使われる聖杯、さすがにかわいそう。

>> 『さとり』と『こいし』
こいしがさとりという名のマスターに召喚される話、把握レパートリーの妙という感じがしますね。
こいしは戦闘能力はさておきそれ以外の場でかなりエグいことが出来る性能で恐ろしいです。
都市伝説を振り撒きながら暗躍するアサシンこいし、聖杯戦争が進めば進むほど厄介になってきそう。
そしてマスターの方のさとりも純粋に強く、可愛さとは裏腹に油断ならない主従でした。

>>怒りの進化論
あまりにもムチャクチャな性能のサーヴァントすぎて変な笑いが出ました。
それはさておき、オフェリアの描写やアスラの心理など、氏の筆致の巧みさが窺えましたね。
死亡後のオフェリアという二次創作の中でしか存在しないキャラクターをこの上なく見事に描いており、とても完成度の高いお話でした。
戻る場所がなくとも帰る、その意志を抱いて進む彼女の行く末に思いを馳せたくなります。

>>マリオネット
にちか、五人目!!! そろそろ五体でリンク召喚したくなってきましたね……というのはさておき。
しかし今回のサーヴァント・ブラックファングは今までのにちかガチャの中でも最悪の結果の様子。
なまじ人心掌握に長けている様子なのが、にちかという不安定な少女と皮肉なほど相性がいいのがまた。
前途が多難なんてものではない今回のにちか、果たして元の世界に帰り着くことは出来るのか否か。

皆さん本日もたくさんの投下をありがとうございました!


916 : ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/23(水) 00:09:37 CmUoHP6Y0
投下します


917 : ガムテ&ライダー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/23(水) 00:10:31 CmUoHP6Y0


――――東京都・中央区某高級住宅塔。



「みんなぁ〜〜殺すの好きぃ?」


カラーボールに眩く輝く室内に声が響く。
おどけた子供の声だった。
だが、その声によって齎されるのは―――


「大好きィ〜〜〜!!!!!」

「ガムテッッ!!」「ガムテッッ!!」

「王子ッ!!」「王子ッ!!!!」


熱狂。歓声。狂奔。
大きなモニターの前に悠然と佇む、ガムテと呼ばれた少年を取り巻く異様な熱気。
それらが全て顔にガムテープを巻いた十代の年若い子供たちによって作られているとなれば、異様さにも拍車がかかる。
クラスの人気者等と言う温い立ち位置では断じてなく。
最早、その室内は彼の王国と化していた。


「殺人の王子様(プリンス・オブ・マーダー)ッッ!!ガムテェ〜〜〜!!!!!」


それを裏付ける様に殺しの王子と、ガムテープを顔中に巻きつけた子供たちが叫ぶ。
それを受け、ガムテは尊敬と崇拝と羨望に無邪気な子供の様な笑みで答えながら『残っている方の手』を掲げた。


「うんうん、だよね〜〜〜
今日は皆と楽しい死亡遊戯(ゲーム)持ってきた☆」


忍者にやられた左手とは違い、遺った右手に刻まれた紋様。
極道の入れ墨の様なその紋様は。
彼が聖杯戦争に招かれたマスターであることの証明に他ならない。
ガムテの立つ背後の巨大スクリーンに、その模様が映し出される。


「そのゲームの名前は…聖杯戦争!腕にこんな入れ墨を付けた奴らは漏れなく殺り放題(ヤリホ)!
一人につき10万MP(マサクウ)ポイント進呈しまぁ〜〜す」


その言葉に室内は更なる熱狂に包まれる。
子供たちは興奮の高揚(アガり)を抑えきれず、怒号めいた歓声を上げる。
手に入れ墨をした奴らがターゲット。一人につき十万MP。
正しくUR大放出の大盤振る舞いだ。


「ただし!入れ墨を付けた奴らを殺そうとしたら鉄砲玉(サーヴァント)って忍者みたいな奴らが来襲(ク)る!」


熱狂を諌める様に、操作する様にガムテは訴える。
殺しを邪魔する英雄たちの存在を。
しかし、熱狂は醒めるどころか増すばかりだ。


918 : ガムテ&ライダー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/23(水) 00:11:56 CmUoHP6Y0


「信じるぜェ〜〜ガムテ!!!お前の言う事疑うやつ何か此処には非現実(アリエネ)って!!
そして俺たちは必ずお前を勝たせてやる!」


傍らに控える体格のいい褐色の少年――黄金球(バロンドール)がガムテへと激を贈る。
それを後押しするように、子供たちもそうだそうだと半ば叫ぶように同意を示した。
どうしようもなく狂っていたけれど。
それでもその光景には確かな絆があった。
そして、その絆の中で王子たるガムテは信頼に答えんと咆哮を上げて。


「そうだ!例え仲間(みんな)が殺されても俺は必ずマスターを、サーヴァント共をぶっ殺す!
皆の魂は!優勝した俺の精神(こころ)に生き続ける!」


歓声。歓声。鳴りやまぬ絶叫。
焚きつけられた幼き殺意は既に蜂起しそうなほどだ。
その様子を一人冷静に見つめていた舞踏鳥(プリマ)は無言でガムテの背後に視線を移し、呟きを漏らす。


「信じがたいけど…信じない訳にはいかないわね。あんなババアを見せられたら」


ガムテの背後の空間。熱狂のステージの中心
そこにはいつの間にか人影が立っていた。
その威容。その巨大(デカ)さは人と形容していいものか悩むところだったが。
天井すらぶち抜いて、その巨体はマスターの背後に姿を現す。


「マ〜〜〜ママママ!!!そうさ!聖杯はこのおれ、ビッグ・マムが頂く!!」


舞踏鳥が一日かけて作った超特大シュークリームに舌鼓をうちながら。
ファンシーな服に身を包んだその女怪は豪快に笑った。
かの者の名はビッグ・マム。ひとつなぎの大秘宝を巡る海で四皇とまで呼ばれた怪物である。


「そしておれがひとつなぎの大秘宝を手に入れて――海賊王になるんだよ!!」


マムは、孤児院の出身だった。
だから、自らのマスターを取り巻く子供たちは、一番楽しかった時期を思い出して気に入っていた。
加えて、聖杯の獲得にも積極的である。ならばマムの戦意(テンション)もアガるというもの。
対する子供たちは突如現れた『大人』の老婆の姿にどよめきと嫌悪の声を上がりそうになる。
だが、それよりも早くガムテは向き直り、問いを投げた。


「ねぇ〜〜ライダー?俺たちはこの戦争で、いっぱい殺せる?」


その問いはいつでも、どんな時でも殺しを辞められない彼らの破綻を示していた。
どうしようもなく割れてしまった子供たちを象徴するような問いだった。
だが、そんな問いに稀代の女海賊ビッグ・マムは笑みで答える。


「―――勿論さ!誰にだって殺したい人間の百や二百はいるもんだ!
我慢何て必要ない!殺した奴らの髑髏の盃でテーブルを囲むのが家族ってもんだろ?
その後はデザートに聖杯をグラスに甘ーいケーキと紅茶でパーティとしゃれこもうじゃないか!!」


何千人殺そうとも、それが自分にとっての益になるのならマムは頓着しない。
逃げようとする者と裏切り者は殺すが、自分に逆らわないなら壊れた子供達でも一向にかまわない。
そんなマムの答えを受けて、ガムテは一瞬氷の様な無表情を浮かべた後、再び笑顔になって。


919 : ガムテ&ライダー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/23(水) 00:14:02 CmUoHP6Y0


「―――だってさ!みんな!ライダーもこう言ってる!
だから殺そう!!皆殺そう!俺たちは若くして心を殺された!
家族に!学校に!この世界に!!何度も何度も心を殺された!!」


まるで指揮棒を振るう様に。
ガムテの言葉は再び熱狂を呼び起こして。
その背後のマムが指を鳴らせば、天井のカラーボールも顔が浮かんで合いの手を入れて。


「殺られたままじゃ生きられない!」「誰か殺らなきゃ生きらんない!」


壊れた子供が口ずさむままに、狂騒曲は続き。


「だから今日も殺人(コロシ)をしよう!」


それはゲームの開始を告げるホイッスルとなる。


「幸せな奴らを沢山殺そう!!」
「マ〜〜マママママママ!!マザーの夢のために、しっかりと働きなガキ共!!」


その手のマザー・カルメルの写真を掲げて快哉を上げるライダー。
それを聞くガムテは笑っていたが、心は深海の様に暗く、一条の光も刺さないほど冷たかった。
ライダーの言動を注意深く観察していれば察することは容易だった。
かつては彼女も自分たちと同じ割れた子供だったのかもしれない事は。
だが、今は違う。
己の快・不快のために子供を踏みにじる、踏みにじってきた大人だ。
ならば―――


「――ガムテ」


隣で小さく舞踏鳥がガムテの名を呼ぶ。
その視線はガムテと同じように、冷たく、昏く。
舞踏鳥だけではない、この室内にいるガムテープを巻いた全員が、一様に同じ顔をしていた。
彼らの熱狂に、その裏に隠した氷点下の殺意にガムテは無言で応える。
ライダーに気取られないよう、殺意すら殺して。


―――あぁ。こいつも必ず、俺が殺す。


海賊の王だろうと何だろうと、俺は必ずこいつを刺す。刺して。殺す。
何故なら、自分は心壊れた子供達全ての味方だから。
だから例え味方であっても子を踏みにじる醜悪な大人(おや)は生かしてはおかない。
絶対に。絶対にだ。
全ての主従を殺しつくし、聖杯に辿り着いた暁にはライダーも必ず地獄へ送って見せよう。
最高に、最悪の状況(シチュ)で。
割れた子供達(グラスチルドレン)の王として。破壊の八極道として。
言葉にはしないまま、しかし絶対の意思を以て視線で号令を発する。
そして、その号令を疑う者はこの部屋には一人として居なかった。
その姿はやはりどうしようもなく壊れていたけれど。
紛れもなく、王の姿だった。
最早信仰とも呼べる視線を一身に受けながら、割れた子供たちの英雄はなおもお道化て謳い続ける。


「殺すよ殺す♪割れた子供達(グラス・チルドレン)殺せば僕らは幸福(しあわせ)に!
―――コロシが僕らの生きる道!」


920 : ガムテ&ライダー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/23(水) 00:14:50 CmUoHP6Y0


さぁ死亡遊戯(ゲーム)の始まりだ。
舞台は界聖杯によって再現された偽りの世界。偽りの帝都。偽りの東京。
サーヴァントとマスター。
海賊と極道。
誰か生存(いき)るか死滅(くたばる)か……!!




【クラス】ライダー
【真名】ビッグ・マム(シャーロット・リンリン)
【出典】ONE PIECE
【性別】女性
【属性】混沌・悪

【パラメーター】
筋力:A++ 耐久:A+++ 敏捷:B 魔力:B 幸運:B 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:A
 幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自在に操れる。

【保有スキル】
悪魔の実:EX
超人系『ソルソルの実』の能力者。
自分の魂を具現化し黒いスライムのような存在として使役できる他、同意を得た相手や自身に臆した相手から寿命を奪う事ができる。
奪った寿命は無機物に入れる事で人格を与える事が出来たり、動物に入れば擬人化を起こす。(この状態のライダーの使い魔をホーミーズと呼ぶ)
ただし、他人や死体に魂を入れる事はできない。

覇気使い:A+
全ての人間に潜在する"意志の力"。
気配や気合、威圧、殺気と呼ばれるものと同じ概念で、目に見えない感覚を操ることを言う。
マムは最高レベルの覇気使いであり、覇王色を"まとう"ことも可能である。

嵐の航海者:A
船と認識されるものを駆る才能。
集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。


喰い煩い:A
ライダーは他者の寿命、又は甘いお菓子を摂取することによって魔力を回復する事ができる。
しかし、逆に食べたいと思ったものが食べられずに一定時間経過すると狂化スキルが付与され見境なしに暴れまわる。
こうなればマスターの言葉さえ届かず制御は非常に困難となる。
解除するには早い段階で食べたいと思ったものを摂取させるしかない。


921 : ガムテ&ライダー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/23(水) 00:15:29 CmUoHP6Y0

【宝具】
『悪神(ナチュラルボーン・デストロイヤー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
マムの肉体。この世における最強の女と謳われた"皇帝"の全て。
体表の全てが極めて堅牢で、元の世界では若干五歳で巨人族の村を滅ぼし悪神として恐れられるほど。
パワー、スピード、そしてタフネスさと全能力値が異常に飛び抜けた領域に達している。
そこに彼女自身の武技が加わることにより真っ向からの打倒は極めて困難であり、唯一の女性四皇の名に違わない圧倒的な強さを実現している。
一定以下の威力の攻撃を無効化し、その篩いを超えたとしても固定値分被ダメージを軽減する。
この性質は魔術的な攻撃に対しても同様に働くため、如何なるクラスの英霊であっても真っ向からマムを討つことは平等に至難の業。


『天候を統べる女(ビッグ・マム)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大補足:100
ソルソルの実の能力によって作り出されたマムの懐刀とも呼ぶべき疑似太陽と雷雲と剣。
『雷雲"ゼウス"』や『太陽"プロメテウス"』『二角帽"ナポレオン"』は、彼女のソウルを直接分け与えた、いわば分身である。
『太陽"プロメテウス"』は、生きた巨大な空飛ぶ火の玉のため、水といった鎮火させる以外の攻撃は武装色の覇気を含め一切通用ぜず、太陽に対して弱点を持つサーヴァントに特攻効果を与える。
また、ライダーは、『雷雲"ゼウス"』『太陽"プロメテウス"』に乗ることが可能となっており、雷雲であるゼウスに乗った彼女の機動力は見た目に似合わず非常に高い。
『二角帽(バイコーン)"ナポレオン"』は普段はホーミーズの信号をキャッチするレーダーのような役割で、有事の際には大型の両刃剣に変化しマムの戦闘に貢献する。
意識を刃に移すことで巨大なカットラスに変形することもでき、この状態で刃をさらに長大化することも可能。

この三体を用いてライダーは威国や雷霆など、強力かつ様々な技を放つ。

『万国(トット・ランド)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-
ライダーがかつて統治していたお菓子と多くの種族、そして彼女の子供達が住む万国を再現する固有結界。
莫大な魔力消費の引き換えに世界最高峰の実力者ぞろいの船員にして彼女の子供たちを使役できるが、召喚したマスターの影響か現在使用不能。

【weapon】
ゼウス、プロメテウス、ナポレオンをはじめとする能力で作り出したホーミーズ。

【人物背景】
四皇の1人で、異名は“ビッグ・マム”。
甘いお菓子に目がないビッグ・マム海賊団の船長にして万国トットランド女王。
若干五歳で歴戦の巨人族の村を滅ぼす極めて特異な身体能力を誇り、頭脳も持病の喰い患い状態でなければ非常に狡猾。
この世の全ての種族が平等に食卓を囲む世界を理想としており、大家族を築いているが目的のためなら息子や娘でさえ容赦なく斬り捨てる冷酷さも有している。
半面、打算なく親切にされれば彼女なりの仁義を見せる時もあり、前述の喰い患いの特性を含めてその行動は正に予測不能。
ひとつなぎの大秘宝を巡る海にて最も自由な女海賊と言える。

【サーヴァントとしての願い】

聖杯を手にし、マザーの夢を叶える。

【マスター】
木村輝(ガムテ)@忍者と極道

【マスターとしての願い】
全てのマスターとサーヴァントを殺し、聖杯を手に入れる(用途は未定)


【能力・技能】
『破壊の八極道』
殺人の王子様の異名を誇り、苛烈な虐待を日常的に受け続けた結果30分間無呼吸でも活動でき、3週間ほど眠れなくても問題のない異常な身体特性を有している。
また短刀(ドス)の技量も非常に巧者で音速を超える速度の貫手の威力すら鼻歌交じりに殺して見せ、
相手を肝不全にする必殺技まで有している。
何より恐ろしいのは普段道化を演じる事で相手に実力を誤認させる冷徹な本性を隠し通す演技力だろう。
サーヴァントであっても看破技能を持たなければ彼の脅威を見誤る可能性が高い。

地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)
ペーパードラッグ『天国への回数券(ヘブンズ・クーポン)』の改悪版。服用することで忍者と同じ眼にも映らぬ速度で動き、壁にクレーターを作る事もできる程膂力も向上する。

【人物背景】
「殺人の王子様プリンス・オブ・マーダー」の異名を持つ『破壊の八極道』の一人で、極道最狂の殺し屋集団『割れた子供達グラス・チルドレン』のリーダー格。

【方針】
他の主従を皆殺しにした後、ライダーにも最も屈辱的な死を与える。


922 : ガムテ&ライダー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/23(水) 00:17:55 CmUoHP6Y0
【マスター】
輝村照(ガムテ)@忍者と極道

【マスターとしての願い】
全てのマスターとサーヴァントを殺し、聖杯を手に入れる(用途は未定)


【能力・技能】
『破壊の八極道』
殺人の王子様の異名を誇り、苛烈な虐待を日常的に受け続けた結果30分間無呼吸でも活動でき、3週間ほど眠れなくても問題のない異常な身体特性を有している。
また短刀(ドス)の技量も非常に巧者で音速を超える速度の貫手の威力すら鼻歌交じりに殺して見せ、
相手を肝不全にする必殺技まで有している。
何より恐ろしいのは普段道化を演じる事で相手に実力を誤認させる冷徹な本性を隠し通す演技力だろう。
サーヴァントであっても看破技能を持たなければ彼の脅威を見誤る可能性が高い。

地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)
ペーパードラッグ『天国への回数券(ヘブンズ・クーポン)』の改悪版。服用することで忍者と同じ眼にも映らぬ速度で動き、壁にクレーターを作る事もできる程膂力も向上する。

【人物背景】
「殺人の王子様プリンス・オブ・マーダー」の異名を持つ『破壊の八極道』の一人で、極道最狂の殺し屋集団『割れた子供達グラス・チルドレン』のリーダー格。

【方針】
他の主従を皆殺しにした後、ライダーにも最も屈辱的な死を与える。


923 : ガムテ&ライダー ◆8ZQJ7Vjc3I :2021/06/23(水) 00:18:13 CmUoHP6Y0
投下終了です


924 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/23(水) 10:21:58 WjCpvERc0
投下します。


925 : chace you ◆Pw26BhHaeg :2021/06/23(水) 10:26:19 WjCpvERc0
 夕刻。公園で鬼ごっこをしていた子供たちのひとりが、ふと、気づいた。
ここは自分のいた場所、いた時代ではない。帰らねばならない、と。

「あいつ、見つからねーじゃん」「ガチ勢だよ。ほっといて帰ろうぜ」

 同級生たちが呆れた声で去っていく。
少年は顔を紅潮させ、目を輝かせ、息を切らして公園の奥、
滅多に人も来ない竹林の中へと駆け込んだ。彼の秘密の場所だ。

「聖杯戦争。何でも願いが叶う。それを、私が?」

 胸が高鳴る。これは仏や神の御導きか。
あの時、仏の前に座り、目を閉じた瞬間までは覚えている。
とすると、夢か、幻か。ぎゅうっと頬をつねると痛い。たぶん、夢ではない。

 不意に、目の前の空中に黄金の光の粒がきらめき、
群がり集まって、人のかたちを取る。自分に仕える英霊、「さあばんと」が現れるのだ。

 現れたのは、筋骨隆々の大男だ。
釣り上がった目、への字に結んだ口、二本の口髭。
冠、首飾り、黒い胴鎧の上に羽織った衣服。背中に二本の羽根飾り。
異国の武将の英霊であろうか。そして、見るからに偏屈で危険な男だ。
彼は胡乱なものを見るような目でこちらを睨むや、口を開いた。

「ニイハオ」

 少年はちょっと考えて、この言葉の意味を記憶から探り、笑顔で答えた。

「えーと、ニイハオ! 知っています。あなたの国の挨拶だ」

 男は鼻を鳴らし、言葉を継いだ。

「……俺は『暗殺者(アサシン)』だ。お前が俺の主君か、小僧」
「いかにも」
「名は」

「北条時行。高時の子」


926 : chace you ◆Pw26BhHaeg :2021/06/23(水) 10:28:38 WjCpvERc0


 アサシンは、しばらく時行を観察した。
10歳にも満たぬ幼さだが、顔立ちは優れ、立ち居振る舞いに品がある。名家の御曹司であろう。
瞳には恐怖と悦び、知性と理性、僅かな狂気、そして王の器が見える。

「アサシン殿。真の名をお教え願いたい」

 時行は胸の前で拳を手のひらで包み、丁重に頭を下げた。
名乗られたからには、自分も名乗らねばなるまい。

「…………甘寧だ」

 故郷の巴郡では、俺が恐れる者などいなかった。
州牧に反乱を起こして失敗し、長江を下って荊州に亡命したが、肩身の狭い思いばかりだった。
孫権に身を投じたのは、そこより他に生きる場がなかったからだ。
曹操にも、劉備にも、仕える気はしなかった。
しょせん俺は田舎の侠客崩れ、賊徒あがりで裏切り者だ。
降れば用いてはくれただろうが、余計に惨めな思いをするだけだ。食客たちも愛想をつかすだろう。

 孫権を特別に好んでいたわけではない。何年も戦ってから降った相手。
子飼いの武将の父も戦場で殺しており、恨みは幾らでも買っている。
逆鱗に触れて死を命じられても、仇討ちを黙認されても、おかしくない。
孫権は、それを踏まえて、俺を獣の、猟犬の一匹として飼っていただけだ。
常に最前線に立って活躍せねば、役立たずとして始末されただろう。
若造どもと同列以下に扱われ、嫌な思いも随分した。鬱屈も晴らしきれず、寝床で死んだ。

 挙句、死んだ後は英霊とやらにされ、こんな小僧の走狗か。
悪業の報いとはいえ、気に食わぬことばかりだ。

「貴様の願いを言え」

 時行は顔をあげ、真剣な眼差しで、正面からアサシンの顔を見る。

「天下を取り戻すことだ」
「天下?」

 時行は頷く。

「私の父は、天下の、日本国中の武家を治めていた。先祖から引き継いだものだ。
だが謀反に遭って奪われ、死んだ。兄も、許嫁も、一族郎党が皆殺された。
私はその跡継ぎだ。だから、取り戻す」

 アサシンは無表情を変えぬまま、首を傾け、鳴らす。

「ふん。聖杯とやらでか。ならば、どのような天下を作るつもりだ」
「……人々が平和に、笑顔で暮らせる天下を。あなたもだ、甘寧殿」
「つまらぬ世だ。俺は御免こうむる」

 アサシンはあくびをした。時行はふっと息をつき、問い返す。

「では、あなたの願いをお聞かせ願いたい。国か、人か、銭か」
「俺か。今さら願いなどない。貴様がつまらぬ奴なら斬り捨ててやる」
「では、私は合格だな」

 アサシンは舌打ちした。

「俺の行動原理は単純だ。
受けた恩に必ず報い、奪われたものに必ず報いる。
報恩と報復。それだけだ。何か寄越せば報いてやろう」

 時行は、花がほころぶように笑う。美少年である。

「あなたに恩義を与えれば、奉公して下さるのだな。わかりやすい。
我が家はそのようにして天下を治めて来たのだ!」


927 : chace you ◆Pw26BhHaeg :2021/06/23(水) 10:31:20 WjCpvERc0
【クラス】
アサシン

【真名】
甘寧@蒼天航路

【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具C

【属性】
混沌・中庸

【クラス別スキル】
気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
派手な衣装を纏い鈴を鳴らすこともある。

【保有スキル】
先制攻撃:C
 戦闘において先手を取る能力。
戦闘開始ターン(1ターン目)のみ優先的に行動を開始し、奇襲できる。
甘寧一番乗り(升城督)。

仕切り直し:B
 戦闘から離脱する能力。
完全に捕捉された状況であろうとも、ほぼ確実に離脱することができる。
乱世において各地を転々とし、戦場から幾度も無事帰還した。
恨みを買いつつ殺されず、戦死することもなかったという。

嵐の航海者:C
 船と認識されるものを駆る才能。
集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
海よりも川での戦に長け、大軍を率いるよりも少ない手勢を率いての奇襲作戦が得意。

応報者:B
 人の恨みと怨念を一身に集めつつ、仇には必ず報い、恩義にも必ず報いる在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちに力へと変化する。
その分、恩義に報いるために一身を賭さねばならない。

【宝具】
『無欠百人』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:100
 濡須口の戦いでアサシンに従い、曹操の陣営に夜襲をかけた決死部隊。
アサシンは彼らに酒と肉を振る舞って士気を鼓舞し、敵陣を大混乱に陥れ、
帰って数えてみると一人も欠けていなかったという。
姿は黒装束の盗賊たち。各々の戦闘力は鍛えた常人並みだが、逸話上「欠けることがない」ため、
殺されても補充されて常時百人。破壊活動や窃盗などの妨害工作を行う。
サーヴァントには通じなくとも、マスターを殺すには十分。

【Weapon】
三尖刀:左右に鈎の突き出した異形の剣。長柄はなく、片手で振るう。
手背剣:両手の手甲に大剣を固定し、腕を振るうと同時に攻撃する。

【人物背景】
 中国後漢末の武将。字は興覇。益州巴郡臨江県(重慶市忠県)の出身。
家は豪族であったらしく、官吏に推挙されたが、ほどなく官を棄てた。
若くして遊侠を好み、不良の若者を集めて頭目となり、派手な装いをして水陸を横行、傍若無人に振る舞った。
やがて乱暴をやめ書物を読むようになったが、州牧の代替わりの際に反乱を起こして荊州へ亡命、
劉表・黄祖に身を寄せた後、出奔して孫権に降った。
以後、烏林・夷陵・皖城・益陽・合肥・濡須などで戦功を挙げ、官位は折衝将軍に及んだ。

 漫画『蒼天航路』では、冠をつけ雉の羽の背飾りが付いた衣装を纏う、寡黙で偏屈な大男の侠者として描かれる。
暗殺・奇襲を得手とし、戦略の一端として一度ならず曹操の目前にまで迫っているが、未遂に終わる。
鉤のある剣を用いたが、合肥で張遼と戦った後は両手の甲に固定した剣を使う。
その武には斑気があり、疲れると武装のまま眠る。
セイバーの適性もありそうだが、ライダーだと乗騎が「駄馬め」されそう。
個人的な報復(リヴェンジ)しかしないのでアヴェンジャーにはなれない気がする。

【サーヴァントとしての願い】
 なし。思いのまま、報恩と報復のために武を振るうのみ。

【方針】
 受けたものにかならず報い、奪われたものにかならず報いる。

【把握手段】
 原作漫画。全36巻中、甘寧の出番は22-24巻、30-31巻、36巻のみ。


928 : chace you ◆Pw26BhHaeg :2021/06/23(水) 10:33:57 WjCpvERc0
【マスター】
北条時行@逃げ上手の若君

【Weapon・能力・技能】
 異能じみた天性の逃げ上手。
逃げ足が凄まじく速く、相当の達人による攻撃でも、かなりの確率で回避可能。
物陰に隠れて気配を遮断すれば滅多に発見されない。
弓の腕、騎射の業前はなかなかのもの。
自分から攻撃するのは向いていないが、相手の隙を突くことには長けている。
凛とした黒髪の美少年で、立ち居振る舞いには品がある。交渉の時は有利である。
太刀や弓矢、馬などはない。武器は調達する必要がある。

【人物背景】
 漫画『逃げ上手の若君』の主人公。
鎌倉幕府最後の総帥・北条高時の次男。CVは公式ボイスコミックでは大塚琴美。
8歳の時、西暦1333年に鎌倉幕府が滅んだ際、諏訪頼重に匿われて信濃国の諏訪大社に落ち延びる。
争いや政や稽古は嫌いで、逃げ隠れだけは得意。
性格は心優しく平和を好むが、生死の瀬戸際で逃げ回ることに興奮と歓喜を覚える怪物的な一側面を持つ。
乱世の武家の棟梁の子ゆえ、外道な敵を殺すことに躊躇はない。

【ロール】
 小学生(8歳)。富豪の父(病気療養中)がおり、金銭面で不自由はない。

【マスターとしての願い】
 鎌倉幕府の再興。

【方針】
 聖杯狙い。無理そうかヤバそうなら帰還の道を探る。
協力できそうな者とは協力し、悪党や外道は始末する。

【把握手段】
 原作漫画。そろそろ第1巻が発売。

【参戦時期】
 諏訪にいる頃。18話で吹雪に稽古をつけて貰った後なら「鬼心仏刀」が使える。


929 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/23(水) 10:35:05 WjCpvERc0
投下終了です。


930 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/23(水) 21:01:44 hr6mAF9o0
>>ガムテ&ライダー
NPC割れた子供達(グラス・チルドレン)、普通にめちゃくちゃ強力なのがやばいですね……。
ガムテ自体の戦闘能力の高さもさることながら、頭も切れるという特性が聖杯戦争の場では余計厄介な事態を生みそう。
そしてそんなガムテが召喚したのは災害の権化のような世界最強のババー、ビッグ・マム。
ガムテがリンリンを明確に敵視しているところが良かったですね。リンリン、ムチャクチャ強いけどムチャクチャクソ親なので……

>>chace you
若君! よりにもよって聖杯戦争に呼ばれてしまう辺り、本当に数奇な人生を歩んでおられる……。
そんな若君こと時行のキャラ再現が見事で、氏の再現力の高さが窺えました。
>「では、私は合格だな」からの会話とか、本当に原作にあってもおかしくないようなそれでとても好きでした。
彼の逃げ上手がどうサーヴァントと噛み合っていくのか、とても楽しみです。

今日も素敵な投下をありがとうございました!


931 : ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/24(木) 00:39:50 XgGBwang0
投下します


932 : マスターの運命を1パーセントも信じない男 ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/24(木) 00:42:30 XgGBwang0
ここはとある民家の一室、そこでは一人の少年がテレビから流れるニュースを見ていた……

少年の名前は愛城 恋太郎(あいじょう れんたろう)、顔は悪くなく性格も真面目ながら気さく、頭も運動神経もいい方で男女問わず人望があるが、
何故か女性には振られ通してしまう、万年フラレ男である。

そんな彼が何故ニュースをじっと見ているかというと……

『では次のニュースです。またも道行くカップルが覆面姿の男に襲われた模様です』

『関係者によると覆面姿の男は、自身を”しっとマスク”と名乗っていたとの情報です』

彼がそのニュースを確認すると、テレビを消したのだった。

そしてそれとともに、彼の背後から謎の覆面男が現れた。

それはまさしく、先ほどのニュースで報道されていた男だった。

「マスターよ、アベックが傷つく姿を見て、胸がスッとしたのではないか?」

その男は、この聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントであった。

名前を"しっとマスク"と言い、道行くアベックたちに天誅と称して暴力をふるうバーサーカーであった。

「……バーサーカーさん、俺は貴方の行動を決して認めはしない」
「いくら自分がモテないからって、それで他人を襲うなんてこと、やっていい筈がない……俺はそう思っています」

バーサーカーのその言葉に対して彼は強く否定したが、その後にバーサーカーが言った言葉によって彼は閉口せざるを得なくなってしまった。

「……強がる必要はないぞマスター、君の心は強いしっと心でいっぱいじゃあないか」

「君は、自分がなぜこんなにも女性にモテないのかと不満に思ったことがあるだろう?」
「君は、なぜあんな奴に彼女がいて、自分にはいないのかと怒りを覚えたことがあるだろう?」
「君は、自分なりに必死になって自分磨きをしているのに、女性に好かれないことで枕を濡らしたことがあるだろう?」

「……そんな君が、アベックが苦しむ姿を見て喜ばないはずがない」

「な……そんなことは「だが、現に君は私を召喚した。しっとの味方である、この私を」……!」

『モテない男達の嫉妬の味方を、自分が召喚した』、その事実に対して恋太郎は何も言うことができなかった。

そして、その事実に打ちひしがれている彼に対してバーサーカーは続けてこういった。

「マスターよ、我慢することはない……私と一緒に、道行くアベックに天誅を下してやろうじゃないか」

そう言いながらバーサーカーは彼に手を差し伸べた。

「お……俺は…俺は……!」

そして恋太郎は差し伸べられたその手を………

------------
一方同時刻……

そこでは一切の接点がない筈の少女たち(+その内1人の母親とその使用人)がとてつもない悪寒に見舞われていた。

例えるならば、自分の運命の人が変質者に『ぬかみそテクニック』されるような、
とてつもない不快感のある悪寒を、彼女たちは感じていたのだった……。


933 : マスターの運命を1パーセントも信じない男 ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/24(木) 00:44:25 XgGBwang0
【クラス】バーサーカー
【真名】しっとマスク
【出典】突撃!パッパラ隊
【性別】男
【属性】混沌・中庸

【パラメーター】

筋力:A+ 耐久:A++  敏捷:B 魔力:E-  幸運:E 宝具:A++


【クラススキル】
狂化:C(EX)
 魔力と幸運を除いたパラメーターをランクアップさせる。
 通常時は会話も意思疎通も可能だが、アベック(※カップルのこと)を発見すると狂化レベルが一気に上昇し、
 アベックに襲い掛かる以外の行動が出来なくなる。
 男女がそれなりに仲良くしていればアベックと判断するため、敵対マスターとサーヴァントの性別が異なるのであれば
 それはそれで問題ないが、そうでない場合無関係の一般人にも襲い掛かかってしまう。

【保有スキル】
カリスマ:C
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。
 彼の場合は『年齢=彼女いない歴の男性』など一切モテたことのない男たちに対して
 この才能が発揮されている。

しっとの心:A
 アベックへの強烈なしっと心。妬みや僻みといった感情を魔力に変換し、魔力を感情の強さに応じて上昇させる。
 このスキルは精神干渉系の魔術・宝具などによる影響を受けない。

【宝具】

『呪われし妬みの覆面(しっとマスク)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉: 1人
 このサーヴァントを象徴する宝具であり、もてない男たちの希望であるしっとマスクに変身する能力を得る常時発動型宝具。
 しっとパワーを蓄積することが可能で、そのパワーが一定量を超えるとバーサーカーの全パラメータは1ランク上昇し、
 さらにBランクの魔力放出(炎)スキルと謎の光線を発射するスキルを得る。

『彼女なし男たちの挽歌(しっと団)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:1000人
 アベック撲滅という戦うしっとマスクの理想に共感し、共に数々の戦いを繰り広げた同志達を召喚する。
 召喚されたしっと団員は全員が軍隊経験者で、破壊工作、陣地作成、道具作成などのスキルを保有している者もいるため非常に強力だが、
 全員がバーサーカーと同じランクの狂化スキルを保有しており、アベックを見つけると見境無く襲い掛かるため制御は困難。
 さらに現界のための魔力の燃費が極めて悪く、事前に十分な魔力を貯蔵しておかなければ数十秒と経たずに自滅することとなる。


【weapon】
 鍛え抜かれた身体と凄まじい嫉妬心そのもの。

【人物背景】
 モテない男たちのために日夜戦うレスラー風のヘンタイであり、本名は宮本幸弘。

 アベック撲滅を目標に掲げ、クリスマスやバレンタインデーにはハルマゲドンと称してテロ行為に明け暮れる。

 その活動範囲はすさまじく、現実世界にも影響を与えたこともある。

【サーヴァントとしての願い】
 悪のアベックどもを一人残らず消し去る。


【マスター】
愛城 恋太郎@君のことが大大大大大好きな100人の彼女

【マスターとしての願い】
 彼女ほしい。

【weapon】
 ない。

 彼はただの一般人である。

【能力・技能】
 誠実さの塊のような人物で、数多くの女性を平等且つ真剣に愛し、
 時には彼女のために自らの命を顧みない行動を取ることもある。
 (※参戦時期的には存在しない記憶である)

 なお現在はバーサーカーのカリスマにあてられており、
 カップルに対して若干の嫉妬心が芽生えつつある。

【人物背景】
 顔は悪くなく性格も真面目ながら気さく。頭も運動神経もいい方で男女問わず人望があるが、
 女子に告白しても必ず振られてしまうという万年フラレ男。

 ……実は“運命の人”が100人おり、その子たちと高校生の間に出会うことになっているのだが
 彼はその事実を知る前にこの聖杯戦争に呼ばれてしまった。
 (なお今までの告白が失敗続きだったのはその時期に人生全ての恋愛運をつぎ込まれてしまったのが原因) 

【方針】
 生還する。


934 : ◆L9WpoKNfy2 :2021/06/24(木) 00:45:29 XgGBwang0
投下終了です

ありがとうございました。


935 : ◆9jmMgvUz7o :2021/06/24(木) 17:56:18 mbDooDOo0
投下します


936 : 甘城千歌&ライダー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/24(木) 17:57:37 mbDooDOo0
ズズッ ゾゾッ ズルズル
ゾゾッ ズズズッ ズルズル


ちゅるんっ


多少は掃除された小奇麗な店内に、あまり頭に残らない軽い音楽。
サラリーマンが一仕事終えた疲れた顔でラーメンを突き、かと思えば対照的に明るい若い男女が談笑しながら食事を楽しんでいる。
はたまた熱いスープで舌を火傷し、涙目の息子を宥める母親もいる。

雑多な様々な客が利用する、何処にでもありそうなラーメンのチェーン店。
その座席の一角で、甘城千歌はラーメンを啜り終え溜息を吐いた。

「はぁ―――…おいしかったぁ……」

長い漆黒の髪は艶やかできめ細かい。それを後ろで縛り、露になる素顔はとても小顔でそれでいて鼻立ちは高く、美しい瞳は真珠すら霞む美しさを放つ。
奇跡的なバランスで配置された顔のパーツに加え、首下の胸元は豊満で暖かみと包み込むような柔さを醸し出し彼女が纏う学校の制服に皴を作った。
突き出した二つの乳房に反して、引き締まったウェスト、椅子に腰掛け浮き出したヒップは程よい丸みを持つ。
スタイルも良く、それでいて食事の最中も上品さを感じさせる彼女は何処か良家のお嬢様のようだ。

横に重ねられたラーメンが収められていた筈の器の山を除けば。

「チカ、もう五杯目ですよ?」

テーブルを挟み、対角にいる女性が艶めかしい声で呟いた。

「ライダーさんも食べますか? 美味しいですよ、ここのラーメン」

ライダーと呼ばれた女性も少女に負けず劣らずの紫の長髪、すらりと伸びた手足は海外のモデルのように長身的で、黒い質素なシャツとジーパンから浮かぶ胸とヒップも同じように豊満だ。
冷徹な風貌は天真爛漫な千歌とは対照的でもあり、双眼に掛けられた眼鏡は彼女にとてもよく似合っていた。

「ラーメンも良いのですが、野菜も食べた方が良い。バランスの良い食生活が大事です」
「うーん、確かに……野菜かあ」
「……軽い野菜料理でしたら、私でも作れますし今度お教えしますよ」
「本当ですか!? 帰ったら是非!!」
「まだ食べるのですか?」

何気ない談笑は友人のようでもあり、姉妹のようでもあり和やかで彼女たちの美貌も合わさり華がある。

「いえ、むしろ今のうちに英気を養ったほうが良いのかもしれませんね。
 日本のことわざでしたか。腹が減っては戦が出来ぬ、というのは」

傍から見れば、彼女らが聖杯戦争等という殺し合いを強要されているとは、到底思えないだろう。


937 : 甘城千歌&ライダー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/24(木) 17:58:06 mbDooDOo0

「そっか……もう戦いは始まってるんですよね」

「ええ、既に予選は開始しているのでしょう」

先程とは打って変わり、千歌は箸を置き俯いた。

「界聖杯(ユグドラシル)私の知る汚染されたそれとは違い……これは生まれてまだ間もないらしい。
 この先の戦いで何かしらの影響を受ける可能性はありますが、少なくとも今は願いを叶えるという点では信頼は出来ます……聖杯から与えられた情報が確かならば、ですが」

ライダーがかつて召喚されたとある世界にある日本の地方都市、そこで間桐桜のサーヴァントとして戦い抜いた冬木での聖杯戦争。

そこではある特殊なサーヴァントを呼び出した為に、聖杯が汚染されその願望を歪んだ形で叶えてしまうという致命的な欠陥を抱えていた。
例えば、世界平和を願えばその世界にある全人類を滅ぼす事で、争いのない世界を与える。といった具合に。
これはもう、ある種の災厄だ。
その願いの良し悪しを問わず、全てを殺戮、破壊という形に帰結してしまう。

だが、界聖杯は冬木のそれとは違い、産まれたばかりの新品であり、しかも自然に発生した存在。
何かの思惑も野望も何も孕むことのない純粋な願望機である。

本来継承されることは殆どない別に起きた聖杯戦争での記憶も、ライダーのなかにある程度保持されているのを見るに、その性質もまたかなり差異が見られる。
冬木愛用していた、普段使いの眼鏡まで再現してくれたのだから、ある意味太っ腹だ。

「チカ、貴女の願いも何の歪みもなく、ここでなら叶うかもしれない」
「その為に、誰かを殺さなくちゃいけないんですよね?」
「理屈の上では、サーヴァントだけを倒しても聖杯を手にする事は可能ですが、やはり現実的ではない」

現世を生きる人間であるマスターに危害を加えず、既に死した英雄の分霊であるサーヴァントだけを倒す。
言うのは容易いが、成し遂げるのは至難の道だ。
基本的に人間よりサーヴァントのが強い以上、その現界に必要であるマスターを狙わない手はない。
しかもそれは相手も同じことなのだから、弱点を庇いながら相手の弱点を狙わないのは、ライダー達にとって非常に不利になる。

「メデューサ症候群って聞いたことありますか?」

「…………メドゥーサは、有名な神話ですね。相手を石にする蛇の怪物」

「元々メデューサは綺麗な神様だったらしいですね。それが突然、バケモノになってしまう。自分を綺麗だなんて言う気はないけど、私はそれなんです。
 突然、殺人鬼に変わって人を殺してしまう……」

特殊な薬、技術を用い過去に実在した非道な殺人鬼の記憶を女性へと植え付け、その殺人鬼達を現代へと再現させる異様な人体実験。
人殺しに縁のない千歌を一瞬にして、自身を犯そうとしてきたとはいえ、五人の男女を躊躇なく惨殺させ得るほどの変貌はまさしく女神から化け物へと墜ちたメデューサの名に相応しい。

「――――私は数え切れない人たちを殺して、今は刑務所にいます。……本当なら殺した人たちを生き返らせた方が良いんだなって思います。
 遺族の人たちに、私が奪ってしまった人達を返せるのならって……」

初めての殺人を行った時、千歌にはその記憶がなかった。
後から、裁判などで改めて人を殺めたことを認識したのが、その被害者遺族からの糾弾を受けた時だ。
向こうから襲ってきたのを返り討ちにしたとはいえ、やはり遺族からすればそれはとても大事な尊い存在であることに変わりはない。
それを千歌は永久に奪い去ってしまったのだ。


938 : 甘城千歌&ライダー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/24(木) 17:58:32 mbDooDOo0

「でも、その為に他の人を殺すなら……きっとやり直せても、何も変わらない」

だがその償いとして新たに血を流すというのなら、それは恐らく違うのだろうと思う。

「優しいのですね……貴女も被害者なのに」

「それにお兄t……兄が今、裁判をやり直せるように色々調べてくれてるんです。
 だから、聖杯なんてなくたって平気です!」

「マスターである貴女がそう言うのなら、私は従いましょう。
 とはいえ、聖杯戦争を降りる方法も現在は不明です。
 当面はこの聖杯戦争に乗ってしまった参加者に対して、こちらは戦闘を避けつつの防衛という方針でよろしいでしょうか?」

「……待ちな、ライダー」

それはほんの一瞬だ。ライダーは千歌から意識を一切逸らしてはいない。

「チカ?」

だというのに、その容姿は何の変化こそないが、口調が、雰囲気が、その鋭い眼光が、今まで言葉を交わしていた人物とはまるで別人だと伝えてくる。

「私らに客だぜ」

何より、驚くべきことはサーヴァントたるライダーよりも早く千歌は敵の襲来を察知したことだ。
ライダーが警戒を怠った訳でも、感知に劣る訳でもない。それ以上に千歌が、敵意や殺意を察知する事に鋭敏過ぎる。

「まさか、先にマスターの方に気取られるとはな」

気付けば、周辺に居た筈の客は一人残らず消えており、千歌とライダーのテーブルの丁度正面に二人の男が立っていた。
一人は剣を背負い、鎧を身に付けた体躯の良い屈強な戦士。間違いなくこちらがサーヴァントだ。
そしてもう一人、その戦士のマスターであろう男は、戦士に比べ華奢であり、その顔面に張り付いた笑みは意地の悪さと性格の傲慢さを伺わせる。
だが、腕のいい魔術師であることは、同じく魔術を収めたライダーには一目で理解できた。

「客を追っ払ったのも、お前らの仕業か? 魔術ってのは便利なもんだな」
「威勢のいい女だ……私のママに相応しい」
「あ?」
「決めたぞ。セイバー、あの女は生かして私のママにする。あっちのライダーも殺すな、私の妹にするからな」

千歌は呆れた顔で溜息を吐く。羽黒刑務所に入ってから、やけに変態との遭遇率が上がったのは決して気のせいではないだろう。

「しかし、マスター。あのサーヴァント加減の出来る相手では……」
「黙れ! それを何とかするのがお前の仕事だ!!」
(どちらかというと、ライダーの方が年増で母親なのでは……マスターの言っている事は良く分からぬ。そもそもなぜ血の繋がらない娘を母親などに?)

「下がってください。チカ、貴女は私が守ります」

ライダーが光に包まれ、その衣装が変わる。
明らかにサイズの合わない紫の拘束衣のような服、顔に掛けられた眼鏡は紫のバイザーへと変化した。
手にした鎖付の鉄の杭を構え、千歌を庇うように前に出る。


939 : 甘城千歌&ライダー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/24(木) 17:59:11 mbDooDOo0

「何言ってんだ。必要ねえよ」

だが、千歌はライダーを振り払う。

「お前、セイバー相手にどれだけ戦える?」
「……後先考えなければ5分、温存をしながらなら1分は拮抗出来ますが」
「1分ありゃ十分だ。その間に私があっちのマザコン殺して、お終いだ」
「チカ?」

ライダーの制止より早く、千歌は駆け出していた。
その後を追うライダーにセイバーの剣閃が靡く。

「ライダーよ。貴様の相手は私だ」

鉄杭と刃の鬩ぎ合い、轟く金鉄の高音からセイバーの低い声が響く。

「貴方と遊んでいる暇はないのですが」
「こちらも、マスターの元へお前を行かせるわけにはいかぬ」

ライダー達を尻目に、千歌は学校の鞄からナイフを取り出し逆手に握り構えた。
その一連の動作には一つの無駄はなく、非常にしなやかかつ機械のような精密さを誇る。
間合いの詰め方も早い。躊躇も躊躇いもまるで感じさせず、相手を確実に仕留める為の合理的で理想な動きだ。

(確かに、あの威勢だけはある。殺人は初めてではないか)

体の柔さから見ても、何かの格闘技かスポーツでも嗜んでいたのだろう。確かに、この少女は強い。

「なっ!?」

あくまでただの人間にしてはだが。
魔術師は下品な笑みで指を鳴らす。千歌の手からひとりでにナイフが動き出し、手からすり抜ける形で後方へと飛んでいく。

「そんなものは捨てて、私のママになれ」

武器を無くせば、ただの体の柔くて殺しに躊躇のないだけの女子高生でしかない。制圧方法はいくらでもある。

「フフフッ……キミは母乳が出るのかな? ああいや結構、私の魔術で立派なJKミルクを育成させて貰うからね。
 さあ、ここから先はハイパーおっぱいタイムd―――がっ!?」

そこから先の言葉が紡がれることはなかった。
箸が魔術師の顎下を舌ごと貫通して、言葉は呻き声として唇の隙間から漏れ出す。

「てめえ、馬鹿か? 武器なんざいくらでも転がってんだよ」

振り上げられた千歌の足先を見て、魔術師は瞬時に理解する。
彼女は先の攻防の裏で、座席の備品である割り箸を確保し、死角から蹴り上げることで不意を突いたのだ。
その戦闘環境への瞬時の理解と適応力、これが千歌のマーダーモデル、殺人鬼ヘンリー・リー・ルーカス。
一見して何の役に立たない雑貨品を、一瞬にして恐るべき凶器へと変貌させる残忍な殺人鬼の技能に他ならない。

「れ、れれ……れいz……」
「おっと、セイバーを呼んで来られても面倒だな」
「ごっ……!?」

忘れ物を思い出したような、そんな気楽な声と共に手刀を魔術師の喉仏へと打ち込む。
魔術師は気道を潰され、息を吸うのもままならない。
当然、令呪を用いサーヴァントを呼ぶために声を張り上げるなど、不可能だ。

「じゃあな、ママのおっぱい代わりに地獄でエンマのナニでもしゃぶってな」

心底馬鹿にした顔で、苦しむ魔術師を見下ろし千歌はその止めを刺した。


940 : 甘城千歌&ライダー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/24(木) 17:59:38 mbDooDOo0





「チカ、これは……」

セイバーの消滅を確認し、千歌の元へ向かった時、ライダーは驚嘆した。
涙、鼻水、唾液、そして血に塗れた魔術師の死に顔は歴戦のサーヴァントをして、見ていて気分の良いものではなかった。

「こっちは終わったぜ。向こうのセイバーもこれで消えたんだろ?」

何の負い目も感じず、少女は男勝りな活発そうな笑みでライダーを迎える。
あの人殺しを嫌悪していた心優しく、食い意地のはった甘城千歌とは思えぬほどの落差。

「……メデューサ症候群とは、良く言ったものですね」

千歌が先ほど語ったそれの意味を、ライダーはようやく実感と共に理解する。

美しき少女を、一瞬にして冷酷な殺人鬼へと変える。
彼女には末来があった筈だ。あの端麗な容姿に、明るい人柄は多くの人を引きつけ華やかな将来を約束されていただろう。
だが、一瞬にしてそれは奪われた。残酷な殺人鬼という因子を埋め込まれ、怪物にされた。

「なんだ、昼の私と夜の私の違いに驚いてるのか?」

「いえ、まるで神話と同じだと思いまして。……メドゥーサというネーミングも皮肉が利いている」

「何が言いたい?」

「メドゥーサの神話、それはその女神が多くの血を浴び怪物となり、殺されるまでの物語です」
  
「はっ、そのうち英雄様(ペルセウス)に私が殺されるってか? 説教でもかます気かよ。
 ライダー……お前も人の事言えないんじゃねえか。同じさ、匂うんだよ。血の匂いがする。殺人鬼のな」

「ええ……チカ、同じなんですよ。私達は。
 幾重もの殺人を重ね、その血を吸い、いずれは全てを壊す、魔獣ゴルゴーンへと成り果てる」

千歌はライダーから、その真名をまだ聞いてはいなかった。


941 : 甘城千歌&ライダー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/24(木) 18:00:04 mbDooDOo0

「ライダー、お前、まさか―――」

昼の千歌がそういった事を深く気にしていなかったのもあるが、ライダー自身も口数が少なく多くを語らなかったのもある。
だが僅かながら、ヒントは確かにあった。

あの眼を封じるかのように付けられたバイザー、それは石化の魔眼を封じるためのもの。

最優のサーヴァントと打ち合えるだけの怪力、そう神話より伝わる怪物の魔性さが顕現したもの。

「貴女はゴルゴーンに―――怪物(わたし)になってはいけない」

ならば、そこにあるのは紛れもなく――――。

「……一緒にすんな。
 私は、殺人鬼だ。殺すヤツは私が決める。下品な怪物みてえに手当たり次第に暴れる気はねえよ」

敵意と挑発を込めた声色は鳴りを潜め、憂い気に千歌は顔を俯かせる。

「無駄話は終わりだ。ズラかるぜ。警察に捕まっても面倒だ」

踵を翻し、千歌はライダーに背を向けた。
これ以上の話を放棄するかのように。
先までの自信に溢れた様はなく、その背はただの少女の小さなものにライダーには見えた。


942 : 甘城千歌&ライダー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/24(木) 18:00:43 mbDooDOo0


【クラス】
 ライダー

【真名】
メドゥーサ@Fate/stay night

【ステータス】
 筋力C 耐久E 敏捷B 魔力B 幸運D 宝具A+

【属性】
 混沌・善

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:A+
騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし、竜種は該当しない。

【保有スキル】 
魔眼:A+
最高レベルの魔眼・キュベレイを所有。
MGIがC以下の者は無条件で石化。Bの者でもセーブ判定次第で石化をうける。
Aの者には石化判定はないが、全能力をワンランク下げる“重圧”をかけられる。

単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクCならば、マスターを失っても一日間現界可能。
 
怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
 
神性:E-
神霊適性を持つが、ほとんど退化してしまっている。
英霊自身の魔物、魔獣としてのランクが上がる度に減少していく。

【宝具】

『他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:10〜40 最大捕捉:500人

形なき島を覆った血の結界。ゴルゴン三姉妹が追放された『形のない島』に作られた魔の神殿。
魔眼を拡大投射する事で一定のフィールドを“自らの眼球の中に”置換し、中にいるものたちから生命力を奪い取る。
対魔力のない一般人では、体が溶けて死亡するが、逆に言えば対魔力さえあれば殆ど通用しない。(マスターが優れた魔術師なら、対魔力持ちでも長くは耐えきれない)

『自己封印・暗黒神殿(ブレーカー・ゴルゴーン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
対象に悪夢を見せ、その力を封印する結界。ライダーが戦闘時に付けるバイザーもこれで自身の魔眼を封印している。

『騎英の手綱(ベルレフォーン)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:2〜50 最大捕捉:300人
ライダーとしての宝具。あらゆる乗り物を御する黄金の鞭と手綱。単体では全く役に立たないが、高い騎乗スキルと強力な乗り物があることで真価を発揮する。
召喚したペガサスに主に使用され、時速400kmを超えるスピードで突貫してくる。
そのペガサスはセイバーのクラスの対魔力を上回り、膨大な魔力を放ち大破壊を引き起こす。

【Weapon】
『鎖の付いた杭みたいなやつ』
 
【人物紹介】
メドゥーサ。ギリシャ神話に登場するゴルゴン三姉妹の末妹。
元は土着の地母神であったが、女神アテナの怒りを買いその果てにゴルゴーンとなってしまった。

【方針】
マスターに従う。だが千歌の身を案じてもいる。


943 : 甘城千歌&ライダー ◆9jmMgvUz7o :2021/06/24(木) 18:01:14 mbDooDOo0

【マスター】
甘城千歌@サタノファニ

【マスターとしての願い】
昼の千歌:人を殺して願いを叶える気はない。
夜の千歌:特にないが、敵は容赦なく殺す。

【人物背景】
エログロクソ漫画サタノファニの主人公。
以前は食べるのが好きな心優しい普通の女子高生だったが、アルバイトの先輩らに嵌められ強姦されかけた際にメデューサ症候群を発症し彼らを惨殺する。
以後、羽黒刑務所に収容され、メデューサとして多くの殺人に手を染めることになる。

【能力・技能】
殺人鬼ヘンリー・リー・ルーカスの人格を埋め込まれたことで、その残酷さと殺人技術を有する。
殺気などに非常に敏感で、それらの類を察知すると千歌は本来メデューサがその内なる殺人鬼を呼び起こすのに必要な薬なしで、非情な殺人鬼になれる。
更に千歌は戦闘時と日常での差が激しく、昼の私、夜の私、と言い分けるように実質的に二重人格に近く、現在は記憶も共有する。
身のこなしも大したもので、メデューサが発症する前から千歌はバレエをやっていた経験から、非常に柔軟な肉体と、優れた身体能力を持つ。腕力も女にしては高い。
その腕前は、戦闘に活用すれば百戦錬磨のヤクザすらも翻弄する。

【weapon】
ナイフ。
その他、様々なものを凶器に使用する。

【方針】
仲間(羽黒に同じく収容されている受刑者達)がいないか探す。
特に鬼ヶ原小夜子は絶対に守る(二人はレズ)。

【備考】
与えられたロールは女子高生。
参戦時期は教団編以降。


944 : ◆9jmMgvUz7o :2021/06/24(木) 18:01:58 mbDooDOo0
投下終了です


945 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/24(木) 20:06:05 D3264o2U0
>>マスターの運命を1パーセントも信じない男
これまたとんでもない動機で戦うサーヴァントですね。
しかもなぜかやたらパラメータが高いのが厄介というかなんというか……。
そしてマスターもマスターもとんでもない参戦時期で喚ばれているっぽいのが災難ですね。
なかなかの色物主従ではありますが、果たしてこの先やっていけるのか。気になりますね。

>>甘城千歌&ライダー
原作Fateからのサーヴァント参戦でメドゥーサ、なるほどという感じでした。
殺伐とした地の文の緩急が巧く、読みやすくありながらも筆致の高さを感じさせるお話だった印象です。
その一方でセリフなどの中にも粋があり、手が込んでいてとても面白かったです。
特に好きなのはやはり「貴女はゴルゴーンに―――怪物(わたし)になってはいけない」でしょうかね。

皆さん本日も投下ありがとうございました。


946 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/25(金) 02:37:32 7.Y/79fs0
投下します


947 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/25(金) 02:39:15 7.Y/79fs0
 黒い髪を風に靡かせながら、夜道を走る一人の少女の姿。
 黒のセーラー服姿を見れば、ただの学校帰りの少女だと何も疑うことはない。
 ありふれた女学生。可愛らしい顔から男の気を惹くかもしれないが、
 決してその姿に対して訝ることはないだろう。

 だが、彼女は女学生と呼ぶには余りにも機敏だった。
 人間離れした速度で人目のつかない路地裏を駆け巡り、
 鞄の代わりに手に持っているのは、鞘に収まってる日本刀。
 端から見れば普通に通報ものだが、人気のない場所を走る都合それはない。

 公園を駆け、
 路地裏を駆け、
 ビルの屋上を駆け。
 走り回れども見つからない。

「……お姉ちゃん。」

 姉───アカメを探す彼女の名前はクロメ。
 帝都の特殊警察『イェーガーズ』の一人であり、暗殺部隊の一人。
 彼女が記憶を取り戻すこと自体は、そんなに難しいことではなかった。
 薬物の摂取による禁断症状。それが起きればあっという間の出来事だ。
 見知らぬ街で女子高生のロールなど、彼女の環境で適応できるはずがない。
 幸いなのは自宅でそれが起きて、クッキーがまだ手元にあったことか。
 お陰で聖杯戦争前に警察病院なんてものに行かずに済んでいる。

(やっぱり見つからない。)

 ビルの屋上から雑多な人込みを眺めるクロメ。
 トウキョウと言う場所は人も多ければ、建物の複雑さも広さも圧倒的だ。
 たった一人でたった一人の相手を探すなど、とてつもなく確率が低いに決まっている。
 そも、参加してるかすらも分からない姉を探すと言うのは非効率極まりない。
 彼女自身あまり意味のない行為だと言う自覚はあるが、それしかできなかった。
 本来ならば聖杯戦争らしく、サーヴァントを見つけてサーヴァントをぶつけるものだが、

(まだ出てこない。)

 右手の令呪を見やる。
 これが出たのは大分早かったものの、
 肝心のサーヴァントが未だに出てこない。
 なのでまともな戦闘は避けて静かにやり過ごす。
 一応、サーヴァントの強さに油断したマスターを、
 本業らしく暗殺していく形でなんとか勝利を手にしてるが、
 一人の上に情報網は自分だけの状態で、効率はかなり悪い。

「予想は付いてたけど、これも外れかぁ。」

 人気のない公園の森の中、
 ぎこちない動きの人を前に呆れ気味の表情だ。
 彼女の持つ刀、八房と呼ばれる帝具は斬り殺した死体を躯人形として操れる。
 だが油断してるマスターと言うのは、往々にして貧弱な奴ばかりが揃っていた。
 来る以前に八房でストックしてた分は、綺麗さっぱり消えていてかなり厄介な状況だ。
 ナタラは勿論のこと、ランも八房で呼ぶことができなかった。

(薬は余ってる分だけ、躯人形は聖杯戦争中に補充、サーヴァントもない……!!)

 流石に次々とくる向かい風な展開。
 苛立ちの余り躯人形へ八つ当たりのように八房を振るう。
 上半身と下半身が綺麗に分断されて、上半身が軽く滑っていく。
 一般人程度のスペックでは壁にすらならず、どうでもいいとすら思ってる。
 彼女にとって大事なのは姉と身内。誰とも知らない元マスターに微塵も興味はない。

(そろそろやばいかも……)

 イライラが収まらない。
 袋のクッキーの少なさを見ると、自宅へと戻ることにする。
 彼女にとってドーピング剤である以上、切らすのはまずい。
 余り無暗に消費して肝心な時に事を起こす方が危険だ。

「いつになったら現れるの……!」

 無為に過ごす時間が苦痛だ。
 此処には仲間は誰一人としていない。
 だからこそ余計に苦痛に感じざるを得なかった。
 急いで自宅へと戻ろうとしたその時。
 彼女の背後で淡い光が輝きだす。

「!?」


948 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/25(金) 02:41:02 7.Y/79fs0
「!?」

 八房を抜きつつ距離を取る。
 淡い光の中心に立つのは、一人の男性。
 最初に見たクロメの感想は『普通』だった。
 確かに禍々しいオーラを醸し出しているのはあるが、
 西洋の騎士を彷彿とさせる装備に身を包む、前髪が瞳を覆う一人の青年。
 よくある典型的な騎士と言った風貌で、帝都では珍しくない姿だ。

「……私のサーヴァント?」

 尋ねつつも八房はしまわない。
 性格に難ありなサーヴァントもいるとのことだ。
 彼女が警戒するのは当然とも言える。

「そうらしいな。王子が従者とは、
 少々不満ではあるが……まあいい。
 『シャドウ』のクラスのサーヴァントだ。」

「……シャドウ?」

 聖杯戦争の知識は詰め込まれたお陰で基本の七クラスは分かる。
 セイバーとかと思ってみればエクストラクラスに該当するクラスだ。

「召喚が遅かったことについて、聞いていい?」

 クラスの違いなんてものは分からない。
 精々セイバー、アーチャー、ランサーの三騎が優位になりやすい。
 そんな程度の軽く与えられた知識だけでしか判断できないのだから。
 それよりも、召喚までにかなりの時間が掛かったことへの疑問だ。
 聖杯戦争を知らないクロメから見ても明らかに召喚までが遅すぎる。
 記憶を取り戻して、令呪が手に浮かぶまでは大分早かったが、
 召喚されるまでのラグが余りにかかりすぎていることが気掛かりだ。
 躯人形にしたマスター以外にも、相手せずに放置したマスターは何人もいた。
 それだけの数がいながら、今になってようやく召喚されるのは普通ではない。

「界聖杯は気が利いたのか、単に不具合か。
 俺の召喚をギリギリにまで抑えていたらしい。
 俺の性質の問題からすれば、当然と言えば当然だが。」

「……? どういうこと?」

「───俺の現界時間は長くない。
 何もしなければ、二十四時間後に消滅する。」

「!」

 一日、僅か二十四時間。
 聖杯戦争はサーヴァントをぶつけ合うと言うのが基本ルールで、
 一日しかまともに戦えないサーヴァントと言うとんでもない問題を抱えていた。

「一応延命手段はあるにはある。
 最たる例に令呪だが。それでも消耗は激しい。
 そうだな……三画使えば半日の延命と数回だけの戦闘だ。
 まともな戦闘を期待するなら、開始一日目から動くのがベストか。」

 このサーヴァントは外れでしかない。
 戦える英霊と言う観点を差し引いても外れだ。
 聖杯戦争が長引くだけで勝ち筋が消えてしまう。
 延命に令呪を三画使う必要があると言うことはつまり、
 自害は勿論のこと、呼び出す等命令すらできないのと同等。
 不興を買って令呪を使おうものなら、サーヴァントの寿命が一気に縮まってしまう。

「……でも、勝てるってことだよね?」

 ステータスだけ見ると特別高いわけではない。
 だが傲岸不遜な態度は髪に隠れて表情は窺えないが
 負けるわけがないと言わんばかりの自信に満ち溢れていた。
 二日目の朝日すら拝めるか分からないサーヴァントでありながら、
 その余裕は何処にあるのだろうか。

「当然だ。俺を召喚したのなら勝つのは必然だ。」

 彼は短い生……実際はもっと長く生きていたが、
 とにかく彼は刹那のような時間に何度奇跡を引き寄せたかは分からない。
 決して多くない臣下。限界を迎えつつある身体で相対したのは最強の軍勢。
 鬼も、神獣も、魔王も、亜神でさえ倒した英雄王から唯一勝利を勝ち取った。
 故に最強であり、負ける道理はないと言う自信。

「……なら、別にいい。」

 確たる証拠もない。
 妄言と言われても否定できないその言動。
 それをたった一言で済ませる。

「一日限りの英霊に憤りもなしか。随分と余裕だな。」

「時間がないのは、お互い様だから。」

 適当に弄っていた髪が抜け落ちる。
 抜け毛と呼ぶには、束になりすぎた髪が。
 彼ほどではないにせよ、彼女も残された時間は少ない。

「シャドウ。一つだけ約束してくれる?」


949 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/25(金) 02:42:59 7.Y/79fs0
「なんだ?」

「お姉ちゃん……アカメって言う人がいたら、
 私は一対一でとことん決着を付けたいの。
 絶対に邪魔をしない、或いは邪魔する奴を消して。」

「……姉を殺す理由はなんだ?」

 決着の意味。単純な姉妹喧嘩ではない。
 どんな意味を持ってるかはシャドウも察した。
 別に彼自身はそれについて止めるつもりも断るつもりはない。
 だがまだ彼女の人となりを知らないのもあって、興味本位に尋ねる。

「お姉ちゃんだから、他の誰にも斬らせたくない。」

 真面目で民を想うがゆえにアカメは帝都を裏切った。
 裏切った姉が許せない。しかしその真面目な姉が大好き。
 愛憎が渦巻いた果てがその結論。今更変えるつもりはない。

「己の為による、刹那の戦い───か。
 あれは誰にも譲れるものではない。俺自身もよく知っている。」

 世界の誰よりも強い、後に新たな千年戦争の歴史を刻んだ英雄王。
 何者にも負けず、神であろうと抗うその英雄王との戦いは実に心躍った。
 一回、一瞬。英雄王の人生にとっては刹那の時間でしかないが、
 同時に彼にとっては永遠に忘れぬ記憶となっただろう。

「いいだろう。遅れて召喚された贖罪をそれで贖うとする。
 俺は霊体化する。微々たるものだが、延命に繋がるだろう。」

 話を終えるや否や、
 シャドウはすぐに霊体化して姿を消す。
 まだ色々聞くべきことはあるにはあったが、
 薬のストックも怪しいので家へと戻ることを優先とする。
 それが、クロメの身体を気遣ったのかどうかは分からない。

「……待っててね───お姉ちゃん。」

 シャドウが消えた後、彼女は走り出す。
 月明りに照らされる姉を想う彼女の顔は嬉しそうで、
 同時に憎悪に満ち溢れた不気味な表情だった。

【マスター】
クロメ@アカメが斬る!(漫画版)
【能力・技能】
・暗殺者
 暗殺者育成機関にて育てられたアサシン。
 だが素質は低く、非選抜組の枠に収まった。
 薬物投与で並外れた生命力と戦闘能力を持ち、
 実績から特殊警察『イェーガーズ』に抜擢されるに至った。
 彼女が食べているクッキーはその劇薬が混ざった代物で、
 定期的に摂取しなければ発作を起こす。

【weapon】
・死者行軍『八房』
 始皇帝の命により生み出された四十八の帝具、その一つにして死者の尊厳を冒涜する帝具。
 八房で斬り殺された相手はクロメの躯人形として使役される。最大八体まで召喚可能。
 躯人形は生前同様の身体能力や性格を持つため、個体が強ければ強い程性能が発揮される。
 躯人形は喋らないが性格は引き継ぎ、命令には従うが勝手な行動をとることもある。
 八房の躯人形のストックはリセットされており、この舞台でかき集めた元マスター、
 しかし性能は一般人とそう変わらない微々たるものだけになる。

・クロメのおかし
 武器ではなく薬物入りクッキー。
 肉体強化にも使われるが寿命を縮め精神に支障をきたす。
 まだ二、三日分はあるが失った場合どうなるかは分からない。

【ロール】
女子高生

【人物背景】
帝都の養成機関で暗殺者として育てられたアカメの妹。
過酷な環境と薬物投与により、歪んだ精神へと形を変えた。
それも相まって帝都を裏切った姉に激しい愛憎を持っており、
姉を殺すことも、最悪殺されてもいいとしている。
嘗てあの場所で決着をつける、その前の彼女。

【方針】
サーヴァントの都合短期決戦をするしかない。
なるべく現界させず霊体化させて消耗を抑える。
お姉ちゃんがいたなら、此処で決着をつける。

【聖杯にかける願い】
お姉ちゃんは自分で殺して躯人形にするからいらない。
使うなら延命、或いは誰にも邪魔されない決着の場所を探す。


950 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/25(金) 02:45:48 7.Y/79fs0
【クラス】
シャドウ
【真名】
ダーク王子@千年戦争アイギス
【属性】
混沌・善
【ステータス】
筋力:D+++ 耐久:B+ 敏捷:D 魔力:B 幸運:A+ 宝具:D

【クラススキル】

暗黒の波動:C
魔界の軍勢によって誕生したことで得た力。
ステータス低下を受ける環境下でも低下を軽減、または無効化する。
また彼の基本的な攻撃には魔力を伴う為対魔力の影響を受けやすい。

【保有スキル】

一日限りの栄光:EX
消去不可能、無効化不可能のスキル。
被造物である彼の身体は、そのままだと現界に一日しか保つことができない。
令呪を使えば延命は可能だが、三画消費して半日がいい程度の上にあくまで延命。
戦闘は二回か三回が限度。当然魂喰いには膨大な人数が必要で寧ろマイナスになる。
だが高ランクの無窮の武練と戦闘続行を内包。限界が来るまでほぼ十全に戦える。

王道踏破:B-
王たらんとする態度を貫くことにより効果を発揮する自戒系スキル。
一部ステータスの向上に寄与するが、王道を破るような真似をすると弱体化してしまう。
自戒系とは言うが、彼がその道を踏み外すことは余程のことがなければない。
一日限りの栄光で弱体化する彼の身体が、その王道を貫けるかはまた別。

王の奇跡:A
『オリジナルにできたことを、この俺ができない道理はない。』
反骨精神によってオリジナルと同等、或いはそれ以上の奇跡を起こす。
臣下があり得ない速度で進化していく、亜神の援護を受ける、
魔王をその身で打ち倒す、英雄王に勝利……短い中で得た奇跡は数知れず。
幸運を下げる、無効化する能力に耐性がある程度あり、カリスマも内包している。

魔王の魂:-(本来ならばA++)
物質界を滅ぼそうとした魔王ガリウスの魔力の塊。
魔王だけあって凄まじいもので、ダーク王子の延命になりうる。
生前は死して尚も尽きぬ決意を評価してその魔力を手にした。
だが、英霊として召喚されてまでその決意を持ち込むつもりはない。

【宝具】
魔王の影を討つ魔界の軍勢(ダークネス・リターン)
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:100
一日限りの栄光、形に残るものなど殆どないに等しいだろう。
嘗て魔王を裏切り、冥界の神による魔王の影に立ち向かった臣下達を召喚する。
ゴブリン、リッチ、オーク、フライデーモン、ハイオークの五種類の軍勢を、
一個体のみだがダークアンナ、ルイン、リエーフの三名が召集される。
軍勢はステータスが低いが魔力消費は少なく、王の奇跡のバックアップでランク以上に戦える。
一個体の三名はダークアンナを除き軍勢以上の魔力を消費をするが、その分性能は他よりも高い。
なお、軍勢を召喚するがダーク王子は最前線で戦う。王は最前線で戦う。オリジナルもそうした。
唯一、神霊に匹敵する銀腕の亜神は呼ぶことができない。

暗闇の剣 ランク:A 種別:対人(対軍)宝具 レンジ:2(50) 最大捕捉:1(63)
※()はステータス低下の射程範囲
王国一の魔剣鍛冶師に作られ『戦友へ』と刻まれたオリジナルから賜った西洋剣。
真名解放中は短時間の間射程内サーヴァントの筋力と耐久を大きく低下させ自分の筋力を強化する
その状態で攻撃を受ければいかに頑強な英霊であろうとも致命傷を負うだろうが、
この聖杯戦争で一度のみの真名解放。正真正銘最後の切り札。

【weapon】
暗闇の剣
上述のとおり

【人物背景】
異界召喚師によって生み出された、王子を模した人造人間
魔王の尖兵たる存在だが、反旗を翻し彼は彼の王道を歩む
オリジナルとは似ても似つかない高圧的で不遜な態度だが、
物質界を愛し、どれだけ絶望的な状況であろうとも屈さない。
オリジナルに勝利し、影と言えども魔王を倒した唯一無二の存在。

【方針】
一日限りの栄光であれば存分に戦うつもりだが、
マスターの意を汲むのもやぶさかではない。

【聖杯にかける願い】
願望器に頼るような願いなどない。
王は自分で奇跡を掴み取る……そうだろう、オリジナル。


951 : ◆EPyDv9DKJs :2021/06/25(金) 02:46:22 7.Y/79fs0
いじょうで『瞬瞬必生』投下終了です


952 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/25(金) 15:57:16 NgcSisAQ0
投下します。


953 : Der Mensch ist Boese ◆Pw26BhHaeg :2021/06/25(金) 15:59:28 NgcSisAQ0
「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 宵闇の中を、彼は必死で走る。なにか、恐ろしいものが追ってくる。
 ぞるぞる ぞる ぞるぞるぞる・・・・ 闇が、地面を這ってくる。

「たす け……! ?」
『お父さん、おかえりなさい!』

 彼は……その場に居るはずのない存在を見た。
死んだはずの我が子を。聖杯を手に入れれば、奇跡の願望器によって、生き返らせることが。
では。

「ち……チクショウ! お前! お前、幻なのかッ!」

 彼は涙を流し、我が子の幻を抱きしめた。
自分のサーヴァントとは引き離され、呼んでも来ない。倒されてしまったのか。
周囲に人の気配もない。これは罠だ。罠だとわかっているが、それでも。

「ウッ、ソッ、でぇ〜〜す」

 我が子は不気味な塊に変わり、目の前に巨大な顔が現れた。
道路からせり上がってくるのは、右半分を奇怪な紋様に埋め尽くされた醜悪な顔。額には五芒星。
それは巨大な鎌を振り上げ、振り下ろした。死神のように。

「全部嘘♪ 全くの嘘♪ アホは死ななきゃ治らねえ♪」

 男は……聖杯戦争に呼ばれたマスターのひとりは、為すすべもなく昏倒した。
殺してはいない。『吸わせる』必要がある。
大きな顔は消え、同じ顔の大柄な女がそこに立っていた。肩には死神めいた大鎌。

「一丁上がり。ちゃっちゃとやりな、『セイバー』」

 無言で闇から進み出たのは、チャイナ風の衣服に身を包んだ黒髪の少女。
無表情で、右手に大きな剣のようなものを手にしている。
それで男にトン、と触れると、彼はびくんと痙攣し、動かなくなった。死んだのだろう。

「これで、こいつのサーヴァントも消えちまうねえ。弱っちいアンタの餌にしても良かったのにねえ」

 女は顔を歪めて嘲笑う。
セイバーは最も優れたサーヴァント、とは知識を与えられたが、自分のは少し違うらしい。
少なくとも、強くなるのに手間がかかる。まあ今は予選だ、せいぜい魂を喰って強くなるがいい。

「そいじゃ、行こうかあ」

 ぱちん、と指を鳴らすと、草むらや木陰で複数の人影が動いた。
腐ったような肌、白い目、牙が並んだ口。生ける死者(リビングデッド)だ。
セイバーのマスターである彼女が、このあたりの住民の血を吸い食屍鬼(グール)にした。
東京都の人口は1400万近いという。ほっておけばどんどん増えてくれる。ラクなものだ。
異変に感づいたマスターやサーヴァントを誘き寄せることもできる。
そして、幻術で始末する。彼女はタバコに火をつけた。

「聖杯! 聖杯と来たか! このゾーリン様が頂いてやろうねェ!」


954 : Der Mensch ist Boese ◆Pw26BhHaeg :2021/06/25(金) 16:01:49 NgcSisAQ0
【クラス】
セイバー

【真名】
マキーナ@魔剣X(エックス)、魔剣爻(シャオ)

【パラメーター】
筋力- 耐久B 敏捷- 魔力A 幸運C 宝具EX

【属性】
中立・中庸

【クラス別スキル】
対魔力:B
 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:EX
 「乗り物」という概念に対して発揮されるスキル。
セイバー自身は動けないが、接触した存在のイマージュ(霊魂・自我)を吸収し、
肉体を乗っ取って動かすことが可能(ブレインジャック)。
吸収したイマージュはやがて消滅し、肉体は抜け殻となる。イマージュを帰すことも可能。

【保有スキル】
神殺し:A
 盤古の化身「天尊流星」を倒した神殺しの魔剣。
神霊特攻。神霊、亡霊、神性スキルを有するサーヴァントへの攻撃にプラス補正。

自己改造:EX
 自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる適性。
このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
他者の肉体を乗っ取って操る在り方そのもの。戦いの業前や技巧も記憶ごと吸収する。

【宝具】
『天尊流星盤古剣(デウス・エクス・マキーナ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
 かつて世界を救った剣であるセイバーそのもの。
イマージュ(霊魂・自我)を有する存在に接触して、そのイマージュを吸収する。
物理的破壊力はないが、イマージュを奪われた者は死体も同然となる。
またイマージュを奪った肉体を乗っ取って操作し、その記憶を我がものとすることができ、
支配した肉体の得意な武器に変化する。
その性質上サーヴァントにも効果はあるものの、乗っ取ることは現状不可能。
接触すれば魔力や記憶を吸い取り、スキルや宝具を使用不能にする程度は可能かも知れない。
イマージュを吸いすぎたり聖杯を吸ったりすると、天尊流星が覚醒する可能性もある。

【Weapon】
 自身が武器。使い手となる肉体を乗っ取って振るわせ、支配した体の得意武器に変化する。
マスターやサーヴァントを乗っ取るのは現状では不可能だが、
イマージュをたくさん吸えばマスターならば可能になるだろう。
現在は相模桂(さがみ・けい)の肉体を模した霊体を仮に持ち手としている。

【器物背景】
 ゲーム『魔剣X』『魔剣爻』の主人公。正式名称は「Deus Ex machina」。
イマージュ(霊魂・自我)を切り離して修正する事が出来る、画期的な医療器具として開発された人工生命。
人工脳を搭載し、自ら思考・判断する事ができる。
実は創造主・盤古の脳髄にして人心を支配する魔剣「天尊流星」のコピーであり、
イマージュ世界に本体を持つ天尊流星を倒すために作成された。
目的を果たすためならば善にも悪にもなる可能性を秘めている。

【サーヴァントとしての願い】
 天尊流星打倒後のため、特になし。マスターに従う。

【方針】
 マスターに従う。

【把握手段】
 原作ゲーム。PS2の『魔剣爻』の方が手に入りやすいか。
林田球によるコミカライズは傑作なので読むべし。


955 : Der Mensch ist Boese ◆Pw26BhHaeg :2021/06/25(金) 16:03:59 NgcSisAQ0
【マスター】
ゾーリン・ブリッツ@HELLSING

【Weapon】
 死神めいた大鎌。吸血鬼の膂力で振るわれ、人体を容易く両断する。

【能力・技能】
 強力な幻術。
右半身に刻まれた魔術的な刺青が蠢くようにして発動し、
自身が巨大化しているように見せたり、相手に「怪我をしている」と完全に錯覚させたりする。
幻覚の射程範囲は非常に広く(邸宅程度は十分)、同時に大量の人間を術中に嵌めることが可能。
さらに相手の記憶を汲み取った幻覚を見せることも出来る。ただし「視覚」に頼らない者には効果がない。

 また人造吸血鬼として高い戦闘能力を有し、反射神経、集中力、第六感、耐久力、回復力、
膂力なども人間を遥かに凌駕する(おそらく魔力も)。
不老不死で通常の弾丸は効かず、日光は嫌いだが浴びても灰にはならず、流水を渡ることも可能。
銀の弾丸や聖別・祝福された武器には弱い。

 さらに、血液を吸った人間(処女・童貞含む)をゾンビめいた食屍鬼(グール)として蘇生させることも可能。
グールは人の肉を好んで食らい、動きが鈍く知能は低く(銃器程度は操作可能)、親たる吸血鬼の意志のままに動く。
グールに襲われて噛みつかれた者もまたグールとなり、ねずみ算式に増えて大きな被害を与える。
親たる吸血鬼が死んでもグールは残る。

【人物背景】
 漫画『HELLSING』の登場人物。CV:沢海陽子。
南米に逃れたナチスの残党組織「ミレニアム(千年王国)/ラスト・バタリオン(最後の大隊)」に所属し、
異能を持つ幹部集団「ヴェアヴォルフ(人狼部隊)」のひとり。階級は中尉。
金髪の短髪で大柄、筋骨隆々たる女吸血鬼。歯は尖り、胸は豊満。タンクトップにパンツルック。
額に五芒星、右半身に奇怪な紋様を刻み、右目は斜視気味。喫煙者。
死神めいた大鎌を振るい、強力な幻術を行使する。
残忍で好戦的かつサディスティックな性格をしており、敵を虫呼ばわりし、わざと苦痛や絶望を与えてから殺す。

【ロール】
 なし。地位のあるNPCを幻術で籠絡して手下にしたり、幻術で姿を変えることも出来るかも知れない。

【マスターとしての願い】
 一心不乱の大戦争。皆殺し合って真っ平らになればいい。

【方針】
 聖杯狙い。邪魔する者は鏖(みなごろし)。
幻術や吸血で手駒を増やし、マスターを探し出して物理的・社会的に追い詰め、始末する。
セイバーにマスターやサーヴァントを斬らせて魔力や記憶を吸収させ、強化する。

【把握手段】
 原作漫画。

【参戦時期】
 死亡後。


956 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/25(金) 16:05:40 NgcSisAQ0
投下終了です。


957 : ◆9jmMgvUz7o :2021/06/25(金) 19:26:27 mKXFPCvM0
投下します


958 : にちか&カービィ ◆9jmMgvUz7o :2021/06/25(金) 19:27:19 mKXFPCvM0
「お疲れ様。
 今日はここまでにしましょう」

「……はい」

コーチに言われて、外を見てみたら既に日が暮れて辺りは真っ暗になっていた。
本当はもっと練習したかった。平凡な私は……七草にちかは200%の努力をしないと、なみちゃんの靴を履けないから。
W.I.N.G.を優勝して、もっと努力しないといけないのに、これぐらいで休んでいる暇なんてない。
けれど、今だけは非常時だから、渋々私はコーチに従って帰り支度を始める。

「聖杯戦争……」

意味が分からなかった。
W.I.N.G.に優勝して、これからだって時にサーヴァント、マスターといった意味の分からない知識が入り込んで。
気付いたら、元居た世界と非常によく似た別の世界に居たんだから。

「ぽよ! ぽよよい?」
「待たせてゴメンね。アーチャー」

私が召喚したサーヴァント、それは丸っこいピンクのボールみたいな愛らしい生き物だった。カービィと言うらしい。
アーチャーのクラスらしいけど、この子が一度として弓を使った場面を見たことがない。

「今日も腕によりをかけてご飯作っておいたからね〜。 いっぱい食べてよぉ〜」
「別に、もう作らなくていいって言ってるじゃないですか」

アーチャーの横に現れた裸エプロンにコック帽をかぶった変な生物、この人? はコックカワサキさん。
このアーチャーの宝具らしいけど、あまり戦いに役立ちそうにない。ご飯を作ってくれるのは良いけど凄く不味いし、私が作った方が絶対に良い。

しかも、食費が私持ちだからって食材は無駄にお金かけるし、どうせなら外食で無難なモノを食べたい。
アーチャーは何故か美味しそうに食べてるけど……。

あと、調理前に手を洗わなかったのを指摘したら、凄く嫌そうな顔をしたし、これで一応プロの料理人らしいけど、食への冒涜な気がする。

とにかく、こんなサーヴァントで聖杯戦争なんて生き残れるのか凄く不安になってしまう。

だから出来る限り夜中遅くにならないように、練習だって早く切り上げた。
今の私にやれることは、可能な限り人の多い時間帯に紛れて、それで他のマスターやサーヴァントに見つからないようにすることだけだから。

「思い出したわ。あれ七草にちかじゃん」

「え……?」

声を掛けられた。
アーチャーは霊体化してるから普通の人には見えないし、それよりも私の名前を呼んだことが気になる。
相手の男はチャラチャラしたちょっと危なそうな人で、私の知り合いなんかじゃない。
でも、私を知ってるって事は……。

「ふーん、元の世界で見覚えがあるNPCと思って尾行したけど……マスターだったとはね」

マスターという単語を聞いて、背筋が凍る思いをした。
これが殺し合いなら、誰とも戦わないで生き残れるような設計をする筈がない。絶対、何処かにマスターを特定させるようなギミックがある。
きっと私の場合は、この人がそうなんだ。


959 : にちか&カービィ ◆9jmMgvUz7o :2021/06/25(金) 19:28:35 mKXFPCvM0

「いいぜ、ランサーぶち殺せ」

男の人がそう言うと、槍を大男が現れる。喧嘩とかしたことないけど、この人にはどうやっても勝てない。見ただけで屈服させてきそうな威圧感がある。
どうしよう逃げなきゃ、でも足が動かない。頭は凄く回って、本当に危険で早くどうにかしなきゃって分かるのに動いてくれない。
どうして? 死にたくなんかないのに、なのに……お父さんの事を思い出して、お姉ちゃんも、プロデューサーさんも……あっこれって……。

「ぁ……」

槍の矛先が、私の胸の……心臓の辺りに吸い寄せられてるみたいだった。

「か、カービィ……! 吸い込みよぉ〜!」

カワサキさんの裏声が聞こえてきて、凄い突風が私達に降りかかった。
ランサーの矛先が私から逸れて、あまりにも咄嗟のことだったのかその手から槍が手放されていた。

「アーチャー……?」

突風の正体は大きく、アーチャーの吸い込みだった。大きく口を開けてブラックホールみたいに何でも口に吸い寄せている。
凄い肺活量だなって思ってると、槍がアーチャー口の中に入って行って口を閉じたまま飲み込んでしまった。
アーチャーのボールみたいな体積に収まる筈もない槍をどう飲んだのか、普通なら体を貫通しそうだけど、それに応えてくれもせずアーチャーが飛び上がり、光り出す。


『スピアカービィ!!』


頭に額当てを付けて、ランサーの槍を構えたカービィ。しかも喋った? ぽよぽよしか言えなかった赤ちゃんみたいだったのに。

「貴様、一体―――」

『――――宝具!!』

宝具って確か、サーヴァントの必殺技みたいな……。もしかして、アーチャーはランサーの宝具を奪った? 
驚いた顔のまま、ランサーは槍に貫かれて一瞬で消滅した。

「な、何なんだよ……! そのサーヴァント!?」

マスターの男は抜けた腰を奮い起こして、そのまま逃げて行ってしまった。

「ぽよ!」

「あ、ありがとう……アーチャー」

「カービィは吸い込んだものをコピー出来るんだよ。今度からにちかちゃんが吸い込みを言ってあげてねぇ〜。
 いつもなら、フームがやってくれるんだけど〜」

「……そういう大事な事、最初に言ってください」

「俺は料理するのが仕事だからねぇ〜」

凄い。最初は何もできないピンクの精霊だと思ってたけど、この子は吸い込んだものをコピーする。
他のサーヴァントの宝具だって使いこなしてみせる。


960 : にちか&カービィ ◆9jmMgvUz7o :2021/06/25(金) 19:30:01 mKXFPCvM0

「アーチャーは凄いね。だってなんにでもなれるんだよね? 何でもコピーできる」
「ぽよ?」

モノを吸い込んで、それだけでどんな達人にでも何にでもなれる。どんな靴でも履きこなして、100%のコピーが出来る。
この子はなみちゃんのレコードを食べさせたら、八雲なみその人にだってなれるのかも。

私なんて200%の努力で、なみちゃんの何%をコピー出来てるんだろう? 私の足はこの先、どれだけなみちゃんの靴を履けるんだろう? 

「……いいな」

きっと、元の世界から離れたからかもしれない。ある意味緊張の糸が切れて、自分でも気づかない内に声が漏れていた。

「大丈夫大丈夫、にちかちゃんだってガワだけはそれっぽくアイドルのマネできてるよぉ。中身見られなきゃ、アイドルっぽいよ。俺の料理と一緒だねぇ〜」

「…………」

カワサキさんの料理と、一緒……? 見た目だけは取り繕えて、味は死ぬほど不味いあの料理と……。

そっか、カワサキさんは私が聖杯から与えられたアイドルってロールを演じているだけって思ってるんだ。

「ぽ、ぽよ……ぽよい……ぽよ……」

「あっ今のはギャグだよ、ギャグだってば〜」

W.I.N.Gで優勝できたのは、誰も中身を見なかったから。人ごみに紛れてしまう程度の存在感だったから、あまりにも多くのメインデッシュがあったから。
……私が優勝できたんじゃなく、それは八雲なみちゃんを見て貰えたから、優勝できた? そんなの分かってたことだった。
なみちゃんの靴を履いたから、アイドルでいられたなんて、自分がよく分かってる。
だったら、靴に合わない足なら、合うように切り落として整えないと。

アーチャーみたいに、もっと精度を上げないと。

「……帰ろっか、アーチャー」

「ぽ、ぽよ」

心配そうにアーチャーが私の顔を見上げてくる。
でも大丈夫、まだ私は笑えてるから。
帰ったら、やれるだけのレッスンの続きしなくちゃ。


961 : にちか&カービィ ◆9jmMgvUz7o :2021/06/25(金) 19:30:37 mKXFPCvM0


【CLASS】
アーチャー

【真名】
カービィ@星のカービィ(アニメ版)

【パラメーター】
筋力D 耐久C 敏捷C 魔力C 幸運A 宝具EX

【属性】
秩序・善 

【クラススキル】

対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

単独行動:E
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクEならば、マスターを失っても数時間は現界可能。

【保有スキル】

大食い:EX
食欲旺盛、スイカが好物。

【宝具】

『無限の力を持つ伝説の英雄』:EX
ランク:??? 種別:対人 レンジ:??? 最大補足:???

正確には宝具ではなく、カービィの保有スキル。

ありとあらゆるクラスの適性を持ち、相手の放つ攻撃、武器、果ては炎や石ころなどを取り込むことでその性質をコピーする。
パラメーターを一時的に変化させ、場合によっては自身のサーヴァントクラスを変更し、所有する宝具すらも追加される。

例を上げれば、剣を吸い込みコピーすればソードカービィとなり、セイバーのクラスへと変更される。
もしそれが、何かの聖剣の類であるのならカービィの宝具として新たに使用可能になる。

コピー能力を最大限生かす天才的ひらめきを得ることで、非戦闘時では考えられない高度な戦闘も可能とする。
逆に言えば、コピーできないと戦闘力は特別高くない。

しかし、デメリットもあり、一定以上のダメージか時間経過で変身は解除され、もし他者の宝具をコピーした場合、それは本来の所有者へと返還される。
更にコピーする能力がない場合は何も起こらない(通称スカ)。
ただし、取り込んだものがスカでも吐き出す事で攻撃する事も可能。
これらのコピーに要する行為を吸い込みと呼ぶが、カービィの世界ではこの吸い込み攻撃に対し耐性を持つ敵も存在する。

更にあらゆるクラスの適正と言っても、コピー能力を介さねば決して実用的なモノではない。
通常時のカービィからして決して戦闘に秀でているとも言い難く、コピー能力ありきと言えるだろう。


962 : にちか&カービィ ◆9jmMgvUz7o :2021/06/25(金) 19:31:07 mKXFPCvM0


『ヘルパー(コックカワサキ)』
ランク:??? 種別:対人 レンジ:??? 最大補足:???
生前、カービィに縁のある人物を召喚することが出来る。
カービィにとっての頭脳ともいえるフーム、高い戦闘力を持つメタナイトを呼ぶべきなのだが、食欲に負けてコックカワサキを呼んでしまった。
糞不味い料理を提供してくるが、多少の魔力補充にはなるだろう。あと何だかんだでカービィのアシストにも慣れている。

『ワープスター』
ランク:B 種別:対人 レンジ:99 最大補足:1人
エアライドマシンと呼ばれるカービィが生前乗っていた星形の搭乗マシーン。
速度、精度共に優れたマシーンでカービィの空中戦をサポートする。
カービィの力の源でもあり、これを使用してる間のみAランク相当の単独行動が可能。

真名開放が必要な宝具であるが、基本的にカービィは喋れない為、「来て、ワープスター」と代わりに真名開放する必要がある。
生前はフームしか呼べなかったのだが、宝具化に伴いカービィに友好的なマスターかヘルパーなら呼ぶことが可能。

【weapon】
なし

【人物背景】
闇の帝王ナイトメアが作り出した「魔獣」と戦う星の戦士。

【サーヴァントとしての願い】
カービィ:特になし。
コックカワサキ:楽して儲けたい。


【マスター】
七草にちか@アイドルマスターシャイニーカラーズ

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る。

【備考】
ロールはアイドル。
W.I.N.G.優勝後からの参戦です。


963 : ◆9jmMgvUz7o :2021/06/25(金) 19:32:05 mKXFPCvM0
投下終了です


964 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/25(金) 20:49:54 1idV3pF.0
投下します


965 : 僕たちはちょっと足りない ◆NIKUcB1AGw :2021/06/25(金) 20:51:06 1idV3pF.0
夕暮れ時、人気のない裏路地を一人の女子高生が歩いている。
そして彼女を、物陰から見つめる忍び装束の男がいた。
男はアサシンのサーヴァントであり、女子高生は彼が仕えるのとは別のマスターである。
彼女がマスターであるという情報をつかんだアサシンは、彼女を暗殺すべく尾行しているのだ。

(わざわざ人気のない場所を歩いているということは……。
 狙われていることに気づいて、あぶり出すつもりか……?
 まあいい、その慢心が命取りだ。
 俺の神速の動きで、向こうのサーヴァントが介入してくる前に首をかっ切ってやる!)

覚悟を決め、アサシンは物陰から飛び出す。
一気に距離を詰め、手にしたクナイを女子高生の首に向けた、その時。
突如彼の視界は激しく回転し、それが止まったときにはアスファルトの路面が目の前に存在していた。

(なんだ! いったい何が……)
「あ、わかりませんでした? じゃあ、教えてあげますね」

混乱するアサシンの耳に、穏やかな口調の声が届く。

「あなたの首、もう落ちてますよ」

まるで落とし物を指摘するかのような調子で放たれたその台詞の意味を理解する前に、アサシンの意識は途絶えた。


◆ ◆ ◆


「すいません、囮役なんてやらせちゃって。
 マスターの方は気配がダダ漏れだったんですけど、サーヴァントの方が気配をつかめなくて」

刀を鞘に収めながら、サーヴァント……セイバーは笑顔でマスターに語りかける。

「かまわないさ。あなたの強さに関しては信頼している」

マスター……天生壱(あもう いち)は、無表情で答える。

笑う男と、笑わない女。
一見すれば、正反対の存在。
だが二人とも、根本に抱える問題は同じ。
どちらも、感情が正常に働いていない。

「相手のマスターは、もう逃げちゃったみたいですけど……。
 追わなくていいんですよね」
「ああ、そうしてくれ」


966 : 僕たちはちょっと足りない ◆NIKUcB1AGw :2021/06/25(金) 20:52:02 1idV3pF.0


◇ ◇ ◇


話は、二人が対面を果たした直後に遡る。

「我輩は、人殺しはしたくない」

壱は、セイバーにそう告げた。

「あなたの生きていた時代では、どうだったか知らないが……。
 我輩の時代では、人殺しはたいそう重い罪だ。
 たとえこの世界がまやかしに過ぎず、法に裁かれることがなかったとしても……。
 我輩は一生、その罪の重さに苦しむだろう。
 サーヴァントとは死者の複製であるというから、そこは譲歩しよう。
 だがマスターに関しては……どうか殺さずに収めてもらいたい。
 いかがだろうか」
「あ、いいですよ」

壱の主張に対し、セイバーは即座にそう返す。

「……我輩の長台詞を、こうもあっさり返されるとは思わなかった。
 何を甘いことを、とか言われるのも覚悟していたのだが」
「まあ、甘いでしょうねえ。でも、そういうやり方には僕も興味がありますから」
「興味とは?」

壱が無表情のまま、首をかしげる。

「僕ね、召喚が上手くいかなかったのか、生前の記憶が曖昧なんです。
 自分の生きる道を見つけるために旅に出たはずなのに、どんな結論に至ったのか思い出せない。
 だからここで、やり直します。人を殺さない道を歩いてみて、その先に何か見つけられるか」

静かに笑って、セイバーは言った。


◇ ◇ ◇


そして、再び現在。

「そういえば……」

霊体化しようとしていたセイバーが、ふとそれを中断して呟く。

「マスターから、方針は聞きましたけど。
 叶えたい願いとか、聞いてませんでしたよね」
「ん? そうだったか」

腕時計に視線をやりながら、壱が返す。

「こんな血なまぐさい叶え方でなければ、我輩の精神をなんとかしてもらうのだがな。
 多数の犠牲の果てに叶えてもらえる願いなど、権利を得たとしても怖くて使えんよ。
 元の世界にさえ戻れれば、なんとかなるかもしれないしな」

壱は、他者に恋愛感情を抱くことができない。
だが、一人の少年に対して好意を抱いている。
彼に褒めてもらえたとき、感情が顔に出ないはずの自分が笑っていたと指摘された。
このまま彼と共に時を過ごせば、いずれは自分なりの「恋」ができるのかもしれない。
それが壱の願い。
そしてそれを叶えるためには、この戦場から生きて帰る必要がある。

「さて、なんにせよ今日はもう帰ろう。
 いくら似て非なる存在とはいえ、あまりおばあちゃんを心配させたくない」
「了解です」

恋ができない乙女と、笑うことしかできない剣客。
いびつな心の二人は、いびつなりに悩みながら進んでいく。


967 : 僕たちはちょっと足りない ◆NIKUcB1AGw :2021/06/25(金) 20:53:06 1idV3pF.0


【クラス】セイバー
【真名】瀬田宗次郎
【出典】るろうに剣心
【性別】男
【属性】中立・中庸

【パラメーター】筋力:C 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:E 幸運:E 宝具:A

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
神秘の薄い近代の英霊であるため、最低ランク。

騎乗:E
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。
「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
たいていの乗り物より速く走れるセイバーには、必要のないスキル。

【保有スキル】
天剣:A
生まれつき持った、剣の才能。
完全な我流でありながら、名だたる剣客と渡り合えるだけの技巧を持つ。

感情欠落:A-
喜怒哀楽のうち、「楽」以外の感情が欠落している。
そのため殺気や闘気を一切放たず、思考が非常に読みづらい。
擬似的に、「気配遮断」や「精神汚染」に近い効果が発揮される。
生前のセイバーは緋村剣心との戦いで感情を取り戻しているが、全盛期の状態を再現するサーヴァントの特性により再び機能している。
しかし上述の逸話から、精神攻撃を受けた際にこのスキルが失われる可能性がある。

【宝具】
『縮地』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:5人
まるで妖術で地面を縮めたようにすら見える、超高速走行術。
同じ名の技を使う英霊は他にもいるが、宝具の域にまで高められた彼の縮地は別格。
百戦錬磨の英霊であっても、その動きを視認するのは困難である。
なおレンジ及び最大補足は、この宝具使用中に攻撃を放った場合の数値。

【weapon】
「菊一文字則宗」
創作において沖田総司の愛刀とされることが多い名刀。
剣心との戦いで折れているが、サーヴァントとしては万全の状態で所持している。

【人物背景】
志々雄真実配下の特攻部隊「十本刀」最強の剣客であり、志々雄最古参の部下。
とある商人が妾に産ませた子で、家族から虐待されて育つ。
そんな中、政府に追われていた満身創痍の志々雄と遭遇。
彼の影響により家族を皆殺しにし、その配下となる。
後に剣心との戦いに敗れたことで感情が蘇り、同時に志々雄に言われるがままだった価値観が崩壊。
自分にとっての真実とは何かを知るため、旅に出る。

【サーヴァントとしての願い】
改めて、答を探す


968 : 僕たちはちょっと足りない ◆NIKUcB1AGw :2021/06/25(金) 20:54:10 1idV3pF.0


【マスター】天生壱
【出典】CLUBゲーム倶楽部
【性別】女

【マスターとしての願い】
元の世界に戻る。

【weapon】
特になし

【能力・技能】
「魔術」
主に肉体強化の魔術を得意とする。
単純な運動能力の強化だけでなく、脳を強化して記憶力を高めたり、目を強化して透視をしたりといった芸当も可能。

【人物背景】
曽新工業高校に通う女子高生。爆乳。
両親は仕事の都合で同居しておらず、祖母と二人暮らし。
一人称に「我輩」を使うなど、古風かつ男っぽい口調を用いる。
生まれつき、恋愛感情を抱けないという特異な精神構造を持ち、「創作物なら国語力で恋を理解できるのでは」と考えた結果乙女ゲーマニアに。
またそれとは別に感情が非常に顔に出づらいという体質も持ち、オーバーアクションで感情を表現する。
「薬局の先生」なる人物から教えを受ける本物の魔女であり、
それを公言しているものの周囲からは冗談や中二病だと思われている。

【方針】
生還優先


969 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/25(金) 20:55:16 1idV3pF.0
投下終了です


970 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/25(金) 22:30:11 l1FeReAk0
>>瞬瞬必生
アカメが斬るからクロメですが、そのサーヴァントは非常にピーキーな性能の持ち主ですね。
通常の聖杯戦争ならばまず生き残れのない性質、しかしそれに見合う強さはあるというのが面白い。
クロメも自分の引き運を嘆くのではなくデメリットが大きい=勝つに足るだけの力があると看做すのが実力者感あっていいですね。

>>Der Mensch ist Boese
コンパクトな文量の中で、しかしこの主従の面白さをしっかりと示していた印象の一作でした。
なんと言っても地の文のテンポが良く、非常に読みやすくてなおかつ中身はしっかりあるので大変面白く読ませていただきました。
かなりクセのあるサーヴァントではありますが、果たしてこれを連れてどこまで行けるのか。素直に先が気になるお話でした。

>>にちか&カービィ
にちか、六人目! 間違いなく今最も聖杯に愛されている女!!
今回のにちかが召喚したのはかなりの曲者で、しかしそれでいて戦力だけ見ればとても頼りになる一騎ですね。
カービィを従えながら歩んでいくにちかという絵面はなかなか可愛いので、そういう意味でも好きなお話でした。

>>僕たちはちょっと足りない
宗次郎は確かな実力を持つサーヴァントなので、戦力的な面では心配無さそうですね。
彼の剣術や技の数々がこの聖杯戦争というフィールドでどう機能してくれるのかが気になります。
そしてマスターもこれまた癖のある人物なようで、それだけに絡んでいくのが楽しみです。

皆さん本日もたくさんの投下をありがとうございました!


971 : ◆As6lpa2ikE :2021/06/26(土) 14:12:00 bt02UZ2c0
投下します


972 : 弓は袋に太刀は鞘 ◆As6lpa2ikE :2021/06/26(土) 14:12:39 bt02UZ2c0
頬から滴り落ちる汗で東京の路地を濡らしながら走っている男は、

(どうしてこうなった)

と思った。
自分が狙ったのは、いかにも世俗に疎そうで、そのくせだけはプライドは高そうな箱入り娘といった顔立ちと服装をした女だったはずだ。本来、魔術的な儀式であるはずの聖杯戦争の参加者でありながら、魔力のまの字も感じられない。彼女を発見した当時の男は「これなら楽に一勝をもぎ取れそうだ」とほくそ笑んだものである。
しかし実際、キャスターと共に一部の隙もない奇襲を実行した彼が浴びたのは、哀れな犠牲者の断末魔ではなく、銃声と弾丸の嵐だった。男の目が確かなら、女が握っていたのは二丁の機関銃だ。一丁だけでも手に余りそうな兵器をどこかから取り出した彼女は、それらをまるで自分の肉体の一部であるかのように使い、見事、奇襲を返り討ちにしたのである。その動きは完全に、戦場を常在の住処とする戦士の振る舞いだった。それだけにはとどまらず、彼女の背後から亡霊のように姿を見せた──霊体化を解いたサーヴァントの攻撃により、男とキャスターの距離は強制的に引き離されてしまった。いったいぜんたい、どうやったら、一本の刀を振るだけで大の大人がメートル単位で吹き飛ぶ突風を生み出すことができるのだろうか?
 間近にあった建物の陰に、男は勢いよく飛び込んだ。一瞬後には、彼が先ほどまで存在した空間を弾丸が貫いていた。

(大丈夫だ。想定外の事態になったが、まだ俺たちの負けが決まったわけではない)

そう思うことで、男は自分自身を落ち着かせようとする。しかし実際、男に勝機がないわけではなかった。女が扱う機関銃は、たしかに驚異的な暴力を有しているが、なにも弱点がないわけではない。弾詰まりによる暴発や予期せぬ跳弾など考えられるが、中でも特に、装填にかかる時間ほど、致命的な弱点は無いだろう。
 耳を澄ませば、建物の向こうから発砲音が絶え間なく響いている。あれだけ景気よく弾丸を放てば、近い内に弾切れが起きるのは必至だ。その時、彼女は必ず装填の為に攻撃を中断しなくてはならなくなる。両腕が得物で埋まっている分、機関銃女が装填にかける手間は通常よりも長いはずだ。その時こそ、男にとっての勝機である。
 来るべき時に備えて、いつでも俊敏に動くために、男は膝から下に力を込める。
 一秒、二秒、三秒……。


「……ど」

 どういうことだ?
どれだけ待っても装填の気配がない。
最初は銃声に叩かれ過ぎた鼓膜が、ありもしない銃声を生み出したのかと思った。あるいは機関銃女が、最初は片方の機関銃を撃ち放ち、それが弾切れになったら、装填しつつもう片方の機関銃を撃ち放つという交代制の発砲をおこなっているかとも考えた。だが、どちらも違う。男の耳に届いているのは、幻聴と呼ぶにはあまりにもリアルな、二丁の銃声だった。
壁の向こうから響く不可思議に、顔をこわばらせる男。
いつまで経っても尽きない銃声。
 それではまるで、弾丸が──

「『湯水のごとく(ノンリロード)』」

 女の声が聞こえた。
 銃声が轟く中にあってもよく響く、美しい声だった。


973 : 弓は袋に太刀は鞘 ◆As6lpa2ikE :2021/06/26(土) 14:13:24 bt02UZ2c0
「装填無しで弾丸を連射できる能力ですわ。これがある限り、わたくしが弾切れを起こすことは絶対にありえません」

「な……っ⁉」

 その絶望的な能力の開示は、これまで放たれたどんな弾丸よりも正確に、男の心を抉った。
 それと同時に、それまで彼の体を守っていたコンクリートの建物が崩壊した。数多の弾丸を数秒に渡って浴び続けた結果である。
 土埃を上げて崩れ落ちる壁の向こうには、女が先ほどと変わらない佇まいで、両腕に握った機関銃の重みに負けることなく屹立していた。
 大量の弾丸を消費して建物を破壊するくらいなら、素直に男の後を追っていた方が早く済んだかもしれない。しかし、彼女の戦士としての感覚は、数多の世界から参加者を蒐集している聖杯戦争において、敵に不用意に近づくことの危険性を理解していた。そしてそれ以上に彼女の高貴なものとしてのプライドが、「このわたくしが獲物を狩る為にわざわざ足を運ぶなんて、到底許されることではありませんわ」と判断したのだ。故にこそ、この壮絶な光景が生まれたのである。

「今更ですし、十二大戦とは異なるこの戦いではそれも不要なのでしょうけれど、戦士の礼儀として名乗っておきますわ」

 そして女は、

「『亥』の戦士――『豊かに殺す』異能肉」

 と言った。その口元に浮かぶ微笑は、彼女の余裕に満ちた立場を表していた。
 絶体絶命の状況に男は歯ぎしりを鳴らす。
しかし彼はまだ諦めていなかった。
 彼は自身の手の甲に刻まれた『令呪』に意識を向けた。これを使ってキャスターに命じれば、弾丸が届くよりも速く、この場に呼び出すことが可能だ。出来ることなら、聖杯戦争の序盤も序盤な段階で、こんな貴重なカードを切りたくはなかったが──仕方ない。
 男は覚悟を決め、令呪を消費しようとする──だが。
 そこで彼は気付いた。
 気付いてしまった。
 自分とキャスターの間にあったパスが途切れていることに。
 というよりもこれは──

「キャスターが……消滅した……?」

 直後、彼の体を弾丸が貫いた。




974 : 弓は袋に太刀は鞘 ◆As6lpa2ikE :2021/06/26(土) 14:13:53 bt02UZ2c0
時刻は僅かに巻き戻り、場所が移る。
 マスターから強制的に引き剥がされたキャスターは、自分の周囲に無数の使い魔を展開させながら、前方に佇むサーヴァントを睨みつけた。
 格好はいわゆる、日本のサムライか。雪のように白い髪を総髪にしており、女と見紛うその顔は、実に整っていた。この描写から彼の美しさが伝わることだろうが、そんな彼の顔以上に美しいものが、この場にあった。彼が握る日本刀である。
 日本刀と言えば、観賞の用途で所有されることも珍しくないほどに、芸術品としての価値が高い兵器だが、サムライの手にある刀の美しさは群を抜いていた。
 薄く、薄く、薄く、薄い──どれだけ繰り返しても足りぬほどに、その刀は薄かった。刀身越しに向こう側の風景が透けて見えるほどである。その柄を握ればきっと、羽毛のように軽く感じられることだろう。
 武器として振るどころか、観賞用として視線を浴びただけでも砕け散りそうなほどに脆いつくりをしているが、それの所有者であるサムライは、

「『速遅剣』」

 と言って、刀を振った。その風圧だけで刀身が露と消えてもおかしくなかったが、そうはならなかった。
 その代わりのように、キャスターが召喚していた使い魔たちが、一瞬にして細切れになる。それはは、生前、魔術師として数多の不可解な現象を目にしてきたキャスターであっても、息を呑まずにはいられない光景だった。
 あの刀の間合いでは届くはずの無い場所にいた使い魔までもが斬られている。サムライが刀の刃渡の伸縮を自由自在にできる妙技でも持っていない限り、こんな現象を起こすことは不可能だろう。

「くっ……、このオ!」

 キャスターの声に応えるように、使い魔たちの残骸が蠢き、やがて一カ所に集結して、形を成した。それはサムライの身の丈の三倍はあるであろう、巨大な怪物だった。
 怪物は咆哮をあげながら、大きく口を開け、突進する。殺意しか感じられない造形をした牙が、サムライの胸を食い破ろうとした、その瞬間──

「『逆転夢斬』」

 の声が響くと同時に、怪物が真っ二つに裂けた。怪物の巨体に隠れていたため、サムライが何をしたのかを、キャスターは微塵も理解できなかった。いや、仮に彼の両目が一切の障害物を隔てずにサムライの剣術を見ていたところで、その術理を看破できていたか怪しい──それほどまでに圧倒的な剣の実力を、サムライは有していた。
 
「『爆縮地』」

 鏡の表面のように滑らかな切り口を見せている怪物の死骸。ふたつに分かれたその隙間を貫くようにして、サムライは走った。眼前に突如として現れた彼の白髪が、慣性に従って揺れていなければ、キャスターはサムライが高速移動ではなく空間から空間への瞬間移動をおこなったと勘違いしたことだろう。
 
「本来なら、こんなところで使うような技ではないのでござるが……サーヴァントになった今、拙者がどれだけ生前と変わらない実力を有しているのか。その試し切りでござるな」

 サムライは──日本最強の剣士(セイバー)・錆白兵は、そう言った。
 その手できらめく刀──『薄刀・針』は、美しく、脆く、弱く──そして強かった。

「拙者にときめいてもらうでござる──『薄刀開眼』」




975 : 弓は袋に太刀は鞘 ◆As6lpa2ikE :2021/06/26(土) 14:15:27 bt02UZ2c0
 キャスター主従との戦闘を終えた後、異能肉は都内タワーマンションの最上階にて、自身の二丁機関銃・『愛終』と『命恋』に、優しい手つきでメンテナンスを施していた。マンションの内装はどれだけ言葉を尽くして賞賛したとしても、その全てが贅言と化すほどに素晴らしかったが、そんな空間も、三百年の歴史を持つ名家の跡取り娘である肉にとっては、戦争中の仮住まいとしてなら及第点を与えられなくもない、質素で見窄らしい陋屋にしか見えなかった。
 肉は本来ならば、十二年に一度開催されるバトルロワイアル・十二大戦に参加していたはずの戦士である。それがどういう因果か、界聖杯なる超常現象に誘われ、異世界の東京へと招かれてしまっていた。だが、戦士として長年活動していれば、予想だにしない戦争に巻き込まれることなど、日常茶飯事だ。雑談のタネに話すハプニングにすらならない。そこに戦争があるのなら、動じることなく淑やかかつ優雅に、そして圧倒的な暴力でもって戦争を勝ち抜くのが、肉の考える戦士像である。
 
(それに──この戦いは十二大戦とは違って、予めバディがいるんですものね)

『愛終』と『命恋』から目を離す。動いた視線の先には、彼女のサーヴァントであるセイバーの姿があった。その顔は相変わらず美しく、「サーヴァントでなければ、わたくしの十三番目の恋人にしてあげてもよかったのに」と肉は残念に思った。
誰かと協力することなんて、戦場では珍しくもない。肉にだって、何度か経験はある。しかしながら、それが「戦争の最初から最後まで一心同体も同然な同胞」というのは、彼女にとっては初の体験だった。聖杯戦争と同じくらいに、常識が通用しない人外魔境の戦争として知られる十二大戦の長い歴史を紐解いても、参加者同士で協力し合った回なんてなかったはずだ。
 静かに佇んでいるセイバーの姿は返り血に濡れていないどころか、衣服が乱れてすらいない。他のサーヴァントとの戦闘を終えたばかりとは思えない風貌である。
 その姿から、肉はセイバーを召喚した時のことを思い出す。
当時、彼は喜んでいた。それは、肉というマスターの元に呼び出されたことでなければ、聖杯戦争という万能の願望器への獲得権に手を半分掛けられたことでもなく、自分が『薄刀・針』という刀と共に召喚された事実に対する喜びだった。

「この刀が再び拙者の手にあるのは、無上の喜びでござる。これだけでも、サーヴァントとして召喚された甲斐があった」

 その声音から、セイバーが本音でそう語っていることが感じられた。彼のマスターである肉としては、召喚時点で満たされて戦争へのやる気をなくし、万が一サーヴァントとしての職分を放棄されたら困ると思っていたが、彼がそのような中途半端な剣士でないことは、先のキャスター戦で十分に理解できた。
 実力を疑うまでもない自分に、日本最強の剣士。
 このふたりなら、聖杯戦争を勝ち上がることなど、造作もないだろう。なんなら、今のうちから、元の世界に戻った後に参加する十二大戦のプランニングをおこなっておいていいかもしれない。
 そのような余裕ある思考をしながら、肉は口元に薄い微笑を浮かべた。


976 : 弓は袋に太刀は鞘 ◆As6lpa2ikE :2021/06/26(土) 14:16:38 bt02UZ2c0
【クラス】
セイバー

【真名】
錆白兵@刀語

【属性】
混沌・中庸

【ステータス】
筋力D 耐久E 敏捷A 魔力E 幸運C 宝具A+

【クラススキル】
騎乗:C

対魔力:D  

【保有スキル】
全刀流:A
 全刀・錆。
 セイバーに流れる剣術の血刀、もとい血統。このスキルの所有者はあらゆる物を刀として使うことができる。棒切れ一本だけでも、セイバーにとっては十全な装備となる。

爆縮地:A
敵を驚愕させ、翻弄する、この世で最も自由自在な足運び。このスキルの発動時、セイバーの敏捷ステータスはプラス値が3つ振られたものとして扱われる。

無窮の武練:B
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
 心技体の完全に近い合一により、いかなる地形・戦術状況下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
セイバーは日本最強の剣士である。しかし、彼はとある剣士との決闘の末に敗北し、その称号を受け渡すことになったため、本スキルのランクが最高位ではなくなっている。

【宝具】
『薄刀開眼』
ランク:? 種別:対人〜対星宝具 レンジ:? 最大捕捉:?

セイバーが持つ刀『薄刀・針』の限定奥義。
天才刀鍛冶・四季崎記紀が薄さと軽さに重点を置いて作った、この世で最も脆い刀という針の特性と、あらゆる刀を使いこなすセイバーの実力が合わさることで可能となる技。
その威力は凄まじく、彼と対峙した奇策師・とがめに「太陽を切り裂くことさえ不可能では無い」と言わしめた

『美刃薄命』
ランク:? 種別:? レンジ:? 最大捕捉:?

この宝具はセイバーが生前に使っていた刀や技ではなく、彼がサーヴァントとして召喚される際に、彼の美しくも短命に終わった流星のごとき生涯と、美しくも脆い『薄刀・針』の特性が混ざり、昇華されたことで誕生した宝具。
その正体も詳細も不明だが、セイバー曰く「もしもこの宝具を無限定に使うことが出来れば、拙者は瞬く間にこのいくさの勝者となるでござろう」とのこと。

【weapon】
・『薄刀・針』
 伝説の刀鍛冶・四季崎記紀が作り、戦国の情勢を左右してきた千本の『変体刀』──その中でも突出した強さを持つ十二本の『完成系変体刀』に名を連ねる一本こそが、『薄刀・針』である。
 薄さと軽さに重点を置いて作られた刀であり、そのため非常に脆く、生半可な剣士が振れば瞬く間に壊れてしまうのだが、それが日本最強の剣士である錆白兵の手に渡れば、世にも恐ろしい名刀と化す。
 四季崎の刀はあまりの強さから、人の心を力に溺れさせる毒を有している。そのため錆白兵もまた、針に尋常ではない執着を抱いている。

【人物背景】
 日本最強の剣士。
 時の幕府のとある奇策師・とがめが計画した四季崎記紀の変体刀の蒐集に協力していたが、『薄刀・針』の毒じみた魅力に当てられて、裏切る。
 四季崎記紀の刀が持つ毒に一度でもやられた人間が、針というたった一本の変体刀で満足できるはずもなく、その後も更なる変体刀を求めて独力で『刀集め』の旅をしていたが、その結果は芳しくなかった。そこにかつて裏切った奇策師が新たな協力者である虚刀流の使い手・鑢七花を連れて刀集めをおこない、既に何本もの完成系変体刀の蒐集に成功したという情報が届き、錆はとがめたちに互いの刀をかけた決闘を申し込む。
 錆たちの決闘は凄まじく、その結果、決闘の舞台となった巌流島の面積が半分になったほどであり、かの有名な宮本武蔵と佐々木小次郎の戦いに続く伝説として、島に刻まれることとなった。決闘の末に錆は敗北し、命を失うことになったが、彼と直に戦い、その強さを思い知らされた鑢七花は、後に「勝った実感が湧かない」と語っている。


977 : 弓は袋に太刀は鞘 ◆As6lpa2ikE :2021/06/26(土) 14:17:07 bt02UZ2c0
【マスター】
異能肉@十二大戦

【weapon】
・『愛終』と『命恋』
二丁の機関銃。
彼女は重火器の扱いに精通しており、どんな重厚な兵器でも自在に操るのだが、中でもこの二丁は彼女にとって自分と繋がっている肉体の一部のようなものである。

【能力・技能】
・『湯水のごとく(ノンリロード)』
装填無しで弾丸を連射できる能力。
彼女はこの能力により、銃火器を得物とする戦士についてまわるリロードという致命的な隙を克服している。

【人物背景】
本名・伊能淑子。四月四日生まれ。身長176センチ、体重60キロ。三百年以上の歴史を持つ名家の跡取り娘。虐待的なまでに苛烈な教育方針を持つ父親と、溺愛に溺愛を重ねる母親との板挟みになりながら育ち、両者の期待に公平に応えるという離れ業をこなす。大人の顔色を窺いながら育った分、成人して地歩を固めてからは、比較的奔放な性格になった。特に両者から共通して禁じられていた恋愛方面に関しては完全に箍が外れてしまったようである。現在、十二人の男性と健全につきあいつつも、更なる恋人募集中。
本来、優勝者の願いを何でもひとつだけ叶える十二年に一度のバトルロワイアル・十二大戦に参加するはずだったが、その直前で界聖杯から招待されてしまった。


978 : ◆As6lpa2ikE :2021/06/26(土) 14:17:25 bt02UZ2c0
投下終了です


979 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/26(土) 16:36:05 iGUXHBNQ0
投下します。


980 : Komm, susser Tod ◆Pw26BhHaeg :2021/06/26(土) 16:38:11 iGUXHBNQ0
 眼球がぴくぴくぴくぴくして止まらない。

「ヒューッ!」「マブ!」「お茶しない?」

 夜の繁華街、路地裏。うら若い乙女を囲んで、与太者たちが声をかける。
屈強な体格、側頭部や肩にタトゥー。腰にはナイフを忍ばせている。
赤茶色の髪の乙女は、きょとんとした表情で首をかしげた。

「お茶? いいよ。おごってね」
「マジ!?」「カワイイ!」「朝までやるぜ!」

 与太者たちはせせら笑い、いきり立つ。だが、そこへ。

「ああ、いたいた! あの、すみません。彼女、僕のツレなんで」

 ヘラヘラした声が呼び止める。
与太者たちが振り返ると、どうということはないモブ顔の青年だ。
黒髪の短髪、白いTシャツにズボン。
繁華街に来る格好でもない。近所の家から慌ててやってきたような姿だ。

「セーゾコラ!」「スッコンデロ!」「今カノジョOKしたぞバカ!」

 囲んで殴ればひとたまりもなさそうな弱っちい外見だ。
与太者たちは野獣めいて叫び、メリケンサックをはめた拳や警棒、ナイフを振りかざす!

「ああ、近寄らない方がいいよ。君ら、死ぬから」
「「「「ギャハハ!死ねやコラーッ!」」」

 嘲笑い、襲いかかる与太者たち! 危ない! だが!

「「「かっ……」」」

 瞬時に与太者たちの動きが止まる。
その肉体が膨れ上がり、ただれ、融合し、ちぢむ。
ドロドロの肉塊と化した彼らは、青年の足元から伸びた血管のようなものに吸収されてしまう。
声も出せずに。

「ほらね。……じゃ、『アリス』。こんなとこより、上に行こうよ」
「うん」

 アリスと呼ばれた少女は頷き、彼の手を取る。
青年は彼女をふわりと抱き上げると、壁を駆け上がってビルの屋上へと向かう。
その顔は歪み、ただれ、白目は血走り、髪の毛は白くなる。背中に白い翼が生える。

 アリスは、彼の腕の中でぼんやりと、夜空の月を眺めている。


981 : Komm, susser Tod ◆Pw26BhHaeg :2021/06/26(土) 16:40:15 iGUXHBNQ0


 屋上から、夜景を眺める。夜なお明るく、人々は眠らない。
過重労働や睡眠不足、飲酒や喫煙は健康に悪く、寿命を縮める。
死は誰も逃れられない。

「ふん、ニンゲンどもめ。こんなに多いなんてね」

 白髪の青年が鼻を鳴らす。
ここは彼がいた世界ではないが、その外側だ。
正確には、外の世界を模倣した疑似世界だという。どうでもいい。

「ニンゲンは、嫌い?」
「好きでも嫌いでもないさ。ただ邪魔なだけ。
僕が存在しているだけで殺しに来るし。何も悪いことなんかしてないのに」
「こわいね」
「怖いものか。さっきみたいに、いくらでも殺せる。餌食や手駒さ。
……ああ、アリス、君がニンゲンでなくてよかったよ。殺さなくて済んだから」

 青年はアリスの前に膝を折り、優しく微笑んで、細い手指をそっと握る。
アリスは肩をすくめ、困ったような表情をする。

「でも、ぼくが探しているのは、ニンゲンだと思うんだ。黒髪の、すごーく頼りない男の子」
「じゃあ、彼は殺さない。君のためにね。彼が好きなのかい?」
「……たぶん。胸が痛めばっていうけど、ぼくには『痛み』というものが、あまりわからないんだ」

 アリスは胸を押さえる。
自分の心をかき乱した彼は、この青年に少し似ていて、でも、やっぱり違う。
青年は遠くを見ながら、つぶやく。

「君の願いを叶えてあげたいけど、僕には僕の願いもある。
ひょっとしたらふたりとも願いを叶えてくれるかも」
「そうならいいね」

 ……ふたりは塔の上に立ち、地平線の彼方まで続く巨大都市、東京を見つめている。
蟻のように蠢き、飽くことなく富や食糧を収奪し、環境を汚染・破壊する、歪んだ生き物たちのすみかを。

 少女の名はアリス。神の化身。
青年は……人間の中には、必ず存在する。その名を知らぬ者はない。
彼こそは人類が自ら生み出したものにして、人類の天敵。
彼は……。


982 : Komm, susser Tod ◆Pw26BhHaeg :2021/06/26(土) 16:43:33 iGUXHBNQ0
【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
がん細胞@はたらく細胞

【パラメーター】
筋力A+ 耐久A+ 敏捷C+ 魔力A+ 幸運E 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
復讐者:A
 復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。
被攻撃時に魔力を回復させる。自らに苦痛と死をもたらす「がん細胞」を好む人はあまりいない。
「死を纏う者」や「祝福されぬ生誕」をも含む。

忘却補正:EX
 復讐者は英雄にあらず、忌まわしきものとして埋もれていく存在である。
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、正規の英雄に対するクリティカル効果を強化させる。
がんは再発・転移する。「戦闘続行」を含み、相当のダメージを受けて大部分が消滅しても、
細胞の一片でも残っていれば復活できる。NPCやマスターに擬態したり、体内に潜んだりすることも可能。

自己回復(魔力):EX
 復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。
微量ながらも魔力が毎ターン回復し、魔力に乏しいマスターでも現界を維持できる。
がん細胞とは無軌道に分裂増殖を続ける存在であり、大量の魔力を必要とするが、
「炎症性サイトカイン」を用いて優先的に栄養やエネルギーを補給可能。
取り込んだ存在から魔力を吸収できる。「自己改造」や「陣地作成」を含む。

【保有スキル】
偽装工作:A
 自らの正体を隠し、偽り欺く。特徴の薄いNPCに擬態して人混みに紛れ込むことが可能。
「医術」や「心眼」などで判定に成功すると感づく。早期発見・早期治療が、がん治療の鉄則である。

【宝具】
『悪性新生物(マリグナント・ネオプラズム)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:∞
 生物の肉体を蝕み死に至らせる「がん細胞」である彼そのもの。
肉体を自在に変形・増殖させ、周辺の建造物(細胞組織)を取り込み敵を押し潰す。
異常増殖により分裂させたコピーを生み出し続け、ゾンビや肉塊として襲いかからせる。
肉体や霊体を浸蝕・貪食するため、襲われたNPCやマスター、弱めのサーヴァントは取り込まれて餌食になってしまう。
「医術」スキルを持つサーヴァントであれば引きはがせるだろう。

 また「炎症性サイトカイン」という情報伝達物質を放出し、優先的に自分へ栄養や血液を引き寄せる。
舞台は人体内部ではないが、英霊化したことにより人類社会を人体と同様にみなして荒らし回ることができ、
炎症性サイトカインで公務員や配達員、会社員などを洗脳して、食物やエネルギーを優先的に引き寄せることが可能。
これによりアヴェンジャーはほぼ無尽蔵の力を振るえるが、同時に周囲の注目も集めてしまう。

【Weapon】
 自身が武器。

【人物背景】
 漫画『はたらく細胞』に登場する、人類の天敵「がん細胞」が擬人化された存在。CV:石田彰。
通常のモブ細胞(黒髪短髪でシャツとズボンの青年)にも擬態できるが、
真の姿は白髪で白目が赤黒く、全身に脈が走り、手足が崩れた異形の姿。
自在に変形・増殖し、翼を生やして飛翔することも可能。

 細胞の遺伝子異常による分裂エラーで生まれる「できそこない」の細胞。
分裂プログラムを無視して無軌道に増殖し続け、やがて臓器を乗っ取ってしまう。
健康な人間でも日に数千個生じているが、通常は増殖する前に処分される。
生まれてすぐに仲間ともども免疫細胞に殺されかけるが、偶然にも生き延び、
何もしていないのにも関わらず殺されるという理不尽な境遇を恨んで人体や免疫細胞への復讐を開始した。
彼の気持ちはどうあれ、人体にとっては彼が存在していること自体が害悪なので滅ぼすしかない。

【サーヴァントとしての願い】
 人類(免疫系)への復讐。通常の細胞に戻ることも一応考えてはいる。

【方針】
 聖杯を獲得する。邪魔する者は鏖(みなごろし)。
力を蓄えて罠を張り、マスターを捕まえて捕食する。各地に株分けを行い、拠点を築いておく。

【把握手段】
 原作漫画。アニメ版にも出演。


983 : Komm, susser Tod ◆Pw26BhHaeg :2021/06/26(土) 16:45:15 iGUXHBNQ0
【マスター】
アリス@BAROQUE

【Weapon】
 骨、寄生虫、焼印など奇妙なアイテムをいくつか持っている。

【能力・技能】
 常に浮遊している。地に足をつけることは可能。痛覚がない。

【人物背景】
 ゲーム『BAROQUE』に登場するキャラクター。CV:名塚佳織。
ゲームの主要舞台である謎めいたダンジョン「神経塔」の中にいる、
ショートカットで両肩を出した服装の、ボーイッシュな美少女の姿をした存在。
一人称は「ぼく」ないし「僕」。
記憶喪失の主人公に対して一方的に反撥し、過去について責めてくる。
痛覚など様々なものが欠けていると自ら語る。

 その正体は「創造維持神」から生まれた多重神格のひとり。
主人公が神に接触して発生した「大熱波」の際、彼をもとに構成され、神が失った痛覚を司っている。
人格は幼く、自分と主人公の気持ちで一杯であり、他のことまで考えられない。かわいいね!

【ロール】
 なし。廃墟や路地裏などをふらふらしている。

【マスターとしての願い】
 「彼」にもう一度会いたい。

【方針】
 聖杯狙い。戦いはアヴェンジャーに任せる。

【把握手段】
 原作。上田信舟によるコミカライズもある。

【参戦時期】
 不明。


984 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/26(土) 16:46:48 iGUXHBNQ0
投下終了です。


985 : ◆0pIloi6gg. :2021/06/26(土) 20:00:10 /bGCSA5I0
>>弓は袋に太刀は鞘
これはまた非常に強力且つ貫禄のある主従ですね、いやあさぞかし原作でも素晴らしい戦いを見せてくれたんだろうな……。
という茶番めいた感想はさておいて、あの錆白兵の戦闘描写ということで大変面白く読ませていただきました。
最強の剣士の称号に相応しい貫禄ある描写で行われる一方的な戦闘は非常に読み応えがありましたね。
しかし原作での錆を知っていると、彼を呼んだマスターは不運というか、なんというか……w

>>Komm, susser Tod
BAROQUE! なかなか渋いところから出してきたな〜とまずそう思いました。
神の化身たるアリスが召喚したのは、文字通り人類の敵、人にとっての死そのもの。
なるほど確かにこれならクラスはアヴェンジャー以外ないよな……と納得させられました。
知名度的にも他の追随を許さない領域に達しているでしょうし、油断ならないとても強力なサーヴァントとして暴れそうです。

皆さん本日もたくさんの投下をありがとうございました!
また、そろそろスレの残量が心許なくなってきましたので、次スレの方を建てて参りました。
まだ微妙にスレが余っているので、もし文量的に収まりそうだな〜と思ったらこちらの一スレ目に投下していただいても構いません。


986 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/27(日) 22:51:37 mwHuuNG60
投下します


987 : 負けっぱなしくらいじゃ終われない ◆7PJBZrstcc :2021/06/27(日) 22:52:14 mwHuuNG60
 模倣東京内の一画に存在する団地。
 その管理人の住居に、二人の男がいた。
 一人はこの団地の管理人のヨシダ。
 外見は童顔で身長も低く、下手をすれば小中学生にも間違えられそうな程だが、これでも高校を卒業した後で、18歳は超えている。
 元は彼の父親が管理人を務めていたが、倒れてしまったので息子である彼がやって来たのだ。

 この団地は平和そのもの。
 大きなトラブルもなく、坦々と仕事をしているだけで、日々が緩やかに過ぎていく。
 断じて異常な性癖をこじらせる変態な人妻が現れることも、装着者の理性を奪う卑猥で異常な服が出回ることも無い。
 ヨシダが元の世界で管理人をしていた団地とは大違いに。

 そう、ヨシダは聖杯戦争のマスターに選ばれ、この世界に連れてこられていたのだ。
 しかし彼には願望器に掛ける願いはなかった。
 いや、正確に言うなら願いはある。それもかなり切実なものが。
 だが、その為に他人を踏み台にしようと思うほど、彼は非情にはなれなかった。

「だから、僕はこの世界から脱出できればそれでいいんです」

 と、いう話をヨシダは自身のサーヴァント、セイバーにしていた。
 セイバーの外見は、マスターのヨシダとは対照的に、老人だった。
 白髪で長髪を後ろで一本に纏め、和服を身に着け、一メートルを超える長い刀を携える彼の名前は佐々木小次郎。
 世間的には、宮本武蔵と巌流島で決闘したことが有名な剣客である。

 それはそれとして、セイバーは頭をボリボリと搔きながら困っていた。
 彼を知る人間なら、珍しいものが見れた、と思うであろう本気の困惑だった。

「いいのかい坊ちゃん。聖杯使わなくて?
 そりゃ、吾はいらねえよ。元々修行の為だけに来ただけだからな。でも坊ちゃんは違うだろ?」

 これはセイバーなりにヨシダを気遣ったうえでの言葉である。

 そもそも、セイバーには自分で言った通り聖杯に用があるわけでは無い。
 彼は、あくまで自分の力をより高める修行のためにここにいる。
 聖杯など、もし勝ち取ることがあっても、マスターに渡すつもりだった。

「変態人妻とかリビドークロスとか、吾には分からねえけどよ。
 聖杯(そいつ)がありゃ、坊ちゃんはいらねえ苦労をしなくていいんじゃねえのかい?」

 だがマスターであるヨシダは、聖杯をいらないという。
 もしこれが、何の願いもなく巻き込まれたのなら分かる。
 だがマスターには、話を聞く限りどう考えても願いがありそうなのに、聖杯をいらないというのだ。

 これがセイバーの考え方。
 これが剣に生きたバカな男の思考。

 セイバーは、目的の為に戦うことに躊躇がない。
 願いの為に血を流すことに、一切の抵抗がない。

「はい。僕に聖杯は必要ありません」

 だがヨシダは違う。
 普段は気弱でも、いざとなれば自らの身も顧みず他人を助けようとする彼とセイバーは違う。
 例え聖杯が何のリスクもなく確実に願いを叶えてくれるとしても、殺し合いの果てのトロフィーなど欲しくはない。

 加えて、ヨシダには守るものがある。
 それは彼が管理する団地の住民たち。
 それが管理人として、彼がやるべきこと。

 ヨシダが倒れた父から引き継いだ、大切なもの。
 聖杯で無理矢理捻じ曲げるようなことでは、きっとないのだ。

「だから僕は、あの団地に帰らなきゃいけないんです」

 ヨシダの嘘偽りない思いを、セイバーには理解しきれなかった。
 なぜなら彼の生涯は、基本的に『やりたいことしかやらなかった』人生だったから。
 誰かと心を通わせることはあっても、誰かの思いを継いだことはない。
 だから、ヨシダの言葉はセイバーにとって、酷く尊いもののように見えた。

「ま、それならそれでいいさ。坊ちゃん」

 結局、セイバーはヨシダの考えを受けいれた。
 別に、小次郎はマスターを殺し合いに駆り立てたいわけでもないのだ。
 そんなことより、ヨシダはセイバーに言いたいことがある。

「それより、坊ちゃん呼びはやめてください」
「おう」


988 : 負けっぱなしくらいじゃ終われない ◆7PJBZrstcc :2021/06/27(日) 22:52:38 mwHuuNG60
【クラス】
セイバー

【真名】
佐々木小次郎@終末のワルキューレ

【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運C 宝具EX

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:E
乗り物を乗りこなす能力。騎乗の才能。
申し訳程度のクラス補正だが、生前の時代を考えると馬くらいなら乗れるはず。

【保有スキル】
心眼(真):A+
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

岩流:A
セイバーが生み出したセイバーの為の剣。
それは未だ道半ば。

無窮の武練:‐
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。極められた武芸の手練。
勝利したことがない故に誰にも認められないが、もし英霊級の剣士がそれを認めたならばその時は――

【宝具】
『史上最強の敗者』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
それは、決してありえない存在。
それは、あってはならない異常。
セイバーは、敗北してなお勝利を求める。
セイバーは、死してなお最強を求める。

故にセイバーは、一度『英霊の座』に登録されれば不変のはずの己の全盛期すら塗り替える。
死してなお修練。死して未だ成長。全盛期は己が死した後の老年となる。

セイバーはこの聖杯戦争の最中であっても成長する可能性がある。
それはパラメーターの変化か、新たなスキルの獲得か。
あるいは、新たな宝具の発現か。

そして全ての経験は、座にいる本体に余すことなく還元される。

【weapon】
備前長光三尺余寸

【人物背景】
巌流島で宮本武蔵と決闘したことで知られる剣士。
生前は富田道場に通っていたものの、寝坊や負けそうになるとすぐに降参することからお荷物だと思われていた。
しかし、実際は敗れる度に勝利の術を追求し、一人で学び鍛錬し、イメージだけでついには師である富田勢源すら超えた。
その後、師匠から朝倉家の剣術指南役の推挙を受けるが拒み、全国の剣士たちを相手に負け続けては、その剣士達を超える方法を一人追求していく旅をしていた。
最期には宮本武蔵に敗北し、その生涯に一度の勝利も無かった。
だが死後、生前に戦った相手と頭の中で何度も戦い、その相手を超え続けることで生前を超える実力を身に着け、『史上最強の敗者(ルーザー)』と呼ばれるまでになった。

【サーヴァントとしての願い】
修行。聖杯は必要ない


【マスター】
ヨシダ@淫獄団地

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る

【weapon】
・ボルタッククロー
生体電気を増強し、手をかざすことであん摩マッサージができる強化器具。
生体電気に反応するアイテムに手をかざせば破壊できる。
気になるお値段は10万円。

【能力・技能】
なし

【人物背景】
元々は高校卒業後、就活に失敗し引きこもっていたが、父が倒れたので跡を継いで、ある団地の管理人をすることになった男。
しかしその団地は、謎の組織から力を与えられ変態性癖を暴走させる、変態人妻が数多いる曰く付きの団地だった。

外見は小柄で童顔で、高校を卒業した18歳以上の男性には見えない
性格は気弱を自称するが、優しい常識人で、いざという時は強大な敵に勇気をもって立ち向かうこともできる熱い男。

【方針】
生還優先。

【備考】
参戦時期は6話終了後です


989 : ◆7PJBZrstcc :2021/06/27(日) 22:53:03 mwHuuNG60
投下終了です


990 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/28(月) 14:45:05 LXAdF3ms0
投下します。


991 : Easy Breezy ◆Pw26BhHaeg :2021/06/28(月) 14:53:03 LXAdF3ms0
『このまま逃げられるとでも思ったか?
 これで終わったとでも思ったか?』

 遠くで雷鳴。冷たく傲慢な、嘲笑う声が廃ビルに、男の脳内に鳴り響く。
せっかく与えられたサーヴァントという暴力を使って、
気分良く悪党どもをなぶり殺しにしていたのに、なぜ。なぜ。

『貴様が罪人だからだ、慮外者め!
 傲慢にも社会のルールに逆らい、大罪を犯したな。
 現行犯で逮捕し、即時死刑執行だ!』
「ば、バカな! ここにいる連中は、マスター以外はNPCだろ!?
 別に何してもいいやつらじゃねえか!」
『汝、殺す勿れ。神の定めた法は絶対だ!』

「見ぃつけた」

 別の声に振り返る。
背後から、両腕に異様な籠手を装備した人影がやってくる。
サーヴァントを呼んでも来ない。やられてしまったのか。
人影が駆け寄って来る。男は必死で暗い廃ビルを逃げ惑う。

「こ、殺すなっていうんなら、テメエらが俺を殺すのもダメじゃねえか!
 だいたい警察とか裁判所とか、法律が」
『黙れ。ここでは俺が法律で、裁判官で、処刑人だ。
 俺は地獄の最高検事総長だ』

話が通じない。狂ってる。何が。なぜ。


992 : Easy Breezy ◆Pw26BhHaeg :2021/06/28(月) 14:55:15 LXAdF3ms0
 不意に目の前が開け、暗雲の垂れ込めた空間に足を踏み入れた。
見回せば巨大な鎖がジャラジャラと動き回り、
足元の床には牙のような長い棘が出たり引っ込んだりしている。

 高いところから見下ろすのは、角と尻尾が生えた悪魔めいた女性。
そのバストは豊満だ。彼女は傲慢に嘲笑う!

『捕まえたぞ! 原罪執行装置起動!』

 がぐん、と足元が揺れ、棘の床がこちらへ迫ってくる!

「うおおッ!?」

 必死にジャンプして回避! だが四方から鎖が迫る!

「うひいッ!?」

 右、左、上、下、鎖はどんどん増え、動きが早まる! 躱しきれない!

「ぐわあーッ!?」

 ついに鎖に捕まった! 男は手足や首を拘束され、身動きが取れぬ!
そこへ鎖がさらに飛来し、鞭打つ! 床の棘が伸びて足を貫通!

「ぐわあーッ!?」

『苦しんでもらうぞ罪人め! 執行装置の具合はどうだ?
 降参すれば貴様を消し去ってやるぞ!』

「ひいいーーッ! 助けて! 殺さないで! 真人間になります!」

『希望を捨てろ! 運命は既に定まっている!
 貴様を縛る鎖はみな、貴様が持ち込んだもので作った。
 エゴ、欲求、退廃、己の禍で鞭打つがいい!』

「ああ、ああ、あああああーーーーッ!」

 男は絶望と恐怖、悔恨に身をよじり、泣き叫び、鎖から噴き出した地獄の炎で焼かれて消滅した。


993 : Easy Breezy ◆Pw26BhHaeg :2021/06/28(月) 14:57:41 LXAdF3ms0
「……なんだ、キミが殺しちゃったの」
『遅かったな、マスター。愚か者のブザマな死に様を楽しませて貰ったぞ。
 サーヴァントは無事に倒せたのか?』
「大したことはなかったよ。このガントレット、もう少し縮まないかな」

 元の廃ビル。
先程の女悪魔と、両腕にトンファーつきガントレットを装着した少年が向かい合っている。
彼の肩には黒い学生服。

『気にするな! 使ってるうちに馴染んでくるさ。
 俺の武具を装備できる人間なんて、なかなかいないぞ!
 次は俺がサーヴァントを狩るとしようか』
「まあ、いいけど。僕はそろそろ寝るよ」

 あくびをする少年の両腕からガントレットが消え、トンファーを持った手が現れる。
学生服の左腕には「風紀」と書かれた腕章。

『ハハハ! よく眠り、魔力と体力を蓄えておけ!
 ガキはおネムの時間だが、悪魔の時間はこれからだ!』


994 : Easy Breezy ◆Pw26BhHaeg :2021/06/28(月) 15:00:39 LXAdF3ms0
【クラス】
ルーラー

【真名】
ジャッジメント@Helltaker

【パラメーター】
筋力A 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具EX

【属性】
秩序・悪

【クラス別スキル】
真名看破:A
 直接遭遇したサーヴァントの真名・スキル・宝具などの全情報を即座に把握する。
あくまで把握できるのはサーヴァントとしての情報のみで、
対象となったサーヴァントの思想信条や個人的な事情は対象外。
また、真名を秘匿する効果がある宝具やスキルなど隠蔽能力を持つサーヴァントに対しては、
幸運値の判定が必要となる。持ってはいるが使用するかどうか不明。

神明裁決:A
 ルーラーとしての最高特権。
召喚された聖杯戦争に参加している全サーヴァントに対して、2回まで令呪を行使できる。
他のサーヴァント用の令呪を転用することは出来ない。持ってはいるが使用するかどうか不明。

対魔力:B
 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。彼女は高位の悪魔である。

【保有スキル】
束縛願望:A
 戦闘において麻痺・封じ・石化などの拘束系の物理攻撃や特殊能力の成功確率が上昇するスキル。
反面『縛り付ける』事を日常にし過ぎているため、通常攻撃で相手に与えるダメージが10%低下する。
鎖で束縛してから電流や地獄の炎でダメージを与えてくる。

最高検事総長:EX
 地獄の法の番人にして執行者であることを示す「権能」。
「影の風紀委員長」「処刑人」「対邪悪」のスキルを含み、
属性が悪のサーヴァントや悪行を為した者に対するダメージが向上する。
たとえ如何なる状況であっても、風紀や法律の乱れを見逃すことがない。
司法権の独立を主張し、無慈悲に懲罰を下す圧制者。
自らやマスターの風紀紊乱や法律違反を指摘されても耳を貸そうとはしない。彼女は悪魔なのだ。

【宝具】
『原罪執行装置(チェインズ・オブ・ザ・シン・マシーン)』
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:100
 ルーラーが展開する巨大な懲罰装置。
傲慢(Sperbia)、貪欲(Avartia)、性欲(Luxuria)、絶望(Despair)の4種の鎖を縦横無尽に放ち、
触れた者を拘束して責め苛む。床からは無数の牙が現れて動きを阻む。
鎖は複雑ながらパターン化された動きをし、破壊も可能だが、4回鎖に接触すると地獄の炎で骨まで焼かれて死ぬ。
装置を展開せず鎖だけを放つことも可能。鎖は相当に長く伸び、それぞれの罪を持つ者を嗅ぎつけ、特効となる。

【Weapon】
 トンファー&鉤爪つきガントレットと宝具である鎖。ガントレットはマスターに貸与している。自在に出し入れ可能。

【人物背景】
 ゲーム『Helltaker』に登場する地獄の悪魔のひとり。事実上のラスボス。
二つ名は「最高検事総長(the High Prosecutor)」。白髪・銀目・褐色肌でバストは豊満、
頭の左右に角があり、背が高く筋肉質でビキニ&ホットパンツという露出度の高い服装をしている。
黒いジャケットを羽織り赤い腕章をつけ、両手にはトンファー&鉤爪つきのガントレットを装備し、鎖を操る。
腕章とジャケットの背にXXの文字があり、腰から悪魔の尻尾が生えている。

 奔放な見た目と高圧的な口調、好戦的な表情に反し、性格は非常に頑固で真面目。
地獄CEOのルシファーに対しても司法権の独立を主張して命令に従わず、罪人であれば同じ悪魔にも容赦はしない。
実はルシファーと同じく堕天使であり、生まれついての悪魔ではない。可愛い動物が好き。

【サーヴァントとしての願い】
 なし。悪人や罪人を処罰し、地獄へ帰還する。

【方針】
 悪人や罪人であるマスターやサーヴァントを積極的に狩る。マスターは自由に振る舞わせておき、ヤバいようなら加勢する。

【把握手段】
 原作。


995 : Easy Breezy ◆Pw26BhHaeg :2021/06/28(月) 15:02:47 LXAdF3ms0
【マスター】
雲雀恭弥@家庭教師ヒットマンREBORN!

【Weapon】
 トンファー。鉤や棘、玉鎖など様々な仕込みが施されている。リングや匣兵器は持っていない。
ルーラーから貸与されたトンファー&鉤爪つきのガントレットを装備しており、サーヴァントにもダメージを与えられる。

【能力・技能】
 喧嘩が強い。

【人物背景】
 漫画『家庭教師ヒットマンREBORN!』の登場人物。CV:近藤隆。
黒髪で切れ長の目をした細身の少年。身長169cm、体重58kg。
並盛中学校の風紀委員長であり、不良の頂点に君臨する謎の男。
学校指定のブレザーではなく学ランを肩に羽織っており(根性で落ちない)、
左腕に「風紀」と書かれた腕章を身に着けている。

 愛校心は強いが集団や束縛を嫌い、気に入らない者や群れる弱者は仕込みトンファーで滅多打ちにする。
母校だけでなく町内の病院や裏社会も仕切っており、ショバ代を暴力で回収するなど傍若無人。
素性には謎が多く、家族も年齢も不詳。バイクに乗る。喧嘩は滅法強く、突然現れて理不尽な暴力を振るう。
自分を頂点捕食者と考えており、ブン殴ることを「咬み殺す」と言い、弱者は草食動物呼ばわりするが、
可愛い動物や自分に好意を抱く者にはそれなりに優しく接する。好戦的で強者と闘うのは好き。

【ロール】
 神出鬼没の不良中学生。

【マスターとしての願い】
 元の世界への帰還。

【方針】
 全員咬み殺して帰る。

【把握手段】
 原作漫画。

【参戦時期】
 不明。桜クラ病は克服済み。


996 : ◆Pw26BhHaeg :2021/06/28(月) 15:04:44 LXAdF3ms0
投下終了です。


997 : 名無しさん :2021/06/28(月) 20:10:10 WVTdB0J.0
次スレはこちらで。

Fate/Over The Horizon Part2

ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1624705009/


998 : 名無しさん :2021/06/28(月) 21:06:17 WVTdB0J.0
1000なら自作当選


999 : 名無しさん :2021/06/29(火) 06:34:32 U9NjENoI0
どんぐり埋める


1000 : 名無しさん :2021/06/29(火) 07:54:38 E/zpg9ig0
1000ならコンペ後も盛況


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