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概要

1 : 児童文庫ロワイヤル ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/01(金) 00:06:33 mqB71AgE0



【ルール】

●最後の一人まで殺し合う
●参加者には毒を注射する首輪が着けられていて主催者が殺したいなと思ったら殺される
●最後の一人になったら主催者側の仲間になれる(待遇は応相談)
●支給品はなく全て現地調達だが、参加者には一枚ずつ初期位置から近い会場内の有力なアイテム一つを印したメモが与えられる(鍵の場所や暗証番号、使い方なども併記)


【書き手ルール】

●参加者は最大300人
●参加者の枠を使い切らなくても登場済みの参加者で放送に行けそうだったら放送に行く(二回目以降の放送も同様)
●原作の瑞穂みたいな終盤になるまでほぼ未登場のキャラもあり
●能力制限や装備の没収は原則無いが、主催者が拉致れなさそうな参加者(一般的な小火器で殺害できない・特殊な方法でないと捕まえられないなど)は参戦不可
●殺し合いを破綻させられそうな参加者はマークされていて不審な動きをしたら即首輪が作動しがち
●そもそも主催者側にルールを守る気はあまりない、が、他の主催者側に文句を言われないために不正はバレないように行う
●子供の頃に読んだきりの作品も多いと思うので多少のガバは気にしない
●書き手に修正を求めても受け入れられなかったら、自分で修正してよし
●投下しただけでは仮投下扱い、他の書き手にリレーされたタイミングで本投下扱いに



【主催者】

企画完結までに発売されたデスゲームものの主催者たち


【企画段階上の真の黒幕候補】

時間泥棒@モモ@岩波少年文庫


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2 : スレタイと名前欄逆でした ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/01(金) 00:28:15 mqB71AgE0
オープニング



「……ここどこ?」
「さあ……」

 英治が思わずもらした呟きに、近くにいた和服の少女が答える。
 周囲をぐるりと見回して、自分と同じぐらいの子供も含めて数百人はいることを確認すると、一周したところで和服の
少女と目が合う。

「……おれ、菊地英治。『ち』は地面の『地』の方で、英語の『英』に政治の『治』。」
「関織子、です。」

 なんとなく自己紹介して、話が続かず気まずさからまた周りをキョロキョロする。
 おれなにやってんだろう、と思いながらも、英治はどこか冷静に状況を受け止めていた。
 辺りは赤い霧に薄く包まれていて、遠くの方の人間は顔がはっきりせず人影としかわからない。何人かは英治と同じ東中の二年一組の、『あの』十七人らしき姿もあったが、どういうわけか誰かまではわからない。それどころか織子の姿まで意識しないとよく認識できない、そう自覚したところで、英治は自分の頭がよく回らないことも自覚した。

「変なクスリでも撒いてるのか? この赤いの。」
「みたいですね。」

 かけられた声に英治は一瞬驚く。その声の主は知らない人物だと思うのだが、そうであると確信が持てない。その異常な事態に、自分の脳みそが誰かに弄くられているような感じを覚えた。

「突然すみません、見知らぬ場所で心細くて。深海恭哉です。桃が原小の六年生です。」
「菊地英治だ。こっちは……あれ。」
「関織子です。」

 まただ、ついさっき教えられた名前が出てこなかった。
 嫌な感覚に背中を汗が伝う。
 同じ感じなのか、織子も恭哉もどこか不安そうに自己紹介をし合っていた。それを横で見ながら、チラチラと周りの人間にも目をやる。自分達と同じように何人かのグループができつつあるのを見ると、どうやらみんな同じらしい。
 つまり、何百人も突然見知らぬ場所に集められた――さらわれた? そして妙なガスまで吸わされて? そこまでようやく考えが行き着いたところで、突然声が響いた。

「はい、チューモーク。」

 赤い霧に切れ目ができる。そこにいる影が鮮明になる。白い姿があらわになり、出てきたのは――

「オレの名前はツノウサギ。」

 ツノの生えたウサギだった。

「え、なんで。」
「わぁかわいい。」
「……」

 思わずツッコむ英治と、素直に感想を述べる織子と、なぜか一気に険しい顔になり荒い息になる恭哉。そんな息遣いを聞いて声をかけようとした英治の耳に、その言葉は届いた。

「今日は皆さんに、殺し合いをしてもらおうと思います。」
「やべえぞ! デスゲームだ!」「まずい! この首輪をイジるな! 作動したら死ぬぞ!」「大きな声を出すなぁ! 見せしめになりたいのかぁ!」「まずはルール説明を待とう、おそらくはあのマスコットは解説役だと考えられる。」「すごいな、まるでデスゲーム博士だ。」
「なんかお前ら慣れてない? まあそういうやつを中心に集めたんだけどさ。」

 ツノウサギの言ったことと、それに反応して一斉に大声を上げだした人影たちの両方に英治は驚く。
 「まさか、でもやっぱり」と呟く恭哉の声は耳に入らなかった。
 殺し合えという言葉と、それに慣れているらしい多くの人間というのは、さすがの英治でも想像の範囲外のものだ。

「今からお前たちはオレ達主催者が用意した孤島に行ってもらう。海あり山あり街あり武器ありのな。そこで最後の一人まで殺し合う。な、簡単だろ?」
「そこまでにしときな。」

 衝撃的な話を続けるツノウサギの声を、今度は青年の声が遮る。そこだけスポットライトの当たったように霧が晴れると、黒服に剣を携えた青年の姿か見えた。


3 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/01(金) 00:31:18 mqB71AgE0

 衝撃的な話を続けるツノウサギの声を、今度は青年の声が遮る。そこだけスポットライトの当たったように霧が晴れると、黒服に剣を携えた青年の姿か見えた。

「ガキの鬼がいなくなったと思って面倒くせえと思ったが、手頃な鬼がいるじゃねえか。こんなウサギなら俺でも勝てるぜ。」
「よせえ! 死にたいのか!」「もう駄目だ……おしまいだ。」「見せしめにされる……見せしめにされる……!」
「お前らうるせえな! やりづれえ!」
「おおそうだよ、こういうやつだよ欲しかったのは。まあオレは鬼は鬼でもお前が行ってる鬼じゃねえけど、細かいことはいいや。」

 周囲の制止を振り切り、青年は剣を顔の横に立てるように構える。それを見てツノウサギは、手をパチパチと拍手するように叩くと言葉を続けた。

「で、ルールだが、基本的にない。俺ら主催者がイラッときたら、その首輪で殺す。例えば――」

 ツノウサギの言葉を無視して青年は斬りかかる。一息に距離を詰めてあと数歩まで迫り――

「――こんなふうにな。」
「――ガッ!?」

 突如青年の首が閃光を放つ。爆発!?と驚き、それでも英治が目を開けると、青年の身体が、斬りかかろうとした体勢のまま転んだ。
 文字通り、そのままの体勢だ。片足は上げられ、剣は僅かに肩の後へと。その体勢のまま青年は、わけがわからないという表情で地面を這う。

「すげえだろそれ。毒を注射してよ、人間の身体を数秒で固めて殺すんだとよ。で、これがお前ら全員に着けられてるってわけ。おまけに作動すると爆発したみたいに光って演出も充分。そこそこ電池は持つらしいが、早めに外さないと誤作動するかもな。ケケ!」

 英治はハッと首に手をやった。今まで意識しないようにしていた冷たい感触のそれは、前より一層冷たく感じる。それは他の子供も同じようで、恭哉などうずくまってひたすらに息を吸っていた。
 その背中に手をやりながら、英治は固まっていく青年を見る。もうすぐ人一人が死ぬというのに何もできない。だからこそ、か。英治の足が一歩前に進む。だがその足が青年に向かうまでにはあまりにも遠い。しかし。

「ドラァッ!!」
「カハっ!?」
「え、ウソ、生き返った!?」

 ハンバーグのような髪型をした変な学ランの青年が雄叫びをあげながら倒れた青年に触れる。そうするとどうだろう、不自然な体勢のまま固まっていた青年の身体がほぐれるようにパタリと倒れ、そして青年は信じられないという表情でゆっくりと立ち上がった。

「おいそれは無しだろ……もう解説役の見せ場ないじゃん……」

 ツノウサギも信じられないという表情でそんなことを言っている。もっともこちらの場合は意味が違うようだが。
 そして何か言葉を続けようとしたところで、声が悲鳴に変わる。
 先ほどの鳥の巣みたいな頭の青年がツノウサギに近づくと、突如として二人の間の霧が吹き飛んだのだ。
 「ゲェっ!?」というツノウサギの叫びに反応するように霧が二人の間に割って入り、「ドラァッ!」という気合とともに吹き飛ばされる。
 それが二度三度続いたところで、今度はツノウサギの全周囲の霧がかき消えた。そこに残るのは、無数の刀。よく見れば先ほどツノウサギにみせしめにされた剣士と同じような黒服を着た集団が各々の剣を振るっていた。ていうかさっきのみせしめ剣士もいた。ガッツあるな。

「止まった時の世界にまで入ってくるんじゃねえええ! おい! もうルール説明とかいいから会場に飛ばしちま――」
「オラァ!」

 突然後ろから聞こえた声に英治は驚いて振り向く。ちょうどその時、いつの間にか後ろにいたツノウサギが、何か透明なものにでも上から押しつぶされるようにぺちゃんこになる瞬間を目撃した。
 驚きまた振り向き視線はさっきまでツノウサギがいた方へ。そちらは先ほどの剣士たちを残してツノウサギはいない。まるで瞬間移動だが、なぜか瞬間移動後にぐちゃぐちゃになっているのはどういうわけだろうか。
 あまりにも次から次へと起こる異常事態に、英治の頭が痛む。それと同時に、意識も遠のく。いや、これは、混乱からくる頭痛では無く――

「なんか、ヤバい……!」

 咄嗟に自分の腕をつねり上げるが、意識が飛んでいく。なんとなくだが、これから会場へ拉致されて殺し合いに巻き込まれる気がする。今まで廃工場に立て篭って機動隊と戦ったりヤクザやカルト教団や泥棒と戦ったりしてきたのでわかる。だがわかっていたところで対応できないことはあるわけで。

 数秒後、赤い霧に包まれた全員の意識が無くなり、その姿が霧へと飲み込まれていった。


4 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/01(金) 00:32:06 mqB71AgE0



【参戦確定】

【菊地英治@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【関織子@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【深海恭哉@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【塁に切り刻まれた剣士@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険
ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】

※参加者は主催者の謎パワーによりオープニングで出会った他参加者のことを覚えていません
※このこと以外に基本的に制限はないです


5 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/01(金) 00:55:09 mqB71AgE0
投下終了です。
絶鬼パロさんと悪魔憑きロワさんをパロりました。
あと【富竹ジロウ双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】、【塁@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】で予約します。
まあ予約システムいまんとこ作る予定ないですけど。


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6 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/03(日) 00:48:00 fx7L6tmg0
投下します。


7 : 00:00 初陣 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/03(日) 00:49:28 fx7L6tmg0




終了条件1 「塁」からの逃走
終了条件2 「磯崎蘭」との合流


8 : 00:00 初陣 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/03(日) 00:49:45 fx7L6tmg0



 強い吐き気がする。

 苦しい、辛い、頭の中に、蛇が入ってくるような……

 目が開けられない。開けても黒一色しかない。閉じて擦っても、なんの光もまたたかない。

 ダメだ――意識が――のたうつ――



「ここは……」

 殴られたように割れる頭を振りかぶりながら、制服姿の少女が立ち上がる。
 磯崎蘭は、気がつけば何処とも知れぬ林道の、傍らに生えた一本の木にもたれかかっていた。
 ふらつきながらもなんとか二本の足で立ち、辺りを見渡す。
 誰もいない。
 「おーい!」と叫ぼうと口を開き、張りついたような喉の痛みに遮られ、しかしそれにより声を出すのをやめることが間に合う。
 まだ意識は混濁しているが、「殺し合い」という言葉は、蘭の記憶にこびりついていた。

(大きな声を出すのはダメだよね。)

 はっ、はっ、と荒れていた息を深呼吸でなだめながら、自分の置かれた状況を考える。まだよく回らない頭で行うそれは痺れるような頭痛を起こしたけれど、蘭は一つずつ落ち着いて考えようと努めた。

(さっきの感じは、タイムスリップとかの感じとはちょっと違う。どっちかっていうと瞬間移動の方が近かったかな。)
(こういう時は何かカギになるようなものがあるかも……あ、あった! メモ? えーっと、『装備:商品NO.0 "大砲"  場所:作業小屋  説明:全長5.34メートル。重量18トン。口径890ミリメートル。速度約500メートル毎秒。砲弾装填済み。後部の導火線に着火するとこで発射可能。』……たぶん重要なものなのかな。)
(このメモからなにか読み取れないかな……うわっ! なに、これ、強い、嫌な感情が……)

 服のポケットにいつの間にか入っていたメモを手のひらに包み込み意識を集中させる蘭の額に、汗が浮く。少しして彼女は林道を歩き始めた。


 さて――実のところ、彼女は普通の人間ではない。
 生物学的には人類であることには間違いないが、彼女には、彼女たちにはホモ・サピエンスとは一線を画する力がある。
 それは、端的に言って『超能力』。
 いわゆる、エスパーと呼ばれる人種が彼女だ。そういう意味では、オープニングでツノウサギに反抗したジョースターの一族に近いものがある。事実、彼女にはクレイジー・ダイヤモンドやスタープラチナといったスタンドが見えていた。もっともそれは『感覚の目』を意識したことでのものであったが、しかしそれでも止まった時の世界への違和感に気づき、ツノウサギが叩きつぶされる瞬間を遠くからでも目撃したことは間違いない。彼らほどの戦闘に長けヴィジョンを生じさせるような超能力ではないものの、ことテレパシー能力に関しては彼女は非凡なものを持っていた――そのせいで会場にも広がる赤い霧から主催者側の悪意を無意識に読み取ってしまいストレスを受けてもいるのだが。
 そしてそんな彼女だからこそ、歩き始めて少しして作業小屋らしきものを見つけたところで、足を止めた。

「な、なに、何が居るの……」

 声を出さないようにしていたことも忘れて、思わず呟く。そして踏み出しかけたまま空中にあった足は、90度向きを変えて林の中の道なき道を歩き始めた。
 蘭は察したのだ。この先に、『死』が待っていると。
 今まで出会った能力者や超常的な存在とは違う、現実的な、日常から地続きの『死』の気配を。
 再び呼吸が荒くなる。メモにある大砲のことも気になる。だが蘭は、絶対に近づいては行けないという己の感覚に従い林の中へと駆け出した。


9 : 00:00 初陣 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/03(日) 00:50:31 fx7L6tmg0



(おっかしいな〜、一本道なんだけどな〜。)

 林の中へと蘭が姿を消して数分後、同じ位置で富竹ジロウは、周囲を趣味の悪い黄色のカメラで見渡していた。
 望遠を効かせて視界は距離にして何百メートルかはあるが、邪魔な木々により死角が大きすぎる。
 結局富竹は諦めると、辺りの地面を調べ始めた。

 蘭と同じように意識を取り戻した富竹は、蘭と同じ内容のメモを頼りに道を歩き、カメラを望遠鏡代わりにすることで彼女を見つけて追いかけてきたのだが、目的地と思わしきところまであと少しと行ったところで見失ってしまっていた。
 実はこのメモ、参加者の初期位置の一番近くにある特殊な装備を記したものなのだが、その目的は強力な装備を渡して殺し合いを激化させるというよりも、このように参加者同士を同じ場所に集めるために配られている。たとえ参加者が300人いようとも、島一つが会場ではそうそう出会うものでもない。そのことはもしディズニーランドに300人の人間がバラバラに配置されたらどうなるかを考えればわかりやすいだろう。目立ったランドマークでもなければ下手をすれば一日あっても全員が一所に集まることはできない。もちろん富竹も主催側のそういう魂胆を理解してはいたが、だからこそ余計にこのメモの場所へと行こうとしていた。
 「もし梨花ちゃんたちが巻き込まれていたら保護しなければ」、そういう『大人』の使命が、見え透いた罠を承知で足を前にすすめる。それになりより、目の前で彼の知己である若者たちと同じぐらいの子供が一人でふらついているのだ。接触しないわけにはいかない。いかないのだが……

(見落としたか? 確かに霧が、それも赤い霧が出ているけれど、決してそこまで濃くはない。ライフルで狙撃するのは難しくても、人影だけなら見落としようなんてないはずだ。)

 だが現実に富竹は蘭を見失っている。撮影が下手とはいえ野鳥の撮影をメインとしたフリーのカメラマンをやっている富竹からすれば、鳥より遥かに大きく空も飛ばない子供一人、見失うことなど万に一つもなにのに、だ。まさか唐突に林の中を進んだ、というのも考えたが直ぐにその考えを打ち消す。そんなことをする動機がまるで見当たらない。もちろん誰かに襲撃されたような痕跡もないし、そのような気配も感じていない。
 まさか超能力で危機を察知したから方向転換した、などとは思いもよらず、それでも注意深く辺りを見渡す。

 もし、この時、あと一分でも、いや三十秒でも時間があれば、富竹は蘭の足跡を見つけただろう。

(金属音? 小屋の方からか?)

 だが、そうはならなかった。
 富竹の研ぎ澄ませた感覚が捉えたのは、前方からの異音。
 その音に顔つきを変えると、前よりも更に足音と気配を消して、しかしスピードは倍以上で前進する。それは奇襲を警戒してのそれまでの歩行から、自分が奇襲する側に立っての走行だ。

(何らかの事情であの小屋にいる。その可能性もある。間に合えよ――)

 筋肉質な身体はタフに前へ。滑るように小屋に近づくと、中を伺う。

(違う、音は中からじゃない。)

 どこだ? 外か、反対側か。

(見つけた。え?)

 そして目撃した。富竹は確かに目撃した。
 和服の少年が馬鹿でかい刀を持った男に首を跳ね飛ばされる姿を。


10 : 00:00 初陣 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/03(日) 00:51:08 fx7L6tmg0



(もう一人来たか。この殺し合い、何人殺りゃ終わるんだ。)

 異様な姿の和服を着た少年の首を軽々と跳ねた男、桃地再不斬は、愛刀の首斬り包丁を肩に担ぐと包帯の下の口を歪めた。

 彼、再不斬は忍者だ。そして死んだ身だ。
 ある国で用心棒として雇われ、大国の忍びと戦い、最後には雇い主に裏切られ、その裏切りの代償を道連れという形で払わせてこの世を去った。
 が、どういうわけか生きている。
 これは一体どういうことか。
 普通なら大いに悩む問題も、彼は僅かに困惑するだけであっさりと受け入れた。
 彼の世界には、生きた人間を生け贄に死んだ人間を不死身のゾンビとして生き返らせ、洗脳して故郷に返し自爆させるという、卑劣極まりない忍術がある。
 実際に目にしたことはないが大方自分もそれをやられたのだろうと納得した。
 本来ならそういうことが無いように忍の死体は痕跡一つ残さぬよう処理されるが、抜け忍である自分にそれは当てはまらない。何より、彼が戦っていたのはその忍術を開発した者がかつて長を務めていた隠れ里である。
 おおかた自分の死体を回収して悪用した――つまりこの殺し合いも木の葉が主催するものだと彼は考えていた。
 殺した少年の血を吸う愛刀の感覚を感じながら、再不斬は久々に感じる高揚を味わう。
 彼が忍になった里では、忍者の学校を卒業するにあたり同級生と殺し合うという因習があったが、これはそれを思わせるものだ。自分が生徒を皆殺しにしたことでなくなってしまったそれを、自分を負かした連中の犬としてやるハメになったのは思うところがあるが、殺し自体に喜びはあっても抵抗は無い。これが身体の自由を奪われてのものであったらもちろん反抗しただろうが、自分の殺意で殺人をするというのならやぶさかではなかった。
 そして彼は、建物の陰で息を潜めている人間へと向かおうとして、ふと、自分の刀の感覚に足を止めた。

「首斬り包丁が刃こぼれしている?」

 再不斬の持つ極めて大きな刀、首斬り包丁は、刃こぼれを付着した血で直すという性質がある。どれだけ殺そうとも手入れいらずで殺し続けられるというまさに名刀であるが、その名刀たる所以の自動修復が発動していない。
 刀に目を凝らす。血はしっかりとついている。あとは鉄板の上に置いた氷の如く消えていくはずが、いつまで経ってもも消えない。
 幻術か?と目の前の光景を己が幻を見せられている可能性を考え解除にかかるが、一向に消えない。そもそもこんなけちな幻を見せる意味もわからない。第一、既にこの辺りには自分と建物の陰の人間とさっき殺したガキの忍意外にいないはず――

(『殺した』方が幻術かっ!?)
「水遁・水――」「血鬼術・刻糸牢」

 手に刀を持っていた分の僅かな遅れ、その代償が刀越しに与えられた衝撃として再不斬を吹き飛ばす。

「――水龍弾」

 飛ばされながら発動させた術がいつの間にか立ち上がっていた少年へと向かい、追撃を回避へと変更させる。
 水の無いところではこのレベルの水遁しか使えないが、それでもガキ一人殺すには十分な速度と威力のそれを難なく躱したのを見て、再不斬は首斬り包丁を担ぎ直した。
 ほんの少し前、確かに跳ねたはずの首を、首のない少年の身体が手に持ち、首の上へと置く。
 さも当然であるかのように断面はぴたりとくっつき、一度瞬き、その下弦と書かれた瞳が再不斬へと向けられる。

「勘が戻ってねぇなぁ……首を落とした手応えを間違えるなんてよぉ。」

 そう口ではうんざりとした声色で言いながらも、再不斬の表情は満面の笑みだった。


11 : 00:00 初陣 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/03(日) 00:53:29 fx7L6tmg0



 面倒だな、というのが再不斬と相対する少年こと十二鬼月下弦の伍・累の感想であった。
 累も再不斬と同じく死んだ身。なぜ自分が生きているのか、と僅かに困惑し、しかしすぐに事態を受け入れる。
 彼の主である鬼舞辻無惨は人間を超越した鬼の中でも、その全てを支配する者だ。何らかの方法で死んだ鬼を生き返らせても全く不思議では無い。だからこそ累はこの会場で意識を取り戻して一分と経たぬうちに、自分の行動方針を決めた。
 つまり、兎にも角にも無惨との合流、これに尽きる。
 彼は少なくとも他の一般的な鬼よりは無惨の性格を知っている。十二鬼月という選ばれた立場であるにしても、鬼殺隊という鬼の敵に殺された自分を生き返らせたりはしないだろう。であればこれは、主より課せられた何らかの試練、あるいは罰と考えられる。
 そうであるならば、事態はとても複雑だ。あのツノウサギなる鬼もどき言われたとおり殺し合うことが正解か。それとも無惨以外の何かの命令など跳ね除け主催者達を殺すことが正解か。なにが正解かを見極めなければ、自分の二度目の生は無いだろう。
 ならば正しい答えは無惨に近づき、その言動を見て推し量るしかない。それが無理なら会場内をひたすらしらみつぶしに手がかりを探さざるをえず、そんなことをすること自体が確実に無惨の機嫌を損ねる。それなのに……

「邪魔だ……!」
「連れねぇなぁ……もっと楽しめよ……!」

 自らの身体が切り刻まれるのも無視して肉薄し、殴打を仕掛け、血鬼術を放つ。だがそのどれも再不斬にかすりもしない。
 累が戦う再不斬は、鬼殺隊のように体力のあり、筋力や反応は彼ら以上、おまけに鬼のように術まで使う。こうとなってはそうやすやすと仕留められる相手ではない。これならば奇襲に失敗して返す刀で頸を撥ねられた時点のまま死んだふりを続けていればよかったか。
 加えて、累は相手の刀の性質に舌打ちした。
 再不斬の持つ首斬り包丁は血を吸う性質があるが、これが先程効かなかったのは累が刀に付いた血で血鬼術を仕掛けようとしたからだ。結局それはできなかったのだが、彼の力と刀の作用が釣り合ったために、血は吸われることもなかった。そしてこの拮抗状態、累は血に意識を向けていたのに対して、刀の方は当然オート。そしてそちらに意識を向けた状態で身体を斬られると。

(やっぱり再生が遅くなっている。傷口から流れる血が、いつもより意識しないと動きが鈍る。)

 つくづく面倒だと思う。最初に会ったのがこんな相手とは、これも無惨様の言外の怒りか。


 累は再不斬を殺す算段を練る。逃走はありえない。これ以上醜態は晒せない。
 再不斬は撤退を視野に入れ始める。負ける気はないが、長丁場になり得る戦場でいきなりチャクラを浪費したくはない。今なら一汗かいた程度で少し休めば消耗は無いに等しい。
 富竹はその光景をただただ見ている。首を切られても生きてる子供に水を操る剣士、どちらも尋常でない。なんとなく自分の存在は察知されているという感じはするのでここから逃げ出すべきだと思うのだが、二人のどちらか、あるいは両方に襲われるという展開が予想できてしまう。
 そして蘭は、自分の後方から来る不吉なプレッシャーを感じて足を早める。間違いなくあのまま進んでいればとても危ないことになっていたという確信がある。今はとにかく距離を取らなくては。

 バトルロワイヤル開始から十分。会場の一角では既に血風が吹き荒れていた。


12 : 00:00 初陣 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/03(日) 00:54:42 fx7L6tmg0



【0000過ぎちょい 森林地帯にある作業小屋近く】

【磯崎蘭@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 何が起こっているか調べて、解決して家に帰る
●小目標
 森林地帯から脱出する

【富竹ジロウ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 民間人を保護し、事態を把握する
●中目標
 知り合いが巻き込まれていないか捜索する
●小目標
 目の前の危険な二人(再不斬と累)に襲われないように立ち回る

【桃地再不斬@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
1.ガキ(累)を消耗せずに殺す
2.もしくは適当にあしらって仕切り直す

【累@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 自分を生き返らせた鬼舞辻無惨の思惑を把握し適切な行動をする
●小目標
 男(再不斬)を殺す


13 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/03(日) 01:05:21 fx7L6tmg0
投下終了です。
いちおう状態表着けましたが無くてもいいです。
あと手癖で書いたんでこんな感じになりましたがSS形式とかでもOKです。
もし他の書き手さんの予約が来たら以下の参加者で書きますので、それまでは支援代わりの感想や質問や新春の雑談でもしていただけたら幸いです。

【大形京@黒魔女さんのハロウィーン 黒魔女さんが通る!! PART7黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【宇野秀明@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】】
【柿沼直樹@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【深海恭哉@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【竜人@天使のはしご5(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【立花つぼみ@ないしょのつぼみ 〜さよならのプレゼント〜(ないしょのつぼみシリーズ)@小学館ジュニア文庫】


14 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/06(水) 00:35:44 6zRNUPkk0
他所さんの企画で書こうと思ってたキャラが次々書かれてくんで先んじて投下します。


15 : 若おかみは生徒会長と話したい ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/06(水) 00:38:05 6zRNUPkk0



 白銀御行は研ぎ澄まされたナイフのような男だ。
 ストイック、という言葉は彼のためにあるのだろう。国を背負う有力者の子弟のみが通う秀知院学園で、平民であるにも関わらず特待生として通い、生徒会長にまで登りつめている。
 しかしながらその目的はある一人の少女と釣り合いのとれる人間になるため、というのだから彼の内面を知らぬ人間――つまりこの世のほぼ全ての人間は彼のことを品行方正でひたすらに努力家な人間、程度の認識だろう。
 実際彼は人からそう思われる、そう認識されるに足る努力は払ってきた。芸術や運動に比べて勉強というものはある程度の頭脳の他は意志と覚悟でどうにでもなる。だから彼の最も特異なところといえばそれだけの労力を払える精神性で――
 そしてそれはこの殺し合いの場ではある意味最も必要なものであった。


 白銀が目覚めたのはオフィスビルと思わしき部屋にある椅子の一つであった。覚醒した意識を確かめるように頭を振り立ち上がる。そして見知らぬ室内を一瞥した。

(ドッキリだよな? ドッキリだろ。ドッキリであってくれ!)

 そしてアホになっていた。


「……冷静になろう、最初から考え直すんだ。」

 少しして普段のテンションを取り戻した白銀は、室内に置いてあったライフルを玩びながら一人呟いていた。

「なるほど、室内には銃器に銃弾。口径も合っているな。それにハサミなどの近接武器に使えそうな文房具もある。殺し合うには申し分ないな。」

 カチリカチリと、ライフルの安全装置をいじる。そして次々に武器になりそうなものを目についた鞄へと詰め込んでいく。
 そして積み上げた鞄が小山となった頃に、どうやってこれを持ち歩くのかと思い直して。

「俺は何と戦おうとしてるんだ。」

 ひたすらに動かしていた手を、止めた。


(冷静になれてないな。いやそりゃなれないな。よし、そのことに気づけただけ落ち着いてきた。)

 ふっ、と息を吐いて白銀は銃を手に置いた。手の筋肉はひきつったように固かった。胃のむかつきは強い吐き気をもたらしている。ほんの微かな音にも敏感に反応する耳はどこかの足跡を捉えていた。

(些細なことにも過敏に反応している。足音なんてどこでも――)

 白銀はガチャリと大きな音を立ててライフルを掴み上げた。その音に自分に舌打ちしそうになり、また苛立ちと恐怖が増す。
 ここに来てから全く普段の自分ができていない。冷静なつもりで空回りし、考え過ぎてヘマをする。こんな姿を生徒会のメンバーに見られたらどうなるか。

(なんで今石上の顔が浮かんだんだろう。)

 なんか生暖かい目を向けてきた生徒会会計の姿が出てきた。これはいったいどういうことであろうか。
 そこでハッと気づく。

(なんで俺だけがここにいると思ってた!)

 頭に生徒会の人間が浮かんでようやくその考えに行き着いた。いやその考えをしたくなかったからか。この殺し合いに生徒会や同じ秀知院の人間、それに家族が巻き込まれている可能性が全く抜けていた。
 そしてそうこうしているうちに扉が開いた。足音の主はなんの因果かこの部屋へと足を踏み入れた。

「うおおっ!?」
「危なぁっ!?」

 ライフル弾がバラ撒かれる。部屋の中の物が無茶苦茶に撃ち抜かれる。
 それが白銀御行と関織子ことおっこの出会いだった。


16 : 若おかみは生徒会長と話したい ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/06(水) 00:39:09 6zRNUPkk0



「本当に申し訳無かった。なんと謝ればいいのか……」
「顔を上げてください、ええっと……」
「白銀御行だ。秀知院学園で生徒会長をしている。もちろんこんな殺し合いには乗っていない。」
「あ、関織子です。花の湯温泉の春の屋っていう温泉旅館で若おかみをしています。おっこって呼んでください。」
「いや関さんとてもじゃないがそんな。」
「いやもう逆におっこでお願いします。」
「それじゃあとてもじゃないが申し訳無い。まさかあんな愚行をしてしまうとは……本当に許してくれ! なんでもするから!」
「そんなこと言われても……ん、今何でもするって言いましたよね?」
「え、それは……」
「じゃあおっこって呼んでくださいね。」

 和服を着た少女、おっこにそう言われて白銀は押し黙る。
 銃を乱射してしまった身でその被害者をあだ名で呼ぶなどあってはならないことだが、その本人に言われればしかたがない。
 すさまじく申し訳無さそうな顔で「おっこ、ちゃん」と弱々しく言うと、少女はニッコリと笑って「はい!」と言った。

「あたしは気がついたら隣のビルに居たんですけど、ここってどこでしょうか。それに殺し合いって……」
「ああ、まだ信じられないが。これを見てほしい。」
「すごいお荷物ですね。どこかご旅行の途中でしたか?」
「いや、ここで集めた。」
「えっ! まだ始まって五分ですよ!」
「五分? まだそれしか……じゃあ、関さん、おっこちゃんは随分早く動いたんだな。」
「うーん、知らない人のビルに入ってちゃみたいなんで慌てて出てきて、窓から白銀さんが見えたんで話を聞いてみようと思っただけなんで。あ、ノックもなく入ってすみませんでした。」
「いや、気がついたらここにいたのは一緒だ。」
「そうなんですか……困りましたね。こういう時は警察に連絡していいんでしょうか?」
「たぶん、警察はいないだろうがな……」

 白銀の言葉に頭の上にはてなマークを浮かべつつ、おっこは受話器をとる。
 1・1・0と押された番号は呼び出し音がなれど、取る人間はいなかった。

「留守なのかな……? 白銀さん、警察の番号って110ですよね?」
「電話線を切られている、いや、それなら呼び出し音は鳴らないか。つまり。」
「つまり?」
「つまり、この会場に警察はいない。」

 このビルに置いてあるものは武器を除けば日本で手に入るものばかりだ。つまりこの殺し合いの主催者は国家権力をも超越した存在であると言える。

「それどころか、犯人は現実では考えられない、超常的な存在のようだ。おっこちゃん、さっきの光景を思い出せるかな?」
「それは――あれ?」
「だろ? たぶん、あのツノウサギっていう喋るウサギのことは覚えていると思う。でも。」
「おかしいわ……『誰かに襲われてたのにその誰かが思い出せない』……ううん、あたし、あそこで誰かと話してたんだと思う。でもその『誰かも話していたことも思い出せない』……!」
「だろう? 薬物か何かの影響かと思ったが、それにしては明瞭な部分とそうでない部分の落差が大きすぎる。まるで魔法でも使われたみたいだ。」

 そうおっこに話す白銀は、いつの間にか普段の冷静さを取り戻していた。
 誰かに向かって自分の考えを伝えるということは余計なことから思考を逸らす。そしておっこが持つ雰囲気と彼女が振ってくる話題が彼のアウトプットを正常化させていた。

「ひとまずもう一度落ち着いて話し合おう。嫌なことを言うけれど、知り合いが巻き込まれているかもしれないからね。」
「そうですね。あたしの知り合いは――」

 二人は手近な椅子に座ると遅まきながら自己紹介と知り合いの情報交換を始める。
 白銀御行の灰色の頭脳はゆっくりとしかし確実に回り始めた。


17 : 若おかみは生徒会長と話したい ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/06(水) 00:39:50 6zRNUPkk0



【0000過ぎちょい 都市部にあるビルの一室】

【白銀御行@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 状況を把握する
●小目標
 おっこちゃんと話す

【関織子@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 状況を把握する
●小目標
 白銀さんと話す


18 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/06(水) 00:42:08 6zRNUPkk0
投下終了です。
本当は地上波放送前に投下したかったけど間に合いませんでした……


19 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/08(金) 03:48:11 GoCdtbVs0
こんな夜更けに投下かよ。
投下します。


20 : 蛇と虎、後に竜 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/08(金) 03:50:22 GoCdtbVs0



「くそがっ! ふりきれねぇ!」

 悪態をつきながら宇野秀明は、拾い上げたライフルの安全装置を外すと、今入ってきたばかりのドアに向けて乱射する。
 三点バーストの弾丸が扉をぶち破り部屋に突入しせんとする少女へと殺到する。
 「グラァ!」と雄叫びを上げながら横飛びで回避するその獣のような姿を見ながら、必死に引き金を引いて相手を釘付けにしつつ、なんとか隙を見て周囲を見渡す。
 弾切れをおこす。
 ライフルを扉へと投げつける。
 チラリと顔を出した少女がそれを認めて、「ラァ!」と吠えるとともに獣のような手で打ち払う。
 その隙に新たなライフルを手にした宇野は、また安全装置を外すと少女に向けて撃つ。
 それを少女は部屋の外へと戻ることで逃れ、その新たな隙をついて宇野は次の部屋へと移動した。

 宇野はふつうの中学生だ。
 少し警察やらなんやらとやり合ったことがあるだけで、こんな殺し合いなどにはまるで縁がない、ただの東京に住む一般人である。自分でもわかっているが親に甘やかされてきたほうだし、小柄な体型もあってこういう荒事は向いてないというのはわかっている。

「危な!」

 だがそれでもやらなければいけない時があるのだ。
 気絶から目覚めて、知らない場所にいて、周りにときおり落ちている武器に最初はテンションが上がるも、その量に次第に戦慄し、そんなところで出会った少女。
 心細さと下心、そしてなにより心配もあって声をかけた少女は。

「グルルルアッ!」
「なんなんだよこのコスプレ女! クスリでもやってんのか!?」

 なぜかケモミミが生えていた。
 手にもケモノっぽい手袋をしていた。
 そして行動もケモノだった。
 身体能力もケモノだった。
 あとオッパイ大きかった。

「やべっ、弾切れた。」

 彼女の名前はビースト。
 ジャパリパークと呼ばれる島において神出鬼没に出現した謎の存在である。
 彼女が何を目的としているのか、何故宇野を襲っているのか、それはわからない。
 ただ彼女がライフルを担いで話しかけてきた宇野を見るや彼に襲いかかり、その結果として今現在の銃撃戦があるという事実だけがそこにあった。

「ちょ、待って待って待ってって!」
「ウガアアアアアアッッ!!」

 新しく逃げ込んだ部屋は、次の部屋への扉が無かった。角部屋、行き止まり。
 慌てて手近なライフルを手に取るも、今度のそれは連射ができそうな今までのタイプのものではなく、単発式の本当のライフルだ。そのことに安全装置を外しながら気づくも、今更他の武器に持ち替える間もない、そして構えようとしたところで、ついに少女が組み付いてきた。

「待って、話し合おう! く、力強え……!」
「ガアアアッ!」

 そのまま壁際へと追い詰められる。なんとかライフルを割り込ませ、コンクリ壁に銃口と銃把が何度もぶつかる。その間に何度も顔の前で少女が吠える。ギラリと尖った犬歯が見えた。

(ああ、これ死んだな。)

 少女の猫パンチが顔の真横のコンクリを砕いたのを見て、宇野は死を察した。
 中学になってからの一年、何度か危ない目に合ってきた。というか、自分から首を突っ込みに行った。それは夏休みに廃工場で立て篭った仲間がいたからだ。女の子みたいな華奢さで、ビビリだったからあだ名がシマリスちゃんだった。そんなビビリな宇野だから、これはもう駄目だとよく理解できた。
 どうあがいても、目の前の少女には勝てない。いや、そもそも少女ではない。そのことにもっと早く気づけばもっと別の最期だったかもしれない。
 しかし現実は非常である。弾き飛ばされて床を滑る。強かに打ち付けた背中の痛みは、真正面に迫った死によって感じなくなった。ああ、これで終わりなんだ。最後にみんなに会いたかった。ここはどこなんだろう。家に帰りたい。お母さん心配してるかな。あの時もそうだった。廃工場に立て篭った自分を泣きながら家に帰るように説得しに来た。その時に啖呵を切ってから、あだ名がコブラに変わった。獰猛なコブラた。ビビっても強く出るから勇気があるんだ。だから、そうだ、俺は――


21 : 蛇と虎、後に竜 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/08(金) 03:51:30 GoCdtbVs0


「俺はコブラの宇野秀明だあああああああっ!!」
「ガアッ!?」

 そして宇野は、飛びかかってきた少女に立ち上がってブチ当たった。
 自分から当たりに行こうとして、恐怖で腰が引けてしまう。だがそれが功を奏した。
 狙い通り当たりにいけば、正面衝突して命は無かっただろう。あのままうずくまるままでは、どうなっていたかわからない。
 だから、それは期せずして最適解。
 ちょうど巴投げをするかのように、宇野と少女は窓ガラスを突き破って部屋から出る。
 くるりと空中で一回転して植え込みに落ちた宇野の逆さになった視界で、少女が猫のように四足で着地する。
 そこに向けて、宇野は発砲した。
 抱きかかえるように持っていたライフルは、銃口がどこを向いているかもそもそもどうやって持っているかもわからないがとにかく引き金を引く。顔の真ん前で火を吹き、硝煙が目と鼻を焼く。視界が白く消えていく直前に見た最後の光景は、少女の手首につけられた手枷の一つが撃ち抜かれたところだった。

「ガオオオオオオッ!!」
(へ、ヘヘ……一矢報いる、てこういうのだよな……)

 宇野は閉ざされた視界と効かなくなった鼻と、水中にいるかのような耳を感じながら、笑った。
 この体の具合的にもう駄目だろう。すぐに手当てすれば死なないだろうが、あの少女はきっと俺を殺すだろう、でも俺も一発やり返してやった、喧嘩なんてろくにしたことも無ければ勝ったことなんて一度も無いけれど、それでもちょっとはやり返せた。そう満足気に笑うと、一気に気が遠くなる。
 あいつらみたいに、小説の主人公みたいな格好良さは無かったかもしれないけれど、名脇役ぐらいにはなれたかな、そう思いながら、宇野は意識を手放した。



「乗れ!」
「ファッ!?」



 手放した意識をソッコーで掴まされた。
 目の前にイケメンがいた。
 死を覚悟したところでバイクになったイケメンが来る。

「俺は……ヒロインだった?」
「お前までヤクやってんのか? しっかりしろ! 舌噛むぞ!」

 宇野は股の下から振動を感じた。たぶん、バイクのエンジンの鼓動だ。

(バイク乗るとこんな感じなんだな。)
「ウアアアアアアッ!」
「掴まってろよ、出すぞ!」

 ぐおん、と音を立ててバイクが方向転換する。
 あ、これ、バイクが格好良くスタートする時のアレだ、名前しんないけど――そんなことを考える宇野の後ろから少女が出しているとは思えない足音が迫る。
 随分と長いようにも、わりとアッサリと思えるようにもそれは、いつの間にかバイクの音にかき消されるように消えていた。

「……話せるか?」

 しばらく無言でバイクを飛ばしていたイケメンが問いかけてくる。「ああ、ありがとう」と宇野はなんとか絞り出すと共に、気がつけば思い切りしがみついていたことに今さらながらに気づいて自分が恥ずかしくなった。筋肉質なガッチリとした身体つきだ。タフな男っていうのはこういうのかな、などととりとめもないことを考える。

「……格闘技やってる?」
「……最初に聞くの、それ?」
「すみません……」
「……キックやってる。」


22 : バイクになった→バイクに乗った ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/08(金) 03:52:39 GoCdtbVs0


「俺はコブラの宇野秀明だあああああああっ!!」
「ガアッ!?」

 そして宇野は、飛びかかってきた少女に立ち上がってブチ当たった。
 自分から当たりに行こうとして、恐怖で腰が引けてしまう。だがそれが功を奏した。
 狙い通り当たりにいけば、正面衝突して命は無かっただろう。あのままうずくまるままでは、どうなっていたかわからない。
 だから、それは期せずして最適解。
 ちょうど巴投げをするかのように、宇野と少女は窓ガラスを突き破って部屋から出る。
 くるりと空中で一回転して植え込みに落ちた宇野の逆さになった視界で、少女が猫のように四足で着地する。
 そこに向けて、宇野は発砲した。
 抱きかかえるように持っていたライフルは、銃口がどこを向いているかもそもそもどうやって持っているかもわからないがとにかく引き金を引く。顔の真ん前で火を吹き、硝煙が目と鼻を焼く。視界が白く消えていく直前に見た最後の光景は、少女の手首につけられた手枷の一つが撃ち抜かれたところだった。

「ガオオオオオオッ!!」
(へ、ヘヘ……一矢報いる、てこういうのだよな……)

 宇野は閉ざされた視界と効かなくなった鼻と、水中にいるかのような耳を感じながら、笑った。
 この体の具合的にもう駄目だろう。すぐに手当てすれば死なないだろうが、あの少女はきっと俺を殺すだろう、でも俺も一発やり返してやった、喧嘩なんてろくにしたことも無ければ勝ったことなんて一度も無いけれど、それでもちょっとはやり返せた。そう満足気に笑うと、一気に気が遠くなる。
 あいつらみたいに、小説の主人公みたいな格好良さは無かったかもしれないけれど、名脇役ぐらいにはなれたかな、そう思いながら、宇野は意識を手放した。



「乗れ!」
「ファッ!?」



 手放した意識をソッコーで掴まされた。
 目の前にイケメンがいた。
 死を覚悟したところでバイクになったイケメンが来る。

「俺は……ヒロインだった?」
「お前までヤクやってんのか? しっかりしろ! 舌噛むぞ!」

 宇野は股の下から振動を感じた。たぶん、バイクのエンジンの鼓動だ。

(バイク乗るとこんな感じなんだな。)
「ウアアアアアアッ!」
「掴まってろよ、出すぞ!」

 ぐおん、と音を立ててバイクが方向転換する。
 あ、これ、バイクが格好良くスタートする時のアレだ、名前しんないけど――そんなことを考える宇野の後ろから少女が出しているとは思えない足音が迫る。
 随分と長いようにも、わりとアッサリと思えるようにもそれは、いつの間にかバイクの音にかき消されるように消えていた。

「……話せるか?」

 しばらく無言でバイクを飛ばしていたイケメンが問いかけてくる。「ああ、ありがとう」と宇野はなんとか絞り出すと共に、気がつけば思い切りしがみついていたことに今さらながらに気づいて自分が恥ずかしくなった。筋肉質なガッチリとした身体つきだ。タフな男っていうのはこういうのかな、などととりとめもないことを考える。

「……格闘技やってる?」
「……最初に聞くの、それ?」
「すみません……」
「……キックやってる。」


23 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/08(金) 03:53:40 GoCdtbVs0



【0000過ぎちょい 都市部】


【宇野秀明@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 イケメン(竜土)と話す

【ビースト@角川つばさ文庫版 けものフレンズ 大切な想い(けものフレンズシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 襲ってくるヤツを狩る
●小目標
 ???

【竜土@天使のはしご5(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 誰かが死ぬのは嫌だ
●小目標
 助けたコイツ(宇野)と話す


24 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/08(金) 04:01:13 GoCdtbVs0
投下終了です。
今なら天気の子ノベライズがつばさ文庫のホームページで冒頭60ページ読めます。
把握にどうぞ。


25 : ◆NIKUcB1AGw :2021/01/09(土) 00:37:32 VAv27Y.E0
投下させていただきます


26 : 登場人物は小説出展であり実在の人物とは関係ありません ◆NIKUcB1AGw :2021/01/09(土) 00:38:53 VAv27Y.E0
「まったく、妙なことになったもんだねえ……」

住宅地の中に作られた公園で、一人の男が独白する。
彼の名は岡田似蔵。盲目の剣客だ。

彼は、内心穏やかでなかった。
岡田は人斬りだ。人を殺すことに、何らためらいはない。
だからといって見ず知らずの相手に拉致されて「さあ、殺せ」などと命令されたのでは、気分が悪い。
ましてや桂小太郎という大物を斬り、上々の気分だったところにこんなことをされては興ざめもいいところだ。

「おまけに何やら、俺の鼻を鈍らせる妙なもんが撒かれてやがる……。
 天人の新兵器か何かかねえ」

岡田は目が見えないながらも、会場に何か得体の知れないものが充満しているのを感じ取っていた。
それが、自分の頼みの綱である嗅覚を鈍らせていることも。

「まあ、いいさ。さっさと終わらせて……場合によっては、こんなところに連れてきた連中も斬って帰るとしよう」

そう呟きながら、岡田はある方向へ体を向ける。
赤い霧に阻害されているとはいえ、彼の感覚が一般人よりも鋭いのは変わらない。
岡田は、こちらに向かって歩いてくる誰かの気配を感じ取っていた。
若い女。特に鍛えている様子はない。
斬って面白い相手ではないが、まあ最初の獲物ならそんなものだろう。

「まずは肩慣らしといくか。なあ、紅桜よ」

岡田は、自らの右腕に輝く桜色の刃に向けて、愛しそうに語りかけた。


27 : 登場人物は小説出展であり実在の人物とは関係ありません ◆NIKUcB1AGw :2021/01/09(土) 00:39:33 VAv27Y.E0


◆ ◆ ◆


「はあ……」

天野ナツメは、ため息を漏らしながら舗装された道を歩いていた。
鬼王・羅仙による人類滅亡を防いだと思ったら、今度は妙な妖怪に拉致されて殺し合いを強制されるとは。
さすがに立て続けに事件に巻き込まれすぎではないだろうか。
とはいえ、文句をつけたところで状況は改善しない。
なんとかこの殺し合いを止める方法を見つけ、生きて帰らねばならない。
そんなことを考えながら歩き続けていたナツメだったが、その足が不意に止まる。
ナツメは普通の中学生である。だが、一度生死をかけた戦いを経験している。
ゆえに、気づくことができた。おのれに向けられた、すさまじい殺気に。
まともに回避しては間に合わないと判断し、ナツメは着地後を考えない無茶な姿勢で跳ぶ。
その直後、刃が空を切ってアスファルトに叩きつけられた。

「あれぇ? 外れちゃったねえ。
 思った以上に感覚がずれてるのかねえ」

攻撃の主……岡田は、いぶかしげに独りごちる。

(うわぁ……いかにも悪そうな人に出くわしちゃったよ)

一方のナツメは、岡田の姿を見て心中でそう呟く。
リーゼントじみた髪型にサングラス、和服で日本刀を振り回す男。
ナツメの知識に照らし合わせれば、岡田の外見は「そっちの人」にしか見えない。

「悪いねえ、お嬢ちゃん。
 次はちゃんと、一撃で殺してあげるよ」

薄ら笑いを浮かべながら、岡田は刀の切っ先をナツメに向ける。
だが、ナツメはたじろがなかった。
彼女自身に、戦う力はない。だがそれは、彼女が敵意に立ち向かう手段を持たないということではない。
ナツメは、いつでも取り出せるようにしていた「それ」を手に取る。
鍵を連想させる形状のその物体は、「アーク」と呼ばれる代物。
人と妖怪が心を通わせた証だ。
凶悪な顔つきの猫が描かれたそれを、ナツメは左手に装着された時計……妖怪ウォッチエルダに差し込む。
ウォッチのカバーが開き、盤面が露出する。ナツメはそこに、抜き取ったアークをかざす。

「召喚! 私の友達、出てこいジバニャン!」

ナツメが叫ぶと、ウォッチが光り輝く。
光が生み出したナツメの影は異様に長く伸び、そこから異形の存在が飛び出してきた。

「何だぁ? この気持ち悪い場所は」

姿を現すなり悪態をつくのは、まさにアークに描かれていた強面の猫。
化け猫・ジバニャンである。

「おねがい、ジバニャン! あの人を追い払って!」
「あぁ? 人間じゃねえかよ、あれ。
 いやまあ、たしかに刀なんぞ持ってたら危ねえからな。
 軽く相手してやるか」

あまり乗り気ではなさそうなジバニャンだが、彼も友情を結んだ相手を見殺しにするほど薄情ではない。
ナツメに迫る危険を排除すべく、ゆっくりと岡田に近づいていく。

「驚いたねえ。何もないところから、急に気配が出てきた。
 しかも、獣の匂いだ。
 お嬢ちゃん、ポ○モントレーナーか何かかい」
「わけのわからねえこと言ってんじゃ……ねえ!」

間合いに入ると同時に、ジバニャンは右の拳を放つ。
岡田はそれを悠々と回避し、刀を振るう。
だがジバニャンも、それを左手の爪で弾く。


28 : 登場人物は小説出展であり実在の人物とは関係ありません ◆NIKUcB1AGw :2021/01/09(土) 00:40:26 VAv27Y.E0

「ほう。獣にしてはやるねえ」
「妖怪舐めてんじゃねえぞ!」

今度は、ジバニャンが回し蹴りを放つ。
爪が岡田の頬をかすめ、わずかながら血が飛び散る。
だが岡田は意に介さず、愛刀を振るう。
その切っ先が、ジバニャンの肩を浅く切り裂いた。

「そっちが妖怪なら、こっちは妖刀さね」
「はぁ? 何が妖刀だ。妖力なんざ、かけらも感じねえじゃねえか。
 というか、どう見ても機械仕掛けだろ!」

不気味にコードを揺らめかせる刀を見ながら、ジバニャンが毒づく。
彼の見立てどおり、紅桜とは科学の力を宿した刀である。
人工知能を搭載し、おのれの意志で進化を続ける兵器。
それが紅桜の正体だ。

「なぁに、科学で妖刀を作っちゃいけないなんて決まりはない。
 新時代の妖刀さ」

口元をにやつかせながら、岡田は改めて刀を構える。
だがその時、新たな声がその場に響いた。

「その辺にしておきなさい、岡田さん」

現れたのは、岡田と同じく和装の男。
なんとなくファンタジー世界で仏をやっていたり、超能力者が通う学校で校長をしていそうな雰囲気を漂わせている。

「このペヤングみたいな匂いは……武市さんか。
 あんたも来てたのかい」
「誰がペヤングだこの野郎」

男の名は、武市変平太。岡田と同様にテロリスト集団「鬼兵隊」の所属であり、参謀を任されている男だ。

「それで武市さん、何で止めるんだね」
「その化け猫はどうでもいいですが……。後ろのお嬢さん、彼女を殺すのはいけません。
 女性はあの年頃が、一番美しい」
「……武市さん、ロリコンも大概にしてもらえませんかねえ」
「ロリコンじゃありません、フェミニストです」

堂々と言い放つ武市に、岡田は肩をすくめる。

「こっちはあなたの趣味に付き合う義務はないんでね。
 好きにやらせてもらうよ」

武市を無視し、戦闘を再開しようとする岡田。
だがその前に、武市が立ちはだかる。

「言ってわからないのなら仕方ありませんね……。こうです!」

武市が取った行動。それは、駄々っ子のように岡田にしがみつくことだった。

「……何やってるんだい、武市さん」
「さあ、そこの少女よ! 今のうちに逃げるのです!
 私が彼を食い止めているうちに!」

岡田はすっかりあきれかえっているが、武市はいたって真剣である。

「どうしよう、ジバニャン……」
「逃げろって言われてるんだから、素直に逃げた方がいいんじゃねえか?
 俺は興がそがれたから帰るぜ」

ナツメに対しそう言うと、ジバニャンは召喚を解除して帰ってしまった。

「ちょっと、ジバニャン! 置いてかないでよ!」

ジバニャンが帰ってしまっては、ナツメに戦うすべはない。
いや、別の妖怪を召喚すればいいだけなのだが……。
この時のナツメは、困惑するあまりそこまで頭が回っていなかった。

「あの二人、知り合いみたいだし……。殺されるまではいかないよね、たぶん……。
 好意に甘えさせてもらいます、おじさん!」

意を決すると、ナツメはその場から全速力で走り去った。


29 : 登場人物は小説出展であり実在の人物とは関係ありません ◆NIKUcB1AGw :2021/01/09(土) 00:41:20 VAv27Y.E0
【0000過ぎちょい 住宅地・公園】

【天野ナツメ@映画妖怪ウォッチシャドウサイド 鬼王の復活(小学館ジュニア文庫)】
【目標】
●大目標
殺し合いを止める
●小目標
岡田から逃げる


【岡田似蔵@銀魂映画ノベライズ みらい文庫版(集英社みらい文庫)】
【目標】
●大目標
殺し合いをさっさと終わらせる


【武市変平太@銀魂映画ノベライズ みらい文庫版(集英社みらい文庫)】
●大目標
生き残る
●小目標
少女の参加者を守る


30 : ◆NIKUcB1AGw :2021/01/09(土) 00:42:26 VAv27Y.E0
投下終了です


31 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/09(土) 06:46:37 mJC3Z4Tg0
投下乙です。
この企画に投下があって一番戸惑っているのは俺なんだよね。
まさか自分以外に書き手さんが来るとは。
あと書き手枠300ぐらいあるんで登場話書くなりリレーしちゃうなり好きにしていただいて構いません。
だいたいの投下はなんとかリレーしてくので。、


32 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/16(土) 09:08:43 fQ/woWBE0
児童文庫キャラじゃやっていけない戦力レベルになりつつある。
投下します。


33 : 脇役の生存戦略 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/16(土) 09:10:03 fQ/woWBE0



「多分この首輪には発信機とかそういうのがついてるな。間違いない。」
「無理に外そうとした時に毒の注射する用のセンサーもあるな。」
「盗聴器とかもついてるかな? まあそれよりライフル撃てるようにしとこうぜ。たぶん首輪については頭良いやつがゲームの最後の方になればなんとかすんだろ。」
「一人ぐらいパソコン詳しいやつもいるだろうし、そいつらがハッキングとかしてくれないかな。あ、拡声器あったけどどうする?」
「それ使うと絶対危ないやつが寄ってくるやつじゃん。でも上手く使えばそういうやつを引き寄せて戦う力がないやつを援護できるかもな。」
「なるほど。にしても食べ物も飲み物もないのに武器ばっかあるな。てことは会場は狭いのかな? それともめちゃくちゃ強い敵がいるのか?」
「なんで君たちそんな手なれてるの?」
「「二回目だから。」」

 関本和也と小林旋風は、早乙女ユウのツッコミにキッパリと答えた。
 旋風はこの殺し合いに巻き込まれる一月ほど前に、小学生百人が最後の一人なるまで理不尽なゲームをさせられるというわけのわからないものに参加させられている。
 和也も運動会の委員で早く登校したらモノホンの鬼から命がけの鬼ごっこをするハメになり、その一月後近所のショッピングモールでやはりモノホンの鬼から命がけの鬼ごっこをさせられた。
 じゃあお前デスゲームに巻き込まれんの三回目じゃねえか。

「あ、悪い、三回目だった。」
「ふつう間違えるか?」
「……これからどうしようか。」

 二人のやり取りを無視してユウはつぶやくように言った。
 その口調こそ途方に暮れたような感じだったが、瞳はしっかりとそれぞれが持つ拳銃へと向いている。言葉どおり彼はこれからの方針について考えていた。
 彼もまたどう見ても重篤な後遺症や命に関わる怪我が起こりかねないようでいてなぜかあまり大した怪我人が出ない、とある小学生五十人が優勝したらなんでも願いが叶う命がけのゲームに数度に渡って参加し、一度は優勝も果たしている。さすがに爆薬の支給はあっても拳銃のような直接人を殺せる物の支給は初めてだが、それでも二人ほどではなくとも冷静だった。

「どうするって、やっぱ使う? コレ?」
「拡声器をか。ヤバイんだろ?」
「でもさ、やっぱ上手く使えばすごいアイテムだと思うんだ。前に学校で鬼と鬼ごっこした時も、女子の一人が校内放送でナビってくれたから助かったし。」

 まあそん時は銃持ってるやつとかいなかったけど、と続けて、和也は手にしたリボルバーの引き金の部分に指を通して、ハンドスピナーのように回した。


 山腹にある展望台で三人が出会って早数十分、簡単な自己紹介の後にそれぞれの経験を語り始めて、三人は今回も自分たち小六が命がけのデスゲームに巻き込まれたと確認し合い、そしてそのまま立て篭っていた。
 支給された紙に従いここを目指し、最初こそ互いに驚くも経験が生きてすんなりと互いに対主催であることを告げて、自分たちのような子供が他に来ることを待って小一時間になる。
 幸いこの展望台、オープンデッキのようなものではなく二階建ての小屋のような作りで、壁も普通の家と変わりなく見える。拠点としては使えるだろう。なにより展望台からの景色が、彼らに外へと出ていくことをためらわせる。
 「赤い霧に赤黒い雲に雷」というのは、和也が巻き込まれた命がけの鬼ごっこを思わせる。そもそも主催者にその鬼ごっこの鬼がいた時点でこれはまたアレだな、という本人の発言は別として、残りの二人はそんな非現実的な光景を前に外出する気はない。特に霧が厄介で、その濃さから視界は拳銃の有効射程距離の数倍ほどだろうか。遠くを見るには濃すぎてさりとてライフルか何かで狙われないには薄いという面倒なもの。雲も色はともかくとして雲の間でチラつく雷光により、周囲はなんとも言えない薄明かりと銃声のような音が響く。ようするに、怖い。


34 : 脇役の生存戦略 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/16(土) 09:10:43 fQ/woWBE0

「――だから、拡声器使うのはアリだと思うんだ。この展望台探すのだってちょっと苦労したしさ、おんなじ紙持ってここに向かってるやつに呼びかけたらもっと仲間集められるんじゃねえか? まあそれって――」
「敵が来るかもしれない、よなあやっぱ。」

 和也の言葉を旋風はハンドガンのマガジンを出し入れしながら引き継いだ。
 そもそも彼らが集まった理由である紙に書かれたアイテムが、車座に座る三人の中央に鎮座する拡声器である。
 他に目的地もなかったのでこの拡声器が置かれた展望台を目指して皆ここまで来たが。いざ展望台に置かれていた拳銃を手に入れてこれからどうするかとなると、このムダなアイテムの使い道は無いか、という話になり今に至る。
 子供三人、展望台、拡声器。使えば何も起こらないはずが無く、上手く行けば仲間を集められ、下手を踏めば敵にパララララ、という展開が目に見える。一応建物の中とはいえ、壁抜きされれば三人まとめて殺されるかもしれない。他に展望台にあったのはいくつかのベンチと風変わりな爆薬に、フライパンが一つ。これで勝負に出るには危険だが、しかし彼らの手の中にある拳銃が判断を狂わせる。わかりやすい武器を手にしたことで緊張があるものの、それを上回る勇み足への誘惑もあった。と同時に、こんなものがそこらじゅうの建物に置かれているのならば早く頼れる大人、と言わずとも頼れる誰かに会いたいという気と、自分たち以上に不安な気持ちでいるであろう他の参加者を助けたいという気持ちがあった。

「森の中に銃とか落ちてたりはしないよな?」
「でも無いとは限らないだろ。それなら――」
「これ、使えないかな?」

 迷う二人にユウは、機関拳銃を置いて爆薬を手にしてみせる。宿泊学習でやるハンゴウスイサンのアレみたいなやつ、という呼び方から三人でスイサンと呼んでいるそれは、なんとなくみんな見たことあるもののどう使えばいいかわからずに放置されていた。
 おそらく、爆薬であるとは思うのだが、使い方がわからない上にそもそも使いたくない。マジかよ、と顔を引きつらせる二人に、ユウは続けた。

「ここは展望台でしょ。崖みたいに切り立ってる下の方から来る人はいない……たぶん、いないから、頂上側の方にこれを仕掛けるのはどうかな? 爆弾を仕掛けてあるよって言って。それで、拡声器を使って呼びかけるんだ。」
「待てよ、どういうことだ?」
「……あれか、拡声器使うときに罠仕掛けてるって一緒に言うのか?」
「うん。もしも殺し合に乗った子なら、色々と深読みしてくれそうだし、それに……」
「それに?」
「……殺し合え、て言われてるのに、ふつうに呼びかけても信用できないかなって……それよりは、警戒してるぞ、てハッキリさせてる人の方が信用できないかな……?」

 ユウは爆薬のスイッチらしき部分に目を落として言った。長い前髪越しに微かに見えるそれは、二人の手の中の拳銃の冷たさを音を立てて実感させるほどの、何か、があった。

「じゃあ……仕掛けてくるよ。もしも爆発させちゃったら危ないから、二人はここにいて。場所はすぐ裏の、あのちょっと大きい木の所にするから。」

 そう言いユウは、展望台の扉を開けて出ていく。階段を降りる足音が土を踏むものに変わるまで、二人は動けなかった。


35 : 脇役の生存戦略 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/16(土) 09:11:35 fQ/woWBE0



「ハァ……ハァ……ねえ、展望台って、まだなの?」
「さっきの看板が正しいのなら、この道をまっすぐ歩けばもうすぐ……ほら! 見えてきましたよ、まさお君!」
「えー、どこ?」
「あそこです、あそこ!」

 ところかわって山のふもと。
 同行者の佐藤マサオに山腹を指差して言いながら、円谷光彦は心の中でほっとため息をついた。
 彼が森の中で泣いていたマサオと出会ってから三十分、その間なんとか紙に書いてある場所を目指して殺し合いから気を逸らしていたが、そろそろ限界であった。
 光彦自身も、自分の首にかかっているものを努めて考えないためにもマサオを励ましていたが、こんな状況で迷子というのはかなり辛いものがある。そんな中で一応の目的地が目に見えたことは、それ自体に大した意味などないにもかかわらず強い安堵感を味わうに足るものだ。
 そんな二人の希望の家から、ガガ、という音が響く。続けて「あー、あー、マイクのテスト中マイクのテスト中……」と音声が流れた。

「拡声器でしょうか? 誰かが放送しようとしているのかも。」
「誰かって誰?」
「それは……」
『あーあー聞こえるかー! オレ達は殺し合いに乗ってない! みんなも殺し合いなんてやめようよ! LOVE&PIECE! 愛だよ愛! てかさ、いきなり変な森に連れて来られて殺し合うヤツいねえよ! あんな変なウサギっぽいやつに殺し合えって言われてさ、殺し合うなんてさ、こんなんでいいのかよ! だから! 殺し合いなんてやら『お前放送ヘタすぎんだろ変われ!』ちょっと待てジャンケンで勝ったのオレじゃん!『爆弾のこと言わないと』それで! あの、この、灯台『展望台』展望台に、ちがう、展望台の、裏に、爆弾があんのよ! 仕掛けたの! で、あの展望台来るときはこの下の崖みたいな坂の下の方で、合図してほしいのよ! そしたらあの爆弾のスイッチオフにするから、あの、あれ、あれだ、『あのーあれだよ』あの『アレだね』おい全員ド忘れしてんじゃねえか!』
「……なんでしょうか。」
「なんだろうね……」

 二人の後頭部に特大の汗が浮かんだ。
 なんだかよくわからないが、とにかく展望台には三人ぐらい殺し合いに乗ってない子供がいるようだ。大人がいないようでちょっと、いやかなり不安だが、それでも目指す場所に人がいるというのは心強い。
 その後も放送が続くが、情報としてはさっき言ったことの繰り返しである。二三度聞いてこれ以上集中して聞かなくてもいいと判断して、光彦は「じゃあ行きましょうか」とマサオに声をかけた。

「なんだろう、少し行きたくなくなっちゃったよ……」
「そんなこと言わずに! ここまで来たんですし!」
「でも爆弾とか言ってるよ……?」
「あれは……そう! ハッタリですよハッタリ! ああ言えば警戒されるじゃないですか。ふつうは近づこうとは思いません。だから逆に安全なんです。爆弾なんてあるわけないですよ!」
「でも……」
「あんな展望台に爆弾なんてあるわけないじゃないですか! それにあったとしても子供じゃ使えないですよ! ね!」
「うぅ……わかったよ……」

 マサオを剣幕の圧で納得させると、光彦はさっきとは別の意味のため息を心の中でついた。
 なにはともかく、これで目的地の展望台に行ける。


36 : 脇役の生存戦略 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/16(土) 09:12:16 fQ/woWBE0

 そしてそんな展望台からは爆発音が響いた。

「ヒイィィィイィィ!!?? なに今のねえ!?」
「……………………爆発でしょうか?」
「見ればわかるよそんなこと!」

 展望台の後方だろうか、一瞬何か赤いものが見えた数瞬後、爆発音が聞こえた。それから少しして、展望台から転がり落ちるように人影が三つ出てくる。そして今度は文字通りに崖を転がり落ちて下る。彼らの様子からするとしきりに後方を警戒していてなるほど、何かから逃げているようだ。つまりさっきの爆弾があるというのはハッタリでは無かったようだ。そしてそれを見抜けなかった誰かが後ろから行ってしまってドカン、というわけか。あるいは展望台を襲撃したして側が爆弾を使ったというのも考えられる。なんなら両方が爆弾を使ったのかも。

「……ていうことは、こっちに来るかもしれないですね……つまり危ないかもしれません!」

 ハッ、と光彦は我にかえった。
 あ然となって目の前で起こったことを見ていたが、よくよく考えなくとも爆破事件が起こっているのだ。そしてその事件の被害者もしくは加害者がこちらに向かっているかもしれない。

「これはとんでもないことになりましたよ……! ど、どうしましょう、マサオ君!?」
「えー! そんなのボクに聞かれてもわかるわけないよぉ〜! ねえ光彦くんどうしたらいいの!?」
「ボクだってわかんないですよ!」
「そんな無責任な――ヒィッ!?」

 ザッ、ザッ、と足音が迫って二人は互いの口を手で塞いだ。そこでようやく光彦は、自分たちが小道の真ん中で騒いでいたことに気づく。これでは見つけてくださいと言っているようなものだ。
 慌てて隠れる場所を探す。周囲は薄暗く両脇はやぶ。急げば隠れられる――そう思った時には、「おい!」と声がかけられた。

(間に合わなかった――!)

 焦りと恐怖にかられて、光彦は前方を見る。前からは男の子が三人、それぞれ手に拳銃を持って走り寄って来ていた。エアガン、というのはもう考えられない。そんな甘いことはここでは起きないだろう。そして彼らは光彦達を――

「ヤベえぞマーダーだ!」
「マーダラーじゃねえ!?」
「どっちでもいいわ! 逃げるぞ!」
「お前らも早く逃げろ!」
「お前小林速すぎんだろ!」
「君たちも早く!」
「注意したからな! 注意したからな!」
「自分の身は自分で守れ!」
「急いで!」
「死にたくねえよぉぉぉぉぉ!」
「無理! もう無理! 肺が無理!」
「さあ走って!」

 全力で通り過ぎていった。

「ま、待ってぇ! おいてかないでよお!」
「あ、マサオ君!」

 弾かれたように、マサオも走り出す。

「……ボ、ボクも行きまあす!」

 あの人たちはなんなのか、本当に着いて行っていいのか、色々聞きたいことがあって――そんな考えで止まっていた足を光彦は動かした。


37 : 脇役の生存戦略 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/16(土) 09:13:01 fQ/woWBE0



「イッテえなクソが! ナメたマネしやがって!」

 さて一方展望台の後方、爆発地点。
 そこでは一匹の珍妙な蜘蛛が身体の再生を終え悪態をついていた。
 彼の名は、無い。強いて言うのならば兄蜘蛛、とか塁の兄、とか蜘蛛の鬼(兄)とかそんな感じで呼ばれている鬼だ。鬼というだけあってただの蜘蛛とは違い、頭が人間の男のものとなっている。そして臭い。人面で臭くてデカい蜘蛛、それが彼だ。

「逃げ足早えな……チっ、蜘蛛がいれば……」

 そんな彼が不機嫌な理由。それは爆弾で身体を吹き飛ばされたからには他ならない。ユウ達が仕掛けた爆弾に思いっきり引っかかったマヌケこそ彼だった。
 もっとも不死身の鬼なのでバラバラにされたところでアッサリと再生はできるのだが、それはそれとして腹立たしいことには変わりない。
 そしてその不死性こそ彼が爆弾に引っかかった理由だ。ユウ達と同じように彼もまた支給された紙から展望台を目指したわけだが、拡声器による放送を聞いても彼は爆弾など意に返さず接近した。まさか爆弾など用意しているはずも使いこなせるはずもないし、爆発を食らっても死ぬことはない。のだが爆弾は用意されているしスイッチを入れればあとはセンサーで勝手に爆発するし、金属弾で身体を細かな肉片にされて再生に時間がかかるしで想定外だらけである。
 クレイモア。百年も後の時代に使われるハイテクな爆弾のことなど大正時代の人物である彼に予想できるものでは無かった。

「しょうがねえ、追うか。」

 面倒だがこのままナメられたまま活かして返すわけにはいかない。再生で体力を使って腹も減ってきている。
 うんざりした声色で言うと、蜘蛛はカサカサと走り出した。


38 : 脇役の生存戦略 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/16(土) 09:13:33 fQ/woWBE0



【0100前 山岳部】

【関本和也@絶望鬼ごっこ くらやみの地獄ショッピングモール(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する
●小目標
 マーダーを警戒
 ユウを警戒

【小林旋風@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する
●小目標
 マーダーを警戒
 ユウを警戒

【早乙女ユウ@生き残りゲーム ラストサバイバル 宝をさがせ!サバイバルトレジャー(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 みんなと生き残る
●小目標
 襲撃者からみんなを守って逃げる

【早乙女ユウ@生き残りゲーム ラストサバイバル 宝をさがせ!サバイバルトレジャー(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 みんなと生き残る
●小目標
 襲撃者からみんなを守って逃げる

【佐藤マサオ@双葉社ジュニア文庫 映画ノベライズ クレヨンしんちゃん
ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい
●小目標
 とにかく逃げる

【円谷光彦@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 事件を解決する
●小目標
 マサオ君を追いかける

【蜘蛛の鬼(兄)@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 塁の兄を演じて生き残る
●小目標
 さっきのガキ共を追う


【山岳部で拡声器による放送が行われました。】


39 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/16(土) 09:14:58 fQ/woWBE0
投下終了です。
適宜時間は進んだり戻ったりします。


40 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/18(月) 06:34:32 eM/7Bcqk0
3分の1のみらい文庫ジャンプ系ノベライズ。
投下します。


41 : 容疑者・藤原千花 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/18(月) 06:39:40 eM/7Bcqk0



「すみませーん! 誰かいませんかー?」

 赤い霧が立ち籠める商店街の店先を、一つ一つ大きな身振り手振りで検める桃色の髪の人影が一つ。
 藤原千花はもう何件かもわからない無人の店を前に困惑した表情で立ちすくしていた。
 意識が戻ってからというもの大声を出して呼びかけること十分ほど、人っ子一人どころか猫一匹スズメ一匹見当たらない。電信柱を見てここがどこか知ろうにも、なぜか標識が外されている。更には建物の外に貼られているポスターの類にも、ここがどこかを判断するような情報のものが無い。
 まるで外国の日本人街みたいだ、と思いながら千花はまた別の店をノックした。

「すみませーん! すみませーーん!! ……ここもダメ?」

 ちなみに彼女に、殺し合いに巻き込まれたという考えは、無い。
 オープニングの曖昧な記憶も、その中のファンシーなぬいぐるみが言っていたことも、それが瞬間移動のように消えて突然また眠気が襲ってきたことも、変な夢ぐらいの認識である。
 だいたい本当に殺し合いならもう銃弾の一発も飛んできてもおかしくないぐらい大声を出している。それもあって彼女の警戒心はとうに無くなっていた。

「すみま――開いてる!」

 そして店のドアを押すこと数十軒目、ついに鍵がかかっていない店を見つけた。
 道に面した窓ガラスが開放的な喫茶店。店内を覗いた感じから、ふだんなら学生――彼女のような上流階級の子弟の――や若者で賑わいを見せているであろう、商店街からは少し浮いている店だ。「おじゃまします」と言って忍び足で入る。開いたら開いたでちょっと怖い。それでももちろん入るが。

「すみませーん。あのー……」

 ガタッ!

「ピャッ!?」

 思わず変な奇声が口をついた。
 店の奥から微かだが物音がした。
 誰かがいる。

「…………」

 入ってくる時よりも恐る恐る、千花は店の奥へと進む。
 もしかしたら、空耳だったかもしれない。
 もしかしたら、冷蔵庫とかの機材が立てた音かもしれない。
 でももしかしたら、誰かいるかもしれない。
 期待半分恐怖半分、キッチンへと足を進めて。

「――大丈夫?」

 千花はコンロの前でうずくまっている幼女を見つけると、膝を折って問いかけた。


42 : 容疑者・藤原千花 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/18(月) 06:40:06 eM/7Bcqk0



「そっか、ユイちゃんも迷子なんだね。」
「おねえさんも?」
「うん。気がついたら、アッチのベンチで寝ちゃってて――はい、どうぞ。」

 温めたポットからぬるめの紅茶を注ぐ。
 気を休めたいときはやっぱり温かいものだ。そこに甘いものがあるとなお良い。
 落ち着いて話せる空間が、こんな場所だからこそ必要なのだから。

 互いにお茶菓子を食べつつ自己紹介――といっても幼ユイから聞き出せたのは名前とヒロトという兄がいることぐらいだが――をして、千花はあの光景を自分以外も見たのだと把握した。
 それとともに、千花は認識を改めた。
 自分とユイ、二人に首に仕掛けられた首輪。そしてなによりまだ幼いユイの存在。この二つからドッキリという線は消える。さすがにどんなに悪辣なプロモーターでも、小学校にも上がらないぐらいの女の子に爆弾付きの首輪を着けて殺し合わせる、なんてドッキリは表ではやれない。
 ということはドッキリではなく、本気でバトロワ的なものをさせようとしているのだと考え直さざるを得ない。もしくはそれに準ずる何か。
 というか、よく見たら店の床に普通に拳銃が落ちている。しかもゴツいやつ。

(この首輪も、たぶん本物かなあ。)

 首輪の重さが十倍になった気がする。
 あんがい今まで意識しなかったが、殺し合いのリアリティを感じると途端に息苦しく感じるものだ。

(……イジってたら外れたりしないかな?)

 ちょっと強めに引っ張ってみる。首が痛いだけだ。意外と頑丈に作ってあるのかもしれない。
 大きさによるものか?と思って、今度はユイの首輪を見てみる。もしサイズで機能が変わらないのならば、同じ力で引っ張っても壊れたりはしないだろう。まあ本当に引っ張ったりはしないがそれはそれとして首輪を調べてみようと手を出して。

「おいアンタ正気か? 冗談キツイぜ。」
「……どなた?」

 店のドアが開け放たれて一人の少年が入って来た。



「だから、そんな気はなかったんだって!」
「それにしても怪しすぎだぜ。なあ?」
「……」
「お前もなんとか言えよ。」
「はい、ケーキ!」
「……ありがとう。」
「子供には話すのかよ。つれねえなあ。」

 ユイと二人で囲んでいたテーブルには男子二人が新たに座っていた。
 一人は天野司郎、ユイの首輪を触ろうとしたところで店に入って止めてきた少年。
 もう一人は神田あかね。天野の同行者、というと語弊があるが、天野と二人で店に来た美少年である。
 この語弊というのは、天野があかねをつけていたということだ。そしてあかねも千花をつけていた。二人とも事態が飲み込めなくとも警戒心を持っている動いていた結果、大声を出していた千花に気づき、遠巻きに見ていたというわけだ。
 そこで千花が自分の首輪どころか幼女の首輪にまで手をかけようとしたことで止めに入った次第である。
 「そんなわけないじゃん」と言いつつ千花は男子たちにもお茶を振る舞うが、ちょっと考えてはいたことなのであまり大きな声では言えない。「ねー」とケーキを運んできてお手伝いするユイを盾にする。「ねー」とユイも返す。この短時間に懐かれたらしい。カワイイは正義だ。そのユイがバタリと倒れる。同じタイミングで、天野とあかねも倒れる。全員が自分の手で自分の首を絞めるような、チョークサインと呼ばれる窒息時に起こす動きをしている。


43 : 容疑者・藤原千花 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/18(月) 06:40:29 eM/7Bcqk0

「だ、大丈夫みんな!?」

 そこまで認識して、千花はようやく立ち上がった。
 なんだこれは、なにが起こっているんだろう。
 まるでわからない。
 突然三人が倒れて、窒息している。
 同じタイミングで喉をつまらせた? そんなことはありえない。
 じゃあなんだ――毒? それもありえない、自分も紅茶を飲んでいる。ユイと一緒に、少し前から。二人が飲み始めたのは今から。というか一口目だ。じゃあなぜ……………………

 ダォン!

「ヒィッ!?」

 銃声と髪を焦がす匂いが正気に戻す。
 あかねが、床に転がっていた銃をいつの間にか手にして撃っていた。
 弾丸が掠めたのだ。
 失神しかけの目が合う。
 何かを訴えかけている目だった。

「た、助けるから!」

 スマホを取り出して救急へと連絡。
 スピーカーにすると、ユイをうつ伏せに膝に乗せ、背中を叩いて吐き出させにかかる。
 が、駄目。
 それならばと、心配が停止した三人を見比べ、繋がらない電話を無視して、AEDを取り出す。
 成人用から小児用に変えている時間は無い。天野に取り付けると即使う。その合間合間にユイへの心臓マッサージ。

 そして十分後、喫茶店には三つの死体と、その前に呆然と座る哀れな少女がいた。


【0030頃 商店街】

【藤原千花@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 ???



【残り参加者 297/300】
【大場結衣@絶望鬼ごっこ くらやみの地獄ショッピングモール(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【天野司郎@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【神田あかね@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】


44 : 容疑者・藤原千花 ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/18(月) 06:41:14 eM/7Bcqk0



「『アクア・ネックレス』は元通り使えるみたいだな。」

 その光景を、喫茶店の外から見ている男がいた。
 彼の名は、片桐安十郎。
 アンジェロというあだ名で呼ばれた連続殺人鬼である。
 そして今まさに三人の子供を殺したのが彼だった。
 スタンド使い、彼はそう呼ばれる種類の超能力者だ。その超能力の内容は、水を操ること。自らの半径数十メートル以内に具現化させた精神エネルギーを水分へと溶け込ませ、自在に操ることができる。たとえば、オシャレな喫茶店で幸せそうに談笑する若者の、ポット内の水分に溶け込んで、狙った標的のティーカップに注ぐよう操作し、胃に入ったタイミングで逆流して気道を塞ぐ、なんてことができるわけだ。

「あのガキ、死ぬ寸前で撃ってきやがって……許せねえ。」

 ……まあ、近い方がより操作がしやすいのと、苦しむ姿を見たくて店前まで行ってしまった結果、死にかけの子供に撃たれるハメになったが、本来ならばなんらリスクを起こさず殺人できる能力なのだ。
 なにせ具現化させた精神エネルギー、ヴィジョンは同じスタンド使いでなければ見えない。今回のように完全犯罪も下手を踏まなければ簡単なのだ。

「まいっか、死んだし……次だ。」

 呆然と座る千花の姿に溜飲を下げて、アンジェロは密かに歩き出す。殺し合いというのは興味無いが、殺し合わなければいけないのだから仕方ない、俺は悪くない、だから殺そう。そんな殺意を胸に。


 ちなみに彼が千花以外を襲った理由、それは「自分が入れたお茶で人が死んで呆然としてるところを笑いたい」ただそれだけである。


【0030頃 商店街】

【片桐安十郎@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺す


45 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/18(月) 06:42:36 eM/7Bcqk0
投下終了です。
書き手枠に対して参戦済みが1割死亡済みが1%。
これ多分全部の枠確定するの4月頃ですね。


46 : ◆NIKUcB1AGw :2021/01/19(火) 21:32:58 geGgHbAc0
投下させていただきます


47 : トイレは正しく使いましょう ◆NIKUcB1AGw :2021/01/19(火) 21:34:50 geGgHbAc0
夜の闇の中を、学生服を着込んだ一人の少年が走っていた。
彼は人呼んで「タベケン」。巨大学園・Y学園に通い、プロレス愛好会に所属する生徒だ。
しかしプロレス愛好会といっても、彼は実況担当。
運動能力は、中学生としての平均レベルに過ぎない。
ゆえに彼は自分がまともに殺し合いをして生き残れるなどとは考えず、逃げることだけを考えていた。

(けど逃げるって言ったって……。いったいどこまで逃げれば……)

そんなことを考えながら走っていたタベケンの目に、とある施設が移る。
それは、公衆トイレだった。

(トイレか……。意外とこういうところなら見つからないかも)

タベケンはトイレに向かい、多目的トイレの扉を開ける。
だがその中には、すでに高校生ぐらいの青年の姿があった。

「あっ! すいませ……」

反射的に謝ろうとするタベケン。
だが最後まで言い終わらぬうちに、彼の体を無数の弾丸が貫いた。

「あ……え……?」

自分に何が起こったのかも理解できないまま、タベケンはその短い生涯を終えた。


◆ ◆ ◆


「まずは一人……か……」

タベケンの亡骸を見下ろしながら、彼を殺した張本人……虹村形兆は無感情に呟く。
彼は「父親を殺せるスタンド使いを生み出す」というおのれの目的の過程で、すでに何人もの人間を殺害している。
今更殺した人数が増えたところで、心が動くはずもない。

「どうせなら弓と矢を持っているときに呼んでくれれば、存分に試せたんだが……。
 まあ、持っていたとしても取り上げられていたか。
 殺し合いを根底から覆せるスタンドが生まれるかもしれないんだからな」

人が集められていて、堂々と危害を加えられる状況。
形兆の目的を果たすには、うってつけだ。
ただし、スタンド使いを覚醒させる「弓と矢」があれば、の話だが。
可能性のある人間を無為に殺すのは本意ではないが、形兆とてここで死ぬわけにはいかない。
出来の悪い弟のためにも、早急に殺し合いを終わらせて杜王町に帰らねばならない。

「すぐに終わらせてやるさ……。我が《バッドカンパニー》が!」

形兆を取り囲むのは、小さな軍隊。
だがそれを視認できるのは、この場にごくわずかしかいない。


【0030 住宅地・公衆トイレ】


【虹村形兆@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
優勝を目指す

【タベケン@映画妖怪学園Y 猫はHEROになれるか(小学館ジュニア文庫) 死亡】


48 : ◆NIKUcB1AGw :2021/01/19(火) 21:35:44 geGgHbAc0
投下終了です


49 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/20(水) 06:24:16 x2Mviw320
投下乙です。
スパッ、と行く感じの投下ですね。人一人殺しておいてそれを振り返らずに前へと進んで行くっていうハードな形兆、読み味がキレがあっていいですね。
彼は書こうかなと思っていましたがよくよく考えたらマーダーには困らないんでまだ保留してました。
そういうキャラを他の書き手さんが上手く活躍させてるのを見るのはやっぱり楽しいですね。
ジャンプノベライズキャラに剣呑な感じの対応されまくる妖怪ウォッチキャラの明日はどっちだ。
それでは投下します。


50 : 妖怪と悪魔と―― ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/20(水) 06:26:11 x2Mviw320



「よかったわ、知ってる人と会えて。ずっと不安だったの、直樹くん……」
「そ、そうだよな、いきなりわけわかんないこと言われて。でも羅門さん、おれが守るから――」
「待って。ルル、って呼んで。昔みたいに……ね?」
「――わかったよ、ルル。」
「フフ、うれしいわ。」

 顔を赤くしながら名前を呼ぶ小島直樹ことエロエースに、羅門ルルはしなだれかかる。本心から彼と会えて良かった、と彼女は思う。ルルにとってこの場で一番に頼れる相手が彼なのだから。
 ルルとエロエースは元はクラスメイトだ。一月しか一緒にいられなかったが、彼が自分を好きであることはよくわかっている。サービスも込めて身体を寄せると、ルルが思わず吹き出してしまうほどに顔を赤くさせる彼を見て、あだ名と違ってカワイイところがあるとほくそ笑んだ。

「私、殺し合いなんて怖いわ。信頼できるのはあなただけなの。直樹くん、一緒にいてくれる?」
「もちろんですとも!」
「敬語はやめて。もっと仲良くなりたいの。おねがい。」
「わかりま、わ、わかったぜ! 安心しろよルル、おれが守るから。ほら、銃だって持ってるし。」
「……聞こうと思ってたんだけど、それ、どこで拾ってきたの?」
「アッチのビルの中でさ、たくさん落ちてたんだよ。それでさ、おれたち以外にも人がいて、生絹さんとユイって女子なんだけど――」

 まあ、と演技半分本気半分、ルルは驚いてみせた。
 このタイミングでエロエースと出会えたことはつくづく幸運だと実感している。まさか武器だけでなく他の参加者との渡りまで用意してくれるとは。
 相手が女子であることや彼が二人と別れた経緯を察して(なにせ『エロエース』だ)不安なところもあるが、この殺し合いならば問題はない。やりようはある。
 そう、殺し合いなのだ、これは。そのことを実感できたことが、ルルが彼と会ったことで得た最大のリターンだ。
 最初は自分にかけられた何らかの幻術かそのたぐいかと思ったが、それにしては突飛で大掛かりがすぎる。現れたエロエースにも特に変わったところは見られない。そしてそこら中に銃器をばらまいておく殺意の高さ。武器には困らせないから殺し合えということだろうか。
 ならルルがすべきことは一つ。肝要なのは他の参加者との合流、である。この殺し合いに巻き込まれているのが彼のような小学生ばかりなら、数が重要になってくる。ルルは自分が普通の小学生相手に遅れを取るとは思っていないが、さすがにあんな大きなライフルなどで撃たれたらひとたまりもない。ならば頭数を揃えて大量の銃器で圧殺してしまえ、というのが彼女の方針だ。

「――それじゃあ、私を二人のところまで案内してくれるかしら?」
「それなんだけど、実は……」
「チームは多い方がいいでしょう? おねがい。」
「わかりました……マジかよ。」

 いやいやという表情のエロエースを急かして案内させる。
 ワンピースの影に隠していた箸――二人で話していた、ルルの初期位置の民家で調達したもの――を取り出す。時間との勝負だ。
 そして彼に連れられて二人の少女と引き合わされて開口一番、ルルは呪文を唱えた。

「ワキウム・ワキウム・コリエーレ。」


51 : 妖怪と悪魔と―― ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/20(水) 06:26:34 x2Mviw320



(私じゃコントロール魔法はこれが限界かしら……まともにかかったのは直樹くんだけね……)

 ゾンビのように茫洋とした顔で手にライフルを持ち、入り口に突っ立っている少女達を見ながら、ルルは思う。以前似たようなことをしたエロエースならともかく、初対面で信頼も何も得ていない人間相手ではこれが精一杯だ、と。

「小島くんが戻ってくるまで見張りに立っていなさい。」
「「……」」
「……返事すらできないなんて……私に使えるのはやっぱりコリエーレだけかな……」

 羅門ルル、その正体は死霊である。
 エロエースとの接点も、もとは彼女が黒魔女に裏口でなるための生け贄の調達先として彼のいる学校に転校してきたことで生まれたものだ。
 そんな彼女は闇に属するものとして多少の黒魔法が使えるのだが、自分が施したその出来にため息をつきながら、差し出させた銃の一つをいじる。本来であれば、彼女達を忠実な兵隊にすることもできるはずなのに、見様見真似でかけた結果ゾンビのようになってしまっている。しかも黒魔法を解くこともできないと来た。これでは見るものが見れば一発で自分がそちらの世界の人間だとバレてしまうし、そうでなくても異常の原因と思われるだろう。なにせ彼女たち、自白剤か何かを打たれた人間のようになってしまっている。死霊の自分から見ても異常なのだからふつうの人間から見たら怪しさ満点ね、と銃口を小さい方の少女――ユイに向けて思った。

「いっそ殺したほうがいいかしら……こんなの連れて歩いてたら誰も寄りつかないし……」

 自分で黒魔法をかけておいて物騒なことを思いながら、銃の安全装置なるものを外してみる。正直に言えば、この拳銃一つの方がよっぽど頼りになる。黒魔女を目指すものとして認めたくはないが。
 引き金を引いてしまおうか、そう本気で思い始めて、響いてきた足音に銃を下ろす。今撃つのは、マズイ。処分するのなら彼のいない時だ。

「ルル! 戻ったぜ。」
「直樹くん、お疲れ様。」

 ルルはカワイイ女の子の顔を作ってエロエースを出迎える。
 今はこれでいい。
 幸いエロエースにかけた黒魔法は元からの好感度もあって上手く行っている。様子がおかしい二人にもまるで気づいていない。ならばまだ使い道がある。

「――人形遊びが好きなのか?」

 突然に声が響いた。
 それと同時に気配を感じた。
 いや、ふくれあがった、というべきか。

「な、なに!?」
「誰だ!」

 思わず少女らしく動揺してしまう。この感じ、間違いない。自分と同じ闇に属するものだ。それにここまで近づかれた。違う、だから近づかれた。相手がふつうの人間でないから、おそらくすぐ近くにまで。

「ここだよ。」

 驚き振り返る。
 果たしてそこにいたのは、大きな化物だった。

「ハクビシン……?」
「タヌキだよ。」
「アライグマでしょ。」
「イタチですよ。」
「……あなた達しゃべれたの?」

 ルルは驚いた。
 化物にではない。
 言葉を発した少女達に、だ。


52 : 妖怪と悪魔と―― ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/20(水) 06:27:13 x2Mviw320

「……あれ? なにこれ……なんで銃なんか……?」
「な、なにあれ!? 怪獣!?」
「怪獣じゃねえ、妖怪だ。あやかしだがな。」

 話しだした二人にルルの背に冷や汗が流れた。

(かってに黒魔法がとけてるなんて!)

 下ろしていた拳銃を上げた。このままではマズい。コントロールしていたことがバレる。いやもうあの妖怪にはバレている? どうすれば……どうすれば……

「用があるのはお前だけだ、このガキどもは食いでが無さそうだが、前菜代わりに『バァン!』ギャァ!?」

 気がつけば撃っていた。迷った末に、話しかけてきた妖怪を。一番デカくて当たりやすそうだから? 撃ったルル本人にもわからない。

「ル、ルル?」
「撃って直樹くん!」
「え、ええっ!?」
「バケモノよ! 人間を食べるって言ったわ今!」
「言ったからってイキナリ撃つやつが「わ、わかった!」オマエもわかってんじゃねえ!」

 三点バーストでライフル弾がばら撒かれる。しゃべりかけてきた妖怪は腕をひとふりすると弾丸があらぬ方向へと飛んでいく。風の黒魔法――そう認識したのは、目の前でエロエースの首が撥ね飛ばされるのを目にしたから。

「……あ。」

 そしてルルは理解した。
 自分の身体が落ちていく浮遊感を感じて。その視界に自分の立っている足を見て。

「身体が、真っ二つに、なんて、あ、ああっ、あがああああアッ!?!?!?」

 遅れて襲ってきた激痛に身悶えする。が、動く身体が無い。胸を境に上下で泣き割れた身体で動かせるのは、首と声だけだ。自分の悲鳴で同じようにダルマにされた少女達が上げて消えていく悲鳴など耳に入らない。

(こんなに……こんなにあっさり死ぬなんて! 何かの間違いだ!)
「テメエは食わねえ……マズそうだしな。だがその分ズタズタにして殺してぐべああああああっー!?」

 目の前に迫った妖怪の口も、それがなぜかぶっ飛んで行ったのも無視して自問自答。
 いったいなんで、どうして、どうしてこうなって――

「……あ。」

 そして彼女の意識がなくなる寸前、消えていく視界に見えた最後の光景。
 それは見知らぬ少年が自分を覗き込むものだ。口が三日月のように食いしばられている。まるでそれは――

(――悪魔、ね。)

 自分たち死霊と縁の深い存在が終わりに訪れる。そうか、そうなら、なら……


53 : 妖怪と悪魔と―― ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/20(水) 06:27:44 x2Mviw320



「次から次からああああムカつく! オマエも人間じゃないな!」
「…………」

 風を使う妖怪、かまちは苛立ちの声を上げて飛びかかる。
 ここに来てから、いやここに来る前からろくなことがない。
 手にしたものに莫大な力をもたらす悠久の球は手にしそこね、半人前もあからさまな伝説の子にしてやられ、情けをかけられた挙句に気がつけば見たこともない雑魚妖怪に首輪を付けられて殺し合えと言われたときた。
 これでキレない妖怪がいるか、いやいない!という心持ちで殴りかかり。

「ゴパアっ!?」

 クロスカウンターを受けてまたぶち飛ばされる。
 これもそうだ。
 同じ妖怪らしい奴に声をかけたらいきなり発狂して銃で撃つは、その銃が思いの外痛いは、かと言って戦えばかまいたち一つでまとめて死ぬ雑魚だわ、とどめを刺そうとしたら足から炎を出す謎のガキが現れて蹴り飛ばされるは。
 一体自分が何をした?
 ちょっと人間を食おうとしただけじゃないか。
 ぶっ殺すぞ。
 沸き立つ殺意に身を任せ、かまちは再び突貫しようとし、しかし足を止めた。
 なんだあれは?
 自分を蹴り飛ばしたガキが自分を見て、笑って、いる?

「テメエ……何笑ってんだああ!?」

 ブチ切れた。
 一周回って冷静になった。
 特大のかまいたちでズタズタにしてやる。
 そう決意すると大きく息を吸うかまちに対して。

「笑ってねえよ……」

 ゆっくりと膝を曲げる。

「笑えるかよ……!」

 少年、森羅日下部の姿が消える。
 次の瞬間、かまちの腹にしたたかな打撃が打ち込まれた。
 またはじき飛ばされる。

「ナメんな!」

 風を使い受け身を取るとかまちは体勢を戻してゆっくりと構えを取る。
 合わせてシンラも腰を落とす。
 当事者不在の戦場は、まだ続く。


54 : 妖怪と悪魔と―― ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/20(水) 06:28:29 x2Mviw320



【0045頃 商店街】

【かまち@妖界ナビ・ルナ(1) 解かれた封印(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 ぶっ殺す!

【森羅日下部@炎炎ノ消防隊 悪魔的ヒーロー登場(炎炎ノ消防隊シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 一人でも多くの人を助ける
●小目標
 ???



【脱落】

【羅門ルル@黒魔女さんが通る!!
チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【小島直樹@黒魔女さんが通る!! チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【ユイ@妖界ナビ・ルナ(2) 人魚のすむ町(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【生絹@天使のはしご5(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】



【残り参加者 292/300】


55 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/20(水) 06:31:32 x2Mviw320
投下終了です。
ようやくフォア文庫から参戦。


56 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/22(金) 00:00:35 p0I/wuvs0
児童文庫ロワなのに児童が少なすぎる。
投下します。


57 : キックオフ ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/22(金) 00:01:28 p0I/wuvs0



 ポーン。
 ポーン。
 ザ、ポーン。
 パアン。
 ポーン。ザザッ。

「あ。またした。」

 転がってきたボールをインサイドで止めて、耳を澄ませる。少ししてまたボールを蹴る。五分ほどそうして、またどこかで音がする。

「今度のは低く響くな。」
「マシンガンみたいな、連射できるやつだな。」

 ボールと共に返ってきた言葉に、パスで答える。地面スレスレを這うように飛んでいったボールは、ワントラップで菊地英治の手に収まった。


 小林疾風が気がついた時、どことも知れぬ公園のベンチに寝そべっていた。
 わけもわからずに周囲を見渡す。
 砂場に空気の少し抜けたサッカーボールが転がっていた。
 疾風はサッカーが好きだ。
 自分なら将来プロにだってなれる、と本気で信じているぐらいに。
 だがそれもただの夢で終わるはずだった。
 あの時あの場所で、今している首輪によって殺されたときのように。

「ハッ……ハッ……!」

 ああ、そうだ、たぶんそれを考えないようにしていたんだ。だから頭がボーっとしていたんだ。またあんなゲームに巻き込まれたなんて、一度殺されて生き返らされて、また殺されるなんて。
 ……いや、本当に殺されたんだろうか? リアリティがない。死んだことがないのでなんとも言えない。でもあの感じは、それに前の時に見せしめで死んだ女の子を見た感じも、たぶん死んでいた……と思う。

「わけわかんねえよもう……」

 自分でも情けないな、と思う。
 でもそんな声を出さずにはいられない。
 いつの間にか始めていたドリブルと共に、どんどん考えるスピードが上がっていく。
 あの後旋風達はどうなっただろう。ギロンパの刑務所から脱出できただろうか。ギロンパは逮捕できたのか。ていうか、アレ人間か?

「上手いな。」

 突然かけられた声に、旋風はつんのめった。
 見られていた、そうだよな、公園だもんな、じゃなくて。

「こ、殺さないで、もう殺さないでくれ!」

 ダッセェと思う。自分でわかるくらいにビビりまくった、情けない声だ。声だけじゃない、体もふるえてる。そうか、それが嫌でドリブルしてたのか?

「……違う、サッカーが、好きだからだ。」

 そこは譲れない。譲ったら負けだ。
 絶対認めてやるもんか。
 疾風は精一杯の気合を入れて、目を開ける、顔を上げる。
 少し離れたところでリフティングしていたのは、中学生ぐらいの男だった。

「俺もだ。」

 言葉が返ってきた。
 ボールも返ってきた。


58 : キックオフ ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/22(金) 00:01:51 p0I/wuvs0



 またどこかで銃声がする。
 二人の間で交わされたパスは有に百を超えた。

「前のゲームじゃ銃って配られたのか?」
「いや、そういうのは無かったな。」
「あのツノウサギって変なのは?」
「いなかった。前のはギロンパっていう、なんか遊園地とかにいそうなマスコットみたいなんで、あんな動物っぽくなかった。」

 ボールと共に情報が行き交う。
 頭を動かすなら体を動かしながらの二人は、ボールの速度が思考速度のバロメーターとなる。
 はじめはポツポツと、自分の身に起こったことを信じてもらえないだろうと前のゲームについて語り始めた疾風であったが、あっという間に自分が巻き込まれたゲームとその結果至った死まで話す。

「なんでそんな簡単に信じるんだ?」

 そう問うた疾風に返ってきたのは。

「だってその方が面白そうじゃん。」

 というのだから、思わず吹き出してしまう。
 そしてお返しにと話された英治の武勇伝にも驚かされた。
 廃工場に立て籠るはカルト教団やヤクザとやり合うは、ギロンパとは別の意味で非現実的で、それでいてワクワクするような話。
 どうせならそんな冒険でハラハラしたかった、と言うと、なら脱出してから一緒にやろうとボールが来た。
 胸でトラップして蹴り返す。どうやって、と。
 英治も胸で受け止めて蹴り返す。このゲームをブッ壊して、と。

「でもどうやって?」
「まず必要なのは仲間だ。知り合いが巻き込まれてないならいいけど、前も兄弟とか同級生一緒に巻き込まれたんだろ。たぶんこのゲームの主催者も同じじゃないか。」
「どうしてそう思うんだ?」
「わざわざ死んだヤツ生き返らせる理由ってそんなんじゃね? だから――よっ!」
「おっとっと……だから?」
「だから、お前の弟は生きている。」
「……………………」
「生きてたってことは、前のゲームをブッ壊した。生きてたから、また巻き込まれた。」
「……そんな相手どうすりゃいいんだよ。」
「そうか? 死んだ人間を生き返らせるようなヤツに一回勝ったんだぜ? なら――」

 一際強くボールが来た。

「また勝とうぜ。今度はみんな一緒で、だ。」


59 : キックオフ ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/22(金) 00:02:14 p0I/wuvs0



【0045頃 公園】

【小林疾風@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 弟(小林旋風)が心配
●小目標
 英治と話す

【菊地英治@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 このクソッタレなゲームをブッ壊す
●小目標
 疾風と話す


60 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/22(金) 00:33:55 p0I/wuvs0
投下終了です。
ついでに暫定参加者名簿置いときます。



【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】4/4
○東方仗助○空条承太郎○片桐安十郎○虹村形兆
【ギルティゲームシリーズ@小学館ジュニア文庫】3/3
○深海恭哉○小林旋風○小林疾風
【鬼滅の刃シリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○塁に切り刻まれた剣士○塁○蜘蛛の鬼(兄)
【ぼくらシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
○菊地英治○宇野秀明●天野司郎
【かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】2/2
○白銀御行○藤原千花
【銀魂シリーズ@集英社みらい文庫】2/2
○岡田似蔵○武市変平太
【若おかみは小学生!シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/2
○関織子●神田あかね
【天使のはしごシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/2
○竜土●生絹
【妖怪ウォッチシリーズ@小学館ジュニア文庫】1/2
○天野ナツメ●タベケン
【絶望鬼ごっこシリーズ@集英社みらい文庫】1/2
○関本和也●大場結衣
【妖界ナビ・ルナシリーズ@フォア文庫】1/2
●ユイ○かまち
【黒魔女さんが通る!!シリーズ@講談社青い鳥文庫】0/2
●羅門ルル●小嶋直樹
【テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○磯崎蘭
【ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】1/1
○富竹ジロウ
【NARUTOシリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○桃地再不斬
【けものフレンズシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○ビースト
【ラストサバイバルシリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○早乙女ユウ
【クレヨンしんちゃんシリーズ@双葉社ジュニア文庫】1/1
○佐藤マサオ
【名探偵コナンシリーズ@小学館ジュニア文庫】1/1
○円谷光彦
【炎炎ノ消防隊シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○森羅日下部


61 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/23(土) 02:19:11 wH/XdG6Q0
主役級を書くのが苦手だって気づき始めました。
投下します。


62 : 三度目があるってことは二度目があったってこと ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/23(土) 02:20:12 wH/XdG6Q0



「うわー、またこれか……」

 伊藤孝司は空を見上げて大げさなリアクションをとった。その声にはあきれ半分ウンザリ半分という色がある。一度メガネを外し、ハンカチで拭いてかけ直して、それでもまだ空が赤黒いままだと確認すると、「今回の鬼ごっこは変なところだな……」とこぼして周囲を見渡す。周りに広がる赤い霧と、火花散る赤い空を見比べて、小走りに近くの木へと背中を預けた。
 彼、孝司が命がけのゲームに巻き込まれるのはこれで三度目だ。その時は首輪はなかったが、霧と空と主催者に見知った顔(知りたくは無いが)がいたことから、これがホンモノの殺し合いだと即座に理解する。

「……とりあえず隠れてみたけどここからどうしよう……」

 が、別に何か特別な力も何もないただの小六なので、理解したところでできることなど無いのだが。

「せめてルールの書いたプリントとか配ってくれないかなあ。あんな説明一回聞いただけじゃ覚えられないよ……おっと。」

 前の鬼ごっこでは説明する気があるのかないのかわからないいい加減なものではあったが、いちおうはルール説明があった。黒板に気がついてたら書いてあったり店内放送で流したりとやり方は違ったが、さすがにあんな説明は説明になっていないと思う。まあでもそのうちおって放送とかあるだろう、と一人で勝手に納得していたところで、ポケットに突っ込んだ手が何かに触れる。

「えーと、なになに……『装備:切った爪コレクション"  場所:運送会社  説明:伸びた爪を爪切りで切ったもののコレクション』……うわあ、いらないわ……」

 ……なんでこんなもののありかをメモにして渡した? ていうかいつの間に入れた? そもそもなんでこんなもの集めた?
 ツッコみたいことは多々あるが、まあ鬼のやることだしと頭を切り替える。だいたい子供を何人も誘拐するは命がけの鬼ごっこさせるはの鬼のような奴らなんだし、頭おかしいのは今に始まったことではない。

「あ、これに書いてある運送会社ってあそこかな。トラックいっぱい停まってるし。つまりこのメモは――」

「――どういうことなんだろう?」

 なんかひらめきそうな気がしたがそんなことはなかった。
 それはそれとしてとりあえず他に目的地になりそうな近場の建物もないので行ってみる。
 こういうときに主人公とかだとひらめいたりするんだろうなあ、と同級生の顔を思い浮かべながらあっさりとたどり着いた。

「あれー? なんか起こると思ったんだけどなあ。意外とボクってあんまり危ないシーンないよね。なんか脇役みたいでちょっと悲しいなあ。ボクだって命がけなのに……あ、おじゃましまーす。」

 特に拠点を得ることのメリットやデメリットには考え至らずにどうでもいいことを考えながら建物の中へと入る。もちろんトラップへの警戒などしない。ちょっと聞き耳を立てて忍び足をするぐらいだ。
 三度目のデスゲームでも、彼は悲しいくらいに一般人であった。


63 : 三度目があるってことは二度目があったってこと ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/23(土) 02:20:52 wH/XdG6Q0



 所変わって机に向けて難しい顔をしている和服の少女が一人。
 着ている服装はしっかりと着付けられた紺の着物で、髪は後ろで一つ結びにされている。そしてあどけない顔立ちと身長から、彼女が十歳を過ぎたほどの年頃だと伺える。
 そんな彼女は机の上に置かれた物をじっと見ていた。かれこれ数分はそうしている。そして散々に頭をひねり首をひねり、最後にほっぺたをつねったあと、冷や汗を流しながら呟いた。

「おもちゃ……だよね?」

 関織子ことおっこは、会社の事務所のような場所に平然と置かれていたショットガンを前に途方に暮れていた。


 おっこはおばあちゃんのやっている春の屋という旅館の若おかみだ。小学生だてらに頑張って努めているが、さすがに銃の忘れ物というのは見たことがない。というかそもそも殺し合いに巻き込まれたことなんてない。そもそもここがどこかすらわからない。まさか自分が瞬間移動的なものをされたなど発想に至らず、おろおろと事務所内をうろつく。勝手に入ってしまって申し訳ないのと、勝手に出ていっていいかわからず右往左往。
 いちおうスマートフォンも持っているのだが、極度の機械音痴の彼女はそれを使うという発想も無い。まああったところでどこに通じるというわけでもないのだが。
 やがてらちが明かぬと壁や窓まで調べ始める。そして彼女はその時初めて外の異常に気づいた。

「な、なにこの赤い霧!? スモークかしら? え、空も!?」

 更なる困惑をもたらす情報に触れて、より一層パニックになる。こんな経験は初めてだ。ますます自分が見ているものが夢にしか思えずまたほっぺたをつねる。かわらず痛い。一体何がどうなっているんだろう……そう頭を悩ますところに更なる情報が来た。人影だ。


「あれー? なんか起こると思ったんだけどなあ。意外とボクってあんまり危ないシーンないよね。なんか脇役みたいでちょっと悲しいなあ。ボクだって命がけなのに……あ、おじゃましまーす。」

 続いて声も聞こえてきた。窓ガラス越しでも真下の独り言って聞こえるんだなあ、などと変なところに感心するもすぐに思い直す。せっかく人を見つけたんだ、話を聞かなくては。

「すみま――うお!? 日本刀!? え、これホンモノ? うわスゴイホンモノだこれ!」

 小走りに部屋のドアを開けようとして、聞こえてきた声にドアノブを回そうとした手を止める。
 え、日本刀?
 刀?

「おぉ……なんとなくこれからは、すごい『何か』を感じる。そんな『凄み』を感じる一品だ……!」
(な、なんで武器なんて持ってるんだろう……)
「こっちには拳銃!? なにここボーナスステージ!? スゴいなこれって、まるで…………いい例えが出てこないけれどとにかくスゴイな!」
「じゅ、銃!? あ!」
「だ、誰ですか!」

 しまった! 大声を出してしまった!
 どうしようどうしよう大変なことになってしまった何か身を守れるものは……あった!

「この部屋か! よし、手を挙げ「う、動かないでください!」え、ちょ、ショットガン!?」

 ドアが開かれた。見知らぬ少年の顔が見えた。その鼻先に、おっこはショットガンの銃口を突きつけていた。

「――殺さないでください。」

 そう言って孝司は武器を捨てると両手を上に挙げた。

 ちなみに日本刀はただの日本刀だった。


64 : 三度目があるってことは二度目があったってこと ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/23(土) 02:21:16 wH/XdG6Q0



「鬼ごっこ……?」
「そう、前に二回巻き込まれてさ、あのツノウサギっていうツノの生えたウサギに。」

 数分後、おっこは持ち前のコミュ力と明るさで孝司と打ち解けていた。簡単に自己紹介をすれば、孝司が前に似たようなことをした経験があるといい、あっさりと鬼ごっこについて話は移る。

「鬼だからなのか鬼ごっこさせられたんだよね。一回目が牛の鬼、牛頭鬼っていうのがボスで、二回目が馬の鬼、馬頭鬼ってやつ。なんか有名な鬼らしいんだけど、聞いたことある?」
「ないわ。それって本当に鬼、なのかな?」
「よくわかんないけど二本足で歩いて角生えてて食べようとしてくるんだから鬼でいいんじゃない?」

 内容の割にあんまり真剣さが感じられない表情と口調だが、おっこは孝司が嘘を言っているようには思えなかった。しかしおっこのよく知る鬼はイタズラこそすれどそんなひどい真似は絶対にしない鬼だ。なので孝司の言っていることに引っかかりを感じてはいのだが、結局困惑が深まるばかりだ。
 なによりこの首輪とか殺し合いについては、孝司の口から何一つ情報を得られなかった。今の所無関係なデスゲームの話を聞かされただけである。

「あ、誰か来た。」
「どこ?」
「ほらあそこ、二人組。」
「あ、本当だわ。」
「声かけに行く? ていうかここに来るね。」
「あ! そういえばあたし、気がついたら変なメモがあってね、これ。」
「それボクも持ってるよ。あ、じゃあこれ色んな人に配られてるのかな。」

 自分が知る鬼の知識と聞き出した情報を比べての考察はあっさりと終わった。元々二人とも頭を使うのはあまり得意ではない。体育が得意科目のおっこはもちろん、読書は好きだが殺し合いの考察などしたことのない孝司も色々考えたがわざわざ口に出すほどの考えはない。残念ながら彼はコメディリリーフである。

「おじゃましまーす……」「しまーす……」
「あ、いらっしゃーい。」
「うわほら人いるじゃん!」「落ち着け! こっちにはニホントウがあるんだぜ!」
「こっちにも日本刀はあるぞ!」
「マジかよ! やべぇ!」「こっちは二人いるんだぞ! ニホントウも二つだからね!」
「こっちも二人いるし拳銃もあるし!」
「……武器多くねえか? そこにも日本刀落ちてるし……」「なんでこんなに武器ばっか落ちてるのさ!」
「これで関さんの分の日本刀もあったね。」「いらないです。」

 がやがやと日本刀を抜刀しつつ現れた男女に、二人は相対する。
 小嶋元太とG・ロードランナー、新たな参加者との出会いに二人は――



【0045頃 郊外・運送会社】

【伊藤孝司@絶望鬼ごっこ くらやみの地獄ショッピングモール(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 とりあえず鬼ごっこだったら逃げるよね
●小目標
 四人で話す

【関織子@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみは小学生!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないけど家に帰りたい
●小目標
 四人で話す

【小嶋元太@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 そもそも最初の話をまともに聞いてなかった

【G・ロードランナー@角川つばさ文庫版 けものフレンズ 大切な想い(けものフレンズシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 そもそも最初の話をまともに聞いてなかった


65 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/23(土) 02:29:11 wH/XdG6Q0
誤字のあるレスが多かったので投下し直します。


66 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/23(土) 02:34:26 wH/XdG6Q0



「うわー、またこれか……」

 伊藤孝司は空を見上げて大げさなリアクションをとった。その声にはあきれ半分ウンザリ半分という色がある。一度メガネを外し、ハンカチで拭いてかけ直して、それでもまだ空が赤黒いままだと確認すると、「今回の鬼ごっこは変なところだな……」とこぼして周囲を見渡す。周りに広がる赤い霧と、火花散る空を見比べて、小走りに近くの木へと背中を預けた。
 彼、孝司が命がけのゲームに巻き込まれるのはこれで三度目だ。前の時は首輪はなかったが、霧と空と主催者に見知った顔(知りたくは無いが)がいたことから、これがホンモノの殺し合いだと即座に理解する。

「……とりあえずかくれてみたけどこれからどうしよう……」

 が、別に何か特別な力も何もないただの小六なので、理解したところでできることなど無いのだが。

「せめてルールの書いたプリントとか配ってくれないかなあ。あんな説明一回聞いただけじゃ覚えられないよ……おっと、なんだろこれ。」

 前の鬼ごっこでは説明する気があるのかないのかわからないいい加減なものではあったが、いちおうはルール説明があった。黒板に気がついてたら書いてあったり店内放送で流したりとやり方は違ったが、さすがにあんな説明は説明になっていないと思う。まあでもそのうちおって放送とかあるだろう、と一人で勝手に納得していたところで、ポケットに突っ込んだ手が何かに触れる。

「えーと、なになに……『装備:切った爪コレクション"  場所:運送会社  説明:伸びた爪を爪切りで切ったもののコレクション』……うわあ、いらないわ……」

 ……なんでこんなもののありかをメモにして渡した? ていうかいつの間に入れた? そもそもなんでこんなもの集めた?
 ツッコみたいことは多々あるが、まあ鬼のやることだしと頭を切り替える。だいたい子供を何人も誘拐するは命がけの鬼ごっこさせるはの鬼のような奴らなんだし、頭おかしいのは今に始まったことではない。

「あ、これに書いてある運送会社ってあそこかな。トラックいっぱい停まってるし。つまりこのメモは――」

「――どういうことなんだろう?」

 なんかひらめきそうな気がしたがそんなことはなかった。
 それはそれとしてとりあえず他に目的地になりそうな近場の建物もないので行ってみる。
 こういうときに主人公とかだとひらめいたりするんだろうなあ、と同級生の顔を思い浮かべながらあっさりとたどり着いた。

「あれー? なんか起こると思ったんだけどなあ。意外とボクってあんまり危ないシーンないよね。なんか脇役みたいでちょっと悲しいなあ。ボクだって命がけなのに……あ、おじゃましまーす。」

 特に拠点を得ることのメリットやデメリットには考え至らずにどうでもいいことを考えながら建物の中へと入る。もちろんトラップへの警戒などしない。ちょっと聞き耳を立てて忍び足をするぐらいだ。
 三度目のデスゲームでも、彼は悲しいくらいに一般人であった。


67 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/23(土) 02:35:39 wH/XdG6Q0



 所変わって机に向けて難しい顔をしている和服の少女が一人。
 着ている服装はしっかりと着付けられた紺の着物で、髪は後ろで一つ結びにされている。そしてあどけない顔立ちと身長から、彼女が十歳を過ぎたほどの年頃だとうかがえる。
 そんな彼女は机の上に置かれた物をじっと見ていた。かれこれ数分はそうしている。そして散々に頭をひねり首をひねり、最後にほっぺたをつねったあと、冷や汗を流しながら呟いた。

「おもちゃ……だよね?」

 関織子ことおっこは、会社の事務所のような場所に平然と置かれていたショットガンを前に途方に暮れていた。


 おっこはおばあちゃんのやっている春の屋という旅館の若おかみだ。小学生だてらに頑張って努めているが、さすがに銃の忘れ物というのは見たことがない。というかそもそも殺し合いに巻き込まれたことなんてない。そもそもここがどこかすらわからない。まさか自分が瞬間移動的なものをされたなど発想に至らず、おろおろと事務所内をうろつく。勝手に入ってしまって申し訳ないのと、勝手に出ていっていいかわからず右往左往。
 いちおう携帯電話も持っているのだが、極度の機械音痴の彼女はそれを使うという発想も無い。まああったところでどこに通じるというわけでもないのだが。
 やがてらちが明かぬと壁や窓まで調べ始める。そして彼女はその時初めて外の異常に気づいた。

「な、なにこの赤い霧!? スモークかしら? え、空も!?」

 更なる困惑をもたらす情報に触れて、より一層パニックになる。こんな経験は初めてだ。ますます自分が見ているものが夢にしか思えずまたほっぺたをつねる。かわらず痛い。一体何がどうなっているんだろう……そう頭を悩ますところに更なる情報が来た。人影だ。


「あれー? なんか起こると思ったんだけどなあ。意外とボクってあんまり危ないシーンないよね。なんか脇役みたいでちょっと悲しいなあ。ボクだって命がけなのに……あ、おじゃましまーす。」

 続いて声も聞こえてきた。窓ガラス越しでも真下の独り言って聞こえるんだなあ、などと変なところに感心するもすぐに思い直す。せっかく人を見つけたんだ、話を聞かなくては。

「すみま――うお!? 日本刀!? え、これホンモノ? うわスゴイホンモノだこれ!」

 小走りに部屋のドアを開けようとして、聞こえてきた声にドアノブを回そうとした手を止める。
 え、日本刀?
 刀?

「おぉ……なんとなくこれからは、すごい『何か』を感じる。そんな『凄み』を感じる一品だ……!」
(な、なんで武器なんて持ってるんだろう……)
「こっちには拳銃!? なにここボーナスステージ!? スゴいなこれって、まるで…………いい例えが出てこないけれどとにかくスゴイな!」
「じゅ、銃!? あ!」
「だ、誰ですか!」

 しまった! 大声を出してしまった!
 どうしようどうしよう大変なことになってしまった何か身を守れるものは……あった!

「この部屋か! よし、手を挙げ「う、動かないでください!」え、ちょ、ショットガン!?」

 ドアが開かれた。見知らぬ少年の顔が見えた。その鼻先に、おっこはショットガンの銃口を突きつけていた。

「――殺さないでください。」

 そう言って孝司は武器を捨てると両手を上に挙げた。

 ちなみに日本刀はただの日本刀だった。


68 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/23(土) 02:37:46 wH/XdG6Q0



「鬼ごっこ……?」
「そう、前に二回巻き込まれてさ、あのツノウサギっていうツノの生えたウサギに。」

 数分後、おっこは持ち前のコミュ力と明るさで孝司と打ち解けていた。簡単に自己紹介をすれば、孝司が前に似たようなことをした経験があるといい、あっさりと鬼ごっこについて話は移る。

「鬼だからなのか鬼ごっこさせられたんだよね。一回目が牛の鬼、牛頭鬼っていうのがボスで、二回目が馬の鬼、馬頭鬼ってやつ。なんか有名な鬼らしいんだけど、聞いたことある?」
「ないわ。それって本当に鬼、なのかな?」
「よくわかんないけど二本足で歩いて角生えてて食べようとしてくるんだから鬼でいいんじゃない?」

 内容の割にあんまり真剣さが感じられない表情と口調だが、おっこは孝司が嘘を言っているようには思えなかった。しかしおっこのよく知る鬼はイタズラこそすれどそんなひどい真似は絶対にしない鬼だ。なので孝司の言っていることに引っかかりを感じてはいのだが、結局困惑が深まるばかりだ。
 なによりこの首輪とか殺し合いについては、孝司の口から何一つ情報を得られなかった。今の所無関係なデスゲームの話を聞かされただけである。

「あ、誰か来た。」
「どこ?」
「ほらあそこ、二人組。」
「あ、本当だわ。」
「声かけに行く? ていうかここに来るね。」
「あ! そういえばあたし、気がついたら変なメモがあってね、これ。」
「それボクも持ってるよ。あ、じゃあこれ色んな人に配られてるのかな。」

 自分が知る鬼の知識と聞き出した情報を比べての考察はあっさりと終わった。元々二人とも頭を使うのはあまり得意ではない。体育が得意科目のおっこはもちろん、読書は好きだが殺し合いの考察などしたことのない孝司も色々考えたがわざわざ口に出すほどの考えはない。残念ながら彼はコメディリリーフである。

「おじゃましまーす……」「しまーす……」
「あ、いらっしゃーい。」
「うわほら人いるじゃん!」「落ち着け! こっちにはニホントウがあるんだぜ!」
「こっちにも日本刀はあるぞ!」
「マジかよ! やべぇ!」「こっちは二人いるんだぞ! ニホントウも二つだからね!」
「こっちも二人いるし拳銃もあるし!」
「……武器多くねえか? そこにも日本刀落ちてるし……」「なんでこんなに武器ばっか落ちてるのさ!」
「これで関さんの分の日本刀もあったね。」「いらないです。」

 がやがやと日本刀を抜刀しつつ現れた男女に、二人は相対する。
 小嶋元太とG・ロードランナー、新たな参加者との出会いに二人は――



【0045頃 郊外・運送会社】

【伊藤孝司@絶望鬼ごっこ くらやみの地獄ショッピングモール(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 とりあえず鬼ごっこだったら逃げるよね
●小目標
 四人で話す

【関織子@若おかみは小学生! PART13 花の湯温泉ストーリー (若おかみは小学生!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないけど家に帰りたい
●小目標
 四人で話す

【小嶋元太@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 そもそも最初の話をまともに聞いてなかった

【G・ロードランナー@角川つばさ文庫版 けものフレンズ 大切な想い(けものフレンズシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 そもそも最初の話をまともに聞いてなかった


69 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/01/23(土) 02:38:43 wH/XdG6Q0
投下終了です。
媒体別ネタをやりたいのにそこを誤字るのはどうなんですかね?


70 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/09(火) 06:22:06 Zkwm4JZc0
こんなに寒い日はロワ。
投下します。


71 : 一般人A ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/09(火) 06:23:16 Zkwm4JZc0



「村上さん、またあったよ。」
「ウソだろ……」

 慎重な手つきで、小村克美はクレイモアを両手で手に取る。
 ガンシューティングゲームで見たことがある、センサー式の爆薬を、村上が転がしている買い物かごにゆっくりと入れた。
 そして一緒に見つけたアサルトライフルからマガジンを抜くとこれも買い物かご入れる。
 既に二台目となったカートを見ながら、こんだけ武器あるとホラーっていうよりFPSだよな、などと思いながら、改めて今の状況に頭を悩ませた。
 克美はただの男子小学生だ。
 東京の郊外に住むゲーム好きの、日本に万単位でいる一般的な子供である。
 そんな自分がなんでこんな特殊部隊のエージェントでもなきゃ巻き込まれないようなイベントに参加しているのか、人選おかしいんじゃないか、などと愚痴りたくもなる。
 今同行している村上もそうだ。
 体育会系の中学生というのはそりゃ漫画の主人公にはなりそうだけど、別に何か得意なことがあるわけではないらしい。
 ゲームならこういう場所で最初に出会うのはそれなりの重要人物だと思うのだが、お互いの第一印象は「普通……」というものだった。

「あ、またあった。」
「今度はなんだ? 手榴弾?」
「ううん、またM16A4。」

 棚の一つ一つ、店の一つ一つを巡っては銃から弾を抜き、爆薬を拾っていく。
 最初は銃ごと持っていこうと思ったが、異常なまでのドロップ率と『アイテムは持てば持つほど重くなる』というゲームとは違う仕様に諦め今に至る。
 「こんなんならワタルからファンタジーゲー借りとくんだった」と友人の姿を頭の中で浮かべながらボヤくが、どこからか響いた軽いパキりという音に、足を止める。
 冷や汗が流れる。
 横の村上と目を見合わせる。
 そして数分して何も起こらないと判断して、「行こうか」という村上の言葉に頷き、歩くことを再開した。

「……なあ、やっぱり見間違いじゃない、よな……?」
「……わかんないけどさ、銃はあっても困らないと思うよ?」
「……そっか。」

 俯いたところで手榴弾を見つけ、買い物かごに入れる。
 ついに三つ目のかごが埋まり残るは四つ目。そこまできて近くにあったカートを取ると、五つ目と六つ目のかごを乗せた。
 話は三十分前に遡る。
 どこかのデパートらしき場所で目を覚した二人は、数分後には同じフロアにいたのもあり合流し、情報交換をしていた。
 と言っても大したことを話せるわけでもないのだが、幸か不幸か二人は見たのだ。
 エスカレーターにより吹き抜けとなった場所で、数階下の位置にいた巨人を。
 詳細はわからない。
 だが、明らかに人間のものではない頭部と、おかしいサイズ感、なにより筋骨隆々とした身体。どう見ても敵、しかもボスキャラっぽかった。
 というわけで二人で必死になって武器を集めているのだが、集めれば集めるほど不安な気持ちが膨らんでいく。
 こんなにも武器が多いということは、それはすなわちそれだけ敵が多くて強いということではないか、と。

 カッ。

「っ!」
「しっ!」

 また、音がした。
 二人で息を潜めて、村上はライフルを、克美は手榴弾をそれぞれ構える。
 今度の音は、多分気のせいではない、と互いに何度も視線を交して確認する。
 音の出処は、エスカレーター。
 しかも今度は間違いなく、誰かが登ってきている。
 カートを置いて密やかに移動する。
 一人は、ウェーブのかかった長髪。もう一人は、奇怪な髪型の学生服の男。
 先程の巨人ではないようだが……

「――私たちは殺し合いに乗っていないわ。話をしても大丈夫かしら?」

 バレてんじゃねーか!
 二人で顔を見合わせる。
 まるで相手は何かのエージェントのようにこちらに気づいている。ハリウッド映画で見る、主人公が待ち伏せするモブキャラに話しかける、アレだ。
 少しの間二人は考えると、持っていた武器を置いた。


72 : 一般人A ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/09(火) 06:23:44 Zkwm4JZc0



「君たち、さぞこれまで心配だっただろう。だが我々と一緒にいればもう安全だ。全員殺し合いなんて馬鹿げた真似をする気はもちろん無い。おっと、自己紹介がまだだったな。私は日本科学技術大学教授、上田次郎だ。『ドンと来い!超常現象』の作者と言ったほうがわかりやすいかな。」

 なんだこのオッサン、というのが二人が抱いた感想だった。
 二人が出会った人物、紅月美華子と虹村億泰に連れられてエレベーターで一階まで降り、警備室らしき場所まで案内されると、胡散臭い男性と、村上と同年代くらいの少女がいた。
 いきなりキャラが増えたことにも統一感のない一同にも、二人は困惑する。
 美華子と少女はいい。なんとなく自分たちと同じ側の人間だとはわかる。
 問題は男性陣だ。この上田と名乗った男、そこはかとなく怪しい。何とは言わないが、関わるとろくな目にあわなそうな感じがする。例えて言うなら、ホラーゲームに出てくるマッドサイエンティスト的な感じがする、と克美は思った。
 そして何より、億泰と名乗った男。なんかもう、外見からして怖い。髪型も怖いし顔も怖いし制服も改造してるし、絶対ヤンキーだと二人は確信していた。

「名前はかわいいんだけどな、虹村って。」
「紅月もすごいよな。」

 全然関係ないことを話して気を紛らわせながらも、二人の視線は四人の持つ武器へといく。
 当たり前といえばそうなのだが、このデパート、どうやら武器は全ての階に置かれているらしい。
 ここまで二人が転がしてきた三つのカート六つの買い物かごに詰め込まれた武器弾薬とちょうど同じ程の量が、同じように買い物かごに整然と並べられていた。
 こんだけあればゾンビの百体や二百体倒せそうだ。

「……今更だけどさ、小村、だっけ? 銃、使える?」
「村上さんは?」
「俺も。無理だよなあ撃ったことないし。でもさ、それはみんな同じだよな。」
「まあ、それは。」
「じゃあ、銃があっても殺し合わないってことも――」

 あるんじゃないか、と続けようとしたところで、監視カメラの映像に変化が訪れる。二人をここまで連れてきた変わった苗字の二人がこちらへと向かってくるのが見えた。

「あの二人って重要人物っぽいよね。服とか気合い入ってるし。」
「そこかよ。」
「あと、これも。」

 映像から目を離さないまま、克美は数枚のメモ用紙をペラペラとする。
 そこには事前に紅月達四人で交した自己紹介と情報交換がまとめられていた。
 ますます、ゲーム内のアイテムっぽいなと克美が思いながら見たそれには、信じられないことが書いてあった。それは。

 コンコン。

 ノックの音が三三七拍子で響く。五秒置いて扉が開く。
 買い物袋を持った紅月が入ってくる。その後ろから、弾薬を満載したカートを転がした虹村が入ってくる。そしてその後ろには、まるで透明人間が持っているように買い物袋が宙に浮いていた。

「スタンドってなんだよ……」
「タイムワープってなんだよ……」

 紙に書かれた突飛な考察と目の前で当然のように起こる超常現象に、二人は揃って困惑の声を上げた。


73 : 一般人A ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/09(火) 06:24:12 Zkwm4JZc0



「私、この首輪のこと知ってるんです。」

 上層階への偵察を終えて戻ってきた紅月と虹村が合流し、再び六人全員が集まった室内に、少女、北上美晴によって『前回』のゲームについて語られていく。
 突然誘拐された、百人の子どもたちが理不尽なゲームをさせられた、次々に首輪によってカチコチにされて、殺されていった。
 あまりに非現実的な話に、克美と村上は俯き、紙へと目を落とす。
 そこにあるのは、今が1999年だという虹村と、今が2019年だという紅月の主張。
 今は2006年だろ、と思いながらページをめくると、上田と北上の別の年から来たという情報が目に入る。
 つまり、わけのわからない情報から逃げ場がない。

(ドッキリかな? カメラどこだろ。)
「じゃあ、そのギロンパっていうロボットが、異なる時間から私たちを連れてきたってことかしら。」
「きっとそうだと思います。でも……未来の世界からやってきたって言っても、未来で犯罪者になってたっていうのは嘘だったし、それに、ギロンパは刑務所の爆発に巻き込まれて死んだはずなんです。」
「ロボットならバックアップがあってもおかしくはないけれど、うん、やっぱり情報が足りないわね。違っているところも多いし、この首輪について以上のことを同じと考えるのはやめておいたほうがよさそうかしら。虹村くん、スタンドにこういった――」
(……でも、さっき袋が宙に浮いてたよな。超能力みたいに。超能力なのか? スタンドって。超能力って本当にあるのか?)

 もう一度紙を見る。
 虹村が述べたとされるスタンドについての情報がある。
 改めて二人は顔を見合わせた。
 既にゲーム開始から一時間ほど経つが、その後半三十分間に新たに知った情報に二人は困惑しっぱなしであった。
 ギロンパなる謎のマスコットがタイムワープしてデスゲームを開いたとか、スタンドと呼ばれる超能力があるとか、そもそも二人以外が生きてる時代がバラバラだとか、もうわけがわからない。
 ホラーなのかガンシューティングなのかファンタジーなのかSFなのかジャンルも判然としないせいで自分たちが何をやってるのかもサッパリだ。
 こうしている間にも自分たち以外の四人で考察が進んでいるのだが、ノリについて行けていない。
 むしろなぜみんなこの状況をドッキリだとか少しも疑わずに受け入れられるのか。
 そりゃ、克美達だって巨人を目にしたしこれが謎パワーを持つ主催者による殺し合い的なものだとはわかる。
 わかるのだが、だからといってはいそうですかと殺し合いを打破する話し合いに参加できるのかというと、それは別だ。
 しかも二人には役に立ちそうなエピソードトークもない。
 あの胡散臭い上田教授なるオッサンですら自称霊能力者が起こした事件を解決した、という眉唾ものの話すらできるのに、二人はフルスペックの一般人、全くと言っていいほど有益な情報はない。
 自然二人で形見の狭い思いをしながら四人についていく他なかった。
 ――余談だが、虹村億泰がスタンドについての情報を開示したり北上美晴がギロンパについての情報を開示したりするのはこんな状況でもなければまずありえないのだが、そんなことは二人が知る由もなかった。
 そんなこんなで今度は物資調達という名の棚荒らしを行うという話に二人は流されるまま乗り、部屋を出て四人の後を歩く。
 五階で巨人にビクビクしながら二人で武器集めてた時よりは怖くないけど、なんかパッとしないなあと思いながらエスカレーター近くまで来る。
 影がかかる。


74 : 一般人A ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/09(火) 06:24:32 Zkwm4JZc0
「え。」

 爆音がする。
 爆発?と克美が思う間もなく、何かが飛んでくる。
 瓦礫だ。
 砕けた床材と、その上にあったはずのエスカレーターの部品が、近くにあった看板などにぶち当たり破片の数を増やしながら殺到したのだ。
 だがもちろんそんなことに気づくような走馬灯が流れる訳もなく。
 克美の目から頭に突き刺さったガラス片が簡単にその命を奪った。

「『ザ・ハンド』ッ!」
「美晴ちゃん!」

 それを見ていた村上は、フリーズした頭で展開していく状況を前に地面に横たわっていた。
 時間にすれば、一秒ほどだろう。
 上階から何かが落ちてきて、この階と、もしかしたらその上の階のエスカレーターをぶち壊して散弾に変えながら一階に来た。
 咄嗟に、虹村が何かをして散弾をどうにかして、紅月が北上を押し倒し、上田が頭部への破片の直撃でバタリと倒れる。
 一番エスカレーターの近くにいた克美が何の対応をする間もなくアッサリと死に。
 一番エスカレーターの遠くにいた村上が助かった。
 それだけだ。

「虹村くん、みんなを!」

 紅月の声が聞こえる。
 続く発砲音。
 やけに様になる姿で巨人に撃っている。
 そう、巨人だ。
 巨人がいた。
 エスカレーターの跡地、克美から流れる血の川が小池を作る場所にそれはいた。
 顔が蜘蛛だった。
 どう見ても顔が蜘蛛だ。
 人面蜘蛛ならぬ顔面蜘蛛男だ。
 その蜘蛛面巨人が、克美の身体を踏み潰しながら立ち上がった。
 そこに来て、ああ、と村上は理解した。

(あ、こいつさっきの巨人だ。その巨人が落ちてきたんだ。ボディプレスみたいに。で、小村と上田さんが倒れたんだ。え、紅月さん銃向けてるぞ。)

 何かに小脇に抱えられる感覚を覚えながら、村上は遠ざかる視界の中で思う。
 横では上田が同じように空中浮遊し、二人の後を追う様に虹村が上田を背負って走る。
 エレベーターに着くと、投げ込まれるように下ろされる。
 ひとりでにボタンの電気がつく。
 扉が閉まる直前で虹村が出て引き返していく。
 わけのわからない光景は横から閉じてきた扉によって消える。
 身体に重力を感じる。
 身体にかかる重力が少し減る。
 浮遊感を覚える。
 七階です。音声がなった。扉が開いた。
 少し先の店には姿見が置かれていた。

「なんだよ、これ。」

 その鏡面に映る自分の首筋に刺さったガラス片を引き抜くと、村上は意識を手放した。


75 : 一般人A ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/09(火) 06:24:53 Zkwm4JZc0
「ねぇ、虹村くん、アレもスタンド?」
「いやぁ〜〜、スタンドなら紅月さんには見えねぇはずだ。」

 虹村億泰の『ザ・ハンド』が右手を振るうと、巨人が振り回した腕をスウェーバックで躱そうとした紅月美華子の体が吸い寄せられるように億泰へと近づく。
 そのことに驚きながらも発せられた問に答えると、億泰は美華子の前へと立った。
 巨人――便宜上の名前では、蜘蛛の鬼(父)と呼称される――鬼の、奇襲と言っていいのだろう、おそらく故意によるものと思われる、飛び降り、だろうか。
 見た目も行動もその結果も予想外過ぎて億泰の頭では理解が及ばないが、それでも三つわかることがある。
 こいつは、突然現れたと思ったら、近くにいた美華子に奇声を上げて襲いかかった。
 こいつは、銃弾を受けても死なない。
 そしてこいつが、上から落ちてきたせいで子供が一人死んだ。

「オレの……家族は……」
「別によぉ〜〜、小林、だっけ? さっきあったばっかだし名前もよく覚えてねえし、ぶっちゃけ他人だけどよぉ〜……」
「オレの家族はドコだっ!!」

 鬼が腕を振るう。
 億泰へと迫るそれに美華子が銃撃を浴びせるが、殆どの弾は当たらず当たった弾も寸分も動きを遅めない。
 そしてその腕が億泰の顔面に突き刺さらんとしたその時。

「バケモンに殺されてかわいそうって思う仏心と、そんなことした害獣はシメねえっとつう義務感が湧いてくるよなぁ〜〜〜ッ。」

 ガンと金属音にも似た音が響く。
 鬼の握りこぶしに透明な何かが突き刺さる。
 ちょうど人間の拳サイズのそれは、鬼の右手の中指をへし折り、手首にまで達する穴を開ける。
 吹き出る血が、億泰へと向かう。
 その雨が億泰の前に、人形のビジョンを作った。

「紅月さん、アイツらと合流してくれ。」
「……一応言っておくけれど、人間かもしれないから殺したりしたらダメだからね。」
「銃で撃っといてそんなこと言うのかよ。いまさらだぜ。」
「緊急避難よ。私だって人に撃って当てるなんて初めてだから。」
「の割には、なんか手慣れて――」
「邪魔だっ!」

 まるで傷などないように、鬼が再び腕を振るう。
 その腕が今度は空を切り、血に濡れた透明人間の姿が風のように動く。鬼の顎にクロスカウンターを受けたように拳の跡が付くとともに、鬼の頭が揺れた。

「――人の話は最後まで聞きましょうって習わなかったのかァ〜〜クソ野郎。」

 そして連続で鬼の肉体から打撃音が響くと、拳の形の凹みを刻みつけられながら鬼が宙を舞った。
 それは少しばかりの八つ当たりだ。
 突然殺し合えと言われた。見知らぬ場所に放り出された。名前もろくに覚えてないような、十分ほどの付き合いしかない子供が殺された。
 一つ一つが、どれも億泰をイラッとさせるには充分だ。
 だからぶん殴る。その元凶を作った原因の一つが相手で、襲い掛かってくるならなおさらだ。

「俺の家族はどこだあッッ!」
「知るかボケッ!」

 立ち上がり襲い来る鬼を、自らの超能力、『スタンド』でぶん殴る。
 ここに来てから状況はわからない。なんかタイムワープがどうとかギロンパがウンヌンカンヌンとか、正直ちんぷんかんぷんだ。
 だからシンプルな答えが良かった。
 敵をぶん殴る、それだけだ。
 人一人死んだって初対面。クマが誰かを食ってるところに出くわしたのと変わらない。ただ少しばかりの憐憫と共に怒りを載せてぶん殴るのみ。

 いくらでも変わりがいるような死に方をした少年によって、虹村億泰はほんの少しの正義感と共に人食いの鬼へと相対した。


76 : 一般人A ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/09(火) 06:25:11 Zkwm4JZc0
【0100前 都市部・デパート】

【村上@泣いちゃいそうだよ (泣いちゃいそうだよシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないが死にたくない

【紅月美華子@怪盗レッド(7) 進級テストは、大ピンチ☆の巻(怪盗レッドシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを打破する
●中目標
 情報を集めて考察を進める
●小目標
 三人(村上・上田・北上)と合流する


【虹村億泰@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いってなんだよ?
●小目標
 目の前のバケモン(蜘蛛の鬼(父))をぶっ潰す


【北上美晴@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 今回のギルティゲームから脱出する


【上田次郎@劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生存を最優先


【蜘蛛の鬼(父)@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 家族を守る
●小目標
 邪魔者を殺す



【脱落】

【小村克美@ブレイブ・ストーリー (1)幽霊ビル(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】



【残り参加者 291/300】


77 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/09(火) 06:31:30 Zkwm4JZc0
投下終了です。
参戦作品24作は把握キツすぎですね、ええ。


78 : ◆vV5.jnbCYw :2021/02/11(木) 00:02:22 NwJNDB120
このロワに投下するのは初めてですが投下します。


79 : Logic or Magic ◆vV5.jnbCYw :2021/02/11(木) 00:04:02 NwJNDB120
体育館の小部屋の中。
三十路前後の容姿端麗な男と、14、5ほどの長い髪の少女が机に向き合って、何かを書いている。
紙には首輪のデザインを始め、小さい文字で様々なことが書かれている。
2人は会場に飛ばされてすぐに出会い、二言三言話すうちに意気投合した。

互いに知識が豊富なだけではなく、その知識に胡坐をかかずさらにそれを活かそうという向上心を見出せたからだ。

「先生。」
しばらく沈黙を保ったままだったが、先に声を出したのは少女の方だった。
「どうしたんだね。」
「分からないんです。彼等がなぜ、こんな悪趣味な催しを開いたのか。」


少女、ヴァイオレット・ボードレールが思いだしたのは、かつての引き取り手、オラフ伯爵のこと。
彼は火事で死んだ自分の両親の遺産を、あの手この手で奪おうとした。
時には劇を装って自分を婚約相手にして、遺産の管理手になろうとしたぐらいだ。
だが、その行動には一貫してボードレール家の遺産目当てという目的があった。


「ヴァイオレット君……だっけ?君がそう思うのも最もだ。ただ単にあなたやぼくが憎い奴らなら、こんな回りくどいことをせず直接首を狙えばいい。
派手な戦いが見たいのならば、気性の荒い者だけ呼べばいい。わざわざ異なる国の者同士を呼ぶ様な大それた真似をする必要が、全くないわけさ。」


男、名探偵明智小五郎が突然椅子から立ち上がったと思うと、掴んだのは南京錠のかかったロッカーだった。

「スジが通っていないと言えば、これもだ。」
明智はポケットから折りたたんだ紙を出した。
『右から二番目 ロッカー イチゴくれ』

紙に書かれていることをヴァイオレットに見せるようにしながら、南京錠を『1 5 9 0』となるように動かす。
いとも簡単にカギは外れ、扉が開いた。

「先生、それって……。」
いとも簡単にロッカーを開けた明智を、ヴァイオレットは訝しげに見つめる。
「ぼくのポケットに入っていたのさ。どうやら個々の暗号で間違いないようだ。」


ロッカーの中には、缶詰3つ水入りのペットボトル、それにステッキが入っていた。
「あまりいいものではないわね。ハズレかしら。」
「いやいやそう思うのは早急だよ。この部分を見たまえ。」

明智が指さした部分には出っ張りがあり、それを押すと、勢いよく刃が出た。

「!!」
ヴァイオレットは驚くも、明智はさらに続ける。
さらに下の出っ張りを押すと、バチバチ、と電気が流れる音がする。
相手にダメージを与えるのみならず、発電装置や電灯代わりにも使えそうだ。

「なかなかどうして面白い道具だ。最もこれで戦うほどぼくは愚かじゃないがね。」
「どうやったら作れるのか、気になるところね。」

細いステッキにどこにそのようなシステムがあるのか、発明好きなヴァイオレットは驚く。

「良いところに気づくね、きみは。」
「どういうことですか?」
「敵の方はこの首輪やステッキみたいに精巧な道具を作れるのに、このメモはなんだ。鉛筆で書いてある。
敵方の技術を使えば、馬鹿正直に一字一字書かなくても、タイプライターを使えばいい。下手をすると言葉をイメージするだけで字を写せる技術があるかもしれない。」

彼の時代にはパソコンやスマートフォンは出てこないが、それに酷似した機械のことを想像した。


80 : Logic or Magic ◆vV5.jnbCYw :2021/02/11(木) 00:04:35 NwJNDB120

「ええ。この金庫のカギくらいなら、私でも作れそうだからね。」
「その通りだ。ぼくの知り合いの怪盗……まあそれはこっちの話だが、少し力があれば暗号に頼らなくても開けられるほどのカギだ。
この首輪のような技術を持ってなお、こんなアナクロな道具を使うのもおかしな話なんだよ。」

一通り自分の疑問を語り終わった所で、小部屋の外から強風の音が聞こえた。
「なんだ…?」
「敵襲かしら……」

敵は恐らく殺し合いをさせたいはず。
自然発生した台風や竜巻で自分たちが苦しむことは求めていないと予想した二人は、人為的な強風だと推測する。

ひとまず二人は体育館から出ようとする。
「「!!」」
小部屋から広間に出た二人を出迎えたのは、台風の後のような惨状だった。
窓ガラスの破片が散乱し、スポーツで使う様々なボールが至る所に転がっている。


裏口の所に、黒いローブを纏った金髪の少年が立っていた。
年齢はヴァイオレットの弟、クラウスと同じか少し上なくらい。

「死んでくれ、僕のために。」
整った顔立ちをした少年は、年齢に似合わないほど冷たい声を出した。
彼が持った長い杖を振りかざすと、強風が起こり、再び体育館がかき回される。


「ヴァイオレット君!ガラスや電球の破片に気を付けて!!」
謎の風に操られ、飛んでくるボールを避けながらも、二人は思考する。
体育館の入り口は表口と裏口の二つ。素直に表から逃げるか、それとも裏をかいて敵が入ってきた方に突撃するか。

二人は一瞬の判断で、表口へと向かうことにした。
それを見て、少年はにやりと口元をゆがめ、風の魔法を急に中断した。
風が何故か弱まり、もうすぐここから出られる、というタイミングで、突然明智はカバンから先ほどの缶詰を取り出し、外へと投げた。


「!!」
缶詰の重さに反応したのか、急に地面が窪んだ。
最初から前方から攻めて来ると見せかけて、後ろに罠を張っていたのだ。


この罠以外にも何か別の罠もある危険性を感じ、別の方向へと走る。
「先生、私に考えがあります!!」
「よし、きみの案に乗ろう。」

今度案を出したのはヴァイオレットだった。
彼女が先導して体育館の舞台上へと向かう。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


時は少し遡る。


『日イヅル時、体育館横ノポールノ前ニテ、自ラノ頭掘レ』
この暗号の意味をすぐに理解し、ポールの横で太陽が出た時に自分の影になる方向、すなわち西に当たる箇所を少年、芦川美鶴は掘る。
中には彼が魔法使いとして冒険していた幻界(ヴィジョン)で使っていた、魔法の杖が入っていた。


使ってみると、風が起こり、土が吹き飛び穴が開いた。


(あいつ、面白いことしてくれるじゃないか。いいさ、乗ってやろう。)
ミツルが考えたのは、父に殺された妹、アヤのこと。
地球から飛ばされた幻界での冒険も、全ては家族を取り戻すためにやってきた。


81 : Logic or Magic ◆vV5.jnbCYw :2021/02/11(木) 00:04:57 NwJNDB120

犠牲になるのが、幻界がこの世界に変わっただけだと考えたミツルは、初めに体育館へと乗り込む。
念のため体育館の入り口近くの穴に近くの木から折った枝を置き、穴を隠す。
即興の落とし穴の完成だ。
裏口から体育館に入り、現実世界そっくりの体育館に僅かながらの懐かしさを覚えるも、小部屋から話声が聞こえ、牽制交じりに風魔法を使った。
かつて港町ソノに甚大な被害をもたらしたように、辺りのボールが飛び散り、ガラスが割れる。

少女と青年が出てきてからはミツルの責める一方だった。
相手は魔法や大した力は持っていないので、当然の結果だが。
一度自分の落とし穴を見破られたのは癪だが、自分に倒される時間が少し伸びただけだと、高を括る。


壇上端の幕裏に隠れるつもりかと思い、二人が隠れたところ、風で幕ごと切り裂いてやろうと少年は待っていた。
しかし、幕は自分で切り裂く前に、ヴァイオレットが明智に支給された仕込みステッキを使い、切り裂いた。

(!?)
少年は予想外の行動に驚くも、そのまま2人は幕で隠された壇上の階段から、体育館の2階へ登っていく。

(飛び降りるつもりか?バカが……)
ミツルは追いかけて同じように階段を上りながらも、勝利を確信していた。
2階への階段は壇上に遭った1つだけ。行く先は袋小路だ。
あの高さから落ちたら命までは無くならなくとも、怪我は免れない。
だから落ちて怪我をしたところ、ゆっくりとどめを刺せばいい。


「!?」
今度驚いたのはミツルだった。
彼の目に入ったのは、先程少女が切り裂いた幕。
それがロープ状になって、二階の窓から垂れ下がっていた。
ロープが落ちないように、青年のステッキが壁に刺さって引っかかっていた。


それはかつて少女の妹が塔の上に監禁された際にカーテンとフックで作った「悪魔の舌」であることをミツルは知る由もない。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



逃げ切った。
悪魔の舌にぶら下がり、体育館から降りたヴァイオレットと明智はそう確信した。
すぐに悪魔の舌を抜いて、ステッキだけ回収してずらかろうとする。

「それにしてもあなたがこのような技術を持っていたなんて、御見それしました。」
ヴァイオレット・ボードレールの取柄は、「発明」
一度作ったものとはいえ、彼女のものづくりの速さと器用さは、同年代の少女に比べ、一線を画していた。

「まあ、さっき罠を見破ってくれたので、これでおあいこですね。これからもよろしくお願いします、先生。」

少女が握手を求めたところ、彼は握り返さなかった。
「危ない!!」
明智が無理やりヴァイオレットを突き飛ばす。
その場所にものすごい風が吹き明智は吹き飛ばされ、木にたたきつけられた。


「思ったよりやるね。この技(テレポート)はそれなりに魔力を使うし、その割に遠くへ動けないから嫌なんだ。
まあ上から下へ移動するには便利だけどね。」

目の前に、先程の黒フードの少年が立っていた。


「どうして……。」
「気にしても意味ないでしょ。これから死ぬんだから。」

ミツルは勝利を確信したかのように、杖を振りかざした。
そこへ、ペットボトルが飛んできて、ミツルに水がかかる。

「生きていたのか……。まあどっちでもいいけど。」
2人の目を引いた先にいたのは、頭から血を流しながらも立っていた明智だった。
自分の鞄から落ちたペットボトルをミツルにめがけて、投げつけたのだ。

だがこんなものは時間稼ぎにしかならないと、余裕を見せた。


「きみはどっちでも良いようだけど、ぼくの方は困るよ。そんなわけのわからない力を振り回されたらね。」

おぼつかない足元で、最後にステッキを投げた。
だがそれは、ミツルに当たらない。ぱちゃ、という水の音だけが空しく響く。


「うわあああああ!!」
ミツルの全身を、電気が襲った。
「今だ!!ヴァイオレット君!!逃げて!!」


当然のこと、水には電気。そしてペットボトルの水を浴びたミツルには、ステッキから流れる電気でも、ダメージになる。
その隙を逃さず、ヴァイオレットは脱兎のごとく逃げ出した。


82 : Logic or Magic ◆vV5.jnbCYw :2021/02/11(木) 00:05:18 NwJNDB120

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「ヴァイオレット君、頼んだよ。君を帰ったら小林くんに次ぐ助手にしたかったんだが、残念だね。」

その直後、風の刃が名探偵の首を斬り裂いた。
鮮血と共に、彼の命が終わりを告げる。


確実に勝てる相手だったのに、一人逃したミツルは苛立つ。
だが、すぐにその気持ちを収める。

一人殺したくらいでどうということはない。
かつて幻界の皇都ゾレブリアで、奴隷を使ったゴーレムを大量生産し、都市を壊滅させたこともある彼にとって、一人の男などどうでもいい。

ただ、死んだ家族に再び会うために、ゲームに乗ることにした。


【0100頃 学校 体育館付近】

【脱落】
【明智小五郎@怪人二十面相@ポプラ社文庫】


【芦川美鶴@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 ゲームに優勝し、家族を取り戻す
●小目標
 逃げた少女(ヴァイオレット・ボードレール)を追う


【ヴァイオレット・ボードレール@最悪のはじまり@草子社文庫】
●大目標
このゲームから脱出する
●小目標
首輪解除に必要な道具を発明する
自分に配布された支給品の隠し場所へ行く


83 : Logic or Magic ◆vV5.jnbCYw :2021/02/11(木) 00:06:09 NwJNDB120
投下終了です。児童文庫の判定がイマイチ分からないのですが、私が小学生時代に読んだ本から登場させていただきました。


84 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/11(木) 06:40:44 H8FfOwtM0
V(ヴァイオレットが)F(不幸になり続ける)D(ドキュメンタリー)な世にも不幸なできごと!
世にも不幸なできごとじゃないか!
投下乙です。とても懐かしい本が来ましたね。
まさかパロロワでこの出典からのキャラを見る日が来るとは思いませんでした。
参戦時期も映画で把握できなくもないタイミングでいいですね。作中でのギミックも少年探偵団っぽいし世にも不幸なできごとっぽい。
これから少年探偵団になるのかな?と思ったところでのミツル登場。ミステリーベースに対して反則級な魔法はヤバイけどそれに対応していく明智小五郎もやはりヤバイ。

なお児童文庫かについてですが、児童文庫ではないのでアウトですが一冊だけなら誤射かもしれないので『草思社からの児童向けの本は『世にも不幸なできごとシリーズ』に限り児童文庫とみなす』とします。
ぶっちゃけこういうルールでないと海外児童小説が出しにくすぎるので(でもそればっかりなると困るので各出版社からは1シリーズ制限をつけます)。


85 : Logic or Magic ◆vV5.jnbCYw :2021/02/11(木) 11:27:25 NwJNDB120
感想ありがとうございます。
しかも態々ルールを微調整してくださって、感謝の極みです。
最も不幸な出来事シリーズは小学校の時図書館でめっちゃ読んだんですよね。
この界隈でも知っている方がいて良かったです。


86 : ◆NIKUcB1AGw :2021/02/11(木) 21:31:29 CVGWc36Q0
投下します


87 : 探偵は森にいる ◆NIKUcB1AGw :2021/02/11(木) 21:32:26 CVGWc36Q0
周囲の状況もろくにわからぬほど暗い森の中を、1匹の小動物がとぼとぼと歩いていた。
ふかふかの黄色い毛に覆われたその生物の名は、ピカチュウ。
不思議な生き物「ポケットモンスター」の中でもぶっちぎりの人気を誇る、かわいい電気ネズミだ。
だが今ここにいるピカチュウには、持ち前のかわいさがまったく感じられない。
その顔に浮かぶ表情は、まるでくたびれたおっさんのようである。

「何もかも最悪だ……」

哀愁を帯びた声で、ピカチュウは呟く。
その言葉の通り、彼の精神状態は最悪と言っていいものであった。
彼は探偵・ハリーの相棒であった。
だがある事件によりハリーは生死不明となり、ピカチュウも記憶を失ってしまう。
ハリーの息子であるティムと共に事件の真相を追っていたピカチュウだったが、その過程で彼がハリーを裏切ったのではないかという疑惑が浮上。
ショックを受けたピカチュウは、静止するティムの言葉も聞かず彼の元を去ってしまう。
ピカチュウが殺し合いに呼ばれたのは、その直後だ。

「俺にどうしろって言うんだよ! 裏切り者の悪党は悪党らしく、死体の山を積み上げろってか!
 冗談じゃない! そんなことしてたまるか!
 かといって殺し合いを止めようにも、俺の言葉はあいつ以外には通じないし……」

そう、第四の壁というフィルターを通している我々にはピカチュウが何を言っているのかわかるが、
本来彼の言葉を理解できるのはティムだけなのだ。
他の人間には、ただのかわいらしい鳴き声にしか聞こえない。
相手がポケモンなら話が通じる場合もあるが、おぼろげな記憶では参加者のほとんどは人間であったはずだ。
コミュニケーションを取れる可能性は非常に低い。
これでは、殺し合いを止めるために他の参加者の力を借りることも絶望的だ。

「くそっ! どうすればいいんだ!」

苛立ちに任せ、近くにあった木の幹を叩くピカチュウ。
その拍子に、意図せずして電気袋にたまっていた電気が漏れ出す。
そして少し離れたところから、「ギャッ!」という悲鳴が上がった。

「しまった、近くに誰かいたのか!」

考えるよりも早く、ピカチュウは悲鳴の方向に走り出す。
そこで彼が見たのは、いかにも「探偵です」という格好をしたまぬけ面の青年だ。

「なんでこんな森の中で、急にビリッとくるかな〜。
 って、なんかいる!? え、ネズミ? でも、それにしてはでかくない?
 あれかな、カピバラってやつかな!」
「ピカ……?」

この出会い、吉か凶か。


【0030 森の中】

【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ(小学館ジュニア文庫)】
【目標】
●大目標
殺し合いを止めたい……が、自信がない
●小目標
目の前の青年に対処


【なごみ探偵のおそ松@おそ松さん〜番外編〜(集英社みらい文庫)】
【目標】
●大目標
みんなを和ませる


88 : ◆NIKUcB1AGw :2021/02/11(木) 21:33:46 CVGWc36Q0
投下終了です


89 : ◆NIKUcB1AGw :2021/02/12(金) 21:11:39 7pbrPbq20
投下します


90 : 忠臣は行く ◆NIKUcB1AGw :2021/02/12(金) 21:12:44 7pbrPbq20
とある雑居ビルの内部で、銃声が響く。
一人の男が頭から血を吹き上げ、床に倒れた。
それを見下ろすのは、拳銃を持ったピンク髪の女。
だがたった今まで女の姿をしていたそれは、みるみるうちに輪郭を変化させていく。
変化が収まったとき、そこには形の定まらぬスライム状の生物がいた。
その生物の名は、メタモン。自分の姿を自由自在に変化させることができる、ポケモンの中でも特異な存在である。

何も考えていなさそうな顔つきとは裏腹に、メタモンは現在の状況をしっかりと理解していた。
この場にいる人間を全て殺さねば、自分は主人の下へは帰れない。
自分の変身能力を使えば首輪を外せるのではとも考えたが、どういう仕組みなのかいくら変身を繰り返しても首輪が外れることはなかった。
抜け道が使えないのであれば、正攻法で行くしかない。
元々主人以外の人間など、いくら死のうが知ったことではない。
メタモンは、早々に殺し合いに乗る決意を固めた。

最初の殺害は、拍子抜けするほど簡単に成功した。
向こうがこちらを警戒せず、不用意に近づいてきたからだ。
おかげで、使ったことのない拳銃でも難なく頭を打ち抜くことができた。
もう一つ助かったのは、殺した相手がサングラスをかけていたことだ。
メタモンの変身は、目だけは元の姿のままになってしまうという欠点がある。
そのため人間に変身してもすぐにメタモンだとばれてしまうのだが、サングラスがあれば話は別だ。
目元さえ隠してしまえば、ばれることはなくなる。
よりだまし討ちがしやすくなるというわけだ。
メタモンは死体の姿をコピーすると、サングラスを拝借して着用する。
これでもう見た目は、自分が殺した男と見分けがつかない。

全ては、親愛なる主のために。
メタモンは、次のターゲットを求めてその場を後にした。


【0030 雑居ビル】

【メタモン@名探偵ピカチュウ(小学館ジュニア文庫)】
【目標】
●大目標
優勝を目指す


【脱落】
【大富豪のカラ松氏@おそ松さん〜番外編〜(集英社みらい文庫)】


91 : ◆NIKUcB1AGw :2021/02/12(金) 21:13:43 7pbrPbq20
投下終了です


92 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/13(土) 00:01:40 hvxLUTdc0
連続で投下乙です。
モフモフな方のピカチュウにみらい文庫の方のおそ松さん参戦とは思わなんだ。
同じポケモン勢でもノリに差がありすぎる。
ここ半月ほどスランプ気味ですがやっぱり人の投下読むと書きたくなりますね。


93 : 俺は悪くねえ ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/13(土) 02:35:04 hvxLUTdc0



「ねーこれカメラどこー!? アタシノーメイクなんだけどー!? そういえばオジサンどこの局の人?」
「いや、テレビ局の人間じゃないし、多分ドッキリでもないと思うんだが……」

 ブランド物の服に、時間をかけてセットされただろう髪、そしてバカっぽいしゃべり方。
 メスガキという言葉がしっくりくる少女、紫苑メグを前に、山尾渓介はウンザリした顔で頭をかくと、窓から見える赤い霧を見た。
 ひき逃げで自首して刑務所にいること八年、出所して戻ってきた故郷はダム湖に沈み、久々にあった同級生は殺人事件で死ぬ。
 おまけに拉致られてウサギから変な首輪をつけられて殺し合えと言われる。
 これがドッキリなら、八年前のあの飛び出しから全部ドッキリであってほしい。
 それに、山尾にはどうしても故郷に戻らないといけない。こんなところで油を売っているわけにはいかないのだ。

「このネックレスキツすぎ! デザインもダサいし重いし!」
「て、おい! 何してるんだ!」
「なにって? はずすんだけど?」
「お前話聞いて――」
「えーい!」
「な!?」

 ちょっと目を離した隙に、メグは首輪を外そうとしていた。
 オイオイと思いながら止めにかかる。今の小学生ってこんなんなのかと、横浜から来たという小学生の集団を思い出しながら手を伸ばす。

「イタ。」
「え。」

 ペカーっと、首輪が光る。
 まるで爆発したような閃光に思わず手を翳して後ずさる。
 メグの悲鳴が聞こえる。

「おい、嘘だろ……」

 次に目を開けたときには、メグは死んでいた。
 首輪を強引に外そうとしてだろう、見せしめの時のように作動して、首輪を指で引っ張っている姿のまま固まっている。
 一応、胸に触れてみる。
 心臓は動いていなかった。

「……まあ、ドッキリじゃ絶対ないってことはわかったし、いいか……」
「メ、メグちゃん!?」
(しまった!)

 ハッ、と後ろを振り返る。
 家の外、縁側から見える道に、メグと同じぐらいの少女が立っている。
 慌てて手を離す。誤解されたら大変だ。息があるか確認するために胸を触っていただけだ。

「メグちゃん! どうしたの! な、なんでカチンコチンに……え、うそ、まさかこの首輪って、え!?」
「……君。」
「ひっ!? こ、殺さないで!」
「あ、待て!」

 オイオイ嘘だろ、勝手に首輪いじって死んだだけだぞ。
 それをどうしてか誤解された。
 変態だと思われるのはまだいい。
 いやよくはないが。
 だがそれよりも人殺しだとは思われたくない。
 なんとかしなくては。


94 : 俺は悪くねえ ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/13(土) 02:35:35 hvxLUTdc0

「試し撃ちにはなるか。」

 だから山尾は、民家で見つけておいたライフルで撃った。
 ラッキーショットだ、当てることを優先して腹を狙ったが、ものの見事に頭に直撃した。サイレンサーがあると当たりにくいとは聞いたことがあるが、この銃、使いやすい。悲鳴も上げさせずに人一人殺せた。


 さて、この男はなぜこんなに殺人に抵抗が無いのか。それには理由がある。
 そもそもこの男、元々は宝石強盗で15億円分も奪った稀代のワルだ。
 ひき逃げもその帰りに起こしたもので、そこから別件で捕まるのを避けるために宝石を家に隠して自首したという経緯がある。
 そして出所するも、宝石はダム湖にとかした家に共に沈んだので、時の都知事に脅迫状を送るわ鉄道に爆弾を仕掛けて大規模な殺人を企むわとやりたい放題して、ダムから水を抜く陽動をしようというとんでもない男なのだ。
 そんな男が手に入れたのが、旧ソ連で開発された特殊な狙撃銃、VSS。
 この銃、デフォルトでサイレンサーと四倍スコープが付き、専用弾薬と合わせて発砲音が極めて小さい。
 アサルトライフルが親の仇のように落ちているこの殺し合いでも珍しい、ステルス性の高いサブマシンガンみたいなスナイパーライフルなのだ。

 山尾は殺した少女が確実に死んでいることを確認すると素早く移動する。
 自分はこんなところで油を売っているわけにはいかない。
 早く15億円分の宝石を手に入れなければ。



【0100前 住宅地】

【山尾渓介@名探偵コナン 沈黙の15分(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 さっさと優勝するなり脱出するなりする
●小目標
 死体から離れる



【脱落】

【紫苑メグ@黒魔女さんが通る!! チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【須々木凛音@黒魔女さんが通る!! Part3 ライバルあらわる!?の巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】



【残り参加者 287/300】


95 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/13(土) 02:37:05 hvxLUTdc0
投下終了です。
色んな原作から出したいと思えど結局書きやすい原作から出しがちになる。


96 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/15(月) 01:53:20 iLI1wKOM0
ヒャッハァ我慢できねえ投下だぁ!
投下します。


97 : 赤天の下で ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/15(月) 01:54:16 iLI1wKOM0



「なぁ、小黒……そのガスマスク苦しくないか?」
「森嶋さん達こそ、よくこんな得体のしれないもの吸えますね。生物兵器が含まれていたらどうする気ですか?」
「生物兵器ってガスマスクで防げるんですか?」

 大木登はツッコみながらも自分もガスマスクを着ける。やっぱり赤い霧は怖い。
 シュコシュコ苦しそうな息遣いを前に、森島帆高は何度目かわからないため息をつきながら自分もガスマスクを着けると、拳銃の弾倉を納めて外を見た。
 苦い記憶が蘇る。ここに来る前も、銃を撃った。
 救いたかったのだ、家出の中で出会った少女、天野陽菜を。
 初めて来た東京、不思議な力を持つ陽菜との二度の出会い、彼女を助けるためにヤクザに発砲、その弟凪と三人での晴れ女ビジネス、ラブホテルでのパーティー、逮捕、そして――警察署からの脱獄。
 やってることを考えれば真っ当ではない。それはわかっている。
 だがそれでも、姿を消した陽菜は、かけがえのない人だ。共にいた時間は短くても、どんなことをしてでも取り返さなくてはならない、もう一度会いたい人なのだ。
 それが気がつけば、変な首輪を付けられて殺し合えと言われて、どこともしれない場所にいる。
 幸いにも、同じく殺し合いに乗っていない小黒健二と大木登の二人と出会えたが、だからといって今後の展望があるわけではない。
 小黒は中学生だし大木は小学生、ここに来る前もそうだが、大人に頼ることはできない。
 結局は、自分だ。自分でなんとかするしかないのだ。

「――森嶋さん!」
「うおっ!?」

 声と共に肩に手を置かれて引き金を引きかける。トリガーガードに指をかけていて良かった。でなければ発砲していただろう。
 指す指の方を見る。横では小黒が窓の外を見ながらシューシューと荒い息をして拳銃を顔の横に立てていた。
 帆高も見る。そこにいたのは、男だった。

「デカイな。」

 2メートルはある。顔立ちからして外国人だろう。手には鉄パイプを持っている。
 不安そうな顔、なのだろうか。周りをキョロキョロとしながらこっちに向かってくる。この辺りで一番近くて大きくて頑丈そうな建物だからだろうか。

「どうします?」
「森嶋さん、どうしよう?」

 年下二人は自分に振ってくる。
 自分でも年上に頼りたい状況だ。腹を決める、やるしかない。
 そしてその男がガラス戸を開け、カウンターと戸の間まで来たところで。

「動くな!」

 カウンター下から現れると、肘を乗せて銃を構える。ガタガタ震える銃口を少しでも落ち着かせるためだ。
 だがその銃口は男を捉えなかった。
 一気に踏み込まれていた。
 カウンターまで突進を許すと、飛び越えられて後ろに回られる。

(しまった!)

 銃を撃つのが遅れた。
 撃ちたくなかったからだ。
 失敗だ、それが。
 そして、耳に声がかかった。

「■■■■■■■■■■!」
「……え?」

 出てきたのは何語かわからない言語だった。


98 : 赤天の下で ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/15(月) 01:54:52 iLI1wKOM0



 身長221センチ、体重119キロ。
 恵まれた体格を持つ大男、ノルは、困惑していた。

「■■■■■■■■■■■!」
「■■■■■■?」
「■■■■■■■■■■■、■■■、■■■■■■■■■■■■■。」

 出会った三人の少年の言葉がわからないのだ。

 さて、ノルは日本の住人では無いのに。それどころか地球の住人では無い。彼はファンタジー世界の住人だ。パントリア大陸と呼ばれる地の、シルバーリーブという名の小さな村を拠点に、冒険者として生計を立てている。しかも彼は巨人族だ。小さいのでそうと気づかれ難いが、つまり彼ら三人とは男というぐらいしか共通点がない。
 そんな彼だが、もちろん殺し合いに乗る気などなかった。無口なので誤解されることもあるが、彼は心優しい人物だ。襲ってくるならまだしも、武器らしきものを子供?に向けられたぐらいで傷つけたりはしない。だから持ち前の耳の良さで建物内に複数の人物がいることから乗っていない人間の集まりだと判断して、警告らしきものを受けても即座に突っ込んで押さえ込みにかかったのだが。

「■■■■■■■!」

 なんて言っているのかわからなかった。
 彼は勘違いしていたのだが、あのツノウサギのオープニングでの話は、本来日本語で話されているのだ。
 英語や他の言語しかわからない参加者もいるので同時翻訳をしているが、それを知らない彼はこのゲームの参加者は当然自分と同じ言葉を話すものだと思っていた。
 ついでに言うと、三人揃って着けているガスマスクのせいで他の大陸とかの少数民族ぐらいに思っている。

「静かに。」

 ボディランゲージならどうかと、口の前に手をやってみる。なんとなく困惑した感じだが、とりあえず伝わったようだ。何事か呟きながらも一応静かになってくれた。それにホッとしながら、ノルは指で窓の外を指した。
 またかよ、と三人は呟きながらもそれがわからないノルは気にせず鉄パイプを握り直す。
 指の先には、一人の少年だ。
 また人かよ、という三人の声は理解できなかったが、その声色がだんだん固くなったのはノルもわかった。少年の手を見たからだろう。先ほどガスマスクの少年が向けてきたものと同じタイプと思わしき武器を手にしている。
 だがノルは、三人が気にしたところ以上に、少年の持つ雰囲気に警戒心を抱いた。
 彼の感じはこの三人に比べて、ノルの世界の住人に近い。それも危険なタイプの。

「■■■■■■■■?」

 まただ。たぶん少年達と同じ言葉だ。
 なんと言っているのかはわからない。
 だが、マズイ。
 この感じ、勘が鋭くないノルでもわかる。
 少年はノッている。

「お前達も生き返らされたのか?」
「いや、行き帰りってなんだよ? ていうかまず名前を――」

 少年同士の会話の内容もノルはわからない。だが段々と険悪になっていくのはわかる。

「少し……準備運動をしよう。」
「離れて!」

 そして少年が言葉と共に瞳を赤く変じさせるのと同時に、ノルは咄嗟に言葉を発しつつ鉄パイプを構えた。
 それと同時に、衝撃が走る。
 鉄パイプに何かが高速でブチ当たったのだ。

「終わりだ。」
(危ない――!)

 背中から聞こえた少年の声に反射的に鉄パイプを振るう。流れる視界の中で、少年の持つ武器が火を吹く。背の高い二人の少年の頭に何かがブチ当たったのか、赤い血が吹き出していた。
 それを理解したと同時に、ノルの腹にも何かが突き刺さった。


99 : 赤天の下で ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/15(月) 01:55:23 iLI1wKOM0



 大木直には何が起こったのかわからなかった。
 言葉を交わしていた少年の瞳が赤くなると同時に、発砲してきたかと思うと少年が大男の後ろに瞬間移動してきて、手にした拳銃で森嶋と小黒が頭を撃ち抜かれていた。そのすぐ後、振るわれた鉄パイプをしゃがんで躱すとくるりと向き直って大男の腹に二丁拳銃を向けて撃つ。
 三秒で三人が殺された。

「元通りに動くみたいだな。」

 独り言のように少年は呟くと、赤い瞳を直へと向ける。
 ポカンとしたまま持っていた拳銃の引き金を、反射的に引いていた。
 向けられた銃口は、たまたま少年へ。
 あ、危ないと思った。
 少年に銃弾が当たってしまうと。
 だがそうはならなかった。
 少年の姿が唐突に、大きくなった。
 一瞬で自分の前に距離を詰めたのだと、向けられた二つの重厚を前にして気づいた。
 それと同時にわかった。
 ああ、死ぬ前だからこんなに頭がよく回るんだな、って。

「ウオオオオオオ!」
「ちいっ……!」

 ハッと我にかえる。
 腹から血を流す大男が少年へとタックルをかましていた。
 まるで地面から生えてるみたいに少年の身体は動かなかったが、それでも動きにくいようで、強引に腕を自由にしようと悶ている。
 つまりそれは、銃を一時的に使えなくなっているということだ。

「■■■■■■■■!」
「ジャマだ……!」
「チャンス!」「カツアゲよりは怖くない!」

 咆哮する大男から腕だけを振りほどくと、その腹に少年は再び銃撃を加える。
 それと同時に、倒れていた小黒と森嶋が銃を撃った。
 ガスマスクのおかげで銃弾は表面を滑り軽い切り傷と脳震盪を起こすだけに留まっていたのだが、この場の五人がそれを知ることはない。

「がアッ!?」

 悲鳴を上げて、少年の姿が消える。
 そして小黒はわかった。腹に銃撃を受けたからか少年の動きは鈍っていた。だから、それが瞬間移動ではなく高速移動だと気づいた。
 だが、それだけだった。
 自分の後ろに素早く回り込み、銃弾を大男と森嶋と小黒に乱射した少年に、直が打つ手はなかった。

「化け物……」

 呟きと共に後ろを振り返る、そこで始めて、少年の服装に気づいた。
 防弾チョッキ。それも頑丈そうなやつ。見てパッとわかるもん。

「化け物じゃない、妖怪だ。伝説の子だがな。」

 銃弾が撃ち込まれた。
 直は死んだ。
 みんな死んだ。


100 : 赤天の下で ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/15(月) 01:56:09 iLI1wKOM0



「イッたい……このチョッキが無かったら、危なかったかもね。」

 少年、タイは死体から拳銃を奪いつつ、半壊した防弾チョッキを脱ぐと一人一人の頭と心臓に縦断を放った。もう確実に死んでいるが、苛立ち紛れに。

「それにしても、ここは妖界とはちがうみたいだ。あのツノウサギとかいう妖怪の結界か? それとも……」

 腹の打撲傷をさすりながら、タイはノルの死体を検める。この男、大したことは無いが風変わりな妖力を持っている。一人だけ戦闘慣れしていたし、手こずらされてしまった。
 だが、とタイは思う。
 瀕死の傷を負った自分が、五体満足でこうしている。この殺し合いを開いたものは相当な妖怪なり陰陽師なりだろうが、参加者のレベルは大したことはないようだ。
 タイは伝説の子と呼ばれる極めて強い半妖だ。
 その赤い瞳、うず目を発動させれば、超身体能力と超反射神経を持って妖怪ですら反応が困難な高速戦闘を行える。
 消耗は避けたいし直接人を殴ったことはないので銃に頼ったが、どうやらその判断は正解のようだ。銃弾程度なら躱せるのはわかった。威力も身を持って理解した。結果、生身で食らうのはまずいが充分対処できると。

「問題は、この首輪か。」

 だが気になったのはこの首輪だ。
 死体の首輪で試したが、相当にもろい。うず目になっていないタイでも破壊でき、そして毒針らしきものが飛び出した。気をつけなければ自分のスピードに耐えられず自壊させてしまうかもしれない。
 ある種の制限か、と思う。あれだけの状態だった自分を生き返らせ殺し合いわせるにあたって、強力だが御しやすい駒が欲しかったのだろうか、と。

「気に入らないな。まあ、いいけど。」

 どうせ勝つし、とは言葉に出さずに建物を後にする。
 やることはわかった。皆殺しだ。別にこの首輪がそれ以外で取れるならいいが、その為には誰かを、人間を頼らなければならない。そんなものはゴメンだ。

「ルナ、君は……」

 最後に、自分の姉のことを少し思って。
 タイの姿は森の中へとかき消えた。



【0100前 森近く】

【タイ@妖界ナビ・ルナ(5) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する
●小目標
 傷を癒やしつつ誰かと出会ったら殺す



【脱落】

【森嶋帆高@天気の子@角川つばさ文庫】
【小黒健二@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【大木直@IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。(天才推理 IQ探偵シリーズ)@カラフル文庫】
【ノル@フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち(フォーチュン・クエストシリーズ)@ポプラポケット文庫】



【残り参加者 283/300】


101 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/15(月) 02:00:55 iLI1wKOM0
投下終了です。
深沢美潮先生フォーチュン・クエスト三十周年&FQとIQ探偵ムーの完結おめでとうございます。
それと天気の子ロワさんのコンペが先程終わったのでもう出してもいいかなと思って天気の子出しました。
あと参加者63名脱落者17名と普通のロワなら第一回放送ぐらいの進行度になりました。
ありがとうございます。
全23参戦作品別の参加者名簿を載せておきます。


102 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/15(月) 02:03:58 iLI1wKOM0
【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】5/5
○東方仗助○空条承太郎○片桐安十郎○虹村形兆○虹村億泰
【ギルティゲームシリーズ@小学館ジュニア文庫】4/4
○深海恭哉○小林旋風○小林疾風○北上美晴
【鬼滅の刃シリーズ@集英社みらい文庫】4/4
○塁に切り刻まれた剣士○塁○蜘蛛の鬼(兄)○蜘蛛の鬼(父)
【黒魔女さんが通る!!シリーズ@講談社青い鳥文庫】0/4
●羅門ルル●小島直樹●紫苑メグ●須々木凛音
【ぼくらシリーズ@角川つばさ文庫】2/4
○菊地英治○宇野秀明●天野司郎●小黒健二
【若おかみは小学生!シリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○関織子(劇場版)●神田あかね○関織子(原作版)
【絶望鬼ごっこシリーズ@集英社みらい文庫】2/3
○関本和也●大場結衣○伊藤孝司
【名探偵コナンシリーズ@小学館ジュニア文庫】3/3
○円谷光彦○小嶋元太○山尾渓介
【妖界ナビ・ルナシリーズ@フォア文庫】2/3
●ユイ○かまち○タイ
【かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】2/2
○白銀御行○藤原千花
【けものフレンズシリーズ@角川つばさ文庫】2/2
○ビースト○G・ロードランナー
【銀魂シリーズ@集英社みらい文庫】2/2
○岡田似蔵○武市変平太
【天使のはしごシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/2
○竜土●生絹
【妖怪ウォッチシリーズ@小学館ジュニア文庫】1/2
○天野ナツメ●タベケン
【ブレイブ・ストーリーシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/2
●小村克美○芦屋美鶴
【名探偵ピカチュウ@小学館ジュニア文庫】2/2
○ピカチュウ○メタモン
【おそ松さんシリーズ@集英社みらい文庫】1/2
○なごみ探偵のおそ松●大富豪のカラ松氏
【テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○磯崎蘭
【ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】1/1
○富竹ジロウ
【NARUTOシリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○桃地再不斬
【ラストサバイバルシリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○早乙女ユウ
【クレヨンしんちゃんシリーズ@双葉社ジュニア文庫】1/1
○佐藤マサオ
【炎炎ノ消防隊シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○森羅日下部
【泣いちゃいそうだよシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○村上
【怪盗レッドシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○紅月美華子
【劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】1/1
○上田次郎
【怪人二十面相@ポプラ社文庫】1/1
○明智小五郎
【世にも不幸なできごとシリーズ@草子社】1/1
○ヴァイオレット・ボードレール
【天気の子@角川つばさ文庫】0/1
●森嶋帆高
【天才推理 IQ探偵シリーズ@カラフル文庫】0/1
●大木直
【フォーチュン・クエストシリーズ@ポプラポケット文庫】0/1
●ノル


103 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/19(金) 01:18:51 2aTHllyk0
児童文庫ってい言っておきながら鬼滅とジョジョに頼りがちな企画であることはいなめない。
投下します。


104 : 我妻善逸は大いに咽び泣き大いに剣を振るう ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/19(金) 01:20:01 2aTHllyk0



 見渡す限り寂しい風景の広がる廃村だった。
 とうに人が住むことがなくなったのだろう。
 家々の瓦は落ち、戸は倒れ、壁には穴が空いている。苔が蒸している土間を見れば、既に半世紀はこのままだとわかるだろう。赤い霧と合わせて、昭和の初期に冥界にでも落とされてからそのまま歳月が経ったような、おどろおどろしくも物悲しい村だ。
 そんな村に、一人の少年が足を踏み入れていた。
 髪の色は金。羽織は黒く、帯刀している。髪以外はこの村に合っている。髪だけが、陰気なこの村に歯向かっている。
 少年は、もちろん殺し合う気など無かった。
 突然危険な目に合うのには慣れている仕事だ、別に本人は慣れたくはないが、それでも身体は自然とそれに相応しい立ち振舞になる。
 足運びは油断なく、常に耳をすまし、心は前へ。
 わけのわからない存在に、わけのわからないことを言われても、人を殺して生き残れ、などと認めるはずもなく。
 一歩一歩前へと進んでいく。
 ああ、それでも、でもやっぱり。

「殺せなんて言われて殺すなんてやだし、俺にはやらなくちゃならないことがあるし、でも、でも……」
「ごめんムリ! これムリ! 怖いもの殺し合いなんて! てかナニコレ!? 空赤いし霧赤いし血鬼術!?」
「煉獄さーん! 炭治郎ー! 伊之助ー!」

 白滝のような涙を流しながら汚い高音を上げて叫ぶ。
 我妻善逸は提げた刀をカチカチと鳴るほどに身震いしながらバトルロワイアルの中にいた。

「こんなのってないよ、あんまりだよ、俺が何したんだよああもうおなか痛い。ダメだもう死んだだって毒入りの首輪つけられてるもん、日輪刀じゃ毒はどうにもなんないもん、これ絶対死ぬやつじゃん嫌だなんだよこれ死にたくないよ死ぬ前に結婚したかった。」

 ゲーム開始から既に一時間。最初は混乱しつつも人を守るために動く気力があったが、一人で冷静になる時間があると恐怖心がだんだんと勝ってくる。歩けど歩けど誰とも出会わないのもあって、外面を取り繕う気力もゼロになり泣き言を大声で吐き出す。それでも足は止めないのだが、その理由は人を守るよりも誰でもいいから誰かと会いたいという気持ちの方が強くなりつつあった。
 そんなときだ。
 カチリ、と善逸の耳が微かな音を捉えた。


105 : 我妻善逸は大いに咽び泣き大いに剣を振るう ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/19(金) 01:20:57 2aTHllyk0

(鉄の擦れた音――)

 善逸は図抜けて耳が良い。
 単に聴力が良いというだけでなく、読唇術ならぬ読話術とでも言うような、言葉から相手の心の有り様を読み取る術が人並外れているのだ。
 と言っても、それを活かせずに嘘だとわかっていても騙されに行ってしまう質なので鬼殺隊という危険な仕事につくハメになったのだが、その事自体には後悔が無いのがこの善逸という少年のやはり人並外れたところである。
 なので善逸はその音を前にして泣き叫ぶのはやめても、歩くことはやめなかった。
 音がしたのは自分の後方。叫び声によって来たのだろう。そして音の感じからするに、何らかの武器を持っている。
 そう判断して善逸は廃屋の一つに入り込んだ。いきなり撃たれなかったので少なくとも問答無用で殺しに回っている質の人間ではなさそうだが、武器が銃ならば開けた場所はマズイしなにより怖い。でももしかしたら自分と同じように巻き込まれた人かもしれない。なら助けないといけない。ていうか助けてほしい。もう一人は色々キツイ。

(一人か。大回りして近づいてきてるな。足音どころか衣擦れの音までほとんどしない。鬼殺隊でもこんなに抜き足できる人いないぞ、人間? 本当に人間? 鬼じゃないよね?)

 足音は善逸が入り込んだ廃屋の近くまで来て止まった。間合いからしてまず銃や弓を持っているだろう。相手もただの人間じゃなさそうだし、たぶん出ていったら殺される、いや絶対殺される。もう無理だ。

(どうすりゃいいんだよこれ! ヤダもう無理なにこれ! 詰んでるよ、これ詰んでるよ。勝ち目が全く見えないものおかしいですよこんなのちょっとどっか行ってくんない?)

 一応、相手がたまたま足を止めた可能性にかけて息を殺してみる。
 一秒。
 二秒……
 三秒…………

(はい駄目え! 絶対これバレてる!)

 三秒で心が折れた。これ以上動かなかったら多分逆に怪しく思われる。
 だから善逸は逆に、何も気づいていないフリをして廃屋から出た。たぶん、きっと、殺し合いには乗っていない。それにこの音は女の人だもしかしたら可愛い女の子かも知れないそうだったらいいなそうであってほしいそうであったなら結婚しよう。

「もしもし――」

 声がかけられた。女の人だ。しかも若い。そうじゃなくて、この感じは殺し合いに乗っていない!

「――大丈夫ですか?」
「ハイ! めっちゃ大丈夫――」

 喜色満面の顔で善逸は俯いていた顔を上げる。
 そして彼は、手に銃を持ち声をかけてきた豊満な胸の女性を見た。
 もし彼がこの先の未来でも受けることになる子孫ならばこう言っただろう。
 ――渡辺直美じゃねえか、と。

「こんなことある!?」


106 : 我妻善逸は大いに咽び泣き大いに剣を振るう ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/19(金) 01:22:04 2aTHllyk0



「――それで、貴方も今までに誰とも会っていないのね。」
「は、はい、えっと、くろうね、さん?」
「シスター・クローネって呼んで、善逸。」
「は、はい……」
(私に気づいて自分では勝てない・こちらに殺る気がないと判断して自分から出てくる。演技力はザルだけれど、弾除けとしては合格ね。)

 シスター・クローネはニッコリと唇を上げて言いいながら、ひきつった笑みを浮かべる善逸を値踏みしていた。
 クローネは一度死んた身だ。本人はそう認識している。それがどういうわけか、気がつけば妙な首輪をつけられて妙な鬼の話を聞いていた。
 それは異常な出来事ではあったが、順応は早かった。
 最後の一人になるまでの命懸けの椅子取りゲーム。彼女の人生の半分以上はまさしくそれだったからだ。
 それを考えれば、やる事はいつもと変わらない。生き残るためにノルマをこなす。それだけだった。

(まあ……気になることがないわけじゃないけれどネ。この子の喋ってる言葉とか……)

 だが同時に、この殺し合いの裏にある意図も読み取ろうとする。
 クローネが気にしたのは善逸との自己紹介よりもその言語。彼女達の「世界」で使用されるものとは違う、外の世界の言語だ。着ている服もその色合いからしてあり得ない。つまりは。

(『外』の人間ってことかしら。まさか、ね……でも、そうであるように見える人間を参加者にしたことには何か意味があるはず。)
「――ところで、ねえ善逸。銃って撃てるかしら?」

 善逸の存在意義について考えながら、クローネは一つ試すことにした。

「いやいやいやそんなもの、触ったこともないですよ。」
「あらそう。なら、撃てるようになっておいた方がいいわね。ほら持ってみて。」
「ええ……シスター・クローネ様になってますよ?」
「私こんなもの撃てないもの。ほらほら、腰に構えて。たぶんこんな感じよ?」

 渋る善逸に無理やりアサルトライフルを持たせると、背後から抱きかかえるようにして腰だめに構えさせる。背中に当たる胸になんとも言えない顔になる善逸を無視して、クローネは手から伝わる筋肉の感触と善逸の一瞬の間に気を払った。
 元より善逸に銃を撃たせようなどとは考えていない。大事なのは、今の善逸の反応を試すことと、この会場で拾った武器が信用に値するものかの実験と、善逸の力量を測ること。
 武器を持っていたとはいえ完全に気配を消していたはずの自分に気づいたということは、並大抵の子供ではない。それに今の、自分が銃を撃てないと言った時の僅かな表情の変化。あれが意味するのは嘘への気づきそれとも別の何か。
 嘘を嘘と気づかれるようなヘマをしないことを、クローネは自負している。それこそ先の気配のように、普通ならばまずバレない。だが善逸はそれを見破った疑いがある。決め手は顔。強い感受性は完全に外に出さないようにするのは困難だ。もちろん一般人なら全くわからないだろうが、これまで生き抜いてこれたクローネが『推定有罪』だと思うには十分過ぎるものだ。
 それでも依然、善逸が類稀な存在であることに変わりはない。それこそ自分が死ぬ直前にいた農園の子供達のように特級クラスの『上物』であろう――そう判断していたクローネの体が、危うく震えかけた。
 善逸が呼吸を整えてからだ。明らかに、筋肉の動きが変わった。元から素晴らしいものであったが、まるで人間とは思えぬレベルにまで筋肉の動きが高まっている。人間としては極めて高い水準にあるクローネが全く及ばぬとわかるほど、『底』が見えないものを指先から感じた。


107 : 我妻善逸は大いに咽び泣き大いに剣を振るう ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/19(金) 01:22:56 2aTHllyk0

(この子、本当に人間!? 服越しでも同じ人間とは思えないぐらいの、それこそ鬼みたいな――!)

 バァンと銃声が鳴る。
 次いで独特の臭いが香る。
 銃口から硝煙を立ち上らせながら、善逸は首を回し、クローネと目があった。

「あのーこれでいいでしょうか。」
「……ええ、すばらしいわ。」

 20メートルほど離れた朽ちかけの植木鉢を弾丸が叩き割ったのを見ながら、クローネは言葉をひねり出す。
 「ドキドキしたら負けだドキドキしたら負けだドキドキしたら負けだ……」と呟く善逸を無視して、クローネは考えを改めた。
 狙ったとは言っていないが、おそらくは標的を撃ち抜いた。しかし銃を撃つ筋肉の動きとしては明らかにぎこちなかった。なのに当てた。筋力でブレを押さえ込んだからだ。
 このレベルの参加者がアベレージなのかそれとも善逸だけが異常なのか、どちらなのかで取りうる戦略が大幅に変わってくる。
 そのことに早い段階で思い当たった幸運にクローネは顔を歪ませた。

(どちらにせよ、戦力として使えそうってことは間違いないわ。当たりを引いたってことかしら……��)

 幸先の良いことを素直に喜び不幸そのものには目を瞑る。それが地獄でも図太く生きることに必要なメンタリティだ。クローネはそれをよく知っている。克服できない不合理はないのと一緒なのだ。
 だが、油断は決してしない。自分が今抱きかかえている少年は、その実自分を簡単に殺し得る存在であるとよく理解している。そして同時に、場の空気が変わったことを、指先越しに理解した。

「シスター・クローネ、離れてください。」

 善逸の筋肉が更に躍動している。
 それと言葉と自分への対処から理解した。誰か来たと。

「どうしたの?」
(今の銃声で位置を割ったか。やっぱり、この殺し合いのアベレージは高いみたいね。)

 口とは裏腹に即座に離れて善逸をフリーにする。ここはコイツに任せたほうがいいとの判断だ。そうして自分は廃屋へと身を近づけて遮蔽物を確保しながら、背中の光点に気づく。善逸の背中に、ちょうど心臓あたりに、レーザーポインターのような光が当たっていた。

「後ろよ善逸!」

 善逸が振り返る。時にはもうライフルから手を放して抜刀して斬りかかっている。
 おそろしいスピードだ。ほとんど見えなかった。
 パアンと音がする。
 その音より早く到達した5.56mm弾が善逸の振るった日輪刀にブチ当たる。
 真正面から刃が食い込み、銃弾を二つに分ちて斬って捨てる。
 分割された弾丸の進行方向が心臓から逸れていく。
 両肺を穿つ。
 血が吹き出した。
 善逸は倒れた。


108 : 我妻善逸は大いに咽び泣き大いに剣を振るう ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/19(金) 01:24:40 2aTHllyk0



「ゴフォッ!? い、イッタイ! な、ナニコレ! 血ぃ!?」
「静かに! よし、まだ使える。」

 牛頭鬼はその声から、今しがた狙撃した少年がまだ息があると理解して次の狙撃ポイントに見繕っていた場所をパスした。
 あの瞬間、女と子供の心臓二枚抜きを図ったが女には逃げられ、子供には咄嗟にこちらに向き直られて銃弾を斬り捨てられてしまった。貫通はしただろうが、それでも心臓は外し威力も落ちた。おそらく肺に穴が開いた程度、即死には至らない。
 牛頭鬼は腹ばいになると三点バーストに切り替えて廃屋を掃射した。残弾は心許ないが、確実に二人殺しに行く。
 相手の反応は早い。防げないと判断してか、一気に飛び出すとこちらに向かってきた。牛頭鬼は歯噛みする。二人バラバラにこちらに接近。片方を仕留める間にもう片方に組み付かれかねない。というか、二人とも驚くほど早い。判断も足も。その上にこちらの位置を正確に割っている。なんだこいつら。相手は一般的な日本人にしか見えないのに。
 そんな迷いの間に二人は距離を半分に詰めた。慌てて渡辺直美っぽい方を狙う。子供の方は手負い、狙うならライフルを持つこっちだ。

「クローネ!」

 撃った。外した!? しまった、レーザーで位置を、いやなぜ撃つタイミングで声を――

「牛!? 伊之助かよ!」

 子供が刀を抜きながら言う。女が銃撃を加えながら迫る。おそろしい程に正確だ。走りながらとは思えない。やられた、顔を出せない。二人に組み付かれる。ここは――

「ブモオオオオオオ!」

 仕切り直して――至近弾が顔に――間に合わない――刀が首に――畜生!

「――モォォォォ……」

 牛頭鬼は自分の首に刀が食い込み刺さっていく感触を味わいながら、拳銃を抜き打ちする。撃てたのは一発か二発か。スパリと落ちなかったとはいえ鬼の身体能力を持ってしても猶予は一瞬。
 そして地獄から蘇った鬼は、アッサリと二度目の地獄行きとなった。


109 : 我妻善逸は大いに咽び泣き大いに剣を振るう ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/19(金) 01:25:11 2aTHllyk0



「何だコイツ……鬼じゃない、のか……ハァ……ハァ……がぽおっ!」
「ええ……鬼じゃない、みたいね。」

 謎の牛面男の首を落とした死体の前で数十秒ぶりのクローネとの合流をした善逸は、口から大量の血を吐き出していた。
 最初の牛頭鬼のアサルトライフルによる狙撃は、彼の予想通り善逸の両肺を貫通し、出血と空気穴を与えていた。
 そうして落ちた身体能力と乱された呼吸が、彼の刀の冴えを減らし、牛頭鬼の首を落とすのを一瞬遅らせた。
 だから、右肺から腸、背骨へと悪あがきの弾丸を放つ猶予を与えた。
 そして死ぬ。クローネはそれを理解していた。

「……コイツのは、使えるわね。」

 地に伏して血溜まりを作り始めた善逸から目を離して、クローネは死体が取りこぼしたライフルを手にするとレーザーを切る。
 そして一呼吸置いて、善逸に向き直ると問いかけた。

「それで、最期に何か言うことある?」

 善逸の目が見開かれた。瞳が揺れた。

「わかってるだろうけれど、致命傷よ。大動脈が二つ三つ撃ち抜かれてるんじゃないかしら。その出血じゃあと一分もせずにショック死するわ。」
「ゼエ…………ゼエ…………ごぴゅうっ!」
「死戦期呼吸、心臓も止まってるわね。もう喋れないか。」

 喋れたとしても口腔内の血で無理だろう。クローネは善逸の腰から鞘を抜くと刀に手をかけた。悪鬼滅殺という字を一瞥して、引っ張る。とれない。
 まだこれだけの握力があるのか。それとも筋肉のこわばりか。どちらにせよ恐ろしい。そしてそんな逸材がアッサリ死ぬ環境も。
 改めて理解する。あの時一瞬コイツの声がかかるのが遅ければ自分もこうなっていたと。

「……一個、聞きそびれてました……」
「……まだ喋れたのね。なに?」
「こ、こぽっ、こ、らしあい、の、てます?」
「……最初は乗る気だったわ。でも、今は違う、かしら。」

 別に声が返ってくるとは期待せずに言う。それでも返ってきた言葉に、気になって聞いてみる。嘘は少しだけにしておいた。
 あっ、と声を上げた。ポロリと刀が取れたのだ。
 善逸を見る。目があった。

「……や、ぱり……ころしあいに、のらないって、信じてました。」

 それきり善逸から意味がある言葉が聞こえなくなり、少しして小さく血を吐いて動かなくなった。
 クローネは刀の血を善逸の羽織で拭うと納刀する。
 そして歩き始めて、足を止めた。振り返った。善逸のまぶたに手をやり、閉じさせた。

「さぁて……大変なゲームね。今度のは。」

 聞きたい情報はあった。
 色々あった。
 だが、まあ。
 まあ、死ねば同じだ。



【0100過ぎ 森の中の廃村】

【シスター・クローネ@約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する
●小目標
 死体から離れる



【脱落】

【我妻善逸@劇場版 鬼滅の刃 無限列車編 ノベライズ みらい文庫版(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【馬頭鬼@絶望鬼ごっこ くらやみの地獄ショッピングモール(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】



【残り参加者 281/300】


110 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/02/19(金) 01:26:54 2aTHllyk0
投下終了です。
ノベライズとオリジナルだとどっちが二次書きやすいんだろ。


111 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/11(木) 00:05:35 X3DcEDjw0
そろそろ二週目行きたいなと思ったので二週目です。
投下します。


112 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/11(木) 00:06:20 X3DcEDjw0



(チッ……この空じゃどれだけ経ったかもわからねえ。厄介な幻術だ。)

 抜け目なく周囲を警戒しながら、うちはサスケは森の中を歩く。この会場で目を覚まして早一時間、覚束なくなってきた時間の感覚を忌々しく感じながら、サスケはようやく見えてきた森の終わりを目指して進めていた足を一度止め、木に背を預けた。

(延々と森が続く幻術かと思ったが……特定の行動をすると解けるタイプか?)

 ホルスターからクナイを取り出し油断なく前方を見る。視界の中で動く人影を見ながら、サスケはその首を抑えに行くために一層気配を消して再度進み始めた。

 さてもう明らかなように、サスケはこの殺し合いを自分にかけられた幻術であると判断していた。
 忍である彼からすれば、自分が突然意識を失い毒の仕込まれた首輪をかけられ時空間移動させられるというよりも、幻術により不可解な映像を見せられていると判断するのは自然なことであった。
 自分が暗示や催眠術の類の支配下にある、と思ったのである。
 現実と見まごうようなリアリティのある幻覚というものは、彼の人生において非常に重要な意味があるものだ。
 血のように赤い空と霧は、自らが夢の世界に落とされるという攻撃を受けていると考えるに足るものであった。

(子供? 術者が幻術内にいるのなら倒すことで解ける可能性はあるが、ヤツとあのウサギに関係があるか……そもそも、ヤツが単なる子供とも限らない。変化か幻術の効果で別のものをそう思わされているのもありえる。)

 どちらにせよ、しばらく着けて観察し、隙があれば一気に間合いを詰めて拘束する。そう結論づけると、サスケは移動する。
 彼が見つけた子供は、アカデミーにいるぐらいの少女。外見通りであれば簡単な忍術しか使えないだろうが、ここは幻術空間、見かけなどなんのあてにもならない。
 術者が見る者を油断させるために擬態しているのならまだいい方で、触れたとたんに爆発するというのも十二分にありえる。それが幻術という存在を知る彼の危機感であった。
 だからこそ、彼は気づかなかった。
 この殺し合いが脳に流し込まれたチャクラによって見せられている幻覚ではなく、現実に起こっている殺し合いだということに。
 現実と寸分違わぬ幻術を知っているからこそ、非現実的な状況を理解しているからこそ、これが虚構だと思い込んだ。
 そしてその上で、彼は殺し合いに対応している。
 虚構だと思いながらも、それを解くためには殺し合う必要があり得ると考察している。
 だから、それは必然。

(何だ今の音は。爆発じゃないな。チャクラの感じもしなかった。体術による破壊か。)

 サスケの耳が何かが大破した音を捉える。改めて手裏剣を握り直す。
 音の原因が何かは不明だが、見つけた少女よりも注意を寄せるべきだ。いっそ殺してしまうのもいいだろう。リスクは減らしたい。それに、ここが幻術内ならば、自分以外の人間は虚構の存在というのもあり得る。
 サスケはより一層気配を潜めると、音の方へと歩む少女を追った。


113 : 危険なニアミス ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/11(木) 00:06:50 X3DcEDjw0



「今度はバクハツかよ。なんなんだよこの森!」

 そのうちはサスケに追われていた少女、吉永双葉は、不機嫌そうに顰めていた眉の下の三白眼を更にキツくさせ悪態をついていた。
 半袖のシャツの上からオーバーオールという女子らしくはない格好からもわかるとおり、彼女は男勝りの……というか、キツイ性格だ。
 口げんかは日常茶飯事どころか毎日ステゴロ。気に入らない奴にはほぼ初対面でもドロップキックをかます。考えるより先に手が出る典型、それが彼女だ。
 そんな双葉にもわかることが二つあった。
 一つはこんなことをしでかしたヤツは魔法みたいな力を持っているということであり、もう一つはそんなヤツだろうと気に食わないからぶちのめすということだ。
 もとより彼女はこういう不思議な事態に多少なりとも経験がある。というか毎日そうだ。商店街の福引で当てた犬の石像、ガーゴイル。それが家の門扉にデンとおすわりを始めてから変なことが起こるは起こらないは(元から変なことを起こす側だったことは置いておく)。
 なので今回も、いや今回はかなりヤバイ類のアレだと思ったが、でもそんなことはどうだって良かった、重要じゃない。
 肝心なのは、毒入りの首輪をハメて殺し合わせるイカレ野郎だということだ。もうそんな奴半殺しにしなくては気がすまない。

「なにが殺し合えだよチクショー! 絶対こんなクソッタレなゲームブッ壊してやっからな!」

 そうは言っても、問題は多い。
 双葉が知っているイカレ野郎はツノウサギ一匹で、多分もう死んでる。まず誰を殴るか、そいつがどこにいるかがわからなければ話にならない。

「つーかいつまで続くんだこの森!」

 そしてそれ以前に、迷子だ。
 気がつけば変な森にいてなんか色々赤いわ獣道もない藪の中だわと、初期位置に恵まれていない。
 それもあって延々と森の中を歩いているせいで、元よりあってないような短さの堪忍袋の緒がブチブチに切れていた。
 おかげで彼女が歩いた跡には蹴散らされた下草や手折られた枝なのが散乱している。
 他の参加者に見つけてくださいと言わんばかりの行動だが、もうとっくにそんなことは頭から抜けていた。なんなら今の彼女であれば、誰でもいいからかかってこいと言い出しかねないほどだ。

「……まてよ、音がしたったことは誰かいるってことか。」

 あまりに頭に血が上りすぎていてそのことに気がついたのは、音がしてから何分も経ってからだった。
 その間に後方から迫るサスケは彼女の頭上の木の枝に立ち、いつでも襲える体勢をとっている。そしていざというところで。

「たしかあっちだったよな? 動くんじゃねえぞ!」
(……気づかれたか?)

 サスケの目の前で、双葉は突如方向転換すると早足で歩き出した。行き先と独り言から目的を理解する。動機はどうあれ他者との接触だろう。とりあえず自分の尾行が気づかれていなかったようでサスケは冷や汗を拭うが、双葉を追跡しようとして、足に集めかけたチャクラをとく。

(アイツ……どっちに行く気だ……)

 双葉が目指す方向は、音がした方向とは微妙にずれていた。


114 : 危険なニアミス ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/11(木) 00:07:34 X3DcEDjw0



「ハァ……森の方まで来ちゃったなあ。」

 天野ナツメはため息と共に言う。
 妖刀ヤクザに襲われてから小一時間、彼女は他の人や入れそうな建物を探していたが、幸か不幸か誰にも出会わず町の外れまで来ていた。
 これまで目にしてきたのはいずれも民家などで、さすがに窓を割って中に入るような発想は無い彼女は、人を探しているのもあって歩き詰めで警察とかの頼りになりそうな建物を探していた。
 しかし結果は丸坊主。ついには視界には木々が増えていき、いつしか建物よりも木立が占める割合のほうが多くなり、あっという間に林の中にいた。

「でもお寺はこっちの方だよね。」

 もっとも、一応目的地が無いわけではない。彼女が最終的に見つけたのは、小山の山腹にあるお寺。そこそこ目立つ位置にあって中にも入れそうなそこは、他の参加者と出会いやすい場所だろう。それに単純にそろそろ腰を下ろしたい。体育会系の部活をやっているとはいえ、ここまでの道すがら声を上げて人を呼んだり路地裏に入ってみたりとして結構歩いている。石段をそこそこ上がらないといけないのはちょっとキツイが、その程度のことはむしろ小さいことに思えるぐらいには疲れていた。
 しかし、ナツメの足が止まる。音が聞こえた。寺の鐘の音、とは少し違う。鐘の音も聞こえたのだが、それよりももっと大きい何かが壊れる音がした。
 手がアークに伸びかけて、しかしそれを止める。
 さっきもそうだが妖怪の召喚は目の前にまで危険が迫りそうな時にしたい。
 今はまだ目的地で大きな音がした段階。
 動くには、まだ早い。

(音がしたのは……あそこ?)

 いつでもウォッチへと差し込めるようにしながら、石段を一つ一つ登る。

(煙が上がっている。)

 そういえばさっきは見えていた屋根の一つが見えなくなっている。そのことに気づいて更に手に汗をかく。
 建物を一つ壊すような力を持った人なり妖怪なりがいる。どんな武器を持っているかもどんな力を持っているかもわからない相手だ。自然と緊張が強まる。
 そして時間をかけて登って、彼女は目撃した。
 いわゆるチャイニーズドレスを身に着けた、ナツメとそう年の変わらなさそうなオレンジの髪の少女。紫の傘を肩に差してクルクルと回しながら、寺の縁側に腰掛けて足をぶらつかせている。
 近くには瓦礫が積み重なり、鐘が覗いている。
 状況を考えれば少女があの音を起こしたと見て間違いないだろう。
 外見だけなら人間にしか見えないが、なにか建物を壊せそうな物を持っているわけでもないし妖怪の類だろうか。

(うーん、もう呼んじゃったほうがいいかな。)

 さすがにここまで来ると妖怪の力を借りたくもなったが、しかしそれでも、まだ動かない。
 それは、妖怪の姿を見て誤解されるのではないかという懸念。
 妖怪である以上その外見は怖いものなので、自分が初めて妖怪を見たときのような、あるいは今の殺し合いというものも考えて言えば、どんな反応をされるかわからない。
 しかも殺し合えと言ってきたのは妖怪と思われる角の生えたウサギだ。妖怪なら全部悪いと思われるかも、そんな危惧が彼女にあった。
 ナツメは迷う。
 ここは声をかけるべきか否か。
 友達を呼んでおくべきか否か。
 選択肢を一つでも間違えれば、もしかしたら死んじゃうかもしれない。
 固唾を呑んで考える彼女は気づかない。
 自分をじっと見つめる目があることに。


115 : 危険なニアミス ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/11(木) 00:08:01 X3DcEDjw0



(ようやく見つけたと思ったらこれか。)

 寺の中、ライフルを構えて人影をスコープ越しに覗いた男が内心でごちる。
 彼の視線の先には、ちょうど逡巡している天野ナツメの姿があった。
 青年の名は、安土流星。IQ190の明晰な頭脳と鍛えられた肉体、そして十人が十人とも振り返る美貌を持った、高校生捜査官である。
 小学生の頃に難事件を解決して以来次々と事件を解決に導き、その功績を持って16歳で警察官の地位を得た、特例中の特例。それが彼だ。
 もっともこの場には彼と同年代で事件を解決した子供はもちろん、事件の一つや二つ起こしたり世界を滅ぼしかけたりしている子供もいるのだが、しかしだからといって彼が優秀であることには欠片も変わりはない。
 そして彼は己の意地とプライドと倫理観と正義感と遵法精神とその他諸々にかけてこの殺し合いを止めることを決意していたのだが、そこで一つ問題が起こった。

「あー誰も来ないなー! 誰も来なくてヒマアル! こんだけ待ったら殺し合いに乗ってない奴の一人や二人出てきてもいいヨ!」
(あのガキ、気づいてやがるな。)

 流星が初期位置の寺で落ちていた武器を物色していたところに現れた謎のチャイナガール。
 語尾にアルをつけるという安直なキャラ付けをしている彼女が、破壊したのだ。
 寺の鐘を。
 流星は驚いた。でら驚いた。どう見ても単なるコスプレしたメスガキにしか見えない少女が、正拳突きの一発を鐘へと放つと吊してある鎖が千切れるほどの勢いで鐘がグラつき、屋根にまでぶち当たると一回転して戻ってきたのだ。
 柄にもなく銃を取り落としかけ、しばらく手の震えが止まらなかった。
 毒を注入する首輪というものはわかる。空や霧が赤いのも色覚の異常の可能性を考えてギリ納得できる。
 だがこれはダメだ。どう考えてもあり得ないことが、しかし、確実に起こっている。催眠術や幻覚の可能性も考えたが、もしそうであるならば五感で感じる全てが信用できないほどに精巧であった。
 そして現れてしまった少女。明らかに自分を見る者がいると気づいているセリフを言うチャイナ服。人をおびき寄せるための行動だろう。もしかしたらあのデモンストレーションも、自分の存在に気づいての行動かもしれない。

(あのガキが乗っているかは不明だ。しかも人間離れした筋力を持ってる。あっちの子供も同じように信じられない能力を持っている可能性はある。)
(あるいは、そういう能力を持つ人間だけを集めた可能性もある。これも怪盗と関係があるのか……?)

 頭をよぎるのは、彼が追う怪盗のこと。
 警察官としての初仕事以来様々な現場で出くわすことになった仇敵も数々の奇怪な事件を起こしていた疑いが濃い。
 今回の殺し合いはこれまでの犯行とは経路が違うが、大規模な犯罪という意味では近いものがある。
 流星は今一度チャイナガールを睨む。
 本来ならば時間は惜しいがアレを野放しにはしておけない。危険な戦闘力を持つ者としても、保護すべき子供だとしても。


116 : 危険なニアミス ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/11(木) 00:08:36 X3DcEDjw0



「まったく、ここまでしててイベントの一つも起きないって読者ナメてるネ。これがジャンプだったらプラスに飛ばされてるヨ。」

 寺の境内に生えていた木からもいだみかんを食いながら、神楽はごちる。
 やっとのこさ森を抜けて辿り着いた寺で、彼女は一人時間を持て余していた。

「だいたい首輪つけて殺し合えっていつのマガジンだヨ。これでジョジョと鬼滅とのクロスオーバーとか集英社黙ってナイネ。」

 手に持っていたみかんを食い終わると、また近くの木に蹴りを入れてみかんを落とす。既に無残な姿になった木はこれで三本目だ。
 神楽はこの殺し合いの場で目を覚して以来、他の参加者との出会いを求めていた。
 とにかく首輪さえ外せれば戦闘民族である彼女に負けはない。逆に言えばこの首輪がある限り全力で戦えないのだ。日常生活で馬鹿力で壊した物は数知れない、そんな自分がこれ付けたまま動けばたぶん壊れる、という理解である。なによりこんなクッソダッサイ変な首輪を犬のように付けられる趣味など無い。
 で、ようやく見つけた寺が無人で鐘でも鳴らして人を呼ぼうとして、釣ってあった屋根ごとぶち壊して今に至る。

「なんかこれじゃアタシモブキャラみたいネ……モノ壊してツッコミこないなんてひどいボケ殺しヨ……」

 しかし残念ながら今まで参加者ゼロ人。一応対主催として徒党を組もうとしているのに、現実は厳しい。
 こういう時それこそ承太郎とかなら直ぐに仲間ができてるんだろうなぁ、とため息が出る。
 だがここに集められているのは大半はなんの力もないか、戦闘力の無い子供なのだ。ジャンプキャラならばまだしも、児童文庫のキャラからすれば刺激が強すぎるのである。
 下手にオープニングで他のジャンプキャラを見ているせいで戦力アベレージを誤解しているが、このバトルロワイヤルに彼女とまともに戦えるのはほんの一握りの人間だけなのだ。
 はぁ、とまた似合わないため息をついて、先程落としたみかんを食べきったことに気づいてまた落とそうと立ち上がる。いい加減にみかんも飽きてきた。さすがに五十個も百個も食べてると味変がしたい。そんな人並外れた食いっぷりを見ているから彼女に気づいているナツメと流星はまた一つ声をかけるのをためらっているのだが、そんなことは神楽の知ったこっちゃない。こっちの木よりこっちの木の方が食いでがありそうだとみつくろう。そして蹴りを入れた。

「あ。」

 力を入れすぎた。
 鬱憤が溜まっていてちょっと強めに蹴ったら木の幹に亀裂が走った。
 一瞬ヤバイと思ったものの、どうせ殺し合いの場にあるもんだし、もっと怒られそうな鐘壊しちゃったし、いまさら誤差だろうと自分を納得させて倒れ行くみかんの木を見送る。

「あ。」
「あ。」

 誤差があるとすれば、ドミノ倒しのように他の木に倒れかかったということだろうか。別の木もゆっくりと倒れ始め、その陰にいたナツメと目が合う。そして木はそちら方へ――

「あっぶねえええええ!」
「ひゃ、ひゃっあ!?」

 慌てて猛ダッシュでナツメを抱きかかえると、神楽はバトルものだからできる大ジャンプで石段へと着地した。さすがに物を壊すのと人を死なせるのでは意味が違う。身の危険に晒された当事者であるナツメ以上にハァハァしながら、お姫様抱っこする形になったナツメと向き合った。

「――た、食べないでください。」
「食べないヨ!」

 ちなみに神楽にけもフレの知識はない。


117 : 危険なニアミス ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/11(木) 00:09:25 X3DcEDjw0



「近いな……『第三の目』を『解放』する。」

 ノル、森嶋帆高、小黒健二、大木直の四名を殺害したタイは、近くに見え始めた寺から聞こえてきた木が何が倒れる音に殺すべき敵の存在を感じ、その目を赤く変じさせた。
 あの後死体から離れて森の中に姿をくらましたのは失敗だった。
 どうせ皆殺しにするのだからあの建物にいても良かったのに、腰を落ち着けて休もうと森を抜けて別の町の建物に行こうとしたらこれだ。妖力を節約したいのもあって少し前にうず目を解いたばかりだというのに、また使うことになるとは。

「ま、いっか。時間をかけて傷を治すのも面倒だし。」

 自然治癒で銃撃による打撲を治そうと思ったが、予定変更だ。妖力を活かして治癒が急速に進む。その分バテるのが早くなるが、あの寺にいる人間を全員殺してから休むとしよう。

 さてここで根本的な問題だが、タイは自分がこれから殺そうとしている者を完全に見誤っていた。
 神楽はスピードと反応では上回れるもののそれ以外の戦闘における技量では完全に水を開けられているし、ナツメは彼のような妖怪と常人ながらも渡り合ってきた、ある種の『鬼王』だ。しかも寺の中には銃を持った警官までいる。下手をすればどころか順当に戦っても返り討ちで殺されかねない。
 そんなことにはそもそも木を倒すようなことができる人間がいるとわかった段階で危惧をいだきそうなものだが、何分彼自身が半妖という人外のその中でも強者であるために、自分より格上の存在への想定がかなり甘いのだ。

「五発ずつが、四丁。足りるな。」

 そんなことには全く気づかず、タイはリボルバーの残弾を確認する。
 うず目により超動体視力と超身体能力を持つが、あくまでも得物は銃を選ぶ。普段使う陰陽術は妖力を使ってしまうため、楽をするために。そして今まで誰かと殴り合うような喧嘩をしてきたことがないので、距離を取って戦うために。そして銃という自分を殺し得る物をよく知るために。
 タイは己の気配を消して寺へと急接近する。
 素早く木の枝の上に飛び移り、寺の境内を見渡す。
 人影は無い。
 だが声が聞こえた。
 女の声だ。
 年は、彼より何歳か上。
 それが二人。

(おかしい。まだ気配はする。どこだ?)

 神経を研ぎ澄まさせて聴力を活かす。なんとなくだが、まだ近くに人の気配を感じる。しかし位置がつかめない。寺の中か、はたまた外か。

(まずは。)

 だからタイは考えた。騒いでいる二人の女の方を殺して様子を見ようと。
 タイの姿が木の枝の折れる音を残して消える。
 寺の上空への大ジャンプ。
 優にビル五階分の高さから、神楽とナツメを目視する。
 音に気づいた神楽が後方を振り返る。

「良い反応だけれど、遅い。」

 そしてタイは、二丁拳銃を乱射した。


118 : 危険なニアミス ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/11(木) 00:09:56 X3DcEDjw0



【0115ぐらい 住宅地と森の境の寺近辺】

【うちはサスケ@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 幻術を解く
●小目標
 見つけた子供(双葉)を尋問する

【吉永双葉@吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 こんなことしでかした奴をぶっ飛ばす!
●小目標
 音のした方へ行く

【天野ナツメ@映画 妖怪ウォッチシャドウサイド 鬼王の復活(妖怪ウォッチシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める
●小目標
 お寺にいた女の子(神楽)と話す

【安土流星@小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める
●小目標
 後ろからした音(タイのジャンプで折れた枝)に対処

【神楽@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 バトルロワイヤルとその主催者を潰す
●中目標
 首輪を外せる人間を探す
●小目標
 助けた女の子(ナツメ)と話す

【タイ@妖界ナビ・ルナ(5) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する
●中目標
 傷を癒やしつつ誰かと出会ったら殺す
●小目標
 1.女二人(ナツメと神楽)を殺す
 2.その後近くにいる人間を殺す


119 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/11(木) 00:16:05 X3DcEDjw0
投下終了です。
今月もデスゲームものの児童文庫が出版されますし空前の児童文庫デスゲームブームに乗っかりたい。


120 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/14(日) 00:34:40 teFMNNto0
児童文庫ではデスゲームがブーム。
俺ロワ・トキワ荘でもデスゲームがブーム。
よって児童文庫は俺ロワ・トキワ荘。
投下します。


121 : 梨出血大爆発 ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/14(日) 00:35:33 teFMNNto0



「これ、100式戦車ですね。」
「まさか本当に戦車があるなんてなあ。」

 殺し合いの会場にある自衛隊駐屯地の一角で、高校生ほどの男女が無骨な戦車の前に立ちその砲塔を見上げている。
 少女の方は百人が百人とも振り返るような美少女だ。艷やかな黒髪は赤い髪留めで整えられており、きっちりと着こなした制服は彼女の品行方正な雰囲気と合わせて、一分の隙もない優等生という印象を周囲に与える。
 一方少年の方は、整った顔立ちで愛嬌はあるが、二枚目というよりかは三枚目な面構えだ。ガッチリした体格は脂肪よりも筋肉によるものだろう。ティピカルな柔道体型とまではいかないがそれに準ずるものだ。
 少女四宮かぐやが少年磯崎凛と出会ったのは、今から三十分ほど前のことであった。
 初期位置が同じ敷地であった二人だったが、何分その広さのためになかなか出会わなかった。会ってしまえばコミュニケーション力の高い二人なので互いに殺し合いに乗る気はなく、首輪を外せる人材を探そうというところまではトントン拍子で話が進んだが、場所が場所なのでここで籠城することにしたのだ。
 この殺し合いの会場にはそんじょそこらにライフルが親の仇のように落ちているのだが、敷地から出ていないかぐや達がそれを知ることはない。異様にどの部屋にも銃や手榴弾などが放置されていることに違和感を抱いてはいるものの、まさかそれが会場中で同様だとまでは思わず、とりあえずそれぞれライフルを一つずつ背負って建物を調べる。そうして見つけた鍵と資料から何かあった時の足にしようと目をつけたのが、戦車だった。

「四宮さん、免許って、持ってる?」
「大型なんで21歳以上じゃないと無理ですよ。」
「うーん、てことは、あの人じゃないと駄目かぁ……」

 そう言って凛の視線は、彼らが出てきた建物とは別の方へと向く。実は彼が出会った人物はかぐや一人では無い。他に三人いる。それが。

「お茶買ってきました。」

 銀髪で赤い瞳の少女、竜堂ルナと。

「ダメです。電話はどこにも通じませんでした……」

 金髪の中性的な容姿の少年、チャロと。

「自衛隊の基地なんて久々に来たなっしなあ。」

 なんか薄汚れた外皮とどこ向いているのかわからない目をしたバカでかい梨、ふなっしーである。

「なあ、これってやっぱりドッキリじゃないかな?」

 違うと思います、と言おうとして体?をバインバインさせているふなっしーを前に、かぐやは押し黙る。
 腹部の輪っか状の出っ張りに合わせて巨大な首輪が付けられたふなっしーは、心なしかいつもより動きにくそうだ。もしくは加齢か。

「ふなっしーさんって大特持ってます?」

 一応聞いてみる。

「中型免許は持ってるなっしな。」

 だめみたいですね。


122 : 梨出血大爆発 ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/14(日) 00:36:12 teFMNNto0



「それじゃあ凛くんと一緒に見回ってくるなっしな!」
「今度はあっちの建物を見てくるよ。三十分ぐらいしたら戻ってくるから。」
「時計は合っていますね。」
「もちろん。」

 五人全員が、腕(ふなっしーは付けれないので手に持っている)につけた時計を確認する。駐屯地の中の売店から借りてきたそれは流石というべきか、秒針一つまで同じ動きをしている。空模様から時間の経過がわからないこの会場では、時計は重要なアイテムだ。そして同じぐらいに、水や食料なども。
 凛とふなっしーの男で二人は更なる敷地の調査の為に、戦車の動かし方を調べるかぐや達とは別行動を取ることになった。「ボクも男なのに……」とチャロは不満顔だったが、凛としては女の子や妹よりも小さそうな子どもに危ない橋を渡らせるよりは、安全そうな戦車の中にいてほしいというところだ。
 遠ざかる一人と一梨を見送ると、かぐやは軽々と戦車の上部へと上がる。既にマニュアルは建物内のものを一読しておおよそ把握している。ハッチを開けると、中へと乗り込んだ。

「うわぁ、こんなふうになってるんですね。」
「戦車って初めて。」

 そりゃそうでしょうね、とは言わずにかぐやは前面の計器類を検めていく。後から入ってきた二人はもの珍しそうに内装を見ているがそれを無視して大仰なレバーを撫でる。

『もう結構前になるけれど一回戦車乗せてもらったことあるなっし。お腹つかえて入れなかったら動かなかったっけど。企画段階上のミスなっしな。』
(内装について聞いておくべきだったかしら……ムダそうね。)

 なぜか一番戦車を動かす上で頼りになりそうなのはふなっしーだが、言動を思い出して頭から追い出す。ピンと音がした。後方からだ。「え、ルナさん?」とチャロの声。何か動かしたのだろうか。振り返る。ルナが手に手榴弾を持っていた。ピンは抜かれていた。「お前たちに恨みはないが死んでもらう」という声と共に、戦車の中で手榴弾が起爆する。かぐやとチャロの全身に鉄の破片が突き刺さった。

「ヒャッハーーーーー!!??」
「な、なんだあっ!?」

 建物に入った途端に聞こえてきた爆発音に、凛とふなっしーは慌てて外に出た。
 今来た方向を見る。特に変わった様子は無い。一体何が?と二人顔を見合わせる。

「うん? このニオイは?」

 先に気づいたのは凛だった。
 視覚ではなく嗅覚でそれを捉えた。
 何か焦げ臭い。やはりどこかで爆発があったのは間違いないようだ。となると、かぐや達は爆発に驚いて戦車の中にいるのだろう、と納得仕掛けて、近づいたこともあってか時間が経ったのもあってか、更なる異変に気づく。
 戦車の上部、入り口の辺りから薄っすらと煙が上がっている。なぜ? そういえばあの爆発音はそこまで大きくなかったような……

「イヤな予感がするなっしな……」

 ふなっしーのつぶやきに凛は頷く。二人は慎重に、しかし素早く戦車へと駆け寄る。そしてふなっしーは戦車によじ登ろうとする凛を押しとどめて自分が登ると、手を伸ばして蓋を開けた。

「ぐっ!? これって血のニオイか?」
「……」
「ふなっしーさん?」

 開けた途端に溢れだした、火薬と血と糞のニオイに、凛は顔をしかめた。
 戦車の内部からは黒煙が上がっている。それに燻されてふなっしーは顔を黒くしながら、戦車から滑り降りた。備え付けられている消化器を取ると再び戦車によじ登り、内部に向かって噴射する。だが煙は収まるどころか勢いを増していく。

「凛くん。」

 ふなっしーは凛を呼んだ。

「さっきの爆発はこの中からなっし。」
「……それって。」
「うん。」

 ふなっしーは炎上を始めた戦車から凛の手を引いて離れる。そしてドアを開けて建物の中、戦車が見えない位置まで来て言った。

「かぐやさん達は被害にあったなっし。」


123 : 梨出血大爆発 ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/14(日) 00:37:17 teFMNNto0



「まあ、急ごしらえにしては上出来か。」

 自分が隠れ潜む建物内に凛達が戻って来たのを陰陽術により感じ取ると、透門沙李は薄い笑みを浮かべた。
 彼女こそ竜堂ルナによる自爆の糸を引いた黒幕だ。より正確に言うのなら、竜堂ルナを模した式神による殺人の犯人、というべきか。
 透門沙李は類稀なる力を持つ陰陽師だ。憎き竜堂家の末裔であるルナに破れ命を落としたが、なんの因果か五体満足での蘇りに成功した。ならやることは一つ。ルナへの復讐である。
 そのために彼女はルナをマーダーと誤認させる戦術に出た。ただ殺すだけでは飽き足らず、お人よしの偽善者である怨敵に何人もの人間から恨みを向けられるという生き地獄を味あわせた後で殺す。それが彼女の方針だ。
 それができるのならば殺し合いなどという蠱毒も彼女にとってはどうでも良い。仮にルナがいなくとも、彼女への悪評を抱かせた上で殺し優勝するだけだ。

「フフフ……冥府から呼び戻したのは、こうさせるためだろう? ツノウサギとやら。」

 沙李は口の端を上げると式神に一つ余分に取らせていた時計を弄ぶ。
 怨念により蠢く妖怪はこうしてバトルロワイヤルの会場を蝕みはじめた。



【0115ぐらい 自衛隊駐屯地】

【磯崎凛@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 何が起こっているか調べて、みんながいたら一緒に家に帰る

【ふなっしー@ふなっしーの大冒険@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 これドッキリじゃないなっし?

【透門沙李@妖界ナビ・ルナ(10) 黄金に輝く月(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 竜堂ルナに復讐する
●中目標
 優勝する
●小目標
 竜堂ルナに悪評を向けさせるためになんでもする



【脱落】

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【チェロ@双葉社ジュニア文庫 パズドラクロス@双葉社ジュニア文庫】



【残り参加者 279/300】


124 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/14(日) 00:44:19 teFMNNto0
投下終了です。
ポプラ社より新しい児童文庫レーベル「キミノベル」が3月18日創刊です。
児童文庫ロワはキミノベルを応援しています。


125 : ◆NIKUcB1AGw :2021/03/14(日) 23:25:55 LeY1xHEw0
自作をリレーしていただいてありがとうございます

投下します


126 : ぷっつん女の凶行 ◆NIKUcB1AGw :2021/03/14(日) 23:27:09 LeY1xHEw0
山岸由花子は、とある民家の中で殺し合いのスタートを迎えた。

(なんでこんなことを……!)

由花子はひどく不機嫌だった。
殺し合いを強制された者としてその反応自体は自然だったが、彼女の場合は感情の動きが人一倍大きかった。

(どうして善良な一般市民の私が、殺し合いなんてしなくちゃいけないのよ〜ッ!
 ああ、腹が立つ! あのクソウサギの息の根止めてやらないと、気が済まないわ!)

そんな決意を抱きながら、由花子は立ち上がる。
だが次の瞬間、けたたましい音が彼女の鼓膜を叩く。
そして、複数の弾丸が彼女の胸を貫いた。

(は……?)

窓の外から撃たれた。
彼女がそう理解したのは、鮮血をまき散らしながら床に倒れ込んだ後だった。

(ふ……ふざけるんじゃないわよ……。
 私はまだ、何も……)

恨み言を最後まで言いきることもできず、由花子の命は潰えた。


◆ ◆ ◆


一人の女性が、近くの民家に向かって手当たり次第にマシンガンの弾をまき散らしている。
どこか昭和を感じさせるファッションに身を包んだ、端整な顔立ちの女性だ。
いや、本来は端整な顔立ちである、と言った方が正確だろう。
今の彼女の顔は、悪鬼のごとく歪んでいた。

女性の名は、弱井トト子。
彼女はずっと楽しみにしていた新作の乙女ゲーを購入し、今まさにプレイを始めようというところでこの場に連れてこられた。
それ故、もうこれ以上ないと言うくらいに不機嫌だった。
その鬱憤を晴らすために、たまたまスタート地点近くにあったマシンガンを無差別にぶっ放していたのである。

「あー、もう! この程度じゃ全然気が晴れないわ!
 次よ、次!」

やがてマシンガンの銃弾が切れると、トト子はそれを投げ捨てて歩き出す。
次なる憂さ晴らしの道具を求めて。
なお、彼女は自分が手当たり次第に撃った弾が死者を出していることに気づいていない。


由花子にとって、唯一にしてあまりに大きな不運。
それはすぐそばに、自分よりもいかれた女が配置されていたことであった。


【0020 住宅地】

【弱井トト子@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
主催者をぶっ殺す
●中目標
気分が晴れるまで暴れる


脱落
【山岸由花子@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】


127 : ◆NIKUcB1AGw :2021/03/14(日) 23:27:55 LeY1xHEw0
投下終了です


128 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/16(火) 02:56:15 XLGVq1g.0
投下乙です。
この参加者の命が鴻毛より軽い児童文庫ロワらしいズバっとした殺しっぷりですね。
上手い具合な康一くんの出し方が思いつかなくてもう出さなくてもいいかと思い始めていましたが、これで誰かしらが出した時に面白いことになりそうです。
最近殺し方のバリエーションがマンネリ気味でどうしようかと思っていましたがこうなればこっちも負けていられません。
次の次の投下あたりで更に落としていきましょう。
投下します。


129 : 心にナイフを忍ばせろ ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/16(火) 02:57:09 XLGVq1g.0



 オフィス街にある雑居ビルの一つの屋上に深海恭哉は立っていた。室外機の前に置かれた物干し竿の他には何も無いそこを後にして、ビルの中へと入る。

「罠ってことは、ないだろうけれど。」

 慎重が過ぎるほどにゆっくりとドアノブに触れて、回し、開けて、一歩踏み出す。それだけのことで額からは一筋の冷や汗が流れた。
 片手でドアノブを音を立てぬように閉め、もう片方には拝借した物干し竿を持つ。一段一段階段を踏み締めるように降りる。自由になった片手は、自然と首輪へと伸びた。その形状は、かつて彼が巻き込まれたゲームの物と全く同じに思えた。

 少年深海恭哉が、この人間をカチコチにして殺す首輪を着けられて命がけのゲームに挑むのは二回目であった。
 彼の体感ではほんの数秒前まで別の場所で別のゲームをさせられ、気がつけばあの不思議な空間で、前回のように大勢の子どもと一緒にゲームの主催者から説明を受けていた。
 違うところがあるとすれば、今回はより直接的であるということだろうか。前は二分の一で死ぬ抽選などの、主催者対子どもという構図のものだった。子ども同士で蹴落とし合うことで有利になるようなゲームもあったものの、協力し合うことで有利になるような面もあった。だから前回恭哉は同じ小学校の北上美晴と、あるいは他のグループである子ども達と協力してゲームに挑んだのだ。
 だが今回は違う。
 参加者が最後の一人になるまで殺し合うということは、そこに協力する余地は無い。
 しかし。一方で恭哉は思い出す。
 既におぼろげなあのオープニングでの記憶。何か話していたであろう少年少女も、ツノウサギに襲いかかった変な頭の男も、刀を持った黒服も、とても殺し合いには乗らないタイプに見えた。
 たとえそれが一人しか生き残れないというルールであっても、それを破綻させようという、そういうタイプの人間だ。
 考えれば当たり前なのだが、いきなり殺し合えと言われてはいそうですかと素直に殺し合う人間はいない。ようは殺し合う必然性を理解しなければ殺し合わない。そう考えると、この殺し合いに乗る人間は決して多くはないとも思えた。
 恭哉の場合は二回目だということがあるし、前回の子どもたちは初めてだったにせよ見せしめと目に見える敵によってそれが本当の殺し合いだと理解した。どうやら他にも似たような境遇の子どももいるようだが、彼らも似たようなものだろう。しかしそうでない子どもも多かったようにも思える。今回のゲームでは見せしめも上手くいかなかったし、まだこれをドッキリと思っていたりするのかもしれない。
 そして、恭哉が一番印象に残っているのはその見せしめを失敗させた変な頭の男だ。既に変な頭ということ以外記憶から消えているが、とにかくその男は、首輪によって死ぬはずだった見せしめをどうやってか助けてみせた。
 それはとてつもない意味を持つ。その男にとっては首輪は無いのと同じなのだから、彼が殺し合いに臨むはずがない。つまり、確実に敵ではないと言える唯一の人物なのだ。

(本当にそうなのかな?)

 一階毎にあるテナントのドアを開くか試していた手が止まる。嫌な想像があった。あの変な頭が、主催者と通じている可能性、ジョーカーである、と。
 これだけのことをする主催者だ、当然あの変な頭のことも把握しているだろう。なのにわざわざ妨害させるのか? それ自体が自作自演ではないのか? たとえば今の恭哉は彼との合流を考えている。しかしそうすることで参加者を活発に動かそうとしているのではないか? なにより、主催者の仲間に前回のゲームの主催者であるギロンパがいるなら、今回もやりかねない。
 前回の恭哉がそうであったように。


130 : 心にナイフを忍ばせろ ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/16(火) 02:57:44 XLGVq1g.0

「……開いてる。」

 ぐるぐると頭の中で答えの出ない考察を続けていた恭哉は、一瞬反応が遅れた。スナックらしき飲食店のドアが開いている。
 物干し竿を差し込みテコの原理で一気に開ける。薄暗い内部には一人の少女がいた。幼女とも言える年齢だろう。だろう、と言うのは恭哉からすれば幼女の年齢がいまひとつわからなかったからだ。
 銀色の髪に目鼻立ちがクッキリとした日本人離れした顔立ち。なにより尖った耳がまるでエルフのようで、どこかこの世のものとは違った印象を見る者に与える。

(殺せるか?)

 真っ先に頭に浮かんだのはそれだった。
 自分の武器は物干し竿一つ。対して相手は幼女とはいえ得体のしれない敵。そして鈍器で殺せば返り血を浴びてしまう。それはまずい。

(違う、そうじゃない。殺したくなんてないんだ。)

 思い直す。当たり前だが、好き好んで殺人者になどなりたくない。たとえ緊急避難であり罪には問われないとしても、自分の手は汚したくないとか、死体の処理の宛がないとか、そういうのではなく人間として殺人にはもちろん抵抗がある。無益な殺生をしたいと思うほど、恭哉は人間をやめていない。

「君……名前は? ああ、僕は深海恭哉。協力できる人を探しているんだ。」

 恭哉は物干し竿を後ろ手にすると、いつでも下段廻し蹴りをできるように重心を意識しながら、腰を落として幼女と目線を同じにする。
 あらためて近くで見るとかなりの美幼女だ。まるで妖精のような印象を覚える。いずれは殺さなくてはならないのは心は痛いが、しかしながらこんなところで死ぬわけにもいかない身であるので諦めて死んでもらおう。この姿なら変質者にでも犯行はなすりつけられそうだ。

「■■■■■、■■■■!」
「やっぱり、外国の子か……」

 どうやら日本語は話せなさそうだ。これなら万が一殺し損ねても悪い噂を流されることは無さそうだ。一緒にいても役には立たなさそうだし、それに。

(首輪のサンプルが手に入れば……解除できるかもしれない。まずは解除できる人がいることと見つけることが前提だけれども。問題はどうやって首輪を調達したかと、どうやって首輪を外すかだね。)

 カウンターにかけられた食器類を見る。かかっていた刃物は小ぶりな果物ナイフだけ。当たり前だろうが、客から見える位置には牛刀のような刃物は置かれていない。この身体の小ささならばキッチンでも首を切断できるかと期待したが、なかなかそう上手くは行かないようだ。

「キョー、ヤ?」
「……っ。驚いたな、けっこう賢いんだね。」
「■■■■■■■、ルーミィ!」
「へー、ルーミィ。それが君の名前かい? ルーミィ?」
「■■■■■■!」
「そうなんだ……」

 状況が変わった。
 どうやら人間離れしているという印象は当たったようだ。見かけの年齢よりも賢い。
 リスクではないか?
 前回も想定を誤ったから命を落とした。
 もうあの、自分から命が失われていく感覚は二度と味わいたくない。
 自分はこんなところで死んでいい人間ではないのだから。


131 : 心にナイフを忍ばせろ ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/16(火) 02:58:10 XLGVq1g.0

「お兄さん、何してるの……?」
「!?」

 もう一人いたのか!
 かけられた子供の声に驚くと同時に、手から物干し竿をこぼす。
 フローリングを打つ音を聞いてハッと我にかえる。

(振りかぶっていた? 殺そうと、したのか?)

 失敗だった。
 軽率すぎる行動だ。
 どうする? どうごまかす? 口封じする? 一対二だ、殺しきれるのか? どちらも小学校に上がる前ぐらいだが、最期までヤりきれるだろうか。いや、ダメだ、危険すぎる。ここは――

「……ごめんなさい。誤解させてしまったようだね。」

 ここは、自分の優等生さにかけるとしよう。それが一番安全で、勝ちの目がある。

「信じてもらえないとは思うんだけれど、僕は殺し合いには乗ってないんだ……もちろん、君たちにひどいことをする気もないよ。」

 そう言いながら手を上げて、二人と距離を取る。
 幼女と後から現れたいがぐり頭の男の子は警戒するように後ずさりながらこちらを伺っている。つまり攻撃の意図はない。であるならば上手く丸め込めそうな気もするが、しかし子供は行動が読めない。彼らからすれば大人である恭哉を前に、表面上は大人しくしていても見えないところで思いもよらない行動を取られるかもしれない。

(……外から人の声がした。早くなんとかしよう。)
「怖い思いをさせてゴメン。僕は君たちを保護してくれる大人を探してくるよ。君たちはここで待っていてほしい。」

 そう言うと恭哉は既にすぐ後ろまで迫っていたドアからスナックを後にした。そのまま階段を降りる。早足にならないように心がけながら、声のした方向へ急いだ。
 恭哉が選んだのは、子供たちから離れることであった。
 一見すれば自分がマーダーと思われるリスクを増やすことになるが、しかし彼は子供二人に悪い噂を立てられても、自分ならば切り抜けられると判断した。伊達に普段から品行方正に生きてきてはいない。それに顔も良い。人は見かけによらないと言うがそんなものはデタラメだ、外見の端正さは説得力を大きく増す。そのことは恭哉の短い人生の中でも実感があった。
 相手が正しいことを言っていても、普段からしっかりした自分の意見に耳を傾ける先生や同級生、得だとは思うが、それでもどこかそんな彼らを下に見る気持ちがあった。
 前回だってそうだ。後一歩のところまで自分は完璧に騙せていたのだ。なら今回は反省してもっと上手くやらないと。

(運がいいな。女の子だ。)

 恭哉は階段を降りながら、聞こえてきた声で性別を判断する。女子ならばラッキーだ。男子が嫌いという可能性もあるが、まともに話を聞いてくれる可能性は高い。そうでなくとも、自分の利用価値を売り込めば、少なくともいきなり殺されはしないだろう。

「おっと、人か。その首輪、アンタも参加者か?」
「わっ! そ、そうだよ、僕は――」

 よし、上手く偶然を装えた。そうホッとしながら少女を向いて。

(け、拳銃!?」

 少女の手に握られた拳銃を見て、自分の計画が崩れていくのを感じた。


132 : 心にナイフを忍ばせろ ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/16(火) 02:58:53 XLGVq1g.0



「ちょっと休憩しよか。こんだけ弾集めたらもうええやろ。」

 関西弁の少女が、同行者である二人の少女に話しかける。
 セーラー服にツインテールという容姿の彼女は、宮美二鳥。同行しているうち普通の服を着ている方が花丸円で、ゴスロリを着ている方が黒鳥千代子と言った。

「良かった〜、もうヘトヘトだよ。」
「うー、足痛い……」
「おつかれさん。て、まだ初めて五分やんけ、ヘタるにはまだ早いよ。今度はあっちのビルや。」
「「うへぇ……」」
「自分らギャグ漫画みたいな顔になっとんで。それ人間にできる表情なん?」
「いやー、あたしご覧のとおり黒魔女さんなんで……」
「あー、魔法使いかー。なら体力無いのもしゃーないわな。MP高い分HP少ないってやつやな。」
「……それと実家が農家なんで夜ふかしが苦手で……」
「農家は朝早いからな。それはしゃーないわ。農家は日が昇ると共に起きて、日が沈むと共に寝るからな。まあ夜弱いわな。」
「…………そういえばあたしのクラスの子に料理の話になると筑前煮の話ばっかする子がいるよ。」
「まあ筑前煮は美味しいからな。料理の話になったら日本人の大体は筑前煮の話に最終的に行き着くからな。」
「宮美さん、ボケ殺しはやめてください……」
「おもんないチョコちゃんが悪い。」
「おぅふ。」
「二人とも声が大っきいですよ! 誰か近くにいるかもしれないです! 壁に耳ありショージにメアリーですよ!」
「壁に耳あり障子に目ありな。あと円ちゃんが一番声大きいからな。こっちはこっちでツッコミどころが多いねん!」

 こんな調子で二鳥達は出会ってから三人で一緒に近くの建物を調べていた。
 元よりこの三人、ゲーム開始直後から割と開けた場所が初期位置だったのもあり、合流は早かった。そして移動がてら互いの情報共有をしたが、互いに何の変哲もない子供ということがわかっただけで、後はとりあえず何かしておこうと建物を調べることになり、銃が落ちていたので武器を集めることになり、思いの他多くて弾だけ持ってくるということになり、そんな感じで今に至る。
 三人とも人に話せぬ事情があることやチョコのコミュニケーション力の無さのせいで特段考察も進まず、慣れない銃の扱いなどわかるはずもなく、でも何かしていないと落ち着かないのでとりあえず武器を集める。それだけ。

「二鳥さん、これからどうしましょう?」
「ん? んー、そうやなぁ……」

 自然と一人だけ中学生の二鳥がリーダーになったが、このパーティーには明確な目標どころかとりあえずの指針も無かった。
 三人は三人ともわかっているのだ。この殺し合いの恐ろしさを。だからそこに触れないように、勉強から逃れるために掃除する感覚で武器を漁ったりしていた。
 集まった武器と疲労感を前に一度腰を落としてしまえば、もう一人では立ち上がれなくなる。


133 : 心にナイフを忍ばせろ ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/16(火) 02:59:27 XLGVq1g.0

(このあと、どうしたらええんやろなあ。ちゅーか、殺し合いってなんやねん。なんで空赤いねんなんで霧赤いねん。アカン、真面目に考え出すと頭痛くなってくるわ。何でもええからやること考えよ……)

 二鳥は拳銃をクルクルしながら考える。
 なんとなく近くにいた三人で集まって、とりあえずみんな拳銃とか着けてみた。もちろん殺し合う気はない。そもそも何したらいいのかわからない。困った。

「……さっきも言うたやん、あっちのビル調べるよ。」
「今度はエレベーターあるといいなぁ。」

 仕方がないので、同じことを続ける。
 とりあえず武器さえ集めていればそのうちなんとかなるかもしれない。
 そんな感じで二人の背中を押すと、二鳥も立ち上がる。

「おっと、人か。その首輪、アンタも参加者か?」
「わっ! そ、そうだよ、僕は――」
(イケメンやなあ。)

 そうして恭哉と出会った。
 人と出会うことには多少驚いたが、まあそりゃいるよなと思い直して話しかける。そこに殺し合いに乗っているもという危惧はない。そんな恐ろしい考えを一度抱いてしまえば、もう立ち上がれなくなるのだから。

「ああ、これ? 落ちてたんや。うちは宮美二鳥。こっちが花丸円で、黒鳥千代子や。」
「落ちてた……銃が……? ……僕は、深海恭哉です。よろしくお願いします。それで、宮美さん、いきなりで失礼だと思うんですけれど、お願いしたいことがあるんです。いいですか?」
「うわーなんか急に話が動いた。」
「お願い?」

 チョコのボヤキを無視して二鳥は問い返す。

「ええ。このビルに入っているスナックに、子供が二人います。その子達を守って欲しいんです。」
「ちょ、ちょっと待って。話が見えへんけれども。円ちゃん、チョコちゃん、これ、うち、私、アホやからか?」
「一人称定まってませんよ。それとたぶん違うと思います。」
「うん、えっと、恭哉さん? どういうことなんですか?」
「せやなあ。って一人称はええねん! アカンそこツッコんどる場合ちゃうわ。え、なにこれ? どういうことなん?」

 困惑する少女達を前に、恭哉は伏した目を上げた。カッコイイ、と素直に二鳥と円は思う。チョコはそのあたりの感覚が死んでいるので睫毛長いなぐらいにしか思っていないが、たったそれだけの動作で、次の一言が心に染み込む下地を作った。

「僕は……彼らに怖い思いをさせてしまいました。武器を持っていたせいで、殺し合いに乗っていると誤解させてしまって……だから、僕が彼らと一緒にいたらいけないんです。それで、保護者になってくれそうな人を探そうと思って……」

 沈黙した場で恭哉は続ける。

「拳銃を持っている皆さんなら、殺し合いに乗っている人がいても、威嚇できると思います。だから、あそこで子供達を保護しながら待っていてもらえませんか? 僕は、協力できそうな人を探してきます。」
(なーんか、うさんくさいなあ。)
「お願い、します……! あの子たちを守ってください。きっと、こうして宮美さん達と出会えたことには意味があると思うんです。」
「……円ちゃん、どう思う?」
「わたしは……わたしは、その子たちを助けたいって思います。何ができるかわからないけれど……でも!」
「……せやな。よし! わかった! とにかくその子らと会ってみるわ。」
「あれ、あたしは?」
「あれチョコちゃんおったん?」
「ひどいっ!」
「あはは、ジョーダンやジョーダン! で、どうする? 助けるっちゅーか、守りに行く?」
(……でも恭哉さん良い人そうだし変なこと言うのもなあ……あたしも、行きます。」
「なら決まりや。」
「ありがとうございます。スナックにいるのは男の子と女の子の二人です。僕もなるべく早く戻ってくるんで、それまでお願いします。」
「わかった――て待って待ってまだ聞きたいことが!……ああ……」
「行っちゃいましたね……」


134 : 心にナイフを忍ばせろ ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/16(火) 03:00:11 XLGVq1g.0

 二鳥の返事を聞いてすぐに恭哉は走り出す。慌てて呼び止めるも、無視して行ってしまった。
 「責任感強いのかもしれんけど、勝手な奴やなあ」とつぶやくが、二鳥は直ぐに前を向いた。
 明確な目的ができたから、その足取りは軽い。しかもそれが子供を守るというわかりやすく良いことなのだから、何をすればいいのかわからないという心を鎮めるにはもってこいだった。

「で、ここか。すみませーん! 誰かいませんかー? 入りまーす。」

 円とチョコを引き連れて件のスナックへと向かう。声をかければ中から人の気配っぽいものがした。
 少し待ってみる。
 ドアが開いた。

「……よかった、さっきのお兄さんじゃないゾ……」

 中からホッとした様子で出てきたのは、いがぐり頭の男の子だった。二鳥の弟よりかは何歳か上ぐらいの、幼稚園児ぐらいだろうか。
 その発言と様子から、さっきの恭哉の言葉通り何かあったんだろうなと二鳥は察しをつける。スナックの中を伺えば、話通りもう一人。ビックリするぐらいカワイイ女の子がこちらをカウンターの陰から伺っていた。

(あっちの子ぐらいまで、もう背伸びたんかなあ。)
「……お姉ちゃんは、宮美二鳥。こっちは花丸円で、黒鳥千代子や。ねえ、お姉ちゃんにお名前教えてくれへん?」

 少しのホームシックを覚えながら問いかける。

「オラ、野原しんのすけ。春日部からお越しの5歳!」
「お! 元気やなあ! お姉ちゃんらはしんのすけ君たちとお話したくて――」

(上手く行ったか。)

 そうしてしんのすけと話し出した二鳥は、自分たちの様子に耳を澄ませる恭哉の存在など知る由もなかった。



【0015ぐらい オフィス街】

【深海恭哉@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 対主催に紛れ込み、自分の信頼を上げる
●小目標
 ルーミィ達から離れる

【ルーミィ@フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち(フォーチュン・クエストシリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 みんな(フォーチュン・クエストのパーティー)に会いたい
●小目標
 キョーヤは怖いから離れたい

【野原しんのすけ@双葉社ジュニア文庫 映画ノベライズ クレヨンしんちゃん
ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 ここどこ? かーちゃんたち迷子?
●小目標
1.二鳥お姉さんたちとお話するゾ
2.さっきのお兄さんはなんか怖かったゾ……

【宮美二鳥@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 しんのすけと話す

【花丸円@時間割男子(1) わたしのテストは命がけ!(時間割男子シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 しんのすけと話す

【黒鳥千代子@黒魔女さんが通る!!
チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 しんのすけと話す


135 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/16(火) 03:01:52 XLGVq1g.0
投下終了です。
四つ子ぐらしはコミカライズがコンプティークで連載中です。
現在ならなんと一話が無料で読めちまうんだ!


136 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/25(木) 13:49:50 5dTkzMtQ0
新しい児童文庫レーベルであるポプラキミノベルが創刊されたり、デスゲームものの作者が新シリーズを始めたりと、世はまさに大児童文庫デスゲーム時代。
投下します。


137 : 命の百合 ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/25(木) 13:51:14 5dTkzMtQ0



「動かないで。」

 朱堂ジュンは出会い頭に刀を持った少年へと拳銃を突きつけた。
 一時間以上は歩いていて油断していたために間近になるまで気づかなかったのを考えると、先手を取れたのは僥倖だ。
 もしかしたら相手も、同じように油断していたのかもしれない。
 とっさに抜刀はしたもののそこで動きが止まり、だから額へと銃口の狙いをつけられた。

「片手を頭の上に置いて、もう片方の手で刀を地面に突き刺して。」
「くっ……! 乗っているのか?」
「早く! 刺したら下がって、うつ伏せに寝転がって。」

 有無を言わせずに武器を置かせる。勝負では主導権を握った方が勝つ。
 悔しそうな顔で言うとおりにする少年に内心でわずかにほっとしながら、それでも油断無く少年の背中に膝立ちになり、今一度頭に銃を突きつけた。
 そこで、頭の後ろで組まれた手から紙片が覗いていることに気づく。
 「もらうよ」と言って奪い取ると――

『装備:命の百合  場所:一本杉の根本  説明:どんな傷も癒やす蜜を出す百合。器一杯飲めば永遠の命が得られる。』

 「わたしだけじゃなかったんだ」自然と言葉が漏れる。
 それを聞いてか、少年は伏せていた目を上げる。
 ジュンと目が合う。
 その目は、彼女を負かした少年の目にそっくりだった。


 朱堂ジュンは小さい頃から足が速かった。
 走るのが好きだから速くなったのか、走かったから走るのが好きになったのかは覚えていないが、ジュンの好きという気持ちと走る速さは比例して増していった。
 親はそんなジュンを応援した。
 その甲斐もあって彼女の努力は実り、いまやジュンは将来を有望視されるアスリートにまでなった。あと数年もすればオリンピックの育成選手にもなり得るだろう。そんな時だ。
 ジュンの母親は病に倒れた。
 治る見込みは無かった。
 彼女を今まで支えてきた存在は、近い将来、彼女がアスリートとして大成するよりも確実に早く死ぬことになった。
 だが、そんな時だ。
 ラストサバイバル、人生逆転のゲームに参加するチャンスが巡ってきたのは。
 毎年小学6年生が、優勝者にはなんでも願いが叶うという景品のために、命がけで戦うゲーム。
 それがラストサバイバル。
 ジュンはそれに参加した。
 種目はひたすら休みなく歩き続けるサバイバルウォーク。長距離をメインとする彼女が勝つためにあるような競技だった。
 そして彼女は敗北した。
 最終盤までトップにいながら、ノーマークだった少年に最後の最後に負け、願いを逃した。
 母親を助ける手段を失った。
 彼女は泣いた。
 叫んだ。
 そして後悔した。
 何が足りなかった? 覚悟が足りなかった。
 何が足りなかった? 決意が足りなかった。
 決死さが足りなかった。必死さが足りなかった。死ぬと決めたと書くから決死なのだ。必ず死ぬと書くから必死なのだ。彼はそれを持っていた。自分が死ぬことを覚悟していた。その意気を感じた。
 そしてその上で、楽しんでいた。
 彼は、自分の命を捨てることすらも楽しんでいたと、彼女はあれを振り返って感じた。
 だから、彼女は決めた。
 たとえ命を失ってもではなく、必ず命を失うと決めて戦うと。

「オレは藤山タイガ。EDF第3師団K部隊だ。」


138 : 命の百合 ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/25(木) 13:51:51 5dTkzMtQ0

 突然の言葉でジュンは我に帰る。
 ほんの僅かな間だろうが、自分の内面に沈みこんでいた。
 それに気づくと同時に、なぜ?と思う。なんで少年は名乗ったのか。

「名前あるんだろ、名乗れよ。」
「なんで。」
「なんでって、じゃあなんて呼べばいいんだよ。」
「そうじゃなくて、わたし、君を殺す気なんだけど。」
「本当に殺す気あるなら話しかけないで撃つだろ。」

 ギリ、と頭に銃口を押しつける。
 ますます、少年があの子に重なって見えた。

「違うって言ったらどうする。」
「妹がいる。」
「は?」
「もしかしたら、妹もここにいるかもしれない。できればでいい。殺すのは後回しにしてくれないか。間違っても殺し合いに乗るようなヤツじゃないんだ。」
「ちょっと待って、君言ってることわかってる?」
「ムチャクチャだよな。でも、こうして話してるってことは、ちょっとは頼めるんじゃないかって思って。」
「……」
「頼む。オレを殺すのは、まあ、ホントはすごい嫌だし、助けてほしいけど、でも殺るんなら、妹だけは殺さないでほしい。」

 妹のため、それが決定的だった。
 この子は同じ人間だ。
 あの子、桜井リクと同じタイプの人間だ。
 銃口を離す。
 乗っていた背中から足をどける。
 銃は向けたまま、後ずさって距離を取った。

「タイガくん、もし君が優勝したら、妹さんの次でいいから、わたしの、母親を助けてくれない?」
「……は?」
「前さ、これと似たようなゲームに参加したことがあるんだ。それは本当に死ぬようなことはなかったんだけれど、首輪じゃなくて腕輪みたいなのつけてさ。優勝したらなんでも願いが叶うっていうの。」
「……ギャンブルの話か?」
「そんな感じ。鞘をこっちに投げて。」

 そのまま回り込むと、突き刺さっていた刀の下へと行く。銃で腰の鞘を抜くように示すと、飛んできた鞘を片手で掴み、銃をポケットへと押し込んだ。
 タイガは動かなかった。
 刀を地面から抜き、鞘へとしまう。今度は納刀したそれで立ち上がるように指示した。

「今度のこれも、似たようなものなんじゃないかな。優勝したら願いが叶うとか、そんなふうな。少なくとも優勝できなかった子よりは生きてる可能性が高いでしょ。だから、もし君が優勝したら、わたしの家族に会いに行ってほしい。それで、できる限りでいいから助けてほしい。わたしが優勝してもそうするから。」
「無理だな。」

 拳銃を抜く。

「オレの親は行方不明だ。お前に見つけられるのか。」
「心配しないで。わたしの親も病気で長くないから。」
「……なのに、そんなこと頼むのか?」
「だから、頼むの。恨むんなら地獄で恨んどいて。」
「勝手に地獄行きにするんじゃねえ。」
「地獄みたいなものでしょ、ここも、ううん、その前も。あはは、この先もか。ずっと地獄じゃん。」
「何がおかしい。」

 ギラついた目をタイガは向ける。
 それ目掛けてジュンは、刀を投げ渡した。
 「うわっ!」と情けない声を上げてタイガは受け止める。

「……一人よりは二人のほうがマシでしょ。今は殺さないでおく。代わりにわたしの前を歩いて戦って。断ったら撃つ。」

 そしてタイガの足元に向けて発砲した。

「オーケー?」
「……クソ、わけわかんねえ……!」
「オーケー!?」
「くっ……オーケーだ! オーケーだよ!」
「あと振り返っても撃つから。」

 刀を腰に、手を頭の上に置かせて前を歩かせる。
 ジュンはわからないように、銃をポケットへと入れた。


139 : 命の百合 ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/25(木) 13:52:34 5dTkzMtQ0



「今の銃声何かしら。ねえ?」
「……さあ。」

 折れた枝を手に取る。
 超能力で先を尖らせる。
 そして投げる! を、繰り返す!

ドス「あぶな!」ドスッ「ちょ」ドドス「ま」ドドスドドスドス「待って」ドドスドドスドス「助けて!」ドドスドドスドス「お願いします!」ドドスコスッ「わああああああああああ!!!???」

「返事ぃ!」
「はい……」
「はいじゃないわ、何かって聞いとんねん。耳義足なん?」
「耳が義足ってなんだよ……」
「なんでツッコミだけはちゃんと話すねん!」
「いたーい!?」

 サイキックで浮かした小石をケツへと直撃させる。
 悲鳴を上げてゴロンゴロンと地面を転がる少女、玉野メイ子を前に、名波翠は何度目かのため息をついた。
 翠は超能力者だ。こういう異常事態にも何度か遭遇したことはある。さすがに爆弾だか毒だかが入った首輪をつけて殺し合えなどと言われたことはないが、それこそ神の一柱や二注と遭遇したこともあるので、多少の動揺はあれど比較的冷静だった。
 そんな彼女が最初に出会ったのがメイ子だったのだが、その出会いが最低だったために、こうして翠はメイ子を折檻している。で、具体的に何をしたかというと。

「たく……なんで能力者ってのはこう性格悪いやつ多いんやろ。」
「翠さんはいい性格してますよね。」
「やっぱお前の心覗くわ。」
「ちょ、霊視はやめてください。」
「おあいこやろが。」

 頭の上に手を置こうとする翠と、それに抵抗するメイ子。と同時に二人の周りに不可思議な力が満ちる。メイ子の頭から何かを引っ張ろうとするそれとそれを妨害しようとするそれはまさしく異能。その正体は、サイコメトリーだ。
 メイ子は強力な霊視能力を持つ。その力で最初出会った参加者である翠の人となりを知ろうとしたのだが、それが彼女の地雷だった。
 翠は人の心を見ることを嫌う。自分が見ることは極めて自重するし、見られるのももちろん嫌だ。というか一番嫌いな超能力の使い方だ。それを、殺し合いの場でやられた。
 こうしてプッツンした翠は能力者特有の勘の良さで自分を見ている存在に気づき、殺意のイメージを見せることでメイ子の動揺を誘い、位置を掴むとサイキックでやきを入れたという次第である。
 だが肝心の問題はそれだけではない。

『(痛いって言ってるのに……この人頭おかしい……)』
(コイツ全然反省しとらんな。)

 コイツにだけは自らに課した戒めを一回外して心を見る。そう決めて顕になった心のアレさ加減に、翠は、ちょっと引いた。
 ようするに、メイ子はクズだった。
 こう言ってしまってはなんだか、メイ子は割とクズだ。性格の悪さは自他ともに認めている。仲が良い友達がいないためにむしろバレてないだけで外に見えてる部分よりももう少しクズである。
 割と人のことを言えた立場でない翠からしても結構なヤバさだ。こういうふうになっちゃいけないって思ってサイコメトリーを封じてるところもある。

(コイツから目を離したらアカンのは間違いないな。しかも銃声、これ一人でどうにかするには手が足りんわ。蘭、どこおんねん。どうせ一緒に巻き込まれてるんやろ?)

 転校して以来様々な事件を共に解決してきた相棒に問いかける。その相棒は鬼と忍者の死合から逃れるために森の中を逃げていたのだがそんなことまではさすがにわからず。とにかくこのダメ人間を放置はしておけないと思案していたところで、気配を察知。


140 : 命の百合 ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/25(木) 13:53:30 5dTkzMtQ0

「翠さん、あの。」
「わかってるから静かに。騒いだら後がヒドイよ。」
「ヒエッ」

 小走りに二人で木の影へと隠れる。
 現在地は森の中の小道。互いにポケットに入っていた変な紙片を頼りに動いていたからだが、妙な場所で遭遇することになった、と思ったことで、そういえばこの紙の内容はどっちも同じだったな、じゃああの二人も、と思い直す。
 遠目に見えた感じからすると、変な服を着た男と、ロン毛の男。後ろの方が背が高く、手前の方も運動神経は良さそうだ。それになりより、あの二人からは『何か』を感じる。

(あ、後ろの方は女の子のやったわ。背高いなあ。手足もスラッとしてるし。モデル体型やん。うちの方が髪ツヤツヤやしカワイイけれども。)
(ん? あれ? 前歩いてる男の子の方刀持ってない? 何で帯刀してんの?)
(……そもそも、なんで頭の上に手を……もしかして……)
「これは、まずいな……」

 二人組ということは話ができそうだと思ったが、あの様子はおかしい。まるで人質がするかのようなポーズを前を歩いている方はしている。しかも刀らしきものを持っているのに。そしてさっきの銃声。

「あの女の子、銃持ってる……?」

 しかもセリフとられた。

(それいまうちが言おうとしてたのに……)
「逃げていいですか?」
「うん、そうしよう。」
「え、あ、うん。」
「急いで。でも静かに。まだ気づいてないし、この霧なら森の中に向かえばバレない。行くよ。」

 だがすぐに頭を切り替えると、メイ子の手を引いて森の奥へと小道を走り出す。
 相手が森の外から来たから気づけたが、内に入ってしまえばそうそう見つかることはない。なにより、こちらには超能力者が二人いる。勘の良さでは明らかに上だ。
 だがその考えは最悪の形で裏切られることになった。
 最初に気づいたのはまたも翠だった。
 嫌な予感がした。
 それも今まででも割とヤバ目の。
 普段の彼女ならば、ここで引き返すなり何なりしただろう。
 だが横にいるメイ子という能力者がその判断を取らせなかった。
 リスクはあれども、危険性のある能力者を、武器を持った相手と合わせたくないという考えが、より大きなリスクを感じさせる方へと向かわせた。
 一際大きな杉が森の中で見えた。と同時に、嫌な気配が増した。
 いる。
 何か超常的な存在が。
 それは杉の下に咲く、百合の花の前にいた。
 「金ピカだぁ……」というメイ子の感想通りの、黄金の甲冑に身を包んだ騎士がいた。
 明らかに自分たちとは世界観からして違うそれを見て二人は確信する。
 あれはこちら側の存在だと。

「……驚きだ。」

 先に声を発したのは、黄金の騎士の方だった。
 まるで今意識を取り戻したのかのように、手を握り、手を開き、手にした剣を二度三度と素振りする。
 翠は自分への強い関心を感じた。
 理屈ではなくわかった。返答を間違えれば殺されると。

「あれは夢か幻か……トパーズはこの剣にある……」
「オレたち以外にもここに来たやつがいたのか。どうする?」
(ウソやろ? 早すぎる!)


141 : 命の百合 ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/25(木) 13:54:51 5dTkzMtQ0

 黙っていた翠達の後ろから声が聞こえた。
 振り返らなくてもわかる。さっきの二人だ。
 翠は知る由もないが、ジュンは命の百合を手に入れるためにタイガを急かしていた。実のところ、ここに来るまでの二組の移動スピードはほぼ同じで、翠達が一分も止まっていれば追いつくとまでは行かずとも姿が見えるまで近づけるほどであった。

「待て……そこの二人、離れろ。これはヤバい。」
(言われなくてもわかっとるわ。)
「言われなくてもわかってるよ!」
(お前は声デカイ!)

 タイガの注意も翠にとっては今更のものだ。今は何よりも騎士を刺激したくない。だがその願いとは裏腹に状況は更に悪化する。
 騎士が振り返った。
 本来ならば怪人が背を向けるという状況だが、翠には確信的にわかった。
 絶対に何かマズイ。
 騎士はフラフラと周囲を見渡して、はたと気づいたのか、杉の根本にある百合へと目を落とした。
 そして這いつくばった。
 まるで小さな子猫にそうするかのように、両手で百合を囲うようにし、しかし触れずにそのまま、そのまま。

「ハ、ハハ、フハハハハハハハハハハ!」

 大声で笑い始めた。
 逃げよう。翠は決意した。
 これはヤバい。笑うのは、ヤバい。だから逃げる。が、体が動かない。

(念動力!)
「こ、この人も……!」
「なんだ!?」
「うわっ!?」

 四人全員同時に宙を舞う。
 その感覚をただ一人理解できたのは翠だけだった。
 いわゆるサイコキネシスに近いそれに、自身も同じ系統の力をぶつけて相殺を図る。

「しまった――」

 反射的にそれをやってしまってから気がついた。同じ能力者同士ならば、真っ先に警戒するのは当然、同じ能力者であると。

「まずはお前からだ。」
(バリアで――間に合わ」

 ザクリ、と自分の腹に太い剣が差し込まれる。
 それと同時に感じた。
 この騎士は空っぽだ、と。

(この、イメージは――)
「離せ!」

 タイガが刀を騎士の甲冑の隙間に差し込む。ジュンの撃った銃弾が胴体へと突き刺さる。
 それを全く意に介さず、黄金の騎士は自由になっていたメイ子を再び宙へと上げると、地面へと叩きつけた。これで二人目。

「手ごたえが無い!? グッ……」

 剣で刀を断ち切られ、裏拳で殴られタイガが地面を転がる。翠からすれば名も知らぬ変な服の少年が無力化し、これで三人目。

「終わりだ。」
「こんな、ところで。」

 そして四人目となるジュンが袈裟懸けに斬られる。
 都合十五秒。それで四人の参加者が無力化した。


142 : 命の百合 ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/25(木) 13:55:23 5dTkzMtQ0


(あ〜アカンは、これ死んだわ。)

 もはや指一本も動かせなくなった翠は、ぼうっと黄金の騎士を見ながらどこか他人事に思った。
 今までもさんざんわけのわからないことに首を突っ込んだり巻き込まれたりしてきたが、今回だけは運が無かったようだ。いや、判断ミスもある。ふだんなら仲間がカバーしてくれるところが、一人ではどうにもならなかった。別に能力が使えるとかそういうのではなく、物の考え方だとか、気の使い方だとか、そういったところが足りていなかった。

(ああ、凛さん。最期にあなたに一目会いたかった……)
「この人……もう、人じゃない……これはむしろ……」
「お前……最期の最期まで……見せ場取るなや……」
「……まだ生きてたんですね……」
「もう、死ぬけどな……」

 自分でも何故喋れているのかわからない程の血が出ながら翠は喋る。もしかしたら、単にメイ子がテレパシーを受けやすい体質で喋っている気になっているかもしれないが、もうどうでも良かった。

『最期ついでに教えてよ、アイツの正体。付喪神みたいなもんかなって思ったんやけど。』
「さっき……あの人を……『見』ました……すごく、長い時間生きてます……でも、あの人の身体が見えなく、ごぶっ。」
『逆か。元人間ってパターンか。ああ、だからさっきの花か。あれが命の百合なら、永遠の命っていうのは本当ってことか。肉体が滅びても魂は不滅、ってハリウッド映画でなんかあったわ。』

 納得がいった。ホラー映画みたいな不死身の怪物というわけだ。
 得心がいってスッキリすると、いよいよ意識が遠のく。今まで色々な事件に巡り合ってきたからか、いつの間にか真相というものに興味を持つようになっていたようだ、と死の間際に自分の変化に気づく。
 それは走馬灯のようなものだろうか。自分が死ぬまでのカウントダウンを、翠はハッキリと知覚していた。
 多分次が最後の超能力だ。もうろくにコントロールはできそうにない。もう少し血が出ていなければ、あの命の百合を引き寄せて何かして助かったのかもしれないが、ちょっと無理そうだ。だから。

(メグ子、もし凛さんや蘭に会ったら、「翠さんはみんなを守って悪い化物と刺し違えました」とか言っとけよ。こういう死に方すると記憶に残るから。)

 最大出力のサイキックを放つ。
 狙いと言える制御はできないが、その行き先は黄金の騎士。
 ジュンを持ち上げその血を命の百合へと垂らしていた背中に思い切りぶち当てる。
 叫びを上げて正面の一本杉へとぶちあたった敵に構わず、より一層強く力を放ちめり込ませていく。
 だがそこまでだ。
 さっき翠がそうしたように、同じ系統の能力で相殺にかかられる。
 最後に一際強く、切り裂くように力を放つも、ダメ。鎧を軽く砕くも、それで痛みを感じている素振りを見せるも、黄金の騎士は止まらない。

(勝った。)

 翠は最期にそう思って息絶えた。

 そして彼女のサイキックもやみ、黄金の騎士がめり込んだ身体を起こした瞬間。
 一本杉はバタリと倒れはじめた。
 とっさに避けようとするも、先に木と騎士の間に挟まれて死んだジュンの死体が邪魔になりワンテンポ遅れる。
 トンを超える重さを受けて、黄金の甲冑はクシャリと歪む。
 最期は叫び声を上げる間もなく、黄金の騎士は動かなくなった。
 その身体から流れるように、ジュンだったものの血が地面へと染み込む。
 それを受けて命の百合はキラキラと輝く黄金の蜜を花へと湛える。
 辺りに芳醇な香りが漂った。


143 : 命の百合 ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/25(木) 13:56:28 5dTkzMtQ0



【0130 森の中】

【藤山タイガ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 主催者をぶちのめして生き残る

【玉野メイ子@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 まず死にたくない、話はそれから



【脱落】

【朱堂ジュン@生き残りゲーム ラストサバイバル 最後まで歩けるのは誰だ!?(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【名波翠@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【黄金の騎士・ゴール@デルトラクエスト(1) 沈黙の森(デルトラ・クエストシリーズ)@フォア文庫】



【残り参加者 276/300】


144 : 命の百合 ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/25(木) 13:58:51 5dTkzMtQ0



【0130 森の中】

【藤山タイガ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 主催者をぶちのめして生き残る

【玉野メイ子@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 まず死にたくない、話はそれから



【脱落】

【朱堂ジュン@生き残りゲーム ラストサバイバル 最後まで歩けるのは誰だ!?(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【名波翠@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【黄金の騎士・ゴール@デルトラクエスト(1) 沈黙の森(デルトラ・クエストシリーズ)@フォア文庫】



【残り参加者 275/300】


145 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/03/25(木) 14:04:56 5dTkzMtQ0
投下終了です。
どなたかは存じ上げませんがパロロワwikiに児童文庫ロワのページを作ってくださった方がいたようです。
ありがとうございます。
まさか自分の企画のページがあるとは思わず、この間久々に見に行ったら自分の企画の名前があってたまげました。
このような応援をしていただけることは書き手冥利に尽きます。
これからもより一層企画を盛り上げ、デスゲームもの経由で若い世代にパロロワを触れてもらい、ひいては令和のパロロワブームの火付け役になれるよう精進して行きたいと思います。


146 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/13(火) 01:50:38 ZqbFrqIQ0
キミノベルとか野いちごジュニアとかの新人賞に向けて書いてたらパロロワが疎かになったんだよね。
投下します。


147 : みんな寂しいサーカスの子ども ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/13(火) 01:51:45 ZqbFrqIQ0



「《クレイジー・ダイヤモンド》!」

 東方仗助の手にビジョンが重なり、そのままに胸から血を流す少女に触れる。
 民家の中、室内に広がった出血量を考えれば、そして虚ろに開かれた目を見れば、その少女が死んでいるという判断は十人が十人ともするだろう。
 それでももしかして、という思いで仗助は少女に触れ続ける。
 するとどうだろうか、死体から胸に空いた銃創が消えていくではないか。服の損傷も共に戻っていき、まるで時間が逆に戻るかのように。傍から見れば眠っているようにしか見えなくなった。
 だがそれでも、少女が息を吹き返すことはない。
 いくら《クレイジー・ダイヤモンド》がどんな物も治せる超能力、スタンドでも、死者だけは生き返せない。
 そのことは仗助本人が一番良くわかっている。
 つい先日も、祖父を助けられずに、冷たくなっていくその肉塊を前に歯噛みしたばかりだ。
 それでも、いや、だからこそ仗助は少女を助けようとする。
 いわばこれは一つの儀式だった。目の前で親しい人を助けられなかったのに、また顔見知りを助けられないことに対する。

「――悪ぃな由花子、もう少し早く来てれば。」

 別にそんなに親しくもなかった、むしろ苦手な部類だった同級生が、祖父の時と同じように体温を失っていくのを、仗助はそうして見送った。


「やれやれ、だぜ……」

 民家にあった布団を敷くと、その上に由花子の死体を寝かせて、シーツをかける。
 イカれたやつではあったが、なにも死ぬことは、ましてや殺されていいようなやつでは無かった。
 であるからして、仗助としては下手人に一つ気合を入れる必要がある。そう思い改めて由花子が倒れていた場所へと戻る。彼女がどうやって殺害されたかは簡単に推理できた。犯行現場には明らかに銃痕があったからだ。窓ガラスの割れ方から見ると、おそらくは外からの銃撃を受けて殺された、と死んだ祖父のように警官になった気で考えてみる。
 では問題はどこから銃を持ってきたか?だ。

(銃なんて簡単に手に入るわけがねえ。てことは、《バッド・カンパニー》みたいなスタンドか?)

 そもそも仗助が由花子の死に自分の想像以上に動揺したのは、彼がこの間戦ったスタンド使いにある。
 祖父の死の遠因となったその男、虹村形兆。男はミニチュアの軍隊のスタンド《バッド・カンパニー》を操り、ある目的のために数多の人間の命を奪ってきた。
 最終的に仗助の目の前で死んだので彼ではないと思う――死んだ人間が生き返ることなどありえないのだから――が、似たような武器を操るスタンド使いが存在する可能性は頭に大きくある。
 あのツノウサギとかいう変なスタンドに一発くれてやろうとし、失敗してこの無人の謎の空間に囚われて以来、時折聞こえる銃声がその危惧を肥大化させている。
 そのとき彼は見つけた。手に銃を持ち、首には首輪を付けられて街を歩く少女を。
 いわゆるピストルを両手で持って、キョロキョロと辺りを見渡しながらこちらへと歩いてくる。

「……冷静になれよ、仗助。あの子が殺ったとは限ンねーぜ。」


148 : みんな寂しいサーカスの子ども ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/13(火) 01:52:30 ZqbFrqIQ0

 飛び出しそうになった身体を抑えて、仗助は呟いた。
 いくら銃を持っているからと言って少女が殺したという証拠は何もない。それに、部屋につけられた痕は連射されたもののようにも見える、拳銃ではああはならないだろう。もっとも、仗助の知識にあるそれは件の《バッド・カンパニー》によるものだけなのだが。
 とにもかくにも、話を聞く必要がある。犯人ならば殴るし、そうでないのなら話を聞く。どのみちこの殺し合いで最初に出会った他人だ、会ってみるほかない。
 仗助は部屋を後にするとキッチンへと移った。玄関から出て正面から鉢合わせるよりあるかどうかはわからないが勝手口から出て後ろを抑えた方が良い、そう判断してドアを開けたところで、テーブルの上にデカデカと寝そべるそれにギョッとした。

「ライフルだと? なんでこんなもんが家ん中にあるんだ?」

 黒光りするそれはどっからどう見てもライフルだった。それこそ《バッド・カンパニー》の歩兵が持っていたような、仗助は名前を知らないがアサルトライフルに属するものだ。民間用ならば例外はあるがそんなことを知らなくても、それが連射できそうな武器だということはわかる。
 問題は、なぜそれが家の中にあるか、だ。

「な〜〜んか、思い違いをしてる気がするぜ。違和感っつーか……」

 数秒考えた末にそう言うと、仗助は勝手口から出た。わからないことだらけのところに更にわからないことが増えたが、まずは例の少女だ。見失うわけにはいかない。
 仗助は家から出ると、狭い路地を抜けて少女の後ろを取り声をかけた。

「あの〜〜、もしかしてなんスけどアンタも巻き込まれた――」
「……っ!?」
「――人っスか?」

 銃を両手で持ったまま振り向きざまに放たれたハイキック。
 何か武道をやっているらしくもあるそれを、経験と筋力差で片手で押さえ込むと、仗助は何もなかったかのように話を続ける。
 そして同時にほぼ白だと断定した。
 咄嗟に銃ではなく蹴りを選ぶのは殺し合いに乗っていないからだ。単に蹴り慣れているのかもしれないがそれにしては素人っぽい、にわか感のある蹴りだ。つまりたぶん、この女の子は殺っていない。なにせこうして片足を掴まれ不安定な体勢であってもなお強い視線を向けても銃口をこちらに向かせないのだから。

「あ、おれ東方仗助っス。もちろん殺し合いなんてやるわけないっスよ。」

 明らかに年下だが一応敬語で名乗る。よく考えたらこんな近くで突然後ろから、見知らぬ年上の男子に声をかけられたらビビるよなという反省と共に、手を離してやり自由にする。二三歩あとずさられるが、相変わらず強い視線を向けては来るものの逃げも戦おうともしない。そして少女は口を開きかけて、パクパクと動かして、閉じた。
 小さい声だ、と思った。緊張して声が出ないのだろう。そう思って仗助は少し近づきながら声をかけようとして。少女の視線の変化に気づく。なぜかはわからないが、少女の目はとても悲しいものに変わっているように見えた。目にこもる、いわゆるメンチのような気合は感じるのだが、なぜかこもっている感情が別のものに見えた。それと同時に察する。少女の口の動きに変化があった。それは仗助の地元でカツアゲにあっているやつがする、独特な口の動きだからだ。
 「ごめんなさい」、そう声が出ずに言う、アレだった。

 仗助が出会ったのは、言葉を失った少女、紅絹。
 コミュニケーションの取り難い相手を前に、仗助は何を思い何を成す。


149 : みんな寂しいサーカスの子ども ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/13(火) 01:53:28 ZqbFrqIQ0



「む、来たな。」

 自らのスタンド《バッド・カンパニー》が先程殺した名も知らぬ少年――タベケン――を川へと沈めていく様子を監督していた虹村形兆は、周囲を索敵させていたスタンドの一部隊が発見した少女の下へと踵を返した。
 形兆の目的は優勝。死者である自分を蘇らせ、その死の遠因ともなった東方仗助をも捕らえて殺し合わせようとする主催者に、歯向かおうという選択肢は無い(仗助に関してはいた気がするだけでハッキリとした記憶は無いが、傷を治す能力を持つ変な頭をした男などアイツ以外にいるわけがない)。なによりも、自分と仗助がいるということは、弟の億泰の存在も把握されていると考えてしかるべきだ。人質に取られているも同然であるのに反抗するなど愚の骨頂である。
 だが最悪の可能性は、億泰もこの殺し合いに参加させられている場合だ。これはかなりマズイ。
 億泰は端的に言って、バカだ。
 単純な学力という意味一つとっても兄である形兆から見てもよく高校に入れたなというレベルであるが、それ以上の問題点は難しいことを考えるのが苦手ということだ。判断が遅い上に出した結論でハズレを引く。考えることを途中でやめて力技に走る。およそ知略が重要となるデスゲームには向いていない。なんなら、首輪を《ザ・ハンド》で消し飛ばそうとして殺される姿すら容易に想像できるようなタイプだ。それ以外にも例えばあのような小さな少女を迂闊に信用して後ろからズガン!とされるとか、他には――

(考えだしたらキリがない! 今は目の前の敵に集中せねば。)

 頭を切り替えると、形兆はタベケンを運んでいた輸送ヘリから死体を川へと遺棄し、少女へと向かわせる。
 そして機銃を少女へと向けさせると、観察を始めた。

(年齢は小学四年生か五年生あたり。外見の特徴は首元の痣のみ。手に持っているのは拳銃とスケッチブックか。)

 殺すか。《バッド・カンパニー》へと命令を下そうとして、しかし手が止まった。一つ気になることがある。なぜ拳銃を持っているかだ。
 形兆の方針は見敵必殺、彼女を見逃すという選択肢は無い。無いのだが、少女が持つ拳銃の出どころが気になってしまう。あれは元々少女の持ち物なのか、この殺し合いには自分のような死者や拳銃を持つ子供のような特殊な境遇の人間が参加者となっているのか、それともこの空間には容易に銃を手に入れられる環境があるのか、先程から時折聞こえている銃声は彼女が起こしたものなのか、気になってしまう。
 形兆は自他ともに認める几帳面な性格であり、こういった細かいところにも神経質になるきらいがある。それは一度死んだぐらいで変わることなどない。

(いや、殺すのはまだだ。情報を聞き出す必要がある。「どこで銃を手に入れたか」について尋問するのが先だ。もし銃が簡単に手に入るのであれば前提が変わる!)


150 : みんな寂しいサーカスの子ども ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/13(火) 01:54:24 ZqbFrqIQ0

 そして形兆のもう一つの方針としてステルスマーダーがある。これは本来は自分の存在に気づく人間全てを殺すというものだ。なぜならもし、億泰がこの殺し合いに巻き込まれていた場合、彼が自分の存在を知ることで優勝を諦める懸念があるからだ。
 億泰はバカだ。だから死者である自分に余計な気を使って、最後の一人になる道を躊躇しかねない。もっと悪い想定をすれば、主催者への反抗も考えかねない。それは駄目だ。実力の差というものを理解せず突っ込んでも無駄死にするだけ。能力と根性のどちらも伴わなければ栄光は掴めないのだ。
 だから形兆は誰にも知られることなく参加者を皆殺しにしようと考えているのだが、しかしここに一つの例外が生じた。日本ではありえない武器を持つ少女。この異常を放置しておけるほど形兆はだらしのない性格ではない。少女の返答次第では殺害対象の優先順位も変わりかねないからだ。億泰はバカだが腕っ節は強い。なので参加者が小学生程度の子供ならば肉体的にも頭脳的にも遅れを取ることはないだろう。頭脳の方は少し希望的観測が入るが、さすがに仮にも高校生が小学生に頭で負けるとは思いたくない。もっとも小学生時代の自分の方が今の億泰より賢いという自負はあるが。それはともかく、とにかく相手が子供ならば億泰は負けない。それが前提だ。
 しかし、その前提を覆すのが銃だ。億泰の《ザ・ハンド》は形兆もゾッとするほど強いが、億泰本人を銃で狙われれば凌ぎ切れない。なぜなら銃は強いからだ。それは《バッド・カンパニー》を持つ形兆だからこそ、他のスタンド使いよりも何倍も実感している。そして銃は子供でも撃ててしまえる。そして億泰は子供を前にすればまず油断する。油断して後ろからズガン!とやられる姿が目に浮かぶ。

「まったく、できの悪い弟を持つと苦労するよな〜。」

 形兆は自らの周囲に《バッド・カンパニー》の歩兵たちを再展開すると、真っ直ぐに少女の下へと歩き始めた。
 数分もしないうちに少女の姿を目視で捉え、その視界内に入るようにわざわざ正面に回り込むルートをとる。銃撃の危険性は考えない。単発の銃弾など《バッド・カンパニー》ならば容易に撃ち落とせる。そもそも先に撃ち殺せるのでそれすらもいらぬ心配ではある。それに、自分に気づき怯えたような表情を浮かべるて持っていた銃もスケッチブックも取り落とすような少女に恐れることなど何もない。

「いくつか聞きたいことがある。お前は殺し合いの参加者か? そして、その銃はどこで手に入れた?」

 そんな少女の様子に鼻白みながら、形兆は問いかけた。こういうヘタレで無能なタイプは形兆の嫌う人種だ。誰かの足を引っ張る。もしこういったやつが弟と会ったらと思うと即刻殺したくなる。
 今もそうだ。少女は問いかけに対して答えることもせず、口をあわあわと開け閉めするだけだ。意志薄弱、尋問するという予定がなければ殺しているところなのに。そう白い目を向ける形兆の前で、少女は蹲った。視線に耐えられなかった、というわけではない。手が落としたものに伸びている。それは銃とスケッチブック。そして彼女は形兆の前で、スケッチブックを拾い上げた。

(銃ではなくそっちか。状況がわかっていないのか、それともわかっているからこその行動か。)

 万が一にもスタンドを発動される可能性を考え、《バッド・カンパニー》への発砲許可を出そうと考えながら、形兆は少女の行動を見守る。少女はポケットから出したペンでなにやら書いていた。その手からは特段スタンドのビジョンなどは見えない。ならばなぜ、今スケッチブックを?そう思った形兆に、少女はスケッチブックを見せた。

『夢からさめたら知らない家にいました テーブルの上に、これがおいてありました』
「しゃべれない、のか?」

 形兆の問いかけに、少女は目を伏せて首に手をやる。そして喉を握るように掴んだ。ちょうどアザの部分の皮膚が白く変色していく。

 形兆が出会ったのは、言葉を失った少女、あすか。
 コミュニケーションの取り難い相手を前に、形兆は何を思い何を成す。


151 : みんな寂しいサーカスの子ども ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/13(火) 01:56:07 ZqbFrqIQ0
【0035 住宅地とその近くの公園】

【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 主催者をぶちのめして帰る
●中目標
 由花子を殺したやつをぶちのめす
●小目標
 目の前の少女(紅絹)と話す

【紅絹@天使のはしご1(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●小目標
 目の前の不良(仗助)と話せたら良かったのに

【虹村形兆@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝を目指す
●中目標
 自分の存在を露呈しないように発見した参加者を殺していく
●小目標
 目の前の少女(あすか)と話し銃の出どころを聞き出す

【藤原あすか@ハッピーバースデー 命かがやく瞬間@フォア文庫】
【目標】
●小目標
 目の前の不良(形兆)と話せたら良かったのに


152 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/13(火) 02:01:24 ZqbFrqIQ0
投下終了です。
今週るろうに剣心のノベライズが発売されたりと更に出せる作品の幅が増えて嬉しいです。
出せるキャラは児童文庫から出てる範囲限定ですけれども。


153 : ◆NIKUcB1AGw :2021/04/14(水) 21:43:01 0EpYNwlM0
投下します


154 : イヤメタルは砕けない ◆NIKUcB1AGw :2021/04/14(水) 21:44:24 0EpYNwlM0
バトルロワイアル開始から1時間。
空条承太郎は、会場内をさまよい続けていた。
むろん彼ほどの男が、何も考えずにただ漠然とうろついていたわけではない。
時折聞こえてくる戦闘音を捉え、その現場に向かおうとはしているのだ。
ところが立ちこめる霧のせいか、どうしても目的地にたどり着けず無駄足となってしまっているのである。

「やれやれだぜ……。俺もずいぶんと平和ボケしちまったか……」

自虐を漏らしながら、なおも歩き続ける承太郎。
するとその時、路地からひょっこりと顔を出した出っ歯の男と視線が合った。

「おい、おまえ……」
「ひぃぃぃぃぃ!! 殺さないでちょぉぉぉぉぉ!!」

承太郎が話しかけようとした途端、出っ歯の男……イヤミは目を見張る速さで土下座しながら命乞いをしてきた。
その無駄のない動きは、まるで熟練の武術家による演武のようだった。

「おいおい、何も俺は……」
「と見せかけて隙ありーっ!!」

さすがに面食らって警戒を解こうとする承太郎だったが、その言葉も終わらぬうちにイヤミは豹変する。
懐から隠し持っていた拳銃を取り出すと、イヤミはためらうことなく銃口を承太郎に向けて発砲した。
ところがその瞬間、承太郎の姿が消えた。当然銃弾は承太郎の体を捉えることはなく、近くの壁にめり込む。

「はあっ!? な、何が起こったザンス!?」

状況が飲み込めず、困惑するイヤミ。

「やれやれ、本当になまってやがる……。
 一瞬とはいえ、本気で無防備になっちまったぜ……」
「シェー!!」

承太郎はいつの間にか、イヤミの背後に立っていた。
それに気づいたイヤミは、驚きのあまり硬直してしまう。

「一発だけなら誤射、とかいう言葉があるらしいからな……。
 こっちも一発で済ませてやるぜ! スタープラチナ!」
『オラァッ!』

承太郎のスタンド・スタープラチナの拳が、イヤミの顔面に叩き込まれる。
なすすべもなくイヤミは吹き飛び、民家の壁に叩きつけられて気絶した。

「殺しはしねーが……。最低限のペナルティーは負ってもらうぜ」

承太郎はイヤミの上着を剥ぎ取り、それを縄代わりに彼を簡単に拘束する。
ついでに、スタープラチナの腕力で拳銃も破壊しておく。

「悔い改めれば、助かる可能性もあるだろうよ。
 考え直してくれることを祈るぜ」

イヤミを裏路地へ放り込むと、承太郎はその場を去って行った。

「しかし、あいつの歯……。へし折るつもりで殴ったのに、びくともしなかったな……。
 いつぞやの自称ダイヤモンドの歯より、よっぽど硬いんじゃねえのか……?」


【0100 住宅地の外れ】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いを破綻させる


【イヤミ@おそ松さん 六つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
●大目標
優勝を目指す


155 : ◆NIKUcB1AGw :2021/04/14(水) 21:45:06 0EpYNwlM0
投下終了です


156 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/16(金) 02:08:19 c9kvvSvo0
投下乙です。
みらい文庫のおそ松くん勢に比べてジュニア文庫のおそ松くん勢がパロロワに適応しすぎている。同じ原作でも違いが出ますね。
そしてついに出てきた承太郎。オープニングにいたのに今まで書けなかったのは自分で登場話的なのを書こうとするとなんかそれっぽくならなかったからなのですが、うまい具合に書いてもらえましたね。
ありがとうございます。
それでは私も投下します。


157 : トト子が先に撃った ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/16(金) 02:13:10 c9kvvSvo0



「また銃の音か。」
「なあ、やっぱり街から出ないか?」
「音がしないのは向こうの畑の方だぞ。」
「バイクで突っ切れば……撃たれそうだな。マシンガンみたいな音も聞こえるし。クソッ! どこに逃げればいいんだよ。」

 宇野秀明は助けてもらったときのまま竜人に抱きつきながら悪態をついた。
 謎の少女、ビーストに襲われていたところをバイクで通りかかった彼に拾われてから無人の街を走ること二十分三十分。その間二人は安全な場所を探していたものの、四方八方から聞こえる銃声にバイクを停めることができないでいた。散発的に、時に連続して聞こえるそれは、素人からしても明らかに何種類もの音がある。つまりいろいろな種類の銃を何人もが持って打ち合っている、と見ていいだろう。たった一時間もしないうちからそんなに殺し合いに乗った奴が多いのかと二人で話しながら、なんとか安全そうな場所を探す。だが頑丈そうな建物は鍵がかかっていたり外から見えやすかったりといまいち入りにくい。かと言って中が見えない建物も入るのがはばかられる。結局バイクを走らせて銃の狙いをつけにくくすることしか二人(というか運転している竜人)にはできなかった。
 だがそれも「ぴしぃ!」と割れた近くの窓ガラスによって終わった。

「撃ってきやがったぞ!」
「どこからだ!」

 ついいましがた通り過ぎた近くの建物の窓ガラスが唐突に砕ける。理由は明白、銃弾が貫いたのだ。

「プランBでいこう!」
「わかった。」

 プランB。それは二人がこれまでのツーリングの中で決めた作戦だ。
 二人が使える道具は宇野の拳銃と竜人のバイクの二つのみ。
 これだけでマーダーから襲われた時に取れる行動は、二つ。
 一つはバイクの速度を活かして逃げる。撃ってきた場所が判ればそちらに向けて宇野が銃撃し、怯ませて逃げる。だがそのためには敵の位置がわからなければならない。もしそうでないのなら、走行中のバイクを狙ってくるような敵に無防備な姿を数秒とはいえ晒すことになる。それはあまり分の良い賭けとは言えない。
 ならばもう一つは。

「捕まってろよ。」
「とっくに捕まってます!」

 バ リ ィ ン !

 コンビニの窓ガラスが砕ける。
 プランB、それはバイクに乗ったまま建物に突っ込むこと。
 降りる時の隙を無くし、仮に建物の中に敵がいても奇襲できる。
 鍛えている竜人だからできる荒っぽいやり方だが、功を奏したのか、追撃は来ない。それどころかコンビニ内の床にはライフルが落ちている。
 「急げ」とそれを片手に抱えてもう片方の手で宇野を抱えると、竜人はスタッフルームへと踏み込んだ。
 敵はいない。いわゆる普通のコンビニだ。ポツンと数本置かれていたペットボトルの一つを手に取る。二三口飲むと、残りは頭から浴びた。ミネラルウォーターが髪の毛に引っかかったガラス片を洗い流していく。

「竜人さん、あれ。」

 宇野が炭酸にむせながら指を指す。そこには血痕。互いの身体を見る、までもなくそれが自分たちのものではないと気づく。血の位置は奥まったところ、裏手の出入り口に続いている。どうやら先客がいたようだ。それと同時に、上から銃声が聞こえる。

「このマンションの上から「ダァン!」」
「動かないで。」

 そして近くのペットボトルが吹き飛んだ。茶色いお茶が二人に吹きかかる。
 血痕の先の出入り口には、一人の少女がライフルを構えていた。


158 : トト子が先に撃った ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/16(金) 02:16:06 c9kvvSvo0



 ピンポンポン。
 ピンポンポン。
 ピンポンピンポンピンポンポン。
 ガチャ。

「……誰だそいつら?」
「リュードとヒデアキだって。流れ弾に驚いて下のコンビニに突っ込んだみたい。」
「……ああ、バイク運転してたやつか。手榴弾じゃなかったんだな。」
「これ、ガーゼに使えそうなもの。そっちは?」
「相変わらずだ。アイツらバカスカ撃ってきやがる。」
「わかった。二人とも、アレがツバサ。こっちがセイジ。さあ手伝って。」
「よろしく(なんでインターホンを三三七拍子で鳴らしたんだ)。」
(たぶん合図とかそういうのなんだろうな。)

 それから数分後、二人はイチカと名乗った少女に連れられてコンビニの上のマンションの一室へと案内された。
 銃口を向けられ、ときおり威嚇射撃を受けながら答えた尋問の結果、ビーストに襲われた部分はともかくそれ以外のマーダーから襲われてバイクで逃げていたら銃撃に巻き込まれたという話は信用されて、互いに互いへの敵意はないことを確認した。そして詳しい話を聞こうとして、人を待たせているというイチカに連れられて今に至る。その待たせている人こそが血痕を出した人間であると、二人は部屋の玄関に寝かされた少年を見て理解した。

「コイツが?」
「そう。このマンションの前の道を歩いてたらいきなり撃たれたんだって。わたしやアンタたちと一緒よ。アイツらみさかいなしに撃ってくる。ここ抑えてて。」
「死んでる、のか?」
「まだ生きてるでしょ! だから助けてるんじゃない! そこテープで止めて!」
「わ、悪い……こうですか?」
「だが……そいつは多分、もうダメだ。」
「ハァ!? おいあんた! ふざけたこと言ってんじゃ……」
「やめろイチカ! リュードも!」
「そいつの撃たれた場所をもう一度よく見せてくれ……やっぱりな、腎臓だ。」
「なんでわかる?」
「キックやってる。講習会で習った。腎臓は血管が多い。直ぐに病院に連れてかなきゃ助からない。」
「救急車なら何度も呼んでる! 警察も! でもつながらないのよ!」
「だろうな。警察がいるならこんなことにはならねえよ。」

 言い争う竜人とイチカを前に、宇野は困惑していた。
 自分たちと同じように突然撃たれたらしい、ろくに名前も知らない少年、一歩間違えたら自分たちもそうなっていた。
 そしてその少年と同じように撃たれて、同じように逃げ込んだコンビニで少年を見つけて、助けたイチカ。そんな二人を受け入れた、ツバサ? 人間関係も前後の関係もわからない。
 ただ一つわかるのは、あのシャブキメコスプレイヤーのような危険人物が他にもいて、そのせいで人が一人死にかけている、というとだ。

「なんだよこれ……なんなんだよ……もう意味わかんねえよ……」
「ヒデアキ! ヒデアキ!! 銃持ってんなら手伝え! 位置がバレた! 撃ち返さないとヤバい!」

 ツバサ、と名乗った少年の声が遠くで聞こえる。宇野は抱えていた頭はそのままに、目を部屋の奥へとやった。カウンターらしきところには、雑貨やら何やらが積まれて、その切れ目には空薬莢らしきものが点々としている。少年は銃だけカウンターから出すと無茶苦茶な体勢で引き金を引いていた。撃たれた弾丸は部屋の中の天井や壁に穴を開ける。他の銃声がした。少年が出していた銃の近くに積まれていたフライパンが吹き飛び、少年は慌てた感じで床に伏せた。

(どうすりゃいいんだよこんなの――)

 広がる困惑の中宇野は、だが熱と衝撃を感じて意識を手放した。


159 : トト子が先に撃った ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/16(金) 02:24:21 c9kvvSvo0



「くっ……爆弾……か……?」

 宇野が意識を飛ばす一方で、竜人は比較的に状況を理解していた。
 イチカと睨みあいながらも一応セイジという少年に応急手当をしていたところに、爆発が起こった。直撃ではないということは今生きていることから理解できるが、どうやら相当近くで食らったようだ。
 とにもかくにも逃げなければ。さっきから撃ってきたやつらがやったのかは知らないが、明確に攻撃を受けている。
 竜人は宇野とイチカとセイジを見た。そのまま何秒か固まる。そして一度目を閉じて深く息を吐くと、肩から提げていたライフルを外して片手にイチカを、もう片手に宇野を担いだ。

「悪いが、お前は後回しだ……何か、言うことあるか。」
「同級生が……巻き込まれてるかも……しれないんです……あの、髪、茜崎さん……」
「……わかった。」

 うずくまる体勢だった自分たちよりも寝転がる体勢だったセイジの方が爆発の影響は少なかったようだ。だがそれでも優先順位は変わらない。おそらくセイジは助からない。そもそもここから動かせない。
 竜人は今まで言わなかったが、コンビニからここまでの出血は相当なものだった。イチカかあるいはイチカとツバサの二人か、とにかく安全な場所まで運ぼうとしたために完全に傷が開いてしまっていたようだった。見えている血であれなのだから、腹の中は大惨事だろう。
 だから見捨てる。そう決めた竜人の片手から重さが消えた。
 横を見る。頭から血を流しながらもしっかりとした足取りでツバサが立っていた。

「イチカは持つ。一人で二人は無理だろ。」
「……いいのか?」
「当たり前だろ。」
「そうじゃない。コイツだ。」

 竜人は首だけでセイジを指す。ツバサは目を伏せた。

「動かしたら、持たないだろ。」
「わかってたのか。なら、手当てしても……」
「ああ、無理だったろうな。先に行くぜ。」

 ツバサはそう言って玄関を開けると、部屋から出ていった。間もなくしてエレベーターの開く音が聞こえる。竜人が玄関からやっと出た頃には、エレベーターは一階へと降りていた。と思ったら、表示板に上向きの矢印が出る。降りたあとでツバサが折り返させたのだろう。

「変なところでマメだな……」

 後ろから漂ってくる焦げ臭い匂いと、次第に勢いを増す黒煙に急かされながら、なんとか宇野を抱えてエレベーターに転がり込むと一回のボタンを押す。どうやら自分の想像よりも相当ダメージを負っていたようだ。宇野より大柄なイチカを抱えながら歩いたツバサよりもおぼつかない足取りは、自分が気絶していないだけで宇野と大差ない衝撃を受けていたのだとわからされた。
 ガァン!
 また銃声が聞こえた。今度のは聞き慣れない種類のだ。位置は、下から。
 まさか、と思う。やられた、とも思った。なんとなくだがもう展開が読める。エレベーターのドアが開く。
 ツバサ、と声が出なかった。
 エレベーターを出て道に面した通路に出る曲がり角。そこで頭を吹き飛ばされたツバサの死体が転がっていた。


160 : トト子が先に撃った ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/16(金) 02:27:15 c9kvvSvo0



 時を戻そう。

「あったよ! RPGが!」
「「「でかした!」」」

 ツバサたちと銃撃戦を繰り広げていたアキラ、マキト、リョウタロウの三人は、歓声を上げてゲンを迎えた。
 民家が初期位置だったアキラが近くを通りがかる同学年ぐらいの男子に声をかけて集まった三人は、目下自分たちのいる民家に向けて隣のマンションから銃を乱射してくる謎の敵と戦っていた。
 なぜ自分たちが撃たれているのか。なぜ民家に銃がやたらあるのか。わからないことだらけだが、四人全員お互いに情報を持っていないが武器はあると確認しあえば、必然的に銃を撃ち返す流れになっていた。だって撃ち返さないと怖いもん。
 しかし彼我の戦力差は歴然としていた。あっちが連射の効く銃なのに対しこちらは拳銃が十丁ほど。部屋数が多い割に一部屋一部屋が小さい間取りのせいでそんなことになっていたのだが、彼らにそれを知るよしはない。わかるのはこのままなら撃ち負ける、ということだった。
 では当然逃げようという話になるのだが、あいにくマンションから民家を盾にして脱出できるルートが無かった。敵は高所から撃ち下ろしてくるのに、悠長に塀を乗り越えていたらパララララとやられてしまうのは目に見えている。かと言って塀の切れ目はマンションの真ん前。まさしく逃げ場ゼロという有様だ。
 そこに現れたのが、ゲンだった。
 元々彼は街で見かけた同級生を探していたのだが、マンションの敵から銃撃を受けてアキラの横の倉庫に避難したのだ。
 そして彼はそこで起死回生のアイテムを見つけた。
 RPG。いわゆるロケランである。
 後はお隣さん同士で情報交換し、撃ってきてるっぽいマンションの一室に向けて撃つだけである。

「よし、今のうちに逃げるぞ。」
「ハシゴの用意できたぞ。」
「キャタツだろ。」
「もっとホンシツを見ようよ。」
「いいから早く!」

 民家の塀に立て掛けると、三人は一気に登る。銃撃は来ない。ゲンは一応直撃しないように(そして普通に狙いがずれて)目標とは別の部屋を攻撃したが、狙い通り相手を怯ませることには成功したようだ。そして四人合流すると、更に隣の民家に身を潜める。そこに一発の銃声が響いた。ガァン!

「うそだろ、まだやる気なの?」
「こっちはもう弾無いぞ。」
「この家にも銃落ちてないか?」
「それより逃げよう! ここからならさっきの部屋からは見えないはずだ。」

 ゲンの言葉を受けて、四人はヘトヘトな体に鞭打って走り出す。幸いこの民家の玄関はマンションから死角であり、道の端を進めば安全に戦場から離れられそうだ。
 なによりゲンは彼の同級生、小林聖司が気になっていた。赤い霧もありちゃんと確認できたわけではないが、彼は銃撃されていたような気がする。マシンガンのような銃声が、彼の背中をぶち抜いた。
 ゲンは思う。あの時直ぐに聖司を助けに行っていれば。銃声にビビらずに走っていれば、彼を見失わなかったのに。
 ゲンは知らない。彼が撃ったRPGによる火災が今まさにセイジこと小林聖司の命を奪っていることに。
 ゲンは知らない。聖司を撃ったのもアキラに銃撃を加えたのもそもそもマンションの人間たちに銃撃を加えたのも、ここにはいないトト子が乱射した銃弾の流れ弾だったことに。


161 : トト子が先に撃った ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/16(金) 02:34:00 c9kvvSvo0



「なんで撃った!」
「撃たなきゃ撃たれてましたよ山田さん! 視たでしょ! ライフル持ってたの!」
「でも!――ぐっ!」
「ほら、その傷だって! アイツらが撃ったんですよ!」

 前原圭一はショットガンを取り落として慌ててフラついた山田奈緒子を支える。そしてすぐにショットガンを拾い直して移動し始めた。
 圭一が山田と会ったのはゲーム開始直後であった。最初は警戒していたものの、山田の美人さと残念さに彼は割と警戒を緩める。だが何よりも、目の前で山田が撃たれたことが、彼女への警戒感を減じさせていた。
 始まって、もとい出会って十五分ほどだろうか。未だ山田をまるで殺人鬼でも見るような目で見ていた圭一の前で、彼女は何者か――彼の中ではマンションの上の方にいる奴ということになっている――に撃たれた。
 不幸中の幸いにして撃たれたのは太腿の表面、かすり傷程度のものだ。だがそれでも、実際に目の前で人が撃たれて助けを求められたら、ここは人殺しが平然にいる場だと理解する。そして同時に、山田がそれを是としないことも理解する。殺し合いに乗っていたら銃で撃たれることは無いからだ。
 なぜそうなるのか、と言われれば本人にも答えられない。だがともかく、圭一の中で山田以外は殺人鬼という『視点』が出来上がった。

(なんなんだよ殺し合いって! どうしてそんな簡単に殺し合うんだよ!)

 圭一は山田に肩を貸して歩く。
 この数十分、断続的に銃声が聞こえてくる。最初は自分の幻聴かと思ったが、目の前で撃たれた人間がいる以上これは現実である。それに、どうだろう。近くの道には血痕が点々とし、マンションからは銃声が大きく響き、その下のコンビニにはバイクが突っ込み、少しして上の方で爆発が起きる。これが殺し合いでなくてなんなのか。
 だから圭一は撃った。ライフルを片手に、人質らしき少女を抱えて逃走を図る殺人鬼を。驚くべきことに、犯人はこどもだった。彼と同じ部活のメンバーである、北条沙都子や古手梨花ぐらいの。そして自分もエアガンで女子を撃ったことがあるがゆえにわかる。実銃で殺しにかかりにくるような奴は自分たちとは一線も二線も越えた存在であると。
 そして、同時に思う。もしかしたらこの殺し合いは、そういう一線を越えた人間を集めて行われているのではないかと。そういえばオープニングで和服で刀を持ってたヤンキーがいた。その後出てきたのもリーゼントのヤンキーだ。ということはこの殺し合いはヤンキーや前科者を集めたものだろうか?

(待てよ、山田さんがそんな風に見えるか? クールだ、クールになれ、前原圭一。)

 圭一は、傍らの山田が自分に向ける視線に気づかずに歩く。
 圭一は知らない。山田が撃たれたのはツバサの流れ弾の跳弾であり、単なる偶然であることを。
 圭一は知らない。この街には他にも何人も流れ弾で身の危険を感じ、銃を使い、流れ弾を生み出す側になった人物が多くいることを。
 圭一は知らない。まさに自分自身が、それであることを。


162 : トト子が先に撃った ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/16(金) 02:35:39 c9kvvSvo0
【0045 住宅地】


【竜土@天使のはしご5(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 誰かが死ぬのは嫌だ
●小目標
 ツバサを殺った奴を警戒

【宇野秀明@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る

【宮美一花@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る

【アキラ@ふつうの学校 ―稲妻先生颯爽登場!!の巻―(ふつうの学校シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 四人で安全なところに行って話し合う

【小笠原牧人@星のかけらPART(1)(星のかけらシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 四人で安全なところに行って話し合う

【岬涼太郎@無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄(無限×悪夢シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 四人で安全なところに行って話し合う

【杉下元@IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。(天才推理 IQ探偵シリーズ)@カラフル文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 四人で安全なところに行って話し合う

【山田奈緒子@劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 四人で安全なところに行って話し合う

【前原圭一@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 敵(山田以外の参加者)と出会ったら、戦う……?
●小目標
 山田と安全な場所に移動する



【脱落】

【新庄ツバサ@生き残りゲーム ラストサバイバル 最後まで歩けるのは誰だ!?(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【小林聖司@IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。(天才推理 IQ探偵シリーズ)@カラフル文庫】



【残り参加者 274/300】


163 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/16(金) 02:51:49 c9kvvSvo0
投下終了です。
それと参加者が99名と全体の3分の1を迎えましたので参加者名簿を更新しておきます。

【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】5/6
○東方仗助○空条承太郎○片桐安十郎○虹村形兆○虹村億泰●山岸由花子
【鬼滅の刃シリーズ@集英社みらい文庫】4/5
○塁に切り刻まれた剣士○塁○蜘蛛の鬼(兄)○蜘蛛の鬼(父)●我妻善逸
【黒魔女さんが通る!!シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/5
●羅門ルル●小島直樹●紫苑メグ●須々木凛音○黒鳥千代子
【ギルティゲームシリーズ@小学館ジュニア文庫】4/4
○深海恭哉○小林旋風○小林疾風○北上美晴
【ぼくらシリーズ@角川つばさ文庫】2/4
○菊地英治○宇野秀明●天野司郎●小黒健二
【絶望鬼ごっこシリーズ@集英社みらい文庫】2/4
○関本和也●大場結衣○伊藤孝司●牛頭鬼
【妖界ナビ・ルナシリーズ@フォア文庫】3/4
●ユイ○かまち○タイ○透門沙李
【若おかみは小学生!シリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○関織子(劇場版)●神田あかね○関織子(原作版)
【名探偵コナンシリーズ@小学館ジュニア文庫】3/3
○円谷光彦○小嶋元太○山尾渓介
【銀魂シリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○岡田似蔵○武市変平太○神楽
【かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】2/3
○白銀御行○藤原千花●四宮かぐや
【テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○磯崎蘭○磯崎凛●名波翠
【天使のはしごシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○竜人●生絹○紅絹
【ラストサバイバルシリーズ@集英社みらい文庫】1/3
○早乙女ユウ●朱堂ジュン●新庄ツバサ
【天才推理 IQ探偵シリーズ@カラフル文庫】1/3
●大木直●小林聖司○杉下元
【けものフレンズシリーズ@角川つばさ文庫】2/2
○ビースト○G・ロードランナー
【妖怪ウォッチシリーズ@小学館ジュニア文庫】1/2
○天野ナツメ●タベケン
【ブレイブ・ストーリーシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/2
●小村克美○芦屋美鶴
【名探偵ピカチュウ@小学館ジュニア文庫】2/2
○ピカチュウ○メタモン
【おそ松さんシリーズ@集英社みらい文庫】1/2
○なごみ探偵のおそ松●大富豪のカラ松氏
【NARUTOシリーズ@集英社みらい文庫】2/2
○桃地再不斬○うちはサスケ
【フォーチュン・クエストシリーズ@ポプラポケット文庫】1/2
●ノル○ルーミィ
【クレヨンしんちゃんシリーズ@双葉社ジュニア文庫】2/2
○佐藤マサオ○野原しんのすけ
【おそ松さんシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/2
○弱井トト子○イヤミ
【四つ子ぐらしシリーズ@角川つばさ文庫】2/2
○宮美二鳥○宮美一花
【ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】2/2
○富竹ジロウ○前原圭一
【劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】2/2
○上田次郎○山田奈緒子
【炎炎ノ消防隊シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○森羅日下部
【泣いちゃいそうだよシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○村上
【怪盗レッドシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○紅月美華子
【怪人二十面相@ポプラ社文庫】0/1
●明智小五郎
【世にも不幸なできごとシリーズ@草子社】1/1
○ヴァイオレット・ボードレール
【天気の子@角川つばさ文庫】0/1
●森嶋帆高
【約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】1/1
○シスター・クローネ
【吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】1/1
○吉永双葉
【小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】1/1
○安土流星
【双葉社ジュニア文庫 パズドラクロス@双葉社ジュニア文庫】0/1
●チェロ
【ふなっしーの大冒険@小学館ジュニア文庫】1/1
○ふなっしー
【時間割男子シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○花丸円
【絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】1/1
○藤山タイガ
【サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】1/1
○玉野メイ子
【デルトラ・クエストシリーズ@フォア文庫】0/1
●黄金の騎士・ゴール
【ハッピーバースデー 命かがやく瞬間@フォア文庫】1/1
○藤原あすか
【ふつうの学校シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○アキラ
【星のかけらシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○小笠原牧人
【無限×悪夢シリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○岬涼太郎

以上46作品99名です。
一冊でも児童文庫を読んだことがあれば書けてそこらじゅうに銃火器落ちてるから登場話でドンパチもしやすいという、おそらく今動いているパロロワの中で最もハードルが低くて勢いがあるのが当企画です。
今後もそれを活かして他の企画じゃ投下しにくいような多種多様な投下をすると共に、児童文庫の二次創作をしようとする二次小説書き手を一人でも増やしていけるように頑張ってまいります。


164 : 名無しさん :2021/04/16(金) 13:54:22 X3FMdzSk0
乙です
素人ではないけど常人同士の銃の撃ち合い…銃の怖さが伝わる騒動でした
タイトルが秀逸。被害者達の理不尽への怒りがトト子に届く時はあるのだろうか
聖司の遺言が染みました


165 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/22(木) 00:09:08 AorOynuQ0
感想ありがとうございます。
自分で感想書くのも企画盛り上げる感じがしていいですけど、やっぱりこういうふうに誰から感想もらうのっていうも良いですね。
一人で書いてるんじゃないって思えて。
というわけで投下します。
今回は小学生の女の子が大切な人と一緒に生きていくために仲間と力を合わせて頑張るという、双葉社ジュニア文庫の看板作品として児童文庫界で今大人気の原作がメインです。
多分みなさんご存知じゃないかもしれませんが、ひぐらしのなく頃にという作品です。


166 : バトル・ロワイアルに雛見沢症候群を放てッ! ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/22(木) 00:10:55 AorOynuQ0



「あれって、学校……?」

 累vs再不斬の気配を感じて森の中へと方向転換した磯崎蘭。
 小一時間ほど歩いた末に見つけたのは、森の切れ目に建てられた無骨なコンクリ造りの建物だった。
 グレーの無機質な色合いは彼女が通う中学とは異なるが、おおよそ一般的な学校のイメージのそれである。そのことが蘭をなんとなくホッとさせた。ここに来るまで全くと言っていいほど非人間的な、人の気配がしない状況だったので、こんなどこともしれない学校でも人が作ったものというだけで安心感を覚える。

「ウウウウゥ……」
「……なに、この感じ……?」

 が、それはあっという間に不安感へと変わった。
 何かいる。狙われている。そんな直感がある。
 感覚を研ぎ澄ませる、なんてするまでもない。彼女の鼻にそれは漂ってきた。
 多分学校の方からだろうか、微かな血の臭い。
 そしてもう一つは、自分が歩いて来た方からだろうか、野獣の臭い。

「グルアアアッ!」
「く、熊ぁ!?」

 臭いをした方向を見て目が合い、雄叫びを上げて蘭へと駆け出したそれを見て、彼女は猛然と走り出した。
 熊だった。しかもデカい。たぶんヒグマ。
 なぜかそれが、首に彼女と同じように首輪を付けて、彼女に向かって駆けてきた。
 なぜヒグマがいるのか、あれも参加者なのか、なんで追いかけてくるのか、わからないことだらけだが明らかに殺しにかかってこられていることだけはわかる。そして相手がヒグマであるが故に、能力者である蘭でもどうしようがない。彼女一人の念動力では、野生の重装甲を貫通することはできない。超常的な力を持っていても埋め難い種族の差がそこにはあるのだ。人間はヒグマには勝てないのだ。悔しいだろうが仕方ないんだ。

(留衣……! やだよ……! こんな……!)

 いくら彼女が運動に自信があっても森の中から校舎まで逃げることなどできるはずもなく、それどころか敷地を隔てる金網のフェンスにまで辿り着けずにあっという間に追いつかれる。そのことがわかっていても走ることはやめられない。そしてそんな体の動きとは対称的に、心の中では諦めが満ちていく。今までの経験とはまだ趣が違う、猛獣という恐怖。悪意を持った人間や幻想的な鬼神とは異なる本能による捕食が、根源的な恐怖を蘭へともたらす。
 そして最後に想い人の名前を呼びながらその笑顔を思い出そうとした時。


167 : バトル・ロワイアルに雛見沢症候群を放てッ! ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/22(木) 00:11:56 AorOynuQ0
「チィッ、なんでヒグマなんか参加者にしてるんだよ。」

 タァン、バン、バン。

 銃声と共に蘭とヒグマの間の土がはね、今にも飛びかからんとしていたヒグマがたたらを踏む。

「手を伸ばせ!」
「消火ホース!? う、うん!」

 続いて声と共に校舎の壁面を滑り落ちてきたそれを見て、蘭は素っ頓狂な声を上げながらも速度を落とさずに金網をスライディングでくぐり泣け、立ち上がり走り飛びついた。

「よし、引け!」
「まずい、アイツまた来るぞ!」

 先っぽに金属のシュッとしたのがあってそれ以外は布っぽいそれは、おそらく消火栓から出したのだろう。水圧に耐えられるように頑丈にできているホースは蘭の体重を支え、ゆっくりと上へと上がっていく。蘭自身も壁面に足をつけて腕で手繰って登る。
 しかし半分も行かないうちに、背後で金網がぶち破られる音がした。
 ギョッとして振り返ればそこにヒグマがいる。駆け寄り立ち上がったその顔は、蘭どころかホースが伸びている窓より高かった。

「やられた、ホースを掴みやがった。」
「くっ、びくともしない!」
「こっちだ、こっちの窓から!」
「うん!」

 ヒグマの非常識にデカい前足がホースを抑え、逃げ込もうとしていた窓ガラスは巨体に封じられた。
 その少し横の窓ガラスが開けられ、手が伸ばされる。
 蘭は全身に力を入れると一気に壁面を斜めに駆けた。後ろからもう一前足が迫る。それをサイキックを込めた足で踏み台にして飛び上がり、校舎の二階へとなだれ込んだ。

「よし、放していいぞ。」
「ケガはない?」
「立てるか?」
「走れるな。」
「逃げるぞ!」
「ありがとう、大丈夫、でも、ごめん、ちょっと休ませて……」
「休んでる暇なんてないのですよ! 早く!」

 矢継ぎ早に男子五人が、廊下に転がった蘭を無理やり立たせた。少し離れた位置でなぜか半開きになっているシャッターの近くから、女子がライフルを構えてヒグマと廊下の奥の方に銃口を行ったり来たりさせている。
 そしてそれはやってきた。
 この場の誰とも同じように首輪が巻かれている、ぽい。
 ぽいというのは蘭からはよく見えなかったからだ。
 なにせ、その首は立派なたてがみの影になっているのだから。

「なんで校舎にライオン!?」
「こっちが聞きてえ!」
「大地くん、防火シャッターは?」
「復旧した、今度はちゃんと降りる。」
「肩を貸すよ。」
「よし、殺虫剤の用意ができた。走って!」
「早くしないと閉めるのですよ!」

 息吐く間もなく走り出す。
 蘭と五人の男子はシャッターを潜ると、ライフルを持った女子がライオンに向けて発砲した。
 僅かな隙間目掛けて殺到してくるライオンの動きを止めると、真横に位置することになったヒグマがライオンに向けて前足を振るう。その光景を最後にシャッターは閉まり、聞こえてくるのは猛獣二頭の叫び声と荒い息遣いだけとなった。

「これで、ひとまず安全なのです……もう一度理科室に戻りましょう。あなたも、色々と聞きたいことがあるのです。ついてきてください。」

 玉のような汗を額浮かべてぺたりと張り付いた髪を拭い、少女は少ししてそう言った。その言葉に応えて、男子たちは立ち上がり、蘭も続いた。


168 : バトル・ロワイアルに雛見沢症候群を放てッ! ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/22(木) 00:13:15 AorOynuQ0
「オレは大場大翔。前に地獄の鬼と鬼ごっこをしたことがある。あのツノウサギっていうのも鬼だ。」
「ボクは桜井リク。前にラストサバイバルで人体模型と鬼ごっこしたことがあるよ。」
「高橋大地。前に学校でライオンとかに追っかけられたことがある。」
「白井玲。逃走中でハンターに追いかけられたことがある。」
「沖田悠翔。学校で襲われたことがある。」
「古手梨花です。私はそういうのに巻き込まれたことないので安心してほしいのです。」
「え、うん、え? ちょっ、ちょっと待って! どういうこと?」

 たどり着いた理科室で矢継ぎ早に自己紹介と謎の情報提供がされて、蘭は困惑した。
 ヒグマに襲われるはライオンに襲われるはなぜか女の子が銃持ってるわとさしもの彼女も混乱せざるを得ないことが山積みだ。
 そんな彼女の様子を見て、男子たちは目配せすると、一冊のノートを差し出した。

「なにこれ?」
「そう言われると思って、俺たち六人でまとめたこのバトル・ロワイアルに関する考察と、それぞれが経験してきた似たような事件についてと、首輪についての考察と、主催者についての考察と、今後の対主催としての方針をまとめたノート。最後の6ページが一人一人の自己紹介ページになってる。」
「うわー、わかりやすい。」

 なんでこんな手際良いんだろうと思いながらも声にはせず、蘭はページをパラパラとめくる。
 そして彼女はその内容でまた驚いた。
 男子たち五人は似たようなことに巻き込まれたことがある上に、大翔に至っては前回もあのツノウサギが主催者出会ったというのだ。
 それらはよく聞けばさっき言われたことなのだが、文字に起こされて詳細に書かれるとまた違った認識になる。
 と同時に、蘭はこのノートに対してテレパシーを使う。ノートからは何か強い、ポジティブな意思が感じ取れた。

「首輪の考察……あ、ゴメン。」

 感嘆して思わず喋ってしまい慌てて口を閉ざす。
 そもそもこのノートを書いたのも、後から加わった人間にわかりやすく伝えること半分、首輪での盗聴を警戒して筆談するため半分、と書かれていた。まさにその盗聴という部分で驚き声にしてしまった蘭。最年長者としていかがなものなのか。

「待って、おかしいな。」
「みー、気づきましたか。」
「うん、もしかして……」

 ハッとなって蘭はこの場にいる七人を考える。
 男子は全員小六、何かしらかに追いかけられた経験あり。
 女子は自分と古手梨花の二名で、少なくとも梨花にはそういう経験がない。

「男子はみんな、何か不思議なことに合ってる。女子とは、集められた理由が違う?」
「もしくは、女子がなんか秘密にしてるか、だ。」

 すかさず大翔が告げた。うっ、と言葉に詰まる。秘密を抱えていることは間違いない。追いかけられたことはそんなに無いけれど。

「俺たちがそれを見せたのは、えっと……名前なんだっけ?」
「忘れてた。磯崎蘭です。」

 そういえば名乗ってなかった。


169 : バトル・ロワイアルに雛見沢症候群を放てッ! ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/22(木) 00:15:42 AorOynuQ0
「……ゴホン! 磯崎さんが俺たちと同じ経験をしたかもしれなくて、それを秘密にしようとしてるか確かめたかったからだ。隠していること、話してくれないか?」
「か、隠してることなんてなにもないよ! 本当に!」
「スゲーウソ下手だなこの人。」
「うっ……!」

 冷徹にツッコまれて更に言葉に詰まる。もちろん、蘭が能力者であることは秘密にしている。幼なじみ(という名の両思い)や同じ能力者である人間にしか話すことはない。そして目の前には似たような超常的なことを経験したことがある男子たち。
 あれ? これ話しても大丈夫じゃない?

(でも、梨花ちゃんも秘密にしているってことは話さないほうがいいよね。)

 一瞬言ってしまおうかと思うも、思い直して口を閉ざす。
 蘭一人なら言ってしまってもいいが、どうやら梨花は秘密にしているようだ。もしくは本当に何もないか。だがどちらにせよ、男子は梨花を何らかの能力者や特殊な経験をしたことがあると見なすだろう。それはよくない。

(でも、こういう時はみんなで話し合ったほうがいいよね。あー! もー! どうしよ……)

 しかしながら、ここで秘密にし通すのもマズいことはわかっている。
 今回の事件は、というか今回の事件もどう考えても蘭一人ではどうにもならない。みんなで力を合わせなければいけないだろう。なにより、男子たちは自分の経験を話してくれた。それを無下にはしたくない。
 ざっと読んだだけだが、ノートには自分が巻き込まれたことを他人に話しても信じてもらえなかった、そんな経験も書かれていた。全員というわけではないが、そういう思いをしたことがあるのに、情報を出してくれた勇気は蘭の判断を迷わせる。自分も近い経験をしたことがあるだけに、そして相棒がまさにそうであっただけに、自分も言わなければ、そう思う。

「実は、私も不思議なことに合ったことがあるの。ただ、それはみんなみたいな鬼ごっこではないわ。それと、この話はできれば秘密にしてほしいの。私だけで話していいか決めていいことじゃないから。」

 迷った末に、蘭は話せる範囲のことを話すことにした。
 梨花に迷惑をかけたくはないが、男子たちにも応えたい。しかし自分の能力は緊急事態ならともかく自分だけの判断で話していいようなものでもない。
 だからこれが話せる限界であった。鬼ごっこ的なものには巻き込まれたことがなく、しかし不思議なことに巻き込まれたことがあるという、ギリギリのラインで話す。話す上で、それ以上は話せないとも伝える。
 そしてカチャリ、という音ともに、リクと名乗った少年がポケットから銃を出した。
 ギョッとして思わず梨花を庇いながら能力を使おうと集中する。そんな蘭に「あっ」と声を上げて、慌てた様子でテーブルの上に銃を滑らせた。

「ご、ごめん。もう持ってる必要が無さそうだから置こうと思って……」
「よかった〜……」
「……だってさ。古手も銃置けよ。」
「……なんでみんなそんなに反応が早いんですかね。」

 咄嗟にライフルを構えた梨花に、咄嗟にテーブルの影に隠れた大地という少年が声をかける。蘭が周りを見れば、男子はリク以外全員姿が見えなくなっていた。どうやら一瞬でテーブルの影に隠れたらしい。凄まじい反応である。


170 : バトル・ロワイアルに雛見沢症候群を放てッ! ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/22(木) 00:17:33 AorOynuQ0

「それで、古手、お前も話してくれよ。」
(やっぱり、こうなっちゃうよね。)

 テーブルの影から大翔の声が聞こえた。どうやら彼が男子たちのリーダー格らしい。ツノウサギと知り合いだからだろうか?
 そして彼の言葉にあわせて衣擦れの音だろうか、物音が増える。蘭が察知した気配は、円形に教室内に存在している。囲まれた形になった。信じられないが男子たちは合って一時間もしない初対面のはずであるのに、先からやたらに統率が取れている。ヒグマとは別ベクトルの恐ろしさを覚えた。
 梨花と視線を交わす。リクに向けていた銃口を下げた。

「……わかったのです。話します。でも、誰にも、は無理だと思うので、なるべく秘密にしておいてほしい。」
「ああ。そういうのってあんまり話してて気持ちのいいことじゃないもんな。」

 梨花の口調が変わった。雰囲気も同時に変わる。

「まず、私はそういう鬼ごっこの経験は無いわ。ただ、私の村には鬼にまつわる伝承がある。そして私は、その村にある神社の娘。」
「隠すようなことじゃないな。」
「人の話は最後まで聞きなさい。私の村では連続殺人事件が起こった。被害者には、私の親友の両親もいる。しかも事件を鬼と結びつけて考えて、生き残ったあの子を鬼呼ばわりする人までいた……だから、話したくなかったのですよー。シクシク、こんなこと言いたくなかったのに……大翔は酷いやつなのです、人非人です。」
「……その、ゴメン……」

 連続殺人事件、蘭が引っかかりを覚えたのはそこだった。
 今までの経験から梨花が話したくないと言っていたことの内容に男子よりは想定していたが、また毛色の違った話に何か感じる。
 蘭のこれまでの感覚では、不可思議な事件には超常的な存在が関わっているものだ。と同時に、そこには人間の意思も介在する。彼女が思うのは、その間。超常的な存在と現実的な悪意。二つは時に、重なり合う。そうした時には警察などの現実的な力だけではもちろん、能力者であっても一人では立ち向かえない。両方だ。両方が必要なのだ。
 ひるがえって、彼女はこのバトル・ロワイアルについて考えた。男子たちの事例と梨花の事例、差異は大きいが、共通点は異能と現実の並列にある。単に鬼ごっこをしたという共通点とは違うもう一つの共通点。二つが重なり合うのは……

「大翔、こんな話を真に受けるとか、実は天然さんです?」
「な、お前! 嘘ついたのかよ。」
「嘘は言ってないのです。さっき言ったことは本当ですよ。ただ、村では外の人間にこんなことを話そうなんて人はいないですし、外の人で信じる人はもっといません。それと、まだ話には続きがあるのです。みんな、ポケットにメモはありますか?」
「これ? 北条沙都子の注射薬ってある。」
「それです。その北条沙都子がボクの親友です。」
「なるほど、だからさっき脱出を嫌がったのか。」
「さっき?」
「あ、磯崎さんはその時いなかったよな。俺たちが校舎の中でライオンに追われて逃げてるところに、古手がわざわざ入ってきたんだ。磯崎さんも?」
「ううん、私のは大砲だよ。実は……」
「待ってほしいのです。話すと長くなりそうなので、今はボクの話を聞いてほしいのです。」

 梨花の横やりが入り、蘭と玲の会話が中断する。そういえば玲は逃走中という企画で鬼ごっこをしただけで、べつに命がけの鬼ごっことは関係ないらしい。これはさっきのリクも同様だが――


171 : バトル・ロワイアルに雛見沢症候群を放てッ! ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/22(木) 00:19:35 AorOynuQ0
「――ありました、これです。」
(あ、いけないいけない。)
「このC120っていうのか?」
「ちょっと待って、多くない。」
「もしかしてこれ全部? 何百本あるんだよ。」
「……いつも点滴してるの?」
「みー、なんでこんなにたくさんあるのかはわからないのです。2・3年分の量ですよ……まさか……」
「まさか?」
「……この薬は、精神安定剤とビタミン剤、それに病気の予防薬が混ざったものなのです。沙都子は、野菜アレルギーで栄養が偏ったり、事件の影響でパニックになったりすることがあるので、風邪とかにかかりやすいのです。知らないけど。」
「知らねえのかよ。」
「……とにかく、何個か持っていきましょう。みんなももし、異常に興奮したりとても怖い思いをした時には打って欲しいのです。一日に二回が適量です。強い薬だから、胃薬よりはすぐ効いて心が落ち着きますよ。知らないけど。」
「なあ、副作用等とかないのか?」
「あるらしいですよ。症状が出ていないのに使うとエッチな薬を使ったときみたいに体が火照るらしいです。知らないですよ?」
「そりゃ知らないだろ……」
「エッチな薬ってどんな薬だ……?」
「ソレって薬物なんじゃ……」
「これ原材料なに?」
「ボクの脊髄液です。」
「巨人化しそうだな……」

 梨花は話しながら、併設された準備室から取ってきた鞄に薬の瓶を入れ、次いで近くの引き出しを漁ると注射器も入れる。

「なんで学校の理科室にこんなに注射器が……」
「悠翔、お前先からあんま驚いてないよな。」
「もうこのくらいじゃ驚かなくなってきたな……」
「確かに……」
(……薬や注射器もだけど、なんで梨花ちゃん達は銃を持ってるんだろう?)

 手分けして同じように入れ始めた男子たちを見て、そういえばと蘭は思い出した。
 よく考えたら、梨花もリクも銃を持っている。そのことについて今までまるで考えていなかった。他にも考えなくてはならないことが山積していたのでスルーしていたが、そろそろ聞いてもいいだろう。そして彼女が「あの」と声を発したのとほぼ同時に、理科室の棚のガラスが揺れた。と思ったら轟音が響く。強風、まるで台風のような、そう皆が思い窓ガラスから外を見るも、森の木々は大して揺れていない。明らかに風が吹いている音はするのに……

「校庭で竜巻が起こった、のかな?」

 蘭は言ってから恥ずかしくなった。さすがにそれはないだろう。

「なるほど、行こうみんな。」

 真に受けられた。
 理科室を出て廊下を通り抜け向かいの教室へ。その頃には異常に気づいた。
 校庭の隅にある体育館の窓ガラスが割れていた。
 次いで体育館の前の地面が陥没する。

「また敵か。この学校は人気があるな。」
「少なくとも今度は動物じゃなさそうだな。」

 柱の影で拳銃を構えつつ大翔と悠翔が伺う。大地とリクが廊下に戻り、消火ホースを展開する。玲は窓からヒグマを探す。男子それぞれが善後策に動く中で体育館の裏手、校門に近い当りの木々が一際大きく揺れた。


172 : バトル・ロワイアルに雛見沢症候群を放てッ! ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/22(木) 00:20:21 AorOynuQ0

「うわあああああ!!」
「今だ!!ヴァイオレット君!!逃げて!!」
「どう見てもヤバイぞこれ。行ってくる。」
「待って。大場一人じゃ援護したって無理だ。」
「マズい! ヒグマが校庭側に回り込んだ!」
「女の子が校門の方に走って行く、私が狙う。」
「ヒグマが来たぞおおお!」

 目まぐるしく状況が変わり様々な声が上がる。蘭の目の前で、三人がそれぞれヒグマに向けて発砲した。校門を通り過ぎた女の子を追いかけていたヒグマにそのうちの一発が突き刺さったのか、咆哮を上げてヒグマが方向転換する。目標地点は当然校舎。女の子が一先ず助かったのは良かったものの、再び迫るヒグマの脅威。二階へと外から侵入することも一階から侵入することも体の大きさや防火シャッターで不可能だろうが、それを疑わせる程の恐ろしき圧がある。ものの数秒で校庭を横断すると、再び立ち上がった。そして一際大きい咆哮を上げて、ヒグマは死んだ。

「なにっ」「なんだあっ」

 驚愕の声を上げる二人の前でヒグマの首から血飛沫が上がり、杖が引き抜かれる。
 ドサリと倒れたヒグマと同じ顔の位置に、黒いローブの少年がいた。
 少年が宙に浮いていた。

「君たち、邪魔だよ。」
「みんな何かに掴まって!」

 超能力を使わずとも、直感を使わずとも、蘭は理解させられた。目の前の少年はヤバい。能力者の中でもかなり危険なタイプだと。
 少年が振るう杖に合わせて、暴風が吹き荒れる。それを蘭は手を突き出しバリアを張ることで耐える。いつの間にか蘭の後方に駆け込んでいた梨花たち三人に降りかかる窓ガラスの破片をなんとか凌ぐ。

「その力は――!」
「君も旅人かっ!」
「みんな離れてて。」

 力の緩みを見逃さす、蘭は少年へとタックルをかける。柔道の技術を活かしてローブの襟を掴み、空中へと身を投げる。

「考えたね……!」

 吐き捨てるように言いながら少年はローブごと蘭を風で引き剥がすと、風で衝撃を殺して校庭に転がる。
 一方の蘭はヒグマの上に受け身を取って落下し、ヒグマを挟んで少年と向かい合う。
 蘭がサイキックで巻き上げた校庭の砂を少年は杖の一振りで弾き飛ばし、何か呟くと共に少年の影から伸びた何かが斬撃を放つ。それを蘭はステップを踏んで躱す。ズタズタになったヒグマの死体から飛び散る血がかからぬ程に大きく距離を取り、追撃を避けた。

「なるほど……幻界よりも一筋縄じゃない。」
「……話し合わない?」
「無理だね。」

 短く言葉を交わし終えるとと、二人の間で力が交叉した。


173 : バトル・ロワイアルに雛見沢症候群を放てッ! ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/22(木) 00:21:16 AorOynuQ0



【0100過ぎ 学校】


【磯崎蘭@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 何が起こっているか調べて、解決して家に帰る
●小目標
 目の前の能力者の男(ミツル)に対処する

【大場大翔@絶望鬼ごっこ とざされた地獄小学校(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 前回(出典原作)と同じ鬼のしわざなのか……!?
●小目標
 蘭を援護して少年を撃退する

【桜井リク@生き残りゲーム ラストサバイバル つかまってはいけないサバイバル鬼ごっこ(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 今回のバトル・ロワイアルを生き残って家族の元に帰る
●小目標
 蘭を助ける

【高橋大地@猛獣学園!アニマルパニック 百獣の王ライオンから逃げきれ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 今回もまた前回(出典原作)みたいなことなのか……!?
●小目標
 蘭を助ける

【白井玲@逃走中 オリジナルストーリー 参加者は小学生!? 渋谷の街を逃げまくれ!(逃走中シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 今回のバトル・ロワイアルを生き残って家族の元に帰る
●小目標
 蘭を助ける

【沖田悠翔@無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 今回のバトル・ロワイアルを生き残って家族の元に帰る
●小目標
 蘭を助ける

【古手梨花@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 今回のイレギュラーを利用して生き残る
●中目標
 自分が雛見沢からいなくなった影響を考えて手を打つ
 特殊な経験、または超常的な力を持つ参加者と合流する(でもあんまり突飛なのは勘弁)
●小目標
 少年(ミツル)を警戒

【ライオン@猛獣学園!アニマルパニック 百獣の王ライオンから逃げきれ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 襲ってくるヤツを狩る
●小目標
 ???

【ヴァイオレット・ボードレール@最悪のはじまり@草子社文庫】
●大目標
 このゲームから脱出する
●小目標
 首輪解除に必要な道具を発明する
 自分に配布された支給品の隠し場所(校舎)へ行きたいが……

【芦川美鶴@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 ゲームに優勝し、家族を取り戻す
●小目標
 目の前の旅人の少女(蘭)を殺し、校舎内の少年たちを襲う
 逃げた少女(ヴァイオレット・ボードレール)を追う


【脱落】
【ヒグマ@猛獣学園!アニマルパニック 最強の巨獣ヒグマから学校を守れ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】



【残り参加者 273/300】


174 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/22(木) 00:29:57 AorOynuQ0
投下終了です。
先日またパロロワwikiの児童文庫ロワのページを更新してくださった方がいます。
ありがとうございます。
この企画のwikiは参加者が出揃ったタイミングで@wikiで作りたいと思います。
なお、私に地図を作る技術が無いんでこの企画では地図は存在しないものと思ってください。
銃や建物は話の展開次第で生えてきます。


175 : ◆NIKUcB1AGw :2021/04/23(金) 21:27:57 eiOOO1LQ0
投下乙です
野生動物が参加してるの、ファンタジックなモンスターとはまた別の怖さがありますね

自分も投下させていただきます


176 : 判断が早い ◆NIKUcB1AGw :2021/04/23(金) 21:31:10 eiOOO1LQ0
とある空き地にて、二人の参加者が激しい戦いを繰り広げていた。
天狗の面を付けた老剣士は鬼殺隊の育手・鱗滝左近次。
対する巨体の鎧武者は時間遡行軍の強者・大太刀である。

(こやつ、強い……!)

面の下に大粒の汗を浮かべながら、鱗滝は心中で呟く。
水柱であった若き頃ならともかく、今の自分では1対1で目の前の相手に勝つことはできない。
鱗滝はそう判断していた。
だが、退くわけにもいかない。
この怪物は、どうやら自分たちが戦ってきた「鬼」とは異なる存在のようだ。
だが、人間に害をなす怪異であることに変わりはない。
そんなものを野放しにしていては、どれほどの犠牲が出るかわからない。

(なんとしても、こやつは倒さねばならん。たとえこの老いぼれの命と引き換えにしてでも!)

強い覚悟を胸に、鱗滝は日輪刀を構えて大太刀に向かっていく。

「水の呼吸、陸の型! ねじれ渦!」

体を大きくひねり、一撃を繰り出す鱗滝。
だがそれも、大太刀の振るう刀で受け止められてしまう。

「虫けらがちょろちょろと、うっとうしい……!
 さっさと死ぬがいい!」

力任せに振るわれる刀が、鱗滝を襲う。
かろうじて防御した鱗滝だったが、大きく体勢を崩してしまう。

(まずい! このままでは……)

無防備になった鱗滝に、大太刀が今一度刀を振り下ろそうとする。
だがその瞬間、突如として飛んできた光の球が大太刀の顔面に直撃した。

「ぐうっ!」

さすがの大太刀もひるみ、動きが止まる。
その隙に間合いを取った鱗滝は、球が飛んできた方向に視線を向ける。
そこには、白装束に袴姿の太った少年が立っていた。

「もういっちょ!」

少年が指で空中に五芒星を描くと、その中心から先ほどと同じ光の球が放たれる。
今度は大太刀の膝に球が命中し、その体勢を崩した。

「くっそー、やっぱりたいして効いてねえ!
 そこの天狗の人!」
「なんだ!」

すぐさま斬りかかろうとした鱗滝だったが、声をかけられて動きを止める。

「ここは一緒に退却しようぜ!」
「断る! こやつを放置するわけにはいかん!」
「いや、俺とあんただけじゃ勝てないでしょ、こんな化物!
 いったん退却して、仲間を集めてから改めて挑んだ方がいいって!」
「むう……」

鱗滝は思案する。
自分の命を捨ててでも、大太刀を討つべきだという思いは変わらない。
だが、この少年をそれに巻き込むわけにはいかない。
まだ見ぬ命を守ることも大切だが、そのために目の前の命を犠牲にしては本末転倒だ。

「仕方ない……!」
「それじゃあ……うおっ! 速っ!」

決めてしまえば、鱗滝は早い。
彼は全速力で走り出すと、少年のふくよかな体を抱えてその場から離脱した。

「おのれ、虚仮にしおって……!
 許さん! 必ず見つけ出して殺す!」

残された大太刀は、怒りのままに吠える。
この怪物から逃げることを選んだ鱗滝の判断が正しかったのか、それはまだわからない。


177 : 判断が早い ◆NIKUcB1AGw :2021/04/23(金) 21:32:11 eiOOO1LQ0
【0040 市街地】

【鱗滝左近次@鬼滅の刃〜炭治郎と禰豆子、運命の始まり編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いを止める
●小目標
戦力を集め、大太刀を倒す


【有星アキノリ@映画妖怪ウォッチシャドウサイド 鬼王の復活(小学館ジュニア文庫)】
【目標】
●大目標
生き残る

【大太刀@映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
皆殺し
●小目標
鱗滝とアキノリは、絶対に自分の手で殺す


178 : ◆NIKUcB1AGw :2021/04/23(金) 21:32:51 eiOOO1LQ0
投下終了です


179 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/24(土) 02:16:47 xpljp60w0
投下乙です。
このロワ特有の鬼滅の刃脇役勢の活躍。
老いたとはいえ鱗滝さんと戦える大太刀が強いのかマトモに闘れてる鱗滝さんが強いのか。
アキノリも何気にクレバーでそういえば能力刺さる相手多そう。
では投下します。


180 : 黒塗りの高級車 ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/24(土) 02:17:50 xpljp60w0



 如月美羽の《サキヨミ》には三つのルールがある。
 一つ、相手の顔を見ると数十秒以内に発動する。
 二つ、見えるのはワンシーンでしかない。
 三つ、能力は確実に発動するわけではない。
 不確実な上に制御ができず詳細もわからない――そんな能力だが、ことバトル・ロワイアルにおいては極めて有利な能力である。
 なぜなら、「相手にこれから起こるよくない未来が見える」のだから――



 ジリリリリリリリ――

 頭の中でノイズが走る。
 それこそがサキヨミの前兆。
 それと同時に見える光景。
 バトル・ロワイアルに巻き込まれて警察署へ向かうサッカー少年達。
 気を張っていた疲れからか、不幸にも黒塗りの高級車に追突されてしまう。
 仲間をかばい瀕死の重傷を負った神谷に対し、車の主、暴力団員萩原が言い渡した示談の条件とは・・・。

「ハァ……ハァ……」
「だ、大丈夫!? 美羽さん!」

 胸を抑えて荒い息を突如上げ始めた美羽に、神谷一斗はライフルを手から離すと慌てて駆け寄った。
 美羽が見たのは、まさしく一斗が黒のセンチュリーに跳ねられる未来。彼は自分を庇い、そして頭から大量の血を流していた。それは幻視ではなくこれからほぼ確実に起こり得ることである。

(変えなきゃ……もう、見ないフリなんて……!)
「神谷くん、あそこのスーパーに入ろう。休める場所がないか見てくるね。」
「まって、一人で行ったら危ない。神谷くん、ここで見ててくれる。」
「優希さん、絢羽さん、わかりました。」

 バトル・ロワイアルの中で知り合えた優しい心を持つ三人。そんな人と出会えた幸運で油断していたのかもしれない。

「ここから……早く離れよう!」

 美羽は無理に立ち上がると、止める一斗の声にふりかえらずスーパーへと追いかける。


「ようやく"麻薬"の場所がわかったってのに……」
 
 一方四人から離れること数分の距離で、一人のヤクザがセンチュリーを走らせる。
 男の名前は萩原。今は浜口組に席を置くことになった、極道である。
 そんな彼は女子高生が組長をやっている組から麻薬を強奪し、組へと戻る途中だった。
 そんな折に呼ばれた殺し合い。もちろん真に受けることはない。が、持っている物が物だけに、武器を持っているような奴には容赦しない。後顧の憂いを断つためにも即殺すという意志だ。
 萩原はセンチュリーを走らせる。彼がここから組の元へと戻る道などないことに気づくのは、いつのことか。


181 : 黒塗りの高級車 ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/24(土) 02:18:40 xpljp60w0



【0015 住宅地】

【如月美羽@サキヨミ!(1) ヒミツの二人で未来を変える!?(サキヨミ!シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 惨劇を回避する
●小目標
 一斗くんの《サキヨミ》をくつがえす

【神谷一斗@FC6年1組 クラスメイトはチームメイト!一斗と純のキセキの試合(FC6年1組シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないがとにかく早く明日の試合のために帰りたい
●小目標
 美羽さんを助ける

【優希@ラッキーチャーム(1)(ラッキーチャームシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないがとにかく早く明日の練習のために帰りたい
●小目標
 美羽さんを助けるために近くのスーパーが入れるか確認

【桃山絢羽@未完成コンビ(1) 帰ってきた転校生(未完成コンビシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないがとにかく早く明日の練習のために帰りたい
●小目標
 優希を追いかけて一緒に行動後、美羽たちと合流する

【萩原@セーラー服と機関銃@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないがとにかく早く麻薬を届けるために組に帰りたい
●センチュリーを運転して帰り道がないか探す
●小目標
 武器を持ってるやつがいたら跳ねる


182 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/24(土) 02:20:09 xpljp60w0
投下終了です。
るろうに剣心ノベライズ買いました。


183 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/27(火) 02:25:36 KpjL1Ts20
春の夜長は児童文庫。
投下します。


184 : スパイダーズエッグ ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/27(火) 02:26:17 KpjL1Ts20




『あーあー聞こえるかー! オレ達は殺し合いに乗ってない! みんなも殺し合いなんてやめようよ! LOVE&PIECE! 愛だよ愛! てかさ、いきなり変な森に連れて来られて殺し合うヤツいねえよ! あんな変なウサギっぽいやつに殺し合えって言われてさ、殺し合うなんてさ、こんなんでいいのかよ! だから! 殺し合いなんてやら『お前放送ヘタすぎんだろ変われ!』ちょっと待てジャンケンで勝ったのオレじゃん!『爆弾のこと言わないと』それで! あの、この、灯台『展望台』展望台に、ちがう、展望台の、裏に、爆弾があんのよ! 仕掛けたの! で、あの展望台来るときはこの下の崖みたいな坂の下の方で、合図してほしいのよ! そしたらあの爆弾のスイッチオフにするから、あの、あれ、あれだ、『あのーあれだよ』あの『アレだね』おい全員ド忘れしてんじゃねえか!』
「なかなかのなごませ力だなあ。」
「なんなんだあのグダグダなメッセージは……」

 森の中を歩く探偵帽を被った一人と一匹。
 なごみ探偵のおそ松と名探偵のピカチュウは、出会ってから行動を共にしていた。というより、おそ松が無理矢理ピカチュウを抱きかかえていた。
 「マジかよ……」とシワシワになりながらも、さっき電気ショックを食らわせたという負い目もあるのでピカチュウはなすがままにさせている。さすがに頭を撫でさせるのはやめさせたが。

「ピカピバラ、行こうか。」
「そのピカピバラっていうのもやめてくれよ。俺のどこをどう見ればカピバラに見えるんだ。」

 バゴオォォン……!

「花火だね。」
「爆発だろ! 言葉通じないのになんでツッコませるんだ! そしてなんでツッコんでんだ!」

 ピカチュウは既に何度目かとなる頭を抱えるポーズで項垂れる。
 ピカチュウは短い間におそ松がかなり頼りにならないことを理解していた。それに加えて小ボケを挟みたがる。殺し合いの場だそ、とツッコみを入れたくなって、言葉通じないんだぞと思い直して自重する。
 この日系人、同じ探偵とは思えないほど探偵らしくない。どう考えても今まで事件とか解決している気がしない。
 ピカチュウが足音を聞いたのは、そんなことに頭を悩ませていたときの事だ。

「おい、あっちだあっち。足音がした。一人だな。」
「うん? あっちになにかあるの? 1? 一人? 人が来たのか。」
「クソッ、大事なことはコミュニケーションがとれる。なんか逆にイライラするぞ。」

 このようにピカチュウがここだけはしっかりしてほしいということに関してだけはなぜかおそ松は勘が良い。良いことのはずだ。悪いことのはずではない。
 おそ松はピカチュウをそっと地面に下ろした。先導しろ、ということなのだろう。
 ピカチュウはおそ松を見上げ頷くと、密やかに歩き始めた。ピカチュウの耳は人間よりも良い。その大きさは伊達ではないのだ。

「いたぞ、あそこだ。着物を着てる子供が、待った、腰に刀を差してる。ストップだストップ!」
「あ、本当だ。迷子かなあ。助けないと。」
「ストップだって! なんで探偵っていうのはこんなおひとよしなんだ。一人で行くな!」

 ピカチュウを見つけた子供におそ松は駆けていく。サムライブレードを持ってるのを見てまずは観察すべきだと思ったが、おそ松に子供でも危険であるという懸念は無いらしい。あるいはピカチュウが探偵という世界に染まりすぎたか。
 そして一人と一匹は、一人の小さな侍に出会った。


185 : スパイダーズエッグ ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/27(火) 02:26:49 KpjL1Ts20
「ピカピバラって言うんだよ〜。」
「わあ〜かわいい。」
「そうわならねえだろ……」

 そしてピカチュウは出会った子供、宮川空に頭を撫でられていた。
 おそ松と互いに自己紹介するのを横から聞いていたところピカチュウの想像通り空は日本人だったようで、歓声を上げておそ松と話しながらピカチュウをもふもふしている。そうしている姿はまさしく子供なのだが、ピカチュウとしては乱れる毛並みよりも腰の刀が気になって仕方なかった。
 地域にもよるが法に触れかねないそれが私物なのか拾ったものなのかで意味が変わってくる。
 私物であれば、刀を持っている少女の素性を考えなければならない。
 拾ったのであれば、それが落とされたものなのか用意されたものなのかを考えなければならない。

「それでおそ松さん、あたしはあの爆発をたしかめに行きたいのです。」
「そういえばそんなこと言ってたね。」

 だが同時に、この子供がおそ松よりも頼りになりそうだとも思っていた。それなり以上に人を見る目はあると思っている――最近はその自信も無くなりはしたが――彼からすると、空は善良そうな人間ではある。あの放送の後にあの爆発があったことを考えれば危険性は理解できるだろうに調べに行こうとするその精神も尊重したい。
 「ピカ」と声を上げて、ピカチュウは空の手から離れると爆発音の方へと歩いた。危険性は考えられるが子供を助けに行きたいという気持ちはピカチュウにももちろんある。それに危険があるのはどこもいっしょ、ならば補足できた危険に対処すべきかもしれない。なにより、ピカチュウでは空の行動を止められない。ならばここは彼に同行しよう。

「じゃあみんなで行こっか。」
「はい!」

 言葉は通じずとも彼は気持ちの良い人間だ。それに子供一人守れなくては探偵は名乗れない。ピカチュウはおそ松と空を後ろにしっぽを立てて歩き出した。
 前よりもなおのこと警戒して音を探る。爆発音のした距離とこれまでの時間を考えれば、数分もしないうちに先の子供達と合流するだろう。むろん彼らがこちらに来ているならばという前提があるが、森の中よりかは小道を逃げる可能性の方が高かろう。ならば出会う可能性は高くはないもののゼロではない。
 ピクリと耳が動く。子供の泣き声らしきものを捉えた。
 「ピカッ!」と一度振り返るとピカチュウは足を早めた。二人から離れて先行する。万が一子供達が危険人物に襲われていた場合、間に合わなくなる恐れと二人を巻き込む恐れがある。そしてそれは杞憂では無かった。

「ひいいぃぃぃ! 来ないでえぇぇ!!」
「おいおい本気か!? くそっ! なんでそんな簡単に傷つけられるんだっ!」

 響いてきたのは明らかな悲鳴。
 ピカチュウは一気にダッシュする。
 鼻を強い刺激臭がつく。
 そして認めた。
 また日系人の子供二人が、人面の蜘蛛らしきクリーチャーに今まさに襲いかかられているのを。
 それを止めんとわざを使おうとして――

(オレはわざを使えないんだぞ! どうすれば――ああくそっ!)

「ピカッ!」
「ね、ねずみ!?」

 ピカチュウは愚直なたいあたりを人面蜘蛛へとしかけた。


186 : スパイダーズエッグ ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/27(火) 02:27:36 KpjL1Ts20
「ボ、ボケモン?」
「また怪物ですかぁ!?」
「ピカピッ!」

 突然自分たちを庇うように現れたピカチュウに、マサオは光彦と一緒に呆気にとられる。
 拡声器で呼びかけていた三人組の男子を追いかけて数分、謎の人面蜘蛛に襲われていたところで現れたその見たことのない生き物に、どんな対応をしていいかわからなかった。

「化けネズミまで参加者かよ。さすがに食う気はねえぞ。」
「ピカッ!」

 だが状況を考えれば救いのヒーローだ。ピカチュウが来ていなければ今頃二人は蜘蛛の餌だろう。ならばすることは一つ。

「に、逃げよう!」
「逃がすかよっ!」
「ピィカッ!」
「邪魔だっ!」
「ま、待ってくださいよ!」

 マサオは一目散に逃げ出した。きっとこのネズミは自分たちを助けに来てくれたんだ。だから逃げなければ。
 マサオはチラッとネズミを見る。それでいい、そんな風にネズミが頷いたように見えた。

(ありがとうございます……ありがとうございます……!)

 心の中で感謝を繰り返しながら走る、走る、走る。
 走って、そして。

「……はぁ……はぁ……み、光彦くん?」

 森の中を流れる小川を前に右に行くか左に行くかと頭を振って、そこではじめてマサオは自分が一人きりになっていることに気がついた。
 とたんにマサオの心に恐怖が再燃する。それと同時に肺がひくつき、膝が笑う。逃げることに集中していてわからなかったが、体は限界を迎えていた。

「ひ、一人にしないでえええ!」

 力なく叫ぶ声に答える者はいない。ここに来るまでに光彦とははぐれてしまっていたのだがそれに気づいたのはあまりに遅かった。気がつけばまた森の中にぽつんと一人きりである。

 ガサガサ!

「ひいっ!?」

 ……いや、一人ではなかった。
 マサオの小さな叫び声に反応してか、近くの藪から音がした。それは明らかに何らかの存在がいる音だ。
 次いでマサオは探偵帽を見た。それは色といい形といい、さっきの黄色いネズミがしていたのと同じだと思った。
 そして鼻をつく臭い匂いを感じた。それはさっきの人面蜘蛛と同じ臭いだ。
 マサオはそれを見た。頭に帽子を被った、さっきとは違う顔の人面蜘蛛が、藪からヌっと現れた。

「ひぃっ!」

 逃げなければ。
 そう思うも足が動かない。
 腰が抜けている。
 人面蜘蛛はじっとマサオを見ている。
 そして。

「ひいいいいいいっ……あれ?」

 人面蜘蛛はカサカサと森の奥へと消えていく。
 見逃してくれた?
 違う。


187 : スパイダーズエッグ ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/27(火) 02:28:17 KpjL1Ts20
「ちいっ、こんなところにまで逃げてたのか。」
「に……逃げて……ください……」

 連れてきたのだ。
 マサオの前に、人面蜘蛛と体に何本もの木の枝が刺さり、それごと体を糸でグルグル巻きにされ歩かされている光彦が現れた。

「ひっ……ひいいいいいいっ!!!」

 マサオの恐怖のボルテージが一気に上がった。
 マサオの短い人生でもわかる。光彦の腕や上半身が串刺しにされている。その上で殺されていない。それがマサオを怖がらせる。
 食い殺すとかならばまだわかる。だがあえて殺さないというのは完全に理解の外だ。
 そんなマサオを見てニヤリと笑う人面蜘蛛は、「おい!」と探偵蜘蛛に声をかける。すると探偵蜘蛛はいつの間にか持っていた先の尖った木の枝をマサオの足元に投げつけた。

「ひいいいいいいっ!?」
「ひいひいウルセエんだよ餓鬼がぁ!」
「うわあああんごめんなさあああいっ!!」
「ウルセエっつってんだろ! 殺すぞ!」
「こ、殺さないで! なんでもするから殺さないでええ……」

 泣きわめくマサオの胸ぐらを人面蜘蛛が掴む。マサオは目も開けられない。怖さと臭さで。

「ん? 今何でもするって言ったよな?」

 閉ざされた視界の中で、ドサリと何かが倒れる音がした。「ぐああああっ!」と叫び声も聞こえる。光彦の声だ。何かが起こっている。だが怖くてとてもではないが目など開けられない。

「お前に選ばせてやる。蜘蛛になるか、食われるか。」
「どっちも嫌だよおおお!」
「なにぃ? なんつったもう一回言ってみろ?」
「どっ、どっちもイヤですうう!」
「そうか……わかった。」
「イヤで……ひいっ!?」

 何かを握らされた。蜘蛛になるってなんだろう。わからないことにますます怖くなる。怖くなりすぎて、目を閉じていられない。怖いものを見ることより何をされるかわからない怖さが勝る。だからより怖くない道を選ぶ。
 そしてマサオは見た。自分の手に握られた尖った枝と、目の前で血をダラダラ流しながら横たわる光彦を。

「腹が減ったからお前かこいつのどっちかを食う。片方は俺の奴隷になって人間を俺のところまで持ってこい。まあ、こいつはちょっと痛めつけ過ぎちまって死にそうだから、お前が奴隷な。」
「ど、奴隷……」
「でよお、奴隷ならご主人様には忠誠を示さねえとなあ……こいつはお前の居場所を拷問しても吐かなかったってことは、お前ら仲間なんだろ? その仲間を自分の手で殺してみせろ。」
「こ、殺すって、え、ええっ、えええぇぇっ!?」

 突然言われた無茶苦茶なことに、マサオはまた悲鳴を上げる。その口に人面蜘蛛の脚が突きつけられた。

「嫌なら、お前を食う。死にたくないんだろ? 何でもするんだろ? なら、仲間を殺せ。」
「そ、そんなこと……」
「マサオ……くん……」

 抵抗の声を上げるマサオに人面蜘蛛から、そして光彦から声がかかる。人面蜘蛛はニタニタと、光彦は鬼の形相で。

「ボクは……もう、ダメです……もう、目が見えないんです……耳もだんだん聞こえなくなっていて……失血によるショック症状です……」
「だから……このままじゃ二人とも死んじゃいます……ううっ!」
「だ、だから……マサオくん! 覚えててください! 灰原哀さん、吉田歩美ちゃん、江戸川コナンくん、小嶋元太くん、少年探偵団のみんな! たぶん、彼らもここにいます! だから会ったら、ボクは、勇敢に、勇敢、で、ごぽっ!?」
「ぼ、ボク……灰原さん……探偵、団……マサオ、くん……」
「もう……痛いのは……イヤですよ……」
「う、うわあああうわあああん!!!」

 気がつけば、マサオは枝を振り下ろしていた。
 光彦の虚ろに開いた口から喉、脳幹へと突き刺さる。
 人面蜘蛛が口笛を吹く。
 その音がとても遠くで聞こえた。


188 : スパイダーズエッグ ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/27(火) 02:29:11 KpjL1Ts20



「くそっ……くそっ……くそっ! おれは何ができるんだよ……!」

 マサオの叫び声が遠くから聞こえる。
 全身をズタズタにされたピカチュウは、木のうろの中で息を整えながら体中の傷に震えていた。
 あの後果敢に挑んだはいいものの文字通り秒殺され、ほうほうのていで逃げ込んだこのうろから出られなくなっていた。
 そして人面蜘蛛がマサオ達を追跡するのを黙認するハメになった。あの人面蜘蛛は、自分にとどめを刺すよりも子供たちを優先した。いわば見逃されたのだ。

「すまない……おそ松……」

 そして彼が無力感に陥る理由の一つが、彼が凝視している服にある。
 ピカチュウが戦闘不能になって人面蜘蛛がここから離れる時に、おそ松は音を聞きつけてやってきていた。
 今から考えるとファインプレーだろう。おそ松は、空を放っておいて一人でここに来た。どういう理由があったかは知らないがそのおかげで空は助かった。空は。

「あの人面蜘蛛……人間を同じような蜘蛛にできるのか……」

 人面蜘蛛は話しかけてきたおそ松を一噛みしてマサオ達を追いかけた。その一噛みが悲劇を生み出した。
 おそ松はしばし悶絶したあと、体に変化が起き、小一時間で人面蜘蛛になっていた。
 それはまさに地獄絵図だった。人間がクリーチャーになる。あれはなまじ死ぬよりもおぞましい。悪趣味なコミックでも見ている気分だった。
 そして完全に蜘蛛にと変わると、フラフラと人面蜘蛛が向かった方へと移動していった。

「おいおい動けよおれの体。あんなのを野放しにしてたらゾンビ映画みたいになっちまうぞ。」

 軽口を叩いて立ち上がろうとする。だがどうにも力が入らない。何か大切な一部分がなくなってしまったような、そんな気がする。
 ピカチュウは一人、むせび泣くことしかできなかった。



「ピカピバラもおそ松さんも遅いなあ。」

 そして最後の登場人物、空はピカチュウが駆け出したその場所にまだいた。
 あの後おそ松がピカチュウを探しに行き、行き違いを防ぐために空がここに残ることになったのだが、小一時間しても二人とも帰ってこない。
 だがここから動くのもマズイ。どうしたものか。

「……あれ? 君は?」
「……ひっく……ひっく……ごめんなさい……光彦くん……ごめんなさい……」

 空は泣き声を聞いて辺りを見渡す。はたしてそこには、泣きじゃくるおにぎり頭の子供がいた。
 もちろん放っておくわけには行かない。あの爆発やおそ松たちのことを知っているかなんて打算ではなく、純粋な善意で近づく。それが空という人間だ。
 だから空は知らない。目の前の子供がおそ松を殺した怪物の奴隷であることなど。


189 : スパイダーズエッグ ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/27(火) 02:29:41 KpjL1Ts20
【0130後 山岳部裾野の森】

【なごみ探偵のおそ松@おそ松さん〜番外編〜(集英社みらい文庫)】
【目標】
●大目標
 蜘蛛の鬼(兄)に従う
【備考】
 蜘蛛の鬼化しました

【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ(小学館ジュニア文庫)】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止めたい……が、自信がない
●中目標
 あの人面蜘蛛(蜘蛛の鬼(兄))はほっとけない
●小目標
 空を助けに行かないと……

【宮川空@恋する新選組(1)(恋する新撰組シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 主催者を打倒し帰る
●中目標
 おそ松さんとピカピバラ(ピカチュウ)と合流する
●小目標
 男の子(マサオ)に声をかける

【佐藤マサオ@双葉社ジュニア文庫 映画ノベライズ クレヨンしんちゃん
ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい
●中目標
 人面蜘蛛(蜘蛛の鬼(兄))の奴隷として人を連れて行く
●小目標
 ???

【蜘蛛の鬼(兄)@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 累の兄を演じて生き残る
●中目標
 蜘蛛と奴隷を増やす
●小目標
 さっきのガキ共を追う



【脱落】
【円谷光彦@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】



【残り参加者 272/300】


190 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/04/27(火) 02:43:02 KpjL1Ts20
投下終了です。
またパロロワwiki更新していただきました。
ありがとうございます。
連日自分の企画が更新履歴でトップにいるのはいや僕もう大いに恐縮ですね。


191 : ◆vV5.jnbCYw :2021/04/30(金) 22:04:45 i1ugfdpc0
以前投下したミツルとヴァイオレット繋げてくれてありがとうございます。
では、新作投下します


192 : miss you ◆vV5.jnbCYw :2021/04/30(金) 22:05:26 i1ugfdpc0
寂れた公園の遊歩道。
これまた錆だらけの滑り台を目にして、三谷亘は信じられない物を見た目で立ち尽くしていた。

(ここ……現世(うつしよ)じゃないよな?)
辺りに真っ赤な霧がかかっていることを除けば、どちらかというとワタルが生まれ育った世界に似ている。
しかし、自分の帽子は幻界(ヴィジョン)で、ラウ導師から勇者の装備として承ったものだ。


ワタルは異世界に飛ばされたのは、これが初ではない。
消えた転校生のミツルを追って、幻界にやってきた。
そして自分の家族を取り戻すための宝玉を集める傍ら、幻界のあちこちに厄災を齎すミツルを追って、皇都ゾレブリアにやって来たと思いきや、別の世界に飛ばされていた。


自分の服を擦ってみると、手触りは勇者の服のそれだ。
最後にポケットをいじってみる。
中には見慣れない紙が折りたたまれてはいっていた。


『二本足ノ木ノ左足、緑ノ脛当テヲ破ケ。』
紙には雑な字でそのように書かれていた。
どこかラウ導師の試練に似ているような気もする。


(あの辺りだよな……。)
公園から少し離れた場所に森が広がっていた。
何言っているのかさっぱりだが、木と書いてあったのでそこに行けと書いてあることだけは伝わった。


(しかし『二本足の木』って何だ?お化けの木でもあるのか?)
しかし探せど探せど、二本足の木など全く見当たらない。
諦めて他の場所へ行こうか考えていると、不意に木の根につまずいて転びそうになった。


八つ当たり気味にその木を蹴とばしてやろうかと思ったが、それどころではないことに気付いた。
隣に、ほとんど同じ長さの木がある。

(二本足の木の左側、もしやこれのことか?)
しかし、問題はまだあった。

(緑の脛当てって何だ?上の葉っぱのこと?それにこの漢字、何て読むんだ?)
まだ小学五年生でしかないワタルは、『脛』の漢字が読めなかった。

(こんなことになるなら、もう少し漢字の勉強をしておくべきだったなあ……。)
兎に角怪しい部分を手探りで調べていくことにする。
そうしている内に、手触りが違う所を裏側に見つけた。


(もしや……緑のナントカ当てって、これか!!)
木の幹にへばりついた、大きな苔を払うと、中に木刀が収められていた。
ぶんぶんと何度か振ってみると、それが非常に使いやすいものだと確信した。
武器のデザインこそ異なるが、その格好は幻界を冒険した時とそっくりだ。


(ミツルやキ・キーマ達もここにいるのか?)
最初の任務を完遂し、ある程度思考が自由になると、不意に思い出したのは、幻界で会った仲間たち。
それに、自分が追いかけており、同じように幻界で失ったものを取り戻そうとしていたミツル。


193 : miss you ◆vV5.jnbCYw :2021/04/30(金) 22:05:55 i1ugfdpc0

ひとまず、目標を知り合いの捜索、次いで脱出に決め、森から出ることにした。


出口を探していると、目に入ったのは全身を白で覆われた女性だった。
顔の文様や肌の異様なまでの白さから、どう見てもただの人間には思えない。
恰好はどこか社会の教科書で見た、昔の人が着ていた服を着こんでいる。


「ちょっと、そこの君。累って子を見なかった?私と似たような姿をした男の子なんだけど。」
人間の言葉を話し気さくに話しかけて来る女性に、安堵を覚える。

「ごめん、ここで初めて会ったのは君なんだ。良かったら一緒に探さない?」
これまでのように普通に言葉を返すが、それから相手が返したのは言葉だけではなかった。
「ならいいわ。死になさい!!」

突然豹変した女性に、剣を抜く暇もなかった。


――血鬼術 溶解の繭

女性は口から束ねた蜘蛛の糸のようなものを吐き出した。
瞬く間にそれはワタルを中心に球状に固まり、閉じ込めてしまう。


「出せ!!出せ!!」
ワタルは木刀を振り回すも、ゴムでも叩いているような感触を覚え、全く破れない。

「その糸は柔らかくて硬いのよ。そのまま溶けて、私の餌になってしまいなさい。」




そのまま女性―とある蜘蛛鬼の姉は何処か別の場所へ消えていった。
残されたのは、繭の中に閉じ込められたワタルだけだった。
そうこうしているうちに、服が次第に溶けていく。


(みんな……ごめん。)
これまでか、と思ったその時だった。
何者かが、繭を斬り裂いた。


彼女、姉蜘蛛の作る繭は、主に刀を用いて戦う鬼殺の剣士を倒すために作られたもの。
加えて、その頑丈さは外側よりも内側からの斬撃に対して発揮する。
従って、刀とは異なる形状の武器で、外側から攻撃を加えれば意外なほど容易に切れる。


例えば、刀身の細い剣。
例えば、猛獣の爪。


済んでの所で繭から出られたワタルの目に入ったのは、巨大な虎だった。

「!!!??!?」
言葉にならない叫びをあげていた所、虎は言葉を紡いだ。


「危ない所だった。」
「え!?」
人でない見た目の者から人の言葉を聞いた経験は、これが初めてではなかったが、それでも驚いてしまった。


今度は虎は何をするかと思いきや、爪の先に引っかけられていた袋を出し、ワタルに渡した。

「虎の身には必要ない。着ると良い。」
ワタルは自分がほとんど裸に近い姿になっていた。
繭の溶解液によって、いつの間にかこうなっていた。
それが分かると、見ているのが虎だけだとしても、どうにも恥ずかしくなる。


194 : miss you ◆vV5.jnbCYw :2021/04/30(金) 22:06:18 i1ugfdpc0

慌てて服を着ることにする。少し大きかったが、この際贅沢は言ってられない。
それはワタルには知る由もないことだが、彼とは異なる時代の人間が、鬼を殺すために作られた服であった。
水にぬれにくく燃えにくい上に、生半可な刃では斬り裂くことも出来ない。


そこまでは分からなかったが、ワタルにもその服の安心感は伝わった。


「さっきはありがとうございました。ぼく、三谷亘って言います。あなたは、誰なんですか?」
服を着ると少し気持ちが落ち着き、虎に話しかけた。


「自分は隴西の李徴であった。」
「ロウセイ……?リチョウ……?」
聞き覚えの無い言葉に、ワタルはこれまでとは別の理由で戸惑う。


「まあ、今となればどうでもいいことだ。」
「そんなことありません!!名前って、良く言えませんが、大切なものだと思います!!」

李徴と名乗った虎は、突然自嘲気味に言葉を零した。
それをワタルは否定する。
この時、彼はこの虎はこんな戦いに巻き込まれたことで、自棄になったのだと思っていた。
だが、次の言葉でそうではなかったことを知らされる。


「李徴と言うのは己(おれ)が人の身であった時の名前。己は人の身捨てた、一匹の哀れな虎でしかない。」
「どうして……。」
ワタルは事実を聞くと、更に探りたくなった。
幻界を冒険した時にキ・キーマやミーナのように、動物の姿をしながら人の言葉を喋る者には会ったが、人から獣に姿を変えた者などあったことは無かった。

「分らぬ。全く何事も己には判らぬ。」
「……。」

そう言われて、返す言葉に詰まってしまった。
確かに、全てわかれば苦労はいらない。
世のなかを生きる内には、知らない内に理不尽に巻き込まれていることだってある。

自分の母が突然家でガスの元栓を開き、自殺未遂をした経験があるワタルだからこそ思えることだ。


「あの……良ければ僕と一緒に行きませんか?これから友達を探しに行こうと思うんですが……。」

どう言葉を返せばいいのか分からなくて、話のスジを変えてこれからのことを話すことにした。

「それは叶わぬ。」
しかし、李徴はワタルの提案を、すぐに否定した。


「己が人間の心が還ってくるのは、1日のうちほんの数時間だけだからだ。それさえ過ぎれば、虎として汝を喰うかもしれぬ。先刻もあの怪しい繭を破ったのは、汝を助ける為ではなく、己の生きる糧を見つける為かもしれぬのだ。」

ぞくりとワタルの背筋に悪寒が走った。
それが悪いことだと分かっていても、脊髄は正直だった。


「そうだ。もし袁参という名の者に会えれば己のことを話してくれ。この世界にいるかもしれぬ。」
「あ……あの……。」

ワタルが呼び止めようとした。
だが、その先の言葉も浮かばないまま、虎は見えぬほど遠くまで行ってしまった。
結局、ワタルは彼を追いかけることは出来なかった。


195 : miss you ◆vV5.jnbCYw :2021/04/30(金) 22:07:20 i1ugfdpc0

彼は、そんな李徴にどこか既視感を覚えていた。
強い力を持っていながら、負の感情を抱え、周りの全てを破滅させて進もうとする、彼の同級生に。
ソノの港で最後に出会った、同じ現世からの冒険者、芦川ミツルに。
それを思い出さずにはいられないくらい、あの虎は寂しげな眼をしていた。


(あの人も、ひとりだったのだろうか……。)
誰からも救われず、生き方を教えてもらえなくて、周りを破滅させるしか生き方を見つけられない。

人ならざる魔法を得て、周りを喰いながら進むミツル
人ならざる姿に成り、周りを食いながら進む李徴。

目的の有無の違いはあれど、どこか同じような気がしてならなかった。


自分がやらなければいけないことは山ほどある。
あの白い女の姿をした化け物に気を付けながら、仲間を探し、この世界から脱出する。
そのはずなのに、ワタルはしばらく立ち尽くしていた。



【0130後 公園付近の森】

【三谷亘@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
脱出する
●小目標
 怪物(姉蜘蛛)に警戒しながら、仲間やミツルがいるかどうか探す




【李徴@山月記(4)山月記・李陵 中島敦 名作選 @角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標(人間の心の場合)
誰も殺さぬように隠れる
●小目標(人間の心の場合)
危険人物がいた時だけ、食い殺す

●大目標(獣の心の場合)
己の飢えを満たすために、食い続ける


【姉蜘蛛@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 累がいるか確認。いるにしろいないにしろ優勝を目指す
●小目標
 人を食いながら、生き続ける


196 : miss you ◆vV5.jnbCYw :2021/04/30(金) 22:07:30 i1ugfdpc0
投下終了です


197 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/01(土) 02:26:40 aIQtvG3o0
投下乙です。
ついに蜘蛛の鬼ファミリーがコンプリートにリーチかかったことに突っ込むべきかまさかの山月記に突っ込むべきか悩ましい。
後は蜘蛛の鬼(母)待ちですね。それより先に炭治郎だろって言われたら何も言い返せませんけど。
では投下します。


198 : 至って普通のまさにデスゲーム ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/01(土) 02:27:49 aIQtvG3o0



「貴様……それでもデュエリストか!?」
「リアリストだ。」

 実体化したカードのビジョンの間隙を縫い、銃弾が哲也の胸へと突き刺さる。
 心臓を鉛球が食い破り、ショック状態をもたらす。血とカードをぶちまけながら、哲也の命は闇へと落ちた。



【脱落】
【哲也@カードゲームの鉄人―ひとりぼっちはたまらない(カードゲームシリーズ)@講談社青い鳥文庫】



【残り参加者 271/300】



 さて、今しがた少年を殺した少女、相川捺奈は震える手でテーブルからカードを吹き飛ばすと、慌てて死体へと駆け寄った。
 そもそもこのゲーム、負けた方は命に関わるというカードゲームだ。いや、捺奈に詳しいことはわからないのだが、そういうものらしい。いつの間にかポケットに入っていたメモに従いカードデッキを手に入れたところ、オカルトな力があるが負けると何かヤバイということが書いてあったのでそう判断したまでだ。このことからもわかる通り、彼女にこういった非現実的なものへの理解は無い。それがオモチャにしかみえないカードとなれば尚更だ。

「くねくねも本当……カードも本当……銃も本当……殺しあい、も……?」

 だが、理解できずとも恐怖はある。なにせ彼女はここに来る直前に『くねくね』に襲われたからだ。
 『くねくね』。その存在について説明は必要ないだろう。真っ白なくねくねした何かで、見たものを追跡して襲いかかる。
 彼女は友達と三人でそれを見た。まず一人が襲われ生死を彷徨った。そして彼女が歩けるまで回復したタイミングで再度現れ、彼女達を襲った。
 そして気がついたらこれである。彼女からすれば『くねくね』がバトロワに参加させたようにしか思えない。
 そして殺し合いの場では非現実的なことが起こり、そこらじゅうに銃が落ち、謎のデュエリストからデュエルを挑まれる。わけがわからなかった。

「友里恵も、凛も……早く行かないと!」

 彼女は死体を努めて見ないようにしつつ、耳を当てていた胸から顔を離す。心臓は確実に止まっている。きっと彼も、あの『くねくね』みたいなのなんだ。なんもとかしないと、みんなといっしょに――
 そう思う彼女に銃弾の群れが突貫する。
 一秒後、今度は彼女が脱落者となった。



【脱落】
【相川捺奈@恐怖コレクター 巻ノ一 顔のない子供(恐怖コレクターシリーズ)@角川つばさ文庫】



【残り参加者 270/300】


199 : 至って普通のまさにデスゲーム ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/01(土) 02:29:04 aIQtvG3o0
「近頃の小学生はどうなってんだ、簡単に人殺しすぎだろ。」
「撃ち殺しといてよう言うはボケが。」

 山尾渓介の銃撃により肩を貫通されながら、赤城竜也は持っていた日本刀を捨てると、捺奈の死体を盾にしつつ銃を手にした。
 と同時に歯噛みする。相手は明らかにマーダーだった。にもかかわらず、話し合いを試みてしまった。結果はこれだ。これはデスゲーム、そんなお人好しな考えでは死を招くということは誰よりも知っているはずなのに。死んでも直らないとはこのことだ。
 そして今現在、拳銃は弾切れを起こし、ポケットのメモ頼りに山中のペンションまでなんとか逃げてみれば、今まさに少女が少年を殺すシーン。その少女も自分を狙った銃撃であっさり死んだ。しかペンション内はなぜかカードがバラまかれている。もしやこれが?と思ったところで衝撃。死体がずり落ちたところを首に銃弾をもらってしまった。
 決死で銃を乱射する。だが、相手の姿は見えない。逆にあちらの銃はやたらと体をかすめる。そしてそのうちの一発がものの見事に目から飛び込み、脳へと達した。

(まだだ……! こんなところで……)

 思いと裏腹に命は失われていく。竜也はここに来る前、幼なじみのために一億を手に入れようと命がけのギャンブルに挑んでいた。そんな自分ならばマーダー相手でもやり合えると踏んだのだがものの見事に誤算であった。

(すまん、奏……クソっ、嫌やこんなん! 死にたくねええよおお――!」

 ぱすん。
 間抜けな音ともにもう片方の目に銃弾が飛び込む。
 今度こそ竜也は死んだ。



【脱落】
【赤城竜也@絶体絶命ゲーム3 東京迷路を駆けぬけろ!(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】



【残り参加者 269/300】



「なんでどいつもこいつも殺意が高いんだ?」

 竜也を殺した渓介はいけしゃあしゃあと言いながら素早くその場を後にする。
 ここに拉致されてから計画も常識も狂いっぱなしだ。こっちはただ、自分の家に帰りたいだけなのに、発狂した人間と遭遇することが多すぎる。しかも大体子供。主催者は一体何を考えてこんな人選にしたのか。
 だが今度こそ目撃者は消せた。いきなり竜也に声をかけられたときは驚いてやっちまったが結果オーライだ。
 渓介は動く。その様子に新たに人を二人殺した感慨など何もないように。



【0130 住宅地】

【山尾渓介@名探偵コナン 沈黙の15分(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 さっさと優勝するなり脱出するなりする
●小目標
 死体から離れる


200 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/01(土) 02:37:04 aIQtvG3o0
投下終了です。
参戦キャラが120名になりましたので名簿を更新したものを貼っておきます。

【鬼滅の刃シリーズ@集英社みらい文庫】6/7
○累に切り刻まれた剣士○累○蜘蛛の鬼(兄)○蜘蛛の鬼(父)●我妻善逸○鱗滝左近次○蜘蛛の鬼(姉)
【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】5/6
○東方仗助○空条承太郎○片桐安十郎○虹村形兆○虹村億泰●山岸由花子
【黒魔女さんが通る!!シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/5
●羅門ルル●小島直樹●紫苑メグ●須々木凛音○黒鳥千代子
【絶望鬼ごっこシリーズ@集英社みらい文庫】3/5
○関本和也●大場結衣○伊藤孝司●牛頭鬼○大場大翔
【ギルティゲームシリーズ@小学館ジュニア文庫】4/4
○深海恭哉○小林旋風○小林疾風○北上美晴
【ぼくらシリーズ@角川つばさ文庫】2/4
○菊地英治○宇野秀明●天野司郎●小黒健二
【妖界ナビ・ルナシリーズ@フォア文庫】3/4
●ユイ○かまち○タイ○透門沙李
【ラストサバイバルシリーズ@集英社みらい文庫】2/4
○早乙女ユウ●朱堂ジュン●新庄ツバサ○桜井リク
【若おかみは小学生!シリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○関織子(劇場版)●神田あかね○関織子(原作版)
【名探偵コナンシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/3
●円谷光彦○小嶋元太○山尾渓介
【銀魂シリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○岡田似蔵○武市変平太○神楽
【かぐや様は告らせたいシリーズ@集英社みらい文庫】2/3
○白銀御行○藤原千花●四宮かぐや
【テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○磯崎蘭○磯崎凛●名波翠
【天使のはしごシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○竜人●生絹○紅絹
【天才推理 IQ探偵シリーズ@カラフル文庫】1/3
●大木直●小林聖司○杉下元
【ひぐらしのなく頃にシリーズ@双葉社ジュニア文庫】3/3
○富竹ジロウ○前原圭一○古手梨花
【アニマルパニックシリーズ@集英社みらい文庫】2/3
●ヒグマ○高橋大地○ライオン
【妖怪ウォッチシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/3
○天野ナツメ●タベケン○有星アキノリ
【ブレイブ・ストーリーシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
●小村克美○芦屋美鶴○三谷亘


201 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/01(土) 02:38:33 aIQtvG3o0
【けものフレンズシリーズ@角川つばさ文庫】2/2
○ビースト○G・ロードランナー
【名探偵ピカチュウ@小学館ジュニア文庫】2/2
○ピカチュウ○メタモン
【おそ松さんシリーズ@集英社みらい文庫】1/2
○なごみ探偵のおそ松●大富豪のカラ松氏
【NARUTOシリーズ@集英社みらい文庫】2/2
○桃地再不斬○うちはサスケ
【フォーチュン・クエストシリーズ@ポプラポケット文庫】1/2
●ノル○ルーミィ
【クレヨンしんちゃんシリーズ@双葉社ジュニア文庫】2/2
○佐藤マサオ○野原しんのすけ
【おそ松さんシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/2
○弱井トト子○イヤミ
【四つ子ぐらしシリーズ@角川つばさ文庫】2/2
○宮美二鳥○宮美一花
【劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】2/2
○上田次郎○山田奈緒子
【無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄@集英社みらい文庫】2/2
○岬涼太郎○沖田悠翔
【炎炎ノ消防隊シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○森羅日下部
【泣いちゃいそうだよシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○村上
【怪盗レッドシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○紅月美華子
【怪人二十面相@ポプラ社文庫】0/1
●明智小五郎
【世にも不幸なできごとシリーズ@草子社】1/1
○ヴァイオレット・ボードレール
【天気の子@角川つばさ文庫】0/1
●森嶋帆高
【約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】1/1
○シスター・クローネ
【吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】1/1
○吉永双葉
【小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】1/1
○安土流星
【双葉社ジュニア文庫 パズドラクロス@双葉社ジュニア文庫】0/1
●チェロ
【ふなっしーの大冒険@小学館ジュニア文庫】1/1
○ふなっしー
【時間割男子シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○花丸円
【絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】1/1
○藤山タイガ
【サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】1/1
○玉野メイ子
【デルトラ・クエストシリーズ@フォア文庫】0/1
●黄金の騎士・ゴール
【ハッピーバースデー 命かがやく瞬間@フォア文庫】1/1
○藤原あすか
【ふつうの学校シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○アキラ
【星のかけらシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○小笠原牧人
【逃走中シリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○白井玲
【映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】1/1
○大太刀
【サキヨミ!シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○如月美羽
【FC6年1組シリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○神谷一斗
【ラッキーチャームシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○優希
【未完成コンビシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○桃山絢羽
【セーラー服と機関銃@角川つばさ文庫】1/1
○萩原
【恋する新選組シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○宮川空
【山月記・李陵 中島敦 名作選@角川つばさ文庫】1/1
○李徴
【カードゲームシリーズ@講談社青い鳥文庫】0/1
●哲也
【恐怖コレクターシリーズ@角川つばさ文庫】0/1
●相川捺奈
【絶体絶命シリーズ@角川つばさ文庫】0/1
●赤城竜也

気がつけば1レスで収まらない名簿に。
ネタスレとして始まった割にはちゃんと軌道に乗って一番驚いているのは俺自身なんだよね。


202 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/05(水) 00:05:13 q0c633Lk0
「パロロワ民は児童文庫沼に沈める」
「小中学生もバトロワ沼に沈める」
「両方」やらなくっちゃあならないってのが「児童文庫ロワ」のつらいところだな
投下します。


203 : 白銀御行は高校生! ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/05(水) 00:06:44 q0c633Lk0



 まさかこんなことになるなんて思わなかった。それが関織子ことおっこの頭を埋める言葉だ。
 白銀御行との出会いから行動を共にして十数分。その間彼女らは情報交換しながら使えそうなものを漁っていた。
 おっこが若おかみをしている春の屋旅館のこと、白銀が生徒会長を務める秀知院学園のこと、互いの知人たち――もちろん人に話し難いところは伏せた――のこと。具体的には互いのWikipediaのページに乗っていそうな情報を話し合いつつ、主に食品を中心に雑貨を集める。
 そんな時に、そのバイクは通りがかった。
 しんと静まりかえった街に遠くから響く破裂音とは別の、迫ってくるエンジンの音。それを聞いて窓ガラスから外を覗いた二人の下の道を通り過ぎていったのは、二人乗りのハーレーだ。
 運転していたのは白銀と同じぐらいの年の青年で、背中には誰かが抱きついてニケツしている。
 そのハーレーはもちろんおっこ達に気づくことなく薄っすらと霧の向こうに見える住宅街の方面に消えていった。
 さて、ここまではなんてことのない事だ。彼らは自分たちと同じように出会い、話して、移動することにしたのだろう、そのぐらいにしか思わなかった。気になったのは話しかけられなかったということであり、相手が殺人者である可能性など毛ほども考えていなかった。いきなりわけのわからないことを言われてはいそうですかと殺し合う人間などいない、それが二人の間で合意できた認識であった。
 そしてその認識が今の状況を産んでいる。
 おっこは自分たちがいた建物からあらかためぼしいものが無くなったと思うと、向かいの飲食店に向かった。白銀は集めた物資の整理とリストアップをしていたのと、道一本隔てたすぐの所に行く程度ならば単独行動にもならないと判断し彼女を送り出した。その結果。

「ウアアァァァ……!」
(な、なに? ライオン?)

 謎の獣人に道の真ん中に陣取られた。
 道一つ挟んで分断されたのだ。
 近くのビルの屋上から唐突に飛び降りてきたその明らかな人外は、ネコ科の肉食動物を思わせる頭飾りに上着を着け、片手には千切れた手錠をはめている。パット見は変わったアクセサリーを着けた少女にしか見えない怪人は、常人であれば死を免れられない高さであろう所から飛び降りたようで、それでいて毛ほどの痛みも感じぬかのようにすっくと降り立った。
 その正体は、最初に白銀が発砲した際に立ち昇り、未だ微かに滞留していた硝煙の臭いを嗅ぎつけた、ビーストだ。彼女は竜人に連れられて逃げた宇野を追いかけ、見失った後も匂いを辿り追跡を続けていた。そしてその匂いとは、散々に自分に向けて放たれた凶器である銃である。

(白銀さんは、あ、白銀さん!)

 息を潜めておっこは白銀に合図する。現在地は道の真ん中にビースト、ビルの三階に白銀、向かいの飲食店の一階におっこという位置取りだ。ここからでは互いの姿の一部は見えるものの、注意しなければ気づかないだろう。
 おっこは必死に合図を送るがなかなか白銀の視界には入らない。おっこからしても白銀の姿はかなり見えにくい。そのおかげでビーストはまだ白銀に気づいていないのだが。いつそれが崩れるかわかったものではない。

「ウウゥ……?」
(……なんだろう、いやな、予感が……)

 しかし彼女は自分のことを心配するべきであった。
 つい気づかせようと大きな動きをしたことで、指先が僅かにビーストの視界に入った。そしてビーストは視界の端に捉えたものであっても見落とすことはない。アムールトラのフレンズであった彼女は、極東では最強の肉食動物の一種であるその力を受け継いでいる。なにより、ネコがチラつくものを目で追うのは必然。その結果がこれ。

「ウガアァァッ!!」
「うわああぁっ!?」


204 : 白銀御行は高校生! ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/05(水) 00:07:28 q0c633Lk0
 間一髪で窓辺から立ち上がり離れる。
 同時にその窓ガラスがぶち破られ、ビーストが店内に突入してきた。
 ガラスの破片が後ろから降りかかるのを感じながら猛ダッシュで店内から出る。体育の成績だけは良いのだ。もっともそれがどうしたというほど、二人の身体能力の差は歴然としているのだが。
 ビーストは今しがた自分が圧し割ったガラスから飛び出る。軽々とした跳躍で、白銀がいるビルとそこに逃げ込もうとするおっこの間に割り込んだ。
 思わずおっこは白銀を見る。
 白銀は気づいていた。
 流石にこの騒ぎはただ事ではないと判断したのだろう。ライフルを不格好に担ぎ、銃口をビーストへと向けている。
 そしておっこは気づいた。
 ガクガクとブレるその銃口が時々自分の方へと向くことに。

(白銀さん! お、お、落ち着いて!)

 不幸なのは三者の位置関係。
 三階の白銀、ビースト、おっこという並びは、銃撃するにあたって敵と味方の射線が被る形になってしまった。
 このまま発砲すればどうなるかというのはこのバトル・ロワイアルに巻き込まれた人間ならばわかるであろう。
 これからも、そしてこれからも散々に起こり、直接的にせよ間接的にせよ殺人へと発展する、誤射だ。
 それは白銀が構えているアサルトライフルという武器からもほぼ確実に起こり得るものである。
 銃というものは基本的に、装弾数が多いものほど一回の銃撃において標的に当たる確率は少なくなる。正しくは、標的に当たる確率が少ないから装弾数を多くしている。下手な鉄砲数うちゃ当たる、だ。これは単純に標的に当てるだけならば概ね正しい。銃撃によるコストはあるもののの、目標の達成を考えれば過ちではない。
 しかしここに、『当ててはいけない標的がいる』という条件が加わった場合、途端に難易度が跳ね上がる。下手な鉄砲は数うちゃ当たるのだ。当てるべき標的にも。当ててはいけない標的にも。

(撃ったら当たる、撃たなかったら……!)
「う、撃たないで……」

 もはやおっこの恐怖の対象には白銀も含まれていた。なんとなくだが、なんの根拠もないが、撃たれて死ぬ気がする。目の前の女の子の鬼?よりも、たぶんそっちのほうが危ない。
 しかし同時に理解している。目の前には猛烈な危機が迫っている。少しでも行動を間違えれば、殺されてしまう。
 だから、動けない。おっこは恐怖で。
 だから、動けない。白銀も自分が誤射することを理解していて。
 なぜなら、白銀→ビースト→おっこというほぼ一直線上だからであって。
 つまり、その一直線上に対して垂直な線上であれば発砲できるということで。
 だから、白銀御行は軽トラを運転しながら拳銃を撃った。

「ガウッ!?」
「ええっ?」
「乗れ!」
「え、あ、白銀さん、じゃない、うん!」

 迫る弾丸を躱すために距離を取ったビーストとおっこの間に軽トラが止まる。そこからかかる声に、おっこは左手左足を荷台のヘリとタイヤにそれぞれかけ、立ち上がった時の勢いのままに荷台へと転がり込む。そして視界が流れるのを止めた時には、急発進していた。

「ガアアアッ!」
「引き剥がすしかないか……!」
「え、白銀さん……に、似てる?」
「? なんで名前を……」

 運転席から聞こえた声。バックミラー越しに見えた顔。それは白銀御行にとてもよく似ていた。


205 : 白銀御行は高校生! ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/05(水) 00:09:04 q0c633Lk0
「助かった、いや、さらわれた? ここは追わないと――」

 絶体絶命の状況で現れた白馬の王子様ならぬ白塗りの軽トラの青年がおっこを連れて去っていくのを見て、白銀は銃口を向けながら硬直する。
 助けられた、と見るべきか、さらわれた、と見るべきか。極度の緊張の後に発生した予想外の事態に、さしもの白銀も判断を迷う。
 追うべき? 無理だ、相手は車であの怪人まで追っている。
 見捨てる? 論外だ、それでは彼女の横に立つ資格などない。
 ならどうする? 考えつく選択肢はどちらもハズレ。第三の道は――

「いた!」「白銀さん!」
「――君たちは?」
「……顔変わった?」「あれ……なんか声もさっきと違うような……」「でもどっちも髪ツヤツヤじゃあ。」

 考えつかないのなら、外から見つけるしかない。
 白銀に声をかけてきたのは、中学生から小学生ぐらいか、三人組の男子だった。
 そして彼らは白銀の名を知っている、呼んでいる。一方で、まるで後ろ姿で声をかけたら別人だった時のような、そんなよそよそしい反応でもある。

「……少し時間をもらえるかな。いくつか聞きたいことがある。」

 危険はわかっている。だが、この三人からは何かを聞いておかなくてはならない。白銀はそう判断すると、素早くメモに書き置きを残してカバンの一つを持ち、ビルを後にした。



「白銀御行と一緒にいた……?」
「そうです、秀知院学院?の生徒会長だって――」「いきなり撃たれたときはビックリした!」
「そっちでも撃ってたのか……」

 少年に案内されたホテルで聞かされたのは、この殺し合いに関する必勝法とそのための方法。
 だがそんなことはどうだっていい。
 白銀が聞いたのは、自分ではないもう一人の白銀の存在。
 何でも彼はゲーム開始早々うっかり小学生を銃で撃ったことをキッカケに四人の参加者と出会い、このホテルで物資を集めていたという、どっかで聞いたようなことをやっていたらしい。あの車もこのホテルで調達したものだという。物が多すぎて徒歩での移動が困難だからだ。

「なるほど……なるほど……」

 もはや、なるほどという言葉しか出てこない。殺し合いの次はドッペルゲンガー、勘弁してほしい。
 そんな白銀を取り囲むのは、もう一人の白銀が仲間にしたらしい四人だ。

 一人目は、黒瀬優真。
 最初に白銀を見つけた男子中学生。

 二人目は、赤村ハヤト。
 白銀に前回の人狼ゲームについて話したこちらも男子中学生。

 三人目は、原田青葉。
 この中では最年少の男子小学生で、ホテルで出会い頭に驚いたもう一人の白銀に撃たれたらしい。幸いこちらも外れたが。

 そして四人目は――

「そこで寝てる人です。」
「殺し合えって言われてるんだぞ? どういうことかわかってるのか?」
「止めたんですけど、眠いからって……」

 ハヤトが指差したのは、ベッドの上で眠る美しい姫、としか形容しようのない人物。
 ふわふわの銀髪におかしのような甘い匂いを漂わせる女性。
 そんな彼女を、彼女が女王を務める国の大臣はこう評した。

 子曰く、『あのちらかしよう』
 子曰く、『昼前に起きてたことが無い』
 子曰く、『嘘つき』
 子曰く、『ああ自慢されちゃかなわない』
 子曰く、『何でも欲しがる人』
 子曰く、『お菓子以外絶対に食べない』
 子曰く、『意地っ張りのへそ曲がり』
 子曰く、『ゲラゲラ笑っていると思ったら湯気立てて怒ってる』
 子曰く、『国宝級のケチ』
 子曰く、『悪いことは全部人のせい』
 子曰く、『疑い深い』
 子曰く、『お化粧三時間』

 他にも『人間の屑』、『姫様以外になれる仕事がない女』、『こどおば』、『愛される才能だけはある女』、『ミカエル公爵頭抱えてそう』、『あのお方(21)』、『アニメ版は12歳だからまだマシだけど原作版は二十歳超えてアレだからいやーキツイっす』など様々な評価をされる、児童書界において知らぬ人はいないヒロイン、シルバーである。


206 : 白銀御行は高校生! ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/05(水) 00:10:01 q0c633Lk0



【0020過ぎちょい 都市部】


【関織子@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 状況を把握する
●小目標
 白銀さん(まんが)と話す

【ビースト@角川つばさ文庫版 けものフレンズ 大切な想い(けものフレンズシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 襲ってくるヤツを狩る
●小目標
 ???

【白銀御行@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― まんがノベライズ 恋のバトルのはじまり編@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 状況を把握する
●中目標
 ハヤト達と合流する
●小目標
 おっこちゃんと話す

【白銀御行@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 状況を把握する
●中目標
 もう一人のボク……!
●小目標
 ハヤト達と話す

【黒瀬優真@花とつぼみと、君のこと。@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 必勝法を成立させる
●小目標
 白銀(映画)と情報交換する

【赤村ハヤト@人狼サバイバル 絶体絶命! 伯爵の人狼ゲーム(人狼サバイバルシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 必勝法を成立させる
●小目標
 白銀(映画)と情報交換する

【原田青葉@バッテリー(バッテリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 必勝法を成立させる
●小目標
 情報交換する

【シルバー王妃@クレヨン王国の12か月(新装版) クレヨン王国ベストコレクション(クレヨン王国シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 大臣はどこ?


207 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/05(水) 00:15:53 q0c633Lk0
投下終了です。
誠に勝手ながら今後ノベライズなどの児童文庫オリジナルでない作品の新しい参戦を制限させていただきます。
児童文庫ロワと言っているのにやたら少年漫画や青年漫画や同人ゲームの原作からのキャラが目立っているからです。
あと30原作ほど新規にノベライズ勢が投下されたらそれ以降は全てオリジナル勢で行きたいと思います。
よろしくお願いします。


208 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/11(火) 02:13:47 uSMkUslk0
パロロワWikiで児童文庫ロワのページが1000viewいきました。
ありがとうございます。
編集してくださった方、Wikiを管理されている方、児童文庫に興味を持っていただいたパロロワ民の方、バトロワに興味を持っていただいた小中学生の方、あらためましてここで感謝の意をお伝えしたく思います。
それでは投下します。


209 : 稲妻先生颯爽退場!! ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/11(火) 02:15:07 uSMkUslk0



 都市部の一角には駅舎がある。いわゆる駅ビルというものだ。たいした大きさではないが数階建てのものが駅にくっついている。その中の最上階にある書店で、宮美四月は目を覚した。
 四月と書いて、しづき、と読む。ストレートの黒髪ロングに眼鏡というルックスは、そこが書店であることもあって文学少女という格好だ。じっさい、四月は読書が趣味である。なので最初、自分が見知らぬ書店にいることを理解しつつも、ほんの読み過ぎで変な夢を見たのだと思った。
 あの、誰かいませんか? そう声を出そうとして、口をパクパクさせる。電気はついているのに客の姿どころか店員も見えないことに、言葉が出てこない。どこかふわふわとした感じで店の外まで歩いてみる。そしてなんとなく出口に置かれた消毒液で手をもみながらエスカレーターまで行って、アクリル板に反射した自分と目があった。

「――!?」

 息を飲む。
 薄汚れた、鏡でもない傷だらけの板に写った自分は、夢で見た中の世界の人物が着けていた首輪と同じものを着けていた。
 ピンク色のそれは、なかなかのサイズだ。今まで気づかなかったことが不自然なほどに。

「はぁ……はぁ……!」

 言葉が出ない。
 俯きそうになる。
 足まで止まりそうになり、それが怖くてエスカレーターを駆け下りる。
 ビル内にはまるで人影が無い。
 なんで、どうして、そして。

「あ。」
「っ。ちょっと、そこのあなた。」

 何かに追いかけられている気分でビルから出たところで、道の先を歩いてくる少女と目があった。
 全身がピンクのゴスロリである。
 お姫様のようなピンクのフリフリ、ドレスにはこれでもかとフリルとリボンが付けられていて、頭にも大きなリボンをしている。
 そして首には、四月と同じように首輪を着けていた。



「――あらためまして、わたしは秋野真月です。お恥ずかしい話ですが、道に迷ってしまって……あなたは?」
「……み、宮美、しづっ、四月です。」

 名前を名乗るだけでかみかみな自分に嫌な気分になりながら、四月は真月の後ろについて歩く。
 無人の街はキラキラしたネオンに照らされているのに、灰色に冷たく感じる。だから真月の大きすぎるリボンがやけに目立って見えた。
 四月が出会った少女、真月は、ポケットから出した紙片の場所へと向かう気だったとのことで、二人はなんとなくそちらに向かっていた。名前を名乗ることすら後回しにして、しばらく無言で歩いて、つい今さっき、真月は振り返らずに名乗った。
 誰もいない街に、二人分の足音が響く。
 静かだった。
 驚くぐらいに、うるさくない。
 店先から聞こえるBGMが、音量で言えばうるさいはずなのに、やけに小さく聞こえた。

「……わたしは、変な夢を見ていたんです。ええ、少し疲れがあったのかもしれませんね。さっき見たばかりなのに、もう思い出せなくて……今も、少し疲れ目みたいで。視界が赤みがかって見えるんです。」
「……うん。」
「……着きましたね。」

 言葉少なく、真月は足を止めた。
 しばらく、それでも数分もせずに着いたそこには、ビデオという大きくて派手な文字と、時間と値段が書かれている。
 そこで初めて、真月は振り返った。ここまで早足で歩き続けてきて、初めてだ。


210 : 稲妻先生颯爽退場!! ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/11(火) 02:16:52 uSMkUslk0

「は、入ろうか。」
「ええ、そうですね。」
「……」
「じゃあ、行きましょうか。」

 トン、とゆっくり真月は一歩踏み出した。派手な外装とは裏腹に、店内へ続く登り階段は更に明るすぎるほどに明るい。なんでこんなにピカピカしてるんだろうと思いながら、自動ドアを抜ける。ここには悠久の玉というものがある、と書かれている。それが何なのかはわからないが、この異様な状況の真実を知る一つの助けにはなるだろう。そう、殺し合いという悪夢の。

「「え。」」

 そして二人は硬直した。
 店内の壁に貼られていたポスターには、裸の女性がデカデカと飾られていた。
 サッカー選手の服を着た女性がヤクザっぽい女性に尻をイジられているポスター。
 色黒の女性と色白の女性がどこかの窓際で股間をイジるポスター。
 神々しい女性とマジメそうな女性が室内でくつろいでいるポスター。
 地下室らしき場所でスレンダーな女性が縛られ、汚い男により口に白い布を押し込まれているポスター。
 三枚目はともかく、この場所に貼られているのはどれもこれも、端的に言ってイヤらしい、というか、明らかに「そういう」ポスターであった。

「おいどこ行ってたんだよ。店員さーん、おあそびほしいんだけ、ど……」
「ひいっ!」「きゃあっ!」

 そして現れたのは、汚いおっさんだった。
 三十歳ぐらいだろうか、ボサボサの髪に無精髭。ヨレヨレのジャージに、便所サンダルっぽい靴。首には黒い首輪。
 そして手には、アダルトビデオが握られていた。
 『女子校生監禁72時間』。

「「変態だぁーっ!?」」
「え、子どもが何でこんな所に……君たち――」
「に、逃げましょう!」
「うん!」
「ちょ、待てよ!」

 四月と真月は走った。
 振り返らずに走った。
 たかだか十二年しか生きていなくてもわかった。
 あそこはとてもまずい場所で、そこにいたあのおっさんはヤバい人なのだと。

「交番があったわ! 人もいる! すみません!」

 真月の声に、チラチラ振り返るのをやめて前だけ見る。今のところ、男性は追いかけて来ない。あのサンダルではうまく走れないだろう。もし今から追いかけられても、交番に駆け込む方が早い。
 運動不足で運動音痴な四月では百メートル先に見えた交番まで走るのにも時間はかかるが、それでもなんとか辿り着く。ゼェゼェと息をつく二人を出迎えたのは、二十歳半ばの男性だ。また男の人で二人の間に緊張が走る。体格もいい。まさか、この人も変態なのでは……

「あ、あの、すみません、わたしたち……」
「待て……お前ら、俺が見えんのか?」
「ええ……え?」
「マジかよオイオイ……なあ、お前ら、死神か?」
「ちょ、ちょっと、こまります!」


211 : 稲妻先生颯爽退場!! ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/11(火) 02:19:24 uSMkUslk0

 ずい、と男が近づいてくる。だけではなく、ベタベタと真月の体を触る。手を掴んで自分の体を触らせる。四月にも同じように触り、触らせる。
 嫌だ、そう思っても息切れと恐怖で体が動かない。客商売をしている真月は抵抗できているが、男性が苦手な四月はただただ体を固くして耐えることしかできない。
 ギュッと目をつむる。気持ち悪い。耐えられない。思わずうずくまって。男は手を離した。
 そして聞こえてきたのは笑い声だった。

「やったぁぁ!! 生き返ったあああ!! はっはー!! 正月の朝みたいな晴れやかな気分だぜぇーっ!!」

 男は爆笑しながらそう言った。
 その急変に、真月と二人で震えることしかできない。
 気づかれてしまったら、大変なことになるんじゃないか、そう思ってじっと耐える。

「宮美さん!」

 ゴン。
 音がした。頭の中から。
 同時に体が床に寝ていた。そして血が流れていた。

「逃げんじゃねえよ!」「ギャッ。」

 続いて真月の悲鳴が聞こえた。バタリとピンクのフリフリが床に倒れる。そして視界の端には、血に濡れた電話器が微かに見えた。

「これが異世界転生ってやつか!? 最後の一人になるまで殺し合えとか変な首輪とか、これあれだろ! デスゲームだろ!」

 男はわけのわからないことを言いながらどこかに行く。と思ったら戻ってくる。何か持っている。長い棒。さすまただ。

「おかしいと思ったんだよぉ! ちょっと金盗んだぐらいでよぉ! ちょっと人を刺しただけでよぉ! それで死ぬなんて血も涙もねえ! 救いはねぇのかと思ったけどハッハー! こういうことか完全に把握したぜーっ!」

 ガン。
 ゴン。
 ゴリ。
 グチャ。

 異様な声を上げながら、男はさすまたの柄の方を短く持ち、真月に馬乗りになって顔面に振り下ろす。そのたびに、真月の体が悲鳴を上げビクンビクンと痙攣する。
 四月はそれをただただ見ているだけしかできなかった。体が動かない。目も動かない。まばたきができず、視線も動かせない。だからひたすらに、その光景を見ているしか無かった。
 そんな四月と男の目があった。男はニヤリと笑いながら、馬乗りになったのだろう。視線を動かせず体の感覚もないのでわからない。

「オラァ!」
「げぶぅ。」

 自分の口から声かどうかもわからない音が聞こえて、自分が真月と同じように殴られたことを理解した。
 口に振り下ろされたようだ。口の中がジャリジャリする。喉に圧迫感を感じる。息ができない。

「オベバアッ!」
「かぷぅ。」


212 : 稲妻先生颯爽退場!! ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/11(火) 02:20:24 uSMkUslk0

 また声が漏れた。同時に今度は視界が大きく変わった。男の顔が、自分の顔の目の前に落ちてきた。頭の横には、血。
 バッと男が立ち上がる。「なんだこのオッサン!」と言う声とガツンという音と共にまた男は倒れた。さすまたが床を転がる。男はおでこのあたりを抑えている。そしてその上に馬乗りになる影があった。

(あ、さっきの。)

 見えたのは、さっきのエロいオジサンだった。オジサンは、さっき男が持っていた電話器を男の頭へと振り下ろしている。男はそれを腕で防ぎながら、オジサンへと掴みかかっている。
 それを見て、四月はどうして?と思った。
 どうしてこのオジサンは男の人を襲っているのだろう?

「おい! 起きろ! 早く逃げろ!」
「ああっ! 誰だお前! コイツらのなんなんだよ!」
「知るか馬鹿! さっき会ったばっかだよ!」
「じゃあなんでこんなことしてんだクソがあっ!」
「教師だからだよ! 先生は児童守るんだよ!」
「なんだそりゃあああ!! 離せやオラァァァアアァァァッ!!」

 あ、まずい、と思った。
 でも声が出なかった。
 男は片手をポケットに入れると、ハサミを取り出した。そしてそれはストン、とオジサンの体へと吸い込まれていく。「ヤッベ!」という声が聞こえると同時にオジサンの動きが止まり、その隙に男は何度も何度もオジサンを刺した。

「これで3キルだぜ――なっ!?」
「……な……ナメてんじゃねぇ……ぞ……」
「テメぇ、首輪を、離しやがっ、ぐばっ!?」

 口から血を出しながらもニヤリと笑う男の首輪を、オジサンは手で掴む。そして見ていてもわかるぐらいに両手でぐっとやった。
 すると、首輪が膨らみ始めた。そして光った。まるで爆発したみたいだった。それは、あの夢の中で見た光景に似ていた。
 そして、光が止んだとき。男は動かなくなっていた。何が起こったのかわからない。ただ、男の目がカッと開いたまま眼球が全く動かなくて、ああ、この人は死んだんだなとわかった。

「やってみるもんだな、一か八か……がぁっ……痛ってぇ……」

 オジサンはそう言いながら真月の体に触れた。首筋を触って。次に胸を触る。四月にもそうした。首筋を触って。次に胸を触る。そしてその後、オジサンは床に寝転がった。

「ここまでやって……手遅れかよ……」

 そうして、交番の中に生きている人は誰もいなくなった。


213 : 稲妻先生颯爽退場!! ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/11(火) 02:21:32 uSMkUslk0
【0010前 繁華街】

【脱落】

【宮美四月@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【秋野真月@若おかみは小学生! PART10 花の湯温泉ストーリー (若おかみは小学生!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【稲妻快晴@ふつうの学校 ―稲妻先生颯爽登場!!の巻―(ふつうの学校シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【長内隆@死神デッドライン(1) さまよう魂を救え!(死神デッドラインシリーズ)@角川つばさ文庫】



【残り参加者 265/300】


214 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/11(火) 02:25:45 uSMkUslk0
投下終了です。
こどもの日に合わせてこどもが出てくる投下をしたんで母の日に合わせて母が出てくる投下にしようと思いましたが、私が読んでる本に出てくる母親が遊戯王に出てくる父親並にろくでなし率が高かったんでやめときました。
自殺・不倫・ネグレクト、一時期の一部の児童文庫はやけに尖ってましたね。


215 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/12(水) 03:12:03 R4Mlymmg0
祝え! 泣いちゃいシリーズ15周年を!
投下します。


216 : サッカー部員は惹かれ合う ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/12(水) 03:15:15 R4Mlymmg0



「おかしくないか、これ?」

 小林疾風とのサッカーを終え連れションに来た菊地英治は、そのトイレの個室を見て言った。

「どこが?」
「ここのだけキレイだ。他はそこそこ汚れてるのに。」
「たまたまじゃ……ないのか?」
「かもな。でも、気になる。俺女子トイレも見てくる。」
「マジ?」
「変な意味じゃないぞ。」
「わかってるけどさ……」

 公園にある公衆便所は男女に別れていて、男子トイレはいくつかの小便器と一つの個室、そして一つの用具入れがある。
 疾風は用具入れのモップや雑巾を見てみた。
 モップは濡れていない。が、雑巾は少し湿っているようだ。

「女子トイレは何もおかしなところはなかった。道具が入ってるとこのバケツとかも。」
「こっちは雑巾だけ濡れてた。」
「なるほど、つまり……」
「なんかわかったのか?」
「いや、全然わかんない。」
「オイオイなんだよ。」
「でも、俺の仲間なら何かわかるかもしれない。雑巾が濡れてたってことは、雑巾が水にふれたってことだろ。」
「そりゃそうだろ。」
「でもここには水がつくような何かがない。トイレの便座もしまってるし、そもそも個室が違うから水がはねてってことはない。洗面台からもかからない。そもそも洗面台に水滴ついてないし。てことは、誰かが水につけたってことだろ。」
「って、けっこうわかってんじゃん。」
「いやそれだけなんだよ。濡れてる雑巾があるってことはそりゃ人が使ったんだろうけど、いつどこで誰がなんのために使ったかまではわかんないだろ?」
「そんなのわかるやついるのか? 探偵かよ?」
「うーん、さすがにアイツでも無理そうだけど、でもみんなで考えればなんかヒントはわかるかもな。」

 英治と疾風はそれから少しトイレを調べて、それ以上何も思いつかないとなって用を足すと公園へと戻った。
 彼らは知らなかったが、その場所こそつい小一時間前にタベケンが虹村形兆によって殺害されたトイレだった。まさか自分が用を足そうとしたその個室が、形兆が《バッドカンパニー》に血痕一つ残さず清掃させたものだとは思いもよらないものだ。そもそも二人は超能力というものに縁がない。
 だがそれでも、二人はトイレから出たあとも、不穏なものを感じていた。
 先程から聞こえてきていた銃声は、だんだんと近くなってきているようだ。そして公園の出口近くになって見えてきたのは、川。

「あそこで殺して、この川に沈めてたりして。」
「もーやめようよ、怖いこと言うの。」
「悪い。ちょっと変なことばっか考えてる。」

 素直に謝る英治だったが、チラチラと時折トイレの方を振り返る。そんな彼を、疾風は何も言わずに後に続いた。疾風自身も何か感じていた。あのトイレにはなにか、嫌なものがあると。

「待って。なんだ、なんか……」
「ああ、俺もだ。もしかしてこれって、血の匂いだよな。」

 だからだろうか、二人は鋭敏な嗅覚でそれに気がついた。公園の出口に向かい歩くにつれて、だんだんとなんだか生臭い臭いがしていた。最初は気のせいかとも思ったが、ある一線を越えると、それが血の匂いだとハッキリと感じた。 
 二人で慎重に歩く。それはすぐに見つかった。死体だ。サングラスの男が血を流している。ピクリと動かずに倒れている。そして血が水たまりを作っている。どう見ても、殺人事件だ。更に離れたところに、同じ服装の男が同じように倒れている。こちらは血溜まりが見えないが――その時、英治が大きな声を出した。


217 : サッカー部員は惹かれ合う ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/12(水) 03:16:36 R4Mlymmg0



「おかしくないか、これ?」

 小林疾風とのサッカーを終え連れションに来た菊地英治は、そのトイレの個室を見て言った。

「どこが?」
「ここのだけキレイだ。他はそこそこ汚れてるのに。」
「たまたまじゃ……ないのか?」
「かもな。でも、気になる。俺女子トイレも見てくる。」
「マジ?」
「変な意味じゃないぞ。」
「わかってるけどさ……」

 公園にある公衆便所は男女に別れていて、男子トイレはいくつかの小便器と一つの個室、そして一つの用具入れがある。
 疾風は用具入れのモップや雑巾を見てみた。
 モップは濡れていない。が、雑巾は少し湿っているようだ。

「女子トイレは何もおかしなところはなかった。道具が入ってるとこのバケツとかも。」
「こっちは雑巾だけ濡れてた。」
「なるほど、つまり……」
「なんかわかったのか?」
「いや、全然わかんない。」
「オイオイなんだよ。」
「でも、俺の仲間なら何かわかるかもしれない。雑巾が濡れてたってことは、雑巾が水にふれたってことだろ。」
「そりゃそうだろ。」
「でもここには水がつくような何かがない。トイレの便座もしまってるし、そもそも個室が違うから水がはねてってことはない。洗面台からもかからない。そもそも洗面台に水滴ついてないし。てことは、誰かが水につけたってことだろ。」
「って、けっこうわかってんじゃん。」
「いやそれだけなんだよ。濡れてる雑巾があるってことはそりゃ人が使ったんだろうけど、いつどこで誰がなんのために使ったかまではわかんないだろ?」
「そんなのわかるやついるのか? 探偵かよ?」
「うーん、さすがにアイツでも無理そうだけど、でもみんなで考えればなんかヒントはわかるかもな。」

 英治と疾風はそれから少しトイレを調べて、それ以上何も思いつかないとなって用を足すと公園へと戻った。
 彼らは知らなかったが、その場所こそつい小一時間前にタベケンが虹村形兆によって殺害されたトイレだった。まさか自分が用を足そうとしたその個室が、形兆が《バッドカンパニー》に血痕一つ残さず清掃させたものだとは思いもよらないものだ。そもそも二人は超能力というものに縁がない。
 だがそれでも、二人はトイレから出たあとも、不穏なものを感じていた。
 先程から聞こえてきていた銃声は、だんだんと近くなってきているようだ。そして公園の出口近くになって見えてきたのは、川。

「あそこで殺して、この川に沈めてたりして。」
「もーやめようよ、怖いこと言うの。」
「悪い。ちょっと変なことばっか考えてる。」

 素直に謝る英治だったが、チラチラと時折トイレの方を振り返る。そんな彼を、疾風は何も言わずに後に続いた。疾風自身も何か感じていた。あのトイレにはなにか、嫌なものがあると。

「待って。なんだ、なんか……」
「ああ、俺もだ。もしかしてこれって、血の匂いだよな。」

 だからだろうか、二人は鋭敏な嗅覚でそれに気がついた。公園の出口に向かい歩くにつれて、だんだんとなんだか生臭い臭いがしていた。最初は気のせいかとも思ったが、ある一線を越えると、それが血の匂いだとハッキリと感じた。 
 二人で慎重に歩く。それはすぐに見つかった。死体だ。サングラスの男が血を流している。ピクリと動かずに倒れている。そして血が水たまりを作っている。どう見ても、殺人事件だ。更に離れたところに、同じ服装の男が同じように倒れている。こちらは血溜まりが見えないが――その時、英治が大きな声を出した。


218 : サッカー部員は惹かれ合う ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/12(水) 03:18:53 R4Mlymmg0
「待て、小林。人だ。」

 ガッと強い力で、死体に近づこうとした疾風の腕を菊地は掴んだ。そのまま無理やり木の影へと隠れさせると、指を指す。その先には確かに、二人の人影が見えた。たぶん、同じぐらいの年の学ランの男子に、幼稚園ぐらいの女子だろうか。手を繋いでこちらに歩いてくる。

「よく見えたな。」

 正直に疾風は賞賛した。この赤い霧なら注意していなければそうそう見つけられない。手放しですごいと思う。だが褒められた英治の顔は険しかった。そして小さな、コソコソ話で話した。

「本当にいたのか、ヤバイな。」
「何だそれ? どういうこと?」
「さっきの死体、なんかおかしかった。だから近づくのやめようとしたんだけど、これどうしようか……」
「マジ? どこらへんがおかしかった?」
「わかんねえ。でも、まあ、勘? 実は死んだふりでした、とかそういうのかもしんないし。」
「あれは、その、絶対死んでたと思うぞ……だってあの血じゃ……」
「そうなんだけどさ、うーん……ところで疾風、50メートル何秒かかる?」
「遅いぞ、7秒はかかる。」
「めちゃくちゃ速いじゃんか。俺も7秒台。」
「6秒台じゃなきゃ自慢できねーよ。」
「俺の方が置いてかれそうだな。疾風、合図したら走るぞ。」
「わかんないけどわかった。アップはできてる。」

 英治は頷く。そして口に手を当てて悩む素振りを見せながら、また大きな声で言った。

「まずはあの二人に会う。それで、死体について知ってるか聞いてみる。気づかれないようにゆっくり……」

 そして靴紐を結ぶ――フリをしてクラウチングスタートの姿勢に。疾風も同じようにする。

「ああ、そんな感じ。体を縮めて、見えにくくして……今だ!」
「っ!」

 そして走った。
 公園の出口に現れた二人組までの距離は110弱ほど。十五秒ほどで辿り着く。
 そして外に出てしまえば、公園の外周の植え込みが姿を見えにくくしてくれる。
 もし死体が死んだフリなら十五秒間で何か対応されなければ勝ち、死んだフリでなくてもダッシュ一本するだけだ。

 パアン!

「銃かよ!」
「マジで死んだフリかよ! マジで死んだフリかょ!」
「英治さんちょっとそれ死んだフリって言ったの自分じゃん!」
「だって本当に死んだフリって思わないじゃん!」
「な、なに!?」「キャッ!」
「逃げてっ!」「こっちだ!」
「――わかった! ネネちゃん!」
「なに!? なんなのよおっ!?」

 英治と疾風が呼びかける。その間にも二発三発と銃声が響く。二組が交差する。と、男子が女子を抱えて走り出した。
 速い。足が。早い。判断が。
 英治と疾風は内心、銃声ほどではないしても驚いた。素晴らしい反応スピードだ。
 そして男子は二人に少し遅れながらも着いてくる。やがて公園の出口からも50メートルほど距離を取り、路地で足が止まったところで二人に追いついてきた。

「僕は崇、こっちはネネちゃん。もしかして、今のってドッキリとかじゃなくて、本当に撃たれたの。」
「ハァ……ハァ……英治……疾風……さっき死体を見つけた。死んだフリだったみたいだ。銃持ってるみたいだ、もっと遠くに逃げよう。」

 素早く情報交換をして、言葉が足りないところはジェスチャーですませて、その間に呼吸を整え足の乳酸を消す。男子三人で顔を見合わせる。よし、イケる。

「ちょっと! 男の子だけでわかった感じにならないでよ!」
「悪いけどそうは言ってられないんだよ、走るぞ!」

 そしてまた走り出す。
 菊地英治、小林疾風、、桜田ネネ。
 四人のファーストコンタクトはそんな慌ただしいものだった。


219 : サッカー部員は惹かれ合う ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/12(水) 03:19:04 R4Mlymmg0
「待て、小林。人だ。」

 ガッと強い力で、死体に近づこうとした疾風の腕を菊地は掴んだ。そのまま無理やり木の影へと隠れさせると、指を指す。その先には確かに、二人の人影が見えた。たぶん、同じぐらいの年の学ランの男子に、幼稚園ぐらいの女子だろうか。手を繋いでこちらに歩いてくる。

「よく見えたな。」

 正直に疾風は賞賛した。この赤い霧なら注意していなければそうそう見つけられない。手放しですごいと思う。だが褒められた英治の顔は険しかった。そして小さな、コソコソ話で話した。

「本当にいたのか、ヤバイな。」
「何だそれ? どういうこと?」
「さっきの死体、なんかおかしかった。だから近づくのやめようとしたんだけど、これどうしようか……」
「マジ? どこらへんがおかしかった?」
「わかんねえ。でも、まあ、勘? 実は死んだふりでした、とかそういうのかもしんないし。」
「あれは、その、絶対死んでたと思うぞ……だってあの血じゃ……」
「そうなんだけどさ、うーん……ところで疾風、50メートル何秒かかる?」
「遅いぞ、7秒はかかる。」
「めちゃくちゃ速いじゃんか。俺も7秒台。」
「6秒台じゃなきゃ自慢できねーよ。」
「俺の方が置いてかれそうだな。疾風、合図したら走るぞ。」
「わかんないけどわかった。アップはできてる。」

 英治は頷く。そして口に手を当てて悩む素振りを見せながら、また大きな声で言った。

「まずはあの二人に会う。それで、死体について知ってるか聞いてみる。気づかれないようにゆっくり……」

 そして靴紐を結ぶ――フリをしてクラウチングスタートの姿勢に。疾風も同じようにする。

「ああ、そんな感じ。体を縮めて、見えにくくして……今だ!」
「っ!」

 そして走った。
 公園の出口に現れた二人組までの距離は110弱ほど。十五秒ほどで辿り着く。
 そして外に出てしまえば、公園の外周の植え込みが姿を見えにくくしてくれる。
 もし死体が死んだフリなら十五秒間で何か対応されなければ勝ち、死んだフリでなくてもダッシュ一本するだけだ。

 パアン!

「銃かよ!」
「マジで死んだフリかよ! マジで死んだフリかょ!」
「英治さんちょっとそれ死んだフリって言ったの自分じゃん!」
「だって本当に死んだフリって思わないじゃん!」
「な、なに!?」「キャッ!」
「逃げてっ!」「こっちだ!」
「――わかった! ネネちゃん!」
「なに!? なんなのよおっ!?」

 英治と疾風が呼びかける。その間にも二発三発と銃声が響く。二組が交差する。と、男子が女子を抱えて走り出した。
 速い。足が。早い。判断が。
 英治と疾風は内心、銃声ほどではないしても驚いた。素晴らしい反応スピードだ。
 そして男子は二人に少し遅れながらも着いてくる。やがて公園の出口からも50メートルほど距離を取り、路地で足が止まったところで二人に追いついてきた。

「僕は崇、こっちはネネちゃん。もしかして、今のってドッキリとかじゃなくて、本当に撃たれたの。」
「ハァ……ハァ……英治……疾風……さっき死体を見つけた。死んだフリだったみたいだ。銃持ってるみたいだ、もっと遠くに逃げよう。」

 素早く情報交換をして、言葉が足りないところはジェスチャーですませて、その間に呼吸を整え足の乳酸を消す。男子三人で顔を見合わせる。よし、イケる。

「ちょっと! 男の子だけでわかった感じにならないでよ!」
「悪いけどそうは言ってられないんだよ、走るぞ!」

 そしてまた走り出す。
 菊地英治、小林疾風、広瀬崇、桜田ネネ。
 四人のファーストコンタクトはそんな慌ただしいものだった。


220 : サッカー部員は惹かれ合う ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/12(水) 03:20:20 R4Mlymmg0



「……」

 一方、公園では一人の人物が無表情に銃の構えをといた。
 続いてその体が溶けていく。そして残ったのは薄紫のゲル状の生物――メタモンだった。
 死んだフリをして死体のそばにいて調べに来たり助けに来たりした参加者を殺す。良い作戦だと思ったがなかなかそう簡単にはいかないようだ。まず死体を人目につくところに動かす必要があったし、その過程で死体が不自然な姿になってしまった。だかそれでもポケモンである自分が人間に負ける気は無かったが、へんしんした相手が悪かったからか、銃の狙いが前のへんしんよりも落ちていた。日本人らしいので銃を使ったことがないのだろう。同じ種類のポケモンでもわざが違えばへんしんして使えるわざが違うのに、基本的なことが抜けていた。
 メタモンは更に姿を変えて逆方向に歩き始める。どうやら下手に頭を使いすぎたようだ。しばらくは頭とほとぼりを冷まそう。そして今後は強い相手にへんしんしよう。
 そう思い彼は英治達が来た方向へ、つまり銃撃戦が行われている街の方へ歩き出した。


221 : サッカー部員は惹かれ合う ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/12(水) 03:21:05 R4Mlymmg0
【0100頃 公園】

【菊地英治@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 このクソッタレなゲームをブッ壊す
●小目標
 みんなと話す

【小林疾風@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 弟(小林旋風)が心配
●小目標
 みんなと話す

【メタモン@名探偵ピカチュウ(小学館ジュニア文庫)】
【目標】
●大目標
 優勝を目指す
●中目標
 強い参加者にへんしんする
●小目標
 公園から離れる

【広瀬崇@泣いちゃいそうだよ (泣いちゃいそうだよシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 今何が起こっているのかをしらべる
●小目標
 ネネちゃんを保護する

【桜田ネネ@双葉社ジュニア文庫 映画ノベライズ クレヨンしんちゃん
ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい
●小目標
 わたしをおいてけぼりにして話進めないでよ!


222 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/12(水) 03:24:29 R4Mlymmg0
投下終了です。
パロロワWikiでズガンのページが更新されていましたがあれで言うと2のパターンが多いのがうちのロワですね。
2話退場もかなり多いですが、ぶっちゃけうちのロワは登場話で死体登場OKなんでガンガン登場させてガンガン落としていってもらいたいです。
何より私自身が最近ズガンパターンネタ切れなので。


223 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/14(金) 06:20:26 mpdHRshI0
恋愛ジャンルはどのレーベルでもある程度似通っていますが一年間だけシリーズは読み味はありながらもキャラや文体が軽いので少女小説っぽいのが苦手な方でも楽しめると思います。
投下します。


224 : 天地人 ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/14(金) 06:20:44 mpdHRshI0



「なんでまたこんなことしなくちゃならないんだよ……しかも殺し合えだなんて……ていうかルール説明中にやられる進行役ってなんだよ……」

 教室に響く涙声の愚痴。
 櫻井悠は校舎の中で震えていた。
 彼は幼なじみの大場大翔や宮原葵と一緒につい先日鬼ごっこに巻き込まれた。その時も今のように赤い霧に包まれた赤い空の下の学校が舞台だった。違いがあるとすれば、今回は一人きりでのスタートで首には物騒な首輪がつけられていることか。

「前回よりもヤバイじゃんか……ひっ!」

 なおも泣き言を続けようとして、小さく悲鳴を上げる。彼が聞いたのは足音。それは息を潜める彼を探すように校舎を徘徊している。今に至るまでの三十分ほど、彼は謎の気配と鬼ごっこをしていた。なんとか校舎から脱出できないかとチャンスを待ってはいるが、敵は悠が上の階から回り込もうとすれば反対側の階段へと向かい、下の階へ降りようとすれば、下と向かう。なかなか逃げられない。
 そして困ったことに、悠の目の前に落ちているのは、ライフル。この校舎の至るところにこんな銃が落ちている。つまり、敵は確実に銃を持っている。そしてもちろん、ただの小学生である悠にこんなものは使えない。つまり、見つかるイコール銃殺だ。校舎はその設計上、廊下で移動しようとすると撃たれやすい。今まではなんとか回りこんで射線を通さないことでやり過ごしてきた、が。

 タタタタタ……!

(は、走ってきた!?)

 悠の顔が一気に青くなる。
 やられた。
 敵は一気に距離を詰めてきた。
 今までは悠も銃を持っていると考えてかなかなか接近してこなかったが、撃てないと察せられたのか、突撃してきた。
 窓と銃を見る。3階から飛び降りれば死ぬ。銃はガンシューをあんまりやってないので撃ち負けて死ぬ。どちらを選んでも死ぬ。

(いや、まだだ!)

 だが悠の目は死んでいなかった。
 咄嗟に床に伏せる。
 手を頭の後ろで組み、足はまっすぐ伸ばしてうつ伏せになる。
 そうその作戦は。

「う、動かないで!」
「動かないです抵抗しないですなんにもしないですなんでもしますから殺さないでください!!!」
「え、ええ……」

 全力の命乞い。
 悠のクッソ情けない姿に、頭の上から少女の困惑した声が聞こえる。
 自分が今最高にかっこ悪いことを自覚しつつも、とりあえず撃たれなかったことに、悠は心の中でガッツポーズした。
 悠が出会った少女の名前は、工藤穂乃香。1歳上で中学生だという。その三つ編みってセットするの大変そうだなあとどうでもいいことを思いながら、悠は穂乃香と情報交換を始めた。
 実は彼女も悠に追いかけられていると思っていたらしく、必死になって校舎を逃げ回っていたという。誤解していたことがわかると一転して二人の間から緊張感が無くなり、話は自己紹介に移った。

「鬼と鬼ごっこ……」
「信じられないですよね。」
「ううん……悠くんが嘘をついてるって思わないよ。」
「本当ですか?」
「うん。そんな冗談言いそうにないし……外の、空とか霧とか変だし……」
「ああ……うん。」


225 : 天地人 ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/14(金) 06:21:20 mpdHRshI0
 人に言っても信じてもらえなかった鬼ごっこのことも、隠さず話して、あっさり信じられたことに驚きながらもそりゃそうだよなと悠は思った。
 穂乃香が危険そうには見えないものの幼なじみの話をするのはリスクがあると思って食いついてきそうな鬼ごっこの話を主にしてみたが、予想よりも受け入れられた。どうやらけっこう素直な人なんだな、と思う。
 出会ったばかりだが悪い人ではまずない。そう思う。

(良かった〜、てっきり殺し合いだから怖い人ばっかいるのかと思ったけど、ふつうそうな人で。もしかしたら他の参加者も全員子供なのかな?)

 これなら誰かと会うことも考えたほうがいいかもしれない。殺し合いに反対する誰かがなんとかしてくれるまでどこかで隠れていようと思っていたが、少し動いてみようか。そう思い始めた悠に、スピーカーを通したような声が聞こえてきた。

「校内放送? じゃないな。どっちかって言うと拡声器みたいな……」
「この声……もしかして、村瀬先輩?」

 誰? 悠は目で聞く。

「あ、えっと、村瀬先輩は、えっと……」
「あっ、ふーん……」

 赤くなってしどろもどろに言う穂乃香を見て、察した。
 これは……彼氏じゃな?

「いや、わかってたよ……なんかこういうところでドラマチックに出会ったってさ、ただの吊り橋効果だって……たぶんこんな感じではしゃいじゃってる男子は他にもいるって……自分は違うんじゃないかな、ここから二人の恋のDestinyが始まるんじゃないかって思ったのはウソじゃないけど……」
「悠くん? 悠くーん?」
「あ、平気っす、何でもないっす、ちょっとジャンル勘違いしただけっす、やっぱ怖いっすねデスゲームは。」
「口調が変になってるよ!?」

 だって拡声器通した声で誰かわかって笑顔になってたらもうそれそういうことじゃん。そう言おうとして悠はやめといた。これ以上は自分が恥ずかしすぎる。ただでさえヒロインの元に主人公が駆けつけるシーンに遭遇しているのに、それを横で茶々いれる三枚目ポジションにはなりたくない。
 いや、実のところはじめからそんな気はしてましたよ。なんか自己紹介の時に女友達のこと話すときより知り合いのバスケ部の副部長のこと話すときの声のトーンとかで。なんだかなあ。
 だから何も言わずに穂乃香を彼氏の元へと送り出そうとして、しかし、しゃべりかけた舌を止めた。
 イヤな、予感がする。

「ええっと、悠くんも一緒に行こう?」
「いや……待ってください、行っちゃだめだ……」
「……え?」

 悠は自分の体の震えを抑えながら言った。
 悠は昔から、虫の知らせとも言うべき勘の良さがある。そしてそれは決まって、自分や周りの親しい誰かに不幸が訪れるときだ。そしてそれが今まさにそうだ。
 悠は原因を探す。答えは明らかだ。拡声器は広範囲に人を呼び寄せる。そしてこの殺し合いでは銃が落ちている。となると。

「今すぐ拡声器を使うのをやめさせないと撃たれる……! このままじゃ危ない!」
「! い、行ってくる!」
「待って! ううん、急いだほうがいいのか……? どっちだ!?」

 走り出した穂乃香をあわてて追いかける。一人で行かせるのはマズい。かなりマズい。どんどんイヤな予感が強まっている。そしてどんどん、これが本当の殺し合いであるという確信が強まっていく。だがおそらく、穂乃香はさっきの自分と同じぐらいにしか、この殺し合いの恐ろしさを認識していない。もっと慎重に、細心の注意を持って動かなければならないのだ。

 ぱらららら。

「今のは……そんな……」

 音が響いた。
 悲鳴が聞こえた。
 下駄箱を通り抜けた彼が見たのは、校門のところで折り重なって倒れている男女だった。


226 : 天地人 ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/14(金) 06:22:17 mpdHRshI0


 村瀬司は困っていた。
 目の前には泣きじゃくる男の子。
 そして変な霧と空。
 あとさっき見た夢。
 そして。

「ここ、どこなんだよ……」

 自分は迷子ときた。
 これには途方に暮れる他ない。
 目が覚めたら見知らぬバス停のベンチに寝ていて、しばらくあたりを散策していたら同じように迷子になって泣いている子供と出会う。もちろんこんな経験は初めてだ。ここが死後の世界的なものだと考え始めたところで他人に会えたことは単純に嬉しかったが、これはいかがなものか。

「え〜っと、君、名前は言える?」
「うう……高橋、蓮……」
「レンか。俺は村瀬司。なあ、俺さ、今迷子なんだ。一緒に人を探すのを手伝ってくれないか?」
「……うん。」
「よし! 行こっか!」

 村瀬は膝を折ると、蓮の顔をしたから見上げるように言う。コクリと頷いたのを見てると、手を取り歩き出した。小学校低学年ぐらいだろうか、こんな小さな子どもを放っておくわけにもいかない。
 小さな手は熱く、ギュッと握ってくる。その感触に、ホッとしていた。一人でないことがこんなにも安心感があるなんて。

「あ、あったぞ! ほら、交番だ!」
「おまわりさんいるかな?」

 そして安心感は冷静さを連れてくる。
 霧に隠れて見えずらかったが、少し離れたところに交番を見つけた。指差して蓮へ見せると、二人で早足で進む。
 辿り着いた交番は、無人だった。テーブルの上には、電話器と拡声器。そのことに少し心細くもあるが、何はともあれ交番というのは勇気づけられる。このままここでおまわりさんが帰ってくるのを待つのがいいだろう。
 だが一応電話をかけてみる。とにかく早く警察に通報しないと。そう思うも、しかし繋がらない。家や友人にもかけるが同様だ。そこでふと、拡声器が目に入った。まるで俺を使えと言わんばかりに置かれているそれを手にとって見る。

「ムラセ、なにするの?」
「これで呼びかけたらどうかなって。この拡声器を使えば大きな声が出せるんだ。」
「おもしろそう、やりたい!」
「お、わかった。一緒にやろうか!」
「うん!」

 どうやら拡声器は蓮にハマったようだ。まだメソメソしていた顔が一転して笑顔になったのを見て、村瀬はこれを使うことを決めた。蓮のように小さな子供が他にも迷子になっているかもしれない。というか自分でも迷子だったので、そんな時に他の人の声を聞けたらどれだけ安心できるだろう。

「あー、本日も晴天なり、本日も晴天なり。」
「ボクもボクも!」
「うん。ここを押しながら――」

 周りに目をやりながらも蓮に拡声器の使い方を教える。何かに集中できたことで、だいぶ顔が明るくなったようだ。そのことが嬉しい。そして更に嬉しいことがあった。霧の向こうにかすかに見えた建物から人影が見えた。

「って、ほのちゃん!?」
「だれ? 彼女?」
「ぶふぉっ!?」

 自分の半分も生きていないような子供から発せられた鋭い言葉に思わず変な感じで吹き出す。俺ってそんなにわかりやすいの?と思ったが、そんなことはさておき。蓮の手を引いて歩き出す。向こうもこちらに駆け寄ってくる。
 そして二人の手が触れ合って。

 ぱらららら。


227 : 天地人 ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/14(金) 06:22:45 mpdHRshI0
「フフフ……ド、ドッキリなんだろ? わかってるさ……」

 サブマシンガンを抱えて、藤木茂は泣き笑いしていた。
 エアガンはやけに重くて、撃つと煙まで出て、まるで本物みたいだ。
 そして銃口の先には、血溜まりの中で重なる三つの死体。
 天も、地も、人も、赤い。
 彼は確信しようとしていた。これは現実ではないと。
 藤木はそんなに勉強もできる方ではないが、それでも空はあんなふうには赤くはならないことも、霧はこんなふうには赤くはならないことも知っている。そして、銃が落ちているなんてこともない。
 だから、それを試すために、落ちていたサブマシンガンを乱射した。弾を撃ち尽くすまで、いや撃ち尽くしても引き続けた。
 そしてその結果三人死んだ。だから信じた。自分が人を殺すはずがない。ならあそこで死んだ三人は、そういうドッキリだと。

「フ、フフフ、ブッ、オエエ……!」

 藤木は、吐いた。
 わけのわからない恐怖心が体の隅々までいきわたると。

「た、弾が無くなっちゃったからだな、うん、そうだ、新しい銃がないと。」

 藤木は立ち上がった。
 順応したのだ。



「イタい……イタいよ……」
「い、生きてる。この子はまだ!」

 校門の柱の影から、悠は蓮の様子を見る。
 銃声が聞こえて慌てて駆けつけたが、その頃には穂乃香もその彼氏も死んでいた。だが二人が盾になったからか、低学年っぽい男の子だけは腕を弾が掠めただけであったようだ。
 死体に折り重なられて身動きできなくなっているが、命に別状は無い。

「よ、よいしょお!」
「うわああイタイよおお!」
「静かに! さあ、急いで!」

 なんとかしなくては、そう思い死体をずらして引き釣りだす。強引に立たせると校舎まで手を引いて走る。
 そして悠は順応したのだ。
 今回はもう、人が死ぬと。
 そしてもう一つ順応したのだ。

(さっきちらっと銃みたいなの持ってる子がいた。)
(僕達が戦うのは鬼じゃないんだ。『子』との殺し合いなんだ。)


228 : 天地人 ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/14(金) 06:23:30 mpdHRshI0
【0030前 繁華街の方にある学校】

【櫻井悠@絶望鬼ごっこ とざされた地獄小学校(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 今回も死にたくない
●小目標
 男の子を助けて穂乃香さんを殺した男の子(藤木)を警戒

【高橋蓮@猛獣学園!アニマルパニック 百獣の王ライオンから逃げきれ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい

【藤木茂@こども小説 ちびまる子ちゃん1(ちびまる子ちゃんシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 ???
●小目標
 銃がほしい



【脱落】

【工藤穂乃香@一年間だけ。(1) さくらの季節にであうキミ(一年間だけシリーズ)@角川つばさ文庫】
【村瀬司@一年間だけ。(1) さくらの季節にであうキミ(一年間だけシリーズ)@角川つばさ文庫】


【残り参加者 263/300】


229 : 天地人 ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/14(金) 06:24:57 mpdHRshI0
投下終了です。
村瀬先輩は最初読んだときからこいつパロロワだとライダーバトルを経験してない龍騎の真司っぽくなるんだろうなって思ってました。


230 : 名無しさん :2021/05/14(金) 13:37:24 0GvKiew.0
新作投下乙です!ここ3話の感想を

>稲妻先生颯爽退場!!
コミカルなサブタイに関わらずな読み込むほど気持ちが沈む鬱話
長内以外運がなかったね……
稲妻先生、少々欠点はあれど立派といえる魅力的な人物像が、少女2人は等身大な無力さが伝わって来ました
凶悪なマーダーに殺される様が生生しくただ悲痛
先生の頑張りが一筋の儚い光明な惨劇でした

>サッカー部員は惹かれ合う
メタモンの罠や形兆の後始末を分析した少年達が大したものだと思う
それでいて少年特有の軽いやり取りが互いの作品の色をみせていたように見えます
ネネちゃんの置いてけぼり感がここでは和む
崇のスピード感がこの先も通じるかもと期待ができる話でした


>天地人
やっぱり拡声器と恋愛要素は死亡フラグなんだね……
ばららっは原作バトロワを思わせ、懐かしさと少々の寒気が
悠の経験が彼と蓮のここでの命運を分けた様に思いました
司はいい兄ちゃんみたいだけど短慮だよ……
司と蓮は仮面ライダー龍騎の主役コンビにかけていたのかな
藤木は一人であの状況ではな部分はあるか?
穂乃花は短いながらも良きお姉ちゃんらしさが感じられました


231 : ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 01:22:04 PfN8fL060
投下します


232 : 殺戮のハンター ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 01:22:57 PfN8fL060
「じゃあエリンちゃん、動物のお医者さんなんだ!」
「まだ勉強中の学生、だけどね」
「それでもすごいよ!」

二人の少女が、話に花を咲かせていた。
一人は、小川凛。
ついこの前中学を卒業し、間もなく高校生になろうとしている少女だ。
もう一人は、エリン。
カザルム王獣保護場の学舎にて学ぶ、14歳の少女だ。
二人は殺し合いとは無縁なほどに、和やかな会話をしていた。
といっても、主に凛の方が話を振ってエリンがそれに答えるといった調子だったが。

「…ねえ凛さん、無理してない?」
「…え?」
「気のせいかもしれないけど、凛さん、無理して明るく振る舞ってるように見えて…」

エリンには、ユーヤンという女友達が一人いる。
凛の様に、明るい性格の女の子だ。
そんなユーヤンと似た性格の凛とこうして話していて、微妙に違和感を感じたのだ。

「や、やだなあ。そんなことないってば」

そう言いつつ、凛の内心は穏やかではなかった。
エリンの言う通り、凛は無理やり明るく振る舞っていた。
当然だ。
いきなりこんな殺し合いなんて訳の分からないものに呼ばれて平静でいられるほど、凛は神経は太くない。

(ほんとは、泣いちゃいそうだよ…!でも…)

目の前の少女、エリンを見る。
彼女は、妹の小川蘭と同い年の14歳だという。
そんな歳下の少女に、情けない姿なんて見せたくない。
泣きたくても、年長者として気丈に振る舞わないと。

「無理しないでくださいね…?」

エリンが、気遣うように凛を見る。
そんなエリンの姿に、凛は思わず妹の姿をだぶらせてしまう。
歳下なのに落ち着いていて、自分よりずっと大人びてて。
動物のお医者さんを目指すほど、頭が良くて。
それでいて、他人を気遣う優しさを持っていて。

(蘭…!)

そんな妹と似たエリンの姿が、今の凛には辛かった。

「……………」
「……………」

凛とエリンの間に、微妙な重い空気が出来上がる。
そして…

「あんた達!近くにハンターがいるぞ!」

そんな空気を打ち破る、3人目の参加者が現れるのだった。


233 : 殺戮のハンター ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 01:24:33 PfN8fL060


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「小清水!お前状況が分かってるのか!?」

時間は少し遡る。
和泉陽人は、幼馴染である小清水凛にそう言った。
それに対して小清水は鬱陶しそうに言う。

「分かってるわよ、またいつもの逃走中、でしょ?」
「ちげーよ!」

陽人は、今の状況に危機感を抱いていた。
殺し合いと宣言されたこのゲーム…明らかに今まで月村サトシによって開催されてきた逃走中とは、異なっていた。
最後の一人になるまで殺しあう、というのもハッタリとは思えない。
しかし目の前の幼馴染の少女は、そうは思っていないようだった。

「確かに今までとは趣向が違うようだけど…きっといつもみたいに終わったら元いた所に帰されるわよ」

自称スポーツ美少女、陽人にとっては単なる体育好きの体力オバケとしか思えない彼女は、考えるより先に体が動くタイプで、あまり物事を深く考えないところがあった。
だから、この殺し合いというゲームに対しても、楽観的な態度であった。
しかし陽人は、彼女ほど楽観的にはなれなかった。

逃走中のゲームマスター、月村サトシは月に移住した人類の子供たちの為に、自分たち小学生をサンプルとして逃走中の舞台へ度々招いていた。
逃走中の会場はバーチャル空間であり、捕まっても元いた場所へと帰される。
今回のこのゲームには、月村サトシには全く感じなかった悪意のようなものを陽人は感じ取っていた。
だから、こうして小清水を説得しているのだが…

「ハンターよ!」

小清水のその言葉と共に、説得の時間は終わりを迎えた。
最初陽人は、「まだここを逃走中の会場だと思っているのか」と呆れて彼女の言葉を本気にしなかった。
しかし、小清水が指さした方向を見ると、確かにいたのだ。
黒いスーツとサングラスの男性。
通称ハンターと呼ばれる、アンドロイドが。

「逃げるぞ!」

陽人と小清水は同時に走り出す。
ハンターは二人に気づいて走り出す。
その超人的なスピードにより、二人との距離をどんどん詰めていく。
やがて、分かれ道に差し掛かった。
陽人は右に、小清水は左へと逃げる。
ハンターが狙いを定めたのは…

「ウソ、私!?」

凛の方だった。
ハンターは一気に小清水との差をつめて、彼女を捕らえる。

「小清水!」

陽人がハンターと小清水の方を向くと、そこに映った光景は…


ピッ

ボン!!!


「……え?」

陽人の目に映った光景。
それは、首輪が爆発し、小清水凛の首が吹き飛ぶ姿であった。


234 : 殺戮のハンター ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 01:26:08 PfN8fL060


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「俺はその後、なんとかその場を離脱して…あんた達に出会ったんだ」

陽人の話を聞いて、凛とエリンは顔を青くする。
超人的なスピードで参加者を追いかけ、捕らえられた参加者は首輪が爆破される。
そんな恐ろしい化け物が、この場にはいるというのか。

「陽人君はそのハンターっていう人に詳しいの?」

エリンの問いに、陽人は難しい顔をして小さく頷いた。

「ああ、だけど俺の知ってるハンターは、首を吹き飛ばすようなヤバい奴じゃなかった。捕まっても、影に飲み込まれて、バーチャル空間から抜け出すだけだ」
「バーチャル空間…?」
「あー…鏡は分かるか?イメージとしては、鏡の世界に自分の分身を送り込む、みたいな感じなんだけど」
「ありがとう、なんとなく分かったわ」

「えっとその…そのハンターがいるってことは、この殺し合いにはその月村サトシって人が関わってるの?この殺し合いはバーチャルで、本当に死んだりしないの?」

暗い顔をした凛が、陽人に尋ねる。
それに対して陽人は腕を組んで考える。
こういう役割は本来もう一人の幼馴染である白井玲の役割なのだが、彼はこの場にいない。
自分で、考えなければ。

「…まず月村サトシが関わってるかって話だけど、少なくとも積極的に関わってはいないと思う。関わってるとしても、脅迫かなんかされて、無理やりとかだと思う」

先ほども述べた通り、月村サトシは月に住む子供たちの為のサンプルとして逃走中の企画に自分たちを呼んでいる。
逃走中は平和的な娯楽ゲームであり、この殺し合いゲームとは対称的なものだ。
何度も月村サトシに会い彼の話を聞いた陽人には、彼がこのような悪趣味な催しを積極的に企画するとは思えなかった。

「それに俺がさっき会ったハンター…あいつに首輪があった」

先ほど出会ったハンターに、陽人は違和感を感じていた。
逃げているときはその違和感の正体が分からなかったが、エリンと凛に聞かせる形で状況を思い返していて、その違和感の正体に気づいた。
ハンターは、自分たちと同じ首輪をしていた。
逃走中におけるハンターは、自分たち参加者を追う狩猟者であり、運営側の人間、もといアンドロイドである。
しかし先ほど見たハンターは、首輪をしており、自分たちと同じ参加者という扱いを受けていた。
そのことも、陽人が月村サトシは黒幕でないと判断した理由であった。

「そして、あいつがゲームマスターじゃなくて、他の奴らが関わってるっていうなら…殺し合いは本物の可能性が高いと思う」

殺し合いという物騒な企画。
首輪爆発マシーンと化したハンター。
このゲームには、逃走中にはない悪意を感じる。
故に和泉陽人は、この殺し合いが本物であると確信していた。


235 : 殺戮のハンター ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 01:26:21 PfN8fL060


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「俺はその後、なんとかその場を離脱して…あんた達に出会ったんだ」

陽人の話を聞いて、凛とエリンは顔を青くする。
超人的なスピードで参加者を追いかけ、捕らえられた参加者は首輪が爆破される。
そんな恐ろしい化け物が、この場にはいるというのか。

「陽人君はそのハンターっていう人に詳しいの?」

エリンの問いに、陽人は難しい顔をして小さく頷いた。

「ああ、だけど俺の知ってるハンターは、首を吹き飛ばすようなヤバい奴じゃなかった。捕まっても、影に飲み込まれて、バーチャル空間から抜け出すだけだ」
「バーチャル空間…?」
「あー…鏡は分かるか?イメージとしては、鏡の世界に自分の分身を送り込む、みたいな感じなんだけど」
「ありがとう、なんとなく分かったわ」

「えっとその…そのハンターがいるってことは、この殺し合いにはその月村サトシって人が関わってるの?この殺し合いはバーチャルで、本当に死んだりしないの?」

暗い顔をした凛が、陽人に尋ねる。
それに対して陽人は腕を組んで考える。
こういう役割は本来もう一人の幼馴染である白井玲の役割なのだが、彼はこの場にいない。
自分で、考えなければ。

「…まず月村サトシが関わってるかって話だけど、少なくとも積極的に関わってはいないと思う。関わってるとしても、脅迫かなんかされて、無理やりとかだと思う」

先ほども述べた通り、月村サトシは月に住む子供たちの為のサンプルとして逃走中の企画に自分たちを呼んでいる。
逃走中は平和的な娯楽ゲームであり、この殺し合いゲームとは対称的なものだ。
何度も月村サトシに会い彼の話を聞いた陽人には、彼がこのような悪趣味な催しを積極的に企画するとは思えなかった。

「それに俺がさっき会ったハンター…あいつに首輪があった」

先ほど出会ったハンターに、陽人は違和感を感じていた。
逃げているときはその違和感の正体が分からなかったが、エリンと凛に聞かせる形で状況を思い返していて、その違和感の正体に気づいた。
ハンターは、自分たちと同じ首輪をしていた。
逃走中におけるハンターは、自分たち参加者を追う狩猟者であり、運営側の人間、もといアンドロイドである。
しかし先ほど見たハンターは、首輪をしており、自分たちと同じ参加者という扱いを受けていた。
そのことも、陽人が月村サトシは黒幕でないと判断した理由であった。

「そして、あいつがゲームマスターじゃなくて、他の奴らが関わってるっていうなら…殺し合いは本物の可能性が高いと思う」

殺し合いという物騒な企画。
首輪爆発マシーンと化したハンター。
このゲームには、逃走中にはない悪意を感じる。
故に和泉陽人は、この殺し合いが本物であると確信していた。


236 : 殺戮のハンター ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 01:27:27 PfN8fL060


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「うっ…」
「凛さん!?大丈夫!?」

陽人の話を聞いた凛は、顔を青くし、非常に具合の悪そうな様子を見せていた。

「だ、大丈夫大丈…」

それでもぎこちない笑みを浮かべようとする凛であったが、

「もう無理しないで」

エリンは、そんな凛の身体を抱きしめた。

「凛さん、全然大丈夫に見えないよ!無理しちゃダメ!」
「エリン…ちゃん」
「泣きたいなら、泣いてください…胸、貸しますから」
「うう…うわあああああああああん」

そこで凛の感情は限界を迎えた。
エリンの胸に顔をうずめて、ワンワンと泣きじゃくるのであった。


「ねえエリンちゃん、私のこと『お姉ちゃん』って呼んでみてくれない?」
「え?」

泣き止んだ後、凛は突然そんなことを言った。
突然の凛の申し出に、エリンはキョトンとする。

「お姉ちゃん」

それでもとりあえず、言われるがままに凛のことをお姉ちゃんと呼ぶ。

「…うん、ありがとう」

エリンにお姉ちゃんと呼ばれた凛は、スッキリした顔をしていた。
まるで、憑き物が取れたかのように。

「やっぱり、『お姉ちゃん』は蘭じゃないとしっくりこないや」

無意識のうちにエリンを妹と同一視してしまっていた凛。
しかし、エリンに『お姉ちゃん』と呼ばれたことで、エリンは妹とは違うのだということをきっぱりと認識できるようになっていた。

「エリンちゃん、陽人君。私、もう逃げない。この殺し合いから脱出して、家族とちゃんと再会する!」

さっきまでの自分はエリンに妹を重ねることで、失われた日常へと逃避していた。
エリンが蘭に似ていて辛いと言いつつも、彼女に妹を見出して甘えていた。
だけど、ここには日常なんてなくて。
あるのは血生臭い殺し合いの世界。

「蘭に『お姉ちゃん』って呼んでもらえるあの日常を、取り戻すよ!」

泣いちゃいそうだよ、なんて甘ったれたことは言ってられない。
恐怖も、悲しみも押し殺して、今はこう言おう


泣いてないってば!


237 : 殺戮のハンター ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 01:28:56 PfN8fL060
【0100過ぎ 都市部】

【和泉陽人@逃走中シリーズ(集英社みらい文庫)】
【目標】
●大目標
 この殺し合いから脱出する
●小目標
 今はハンターから逃げる

【小川凛@泣いちゃいそうだよシリーズ(講談社青い鳥文庫)】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出して家族に会う
●小目標
 今はハンターから逃げる

【エリン@獣の奏者(講談社青い鳥文庫)】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する
●小目標
 今はハンターから逃げる


【0100 陽人達から少し離れた場所】

【ハンター@逃走中シリーズ(集英社みらい文庫)】
【目標】
●大目標
 視界に入った参加者を捕らえる
※捕らえた参加者の首輪が爆破するよう改造されている(触れただけやすぐに逃げられた場合はノーカウント)


【脱落】

【小清水凛@逃走中シリーズ(集英社みらい文庫)】


【残り参加者 262/300】


238 : 殺戮のハンター ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 01:29:08 PfN8fL060


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


その後、陽人の進言により3人はハンターから逃げるためこの場を離れることにした。

「逃走中のゲームでは、ハンターは開始直後2体いることが多かった。俺が遭遇した以外のハンターがいる可能性があることも、念頭に置いといてくれ」

陽人の言葉に、凛とエリンは頷き、3人は移動を開始した。

(エ「リン」に『凛』か…)

同行者の二人の女性の名前に、陽人は先ほど首輪を爆破させられた幼馴染の姿を思い起こさずにいられなかった。
小清水凛…幼稚園の頃からの付き合いだった腐れ縁だ。

(小清水、俺はお前の分まで生き残る!そしてお前の仇を討ってやる)


239 : 殺戮のハンター ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 01:31:31 PfN8fL060
すみません、236と237の間に抜けがありました
ややこしいですが、236→238→237の順になります



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


その後、陽人の進言により3人はハンターから逃げるためこの場を離れることにした。

「逃走中のゲームでは、ハンターは開始直後2体いることが多かった。俺が遭遇した以外のハンターがいる可能性があることも、念頭に置いといてくれ」

陽人の言葉に、凛とエリンは頷き、3人は移動を開始した。

(エ「リン」に『凛』か…)

同行者の二人の女性の名前に、陽人は先ほど首輪を爆破させられた幼馴染の姿を思い起こさずにいられなかった。
小清水凛…幼稚園の頃からの付き合いだった腐れ縁だ。

(小清水、俺はお前の分まで生き残る!そしてお前の仇を討ってやる)


240 : ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 01:35:12 PfN8fL060
投下終了、回線不安定で二重投稿やら順番ミスやら重なってて申し訳ないです

泣いちゃいシリーズは進研ゼミで連載してた「いい子じゃないよ」が始まりです
故に高校生編での蘭と三島はショックでした…(バレ情報で知っただけで読んではない)
しかし、村上が誰だか分かんねえ


241 : ◆vV5.jnbCYw :2021/05/23(日) 13:02:08 4QPWVO3I0
投下乙です。
うわあああ!!獣の奏者なつかしいい!!
ハンターのガチやべー所とか、他にも書くべきことはあると思うけど、エリンへのノスタルジーが一番に出てきました


242 : ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 14:46:17 PfN8fL060
すみません、自作「殺戮のハンター」ですが、首輪のルールを勘違いしてたので、修正したものをもう一度投下し直します


243 : 殺戮のハンター(修正版) ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 14:47:34 PfN8fL060
「じゃあエリンちゃん、動物のお医者さんなんだ!」
「まだ勉強中の学生、だけどね」
「それでもすごいよ!」

二人の少女が、話に花を咲かせていた。
一人は、小川凛。
ついこの前中学を卒業し、間もなく高校生になろうとしている少女だ。
もう一人は、エリン。
カザルム王獣保護場の学舎にて学ぶ、14歳の少女だ。
二人は殺し合いとは無縁なほどに、和やかな会話をしていた。
といっても、主に凛の方が話を振ってエリンがそれに答えるといった調子だったが。

「…ねえ凛さん、無理してない?」
「…え?」
「気のせいかもしれないけど、凛さん、無理して明るく振る舞ってるように見えて…」

エリンには、ユーヤンという女友達が一人いる。
凛の様に、明るい性格の女の子だ。
そんなユーヤンと似た性格の凛とこうして話していて、微妙に違和感を感じたのだ。

「や、やだなあ。そんなことないってば」

そう言いつつ、凛の内心は穏やかではなかった。
エリンの言う通り、凛は無理やり明るく振る舞っていた。
当然だ。
いきなりこんな殺し合いなんて訳の分からないものに呼ばれて平静でいられるほど、凛は神経は太くない。

(ほんとは、泣いちゃいそうだよ…!でも…)

目の前の少女、エリンを見る。
彼女は、妹の小川蘭と同い年の14歳だという。
そんな歳下の少女に、情けない姿なんて見せたくない。
泣きたくても、年長者として気丈に振る舞わないと。

「無理しないでくださいね…?」

エリンが、気遣うように凛を見る。
そんなエリンの姿に、凛は思わず妹の姿をだぶらせてしまう。
歳下なのに落ち着いていて、自分よりずっと大人びてて。
動物のお医者さんを目指すほど、頭が良くて。
それでいて、他人を気遣う優しさを持っていて。

(蘭…!)

そんな妹と似たエリンの姿が、今の凛には辛かった。

「……………」
「……………」

凛とエリンの間に、微妙な重い空気が出来上がる。
そして…

「あんた達!近くにハンターがいるぞ!」

そんな空気を打ち破る、3人目の参加者が現れるのだった。


244 : 殺戮のハンター(修正版) ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 14:48:46 PfN8fL060


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「小清水!お前状況が分かってるのか!?」

時間は少し遡る。
和泉陽人は、幼馴染である小清水凛にそう言った。
それに対して小清水は鬱陶しそうに言う。

「分かってるわよ、またいつもの逃走中、でしょ?」
「ちげーよ!」

陽人は、今の状況に危機感を抱いていた。
殺し合いと宣言されたこのゲーム…明らかに今まで月村サトシによって開催されてきた逃走中とは、異なっていた。
最後の一人になるまで殺しあう、というのもハッタリとは思えない。
しかし目の前の幼馴染の少女は、そうは思っていないようだった。

「確かに今までとは趣向が違うようだけど…きっといつもみたいに終わったら元いた所に帰されるわよ」

自称スポーツ美少女、陽人にとっては単なる体育好きの体力オバケとしか思えない彼女は、考えるより先に体が動くタイプで、あまり物事を深く考えないところがあった。
だから、この殺し合いというゲームに対しても、楽観的な態度であった。
しかし陽人は、彼女ほど楽観的にはなれなかった。

逃走中のゲームマスター、月村サトシは月に移住した人類の子供たちの為に、自分たち小学生をサンプルとして逃走中の舞台へ度々招いていた。
逃走中の会場はバーチャル空間であり、捕まっても元いた場所へと帰される。
今回のこのゲームには、月村サトシには全く感じなかった悪意のようなものを陽人は感じ取っていた。
だから、こうして小清水を説得しているのだが…

「ハンターよ!」

小清水のその言葉と共に、説得の時間は終わりを迎えた。
最初陽人は、「まだここを逃走中の会場だと思っているのか」と呆れて彼女の言葉を本気にしなかった。
しかし、小清水が指さした方向を見ると、確かにいたのだ。
黒いスーツとサングラスの男性。
通称ハンターと呼ばれる、アンドロイドが。

「逃げるぞ!」

陽人と小清水は同時に走り出す。
ハンターは二人に気づいて走り出す。
その超人的なスピードにより、二人との距離をどんどん詰めていく。
やがて、分かれ道に差し掛かった。
陽人は右に、小清水は左へと逃げる。
ハンターが狙いを定めたのは…

「ウソ、私!?」

凛の方だった。
ハンターは一気に小清水との差をつめて、彼女を捕らえる。

「小清水!」

陽人がハンターと小清水の方を向くと、そこに映った光景は…

「……な!?」

陽人は、目の前の光景に目を見開く。
小清水の身体は、首元で爆発のような閃光を放ったかと思えば、動かなくなっていた。
それは、最初の場所で見た光景。
小清水は、首輪の毒を作動させられたのだ。

「くそっ!小清水!」

思わず陽人は彼女のもとへ向かおうとして…しかしハンターは、既に陽人に目標を定めている。
このまま近づけば、小清水の二の舞だ。

「くっそ…ちっくしょおおおおおおおお!」

悔しさを口に出しつつ、陽人は逃げるしかなかった。


245 : 殺戮のハンター(修正版) ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 14:50:37 PfN8fL060


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「俺はその後、なんとかその場を離脱して…あんた達に出会ったんだ」

陽人の話を聞いて、凛とエリンは顔を青くする。
超人的なスピードで参加者を追いかけ、捕らえられた参加者は首輪の毒を作動させられて殺される。
そんな恐ろしい化け物が、この場にはいるというのか。

「陽人君はそのハンターっていう人に詳しいの?」

エリンの問いに、陽人は難しい顔をして小さく頷いた。

「ああ、だけど俺の知ってるハンターは、人を殺す毒を作動させるようなやばい奴じゃなかった。捕まっても、影に飲み込まれて、バーチャル空間から抜け出すだけだ」
「バーチャル空間…?」
「あー…鏡は分かるか?イメージとしては、鏡の世界に自分の分身を送り込む、みたいな感じなんだけど」
「ありがとう、なんとなく分かったわ」

「えっとその…そのハンターがいるってことは、この殺し合いにはその月村サトシって人が関わってるの?この殺し合いはバーチャルで、本当に死んだりしないの?」

暗い顔をした凛が、陽人に尋ねる。
それに対して陽人は腕を組んで考える。
こういう役割は本来もう一人の幼馴染である白井玲の役割なのだが、彼はこの場にいない。
自分で、考えなければ。

「…まず月村サトシが関わってるかって話だけど、少なくとも積極的に関わってはいないと思う。関わってるとしても、脅迫かなんかされて、無理やりとかだと思う」

先ほども述べた通り、月村サトシは月に住む子供たちの為のサンプルとして逃走中の企画に自分たちを呼んでいる。
逃走中は平和的な娯楽ゲームであり、この殺し合いゲームとは対称的なものだ。
何度も月村サトシに会い彼の話を聞いた陽人には、彼がこのような悪趣味な催しを積極的に企画するとは思えなかった。

「それに俺がさっき会ったハンター…あいつに首輪があった」

先ほど出会ったハンターに、陽人は違和感を感じていた。
逃げているときはその違和感の正体が分からなかったが、エリンと凛に聞かせる形で状況を思い返していて、その違和感の正体に気づいた。
ハンターは、自分たちと同じ首輪をしていた。
逃走中におけるハンターは、自分たち参加者を追う狩猟者であり、運営側の人間、もといアンドロイドである。
しかし先ほど見たハンターは、首輪をしており、自分たちと同じ参加者という扱いを受けていた。
そのことも、陽人が月村サトシは黒幕でないと判断した理由であった。

「そして、あいつがゲームマスターじゃなくて、他の奴らが関わってるっていうなら…殺し合いは本物の可能性が高いと思う」

殺し合いという物騒な企画。
首輪作動マシーンと化したハンター。
このゲームには、逃走中にはない悪意を感じる。
故に和泉陽人は、この殺し合いが本物であると確信していた。


246 : 殺戮のハンター(修正版) ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 14:51:22 PfN8fL060


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「うっ…」
「凛さん!?大丈夫!?」

陽人の話を聞いた凛は、顔を青くし、非常に具合の悪そうな様子を見せていた。

「だ、大丈夫大丈…」

それでもぎこちない笑みを浮かべようとする凛であったが、

「もう無理しないで」

エリンは、そんな凛の身体を抱きしめた。

「凛さん、全然大丈夫に見えないよ!無理しちゃダメ!」
「エリン…ちゃん」
「泣きたいなら、泣いてください…胸、貸しますから」
「うう…うわあああああああああん」

そこで凛の感情は限界を迎えた。
エリンの胸に顔をうずめて、ワンワンと泣きじゃくるのであった。


「ねえエリンちゃん、私のこと『お姉ちゃん』って呼んでみてくれない?」
「え?」

泣き止んだ後、凛は突然そんなことを言った。
突然の凛の申し出に、エリンはキョトンとする。

「お姉ちゃん」

それでもとりあえず、言われるがままに凛のことをお姉ちゃんと呼ぶ。

「…うん、ありがとう」

エリンにお姉ちゃんと呼ばれた凛は、スッキリした顔をしていた。
まるで、憑き物が取れたかのように。

「やっぱり、『お姉ちゃん』は蘭じゃないとしっくりこないや」

無意識のうちにエリンを妹と同一視してしまっていた凛。
しかし、エリンに『お姉ちゃん』と呼ばれたことで、エリンは妹とは違うのだということをきっぱりと認識できるようになっていた。

「エリンちゃん、陽人君。私、もう逃げない。この殺し合いから脱出して、家族とちゃんと再会する!」

さっきまでの自分はエリンに妹を重ねることで、失われた日常へと逃避していた。
エリンが蘭に似ていて辛いと言いつつも、彼女に妹を見出して甘えていた。
だけど、ここには日常なんてなくて。
あるのは血生臭い殺し合いの世界。

「蘭に『お姉ちゃん』って呼んでもらえるあの日常を、取り戻すよ!」

泣いちゃいそうだよ、なんて甘ったれたことは言ってられない。
恐怖も、悲しみも押し殺して、今はこう言おう


泣いてないってば!


247 : 殺戮のハンター(修正版) ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 14:51:58 PfN8fL060


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


その後、陽人の進言により3人はハンターから逃げるためこの場を離れることにした。

「逃走中のゲームでは、ハンターは開始直後2体いることが多かった。俺が遭遇した以外のハンターがいる可能性があることも、念頭に置いといてくれ」

陽人の言葉に、凛とエリンは頷き、3人は移動を開始した。

(エ「リン」に『凛』か…)

同行者の二人の女性の名前に、陽人は先ほど首輪を作動させられて殺された幼馴染の姿を思い起こさずにいられなかった。
小清水凛…幼稚園の頃からの付き合いだった腐れ縁だ。

(小清水、俺はお前の分まで生き残る!そしてお前の仇を討ってやる)


248 : 殺戮のハンター(修正版) ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 14:53:10 PfN8fL060
【0100過ぎ 都市部】

【和泉陽人@逃走中シリーズ(集英社みらい文庫)】
【目標】
●大目標
 この殺し合いから脱出する
●小目標
 今はハンターから逃げる

【小川凛@泣いちゃいそうだよシリーズ(講談社青い鳥文庫)】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出して家族に会う
●小目標
 今はハンターから逃げる

【エリン@獣の奏者(講談社青い鳥文庫)】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する
●小目標
 今はハンターから逃げる


【0100 陽人達から少し離れた場所】

【ハンター@逃走中シリーズ(集英社みらい文庫)】
【目標】
●大目標
 視界に入った参加者を捕らえる
※捕らえた参加者の首輪の毒を作動させるよう改造されている(触れただけやすぐに逃げられた場合はノーカウント)


【脱落】

【小清水凛@逃走中シリーズ(集英社みらい文庫)】


【残り参加者 262/300】


249 : ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 14:53:52 PfN8fL060
修正版投下しました
お手数おかけしてすみません


250 : ◆OmtW54r7Tc :2021/05/23(日) 20:11:37 PfN8fL060
ttps://w.atwiki.jp/jidoubunkorowa/pages/1.html

まとめwiki作りました
今のところSSと投下順のまとめしかないですが、有効活用していただければと


251 : 名無しさん :2021/05/23(日) 20:13:04 PfN8fL060
ttps://w.atwiki.jp/jidoubunkorowa/pages/1.html

まとめwiki作りました
今のところSSと投下順まとめしかないですが、有効活用していただければと思います


252 : 名無しさん :2021/05/24(月) 15:45:43 5bxlKQdw0
まとめwiki制作と作品投下修正乙です
自らの精神の安定の為に日常にすがるのは弱さかも知れないけど良い意味で人間らしい
応じるエリンもいい感じ
楽観的だったけど油断しなかったにも関わらず死んだ小清水不憫
ハンターの改造もだけどロワの理不尽さが出てていい通過点と思いました


253 : 名無しさん :2021/05/25(火) 03:57:52 bYJ./OdA0
うわああああ俺の企画に感想と投下とWikiが来てる!!!
ありがとうございます。
嬉しかったんでなんか面白いこと言おうと思いましたが一週間何も思いつかなかったので「ふつうの学校」の思い出語ります。
稲妻先生は原作の初登場シーンがレンタルビデオ店で女性店員に対して女子高生もののAVなのに出てくる女優がどう見ても30超えてるとクレームつける場面という、今までにない斬新なキャラなのでよく覚えています。
斬新過ぎて二十年経った今でも後継者が現れていません。
やっぱ怖いっスねメフィスト賞作家は。
この投下やメタモン回は例外的ですが、一年間だけ回のように普通に考えたら殺し合いに乗らなさそうなキャラを殺し合わせようと思ったら、会場中に親の仇のように武器を配置しておくPUBG方式しか思いつきませんでした。
このロワでは会場にサブマシンガンと拡声器が生えてます。
その代わり支給品もなければ能力制限もありません。
基本的に日本が舞台でなければ日本語は通じません(ブレイブ・ストーリーキャラは旅人に限り女神の加護として、獣の奏者は実は日本語設定とします)。
だから、普通のロワの感じで書きにくいんですね。
投下します。


254 : 苦渋の決断 ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/25(火) 03:59:15 bYJ./OdA0



 花輪和彦は、その水族館の設計に感嘆していた。
 水槽の中をドーム状の通路が貫通している。そうすることで、まるで海中にいるかのように魚が泳いでいるところを見ることができる。もし水面に浮かんでいる魚が生きていたのなら、さぞきれいに泳いでいただろう。

「ここもあっちも、魚たちが皆死んでしまっている……生きているのは、ボクだけか……」
「たぁ!」
「おっと、ごめんよベイビー。君もいたね。」

 花輪は自分の腕の中で抱きかかえられながら手を突き上げた赤ん坊へと謝る。野原ひまわり、という名前はわからないものの、彼女が自分と同じ参加者であることはわかる。水槽におぼろげに映る自分と同じように、その首には首輪が巻かれていた。
 花輪が目覚めてこの水族館を調べること数分、ベンチの上でおすわりしていたひまわりを保護してから十数分、二人で水族館を歩いて回る。花輪から見ても一目で先進的だとわかるそこに、人の気配は無い。かなりの敷地面積があることが案内図からわかることに加えて、床に転がるものが声を出すことをはばかられさせる。ライフル。ハワイで父親に撃ち方を習ったそれが、ときおりポツンポツンと置かれている。一つ持ってみたが、重さは本物だった。これで殺し合えということだろう。

「これだけの建物に武器、いったいあのウサギはどんな力を持っているんだろう……胃が痛くなってきたね……」

 覚えた腹痛に胃腸の弱い同級生を思い出す。もしかしたら彼やそれ以外の同級生も巻き込まれているのだろうか。それとも自分の家族が。嫌な想像がどんどん増していく。
 そんな時だ。

『……もしもし、もしもし、聞こえますか! もしもし! どなたかこの建物にいらっしゃいませんか!』
「男の人の声?」

 よほど良い音響設備なのだろう、スピーカー越しなのにクリアな音声で男性の声が聞こえてきた。
 放送はその後も続く。どうやら一階の警備室にいるらしい。

「……行こうか。」
「たあ?」

 花輪の判断は早かった。
 床の銃には目もくれず、放送で伝えられた場所を目指す。
 現状で唯一の手がかり、自分には使えなさそうな武器、保護した赤ん坊、いくつもの要素を並べて考えれば、ここは急いで向かうべきだ。もちろん男性が危険な人である可能性はあるが、これだけ銃が落ちているなら危険性はさほど関係ない。赤ん坊を抱えて一人で生き残れるなどありえないのだから。

「……こんな赤ちゃんまで……ああ、すまない、私は、木村孝一郎だ。教師をやっている。」
「花輪和彦です。あなたがさっきの?」
「ああ……その赤ちゃん以外に誰かと会ったかい?」
「いいえ。他にはあなただけです。」
「そうか。もう一つ聞きたい。君はあの放送をどこで聞いたんだい?」
「新館の方です。」
「なるほど、ここからは真反対だ。なら……これ以上は集まりそうにないか。さあ、どうぞ。」

 そして辿り着いた警備室で木村と名乗った男性はそう言うと、拳銃をポケットに入れて扉を開き招き入れた。


255 : 苦渋の決断 ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/25(火) 03:59:58 bYJ./OdA0
「いやあしかしすばらしい! 率先して呼びかけてこんなにも子ども達を保護するとは! 木村先生は教師の鑑です!」
「ど、どうも……それでは松岡先生の自己紹介はこのあたりにして、次は花輪くん、頼むよ。」

 警備室では集まった七人の人間による自己紹介が進んでいた。
 呼びかけた男性、木村先生は中学教師。温和な感じの中年男性だ。
 その中年男性を誉めそやしているのが松岡先生。三十前の暑苦しい小学校教師である。
 その二人から距離をとった位置にいるのが、川上真緒と細川詩緒里。
 どちらも目鼻立ちの整った気の強そうな顔と艷やかな黒髪をしている。制服の真緒が中学生で私服の詩緒里が小学生だと、言葉少なに自己紹介した。
 そして花輪とひまわりの他にもう一人。

「花輪くんは〜わたしたちのクラスのリーダーで〜」

 口を開きかけた花輪を無視して話し出した少女。彼の同級生であるみぎわさんことみぎわ花子(苗字不詳)である。
 花輪は彼女がいたことに幾らかの安堵と多大な不安を抱いた。
 こんな場所でも見知った顔がいることは嬉しい。だが、そうであるがゆえに自分と同じこんな境遇になってしまっていることが悲しいし、他の同級生も巻き込まれているのではと考える。
 そしてなにより、みぎわだから問題なのだ。

「たぁい! たぁたぅたあーう!」
「うるさわいわね。赤ちゃんなのに花輪くんにベタベタしないでよ!」
「まあまあ……えー、それでは今後の方針ですが……」

 松岡先生の腕の中で抗議の声を上げるひまわりと、それに噛みつくみぎわ。どういうわけかこの二人そりが合わないようだ。もっとも、みぎわは花輪に近づく女全てにこうなのだが、人との距離を保つ真緒や詩緒里に対してひまわりは花輪にグイグイ来るのもあって先からこの調子である。もう慣れっことはいえこれは厳しい。
 なお、ひまわりが花輪に懐くのは顔が良いというだけでなく前日に六本木で飲んだ酒が残っている(にもかかわらず子ども好きと言って無理やり花輪から引き取った)松岡先生から離れたいというのもあるのだが、さすがにそこまでは花輪も気づかなかった。

「……なので、まずはこの水族館を調べておくべきだと思うんです。」
「なるほど! では、どう班分けします?」
「そうですね……私と、松岡先生、それにこの赤ちゃんで見てきます。皆さん四人はここにいるように。まださっきの放送を聞いてここに来る人がいるかもしれないので。扉を締めてなるべく音を立てないように。三十分ほどで戻ります。」
「わかりました。」

 とりあえず赤ん坊と離れることになって花輪はホッとした。それにこの部屋は厚い壁に頑丈な扉がある。立てこもる分には安全だろう。あとは、女子たちと信頼関係を築けるかと、どうみぎわをなだめるか、だ。

(まずはみぎわさんからだね。)
「でも本当によかった。もし花輪くんに会えてなかったらわたし――」
「ベイビー、相談があるんだけどいいかな?」

 みぎわの話を強引に変えて手を握る。ふだんならこういうやり方は好まないが、大人たちが帰ってくるまでにこちらの問題は解決しておきたい。そう思い強く握ったからか、みぎわの顔は一気に赤くなった。

「な、な、なんでも聞くわ!」
「ありがとう。実は……ボクはとても不安なんだ。君以外にも、ボクの家族やクラスメイトが巻き込まれているんじゃないかって。ゴメンね、みぎわさん。君のほうが不安なのに。」
「花輪くん……!」

 嘘偽りなく、花輪はみぎわに内心を打ち明ける。みぎわが悪い人間でないことはよく知っている。こう言えばみぎわは感涙して。

「わたしも……! わたしもよ花輪くん! 不安で不安で、どうしたらいいか!」

 そして花輪はみぎわの頭を撫でた。

「だから、みんなでガンバろう。みんなこんな怖いことになってるから、冷静にはなれないだろうけど、でも、ボクは君とみんなを信じているよ、ベイビー。」
「は、は、は……花輪くうぅぅぅぅん!!」


256 : 苦渋の決断 ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/25(火) 04:00:28 bYJ./OdA0
 みぎわが花輪の胸へと飛び込む。鼻水が付かないように顔ではなく額を胸につけるように抱き抱えた。これで一人。オシャレに気を使うみぎわは落ち着けば必ずトイレに行くだろう。服を汚さなければ戻ってきた時にひと悶着しなくて済む。
 花輪はしばらくみぎわを抱いたあと、トイレへと見送った。部屋から出てしまうことになるが、さすがにトイレに行くなとまでは言っていない。怒られたら泥は自分で被ろう。

(さて、次は。)

 花輪が次に向かうのは、詩緒里の下だ。
 真緒より先にしたことに、大した理由は無い。今のところ二人とも最低限の名前と学年しか言っていないため情報が何もない。なら同じ小学生の方から声をかけよう、という判断だ。
 部屋で見つけたメモ用紙にサラサラと筆を滑らせると、それを片手に呼びかける。

「隣に座ってもいいですか? 細川さん?」

 監視カメラの映像をモニターする席で、リボルバーを弄ぶ詩緒里の後ろに立つ。同じ高学年でも同級生のまる子の姉より背が高い、スラリとした姿だ。無言の彼女の後ろで、花輪は一つの拳銃を手に取り弄ぶ。そのまま金属音が響くこと数十秒して、詩緒里は顔だけ振り向いた。

「いつまでそうしてる気?」
「もうやめます。」

 と同時に、花輪は詩緒里の横の席へとゆっくり座る。わずかに距離をとっただけで席を立たないのを見て、花輪は話し始めた。

「細川さんと川上さんに渡したいものがあるんです。」
「なにこれ?」
「ボクがここで出会った人の名前です。もしボクを知る人に見せれば、信用してもらえると思います。」

 花輪のメモは、自分が出会った六人について書かれたものだった。丁寧に自分の署名と誰に渡したかも書いてある。

「……読めるの?」
「……ボクの知り合いなら。」

 丁寧ではあるが上手いとは言っていない。字が汚いのがバレるのでできればやりたくなかったが、背に腹は替えられない。まずは詩緒里の信用を得るためには、有益な贈り物が必要だろう。

「……もらっておく。」
「ありがとうございます。」

 無視させなかった、隣に座った、提案を飲ませた。スリーアウトチェンジだ。「先生たちが戻ってきたら、また」と言って席を立つ。みぎわが戻ってくるまでの時間との戦い。後は最後の一人、真緒だ。

「ふーん、イケメンじゃん。」
「ありがとうございます、どうぞ。」
「どうも。」

 真緒は部屋の奥で待ち構えていた。詩緒里と似た雰囲気だが、中学生だけあってプレッシャーが違う。一年違うだけでこんなにも違うのか、それとも詩緒里の壁を感じさせるものと違う押しつぶすような気配がそう思わせるのか。
 こちらは小細工しても無理だと思い素直にメモを渡す。どうやら順番を間違えたからしい。だが逆だったら、詩緒里にはメモは渡せなかっただろうと考え直して、挨拶して離れる。みぎわが戻ってくるまでに女子から離れておかないと今までの苦労が水の泡だ。

「花輪くん! おまたせ!」
(あ、あぶなかった……!)

 花輪がみぎわと別れたあたりに戻った途端に、ドアが開いた。内心かなり冷や汗ものである。
 「あ」と詩緒里の声が上がる。みぎわは詩緒里を睨む。花輪はモニターを見る。松岡先生が戻ってきていた。時計を見る。まだ三十分には程遠い。嫌な予感がする。そして。


257 : 苦渋の決断 ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/25(火) 04:01:12 bYJ./OdA0
「……トイレに行ったみたいだね。」
「ちょっと、あっち女子トイレじゃん……」

 口元を抑えながらトイレに駆け込んで行った。昨日の酒が戻ってきたのだろう。だがそれでもいい成人がトイレを間違えるのはいかがなものなのか。
 顔に縦線がかかった花輪と詩緒里とみぎわの前で、数分後今度は木村先生が腕に赤ん坊を抱えて戻ってきた。モニター越しでもわかるほど足がおぼつかない。

「お、木村先生戻ってきちゃったか。大丈夫かな、あの赤ちゃんの持ち方。」
「松岡先生大丈夫ですか?」
「え、な、なにが!?」
「慌ててトイレに行ってましたけど。」
「え、あ、うん、アイタタ! 腹痛で、うん! それより、モノレールとレストランを見つけたんだ! 食料を補給しよう!」

 たぶんお前が押し付けたんだろ、とか、何だその下手なウソ、とか、さっき吐いたっぽいのに食う気か、とか、モノレールがあることはここからの窓からでも見えるから知っとるわ、とかツッコみたくなったが、それをこらえてみんなで「ハハァ……」と愛想笑いをする。
 少し話してわかったが、松岡先生はどうやら花輪や詩緒里や真緒が知る先生と比べてかなりいい加減なところがある、というのが共通認識になりつつあったら。横に木村先生という真っ当な先生がいるせいで、まるで学年主任に授業参観されてる教育実習生のようだ。

「花輪くん、早く木村先生と合流した方がいいと思うんだけど。」
「そうだねみぎわさん! よし、行こう!」

 お前が不安だからだ、とキートン山田の辛辣なツッコミが聞こえてきそうな空気が流れながら、五人は警備室を後にした。すると部屋から出て、五十メートル程の距離だろうか、木村先生はヨタヨタと歩いているのが見えた。
 おかしい。花輪は直感で思った。さっきのカメラに映っていた位置から、ほとんど動いていない。どころか、少し後退っている。なぜか?
 木村先生は、ポケットから拳銃を出した。そしてその腕の中の赤ん坊――ひまわりへと発泡した。夏休みのスイカ割りのように、赤い水と肉片が散らばる。自分の腕も貫通したのか、抱えていたひまわりの死体を力なく落とす。その一連の光景は、とてもゆっくりとしたものだった。

「列車に逃げ込めえええええええ!」

 その声にはっと皆、我に帰った。
 声のした方は、警備室を通り過ぎた先にある駅舎。百メートルは離れているそこに、ちょうどモノレールが止まろうとしていた。そして松岡先生は、そのホームにいた。

「アイツいつの間に!」
「逃げたのか!? 一人で脱出を――『パァン』――グアッ!?」
「花輪くん!?」
「大丈夫だよ……」

 銃声が現実に引き戻す。肩の痛みがリアルであると示す。

(わからない、なんだ? 木村先生が、赤ん坊を殺して、松岡先生が逃げて、撃たれて……)
「走りなさい! アンタも!」

 撃たれなかった方の手を真緒が掴んで駆け出す。既にモノレールの扉は閉まりかけていた。

「ボクは生徒を守る!」

 松岡先生が叫び、モノレールの中から手を突っ張って扉を開けさせる。

「あー! ダメだー! 力が足りない!」

 しかし力負けしてまた閉まりかけていく。
 後ろからまた発砲音。
 駆け抜けた改札が砕ける。
 破片が足を掠めた熱を感じながら。

「嘘でしょ……」「信じらんない!」「お、置いてかないでええええ!」
「苦渋の決断だあああああああああ!!!!」

 そして花輪たちの目の前でモノレールの扉が閉まった。

「みんな、向かいのホームに!」

 素早く辺りを見渡した花輪はそう叫んだ。見れば、今出ていったのとは逆方向のモノレールがホームに向かってきている。モノレールならたぶん各停だろうから、あれに乗り込められれば……

「みんな! もう少しだよ! ガンバろう!」
(松岡先生……ひとつだけ貴方に言いたいことがあるんです。)

 柄にもなく大声を上げながら花輪は思った。

(あなたはクソだ。)


258 : 苦渋の決断 ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/25(火) 04:02:25 bYJ./OdA0
【0130前 水族館】

【花輪和彦@こども小説 ちびまる子ちゃん1(ちびまる子ちゃんシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 死にたくない
●小目標
 みんなでモノレールに逃げ込む

【松岡先生@黒魔女さんが通る!!
チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 死にたくない
●小目標
 助けてくれそうな人を見つけてすぐに戻るからな!

【川上真緒@泣いちゃいそうだよ(泣いちゃいそうだよシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 死にたくない
●小目標
 モノレールに逃げ込む

【細川詩緒里@星のかけらPART(1)(星のかけらシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺されたくない
●小目標
 モノレールに逃げ込む

【みぎわ花子@こども小説 ちびまる子ちゃん1(ちびまる子ちゃんシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 花輪くんと一緒にいる
●小目標
 花輪くんと一緒に逃げる



【脱落】

【野原ひまわり@双葉社ジュニア文庫 映画ノベライズ クレヨンしんちゃん
ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】



【残り参加者 261/300】



「チッ、この体、動かしにくいな。」

 ヨタヨタと歩く木村孝一郎の背後で、片桐安十郎ことアンジェロは悪態をつきながら壁偽を預けて子どもたちへと銃を向けさせていた。
 彼のスタンド《アクア・ネックレス》は人間を操ることができる。モノレールに気づかず徒歩で水族館まで歩いてしまったことの腹立ちまぎれにオッサンに取り付いて赤ん坊を殺したが、一度死んだからかオッサンになにかあるからか、普段より操る精度が落ちていた。といってもだんだんとコツはつかめている。もうしばらくすれば完全に制御できるだろう。

「泣いてんじゃねえよ、オラ行けや。」

 自我を奪いただただ涙を流す木村先生をアンジェロは急かす。お楽しみはこれからだ。



【0130前 水族館】

【木村孝一郎@死神デッドライン(1) さまよう魂を救え!(死神デッドラインシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 ???


【片桐安十郎@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺す


259 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/25(火) 04:22:16 bYJ./OdA0
投下終了です。
改めてWikiの立ち上げありがとうございます。
私Wikiの編集がとんとできずにそのあたり見切り発車で始めてましたしなんならそういうのが必要ない感じの1スレで終わるぐらいのネタスレにする気で始めてましたが、気がつけば比較的オーソドックスなパロロワになりつつあるのかなと他の企画さん見てて思います。
まずは第一回放送突破を目指します。
ですが当企画は基本はネタスレなので、「登場話で原作再現とかのやりたいことだけやって死ぬ」「桐山に殺された不良グループみたいな感じで死ぬ」「自殺したカッブルみたいな感じで死ぬ」などのバトロワっぽいけどパロロワっぽくない投下もオーソドックスな投下と合わせてお待ちしております。
私はもうネタが切れてきたんで。
主催が連れてこれないような強キャラでなければどんな児童文庫からでも参戦OKですので、まずはウィキペディアで児童文庫レーベルを調べて各ホームページに行っていただきこんな作品はないかな?と興味を持って貰えれば幸いです。
あと【ちびまる子ちゃん】と【獣の奏者】の二作品が非オリジナル勢から参戦したので、残りの非オリジナル作品枠は28作品となりました。よろしくお願いします。


260 : 名無しさん :2021/05/25(火) 18:11:16 zi2sFkMk0
投下乙です
花輪くんのよく考えた上で信用を得る為の恥を偲んでの行動に好感。女子2人に伝わるといいね
みぎわはまず色ボケを引っ込めようか
そして、ひまわり南無
舞台設定の殺意の高さに加え、足手まといの大人と傀儡があっては仕方なしか
アンジェロの凶悪っぷりと松岡先生が清々しいほどクズくて、花輪くんのみならず悪役が一際輝いた話と思いました


261 : ◆OmtW54r7Tc :2021/05/26(水) 01:21:08 drI12Yes0
日本が舞台でないと日本語が通じないという設定、把握していなくてすみません
自作のエリンに対して例外処置をいただき、ありがとうございます
今後は、その辺りもふまえて書こうと思います

そして、投下します


262 : 彼には仲間がいなかった ◆OmtW54r7Tc :2021/05/26(水) 01:22:31 drI12Yes0
一人の剣士がいた。
その剣士の名は…不明。
とりあえず「塁に切り刻まれた剣士」だと呼びづらいので、サイコロステーキ先輩と以後呼ぶことにする。

サイコロステーキ先輩は、この会場に呼ばれてすぐ、近くに落ちていた日輪刀を見つけ、手に入れていた。
しかし、剣を構えながら歩くその姿は、最初の場所でツノウサギに無謀にも挑もうとしていた時とは、まったく様子が違っていた。

「分からねえ、分からねえ、分からねえ…なんで俺、死んだのに生きてるんだ?」

自分はあの時、身体が動かないまま、死を迎えようとしていたはずだ。
それなのに、突然どこからか衝撃が来たと思ったら、生き返っていた。
生き返ったことに関しては別にいい。
しかし、問題は…一瞬とはいえ、死に触れてしまったことだった。

「死にたくねえ、死にたくねえ、死にたくねえ…」

死の瞬間の感覚が、何度も脳裏にフラッシュバックする。
冷たくて、怖くて、孤独で…自分という存在が消えつつあるのを知覚したあの感覚。
怖い、怖い、怖い…

「とにかく、どっか隠れるところを…」

へっぴり腰で日輪刀を握りしめながら、サイコロステーキ先輩は身を隠す場所を探す。
しかし…

「ひいいっ!?鬼!?」

よりにもよって、今一番会いたくない存在と遭遇してしまった。


263 : 彼には仲間がいなかった ◆OmtW54r7Tc :2021/05/26(水) 01:24:11 drI12Yes0



「…ほう?貴様、鱗滝と同じ鬼殺隊という奴だな?」

巨大な体躯に無数の腕を生やした鬼。
サイコロステーキ先輩同様、正式な名前は不明だが、「手鬼」と呼ばせてもらおう。
手鬼は、鬼殺隊入隊の最終試練の場「藤襲山」に封じられた鬼であり、封じられながらもしぶとく生き残り、50人もの人間を喰らった。
喰らった人間はみな鬼殺隊の入隊試験を受けに来た候補生であり、正規の鬼殺隊士と出会うのは久方ぶりのことであった。

「面白い。鱗滝と同じ真の剣士…喰いごたえがありそうだ」

久しぶりの鬼殺隊の剣士との邂逅に、胸を躍らせる。
それに対する、サイコロステーキ先輩はというと…

「ひいいいっ!来るな、来るなあああ!」

その場に尻もちをつき、剣をでたらめに振り回していた。

「俺はもう死にたくない!あんな恐ろしい目に遭うのはごめんだ!来るなああああ!」

彼は、完全に死への恐怖に支配されていた。
そしてそんなサイコロステーキ先輩の姿を見た手鬼は、落胆する。

「…鱗滝に捕らえられ47年。久しぶりに会った剣士がこんな奴とは…残念だ」

そう言うと手鬼は、その無数の手でサイコロステーキ先輩を捕らえようと…

「ガッ!?」

捕らえようとしたその身体が、吹っ飛ぶ。
突然乱入してきた少女によって。
少女は、サイコロステーキ先輩を庇うように立ちふさがる。

「女のガキ…いや、貴様、俺と同じ鬼だな!?何故人間を庇う!?」

少女の名は竃戸禰豆子。
彼女もまた、手鬼と同じく鬼であった。

「そいつは俺の食料だ!邪魔をするな!」
「…!」

こうして、二人の鬼の戦いが始まった。


【0030頃 平原】

【手鬼@鬼滅の刃 ノベライズ〜炭治郎と禰豆子、運命のはじまり編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 人間を喰う
●小目標
 食事の邪魔をしてきた鬼を倒す

【竃戸禰豆子@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 人間を守る
●小目標
 目の前の鬼を倒す


264 : 彼には仲間がいなかった ◆OmtW54r7Tc :2021/05/26(水) 01:25:07 drI12Yes0
わけが分からない、わけが分からない、わけが分からない…

サイコロステーキ先輩は混乱していた。
今まさに鬼に喰われそうになっていた自分を救ったのは、鬼だった。
自分を庇うように立ち、鬼と戦うその行動は、明らかに自分を守ろうとする者の行動だった。

「意味が分からない…なんで鬼が人間を、しかも剣士を庇うんだ!」

死んだと思ったら生き返り。
鬼に襲われたと思ったら鬼に助けられ。
わけが分からない。
現実の出来事とは思えない。

混乱を強めるサイコロステーキ先輩。
その混乱は、死への恐怖と結びつき。

「あ、そうか」

その結果、彼が出した結論は。

「これは、夢なんだ」

安直で都合のいい、逃げだった。


「そうだ、夢だ!全部夢なんだ!死んだのに生き返って、鬼に守られて…こんな非常識なこと、夢以外にあり得ない!ハ、ハハ、ふひゃハハハハハハハハハへは!」

狂ったような笑い声をあげるサイコロステーキ先輩。
死への恐怖は、彼から冷静な判断を失わせていた。
この世界を夢だと決めつけたサイコロステーキ先輩は、持っていた日輪刀を自らの首へと持っていく。

「きっとさっきは、死に方が甘かったから夢から覚めなかったんだ。思い切って首を斬ってしまえば、きっとこんな訳の分からない夢から、抜け出せる!」

「俺はこんなとこで変な夢見てる暇なんかないんだよ!現実の世界で、ほどほどの鬼をほどほどに狩って、出世して金をもらう!」

「こんな夢とは、おさらばだ!」

そういうとサイコロステーキ先輩は、自らの首に日輪刀を押し当てた。


265 : 彼には仲間がいなかった ◆OmtW54r7Tc :2021/05/26(水) 01:25:59 drI12Yes0
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

これは、サイコロステーキ先輩が元の世界で死んでから、もう少し未来の話。
鬼殺隊の剣士、竃戸炭治郎は無限列車にて、下弦の壱、魘夢と戦う。
魘夢が仕掛けてくる強制昏倒睡眠、強制的に敵を眠らせ夢に閉じ込める術に対し、炭治郎は眠ってすぐ夢の中で自決するというとんでもない方法で対処する。
しかし、列車と融合を果たした魘夢との戦いの中で何度も強制昏倒睡眠を喰らった炭治郎は、夢と現実の境界が曖昧になり、ついには現実の中で自らの首を斬りそうになってしまう。
しかし…

『夢じゃねえ!!現実だ!!!』

『罠にかかるんじゃねえよ!!つまらねえ死に方すんな!!』

仲間が、助けてくれた。
これは夢じゃなく、現実なんだと教えてくれたのだ。
その後炭治郎は、仲間と力を合わせて、魘夢を撃退することに成功した。

竃戸炭治郎には、仲間がいた。
仲間がいたから、危機を救われた。
仲間がいたから、敵を倒すことができた。
サイコロステーキ先輩、彼には――



ザシュッ



【脱落】

【塁に切り刻まれた剣士(サイコロステーキ先輩)@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】

【残り参加者 259/300】



彼には、仲間がいなかった。


266 : ◆OmtW54r7Tc :2021/05/26(水) 01:26:57 drI12Yes0
投下終了です


267 : DevilMayCry ◆EPyDv9DKJs :2021/05/26(水) 14:14:35 8RLyPqHs0
【E-2 民家/一日目/深夜】

【間久部緑郎/ロック@バンパイア】
[状態]:健康、汚れ、零に対して少しだけ同情
[装備]:キラークイーンのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:秩序なきこの場を楽しむ
1:とりあえず北を散策。殺しを唆すもよし、殺すもよし。
2:トッペイと出会ったときはどうしたものか。
3:アナムネシスとみらいに警戒。ただみらいは利用できるかも。
4:零、千は利用できるか?
5:……西郷……
[備考]
※参戦時期はバンパイア革命に失敗し、西郷を殺害した後。
※クライスタの世界を(零視点から)大まかに把握しています。





(おそらく、あの人も同じで優勝を狙っている。)

 あてもなくみらいを探しながら零は思う。
 ロックも乗っている側の人間だと言うことを。
 いつから疑っていたと言うと、疑念自体は最初からである。
 『殺し合いに乗ってない』ではなく『敵対するつもりはない』と彼は言った。
 これは言葉のあやと言えばそれまでであり、正直小さいものでしかない。
 段々そうと思えたのは単純に、一度も彼が同行を持ちかけてこなかったから。
 殺し合いを否定する側なら戦力を増強するのは一番いいはずだ。
 特にアナムネシスは強敵で零ですら一人でとても相手にできない。
 それを知った上でなおかつ彼が同行しない理由で思いつくのは、
 同行しない方が都合がいい……つまり乗った人間と思っただけだ。

(どちらにしても関係のないことだけど。)

 彼のスタンスがどちらであろうと、利用するのが現状最も得策だ。
 合理的に、冷徹に。己の目的のために他者と協力ではなく利用する。
 参加者を減らすと言うことであれば、寧ろありがたいことこの上ない。
 それもあるが、もう二つ理由があるから。

(千さん……)

 辺獄で同行した恵羽千のことだ。
 彼女は自分の信じた正義に基づいて行動する。
 ならば優勝を考える彼女には必ず障害となる存在だ。
 以前の時と違い彼女の命すら切り捨てる必要があり、
 まだ辛うじて残る良心の呵責が彼女に会わないように、
 ロックになんとかしてもらおうと言う算段も考えていた。

(彼女は例の?)

 もう一つは吹石琴美の名前。
 琴美と言う名前は最初に出会った彼が言っていた名前。
 此処にいると言うことは、ひょっとして当人なのか。
 死んだはずの参加者で、彼女は修平を守るために命を捨てた。
 善良な人間であったことは十分伺える存在で、躊躇いそうになる。

(……何を今更躊躇ってるんだろ、私。)

 幽鬼だって元々は人だ。
 他人の魂を散々狩って言うことではない。
 人でなければいいのか。死んでるならいいのか。
 エゴに塗れた感情に苛まれながら、彼女は走り続けた。
 少女のひび割れた涙を修復するときはまだ来ない。

【E-2 /一日目/深夜】

【幡田零@CRYSTAR -クライスタ-】
[状態]:健康、涙は流れない、精神不安定(大)
[装備]:代行者の衣装と装備
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0〜3
[思考]
基本:妹の優勝、或いは自身が優勝して妹のヨミガエリを果たす。
1:東でみらいを探す。みらいが私の知るみらいなのか不安。
2:千さんとはできれば会いたくない。
3:あの男(修平)とは、次にあった時は殺し合う事になる。
4:吹石琴美って、あの琴美さん?
5:立花特平のような参加者に化けた幽鬼に警戒。
[備考]
※参戦時期は第四章、小衣たちと別れた後です。
※武器は使用できますが、ヘラクレイトスは現在使用できません。
※参加者の一部は主催によって何か細工をされてると思っています。
 ただし半信半疑なので、革新しているわけではありません。


268 : 名無しさん :2021/05/26(水) 18:04:56 KmZPS1s60
>>261-266
乙です
悪人ではないけど俗物的だった先輩の悲哀と限界が上手く表現されていたと思います
鬼殺隊としては異端ですよね彼
同じく異端ともいえる炭治郎と対比されたこともよい締めだったかと
手鬼の鱗滝への敵意の中に敬意が混ざった言動や禰豆子の優しさも光ってました


269 : ◆EPyDv9DKJs :2021/05/26(水) 20:48:33 8RLyPqHs0
今更ながらスレ間違えました
大変失礼しました


270 : 名無しさん :2021/05/27(木) 06:47:10 gqdFRke60
wikiに参加者名簿及びネタバレ参加者名簿を記載しました
現参加者数や作品数、残り人数などについてパロロワ辞典のとズレがありますが、何度か確認したので間違いないと思います


271 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/28(金) 03:58:05 yuoF7bk20
投下乙です。
ついに逃走中が書かれたことで多重クロスデスゲームものの双璧が揃いましたね。ハンターどこに出すのがいいかなと思ってましたがいいとこで出てきました。
見せしめになって生き返ったくせに自殺するサイコロステーキ先輩には禰豆子も頭抱えてそう。
参加者数と残り参加者数は間違えてました。ごめんなさい。投下が終わったら参戦名簿を貼ります。参戦作品数はかぐや様の映画とマンガを一つにカウントしているのでそれがズレですね。
では投下します


272 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/28(金) 04:00:02 yuoF7bk20



 バトロワでは0時から2時の間を深夜とし、2時から4時の間を黎明という。
 そして4時から6時の間を早朝というのだが、基本的には深夜の時間帯が登場話となりがちで、初登場が黎明となるとなんかちょっと遅くない?となったりならなかったりする。それまで2時間の間、戦闘あったのにお前何してたの?みたいな感じである。
 さて、その参加者は端的に言うと戦闘の果てに死んでいた。要するに死体で登場である。戦闘描写も不明のまま、無残にその死骸を晒している。傍らには銃弾の突き刺さったショットガンが落ち、服に開いた黒い穴とその周りの赤い血から、おそらく銃殺されたと思われるが、下手人は誰か、どんな戦闘描写があったのかなど一切不明だ。
 だがしかし、その人物が誰かだけは明らかであった。

「これ織田信長じゃん……」

 教科書に載っているみんなが織田信長を頭に思い浮かべた時に真っ先に出てくるアレ。
 山本ゲンキの目の前でアイツがそのまんまの着物と顔で死んでいた。



【0200 会場のどこか】

【山本ゲンキ@生き残りゲーム ラストサバイバル でてはいけないサバイバル教室(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 マジかよ……



【脱落】

【織田信長@地獄たんてい織田信長@角川つばさ文庫】



【残り参加者 258/300】



「あれ織田信長だったよな……?」

 織田信長を殺した黒ずくめの男、ジンは、奪い取ったへし切長谷部を片手にリボルバーから空薬莢を落としつつ後ろを振り返った。
 殺した相手のことは忘れるジンであったが、さすがに織田信長を殺したとなれば思うところはある。
 なぜまんまあの肖像画そのまんまの姿の人間がいたのか、なんか心なしか平べったかった気もしたアレはいったいなんなのか、考えないわけではなかったが、ともかく一人殺せた上に武器も手に入ったので良しとする。
 なにせ突然自分を拉致するような手合、ここは静かに言うとおりにせざるを得ない。敵は黒の組織をも上回る組織力であることは、そこら中に落ちる武器の数々とこのフィールドが物語っていた。

「だがなんで信長なんだ……」

 だがそんな彼でも織田信長がバトルロワイヤルに参加していることについてはついぞ推測できなかった。



【0200 会場のどこか】

【ジン@名探偵コナン 純黒の悪夢(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 主催者の情報を手に入れるために体制を整える
●小目標
 信長……?


273 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/28(金) 04:01:23 yuoF7bk20
投下終了です。
こちら今回の投下でズガンした織田信長のイラストがわかる地獄たんてい信長のページになっております。
ttps://tsubasabunko.jp/product/tanteinobunaga/322011000707.html


274 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/28(金) 04:13:57 yuoF7bk20
続いて名簿になります。
現段階で68作品155名参戦42名脱落です。

【鬼滅の刃シリーズ@集英社みらい文庫】7/9
●累に切り刻まれた剣士○累○蜘蛛の鬼(兄)○蜘蛛の鬼(父)●我妻善逸○鱗滝左近次○蜘蛛の鬼(姉)○手鬼○竈門禰豆子
【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】5/6
○東方仗助○空条承太郎○片桐安十郎○虹村形兆○虹村億泰●山岸由花子
【絶望鬼ごっこシリーズ@集英社みらい文庫】4/6
○関本和也●大場結衣○伊藤孝司●牛頭鬼○大場大翔○櫻井悠
【黒魔女さんが通る!!シリーズ@講談社青い鳥文庫】2/6
●羅門ルル●小島直樹●紫苑メグ●須々木凛音○黒鳥千代子○松岡先生
【ラストサバイバルシリーズ@集英社みらい文庫】3/5
○早乙女ユウ●朱堂ジュン●新庄ツバサ○桜井リク○山本ゲンキ
【ギルティゲームシリーズ@小学館ジュニア文庫】4/4
○深海恭哉○小林旋風○小林疾風○北上美晴
【ぼくらシリーズ@角川つばさ文庫】2/4
○菊地英治○宇野秀明●天野司郎●小黒健二
【妖界ナビ・ルナシリーズ@フォア文庫】3/4
●ユイ○かまち○タイ○透門沙李
【かぐや様は告らせたいシリーズ@集英社みらい文庫】3/4
○白銀御行(映画版)○藤原千花●四宮かぐや○白銀御行(まんが版)
【若おかみは小学生!シリーズ@講談社青い鳥文庫】2/4
○関織子(劇場版)●神田あかね○関織子(原作版)●秋野真月
【アニマルパニックシリーズ@集英社みらい文庫】3/4
●ヒグマ○高橋大地○ライオン○高橋蓮
【逃走中シリーズ@集英社みらい文庫】3/4
○白井玲○和泉陽人●小清水凛○ハンター
【クレヨンしんちゃんシリーズ@双葉社ジュニア文庫】3/4
○佐藤マサオ○野原しんのすけ○桜田ネネ●野原ひまわり
【泣いちゃいそうだよシリーズ@講談社青い鳥文庫】4/4
○村上○広瀬崇○小林凛○川上真緒
【名探偵コナンシリーズ@小学館ジュニア文庫】3/4
●円谷光彦○小嶋元太○山尾渓介○ジン
【銀魂シリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○岡田似蔵○武市変平太○神楽
【テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○磯崎蘭○磯崎凛●名波翠
【天使のはしごシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○竜人●生絹○紅絹
【天才推理 IQ探偵シリーズ@カラフル文庫】1/3
●大木直●小林聖司○杉下元
【ひぐらしのなく頃にシリーズ@双葉社ジュニア文庫】3/3
○富竹ジロウ○前原圭一○古手梨花
【妖怪ウォッチシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/3
○天野ナツメ●タベケン○有星アキノリ
【ブレイブ・ストーリーシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
●小村克美○芦屋美鶴○三谷亘
【四つ子ぐらしシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
○宮美二鳥○宮美一花●宮美四月
【ちびまる子ちゃんシリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○藤木茂○花輪和彦○みぎわ花子
【けものフレンズシリーズ@角川つばさ文庫】2/2
○ビースト○G・ロードランナー
【名探偵ピカチュウ@小学館ジュニア文庫】2/2
○ピカチュウ○メタモン
【おそ松さんシリーズ@集英社みらい文庫】1/2
○なごみ探偵のおそ松●大富豪のカラ松氏
【NARUTOシリーズ@集英社みらい文庫】2/2
○桃地再不斬○うちはサスケ
【フォーチュン・クエストシリーズ@ポプラポケット文庫】1/2
●ノル○ルーミィ
【おそ松さんシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/2
○弱井トト子○イヤミ
【劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】2/2
○上田次郎○山田奈緒子
【無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄@集英社みらい文庫】2/2
○岬涼太郎○沖田悠翔
【ふつうの学校シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/2
○アキラ●稲妻快晴
【一年間だけシリーズ@角川つばさ文庫】0/2
●工藤穂乃香●村瀬司
【死神デッドラインシリーズ@角川つばさ文庫】1/2
●長内隆○木村孝一郎
【星のかけらシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/2
○小笠原牧人○細川詩緒里


275 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/28(金) 04:18:15 yuoF7bk20
【炎炎ノ消防隊シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○森羅日下部
【怪盗レッドシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○紅月美華子
【怪人二十面相@ポプラ社文庫】0/1
●明智小五郎
【世にも不幸なできごとシリーズ@草子社】1/1
○ヴァイオレット・ボードレール
【天気の子@角川つばさ文庫】0/1
●森嶋帆高
【約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】1/1
○シスター・クローネ
【吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】1/1
○吉永双葉
【小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】1/1
○安土流星
【双葉社ジュニア文庫 パズドラクロス@双葉社ジュニア文庫】0/1
●チェロ
【ふなっしーの大冒険@小学館ジュニア文庫】1/1
○ふなっしー
【時間割男子シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○花丸円
【絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】1/1
○藤山タイガ
【サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】1/1
○玉野メイ子
【デルトラ・クエストシリーズ@フォア文庫】0/1
●黄金の騎士・ゴール
【ハッピーバースデー 命かがやく瞬間@フォア文庫】1/1
○藤原あすか
【映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】1/1
○大太刀
【サキヨミ!シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○如月美羽
【FC6年1組シリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○神谷一斗
【ラッキーチャームシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○優希
【未完成コンビシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○桃山絢羽
【セーラー服と機関銃@角川つばさ文庫】1/1
○萩原
【恋する新選組シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○宮川空
【山月記・李陵 中島敦 名作選@角川つばさ文庫】1/1
○李徴
【カードゲームシリーズ@講談社青い鳥文庫】0/1
●哲也
【恐怖コレクターシリーズ@角川つばさ文庫】0/1
●相川捺奈
【絶体絶命シリーズ@角川つばさ文庫】0/1
●赤城竜也
【花とつぼみと、君のこと。@集英社みらい文庫】1/1
○黒瀬優真
【人狼サバイバルシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○赤村ハヤト
【バッテリーシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○原田青葉
【クレヨン王国シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○シルバー王妃
【獣の奏者シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○エリン

残りの枠は145名、非オリジナル枠は28作品となりました。
なお鬼滅の刃ですが、未だに主人公が参戦しなかったりそもそも少年漫画なのに参戦キャラが多かったりするので、これより投下が可能なキャラを以下の名簿にあるキャラだけに限定します。

○竈門炭治郎○嘴平伊之助○栗花落カナヲ○冨岡義勇○胡蝶しのぶ○煉獄杏寿郎○不死川実弥○宇髄天元○甘露寺蜜璃○悲鳴嶼行冥○時透無一郎○伊黒小芭内○珠世○愈史郎○錆兎○真菰○産屋敷耀哉○魘夢○蜘蛛の鬼(母)


276 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/28(金) 04:20:46 yuoF7bk20
あと>>269さんは辺獄ロワでの投下乙です。
どうやらるろ剣とクレしんとジョジョを把握なされているようでしたので是非うちの企画もよろしくお願いします。
うちは一レスからでも投下可能です。


277 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/05/28(金) 04:24:37 yuoF7bk20
すみません織田信長忘れてました。

【炎炎ノ消防隊シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○森羅日下部
【怪盗レッドシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○紅月美華子
【怪人二十面相@ポプラ社文庫】0/1
●明智小五郎
【世にも不幸なできごとシリーズ@草子社】1/1
○ヴァイオレット・ボードレール
【天気の子@角川つばさ文庫】0/1
●森嶋帆高
【約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】1/1
○シスター・クローネ
【吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】1/1
○吉永双葉
【小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】1/1
○安土流星
【双葉社ジュニア文庫 パズドラクロス@双葉社ジュニア文庫】0/1
●チェロ
【ふなっしーの大冒険@小学館ジュニア文庫】1/1
○ふなっしー
【時間割男子シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○花丸円
【絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】1/1
○藤山タイガ
【サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】1/1
○玉野メイ子
【デルトラ・クエストシリーズ@フォア文庫】0/1
●黄金の騎士・ゴール
【ハッピーバースデー 命かがやく瞬間@フォア文庫】1/1
○藤原あすか
【映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】1/1
○大太刀
【サキヨミ!シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○如月美羽
【FC6年1組シリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○神谷一斗
【ラッキーチャームシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○優希
【未完成コンビシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○桃山絢羽
【セーラー服と機関銃@角川つばさ文庫】1/1
○萩原
【恋する新選組シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○宮川空
【山月記・李陵 中島敦 名作選@角川つばさ文庫】1/1
○李徴
【カードゲームシリーズ@講談社青い鳥文庫】0/1
●哲也
【恐怖コレクターシリーズ@角川つばさ文庫】0/1
●相川捺奈
【絶体絶命シリーズ@角川つばさ文庫】0/1
●赤城竜也
【花とつぼみと、君のこと。@集英社みらい文庫】1/1
○黒瀬優真
【人狼サバイバルシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○赤村ハヤト
【バッテリーシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○原田青葉
【クレヨン王国シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○シルバー王妃
【獣の奏者シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○エリン
【地獄たんてい織田信長 クラスメイトは戦国武将!?@角川つばさ文庫】0/1
●織田信長


278 : 名無しさん :2021/05/28(金) 15:12:02 SBBToKuQ0
>>271-277
新作投下及び名簿修正乙です!
新作を読んで半ば呆然とし、それから>>274の画像を見て激しく笑わせていただきましたwほんとにそんな作品あるんですねぇ
ふたりの心情とせりふがじわじわとした笑いがもたらします
信長が一言も喋らないのがいい構成になってると思います
織田信長の奇妙な遺体を見たふたりとこれから目撃する参加者の明日はどっちだ?


>>270
更新乙です
まとめwikiこちらもありがたく拝見させていただいております


279 : 名無しさん :2021/05/28(金) 20:29:39 iZIYKRQM0
投下乙です
信長殺して口調変わるほど動揺してるジンに笑うw
信長といえば、名探偵シリーズ?っていうのかな
読んでないからよく分からないけどあれにもなんか信長がいるっぽいですね

それと、今回の話のタイトルはなんでしょうか


280 : ◆NIKUcB1AGw :2021/05/29(土) 00:39:42 74gmC0kE0
投下します


281 : 先を越されちゃったので ◆NIKUcB1AGw :2021/05/29(土) 00:40:48 74gmC0kE0
赤い霧の中を、一人の男が歩く。
男の名は、織田信長。日本人なら知らぬ者はいないと言っていい、伝説的な戦国武将だ。
彼は本能寺での死を免れたものの、反旗を翻した秀吉に追い詰められ、再び腹を切ろうとしていた。
そのタイミングで、彼はこの殺し合いに参加させられたのであった。
手には短刀・薬研藤四郎が握られたまま。
殺し合いなど意に介さず、改めて腹を切ることもできた。
だが信長の心には、なぜ自分がこの場に呼ばれたのかという疑問が浮かんでいた。
その答を探すために、彼はもう少しだけ生きてみることを決意したのだ。

(宗近は渋い顔をするかもしれんが……。このような事態になるとは、さすがにやつも想定していまい。
 あの世に行く前に、少し寄り道をさせてもらうぞ)

自分に魔王として潔く散るべきと説いた男の顔を浮かべながら、信長は歩き続ける。
しかしもうずいぶん歩いているというのに、未だ誰とも遭遇していない。

「誰ぞ! 誰ぞおらぬか!」

たまらず大声で叫ぶ信長であったが、それに反応する者はない。

(最初の広間では、そうとうな数の人間がいたはずだが……。
 わし一人だけ遠くに飛ばされでもしたか?)

ため息を漏らしながら、なおも信長は歩き続けた。


◆ ◆ ◆


それからさらに数十分。
信長は、ようやく他の参加者を発見した。
それは一人の少年と、一つの死体だった。

「何……!?」

死体を見た信長は絶句する。
何もかもが同じだというわけではない。
それでも彼の目には、その死体が他の誰にも見えなかった。

「わしが……死んでおる……」


【0205 会場のどこか】

【山本ゲンキ@生き残りゲーム ラストサバイバル でてはいけないサバイバル教室(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 信長が増えた……


【織田信長@映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
自分がこの殺し合いに呼ばれた意味を見つける
●小目標
なぜわしがもう一人……


282 : ◆NIKUcB1AGw :2021/05/29(土) 00:41:45 74gmC0kE0
投下終了です


283 : 名無しさん :2021/05/29(土) 19:22:18 CtPf/diA0
乙です
刀剣信長の達観したモノローグに引き込まれます
そして空気を一変させるたんてい信長の遺体発見にいい感じな台無し間が漂ってました
ゲンキの状態表の増えたに吹き出しそうになりました


284 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/13(日) 00:34:57 f2ZuPjgM0
投下乙です。
信長被せにもう一信長被せようとしたら十日もかかっちゃって笑っちゃうんすよね。
まあ野いちごジュニアに送ろうと思ってそっちばっか書いてたり新刊出まくって把握してたりとかもあるんですが。

>>279
返信遅れてすみません、
織田信長殺人事件
でお願いします。

では投下します。


285 : 2時間ちょっとのクックロビン ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/13(日) 00:36:56 f2ZuPjgM0



 沖田総司。
 新選組一番隊組長にして最強の剣士。
 イケメン、薄幸、爽やか、エトセトラ、エトセトラ……
 彼を褒め称える言葉は十人に聞けば十人から出てくるような、幕末のヒーローだ。
 そんな男が、見目麗しい(比較的)女性の額に載せられた手ぬぐいを替えてやっているのを見れば、間違いなく何か児童文庫では書けないようなことをしているのではなく、どう見ても看病、それでなくても一万歩譲って拷問のようにしか見えないだろう。
 黒宮うさぎは、沖田が和服の袖を捲り名も知れぬ女性を診ているのを眺めていた。露になった腕には、彼が剣の道に生きていると素人目にもわかるような確かな筋肉と傷がある。少なくとも、コスプレにはちょっと見えない。

「タイムスリップ、かな……」

 それがうさぎをキョトンとさせている原因だ。
 うさぎはサマーキャンプに行っていた。
 帰り道で土砂崩れが起き、洋館に泊めてもらった。
 そして道が復旧して、家に帰って、さあ新学期に登校して、で、バトロワだ。
 ぶっちゃけ意味がわからないが、そのことは大した問題ではない。このバトロワに巻き込まれている人間のたいていが彼女と同じ混乱を抱いている。
 問題は、沖田総司だ。
 いくらぽややんとした雰囲気の彼女でも沖田総司はもちろん知っている。で、その沖田総司が目の前にいる。いくつか質問してみたが、ちゃんと幕末の知識もあるっぽい。そして腰に提げているのは本物の日本刀ときた。もうこの段階で軽く信じている。だがそれだけでは、まだドッキリの可能性を捨てきれなかったが。

「火の回りが強くなってきましたね。」

 バチン、バチン、と爆発する音が、少し先のマンションから聞こえる。かれこれ燃えること一時間以上。消防車の一台も来ないために火の手を止める術は無く、燃えに燃えて空に延々と黒い煙を吐き出し、熱と火の粉で周囲の建物を燃やしていた。
 赤い空に黒い煙というのは、青い空に白い雲のちょうど逆だなあ、と、どこか変なふうに思う。そしてだから思った。そんなことが起こるのなら、タイムスリップの一つや二つあるだろうと。そして視界には見えない襖の奥に寝かされた男の子だった死体のことが頭をよぎる。あんなふうに死ぬなんてそれはもうファンタジーとかそういうのだろうと。


286 : 2時間ちょっとのクックロビン ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/13(日) 00:37:35 f2ZuPjgM0
「……イタい。」

 ゲーム開始からまだ数分の頃。
 うさぎはもうさんざん引っ張ったほっぺをまた引っ張っていた。
 変な空変な町変な首輪。変変づくしでしかも迷子。多くの他の子供と同じように途方に暮れる他ない。
 はあ、っと普段はしないような深いため息をついて、ぼんやり近くの自動販売機を見上げる。残念ながら持ち合わせもなく、冷たい飲み物の一つでも飲んで頭を冷やしたかったのにそうもいかない。それにおなかも空いている。いっぱい食べる派の彼女にとってはベストコンディションとは言い難い。

パララララ!
「うぅ、また……?」

 そして、ときおり響く、というかどんどん増えていく銃声と、だんだん聞こえるようになった恐ろしい叫び声。まるで学校が休みの日の平日の昼下がりにやっているアーノルド・シュワルツェネッガーとかが出てる古い映画みたいに、何かがぶっ壊れる音が聞こえてくる。あまりに音が続くので、BGMが無いことが変に感じてくるほどだ。
 そしてそんな彼女を放っておくほど、映画は甘くない。銃を撃たれて当たらないのは主人公ぐらいのもので、背景に映るモブには容赦無く至近弾が浴びせられる。

「きゃうっ!?」

 いったいどこから飛んできたのかわからない銃弾が、彼女の近くのマンホールで跳ねて近くのブロック塀へと突き刺さる。土煙を上げて壊れたそれに驚き尻餅をつく。頭を抱えてそのまましゃがみこんだのは正解だろう。彼女が見上げていた自動販売機にも銃弾が突き刺さり、破片が頭へ降ってくる。フードを被っていたこともあり怪我は全く無いが、地震でも無いのに頭の上に破片が降ってくるなどいよいよヤバイ事態だ。
 逃げないと。ひとまず銃声が止んだようなので立ち上がり、塀に体を擦るように歩きながら避難できる場所を探す。目当ては頑丈な建物。理由は防災訓練でなんか習った気がするから。赤い霧で視界は少し悪いが元々町で視界が悪いのでたいして気にせず早足で歩く。
 彼女はここで気づくべきであった。銃声が止んだのは戦闘を止めたこととイコールではなく、単に撃てる銃が無くなったので別の銃を拾って乱射するような手合がいることを。

「「あ。」」

 物語の最初の出会いは曲がり角での遭遇と相場で決まっている。
 期せずして角待ちの形になったトト子の前に、うさぎは飛び出してしまった。
 え、と思う。まさか銃を撃ってたのが普通のどこにでもいそうなお姉さんとは。
 それはトト子も一緒。腹いせ紛れに乱射してたら、目の前に子供が現れた。
 当然、彼女は引鉄に指をかけている。山岸由花子をそうしたように、彼女はまるで誰かに当たることを考えずに弾丸をばら撒いている。
 これは死んだ、そううさぎは、自分を掠めた一連射と共に実感した。助けて、反射的に叫ぶ。撃たれてからでは遅いし撃たれ損なってからでも遅いが、それでも叫ばずにはいられない。走馬灯と一緒に声を張り上げる。家族のこと、幼なじみのこと、友達のこと、ぱらぱら漫画みたいにヒラヒラ光って流れていく記憶のムービーが勢いを増すのに合わせて声が高くなる。

「待って、そんな気――ギャッ!?」

 そして、祈りは届いた。
 目を見開いて天に向かって叫んでいたからわかる。その人は、屋根の上を飛んで現れた。後から聞いたところ、銃手が近くにいるのがわかったが道の作りから撃たれると判断して屋根伝いに移動を始めていたところだという。そんな常識外れの行動とそれを可能にする力を持ってうさぎの前に舞い降り、トト子の額を一閃して気絶させたのが沖田だった。


287 : 2時間ちょっとのクックロビン ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/13(日) 00:38:14 f2ZuPjgM0
 それから二時間、沖田と名も知れぬ銃撃女トト子とうさぎは、こうして雑居ビルに身を寄せている。
 自己紹介、ゲームに乗っていないことの確認、この異常事態への知識と考察の共有、やれることは一通りやった。その大部分は、互いが別の時代から来ているということだった。意識して沖田は饒舌に話しているのだろうと、うさぎは思う。なんとなく、彼からは気遣いを感じた。まあ、それもそうだろう。さっき、あんな、死体を見て、吐いて――

「――エェェ……」

 思わずまたえづく。
 イメージする度に、吐き気をもよおす。
 あの燃えるマンション。あそこには参加者がいたのはわかっていた。だから銃声が止んだところで、沖田は情報交換を中止して偵察に行くと言い、うさぎは沖田に付いていった。それが一番安心できたからだ。
 そして目にした。新庄ツバサの死体を。夏休みのスイカ割りのスイカみたいに、なんならそれよりもバックリ割られた頭を。
 あの時吐かなかったのは、奇跡だと思う。もしくは、リアリティを感じなかったか。どちらにせようさぎはこう言ったのだ、「あの子も助けないと」と。
 その時の沖田の表情の変化は、不気味なCGのようだった。
 それまで何があっても涼しい顔を崩さなかった彼が、眉を寄せ、死体を見て、何かに気づき、怒り、そして頷くのを。
 燃えるマンションとはいえ一階にまでは火の手もまだ回らず、近くに担架が入ったロッカーもあったので、二人でそれに載せると意外に簡単に運べた。死体というのも、一気に血が出ているからか、動かしても流れる血が殆ど無い。一生の間で一回も使わないような知識が増えた。

「そろそろ行きましょう。」
「……」
「……うさぎさん。」
「っ! う、はい……」

 あれから一時間以上、沖田は常にうさぎに声をかけつづけてきた。おかげで余計なことを考えなくて済んだのだと思う。
 沖田はトト子の脈を確かめると、彼女を抱きかかえた。このビルにあった銃は持っていかない。剣士であり、後に新選組へと加わる彼が使うは撃剣、帯刀しているのなら問題は無い。彼が持っていくのは一つ。首輪だ。
 うさぎは、ちらっと奥を見る。男の子の靴が見える。どこから持ってきたのだろうか、布団に寝かせられている。あの見えない位置には、本当なら首があって、首輪があって、頭があったのだろう。
 うさぎは、また少しえづいた。



【0215 住宅地】

【沖田総司@恋する新選組(1)(恋する新撰組シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 主催者を打倒し帰る
●中目標
 首輪を調べる
●小目標
 うさぎとうさぎを銃撃した女(トト子)を連れて火の手から逃れる
【備考】
●新庄ツバサの首輪を手に入れました

【弱井トト子@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
主催者をぶっ殺す
●中目標
気分が晴れるまで暴れる
●小目標
 ???

【黒宮うさぎ@人狼サバイバル 絶体絶命! 伯爵の人狼ゲーム(人狼サバイバルシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい
●小目標
 沖田さんに着いていく……?


288 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/13(日) 01:18:04 f2ZuPjgM0
投下終了です。
この企画の弱点がいくつかわかってきたんで本日はランキング形式で発表したいと思います。

【第五位】
子供が多すぎて登場話の差別化が難しい
 異能持ちでない一般人キャラの小中学生が大半なので「○○でなくてもよくね?」ってなる。

【第四位】
支給品が無いから大喜利やりにくい
 把握を簡単にしたり意思持ち支給品がキャラを喰わないように支給品を配らなかった結果、射殺が相次ぐ。原作の人数はケレン味のある戦闘をやりにくくてもダレない絶妙な人数だった。

【第三位】
マーダー不足
 いきなり殺し合えと言われて殺し合うやつはいない。

【第二位】
児童文庫ロワなのに児童文庫以外からの登場作品・キャラが多い
 異能・強アイテム・マーダーの貴重な供給源。鬼滅なしでは企画が成り立たなかった。

【第一位】
児童文庫は把握が難しい
 売ってる本屋が少ない、すぐ絶版になる、中古市場にあんまり出回らない、電子書籍になったりならなかったり、人気シリーズは20巻近く行くのがザラ、図書館がコロナで閉まってる。

【結論】
●企画者はなるべくシリーズの1巻目からキャラを出します。または単刊で把握できるキャラを出します。
●出したい作品があったらご一報ください、児童文庫になってるか調べます。
●マーダー優遇。こういうキャラを殺したいというのがあったらご一報ください。児童文庫にいるか調べます。
●参加者はそれぞれ支給品として配られるタイプのアイテムについて書いてある紙を持っているのでそれを活用します。
●ガバ把握・1行ss・台本形式・他企画からの転用、どれが来ても企画者がリレーします。困ったら殺します。

今後は週一ペースまで投下スピードが落ちると思いますが、今後も児童文庫ロワをよろしくお願いします


289 : 名無しさん :2021/06/14(月) 13:06:56 oev0Qojs0
乙です
沖田さんがやや無機質ながら頼もしいです
彼も置かれた状況に何の痛痒がない訳じゃないのに、うさぎやトト子を一応は保護していることから自分以外の何かの為に奮闘できているのがしみました
うさぎはこれまで一方的に殺された一般参加者の範囲を出ない感じからして、ここで生き延びたのをどう活かせるか気になります
トト子は銀のタロット的な予測不能の面白さと恐さが
うさぎが沖田さんの方針に反発してないのが希望であり、相互理解への切欠となりそうな起点と思える話でした

あと各作品のキャラを一巻目から出した理由に納得です
ランキングと結論把握しました


290 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/14(月) 22:51:55 Db6xagVY0
投下します


291 : 子連れガンマンと動く死体 ◆NIKUcB1AGw :2021/06/14(月) 22:53:21 Db6xagVY0
森の中を、不釣り合いな二人組が歩いている。
片方は黒いスーツと帽子を身につけた、ひげ面の中年男。
もう片方はひらひらのかわいらしい衣服を身にまとった、金髪の美少女だ。

(まったく、ついてねえぜ……)

顔を相棒から背けながら、ひげ面の男……次元大介はひっそりとため息をつく。
彼に、殺し合いに乗る意志はない。
あんな得体の知れない化物に従う義理はないし、命惜しさに服従するなど彼のプライドが許さない。
裏社会に長年身を置いてきたのだ。死ぬ覚悟など、とうの昔にできている。
……とまあ、ここまではハードボイルドに決めていたのだが、よりによって子供に出会ってしまったのが彼にとって不本意な展開だった。
殺すなど論外。かといって、無法地帯で放置するのも目覚めが悪い。
そうなれば、連れて行くしかない。
子供のお守りなど、もうこりごりだというのに。
おまけにこのマリナという少女、将来は探偵になりたいらしい。
ますます、どこぞのメガネのガキを思い出して気が滅入る。

「あっ、あそこにも銃が!」

ふいに、マリナが大声を上げる。彼女の指さす先には、無造作に拳銃が放置されていた。

「これで三つ目ですね。私も一つくらい持っておいた方がいいですかね?」
「やめとけ。素人が銃なんぞ撃ったってそうそう当たらねえよ。
 石ころ投げた方がまだましだ」

そう告げながら、次元はマリナが拾った拳銃をすぐに取り上げる。
できれば使い慣れたいつもの銃でこの窮地を切り抜けたいところだが、銃弾は無限ではない。
故障などのトラブルが起こる可能性も、決して低くはない。
スペアがあるに超したことはないのだ。
もっとも、だからといって動きが阻害されるほど拾っていては本末転倒だが。
ちなみに、マリナに対しては海外でボディーガードなどをしているため銃に詳しいと言ってある。
嘘はついていない。本業が別にあるだけだ。

(しかしこの頻度で拾えるってことは、会場内にはとんでもない数の銃がばらまかれてるってことか?
 あのウサギ、軍事企業の社長か何かかよ)

そんなことを考えながら歩を進めていた次元の足が、不意に止まる。
風が、とあるにおいを運んできたからだ。
あまりに嗅ぎ慣れた、されど永遠に好きになるなることはないであろうにおい。
血のにおいだ。

「次元さん……」

マリナも、においに気づいたのだろう。不安そうな表情を見せる。

「俺の後ろに隠れてろ」


292 : 子連れガンマンと動く死体 ◆NIKUcB1AGw :2021/06/14(月) 22:54:39 Db6xagVY0

ぶっきらぼうに言い放つと、次元は警戒しつつゆっくりと歩を進めていく。
やがて、においの原因が見えてきた。
それは学生服のような服装の、金髪の青年だった。
あるいは少年といっていい年齢かもしれないが、その辺はこの際どうでもいい。
胸を銃弾で貫かれた跡が、遠目にも確認できる。
顔からも完全に血の気が失せており、すでに死んでいるのは明らかだ。

(だが……)

次元は警戒を強める。
理由は、死体の血だ。
服はべったりと血に染まっているというのに、周囲の地面にはほとんど血が見られない。
それはつまり、誰かが別の場所で死んだ人間をあそこまで運んで放置したということだ。
殺し合いの場で、そんなことをする理由は一つ。
死体で通りかかった人間の注意を引き付け、その隙に奇襲をかけるためだ。

「おい、逃げるぞ!」

マリナに声をかけ、次元はきびすを返そうとする。
だがその瞬間、信じがたいことが起きた。
明らかに死んでいるはずの青年が、立ち上がったのだ。

「ひぃっ!」
「マリナ! 俺がいいと言うまで、目をつぶってろ!」

おびえる少女に向かって叫ぶと、次元は迷うことなく青年に向かって発砲する。
銃弾は見事、青年の額に命中する。
だがそれでも、青年は止まらない。
刀を手にし、俊敏な動きで突っ込んでくる。

「ゾンビは頭撃ったら死ねよ、ちくしょう!
 ラジコンでも埋め込んであるのかよ!」

悪態をつきながら、次元はマリナを抱えて突進を回避する。
その時、次元は見た。
青年の体から、何本もの糸が伸びているのを。

「人間マリオネットってわけか。思ってたよりアナログだな。
 しかし……!」

次元は歯がみする。
トリックがわかっても、それに対抗できるかはまた別問題だ。
いかに次元が射撃の名手といっても、目視が困難なほど細い糸に銃弾を当てるのは至難の業だ。
この場面では、銃より刃物がほしいところである。

「ああ、もう! なんでこんな時にいねえんだよ、五ェ門!」

自分でも理不尽だと思いつつ、次元はこの場にいない仲間へ批難を飛ばした。


293 : 子連れガンマンと動く死体 ◆NIKUcB1AGw :2021/06/14(月) 22:56:02 Db6xagVY0


◆ ◆ ◆


「からくりには気づいたみたいだけど……。だからといって打ち破れるかしら?」

少し離れた木の上で、白い髪に白い肌の女がほくそ笑む。
彼女は十二鬼月・累から、力と母の役割を与えられた鬼だ。

母蜘蛛は、是が非でもこの殺し合いを勝ち残る気でいた。
理由は単純に死にたくない、それだけだ。
悲しいことに、恐怖で服従を強いられることに彼女は慣れてしまっていた。

数十分前、銃声を聞きつけ廃村までやってきた母蜘蛛は、そこで憎き鬼殺隊士の死体を見つけた。
さらに村の中を探索し、隠されていた日本刀も発見した。
入っていた箱によれば三日月なんとかという名刀らしいが、彼女にとって刀の名前などどうでもいいので覚えていない。
ともかく、母蜘蛛はこの二つを使った策を考えつく。
すなわち死体に刀を持たせ、自分の能力で操って戦わせるという策略である。
考えついたといっても、要はいつもの戦闘スタイルと同じだ。
十分に慣れたこの戦い方なら、人間ごときに後れを取ることはないと彼女は確信していた。

「無駄な抵抗はやめて、さっさと死んでくれると助かるのだけど……」

そう呟く母蜘蛛の顔には、今も笑みが浮かんでいる。
だがその笑みは、どこかいびつだった。


【0130 森】

【次元大介@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いからの脱出
●小目標
この場を切り抜ける

【二神・C・マリナ@ミステリー列車を追え! 北斗星 リバイバル運行で誘拐事件!?@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
この事件を解決したい
●小目標
この場を切り抜ける

【蜘蛛の鬼(母)@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
生き延びる
●小目標
二人組を殺す

【備考】
※蜘蛛の鬼(母)が見つけた刀は、「三日月宗近@劇場版刀剣乱舞」です


294 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/14(月) 22:57:15 Db6xagVY0
投下終了です


295 : 名無しさん :2021/06/15(火) 18:30:41 QuMovO520
乙です
コラボからの出典でルパン一味が出るとは!
次元の思考がとてもらしく、マリナも一般人をやや上回る立ちふるまいを見せてスマートな印象がありました
対する母蜘蛛からは心の弱い元人間の側面に惹きつけられるものがあり、善逸の死体が道具と使われる非道さにどこか心地よいやるせなさが
善逸の骸人形を何とかした後、母蜘蛛に迫るかどうかの予想も楽しくなる話でした


296 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/23(水) 06:34:56 9FOpDs/Q0
投下乙です。
ついに累一家が全員参戦しました。
やったぜ。
そして善逸がゾンビ剣士にジョブチェンジしました。
シスター・クローネも今ごろまさかこんなことになっているとは思わないでしょう。
思えばうちのロワではものすごい珍しい異能を使ってくるマーダーですね。
深刻なマーダー不足のうちのロワではいやもう大いに戦力ですね。
では投下します。


297 : CO��カミングアウト�� ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/23(水) 06:36:01 9FOpDs/Q0



「くそっ、間に合わなかったか。」

 一ノ瀬悠真は、小林聖司の死体を前に悔しげに言うと、マンションの廊下を中腰で走る。外に面しているとはいえ既に煙は廊下を黒く染め、容赦無く熱と一酸化炭素をその場にいるものに浴びせかけていた。
 火元に近いこともあってか、悠真が駆けつけた時には既に聖司はこと切れていた。彼が名も知らぬその男子は、窒息なのかそれとも爆発による怪我かは不明だが、血の気の無い顔をしていて息をしなくなっていた。心臓が止まってから数分以上は経っていることが悠真にも察せられる。弟が入院している都合、よく病院に行くからわかる。これが死相というものだろう。生きている人間には無い色をしている。実際に死体を見たことなどないけれど、救急車も警察も呼べない今、自分が彼を助けられないことはわかった。
 スプリンクラーが水を降り注がせるのを鬱陶しく思いながら、階段の前で止まる。このマンションの今までの階に逃げ遅れた人間はいなかった。火事が起きている部屋より下だから、逃げられたのだろう。なら残っているのはのここから上。

「……手遅れ、か。」

 同じ階でもこの煙だ。上階がどうなっているのかなど、文字通り火を見るより明らかだ。馬鹿と煙は高いところに登るということわざもあるが、防災訓練等でイメージするそれよりも何十倍もの速度と威力で、触れれば火傷は免れない黒い死が立ち昇っている。仮に負傷者を見つけたとして、助けられるかと言われれば、ノー。
 火にあぶられてどこかの部屋に置かれていた銃が暴発したのかけたましい爆音が響く。迷っている時間は無い。これだけの炎なら、自分も逃げられるうちに逃げておかないとまずい。
 結局、誰も助けられなかった。奥歯を一度強く噛みしめると、呪文を唱える。
 少しして悠真の姿は、マンションから消えていた。



 弱井トト子が引き金を引き、十名以上の人間が銃撃戦を繰り広げた住宅地の一画から、徒歩数分のところにあるやや大きめの雑居ビル。
 その一階部分は、地下への階段となっている。
 まさかそこが地下鉄への入り口などとはこの街を往く参加者も気づかないだろう。一応、付近には駅への案内があるし、当のビルには小さいが地下鉄の看板もあるのだが、土地勘のない街でいつ撃たれるかわからない中ろくに地下鉄に乗ったこともない人間も多々いるという事情を考えれば、そこに気づける参加者というのは僅かだ。
 そして地下へと降りると、広がっているのは地下街である。
 地下一階は一つの都市区画と言えるほどの広さで、モノレールや電車の駅ビルとそれぞれ繋がっている。それぞれに乗り換えるには端から端まで歩かねばならずその距離は都市部の路線の一駅分ほどもあるが、一応これで一つのターミナル駅だ。この街に住人がいればさぞ面倒な通勤通学だろう。
 地下二階は地下鉄の改札とホームがある。こちらは上階とは打って変わって没個性的な地下鉄だ。面白みのない作りに、後付されたようなバリアフリー、天井の一部からは雨漏りもしている。白線の内側の黄色い点字ブロックにこびりついたガムに視線を落としていた氷室カイは、傍らに歩み寄ってきたダイナマイトを手に持った幼女、大形桃に肩を叩かれて顔を上げた。つまらないデザインの時計は1時を指している。時刻表を見上げる。終電は1時数分前。どうやら地下鉄は動いていないようだ。もっとも、今が夜なのか朝なのか、あの空では判断がつかないのだが。


298 : CO��カミングアウト�� ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/23(水) 06:36:33 9FOpDs/Q0

(赤い空、赤い霧、記憶の混濁、首輪――本の中の世界、か。)

 気弱な外見とは裏腹に、その脳細胞は猛回転をしている。
 氷室カイ。世界的に大人気なクイズゲームアプリ『Qube』のトップ50プレイヤーの彼は、掌の拳銃を一瞥して考える。
 今まで自分が味わったことの無い謎、それが目の前にある。これに興奮せずにはいられない。2週間前のフューチャーワールドでの100億円と十万人の命を巡った戦いよりも更に上を行く恐ろしさ。
 自然と笑みが溢れるのを堪えながら、カイは桃の後へと続いた。



「……ン〜〜……よし、戻った。」
「あ、悠真さんの意識が戻りました。」
「すごいね、確実に気絶していたのに、時間通りに起きた。」

 地下街にある喫茶店のベンチシートで覚醒した悠真に、渡辺イオリとエンムが声をかける。
 現在時刻は1時過ぎ。予め悠真が意識を取り戻すと宣言していた時間である。
 彼が確実に気絶していたことは、イオリが確認している。目を開き瞳孔にライトを当てたところ瞳孔が小さくはなれど、正常ならば起こるような反射的な瞳の動きが無かった。それは自身を医者と言うエンムも確認するところで、にもかかわらず時間通りに目覚めるというのは通常では考えられない。
 そのことが、イオリにこれまでの考察の確からしさを実感させる。

「戻りましたぜ。」
「はう〜〜、ステファニーちゃん、変な人ばっかだね〜〜。」
「……」

 次いで三人の人物が喫茶店に現れる。
 黒ずくめの男に、甘ロリの少女に、古代中国人っぽい男。
 更にその後から桃とカイが店内に入ってきた。
 都合8名。バトロワ開始より1時間で集まった人数としては多いと言えるだろう。この内、新顔である中国人以外はそれぞれ情報交換を済ませていた。その成果が店のテーブルに広げられたポスターの裏紙に書かれている。
 イオリは全員を見渡すと言った。

「では、悠真さん、もう一度お願いします。」
「ああ。カイさんが手に持ってたのはリボルバーとか、ピストルとか、なんかレンコンみたいな部品のある銃。桃が持ってたのがダイナマイト。イオリが持ってたのが工具箱か? で、エンムさんが持ってたのがなんか挟むやつ。魚塚さんが持ってたのがショットガンで、宮野が持ってたのがうさぎのぬいぐるみ。カイさんと桃は地下鉄がちゃんと来るかの話をしてて、イオリとエンムさんは俺の体をいじってた。スネをあんなに強く叩くなよ、なんかまだ痛いんだけど。で、えーっと、魚塚さんと宮野が喋る内容思いつかなくてしりとりしてた。宮野がり攻めしてたな。その後、煙が上がってることに魚塚さんが気づいて、俺は火事が起きてるマンションに行ったんだ。火元の近くで、男子が一人死んでた……」
「……私たちのバディは合っています。」「と言っても、俺達はずっと一ノ瀬の近くにいたから当たっていてもおかしくはない。君たちは?」
「あ、当たっています……」「すっごーい! 手品みたい!」
「……オイオイマジかよ。どんなトリックだ……?」「と、盗聴器、それとも、ドッキリ?」「……?」
「これで証明できたな。俺が死神だって。」
「死神かどうかはさておき、貴方が幽体離脱できることは信じる以外なさそうですね。さて、今なら私の話も信じてもらえると思うのですが。」


299 : CO��カミングアウト�� ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/23(水) 06:37:00 9FOpDs/Q0

 イオリはそう言ってポスターの裏紙に書かれた文の一つにデカデカと赤い丸をマジックペンでつけた。

『並行世界から集められた参加者』

「この状況は異常だということは皆さんもうおわかりですね。これからは守秘義務のあることでも話し合うことが重要だと思います。」
「今までおれしか秘密を話してないけど、嘘じゃないってわかったんなら、協力してくれ。死神のカンだけど、みんな隠してることがあるんだろ。」

 今のはたぶんハッタリですね。心の中で悠真へとツッコミを入れながらも、イオリは否定はしない。死神という現実離れした力を証明してみせた彼は、今この場で最も発言力が強い。
 悠真が火災現場に向かったのも、元はと言えば彼が死神としての能力である幽体化を証明することのついでだった。
 今から三十分ほど前、悠真・カイ・ここあ・イオリのグループと、桃・魚塚・エンムのグループの二つが地下街の大通りで出会って情報交換をした。その時、彼は自分が死神であると告げた。そしてその言葉が真実であると証明し皆に協力を求めるために、彼はイオリ達から実験を求められた。

 一、幽体化の証明のために気絶とそれからの回復を時間通りに行うこと。
 二、悠真以外の六人はその間に周囲の偵察も兼ねて地下街を移動又は悠真を監視兼護衛。悠真はそれを幽体で確認して、それぞれの様子を気絶から覚醒後に話すこと。

 時間は0時半から1時まで。三つのグループに別れてそれぞれ行動する。
 そして結果は、先程のとおりだ。
 持っていたものに話していた内容など、悠真は正確に言い当ててみせた。更には、幽体であることを活かして火災現場に向かい様子も見てきたという。これは地上階に赴いた魚塚とここあ以外には今この瞬間にも未確認の情報である。もちろん、地下の喫茶店で寝ていた悠真には把握のしようがない情報だ。自分たちの言動を言い当てられたことで誰も主張しないが、地下街を出て確認すればなおのこと悠真の言葉の信憑性が増すだろう。

「新しい人がいるから改めて言うけれど、おれは一ノ瀬悠真。中一。死神をやってる。死神っていうのは、この世に留まっている死者の魂をあの世に送るのが仕事だ。死ぬとパニックになって逃げ出したりするから、そういう人を見つけ出して説得して成仏してもらう。じゃないと、悪霊になって周りの人間を襲うようになるんだ。」

 そして信憑性が増した人物から出てくるのがこの言葉である。
 思わずイオリはこれマジ?と言ってしまいたくなるが、既に喋るウサギや赤い霧と空などの非現実的な物を多々見ているのだ、否定する材料が無い。
 なにより、彼女も一般人からすればだいぶ『そちら側』であることの自覚はあった。

「改めて聞きたいこともありますが、まずは私も話します。地球防衛軍日本支部第3師団K部隊の渡辺イオリです。我々は『黒喰』と呼ばれる存在と戦うために存在しています。いわゆるクラスのみんなにはナイショだよって感じの正義の味方です。今まで秘密にしてましたがよろしくお願いします。ペコリ。」


300 : CO��カミングアウト�� ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/23(水) 06:37:29 9FOpDs/Q0

 自分の口で擬音を言いながら頭を下げる。思いっきり何らかの組織に属する制服を着ながら、イオリはこれまですっとぼけ続けていたが、悠真というファンタジーな存在を目にした以上、自分が守るべき守秘義務をある程度無視しても問題は無いと判断した。
 地球防衛軍、EDFと略されるそれは黒喰と呼ばれる地球外生命体と戦うための秘密組織だ。
 黒喰は日光により活性化し、有機物無機物問わず食い漁り、水に触れると容易に溶ける。今から一年前に月を喰いはじめ、ついには食い尽くして月と同サイズにまで成長し、情報統制で誤魔化していたが一部がとうとう日本にも現れた。日光が無ければ動かない代わりに倒すこともできず、一部には高度な知性を持つ個体もいる、不可解な存在である。
 それと戦うなどというのは言ってしまえばSFであり、現代ファンタジーな悠真の発言とどっこいどっこいの信憑性だ。別に信じてもらわなくても黒喰がいないのなら構わないが、制服のこともあるし他の人間から話を聞きたいというのもある。ゆえにイオリはケロリとした顔で素直に話した。

「魚塚三郎。さっきは通訳って言いましたが、実は麻薬取締官ですぜ。麻薬取締官っていうのは、名前通り覚せい剤などの取締が専門の、警察みたいなもんですぜ。」

 黒の組織の幹部、ウオッカはそう偽った。
 実は彼は謎の犯罪結社でかなりの高位の幹部の右腕なのだが、もちろんそんなことは言わない。ただ、自分の服装や身に纏う雰囲気でカタギと言い張るのは無理があるのでこう言っておく。麻薬取締官と言っておけば警察官というほどには、本職やその関係者に怪しまれてボロが出る可能性も、なんだかんだと頼られる可能性も減り、なおかつ銃や諸々の扱いに長けていてもさほど不自然ではないという魂胆だ。

「宮野ここあで〜す。え〜っと……さっきは言わなかったんですけど〜、サンドウィッチ食べたら、苦しくなって、気がついたらここにいました〜……」

 宮野ここあは正直に言った。
 そして彼女にこれ以上の情報はほぼない。彼女は出てきたと思ったらサンドウィッチ食って死んだロリである。彼女は1億円を子ども10人で奪い合う命懸けのギャンブルで、真っ先に脱落した、ようするに見せしめ枠だ。そのくせ甘ロリで手にはウサギのぬいぐるみを抱いているなどものすごいキャラが濃い。龍騎のシザースや未来日記の3rdのように濃い。じゃあ次のキャラに行きます。

「俺はエンム。元医者で、今はご覧の通り、奇病に侵されていてて視覚に障害がある。ここまではさっき言ったけれど、実は、この病は健康な人間の血を経口摂取しないと症状が悪化するんだ。そのせいで鬼だなんて呼ばれていてね。俺は医者の頃の仲間や患者に助けられてなんとかやっているけれど、同じ病気の人が何人も鬼殺隊っていう幕府の残党に殺されてきた……彼らは、この病気が伝染ると思っているんだ。だから、ごめん。もう君たちも、彼らに狙われかねない……」


301 : CO��カミングアウト�� ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/23(水) 06:37:56 9FOpDs/Q0
 エンムこと下弦の壱・魘夢はそう偽った。
 自分の容姿は鬼舞辻無惨の血によって人間として振る舞うには困難な変貌を遂げている。ならここはそういう病気だとして、鬼殺隊を偏見から殺しに来る組織だとすることにした。たとえば結核、たとえばらい病、流行り病の知識の無い人間はわかりやすい病気を恐怖し、その患者を憎悪する。それを鬼になる前から医者のふりをして人を絶望へと追いやってきた彼はよく理解している。この自分の容姿ならば殺しに来る人間がいても不自然ではないだろうし、なんなら同じように殺しに来さえするだろう。だからこそ、彼は今までそれを恐れて言い出せなかった、と言い訳も用意しつつ周囲を伺う。さすがにめくらと鬼殺隊幕府残党説はやり過ぎたかとも思ったが、いつでも殺せる相手たちなのだとデカい嘘をつくことにした。

「ひ、氷室カイ、です……その、実は、『Qube』のSSランクプレイヤーです。あ、Qubeっていうのは、クイズゲームアプリで、SSランクプレイヤーは上位50人のプレイヤーで、その、自慢みたいになってすみません……」

 氷室カイは正直に言った。
 彼はQubeで一年に渡って50位になり続けた万年50位男であり、その気弱そうなヒョロ眼鏡通り、ナヨナヨした性格である。ちなみに彼はこのバトロワの主催者の一人でジョーカーである。彼の特徴として、嘘を言わないが本当の事も隠すということがある。彼は真実の一端を目の前にぶら下げて彼が戦うに足る主人公との頭脳戦を求めているのだ。特に魘夢は彼のお気に入りで、彼がチートを使わずともギリギリで殺せるラインであり、それが参加者の一つの基準にもなっている。だがこんなにアホみたいに銃火器が会場にばら撒かれていたら流れ弾とかで死にそうなもんだがそのへんどうするつもりなのだろうか。

「はい! あたし、大形桃! 小学2年生! やっぱりみんな物語の主人公みたい! だから言ったでしょ、物語の中に入り込む魔法があるって! あたしを助けてくれた魔女さんが言ってたんだ!」

 大形桃こと桃花・ブロッサムはそう偽った。
 彼女は黒魔女だ。年齢は非公表だが、だいたいカイと同じぐらいである。それが黒魔法で小2になって、黒魔法で暗示をかけてある一家に潜り込んでいるのだ。元が美少女とはいえ20歳近くの人間が女児服を着て8歳児の真似をするというのは正気の沙汰ではないが、彼女はそれが仕事である。桃花が存在しないはずの妹として監視しているのは、兄にあたる大形京。彼は極めて強力な黒魔法の使い手であり、そして黒魔女への復讐心を持っている。ゆえに彼に知能や感覚を鈍麻させるとしか思えないぬいぐるみを常に手を付けさせて暴走を抑えているのだ。元はと言えばどっかの黒魔女がおかしな教育をしたせいなのだが、さりとて放置しておけば世界を破滅に導きかねないし、かと言って殺すわけにもいかないのでこのような沙汰となっている。
 そして彼女が伝えた物語の中に入り込む魔法、それがこの場の人間の頭を悩ませていたのだが――それは最後の一人の話が終わってからにしよう。

「■■■■■■■■■■■■■■■。」
「――随分訛の強い中国語だな……名前が袁�岡ですかい?」


302 : CO��カミングアウト�� ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/23(水) 06:38:16 9FOpDs/Q0
 袁�岡は正直に言った。だが、彼の言葉がわかる人間はおらず、なんとかウオッカが名前を理解しただけだった。
 袁�岡は山月記に出てくる虎じゃない方だ。唐の監察御史で、ようするに役人である。ちなみに唐があったのは現在より軽く1000年は前だ。そんな1000年前の人間が話す中国語を断片的でも理解できたウオッカは十分凄いのだが、残念ながら袁�岡が求めるレベルのコミュニケーションには程遠かった。彼からすれば東夷っぽい人間ばかりなので外国だとはわかるのだが、なんで知人が虎になるわ殺し合いに巻き込まれるわと訳のわからないことばかりだ。そしてこのバトロワの場で唐代の中国語を理解できるのは、女神の加護によりあらゆる言語を理解できる幻界の旅人たる、ワタルとミツルくらいのものである。言葉が通じない299人相手に殺し合えなどもう少し主催者は手心を加えてやっても良かったのではないか。ちなみに困惑する袁�岡を見て彼を巻き込んだ張本人であるカイはずっと笑いをこらえていた。これがやりたくて彼は自分の近くに袁�岡を配置させたのだ。カイってやつは結構鬼畜だな。

 さて、これで8人の自己紹介は改めて終わった。ある者は真実を話し、ある者は虚偽を述べ、ある者は真相を告げず、ある者は名前しか言えない。次は、袁�岡以外の7人で考察の時間だ。

「桃さんが言う物語の中に入り込む魔法、SF的に言い換えれば『並行世界の創作という形での観測と干渉』というのは極めて重要な視点だと思います。そうであれば、この駅の説明もつきます。」
「さっき地下鉄を見てきたけれど、見たことのない路線だったよ。」
「電車もモノレールもですぜ。駅まで行っちゃあいませんが、路線の名前が明らかに実在しないものでしたぜ。」
「ごめん、モノレールってなんだい?」
「……エンムさん、もしかして、令和の人じゃありませんか?」
「令和? それって、どこ?」
「なるほど、並行世界なのは場所だけでなく時間もですか。令和は元号です。その前が平成で、昭和、大正、明治と遡ります。」
「……つまり、君たちは未来の人なのか。俺は大正だよ。」
「私達から見ると過去の人ですね。どうりで幕府の残党なんて変な組織がいるわけです。こくこく。」
「なあ、宮野。こいつらの言ってることわかるか?」
「え〜、う〜ん、本の中に入っちゃったってこと?」
「そういうことです。悠真さんが話についていけてないようなので論点を整理します。私達は別々の並行世界の人間です。互いが互いの読んでいる本のキャラクターの関係だと考えると、別々の本の登場人物だとも言えます。そして本の中のあるページから、別の本の中に移動させられた。たぶんこの本は、殺し合うことがテーマの本です。」
「マジかよ超悪趣味じゃん。」
「本当にそう言い切れますか?」
「……怖いこと言うなよ。」

 一歩、悠真は後退った。

「……考えたくはないことですが、私も、悠真さんも、魚塚さんも、エンムさんも、命の危険があるという共通点があります。そして、ここあさんはさっきサンドウィッチを食べて気がついたらここにいた、そう言いました。ここあさん。」
「っ……!」
「ここあさん、本当にサンドウィッチを食べてここに来ましたか? 桃さんもです。もしかしたら、何か危険なことに合いませんでしたか?」
「おい、なにを――まさか。」
「俺達は、全員死んだってことですかい?」


303 : CO��カミングアウト�� ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/23(水) 06:38:52 9FOpDs/Q0
 イオリの言いたい事を即座に悠真とウオッカは理解した。そして同時に互いに驚いた。その発想はかなり突飛なもので、死神としての経験や黒の組織としての死生観が無ければそんなにすぐに思いつくものではないと思ったからだ。

「実は、私の部隊はここに来る少し前に実戦に投入されました。前よりも危険な任務が増えそうだったところです。」
「おれも、かも。この間なんだけどさ、悪霊との戦いで死にかけたことがあって。でもそれからは危ないことなんてなかったんだ。」
「ほんとうは、サンドウィッチに毒が入ってたみたいで……凄く苦しくて、気が遠くなって、それで……」
「……俺もだよ。信じられなかったけれど、悪い夢を見たんだ。鬼殺隊に仲間を殺されて、俺も首を撥ねられる夢だ。まさか、あれが実際にあったことだなんて信じたくはないけれど……」
「……守秘義務があるんで。」
「うーん、わかんないや! あのね、なんかね、高いところから落っこちてね、気がついたらここにいたんだ。」

 適当に話を合わせる者、死の瞬間を思い出す者、態度はそれぞれだ。だがそれでも、彼らの中に一つの仮説が出来上がっていく。この殺し合いは死んだキャラを色んな本から集めたものなのではないか、と。

(まあ違うんだけどね。)

 なんか上手く行きかけた考察が変な方向に行きだしたのを内心ニヤニヤしながらカイは深刻そうな顔を作る。
 別に死んだキャラやこれから死ぬキャラを集めたとかそういうのではなく、単に命の危機があるようなスリリングな人生を歩んでいる参加者の方が倒し甲斐があるし、なんならそういう参加者ばかりというわけでもなくて普通に学校に行き普通に恋をして普通に青春をする、そんな王道を征く青春小説みたいな参加者もそこそこいるのだが、カイが趣味で自分の周りに配置する参加者を選んだ結果こんなふうになったようだ。
 そんなカイは、爆風で吹き飛ばされた。

(……は?)

 この展開、予想はしていた。
 会場内には大量の銃火器を配置している。ゆえに突然の攻撃はよくありえる。
 だが今いる喫茶店は射線が通り難い立地にあるし、だからこそウオッカなどその筋の者がここから移動しようなどとは言わなかったし、そのウオッカや魘夢がいればこんな奇襲も予期出来たはずだ。
 そもそも、初期配置を思い出せばカイはこの近くにこんな攻撃ができる参加者を配置していない。最も近場の無差別マーダーは前原圭一であり、彼に異能のたぐいは無い。ならなぜ。

(いや、これだけ考えられているのなら爆発の威力は大したことはない。耳鳴りはするし平衡感覚が崩れているが、たぶん立てる。爆心地は遠い。)

 カイは冷静に油断無く店内に目を走らせる。姿が無いのは、やはりウオッカ。大方奇襲に気づき逃げたのだろう。もしくはいち早く立ち直り避難したか。端の方で倒れているのは、ここあだ。倒れた際に頭をテーブルで強打したのだろう。かなりの出血をしている。あれはもう助からないだろう。カイは警戒してベンチ席に座っていたが、やはり彼女は警戒心が薄いようだ。死んでも治らなかったらしい。そして立ち上がり悠真とイオリの意識を確かめているのが袁�岡だ。え、お前かよ、と言いたくなるが声も簡単には出ないので黙っておく。思いの外タフらしい。
 更に視線を巡らせる。大形桃こと桃花・ブロッサムが横たわりながら唖然とした顔で店の奥の方を見ていた。さすがに黒魔女だけある。身体能力は人間と変わらないはずな上に子供に化けているとはいえ、自分よりもダメージは小さそうだ。油断ならない敵である。そして魘夢。カイが定めたターゲットは。


304 : CO��カミングアウト�� ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/23(水) 06:39:21 9FOpDs/Q0
「悪夢、だ……!」
(死んでんじゃねえか!)

 藤の毒を打ち込まれたのだろう。身体がグズグズに崩れていき死んだ。残された首輪には、イオリが手に持っていたはずのサインペンが突き刺さっている。倒れた拍子に魘夢の首輪を強打し、作動させたのだろう。
 それにしてもまさかこんなに首輪が脆いとは!

「クソっ、宮野! おれは幽体化して敵を探してくる。渡辺、宮野と大形と氷室さんを頼めるか!?」
「うっ……動けるのは、私だけみたいですね……わかりました、なんとか袁�岡さんと頑張ります。」
「頼んだ! それにしても魚塚さんとエンムさんはどこ行ったんだ。まさか……」

 あ、これウオッカがやったと誤解してるかも、と思いながら、カイは下手人について考える。ウオッカと魘夢は違う。その二人にはずっと目を配っていた。

(だったら誰が……)

 主催者でありながらマーダーの宛がない。カイは己の頭をフル回転させて攻撃の正体を探る。それは本人が狙ってか否か、とても対主催らしい行為だった。



「よし、やれた……!」

 荒い息を何度もしながら、駅ビルのエレベーターの中で深海恭也は拳を握りしめていた。
 最初に出会った子供――ルーミィと野原しんのすけは殺せなかった。動揺があってその後に出会った宮美二鳥、花丸円、黒鳥千代子からも逃げ出した。
 紛れ込める対主催を探して、途中でモノレールの線路を目印に駅ビルを目的地とし、地下街に気づいてそちらに行った。
 そして彼は喫茶店にRPGを撃ち込んだ。
 冷静になれば、ステルスマーダーとしては矛盾した行動だ。わざわざ対主催を見つけたのにそれを殺しにかかるのは。だがそれでも、この対主催は潰しておきたいと撃ってから言語化した。
 既に出来上がっているグループ、大人の男性、どちらもやりにくい。可能ならば同年代の女子数名のグループがいい。その方が自分の才色兼備を活かせる。それに、子供相手にビビッて安全策を取ったことへの代償を求める心があった。

「……す、少ししたら駅ビルに向かおう。生き残ってる人と合流すれば……!」

 努めて冷静に、そう意識して恭也は今後の算段を練る。既に自分の意識が冷静とは程遠いことに、彼はまだ気づいていない。


305 : CO��カミングアウト�� ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/23(水) 06:41:02 9FOpDs/Q0



【0115 駅ビル】

【一ノ瀬悠真@死神デッドライン(1) さまよう魂を救え!(死神デッドラインシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 事件を解決する
●小目標
 幽体化して敵と魚塚(ウオッカ)・エンム(魘夢)を探す

【桃花・ブロッサム@黒魔女さんのハロウィーン 黒魔女さんが通る!! PART 7(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 エンムさんが、灰に……!?

【氷室カイ@天才謎解きバトラーズQ vs.大脱出! 超巨大遊園地(天才謎解きバトラーズQシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 主催者兼ジョーカーとしてゲームを楽しむ
●中目標
 対主催に紛れ込み、ステルスマーダーする
●小目標
 状況を把握する

【ウオッカ@名探偵コナン 純黒の悪夢(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 奇襲から逃れたんで喫茶店に戻るor……?

【袁�岡@山月記・李陵 中島敦 名作選@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 状況はよくわからないがとにかく襲われているらしいので子供を助ける

【深海恭哉@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 対主催に紛れ込み、自分の信頼を上げる
●小目標
 ほとぼりが冷めたら駅ビルに向かう



【脱落】

【魘夢@劇場版 鬼滅の刃 無限列車編 ノベライズ みらい文庫版(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【宮野ここあ@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】


【残り参加者 256/300】


306 : CO��カミングアウト�� ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/23(水) 06:42:30 9FOpDs/Q0
投下終了です。
鬼滅の刃からの残り参戦可能キャラを更新しておきます。

○竈門炭治郎○嘴平伊之助○栗花落カナヲ○冨岡義勇○胡蝶しのぶ○煉獄杏寿郎○不死川実弥○宇髄天元○甘露寺蜜璃○悲鳴嶼行冥○時透無一郎○伊黒小芭内○珠世○愈史郎○錆兎○真菰○産屋敷耀哉
17


307 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/23(水) 21:43:33 tvFLPCoc0
投下乙です
魘夢、まさかの一話退場とは……
ちゃっかり逃げてるウォッカさんに期待

大作の後にしょうもないネタで恐縮ですが、自分も投下します


308 : 三人寄れば三権分立 ◆NIKUcB1AGw :2021/06/23(水) 21:45:22 tvFLPCoc0
ドッペルゲンガー、という都市伝説がある。
この世にはまったく同じ顔の人間が3人おり、顔を合わせると死んでしまう……というものだ。
そして今、この地で同じ顔をした3人の男が遭遇していた。

松野チョロ松。おなじみクソニート六つ子の三男。
チョロ松警部。常識人のようでいて割とポンコツの刑事。
チョロマツ。砂漠のガイド。
以上の顔ぶれである。

「やめてよ、十四松。それとも、おそ松兄さん?
 こんな状況で僕の真似するとか、笑えないから」
「真似してるのはそっちだろ? 僕の振りなんかして、何が面白いのさ」
「何を小芝居なんてしているんだ。そんな変装で私を混乱させようとしても無駄だぞ」

挟まる沈黙。そして、3人が一斉に叫ぶ。

『うわあああああ!! ドッペルゲンガーだあああああ!!』

揃って半狂乱になり、3人は取っ組み合いを始める。

「童貞のまま死ねるかーっ! おまえら二人が死ね!」
「こっちだって童貞だ、馬鹿野郎! おまえが死ね!」
「警官の私が死んだら、誰が市民を守るんだ! 君たちが死ね!」

それぞれそっくりな顔なら見慣れているが、それがかえってまったく同じ顔への恐怖を煽っているらしい。
おのおの罵倒の言葉を吐きながら、乱闘を続ける。
そんな様子を、少し離れた場所から見つめる人影があった。

「なんだありゃ……」

同じ顔をした3人の男がもみ合う光景を目にし、ジンはさすがに唖然とする。
しかし、すぐに我に返った。

(とりあえず、こっちに気づく前に殺すか)

ジンは先ほど拾った手榴弾のピンを抜き、3人に向かって投げた。
3人は取っ組み合いに夢中で、それに気づかない。
程なくして、爆発。
哀れ、3人のチョロ松は物言わぬ骸と化した。

「なんなんだ、ここは……」

ジンは、改めて呟く。
微妙にペラペラな織田信長の次は、同じ顔の男3人だ。
呟きたくもなるだろう。

「ひょっとしたら俺は組織の新しい薬でも間違えて飲んじまって、幻覚を見てるのか……?」

おのれの正気すら疑いながら、ジンはとりあえず歩き始めた。


【0220 自然公園】

【ジン@名探偵コナン 純黒の悪夢(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 主催者の情報を手に入れるために体制を整える
●小目標
 殺し合いが本当に現実なのか、自信がなくなってきた


【脱落】
【松野チョロ松@おそ松さん 番外編@集英社みらい文庫】
【チョロ松警部@おそ松さん 番外編@集英社みらい文庫】
【チョロマツ@おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】

【残り参加者 253/300】


309 : ◆NIKUcB1AGw :2021/06/23(水) 21:47:07 tvFLPCoc0
投下終了です


310 : 名無しさん :2021/06/25(金) 21:04:05 6rla4LFM0
すみません、wiki編集するにあたって、「CO��カミングアウト��」の脱字部分がどういう文字なのか知りたいのですが


311 : 名無しさん :2021/06/28(月) 13:33:50 SWd4oHvU0
>COカミングアウト
濃いなんてレベルじゃないメンバーだなぁ……w
それぞれの紹介が各出典の興味を引くもので考察もあわせて面白く参考にもなりました
主催側のマーダーの登場もだけど、山月記の人やウオッカさんも意外
優秀すぎて却って怪しまれる行動とってしまったか
圭一が無差別マーダー扱いされてるけど参戦時期知ってる?
太く短いを表現した大集団の半壊劇でありました

>三人寄れば三権分立
原典が短編集ならではの一発ネタですね
他の兄弟と変わらないいつものノリからの全滅
被害者がチョロ松ズでジンが加害者って事もあり、負の感情は沸かずむしろ鮮やかなブラックコメディとしての読み応えがありました


312 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/29(火) 03:01:22 d1VIHFlc0
投下乙です。
おそ松勢の使い方にいや僕もう大いに脱帽ですね。
ジンがチョロ松×3を爆殺してる絵面がもう面白いですもん。

>>310
タイトルの文字化け部分は波ダッシュになっています。ちょっと文字化け避ける方法が思いつかないんで今後は使わないようにしときますねすみません。山月記出典のエンサンも同様に今後はカタカナ表記にします。

それでは投下します。


313 : Rule of Red ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/29(火) 03:03:18 d1VIHFlc0



 これは自分への罰なのだろうか。
 1億円の詰まったカバンを膝に抱え、滝沢未奈は同行者の大場カレンがプランターやシャベルをコンバインに詰め込むのを見ていた。
 絶体絶命ゲーム。
 10人の子供が1億円を奪い合うギャンブル。
 参加する条件は4つ。
 『お金がほしくてたまらないこと』
 『親に疑われずに外泊できること』
 『ゲームに招待されたことを誰にも言わないこと』
 『命の保証がなくてもかまわないこと』
 未奈は、おそらくはそのゲームの勝者であった。
 おそらくというのは、勝利したときの記憶が曖昧だからだ。
 思い出せる範囲の中で、彼女の最後の記憶はゲームの勝者の資格を持って館を脱出しようとし、爆発のような衝撃を感じたこと。
 勝った、という自覚はないが、こうして手に現金があるのだ。つまり、他の9人を間接的にでも死に追いやり、こうして1億を手にしている。
 そして妹の由佳は心臓手術ができて助かる――はずだった。
 それが、気がつけばまた新しい命がけのゲームに巻き込まれていた。賞金はやるからまた蹴落とせ、ということだろう。

「終わりましたよ。さあ、行きましょうか。」
「わかってる。」

 カレンに横に乗り込みながら声をかけられて、コンバインを動かす。
 今回のゲーム開始直後に出会った同じ小6の少女カレンも、サバイバルウォークというゲームに参加したことがあるという。どうやら、この新たなゲームの参加者は、みな命がけのゲームに参加した子供のようだ。ということはつまり、自分や他人の命を危険に晒す度胸とそれをくぐり抜けて生き残る直感の持ち主ということである。
 未奈は度胸と直感には自信がある。だからハッキリ言える。このゲームの参加者は、みな自分よりも格上だと。
 まだらな記憶で思い出せば、あのオープニングでは瞬間移動のような踏み込みで動ける不良や刀を持った不良が何人もいた。最初の毒殺されそうになったのを助けた不良も含めて仕込みかもしれないが、あのぐらいのことができる人間がゲームに関わっていることに違いは無い。

「あら、わたくしの顔に何かついていますか?」
「別に……あたしが30分運転するから、その後アンタが運転して。」
「……クフフ、わかりました。」

 そしてカレンもまた、かなりの危険人物に思えた。
 彼女との出会いはゲーム開始から程なく。彼女が未奈が隠れていたビルのドアをショットガンでぶち破ってきて未奈がサブマシンガンを撃ち返し、そのまま銃撃戦に移行した中でのことだ。
 話してみたら、殺人に抵抗がなさそうでかつ頭が回りそうなこと、そして度胸があるから組むことにした。
 そう、大事なのは度胸だ。

「もう一回確認するけど、アンタは殺し合いには乗ってないの?」
「もちろんです。突然誘拐されて殺し合えだなんて、そんなことを真に受ける人がいますか?」


314 : Rule of Red ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/29(火) 03:04:06 d1VIHFlc0
 くつくつと笑いながらそう言い、膝の上のショットガンを撫でるカレン。彼女は最初っから今まで、ずっとこんな感じだ。常に人をバカにしたような、というか人をバカにしながら薄ら笑いを浮かべている。その笑みのまま、鍵がかかっているからと銃で壊し、撃たれたからと撃ち返し、歩くより効率的だからと盗んだコンバインで走り出させる。未奈の人生にはいないタイプの人間だ。
 だからこそ、信用できる。

「どうしました? いまさらやっぱり殺し合いに乗ります、そう言いますか。」
「そんなわけないでしょ。あたしはただ、生きて帰りたいだけよ。」
「だから、わたくしと二人で行動する。でも、あらあら、それなら、同じような考えの人を集めて集団を作ればもっと安全なのでは。」
「アンタがそれでいいなら、ね。」
「……まあ、いいでしょう。どちらでもわたくしはかまいません。」

 この殺し合いにおいて最も避けるべきもの。それは集団で動くことだ。
 あたりまえだが、一人より二人のほうができることは多いし、二人より三人、三人より四人、だ。
 だがそれは普通の状況でのこと。本質的に敵同士の人間には、当てはまらない。
 未奈はこの殺し合いには三種類の人間がいると思っている。
 一つは『対主催』。今の彼女やカレンが振る舞っているように、ゲームを良しとしないもの。前のゲームでもそういうおひとよしがいたが、結局は誰かを犠牲に生き残り、また自分を犠牲に誰かを生き残らせるしかできないタイプ。
 一つは『マーダー』。彼女やカレンがそうであるように、ゲームに乗ったもの。綺麗事を言ってもみなこれだが、だからこそ信用できるタイプ。
 そして最悪なのが『ひよりみ』。このタイプは対主催の綺麗事に乗っておきながら、いざとなればマーダーに変わる。
 さて、この三つのうち組むなら誰か、そして何人か。
 未奈の出した答えは、『対主催のように動けるマーダーと一人だけ』。
 やたらと銃や武器が配置されているこのゲームを考えれば、まず真っ先に度胸が無い人間はダメだ。一緒に行動しているところでパニックになって銃を乱射されたりしたら目も当てられない。よってひよりみもダメ。ブレる人間は敵なら予想がつかないし、味方ならもっと迷惑である。だがそういう仲間にすることがマイナスな人間かどうかは、なかなか区別がつかない。未奈は直感には自信があるが、だからといってリスクは消えない。
 だから、組むのは一人だけだ。仲間にする人数が増えるほど、リスクのある人間と一緒にならなくてはならないかもしれない。それと、数が多いと便乗する人間が増える、というのは前回のゲームでより学んだことだ。自分もグラついたことがないと言えば嘘になるのでわかるが、『ノリ』というものは人を変えてしまう。そのノリに飲まれないようにするためにも、組むのは一人だけだ。
 では、一人だけと組むとして、誰ならいいか。
 理想は対主催である。前回のゲームもそうだったように、ゲームに反対するおひとよしは頼りになるし、ほっとする。だが、だからダメだ。前回は基本的にルール無用の殺し合いでは無かったのでそれでも良かったが、今回は最後のあの時のように暴力あり殺人ありのゲーム。たぶんそれでは、生き残れない。だって最後の一人になるまで殺し合うのなら、そんなおひとよしを殺さなくてはならないのだから。
 だから組むならマーダーだ。殺しても心が痛まないとびきりのクズがいい。その点カレンは最高だ。今も仲間でなければ撃ち殺したくなるような人を馬鹿にした目線を時折送ってくる。そしてたぶん、自分よりも少し頭が良い。度胸もあるし、運動も悪くはない。あまり有能すぎたり無能すぎたりするとそれを理由に殺されるが、どれも付き合いやすいレベルだ。
 そう、二人が表向き対主催コンビとして組んでいるのはそこなのだ。


315 : Rule of Red ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/29(火) 03:04:49 d1VIHFlc0
「30分経ちましたよ。」
「わかった。」

 一度コンバインの後ろへと回り、カレンと位置を交代する。後ろに積まれた武器とスコップを縛る紐の結び目を確認して、カレンが元いたところへ腰を下ろした。
 未奈とカレンが目指しているのは、いつの間にかポケットに入っていた紙片に記されていた『命の百合』。それがどの程度入手するのが困難なのか不明なので二人は組んでいる部分もある。前回のゲームもそうだが、最後の一人になるまで戦うというルールの割に、他の参加者との協力が必要な展開も時にしてある。
 この殺し合いでもそうとは言い切れないが、しかしそれを考えずに動くのは、考えて動く人間を相手にしたときに『致命的』にまずい。
 だから、彼女はカレンと銃撃戦をしたことで組むに値すると思った。未奈がいた建物は農協で、そこに百合を植え替える鉢植えなどを求めて来たからだ。
 殺し合いを有利にさせるようなアイテムだとは思うが、花というからには鉢植えなりなんなりが必要だろう。それに妹のことを思えば、そんなリアリティの無いアイテムでも乱暴には扱えない。だから彼女は鉢植えを借りに来たのだが、そこで同じくアイテム目当てのカレンが来たために仲間にした。まさかコンバインを盗むまでやるとは思わなかったが、しかしその悪辣さも組むぶんには申し分ない。
 「鉢植えを『拾う』ならコンバインを『拾う』のもおかしくはいでしょう?」そう言ったあの笑みは当分忘れられそうにない。あれで確信した、互いに宿るシンパシーを。二人は決定的に違うが、同時に思考・スタンス・度胸において近しいモノがある。そしてそれを互いに共感している。

(問題はいつ裏切るか、だよ。)

 カレンは組むには最適だ。
 だからこそ、どのタイミングで殺しにかかるか、だ。
 お互いわかっている。これはビジネスであり、最もメリットのある形で手を切る場面を探っていると。
 問題はそれがいつか。
 アイテムが一人で手に入るとなった時か、手に入れ終わってか、他の参加者の襲撃を受けた時か、今か。
 切らないことのメリットもある。どこに切るタイミングを置くかで、背中を預けて休むことも不可能ではない。互いに眠る相手の背中を今は刺さなくても良いと思えるだけのリターンがあれば、あるいは。

ガタン!

「うわっ!」
「大きな声を出さないでください。舗装されてない道に入っただけです。」
「わ、わかってるよ!」

 落ち着け、あたし! 考えすぎるな!
 未奈はカレンにバレないように手をギュッと握った。
 今までの人生で一番頭を動かしている。妹の病床で金策を話し合う両親を見ていた時よりも、絶体絶命ゲームで爆破する館からの1億円を手にして脱出する手段を探していたときよりも。
 それは横のカレンのせいだ。
 絶対このタイプは油断できない。だからいろいろ考える。そしてそれが油断になる。
 たぶん、今のは警告だ。次に隙を見せたら、使えないと判断して殺しに来るかもしれない。だってその手には銃がある。あたしの手にも銃がある。それにほら、こんなにも血の匂いが……


316 : Rule of Red ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/29(火) 03:05:31 d1VIHFlc0
「このニオイ……」
「もう脱落者がいるようですね。」
「どうするの、ツッコむのは無理だよ。」
「たしかに、このスピードでは難しいですね。あそこに止めますよ。」
「わかった。」

 手の震えが強くなっているのはわかる。それを無視して未奈は、コンバインに積まれたマシンガンを構えた。こんな大きなものを持って歩くのは小学生では二人がかりでも無理だが、車載の武器としては使える。カレンが停車するまでそれで前方を警戒しつつ、停まると手持ちのショットガンに変えて降車した。

「折れた木が見える。あれ?」
「明らかに戦ったあとですね。」

 同じように手にショットガンを持ち、カレンも降りて答える。そしてそのまま道を歩き出して、未奈はギョッとした。

「アンタ、罠とか考えないわけ。」
「この序盤にそこまで準備を整えられるでしょうか? どちらにしても、わたくしは行きますよ。」

 相変わらず人を馬鹿にしたような微笑を浮かべてカレンは前を歩く。撃てるなら撃て、とその場にいる全ての人間に言うかのように、堂々と前へと進む。

「あたしだって。」

 恐ろしいほどの度胸だ。だから、未奈も負けていられない。カレンの横に並び、追い抜く。

「罠かもしれませんよ?」
「撃ち殺してやるわ。」

 嘲笑するような声で話しかけてくるカレンに短く返して早足で歩く。
 少しして、惨状が目に見えた。
 倒れた大きな木が誰かを押しつぶしているようだ。血の水たまりができている。近くには、三人ほどの死体。どれも未奈と同じぐらいの年齢だ。やはり、他のゲームの『リピーター』達だろうか。
 罠など気にしないかのように前へと進む。下手に勘づいていると思われれば、その瞬間に撃たれるかもしれない。だからカレンもズンズンと進んだのだろう。そう思いチラッと横を見る。いない。ちょっと一人で前に出過ぎたか。顔を前に向けたまま目を限界まで横に。まだいない。

「まさか!」

 後ろを振り返る。いない!

「やられた!」

 一気に前へとダッシュする。
 このタイミングで切られた?
 煽られて罠がないか探らされた?
 わからないが、とにかく立ち止まったり同じペースで歩いていたらまずい。罠にせよカレンにせよ襲われないようにしなくては。
 死体達が転がる一画の木の影に転がり込む。今のところ攻撃はないが、もう油断はできない。使えそうなものはショットガンと拳銃と小さなスコップだけ。
 死体が何か持ってないか、そう思い目を向ける。木に潰された死体。無理、全部ぺっちゃんこ。美少女の死体。腹が真っ赤で何も持ってない。変な服の男の子の死体。折れた刀を持ってる。あれ、動いた。あ、こっちの女の子の死体も。この二人は生きている?

「朱堂さん……あなたでしたか。」
「!……アンタねぇ……ん?」

 聞こえてきたカレンの声にビクリと体を震わせて、なんとか声を絞り出す。続けて文句を言おうとして、やめた。
 カレンの目は、木に潰された死体へと向けられていた。


317 : Rule of Red ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/29(火) 03:06:15 d1VIHFlc0



「朱堂シュン。わたくしが前回参加したゲームの参加者です。たしか、早くにお父様を亡くされて、お母様も病気で倒れられたとか。優勝して治療しようとしましたがそれもできず、こんなゲームに巻き込まれて、アッサリ死ぬとは……人生の悲哀を感じますね。」

 ザック、ザック、と音がする。
 カレンと二人で命の百合をプランターへと植え替えながら、未奈はカレンから知り合いの死体について聞いていた。

「どんな人、ですか。むずかしい質問ですね。ほとんど話したことはないので。そうですねえ、優勝候補とは言われていました。長距離走の選手らしくて、地元の記録を持っているそうですよ。」

 二人でプランターをコンバインへと載せる。次は息がある二人だ。

「たしかに、あの体力はすごいものでした。けれども、それでも負けたんですよね。ええ、負けたんですよ。リクくんって男の子に。」

 命の百合は三輪。そのうちの一輪は黄金の蜜を湛えて変わらず地面に植わっている。実験に使うためだ。
 蜜をスコップに取り、倒れている三人へと飲ませる。すると、死体に変化はなかったが生きている二人には大きな変化があった。顔の色が変わり、血の気が指す。呼気も強く確かなものへと変わった。刺激を与えてみる。さっきまでは何も動かなかったのが、ピクリと瞼が動いた。この調子ならもう直ぐ起きるだろう。一方命の百合は萎れてしまった。どうやら蜜を取ると枯れるらしい。

「……特に、なんとも思わないですね。強力なライバルだとは思いますが、そんな彼女でも銃で撃たれたら死ぬでしょうし。ああ、どうやって死んだかは興味がありますね。ここにいた誰かが殺したのか他の人間が殺したのか。聞きましょうか、彼女たちに。」

 そして、カレンは倒木に近づくと血だまりに手を伸ばした。たぶん脳みそだろう。ウネウネとした何かがぶちまけられている辺りに行き、顔の大きな欠片をスコップで取り除くと、形がキレイに残っていた首からひょいっと首輪を外して持ち上げた。

「サンプルも手に入りました。では、移動しましょうか……ああ。もしかしてですが、未奈さん、あなたも誰か助けたい人がいますか? いえ、この方たちのポケットにも同じ紙が入っていたので。こんな非現実的なものを真に受けたのか、なんらかのアイテムだと思ってのことか、案外、あなたもロマンティストのように見えて。やめておいたほうがいいですよ。願いは自分のために使ったほうがいい。他人のために行動する人はカッコイイって言われますが、こういうふうになりますよ。」

 パシャパシャパシャパシャ。
 ペットボトルに入っていた水で首輪から血を洗い流す。
 カレンがそうするのを未奈は眺めながら、コイツにも案外人間っぽいところがあるんだなと思った。


318 : Rule of Red ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/29(火) 03:06:55 d1VIHFlc0
【0230 森の中】



【滝沢未奈@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 由佳(妹)を助けるために1億円とせっかくなら命の百合を持ち帰る
●中目標
 カレンを利用する
●小目標
 二人(タイガとメイ子)が目覚めるのを待つ

【大場カレン@生き残りゲーム ラストサバイバル つかまってはいけないサバイバル鬼ごっこ(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 バトル・ロワイアルを優勝する
●中目標
 未奈を利用する
●小目標
 二人(タイガとメイ子)が目覚めるのを待つ

【藤山タイガ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 主催者をぶちのめして生き残る

【玉野メイ子@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 まず死にたくない、話はそれから


319 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/06/29(火) 03:10:35 d1VIHFlc0
投下終了です。
50話近くなってたしか初となる「同原作キャラの死体を発見」展開やれて良かったです。


320 : 名無しさん :2021/07/01(木) 16:57:21 xaOMOHOE0
乙です
未奈の思考がステルスながら共感できるもので姉として生きる必死さに惹きつられます
カレンも憎らしい態度と強引な合理性を見せながらも、不快のないひたむきさが感じられラストの独白にホロリとさせられました
聞きましょうか��の台詞に強い情念が感じられて、もう……
タイガとメイ子の命運も含め続きが気になるさり気ない首輪回収話でした


321 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/04(日) 21:21:56 04LxzZeQ0
皆様日頃は児童文庫ロワイヤルにご参加いただきありがとうございます。
企画スタートから半年で45話の投下に70作品より174名参戦と、おかげさまでリレー企画として軌道に乗ることができました。あらためましてありがとうございます。
この度は児童文庫ロワの今後の方向性について皆様から意見を募りたいと思います。

議題は、「従来のネタスレ路線で行くか本格的なパロロワ路線で行くか」です。

この半年間の俺ロワ・トキワ荘の動きを見るに、「コンペ終了後に企画が急速に停滞する」こと、「企画の停滞が急速であればあるほどより企画への継続した投下が見込めなくなる」こと、「企画ごとに特定原作のコンペへの投下が見られそれが企画を勢いづかせる」こと、この三点が特徴であると思います。
児童文庫ロワではこの三点に対して、「コンペ(当企画では擬似的な全通し)と本編を同時に進める」こと、「企画途中から参加された書き手の方が結構増えていた」こと、「児童文庫というパロロワ民が私しか把握していない界隈の縛りがあるので特定原作の急速な投下をできる人が私しかいない」こと、この三点により他企画とは違った企画の勢いの付き方になったのだと思います。
問題はこれからの企画の方向性です。このまま全通しを継続して従来のネタスレ路線で行くのか、これ以上の出典原作を控えて本格的なパロロワ路線で行くのか、どちらかを第一回放送前に決めたいです。
従来のネタスレ路線から本格的なパロロワ路線に変更した場合、以下のような影響があると考えています。

●メリット
 把握する原作数がこれ以上増えない
 参戦済みの原作からまだ未参戦の主要キャラの参戦が見込める

●デメリット
 新しい原作を出せない、一部投下が無効(※)
 出落ちやズガン、顔見せや布教目当ての投下がしにくくなる
 (※)無効になるのは企画主の投下でかつリレーが行われていないものからになりますので、当企画に参加された方の投下が無効になることはありません。投下が無効になることで参戦が取り消される原作は以下9作品を予定しています。

●怪盗レッド
 当企画での参戦状況並びに他パロロワ企画のコンペ状況を見るに把握されている方が確認できないため。
 シリーズ巻数が多く把握が容易でないため。

●FC6年1組
●サキヨミ!
●未完成コンビ
 当企画での参戦状況並びに他パロロワ企画のコンペ状況を見るに把握されている方が確認できないため。
 予想される出典キャラでマーダーを期待できるキャラが現在の企画の状況において少ないため。

●ラッキーチャーム
 当企画での参戦状況並びに他パロロワ企画のコンペ状況を見るに把握されている方が確認できないため。
 刊行が古く再販も暫くされておらず、把握する手段が乏しいため。

●炎炎ノ消防隊
●セーラー服と機関銃
●パズドラクロス
●ふなっしーの大冒険
 当企画での参戦状況並びに他パロロワ企画のコンペ状況を見るに把握されている方が確認できないため。
 把握されていない作品という条件ならばノベライズ作品よりもオリジナル作品を出したいため。

なお、代わりに参戦を予定しているのは以下となります。参戦状況を見ていずれかの作品から出そうと思いますが、できるのならば他の方に書いてほしいのでもちろんここにない原作からの参戦もお待ちしております。

●オリジナル(1作)
 未定

●ノベライズ(1作)
 角川つばさ文庫
  アナと雪の女王
  ヴァンガード
  おおかみこどもの雨と雪
  逆転裁判
  こばと。
  サマーウォーズ
  鹿の王
  ナルニア国物語
  バケモノの子
  ピーターラビット
  未来のミライ
  妖怪大戦争ガーディアンズ
  竜とそばかすの姫
 講談社青い鳥文庫
  カッコウの許嫁
  JSのトリセツ
  地獄少女
  セーラームーン
  DAYS
  はいからさんが通る
  秘密のチャイハロ
  都会のトム&ソーヤ
 集英社みらい文庫
  キングダム
  地獄先生ぬーべー
  デジモンアドベンチャー
  ニセコイ
  BLEACH
  僕のヒーローアカデミア
  るろうに剣心
 小学館ジュニア文庫
  アナと雪の女王
  境界のRINNE
  今日から俺は!!
  12歳。
  ないしょのつぼみ
  MAJOR 2nd
  リアル鬼ごっこ
  レイトン教授
 双葉社ジュニア文庫
  王様ゲーム
 フォア文庫
  弱虫ペダル
 PHPジュニアノベル
  青鬼

皆様のご意見お待ちしております。


322 : ◆NIKUcB1AGw :2021/07/05(月) 00:27:01 V0zstsuA0
自分は従来の路線を継続することを指示します
現状は他のロワにない独自の空気で書きやすいというのと、
内容に問題があるわけではないのにせっかく投下された作品を無効にしてしまうのは心苦しいというのが理由です
自分の把握はノベライズ作品に偏っているのであまり戦力にはなれませんが、
多少なりとも参考にしていただければと思います


323 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/06(火) 00:15:52 zTPoODOM0
ありがとうございます。
一人の意見で決定するわけではありませんが、やはり具体的に言われるとこのままの路線が良いように思えてきますね。
まだ第一回放送まで間がありますが、ひとまずそれまでの間はネタスレ路線で突っ走ろうと思います。


324 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/16(金) 00:34:37 2DRtcRpw0
都会のトムソーヤ映画化&怪盗クイーンアニメ化ではやみねかおる先生ブームの予感ですが残念ながらどちらも未把握なんで私はロワに出せません。無念です。
ちなみに怪盗クイーンの方は二次二次聖杯さんに登場話があるんでオススメです。
コナン君にオジサン呼ばわりされるクイーンオジサン好き。
投下します。


325 : 伝説の少女の伝説 ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/16(金) 00:38:20 2DRtcRpw0



「木も、草も、虫も、みんな死んでいる……生きている生き物がいない……」

 これが地獄なんだろうか。
 自分に与えられた罰なのだろうか。
 幹太郎は、命の息吹感じられぬ赤い空と霧の中で、ぼんやりとしながら木の幹に背を預けていた。
 果南島というリゾート地にある喫茶店『やまびこ』の主人、それが彼の表の顔だった。
 だがその正体は、自然を破壊しておいて建設されたテーマパークを楽しむ人間たちを次々と攫う、連続行方不明事件の犯人である。
 最後には、彼が泳ぎを教えた少女によって自らの過ちに気づき、人々を開放して島から離れ――そして今に至る。

 戦いで消耗した身体は治り、体力は十全である。だが、一歩も動く気になれない。自然を愛する彼にこの殺し合いの環境は極めて居心地が悪いのもあるが、それ以上に。島から離れ故郷に戻り、そんな自分を連れてきたあの白いウサギ。彼が自分に何を期待しているのかがわかったからだ。
 ちらりと近くのコテージのテーブルを見る。そこに置かれているのは、彼が嫌う人間の象徴のような大きな銃。これを使って人々を害して回れというのだろう。果南島でそうしたように。いや、もっと直接的に。

「……そうだよな、やりかねないよな。」

 視線を遠くから近くへと、傍らに投げ捨てられた拳銃へと向ける。それはあのコテージを後にしたときに持ってきてしまった物だ。
 前の時は幸いにして死者は出なかった。だが、それはたまたまだ。あの時少女が、ルナが間に合わなければ、今ごろ彼らは人間の形をしていなかっただろう。
 そしてもし、この場で自然を汚すような、それでいて人を殺すような人間を見れば、幹太郎はこの拳銃を使わない自身がない。

「……」

 ためしに、拳銃を手に取り自分のこめかみに当ててみる。さすがの自分でも、引鉄を引けば確実に死ぬだろう。常人離れした身体能力を持つとはいえ、頭を撃ち抜かれれば。あるいは、銃弾が頭蓋骨を跳ねまわって一命を取り留めるようなケースもあると聞いたことがあるが、そんな奇跡は自分には起こらないだろう。それにいっそ、死ねばこの悪い夢から覚めるかもしれない。変な首輪を着けて殺し合いだなんて、馬鹿げている。夢なら死ねば覚めるし、夢でなくても、あの子の思いを汚すようなことをして死ぬよりかは何倍もマシかもしれない。

「ダメええぇぇぇっ!」
「うわっ!」

 バアン!

 突然聞こえた少女の悲鳴に反射的に引鉄を引いてしまう。
 咄嗟に頭を逸らすと、今まであった場所を銃弾が通り抜ける。
 パリンとコテージの窓が割れる。どうやら流れ弾で割ってしまったようだ。

「君、は?」

 走り寄って来る少女に、なんとか声を絞り出して呼びかける。
 冗談で拳銃自殺しようとして、それを本気で止めようとした少女の声で危うく死にかける。
 幹太郎と少女、水沢巴世里の出会いはそんなものだった。


326 : 伝説の少女の伝説 ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/16(金) 00:46:00 2DRtcRpw0



「美味しい!」
「ハハッ、喜んでもらえてよかったよ。これで少しは、さっきのお礼ができたかな。」
「あう、さっきは、勘違いしてごめんなさい。」
「気にしないで、紛らわしいことしたのはオレだし。」

 ココアの入ったマグカップを顔の前で両手で抱えたパセリに、幹太郎は歯を見せて笑いかけた。
 コテージは飲食店として使われていたのだろう、専門的な家電と一通りの食材が揃っていた。情報交換をする場としては悪くない。特に、喫茶店の主人だった幹太郎にとっては。

「それで――パセリちゃんは殺し合いに乗ってるの?」
「プッ、ゴホ、ゴホ!」
「ま、ノッてたらオレの入れたココアは飲んでないか! ハハハッ!」
「か、幹太郎さん!」
「ゴメンゴメン。でも、気をつけた方がいい。オレがノッてたら、そのココアに毒を入れててもおかしくはなかったんだ。これからはもっと気をつけた方がいい。」

 むぅ、と難しい顔をしてココアに口をつけるパセリを見て、幹太郎は笑いながら内心思った。今のこの時は、あの時のようだと。
 幹太郎の秘密を暴いた少女、ルナ。彼女は小学六年生というパセリよりも3・4歳ほど幼かったと思うが、同じように弾ける笑顔で人の悪性というものを感じさせない少女だった。ああいう人間ばかりならば、幹太郎もあんな凶行は行わなかったのではないか、そんなふうに今からなら振り返られる程度には。

 ガタン。

 パセリがテーブルに突っ伏す。
 すぅすぅと小さな寝息を立てていた。

「やっと、眠ったか。」

 もっとも、あの時も今のように飲み物に混ぜ物をして昏睡させたのだが。

「さて、君にはしばらく眠っていてもらうよ。」

 幹太郎は女子小学生を昏睡させることに関しては一日の長がある。
 普段ならオリジナルメニューに盛ることで匂いや味をごまかすが、殺し合いの場で自殺しようとした人間を助けるような心優しい少女だ。彼女ならばなんの疑いもなく飲むと信じていた。とはいえ、疑われればすぐにバラしてもう一つ作っておいた何も入れていないココアを差し出す気ではあったが。
 幹太郎がパセリを昏睡させたのは、そこだ。
 彼女は殺し合いの場にいるには優しすぎる、純粋すぎる。多くの普通の汚い人間と違って、太陽に向かって顔を上げるヒマワリのような、そんな愛と力を感じる。
 そんな彼女を、こんな死の世界で咲かせてはいけない。パセリはこんな奈落で咲く花ではないのだ。
 だから、花を守る大樹が必要だ。

「葉や枝が焼ける臭い……だんだん近づいているな。」

 パセリをそっとソファへと運びブランケットを掛けると、幹太郎は両手にアサルトライフルを持ってコテージを出る。
 幹太郎の自然への感覚が、赤い霧に阻まれながらも近くでの戦闘を嗅ぎつけていた。どんな相手かまではわからないが、パセリに近づけるわけにも知らせるわけにもいかない。きっと彼女は止めようとして無茶をしてしまうから。
 幹太郎は森の中へと走り出す。その目は既に人ならざるものの目になっていた。


327 : 伝説の少女の伝説 ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/16(金) 00:57:58 2DRtcRpw0



(! どんどん街の方に!)
「どうしたどうした! 威勢がいいのは最初だけかよお!」

 森羅日下部とかまちの戦闘は、かまちの優位で進んでいた。
 森を焼かないためにも最小限の炎を纏わせての肉弾戦を行う森羅は、得意の高速移動も火炎放射もほぼ封じている。
 一方のかまちはお構いなしにかまいたちにより木々を切り、倒し、なんなら森羅の炎を焚きつけて森を燃やそうとする。
 機動力の面で大幅に優位をとってはいるが、それは風の三次元的な攻撃によって帳消しになっていた。

(コイツは最初のアレからほとんど火を使おうとしねえ。山火事を避けてんのか? だったら街に行けば――)

 ひときわ強いかまいたちを放つ。それを森羅が瞬間的な炎の噴射によるダッシュで避けたのを確認して、距離を詰められないよう新たなかまいたちを発しながら街へと向かう。かまち自身も体力の消耗を感じながらも、だからこそイニシアティブを取り続けていた。
 お互い、互いが疲れていることはよくわかっている。既に何度か小休止を挟みつつ、二人は三十分以上に渡って戦闘を続けている。いつ均衡が崩れてもおかしくない。

(この感じ……! 誰だ!)
(あれは……妖怪、か?)
(……? どこ見てんだアイツ? アレは、コテージか。)

 先に好機を見つけたのは、かまちだった。
 妖怪としての感覚は、二人の戦闘に気づき迫る幹太郎をいち早く捉えた。
 一方、殺すべき敵の姿を幹太郎が捉えたのもほぼ同時だった。一人は足から炎を出して飛び回る妖怪、もう一人は風の刃で草木を切り刻む妖怪、という認識だ。
 そして森羅だけは別のものを見ていた。パセリが眠るコテージ。近くに迫る者よりも、近づけたくない人里への警戒が上回った。

「これ以上はヤバい!」

 森羅が控えていた炎による飛翔を行う。出し惜しみしても状況は好転しない。

(アイツを使えるか……!?)

 かまちは小さいかまいたちを放ちつつ、最大級のかまいたちを発するために力を蓄える。森羅を狙うか、自分の周りに風の鎧を作るか、あるいは。

(先に撃つのは――)

 幹太郎は両手のアサルトライフルをそれぞれへと向けながら考える。たぶん自分ではこれは当たらないが撃ってしまおうか。それとも、どちらかを両手で構えて狙おうか。

「お、開いてんじゃーん!」
「開けたんだよなあ……おじゃましまーす。」

 そしてコテージでは幹太郎たちとは全く無関係な来訪者が現れる。
 鍵が掛かってないのをラッキーと思いズカズカと中に入るのは、桜清太郎。
 気弱な声で続いて入ってきた帯刀した少年は、西宮アキト。
 二人はそれぞれ幹太郎がいたのとは森の中にほっぽりだされ、小一時間遭難したところで出会い、ようやく人里に降りてきたところだ。

「殺し合いとかよくわかんないけどとりあえず警察呼ぼうぜ。」
「警察は、意味あるのかな……こんな状況で……」
「でもじゃあどうしょうもないし……あ、人いた、ってパセリじゃん。」
「君の知り合い?」
「うん、僕の親戚。転校してきたんだ。」
「へー。眠ってるね。」
「東京から来たからな。図太いんだ。」

 そしてパセリは眠り続ける。
 彼女の人ならざる力に気づく人間はこの場におらず、ただその身に刻まれた星の印が青く顕れる。
 二つの場所を舞台に、戦闘と非戦闘が同時進行しはじめた。


328 : 伝説の少女の伝説 ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/16(金) 01:08:21 2DRtcRpw0



【0130頃 森への入り口】

【幹太郎@妖界ナビ・ルナ(3) 黒い森の迷路(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 自然とルナのような優しい人間を守る
●中目標
 自然を汚す人間を、殺す?
●小目標
 戦っている二人を襲う

【水沢巴世里@パセリ伝説 水の国の少女 memory(1)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 ???

【かまち@妖界ナビ・ルナ(1) 解かれた封印(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 ぶっ殺す!
●小目標
 森羅を食う

【森羅日下部@炎炎ノ消防隊 悪魔的ヒーロー登場(炎炎ノ消防隊シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 一人でも多くの人を助ける
●小目標
 もう一度人里から戦闘を引き離す

【桜清太郎@パセリ伝説 水の国の少女 memory(1)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●小目標
 なんかよくわかんないけどパセリ守んないとまずいし警察とかに通報する

【西宮アキト@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 EDFとして主催者を打倒して生き残る
●小目標
 戦う力のない人を保護する


329 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/16(金) 01:14:09 2DRtcRpw0
投下終了です。

本日鬼滅の刃遊郭潜入編が発売されたので鬼滅の刃からの参戦可能キャラを更新します。
○竈門炭治郎○嘴平伊之助○栗花落カナヲ○冨岡義勇○胡蝶しのぶ○煉獄杏寿郎○不死川実弥○宇髄天元○甘露寺蜜璃○悲鳴嶼行冥○時透無一郎○伊黒小芭内○珠世○愈史郎○錆兎○真菰○産屋敷耀哉○堕姫
18


330 : 名無しさん :2021/07/16(金) 13:12:28 yB9ReWzQ0
乙です!
これまた尖った性格ですね幹太郎
薬飲ましたと知られたら弁解が大変ですぞ
超常系とはいえ陽性の和みキャラ、寝ながら殺されないのを祈ります
幹太郎もズレたいいひとっぽいのが騒動を起こしそうで変な笑いが出そうな緊張感がありました
そして清太郎君には是非警察への通報にチャレンジしていただきたい
戦闘と非戦闘との同時進行というワードがいい感じの戦闘の幕間でした


331 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/30(金) 06:18:28 8jMmg9Tk0
聖杯コンペ全落ちしたので自分の企画に投下します。


332 : 星と月と太陽と ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/30(金) 06:19:31 8jMmg9Tk0



 住宅地の中心部からから1キロほどの所に、港がある。そこを駆ける竈門炭治郎からするとかなり近代的な、さりとて令和の人間からするとありふれたものだが、その沖合に停泊している船はなかなか見慣れないものだろう。
 岸壁に泊まる漁船やフェリーとは明らかにサイズが違う豪華客船。
 東京でも見たことのない巨大な建築物に見えるそれが、海の上に浮かんでいた。
 もちろん、単に珍しいものを見たからという理由で炭治郎は人間離れしたスピードで駆け寄っているわけではない。彼は人を食らう鬼から人々を守る鬼殺隊の隊士。まだ子供とも呼べるような年頃ではあるが、人並み以上に状況は弁えている。
 むしろ今の状況がそれを端的に示しているといえる。つい数十秒前には、謎のウサギのような鬼に殺し合えと言われ、目の前でまた那須蜘蛛山で累に切り刻まれた剣士が死ぬのを目の当たりにし、それがどういうわけか助けられ、善逸達鬼殺隊や他の武芸に長けていそうな人ともにウサギ鬼に切りかかっている。その判断の早さで、炭治郎は一刻も早くあの豪華客船に行かねばならないと決めた。

「櫂が無い、これ、発動機か? うわっ!」

 「すみません、借ります。」口に出してそういうが早いか、炭治郎が目をつけた小舟は海を走り出す。慌てて飛び乗り見慣れぬ機械を弄ってみれば動き出してしまった以上、とっさに止めることなどできるはずもなく、これまた慌てて係留していた綱を帯刀していた日輪刀で断ち切る。
 四苦八苦しながらなんとか船の向きの変え方だけでも当たりをつけて、湾の外に鎮座する巨船へと向かう。炭治郎が知るものより遥かに早い舟だがしかし、その表情は焦りに満ちたものだった。

「この禍々しい匂い……なんで……!」

「なんで、上弦の陸が……!」

 自分たちが先日倒した、人食い鬼の中でもとりわけ強い十二鬼月が一鬼、上弦の陸・堕姫。
 百年を越す長きに渡って数多の人を食い、鬼殺隊の最高戦力たる柱の一人である音柱・宇髄天元を再起不能にまで追い込んだその匂いが、あの豪華客船の方向から流れてきているのだ。
 炭治郎の嗅覚は超人的と言うのにはばからないレベルの感度を持つ。特に鬼のような人ならざる悪意を持つ存在の匂いは、この霧の中であっても確かに感じ取ることができた。
 だからこそ、炭治郎は焦る。あれだけ苦労と犠牲を払って倒した上弦の陸が生き返った。鬼は倒せば塵も残さず消滅する都合残り香のようなものはほとんど残らないため、匂いの強さから生き返ったとしか判断しようがない。ではどうやって生き返ったか。そんなことができるのは彼が知る限り一人だけだ。
 鬼舞辻無惨。千年の惨劇の原因であり、鬼の首魁。無惨ならば、というか無惨でもなければ死んだ鬼を蘇らせるなど不可能だろう。
 であれば、この殺し合いすらも無惨の行いである可能性が高い。空や霧の異様な赤さも、鬼の血鬼術によるものと考えれば不可能とは言えない。あらためて炭治郎は自分が倒そうとしている存在の強大さを魂まで刻みつけられる思いだが、だとしても船を目指す。なぜなら、船に近づくにつれて鬼とは違う人間の匂いを感じだしたからだ。

「こんなに大きいのか! どこかにハシゴか何か……!」


333 : 星と月と太陽と ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/30(金) 06:19:55 8jMmg9Tk0

 船からしてきたのはもう二つの匂い。
 一つは彼より少し若い少年の匂い。太陽を感じさせる活発で元気なものを感じるが、彼が警戒するのはもう一つの匂い。
 鬼とはまた違う、だが圧倒的な畏ろしさ、それを感じずにはいられない匂いだ。確実に人間ではない。しかし同時に、やさしい匂いでもある。嗅いだことのない匂いだ。
 これだけ大きい船ならば彼らたちが鬼に見つかるまでに時間はあるだろうが、だからと言って猶予は無い。匂いに気づいてから港に行き、船に乗り、操作の勘を掴み、沖へと向かう。既にこれまで十分は時間が経っている。それだけあればもういつ見つかってもおかしくない。
 なのに、炭治郎は船へと辿り着けない。小舟からは岸壁のようにも見える船の巨体は、よじ登れるような場所が無い。いかに鬼殺隊と言えど、つるりとした外装を数十メートルに渡ってボルダリングするのは不可能だ。
 目の前に見えているのに、踏み込む手段が無い。こうしている間にも一秒毎に鬼の危険は増しているのに何もできない。匂いはかなり近づいているし、いっそのこと叫んでこちらに気づいてもらいハシゴでも下ろしてもらうか、そう考えるも直ぐに鬼が近くにいるのに危険過ぎると思い直す。だがやはり、炭治郎一人ではこの状況はいかんともしがたい。徐々に顔に焦りが見えていく。その時。

「おーい! そこの人! だいじょうぶか!」
「気づいてくれた!」

 幸運にも少年の方からこちらに気づいてもらえ、不幸にも叫び声を上げられた。
 船の上と下で意思疎通するには大声を出さなくてはならないがこれでは確実に鬼に気づかれる、もとい気づかれた。こうなったらやることは一つ、一刻も早く、船上に登ることだ。

「乗せてくれないか、綱かなにか投げてほしい!」
「ダメだ! 中に化物がいる! アンタの舟に乗せてほしい!」

 もう戦っているのか、と炭治郎は更に焦る。鬼から逃げられて今話しているということは、おそらく、もう一人の匂いの方が鬼と戦っている。畏ろしい人だとは思うが助けに行かなくては。

「わかった! 俺は竈門炭治郎! 君は!」
「日向太陽! くそっ、外し方がわからない! うおおっ、ガッツ!」
「なんでもいい、縄を投げてくれ! 俺が上がってなんとかする!」
「縄なんてないぞ! あ、あった! 電源コードでいいか!」
「よくわからないけどそれを!」

 シュルシュルと黒い縄のようなものが降りてくる。それは彼の時代には無いリール式の電源コードだ。もちろん人一人がぶら下がれるような耐久性は無いが背に腹は変えられない。太陽が上から結んだと叫んだのを聞くと、二三度引っ張りなんとかなりそうだと信じて、一気に駆け上がる。

「マジかよ!」

 優にビル数階分はある壁面を、炭治郎は上へと駆ける。コードが切れるまでの間に登り切る以外に道はない。そんな無茶苦茶な解決方法で上がってくる炭治郎に上から驚きの声がかかるが、本人にはより一層焦りの色が顔に濃く浮かんでいく。
 まずい、そう思ったときにはコードから嫌な感触がした。何かが切れた。たぶん、あと二三回で千切れる。ゴールは見えているのに、あと少しが足りない。

「手を伸ばせ!」

 声と共に手が差し出されるのと、コードがブチリという音と共に抵抗が無くなるのと、炭治郎が手を伸ばしたのは同時だった。

「うおおおおおっ! ガッツ!」

 太陽の叫びと共に、跳躍と重力で一瞬の浮遊状態にある炭治郎の体が僅かに上へと引き上げられる。本来ならばあと数センチ届かなかったであろう炭治郎の手が、縁へと届く。指先だけであっても『呼吸』による超人的な握力があれば、体を引き上げることができるのだ。

「ありがとう! 君はこの小舟で陸へ!」
「あ、待っ――早っ!?」


334 : 星と月と太陽と ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/30(金) 06:20:24 8jMmg9Tk0

 体勢を空中で整えながらそう言うが早いか、近くにあった小舟の拘束を斬る。乱暴なやり方で小舟は海面へ叩きつけられるも、なんとか舟の形は保っていた。
 炭治郎は太陽を抱えると繋がっているロープを隊服で手を保護して滑り降りる。そしてさっきのようにロープで駆け上がると拘束をそうしたように叩き斬った。これで舟はここから離れられる。発動機のようなものもあったので最低限なんとかなるだろう。
 あまりの早さに状況が飲み込めない太陽を置いて炭治郎は船内を駆けた。申し訳ないが、彼に事情を話している暇はない。こうして駆けている間にも、どんどん禍々しい匂いが増している。血鬼術を使っているのだろう、本気で殺しにかかっている。そしてということは、相手はそれと戦えるほどの強さを持っているということ。どちらも一瞬も気を抜けない相手だ。

「下かっ!」

 室内というよりは建物内とでも言うべき船内に入る。走るうちに辿った匂いは、非常識に大きな階段から漂ってきている。転がり落ちるように駆けてなお数十メートル走ったところで、炭治郎の視界を帯が覆った。

 ――水の呼吸 肆ノ型・打ち潮

 炭治郎は大きく飛ぶと数度に渡って刀を振るった。かつて斬ったときよりも幾分か手応えが無い。自分に向けてはなったものではないのだろう。それを示すように、鬼とは違う何かの匂いも強まっている。すぐ近くに、いる。
 そして炭治郎は見つけた。

「やっぱり、あのときの。」
「アンタは、さっきの……!」
「……!」

 そこには二人の少女がいた。
 一人は上弦の陸・堕姫。
 いまだ本気を出していないのだろう、花魁の装束のまま、服の裾や袖から帯が伸びている。一見すれば人間にしか見えないが、その目には人間ではありえない『陸』という漢字。
 そしてもう一人の少女。こちらはモガなのか洋装で銀の髪を一つ結びにしている。だが何よりも異様なのは、やはり目。真っ赤な目に、黒い渦が巻いている。その目と合ったとき、炭治郎は心臓を掴まれたような感覚を覚えた。なにか自分の中の奥深くの部分で、その少女に近づくことを躊躇うような、そんな畏れがある。

(――瞳の文字が、『陸』だけ?)
「まずい! もう一人いる!」

 判断が遅れた。
 上弦の陸は、二人で一人の鬼。ふだんは体内に兄の妓夫太郎が潜む、というところまでは炭治郎の知るところではないが、だが一度戦っているのにその存在を半ば忘れていたのは致命的な失念だった。

 ――血鬼術・八重帯斬り
 ――血鬼術・飛び血鎌

 前方から八本の帯の斬撃が迫る。点でも線でもなく、面の攻撃。
 そして後方からも、斬撃の感覚。僅かな時間差を持って放たれる、毒の血の刃だ。
 躱す? 無理だ、攻撃は空間を埋めている。
 防ぐ? 無理だ、受けれるのは一つ、捌けるのは二つ、対して攻撃は二十以上。押し切られる。
 迫る死に流れる景色が遅くなる。遅くなった視界で、帯よりも速く動く影がある。月の銀、いや、むしろ陽の光を返して輝く金の、光の帯が、堕姫の血鬼術の帯を縫って炭治郎に迫る。
 炭治郎は反射的に振るいかけた刀を止めた。
 光は炭治郎を抱きかかえると、床を壁を、天井を跳ねまわった。
 帯よりも、鎌よりも、なお早い、のだろう。自分では出すことが想像すらできない速度で、自分を抱えた少女は駆け回る。時間にしてはほんの数秒もなかったはずなのに、気がつけば炭治郎は赤い空の下にいた。甲板に出たのだ。


335 : 星と月と太陽と ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/30(金) 06:20:56 8jMmg9Tk0

「はぁ、はぁ、きゅ、急急如律令……!」

 少女は荒い息でそう言った。どこからか御札が出てきて、少女と炭治郎の首輪へと貼り付いていく。よく見たら彼女の首輪は、いくつもの罅と一つの大きな亀裂が入っていた。
 ミシリ。
 音が聞こえた。首からだ。ハッと手をやる。炭治郎の指先が、ツルリとした首輪に走った引っかかりを捉えた。

「触らないで、首輪が動いてしまうかもしれない。」
「あ、ごめんなさい。俺、竈門炭治郎です。さっきはありがとうございます。えっと……鬼、じゃないですよね?」
「……あの鬼のことを知ってるんですか?」
「はい。その……」

 一瞬言い淀む。が、鬼について問いかけた少女の遠慮したような顔に思い直す。お互い人に言えない事情はあるのだろうが、今はそんなことを言っている場合ではないし、助けられた身で隠し事はできない。

「日の光を当てるか、日輪刀という刀で首を撥ねない限り死なない、人食いの鬼です。あの鬼は二人の首を同時に撥ねないと死にません。さっきあなたが戦っていたのが帯を伸ばしてくる鬼で、もう一人が毒の血を飛ばしてくる鬼です。」
「日の光……だから、建物を壊さないように戦ってたんだ。」
「つまり、あの二人は今が昼だと思ってるんですね。」
「わたしたち、ずっとこの中で戦ってたんで、たぶんそうです。あ、わたし、竜堂ルナって言います。えっと、それでなんで空が赤いんですか? あの、それと殺し合いって……」
「ごめんなさい、俺もわからなくて。竜堂さんは早く逃げてください。それと、もし同じような服を着た人を見たら、ここのことを伝えてください、お願いします!」
「待って!」

 駆け出そうとした炭治郎の肩を少女が掴む。その力に、炭治郎は戦慄した。微塵も肩が動かせない。柱に拘束された時とは違う、技ではなく単純な力でここまで動かないものとは。

「その……巻き込みたくはないんですけれど、わたしだけでも、たぶん、炭治郎さんだけでもやられちゃいます。」
「それは。」

 そうだ、としか言いようがない。堕姫一人に太刀打ちするのがやっとだった炭治郎に、二人を倒せる算段などない。何分持つか、という話になる。
 だが、鬼殺隊である自分が無関係な人を巻き込むわけにはいかない。
 が、明らかに炭治郎より強そうな少女抜きで戦っても負けるだけで、負ければ今が昼でないことが確かめられ、そうしたらさっきのような手加減した攻撃では無くなり、もし少女が追いつかれれば今度は殺されなかねない。

「わかりました。お願いします。」

 ので、炭治郎は承諾した。

「巻き込んでごめんなさい。竜堂さん、俺が血鎌の鬼と戦います。帯の鬼をお願いします。」
「こちらこそ、巻き込んでごめんなさい。あの、帯の鬼の方が弱いみたいなんでそっちをお願いできますか?」
「あ、はい。」


336 : 星と月と太陽と ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/30(金) 06:21:28 8jMmg9Tk0



「待て、追うな。」
「お兄ちゃん! なんで!」
「さっきまであんなに早くなかった。あれなら首輪が持たねえで死ぬ。それに、他の鬼殺隊がいるかもしれねえ。」

 堕姫から密かに別れて完璧な奇襲をかけたはずが凌がれた。そのことは上弦の陸・妓夫太郎を安全策へと導いた。
 妓夫太郎と堕姫は二人で一人の鬼。彼らは百年を越す年月を吉原の遊郭に巣食い、合わせて二十を越す柱を食らった、十二鬼月が一人だ。
 その十二鬼月たる自分たちがなぜこんな殺し合いに巻き込まれているのか。思い当たる節は一つだけ。鬼殺隊に討たれた、それだ。
 ついさっきのような感覚がある。自分の頸が落とされ、妹と共に灰燼へとなっていく。死に瀕して妹と罵り合い、自らを殺した男に諭され、そして最後に、妹を背負い地獄へと歩んでいく、そうだった。
 それが気がつけば、変な首輪を着けられた妹の体内で殺し合いの知らせを聞いていた。惚けているうちに鬼殺隊共は変なウサギの鬼に斬りかかっていて、また気がつけばこの建物の中だ。
 何が起こったかわからない。混乱する妓夫太郎だが、自分よりも混乱している妹を見て冷静になれた。
 なるほど、ここは地獄だ。
 地獄は八つに別れているという。
 別に神も仏もまるで信じてはいないが、吉原と言う場所柄その手の知識も少しはかじっている。ここはあれだ、八つのうちの一番浅い地獄、等括地獄と言うやつだろう。なんでも地獄の亡者は手に武器を取らされて互いに殺し合わされるという。ならあのウサギに鬼の角が生えているのも頷ける。

 なら、やることは一つだ。

 いつもどうり、奪われる前に奪い、殺される前に殺す。吉原の掟ではなく、地獄の掟だ、ここではこれが正常、妓夫太郎と堕姫のあり方を肯定してくれる。
 そう思うと、なんだ、何も変わっていないじゃないか。
 その答えを見出したとき、妓夫太郎は堕姫の中で哂っていた。その笑い声に更に混乱する堕姫を宥めながらも、なお、哂っていた。

「いっぺん死んだぐらいで生き方なんて変えらんねぇ。そうだよなぁ、そりゃあそうだ。」
「お兄ちゃん、どうするの?」
「今のうちに昼か夜か確かめてくる。アイツらは任せた。戻ってくるまで時間を稼げ。」

 そう言うと妓夫太郎は走り出した。
 堕姫も、花魁の擬態を解き本来の姿に変わる。相手は一度自分を殺した相手に、鬼よりも速い化物。加えて少しの間兄の助けを得られない。遊びは終わりだ、本気で殺す。

「……こういうのも、いいかもねえ。」

 ふと、床に転がる銃を手に取る。
 鬼である自分には関係ないが、人間である鬼殺隊を殺すのならこれで十分だろう。
 試し撃ちしてみる。
 対戦車ライフルは近くにあったデカい石像を上と下の二つにバラシながらいくつかの調度品を貫通して壁に突き刺さった。

「ふーん、悪くないじゃん。」

 四つの帯にそれぞれ銃を持ち、堕姫は歩き出す。
 鬼に金棒ならぬ、鬼にアサルトライフルと対戦車ライフルとヘビーマシンガンとサブマシンガン。
 殺意の塊のような有様で花魁道中が始まった。


337 : 星と月と太陽と ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/30(金) 06:21:56 8jMmg9Tk0



「やれやれ、だぜ……」

 その光景を見て、思わず空条承太郎はポケットに手を伸ばしてタバコを咥えていた。
 状況が状況なので火はつけないが、思わず一服したい光景がそこにはある。
 女の子がほうきで空を飛んでいる。
 女の子がほうきで空を飛んでいる。
 女の子がほうきで空を飛んでいる。
 三回言っても現実は変わらない。
 よくスタープラチナで見たらほうきではなくファンシーな杖だったが、喫煙欲が増すだけだ。
 どこかの私立小学校らしき制服を着た少女が、杖で空を飛んでいる。ほぼ真上を飛んだおかげでこの濃霧の中でも見えたが、まさかこんな形で他の参加者と出会うとはさすがの承太郎も思わなかった。これならさっきの出っ歯野郎の方がまだ常識的だ。
 冷や汗が一筋流れながらも、承太郎は歩く向きを変える。あれを放っておくわけにはいかない。一般にスタンドは空を飛べるようなものは少ない。世界を探せば無いわけではもちろんなかろうが、彼が思いあたる中では強力なスタンド使いが多い。それに単純にこういう場で子供を見殺しにするのも自分の心に良くないものを残す。

「《スタープラチナ》!」

 承太郎は近場にあった自転車のチェーンを破壊するとこぎ出した。少女の飛ぶスピードは自分の全力疾走よりも速い。これでも追いつくどころか見失わないのがやっとだが無いよりはマシである。
 まさかこの年でチャリ泥棒するハメになるとは思わなかったが、そのおかげもあってなんとか少女に着いて行けていた。濃霧でろくに見えないが、近くの看板を見るにどうやら海へと向かっているらしい。
 ここで一つ疑問が生じる。なぜ少女は真っ直ぐ海へと向かっているのか。この霧の濃さではあの高さからでもほとんど視界が効かないはず。
 目的地があるのか、あるいはそういうスタンドか。考える承太郎の前で少女は高度を落とした。漁協だろうか、大きな建物が見える。建物の影に隠れてしまったが、おそらく中に入ったのだろう。《スタープラチナ》が中から子供の声を捉えた。おそらく、男。ということは待ち合わせていたと見るべきか。
 承太郎は乱れた息を一度深呼吸して整えると自転車を降りた。少しばかりハードな運動になったが、これでようやくあの出っ歯以来の参加者との遭遇だ。そして建物に近づき中に入ろうとして。

「うおおおおお! ガッツ!」
「ま、待って太陽くん!」

 すさまじい勢いで男子が駆け出して来て、その後ろに先程の少女が続いて出てきた。「ヤバ」と言いつつ男子が急ブレーキをかけるが遅い。承太郎の胸へと突っ込んでくる。

(一つ、試すか。)

「え?」

 次の瞬間、承太郎は男子を抱きかかえていた。自身は一歩も動かず、ただ掲げた手に男子を持っている。
 《スタープラチナ》の時間停止。承太郎の背後に立つ、超能力によるものだ。
 そして承太郎は二人の顔を見る。抱えている男子と、それを驚き見ている少女。女子の方の視線は、承太郎のやや背後に、スタンドに向けられている。

「走る時は前を見ねえと危ないぜ。」

 承太郎は男子を下ろしながら言うとスタープラチナを出したまま少女に向き直った。


338 : 星と月と太陽と ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/30(金) 06:22:25 8jMmg9Tk0



「アッハハハハハ! どうしたの! 逃げてばっかじゃ頸は切れないよ!」
「くっ!」

 7.62mm弾が炭治郎の頬をかすめ、9mm弾が顔面に迫り、それを日輪刀でいなす。次いで振るわれた帯を横飛びに躱すと、投げつけられた対戦車ライフルを跳躍して避けた。
 炭治郎とルナが上弦の陸・妓夫太郎と堕姫との戦闘を再開して小一時間。二人は鬼の猛攻の前に追い詰められていた。
 今のところ、上弦の陸は船を破壊しうる強力な血鬼術は使ってきていない。だがそれを差し引いても、圧倒的な戦力差がある。
 堕姫はほとんどその場から動かずに手近な銃器を乱射する戦法をとっていた。これが炭治郎にはかなりやりにくい。前後左右360°に上下180°、スピードもタイミングも違う攻撃が四本の帯から放たれる。かつて歴代の下弦の鬼の中には銃器を使うものもいたが、堕姫は偶然にも彼よりも更に恐ろしい形でそれを行っていることになる。今の炎柱・煉獄杏寿郎をも苦戦させたそれに、炭治郎はなす術がない。もちろん銃弾を凌げば終わりではなく、堕姫は帯そのものでも攻撃を加えてくる。更に四本の帯で自分の頸を守るという念の入れようだ。

「どうしたぁ? 息が荒いけど心臓悪いのかぁ?」
「かっ……はーっ……はーっ……」

 一方、ルナが戦っている妓夫太郎は堕姫に比べると地味な攻撃に徹していた。片手の血鎌を時折振るいながら、時折銃を連射する。だが、単純に速い。ほぼ立ち止まるか歩くかの堕姫に対して、こちらは常に走り回っている。それでもルナにはまるで追いつけないのだが、しかし、次第にその服に切り傷が増えていっていた。
 鬼は一言で言うと、タフだ。
 それは死ににくいという意味でもあるが、ある意味もっと怖いのが疲れないということだ。
 鬼に疲労は無い。気疲れはあっても身体の疲れという概念は無い。そんな鬼とも戦えるほどの持久力をもたらすのも呼吸であり、そのため炭治郎はなんとか戦えてはいるが、ルナは違った。

(竜堂さん、動きはすごいけれど体力が無いのか。このままじゃマズい。)
「そこっ!」

 ルナの鬼をも上回る身体能力に驚いて気づくのが遅れたが、かなり息が上がっていた。目に見えて動きが遅くなっている。そしてなにより、ルナには妓夫太郎を倒す手段がない。できるのは拘束ぐらいで、トドメはさせない。それでも戦ってくれているおかげで堕姫の頸を先に落とせる可能性が生まれている。なのに、それを無駄にしている。

(考えろ、このままじゃ全滅だ。二人ともやられる。)
「もらった!」
「……! ま、まだ!」

 機関銃の一連射と同時に放たれた二本の帯を床にへばりつくように躱すと、炭治郎はなんとか肉薄を試みる。が、直ぐに弾幕に阻まれて近くの柱の影へと逃げ込む。さきからこればかりだ。まるで突破口が見えない。

「きゃあっ!」
「っ! 竜堂さん!」

 その柱に、ルナが腹を蹴り飛ばされて突っ込んできた。背中を強打すると、体から光が消え、茶色の髪の少女になる。そこで初めてルナがまだ十歳にも満たないぐらいの少女だと気づき、次いで振り下ろされた血鎌をなんとか防ぐ。がくり、と肘が下がる。炭治郎も限界だった。

「よお、またあったな。炭治郎、だったっか? お前もこんな地獄行きとはなぁ。」
「お兄ちゃん、そいつ殺させてよ。こいつだけは食わなきゃ気に入らない。」
「ああ、そうだなあ。こいつだけは俺らで食わねえとなあ。」

 バキリと手から嫌な音がした。妓夫太郎の血鎌が、炭治郎の日輪刀を折っていた。
 それは避けられぬ死をまざまざと実感させた。

「禰豆子……」
「そうだよ、死ぬときは妹の名前呼ぶよなあ、兄貴な――ら?」

 そして振り下ろされた血鎌が、空を切った。

「は?」「え?」
「……つくづく、やれやれだぜ。」

 そして気がつけば炭治郎はルナと一緒に偉丈夫、承太郎に抱きかかえられていた。


339 : 星と月と太陽と ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/30(金) 06:22:58 8jMmg9Tk0



「手当たりしだいに電話かけたらどっかのホテルにいた木之本が出てくれたんです! 諦めない心の勝利! ガッツ!」
「なるほど、だいたいわかった。」

 あの豪華客船から陸地に移動したあと、警察や目につく電話番号にひたすらかけまくり留守電を残しまくる。とてもシンプルな方法で日向太陽は空を飛んでいた少女、木之本桜と連絡を取ったと言った。全ては自分を助けてくれた女の子を今度は自分が助けるため。名前通り見かけどおりの熱い考えは、この場では上手く行ったようだ。
 今現在、承太郎は二人の子供と共に船へとボートで向かっていた。一人は日向太陽。彼から船の中で化物と女の子が戦っていると聞いた。
 そしてもう一人が、承太郎が見つけた空を飛んでいた少女、木之本桜。ホテルのフロントを通りがかったところでたまたま太陽の電話を取った彼女は、パンフレットの地図を頼りにここまで飛んできたという。
 急いでいたのでそのあたりのことを聞くのが海に出てからになったが、その分漁協での出会いからほぼタイムロスなく行動ができていた。もっともそのせいで太陽をこちらに連れてきてしまったが、漁協に戻しても狙われる可能性があるので危険性は大差ないと承太郎は考えていた。

「じゃあ承太郎さんから。」
「頼んだ。」

 むしろ気がかりなのは、自分と共に化物と相対することになる少女、さくらの方だ。短い会話でスタンドとは別の何かしらかの力で戦っていた経験があることまではわかったが、戦力になるかは未知数だ。今も承太郎を杖に乗せて飛んでいるが、人を一人乗せて飛ぶのはなかなかに難しいらしい。この分だと、彼女は誰かと協力して戦ったことが少なそうだと承太郎は当たりをつけていた。あるいは、彼女が他の誰かを杖に乗せて空を飛ぶ必要があまりないほどに彼女達が強いという可能性もあるが。

「俺は先に行く。さくらちゃんは太陽くんを引き上げたら追いついてくれ。」
「はい!」

 指示を出すと承太郎は駆け出す。できればあの二人が追いつくまでに化物を倒す。帯を伸ばして襲ってくる着物の女というのはなかなかにわかりやすい、戦闘音が聞こえてくるが、これなら誰が敵かは間違えにくそうだ。

「きゃあっ!」
「っ! 竜堂さん!」
「間に合ったな。」

 化物と戦っている側か、太陽が言っていた少女らしき悲鳴と、それを心配するような少年の声が聞こえた。まだ終わっていない。

「《スタープラチナ》!!」

 そして時が止まる。
 《スタープラチナ》のスタンド能力、時間停止。シンプルにして強力なそれで、倒れ伏す二人の子供を抱え上げた。

「は?」「え?」
「……つくづく、やれやれだぜ。」
「あ、貴方は……」
「空条承太郎。太陽くんの言っていた化物ってのはあれか?」
「太陽くん!? はい、そうです! 男の方は毒を飛ばしてきて、女の方は帯を飛ばしてきます。どちらも日の光を浴びせないと死にません。」
「吸血鬼か。」
「宙に浮いてる……? 鬼狩り、じゃなそうね。稀血かしら。お兄ちゃん?」「ああ、やろう。」
「……なるほど、わかりやすくて助かるぜ。」

 承太郎は炭治郎とルナを下ろすと鬼へと向き直る。
 妓夫太郎と堕姫もそれぞれ銃と己の血鬼術をスタンド使いへと向ける。
 豪華客船の上の第三ラウンドのゴングが鳴るまであと――


340 : 星と月と太陽と ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/30(金) 06:23:30 8jMmg9Tk0



【0130 海上・豪華客船】

【竈門炭治郎@鬼滅の刃ノベライズ 〜遊郭潜入大作戦編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める
●中目標
 上弦の陸(妓夫太郎と堕姫)を討つ
●小目標
 空条さんに鬼について情報を伝えて竜堂さんを避難させる

【日向太陽@黒魔女さんが通る!! PART 6 この学校、呪われてません?の巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 よくわかんないけど化物をなんとかする!

【堕姫@鬼滅の刃ノベライズ 〜遊郭潜入大作戦編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●小目標
 奪われる前に奪う、なにもかも
【備考】
妓夫太郎と二人で一人の参加者です。
首輪は堕姫に着いています。

【竜堂ルナ@妖界ナビ・ルナ(10) 黄金に輝く月(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める
●小目標
 ???

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを破綻させる
●小目標
 吸血鬼(堕姫と妓夫太郎)をぶちのめす

【小説 アニメ カードキャプターさくら さくらカード編 下(カードキャプターさくらシリーズ)@講談社KK文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める
●小目標
 太陽くんと一緒に承太郎さんと合流する


341 : 星と月と太陽と ◆BrXLNuUpHQ :2021/07/30(金) 06:25:59 8jMmg9Tk0
投下終了です。
あと鬼滅の刃勢の残り参戦可能キャラを更新しておきます。

○嘴平伊之助○栗花落カナヲ○冨岡義勇○胡蝶しのぶ○煉獄杏寿郎○不死川実弥○宇髄天元○甘露寺蜜璃○悲鳴嶼行冥○時透無一郎○伊黒小芭内○珠世○愈史郎○錆兎○真菰○産屋敷耀哉
16


342 : ◆NIKUcB1AGw :2021/07/31(土) 00:18:57 2gQIr8Qc0
投下乙です!

承太郎と炭治郎というジャンプスターのタッグはテンション上がるけど……
銃火器てんこ盛りの上弦はさすがに手ごわすぎるなあ
桜ちゃんが鍵になるか

では、自分も投下させていただきます


343 : 欲望に忠実な人たち ◆NIKUcB1AGw :2021/07/31(土) 00:20:02 2gQIr8Qc0
会場内の、とある山の中。
赤っ鼻がひときわ目立つ一人の男が、しかめっ面で歩を進めていた。

「誰の鼻がひときわ目立つって、この野郎ーっ!
 ……って、空耳かよ。
 やべえなあ、おい。あんまり静かすぎて、あり得ない声まで聞こえてきちまったぜ」

ぶつくさと呟きながらも前進を続けるこの男の名は、バギー。
「千両道化」の異名を持つ海賊であり、口八丁と悪運で大海賊時代における海賊の頂点の一つ「王下七武海」に成り上がった男である。

当初は殺し合いに参加させられたことに怒りを爆発させていたバギーだったが、自らに宝の地図が支給されていることに気づくと一転して上機嫌になった。
しかし、それも長くは続くない。
迷わず地図の示す地点へと向かい始めたバギーであったが、そこまではかなりの距離があった。
慣れない山道を歩かされ続け、すっかり不機嫌になってしまったのだ。

「このバギー様を散々歩かせやがって……。
 しょぼい宝だったら承知しねえぞ……」

なお地図が示しているのはあくまでこの殺し合いを有利に運ぶための武器のありかであり、
バギーが求める金銀財宝ではないのだが、本人はまだそれに気づいていない。

「いいかげん、着いてもいい頃だろ……。
 道を間違えでもしたか?」

一度立ち止まり、地図を確認するバギー。
次の瞬間、彼は自分に強烈な殺気が叩きつけられたことに気づいた。

「なんだぁ!?」

慌てて振り向くと、そこにはこちらに向かって飛びかかってくる奇妙な身なりの男の姿があった。
その手には、鎌のようにも見える異様な形状の刀剣が握られている。
とっさに迎撃しようとするバギーだったが、反応が間に合わない。
刃が振るわれ、バギーの首が胴体から切り離された。

「まずは一人……」

首を失って地面に倒れ込むバギーの体を見ながら、男は狂気に満ちた笑みを浮かべる。
男の名は乙和瓢湖。明治時代の日本からこの地に連れてこられた、裏社会の住人だ。
この男を一言で表現するならば、「快楽殺人者」。
ゆえに彼は、この場でもためらいなく殺戮を行う。
生き残るためでなく、快楽を得るために。

「しかしこんなへんぴな山の中では、そうそう人はいないか……。
 目指すとしたら、街だな……」

そう独りごちると、乙和はその場を去って行った。


344 : 欲望に忠実な人たち ◆NIKUcB1AGw :2021/07/31(土) 00:21:22 2gQIr8Qc0


◆ ◆ ◆


「やってくれたな、あの野郎……。
 俺じゃなかったら死んでたぞ」

乙和が立ち去った後、おもむろにバギーの生首がしゃべり出す。
生首は宙を舞って体の元に戻り、何事もなかったかのようにまたくっついた。
バギーは超人系に分類される悪魔の実・「バラバラの実」の能力者。
おのれの体を好きな箇所で切り離し、遠隔操作することができる。
この能力ゆえに、バギーは斬撃によるダメージを一切受けないのである。
本来は殺されたと見せかけて奇襲で相手を返り討ちにするつもりだったのだが、
うっかり地面の石に頭をぶつけてしまい1分程気絶していたせいで失敗したのはここだけの話だ。

「まあ、あんな小物どうでもいい。
 もしまた会うことがあれば、派手にぶち殺してやるってだけだ。
 それよりお宝を……ん?」

ふと、バギーは気づく。
体から首を切り離せるのなら、首輪など簡単に外せるのでは? と。

「まあなんかの対策は取ってる気がするが……。
 いちおう確認しておくか」

バギーは今一度首を切り離し、首輪を引っ張ってみる。

「あだだだだ! やっぱりダメか。
 接着剤かなんかで、強引にくっつけてやがるな……」

むろん、運営側もその可能性に気づかない程アホではない。
バギーの首輪に関しては、外れないよう特に念入りに固定してあるのだ。

「力かけ過ぎて、誤作動でも起こしたらシャレにならねえし……。
 とりあえず、首輪のことはいったん置いとくか。
 今はそれより、お宝だーっ!」

すぐさま思考を切り替え、バギーは再び歩き始めた。


【0100 山】

【バギー@劇場版 ONE PIECE STAMPEDEノベライズ みらい文庫版(ONE PIECEシリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
とりあえず、生き残るのを優先
●小目標
地図の場所に行き、お宝を手に入れる


【乙和瓢湖@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
殺しを楽しむ
●小目標
街へ向かう


345 : ◆NIKUcB1AGw :2021/07/31(土) 00:22:16 2gQIr8Qc0
投下終了です


346 : 名無しさん :2021/08/04(水) 20:03:38 bGZN1T920
このロワをきっかけにして最近児童文庫読みまくってて、今若おかみ×黒魔女のコラボ第2弾を読み始めてるんだけど
両者が共演してる世界で鈴鬼が小説「黒魔女さんが通る!!」について言及しててどういうことだってなった


347 : 名無しさん :2021/08/05(木) 19:49:28 U4v8Om0I0
コラボ第一弾だと黒魔女世界には若おかみの小説があって、「本の中に入る黒魔法」で若おかみの世界に行ってた
児童文庫はそのへん自由


348 : 名無しさん :2021/08/07(土) 17:29:58 XyGbDyEc0
あれ、そんな設定だったっけと思って調べてみたが、違うっぽい
チョコのお父さんが読んでた雑誌に紹介されてた春の屋旅館の写真を経由して、画面に入れる魔法を使って行ったみたい
つまりコラボ内では世界観共有してる

ただこの辺、黒魔女本編内だとクリスマス回では若おかみが小説って扱いになってるかと思えば、大晦日にチョコがおっこと出会ってる設定になってたりと、設定が統一されてない感じがある


349 : 名無しさん :2021/08/07(土) 17:41:41 XyGbDyEc0
×大晦日にチョコとおっこが出会ってる設定

〇大晦日にチョコが、おっこに以前出会ったことがあることを言及してる


350 : 名無しさん :2021/08/07(土) 19:43:51 Dh.yP9B.0
マジかオレ黒魔女さんエアプだったわ


351 : 名無しさん :2021/08/09(月) 00:03:28 VYctLwCI0
投下乙です。
いつか来ると思っていたけどついにワンピとるろ剣から来ましたね。
だんだんジャンプロワみたいになっていますしワンピキャラはビッグマムみたいな強すぎるキャラ多いしでどう扱うか悩みどころさんですけどバギーは弱いし料理のしがいがあるのでよし!
私も雪代縁で書こうとしてましたが組み合わせて面白い女子キャラが色々いて迷うので後回しにしています。
では投下します。


352 : さあ、ゲームを始めよう ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/09(月) 00:04:25 VYctLwCI0



 オレ、眠田涼は、もう四時間ぐらい気まずい思いをしていた。
 オバケっているでしょ? そう、あの白くて手を胸の前でダランとしててふわふわ浮いてる、アレ。オレはアレが見える。もっと言うと、オバケっていうか化物っていうか、とにかく霊っぽいものが感じることができる……と思う。最近そうなったばっかで、まだ人に向かって「オレ、霊感あります!」とか言うのはちょっとムリだけど、たぶん、ふだん見えてるのは『ソッチ』のものだと思う。
 で、そういうものってだいたい近くに行くと、ゾワゾワ、とか、ゾクゾク、とか、なんかヤバイ感じがするんだ。
 それがここに来てからずっとしている。

「リョウくん、ほら、またチラシ!」
「そ、そうですね。」

 そのヤバイ感じにビビるオレをずっと励ましてくれているハルさん――朝比奈陽飛――さんに申し訳なくて、オレは無理矢理足を動かしてた。
 変なウサギに殺し合えって言われて、瞬間移動で変なもやと空の街に飛ばされて、ずっと動けなかったオレを立ち上がらせてくれたのに、四時間どころか五時間ぐらいこんな感じだ。
 自分でもわかるよ、あっ、オレ足引っ張ってるって。
 なのに、どうしても体が動いてくれない。この赤いもやと空は、絶対にヤバイ。というか、たぶんオレたちはもう手遅れ――

「ハ、ハルさん! 空からまた降ってきました!」

 ……オレは、わざと大きな声で言った。
 危ない人がいるかもとか、そういうことはどうでも良かった。ただ、自分が怖いのをどうにかしたかった。
 だから、一緒にいてくれるハルさんも危ないのに、オレのために元気な声を出させてしまって、そこでオレまで騒いだ。
 くそっ、チョーカッコ悪いじゃん……

「……で、これなんなんでしょうか?」
「うーん、イベントとか?」
「そんなバラエティ番組みたいな……バラエティ番組なの?」
「この事件の犯人は楽しんでるのは間違いないと思うかな。」

 オレはホッとしてた。ハルさんが話に乗ってくれて。

「ヘリコプターとかからチラシまくなんて、予算ムダ使いですよ。うげっ、なんか濡れてる。つめたい。」
「このチラシ、全部上のところが1cmぐらい濡れてるね。でもチョスイチってどこかな?」

 チョスイチ? って、なに?

「ほら、このチラシって四隅にスペードとクラブが書いてあるでしょ。これを。」

 そう言うとハルさんは、紙を折った。
 ……あ! トランプのマークが縦に折るとハートに、横に折るとダイヤになる!
 ……で、それってなに?

「で、このチラシの外側に並んでる線を読むと。」

 ハルさんはそう言ってチラシの、四辺っていうんだっけ、外の方に書かれた変な線をなぞった。あ、そういうことか、これ折り方で文字になるんだ! すごい、クイズ番組みたいだ。

「ハルさんすごいよ! なんでわかったの?」
「ふっふーん、こういうの得意なんだ。スートがスペードとクラブしかなかったからすぐわかったよ。」

 ハルさんはニコッと笑って言った。もしかしてオレってスゴい人と会ったのかもしれない。
 で、オレはまたなんの役にも立てなかった。
 ああ、もう、なんでこんなクヨクヨしてるんだよ、オレ。

「よおし、チョスイチっていうの探そう! さっき向こうに地図の看板あったからすぐわかりそうだね。」

 オレはそうですね、と半笑いで言う事しかできなかった。


353 : さあ、ゲームを始めよう ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/09(月) 00:04:56 VYctLwCI0



「Jesus Christ! なるほど、君も来たってことかい、ハル。」
「タマ! うわーっ、一緒にさらわれちゃったんだ。え、っていうことは。」
「いや、断定はできないよ。さすがにヒントが少なすぎる。ま、今はパーティーの主催者に挨拶をしよう。」

 貯水池はすぐ見つかった。地図を頼りに道を川沿いに歩いたらあっさりため池に突き当たった。その後は近くの小屋みたいなのに入って、地下に降りて、下水道っぽい道を歩いてちょっと広い場所に出たら、そこにいた男の人に声をかけられて嬉しそうに走っていった。
 ハルさんの知り合いっぽい男の人、タマさんは背の高いイケメンだ。オレからすると中学生のハルさんも大人に見えるけど、二人が並んでると全然違う。あとなんかチャラい。でもハルさんと同じQubeってクイズアプリのトッププレイヤーらしい。
 今ここにいるってことは、たぶんハルさんと同じようにあの空から降ってきたチラシの謎を解いたってことだよね。カッコよくて頭も良い。ここまで本当に何もしていないオレとは大違いだ。オバケが見えるとかそういうのもなんの役にも立たなくて、ただハルさんの後ろを着いて行ってるだけ。嫉妬する気にもならない。

「ねえってば。」
「うわあっ!」
「わわっ!?」

 突然肩を叩かれながら声をかけられてボクは飛び上がった。たぶん、ちょっと前から呼ばれてたみたいだけど全然気づかなかった。はぁ、カッコ悪いなあ、オレ……
 「ごめん、ちょっと考えごとしてた」と言ってまた下を向こうとして、あれ?と思って顔を上げる。目の前には、同い年ぐらいの女の子が心配そうにオレを見ていた。

「そうだよね、突然、こんなことになって……」
「あ、違う、いや、違わない、けど……」

 女の子は首に、首輪に手をやりながらそう言った。
 そうだ、オレたちは今殺し合えって言われてる。不安になるよ、それは。それなのに、この人はオレを心配してくれた。自分だってオレよりも、ふがいない自分に落ち込んでるオレなんかよりも、もっと殺し合いを怖いと思ってるはずなのに。それなのに、オレは自分が役立たずなことばっかり恥ずかしく思ってた。
 でも本当に恥ずかしいのは、そんな自分のことばっか考えて周りが見えないことだ。
 パン!良い音を立ててほっぺを叩く。よし、気合い入れた!
 オレは突然自分をビンタしたのを見てビックリした目をしている女の子の真正面に立った。驚くよね、それは。また自分のことしか見えてなかった。今からはちゃんと周りを見ないと。

「ごめん、今までふぬけてた。オレ、眠田涼。眠田でもリョウでもどっちでもいいよ。」
「――うち、梶田蓮華。クラスではレンゲって呼ばれてる。よろしくね、眠田くん。」
「わかった、レンゲさん。」

 レンゲさんは、ホッとした感じの笑顔になった。レンゲって、花の名前だっけ。花の咲くような笑顔ってこんな感じなのかも。オレに声をかけてくれた時とはぜんぜん違う。たぶん、オレが思ってるよりもっと気をつかわせてたのかも。

 カン、カン、カン。カン、カン、カン。カン、カン、カン、カン、カン、カン、カン。

「いいタイミングで帰ってきたみたいだね。」

 鉄の階段を降りてくる、337拍子の足音が響くと、タマさんがオレにウインクしながら言った。
 そういえば、少しの間ハルさんと二人で話してたけど、もしかしてそれってオレのためにかな……?

「しっかりしないとな。」

 オレは言葉にして決意した。


354 : さあ、ゲームを始めよう ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/09(月) 00:05:19 VYctLwCI0



「えーっと、とりあえず6人ですね。」

 オレたちは折りたたみのテーブルの上に広げられたコンビニ弁当やペットボトルをそれぞれ適当につまみながら、その人に注目していた。
 階段から降りてきた、ノートパソコン片手に頭にヘッドホンを着けたイケメン男子、ではなくその後から着いてきたふつうの人、内藤内人さんことナイトさんだ。
 このナイトさんが、あのチラシを空からばら撒いた人と聞いて、オレとハルさんはめちゃくちゃ驚いた。さすがにオレよりは年上っぽいけれど、どう見てもハルさんと同じかちょっと下ぐらいの、ふつうの男子だ。名前負けって言うのか、すごそうな感じがぜんぜんしない。一緒に来た大井雷太、ライと比べるとオーラっていうのかな、とにかく雰囲気がふつうすぎる。オレみたいに賢い人に助けてもらってここに来たのかな?とか超失礼なことを思っちゃった。

「はい! その前に質問!」
「はい、えーっと……」
「あ、名前言ってなかった。朝比奈陽飛。」
「ハルちゃんって呼んでるよ。」

 ハルさんとタマさん息合ってるなあ。二人とも頭の回転が早いっていうのか、軽い雰囲気から想像できないぐらい賢い気がする。

「このチラシ、どうやって空から降らせたの?」
「ああ、それは。」

 ナイトさんは近くにあったクーラーボックス(コンビニから『借りてきた』らしい。泥棒ですよ泥棒。まあ銃とかそこら辺に落ちてるし好きに使っていいのかも)からチラシを取り出した。束になってる。あ、一辺に細い紙が貼ってある。
 「なるほど!」ってハルさんが手を叩きながら言った。え、どういうこと?

「コンビニでチラシを印刷して、チラシの直方体を作る。で、細長い面を水で濡らして、同じように水に濡らした紙を細長くカットして貼る。で、それを冷凍庫に入れると、時間が経てばバラバラになる紙の塊ができる!」

 え、え!? それだけでわかったの!?

「え、え!? それだけでわかったの!?」

 あ、ナイトさんが同じリアクションしてる。レンゲさんも似たような感じだ。そうだよね、これがふつうだよね。

「やっぱりスゴイな……そうだよ、氷で糊付けした紙の束を作って、それをコンビニにあったガス缶とビニール袋で作った気球にくくりつけたんだ。凍らせる時間とか紙の枚数を調整して、時間と場所を変えて上げれば、この街ぐらいなら全部に空からまけると思って。」
「え!? そんなことまでしてたの!?」

 今度はハルさんが驚く番だ。オレとレンゲさんはずっと驚いてる。コンビニにあるものでそこまでできるのか? ていうか、それを殺し合えって言われてできるのか? 前世は怪盗とかスパイなんじゃないかなこの人。名前はナイトだけど。

「ナイトさん、本題に入ってくれ。」

 盛り上がるオレたちに、今まで黙っていたライが口を挟んだ。今のオレならわかる。無表情だけど、たぶんちょっとイラついてる。
 感じ悪いけれど、まあ、そうだよな。オレたちは遊んでられないし。

「そうだね。なんで君がこんな大げさなことをしたのか、リョウ君たちも気になってるだろうし。」

 タマさんもそう言った。やっぱり、この人周りをよく見てるな。
 オレはナイトさんを見た。あらためて、やっぱりふつうの人だ。そんなふつうの人がこんなふつうじゃないことをやって、オレたちを集めた理由って、なんだ……!?


355 : さあ、ゲームを始めよう ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/09(月) 00:05:47 VYctLwCI0

「そうですね。実は……同じ学校の人がいないか確かめてました。」

 あ、ふつうな理由だった。

「このチラシの暗号、実はあるゲームで使われたものなんです。それを、相棒が解いて。その答えが遊水地だったんですけど、この街にはなくて、代わりにこの貯水池にして。そうすれば、相棒がこの街にいたら絶対気づくだろうって。」

 なるほど、考えてもいなかった。
 自分以外にも、自分の周りの人が巻き込まれているかも、なんて。

「でも、同じぐらい賢い人がいるとは考えてなかったんです。だから最初にタマさんと梶田さんが来たときは本当に驚いて。」
「危うくアサルトライフルでハチの巣にされるところだったよ。」
「あの時は、本当にごめんなさい……」

 よく見たら、ナイトさんの顎、ちょっと赤くなってるな。
 ……殴ったの?
 タマさん、あんな感じだけどケンカも強いのかも……

「とまあ、こんな感じであのチラシが配られて、みんなここに来たってことさ。OK?」
「……わかった。」
「じゃあ、次はもっと踏み込んだ形で自己紹介だ。まずは――」

 そしてすぐに、話の流れを持ってった。カッコいい上に賢くて強くてコミュニケーション力もある。なんだこの人完璧星人か。
 もしかしてだけど、この殺し合いに巻き込まれてる人って、みんな天才とかそういう人なのかも。オレもオバケが見えるのは天才と言えば天才かもだし。でも、オレが見え出したのは最近だし、そもそもそういう血筋だからでオレがスゴイってわけじゃないんだけどなあ。
 ああ、ダメだダメだ! また弱気になってる! ちゃんとしないと、オレ!
 こんなんじゃ、おばあちゃんじゃなくったって喝入れられちゃう。

「――今後もあのチラシの謎を解いてここを目指す参加者は現れるだろうね。その相棒くんのこともあるし、やっぱりここは拠点にしよう。」
「それと、そろそろ外を見回りに行きたいんです。街には監視カメラがあるお店もあったんで、鍵を壊して中に入れば、誰かが立ち寄ったりしてたらわかるんじゃないかって。」
「不法侵入に器物損壊、だけど、そうも言ってられないか。コンビニの床に拳銃が落ちてることに比べたらね。そういうのは大人がやるよ。ナイトくんはここに残った方がいいかな?」
「タマに着いてくよ。そろそろ外の空気吸いたいし。リョウくんはどうする?」

 ――ここで来たか。
 外に出るか、地下に残るか。外に行くのはタマさんとハルさん。地下に残るのは、たぶんナイトさんとレンゲさん。ライはどっちかわからないけれど、オレが強くどっちかを選べば、たぶんもう片方に行く気がする。そうすれば3人ずつで別れられるからだ。
 ただ、全員で行動したり、タマさんとハルさんだけで外に出るって選択紙もある。

「オレは――」

 そしてオレはみんなに自分の考えを伝えた。


356 : さあ、ゲームを始めよう ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/09(月) 00:06:20 VYctLwCI0



【0530 都市部の貯水池・地下施設】

【眠田涼@オバケがシツジの夏休み(オバケがシツジシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●小目標
 オレは――

【朝比奈陽飛@天才謎解きバトラーズQ vs.大脱出! 超巨大遊園地(天才謎解きバトラーズQシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 タマやみんなと一緒に今回のデスゲームをクリアする

【灰城環@天才謎解きバトラーズQ vs.大脱出! 超巨大遊園地(天才謎解きバトラーズQシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 今回の事件がリドルズによるものの可能性を考えつつ巻き込まれた人間を保護する
●小目標
 外に出て偵察する

【梶田蓮華@パセリ伝説 水の国の少女 memory(1)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●小目標
 タマさんやみんなと一緒にいる

【内藤内人@都会のトム&ソーヤ 映画ノベライズ@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 創也と合流してこのデスゲームをクリアする
●小目標
 集まった人たちと協力してデスゲームに挑む

【大井雷太@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 今回のゲームがギロンパによるものという前提で動く


357 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/09(月) 00:13:59 VYctLwCI0
投下終了です。
黒魔女さんと若おかみはコラボ回を未把握なんで適当にやってもらって構いません。
同じようにぼくらのとレッドのコラボ回や星のかけらと天使のはしごのコラボ回も未把握なんで原則最初に書いた人の解釈に従います。
なんか問題があったら後から強引に変えますし、そもそもそこが気になるほど詳しく児童文庫の設定を把握しているのはおそらくパロロワ界に私を含めて3人ぐらいしかいないっぽいんで、とりあえず投下してから考えればいいと思います。
あと参加者が増えてきたんで名簿を更新します。


358 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/09(月) 00:21:36 VYctLwCI0
【鬼滅の刃シリーズ@集英社みらい文庫】11/13
●累に切り刻まれた剣士○累○蜘蛛の鬼(兄)○蜘蛛の鬼(父)●我妻善逸○鱗滝左近次○蜘蛛の鬼(姉)○手鬼○竈門禰豆子○蜘蛛の鬼(母)●魘夢○竈門炭治郎○堕姫
【黒魔女さんが通る!!シリーズ@講談社青い鳥文庫】4/8
●羅門ルル●小島直樹●紫苑メグ●須々木凛音○黒鳥千代子○松岡先生○桃花・ブロッサム○日向太陽
【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】5/6
○東方仗助○空条承太郎○片桐安十郎○虹村形兆○虹村億泰●山岸由花子
【絶望鬼ごっこシリーズ@集英社みらい文庫】4/6
○関本和也●大場結衣○伊藤孝司●牛頭鬼○大場大翔○櫻井悠
【名探偵コナンシリーズ@小学館ジュニア文庫】5/6
●円谷光彦○小嶋元太○山尾渓介○ジン○次元大介○ウオッカ
【ラストサバイバルシリーズ@集英社みらい文庫】4/6
○早乙女ユウ●朱堂ジュン●新庄ツバサ○桜井リク○山本ゲンキ○大場カレン
【妖界ナビ・ルナシリーズ@フォア文庫】5/6
●ユイ○かまち○タイ○透門沙李○幹太郎○竜堂ルナ
【ギルティゲームシリーズ@小学館ジュニア文庫】5/5
○深海恭哉○小林旋風○小林疾風○北上美晴○大井雷太
【ぼくらシリーズ@角川つばさ文庫】2/4
○菊地英治○宇野秀明●天野司郎●小黒健二
【かぐや様は告らせたいシリーズ@集英社みらい文庫】3/4
○白銀御行(映画版)○藤原千花●四宮かぐや○白銀御行(まんが版)
【若おかみは小学生!シリーズ@講談社青い鳥文庫】2/4
○関織子(劇場版)●神田あかね○関織子(原作版)●秋野真月
【アニマルパニックシリーズ@集英社みらい文庫】3/4
●ヒグマ○高橋大地○ライオン○高橋蓮
【逃走中シリーズ@集英社みらい文庫】3/4
○白井玲○和泉陽人●小清水凛○ハンター
【クレヨンしんちゃんシリーズ@双葉社ジュニア文庫】3/4
○佐藤マサオ○野原しんのすけ○桜田ネネ●野原ひまわり
【泣いちゃいそうだよシリーズ@講談社青い鳥文庫】4/4
○村上○広瀬崇○小林凛○川上真緒
【おそ松さんシリーズ@集英社みらい文庫】1/4
○なごみ探偵のおそ松●大富豪のカラ松氏●松野チョロ松●チョロ松警部
【銀魂シリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○岡田似蔵○武市変平太○神楽
【テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○磯崎蘭○磯崎凛●名波翠
【天使のはしごシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○竜人●生絹○紅絹
【天才推理 IQ探偵シリーズ@カラフル文庫】1/3
●大木直●小林聖司○杉下元
【ひぐらしのなく頃にシリーズ@双葉社ジュニア文庫】3/3
○富竹ジロウ○前原圭一○古手梨花
【妖怪ウォッチシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/3
○天野ナツメ●タベケン○有星アキノリ
【ブレイブ・ストーリーシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
●小村克美○芦屋美鶴○三谷亘
【四つ子ぐらしシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
○宮美二鳥○宮美一花●宮美四月
【ちびまる子ちゃんシリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○藤木茂○花輪和彦○みぎわ花子
【死神デッドラインシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
●長内隆○木村孝一郎○一ノ瀬悠真
【おそ松さんシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/3
○弱井トト子○イヤミ●チョロ松
【絶体絶命シリーズ@角川つばさ文庫】1/3
●赤城竜也●宮野ここあ○滝沢未奈
【絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】3/3
○藤山タイガ○渡辺イオリ○西宮アキト
【天才謎解きバトラーズQシリーズ@角川つばさ文庫】3/3
○氷室カイ○朝比奈陽飛○灰城環
【パセリ伝説シリーズ】3/3
○水沢巴世里○桜清太郎○梶田蓮華


359 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/09(月) 00:29:17 VYctLwCI0
【けものフレンズシリーズ@角川つばさ文庫】2/2
○ビースト○G・ロードランナー
【名探偵ピカチュウ@小学館ジュニア文庫】2/2
○ピカチュウ○メタモン
【NARUTOシリーズ@集英社みらい文庫】2/2
○桃地再不斬○うちはサスケ
【フォーチュン・クエストシリーズ@ポプラポケット文庫】1/2
●ノル○ルーミィ
【劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】2/2
○上田次郎○山田奈緒子
【無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄@集英社みらい文庫】2/2
○岬涼太郎○沖田悠翔
【ふつうの学校シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/2
○アキラ●稲妻快晴
【一年間だけシリーズ@角川つばさ文庫】0/2
●工藤穂乃香●村瀬司
【星のかけらシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/2
○小笠原牧人○細川詩緒里
【映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】2/2
○大太刀○織田信長
【恋する新選組シリーズ@角川つばさ文庫】2/2
○宮川空○沖田総司
【人狼サバイバルシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/2
○赤村ハヤト○黒宮うさぎ
【山月記・李陵 中島敦 名作選@角川つばさ文庫】2/2
○李徴○袁�岡
【炎炎ノ消防隊シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○森羅日下部
【怪盗レッドシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○紅月美華子
【怪人二十面相@ポプラ社文庫】0/1
●明智小五郎
【世にも不幸なできごとシリーズ@草子社】1/1
○ヴァイオレット・ボードレール
【天気の子@角川つばさ文庫】0/1
●森嶋帆高
【約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】1/1
○シスター・クローネ
【吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】1/1
○吉永双葉
【小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】1/1
○安土流星
【双葉社ジュニア文庫 パズドラクロス@双葉社ジュニア文庫】0/1
●チェロ
【ふなっしーの大冒険@小学館ジュニア文庫】1/1
○ふなっしー
【時間割男子シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○花丸円
【サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】1/1
○玉野メイ子
【デルトラ・クエストシリーズ@フォア文庫】0/1
●黄金の騎士・ゴール
【ハッピーバースデー 命かがやく瞬間@フォア文庫】1/1
○藤原あすか
【サキヨミ!シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○如月美羽
【FC6年1組シリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○神谷一斗
【ラッキーチャームシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○優希
【未完成コンビシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○桃山絢羽
【セーラー服と機関銃@角川つばさ文庫】1/1
○萩原
【カードゲームシリーズ@講談社青い鳥文庫】0/1
●哲也
【恐怖コレクターシリーズ@角川つばさ文庫】0/1
●相川捺奈
【花とつぼみと、君のこと。@集英社みらい文庫】1/1
○黒瀬優真
【バッテリーシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○原田青葉
【クレヨン王国シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○シルバー王妃
【獣の奏者シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○エリン
【地獄たんてい織田信長 クラスメイトは戦国武将!?@角川つばさ文庫】0/1
●織田信長
【ミステリー列車を追え!シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○二神・C・マリナ
【カードキャプターさくらシリーズ@講談社KK文庫】1/1
○木之本桜
【ONE PIECEシリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○バギー
【るろうに剣心 最終章The Final 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】1/1
○乙和瓢湖
【オバケがシツジシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○眠田涼
【都会のトム&ソーヤ 映画ノベライズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○内藤内人

映画版都会トムはアベマドラマ見てからの方が楽しめるのでノベライズを勧めたいところですが、小説を元に映画を作って小説を作ったら原作者じゃない人が小説を書くことになったので、素直に原作小説シリーズ読むのが把握の上ではオススメです(児童文庫じゃないけど)。


360 : 名無しさん :2021/08/09(月) 12:30:32 ojzvJveY0
新作投下&名簿更新乙です!
語り部としてリョウは癒やされるなぁ
良識を弁えた少年はここにおいても光る個性と思います
集まった人も修羅場を経験した上で善性を持っていて、彼って非常に恵まれた参加者なのでは
チラシのギミックが考えられてていい感じでミスした面もリアル良かったです
登場人物の魅力からそれぞれの原典への宣伝にもなっている登場話でした


>欲望に忠実な人達
どちらもマイペースな分かりやすい悪役ですねえw
バギーに一太刀いれた乙和は割と強いのか?
バギーはここでは宝探しに専念できるか?
ズガンが付き纏ってそうな悪党達の寸劇軽く読ませていただきました


361 : ◆OmtW54r7Tc :2021/08/09(月) 22:27:04 iIWecEWw0
投下します


362 : ◆OmtW54r7Tc :2021/08/09(月) 22:33:16 iIWecEWw0
「お姉ちゃん…!」

か細い声で、呟く少女がいた。
見た目は中学生くらいの大人しい少女に見えるが、しかし彼女は見た目通りの少女ではない。

「スネリお姉ちゃん…!ルナちゃん…!どこなの…!?」

彼女の名はサネル。
妖怪の住む世界に住む、猫の妖怪である。
しかし、最愛の姉や友人の名を呼ぶその表情は怯えており、見た目通りの人間のようだった。

「殺し合いなんて…!私一人じゃ、どうしようも…」

彼女の姉・スネリや、友人である半人半妖の少女・竜堂ルナは、世界を守るために人間界で戦った。
特にルナなどは、この前妖界に戻ってきた時には、死にかけの状態になっており、なんとか生き延びたものの、寿命が3年未満となってしまった。

「私は…ルナちゃんみたいになれない。お姉ちゃんやもっけさん、ソラウやふうりみたいに強くない」

スネリやルナ、その仲間たち。
彼女たちと違って、サネルは命を懸けた戦場にほとんど縁がない。
つい最近、仮面舞踏会で敵に襲われた時も、ほとんど気絶していた。
自分がしてきたのは、後方でのサポートのみ。
そんな自分が、一人で戦いの場に巻き込まれるなんて…


「……い。…おい」


そうして俯いていたサネルの耳に、届いた声。
どうやら、少し離れた場所に人がいるらしい。
サネルは少し迷ったが、スネリやルナがいるかもしれないと思い、声の方向へと歩き出した。


363 : ◆OmtW54r7Tc :2021/08/09(月) 22:34:34 iIWecEWw0

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「雄一〜!小夜子!朋美〜!どこ〜!どこにいるの〜!」

サネルが駆け付けた先にいたのは、一人の少女だった。
見た所、人間の少女であり、年齢は自分やルナより少し下、人間の世界でいうところの小学生くらいといったところだろうか。
ここが殺し合いの舞台だと分かっているのかいないのか、とても大きな声で、叫んでいた。
そして、サネルの姿をとらえると、これまた無警戒にこちらに近づいてきた。

「あの、すみません!うちの弟や妹、見ませんでしたか」
「え、えっと…」
「弟は雄一、妹は小夜子と朋美っていうんです!みんな私より小さいから、心配で…!」
「ご、ごめんなさい。ここで出会ったのは、あなたが初めてなんです」
「そうですか…」

サネルの言葉に少女はがっくりと項垂れる。
しかし、すぐに顔をあげると、

「ありがとうございます、失礼します!雄一!小夜子!朋美〜!」

サネルに礼を言い、再び弟や妹を大きな声で呼び始めるのだった。

「ま、待ってください!そんな大きな声で叫んだら、危ないですよ!」

そんな少女を、サネルは慌てて止める。
ここは殺し合いの舞台なのだ。
大声で叫ぶなど、自殺行為だ。

「だからこそよ!あんな小さい子たち、もしこの場にいたら生き残れるわけないもの!だから私が、早く見つけてあげないと…!」

サネルの制止に、少女は引かない。
そんな少女の姿に、サネルは何か嫌な気分になった。
どうしてこの子は、人間なのに。
人間の、子供なのに、どうして。

「……………怖く、ないんですか?」

そう聞いた言葉には、いつものサネルらしくなく、少し棘があった。
サネルは少女に、嫉妬していたのだ。
妖怪の自分だって怖いのに、それなのに。
どうして目の前の彼女は、臆することなく進むことができるのか。
どうしてこんな、怖いもの知らずなのか。
自分の中に渦巻く黒い感情に戸惑いつつも、サネルは問うた。

「…怖いに、決まってるじゃないですか」

しかし、少女の口から紡がれた言葉は、サネルの予想していたものとは違っていて。

「弟が、妹が、いなくなるのが怖い!怖いから、心配だから、こうして探してるんじゃないですか!」

そういうと少女は、その場に泣き崩れた。


364 : ◆OmtW54r7Tc :2021/08/09(月) 22:35:23 iIWecEWw0

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

竜堂ルナ。
彼女は最愛の亡き兄、タイの遺言を彼の相棒であるカザンに伝えるべく、人間界へと再び戻った。
ソラウ、ふうり。
彼らは、それぞれの兄の手がかりを求めて、ルナの旅に同行した。
みんな、大事な家族の為に、命がけの旅へと出たのだ。

目の前の少女も同じだ。
大切な弟や妹の為に、死に物狂いで戦っている。
そこに、人間と妖怪の差などない。
目の前の少女は、例え人間でも、戦う力を持たない子供でも、強い。
妖怪の自分よりも、ずっと強い。

(私、最低だわ)

大切な誰かの為に戦える強さ。
それを持った身近な知人たちの姿を見てきたというのに。
自分は、この殺し合いの場で、何をしていた?
自分は無力だからと、姉や友にすがって。
自分以上に無力な人間の少女が、戦おうとしているのに。

「ねえあなた…名前はなんていうの?」

サネルは、泣きじゃくる少女に、声をかける。
その声色はいつものサネルのように優しげで、先ほどまであった黒い感情は消えていた。
そしてそんなサネルの様子に灯子も落ち着いたのか、泣きじゃくるのをやめて顔をあげる。

「あ…ごめんなさい。名前も名乗らず。私は宮瀬灯子。第一小学校の5年生です」
「そう…灯子ちゃん。あなたの弟や妹探し、私にも手伝わせて」
「え…いいんですか!?」
「ええ…あなたが弟や妹を守るなら、私があなたを守るわ」

決意の瞳を輝かせ、サネルはそう宣言する。
殺し合いへの恐怖は、ある。
しかし、それを乗り越えて、戦わなければならない。
ルナやふうり、ソラウが大切な人の為に戦ってきたように、自分も戦うのだ。
目の前の、か細い…だけども強い命を守るために。

「えっと…あなたの名前は」
「あ、ごめんなさい。こっちも名乗ってなかったわね。私の名前はサネルよ」
「そうですか…じゃあ、よろしくお願いします、サネルお姉ちゃん!」
「お、お姉ちゃん!?」

灯子の発言に、サネルはキョトンとする。
対する灯子は、「あっ」と言って口を抑えた。

「ご、ごめんなさい変なこと言って!その…私が弟や妹を守って、その私をサネルさんが守るなら、サネルさんはお姉さん?って、なんか変な考えが頭に浮かんじゃって」
「サネルお姉ちゃん…」
「わ、私、下の兄弟はたくさんいるけど、お兄ちゃんとかお姉ちゃんとかいなかったから、つい…」
「……………」

サネルは、灯子とは逆で姉はいるが、下の兄弟はいない。
そんなサネルは、顔を赤くしながら弁明する灯子を見て思った。

(お姉ちゃんって響き…悪くないかも。お姉ちゃんやルナちゃんも、こういう気持ちだったのかな)


365 : ◆OmtW54r7Tc :2021/08/09(月) 22:36:30 iIWecEWw0
【0130 森】

【サネル@新妖界ナビ・ルナ(5)刻まれた記憶(妖界ナビ・ルナシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 ルナや姉のように自分も戦い、殺し合いを止める
●小目標
灯子の家族を探す

【宮瀬灯子@黒魔女さんが通る!! PART3 ライバルあらわる!?の巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 弟や妹を見つけ出し、この殺し合いの場から脱出する


366 : ◆OmtW54r7Tc :2021/08/09(月) 22:40:23 iIWecEWw0
投下終了です
タイトルは「長女だから我慢できる。次女は強くなれる理由を知った」です
キャラ全然関係ないのになぜか鬼滅のフレーズが浮かんでしまった

ナビルナも黒魔女もこのロワをきっかけに読みました
サネルちゃんも灯子ちゃんも、いい子で可愛くて好きです


367 : 名無しさん :2021/08/10(火) 00:15:05 2Jke/XTY0
投下乙です!
お互いにとっていい出会いだったようですね
道のりは険しいでしょうが、がんばってもらいたいものです


368 : ◆NIKUcB1AGw :2021/08/14(土) 23:40:50 N6bK/SHM0
投下します


369 : 炎魔参戦 ◆NIKUcB1AGw :2021/08/14(土) 23:42:22 N6bK/SHM0
「殺し合い……か……」

霧の中、白い制服を着た美男子が呟く。
薄い桃色の髪が目立つ青年だが、目を引くのはそれだけではない。
耳は尖り、細長い尻尾が生えている。
彼の名は、アスモデウス・アリス。魔界に住む悪魔である。

「どこぞのバカの暴走に巻き込まれたという可能性が高いだろうが……。
 しかし……」

悪魔には、破壊や暴力を好む者が多い。
前例は聞いたことがないが、それなりに権力を持った悪魔がおのれの欲を満たすためこのようなイベントを開いたという可能性は十分考えられる。
だがアスモデウスには、それよりも気になることがあった。
先ほどのウサギの説明に、スルーできない言葉が含まれていたのだ。

『毒を注射してよ、人間の身体を数秒で固めて殺すんだとよ』

「人間」。ウサギはそう言った。
伝説上の存在であるはずの人間が、このイベントに参加させられているというのか。
いや、あの言い方では人間こそがメインの参加者であり、悪魔の自分は例外であるとも解釈できる。

「……いや、そんなはずはないか。
 人間が何十人も発見されたら、その時点で大騒ぎになる。
 とても隠し通して、こんなイベントに参加させられるものではない。
 おそらくは、私の聞き間違いであろう。
 何かの魔術を使われたのか、記憶も不鮮明だしな」

おのれの想像をあり得ないと切って捨て、アスモデウスは思考を切り替える。

「そんなことより、心配なのは入間様だ。
 万が一、入間様もここに連れてこられていたら……。
 いや、あの方に限ってむざむざ殺されるようなことはないだろうが……。
 とはいえ、入間様は争いを好まぬお方。
 このようなイベントなど、苦痛に感じておられるに違いない!
 すぐにでも駆けつけ、励まして差し上げねば!
 いや、そもそも参加させられているかどうかもわからんのだったな……。
 やむを得ん! この地を隅々まで調べて、確認するしかあるまい!」

敬愛する「トモダチ」への思いをひとしきり口にすると、アスモデウスは走り始める。
本来なら翼を使って空から確認したいところだが、こうも霧が濃くては上空での視界が十分確保できるとは思えない。
走って移動した方が確実と判断したのだ。

「待っていてください、入間様! いや、ここにおられないのが一番いいのですが!」


370 : 炎魔参戦 ◆NIKUcB1AGw :2021/08/14(土) 23:43:44 N6bK/SHM0


◆ ◆ ◆


そして、しばらく後。
アスモデウスは、2体の参加者が戦闘を行っている場面に遭遇した。
片方は、髪の長い少女。少々変わった服を着ているが、驚く程のものではない。
だがもう一方は、全身が無数の手に覆われた異形であった。
悪魔の外見は、千差万別だ。
アスモデウスのクラスメイトにもライオンや梟の姿をした悪魔がいるし、
他のクラスを見れば既存の生き物に当てはめられない独特すぎる体格の者もいる。
だが目の前で戦っている存在は、そんな異形を見慣れたアスモデウスにとってもなお「異質」であった。

(何だこいつは……! 悪魔なのか?
 それとも魔獣?
 駆除すべきか……? いやそもそも、私はこの戦いに介入すべきなのか?
 なぜこいつらが戦っているのかもわからんのだぞ。
 放置して速やかに入間様を捜索すべきではないのか?)

考え込むアスモデウス。
そうしているうちに、無数の手を持つ異形……手鬼も、アスモデウスの存在に気づく。

「何だ、おまえは……。人間じゃねえが、鬼の気配もしねえ……。
 いったいどっちなんだ、おまえは!」

少女……禰豆子からいったん距離を取り、手鬼はアスモデウスに向かって叫ぶ。

「人間……? 貴様は人間を知っているのか?
 ということは、本当にこの場に人間が……?」
「こっちの質問に答えろぉぉぉぉぉ!!」

一人で考え込むアスモデウスに苛立ち、手鬼が襲いかかる。
だがアスモデウスは、手から繰り出した炎でそれを迎撃する。
彼が得意とする、火炎を操る魔術だ。

「ぐっ!」

思わぬ反撃をくらい、手鬼は後ずさる。

「人間にこんな芸当できるはずがない……。
 やっぱりおまえ、鬼だな!
 なぜ鬼の気配がしない!」
「何を吠えているのかわからん。
 どうも貴様と私では、常識が根本的に異なるようだな。
 少し話を聞かせてもらおうか。
 もっとも素直に話してくれるような輩ではないようだから……。
 少々痛めつけてからになるがな!」

アスモデウスの周囲を、炎が包み込む。
それこそが、彼が手鬼を明確に「敵」と認識した証であった。


◆ ◆ ◆


禰豆子は困惑していた。
彼女も、アスモデウスの気配が人間とも鬼とも異なることに気づいていた。
戦うべき鬼でもなく、守るべき人間でもない。
未知の存在の出現に禰豆子はどうしていいかわからず、立ち尽くしていた。
だが手鬼がアスモデウスに襲いかかったことが、彼女に判断材料を与えた。
あの男は、少なくとも鬼の味方ではないようだ。
ならば、こちらから敵対行動を取る必要はない。
自分は変わらず、鬼と戦えばいい。
そう結論づけ、禰豆子は改めて手鬼へと突進した。


371 : 炎魔参戦 ◆NIKUcB1AGw :2021/08/14(土) 23:45:03 N6bK/SHM0
なお自殺したサイコロステーキ先輩の亡骸は、たまたま背の高い草に遮られ、彼らからは見えていなかった。


【0040頃 平原】

【アスモデウス・アリス@魔入りました!入間くん(1) 悪魔のお友達@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
会場を探索し、入間がいれば合流
●中目標
本当に、この場に人間がいるのか調べる
●小目標
怪物(手鬼)を叩きのめし、情報を引き出す

【手鬼@鬼滅の刃 ノベライズ〜炭治郎と禰豆子、運命のはじまり編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 人間を喰う
●小目標
 食事の邪魔をしてきた鬼と、正体不明の男を倒す

【竃戸禰豆子@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 人間を守る
●小目標
 目の前の鬼を倒す


372 : ◆NIKUcB1AGw :2021/08/14(土) 23:47:11 N6bK/SHM0
投下終了です
悪魔の言語に関しては、アニメ版の描写から「翻訳魔法なしでも会話は可能だが、文字は読めない」と判断しました
問題ありましたら、指摘をお願いします


373 : 名無しさん :2021/08/16(月) 06:25:18 Cl3enLyE0
投下乙です。
お〜うちのロワじゃ逆に珍しい銃撃戦や首輪キルとかのバトルが起こらずにそれぞれの境遇から相互理解を始めていく投下だあ、と思ってたら最後のタイトルで草生えました。
でも一番驚いてるのはノベライズとかじゃない児童文庫オリジナルのキャラが投下されたことなんだよね。
一回だけならマグレだろうけどまさか複数回投下できる人が二人も現れるとか、しかもこのロワきっかけに児童文庫読み始める人がいるとか、これはもう児童文庫ブームと言っても過言では無いですね、ええ。
灯子ちゃんは同級生が始まって1時間ぐらいで4人死んでますけどまだ四捨五入すれば犠牲者ゼロですし頑張って欲しいです。
そして針とらノベライズの入間くん参戦。鬼や妖怪が出てくるならキミノベルの看板作品からは悪魔のエントリーだ。そういえばこのロワではほぼいない奉仕マーダー系の危険人物ですね。会話できる(できるとは言っていない)キャラは誰と組み合わせるかで料理のしがいがあるな。
では投下します。


374 : 名無しさん :2021/08/16(月) 06:26:33 Cl3enLyE0







 バァン!

「やべえよやべえよ……ライト点けてなかったから……」
「か、カッキーくん……」
「こ、これ、事故だよな? オレ、アクセル踏んでねえよ。」
「柿沼! しっかりしろ!」
「はい助けます!」

 柿沼直樹は竜宮レナに一喝されて慌てて軽トラの運転席から転がり出た。車の前に行き死体を確かめに行く。無免許運転で人を跳ねる、中学生でもこれはヤバい。下手したら少年院だ。いや下手しなくてもだ。どう考えても死ぬスピードで跳ねてしまったが、一縷の望みをかけて車の前方を探す。

「な、無い……まさか……」

 車で跳ねたなら死体は車の前方にあるはず。
 なのに死体が車の前に無い。
 ということは、死体は車の下に……

「は、跳ねただけじゃなくて轢いちまったのか……? こ、これもう確実に……」
「柿沼、柿沼!」
「は、はい!」
「見て、あれ。」

 車のライトを点けてから続けて出てきたレナに呼びかけながらビンタされ、柿沼は文字通り飛び上がった。着地と同時にレナの方を向く。そして彼女が指差す方を見る。それはつい今まで見ていた車、の下だ。

「浮いてる……竜宮、なんか車……」
「……たぶん、下に。」

 もうおしまいだ、柿沼は膝をついた。
 まだ跳ねただけならワンチャン助かるかもしれなかったが、軽トラの後輪が地面から浮いてるってことはこれもう完全に轢いている。これは助からない。
 柿沼は落涙した。涙と共に溢れてくるのは、これまでの思い出だ。特に中学、思えばたくさん馬鹿をやった。中一の夏休みにはクラスの男子たちと解放区を作ろうとして一人だけ身代金目的で誘拐されたり、その後も捕まったり拉致られたり、なんかそういえば自分一人だけ割り食う話が多かった気がする。でも楽しい思い出だ。
 だがそんな青春ももうおわ「か、柿沼! あれ!」ちょっと今回想シーンなんだけどうわあああなんだあっ!?」

「イッテえ……なあ!」

 く、車が持ち上がってるっ!!!
 なにあれ! 白い道着なの? 背中に悪って、悪って書いてある道着の人が車持ち上げてるぅー!?
 ねえなにあれ! 竜宮なにあれ! 怖いよぉ!

「あれは……オヤシロ様!?」
「え、あれが!?」

 どう見てもチンピラなんだけど! 死んだはずのチンピラがゾンビになって車持ち上げてんだけど!

「勝手に殺してんじゃねえ! てか誰がチンピラだ!」
「痛いッス!?」

 げ、ゲンコツ!?


375 : 名無しさん :2021/08/16(月) 06:27:48 Cl3enLyE0







 それからしばらくして。

「つまり、お前らもあのウサギモドキにはなんも心当たりがないってことか。」

 跳ねて轢いたはずなのに超ピンピンしてる相楽左之助に、コンビニのイートインで柿沼とレナは尋問という名の情報交換をされていた。
 元々スタート地点が開業医の産婦人科だった柿沼は、110番したり家にかけたりしたが繋がらなかったこと。しょうがないので医院内の『アイテム』を『ひろう』して警察署に逃げ込もうと考えていたところ、同じように警察署を目指していたレナに捕まったこと。捕まり馴れていたもあって下手な抵抗はしなかったためになんとかレナに同行を認めてもらったこと。警察署まで距離があるので医院の軽トラを使おうと言い出し、無免許運転で案の定左之助を跳ねたこと。全てを包み隠さず話した。

「お前全部話すな。ふつうごまかしたりするもんだぞ。」
「こういうのごまかしてもヤバイことになるだけなんでマジで全部話しますよ。」

 あまりに何もかも話す柿沼に呆れる左之助に柿沼はヘコヘコしながら話す。なんなら揉み手でもしかねないほどだが、なぜ運転できないのに車を使おうなどと言い出したかというと仲間が同じように巻き込まれているかもしれないから法律など無視して急いで探したかったから、とまでは言わなかった。左之助もそのあたりは察しがついたが何も言わなかった。
 そもそもさっきの事故は、一応信号は守っていた柿沼の運転する軽トラに赤信号などわからず左之助が突っ込んできて起こったものだ。というのも、左之助も柿沼と同じように仲間がこの街にいる可能性を考えてひたすらに走り回っていたからである。まさか緑になったから走り出して直ぐに人が猛スピードで横切るなどとは思わず柿沼はさっきのテンパリ具合になった、というわけである。
 なので左之助としても少々バツの悪い部分がある。それもあって柿沼から話を聞き終えると直ぐ様に柱に預けていた背を離し、店から出ていこうとした。

「ちょっと、どこ行く気ですか?」
「もう聞きたいことは聞いた、お前らはどっかに隠れてろ。」

 正気か?と柿沼は思った。たしかに、轢かれたとは思えないほど元気ではある。が、その頭はスピリタスをかけて消毒したあとに生理用ナプキンで止血という無茶苦茶な状態である。色んな意味で病院に行ったほうがいいだろう。
 だがズンズンと歩きながら、悪一文字の背中から話された言葉に、柿沼は返す言葉が無かった。
 ほんの僅かな間話しただけでも、漢としての格の差を感じて、とても止められる言葉など思いつかなかったのだ。それは彼の仲間である安永に感じるものを100倍にして更に100倍、つまり10000倍にしたような感じだ。強さ、というか、タフさ、というべきか、とにかくそういうものがある。背中で語る漢っぷりを前に、柿沼の足は竦んだ。

「ねえ、このまま相楽さんと離れちゃ駄目だよ。」

 うっ、と柿沼は喉を鳴らした。レナの言うことはわかる。この殺し合いの場で出会った殺し合いを良しとしない人。仲間の為に何処とも知れない街を駆け回り、車に跳ねられてもへっちゃらの男は、二人にとって極めて頼りになる人間だ。全員仲間を探しているし協力できることも多いだろう。
 だが柿沼は言葉を持たない。

「カッキーくんの家はお医者さんなんだよね。最初にいた場所も病院って言ってたし、おわびに手当てをしたいって言うのはどうかな? かな?」

 持たされた。これ言わなきゃまたレナパン喰らうやつじゃん……
 下手に手際よく左之助の止血をしたのが仇になったか、ナプキンを止血に使うという産婦人科医知識が仇になったか、ふだんほとんど活かされずたまに役立ったと思えば妊娠した先輩を周りに秘密で中絶させるのに自分が孕ませたと嘘をつくとか、そんなの感じてしか発揮されない医者の息子という立場が使い物になるタイミングが来てしまった。
柿沼は半ばヤケになって左之助を追いかけた。


376 : 名無しさん :2021/08/16(月) 06:28:29 Cl3enLyE0







 それからしばらくして。

「つまり、お前らもあのウサギモドキにはなんも心当たりがないってことか。」

 跳ねて轢いたはずなのに超ピンピンしてる相楽左之助に、コンビニのイートインで柿沼とレナは尋問という名の情報交換をされていた。
 元々スタート地点が開業医の産婦人科だった柿沼は、110番したり家にかけたりしたが繋がらなかったこと。しょうがないので医院内の『アイテム』を『ひろう』して警察署に逃げ込もうと考えていたところ、同じように警察署を目指していたレナに捕まったこと。捕まり馴れていたもあって下手な抵抗はしなかったためになんとかレナに同行を認めてもらったこと。警察署まで距離があるので医院の軽トラを使おうと言い出し、無免許運転で案の定左之助を跳ねたこと。全てを包み隠さず話した。

「お前全部話すな。ふつうごまかしたりするもんだぞ。」
「こういうのごまかしてもヤバイことになるだけなんでマジで全部話しますよ。」

 あまりに何もかも話す柿沼に呆れる左之助に柿沼はヘコヘコしながら話す。なんなら揉み手でもしかねないほどだが、なぜ運転できないのに車を使おうなどと言い出したかというと仲間が同じように巻き込まれているかもしれないから法律など無視して急いで探したかったから、とまでは言わなかった。左之助もそのあたりは察しがついたが何も言わなかった。
 そもそもさっきの事故は、一応信号は守っていた柿沼の運転する軽トラに赤信号などわからず左之助が突っ込んできて起こったものだ。というのも、左之助も柿沼と同じように仲間がこの街にいる可能性を考えてひたすらに走り回っていたからである。まさか緑になったから走り出して直ぐに人が猛スピードで横切るなどとは思わず柿沼はさっきのテンパリ具合になった、というわけである。
 なので左之助としても少々バツの悪い部分がある。それもあって柿沼から話を聞き終えると直ぐ様に柱に預けていた背を離し、店から出ていこうとした。

「ちょっと、どこ行く気ですか?」
「もう聞きたいことは聞いた、お前らはどっかに隠れてろ。」

 正気か?と柿沼は思った。たしかに、轢かれたとは思えないほど元気ではある。が、その頭はスピリタスをかけて消毒したあとに生理用ナプキンで止血という無茶苦茶な状態である。色んな意味で病院に行ったほうがいいだろう。
 だがズンズンと歩きながら、悪一文字の背中から話された言葉に、柿沼は返す言葉が無かった。
 ほんの僅かな間話しただけでも、漢としての格の差を感じて、とても止められる言葉など思いつかなかったのだ。それは彼の仲間である安永に感じるものを100倍にして更に100倍、つまり10000倍にしたような感じだ。強さ、というか、タフさ、というべきか、とにかくそういうものがある。背中で語る漢っぷりを前に、柿沼の足は竦んだ。

「ねえ、このまま相楽さんと離れちゃ駄目だよ。」

 うっ、と柿沼は喉を鳴らした。レナの言うことはわかる。この殺し合いの場で出会った殺し合いを良しとしない人。仲間の為に何処とも知れない街を駆け回り、車に跳ねられてもへっちゃらの男は、二人にとって極めて頼りになる人間だ。全員仲間を探しているし協力できることも多いだろう。
 だが柿沼は言葉を持たない。

「カッキーくんの家はお医者さんなんだよね。最初にいた場所も病院って言ってたし、おわびに手当てをしたいって言うのはどうかな? かな?」

 持たされた。これ言わなきゃまたレナパン喰らうやつじゃん……
 下手に手際よく左之助の止血をしたのが仇になったか、ナプキンを止血に使うという産婦人科医知識が仇になったか、ふだんほとんど活かされずたまに役立ったと思えば妊娠した先輩を周りに秘密で中絶させるのに自分が孕ませたと嘘をつくとか、そんなの感じてしか発揮されない医者の息子という立場が使い物になるタイミングが来てしまった。
柿沼は半ばヤケになって左之助を追いかけた。


377 : 名無しさん :2021/08/16(月) 06:28:45 Cl3enLyE0







「ねえ、この音なにかな? かな?」
「ああ、AEDの音だな。AEDの音じゃん!?」
「なんだそれ?」

 なんとか左之助を説得し最終的にほとんど土下座までして元いた医院に行くことになった三人の元にそのアラートが聞こえてきたのは、医院の駐車場に車を停めようとしたあたりのことだった。

「ほら、あの……心臓止まった時に使う、アレです。」
「なんでそんなあやふやなんだよ。」
「説明難しいんですよ。ああいうのってあらためて話そうとすると困るよな? なあ竜宮。」
「えーと、そのAEDって、お医者さんが使う物だよね?」
「いや医者じゃなくても使えるよ。使い方音声ガイドで流れるから小学生でもできるらしいって。え、二人とも知らないの?」
「東京って進んでるんだね。」
「ま、諏訪には無かったな。」
「あ、長野とかあっちの方はあんま無いのか。まあこっちだと病院とかの入り口ら辺にはだいたいあるんですよ。」

 なお、柿沼はレナが昭和で左之助が明治の人間だということに全く気がついていなかった。レナは可愛くていい匂いがするという所にしか目が行っていないし、左之助に関しては車ドンしてしまった以上それどころではない。

「心臓が、心室細動、えっと、とにかく止まりかけてる時に使うとなんかいい感じです。あの音が鳴ってるときはケースに入ってるAEDを開けたときなんで、たぶん誰かが使ってるか、じゃなきゃ間違えて開けちゃったんじゃないですか。」
「待って。」

 駐車して降りながら柿沼がそういって降りようとしたところで、助手席のレナが手を伸ばしてシートベルトを外そうとした柿沼の手を止めた。同時に荷台に乗っていた左之助も地面に降り鋭い目つきを医院へと向ける。

「それってあの病院に誰かがいるってことだよね?」
「いつから鳴ってるかはわかんないから今いるかはわかんないけれど、まあ、そうなるな。」

 レナは手を鍵へと向けた。エンジンをかける。その行動で柿沼は察した。

「もしかして、罠って思ってる?」
「可能性はあるよね。わざわざあんな音を立てる意味って、人を集めるのが目的なんじゃないかな。あの音って、そのAEDっていうのを出したら止めれないの?」
「えっと、どうだったかな。止めれた気も。」
「じゃあおかし――左之助さん、上!」
「死ねい!」

 バックに入れ、レナは車を一気に後退させた。次の瞬間、それまで軽トラの運転席があったところを一筋の銀光がきらめく。
 驚く柿沼の視界が揺れる。後退した軽トラを追って銀が走る。それをレナがハンドルを切って躱す。フロントガラスに横一文字の斬撃が刻まれたところで、左之助が何かを殴り飛ばす。車が何かにぶつかり、シートに押し付けられた。

「鎧武者だ。」

 柿沼は驚きすぎて冷静に呟いた。鎧武者だ。本当に鎧武者がいる。なんかデカい鎧武者が、左之助にぶん投げられていた。鎧武者が降ってきたのださっき。そして鎧武者が刀を振るって、レナが躱して左之助が殴ったのだ。鎧武者は左之助にジャーマンスープレックスをかけられていた。

「なんで鎧武者!?」
「カッキー! 車が動かなくなった!」

 レナは片手でハンドルを握り片手でフロントガラスを銃床で叩き割りつつ片脚でアクセルを踏みながら言った。そのまま銃口を鎧武者に向けようとして、左之助がマウントポジションで鎧武者を殴りだしたのを見て下ろす。コツン。金属質な音と微かな振動が伝わる。
 その資格と聴覚と触覚が柿沼の最期の感覚だった。



【脱落】

【柿沼直樹@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【竜宮レナ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】

【残り参加者 251/300】


378 : 名無しさん :2021/08/16(月) 06:29:15 Cl3enLyE0







「竜宮! 柿沼! うおっ!?」

 突如爆発した軽トラに思わず左之助の拳が止まる。その隙を見逃さず鎧武者は左之助を殴り飛ばし、立ち上がりざまに大太刀を振るい、それを左之助は胸を浅く斬りつけられながらもなんとか躱した。
 今のはおそらく、手投げ弾によるものだ。赤報隊で培った爆弾を使った戦法への理解が起こったことへの察しをつかせる。
 左之助は車がどういうものかはいまいちわからないが、馬車や牛車に近いものということは理解していた。そしてそういうものを襲う時は足を止めるのが定石だとも。

(あの音、このデカ鎧が鳴らしたもんじゃなかったのか! 今のは下手したらコイツごと吹っ飛んでた。間違いねえ、もう一人はいる!)
「今度はこちらから行く!」
「コイツまだやる気かよこのバカ!」

 左之助はこの場に少なくとも一人、あるいはそれ以上の敵がいることを察して離脱にかかろうとした。それを妨害する鎧武者に悪態をつきながら忙しなく周囲に視線をやる。この場に左之助しかいないと思っているのか他の者は眼中にないのか、執拗に左之助へと大太刀を振るう。今度は腹に赤い線が刻まれた。
 あの音で参加者を集めて出会わせる。戦いになれば爆弾を投げ込んで漁夫の利を狙う。ならずとも爆弾を投げ込められれば効率的に多く殺せる。下衆だが狡猾な戦法だ。
 そしてそんな戦法を取るからこそ、直接戦えば弱いと見切りをつけた。今まで左之助が戦ってきた相手は、基本的に強い奴ほど搦手に頼らず力でねじ伏せに来た。無論策を弄さないわけではないが、こういうことをやるのは強い奴の横にいる自分のことを賢いと思ってる奴と相場で決まっていると、左之助は信じている。そして――そんな奴にとって、今の自分は格好のエサだとも。

(このままじゃ、コイツごと吹っ飛ばされちまう! なら――)
「殺った!」

 鎧武者の大太刀が左之助へと振るわれる。袈裟懸けの一撃を。

「しゃあっ!」
「なにっ!」

 左之助は、受け止めた。鍛え上げられた筋肉と異様に頑丈な骨が、刃を止める。
 鎧武者は大太刀を抜こうとした。が、抜けない。筋肉が収縮し、大太刀を締め付ける。まずい。そう思うももう遅い。

「ぐっ、おおおおおお!?」
「――二重の極み。」

 逃れようのない衝撃が腹部を貫く。堪らずガクリと膝をついた鎧武者を見て、左之助は筋肉を緩めて大太刀を外すと、軽トラへと駆けた。中を見るまでもないが、それでも一応炎に包まれていく運転席を見る。まだ辛うじて人の形をしている死体に一瞬目を伏せ、駆ける速度を上げた。
 ダダダダ。左之助が通り過ぎた後を銃弾が叩く。今ので敵の位置は割れた。が、そこまで行くまでの間に恐らく逃げられる。今まで撃ってこなかったのは手投げ弾を投げてから場所を変えていたのだろう。ならもう既に、また場所を変え始めているはず。逃げられる前に追いつくだけの余力は、今の左之助には無い。

「ぐっ、さすがに、やりすぎたか……」

 肩の傷がかなりヤバい。いくら化け物のような頑丈さの左之助でも限界はある。
 左之助は窓ガラスをぶち破って医院に入った。まずは傷の手当をしないとどうにもならない。

(この借りは倍返しじゃ済まさねえぞ。)

 止まらぬ血を拭いながら、左之助は鳴り続けるAEDを拳で黙らせた。


379 : 名無しさん :2021/08/16(月) 06:29:54 Cl3enLyE0







 鑑隼人はあらかじめ目をつけていた民家へと転がり込むとトイレへ向かい吐きに吐いた。
 彼こそ柿沼直樹と竜宮レナの二名を爆殺した下手人であり、医院のAEDを使って人を呼び寄せた張本人である。その凶悪な動きとは裏腹に、抱えていた銃を取り落として便器に胃液をぶちまける姿は、柿沼と同じ年の少年にしか見えなかった。

(はぁ……はぁ……いまさら、見ず知らずの人間を殺したぐらいで、なんでこんなに……)

 端正な顔立ちは歪み、口の端には吐瀉物がこびりついている。苛立ちげに水を流すと、トイレットペーパーで口を拭い便器に叩きつけるように流した。
 流れる水が渦を巻き、吸い込まれていく。それを見てまた、怒りに燃える。今度は己ではなく、水の国――彼の祖国であり復讐対象へだ。
 そもそも隼人が殺し合いに乗ったのも、水沢巴世里を生き残らせるためだ。隼人の復讐完遂のためには、パセリにこんなところで死なれては困る。だが今のパセリは記憶を失いその力も無力、その上性格的にこんな場所でも積極的に動き回りかねない。昔っから、それこそ三つ子の魂百までという諺通り、良い事も悪い事もとにかくなんでもやる行動力の塊のような少女だ。そんな少女が殺し合いの場でどう行動するか。想像するだけでも恐ろしい。
 だから、危険人物は殺す。最初は明らかに乗っていそうな鎧武者が現れて強そうなので二の足を踏むが、そこに新たな人間が現れて爆殺を決意した。鎧武者を狙おうかとも考えたが、道着男が優勢だったので狙いは軽トラの方へと決めた。鎧武者の奇襲に気づいて躱すような奴はパセリの味方になれば心強いが、殺せる時に殺しておかないと殺せるタイミングが無くなる。普通の人間に負ける気はないが、ここは銃がやたらと落ちている。不確定要素は極力減らさなけらばならない。

(あと少し、あと少しで全て終わるんだ。)

 少年は震える手を無理に動かして銃に弾を込めた。


380 : 名無しさん :2021/08/16(月) 06:36:22 Cl3enLyE0



【0100 市街地】

【相楽左之助@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 殺し合いをぶっ壊す
●中目標
 柿沼と竜宮を殺った奴をぶちのめす
●小目標
 傷を手当する

【大太刀@映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 皆殺し
●中目標
 鱗滝とアキノリは、絶対に自分の手で殺す
●小目標
 道着男(左之助)を追いかけて殺す

【鑑隼人@パセリ伝説 水の国の少女 memory(3)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 復讐完遂のためにはパセリを生き残らせる


381 : 名無しさん :2021/08/16(月) 06:39:57 Cl3enLyE0
投下終了です。
今後もよろしくお願いします。


382 : 名無しさん :2021/08/16(月) 08:01:10 yS2Z8sDM0
投稿乙です!
武器がそこら中に転がる舞台の殺伐さに加え時系列の違いからくる混乱
混乱自体は微々たるものだったけど、殺人に躊躇なく片方は半ば行きあたりばったりだったのもあり、キレ者であるレナも対処仕切れなかったの点で序盤のロワの恐ろしさが描写されていたと思います
左之助と柿村も含め短いながらもコミカルで知的なやりとりは好印象として残りました、柿村とレナ合掌
鑑は復讐者としての余裕の無さが悲壮感と悪役特有の無神経が際立っていたと思います
あと投下する際はトリップ付けた方がいいと思います


383 : ◆NIKUcB1AGw :2021/08/24(火) 21:19:40 DlWF/Qic0
投下します


384 : 生きることは戦うこと ◆NIKUcB1AGw :2021/08/24(火) 21:21:25 DlWF/Qic0
森の中を、一頭の狼がゆっくりと歩いていた。
虎やヒグマが参加しているどころか、鬼やら悪魔やら妖怪やらも参加しているのがこのバトルロワイアル。
今さら狼程度が確認されたところで、驚くようなことではない。
だがこの狼は、ありふれた名もない狼などではない。
かの高名な動物学者・シートンによって後世に伝えられた、伝説的な狼。
「狼王」ロボ。それこそが彼である。


ロボの心は、この上なく荒れ狂っていた。
最愛の妻がこざかしい人間の手に落ち、自分もまったく気づかぬうちにとらわれの身となっていた。
その上 人間に飼い慣らされた犬畜生のように首輪を付けられ、見知らぬ地に放された。
誇り高き王にとって、あまりに屈辱的な仕打ちだ。
だが今のロボにとって、屈辱すらもっとも大きな感情ではない。
一刻も早く縄張りに戻り、妻を見つけなければならないのだ。
たとえ、彼女が亡骸となっていたとしても。

しかし、ロボには帰る方法がわからない。
先ほど妙な気配を保つ獣が発していた鳴き声は、ロボにはまったく理解できていなかった。
しかしその表情や周囲の反応から、あの獣が闘争を求めていることはなんとなく理解できた。
「帰りたくば殺せ」。獣はそう言っていたのかもしれない。
仮にそうだとすれば、ロボにとっていい話とはいえない。
牛や羊なら、簡単に殺せる。同じ狼でも、ロボと1対1で戦って勝てる相手はそういないだろう。
だが、人間はまずい。
体一つなら狼よりはるかに弱いが、奴らが使う「銃」はロボでさえも簡単に殺せるだけの威力を持っている。
だからこそロボは、決して人間に近づくことはしなかった。
ところがあの場には、今までロボが見たことがないほど大勢の人間がいた。
その全てを殺し尽すなど、いかにロボの頭脳と力でも現実的ではない。
おまけに、この地には銃がそこら中に落ちている。
何個か川まで運んで沈めてやったが、きりがない。

状況は最悪に近い。
だがこのままではいずれ人間に撃ち殺されるか、寿命を迎えて野垂れ死ぬかだ。
いかに分が悪かろうとも、人間を殺すことで縄張りに帰るための道が開ける可能性にかけるしかない。
ゆえにロボは、殺意をみなぎらせる。おのれの命よりも大切なもののために。


385 : 生きることは戦うこと ◆NIKUcB1AGw :2021/08/24(火) 21:23:15 DlWF/Qic0


◆ ◆ ◆


やがてロボは、一人の人間と遭遇した。
その人間は、四道健太という中年男性だった。
だがロボにその名前を知るすべはないし、知ろうとも思わない。
人間は、殺す対象でしかないのだから。

「狼ィ!? 殺し合いっちゅうだけであれやのに、猛獣までおるんかいな!」

予想外の遭遇に動揺を見せる四道。ロボに、その隙を見逃す理由はない。
迷わず大地を蹴り、四道に突進。
その爪で、四道の肩を切り裂く。

「があっ!」

四道が、苦悶の声を上げる。
獣が相手であれば、このまま追撃をしかけ一気に仕留めるところ。
だが、相手は人間。ロボはすかさず距離を取り、木の後ろに身を隠す。

「やってくれたなあ!」

怒鳴り声をあげながら、四道は拳銃を発砲する。
だがすでに身を隠したロボには、弾丸は届かない。

やはり銃を持っていたか、とロボは思う。
あれに一回でも当たってしまえば、一巻の終わり。
身を隠しながら戦うという選択肢は正解だった。
だが相手は、銃の扱いに慣れていないようだ。
身を隠さなくても当たっていなかったほど、狙いがずれていたのがその証拠。
あるいは、ケガが原因か。
どちらにしろ、銃弾に当たる可能性は低そうだ。
だが、「低い」と「ゼロ」は違う。
ロボにとって銃が脅威であるという事実には、何ら変わりがない。
大胆に、それでいて慎重に。
ロボは四道に一撃を加えては、すぐに隠れるというヒットアンドアウェイを繰り返す。

「ふ、ふざけんなや……。わしはこんなところで死ぬわけには……」

満身創痍になりながらも、四道はまだ諦めてはいなかった。
ひどい出血と痛みで、もはや銃を構えることすら満足にできない。
しかしだからといっておのれの死を受け入れられるほど、彼は潔い人間ではなかった。

「なんとか……なんとか逆転する方法を……」

途切れそうになる意識を必死でつなぎ止めながら、四道は森の中を移動する。
考えなしの逃走ではない。
銃がそこら中に置かれているこの地なら、一発逆転が可能な武器を見つけられるかもしれないと考えてのことだ。
そして彼の目は、本当に強力な武器が置かれているのを見つけ出す。
RPG-7。武器としての区分でいえば、ロケットランチャー。
これなら、多少狙いがはずれても相手を吹き飛ばすことができる。

「お返しや! 人間嘗めたらあかんで!」

残された力を振り絞り、四道はRPG-7を構える。
そして引き金を引いた、その刹那。
ロボの蹴り飛ばした石が、四道の手を直撃した。
その衝撃と痛みで、四道はRPG-7から手を放してしまう。
結果として、照準は下を向く。

「そんな……!」

四道の最期の言葉は、爆音に飲み込まれた。


386 : 生きることは戦うこと ◆NIKUcB1AGw :2021/08/24(火) 21:24:23 DlWF/Qic0


◆ ◆ ◆


ギリギリの勝利だった、とロボは振り返る。
彼が人間であれば、顔に冷や汗を浮かべていたであろう。
まさか、あんなにすさまじい威力の銃が存在するとは思わなかった。
上手く石が相手の手に当たり、たまたま自滅する格好になった。
結果としては、運に大きく助けられたことになる。
ほんの少し運命の歯車がずれていれば、黒焦げになっていたのはロボの方だろう。
この地で生き残るのは、想像していたよりもさらに困難なのかもしれない。
それでも、ロボは止まるわけにはいかない。
全ては、愛するもののために。


【0100 森】

【ロボ@シートン動物記 狼王ロボほか@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
生き残り、縄張りに帰る


【脱落】
【四道健太@ミステリー列車を追え! 北斗星 リバイバル運行で誘拐事件!?(ミステリー列車を追え!シリーズ)@角川つばさ文庫】

【残り参加者 250/300】


387 : ◆NIKUcB1AGw :2021/08/24(火) 21:27:56 DlWF/Qic0
投下終了です


388 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 03:30:56 q1otGpaU0
投下乙です。
やりやがったッ!! 賢王ロボすげえッ!!
これまでに出てきた200人の参加者でも上位に入るクレバーさ、やはり天才か。
触発されました。カッキーとレナの退場話ではトリップを付け忘れてお騒がせしました、今回はちゃんと投下します。


389 : ノット・ワンターン・ファイブキル ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 03:32:13 q1otGpaU0



 勇気とは本来、稀有なものだ。物語の中のヒーローや戦士は当たり前にそれを持つから忘れがちだが、一般人が、まして子供がそれを持つことなんて滅多に無い。
 あるいはあったとしても、自らや周囲を省みない勇気、蛮勇。判断能力の低さからくる無鉄砲さ、向こう見ずさ。そういう勇気は匹夫の勇、本当の勇気とは別のものだ。
 森青葉は、初期地点から一歩も動けずにいた。
 青葉の好きな本の主人公たちならば、こういう時は迷わず行動していただろう。たとえば、この殺し合いを止めるために走り回ったり、友達が巻き込まれているかもしれないと人の多いところを目指したり、主催者を倒すために作戦を練ったり。
 青葉だってそうしたかった。彼もまた、主人公と呼ぶに相応しい不思議なことに巻き込まれている。家にあったトランクを不要に開いたら、封印されていた悪魔を街に解き放ってしまったという、どっちかというとホラーの元凶みたいなものだったが、それでも悪魔と問答したり同級生の意外な一面を見たりと、まあ非凡な経験を最近はしている。
 だがそれでも、全く身体が動いてくれなかった。
 赤い霧、赤い空、見知らぬ森。三つが揃うだけで、身動きできない。息をするのも怖い。ほんの少し動いただけで、自分を狙う恐ろしい殺人鬼に感づかれてしまうような、そんな恐れが青葉を木の根本へと縛り付ける。
 頭ではわかっている。まさかそんな、少し動いただけで死にはしないだろうと。相手はきっと自分と同じような中学生だ。きっとケンカもしたことない。というか、いきなり殺し合えと言われて殺し合わないだろう。
 だがそれでもこう考えてしまう。
 実は殺人鬼が参加者になっているかもしれない。
 実は悪魔や超能力者みたいな存在がいるかもしれない。
 実は怪物や猛獣が生息しているかもしれない。
 そう考えだしたら、もう何もできなかった。

 ――だからこそ、青葉は今まで生きてこられた。
 この森には、青葉より幼い頃に何十人も殺した忍者も、青葉より幼い頃に両親を食い殺した鬼もいる。なんなら超能力者もいたし、ついさっきオオカミが小石を蹴り飛ばしてロケランを構えていた人間の手にぶち当てて爆死させたりもした。いずれも高い感知能力を持っているため、下手に歩き回って痕跡を残していたら確実に気づかれて殺されていただろう。
 全く主人公らしくない行動を青葉はしていたが、それが青葉を主人公らしく生き残らせていた。

(じゅ、銃の音……!?)

 まあ、それにも限界が来たのだが。

 青葉の耳に聞こえてきたのは、断続的な銃の音だった。別に銃声からどんな銃かなどわかるわけはないが、それでも何度も続いて音がしているので、マシンガンみたいなものだとはなんとなくわかる。
 青葉の心臓は限界まで早くなった。
 マシンガン。まさかのマシンガンである。てっきり、バットとかナイフとか、そういうので戦うと思っていたが、まさかの銃。しかも強いやつ。


390 : ノット・ワンターン・ファイブキル ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 03:33:11 q1otGpaU0

(無理だよ……なんでマシンガンなんて……)

 ハッ、ハッ、とうるさい息を手で塞ぎながら、青葉はだんだん近づいてくる音と光に注目する。逃げなければ。というか、止めなくては。そう思うのに、やはり身体は動いてくれない。
 声も聞こえてきた。男二人が戦っているようだ。なぜかこっちに向かって近づいてきている。それはたまたまだったが、青葉からすれば自分目掛けてきているとしか思えなかった。

「だ・か・ら! わしは坂本龍馬言うとるがやき!」
「お前が坂本龍馬の訳があるかぁ!」

 そして、時代劇に出てきそうな和服の人が、片手に日本刀を、片手にハリウッド映画で軍隊が使ってるようなライフルを持って、世紀末っぽい格好の隻腕の人と共に現れた。
 ……見なかったことにしたい。

「死んだ人間の名を騙るか!」
「わしは生きちょる! おい、そこの!」

 しかも声をかけられた。もう終わりだ。
 銃同士で鍔迫り合いみたいなことをしながら、坂本龍馬?の方が問いかける。ズリズリと後退りながら。なるほど、あの隻腕の人怪力なんだなあ。

「小僧まで巻きこむとはどこまでも! まとめて死ね!」
「え、まとめて!?」
「逃げい!」

 なんで、こっちまで? 疑問に思うより早く、坂本龍馬?に片腕で抱えられ地面を転がる。ズダンズダンと、銃声が響いた。

「――そこまでだ。」
「ぐあっ!」

 続けて、カッコいい声が聞こえた。そして隻腕の人の悲鳴も。
 土だらけの顔をなんとか上げて見る。青のラインが入った黒いコートの金髪の、男の人?が、ライトセーバーみたいなのを持っていた。隻腕の人の銃が真っ二つになっている。
 ……もう、わけがわからない。

「お、おまんは?」
「見ての通り、通りすがりの消防士だ。」

 そんなわけあるか。

「俺の名はアーサー・ボイル。お前は?」
「……鯨波兵庫。」

 アーサーと名乗った消防士はライトセーバー的なものを構える。
 鯨波と名乗った隻腕の人も肩から日本刀を抜いて構える。

 そして、二人の戦いが始――

「ちょ、ちょっと待ってくださぃ!」

 ――まらなかった。

 金縛りのようだった身体は、ヘンテコな消防士を見上げることでようやく動くようになった。
 それ以前に、坂本龍馬?の手で地面を転がされて、青葉の身体は動いていた。
 人に動かされて、無意識で動いて、そこまですれば後は青葉の問題だ。
 青葉に必要なのはキッカケだった。自分が動くことになるキッカケ。動き出すための最初の一歩。青葉自身ではそれを踏み出すだけの勇気も行動力も無いけれど、誰かに背中を押してもらえたならば、立ち上がれる。
 周りをグイグイ巻き込むような主人公にはなれないけれど、一歩踏み出すことなんてできないけれど、二歩目からなら走り出せる、それが青葉だった。

(止めないと、とにかく。)

 今まで縮こまっていた身体を嘘のように動かす。気合を入れた手足で真っ直ぐに三人の男達の中心に立った。そして大きく息を吸って、叫んだ。

「殺し合いなんて! やめてくださああい!」


391 : ノット・ワンターン・ファイブキル ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 03:33:59 q1otGpaU0



「えっと、じゃあ、皆さん殺し合いには乗ってないんですね?」
「当たり前だろう、騎士道に反する。」
「殺し合えって言われて殺し合う奴はおらんがやき。」
「……殺したい奴なら他にいる。」

 数分後、四人は車座になって話していた。青葉の叫びが心に響いたからかそれとも戦いの雰囲気を損なったからか、なんとかそれぞれの武器を下ろさせることに成功した。そもそも誰もマーダーでないことも大きかったのだろう。
 とはいえ、青葉はさっきとは別の理由で混乱していたのだが。

「えっと……坂本龍馬さん、ですよね?」
「そう言うちょるがやき。それをこいつが誰かと勘違いして襲って――」
「坂本龍馬はとっくに死んでる。」
「なんだ、殺人事件の話か?」
「……タイムスリップ、てこと?」

 坂本龍馬と名乗る坂本龍馬と、坂本龍馬を知らないアーサー。話を聞く感じ現代の人間のはずなのに騎士王で消防士で金髪で未成年のアーサー。色々とわけがわからない。
 坂本龍馬はわかる。たぶん、タイムスリップしてきたのだろう。
 鯨波もわかる。聞いた感じ、龍馬が暗殺された後からタイムスリップしてきたのだろう。
 この二人はいい。
 問題はアーサーだ。

「消防士って成人じゃなくてもなれるのかな……金髪も怒られそうだし……後、騎士って……」

 青葉はアーサーという存在を飲み込めずにいた。
 その男、騎士王で消防士。つまりどういうことなのか。
 ファンタジーな異世界から来たのかな?とも思ってみたものの、話を聞くと同僚とラーメン屋行ったとか報告書が煩雑(という難しい言葉をアーサーが言ったわけではないが)だとか、なんか聞く感じ消防士っぽくはある。そして話した感じバカっぽいので、坂本龍馬を知らないのも単にバカだから、という可能性も捨てきれない。

「……それで、これが。」
「フッ……これが俺の約束された勝利の剣《エクスカリバー》だ。」
(なんかさっきと名前違くないかな……?)

 エクスカリバー、というすごい名前のついた、なんかすごい剣。ライトセーバーのように刀身が出たり引っ込んだりする。
 これだ。問題はこれだ。
 現代人で、騎士王で、SFみたいな武器を持ってる消防士。これはなんだろう、なんなんだろう。

(まあ、悪魔がいるなら、そういう人もいる……わけないよね。)

 一瞬、黒いモフモフとしたカワイイ悪魔が頭を過る。「ナメてんじゃねーぞ」と相棒に頭の中で悪態をつかれた。

「――青葉、俺は少し外す。」
「待ぃ、わしも行く。」
「……」

 あ、え、と声にならない声が出た。
 青葉が考え込んでいる間に、アーサー達は立ち上がり一方向を見ていた。
 何を、と言おうとするも、声が出ない。こういう時に声が出ないのが青葉で、そんな自分が嫌になる。人になにか強く言えないのだ。特に強い意志とかを感じる相手には。
 だが、それ以外にもなにか声に出せないものを感じた。
 この感覚は――悪魔と相対したときのような。

「来るぞ!」

 アーサーが叫ぶ。舌打ちしながら鯨波が青葉を担ぐ。チラッと見てきた龍馬と目が合った。
 そして四人は、森の中で赤い津波に飲まれた。


392 : ノット・ワンターン・ファイブキル ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 03:34:43 q1otGpaU0



「水遁・大瀑布の術!」

 桃地再不斬が複雑な印を結び終えると、どこからともなく湧いてきた水が先程の水の龍を模っていた水と合わさり、赤い霧を巻き込んで嵩を増していく。
 森の中に突如として現れた水塊は、濁流となって下弦の伍・累へと殺到した。

(首輪を守らないとまずい。)

 目を見開き逃げ場を探すも、面で迫る攻撃を避けるには時間も距離もない。鬼殺隊では絶対にやってこない攻撃に反応が遅れる。それでも回避を諦め、水に飲み込まれるまでに顎から肩にかけてを蜘蛛の糸で固めたのはさすが十二鬼月と言うべきか。
 身体に刺さる木や石礫を感じながら累は首輪の厄介さを痛感していた。これがあるおかげで実力が出しきれない。迂闊に飛んで走ればその勢いで壊れかねない。累はこれまでの再不斬との戦いで、首輪から幾度となく不穏な音が聞こえてきていたことを気にしていた。思えば、最初に頸を斬り飛ばされたときは運が良かった。音に気づいて戦闘中に首輪の頑丈さについて気を配ろうと思わなければ、同じことをして首輪を壊していたか、あるいは自壊させていたか。いずれにしても負けていただろう。
 だが、負けかねないというのならば今もだ。彼はその名前を知らないが、コルセットのように首から肩まで固めたことで視界は大きく制限された。それは再不斬を相手取るにはあまりに大きな隙。突如としてその身を流す津波は、容赦なく累を揉みくちゃにする。
 そして、ザブン、という音を立てて岩へと叩きつけられた。鬼の身であるためダメージなどあってないようなものだが、これ以上ない隙を見せてしまう。なんとか腕を動かして頸を守ろうとするも、先程作った糸の鎧が邪魔になり肘から先しか動かない。視界の端で再不斬がこちらに何かを高速で投げつける。それが手裏剣だと認識するより早く累は鎧を更に厚くした。
 頸へ走る衝撃。ガツガツという音。鎧に弾かれた手裏剣が累の顔を傷つける。だが累は無表情ながらもホッとする。手裏剣程度ならばこの鎧は抜けないことに。

「アーサー! しっかりせい!」
「も、もんらいなひ……」
「……八ツ目、ではないか。」
「ゴパッ、カハッ! て、鉄砲水……?」
「……また変なのが出た。」

 追撃を避けるために岩から離れつつ走り、濡れ鼠の四人に気づく。偶然かそれとも狙ってか、再不斬の水により同様に流されてきたのだろう。と、そこで累はようやく、自分が元いた位置、つまりは小屋の近くにいることに気づいた。随分と流されたように感じながらも、水に揉まれただけでほとんどその場から動かなかった……そう思いかけて、違うと思い直す。
 累は四人もの人間が近くにいることに気づかないほど、再不斬だけを警戒していたわけではない。間違いなくこの四人は軽く数十間内にはいなかった。ということは、再不斬は水を大きく動かして元の位置にまで戻したということ。

(何が目的だ?)

 何らかの狙いがあるのかそれともそういう術なのか。判断に困る。ならば、最初の目的を果たすのみ。


393 : ノット・ワンターン・ファイブキル ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 03:38:18 q1otGpaU0

「痛ぁ! もっとゆっくり抜け!」
「すまんのう、わしを庇って頬に木の枝突き刺さ――危ないっ!」
「血鬼術・刻糸牢」

 現れた四人に向かい血鬼術を放つ。と同時に、背中に向けて血鬼術を放った。「ちいっ!」と声が聞こえる。
 柄にもなく累の口角が上がる。疑問にするなら、『ニヤリ』。
 累が戦うのは一人、再不斬のみ。他の四人はどうでもいい。後で殺せばそれで終わりだ。
 だから累は、あえて四人へと攻撃を加えた。そうすれば自分の背中から、今度は一度目の時のようにあの不条理にデカい刀で直接頸を斬り落とそうとすると再不斬の行動を読んだのだ。

「血鬼術・殺目篭」

 捉えた。累は再不斬も四人もまとめて血鬼術へと捉える。それはドーム状に張られた鋼糸。累を基点に収縮し、内部の者を皆殺しにする殺戮の檻。都合五人纏めて死ね。

「やべぇ! 水牢の術!」
(水を自分の周りに張り壁としたか。無駄だ。)

 焦り叫ぶ再不斬に構わず、拡げた手を握る。同時に鋼糸が収縮し、容赦無く再不斬を細切れにした。
 そして再不斬は、水になった。

「……は?」
(水? なぜ? 水を操る血鬼術? 違う、鬼じゃない。 水の、人形、分身!?)
「つふぃからつふぃからあふねえなあ!」
「え?」

 頸だけ振り返ろうとして、できずに体ごと背後を見る。そこには、金髪の男が光る刀を持って吠えていた。ここで、累の思考回路は完全にショートした。牽制で放った刻糸牢で死なないのはいい。元より当てることも殺すことも無視した、最低限のものだ。だが、殺目篭は違う。並みの鬼殺隊では斬れぬものを、なぜあの金髪は斬っている?
 その答えは、アーサーの持つエクスカリバーにある。エクスカリバーは炎からプラズマを生じさせて刀身を形づくる。そして累の鋼糸は蜘蛛の糸である以上燃えてしまう。だが、そんなことを累が知る由もない。ただただ、信じられないものを、それこそ鬼でも見たような人間の顔で戸惑う。
 ゆえに、その攻撃に反応したのは奇跡とも言える。ギリギリで自分の背中に迫る再不斬の断刀を頭で受け止める。頭の真ん中を顎まで兜割りにされながら、累は驚愕していた。危なかった、あと一歩で頸まで刀が達していた。いや、達している。顎まで張った蜘蛛の糸、鋼糸の鎧がスレスレで刃を止めていた。

(――おかしい。刀が軽い。動きも遅かった。何か変だ。なんだ。そうか、分身――)
「水牢の術。」
「なん、だ。」

 止まった思考に続いて、体の自由を奪われる。反射的に目の前の相手に血鬼術を放ち直ぐに拘束を解く。再び再不斬が水に戻る。また、やっぱり、分身。ならまた奇襲を――

 ドオオオオオオオオオン!!!!

 咄嗟に振り返、れない。思考も行動も頸の周りも、遅い。あまりに遅い。それでもなんとか、振り返る。
 目の前に砲弾が迫っていた。
 更に咄嗟に頸を切り離して、できない。
 頸には、累自身が作った鋼糸の鎧がある。

(まさか、アイツ最初からこれを狙って――)

 累の意識は、それを最後に途絶えた。


394 : ノット・ワンターン・ファイブキル ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 03:39:29 q1otGpaU0



「お、おま、撃つときは、撃つって……」
「言ってたらあの童に気づかれたろうが。」
「おふぃ、あおふぁ、ふいっふぁりひろ!」
「だ、大丈夫です、アーサーさん……」
「なんふぁっふぇ!? ほえふぇふぇないふぉ!」
「そうですね、逃げましょう……」
「こっちの二人は耳がやられたか……鯨波さん、ひとまず、小屋の中に運びましょう。」

 跡形もなく吹き飛んだ累の前で五人の男達が話していた。もちろん、坂本龍馬、鯨波兵庫、アーサー・ボイル、森青葉の四人と、そしてあと一人。筋肉質な身体をタンクトップに押し込めているその男の名前は、富竹ジロウ。
 再不斬と累の戦いをずっと見ていた彼が、この戦いを終わらせるキッカケになった。
 彼が小屋越しに鯨波兵庫に呼び掛けて引き合わせたのは、会場に配置されている強力なアイテムである大砲。その砲撃で再不斬と累を混乱させその隙に逃げようというのが彼の目的だった。本当は二人がかりでなんとか撃とうとしていたのだが、まさか一人で義手に括り付けた挙句に累と再不斬目掛けてぶっ放してしかも当てるなどとは考えてもいなかったので、目の前で行われた殺人に思うところはあるものの、友好的に話しかける。何分死んだのが明白に化物と言っていい人智を超えた二人だけに、物騒な風体と言動ながらもちゃんと会話ができる鯨波に安堵していた富竹である。
 その鯨波だが、様子がおかしいことに富竹は気づいた。今まで普通に会話していたのに、突然黙り込んだ。それどころか、なぜか自分の視界が地面へと迫っていく。しかもなんだか気分が悪い。

「お、おまん、死んちょるぜよ!」

 ドサリ、と自分の首が落ちる音と同時に、首を撥ねられた龍馬が叫ぶ。貴方もですよ、と言おうとしてできず、顔に何か水らしきものがかかる。もう音も聞こえないが、それは倒れた鯨波の首の切断面から吹き出た血だと残った視覚でわかった。

(なんで、生きてる。)

 そして富竹が最後に見たのは、鯨波の砲撃で死んだはずの再不斬の姿であった。



「なかなかのチャクラ刀だったぜ。」

 再不斬は今しがた殺した五人の血溜まりに半ばから折れた首斬り包丁を浸す。血を吸い繋がっていく愛刀を見ながら一つ一つ死体を見返した。
 再不斬は最初、累から逃げる気で水遁を使った。元から富竹の存在には気づいていたため、水分身を仕込む隙を産んで距離を取ったあとは、それらで足止めするというのがプランだった。
 嬉しい誤算は、鯨波たち四人の存在だ。鯨波と龍馬の戦闘音は、彼の耳にはしっかりと届いていた。もちろん正確な人数やそもそも人がいるかまでは不明だったが、大瀑布を操作したところまさか四人も、生きたまま連れてこれるとは。そして無音殺人術の達人である再不斬からすれば、この赤い霧も普段より感覚が鈍る程度のもので霧が無いよりよほどやりやすい。得意の水遁で攻撃を加えていけば次第に累から余裕が無くなっていくのがよくわかった。
 そしてもう一つの嬉しい誤算は、巻き込んだ人間たちが戦えたことだ。鯨波の砲撃は決定打になると踏んで水分身が水牢の術を使ったが、ものの見事に上手く行った。アーサーのエクスカリバーもあの厄介な蜘蛛の糸を切って捨てるなど目を見張るものがある。もしまともに戦っていればまた骨が折れる相手だっただろうと、太刀打ちされて切断された首斬り包丁を見ながら思う。

「死ねば同じだがな。」

 くつくつと笑いながら、再不斬はくっついた首斬り包丁を背負い歩き出す。
 撤退しようとしていた彼が残って五人を殺したのは、彼らが都合が良すぎる存在だからだ。あのガキに一杯食わせるような奴らに徒党を組まれていれば今後やりにくくなる。自分の姿も見られている以上、殺しておくのが後腐れない。それに、件の砲撃で彼らは混乱していた、耳が潰れていた。これを見逃すなど、鬼人の名折れだろう。
 だから、再不斬は殺した。いい加減チャクラの消耗もあるので今度は累の時のように忍術は使わず、純粋な剣術と体術で瞬く間に四人殺した。唯一抵抗したのはアーサーだったが、一太刀防がれた次の瞬間には心臓を殴り潰していた。

「こいつは貰っていくぜ。」

 唯一首を落とし損ねたアーサーの死体から首を撥ねると、手に握りこんだ十字の柄を奪う。こんなものでも何かの役に立つかもしれない。
 再不斬は霧のようにその場を離れた。


395 : ノット・ワンターン・ファイブキル ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 03:40:18 q1otGpaU0



【0100過ぎ 森林地帯にある作業小屋近く】

【桃地再不斬@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 この場から離れる



【脱落】


【累@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【森青葉@悪魔のパズル なぞのカバンと黒い相棒(悪魔のパズルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【坂本龍馬@恋する新選組(1)(恋する新撰組シリーズ)@角川つばさ文庫】
【鯨波兵庫@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【アーサー・ボイル@炎炎ノ消防隊 悪魔的ヒーロー登場(炎炎ノ消防隊シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【富竹ジロウ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】



【残り参加者 244/300】


396 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 03:45:38 q1otGpaU0
投下終了です。
登場済み参加者数が200人を超えたので改めて名簿を置いておきます。

【鬼滅の刃シリーズ@集英社みらい文庫】10/13
●累に切り刻まれた剣士●累○蜘蛛の鬼(兄)○蜘蛛の鬼(父)●我妻善逸○鱗滝左近次○蜘蛛の鬼(姉)○手鬼○竈門禰豆子○蜘蛛の鬼(母)●魘夢○竈門炭治郎○堕姫
【黒魔女さんが通る!!シリーズ@講談社青い鳥文庫】5/9
●羅門ルル●小島直樹●紫苑メグ●須々木凛音○黒鳥千代子○松岡先生○桃花・ブロッサム○日向太陽○宮瀬灯子
【妖界ナビ・ルナシリーズ@フォア文庫】5/6
●ユイ○かまち○タイ○透門沙李○幹太郎○竜堂ルナ
【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】5/6
○東方仗助○空条承太郎○片桐安十郎○虹村形兆○虹村億泰●山岸由花子
【絶望鬼ごっこシリーズ@集英社みらい文庫】4/6
○関本和也●大場結衣○伊藤孝司●牛頭鬼○大場大翔○櫻井悠
【名探偵コナンシリーズ@小学館ジュニア文庫】5/6
●円谷光彦○小嶋元太○山尾渓介○ジン○次元大介○ウオッカ
【ラストサバイバルシリーズ@集英社みらい文庫】4/6
○早乙女ユウ●朱堂ジュン●新庄ツバサ○桜井リク○山本ゲンキ○大場カレン
【ギルティゲームシリーズ@小学館ジュニア文庫】5/5
○深海恭哉○小林旋風○小林疾風○北上美晴○大井雷太
【ぼくらシリーズ@角川つばさ文庫】3/5
○菊地英治○宇野秀明●天野司郎●小黒健二●柿沼直樹
【かぐや様は告らせたいシリーズ@集英社みらい文庫】3/4
○白銀御行(映画版)○藤原千花●四宮かぐや○白銀御行(まんが版)
【若おかみは小学生!シリーズ@講談社青い鳥文庫】2/4
○関織子(劇場版)●神田あかね○関織子(原作版)●秋野真月
【アニマルパニックシリーズ@集英社みらい文庫】3/4
●ヒグマ○高橋大地○ライオン○高橋蓮
【逃走中シリーズ@集英社みらい文庫】3/4
○白井玲○和泉陽人●小清水凛○ハンター
【クレヨンしんちゃんシリーズ@双葉社ジュニア文庫】3/4
○佐藤マサオ○野原しんのすけ○桜田ネネ●野原ひまわり
【泣いちゃいそうだよシリーズ@講談社青い鳥文庫】4/4
○村上○広瀬崇○小林凛○川上真緒
【おそ松さんシリーズ@集英社みらい文庫】1/4
○なごみ探偵のおそ松●大富豪のカラ松氏●松野チョロ松●チョロ松警部
【ひぐらしのなく頃にシリーズ@双葉社ジュニア文庫】3/4
○富竹ジロウ○前原圭一○古手梨花●竜宮レナ
【パセリ伝説シリーズ@講談社青い鳥文庫】4/4
○水沢巴世里○桜清太郎○梶田蓮華○鑑隼人
【銀魂シリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○岡田似蔵○武市変平太○神楽
【テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○磯崎蘭○磯崎凛●名波翠
【天使のはしごシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○竜人●生絹○紅絹
【天才推理 IQ探偵シリーズ@カラフル文庫】1/3
●大木直●小林聖司○杉下元
【妖怪ウォッチシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/3
○天野ナツメ●タベケン○有星アキノリ
【ブレイブ・ストーリーシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
●小村克美○芦屋美鶴○三谷亘
【四つ子ぐらしシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
○宮美二鳥○宮美一花●宮美四月
【ちびまる子ちゃんシリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○藤木茂○花輪和彦○みぎわ花子
【死神デッドラインシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
●長内隆○木村孝一郎○一ノ瀬悠真
【おそ松さんシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/3
○弱井トト子○イヤミ●チョロ松
【絶体絶命シリーズ@角川つばさ文庫】1/3
●赤城竜也●宮野ここあ○滝沢未奈
【絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】3/3
○藤山タイガ○渡辺イオリ○西宮アキト
【天才謎解きバトラーズQシリーズ@角川つばさ文庫】3/3
○氷室カイ○朝比奈陽飛○灰城環
【恋する新選組シリーズ@角川つばさ文庫】2/3
○宮川空○沖田総司●坂本龍馬
【るろうに剣心 最終章The Final 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】2/3
○乙和瓢湖○相楽左之助●鯨波兵庫


397 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 03:47:39 q1otGpaU0
鬼滅の刃のところを間違えてたので貼り直します

【鬼滅の刃シリーズ@集英社みらい文庫】
9/13
●累に切り刻まれた剣士●累○蜘蛛の鬼(兄)○蜘蛛の鬼(父)●我妻善逸○鱗滝左近次○蜘蛛の鬼(姉)○手鬼○竈門禰豆子○蜘蛛の鬼(母)●魘夢○竈門炭治郎○堕姫
【黒魔女さんが通る!!シリーズ@講談社青い鳥文庫】5/9
●羅門ルル●小島直樹●紫苑メグ●須々木凛音○黒鳥千代子○松岡先生○桃花・ブロッサム○日向太陽○宮瀬灯子
【妖界ナビ・ルナシリーズ@フォア文庫】5/6
●ユイ○かまち○タイ○透門沙李○幹太郎○竜堂ルナ
【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】5/6
○東方仗助○空条承太郎○片桐安十郎○虹村形兆○虹村億泰●山岸由花子
【絶望鬼ごっこシリーズ@集英社みらい文庫】4/6
○関本和也●大場結衣○伊藤孝司●牛頭鬼○大場大翔○櫻井悠
【名探偵コナンシリーズ@小学館ジュニア文庫】5/6
●円谷光彦○小嶋元太○山尾渓介○ジン○次元大介○ウオッカ
【ラストサバイバルシリーズ@集英社みらい文庫】4/6
○早乙女ユウ●朱堂ジュン●新庄ツバサ○桜井リク○山本ゲンキ○大場カレン
【ギルティゲームシリーズ@小学館ジュニア文庫】5/5
○深海恭哉○小林旋風○小林疾風○北上美晴○大井雷太
【ぼくらシリーズ@角川つばさ文庫】3/5
○菊地英治○宇野秀明●天野司郎●小黒健二●柿沼直樹
【かぐや様は告らせたいシリーズ@集英社みらい文庫】3/4
○白銀御行(映画版)○藤原千花●四宮かぐや○白銀御行(まんが版)
【若おかみは小学生!シリーズ@講談社青い鳥文庫】2/4
○関織子(劇場版)●神田あかね○関織子(原作版)●秋野真月
【アニマルパニックシリーズ@集英社みらい文庫】3/4
●ヒグマ○高橋大地○ライオン○高橋蓮
【逃走中シリーズ@集英社みらい文庫】3/4
○白井玲○和泉陽人●小清水凛○ハンター
【クレヨンしんちゃんシリーズ@双葉社ジュニア文庫】3/4
○佐藤マサオ○野原しんのすけ○桜田ネネ●野原ひまわり
【泣いちゃいそうだよシリーズ@講談社青い鳥文庫】4/4
○村上○広瀬崇○小林凛○川上真緒
【おそ松さんシリーズ@集英社みらい文庫】1/4
○なごみ探偵のおそ松●大富豪のカラ松氏●松野チョロ松●チョロ松警部
【ひぐらしのなく頃にシリーズ@双葉社ジュニア文庫】3/4
○富竹ジロウ○前原圭一○古手梨花●竜宮レナ
【パセリ伝説シリーズ@講談社青い鳥文庫】4/4
○水沢巴世里○桜清太郎○梶田蓮華○鑑隼人
【銀魂シリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○岡田似蔵○武市変平太○神楽
【テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○磯崎蘭○磯崎凛●名波翠
【天使のはしごシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/3
○竜人●生絹○紅絹
【天才推理 IQ探偵シリーズ@カラフル文庫】1/3
●大木直●小林聖司○杉下元
【妖怪ウォッチシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/3
○天野ナツメ●タベケン○有星アキノリ
【ブレイブ・ストーリーシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
●小村克美○芦屋美鶴○三谷亘
【四つ子ぐらしシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
○宮美二鳥○宮美一花●宮美四月
【ちびまる子ちゃんシリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○藤木茂○花輪和彦○みぎわ花子
【死神デッドラインシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
●長内隆○木村孝一郎○一ノ瀬悠真
【おそ松さんシリーズ@小学館ジュニア文庫】2/3
○弱井トト子○イヤミ●チョロ松
【絶体絶命シリーズ@角川つばさ文庫】1/3
●赤城竜也●宮野ここあ○滝沢未奈
【絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】3/3
○藤山タイガ○渡辺イオリ○西宮アキト
【天才謎解きバトラーズQシリーズ@角川つばさ文庫】3/3
○氷室カイ○朝比奈陽飛○灰城環
【恋する新選組シリーズ@角川つばさ文庫】2/3
○宮川空○沖田総司●坂本龍馬
【るろうに剣心 最終章The Final 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】2/3
○乙和瓢湖○相楽左之助●鯨波兵庫


398 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 04:05:29 q1otGpaU0
【けものフレンズシリーズ@角川つばさ文庫】2/2
○ビースト○G・ロードランナー
【名探偵ピカチュウ@小学館ジュニア文庫】2/2
○ピカチュウ○メタモン
【NARUTOシリーズ@集英社みらい文庫】2/2
○桃地再不斬○うちはサスケ
【フォーチュン・クエストシリーズ@ポプラポケット文庫】1/2
●ノル○ルーミィ
【劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】2/2
○上田次郎○山田奈緒子
【無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄@集英社みらい文庫】2/2
○岬涼太郎○沖田悠翔
【ふつうの学校シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/2
○アキラ●稲妻快晴
【一年間だけシリーズ@角川つばさ文庫】0/2
●工藤穂乃香●村瀬司
【星のかけらシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/2
○小笠原牧人○細川詩緒里
【映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】2/2
○大太刀○織田信長
【人狼サバイバルシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/2
○赤村ハヤト○黒宮うさぎ
【山月記・李陵 中島敦 名作選@角川つばさ文庫】2/2
○李徴○袁�岡
【ミステリー列車を追え!シリーズ@角川つばさ文庫】1/2
○二神・C・マリナ●四道健太
【炎炎ノ消防隊シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/2
○森羅日下部●アーサー・ボイル
【怪盗レッドシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○紅月美華子
【怪人二十面相@ポプラ社文庫】0/1
●明智小五郎
【世にも不幸なできごとシリーズ@草子社】1/1
○ヴァイオレット・ボードレール
【天気の子@角川つばさ文庫】0/1
●森嶋帆高
【約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】1/1
○シスター・クローネ
【吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】1/1
○吉永双葉
【小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】1/1
○安土流星
【双葉社ジュニア文庫 パズドラクロス@双葉社ジュニア文庫】0/1
●チェロ
【ふなっしーの大冒険@小学館ジュニア文庫】1/1
○ふなっしー
【時間割男子シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○花丸円
【サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】1/1
○玉野メイ子
【デルトラ・クエストシリーズ@フォア文庫】0/1
●黄金の騎士・ゴール
【ハッピーバースデー 命かがやく瞬間@フォア文庫】1/1
○藤原あすか
【サキヨミ!シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○如月美羽
【FC6年1組シリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○神谷一斗
【ラッキーチャームシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○優希
【未完成コンビシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○桃山絢羽
【セーラー服と機関銃@角川つばさ文庫】1/1
○萩原
【カードゲームシリーズ@講談社青い鳥文庫】0/1
●哲也
【恐怖コレクターシリーズ@角川つばさ文庫】0/1
●相川捺奈
【花とつぼみと、君のこと。@集英社みらい文庫】1/1
○黒瀬優真
【バッテリーシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○原田青葉
【クレヨン王国シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○シルバー王妃
【獣の奏者シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○エリン
【地獄たんてい織田信長 クラスメイトは戦国武将!?@角川つばさ文庫】0/1
●織田信長
【カードキャプターさくらシリーズ@講談社KK文庫】1/1
○木之本桜
【ONE PIECEシリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○バギー
【オバケがシツジシリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○眠田涼
【都会のトム&ソーヤ 映画ノベライズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○内藤内人
【魔入りました!入間くん(1) 悪魔のお友達@ポプラキミノベル】1/1
○アスモデウス・アリス
【妖界ナビ・ルナシリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○サネル
【シートン動物記シリーズ@角川つばさ文庫】1/1
○ロボ
【悪魔のパズルシリーズ@集英社みらい文庫】0/1
●森青葉

なお、あと何十人か参戦した段階で主人公が参戦していない原作が多数あった場合、一時的に参戦可能なキャラを主人公に限定したいと思います。
こういうふうに言っておけば「じゃあ俺が企画立たせてやっか、しょうがねぇなあ」って感じで主人公キャラを投下しようってならないかなっていう打算です。
児童文庫のノベライズにさえなっていれば好きな原作からだいたいのキャラは出せますし(でもビッグマムみたいなのは勘弁な!)、もちろんパスワード探偵団とか魔天使マテリアルみたいなオリジナルでもOKですし、問題があったら無効にするだけですのでとりあえず投下していただけたら嬉しいです。
児童文庫ロワのリレーに参加して書き手デビュー、しよう!


399 : 名無しさん :2021/08/28(土) 04:59:11 0eBEGyKs0
すみません、サネルは他のナビルナシリーズから分けるのでしょうか
あれも無印・Ⅱから続くナビルナシリーズの続編なのですが
分けるにしても、区別つけやすいように新妖界ナビ・ルナの方がいいように思います

それとレナたちの方の投下は、タイトルなんでしょうか


400 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/08/28(土) 06:47:03 q1otGpaU0
まとめてナビルナシリーズにしようかと思いましたがレーベル変わってたんで別のシリーズ扱いにします。
他のシリーズもそうですが、同じレーベルで同じタイトルで出ていなければ別の原作というカウントになります。
たとえばシートン動物記はつばさ・青い鳥・みらい等から出ていますが、全て別のシリーズとします。
あくまでレーベルで分けるので、無印と新で分けるのではなく【妖界ナビ・ルナシリーズ@フォア文庫】と【妖界ナビ・ルナシリーズ@青い鳥文庫】として扱います。
両シリーズはたとえ同じキャラであっても「ほぼ同じ境遇の顔立ちがちょっと違う別人」として扱います。

それとレナたちの方は【Burning soul/命を燃やせ】になります。
失念してましたすみません。


401 : 名無しさん :2021/08/28(土) 18:50:34 8BBQDQ3M0
投下乙です!
一家全員が参戦してる中で、累本人が最初に落ちるとは……
そして原作ではチート級まで成長してるアーサーも、序盤からの参戦では再不斬にかなわなかったか……
合掌


402 : ◆7PJBZrstcc :2021/08/29(日) 12:25:28 QIq1X3eM0
短いですが投下します。
(この企画には)初投下です。


403 : 紅白 ◆7PJBZrstcc :2021/08/29(日) 12:25:59 QIq1X3eM0
 殺し合いの会場の端、海辺と呼ぶべき場所。
 ここを一人の男が歩いていた。
 赤いジャケットに白に近い灰色のズボンを着た、どこか猿顔気味の男。
 彼はすぐそこに落ちていたジャケットの内ポケットにしまい、ズボンのポケットに手を突っ込みながらも、その実油断なく辺りを警戒しながら歩を進める。
 そんな彼の名は、誰もが知る ―この殺し合いの中ではそうはいかないが― 大泥棒、ルパン三世である。

 ルパンは考える。
 まず、前提として彼は殺し合いに乗るつもりは毛頭ない。
 人なら何人も殺してきて、そもそも世界的な犯罪者である身の上だが、こんな趣味の悪いゲームに付き合うつもりはない。
 とっととこの趣味の悪い首輪を取って、殺し合いの会場であるここからも脱出する腹積もりだ。
 その為に彼はまず、他の参加者を探していた。

 ルパンは、首輪を外すためにはサンプルが必要だと判断した。
 なので、とりあえず他の参加者を探しているのだが、今の所まるで出会えない。
 殺し合いに参加させられている人数が彼の想像より少ないのか、単にこの辺りにいないのか。
 どっちにしろ、少々手詰まり感は否めない。

「しっかしよくもまあ、こんだけあちこち置けるほど銃を集めたもんだな」

 どうにもならないことは一旦脇に置き、ルパンの思考は辺りにばら撒かれている武器へと移る。
 数えるのも億劫になるほどの銃と、刀。
 もしも参加者が素人なら、銃や刀よりナイフとかの方が扱いやすいはずだ、と彼は思う。
 いや、ひょっとすれば落ちている銃や刀を即座に使いこなせるレベルのプロばかりなのか。
 あるいは、下手な鉄砲で誤射をして、殺すつもりのない相手を撃ってしまった様でも見て、悦に入るつもりなのか。
 だとすれば、このゲームの主催者であるあのウサギは、裏世界にどっぷり浸かりきったルパンであっても滅多に見ないレベルの外道である。
 デスゲームの主催という時点で相当だが、それを差し引いても酷い。

 そうこう考えている間に、ルパンは目的地に到着した。
 彼は、主催者から最初に渡されたメモに書かれた場所を目指していたのだ。
 そこにあったのは彼のよく知るものだった。

「俺のスバル・360じゃねえか」

 まさかの愛車に少々驚いた声を出すルパン。
 それも同じ型の車というだけでなく、正真正銘彼の車である。

「人の愛車をこんなところに持って来やがって」

 ふてえ野郎だ、と自分が泥棒であることを差し置いて不機嫌な素振りを見せるルパン。
 とりあえず徒歩より目立つがここは速度が大事だろう、と思い乗り込んだところで――

「ワン!」

 後部座席から、犬の鳴き声が聞こえた。
 ルパンが目をやると、そこには自身と同じ首輪をつけた、白い犬がいた。

「何考えてんだあのウサギ……」

 まさかの犬も殺し合いの参加者という状況に、流石のルパンも少々戸惑う。
 それでも、彼は犬にこう声を掛けた。

「……とりあえず、犬っころも一緒に来るか?」
「ワン!」


【0100 海辺】

【ルパン三世@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いから脱出する
●中目標
首輪を外す方法を探る
●小目標
他の、人間の参加者と会う

【シロ@映画ノベライズ クレヨンしんちゃん ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
生き残る


404 : ◆7PJBZrstcc :2021/08/29(日) 12:26:23 QIq1X3eM0
投下終了です


405 : ◆NIKUcB1AGw :2021/09/11(土) 21:34:29 mfiV1SKU0
短いですが、投下します


406 : ケロッとバタンキュー ◆NIKUcB1AGw :2021/09/11(土) 21:35:54 mfiV1SKU0
市街地の一角。
そこで二人の……というか一人と一匹の参加者が、目の前の建築物を呆然と見上げていた。

赤いパーカーを着た青年は、松野おそ松。クソニート兄弟の長兄である。
その足下にいる二足歩行のカエルは、ケロロ軍曹。
厳密にはカエルではなく、宇宙の彼方からやってきたカエルっぽい宇宙人である。
バトルロワイアル開始直後に出会った二人は、そのまま現在まで行動を共にしていた。
最初はケロロの外見に驚いたおそ松だったが、すぐに順応した。
何でもありの世界で生きてきた男だ。今さら宇宙人程度でパニックに陥るわけもない。
その後なんやかんやで打ち解けつつ、適当に歩き回っていた彼らがたどり着いたのがここだった。

「ピラミッド……だなあ」
「ピラミッド……でありますなあ」

彼らの眼前にそびえたるのは、石を何十段にも重ねて作り上げられた四角錐の建造物。
日本人ならだいたいはエジプト名物として記憶しているあれ、ピラミッドである。

「なんで街のど真ん中にピラミッドが……?」
「いやあ、それを我輩に聞かれても……」

現代の街中にそびえ立つ、古代遺跡。
不条理なことには慣れっこな彼らも、さすがに首をかしげざるをえない。

「よし、それじゃあ探検してみるか!」
「賛成であります!」

とはいえ、不審に思ったからといって避けるとは限らない。
彼らの場合、好奇心が警戒心を上回ったようである。

「入り口はここか……」
「ライトも置いてあるであります。
 『ご自由にお使いください』って、変なところでサービスのいい主催者でありますな……」

それぞれライトを手にし、おそ松とケロロはピラミッドへと足を踏み入れる。
気分はすっかり探検隊。
今が殺し合いの真っ最中であることなど、すでに頭の隅に追いやられている。

「さあ、いったい何が待って、おわあああああ!!」
「へ? おそ松殿!?」

先に内部へ足を踏み入れたおそ松であったが、絶叫と共にその姿は消えてしまった。
さすがに狼狽するケロロであったが、周囲を確認するうちに異変に気づく。
目の前の床が、綺麗な四角形の形に消失していたのだ。

「嘘でしょ!? 入り口に落とし穴ァ!?」


【0130 ピラミッド】

【松野おそ松@おそ松さん〜番外編〜@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
生還する
●小目標
???


【ケロロ軍曹@小説侵略!ケロロ軍曹 姿なき挑戦者!?(ケロロ軍曹シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
生還する
●小目標
おそ松を探す


407 : ◆NIKUcB1AGw :2021/09/11(土) 21:37:18 mfiV1SKU0
投下終了です
今、「怪盗レッド」の1巻読んでるんですが
さすがに長期シリーズになってるだけあって面白いですね


408 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/09/13(月) 00:00:27 sss6nZfM0
投下乙です。
怪盗レッドは元気なヒロインがクールで格好いい男子と突然の共同生活って感じの少女漫画の王道を踏襲しつつ男子も読める内容なので良いですね、ええ。
ただ人気シリーズで巻数長くて把握難なので出し渋ってます。
そこそこ戦える割に把握されてない&しにくいいキャラって企画の停滞に直結するんで迷いどころさんです。
じゃあパセリ伝説から何人も出してんじゃねーよえーって言われたらなんも言えねえ。
投下します。


409 : ロワの停滞をぶち破れ、見慣れぬキャラを繰り出して ◆BrXLNuUpHQ :2021/09/13(月) 00:10:55 sss6nZfM0



「おっしゃ当たった! 今回は50mだよすごくなぁい!?」
「孝司兄ちゃんどんどんうまくなってるぜ。」
「いやあ、こんな才能があったとは。自分で自分にびっくりだよ。今までこういうエピソードないんだけどね。」
「なんだよこれ! 孝司! そっちの銃よこせ!」
「あっつ!?」
「ロー姉ちゃんとおっこ姉ちゃんはダメダメだな。」
「なんだと元太!」

 恋愛ゲームで主人公に攻略対象の情報とか教えてくれそうな雰囲気を持つ少年、考司はおっこ(原作版)と元太とロードランナーと一緒に射的で遊んでいた。
 広くて頑丈な壁のある敷地は絶好の射撃場だ。柱の間隔から距離を測って、壊した自販機から取り出してみんなで飲んだジュースの空き缶を並べて、思い思いの武器を思い思いの姿勢で撃つ。

「前回もスーパーマーケットで商品ゲットしてお店のカートで爆走したから大丈夫!」
「なにも大丈夫じゃないよ。」

 そうツッコミを入れたおっこも今ではすっかり銃を撃てるようになっていた。的には依然当たらないが、少なくとも前に飛ばすようにはできるようになった。フレンズ特有の不器用さもあってロードランナーだけは苦戦していたが、とりあえず隣で伏射しようとした元太のライフルを撃ち抜くような真似はしなくなった。

 さて、ここで現在時刻を確認しよう。
 ただ今時計が指し示しているのは、五時近く。
 彼らの前話は、一時近く。
 四時間に渡って彼らには特に何も起こらなかった。

 ことは今から四時間前に遡る。出会った四人はスタンスの確認→情報交換→方針決定という親の顔より見た対主催グループの結成過程を経て、一つの結論に達した。

「それでよぉ、孝司兄ちゃん。これからどこ行くんだ?」
「え、どこもいかないよ。」
「ハァ? 知ってるやつが巻き込まれてるかも知んねえんだぞ!」
「そうだよ孝司さん。」
「だからだよ。」

 オホン、と咳払いを一つ。

「迷子になったときはそこから動かない、動かないといけないなら一番近くの目印に行く。これが正解。それと、一人で突っ走って『あ! ここ重要そうだ!』なんていくと危ない目に合う。怪我するかもしれないし、知り合いが自分のことを聞いたときに不安になって危ないところに呼び寄せちゃうかもしれない。」

 ガサリと音を立てて孝司はポケットからメモを取り出した。

「だからここを目指したんだ。道の真ん中でずっと立ってるわけにもいかないし、だったら安全そうな目印のある場所に行こうって思ったんだ。もしかしたら他の鬼ごっこの参加者も同じメモを持ってるかもしれないし、切った爪のコレクションが置いてある所になんて危ない人とか鬼とか来なさそうだしね。」
「お前……意外と考えてるんだな。」
「三回目だからね!」

 こうして彼らは運送会社に籠城することになった。
 物音を立てないように気をつけながら、逃走ルートを確認して避難訓練したり、使えそうな道具を集めたりと。
 だが、一時間経ち、二時間経ち、三時間経ち、ついに我慢の限界が訪れた。


410 : ロワの停滞をぶち破れ、見慣れぬキャラを繰り出して ◆BrXLNuUpHQ :2021/09/13(月) 00:20:41 sss6nZfM0

「なんも起こらなすぎだろ!」
「腹減った……」
「あっれー、今回はずいぶん鬼来ないなあ……」

 彼らはいわゆる、パロロワで次の放送に行くために一話だけ書かれるタイプのキャラの境遇になっていた。しかも、把握の問題ではなく周りに人がいなさすぎてかつ移動するメリットもないというタイプのだ。こうなると次の放送で禁止エリアに指定されて炙り出されるのがお約束だが、その放送に行くためにはまず書かれなければならないというパラドックスを引き起こし、ロワの停滞によって自身の死を回避している。
 人、これを「護身完成」と呼ぶ。

 そんなこんなで暇つぶしに銃を撃つ練習ということでみんなで射的をやっていた。なにせ銃は山のようにある。元々いざという時は戦わずに逃げる気だし、その時に持っていける銃なんてたかが知れているし、むしろ撃ち尽くす気で撃ちまくっている。弾の切れた銃なら、逃げる時に向けられても怖くない。それを狙って撃ち終わった銃は元の場所に置き直している。ここを後から拠点にした人間はさぞかし苛つくだろう。
 なお、人を集めるとか物音を立てないとかの優先順位は投げ捨てていた。四時間待って誰も来ないならどうせ誰も来ないよ、むしろ音立てたら来るんじゃない?とは孝司の談である。そんな銃声が響きまくる建物を目指すのはだいたいの場合ろくでもないのだが、それに気づくクレバーさは彼にはなかった。
 残念ながら、孝司は一般人である。彼と同じ六年生の章吾や大翔ならともかく、彼にはピンチの時に良く回る頭も、土壇場でなお前を向く心も、小学生男子に最も求められる能力である足の速さもない。はっきり言って、鬼ごっこというデスゲームに限れば、いくらでも替えの効くスペックだ。
 彼にあるのはせいぜい、クラスメイトと距離を置いている奴にもダル絡みしつつなんやかんや協力するだけのコミュ力と協調性ぐらいだ。後は明るさと神経の太さといった、人間としての能力だけである。有能でもなく無能でもなく、ピンチの時でも明るいという、どこまで行ってもムードメーカー止まりの男子だった。



「また、銃の音が……」
「ずっとしてるね……ねえ、やっぱりやめよう?」
「うん……逃げよう。」

 やけに三点リーダーが続くような、一言一言区切る話し方で話すのは、小松原麻紀と白石ヤマネ。小五の麻紀が中一のヤマネを引っ張る形で足早に、しかし物音を立てないように運送会社に背を向ける。その動きは既に慣れを感じさせるものだ。
 ゲーム開始から五時間、彼女たちは銃声が聞こえる度に移動し続けていた。きっかけはトト子の銃撃。二人でドッキリか何かを疑っているところに至近弾を受け、慌てて逃げていたら今度はマンションにミサイルのようなものが撃ち込まれる瞬間を見て、しまいには喫茶店で毒殺されたらしい死体たちを目撃し、彼女たちは完全に人と接触する機会を逸していた。
 それでも、彼女たちはそれぞれ合いたい人がいる。だから危険を冒して人のいそうなところに留まってはいるのだが、ここはこのロワでも屈指の激戦区。合う人合う人殺し合ってるか死んでいるかだ。たまに遠くに姿が見えてもそれなのだから、近づきようがない。

「白石さん、大丈夫?」
「うん……」
「少し休みません?」
「ダメだよ、あんなに銃を撃ってるなら、急いで離れなきゃ……!」

 無為な逃避行で二人の顔には疲労の色が濃い。
 その甲斐が第一放送までに300人中の100人近くが死んだこのロワで生存という形で示されるのかは、あと一時間を待たなければならなかった。


411 : ロワの停滞をぶち破れ、見慣れぬキャラを繰り出して ◆BrXLNuUpHQ :2021/09/13(月) 00:25:55 sss6nZfM0

「なんも起こらなすぎだろ!」
「腹減った……」
「あっれー、今回はずいぶん鬼来ないなあ……」

 彼らはいわゆる、パロロワで次の放送に行くために一話だけ書かれるタイプのキャラの境遇になっていた。しかも、把握の問題ではなく周りに人がいなさすぎてかつ移動するメリットもないというタイプのだ。こうなると次の放送で禁止エリアに指定されて炙り出されるのがお約束だが、その放送に行くためにはまず書かれなければならないというパラドックスを引き起こし、ロワの停滞によって自身の死を回避している。
 人、これを「護身完成」と呼ぶ。

 そんなこんなで暇つぶしに銃を撃つ練習ということでみんなで射的をやっていた。なにせ銃は山のようにある。元々いざという時は戦わずに逃げる気だし、その時に持っていける銃なんてたかが知れているし、むしろ撃ち尽くす気で撃ちまくっている。弾の切れた銃なら、逃げる時に向けられても怖くない。それを狙って撃ち終わった銃は元の場所に置き直している。ここを後から拠点にした人間はさぞかし苛つくだろう。
 なお、人を集めるとか物音を立てないとかの優先順位は投げ捨てていた。四時間待って誰も来ないならどうせ誰も来ないよ、むしろ音立てたら来るんじゃない?とは孝司の談である。そんな銃声が響きまくる建物を目指すのはだいたいの場合ろくでもないのだが、それに気づくクレバーさは彼にはなかった。
 残念ながら、孝司は一般人である。彼と同じ六年生の章吾や大翔ならともかく、彼にはピンチの時に良く回る頭も、土壇場でなお前を向く心も、小学生男子に最も求められる能力である足の速さもない。はっきり言って、鬼ごっこというデスゲームに限れば、いくらでも替えの効くスペックだ。
 彼にあるのはせいぜい、クラスメイトと距離を置いている奴にもダル絡みしつつなんやかんや協力するだけのコミュ力と協調性ぐらいだ。後は明るさと神経の太さといった、人間としての能力だけである。有能でもなく無能でもなく、ピンチの時でも明るいという、どこまで行ってもムードメーカー止まりの男子だった。



「また、銃の音が……」
「ずっとしてるね……ねえ、やっぱりやめよう?」
「うん……逃げよう。」

 やけに三点リーダーが続くような、一言一言区切る話し方で話すのは、小松原麻紀と白石ヤマネ。小五の麻紀が中一のヤマネを引っ張る形で足早に、しかし物音を立てないように運送会社に背を向ける。その動きは既に慣れを感じさせるものだ。
 ゲーム開始から五時間、彼女たちは銃声が聞こえる度に移動し続けていた。きっかけはトト子の銃撃。二人でドッキリか何かを疑っているところに至近弾を受け、慌てて逃げていたら今度はマンションにミサイルのようなものが撃ち込まれる瞬間を見て、しまいには喫茶店で毒殺されたらしい死体たちを目撃し、彼女たちは完全に人と接触する機会を逸していた。
 それでも、彼女たちはそれぞれ合いたい人がいる。だから危険を冒して人のいそうなところに留まってはいるのだが、ここはこのロワでも屈指の激戦区。合う人合う人殺し合ってるか死んでいるかだ。たまに遠くに姿が見えてもそれなのだから、近づきようがない。

「白石さん、大丈夫?」
「うん……」
「少し休みません?」
「ダメだよ、あんなに銃を撃ってるなら、急いで離れなきゃ……!」

 無為な逃避行で二人の顔には疲労の色が濃い。
 その甲斐が第一放送までに300人中の100人近くが死んだこのロワで生存という形で示されるのかは、あと一時間を待たなければならなかった。


412 : ロワの停滞をぶち破れ、見慣れぬキャラを繰り出して ◆BrXLNuUpHQ :2021/09/13(月) 00:35:33 sss6nZfM0



【0500頃 郊外・運送会社】

【伊藤孝司@絶望鬼ごっこ くらやみの地獄ショッピングモール(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 とりあえず鬼ごっこだったら逃げるよね
●小目標
 四人で射的

【小嶋元太@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 そもそも最初の話をまともに聞いてなかった

【G・ロードランナー@角川つばさ文庫版 けものフレンズ 大切な想い(けものフレンズシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 そもそも最初の話をまともに聞いてなかった

【関織子@若おかみは小学生! PART13 花の湯温泉ストーリー (若おかみは小学生!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないけど家に帰りたい
●小目標
 四人で射的

【小松原麻紀@星のかけらPART(1)(星のかけらシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 牧人や家族が巻き込まれてるかも……
●小目標
 白石さんと一緒に逃げる

【白石ヤマネ@人狼サバイバル 絶体絶命! 伯爵の人狼ゲーム(人狼サバイバルシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい
●小目標
 麻紀ちゃんと一緒に逃げる


413 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/09/13(月) 00:43:36 sss6nZfM0
投下終了です。
投下に時間がかかったのは回線が悪いからです。僕は悪くない。
投下するまでに時間がかかったのはみらい文庫1章だけ大賞に向けて書いてたからです。僕は悪くない。
あ、wikiに死亡者リストができたらしいっすよ。一つのロワのwikiを一から作るとかクソ大変なんで、人にやってもらうのは嬉しいッス。


414 : ◆NIKUcB1AGw :2021/09/14(火) 23:22:17 Q1csglHs0
投下乙です
時間を贅沢に使った結果がどう出るか……

それでは、自分も投下させていただきます


415 : ◆NIKUcB1AGw :2021/09/14(火) 23:23:13 Q1csglHs0
ここはとある喫茶店。
大太刀からの逃亡を果たした鱗滝とアキノリは、いったんここに落ち着きそれぞれ自己紹介を行っていた。

「令和22年……?」
「うん、俺の連れてこられた時代はそう」
「それは、大正から見てどれほど未来だ?」
「えーっと、令和の前の平成が30年ちょっと続いてて……。
 さらにその前の昭和が60年ちょっとだったはずだから……。
 100年くらいになるのかな」
「なんと……!」

自分とアキノリで生きていた時代が100年も違うという事実を突きつけられ、さすがの鱗滝も動揺を隠せない。

「あのウサギのような鬼は、時を操ることができるというのか……。
 にわかには信じがたいな」
「俺も、実際にそういう能力持ってる妖怪を見たことがあるわけじゃないけどさ。
 最上位の妖怪ともなると、めちゃくちゃな力持ってるからなあ。
 タイムスリップができるやつがいてもおかしくないと思うよ。
 ……まあ、あのウサギがそこまでのやつとは思えなかったけど」

実際、並行世界においてアキノリは仲間たちと共に何度もタイムスリップを経験することになる。
しかし、今ここにいるアキノリにそれを知るすべはない。

「となると、ウサギの背後にさらなる力を持つ化物がいるのかもしれんな」
「あんまり考えたくないけどねー。
 羅仙みたいなのともう1回やるなんてごめんだよ」

二人の友と肩を並べて挑んだ強大な鬼のことを思い出し、アキノリは眉間にしわを寄せる。

「まあ、とにかく! さっきの鎧武者に勝つためにも、いずれ戦うことになるだろう黒幕に勝つためにも!
 仲間を集めようぜ!」
「たしかに……。わしとおぬしだけでは、とうてい殺し合いに乗った輩に対抗しきれん。
 戦力を集める必要があるな」
「そう! だからさっそく……」

アキノリが喫茶店の扉を開けた、その直後。
彼の耳に、不自然な音が飛び込んできた。


416 : ◆NIKUcB1AGw :2021/09/14(火) 23:24:02 Q1csglHs0

「なんだ、この音。アラーム?」
「警報か?」
「まあ、そんな感じ……。ひょっとして、誰かが助けを求めてならしてるのかも。
 まさか、さっきのあいつが別の誰かを襲ってるのか!?」
「待て!」

慌てて駆け出そうとするアキノリの腕を、鱗滝がつかむ。

「なんで止めるんだよ、鱗滝さん!」
「警報を鳴らしているのが、被害者とは限らん。
 危険な輩が、獲物を集めるためにやっている可能性もある」
「いや、そりゃそうだけど……。
 だからって放っておくわけにもいかないじゃん!
 本当に誰かが殺されそうになってるかもしれないのに!」

鱗滝の忠告を受けても、アキノリは揺らぐ様子がない。
鱗滝としても、一人でも多くの人間を助けたいという気持ちはアキノリと同じだ。
だがそのために、鬼殺隊でもない少年に無謀な行いをさせるわけにはいかない。
どう説得したものかと鱗滝が頭を悩ませていると、新たな情報が二人の耳に飛び込んできた。

「誰か、助けてーっ!」

その声は、アラームとは逆方向から聞こえてきた。
二人がその方向に顔を向けると、そこには青ざめた顔で走る少年の姿があった。
それを追いかけるのは、彼らにとって未知の異形。
どことなく忍者のような雰囲気を纏った、二足歩行のカエルだった。
鱗滝達は知るよしもないが、このカエルは「ゲッコウガ」と呼ばれるポケモンの一種。
そしてこの個体は、とある研究所の警備に使うため攻撃的に育てられていた。
それ故バトルロワイアルのルールを理解していないながらも、近づいてきた人間を「敵」と認識して攻撃を加えているのだ。

「うああっ!」

逃げていた少年の口から、悲鳴が飛び出す。
ゲッコウガの放った「みずしゅりけん」が、彼の肩を切り裂いたのだ。
飛び散る鮮血を見て、鱗滝は迷わず刀を抜いて駆け出す。
相手が未知の存在だからといって、探りを入れている余裕はない。
少年を守るために、切り伏せなければならない。

一方のゲッコウガも、自分に向かってくる鱗滝をより警戒すべき存在と認識してターゲットを切り替える。
鱗滝に向かって、次々と放たれる「みずしゅりけん」。
だが鱗滝は、冷静に一つずつそれを叩き落としていく。
やがて、ゲッコウガが刀の間合いに入った。


水の呼吸・壱ノ型 水面斬り


一閃。
ゲッコウガの首が、宙を舞った。


417 : ◆NIKUcB1AGw :2021/09/14(火) 23:25:06 Q1csglHs0


◆ ◆ ◆


「君、大丈夫!?」

鱗滝がゲッコウガを斬ったのを確認すると、アキノリは肩を押さえてうずくまる少年に駆け寄る。

「すごく痛いけど……。なんとか……」
「俺、有星アキノリ。君は?」
「僕は……日向冬樹です……」
「日向か。オッケー、覚えた。
 他にもいろいろ聞きたいけど……。だいぶつらそうだな、その怪我」
「見せてみろ」

二人の会話に、刀を収めた鱗滝が割って入る。

「どう、鱗滝さん」
「今すぐ命に別状はないだろうが、放置するのはまずいな……。
 応急処置ならこの場でもできるが、本格的な治療となると……」
「たしか、ここに来る途中で病院があったよな。
 でも……」
「でも……?」
「日向はそれどころじゃなかったかもしれないけど……。
 さっき病院の方向から、爆発音みたいなのが聞こえてきたんだよなあ……」
「わしにも聞こえていた。
 それに、警報が止まっているな」
「よくわからないけど……病院で何か起こってるかもしれないってことですか……?」
「そういうことだ」

鱗滝は考える。
怪我の治療は早急に行わなければならない。
だが現在、病院ではもめ事が発生している可能性がある。
危険を承知で向かうか、あるいは他に治療できる場所がないか探すか。
彼の決断は……。


【0100 市街地】

【鱗滝左近次@鬼滅の刃〜炭治郎と禰豆子、運命の始まり編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いを止める
●中目標
冬樹の治療を行う
●小目標
戦力を集め、大太刀を倒す


【有星アキノリ@映画妖怪ウォッチシャドウサイド 鬼王の復活@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
生き残る
●小目標
冬樹の治療を行う


【日向冬樹@小説侵略!ケロロ軍曹 姿なき挑戦者!?(ケロロ軍曹シリーズ)@角川つばさ文庫】
●大目標
怪我を治療する


【脱落】
【ゲッコウガ@名探偵ピカチュウ@小学館ジュニア文庫】

【残り参加者 243/300】


418 : ◆NIKUcB1AGw :2021/09/14(火) 23:28:03 Q1csglHs0
投下終了です
タイトル忘れてましたが、「こっちのカエルはヤバいぞ」でお願いします

シャドウサイドの年代については作中では具体的に語られてないんですが、
妖怪ぷにぷにで未来ウィスパーが「ウィスパー2040」という名前で登場しているため2040年であると判断しました


419 : ◆NIKUcB1AGw :2021/09/21(火) 21:51:48 S4vDVVVQ0
投下します


420 : フランスの風 ◆NIKUcB1AGw :2021/09/21(火) 21:53:02 S4vDVVVQ0
「誰かーっ! 助けてちょーっ!」

路地裏に、切羽詰まった声が響く。
声の主は、気絶から回復したイヤミである。

目覚めたイヤミは、まずは自分が生きていることに浮かれた。
しかしすぐに、後ろ手に縛られていることに気づく。
結び方自体は決して複雑なものではないが、それでも縛られている本人がほどくのは困難。
ついでにスタープラチナのパワーで結ばれたため、結び目は生半可な固さではない。
なんとかほどけないかと悪戦苦闘してみたイヤミだったが、10分ほどで断念。
助けを求める方向に切り替えたのである。

「このままではまずいザンス。
 こんな状態で殺し合いに乗ってるやつに見つかったから、抵抗もできずにジ・エンドザンス。
 誰か、善良な方ーっ! 助けてちょーよーっ!」

必死で助けを求めるイヤミ。
やがてその声を聞きつけた、一人の参加者がその場にやってきた。
いや、「一人」とカウントしていいのかは微妙だったが。

「どうしたんだい、君」

人間に近いものの明らかに人間の骨格ではない、ずんぐりむっくりしたボディー。
黄緑の肌。そして頭頂部から生える葉っぱ。
彼の名はラ・フランシス。
ふなっしーの弟であり、フランス帰りの洋梨の妖精である。

「おお、救いの神が! お願いだから、ミーを助けてほしいザンス!」

一瞬面食らったイヤミだったが、すぐにその足下にすがりついて助けを求める。
彼にとって、助けてくれるなら洋梨だろうが宇宙人だろうがどうでもいいのである。

「腕を縛られているのか……。なぜこんなことに?」
「それが……。いきなり細マッチョの男に殴られて気絶してしまい、気づいたときにはこうなっていたザンス!
 なんてかわいそうなミー! さあ、早くこのいましめを解いてちょーよ!」
「ふーん……」

イヤミの説明に対し、ラ・フランシスは疑念のこもった視線を彼に向ける。

「な、なんザンス? ミーが何か、不審な行為でもしたって言うザンスか?」
「ああ、そうだね」
「シェ……あだあっ!」

いつもの癖でシェーをしそうになるイヤミだったが、腕を封じられているためかなわず、関節に走った痛みにのたうち回る。
律儀にそれが落ち着くのを待ってから、ラ・フランシスは話し始める。

「状況が不自然だよ。その細マッチョが殺し合いに積極的なら、拘束なんてまどろっこしいことはせずに殺せばいい。
 なのに拘束でとどめたってことは、細マッチョさんは殺し合いをするつもりはなかった可能性が高い。
 じゃあなんで、君は拘束なんてされたのかな?」
「い、いや、それをミーに聞かれても……」
「君の方がその細マッチョさんを襲って、返り討ちにされたんじゃないのかい?」
「そ、そんなことは……」

図星を突かれ、イヤミの顔が大粒の汗でいっぱいになる。
これでは口でいくら否定しようとも、説得力がまるでない。


421 : フランスの風 ◆NIKUcB1AGw :2021/09/21(火) 21:54:20 S4vDVVVQ0

「しょ、証拠! 証拠がないザンス!
 推測だけでミーのような善良な一般市民を見殺しにするザンスか?」

ここでイヤミは、開き直りという手段に走る。
苦しいのは百も承知だが、強引な論理で押し通すのはイヤミの十八番だ。
そんなイヤミの態度に対し、ラ・フランシスは諦めの表情を浮かべた。

「わかったよ。まあたしかに、見捨てるのも夢見が悪いしね。
 君からは、僕と似たにおいがするし」
「わかってくれればいいザンスよ。さあ、早く拘束を解いて……。
 って、あれ?」

大喜びするイヤミだったが、彼の予想に反しラ・フランシスはイヤミを肩に担いで来た道を戻り始める。

「い、いや、何してるザンス!?
 一刻も早く拘束を……」
「自由にされた途端に襲われたんじゃたまらないからね。
 しばらくはそのままでいてもらうよ。
 まあ、何かあったらできる限りは守るから」

そう語りながらラ・フランシスはイヤミを、表に止めてあった軽トラの荷台に放り込む。
そして自分は、運転席に乗り込んだ。

「なんザンスか、この扱いは!
 この人でなしー!」
「うん、人じゃなくて梨だね」
「ああ、なるほど……って、納得してる場合じゃないザンス!
 というか、その体型で車の運転なんてできるザンスか!?」
「できなくはない!」

なおもわめき続けるイヤミをよそに、軽トラはゆっくりと走り出した。


【0200 住宅地の外れ】

【イヤミ@おそ松さん 六つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
●大目標
優勝を目指す
●小目標
拘束から脱出する


【ラ・フランシス@ふなっしーの大冒険 きょうだい集結! 梨汁ブシャーッに気をつけろ!!(ふなっしーの大冒険シリーズ)@小学館ジュニア文庫】
●大目標
殺し合いからの脱出
●小目標
イヤミの監視


422 : ◆NIKUcB1AGw :2021/09/21(火) 21:55:53 S4vDVVVQ0
投下終了です


423 : 名無しさん :2021/09/22(水) 19:01:57 B.1ASlPg0
投下乙です
小悪党なイヤミにどっしり構えた感のあるフランシスの良識人的な乗りがうまく噛み合ってたと思います
そんなこんなで発進したトラックがさらに面白い何かを引き起こしてくれる期待を抱かせる引きと流れでした


424 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/10/18(月) 05:14:30 ruf8TcNI0
投下乙です。
クレバーな梨だなあ。参加者の上位27.4%以内に入るぐらいのインテリジェンスを感じますね。いきなりマーダーになったフランスかぶれも見習わにゃならんのとちゃうか。
ここ最近青い鳥文庫とみらい文庫に送ってて投下してませんでしたが一段落ついたんで投下します。


425 : 引力 ◆BrXLNuUpHQ :2021/10/18(月) 05:19:54 ruf8TcNI0



 見知らぬ家の中をずかずかと歩き、冷蔵庫を開けると保存が効きそうな食料をクーラーボックスへと詰めていく。足早にキッチンから刃物を取ると、学生服のズボンのベルトへと抜身で差し込む。
 次に行くぞ、と二階堂大河は宇美原タツキと水沢光矢に声をかけると、マンションの玄関を開けた。



「ネットつながってねえのかよ。スタミナあふれるじゃねえか、クソっ。」

 大河とタツキが出会ったのは、今から数分前のこと。
 目覚めて大河がまず行ったのは、寝起きのルーティンであるソシャゲであった。

「スマホの問題じゃなさそうだ、Bluetoothは使える。てことは、さっきのは単なる夢じゃないってことか……?」

 スマホに表示されている時間とベッド脇の目覚まし時計の時間のズレを見て、次に窓の外の赤い景色を見てそう結論づける。超常的な現象に巻き込まれた身だが、その順応は早かった。
 大河は死神だ。中学生の傍らバイトでライフルをぶっ放したりして暮らしている。いわゆる、クラスのみんなにはないしょだよ、系のアレだ。
 そうであるがゆえに、これが普段の非日常と違うと理解していた。彼が討伐している悪霊の起こす異変とは毛色が異なる。言葉にするのは難しいが、何か似ている部分はあるものの別物に思えた。なにより、バトロワという段階でジャンルが違う。

「毒入りの首輪に、赤い霧、落ちてる武器、バトロワゲーなのは間違いねえ。問題は、タイムリミットだ。10分か、1時間か、それより長いか。」

 ひとまず容量の大きいリュックサックを探す。そして冷蔵庫からエナジードリンクを調達し、薬箱から痛み止めを手に入れて、台所にあったフライパンを腰に提げた。ヘルメットは手に入らなかったが、ライフルとピストルもあるし立ち上がりとしては上々だろう。だがこれではドン勝にはまだ遠い。
 懸念事項は3つ。戦力アベレージと制限時間、そしてチーターだ。
 大河たち死神が戦う悪霊は普通の人間には見ることも触れることもできない。それでいて悪霊は人間からエネルギーを一方的に吸い取れる。そこを大河たち人間の死神は幽体化という状態になることで悪霊と同じく霊的存在となり戦うのだが、ここに一つ問題がある。悪霊も死神も人間相手に圧倒的に有利な存在なのだ。一方、バトロワはソシャゲにありがちなPayToWinではなく、キャラの強弱は 格ゲーなどのキャラランクに近い。ゲームとして成り立たせるために宇宙最強の戦闘民族とただの赤ん坊を同じ土俵に上げたりはしないのだ。ということは、自分と同じぐらい人間に有利な存在がプレイヤーである、と考えるのが筋だろう。問題はそれがどんなタイプか、だ。死神のような幽体化で戦うタイプだけならわかりやすいが、オープニングステージで見た不良や侍のような少年漫画みたいな連中が相手となるとまずい。特に幽体化には元の身体は気絶した状態で残るという弱点がある。自分は下から数えたほうが早いキャラランクと考えるのがベターだろう。
 そして制限時間、これもネックだ。10分か、1時間か、それとも丸一日か。タイムアップまでの余裕で取るべき戦略は全く変わってくる。数十分で最後の一人にならなければ皆殺しというのならば今すぐにでも動き出さなくてはならないが、数日かけて一人になればいいのならばあまり期待はできないものの外部からの救出を待つのも悪くはない。それにタイムアップ時にどうやって殺すかも関わってくる。首輪で殺す気なら時間があれば解除の可能性にかけてノウハウを持つプレイヤーを探すのも手だろうし、この怪しすぎる赤い霧が毒かなにかでそれで殺す気だというのならなるべく触れないように立ち回るのがスマートだ。他のプレイヤーが消耗で死のうが一発の銃弾も撃たなかろうが生き残っていれば勝ちなのだから。
 最後にチーター。ズルしている参加者がいる可能性について。ここまでのことをできる主催者ならばそんなふうに出し抜かれているとは考えにくいが、あのオープニングの様子を見るにありえなくはない。それに首輪の解除を目指す場合はそういう裏をかける存在がキーだ。最悪なのは主催者側のチーター、すなわちジョーカーだ。最初からコイツを勝たせる為にバトロワを開いた、となればほぼどうしようもない。詰みだ。


426 : 引力 ◆BrXLNuUpHQ :2021/10/18(月) 05:20:34 ruf8TcNI0

「考えなくちゃなんねえことが多すぎんな。バトロワゲーやんねえし立ち回りがわからねえ。このままじゃ初心者狩りされて――」

 カツ、カツ、とかすかな音を耳にして大河は独り言をやめてライフルの安全装置を外した。持ちなれない実銃、その重さに眉間にシワを寄せながら玄関へと足音を忍ばせて急ぐ。扉に耳をつけるとハッキリと足音が聞こえた。

(一人……ちがう、二人か? チームを組んでるってことは知り合い同士で巻き込まれたか、それともこのステージで知り合ってすぐ一緒に動いているのか……)

 ドアスコープからマンションの廊下を覗く。足音の感じから無警戒さがわかる。トリガーガードに指をかけて姿が見えるのを待つ。見えた。男が一人。おそらく同い年。手には大河と同じくライフル、もう片方には懐中電灯。
 次の瞬間、眩しい光が大河の片目を焼いた。

「ぐあっ!」
(眩しっ!? しまった、声を――!!)

 続いてズガンという発砲音と共に金属片が目を抑えた手を掠めた。合計四発撃った、耳で確認すると残る片目に映った光景にギョッとする。鍵とチェーンで施錠されていた玄関扉が開いていく。それも、鍵の側を軸にして。

(ドアのちょうつがいを撃ち抜いたな!)

 さっきの発砲は鍵を撃ち抜いたのではなく、ちょうつがいを破壊したもの。分厚い金属の閂ではなく薄い金属部品を吹き飛ばすことで単発の銃でも速やかに金属製のドアをこじ開ける。その技術はわからなくても現に開いていく扉が侵入者の狙いを大河に理解させた。
 ライフルをなんとか向ける。だが扉が盾となり銃口を動かす。扉の真後ろにいたのが仇になった。そう思うより早くハンドガンを抜く。と、その銃身を扉の隙間から伸びた手が握りしめた。反射的に引鉄を弾く。弾は、出ない。

(スライドが引けねえ――ぐあっ!」
「動くな。」

 ハンドガンはその構造上、銃身上部のスライドが後退しない場合発砲できない。ゆえに、引鉄を引くより強い握力でスライドを銃身から動かぬように握ってしまえば無力化できる。だがそれは理論上の話だ。今にも弾丸が出る銃に手を伸ばすのも、正確にスライドを握って相手の握力を上回る力で握り込むのも並大抵のことではない。ましてやそれを、同年代の相手にやられるなど、大河には信じられないことだった。だが今にも肩を外さんと関節を極められる現状が、その不条理を受け止めさせられる。痛みから引鉄から指を離したところをすかさず掴まれ、スライドを握っていた手が一転して扱く。装填されていた弾丸が地面に落ちる音が数度響き、それが終わると床に組み伏せられた。

「殺すな、光矢。」

 女っぽい声がそう言うのと、大河の首に腕が回るのは同時だった。同時に、大河も身体の下敷きになった方の手にかけていた手榴弾のピンを抜くのを止める。そして二人揃って顔を声をかけたタツキへと向けた。
 二階堂大河と水沢光矢・宇美原タツキの出会いはそんな剣呑なものであった。


427 : 引力 ◆BrXLNuUpHQ :2021/10/18(月) 05:21:09 ruf8TcNI0



 各自が重さ10キロほどの荷物を持つと部屋を出る。物資集めと並行して行った自己紹介は最低限のものだ。互いの名前と、方針だけ。それぞれ知り合いがいるという光矢とタツキは捜索の体制を整えるために近くのホームセンターに行くと言い、大河もそれに同行することにした。
 互いの事情に深入りはしない。明らかに軍隊やそれに類する組織の訓練を受け恐ろしい膂力の持ち主である光矢も、何らかの制服に身を包み腰には刀を差しこの異常な状況に顔色一つ変えないタツキも、殺す相手としては強敵だが幸いにして対主催であると言った以上は大河にはそれで良かった。見たところこの二人はこのステージで知り合ったようであり、ならば対主催のスタンスはそうそう崩さないだろう。それなら弾除けにはなるし自分の死神について語る必要が生まれるようなことは避けたい。
 大河のひとまずの方針は、ホームセンターに引きこもることであった。二人は外に捜索に行くと言うがその間の留守役に名乗りを上げた。もちろん、二人の方針に共感したわけではない。赤い霧が毒などのダメージを与えるかの確認をするためだ。もとよりタイガは赤い霧を警戒してなるべく動き回らないことを考えていたが、対称的な行動をとるサンプルが現れたおかげで自分の仮説を試す機会が訪れた。彼のひとまずの方針としては、このバトロワを長期戦と想定しホームセンターで装備を整え、会場全域が禁止エリア化した場合は冷凍室に立てこもるというものにした。霧である以上低温ならば空気中から霜として床に落ち、何もしないよりは触れずに済む。そうでなくとも情報収集の為に割く時間を考えたい。

(で、これかよ。ゲームならやってるけどリアルでやるやついねえよ。)

 そして今タイガは、高架の上の線路を中腰で移動していた。腰に膝に10キロの荷物と5キロの武器、合わせて15キロの重さがのしかかる。正直しんどい。
 土地勘の無い場所を奇襲を警戒して歩くよりは線路を歩いて近くまで行ったほうがいい、そう提案したのは家にあった地図でホームセンターまでの道順を調べた大河自身である。なので文句は言えない。それに、この高架は住宅街に架かっているからか防音壁がある。もちろん縦断を防げはしないだろうが、その陰に隠れて移動すれば濃霧と合わせて安全に移動できるだろう。問題はその壁が1メートル程の高さしかないということだが。

(光矢もヤバいがタツキもヤバイな。)

 同じように中腰で歩く光矢とタツキを見て大河は思う。一番身長が高い光矢はうっすらと汗をかいている。そのすぐ後ろのタツキは、やはり顔色一つ変えないどころか汗の一つもかかずに歩いている。いくら光矢や大河に比べれば小柄とはいえ、尋常なことではない。なにせ運動神経抜群の大河でさえ顔を汗が伝い荒い息を歯を食いしばって漏らさぬようにしているのだから。

(そういえばオープニングに黒づくめの剣士いたな。そのタイプか?)

 タツキやツノウサギに斬りかかった剣士たちのようにパワーにすぐれるプレイヤーに、大河やツノウサギに殺されかけた剣士を治した不良のように特別な能力が使えるプレイヤー、光矢のように専門的な訓練を受けたプレイヤー、大まかに3タイプ。別に根拠も何もないが、そういうふうに属性みたいなものが分けられているのなら、死神の能力を持つ自分を参加させたのも納得はできる。

「みんな止まれ。」

 先頭の光矢がそう言って手を横に伸ばした。大河は壁に身を寄せると前方に目を凝らす。うっすらと何かが見えた気がした。

「列車だ。気をつけろ。」

 停まっているのか、赤い霧の奥の影に動きは見えない。三人で密やかにしかし急いで前進する。1分ほどの後、現れたのは見たことのない形式の電車だった。もっとも、大河も含め誰も電車に詳しくないので当たり前なのだが。
 そしてそれから更に数分後。

「こ、来ないでくださ〜い!」

 全身から静電気起きてるバチバチ少女と。

「参ったな、もう一度最初からだ。」

 着崩した制服のチャラ男。

「オイこれどういう状況だよ。」
「……俺に聞くな。」

 武装した三人の前になんか一般人っぽくない一般人二人が現れた。


428 : 引力 ◆BrXLNuUpHQ :2021/10/18(月) 05:21:47 ruf8TcNI0



「時間ないから三行で説明するよ。ぼくは西塔明斗であの子は星降奈。ぼくは駅でオオカミに襲われたんだけどってぐうぜん雷が落ちて助かったんだ。で、線路を逃げてたら電車が停まっててあの子が泣いてた。」
「で、ナンパしてたってわけか。」
「オオカミ? どういうことだ?」
「なんでバチバチしてるの?」
「ちょっとまって質問多い。」

 線路上に停まっていた電車の最後尾にフルナを残して、三人はチャラ男こと明斗と情報交換を始めた。
 全員対主催であること、黒いオオカミに襲われたこと、突然雷が落ちてオオカミが逃げたこと、駅に停車しそうになっていた電車が落雷で止まったこと、その電車にフルナが乗っていてなんかバチバチしていたこと、一つ一つ話しているうちに結局数分がかりの会議になる。

「つまり最後尾じゃなくて先頭車両だったんだな。」
「落雷のあった場所は?」
「おいなんかアイツもっとバチバチしだしたぞ。」
「ゴメン、ちょっと時間ない。」
「待て、俺たちは駅の近くのホームセンターに向う。」
「わかった。後から追いつくよ。」

 明斗はそう言うと、引き戸を開けた。ビクリとフルナが身を震わせる。同時にその体から電流が迸った。

「アイツらは近くのホームセンターに行くってさ。また二人っきりだね。」

 そう言って横を指差す。三人は電車を降りてまた歩くようだ。
 運転席の窓に体を押し付けるように立つフルナを刺激しないように、明斗は一番離れた優先席へと座った。
 明斗は先の大河たちとの情報交換で二つ言わなかったことがあった。一つはフルナがおそらくは電気を操る超能力者であること。そしてもう一つはメイト自身がサイコメトラーであることだ。
 明斗の通う東都学園には超能力者が集うウラ部活がある。それゆえすぐに彼女の能力と心境に気づけた。駅でオオカミに襲われていた自分を助けるように放たれた電撃、直後に急ブレーキのかかった電車。状況を考えれば、他の超能力者に助けられたと見るのが彼からすれば自然だった。それで礼の一つでもと向かったところで出会ったのは震える女の子。最初は男が苦手かとも思ったが、その声からこちらを気遣う感じがして別の可能性を考えた。つまり自分の能力で明斗を傷つけかねないことを恐れている可能性だ。
 明斗としてはそれだけなら『ふだんどおり』に接してそれでダメなら離れることも考えたが、フルナに着けられた首輪がその選択肢を無くした。フルナに電撃を使わせたのは自分だ。そしてそのせいで彼女に気づかせてしまったのだろう、明斗自身にも着けられている首輪をこの電車のように電撃で壊してしまう可能性を。そしてだから明斗はフルナから離れない。今のフルナを放っておけばいずれフルナ自身の首輪を壊させてしまいかねないのだから。

(勝負かけるしかないな。)
「明斗くん、わたし――」
「ぼくが超能力者だって言ったら、笑う?」
「――え?」


429 : 引力 ◆BrXLNuUpHQ :2021/10/18(月) 05:22:42 ruf8TcNI0

 明斗は変わらぬ軽い調子で打ち明けた。虚をつかれたのか、フルナの体からの放電が止まる。一気に畳み掛ける、明斗はそう決めた。
 さっきの三人はともかく危険な人間もこの殺し合いにはいるだろう。この場に長くいることは危険すぎる。いちおう、明斗も駅で拾った拳銃を持っているが、正直撃てる気がしないし撃ちたいとも思わないと先のオオカミから逃げる時に痛感した。とてもではないが、他人に当てれる気がしない。
 そしてもう一つ、明斗は三人から記憶を読みとっていた。超能力者の明斗が言うのもなんだが、三人とも少年漫画のような境遇だ。謎のエイリアンに人を襲う化物、明らかに世界観が違う。勝てる気がしない。
 だがそんな彼らと一緒に行動できれば心強いことは間違いない。なにより、このまま置いていかれるとあのオオカミが戻ってきた時に今度こそ食われる。だからここで、フルナをソッコーで落ち着かせる。

「ぼくはサイコメトラーでね。人の心が読めるんだ。ま、君はわかりやすいから力を使わなくてもぼくを心配してくれてるのはわかるけど。」
「……それは――」
「いま、ハッタリだと思ったでしょ。でもその直前に一瞬ホッとした……いや、『良かった』とかそういう前向きな気持ち、かな?」
「!? な、なんで!?」
「だってサイコメトラーだもん。」

 あっぶねーハッタリ上手くいったー。
 明斗は心の中でガッツポーズした。明斗のサイコメトリングは対象に触れることが条件である。ゆえに、今のフルナの心の動きを言い当てたのは完全に勘である。あまりハズレなさそうなことを自信満々に言えば、特にフルナのように自分に自身がない女の子は自分の感情すら人の言われたとおりだと思ってしまうものだ。もし外していたとしてもチャラ男のジョーダンだと誤魔化せば一度ぐらいならなんとかなる。ならなくてもモテオーラでなんとかしてみせる。そんなイケメンとしての自信に裏付けられた行動が活路を開いた。イケメンに限る説得方法である。
 さて、問題はここからだ。
 明斗はポケットの中の拳銃に手をかける。そして立ち上がると、後部車両へのドアに震える手をかけた。

「て言っても、信じてもらえないよな。だから、ちょっとしたパフォーマンスを見せようと思う。」

 背中を向けてそう言うとドアを開ける。そして後部車両へと移動すると拳銃を取り出した。

「ロシアンルーレットは知ってるだろ? コイツは六発、弾が入る。オオカミに追いかけられた時にほとんど撃ったけどまだ一発入ってるんだ。」

 驚くフルナを無視して弾を一発取りだす。そしてそれを一度強く握ると装填して弾倉を回転させ始めた。

「今入れた一発に念を込めた。ぼくはそれをサイコメトリングで読み取って弾が出る時に頭から外す。さあ行くぜ!」
「待って!」

 フルナが走り出す。微笑みかけながら、明斗は頭に銃口を向けた。
 そして銃弾が発射された。

(マジかよ六分の一だぞ!?)

 別にサイコメトリングは記憶を読み取れるだけで弾倉のどこに銃弾があるかを読み取れるようなことはない。そのことは明斗自身が一番良くわかっているが、それでもいざ引き当ててしまうとさすがに驚く。
 ビビって顔を仰け反らせていなければ、おでこを掠めるどころの話ではなかっただろう。

「何してるの!」
「ハ、ハハ……な、ピンピンしてるだろう?」

 尻餅をついた明斗にタックルするようにフルナは覆いかぶさると、流れる血にハンカチを当てた。その手を取って、明斗は自分の首輪へと触らせた。

「ほら、平気だろ?」
「む、むちゃくちゃだよ……」

 へたり込み大きなため息をついたフルナの重さを感じながら、明斗もバレないように静かにそれでいて深く息を吐く。
 なんとか電撃を抑えられた、そのことに心からホッとした。


430 : 引力 ◆BrXLNuUpHQ :2021/10/18(月) 05:24:44 ruf8TcNI0



「俺の家族は……どこだあああああああっ!!」
「やべっ、《ザ・ハンド》!」

 虹村億泰の身体が瞬間移動するかのように僅かにずれると、直前まで顔があった場所を蜘蛛の鬼(父)の豪腕が通り過ぎた。その腕にライフル弾が浅く刺さる。鬼が紅月美華子の牽制に気を取られている間に億泰はふらつく体を走らせて物陰に隠れた。

「虹村くん、こっち。」

 回り込んで来た美華子に肩を叩かれようやく反応する。億泰は一瞬だが気絶していた。スタンドも既に出し続けられない。美華子の肩を借りるように億泰は立ち上がると、努めて物音を立てないように移動を始めた。
 もはやデパートでの億泰と美華子の鬼との戦いは一方的な状況になっていた。戦えない村上、北上、上田の三人をエレベーターに乗せるところまではなんとかなったが、そこから先は鬼の絶え間ない猛攻に逃げ惑うしかなかった。なにしろ鬼にはスタミナという概念は無い。加えてほぼ無尽蔵の再生能力もあっては、いかに《ザ・ハンド》がパワーでは勝っていても時間が経てば経つほど追い詰められる。しかも倒す手段が首輪を壊すことという彼らからすれば不確かなものしかない上に二人がかりでも狙える隙など皆無だ。正確には隙が合っても鬼の超反応で発砲から着弾までの間に首輪を守られてしまう。不死身の鬼ではあるが頸だけは例外であることから反射的に防いでいるのだが、それが億泰達からすれば唯一の逆転の芽を詰んでいた。

「そこかあっ!!」
「クソッタレ……またバレた……」
「走って!」

 そして逃げようにも鬼は無差別に暴れ回る。適当に腕を振るうだけで身を隠す遮蔽物は命を奪う散弾に変わる。そうして時に隠れ場所を暴かれ、時に瓦礫で炙り出され、億泰達は終わりの無い逃走劇を続けていた。いや、訂正しよう、逃走劇は間もなく終わる。億泰と美華子の死という形で、だ。
 億泰は既に一連の戦いで負傷している。流れる血は体力を奪い居場所を知らせ、その身に刻まれた毒が命をすり減らす。
 億泰は美華子に手を引かれ駆け出した。だが、すぐに足がもつれる。「《ザ・ハンド》ッ!」と反射的にスタンドを出し、片方の手で美華子を、もう片方の手で自分を投げた。離れる二人の間に巨腕が振り下ろされる。何度目かの間一髪! そして、おそらくはこれが最期の間一髪だと、億泰は受け身も取れずに転がりながら思った。

(クソっ、体に力が入らねえ。あのオオカミ、やるだけやって逃げやがって……)
「おおおおおおおっ!」

 鬼の咆哮がやけに遠くに聞こえる。身体だけでなく耳まで毒が回り始めたか単に出血多量か、ともかくもうまともに動くことも音を聞くこともできなくなりつつある。その中でまだちゃんと使える目に写るのは、自分を見下ろす鬼の顔。人面蜘蛛としか言いようがないそれが、床に横たわる自分に向かい腕を振り上げるのを黙って見ていることしかできない。


431 : 引力 ◆BrXLNuUpHQ :2021/10/18(月) 05:25:28 ruf8TcNI0

(こんなのが最期のけしきでたまるかよっ!)
「《ザ・ハ》――」
「死ねええっ!」

 最後の気合を振り絞る。腕から上だけの《ザ・ハンド》が、鬼の豪腕を殴り返さんと振りかぶる。その時、三つの爆発音が聞こえた。
 鬼が咄嗟に首に腕を回す。その腕を反射的に、《ザ・ハンド》は空間を削ることで引き寄せる。一瞬戻すのが遅れた首輪に弾丸が突き刺さったとわかったのは、鬼が絶叫して灰に変わってからだった。

「な、んだ。こんどはなにが起こったんだ?」

 状況が飲み込めない。
 まさか今自分を殺そうとした化物がアッサリ目の前で死んでいったなどとは納得できず、自分に降りかかる灰を新手の攻撃かと思い警戒する。

「間に合ったな。」
「やっぱり首輪を壊すと死ぬみたいだな。顔に散弾喰らってもすぐ直ったのに。にしてもコイツも参加者か? それともNPCみたいなもんか。」

 言葉と共に現れたのはショットガンを持った三人組だった。全員中学生ぐらいだろうか。その割に妙に銃の構え方がさまになっている。その首に自分や美華子や鬼と同じ首輪を見つけてようやく億泰は大河達を参加者だと認識した。

「あなたたちは?」

 声を出す体力もろくに残っていない億泰を庇い美華子が聞く。

「同じ参加者だ。あそこにあった買い物カゴに入ってたショットガン、いくつか使わてもらったぞ。」
「待って、そうじゃなくて、あなたたちはどこから来たの?」
「どこから? デパートの入り口からだ。なんでそんなことを?」
「それは――」

 言いかけた美華子は、突如光矢を突き飛ばした。あまりの不意打ちにたまらずたたらを踏む。その目の前を黒い影が通り過ぎると、赤い汁が飛び散った。ザリュッ、と音がする。
 それは黒いオオカミだった。墨汁に浸けたように黒く大きいオオカミが、一瞬で美華子の首筋を食いちぎっていた。首の半分の肉が失われ、脊椎が顕になっている。その光景を認識した途端にショットガンを構えた大河は、タツキに背中を引っ張られた。瞬く間に奇襲を仕掛けてきたオオカミは目の前で瞬間移動のように消えると、同時に強い痛みが手から走る。痛え、と言おうとして大河は自分の腕を見て絶句した。腕が飛んでいた。

「気をつけろ、ソイツは毒を持ってるぞッ!」
「腕があっ! く、クソッタレがああ!!」

 片手で無理やりショットガンを撃つ、それが当たるはずもなく大河は今度は背中を押された。咄嗟に受け身を取り、タツキを盾にしつつショットガンを構えようとして、タツキの背中に回した手に違和感を覚える。しなやかな筋肉と女子らしい柔らかさを感じるその身体は不気味に柔らかい。その原因は手の下から伝わってくるアバラの感覚。折れている。なぜ、さっき背中を押されたのと関係が……

「美華子さん! クソっ……」
「タツキ、タツキ! ちっ、死んだか!?」

 怒号が響いた。
 状況がわからない。大河からすれば化物を殺したらなぜか助けた女が死に自分の腕が飛んだ。強そうな同行者も骨折してノビている。
 そして混乱する大河に追い打ちをかけるように、目の前を雷光が通り過ぎた。


432 : 引力 ◆BrXLNuUpHQ :2021/10/18(月) 05:26:13 ruf8TcNI0

「今度はなんだ!」
「フルナ、もう一回だ。」
「うん!」

 聞こえてきたのは、さっき別れた二人の声。フルナとメイトが手を恋人繋ぎしつつ、フルナの片手の先からオオカミに向かってか電撃が放たれる。なんだそれ新技か?とアドレナリンの溢れた頭でどこかのんきにツッコみながら、大河はショットガンを排莢した。まあアレは十中八九何らかの能力者だろう、問題は襲撃してきたオオカミだ。

「あのオオカミだ! さっきぼくが襲われたやつ!」
「クソったれなんでバトロワでオオカミなんか参加者にしてんだよ!」

 悪態をついて自分を奮い立たせながら、大河は発砲する。一方でオオカミこと犬の妖怪、カザンは冷静に避けながらも戦況の変化を感じていた。
 カザンの目的はただ一つ。この場にいる可能性のある主人のタイの保護である。伝説の子であるタイは銃だろうと異能力だろうと問題にしないが、それでも休み無く大勢に襲われれば万が一ということもある。少なくとも寝込みを襲われることのないように一刻も早く護衛に向かいたい。しかしカザンは同じく伝説の子である竜堂ルナ抹殺のために服毒した身。一噛みすれば如何なるものでも死に至らしめるようになったのと引き換えに、その寿命は長く見積もっても二日、それもメイト・フルナと億泰・美華子・父鬼の都合二戦で半日以下にまで短くなっている。そしてこうして妖力を使っている今、その寿命は更に加速度的に消えていく。このままでは数分後には死ぬだろう。
 もとよりこの短すぎる寿命では真の目的も果たせるはずが無い。ならばこそ、役目を全うすることを指針とする。集団を率いることができる大人を一人でも多く地獄に引き摺り込む。それをもってタイに対抗しうる集団の組織化を阻害する。そしてわざと数名生き残らせ、自身の情報がタイへと届く可能性を作る。先程の鬼と億泰の戦いに介入した時は異様にタフな鬼と謎の能力を使う億泰を狙って噛んだが、もはやそんなことをしている余裕はない。
 光矢の放ったショットガンを体を仔犬のように小さくすることで躱しながら、物陰に隠れ込む。そして一際大きく吐血した。全力を出せるのはあと十数秒。それまでの間にリーダー役を見極め死ぬより早く殺す。
 新たな登場人物と新たな死者を巻き込んで、デパートの戦いは第二幕を迎える。


433 : 引力 ◆BrXLNuUpHQ :2021/10/18(月) 05:27:20 ruf8TcNI0



【0100後 都市部・デパート】

【二階堂大河@死神デッドライン(2) うしなわれた家族(死神デッドラインシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 安全な拠点を作る
●小目標
 オオカミ(カザン)を殺す

【水沢光矢@パセリ伝説 水の国の少女 memory(3)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 パセリと合流する
●小目標
 オオカミ(カザン)を殺す

【宇美原タツキ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 EDFとして主催者を打倒して生き残る
●小目標
 オオカミ(カザン)を倒す

【星降奈@異能力フレンズ(1) スパーク・ガールあらわる! (異能力フレンズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないけど誰かが傷つくのはイヤ

【西塔明斗@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 知り合いが巻き込まれていないか調べる
●小目標
 フルナを守る

【虹村億泰@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いってなんだよ?
●小目標
 目の前のオオカミ(カザン)をぶっ潰す

【カザン@妖界ナビ・ルナ(5) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 タイの後顧の憂いを経つべく組織を纏められるような人間を殺す



【脱落】


【蜘蛛の鬼(父)@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【紅月美華子@怪盗レッド(7) 進級テストは、大ピンチ☆の巻(怪盗レッドシリーズ)@集英社みらい文庫】


【残り参加者 241/300】


434 : 引力 ◆BrXLNuUpHQ :2021/10/18(月) 05:33:55 ruf8TcNI0
投下終了です。
先日新たな児童文庫レーベルのかなで文庫が創刊しました。よろしくお願いします。


435 : 名無しさん :2021/10/18(月) 06:01:26 nSptPqQ.0
投下乙です
カザン来たー、けどなんか暴れるだけ暴れて次辺りで死にそうな状況だな
しかし、無印参戦なのにレーベルが青い鳥文庫なのは何か理由があるのだろうか


436 : ◆NIKUcB1AGw :2021/10/19(火) 21:14:00 zRwZ2.rc0
投下します


437 : パラレルヒストリー ◆NIKUcB1AGw :2021/10/19(火) 21:14:56 zRwZ2.rc0
霧の立ちこめる街の中を、頬に十字傷が刻まれた侍が走る。
彼の名は、緋村剣心。
かつて伝説の人斬りと恐れられ、今は「不殺」を誓い人々を守るために戦う剣客だ。

剣心は焦っていた。
彼は言うまでもなく、殺し合いの中で無力な人々を守るために動いていた。
だがすでにかなりの時間が経過しているというのに、まだ一人の参加者にも遭遇できていない。
自分の感覚が幾分か鈍っている、と剣心は感じていた。
まるでかつて戦った、闇乃武の拠点のようだ。
この奇妙な霧が感覚を鈍らせているのだろう、と推察する剣心。
だがどんなに強くても、一介の人間である彼に霧という現象をどうこうすることはできない。
その神速の脚で少しでも速く移動し、会場をしらみつぶしに回るしかないのだ。

(クッ……。拙者がこうしている間にも、おそらくたくさんの人々が命の危機に……)

記憶は曖昧だが、最初の場には多くの子供がいた気がする。
彼らの全てが、弥彦のように戦う勇気を持つ者であるはずがない。
大多数が恐怖におびえているだろう。
すでに、命を落としている子供もいるかもしれない。
むろん子供だけでなく、戦う力のない大人もこの場にはいるはずだ。

(一人の人間にできることなど、たかがしれている……。
 理解していたつもりだったが、実際に叩きつけられるとこんなにもつらいとは……。
 それでも拙者は、拙者にできることをやらねば……)

湧き上がるネガティブな感情を必死で抑えながら、剣心は走り続ける。
だがその動きが、突然変化する。
鈍った感覚でもわかる、明確な殺気。
それが叩きつけられたのだ。
姿勢を低くし、横へと動く剣心。
その傍らを、銃弾が通り過ぎていく。
それを確認すると、剣心は腰の逆刃刀に手をかけ、銃弾が飛んできた方向へと視線を向ける。
そこにいたのは、鎧を纏い拳銃を手にした男だった。
今時見ないような鎧と拳銃の組み合わせがずいぶんと合わないななどと、剣心の脳裏にたわいもない考えが浮かぶ。
さすがの剣心もまさか眼前の男が、自分の生きている時代の数百年前に死んだはずの武将・明智光秀であるとは気づくはずもなかった。

「貴様もわしの命を狙う刺客か! 返り討ちにしてくれるわぁ!」

血走った目で叫ぶと、光秀は再び発砲する。
だがその弾丸も、剣心を捉えることはない。

「落ち着くでござる! 拙者は、おぬしに危害を加えるつもりはござらん!
 銃を収めてくれぬか!」
「誰が信じるか、そんな戯言!」

この光秀は、いわゆる「三日天下」から転がり落ちて敗走中の時期から連れてこられている。
精神的にひどく追い詰められた状態であり、剣心の説得が通じるはずもない。

(仕方ない、しばらく気絶していてもらうしか……!)

改めて逆刃刀を抜こうとする剣心。
だがその時、第三者の介入が発生した。

『はい、そこの二人。今すぐ武器を置きなさい。
 ダメだよ、街中でそんな物騒なことしちゃ』

拡声器でそう呼びかけながら登場したのは、ふんどし一丁の筋肉質な男だった。
なぜか、全身に蜂蜜が塗られている。
顔立ちは歌舞伎役者のごとく整ったものだが、この有様では変質者にしか見えない。

「な……なんだ、この化物は!」

そして光秀にとっては、変質者よりもはるかにおぞましいものに見えていたらしい。

「ええい、こんなやつを相手にできるか!」

血の気の引いた顔で、光秀は一目散に逃げ出した。

「あ、ちょっと! 逃げちゃダメだよ、おじさん!
 悪いね、お兄さん。ちょっとここで待っててくれる?」
「いや、拙者も同行しよう。
 あの御仁を放置しておくのは危険でござる」
「あ、そう? じゃあ手伝ってもらおうかな。
 ここじゃ人手も足りないし」

同意を得て、剣心は蜂蜜男と共に光秀を追って走り出す。

「ところでお兄さん、名前は?」
「拙者は、緋村剣心と申す。そちらは?」
「俺は近藤勲。真選組の局長だ。
 よろしく!」
「おろ……?」

ふんどし蜂蜜姿にもなんとか耐えていた剣心が、大きく目を見開く。

「勲……? 勇ではなく……?」
「うん、勲」

敵同士とはいえ、新撰組とは幾度も顔を合わせた仲だ。
局長の名前を間違えて覚えているはずがない。
そもそも、戦場でまみえた「近藤」とこの男とでは顔がまったく違う。

(いったい、どういうことでござろうか……)

並行世界の存在など知らぬ剣心は、ただ困惑するしかなかった。


438 : パラレルヒストリー ◆NIKUcB1AGw :2021/10/19(火) 21:15:45 zRwZ2.rc0
【0130 市街地】

【緋村剣心@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
一つでも多くの命を救う
●小目標
光秀を追う


【近藤勲@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
殺し合いに乗った連中を取り締まる
●小目標
光秀を追う


【明智光秀@映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】
●大目標
敵を全て返り討ちにし、生き残る


439 : ◆NIKUcB1AGw :2021/10/19(火) 21:16:45 zRwZ2.rc0
投下終了です


440 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/08(月) 01:23:05 fFQfuC8A0
投下乙です。
剣心が一話で死んでない!? "幻想(ユメ)"じゃねえよな…!?
なんかこういうの書かれると一周回ってまともに活躍させたくなりますねうちのロワじゃ基本参加者はゴミのように死んでいくんですけど。
投下します。


441 : 正解は君の The answer A to Z ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/08(月) 01:33:54 fFQfuC8A0



 兄である鑑隼人が竜宮レナと柿沼直樹の両名を爆殺していた頃、弟の秀人は未だ赤い霧に包まれた森から動けずにいた。
 彼は兄のように戦士としての手ほどきも軍人としての訓練も受けてはいない。もちろん、ラ・メール星の人間として常人を超える身体能力はあるが、それでも視界も効かない見知らぬ森を歩く技量など無かった。
 なにより、彼が心配したのは今の自分が殺し合いに巻き込まれたという事実だ。自分の身が惜しいというわけではない。もちろん死にたくなどないが、いい加減そんな小さいことを気にする自分に嫌気も差しているし、なにより気がかりなことがあまりに多い身の上た。それに今の隼人は半ば人質の立場である。その彼を気づかれぬ間に拉致できる存在は極めて限られている。彼がパセリたちを裏切り軍門に降った赤い鳥軍団か、でなければその監視をも凌ぐ想像もつかないような存在か。

「このダンゴムシもだ。これは死んでるんじゃなくて、もともとこういうふうに生産されたものか?」

 隼人は後者であると、石をひっくり返したところにいたダンゴムシを見て思った。
 彼が育った火の国の科学技術は軽く百年は現代世界の先を行っている。特に機械工学はロボット兵やレーザー兵器を実戦配備しているほどだ。もちろん軍事分野だけが先進的なわけではなく、民生用のロボットやエアバイクなども広く普及している。その最たるものが、工業的に『生産』された自然だ。火の国では環境破壊により地上の生命は死に絶え、人類は地下に建設された都市に住んでいる。当然日の光が差さぬ場所では動植物などあるはずもなく、食糧以外の自然はあらかた工場で生産されたものだ。
 驚くべきはその精度だ。基本的に似せようとしたものは全くと言っていいほど本物と区別がつかない。そして隼人が見つけたダンゴムシは、彼が知る火の国のものよりもなお先を行っていた。隼人は火の国と北海道で自然物と人工物の両方を見ているため辛うじて区別がつくが、普通の人間ならばまず見抜けないだろう。高い技術で作られた製品であるがゆえに個体差が無いことは、プラスチックなどの無機物ではなく有機物で作られたらしいダンゴムシ達にも共通していた。

「バイオテクノロジーによるクローンか。これを作った奴らはどれだけの技術を持ってるんだ……?」

 石を戻して隼人はまた慎重に歩き始めた。最初にいた場所から渦を描くように森を散策する。こうしておけばさほど最初にいた場所から離れずに抜かりなく調べられる。
 そのかいがあって、彼は一時間ほど歩いた末に木に刻まれた傷を目にした。
 高さはちょうど彼の腰の位置。そこに横に一本傷が付いている。その傷の向きに歩くと何本か先の木に矢印の傷が付けられていた。矢印に従い歩くと、傷の付けられた木が続きまた何本か先に矢印の傷が付けられた木がある。

「迷わないように自分が通った道に目印を残したのか。」

 もしくは罠か。嫌な想像が頭をよぎるが、隼人は足を早めた。この一時間で全く人と会えていない。このまま状況に変化がないことは耐えられなかった。彼の兄である秀人や裏切ったとはいえ友人であるパセリたち、そして彼と家族のように育ち――そして今は彼を軟禁している『彼ら』もまたこの場所にいるかもしれないからだ。
 しばらくして隼人は、森の中に人影を見つけた。男女のコンビが歩いている。首には同じように首輪が巻かれているため参加者だろう。武器も持っていないし、複数で行動しているのなら殺し合いに乗っているとも思えない、それに普通の人間には負ける気はない。そう思っていると、肩にポンと手が置かれた。

「うわあっ!?」
「あらごめんなさい。驚かせてしまったかしら?」
「小川くん、後ろ!」
「……渡辺直美?」

 慌てて振り返る。
 和服の少女を連れた、銃を肩に担ぎメイド服のようなものに身を包んだふくよかな女性、シスター・クローネが彼にニッコリと笑いかけていた。


442 : 正解は君の The answer A to Z ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/08(月) 01:35:55 fFQfuC8A0



「牛の頭のバケモノ?」
「ここから少し行ったところにある廃村で襲われてね……信じられない?」
「それは……いや、信じます。」

 隼人が出会ったのは三人の子供と一人の大人だった。
 紅月飛鳥と小川凌平の二人組は、飛鳥が付けていた木の傷を凌平が見つけてから小一時間一緒に行動しているらしい。自分も同じように釣られた、ということに思うものはあったが、それ以上の存在感ある情報に隼人の注目がいった。
 シスター・クローネと名乗るライフルを提げた女性。それだけで個性的なのに、なぜか半裸で泣きじゃくる幼女を連れている。そんな怪しさの塊のような女性が言った荒唐無稽な話を、しかし隼人達は信じざるを得なかった。

「ヒック……へんな……黒い服の男の人に……ヒック!」
「この子も、廃村の近くで変な男に襲われたらしくてね。男の子が助けてくれて逃げてきたらしいのよ。たぶん、私を助けてくれた男の子と同じ子ね。」
「男の子、ですか。」
「金髪って言ってたからたぶんね。私も彼に助けられて逃げてきたのよ。」

 脱げかけた服を自分ごと抱きしめるように抑えつつ話した幼女の言葉に、隼人達は言葉を失った。ずっと俯き一向に顔をあげようとしない幼女からは、ぽたりぽたりと涙がこぼれ落ちて止まらない。よほど怖い目にあったのだろうと、いやがおうにも感じさせる。
 そんな幼女を見て、隼人も俯きつつ渋い顔になった。この殺し合いの場にバケモノがいることよりも、不審な男がいることのほうが彼には恐ろしかった。いわゆるバケモノならばロボットなどと同様に破壊する手段が思いつくが、同じ人間で幼女相手に乱暴するような大人を相手にすることなど、今まで考えたことがなかった。火の鳥軍団の連中も相当な外道だと思っていたが、それを軽く上回る人間がいるなどと想像もできない。それにこんな状況でそんなことをしようとするなど隼人には発想すらできないものだ。
 隼人だけでなく飛鳥も同様だ。彼女も怪盗としてあくどい人間については普通の中学生よりはるかに詳しいが、さすがに突然誘拐されて殺し合えと言われておいて小さな女の子に襲い掛かるオッサンなど見たことも聞いたこともない。凌平もまた幼なじみである絢羽に変態の手が及ぶことを想像した。ただでさえ相棒と殺し合わなくてはならないかもしれないのにそんなスケベ親父がいるなど考えたくもない。
 隼人たち五人はそれから一通り情報交換しつつ、森の中を歩き始めた。幼女を保護したクローネも飛鳥の付けた傷を辿って合流したことから、幼女を襲った男が同じように傷を辿って来ることを考えて足を止めずに進み続ける。幸いクローネが自然の中にある孤児院で働いているために森の中を歩くことも慣れていて、五人の移動速度はそれなりのものだ。
 隼人はその間、全員を観察していた。普通の人間とは体力が違う自分だが、それでも疲れるものは疲れる。サッカーをやっているという凌平もさすがに疲労の色が見え、この時点で彼はこの集団で一番信頼出来るのが彼だと感じた。まず銃を持ちバケモノの話をしたクローネを信頼することはない。いくら慣れているとはいえ疲れた様子を見せないことから、見かけよりも高い持久力を持っていると推測できる。銃を持ったままなら尚更だ。そして飛鳥もまた疲れを感じさせない歩きぶりで隼人は警戒する。たしかに持久力という意味では隼人たちは常人とそこまで差があるわけではないが、それでもふつうの、ましてや女子に負けるというのは考えがたいことだ。そして彼が一番警戒するのが、幼女。一度も顔を上げず、それでいて全く歩くスピードが落ちない。子供ならそもそも歩くことすら困難な森をクローネの誘導があるとはいえ誰よりも疲れ知らずで歩き続ける。その時点で隼人は幼女に目が釘付けになっていた。と、その幼女が足を止める。なんだと思って幼女の手を引くクローネを見ると、彼女は森の一画を見ていた。

「私たちは殺し合う気なんてないわ。出てきてもらえる?」
「こりゃ参った、大した勘の鋭さだ。」

 意外なほど近くから男の声がした。ついで男の姿が現れた。黒いスーツにもみあげと一体化するほど毛深い黒いヒゲ。黒いクツと合わせて、全身黒ずくめの男が、二三本先の木の影から出てくる。

「ん? その服はさっきの――」
「いやあああああっ!!!」

 なにか男が言いかけたところで、悲鳴が響く。幼女が彼の姿を見たとたんに顔を抑えてうずくまった。同時に、クローネと飛鳥の空気が変わった。

(この二人、場馴れしてる?)
「オッケー、だいたいわかった。」
「もしかして、あなたが……」
「……なるほど、面白くなってきやがったぜ。」

 男がそう言って背を向けて走り出すのと、クローネが安全装置を外して発砲するのは同時だった。


443 : 正解は君の The answer A to Z ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/08(月) 01:37:26 fFQfuC8A0



「マリオネットなら糸を切ればいいって言ってもな。」

 次元大介は、死体の我妻善逸が振るう刃を寸前で躱すと、その身体に付着する糸を撃ち抜く。すると即座にどこからか糸が結びなおされ、また次元へと刃が振られる。

「繋ぎ直せるのは反則だろ!」

 ギリギリで避ければ悪態を最後に、踵を返して逃げ出した。
 次元が蜘蛛の鬼(母)の操る善逸ゾンビと戦い始めて数分、如実に追い詰められていた。
 敵のタネは割れている。死体にワイヤーをつけて操るというものだ。ならばそれを銃弾で打ち抜けばいい。無論それは次元であっても極めて困難なのだが、この程度のピンチならば今までにいくらでもあった。しかし。

「うおっ!」

 直ぐ様追いつかれて転がるようにして刀を避け、その最中に撃った弾丸は糸を断ち切るもすぐに繋ぎ直される。ほぼ同時に自分に付けられた糸を同じように撃ち抜くと、次元は廃屋へと文字通りに転がり込んだ。
 侍相手にあえて接近して至近距離からワイヤーを撃ち抜くという離れ業による攻略法は、どれだけ撃ってもすぐに繋ぎ直されることで無効化されていた。ならばと手足の関節を撃ち抜くも、死体だからかほとんど動きが鈍らない上、何発目からは回避されるようになった。そのおかげで攻撃の手は少しは緩まったが、事態が好転したかと言えばNO。マリナを守るために終わりのないディフェンスを強いられている都合、先に次元の体力がなくなるのは明白だった。
 次元は隠れていた廃屋でライフルを見つけると、すぐさま飛び出す。追撃が来なかったということは、狙いはマリナに移ったということだ。この状況でマリナまで操られれば終わりだ。単に守る対象が敵の手に落ちるというだけではない、敵が一人増えかねないのだ。

「つくづく悪趣味なやり口だぜ。」

 案の定マリナへと背を向けて駆ける侍に向けて連射する。二発当たったがそれだけで腕を吹き飛ばせるわけもなく、侍は人間離れした動きで残りの弾丸を回避するとこちらに狙いを移した。

「次元さん!」

 マリナの声に反射的に回避に移る。それは直感だった。一瞬後、次元の頭に衝撃が走る。愛用の帽子が飛ぶ。何かが掠めた、そう思ったときには侍に切りかかられていた。
 ライフルで糸を切るべく狙い撃つ。弾丸は、当たらない。

(帽子が――)

 次元の神技的な射撃技術は、帽子で狙いをつけることがその源泉にある。無くなれば素人並みの腕になることもあるが、基本的には少し劣るレベルの射撃が可能だ。だが、今求められているのは蜘蛛の糸を撃ち抜くレベルの技術。それでは足りない。つまり。

「ぐ、おおおおおっ!」

 咄嗟にライフルを盾にする。受け流そうと斜めにしたそれは、容赦無く斜めに切断されほとんど勢いを落とさずに次元の腹を切り裂いた。その痛みが来るより早く、次元は抜き撃ちで侍の首輪を撃ち抜いた。
 頼むから効いてくれよ、と言おうとして走った痛みで悲鳴に変わる。傷の感じからして内臓まではいっていないが、皮膚で止まらず肉まで切られた。たまらず仰向けに倒れる次元の目の前で、侍が刀を振りかぶる。それが振り下ろされて、目の前で止まった。


444 : 正解は君の The answer A to Z ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/08(月) 01:37:58 fFQfuC8A0

「予想通りだ!」

 なるほど、この首輪は死体だろうと容赦無くカチコチにするようだ。糸よりは狙い易いと思い、オープニングでの光景から一か八かの悪あがきで狙ってみたが、幸運の女神は次元に微笑んだようだ。
 次元はすぐに立ち上がり、侍の身体に付いた糸を肉ごと吹き飛ばした。同時に後ろから襲ってきた相手から距離を取る。追撃が無かったことから同じようなゾンビだろうと当たりをつけてそれを見てギョッとした。
 首の無い、馬のような体表の身体が慌てたように腕を首輪の盾にしていた。そしてその後方の廃屋の屋根にいる白尽くめの和服の女と目が合った。その瞬間、ビクリと言う音が聞こえてきそうなほど馬人間のゾンビが震えた。
 判断が遅い! 次元は自分を殴りたいと思いながらも拳銃を女へと発砲した。同様で射撃が半秒ほど遅れた。そして帽子が無い事で生まれた照準のブレが、少し前の次元のように無様に転がって女が弾丸を回避する結果をもたらす。首輪を狙って撃った弾丸は肩を浅く割いただけに終わった。女はそのまま背を向けて逃げ出す。そこを狙おうとして、次元は地面に這いつくばった。ゾンビ馬人間がピーカーブースタイルで首輪を守りながらハイキック、蹴りも馬並みなのか廃屋の柱を真っ二つに叩き折っていた。

「マリナ、向こうに走れ!」
「は、はい!」

 ゾンビ馬人間が腕をうなじを守るような形にしたことで、次元はその意図を察した。走り出したマリナを、ゾンビ馬人間は追いかける。狙いを完全にマリナに移したようだ。回避も攻撃も捨てて、マリナを捕まえるための防御に振っている。だが、それなのに追う足は遅い。そして次元へと迫るのは糸。こちらも動きはやけに遅い。そして、女の行動。遠目に見える女は明らかに慌てた様子で森の中へと消えていく。間違いなく、あの女は糸の制御よりも自分の逃走を優先している。
 次元はここで勝負を決めることにした。マリナを守りながらでは今の状況でもまたジリ貧だが、タイマンに持ち込めるのならやりようはある。そのためにマリナを女とは逆方向へ逃げさせた。あとは、ゾンビを倒すだけだ。

「敵さんの狙いに乗るのは癪だが、仕方ねえ。」

 這ってでもマリナを追いかけていたゾンビが一転して首を守りながら次元へと向き直る。そしてそのままジリジリと迫りときおり蹴りを繰り出してきた。次元はそれを冷静に躱して、手足を撃ち抜いていく。しばらくして次元は、腕のガードの隙間から銃弾を首輪へと叩き込んだ。

「見事に逃げられたな。」

 先の侍との戦いが嘘のように簡単に倒せた馬人間を見て、次元は周囲を見渡した。
 途中から明らかにゾンビの動きは落ちていた。次元が放置できないギリギリの程度に襲いかかり、足止めされている間に逃げた、というところだろう。もっとも、そういう展開にしたのは次元だったが。これでマリナを守りながらだったらもっと苛烈に襲われただろうが、こちらがマリナとの合流のためにあの女の追撃に移れない状況を作ってやれば、適当なところで諦めると踏んだ。

「さて、ここからどうするか――」


445 : 正解は君の The answer A to Z ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/08(月) 01:38:42 fFQfuC8A0


「――それでこうなるのかよ!」

 そして現在、次元はシスター・クローネからの銃撃から逃げていた。
 あの後マリナを追って森を探索し、飛鳥の付けた傷を追った可能性を考え次元も辿ったのだが、その傷を先に見つけたのは彼から逃げていた蜘蛛の鬼であった。
 次元の誤算は、蜘蛛の鬼の人間性を測りちがえたことだ。
 蜘蛛の鬼は外見こそ成人しているが、それは鬼特有の身体変形によりそうしているだけで、中身は子供である。そんな彼女は侍のゾンビを倒された時点でパニック状態にあった。というより元々パニック状態にあったために善逸の死体だけ操って馬頭鬼の死体を操らなかったり、銃を使うという発想が無かったため、次元もマリナも無傷だったのだ。
 そんな彼女が、自分を殺した鬼殺隊の死体を鬼殺隊でもないオッサンに謎の手段で無力化されたらどうなるか。もちろんパニクる。パニクった末にいつもの癖でゾンビに首を守らせ、なんとか足止めのために戦うもすっかり調子を乱され、その上またやられたのを見ると完全にパニックになった。姿も元のものに戻り、脱げかけた服を僅かに残った羞恥心で抱えて走り、そこをクローネに見つかったということである。

(顔見た途端に半裸の幼女に悲鳴を上げられる。ダメだ、言い訳のしようがねえや。)
「待ちなさい変態!」
「あの渡辺直美足速すぎんだろ!」

 どうやら完全に自分があの幼女に乱暴したと思われているようだと、ため息も吐けずに次元は走る。
 さしもの次元も、あの幼女と先の戦いの女が同一人物とまでは思い至らない。服が同じところまでは察せられたが、成人が子供になるというレベルの変装は彼の相棒であるルパンでも不可能である以上その変装は無いとした。実際、変装ではなく骨格からして変わっている以上無理も無い。

「女難の相ってのは聞いたことあっても幼女難の相なんて聞いたことねえぞ全く……うおっ!」

 服を掠めた銃弾に驚く。どうやら追ってきてるのはかなりの手練だ。そんな相手に敵対視されるのは先が思いやられるが、今は走る。誤解を解く時間はない。こうしている間にもマリナがあの女に狙われているかもしれないのだから。
 その女がさっきの幼女だとはまるで気づかず次元は森を駆けた。



【0200前 廃村周辺の森】

【鑑隼人@パセリ伝説 水の国の少女 memory(8)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●小目標
 クローネ達と一緒に行動する

【シスター・クローネ@約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する
●中目標
 対主催集団を作っておく
●小目標
 とりあえず次元を子どもたちに引かれない範囲で攻撃しておく

【蜘蛛の鬼(母)@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 生き延びる
●小目標
 ???(パニック中)
【備考】
※蜘蛛の鬼(母)が見つけた刀は、「三日月宗近@劇場版刀剣乱舞」です

【紅月飛鳥@怪盗レッド(15) 最高のパートナーを信じろ☆の巻(怪盗レッドシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを打破する
●中目標
 知り合いが巻き込まれていたら合流したい
●小目標
 クローネさん達と一緒に行動する

【小川凌平@未完成コンビ(1) 帰ってきた転校生(未完成コンビシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないがとにかく早く明日の練習のために帰りたい
●小目標
 クローネさん達と一緒に行動する

【次元大介@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いからの脱出
●中目標
 マリナと合流する
●小目標
 この場を切り抜ける

【二神・C・マリナ@ミステリー列車を追え! 北斗星 リバイバル運行で誘拐事件!?@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 この事件を解決したい
●小目標
 次元さんと合流したい


446 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/08(月) 02:31:13 fFQfuC8A0
投下終了です。
宣言遅れてすみません。
それとパラロワさん完結おめでとうございます。
私が本スレで感想書くとそれ以降感想来なさそうなのでこちらで書きますが、別々の物語を歩んだことで知っているはずのキャラでも相互に異なった認識を持つこと、その中で互いへのすれ違いと理解が交錯すること、他のロワには無い独特の展開がある味わい深いロワだと思い楽しく読ませていただきました。
私が参加すると企画にトドメ刺しそうだったので二の足を踏みましたが、こういうロワで書き手やったら面白いだろうなというロワで、気合いが入りました。


447 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/10(水) 03:28:33 KuoIQjlI0
投下します。


448 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/10(水) 03:29:47 KuoIQjlI0



 ドッペルゲンガー、という都市伝説がある。
 この世にはまったく同じ顔の人間が3人おり、顔を合わせると死んでしまう……というものだ。
 岸里ゆかりが先日引っ越した家で見つけた赤い本にも、似たような話があった。
 ダブル、というもので、こちらはドッペルゲンガーと違って顔を合わせてもすぐには死なない。48時間以内に、ダブルに気づかれないようにピッタリ重なれば、死を回避できる。

「それがこれなのか?」

 全く同じ顔で同じように爆死した三つの死体の前で、居想直矢は問いかける。
 二人は今、自然公園で起きた爆発跡に転がる松野チョロ松×3を調べていた。
 近くにあるコンビニで出会った二人は、それぞれ殺し合いに乗る気など欠片もなかったことと、始まって一時間以上も誰とも合わず誰かと話したかったことから比較的穏やかに話し合い、チームを組んでいた。互いにハッキリとは言わなかったもののこういった奇妙な事態に多少の経験があると伝えて、同じ界隈の人間だと思ったことも二人が打ち解けるのにプラスに働いた。怪談としか言いようのない経験をしたゆかりと能力バトルに片足を突っ込んでいる直矢では違いも大きいのだが、さすがにそこまではわからない。だが、この殺し合いが幻覚的なものであり、かつ現実に死にかねないものだという認識は共有していた。
 二人がコンビニから出ることを決めたのは、今から30分ほど前のことだ。遠くの方で、微かな爆音が聞こえた気がした。この殺し合いでそういうことができそうな武器があることは、コンビニ内に散らばるライフルや手榴弾でなんとなくわかる。おそらく、誰かが誰かを殺したか殺そうとした。
 それから二人で爆発を調べに行くかコンビニに隠れておくかを話し合うこと数分、結局二人は確かめに行くことにした。物の記憶を読み取り音として認識する異能力を持つ想矢も、かれこれコンビニから2時間以上外に出ていないゆかりも、どちらもそろそろここに居るだけというのは落ち着かなくなってきていた。書き置きを残して、持ちきれない大多数の武器をバックヤードに隠すと、見つけた鍵で内扉を施錠する。そして自然公園を少し歩くと、二人は奇妙な死体に出くわしたのだった。

 「やめてよ、十四松。それとも、おそ松兄さん? こんな状況で僕の真似するとか、笑えないから――真似してるのはそっちだろ? 僕の振りなんかして、何が面白いのさ――何を小芝居なんてしているんだ。そんな変装で私を混乱させようとしても無駄だぞ」
(なんだこの独り言、どうなってるんだ?)

 遠巻きに死体を見るゆかりを置いて、想矢は死体の一つに触れる。もちろん、死体になんか触れるのは初めてだ。漂い臭って流れる血はそれが死体だと言っている。だけれども、どうにも同じ顔の死体が三つとくると、何かドッキリ的なものを感じる。それならと思って使った異能力によって聞こえてきたのは、全く同じ三つ?の声が言い争う音声だった。

 ――『うわあああああ!! ドッペルゲンガーだあああああ!!』
 ――「童貞のまま死ねるかーっ! おまえら二人が死ね!――こっちだって童貞だ、馬鹿野郎! おまえが死ね!――警官の私が死んだら、誰が市民を守るんだ! 君たちが死ね!」――
「イッタぁ!」
「想矢くん!? だ、大丈夫?」
「あ、あぁ。」

 同じ声の男三人が言い争い、最期は強い爆発音が聞こえて、音声は読み取れなくなった。醜い言い争いにシンプルな爆音で腰を抜かした想矢に、おずおずとゆかりが近寄ってくる。幻聴と言えば幻聴なのだが確かに聞こえた大音量で痛む頭を抑えながら、想矢はますます混乱した。
 どうやら、男たちも自分たちを互いにドッペルゲンガーだと認識したらしい。まずここがわからない。そして突然の爆発。いったいなぜそうなったのか。あと童貞ってどういう意味なんだろう。なんとなくゆかりには聞かないほうが良さそうだ。


449 : 笑うモンテスキュー ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/10(水) 03:31:02 KuoIQjlI0

「……やっぱり死体なんて触れるものじゃないな。岸里、離れよう。調べられることもなさそうだ……岸里?」

 声をかける。返事はない。
 直矢は死体から目を離してゆかりの顔を見た。その顔は、直矢の後ろに向けられている。見ている方向を追うと、黒い服の少年がいた。
 ヤバい。直矢の背中に、これ絶対後で怒られるやつだってことをやらかした時の感覚が走った。死体の前で、ライフルを肩紐で提げながら何かしている二人。絶対に殺ったと誤解される。誤解しなかったらそいつはかなりのお人好しだ。

「ちがう、こいつらが殺ったんだ。俺たちじゃない。」

 直矢は自分が普段でもないほどしどろもどろになっているのを自覚しながら言った。同時に、これじゃまるで殺ったやつが咄嗟に言い訳しているみたいだと思った。思ったが、他に言いようもない。思わずゆかりを見る。ゆかりも直矢を見る。二人の視線が何度も少年と互いを往復した。

「こいつらが殺った、見てないけどそうだ。な?」
「う、うん。そうだと思う。ね?」
「ああ。」
「うん、わかった。」

 え、わかるの? 思わず直矢とゆかりはまた互いの顔を見た。そして少年の顔を見る。
 少年は木刀片手に近づいてくると、死体を一瞬見てすぐに二人を見た。

「君たちが来たときには、もう死んでたんだね?」
「う、うん。そう、だけど。」
「なんでわかった?」
「だって血が流れてないし。傷口の血も乾きだしてる。」

 冷静にそう言うと、少年は三つの死体に一度ずつ手を合わせて、二人に向き直る。それを見て二人も慌てて合唱した。
 三谷亘こと旅人のワタルがパーティーインしたのはこの時だった。


「幻界に異能力……なんだかすごいなあ。」
「現世にも魔法みたいな力ってあったんだ。」
「オカルトにファンタジーか。アイツが好きそうな話だ。」

 コンビニに戻ってきた三人は、改めて自己紹介した。異能力ものに学校の怪談と来て、新たに加わったのは異世界転移。互いの身の上を聞いて互いに「なんか児童文庫の主人公みたいだな」と思いつつ、自分自身もどっこいどっこいの人生を歩んでいるので嘘などとは全く思わずにすんなり受け入れる。そもそもデスゲームに現在進行系で巻き込まれているし、そこを疑う余地はない。

「とりあえず、このコンビニを基地にしてときどき辺りを見渡すのはどうかな。」
「賛成。」「うん。」
「あ、言い忘れてた。ぼくさっき女の人に襲われて。」
「お前……それ言い忘れるか? ふつう。」
「ごめん、白い服の女の人に気をつけて。それと、ロウセイのリチョウって言う人、じゃなかった、虎? えっと、虎になってる人も居て――」
「おい待て。話を整理しろ。」
「えーっと、どうやって説明しよう……その説明をするためにはまずさっきの蜘蛛の繭の話をする必要があって……少し長くなるよ?」


450 : 笑うモンテスキュー ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/10(水) 03:31:38 KuoIQjlI0



【0300前 自然公園付近のコンビニ】

【居想直矢@異能力フレンズ(1) スパーク・ガールあらわる! (異能力フレンズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 死なないように動く
●中目標
 仲間が巻き込まれていたら合流する
●小目標
 コンビニを基地にして三人で話し合う

【岸里ゆかり@終わらない怪談 赤い本@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 この怪談で死なないようにする
●中目標
 友達が巻き込まれていないか心配
●小目標
 ワタルくんたちと話す

【三谷亘@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する
●中目標
 怪物(姉蜘蛛)に警戒しながら、仲間やミツルがいるかどうか探す
●小目標
 一休みしながらナオヤたちと情報交換する


451 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/10(水) 03:35:06 KuoIQjlI0
投下終了です。
他のロワ見てたらこういう比較的オーソドックスな登場話書きたくなりましたけど実際に書いたら難しかったんでもう書きません。
あと第10回角川つばさ文庫小説賞の一次審査が発表されました。
落選しました。


452 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/28(日) 02:58:05 ioeaA4O.0
投下します。


453 : 悪魔を超えた悪魔 ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/28(日) 03:00:29 ioeaA4O.0



「良かったわ、変化して首輪を取ろうとか考えて死んでなくて。」
「お前……オイラはそこまでバカじゃねえ。」

 住宅地にある低層のビルの屋上、白い霧のような半透明のなにかの言葉に、光る影のようななにかが抗議の声を上げた。しかしその声を聞くことができる常人はいない。超音波の声を聞くことができるのは、特殊な聴覚を持つものか、可聴域の広い動物か、あるいは彼らと同じ妖怪か、だろう。
 白い霧はスネリ、光る影はもっけ。彼らは伝説の子であり陰陽師であり妖界ナビゲーターである、竜堂ルナの仲間だ。多くの参加者が知り合いとの接触を試みて成果を挙げられない中、彼らはゲーム開始から100分という比較的に短い時間で経って合流することに成功していた。

「にしても、この赤い霧かなりヤバイぜ。少し高く飛ぶだけで地面がなんにも見えなくなる。しかもこのイヤな感じ、めちゃくちゃな妖力が練り込んである。」
「ええ。思っていたよりもずっと歩きづらかったわ。そのせいであなたとの合流がこんなにも遅れるし、こんなことならもっと目印を残しておくんだったわね……あなた、向こうの方で亡くなった女の子たちの近くにいたわね? 落ちていた羽根のおかげであなたがいることに気づけたわ。」
「やっぱり気づいたか。残しといて良かったぜ。しっかし……ひどい死に方だったな……」
「ええ……もしここに、ルナもいるかも知れないって思うと、背筋が寒くなるわね。」

 ふくろうのような顔をしかめて言うもっけに、スネリも声をひそめて言う。彼らはルナの力で人間界から妖界へと戻るタイミング(妖界ナビ・ルナ完結時)でこの殺し合いへと参加させられた。となると当然、ルナも巻き込まれていると心配せずにはいられない。なにせ伝説の子という様々な妖怪に狙われる身の上だ、二人はツノウサギに面識など当然ないが、彼を妖怪だと判断して今回の事件も刺客の罠であると判断していた。
 同時に二人が心配するのは、オープニングで見た人間たちだ。既に二人はこの場で紫苑メグと須々木凛音の死体を目撃していた。凛音はまだ死亡してから時間が経っていないのかほとんど血が渇いていなかった。そしてその頭には明らかな銃痕があった。二人は銃についてはとんと詳しくはないが、それでもそれが妖怪ではなく人間にできる殺し方だとはわかった。つまり、銃を使えて殺し合いに乗っている人間がいるということである。またもう一つのメグの死体は、二人がオープニングで見た黒服の剣士が首輪が作動したことで殺されそうになった時のものに近いと見ていた。そしてその死体を見て否応なく二人が思い出したのは、その剣士を助けた奇妙な服の青年や、剣士と同じ服を着た人間たちのことだ。
 二人は朱雀の時のもえぎや青龍の時の朝香のように、人間でも特殊な力を持つ者がいることは知っているし出会ってきた。だがスタンドという存在は二人の想像を超えていた。二人が支えるルナは、自前の妖力とスネリの回復能力によりたいていの傷は一晩寝れば動ける程度には回復する。だが剣士を助けた青年――東方仗助のスタンド《クレイジー・ダイヤモンド》――は、死に行く剣士を猛烈な勢いで治し、数秒で完治させた。更に剣士と同じ服の剣士たち――鬼殺隊――は、妖力などが感じられないのに妖怪に匹敵するほどの身体能力でツノウサギへと切り込んだ。どちらも、二人の常識では考えられなかった存在であった。
 謎の妖怪ツノウサギに、強力な背後霊を操る青年、黒服の超人剣士たち。そしてはじまった殺し合い。考えなくてはならないことは山のようにある。その中でまず、スネリが優先したことは。


454 : 悪魔を超えた悪魔 ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/28(日) 03:00:58 ioeaA4O.0

「ねえもっけ、あの子たちをとむらえないかしら。さっきはあなたと合流することを優先したけれど、あのまま野ざらしはかわいそうよ。」
「とむらうっていっても、今のオイラじゃ手伝えないぜ。人間に変化したら首の大きさが変わって首輪を動かしちまうかもしれない。」
「かけれる布を持ってきてくれるだけでいいわ。下手に動かすわけにもいかないし、埋葬する時間もないしね。あなたは固まっちゃってる方の子をおねがい。」
「しょうがねえな、わかった。でも、動くなら二人いっしょでだ。ふだんみたいに手分けしてたら合流できそうにないからな。」

 弔いたいと言ったのはスネリであることと、もっけの言っていることにも一理あるため、スネリはしばし考えたあと、「そうね」と言った。
 それから数分して二人は民家からシーツを拝借すると、メグと凛音に被せた。白いシーツは直ぐに赤く染まり、あるいは彫像に被せたように不自然な形になるが、他にやりようもないので二人はそれでその場を後にする。クンクンと地面を嗅ぐスネリを先頭に二人は住宅地から山中へと向かう。さっきの殺人現場に残っていた銃撃の臭いを追っているのだ。妖怪ではないかもしれないが、とにかくこんなことをする以上は放ってはおけない。そう思い辿り着いた、住宅地からほど近いペンションからは、新鮮な血の臭いがした。
 「マジかよ……まだ2時間もたってないのに……」後ろで呟いたもっけの声に首肯するだけで、スネリは警戒心を強くしてペンションへと近づく。窓の下まで来ると、もっけを振り返る。互いに頷くと一斉に別々の窓から中に突入した。

「ひ、ひどい……また2人も殺されてる……」
「なに? こっちにも1人死んでるんだぞ。くそっ、5人も殺されてるのか。」
「みんな銃で撃たれてるから、たぶんさっきの子と同じ犯人だわ。あの固まっちゃってた子はわからないけれど、危険な相手なのは間違いないわね。」

 実際は犯人である山尾が殺したのは3人で、固まっちゃってた子ことメグは首輪を外そうとしての事故死、もっけが見つけた死体の哲也はスネリが見つけた死体の相川捺奈による射殺なのだが、銃殺の知識が無い二人は単純に同一犯による怪物のような精神性の人間による連続殺人と考えた。

「オイラでもわかるぐらいにニオイが新しいな。どうする、先に追うか?」
「そうしましょう。この襲い方を見るに、会う人みんな襲うつもりよ。すぐに捕まえないと。」
「よし、なら行こうぜ。で、どっちだ?」
「匂いは森の中に続いてるわ。見て、あそこに足跡もある。けっこう大きいから大人の男性かしら。」

 スネリはペンションの窓枠からひらりと降りて地面を前足で示した。

「殺し合えって言われて子供を殺して回る男か……どんなやつなのか、考えたくもねえな。」
「もしかしたら、主催者の仲間なのかもね。でないとそんなことをする理由がわからないもの。他に思いつく?」
「最初っから、殺人鬼を参加者にしたとか? 悪いやつをそそのかして利用するって、もっと悪いやつがやりそうだろ。」

 もっけは自分で言ってまたぶるりと身を震わせた。思い出したのは、この殺し合いに巻き込まれる直前のこと、タイを利用してルナへの復讐を図った透門沙李だ。竜堂家への復讐の為に人間を半ば辞めて、ルナとタイの姉弟で殺し合うように仕組んだ。あの悪魔のような女の為にどれだけの人が振り回されたかわかったものではない。そして、もっと恐ろしいのは沙李すらも誰かに利用されていた可能性があるのだ。そのこともあってもっけたちは妖界へと行くことになったところをこの殺し合いに巻き込まれたために、より策謀と主催者の悪意を感じずにはいられなかった。
 もっけとスネリは森を急ぐ。二人が山尾を見つけるのにそう時間はかからなかった。


455 : 悪魔を超えた悪魔 ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/28(日) 03:02:59 ioeaA4O.0



「よっしゃぁあぁ! ようやく人見つけたぜぇ!」

 一方、ところ変わって。
 吉永双葉は獰猛な笑みを浮かべて森の中を駆けていた。
 かれこれ軽く2時間近くは森の中で迷子になっていた彼女。そんなところで聞きつけた物音を頼りに歩くこと数分、ようやく第一参加者発見と相成った。
 が、男の肩から覗くものに目が止まった。足も止まった。

「あれ、銃だよな? カッコも猟師っぽいし。」

 殺し合いの場で銃を持っているオッサン。どう考えても怪しい。変な首輪付けてるし。

「って、首輪は一緒か。てことは参加者だよな。おーい!」

 超速で納得すると、双葉は再び駆け出し大声で呼びかけながら男に近づいた。

 ズガン!

 頭に強い衝撃が走る。
 駆けるスピードのまま膝が崩れ、プラトーンの姿勢で仰向けに倒れる。
 左前頭部の当たりに亜音速の銃弾が突き刺さり、頭蓋骨に沿って抜けていった。



【脱落】

【吉永双葉@吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】

【残り参加者 



「しゃあっ弾丸滑り! あっぶねぇなオイゴラァ!!!!」
「なにっ!?」

 膝を折って仰向けに倒れた状態から腹筋で身体を起こす。勢いのまま立ち上がる。駆け出して慌てた様子で銃を構えたオッサン――山尾渓介に飛びつき腕十字をかけた。
 山尾の誤算は三つ。
 一つ目は彼の持つVSSは威力が低いこと。消音性に優れ暗殺に特化したスナイパーライフルだが、その代償として特殊な銃弾により普通の拳銃と同程度の威力となっている。
 二つ目は狙いの甘さ。先の殺人を目撃されて「おい!」と声をかけられたと考えた、撃ち慣れない銃だった、銃自体が通常のライフルよりも命中精度が低かった。要因は様々だが、咄嗟に相手の眉間を撃ち抜けなかった。
 そして三つ目が。

「死ぬだと思っただろ! 死ぬだと思っただろぉ!!」
「またメスガキキきききだだだだ!?」

 即座に極め、子供の体重とはいえ上半身に食らいつくことで地面へと押し倒す。その勢いのまま、双葉は山尾の手首を折った。
 山尾の三つ目の誤算は、彼が狙った相手が吉永双葉だったことだ。
 児童文庫の主人公にあるまじき闘争心と喧嘩の経験を持つ双葉は、自分に銃口が向くのを見て、即座に身体ごと躱しにかかった。その結果、頭の回転するベクトルが銃弾を滑らせる動きになった。それでも眉間に向けて撃たれていれば即死は免れなかっただろうが、幸運にも弾丸が向かったのは左の額。回避の運動と丸く硬い骨による避弾経始で、弾丸は双葉の頭蓋骨を滑って行った。
 そして、殺されかれたということを即座に理解し、容赦無く半殺しに行くことを決意する双葉のバトル・センス。角川つばさ文庫で一番PTAからクレームが来そうなヒロインは双葉だと考えられる。


456 : 悪魔を超えた悪魔 ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/28(日) 03:03:59 ioeaA4O.0

「お前マジで覚悟しろよおいゴラァ! いきなり撃ってくるっておかしいだろそれよぉオイ!」
(ヤバい、指があああいってぇ!!」

 なんとか引き剥がそうと拳銃を引き抜いた山尾の耳に、ペキン、と小枝を踏み折った時のような音が響く。瞬間、激痛。今度は山尾の小指が折られた。

「お前まだヤル気かおいお前おい! お前アレだからな! アレだからなお前とい!」
「グアアアッ、や、やめろおお!!」
「ヤ・メ・ル・ワ・ケ・ネ・エ・ダ・ロ・ゴ・ラ・ァ!!!!!」

 命を失いかけた結果、流れる血と共に乏しい語彙力も倫理観も双葉から消えて、「おい」と「お前」と「ゴラァ」を繰り返しながら双葉はまた山尾の骨を折る。今度は薬指が逆向きに曲げられた。山尾の右手はもうボロボロどころかボドボド、殺人鬼の末路だ。
 それでもなんとか全身を無茶苦茶に動かし左手で双葉の服を掴み引き剥がそうとするが、右手の痛みのせいで全く握力が入らない。むしろ半端に抵抗することが双葉の怒りの火に油を注ぐ。その代償は更なる右手の骨折という形で支払うハメになった。
 ミチリ、嫌な音が聞こえた。同時に山尾の右腕から別の種類の激痛が走った。思わず悲鳴にもならない悲鳴を上げるが、双葉はお構いなしに中指に続き人差し指を折り始める。たとえ相手が女子小学生とはいえ、完全に関節を極められている状態で、知識も無く力任せの脱出を試みた結果は肘関節の破損と筋の断裂という至極当然の回答だ。間もなく人差し指も折られ、いよいよ山尾の右腕は親指以外ゴミになった。
 その右腕が突然、解放される。なにが、と思う間もなく。親指に激痛。動かなくなった右腕の手のひらが広げられ、親指の関節に全体重をかけて踵落としが放たれた。その踵落としを重心に、膝蹴りが鼻っ面へと放たれる。頭の中で星が舞う。更に膝が首に巻き付き、凄まじい勢いで後ろへと引き倒される。三角絞めだ。しかも頸動脈を絞めて落とすのではなく、踵を喉仏へと食い込ませる掟破りの、だ。同時に左腕も極めにかかる。ふだんなかなかかけられないで持て余しているプロレス技が次々と放たれる。後は双葉のおもちゃだ。

「なにっ!?」「なんだぁっ!?」

 数分後、匂いを辿って追いついたスネリともっけが見つけたのは、悪魔のような連続殺人鬼だと思っていたオッサンがルナと同い年ぐらいの少女に次々関節技をかけられている光景だった。



「話しかけなくて正解だったな。」

 そして、その一部始終を見ていた少年が1人。
 うちはサスケは目の前で行われた蛮行にドン引きしていた。
 忍者であるためむしろそっち側の世界の人間ではあるのだが、やはり自分より3歳は年下の少女が般若のような迫真の表情でオッサンをギタギタのメタメタにしている光景は衝撃的ではあった。別に殺すことそのものには大して驚きもないが、絵面的な意味で。

「それに、アレは口寄せ動物か?」

 そして霧のような小動物と、光る影のような鳥。人語を話すことから、師であるはたけカカシが口寄せする忍犬を思い出す。忍者が使う動物の中には人と会話できるものもいるのでその類だと考えた。まず見た目からして普通の動物ではないし、なんかチャクラっぽいのも感じるし。

(感知される前に離れた方がいいな。)

 相手の実力もわからず、数でも感知能力でも負けている以上、長居は無用だ。
 サスケはなんとか双葉を山尾から引き離そうと試みるスネリともっけを後ろ目に住宅地へと向かった。


457 : 悪魔を超えた悪魔 ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/28(日) 03:04:49 ioeaA4O.0



【0200頃 住宅地近くの森】


【スネリ@妖界ナビ・ルナ(10) 黄金に輝く月(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 ルナを守り、殺し合いを止める
●中目標
 ルナと合流する
●小目標
 とりあえず女の子(双葉)が殺人鬼(山尾)を殺さないようにする

【もっけ@妖界ナビ・ルナ(10) 黄金に輝く月(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 ルナを守り、殺し合いを止める
●中目標
 ルナと合流する
●小目標
 とりあえず女の子(双葉)が殺人鬼(山尾)を殺さないようにする

【山尾渓介@名探偵コナン 沈黙の15分(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 さっさと優勝するなり脱出するなりする
●小目標
 ???(オチてる)

【吉永双葉@吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 こんなことしでかした奴をぶっ飛ばす!
●小目標
 ???(オッサンしばく)

【うちはサスケ@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 幻術を解く
●小目標
 見つけた子供(双葉)たちから離れる


458 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/11/28(日) 03:10:45 ioeaA4O.0
投下終了です。
ポプラキミノベルで知人が入賞してました。
私も商業デビューして自作のキャラをロワに出せるようにがんばります。


459 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/12/12(日) 02:29:29 z.EwoUJk0
あと二十日で新年とかあーねんまつ。
投下します。


460 : 燻り ◆BrXLNuUpHQ :2021/12/12(日) 02:30:00 z.EwoUJk0



 ツノウサギと名乗った鬼の手により殺し合いの幕が開いて小一時間。
 藪の多い木立でうずくまる小さな影があった。

「そろそろ一時間ぐらいかな。これまで何もないっていうのは、つまり本当に、子ども同士で……」

 木に背中を預けて独り言を言いながら、周りへの警戒を欠かさない少女。
 彼女の名前は君野明莉。
 光明台小学校に通う六年生の小学生だ。
 勉強もできて運動もできて顔もかわいい、その上明るい性格と周りへの気遣いができるという天に二物どころか三物も四物も五物も与えられた女の子である。
 もちろん本人はそのことを鼻にかけたりしない。性格がいいから。そして性格がいいから自然と周りから人気が集まるので、四年生の時から三年連続で生徒会長をやっている。
 ダメ押しに、ふつうの人間には一生あってもできないような経験もしていた。
 迷宮教室。
 行先マヨイと名乗る怪人物による、生徒を苦しませることだけを目的とした死の授業だ。
 カゲアクマという化け物に襲われ、触れられれば苦痛と共にカゲアクマになり、理性を無くしてマヨイに操られる。
 明莉は幼なじみのヒカルや遊と共に封鎖された学校に六年一組の生徒全員と拉致され、カゲアクマをけしかけられ、何度も何度も仲間を犠牲にする選択を強いられた。
 そして奇跡的に元の日常に帰れたと思ったら、今度もまた変なやつに命がけのゲームを強制される。そうなったならこの殺し合いを前回の迷宮教室と同じようなものと思うのは当然だろう。
 ただ明莉は、今回は前回よりももっと危険だろうと感じていた。
 前はやさしくて頼りになるヒカルや、おだやかでプロEスポーツプレイヤーの遊、他にも様々な特技を持ったクラスメイトが一緒だった。しかし、今回は明莉一人。場所も六年間通った小学校ではなくどこかもわからない森の中。さらに、首には人を殺すことのできる首輪。前にはなかった、さびしさが怖さを強くする。

「あ〜ダメダメ、クヨクヨしたって! こういう時は深呼吸だよね、深呼吸。スー、ハー、スー、ハー……」

 押し寄せてくる不安に体が潰されるような気がして、明莉はわざと大声を出して立ち上がった。一人でじっとして色々考えていると、どうしても恐ろしいことで頭の中が埋まっていく。それを息と一緒に吐き出そうと、両手を広げて、胸を開いて、大きく息を吸って、吐いた。

(こういう時、ヒカルなら一緒に深呼吸してくれるんだよね。)

 頭に酸素が回ったからか、嫌なことが出ていく代わりに親友のことが頭の中を埋めてきた。
 ちょっと天然で、でも時々すごいひらめきをして、どんなピンチの時も絶対にあきらめない、そんな自慢の幼なじみがヒカルだ。
 四年生で生徒会長になる時も、ヒカルの言葉があったから明莉はやろうと思えた。
 この前の迷宮教室でも、ヒカルの諦めない言葉とひらめきで脱出することができた。
 そんなヒカルが、この殺し合いに巻き込まれているかもしれない。そう思うと胸が張り裂けそうで、でもヒカルがいるならなんとかなると思えて安心できて、明莉は複雑な気持ちになる。

 「よし! そろそろちょっと動いてみようかな。」

 明るい声を出して、ぐっと気合いを入れると、明莉はズボンの土を払った。
 カゲアクマを警戒して一時間ぐらい動かないようにしていたが、どうやら来ないようだ。殺し合わないと出てこないとか逆に殺し合わないと出てくるとか、そういう理由について考えるのは歩きながらすることにした。動き出さないと始まらない。
 そう決めると、明莉は背中を預けていた木へと向いた。山で迷った時は上の方に歩くのがいいと、どこかで聞いたことがある。なだらかでも斜面になっている山を登ろうとすると……


461 : 燻り ◆BrXLNuUpHQ :2021/12/12(日) 02:30:30 z.EwoUJk0

「あっ……」
「あっ!」

 こちらへと歩いてくる男の子と目が合った。
 霧でよく見えないが、たぶん、明莉と同じぐらいの年だと思う。
 気の強そうな目が驚いたように明莉を見ていた。
 真っ白なカッターシャツと紺のスラックスに泥で汚れた革靴、どこかの制服だろう。私立の子か、それとも中学生か。
 緊張してる感じが伝わってくる。でもマヨイから感じたような、ドロっとした悪意みたいなものはない。
 男の子が歩いてくるから、明莉も歩き出した。

「その様子じゃちがうと思うが……殺し合いには乗ってないよな?」
「当たり前でしょ! 私、君野明莉。あなたは?」
「……李小狼、俺も乗ってない。君野、これまでに誰か会わなかったか?」

 名前だけ名乗って自己紹介もせずに誰かと会わなかったか聞くなんて、きっと誰か大切な人がいるんだろうと明莉は思った。
 ヒカル達が心配で同じようなことを聞きたい気持ちは明莉にもある。ていうか聞く。

「ううん、あなたが初めて。そっちは?」
「いや、俺もお前が初めてだ。クソっ、まずいな……」
「誰を探してるの?」

 あ、顔が赤くなった。

「大切な、仲間だ……」
「どんなところが好きなの?」
「なっ……! か、関係ないだろ!」

 なるほど〜、すごくわかりやすい。
 もう顔が真っ赤になって、全身カチコチになっている。

「ごめんごめん! リーさん、わかりやすくて、つい。」
「お前……まあいい。それより君野、これからどうする? どこかに行くアテはあるのか?」
「ぜんぜん。気がついたらここにいてそれからほとんど歩いてないもん。リーさんも迷子みたいな感じでしょ?」
「ああ。だから着いてこいとは言わないけれど――」

 言いかけて、小狼は言葉を止めた。
 明莉から見て左の方へと頭を向ける。
 同じように明莉もそっちを見た。
 微かに聞こえた気がしたのは――爆音。

「今の、聴こえたか。」
「うん、何かが破裂した……っていうか、爆発したみたいな音、だよね。」

 小狼の意志の強そうな目が、どうする?と問いかけているような気がした。
 何もあてがないところで響いた音。答えは一つだ。

「リーさん、私着いていきたい。それで、あの音を調べたい。」
「わかった。少し急ぐぞ。」
「まかせて。私かなり足速いから。」
「俺が前を走る。足下に気をつけろ、ところどころ木の根っこがせり出してる。」

 そう言って駆け出した小狼に続いて明莉も駆け出した。
 気を遣ってくれているのだろう、かなりゆっくりしたスピードで、ランニングというよりはジョギングに近い。
 明莉も本当はもっと速く走れるけれど、いきなりの運動だし視界も足下も悪いし、なにより頭の中を整理するにはちょうどいいペースだった。そしてそれをしゃべりながら走るにも。

「迷宮教室って、知ってる?」

 たぶん信じてもらえない。そうわかっていても話し始めた明莉が燃える戦車と何かの基地のようなものを見つけたのは、一通り話し終えた頃だった。


462 : 燻り ◆BrXLNuUpHQ :2021/12/12(日) 02:31:49 z.EwoUJk0



 基地の中の食堂につけられた時計は、4と5の間で長針と短針が重なっていた。
 次元遊は、窓の外で上がる一筋の黒煙を見ながらペットボトルの水を飲んだ。
 赤い空に昇っていく煙は、次第に黒い雲に溶けていく。それが人間が燃えたことで生まれたとは、聞かされなければわからなかっただろう。
 その煙の出処を見ようと視線を下に向けると、小狼がちょうど火元の戦車から戻ってきたところだった。

「遊、大丈夫?」
「え、ああ、うん。ちょっとね。」
「ヒカルのことが心配?」
「まあね。まあでも、巻き込まれててもなんとかやってる気がするけど……」

 飲み終わったペットボトルをゴミ箱へと投げる。かすりもせずハズレたそれを拾うと、元の位置へと戻ってまた投げる。ハズレて、拾って、投げる。それを何度も繰り返して、最後にはキレイに真ん中に入った。

「ヒカルなら絶対に諦めないから。」



 明莉と小狼が森を抜けて、四宮かぐやとチェロが爆殺された戦車から立ち昇る煙を頼りに基地へと辿り着いたのは、あれから小一時間は経った頃のことだった。
 人を殺す道具が炎を上げて燃えているというのは、否が応でも二人に、自分たちが巻き込まれているものが殺し合いだと認識させる。それに加えて、自衛隊の基地が殺し合いの場にあるということが、警察や大人に頼ることができないのだと二人に理解を強いていた。

「あれって、戦車、だよね。」
「ああ。俺も本物を見るのは初めてだけど。」
「リーさん、戦車倒せる?」
「……武器があれば。」
「じゃあ、つまりさ、戦車倒せるぐらいすごい武器持ってる人がいるってことだよね。たぶん、あそこに。」

 どうする?と目で訴える。
 戦車があるのも驚きだが、それが壊れている理由を考えればもっと驚きだ。
 きっとあの戦車は殺し合いに使われたのだろう。そしてなんかすごい武器で壊されたのだろう。でなければ、カゲアクマ的ななんかファンタジーなあれか、もしくは小狼から聞かされた魔法で。
 明莉と小狼は、ここに来るまでの間に踏み込んだ自己紹介を、つまり迷宮教室とクロウカードについて情報交換をしていた。
 状況が状況だけに、二人ともふつうなら人に話さないようなことでも話す必要を感じていたし、相手がそれを理解できるとも聡明な者同士わかり合っていた。そもそもツノの生えたウサギがしゃべるは空も霧も赤いはとなったら細かいことなど気にしていられない。

「明莉、お前はここで待ってろ。基地なら銃もあるはずだ。殺し合いに乗ったヤツの手に渡ってたら、俺が捕まえておく。」
「なら、私がオトリになるよ。銃を持ってるなら、どこか見晴らしのいいところで待ち構えてるんじゃないかな。私があっちの広いところから行くから、李さんは反対側から行って。この霧だから見えるのは200メートルから300メートルぐらいかな。あ、もっとかも。リーさん400メートル走何秒?」

 そして二人とも命を張ることの抵抗が薄いという共通点があった。明莉の場合はそうでなかったら死ぬようなことがこの間あったばかりだったし、小狼もクロウカードの一連の事件でさんざん修羅場をくぐっている。
 一度の事件で命がけに半ば慣れた言動の明莉に思わずデフォルメされた困惑顔で明莉を見る小狼だったが、「あっ!」という明莉の声で目を基地へと戻した。
 二人とも視力はもちろん良い。だがさすがに霧の向こうの人影を見つけるのは困難だった。だからそれを見つけられたのは、よほど明莉が注意深く基地を見て、その人物を探していたからに他ならない。

「遊……やっぱり、巻き込まれてたんだ……」

 8割方の悲しみと、2割方の喜びが感じられる、そんな声だと小狼は思った。
 そして、きっと自分もここにさくらがいると知ったらそんな声を出すんだろうなとも。


463 : 燻り ◆BrXLNuUpHQ :2021/12/12(日) 02:32:51 z.EwoUJk0



 そして、それから2時間あまりが過ぎて。
 基地の中の食堂のホワイトボード近くの席に、4人の少年と1体の梨の姿があった。

「それじゃあ、みんなの出し合った情報をもう一度整理したいと思います。」

 マーカー片手にそう言うのは明莉だ。前の迷宮教室でもそうだったように、板書で情報をまとめていく。その手際は慣れを感じさせるものだ。

「私と遊はこのバトロワに巻き込まれる少し前に、迷宮教室っていうのに巻き込まれました。クラスメイトと学校に閉じ込められて、ヘンなオバさんが出すゲームをさせられて、カゲアクマっていう怪物にさせられました。私が脱出したらみんな元の姿に戻りました。」
「そうです。」

 便乗するように横で言ったのは、明莉の幼なじみの遊。おとなしそうな外見と声とは裏腹に、その言葉はしっかりしたものだった。

「次に李小狼さん。クロウカードという魔法のカードの封印が解かれてしまったので香港から来日した道士、魔術師みたいな人です。仲間と協力してカードを封印したそうです。」

 もう少し言い方ってもんがないのかと表情に出ている少年は小狼だ。

「次に磯崎凛さん。不思議なことに巻き込まれる体質で、ここ最近は超能力とかヘンな花とかヘンな龍とかに出会って仲間と協力してなんとかしてきたそうです。」
「ちょっと説明がアバウトすぎるだろ!」

 思わずツッコミを入れたのは、この基地で明莉達が出会った少年、磯崎凛だ。爆発音で基地に来た遊や明莉や小狼より、5歳ほど上に見える。ガッシリとした体格と人懐っこい顔の男だ。

「そして……えっと、ふなっしーさんが、えーっと、梨の妖精、だそうです。」

 キュッキュッと音を立ててホワイトボードに『梨』と大書する。この場にいる最後の一人が、ふなっしーだ。
 凛とふなっしーが、明莉たち三人がこの基地で出会った生存者だ。もちろん二人とも殺し合いになど乗っていない。そしてこの殺し合いの場で何度も行われている情報交換を経て、今5人はこうして行動を共にしていた。

「集まった情報から考えると、私たちには一つの共通点があります。ふつうでは考えられないことに関わっている、ということです。私と遊と磯崎さんみたいに巻き込まれている人と、リーさんとふなっしーさんみたいに特殊な存在である人、ここからあのツノウサギの目的を探ることができるかもしれません。リーさん、ふなっしーさん、専門家としてどう思いますか?」

 そして始まったのは、情報交換で出てきた情報を使ってのブリーフィングだ。前の時も明莉がやった手法だが、情報を出し合ってみんなで考えるというのは、心を落ち着かせられて考えも整理できる一石二鳥のやり方だ。
 それをわかってはいるが、梨と同列に扱われた上に無茶ぶりみたいなことをされて、小狼は言葉に詰まった。思わずふなっしーを見る。なんなんだこれは。なんでこんなのを殺し合いに巻き込んだんだ。ていうかそもそも着ぐるみだろ、と言いたいが、世の中には不思議なものがたくさんあることを現在進行系で理解している。もしかしたら本当に梨の妖精かもしれない。おほん、と咳ばらいをして小狼は話はじめた。

「考えられるのは蠱毒だ。何百もの毒虫を一つの壺に入れて共食いさせて、すさまじい毒を持った一匹を作り出させるんだ。この殺し合いはそれに近い。」
「なるほど、ふなっしーさんは?」
「え? えーっと、梨なんでわからないなっしな。ゴメンなっし。」
「明莉、いいかな?」

 気もそぞろ、というふなっしーの後を継ぐように遊が手を上げた。

「これはいわゆるバトロワゲーに近いものだと思います。何十人何百人というプレイヤーが、フィールドにある武器を使って最後の一人になるまで倒し合うっていうゲームなんですけど、首輪とかそこらじゅうに落ちてる銃とかを見ると、それに近いんじゃないかなって思いました。」


464 : 燻り ◆BrXLNuUpHQ :2021/12/12(日) 02:33:22 z.EwoUJk0

 キュッキュッとホワイトボードにマーカーが走る。明莉が板書を終えたのを見て、遊は続けた。

「そして、一番考えなきゃいけないことは、ここには魔法が存在するってことだと思います。つまり……」
「あの戦車の爆発は、魔法によるもの、ってことなっしな?」
「はい。カゲアクマとかクロウカードとか超能力とか梨の妖精とか、そんなになんでもありなら、魔法で爆発だって起こせる気がします。」

 明莉は頷く。そして「それでは本題に入ります」と続けるとホワイトボードの反対側に移動した。

「なぜ、四宮かぐやさん、竜堂ルナさん、チェロさんの三人が乗っていた戦車が突然爆発したのか。事故なのか事件なのか。事件なら、誰が犯人なのか、です。もしこれが事件なら、殺し合いに乗った人がいます。」

 磯崎さんやふなっしーさんが殺ったとは思っていませんけど、とは言わなかった。それを言ってしまうと、疑っていると思わせてしまうだろうから。
 遊と小狼、凛とふなっしー、二列になって向かい合う二組の間にあるピリついたものを感じて明莉は喉を鳴らした。


「あの二人って信用できるのかな?」
「まあ、梨だしな。」
「うん、梨もだけど……」
「あの人たちが、戦車を燃やしたかもしれないって、こと?」
「そうだよ。マーダーかもしれない。」

 そんな会話がかわされたのは、一通りの自己紹介と情報交換を終えた今から数十分前のことだった。
 燃える戦車がある基地にいた年上のライフルを抱えた少年と梨の妖精(自称)。怪しすぎる二人から話された眉唾ものの経歴と、あの戦車に三人も乗っていたという情報は、三人に警戒感を抱かせるには充分だった。
 あの二人はマーダーではないか。
 マーダーならわざわざ情報交換するか? いやマーダーだって情報はほしい。
 マーダーなら殺害現場からはすぐ離れるのでは? いや犯人は現場に戻るって言うし武器や食料のある基地を離れるデメリットは大きい。
 マーダーならなぜこのタイミングで殺した? 魔法が使えるなら人の心を読んだりもできるのでは、それでバレて殺したらあんな目立つことになったんでは。なんなら殺された方もマーダーかも。
 三人で話せば話すほど、凛とふなっしーへの疑念は深まった。なまじ全員不思議なことへの経験があるぶん、そしてあからさまに不審者ならぬ不審梨なふなっしーを見て、戦車の炎上という日常では考えられない事態への想像を働かせる。
 そしてそれは、戦車を調べた小狼からの言葉で更に疑いを深める方向に働いた。

「あの戦車からかすかだが魔力が感じられた。」

 ペットボトルをゴミ箱に投げ込んだ遊たちの元へと戻ってきた小狼はそう言った。二人にはその真贋など確かめようもないが、少なくとも明莉にはふなっしー達よりは信じられる言葉であった。そして明莉を信じる遊も小狼を信じた。日頃の信用と惚れた弱みがあった。

「とにかくハッキリさせようよ。私はふなっしーさんたちが犯人だとは思わないけれど、誰かが私たちを狙ってるかもしれないもん。」


「とにかくハッキリさせましょう。もしかしたら、誰かが私たちを狙ってるかもしれないですから。」

 そして今現在、議題はついに戦車の炎上についてになった。
 はたして凛とふなっしーはマーダーなのか?
 それとも別のマーダーが狙っているのか?
 あるいは不幸な事故なのか?

 明莉たちの中にできた疑念の炎はゆっくりと燻りとは言えない危険な領域へと突入しつつある。


465 : 燻り ◆BrXLNuUpHQ :2021/12/12(日) 02:33:48 z.EwoUJk0



【0515ぐらい 自衛隊駐屯地】


【君野明莉@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 ヒカルとかが巻き込まれてたら合流して脱出する
●小目標
 みんなで話し合う

【李小狼@小説 アニメ カードキャプターさくら さくらカード編 下(カードキャプターさくらシリーズ)@講談社KK文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める
●中目標
 さくらや他の大切な人が巻き込まれていたら守る
●小目標
 みんなで話し合う

【次元遊@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 ヒカルとかが巻き込まれてたら合流して脱出する
●小目標
 みんなで話し合う

【磯崎凛@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 何が起こっているか調べて、みんながいたら一緒に家に帰る
●小目標
 みんなで話し合う

【ふなっしー@ふなっしーの大冒険@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 これドッキリじゃないなっし?
●小目標
 みんなで話し合う


466 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/12/12(日) 02:35:59 z.EwoUJk0
投下終了です。
迷宮教室の新刊は来月の28日発売です。


467 : ◆NIKUcB1AGw :2021/12/12(日) 14:57:48 gsYqSV/E0
投下乙です
存在そのものが不振扱いされるふなっしーに草

自分も、久々に投下させていただきます


468 : 野生児は科学少年を従える ◆NIKUcB1AGw :2021/12/12(日) 14:58:52 gsYqSV/E0
僕の名前は、智科リクト。小学6年生。
趣味は科学。
この世界の不思議な現象は、全て科学で解明できると信じている。
でも今は、ちょっとやそっとでは解決できそうな事態になってしまって困っている。
いつの間にか拉致されて、殺し合いに参加させられてしまったのだ。
小学生の僕を拉致するだけなら、ある程度の人数がいれば可能だろう。
だけど、この殺し合いには不思議なことが多すぎる。

まず、最初に殺し合いを宣言していたあのウサギだ。
ウサギの声帯で、人間の言葉が話せるはずがない。
僕に考えつく可能性は、あれが精巧なロボットだった、というくらいだ。
でも、殺し合いの解説なんて人間でもできる。
姿を見せたくないなら、他の場所からスピーカーで話せばいいだけだ。
わざわざ精巧なロボットを作る理由がわからない。
他にも赤い霧とか、不思議な点はいろいろある。
いつ襲われるわからない状況で、じっくり考えてもいられないけど……。
それでも僕は、きっとこの謎を解いてみせる!

「おい、何もたもたしてんだ、ガクト! 置いていっちまうぞ!」
「あっ、はい! あと、僕の名前はリクトです!」

僕に声をかけてきたのは、さっき出会った嘴平伊之助さん。
イノシシのかぶり物をして上半身裸という変人にしか見えない格好……というか実際変人だけど、間違いなくいい人だ。
僕が戦う力のない子供だと知ると、「俺が守ってやる!」と言ってくれたんだから。
その後、なぜか子分に認定されたけど……そのくらいは我慢しよう。

「ん?」

突然、僕の前を歩いていた伊之助さんが足を止める。

「どうしました?」
「気をつけろ。血のにおいがする」
「え?」

そう言われて、鼻に意識を集中してみる。
するとたしかに、かすかに鉄くさいにおいを感じた。

「本当だ……。でも、よくこんなかすかなにおいわかりましたね」
「なんせ、俺は山育ちだからな! 炭治郎ほどじゃねえけど、鼻もいいのよ!」
「誰ですか、炭治郎って」
「俺様の子分一号だ!」
「はあ……」

たぶん、勝手に子分認定されてる知り合いの人なんだろうな……。
そんなことを考えていると、突然伊之助さんが走り出した。

「伊之助さん!? どうしたんですか!」
「においの出所を突き止めるに決まってるだろうが!
 殺し合いに乗ってるやつがいるなら、ぶっ飛ばしてやらなきゃいけねえからな!」

そう言いながら、伊之助さんはぐんぐん遠ざかっていく。
ものすごい足の速さだ。
僕も運動は決して苦手じゃないけど、とてもついていける速さじゃない。
一流の陸上選手でも、あんなに速く走れるだろうか。
伊之助さん、本当に何者なんだろう……。
なんて、考え込んでる場合じゃない。
僕の目に映る伊之助さんは、もう豆粒のような小ささになっている。
このままでは、置いてけぼりにされてしまう。

(あの人、僕を守るって言ったこと忘れてないかなあ……?)

わずかな不安を感じながら、僕は必死で伊之助さんを追いかけた。


469 : 野生児は科学少年を従える ◆NIKUcB1AGw :2021/12/12(日) 14:59:55 gsYqSV/E0


◆ ◆ ◆


「はあ……はあ……。やっと追いつきましたよ、伊之助さん」

それから数分後、僕はなんとか、伊之助さんに追いつくことができた。
伊之助さんは、森の真ん中で足を止めていた。

「いったいどうし……うっ!」

僕は、それ以上しゃべることができなかった。
あまりにも凄惨な光景を目にしてしまったからだ。
それは、死体だった。
頭の目立つ位置に、小さな穴が空いている。おそらく、銃で撃たれたんだろう。
それ以外にも、全身至る所が傷ついている。
僕は死体なんて初めて見るけど、ここまでひどい怪我をした人間が生きていられるはずがないというのはすぐに理解できる。
こんなむごいものを見て僕が思いのほか冷静でいられるのは、おそらくあまりにも非現実的で脳の理解が追いついていないからだろう。

「善逸……」

ふいに、伊之助さんが呟いた。
善逸……この死んでいる人の名前だろうか。
ということは、この人は伊之助さんの知り合い!?

「善逸ぅぅぅぅ! てめえ、何死んでやがる!
 こんな簡単に死ぬほど、てめえは弱くねえだろうがぁぁぁぁぁ!」

突然、伊之助さんが叫ぶ。
僕がどう反応していいかわからずにいると、伊之助さんは膝から崩れ落ちてしまった。

「ちくしょう! ちくしょぉぉぉぉぉ!」

伊之助さんは、叫び続ける。かぶり物のせいで、その表情はわからない。
でも伊之助さんは、きっと泣いていたんだろう。


◆ ◆ ◆


伊之助さんの刀が、善逸さんの髪を一房切り取る。

「さすがに死体持って動き回るのは、無理があるからな。
 とりあえずは、これだけ持って行く。
 体も持って帰れそうなら、後でまた来るぜ」

落ち着いた声で、伊之助さんは善逸さんの死体に語りかける。
死体に話しかけたって意味がない、なんて無粋なことは言わない。
科学的に無意味なことでも、必要な場面はある。

「見てろよ。あのクソウサギは、必ずぶっ飛ばす。
 で、てめえを死なせたことを百万遍詫びさせてやるぜ!」

声量は決して大きくないが、力のこもった声で伊之助さんは言う。
その言葉は、僕の中の何かも奮い立たせた。
そうだ、こんな悲劇を生み出すようなやつを、許せるわけがない。
必ず僕たちの力で、殺し合いを破綻させてやる。
そのために僕も、全力を尽そう。
僕の科学の知識は、必ず役に立つ場面があるはずだ。

伊之助さんの背中を眺めながら、僕は固くそう誓った。


【0200 廃村周辺の森】

【智科リクト@怪奇伝説バスターズ 科学であばく!!旧校舎死神のナゾ!?@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いを破綻させる
●小目標
伊之助と行動


【嘴平伊之助@鬼滅の刃ノベライズ 〜遊郭潜入大作戦編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
クソウサギをぶっ飛ばす!
●小目標
リクトを守る


470 : ◆NIKUcB1AGw :2021/12/12(日) 15:00:52 gsYqSV/E0
投下終了です


471 : ◆BrXLNuUpHQ :2021/12/27(月) 07:38:13 V/cVAHFg0
投下乙です。
私が未読の児童文庫作品からキャラが出て話がリレーされて誤解フラグまで立つ。こんな日が来るとは一年前は考えられませんでした。
あらためて皆様一年間投下ありがとうございました。
さて来年もあと数日となりましたが、いいタイミングなのと放送で知り合いの死を知るとかやらないといい加減に話を作るのがキツくなってきたので、第一回放送を元日に投下したいと思います。
放送は行いますが放送前の時系列からの投下はもちろんありです。
また放送までにこのキャラ落としておきたいな、このキャラがロワに巻き込まれてたことにしたいな、とかありましたら御一レスください。よしんば投下がなくても私が殺すか首輪解除で脱落させます。
また随時新参加者募集中です。
児童文庫オリジナルが望ましいですが、別にそこにこだわる気もないので、児童文庫からノベライズされてる好きな作品の好きなキャラを投下していただければ幸いです。
それでは来年もよろしくお願いします。良いお年を!


472 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/01/07(金) 02:22:41 IYc3v43Y0
あけましておめでとうございます。
正月≒元旦なのでギリ予告通りです。

ごめんなさい遅刻しました投下します。


473 : 第一回放送 ◆BrXLNuUpHQ :2022/01/07(金) 02:23:47 IYc3v43Y0



「はぁ〜……やっと出られたよぉ……」

 時刻は6時少し前。
 会場にあるとあるビルの中で、吉田歩美はくたびれた声でため息をついた。

 歩美の初期位置は、織田信長の死体からもそう離れていない、森林公園近くのビルの中だった。
 初めは突然の殺し合いにとまどいと恐怖を覚えて身動きができなかった彼女だが、1時間もする頃にはふだんの少年探偵団としての勇気をすっかり取り戻して、自分が巻き込まれた『誘拐事件』の解決のために動き出す。で、そこで問題になるのがこのビルだった。
 構造は鉄筋コンクリート造の高層ビル。このあたりで一番高い建物だ。窓は大きいものははめ殺し、小さなものは格子が付けてある。一番低い窓でも地上から4mほど。飛び降りるのは難しい。
 そして1階の出口には、どこもシャッターが下りていた。
 つまり密室である。殺し合いという環境ならば安心できる拠点だが、出ようとするととたんに難しくなる檻でもあった。
 まずシャッターの開け方がわからない。なんとなく目星をつけても、そのシャッターを操作するために必要な鍵が無い。そしてそのシャッターを操作する所にまで行く扉を開けるための鍵が無い。そしてその鍵がありそうな場所を見つけたがそこを開ける鍵が無い。もちろんこじ開けるような道具も力も無い。拳銃や爆薬で押し通るなど小学一年生の歩みに求めるのは無理がある。というか探偵としてそんな行為はNGだ。
 なので彼女はビル中を探して鍵を開けるための鍵を開けるための鍵を開けるための鍵を見つけ出し、一つ鍵を開けてはまた歩き回ってを繰り返し、ようやく6時間近くをかけてビルから脱出するめどがついたのだった。
 なお、その詳細はここでは書かない。殺し合いの本質ではないからだ。
 ちなみに、あと数分もすればタイマーで勝手にシャッターが開いていたのも秘密だ。まあシャッター開けるまでの通路の鍵開けるのは無駄じゃなかったからオッケーか。

 さて、ようやく開いたシャッターを前に歩美は一度最初にいた部屋に戻った。なにぶん何時間も歩きづめなので、拐われた時に持っていた私物は元の部屋に置いてある。非常食などの防災グッズもビルを探検する中で見つけてまとめて置いてあるので、外に出る時にいくつか持っていこうと思った。
 エレベーターを降りて部屋へと向かう。その途中の廊下に掛けられた時計の針が、ちょうど縦一直線になると同時に音が響いた。


474 : 第一回放送 ◆BrXLNuUpHQ :2022/01/07(金) 02:24:24 IYc3v43Y0

『強くなれる理由を知った――』
「な、なにこれ?」

 流れ出したのは、LiSAの紅蓮華だった。それがビルのスピーカーから、室内のパソコンから、電話から、FAXから、無線から、とにかく通信機器全てから一斉に流れ出す。何十台ものパソコンを始め1部屋あたり100をこす紅蓮華の大合唱が始まる。
 その異様な光景に思わず尻餅をついた歩美の頭にビリビリと振動が走った。背にした窓ガラスが震えている。そして遠くから聞こえるのは、紅蓮華。
 カーラジオから、防災無線から、街頭モニターから、あらゆるものから紅蓮華が響く。そして歩美の胸からも。少年探偵団が着ける探偵バッジからもどういうわけか紅蓮華が鳴っていた。

『僕を抱いて進め――』
『おはようさん、朝の6時をお伝えするで〜。』

 サビらしき部分に入ると同時に、明るい少女の声が聞こえてくる。殺し合いの場には場違い甚だしいテンションで、少女は話し出した。

『ウチの名前は死野マギワ。前任者のツノウサギがくたばったさかい後任の筆頭司会進行役を担当するわ。みんなよろしくな〜。』

 うさんくさい関西弁でしゃべる少女、マギワ。紅蓮華をバッグに、彼女はつらつらと言葉を続ける。

『ほな、あらためてルールを説明するで。今回は邪魔いれんとちゃあんと聞きぃ。今日は皆に、殺し合いをしてもらおうと思う。バトル・ロワイヤルや。』

『今君らがおるのがバトロワの会場。中にあるものは好きに使ってええで。それで殺し合って最後の一人になったら勝ちや。優勝者はウチらの仲間になれる。どや、モチベ上がったやろ? このゲームの参加者には金に困ってるやつも多いやろから、ウチらサイドまで上がってこれれば待遇は保証するで〜。その額、500億。プラスそこに、不動産や有価証券みたいなわかりやすい資産でも、ハイテクや臓器みたいな欲しいやつなら喉から手が出るほどほしいもんでも、まあたいていは用立てたる。うちらの偽札は本物よりも精巧や。なんなら死人も蘇らせれる。ウソや思うやろ? ウチも1回死んでるから、ホントやってわかるんやけど、信じるかどうかは君らに任せるわ。』

『そうそう、今後は6時間ごとに放送するで。うちはこれ終わったらシフト上がるけど、次のシフトの進行役も話す内容は一緒や。脱落者に、ミッションに、フリートーク。脱落者は言葉の通りくたばったやつの名前、ミッションは新しいルールの追加とか、フリートークはそのままやな。ほなとっとと脱落者の名前読み上げるで。人数多いからサクサク進めんと終わらんからなあ。メモの用意はできた? いくで〜。』


475 : 第一回放送 ◆BrXLNuUpHQ :2022/01/07(金) 02:26:58 IYc3v43Y0


秋野真月
長内隆
宮美四月
稲妻快晴
山岸由花子
工藤穂乃香
村瀬司
大場結衣
天野司郎
神田あかね
タベケン
大富豪のカラ松氏
塁に切り刻まれた剣士
羅門ルル
小島直樹
ユイ
生絹
新庄ツバサ
小林聖司
小清水凛
小村克美
紫苑メグ
須々木凛音
森嶋帆高
小黒健二
ノル
大木直
柿沼直樹
竜宮レナ
四道健太
ゲッコウガ
明智小五郎
ヒグマ

森青葉
坂本龍馬
鯨波兵庫
富竹ジロウ
アーサー・ボイル
馬頭鬼
我妻善逸
蜘蛛の鬼(父)
紅月美華子
カザン
四宮かぐや
チェロ
魘夢
宮野ここあ
野原ひまわり
哲也
相川捺奈


476 : 第一回放送 ◆BrXLNuUpHQ :2022/01/07(金) 02:27:24 IYc3v43Y0
赤城竜也
朱堂ジュン
名波翠
黄金の騎士・ゴール
円谷光彦
園崎詩音
織田信長
松野チョロ松
チョロ松警部
チョロマツ
風早和馬
桜清太郎
森羅日下部
かまち
日下部まろん
深海恭哉
エリン
木本麻耶
広瀬崇
小林疾風
桃花・ブロッサム
渡辺イオリ
春内ゆず
武市変平太
空知うてな
小笠原牧人
岬涼太郎
茜崎夢羽
杉下元
山田奈緒子
永沢君男
赤村ハヤト
広瀬青空
花丸円
大太刀
夢水清志郎
袁�岡
氷室カイ
星乃美紅
萩原
ケロロ軍曹
宇髄天元
小川凌平
紅月飛鳥
神谷一斗
優希
金田一一
遠藤平吉
江戸川コナン
君野明莉



477 : 第一回放送 ◆BrXLNuUpHQ :2022/01/07(金) 02:28:05 IYc3v43Y0

『……以上の100名や。え、自分ら殺し過ぎちゃう? あんなルール説明も途中で終わったんにどんだけ殺る気やねん! いやいや、驚くわ〜。てか引くわ〜。元から殺人鬼とか変態とかばっか集めたんやけど、せやかて、こんな殺すか? え、人の心とかないん?』

『まあこっちとしてはおもろいからええわ。なんならもっと殺る気スイッチ押したる。この6時間で一番殺したお前。お前1抜けや。お前は最後の一人にならんでも採用内定。会場にはいてもらうけど参加者扱いはせんから、殺されんようにどっか隠れとき。次の放送で脱落者として名前呼ぶわ。他の190人ちょい。お前らん中で次の6時間で一番殺したやつも抜けられるで。今ならキルスコア2倍で、参加者一人殺したら二人殺したことにしたる。前の6時間で何人も殺したマーダーもおるけど、これで今からでも追いつけるで〜。最後の一人になるの待つのダルいわ〜ってせっかちはこっちで勝ち上がってあとはレジャー施設とかで時間つぶしときぃ。』

『こんなもんやな。あ〜名前多くて喉枯れたわ〜。しかも読み上げてる時に何人も死ぬし。お前ら放送中は殺し合うなや。殺意高すぎやろ。まだまだ第2ラウンドは始まったばっかやで〜ほな、また!』


478 : 第一回放送 ◆BrXLNuUpHQ :2022/01/07(金) 02:29:35 IYc3v43Y0

 紅蓮華がフェードアウトして消えた。
 しぃんビルから音が消えた。

(えっと、今の放送は、なんだったんだろう。)

 そして歩美が覚えたのは困惑だった。
 あらためて話されたが、その内容は受け入れがたいものだった。殺し合う。ていうかもう殺し合ってる。300人も。しかもビルに閉じ込められていた6時間で100人死んでる。そして、

「コナンくんも、光彦くんも、し、死んでなんか……ないよね?」

 円谷光彦。
 江戸川コナン。
 たしかにそう呼ばれた。
 途中で織田信長とかヒグマとか気になる名前で気が散ったが、それでも親友の名前を聞き間違えたりはしない。
 二人が拐われていた。そして殺された。
 とても、とてもではないが信じられなかった。

「探さなきゃ、そうだよ、探さなきゃ!」

 歩美は荷物を持つと急いでエレベーターへと向かった。まずは外に出ないと始まらない。この6時間、何もしないでいたところにコナンと光彦の死を伝えられて、心臓はぎりぎりと締め付けられたような感じする。その痛みに背中を押されて、歩美はビルから駆け出した。

 そしてそんな歩美の背中に向けられる銃口が一つ。

(あのガキ……どこかで見た覚えがある。)

 ジンは歩美の顔を見て発砲を躊躇った。
 織田信長にチョロ松×3を殺した彼は、己の正気をいよいよ疑い、それ以後潜伏することを選んだ。彼の中では十中八九、組織の作った妙な薬の実験台にされているという想定のもとでの行動だ。
 そこで先程の放送。組織にせよそうでないにせよ、求められているのは殺人だとはわかった。
 幸い、ジンのキルスコアは4人。勝ち上がって参加者でなくなれば、新しい情報が得られるかもしれない。そう思ったのだが――

 ジンはまだ歩美から狙いを外していない。彼の選択は。



【0200 森林公園近く】


【吉田歩美@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 コナンくんと光彦くんを探す

【ジン@名探偵コナン 純黒の悪夢(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 主催者の情報を手に入れるために体制を整える
●小目標
 撃つか? だが、あの顔はどこかで……


479 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/01/07(金) 02:38:45 IYc3v43Y0
投下終了です。
続いて時系列順脱落者名簿の抜粋になります。
☆は登場済みで脱落確定枠になった参加者、
★は非登場済みで脱落確定枠になった参加者になります。
名簿にない参加者は第一回放送までの生存確定になります。
落ちそうな参加者と落としたら面白くなりそうな参加者と落とさないと企画が進まなさそうな参加者を落としました。
演出にご利用いただけたら幸いです。

我妻善逸
蜘蛛の鬼(父)
紅月美華子
☆カザン
四宮かぐや
チェロ

魘夢
宮野ここあ
野原ひまわり
哲也
相川捺奈

赤城竜也
朱堂ジュン
名波翠
黄金の騎士・ゴール
円谷光彦

★園崎詩音
織田信長
松野チョロ松
チョロ松警部
チョロマツ

★風早和馬
☆桜清太郎
☆森羅日下部
☆かまち
★日下部まろん

☆深海恭哉
☆エリン
★木本麻耶
☆広瀬崇
☆小林疾風

☆桃花・ブロッサム
☆渡辺イオリ
★春内ゆず
☆武市変平太
★空知うてな

☆小笠原牧人
☆岬涼太郎
★茜崎夢羽
☆杉下元
☆山田奈緒子

★永沢君男
☆赤村ハヤト
★広瀬青空
☆花丸円
☆大太刀

★夢水清志郎
☆袁�岡
☆氷室カイ
★星乃美紅
☆萩原

☆ケロロ軍曹
★宇髄天元
☆小川凌平
☆紅月飛鳥
☆神谷一斗

☆優希
★金田一一
★遠藤平吉
★江戸川コナン
☆君野明莉

まだまだ新規参戦も募集しています。
今年もよろしくお願いします。


480 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/02/26(土) 08:20:01 nnyLs2sA0
四つ子ぐらしが100万部突破しました。
おめでとうございます。
投下します。


481 : 家族ができたよ ◆BrXLNuUpHQ :2022/02/26(土) 08:28:08 nnyLs2sA0



「――私たちはね、四つ子なんだ。」

 暖かい背中がなんだかくすぐったくて、私は背中をちょっと離して、背すじをピンと伸ばした。

「私の生活はふつうの人たちとはちょっと違うんだ。赤ちゃんのころから施設にいて、お母さんやお父さんの顔を知らないで育ってきた。宮美三風って名前と、このペンダントだけが、家族とのつながりだったんだ。」

 掌の上で、ペンダントのハートが水色に輝く。その色が涙みたいで、また目が熱くなった。
 トンって背中を押された。それが暖かくて、ゴクンとツバを飲み込む。

「他の子にはお母さんがいるのに、私にはいない。不安だった。高校を出たら、自分一人だけで生きていかなくちゃいけない。お仕事のことも、家事のことも、何かあった時の備えも、全部一人で。」
「それでね、この前国の偉い人からこんなことを言われたんだ。『中学生自立練習計画』っていうのに参加しないかって……あっ、ひみつにしておかないといけないんだった……えっと……」
「わかってる、誰にも言わないよ。」

 涼馬くんはやさしい声で言ってくれた。うぅ、だめだなぁ、私。また支えられちゃってる。会ったばかりの小学生の男の子に。
 今だって、私の話を静かに聞いてくれている。本当はこんなことをしている場合じゃないってわかってるよ! わかってるのに、でも……

「……社会に出たときに自立できるようにする練習なんだ。施設を離れて、同じ年代の女の子と一緒に暮らすことになった。そうしたら、私が暮らすことになった家に行ったらね、私と同じ顔の女の子がいたんだ。三人も。」

 なのに、私は話すのを止められなかった。

「嬉しかったなあ。ひとりぼっちだと思っていたのに、姉妹がいたってわかって。家族ができるんだって。」
「一花ちゃんは、しっかり者でなんでもできて、でもそれは、長女だから頑張らなきゃって思ってる。」
「二鳥ちゃんは明るくてムードメーカーで、家族を笑顔にしたいって気を配ってくれてる。」
「私は……私は、そんなみんなに甘えてたんだ。なにも……なにも……できない……だから……」
「四月ちゃん……」

 息が荒くなる、
 ハァハァと大きく息を吸う。
 あっ、ダメだ。鼻で息しちゃった。
 ダメだ、ダメ、ダメなの、考えちゃいけないのに、その臭いが、臭いがしちゃう。
 その、血の臭いが。

「四月ちゃん、ゴメン! お姉ちゃんなのに、家族なのに、こんな、こんなぁ……!」


482 : 家族ができたよ ◆BrXLNuUpHQ :2022/02/26(土) 08:28:54 nnyLs2sA0

 私は、宮美三風は、ずっと天井を見ていた顔を下に向けた。涙が、真下に落ちて、四月ちゃんの、四月ちゃんの顔があったと思うところに落ちた。
 たぶん、顔、だと思う。メガネはぐちゃぐちゃになってて、目は潰れてて、なにか白っぽいものが血と一緒にはみ出している。鼻はどこが穴かわからないぐらい潰れてて、その下の口はどの歯も抜けてるか折れていた。耳からも血が出ていて、頭から流れた血と一緒になって髪をバリバリに赤く固めている。
 そして、その体は少しだけ、でも絶対に、冷たかった。
 ふわっと、男の子の匂いがして、私の背中が暖かくなった。
 あっ、いま、抱きしめられたんだ。
 どうしてだろう、男の子に抱きしめられているのに、恥ずかしいって気持ちも、嫌だって気持ちも、嬉しいって気持ちも、なにもない。本当になにもなくて、ただ、暖かいな、抱きしめられてるな、としか思わない。
 なんでだろう、私、どうしちゃったのかな。変だな、いつもならこんなことないのに。
 もし一花ちゃんにこんなところ見られたら困っちゃうな。怒るかな? 私にもだけど、涼馬くんに。それとも、二鳥ちゃんと一緒にからかうかも。ううん、たぶんからかう二鳥ちゃんにツッコみながら、叱られちゃうかな。
 うん、二鳥ちゃんは絶対にからかうよね。でも、それがいいんだ、真面目に受け止められたらどんな顔したらいいかわかんないもん。だって、涼馬くんとはさっきあったばっかりなんだもん。
 他人から、男の子から抱きしめられてるなんて四月ちゃんが見たら固まっちゃうよね。私だって、姉妹が知らない男の子に抱きしめられてたらそうなるもん。それで、怒るかな。あっ、そうか、こういう時って、怒るんだ。そうか、そうだよね。
 でも、なんでだろう。怒る気になれないんだ。
 ううん、違う、なにも、なにもする気になれない。
 あっ、なんだろう、暑いな、涼馬くんは。

「宮美さん、あなたにお願いがあります。」

 離してって言おうとして、言い出せなくて、暑いなあって思ってたら、涼真くんは耳元で言った。
 目の前でなにかピンク色のものが揺れる。これは、ホイッスル?

「このホイッスルを双葉マメという女の子に届けてください。俺と同じ服を着ていて、明るい髪の色で、そのペンダントと同じ色のホイッスルを持っている、とにかく明るい女の子です。たぶん警察署か、自衛隊の基地にいます。それじゃあ、お願いします。」

 ふわっと、私の体が立ち上がった。そのまま背中を押されて、交番の外に押し出される。
 えって思ったけれど、それを口に出すのもめんどくさくて、押されちゃったから前によろけて、それで、私はそのまま歩き出した。
 涼馬くんって強引だなあ。
 警察署ってどこにあるんだろう。
 誰に渡すんだっけ?
 女の子だよね。
 このホイッスルを、ペンダントと同じ色の、水色のホイッスルを持っている女の子に渡す。
 でも、どこに行けばいいんだっけ。
 そうだ警察署だ。
 でも、警察署ってどこにあるんだろう。
 ああ、もう。
 全部がめんどくさい。
 めんどくさいから、歩いてればいいや……


483 : 家族ができたよ ◆BrXLNuUpHQ :2022/02/26(土) 08:31:02 nnyLs2sA0



 涼馬は厳しい顔で三風を見送ると、額から流れる血を拭った。
 己にできることは残念だがここまでたという現実的な思考と、もっと早くこの交番に立ち寄っていればという理想論の感情。
 喉の奥で苦いものとして固まるそれを無理矢理飲み込むと、死体の一つに手を合わせ、ハンカチを盗み、裂く。何度か繰り返し細い布切れの束となったそれを手早く結び合わせ一繋ぎにし、額の血染めのハンカチを固定するために鉢巻のように縛った。


 風見涼真は特命生還士(サバイバー)と呼ばれる生存と救助のプロだ。
 あらゆる災害やテロに対応できるノウハウを叩き込まれ、小学五年生ながら既に現場に出ている。
 いわゆるエリート。他のサバイバーの見習い達からも人望厚く、眉目秀麗、文武両道、才色兼備。褒める言葉に事欠かないさわやかイケメンエース。
 そんな彼は、女の子一人救うこともできずに殺し合いの場に放り出した。
 全て遅かったのだ。殺し合いに乗ったテロリストに襲われ、頭に刀傷を負い、それでも機転と幸運で逃げて、逃げた先には、四つの死体と立ち尽くす女の子がいた。ゲームが始まって30分もしない間に四人の人間が死んでいた。そして女の子の制服姿が、一つの死体と重なる。同じ制服同じ背格好わかりにくいが同じ顔。姉妹だろう、そう察して、涼馬にはかける言葉が無かった。
 突然不気味な殺し合いに巻き込まれて、異様な霧のたちこめる街で、姉妹の惨殺死体を見つける。その気持ちは誰にも計り知れない。
 だから涼馬はただ三風に寄り添い話を聞いた。名前を聞き、バトルロワイヤルの参加者であることを確認して、三風の思い出について聞いた。本当はもっとやりようもあるのだが、彼に残された時間は長くない。三風が自然に話し始め、茫然自失の状態から回復した時点で、彼は三風を一人でここから離すことにした。
 人の死は重い。一度座り込んでしまえば二度と立ち上がれなくなるほどに。三風は幸い、恐怖と動揺が浮足立たせていた。正常な精神状態には程遠いが、それでもそれは前を向き得るものだ。座り込んで立ち方さえ忘れてしまう、人の心の傷は頚椎損傷のようにその者の心の柱を折ってしまうのだから。
 今の三風を家族の死と向き合わせれば、その心が壊れきってしまいかねない。精神的なケアが望めない以上は、無理矢理にでも何か目的を持たせてそれに没頭させる必要がある。今の彼女には、その目的に従う必要性もその内容を理解する思考力もなく、ただ思考停止して従うと、抱きしめても何の反応も返さなくなった三風を見て確信した。
 涼馬は三風を見送る。彼女の足取りはトボトボととてもおぼつかないものだ。だが、一人で歩けている。彼女には生き残る可能性がある。なら、涼馬がすべきことは少しでも三風の生存確率を上げることだ。そのために、三風にホイッスルを託したのだから。
 ポケットの中の拳銃の銃把を握る。
 残弾は三発、交番内にも銃器の類は無し。これでどうにかする必要がある。
 他に使えそうなものは、死体が持つ鈍器や刃物、消火器やAEDといった基本的な救命道具、私物らしきいくつかのお菓子、それだけ。
 敵はテロリスト一名。サバイバーの涼馬から見ても常人離れしているとしか形容できない高い身体能力を持つ男。銀の髪の下の丸いサングラスからは胡乱な眼光が覗き、どことなく中華風の派手な服装を着ている。片手にはこれまた中華風の装飾の付いた日本刀を持ち、もう片方の手には対戦車ライフルを持つ。どこか時代錯誤な格好の、マーダー。
 彼が格好以外も時代錯誤でなければ、涼馬は生き残れなかっただろう。そのマーダーは、涼馬がエレベーターで逃げれば階段で追い、防火シャッターを閉じれば爆薬でこじ開け、自動ドアを対戦車ライフルで吹き飛ばして追ってきた。何度かの無駄な行動のおかげで、涼馬は何度かの死を回避してきた。
 そしてついにその幸運も尽き、一縷の望みをかけて交番に駆け込んだところで、マーダーは追ってこなくなった。
 諦めた、というのはあり得ない。彼は三風をなんとか立ち上がらせようとする涼馬に向けた銃口を下ろした。だが、その気配から依然として殺気が満ちているのを涼馬は肌で感じていた。涼馬でなくとも感じただろう。男から迸る殺気が、減るどころかますます勢いを増していたことに。


484 : 家族ができたよ ◆BrXLNuUpHQ :2022/02/26(土) 08:37:45 nnyLs2sA0

「なんで、あいつを見逃した?」

 胸から突き出そうな勢いで鼓動する心臓を気合で押し込める。この交番からすぐ出れる出口は、男が仁王立ちする入口のみ。
 15mほどの距離を置いて対峙する男に向かって問いかけた。一割の好奇心と、九割のプロファイリング。だが答えは期待していない。これまで男が発した言葉はない。当然と言えば当然だ、わざわざ無駄話をしながら戦う人間はいないだろう。
 だから。

「――お前を殺したら、次にあいつを殺ス。」

 男の言葉に一瞬、涼馬は動揺した。
 男が銃口を三風のふらつく背中に向けて、涼馬は拳銃を取り出した。
 男が薄く笑った顔に目掛けて引き金を引こうとして、

『涼馬くん!』

(――ちっ、なんで出てくるんだよ。)

 少女の顔が、双葉マメの顔がチラついた。
 拳銃を両手で構えたまま後ろに飛ぶ。
 へそがあった位置目掛けてライフルが発射された。
 背後のデスクが轟音を立てる。
 撃っていれば当たったかもしれないが、涼馬の体は真っ二つに鉛球で引き千切られていただろう。

(対戦車ライフルを片手で撃つな。)

 そのデスクをバク転の要領で越えて、空中で部屋の隅でホコリを被っている消火器に発砲する。
 射線から外れるようにジグザクに突っ込んできた男が交番に突入しようとしたタイミングで、消火剤が一気に充満した。
 あれだけの距離を涼馬がバク転一つしている間に一瞬で詰めるその瞬発力に驚く間もなく、一回転して着地した足を前へと向ける。
 左足で、踏み切る。
 右足で、デスクを蹴る。
 両手で、抜刀した男の肩を押し、顔面に膝蹴りを叩き込む――失敗。

(バク転、やられた――)

 意趣返しのように男も体を後ろに投げ出していた。
 肩には手がかかったものの、一手遅い。
 涼馬と男の目が合う。
 やむなく跳び箱の様に男を飛び越えることに専念する。
 この間の思考、0.2秒。
 それは男を――幕末の人斬り、緋村抜刀斎をも凌駕する圧倒的な剣の威力を持つ男、雪代縁を相手にするには余りにも長すぎる隙だった。

(いっ――てぇ……)
「蹴撃刀勢。」

 痛みと共に届いたのはその言葉だった。


「首輪が邪魔ダナ……やはり動きにくい。」

 訛のある日本語で呟くと、縁は倭刀の血を涼馬の服で拭った。
 人誅を邪魔された腹いせにまずは誰でも良いから斬りたいと思って襲いかかったが、思いの外強敵だった。身のこなし、判断力、武器の扱い、どれをとっても並の士族崩れよりよほど強い。
 もっとも縁にとってはただのウォーミングアップにしかならないが、それでも出し抜かれたことでますます腹が立つ。サングラスが涼馬の手に当たり落ちて割れてしまった。
 ではさっきの三風とかいう少女を追って殺すか? それも盛り上がらない。あんな廃人同然の放っておいてものたれ死ぬような少女に執着する気は――

「警察署……人が集まるなら首輪を外せる人間も来るか?」

 ――だが、警察署に向かうことは有益だ。
 不安にかられた参加者が目指すところとしてわかりやすい。武器も他のところよりはマシなものがあるだろう。
 そして武器商人である縁は、建物の規模と落ちている武器の質がほぼ比例していることに気がついていた。
 はっきり言って縁に銃や爆薬はあまり必要ではないが、あるならあるで使い道はある。みすみす誰かにくれてやることもない。
 なにより人の多い場所なら、緋村剣心も来る可能性が高い。偽善を掲げて人の為などと嘯き、剣を振るうために。

「俺は警察署に行く。他の参加者に合えば伝えろ。人誅をなす、とな。」
「ジン、チュウ……? なんだ、それ……」

 腹を斬られ虫の息の涼馬を捨て置くと、縁は警察署へと向かった。
 縁が涼馬に与えた傷は致命傷だ。だが死ぬまでには時間がある。その間に誰かに会えばそれでよし、縁の存在を知らしめれば剣心にもいずれ知れるだろう。会わずに死んでもそれでよし、元より大した期待はしていない。

「あいつを……殺すな……」

 背後から声がかかる。一度振り返り、答えずに歩き出す。直ぐ先には、まだトボトボと歩いている三風の背中がある。

「ふん。」

 舌打ちをして縁はその後ろに続いた。


485 : 家族ができたよ ◆BrXLNuUpHQ :2022/02/26(土) 08:40:42 nnyLs2sA0



【0130前 繁華街】

【宮美一花@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 ???

【風見涼馬@サバイバー!!(1) いじわるエースと初ミッション!(サバイバー!!シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残り、生きて帰る
●中目標
 応急手当をする
●小目標
 圧迫止血する

【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる
●中目標
 警察署へ向かい緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す
●小目標
 三風について行く


486 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/02/26(土) 08:43:39 nnyLs2sA0
投下終了です。
四つ子ぐらし11巻は来月9日発売です。


487 : 名無しさん :2022/03/01(火) 17:01:13 H5.u.XQU0
投下乙です!
ここ何話かの感想をさせていただきます


>引力
ザ・ハンドを圧倒する累の父強い。カザンの判断力と攻撃力も印象的
マーダー以外の登場人物のやり取りがまさにヒーロー予備軍な雰囲気で良い
苦痛と死が過ぎ去る戦闘描写が、明斗と降奈のやり取りが回想に思えるほど緊迫し惹きつけられました

>パラレルヒストリー
勲と協調できるなど、剣心の柔和な気質がここではプラスに働いたような気がします
蜂蜜男から逃げた光秀の追い詰められっぷりと対象的
剣心も犠牲者増加不可避の状況からの嘆きが、世の中の理不尽を思わせ共感しました
最後のやり取りがカオスかつ抜けたものなのに妙な安心感がありました

>正解は君の The answer A to Z
血鬼術を使う鬼の厄介さが次元を通じて分かる内容
冷静さを欠いてとはいえここまで追い込み、しかも意図せずクローネをけしかけるとは
正体の弱さも含めほんと厄介です
本心は隠しつつも同行者の信用を得ているクローネも原作と同等以上の謀略家になる可能性が見えてある種の頼もしさが
傷つき追われる次元とはぐれたマリナの苦境も目立つ戦闘話でした

>笑うモンテスキュー
登場人物は三人、遺体も三人。サブタイそのものの内容で楽しい
チョロ松×3の痕跡は死してなお形ある困惑を生み出すよなあって納得の話でした
スルメのような味わい深いジョークのような

>悪魔を超えた悪魔
圧巻の関節技描写!いきり立った双葉の怒りも刺激的で生々しさが
容易に崩れない山尾もいっぱしの悪党としてちょっと光ってました
スネリともっけとサスケに共感
技と攻撃性な意味合いで悪魔ですねえ

>燻り
みんな超常での修羅場潜ってるだけに考察面では話が早いですね
疑われているふなっしーに気の毒だけど笑ってしまいます
明莉と遊の信頼関係に眩くも危うい魅力がありました


488 : 名無しさん :2022/03/01(火) 17:04:04 H5.u.XQU0
続きです

>野生児は科学少年を従える
伊之助と合わせられるリクトが真に聡明らしく感心
伊之助も勇猛さだけでない情緒も感じられ安定さが
力の方向性は逆ですが考察面で期待できそう
それぞれの善性が新鮮な輝きを持つ王道的な凸凹コンビでした

>第一回放送
歩美も参加とは。スタート地点で割を食った感じが珍しい
もっと驚きなのが第一回放送の内容
死亡者や大量殺害者への特典もですが主催陣営も色々動いているのが
混沌さをいい意味で際立たせてます
ジン兄貴に発見された歩美の安否が気になる引きでした


>家族ができたよ
一花はどれだけ歩き、涼馬はどれだけ生きられるのか……
マーダー達に翻弄される一般人と対主催の戦士の敗退話でしたが
宮美家の背景や涼馬の素性とが書かれていた事もあり敵わないまでの強さが染みます
縁の背景を描写しなかったのはあえてですね?
涼馬の声がどれだけ届いたのか、一花をつける縁の今後も気になりました


489 : 名無しさん :2022/03/01(火) 17:12:59 H5.u.XQU0
感想終了です
ところで僭越かも知れませんがパロロワwikiの児童文庫ロワのページを更新したいのですが、>>479の新規参加者兼死亡者の中に出典が調べても解らないキャラがいるのでお教え頂けると嬉しいです
一部は分かりましたがこんな感じで……


★園崎詩音@ひぐらしのなく頃に
★風早和馬@世界一クラブ
★日下部まろん@神風怪盗ジャンヌ
★木本麻耶@不明
★春内ゆず@青星学園 チームEYE-Sの事件ノート

★空知うてな@サバイバー!!
★茜崎夢羽@Q探偵ムー
★永沢君男@ちびまる子ちゃん
★広瀬青空@不明
★夢水清志郎@名探偵夢水清志郎事件ノート

★星乃美紅@魔女怪盗LIP S
★宇髄天元@鬼滅の刃
★金田一一@金田一少年の事件簿
★遠藤平吉@怪人二十面相
★江戸川コナン@名探偵コナン


490 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/07(月) 07:03:24 qqVnKWKM0
ものすごくしっかり感想書いてもらって嬉し恥ずかしで笑っちゃうんすよね。
名簿とかwikiの編集とかの面倒くさいことまでやってもらって僕もう大いに感謝ですね。
今後も楽しんでもらえるように頑張ります。
脱落キャラは後から差し替えたり主催の誤報ってことにしたりするかもしれないんでそんな力入れてもらわなくても大丈夫ですが、それはともかく1キャラ誤字があったのでお詫びします。

木本麻耶@ギルティ・ゲーム
茜崎夢羽@IQ探偵ムー
広瀬蒼空@理花のおかしな実験室

青空じゃなくて蒼空でした。
それでは投下します。


491 : 銃声鳴り響く境内と ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/07(月) 07:05:17 qqVnKWKM0



「――なので、一緒にここから逃げる方法を探してほしいんですけど……」
「はい喜んで!」
(え、即答?)
(またロリか……ついてねえなあ。)

 ひきつった笑みを浮かべる少女と、いかにも侍ですという格好の中年男性と、銀髪のリーゼントにサングラスというカタギさのかけらもない男という三人は、寺へと続く石段の下で話し合っていた。
 少女の名前は木本麻耶。この殺し合いに巻き込まれる直前に別のデスゲームに巻き込まれ、死に、かと思ったら生き返り、その時と同じ毒薬入りの首輪を付けられてデスゲームさせられてる前世でなにしたらそんな目に合うんだという感じの小学生である。ちなみにあと一時間後に死ぬ。
 その少女を無表情ながらどこか鼻の下を伸ばして見ている侍は、武市変兵太。宇宙人により開国させられた江戸にて攘夷志士としてテロ活動に勤しむ鬼兵隊の参謀役だ。ちなみにロリコンである。
 そしてそんな二人を呆れた顔で見ているパっと見ヤクザが、岡田似蔵。同じく鬼兵隊にして盲目ながら幕末の人斬りだ。ちなみにこのあと子供の腕を切断する。
 いたいけな少女をテロリスト二人が囲んでいるという事案を通り越してもはやテロとも言える状況だが、そんな彼らは皆少し先にある寺を目指していた。

「麻耶さんもさっきの音は聞きましたか?」
「はい、あの、顔、近いです……このオジサン怖っ!」
「うん、口に出てる。心の声が口に出てる。」
「武市さん、ノータッチつってもアンタが子供の100メートル以内に入るのはセクハラだ。」
「え、接近禁止命令?」

 彼らは皆、少し前に神楽が壊した寺の鐘の音を頼りに寺へと向かっていた。三人とも、これまでの一時間でこれまでほとんど人にあっていない。そこで積極的に動くようになったのだが、似蔵の鋭敏な感覚が麻耶を捉えて彼女を捕獲……もとい保護して今に至る。
 ぶっちゃけ似蔵としては一応上役が児童に対して性的な嫌がらせをしかねないことになるためできれば小学生ほどの女子だけは避けたいと思っていたのだが、なぜかピンポイントでその避けたい女子小学生を引き当ててしまった。

(最初のお嬢ちゃんに、今度のお嬢ちゃん。まさかオジサンは俺と武市さん(ロリコン)だけであとはみんなお嬢ちゃんばっかってことはないよな……?)

 だとしたら最悪である。斬りごたえのある相手はいないのに変態を暴走させる餌だけは豊富とくれば、興ざめどころかどっ白けだ。
 そしてある意味もっと嫌な予想が頭に浮かんだ。変兵太のような変態が他にも多数いる可能性である。
 倫理観の欠片もない無法地帯に、好き者が好みそうな年頃の女子とロリータ・コンプレックスのオッサンを投げ込む。どうなるかは火を見るより明らかだ。


492 : 銃声鳴り響く境内と ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/07(月) 07:06:02 qqVnKWKM0

(それだと俺もロリコン側にカウントされてることになるのか? 嫌だねぇ……)
「無駄話はそこら辺にして、さっさとお寺さんに行きましょうや。」
「むぅ……そうですね。麻耶さんもいいですか?」
「はい、もともと一人でも行く気だったし。」
「わかりました。では、岡田さん、さっきの約束の範囲で消毒をお願いします。」
「わかってますって、ちゃあんと選びますよ、わかる範囲でね。」

 変兵太と麻耶の間に割り込み話を変えると、似蔵は嫌な考えを頭に残しつつ石段を登り始めた。
 最後尾で麻耶の尻でも凝視しているであろう変兵太と、それを感じてぎこちなく歩く麻耶の気配を感じながら登っていく。
 彼女の息から、それなりに体は動くと判断をつけると、似蔵は歩くペースを少し早めた。
 日に焼けた健康的な肌と変兵太が言っていたのを聞く見るに、近頃の子供にしてはちゃんと外に出て運動しているのだろう。そのほうが斬りごたえがあるし、多少変兵太にセクハラされても自分でなんとかするだろう。というか、そこまで面倒を見てやる義理が無い。
 少し似蔵は二人から先行する。だからだろうか、気配が変わったのに気づいた。
 石段の下にいた時から木に殴打でも浴びせているような音がしたが、今度はそこに加えて木が倒れる音が混じった。戦いの気配はない。それが逆に怪しい。

「先行きますよ。」

 言い置くと、似蔵は石段を駆け上がった。少女の声。一人は先ほど取り逃がした少女――ナツメの声だ。

(チっ、ハズレか。)

 内心で舌打ちをする。変兵太との妥協点として、似蔵は少女をなるべく斬らないように約束していた。ただの口約束にすぎないが、それでも後を考えると一応気を使わなければならない。殺すことになるかもしれない相手とはいえ、あんな変質者であるとはいえ、鬼兵隊の頭脳を早々に失うのは面白くない。
 だがそれでも残念な気持ちは変わらない。少しテンションが下がる。が、更に二つ、気配を感じた。
 一つは間違い無く強者。地面を踏み込む音がジャンプキャラのそれだ。ブロリーみたいな足音がした。
 もう一人はこれも強者。殺意と何かよくわからない危険な気配を感じる。身体能力もそうだが、こんな気配を出せる人間はそうはいない。

「なんだよ、いるじゃねえかい。」

 似蔵は一気に駆ける。
 銃声が聞こえた。
 少女の悲鳴が聞こえた。
 似蔵の中でギアが上がる。
 駆け上がった石段の先では、恐るべき勢いの踏み込みをする音と、拳銃を二丁ほぼ同時に撃つ音が響いた。

「ほう。」

 弾丸は、何かにぶち当たっている音がした。おそらくは防弾チョッキか何かだろう。人間の肉を撃った音では無い。そしてもう一つ銃声、子供の驚く声。どうやら先の踏み込みは子供がやったようだ。男か? 女か?

(どっちでもいいか、斬ってから顔と股間を潰せばバレねえだろ。)
「なっ! もう一人!?」
「俺も混ぜろよ。」

 岡田似蔵の居合い斬り。
 手応え、あり。

 笑みを浮かべる似蔵の耳に、子供の悲鳴が聞こえた。


493 : 銃声鳴り響く境内と ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/07(月) 07:06:39 qqVnKWKM0



「捕まるネ!」

 神楽は自分の上空から拳銃を向けるタイを見ると、叫びながら横っ飛びに飛んだ。
 ナツメを抱きかかえて寺の境内をゴロゴロと転がる。石畳に体を打つ痛みと別に、足に焼けるような痛みが走った。
 乱射されたうちの一発の銃弾が神楽の足を撃ち抜いていた。

「後、ろ……」
「舌噛むヨ!」

 胸の中でナツメがそう言って、落ちる。戦闘民族・夜兎の身体能力からくる急加速によるGは、ナツメを失神させるには十分なものだった。しかし神楽にそれを気遣う余裕は無い。足の痛みと目の前に現れ猛スピードで距離を詰めてくる子供、タイ。
 なんとか片足で飛び寺の縁側へと飛ぶ。目指すのは神楽の傘だ。夜兎の膂力に耐えうるそれは単なる日傘ではなく充分な凶器である。
 だが、それをわざわざ見逃すタイではない。弾切れした銃を投げつけながら新たな銃を出し、更に加速して距離を詰めながら両手で構えた引き金を引く。

(間に合わない――)

 片足だけのステップよりも両足での踏み込みが速いのは道理、タイの接近の方が神楽が傘を手にするよりもなお早い。
 だがそれでも神楽は目を銃口から背けない。タイが発砲する。銃口はブレている。拳銃の撃ち方も素人だ。近距離で撃たれたが弾丸は神楽を掠めるだけ。それを見て神楽はステップを踏もうとした。
 間に合う。そう思った神楽の足から力が抜ける。胸のあたりを狙っていた銃口は下へとぶれていた。足をまた撃たれた、と痛みと共に理解する。

「こん、のおおおおっ!」
「まだ動くっ!?」

 神楽は倒れた体を腕一本で支えてハンドスプリングの要領で飛んだ。夜兎の腕力で強引に姿勢を制御して境内へと転がり込む。片手で減速しつつその手で傘を掴み、その手で畳に手をつこうとして、それはできずにふすまをぶち破り滑る。
 ミシっと首から嫌な音がした。その意味を知るより早く、神楽は両手で傘を広げる。目の前にはまた拳銃を取り出したタイがいた。

「死ねっ。」
「お前がなっ!」

 同時に、発砲した。
 夜兎の傘は仕込みマシンガンになっている。傘の布も防弾性が高く、ただの拳銃程度ならば近距離からでも撃ち抜かれることなどない。
 神楽はそれを知っていたから傘に執着し、タイはそれを知らなかったから無警戒に距離を詰めた。自分のスピードと不慣れから銃をゼロ距離で撃とうとして、突如傘から飛び出た銃弾に対応しきれなかった。

「な、にぃっ!」


494 : 銃声鳴り響く境内と ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/07(月) 07:08:00 qqVnKWKM0

 奇跡的な反応だった。マシンガンが単発でしか発射されなかったこと、神楽が普段銃を撃たないこと、神楽が撃つ寸前にタイを目視できなかったこと、タイが高速で移動していたこと、幾つもの要因がタイに幸運に働いた。
 弾丸はタイへと迫るが、それは腕を撃ち抜くにとどまった。驚愕によりタイのステップが乱れ、神楽を飛び越して寺の中へと飛んでいく。仏像にぶつかり、砕き、咄嗟に丸めた背中を強かに打ちつけてようやく止まった。同時に立ち上がりもと来た軌道で寺の外へと出る。再び神楽の上を取らんと、構え直された傘を足蹴にして飛んだ。傘のガードが下がりがら空きになった神楽の顔面にたまたま膝が突き刺さる。神楽にとっては予想外の一撃は、タイにとっても予想外のものだった。姿勢が空中でブレる、失速する。それでも無理やり空中で神楽の背中を向き、直後に後ろを振り返った。空中で飛ぶ際に一瞬見えた人影を二度見した。まさか、と思う。目の前には怪しげな風体の男――似蔵がいつの間にかいた。

「なっ! もう一人!?」
「俺も混ぜろよ。」

 似蔵の神速の居合いが迫り、タイは自分の腕が宙を舞うのを呆然と見送った。
 速い。かわせない。首だけ後ろに向けてるのにそんなすぐには動けない。うず目の超動体視力と超運動能力でも、わかっているのに避けられないものはどうにもならない。反射的に腕を顔の前に掲げのけ反ろうして、腕が斬られた。

(う、腕が、腕が飛んでいく、拾わないと。)

 反射で舞う腕を掴むと、自分の傷へとくっつけた。理由はない。元々そこにあるからそうしただけだ。ただタイは呆気にとられてしまい、そして見た。

 にぃ。

 似蔵の口が獰猛に笑うのを。

「わああああああああっ!」

 再び放たれた居合いをかわせたのは全くの偶然だ。
 タイは神楽もナツメも無視して、というか考えることなどできずに駆け出した。
 その心にあるのは目の前の男、似蔵への危機感と恐怖心だけだ。
 第三の目に目覚める前に味わった孤独や暴力を最悪の形で思い出させる、圧倒的な殺戮の空気。それは記憶の中のものよりなお鮮明に、今までのものより最も恐ろしくタイの心を凍らせた。
 タイは自分の斬られた腕がすでにくっついていることも、それを付けた腕から血が流れていることも気づかずに、境内を駆け抜けた。あまりの切断面の美しさと伝説の子としての高い妖力は刀傷を即座に再生した。握力こそまだ戻らないが、直ぐにでも完全に力を震えるだろう。撃たれた腕は妖力任せの再生では厳しいものがあり、これも力は入らないはずだが、タイは気にせずどちらの腕も大きく振って駆けた。

「ぐはあっ!」「へぶっ!」
「ああっ!?」

 境内を出て石段を駆ける。と何かにぶちあたった。バランスを崩して石段をゴロゴロと転がる。頭を打ち、脳が揺れ、転がり落ちるのを止められない。いくら見えて動けてもそれを処理する頭が潰れればどうしようもない。
 それでも転がり落ち終わると即座に立ち上がり駆け出したのはさすがの生命力か。ひたすらまっすぐ走り、アスファルトを家の屋根を、建物の屋上を駆けていく。
 自分がどこに向かっているのかもわからないまま、タイは住宅地へと消えた。


495 : 銃声鳴り響く境内と ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/07(月) 07:09:01 qqVnKWKM0



 安土流星は目の前で起こった一瞬の出来事に構えた銃を下ろしていた。
 時間にすれば、ほんの数秒だった。
 空中で何かが発砲し、チャイナ服の少女と黒い影が寺に転がり込んできて、黒い影が走り去ったと思えば境内には血の付いた日本刀を持った男がいた。
 なにが起きたのか、わからない。
 辛うじて目で追え、脳で処理できた情報から得られた答えがそれだった。

 今までも魔女怪盗絡みの事件では様々な超常的な事態が起きてきた。それらはある程度は科学技術によるものだとの推察が立っている。しかし、これは違う。自分が見たものが正しければ、明らかに人間が超スピードで動いていた。しかも数人。

(幻覚とはもはや思えない。なら、なんだ? 一度病院で診てもらったほうがいいかもな……)
「速えなぁ。夜兎より速いんじゃあないかい。なあ、お嬢ちゃん?」
「動くなっ!」
(――体が勝手に。)

 自分の正気をいよいよ疑う流星だったが、男が少女へと話しかけながら刀を向けたのを見て、気がつけば飛び出していた。
 取り落とした銃を構えて、少女たち――神楽とナツメの前に立ちはだかる。
 それを瞳を閉じて面白そうに見る似蔵に、流星は戦慄した。

「目を閉じている。盲目だと……」
「おや、なんでそう思った? ただ目を閉じてるだけかもしれねぇよ?」
「……お前は先から、一度も目を開けていない。俺の目が正しければな。」
「驚いたねぇ。目がいいんだな兄ちゃん。でもよぉ、タマはもっとどっしりしてなきゃ宝の持ち腐れだぜぇ。」
「動くなっ!」

 楽しそうに歩み寄る似蔵に、流星は上ずった声で警告する。それにまた、動揺する。ここまで間近に迫った死というのは、今までの捜査でも数えるほどしかない。
 自然と似蔵の一挙手一投足に気が行く。男がゆっくりと納刀したのに安心よりも恐怖が増し、銃口の震えが一際大きくなった。

「……やめだ。ちょいとたんま。」
「なにっ?」
「たんまだって。なんか嫌な予感がする。」

 銃口を額に触れるほど間近に近づいて、似蔵はそう言うと背中を向けた。
 そして石段へと走る。それを見送る流星の頭には困惑しかない。先から自分の警察としての、人間としての常識を覆すことが起こりすぎている。
 だがそれでも、義務感として男の背中を追って駆けた。自分では確実に殺されるだけだが野放しにはできない。そう感じながら石段の上で立ち止まった男に追いつくと、流星の目が見開かれた。

「やられた。行き掛けの駄賃か、単なる交通事故か……こどもの飛び出し注意ってね。」
「大丈夫かっ!」

 似蔵のことなど放っておいて流星は走った。石段の途中で侍のような男性が頭から血を流して倒れている。血の帯が伸びる石段を駆け下りると、侍が少女を抱えているのが見えた。少女の胸からは折れた肋骨が服まで突き破っている。口からは血を吐き、男女ともに意識はない。
 救急車と言おうとして、流星の口が止まった。救急車、あるのか、ここに?

「武市さん……まさかこんなお別れになるとはねぇ……まあ、残念っちゃ残念です。」
「まだ死んでいない、知り合いなら手伝え。」
「知り合いっちゃ知り合いですけど、大方石段転げ落ちたんでしょう。意識もねえならお手上げだ。それとも兄ちゃん医者かい?」

 殺気はなくなったが似蔵の言い方はドライなものだった。流星は歯噛みする。男が言外に言うように、自分ではどうしようもできない。

(どこまで役立たずなんだ俺は――)

 無力感に苛まれる。
 それでも止血を試みる流星の気配に、似蔵は見えない目を向けた。


496 : 銃声鳴り響く境内と ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/07(月) 07:09:37 qqVnKWKM0



【0120ぐらい 住宅地と森の境の寺近辺】


【武市変平太@銀魂映画ノベライズ みらい文庫版(集英社みらい文庫)】
●大目標
 ???

【木本麻耶@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 ???

【岡田似蔵@銀魂映画ノベライズ みらい文庫版(集英社みらい文庫)】
【目標】
●大目標
 殺し合いをさっさと終わらせる
●小目標
 なぁんか、白けちまったな……

【天野ナツメ@映画 妖怪ウォッチシャドウサイド 鬼王の復活(妖怪ウォッチシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 ???

【神楽@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 バトルロワイヤルとその主催者を潰す
●中目標
 首輪を外せる人間を探す
●小目標
 助けた女の子(ナツメ)と出てきた男たち(似蔵・流星)と話す

【タイ@妖界ナビ・ルナ(5) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する
●小目標
 ???

【安土流星@小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める
●小目標
 侍(変兵太)と少女(麻耶)の救命処置を行う


497 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/07(月) 07:10:21 qqVnKWKM0
投下終了です。


498 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:02:33 d2HfF1tw0
去年立った企画も今年立った企画も好調でオラワクワクすっぞ。
投下します。


499 : 警察に行こう! ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:03:44 d2HfF1tw0



 いやいや悪い冗談でしょ。
 そりゃ何度もお世話になった場所だけどさあ。

「殺し合えって言われて気づいたら警察署ですか……シャレがきいてるのか何なのか……あっ、いいお茶使ってる。」

 デスクや床に銃やら手榴弾やらがでーんと座っている部屋の中で、私、園崎魅音はお茶をすすっていた。
 生活安全課の課長さんのらしい椅子に座って、おせんべいと一緒に口に入れる。うん、こっちはいまいちだな。醤油がくどい。
 さて、なぜ私がこうしているかって言うと、そりゃもうパニックだからですよ、ええ。
 こう見えても私、園崎魅音は園崎家の次期当主でして、その園崎っていうのは、いわゆる「ヤーさん」なわけで、まあ人殺しにも無縁じゃないですよ。言っちゃなんだけどオカルトな噂のある村で本当に人殺しちゃってる一家だし、地元の社会では表も裏も名が知れてるわけですし、殺し合いってことには、まあ、かなりビビってはいますけどわからなくもないんですよ。
 だから私は、人は人が殺すって思ってました。本当に怖いのは鬼よりも人だって。
 でも違いました。鬼、出てきました。
 うちの村ではオヤシロ様っていう鬼みたいなのが人殺すとか攫うとか噂になってて、それはうちの家がやってることなんだけどなあって思ってたんですけど、本物の鬼いました。これどう受け止めるのが正解なの?

「鬼って実在するんだねえ。あんなマスコットみたいなのとは思わなかったよ。」

 デスクの上に置いてあったタバコから一本咥えて、これもデスクの上に置いてあったライターで火をつけます。うん、マズい。臭い煙が肺の中に入ってきて、すぐ灰皿で消しました。
 そのまま酸欠になった頭でぼーっと壁を見ます。掛けてある時計は0時半を指していました。30分ぐらいこんな感じでぼーっとしてたんですね。時間無駄にしすぎだろあたし。
 さて……

「夢かなって思ったけどぜんぜん覚めないな……ははっ、どうしよ。これがオヤシロ様かぁ……」

 ……どこからか聞こえてくる銃声が次第に連射されたものに変わって、音のバリエーションも増えた。銃撃戦が起こってるな、こりゃ。
 いくら現実逃避したところで私の見えないところで殺し合いは起きてて、そのとばっちりがいつ飛んできてもおかしくない場所に、私はいる。
 それでも急須からお茶を注いですすっていると、手榴弾でも爆発したような音も聞こえてきた。

「お茶なくなっちゃった。オシッコ行こ……」

 多めに入れたはずの急須からはもう一滴もお茶が出なくなって。尿意を感じてトイレに立つ。こんなにトイレに行きたいのにトイレに行きたくないって思うの、なかなかないよ。
 あー、本当に。

「殺し合いとか、したくないなあ……」


500 : 警察に行こう! ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:04:23 d2HfF1tw0


 トイレから戻ってくると、外で煙が上がっているのが見えた。手榴弾とは違う爆発音が聞こえたし、たぶんそれだろう。別の部屋にはバズーカや迫撃砲まであったから驚かない。なわけないな、驚くわ。そんなのを打ち込む奴にも、打ち込める奴がいたことにも。

「これって、私みたいな筋者を参加者にしたってことなのかな? そういえばあの鬼が喋ってるときになんか侍みたいのがいたような……あぁもう! 頭重いし喉痒いし、オジサンには手に負えないよ、はぁ……」

 おちゃらけてもため息してみても応えてくれる人は誰もいなくて。硬いコンクリの壁とか床に反響してるんじゃないかってぐらいしんとしている。
 やってられないなあ。
 でも、やらなきゃなぁ。

「……よし、現実逃避終わり。」

 と言ってみたけれど、何をすればいいのかがわからない。世の中の人ってさ、殺し合いに巻き込まれた時に何すればいいのか知ってるもんなのかね? これが知ってる人や知ってる場所でもあればそれ目印にしようってなるけど、知らない街で知ってる人いないならどこにも行きようがない。ん? 待てよ、ならここで誰か来るの待ってればいいじゃん。警察署なんだから人集まってくるでしょ。魅音さんかっしこーい。
 ここから動かない理由ができると気が楽になった。だってさ、私がお茶してる間に実は巻き込まれてた詩音や部活メンバーが死んでましたじゃやりきれないもん。手がかりがなんもなくて探しようが無かろうと、それは嫌だ。嫌でも、そうなる可能性が少しでもあるなら考えなきゃならない。だから、ここから動かないことが最も誰かと会える可能性が高いって理由がほしい。ここ警察署が雛見沢のみんなと会える最多の可能性を私にくれる場所だって信じたい。
 ……嘘だ。信じたい。でも、誰とも会いたくない。一番誰かと会える場所で誰とも会えなければ、私以外に巻き込まれてる人はいないってことだから。
 銃声とか爆音とかから、私以外の参加者がいるってことはわかってる。その人たちに私の知っている人がいてほしくない。

「誰か来た。」

 私は自分でも引くぐらい冷たい声でつぶやいていた。刑事ドラマみたいにブラインドを指で折って外を見る。見間違えじゃない、二人来た。髪の長い女と、小柄な……っていうかあの背格好って……嘘でしょ……

「圭ちゃん?」

 撃鉄を起こす。
 ヤバい、泣きたい。こんなことってあるの? 会いたくない人が来た。なんでよりによって、知ってる人が巻き込まれてるかな。圭一がいるってことは、レナも、梨花ちゃまも、沙都子もいるかもしれないってことじゃん。
 待て、園崎魅音。それはおかしい。決めつけるな。そうじゃないかも知れない。まずは今やるべきことを考えろ。
 へたり込みそうな膝を立たせて、エレベーターまで走って、停めておいたからすぐ開いたドア入って、ボタン押した。ドジったな、これじゃこの階に誰かいますよって言ってるみたいじゃん。気が回ってなかった、最初に来たのが圭ちゃんで良かった、いや良くない。

「誰だっ!」

 チン、という音と一緒に声が聞こえてきた。聞きたかったけど、聞きたくない声だ。

「圭ちゃん、ビビりすぎだよ。」
「そ、その声、魅音かっ!?」
「よっ、圭ちゃん。」

 私が返事をしながら柱の影から出ると、圭ちゃんはわかりやすく動揺した。


501 : 警察に行こう! ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:05:11 d2HfF1tw0



「傷は深く無いですね、皮膚が削れただけで消毒すれば死にはしないですよ。とりあえず応急処置はこんなもんで。」
「ありがとう、えっと……」
「園崎魅音です。」
「君が? 前原くんが言ってた、部長さんっていうのは。」

 あらかじめ集めておいた救急箱から消毒と止血をすると、私は圭ちゃんと一緒にいた女の人、山田奈緒子さんと話していた。東京でマジシャンをやっている美人な人。
 これは……下心があったね、間違いない。あとで圭ちゃんはシメる。
 それは置いとくとして、気になのは山田さんが東京から拉致られたってこと。雛見沢には来たことないって言うし、オヤシロ様はどうして山田さんを選んだんだ? それともこの殺し合いって、オヤシロ様とは関係ないのかな?
 ダメだ、ぜんぜんわからない。

「なあ、そろそろ入っていいか?」

 部屋の外から圭ちゃんの緊張した声がする。撃たれたところを手当てするのにスカートをめくんなきゃならなかったから追い出したけど、なんか声の感じがおかしいんだよね。いくら思春期だからってそんなに動揺するかね?
 ――動揺するよね、この人助けるために一人殺してんだもん。
 山田さんのスカートを戻すと、「もういいよ」と声をかけた。

「じゃあ、まずもっかい聞いとくけど、本当に他のメンバーとは会ってないんだね?」
「あ、ああ。お前が初めてだ。この、こ、殺し合いが始まって少しして山田さんと会って、そこからずっと二人だったんだよ。ですよね、山田さんっ。」
「ええ、それは間違いないです。」
「魅音、お前も誰とも会ってないんだよな。」
「だね。ずっと警察署にいたけど、初めてあったのが圭ちゃんたちだよ。」

 ここまでは会ったときに聞いたこと。ここからが、本当に聞きたいことだ。

「それで、山田さん、聞きたいんだけど、圭ちゃんが撃ち殺したって本当?」
「魅音「圭ちゃんは黙ってて」……」

 これは聞いておかなきゃいけないことだ。
 この人のせいで圭ちゃんが人を殺した。
 この人がいなければ、とは言わないけれど、でも真実は知っておかないと。

「……半分、本当です。二人で話していたら銃撃戦に巻き込まれて、建物に隠れたら撃ち合っていた家からミサイルみたいのがマンションに撃ち込まれるのを見て、そこから逃げてきたこどもが銃を持っていて、それで、ズカンッ!と……」
「圭ちゃん、合ってる?」
「あ、ああ! 二人でいたら突然誰かに撃たれたんだ。そうしたら、目の前で撃ち合いが始まって、通りがかったバイクも撃たれて、マンションの下のコンビニに突っ込んで、その後バスーカでマンションが爆発したんだよ。そうしたら、人質に銃を突きつけてたこどもが出てきて、俺達の方に銃を向けたから、それで殺されるって思って!」


502 : 警察に行こう! ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:06:15 d2HfF1tw0

 ……なにか、噛み合わない。
 二人が言っていることはだいたい一緒だけど、微妙に違う。
 山田さんは冷静すぎる。だから怪しい。自分が撃たれた割に落ち着きすぎてないかな。いくら東京の大人だからって、殺し合いに巻き込まれたらふつうもっと動揺するもんでしょ。肝が座りすぎてるんだよね。ひょっとして同業者?
 逆に圭ちゃんはパニックになり過ぎてる。めちゃくちゃ首かきむしってるからちょっと血が出てるし。私も、誰かを殺せばあんな風になるのかな。あ、なんか私も首かゆくなってきた。

「圭ちゃん、山田さんが撃たれたのって、銃撃戦が起こってたときだよね?」
「そうだけど、それがどうしたんだよ?」
「うーんいや、二人の話聞いてたら頭こんがらがってきちゃってさ。えっと、銃撃戦で撃たれて、それから二人でマンション見てたら爆発して、で、マンションから銃を持ったこどもが出てきて、それを圭ちゃんが撃った。ていう感じで合ってる?」

 私の質問に二人は肯定した。
 なるほど、これは……

「よし、わかんない!」
「なんだそりゃっ!」
「いやーダメだねー、どっかの刑事の真似してみたけどピンとこないわ。」

 ……これ以上聞くのはやめとこう。たぶん、ここからは二人の話は決定的に噛み合わない。マンションで撃ち合ってるのがそのこどもだったのかとか、気になるところがいくつもあるけど、二人だってわからないと思う。特に、そのこどもが圭ちゃん達に銃を向けたか、とかは。
 本当に銃を向けられたなら、撃ち負けてる気がする。だから先に撃ったのは圭ちゃんだと思うんだけど、人を抱えたこどもなら、撃ち勝てても不思議じゃない。そもそも銃を向けられてなくても、マンションから撃ってきたなら殺し合いに乗ってるんだろうし、それを圭ちゃんが撃っても、こんな場所なら正当防衛じゃない?
 もし、仮に、圭ちゃんがパニックで、こどもに銃を向けられたと勘違いしたとしても……
 ……やめよう、やっぱり。それなら、アウトだ。

「なあ、魅音。俺も聞きたいことがあるんだ。」

 私が黙ったからか、圭ちゃんはそう言うとダム工事について聞いてきた。
 なるほど、あっちと結びつけちゃったか。山田さんの前だけどしょうがない、ハッキリ言っちゃおう。

「ダム建設の最中に、工事の現場監督が死んだって、その……」
「気づいちゃったか……隠しててゴメン。雛見沢が危ないとこみたいに思われたくてさ。こんな時だし、私もいつ死ぬかわかんないから、本当の事を言うよ。」
「そんなこと言うなよ! どうしたんだよ魅音、なんか変だぞっ。」
「そうかな、そうかも……」
「そうだよっ! それに「ちょえいっ!」うおおっ!?」

 突然、山田さんが圭ちゃんの脇腹にチョップした。「園崎さん、その話詳しく聞かせてもらえますか?」って話を戻してもらえて、私は続けた。
 ――でもなんだろう。なんか、嫌なんだよね、この人。なにかが、なにかが引っかかる。
 理屈じゃなくて、女の勘っていうのかな、自分でもよくわからないけど、好きになれない。悪い人じゃなさそうなんだけどね……

「何年か前、ダムの建設工事の話が持ち上がったんです。もしダムが作られたら、私たちの住む雛見沢はダム湖に沈むことになる。だから村人みんなで反対運動をしました。そのかいあってダム建設は中止されたんですけど――不審死と行方不明者が出た。」


503 : 警察に行こう! ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:07:00 d2HfF1tw0

 それから私は話せるところだけ話した。毎年一人が死んで一人がいなくなること、鬼隠しのこと、オヤシロ様のこと。
 こんなこと話してても意味無いなんてわかってるけど、でもどんなことでもいいから雛見沢のことを話していると少しだけでも心が落ち着くような気がした。圭ちゃんが落ち着いて聞いてくれてるのもあるのかな。
 一通り話し終わると、圭ちゃんは「よくわかんねえけど、とにかくこの殺し合いとは無関係なんだよな」って優しい言い方で言った。

「うん、それは間違いない。私も最初もしかしてって思ったけど、こんなに武器買うあては園崎にないし、そもそもそういう路線じゃないし。いくらなんでもバスーカなんて買い付けて日本に持ち込むことができるヤクザはいないもん。」
「じゃあ、オヤシロ様は。」
「オヤシロ様なら一人が死んで一人がいなくなるから、私たち二人とも殺し合いに巻き込むってのは違うと思う。それに山田さん入れたら三人だし雛見沢と無関係だし。あと、さっき変なウサギみたいのが殺し合えって言ってたけど、聞いてたオヤシロ様とだいぶ感じが違うんだよね。なら誰がこんなことやってるんだってなるけど……」

 自分で話してて納得した。私が見ただけでも中隊規模の小銃に、圭ちゃん達が見た武器。どう考えてもヤクザとかに用意できる量じゃない。なら政府? 無理だ。ここに落ちていた小銃は64式やAK以外にもカタログで見たチェコ製とか西ドイツ製とかのもあった気がする。見たのアメリカ行った時に一回だけだからあんま憶えてないけど、かなり色んな国のがある。となるとやっぱり、誰か、だよね。

「二人とも、ちょっといいかな?」

 考え込んでいると、山田さんがなんか強い言い方で割り込んできた。

「なんですか?」
「あの、煙がこっちにも回ってきてます。」
「ゲッ!?」

 圭ちゃんの顔を見て窓の外を見ると、うわ本当だ、煙ってあんな出るのってぐらい黒い煙がモクモク上がってる。
 風が無いから真上に登ってるはずなのに、警察署とマンションの間のビルの壁が黒くくすんでいるように見える。

「これはちょっと、ヤバいかもね。」
「魅音どうする?」
「どうするって、逃げるしかないでしょ。そうだ、パトカーもあるしそれで逃げちゃおう。山田さん車運転できます?」
「……」
「山田さん?」

 山田さんは遠い顔をしていた。

「……もしかして、免許もってないんですか?」
「……東京って、公共交通機関が発達してるんですよね……」
「……ハァ。じゃあ私が運転します。」
「あざーっす! やっぱりそういう業界の人って高校生で免許取るんですね。」
「私中学生ですよ。」
「無免許運転! え、ちょっと待って。」

 視線が下がった。
 顔から、胸に。

「どこ見てんですかっ!」
「これで中学生……犯罪だろ……」
「圭ちゃんも見ないっ!」
「みみ、見てねえよ!」

 三人の目がガッツリ胸に向いてるんですけど! なんだろうねこの胸を見られたときの気配って。
 ……ん? 三人?


504 : 警察に行こう! ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:08:26 d2HfF1tw0



「あ……バレた。」

 アリス・リドルこと夕星アリスは、首輪から鳴る警告音に急かさせれて鏡から飛び出た先で魅音と目が合った。慌てて近くの別の鏡に飛び込むと、急いで他の鏡からまた外に出る。そこにいたのはいかにも浪人といった感じの男と、オレンジのジャージに金髪の少年だ。

「ごめん……バレた。」
「ドンマイドンマイ! 無事でよかったってばよ。」
「うん……中学生が二人と、若い女の人の、三人いた。」

 ニコニコと出迎えた少年の名前は、うずまきナルト。浪人の男の名前は石川五右衛門という。そんな二人の出会いは――


「やべっ、影分身の――ぐへっ!」
「安心しろ、峰打ちだ。」

 今から小一時間前、ちょうど圭一が新庄ツバサを射殺した頃に起こった戦闘だった。
 ナルトも五右衛門も、殺し合いが始まって目指した場所は警察署だった。忍者と怪盗にはどことなく思考回路が重なる部分があったからかそれともただの偶然か。そこで道を歩いていたナルトを五右衛門が見つけて声をかけたところナルトは咄嗟に手裏剣を投げていた。
 五右衛門の持つ侍としての剣気。波の国で戦った侍達とは比べ物にならない、再不斬並の威圧感。それが反射的な攻撃の原因だった。
 そしてそれほどの格があるのならその後の結果は必然。印を結び術を発動するより早く五右衛門の当て身がナルトを悶絶させることになった。
 痛みだけでは無く、恥ずかしさでも。

「ビビって手裏剣投げて返り討ちとか、メチャクチャ恥ずかしいってばよ……」

 穴があったら入りたいとはこのこと。五右衛門は話してみたらちゃんとした人だった。逆の立場なら殺してても仕方のないことをしたのに、自動販売機を「またつまらぬものを切ってしまった」とか言いながら壊して水を飲ませて落ち着くまで介抱までしてくれたりと、強さ以上に人間としての格の差をナルトは見せつけられた。もちろん、殺し合いにも乗っておらず、あまつさえ警察署までの護衛まで提案してくれるほどだ。忍者としてのプライドはボロボロである。
 もっとも五右衛門としてはナルトに聞きたいことがあるから捨て置かなかったという事情もあるのだが。

「ナルトと言ったな。いくつか質問に答えてもらえるか。」
「オッス! オレに答えられることならなんでも聞いてくださいってばよ!」
「あのツノウサギに心当たりはあるか。」
「ツノウサギ? あのさっきの変なウサギのこと? ぜんっぜん! あんなヘンテコなウサギ初めて見たってばよ。」
「そうか。なら、ツノウサギに襲いかかった者たちは?」
「うーん……あれ、おっかしいな、よく憶えてねえってばよ。えっとえっと、たしかヘンテコな頭の兄ちゃんと、黒い服の侍がいたよな。ゴメン、どっちもわかんないってばよ。」

 収穫はゼロだ。元から期待はしていないが、先の手裏剣術や反射神経からただの子供では無いと思っていただけに少し失望する。
 五右衛門は他の人間に話を聞くことにした。


505 : 警察に行こう! ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:09:01 d2HfF1tw0

「そこの者。聞いていたように我々は殺し合う気は無い。お前もその気なら姿を見せろ。」
「? 五右衛門のオッチャン、誰に言ってんの。」

 ナルトの言葉に応えるより早く、先程五右衛門に切られた自販機の破片が動いた。ギョッとして駆け寄り覗いたナルトが「なっ!?」と驚きの声を上げる。自販機の商品パッケージが並ぶプラスチック部分から女の子が『生えている』。それは奇しくも、ナルトが先日波の国で戦った忍・白の魔氷鏡晶とそっくりの光景だった。

「すみません……服が引っ掛かってしまって……抜けません。」
「出れねえのかよ……」

 ……嵌まりこんでるのは大きく違ったが。
 ナルトが破片を持ち上げてやり、五右衛門がビスクドールのような服のフリルから引っかかっている部分を外しつつ体を支えてなんとか少女が鏡の世界から這い出る。この這い出た少女こそ、アリス・リドルこと夕星アリスであり、彼女を交えた三人でそれぞれの常識や世界の違いを話し合い、警察署に移動して――


「伏せろっ。」

 階段から転がり落ちてきた手榴弾を五右衛門が拾い上げ投げる。
 ナルトがアリスを押し倒して直ぐ、手榴弾は起爆した。

 アリス達は仲間と情報を求めて警察署に向かった後、中に人が居る可能性からアリスが偵察に行くことを名乗り出た。
 アリスの母親の家系が代々受け継いできた魔法の指輪は幸い没収されることはなく、そのおかげで彼女は鏡の世界へと入ることができる。しかし本来は単に移動するだけでなく様々な用途があるのだが、この殺し合いでは鏡の中は単に元の世界の鏡写しになってしまっていた上に、入っていると首輪から不穏な警告音が鳴り響くようになっていた。
 その制限を確かめる意味も含めてアリスは偵察に行った。結果は、鏡の中では時間がゆっくり進むため擬似的な瞬間移動として使えるのは変わらなかったが、警告音が怖いので10秒ほどしか入れない上に鏡の中の世界が普段と違うためかなり使用感は異なる、というものだった。特に、本来なら割と苦労なく鏡から鏡へと移動できるのを、ここでは10秒以内で走って行ける鏡しか使えないというのはかなり不便である。そのせいで、鏡の中から戻りまた別の鏡に入り込むでの間に魅音たちに見られてしまった。決して魅音の胸に格差を感じて足が停まったわけではない。
 ちなみに今、アリスは押し倒されたナルトに胸を鷲掴みにされている。

「ナルト、アリスを連れて隠れろ。」
「オッス! リドルちゃん、こっちだ。」

 気づかれなかった。切ない。

「リドルちゃん、大丈夫だったか?」
「うん……ちょっと、胸が痛い。」
「打っちまったか? 悪ぃ、庇うの遅れちまって。」
「……大丈夫、へいき。」

 全くナルトに悪気がないのがまた寂しい。どう見ても胸を触ったことに気づいてすらいない。変に意識しても悲しくなるので顔を上げる。と、自動ドアの先に人影が見えた。


506 : 警察に行こう! ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:09:40 d2HfF1tw0

「ん? 何見て……」

 アリスが背後を見ていることに気づいて、ナルトは振り返った。すると、数人のこども(といってもナルトと同い年ぐらいだろう)が、警察署の前を横切るところだった。
 アリスとナルトは直ぐに隠れた。少しして、自動ドアの開く音がかすかにした。

「一回通り過ぎちゃったな。霧濃すぎだろ。」
「やっと休憩できる……」
「さっきなんか爆発しなかったか?」

 ガヤガヤと入ってきたのは、3人の少年だった。アキラ、マキト、リョウタロウのマンションにRPGを撃ち込んだグループである。
 彼ら3人は、現地でクラスメイトの聖司を探すために別れたゲンと再開を約束すると、警察署へと助けを求めにやってきた。マンションからの反撃を避けるために大きく迂回して警察署へと向かうことになった彼らは、ほぼ同じタイミングと位置から同じく警察署を目指した圭一と山田のコンビに遅れること30分経ってたどり着いたのだ。

「リドルちゃん、アイツらがさっきの?」
「ううん、違う。」

 ナルトから見ると、3人は忍とは思えない立ち振る舞いだ。忍びでもないのに自分と同じように巻き込まれたとなれば守ってやりたいと思うのが人情である。
 あと、アリスの前でいい格好をしたい。同じ班のサクラよりもかわいい女の子を前にしてにズタズタにされた忍者としてのプライドがちょっぴり持ち直していた。

(五右衛門のおっちゃんが戻ってくるまでに名誉返上だってばよ!)

 気合一発、ナルトは意気込むと廊下の角から姿を見せた。

「すみません、誰かいませんか?」
「おう! ここにこの木の葉隠れのうずまきナルトが――」

 言いかけて、ナルトは慌ててクナイをホルスターから抜き出し投げた。
 「伏せろ」というナルトの叫びと、3人の悲鳴と、床を転がる音が同時にする。それから一瞬置いてナルトとアリスの耳に爆発音――対戦車ライフルの銃声が届いた。

「お前ら隠れろ! 着けられてるってばよ!」
「まずい、挟み撃ちだ!」「撃て撃て!」「手榴弾を投げるぞ、みんな!」
「なっ!? こっちに撃ってくんじゃねえ!」

 銃というよくわからないが危ない忍具を3人の背中に向けていた怪しい男。その存在に一番早く気づいたナルトはとっさにクナイを投げて牽制を図った。
 だが彼の誤算は2つある。1つは、銃というものは彼が知るクナイや手裏剣の投擲よりも圧倒的に速度が速いこと。そしてもう一つは、ナルトは3人を助けようと思って3人の後ろにいる男を狙ったのだが、3人からしてみれば突然現れた金髪ジャージのヤンキーに何かを投げつけられた挙句に後ろから銃撃されたと判断したことだ。

「なんでこうなるんだよ〜!」
「いたぞ、金髪の二人組だよ!」

 ナルトはアリスの手を引いて走る。通り過ぎた壁には、助けようとした少年たちから弾丸が浴びせられた。


507 : 警察に行こう! ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:10:08 d2HfF1tw0


「子供が四人か……少ないな。」

 一方、3人を撃とうとした男、雪代縁はつまらなそうな顔をしながら悠々と撃ち抜かれて砕けた自動ドアを踏み越えて警察署へと足を踏み入れた。
 交番で風見涼馬に致命傷を与えた彼はその後宮美三風を捨て置き、目的地にした警察署へと直行した。赤い霧は彼の超感覚をも惑わせるほどだが、アリスに驚き手榴弾を投げた圭一たちの爆発音や発砲音が適切なガイドビーコンになる。そして丁度先に入っていく3人をを見て殺そうとしたら先の顛末である。

 ここで一度状況を整理しよう。
 現在は1時半過ぎ、警察署には10人の参加者がいる。
 上層階の魅音・圭一・山田グループは、鏡から出て鑑へと入っていったアリスを見て、警察署内の偵察と不審な場所への牽制を開始した。
 その牽制の一環で転がってきた手榴弾を処理した五右衛門は、上層階に人がいると踏んで対応へと向かう。
 五右衛門と別れたアリス・ナルトは1階でアキラ・マキト・リョウタロウのグループに遭遇した。ナルトは3人を撃とうとした縁に牽制を仕掛け、3人はアリスとナルトへと牽制を行う。
 誰一人として警察署内の状況を把握できないまま、同じ建物内の2ヶ所で一触即発の状態となった。
 銃を向け、爆弾を投げ、刃物を閃かせる9人は全員が殺し合いを否定する者だ。

 そしてそこでただ一人、殺し合いを肯定する雪代縁だけが、自由な立場にいる。
 上層階の4人は彼の存在を知らず、下層階の5人は互いのグループへの対処でそれどころではない。
 火種を作り導火線へと点火した縁だけが、誰からも制限されることの無い自由を手にしていた。

「横と、上か。」

 縁は発達した聴覚で物音を捉える。コンクリ造りの建物で音の反響が強いが、それでも常人離れした感覚は音の出処を掴みとる。
 1つは同じ階での拳銃の発砲音。大方先の3人が金髪のガキを狙っているのだろう、何を勘違いしたか知らないがそのまま殺し合わせておけばいいと判断する。もう一つは上の階からのライフルの発砲音。音の感じからして無計画な乱射ではない。

 縁は考える。彼の目的の最優先は、緋村剣心への人誅だ。この殺し合いにいるのならそれでよし、いないのなら優勝する。

 縁は警察署内を歩き出した。この時の彼の行動が、後の山田・マキト・リョウタロウの死の原因となる。


508 : 警察に行こう! ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:10:31 d2HfF1tw0



【0130後 繁華街・警察署】

【園崎魅音@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第二話 綿流し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 家族や部活メンバーが巻き込まれていたら合流する
●小目標
 鏡の少女(アリス)とか近くから聞こえる銃声とかを警戒する

【山田奈緒子@劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 鏡の少女(アリス)とか近くから聞こえる銃声とかを警戒する

【前原圭一@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 敵(山田以外の参加者)と出会ったら、戦う……?
●小目標
 鏡の少女(アリス)とか近くから聞こえる銃声とかを警戒する

【夕星アリス@華麗なる探偵アリス&ペンギン(アリス&ペンギンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いをなんとかして帰りたい
●小目標
 ナルトと一緒に逃げる

【石川五右衛門@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いからの脱出
●中目標
 アリスやナルトなどの巻き込まれた子供は守る
●小目標
 上層階からの攻撃と一階での戦闘に対応する

【うずまきナルト@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いとかよくわかんねーけどとにかくあのウサギぶっ飛ばせばいいんだろ?
●小目標
 リドル(アリス)を守る

【アキラ@ふつうの学校 ―稲妻先生颯爽登場!!の巻―(ふつうの学校シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 三人で襲ってきたヤンキー(ナルト)を追い払う

【小笠原牧人@星のかけらPART(1)(星のかけらシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 三人で襲ってきたヤンキー(ナルト)を追い払う

【岬涼太郎@無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄(無限×悪夢シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 三人で襲ってきたヤンキー(ナルト)を追い払う

【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる
●中目標
 警察署へ向かい緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す
●小目標
 誰でもいいからまずは殺す


509 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/03/28(月) 07:20:08 d2HfF1tw0
投下終了です。


510 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 00:00:33 mzWAShzE0
投下します。


511 : 退屈は死に至る病 ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 00:02:42 mzWAShzE0



 その男たちは、みな同じ格好をしていた。
 鉛色のスーツに、鉛色の鞄を持ち、鉛色の帽子を被り、その下はツルツルのはげあたま。そして口には、小さな鉛色の葉巻。
 コンクリートのビルを思わせる無機質さが人の形をしたような男たちだ。
 色彩が無く黒か白かの濃淡すらも無い、文字通りの灰色の男たちは、みんな一つの人形のようなものの前に整列していた。

「つまり、この殺し合いを中止すると?」

 一列に並んだ男たちのなかで、真ん中の男が、驚くほどの棒読みでそう言った。まるで機械じかけの合成音声のような、平たい声だ。

「中止ではないロン。やり直しロン。」

 男の声に、なにかのマスコットキャラクターのような声が答えた。そして声にあわせて、男たちの前で、人形が肩をすくめた。
 白と黒の人形は、まるで人間には見えない格好なのに、男たちよりも人間らしい声で、鼻で笑いながら言った。

「ジョーカーとして参加者になってるカイが重症を負ったロン。アイツの周りには積極的なマーダーは置いてなかったんだけど〜殺る気スイッチが簡単に入るヤツもいたんだロン、グレラン打ち込まれてノびてるし、ステルスマーダーにしたかった下弦の壱はくたばるし、つまんなくなったロン。だ・か・ら〜……」

 ニヤリ、と柔らかさを感じさせない、ツルツルした人形の口が大きく三日月形に歪んだ。

「時間を巻き戻しちゃいま〜〜〜す!」

 そういうと人形は、手に持ったいかにもなスイッチを押した。すると、後ろの大きな画面に、デジタル時計が表示される。『06:00:00』という数字が、一秒ごとにカウントダウンを開始した。

「6時間後の7時15分ぐらいに過去に飛ぶようにセットしたロン。もう押しちゃったから今からは変えられないロ〜ン!」
「そうか。それは困ったねぇ。」
「ムム!? またお前、いつの間に現れたロン!」

 せせら笑う、なにかのキャラクターのような人形の得意げな声が、声色とともに驚いたものへと変わった。
 新たに発せられた声の主を探して、人形がキョロキョロと周囲を見渡す。

「ここだよ。」
「なっ、なにっ! どこにいたっ!」

 人形はわざとらしい語尾さえなくなり、慌てて振り返る。カウントダウンが進む画面の前の空中に、その少年はいた。
 灰色の男たちとも、白黒の人形とも違う、白の軍服のような服装に仮面をつけた格好。モノトーンな室内で、その少年だけは色を持っていた。

「ギロンパ、困るなあ、勝手にゲームをリセットしちゃ。」


512 : 退屈は死に至る病 ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 00:05:27 mzWAShzE0

 少年はふわりと音もなく空中から地面に降りると、ギロンパと呼ばれた人形に楽しそうに言った。歯ぎしりするような表情になったギロンパとは真逆の、仮面から覗く口元に笑みを浮かべて。
 ギロンパはもともと、デスゲームが趣味だった。未来の世界のネコ型ロボット的存在の彼は、そのためにわざわざ大掛かりな仕掛けを用意して、時には食べ物や武器まで用意して、あるいは石に変えたり急速に老化する薬物の入った首輪を開発したりした。
 だが、ギロンパが趣味と実益を兼ねて主催したギルティゲームは、たった数人の小学生に打ち破られた。疑心暗鬼を煽り、仲間割れをさせ、それでも気がつけば首輪を解除され、挙げ句の果てに爆破する会場に置いて行かれて脱出された。
 だが、それは問題ない。集めた小学生はそういうことができる人間たちだったし、脱出されてもまた誘拐する手はずもあった。なにより、ギロンパは時間を操れる。過去へと戻り、豊富な技術と工業力でひねり潰すことなど造作もない。曲がりなりにもゲームという形である必要はあるが、その範囲内でぶち殺すことなどいくらでもやりようはあった。

 それができない目の前の少年が現れるまでは。

 ギロンパは血眼になって少年の情報を探した。戸籍を調べDNAから血縁関係を探った。だが、何一つとして少年に繋がるものはなかった。
 まったくの空白なのだ。人が人として生きているのなら、必ずどこかでなにかの痕跡がある。それがない。そして、時間を操れる自分すらも及びがつかない謎の力。

(やっぱり間違いないロン! こいつはハッタリじゃなく時間を操れるロン!)
(ふざけるなふざけるなふざけるな! あの空条承太郎も、桃花・ブロッサムも! なんでギロンパ様の世界に入ってくるんだロン!)

 とてつもない過去か、あるいはとてつもない未来か。どちらかはわからないが、ギロンパは少年が自分と同じ時間を操れる人間だと確信した。それが殺し合いを中止しやり直す理由だった。
 帝王たるギロンパの世界に入門し、頭上に現れる不埒者。そんな存在を許しておけない、偉そうに喋りかけてくることに耐えられない。
 ギロンパにとってギロンパが上でそれ以外は下だ。そのトップとボトムの関係は絶対である。
 だから、ギロンパはこのある日突然現れた素性も探れぬ少年の言葉に乗り、この殺し合いを開いた。全ては少年と、彼が取りまきとして連れる灰色の男たちの能力を探り、奪い、抹殺するためだ。
 そしてそのための切り札は見つかった。ギロンパにとっては不本意極まりないが、時間を停められる承太郎や桃花は、少年を殺しうる存在だ。それはもろんギロンパにとっても天敵ではあるのだが、だからこそ有用性が信頼できる。

(コイツも時間を操れるなら、一発で殺しきらないとこっちの狙いに気づかれるロン。空条承太郎が向かってるのは上弦の陸を配置した豪華客船、オープニングとイヤミでもう二回も時を止めてるかもしれないのに、何度も連発されたらコイツも気づきかねないロン。桃花・ブロッサムもあのまま深海恭哉の近くにいられると時間をまた止めるかもしれない。こっちも保護しないとまずいロン……!)


513 : 退屈は死に至る病 ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 00:10:58 mzWAShzE0

 そのためにギロンパは、ジョーカーの氷室カイに危害が及んだことを理由に独断で時間を戻した。
 完全なる建前で、ギロンパとしてはカイも殺す気でいるのだが、近くにいる桃花を保護する理由づけとして最適だった。
 もちろんこれだけでは理由としては乏しいので、更なる口実は用意してある。

「困ってるのはこっちだロン。最初の話なら、知り合い同士でまとまってゲームの参加者にするはずだったロン。なのに、単独参戦が50人も60人もいるってどういうことロン! しかも誰とも合わずにあっさり死ぬとか、何もゲームに残せてないやつもいるロン! お前の人選なんだからなんであいつら参加させたのか言ってみロン!」
「……まいったねえ。それを言われると。一人だけで参加させても面白い子たちだと思ったんだ。まさかあんなかんたんに撃ち殺されたり殴り殺されたりするとはねぇ……」
「次は初期配置だけでなく人選にも関わらせロン! 拐ってきて保存してるおもちゃはたくさんあるロン、そいつらと入れ替えるロン! こっちはプロロン!」

 300人の参加者のうち60人以上は単独参戦だった。つまり2割以上である。これがどういう意味を持つか、ギロンパはよく理解していた。
 基本的にデスゲームは知り合い同士でヤッたほうが盛り上がる。知らない子供二人に殺し合わせるよりも、兄弟や姉妹や親友や恋人同士で殺し合わせる方が見ていて興奮できる。
 だから少年の用意した人選は明らかにデスゲームの王道から外れていた。たしかに不思議な力や一芸に秀でた子供もいたが、それを発揮する前に死体になってしまっては元も子もない。放送で名前を読み上げても、誰も知らないのなら、ニュース番組で流れる殺人事件の被害者の名前ぐらいの価値しかない。
 ギロンパの叱咤に少年の口元から笑みが消えた。

「まあ、もう変えられないならしょうがないか。わかったよ、次は参加者についても話し合おう。じゃあ、僕らは失礼するよ。」

 少年が手をかざすと、灰色の男たちと共に姿が消えた。
 「言うだけ言って逃げやがったロン」とギロンパはつぶやくが、内心では笑いたい気分だった。正論をぶつけられて尻尾を巻いて逃げ出したことで、自分の計画がバレずに進められる。

(でも、あのワープは危険ロン。用意したセンサーやレーダーでも、ヤツが何をしたのかまるでわからないロン。科学じゃなく魔法の力なのかロン? そんな非科学的なオカルトはありえないロン!)
(とにかく、あと6時間殺し合いをあまりやらせないようにする必要があるロン。ヤツにデータを晒すのはリスクが大きい、霧の濃度を高めて参加者が接触するチャンスを減らすロン。規模が大きいから時間戻すのにも時間がかかるから……そうだ、合成映像流してやるロン。ディープフェイクに気づくか試してやるロン……!)

 首輪の中の薬品の一部や、赤い霧の大部分は少年たちが用意したものとはいえ、今回のバトル・ロワイヤルの基本的な部分はギロンパがギルティゲームのために用意したものを流用したものである。都市や会場内に落ちている部品も少年たちへの外注とはいえ、設計もギロンパサイドであり、食品や生物なども仕様はギロンパが指定している。特に監視カメラや種々のシステム・プログラムはギロンパの技術が100%だ。会場内の都市にある監視カメラは全てギロンパが掌握し、それ以外には首輪でのみ参加者の動向を把握できる。そしてその首輪は薬品の一部以外全てギロンパ製だ。
 つまり、ギロンパの命令一つで、主催陣の監視の程度が決まる。
 ギロンパは密やかな意思を込めてコンソールを叩いた。


514 : 退屈は死に至る病 ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 00:16:01 mzWAShzE0



「それで、そのまま帰ってきちゃったの? いいの、アイツの好きにさせて?」
「面白そうだしいいんじゃないかな。ギロンパが何を企んでるか楽しみだよ。」
「あまり遊ぶなよ、『社長』。こちらが時間を操れぬとわかればなにをするかわからない。もっとも、私も参加者の人選には異議があったがね。」

 所変わって、少年は二人の男とテーブルを囲んでいた。
 最初に話した男の名前は、黒鬼。一見すると没個性的ながらも顔の良い、どこにでもいそうでなかなかいないイケメンという印象を周りに与えるが、その名の通りに彼は地獄の鬼である。赤い霧の提供者であり、首輪の薬品の一部の提供者であり、今回の殺し合いにおける人員の提供者であり、別のデスゲームの主催者だ。
 もう一方の少年を社長と呼んだ男の名前は、キャプテン・リン。艷やかな金髪を長く伸ばし豪奢な服装に身を包む若き青年は、まるでオペラの舞台から飛び出してきたような珍奇さとそれを自然と受け入れさせる風格を持つ。ラ・メール星は火の国・フラムの実権を自らの率いる火の鳥軍団をもって握った最高指導者である彼もまた、首輪の薬品の一部の提供者であり、今回の殺し合いにおける人員の提供者であり、そして物質的な用意の大部分のスポンサーである。

「参加者については君たち以外からも文句が出てるんだよね。そんなに変な選び方したかなあ?」
「大人が多すぎないかい? こどもが苦しむ方がみんな興奮するよ。」
「水沢パセリさえ参加者から外すのなら、こちらに言うことはない。彼女は我が国の王女の親類でね。身柄を保護しなくてはならないのだ。」

 そして彼らの前に座り、ポットから紅茶をついで飲む仮面の少年。その名前は、大形京。黒魔法の使い手であり、灰色の男たち・ギロンパ・黒鬼・リン、そしてこの場にいない全ての主催者を引き合わせた、黒幕である。
 変身・窃視・読心・洗脳・墓暴き・瞬間移動・時間停止……幼少よりその魔力に目をつけた魔女の虐待ともいえる英才教育により身につけた数々の黒魔法は、殺し合いを開くにあたって遺憾なくその力を振るった。

 その中でも殺し合いの根幹となったのが、画面に入り込む黒魔法である。

 この黒魔法は、彼の世界である『黒魔女さんが通る!!』において、黒鳥千代子ことチョコが『若おかみは小学生!』の世界に移動することも可能とした望外の神秘である。すなわち、擬似的な異世界への移動が可能となるのだ。
 ただし、この黒魔法を大形が使うにあたって、いくつかの制限がある。
 まず、『黒魔女さんが通る!!』の世界をAとし、『若おかみは小学生!』の世界をBとする。当然ながら、二つの世界は交わることはない。
 次に、『黒魔女さんが通る!!』の世界における『魔界』をA'とし、『若おかみは小学生!』の世界における『魔界』をB'とする。二つの魔界はそれぞれの世界において限定的に『魔界』でない世界、つまり人間の暮らす『普通の世界』と接し、同時に『魔界』同士でも限定的に接する。
 つまり、AはAと、A'はB'と、B'はBと、数珠繋ぎに繋がりがある。『黒魔女さんが通る!!』の世界は『黒魔女さんが通る!!の『魔界』を通じて『若おかみは小学生!』の『魔界』に通じ、『若おかみは小学生!』の世界に通じているのだ。


515 : 退屈は死に至る病 ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 00:17:12 mzWAShzE0

 そこで大形は考えた。条件さえ整えれば、本の中の世界を介して自由に行動できるのではないかと。
 大形は魔界を軸に様々な世界へと足を運んだ。中でも、こどもを使ってデスゲームを行う主催者たちは軸として最適であった。彼らは方向性の同じ悪意と、探れども真意も正体も把握しきれぬ謎に包まれていた。あとは簡単だった。地獄の鬼も、未来のロボットも、世界の共通言語は、「こどもが苦しむ姿が見たい」という邪悪な欲望と、「何かを得たい」というシンプルな願い。大形は、鬼には未来の技術の一端を見せ、ロボットには地獄の不可思議な超常現象を見せた。デスゲームという『魔界』により、様々な世界への足がかりを手に入れた彼は、そこで聞きかじったノウハウを横流しすることで強大なコネクションを極めて短期間で作り上げたのだ。

「社長、面会のお時間です。」
「そんな、ようやくギロンパの監視も落ち着いてお茶が飲めたのに。」
「プログラムの成功のためには、ここで無駄にする時間は無いと、我々社員一同は考えています、社長。」
「君たちは本当に時間にきびしいね……失礼するよ。次の会食の時に参加者について話し合おうか。」

 そしてそれを可能にした最大の立役者が、大形を社長にした灰色の男たちである。
 彼らは人々から契約によって時間を奪う。そして奪った時間を使うことで、大形では干渉しきれない世界であっても、大形より長時間、大形より口が上手く振る舞える。魔王と呼ぶにふさわしい黒魔法使いと言っても小学生である大形にとって、有能なビジネスマンである彼らは自分の手足として申し分の無いものだ。
 彼らは『モモ』の世界の時間泥棒。さして本を読まない大形に変わり、数々の児童文庫を侵略先として提案し、彼らの社長に就任することを求めてきた。なぜ、児童文庫ばかりを選んだのか����それは、彼らがある少女のような人間を自分たちの知らないところで大形に刺激を与えられないためだ����は大形にはわからなかったが、元々『若おかみは小学生!』の世界では自分のいる『黒魔女さんが通る!!』の世界が児童文庫として本になっているようなので、さして気にも止めなかった。
 彼にとって重要なのは、このプログラムの安定化だ。
 数多の児童文庫のキャラクターが一同に会したこの世界を基点に、更に様々な多数の世界への玄関口とする。そのためには、この殺し合いが打破されてはならず、また長引くほうがいい。時間を巻き戻されればまた安定化も最初からだが、大形の知識は巻き戻らないため更に効率的に動ける。同じことは主催者たちにも言えるため警戒は必要だが、大形には自分が負けるはずがないという油断と自信があった。また、デスゲームでは主催が破れた場合参加者全員がゲーム中の生死にかかわらず生還できる場合がある。大形はそれを利用し、主催を討たせ参加者を元の世界に返すことで、彼ら自体を異世界への扉として利用しようとしていた。
 つまり、大形にとってこの殺し合いは破綻しようと決着がつこうとどちらにせよ損をすることはないのだ。もちろん大形一人ではバトル・ロワイヤルを開くことはできないため破綻しないほうが望ましいが、破綻しても得るものはある。


516 : 退屈は死に至る病 ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 00:28:29 mzWAShzE0

「����良い子にしてた?」

 その一例に、大形は檻越しに話しかけた。
 灰色の男たちからは空にしか見えない牢獄は、全体に黒魔法による結界が張られ、神秘の瞳を持つものならば。それが超常の存在を捕らえるために用意されたものだとわかるだろう。
 『それ』のように、大形は既に高度な科学や神秘のなにかを多数有している。殺し合いの参加者として、あるいは支給品として集められたそれらの多くは、プログラムの成否問わず失われることが決定しているが、短い間にも有用な情報をもたらしている。大形には使いこなせずとも、誰かに横流せば利用価値も大きい。

「強気だね。そうだ、差し入れを持ってきたんだ。あれを。」

 当然そこに誰かがいるかのように、大形は牢獄へ向かって話した。灰色の男たちの一人が、大形の支持に従い、先程の会食から持ってきたプリンを、檻の隙間から床に置く。空の場所に誰かいるかのように置かれたそれはお供え物にも見えるが、実際お供え物だ。なにせ、中にいるのは『神』である。雛見沢という村で祀られる邪神だと、大形は灰色の男たちに言っていた。姿が見えない彼らは思うところはあってもそういうものだと受け入れる。これまでの間に、不気味な存在である彼らをしても理解の及びつかないものを様々に見てきた。いまさら田舎の邪神だか悪魔だかも気にするほどのものではない。

「じゃあまたね。あっ、君が気にしていた竜宮レナだっけ。彼女、死んだよ。」

 帰りがけに大形はそう言うと、わざとらしく耳を塞いだ。彼にだけ聞こえる声を邪神がわめいているのだろうが、この牢獄では大形以外に誰にも届くことはない。
 大形のこれまでの計画は人選に文句を言われたこと以外順調だ。あまり強い参加者をいれて破綻させたくないのでふつうの人を参加者にしたが、これまでのプログラムを見る限り多少は強い参加者を増やせと言われても問題はない。第一、本当に強すぎる存在は参加者にできない。一度、鬼舞辻無惨なる鬼のリーダーを捕まえに行ったときには、またたく間に皆殺しにされその後一切消息を追えなかった。他にも都市伝説やら妖怪やらで似たようなことが起きた。正体がわからないものは拐いにくいのだろう。
 大形のすべきことは一つ。主催者たちが余計なことをしないように目を光らせることだ。なにせデスゲームの主催者に悪の軍団のリーダーなどいかにも悪事をしそうな存在ばかり集まっている。チャンスさえあれば裏切りもいとわないだろう。特にギロンパは危険だ。彼に黒魔法を教え込んだ黒魔女と同じものを感じる。今頃自分を追い落とす策略を練っているだろうと大形は察していた。

「タブレットをくれる?」
「はい。こちらを。」
「ありがとう。さて、さっき見たと似はまだ10人しか死んでなかったけど、少しは増えたかな。」

 大形はタブレットに流れる殺し合いの映像を見る。それは既に、リアルタイムでギロンパのフェイクが紛れ込んだものだが、今はまだ気づかない。
 今はただ順調そうだと、喉を掻きながら思うだけであった。


517 : 退屈は死に至る病 ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 00:36:58 mzWAShzE0



※主催者が時間を巻き戻します。参加者が一部入れ替わり、バトル・ロワイヤルがリスタートします。
※主催者に新たに【灰色の男たち@モモ】、【ギロンパ@ギルティゲーム】、【黒鬼@絶望鬼ごっこ】、【キャプテン・リン@パセリ伝説】が確定しました。


518 : 退屈は死に至る病 ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 00:55:20 mzWAShzE0



投下終了です。
この度企画がエタりそうなので大幅なテコ入れを図りたいと思います。
半ばリスタートになりますので、まず企画への影響についてご説明します。

私が参戦させたキャラのうち他の方の投下に影響を与える可能性の低い以下のキャラの一部を他のキャラと差し替えます。
本投下以前に投下された70話のうち、
●登場話だけ投下されてそれ以後目立った動きを見せないキャラ
●登場話で脱落したキャラ
●単独参戦キャラ
●把握が困難なキャラ
これらの一部を、
●首輪解除要員になれるキャラ
●複数参戦している原作のキャラ
●把握が容易なキャラ
に変更します。

この変更と本投下で
●首輪解除が可能なノウハウを持つキャラが乏しいこと
●児童文庫のデスゲームの主催者は打倒されても即日デスゲームを開けること
●事実上のズガン枠になったいるだけ参戦キャラが多いこと
の三点を解消し、対主催に勝利の目を生みたいと思います。
今後も企画が苦しくなったらタイムリープを起こして、主催間に雛見沢症候群の感染を広げて付け入る隙を生むと同時に、参加者にループの記憶を引き継がせてテコ入れを図る予定です。

突然のことで申し訳ありません。私の企画主としての腕ではこれ以外に妙案が思いつきませんでした。
もしなにかご質問などがありましたら投下中以外であれば随時レスしていただけたらと思います。
それでは最後に現時点での参戦名簿を乗せて投下を終了します。


519 : 退屈は死に至る病 ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 01:25:07 mzWAShzE0
【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
○東方仗助○空条承太郎○片桐安十郎○虹村形兆○虹村億泰●山岸由花子
【絶望鬼ごっこシリーズ@集英社みらい文庫】
○関本和也●大場結衣○伊藤孝司●牛頭鬼○大場大翔○櫻井悠
【ラストサバイバルシリーズ@集英社みらい文庫】
○早乙女ユウ●朱堂ジュン●新庄ツバサ○桜井リク○山本ゲンキ○大場カレン
【パセリ伝説シリーズ@講談社青い鳥文庫】
○水沢巴世里○桜清太郎○梶田蓮華○鑑秀人○水沢光矢○鑑隼人
【ギルティゲームシリーズ@小学館ジュニア文庫】
○深海恭哉○小林旋風○小林疾風○北上美晴○大井雷太
【ぼくらシリーズ@角川つばさ文庫】3/5
○菊地英治○宇野秀明●天野司郎●小黒健二●柿沼直樹
【クレヨンしんちゃんシリーズ@双葉社ジュニア文庫】
○佐藤マサオ○野原しんのすけ○桜田ネネ●野原ひまわり○シロ
【おそ松さんシリーズ@集英社みらい文庫】
○なごみ探偵のおそ松●大富豪のカラ松氏●松野チョロ松●チョロ松警部○松野おそ松
【ひぐらしのなく頃にシリーズ@双葉社ジュニア文庫】
●富竹ジロウ○前原圭一○古手梨花●竜宮レナ○園崎魅音
【かぐや様は告らせたいシリーズ@集英社みらい文庫】
○白銀御行(映画版)○藤原千花●四宮かぐや○白銀御行(まんが版)
【若おかみは小学生!シリーズ@講談社青い鳥文庫】
○関織子(劇場版)●神田あかね○関織子(原作版)●秋野真月
【アニマルパニックシリーズ@集英社みらい文庫】
●ヒグマ○高橋大地○ライオン○高橋蓮
【逃走中シリーズ@集英社みらい文庫】
○白井玲○和泉陽人●小清水凛○ハンター
【泣いちゃいそうだよシリーズ@講談社青い鳥文庫】
○村上○広瀬崇○小林凛○川上真緒
【死神デッドラインシリーズ@角川つばさ文庫】
●長内隆○木村孝一郎○一ノ瀬悠真○二階堂大河
【絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために(絶滅世界 ブラックイートモンスターズシリーズ)@集英社みらい文庫】
○藤山タイガ○渡辺イオリ○西宮アキト○宇美原タツキ
【銀魂シリーズ@集英社みらい文庫】
○岡田似蔵○武市変平太○神楽
【テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ@講談社青い鳥文庫】
○磯崎蘭○磯崎凛●名波翠
【天使のはしごシリーズ@講談社青い鳥文庫】
○竜人●生絹○紅絹
【天才推理 IQ探偵シリーズ@カラフル文庫】
●大木直●小林聖司○杉下元
【妖怪ウォッチシリーズ@小学館ジュニア文庫】
○天野ナツメ●タベケン○有星アキノリ
【ブレイブ・ストーリーシリーズ@角川つばさ文庫】
●小村克美○芦屋美鶴○三谷亘
【四つ子ぐらしシリーズ@角川つばさ文庫】
○宮美二鳥○宮美一花●宮美四月
【ちびまる子ちゃんシリーズ@集英社みらい文庫】
○藤木茂○花輪和彦○みぎわ花子
【おそ松さんシリーズ@小学館ジュニア文庫】
○弱井トト子○イヤミ●チョロ松
【絶体絶命シリーズ@角川つばさ文庫】
●赤城竜也●宮野ここあ○滝沢未奈
【天才謎解きバトラーズQシリーズ@角川つばさ文庫】
○氷室カイ○朝比奈陽飛○灰城環
【恋する新選組シリーズ@角川つばさ文庫】
○宮川空○沖田総司●坂本龍馬
【るろうに剣心 最終章The Final 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
○乙和瓢湖○相楽左之助●鯨波兵庫
【星のかけらシリーズ@講談社青い鳥文庫】
○小笠原牧人○細川詩緒里○小松原麻紀
【人狼サバイバルシリーズ@講談社青い鳥文庫】
○赤村ハヤト○黒宮うさぎ○白石ヤマネ
【名探偵ピカチュウ@小学館ジュニア文庫】
○ピカチュウ○メタモン●ゲッコウガ
【NARUTOシリーズ@集英社みらい文庫】
○桃地再不斬○うちはサスケ○うずまきナルト


520 : 退屈は死に至る病 ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 01:26:49 mzWAShzE0

【けものフレンズシリーズ@角川つばさ文庫】
○ビースト○G・ロードランナー
【フォーチュン・クエストシリーズ@ポプラポケット文庫】
●ノル○ルーミィ
【劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】
○上田次郎○山田奈緒子
【無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄@集英社みらい文庫】
○岬涼太郎○沖田悠翔
【ふつうの学校シリーズ@講談社青い鳥文庫】
○アキラ●稲妻快晴
【一年間だけシリーズ@角川つばさ文庫】
●工藤穂乃香●村瀬司
【映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】
○大太刀○織田信長
【山月記・李陵 中島敦 名作選@角川つばさ文庫】
○李徴○袁�岡
【ミステリー列車を追え!シリーズ@角川つばさ文庫】
○二神・C・マリナ●四道健太
【炎炎ノ消防隊シリーズ@講談社青い鳥文庫】
○森羅日下部●アーサー・ボイル
【ケロロ軍曹シリーズ@角川つばさ文庫】
○ケロロ軍曹○日向冬樹
【ふなっしーの大冒険 きょうだい集結! 梨汁ブシャーッに気をつけろ!!@小学館ジュニア文庫】
○ふなっしー○ラ・フランシス
【サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】
○玉野メイ子○西塔明斗
【妖界ナビ・ルナシリーズ@講談社青い鳥文庫】
○サネル○カザン
【怪盗レッドシリーズ@角川つばさ文庫】
●紅月美華子○紅月飛鳥
【未完成コンビシリーズ@角川つばさ文庫】
○桃山絢羽○小川凌平
【異能力フレンズシリーズ@講談社青い鳥文庫】
○星降奈○居想直矢
【カードキャプターさくらシリーズ@講談社KK文庫】
○木之本桜○李小狼
【迷宮教室シリーズ@集英社みらい文庫】
○君野明莉○次元遊
【怪人二十面相@ポプラ社文庫】
●明智小五郎
【世にも不幸なできごとシリーズ@草子社】
○ヴァイオレット・ボードレール
【天気の子@角川つばさ文庫】
●森嶋帆高
【約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
○シスター・クローネ
【吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】
○吉永双葉
【小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】
○安土流星
【双葉社ジュニア文庫 パズドラクロス@双葉社ジュニア文庫】
●チェロ
【時間割男子シリーズ@角川つばさ文庫】
○花丸円
【デルトラ・クエストシリーズ@フォア文庫】
●黄金の騎士・ゴール
【ハッピーバースデー 命かがやく瞬間@フォア文庫】
○藤原あすか
【サキヨミ!シリーズ@角川つばさ文庫】
○如月美羽
【FC6年1組シリーズ@集英社みらい文庫】
○神谷一斗
【ラッキーチャームシリーズ@講談社青い鳥文庫】
○優希
【セーラー服と機関銃@角川つばさ文庫】
○萩原
【カードゲームシリーズ@講談社青い鳥文庫】
●哲也
【恐怖コレクターシリーズ@角川つばさ文庫】
●相川捺奈
【花とつぼみと、君のこと。@集英社みらい文庫】
○黒瀬優真
【バッテリーシリーズ@角川つばさ文庫】
○原田青葉
【クレヨン王国シリーズ@講談社青い鳥文庫】
○シルバー王妃
【獣の奏者シリーズ@講談社青い鳥文庫】
○エリン
【地獄たんてい織田信長 クラスメイトは戦国武将!?@角川つばさ文庫】
●織田信長
【ONE PIECEシリーズ@集英社みらい文庫】
○バギー
【オバケがシツジシリーズ@角川つばさ文庫】
○眠田涼
【都会のトム&ソーヤ 映画ノベライズ@講談社青い鳥文庫】
○内藤内人
【魔入りました!入間くん(1) 悪魔のお友達@ポプラキミノベル】
○アスモデウス・アリス
【シートン動物記シリーズ@角川つばさ文庫】
○ロボ
【悪魔のパズルシリーズ@集英社みらい文庫】
●森青葉
【終わらない怪談シリーズ@ポプラポケット文庫】
○岸里ゆかり
【怪奇伝説バスターズ 科学であばく!!旧校舎死神のナゾ!?@集英社みらい文庫】
○智科リクト
【アリス&ペンギンシリーズ】
○夕星アリス


521 : 退屈は死に至る病 ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/16(土) 01:27:01 mzWAShzE0
【鬼滅の刃シリーズ@集英社みらい文庫】
●累に切り刻まれた剣士●累○蜘蛛の鬼(兄)●蜘蛛の鬼(父)●我妻善逸○鱗滝左近次○蜘蛛の鬼(姉)○手鬼○竈門禰豆子○蜘蛛の鬼(母)●魘夢○竈門炭治郎○堕姫○嘴平伊之
【黒魔女さんが通る!!シリーズ@講談社青い鳥文庫】
●羅門ルル●小島直樹●紫苑メグ●須々木凛音○黒鳥千代子○松岡先生○桃花・ブロッサム○日向太陽○宮瀬灯子
【妖界ナビ・ルナシリーズ@フォア文庫】7/8
●ユイ○かまち○タイ○透門沙李○幹太郎○竜堂ルナ○スネリ○もっけ
【名探偵コナンシリーズ@小学館ジュニア文庫】
●円谷光彦○小嶋元太○山尾渓介○ジン○次元大介○ウオッカ○ルパン三世○吉田歩美○石川五右衛門


522 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/27(水) 00:00:03 86OCJuJw0
投下します。


523 : オープニング(71話ぶり2回目) ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/27(水) 00:01:11 86OCJuJw0



「……ここどこ?」
「さあ……」

 菊地英治が思わずもらした呟きに、近くにいた少女が答えた。
 周囲をぐるりと見回して、自分と同じぐらいの子供も含めて数百人はいることを確認すると、一周したところで和服の
少女と目が合う。

「……おれ、菊地英治。『ち』は地面の『地』の方で、英語の『英』に政治の『治』。」
「関織子、です。」

 なんとなく自己紹介して、話が続かず気まずさからまた周りをキョロキョロする。
 おれなにやってんだろう、と思いながらも、英治はどこか冷静に状況を受け止めていた。
 辺りは赤い霧に薄く包まれていて、遠くの方の人間は顔がはっきりせず人影としかわからない。何人かは英治と同じ東中の、『あの』十七人らしき姿もあったが、どういうわけか誰かまではわからない。それどころか織子の姿まで意識しないとよく認識できない、そう自覚したところで、英治は自分の頭がよく回らないことも自覚した。

「変なクスリでも撒いてるのか? この赤いの。」
「みたいですね。」

 かけられた声に英治は一瞬驚く。その声の主は知らない人物だと思うのだが、そうであると確信が持てない。その異常な事態に、自分の脳みそが誰かに弄くられているような感じを覚えた。

「突然すみません、見知らぬ場所で心細くて。深海恭哉です。桃が原小の六年生です。」
「菊地英治だ。こっちは……あれ。」
「関織子です。」

 まただ、ついさっき教えられた名前が出てこなかった。
 嫌な感覚に背中を汗が伝う。
 同じ感じなのか、織子も恭哉もどこか不安そうに自己紹介をし合っていた。それを横で見ながら、チラチラと周りの人間にも目をやる。自分達と同じように何人かのグループができつつあるのを見ると、どうやらみんな同じらしい。

「……おかしい、うち、さっき死んで……」
「あれ……なんでだろう、デジャブ、かな……」

 その中で、1人で何かつぶやいている2人の女子が目に止まった。別に彼女たちが美少女だからというわけではない。単に、グループに入ろうとせずに気になることをつぶやいていたからだ。

「なあ、そこの、えっと……」
「冷静にならな……この霧、すごいやな感じや……そうや、凛さん! 凛さんも巻き込まれてたら、あとついでに蘭も!」
「見覚えがある、なんで、これも、オヤシロ様の……」
「そこの髪が長いカワイイ人!」
「「「「「え、私?」」」」」

 5人ぐらい一度に振り向いた。

「菊地さん……」
「そんな目で見るなよ。名前わかんなかったからしかたないだろう。」

 恭也と織子の視線を感じる。もう少し呼び方を考えるべきだったと英治は思った。
 でもまさか、そんなに何人も一度に振り返るとは。たしかにカワイイ顔をしているけれど����と、あらためて女子の顔を見て、英治は驚いた。女子たちも驚いていた。
 5人中2人ずつ同じ顔をしていた。ポーカーならツーペアだ。艷やかな、緑の髪、というのだろうか、長い髪をポニーテールにした、胸が大きい女子。そしてもう一組は、こちらも真っ黒な髪をポニーテールにした、胸が小さい女子。


524 : オープニング(71話ぶり2回目) ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/27(水) 00:03:21 86OCJuJw0

(胸が小さいってものすごい失礼な言い方だったな。)

 胸が大きいで判断するのもなかなかに失礼な言い方である。
 それはさておき、英治はまじまじと2つの顔の4人を見た。
 4人も互いに気づき、驚きの声を上げている。そりゃそうだろうと英治は思った。

「し、詩音? 本当に、詩音だよね?」「イタタ、ちょっ、なんで私のほっぺをつねるの!」

 こちらは知り合いらしい。双子か姉妹だろうか?

「……」「……」

 もう片方は、互いにまじまじと顔を見たまま硬直したあと、同時に手首に指をやり、自らの脈拍をとっていた。ものすごく驚いているようである。きっと幻覚か何かを疑っているのだろう。英治も織子との会話が途切れたときに同じようなことをしていた。

「翠? 翠! 良かった、良かった生きてて……!」
「わっ! 蘭! なんやねん、なんなのよそんなに慌てて!」
「だって、だってさっき死んじゃったって……あれ?」
「蘭、もしかしてあなたも��」

 余っていた1人はというと、全然知らない人と話していた。また新しい人が増えてもう英治の脳内はパンク寸前である。ただでさえ霧のせいか頭が重いのに、一度に6人も登場人物が増えれば何人いたかすら覚えていられない。

「あの! みなさん、まずは自己紹介しませんか?」

 あ、誰だっけこの子。また名前忘れた。

「わたし、関織子っていいます。おっこって呼んでください。」

 ああそうだ、織子だ。いやおっこか。あれ、そんなあだ名だったっけ?
 英治の頭は更に重くなった。

「深海恭哉です。こちらは、えっと……」
「菊地英治だ。」

 英治は少しホッとした。自分以外にもよく頭が回らない人を見つけて。
 ホッとすると少し冷静になれた。後から来た6人も、自分と同じかそれ以上に困惑している感じがする。ただ、明るい髪色で一番最後に来た女子は少し何かが違う気がした。と、目が合った。

「私は磯崎蘭です。こっちは名波翠。同じクラスなんです。」
「園崎詩音です、それと、姉の魅音です。」

 目が合ったからか自己紹介に乗ってくれて、胸が大きい方の女子も名乗ってくれる。これで7人。自然と全員の視線は、まだ名乗っていない胸が小さい方の女子へと向いた。互いに顔を見合わせる2人は一つ咳払いをして、同時にこう言った。

「「四宮かぐやです。」」

 全く同じタイミングで、微妙に違う顔で微妙に違う声で、二人はそう言った。
 幻聴か? 英治の顔にそう書いてあったのだろう、同じように困惑した顔で、深海?だとかそんな感じの名前の男子と顔を見合わせる。おっこ?も、他の4人も似たような顔だ。そして一番困惑している顔なのは、当の四宮かぐや×2だった。

「双子って、感じじゃないな。深海、おれ、覚醒剤とかやった覚え無いんだけどな。幻覚と、幻聴か?」
「僕にも2人に見えます。これは……強い薬物なんじゃ?」
「ドッペルゲンガーですよ!」
「これも、オヤシロ様の……」
「いや、これは違うと思うな……クスリでしょ。」
「翠、こ、これどういうことだろう?」
「私にわかるわけないじゃない。なんなのよこれ。」
「「やっぱり、皆さんにも見えてますか?」」

 困惑する7人に、更に困惑した様子で四宮かぐや×2が告げる。この場の全員が次々に起こる怪奇現象に困惑しっぱなしであった。気がつけば知らない場所にいて、ろくに人の名前も顔も覚えられなくなり、同じ人間が二人いる。英治がいよいよ自分の正気が信じられなくなったところで、突然声が響いた。


525 : オープニング(71話ぶり2回目) ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/27(水) 00:06:24 86OCJuJw0

「はい、チューモーク。」

 赤い霧に切れ目ができる。そこにいる影が鮮明になる。白い姿があらわになり、出てきたのは──

「オレの名前はツノウサギ。」

 ツノの生えたウサギだった。

「え、なんで。」
「わぁかわいい。」
「……蘭、アイツわ……」
「うん、たしか最初にいたよね。」

 思わずツッコむ英治と、素直に感想を述べる織子と、2人で目配せする翠と蘭。そして英治が一番気になったのは、顔が露骨に強張った詩音だ。

(なんであんな人形みたいなのを見てビビってるんだ。)

 あのツノウサギだかいうのは、パット見にはなにかのゲームのキャラクターにしか見えない。おっこが言うように『かわいい』モンスターだろう。なにかそんなに恐ろしいものなのか、と英治が聞こうとしたところで、その答えはすぐに示された。他ならぬ、ツノウサギによって。

「今日は皆さんに、殺し合いをしてもらおうと思います。」
「やべえぞ! デスゲームだ!」「まずい! この首輪をイジるな! 作動したら死ぬぞ!」「大きな声を出すなぁ! 見せしめになりたいのかぁ!」「まずはルール説明を待とう、おそらくはあのマスコットは解説役だと考えられる。」「すごいな、まるでデスゲーム博士だ。」「くそっ、また黒鬼か!」「くっ、またマヨイか!」「まさか……今回も伯爵が?」「氷室カイ、今度はこんなことを!」「ギロンパ! いるんでしょ!」
「なんかお前ら慣れてない? まあそういうやつを中心に集めたんだけどさ。」

 ツノウサギの言ったことと、それに反応して一斉に大声を上げだした人影たちの両方に英治は驚く。
 「まさか、でもやっぱり」と呟く恭哉の声は耳に入らなかった。
 殺し合えという言葉と、それに慣れているらしい多くの人間というのは、さすがの英治でも想像の範囲外のものだ。困惑しているところにそんな人たちを見れば、英治の頭はパニック寸前である。
 そんな英治を気にかけるはずもなく、ツノウサギは言葉を続けた。

「今からお前たちはオレ達主催者が用意した孤島に行ってもらう。海あり山あり街あり武器ありのな。そこで最後の一人まで殺し合う。な、簡単だろ?」
「そこまでにしときな。」

 衝撃的な話を続けるツノウサギの声を、今度は青年の声が遮る。そこだけスポットライトの当たったように霧が晴れると、黒服に剣を携えた青年の姿か見えた。

「ガキの鬼がいなくなったと思って面倒くせえと思ったが、手頃な鬼がいるじゃねえか。こんなウサギなら俺でも勝てるぜ。」
「よせえ! 死にたいのか!」「もう駄目だ……おしまいだ。」「見せしめにされる……見せしめにされる……!」「鬼殺隊じゃない!」「死神代行だ!」「え、オレ?」「お前じゃねーよ一ノ瀬。」「その声、大河か! お前もここに!?」「」「呼んだ?」「誰だお前は。」
「お前らうるせえな! やりづれえ!」

 青年を静止する声をきっかけに、一度静かになったその場が再び騒がしくなる。飛び交う声の中には、英治の知り合いと同じ名字や名前を呼ぶ声もあった。だが、英治はそれよりもツノウサギにだけ注目していた。というか、目が離せない。
 なにか、とても嫌な予感がする。

「おおそうだよ、こういうやつだよ欲しかったのは。まあオレは鬼は鬼でもお前が言ってる鬼じゃねえけど、細かいことはいいや。」

 周囲の制止を振り切り、青年は剣を顔の横に立てるように構える。それを見てツノウサギは、手をパチパチと拍手するように叩くと言葉を続けた。


526 : オープニング(71話ぶり2回目) ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/27(水) 00:10:27 86OCJuJw0

「で、ルールだが、基本的にない。最後の一人になるまで殺し合うだけ、以上。一応6時間ごとに放送はしてやる。そこで追加ルールとか言うが、ようは最後の一人になるまで殺し合えばいいんだ。簡単だろ? あと、俺ら主催者がイラッときたら、その首輪で殺す。例えば──」

 ツノウサギの言葉を無視して、青年は斬りかかる。一息に距離を詰めてあと数歩まで迫り──

「──こんなふうにな。」
「ガッ!?」

 突如青年の首が閃光を放つ。爆発!?と驚き、それでも英治が目を開けると、青年の身体が、斬りかかろうとした体勢のまま転んだ。
 文字通り、そのままの体勢だ。片足は上げられ、剣は僅かに肩の後へと。その体勢のまま青年は、わけがわからないという表情で地面を這う。

「すげえだろそれ。毒を注射してよ、人間の身体を数秒で固めて殺すんだとよ。で、これがお前ら全員に着けられてるってわけ。おまけに作動すると爆発したみたいに光って演出も充分。そこそこ電池は持つらしいが、早めに外さないと誤作動するかもな。ケケ!」

 英治はハッと首に手をやった。今まで意識しないようにしていた冷たい感触のそれは、前より一層冷たく感じる。それは他の子供も同じようで、恭哉などうずくまってひたすらに息を吸っていた。
 その背中に手をやりながら、英治は固まっていく青年を見る。もうすぐ人一人が死ぬというのに何もできない。だからこそ、か。英治の足が一歩前に進む。だがその足が青年に向かうまでにはあまりにも遠い。しかし。

「ドラァッ!!」
「カハっ!?」
「ゲッ!? マジで生き返った!?」

 ハンバーグのような髪型をした変な学ランの青年が雄叫びをあげながら倒れた青年に触れる。そうするとどうだろう、不自然な体勢のまま固まっていた青年の身体がほぐれるようにパタリと倒れ、そして青年は信じられないという表情でゆっくりと立ち上がった。

「話には聞いてたけどそれは無しだろ……もう解説役の見せ場ないじゃん……」

 ツノウサギも信じられないという表情でそんなことを言っている。もっともこちらの場合は意味が違うようだが。
 そして何か言葉を続けようとしたところで、声が悲鳴に変わる。
 先ほどの鳥の巣みたいな頭の青年がツノウサギに近づくと、突如として二人の間の霧が吹き飛んだのだ。
 「やっぱりな!?」というツノウサギの叫びに反応するように霧が二人の間に割って入り、「ドラァッ!」という気合とともに吹き飛ばされる。
 それが二度三度続いたところで、今度はツノウサギの全周囲の霧がかき消えた。そこに残るのは、無数の刀。よく見れば先ほどツノウサギにみせしめにされた剣士と同じような黒服を着た集団が各々の剣を振るっていた。ていうかさっきのみせしめ剣士もいた。ガッツあるな。

「オイオイ危ねえなあ! しょうがねえ、こっからはモニター越しに話させてもらうぜ、ケケッ!」

 突然上から聞こえた声に英治は驚いて見上げる。ちょうどその時、赤い霧が晴れて巨大なツノウサギの姿が空中に現れた。
 驚き二度見する。一瞬見えたさっきまでツノウサギがいたところでは、先ほどの鬼殺隊とか死神代行とか呼ばれた剣士たちを残してツノウサギがいなくなっていふ。まるで瞬間移動だ。
 あまりにも次から次へと起こる異常事態に、英治の頭が痛む。それと同時に、意識も遠のく。いや、これは、混乱からくる頭痛では無く──

「なんか、ヤバい……!」
「ヤッベ、化物入れてた檻が壊れかかってる。しょうがねえなあ、全員会場に送るか。詳しくは6時間後の放送で教えてやるぜ! それまで3つだけおぼえてろ!」

「1、最後の一人なるまで殺し合う」
「2、殺し合わなかったら、殺す」
「3、1と2を忘れたら、殺す」

「オレの親切を受け取れっ! ケケケッ!」

 咄嗟に自分の腕をつねり上げるが、意識が飛んでいく。なんとなくだが、これから会場へ拉致されて殺し合いに巻き込まれる気がする。今まで廃工場に立て篭って機動隊と戦ったりヤクザやカルト教団や泥棒と戦ったりしてきたのでわかる。だがわかっていたところで対応できないことはあるわけで。

 数秒後、赤い霧に包まれた全員の意識が無くなり、その姿が霧へと飲み込まれていった。


527 : オープニング(71話ぶり2回目) ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/27(水) 00:15:13 86OCJuJw0



【児童文庫ロワイヤル リスタート】


528 : オープニング(71話ぶり2回目) ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/27(水) 00:21:21 86OCJuJw0



※参加者は主催者の謎パワーによりオープニングで出会った他参加者のことをあんまり覚えていません。
※タイムリープによる記憶の引き継ぎなどを経験している一部参加者を除いて、前のループでの記憶は引き継ぎません。
※このこと以外に基本的に制限はないです。



【ルール】

●最後の一人まで殺し合う。
●参加者には、主催者が殺したいなと思ったら殺される首輪が着けられている。首輪に強い力を加えたり首輪の電池が切れても殺される。
●最後の一人になったら主催者側の仲間になれる(待遇は応相談)(オープニングで伝えそこねている)。
●支給品なし。
●装備の没収あんまりなし。
●能力制限なし。
●武器の配置あり。
●参加者には一枚ずつ初期位置から近い会場内の有力なアイテム一つを印したメモが与えられる(鍵の場所や暗証番号、使い方なども併記)。
●主催者は自分が気に食わない展開になったら時間を巻きもどす可能性がある。



【書き手ルール】

●参加者は365人。
●参加者の枠を使い切らなくても登場済みの参加者で放送に行けそうだったら放送に行く(二回目以降の放送も同様)。
●原作の瑞穂みたいな終盤になるまでほぼ未登場のキャラもあり。
●主催者が拉致れなさそうな参加者(一般的な小火器で殺害できない・特殊な方法でないと捕まえられないなど)は参戦不可。
●殺し合いを破綻させられそうな参加者はマークされていて不審な動きをしたら首輪が作動しがち。
●そもそも主催者側にルールを守る気はあまりない、が、他の主催者側に文句を言われないために不正はバレないように行う。
●子供の頃に読んだきりの作品も多いと思うので多少のガバは気にしない。
●書き手に修正を求めても受け入れられなかったら、自分で修正してよし。
●投下しただけでは仮投下扱い、他の書き手にリレーされたタイミングで本投下扱いに。
●2回目のオープニング投下前に投下された本編は原則全て本投下扱いとする。



【主催者(確定枠)】

【進行役】
【ツノウサギ@絶望鬼ごっこシリーズ】

【黒幕】
【灰色の男たち@モモ】
【ギロンパ@ギルティゲームシリーズ】
【大形京@黒魔女さんが通る!!シリーズ】
【黒鬼@絶望鬼ごっこシリーズ】
【キャプテン・リン@パセリ伝説シリーズ】


529 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/04/27(水) 00:28:57 86OCJuJw0
投下終了です。
あらためてよろしくお願いします。


530 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/02(月) 00:59:23 dJsIv8J.0
このネタがやりたくて前のループで引き合わせてました。
投下します。


531 : 00:00 再戦 ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/02(月) 01:00:32 dJsIv8J.0



終了条件1 「累」からの逃走 自動達成
終了条件2 「磯崎蘭」との合流



 強い吐き気がする。

 苦しい、辛い、頭の中に、蛇が入ってくるような……

 目が開けられない。開けても黒一色しかない。閉じて擦っても、なんの光もまたたかない。

 ダメだ――意識が――のたうつ――



「ここは……」

 殴られたように割れる頭を振りかぶりながら、磯崎蘭は木にもたれかかっていた。
 ふらつきながらもなんとか二本の足で立ち、辺りを見渡す。
 誰もいない。
 「おーい!」と叫ぼうと口を開き、張りついたような喉の痛みに遮られ、しかしそれにより声を出すのをやめることが間に合う。
 まだ意識は混濁しているが、「殺し合い」という言葉は、蘭の記憶にこびりついていた。

(大きな声を出すのはダメだよね……でも。)

 はっ、はっ、と荒れていた息を深呼吸でなだめながら、自分の置かれた状況を考える。まだよく回らない頭で行うそれは痺れるような頭痛を起こしたけれど、蘭は一つずつ落ち着いて考えようと努めた。

(さっきの感じは、タイムスリップとかの感じとはちょっと違う。どっちかっていうと瞬間移動の方が近かったかな。)
(うん。『さっきの』はタイムスリップじゃない。『その前の』がタイムスリップみたいだった。)
(思い出さなきゃ……私は、この景色を見たことがある気がする。そうだ! メモを取ろう。なにか書くものは……あ、あった! メモ? えーっと、『装備:商品NO.0 "大砲"  場所:作業小屋  説明:全長5.34メートル。重量18トン。口径890ミリメートル。速度約500メートル毎秒。砲弾装填済み。後部の導火線に着火するとこで発射可能。』……たぶん重要なものなのかな。)
(このメモからなにか読み取れないかな……うわっ! なに、これ、強い、嫌な感情が……)

 服のポケットにいつの間にか入っていたメモを手のひらに包み込み意識を集中させる蘭の額に、汗が浮く。
 蘭のテレパシーは紙から不穏な気配を感じた。

(あんまり触らないようにしよう。それよりメモだよメモ。えっと、ペン、ペン……筆箱とか持ってないよ。しょうがない、そのへんの石で。)

 蘭はメモの裏に記憶を書いた。夢の中のことのようにおぼろげで書きながらもすぐに忘れていってしまうのを、急いで書く。

『6時に放送があって、翠が死んだって言ってた』
『森の中でクマに襲われた』
『学校で能力者の男の子に襲われた』
『体育館で男の人が死んでた』

「えっと他には……うわー、思い出せないや。どんどん忘れていっちゃってる。」

 蘭は頭をわしゃわしゃとすると難しい顔でメモを見返した。

「とにかくまずは翠を探さないと。森には入るとクマがいるから、この道を……こっちに行こう!」

 自分を励ますように元気な声を出すと、蘭は林道を歩き始めた。


532 : 00:00 再戦 ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/02(月) 01:01:43 dJsIv8J.0


 さて──実のところ、彼女は普通の人間ではない。
 いわゆるエスパーと呼ばれる人種が彼女だ。そういう意味では、オープニングでツノウサギに反抗した東方仗助に近いものがある。事実、彼女には《クレイジー・ダイヤモンド》が見えていた。彼ほどには戦闘に長けもヴィジョンを生じさせるような超能力でもないものの、ことテレパシー能力に関しては彼女は非凡なものを持っている──そのせいで会場にも広がる赤い霧から主催者側の悪意を無意識に読み取ってしまいストレスを受けてもいるのだが。
 そしてそんな彼女だからこそ、時間が巻き戻ったことに感づいた。
 強いデジャブと、同じ行動をとったことが、霞んでいく記憶を繋ぎ止めた。そして一度思い出せば、断片的だがハッキリと定着する。
 翠が死ぬ。
 そう放送では言っていた。
 本当かどうかはわからない。でも、そう言われたらすることは決まっている。翠を助ける。そのために、過去の未来を変える。
 蘭は己の感覚に従いメモに書いてあった小屋とは反対方向へと歩く。
 数分ほど歩いて出会ったのは、前のループでは蘭を追うも見失った富竹ジロウだった。
 互いに姿を認めても、軽く会釈しただけで特に急ぐこともなく歩いて近づいた。

「こんばんは。すみません、ちょっといいですか?」
「こんばんは、っていうのもなんだかおかしいな。僕は富竹。フリーのカメラマンさ。」
「磯崎蘭です。それで、ちょっと変なことを聞いちゃうんですけど。」
「殺し合い……って、私達でする……わけないですよね?」

 蘭の期待するような声に、富竹は一瞬口を開きかけすぐに告げた。

「残念だけど、これは現実らしい。どんな存在かはわからないが、僕達に殺し合いをさせたいようだよ。もちろん、僕にそんな気はないけどね。」
「私もです、富竹さん。」

 富竹の言葉に曇った蘭の顔が、すぐに明るいものになった。

「殺し合いなんて、したくてする人いないですよね。私、この殺し合いを止めたいんです。何ができるかはわかんないけど、でもイヤなんです。初めて会った人にこんなこと言うのは変かもしれないですけど、私と一緒にこんなことを止めるのを手伝ってもらえませんか?」

 まさかいきなりこんな子に会うとはと、富竹は心の中で思った。
 奇妙なデジャブに従い道を歩いていたが、途中で彼女を見つけたときは驚いた。背格好から知り合いの子供たちを想像して、別人だと気づいてからも保護するために蘭と接触したが、富竹が言いたかったことをだいたい全部言ってくれた。

「もちろんだよ。いやあ、色々説得する言葉を考えてたけれど、そうさ、殺し合いなんてしたくてする人はいないさ。君みたいに真っ直ぐ思いを伝えれば、同じ気持ちになってくれる人も増えそうだ。僕はついていくよ。パニックで話を聞けない人を落ち着かせるのは大人の男の役割さ。」
「ありがとうございます!」

 ペコリと頭を下げる蘭に、富竹は努めて大きな声で笑いかけた。
 実際には、おそらく相当な割合で殺し合いに乗ると2人とも考えている。
 だがそれでも、前向きな言葉と行動が大切であると2人は知っていた。
 富竹は蘭を連れてもと来た道を戻った。メモに従い道を進んでいたが、森は危険だという蘭の言葉を受け入れた。もともとメモそのものを信じていたわけでもないし、同行者の意見は尊重する。
 それに富竹も、何か森から嫌なものを感じていた。直感で危険だと判断し、同じ判断を直感で出した蘭を信じた。


533 : 00:00 再戦 ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/02(月) 01:02:24 dJsIv8J.0

「資材置き場か。車もあるね。」
「電話とかは、無さそうですね。」
「そうだね、電線はあっても電話線は無いようだ。さて……少し手荒く行こう。」

 ゴッ!

「うわっ!」
「元の持ち主には悪いけど、非常事態だ。使えそうなものは利用させてもらおう。」

 森を抜けたところに小さな小屋があった。扉をぶち破ると、床には銃が転がっていた。

「カラシニコフに、こっちはプラスチック爆弾。殺し合いの主催者が用意したものか?」
「おじゃましまーす……富竹さん、それ、銃ですか?」
「ああ。爆弾もある。使えるかはわからないけれど、どうやら本気で殺し合わせたいようだね、あのウサギ……ウサギ、だったか?」

 どうにも記憶があいまいだ。何かの薬品の影響を受けていると富竹は結論づけた。
 首尾よく車の鍵を見つけると、使えそうなものを表の軽トラに乗せて2人は走り出した。霧のせいでかなり視界は悪いが、公道を走れる程度の濃さだ。カメラマンで目には自身のある富竹ならどうということはない。5分ほど走らせるとすぐに町に出た。

「あ、今あそこにだれかいました。」
(すごい感覚だな。)

 とりあえず近場の学校に行こうと交差点を通り過ぎた時に、助手席の蘭が指を差した。すぐに停めてバックすると、交差点に止めて目を凝らす富竹。その目がしばらく動いて、民家の掃き出し窓が一つ開いていることに気づいた。
 言われなければどころか言われてもまず気づかないであろう痕跡だ。いくら運転していないので余裕があったにせよ尋常なことではないと、富竹は蘭の勘に胸の内で舌を巻いた。
 富竹は車を近場のコインパーキングに慎重に停める。あいにく持ち合わせがないので入り口に路駐だ。さきから子供の前で見せられないことばっかやってるなあと思ったが、くよくよしてもしかたがない。蘭を連れて、いちおうライフルを持って民家へと歩いた。
 富竹としてはかなり不用心な振る舞いだが、同行している蘭を一人にさせるよりは現実的だと割り切った。車に残すのはリスクがあるし、蘭は本気の富竹の動きについてこれないだろう。なら堂々とした態度で民家へと向かったほうがいい。そこに隠れている人間にも好印象だろう。
 と考えてはいるものの、やはり冷や汗をかかずにはいられない。自分のように銃や爆発物を所持している可能性はある。問答無用で撃たれる危険性は当然ある。はっきり言えばやばい。だが、その心配は杞憂に終わった。
 突然ひょこっと少女が顔を出した。思わず足を止めた蘭と、逆に思わず足を早める富竹。「君までここにいるのか!」と驚きの声まで上げてしまう。

「富竹……? 本当に、生きてるの……?」
「梨花ちゃん。よかった無事で!」
「みー……って、全然よくないのです! なんでこんなことになったのです!」
「ああ、そうだ、本当にそうだ……!」

 蘭が見つけた人影は、富竹が最も保護を願っていた古手梨花だった。
 前のループで出会っていたからだろう、彼女の心の声を蘭はなんとか拾えたのだ。

(良かった、梨花ちゃんはまだ無事だ。それなら。)

 蘭はキョロキョロとあたりを見渡す。前のループでの梨花の話からすると、おそらくまだ一人いるはずだ。気配を感じた。後ろを振り向く、いない。

「上?」
「すごい勘だな。」


534 : 00:00 再戦 ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/02(月) 01:02:58 dJsIv8J.0

 蘭が見上げると、梨花が出てきた向かいの家の屋根の上に男の子がいた。手には拳銃を持ち、それを片手に構えたまま「よっ」と言うと軽々と飛ぶ。思わず声を上げる蘭の前で、男の子は庭の木を蹴り減速すると1回転して地面へと降り立った。

「富竹さんと、レナさん? 梨花ちゃんから話は聞いてます。おれは大場大翔です。」
「大翔、その人は違うのです。その人は──」

 言いかけた梨花と目が合う。その瞬間、蘭の中に見たことのない記憶が流れた。
 社会の教科書で見たような田舎の町並み。
 退屈だが長閑で平穏な世界の雰囲気。
 いつもの部活メンバー、入江診療所、園崎家、祭具殿、注射針。
 奇妙な祭事、『綿流し』、『オヤシロ様』、角の生えた梨花、『喉のかゆみ』
 猛烈な痛みと──ひぐらしのなきごえ

(なに、これ……ううん、知ってる。)
(私は……この『思い出』を前に『見た』ことがある。)
「蘭ちゃん? どうかしたのかい?」

 様子に気づき声をかける富竹は視野に入らずに、蘭は梨花の瞳に吸い込まれるような感覚を覚えた。
 そしてそれは梨花も同様であった。二人だけにしかわからない世界がある。
 だから、蘭がテレパシーで呼びかけたのは自然なことだった。

『あなたは、私のことを覚えていますか?』
『ええ、ついさっきのことでしょう? 磯崎蘭さん?』

「蘭ちゃん! 大丈夫かっ。」
「あ……はい! すみません、ぼーっとしちゃって。そうだ、自己紹介がまだでしたよね。磯崎蘭です。」
(そうだ、大翔くんだ。良かった、まだどこも怪我してない。)

 富竹に肩を触られて、蘭は頭に響いた梨花の声から注意を戻した。テレパシーを得意とする能力者である蘭ならば、短距離であれば素質のある梨花との会話も可能である。まして二人は、前のループの記憶を引き継いでいた。こちらに関しては蘭より梨花の方が適性があるが、梨花の記憶が蘭へとテレパシーで流れ込むことで2人のコミュニケーションはより支障なく行える。
 富竹に促されて家へと上がることになった間も、話半分で聞きながら梨花とのテレパシーを再開した。

『あなたの記憶はどこまである?』
『ほとんど忘れちゃってるよ。あの、梨花ちゃん、なんかキャラ変わった?』
『みー、なら普段通りにいくのですよ。』
『うわあ猫かぶってる。髪長い可愛い女の子の能力者ってなんでこうなんだろう。』
『1人しかいない例でレッテルを貼ったらダメですよ。名波翠さんとはテレパシーはできたのです?』
『ううん、何度やってもだめだった。たぶん、この霧のせいだと思う。』
『みー、さっきの放送の順番が死んだ順番なのなら、翠はまだ死んでいないはずなのです。心配かもしれないけれど、まずはミツルを止めるのを協力してほしいのです。』
『ミツルって誰だっけ?』
『学校で襲ってきた魔法使いです。まだ時間はあるけれど、アイツもボクたちみたいに記憶が残ってるかもしれないのです。急がないと明智さんだけじゃなく学校のみんなも薬も危ないのですよ。』
『ごめん、ぜんぜん憶えてない。』
『口で説明するのは面倒だからあとでテレパシーでボクの記憶を見るのです。とにかく急いで学校に行くのです。ただし、大翔は戦わせないようにするのです。ツノウサギたちを知っているのは大翔だけです、絶対に守ってください。』

 蘭と梨花はテレパシーにより考察を進める。現在彼女たちは他の参加者に比べて圧倒的なアドバンテージがある。これからの6時間に起こることを知り、戦う敵の能力を知り、落ちている武器の場所を知り、そして主催につながる参加者の存在を知っている。

「富竹さん、なんか2人ともオレの話に適当な返事しかしないでずっと見つめ合ってるんだけど。」

 寂しそうに言う大翔を放っておいて、梨花と蘭は大翔に危険なことをさせない作戦を練り始めた。
 彼女たちは知らない。ここにいる大場大翔は彼女たちが知る大場大翔ではないことを。
 前のループの大場大翔ではなく、半年ほど経ち、数多の経験ときざまれた鬼のしるしを持つ、別のタイミングの大場大翔を新しく参加させたということを。
 そのことがどんなバタフライ・エフェクトを起こすのかを。


535 : 00:00 再戦 ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/02(月) 01:03:57 dJsIv8J.0



【0030前 森林地帯近くの住宅街】

【磯崎蘭@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 何が起こっているか調べて、解決して家に帰る
●中目標
 今度は翠を死なせない
●小目標
 学校に行って明智さんをミツルから助ける

【富竹ジロウ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 民間人を保護し、事態を把握する
●中目標
 巻き込まれている知り合いを捜索する
●小目標
 情報交換する

【大場大翔@絶望鬼ごっこ きざまれた鬼のしるし(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 前回(出典原作)と同じ鬼のしわざなのか……!?
●小目標
 情報交換する

【古手梨花@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 今回のイレギュラーを利用して生き残る
●中目標
 自分が雛見沢からいなくなった影響を考えて手を打つ
 特殊な経験、または超常的な力を持つ参加者と合流する(でもあんまり突飛なのは勘弁)
●小目標
 学校に行って明智をミツルから助ける


536 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/02(月) 01:05:59 dJsIv8J.0
投下終了です。
みらい文庫大賞落ちた腹いせに企画進めます。


537 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/14(土) 07:03:39 b0krnQZE0
短いですけど投下します。


538 : 一瞬の銃撃戦のあとで ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/14(土) 07:05:04 b0krnQZE0



 日比野明は初期位置の中華料理屋で一心不乱に中華鍋を振るっていた。
 家が洋食屋というのもあるが、そもそも日比野は食べることが好きである。クラスで一番のデブであることからもそれは明らかだ。
 だがいくら日比野がくいしんぼうでもただ単に料理をしようというわけはない。自分の得意なことを無心でやって冷静になろうとしていた。しかもその結果美味しいものまで食べられる、一石二鳥の妙案である。
 というわけで出来上がったのは、炒飯。せっかくなので中華にしたが、これがイケる。八角の効いた角切りチャーシューが食えば食うほど食欲を増させる。

「ふぅー……ごちそうさまでした。」

 ものの数分で完食。付け合せのザーサイとたまごスープもきれいに平らげ、満足げな顔で水へと手を伸ばす。水さしの奥には、ライフルが鎮座していた。

「……マジで殺し合いかよ。」

 そして日比野はようやく現実を受け入れ、テーブルにつっぷした。


 日比野はつい先日、殺人鬼と対峙した。仲間の弟を狙った犯行をなんとか食い止めたが、あの時には何人もの仲間と協力して、たった一人の殺人鬼を撃退したのだ。
 だから日比野は、この殺し合いの参加者の中で誰よりも事態を重く受け止めている人間の一人である。目の前の銃に、床に落ちている銃、銃、銃。これだけ落ちていれば撃ち放題殺し放題だろう。それに、どうしても殺人鬼が参加者にいるんじゃないかという気がしてならない。それはこの間の事件がそう思わせていると日比野本人も思っているが、実際は殺人鬼はもちろん本物の鬼などの化物がゴロゴロいる。彼の危機感は全く杞憂ではない。
 で、日比野は困っていた。自分が得意なことは料理ぐらいで、喧嘩はそこそこできるがスタミナが無い。頭の良さもアイデアのひらめきも、自慢できるってほどじゃあない。もちろん銃は使ったことがない。生き残れる未来が見えない。

「こんなのおれ一人じゃムリだぜ。誰か仲間がいねえと。いてほしくないけど。」

 思い浮かべるのは仲間の顔だ。あいつらに殺し合いの参加者になどなってほしくはないが、頼りになるのはやっぱり仲間だ。

「菊地ならまたなんかすごいこと考えついてそうだな。でもあいつ一人だと抜けてっからなあ。相原とか宇野とかならなんかいつもどおりにやりそうだ。うん? てことはまず菊地と合流したほうが良さそうだな、いるかわかんねえけど。」

 しょうがねえなあ、と言いながら立ち上がる。方針は決まった。まずは仲間を探す。とっとと合流しないとまずい仲間もいるし、家族が巻き込まれてないかも心配だ。この変な霧の中を歩くことすら嫌だが、急いで動かないともっと嫌なことが起こりそうだと思った。
 日比野は店にあった袋に缶詰などの保存食を入れると、一番上に拳銃をのせて店を出た。ライフルは持ってみて一発で持ち歩けない重さだと判断した。このあたり散々いろいろやってきた経験が活きている。持てることと持って動き回れることは全くの別だと日比野は理解していたデブなので余計に。


539 : 一瞬の銃撃戦のあとで ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/14(土) 07:05:49 b0krnQZE0

「しっかし変な町だぜ。見たことない漢字ばっか使われてる。ここ日本じゃねえのか?」

 町の看板や缶詰の表記も、全て漢字っぽいなにかだ。歩いていて気味が悪い。そして、どこに何があるのかがわからない。
 なんとか地図らしきものを見つけたが、書いてある文字が読めないのでどうしようもなかった。いきなり計画がいきづまった、と天を仰いだ日比野の耳に一つの音が聞こえた。ゴーン、ゴーン、と鐘の音が聞こえた。

「寺の鐘の音だよな? 誰かいるのか? 菊地が人を集めたくて鳴らしてるとか、ねーよな。いや、ありそうだわ。あいつ、ああいうことやるわ。」

 割と菊地に失礼なことを言いながら、日比野はあらためて地図を見た。地図の南の方は建物が少なく、その中に一つ大きな建物がある。そして音の方には小山が見え。かすかに石段も見える。

「たぶんここが寺だな。おれもけっこう閃くぜ。」

 自分で自分をほめて、日比野は音のした方へと向かった。とりあえず音がしたってことは誰かいるってことだろう。もちろん殺し合う気のある人間が鳴らしていたり、音を聞いて集まってくるかもしれないが、ビビっててもしょうがない。それに、そんなにみんな殺し合わないだろうという楽観がある。
 だがその楽観は、寺の石段の麓まで来たときに裏切られた。思ったより石段が長くてげんなりして見上げていると、上の方に人影が見えた。3人ぐらいだろうか、みんなで登っている。

「やったぜ。チームなら殺し合う気はないだろ。」

 自分の勘にニンマリしながら日比野は元気よく石段を登る。見上げたときにはうんざりしたが、誰かと出会えるとなったら俄然やる気が出る。こうなれば柄にも無く速いペースで登るものだが、その矢先突然、銃声が響いた。
 「マジかよ」という言葉とともに慌てて石段の脇のちょっとした崖にある木の陰に隠れた。ちょっとあてが外れた、なんて思っている目の前を悲鳴とともに何かが転げ落ちていった。子供だ。子供がすごいスピードで石段を転がり落ちていったのだ。しかもすぐ立ち上がって飛んでいった。

「お、立った。うわ早っ!?」

 思わず実況してしまう。そのぐらい目の前の光景は衝撃的だった。テレビの『世界の衝撃映像』みたいだった。そしてすぐに、それよりすごい光景を目にすることになる。

「大丈夫かっ!」

 叫び声を聞いて石段の上を見ると、イケメンが駆け下りて来ていた。そして日比野は視線を少し戻す。通り過ぎたときには見逃したが、石段の途中で何かがいる。
 人だ。さっきまで日比野の前を歩いていた人だ。それがゴロゴロ石段を転げ落ちたのか、赤い血の帯を地面に伸ばして倒れている。
 何があったのかわからない。日比野がほんの数秒視線を外していたら、たぶんいつの間にかああなっていた。きっと、さっきの子供にぶつかったんだろう。というのはなんとなく想像できた。想像できたが、それが限界だった。

「おええっ……」

 日比野は吐いた。
 人が死んだ。超あっけなく。
 今までなんども死にそうな状況は見聞きしたが、目の前で、殺し合いに乗ってない、良い人達が、簡単に死んだ。
 何か大切なものが体から出ていく感じを覚えながら、日比野は吐き続けた。


540 : 一瞬の銃撃戦のあとで ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/14(土) 07:06:16 b0krnQZE0



【0120ぐらい 住宅地と森の境の寺近辺】

【日比野明@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 このクソッタレなゲームをブッ壊す
●中目標
 仲間を探す
●小目標
 ???


541 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/14(土) 07:06:32 b0krnQZE0
投下終了です。


542 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/16(月) 07:44:20 cV2Lf/9Q0
禁断の投下二度打ち。
投下します。


543 : デジタル・ディバイド ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/16(月) 07:45:51 cV2Lf/9Q0



 虹村形兆は奇妙な違和感を覚えていた。
 自らのスタンド《バッド・カンパニー》が先程殺した名も知らぬ少年――タベケン――を川へと沈めた様子を確認していた形兆は、『何かが足りない』という気がしたのだ。
 形兆は几帳面な性格である。神経質と言ってもいいかもしれない。気になったことは少しでも解消なり納得なりがなされなければ、喉に刺さった棘のように煩わしく感じる。よって、突然自分が感じた不合理な感覚への疑問を見逃すことはなかった。

「何かを忘れているような感覚でもなければ、何かを見過ごしているような感覚でもない……ただシンプルに、『あるべき何かが無い』という感覚、あるいは直感がある。経験したことのない事態だ。」

 まさか今さら死体を処理したことで精神に変調をきたしているのだろうか、と己の正気を疑っても、呼吸も脈拍も正常だ。発汗もスタンドの使用で微かにあるかないか。なんらかのストレスを受ければ起こるであろう生理的反応は見られない。
 ��それは、前のループとの違いからくる違和感だ。
 彼は前回の今ごろは藤原あすかと遭遇していた。そのことをほんの微かにだが記憶として引き継いでいたのは彼がスタンド使いだからだろうか。彼女と合っていないことが、小さな小さな違和感として形兆の心に残った。
 もっともそれは、ふつうであれば即座に無視されるものだ。自分の心に前触れなく起こった変化をいつまでも気に留める人間はいない。
 虹村形兆という、度を越した几帳面な男でなければ。

(この赤い霧の影響、スタンド使いの攻撃、またはそれ以外の超常現象か。《バッド・カンパニー》にもう一度辺りを偵察させておこう。)

 虹村形兆は見落とさない。自分の父親がスタンドとは違う肉の芽というもので化物になったのもあり、彼はスタンド以外の能力も考慮して違和感について考える。
 スタンドの長時間の使用は体力を消耗するが、違和感を放置することはストレスとして結局体力を使うのだ。《バッド・カンパニー》を引き連れて形兆は近くを探索する。謎の感覚への答えを求めての行進だ。川を離れて公園の遊歩道を数分歩いて、ヘリが他の参加者を見つけた。

「距離200。遠いな、群体型のスタンド使いか? それとも。」

 《バッド・カンパニー》が見つけたのは、中学生ほどの少女だった。慎重に距離を詰め、スタンドを半包囲の陣形で展開させる。手に何か持っているのは、機械だろうか。
 射程距離にまで踏み込む為に更に進む。ついに顔が伺えるところまで来た。整っているが気の強そうな顔の子供だと形兆は思った。スタンドにはその使い手の人間性が出る。あまり精神に変調をもたらすようなスタンドを持つタイプには見えないが、人を見かけだけで判断するようなことはしない。
 先行させていた歩兵が少女の肩に取り付いた。今度は死体の処理に手間をかけないために、体内に爆薬を投げ込み殺すことにする。即死させずとも病院や救急が無ければ助からぬだろうし、万が一助かっても病気として処理されるようにする殺し方だ。《バッド・カンパニー》は単にミニチュアの軍隊ではなく、特殊な作戦もこなせる精鋭なのである。

「攻撃��」

 開始、と言おうとして、形兆は命令を止めた。
 突然あたりに場違いなポップスが流れたからだ。
 スタンド攻撃か、と急いで《バッド・カンパニー》に索敵させるが、それ以上何かが起こるようなことはない。ややあって形兆は、それが少女の持つ機械から流れたのだと察した。


544 : デジタル・ディバイド ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/16(月) 07:47:50 cV2Lf/9Q0



 久遠永遠は、公園のベンチに座りスマホに遺書を残すと、サブスクライブしておいたMERUのMVを流した。
 画面の中では、ポップなキャラが歌い手の声にあわせて跳ねている。これを作ったのがクラスメイトだと思うと少し誇らしい気持ちになれた。
 友達、というのとは違う。仲間ともまた違う。関係性を言い表すなら、被害者同士であり、反抗者同士、だろうか。

 永遠たち27人のクラスメイトは、ある日総理大臣が主催するデスゲームに巻き込まれた。
 デスゲームと言っても、実際に殺し合わされるわけではない。生徒たちはSNSのフレンド機能やフォロワーの多さで競い合わされ、負けたものは死なない程度の高圧電流を流されるという、『平和的』なものだ。中学生が殺し合うような物語ならば国会で問題になるだろうが、これなら安心して子供にも読ませられるだろう。
 ではなぜそんな教育上問題なさそうなイベントがデスゲームなのかといえば、それが社会的な死につながるならだ。
 このゲームで『削除』された者は、超法規的措置により、生涯にわたってアカウントの使用が不可能になる。SNSで発信することも、誰かとつながることも、情報を得ることも不可能となる。

 それは現代社会では死と同義だ。

 仕事で誰かと連絡先を交換することができない。
 知人たちのSNSグループに入ることができない。
 家族と写真や動画を共有できない。

 これから更に発達していく超高度情報化社会の中で、それは文化的な最低限度の生活を送る基本的人権を剥奪されるに等しい。

「なにが、ネクストステージだあのクソ総理。今度は本当に殺し合いさせるとか、終わりだよこの国。」

 前回のデスゲームはなんとかなった。クラスメイトは彼女の知らない友情や本性があって、いくつもの嘘と裏切りがあって、それでも腐った大人へのカウンターパンチが届きそうだった。届きそうだったのだ。
 だが、主催者の総理の言葉に乗って新たなるデスゲームに挑戦することにした永遠を待っていたのは本当の殺し合いだった。
 オープニングで見せられた、刀と暴力。喧嘩慣れしているから理解した、参加者の人選。間違いなく、物理的な殺し合いに長けている。
 そして会場内に無駄にたくさんある、武器、武器、武器の山。これだけあれば、パニックになった参加者が一人でもでれば何人死ぬかわからない。
 だから永遠は遺書を書いた。前回も書いたが、今回はちゃんと書ききった。
 たぶん、自分は死ぬ。永遠は『ぼっち』だ。前は運と人に恵まれたからなんとかなっただけで、今回はそれが無い。たぶんクラスメイトも小学校の時のトモタチも参加者にいないだろうし、今回はいきなり脱落してもおかしくない。
 それで小一時間会場内を歩いて、それでも武器を拾わずに、散歩途中で公園のベンチに座って遺書を書いた。幸い、まだ殺し合いに乗った人とは出会わなかった。この辺りには人はいないのだろう。落ち着いて書ける。書いて、曲を聞いて、誰かが現れるのを待つ。どうせこれ以上探すあてもないし、進んで殺すなんて絶対に嫌だから。

「お前に聞きたいことがある。」

 ザッ、という音と共に背中から声がかかる。来たな。永遠はゆっくり両手を上げると、「武器は持ってないし、殺し合いもする気ないよ」と言った。

「なら、その手に持った機械から手を離せ。」
「機械って、スマホ?」

 永遠は、ちょっと戸惑った。
 誰かが現れるのを待ってはいたし、背中から声をかけられるんだろうなとも思っていた。
 思っていたけれど、なぜスマホ?

「スマホ……?」


545 : デジタル・ディバイド ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/16(月) 07:49:04 cV2Lf/9Q0

 なぜか聞きなれない言葉聞く感じの声が返ってきた。
 それから、お手上げの格好をしたまま根掘り葉掘り聞かれた。スマホについて、特別な経験について、デスゲームについて、ほか多数。
 「とりあえずこれやめていい?」と聞いて、ようやく向き合ってふつうに話せるようになった。

「俺達は別の時代から拉致された可能性がある。」

 派手な格好の不良高校生は、ぼくのスマホを奪い取っていろいろ調べてからそう言った。

「総理大臣程度にこんな霧や空といった怪奇現象が起こせるものか。」
「まあ、それはそうだけど……」

 何言ってんだこいつという顔をしたぼくに、不良はふんってかんじで続けて言った。
 たしかに、まあ、そう言われればそうなんだけどさ。

「そもそも日本の最年少総理大臣は伊藤博文の44歳だ。それより若い総理大臣などいれば俺が知らないわけがない。なにより、こんな物は俺の時代には無い。」
「ちょ、投げないでよ。」

 スマホをポイッとされて、慌てて受け止める。文句は無視された。目は僕を見ながら、一人で何か考え込んでいる。
 勝手なやつだな。まあでも、これはチャンスだ。

「ねえ、とりあえず協力しない? 他の参加者にはなんか知ってそうな人もいたし。」

 僕の提案に少し考えて、不良は了解した。よし、まずは一人目。こんなわけわかんないこと、誰かに頼らなきゃどうにもならない。

「あらためて、久遠永遠。よろしく。」
「虹村形兆だ。」

 ブスッとしながら言うけど、形兆からはなんだか殺気立った感じはなくなった。
 ��このとき、僕は知らなかった。
 形兆が本当はゲームに乗っていることを。




【0035 住宅地と近くの公園】

【虹村形兆@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝を目指す
●中目標
 自分の存在を露呈しないように発見した参加者を殺していく
●小目標
 目の前の少女(永遠)と話し情報を交換する

【久遠永遠@トモダチデスゲーム@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 ゲームを潰す


546 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/16(月) 07:50:26 cV2Lf/9Q0
投下終了です。
もえぎ桃先生のトモダチデスゲームは今月から好評発売中です。


547 : ◆P1sRRS5sNs :2022/05/24(火) 21:49:42 8SlsJ2dU0
管理人さん、こんばんはです。



かつて話として破綻したものを書いた結果皆さんに大迷惑をかけた◆P1sRRS5sNsという者です。規制されている為、こちらの板で書かせていただいています。



あの後暫く離れていたのですが、ある程度時間がたち、チェンジロワのssを眺めていて面白かったためにふと執筆欲が出てきました



なので一つだけ書かせていただきたいので、規制を解除していただけるように◆5IjCIYVjCc さんに頼んでいただけるでしょうか?


548 : ◆P1sRRS5sNs :2022/05/24(火) 21:51:39 8SlsJ2dU0
申し訳ございません、書くスレを間違いました。お忘れください


549 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/05/24(火) 23:30:34 FkGrLEYk0
ダメです。
罰として貴方には本ロワへの投下を求めます。


550 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/04(土) 07:13:13 IR11wZTk0
人に求める以上自分で投下します。


551 : そんなに仲良くない小学生4人は○○から脱出できるのか ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/04(土) 07:14:41 IR11wZTk0



 北条沙都子は電信柱の陰で震えていた。
 その手に握られた拳銃は、濃い硝煙をあげていた。

 気がつけば知らない場所にいて。大勢の子供たちと共に変なウサギに殺し合えと言われて。そして刀を振り回す何人もの侍が現れた。
 これだけなら変な夢としか思えない。
 だが沙都子が公園のテーブルで拾った拳銃が、さっきの光景が単なる夢ではないと思わせた。
 どこかから聞こえてきた銃声にあてられて、それを拾った沙都子。
 エアガンかと思って撃鉄を起こし、引き金を引くと、バン!と音を立てて爆発が起こり、狙いをつけた公園のゾウの遊具に命中した。哀れにも脳天を撃ち抜かれて煙まであげるゾウの前で、思わずへたり込む。

 沙都子はこわかった。
 泣きたかった。助けを求めたかった。
 だがそれを、残った理性でこらえる。殺し合いだと実感したら、大きな声を出すのはまずいことに考えが至った。
 行方不明となった兄のためにも、自分は毅然としたレディでなければと。涙を流しているヒマなんてないと。震える足に力を込めて立ち上がる。

 だが彼女は一つ失念していた。
 自分がさっき撃った銃の音を誰かが聞く可能性を。


 さて、ここで沙都子が現在いるロケーションについて説明しよう。
 このロワでは参加者365人のうち、四ヶ所ほどに約70名ずつを、それ以外の会場全域に約70名を初期配置している。
 沙都子の親友である梨花や狼王ロボがいるのが、森林と古い住宅のある『北部』。
 部活仲間のレナ・魅音・圭一、マーダーでは虹村形兆や弱井トト子などがいるのが、オフィス街と新興住宅地のある『南部』。
 メタモンやエリン・竈門炭治郎などがいるのが、港に近く、公園や海上の豪華客船のある『東部』。
 ジンが信長やおそ松くんたちを殺し、ケロロ軍曹が謎のピラミッドなどを見つけたのが、雑多に様々な建造物が乱立する『西部』である。


 沙都子がいるのは『南部』。
 位置的には、圭一が最も近い知り合いだ。
 そして、圭一と近いということは銃を乱射したトト子とも近いということである。なにせ、さきほど彼女が聞いたのは、トト子が乱射した銃声の一つだ。
 つまり、彼女もまた銃声の連鎖に加わってしまったということであり、その結果は直ぐに銃声で現れた。
 近場で聞こえた新たな銃声。それにおびえて大通りから入った道を恐る恐る歩いていたところで、少女に出くわす。手には当然、銃だ。
 慌てて近くの電信柱に隠れる。同じように隠れた少女と、次の行動も同じだった。

「「いやあああああぁっ!!」」

 2人の少女の悲鳴がハモる。そして発砲。互いに目をつむり、両手の指で引き金を引きまくる。戦いは10秒もせずに終わり、立っていたのは。

「……あ、あの、信じてもらえるか、その、撃ったあとじゃ、信じてもらえないと思いますけれど、殺し合う気はありませんわ……」
「わ、わたくしもですわ……」

 両者だった。
 ゆっくりと開いた目の前には、同じように震える手で、弾の切れた銃の引き金を引きつづける少女を、互いに認めた。
 3mほどの距離で撃ち合った弾丸はどちらにもかすりもせずに、遥か彼方の誰かに当たったり当たらなかったりした。


552 : そんなに仲良くない小学生4人はバトロワを脱出できるのか ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/04(土) 07:15:25 IR11wZTk0



 北条沙都子は電信柱の陰で震えていた。
 その手に握られた拳銃は、濃い硝煙をあげていた。

 気がつけば知らない場所にいて。大勢の子供たちと共に変なウサギに殺し合えと言われて。そして刀を振り回す何人もの侍が現れた。
 これだけなら変な夢としか思えない。
 だが沙都子が公園のテーブルで拾った拳銃が、さっきの光景が単なる夢ではないと思わせた。
 どこかから聞こえてきた銃声にあてられて、それを拾った沙都子。
 エアガンかと思って撃鉄を起こし、引き金を引くと、バン!と音を立てて爆発が起こり、狙いをつけた公園のゾウの遊具に命中した。哀れにも脳天を撃ち抜かれて煙まであげるゾウの前で、思わずへたり込む。

 沙都子はこわかった。
 泣きたかった。助けを求めたかった。
 だがそれを、残った理性でこらえる。殺し合いだと実感したら、大きな声を出すのはまずいことに考えが至った。
 行方不明となった兄のためにも、自分は毅然としたレディでなければと。涙を流しているヒマなんてないと。震える足に力を込めて立ち上がる。

 だが彼女は一つ失念していた。
 自分がさっき撃った銃の音を誰かが聞く可能性を。


 さて、ここで沙都子が現在いるロケーションについて説明しよう。
 このロワでは参加者365人のうち、四ヶ所ほどに約70名ずつを、それ以外の会場全域に約70名を初期配置している。
 沙都子の親友である梨花や狼王ロボがいるのが、森林と古い住宅のある『北部』。
 部活仲間のレナ・魅音・圭一、マーダーでは虹村形兆や弱井トト子などがいるのが、オフィス街と新興住宅地のある『南部』。
 メタモンやエリン・竈門炭治郎などがいるのが、港に近く、公園や海上の豪華客船のある『東部』。
 ジンが信長やおそ松くんたちを殺し、ケロロ軍曹が謎のピラミッドなどを見つけたのが、雑多に様々な建造物が乱立する『西部』である。


 沙都子がいるのは『南部』。
 位置的には、圭一が最も近い知り合いだ。
 そして、圭一と近いということは銃を乱射したトト子とも近いということである。なにせ、さきほど彼女が聞いたのは、トト子が乱射した銃声の一つだ。
 つまり、彼女もまた銃声の連鎖に加わってしまったということであり、その結果は直ぐに銃声で現れた。
 近場で聞こえた新たな銃声。それにおびえて大通りから入った道を恐る恐る歩いていたところで、少女に出くわす。手には当然、銃だ。
 慌てて近くの電信柱に隠れる。同じように隠れた少女と、次の行動も同じだった。

「「いやあああああぁっ!!」」

 2人の少女の悲鳴がハモる。そして発砲。互いに目をつむり、両手の指で引き金を引きまくる。戦いは10秒もせずに終わり、立っていたのは。

「……あ、あの、信じてもらえるか、その、撃ったあとじゃ、信じてもらえないと思いますけれど、殺し合う気はありませんわ……」
「わ、わたくしもですわ……」

 両者だった。
 ゆっくりと開いた目の前には、同じように震える手で、弾の切れた銃の引き金を引きつづける少女を、互いに認めた。
 3mほどの距離で撃ち合った弾丸はどちらにもかすりもせずに、遥か彼方の誰かに当たったり当たらなかったりした。


553 : そんなに仲良くない小学生4人はバトロワを脱出できるのか ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/04(土) 07:16:02 IR11wZTk0



「お願いします……さっきのは忘れてください……」
「い、いいのですよ。お互い様ですし。」
「ふだんはあんなに取り乱したりしないんですよ。なのになんでこんな……」

 ハアアアアアとクソでかいため息をつく、全身ピンクのフリフリの少女を前に、沙都子は「ため息をしたいのはわたくしでしてよ」と言いながら、同じようにため息をした。
 少女の名前は、秋野真月(劇場版)。便宜的に劇場版とついているが、もちろん秋野真月が本名であり登録名称だ。
 2人はあの銃撃戦のあと、近くのコンビニに入り込むと、とりあえずバックヤードに身を落ち着けた。
 そして気づいたが、真月はどうやらお嬢様だ。沙都子とは違って素でお嬢様口調だし、来ている服も趣味は悪いが高級感がある。なにより立ち振舞に気品がある。今現在の惨状が無ければ嫉妬していただろう。

「とりあえず、わたくしたちに銃は使えそうにありませんわね……え〜……あっ、そうだ。のどかわいた、のどかわきませんこと?」

 このままでは話も聞けないので、強引に気分を返させようと唐突なことを言う。
 「お気づかい」うんぬんとダウナーな声で言う真月をほっといて飲み物を調達すると、「おまたせしましてよ」と強引にペットボトルを頬にあてる。
 「ピャアッ!?」と悲鳴をあげた真月を放っといて、沙都子はフタを開けた。
 そして炭酸飲料をカラカラの喉へと流し込んだところで、その声は聞こえてきた。

『俺は台Q小学校4年1組木原仁! こんな殺し合いなんかにのらねえぜ! 見てろツノウサギ! 俺がお前ぶっ倒してこの殺し合いから脱出してやる!』
「ブボッホ!?」

 名前を名乗ったあたりで沙都子は吹き出すと、肺と鼻へと入った炭酸に盛大にむせこんだ。ほとんど何言ってるかわからなかったが、体育の時に使う拡声器か何かで叫んでいる。

「なんてバカなことを。あれじゃ殺し合いに乗った人に狙われるでしょうに!」
「いえ、理にかなっているわ。」
「は、いつの間に!?」

 横を見ると、真月がキリッとした顔で腕を組み立っていた。実は沙都子のさっきのちょっとしたイタズラで、余裕の無い自分がみじめになり振り切ったのだが、それを沙都子は知らない。

「この殺し合い。一見個人戦に見えて、実は団体戦。銃があれば子供でも大人を殺せるなら、ランチェスターの法則により人数の多さは強さと同じ意味を持つ。」
(とつぜん賢くなってどうしたんですの?)
「そしてこの銃の量。襲いに行こうにも、当然放送している人間も銃を持っていると考えるべき。一発でも当たれば命にかかわる以上、あの呼びかけに答えられるのは、元からの知り合いかよほどの蛮勇を持つかね。」
「な、なんて的確で冷静な判断力ですの……

 思わず驚き役のようなことを言う沙都子。が、もっと驚くことはすぐその後起きた。


554 : そんなに仲良くない小学生4人はバトロワを脱出できるのか ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/04(土) 07:16:34 IR11wZTk0

『ちょっと待ちなさい! 私は第一小学校5年1組一路舞! ただいまから『みんなで殺し合いから脱出しよう委員会』を結成します! 委員長は私、一路舞が務めます。みなさん、一緒に殺し合いから脱出しましょう!』
『はあ!? なんだよそれっ! 後から出てきてリーダーになるんじゃねえ! みんな! 俺と一緒に脱出しようぜ!』
『あなたは4年生でしょう! 上級生がリーダーになるのは当然でしょ!』
『やだ! なんか先生に告げ口しそうな女子だし!』
『女性差別だわ! こんなポリティカルコネクトに反する人間に、指導者の資格はありません!』
『年上だから従えってのは差別じゃないのかー! 俺1回無人島行ったことあるからプロだぞ!』

 「え、なにこれは」とドン引きする沙都子の耳に、学校の放送のような女子の声と、メガホンのような男子の声が響く。
 横の真月を見る。さっきの姿勢のまま硬直していた。

「……人数は強さですが、寡兵が連携によって打ち破ることもある。統率の取れない大軍が敗北するのは古今東西の戦史の通り……」
「『烏合の衆』、ですわね。」

 今度は沙都子もわかる話が出てきた。あんな感じの人間が100人いようが200いようが、頼れるとは微塵も思わない。

「……真月さん、ここから離れませんこと。あのバカな方たちに巻き込まれたらろくなことになりませんわ。絶対に。」

 言うが早いか、沙都子は買い物カゴに使えそうな商品を入れていく。ヤバい人とは関わったら負けだ。

『みんな聞いてくれ! さっき近くで銃声が聞こえた! 近くに殺し合いに乗ったやつがいる! このままバラバラじゃ、一人ずつやられちまうぜ!』

「……その銃声って私たちのよね……」
「……真月さん?」

『だまされてはいけません! その銃声が彼が起こしたものという疑いがあるわ! 甘い言葉で人を集めて殺す気かもしれない!』
『なっ!? ふざっけんな! 俺じゃねぇ! 俺が持ってるのはグレネードランチャーだ! そうだ、お前が撃ったのか! お前こそ人を集めて殺そうとしてるんじゃねえだろうな!』

「私たちのせいで、あんなに険悪に……」
「真月さん? 真月さーん??」

『私は今まで、一度も銃には触っていません! 武器を持ってるなんて銃刀法違反だし、落とし物を略取するなんて遺失物法違反だわ! 皆さん、彼は犯罪者です!』
『落ちてるもんは何でも使うのがサバイバルだろ! てか警察とかいねえたぶん! 大人に頼らずに自分でなんとかしねえと!』
『あなたを銃刀法違反及び遺失物法違反で訴えます。理由はもちろんお分かりですね? あなたが放置されている物を略取し、武器を所持したからです。 覚悟の準備をしておいて下さい! 近いうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用で来てもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい! あなたは犯罪者です! 刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい! いいですね!!』
『なんで無人島に裁判所があるんだよ! 殺し合いはどうなってんだ殺し合いは! お前も学校の機械を平気で使ってんじゃねえか! わかってんのか!? 脱出するには、どんなものでも使わねえといけないだろうがよ! 犯人扱いかよ!? くそったれ!』


555 : そんなに仲良くない小学生4人はバトロワを脱出できるのか ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/04(土) 07:17:16 IR11wZTk0

「私、あの二人を止めます。」
「ウッソでしょ真月さん!?」
「女の子の方は武器を持ってないし、このままだとあの二人で、さっきの私たちのように撃ち合うことになるかもしれません。」
「いや、ならないと……は、言い切れませんけど、そうなったとしても自業自得でしてよ。」
「そういう訳にも行きません。あの二人の声を聞いた参加者はどう思います? 脱出しようと言っている二人が口汚く罵り合っているのを見て。そのキッカケが私たちにあるのに、無視することなんてできません。」

 沙都子は思った。どこまでお嬢様なんだと。
 そんなこと関係無いと逃げてしまえばいいのに。自分とは違うと、改めて思い知らされる。本当に真月はお嬢様なのだと。

(……あなたとは、住む世界が違いましてよ……)

 沙都子は静かに買い物カゴを持ったまま後ずさる。このまま真月とあんな場所に行くなんてゴメンだ。バックレよう。チラッと真月の横顔を見て、逃げるタイミングを伺う。グッバイ真月、心の中でそう言い背を向けて走り出そうして、沙都子は真月の顔を二度見した。

(ものっっっっっすごい嫌そうな顔をしてますわ……)



「木原仁、台Q小学校の4年生だ。」
「一路舞、第一小学校の5年生です。5年生です。」
「秋野真月、6年生です。家は秋好旅館という宿泊業を営んでおりまして私も経営を学んでいます。浅学菲才の身ではありますが、皆様よろしくお願いします。」
「「か、勝てない……」」
「あ、北条沙都子ですわ。」

 5分後、自己紹介で論争を黙らせると真月は対主催グループのリーダーとなった。



【0100 『南部』小学校】

【北条沙都子@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第三話 祟殺し編 下(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する
●中目標
 部活メンバーと合流する
●小目標
 しかたないので真月についてく

【秋野真月@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみは小学生!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する
●小目標
 四人で話す

【木原仁@そんなに仲良くない小学生4人は無人島から脱出できるのか!?@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する

【一路舞@黒魔女さんが通る!! PART 6 この学校、呪われてません?の巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 自分がリーダーになって脱出する


556 : そんなに仲良くない小学生4人はバトロワを脱出できるのか ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/04(土) 07:18:55 IR11wZTk0
投下終了です。
ザックリロケーションを分けました。
使ってもいいですし使わないでもいいです。


557 : ◆P1sRRS5sNs :2022/06/25(土) 01:31:22 ???0
管理人への連絡を見て、コメントさせて頂きます。

まず最初に、誤爆をしてしまった事を改めてお詫び申し上げます。

私は常にうっかりミスをしてしまう事が多く、このスレでも迷惑をかけてしまいました。本当にすみませんでした。

そして、怒らないで聞いていただきたいのですが

私は549のスレの言葉を冗談だと捉えてしまっていました。

本気で書いて欲しいという思いがあったとは気づかず、無視してしまっていた事をお詫びします。

そして、最後にssを描く事ですが、申し訳ございません。書くことは控えさせていただきます。

というのも鬼滅やNARUTO、ジョジョ等私が好きな物語のキャラがいる為に書く事は可能かもしれません。

ですが、実を言うと私はそれらの文庫バージョンを知りません。

なのでキャラの性格に変な所が出るかもしれないと考えました。

私は以前整合性がつかないssを描いた結果チェンジロワの方々に多大なご迷惑をかけてしまいました。

同じような事を出来る限り抑えていきたいのです。

申し訳ございません、ですが、◆BrXLNuUpHQさんのssを書きたいと思う方が、増える事を祈っております。

では失礼します


558 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:09:06 y6iYjUZw0
返信ありがとうございます。
ご事情お聞きしましまので投下についてはもう大丈夫ですよ。
ただ最初は冗談として言っていても、真に受けてバックレたり冗談に甘えてボケ殺したりするなら冗談ですまそうとは思わなくなるので、次に同様のことがあった場合は今度こそこのレスと同じ558レス分書いていただきますので覚悟の準備をしておいてください!
それでは投下します。


559 : 死刑執行のトライバレット ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:11:50 y6iYjUZw0



 小林聖二は自分が頭が良くて顔も良いことを自覚しているが、だからといって天才ではないこともわかっていた。
 クラスで勉強が一番できるのは地頭に加えて努力しているからだし、なにか一つの分野に限れば自分よりも詳しいやつなんてクラスにだっている。
 ようするに、ふつうのこどもだ。こんな命がけのゲームに巻き込まれるなんて、マンガみたいなことになる覚えは全く無かった。

「こういうのってデスゲームって言うんだっけ? 本当に起こるんだな……」

 巨大地震や未曾有の津波にでも遭遇した被災者のように、小林は赤い空を見上げて独り言を言った。しゃべるウサギに赤い空と霧、ここまでくるとリアリティが無さすぎてそういうものだと思わず受け入れてしまう。
 驚きすぎて一周回って冷静になれたからだろう。初期位置のファミレスのトイレに行くと、とりあえず用を足して手と顔を洗う。鏡に映る自分の首には、存在感のある首輪が巻き付いている。これをどうにかしなきゃな、と思いながら出ると、彼はドリンクバーのコップをとり水を注いだ。一気に飲み干す。冷たい液体がカラカラの口から食道へ、そして胃を通って腸へとおりていくのがわかる。二杯目は氷を入れ、やはり水を入れて一度に半分ほど飲み込んだ。

「次はどうしようか……さっきのあれだと、こども同士で殺し合わせる気なのか?それとも……」

 カラカラと氷を転がしながら、小林はまた独り言を放った。正直、何かしないといけないのはわかっても答えが見つからない。もどかしさでいつからか空回りしていた。これでは駄目だ、でも、学校の勉強のように正答なんて用意されていない。そもそもそんなもの存在しているかすらわからない。
 しばらくコップの中の氷を見つめて考える。
 このファミレスから出ていくべきか? 外はどうなっているかわからない。だがここから出ないことは安全なのだろうか?
 この床に落ちている銃は本物だろうか? エアガン、にしては重さも感触も臭いもなんとなくリアリティがある。だがちゃんと撃てる気なんてまるでしない。
 考えても妙案なんて浮かばない。そのまま途方に暮れていたとき、一つの破裂音が聞こえた。

「銃声……なのか?」

 その音の正体を、目の前のライフルから察する。ふだんならこんなこと考えもしないが、今はその突飛な発想が当たっているように思えてならなかった。
 間違いない。すでに殺し合いは始まっている。
 どうする? ここから逃げたほうがいいだろうか? でもクラスメイトも巻き込まれているかもしれない。別に自分の命をかけてまで助けようなんては思わないが、それでも助けられるのなら助けたい。
 考えを急かすように、連続した銃声が聞こえる。気がつけばライフルを手にとって駆け出していた。彼らしくない衝動的な行動。それが彼の命運を分ける決断だとその時の彼は気がついていなかった。


560 : 死刑執行のトライバレット ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:15:26 y6iYjUZw0


 まるでマシンガンを連射するような銃声��実際弱井トト子によりサブマシンガンが乱射されている��に背中を押されるように、小林は早足で街を進む。ときどき流れ弾が近くに飛んでくるなと思ったが、そのたびに足を早めて銃声から離れる。赤い霧が立ち込めてはいるが街灯の灯りで走ることに支障はない。それでいて視界はある程度遮られるので、狙撃されるようなリスクは少ない。そのことを小林がわかっていれば、状況は違っただろう。
 この霧の中で何度も至近弾を受けるということは、偶然ではなくはっきりと狙われているということに。

「銃声から離れられないな……はぁ……はぁ……」

 止まない流れ弾と近づいてくる銃声に、次第に小林の息が上がる。
 夢にも自分が狙われているなど思わず、小林はついに足を止めた。そこに更に弾丸が撃ち込まれて、ようやく異変に気づいた。あるいはもっと早くから気づいていたが見ないようにしていたのかもしれない。明らかに狙われていると。
 手元には、今まで使ってこなかったがライフルはある。それのせいで余計な重りを抱え込んでいたのだが、そんなことを気にしている暇もなく電信柱の影に隠れると、自分の背中を狙う狙撃手の正体を探った。

 その時不思議な一陣の風が吹いた気がした。しとどに汗で濡れた服の温度が心なしか下がった気がする。

「茜崎か?」

 視界に居たのは、こちらに拳銃を片手に駆け寄ってくるクラスメイトだった。
 茜崎夢羽。五年生の初め頃に転校してきた、不思議な雰囲気の美少女だ。人形のような白い肌に美しい長髪で、口数の少ないミステリアスな女子。小林からすると、同じくクラスメイトの江口瑠香と共にどちらかと言えば苦手なタイプだ。何を考えているのかわかりにくくてとっつきにくいところがある。とはいえ別に悪いやつではないし、頭良くて謎解きなのも得意で、一目置いているから、という部分が大きいが。
 その茜崎が柄にも無く表情を崩して駆け寄ってくる。手には拳銃を持ち、その銃口を小林の方へと向けてくる。そこまでされても、彼には茜崎が自分を狙っているという発想にはならなかった。彼女のことをよく知っているわけではないが、こんな殺し合いには乗らないことは100%信じられる。

「小林、上!」

 その言葉に素直に答えられたのはそれが理由だった。とっさに駆け出したのと同時に、ほぼ真上から発砲音が響くと、背中に何かが降りてくる気配を感じた。
 胸の中央に衝撃と熱を感じたのは、そのすぐ後だった。

「あっ��」

 そのもらした声はどちらのものだったのか。
 銃口を向けながらも発砲しなかった茜崎の胸に、血飛沫が上がる。目の前で撃たれた、と気づいて、体からすぐに力が抜けていく。なぜ? そう思う間もなく、走り振る手にかかったのは、自分の血液。
 自分を狙った弾丸が、貫通して当たった。そう瞬時に理解できたのは、死ぬ間際の活性化した脳によるものだろうか。
 逃げろ、と言葉に出すこともできずに、自分の横を通り抜けようとした人影に遮二無二しがみつく。凄まじい力で引き剥がされそうになるのを感じながら、小林の意識は闇に落ちていった。


561 : 死刑執行のトライバレット ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:18:02 y6iYjUZw0



「逃げられたか。まだこの武具に慣れていないな。いや、この少年の覚悟を測り違えたか。」

 和装に近い民族衣装の男、ヌガンは自分に死んでもしがみついている小林の死体の指を一本一本外すと、血痕を追い歩き始めた。

 ヌガンはリョザ神王国大公領の第二公子として、当初はこの殺し合いに反旗を翻す気でいた。当然である、このような非道を武人として許すことなどあってはならない。
 だが、その決意は彼が最初にいた民家から一歩出たときには揺らいでいた。

 溶岩を固めてできたような道。異国の砂と石灰でできた建材を積み上げたような高い建物。そして銃として、武器として、道具として、そして何より自分への戒めとして嵌められた首輪としてそこかしこにある合金。
 大公領の人間としては数少ない高等教育を受けたものだからわかる。それらはどれも、彼の生きた時代からすれば遥か未来の技術で生み出されていると。
 真っ直ぐで歪みのない金属。それが寸分の狂い無く、量産されている。立ち寄ったコンビニのレジにあった硬貨を見た時、ヌガンは膝から崩れ落ちるような衝撃を覚えながら己の置かれた状況を察した。
 これほどの技術を持つ国が、存在するのか。この技術を手に入れるまでに、神王国はどれほどの年月を割かねばならぬのか。
 そして彼は、手にした拳銃を発砲した時、底しれぬ絶望と共に殺し合いに乗るのとに決めた。

「これほどの武力をこうも簡単に数を揃えられる……これ一つあれば、闘蛇も、王獣でさえも、鶏を絞めるように殺せるだろう……」
「これさえあれば……誰でも……剣や弓を修めずとも……誰でも……」
「……手に入れなくては。なんとしても、この力を手に入れなくてはならない。でなければ神王国の存亡の危機になる! これだけの力を振るえるものを、神王国の外に置いておくわけにはならないっ!! そのためなら……そのためなら!!」

 折られたのは、戦士としての、武人としての、武を司る大公領としての誇り。今までいくつもの犠牲を払い積み重ねてきた国と家と民を根本から揺るがす、『技術』という麻薬。

「『血と穢れ』……我が祖、ヤマン・ハサルよ! このヌガン、清く尊きリョザ神王国を守るため、汚名に塗れたいと思います!」

 決意してからの行動は早かった。銃という存在はまるで埒外だが、それが音の大きく弾速の速い弓だということを理解するのに大した時間はかからなかった。元々幼少の頃から武門としての英才教育を受け、若くして闘蛇をも乗り回せるヌガンだ。いくらでも試し撃ちできるほど銃があるのもあって、要領を掴むのは早かった。そしてこの時の試し撃ちが、トト子の乱射と同じく周囲に弾丸と疑心暗鬼をばら撒くきっかけになったのである。
 やがて彼が見つけたのは、不思議な髪の色の少女だった。その姿からアクン・メ・チャイ(魔が差した子)だと判断し、あってはならぬ血の交わりで産まれたあってはならぬ者ならばと、試し撃ちした。が、逃げられ他の者を追っているうちに小林を見つけて彼を狙い、それでもなかなか当たらずついには勘づかれ、ギリギリまで近づいて殺そうとしたところで、いつの間にか戻ってきていたアクン・メ・チャイに邪魔されたという次第である。

「血に塗れたな……これでは警戒されるだろうが……いや、もはややむ無しか。」

 今さら言い訳などしようもない。そう思い直したところで、ヌガンは一つの倉庫にたどり着いた。


562 : 死刑執行のトライバレット ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:19:40 y6iYjUZw0



「おい、アンタ大丈夫か!」
「牧人、この倉庫鍵開いてるよ! ここに!」

 時間は少し前に遡る。
 小笠原牧人は銃声の響く町角で、茜崎夢羽を抱きかかえていた。その胸からは血を流し、明らかに朦朧とした意識で目の焦点があっていない。どう見ても銃撃を受けた彼女を、少し前に出会ったアキラと二人で近くの倉庫に運び込む。苦しげな息をする茜崎の様子に、牧人は苦々しげにマンションの一室を見た。

 牧人は自慢ではないがふつうの小学生だ。多少頭と顔がいいだけで、もちろんデスゲームなどしたことはない。そこに関しては彼が最初に出会ったアキラも同じで、もちろん二人はこの殺し合いから脱出するために仲間を集めようと動いていた。
 その矢先に起きたのが、謎の銃撃だ。
 実はそれはヌガンの流れ弾であり、あとは時々トト子の乱射した弾の痕跡を見つけただけだったのだが、二人に方針の変更を考えさせるには充分だった。
 この日本で、銃を乱射している人間がいる。しかもおそらく二人以上。どちらかがどちらかを襲っているだけで危険なのは一人だけかもしれないが、のんきに外を歩くのはやめたほうがいいとは考え直した。
 そして直面したのは、マンションの一室で銃を構えていた��ように見えた��こどものグループ。前のループでも同じマンションを拠点にした、新庄ツバサと宮美一花の二人が、ライフルを持ち部屋を物色する姿だった。
 おりしもヌガンが小林に狙いを移して追い立てていたことで、二人のもとにだんだんと銃声は近づいてくる時のことだった。
 それからしばらくして響いた、今までよりも明らかに近い位置から銃声。それから直ぐに見つけたのは、血に塗れ倒れ伏した少女、茜崎。状況から見て、ツバサと一花の二人組が彼女を狙撃したと考えるのに引っかかりは覚えなかった。

「おじゃまします! とりあえず玄関に寝かそう、血を止めないと!」
「救急箱かなんか探してくる、アキラはここにいろ。」

 見ず知らずの女子だが、こんなところで死なせるわけにはいかない。そう二人が思ったのは、この特異な環境だからだろうか。ふだんなら二人とも救急車を呼んだり呼びかけたりはするが、ここまではしない。どちらも妹が巻き込まれているかもしれない、という考えが、ふだんよりほんの少しだけ女子に優しくしていた。
 そしてこの倉庫にはもう一人、同じように妹の心配をしている兄がいる。前のループでは初期位置であったものの一度外へと出ていき、銃撃を受けて戻ってきた杉下元が。茜崎夢羽の友人であり、彼女を探すことも考えて、今まさに倉庫を後にしようとしていた元が。

「茜崎……え? え? え?」
「お前コイツの知り合いか、手伝え! 撃たれてる!」
「撃たれてる……銃で……?」
「ああそうだろ、この「その、銃でか?」……なにっ?」

 熱くなっていた牧人の背中に冷たい汗が流れる。元の手には、銃。牧人の手にも銃。牧人の目の前には、銃口。

「……どういうことだ。わけがわからない……お前らが、撃ったのか?」
「違うよ! 牧人は撃ってない!」
「牧人は? じゃあ……お前か?」
「違う違う違うそうじゃ、そうじゃなあい!」
「じゃあその銃はなんだよ。おかしいだろ銃持ってるなんて。」
「これは……拾ったんだよ! ね!」
「いや、おかしいだろ……銃ってそんな落ちてるもんじゃないだろ。」

 ヤバい。牧人は元の目を見て察した。母親と同じ目だ。心がきしんで、壊れそうになってる人間の目だ。その目から目を離せないのに、元の指が引鉄にかかるのがなぜかよく見えた。

「元っ!!!」

 撃たれる、と思ったその時、少女の声が響いた。
 他の誰でもない、しかしその人物だけはそんな声を出せるはずのない、茜崎夢羽本人の。

「犯人は……別にいる……早まるな……」
「茜、崎……」

 息も絶え絶え、という言葉がピッタリな喋り方で、茜崎は何とかそう言った。首が元の方に微かに動き、しかし力なく戻る。僅かに開いて目も閉じて、だがそれでも、何か近寄りがたい力を感じさせる。

「ラムセス……よろしく……」

 その言葉と共に、一際強い風が一瞬吹いた気がした。元も牧人もアキラも思わず目をつむる。
 目を開けたときには、茜崎にあった生気は消えていた。

「なんで……」
「なんで最後に猫の世話なんか頼むんだよ……バカっ。」

 帽子を目深に被り、涙声でそういう元を、二人は見ていることしかできなかった。


563 : 死刑執行のトライバレット ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:21:29 y6iYjUZw0



 ささいなボタンの掛け違いが、本来死んでいた人間を生き残らせ、生きていた人間を殺させた。
 茜崎夢羽は本来ならばヌガンの追跡を一度は自力で振り切るも、再び狙われて命を落とすはずだった。それが小林を助けるために深手を負ったことで、牧人たちが早いタイミングでマンション近くの倉庫に集結することになった。
 では、ヌガンはなぜ前回小林に狙いを移さなかったのか?
 それはヌガンが前回は見つけた、一つの痕跡が今回は無かったことにあった。


564 : 死刑執行のトライバレット ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:22:59 y6iYjUZw0



 時間は更に前に遡る。
 ゲーム開始直後、一人の少年が慌てた様子で鏡の前で服を脱いでいた。上半身はもちろん下半身も躊躇なく脱ぎ捨て全裸になる。体を何度も何度も隈なく見て、手を洗面台へとつくと絞り出すような声で言った。

「どこにも……傷が無い……」

 少年の名前は、前原圭一。
 彼はこれまでの小林や牧人とは事情が違っていた。イケメンでないとか秀才でないとかではない、彼は前回の記憶を一部引き継いでいた。
 それは彼が暮らす雛見沢のごく一部の人間にだけ起きる現象のようなものである。詳細を知る人間が存在しないため、それがどのようなものかは人知の及ぶところではないが、少なくとも彼は夢の中の出来事ように覚えていた。
 東京から来たマジシャンに会った、銃で撃たれて*されかけた、また銃で撃たれそうになって今度は*した。二人で警察署に行き。魅音と会った。侍に襲われ、魅音を逃すために手榴弾で特攻した。そして、爆発が起きて��

「そうだよ、俺、死んだはずだよ。あの侍に……あれ?」

 だが夢の記憶というのは直ぐに消えるものだ。あれほど現実味を感じていた記憶が、意識していないと曖昧になっていく。侍が黒髪だったような気もするし銀髪だったような気もするし、侍ではなく金髪の女の子だった気もする。

「クソっ、どうなってんだよ! 頭が、頭が変になりそうだっ! これもオヤシロ様のたたりなのかよ!」

 髪をかきむしり、手を鏡に叩きつける。わけがわからない。突然の殺し合い、一度巻き込まれて死んだ記憶、そして今のこの混乱した頭、あとついでに喉のかゆみ。いっぺんに考えなくてはならないことが多すぎて叫びたくなってくる。
 ゆえに彼は失念していた。前回の彼が始まってすぐに東京から来たマジシャン、山田奈緒子と出会っていたことを。

「なんかすごい音聞こえたな、興奮してきたな、入ってみるかうぇっ!?」
「わっ!? ちょっ!? 山田さん!?」
「あっ、お取り込み中っすねすみません……なんで私の名前を?」

 ガラガラと引き戸が開いて入ってきた山田が見たのは、ラーメン屋の券売機横で全裸になり鏡の前で何かやっている圭一の姿だった。
 前回のループの記憶を持っていた結果、鏡の前で全裸になり、それを元の同行者に見られる。
 とんでもないバタフライ・エフェクトである。


「��じゃあ、前原さんは警察署に行きたいんですね。」
「ええ……あの、服着ていいですか?」

 ふつうならここで別行動する分岐に入るところだったが、しかし幸運にもここでは前のループに近い展開になった。
 山田からすれば、上田の巨根を見慣れたくもないのに見慣れるハメになってしまったので、露出狂の少年ぐらいならドン引きしながらでも情報交換を優先する可能性が僅かにある。
 そして山田の名前を知っていたことがプラスになり、数%の確率である同行ルートを引き当てていた。


565 : 死刑執行のトライバレット ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:24:23 y6iYjUZw0

「それにしても、夢の中であったようなって、またオカルトな。あ、ブリーフ派なんですね。」
「まじまじ見ないでください!」

 圭一は山田に、記憶を夢として話した。彼からすればそうとしか言いようがないし、なまじ山田の名前を言い当ててしまっている。誤魔化そうにも色んな意味で焦ってしまい、あきらめて本当のことを話す他なかった。
 だがそれよりも先に服を着たい。一応美女の前で全裸というのは恥ずかしすぎる。その羞恥心が圭一から雑念を取り払っていたのだが、本人はそんなことを気づかず大急ぎで服を身に着けていた。
 ようやく全部来たところで、圭一は山田がいつの間にかカウンターの向こう側に移動しているのに気がついた。

「なにしてるんですか?」
「前原さんの夢が真実か試してみようと思って。今から私も、一つ超能力をお見せします。」
「あぁ……コインの貫通するマジックですね。実は下のコップの底にもう一枚のコインを貼り付けておいて、振動で落とすってやつですか。」
「マジックやる前にトリック見抜かれた……」

 何気なく言った一言に山田の顔が引きつる。トリックもそうだが、何をするかを事前に言われてしまうと本当に圭一に予知夢があると認めることになってしまう。
 困惑と警戒を強めた山田にはまるで気づかず、圭一はショットガンを担ぐと店の外へと向かった。

「とにかく、俺は急いで警察署に行きたいと思います。山田さんも行きませんか?」
「えっでも、予知夢だと警察署襲われるんですよね。いやーハハハ。」
「だからですよ、早く行って魅音と合流しないと逃げられなくなる。それにこの辺りは銃撃戦になるんです。ここにいたら危ないんですよ!」

 危ないのはお前だよ、と思う山田には気づかずに圭一は熱弁をふるう。彼は自分でも気づかないうちに前のループの記憶をこれから起きることを予知した予知夢だと解釈していた。なまじ山田の名前を当てたことで、その記憶を辿って行動しようとしている。そしてその記憶は概ね正しいものだ。他の参加者に及ぼす影響が少なければ、彼が望むとおりの未来を選択することは不可能ではない。

(ここで断るとなんかコイツヤバそうだな……)
「わかりました、急いでいきましょう。」
「はい!」
(良かった、これで山田さんも撃たれなくて済む。)

 だがバタフライ・エフェクトはどこで起こるかわからないからバタフライ・エフェクトなのだ。圭一が気にかけた山田の被弾。その血痕がなかったがためにヌガンは山田の追跡では無く小林の追跡を行った。そしてもっと直接的なバタフライ・エフェクトを彼がそのことを実感するまで、そう時間はかからなかった。


566 : 死刑執行のトライバレット ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:27:06 y6iYjUZw0



「ぬぅ〜〜はーなーせー! オラはヒマとシロを探しに行くんだぞー!」
「アカンてしんちゃん! お外危ないねんで!」
「そんなのわかってるゾ! にとちゃんたちもユーカイされてヘンタイだから、ヒマたちもユーカイされてるかもしれないソ!」
「家族まで巻き込まれてるとは限らんやろ! あとヘンタイやなくて大変や!」

 スナックで宮美二鳥たちと出会ってしばらくして、野原しんのすけは押し問答を繰り広げていた。
 簡単に情報交換したところ、二鳥たち三人もあのツノウサギとかいうのにここに連れて来られたらしい。なら話は早いとしんのすけはひまわりたちを探しに外に行こうとして、それを二鳥が止めて今の状況である。元々このスナックに来たのも家族を探しての行動なので、話が終わったら直ぐに探しに行く気だった。

「そういうのはな、警察に任せとくもんやねん。しんちゃんが探しに行ったらしんちゃんまで迷子になるで。」
「迷子じゃなくてユーカイだぞ! おまわりさんもいるかわかんないもん! だからオラが探すんだゾ!」
「お巡りさんはおるよ。」

 二鳥の声の温度が下がったのをしんのすけは感じた。今までのやさしい口調から、ものすごく怖い感じがした。

「いきなり殺し合えとかな、そんなんありえへんねん……マンガとちゃうねん。わかるな? しんちゃん?」
「にとちゃん、でも……」
「しんちゃん、お姉ちゃんな、しんちゃんが心配やねん。しんちゃんのお……しんちゃんの親に会った時に、なんて言えばええんや? どんな顔をすればええんや? なあ、わかるか?」
「にとちゃん、苦し……」

 自分をつかむ手が、それまでとは比べ物にならないぐらい強くなる。握りつぶすような握力に思わずそう言うと、一転してぎゅっと抱きしめられた。

「大丈夫や……家族は巻き込まれてへん。警察がなんとかしてくれる。やから……お姉ちゃんとここにいよう、な?」
(な、なんだかにとちゃん変だゾ……)

 言葉を失くす、という経験はあまりないが、しんのすけは二鳥の態度に何か喋ってはいけないものを感じた。こういう感じはみさえにもひろしにもないものだ。
 だがそれでも、ひまわりたちを探しに行きたい。なんとかもがくも力では勝てない。しかしそれでも、と思っているとルーミィと目が合った。「あ、そうだ」と唐突に名案が浮かんだ。

「じゃあ……みんなでおまわりさんに行くゾ。」
「……なに?」
「おまわりさんに行って、迷子を探してもらうゾ。ルーミィは迷子だから、きっと探してるゾ!」
「ルーミィ、まいご?」

 ルーミィのカタコトの日本語に、二鳥はそちらへと顔を向けた。そしてしんのすけとの間で顔を往復させる。

「あ、そうだよ、警察署に行こうよ! チラッと大きいビル見えたよ!」
「そうだよ、うん、チラッと見えた。」

 円とチョコも便乗する。二人とも二鳥の変化に少し引いていた。何とは言えないが何かが違った気がする。


567 : 死刑執行のトライバレット ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:28:30 y6iYjUZw0

「警察署か……いや、でも……ほら! さっきのイケメンが帰ってくるかもしれへんやん!」
「メモとか残しといちゃだめかな?」
「こういうお酒のある店にちっちゃい子置いとくよりはいいと思います。」
「せやけど……せやけど……」

 二人にまでこう言われると二鳥は弱い。たしかに警察を頼りにするには警察署に行くのが一番だ。もし本当に警察がいるのなら。

「あー! ルーミィがお酒の瓶オモチャにしてるゾ!」

 トドメはルーミィの行動だった。椅子に座らせていたのがいつの間にかカウンターに上がり、置かれていた酒瓶を触っている。カラフルで綺麗な瓶をどこからか取り出した杖で叩き、スナック内には心地よい音が流れた。二鳥はそれを慌てて抱きかかえて止める。そしてため息一つしてこう言った。

「しゃーないな。みんなで警察行こか。イケメンにはメモ残しとけばええやろ。」

 それからの五人の行動は早かった。元々見繕っていた使えそうなものを借りて行き荷造りする。以外にも一番手際が良かったのはルーミィだ。日頃冒険者として生活しているのもあり、しんのすけと二人でドアの前に待機する。

「も〜、円ちゃんもチョコちゃんも早くー!」

 しんのすけの声に急かされて急いで荷造りを終えると、二鳥はルーミィを抱きかかえてドアを開けた。
 警察署までの距離は大したことはない。この五人でもそう時間はかからず到着するだろう。ということはそれだけ誰かと遭遇する可能性が低いということである。それが二鳥が妥協した理由の一つである。
 実際、前回のループではしんのすけたち五人は誰とも会わずに警察署近くまで辿り着いた。外から見ても無人だったので別館の方に先に入っているうちに雪代縁の襲撃で戦闘になったが、それでも行きしなでは誰とも会わなかった。

「あっ、誰だ!」
「うおっ! 人かいな!」

 だが今回は、圭一がより早く警察署に訪れている。
 警察署まであと少しというところで、交差点で二組のグループが遭遇した。

(だ、誰だコイツら、こんなのあの夢にはなかったぞ。どうなってるんだよ!)
(ショットガン担いでるやん! 手にも拳銃って護身用ってレベルちゃうやろ!)
「お〜�� そこの美人のおねいさ〜ん��」

 混乱する圭一と二鳥、山田に鼻の下を伸ばして近づくしんのすけ。本来はあり得なかった展開で。
 どこからか一発の銃弾が飛来した。

「うわっ!?」
「うおうっ!?」

 弾丸が山田としんのすけの足元を叩く。それで空気は一変した。

(今の、コイツらか!? 誰が撃った!?)
(しんちゃんが狙われた! もう一人おる!)


568 : 死刑執行のトライバレット ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:31:47 y6iYjUZw0

 一気に圭一と二鳥の危機感が跳ね上がる。とっさの行動を取らなければというレベルにまで達し、引鉄に指がかかる。迷っていたら撃たれる、そんな気がしてしまう。
 そして、銃声。

「わっ、撃っちゃった!」
「やっば!?」

 相次いで円とチョコの声がする。一応二人も持っていた銃から銃弾は発射され、それが引鉄になった。

(予知夢で撃ってきたのは小学生だった! ならコイツでも!)
(う、うちも撃ったほうがええんか!?)

「「うわあああぁぁぁぁっ!!」」

 そして弾丸は放たれた。
 誰が何発発砲したのかは本人たちにもわからない。
 ただお互い、弾を撃てなくなるまで引鉄を引き続けた。
 ひたすらに指先に力を込め、開閉を繰り返した。
 時間にすると数秒だろう、だがその弾丸の雨は、人一人を殺すには充分だった。

「しんちゃん……」
「はぁー……はぁー……」
「……ウソだろ?」

 その場の皆が正気に戻ったとき、二つのグループの中間地点で一つの小さな死体が出来上がっていた。
 野原しんのすけは数十発撃たれた弾丸のうちのたった一発が目と脳を貫き絶命した。

「俺か、俺が撃ったのか? 撃って殺したのか?」
「しんちゃん……ウソやろしんちゃん! お、お前ぇ!!」
「ち、違う! お前らが撃ったんだろ! そっちは三人もいるんだぞ!」
「なんでうちらが撃たなアカンねんボケェ!」
「お前らが俺を殺そうとして、間にいたコイツに当たったんだ! そうだ、そうだろ!」
「ちゃ、ちゃう! 絶対ちゃう! ウチやない! こんのドクズがあっ! 死ねっ! 死にさらせ!」
「ヤバい山田さん、逃げよう!」
「待てやあっ!」
「来るなあっ!」

 圭一はショットガンを乱射しながら走る。なぜこうなってしまったのかを自問しながら。
 自分は夢に従って行動してきたはずだ。早く警察署に行けばそれだけ早く園崎魅音と合流できて、安全に警察署を脱出できていたはずなのに。

「なんで……なんでこうなるんだよ……」
(それはこっちのセリフだよ! イタタタ……)

 自分の世界に入り独り言を言う圭一の横で、山田は腕を抑えながら逃げる。唯一発砲しなかった彼女だが、唯一しんのすけ以外で被弾していた。圭一と行動を共にしたばかりにこんなことになるとはと、己の悲運を嘆かずにはいられない。

「逃げるなー! 逃げるな人殺しー!」

 二鳥は取り出したライフルをひたすらに発砲していた。自分の撃った弾がしんのすけに当たった。その考えが頭を占めれば占めるほど、引鉄を引く力が強くなる。その銃声がしんのすけの死を思い起こさせることを彼女は知らない。

「チョコちゃん……どうしよう……どうしたら……」
「わかんないよ……なんでこんなことに……」

 そしてこの場で初めて発砲した円とチョコ。彼女たちは目の前で起こった出来事にただただ呆然とするほかなかった。

 いったい誰がしんのすけを殺したのか。圭一が撃った弾丸か。あるいは二鳥が撃った弾丸か。それとも二人が撃つきっかけとなった円とチョコの弾丸か。あるいはどこかから流れ弾を放った誰かの弾丸か。

「しんちゃん! しんちゃん!」

 確かなことは、いくらルーミィが呼びかけてもしんのすけが息を吹き返すことは無かったということだ。


569 : 死刑執行のトライバレット ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:33:55 y6iYjUZw0



【0030ぐらい 『南部』住宅地】


【ヌガン@獣の奏者(4)(獣の奏者シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 優勝し技術をリョザ神王国で独占する
●小目標
 先のアクン・メ・チャイ(茜崎夢羽)を追い殺す

【小笠原牧人@星のかけらPART(1)(星のかけらシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 家族や幼なじみが巻き込まれていないか探す
●小目標
 男子(元)を見守る

【アキラ@ふつうの学校 ―稲妻先生颯爽登場!!の巻―(ふつうの学校シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 家族や友だちが巻き込まれていないか探す
●小目標
 男子(元)を見守る

【杉下元@IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。(天才推理 IQ探偵シリーズ)@カラフル文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 家族や友だちが巻き込まれていないか探す
●小目標
 茜崎……



【0030ぐらい 『南部』オフィス街】

【前原圭一@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 俺が殺したのか……!?
●小目標
 山田と安全な場所に移動する

【山田奈緒子@劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 圭一から離れたい
●小目標
 怪我をなんとしたいがまず逃げたい

【宮美二鳥@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 あの男子(圭一)を殺す

【ルーミィ@フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち(フォーチュン・クエストシリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 みんな(フォーチュン・クエストのパーティー)に会いたい
●小目標
 しんちゃん……

【花丸円@時間割男子(1) わたしのテストは命がけ!(時間割男子シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 わ、私が撃っちゃった……?

【黒鳥千代子@黒魔女さんが通る!!
チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 もしかして、私が撃った……?



【脱落】

【小林聖司@IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。(天才推理 IQ探偵シリーズ)@カラフル文庫】
【茜崎夢羽@IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。(天才推理 IQ探偵シリーズ)@カラフル文庫】
【野原しんのすけ@双葉社ジュニア文庫 映画ノベライズ クレヨンしんちゃん
ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】


570 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/06/28(火) 07:35:54 y6iYjUZw0
投下終了です。
あとこの投下直前までの暫定名簿載せときます。

【ひぐらしのなく頃にシリーズ@双葉社ジュニア文庫】5/5
○園崎詩音○園崎魅音○富竹ジロウ○古手梨花○北条沙都子
【銀魂シリーズ@集英社みらい文庫】3/3
○岡田似蔵○武市変平太○神楽
【ぼくらシリーズ@角川つばさ文庫】2/3
○菊地英治●小黒健二○日比野明
【ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】2/3
○東方仗助○虹村形兆●山岸由花子
【かぐや様は告らせたいシリーズ@集英社みらい文庫】2/2
○四宮かぐや(映画版)○四宮かぐや(まんが版)
【テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ@講談社青い鳥文庫】2/2
○名波翠○磯崎蘭
【若おかみは小学生!シリーズ@講談社青い鳥文庫】2/2
○関織子(劇場版)○秋野真月(劇場版)
【妖怪ウォッチシリーズ@小学館ジュニア文庫】1/2
○天野ナツメ●タベケン
【ギルティゲームシリーズ@小学館ジュニア文庫】1/1
○深海恭哉
【鬼滅の刃シリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○累に切り刻まれた剣士
【絶望鬼ごっこシリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○大場大翔
【天気の子@角川つばさ文庫】0/1
●森嶋帆高
【天才推理 IQ探偵シリーズ@カラフル文庫】0/1
●大木登
【フォーチュン・クエストシリーズ@ポプラポケット文庫】0/1
●ノル
【妖界ナビ・ルナシリーズ@フォア文庫】1/1
○タイ
【NARUTOシリーズ@集英社みらい文庫】1/1
○うちはサスケ
【吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】1/1
○吉永双葉
【小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】1/1
○安土流星
【トモダチデスゲーム@講談社青い鳥文庫】1/1
○久遠永遠
【おそ松さんシリーズ@小学館ジュニア文庫】0/1
●弱井トト子
【そんなに仲良くない小学生4人は無人島から脱出できるのか!?@小学館ジュニア文庫】1/1
○木原仁
【黒魔女さんが通る!!シリーズ@講談社青い鳥文庫】1/1
○一路舞
29/36


571 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/20(水) 07:00:09 HZiroe820
コンペ全落ちして悔しいんで投下します。


572 : 探偵は藪の中にいる ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/20(水) 07:01:25 HZiroe820



『あーあー聞こえるかー! オレ達は殺し合いに乗ってない! みんなも殺し合いなんてやめようよ! LOVE&PIECE! 愛だよ愛! てかさ、いきなり変な森に連れて来られて殺し合うヤツいねえよ! あんな変なウサギっぽいやつに殺し合えって言われてさ、殺し合うなんてさ、こんなんでいいのかよ! だから! 殺し合いなんてやら『お前放送ヘタすぎんだろ変われ!』ちょっと待てジャンケンで勝ったのオレじゃん!『爆弾のこと言わないと』それで! あの、この、灯台『展望台』展望台に、ちがう、展望台の、裏に、爆弾があんのよ! 仕掛けたの! で、あの展望台来るときはこの下の崖みたいな坂の下の方で、合図してほしいのよ! そしたらあの爆弾のスイッチオフにするから、あの、あれ、あれだ、『あのーあれだよ』あの『アレだね』おい全員ド忘れしてんじゃねえか!』
「なかなかのなごませ力だなあ。」
「なんなんだあのグダグダなメッセージは……」

 森の中を歩く探偵帽を被った一人と一匹。
 なごみ探偵のおそ松と名探偵のピカチュウは、出会ってから行動を共にしていた。というより、おそ松が無理矢理ピカチュウを抱きかかえていた。
 「マジかよ……」とシワシワになりながらも、さっき電気ショックを食らわせたという負い目もあるのでピカチュウはなすがままにさせている。さすがに頭を撫でさせるのはやめさせたが。

「ピカピバラ、行こうか。」
「そのピカピバラっていうのもやめてくれよ。俺のどこをどう見ればカピバラに見えるんだ。」

 バゴオォォン……!

「花火だね。」
「爆発だろ! 言葉通じないのになんでツッコませるんだ! そしてなんでツッコんでんだ!」

 ピカチュウは既に何度目かとなる頭を抱えるポーズで項垂れる。
 ピカチュウは短い間におそ松がかなり頼りにならないことを理解していた。それに加えて小ボケを挟みたがる。殺し合いの場だそ、とツッコみを入れたくなって、言葉通じないんだぞ、と思い直して自重する。
 この日系人、同じ探偵とは思えないほど探偵らしくない。どう考えても今まで事件とか解決している気がしない。
 だがこんなのでも今は唯一の同行者だ。バディには程遠いが、役に立ってくれることを祈るしかない。

「こんな場所じゃ、贅沢は言っていられないからな。とにかく、あの爆発を調べよう。さっきの放送の子供が巻き込まれている可能性が高い。」
「うん? 花火を見に行きたいの? よし、行こっか。」
「いや違うんだが、まあいいか。クソッ、中途半端にコミュニケーションがとれる。なんか逆にイライラするぞ。」

 どういうわけか、ピカチュウがここだけはしっかりしてほしいということに関してだけは、なぜかおそ松は勘が良い。それは良いことのはずだ。悪いことのはずではない。それでもストレスを感じないかは別の話だが。


573 : 探偵は藪の中にいる ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/20(水) 07:03:05 HZiroe820

「……ふぅ、冷静になろう。考えるべきは、あの爆発だ。」

 頭を切り替えようと、ピカチュウは二足歩行しながら帽子のつばに指をあてて考える。
 ピカチュウが気になったのは三点。
 一、子供たちは無事なのか。
 ニ、なぜ爆発物があったのか。
 三、なぜ日系人が多いのか。

 第一の疑問に関しては今考えられることは乏しい。あの爆発がなにかの操作を誤っての誤爆か、実際に爆発物を仕掛けてそれに誰かがかかったのか、あるいは彼らが仕掛けたのとは違う爆発物か。そもそも爆発物ではなくポケモンのわざによる可能性も否定できない。現時点でピカチュウの手元にある推理の材料は、先の放送と爆発音だけしかない。そこから推理できれば街を歩き回らずに安楽椅子探偵になれるだろう。ピカチュウはすぐにこれについて保留とすることを決めた。

 第二の疑問に関してはいくつかのケースから場合分けして考える。つまり、爆発物を拾ったのか、あるいは持っていたのか。拾ったのであればこの会場に武器として置かれていたことになる。こちらはまだ良い。悪いケースは、爆発物を持ち込んでいた場合。そのケースだと、この狂ったデスゲームを開いた誘拐犯は、爆発物を持つような子供を参加者にしたことになる。そんな子供がどんな子供か、想像の範疇に無いことは想像できた。そして最悪のケースは、会場に爆発物というか武器が落ちていて、かつ参加者が武器を持ち込んでいる場合だ。殺し合いの場に、武器を持った人間を参加させ、更に武器を拾えるようにする。推理などしなくてもわかる、チャチなノワール・フィルムよりろくなことにらない。今ピカチュウとおそ松がこうして曲がりなりにもバディになっているのも、どちらも丸腰だからだ。これがどちらも銃を持っていたら、探偵は探偵でもホームズからコンチネンタル・オプになってしまっていただろう。

 そして第三の疑問が、ピカチュウが一番に気になったことだ。すなわち、さっきの放送からもわかるように、明らかに日系人が多い。というかこれまでピカチュウが存在を知った参加者は4人とも日本語を話している。ということは日系人で無く、日本人ということもあり得る。なんならこの殺し合いの会場もアメリカではないこともあり得る。国外にまで拉致した挙句、銃社会でないあの治安の良い日本から何人も拉致して殺し合わせるというと、もう国家権力でも動かないと実現できるものではない。政府が主催者だとは思わないが、公的な助けは期待できないだろう。そしてもう一つ気になるのは、なぜ日系人に拘るのかだ。日系人を中心に集めたとなればそこから主催者の動機を推理できるかもしれないし、単にたまたま日系人と会う機会が多いだけで世界中から人を拉致しているのなら、相当な人数が巻き込まれていることになるだろう。人種的な思想によるものか、あるいは地理的な制約か。推理の糸口にはなるかもしれないと、頭の片隅に留めておく。

「だが……推理するには、パズルのピースが少なすぎるか……」

 腕を組み、ごちる。今のところ結局、どの疑問にも解決の糸口は見えない。考えられることを整理したが、これ以上は現場に向かって考えざるをえないだろう。


574 : 探偵は藪の中にいる ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/20(水) 07:06:03 HZiroe820

「……ん、この音は。おい! 誰か来るぞ!」

 ひねっていた頭をリラックスさせると、ピカチュウの耳に足音が聴こえた。割と近くから聴こえることから、自分が思っていたよりも考え込んでいたことを察する。

「気が抜けていたな。隠れるぞ。」
「なになに? えっと、人が来た?」
「本当になんでこういうのはコミュニケーションできるんだ?」

 なぜか意思疎通ができるおそ松を先導して、藪の中へと身を潜める。少しして二人の前に小さな人影が見えた。不安そうに後ろを振り返りながら息を切って小走りする男児だ。

「子供か。エレメンタリースクールにも入らないような。あの様子、何かに追われているのか?」
「迷子だね、助けよう。おーい!」
「不警戒だが……まあいい。」

 せっかく隠れたのに即行で出るおそ松に愚痴りながら、ピカチュウも藪の中から出た。
 さっきの放送の子供たちとは違うだろうが、保護しなくてはならない。あの子供たちは声の感じからティーンエイジャーにギリギリならないぐらいだと推測している都合、武器を持っている可能性も薄いだろう。
 「ヒィッ!」と悲鳴をあげて丸刈りの子供が飛び上がる。手を繋いでいた子供がバランスを崩してワタワタするのを見て、ピカチュウの顔が曇った。

「5・6歳ってところか……こんな小さな子供に殺し合えだって? 正気じゃないな。」

 正気だったらそもそもこんなことをしないだろうがな、と言外に付け足して、ピカチュウはおそ松が子供たちに話しかけるのを見守った。
 円谷光彦と佐藤マサオと名乗った二人は、まだ警戒心をありありと見せてはいるものの、おそ松の間抜けさに呆れたのか会話が落ち着いてできるぐらいには冷静になっている。そのことに関してだけはおそ松を評価しながら、ピカチュウは彼らを参加者とした主催者の意図を想像した。ほぼ100%、彼らは殺されることを目的として巻き込まれた、そう見ていいだろう。おそ松のような成人男性がいるなら、子供が殺せる可能性は、通常は低い。『殺し合う』ための参加者ではなく『殺される』ための参加者とピカチュウは見た。

「悪趣味だな。リザードンやカメックスやフシギバナがいるバトルにトランセルやコクーンを出すようなものだぞ。勝ち目なんてわるあがきしたってない。」
「あ、それでこっちがピガビパラ。」
「おいちょっとさっきと名前変わってるぞ。ピカピバラだ。いやピカピパラじゃなくてピカチュウだ。いやピカチュウでもなくて、ああ! ややこしいな!」
「なんかすごい嫌そうな顔してますよ、えっと、ピカピパラ?」
「……ああ、もうそれでいい……」

 光彦と名乗った子供にピカピパラ呼びされて、ピカチュウは疲れた顔で「ピカッ」と返事をする。
 目下一番の問題は、殺し合い云々よりも話が通じないことだなと痛感させられた。名前一つとってもどうにもできないとなると、せっかく推理しても意味が無い。

「ティム、これは一人じゃ扱うには手に余る事件だ。巻き込まれていてほしくはないが、正直力を借りたい。」

 どうせ鳴き声にしか聞こえないのもあって、カッコ悪い独り言も気にせず言える。そのことだけが今の心の慰めだった。


575 : 探偵は藪の中にいる ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/20(水) 07:10:03 HZiroe820


 それが最後のチャンスだったと、後にピカチュウは思うことになる。
 結果論だが、ピカチュウは判断を誤った。彼がすべきことは自分の相棒に思いを馳せることでも、光彦たちから話を聞き出すことでもなく、彼らを見捨てて逃げるべきであったのだ。光彦たちが息を整えるのを待つだけでも、彼らを追う追跡者の毒牙から逃れられなくなることを、ピカチュウは知らなかった。理解すべきだったのだ。法も秩序もない殺し合いの場では、ホームズのような探偵ではなく、コンチネンタル・オプのような探偵でなければ生き残れないのだと。東部の『スマート』な紳士では無く、西部の『タフ』な漢でなければならなかったのだと。

(なんだ、この臭いは?)
「それで、爆発があった展望台から三人組の少年が崖を駆け下りて来て、慌てた様子で逃げてきたんです。それでぼくたちも、あそこに行くのをやめて逃げていました。」

 流れてくる悪臭に違和感を覚え曼派も、おそ松から借りたハンカチで顔の汗を拭いながら、光彦が落ち着いて受け答えるのを、ピカチュウはこれまでの情報と照らし合わせながら聞いていた。
 どうやらあの放送をしていた三人は何者かの接触を受けパニックを起こしたらしい。伝聞の伝聞ではわからないが、襲われた、と見るべきか。
 そう今後について考えることは、すぐに無駄なことになる。
 光彦とマサオと出会って数分で、おそ松は二人からあらかた事情聴取を終えた。それは円滑なコミュニケーションと呼べるものだが、致命的な隙だった。

「おい、なんか臭くないか? いや、聞こえないのはわかる……」

 光彦が話し終えたのを見計らって、ピカチュウが呼びかけるも、彼の言葉は届かない。それでも心は通じたのだろうか、彼へと振り返ったおそ松の驚いたような顔と目が合った。
 なんでそんな顔を、と思うより早く、ピカチュウの首すじに激痛が走った。

「……んだがッ!?」
「うわぁ! 人面蜘蛛!」

 ぞわりという感覚が、ピカチュウの背中を走った。それはすぐに再び激痛へと取って代わられた。
 驚きの声を上げたおそ松の顔に何かが高速で飛びかかり、張り付く。壮絶な悲鳴を上げて倒れるおそ松からそれは剥がれると、既に悲鳴を上げていた光彦が、喉を砕くような叫び声を上げた。

「なんだ、何が起こった!? グッ……!」
(ポケモンに奇襲されたのかっ! 人面蜘蛛、イトマルか? ならまずい、毒があるぞ!)

 困惑の言葉を言いながらも、ピカチュウは直ぐに襲撃されたことを察する。元々警戒はしていたが、レベルが違ったようだ。自分たちはかなりの手練に襲われている!

「ヒイイイィッ!」
「これで四人目ぇっ!」
(男の声だ。ポケモンに指示を出している人間がすぐ近くにいるのか! なら一匹しか出していないうちに、そこを止めれ、ば……)


576 : 探偵は藪の中にいる ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/20(水) 07:15:03 HZiroe820

 マサオの悲鳴と同じ方向から聞こえてきた人間の声に、ピカチュウはなんとか力を振り絞って、でんきショックをおみまいしようと向く。ぶっつけ本番だがちゃんと出てくれよと祈りながら敵を探して、絶句した。
 それは人面蜘蛛だった。イトマルのように人の顔のような模様をしているのではない。蜘蛛の頭があるべき部分が人間の顔になっていた。マサオの頭に張り付いて地面に引き倒したそれは、下卑た笑いを浮かべながら大口を開いて齧り付こうとしていた。

 ギロリ。目が合った。

(あぁ、死んだな。)
「ピッ、ピ����」
「まだ動けたか。」

 せめてこの襲撃者に一矢報いようとしたのか。それとも最後の力でおそ松たちに逃げろと言いたかったのか。あるいはここにはいないが近くにいる参加者に聞きを伝えたかったのか。

「����カパァ……」

 ピカチュウが最期に発しようとした声は鳴き声にもならずに森へと消えた。


 襲撃者の正体は、蜘蛛の鬼(兄)。
 彼は関本和也たち展望台組の三人にクレイモアで吹き飛ばされた後、身体の再生が終わり次第追跡していたが、展望台組に追い抜かれたマサオと光彦を見つけてそちらにターゲットを移していた。
 蜘蛛の鬼(兄)からすれば正直どうでもいい連中ではあるが、ちょうど身体の再生で消耗して腹が減っていたところであるし、彼の血鬼術からしても襲うことになんの逡巡もなかった。彼は毒を流し込むことで、自分と同じような人面蜘蛛へと人間を変えることができる。そうして生み出した人面蜘蛛は、知性もろくになく彼の命令に機械的に従う鬼と化すのだ。その鬼たちを操り、人間を待ち伏せして食い殺すのが蜘蛛の鬼(兄)の基本戦法である。ゆえに、いつものように戦うには、まずは何人か蜘蛛へと変えたかった。
 そこに現れたのが、おそ松とピカチュウだった。いきなり三人の獲物と出会えたことに幸先の良さを感じながら、まずは自分の気配に気づいたらしき珍獣の首すじに噛みつき、次に大人の男の目を潰しい、大きい方の子供の足の肉を削った。食いでのあるおそ松を食い殺すことを決めて、マサオと光彦のどちらかを鬼へと変えようと思った。

「あっ、足があっ! ぼくの足、足がああっ!!」
「ひいいいいいいっ!?」
「ひいひいウルセエんだよ餓鬼共がぁ!」
「うわあああんごめんなさあああいっ!!」
「ウルセエっつってんだろ! 殺すぞ!」
「こ、殺さないで! なんでもするから殺さないでええ……」

「ん? 今何でもするって言ったよな?」

 だが、考えが変わった。
 つい今しがたのように、子供が歩いていれば大人は保護しようとするだろう。ならこの二人は、格好の餌になるのではないか?

「でも足削っちまったからなぁ。この血じゃすぐ死ぬし……いや、待てよ。」

 なにも二人も餌はいらない。光彦の方は足を怪我しているので動けないし、傷が深くてすぐに死ぬだろう。なら有効活用できないか?
 蜘蛛の鬼(兄)はニヤリと笑うと、先の尖った木の枝を見つけてマサオの足元に投げつけた。


577 : 探偵は藪の中にいる ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/20(水) 07:21:05 HZiroe820

「お前に選ばせてやる。蜘蛛になるか、食われるか。」
「どっちも嫌だよおおお!」
「なにぃ? なんつったもう一回言ってみろ?」
「どっ、どっちもイヤですうう!」
「そうか……わかった。」
「イヤで……ひいっ!?」

 蜘蛛の鬼(兄)は木の枝をマサオに握らせた。怖くなりすぎて、目を閉じていられなくなったのだろう。怖いものを見ることより何をされるかわからない怖さが勝り、マサオは目を開く。
 そしてマサオは見た。自分の手に握られた尖った枝と、目の前で血をダラダラ流しながら横たわる光彦と、その上に乗り光彦を押さえつける蜘蛛の鬼(兄)を。

「腹が減ったからお前かこいつのどっちかを食う。片方は俺の奴隷になって人間を俺のところまで持ってこい。まあ、こいつはちょっと痛めつけ過ぎちまって死にそうだから、お前が奴隷な。」
「ど、奴隷……」
「でよお、奴隷ならご主人様には忠誠を示さねえとなあ……お前、こいつはを殺せ。」
「こ、殺すって、え、ええっ、えええぇぇっ!?」
「ええっ!? ま、待って、助けて! お願いします!」

 マサオの悲鳴と光彦の驚愕の声が同時に上がる。それを蜘蛛の鬼(兄)は、光彦の尻の肉を食いちぎることで黙らせた。声にならない声は余計に上がることになったが。

「嫌なら、お前を食う。死にたくないんだろ? 何でもするんだろ? なら、仲間を殺せ。」
「そ、そんなこと……」
「ほら? 急いでやれよ。このまま苦しい思いさせるのか?」

 もはや言葉も出せない光彦の肉を噛りながら、蜘蛛の鬼(兄)はマサオへとそう告げる。ハッ、ハッ、と短い息をしながら、マサオはゆっくりと枝を胸の前へと上げ始めて、ニヤリと笑みを深くした。

「そうだ、それでいい。早く仲間を楽にしてやれよ。」
「ハァ……ハァ……」
「お前はこうなりたくないだろ? 死にたくないんだろ? 食われたくないんだろう?」
「ハァ……! ハァ……! ヒィッ!? ぼ、ぼくは、ぼくは……!」
「早く助けてやれよ。こんなに苦しんでるじゃねえか……なぁ?」
「ぼ、ぼく、ぼくは! ど、どうすれば……」
「マサオ……くん……」

 逡巡するマサオに、蜘蛛の鬼(兄)の下から声がかかる。見下ろせば、光彦が鬼の形相で言葉を紡いでいた。

「……ボクは……もう、ダメです……もう、目が見えないんです……耳もだんだん聞こえなくなっていて……失血によるショック症状です……」
「だから……このままじゃ二人とも死んじゃいます……ううっ!」
「だ、だから……マサオくん! 覚えててください! 灰原哀さん、吉田歩美ちゃん、江戸川コナンくん、小嶋元太くん、少年探偵団のみんな! たぶん、彼らもここにいます! だから会ったら、ボクは、勇敢に、勇敢、で、ごぽっ!?」
「ぼ、ボク……灰原さん……探偵、団……マサオ、くん……」
「なんで……こんなことに……」
「う、うわあああうわあああん!!!」

 気がつけば、マサオは枝を振り下ろしていた。
 光彦の虚ろに開いた口から喉、脳幹へと突き刺さる。
 蜘蛛の鬼(兄)が口笛を吹く。
 と同時に、身体が真っ二つになった。

「へ?」
「間に合ったな。」

 その声が、蜘蛛の鬼(兄)が首輪を破壊されたことで毒殺される最後の言葉だった。


578 : 探偵は藪の中にいる ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/20(水) 07:28:17 HZiroe820



(チッ、持ち歩けるようなもんじゃねえな。ブービートラップ仕掛けて他を当たるか。)

 桃地再不斬は森の中で見つけた建物から出ると再び走り出した。
 彼、再不斬は忍者だ。そして死んだ身だ。
 ある国で用心棒として雇われ、大国の忍と戦い、最後には雇い主に裏切られ、その裏切りの代償を道連れという形で払わせてこの世を去った。
 が、どういうわけか生きている。
 これは一体どういうことか。
 普通なら大いに悩む問題も、彼は僅かに困惑するだけであっさりと受け入れた。
 彼の世界には、生きた人間を生け贄に死んだ人間を不死身のゾンビとして生き返らせ、洗脳して故郷に返し自爆させるという、卑劣極まりない忍術がある。
 実際に目にしたことはないが大方自分もそれをやられたのだろうと納得した。
 本来ならそういうことが無いように忍の死体は痕跡一つ残さぬよう処理されるが、抜け忍である自分にそれは当てはまらない。何より、彼が戦っていたのはその忍術を開発した者がかつて長を務めていた隠れ里である。
 おおかた自分の死体を回収して悪用した――つまりこの殺し合いも木の葉が主催するものだと彼は考えていた。
 彼が忍になった里では、忍者の学校を卒業するにあたり同級生と殺し合うという因習があったが、これはそれを思わせるものだ。自分が生徒を皆殺しにしたことでなくなってしまったそれを、自分を負かした連中の犬としてやるハメになったのは思うところがあるが、殺し自体に喜びはあっても抵抗は無い。これが身体の自由を奪われてのものであったらもちろん反抗しただろうが、自分の殺意で殺人をするというのならやぶさかではなかった。
 目下の目的地として、いつの間にかポケットに入っていた紙片からこの建物にあった大砲を目指したが、さして使い物になりそうにないので罠だけ張って道なき道を往く。再不斬にとってこの程度の霧や森は、自身の無音殺人術を活かすための環境にほかならない。生き返り地の利もあるとなれば、まずは腕鳴らしに一戦をと考えるも、なかなか他の参加者の痕跡には巡り合わずにいる。いっそ山にでも登ってこのキルゾーンの地形を把握しておくかと方向を定めて駆けていると、放送が聞こえてきた。

『あーあー聞こえるかー! オレ達は殺し合いに乗ってない! みんなも殺し合いなんてやめようよ! LOVE&PIECE! 愛だよ愛! てかさ、いきなり変な森に連れて来られて殺し合うヤツいねえよ! あんな変なウサギっぽいやつに殺し合えって言われてさ、殺し合うなんてさ、こんなんでいいのかよ! だから! 殺し合いなんてやら『お前放送ヘタすぎんだろ変われ!』ちょっと待てジャンケンで勝ったのオレじゃん!『爆弾のこと言わないと』それで! あの、この、灯台『展望台』展望台に、ちがう、展望台の、裏に、爆弾があんのよ! 仕掛けたの! で、あの展望台来るときはこの下の崖みたいな坂の下の方で、合図してほしいのよ! そしたらあの爆弾のスイッチオフにするから、あの、あれ、あれだ、『あのーあれだよ』あの『アレだね』おい全員ド忘れしてんじゃねえか!』
「ようやくか……ガキだが、まあいいか。」

 頭の悪そうな放送だと思いながら、再不斬は小休止を止めると先よりも速く駆けた。途中で聴こえた爆発音で一気に速度を上げれば、感じたのは強烈な臭い。
 鼻を刺す臭いに再不斬は慎重に森の木々の枝を飛ぶ。足音をさせずに駆けること数分、彼の耳には子供の泣き声が、鼻に嗅ぎなれた臭いがしてきた。

「だ、だから……マサオくん! 覚えててください! 灰原哀さん、吉田歩美ちゃん、江戸川コナンくん、小嶋元太くん、少年探偵団のみんな! たぶん、彼らもここにいます! だから会ったら、ボクは、勇敢に、勇敢、で、ごぽっ!?」
「ぼ、ボク……灰原さん……探偵、団……マサオ、くん……」
「なんで……こんなことに……」
「う、うわあああうわあああん!!!」
(なにやってんだアイツら……)

 そして目撃したのが、蜘蛛の鬼(兄)がマサオに殺人を強要している場面であった。初めて見るその異様な姿にこそ驚きはしたが、やっていることは何ということはない。戦場ではありふれた光景だった。周囲に謎の生き物や男の死体も見つけると、あの蜘蛛が子供にもう一人の子供を殺すようにとでも言っているのだろうと察しをつける。
 あとは隙だらけの蜘蛛の鬼(兄)を唐竹割りにして終わりだった。どうせろくなやつではなさそうだし、試し斬りするには子供よりは手応えがありそうだ。その程度の理由である。そして実際、容易に奇襲は成功した。本当は再不斬の刀ではなく、刀が首輪を破壊したことで首輪の中の毒が注入されたからなのだが、そんなことは再不斬は知らず、思ったより斬り応えがないなと鼻白む。
 だが今斬らなければ移動されていただろう。それだと腕試しの機会が遠のいていたかもしれないので、特に思うところはない。


579 : 探偵は藪の中にいる ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/20(水) 07:36:50 HZiroe820

「間に合ったな。」

 転がる死体も気にせずそう言うと、再不斬はマサオへと目を向けた。いちおう助ける形になったが、別にそんな気は全く無い。さてどうしようかと思い。

「はぅ……」
「おいおい、気ぃ失くすなよ。」

 目の前で次々に起こった異常事態への衝撃でついに気絶したマサオに、再不斬は呆れた声を上げた。



【0115 『北部』山岳部裾野の森】

【佐藤マサオ@双葉社ジュニア文庫 映画ノベライズ クレヨンしんちゃん
ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい
●小目標
 ???

【桃地再不斬@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●小目標
 ガキ(マサオ)から話でも聞き出そうと思ったが……


【脱落】
【ピカチュウ@名探偵ピカチュウ(小学館ジュニア文庫)】
【なごみ探偵のおそ松@おそ松さん〜番外編〜(集英社みらい文庫)】
【円谷光彦@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【蜘蛛の鬼(兄)@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】


580 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/20(水) 07:39:48 HZiroe820
投下終了です。
児童文庫ロワウィキの管理人さん、これまでウィキの編集をしていただきありがとうございます。
この度リスタートとなりまして今後は私も編集しようと思いますので、ご一報いただければと思います。


581 : ◆OmtW54r7Tc :2022/07/20(水) 19:10:15 1fSkGOWA0
どうも、自分があのウィキを建てたものです
wiki編集滞らせてしまっててすみません
企画主さん自ら編集していただけるなら、こちらもありがたいです


582 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/22(金) 01:15:40 AB4WoyFc0
>>581
いやあ僕もう大いに感謝ですね。
今まで自分の企画なのに人に編集してもらってましたし、これからは不慣れながらも編集していきたいと思います。


583 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/23(土) 23:56:31 NXHjXATA0
あ、wikiの方からメンバー登録のメール送りました。
ご確認お願いします。


584 : ◆OmtW54r7Tc :2022/07/24(日) 06:54:37 rdAOjC0E0
メンバー登録の承認を行いました


585 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/07/24(日) 16:40:30 xgHaB1bQ0
ありがとうございます。


586 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/08/10(水) 06:00:51 V0SfdzG20
キミノベルに応募し終わったんで投下します。


587 : 白銀さんは天才だと思った(小学生並の感想) ◆BrXLNuUpHQ :2022/08/10(水) 06:01:55 V0SfdzG20



 関織子と白銀御行の2人は、一通りの情報交換を終えたあともビルから動かずにいた。
 白銀との出会いから行動を共にして十数分。その間おっこたちは情報交換しながら使えそうなものを漁っていた。
 おっこが若おかみをしている春の屋旅館のこと、白銀が生徒会長を務める秀知院学園のこと、互いの知人たち――もちろん人に話し難いところは伏せた――のこと。具体的には互いのWikipediaのページに乗っていそうな情報を話し合いつつ、主に食品を中心に雑貨を集める。
 その間起こっことといえば、ビルの前の道をバイクが1台通ったぐらいで、声をかける間もなかったためにどうすることもできない。対応についても話し合ったが、建設的な意見は出なかった。
 行き詰まったところで出た結論は、「なにか甘いものでも食べながら考えましょう」というおっこの言葉だが、なるほどたしかに何もないよりはマシだなと、飴玉を口の中で転がしながら、御行はカップ麺をカバンへと詰めていった。

「文字は読めないが、イラストがあるから助かるな。」
「白銀さん、こちらに頼まれてたものまとめました。」

 カップ麺の蓋に書かれた文字が3分なのか5分なのか、考えながら手に取っていたところに、おっこがチラシを持って現れる。礼を言うと、2人は手近な机にチラシを拡げていった。オフィスビルには似つかわしくないようなスーパーや、なんの店かもわからないチラシが並んでいく。それらに共通するのは、小地図が載っていること。
 2人はチラシからこの街の地図を作ろうとしていた。

「こっちの地図とこっちの地図、だいたい同じ道の形になってます。あっ、ここに学校があるみたいです。」
「ここの角と、ここの交差点に同じ記号があるな。地図の上が北だとすると……」

 チラシの裏にそれぞれの地図から道を書き写していく。文字がわからなくても図形がわかるのならと、白銀はいくつものチラシを見比べて線を引く。おっこがカップ麺を作りコーヒーを入れてくる頃には、集めた10数枚のチラシから簡単な地図が出来上がっていた。それを、受け取ったカップに口をつけながら睨む。端的に言えば、宛が外れた。
 今現在、2人は自分たちがどこにいるのか全くわかっていない。そのためまずは近場の学校か何かにでも避難しようという話になったのだが、やはり文字の読めないチラシからでは地図を作ることは困難であった。現在地がわからない以上、地図のどのあたりにいるのかもわかりようがない。それでも外の赤い霧を見れば地図無しで出歩くなど自殺行為にしか思えないのだが、あまり効率の良い方法とは言えなかった。

「どうでしょうか? なにか、わかりましたか?」
「いや、残念だが、この地図だけだとなんとも言えないな。せめて今いる場所さえ分かれば、スーパーなら行けるかもしれないんだが。」
「そうですか……うーん。」

 悩ましげにコーヒーをすすってそう言う白銀に、おっこも悩ましげな声を上げる。そして同じようにズズッとすする音が聞こえた。白銀の鼻をラーメンの芳しい臭いがくすぐる。しょうゆ味だろうか、こういうのを嗅ぐとついコーヒーだけじゃなくラーメン食べたくなるよね。ん?


588 : 白銀さんは天才だと思った(小学生並の感想) ◆BrXLNuUpHQ :2022/08/10(水) 06:03:05 V0SfdzG20

「おっこちゃん、そのラーメンは?」
「あ、夜中お腹空いちゃいますよね。白銀さんもラーメンの方が良かったですか?」
「いやそれもそうなんだが、どうやって作ったんだ?」
「え……それは、その……カップ麺なんで、ここに書いてあるとおりに……」

 女子小学生にカップ麺の作り方を聞く男子高校生。これは、事案では?

「誰が事案だ。違う、そうじゃなくて、どうやって文字を読んだんだ? イラストで作り方はわかっても、お湯を入れて何分待てばいいかはわからないだろう。」
「カップ麺なんだから、3分なんじゃないですか?」
「カップ麺は5分のもあるぞ……」
「えーっ! じゃあもしかしたら間違えちゃったかもしれません……」

 なるほど、けっこうおっちょこちょいなんだな。シェーみたいなポーズで驚いたおっこに苦笑いしつつそう思うと、白銀は集めたカップ麺の一つを手に取った。

「でも美味しかったんだろう? じゃあ3分であってたのさ。」

 フォローしながら、ビニールの包装を解く。同じものならば同じ待ち時間だろう。ほんとうのところはこんな得体のしれない文字がパッケージの食品は食べたくないが、そうも言っていられるかはわからない。フタを開けると、ごく一般的であろう乾麺と、粉末スープの入った銀の小袋が見えた。説明のイラストを見ると先入れ式らしく、それを取り出して封を切る。

「でも3分かわかんないですよ? 時計の3の文字と同じだから3分かなって思っちゃったんですけど、確かめてからやったら良かったですね。」
「そ れ だ!!! うっわ粉こぼれた!」
「うわっー!?」

 切ったと同時に叫んだせいで、粉が舞に舞う。「目に入った!?」目と鼻の粘膜をやられた白銀はおっこにしめやかに介抱された。生徒会長の姿か? これが……カップ麺の粉末スープをぶちまけてむせ込む姿、俺には一番情けなく見えるよ。

「『時計の文字盤』! これがあれば数字がわかる!」
「白銀さん……あの、お鼻が。」
「すまない……ごほん!」

 目と鼻を赤くしながら、白銀はおっこから受け取ったティッシュで鼻をかむ。丸めたティッシュをゴミ箱に投げ、箸にも棒にもかからず外して、結局拾いに行ってダンクしたあと、元の位置に戻って話を続けた。

「今まで見慣れない字に赤い霧で、てっきり異世界的なものにでも飛ばされたと思っていたが、よく考えればここは文字と霧以外は日本と違いが見られない。パソコンのメーカーも、カップ麺のメーカーも、聞いたことのないようなものに見えたが、飴もコーヒーもカップ麺も、問題無く飲食できるものだ。そして。」
「パソコンのキーボード、カレンダー、時計、全て文字は違ってもフォーマットは同じだ。時計はちゃんと、12の文字が書かれて、長針と短針と秒針がある。」
「文字盤の『1』の位置にある記号、あれはカレンダーの『一日』の部分に当たる記号と同じだ。そして、電話の『1』のボタンにも……キーボードの『1』の部分にも!」

 うんうん、とうなずくおっこの前で、白銀は次第にヒートアップしていく。それはキーボードのテンキーを見たところで一気に勢いを増した。
 やおらボールペンを取ると、チラシの裏に、キーボードに書かれた記号を書き写していく。そしてその横にアルファベットを書いていき始めた。


589 : 白銀さんは天才だと思った(小学生並の感想) ◆BrXLNuUpHQ :2022/08/10(水) 06:06:12 V0SfdzG20

「時計やカレンダーがそうなら、キーボードの配列も変わりない可能性が高い、つまり……」

 そして、アルファベットの表をまた別のチラシへと書く。猛然と書かれた26文字の横に、キーボードから書き写された記号が、これまた26文字書かれた。

「解読できたよ、数字の0から9と、アルファベットに対応する26文字が。」

 おお、とおっこから感嘆の声が上がる。なんだかよくわからないが、このわけのわからない文字が読み解けたらしいということはわかった。平成生まれにあるまじき機械音痴のおっこではピンとこないが、白銀は情報の授業で習ったキーボードの配列も当然暗記している。それ以前にブラインドタッチができるので、なんとなくでも文字を解読することはできただろう。
 そのことが、白銀のボルテージをまた上げた。

「このチラシのこの文字は、『SALE』。こっちは『WEEK』、『TIME』。クッ、もっと早く気づいていれば!」
「す、スゴいです白銀さん! その、わたしよくわからないんですけど、暗号を簡単に解いちゃうなんて天才です!」
「いや、天才なんてとてもじゃないが言えない。答えはずっと目の前にあったんだ。」

 おっこの賞賛の声に、白銀は悔しげな声で答えた。
 白銀は文字を解読して理解した。この解読は、義務教育の知識があれば、あるいはなくても閃きがあれば可能だと。
 白銀基準では中学で習うレベルなので当然わかるであろうキーボードの配列はもとより、時計の文字盤など幼稚園児でも気づけるものだ。現に、おっこは白銀が悩んでいた数字を、さしたる苦もなく理解していた。時計に書かれているのと同じ記号だから、それが数字であると、無意識に受け入れられたのだ。
 知識があれば解けるし、なくてもなぞなぞを解くように正答にたどり着くことができる。だがいくら悩んでもわからない人にはわからず、わかる人にはなぜわかったかという理由すら考えずにわかる。そういう暗号。
 仮にも天才と呼ばれるにもかかわらず、ゲーム開始から30分近くもの間解読に至らなかった。開始直後に混乱してひたすら武器を集めていたことが悔やまれる。タイムリミットがいつまでかわからない以上、このロスによる被害は計り知れない。

(……まだだ。数字とアルファベットがわかっただけだ。ここが日本なら、必要なのは日本語だ。それがわからなかったら、この気づきも意味は無い。)
(数字はともかく、アルファベットまで解読できた人間は今なら少ないはずだ。ひらがなはキーボードから読み解けるにしても、カタカナや漢字は更に難しいはず。今からでも解読を巻き返すことは可能なはず。他の参加者より早く文字が読めるようになれば、それだけ有利になる……とはいえ、どうやって日本語を調べるか……)

 おっこが入れてきてくれた2杯目のコーヒーを受け取りながら、白銀は考える。カップを持つ手の反対側ではひらがなに対応する記号を書き写していき、それが終わったところで、コーヒーに口をつける。小学生で旅館の若おかみをやっているというだけあって、彼女の気配りはすばらしい。小学生が若おかみというのはどうかと思うが。義務教育はどうしたんだ義務教育は……そうか。

「日本語がわかる場所がある……学校だ。」


590 : 白銀さんは天才だと思った(小学生並の感想) ◆BrXLNuUpHQ :2022/08/10(水) 06:10:45 V0SfdzG20

 小学校ならば、国語の教科書からカタカナや漢字を学ぶことができるだろう。
 1年生から6年生までの教科書があれば、かなりの文字が解読できる。もちろん、当初の目論見どおり、学校にある備品や資材は有用であろう。

「小学生を殺し合いに巻き込むなんて、なんの目的かと思ったが、もしかして、これか……?」

 小学生でなくても殺し合いに巻き込むなんてわけがわからないが、主催者の考えの手がかりを手に入れた気がする。この殺し合い、いたるところに銃が落ちていたり、文字が見たことの無いものに変えられていたりするのは、年齢による不利をなくす可能性があるのではないか? 体格差なく殺せるチャンスを与え、知識や学力によるハンデを埋める。そうなれば、大人と子供でも互角に戦える、ということか。そのフェアプレー精神には泣きたくなる。

「ますます学校へ急がないといけなくなったな。早く地図を……」
「ウアアァァァ……!」
「……なんだ?」

 唐突に野獣の咆哮が聞こえてきた。
 声色は女の子のものだ。だがこれは、トラとかライオンとかの肉食動物の威嚇するような鳴き声が、わりと近いところから発せられている。
 まさか、霧の中には猛獣でも放されているのでは?
 そんな突飛な発想すら出てくるような、声。
 そしてもう一つ白銀は思った。脈絡無くピンチになってないか?

(まさか、暗号を解読したからか? それが主催者にバレたことで起こるような、イベントなのか……? 監視されているとは考えていたが、そんなことまでやってくるのか。)
「ウガアアッ……」

 獣の唸り声をバックに白銀は戦慄する。と同時に、自分が真実の一端に触れたのではという自信を深めた。



 一方、声の正体であるビーストは再び移動を開始していた。
 別に彼女は白銀の考察とは一切関係ない。彼女が追っていたのは、少し前に白銀たちがいるビルの前を通ったハーレーだ。彼女は竜土に連れられて逃げた宇野を追いかけ、見失った後も匂いを辿り追跡を続けていた。そしてその匂いとは、散々に自分に向けて放たれた凶器である銃である。
 しかし、前回はおっこの存在に気づき襲いかかったビーストだが、今回は違う点があった。
 それは、ビーストが来るタイミング。白銀たちがいる都市部では白銀以外も発砲している。また竜土以外にも、ガソリンで動く乗り物を利用している参加者はいる。それらがほんの少しずつ変わった風の流れに乗った結果、彼女が白銀たちの前に現れるタイミングが遅れた。
 自然な風というものが無く霧が立ち籠めるこの会場では、唯一参加者の行動だけが風向きを左右する。
 互いに姿を見ることもなく、ただ存在を感じただけで、起きたはずの戦闘はニアミスに変わった。


591 : 白銀さんは天才だと思った(小学生並の感想) ◆BrXLNuUpHQ :2022/08/10(水) 06:16:39 V0SfdzG20



【0050過ぎちょい 『南部』都市部】


【関織子@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 白銀さんといっしょに殺し合いから脱出する。
●中目標
 白銀さんと学校に避難する。
●小目標
 白銀さんを手伝う。

【白銀御行@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 情報を集めて脱出する。
●中目標
 小学校を目指す。
●小目標
 獣の唸り声を警戒する。

【ビースト@角川つばさ文庫版 けものフレンズ 大切な想い(けものフレンズシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 襲ってくるヤツを狩る
●小目標
 ???


592 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/08/10(水) 06:28:31 V0SfdzG20
投下終了です。
ウィキの編集はじめたけどめんどくさくてマジ狂い。
これをやってくれてるウィキ管理人さんにはありがとうございますやでほんま。
ループ後の話は変わってない話も含めて時系列順本編(2ループ目)から読めるんで、投下順の方にあるループ前の話と合わせて読んでほしいです。


593 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:20:16 ???0
無事キャップを発行していただけました。
管理人さんありがとうございます。
それでは投下します。


594 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:22:09 ???0



 既に6人も同じ顔の人間がいるのに更に同じ顔が加わるのか、と主催の一部に困惑が見られる人選である。
 松野トド松は他の兄弟同様に、ゲームがはじまって第一放送も迎えるより先にピンチを迎えていた。

「だ・か・ら! こんなドッキリあるわけないでしょ! 絶対魔法とかそういうのだわ!」
「魔法なんて信じちゃってるの? こんなのドッキリに決まってるじゃん!」
(ようやく人と会えたと思ったらこれ? マトモそうな人参加してないの?)

 突然巻き込まれた殺し合いの場で、言い争う2人の接近に驚き、息を潜める。2人の手には拳銃が握られ、いつ銃撃戦に発展してもおかしくない。とトド松は、女子小学生2人の口喧嘩にビビりちらして、机の下で丸まっていた。

 もとよりこの男、六つ子の他の5人同様高校卒業後はろくに働かず、親のすねをかじり生きるニートである。更に末っ子というのもあって、兄たちに便乗することも多い。主体的に動くのはもっぱら兄たちを出し抜くときぐらいで、自分が得することはイコール兄弟が損することとでも考えているような、譲り合いの精神などない、はっきり言って人間としては屑の部類に入る男である。だからといって悪人というわけではなく、むしろ出し抜くのに失敗してしっぺ返しを受けたり、あるいは弟だからとやり込められることも多々あるのだが、まあダメ人間であることには違いはない。
 そんなトド松のダメさがわかりやすい形で出ているのが、今の子供にビビって隠れ潜む姿であった。
 なにかあれば兄たちの後ろに隠れ盾にし、夜中に一人でトイレに行けない程度にはビビリなトド松。そんな彼は殺し合と言われてそれはもうビビりまくっていた。他の参加者の多く����彼らは往々にして小中学生だった����が殺し合いに懐疑的だったり、なんなら対主催となっていたりもするのに、この男、ゲーム開始から1時間経っても、初期位置の中学校の教員室から一歩も出ていないとなれば、どれほどのものかわかるだろう。それはこういう体験にリアリティを感じるほどに突飛な人生を歩んできたからなのだが、「「「「「そんなにビビりなのはトド松だけだよ」」」」」と兄たち5人がツッコむぐらい、個人の資質として怯えまくっていた。

(動かなきゃってのはわかってるよ? うんわかってる。でもね、相手銃持ってるじゃん? 銃ってあれだよ、大人でも子供でも関係ないから、撃って当たれば人殺せるから! 銃さえなかったら、頼れるお兄さんで行ってたよボク!)

 誰に説明してるかわからないことを言いながら、トド松は相変わらず丸まり続ける。たしかに銃は持っているが、それを当てられるかは大人と子供では大きな差があるのだが、トド松は意図的に無視していた。なお、彼の手にはサブマシンガンが握られている。その気になればいつでもJS2人をパララララできる状況だ。そうしないのはビビリであると同時にある程度の善良さがあるからなのだが、その結果がこれではいかんともしがたい。

 しかし、六つ子で一番小心者であると同時に、コミュニケーション力が高いのもトド松だ。他の5人が平均以下であるからだが、少なくとも殺し合いの場で出会った初対面の相手と会話に持ち込み、互いの支給品や名簿に知り合いの名前があるかを確認する程度は人並みにできる。もっともこの殺し合いには支給品や名簿といった気の利いたものはないが。それはともかく、平常心さえ取り戻せればなんとかなるのだ。そしてそのきっかけは、幸運にも丸まり続けることでやってきた。


595 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:23:39 ???0

(うん? なんか足音聞こえない? 聞こえるな。絶対これ足音だよ。)

 床につける形になっていた耳が、かすかな足音を聞き取っていた。殺し合いに乗った人間か、あるいは少女たちのように話しかけにくそうなタイプか。嫌な想像をして不安になるが、ふと思い直す。どんな人間だろうと、隠れている自分に気づくよりも、口論している少女たちに先に気づくだろう。なら少女たちへの対応を見て自分もどう動くかを決めればいい。少女たちを殺そうとするならその隙に逃げ出すし、仲間にしようとするなら便乗しよう。トド松はそう決めると新たなる訪問者の動きを待つことにした。
 なお、トド松は少女たちの身の安全については一切考慮していない。武器を持って言い争う見ず知らずの子供のことなど、心配する理由はかけらもなかった。赤の他人が死のうが殺そうがぶっちゃけどうでもいい。兄たちからあまりの腹黒さに引かれるそのドライさが、追い詰められたメンタルでも理性敵な動きを可能としていた。まあその腹黒いのを失言するせいでろくなことになってこなかったのもトド松なのだが。

(どうか殺し合いに乗ってなくて、首輪とか外せて、銃を撃ちまくれる脱出に向けて仲間を集めようとしてる人でありますように……!)

 そんなやついないだろうとは自分で思いながらも、とりあえず祈っておく。はたして現れたのは。

「ちょっと待って、マリモちゃん。今足音しなかった? だれ? だれかいるの?」
「2人とも動くな。銃を置け。」
「その声、光矢!? 生きてたの? 自力で脱出を……」
「動くな! 銃を置け!」
「なによ人を心配させておいて! ていうか、これも赤い鳥軍団の仕業でしょ! なんか知ってるなら話しなさいよ。」
「なっ……なぜ赤い鳥軍団を……」
(え、知り合い? 何この会話、話見えないんですけど。)

 現れたのは、少女の片方の知り合いらしき少年だった。正直ハズレである。あのうるさい少女と知り合い?とかこれ絶対めんどくさいやつだよ、とトド松は苦い顔になる。しかも知り合いのはずなのに2人の話が噛み合っていない。

「!? だ、だれ! 今そこにだれかいた!」
(やっばバレた!?)

 これは逃げたほうがいいかと思いはじめた矢先に、もう一人の少女が叫んだ。思わずまた丸くなるトド松。言い訳を考えていると、光矢と呼ばれた少年の声。

「さっき出会ったゲームの参加者だ。ソウタ出てきてくれ。」
(もう一人いたのか……)
「もう一人いたの。で、コイツだれ?」
「コ、コイツ……阿部ソウタだ。殺し合いには乗っていない。お前たちはどうなんだっ?」
「乗ってるわけないじゃない。それよりなんでアンタ隠れてたのよ。」
「そうだよ。怪しいよね。」
(おいおい女子が結託しだしたよ。さっきまで喧嘩してたのに。)
「ソウタには隠れているように言った。お前たちが襲ってくるようなら、逃げられるようにな。」
「ほんと〜? 2人ではさみうちにしようとしてたんじゃないの?」
「光矢ならやるわね。で、結局アンタ火の国から逃げ出せたわけ?」
「……先からなんの話だ。火の国?」
「とぼけなくていいじゃない、こんな時なんだし。ラ・メール星のこと話しちゃってもどうってことないでしょ。」
「なぜ、なぜお前がそこまで……!」
(なんかヤバい空気になってきたよ……)


596 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:24:23 ???0

 コミュ力が高くなくてもわかるほどに、場の空気がこじれはじめている。人間はストーブの灯油が切れただけでも誰が灯油を変えるかで心理戦をする生き物だが、この場の雰囲気は心理戦ではすまないものになるとトド松は感じていた。もちろん、そんな場所で火中の栗を拾うようなことをしたいとは思わない。やっぱりとっとと逃げようと思ったところで、しかし考え直す。ここは教員室。出口は前と後ろの2つ。そして話を聞くに、挟み撃ちできるように光矢という少年とソウタという少年がいるようだ。

(これどっちの出口も塞がれてるじゃん!? あっぶねえぇぇ!!)

 ギリギリで自分が置かれた状況に気づいて踏みとどまる。もう冷や汗はダラダラだ。

(に、逃げられないよコレ! どうする、こ、このまま隠れとくしかないよね。)
「光矢さん、この女子たち知り合いなんですか?」
「手前の方は妹の同級生だ。だが……様子がおかしい。」
「様子がおかしいのはアンタよ! レンゲみたいに洗脳されてんの?」
「ねえなんでずっと百合にも銃向けてるの? あたし関係ないじゃん。」
「銃を下ろせ。いいか2人とも、銃を、下ろせ。」
「さっきも聞いたわよそれ。下ろしてほしいならアンタから下ろしなさいよ。」
「そうだよ。そっちの地味な男子も!」
「阿部ソウタだ。光矢さん、どうします?」
(いやいやいやいやダメだ。これこのあと撃ち合う。そしたらたぶんボクにも気づく。あーこれどうしよう! 勝手に撃ち合えよもう!)
(……あ、でも撃ち合いそうならボクに銃向かないんじゃないかな?)
「あー、君たち少しは落ち着きなよ。」

 トド松はビビリだ。だが同時に腹黒く、失言癖がある。
 猫を被っていない時は、自分に被害が及ばなさそうなら、思いついたことは割とすぐに言ってしまう。

「なっ! 誰だ!」
「ひっ、だ、誰!?」
「ちょっと、アンタ私を盾にしないでよ!」
「動くな! 動くなよ!」

 しかし、今回はそれが幸運にも上手くいった。突然の乱入者に、少年たちと少女たちは動揺し、トド松を加えた三つ巴の状況となる。トド松の手にサブマシンガンが持たれているのを見ても、互いへと銃を突きつけ合うことをやめない。トド松がゆっくり銃をテーブルに置き、降参のポーズをしても、それは変わらなかった。
 それを見てトド松はグッと心の中でガッツポーズする。
 この状況で撃たれないどころか銃すら向けられないのなら、自分に弾が飛んでくる心配なんてない。そう思うと自然と口も軽くなる。

「落ちついて、ほら、銃は置いたよ。ボクは松野トド松、君たちと話がしたいんだ。」
「ならそのポケットに入れているものを出せ。」
「え、なんでわかんの!?」

 いつもの女子向けの調子で語りかけたところに、光矢からの鋭いツッコミが入り取り乱すトド松。とたんに冷や汗が流れる。たしかにズボンのポケットに拳銃を入れているが、まさかそんなにあっさり見抜かれるとは思わなかった。

(コイツだけ他の子供より年上っぽいし、なんか雰囲気違うんだけど! 人を殺したことのある目をしてるよ。)
「出せないのか? なら……」
「待った! 出す出す!」

 すっかり調子を崩して拳銃を取り出すその姿に、声をかけた時の得体のしれなさはもはやない。そのおかげで撃たれずに済んだことには気づかず、子供たちからの生温かい目だけをトド松は感じていた。


597 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:25:06 ???0

 それから時計の長針が半分ほど回った頃。

阿部ソウタ
「だから! ラストサバイバルだよ、ラストサバイバル!」

加山毬藻
「知らないわよそんなテレビ番組!」

阿部ソウタ
「テレビ番組じゃなくて……」

加山毬藻
「それより光矢、なんでフラムやミモザのことも何も言わないわけ? やっぱり洗脳されてんの?」

水沢光矢
「……」

春野百合
「ねぇ、やっぱりこれドッキリ? はやくネタバラシしてよ〜。あたしねむ〜い!」


 話は全く進んでいなかった。

 このバトル・ロワイヤルで親の顔よりみた情報交換のうち、トップクラスの無意味な時間の長さ。今のところわかったことと言えば、上の会話にあるように互いのフルネームと、お互いの会話が噛み合っていないということのみである。
 どだい殺し合いの場でたまたま集まった人間たちがマトモに会話できる事自体が少ないのだが、会話できているはずなのにできていないパターンはなかなかない。
 余談だが、トド松は名前を聞いたとき、「百合はわかるけど毬藻ってどんな名前だよ。あとソウタも入れると草っぽい名前多いよね」とクソどうでもいいことを言おうとしたが、光矢の目がマジだったのでギリギリで黙っておいた。賢明である。

「いや、だから、テレビじゃなくて、ラストサバイバル、いや、ラストサバイバルでもなくて。」
「アンタはっきりしなさいよ。まあいいわ、それより、今はこれからどうするかでしょ。こんな首輪付けられてるなら、外せるのはパセリぐらいだろうし。」
「先からパセリについて話しすぎだ。誰から聞いた?」
「今までさんざん冒険してきたんだからわかるに決まってるでしょ。やっぱり洗脳されてんの? それとも記憶喪失?」
「パセリってなに? あの茎の長い果物?」
「いやそれはセロリだ、パセリは野菜で……」
「セロリも野菜よ、じゃなくて、パセリは私の友達で。」
「それよりも、この殺し合いの主催者に心当たりがあるんだ……それは……!」
「いや、一度落ち着くべきだな……」
(コイツら全然話進まねぇ!)

 トド松は別の意味で冷や汗を流し始めていた。
 本当に、本当に何も話が進まない。基本的に会話のドッジボールが続くだけで、しかもときどき会話がループしている。
 特に誰かが誰かに対して話を被せるパターンが多い。話し合いに足る互いへの信頼や尊敬というものが皆無。まさしく会議は踊るされど進まず。
 それもこれも、全員が拳銃という、指先一つで人を殺せる武器を隠し持てる状況が主な原因なのだが、それにしてもここまで話し合いが成立しないのは、第一印象の悪さによるところが大きい。
 さっき調子を崩してからずっと聞きに徹しているトド松も、ついにポロッと思っていたことを言ってしまう。


598 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:25:40 ???0

「もうさ、こんなに話が噛み合わないならさ、みんな並行世界とかから誘拐されたとかでさ、終わりでいいんじゃない?」
「ふざけてるのか?」「ふざけてるの?」「ふざけてんの?」「ふざけてるんですか?」
「え!? ここだけ息合う!?」

 言ったトド松もリアリティがない意見だとは思うが、それでもああも話が合わない4人にこうも口を揃えられるとさすがにへこむ。
 また口を閉じたトド松をほうって、進まない話が再開された。


 実のところ、トド松が場の空気を変えたくて言った一言は的を得ている。
 『集英社みらい文庫』の『おそ松さん』と『小学館ジュニア文庫』の『おそ松さん』のように、同じ世界だが全く異なる並行世界。
 『映画ノベライズ』の『かぐや様は告らせたい』と『まんが』の『かぐや様は告らせたい』のように、近似した人生を歩みながらもどこか異なる並行世界。
 『フォア文庫』の『妖界ナビ・ルナ』と『講談社青い鳥文庫』の『妖界ナビ・ルナ』のように、ほぼ同一の時間軸にありながらもかすかな差異がある並行世界。
 様々な並行世界から様々な人間が、このバトル・ロワイヤルに巻き込まれている。
 そしてこれら並行世界から同じ人間が参加させられることもあれば、異世界から参加させられることもある。
 『若おかみは小学生!』と『黒魔女さんが通る!!』は互いが互いの異世界の関係にあるし、その関係を様々な世界でも実現することで、時間と空間を擬似的に自在に操ることが可能にすることを目論む主催者もいる。

 よってトド松の発言を首輪で盗聴しながら「おお」と歓声を上げた主催者もいるのだが、そのあたりの事情は当然参加者たちは知らないので、「何言ってんだこのトーヘンボクは」という扱いになるのも無理はない。


「あの……お茶、入れてくるね。」

 そして更に長針が半分ほど回りそうになり、トド松は沈黙に耐えられなくなって席を立った。出会って小一時間ろくに会話が成立していない上に、見ず知らずの拳銃持った子供から白い目で見られるというのは、オシャレなコーヒーチェーンでバイトしていたらクソみたいな兄たちが来たときほどではないが逃げ出したいものだ。
 教員室にあるティーセットなどを無視して部屋を出ると、トド松は校長室へと向かった。少しでも長く離れられるように、遠くでお茶菓子がありそうな場所を選ぶ。そしてゆっくりと吟味。どうせどれだけ長くしても話は進まないのだからと、思いっきり時間をかける。


 パァン。

 パァン、パァンパァン。


 トド松が破裂音を耳にしたのは、そうして何分も饅頭を両手に持って、視線を往復させていた時だ。
 「え、まさかヤッちゃった?」と想像するのは銃声。室内にあった日本刀をとりあえず手に取り、しばらくワタワタとしていると、窓の外を人影が通り過ぎた。



599 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:26:13 ???0

「あの子は、マリモちゃん、だっけ?」

 教員室の方から走ってきたよね、とつぶやきつつ後ろ姿を見送るトド松。破裂音が続く中、霧に消えていったのを認めて、トド松はそっと部屋を出た。すると、教員室との間にある男子トイレから、血痕が続いているのが見えた。
 「まさか」とか「そんな」とか、文章にならない言葉を発しながら、トド松は近づいてしまう。頭ではヤバイとわかっているのに足を止められなかった。
 1歩、また1歩と近づいていく。トイレまでの10mほどの距離が異様に長く感じられる。
 響いた破裂音、教員室にいたはずなのに校舎の外を走り去って行ったマリモ、そして男子トイレから教員室への血痕。
 一つ一つが恐怖をかきたて、トド松は壁伝いに歩く。消火栓のような体が隠れないようなものにまで隠れて、自分でも逃げたほうがいいとわかっているのに進む。逃げてしまうよりも、あんな同行者であっても失いたくないのか、それとも別の理由か、とにかく前へと歩く。

 トド松は幸運だったのだろう。
 無駄な行動だと思われるような、過剰なまでに隠れて進む行動は、むくわれたのだから。

(あれ……誰? ていうか、どれ?)

 また響いた破裂音に驚いて、消火栓の影へとへばりつく。その格好のまま教員室の方を伺っていると出てきた人間の人相に、トド松は見覚えがあった。というか自分と同じ顔だ。つまり、六つ子のうちの誰か、ということだ。

(え、誰だあれ。サングラスで目元見えなかったし。ていうかなんでここにいんの? 兄さんたちも巻き込まれて。まあそれはいいけど、なんで学校のなかにいんの? それに、銃持ってたよね。まさか、ヤったのって……いやいやいやいや! そんな度胸あるヤツいないし、ありえない、うん、ありえないよ!)

 トド松の胸からは恐怖心が消えていた。代わりに生まれたのは、『なぜ』と『どうして』だった。
 トド松は知っている。自分の兄たちクソニートはたしかに社会不適合者だが、それでも殺人を犯しそうな人間ではない。やるんなら軽犯罪の類で、凶悪犯罪などやろうとしても自分以外は皆失敗すると思っている。実際はトド松だって失敗するだろうから、松野家の六つ子に殺人なんて、それも拳銃で撃ち殺すなんてできるはずがない。
 では、なぜ。なぜ、兄たちの姿をした誰かが校舎にいたのか。自分のように隠れていて、音に驚いて覗きに来たのだろうか? それとも、なにかまた間の悪さで間抜けにも殺人現場に遭遇してしまったのだろうか?
 考えても考えても答えなど出るわけがなく、そうこうしている間に兄の姿をした誰かは行ってしまった。追おうかと考えたが、迷っている間に消えてしまった。
 残されたのはトド松一人。不気味なほどに音もしなくなり、深夜の校舎にはトド松だけが取り残されたような感覚になる。もはや廊下で丸まっているだけでも怖い状況に、トド松の足が動いた。血は怖いが、それより怖いのは一人取り残されること。カチカチとなる歯を噛み締めて押さえつけ、トド松はついに男子トイレに辿り着いた。

「っ……!」

 声にならない声を上げ、目を剥く。
 人だ、人が倒れている。
 明らかに銃で撃たれた姿で、血を流している。
 トド松は走り出した。
 それは目の前の光景からの逃避なのか、あるいはまだいるかもしれない知り合いを求めての行動か。

「だ、誰?」

 そしてトド松は、教員室で黒づくめの人物と相対した。


600 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:26:47 ???0

「……あ! そうだ! あの、光矢さん! トイレ行きたいんだけど、行かない?」
「……ああ、わかった。」

 トド松が教員室を離れてすぐ、阿部ソウタはそう切り出して水沢光矢を連れ出した。いい加減気まずいからだ。

 ソウタはラストサバイバルという、小学生が願いのために最後の一人になるまで戦うゲームのリピーターだ。何回も参戦する割には、一番最初に脱落したり、気がついたらひっそりと脱落していたりと、なかなか結果は振るわないが、それでも何度も優勝しているプレイヤーと共闘したりして時々は上位に食い込んだりもしている。
 そんな彼からすると、今回の殺し合いはかなりまずいものだという意識が、他の参加者より圧倒的に強かった。ソウタが知るライバルたちは、みなソウタよりも賢かったり、運動ができたり、覚悟が決まっていたりする。そして最悪なのは、こんな異常なイベントでも、積極的に人を殺して回りそうな人間が何人かいることだ。
 ラストサバイバルの参加者は、基本的に命がけで叶えたい願いがある。死にそうな家族を助けたいなんて願いを持つ参加者も、そう珍しくはない。そしてそのためならば、人を殺しかねないような覚悟を持った参加者も。この殺し合いにそういった参加者がいれば、しかも銃や刀がどこにでも落ちているのならば、絶対に殺し合いに乗ると思った。
 そして最初に出会ったのが、明らかに『あちら』側の気配のある光矢だった。後ろからすごい力で押さえつけられて拳銃を頭に突きつけられたときは泣きそうになった。というか泣いた。ラストサバイバルに出た経験がなければそのまま泣きわめいていたぐらい怖かったが、涙目になりながらもコミュニケーションできたので同行に成功している。お互いこんなところで絶対に死ねない事情があって、パニックを起こさないぐらいには経験があったことが幸運だったのだろう。
 そして二人は仲間を集めることを方針として行動を始めることになる。お互い危険人物に心当たりはあるが、逆にこういう場所で能力は信頼できる人間などにも心当たりがある。そして、しかしながら。

「光矢さん、マリモって人は知り合いじゃなかったんですか?」
「ああ。妹のクラスメイトだ。だが、知るはずのないことを知りすぎてる。」
「火の鳥軍団とかですか? なんなんですか、それ?」
「……」

 一応立ちションするフリをしながら聞くソウタに、沈黙で答える光矢。事情があるんだろうなとそれ以上は聞かないが、頭はクエスチョンマークでいっぱいのままだ。
 光矢から聞いていた話では、加山毬藻ことマリモは、妹であるパセリのクラスメイトであるということだった。そこに違いはないようなのだが、なぜか二人の話が噛み合っていない。そもそもさっきの話がぜんぜん進まなかったのも、光矢とマリモがことごとく揉めるからだ。なぜ元々の知り合いでああも話がこじれるのかとソウタは不思議に思うのだが、あからさまに人間関係がギスギスしていて聞くに聞ききれない。

 実は光矢の参戦時期はマリモの参戦時期から大きく離れているからこじれているのだが、そのことに本人たちが気づくことはなく。むしろ、トド松にツッコミを入れたことでより気づきから遠のいていた。それでも二人の仲が良ければ話は違ったのだが、基本的に二人はそこまで仲が良くない。パセリという共通の重要人物がいる、『友達の友達』のような関係。それでもマリモからすれば、様々な冒険を共にした仲間という扱いなのだが、光矢からするとその関係になる前なので、話が噛み合うはずもなかったのだ。


601 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:27:20 ???0

 そんな事情はとうぜんわからず、ソウタはどうしたものかとトイレに落ちていた手榴弾を調べる光矢の背中を見る。怖いけれど頼りになりそうな人だと思ったら、よくわからないトラブルが起きた。今までラストサバイバルを通じて、ひたすら歩いたり目の前で女子が橋を爆破したりと、非日常的な経験はしてきたほうだが、こういう気まずい場面をなんとかしてきたことなんてなかった。
 なんとかならないかな……という視線が、突然上から降りてきた紫色の壁に遮られる。壁と思ったそれは色を変えて、サングラスをかけて、なぜかバスローブを着たトド松の姿になった。
 驚きと困惑とツッコミで「うわっ!」と言おうとした声が、独特のヌメリとした感触をした何かに口を塞がれることで封じられる。それがトド松の手だとわかった時には、拳銃を胸へと突きつけられていた。そして。

 パァン。

「ソウタ!」

 ソウタが音と熱を感じたのと、光矢の呼びかける声を聞きながらトド松の後頭部が殴り飛ばされるのを見たのは、ほぼ同時だった。光矢は空手の足払いの要領でバランスを崩させ、三角跳びからの回し蹴りでトド松を蹴り飛ばしながらソウタとの間に割り込む。その一連の動きを見ている間に、ソウタの胸に強烈な痛みと寒気が襲ってきた。

「光矢さっ、あがっ! がああっ、はああっ!」

 呼びかけようとした途端に、意識が飛びそうなほどの激痛へと変わり、痛みに喘ぐ度に更なる痛みが襲ってくる。息を吸うたびに頭の中に火花が散り、吐くたびに体から温度が抜けていくような感覚が、ソウタをさいなむ。膝か足裏か、とにかく力が解けるように消えていき、背後の壁へと背中を預けるようにもたれこんだ。
 あまりに痛くて何が起こったのかがわからない。視界が明るくなり、暗くなり、色と輪郭がおかしくなる。なにより、息苦しい。突然の体の異常に何も考えられなくなる。ただただ、苦痛。それでも意識を気合で失わずにいるのはラストサバイバルの経験だったが、それが恨めしくなるような、味わいたくない痛みを味わう。
 光矢が自分になにか話しかけているが、なんと言っているのかが聞き取れない。あるいは文章を理解できるほどに頭が働いていないのかもしれないが、すでにソウタはそんなことを考えていられる状況ではなかった。
 それでもただ一つ、ソウタは力を振り絞って、光矢の背後を指差す。そこでは、先ほど殴り飛ばされたトド松が、ゆっくりと立ち上がっていた。そしてその姿に異様な変化が発生する。体が紫のゲルのようになり、顔のサングラスやバスローブごと、光矢の姿へと変わっていった。

「光矢、さんっ、うし、うっ、ろ!」
「しゃべるな! 肺に穴が……なにっ!?」

 光矢の姿になったトド松が、光矢へとステップで距離を詰める。寸前で気づいた光矢が慌てて構えたところに、上段回し蹴りを放った。光矢がギリギリで内払いで立ちガードに成功したところに、正中線に向けて上・中・下の3連撃が続く。ガードを諦め体を固める光矢が、突きを受けて後退する。そこへと追撃で放たれる前蹴りを下段払いで前に出ながら防ぎ、返しの横蹴りをスウェーで空かされて、光矢の顔色が変わった。


602 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:28:05 ???0

「こいつ、同じ動きを!」

 光矢ともう一人の光矢が激しい応酬を繰り広げる。その中で光矢は確信した。目の前の相手は、どういうわけか自分と戦い方が似ている。それだけでなく、体のキレなどもおそらく同レベルだ。姿だけでなく能力も真似されているとしか思えない。先ほどトド松を蹴り飛ばしたところを庇うような動きをしていることから、相手はコピー能力のようなものを持っている。そう、それはまるで、ポケモンのメタモンのような。

「まさか、メタモンか!」
「!!」

 メタモン、という言葉を聞いた途端、偽光矢の動きが変化する。距離を取ると、ちょうどそこは先ほどトド松が蹴り飛ばされた位置。
 そしてそこには、一丁の拳銃があった。
 ヤバい。そう思うより早く距離を詰める。ほとんど反射で、突きを放つ。光矢の目の前で、銃が宙を舞う。光矢が払い飛ばした、わけでは、ない。

(なぜ? なぜ拳銃が? 投げた? ジブンデ?)

 目が、顔が、拳銃を追ってしまう。それが首ごと、逆方向に向けられた。殴られた、銃を囮に使われた、と理解した時には。

(──パセリ。)

 目の前で空中の銃を手に取った自分と同じ顔の存在が、自分に向けて発砲していた。



 これで3人目かと、メタモンは男子トイレで2つの死体を前に感情の読めない顔をしていた。
 公園での失敗から位置を変えて学校を選んだが成功だった。建物は浸透し隠れ潜むための隙間が多く、武器も豊富だ。現地調達で銃を手に入れられる環境はメタモンを大きく有利にさせる。
 光矢と呼ばれた少年がまさかあんなに格闘技に精通しているとは思わなかったが、それも嬉しい副産物だ。無視できないダメージは負ったが、光矢は人間とは思えぬ身体能力と強力なかくとうわざを有している。しかも撃ってみた感じ、銃を使うのも多少はできるようだ。これでサングラスなどの目元を隠せる姿をしていればなお良かったのだが、流石にそこまで贅沢は言っていられない。
 一方で困ったこともある。どうやらターゲットである参加者はかなりの人数のようだ。公園で取り逃した4人に、まだ校内にいる3人。殺した3人とメタモン自身を入れて11人。これで全員ということはないだろうから、まだまだ殺し合いは終わりそうにない。それは困るして一刻も早く戻らなければならないのに、あと何十人殺せばいいのか、何百人殺せばいいのか。

「あ、光矢く──」

 光矢の姿でパァン、パァンと心臓と頭に1発ずつ撃ち込み、百合を殺す。これで4人目。5人目のマリモをと思い教員室を見渡すも、いない。
 おかしい。さっき教員室の上から通風口を通して見たときには、5人いたはず。そのうち最初に殺したのと同じ顔をした1人は校長室へと向かったようだが、男子は男子トイレに行き、女子は校長室に留まっていたはず。メタモンは教員室を出るとカラ松の姿に戻り、2階から校長室へ回り込むべく動き始めた。


603 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:29:23 ???0

「光矢……! やっぱり洗脳されてんじゃない!!」

 校舎の外壁に沿って進む加山毬藻ことマリモは、ちょうど光矢の姿に『へんしん』して本物の光矢たちにトドメをさしていたメタモンを見て、小さくそう言った。
 最初の破裂音が聞こえたとき、マリモはすぐに教員室からの脱出を図った。男性陣3人のうち、誰かが発砲したか、またはされたかはわからないが、どちらの場合でも教員室から動かなければ、敵に襲われると思った。
 このあたり、だてに何度も赤い鳥軍団の魔の手から逃れてはいない。彼女が直接戦うようなことはなかったが、だからこそか、逃げるタイミングというものへの勘は鍛えられていた。それがなければ、今ごろ後ろから聞こえてきた銃声で死んだ百合のように、マリモも物言わぬ死体の仲間入りをしていただろう。
 断っておくが、もちろん百合を見捨てる形になったことは残念には思っている。一応同行者のよしみで声をかけたが、すぐに着いてくると言わなかったので、放置して校庭に面したドアから外に出た。百合を説得している時間が無かったことは、先の男子トイレの様子を外から伺って出くわした場面を見れば議論は無いだろう。

「なんなのよ、あの目。あれが人間なの?」

 小走りしながらつぶやく声は、珍しく震えている。それが怒りからではなく恐怖からだと本人が認めるとことは、決してない。
 メタモンが唯一『へんしん』できない眼球、目は、明らかに人間とは異なるものだ。なまじ他の部分は服を含めて完全に見知った姿だったため、余計にそれが際立つ。非人間的な顔が、マリモに逃走を選ばせた。ふだんの勝ち気な彼女ならば、勝ち目がないとわかっていても奇襲をしかけ、なんとか拘束しようとしただろう。

「とにかくパセリと会わないと……ミラクル・オーなら、洗脳も解けるはず。アンタのお兄ちゃんなんだから、責任とりなさい。」

 当の光矢本人は既に死んでいるとも知らずに早足で駆ける。自分の仲間が操られて人を殺したと信じて。
 そしてマリモは失念している。光矢を気にかけるあまり、あの場にいた5人の中で、一番存在感の無かった男を。

「待ってええええええぇ!! 置いてかないでええええええぇぇ!!!!」

 ギョッして振り返ると、そこには。



(��������������������������)



「ヒィッ!?」

 人間ってそんな表情できるのか。
 傍から見るとそう言いたくなるような顔で、トド松が泣き叫びながら猛然とマリモの方へとダッシュしていた。
 コソコソと逃げるマリモの努力を無に帰す成人男性の全力疾走は、運動神経がいいとはいえ女子小学生のマリモとの距離をあっという間に縮めた。

「ち、近づくなあ!」

 コソコソ逃げてきた意味ないじゃんとか、そういえばアンタいたわねとか、単純にキモいとか、色々な感情を叫び声にのせると、マリモも全力ダッシュをはじめた。


604 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 02:57:34 ???0

「光矢……! やっぱり洗脳されてんじゃない!!」

 校舎の外壁に沿って進む加山毬藻ことマリモは、ちょうど光矢の姿に『へんしん』して本物の光矢たちにトドメをさしていたメタモンを見て、小さくそう言った。
 最初の破裂音が聞こえたとき、マリモはすぐに教員室からの脱出を図った。男性陣3人のうち、誰かが発砲したか、またはされたかはわからないが、どちらの場合でも教員室から動かなければ、敵に襲われると思った。
 このあたり、だてに何度も赤い鳥軍団の魔の手から逃れてはいない。彼女が直接戦うようなことはなかったが、だからこそか、逃げるタイミングというものへの勘は鍛えられていた。それがなければ、今ごろ後ろから聞こえてきた銃声で死んだ百合のように、マリモも物言わぬ死体の仲間入りをしていただろう。
 断っておくが、もちろん百合を見捨てる形になったことは残念には思っている。一応同行者のよしみで声をかけたが、すぐに着いてくると言わなかったので、放置して校庭に面したドアから外に出た。百合を説得している時間が無かったことは、先の男子トイレの様子を外から伺って出くわした場面を見れば議論は無いだろう。

「なんなのよ、あの目。あれが人間なの?」

 小走りしながらつぶやく声は、珍しく震えている。それが怒りからではなく恐怖からだと本人が認めるとことは、決してない。
 メタモンが唯一『へんしん』できない眼球、目は、明らかに人間とは異なるものだ。なまじ他の部分は服を含めて完全に見知った姿だったため、余計にそれが際立つ。非人間的な顔が、マリモに逃走を選ばせた。ふだんの勝ち気な彼女ならば、勝ち目がないとわかっていても奇襲をしかけ、なんとか拘束しようとしただろう。

「とにかくパセリと会わないと……ミラクル・オーなら、洗脳も解けるはず。アンタのお兄ちゃんなんだから、責任とりなさい。」

 当の光矢本人は既に死んでいるとも知らずに早足で駆ける。自分の仲間が操られて人を殺したと信じて。
 そしてマリモは失念している。光矢を気にかけるあまり、あの場にいた5人の中で、一番存在感の無かった男を。

「待ってええええええぇ!! 置いてかないでええええええぇぇ!!!!」

 ギョッして振り返ると、そこには。



(*����������������������������*)



「ヒィッ!?」

 人間ってそんな表情できるのか。
 傍から見るとそう言いたくなるような顔で、トド松が泣き叫びながら猛然とマリモの方へとダッシュしていた。
 コソコソと逃げるマリモの努力を無に帰す成人男性の全力疾走は、運動神経がいいとはいえ女子小学生のマリモとの距離をあっという間に縮めた。

「ち、近づくなあ!」

 コソコソ逃げてきた意味ないじゃんとか、そういえばアンタいたわねとか、単純にキモいとか、色々な感情を叫び声にのせると、マリモも全力ダッシュをはじめた。


605 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 03:00:40 ???0

「おいおいおい殺したわアイツ……」

 メタモンが教員室を離れて少しして、ギュービッドは春野百合の死体の幻影を消滅させると、1時間以上に渡って隠れていたロッカーから出ながら言った。
 トド松たちが見ていた春野百合は、黒魔女であるギュービッドが幻プロジェクター魔法で見せたものである。対象者の思い出から幻覚を見せるこの魔法の発動中は、ギュービッドでは他の黒魔法を使うことはできない。それでも彼女がこの黒魔法を使ったのは、弟子のチョコと同年代らしきマリモを見つけたとき、チョコのクラスメイトから適当な人間を選んで幻影として見せて、「子供どうしならソッコーうちとけられるんじゃね?」と情報を集められると踏んだからだ。しかし、とぼしいチョコの友人から選んだためか、結果は先の通り。なんど話を軌道修正しようとしても、幻影のキャラを維持したままやろうとしたらあの有様である。しかも、新たに招き入れた光矢はマリモの知り合いらしいのに話をややこしくするし、ならもう一人と招き入れたソウタは光矢を焚き付ける感じになるし、黒魔法使う前からトド松がいたらしいし、散々である。
 そう、ギュービッドは微妙にポンコツなのだ。

「クッソー、こんだけ時間使ってムダ話ばっかりしやがって。」

 悪態をつきながらギュービッドはそわそわと教員室内を歩き回り考える。
 ギュービッドが見た光矢の目は、明らかに人間のものとは違っていた。魔力などの気配は感じなかったが、あの瞳を見れば、何かが光矢を操ったり取り憑いたりというよりかは、なり変わられているような感じがする。が、それを考えるよりもまずは光矢たちが無事かを考えなくてはならないし、止めれなかったマリモを保護しないといけない。
 ギュービッドは黒魔女ゆえに人間とは倫理観が違うところがあり、チョコからは人間の屑のように言われることもあるが、それでも正義感や曲がったことが嫌いなのは変わりない。また黒魔女としての地位も初段と高くはないが、それは日頃の言動と本人がステータスに執着が無いからで、能力自体はかなり優秀なのである。おまけに美人だ。品と注意力が小学生レベルなので侮られることもあるが、基本的には才色兼備な銀髪美女なのである。
 よってギュービッドはメタモンの『へんしん』にもしっかり違和感を感じていたし、そもそもこのバトル・ロワイヤルの主催者に大形京がいることも考察していた。ずっとロッカーの中で静かにしていなくてはいけなかったので、暇つぶしがてら色々と考えた結果、アイツならやる理由も実力もあるな、という結論だ。その直感力は紛れもなく本物である。
 しかし、惜しむらくは。

「だ、誰?」
「あ、やっべ。」

 トド松の存在をちょっと忘れていて、うっかり黒魔法を解いてしまった。

「ゆ、百合ちゃん! マリモちゃん! 置いてかないでええ!」
「バカ! 叫ぶな! あ、こら、待て!」

 そうしたらなぜかトド松がわざわざ戻ってきやがってしかも叫んであげく窓をぶち破って逃げやがった、とはギュービッドの談である。

「あー行っちまっう! トド松追うか? いや、マリモが先か? あの変な光矢もなんとかしないと。ダーッ! やることが、やることが多い!」


606 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 03:01:20 ???0

 そして、時間は2時間ほど前のあるマンションに遡る。

 見知らぬ家の中をずかずかと歩き、冷蔵庫を開けると保存が効きそうな食料をクーラーボックスへと詰めていく。足早にキッチンから刃物を取ると、学生服のズボンのベルトへと抜身で差し込む。
 次に行くぞ、と二階堂大河は宇美原タツキと水沢光矢に声をかけると、マンションの玄関を開けた。



「ネットつながってねえのかよ。スタミナあふれるじゃねえか、クソっ。」

 大河と光矢たちが出会ったのは、今から数分前のこと。
 目覚めて大河がまず行ったのは、寝起きのルーティンであるソシャゲであった。

「スマホの問題じゃなさそうだ、Bluetoothは使える。てことは、さっきのは単なる夢じゃないってことか……?」

 スマホに表示されている時間とベッド脇の目覚まし時計の時間のズレを見て、次に窓の外の赤い景色を見てそう結論づける。超常的な現象に巻き込まれた身だが、その順応は早かった。
 大河は死神だ。中学生の傍らバイトでライフルをぶっ放したりして暮らしている。いわゆる、クラスのみんなにはないしょだよ、系のアレだ。
 そうであるがゆえに、これが普段の非日常と違うと理解していた。彼が討伐している悪霊の起こす異変とは毛色が異なる。言葉にするのは難しいが、何か似ている部分はあるものの別物に思えた。なにより、バトロワという段階でジャンルが違う。

「毒入りの首輪に、赤い霧、落ちてる武器、バトロワゲーなのは間違いねえ。問題は、タイムリミットだ。10分か、1時間か、それより長いか。」

 ひとまず容量の大きいリュックサックを探す。そして冷蔵庫からエナジードリンクを調達し、薬箱から痛み止めを手に入れて、台所にあったフライパンを腰に提げた。ヘルメットは手に入らなかったが、ライフルとピストルもあるし立ち上がりとしては上々だろう。だがこれではドン勝にはまだ遠い。
 懸念事項は3つ。戦力アベレージと制限時間、そしてチーターだ。
 大河たち死神が戦う悪霊は普通の人間には見ることも触れることもできない。それでいて悪霊は人間からエネルギーを一方的に吸い取れる。そこを大河たち人間の死神は幽体化という状態になることで悪霊と同じく霊的存在となり戦うのだが、ここに一つ問題がある。悪霊も死神も人間相手に圧倒的に有利な存在なのだ。一方、バトロワはソシャゲにありがちなPayToWinではなく、キャラの強弱は格ゲーなどのキャラランクに近い。ゲームとして成り立たせるために宇宙最強の戦闘民族とただの赤ん坊を同じ土俵に上げたりはしないのだ。ということは、自分と同じぐらい人間に有利な存在がプレイヤーである、と考えるのが筋だろう。問題はそれがどんなタイプか、だ。死神のような幽体化で戦うタイプだけならわかりやすいが、オープニングステージで見た不良や侍のような少年漫画みたいな連中が相手となるとまずい。特に幽体化には元の身体は気絶した状態で残るという弱点がある。自分は下から数えたほうが早いキャラランクと考えるのがベターだろう。
 そして制限時間、これもネックだ。10分か、1時間か、それとも丸一日か。タイムアップまでの余裕で取るべき戦略は全く変わってくる。数十分で最後の一人にならなければ皆殺しというのならば今すぐにでも動き出さなくてはならないが、数日かけて一人になればいいのならばあまり期待はできないものの外部からの救出を待つのも悪くはない。それにタイムアップ時にどうやって殺すかも関わってくる。首輪で殺す気なら時間があれば解除の可能性にかけてノウハウを持つプレイヤーを探すのも手だろうし、この怪しすぎる赤い霧が毒かなにかでそれで殺す気だというのならなるべく触れないように立ち回るのがスマートだ。他のプレイヤーが消耗で死のうが一発の銃弾も撃たなかろうが生き残っていれば勝ちなのだから。
 最後にチーター。ズルしている参加者がいる可能性について。ここまでのことをできる主催者ならばそんなふうに出し抜かれているとは考えにくいが、あのオープニングの様子を見るにありえなくはない。それに首輪の解除を目指す場合はそういう裏をかける存在がキーだ。最悪なのは主催者側のチーター、すなわちジョーカーだ。最初からコイツを勝たせる為にバトロワを開いた、となればほぼどうしようもない。詰みだ。


607 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 03:01:55 ???0

「考えなくちゃなんねえことが多すぎんな。バトロワゲーやんねえし立ち回りがわからねえ。このままじゃ初心者狩りされて――」

 カツ、カツ、とかすかな音を耳にして大河は独り言をやめてライフルの安全装置を外した。持ちなれない実銃、その重さに眉間にシワを寄せながら玄関へと足音を忍ばせて急ぐ。扉に耳をつけるとハッキリと足音が聞こえた。

(一人……ちがう、二人か? チームを組んでるってことは知り合い同士で巻き込まれたか、それともこのステージで知り合ってすぐ一緒に動いているのか……)

 ドアスコープからマンションの廊下を覗く。足音の感じから無警戒さがわかる。トリガーガードに指をかけて姿が見えるのを待つ。見えた。男が一人。おそらく同い年。手には大河と同じくライフル、もう片方には懐中電灯。
 次の瞬間、眩しい光が大河の片目を焼いた。

「ぐあっ!」
(眩しっ!? しまった、声を――!!)

 続いてズガンという発砲音と共に金属片が目を抑えた手を掠めた。合計四発撃った、耳で確認すると残る片目に映った光景にギョッとする。鍵とチェーンで施錠されていた玄関扉が開いていく。それも、鍵の側を軸にして。

(ドアのちょうつがいを撃ち抜いたな!)

 さっきの発砲は鍵を撃ち抜いたのではなく、ちょうつがいを破壊したもの。分厚い金属の閂ではなく薄い金属部品を吹き飛ばすことで単発の銃でも速やかに金属製のドアをこじ開ける。その技術はわからなくても現に開いていく扉が侵入者の狙いを大河に理解させた。
 ライフルをなんとか向ける。だが扉が盾となり銃口を動かす。扉の真後ろにいたのが仇になった。そう思うより早くハンドガンを抜く。と、その銃身を扉の隙間から伸びた手が握りしめた。反射的に引鉄を弾く。弾は、出ない。

(スライドが引けねえ――ぐあっ!」
「動くな。」

 ハンドガンはその構造上、銃身上部のスライドが後退しない場合発砲できない。ゆえに、引鉄を引くより強い握力でスライドを銃身から動かぬように握ってしまえば無力化できる。だがそれは理論上の話だ。今にも弾丸が出る銃に手を伸ばすのも、正確にスライドを握って相手の握力を上回る力で握り込むのも並大抵のことではない。ましてやそれを、同年代の相手にやられるなど、大河には信じられないことだった。だが今にも肩を外さんと関節を極められる現状が、その不条理を受け止めさせられる。痛みから引鉄から指を離したところをすかさず掴まれ、スライドを握っていた手が一転して扱く。装填されていた弾丸が地面に落ちる音が数度響き、それが終わると床に組み伏せられた。

「殺すな、光矢。」

 女っぽい声がそう言うのと、大河の首に腕が回るのは同時だった。同時に、大河も身体の下敷きになった方の手にかけていた手榴弾のピンを抜くのを止める。そして二人揃って顔を声をかけた少女へと向けた。
 二階堂大河と水沢光矢・宇美原タツキの出会いはそんな剣呑なものであった。





608 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 03:02:26 ???0
 各自が重さ10キロほどの荷物を持つと部屋を出る。物資集めと並行して行った自己紹介は最低限のものだ。互いの名前と、方針だけ。それぞれ知り合いがいるという光矢とタツキは捜索の体制を整えるために近くのホームセンターに行くと言い、大河もそれに同行することにした。
 互いの事情に深入りはしない。明らかに軍隊やそれに類する組織の訓練を受け恐ろしい膂力の持ち主である光矢も、何らかの制服に身を包み腰には刀を差しこの異常な状況に顔色一つ変えないタツキも、殺す相手としては強敵だが幸いにして対主催であると言った以上は大河にはそれで良かった。見たところこの二人はこのステージで知り合ったようであり、ならば対主催のスタンスはそうそう崩さないだろう。それなら弾除けにはなるし自分の死神について語る必要が生まれるようなことは避けたい。
 大河のひとまずの方針は、ホームセンターに引きこもることであった。二人は外に捜索に行くと言うがその間の留守役に名乗りを上げた。もちろん、二人の方針に共感したわけではない。赤い霧が毒などのダメージを与えるかの確認をするためだ。もとより大河は赤い霧を警戒してなるべく動き回らないことを考えていたが、対称的な行動をとるサンプルが現れたおかげで自分の仮説を試す機会が訪れた。彼のひとまずの方針としては、このバトロワを長期戦と想定しホームセンターで装備を整え、会場全域が禁止エリア化した場合は冷凍室に立てこもるというものにした。霧である以上低温ならば空気中から霜として床に落ち、何もしないよりは触れずに済む。そうでなくとも情報収集の為に割く時間を考えたい。

(で、これかよ。ゲームならやってるけどリアルでやるやついねえよ。)

 そして今タイガは、高架の上の線路を中腰で移動していた。腰に膝に10キロの荷物と5キロの武器、合わせて15キロの重さがのしかかる。正直しんどい。
 土地勘の無い場所を奇襲を警戒して歩くよりは線路を歩いて近くまで行ったほうがいい、そう提案したのは家にあった地図でホームセンターまでの道順を調べた大河自身である。なので文句は言えない。それに、この高架は住宅街に架かっているからか防音壁がある。もちろん銃弾を防げはしないだろうが、その陰に隠れて移動すれば濃霧と合わせて安全に移動できるだろう。問題はその壁が1メートル程の高さしかないということだが。

(光矢もヤバいがタツキもヤバイな。)

 同じように中腰で歩く光矢とタツキを見て大河は思う。一番身長が高い光矢はうっすらと汗をかいている。そのすぐ後ろのタツキは、やはり顔色一つ変えないどころか汗の一つもかかずに歩いている。いくら光矢や大河に比べれば小柄とはいえ、尋常なことではない。なにせ運動神経抜群の大河でさえ顔を汗が伝い荒い息を歯を食いしばって漏らさぬようにしているのだから。

(そういえばオープニングに黒づくめの剣士いたな。そのタイプか?)

 タツキやツノウサギに斬りかかった剣士たちのようにパワーにすぐれるプレイヤーに、大河やツノウサギに殺されかけた剣士を治した不良のように特別な能力が使えるプレイヤー、光矢のように専門的な訓練を受けたプレイヤー、大まかに3タイプ。別に根拠も何もないが、そういうふうに属性みたいなものが分けられているのなら、死神の能力を持つ自分を参加させたのも納得はできる。


609 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 03:03:03 ???0

「みんな止まれ。」

 先頭の光矢がそう言って手を横に伸ばした。大河は壁に身を寄せると振動に気づいた。

「電車が来るぞ。」
「二人は後ろを見てくれ。来ない方の線路に退避する。」

 光矢の言葉に従う形になるのはシャクではあるが、言うとおりにする。ほどなく、電車が後ろから来て通り過ぎていった。

「運転手が乗ってなかったな。モノレールでもないのに。」
「ゆっくりと走っていたから、駅が近いかもな。先を急ごう。」

 言葉どおり、1分もしないうちに駅が見えた。防音壁とカーブする線路で視界が悪かったが、都市部の線路の駅の間隔だったらしい。3人はホームに上がると、とりあえず駅員室に入り込んだ。

「で、ここからどうする?」

 ポットからお湯を注ぎインスタントコーヒーを入れつつ、大河は尋ねる。

「予定通りこの駅から近くのホームセンターに行くか、次にくる電車に乗ろうと思う。」
「電車でどこに行く気だ?」
「別に決めてない。電車と線路、それと沿線の様子を把握しておきたい。」
「ホームセンターより優先すべきか……? まあ、わかんなくはないけど。」

 そう言うとコーヒーに口をつけた。
 まだゲームが始まってから間もない時にアイテムを手に入れられるのは大きな強みになるが、電車という存在が見過ごせないのもわかる。
 この殺し合い、徒歩でやるには歩くだけでキツ過ぎる。ゲームならスタミナの概念が無くてずっと走り続けられるが、リアルでは歩き続けることすら難しい。
 マップも少なくとも一駅分、中学校の学区程度はあると考えると、そもそも他のプレイヤーを見つけることも難しい。
 となると当然、時間経過なりでマップが狭まることも考えられるが、その時に電車という存在がどんな影響を出すのかは未知数だ。

「かまわない。」
「……話はわかった。こっちもそれでいい。」

 先に一言発したタツキに釣られるように、大河も決断した。
 当初の方針を変えることになるので軽々しく賛成はできないが、それを曲げてもいいと思えるほどの情報アドを取りに行く。未知数なら他のプレイヤーに先んじる価値は大きい。たとえそれが空振りであったとしても、その情報だけでもカードになる。無論、体力と時間とトレードオフではあるが。
 大河たちは駅員室のモニターで電車の運行状況を見ながら、しばし休憩を取った。
 詳しくはわからないが、自動運転が実用化しているのだから先進的なのだろう、どこにどの列車が走っているかは一目でわかるため、乗り損ねるような心配は無い。気になることといえば、どうやら乗ろうとしている電車が終電らしきことか。壁にかけられた時計を見るに、今は深夜なのだろう。文字が読めないのでわかんないけどな、と大河は思った。

「いちおう聞いてくけどさ、お前らあの字読めるか?」
「読めない。」
「無理だ。日本語か?」
「ま、だよな……」

 文字化けしたような文字に見えているのは自分の幻覚ではなかったようだと、心の中で大河はホッとする。
 それからほどなく、目当ての電車がやってきた。


610 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 03:03:39 ???0

「クリア。意外となんもないな。プレイヤーが少ないのか? それともデカ過ぎるマップなのか……」

 拍子抜けした表情で大河は銃を下げ、その後ろでドアが閉まる。3人で別の号車に乗り周囲を警戒すると、少しぶりに一人になれる時間ができて、警戒の意味も込めて流れる景色に目が行った。

「どう見てもふつうの街だよな。でも看板の文字だけ違う。どこかの街を乗っ取って文字だけ差し替えたか? いくらかかんだそれ。死神みたいなオカルトでもないとムリだなやっぱ。」

 誰もいないのをいいことに独り言も調子が出る。
 2駅ほど停まると、防音壁もなくなり、見えた視界は、まさしく日本のもの。空も霧も流れる川も赤く、黒い雲が浮かび、漢字のような異様な文字の看板以外に、異常は見られない。まあそれが異常だよなと思いながら眺めていると、次第に町の景色に畑が目立つようになった。終点につく頃には、すっかり田舎の町だ。近郊農業をやっているベッドタウンの町なら割とありふれた景色だが、大河としては充分僻地だ。

「都会に近いから畑があっても建物が多いのか? とにかく気をつけたほうがい。狙撃される可能性がある。」
(お前マジかよ。)

 なお、そんなことを考えていたら北海道の田舎に暮らす光矢の発言に引くことになったが、大河は黙っていた。

「建物っていっても、良い拠点になりそうな場所がないぞ。終電だったから戻れないし。」
「学校があった。400mぐらい線路沿いに戻って川まで行けば見えるはず。」
「……良く見えたな。後部車両に乗ってたのに。」

 驚きの混じった声で言う光矢と同じく、大河もマジかよお前と思う。こちらのは光矢へ向けたものとはだいぶ意味が違ったが。
 そしてあらためて、大河はこのデスゲームが厄介だと思った。自分よりフィジカルに優れ、注意力もあるプレイヤーは、味方にすれば頼もしいが敵にすれば厄介なことこの上ない。これはこいつらが死ぬようなことあったらこっちの命も無いなと判断して、基本は対主催で行くことにする。
 危険対主催が対主催に方針転換する頃に、目的地の学校が見えてきた。
 あの感じは中学校だなと当たりをつけると、ライフルのスコープで校門を見る。ビンゴ、と大河は薄く笑う。霧で見えにくいが、間違いなく中学校の文字。これでサバイバルする分のアイテムは粗方手に入る。そうほくそ笑みながらスコープから目を離して、同じようにスコープを覗きながら険しい顔をする光矢に気づいた。

「どうする、光矢。」
「中に人がいる。1階の左の部屋に、小学生ぐらいの女の子が2人だ。」

 ムダに眉間に皺寄せてんなと思った。光矢の口調がやけに固く思えたのだ。
 もう一度スコープを覗く。

「見えた。フリフリした服の女子。誰か知り合いはいるか? 光矢?」
「……妹のクラスメイトだ。」
「保護しよう。」「だな、異議無し。」
「……一人で行く。扱いが難しいんだ。何かあるまで待っててくれ。」

 そう言うと返事も待たずに光矢は前進を始めた。
 それが2人が見た、最期の水沢光矢の姿になった。


611 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 03:04:16 ???0




(*����������������������������*)



「なんだあの顔っ!? 人間かっ!?」

 そして時間は現在に戻る。
 タツキと2人で交代で光矢を見守っていた大河は、銃声を聞いて周囲のアイテム回収を中断して戻ってくると、トド松がマリモを猛ダッシュで追いかけている場面に出くわした。
 スコープで覗かなくてもわかる偉業の顔に思わずうろたえる。

「大河、ここからだと誤射の危険性がある。接近する。」
「了解って、返事ぐらい聞いてから走り出せよ。」

 状況は飲み込めないが、それでもやるべきことはある。大河は荷物を全て捨てると、ライフルを背中に回してタツキと別方向へ駆け出した。

「ち、近づくなあ!」
「一人にしないでええええええ!!」
「これ撃っていいやつだよな?」

 意外と2人とも速いのか、あっという間に距離が縮まる。それでもトド松がマリモにあと少しで触れるというところで、タツキがすらりと抜刀した。

「誰っ!?」「だれ──ひいっ!?」
「「動くな。」」

 トド松の指先を、一振りの黒刀が掠める。たたらを踏んで手を引っ込めたトド松のその手を、大河は背中へと捻りあげると頭に銃口を押し当てた。
 よくわからないがこれにて一件落着。あとは学校で何があったか、光矢は無事か──そう今後について考えた大河は次の瞬間、二人の言葉に耳を疑った。

「ま、待ってください! こんなことしてる場合じゃないんです! ボクの兄たちが殺し合いに乗ってるかもしれないんです!」
「あ、ちが、ちがうの! その人いちおう敵じゃないの! 光矢、えっと、仲間が操られて襲ってきて……」
「は? えっ……なんだそれ? 光矢?」
「光矢は死んだよ! 殺されたんだ! だから! 早く逃げないと! 黒づくめの怪しいやつもいたし、すぐ逃げないと! ボクたちも殺されちゃうよ!」
「光矢っていう仲間がいるんだけど、操られたのか突然銃を撃ったみたいなの! 早く逃げないと! 今の光矢は危ない!」

 わけがわからない。大河の頭はフリーズした。
 光矢は学校に潜入した。光矢は死んだ。光矢が操られた。光矢が銃を撃った。
 集まった情報がバラバラすぎて、整理ができない。

「つまり、あなたとあなたは敵じゃない?」
「はい! ボクたち仲間です!」
「まあ一応……」
「なら2人とも着いてきて。避難させる……大河。」
「あ? あ、あぁ……」

 タツキの言葉に、我を取り戻す。何が起こっているのかはわからないが、とにかくここを離れたほうがいい。結局、光矢が生きているのかも死んでいるのかもわからないが、難しいことは後回しだ。


 情報の錯綜を抱えて、大河たちは走り出した。


612 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 03:05:02 ???0



【0256 『南部』中学校並びにその近く】

【松野トド松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 死にたくない
●中目標
 殺し合いに乗った兄弟を止めたい
●小目標
 中学校から離れる

【加山毬藻@パセリ伝説 水の国の少女 memory(9)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを打倒する
●中目標
 操られた光矢を助ける
●小目標
 中学校から離れる

【メタモン@名探偵ピカチュウ(小学館ジュニア文庫)】
【目標】
●大目標
 優勝を目指す
●中目標
 強い参加者にへんしんする
●小目標
 マリモとトド松を殺す

【ギュービッド@黒魔女さんのクリスマス 黒魔女さんが通る!! PART 10(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 大形を止め、今回の事件を解決する
●中目標
 チョコや桃花ど合流する
●小目標
 ???

【二階堂大河@死神デッドライン(2) うしなわれた家族(死神デッドラインシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る
●中目標
 光矢の情報を得る
●小目標
 中学校から離れる

【宇美原タツキ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 EDFとして主催者を打倒して生き残る
●中目標
 EDFの隊員や光矢と合流する
●小目標
 中学校から離れる



【脱落】
【水沢光矢@パセリ伝説 水の国の少女 memory(4)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【阿部ソウタ@生き残りゲーム ラストサバイバル 宝をさがせ!サバイバルトレジャー(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】


613 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/09/07(水) 03:06:30 ???0
投下終了です。
タイトルは『7人いる!?』になります。
文字化け箇所と一緒にwikiではわかるように収録しておきます。


614 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/03(月) 00:01:30 ???0
投下します。


615 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/03(月) 00:03:24 ???0



「ようやく、手がかりになりそうなものが見つかったか。」

 イヤミをシメてから歩くこと30分ほど。空条承太郎はアスファルトに撃ち込まれた弾丸を見て呟いた。
 あれからも念の為にイヤミの近くを探索したが、死体はおろか他の参加者の痕跡も見つからず。どうやら互いに互いが初めて会った参加者だったかと考えると、承太郎は再び銃声を頼りに移動を始めていた。別にイヤミが抵抗もできずに殺されても自業自得だとは思うが、だからといってすぐに殺されるのも目覚めが悪いし、あんな男にも仲間がいる可能性はある。結局はいなかったのでそれは良かったのだが、肝心の銃声は元々聞こえ方からするにそこそこ距離がある上、撃っている人間が複数なのか移動しているのか、追っても追っても一向に誰とも出会わない。鬱陶しい赤い霧もあいまって、いい加減気疲れしてきたところでそれを見つけたときは、柄にもなくため息を吐いた。

「弾が地面に真っ直ぐめり込んでる。下に向けて撃ったってことか。それにこの汚れは、硝煙か?」

 膝を折って、待ちに待った手がかりを、承太郎はじっくりと検める。銃をふだんから使っているわけではないが、仕事柄アメリカで活動することも少なくないので、一応の知識はあるのが幸いした。ほぼ垂直に道路へと撃ち込まれた弾丸と、その周りについた火薬のカス、その2つからこれを撃った人間の思考となぜ銃声に追いつけなかったのかを推測する。
 この撃ち方は、威嚇射撃だ。当てないために地面に、それも自分のすぐ近くに発砲した。つまり、これをやった人間はおそらくは殺し合いに乗っていない。承太郎はそう結論づけた。

「いつまでも出くわさないわけだ。戦闘は起きていなかったんだからな。」

 承太郎は先のイヤミのこともあり、この殺し合いの参加者はゲームに乗るような人間が多いと考えていた。
 だがこの痕跡は、明らかに殺し合いを、殺人を否定するようなもの。
 それを念頭に置いて考えれば、なぜあれだけ銃声がしているのに中々他の参加者に出会わなかったのかも推測はできる。
 赤い霧でこう視界が悪いのならば、そうそう他の参加者に出会うことはないだろう。それは承太郎がかれこれ2時間近くも歩いているのでよくわかっている。
 なら、そんな町で何度も銃撃戦は起こるだろうか? 承太郎は考えを改めた。銃声がすればそれを聞いた人間のする行動は2つ。撃たれて倒れるか、撃たれないために動くかだ。どちらにせよ、何度も長々と銃声はしにくい。殺し合いに乗っている人間が徒党を組むとも考えにくいし、そもそも誰かと出会えもろくにしないだろう。それだけ人に出くわしにくいこの町で何度も銃声がしたのは、威嚇射撃をしていたからではないか? 虚仮威しの銃声を響かせてすぐ隠れ逃げるのなら、戦闘の起きている場所へと向かおうとしていた承太郎が撒かれるのも頷けた。

(これをやったのは、こんな場所でも冷静でいられるようなやつ……さっきの出っ歯とは違って、肝が座っていて頭もキレる。だが、その割には銃声が多い。威嚇射撃なんてせずに、隠れていることもできたはずだ。他にも目的があるとすれば、誘っているのか?)


616 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/03(月) 00:07:38 ???0

 承太郎はそれから、地面へと注意を向けながら探索を続けた。すると数分でまた同じような銃痕を見つける。推測への確信を深めながら歩き、いくつもの同様の痕跡を見つけながらそこそこの距離を歩いた。その時だった。読経するような声を聞いたのは。
 帽子を被り直し、承太郎はゆっくりと歩く。角を一つ二つと曲がったところで見えたのは、寺だった。風がないからだろうか、角を曲がった途端に線香の匂いが鼻をくすぐる。そして匂いと共に、子供らしき声が得の高そうな文言を唱えている声が聞こえてくる。
 承太郎はぐるりと寺の周りを一周した。高めの塀に囲まれ、出口は四方にあり、いずれにも監視カメラがある。なんで寺院に機械があるんだよと思ったが、他の建物にもやけに監視カメラが多いので、主催者側の意向だろうと判断する。

「《スタープラチナ》」

 そして堂々と正面から、寺院へと乗り込んだ。鳥居の脇をくぐり真っ直ぐに本殿へと向かうと、声はだんだんと大きくなる。コツコツと小さく、それでも響くように木の階段を上がると、引き戸を開けた。

「その首輪、あなたも巻き込まれた人でしょうか?」
「そんなところだ……君は、ここの坊さんってわけじゃなさそうたな。」
「はい、たまたまこのお寺を見つけたんで上がらせてもらっています。ところで……同じように巻き込まれた人たちで協力したいと思うんですけど……どう思いますか?」

 中にいたのは、神社の神主のような格好の男の子。両手にお札らしきものを片手に持ち、承太郎に問いかけた。
 その姿は一見なんの危険性もないようだ。だから承太郎の警戒心は、寺へと踏み込んだとき以上の十ニ分なものとなる。
 しかしそれでも、相手が子供ということもあって、ふだんの承太郎ならあまりやらないような穏当なやり方で行くことにした。

「俺も『君たち』と同じ意見だ。」
「なるほど! えっ?」

 承太郎は寺院内の数カ所に、露骨に視線を向けた。意味深に僅かに開いた襖や引き戸を見渡す。その視線の先の2つの場所を男の子が咄嗟に見るのを、承太郎は見逃さなかった。
 承太郎はずっと、この寺に入ってから誰かに見られているような気がしていた。そもそもこんな状況で物音を立てていることが怪しいし、近くには威嚇射撃の跡もあったことから、少なくとも『読経らしきことをしている子供』と『威嚇射撃をしていた誰か』の2人がいる可能性を感じていた。そして中に入っていたのは、銃を持たない子供。いくらでもそこら中に銃が落ちていて、銃声も聞いているだろうに、引き戸を開けた承太郎に驚くこともなく落ち着いて対応したことから、承太郎はかなりの率でこの子供は囮だと判断した。
 相手がスタンド使いの可能性も考えてはいたが、カマかけに簡単に引っかかったことから、子供ともう一人が組んで承太郎を襲う態勢にあると踏む。威嚇射撃の痕跡からこちらが不審な行動さえ取らなければ撃たれることはないだろうと考え、わざわざ正面から向かったが、それがどれだけ相手の警戒心を下げたかはわかるはずもない。結果論ではその判断は正しかったのだが、しかし一つ読みきれなかったことがある。
 組んでいたのは1人ではなく、2人、それも女の子だった。

「そんなに挙動不審じゃバレバレよ。しかたないか、プランBでいきましょう。」
「う……す、すいません……」
「途中までけっこう演技うまかったよ。ぶっつけ本番だししょうがないって。」


617 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/03(月) 00:10:34 ???0

 承太郎がガンを飛ばした内の2カ所からそれぞれ出てきたのは、三脚を拡げたライフルを抱えた子供だった。どちらも神主っぽい男の子と同じぐらいの女の子だ。ツノウサギの人選に僅かに顔が険しくなるが、それを表に出さないように努めた。

「試すような真似をしようとしてごめんなさい。怖かったんです……でも、私たちは殺し合いになんて乗ってません。信じて、くれますか……?」

 二人の女の子うち黒髪の方の女の子が、銃を下げて上目づかいでそう言う。その手の指がしっかりと引鉄にかけられているのを、承太郎は無言で凝視しながら言う。

「こんな場所だ……『つい怖くて』銃を向けることもあるだろう。『俺は』君たちを信じるが、同じように俺を信じられるか?」
「……もちろんですよ!」

 一瞬の間があって、女の子は両手を銃から放した。良い性格をしていると承太郎は思った。



 それから30分ほど経って。寺には線香の匂いに変わって味噌汁の匂いがしはじめた頃、承太郎は一人、寺の喫煙所で煙草をくゆらせていた。既に半ばまで短くなったそれから立ち上る煙を見ながら、子供たちから言われた情報を振り返っていた。
 宮原葵に、東海寺阿修羅、空知うてな。先程の用心深い女の子に、神主のような格好の男の子、そしてその2人のせいで目立たなかったが、やけに銃の持ち方が様になっていた女の子。3人から言われたことに、承太郎は紫煙から喫煙所の壁にあるエアコンのパネルへと視線を移す。承太郎の知るそれよりも格段に電光表示がキレイなそれに、煙草の先が赤くなった。

「空条さん、ところで、今何日の何時かわかりますか?」

 空知のその言葉を、最初は霧や妙な文字のせいによる文面通りの質問だと受け取った。しかしすぐに、明らかな乖離に気づいた。日付が違う、曜日も違う、そして月も違えば年も違った。
 寺に集まった4人は、全員が今が何年かをバラバラに言っていた。
 つまり、それぞれタイムスリップをして殺し合いに巻き込まれている、承太郎はそのことを今受け止めていた。
 理屈の上ではわかる。彼のスタンド《スタープラチナ》は時間を止められるので、時間を操るスタンドが存在することに関しては、まあ、納得できないものでもない。しかし基本的にスタンドは一人に一つ。単に時間を操るだけではこの妙な会場の理由がつかない。スタンド使いがもう一人いるなら可能ではあるが、それにしてもそう簡単に自分がタイムスリップしているのだと受け入れるには、さすがの承太郎も煙草の1本でも吸いたい気分だ。

「……Alexa、温度を下げてくれ。」

 だが、自分の声に反応してエアコンの温度が下がるのを見ると、納得せざるを得なかった。空知や宮原が見せたスマートフォンなるものや、音声認識で操作できる白物家電など、承太郎からすればスタンドとしか思えないようなものを、小学生の女の子が使いこなしている。それを見せられ、使い方を教えられ、実際に自分でやってみると、タイムスリップではなく記憶を操作されているのではないかと疑う気にもなれなくなる。くわえて、寺が分煙だったり喫煙所がやけに整備されていたり、あと寺の監視カメラの映像をタブレットなる謎の機械で監視していたと言われたりしたので、いちいち時の流れを実感していた。


618 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/03(月) 00:16:10 ???0

「時間を止める吸血鬼がいるなら、時間を操れる鬼がいてもおかしくない、か……やれやれだぜ。」

 煙草をもみ消して吸殻入れへと入れると、承太郎はタブレットを片手にエアコンを消して喫煙所を出た。
 考えるべきことは多い。
 宮原はあの『開会式』での珍妙な生物(ツノウサギと教えられた)と知り合いであり、アレの仲間である鬼と命がけの鬼ごっこをしているとも言っていた。このイカれた殺し合いの主催者の情報となったらいくらでも情報はほしいところだが、そう簡単な話でもない。
 この首輪にせよ、寺にやけに多い監視カメラにせよ、確実に主催者は参加者を監視している。そしてそこにタイムスリップが関わることで、動きが取れなくなる。能力が割れてないため『主催者は自由に時間を戻せる』と仮定すると、参加者が主催者を出し抜ける可能性はほとんど無い。何度でもやり直しのきく主催者と一度きりのチャンスにかけるしかない参加者では、あまりに差がある。
 たとえば、承太郎が首尾良く首輪を解除し、主催者も探し出せ、ぶちのめす一歩手前まで行ったとしよう。その状態で時間を戻されてしまえば、首輪の解除も主催者を探すことも対策をとられてしまう。主催者側が持つのは、まるでゲームをコンティニューするように、勝つまでやり続けられるという特権だ。
 そしてこれは、承太郎がぶちのめすのに失敗した時に限った話では無い。承太郎以外の対主催者が、主催者を打倒しきれなかった場合でも同じことは起こる。つけ込めたはずの隙はなくなり、万全の準備で迎え打たれる。
 全ての対主催者が、絶対に勝てるという状態になるまで迂闊なことをしない。首輪をつけて殺し合わせる上に時間を戻すことまでできる相手に対しては、それが必要なこととなる。時間に干渉できる存在を相手にするとは、そういう不条理を前提とした行動が求められる。考えれば考えるほど、倒すのが現実的でない。

 煙草を吸い終わってもまだスッキリしない頭を抱えて、承太郎は寺院の裏手にある民家に向かった。話し合いの結果、当座はここで人を待つことになっていた。線香や東海寺の祈祷だけではなく、食べ物の匂いでも釣って、なるべく多くの人間を、直接的ではないやり方で集める。拡声器か何かで呼びかける案も出たが、いろいろな意味で警戒されかねないのでこのようなやり方となった。それに、食べれるうちに食べておくことも悪くはないだろう。

「入るぞ。」
「あっ、空条さん! ちょうどご飯できました。」

 ノックして調理場に入ると、明るい髪色の頭が振り返った。どこから持ってきたのか、エプロン姿で空知と宮原の二人が米をよそっている。一見すると家庭科の授業を受けている小学生にしか見えないが、片方は件の威嚇射撃をしていた張本人で、もう片方して主催者の知り合いとなると、この出会いすらも主催者の思惑を感じる。そもそも小学生がテロや災害の現場に駆り出されたり、何度も命がけの鬼ごっこをさせられたりなど、承太郎からすれば相当にろくでもない話を聞いたことも、時間を操れるという考えを後押ししていた。記憶を弄るのならばもう少しマシなストーリーを植え付けるだろう。一番まともなのが、自分を霊能力者だと思いこんでいる東海寺というのは随分とふざけたものだと承太郎は思った。


619 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/03(月) 00:37:57 ???0


 いただきます。
 声が重なって、食器のこすれる音が響いた。
 比較的早くこの寺に来たという東海寺が言うには、その時に時計が0時過ぎだったというので、およそ殺し合いがはじまって3時間といったところだろうか。時間の感覚が狂いやすい環境なので時計が正しいのかさえ疑わしいが、食べ物同様に考えだしたらきりがない。

「うわぁ美味しい! 空知さんすごい料理上手なのね。」
「えへへ、こういうの得意なんだ。」

 女子が盛り上がるのを尻目に、承太郎はタブレットから目を逸らさない。こんな薄いおもちゃのような板で監視カメラの映像を見ることができるというのは、未だにどこか受けとめきれない部分がある。が、それはそれとして便利なものであることはわかっている。今食べている米と同じく、ある程度の信頼をそれには置いていた。

「みんな、お客さんが来たようだ。」

 タブレットを子供たちへと見せた。いくつもの長方形に分割された画面の一つに、動くものがある。人だ。

「え? ちょっと、すみません。」
「知り合いか?」
「いえ、知ってる……キャラクターです。」
「……なに?」

 宮原の言葉に、承太郎はシンプルに問いかけた。キャラクター、という言葉が頭の中で認識するまでに時間がかかった。この場で、その言葉が出てくるとは思いもしなかった。

「あの、妖怪ウォッチっていうゲームがあって、その……え? ちょっと、私行ってきていいですか。東海寺くん援護お願いできる?」
「なんだかよくわかんないけどわかりました!」
「待て。全員で行こう。」

 ゲームのキャラクター、その言葉を聞いて。
 承太郎はそれまでの考察を根本から考え直す必要を感じた。
 時間を巻き戻す、今までそう考えていたが、それにしては宮原も空知も、承太郎の知る現実からややかけ離れたところにある日本に暮らしている。
 なら、もっとシンプルに考えていいのではないか。

(ゲームのキャラクターを現実にするスタンド……ありえるのか?)

「うわあ! 本人だ! ファンです!」
「え、なに、なんなの、コワイよ!」
「妖怪メダルいっぱい集めてました。あ、あの、サインもらっていいですか!」

 一人急ぎ足で向かった宮原のものすごく興奮した声と、それに怯えるような少年の声が響く。
 まずは落ち着かせてからだなと思うと、承太郎も足を早めた。


620 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/03(月) 00:53:43 ???0



【0326 寺院】

【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを破綻させる
●中目標
 寺院に人を集める
●小目標
 宮原から話を聞く

【東海寺阿修羅@黒魔女さんのクリスマス 黒魔女さんが通る!! PART 10(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 黒鳥を探す
●中目標
 寺院に人を集める
●小目標
 とりあえずみんなでもっと話し合う

【宮原葵@絶望鬼ごっこ きざまれた鬼のしるし(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 今回も脱出する
●中目標
 寺院に人を集める
●小目標
 あの、ジバニャンさわらせてください!

【空知うてな@サバイバー!!(1) いじわるエースと初ミッション!(サバイバー!!シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残り、生きて帰る
●中目標
 寺院に人を集める
●小目標
 情報交換をして今後の方針を立てる

【天野景太@映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!(小学館ジュニア文庫)】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める
●小目標
 なんだこのじょうきょう!?


621 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/03(月) 00:54:00 ???0
投下終了です。


622 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/21(金) 00:00:06 ???0
投下します。


623 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/21(金) 00:01:11 ???0



 赤い空に黒い雲。しかもその下に広がるのは赤い海ときて、全くうんざりするような景色だと、しずくは改めて思った。
 この殺し合いに巻き込まれる前にいた港町とは大違いだ。空を飛ぶカモメも、人々の賑わいも何もない、ただ建物だけがそこにあるつまらない街。きっと地獄というのはこういう光景なんだろうなと、そう見るものに思わせるようなパノラマに、もうため息も出ない。

「本当に、地獄かもしれないわね……」

 しずくは、ここに来る直前は死にかけていた。
 しずくは妖界に暮らす人魚だ。今から少し前に人間界で起こった地震で二つの世界が行き来できるようになり、先祖が人間に奪われた宝を探しに出てきた。
 だが宝は何日探しても見つからず、できたのは自分を好きでいてくれる男性と、パフォーマーとして人気を得ていく自分だった。
 そんな生活を、悪くないなと思ってしまっていたときのことだ。自分の変化が解けて死にそうになったのは。
 人魚は炎に触れれば、妖力を失ってしまう。変化を維持できないばかりか、寿命すら底の割れた壺から染みだすように流れていき、死に至る。回避するには宝を手に入れるしかない。そしてしずくは宝を手に入れて……使わなかった。
 宝の対価は、自らを愛した者の命。気がつけば、生きようという気力がいつの間にか消えていた。
 一人を生かすために一人を死なせる。わかりやすいトレードオフだ。何かを得るためには何かを失わなければならない。しずくは愛した者の命ときらきらと輝いてた人間としての生活を、妖怪としての自分と妖界での妖怪としての生活を、天秤にかけて、後者を捨てた。
 その決断は、今でも正しかったと思いたい。結局はその後、妖界へと帰ることになり、そして気がつけばここにいたわけなのもあって、そう信じたい。
 希望も絶望も裏表で一つだ。希望が大きければ大きいほど、絶望もまた深くなる。そんなこと、人間に恋した祖先のために人間界に来たしずくなら、わかっていたはずなのに。

「……って、ほんとバカ。」

 しずくは目に浮かんだ涙を指で払うと、海を眺めた。この殺し合いに巻き込まれてから、気づけば何度も考え込んでしまっていた。どうしても、自分の死の直前の記憶を、そこからの絶望と、希望を思い出してしまう。正確には死んだわけではないのかもしれないが、どのみち今の自分は死んだものだろうと自嘲する。
 ならあの時炎に触れなければ、愛した者の妹を助けようとしなければと考えると、それも違うとなる。正義の味方というわけではないが、あの場でそうするのは正しかったし、そうするべきだろうし、そうしたかったし、ただ、少しだけ巡り合わせが悪くて、でもいつか似たようなことは、きっと起きていたのだろう。

「……はぁ、また同じことばっかり考えて……あら?」

 また自嘲するしずくは、足元の感触が変わっていることに気づいた。いつの間にか舗装した道から砂浜へと移っていた。さっきは遠くに見えたと思ったのに、考え込む間に長く歩いていたようだ。後ろを振り返ると、何百歩もの足跡が伸びていた。そこでしずくは、自分以外にももう一つ足跡が有る事に気づいた。行き先はしずくの前にある岩場の方かと前に向き直ると、人間の外見なら同じくらいの女性を見つけた。


624 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/21(金) 00:03:05 ???0

 遠目に見ても、同業者、というのがしずくの第一印象だ。妖怪にもパフォーマーにも見える。髪を赤と白に染め分けて、ハーフアップのように後ろで輪っかにしている。耳にあるは黄色いヘッドホンだろうか。
 そして美人だ。美しい人間に変化しているしずくからしても、綺麗だと思う。
 でもその顔は、ひどくやつれているように見えた。近づいていくにつれて段々と顔の正面が見えてくると、美しさよりも陰気な雰囲気が気になった。

「人のことを言えた身じゃないわね……」

 自分も似たりよったりだと、しずくは皮肉げに笑った。こんな場所で途方に暮れているのは自分の方だ。

「ねえ! あなたも巻き込まれた人ー! それともこの街の人ー?」

 大きな声で叫ぶと、美女は海からこちらへと振り向いた。髪に隠れていた首輪が見える。同時に見えた目を見て、しずくは死んだ魚のような目とはああいうのを言うんだろうなと思った。

「……」
「ちょっと、無視?」
「……なに? なんの用?」
「なにって、話を聞かせてほしいのだけれど。」
「話すことなんて……ああ。そういうこと……」
「そう、この殺し合い「ライブのことか……」え。」
「アンタも文句を言いたいんでしょ、アタシに……」

 なんか話を勝手に変な方向に持っていき始めたとしずくは思った。

「みんなのために新世界を作りたかった……それは本当なんだ。」
「アタシの夢は、みんなの願いを叶えることだもん。そうしたいと思ったから、だから……!」
「ねえ……どうすれば、良かったのかな……」

「そうね……事情がわからないから、ふつうの人ならって話だけれど……誰かに相談した方がいい、わね。私はそういう人がいても、やることは変わらなかったと思うけれど。」

「相談……できるわけが……」

「ええ、人に話せる悩みなんて悩みじゃないもの。だからあなたもここにいるんでしょう?」
「……アンタ! その首輪……」
「今さら気づいたの? そう、同じ参加者よ。で、殺し合う?」
「ふざけるな! そんなこと絶対──あ。」
「あ。」

 ようやく話ができそうだと思ったら、予想外にひどく怒らせたのか、美女はやおら立ち上がった。コイツけっこう足場の悪い岩場にいるな、としずくが思ったのと、美女がバランスを崩して後ろに倒れ込んだのは同時だった。

「ウソ。ヤバっ……」
「ちょっと、なんでそうなるのよ!」

 静かな波の音に混じって、バシャンという音が聞こえた。落ちたな。いちおうようやく見つけた自分以外の参加者だ、見捨てるわけにも行かないのでとりあえず近づく。

「こんなに歩きにくいところでたそがれてないでよ。しかも上がってこないし。」


625 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/21(金) 00:06:16 ???0

 変化で足を作っている人間の体では、妖怪のような俊敏な動きなどできず、人間と同じように苦労して岩場を進む。予想よりもけっこう険しい。なんでこんなところに登ったんだ、ていうかよく登れたなと思いながら、ほとんど崖上りのように進む。
 落ちた美女はあれから溺れてもがくような音も聞こえなければ、うめき声も聞こえない。
 しずくはようやく美女がいたところまで辿り着くと下を覗き込んだ。波で岩肌がえぐれてちょっとした崖のようになっている。たぶん子供でも足がつく。一体なぜこれで溺れられるのかしずくにはとんとわからないが、とにかく助けようと飛び込んだ。

「痛っ。浅っ。いた。」

 飛び込むと、柔らかいものを踏みつけた。股下までしか水深はない。そして踏みつけたものを持ち上げると、脱力しきった美女がいた。さっきまでの生気の無さとは別の感じの生気の無さに、なにか尋常じゃないものをしずくは感じた。

「大丈夫? しっかりして! あなたに死なれちゃ困るのよ。」
「ゲホッ、ゴボッ、ご、ごめん……」
「ほら、立って。」
「ムリ……海水に濡れちゃってるから……」
「どういうこと?」
「だって悪魔の実の能力者だもん……知ってるでしょ。」
「だから、私はあなたのこと知らないんだってば。」
「ふふふ……優しいんだね。ごめんね。みんな幸せになれると思って……」
「だから! 本当に知らないのよ! あなたの誰なのよ!」
「えっ……ウタだよ?」
「だ・か・ら! 誰! ちょっと、ちゃんと立って!」
「え、歌姫で、『新時代』の……」
「知らない。」
「あのエレジアの……シャ、シャンクスの娘の!」
「知らないからちゃんと立って……もういいわ、一回妖怪に戻るから一度手を離すわよ。」

 しずくはウタの返事を待たずに変化を解いた。とたんにその体からは鱗が生え、異形の顔つきになる。
 これがしずくの本当の姿だ。一見ただの人間にしか見えなくとも、その正体は人間界では化物と忌み嫌われる姿だ。しずくという人間はどこにもいないし、人間界の知識も上っ面のものだし、ウタが映画公開前に日本武道館でライブしたとか、そういう事情も全く知らない。
 またも脱力しきったウタを抱えて、海中を一気に泳ぐ。暴れられると思ったが異様に無抵抗で、十秒とかからず砂浜に上がれた。悪魔の実というのがなにかはわからないが、なにかろくでもないものだろうとしずくは思った。

「はぁ……はぁ……この海、なんて泳ぎにくいの……環境汚染ってこういうのかしら……ねぇ、えっと、ウタ? 大丈夫。」
「……」
「ウタ?」

 返事がない。しずくは血の気が引く思いをした。こんなに苦労して助けたのに、死なれたか? あの変な海に落ちたから? そう思い慌ててウタの顔を覗くと。

「生きてはいるみたいね。どこか悪い?」
「うぅ……胸……」
「もしかしてさっき踏んだときに……!」
「違う……アンタは悪くない……こっちの問題……」

 優しく話しかけるしずくからウタは顔をそらす。未だに脱力して顔から血の気は引いているが、耳だけは赤くなっている。

(有名人だと思ってたのに……恥ずかしすぎっ!)

 無言で手で顔を覆うウタを見て、しずくは本当は顔を踏みつけたのかと心配になる。

 人魚のしずくと歌姫のウタの長くて短い付き合いはこうして始まった。


626 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/21(金) 00:10:09 ???0



 先客か。
 白は海に近い丘の上のホテルの近くまで行って警戒を強めた。
 ホテルからスピーカーで響き出したのは、女性のものらしき歌声だ。仮面の下からチラリと周囲を伺えば、入り口近くの監視カメラがこちらを向いていた。あれで発見されたのだろう。中にいるかもしれない人間がどの程度のものかを確かめるために正面から偵察して正解だったと、監視カメラの死角に移動して分身を解く。するとフィードバックされた情報から、白はホテルの壁面を駆け上り、屋上から内部へと突入した。

(歌は流れ続けている。おそらく幻術でも忍術でもない。目的がわからない。)

 白は忍者だ。それも水影暗殺を企てた忍刀七忍衆の裏切り者、桃地再不斬の右腕である。15歳という年齢でありながら、その戦力は上忍に匹敵する。
 先程の分身を囮に情報を集め注意を引くというのも、同年代でもできる程度のもの。なんの問題もなく突入すると、音も無く階段を駆け下りる。目的地は、館内の地図で見つけた、建物中部の警備室。監視カメラに見えるように動いた途端に歌を歌い始めたということは、警備室かフロントだろうと当たりをつけ、すぐさま抑えに行くと、勢い良く扉を開けた。

「あ、ええっ。し、下に……」
「良い歌だったので急いできました。もっと聞いておきたかったのですが……すみません。お話を聞いてもよろしいでしょうか?」

 予想通りに下にいたと思われているところに現れて驚かせると、白は有無を言わせず距離を詰めながら話しかけた。
 警備室にいたのは、忍ではなさそうな、どこかの制服らしきものを身に着けた少女だった。年齢は、白より少し上ぐらいか。そばかすの浮いた地味な顔を驚きで歪めている。没個性的な、ふつうの女の子に見える。
 御し易い。白はそう思った。これならまずは情報交換できるだろう。なにより、白は既に死んだ身だ。自分に起きた出来事を知るためにも、情報が喉から手が出るほどほしい。

「わか……りました。あの、お名前は?」
「白と呼んでください。」

 白は違和感を感じた。白が名乗り終えて黙ると、変な間が開いた。自分の名に何か思うところがあったのか、と思うと、おずおずと少女は口を開いた。

「ベル、です……」
「ベルさんですか。」
「あのっ! 白さん、ここってUじゃないんですか?」
「U? すみません、それはどういうものでしょうか。」
「……」
「ベルさん?」
「Uを、知らないんですか?」
「ええ。おそらくあなたの言うUというものについては。僕からも一つよろしいでしょうか。あなたは、この殺し合いに来る直前に、死にそうになってはいませんでしたか?」
「いいえ……」
「そうですか……」

 どうにもお互い話が噛み合わなかった。白はこの殺し合いは、死後の世界で行われているものだと思っていた。なぜなら白は、つい先程まで木の葉隠れの忍と殺し合っていたからだ。再不斬を庇い致命傷を負ったと思ったのだが気がつけば変な空間にいて、しかもその記憶は幻術をかけられたように消えている。しかし少女が言ったのは、Uなる概念。それが場所なのかなんなのかもわからない以上、話をよく聞く必要があった。


627 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/21(金) 00:15:14 ???0

 それから白とベルは互いに話し合った。親に捨てられた白が見てきた親の顔より見た情報交換で、二人は驚愕の事実に気づいた。

「パソコンや携帯端末で繋がる仮想世界、ですか……」
「忍者で異世界で、少年漫画みたいですね。」

 互いに異世界としか思えない情報を話したのだ。
 白の世界にもパソコンはあるが、計算機の延長であり、文章や図画を制作閲覧するためのものだ。重要な書類は当然巻物だし、決済はハンコを使う。
 だがベルの世界ではインターネットはあるしクラウドでデータをやり取りするしハンコは電子化されている。
 そしてなにより、国や世界の知識が違った。白は日本という国は知らないし、白が水を操って見せると目を丸くしてベルは驚いた。ちなみにベルはUでのアバターの名前で、本名は内藤鈴なのだが、すっかりそのことを話すタイミングを失っていた。

「しかし、理解はできます。僕はあの時、戦いの中で死んだはずでした。その僕が生きているというのなら、異世界というのもあるのでしょう。」
「たぶん、異世界転生っていうのだと思います。死んだ人が魔法とかのある世界に行くっていう。白さんはその逆なんじゃないでしょうか。」
「異世界転生ですか。穢土転生のような口寄せの術の一種でしょうか。」

 白はそういうものだと受け入れることにした。元々根がとても素直なので、他にそれらしい理由がないのなら、そういうものかと理解する。その素直さが白が天才である理由の一つだ。真っ白な紙のように、様々なことを学んでいくのが白という忍であった。
 それからも様々なことを話し、ベルからスマホの使い方を教えてもらっている時に、監視カメラに人影が映った。二人組で、一人は特徴的な帽子を被っている。赤と白の輪っかのような、とベルは最初思ったが、すぐにそれが染め分けられた髪だと気づいた。

「アバター? ウイッグ?」
「……来客ですね。ベルさん、行きましょう。」
「はい。」

 この時少しだけ、白の声が下がったことにベルは気づいた。だが出会ったばかりの異世界転移仮面忍者にそんなことを言えるわけもなく、返事をして後ろをついていくしかない。会話がなくなったのも、エレベーターに乗ったからだ、と自分を納得させた。
 でも一つ疑問に思った。忍者なのに、不用心に一階まで一気に降りるんだなと。自分と会ったときにはなにか忍術を使ったらようなのに、今回はそういうの無いんだな、と。
 ベルはわざわざそれを聞いたりしなかった。だがベルの感じた違和感は正しかった。ふだんの白なら初対面の相手にみすみす忍び装束で出ていかない。そうする時は何らかの理由がある時だ。例えば、自分は忍者だとわかりやすく誇示したい時のような。
 では今回は、なぜ白は、何も考えずにエレベーターに乗ったのか。その答えは簡単だ。

「やっぱり先についていたのね、白。」
「さっきぶりですね、しずくさん。」

 二人は初対面では無かった。
 白としずくは殺し合いが始まって直ぐに出会い、それぞれ別行動してこのホテルに集まることになっていた。

「じゃあ、殺し合いましょうか。」
「いいんですか? お疲れのようですが。」
「私は構わないけれど、この子も殺せる?」
「……抵抗できそうになくて忍びないですが、ええ。できます。あなたは?」
「もちろん、そっちの子も殺せるわ。」


628 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/21(金) 00:21:18 ???0



 話は、ゲーム開始直後のことだ。
 白もしずくも常人離れした感覚を持つ。互いに気づくのにかかった時間は、混乱から立ち直る時間だけだった。

「その姿、そのチャクラ……あなたも忍のようですね。」
「妖力を感じる……あなた、ただの人間じゃないみたいね。」
「ええ、まあ。それでは、どうしましょうか。言われた通りに殺し合っても構わないのですが……どうせなら、一つお話をしたいのですが?」
「奇遇ね、私も。」
「「ここって地獄ですか?」」

 奇しくも二人とも、ここが死後の世界だと思っていた。
 地獄には堕ちた者を殺し合わせる地獄もあるという。二人は似たようなものを知っているので、自然とそれが頭に浮かんだ。

「ということは、最後の一人なれば生き返れるかもしれないけれど……あなた、乗り気じゃなさそうね。」
「しずくさんのほうがそう見えますよ。」
「否定しないのね?」
「お言葉を返しましょうか?」
「……やめましょう、無駄だわ。お互い、他の人間からも話を聞いたほうがいいと思う。」
「わかりました。あのホテルを合流地点とするのはいかがでしょう。お互い参加者を連れてあそこを目指すということで。」
「かまわない。でも、死体を連れてくるかもしれないわよ?」
「そのときはそのときです。ホテルで死体を増やしましょう。」

 二人はそれきり別れた。
 いつ集まるかも、互いの問も聞かずに。
 聞きたくなかったし、話したくなかった。
 だが、二人は参加者を見つけた。
 そして情報交換をして、同行することになって。
 そうしたらホテルに行かない理由が無かった。



「白さん?」「しずく?」
「ごめんなさい、ベルさん。今からあの人を殺します。その後に、あなたとあちらの女性を殺します。」
「そういうことだから、ウタ。あなたも悪いけれど死んでもらうわ。白と一緒にね。」

 そして現在。
 ホテルのエントランスホールで白としずくは睨み合う。
 それぞれ後方に同行者を置いて。

「待ってよ。ねえしずく! アンタ何言ってんの! なんで突然殺し合いとか!」
「勘違いさせたけれど、私殺し合いに乗ってるから。今まで言わなかったけれど、あなたも聞かなかったでしょう?」
「じゃあ、じゃあなんであの時助けたんだよ!」
「……情報交換したかったし、参加者を連れてくることになってたからよ。」
「そういうことです、ベルさん。我々は殺し合いに乗っています。」
「……違う。二人とも嘘をついてる。」
「違わなく──」


629 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/21(金) 00:27:09 ???0

 ダッとベルは突然駆け出した。身構えるウタとしずくの前で、ゆっくりと白は振り返る。
 その横を通り過ぎて一気にしずくへと肉薄する。

「な、なにが狙い!?」

 まさか白ではなく自分に来るとは思わず、咄嗟にしずくは手に持っていたミネラルウォーターのペットボトルから水の剣を発生させる。

「待て。」

 その剣先がベルの右頬を掠めた。体の中央を狙った剣が、何かに阻まれ、軌道を逸らされた。
 その事態に、ウタも、しずくも、白も驚愕していた。

 特に、瞬身の術で先回りしてしずくの手を掴んだ白は、自分の行動に言葉を失くしていた。


 ──知るか…よ…体が勝手に…動いち…まったんだよ…バカ…!


 あの時と同じだと白は思った。
 人間は、大切な人を失うと思うと後先考えずに行動してしまう。
 それは忍であっても変わらない。心を持ってしまっている以上、本能によって反射的に動く。道具には無い、感情からの行動。
 白が戦った木の葉の忍にはそれがあった。
 そして気がつけば、自分にも。
 しずくにだってあるのだろう。一瞬だが、水の剣が顔に届く寸前に動きが遅くなった。
 だが白にはわからなかった。
 なぜ出会ったばかりのベルを助けようとしたのか。

(再不斬さん……)

 白にはやるべきことがある。
 白は道具だ。再不斬の生きた忍具だ。生き返れるなら再不斬の元に戻らなければ。それが今までの生き方なのだから。



「ねえ、なんで動けたの?」

 しずくと白の衝突が水入りになり流れて、各自が別行動を取る中でウタはベルに問いかけた。

「あの二人が殺す気なんてないってのはわかってたけどさ、なんで、その……踏み出せたの?」
「……わからない。」

 真剣さは伝わったと思う。そしてベルも真剣に答えたと思う。それでもその答えに納得はできなかった。

「わからないって、自分がやったことでしょ。」
「そうだけれど……体が勝手にうごいてて。」

 そう言うベルの声は、どもっているような小さなものだったが、そこには確かに覇気が込められていた。
 たとえ小さくても、本当のきらめきを感じさせる魅力がある。
 だからウタは、恐怖した、戦慄した。
 ベルの言葉には想いがある、力がある。
 そういうものは人を前に進ませる。だが進んだ先が濁流ではないと誰が保証してくれるのか。
 誰かの言葉が誰かの背中を押して、また誰かが誰かの背中を押す。
 ウタにはそれが怖かった。
 自分が濁流に背中を押されたから。
 きっと誰かの背中を濁流へと押したから。
 だからこれは、責任を持ってウタが言わないといけないと思った。

「ベル、いつかアンタ、死ぬよ。」

 ウタの言葉に、ベルは、すずは、目を逸らさない。しっかりと受け止める。
 ウタの言葉を心で理解している。共感している。納得している。
 濁流に踏み出した人間の影響は、その人間だけが負うものではない。
 必ず周りへと影響を与えて、押した手にも押された背中にも傷として現れる。
 だが濁流に前を向いて向かうことの大切さも、すず《ベル》は知っている。
 だからそれを、願いを込めてすず《ベル》が謳わないといけないと思った。

「それでも、誰かを信じて、一歩前に踏み出したい。」


630 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/21(金) 00:32:26 ???0



【0334 海近くのホテル】


【しずく@妖界ナビ・ルナ(10) 人魚のすむ町(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●小目標
 話し合う

【ウタ@ONE PIECE FILM RED 映画ノベライズ みらい文庫版(ONE PIECEシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●小目標
 話し合う

【白@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●小目標
 話し合う

【内藤鈴@竜とそばかすの姫(細田守作品シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める
●小目標
 話し合う


631 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/10/21(金) 00:33:08 ???0
投下終了です。
タイトルは「人魚と忍者と二人の歌姫」になります。


632 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/10(木) 03:14:55 ???0
投下します。


633 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/10(木) 03:17:05 ???0



「ペルモン オー サクリー!」

 ミモザが呪文を唱えると、ペットボトルに入っていた水が飛び出す。それはミモザを檻のように拘束していた繭を溶かし、開いた穴から芝生へと降り立った。

「……話も聞かないでいきなり襲ってくるなんて……親の顔が見てみたいわ。」
「切り裂いた。いいえ、溶かした? やっぱり稀血かしら?」

 それを感心したように見つめるのは、蜘蛛の鬼(姉)。言い終わるとノーモーションで口から蜘蛛の糸を放つ。それをミモザは水を壁にして防ぐと、糸はアッサリと溶けた。



 公園付近の森で三谷亘を繭に閉じ込めてから数十分。ひとまず人が集まりそうな公園に戻り、そろそもまた森に行って溶けたワタルを喰ったら場所を変えてみようかと蜘蛛の鬼(姉)が考えていたところに、ミモザは現れた。
 鬼としての直感だろうか、一目見て普通の少女ではないと思った。あと小生意気な雰囲気が気に入らなかったので速攻で血鬼術を放つと、予想以上のやり方で抜け出してみせた。

「アンタ人間? よくわかんないけど、そっちがその気ならちょっと痛い目見てもらうから。」

 対するミモザはここに来るまでに拾ったサブマシンガンを左手で叩き込みにかかりながら、右手に担いでいた地対空ミサイルを発射した。
 えっ、なにそれはと困惑する蜘蛛の鬼(姉)が躱した後方でハンパねぇ爆風が広がる。あれも稀血の力か? と疑問に思うがもちろんそんなことはない。単にどちらも会場に落ちていたから拾っただけだ。
 ミモザはラ・メール星の人間であり、水の国のプリンセスである。ジャンプで2階にまで一飛びできるような膂力を持つ人種(例外あり)であるため、他の子供なら持つことを諦めるどころかそもそも持ち上げられないような武器も携帯できていてた。だができることとやって辛くないことは別なので、正直汗だくである。ぶっちゃけ拾ったことを相当に後悔していたのだが、一度拾った強い武器を手放すのは嫌いという意地で装備し続けていた。重荷がなくなったことで清々した身と心で、蜘蛛の鬼(姉)へと突貫する。
 ミモザは親から捨てられ、環境破壊でボロボロになった火の国に引き取られたという悲しき過去を持つ。そこから引き取られた先がクーデターでのし上がったり、自分が名目上の重要人物になったりとしたのだが、それでも彼女のコンプレックスが埋まることはなかった。
 まさしくプリンセスとしての生活を手に入れ、高層ビルから下界を見下ろしながら、幼なじみのイケメン兄弟に囲まれていても、埋まるものがないのは、彼女が持つ黒い星のアザ、それはラ・メール星の伝説にある特殊な力を使うためのものだが、求められているのは青い星であり、それを持つのは双子の姉であるパセリであった。
 その結果彼女は、ハジけた。

「なに……この……なにっ?」
「動くと当たらないでしょ! 動くと当たらないでしょ!」


634 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/10(木) 03:17:53 ???0

 幼なじみが軍人としての訓練を受け銃器も扱えるのに対して、ミモザは基本的にそのような訓練は受けていない。そもそも火の国・フラムで使われているのはレーザー銃のため、慣れない反動によく狙いがつけられない。
 だが、それでも持ち前の腕力で跳ねる銃身を安定させ、正確に連射していく。銃を撃つ上で必要な要素の一つは筋力。それに関しては常人の大人をも圧倒できる人種の差で、拙い射撃の腕を補い狙い撃つ。
 しかしその弾丸は、困惑しながらも的確に躱す蜘蛛の鬼(姉)を捉えることができない。
 それもそのはず、彼女は名前通り鬼。ミモザよりも更に身体能力は上だ。見えているのなら走り続ければ、動体視力と速力で銃口から逃れることもできる。実は何発かは普通に被弾していて人間だったら即死するような致命傷もあったのだが、そこは鬼の再生能力で誤魔化しているのはないしょだ。

 といっても、途中からミモザも「なんかおかしくない?」と思い始めた。太腿を撃ち抜いたのを見たときは思わず動揺してしまったが、すぐに普通に走り出したのを見て更に動揺した。明らかに心臓かその近くに当たったのに口から糸を吐いてきたときは目をこすった。距離を詰めて撃ち終わったミサイルで殴りかかったら片手で止められたのはまだわかったが、そこから彼女からしてもありえない力で弾き飛ばされたときは、ようやく相手が人間でないと確信できた。

「ロボット? あの赤いのはオイル、じゃない、血だ。え、なんなの?」
「今度はこっちの番ね!」
「ヤバっ……!」

 吐かれた糸を大きく飛び退いて躱し、続いての爪による一撃を、撃ち終わったマガジンを投げつけて怯ませる。追撃の逆の手による一撃をリロードが間に合ったサブマシンガンで撃ち抜くと、両手への衝撃でまごついているうちに一気に走り出した。

「やるじゃない……でも逃さないからっ。」
「逃げる? ふざけないで。」

 後ろ手に乱射される弾丸を、蜘蛛の鬼(姉)は気にせずその身に受けながら、ミモザ以上のスピードで追う。今までは一応躱してはいたが、何発か受けるうちに喰らっても問題ないのはわかっていた。それでもわざわざ回避していたのは、こうして隙を作らせるため。無駄な銃撃に頼らせることで確実に殺すためだ。
 蜘蛛の鬼(姉)の口角が上がる。たしかに常人離れしているようだが、鬼である彼女からすれば誤差の範囲に過ぎない。鬼狩りたる鬼殺隊とも比べるべくもない。
 殺った。そう思って手を振り下ろした瞬間。手に走る痛み。熱湯に手を入れたかのような感覚。

「これは、さっきの。」
「これがあるのを忘れたのかしらっ! ミラクル・オー! 殺せ!」

 ぐっ、とうめき声を上げながら、慌てて蜘蛛の鬼(姉)は前のめりになっていた背中を仰け反らせた。しかし間に合わない。鬼のスピードが災いし、手から頭にかけてが水の壁に呑み込まれる。
 ミラクル・オー。万能の力を持ち、火の国では化石燃料や原子力に変わるSDGsに配慮した夢のエネルギーと見られているそれは、本来は未来を予知したり傷を癒やしたりといった神秘的な力を持つ。しかしミモザが使えるのは、毒としての使い方のみ。そのミラクル・オーのありかを書いた紙がゲーム開始後いつの間にかポケットに入っていて、しかもその在り処が公衆トイレにあるバケツだった時には作る表情に困ったが、化物を殺すためならば躊躇なく使える。勝利を確信したような蜘蛛の鬼(姉)を狙い通り殺せてしてやったり、というところだ。
 しかし、勝利を確信したようなところを狙おうとするのは、相手も同じである。
 なにっ、と声を上げながら、ミモザの腹に鈍痛が走る。先に目で見たからその原因はわかるのに、頭は納得できなかった。なぜか、肘から先と頭がぐったりと脱力した状態の蜘蛛の鬼(姉)の、洗練されていないがそれなりの威力の蹴りが腹を直撃していた。


635 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/10(木) 03:20:23 ???0

「そん、な……ミラクル……オーが……当たったのに……」

 逃げることよりも戦うことよりも、そんななんの戦闘優位性もない言葉が口を出てしまう。確実に勝てると思った一撃からの逆襲で、ミモザは一気に戦意を喪失していた。
 元々ミモザは荒事に慣れていない。彼女の闘争心は言うならば匹夫の勇。自分よりも生まれながらにして弱い人間相手にミラクル・オーがあれば無双できるという子供らしいものだ。銃もミラクル・オーも決定打にならないとなれば、もはや戦う術はない。
 ゆっくりと迫る蜘蛛の鬼(姉)を前にして、ミモザにできることはない。ただ座して死を待つのみである。恐怖から目をつむる。やだ、秀人、隼人と、呼ぶ声が聞こえているのかいないのか、怪物は彼女に力の差をわからせるように一歩また一歩と近づく。そして、通り過ぎた。

「大丈夫? 助けてあげようかしら?」
「……え?」

 突然に、頭の上から声が聞こえた。知らない声だ。おそるおそる目を開ける。蜘蛛の鬼(姉)は、自分の後方をとぼとぼと歩いていて、目の前には黒いスーツの美人がいた。

「た、たすけて!」
「フフ……いいわ、これは契約よ。私と一緒にいれば、ああいうこわいこわい化け物から守ってあげる。ただし、言うことを聞けるならね。」

 それは蜘蛛の糸だ。突然に脈絡無く救いの糸が垂らされた。なんだかよくわからないけどやったー! そうミモザは思った。こんな殺し合いに巻き込まれたときはどうしたものかと1時間以上に渡って震え、なんとか負けん気を取り戻してここまで来たが、ついに報われた。

「なんでもするから助けて!」
「ん? 今何でもするって言ったよね? じゃあ、あなたには私の弟子になってもらおうかしら。そして一緒にこのバカげた儀式を潰しましょう。」
「わ、わかったから、早く逃げなきゃ!」

 そんなんどうでもいいからさっさとアレから離れたい。ミモザの心を占めているのは今はそれだけだった。だから美女が何やら呟きながら彼女に触れても、とっととしろよと思うばかりでその行為の意味を理解していなかった。



 そんなミモザの様子に、美女こと暗御留燃阿はほくそ笑んだ。
 実のところ、暗御留燃阿もミモザと同様かそれ以上にこの殺し合いに怯えていた。彼女にはこの殺し合いに巻き込まれるに当たって思い当たるフシが多過ぎる。出世の為に母校や母国を裏切ることも厭わない上昇志向の塊のような彼女を恨む人間は枚挙に暇がない。もちろんそんな人間たちを束にしても圧倒できるという自負があるからこその自己顕示欲だが、そんな彼女にも一人だけ天敵がいる。
 大形京。彼女がかつて無理矢理弟子にし、あまりの才能に無理矢理魔力とついでに意識を封印し、ついこの間は一国を乗っ取った少年。わずか10歳ほどだが、その力は天才と謳われた暗御留燃阿をも既に凌駕している。
 幼稚園児だった彼を言葉巧みに弟子にし、虐待まがいの方法で修行させ、辞めたいといえば脅迫し、挙げ句の果てに魔力を使えなくして常にまどろんでいるような精神状態にしていつも手にぬいぐるみをつける変人としてほっぽりだす。そんなことをすれば当然恨まれている。しかも権力志向は似たのか、大形は魔王のように振る舞いさえしたのだ。この間は結局なんとかなったが、大形ならばこんな殺し合いも開ける、というか大形でなければ開けないだろうという考えから、暗御留燃阿は彼がこの殺し合いの主催者だと思っていた。そしてそれは実際そのとおりなのだから、いかに彼女が大形を実感を持って恐れているかがわかるだろう。
 なので戦闘音に気づいておっかなびっくり公園に来て、ミモザを見たときはかなり引いた。大形ポイントが高いので、できれば死んでくれと思ったが、ミラクル・オーを見て考えを改めた。彼女も紙片でミラクル・オーのことは知っていたが、なるほどああいうものかと理解する。あれからはハンパねぇ何かを感じる。現在の魔科学で解明できるかはわからないが、だからこそ適切に使えばとんでもないことができそうなマジックアイテムだと思った。あれなら大形を出し抜けるのではと。
 あとは蜘蛛の鬼(姉)がミラクル・オーで視覚やら聴覚やらがゴミになっているタイミングで黒魔法を使って現れて、現在に至る。本来ならやりにくい相手だが、感覚が潰れたおかげでうまくいったようだ。そしてかつて大形にしたように、恐れや怒りにつけこんで自分の弟子にする。我ながら上手く行ったと、ほくそ笑まずにはいられなかった。


「──ようやく直ったけど、逃げられたのね。気配は近くにあったのに……どういうこと?」

 蜘蛛の鬼(姉)が頭を再生させた頃には、暗御留燃阿はミモザを連れて既に公園を後にしていた。


636 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/10(木) 03:22:47 ???0



【0159 公園】

【ミモザ@パセリ伝説 水の国の少女 memory(10)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する
●小目標
 蜘蛛の鬼(姉)から逃げる

【蜘蛛の鬼(姉)@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 累がいるか確認。いるにしろいないにしろ優勝を目指す。
●中目標
 人を食いながら、生き続ける
●小目標
 ミモザを追うorワタルを食べに行く

【暗御留燃阿@黒魔女さんのハロウィーン 黒魔女さんが通る!! PART7黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する。
●中目標
 主催者の大形を出し抜けるような人間を弟子にする。
●小目標
 ミモザと共に安全な場所に逃げる。


637 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/10(木) 03:23:34 ???0
投下終了です。
タイトルは【鬼! 悪魔!】になります。


638 : 名無しさん :2022/11/10(木) 09:17:47 hrJ1nqf20
投下乙
しれっと出てくる地対空ミサイルに目を疑いましたわ


639 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/19(土) 07:15:06 ???0
感想ありがとうございます。
これからももっともっと驚かせるように精進していきたいと思います。
投下します。


640 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/19(土) 07:15:35 ???0



「《クレイジー・ダイヤモンド》!」

 東方仗助の手にビジョンが重なり、そのままに胸から血を流す少女に触れる。
 民家の中、室内に広がった出血量を考えれば、そして虚ろに開かれた目を見れば、その少女が死んでいるという判断は十人が十人ともするだろう。
 それでももしかして、という思いで仗助は少女に触れ続ける。
 するとどうだろうか、死体から胸に開いた銃創が消えていくではないか。服の損傷も共に戻っていき、まるで時間が逆に戻るかのように。傍から見れば眠っているようにしか見えなくなった。
 だがそれでも、少女が息を吹き返すことはない。
 いくら《クレイジー・ダイヤモンド》がどんな物も治せる超能力、スタンドでも、死者だけは生き返せない。
 そのことは仗助本人が一番良くわかっている。
 つい先日も、祖父を助けられずに、冷たくなっていくその肉塊を前に歯噛みしたばかりだ。
 それでも、いや、だからこそ仗助は少女を助けようとする。
 いわばこれは一つの儀式だった。目の前で親しい人を助けられなかったのに、また顔見知りを助けられないことに対する。

「――悪ぃな由花子、もう少し早く来てれば。」

 別にそんなに親しくもなかった、むしろ苦手な部類だった同級生が、祖父の時と同じように体温を失っていくのを、仗助はそうして見送った。


「やれやれ、だぜ……」

 民家にあった布団を敷くと、その上に由花子の死体を寝かせて、シーツをかける。
 イカれたやつではあったが、なにも死ぬことは、ましてや殺されていいようなやつでは無かった。
 であるからして、仗助としては下手人に一つ気合を入れる必要がある。そう思い改めて由花子が倒れていた場所へと戻る。彼女がどうやって殺害されたかは簡単に推理できた。犯行現場には明らかに銃痕があったからだ。窓ガラスの割れ方から見ると、おそらくは外からの銃撃を受けて殺された、と死んだ祖父のように警官になった気で考えてみる。
 では問題はどこから銃を持ってきたか?だ。

(銃なんて簡単に手に入るわけがねえ。てことは、《バッド・カンパニー》みたいなスタンドか?)

 そもそも仗助が由花子の死に自分の想像以上に動揺したのは、彼がこの間戦ったスタンド使いにある。
 祖父の死の遠因となったその男、虹村形兆。男はミニチュアの軍隊のスタンド《バッド・カンパニー》を操り、ある目的のために数多の人間の命を奪ってきた。
 最終的に仗助の目の前で死んだので彼ではないと思う――死んだ人間が生き返ることなどありえないのだから――が、似たような武器を操るスタンド使いが存在する可能性は頭に大きくある。
 あのツノウサギとかいう変なスタンドに一発くれてやろうとし、失敗してこの無人の謎の空間に囚われて以来、時折聞こえる銃声がその危惧を肥大化させている。
 そのとき彼は見つけた。手に銃を持ち、首には首輪を付けられて街を歩く少女を。
 いわゆるピストルを両手で持って、キョロキョロと辺りを見渡しながらこちらへと歩いてくる。


641 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/19(土) 07:16:02 ???0

「……冷静になれよ、仗助。あの子が殺ったとは限ンねーぜ。」

 飛び出しそうになった身体を抑えて、仗助は呟いた。
 いくら銃を持っているからと言って少女が殺したという証拠は何もない。それに、部屋につけられた痕は連射されたもののようにも見える、拳銃ではああはならないだろう。もっとも、仗助の知識にあるそれは件の《バッド・カンパニー》によるものだけなのだが。
 とにもかくにも、話を聞く必要がある。犯人ならば殴るし、そうでないのなら話を聞く。どのみちこの殺し合いで最初に出会った他人だ、会ってみるほかない。
 仗助は部屋を後にするとキッチンへと移った。玄関から出て正面から鉢合わせるよりあるかどうかはわからないが勝手口から出て後ろを抑えた方が良い、そう判断してドアを開けたところで、テーブルの上にデカデカと寝そべるそれにギョッとした。

「ライフルだと? なんでこんなもんが家ん中にあるんだ?」

 黒光りするそれはどっからどう見てもライフルだった。それこそ《バッド・カンパニー》の歩兵が持っていたような、仗助は名前を知らないがアサルトライフルに属するものだ。民間用ならば例外はあるがそんなことを知らなくても、それが連射できそうな武器だということはわかる。
 問題は、なぜそれが家の中にあるか、だ。

「な〜〜んか、思い違いをしてる気がするぜ。違和感っつーか……」

 数秒考えた末にそう言うと、仗助は勝手口から出た。わからないことだらけのところに更にわからないことが増えたが、まずは例の少女だ。見失うわけにはいかない。
 仗助は家から出ると、狭い路地を抜けて少女の後ろを取り声をかけた。

「あの〜〜、もしかしてなんスけどアンタも巻き込まれた――」
「……っ!?」
「――人っスか?」

 銃を両手で持ったまま振り向きざまに放たれたハイキック。
 何か武道をやっているらしくもあるそれを、経験と筋力差で片手で押さえ込むと、仗助は何もなかったかのように話を続ける。
 そして同時にほぼ白だと断定した。
 咄嗟に銃ではなく蹴りを選ぶのは殺し合いに乗っていないからだ。単に蹴り慣れているのかもしれないがそれにしては素人っぽい、にわか感のある蹴りだ。つまりたぶん、この女の子は殺っていない。なにせこうして片足を掴まれ不安定な体勢であってもなお強い視線を向けても銃口をこちらに向かせないのだから。

「あ、おれ東方仗助っス。もちろん殺し合いなんてやるわけないっスよ。」

 明らかに年下だが一応敬語で名乗る。よく考えたらこんな近くで突然後ろから、見知らぬ年上の男子に声をかけられたらビビるよなという反省と共に、手を離してやり自由にする。二三歩あとずさられるが、相変わらず強い視線を向けては来るものの逃げも戦おうともしない。そして少女は口を開きかけて、パクパクと動かして、閉じた。
 小さい声だ、と思った。緊張して声が出ないのだろう。そう思って仗助は少し近づきながら声をかけようとして。少女の視線の変化に気づく。なぜかはわからないが、少女の目はとても悲しいものに変わっているように見えた。目にこもる、いわゆるメンチのような気合は感じるのだが、なぜかこもっている感情が別のものに見えた。それと同時に察する。少女の口の動きに変化があった。それは仗助の地元でカツアゲにあっているやつがする、独特な口の動きだからだ。
 「ごめんなさい」、そう声が出ずに言う、アレだった。


642 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/19(土) 07:16:27 ???0

(あの喉のアザ、こいつは。)

 喉のあたりに置いた手にも目が行って気がつく。少女の喉にはアザがあり、手はそのアザを抑えている。いや、掴んでいる。手の強ばりを見るにかなりの力がこもっていると察した。
 そのアザを《クレイジー・ダイヤモンド》で治しながら、仗助はバツの悪い顔で言った。

「あー……驚かせて悪かったっス。そういえば、この、ほら、コレあるんで、筆談にしてもらって良いスか?」

 トントンと首輪をつつきながらそう言うと、少女はコクンと首を縦に振りながら口を動かした。しかし、治したはずのその口から言葉が出ることはない。

「じゃあ、なんか書くもんもってくるんで、ちょっと待っててください。」

 らしくない敬語言っちまってるなと思いながら、仗助は家へと戻った。そして勝手口の扉を閉めると、壁を殴りつけようとして、止めた。

「声を出せねぇ女の子を拉致って殺し合いさせるとかよぉ……杜王町でも見たことねぇレベルの下衆だぜ、クソっ。」

 代わりに吐き捨てるように言うと、手近な鏡の前に立って髪を整えた。家の外に人を待たせてるのに、物に当たってそれを直してというのは、ましてあんな女の子の側でやるのはできなかった。
 仗助はなんとなく、本当に直感的にあの少女から心の傷を感じ取っていたのだ。仗助自身も、母の朋子も、家族を失ったときはああいう雰囲気だった。杜王町にスタンド使いを増やしていた虹村兄弟も、纏う空気にさみしさがあった。大切な誰かを失った人間には、同じような匂いがまとわりつくのだろうか。辛気臭えのはなしだな、と呟いて、いまいちキマらないままの髪で、仗助はメモ帳とボールペンを見つけると家を出た。

「待たせちまってすみません。じゃあ、あそこのサ店で話聞かせてもらってもいいスか?」

 二人で近くのカフェに入る。テーブルや床に転がる銃にギョッとしながら、一番入り口から遠い席に座ると、情報交換がはじまった。


 ──紅絹

「くれない、きぬ?」

 ──もみ、です

「なんか頭良さそうな名前っスね。」

 少女、紅絹が書き、仗助がそれを読み、また書く。ときおり頭の悪いことを言いながら、仗助はなんとか話を聞きだしていく。
 まとう空気は悲しげでも、ショートカットで地味ながら整った顔をしているからか、それとも出会い頭の蹴りのせいか、なんとか変に気負わず接せている。その甲斐あってか、筆談にしてはスムーズに会話が進む。とはいえ、わかったことなどほとんど無かったが。

「じゃあ、紅絹ちゃんも気がついたらあそこで変なウサギの話聞いてたんスね?」

 こくり、と頷く紅絹に相槌を打つと、仗助はしばらく無言で考え込んだ。
 はっきり言って手詰まりだ。仗助がここに来てから得た以上の情報は何も無かった。あまりの手がかりのなさにこれからどうすればいいかの指針も立てられない。
 そしてそれ以上に、紅絹との接し方がわからず戸惑っていた。
 仗助はリーゼントに改造制服という不良そのものな外見に加えて、ハーフのために身長もある。だが別に不良というわけではないと自分では思っていた。たしかにプッツンするところはあるが、授業態度もそこそこ真面目で、外見からは相続しにくいほどに普通の高校生である。ではそんな男子高校生が線の細い年下の女子中学生に気を配って円滑にコミュニケーションできるかというと、NOだ。割と女子からの好感度が高い方の彼であっても、さすがに相手が悪い。
 そもそも紅絹は失語症のため、並大抵の人間では会話が成り立たない。彼女が行為を抱く青年は少女漫画に出てくるようないい男なのでそのあたりなんとかなっているし、周りの人も優しい人が多いのでなんとかやっていけているが、本来は断じて殺し合いに参加できるような資質ではないのだ。


643 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/19(土) 07:16:53 ???0

 ──東方さんはこれからどうしたいですか?

「おれは、銃の音がする方を調べたいっスね。人と会うならそれしかなさそうなんで。」

 ──いっしょにいっていいですか?

「それは……危ないっスよ。ここにでも隠れてたほうが……」

 ──なら、二手にわかれませんか
 ──探している人がいるんです

 だが資質があろうとなかろうと、選択はしなくてはならない。
 紅絹が選んだのは、行動。安全な場所に隠れるのではなく、自分と同じように巻き込まれているかもしれない家族を探しに行くことだった。
 筆圧の強さからその意思の強さを感じて、仗助は言葉をなくした。
 正直に言えば、紅絹は足手まといだ。口の聞けない女の子を守って動けるほど仗助は器用ではない。だが彼女の思いは大切にしたいし、なにより隠れていても由花子のように撃ち殺されかねない。
 それでも悩んでいる仗助の耳に、銃声が届いた。
 近い。そして大きい。
 由花子のことが頭によぎった直後なのもあって、必然彼女を撃ち殺した犯人が撃ったのかもしれないと気になる。

 ──今の音をしらべたいです

「わかったス。ただし、おれも着いていきますよ。」

 少し考えて仗助はそう答えた。
 迷っていれば更に死人が増えるかもしれない。もうあんな思いはゴメンだった。
 適当に保存の効く食べ物や飲み物を漁ると、仗助はレジにいくらかの金を置いて喫茶店を出る。二人でしばらく歩くと、赤い霧の合間から赤く点滅する光が見えた。それが交番のパトランプだと仗助が気づくのと、紅絹が走り出したのは同時だった。止めようとして交番の前に倒れる人に気づいて、紅絹を追い越して駆けつけた。

「《クレイジー・ダイヤモンド》!」

 それが血塗れで倒れている子供だと分かるより早く仗助はスタンドを使う。バッサリと斬られている傷口が治っていく、苦しげな顔が一転して柔らかくなる。それに安堵したところに聞こえてくるのは、荒くなった息。目の前の少年が息を吹き返したか? そう思った仗助の視界の端で何かが倒れた。

「紅絹ちゃっ──なにっ!?」

 慌てて抱えあげようとして驚く。交番の中には、更に血塗れの人間が倒れていた。よく見れば一人ではない。女子らしき子供二人に、男性二人の計四人。らしき、というのは、一人は顔面が性別が一目でわからないほどにギタギタにされていたからだ。

「くっ、《クレイジー・ダイヤモンド》! 全員治すぜ!」

 思わず覚えるのは吐き気。それを気合いで耐えると、紅絹を含めた五人を治す。が、誰一人として動くことはない。紅絹は精神的なショックによるものだろうが、あとの四人はそうではないというのはやる前からわかっている。それでもやるだけのことはやった。
 死体が四つに、大怪我を負った子供が一人に、気絶した子供が一人。同級生が殺された姿を見たあとに出くわすには中々にヘビーなものだ。


644 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/19(土) 07:17:18 ???0

「やれやれだぜ……」
「……あの、すみません。おれは風見涼真です。さっきは助けてもらってありがとうございました。それで、三つ聞きたいことがあるんですがよろしいでしょうか?」

 愚痴る言葉を遮る声が聞こえた。顔を上げると、さっき治した少年が立っていた。
 イケてるという自負がある仗助からしてもイケメンだとわかるような顔が、真剣に仗助を見つめている。これスタンドのこと聞かれんのかなあと思った。

「おれもだ。色々聞かせてもらいてえんだが、悪ぃが急いでるんでな……それで、リョーマ、聞きたいことってのはなんだ?」
「ありがとうございます。一つ、さっきおれを治したのはあなたですか。二つ、それは怪我をした人間以外にも使えますか。三つ、あなたに自分を守る護身術などの経験はありますか。」
「お、おお。隠してもしかたねえか、こりゃ……さっきのはおれっつーか、おれのスタンド《クレイジー・ダイヤモンド》の力だ。まあ、超能力だと思ってくれ。怪我でも壊れたもんでも直せるが、死者を生き返らせたりはできねぇ。護身術ってほどじゃないが、スタンドってので戦えるぜ。」

 テキパキと聞いてくるリョーマに面食らいながら答える。いやに落ち着いているのでスタンド使いかと疑ったが、出して見せた《クレイジー・ダイヤモンド》にまるで視線を向けないので、相手を測りかねる。

「わかりました。それでは申し訳ありませんが、おれ、私と同行してもらえませんか。近くに銃と刀で武装した通り魔がいます。さっき襲われて、私が保護していた方には警察署に一人で逃げてもらっています。彼女を早急に保護する必要があります。」
「マジかよ……つまり、殺し合いに乗ったやつに襲われて、女の子逃して戦って殺されかけたってことだよな。」
「はい。そして、暴徒は少なくとも二人います。その交番で亡くなっている四人は、おれが暴徒から逃げている時には既に亡くなっていました。」

 コイツ『アレ』を見ておいてこんなに冷静なのかよと、仗助は心の中で思った。さっきの大怪我を治してから数分と経たないうちに冷静に情報交換してくる涼馬に、引くほどの凄みを感じる。
 よくよく見れば、涼馬は仗助よりも明らかに年下だった。ハーフなのでタッパのある仗助よりもたいていの同世代は背が小さいので気づくのが遅れたが、おそらくは中学生ぐらいだろう。

「年下が覚悟決まってんのにブルってるわけにはいかねーよなあ。《クレイジー・ダイヤモンド》!」

 仗助は交番に入ると、遺体に一度手を合わせて、スタンドで奥の扉をぶち破った。慌てて見に来る涼馬をよそに中を漁ると、お目当てのものを見つけて戻る。その背後で壊れた扉がひとりでに元通りになるのを見て目を丸くしている彼の横を通り抜けると、交番の脇にあったバイクに持ってきた鍵を入れた。

「この子は紅絹。さっき会った子だ。置いてくわけにもいかないから連れてく。リョーマ、この子の後ろに乗れ。」
「三人乗りですか……わかりました。」
(ようやくふつうっぽいリアクションが出たな。)
「彼女が向かったのはこの道を真っ直ぐです。今ならそう遠くに行っていないはずです。」
「OK。しっかり掴まってろよ。」

 涼馬が立ち乗りして、気絶している紅絹ごと仗助の肩に手を置く。エンジンをかけると、仗助はバイクを走らせた。


645 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/19(土) 07:17:38 ???0

「そういやまだ名前言ってなかったな。東方仗助だ。」
「風見涼馬です。保護していた方の名前は宮美三風。中学一年生で、身長はおれより低くて、制服を着ています。髪は黒です。通り魔は、仗助さんと同じぐらいの身長で白髪です。上は黒のインナーと柄もので……やつです!」
「会うの早すぎんだろ!」

 走り出して会話が始まった、と思ったら直ぐに涼馬は叫んだ。ツッコみながらも仗助も《クレイジー・ダイヤモンド》を出す。涼馬が今言ったのと全く同じ特徴を持つ人影が、霧の彼方の道の先に見えたからだ。

「このまま跳ねる。」
「え。」
「安心しろ、治すから。」

 人影はバズーカのようなものを構えた。

「ちょっと待てなんでバズーカ」

 言い終わるより早く、発射されたRPGを回避するために《クレイジー・ダイヤモンド》で無理矢理バイクの軌道を変える。気絶した紅絹と涼馬の三人乗りなので無茶苦茶な動きはできないが、ギリギリで躱して近くの民家に突っ込むだけですんだ。
 迫る壁を殴り抜け、バランスを崩して和室を三人で転がる。二人を《クレイジー・ダイヤモンド》に庇わせながら仗助は身体を走る衝撃に身悶えした。

「いってぇ〜〜〜! な、なんでバズーカなんか持ってんだアイツ! 日本だろ!」
「東方さん、来ます!」

 身体に痺れが走るのもおかまいなく、学ランの背中が引っ張られる。ぶん、という音ともに、目の前に刀が振り下ろされた。
 誰の刀だ?と思ったところで、腹に蹴りが入り、後ろにいたらしい涼馬ごと吹き飛ばされる。馬にでも蹴られたのかと言うぐらい重い一撃に、たまらず吐く。それはどうしようもない隙だった。
 うずくまって完全に無防備になった背中を仗助は晒す。ちょうど首を落とされる罪人のような格好だ。その首筋になんの躊躇もなく刀が振り下ろされた。そして、その刀が当たる寸前で、急速度で首筋から遠のくのを、涼馬は見た。

「ぐっ……はぁ!」
「ぜーっ……ぜーっ……へへ、一発は一発だぜ……」

 刀を振り下ろしていた男が、突然何かに殴られでもしたかのように腹をくの字に折って、仗助が突入してきた壁から外へと飛んで行ったのだった。

「リョーマ、こいつはおれがタイマンする。『女の子』を頼んだぜ。」
「……! はい。おれたちはさっきのところの近くにいます。」

 なんとか立ち上がると、仗助はそう言い残して壁から出た。頭のいい涼馬なら、これで意味を察して逃げてくれるだろう。
 ふらつきながらも、涼馬は紅絹をおぶり家の中の戸を開けた。それを見送ると、仗助は前を向く。殴り飛ばした男の姿は、無い。
 瞬間、響いた発砲音を、仗助は《クレイジー・ダイヤモンド》に持ち上げさせた瓦礫で応える。近くのビルの二階から、先程の男が銃を向けていた。

「別にお前が由花子を殺したかはわかんねえけどよお、人にいきなりバズーカ撃ってくるようなやつは焼き入れられても文句は言えねえぜ?」

 睨む仗助に答えるように、男も殺意のこもった視線を向けてくる。
 東方仗助と雪代縁の戦闘が始まった。


646 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/19(土) 07:18:09 ???0

 仕切り直してからの先手を取ったのは縁だ。ライフルをフルオートで連射する。その弾丸を隣家の壁を殴り抜けて家へと入り躱すと、同じように民家にトンネルを作りながら仗助は接近を試みた。
 仗助は縁を時間停止できるスタンド使いの可能性も考えて行動している。先程のバイクで横転してから刀で斬りつけられるまでにかかったのは五秒ほど。その間に走って距離を詰められるとは考えにくい。もしそれができるなら、相手は100メートル走のメダリストか何かだろう。
 ──縁の生きていた時代にオリンピックがあれば間違いなくメダリストになれていただろうから、その意味では仗助の考えは当たっている。

「ドラァ!」

 掛け声一発、仗助は穴を開けた壁から縁のいるビルへと突入、しない。すぐさま《クレイジー・ダイヤモンド》で直す。予想通りに発砲音が壁の裏でしたのを聞きながら、ビルの入り口から突入した。

「ちぃ!」
「ようやく射程距離だぜーっ! ドララララァ!」

 弾丸が切れたのか投げつけてきた銃を殴り壊しつつラッシュを仕掛ける。壁を壊すことを囮に距離を詰める作戦は完全に目論見通りだった。
 誤算があるとするならば、その距離は縁の間合いだということだ。

「虎伏──」

 《クレイジー・ダイヤモンド》のラッシュが、縁に地に伏せるような下段の構えですかされる。それは単なる偶然だが、仗助にとっては最悪の偶然だ。
 仗助は一つ大きな勘違いをしていた。
 縁はスタンド使いなどではない。
 体系的に言えば、彼の父の若かりし頃と同じく技術によって鍛え上げられた人間だ。
 先程の斬りつけも、RPGを発射してから即座にダッシュして躊躇いなく斬りつけた、ただそれだけのことだ。
 ただそれだけができるほどだから、雪代縁は十代で清の裏社会を渡り歩き、二十代にしてマフィアの頭目とまでなったのだ。
 そして最も単純な理由。
 縁が頼みにするのは銃でも爆弾でもない。己が仇敵を殺すために磨き上げた倭刀術だ。

「──絶刀勢!!!」
「──ララララ『憎』ラララ『恨』ララ『怒』ラ『忌』『呪』『滅』『殺』『怨』」

 背後に回り込む動きは、超神速。投げつけられた銃に目が行っていたところに気づいたその動きに、ラッシュの向きを変える。が、間に合わない。生身でスタンド並の速さで動いている、それを認識するより先に、背中に強烈な熱を感じた。

(あちぃ! なんだ、スタ……ン……)

 火や熱を操るスタンドか?そう思うより先にすべきことは、宙に切り上げられた身体をスタンドでガードすることだった。だがそれは酷な話だろう。今自分が斬られたことすら、まだ仗助はわかっていないのだから。

「轟墜刀勢!」

 落ちてきた仗助に下から倭刀が突き立てられる、串刺しにされたまま地面に叩きつけられ、仗助は絶命した、


647 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/19(土) 07:18:24 ???0



【0140 住宅地とその近くの公園】

【紅絹@天使のはしご1(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●小目標
 ???

【風見涼馬@サバイバー!!(1) いじわるエースと初ミッション!(サバイバー!!シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残り、生きて帰る。
●中目標
 どこかに拠点を作り、殺し合いに巻き込まれた方を保護する。
●小目標
 紅絹を連れて交番まで戻る。

【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる。
●中目標
 警察署へ向かい緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す。
●小目標
 三風について行く。


【脱落】

【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】


648 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/19(土) 07:18:54 ???0
投下終了です。
タイトルは『最悪の偶然』になります。


649 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/22(火) 07:31:57 ???0
パロロワwiki見に行ったら月報更新されてなかったので集計しました。
編集のやり方もどこに書けばいいかもわかんないんで、自分用のメモとしてここに載せます。

各ロワ月報2022/7/16-2022/9/15

ロワ 話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
決闘 23話(+23) 101/112(-11) 90.2(-9.8) ※OP含む
界聖杯  135話(+7)  18/23(-0)   78.5(-0)
令和ジャンプ 41話(+7) 50/61(-4)  88.8(-3.2)
媒体別 64話(+6) 139/150(-1) 92.7(-0.7)
表裏 93話(+5) 20/52(-2) 38.6(-3.8)
烈戦 33話(+5) 59/61(-0) 96.8(-0)
虚獄 108話(+5) 46/75(-0) 61.3(-0)
お気ロワ 6話(+4) 48/50(-2) 96(-4)
児童文庫 80話(+3)   59/75(-16)2L目名簿より 93.8?(-4.2?)※総参加者数365名
FFDQ3 779話(+3) 18/139(-0) 12.9(-0)
チェンジ  105話(+2)  39/60(-0)  65.2(-0)
コンペ 88話(+2)  88/112(-2) 78.5(-1.8)
ゲーキャラ 111話(+1)  41/70(-0) 58.5(-0)
辺獄 59話(+1) 76/119(-1) 63.9(-0.8)
狭間 54話(+1)  32/44(-2) 72.8(-4.5)
観察都市 16話(+1) 22/22(-0) 100(-0)
二次聖杯OZ 81話(+81)  ?/? 100.0(-0) ※登場話候補作80作品とOP含む
異界聖杯 126話(+80) ?/? ※登場話候補作作47作品とOP含む

・パロロワwikiで本期間分の月報が更新されてなかったので勝手に月報作っちゃいました。たぶん抜けは多々あります。
・ロワ系のスレ並びにハーメルン・pixivで行われている企画を集計しました。
・修正前・修正後・破棄全て1話としてカウント、分割話は投下開始時点でまとめて1話としてカウントしました。
・めんどくさいんで今回限りになると思います。FFDQ3ロワさんみたいに月報置いといてくれたら集計の方の手間が省けると思います。


各ロワ月報2022/9/16-2022/11/15

ロワ 話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
媒体別 75話(+11) 139/150(-0) 92.7(-0)
お気ロワ 17話(+11) 48/50(-0) 96(-0)
令和ジャンプ 51話(+10) 49/61(-1)  88.0(-0.8)
決闘 33話(+10) 99/112(-2) 88.4(-1.8) ※OP含む
チェンジ 114話(+9)  37/60(-2)  61.9(-3.3)
虚獄 115話(+7) 46/75(-0) 61.3(-0)
界聖杯  135話(+5)  18/23(-0)  78.5(-0)
異界聖杯 5話(+5) 48/48(-0) 100(-0)
表裏 97話(+4) 17/52(-3) 32.9 (-3.8)
誰が為 6話(+4) 62/70(-5) 88.5(-7.1)
児童文庫 83話(+3)  75/91(-0)2L目名簿より 93.8?(-0?)※総参加者数365名
烈戦 36話(+3) 59/61(-0) 96.8(-0)
辺獄 61話(+2) 72/119(-4) 63.7(-3.2)
FFDQ3 780話(+1) 18/139(-0) 12.9(-0)
コンペ 89話(+1)  88/112(-0) 78.5(-0)
ゲーキャラ 111話(+1)  41/70(-0) 58.5(-0)
観察都市 16話(+1) 22/22(-0) 100(-0)
狭間 54話(+0)  32/44(-0) 72.8(-0)
二次聖杯OZ 102話(+21)  ?/? 100.0(-0) ※登場話候補作21作品含む

・パロロワwikiで本期間分の月報が更新されてなかったので勝手に月報作っちゃいました。たぶん抜けは多々あります。
・ロワ系のスレ並びにハーメルン・pixivで行われている企画を集計しました。
・修正前・修正後・破棄全て1話としてカウント、分割話は投下開始時点でまとめて1話としてカウントしました。
・めんどくさいんで今回限りになると思います。FFDQ3ロワさんみたいに月報置いといてくれたら集計の方の手間が省けると思います。


650 : 名無しさん :2022/11/23(水) 00:10:05 po4IXaMA0
月報乙です!


651 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/27(日) 00:00:25 ???0
投下します。


652 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/27(日) 00:01:31 ???0



 信じられないものを見た。
 それが藤原千花の感想だった。
 藤原千花の目の前で、大場結衣、天野司郎、神田あかねの3名が死んでから4時間近く経っていた。藤原本人には、何時間にも何日にも思えるような時間は、ただ単に赤く時の流れを伺わせない空のせいだけではなかった。
 助けられなかった、どころか、もしかしたら自分が殺してしまったのではないか。そう思わされ続けて、冷静に絶望感と向き合うには充分過ぎるほどの時間であった。
 それだけの時間、誰とも出会わず、誰にも殺されなかったことは、本来ならば幸福なことであろう。たとえ交流の機会を逃していても、危険からは遠ざかれていたのだから。
 だが今の藤原にとっては、何も起こらず、誰とも出会わないことが、怖くて仕方なかった。警察や病院を探して街に出てから、何も成果がなく、ひたすらに無為な時間を過ごしている。そのことが罪悪感を増させていく。
 そして次第に、自分の気持ちがわからなくなっていった。誰にも会えないのではなく、会いたくないのではないか。自分が殺したことを知られたくないから。助けを呼びに離れたのではなく、犯行現場から離れたのではないか。自分の殺人から逃れるために。
 孤独な数時間は、自分自身を裁く自分を作り出す。そうして摩耗した心で、その少年と出会ったことは、まさしく奇跡だった。

「神田、くん……?」
「……藤原、さん?」

 名前を呼びかけると、自分の名前を呼びかけ返す。
 信じられない。だが、声も姿も、同じだ。ハスキーな女性のようにも聴こえる声。抜けるように白い肌。髪と同じ茶色の瞳。さっき目の前で死んでいった神田あかね本人が目の前にいた。

「神田くん! 神田くん!!」
「良かった、藤原さんも生きてて……ゴフッ!」
「だ、大丈夫!?」
「ハァ……ハァ……大丈夫、いつもの発作だから……」

 藤原はあかねの背中をさすった。そして、手のひらから感じる体温に、救われた気がしてまた泣いた。
 119番にかけようとして911にかけていたことも、ほとんど初対面の相手だということも関係なく、ただただ生きていることに、救われていた。


653 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/27(日) 00:03:17 ???0



 さて、この神田あかねは神田あかねではない。
 正確にはこの藤原千花が助けようとしてできずに死んでいった、そして今も喫茶店で死体が転がっている神田あかねではない。
 彼を便宜的に呼ぶのであれば、神田あかね(原作版)。オリジナルなのでこのような呼称はふさわしくないのだが、わかりやすく説明するためにこう表記する。

 つまり、神田あかねは2人参戦していたのだ。

 藤原の前で殺されたのは神田あかね(映画版)であり、今目の前にいるのは神田あかね(原作版)である。
 2人の違いは、秋野真月と付き合っているかいないかだ。関織子に彼氏ができる世界線では、彼にも彼女ができる。それが原作版の世界線の神田あかね。一方、関織子が若おかみとなるキッカケとなった事故で両親の命を奪った木瀬文太と和解した世界線では、彼は本来のタイミングで花の湯に深入りすることはない。これが映画版の世界線の神田あかねだ。
 とはいえ、それは将来における比較的大きな差異。2人の参戦時期は同じ為、違いは彼の人生を変えた温泉プリンのエピソードだけである。つまり、2人が温泉プリンのエピソードについて関織子と話すようなごく限られた場合を除いて、2人は同一人物である。
 ちょっと待って、ロワ始まってからの話は合わんやん!とウリ坊のようにツッコミを入れられてしまうかもしれないので、それについても説明しよう。

 藤原千花は2人参戦している。

(藤原さん、こんなに泣いてる。よっぽど辛かったんだな……)
(良かった……なんでかわかんないけど、神田くん生きてる……!)
(神田くん、どこにいるんだろう……)

 お互いにかすかに違和感を覚えつつも抱き合う神田あかね(原作版)と藤原千花(映画版)から離れること数百メートル、藤原千花(まんが版)はビルの一室に身を潜めていた。
 神田あかね(映画版)と藤原千花(映画版)が出会ったのと同じころ、神田あかね(原作版)と藤原千花(まんが版)も出会っていた。そしてこの二人も襲撃を受けたのだが、誰が撃ってきてるのかもわからないグレネードランチャー的な爆破攻撃だったので、それぞれ発生した火災とマーダーから逃れるためにバラバラに逃げていたのだ。
 そうとは知らず、藤原はあかねを強く抱きしめる。
 たとえ今だけでも、とても救われた気分だった。


654 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/27(日) 00:08:43 ???0



【0430 『西部』住宅地】

【藤原千花@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●小目標
 神田くんと一緒にいる。

【神田あかね@若おかみは小学生! PART1 花の湯温泉ストーリー (若おかみは小学生!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●小目標
 藤原さんと一緒にいる。

【藤原千花@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― まんがノベライズ 恋のバトルのはじまり編@集英社みらい文庫】
【目標】
●小目標
 神田くんと合流する。


655 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/11/27(日) 00:10:53 ???0
投下終了です。
タイトルは「ダブルイミテーション」になります。
誕生日に投下が間に合わないファンの屑。


656 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/09(金) 01:45:41 ???0
投下します。


657 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/09(金) 01:46:12 ???0



「くっ……遊びが過ぎたか……!」

 端正な顔を歪ませ、滝のような汗を流しながらアスモデウス・アリスは吐き捨てるように言った。
 手を振るい炎を生じさせる。彼が得意とする魔法は狙い通りに標的に当たる。そして有効打にならない、それが接敵から10分以上に渡って続く光景。

「あああ小うるさい!!」
「ちいっ!」

 翼を生やして飛翔することで、伸ばされた腕を回避する。そして返しに炎を出したが、それも腕に防がれた。と言っても、全身が腕なのでどこに当てても大差ないのだが。

 手鬼vs竈門禰豆子に彼が介入し始まった手鬼vs竈門禰豆子&アスモデウス・アリスのタッグ戦。最も早く音を上げたのはアスモデウスだった。
 悪魔の中でもエリートである彼は、非凡な才能を持つ実力者だ。しかしながら、相手が悪かった。手鬼はスタミナという概念の無い鬼。対してアスモデウスは普通に息切れもするし集中力も限りがある。はじめのうちは優勢に戦えていたのに、5分もするうちに燃やしても燃やしても突破口を見いだせず、ついに今は防戦一方となっていた。
 自然と撤退を視野に入れる。敵に背を向ける主義では無いが、今優先すべきは「トモダチ」である入間の捜索。貴重な情報を持つとはいえ、固執しては本末転倒だ。
 もっとも、相手がそれを許してくれるかは別だが。

「翼だと? お前本当に何なんだ?」
「それはこっちのセリフだ。」

 困惑の声を上げながら禰豆子に向かって手を振り回す手鬼に、アスモデウスは炎で応える。
 手鬼からの撤退を考えるもう一つの理由は、手鬼が首輪をしていないことだ。
 正確には、首輪はしている。だが手鬼は決してそれを見せるようなことはしない。この殺し合いの直前、鬼殺隊の見習い風情に首を落とされたことは嫌でも覚えている。そのため手鬼は2本の手を除いて全てを首への防御に回していた。
 そんなことを知らないアスモデウスからすれば、目の前の相手は殺し合いの参加者かどうかもわからない、無駄に強い敵だ。

(手加減して情報を聞き出そうと思ったが、殺す気で行く!)
「おおおおおっ!」

 ならとっとと戦闘を終わらせよう。アスモデウスはこれまでやらなかった近接戦を仕掛けに行く。次に禰豆子とも戦うことを想定して飛行能力と共に使ってこなかったが、手の内を晒さずに勝つことは困難な相手だと認めざるを得ない。
 狙うは、頭部。唯一弱点らしい部位で露出しているそこを潰しに行く。

「かかったな!」
「なっ!?」

 それに対して放たれるのは、無数の手、手、手。
 アスモデウスが本気を出していなかったように、手鬼も本気を出してこなかったが、勝負を決めに行く。今まで首をガードするだけで動かさなかった手を放ちカウンター。その手がアスモデウスに届く寸前に、爆風で押し戻される。炎の剣を爆発させ、アスモデウスは無理矢理距離を取る。空を切った手を戻すより早く、頭上に影。



658 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/09(金) 01:46:39 ???0

「むぅっ!」
(来たな、狙い通り!)

 上を取ったのは禰豆子。爪による一撃に血鬼術による爆発を組み合わせて、手鬼の頭部を爆ぜさせる。そこはアスモデウスも狙った場所であるが、禰豆子が狙うのはその下の頸。頭から頸まで一気に爆破して決着をつけようとする。

「むむっ?」

 しかし、それこそ手鬼の狙い。手応えのなさに疑問の声を上げた禰豆子の前で手鬼の体がグズグズと崩れていく。そのことに手鬼に一撃を与えた禰豆子本人が困惑していた。
 鬼は日の光に当たるか、日の力のあるもので頸を刎ねねば死なない。たとえば日輪刀で頸を刎ねる、たとえば藤の毒を頸にまで回す、そのような形だ。
 ゆえに禰豆子は違和感を感じずにはいられない。今の一撃で鬼を殺せるわけがない。禰豆子からは首輪が見えていないため首輪が作動したせいという発想もなく、何が起きたのかと戸惑う。それが手鬼の狙い。
 鬼同士では殺し合いにならないことは手鬼ももちろん理解していた。共喰いして頸ごと腹に入れてしまえば殺せる可能性はあるが、腹の中で再生しかねないのが鬼だ。だから禰豆子と戦い始めて早々に戦いを放棄することを決めた。決着がつかない不毛な戦いを、なんの利益もないのにする必要はない。あの鬼殺隊は気になるが、あんな腰抜けではせっかく生き返ったのに殺すのも億劫だ。おまけにもう一人跳ねまわっているのも、食欲がわかないことから人間でないと判断する。なら戦う理由などあるはずもない。

「むぅ〜……」

 この程度の鬼2匹なら、鬼殺隊に殺されるか他の鬼と日が出て相討ちになると見越して逃げに撤する。手鬼は冷静に自分が鱗滝に捕らえられ試し斬り用に生かされてきた47年を思い出して分析した。最後の一人になるために、戦うのは一度で充分だ。他の鬼が皆死に、人間たちが疲労困憊になってなお殺し合い、最後の一人になったと思い込んだ時のみ。自分と戦わず鬼殺隊になった者がいたように、必ずしも戦わなければならぬわけではない。
 あとに残ったのは、禰豆子一人。逃げたと察せはしたが、追撃はできない。あらかじめ撤退の準備を土中で進めるためにわざと攻撃の手を緩め、頭部が脱出できるだけのトンネルを掘り、脱出後は埋めた。過剰に首を守るふりをして、アスモデウスが仕留められなかったとわかったタイミングで一気に頭部を下に行かせ、死んだと誤認させられるように。巨体であっても頸があれば元通りに再生できる鬼ならではの代わり身だ。
 まんまとハメられた禰豆子は不満げな声を上げるしかない。みすみす鬼を逃してしまったことは危機感を覚えざるを得ないが、なんとか頭を切り替えた。そもそもは、鬼殺隊の隊士が鬼に襲われそうになっているのを助けに来たのだ。もう逃げているだろうが、今からでも追いかけよう。襲われるかもしれないがそれはそれだ。
 禰豆子はとりあえずさっき隊士を見た辺りに戻ることにした。ほとんど離れていないので、直ぐに臭いに気がつく。禰豆子に冷や汗が流れた。この臭いは、血だ。急いで駆ける。そして。

 首から血を流す隊士と、その首にかぶりつくアスモデウスの姿を見た。


659 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/09(金) 01:47:10 ???0

(ここまで追い詰められるとは……誤算だ……!)

 話はほんの数十秒前にさかのぼる。
 アスモデウスは仕立ての良い服の至るところを自分の炎で焦がしながら地面を転がっていた。
 手鬼の必殺のカウンターに対して放った起死回生のカウンター返し。とっさに放ったそれは、しかし手鬼はしとめ切れず、距離を取るために間近で起爆したアスモデウスだけが痛手を負う結果になった。
 ことここにいたれば、アスモデウスの取るべき選択肢は撤退だけだった。優先すべき目的は入間の捜索であり、人間について吐かせるのはついででしかない。そのついででこの有様になっているのは不覚としか言いようがないが、これ以上恥の上塗りもできない。悔しいが退こう。ヨロヨロと歩き出す。

(この良い匂いは……入間様?)

 行く宛はない。必然、直感で移動先を選ぶこととなる。そしてアスモデウスが悪魔である以上、入間の「トモダチ」である以上その匂いに気づかないはずもない。入間と同じ美味しそうな、人間の匂いを。
 自然と足が向かう。下草の隙間から黒い服が見えて一瞬ぎょっとする。入間のわけがないとは思うがどうしても匂いで連想してしまう。
 それはどうやら死体だ。格好からすると首に刀を当て自害したか。一応顔を見ておこうと仰向けにしようとして、苦しげな声が出る。彼の火傷は掌が一番重い。何か持つどころか触れるだけで激痛が走る。その痛みが屈辱を呼び起こすが、それを無視して仰向けにしようとして、ハッとなった。痛みが、消えていた。

「なにっ? なにが起こった?」

 掌を見る。そこには火傷の痕さえもなかった。
 まさか、だが、本当に。アスモデウスの額から油汗とはまた別の汗が流れる。痛みではなく驚きから震える手を、死体から流れる血に染めた。
 瞬間、手に負っていた火傷がなくなった。

「間違いない! これは、人間だ!」

 信じられないものを目の当たりにし、思わずアスモデウスは叫んだ。悪魔にとって人間は伝説上の存在。それが死体として、目の前に落ちているという事実をにわかには受け止められない。
 アスモデウスはおそるおそる死体を担ぎ上げると、傷口である首へと口をつけた。それだけで甘美な風味を感じて、安らぐ。そして血を吸い上げ飲み込むと、自然と笑みがこぼれた。
 傷が癒える。疲労が飛ぶ。ハイになる。ヤクキメたみたいにガンギマリ。とまではいかないが、とにかく体力の回復を実感した。
 新鮮な人間を手に入れたアスモデウスにもはや先程までの屈辱は無かった。そもそも人間について聞き出すための戦闘なのだ、こうして実物が手に入ったのならば、鮮度が落ちぬうちに入間に献上するだけだ。

「むぅっ!」
「見境なしか!」

 しかし、そうはさせじと襲いかかるものがいた。手鬼に逃げられた禰豆子である。
 禰豆子は顔を悲しみに歪めてアスモデウスへと向かう。アスモデウスを鬼だと見抜けなかった、そのせいで鬼殺隊が殺されてしまったと自責の念に駆られる。実際はサイコロステーキ先輩は勝手に自殺しただけだし、アスモデウスは鬼では無く悪魔なのだが、そんなことは気づくはずもなかった。首筋にかぶりつき血を飲む。それだけで充分に禰豆子はアスモデウスを人間の敵だと認識した。
 一方のアスモデウスは涼しい顔で払いのける。血の摂取により、身体能力の向上を実感している。前は対応が難しかった禰豆子の動きも、今は決して捉えられぬものではない。

「いいだろう、付き合ってやる。一分間だけな。」

 この力ならば先の魔物も殺しきれる。成長した己の力を試すように、アスモデウスも禰豆子へと襲いかかった。


「こ、これはどういうことなんだろう。ヒーローショーじゃないよね……」

 そしてそんな二人に切られるシャッターが一つ。野町湊は、一心不乱にカメラを向けていた。
 キャンプから帰って寝て起きたら謎の森の中に放り出されて小一時間。やっと森を抜けて人を見つけたと思ったら、少年漫画みたいなバトルに出くわした。
 もちろん、野町にあんな戦闘力はない。彼はただの性格が良くて顔が良い男子中学生だ。アスモデウスの信奉する入間ほどに危機回避能力が高いわけでもなければ、禰豆子の愛する炭治郎のように鼻が効くわけでもない。二人のようにお人好しなところがあるだけだ。
 そんな彼に今この場でできることが、写真を撮ること。死体を抱えて炎を放つアスモデウスと、化物の顔つきで炎を纏い襲いかかる禰豆子を激写していく。
 それがどういう意味を持つのかを、彼は知らない。


660 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/09(金) 01:47:46 ???0



【0101 平原】

【アスモデウス・アリス@魔入りました!入間くん(1) 悪魔のお友達(入間くんシリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 会場を探索し、入間がいれば合流。
●中目標
 生きた人間がいるのか調べる。
●小目標
 禰豆子を叩きのめし、情報を引き出す。

【手鬼@鬼滅の刃 ノベライズ〜炭治郎と禰豆子、運命のはじまり編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 人間を喰う。
●中目標
 潰し合うのを待つ。
●小目標
 鬼殺隊がいたら優先的に狩る。

【竃戸禰豆子@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 人間を守る。
●小目標
 目の前の鬼(アスモデウス)を倒す。

【野町湊@四つ子ぐらし(6) 夏のキャンプは恋の予感(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 家に帰る。
●小目標
 アスモデウスvs禰豆子を撮る。


661 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/09(金) 01:49:27 ???0
投下終了です。
入間くん1000万部&舞台化おめでとうございます。
それとタイトルは「アイツは殺し合いに乗っている」になります。


662 : 名無しさん :2022/12/09(金) 21:17:39 waAHImK.0
投下乙です
そうか、悪魔が人間の死体を見つけたらこうなっちゃうのか……


663 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/26(月) 03:10:23 ???0
入間くんは黒魔女さんと同じコメディ+できることの限度がファジーな作品なんで児童文庫らしいと思います。
そういう作品は書こうとすると難易度高いってたくさん出してから気づきました。
でもこの企画はそんな作品ばっかです。
投下します。


664 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/26(月) 03:10:59 ???0



 まずいことになったと古手梨花は思った。
 主催者と面識がある大場大翔といち早く合流できた。これは最高だ。他の人間では替えがきかない。
 雛見沢の仲間である富竹ジロウと合流できた。これもかなり良い。殺し合いの場で信頼できる人間は貴重だ。
 超能力者である磯崎蘭と合流できた。これも良い。信頼はできないが特殊な力自体には使い道がある。

(この三人までなら車にも乗れるしいいのだけれどもね。)
「あの二人も参加者だろうね。銃を持っているが……君たちはここにいてくれ。」

 そう言う富竹の視線の先には、彼が乗ってきた軽トラと二人の人影がある。
 遠目だがそれが高橋大地と白井玲の二人だとわかった梨花は、どう対応すべきか悩んでいた。
 前のループで学校の集団の仲間だった二人の人となりは一応はわかっている。全く知らない人間よりかは信用はできるのだが、状況が状況だった。
 今の梨花は、学校において殺される運命にある明智吾郎を助けるために急がなければならない身だ。富竹と蘭という早めに合流しておきたい人間と会えたから悠長に情報交換しているが、できるのなら今すぐにでも学校に出発したい。ここで二人と初対面として会い、自己紹介や情報交換する余裕は無い。
 しかし、では二人を無視するのかというのも難しい話だ。よりによって二人は梨花が使いたい富竹の車の近くにいる。この異様に静かな町で車など動かせば目につくのはわかるが、だからといってうざったいことには変わりない。そして富竹も大翔も、性格的に彼らを放っておくはずがない。

(合流は避けられない。なら、せめて移動しながら話をするように持っていくしかないわね。)
『蘭、このままじゃ学校に行くのが遅れるわ。富竹に車を出させるようにさせるから協力して。』

 梨花が蘭に目で合図しながら、頭の中で言葉にする。梨花にテレパシーの能力は無いが、蘭は高い感応能力で条件が整えばテレパシーも可能にする。少し難しい顔をしたあと、梨花の頭にも言葉が聞こえてきた。

『わかったけど、どうするの?』
『一つのところにいたら危ないやつに見つかるかもって言うわ。富竹なら場所を変えようと言い出すはずよ。車さえ出させれば学校に向かわせられる。』
(また二人で見つめ合ってる……)

 なお、テレパシーは傍受される可能性もあるのだが、そういうセンスがあまり高くない大翔からすると二人で目配せしているようにしか思えなかった。
 仕方がないので富竹の方を見る。大翔から見てもやけに無警戒に車の二人へと近づいていくのでヒヤヒヤするが、案の定声をかけたとたんに銃を向けられている。動じていないのは神経が図太いのか何か策があるのか。後者であってほしい。

「あ、こっちに来る。」
「みー。怖い人じゃないですよね? ぶるぶるなのです。」
(コイツのキャラはなんなんだろう。)
「おまたせ、二人を連れてきたよ。君たちも入って、どうぞ。」
「「おじゃましまーす……」」

 なにはともかく、富竹は無事に二人を連れてきた。男子二人に少しホッとする。同年代が女子だけで気まずかったのだ。


665 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/26(月) 03:11:33 ???0

(あれ?)

 大翔はその顔を見た途端になにかデジャヴのようなものを感じた。たぶん、二人とも初対面のはずである。なのになぜか初めて会った気がしない。
 もしかして有名人とか、なんかのバラエティ番組の一般人が出てくる的な企画で見たか?と記憶を辿るが全く思い当たるフシがない。が、まあ別に思い出さなくてもいいような感じのあれだろうと思い直した。それよりも話しておきたいことがある。

「お疲れ様です。それでいきなり──」「お疲れ様なのです。それで富竹──」
「あ。悪い、先どうぞ。」

 梨花と被った。なんかコイツとは噛み合わない。

「ありがとうなのです。それで富竹、ここから離れた方が良いと思うのです。」
「あ、それ今言おうとしたやつ。」

 あ、噛み合った。

「ああ、実は僕も戻ってきたらその話をしようと思っていてね。今回は彼らのように話し合いに応じてくれる人だったけれども、そういう人だけとは限らないし、場所を変えようと思ってたんだ。」
「みー、そうだったのですか。」
「と言うわけで、二人が来てそうそうだけどみんな車に乗ってくれ。4人、荷台に乗ってもらうことになるけど……ジャンケンか何かで決めてね!」
「いや、荷台でいいですよ。」「こっちも。」「うん。」「あ、わたしも。」「じゃあぼくも。」
「あれ、助手席誰も乗ってくれない流れ?」
「富竹かわいそなのです。じゃあ乗ってあげるです。」

 道路交通法をぶっちぎって軽トラに乗り込む男子小学生3人と女子中学生1人。とてもお子様に見せられない状況である。
 シートベルトも何もない車が走り出し、荷台のメンバーがひとしきりざわめいた後、自然と情報交換となった。

「じゃあお前らもなんかヤバイものに追いかけられる経験してるんだな。」
「小学生ってなんで追いかけられるんだろうね。」
「今度は殺し合いだもんな……」
「子供を命がけの状況に追い詰めたいやつがいるんだろう。そういえば、磯崎さんは何かに襲わたりしたことないんですか?」
「え、無いよそんなの。ちょっと学校の先生された悪いことしてたとかそのぐらいで。」
「生々しいな……」

 盛り上がるのは鉄板の命がけトークだ。男子は3人とも何かとんでもないものに追いかけられた経験があるので、命がけあるあるが飛び交う。それぞれ中々人に話す機会が恵まれなかったので、やれ準備運動しないでいきなりダッシュはキツイだの、イメージ通りに体を動かすには日頃かのトレーニングが大切だのと今まで温めていたネタを開陳していく。
 なお、3人とも互いの言っていることは本当だと信じていた。なにぶん人に説明しにくいことだったので、無条件に信じてくれる相手をやはり無条件に信じてしまう。
 そんな3人のトークについていけない蘭も、元々聞き役もできるタイプなのでなんとなく話に混じっている。が、3人よりは周囲に目を配っていたので、いち早くそれに気づいた。あの学校だ。
 梨花たちに声をかけようとして、車がそちらへと向かう。どうやらあちらも気づいたようだ。とにかくこれで明智吾郎さんを助けるのに間に合った。そう思いながら校門まで来て、校門から1人の少女が走り出してきた。

(あれ? これって。)
「今だ!!ヴァイオレット君!!逃げて!!」
「間に合ってない!?」

 そして校庭で、1人の男性の首から血が吹き上がるのを目にした。
 そしてそのすぐ後。

「なにっ、オオカミ!?」
「ライオン!!?」
「クマッ!!??」
「「「ガオオオオオッ!!!」」」
「なにっ。」「なんだあっ。」

 突如として校庭にオオカミとライオンとクマが現れた。


666 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/26(月) 03:12:12 ???0



 化物が跳梁跋扈し、魑魅魍魎が会場を練り 歩くこのバトル・ロワイアル。
 北部の森林地帯では一頭の動物が注意深く地面の匂いを嗅いでいた。
 その名は、ロボ。狼王と名高いべらぼうにスゴいオオカミである。
 開始一時間で首尾良く四道健太を倒した彼は、その場からすぐに離れ次の標的を探していた。
 あの爆発はなかなかに大きいものであり、近くにいた自分にも臭いが着いてしまっている。留まっていては銃の的だ。今後のことを考えれば死体を喰うという選択肢もあったが、殺さなくてはいけない相手に人間が多いようなので、警戒されないためにやめておく。狼であるということのメリットを活かして立ち回る気だった。
 しかし、どうだろうか。この臭いは。妙な人間臭さが混じっているが間違いない。グリズリーの臭いだ。
 人間で言う舌打ちに類する唸り声を小さく上げて、ロボは思案する。この生き物の気配無き死んだ森にグリズリーがいるかと考えれば、ノー。今まで見た生物は先程殺した人間だけ。となると、嫌な想像をせざるを得ない。
 この戦いにはグリズリーが参加させられている、と。
 ロボはすぐに臭いを追い始めた。ある意味人間よりも手強い相手である以上、とにかく先手を取らなくてははじまらない。ただ、先んじて奇襲しても勝ち目が薄いのも理解している。
 通常、オオカミはグリズリーを襲わない。攻撃力、防御力、運動性、戦いにおいて重要なそれらの三要素においてどれも分が悪いからだ。アイヌ犬のようにヒグマに対しても勇敢に立ち向かう仲間の種もあるが、しかしそれは決して賢明な行動ではない。オオカミが集団で襲いかかってもなお返り討ちに合うのが、グリズリーなのだ。
 しかし、ロボはグリズリーを討つ算段を組み立てつつあった。
 たしかにグリズリーは強敵だ。オオカミの牙はその毛皮を貫けないのに対して、グリズリーは爪の一撃でさえ容易にオオカミを絶命させる。しかし、グリズリーとて人間の銃ならば殺しきれるであろう。特に先程の爆発する銃ならば、どのような生き物であろうと無事ではいられまい。
 そうして注意深く臭いを追跡して、ロボは自分の想像よりも早くグリズリーを見つけた。それは時間という意味よりも、距離という意味で。

「グアアァッ!!」

 ロボは反省した。この赤い霧は彼の想像よりも鼻を効かなくさせていた。正確に言えば霧というよりは風がないことが原因なのだが、それを考えてもなお、急激に臭いが強くなりグリズリーの至近距離まで近づいてしまっていた。そして、同時にロボの臭いも嗅ぎつけられてしまう。グリズリーの嗅覚はオオカミの数倍に達する以上、両者が互いに気づいたのはほぼ同時だった。
 ロボは一目散に駆け出した。グリズリーと正面から闘う愚はおかさない。予定通り人間にぶつけるためにもここは背を向ける。
 当然、グリズリーはロボを追う。だがそれさえもロボの計算の内だ。
 ロボがグリズリーに対して有利な点は四つ。一つはスタミナ。グリズリーに比べて長距離を高速で走ることのできるオオカミは持久走ならば負けはしない。一つは機動性。泳ぎや木登りのような特殊な動きは不得手でも、単純に森をかけるのであれば一歩秀でる。そしてこれはロボ特有のものだが、知性。人間すらも手玉に取るその類まれなるインテリジェンスは、ホモ・サピエンス以外に遅れを取ることはない。
 その知性で、ロボはグリズリーの執念深い習性も理解している。一度挑発すればどこまでも追ってくるだろう。
 今ロボの視界に見えてきた、人里まで!


667 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/26(月) 03:12:41 ???0

「グアアァッ! ガアオッ!」

 咆哮を上げ迫るグリズリーを撒かないように気をつけながら、ロボは人里までトレインする。人間がいるとは限らないが、少なくとも森よりはいる可能性が高いだろう。それに、この臭い。近づくと急激に強くなった、銃の独特な臭い。そこに第四の強みが、体の小ささというアドバンテージがあれば、充分にグリズリーを狩れる。
 ロボは理解している。自分よりも体の大きいグリズリーはより見つかりやすく、より銃に撃たれやすいと。
 チラリと後ろを振り返り、しっかりと着いてきているのを確認すると、ロボは残していた足を使った。勢いを上げると、体の小ささを活かしてフェンスの下に開いた隙間から滑り込む。それは奇しくも、前のループで磯崎蘭が同様に追われてスライディングで通り抜けたところ。だがロボは壁面を駆けるのではなく、窓ガラスへと突っ込んだ。ハデな音を立ててグリズリーに気づかせる。そしてフェンスを突破するのに手間取るグリズリーを撃たせる。瞬時に考えついた策であった。

「ガオッ!?」
「ワウッ!?」

 しかし、瞬時に考えつくような策に穴はつきものだ。窓ガラスをぶち抜いて突入したのは、学校。そして前のループでいたのは、ライオン。

「ガアオッ!」
「グアァッ!」
「バアウッ!」

 フェンスをあっさり突破し校舎に取り付いたグリズリー。それに驚きロボとライオンは反対側の窓ガラスをぶち抜いて校庭へと逃げる。もちろんグリズリーも校舎を経由して校庭へと追跡する。

「今だ!!ヴァイオレット君!!逃げて!!」

 そして、前回同様にそこには明智吾郎により逃されたヴァイオレット・ボードレールが校門から逃げ出そうとしていて。それを追うべく芦川美鶴が体育館から校庭へと現れて。

「なにっ、オオカミ!?」
「ライオン!!?」
「クマッ!!??」
「「「ガオオオオオッ!!!」」」

 思わず素で驚きらしくない声を上げるミツルと、校庭に現れ出たロボ、ライオン、グリズリー。互いが互いを牽制しあい、四角形になって睨み合いになる。

「なんだ……動物園から逃げてきたのか? 首輪を付けているということは、参加者なのか? なんでバトル・ロワイアルに動物を参戦させたんだ? これでは殺し合いじゃなくなるんじゃないか……?」

 人間vsオオカミvsグリズリーvsライオンの異種格闘技戦のゴングが、ミツルのつぶやきとして校庭に響いた。


「この少女は……?」
「良いタイミングね、悪いタイミングとも言えるけれど! 車を出して!」
「え、英語!? だ、誰かわかる?」「俺ら小学生ですよ、蘭さん中学生なんだからなんとかしてくださいよ!」「わ、わたしリスニングはちょっと……」

 一方校庭では少女が言葉の壁に直面していた。


668 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/26(月) 03:13:11 ???0



【0100過ぎ 学校】


【古手梨花@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 今回のイレギュラーを利用して生き残る。
●中目標
 自分が雛見沢からいなくなった影響を考えて手を打つ。
 特殊な経験、または超常的な力を持つ参加者と合流する(でもあんまり突飛なのは勘弁)。
●小目標
 学校に行って明智をミツルから助けられませんでした……けっこう時間シビアだったわね……

【富竹ジロウ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 民間人を保護し、事態を把握する。
●中目標
 巻き込まれている知り合いを捜索する。
●小目標
 外国人の少女(ヴァイオレット・ボードレール)から話を聞き、動物たちから逃げる。

【磯崎蘭@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 何が起こっているか調べて、解決して家に帰る。
●中目標
 今度は翠を死なせない。
●小目標
 学校に行って明智さんをミツルから助けられませんでした……ど、どうしよう……

【大場大翔@絶望鬼ごっこ きざまれた鬼のしるし(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 前回(出典原作)と同じ鬼のしわざなのか……!?
●小目標
 この少女の目的は……?

【ロボ@シートン動物記 オオカミ王ロボ ほか@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残り、縄張りに帰る
●小目標
 グリズリー(ヒグマ)と人間(ミツル)と謎の獣(ライオン)で狩らせあわせる。

【ヒグマ@猛獣学園!アニマルパニック 最強の巨獣ヒグマから学校を守れ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
 襲ってくるヤツを狩る。
●小目標
 犬(ロボ)を狩る。

【ライオン@猛獣学園!アニマルパニック 百獣の王ライオンから逃げきれ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 襲ってくるヤツを狩る。
●小目標
 熊(ヒグマ)から逃げる。

【芦川美鶴@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 ゲームに優勝し、家族を取り戻す
●小目標
 目の前の動物(ロボ・ヒグマ・ライオン)を殺し、逃げた少女(ヴァイオレット・ボードレール)を追う。

【ヴァイオレット・ボードレール@世にも不幸せなできごと 最悪のはじまり(世にも不幸なできごとシリーズ)@草子社文庫】
●大目標
 このゲームから脱出する。
●中目標
 1.首輪解除に必要な道具を発明する。
 2.自分に配布された支給品の隠し場所へ行く。
●小目標
 目の前の人たちと避難する。


669 : ◆BrXLNuUpHQ :2022/12/26(月) 03:14:36 ???0
投下終了です。
タイトルは『百獣之王決定戦』です。
それでは良いお年を。


670 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/01(日) 00:00:05 ???0
新年あけましておめでとうございます。
投下します。


671 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/01(日) 00:01:10 ???0



 数百人が参戦するこのバトルロワイアル。その参加者の行動は様々である。
 ある者は主催者の打倒を決意した。
 ある者は殺し合いに乗ることを決断した。
 ある者はうっかり首輪を外そうとして即死した。
 ある者はどこからか飛んできた銃弾で即死した。
 ある者はマーダーにエンカウントして即死した。
 ある者は話の冒頭で登場してすぐさま即死した。
 十人十色を超えて百人百色の参加者たち。
 その中でも特異な境遇の参加者もいる。

 その代表例は、上弦の陸。妓夫太郎と堕姫の二人である。
 この二人、そもそもやたら死ににくい鬼であるが、その中でも特異な、片方が頸を撥ねられてももう片方が健在なら死なないという特徴がある。
 この特徴、バトルロワイアルと極めて相性が悪く二人は参加者から外されることとなった。
 例えば堕姫が首輪の作動により脱落するとしよう。しかし、妓夫太郎が健在なら堕姫は再生する。その結果生まれるのは首輪の無い参加者だ。
 首輪を使って脱落させようとすると首輪を解除した参加者が生じてしまう。したがって二人同時に首輪を作動させなくてはならないのだが、殺し合わせている二人を片方を殺すために両方殺すというのは趣旨に反する。面倒なその特性さえなんとかなればいいのだが、主催者側にそんな技術を持つ者はいない。
 よって主催者は堕姫と妓夫太郎を含む十二鬼月を参加者から外すこととした。なんかこう、他の鬼もそういう面倒なアレがあったらヤバそうなんで、とりあえず全員外せばいいだろうという判断だ。実際はそれを口実に主催者の一部が戦力を私物化しようとしているのだが、そんなことは参加者には関係ない。ようは、ロワを破綻させかねない参加者は他の参加者候補と交代となったのだ。
 さて、こうなるとまた一つ問題が生じる。交代となった参加者は、基本的に交代した参加者と同じ位置にスポーンするのだが、実はそうとも限らない。同じ参加者ならば同じ位置にほぼなるが、そうでなければ割とズレる。そしてズレた場所が空中や海中などになってしまう場合改めてスポーン位置を決定する。つまり、元の参加者が崖っぷちや船の上などの場合、新しい参加者はどっか行く。その結果。

「「わ、わたし……!?」」

 ここは会場内にある豪華客船。
 なんで殺し合えって言ってるのに豪華客船があるんだよと思うかもしれないが、せっかく殺し合うんだから色んな施設が欲しいというのが人情だろう。
 ともかく主催者の悪ノリで用意された豪華客船に、参加者は二人だけいた。元はもう少し人選も考えて配置されていたのが、参加者の変更の結果一人だけになってしまうので、せめて誰かもう一人は配置してせっかく用意した豪華客船で殺し合ってほしいと思ったのだ。
 というわけで、竜堂ルナは二人いた。

 豪華客船の廊下で、二人の少女がおずおずと互いに近づく。
 同じ顔、同じ目、同じ鼻、同じ口、同じ背格好だ。
 伸ばす手も鏡合わせのようになり、触れ合った途端にビクリと互いに手を引く。
 なにせ二人はどちらも竜堂ルナなのだ、当然リアクションも同じになるのだった。


672 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/01(日) 00:19:25 ???0

 いやなんで竜堂ルナが二人いるんだよ、同じ参加者がいるっておかしいだろ、それコミカライズのおまけマンガのネタだろうと思う方もいるだろうが、まま、そう焦んないでよ。
 この殺し合いでは同じ参加者は割といる。四宮かぐやは二人いるし、おそ松さん一家などそもそも主催者も誰が誰なのかちょっとあやふやだ。
 これは時間軸の違う出典なら別人として扱うからだ。簡単に言えば二人の四宮かぐやはそれぞれ並行世界の人間であるし、おそ松さん一家も同様である。
 そして竜堂ルナも同様であるのだが、この二人の場合は少し事情が違う。この二人、並行世界でほぼ全く同じ歴史を辿っているのだ。
 実はこの二人、フォア文庫妖界ナビ・ルナの竜堂ルナと講談社青い鳥文庫版の竜堂ルナは、この時点で歩んできた人生に差異が殆ど無い。この二人の人生に違いが現れるのは、彼女たちが参加したタイミングから人間界の時間で2年の時を要するのだ。

「「あ、あの……あなたは?」」
「「あ、わたしは竜堂ルナです。」」
「「え? え?? えーっ!?」」

 全く同じタイミングで話し、全く同じリアクションをする。主催者はこれを見たくて二人を同じ初期位置にしたのだ。

 そして、6時間が経った。

「ねぇ、船の動かし方ってわかった?」
「ううん、そっちのわたしは?」
「ううん、わたしも……」

 主催者は考えていなかった。小学校中退の女児二人を豪華客船に配置しても船を動かす手段がないことを。最初の出会いだけの出オチにしかならないことを。
 元は上弦の陸vs伝説の子を期待しての配置だったが、そのマッチアップが崩れてしまったのなら、そして温厚で専門知識の無い同一人物を船に載せたのなら、何も起こらないのだ。

「ねぇ、本当に殺し合いなんてしてるのかな?」
「わからない。この船、わたしともう一人のわたししかいないよね?」
「うん。もう一回第三の目を解放してみる?」
「そうだね、やってみよう。」

 その後も色々やってみるが、別に何もイベントが起こったりはしない。この豪華客船、もちろん地対空ミサイルや対潜機雷などは配置されているのだが、もちろん児童文庫の主人公がそんなものに手を出すわけもなく、武器のほかは魔術的な何かもないのでひたすら無駄な時間が過ぎていく。せめて船を動かすか陸から参加者が来てくれればいいのだが、二人は船に火を放ったり爆破したりはもちろんしないので、豪華客船に気づいた参加者もわざわざここに来ようとはしないのだ。

「……おなか減ったね。」
「うん……」
「なにか食べよっか。」
「あ、あっちに鉄板焼きの鉄板あったよ。」
「じゃあ焼きそば作ろうよ、得意なんだ!」
「わたしも!」

 二人が数十人の死者の名前を放送で知るのは、この1分後のことである。


673 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/01(日) 00:22:19 ???0



【0559 海上・豪華客船】


【竜堂ルナ@妖界ナビ・ルナ(10) 黄金に輝く月(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める
●小目標
 焼きそば作ろう!

【竜堂ルナ@妖界ナビ・ルナ(10) 黄金に輝く月(妖界ナビ・ルナシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める
●小目標
 焼きそば作ろう!


674 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/01(日) 00:22:59 ???0
投下終了です。
タイトルは『わたしがわたしを見つめてました』になります。
今年もよろしくお願いします。


675 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/01(日) 01:02:16 ???0
言い忘れてました、竜堂ルナさん誕生日おめでとうございます。


676 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/05(木) 04:07:33 ???0
投下します。


677 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/05(木) 04:08:24 ???0



 西塔明斗はサイキッカーである。
 サイコメトラーとして、触れた相手の心を読むことができる。
 しかしさすがにこんな殺し合いを開いた珍獣の考えを推察することなどできなかった。

「いったい何が目的でこんなことしてんのかねぇ。」

 駅のホームの椅子に体を投げ出し、空を見上げる。空は赤く、視界の隅に見える看板には日本語のようで日本語でない文字が書かれている。
 これが超能力で作られた空間なのかはれとも幻覚なのかは区別がつかないが、とにかくろくでもない状況だということはわかった。
 あらためて周囲を見渡す。さっきの珍獣の演説の場には、自分を含め相当な人数がいた。記憶はやけに曖昧だが、だいたいは明斗と同じ学生だったように思う。そして珍獣に襲いかかった連中、あれもおそらくは明斗のようなサイキッカーだろう。でなければあんな風に反応はできない。で、大事なのは自分の知り合いが巻き込まれているかだ。
 明斗の通う東都学園は、表向きはセレブ向けの私立だがその実はサイキッカーを集めた学校だ。遺伝や環境やらでサイキッカーというのはある程度生まれやすさというものがある。そういったサイキッカーの界隈が集まり、サイキッカーならではの生きづらさを子弟が抱えないように、というのがお題目だ。実際はサイキッカーよりもカモフラージュ用の富裕層の生徒のほうが多いのだがそれはともかく、明斗はサイキッカーを集め『ウラ部活』というものを主催していた。
 サイキッカーの能力は基本的に証拠が残らない。そのためトラブルが起きれば自力救済もやむなし 、となるのだがそんなことを個人でやるのはもちろん酷だ。しかも一貫校なので中学3年生が小学1年生をサイキッカーでイタズラ、なんてこともできてしまう。他ならぬ明斗やウラ部活のメンバーも、自身や親しい人間がそのような被害にあったことから創部した身だ。
 とはいえさすがにこの規模のサイキックはお手上げだ。前は洗脳能力っぽいサイキッカーとゴタったが、今回はまるで能力の内容が読めない。前回のような洗脳か、夢を見せる幻覚能力か、自分の理想の領域に引きずり込む結界能力か。おまけにこの首輪。これはなんなのか。これも一つのサイキックのうちなのかそれとも別なのか。考えるべきことが規模が大きすぎて手のつけようがない。

(とにかく、部活のメンバーが巻き込まれている可能性は高い。家族もな……合流の宛もないし、地図に書いてる文字も読めないし、どうするか……)

 自分でもらしくないなと思いながら、端正な顔を曇らせて、空を見上げて考え込む。と、その耳にかすかに音が聞こえてきた。目を横に向けると、遠くから光がだんだんと大きくなってくる。電車だろうか。

「まずは、他の参加者から話を聞いてみるか?」

 色々考えた末に出した結論はいつもどうりのものだった。明斗にとってサイコメトラーとしての能力は確かに特異なものだが、別にそれ頼りというわけではない。むしろ一番得意なのはコミュニケーション、特に女の子とだ。なぜなら。

「顔がいいっていうのはどういう時でも得だよな♪」


678 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/05(木) 04:08:53 ???0

 彼はイケメンなのだ。
 身長高い、頭良い、運動もできて、顔も良い。
 ハッキリ言って勝ち組だ。死角はない。
 明斗は立ち上がると、近くの自販機を姿見代わりに身なりを整えた。人と会うには第一印象から、スマートな少年として運命的な出会いをする。保守的なオジサンにはウケが悪いが、髪もアクセサリーも、全てねらったJCなら落とせるだけの用意はしている。
 ショータイムだ。停車した電車の扉が開くと同時に乗り込む。駅に落ちていた武器は、拳銃だけズボンに差し込み手ぶらだ。会話さえできるのならそうそう撃たれるものでもない。
 車内に足を踏み入れると、息を呑む気配がした。小学生ほどの女の子だろうか。ちょっとメイ子に似てるなと部活の仲間を思い出しながら「こんにちは」と声をかけた。

「こ、こんにちは。あの……」
「ああ、参加者だよ。君も?」
「は、はい。あの! 星降奈って言います。えっとその、なんていうか。」
「西塔明斗。明斗って呼んで。友達を探してるんだけど、会わなかった? 同じ制服着てるんだけど。」
「すみません、明斗さんが初めてあった人です。それで、あの、こ、殺し合いって……」
「ああ、なんか言ってたね。イヤだねぇ、そういう野蛮なの。一緒にサボらない? 誰も殺したり殺されたりなんてしたくないでしょ。」
「ほんとうですか! はい! わたしも実は、戦いをやめようって思ってて。」

 ほら、上手く行った。明斗は内心も外面もニンマリとした。まずは一人だ。
 少し前までは怯えた様子だったのが一気に明るい顔になったのを見て、明斗は手応えを感じた。

 明斗が出会ったフルナもどうやらサイキッカーのようだった。用語や東都学園についての知識に差はあるが、別に珍しいことでもないので気にしない。なにぶんしっかりとした組織というものが無い界隈なので、多少のバラツキは常だ。

「電気をあやつる異能力者、か。スマホとか外で充電できそうだね。」
「ぜんぜんそんなことないですよ。この間もバチッとやって家電を壊しちゃって。」
「それでフリースクールに行ってるんだ。いや、知らなかったわ、東都以外にもそういう所あるって。」
「明斗さんの学校って、異能力者の学校なんですよね?」
「うーん、そうとも言えるし、そうでもないとも言える、かな。そのへん色々説明すんのタルくて──ああ、次の駅だ。」

 最初に会った他の参加者としては当たりだろう。フルナからは他の信頼できそうなサイキッカーの情報も手に入った。明斗としては、残留思念を読み取るという居想直矢なる中学生とは特に話してみたい。同じタイプのサイキッカーというのが気になるポイントだし、そうでなくても彼の能力はこのバトルロワイアルで大きく役に立つだろう。
 電車の減速するGを感じつつ、明斗は立ち上がる。ここまではパーフェクト。後はヤバい敵とエンカウントしないことを祈る。この駅で降りるかどうか、状況を見定めなければならない。
 微かな音を立てて電車が完全に停止すると、開いたドアから油断なく、しかしそれをフルナに悟られぬように降りた。ホームに人はいない。いや、いた。人じゃないが。

「い、犬?」
「わぁ、かわい……くない。ちょっとこわい……」


679 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/05(木) 04:09:28 ???0

 黒くてデカい犬がいた。思わずカッコ悪い声が出たがこれは仕方がないと思う。だって犬だもん。思いっきりあからさまに犬が、自分たちと同じように首輪を着けてお座りしている。あれも参加者、なのだろう。

「まあ、あんな変なモフモフが開いたバトルロワイアルなら犬がプレイヤーでもおかしくないのかもしんねーけど……なんで犬と殺し合わせようなんて思ったんだ?」
「キミも誘拐されちゃったの?」
「フルナ、あんま近づかないほうがいいぜ。」
「はい。でも、この子なんだか悲しそうです。」
「犬なりにわかってるのかもな。いや、そんわけ、あるのか? コイツもサイキッカーだったりして。」
「そうだ、明斗さんの異能力でこの子のこと、わかりませんか?」
「……噛まないよな?」
「たぶん。」
「たぶんかぁ……」

 犬は明斗たちの話がわかっているのかいないのか、変わらずお座りしている。と、後ろでドアが閉まる音がした。あっと思うがもう遅い。犬について話している間に電車は出発してしまった。

「やるしかないな。おーいワン公、噛まないでくれよな。殺し合いになんて乗ってないんだからさ。」

 やむを得ない、明斗は呼びかけながら犬に近づくと体に触れた。頭を触ろうとすると嫌がったので背中に手を回す。顔が近づいてしまいちょっと怖いが、そこしか触らせてくれそうにないので仕方がない。さて……

「さすがに犬だと何考えてるかわかりにくいな。えーっと、まずは名前は……カザン、か?」

 ピクリと犬ことカザンの体が震えたどうやら当たりらしい。

「なんだ、めちゃくちゃ読みにくい……名前だけしか読み取れない……あ、読める、これさっきの話か。お前、さっき何言ってのかわかるんだな。」
「どうですか、カザンちゃん?」
「コイツ、スッゲーかしこいよ。こんな賢い犬触ったことない。だいたい食べたいとか寝たいとかなのに、コイツは誰かを探したいって思ってる。女の子だ……竜堂、ルナ?」

 ワフ、とカザンは小さく吠えた。竜堂ルナなる女の子を探しているらしい。

「お前の飼い主か? ハチ公みたいな犬だな。どうする、一緒に来て探すか? お前の心も少しはわかるぜ?」

 明斗の問いかけに、カザンは再び小さく吠えた。そして明斗から離れるとホームから出ていこうとする。ついてこいと言わんばかりに明斗達を振り向いた。

「すっごくかしこいですね、あの子。」
「ドーベルマンは賢いって言うしな。じゃ、行こっか。」
「はい。」

 更に当たりを引いた。そう思って明斗はフルナと共にカザンの後に続いた。


(──当たりだ。こいつらに竜堂ルナを探させる。タイもルナを探すだろうし都合が良い。)

 彼らは知らない。犬だと思ったカザンは、妖怪であることを。
 彼は二人の話から明斗が読心術を使えると察すると、いつでも殺せる体勢をとらせてわざと心を読ませた。そして、彼と彼の相棒であるタイが命を狙う少女、ルナを探させるように誘導した。
 ルナを探す過程でタイを見つけられればそれで良し、見つけられずともルナを殺せれば一応良し、という考えだ。
 そしてこのカザン、前のループと違うところがある。それは服毒していたはずが解毒されていたということだ。
 元々カザンはルナ抹殺のために刺し違える覚悟で猛毒を飲んでいたが、今回はそれが無い。僅かな寿命のために無差別マーダーをやらせるよりも、頭を使わせてマーダーないし危険対主催でもやらせた方が結果的にロワのためになる、という主催の判断によるものだ。

(それまで利用させてもらうぞ、小童ども。)

 カザンが秘めるのは決死の殺意。それを誰にも読み取らせる気などなかった。


680 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/05(木) 04:10:37 ???0



【0010 都市部・駅】


【西塔明斗@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?(サイキッカーですけど、なにか?シリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 知り合いが巻き込まれていないか調べる。
●中目標
 フルナを守る。
●小目標
 竜堂ルナを探す。

【星降奈@異能力フレンズ(1) スパーク・ガールあらわる! (異能力フレンズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないけど誰かが傷つくのはイヤ。
●中目標
 明斗さんと一緒にいる。
●小目標
 竜堂ルナを探す。

【カザン@妖界ナビ・ルナ(5) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 タイと合流する。
●中目標
 竜堂ルナを殺す。
●小目標
 明斗とフルナを利用する。


681 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/05(木) 04:11:37 ???0
投下終了です。
タイトルは『能力列車(スキルトレイン)』になります。


682 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/09(月) 00:00:24 ???0
投下します。


683 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/09(月) 00:01:09 ???0



 村瀬司は困っていた。
 目の前には泣きじゃくる男の子。
 そして変な霧と空。
 あとさっき見た夢。
 そして。

「ここ、どこなんだよ……」

 自分は迷子ときた。
 これには途方に暮れる他ない。
 目が覚めたら見知らぬバス停のベンチに寝ていて、しばらくあたりを散策していたら同じように迷子になって泣いている子供と出会う。もちろんこんな経験は初めてだ。ここが死後の世界的なものだと考え始めたところで他人に会えたことは単純に嬉しかったが、これはいかがなものか。

(夢、なのか? こんなゲームみたいなことが起こるなんて。とにかく、あの子を放っとけないよな。)

 つかさはただの男子中学生である。顔は良い方だし運動神経だってバスケ部の副部長を務めるぐらいなので悪くはない。だが決して常識離れした身体能力も、子供とは思えない精神力も持ってはいない。
 これが他の参加者ならば多かれ少なかれ命がけの状況も、不思議な力も知ってはいるのだが、つかさはどこまでいっても一般人だ。
 人並外れたところと言えば、せいぜいが人の良さぐらいだろうか。性格が良いので人気はあるが、そのせいで損することもあるような、まあつまりただのイイ奴である。

「え〜っと、君、名前は言える?」
「うう……高橋、蓮……」
「レンか。俺は村瀬司。なあ、俺さ、今迷子なんだ。一緒に人を探すのを手伝ってくれないか?」
「……うん。」
「よし! 行こっか!」

 つかさは膝を折ると、蓮の顔を下から見上げるように言う。コクリと頷いたのを見てると、手を取り歩き出した。小学校低学年ぐらいだろうか、こんな小さな子どもを放っておくという選択肢は無い。
 小さな手は熱く、握ればギュッと握り返してくる。その感触に、ホッとしていた。一人でないことがこんなにも安心感があるなんて。

「あ、あったぞ! ほら、交番だ!」
「おまわりさんいるかな?」

 そして安心感は冷静さを連れてくる。
 霧に隠れて見えずらかったが、少し離れたところに交番を見つけた。指差して蓮へ見せると、二人で早足に進む。
 辿り着いた交番は、無人だった。テーブルの上には、電話器。それ以外はポスターぐらいで、使えそうな物は無い。そのことに心細くもあるが、何はともあれ交番というのは勇気づけられる。このままここでおまわりさんが帰ってくるのを待つのがいいだろう。

「電話しかないのか。他に何かないか?」
「ムラセ、鍵かかってる。」
「留守なんだし、そうだよなあ。」
「ムラセ、こっちも。」
「やっぱり開くわけ、あ。」

 いちおう奥への扉や机の引き出しも開けてみようとするが、しっかり鍵がかかっている。と、机の下に何かあるのが見えた。引っ張り出そうとしてその重さに驚く。何だこれはと思いながら引きずると、出てきたのはやけに太い形の銃だった。
 グレネードランチャーである。


684 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/09(月) 00:03:12 ???0

「な、なんだこれ……ハリウッド映画に出てくるやつみたいだな……」
「かっけー!」
「……これ、銃なのか?」
「ムラセ! トビラこわそうぜトビラ!」
「いや、ダメだから!?」

 このロワの参加者には扉などお構い無くぶっ壊す者も多々いるが、もちろんつかさはそんなことはしない。よしんばするとしても交番のドアはハードルが高い。

「そ、そうだ、電話しよう。これまだ使ってなかったな。」

 話をそらすために一応電話をかけてみる。ちょっとその存在を忘れていたが、早く警察に通報したほうが良いだろう。そう思いかけるも、しかし繋がらない。家や友人にもかけるが同様だ。念の為に彼女であるほのかにもかけようとして、手が止まる。

「ムラセ、どうしたの?」
「なんでもない。どこにもつながらないんだ。」
「110番できないの?」
「ああ、どうしよう……」

 つかさの言葉を聞いて蓮の顔が曇る。なにか励ましの言葉をかけようと思うが、何も思いつかない。さすがにデスゲームに巻き込まれた小さな子供にかける言葉というのは直ぐには思いつかなかった。
 それでも何かないかと思いながら視線を色々とさまよわせる。
 するとポスターに並んで地図があるのに気づいた。が、文字が読めない。文字化けしたかのような変な字が書かれている。まるで夢の中で読んだ字のようで、むしろ違和感を覚えない。それより気になったのは、赤く印をつけられた交番らしき建物の近くにある大きな建物だった。その形には見覚えがある。学校だろう。

「学校かな。もしかしたら誰か避難してるかもしれない。」
「学校?」
「ああ、交番は留守でも、学校なら人がいるかもしれないぞ。」

 つかさは膝を折ると蓮に語りかけた。とにかく不安な気持ちをなんとかしてあげたい。それにつかさ自身、蓮同様に不安を感じている。
 蓮が手を握ったのを確認すると、つかさは学校へ向けて歩き出した。地図を見た限り大まかな方向と距離はわかる。角を一つか二つ曲がると、直ぐに校舎の影が見えてきた。霧さえなければ交番からでも学校は見えるだろう。


「よし、行った。」

 つかさと蓮の二人が行くのを、アキこと井上晶子は近くの建物の影から拡声器片手に見送った。
 アキは数名いるループ前の記憶を持つ人間の一人である。時間も空間も日本とは思えぬかがみの孤城という異世界での経験の賜物だろうか。といってもそれは夢の中の出来事のようにおぼろげで、既に本人も思い出せないが、それでも開始直後に一つだけ記憶に残っていたことがあった。
 拡声器を使うと学校の校門で撃たれる。それだけである。
 アキ本人もそれがなぜそうなるかはわからない。ただ、夢の中で自分がそれに強いショックを受けていたから、という理由である。だが正夢のように、学校近くの交番には拡声器があった。慌ててそれを持ち去ると、少しして校門で死んでいた少年が交番に来る。こんな状況なのにやけに冷静に行動する自分に驚きながらも、とにかくこれで夢と展開が変わった、彼女が安堵したその時。

 ぱらららら。

「な、なに? 銃の音?」

 イヤな音が響いた。慌てて音のした方へ向かう。そこには。

「な、なんで……」

 積み重なる四つの死体があった。


685 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/09(月) 00:06:10 ???0



「また鬼ごっこか……しかも今回は殺し合えだなんて……まずいよ、ふだんよりかなりまずい。」

 教室に響く愚痴の声。
 櫻井悠は校舎の中で拳銃片手に頭を抱えていた。
 彼は幼なじみの大場大翔や宮原葵と一緒に、この一年何度も鬼ごっこに巻き込まれた。思い返せば最初の鬼ごっこの時も、今のように赤い霧に包まれた赤い空の下の学校が舞台だった。違いがあるとすれば、今回は一人きりでのスタートで首には物騒な首輪がつけられていることか。

「前回よりもヤバイじゃんか……まずい!」

 なおも愚痴を続けようとして、小さく悲鳴を上げる。彼が聞いたのは足音。それは息を潜める彼を探すように校舎を徘徊している。今に至るまでの三十分ほど、彼は謎の気配と鬼ごっこをしていた。なんとか校舎から脱出できないかとチャンスを待ってはいるが、敵は悠が上の階から回り込もうとすれば反対側の階段へと向かい、下の階へ降りようとすれば、下と向かう。なかなか逃げられない。
 元々悠は運動は苦手だ。この一年走りたくもないのにさんざん走らされたが、それでもどう控えめに見たところで中の中ぐらいだろう。ゲームなら得意だが、こう力押しで来られるとちょっとやりようがない。
 そして困ったことに、悠の目の前に落ちているのは、ライフル。この校舎の至るところにこんな銃が落ちている。つまり、敵は確実に銃を持っている。そしてもちろん、ただの小学生である悠にこんなものは使えない。つまり、見つかるイコール銃殺だ。校舎はその設計上、廊下で移動しようとすると撃たれやすい。今まではなんとか回りこんで射線を通さないことでやり過ごしてきた、が。

 タタタタタ……!

(走ってきた!? ダメだ、逃げ場がない!)

 悠の顔が一気に青くなる。
 やられた。
 敵は一気に距離を詰めてきた。
 今までは悠も銃を持っていると考えてかなかなか接近してこなかったが、撃てないと察せられたのか、突撃してきた。
 窓と銃を見る。3階から飛び降りれば死ぬ。銃はガンシューをあんまりやってないので撃ち負けて死ぬ。どちらを選んでも死ぬ。

(いや、まだだ!)

 だが悠の目は死んでいなかった。
 咄嗟に床に伏せる。
 ポケットから手榴弾を取り出す。
 手を気をつけするように体の横に着け、足はまっすぐ伸ばしてうつ伏せになる。
 そう、その作戦は。

「う、動かないで!」
「動かないです抵抗しないですなんにもしないですなんでもしますから殺さないでください!!!」
「え、ええ……」

 全力の命乞い。
 悠のクッソ情けない姿に、頭の上から少女の困惑した声が聞こえる。
 自分が今最高にかっこ悪いことを自覚しつつも、とりあえず撃たれなかったことに、悠は心の中でガッツポーズした。
 悠が出会った少女の名前は、工藤穂乃香。1歳上で中学生だという。その三つ編みってセットするの大変そうだなあとどうでもいいことを思いながら、悠は穂乃香と情報交換を始めた。
 実は彼女も悠に追いかけられていると思っていたらしく、必死になって校舎を逃げ回っていたという。誤解していたことがわかると一転して二人の間から緊張感が無くなり、話は自己紹介に移った。


686 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/09(月) 00:10:06 ???0

「鬼と鬼ごっこ……」
「信じられないですよね。」
「ううん……悠くんが嘘をついてるって思わないよ。」
「本当ですか?」
「うん。そんな冗談言いそうにないし……外の、空とか霧とか変だし……」
「ああ……うん。」

 人に言っても信じてもらえなかった鬼ごっこのことも、隠さず話して、あっさり信じられたことに驚きながらもそりゃそうだよなと悠は思った。
 穂乃香が危険そうには見えないものの幼なじみの話をするのはリスクがあると思って食いついてきそうな鬼ごっこの話を主にしてみたが、予想よりも受け入れられた。どうやらけっこう素直な人なんだな、と思う。
 出会ったばかりだが悪い人ではまずない。そう思う。

(良かった〜、てっきり殺し合いだから怖い人ばっかいるのかと思ったけど、ふつうそうな人で。もしかしたら他の参加者も全員子供なのかな?)

 これなら誰かと会うことも考えたほうがいいかもしれない。殺し合いに反対する誰かが動いてくれるまでどこかで隠れていようと思っていたが、少し動いてみようか。余裕が出てくるとそんな考えまで生まれてくる。

「穂乃果さんも、そういう命がけのゲーム、みたいなことはやったことないんですか?」
「な、無いよ! そういうの全然無い、ふつうの人生です。」
「夏休みに友達のおじいちゃんの田舎に行ったら殺されかけたり、校外学習の最中と帰りの学校で殺されかけたり、友達が化物になったりは?」
「無い! 無い! ぜんぜん無い!」
「平和すぎない? それ日本の話?」
「に、日本は平和だと思うよ……」

 話してみると、どうやら穂乃果は予想以上にふつうの生活を送っているようだ。いやちょっとふつうじゃないわ。村瀬先輩とかいうイケメンのバスケ部先輩となんか仲良さそうだわ。その甘酸っぱい雰囲気に思わず気圧される。年齢的には一つしか違わないのになぜこうも違うのかと幼なじみ二人を思い浮かべる。ゲームとかだと幼なじみはくっつきがちだが、あの二人にはそんな気配は皆目無い。夏休みに4人で田舎に行ったときも、葵の水着に全く興味も関心も無かったなあと、懐かしさに浸ってしまう。

「なんだろう、ジャンプのバトル漫画とラブコメ漫画ぐらい違う。これ同じレーベルだったら風邪ひくよ。読者層全然違いすぎるじゃん。」

 待遇格差に思わず遺憾の意を表明する。なんで自分たちが鬼と命がけの鬼ごっこしてる間に青春しているのか。ひがみの一つも言いたくなるが、言っても自分が惨めなだけなのでやめておく。

「いや、わかってたよ……なんかこういうところでドラマチックに出会ったってさ、ただの吊り橋効果だって……たぶんこんな感じではしゃいじゃってる男子は他にもいるって……自分は違うんじゃないかな、ここから二人の恋のDestinyが始まるんじゃないかって思ったのはウソじゃないけど……」
「悠くん? 悠くーん?」
「あ、平気っす、何でもないっす、ちょっとジャンル勘違いしただけっす、やっぱ怖いっすねデスゲームは。」
「口調が変になってるよ!?」

 それでも少しは弱音を吐きたくなる。なんか自己紹介の時に女友達のこと話すときより声のトーン高かったし、いやなんかわかるんだけど、なんだかなあ。


687 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/09(月) 00:15:16 ???0

「あっ、村瀬先輩!」

 そんな感じで悠がたそがれていると、突然穂乃果が声を上げた。その声にはどう聞いても喜びの色ムンムンである。
 これは……彼氏じゃな?
 どれどんな奴かと悠も窓から外を見る。なるほど、校庭の先にある校門には、子供と手を繋いでる少年がいた。よく誰かわかったなこの距離で。恋する乙女のパワーか?

 ──瞬間、悠の体に寒気が走った。
 ──イヤな、予感がする。

「穂乃果さん……待ってください、行っちゃだめだ……」
「……え?」

 悠は自分の体の震えを抑えながら言った。
 悠は昔から、虫の知らせとも言うべき勘の良さがある。そしてそれは決まって、自分や周りの親しい誰かに不幸が訪れるときだ。そしてそれが今まさにそうだ。
 悠は原因を探す。答えは明らかだ。あの村瀬たち二人が、なにかヤバい。原因はわからないが、このままでは死ぬ。

(なんでだ? あの二人が危ないのか? 穂乃果さんの彼氏なのに。それとも子供の方か? そうじゃなくて、ぼくらじゃなくて、あの二人がなにか狙われているのか?)

「悠くん、どうしたの? 顔が青いよ?」
「迷ってるうちに死ぬなら……穂乃果さん、ここにいて!」
「あっ、待って! 一緒に行くよ!」

 走り出した悠を穂乃果はあわてて追いかける。着いて来られるのはマズい。かなりマズい。どんどんイヤな予感が強まっている。そしてどんどん、これが本当の殺し合いであるという確信が強まっていく。だがおそらく、穂乃香はさっきの自分と同じぐらいにしか、この殺し合いの恐ろしさを認識していない。だが、彼女を説得している時間は無い。もっと慎重に、細心の注意を持って動かなければならないと、わかっているのに──

「君たち、逃げて!」

 1階に降りて、昇降口から駆け出す。そのまま校庭をダッシュだ。横を穂乃果が走り抜けて行く。この一年で何度も呪った足の遅さを呪わずにはいられない。二人がこちらに気がついて足を止める。ダメだ、そこで足を止めたらダメなんだ。
 声を出す。だが、遅い。

 ぱらららら。

 あっけない音が響く。
 悠への答えは、痛みと音とで示された。
 サブマシンガン。おそらく、ウージーみたいな短機関銃。そんな感じの音がしたかと思えば、体中に熱がほとばしり、力が抜けていく。
 目の前で、穂乃果と彼女の先輩が不格好なダンスを踊る。ダンスは苦手だ。体育の授業で悠が踊ると盆踊りになってしまう。

「せん、ぱい……」
「ほのちゃん、ほ……」

 つぶやく声が聞こえた。それが誰のものかももうわからない。考える力が急速に奪われていく。
 だがそれでも、自分が選択肢を誤ったことだけはわかった。


688 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/09(月) 00:21:11 ???0



「フフフ……ド、ドッキリなんだろ? わかってるさ……」

 サブマシンガンを抱えて、藤木茂は泣き笑いしていた。
 エアガンはやけに重くて、撃つと煙まで出て、まるで本物みたいだ。
 そして銃口の先には、血溜まりの中で重なる四つの死体。
 天も、地も、人も、赤い。
 彼は確信しようとしていた。これは現実ではないと。
 藤木はそんなに勉強もできる方ではないが、それでも空はあんなふうには赤くはならないことも、霧はこんなふうには赤くはならないことも知っている。そして、銃が落ちているなんてこともない。
 特撮やアニメでしか起こらないことは現実には起こらないのだ。こどもが誘拐されているのに仮面ライダーが来ないなら、これは現実なのだ。空が赤くなって変な霧まで出てるのにウルトラマンが来ないなら、これは現実なのだ。現実なのだから、本物の銃が落ちて、首輪を着けて殺し合いなんて起こるはずがないんだ。
 だから、それを試すために、落ちていたサブマシンガンを乱射した。弾を撃ち尽くすまで、いや撃ち尽くしても引き続けた。
 そしてその結果四人死んだ。だから信じた。自分が人を殺すはずがない。ならあそこで死んだ四人は、そういうドッキリだと。

「フ、フフフ、ブッ、オエエ……!」

 藤木は、吐いた。
 わけのわからない恐怖心が体の隅々までいきわたると。

「た、弾が無くなっちゃったからだな、うん、そうだ、新しい銃がないと。」

 藤木は立ち上がった。
 順応したのだ。


「な、なんで……」

 そしてそれを見ていたアキは、順応できなかった。
 自分は奇妙な夢を見て、それが正夢だと思ったから行動して、それで夢よりひどい状況になる。
 これはなんなのか。なぜこんなことになってしまったのか。

「ご、ごめんなさい……ごめんなさい! こんなことになるなんて、思わなくて……!」

 フラフラと校門へ進んでいく。藤木のことも見えていない。彼が吐いて、校門の近くから逃げるように立ち去ったのは幸か不幸か。アキは何の障害もなく折り重なる4人のもとへと行く。何をしたいのか、彼女自身にもわからない。それでも、近くに行って、何かしなくてはならないと思った。自分がそう思って、自分が行動したからこの状況になったのにと、頭のどこかで冷静に思いながら。
 だが、その行動は無駄ではない。

「イタい……イタいよ……」
「生き、てる? いきてる……生きてる!」

 アキの耳に小さな声が届く。同い年ぐらいの中学生らしき少年に抱きかかえられるように、小さな男の子が倒れていた。小学校の低学年ぐらいだろうか。幸い怪我は無い。他の三人が盾となり奇跡的に無傷だったのだ。

「助けるから……助けるから!」

 アキは男の子を、蓮を立ち上がらせると校舎へと急いだ。救われたのは蓮ではなく、アキだった。


689 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/09(月) 00:28:07 ???0



 前のループでは、藤木のマシンガンにより2人が死んだ校門。今回は3人になったが、その要因はたった1つだ。
 悠の参戦時期が変わった。前のループでは1度目の鬼ごっこが終わった頃だったが、今回は鬼ごっこの主催者の一人である黒鬼の撃破後からの参戦となる。対主催にパワーバランスを傾けたいとか主催の一人の気まぐれだとか色々理由はあるが、死んだ今となっては関係無い。
 言えることは、その変化により、彼は少しだけ勇敢になり、少しだけ決断力が増し、少しだけ足が早くなったということだ。1年間の経験が、本来なら穂乃果の数秒遅れで校門に辿り着くところを、ほぼ同時に辿り着く程度に成長させた。
 ではアキが交番から拡声器を持ち去ったことはというと、これは校門のイベントにはほとんど影響を与えなかった。そもそも藤木はずっと学校の体育館にいて外を伺っていた。
 他の学校がそうであるように、この学校も複数の参加者が初期配置されている。こどもが多いことから人が集まりやすいためだ。明智小五郎とヴァイオレット・ボードレールとライオンが同じ学校に配置されたように、木原仁と一路舞が同じ学校に配置されたように。
 そして藤木は、たしかに前のループでは拡声器でつかさ達の存在に気づいたが、そうでなくても校門近くに人が通りかかれば、彼は発砲していただろう。拡声器が無いだけではタイミングが後ろにズレる違いしか生まれない。
 では彼女の行動は何を変えたかと言うと、それは彼女の心だろう。前のループでは単なる歩いてたら見かけた死体が、今回は自分のせいで生まれたものだと思い込むこととなった。自分が未来を変えたからだと、全く無関係なのに。
 彼女がそれを知ることは、ない。
 バタフライ・エフェクトは、起こらなかったのに。



【0030後 繁華街の方にある学校】


【高橋蓮@猛獣学園!アニマルパニック 百獣の王ライオンから逃げきれ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい。

【井上晶子@かがみの孤城@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 ???
●小目標
 男の子(蓮)を助ける。

【藤木茂@こども小説 ちびまる子ちゃん1(ちびまる子ちゃんシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 ???
●小目標
 銃がほしい。



【脱落】


【村瀬司@一年間だけ。(1) さくらの季節にであうキミ(一年間だけシリーズ)@角川つばさ文庫】
【工藤穂乃香@一年間だけ。(1) さくらの季節にであうキミ(一年間だけシリーズ)@角川つばさ文庫】
【櫻井悠@絶望鬼ごっこ きざまれた鬼のしるし(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】


690 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/09(月) 00:28:36 ???0
投下終了です。
タイトルは『バタフライ・エフェクト』になります。


691 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/10(火) 03:00:09 ???0
投下します。


692 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/10(火) 03:01:35 ???0



「このオッサンまだ起きねえぞ。やっぱ死んでんじゃねぇか?」
「虹村さん、どうしましょう?」
「どうするっつったって、運ぶしかねえよなあ……」

 道の端っこに気をつけの体制で気絶している男性を、中学生ほどの少女と人相の悪い改造学ランの男が覗き込みながら話す。
 北上美晴と虹村億泰の2人は、謎の男性の処遇について話し合っていた。
 この男性、元々は億泰が最初に見つけて道の真ん中から端っこに動かして介抱していた。それをしばらく見ていた美晴が、外見の割に良い人そうだと思って声をかけ、そこから2人で行動している。目下のところは、この男性を連れて行ける病院なりなんなりの休める所だ。とりあえず近くにデパートを見つけたのでそこに運ぶことにする。野ざらしはまずいもんね。
 とはいえ、2人の関心は男性よりも、もちろん現在の状況にあった。

「で、よお、美晴ちゃん。さっきの話なんだけどよぉ……その、ケ、ケロンパだっけ?」
「ギロンパです。」
「そうそれそれ。この殺し合いもソイツが開いたんじゃねぇのか?」

 このゲームはなんなのか。参加者の大半が考えている問題である。
 当然、億泰もそれが気になっている。赤い空・赤い霧・ヤバい首輪の3点セットを見れば、これがトリックだとかそういうちゃちなモノではないとわかるし、街を歩いて文字が全て日本語のような何かとなれば、尋常な事態ではないと気づく。
 億泰の場合想像するのはスタンド攻撃だ。いわゆる超能力者である彼からすると、不思議なことはとにかくスタンドに結びつけて考えがちである。
 そんな彼が美晴から話を聞こうとする理由は単純明快。
 今つけられているこの首輪、それを着けられて命がけのゲームに巻き込まれたことが美晴にあるからだ。

「ガキ百人誘拐してゲームで殺そうとして、しかもカチコチになって死ぬ首輪を着けられたとか、それもうソイツが犯人だろ。」
「そうだと思うんですけど、でも、ギロンパならああいうふうに誰かに任せたりしないで、自分でルールを説明すると思います。前も自分でやってたんで。」
「ずいぶん性格の悪いやつだな。」
「はい。本当に。」

 そう言う美晴の声には怒りが込められている。あのギルティゲームでは、多くのこどもが死んでいった。その中には美晴と同じ学校の児童もいたし、イケメンの王子様系男子もいたし、美晴たちを土壇場で裏切った奴もいた。良い人も悪い人もいたが、死んでいい人間は一人もいなかった。そもそも、あんなゲームが開かれなければ、悪い人にならず良い人のままいられた子も多かっただろう。
 美晴だってそうだ。今こうして生き残るまでに、死んでいく仲間を何もできずに見殺しにせざるを得なかったことが何度も起きた。それでも最後の場面で、仲間が自分を見捨てず助けてくれた以上、美晴は生きなければならない。生きてギロンパのことを伝えなければ、あのゲームで死んでいった90人以上のこどもたちは、今も行方不明者として多くの親や警察が探し回っているこどもたちの犠牲が何だったのかという話になる。

(そりゃあ……何人も殺せば恨まれるわな……)


693 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/10(火) 03:03:12 ???0

 美晴の覇気のある声に、億泰は黙った。
 億泰が美晴について知ることは少ない。せいぜいが小学生で家が医者というぐらいだ。顔はカワイイとは思うが、内面などについてはとんとわからない。
 それでも殺人なんてなければこんなふうに何かに憎々しげに怒りをぶつけることはなかっただろうと思う。
 億泰と兄の形兆は、化物と化した父を殺すスタンド使いを生み出すために、適合者以外を殺すスタンドの矢を使ってきた。億泰は直接手を汚さなかったが、間接的にでも殺した数は相当なものだ。
 もちろんそのことは美晴には伝えていない。伝えれば共に行動はできないだろう。だが、そんな過去があるからこそ目の前で巻き込まれてる子供ぐらいは守ったほうがいいだろうという気が出てくる。スタンド使いということも黙っているので苦労はするだろうが、それとなくなんとかしようと決めていた。

「……あっ。そうでした、早く運んであげないとですね。」
「おっ、そうだな。しっかしデっけぇなぁ、おれもタッパはあるけどよぉ……ん?」

 やるべきことを思い出した美晴に話しかけるチャンスを見いだして便乗する。気まずいのは苦手だと思いながら男性を担ぎ上げようとして、近くの窓ガラスに反射した人影に気づいた。

「西塔明斗。こっちの子は星降奈。で、コイツがカザン。もちろん殺る気はないぜ。で、オタクらは?」
(イケメンだぁ……)
(チャラ男だ……)

 振り返るとイケメンのチャラ男と、美晴と同じぐらいの女子と黒くて大きな犬がいた。まるで犬の散歩の途中かのように気楽な様子で話しかけてくる明斗に、さすがに2人とも戸惑う。隣で緊張した面持ちでなんだかバチバチしてる降奈がいなければ胡散臭さに逆に警戒感を持っていただろう。

(って、なんであの子バチバチしてんだ?)
「北上美晴です。この人は……」
「虹村億泰だ。もち乗ってねぇけどよぉ、その、フルナちゃんだっけ? なんかすっげービリビリしてるけど大丈夫か?」
「あ、はい! ぜんぜん平気です!」
「お、おう、そうか。」
「それで、そのオッサンは?」
「そこに落ちてた。10分ぐらい前に見つけたんだけどよ、ここいらを見て戻ってきたらまだ寝てんだよ。」
「へー。なるほどねぇ。」
「それでこのままにしとくわけにもいかねえから、今からあそこのデパートに運ぼうってわけよ。メイトだっけ? 手伝ってくれよ。」
「出会って1分でかよ……やるけどさ。動かしながら色々聞かせてもらうぜ。」

 むしろ明斗よりもフルナの方に関心が向く。静電気では説明がつかないぐらいにバチバチしている。というか、なんか光っている。明らかに放電しているように見えるのだが、まあそういうスタンドだろと納得してとりあえず男性を運ぶことを優先する。自分がスタンド使いなのでわかるが、これを初対面の人間に説明するのは難しい。そしてなにより、建物に入れば銃が落ちている街で、道っぱたに突っ立っていたくない。早々殺し合いに乗るやつはいないと思うが、今マシンガンでも連射されたらおれら6人(5人と1匹)は死ぬなと、兄のスタンドを思い出したながら急ぐ。

「なるほどねぇ……」
「あ? 何がだ。」
「さっき言いそびれたけどさ、フルナがバチバチしてるの気になるよね。」
「まあな。なんか体質か?」
「そんなとこ。お互いそういうの知ってるでしょ?」
「お前、もしかして。」
「最初に言っとかないと信頼されない能力だから言うが、サイコメトラーなんだよね。フルナは、エレクトロマスターとかか。で、億泰さんは、これなんだ? 人形使いか?」
「ちぃっ、お前もスタンド使いかよ。」


694 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/10(火) 03:06:11 ???0

 男性を両脇から抱えているために、億泰と明斗の体は一部触れ合っている。サイコメトラーということはそこから心を読んだのだろうと、慌てて手をずらした。
 フルナの様子から察してはいたが、明斗もそうだとは思わなかった。だがスタンド使いばかりを参加者にするということはかえって納得がいく。他ならぬ億泰も能力者を集めていたので違和感は無い。だからといって心を読まれて良い気持ちなどするわけが無いが。

「てことは、あの犬もか?」
「さあな。やけに賢いけど、そこまでは読めないんでね。美晴は──イテッ。」

 そのまま詳しく話を聞こうとしたところで、ちょうどデパートに着く。自動ドアが開いた途端に、犬ことカザンが走って明斗の制服を噛んだ。つられて億泰も後ろにつんのめる。なんだこのバカ犬と叱りつけようとして、前方に現れた巨体に呆気にとられた。
 顔が蜘蛛の巨人だ。顔が蜘蛛の巨人としか言いようのない何かが、首輪を着けてデパートの中にいる。そして、走ってきた。

「家族……家族ウウウウウウウ!!」
「明斗、どんだけヤれる。」
「一般人並。フルナとカザンも。」
「だよなぁ、とっとと逃げろ! 《ザ・ハンド》!」

 戦闘は突然にはじまった。億泰は男性を明斗に押しつけると己のスタンド、《ザ・ハンド》を出して接近する。《ザ・ハンド》は近距離パワー型のスタンドであるため射程距離が極端に短い。できるのなら2m程度までしか離れさせないようにしないとスペックが大きくダウンしてしまう。それに後ろからついてくる美晴たちが逃げる時間も稼がなくてはならない。

「2人とも、逃げるよ!」
「明斗さん、どうしたんですか?」
「説明は後だ!」
「あれじゃあしばらくかかるな。《ザ・ハンド》! 削っちまえ!」

 巨人の足は想像よりもかなり早い。億泰が距離を詰めるより早く間合いを無くし、腕を振りかぶる。それに対して億泰は、《ザ・ハンド》の拳をふるわせた。《ザ・ハンド》の右手は触れるものを何でも削り取る。それはすなわち、あらゆるものを破壊できる右手だ。
 巨人の右手と《ザ・ハンド》の右手がかち合う。パワーでは負けるかもしれないが、削ってしまえば一緒だ。そう思い腕を振り切ろうとして、一瞬動きが止まる。当たる寸前で引き戻して、防御の構えをとらせた。

(クソったれ、なにビビってんだ。)

 心中で自分に悪態をつきながら、《ザ・ハンド》からフィードバックされた衝撃でふっ飛ばされる。ギリギリでスウェーの様に後ろに下がったがとても威力を殺しきれず、バイクにでも跳ねられたように吹っ飛ぶ。「ぐはぁっ!?」と背中から明斗の悲鳴が聞こえるが、そんなことに構ってはいられない。なんとか《ザ・ハンド》に拳のラッシュを放たせ、突っ込んできた蜘蛛の巨人を吹き飛ばし返した。

「やっべ、足がわらってやがる……!」

 億泰は人を殺したことがない。《ザ・ハンド》という人間に使えば即死を免れないスタンドを持つからだろうか、その力を直接人に向けたことがない。基本的に生き物を殺す気で放ったことがないのだ。そのせいで反射的に、化け物とはいえ削っていいものかと躊躇してしまった。
 その結果、こうして明斗を下敷きにダウンすることになった。「億泰さん!」と美晴の叫びが聞こえる。情けないが答える余力は無い。ぐらりと視界が揺れる。スタンドを出し続けることすら難しい。


695 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/10(火) 03:10:08 ???0

「離れて!」
「オレの……家族は……オレの家族はドコだっ!!」

 バチン、と音がして億泰の頭上を光が走った。それが起き上がってなにやら喚いていた蜘蛛の巨人にぶち当たる。電撃か、という驚きは、それを食らってもまるで効いていない巨人への驚きに上書きされた。「うそ……」という声が聞こえるが、そう言いたいのはこっちもだ。
 巨人は何か言いながらこちらに近づいてくる。なんとか出し続けていた《ザ・ハンド》がついに消えた。同時に視界から色が消える。それが脳震盪だと気づく余裕は無い。そして巨人の手が伸ばされた。狙いはもちろん、億泰たち。
 死んだ、そう思わざるを得ない。自分の胴体ごと掴みそうなその大きな手は、直ぐ目前まで迫る。
 そして巨人の手は、億泰たちが運んでいた男性を、日本科学技術大学教授上田次郎を掴み上げると、頭から丸呑みした。

「「お、オッサン!」」

 億泰と明斗の叫びがハモる。名前も何も知らないが、殺し合いに巻き込まれて気絶している間に食われるという凄惨な事件が、自分たちが助けようとした人間に行われたことに動揺する。それは数秒後の自分の姿なのだからなおさらだ。
 ちくしょう、ここまでか。さすがの億泰もこれには打つ手が思いつかない。元々能力でゴリ押すタイプなので、それが通じない相手となるとやりようがない。
 しかし、やりようは向こうからやってきた。

「うぅ! なんだ、動けない……」
「おい億泰! なんかチャンスだぞ!」

 突然、蜘蛛の巨人の動きが鈍った。実は上田の首輪を丸呑みしたため中の毒を摂取してしまい固まってしまったのだが、そんな理由がわかるはずない。わからないが、とにかくチャンスなのはわかった。

「うおおおおおおおおお!! 殴りまくっちまえええ!!」

 最後の力を振り絞り、スタンドを出す。せいぜい数秒しか維持できないが関係無い。ありったけのラッシュを放つ。狙いは顔。手応え的に聞くとは思えないが、それでも顔なら弱点っぽいだろうとタコ殴りにする。
 その判断は正しかった。動きが鈍った蜘蛛の巨人のガードをすり抜けて、頭部を殴打する。その中の1発が首輪にヒットした途端、爆発するように光り輝いた。

(へ、へへ……道連れにしてやったぜ……)

 億泰が意識を手放すのと、蜘蛛の鬼(父)が首輪の作動により灰になったのは同時だった。


696 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/10(火) 03:14:33 ???0



【0040前 都市部・デパート】


【虹村億泰@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いってなんだよ?
●小目標
 ???

【北上美晴@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 今回のギルティゲームから脱出する。
●小目標
 億泰さんと明斗さんを助ける。

【西塔明斗@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?(サイキッカーですけど、なにか?シリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 知り合いが巻き込まれていないか調べる。
●中目標
 フルナを守る。
●小目標
1.逃げる。
2.竜堂ルナを探す。

【星降奈@異能力フレンズ(1) スパーク・ガールあらわる! (異能力フレンズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないけど誰かが傷つくのはイヤ。
●中目標
 明斗さんと一緒にいる。
●小目標
1.明斗さんたちを助ける。
2.竜堂ルナを探す。

【カザン@妖界ナビ・ルナ(5) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 タイと合流する。
●中目標
 竜堂ルナを殺す。
●小目標
 明斗とフルナを利用する。なんか知らんけど2人死んだからヨシ!



【脱落】

【上田次郎@劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】
【蜘蛛の鬼(父)@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】


697 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/10(火) 03:15:04 ???0
投下終了です。
タイトルは『化け物の殺し方』になります。


698 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/15(日) 07:38:29 ???0
投下します。


699 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/15(日) 07:39:58 ???0



 ……記憶が混濁している。
 見たことない景色にデジャブを覚える。
 夢の中で私は、首輪を着けて殺し合えと言われていた。
 そして男の子と出会い、盗んだ車で走り出し、人を跳ねて、救助して、侍に襲われた。
 自分でもわけのわからない夢だと思う。夢はそういうものだけど。
 なら、今、この首にある。
 この首輪は、ナニ?



「KOOLに、KOOLにならないと、竜宮レナ……」

 落ち着いてないのはわかってるけど、意識して声を出す。
 なぜか、本当になぜか、今、私の首には首輪が着けられている。
 こうして見知らぬ町に放り出されたのは、つい数十分前にもあったような感じがしていた。
 町には建物に入ると、武器になりそうなものがたくさん落ちている。それも夢と同じだ。
 私が入ったのは、レストランだ。お店のトイレに急いでいく。鏡には、ふだんのセーラー服姿の私がいた。

「私だ……私だよね?」

 夢から覚めるとき、ものすごく、熱くて痛かった気がする。まあ、夢だから怪我なんてしてるわけがないけど、わかっているのに、なにか怖い。

「変だ……どうしたんだろう……こんな……」
「あの〜、すみませ〜ん。」
(誰だ!)

 突然かけられた声に、私は周囲を見渡した。
 しまった! 敵だ!
 逃げないと、ダメだ、トイレじゃ逃げられない、武器も、そうだ、取ってない!

「柿沼直樹っていいます。同じ中学生ですよ。中学生ですよね? 高校生だったりします?」
「……」
「ノーリアクションはキツイぜ……えっと、首輪してるってことは、おんなじように誘拐されたんですよね? 協力しませんか?」

 私は柿沼という男の声に答えなかった。10秒、20秒、30秒……沈黙の時間が流れる。5分ぐらい経って、「もしかして見間違えたか……」という声がして、店から出ていく音がした。
 私はそれでも動けなかった。柿沼という名前には、覚えがない。ただなんとなく、何か信用できない感じがした。それにあの話し方、組むに値しない。
 ……違う。本当は怖かった。変になった頭と、このイカれたゲームと、すぐに声をかけてきたアイツが。
 柿沼を信じる理由がない。こんなに武器が落ちていて、殺し合えと言われているのに、初対面の男を信用できるはずがない。
 ……本当に、初対面か? 覚えがないか? 柿沼直樹。カキヌマナオキ。その名前に何かを感じないか?

「やっぱり変だよ。私の頭……ここに来て、から……?」

 おかしい。
 変な感じだ。
 これじゃ転校する前と同じだ。
 いや、違う。あの感じとは全然別だ。 これは、私の知らない私の記憶だ。
 私が知っているはずのないことを、私は思い出している。

 私はいつまでたっても、トイレから出ていくことができなかった。


700 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/15(日) 07:40:35 ???0



「マジで見間違えたか……?」

 柿沼直樹は、レストランの冷蔵庫から取り出したケーキと、これまた厨房にあったアイスコーヒーのポットをテーブルに置くと、3時のおやつをしながらひとりごちていた。
 柿沼は誘拐慣れしている。柿沼たち仲間の中で、誘拐といえば柿沼だし柿沼といえば誘拐だ。
 今回もいきなりさらわれて気がついたら知らん場所、さすがにその所作はどうに入ったものとなる。
 とりあえず食事だ。食えるときに食っとかないと動けなくなる。それに今は人を待つ身だ。

「さすがに女子トイレに踏み込むのはハードル高いしなぁ。銃持ってたりトラップ仕掛けられてたらマジで死ぬし。どうしようかなぁ。」

 柿沼がレナに声をかけた理由は簡単だ。彼は自分をプレイボーイと自認している。本人と対象に浮ついた噂は皆無だが、同じく誘拐された少女を見つければ当然に助けようとするのが彼だ。
 とはいえレナを追いかけて入った店を見てビビらずにはいられなかった。一つ拳銃を手にした感じ、モデルガンとは違う凄みを感じた。もちろん弾丸は装填済み。となると少々困ったことになる。
 はじめて誘拐されれば誰だってビビる。柿沼だってビビる。そんなビビりに拳銃を持たれたら何が起こるかわからない。
 しかも相手がいそうなのは女子トイレ。女子トイレにズカズカ入ってたらズガン!なんてこともあり得る。今までもそんな感じで割り食ってたし。

「これで、『実はとっくに裏口から出てました!』とかなったら泣けるぜ。下手に動くと死ぬからなあ。」

 だが怖いのは女子トイレにいない場合だ。
 誘拐された時は下手に動かない。それが柿沼の経験則だ。いつでも動けるようにしながらも、チャンスを待つ。それが仲間によって救出されてきた柿沼が立てる生存戦略である。
 この数十分、レナ以外誰とも会ってないことから考えると、このデスゲームはそんなに人が多くない。だから最初の位置から動かない方が、体力を使わないし、かえって人も相手より見つかる。
 これが車でもあると話は変わるのだが、ないものねだりはしょうもない。
 そう思ってとりあえず糖分と水分を補給していたのだが、その考えが正解だというように、街を走ってくる人影を見つけた。
 白い道着のようなものを着ている青年だ。見た感じだが武器はない。たいしてこっちはリボルバー。

「そろそろ動くか。おーい! ちょっと人見つけたから店出るんで。ケーキ食べかけだから食べちゃ困るぜ。」

 判断は早い。声をかけることを決断すると、女子トイレの方に叫んで店を出る。直ぐに走ってくる青年もこちらに気づき、速度を落として駆け寄ってきた。

「その様子だと、お前も巻き込まれた口か?」
「柿沼直樹です。じゃ、お兄さんも?」
「ああ。相楽左之助。話がよくかんねえが、人に言われて殺しなんてやる気はねぇ。」
「ですよねぇ。良かった〜。」
「あったりめぇだろ。つうか、あんなウサギ見てえな妖怪の言う事聞くやつがいるかよ。」

 柿沼はリボルバーを突っ込んでいたポケットから手を離した。よし、グッドコミュニケーションだ。果報は寝て待てって言うけれど、起きるタイミングが重要だよな。などと思いながらレストランに案内する。

「──で、そこのトイレにもう一人女の子がいるかもしれないんですよ。」
「なんだそりゃ? それでずっとこの食いもん屋にいたのか?」
「そうなんです。」
「見てくる。」
「ステイステイステイステイアッー!」

 入って早々に左之助はトイレへと直行した。隠すわけにも行かないのでレナのことを話したのだが、思っ以上にアグレッシブな人だ。これはミスったか?と思いながら一応リボルバーを手にする。

「なんだよ誰もいねぇじゃねぇか。」

 それは杞憂に終わった。左之助は戻ってきた。変わって柿沼も女子トイレに踏み込む。どこにも人がいる痕跡は無かった。


701 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/15(日) 07:41:04 ???0



 これでよかったのだろうか。
 自問自答しても答えが見つからない。
 もどかしさでいつからか、空回りしていた。
 自分の記憶も行動も、正しさがわからない。
 レナは柿沼が店から出ていった音を聞くと一気にトイレから飛び出し、机を踏み越えてフォークを手にした。
 彼女の中では、3割方罠だと思っていたが、いちおう待ち伏せも警戒して突っ込む。武器は使い慣れない銃ではなく、テーブルの上にならどこにでもあるフォーク。こっちのほうが信用できる。

「アイツ、本当に店の外にいる……」

 その結果わかったのは、柿沼は言葉通りの行動をしていたということだ。
 店の外では男に声をかけていて、テーブルにはケーキとコーヒーが置かれている。
 レナが悩んでいる間、ティータイムを楽しんでいたようだ。

「……信じていいの、かな?」

 脱力を覚えずにはいられない。
 自分が怯えていた相手は、窓際のテーブルでモンブランを食べていた少年だった。ただそれだけなのに、得体のしれない相手にしか見えなかった。
 だが、とも思う。得体のしれないのは依然として変わりない。たしかにコーヒーを飲んで寛いでいても、それは人間性を保証しない。

「それにあの男。背中に悪なんて書いてある服を着ている。怪しい。」

 あと左之助の格好がなんかヤバい。背中に悪はないだろう悪は。しかも旧字体だ。絶対ヤンキーである。
 迷った末に、レナは喫茶店を出ていくことにした。あからさまに不良を仲間にしようとした時点で、やはり柿沼と組むという選択肢はなくなったのだ。
 そうして彷徨うこと数十分。無人の街を歩くと、後悔が押し寄せてくる。
 本当にこの選択は正しかったのか? 何度も何度も自問自答する。
 レナはすっかり己を見失っていた。
 その時だった。レナが爆音を聞いたのは。
 少し前から聞こえていた謎の警報音。一向に終わらないそれを気にしながら も、遠そうだったので無視していたのだが、今の爆発はそれなりに近かったように思う。
 それに警報音が爆発から同時に止まった。これは何を意味するのか。
 わからないことがどんどん増えていく。
 そしてそれは、更に積み重なった。

「っ……! カエル?」

 デッカいカエルが死んでいる。道の真ん中で、カエルが首を飛ばされて死んでいた。
 いや、カエルではないだろう。明らかにサイズが大きすぎる。
 しかし、カエルは死んでいる。何かのマスコットキャラにしか見えない珍妙な巨大カエルは、しめやかにその死体を晒していた。

「……幻覚か?」

 そしてレナは結論づけた。
 たぶん自分は薬物を盛られていると。
 誘拐はわかる。
 毒の首輪もわかる。
 銃が落ちてる町もわかる。
 でもこんなにデカいカエルはいないだろう。
 あと空が赤くて霧が赤くて町にある看板の文字が日本語じゃない。
 これはたぶん覚醒剤かなにかの影響だ。

(よ、良かった〜! 頭がおかしくなったのかと思ったよ〜!)

 レナは、それはそれは嬉しそうにガッツポーズをした。


702 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/15(日) 07:41:29 ???0



 相手を間違えたなと鑑隼人は思った。
 前のループと同様に警報音を鳴らして参加者を狩ろうとした隼人は、今回も現れた大太刀を最初の相手とした。
 その異様に気圧されないわけはない。しかし、火の国で訓練を受け、人間離れした身体能力を持つ自分なら、人間が相手ならなんとかなると思った。
 人間じゃないと外見でわかりそうなものだが、そのときは冷静さを失っていたと言わざるを得ない。遠目だったからちょっと顔が大きいだけだろうと思ったら、接近されると上半身に比べて下半身が貧弱すぎるその体形に唖然とした。
 そしてなにより、強いのだ。
 隼人も腕にはそれなりの自信があり、人間相手に遅れを取る気はないのだが、相手はそもそも人間ではないので追い込まれていた。
 これには両者の武器の差もある。大太刀はその名の通りの大太刀を武器として持ち込んでいる。使い慣れた得物は十全に威力を発揮する。一方の隼人が使うのは慣れない火薬式の銃と古典的に思える手榴弾。特に銃の使い方が困り物で、その弾道に悪戦苦闘している。隼人が撃ったことのあるのはレーザ銃で、火薬式など殆ど無い。その反動は狙いを外すし、その放物線を描く軌道はレーザとは異なる狙いの付け方を要求する。初めて撃つ銃で、敵に追われながらそれを修正するのは容易ではない。

「二重の極み!」
「!?」

 思ったよりだいぶ早かったなと隼人は思った。
 大太刀から逃走する中で、人の多そうな方へと逃げていた。こうすれば別の参加者になすりつけられて一石二鳥というわけだが、なんと幸運にも自分を助けてくれる参加者が現れた。

「なんだこいつ!? 人間か?」
「斬左さん頼んだ! おいお前、こっちだ!」
「ありがとう。」

 しかも同行者までいた。たぶん殺し合いに反対して人を集めているのだろう。強くて頼りになる参加者にホッとせずにはいられない。

(ちがう、殺さなきゃ。なにホッとしてるんだ。パセリだって巻き込まれてるはずなのに。)

 そんな自分に、隼人はすぐに喝を入れた。
 隼人がマーダーとなるのは、幼なじみであるパセリのため。復讐のために、パセリを生け捕りにする必要がある。立場を考えれば確実に巻き込まれているだろうし、性格を考えれば、斬左と呼ばれた男のように厄介事に首を突っ込んでいくだろう。それではまずい。

「なんか向こうで火事とか起きてるけど、大丈夫だったか? とにかく逃げようぜ。あ、カッキーって呼んで。」
「はぁ……はぁ……ありがとう……隼人って……はぁ……」
「ムリして話すな。こっちだ。」

 ……今はこれでいい。自分も疲れている。今は好意を利用すべきだから
 まだゲームは始まったばかり。あんな化物もいるのなら、身の振り方を考えなければ。
 隼人は柿沼の後ろを駆けながら、ふと弟の秀人ならどうするのかなと思った。
 たぶん、止めろと言うんだろうなと思って、また柿沼たちに感謝した。
 いいカモフラージュができた。


703 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/15(日) 07:41:54 ???0



【0105 市街地】


【竜宮レナ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
●小目標
 これ幻覚かぁ!

【柿沼直樹@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●中目標
 仲間を探す。
●小目標
 隼人と一緒に逃げる。

【相楽左之助@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 殺し合いをぶっ壊す。
●中目標
 仲間を探す。
●小目標
 大太刀をぶちのめす。

【鑑隼人@パセリ伝説 水の国の少女 memory(3)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 復讐完遂のためにはパセリを生き残らせる。
●小目標
 カッキーと一緒に逃げる。

【大太刀@映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 皆殺し。
●中目標
 鱗滝とアキノリは、絶対に自分の手で殺す。
●小目標
 道着男(左之助)を殺す。


704 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/15(日) 07:42:27 ???0
投下終了です。
タイトルは『厄隠し』になります。


705 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/19(木) 00:00:11 ???0
投下します。


706 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/19(木) 00:01:04 ???0



 このバトル・ロワイアル、参加者の初期位置はもちろん主催者側の意向が反映されている。
 基本的に同じ原作の参加者はそこそこの距離を置いて配置されるし、強マーダー候補には露骨に無力な子供を近くに配置したりもする。
 それが狙い通りにいくもよし、行かぬもよし、アッサリと知り合い同士で交流しようともジャイアントキリングを成し遂げようとも、少なくとも表向きは歓迎されるものだ。
 つまりどう転んでも別にどうだっていいのである。
 その中でも特にどう転んでも良い、どう転ぶかわからないから面白がられている配置があった。
 空手チャンピオン同士のマッチアップ。
 果たして小学6年生の男女は、どちらが強いのか?



「空寺ケンだ。止まる気がないなら、覚悟してもらうぞ。」
「竹井カツエ。その話は聞き飽きたんだよ。」

 男子小学生の空手チャンピオン、空寺ケン。
 女子小学生の空手チャンピオン、竹井カツエ。
 始まって以来行動を共にしていた両者は、アスファルトの上で向かい合っていた。

 ケンは主催者の一人、行先マヨイがかつて行ったデスゲームの参加者である。彼はそこでの友人たち8人と死のゲームを行わされた。その時は友情と勇気により脱出に成功したが、現在はまたマヨイの手によって参加者の身に落ちている
 カツエも主催者の一人、死野マギワが進行役を勤めたデスゲームの参加者である。彼女は詐欺にあい借金を背負わされた両親を救うために望んで死のゲームに参加した。その時は最終決戦で爆死したはずだが、なぜか生きてまた参加者と化している。

 この2人、互いにそのあたりの事情は相手に話している。改めて言うが、これまでの3時間近く、2人は行動を共にしていたからだ。行動を共にしていたのに、2人は袂をわかった。
 元々、ケンはこのゲームでも対主催の立場である。それは前の時から変わらない。無理やり参加させられたデスゲームに、首を縦に振る道理はない。
 元々、カツエはこのゲームでもマーダーの立場である。それは前の時から変わらない。何もしなければ実家の工場は人の手に渡ったままで父も酒びたりのまま。崩壊した家庭を立て直すには、首を横に振る道理はない。

 そんな2人が出会い、情報交換目的で話し合い、最終的に決裂する。それは主催側の予想通りの展開であった。
 互いに相手に妥協する余地は無く、そんな相手を放っておくほど甘くも無く、説得できるだけの言葉は持たない。なら、彼と彼女が最も頼みを置くものに、暴力に、空手によって語り合うしかないのは、必然であった。

「銃を拾わないのかい?」
「わかってるくせに言うなよ。」

 カツエもケンも、5メートルほどの距離をおいたまま入念にストレッチをする。目だけは互いを注意深く見たまま、腱をほぐし、筋肉を和らげる。
 互いに落ちている武器を使う気は無い。その隙があれば、自らの一撃が相手を打ち倒せるという理解があるからだ。
 ここまでにもちろん、2人は武器を拾っている。ポケットには互いに拳銃を挟んだままだ。しかしそれで相手を殺せる気はまるでしない。早撃ちをしくじれば敗北が確実なために、このバトル・ロワイアルでは極めて珍しい格闘戦による勝負が始まった。


707 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/19(木) 00:03:07 ???0


「しっ!」

 仕掛けたのはカツエからだ。ケンが大きくストレッチしたタイミングで一気に距離を詰める。当然ケンは迎撃の体勢をとっているが、構わず身体を捻った。

「キャオラァ!」
「なにっ。」

 空手にはないダッシュの動きに警戒していたケンに放たれたのは、飛び後ろ廻し蹴りだ。テコンドーなどならまだしも、空手の組手で使われることは稀である。その稀な一撃を、畳とは違うアスファルトの上で放ってきたことは、カツエがケンを殺す気で立ち会っていることを言葉以上に伝えた。
 咄嗟に横に身体を捌き、カウンターを諦め防御に徹する。掠めた一撃から体勢を直すのは、ケンのほうが僅かに早い。そのタイミングでカツエの裏を取る。
 そこに放たれたのは、回転の勢いを乗せたバックブローだ。空手では裏拳として型では使用されるが、これもやはり組手では使われないものである。回転から連続で放たれる裏拳を冷静に見切りながら鼻先で躱す。そこに今度はオーソドックスな正拳突きが放たれた。僅かに反応が遅れる。外払いで崩そうとして、間に合わずに肩の近くで受ける形になった。

(そこだ。)

 しかしケンはそれを利用して距離を詰めた。肩を振るい、僅かにカツエの重心を崩す。そして返しの正拳突きで終わらせる。ジ・エンドだ。

「やばっ。」

 それを凌げるからカツエはチャンピオンだ。同じくチャンピオンの一撃を、出しかけた拳を横合いから当てて逸らす。正拳突きは溝尾ではなく胸を強かに叩き、一瞬息ができなくなるが構わずに連撃に移行した。ダメージが抜けるまでラッシュで牽制しなければ押し負ける。経験則で判断すると、無呼吸覚悟の連続突きを放った。

 ボボパン!

 拳が空気を破りぬく音が響く。景気の良い音に比べて、カツエは苦しげに歯をかみ縛った表情だ。
 強い。空寺ケンは、確実に竹井カツエよりも。

(認めたくねぇ。)

 ケンに仕掛けるタイミングも、仕掛けた技も、その後の対応の想定も、ミスは無かったと思う。ミスだったのは、空手家としての腕の差。技量も力量も大差は無いが、だからこそその差を大きく感じてしまう。
 カツエは次戦えばケンには勝てると思う。しっかり研究すれば負けないぐらいの戦力差だ。
 問題は、その研究もできなかった相手が、現在は埋め難い実力差で立ちはだかっている点だ。この今、今の戦いで、ケンに勝てる青写真を描けずにいた。
 この状況を覆す切り札は、実のところある。互いに持っている拳銃は急所に当たれば必殺だ。その急所に当たればができないから困っているのだが。
 仮に今、ケンが拳銃を出してきたとして、カツエは大喜びで踏み込むだろう。狙いをつけるより早くぶん殴れる自信がある。

(撃つとしても隙がねえ。そんな隙があったら撃つ必要がねえ! なんか、なんかしかけるキッカケがあれば。)
「──エイッ!」


708 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/19(木) 00:06:06 ???0

 気をそらせるものはないかと周囲を見る。それはカツエが相手に求めていた正に『隙』だった。
 殴り合いの最中に相手から視線を外す。それが意味するところを理解した時には遅い!

「くっ、うおおっ!!」

 前蹴りから踏み込んできた上段突きを頭を捻って避ける。弾滑り。頭蓋骨の球形を利用して、ケンの拳をいなす。それでも衝撃を殺しきれずに、カツエの視界を何かが遮った。鼻から入る匂いで、それが額を切られて流れた血だと気づいた。

(やるしかない!)

 口へと垂れた血を舐める。覚悟を決めた。
 Tシャツの裾を引っ張るとめくって手を脇へと突っ込む。そのカツエの奇行を見て、ケンは『二手』対応が遅れた。

 お互いポケットに拳銃があることは知っている。だからケンも、カツエがポケットに手を伸ばすかは常に注意を払ってきた。
 だからこそ、そのフェイントに掛かってしまう。まるでその動きは、『脇に提げたホルスターから拳銃を抜き出すような』、『映画やドラマで見るような』クイックドローのワンシーンを思い起こさせるものだった。

(!!──!?)

 そしてチラリと見えたのは、カツエの胸。それが判断を狂わせた。
 カツエ自身、そこまで狙っていたわけではない。単に乾坤一擲のフェイントの為に全力でTシャツをめくり上げただけだ。だが拳銃が出てくるかもしれないと思って踏み込んだところに見えた胸に、一瞬、ケンの思考が止まった。

「かかったなぁ!」
「──!? チィッ!!」

 そしてカツエが手を伸ばすのは、自分のズボンのポケット。脇の拳銃の抜き打ち動作はブラフ。こちらが本命の、ブラフ。

「ナメんじゃねぇ!」

 狙い通り!
 反応が遅れたところに、ポケットから拳銃を出す動作をする。抜き撃ちをさせないために、ケンは踏み込まざるをえない。しかし誘導された行動ほど、狩りやすいものはない! カツエの口がニィと、凶暴な笑みを作った。
 拳銃を出すようにポケットに突っ込んだ右手が、腰を切る動作で加速する。
 カツエが拳銃を入れているのは、左のポケット。何も入れていない右のポケットの中から手が出る頃には、充分なスピードと体重が乗っている。

「カスが効かねぇんだよ!」

 そして握力。
 インパクトの瞬間に込められた渾身の力が飛び込んできたケンの顔面を殴り抜いた。
 一本。
 正確に鼻柱に突き刺さった拳は、互いの勢いをモロに載せて軟骨ごと顔面の骨を砕いた。
 連続のフェイントで飛び道具を警戒させ、飛び込んだきたところに必殺の対空を放つ。完璧に計画通りに行った一撃が、ケンの鼻と口から大量の血を出させ、首をむち打ちにする。しかし。

「空手じゃないんだよ!」
「ゴッ!?」


709 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/19(木) 00:10:10 ???0

 カツエの顔面を、ケンの腕が殴打した。なりふりかまわぬ一撃が、フライングラリアットとしてカツエにヒットしたのだ。
 逃げ場の無い空中に飛ばされた時点で、ケンは何があっても一撃を加えると覚悟していた。
 反応が遅れて咄嗟に放った攻撃だ、たぶん上手くはいかない。それは経験則で理解している。それでも身体が反射的に攻撃してしまったのなら、何がなんでも当てるしかない。
 これが空手の組手であれば、先の一撃で試合は終わっていただろう。ケンの一本負けだ。しかもその後にラリアット。反則負けもオマケでついてくる。
 だがルール無用のこのバトル・ロワイアル。そういった場での足掻き方も、付け焼き刃ではあるが理解している。
 フラつく足を無理に動かして、ケンはカツエの裏に回る動きに移行した。
 耳が遠い、視界が回る、鼻は効かないし、口には血の味しかしない。そして、肌は総毛立っている。
 だが、止まるわけには行かない。
 ここでケンが簡単に死ねば、マーダーを一人会場に放つことになる。そうなれば巻き込まれているかもしれない友達たちが危ない。戦うべきは主催者とであって、参加者同士ではないのだ。

「しゃあっ。」
「えぃっ!」

 拳が交差する。ヒットしたのは、カツエの突き。驚きと苦痛に顔を歪んだのも、カツエの顔。
 右手が、利き手が効かない。相手をたしかに殴ったはずなのに、手応えがなかった。そこで気づく。右手から力が抜けないと。

(さっきので力が入りっぱなしになってる。)

 渾身の力を込め、互いの体重を載せあって放たれた一撃。それはカツエの右手を麻痺させていた。過度な負荷による、痙攣に近い筋肉の強ばり。それは拳を握っているのではなく、手を開くことができなくなったというべき状況だ。
 空手に限らないことだが、あらゆるスポーツは力みと脱力が重要になる。その差が大きいほど、キレのある動きとなる。今のカツエからはそれが失われていた。

(空手じゃない? そんなことは──)
「当たり前じゃねぇか!」

 特に空手は、脱力からの一撃が重要になる。
 だがこれは空手ではない、殺し合いだ。
 スイッチし、右足を前に左足を後ろに。使えない利き手を牽制と防御に回して、本命を左に切り替える。そして左ポケットには、拳銃。身体を半身にしたことで、それを抜き出す初動は大きく見辛くなっている。

「死ね、ケン!」

 今なら、抜き撃ちできる。そうわかっているのに、あえてまた対空の上段突きを選んだのは、先の成功体験か、空手への自信か、それとも。
 ボッ、と互いの相対速度により空気が鳴る。
 再び飛び込んできたケンに、禁断のクロスカウンター上段突き二度打ちが突き刺さる。
 今度は当たる寸前で拳を引いた。手加減ではない、拳を傷めずかつ衝撃を振動としてケンの脳を揺らすためだ。
 そしてそれは狙い通りに行った。たしかに、ケンは脳震盪を起こした。
 だが、ケンも再び飛び込む以上、そうなることは覚悟している。故にその一撃は必然。グラリと身体が前に倒れ込むその動きは、脳震盪によるもの、だけではない。自然な重心移動による、初動を悟らせない一撃。



710 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/19(木) 00:15:29 ???0

「しゃあっ!」
「〜〜〜〜〜ッッッ!?」

 その一撃は、下段突き。
 掟破りの金的が、カツエの下腹部を貫いた。

「お‥‥おっ‥‥! お、おほっ‥‥!」

 「お前」と悪態をつきたいが、激痛で言葉が出ない。堪らず膝をつきたくなるがそれだけはなんとか堪えて、バックステップする。
 だがそれをケンが見逃しはしない。

「しゃあっ!」
「はうっ!?」

 禁断の金的二度打ち。
 2回も顔面を殴られた意趣返しとばかりに放たれる一撃に、カツエは更に悶絶する。

「それ(金的)は駄目だろ‥‥」

 弱弱しくケンの髪を掴み、力が抜けぬ右手でテンプルにフックを放つ。脳震盪を起こした頭にその一撃は、力が入っていないものでもクリティカルヒットとなるはずだ。
 しかし、ケンはまだ沈まない。三度、腕を引き絞る。
 止めろ、と言うより早く、カツエの股間に禁断の金的三度打ちが突き刺さった。
 もうこらえきれない。ついにダウンすると、カツエはのたうち回った。アスファルトのザラザラとした感触も感じないほどの無様な踊りを路上で行う。それをケンは虚ろな目をしながらも、立ち続けて眺める。
 試合に勝った、だが勝負には負けた。 それを否応なしにわからせられる結果だった。

(くそっ、くそっ! こんなところで。)

 声も出せずに悪態をつく。単純なダメージなら相手の方が大きいはずだ。だがこの痛みで動けない状況を見れば、狩られるのは自分だ。
 負けた、情けない、悔しい、恨めしい。
 言葉は色々だが、とにかく様々な感情が押し寄せる。
 しかし、それでも。いや、それだからこそ。カツエは悪足掻きをやめない。やめられない。
 必死になにか起死回生の一手はないかと、視線を周囲に這わせる。さっきそれで隙が生まれたのだろうとももはや関係ない。なんでもいい。なんでもいいから、このピンチを脱せるなにかを。
 そう願うところに現れたのは、黒い影。
 サングラス越しに目があった瞬間、走り出す。
 ハンター、だ。

「つ、つぎは、必ず殺す!」
「待てよ‥‥逃げられるわけないだろう‥‥!」
「はっ、はっ、ハッ! ど、どうだか?」

 ハンターが視界に捉えたのは、カツエとケンの2人。
 ハンターは参加者を捉えるようプログラミングされており、捕まれば首輪が作動する。
 そのことをカツエは知らないが、直感で逃げることを選んだ。
 もしかしたらそれは、彼女が参加したデスゲーム、『絶体絶命ゲーム』での経験によるものかもしれない。あのゲームでも、主催者側に黒服がいた。だからだろうか、直ぐに逃走を選んだのは。

「なんだ、アイツ?」

 一方のケンは、ハンターに気づいても動きは緩慢だった。それは顔面への大きなダメージにより認知能力が落ちているところが大きいだろう。また彼が参加させられた『迷宮教室』の場合、主催者は行先マヨイただ一人で黒服のような存在はいない。そしてなにより、彼はカツエを止めることに全力を尽していた。ゆえに、彼女以外への存在への対応は遅れる。


711 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/19(木) 00:21:13 ???0

「おーい、アンタ、アンタも参加者か?」

 そしてハンターは武器を持たない。
 ハンターはあくまでも確保した際の首輪起爆以外で、参加者に加害することがないようにプログラミングされている。
 そのためケンからすると、そこら中に落ちている武器を持たずに全力疾走してくる男という認識になるわけだ。
 なにかやばい。
 そう思ったときにはもう遅い。

「おい、止まれ。」

 止まれと言われて止まるハンターはいない。
 静止しようにも、今のケンにできることはない。
 そしてハンターの腕が、ケンの肩を掴んだ。

「離しやがれ! うわっまぶしっ!?」

 首輪が作動する。爆発したかのような発光と同時に内部から注射針が展開、ケンの首にチクリとした感触がすると、瞬時に硬直が始まった。

「こ、れ、オープ、ニン、グの‥‥」
(キララ、ヒカル、また巻き込まれちまってるなら、お前らは──)

 突然の死に、ロクな遺言も残す間がない。
 最期に想い人とライバルの顔を思い浮かべて、空寺ケンは脱落した。



【脱落】

【03時17分】

【君野明莉@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】

【確保】



「ハァ……オエッ! やった、ハァ、逃げ切った……!」

 一方、カツエは転がり込んだ廃工場で息を整えていた。
 ハンターは視界に捉えた参加者を追跡する。裏を返せば、視界から消えれば数秒で追跡を断念する。
 ケンを囮にしたカツエ。
 うまく、撒いたようだ。

「ぐっ、イッタァ……手が。ちくしょう。」

 しかし痛手は大きい。
 金的の痛みは引き、幸い怪我もしていないようだが、右手の方はそうもいかない。
 指と手首の関節の痛みもそうだが、いまだ手を開くことができない。拳を開こうとしてもできず、左手でなんとか指を1本ずつ開いて、ようやく力が抜け始めた。この感じでは、少なくとも数十分は麻痺は収まらないだろう。
 だが、それでも生きている。
 前の絶体絶命ゲームでも最終決戦まで生き残っていたことと合わせて、自身を取り戻す。前のようにあと一歩のところで死ぬような真似はしない。なぜか拾った命、今度こそやってみせる。

「っても、とりあえず休憩しないと……」

 与えられたリベンジマッチは始まったばかり。
 今はしばらく、戦士に休息を。


712 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/19(木) 00:21:36 ???0



【0317 都市部】


【竹井カツエ@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残り人生をやり直す。
●小目標
 怪我が治るまで休む。

【ハンター@逃走中シリーズ(集英社みらい文庫)】
【目標】
●大目標
 視界に入った参加者を捕らえる。
※捕らえた参加者の首輪が爆破するよう改造されている(触れただけやすぐに逃げられた場合はノーカウント)


713 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/19(木) 00:25:04 ???0
投下終了です。
タイトルは『やっぱ怖いスねハンターは』になります。
逃走中アニメ化おめでとうございます。


714 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/21(土) 11:00:15 ???0
投下します。


715 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/21(土) 11:00:48 ???0



「なんてことだ……なんてことだ……」

 紅に染まる森の中で和服仕立ての制服姿の少女は怯えていた。
 彼女にこのような下道の催しに参加しなくてはならないようなおぼえはない。
 もちろんゲームに乗るはずはないが、歴女としての知識からこれが逃げ場のないものだともわかっていた。

(古代ローマでいうコロセッオだろうか。ならわたしはさしずめ剣闘士か。くっ、世界史は守備範囲外なのに!)

 天照和子はそう考察するが、今のところできることはなにもない。

(まずは情報がほしいな。森の中では何もできない。あそこの建物に行こう。)

 三角座りでうずくまっていてもどうしようもないので移動を始める。歩きだしてすぐに、妙な臭いに気づいた。

(この臭さは、硫黄か? もしかしてあの建物は。)

 和子の想像通り、それは旅館だった。古めかしい外観は歴史を感じさせるものでポイントが高い。
 温泉があるのだろう、敷地の中からは湯気が立ち昇っている。なぜ殺し合いの場に温泉地を選んだのかは謎だが、とにかく森よりは屋内の中のほうがいいのです入ってみることにする。
 するとすぐに、旅館の異変に気づいた。入口まで回ってみたら、看板が見慣れない漢字だ。いや本当に漢字かこれ? 崩しているにしても見たことないぞ。

「看板だけでなく室内のポスターもか。どうなってるんだ?」

 端正な顔を乗せた小首をかしげる。どういうわけか、わざわざあらゆる文字が見たことのないものに変わっている。何か意味があるのもともとそういうものなのか。
 これはもっと調べる必要がある。靴を脱いでスリッパに履き替えると、探索を始めようとした。思わず二度見してスリッパをつっかける。探索を始めるどころではないもの見つけた。
 刀だ。
 しかもよく見たら銃も落ちてる。たくさん落ちてる。

「なんなんだこの殺人旅館は! そんなに人殺しをさせたいのか!」

 ぷりぷりと怒りながら拾った刀片手に旅館を調べる。刀自体は嫌いじゃない。歴史、特に和子一推しの戦国時代には様々な刀剣がきらめいた。しかしそれがわけのわからない殺し合いのためとなれば怒りたくもなる。
 旅館を一通り調べると、和子はエントランスに戻って再び頭を捻った。
 誰もいない。殺し合いなのに、
 いたらいたで怖いけど、自分ひとりぼっちというのもかなり怖い。
 色々赤いし刀落ちてるし文字変だし、本当にここは日本なのだろうか? 疑問に思わずにはいられない。

「むぅ……犯人は一体何がしたいんだ? 動機が読めないな。」

 顎に手を当てて考えながら歩く。いまのところ怪しい旅館に来ただけで殺し合いらしきことは何も起こっていない。
 悶々としながらもう一度探索してみると、和子は温泉の前で足を止めた。
 そういえば温泉旅館なのに温泉を調べていない。こんなところになにも手がかりはないだろうと思っていたので無視していたが、よく考えれば温泉にこそ何かしらのヒントはあるのではないか。そう思い立つとさっそく突撃。まさかこんな時に温泉に入ってる人もいなかろうと、暖簾も見ずに突っ込む。



716 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/21(土) 11:01:14 ???0

「ここも普通の温泉だな。本当にどうなってるんだ? 変わったところは……鈴?」

 脱衣場に入ってみると、もう見慣れた変な文字のポスターと落ちている武器があるだけだった。充分変といえば変なのだが、すっかり慣れてしまい予想のついた光景だ。
 一応、変な土器のような鈴は見つけたが、これもさっきのロビーで似たようなものは見た。置いてる場所と変な装飾があるのが気になるが、観察してみたら普通に鈴で、ますます疑問が増える。変なところはあるのに、それが特に何かの意味を成していないことが多い。不条理な空間だ。

「この鈴についてるのはわたしの首輪とそっくりなんだが、これもなんの意味もないのか? なんで鈴に首輪を?」

 疑問がどんどん増えていく。温泉を調べるが、水が赤いことを除いてたぶん普通に温泉だ。水が赤いことすら特に意味のある異常じゃなさそうなので、もう何がおかしいのかがわからなくなってきた。さすがに飲んだり触ったりする勇気はないが、たぶんなにも変わったところはない。
 何気なく、鈴を湯につけてみる。なにかこう、アイテム的なアレかと思ったが、特に何も起こらない。恥ずかしくなって勢いをつけて立ち上がると、鈴が鳴った。

「いったぁ! だ、誰か脱衣場に来たのか!?」
「へっ!? わっ!! ゆ、ユーレイィィ!?」

 突然聞こえた声に驚き、和子の足がもつれる。
 あっという間もなく、踏み外した足が湯船へと突っ込んだ。

「アッツゥー! 溺れる!? 溺れる!?」
「あああやめてええ! 鈴鳴らさないでえええ!!」

 ざっぱんざっぱんと温泉で溺れかける女子小学生と、それに合わせてどこからか聞こえてくる悲鳴。何も起こらなかった旅館にようやく何かが起こったタイミングだった。


「自己紹介がまだでしたね。天照和子です。高天原小の6年生です。」
「鈴鬼です。ユーレイじゃなくて鬼なんで、そこんとこよろしくです。」
「鬼、ですか……幽霊じゃなくて?」
「鬼です。」

 何分かして、和子は浴衣姿で和室に座っていた。すっかりお湯を吸ってしまった制服をどうにかこうにか乾燥機にかけ、乱れた髪を整える。そして顔には、今まで掛けていなかった眼鏡をかけていた。
 その眼鏡をしきりにかけたり外したりしている。よく見えるようになった目には、しっかりと正座をしている小鬼の姿が写った。
 天照和子が唯一怖いもの、それは幽霊だ。あまりに怖いので、普段は直視しないように眼鏡をかけることを躊躇っている。
 幽霊だけは駄目だ。殺し合いならまだ頭でなんとかできる気がするし、戦国の世を始め様々な戦史を教訓にすれば、遅れを取る気はない。だが幽霊はそういうの無理である。
 で、目の前には自称鬼。褐色の肌に金髪から覗く角を見た感じ鬼なのだろう。これは、どうしたものか。


717 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/21(土) 11:01:33 ???0

「和子さん、あまり驚かないんですね。さっきのビビりっぷりからは想像できないくらい落ち着いてますよ。」
「ああ……元々そういうのが見える体質で……この間も悪霊と戦ったので、いるとわかれば、なんとか。」
「なるほど、見えているから恐れるタイプですね。いやでも良かったですよ、霊能力のある人で。あのまま鈴を鳴らされまくってたらどうなってたかわからないですもん。」

 鈴鬼と名乗った小鬼への対応がわからず、緊張して受け答える。失礼なことを言われているのにも気づかないほど余裕がない。
 この間は転校生とタッグを組んで悪霊と戦うハメになったが、今回は小鬼とタッグを組んで戦うことになるらしい。

「鈴鬼、さんは、参加者なのですか?」
「そうみたいですね、悲しいですけど。」
「首輪がないようですが。」
「鈴の方に着けられてるんですよね。あれ壊されると死んじゃうんで。」
「なる、ほど……」
「それでですね、さっきの件なんですが。」
「すみません、わたしも会ったのはあなたがはじめてで。」
「そうですかぁ、まあ、しかたないですね。」

 水を向けられて少しづつ話せるようになる。
 あのあと溺れてから落ち着くまでに、鈴鬼からは誰かと会わなかったかと聞かれていた。鳴ると頭痛がするという鈴に首輪が着けられている都合、一人では遠出できないらしい。それにしても温泉に入るのは呑気だろうと思ったが、とにかく誰とも会ってこなかった和子には答えようがなかった。
 なお、2人は互いが別の世界の住人であると気づいていない。なまじ知識はあるがそこまでコミュニケーションをしているわけでもないので、2人の持つ情報が異なることを知るきっかけがなかった。
 だがそれでも、鈴鬼は見た目に反して大人っぽいことはわかる。一見かわいいマスコットにしか見えないが、受け答えは同年代の子供よりしっかりしているように思った。

「しかし困りましたねぇ。ちょっこれはピンチすぎますよ。こんなことができる存在、魔界にだっていないかもしれないです。」
「鈴鬼さん、これからどうしましょう?」
「うーん、地図も何もないですからねぇ。動きようがないですし、とりあえずここに立て篭るのが良いと思います。これだけ武器をおいてるっていうのは異常ですからね。他にも何か使えるものがあるかもしれないですし、調べてみましょう。ま、その前にご飯ですね。」
「ご飯、ですか?」
「ええ、食べれる時に食べて寝れる時に寝る。人生これでなんとかなります。和子さんはお風呂にも入ったほうがいいですね。身体を拭いたとはいえ寒くないですか?」
「そういえば。」

 鈴鬼に言われて身体の冷えを思い出す。すっかり湯冷めしてしまっていた。

(落ち着いてると、こちらを気遣う余裕まで出てくるのか。)

 小さな先達に感心せずにはいられない。
 和子は刀を手に取ると一礼して温泉へ向かった。


718 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/21(土) 11:01:58 ???0

「さあて、困ったことになりましたね、全く。」

 和子がいなくなったのを確認して、鈴鬼は溜息をついた。お茶請けのお菓子を適当につまむ。
 和子の手前落ち着いた雰囲気を出したが、内心鈴鬼も頭を抱えたい気分だ。
 元々鈴鬼は鬼といっても、鬼らしいことはほとんどしない。せいぜい居候先の温泉旅館に厄介事を抱えた客を集めるぐらいだ。こんな銃を抱えてドンパチのようなことはてんで畑違いである。

「しかし、同じ小6でもおっこさんとは全然違いますねえ。おっこさんが元気すぎるからでしょうか。」

 苦笑しながらメモ用紙に書き置きを残していく。和子との話を通じて知った互いの知己と情報を記すと、鈴鬼は畳に仰向けに寝そべり天を仰いだ。

「たぶん生き残れないでしょうね。そういうキャラじゃないですし、こういう時に活躍するような責任感とかありませんし。」
「ていうか、鈴を自分で持ち歩かなかったら移動できないなんてどうしたらいいんですか。」
「ただ、まあ、できることはやっておかないと目覚めが悪いですからね。自分の言葉が通じる人に出会えること自体奇跡みたいなものでしょうし。」

 鈴鬼の姿は、霊能力などがなければ見ることはできない。それはつまり、一方的に相手を襲えるということでもある。その優位性をわかりながらも、鈴鬼はただ天井を睨んだ。
 実のところ、鈴鬼にはこの殺し合いを開けるだけの実力者に覚えがある。魔界の黒魔女に、クーデターを成功させた傑物がいるらしい。その黒魔女ならばあるいはと思う。
 そして自分が参加させられいるということは、素性もバレているだろう。これでも鈴鬼はイイトコの出だ。こんなことに巻き込まれたとなればさすがに知り合いが黙っていない。それをどうにかできるレベルの実力者となると、手の打ちようが思いつかない。
 だが、それでも自分の知識が役に立つこともあるだろう。だから主催者に警戒されない程度に情報を残す。残して、打開策を作る手助けになればと思う。

(勝算はほぼゼロですが。まあダメ元です、悪あがきしてみましょう。)

 逃げぐせがあるとはいえ自殺志願者ではない。
 やれるだけのことはやろうと決めた。



【0025 温泉旅館】


【天照和子@歴史ゴーストバスターズ 最強×最凶コンビ結成!?(歴史ゴーストバスターズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する方法を探す。
●小目標
 温泉に入る。

【鈴鬼@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出を図る。
●中目標
 自分の知る魔界の知識や集めた情報を残す。
●小目標
 和子と行動する。


719 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/21(土) 11:02:33 ???0
投下終了です。
タイトルは『意思持ち支給品と参加者の間で』になります。


720 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/22(日) 06:33:17 ???0
投下します。


721 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/22(日) 06:33:49 ???0



「村上さん、またあったよ。」
「ウソだろ……」

 慎重な手つきで、小村克美はクレイモアを地雷両手で手に取る。
 ガンシューティングゲームで見たことがある、センサー式の爆薬を、村上が転がしている買い物かごにゆっくりと入れた。
 そして一緒に見つけたアサルトライフルからマガジンを抜くとこれも買い物かご入れる。
 既に二台目となったカートを見ながら、こんだけ武器あるとホラーっていうよりFPSだよな、などと思いながら、改めて今の状況に頭を悩ませた。

 克美はただの男子小学生だ。
 東京の郊外に住むゲーム好きの、日本に万単位でいる一般的な子供である。
 そんな自分がなんでこんな特殊部隊のエージェントでもなきゃ巻き込まれないようなイベントに参加しているのか、人選おかしいんじゃないか、などと愚痴りたくもなる。
 ゲームスタートからずっと同行している村上もそうだ。
 体育会系の中学生というのはそりゃ漫画の主人公にはなりそうだけど、別に何か得意なことがあるわけではないらしい。
 ゲームならこういう場所で最初に出会うのはそれなりの重要人物だと思うのだが、お互いの第一印象は「ふつう……」というものだった。

「あ、またあった。」
「今度はなんだ? 手榴弾?」
「ううん、またM16A4。」

 棚の一つ一つ、店の一つ一つを巡っては銃から弾を抜き、爆薬を拾っていく。
 最初は銃ごと持っていこうと思ったが、異常なまでのドロップ率と『アイテムは持てば持つほど重くなる』というゲームとは違う仕様に諦め今に至る。
 「こんなんならワタルからファンタジーゲー借りとくんだった」と友人の姿を頭の中で浮かべながらボヤくが、どこからか響いた軽いパキりという音に、足を止める。
 冷や汗が流れる。
 横の村上と目を見合わせる。
 そして数分して何も起こらないと判断して、「行こうか」という村上の言葉に頷き、歩くことを再開した。

「……なあ、やっぱり見間違いじゃない、よな……?」
「……わかんないけどさ、銃はあっても困らないと思うよ?」
「……そっか。」

 俯いたところで手榴弾を見つけ、買い物かごに入れる。
 ついに三つ目のかごが埋まり残るは四つ目。そこまできて近くにあったカートを取ると、五つ目と六つ目のかごを乗せた。
 話は三十分前に遡る。
 どこかのデパートらしき場所で目を覚した二人は、数分後には同じフロアにいたのもあり合流し、情報交換をしていた。
 と言っても大したことを話せるわけでもないのだが、幸か不幸か二人は見たのだ。
 エスカレーターにより吹き抜けとなった場所で、数階下の位置にいた巨人を。
 詳細はわからない。
 だが、明らかに人間のものではない頭部と、おかしいサイズ感、なにより筋骨隆々とした身体。どう見ても敵、しかもボスキャラっぽかった。
 というわけで二人で必死になって武器を集めているのだが、集めれば集めるほど不安な気持ちが膨らんでいく。
 こんなにも武器が多いということは、それはすなわちそれだけ敵が多くて強いということではないか、と。


722 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/22(日) 06:34:30 ???0

「こんだけ弾あったらゲーセンのゲームみたいに撃てそうだな。」
「だからってあんなボスキャラと戦うん勝てやだよ。」

 愚痴っても仕方ないとは思うものの、愚痴らずにはやっていられない。
 幸いにして、あのボス以外にこのデパートに敵はいないようだ。殺し合いと言っていた気がするが、バランスがおかしいと思う。
 そんなことを考えながらただひたすらに武器を集めていると、少しは安心してきた。いくらなんでも、これだけの武器があればとりあえずあのボスにも効くだろうと。
 最初は現実逃避同然に始めたことでも、目の前に積み上がる手榴弾の山が自信を与えてくれる。野球部のボールのごとく山盛りになったものが全部爆弾だと思うと、なんとかなりそうな気がしてくるものだ。

「しっ、また動いた。」
「あいつ、同じところをぐるぐる回ってるのか?」
「そうみたいだ、あれ?」

 余裕は冷静さを連れてくる。さっきは見るのも怖かった蜘蛛頭の巨人が、突然エスカレーターを走り出したことに村上は気づいた。
 登ってくるのか!? そう2人して身を震わせるも、その逆、巨人は駆け下りて行く。
 なんだなんだと思っていると、下から怒号や叫び声が聞こえてきた。「おっさん!」という悲鳴に二人で顔を見合わせた。
 一体下は何が起きているんだ?

「ど、どうしよう?」
「……やっぱり、アレって人を襲うんだな。」
「うん……」
「とにかく、このまま隠れてようぜ。あいつは階を移動できる。大きな音を出すのはまずい。」
「わかった。」

 それは結局今まで通りという意味だ。何もしないに等しい。参加者であるのにゲームに参加していないとも言える。
 だがその臆病さは、前のループよりも2人を死から遠ざけていた。

 前回、小村は下の億泰グループと接触したところ、めぐり合わせ悪く蜘蛛頭の巨人こと蜘蛛の鬼(父)に襲われ死亡した。
 今回は、カザンから毒を抜かれ、その影響で電車が正常に動き、その影響で億泰がメイト達と出会い、小村達に合わずに鬼と戦闘になった。
 その違いが、小村を生かしている。

 それは殺し合い全体から見れば大した差はないのかもしれない。
 小村はしょせん、ふつうの小学生。なんの力も特別な暮らしもしていない。
 殺し合いでいえば、首輪すら付けられずに会場に放置されているNPC程度に変えが効く存在だ。


 では、もし登場話で参加者の噛ませ犬として殺されるNPCが、参加者として振る舞うとどうなるのだろうか?


「なあ、さっきのあれ、誰か死んだのかな。」
「わからないぜ。ただ──」

 問いかける村上に、小村は答えて、ただ、と続けた。

「──あんなふうに、死にたくない。ゲームじゃないんだ、モブキャラみたいに見えないところで死ぬなんてヤダ。生きて、生きて帰りたいんだよ。」

 それは一般人Aの物語。
 替えの効く記号はA'となる。
 代入された生の運命を、彼は知らない。


723 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/22(日) 06:35:46 ???0



【0044 都市部・デパート】


『チーム:プレイアブル昇格』

【小村克美@ブレイブ・ストーリー (1)幽霊ビル(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないが死にたくない。
●中目標
 巨人(蜘蛛の鬼(父))に気をつける。
●小目標
 こっそり武器を集める。

【村上@泣いちゃいそうだよ (泣いちゃいそうだよシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 よくわからないが死にたくない。
●中目標
 巨人(蜘蛛の鬼(父))に気をつける。
●小目標
 こっそり武器を集める。


724 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/22(日) 06:36:28 ???0
投下終了です。
タイトルは『一般人A'、あるいはNPCが参加者となったときの考察』になります。


725 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/26(木) 00:00:23 ???0
投下します。


726 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/26(木) 00:01:07 ???0



「銃声か。近いな。」

 石川五エ門は冷静に音を聞き取ると、歩いていた足を早めた。
 ゲーム開始から早三十分。五エ門は周囲の探索を終えると、近場に見えた警察署へと向かうことにした。
 日本に戻り怪盗稼業に勤しんでいた時に起こったこのバトル・ロワイヤル。最初は薬物の投与を疑い、次に景色の不可解さに黙考し、しばらくして出した結論は「何もかも不明」という解なしだ。五エ門の知る限り、これが現実だと思えるような根拠もなければ、幻覚だと断定する根拠もない。
 ならばやむを得まい、一応は「そういうもの」だと判断しつつ動かなくてはならない。
 早めに警察署を見つけられたのは幸いとも言える。自分が逮捕されるようなことがあればそれで幻覚だと判断がつく。もし街と同じように無人ならば、いよいよ重症だろう。

(街に人がいるとわかっただけでも良しとしよう。む?)

 移動を早めて直ぐに、その鋭敏な耳に走る音が聞こえた。音の感じからして、屋根を駆けるような聞こえ方がする。なるほどたしかに屋根を行けば道路を歩くものからは見え難いだろう。だが近くに警察署という高い建物があることを考えればそれは愚策だ。ゆえに五エ門を普通に歩いている。

(こちらに来るな。今の銃声に炙り出されたか。)

 愛刀・斬鉄剣はこの手にある。動きは手練だろうがこれ以上の遅れを取る気はない。静かに物陰に身を寄せると、音の出し手を待つ。
 はたして現れたのは、子供だった。
 オレンジのジャージに金髪の少年だろうか。緊張した様子で民家の屋根を飛んでいる。行き先は警察署だろう。
 やむを得まいと、五エ門は少年を追うこととした。これが大人ならば囮にでも使おうとしたが、さすがに目覚めが悪い。

「そこの小僧。」
「やべっ、影分身の──」

 声をかけたとたん少年から飛んできたのは手裏剣だった。驚かせたか、というのが半分、やはり只者ではないな、というのが半分、一気に突っ込む。声をかけると決めるより前からこういう事態は想定している。なのでやることは一つ。普段通りに突っ込み黙らせる。
 手裏剣術はさほど上手くないようで、刀を抜くこともなく間合いを詰める。少年が何か印を結ぼうとするよりも早く、五エ門の当身が少年の鳩尾を打った。

「――ぐへっ!」
「安心しろ、峰打ちだ。」

 峰打ちではない。
 悶絶する少年が空中で体勢を崩すのを受け止めて地に降りる。咳き込む背中を擦ってやると、大人しくされるがままになった。
 その間に五エ門は少年の装備を見る。額当てや大腿のホルスターにあるクナイは、先のものと合わせて忍者を想像させる。忍者がオレンジジャージを着るのかとは思うが、とにかく只者ではないだろう。おそらく同じ年頃の五エ門よりも強い。

「い、痛いってばよ……」
「咄嗟のことですまぬ。加減はしたが怪我はないか。」
「たぶん……おっちゃん、侍か? 忍者には見えねえけど。」
「やはり忍者か。拙者は石川五エ門。いくつか話を聞かせてもらうぞ。」


727 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/26(木) 00:02:09 ???0


「ビビって手裏剣投げて返り討ちとか、メチャクチャ恥ずかしいってばよ……」
「気に病むな。この状況ならばそうもなろう。」

 話してみると直ぐに互いが殺し合いを良しとしないことはわかった。
 少年忍者の名はうずまきナルト。
 彼も五エ門と同じように幻覚を疑い、周囲を調べたあと、警察署と思われる建物を目指していたそうだ。
 先の手裏剣も五エ門の持つ侍としての剣気に当てられた、ようするにビビってやっちゃった一撃。ナルトが前に戦った侍達とは比べ物にならない威圧感が反射的な攻撃の原因だった。
 そんなことはどうでも良いと五エ門はナルトに話の続きを促す。彼から得られた情報は値千金のネタだった。

「それで、その木の葉隠れというのは。」
「だから火の国の隠れ里だって。おっちゃんもしかして、チョー田舎の人?」「侍って霧隠れの忍とは別なのか?」「おっちゃんは霧隠れの人じゃないの?」
「一度に話すな。」
(木の葉隠れ、火の国、火影……幻覚にしては作り込まれているな。)

 ナルトが話したのはおおよそ現実離れした内容だった。知らない国の忍者組織という、マンガの話のようなことを言われ五エ門も面食らう。
 だがそれを信じざるを得ない。今目の前で3人に分身したナルトを見ると、ナルトの話と自分の感覚のどちらを信じるかという話になる。
 そう、ナルトは3人に分身してみせたのだ。

「うひゃひゃ! くすぐったいってばよ!」
「触れて体温もあるのか……面妖な……」

 正しくは影分身の術という。
 ナルト×3を恐る恐る触りながら認めるしかない。どう見ても触っても、ナルトが増えている。本人によれば1000人にも分身できるというが、ここまで来ると嘘と断ずることはできない。
 五エ門も忍法の心得はあるが、こんな魔法のようなことはできない。
 いよいよ幻覚を疑うが、これは大きな収穫だ。分身できる敵がいるということを頭に入れておけば対応は大きく変わる。それに忍者というのは分身以外にも色々な術を使うらしい。警戒して損はない。

(! 騒ぎすぎたな。)
「ナルト、静かにしろ。誰か来る。」

 更に色々考えたいが、聞こえてきた足音にひとまず中断することにした。目立たない場所に移ったとはいえ、ナルトの声は響く。銃声の出し手が察知してもおかしくない。

「おっちゃん、あれ。」
「ああ、また子供か。」

 隠れて少しして現れたのは、制服姿の少女だった。
 五エ門の顔が険しくなる。その手には銃。そして表情は、鬼気迫るものがあった。
 まるで人でも殺したような。

「少し待っていろ。」
「オレもいくってばよ。」
「だが。」
「おっちゃん怖えからなあ。オレが行ったほうがいいって。」
「む……!」

 そう言われると、先のことがあるので反論できない。
 しばし考えて、五エ門は浅くため息を吐くと物陰から出た。

「拙者の後ろから離れるな。」


728 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/26(木) 00:03:07 ???0


「どこ行ったんやアイツ……はよ、はよ殺さな……」

 めちゃくちゃ物騒なことを言いながら、宮美二鳥は警察署の近くを歩いていた。
 野原しんのすけ殺しの下手人である前原圭一(と思っている)を追いかけること早十分。彼らも目的地としていた警察署も見失い、宛もなく彷徨う。なのにそれを止めようとは思わない。しんのすけの仇を討つ。それだけが、自分がしんのすけを射殺した可能性を考えずに済む方法だからだ。

「おーい! そこの女の子ー!」
「だ、誰や!」
「オッス! うずまきナルト! 木の葉隠れの忍だ。」
「石川五エ門。お前と同じ『参加者』だ。」
「参加者……!」

 失念していた。
 あの場にいた人間以外も参加者がいるということに。
 逃げなければ、反射的にそう思う。なぜそう思うのかは考えたくもない。

「な、なんのようや! うち急いどんねん!」
「なんのようって、歩いてたから声掛けただけで。」
「こんな時にナンパか!」
「するか! ちげーってばよ!」
「落ち着け、ナルト。拙者たちはこの辺りで銃声が聞こえたので声をかけた。それだけだ。」

 些細なことにも過剰に反応してしまう。それを自覚して二鳥は深呼吸した。
 少し冷静になる。
 ん?と気づく。
 よく考えれば、自分が恐れることはないだろう。

「そ、そうや、なんでうちビビっとんねん。悪いのはアイツや。」
「? なんの話だってばよ?」
「な、なんでうちの心を!?」
「言葉に出てたってばよ……」

 迂闊だった! だが、これはチャンスではないか?
 あの悪党を知らしめる一大チャンスだと、二鳥はすぐに思い直す。
 ゴクリとツバを飲み込む。すっかり撃ち終わった銃を投げ捨て両手を上げると、カラカラになった口を無理やり動かした。

「う、うちさっきや、人が殺されるのを見たんや! それで、知らない人に会うのが怖くなって……」

 殺されたという言葉を聞いて、五エ門とナルトの顔が険しくなる。五エ門に動揺はない。それは彼にとって日常茶飯事であるし、これだけ銃が落ちているのなら、凶行に走る人間がいたとしても何ら不思議ではない。
 だがナルトはそうではない、「どういうことだってばよ」と思わず聞き返すと、二鳥は慎重に言葉を続けた。

「う、うちら、女子3人で最初おってん。それで、色々調べてたら、ちっちゃい子見つけて、しんちゃんとルーミィ言うねんけど、それで、迷子やから警察に行こうって話になったんや。それで、そしたら、二人組に会って、いきなり撃たれて、ほんで、しんちゃんが……」
「その『しんちゃん』と二人組の特徴は?」
「しんちゃんは、良い子やったんや。妹が産まれたばっかでな、自分みたいに誘拐されたかもしれないから探すって。それで、ルーミィもおったからおまわりさん行こかってなって……」


729 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/26(木) 00:04:04 ???0

 話しているうちに、また涙が出てくる。
 目を開けていられずに、まぶたを閉じる。
 まぶたの裏では、しんのすけが撃ち抜かれた瞳で二鳥を眼差していた。

「使え。」
「ありがと……」

 五エ門から差し出された手拭いで涙を拭う。熱い染みが布に拡がった。

「ここでは目立つ。場所を変えよう。茶屋が近くにあった。」
「ええよ……はよ、アイツら追わな。」
「一人より三人だ。話を聞けば手伝えることもあるだろう。」

 有無を言わさぬ物言いに反発したくなったが、不思議とその気力は無かった。涙と共に解け消えたように、殺意の熱が失せる。あるいは銃を手放したことが理由だろうか。
 さっきは恐ろしく見えた五エ門の顔が、心なしか頼りになる優しいものに見える。それが錯覚だと感じながらも、二鳥はそれに甘えたかった。


「ナルト、お主の分身はどれだけ動かせる。」
「え、なんだってばよ。」
「近くに人の気配を感じる。このおなごからは離れられん。囮にできないか。」
「わかった。この辺ぐらいなら調べられるってばよ。影分身はやられても消えるだけだし、任せてくれよな。もっと増やすか?」
「いや、大勢では目立つ。今いる二人だけでいい。頼んだ。」
「オッス! じゃあ、一人は警察署調べて、もう一人はこのへん調べるってばよ。」

 二鳥に聞こえぬように五エ門はナルトに耳打ちする。二鳥の話に耳を傾けながらも、彼は常に周囲への警戒を怠ってはいなかった。
 並外れた感覚を持つ人間が剣士として大成することがあるが、五エ門もその例外ではない。ナルトたち忍者ですらチャクラを感知しなければ五里霧中になり得るこの異常な霧の中でも、彼は何者かの存在に気づいていた。
 状況はかんばしくない。どこにでも銃があるのなら、二鳥から離れれば彼女を守れない。しかしそれでは後手に回る。本来であれば難しい状況だ。頼れるのであればナルトの手も借りたい。それが力量を図る機会になるし、なにより、あの話を聞いて怒りを見せたナルトに活躍の場を与えたほうがよいだろう。男子というものは、愛嬌のある女子の涙に弱いのだから。

(このおなごからは聞き出さなければならぬことが多い。襲ってきた二人組はどのような人間か。しんちゃんという子供はどんな姿か。ルーミィなる子供は、女子三人のうち他の二人は。いつどこで襲われたのか。先の銃声と関係あるのか。)

 こういうことは銭形の領分なのだがな、と思いながら、しゃくり上げる二鳥をナルトと先導しつつ周りに気を配る。期せずして子供を引率することになったが、乗りかかった船だ、面倒は見よう。

(幻術なのかマジなのかわかんねーけど、とにかくオレががんばらないと!)

 そして五エ門の予想通り、ナルトは二鳥の話を聞いて気合いを入れていた。そこにはもうゲームに巻き込まれた時の怯えはない。怖さよりも、こんなクソゲーをやらせる変なウサギと、その口車に乗って人を殺した連中への怒りがあった。
 彼らはまだ知らない。
 自分たちが火中の栗を拾ったことを。
 火中の栗は、いつ爆ぜるかわからない時限爆弾だということを。


730 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/26(木) 00:04:23 ???0



【0046 『南部』オフィス街】


【石川五エ門@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いからの脱出。
●中目標
 二鳥やナルトなどの巻き込まれた子供は守る。
●小目標
 二鳥と情報交換する。

【うずまきナルト@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いとかよくわかんねーけどとにかくあのウサギぶっ飛ばせばいいんだろ?
●小目標
 影分身の術で辺りを調べる。

【宮美二鳥@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 あの男子(圭一)を殺す。
●小目標
 五エ門たちと情報交換する。


731 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/26(木) 00:04:43 ???0
投下終了です。
タイトルは『火中の栗を拾う』になります。


732 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/28(土) 08:30:15 ???0
投下します。


733 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/28(土) 08:31:17 ???0



「よかったわ、知ってる人と会えて。ずっと不安だったの、直樹くん……」
「そ、そうだよな、いきなりわけわかんないこと言われて。でも羅門さん、おれが守るから――」
「待って。ルル、って呼んで。昔みたいに……ね?」
「――わかったよ、ルル。」
「フフ、うれしいわ。」

 顔を赤くしながら名前を呼ぶ小島直樹ことエロエースに、羅門ルルはしなだれかかる。本心から彼と会えて良かった、と彼女は思う。ルルにとってこの場で一番に頼れる相手が彼なのだから。
 ルルとエロエースは元はクラスメイトだ。一月しか一緒にいられなかったが、彼が自分を好きであることはよくわかっている。サービスも込めて身体を寄せると、ルルが思わず吹き出してしまうほどに顔を赤くさせる彼を見て、あだ名と違ってカワイイところがあるとほくそ笑んだ。

「私、殺し合いなんて怖いわ。信頼できるのはあなただけなの。直樹くん、一緒にいてくれる?」
「もちろんですとも!」
「敬語はやめて。もっと仲良くなりたいの。おねがい。」
「わかりま、わ、わかったぜ! 安心しろよルル、おれが守るから。ほら、銃だって持ってるし。」
「……聞こうと思ってたんだけど、それ、どこで拾ってきたの?」
「アッチのビルの中でさ、たくさん落ちてたんだよ。それでさ、おれたち以外にも人がいて、生絹さんとユイって女子なんだけど――」

 まあ、と演技半分本気半分、ルルは驚いてみせた。
 このタイミングでエロエースと出会えたことはつくづく幸運だと実感している。まさか武器だけでなく他の参加者との渡りまで用意してくれるとは。
 相手が女子であることや彼が二人と別れた経緯を察して(なにせ『エロエース』だ)不安なところもあるが、この殺し合いならば問題はない。やりようはある。
 そう、殺し合いなのだ、これは。そのことを実感できたことが、ルルが彼と会ったことで得た最大のリターンだ。
 最初は自分にかけられた何らかの幻術かそのたぐいかと思った。思い当たる節はある。女子供を10人ぐらい生け贄にしようとして、通りすがりの黒魔女にシバかれたばかりだ。
 だが、黒魔女のやり方らしいとはいえ突飛で大掛かりにすぎる。現れたエロエースにも特に変わったところは見られない。そしてそこら中に銃器をばらまいておく殺意の高さ。武器には困らせないから殺し合えということだろうか。
 ならルルがすべきことは一つ。肝要なのは他の参加者との合流、である。この殺し合いに巻き込まれているのが彼のような小学生ばかりなら、数が重要になってくる。ルルは自分が普通の小学生相手に遅れを取るとは思っていないが、さすがにあんな大きなライフルなどで撃たれたらひとたまりもない。ならば頭数を揃えて大量の銃器で圧殺してしまえ、というのが彼女の方針だ。

「――それじゃあ、私を二人のところまで案内してくれるかしら?」
「それなんだけど、実は……」
「チームは多い方がいいでしょう? おねがい。」
「わかりました……マジかよ。」

 いやいやという表情のエロエースを急かして案内させる。
 ワンピースの影に隠していた箸――二人で話していた、ルルの初期位置の民家で調達したもの――を取り出す。時間との勝負だ。
 そして彼に連れられて二人の少女と引き合わされて開口一番、ルルは呪文を唱えた。

「ワキウム・ワキウム・コリエーレ。」


734 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/28(土) 08:33:07 ???0



(私じゃコントロール魔法はこれが限界かしら……まともにかかったのは直樹くんだけね……)

 ゾンビのように茫洋とした顔で手にライフルを持ち、入り口に突っ立っている少女達を見ながら、ルルは思う。以前似たようなことをしたエロエースならともかく、初対面で信頼も何も得ていない人間相手ではこれが精一杯だ、と。

「小島くんが戻ってくるまで見張りに立っていなさい。」
「「……」」
「……返事すらできないなんて……私に使えるのはやっぱりコリエーレだけかな……」

 羅門ルル、その正体は死霊である。
 エロエースとの接点も、もとは彼女が黒魔女に裏口でなるための生け贄の調達先として彼のいる学校に転校してきたことで生まれたものだ。
 そんな彼女は闇に属するものとして多少の黒魔法が使えるのだが、自分が施したその出来にため息をつきながら、差し出させた銃の一つをいじる。本来であれば、彼女達を忠実な兵隊にすることもできるはずなのに、見様見真似でかけた結果ゾンビのようになってしまっている。しかも黒魔法を解くこともできないと来た。これでは見るものが見れば一発で自分がそちらの世界の人間だとバレてしまうし、そうでなくても異常の原因と思われるだろう。なにせ彼女たち、自白剤か何かを打たれた人間のようになってしまっている。死霊の自分から見ても異常なのだからふつうの人間から見たら怪しさ満点ね、と銃口を小さい方の少女――ユイに向けて思った。

「いっそ殺したほうがいいかしら……こんなの連れて歩いてたら誰も寄りつかないし……」

 自分で黒魔法をかけておいて物騒なことを思いながら、銃の安全装置なるものを外してみる。正直に言えば、この拳銃一つの方がよっぽど頼りになる。黒魔女を目指すものとして認めたくはないが。
 引き金を引いてしまおうか、そう本気で思い始めて、響いてきた足音に銃を下ろす。今撃つのは、マズイ。処分するのなら彼のいない時だ。

「ルル! 戻ったぜ。」
「直樹くん、お疲れ様。」

 ルルはカワイイ女の子の顔を作ってエロエースを出迎える。
 今はこれでいい。
 幸いエロエースにかけた黒魔法は元からの好感度もあって上手く行っている。そのためにどれだけ頑張って美少女になっていることか。髪も肌も香水も、様々なことに気をかけてエロい男子をハニートラップにかけてきた。その努力が報われた形だ。
 そのおかげで、様子がおかしい二人にもまるで気づいていない。ならばまだ使い道がある。

「――人形遊びが好きなのか?」

 突然に声が響いた。
 それと同時に気配を感じた。
 いや、ふくれあがった、というべきか。

「な、なに!?」
「誰だ!」

 思わず少女らしく動揺してしまう。この感じ、間違いない。自分と同じ闇に属するものだ。それにここまで近づかれた。違う、だから近づかれた。相手がふつうの人間でないから、おそらくすぐ近くにまで。


735 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/28(土) 08:35:41 ???0

「ここだよ。」

 驚き振り返る。
 果たしてそこにいたのは、大きな化物だった。

「ハクビシン……?」
「タヌキだよ。」
「アライグマでしょ。」
「イタチですよ。」
「……あなた達しゃべれたの?」

 ルルは驚いた。
 化物にではない。
 言葉を発した少女達に、だ。

「……あれ? なにこれ……なんで銃なんか……?」
「な、なにあれ!? 怪獣!?」
「怪獣じゃねえ、妖怪だ。あやかしだがな。」

 話しだした二人にルルの背に冷や汗が流れた。

(かってに黒魔法がとけてるなんて!)

 下ろしていた拳銃を上げた。このままではマズい。コントロールしていたことがバレる。いやもうあの妖怪にはバレている? どうすれば……どうすれば……

「用があるのはお前だけだ、このガキどもは食いでが無さそうだが、前菜代わりに『バァン!』ギャァ!?」

 気がつけば撃っていた。迷った末に、話しかけてきた妖怪を。一番デカくて当たりやすそうだから? 撃ったルル本人にもわからない。

「ル、ルル?」
「撃って直樹くん!」
「え、ええっ!?」
「バケモノよ! 人間を食べるって言ったわ今!」
「言ったからってイキナリ撃つやつが「わ、わかった!」オマエもわかってんじゃねえ!」

 三点バーストでライフル弾がばら撒かれる。しゃべりかけてきた妖怪は腕をひとふりすると弾丸があらぬ方向へと飛んでいく。風の黒魔法――そう認識したのは、目の前でエロエースの首が撥ね飛ばされるのを目にしたから。

「……あ。」

 そしてルルは理解した。
 自分の身体が落ちていく浮遊感を感じて。その視界に自分の立っている足を見て。

「身体が、真っ二つに、なんて、あ、ああっ、あがああああアッ!?!?!?」

 遅れて襲ってきた激痛に身悶えする。が、動く身体が無い。胸を境に上下で泣き割れた身体で動かせるのは、首と声だけだ。自分の悲鳴で同じようにダルマにされた少女達が上げて消えていく悲鳴など耳に入らない。

(こんなに……こんなにあっさり死ぬなんて! 何かの間違いだ!)
「テメエは食わねえ……マズそうだしな。だがその分ズタズタにして殺してやろう!」

 目の前に迫った妖怪の口がそう言うのを黙って聞くしかない。死霊であるため人より頑丈だが、こうなっては苦痛がほんの少し長引くだけだ。
 薄れていく意識でわかったのは、自分にこれから地獄が訪れるということだけだった。


736 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/28(土) 08:36:38 ???0



「あー痛え! なんでこんな目に合わなきゃいけねえんだ! ちょっと女子供を誘拐しただけじゃねえか!」

 風を使う妖怪、かまちは苛立ちの声を上げてルルの死体をかまいたちでズタズタにした。
 ここに来てから、いやここに来る前からろくなことがない。
 手にしたものに莫大な力をもたらす悠久の球は手にしそこね、半人前もあからさまな伝説の子にしてやられ、情けをかけられた挙句に気がつけば見たこともない雑魚妖怪に首輪を付けられて殺し合えと言われたときた。
 これでキレない妖怪がいるか? いやいない。

「それにしてもコイツ、妖怪とは違うな。だが人間でもない……なんだったんだ?」

 苛立つと言えばルルもだ。
 同じ妖怪らしい奴に声をかけたらいきなり発狂して銃で撃つわ、その銃が思いの外痛いわ、かと言って戦えばかまいたち一つでまとめて死ぬ雑魚だわ、しかも妖怪でも人間でもないわ、色々一度にわけのわからないことが起こってイライラする。
 一体自分が何をした?
 ちょっと人間を食おうとしただけじゃないか。
 ぶっ殺すぞ。
 いやぶっ殺したわ。ていうか妖怪だから食べなくてもなんとかなるわ。

「また腹が立ってきたが……ぐう、今はこの傷をなんとかしなければ。」

 殺した相手に怒りを募らせていたが、撃たれた痛みに我にかえる。それでまた怒りを覚えるが、少しは頭が冷えた。興奮が納まってくると共に痛みが増してくる。妖怪とはいえ、傷を放っておくのはまずい。どこか適当なところに隠れて傷を癒そう。
 商店街と森、どちらに潜むか少し考えて商店街に留まることにする。死体の近くに潜むことになるが、森に逆戻りするのは面倒だし、文化的に屋根がある方がいいに決まっている。それにこんな死体があれば、人間なら恐怖して商店街を離れるだろう。

「なんだぁ? もう死んでいるのか。しかも四人だと?」

 適当に隠れられそうな建物を探す。すると見つかったのは、喫茶店のようなところで倒れる四人の死体だった。店の外から見るが、子供ばかりのようで、誰も動かない。

「一体何考えてるんだ? まさか殺し合いなんて真に受けてるのか?」

 考えられないと思いながら、かまちはその場をあとにした。
 それは藤原千花にとっては幸運だったのだろう。
 自分が殺したかもしれないという思い込みと心臓マッサージに疲れ果てて床に崩れ落ちていた彼女は、死体と間違われたのだ。
 しかし同時に不幸でもあったのだろう。
 かまちは、殺し合いに乗っていない。
 あんなツノウサギなる雑魚妖怪の口車に乗る気もないし、最後の一人になるまで殺し合っても生き残らせるとはとても思えない。
 さっきは、撃たれたので皆殺しにしたが、べつに危険人物でなければどうでもいい。むしろ頭のいいやつを集めて脱出の道を探りたい。

「さっきの三人に、今の四人。もう七人。これだけ早いと直ぐに全員死ぬな。ぐっ……だが、今は休まねば……」

 前のループでは対主催同士で争ったが、依然としてかまちが狙い通りに動く目処は立っていない。


737 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/28(土) 08:37:03 ???0



【0050 商店街】

【かまち@妖界ナビ・ルナ(1) 解かれた封印(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●小目標
 傷が癒えるまで休む。



【脱落】

【羅門ルル@黒魔女さんが通る!!
チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【小島直樹@黒魔女さんが通る!! チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【ユイ@妖界ナビ・ルナ(2) 人魚のすむ町(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【桜木生絹@天使のはしご5(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】


738 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/01/28(土) 08:37:45 ???0
投下終了です。
タイトルは『悪魔来たらずかまいたち吹く』になります。


739 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/05(日) 00:00:24 ???0
投下します。


740 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/05(日) 00:01:11 ???0



『あーあー聞こえるかー! オレ達は殺し合いに乗ってない! みんなも殺し合いなんてやめようよ! LOVE&PIECE! 愛だよ愛! てかさ、いきなり変な森に連れて来られて殺し合うヤツいねえよ! あんな変なウサギっぽいやつに殺し合えって言われてさ、殺し合うなんてさ、こんなんでいいのかよ! だから! 殺し合いなんてやら『お前放送ヘタすぎんだろ変われ!』ちょっと待てジャンケンで勝ったのオレじゃん!『爆弾のこと言わないと』それで! あの、この、灯台『展望台』展望台に、ちがう、展望台の、裏に、爆弾があんのよ! 仕掛けたの! で、あの展望台来るときはこの下の崖みたいな坂の下の方で、合図してほしいのよ! そしたらあの爆弾のスイッチオフにするから、あの、あれ、あれだ、『あのーあれだよ』あの『アレだね』おい全員ド忘れしてんじゃねえか!』

 どうしよう、どうしよう。
 園崎詩音は藪の中で悩む。
 つい今しがた聞こえた放送。
 関本和也・小林旋風・早乙女ユウの3名による拡声器の声は、あてもなく山地をさまよっていた詩音の耳にも届いた。
 そしてその後に聞こえた爆発音。
 これで何が起こったかわからないような少女ではない。

「幻覚だと思いたいんだけどな……本当に、殺し合いを?」

 本当に考えにくいことだが、これが現実に殺し合いだという可能性が捨てきれない。
 さすがにこれがオヤシロ様の祟りとまでは思わないが、だがその可能性もゼロではない。
 ようするに、殺し合いに向けての方針を先送りせずに決めなくてはならない。
 今現在、山で1時間も迷子の詩音にとって、あの爆発と放送だけがヒントである。
 不本意だが、あのあからさまに危険な音以外に、何も頼りがない。
 雛見沢という田舎育ちの彼女であっても、いや、だからこそ、赤い霧という超常現象が発生している見知らぬ森でこれ以上遭難し続けることの危険性はよく理解している。
 迷った末に詩音は、結局拡声器の声を目指すこととした。爆弾という発言や爆音といった不穏な要素はあるが背に腹は替えられぬ。
 幸か不幸か、歩き始めて少しすると立ち上る煙が見えるようになった。霧に紛れて直ぐに薄くなってしまったが、野山の歩き方を知っている彼女ならば、なんとか歩けなくもない。そして途中からしだした刺激臭に困惑しながらも、それらしき展望台をどうにか確認した。

 ──余談だが、このとき詩音が嗅いだ臭いの発生源である蜘蛛の鬼(兄)とは入れ違いになっていた。
 彼は光彦たちに標的を移したところ、ちょうどピカチュウたちと合流しているのを見つけて襲撃の準備に入っていたところであった。

「あんなところにあったら、狙われるわな……周りに人は、うん?」

 増えていく独り言を言いながら周囲を見渡す。
 放送していた少年を襲った人間がまだ近くにいるかもしれないし、あの爆音につられて自分のような遭難者が集まってくるかもしれないという予想は、ドンピシャだった。
 森の中を素早く移動する黒い影を見つける。その存在に先んじて気づけたのは幸運だろう。
 乙和瓢湖は、彼女のような引き集められた参加者を殺そうと爆音を目指してきたのだから。


741 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/05(日) 00:03:08 ???0

(うっわ〜、見るからに不審者だ。なにあれ? 忍者?)

 その異様な出で立ちに心の中でツッコまずにはいられない。
 自分のバイト先の制服を棚に上げてそう思うと、詩音は瓢湖の進行方向と直角に方向転換した。
 あんな不審者と同じ方向には行けないが、展望台から離れるわけにも行かない。こうなったら早めにり手がかりなりなんなり見つけて離れようと心に決める。
 そう思って展望台を横から周り込むような動きで移動を開始すると、すぐに人を見つけた。もっとも、詩音が望むような出会いではなかったが。

「車椅子の、女の子?」

 森の中で見つけたのは車椅子の少女だった。スタックしているのか、全く動こうとせずに、途方に暮れたように空を見上げている。
 詩音は迷った。森の中で車椅子。どう考えても足手まといだ。こんな場所で障害者に道徳心を出すような余裕などない。
 せっかくの参加者だが、彼女は見なかったことにしよう。そう思って他の参加者を探すことにした。

「……」

 参加者を探すことにした。

「…………」

 参加者を探す……

「目覚めが悪いです……あーもう! 見つけちゃったからしょうがない!」

 諦めた。ダメだった。
 この状況でどこにも動けずにただ一人で待つ。それは自分の比ではない心細さだろう。と、彼女の心情を一度想像してしまうとダメだ。そこで放って置けるほど詩音は人間が腐っていない。それに、彼女だって誰かと話したかったのだ。
 「すみません」と声をかけながら近づく、少女の体が大きく震え、頭を大きく動かして振り返った。少女の顔が驚愕と怯えが混ざった顔になっていて、そんなに怯えなくてもと思うが、次に聞こえてきた言葉で、今度は詩音が表情を変えた。

「後ろだ、よけろ!」
「えっ?」

 とっさにサイドステップを踏む。視界の端で緑色の物が舞う。それが自分の髪の毛だと気づいて総毛立ったときにはもう遅い。大きな悲鳴を上げながら瓢湖に組み伏せられ、首に刃を当てられていた。

(こいつ戻ってきてたの!?)

 口を三日月のように大きく開いた瓢湖が得物を振るうのを見て、詩音は戦慄を深めた。
 瓢湖は詩音に発見されて少しして鋭い角度で方向転換していた。詩音に気づいたわけではない。ジグザグに移動することで進行方向を読ませず追跡を撒くためだ。闇乃武という江戸幕府を闇から支えた者たちにとって、野山は詩音以上に歩きなれたものだ。

「こ、こんにちは〜! あの〜、なにかご用でしょうか?」

 いちおう友好的に話しかけてみる。
 和服っぽい服に、顔はピエロのような白塗り、そして両手には曲がったデケェ鎌。

「そうだな……あぁ、『御命頂戴』。」

 ふざけた返答だが、その殺気は本物だ。常人とは思えない速さで間合いを詰めると、詩音に向けて鎌が振るわれた。


742 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/05(日) 00:06:06 ???0

 ふざけた返答だが、その殺気は本物だ。常人とは思えない速さで間合いを詰めると、詩音に向けて鎌が振るわれた。

「避けろ!」
「できるがああっ!?」

 避けろと言われて避けれるものではない。なんとか身をよじるが、当然のごとく鎌は詩音の腹に直撃する。痛みと熱に、声は悲鳴へと変わった。

(あれ? 傷が浅い、なんで?)

 だがその痛みが詩音に疑問を抱かせた。先の攻撃に自分は全く反応できなかった。なのになぜ死んでいないのか。その疑問は瓢湖の顔を見て理解した。
 瓢湖は笑っていた。

(ああ、こいつヤバい。)

 乙和瓢湖は快楽殺人者である。
 そのことを理解した絶望が詩音の顔に出たのか、瓢湖は哄笑を上げた。

「もっといい顔をしろ!」
「がっはぁ!」

 瓢湖の蹴りがなんとか立っていた詩音の腹へと刺さる。開いた傷が体を二つに割くような感覚にたまらず悲鳴を上げると、瓢湖の笑いが大きくなる。
 膝をついたところに再び放たれる大鎌。詩音の腹にバツ字に傷が刻まれ、制服が赤く染まった。
 仰向けに倒れた体をなんとか起こして咳き込む詩音。その目が周囲を探す。なにか生き残るすべはないか、そう思って目があったのは、さっきの車椅子の少女だ。
 助けて、そう言おうとして少女の顔に言葉を飲み込む。きっとその顔は自分以上に恐怖に歪んでいたから。
 瓢湖に体を掴まれ少女の前へと歩かされる。あ、もしかしてこの子年上かなとどうでもいいことに気づいたのは現実逃避からだろうか。
 後ろから詩音の肩越しに大鎌が少女の頬を撫でる。綺麗な顔に血の筋が一つ引かれ、少女の体がビクリと震えた。

「な、なんでこんなことを……あんな話真に受けたんですか!?」

 無駄だとわかっていても他に何もできないのでそう言うしかない。
 案の定返ってきたのは男の笑う声で、顔の前で見せつけるように大鎌が振られた。
 どうやらまともに話す気はないようだ。そんな相手にこれからいたぶられるとなったら背筋が寒くなるのを抑えられない。もちろん話ができるのにそんなことをする相手でも鳥肌が立つのだが。
 そんなことを冷静に考えられるのは、車椅子の少女の顔を間近で見ているからだろう。実際に痛めつけられている自分以上の絶望を表情に出しているのを見て、パニックになりそうなのをなんとか抑え込む。どこにも行けない、何もできない体で、目の前で人が切り刻まれていくのを眺め続けるしかない感情はどれほどのものだろうか。

(このままこいつになますにされてたまるか! なんとか生き残る方法を考えないと、なんとか、なんとか……!)

 絶望している暇はない。必死に頭を回転させて、ここから窮地を脱する術を探す。こんなところでは死ねない。まだ自分は、大切な人がどうしているかもわからないのに。そう思い、今できる精一杯をすることにした。


743 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/05(日) 00:10:18 ???0

「誰かあ! 助けてえっ!」

 それは最もシンプルな方法。大声で助けを呼ぶ。小学生でも知っている不審者に襲われた時の対処法だ。
 後ろで瓢湖の笑い声が上がる。
 こんな森の中で叫んでも意味が無いと。
 それは詩音だってわかっている。こうすることが男を喜ばせることだというのも承知だ。だがそれでも、生を諦めないためにはそうするしかない。
 そしてその悪あがきは、功を奏した。

「ちいっ!」
「はあっ!」

 鎌が目の前から消えると、後ろで金属がぶつかる音がした。同時に、ここにはいない4人目の叫び。その声は、詩音のものとは違い裂帛の気合が込められている。そしてもう一つ。竹のような軽い木の鳴る音だ。

「■■■!」
「なんだお前は。」
「……勇者?」

 現れたのは、ゲームから抜け出してきたような剣士だった。
 剣にマントという出で立ちはまさしくファンタジー。かけられた言葉は何語なのかわからない。
 そしてその横顔は美しかった。
 黒い髪に黒いまつ毛、意志の強い瞳はとび色で、真っ直ぐに白塗りの男を睨む。

「■■■!」

 男は手を振るジェスチャーをする。それが逃げろという意味だと、自分に向けて斬りかかった瓢湖を止めてわかった。

「ありがとうございます!」

 瓢湖の連撃をなんとか捌いているのを見て我にかえると、詩音は礼を言って駆け出した。
 腹はじくじくと痛むが、服を上げてみた感じ、皮が少し切れただけのようだ。怪我としては傷跡が残ることを覚悟するのならば、ばんそうこうでも治るようなものだろう。この痛みでこれしか怪我していないのかとまた戦慄する。イケメンが来てくれなければ、死ぬまでどれだかの時間がかかってどれだけ痛めつけられていたかわからない。

「あなたも!」

 いちおう車椅子の少女も助けようとする。が、そこで気づいた。森の中で車椅子は、無理だ。

「え、これ、ちょっと、無理ですよ! すみませんお兄さん、無理です!」

 切り結ぶイケメンに叫ぶ。ちらりとこちらを見たイケメンは「嘘だろ……」と言葉がわからなくても伝わる表情をした。
 そこにすかさず瓢湖が大鎌を振るい、イケメンの鎧から破片が飛ぶ。慌てて前を向き直ったイケメンからは、全く余裕がなかった。

「アイツ、強すぎる……」

 素人目に見ても、どちらが強いかはハッキリしていた。
 剣の腕ではイケメンは瓢湖に勝てない。イケメンも相当な剣士なのだろう。詩音から見てもその剣捌きはなんとなく凄さがわかる。
 だが瓢湖はそれを上回っていた。イケメンの全力を軽くいなして、いたぶるように斬りかかる。実際、瓢湖はいたぶる気で剣を振るっている。
 ここにいる乙和瓢湖は、原作漫画のるろうに剣心の乙和瓢湖ではなく、映画のるろうに剣心の乙和瓢湖。明神弥彦に負ける醜態を晒した剣の腕は、緋村剣心と渡り合うまでに強化されている。下手に技量で追いすがれている分、瓢湖は剣士をいたぶると決めていた。


744 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/05(日) 00:15:13 ???0

「こんなの、勝ち目ないじゃない……ごめんなさい。」

 こうなってはしかたない、少女を置いて逃げよう。
 見捨てることになるのは忍びないが、いくらなんでもこれは無理だ。恨むのなら森の中に車椅子で放置された自分を恨んでくれ。
 そう思い駆け出そうとして、何かに飛びかかられた。
 押し倒されてキャッと悲鳴を上げてみれば、少女が自分にすがりついていた。というか、体に手を回してがっつりホールドしていた。

「見捨てようとすなー!」
「ええ!? こういう時ってふつう『私はいいから先にいけ!』とか言いません!?」
「そんなわけあるか! 死にたくなんてない!」
「ふ・ざ・け・ん・な・や・め・ろ・バ・カ! は・な・せ!」
「■■■!」
「よそ見してていいのか?」
「■■!」

 イケメンが瓢湖に蹴り飛ばされ地を這うように、詩音も少女にまとわりつかれて地を這う。引き剥がそうにもそのたびに的確に腹の傷をつついてくる。なんとも醜い争いである。

「さっき叫んで助けを呼んでやったろ! 誠意見せろ誠意!」
「はぁ!? そんなん頼んでないですけど! 離せこら! 離せこら!」
「なんやねんその態度!」
「いいから離せやオラァ!」
「それしか言えんのかこの猿ゥー!」

 ギャーギャーと喚き散らしながら詩音と少女は地を転がる。
 それを見て瓢湖は高笑いし、イケメンは顔を白くした。
 懸命な読者諸兄ならばこれがいかに無駄な行いかわかるであろう。この状況の詩音と少女の行いはなんのアドバンテージも生み出さない。どう考えても全員この場で登場話退場であろうと。
 しかしこの場合は、瓢湖が道化のバギーを殺したと思いこんでいたために、再び功を奏した。

「バラバラフェスティバル!」
「ぐあっ!?」

 森に響いた声は、この場にいない5人目のもの。
 同時に響いたのは、瓢湖の叫びだ。

「お前は……!」
「さっきは良くもやってくれたなチンピラがぁ! ハデ死刑だぁ!」
「またピエロ!?」

 現れた道化のバギーの姿を見て詩音は叫ぶ。まさか白塗りの男を襲いに現れたのは、ピエロのような白塗りの男だった。まさかのダブル白塗りに驚かざるをえない。
 しかし、一番に驚いていたのは瓢湖だった。
 彼は人斬りには一言ある。
 確実に刃はバギーの体を通っていたことを覚えている。
 にも関わらず現れたバギーに信じられないものを見る目で見る。
 そこでハッと気づく。人を両断したいにしては、やけに手応えがなかったか?と。

「仕切り直しだ。」
「こら! 逃げんな!」
「■■■!」
「え、なんて?」

 瓢湖は速やかに逃げていく。それをバギーが投げナイフで追撃しようとして、イケメンが止めた。
 園崎詩音と道化のバギー、そして少女ことジョゼ(本名:山村クミ子、24歳)とイケメン剣士ことクレイ・シーモア・アンダーソンの4人が話し合いを始めたのはこの後のことだった。


745 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/05(日) 00:18:38 ???0



【0114 『北部』山岳部裾野の森】


【園崎詩音@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第二話 綿流し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族や部活メンバーが巻き込まれていたら合流する。
●小目標
 とりあえず、話し合う。

【山田クミ子@アニメ映画 ジョゼと虎と魚たち@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 とりあえず、話し合う。

【クレイ・シーモア・アンダーソン@フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち(フォーチュン・クエストシリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 みんな(フォーチュン・クエストのパーティー)が巻き込まらていないか探す。
●小目標
 とりあえず、話し合う。

【乙和瓢湖@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 殺しを楽しむ。
●中目標
 赤鼻の男(バギー)を殺せる手段を考える。
●小目標
 山を降りて森を抜け、街へ向かう。

【バギー@劇場版 ONE PIECE STAMPEDEノベライズ みらい文庫版(ONE PIECEシリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
 とりあえず、生き残るのを優先。
●中目標
 地図の場所に行き、お宝を手に入れる。
●小目標
 とりあえず、話し合う。


746 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/05(日) 00:19:09 ???0
投下終了です。
タイトルは『どうしよう』になります。


747 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:31:36 ???0
投下します。


748 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:32:31 ???0



 紅月飛鳥が気がついたとき、紅暗い霧の立ちこめる森の中にひとりぼっちだった。


 家にいたはずなのに、いつのまにか変な広場にいて。
 他にもたくさんのこどもたちがいる中で、変なウサギから突然殺し合えと言われて。
 それで……

「……っ!」

 ハッとして首に手を触れる。指先に感じたヒヤリとした感触に、背中が冷たくなる。
 その首輪がどういうものかを実感して、思わず土の上にへたり込みそうになった。
 ウサギの言葉でまばゆい光が輝き、死んだように硬直していく侍っぽい人。
 そしてその後の、不良っぽい人が何かをして息を吹き返す光景。
 わけのわからなさに、自分が見たものが夢か現実かわからなくなる。
 それでもこうして首輪をはめられているなら、事実なのだと思わざるをえなかった。

「殺し合いなんて……そんな……」

 自分で口にして、これ以上は思い出しくないと頭を振る。
 それにあの広間でのことは夢のようにあいまいだ。本当にあったことのはずなのにそうとは思えない妙な感じに、言いようのない気持ち悪さを感じる。
 頭を切り替えようと、辺りを見渡した。
 どう見ても森だ。なにか違和感を感じるが、どこにでもありそうな森だ。赤い霧というものが無ければ、の話だが。
 空を見上げると、こちらも赤い空だ。赤黒い雲の間には雷が見える。
 あれはどうやって作ってるんだろうと不思議に思う。霧とか雲に色って付けられんだろうか、もっと理科勉強してたらわかったかなと、どうでもいいことが頭を通り抜けていく。

「また、『レッド』かぁ。」

 特にその『赤』が気になる。
 アスカは2代目怪盗レッドだ。
 ねずみ小僧の末裔だったり末裔じゃなかったりする、現代の義賊。
 まさか自分が怪盗になるなんて思っていなくて、なった今でも少し、いや割とかなり実感が無いのだけれども、とにかく今は、いとこのケイと2人で怪盗レッドになっている。

「そうだ! ケイ!」

 相棒役を思い出して大きな声を上げた。
 ものすごく頭はいいが、無愛想だし運動苦手だし(アスカが常人離れしているとと言える)で、1人でいたら生きていられるか心配だ。ケイだけではない。お父さんや学校の友だちだって巻き込まれているかもしれない。
 あの変なウサギの話を信じたくはないけれど、信じてはいないけれども、心配な気持ちは止められない。
 とにかく探しに行かないと。こんな森の中じゃどうしようもない。手近な石を取ると目印をつけて歩き出した。小さい頃から怪盗になるための英才教育を知らず知らず受けていたので、元々体力には自信がある。ふつうのこどもなら苦労するだろう山歩きもへっちゃらだ。


749 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:33:18 ???0

「なんだろう、ほこらかな?」

 歩き始めて少しして、アスカは森の中にぽつんと立つ小さな建物を見つけた。
 身長が高いとはいえこどもと同じ程の高さしかないそれは、神社とかにあるような木造のなにかだ。あんまりそういうのに詳しくないアスカから見ても、なにか神様的なものをまつっているやつだとは思う。
 森の中ではじめて見つけた人工物にとりあえず近づく。すると、お供え物の中に奇妙なものを見つけて小首をかしげた。
 遠目にはおまんじゅうのようにも見えるそれは、大きめの鈴だろうか。そういう物が置かれていることは不思議ではないが、それに変な輪っかがついている。手に取って触ってみて、その感触が自分の首輪と同じことに「どういうこと?」とまた首をひねった。
 今度はいろいろひっくり返したりしてまじまじ見てみる。どこからどう見てもただの焼き物で、何か特別な何かを感じなくはないが、ふつうに鈴だ。もしかしたらかなり古いものかもしれないが、正直ガラクタにしか見えない。
 なんでこんなのに首輪がついているんだろう?

「……ほっ、ほっ! ふふっ。」

 一応振ってみる。バーテンダーっぽくシャカシャカしてみた。なんか人の悲鳴っぽいものが聞こえる。あんまりいい音色ではない。ていうか人の声聞こえない? 耳元で聞こえた気がしたんだけど。

「もしかして、もしもーし?」
「入ってます!」
「うわあああっ!?」

 冗談で言ってみたら本当に返事がした。悲鳴を上げて落としそうになり、慌ててキャッチする。ホッとするとアスカは、あらためて鈴をまじまじと見る。と、なんか半透明の小鬼がちょこんと鈴の上に現れた。

「……! ……!」
「え、え、えええええ!!」
「あぶないっしゅ!?」

 また落としかけて、今度は小鬼も悲鳴を上げた。手から離れた瞬間に声も姿もなくなり、かと思えば手に取った瞬間に見えるようになり、聞こえるようになる。

「ホログラム、じゃないよね。AR?」
「うーん、おっこさんみたいに素質があるわけでは無いみたいですね。その割には感じ取れてるみたいですけど。」
「あのー、もしもし? わたし、紅月飛鳥。あなたは?」
「ああ、これはご丁寧にどうも。鈴鬼です。鈴木じゃないですよ、鈴の鬼って書いて鈴鬼です。」
「ど、どうも。」

 とりあえず挨拶だ。挨拶は基本だと昔の偉い本にも書いてある。
 アスカは1度目をこすると、鈴鬼をじっくり見た。
 茶色い肌に金髪に角。たしかに鬼と言われれば鬼である。体の小ささもあってマスコットっぽい。どっかのゆるキャラにいそうな感じだ。
 指でつついてみる。サラサラとした髪とプニプニとしたほっぺだ。かわいい。

「おっほっほっ、くすぐったいです。」
「あ、ごめんね。あの、あなたは?」
「はい、あなたと同じ参加者です。首輪は鈴に付いてますけれども。」

 まさかの参加者だった。そういえば首に首輪が無い。代わりに鈴に付いている。
 「ふつうの人には見えませんからねえ」と本人(本鬼?)は言っているので、まあ、なんかそういうものなのだろうと納得した。
 鬼という存在にも、それが殺し合いの参加者であることにも驚いているが、ぶっちゃけ殺し合いの段階で驚きすぎて冷静になっていた。


750 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:34:08 ???0


「──というわけで、あのツノウサギというのは、魔界の鬼かもしれません。こういう悪いことはただの人間では無理ですし、機械に関しては鬼だけではできなさそうなので、人間の仲間がいるのかもしれませんね。」
「……なるほど!」
「よくわかってませんね?」
「うっ、だって。」
「まあ、そりゃそうなりますよね。いきなりこんなこと言われても。わけわかんないと思うんで、ごま塩程度に覚えておいてください。」
「それどのぐらい?」

 2人が出会って少しして。
 鈴鬼から自己紹介がてらに話されたことに驚きながらも、アスカはすっかり打ち解けていた。
 鈴鬼はアスカと同じぐらいのおっこという女の子と一緒に温泉旅館で暮らしている小鬼らしい。
 アスカも話せる範囲で家族のことを話した。

「どうやら、未成年ばかりを集めて殺し合いを開いたようですね。まさしく鬼畜の所業です。」
「本当に、殺し合いなんてやってるのかな。」
「残念ながら、はい。なんらかの儀式なのか、ただのゲームなのかはわかりませんが。あのツノウサギの後ろにいる誰かはとんでもなくたちの悪いタイプですね。」

 鈴鬼の言葉に、アスカの表情が曇る。たしかに、世の中に悪い人がいることはわかる。それでもこんなことをしようとする意味がわからない。
 アスカの表情を見て、「ま、今はできることを考えましょう」と鈴鬼は話題を変えた。

「たぶんおっこさんと、ピンフリさんあたりは巻き込まれているかもしれないです。2人ともタフですけど、なるべく早く合流したいですね。」
「どうしてその2人なの?」
「こういうことしでかす人は、なるべく面白くなりそうな人選をします。おっこさんとピンフリさんがツートップなんですよ、面白さの。」

 他にも面白い人たくさん居るんですけどね、と優しく言う姿に、アスカの胸が傷んだ。
 きっと鈴鬼の周りにいるのは良い人たちばかりなのだろう。
 アスカの周りだってそうだ。
 こんな殺し合いに巻き込まれてほしくない大切な人たちはたくさんいる。
 そしてその中で、一番狙われそうなのはと考えると、やっぱりケイだ。
 『怪盗レッド』という存在を考えたると、どうしてもそうなる。

「さて、提案なんですが、よろしいでしょうか?」

 考え込みそうになったところに、また鈴鬼から声をかけられた。

「実はアスカさんとこうして会話するの、けっこう体力を使いまして。というのも、本来は霊能力とかそういうのがないと感じ取ることができないはずなんですよ。こっちサイドでなんとかできなくもないんですけど、ちょっとバテてきちゃいました。」

 鈴鬼の体がだんだん薄くなっていく。
 慌てるアスカに「見た目が変わるだけでここにいるのはかわりませんから」と言うと、姿が消えて声だけ聞こえるようになった。その声もだんだんと小さくなっていく。

「ごめんね、ムリさせちゃって。」
「いえいえ、こうして会えなければ、ずっとあの祠で待ちぼうけでしたし。それではすみませんが、ポケットに入れてもらえますか。ぶっちゃけ鈴の上に乗り続けるのが疲れるんですよけっこう。バランスボールみたいで。なんかあればまた話しかけますし、アスカさんもなんかあったら鈴を優しく振ってください……」

 鈴鬼の姿が見えなくなった。アスカはそっとポケットに鈴を入れる。心なしか暖かい気がした。
 動かなきゃいけない理由がもう一つできた。アスカは「よし」と気合いを入れて歩き出した。


751 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:34:47 ???0


 時は少しさかのぼり、アスカが鈴鬼と出会っていた頃。鑑秀人は未だ赤い霧に包まれた森から満足に動けずにいた。
 彼は兄の隼人ように戦士としての手ほどきも軍人としての訓練も本格的には受けてはいない。もちろん、ラ・メール星の人間として常人を超える身体能力はあるが、それでも視界も効かない見知らぬ森を歩く技量など無かった。
 なにせ、彼が暮らしていた火の国には、このような自然がない。核兵器により荒廃しきった地上はガラスの砂が広がる不毛の地で、国民は地下都市で暮らしている。今暮らしている北海道は広大な自然が広がっているので慣れていないわけではないが、その経験から迂闊に動かないほうがいいと判断した。
 なにより、彼が心配したのは今の自分が殺し合いに巻き込まれたという事実だ。自分の身が惜しいというわけではない。もちろん死にたくなどないが、いい加減そんな小さいことを気にする自分に嫌気も差しているし、なにより気がかりなことがあまりに多い身の上た。それに今の秀人は半ば人質の立場である。その彼を気づかれぬ間に拉致できる存在は極めて限られている。彼がパセリたちを裏切り軍門に降った赤い鳥軍団か、でなければその監視をも凌ぐ想像もつかないような存在か。

「このダンゴムシもだ。これは死んでるんじゃなくて、もともとこういうふうに生産されたものか?」

 秀人は後者であると、石をひっくり返したところにいたダンゴムシを見て思った。
 火の国の科学技術は軽く百年は現代世界の先を行っている。特に機械工学はロボット兵やレーザー兵器を実戦配備しているほどだ。もちろん軍事分野だけが先進的なわけではなく、民生用のロボットやエアバイクなども広く普及している。その最たるものが、工業的に『生産』された自然だ。
 環境破壊により地上の生命は死に絶え、生活の基盤が全て地下都市に依存んしている都合、当然日の光が差さぬ場所では動植物などあるはずもなく、食糧以外の自然はあらかた工場で生産されたものだ。
 驚くべきはその精度だ。基本的に似せようとしたものは全くと言っていいほど本物と区別がつかない。そして秀人が見つけたダンゴムシは、彼が知る火の国のものよりもなお先を行っていた。火の国と北海道で自然物と人工物の両方を見ているため辛うじて区別がつくが、普通の人間ならばまず見抜けないだろう。高い技術で作られた製品であるがゆえに個体差が無いことは、プラスチックなどの無機物ではなく有機物で作られたらしいダンゴムシ達にも共通していた。

「バイオテクノロジーによるクローンか。これを作った奴らはどれだけの技術を持ってるんだ……?」

 石を戻して秀人はまた慎重に歩き始めた。最初にいた場所から渦を描くように森を散策する。こうしておけばさほど最初にいた場所から離れずに抜かりなく調べられる。
 そのかいがあって、彼は一時間ほど歩いた末に木に刻まれた傷を目にした。
 高さはちょうど彼の腰の位置。そこに横に一本傷が付いている。その傷の向きに歩くと何本か先の木に矢印の傷が付けられていた。矢印に従い歩くと、傷の付けられた木が続きまた何本か先に矢印の傷が付けられた木がある。


752 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:35:18 ???0

「迷わないように自分が通った道に目印を残したのか。」

 もしくは罠か。嫌な想像が頭をよぎるが、秀人は足を早めた。この一時間で全く人と会えていない。このまま状況に変化がないことは耐えられなかった。彼の兄である隼人や裏切ったとはいえ友人であるパセリたち、そして彼と家族のように育ち――そして今は彼を軟禁している『彼ら』もまたこの場所にいるかもしれないからだ。
 しばらくして秀人は、森の中に人影を見つけた。男女のコンビが歩いている。首には同じように首輪が巻かれているため参加者だろう。武器も持っていないし、複数で行動しているのなら殺し合いに乗っているとも思えない、それに普通の人間には負ける気はない。そう思っていると、肩にポンと手が置かれた。

「うわあっ!?」
「あらごめんなさい。驚かせてしまったかしら?」

 軽く叩かれただけなのに、すさまじいプレッシャーを感じた。
 秀人は慌てて振り返り、飛び退く。
 そこにいたのは、和服の少女を連れて、銃を肩に担ぎメイド服のようなものに身を包んだふくよかな女性。シスター・クローネは彼にニッコリと笑いかけていた。


「牛の頭のバケモノ?」
「ここから少し行ったところにある廃村で襲われてね……信じられない?」
「それは……いや、信じます。」

 秀人が出会ったのは2人の子供と1人の大人だった。
 紅月飛鳥はほんの数分前に秀人のように声をかけられたらしい。なるほど、あの気配の消し方ならば、気配を探ることもできるのだろうかと感心してしまう。それほどまでに、その大人は強烈な個性を放っている。
 シスター・クローネと名乗るライフルを提げた女性。それだけで個性的なのに、なぜか半裸で泣きじゃくる幼女を連れている。そんな怪しさの塊のような女性が言った荒唐無稽な話を、しかし秀人達は信じざるを得なかった。

「ヒック……へんな……黒い服の男の人に……ヒック!」
「この子も、廃村の近くで変な男に襲われたらしくてね。男の子が助けてくれて逃げてきたらしいのよ。たぶん、私を助けてくれた男の子と同じ子ね。」
「男の子、ですか。」
「金髪って言ってたからたぶんね。私も彼に助けられて逃げてきたのよ。」

 脱げかけた服を自分ごと抱きしめるように抑えつつ話した幼女の言葉に、秀人とアスカは言葉を失った。ずっと俯き一向に顔をあげようとしない幼女からは、ぽたりぽたりと涙がこぼれ落ちて止まらない。よほど怖い目にあったのだろうと、いやがおうにも感じさせる。
 そんな幼女を見て、秀人も俯きつつ渋い顔になった。この殺し合いの場にバケモノがいることよりも、不審な男がいることのほうが彼には恐ろしかった。いわゆるバケモノならばロボットなどと同様に破壊する手段が思いつくが、同じ人間で幼女相手に乱暴するような大人を相手にすることなど、今まで考えたことがなかった。火の鳥軍団の連中も相当な外道だと思っていたが、それを軽く上回る人間がいるなどと想像もできない。それにこんな状況でそんなことをしようとするなど秀人には発想すらできないものだ。
 それは秀人だけでなくアスカも同様だ。彼女も多少はあくどい人間について普通よりかは詳しいが、さすがに突然誘拐されて殺し合えと言われておいて小さな女の子に襲い掛かるオッサンなど見たことも聞いたこともなかった。
 とはいえ、普段の彼女を知る人間ならば思っただろう。なにか幼女と距離があると。


753 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:35:53 ???0

「……、……」
(? なんだ、今、誰かの声が聞こえたような。)

 ささやくような声が聞こえた気がして、秀人は耳をすませる。しかしはじまった情報交換に紛れてか、すぐに聴こえなくなった。いぶかしく思いながらも、話しながら森の中を歩るく。幼女を保護したクローネもアスカの付けた傷を辿って合流したことから、幼女を襲った男が同じように傷を辿って来ることを考えて足を止めずに進み続ける。幸いクローネが自然の中にある孤児院で働いているために森の中を歩くことも慣れていて、4人の移動速度はそれなりのものだ。
 秀人はその間、全員を観察していた。さっきの声もあるし、普通の人間とは体力が違う自分だが、それでも疲れるものは疲れる。にも関わらずやたらタフなクローネを警戒する。銃を持ちバケモノの話をした彼女を信頼することはできなかった。いくら慣れているとはいえ疲れた様子を見せないことから、見かけよりも高い持久力を持っていると推測できる。銃を持ったままなら尚更だ。
 そしてアスカもまた疲れを感じさせない歩きぶりで秀人は警戒する。たしかに持久力という意味では秀人たちは常人とそこまで差があるわけではないが、それでもふつうの、ましてや女子に負けるというのは考えがたいことだ。そして彼が一番警戒するのが、幼女。一度も顔を上げず、それでいて全く歩くスピードが落ちない。子供ならそもそも歩くことすら困難な森をクローネの誘導があるとはいえ誰よりも疲れ知らずで歩き続ける。その時点で秀人は幼女に目が釘付けになっていた。と、その幼女が足を止める。なんだと思って幼女の手を引くクローネを見ると、彼女は森の一画を見ていた。

「私たちは殺し合う気なんてないわ。出てきてもらえる?」
「こりゃ参った、大した勘の鋭さだ。」

 意外なほど近くから男の声がした。ついで男の姿が現れた。黒いスーツにもみあげと一体化するほど毛深い黒いヒゲ。黒いクツと合わせて、全身黒ずくめの男が、二三本先の木の影から出てくる。
 ヤバイな。
 直感でわかる。男の纏う雰囲気は、火の鳥軍団の連中よりなお黒い。間違いなく只者ではない。

「ん? その服はさっきの――」
「いやあああああっ!!!」

 なにか男が言いかけたところで、悲鳴が響く。幼女が彼の姿を見たとたんに顔を抑えてうずくまった。同時に、クローネとアスカの空気が変わった。

(この人、場馴れしてる?)
「オッケー、だいたいわかった。」
「……なるほど、面白くなってきやがったぜ。」

 男がそう言って背を向けて走り出すのと、クローネが安全装置を外して発砲するのは同時だった。
 見事な射撃だ。火薬を使う銃なのに、反動を感じさせない美しい撃ち方。クローネもまた、火の鳥軍団の人間より危険な存在だと理解した。

 「クローネさん!」そうアスカが叫ぶ声を後ろにクローネは走り出す。
 「置いてかないで」と幼女も追いかけていく。
 こうなっては仕方がないと、秀人はアスカに合図して走り出した。


754 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:36:38 ???0

 時間は再びさかのぼる。

「マリオネットなら糸を切ればいいって言ってもな。」

 次元大介は、死体の我妻善逸が振るう刃を寸前で躱すと、その身体に付着する糸を撃ち抜く。すると即座にどこからか糸が結びなおされ、また次元へと刃が振られる。

「繋ぎ直せるのは反則だろ!」

 ギリギリで避ければ悪態を最後に、踵を返して逃げ出した。
 次元が蜘蛛の鬼(母)の操る善逸ゾンビと戦い始めて数分、如実に追い詰められていた。
 敵のタネは割れている。死体にワイヤーをつけて操るというものだ。ならばそれを銃弾で打ち抜けばいい。無論それは次元であっても極めて困難なのだが、この程度のピンチならば今までにいくらでもあった。しかし。

「うおっ!」

 直ぐ様追いつかれて転がるようにして刀を避け、その最中に撃った弾丸は糸を断ち切るもすぐに繋ぎ直される。ほぼ同時に自分に付けられた糸を同じように撃ち抜くと、次元は廃屋へと文字通りに転がり込んだ。
 侍相手にあえて接近して至近距離からワイヤーを撃ち抜くという離れ業による攻略法は、どれだけ撃ってもすぐに繋ぎ直されることで無効化されていた。ならばと手足の関節を撃ち抜くも、死体だからかほとんど動きが鈍らない上、何発目からは回避されるようになった。そのおかげで攻撃の手は少しは緩まったが、事態が好転したかと言えばNO。マリナを守るために終わりのないディフェンスを強いられている都合、先に次元の体力がなくなるのは明白だった。
 次元は隠れていた廃屋でライフルを見つけると、すぐさま飛び出す。追撃が来なかったということは、狙いはマリナに移ったということだ。この状況でマリナまで操られれば終わりだ。単に守る対象が敵の手に落ちるというだけではない、敵が一人増えかねないのだ。

「つくづく悪趣味なやり口だぜ。」

 案の定マリナへと背を向けて駆ける侍に向けて連射する。二発当たったがそれだけで腕を吹き飛ばせるわけもなく、侍は人間離れした動きで残りの弾丸を回避するとこちらに狙いを移した。

「次元さん!」

 マリナの声に反射的に回避に移る。それは直感だった。一瞬後、次元の頭に衝撃が走る。愛用の帽子が飛ぶ。何かが掠めた、そう思ったときには侍に切りかかられていた。
 ライフルで糸を切るべく狙い撃つ。弾丸は、当たらない。

(帽子が――)

 次元の神技的な射撃技術は、帽子で狙いをつけることがその源泉にある。無くなれば素人並みの腕になることもあるが、基本的には少し劣るレベルの射撃が可能だ。だが、今求められているのは蜘蛛の糸を撃ち抜くレベルの技術。それでは足りない。つまり。

「ぐ、おおおおおっ!」

 咄嗟にライフルを盾にする。受け流そうと斜めにしたそれは、容赦無く斜めに切断されほとんど勢いを落とさずに次元の腹を切り裂いた。その痛みが来るより早く、次元は抜き撃ちで侍の首輪を撃ち抜いた。
 頼むから効いてくれよ、と言おうとして走った痛みで悲鳴に変わる。傷の感じからして内臓まではいっていないが、皮膚で止まらず肉まで切られた。たまらず仰向けに倒れる次元の目の前で、侍が刀を振りかぶる。それが振り下ろされて、目の前で止まった。


755 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:41:42 ???0

「予想通りだ!」

 なるほど、この首輪は死体だろうと容赦無くカチコチにするようだ。糸よりは狙い易いと思い、オープニングでの光景から一か八かの悪あがきで狙ってみたが、幸運の女神は次元に微笑んだようだ。
 次元はすぐに立ち上がり、侍の身体に付いた糸を肉ごと吹き飛ばした。同時に後ろから襲ってきた相手から距離を取る。追撃が無かったことから同じようなゾンビだろうと当たりをつけてそれを見てギョッとした。
 首の無い、馬のような体表の身体が慌てたように腕を首輪の盾にしていた。そしてその後方の廃屋の屋根にいる白尽くめの和服の女と目が合った。その瞬間、ビクリと言う音が聞こえてきそうなほど馬人間のゾンビが震えた。
 判断が遅い! 次元は自分を殴りたいと思いながらも拳銃を女へと発砲した。同様で射撃が半秒ほど遅れた。そして帽子が無い事で生まれた照準のブレが、少し前の次元のように無様に転がって女が弾丸を回避する結果をもたらす。首輪を狙って撃った弾丸は肩を浅く割いただけに終わった。女はそのまま背を向けて逃げ出す。そこを狙おうとして、次元は地面に這いつくばった。ゾンビ馬人間がピーカーブースタイルで首輪を守りながらハイキック、蹴りも馬並みなのか廃屋の柱を真っ二つに叩き折っていた。

「マリナ、向こうに走れ!」
「は、はい!」

 ゾンビ馬人間が腕をうなじを守るような形にしたことで、次元はその意図を察した。走り出したマリナを、ゾンビ馬人間は追いかける。狙いを完全にマリナに移したようだ。回避も攻撃も捨てて、マリナを捕まえるための防御に振っている。だが、それなのに追う足は遅い。そして次元へと迫るのは糸。こちらも動きはやけに遅い。そして、女の行動。遠目に見える女は明らかに慌てた様子で森の中へと消えていく。間違いなく、あの女は糸の制御よりも自分の逃走を優先している。
 次元はここで勝負を決めることにした。マリナを守りながらでは今の状況でもまたジリ貧だが、タイマンに持ち込めるのならやりようはある。そのためにマリナを女とは逆方向へ逃げさせた。あとは、ゾンビを倒すだけだ。

「敵さんの狙いに乗るのは癪だが、仕方ねえ。」

 這ってでもマリナを追いかけていたゾンビが一転して首を守りながら次元へと向き直る。そしてそのままジリジリと迫りときおり蹴りを繰り出してきた。次元はそれを冷静に躱して、手足を撃ち抜いていく。しばらくして次元は、腕のガードの隙間から銃弾を首輪へと叩き込んだ。

「見事に逃げられたな。」

 先の侍との戦いが嘘のように簡単に倒せた馬人間を見て、次元は周囲を見渡した。
 途中から明らかにゾンビの動きは落ちていた。次元が放置できないギリギリの程度に襲いかかり、足止めされている間に逃げた、というところだろう。もっとも、そういう展開にしたのは次元だったが。これでマリナを守りながらだったらもっと苛烈に襲われただろうが、こちらがマリナとの合流のためにあの女の追撃に移れない状況を作ってやれば、適当なところで諦めると踏んだ。

「さて、ここからどうするか――」


756 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:46:16 ???0


「――それでこうなるのかよ!」

 そして現在、次元はシスター・クローネからの銃撃から逃げていた。
 あの後マリナを追って森を探索し、アスカの付けた傷を追った可能性を考えて次元も辿ったのだが、その傷を先に見つけたのは彼から逃げていた蜘蛛の鬼(母)であった。
 次元の誤算は、蜘蛛の鬼(母)の人間性を測りちがえたことだ。
 蜘蛛の鬼(母)は外見こそ成人しているが、それは鬼特有の身体変形によりそうしているだけで、中身は子供である。そんな彼女は侍のゾンビを倒された時点でパニック状態にあった。というより元々パニック状態にあったために善逸の死体だけ操って馬頭鬼の死体を操らなかったり、銃を使うという発想が無かったため、次元もマリナも無傷だったのだ。
 そんな彼女が、自分を殺した鬼殺隊の死体を鬼殺隊でもないオッサンに謎の手段で無力化されたらどうなるか。もちろんパニクる。パニクった末にいつもの癖でゾンビに首を守らせ、なんとか足止めのために戦うもすっかり調子を乱され、その上またやられたのを見ると完全にパニックになった。姿も元のものに戻り、脱げかけた服を僅かに残った羞恥心で抱えて走り、そこをクローネに見つかったということである。

(顔見た途端に半裸の幼女に悲鳴を上げられる。ダメだ、言い訳のしようがねえや。)
「待ちなさい変態!」
「あの渡辺直美足速すぎんだろ!」

 どうやら完全に自分があの幼女に乱暴したと思われているようだと、ため息も吐けずに次元は走る。
 さしもの次元も、あの幼女と先の戦いの女が同一人物とまでは思い至らない。服が同じところまでは察せられたが、成人が子供になるというレベルの変装は彼の相棒であるルパンでも不可能である以上その変装は無いとした。実際、変装ではなく骨格からして変わっている以上無理も無い。

「女難の相ってのは聞いたことあっても幼女難の相なんて聞いたことねえぞ全く……うおっ!」

 服を掠めた銃弾に驚く。どうやら追ってきてるのはかなりの手練だ。そんな相手に敵対視されるのは先が思いやられるが、今は走る。誤解を解く時間はない。こうしている間にもマリナがあの女に狙われているかもしれないのだから。
 その女がさっきの幼女だとはまるで気づかず次元は森を駆けた。


「まずいですよアスカさん。たぶんあの子は鬼です!」
「鬼でもほうっとけないよ!」

 そしてクローネを追うアスカ。速度を落として秀人の後ろに回ると、こっそり鈴鬼と話す。
 アスカは鈴鬼からそれとなく話しかけられ続けていた。近くに人がいたためにアスカも無視せざるを得ず、そもそも何言ってるか聞き取れなかったが、何かあの子が危険だということはわかった。
 だがそれでも、小さい子を放っとけ無い。あとなんとなくだが、さっきの男に見覚えがある。
 とにかく止めなくてはならない。アスカはそう思って森を駆ける。


757 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:49:26 ???0



【0200前 廃村周辺の森】


【紅月飛鳥@怪盗レッド(1) 2代目怪盗、デビューする☆の巻(怪盗レッドシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●中目標
 知り合いが巻き込まれていたら合流したい。
●小目標
 クローネさん達と一緒に行動する。

【鈴鬼@若おかみは小学生! PART11 花の湯温泉ストーリー(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出を図る。
●中目標
 自分の知る魔界の知識や集めた情報を残す。
●小目標
 信頼できる人に存在を証して同行する。

【鑑秀人@パセリ伝説 水の国の少女 memory(8)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●小目標
 クローネ達と一緒に行動する

【シスター・クローネ@約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する
●中目標
 対主催集団を作っておく
●小目標
 とりあえず次元を子どもたちに引かれない範囲で攻撃しておく

【蜘蛛の鬼(母)@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 生き延びる
●小目標
 ???(パニック中)
【備考】
※蜘蛛の鬼(母)が見つけた刀は、「三日月宗近@劇場版刀剣乱舞」です

【次元大介@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いからの脱出
●中目標
 マリナと合流する
●小目標
 この場を切り抜ける

【二神・C・マリナ@ミステリー列車を追え! 北斗星 リバイバル運行で誘拐事件!?@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 この事件を解決したい
●小目標
 次元さんと合流したい


758 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/07(火) 07:50:36 ???0
投下終了です。
タイトルは『エントリー! 赤色怪盗のA』になります。


759 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/08(水) 07:51:23 ???0
投下します。


760 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/08(水) 07:52:11 ???0



 夜の学校に集まった13人。
 古手梨花は有用な人材と抑えておきたい物資の確保のために頭を巡らす。
 富竹ジロウは現れたヴァイオレットが梨花を襲うことを警戒しつつコミュニケーションをとろうとする。
 大場大翔は鬼の襲撃を警戒し油断無く周囲を観察する。
 高橋大地はライオンの姿を見てそれが自身の知るものではと思う。
 白井玲はハンターの追跡を警戒しヴァイオレットが逃げてきた方向を注視する。
 磯崎蘭はミツルを見つけて記憶の中の姿と結びつける。
 ロボは校門に現れた人間の数を把握し撤退の算段をつける。
 ヒグマはロボへの執着で理性を塗りつぶされ体勢を低くする。
 ライオンは混乱から立ち直りヒグマとロボを交互に見てどちらがより脅威かを考える。
 芦川美鶴は珍獣の群れに困惑し、次いでヴァイオレットが校門から現れた人間たちと合流したことに舌を打つ。
 ヴァイオレット・ボードレールは明智吾郎の遺志を無駄にしないために富竹たちへ警告する。
 桜井リクは校舎の中から校庭を見下ろして状況が変わったことを理解する。
 沖田悠翔は始まってしまった殺し合いに戦慄しながら首から提げたライフルに手をかける。
 それぞれがそれぞれの行動をする中、いち早く動いたのは──

「グラァ!」

 ヒグマだった。
 野生の思考は最も早く肉体を動かし、再びロボを襲う。

「……!」

 次に動いたのはロボだ。
 人間にヒグマをぶつける目的は達せられた。後は銃で殺させるだけだが、自分の存在をあまりに多くの人間に知られてしまったことから、ここで全員狩ることを決める。しかしまずはヒグマだ。富竹たちにぶつけるために校門へと駆ける。

「君、荷台に!」

 人間で最も早く動いたのは富竹だ。
 運転席の中でライフルをロボの眉間へと向ける。が、遅い。取り回しの悪いライフルを狭い車内で構えるのは困難だ。そして、その隙をロボは逃さない。ステップで初段をかわし、次弾をかわし、軽トラまで距離を詰める。

「「「「こっちに!」」」」

 その荷台にいる4人、玲と大地と大翔と蘭は、一斉にヴァイオレットへと手を伸ばした。後ろから迫るロボへと振り向いていた彼女に呼びかける。

「わからないけれど、わかったわ!」

 呼びかけられたヴァイオレットは即座に向き直って駆け出した。日本語らしく何を言っているかはわからないが、状況的に何を言いたいのかは一目瞭然だ。軽トラの至近にロボが迫る寸前で4人に伸ばした手が掴まれ引っ張り上げられる。

「グアウ!」

 反応の遅れたライオンは、去っていた珍獣を反射的に追おうとして、腰が引けると校舎へと逃亡を開始した。突然現れた強そうな動物に人間、ここは危険だと退却に移る。

「……まずいな、あの子からだ。」

 自分の周りから珍獣たちがいなくなったことで冷静になったミツルは、標的をヴァイオレットに戻した。ヴァイオレットは軽トラに乗り込み、迫るロボは軽トラのフロントガラスを駆け上がると人間には目もくれず走り出した。そしてそれを追いかけていたヒグマは、軽トラックへと突っ込む形になる。

「──あ。」

 そして古手梨花は動けなかった。時間にしてほんの数秒ほど。その間にあまりに多くのことが起こった。狼と熊がこちらに突っ込んできて、横では富竹がライフルを打ち、情報量の多さに思考が遅れた。そして荷台に飛び込んできたヴァイオレットと、フロントガラスを駆け上がっていったロボに思考が止まり、その影から現れたヒグマと目があった。


761 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/08(水) 07:52:45 ???0

「うおおおお!」

 ヒグマと正面衝突する、そう思った矢先に強烈なGでシートから引き剥がされる。
 富竹はギリギリのところでギアをバックに入れると、後進に成功したのだ。ロボを初弾で撃てなかった時点で、たとえ次弾で当たっても、後ろからくるヒグマの突進を止められない。瞬時に判断すると、何発か撃ちながら片手でギアを動かし撤退を選んだ。そしてバックしようとして、ヴァイオレットが荷台へと駆け上がるのを見た。
 まずい。そう思ったときには、既に車は走り出す。その結果。

 ガゴゴゴン!

「──あ。」

 再び梨花から同じ声が漏れた。しかしそれは数秒前のものとは全く別のものだった。
 軽トラが、何かに乗り上げた。
 下の方から悲鳴が上がった。
 梨花の視界に急速に迫ったヒグマから血飛沫が上がるのを見ながら、梨花の視界も赤く染まった。

「うっ……おええっ……」
「だ、だいじょうぶか……おええ!」

 そしてリクと悠翔は動かなかった。
 彼らはゲーム開始から校舎にいて、ライオンの存在から下の階への移動を諦めて上の階でバリケードを築いていた。そのため移動することなどできず、まして校舎の上階と校門の外では距離がありすぎた。そしてその距離は銃撃も困難なものとしていた。

 その結果が、ヒグマが軽トラにいた子どもたちを捕食する光景だった。

 彼らはこの場では最も部外者に近い。故に最も冷静に状況を把握できた。

 校庭から逃げていたヴァイオレットと、彼女を荷台に引き上げるために身を乗り出していた荷台の4人が、急発進した軽トラから投げ出されるところを。

 そして投げ出された彼らの手足が軽トラに轢かれるところを。

 軽トラのバックが上手く行かず、運転席にヒグマが正面衝突したところを。

 運転席から顔を出したヒグマが、力無く手足を投げ出す男の頸を咥えて振り回すところを。

 落とされた衝撃や手足をタイヤの下敷きにされ動けない子どもたちにヒグマが襲いかかるのを。

 つぶさに見て、彼らは、吐いた。

 ゆえに知らない。ヒグマの動きが止まったことを。
 それはほんの悪あがき。ストーリーにほんの少しだけの影響しか与えない、最期の行動だった。

 ヒグマは富竹を運転席から引きずり出すと、まず真っ先に受け身を取っていち早く立ち上がろうとした蘭をベアナックルで即死させた。とっさのサイコキネシスで衝撃を殺し、柔道の受け身で着地に成功、伸ばした手が轢かれそうになったのもギリギリで軽トラをサイコキネシスで跳ね上げて防ぐ。その行動が上手く軽トラがバックできなかった原因であり、子どもたちが即死しなかった理由であり、ヒグマから狙われた死因だった。
 別にヒグマはループ前の記憶を引き継いでいたりはしない。ただ野生の勘で、一人だけ怪我をしておらず自分と目があった個体を潰すと思っただけだ。ヒグマは逃げる獲物を追う。1匹だけ動けるのならばそれを狙うのが道理だ。
 次に狙ったのは、荷台から投げ出されずに済んだ玲だった。彼はヴァイオレットが逃げてきた方向を警戒していたため最も早く彼女に手を差し伸べ、最も早く体勢を立て直し、一人だけショックに備えることができた。そのため強かに軽トラに体を打ちつけながらも、なんとか立ったままの体勢であった。間近に迫ったヒグマに拳銃を向ける。そして引鉄を引き、弾は出ない。

「安全装──」

 置、と言いきるまもなくこちらにもベアナックル。一発で胸から腹にかけて爪が突き刺さる。
 たまらず吐血しもたれかかる。
 そしてヒグマが大翔に狙いをつけたところで──

「やめろおおおおお!!」

絶叫しながら安全装置を外すとヒグマの頭めがけて発砲した。


762 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/08(水) 07:54:12 ???0
 次の瞬間、標的を玲に戻したヒグマの一撃で首が真後ろを向いた。
 玲の最期の一発は、執念でヒグマの眉間に当たっていた。
 人間ならば即死だっただろう。
 しかしヒグマの眉間は分厚い皮膚と頑丈な頭蓋骨で保護されている。至近距離からの銃撃とはいえ、小学生が撃てるような拳銃では脳まで達さない。
 そして激怒したヒグマは、同じように拳銃を手に取り、口で安全装置を外していた大翔へと前足を振り下ろした。
 大翔は軽トラから投げ出されながらも空中で姿勢を整えていた。しかしそのために大きく振った腕は、不運にも軽トラの下敷きとなる。しかもそのまま停まってしまったために、持ち味である足を活かせずその場に縫い止められてしまった。それでもなんとかポケットからハンドガンを取り出すと、玲と同じように安全装置がかかっていたことから口で噛んでスライドをずらし、銃口を向ける。

「ち、ちっくしょう!」

 人間、追い詰められると叫ぶしかなくなる。それは大翔も同じだ。
 目の前で殺された玲と同じように顔面に銃口を向ける。それが無意味だということはつい数秒前に目の前で見せつけられたがやらずにはいられない。
 振り下ろされた前足に残っていた腕も潰されながら、大翔の肩に爪が食い込んだ。と同時に、ヒグマの咆哮が響いた。
 2人が持っていたグロック18には連射機能がある。たまたま切り替えていたために10発ほどバラ撒かれた弾丸の一発が、ヒグマの目を貫いていた。

「や、やめるんだ……」

 脳にまで達した弾丸にさしものヒグマもたたらを踏む。その声を聞いて、体の上を軽トラが通り過ぎた大地は弱々しく言った。1番手を伸ばすのが遅かった彼は、バランスを崩していたところに急発進され、荷台の後部から転がり落ちると余すところなく轢かれた。頚椎を損傷し、文字通り指一本動かせない。それでも出せる声で、なんとか呼びかける。
 子どもの頃から動物は好きだった。だからその動物が、目の前で人を殺すことなんて悲しいし、傷ついて悲鳴を上げるのは心が痛い。しかし彼にできることは何もない。轢かれた時に首輪も傷つき、作動により毒が回っている。その毒の影響でショック状態から気絶せずにすんでいるのだが、それはあまりにも救いなき救いだった。

「……ごめん、なさい。」

 そしてヴァイオレットの言葉を最後に、大翔と大地とヒグマとヴァイオレットの息の根が止まった。荷台とその後部を中心に、地面から影が突き上がる。それは生きている者も死んでいる物も平等に串刺しにした。
 蘭はこめかみからこめかみを影が貫いた。玲は曲った首をぽとりと落とされた。大翔は全身をいくつかのパーツに分けられた。ヴァイオレットは手足を中心に念入りに切り身にされた。ヒグマは極太の影により心臓をえぐりぬかれた。大地は毒により全身が硬直した。

「1、2、3……こいつも入れて7人か。出鼻はくじかれたけれど、幸先は良い。」

 大技を使った反動を受けながらも、その心地良い疲労感に満足気にそう言うと、下手人であるミツルは影の魔法を解いた。
 彼にとってヒグマの行動はとても都合が良かった。銃を持った相手では魔法が使えても苦戦が予想できたが、野生の力で思う存分に殺してくれたおかげでだいぶ手間が省けた。ミツルよりも軽トラの人間を狙ってくれたおかげで、魔法を使う時間もしっかり取れ、理想的な展開である。
 これで最初に殺したのも入れて8人。ゲーム開始から1時間でこれは上等だろう。別にキルスコアにこだわる気もないので、今回のように殺しに便乗していこうと思う。
 あとは狼とライオンだが、さすがに一度にそこまで殺せるとは思っていない。少し探ってみていなかったら一休みしよう。
 ミツルはそう決めると軽トラを後にした。死体の側に長居は無用だ。とりあえずあの狼を追ってみようとその場を後にした。


 13人いた学校からは、7人の参加者が脱落した。
 ロボは首尾よくヒグマを殺せたが、未知の武器を振るうミツルを目撃し、その追跡を振り切ってほどぼりが冷めたら学校に戻ろうと考える。
 ライオンは遠くから聞こえてきた銃声にストレスを感じ、校舎の中で毛づくろいをする。
 ミツルはロボを追うために逃げた方向へ足を伸ばす。
 リクと悠翔は凄惨なヒグマの殺戮にただただ吐く。

(……うぅ、生きてる……生きてる……?)

 しかしてただ一人、軽トラに乗っていて死を免れた梨花はなんとか意識を取り戻していた。
 大人数を殺せたことと運転席の破損と血痕が大きく見えたことからミツルにみのがされていた。
 運転席の富竹の手から弾き飛ばされたライフルがぶつかり失神していた間に、状況は大きく変わった。
 梨花が重視していた富竹はもういない。
 梨花が最重視していた大翔はもういない
 失った手札と幸運に気づかぬまま、梨花は呆然と血濡れの運転席を見た。



 13人いた学校の参加者は30秒で半分になった。


763 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/08(水) 07:54:54 ???0



【0100過ぎ 学校】


【古手梨花@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 今回のイレギュラーを利用して生き残る。
●中目標
 自分が雛見沢からいなくなった影響を考えて手を打つ。
 特殊な経験、または超常的な力を持つ参加者と合流する(でもあんまり突飛なのは勘弁)。
●小目標
 ???

【ライオン@猛獣学園!アニマルパニック 百獣の王ライオンから逃げきれ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 襲ってくるヤツを狩る。
●小目標
 熊(ヒグマ)と人間から逃げる。

【ロボ@シートン動物記 オオカミ王ロボ ほか@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残り、縄張りに帰る。
●中目標
 ミツルを警戒。
●小目標
 グリズリー(ヒグマ)と人間(ミツル)と謎の獣(ライオン)で狩らせあわせる。

【芦川美鶴@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 ゲームに優勝し、家族を取り戻す。
●小目標
 さっきの動物(ロボ・ライオン)を追う。

【桜井リク@生き残りゲーム ラストサバイバル つかまってはいけないサバイバル鬼ごっこ(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 今回のバトル・ロワイアルを生き残って家族の元に帰る。
●小目標
 ???

【沖田悠翔@無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 今回のバトル・ロワイアルを生き残って家族の元に帰る。
●小目標
 蘭を助ける。



【脱落】

【富竹ジロウ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【ヴァイオレット・ボードレール@世にも不幸せなできごと 最悪のはじまり(世にも不幸なできごとシリーズ)@草子社文庫】
【大場大翔@絶望鬼ごっこ きざまれた鬼のしるし(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【高橋大地@猛獣学園!アニマルパニック 百獣の王ライオンから逃げきれ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】
【白井玲@逃走中 オリジナルストーリー 参加者は小学生!? 渋谷の街を逃げまくれ!(逃走中シリーズ)@集英社みらい文庫】
【磯崎蘭@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【ヒグマ@猛獣学園!アニマルパニック 最強の巨獣ヒグマから学校を守れ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】


764 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/08(水) 07:56:38 ???0
投下終了です。
タイトルは『ハーフミニッツ・ハーフカット』にります。
あと一応月報載せときます。


各ロワ月報2022/11/16-2023/1/15

ロワ 話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
界聖杯  145話(+10)  37/46(-3)  80.4(-6.5)
児童文庫 92話(+9)  110/143(-17)2L目名簿より 91.0(-4.7)※総参加者数365名
決闘 38話(+6) 97/112(-2) 86.6(-1.8)
チェンジ 120話(+6)  32/60(-5)  53.7(-8.2)
媒体別 80話(+5) 136/150(-3) 90.7(-2)
表裏 97話(+5) 10/52(-9) 19.6 (-17.6)
ゲーキャラ 116話(+5)  41/70(-0) 58.5(-0)
虚獄 119話(+3) 34/75(-12) 45.3(-16)
令和ジャンプ 54話(+3) 49/61(-0)  88.0(-0)
FFDQ3 783話(+3) 18/139(-0) 12.9(-0)
異界聖杯 7話(+2) 48/48(-0) 100(-0)
誰が為 8話(+2) 59/70(-3) 84.3(-4.2)
二次聖杯OZ 2話(+2)  52/52 100.0(-0)
烈戦 37話(+1) 59/61(-0) 96.8(-0)
辺獄 62話(+1) 68/119(-4) 60.5(-3.2)
コンペ 90話(+1)  88/112(-0) 78.5(-0)
観察都市 17話(+1) 22/22(-0) 100(-0)
狭間 55話(+1)  32/44(-0) 72.8(-0)
お気ロワ 17話(+0) 48/50(-0) 96(-0)
オリロワZ 47話(+47) 43/50(��7) 86/100(��14)※OP2話含む
オリロワVRC 7話(+7) 39/40(��1) /97.5(��2.5)※OP含む

・パロロワwikiで本期間分の月報が更新されてなかったので勝手に月報作っちゃいました。たぶん抜けは多々あります。
・ロワ系のスレ並びにハーメルン・pixivで行われている企画を集計しました。
・修正前・修正後・破棄全て1話としてカウント、分割話は投下開始時点でまとめて1話としてカウントしました。
・めんどくさいんで今回限りになると思います。FFDQ3ロワさんみたいに月報置いといてくれたら集計の方の手間が省けると思います。


765 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/10(金) 07:57:55 ???0
投下します。


766 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/10(金) 07:58:28 ???0



「動かないで。」

 朱堂ジュンは出会い頭に刀を持った少年へと拳銃を突きつけた。
 一時間以上は歩いていて油断していたために間近になるまで気づかなかったのを考えると、先手を取れたのは僥倖だ。
 もしかしたら相手も、同じように油断していたのかもしれない。
 とっさに抜刀はしたもののそこで動きが止まり、だから額へと銃口の狙いをつけられた。

「片手を頭の上に置いて、もう片方の手で刀を地面に突き刺して。」
「くっ……! 乗っているのか?」
「早く! 刺したら下がって、うつ伏せに寝転がって。」

 有無を言わせずに武器を置かせる。勝負では主導権を握った方が勝つ。
 悔しそうな顔で言うとおりにする少年に内心でわずかにほっとしながら、それでも油断無く少年の背中に膝立ちになり、今一度頭に銃を突きつけた。
 そこで、頭の後ろで組まれた手から紙片が覗いていることに気づく。
 「もらうよ」と言って奪い取ると――

『装備:命の百合  場所:一本杉の根本  説明:どんな傷も癒やす蜜を出す百合。器一杯飲めば永遠の命が得られる。』

 「わたしだけじゃなかったんだ」自然と言葉が漏れる。
 それを聞いてか、少年は伏せていた目を上げる。
 ジュンと目が合う。
 その目は、彼女を負かした少年の目にそっくりだった。


 朱堂ジュンは小さい頃から足が速かった。
 走るのが好きだから速くなったのか、走かったから走るのが好きになったのかは覚えていないが、ジュンの好きという気持ちと走る速さは比例して増していった。
 親はそんなジュンを応援した。
 その甲斐もあって彼女の努力は実り、いまやジュンは将来を有望視されるアスリートにまでなった。あと数年もすればオリンピックの育成選手にもなり得るだろう。そんな時だ。
 ジュンの母親は病に倒れた。
 治る見込みは無かった。
 彼女を今まで支えてきた存在は、近い将来、彼女がアスリートとして大成するよりも確実に早く死ぬことになった。
 だが、そんな時だ。
 ラストサバイバル、人生逆転のゲームに参加するチャンスが巡ってきたのは。
 毎年小学6年生が、優勝者にはなんでも願いが叶うという景品のために、命がけで戦うゲーム。
 それがラストサバイバル。
 ジュンはそれに参加した。
 種目はひたすら休みなく歩き続けるサバイバルウォーク。長距離をメインとする彼女が勝つためにあるような競技だった。
 そして彼女は敗北した。
 最終盤までトップにいながら、ノーマークだった少年に最後の最後に負け、願いを逃した。
 母親を助ける手段を失った。
 彼女は泣いた。
 叫んだ。
 そして後悔した。
 何が足りなかった? 覚悟が足りなかった。
 何が足りなかった? 決意が足りなかった。
 決死さが足りなかった。必死さが足りなかった。死ぬと決めたと書くから決死なのだ。必ず死ぬと書くから必死なのだ。彼はそれを持っていた。自分が死ぬことを覚悟していた。その意気を感じた。
 そしてその上で、楽しんでいた。
 彼は、自分の命を捨てることすらも楽しんでいたと、彼女はあれを振り返って感じた。
 だから、彼女は決めた。
 たとえ命を失ってもではなく、必ず命を失うと決めて戦うと。


767 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/10(金) 07:58:47 ???0

「オレは藤山タイガ。EDF第3師団K部隊だ。」

 突然の言葉でジュンは我に帰る。
 ほんの僅かな間だろうが、自分の内面に沈みこんでいた。
 それに気づくと同時に、なぜ?と思う。なんで少年は名乗ったのか。

「名前あるんだろ、名乗れよ。」
「なんで。」
「なんでって、じゃあなんて呼べばいいんだよ。」
「そうじゃなくて、わたし、君を殺す気なんだけど。」
「本当に殺す気あるなら話しかけないで撃つだろ。」

 ギリ、と頭に銃口を押しつける。
 ますます、少年があの子に重なって見えた。

「違うって言ったらどうする。」
「妹がいる。」
「は?」
「もしかしたら、妹もここにいるかもしれない。できればでいい。殺すのは後回しにしてくれないか。間違っても殺し合いに乗るようなヤツじゃないんだ。」
「ちょっと待って、君言ってることわかってる?」
「ムチャクチャだよな。でも、こうして話してるってことは、ちょっとは頼めるんじゃないかって思って。」
「……」
「頼む。オレを殺すのは、まあ、ホントはすごい嫌だし、助けてほしいけど、でも殺るんなら、妹だけは殺さないでほしい。」

 妹のため、それが決定的だった。
 この子は同じ人間だ。
 あの子、桜井リクと同じタイプの人間だ。
 銃口を離す。
 乗っていた背中から足をどける。
 銃は向けたまま、後ずさって距離を取った。

「タイガくん、もし君が優勝したら、妹さんの次でいいから、わたしの、母親を助けてくれない?」
「……は?」
「前さ、これと似たようなゲームに参加したことがあるんだ。それは本当に死ぬようなことはなかったんだけれど、首輪じゃなくて腕輪みたいなのつけてさ。優勝したらなんでも願いが叶うっていうの。」
「……ギャンブルの話か?」
「そんな感じ。鞘をこっちに投げて。」

 そのまま回り込むと、突き刺さっていた刀の下へと行く。銃で腰の鞘を抜くように示すと、飛んできた鞘を片手で掴み、銃をポケットへと押し込んだ。
 タイガは動かなかった。
 刀を地面から抜き、鞘へとしまう。今度は納刀したそれで立ち上がるように指示した。

「今度のこれも、似たようなものなんじゃないかな。優勝したら願いが叶うとか、そんなふうな。少なくとも優勝できなかった子よりは生きてる可能性が高いでしょ。だから、もし君が優勝したら、わたしの家族に会いに行ってほしい。それで、できる限りでいいから助けてほしい。わたしが優勝してもそうするから。」
「無理だな。」

 拳銃を抜く。

「オレの親は行方不明だ。お前に見つけられるのか。」
「心配しないで。わたしの親も病気で長くないから。」
「……なのに、そんなこと頼むのか?」
「だから、頼むの。恨むんなら地獄で恨んどいて。」
「勝手に地獄行きにするんじゃねえ。」
「地獄みたいなものでしょ、ここも、ううん、その前も。あはは、この先もか。ずっと地獄じゃん。」
「何がおかしい。」

 ギラついた目をタイガは向ける。
 それ目掛けてジュンは、刀を投げ渡した。
 「うわっ!」と情けない声を上げてタイガは受け止める。

「……一人よりは二人のほうがマシでしょ。今は殺さないでおく。代わりにわたしの前を歩いて戦って。断ったら撃つ。」

 そしてタイガの足元に向けて発砲した。

「オーケー?」
「……クソ、わけわかんねえ……!」
「オーケー!?」
「くっ……オーケーだ! オーケーだよ!」
「あと振り返っても撃つから。」

 刀を腰に、手を頭の上に置かせて前を歩かせる。
 ジュンはわからないように、銃をポケットへと入れた。


768 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/10(金) 07:59:36 ???0



「今の銃声何かしら。ねえ?」
「……さあ。」

 折れた枝を手に取る。
 超能力で先を尖らせる。
 そして投げる! を、繰り返す!

ドス「あぶな!」ドスッ「ちょ」ドドス「ま」ドドスドドスドス「待って」ドドスドドスドス「助けて!」ドドスドドスドス「お願いします!」ドドスコスッ「わああああああああああ!!!???」

「返事ぃ!」
「はい……」
「はいじゃないわ、何かって聞いとんねん。耳義足なん?」
「耳が義足ってなんだよ……」
「なんでツッコミだけはちゃんと話すねん!」
「いたーい!?」

 サイキックで浮かした小石をケツへと直撃させる。
 悲鳴を上げてゴロンゴロンと地面を転がる少女、玉野メイ子を前に、名波翠は確信を深めた。

(コイツの行動、全部デジャヴや。予知夢を見たんか、もしくは、時間がまき戻った、とかか?)

 翠は超能力者だ。こういう異常事態にも何度か遭遇したことはある。さすがに爆弾だか毒だかが入った首輪をつけて殺し合えなどと言われたことはなかったが、それこそ神の一柱や二注と遭遇したこともあるので、多少の動揺はあれど比較的冷静だった。
 そう、殺し合えなどと言われたことなどなかったのだ。つい数時間前までは。
 翠の能力はどちらかと言えば念動力を主とする。力に目覚めて日が浅い蘭にテレパシーの潜在能力では劣るものの、サイコキネシスの操作技術では一日の長がある。
 しかしそんな彼女でも、自分が戦いの果に死ぬという経験をタイムリープでした以上、記憶の残留は蘭と同等以上だった。

(タイムリープなんかタイムスリップなんか未来予知なんかわからんけど、この展開は知ってる。一度読んだ本を読み返すようにな。だから、同じ行動を取り続ければ、同じ行動になるはずなんや……)
(今やってそうや。セリフを同じにしたら同じセリフが返ってきた。同じ行動をすれば、同じ結果が出るはずなんや。なのに……)
(蘭……なんなん? さっきアンタの声が聞こえた。ここに来てテレパシー全然使えんのに。なあ? なんでなん?)

 冷静に、努めて冷静に、翠は考える。
 無駄に大仰に深呼吸して、考えを整理しようと試みた。
 この殺し合いが始まって、翠はしばし記憶の混濁に混乱したあと、なんとか前と同じ行動をしようと努力してきた。
 前回の記憶を活かすためには、極力変更点を減らしたい。タイムリープは自分の行動だけで変化する都合上、100%の再現性が期待できるのだ。期待できるはずなのだ。
 なのに、翠からは冷や汗が止まらない。
 同じ行動をしていたはずなのに、今から10分ほど前に聞こえてきた、聞き覚えのない蘭の悲鳴の意味を、必死で考えていた。
 それを思い出すたびに、作った確信が崩れていく。自分が動かなければ未来は変わらない。そういうもののはずなのに、未来が最悪の方向に変わっていたから。

(記憶をロードしたうちが行動を変えなければ、シナリオは変わらん。)
(同じ行動をしてたのに、蘭の悲鳴が聞こえた。)
(おかしいやんこんなの、矛盾して、矛盾……)


769 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/10(金) 07:59:58 ???0

 何か熱いものが頬を落ちる感覚がしてハッとなる。
 それを恐る恐る指先で触れる。
 その熱源が、自分が流した涙だと理解して、翠は決壊した。

「蘭……アンタ……ムチャしたんやろ!」

 嗚咽交じりにそう言う自分をメイ子がギョッとしてまじまじ見るのもはばからず、翠は声を上げて泣いた。
 翠は理解していた。記憶を残していた者でなければ未来は変えられないのに、勝手に未来が変わっていた理由。
 なんのことはない、記憶を持つものが複数いたからだ。
 蘭が自分よりもそういった感覚に強いことは、この一年の冒険で何度も実感している。自分が記憶を憶えていたのだから蘭も憶えていただろうと、自信を持って言える。そしてきっと、このクソッタレなゲームに一緒に巻き込まれたであろうことも確信している。
 それがわかっているから、涙を止められなかった。突然感じた蘭の悲鳴のイメージ、強い悲しみ、無力感、負の空気。エスパーの感受性で読み取ったそれを心のままに判断するのなら、蘭の死という答えしか出なかった。
 蘭の性格はよくわかっている。きっとこの場所で記憶を元に未来を変えようと動いたのだろう。おおかた、死んでしまった自分を助けるために。
 つまり、翠のために蘭は死んだ。
 そこまで考えて、翠は寒空の下に裸で放り出されたような感覚を覚えた。ブルりと身を震わせ続け、肌の露出を手で隠そうとし、両手で顔を覆った。

「ちがう……こんなことしてたらアカン。まだシナリオ通りにやらな……」
「あ、あの、うわ。」
「……『やっぱお前の心覗くわ。』」

 頭の上に手を置こうとする翠と、それを抵抗できないメイ子。と同時に二人の周りに不可思議な力が満ちる。メイ子の頭から何かを引っ張ろうとするそれはまさしく異能。その正体は、サイコメトリーだ。
 メイ子は強力な霊視能力を持つ。その力で前回同様、最初出会った参加者である翠の人となりを知ろうとした。
 そして翠は能力者特有の勘の良さで自分を見ている存在に気づき、殺意のイメージを見せることでメイ子の動揺を誘い、位置を掴むとサイキックでやきを入れたという次第である。
 読み取ったメイ子のクズさにデジャヴを感じて無理矢理に切り替えていく。そして気配を察知、これで未来の分岐点になんとか間に合う。

(このあとは、変な服を着た男子と、髪の長い女子から逃げようと森の中行って、そしたら、そう、黄金の鉄の塊でできた鎧の騎士に襲われたんや。)

 聞こえてきた銃声に、逃げるのではなく立ち向かう。きっと変えるべき選択肢はここだ。
 前回は森に逃げたらそこにいた騎士に4人まとめて襲われた。今回はリスクを覚悟でこれから出会う2人を叩く。相手が能力者である可能性や自分が能力者だとバレる可能性はあるが、ここで動かなければ記憶の意味が無い。
 翠は小石を操るイメージトレーニングをしながら2人を待つ。



【0121 森の近く】


【朱堂ジュン@生き残りゲーム ラストサバイバル 最後まで歩けるのは誰だ!?(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する。
●小目標
 命の百合を手に入れる。

【藤山タイガ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 主催者をぶちのめして生き残る。
●小目標
 今はシュンに従う。

【玉野メイ子@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 まず死にたくない、話はそれから。
●小目標
 今は翠に従う。

【名波翠@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
●中目標
 未来を変える。
●小目標
 男女二人組(朱堂&タイガ)に接触する。


770 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/10(金) 08:00:25 ???0
投下終了です。
タイトルは『動かされたスタートとゴール』になります。


771 : ◆NIKUcB1AGw :2023/02/13(月) 22:24:31 ycZJO6HE0
いつも投下乙です
自分も久々に投下させていただきます


772 : 銃は槍より強し ◆NIKUcB1AGw :2023/02/13(月) 22:25:34 ycZJO6HE0
山の麓にぽつんと建つ、木造の小さな小屋。
その小屋に向かって歩く、二つの人影があった。
片方はまだ幼さの残る、眼鏡をかけた少女。
名を、氷室実咲という。
もう片方は、槍を携えた筋肉質な青年。
彼の名は、日本号。長き時を過ごしたことで付喪神となった刀剣、「刀剣男士」の一人である。
もっとも彼の場合、厳密には刀剣と言いがたい槍が原型なのだが。

「あの小屋でいいのか、お嬢ちゃん」
「はい。たぶん、地形とかを見るとあれだと思います」

日本号の問いに、実咲は手にした地図を見ながら答える。
数十分前、偶然遭遇した二人はお互い敵意がないことを確認し、共に行動することにした。
そして実咲に支給された武器のありかを示した地図をたどって、ここまでやってきたのである。
なお実咲は日本号の素性について聞いているが、彼女の常識ではとうていあり得ないものだったため深く考えないことにして心の平穏を保っている。
とりあえず悪人ではないようなので信用している、という具合だ。

「しかしまあ、俺たちを殺し合いなんぞに巻き込みやがったやつが用意した武器に頼るってのも、ちょいと癪ではあるなあ」
「気持ちはわかりますけど……。
 殺し合いをしたくなくても、最低限の自衛手段は持っておかないと危険ですから」
「ははっ、そりゃそうだ」

会話しているうちに、二人は小屋の前に到達していた。
日本号はその戸を開けようとして、動きを止める。

「どうかしまし……」
「離れろ!」

日本号の叫びの直後、けたたましい銃声が響く。
それと共に、無数の弾丸が戸を突き破ってきた。
弾丸は日本号にも襲いかかり、その肉体を削っていく。

「ぐあっ!」
「日本号さん!」

たまらず膝をつく日本号。
その様を見て、実咲が悲痛な叫びを上げる。

(ちくしょう、俺としたことが、とんだへまを……。
 こんな近づくまで、やべえやつの気配に気づかねえとは!)

顔をゆがめ、日本号は己に毒づく。
実際には赤い霧によって彼の感覚が劣化していたことが原因なのだが、本人はそれに気づいていない。

(とにかく、最低でも実咲は守らねえと……)

己の本体である槍を杖代わりに、なんとか立ち上がる日本号。
そこに、戸が崩壊した小屋の中から声がかけられる。

「なんや、思ったより元気そうやなあ」

そう口にしたのは、眼鏡をかけた青白い肌の男。
その側頭部からは不揃いな一対の角が生えており、彼が普通の人間でないことを示している。
彼の傍らに置かれているのは、どこぞの武器商人が使用していたものと同型の回転式機関銃(ガトリングガン)。
これこそが、実咲の地図に記されていた武器である。

「死に際の絶望した表情が見たくて、ほどほどで止めたのかあかんかったか。
 しゃあない、次は殺す気でいくわあ」

物騒な内容とは裏腹なおっとりとした口調で、男……アミィ・キリヲは言う。
その手が、ガトリングガンのハンドルにかけられた。

「逃げろ、実咲ーっ!!」

声の限り、日本号が叫ぶ。
そのあまりに切羽詰まった咆哮に、実咲はほぼ反射的に駆け出していた。
それを見届けることもせず、日本号はキリヲに向かって突進する。
ただの人間よりはいくらか頑丈な刀剣男士の体だが、そこまで大きな差があるわけではない。
あと数発銃弾を受ければ、刀剣男士としての日本号は死に至る。
その前に、敵を討つ。日本号は、そう決意していた。
再び、ガトリングガンが銃弾を放ち始める。
日本号の体が、何度も射貫かれる。
それでも彼は止まらない。
遠のきそうになる意識を必死につなぎ止め、間合いに入る。

「おらあっ!」

キリヲの頭部めがけ、全力で槍が振るわれる。
しかし……。

「何ッ!?」

槍は、キリヲの体に触れることなく、何かにぶつかって止まった。
アミィ家の家系能力、「断絶(バリア)」。
絶大な強度を誇る、不可視の壁を生み出す魔術だ。

「危ない危ない。タフやなあ、お兄さん」

キリヲは平然と呟くと、ガトリングガンの位置を調整して今一度銃口を日本号に向ける。
そして、至近距離から銃弾を放った。
容赦なく襲いかかる弾丸が、日本号に残された最後の力を奪っていく。

(俺は……ここまでか……。すまねえ、主、みんな……)

その思考を最後に、日本号の意識は闇に落ちていった。


773 : 銃は槍より強し ◆NIKUcB1AGw :2023/02/13(月) 22:26:45 ycZJO6HE0


◆ ◆ ◆


「最後まで僕好みの顔を見せずに死んでいきおったなあ……。
 ほんまにタフなお兄さんやわ」

日本号の亡骸を見下ろしながら、キリヲは呟く。

「しかし、なんやろなあ。このお兄さん、悪魔とも魔獣とも違う感じが……。
 強いて言うなら、使い魔に近い……?
 まあ、そんなこと考えるのは後でええか。
 今は逃げたお嬢ちゃんを……ガフッ!」

突然、キリヲの口から血が噴き出す。
彼は元々、虚弱体質。
戦闘による精神的消耗が、体調を悪化させたようである。

「あ、あかんわ、これ……。少し休まんと……。
 魔力も余裕無いし、弾も残り少ないしなあ……。
 すぐに追いかけるのは無理かあ」

力なく笑うと、キリヲは床に腰を下ろす。

「しかし、ここの武器は性能ええなあ。
 使うのに、魔力も必要あらへんし……。
 これをぎょうさん持ち帰れば……僕の野望に役立つかもなあ」

キリヲの野望。それは高ランクと低ランクの悪魔の差をなくし、魔界を混沌の渦に巻き込むこと。
弱者でも強者を殺せる武器が大量にあれば、それを達成するために役に立つだろう。

「まあそれには、まず僕が生き残らんと……。
 がんばらなあかんなあ」

地獄絵図を頭に描きながら、キリヲは恍惚の笑みを浮かべた。

【0200 山の麓】

【氷室実咲@怪盗レッド(1) 2代目怪盗、デビューする☆の巻(怪盗レッドシリーズ)@角川つばさ文庫】
●大目標
生き残る
●小目標
キリヲから逃げる


【アミィ・キリヲ@小説 魔入りました!入間くん(3) 師団披露(魔入りました!入間くんシリーズ)@ポプラキミノベル】
●大目標
大量の武器を持ち帰る
●中目標
絶望した表情を見るために、他の参加者を襲う
●小目標
少し休む


【脱落】

【日本号@映画 刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】


774 : ◆NIKUcB1AGw :2023/02/13(月) 22:27:58 ycZJO6HE0
投下終了です
なにぶん久々の投下なので、問題ありましたら指摘おねがいします


775 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/14(火) 03:01:02 ???0
投下乙です!
このロワに2023年も書き手さんの投下があって感想コメを送れることに一番驚いているのは俺なんだよね。
なにより今までで刀剣乱舞から刀剣男子が出てこなかったんで一安心してますね、ええ。
うちのロワは児童文庫だけあって小学生が書く感じのものが投下されることを想定してたんですが、こうしっかりした登場話を投下されると負けん気が出ますね。
100話超えて書き手枠も半分ほどになって1割近く脱落してますし、気合い入れ直して負けずに投下します。


776 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/14(火) 03:01:49 ???0



 愛車のスバル360は好調に道路を飛ばす。海沿いから人のいそうな街を駆けるそれは、大きな道を選んで走り、唐突にガソリンスタンドに停まる。中から出てきたのはもちろんルパン三世とシロだった。

「おいおいキミの悪い街だぜ。標識も看板も全部何語だ? こりゃ。」
「くぅーん?」
「そうだろ? まるで魔法みたいだ。」

 まるでわかっているかのように相槌を打つシロに答えながらガソリンを給油する。自販機で水を買い、シロに飲ませてから自分も飲みながら、釣り銭の硬貨を目の前に持ってきた。

「なるほどねぇ、デザインが違うだけで普通に使えると。となると、あのウサギわざわざ街一つの文字を変えたってのか。バベルの塔ごっこでもやりたいのか?」
「それにこっちはトカレフの純正品に、スペツナズナイフ。旧日本軍の軍刀までありやがる。とっつぁんがいたら卒倒してそうだな。」

 車によりかかりながらつぶさに観察するのは、十円硬貨らしき銅銭だ。重さも形もまるで十円玉だが、デザインは全く異なっている。そして見つけた武器の数々。刻印などはやはり違うが、それが粗悪なコピー品でないことは一目瞭然だった。
 あまりの手の込みように自然と感嘆してしまう。わざわざ書き換えたのかライセンスを手に入れて作ったのかはわからないが、国家予算でもなければできないような用意だ。それを使ってやるのがルールが雑な殺し合い。目的が読めない。
 ルパンは給油の終わった愛車を住みに寄せると店から拝借したカバーをかけた。
 街に入った途端、落ちている銃火器の量が激増した。適当に建物に入ってみれば、それだけで海沿いを歩いていたときに匹敵するほどの武器が落ちている。中には対戦車兵器や地対空ミサイルまであり、さすがのルパンも空いた口が塞がらなかった。この分だと街一つだけで紛争が起こせそうなほどの武器があるだろう。それだけの武器を集めて殺し合いとは、一周回ってやることがしょっぱく感じる。

「お、あったあった。」

 武器には目もくれずルパンは店の事務所から地図を探し出した。愛用のワルサーをはじめ様々な道具は持っているので、何かを拾い集める必要は薄い。弾丸もこのぶんなら補給には困らなさそうだ。となると欲しいのはこの殺し合いならではのもの、情報だ。
 「ビンゴ」と言いながらルパンは地図の一角を弾いた。仕事柄読めない地図を読むことに離れている。その中から学校を見つけるのは簡単な部類だ。街にある日本の学校ならばだいたいは同じような立地になっている。そして学校ならば、避難してくる人間も多いだろう。
 当分のルパンの方針としては、他の参加者と接触したい。オカルトじみた光景に幻覚も疑うが、世の中エスパーやらマジシャンやら割といるものだ、これも現実だと考えた上で、ルパンはこのブラッドパーティーの仕掛け人を出し抜ける自信がある。なにせ今までそういう輩を出し抜いてきたのだ、今回もやってやれないことはない。
 当座の問題は、この首輪。スイッチ一つで着けた者を殺す毒が入っているとなると、一筋縄ではいかない。おそらく監視装置も付いているだろう。表立って外そうとしたり会場から脱出なりすれば、あの剣士の二の舞だ。
 というわけで、まずは首輪のサンプルと首輪を外せる設備、そして首輪の機能を考察できる知識のある人間、これを集めたい。どれか一つならまだしも、三つとなるとさすがのルパンにも荷が重い。だれかと協力しなければ、この首輪は外せないだろう。となると兎にも角にも人と会わなければ話にならない。これまでルパンが出会ったのは犬一匹。そろそろ死体でもいいから人間と会いたいところだ。


777 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/14(火) 03:02:17 ???0

「どうせなら美人のボインちゃんがいいな。白衣にメガネで、ムフフフフ……」
「アゥ〜……」
「なんだぁ? そんな疲れた顔してたら幸せが逃げてくぜ?」

 鼻の下を伸ばすルパンに呆れたような、というか思いっきり呆れた声を上げたシロを撫でて、ルパンたちはガソリンスタンドを後にした。
 どういうわけかシロにはルパンの考えがわかるようだ。仔犬にしては賢いし、まさかエスパー犬か?などと冗談半分で考える。半分は本気だ。シロをスバルで見つけた時、あの車はドアに鍵がかかっていなかった。つまりドアさえ開けられたのなら中に入り込める。そしてさっきのメモ。お宝と言いながらあったのが愛車だった時は別の意味で驚いたが、よく考えれば自分にだけあのメモが渡されたとは限らない。シロにも同じメモが渡され、文字と書かれている内容を理解して、ルパンより先に探し出し、犬の体でどうにかドアを開けて中に入り込んで……

「いやいやいやいや、まさかな。」
「アゥ?」

 キョトンと首を傾げるシロ。その様子は知性を感じない。ただの仔犬だ。
 そう自分を納得させたルパンは、直ぐに考えを改めようと思った。
 一人と一匹が歩き始めて10分ほど、そろそろ目的地が見えてくるという段階になって、ルパンの後ろから気弱な鳴き声が聞こえた。
 振り返ると、元からおどおどしていたシロが震えている。尻尾を股の間に挟み丸くなるその姿は、風にたなびく綿あめのようである。

「なにかヤバいんだな。」
「くぅ〜ん……」
「そこで待ってな。すぐ戻る。」

 歩き出したルパンの後ろから聞こえる、シロの足音。もう一度振り返ると、綿あめの形のまま追ってきている。いよいよ本当にただの犬っぽくなくなってきたが、とにかく着いてくるようなのでそのまま歩く。
 ややあってルパンは、シロが怯えていた理由を理解した。血の臭いだ。

「イチ、ニイ、サン。子供が三人か、ひっでぇことしやがる。」

 ナンマンダブ、ナンマンダブ、と呟きながらルパンは油断無く校舎に目を配った。角を曲がって見えた校門には、折り重なるように倒れる中学生ほどの子供がいた。遠目なので断定はできないが、ハチの巣にされてピクリとも動いていない。たしかに死体でいいから誰かに会いたいとは言ったが、本当に死体が、しかも子供のものが三体となると、ツノウサギへの胸糞悪さを思い出した。
 そして問題は、この死体の意味だ。普通に考えれば、三人まとまって撃ち殺されたと考えるところだろう。しかしそれは不自然にルパンには思える。ここまで人間と会ってこなかった身としては、学校でなぜか運良く合流した人間がノコノコ校門に集まって皆殺し、というのはどうにも腑に落ちない。あるいは死体を校門前に移動させたか。それなら理由は何か。なぜあんな目立つところに置いたのだろうか。警告のためかあるいは。

「考えてもわかんねえや。誰かに聞くのが手っ取り早いな。」

 ルパンは校舎の後ろに回り込むとフェンスを素早く登った。と、肩に何かモフモフとした感触。まさか、と思うとシロが肩に乗っていた。

「お前いつの間に。」
「アン!」
「まいったなこりゃ。」

 危険なのでフェンスで振り切ってルパンだけ中に入ろうと思ったのだが、シロの方が一枚上手だった。いよいよコイツただ犬じゃないなとルパンは確信する。

「しょうがねえなぁ。大人しくしてろよ。」

 ルパンの言葉にコクコクと頷く。どんどん人間臭さが増していくシロにルパンは肩をすくめた。


778 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/14(火) 03:02:46 ???0

 音も無く着地すると、ルパンは校舎際に駆けた。校内へのドアにとりついてピッキング用具を出し、解錠するまでものの10秒。ワルサーを構えて密やかに突入する。
 たいていの校舎と同じように、ルパンが侵入した学校は長い一本の廊下の両脇に教室が並ぶ造りだ。つまり、廊下の端を抑えるだけで一つの階の部屋の出入りを見張れる。
 なので急いで向かいの教室に飛び込んだのだが、少なくとも一階に殺人者が待ち構えているというのは杞憂だったようだ。

(コイツはクレイモア地雷じゃねえか! 仕掛けられてたらオダブツだったな。)

 冷や汗が一筋流れる。ルパンが見つけたそれはセンサー式の爆破トラップ。これが起動状態なら今頃あの世行きだっただろう。

(こんなのまであるんじゃ身動きできねえぞこりゃあ。)

 逆に言えば、クレイモアを使おうとするような人間はここにはいなかったとも言える。言えるのだが、その存在を見てしまった以上対策を取らざるを得ない。天下の大泥棒がブービートラップに引っかかってズガン!ではご先祖様に顔向けできない。
 ふだんならハイテクなおもちゃでこういうのはやり過ごすのだが、さすがにそこまでの仕事道具は持ち込めていない。せいぜい非電源の、昔ながらの、アナログなアイテムばかりだ。チャチなドアの鍵ならピッキングできても、電子ロックでもされたらお手上げとは、ルパンの名が泣きそうだ。

(まあ、やりようはあるんだけどなぁ……)

 ちょうどいい『囮』には心当たりがあるのだが、さすがにそいつを頼るのは気が引ける。しかしやりようがないのも事実。

「なあ、ワン公。お願いがあるんだな〜?」

やけに明るい声で言ったルパンに、シロは冷や汗を流した。


「アン、アンアンアン。」
「いやお前さんホントに犬か?」

 五分後、廊下を匍匐前進で往復してきたシロをルパンは確信を持って出迎えた。こいつ絶対エスパー犬だ。
 シロが戻ってきたのは保健室の前。どうやら中に誰かいることをハンドサインで伝えてきた。なんで犬がハンドサインできるんだよ。
 とにかくシロのおかげで廊下にトラップがないことはわかった。天下の怪盗が犬に遅れを取るわけにいはいかない、臆病風に吹かれていないで腹を決めるとしよう。
 ルパンは慎重に足だけ部屋から出す。一歩踏み出すと、抜き足差し足で歩き始めた。
 保健室の前まで行くとたしかに中から人の気配を感じる。場所から考えるに中にいるのは怪我人か。となるとあの三人を殺したときに反撃を受けたか、あるいは九死に一生を得て助かった人間か。ルパンとしてどちらも考えがたい。あの死体の感じは一撃で殺されている。となることどういうことかと考えながら、ガラガラと扉を開けた。

「だ、だれ!?」
「おいおい、また嬢ちゃんかよ。俺様ルパン三世。しがない泥棒さ。」

 ルパンは手にしたワルサーを床に置くと滑らせた。武器を手放す愚行だが、ルパンからすれば無くても子供一人ぐらいどうにでもなる。もっとも、ルパンでなくともなんとかなりそうな有様だったが。
 なにせ保健室にいたのは、近くのテーブルに置いた銃を取ろうともせずに体を震わせている少女だったのだから。
 年齢は中学生ほどだろうか。整った顔立ちはあと何年かすればルパン好みの美女になるだろう。しかしその芯の強そうな目からは泣き腫らしたのか赤く腫れ、瞳はすっかり震え、自分の肩を手で抱く姿からは、ありありと恐怖が伺えた。


779 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/14(火) 03:03:22 ???0

「中、入ってもいいかい?」
「……あ、あああああ!!!」

 喋る言葉を忘れたように黙る少女に、ルパンは軽口で話しかける。パニックになる寸前の顔は、ルパンが一歩保健室に入った途端に崩れた。
 立ち上がると、声にならない叫びを上げて、座っていた椅子を振り回し始めた。ルパンは足を止めて黙って見る。下手に手出しすると怪我をさせてしまう。疲れるまで好きにさせておくと、三十秒ほどで肩が上がらなくなった。息遣いは異常なほどに荒い。過呼吸を起こしてるなと見たルパンはほんの少し安堵した。このままなら少女が何を起こしても傷つけずに制圧できる。未来の美人を傷者にしたら大変だとのんきなことを考えていると、突然、少女の動きが止まった。それだけでない。視線もルパンから外れている。具体的には下に。ルパンも釣られて見る。股間のアルセーヌはしっかりと隠れている。お嬢さんに見せたら不味いものなど紳士のルパンには無い。

「アン?」
「もしかして、コイツかい?」
「ツノ、ウサギ……」

 視界の端にいたシロが小首をかしげて鳴く。どうやらコイツらしい。しかしなぜ? ツノウサギとは?

「ツノウサギって、あの最初に話してたウサギか?」
「そう! なんで、なんでここにいるの!」
「アン!?」
「コイツがツノウサギぃ? お嬢ちゃん待て待て、コイツはどう見ても犬だぞ?」
「うるさい! 白いもん!」
「白いもんって……」
「アンアン、アンアンアンアンアンアン!!」
「ほら、喋った!」
「アンアン!?」

 こりゃやばい、完全にパニクっている。しかも下手に頭が回るタイプの。
 たしかにシロは白いし、大きさもツノウサギと同じぐらいだろう。だがもちろん見間違えたりはしないはずだ。あの特徴的なツノもなければ、黒い翼もない。思いっきり単なる犬だ。

(って断言できりゃ苦労ねえんだけどなあ。)

 だがルパンに否定する材料はない。ルパン自身、シロが普通の犬でないことは察している。そしてあのツノウサギに関する記憶。何か薬品でも使われたかそれとも超能力か、なんにせよ、異様に記憶が曖昧だ。一度見たものは忘れないとは言わずとも、ずば抜けた記憶力を持つルパンですら、どこかあやふやなものになっている。
 当のシロはどうだろうか。見てみる。

「ア、アン。アンアンウオウアイアナイヨ。」
「ほら! また喋った!」
「うん……今のは喋ったな。」

 シロは足で立つと手を顔の前で縦にして横に振っていた。「いやいやいや」という声が聞こえてきそうだ。というかそういう鳴き方をしている。少なくとも言葉はわかっている。
 ガチャリ。
 ルパンが聞きたくない音がした。
 シロと顔を見合わせて、油の切れたブリキ人形のように首を前に。
 少女は、デザートイーグルを構えていた。

「おいおい落ち着けって、そいつは大人でも使えない銃でな。」
「うるさい! 変態! スケベ!」
「うはーっ! わかったわかった、こっちに向けるな。」

 ホントのことでも名誉毀損になるんだぞ、という軽口を引っ込めてハンズアップした。シロもする。ルパンからシロへと銃口が向いた。「お前もうなにもすんな」「くぅ〜ん……」とかふざけている場合ではない。このままでは本当に引鉄をひかれる。それはまずい。少女にデザートイーグル、とてもではないがまともに撃てるような銃ではない。最悪骨折や脱臼もありえる。
 しかたない。こうなれば手段は選んでいられない。相手が銭形でもなければ
やらない手だが、一発で気絶させる。
 ルパンはゆっくりと手を降ろす。「動かないで!」と言われるが気にせず首まで手を降ろす。そして一気に顔の皮をめくった。
 ルパンの顔が剥がれて、のっぺらぼうになって、そして──

「──きゅう……」

 少女がフラリと倒れるのをルパンは受け止めた。
 怪盗ならみんながやりたがるマスク剥がし。ルパンも十八番の変装芸だが、いちおうこういうのも用意はしている。

「お姉ちゃん?」
「ん? おいおいまた子供かよ。」

 聞こえた声に、少女が座っていた近くのベッドのカーテンをめくる。青い顔をした小さな少年と目が合った。


780 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/14(火) 03:04:27 ???0



「助けるから……助けるからね!」

 高橋蓮は井上晶子に抱きかかえられて保健室へと担ぎこまれていた。
 校門でのマシンガンの掃射は、他の三人が盾となったことで一発も蓮に当たることはなかった。突然倒れ込んできて地面に押し倒されたので驚きはしたが、どこにも怪我はない。ということを上手く説明できるはずもなく、自分にぬめりと付いた血に言葉を失ってなすがままにされていた。

「ねぇ、つかさは?」
「……ごめん。」

 蓮は本来物怖じしないタイプだ。年相応に空気を読まずに話していく。それなのに言葉が出てこないのは、自分に付いた血と泣きそうなアキ、そしてチラリと見えた全く動かない三人のせいだ。
 しかしそれでも聞かずにはいられない。つい先ほどまで話していた村瀬司が、銃声のあとに血を出して動かなくなった。その理由を小学二年生の蓮はためらいながらも聞く。

「つかさ、死んじゃったの?」
「……うっ!」

 ベッドに寝かせられたまま聞く。ポタリと、見上げたアキの目から泪がこぼれていた。
 この人はなぜ泣いているのだろう。なぜごめんなさいというのだろう。蓮にはわけがわからない。突然つかさ達が撃たれたかと思ったら、突然現れた少女にやたら謝られながら保健室に連れて行かれて寝かせられた。なんでこんなことをするんだろう、と。

「お姉ちゃんが殺したの?」

 だからその質問は単なる質問だった。なんの他意もない。「お姉ちゃんが殺してないのになんでこんなことするの?」と聞きたかっただけなのだ。だがすこし、かなり言葉足らずな言葉は、アキを追い詰めるのに充分であった。

「ごめんなさい……ご、ごめんなさい……!」

 その後も狂ったようにごめんなさいと言い続けるアキに、蓮はますます困惑する。別に怪我をしたわけでもないのに、なんで保健室につれて来られて、なんで寝かされたんだろう。それより撃ってくる敵がいるんだから逃げたり戦ったりしたほうがいい。そう思うのだが、自分どころか兄の大地よりも大きい、蓮からすれば大人のアキが泣く姿に言葉を無くした。
 蓮も女の子が泣くのは苦手だ。それが年上の女子となると、どうすればいいのかわからなくなる。しょうがないので抱きしめられるままにしておく。だから部屋の外に誰かいる気配を感じたのは、この場からなんとか抜け出せないかと気を張っていたからだ。

「お姉ちゃん、誰か来た。」
「えっ……?」

 ぶっちゃけ半分デマカセだ。たしかになんとなく誰か来た気はしたが、本当に来たとは思っていなかった。
 それでもアキが慌てた様子で離れ、何もできずに椅子に座り込んでホッとした。



「なるほど、アキちゃんがあそこから助けてくれたってわけか。」
「うん。」

 蓮から事情を説明されたルパンは、蓮に変わってベッドに寝かせられたアキを複雑な顔で見た。
 話を聞く限りアキがあの三人を殺したようだが、どうにも引っかかる。というのも、本当に殺したのなら、こうして蓮を介抱しようなどとしないはずだ。目的が読めないが、ならば逆に考える。殺すことは不本意だが、何らかの事情で死なせてしまった。誤射か、あるいは止められたのに殺人を止められなかったか。過失か未必の故意か、というのは銭形の領分だ。とにかく殺す気はなかったのに目の前で死んだのだろう。
 しかしさっきのあの様子では、そのあたりの事情聴取は難しいだろう。失神するような心理状態にストレスをかけたら、最悪の展開もありえる。

「誰かに会いたいとは言ったが、こいつぁあんまりじゃねえか?」

 出会ったのは子供五人。三人死んで、一人は精神的なダメージ、唯一正常なのは小二男児のみ。これは一旦首輪外しは後回しだなとルパンはため息をついた。
 乗りかかった船だ、せめて生きている子供ぐらいは守ってやろう。

(それと、コイツについても考えないとな。)

 もう一つ。やけに賢いシロについてもルパンは目を光らせようと思う。彼の中では、この中で一番の脅威がシロであるという認識だった。もはやただの犬などとは絶対に思わない。なにかあれば引鉄を引かなければならない参加者だ。

(次元、五エ門。お前らも巻き込まれてるなら気をつけろ。今までで一番の仕事になりそうだぞ。)


781 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/14(火) 03:05:20 ???0



【0125 海辺近くの繁華街の方にある学校】


【ルパン三世@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●中目標
 首輪を外す方法を探る。
●小目標
 犬(シロ)を警戒しつつ、アキと蓮を守る。

【シロ@映画ノベライズ クレヨンしんちゃん ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 ルパンたちと一緒にいる。

【井上晶子@かがみの孤城(下)(かがみの孤城シリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 ???
●小目標
 ???

【高橋蓮@猛獣学園!アニマルパニック 百獣の王ライオンから逃げきれ!(アニマルパニックシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい。
●小目標
 アキやルパンと一緒に、つかさを撃った敵を倒す。


782 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/14(火) 03:06:11 ???0
投下終了です。
タイトルは『ギセイ×セイギ≒?』になります。


783 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/24(金) 07:47:00 ???0
投下します。


784 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/24(金) 07:48:33 ???0



 ツノウサギと名乗った鬼の手により殺し合いの幕が開いて30分。
 藪の多い木立でうずくまる小さな影があった。
 冷静に周囲に気を配りながら、静かに深呼吸を続ける少女。
 彼女の名前は君野明莉。
 光明台小学校に通う六年生の小学生だ。
 勉強もできて運動もできて顔もかわいい、その上明るい性格と周りへの気遣いができるという天に二物どころか三物も四物も五物も与えられた女の子である。
 もちろん本人はそのことを鼻にかけたりしない。性格がいいから。そして性格がいいから自然と周りから人気が集まるので、四年生の時から三年連続で生徒会長をやっている。
 ダメ押しに、ふつうの人間には一生あってもできないような経験もしていた。
 迷宮教室。
 行先マヨイと名乗る怪人物による、生徒を苦しませることだけを目的とした死の授業だ。
 カゲアクマという化け物に襲われ、触れられれば苦痛と共にカゲアクマになり、理性を無くしてマヨイに操られる。
 明莉は幼なじみのヒカルや遊と共に封鎖された学校に六年一組の生徒全員と拉致され、カゲアクマをけしかけられ、何度も何度も仲間を犠牲にする選択を強いられた。
 そして奇跡的に元の日常に帰れたと思ったら、今度もまた変なやつに命がけのゲームを強制される。そうなったならこの殺し合いを前回の迷宮教室と同じようなものと思うのは当然だろう。
 ただ明莉は、今回は前回よりももっと危険だろうと感じていた。
 前はやさしくて頼りになるヒカルや、おだやかでプロEスポーツプレイヤーの遊、他にも様々な特技を持ったクラスメイトが一緒だった。しかし、今回は明莉一人。場所も六年間通った小学校ではなくどこかもわからない森の中。さらに、首には人を殺すことのできる首輪。前にはなかった、さびしさが怖さを強くする。

(もう30分ぐらいしたかな。何も動きがない。)

 押し寄せてくる不安に体が潰されるような気がするが、それでも動こうとはしない。実はこれまでに何度も行動を起こすべきかは考えてはいた。しかし一度のミスが死を招く状況だという理解が軽挙をとらせない。それが迷宮教室での経験だった。動くのであれば、頭を使い続けなければならない。
 困難な状況に自然と想像するのは親友のことだ。
 ちょっと天然で、でも時々すごいひらめきをして、どんなピンチの時も絶対にあきらめない、そんな自慢の幼なじみがヒカルだ。
 四年生で生徒会長になる時も、ヒカルの言葉があったから明莉はやろうと思えた。
 この前の迷宮教室でも、ヒカルの諦めない言葉とひらめきで脱出することができた。
 そんなヒカルが、この殺し合いに巻き込まれているかもしれない。そう思うと胸が張り裂けそうで、でもヒカルがいるならなんとかなると思えて安心できて、明莉は複雑な気持ちになる。
 ヒカルだけではない。幼なじみの悠は素晴らしいゲーマーであり、大切な友人だ。彼もまた巻き込まれていてほしくないが、しかし、いてくれたら心強いだろう。

(迷宮教室と同じなら、きっと2人も巻き込まれてる。違うなら……むずかしいかな。ん?)

 仲間に思いをはせながらも周囲への警戒に気を抜かない。だからだろう、その声に素早く耳を傾けられたのは。
 カゲアクマを警戒してここまで静かに動かないようにしていたが、功を奏したようだ。明莉より少し年上らしい少女だろうか、聞こえてきたのは「おーい!」と呼びかける声だった。
 明莉は一瞬逡巡した。この殺し合いの場で大声を出す人間のリスクとその心情、どちらも理解できる。あの声に答えることは、単に殺し合いに乗った人間と遭遇しかねないこと以上の危険性をもつ。しかし同時に、今の手詰まりな状況を変えて信頼できる仲間を手に入れるチャンスだ。

「静かにさせないとあの子危ないかも。」

 迷っていたのはほんの僅かな間だった。こういう時に明莉が取るべき行動など一つだった。


785 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/24(金) 07:49:05 ???0

「えっ、ええっ!」
「あっ! いたよ、小狼くん!」

 そう思って立ち上がり木々の間に目をやった明莉は、思わず驚きの声を上げてしまった。慌てて口を閉じるももう遅い。そのほうきに乗った少女と目があった。
 ほうきに乗った少女と目があった。
 ほうきに、乗った、少女と。

(と、飛んでる!? 空を飛んでる!?)

 思わず明莉はまじまじと見てしまう。
 霧でよく見えないが、たぶん、明莉より何歳か上の少女が、どう見てもほうきに乗って、2メートルから3メートルほどの低空を飛んでいる。そしてよく見たら、後ろには同じぐらいの年の男子がいた。
 いまいち説明がしにくい独特な服装をした、明るくはつらつとした少女。その後ろの真っ白なカッターシャツと紺のスラックスに泥で汚れた革靴の制服の少年。2人とも中学生ぐらいか。
 2人からは緊張してる感じが伝わってくる。でもマヨイから感じたような、ドロっとした悪意みたいなものはない。それどころじゃないっちゃないが。

「一応聞いておく、殺し合いには乗ってないよな?」
「は、はい。あの、私、君野明莉。あなたたちは?」

 少年の問いに素直に答えてしまう。人と出会ったらやろうと思っていた対応はほとんど飛んでしまったが、なんとか言葉を絞り出した。

「李小狼、こっちは星乃美紅さん。俺たちも乗ってない。君野、これまでに誰か会わなかったか?」
「ううん、あなたたちが初めてで、その、なんで空中浮遊してるの?」
「えーっと、イリュージョン?」
「イリュージョン……」

 星乃さんと紹介された少女が適当に言ったことをオウム返ししてしまう。1人だと思ったら2人だったり空飛んでたりまだ頭が混乱しているが、それでもなんとか理性的な対応を心がける。

「あんまり驚かないんだね?」
「まあ、その、そういうものかなって。」
「いやいや! 納得しちゃだめだよ!」
「えでも、イリュージョンって。」
「言ったけど! 説明しにくいからそれで納得してほしいけど!」
「なんかあの、家庭のご事情があったりするのかなって。」
「ごめんねなんか気を使わせて……」
「まあ、初めてじゃないんで。」

 迷宮教室での経験が生きた。明莉は空飛ぶほうきを「そういうものカテゴリー」として頭の中のタンスにしまうことにした。

「それよりも、この殺し合いをなんとかしたいんです。聞きたいことはたくさんあるけど、そのために協力したくれませんか?」
「いいけど、見ての通りけっこう怪しいよ、空飛んでるし?」
「その事情はもちろん聞きたいです。でも一番聞きたいのは、この殺し合いを止めることです。」
「俺も星乃さんも、こんな殺し合いを止めたいと思っている。そこにお前と違いはない。それより君野、さっき『初めてじゃない』って言っていたが、どういう意味だ?」
「話し合わなきゃなんないことが多いね。とりあえず、歩きながら話そ?」
(あ、降りた。)

 ふーっと息をついて地に足つけた星乃と小狼に、明莉は迷宮教室についてどう語るべきかを考え始めた。
 星乃美紅。李小狼。
 2人の登場は明莉の脳細胞を猛スピードで動かし始めた。
 彼らが脅威になるのか、それともゲームをぶっ壊すための信頼できるパートナーとなるのか、明莉の判断で変わる。

「迷宮教室って、知ってますか?」

 たぶん信じてもらえない。そうわかっていても話し始めた明莉に、2人は興味深げな視線を送ってくる。話す内容を頭の中で組み上げながら、明莉は2人を味方にするための説得を考えた。


786 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/24(金) 07:50:28 ???0



「これ、100式戦車ですね。」
「まさか本当に戦車があるなんてなあ。」

 一方その頃、殺し合いの会場にある自衛隊駐屯地の一角で、高校生ほどの男女が無骨な戦車の前に立ちその砲塔を見上げている。
 少女の方は百人が百人とも振り返るような美少女だ。艷やかな黒髪は赤い髪留めで整えられており、きっちりと着こなした制服は彼女の品行方正な雰囲気と合わせて、一分の隙もない優等生という印象を周囲に与える。
 一方少年の方は、整った顔立ちで愛嬌はあるが、二枚目というよりかは三枚目な面構えだ。ガッチリした体格は脂肪よりも筋肉によるものだろう。ティピカルな柔道体型とまではいかないがそれに準ずるものだ。
 少女四宮かぐやが少年磯崎凛と出会ったのは、今から三十分ほど前のことであった。
 初期位置が同じ敷地であった2人だったが、何分その広さのためになかなか出会わなかった。会ってしまえばコミュニケーション力の高い2人なので互いに殺し合いに乗る気はなく、首輪を外せる人材を探そうというところまではトントン拍子で話が進んだが、場所が場所なのでここで籠城することにしたのだ。
 この殺し合いの会場にはそんじょそこらにライフルが親の仇のように落ちているのだが、敷地から出ていないかぐや達がそれを知ることはない。異様にどの部屋にも銃や手榴弾などが放置されていることに違和感を抱いてはいるものの、まさかそれが会場中で同様だとまでは思わず、とりあえずそれぞれライフルを1つずつ背負って建物を調べる。そうして見つけた鍵と資料から何かあった時の足にしようと目をつけたのが、戦車だった。

「四宮さん、免許って、持ってる?」
「大型なんで21歳以上じゃないと無理ですよ。」
「うーん、てことは、あの人じゃないと駄目かぁ……」

 そう言って凛の視線は、彼らが出てきた建物とは別の方へと向く。実は彼が出会った人物はかぐやだけでは無い。他に4人いる。それが。

「お茶買ってきました。」

 銀髪で赤い瞳の少女、竜堂ルナと。

「いっぱい電話かけたのに、みんな留守電だったよ……」

 ドレス風のロリータ服の少女、春野百合と。

「■■■■?」

 二足歩行する爬虫類、キ・キーマと。

「自衛隊の基地なんて久々に来たなっしなあ。」

 なんか薄汚れた外皮とどこ向いているのかわからない目をしたバカでかい梨、ふなっしーである。

「なあ、これってやっぱりドッキリじゃないかな?」

 違うと思います、と言おうとして大泉洋っぽい声のキ・キーマと体?をバインバインさせているふなっしーを前に、かぐやは押し黙る。
 どう見てもリアリティのある鱗をしたレプリカントのキ・キーマは、言葉が通じないからというだけではない大振りなジェスチャーでなにかをアピールしている。
 その現実感のある非現実的な姿の横では、自称梨の妖精は思いっきり単なるきぐるみにしか見えない。
 腹部の輪っか状の出っ張りに合わせて巨大な首輪が付けられたふなっしーは、心なしかいつもより動きにくそうだ。もしくは加齢か。

「ふなっしーさんって大特持ってます?」

 一応聞いてみる。

「中型免許は持ってるなっしな。」

 だめみたいですね。


787 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/24(金) 07:50:51 ???0



「それじゃあ凛くんとキ・キーマと一緒に見回ってくるなっしな!」
「今度はあっちの建物を見てくるよ。30分ぐらいしたら戻ってくるから。」
「■■■■?」
「そうそう、見回りです。み・ま・わ・り。」
「時計は合っていますね。」
「もちろん。」

 6人全員が、腕(ふなっしーは付けれないので手に持っている)につけた時計を確認する。駐屯地の中の売店から借りてきたそれは流石というべきか、秒針一つまで同じ動きをしている。空模様から時間の経過がわからないこの会場では、時計は重要なアイテムだ。そして同じぐらいに、水や食料なども。
 凛とふなっしーとキ・キーマの男?3人は更なる敷地の調査の為に、戦車の動かし方を調べるかぐや達とは別行動を取ることになった。

「なんであの3人コミュニケーションできてんの?」
「どこででも生きていけそうな方たちですね……」

 遠ざかる一人と一竜人と一梨を見送ると、かぐや達も外に出た。
 正直、頭はパンクしそうだ。考えなくてはならないことは多いのに、ゆるキャラを主張する不審者に、ゲームから抜け出してきたとしか思えないリザードマン。殺し合いとは無関係なところで悩ましい存在だ。

「もしかしたら、彼らのような人物を巻き込んだことに、意味があるのかもしれませんが……」
「かぐやさん?」
「すみません、今行きます。」

 ルナにせかさせ、かぐやは軽々と戦車の上部へと上がる。既にマニュアルは建物内のものを一読しておおよそ把握している。ハッチを開けると、中へと乗り込んだ。

「うわぁ、こんなふうになってるんですね。こんなに計器があるとは思わなかった。」
「こっちが大砲で、こっちが無線かしら。あとで動かしてみよっと。」
「いいですよ。」

 ルナと百合の小学生2人は、さっそく戦車の中をもの珍しそうに弄っていた。
それをぬってかぐやは前面の計器類を検めていく。ほとんどわからないが、とにかく車として動かす分にはなんとかなりそうだ。

『もう結構前になるけれど一回戦車乗せてもらったことあるなっし。お腹つかえて入れなかったら動かなかったっけど。企画段階上のミスなっしな。』
(内装について聞いておくべきだったかしら……ムダそうね。)

 なぜか一番戦車を動かす上で頼りになりそうなのはふなっしーだが、言動を思い出して頭から追い出す。ピンと音がした。後方からだ。「ルナちゃん、それ手榴弾?」と百合の声。かぐやの動きが止まった。

(手榴弾? なぜ、ここで? さっきの音は?)

 頭の中にははてなマークが、ポケットの中には拳銃が存在感を増す。
 かぐやはゆっくり振り返る。ルナが手に手榴弾を持っていた。ピンは抜かれていた。「お前たちに恨みはな」といい終わるより先に、かぐやはその手を自分の手で包み込んだ。手榴弾は爆発、しない。
 かぐやとルナの視線が交差した。

(ピンが抜かれてる! あと1秒抑えるのが遅かったら死んでた!)
「いい動きだ!」

 ルナがニヤリとしながら言うと、かぐやの股間に衝撃が走った。激痛に息が止まる。金的。極めて単純に足を伸ばしたまま上に上げたことで、ルナの脛がかぐやの股間を捉えていた。
 衝撃に手が緩む。スルリと手榴弾を手中に残して、ルナは上に飛び上がった。一飛びでハッチから戦車の上に立つ。人間技ではない。信じられないものを見送ったかぐやは、上を向いた視界に黒い丸を見つけた。銃口だ。

「おかげで上手くいった!」

 銃声が2回響いた。


788 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/24(金) 07:51:18 ???0



「ヒャッハーーーーー!!??」
「■■■■■■!」
「な、なんだあっ!?」

 建物に入って少しして聞こえてきた爆発音に、凛とキ・キーマとふなっしーは慌てて外に出た。
 今来た方向を見る。特に変わった様子は無い。一体何が?と3人顔を見合わせる。

「■■■■■?」

 先に気づいたのはキ・キーマだった。
 視覚ではなく嗅覚でそれを捉えた。
 何か焦げ臭い。やはりどこかで爆発があったのは間違いないようだ。となると、かぐや達は爆発に驚いて戦車の中にいるのだろう、と納得しかけて、近づいたこともあってか時間が経ったのもあってか、更なる異変に気づく。
 戦車の影になる位置、そこに黒い何かが広がっている。わずかだかクレーターのようにも見える。

「イヤな予感がするなっしな……」

 ふなっしーのつぶやきに凛は頷く。3人は慎重に、しかし素早く戦車へと駆け寄る。クレーターは砲撃の跡のようだった。無論3人とも実物を見たことはない。だがそれでもこれが尋常なものではないとはわかる。よじ登ると慌ててハッチを開けようとした。何秒かの抵抗のあと、中からの物音と共に抵抗が無くなり開く。途端に聞こえてきたのは、百合とかぐやの苦しげな声だった。肩や腕を抑える彼女たちは、それでもかぐやはなんとかハッチを抑え込んでいたようだ。

「竜堂ルナに撃たれた……手榴弾を、外に放り投げて、クっ……」
「いたい……いたいよ……」
「う、撃たれた? ルナちゃんに?」
「どういうことどういうこと?」
「■■■、■■!」

 顔を合わせた途端にかぐやが言った言葉に、凛とふなっしーは困惑した。その横を潜り抜けて、キ・キーマが2人の傷口を抑える。2人にジェスチャーなしで叫ぶと。凛も慌てて中に入った。直ぐに2人の手当に加わる。幸い、それほど重い怪我ではなさそうだ。単に戦車の中に入れずに蚊帳の外だからというだけでなく、かぐやと百合の容態を見て、ふなっしーは周囲を警戒した。かぐやはそれを期待して開口一番言ったのだろうから。

(わけがわかんないなっし。ルナちゃんがかぐやちゃんたちを殺そうとした? なんで、どういうことなっし。)
(さっきまであんな仲良さそうだったっし。ていうか、殺してなんになるっしょ。)
(なんか、変なっし。変なっしよ。)

 困惑するふなっしー。
 下からは必死の手当が聞こえる。ルナの痕跡はまったくない。
 突然起こった不可解な殺人未遂に、答えを持つものはそこにはいなかった。



「急ごしらえだが上出来だ。」

 透門沙李は薄い笑みを浮かべてそう言うと、高笑いを続けた。
 彼女こそ竜堂ルナによる自爆の糸を引いた黒幕だ。より正確に言うのなら、竜堂ルナを模した式神による殺人の犯人、というべきか。
 透門沙李は類稀なる力を持つ陰陽師だ。憎き竜堂家の末裔であるルナに破れ命を落としたが、なんの因果か五体満足での蘇りに成功した。ならやることは一つ。ルナへの復讐である。
 そのために彼女はルナをマーダーと誤認させる戦術に出た。ただ殺すだけでは飽き足らず、お人よしの偽善者である怨敵に何人もの人間から恨みを向けられるという生き地獄を味あわせた後で殺す。それが彼女の方針だ。
 そしてそれはうまく行った。最初は不可解な殺人によりあのグループをバラけさせようと思ったが、かぐやが止めたことで彼女をスポークスマンにすることにした。目標は十二分に達成したと言える。

「しかし、面倒なものも引き寄せたか。」

 一方で、沙李は式神で周囲の森を探る。妖力の反応を感じた。美紅により本来より早く辿り着けた小狼たちだ。

(これもこれ、使い道はあるか。)

 近いうちにこのあたりは更なる戦場になる。そう思った。


789 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/24(金) 07:51:41 ???0



【0135ぐらい 自衛隊駐屯地】


【君野明莉@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 ヒカルとかが巻き込まれてたら合流して脱出する。
●小目標
 みんなで話し合いながら爆発音を調べる。

【星乃美紅@小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 とりあえず何が起こってるか調べる?
●小目標
 みんなで話し合いながら爆発音を調べる。

【李小狼@小説 アニメ カードキャプターさくら さくらカード編 下(カードキャプターさくらシリーズ)@講談社KK文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める。
●中目標
 さくらや他の大切な人が巻き込まれていたら守る。
●小目標
 みんなで話し合いながら爆発音を調べる。

【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 何が起こっているか調べて、脱出する。
●小目標
 手当てする。

【磯崎凛@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 何が起こっているか調べて、みんながいたら一緒に家に帰る。
●小目標
 手当てする。

【春野百合@黒魔女さんが通る!! PART 6 この学校、呪われてません?の巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 なにこれ、ドッキリじゃないの?
●小目標
 手当てする。

【キ・キーマ@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 もしかしてこれが『旅人』か? 言葉通じないのは厳しすぎるだろ!?
●小目標
 このキズなら手当てすれば助かるぞ! 布持ってきてくれ布! ダメだ言葉通じてない!

【ふなっしー@ふなっしーの大冒険@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 これドッキリじゃないなっし?
●小目標
 周りを警戒する。

【透門沙李@妖界ナビ・ルナ(10) 黄金に輝く月(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 竜堂ルナに復讐する。
●中目標
 優勝する。
●小目標
 竜堂ルナに悪評を向けさせるためになんでもする。


790 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/24(金) 07:52:07 ???0
投下終了です。
タイトルは『梨出血爆破未遂』になります。


791 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/26(日) 08:53:13 ???0
投下します。


792 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/26(日) 08:53:52 ???0



(また薬品でも使われたか? くそっ!)

 江戸川コナンが蹴った小石は、近くの木にあたり軽い音を立てる。
 ゲームが始まって気がついたときには、何処ともしれぬ森の中に倒れていた。赤い霧や空は非現実的だが、木々はどこにでも生えているのもののよう。
 当然のように電話は通じず、探偵バッジで呼びかけても応答は無い。
 その状況に悪態の一つもつきたくなる。
 不幸中の幸いは、阿笠博士の発明品を持っていたこと。
 軽く1時間以上歩いていると、犯人追跡メガネが足跡を見つけた。サイズからして小柄な女性か子供だろう。追いかけると舗装されている道に出て、道なりに歩いたところ少年らしき背中が遠くに見えた。
 大仰な門の前から中の方を伺っている。声をかけようとして、その門の奥に迷彩柄の車両が見えた。

(この敷地の作り、まさか自衛隊の基地か?)

 近づけば門には謎の文字。しかし掲げられた国旗や全体のデザインから見て自衛隊の施設であることは間違いないだろう。
 無人であるはずのない場所に少しの安堵と、どう見ても尋常じゃない様子に多大な不安を感じる。少年もそう思ったから入らないのかもなと考えつつ、距離を詰める。

「ねぇねぇ、お兄さんも迷子?」
「うわっ!? き、君は?」
「ボク、江戸川コナン。お兄さんは?」
「次元遊だよ。あのさ、その首輪はもしかして……」
「あのね、気がついたら森の中に寝ててね、いつの間にか着いてたんだ。」

 話しながら2人で敷地へと足を踏み入れた。
 コナンが出会った少年・遊も、同じように森の中に首輪付きで倒れていたらしい。
 予想通り、施設の様子のおかしさに入るのを躊躇っていたようだ。

「自衛隊の基地が無人だなんてありえないし、看板や道路の文字も日本語じゃない。それにさっき、爆発音もしたんだ。」
(爆発音? 聞こえなかったぞ。霧のせいなのか?)

 小6の割にはしっかりしている遊に連れられて、敷地の中を慎重に歩く。
 少しして2人は直ぐに異変に気づいた。
 まずやはり、人がいない。無人であるはずのない施設に、まるで人と出くわさない。
 そして建物の中にやたらある銃。どう見ても国産品だけでなく、世界各国の銃や武器が無造作に転がっていた。

(おいおいウソだろ、トカレフにカラシニコフ、あっちにあるのはBRAか? 武器の見本市みたいになってんぞ。)
「やっぱりバトロワもののゲームみたいだ。」
「バトロワもの?」
「ああ、えっと、PVP、って言ってもわかんないか。オンラインの対戦ゲームでね、こういうふうに建物の中に置かれた武器を拾って戦うやつがあるんだ。」
「お兄さん詳しいんだ。」
「ゲームは得意だからね。でもこんな……」
(あのツノウサギとかいうマスコット、オレらで遊ぶ気ってわけか。)

 トカレフを拾い上げた遊。止めようとして、コナンはやめた。これだけ武器が落ちていると、今拾うのをやめさせても意味が無い。それに爆発の話を信じるのなら、武器は必要だろう。不本意だが。
 その後も2人で施設内を歩く。ときおり止まって耳を澄まし、また歩く。それを繰り返して少しして、耳を澄ましていた2人の耳にかすかな声が聞こえてきた。


793 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/26(日) 08:54:43 ???0

「……この声、クソっ。」

 小さく呟いたコナンに遊が目で聞く。コナンは耳打ちして答えると、2人で近づく。予想通りそこにいたのは、おにぎり頭の少年だった。

「元太、お前も巻き込まれたのか。」
「おう、コナンじゃねえか!」

 少年探偵団の一員、小嶋元太。売店にあるPX品をゴテゴテと身に着けている彼にコナンは気の抜けた顔になりながらも事態の深刻さを感じた。

「男子小学生ばっか集めて殺し合わせるとか、何考えてるんだ。」
「そういうわけでもない。」

 と後ろから声をかけられる。いたのはライフルを肩から提げた高校生ほどの少年だ。

「相原徹だ。どうやら、男子小中学生だけ集めて殺し合いをさせようとしてるみたいだな。」
「次元遊です。こっちは江戸川コナンくん。」
「君が。元太の言ってた探偵団の仲間か。なら話は早い、4人で情報交換しよう。」

 それから売店にあった缶詰をつつきながら情報交換が始まった。
 元太と徹も全く同じ境遇だった。気づいたら森の中で、どうにかこうにか歩いていたら爆音が聞こえた気がしたのでそちらに向かったら、この自衛隊施設に行き着いたらしい。
 やけに冷静な相原や遊に違和感を覚えたが、逆にコナンと元太が落ち着きすぎていると水を向けられて適当にごまかした。

「つまり全員ツノウサギに心当たりはないな。」
「うん。でも、なんか記憶が曖昧なんだ。」
「気絶してたんだ、記憶が混乱しても無理はない。殺し合えなんて急に言われても殺し合うはずはないし、まずはなるべく多くの仲間を集めよう。」

 自然と最年長の相原が場のリーダーとなって仕切る。方針に異論はない。コナンはチーム以外に目を向けた。
 コナンとしてどうしても看過できない点は3つ。赤い異常気象、無人の自衛隊施設、大量の武器だ。今まで数々の事件を解決してきたコナンからしても、これだけ広範囲に赤い霧を発生させるというのは現実には考えられない。また落ちている武器以外の文字がことごとく文字化けしたようになっている無人の自衛隊施設も、幻覚か何かを疑わざるを得ない。そして銃。明らかに本物である。一つ一つならともかく、これだけのことをしでかせる存在が地球上にいるとは思えない。

「とにかく情報がほしい。これだけ武器があるとそのうち暴走する奴も出るかもしれない。その前に人を集めよう。」
「相原さん、爆発はどうするの?」
「並行して調べる。さっき見てきたけどこの辺りに痕跡はなかった。あるなら反対側の戦車があるあたりだ。」

 コナンたちは4人で敷地内を調べ始めた。二手に別れることも考えたが、小1のコナンと元太を抱えているため上手い別け方がない。非効率だがひと固まりで動く。
 そして建物の外に出て別の建物に移ろうとしたとき、全員の足が止まった。誰がというわけではなく、4人が4人とも、何か嫌なものを感じて。
 例えるなら、蛇に睨まれた蛙。捕食者の視線を感じ取ったかのような戦慄。「な、なあ。なんかゾクッとしなかったか」という元太の言葉に誰も答えない。言葉を飲み込みじっとしていれば、聞こえてきたのは力強く空を切る音。
 「上だ」とコナンが言うのと、4人の中央に空からそれが舞い降りるのは同時だった。
 視界を掠めるのは、黒い翼。その羽ばたきによる風圧で目を閉じた4人の前に、それは悠然と現れた。
 変色した肌、血走った目、黒い翼、そして角。

「オレもまぜろよ?」

 そう嗤う姿に全員が思った。
 『鬼』が来たと。


794 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/26(日) 08:55:19 ???0



「サネルさん、今の音ってなんだろう? バクダンじゃないですか?」

 聞こえてきた音に、宮瀬灯子は不安げにサネルへと問いかけた。

 サネルをお姉ちゃんと呼んでしまった灯子が涙を吹ききってすぐに、花火のような音が聞こえた。人間の兵器にとんと詳しくないサネルからしても、音の響からなんだかただごとじゃないのはわかる。

「もしかしたら、弟たちがいるかも……」
「まって灯子ちゃん、そうとはかぎらないよ。」
「でも、もしいたら……」

 そう言う灯子はまた涙ぐむ。そんな灯子の気持ちがわかる分サネルも泣きたくなる。
 迷っていたのは少しの間だけだ。

「わかった、2人で見に行こう。言ったでしょ、手伝うって。」
「ありがとうございます!」

 一転して顔をほころばせる灯子に笑いかけ、サネルは先導することにした。妖怪である自分は人間よりは強い、と思いたい。それにたとえ強くなくてもやると決めたことはやりたい。いま自分にできる精いっぱいをがんばろうと思う。
 下草に足をとられる灯子に手を貸しながら音のした方へ急ぐ。大体の方向しかわからなかったが、途中でサネルはずっと探していた感覚を捕まえた。妖力を感じる。正確には、妖力っぽいなんかの力だ。姉であるスネリどころか妖怪のものでもなさそうだが力は力、しかも同じ方向へと力は続いている。

「少し前に誰かが通ったみたい。」
「すごい、サネルさん。私ぜんぜん気づかなかった。」
「あ、まあ、勘かな? たぶんこっちだよ。」

 灯子にごまかしながら進めば、見えてきたのは何かの施設だ。サネルはもちろん灯子も、それが自衛隊のものだとはわならない。ただその物々しい雰囲気に、2人で気圧される。
 おっかなびっくり中に入ると、物音が聞こえてきた。何かが激しくぶつかる音。そしてとたんに感じるのは、妖力。

 「灯子ちゃん」離れよう、と言いかけたサネルは、とっさに覆い被さって床に押し倒した。悲鳴を上げる灯子にかまっていられない。少し前まで2人がいたところを、何かが高速で突っ込んできた。

「4人、3人、2人……全部で9人か。」
「逃げ……て……」

 少年の冷徹な声と、少女のか細い声だった。おそるおそる目を開いた2人が目にしたのは、壁にできたクレーターの真ん中で、派手な服から制服に変わる少女と、その少女の首を片手で締め上げているなにかだ。

「鬼……?」
「ほう? よくわかったな。そうだ、オレは黒鬼。この殺し合いのジョーカーだ。」

 サネルのつぶやきにそう嗤う。次の瞬間、消えた。黒鬼と名乗った少年がかき消えたように灯子には見えた。妖怪の動体視力を持つサネルでなければ、それが瞬間移動に見間違えただろう。もっとも。

「8!」
「ぐあっ……!」
(早すぎる!)

 見えていても、灯子をかばった体勢では反応ができない。腹に突き刺さる腕にたまらず身体を折る。「9!」という言葉と共に灯子の悲鳴が聞こえ、同じように床に這いつくばった。
 その身体が掴みあげられる。そして乱暴に投げられ床を滑ると、同じように倒れる少年たちにぶつかった。その数、6人。そこに先ほどの壁に叩きつけられていた少女が投げ込まれ、7人。サネルたちを合わせて9人が床を舐めていた。
 そこに来てはじめて、サネルは自分が追いかけていた妖力のような力の持ち主が少女だと気づいた。

「妙な力を持つみたいだから期待したんだが……術を使う前に殴れば関係なかったな。」

 そううそぶく少年の手が高速で振るわれる。何かが弾ける音と、別の少年のものらしき悲鳴がサネルの後ろから聞こえた。床に滑るのは、銃。少年が抑えるのは手だ。
 ここで、ようやく状況が飲み込めた。サネルは自分が追いかけていた少女たちともども甚振られていることに。


795 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/26(日) 08:56:55 ???0



 施設内にいた江戸川コナン、小嶋元太、相原徹、次元遊。
 彼らは声をかけられて2秒後には地面に倒れ込んでいた。
 ほうきで空を飛ぶことで迅速に森から施設内に侵入した星乃美紅、君野明莉、李小狼。
 気配を察知した小狼が明莉を庇い気絶し、粘った美紅の隙をつかれて明莉が沈められ、最後は美紅も変身解除に追い込まれた。
 そしてそこに現れたサネルと灯子も、同じように殴られ黙らされた。

 執拗な腹パンにより9人の参加者を黙らせる。
 殺すでもなく半殺しにして嗤うその参加者は、黒鬼こと金谷章吾であった。


 彼はジョーカーを自称しているが別にそんなことはない。
 他の参加者と同じく、手榴弾の爆発音で寄ってきただけのただの参加者だ。
 少し違うところといえば、主催者の1人に魔改造されていた頃からの参戦というぐらいか。
 ともかく彼はこの殺し合いでも、本来の時と同じように振る舞うことにした。

「お前らにチャンスをやる。24時間以内に大場大翔をここに連れて来い。できなければ俺は殺し合いにのる。連れてこれたなら、オレが知ってるツノウサギについての情報をやる。」

 大場大翔と決着をつける。
 それが彼に残った唯一の希望である。


796 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/26(日) 08:58:14 ???0



【0145ぐらい 自衛隊駐屯地】

【江戸川コナン@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 何が起こっているか調べて、脱出する。
●小目標
 この少年の目的は……?

【次元遊@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 みんなで脱出する。
●小目標
 大場大翔って、誰……? 

【小嶋元太@名探偵コナン 紺青の拳(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 何が起こっているか調べて、脱出する。
●小目標
 腹痛え……

【相原徹@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●中目標
 仲間を探す。
●小目標
 大場大翔って、誰だ。

【金谷章吾@絶望鬼ごっこ 決着の地獄小学校(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●小目標
 大翔と決着をつける。

【宮瀬灯子@黒魔女さんが通る!! PART3 ライバルあらわる!?の巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 弟や妹を見つけ出し、この殺し合いの場から脱出する。
●小目標
 だれ?

【サネル@新妖界ナビ・ルナ(5)刻まれた記憶(妖界ナビ・ルナシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 ルナや姉のように自分も戦い、殺し合いを止める。
●中目標
 灯子の家族を探す。
●小目標
 だれ?

【星乃美紅@小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 とりあえず何が起こってるか調べる?
●小目標
 おなか痛い……

【李小狼@小説 アニメ カードキャプターさくら さくらカード編 下(カードキャプターさくらシリーズ)@講談社KK文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める。
●中目標
 さくらや他の大切な人が巻き込まれていたら守る。
●小目標
 誰?

【君野明莉@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 ヒカルとかが巻き込まれてたら合流して脱出する。
●小目標
 だれ?


797 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/26(日) 08:59:58 ???0
投下終了です。
タイトルは『叩きつけられた鬼札』になります。


798 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/28(火) 03:47:59 ???0
投下します。


799 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/28(火) 03:48:56 ???0



「くっ、みんな……すまない! すぐ助けに戻るからな! あっ、戻るモノレール行っちゃった。」

 子どもたちを置いていち早く逃げた松岡先生。
 悔しげに扉に拳を叩きつけると、やることもないので駅に止まるのを待つことにした。
 松岡先生的にさっきのは苦渋の決断だった。ちょっと危機管理能力が高すぎて判断が早かったので、子どもたちを置き去りにするみたいな形になっちゃってマジピエン。
 もちろん熱血教師として直ぐに戻って助けに行くつもりである。
 でも逆行するためのモノレールは行っちゃったみたいだし、次がいつ来るかもわかんないんで時間かかっちゃうのも仕方ないね。

「そろそろ止まるみたいだな。よし、こうなったら一駅ダッシュするぞ! ネバーギブアップ、オレ!」

 停車まで入念なストレッチを心がけると、ドアが開いたと同時に駆け出す。颯爽と改札を飛び越え、線路沿いに走り始める。無賃乗車だけど多少はね?などと誰にしているのかわからないテヘペロをしつつ驀進。なかなかのスピードではある。

「みんな無事でいてくれ……! 先生は必ず助けに行くぞってなんだあの大仏!?」

 そのままスピードを落とさずに大仏の脇を通り過ぎる。高めの雑居ビルの隙間からヌっ!と大仏にしか見えない大きな仏像が見えた。おそらく大仏であると考えられる。
 しかしそんなものは今どうだっていいんだ、重要なもんじゃない。場違いな大仏をガン見しつつモノレール沿いを駆けると、なんとか水族館直結の駅まで戻ってこれた。

(三沢くん! 河合さん! いたら返事してくれー!)

 クッソ小さい上に間違えた名前で子どもに呼びかける。当たり前だが答えるものはいない。そもそも聞こえるような声を出していない。
 駅のホームにおっかなびっくり上がってあたりを見渡してみた。たぶん血とかはない。

「そういえば逆向きのモノレールが駅を出てすぐにすれ違ったな。つまりアレに乗ったってことだな! ならひとまず安心だ。いやー良かった。」

 良いわけあるか。
 多分に楽観的な結論を出すと、自販機でコーラを買った。お釣りやデザインが明らかに日本語じゃないんだが、そんなの関係ない。ブシュとフタを開けてゴクリと飲む。シュワシュワした泡がパチパチと口の中で弾けると、フレーバーが味覚と嗅覚を刺激する。たまらない。

「ハーッ! よし、エネルギー補給完了! そろそろ次のモノレールも来るだろうからそれで追おう。」

 ソッコーで一本飲み干し、もう一本飲もうか考えながらモノレールを待つ。
 しかし、来ない。わりと長く待ってるのにぜんぜん来ない。あれ?おかしくない?と思って時刻表を確認。当然読めないので困惑する。だが時刻表の上にかかっていた時計の針は読めた。
 現在2時前。昼ならともかく夜なら100%終電が終わっている。

「もしかして、さっきの終電だった……?」

 確かめる術はない。
 松岡先生は慌てて駆け出した。胃の中でコーラが泡立つ。逆流する。脇腹が痛い。

「おかしいな、コーラはマラソン選手も
愛飲するって書いてあったのに。」

 それは炭酸抜きコーラである。
 体力は戻ったのに前より遅い足取りで駆ける。片手で脇腹を抑えながらのダッシュに青色吐息。胡乱な目に映る視界は歪み、ピラミッドの幻覚まで見えだした。
 いや幻覚か? あ、これ幻覚じゃないわ、ピラミッド建ってるわ。ビルの隙間からチラッと見えたわ。


800 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/28(火) 03:50:07 ???0

「ピ、ピラミッドか。ピラミッド!? なんで、なんで?」

 ピラミッドショックにより思わずツッコんでしまう。なんでピラミッドが会場にあるんだよ、殺し合いはどうなってるんたよ殺し合いは。
 などと思うが、そこでハッとする。
 このピラミッド、水族館の駅からはそこそこ距離がある。そしてなによりピラミッド。子どもたちはここに逃げたのでは?

「なるほど、わかったぞ! 次の駅で下車して窓から見えたここに行ったかもしれないな。よし行こう」

 こじつけに近い考えだが他に子どもたちが行きそうなところになどとんと考えつかない。というわけでもう一度走り出す。さほど高いものでもないので割と直ぐに近づけた。
 麓で改めて見上げる。どう見てもピラミッドです。

「やむを得ない! とりあえず探検だ。」

 不審には思うが背に腹は替えられぬ。断じてちょっとワクワクなどしていない。
 当然中に灯りなどないので、スマホで照らしながら進む。内装も普通にピラミッドだ。世界ふしぎ発見で見たのと同じである。

「待つであります! ストーップ! ストーップ!!」
「わっざ!? ナンマイダブナンマイダブ……!」

 歩き始めて何歩かすると、突然高い声が響いた。すわ祟りかと思い念仏を唱える。するとテテテテテ!と足音がした。バッと振り返る。そこにいたのは。

「うわあああカエルがピラミッドを練り歩いてる!」

 緑色のカエルが必死の形相で追いかけてきていた。何故か黄色い帽子を被り、手には銃。
 更にその後ろには、灰色の軍服っぽいものを着た江口洋介似のイケメンもいた。だが眼光の鋭さが半端じゃない。趣味で人殺してそうな目をしている。

「逃げなきゃ! わっ!?」

 命の危機を感じた。振り返ると走り出す。が、足が床につかない。下を見る。そこには穴。

「ピラミッドにも穴はある──」

 言い終わらぬうちに松岡先生は落とし穴へと吸い込まれていった。


「アチャー、だーからいったのに。」

 落とし穴の前でカエルことケロロ軍曹はOTLの字になって床をつついた。
 おそ松が落とし穴に飲み込まれてから彼はなんとか助けようと四苦八苦していた。
 しかしピラミッドの中を注意深く進めば同じようなトラップがそこかしこに。これは無理だと戻ると、シンプルに落とし穴からロープでも垂らして救助することとした。
 というわけでロープを探す中で出会ったのが、江口洋介似の仕事で人殺してそうな顔の参加者。
 その名を、斎藤一。
 そんな彼はシュルリとケロロ軍曹の胴体に手際よくロープを結びつけていった。

「あれ? 一殿? なにを?」
「お前が下手な声をかけ方をした責任を取れ。」
「責任ってケロオオオオオ!?」

 そしてケロロをドーン!
 あわれ軍曹は落とし穴へとつんのめり、パカッと開いた暗闇へ吸い込まれていった。

「……西洋のカラクリか? 雪代縁の関係者……は、考え過ぎか。」

 悲鳴を上げながら滑り落ちて行くケロロ軍曹を片手のロープで支えてやりながら、器用に片手で煙草を取り出し火をつける。
 そして紫煙を吐き出しながら変わらぬ仏頂面で言った。


801 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/28(火) 03:51:24 ???0

 元・新撰組で現在は維新政府の警官。
 そんな彼が掲げるのは、幕末も明治もバトロワも変わらない。
 すなわち、悪即斬。
 変わらぬ表情と変わらぬ方針で街を歩いていたが、しかしなかなか人には出くわさず。
 ようやく見つけたのは、しゃべるカエルであった。
 これにはさすがの斎藤も柄にも無く煙草を落とした。
 後ろ足で立ち、帽子を被って人語を喋るカエル。どう考えても物の怪のたぐいだ。
 とりあえず刀を突きつけ尋問すると、どうやら軍隊に所属する河童らしい。
 なんで河童が軍人なのかとか他にも色々と聞きたいことはあったが、こんなんでも第一参加者、しかもピラミッドなるものから滑落した人間を助けようとしている。たぶんに眉唾ものだが、罠であっても罠ごと切り伏せると思って同行したら、謎の石造りの建物(それがピラミッドだという知識はない)を見つけて、先ほどの次第である。

「ウサギに河童と殺し合わされるとは、舐められたものだ。」



【0130 ピラミッド】

【松岡先生@黒魔女さんが通る!!
チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 死にたくない。
●中目標
 みんな、待っててくれ!
●小目標
 ???

【ケロロ軍曹@小説侵略!ケロロ軍曹 姿なき挑戦者!?(ケロロ軍曹シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生還する。
●小目標
 ウッソでしょおおお!

【斎藤一@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 悪即斬。
●中目標
 殺し合いの主催者の情報を集める。
●小目標
 河童(ケロロ軍曹)の反応を待つ。


802 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/28(火) 03:53:08 ???0

 元・新撰組で現在は維新政府の警官。
 そんな彼が掲げるのは、幕末も明治もバトロワも変わらない。
 すなわち、悪即斬。
 変わらぬ表情と変わらぬ方針で街を歩いていたが、しかしなかなか人には出くわさず。
 ようやく見つけたのは、しゃべるカエルであった。
 これにはさすがの斎藤も柄にも無く煙草を落とした。
 後ろ足で立ち、帽子を被って人語を喋るカエル。どう考えても物の怪のたぐいだ。
 とりあえず刀を突きつけ尋問すると、どうやら軍隊に所属する河童らしい。
 なんで河童が軍人なのかとか他にも色々と聞きたいことはあったが、こんなんでも第一参加者、しかもピラミッドなるものから滑落した人間を助けようとしている。たぶんに眉唾ものだが、罠であっても罠ごと切り伏せると思って同行したら、謎の石造りの建物(それがピラミッドだという知識はない)を見つけて、先ほどの次第である。

「ウサギに河童と殺し合わされるとは、舐められたものだ。」



【0201 ピラミッド】

【松岡先生@黒魔女さんが通る!!
チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 死にたくない。
●中目標
 みんな、待っててくれ!
●小目標
 ???

【ケロロ軍曹@小説侵略!ケロロ軍曹 姿なき挑戦者!?(ケロロ軍曹シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生還する。
●小目標
 ウッソでしょおおお!

【斎藤一@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 悪即斬。
●中目標
 殺し合いの主催者の情報を集める。
●小目標
 河童(ケロロ軍曹)の反応を待つ。


803 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/02/28(火) 03:53:55 ???0
投下終了です。
タイトルは『天丼──穴があったら入りたくない』になります。


804 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/02(木) 08:10:08 ???0
投下します。


805 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/02(木) 08:11:18 ???0



 これは自分への罰なのだろうか。
 1億円の詰まったカバンを膝に抱え、滝沢未奈は同行者の大場カレンがプランターやシャベルをコンバインに詰め込むのを見ていた。

 絶体絶命ゲーム。
 10人の子供が1億円を奪い合うギャンブル。
 参加する条件は4つ。
 『お金がほしくてたまらないこと』
 『親に疑われずに外泊できること』
 『ゲームに招待されたことを誰にも言わないこと』
 『命の保証がなくてもかまわないこと』
 未奈は、おそらくはそのゲームの勝者であった。
 おそらくというのは、勝利したときの記憶が曖昧だからだ。
 思い出せる範囲の中で、彼女の最後の記憶はゲームの勝者の資格を持って館を脱出しようとし、爆発のような衝撃を感じたこと。
 勝った、という自覚はないが、こうして手に現金があるのだ。つまり、他の9人を間接的にでも死に追いやり、こうして1億を手にしている。
 そして妹の由佳は心臓手術ができて助かる――はずだった。
 それが、気がつけばまた新しい命がけのゲームに巻き込まれていた。賞金はやるからまた蹴落とせ、ということだろう。

(あたしは……やることは、変わらない。今回も生き残ることを考えて、それで……)

 そっと首輪に指で触れる。
 硬質な感触。
 主催者の気分一つで自分を殺せる、おもちゃのような機械に、自分自身は縛られている。
 そのことに何度も答えの出ない自問自答を繰り返すのをやめたのは、遠くからかすかに銃声が聞こえたからだ。

「遠いですね。中止にしましょうか?」
「まずは、音を調べよう。コンバインは目立つから。」

 響いた銃声にそれぞれ窓から周囲を見渡して。
 その警戒のままカレンに声をかけられて、未奈も同じように顔を合わせず答えた。

 今回のゲーム開始直後に出会った同じ小6の少女カレンも、サバイバルウォークというゲームに参加したことがあるという。どうやら、この新たなゲームの参加者は、みな命がけのゲームに参加した子供のようだ。ということはつまり、自分や他人の命を危険に晒す度胸とそれをくぐり抜けて生き残る直感の持ち主ということである。
 未奈は度胸と直感には自信がある。だからハッキリ言える。このゲームの参加者は、みな自分よりも格上だと。
 まだらな記憶で思い出せば、あのオープニングでは瞬間移動のような踏み込みで動ける不良や刀を持った不良が何人もいた。最初の毒殺されそうになった不良を助けた不良も含めて仕込みかもしれないが、あのぐらいのことができる人間がゲームに関わっていることに違いは無い。
 その目下の代表例がこうして同行者にしているカレンだ。

「さっきの音、1回だけだったってことは、一発で殺したのかもしれない。油断しないでよ。」
「人の心配よりも自分の心配をしたらどうです? 声が震えていますよ。」
「武者震いよ。」

 まぜっかえしを切って捨てると、慎重に外に出る。背中はあずけたくない。このタイミングで襲ってはこないという直感があってもだ。
 カレンとの出会いはゲーム開始から程なく。彼女が未奈が隠れていたビルのドアをショットガンでぶち破ってきて未奈がサブマシンガンを撃ち返し、そのまま銃撃戦に移行した中でのことだ。
 話してみたら、殺人に抵抗がなさそうでかつ頭が回りそうなこと、そして度胸があるから組むことにした。
 そう、大事なのは度胸だ。


806 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/02(木) 08:11:52 ???0

「もう一回確認するけど、アンタは殺し合いには乗ってないの?」
「もちろんです。突然誘拐されて殺し合えだなんて、そんなことを真に受ける人がいますか?」

 くつくつと笑いながらそう言う顔は嘲りの笑みに歪んでいる。きっとさっきもこんな顔で言っていたんだろうなと、短い付き合いでもわかった。彼女は最初っから今まで、ずっとこんな感じだ。常に人をバカにしたような、というか人をバカにしながら薄ら笑いを浮かべている。その笑みのまま、鍵がかかっているからと銃で壊し、撃たれたからと撃ち返し、歩くより効率的だからと盗んだコンバインで走り出させようとする。未奈の人生にはいないタイプの人間だ。
 だからこそ、信用できる。

「どうしました? いまさらやっぱり殺し合いに乗ります、そう言いますか。」
「そんなわけないでしょ。あたしはただ、生きて帰りたいだけよ。」
「だから、わたくしと二人で行動する。でも、あらあら、それなら、同じような考えの人を集めて集団を作ればもっと安全なのでは。」
「アンタがそれでいいなら、ね。」
「……まあ、いいでしょう。どちらでもわたくしはかまいません。」

 この殺し合いにおいて最も避けるべきもの。それは集団で動くことだ。
 あたりまえだが、一人より二人のほうができることは多いし、二人より三人、三人より四人、だ。
 だがそれは普通の状況でのこと。本質的に敵同士の人間には、当てはまらない。
 未奈はこの殺し合いには三種類の人間がいると思っている。
 一つは『対主催』。今の彼女やカレンが振る舞っているように、ゲームを良しとしないもの。前のゲームでもそういうおひとよしがいたが、結局は誰かを犠牲に生き残り、また自分を犠牲に誰かを生き残らせるしかできないタイプ。
 一つは『マーダー』。彼女やカレンがそうであるように、ゲームに乗ったもの。綺麗事を言ってもみなこれだが、だからこそ信用できるタイプ。
 そして最悪なのが『ひよりみ』。このタイプは対主催の綺麗事に乗っておきながら、いざとなればマーダーに変わる。
 さて、この三つのうち組むなら誰か、そして何人か。
 未奈の出した答えは、『対主催のように動けるマーダーと一人だけ』。
 やたらと銃や武器が配置されているこのゲームを考えれば、まず真っ先に度胸が無い人間はダメだ。一緒に行動しているところでパニックになって銃を乱射されたりしたら目も当てられない。よってひよりみもダメ。ブレる人間は敵なら予想がつかないし、味方ならもっと迷惑である。だがそういう仲間にすることがマイナスな人間かどうかは、なかなか区別がつかない。未奈は直感には自信があるが、だからといってリスクは消えない。
 だから、組むのは一人だけだ。仲間にする人数が増えるほど、リスクのある人間と一緒にならなくてはならないかもしれない。それと、数が多いと便乗する人間が増える、というのは前回のゲームでより学んだことだ。自分もグラついたことがないと言えば嘘になるのでわかるが、『ノリ』というものは人を変えてしまう。そのノリに飲まれないようにするためにも、組むのは一人だけだ。
 では、一人だけと組むとして、誰ならいいか。
 理想は対主催である。前回のゲームもそうだったように、ゲームに反対するおひとよしは頼りになるし、ほっとする。だが、だからダメだ。前回は基本的にルール無用の殺し合いでは無かったのでそれでも良かったが、今回は最後のあの時のように暴力あり殺人ありのゲーム。たぶんそれでは、生き残れない。だって最後の一人になるまで殺し合うのなら、そんなおひとよしを殺さなくてはならないのだから。
 だから組むならマーダーだ。殺しても心が痛まないとびきりのクズがいい。その点カレンは最高だ。これまでの1時間ほどの間、仲間でなければ撃ち殺したくなるような人を馬鹿にした目線を時折送ってくる。そしてたぶん、自分よりも少し頭が良い。度胸もあるし、運動も悪くはない。あまり有能すぎたり無能すぎたりするとそれを理由に殺されるが、どれも付き合いやすいレベルだ。
 そう、二人が表向き対主催コンビとして組んでいるのはそこなのだ。


807 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/02(木) 08:12:27 ???0

「いた。あっちに500メートルほど先のところ。」
「わかりました。」

 未奈が捉えたのはほぼ偶然だった。赤い霧で輪郭しか見えないが、動く人影を捉えた。
 本来、未奈とカレンが目指しているのは、いつの間にかポケットに入っていた紙片に記されていた『命の百合』だ。それがどの程度入手するのが困難なのか不明なので二人は組んでいる部分もある。前回のゲームもそうだが、最後の一人になるまで戦うというルールの割に、他の参加者との協力が必要な展開も時にしてある。
 この殺し合いでもそうとは言い切れないが、しかしそれを考えずに動くのは、考えて動く人間を相手にしたときに『致命的』にまずい。
 だから、彼女はカレンと銃撃戦をしたことで組むに値すると思った。未奈がいた建物は農協で、そこに百合を植え替える鉢植えなどを求めて来たからだ。
 殺し合いを有利にさせるようなアイテムだとは思うが、花というからには鉢植えなりなんなりが必要だろう。それに妹のことを思えば、そんなリアリティの無いアイテムでも乱暴には扱えない。だから彼女は鉢植えを借りに来たのだが、そこで同じくアイテム目当てのカレンが来たために仲間にした。まさかコンバインを盗むまでやるとは思わなかったが、しかしその悪辣さも組むぶんには申し分ない。
 「鉢植えを『拾う』ならコンバインを『拾う』のもおかしくはいでしょう?」そう言ったあの笑みは当分忘れられそうにない。あれで確信した、互いに宿るシンパシーを。二人は決定的に違うが、同時に思考・スタンス・度胸において近しいモノがある。そしてそれを互いに共感している。

(問題はいつ裏切るか、だよ。)

 カレンは組むには最適だ。
 だからこそ、どのタイミングで殺しにかかるか、だ。
 お互いわかっている。これはビジネスであり、最もメリットのある形で手を切る場面を探っていると。
 問題はそれがいつか。
 アイテムが一人で手に入るとなった時か、手に入れ終わってか、他の参加者の襲撃を受けた時か、今か。
 切らないことのメリットもある。どこに切るタイミングを置くかで、背中を預けて休むことも不可能ではない。互いに眠る相手の背中を今は刺さなくても良いと思えるだけのリターンがあれば話も変わるだろう。

「どっちみち、まずはあの参加者たち次第かな。」
「何?」
「なんでも。」

 そぞろな返事を返しつつ前進する
 今までの人生で一番頭を動かしている。妹の病床で金策を話し合う両親を見ていた時よりも、絶体絶命ゲームで爆破する館からの1億円を手にして脱出する手段を探していたときよりも。
 それは横のカレンのせいだ。
 絶対このタイプは油断できない。だからいろいろ考える。そしてそれが油断になる。
 静かに2人で距離を詰めて、それは明らかになった。
 見つけた人影は男女のコンビだった。同い年ぐらいで、男子はお手上げポーズで前を歩き、後ろでは女子が刀を突きつけている。関係性はわからないが、とにかくこれは2人殺してしまうチャンスだ。
 カレンにその旨を伝えようと振り返ろうとしたとき、異様によく通る少女の声が聞こえた。

「そこの男女のペアと、女子のペア。私たちは殺し合いに乗ってません。話し合いましょう?」

 未奈は思わずカレンと2人で絶句した。これから2人撃ち殺そう、そう考えていたところの機先を制された。しかも狙っていた相手とは別の人間に声をかけられているとは。


808 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/02(木) 08:12:59 ???0


(たぶん、これが一番ええ選択や。)

 目の前で慌てて周囲を見渡しだした朱堂シュンたちを見つつ、名波翠は緊張を崩さない。
 方針を考えた彼女は、前のループでは逃げることを選んだ朱堂たちに声をかけることとした。
 このまま彼女たちを通せばまず見つかってしまうし、そうでないなら森に入って黄金騎士に襲われてしまうだろう。なら気づかれていないタイミングで声をかけて主導権を握ってしまえ。
 幸い、朱堂はタイガを、タイガは朱堂を警戒していて周囲への警戒は薄かった。
 そしてそんな二人を殺気のこもった視線で見る未奈たちにもなんとか気がつけた。彼女たちも朱堂たちを警戒していたため、ギリギリで翠が先に発見できたのだ。

「さあ、こっからが本番ですわ。」
「お嬢様口調じゃなくて関西弁なんですね。」
「殴るぞコラ。」
「ヒエッ。」

 軽口を叩くメイ子を無理やり立たせて、4人の目の前に現れる。その視線を未奈たちへ向け続ければ、観念したのか2人も出てきた。

「……失敗だなあ。こんなに見張られてるなんて。」
「朱堂、変な気を起こすなよ。」
「起こさないよ、ねえ?」
「ンフフ……お久しぶりです、朱堂さん。」
「知り合い?」
「ラストサバイバルの準優勝者です。」
「なるほどね。」

 どうやら殺気をぶつけていた少女とぶつけられていた少女は知り合いらしい。二人の間に走る殺気からはとても良い関係には思えないが、翠はそれは気づかないふりをしておく。重要なのはただ一つ。森に行かないことだ。行けば誰かしら死ぬ。

「話してるところ悪いですけど、皆さん自己紹介しませんか? 私は名波翠。この子は玉野メイ子さんです。」
(なんでコイツらゴッツいライフル持っとんねん。どっから持ってきた。)

 ツッコみたいことは色々あるが無理やり話を進めてしまう。ともすれば一触即発の不穏な展開、とにもかくにも話に巻き込むしかない。
 女子たちからの冷ややかな視線を無視して、翠はタイガを見た。超能力を使わなくてもわかる。声をかけた4人のうち3人は、おそらくゲームに乗っかっている。今は彼だけが頼りだ。

「藤原タイガです。殺し合いなんてしたくない。」
「私も。大場カレンです。よろしくお願いします。」

 そしてタイガは確かに答えた。翠にとっての渡りに船は、タイガにとっても渡りに船。そしてすぐさまカレンが便乗した。その雰囲気は明白に嘘だとわかるもので、朱堂と未奈はあんまりにもあんまりな彼女に一瞬呆気にとられた。

「それで、お二人は?」
「……滝沢未奈。」
「……朱堂ジュン。」

 こうなっては仕方がないと、あとの二人も話に応じる。
 翠は内心ホッとし、朱堂は内心失策を呪った。
 前のループと違い、翠は朱堂たちから逃げずに接触するために見ていたため、胡乱なものを感じた朱堂は威嚇射撃をしていた。その銃声が未奈たちを呼び寄せ、今の複雑な状況を作ったとまではわからなかったが、選択を間違えたらしいことはわかった。

「ありがとうございます。6人も殺し合いに乗ってない人で集まれるなんて、素敵ですわ。」

 無理やりマーダーはいないという話に翠は持っていく。一筋縄では行かなそうな集まりだが、前回の死を避けられたことの安堵が勝った。


809 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/02(木) 08:16:27 ???0



【0126 森】


【滝沢未奈@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 由佳(妹)を助けるために1億円とせっかくなら命の百合を持ち帰る。
●中目標
 カレンを利用する。
●小目標
 うまくごまかす。

【大場カレン@生き残りゲーム ラストサバイバル つかまってはいけないサバイバル鬼ごっこ(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 バトル・ロワイアルを優勝する。
●中目標
 未奈を利用する。
●小目標
 うまくごまかす。

【朱堂ジュン@生き残りゲーム ラストサバイバル 最後まで歩けるのは誰だ!?(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する。
●中目標
 命の百合を手に入れる。
●小目標
 うまくごまかす。

【藤山タイガ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 主催者をぶちのめして生き残る。
●小目標
 今はシュンに従うが機を見て反抗する。

【名波翠@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
●中目標
 未来を変える。
●小目標
 対主催チームを作りたい。

【玉野メイ子@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 まず死にたくない、話はそれから。
●小目標
 今は翠に従う。


810 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/02(木) 08:17:16 ???0
投下終了です。
タイトルは、『imitation red』になります。


811 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/03(金) 07:41:20 ???0
投下します。


812 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/03(金) 07:42:59 ???0



 無骨なコンクリートの箱、そう表現するのが最適な部屋であった。
 バンカーやシェルターのような用途に使われるのだろう、居心地の良さよりも堅牢さを第一とした内装に、温かみというものは微塵もない。
 あるいはそういったものをわざと排除しているかのようでもあった。

「ワインはいかがかな? 国産だ。」
「気を使わせちゃったね、いただくよ。君は?」
「では、一杯だけ。彼女は?」
「マヨイ先生なら、相変わらずだ。」
「来てもあの仮面じゃ飲めないでしょ。」
「ふむ……馴れ合う必要はないが、協調性は持ってもらいたいものだ。それでは。」
「「「乾杯。」」」

 部屋の一面だけはモニターが占めていた。
 そこから10mほど離れたところに、小さなマカボニーの円卓がある。
 その周りに集まった顔の良い若い男たちは、ワイングラスを掲げた。

 内閣総理大臣、トモダチデスゲーム主催者、峯岸士郎。
 絶望鬼ごっこ主催者、黒鬼。
 火の国・フラム指導者、キャプテン・リン。

 このバトル・ロワイアルの主催者たちである。

「うん、おいしい! 人間の食事にかける情熱には頭が下がるね。私もツマミを用意したけど、どうだい?」
「人の肉なら遠慮する。」
「それは残念。赤ん坊の肉だから食べやすいと思うんだけどなあ。総理は?」
「人を喰うのは永田町で慣れてるんでね、ここぐらいはやめておくよ。」
「ハハハ! 君は鬼よりも鬼らしいよ。」

 談笑する二人を他所に、リンは峯岸総理の持ってきたカナッペを摘む。その目はモニターから離れることはなかった。
 一台一台が大型テレビほどのモニターには、会場の各所がザッピングで映されていた。
 会場内に存在するすべての監視カメラの映像は常に主催側に配信されている。
 当然動体感知やタイムシフトも可能である。
 家電を流用したものであるが、その高度なシステムの構築には警察や消防のノウハウが用いられている。
 峯岸の総理という立場で作られたそれは、今のところは正常に稼働しているように見えた。

「随分気にしているようだね? パセリって子は参加者から外したようだけど。」
「参加者にできる枠が決まっているなら、その判断が気になるだろう。」
「ふーん、思い入れがあるんだ。わかるよ、競馬とかはこういう感覚なんだろうね。」
「だが、ギャンブルにしてはアンフェアだ。私が送り込んだ参加者は、君の半分ほどだったと記憶しているが?」
「馬主と同じですよ。資産に応じて公平な人選だと思うけれども。ねぇ? 総理。」
「そう言われると弱いな。私が提供したのは監視システムと会場設備の設計だけだからな。」
「その会場を提供しているのは我々火の国だ。土地も建物も国家予算による莫大な投資あってのものだよ。」
「なら我々は赤い霧と空を提供している。ギロンパは高く買ってくれた。」

 黒鬼はグラスを煽ると、ワインボトルを手に取る。

「もう一杯どうかな?」
「遠慮しておこう。」
「君は?」
「一杯だけだ。」

 黒鬼は肩をすくめるとワインを注いで言った。


813 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/03(金) 07:43:52 ???0

「ゲームが始まってまだ1時間も経ってないのに、そんなに緊張してたらもたないよ? 大きなミスでもあったかな。」
「いいや、ギロンパ先生は完璧な仕事をしている。目立った瑕疵はない。」
「そうだね。突然参加者を365人にするなんて言い出したのは驚いたけれど。慣れてるっていうだけはある。」
「ああ、これだけ大規模なものを管理できる手腕は本物だ。」

 訳知り顔で話す黒鬼と峯岸総理を一瞥して、リンはモニターを見続けた。
 彼は2人と違ってデスゲームを主催した経験が無い。
 ゆえにセオリーや相場というものに疎かった。
 一方で黒鬼は人数を多くして面白くできるのか、峯岸総理は管理体制について関心があった。
 黒鬼の行う鬼ごっこは、基本的にプレイヤーの人数を絞る。これは彼が金谷章吾とその友人たちに執着しているからだ。その気になれば数百人を巻き込むこともできるが、その場合はプレイヤーを追い込むNPCとしての運用になる。
 峯岸総理の行うトモダチデスゲームはそもそも回数が少ない。この前は複数の会場で中学生にデスゲームをさせたが、これだけ大掛かりな会場に3桁の人数を巻き込むというのはなかなかできることではない。似たようなことをやろうとしても、せいぜい2桁が限界だ。

「じゃあお手並み拝見しようか。Alexa、大場大翔を4番モニターに映して。」

 黒鬼の言葉に反応してモニターの1つが切り替わる。そこにはどこかの監視カメラが撮ったであろう少年の静止画が映し出された。画面端には数分前の時間が表記されている。

「監視カメラが無いところに入られるとつまらないな。首輪の音声を拾えるかい?」
「……ああ、可能だ。」
「どうした?」
「いや、ちょうど銃撃戦が起きたのが見えてね。24番モニターだ。」
「Alexa、24番モニターを全画面表示して。」

 黒鬼の言葉に反応してのふたたびモニターが切り替わる。今度は全てのモニターが一つのモニターとして働いた。
 巨大な一つのモニターとなって、どこかの監視カメラの映像を映す。
 自分の知り合いがいるあたりの映像を見ていたリンは突然変えられて眉をひそめたが、関心は映ったものへとすぐに移った。
 男女2人組と、少女たちだろうか。画面上には自動で名前が表示される。監視カメラの映像は全てリアルタイムで個人の識別が可能となっている。さすがに同一人物が別々に参加しているような場合は別だが、その場合でも首輪からの情報と照らし合わせて判断ができる。言葉にすれば簡単だが実際に運用するとなると困難なシステムが無事に動いているのを見て、峯岸総理はほくそ笑んだ。

「前原圭一と山田奈緒子。あっちは花丸円と黒鳥千代子と宮美二鳥、今死んだのは、ああ、野原しんのすけか。惜しいな。」

 黒鬼が読み上げた名前に、リンと峯岸総理はアイコンタクトした。いささか都合の悪い参加者が落ちてしまった、と。
 主催者たちはギロンパの言う『並行世界への移動実験』を共通の名目としている。異世界の人間同士を短期間に深い仲にさせるために殺し合わせる、というのがその要旨だ。別に殺し合わせなくてもいいだろうと言う意見もあったのだが、発起人のギロンパがデスゲーム開催者を中心に声をかけた結果、賛成多数で小さな子どもをたくさん集めて殺し合わせることになった。その賛成派の代表格が峯岸総理である。本職が政治家、しかも総理大臣なのだ、一癖も二癖もある主催者たちを相手に丸め込む技量は、さすが歴代最年少総理大臣だとは黒鬼の言葉である。
 閑話休題。この殺し合いの中で、参加者たちは他の並行世界の参加者と交流を深めるだろう。古典的には吊橋効果として知られるそれだ。ストックホルム症候群や宇宙ステーションの宇宙飛行士たちが地上スタッフに対して排他的になる事例のように、特異な環境下に隔離された集団は特異な結束を示す。その特異さの最たるものが、殺し合いである。殺人が肯定され推奨され強制される。その中でそれでも互いへの殺人を否定する小さな集団が生まれ、やがて巨大化していくだろう。そうすることで世界を超えた縁が繋がり、深まり、『世界が交じる』というものだ。
 そのために参加者の多くを日本人とすることとした。あいにく主催側に翻訳に長けた技術を持つ者はいない。言葉の壁が交流を阻害しないように注意を図られた。またその中でも21世紀の日本に住む者を多くした。並行世界の魔法や幻想的な物事は魅力的ではあるが、実験としては各々の現実に近いものが理想的とされた。また、参加者の多くを小中学生にすることも提案された。これは主催者が小中学生を殺し合わせるノウハウがあるからだ。


814 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/03(金) 07:45:06 ???0

「彼の世界はほどよく我々とは異なっていたらしいが、まあ、いい。あとの人間に託そう。」
「大翔くんの妹と同じぐらいかな。Alexa、モニターに映ってる参加者の首輪の音声流して。ところで気になってたんだけど、なんで代わり映えしない並行世界に拘っているのかな。」
「それほど気にすることかな。これはあくまで実験、扱いやすいものの方がいいだろう。」
「でもそれじゃ不満そうな人もいた。君の主張は人間だからってわけではなさそだからかな。」

 また峯岸総理とリンの間で視線が交わされた。

「世界が近ければ言語や地理的な障壁を減らせる。というのが一つ。踏み込んで言うのなら、そのことによる経済的メリット、というのが一つさ。」
「経済的メリット。リンさん、わかる?」

 水を向けられたリン。総理からのアイコンタクトを受けて答えた。

「我々の世界との違いが少なければ少ないほど、我々の世界での情報から予測を立てられる。峯岸総理はそう言いたいのだろう。」
「うーん、わかるようなわからないような。」
「たとえば、気候変動。たとえば、地下資源。たとえば、経済危機。一国のリーダーが考えるべきことは多い。では、その情報が事前に手に入れば。我々の世界とよく似た、1年後の世界を手に入れられれば、その世界の情報をもとに戦略を建てられる。」
「そして、その世界から利益を誘導できる。」

 リンから話を引き取った峯岸総理は、ワインボトルを手に取り黒鬼へと見せた。

「このワインは鳥取産だ。これを私の世界で買えば、利益はサプライチェーンの各段階で分配される。ではこれを並行世界の店頭から持ってきて売ればどうなるか。」
「あー、つまり並行世界から色々泥棒しまくれるってわけ?」
「搾取という意味では違いない。片方の世界から『持ってこれる』。それによる利益は計り知れない。」

 峯岸総理はカナッペを手に取り続けた。

「このカナッペ一つにかかるコストは10年前と比べて倍増している。世界情勢の変化で小麦を中心に値上がりしているだが、他の世界から持ってこれるのであればそれも解消される。」
「結局、国家の大事はエネルギーの安全保障であり、食糧の安全保障だ。それを自分たちの世界で奪い合うから政治が必要になる。だがそれを他から持ってこれるのであれば、前提が覆る。」

 引き継いでそう言ったリンの声には、わずかに熱が含まれていた。
 エネルギー問題の解決のためにファンタジックな伝承を追いかけ、実用化を検討するほどにフラムは危機的状況にある。並行世界からエネルギーを持ってこれるのならば、リンの目的の大部分に解決のめどがつく。

「それほど、並行世界への移動というのは──」
『──実は、時間を巻き戻せるの。』
「……今のは?」

 突然聞こえた少女の声に、リンは演説を止めた。一瞬部屋の中を見渡しかけ、すぐに黒鬼が首輪の音声を流させたことを思い出した。
 そう、音声は流れていたのだ。ずっと無視していたが、その言葉がリンの心にすっと入り込んだ。
 当然、黒鬼と峯岸総理はその声を聞いていない。聞いてはいるが、聞き流していた。
 なんの話だ、と言いかけて、しかし峯岸総理は言葉を飲み込んだ。リンの後ろにあるモニター。それが全て突然ブラックアウトしたからだ。


815 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/03(金) 07:46:05 ???0


「実は、時間を巻き戻せるの。」

 黒鳥千代子ことチョコは絞り出すように言った。

 目の前には自分たちが誤射したかもしれない野原しんのすけの死体。
 頼れる二鳥は二人組を追いかけてどこかに行ってしまい、円とルーミィの3人残された。
 その状況で、何ができるかを限界まで考えて、思いつきを試してみての発言だった。

「ど、どういうこと?」
「さっきやってみて、上手くいかなかったけれど。でも、ギュービッド様ならきっとなんとかできるかもしれないの。」
「キューピット様? どうしたのチョコちゃん。」
「ギュービッド様は黒魔女のインストラクターで、ちょっとマヌケなところもあるけもすごい黒魔法を使えるんだ。だから──」

 困惑する円の様子に噛み合わないものを感じつつ、チョコは続けた。
 そもそも、チョコは自分が黒魔女とは一言も言っていない。なのに突然こんなことを言い出した結果、円は。

(チョコちゃん、ツライよね。)

 温かい瞳でチョコを見つめると、抱き締めた。今、自分にできるのはこれだけだと。

「ま、円ちゃん?」
「わかってる、わかってるよ……」
「わかってくれたの? よかった。」
「チョコ! ルーミィも!」
「うん!」

 少女たちは3人で抱き締め合う。
 その声も映像も、主催者には届かない。
 そんなことができるのはただ1人。

「あっぶなかったロン。まさかアイツ時間戻せるなんて……」

 ゲームの管理者、ギロンパである。
 ギロンパはこの殺し合いで最大の技術、時間移動が可能だ。
 ゆえに、彼は自分以外の時間移動者は何があっても許さない。
 大形京撃破のためにも、切り札として抱え込む必要がある。

「これはチャンスロン。うまいこと誘導して生き残らせてやるロン、感謝するロン!」

 時間移動はギロンパが独占せねばならない。
 傍若無人な主催者による、独断専行の介入が始まった。



【0030ぐらい 『南部』オフィス街】


【黒鳥千代子@黒魔女さんが通る!!
チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 ギュービッド様を探す。
●小目標
 もしかして、私が撃った……?

【花丸円@時間割男子(1) わたしのテストは命がけ!(時間割男子シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 わ、私が撃っちゃった……?

【ルーミィ@フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち(フォーチュン・クエストシリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 みんな(フォーチュン・クエストのパーティー)に会いたい
●小目標
 しんちゃん……


816 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/03(金) 07:46:29 ???0
投下終了です。
タイトルは『主催戦』になります。


817 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/06(月) 02:45:52 ???0
投下します。


818 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/06(月) 02:46:02 ???0



「やられた……! また出し抜かれるなんて。」

 弱井トト子が引き金を引き、十名以上の人間が銃撃戦を繰り広げた住宅地の一画から、徒歩数分のところにあるやや大きめの雑居ビル。
 その一階部分は、地下への階段となっている。
 まさかそこが地下鉄への入り口などとはこの街を往く参加者も気づかないだろう。一応、付近には駅への案内があるし、当のビルには小さいが地下鉄の看板もあるのだが、土地勘のない街でいつ撃たれるかわからない中ろくに地下鉄に乗ったこともない人間も多々いるという事情を考えれば、そこに気づける参加者というのは僅かだ。
 そして地下へと降りると、広がっているのは地下街である。
 地下一階は一つの都市区画と言えるほどの広さで、モノレールや電車の駅ビルとそれぞれ繋がっている。それぞれに乗り換えるには端から端まで歩かねばならずその距離は都市部の路線の一駅分ほどもあるが、一応これで一つのターミナル駅だ。この街に住人がいればさぞ面倒な通勤通学だろう。
 地下二階は地下鉄の改札とホームがある。こちらは上階とは打って変わって没個性的な地下鉄だ。面白みのない作りに、後付されたようなバリアフリー、天井の一部からは雨漏りもしている。
 そのホームにあるベンチに気がつけばいた桃花・ブロッサムは、慌ててトイレに行くと鏡で自分の姿を確認して頭を抱えた。
 小学校低学年の容姿には似合わない首輪が存在を主張している。それを指先でつつきつつ、意識を集中させること数秒して冒頭に戻る。

(この姿のまま連れて来られたってことは、黒魔女だってバレてない、っていうのは期待しすぎですかね。たぶん大形京の仕業ですし。とにかく早く打つ手を考えなきゃ。)

 桃花は黒魔女だ。年齢は非公表だが、国によっては結婚できるぐらいには大人である。そんな彼女が、元が美少女とはいえ女児服を着て8歳児の真似をするという狂気の沙汰を現在進行系でやっているのは、それが仕事だからだ。
 大形京。この殺し合いの主催者の監視こそ、彼女の役目であった。
 彼は極めて強力な黒魔法の使い手であり、そして黒魔女への復讐心を持っている。ゆえに彼に知能や感覚を鈍麻させるとしか思えないぬいぐるみを常に手を付けさせ、家庭に存在しないはずの妹として潜入して暴走を抑えているのだ。
 元はと言えばどっかの黒魔女がおかしな教育をしたせいなのだが、さりとて放置しておけば世界を破滅に導きかねないし、かと言って殺すわけにもいかないのでこのような沙汰となっている。その役目の重大さは、今まさに起こっていることを考えればハッキリしているだろう。
 足早にトイレを出るとホームに戻り五感で分析する。その顔は険しいまま。
 桃花には確信があった。この殺し合いには大形が関わっていると。満ちる空気には闇の気配を感じ、なにより前科がある。たとえ関係ないとしても大形レベルの相手だと警戒したほうが良いだろう。それほどに危険性のある相手だ。
 この間も、魔界でクーデターを起こし危うく国が乗っ取られるところだった。彼女の先輩であるギュービッドや『お姉ちゃん』であるチョコと3人だけでは手に余る程の実力を持つ。そして高い実力はカリスマとなる。大形と組んで、あるいは従って、あるいは利用してのし上がろうとする野心のある連中と結びつくことで、国を2つに分断することすらやってのけるだろう。

(たとえ大形がいないとしても、今のこの状況がまずい。相手が黒魔女じゃないなら時間を巻き戻せばなんとかなるんだけどなあ。)

 考えれば考えるほど障害は多くなる。首輪をトントンとつつき続けながら桃花は思考を続ける。煩わしい頭痛を感じながら、一番の問題はこの首輪だと結論を出した。


819 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/06(月) 02:47:03 ???0

(この首輪、わずかですが魔力を感じます。隠されてこれなのか、それとも元々このくらいの魔力なのか。)
(でも、問題は『魔力が使われていない機械』。たぶんこういうのってカメラとかマイク付いてますよね。それだけでもめんどくさいけど、本当にマズいのは『時計』だよ……)

 桃花だけでなく、魔女学校を卒業した黒魔女ならば、この状況はなんとかできる。
 時間を巻き戻せたり様々な幻術を使える黒魔女からすれば、いくらでもやりようはあるのだ。
 そのやりようを封じられたのがこの首輪だ。
 黒魔女の使う黒魔法は、呪文や身振りを必要とする。強力なものほど準備は煩雑なものになり、常に監視されているなかでそれをやるのは困難だ。
 そして一番の問題は内部と外部の時計だ。これがなければ今すぐにでもなんとかできるかもしれない。
 時間巻き戻し魔法で殺し合いが始まる前に戻る。そして準備段階の主催者をシメるこれで終わりだ。
 しかしそれは、とても簡単な仕掛けで無効化されてしまえる。
 首輪に時計を仕掛けておいて、会場にも電波時計を仕掛けておく。
 首輪ごと巻き戻れば2つの時計は狂うので、時間を操作したとすぐにわかるのだ。
 これが家なら単に首輪の時計の時間が正しいものへと変えられるだけだろうが、バトルロワイアルの場なら待っているのは首輪作動だろう。

(ちょっと思いつくレベルでもこれ。しかも、別に時計とか仕掛けてなくても、首輪に付いてるだろう発信機が動かなくなったらズガン!っていうのもあり。さすがにそれだと抜け穴がなさ過ぎるからやめてほしいなあ。)

 なまじ自分が人に似たようなものを付けているからわかる。こういったものは絶対に外させないと思えば絶対に外れないように作れる。万が一外れてもどうにかなるように作る。
 大形の場合は諸般の事情でぬいぐるみにしなければならなかった上に、大形本人の潜在能力が高過ぎて隙が産まれてしまったが、それをこの首輪に期待するのは甘い見通しだ。
 そしてもう一つの課題。

(先輩、あんまり機械に詳しくないからなあ……)

 黒魔女は、人間界の機械に疎いのだ。
 桃花の火の国の黒魔女は新しい物好きも多いので機械を扱うものもいるのだが、それは魔界のものだ。そして魔界のものは、黒魔法を前提としている。そのため科学を前提としている機械を同じように扱ってしまえば、どんなミスをするかわからない。
 桃花は人間界のものはそこそこ広く浅く見識を深めているので首輪について考察できたが、これがギュービッドとなると嫌な予感がする。
 ギュービッドは優秀な黒魔女だが、人間界のものへの興味は女児向けのマンガやゲームに向いている。人間の機械は黒魔女には想像できないようなものもあるとはわかっているだろうが、なにぶん勝ち気な性格なので無茶なことをしないとは限らない。というかする。絶対する。あの人から無茶をとったら無謀が残ってやっぱりする。

(本当に、首輪さえ外せればなんとかなるのに。それが一番むずかしい。)

 現在、桃花が持ち込めてたのは杖とダイナマイトが一つずつ。これでもマシな方だが、欲を言えば黒魔女のゴスロリが欲しかった。黒魔女の服には、黒魔法を使うほどに魔力を帯びて使いやすくなるという特性がある。経験豊富で実力もある黒魔女のドレスは、相性はあるだろうが基本的にはお手軽な強化アイテムである。ゆえに黒魔女は同じ服を着続ける。
 しかし今の桃花は、桃花・ブロッサムの姿ではなく大形桃としての姿。人間では毎日同じ服を着ているわけにはいかないので着替えなくではならず、ほとんど黒魔法の助けにならない。

(……来た。)

 悩ましいことは多いが、桃花はかすかに聞こえてきた足音に考えることを一旦やめた。
 聞き耳魔法で捉えた足音は上階からだ。考えをまとめるためにこのホームからほとんど動いていないので様子はわからない。そろそろ動くべきだろう。
 桃花は髪を整えると女子小学生らしさをイメージして歩き出す。

(この姿で良かったことは人から警戒されないことぐらいかな。)


820 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/06(月) 02:48:10 ???0


(文字が読めねえ……識字障害を引き起こす薬物でも使われたか?)
(の割には、銃の文字は読める。クソッ、頭がおかしくなりそうだ。)

 黒尽くめの角張った顔の男は、慎重に地下街を歩く。
 黒いスーツに黒いサングラスという出で立ちは、手に持つウージーと合わせてマフィアにしか見えない。実際そのとおりの稼業なので、人に会った時の対応を考えながら、ウォッカはエスカレーターの前で止まった。
 ウォッカは黒の組織と呼ばれる謎の犯罪結社に所属する。なんならかなりの高位の幹部の右腕だ。
 そんな彼にとってこの殺し合いは己の正気を疑わざるを得ない状況だ。
 首輪にあるという人間を固める薬物はいい。おそらく似たようなものは組織にもある。この一つも日本語が使われていない地下街も、薬物の影響と納得できる。問題は、自分がそれに巻き込まれたことだ。
 当然だが、ウォッカにこんなものに巻き込まれる覚えは無いし、巻き込まれた覚えも無い。全くわからないうちに拉致される。そのことに戦慄していた。ウォッカは拉致する側であり、自分がそうならないような対策にも当然心得がある。それを全く無力化してのこれ。まるで素人同然な有り様に、動揺を顔に出さないようにするのが精一杯だ。

(情けねえ。これじゃあ組織に戻っても消されちまうぜ……)

 暗澹たる思いでエスカレーターを降りる。自分でも無警戒な振る舞いで駅の改札まで来た。別にヤケを起こしたわけではない。あまりにプロっぽい動きをしてしまうと交渉にならないからだ。
 ウォッカとしては、とりあえず人と会いたい。殺し合いといってもはいそうですかと直ぐに殺人を選ぶ人間は少ないだろう。いたとしても返り討ちできるので、わざと弱そうに歩く。相手がこちらをチンピラとみなして撃ってくるよつならカウンタースナイプするし、誘っているとわかるような相手なら交渉に持ち込み、怯えるほどに弱い相手なら保護を申し出る。本当に強い同業者なら何もできずに殺されるだろうが、その時は自分の不運を笑おう。

「なんだこの路線図……こんな地下鉄あったか?」

 ウォッカは横目で見ながらそう言うと改札脇の駅員窓口前を通り抜けた。
 記憶力に優れるとはいえ、さすがに日本の地下鉄全ての路線図が頭に入っているわけではない。だが違和感を感じるには充分だった。一度もこの路線図は見たことがない。それはわかる。
 頭に引っかかったが、すぐに他のことに考えを割くことになった。人の気配を感じる。サングラスの下で視線が揺れる。エスカレーターだ。そこから上がってきたのは。

(ガキか。あの首輪をしてるってことは。)
「あ、オジサン!」

 出会ったのは女子小学生だった。年齢は毛利小五郎の娘の側によくいる子供ぐらいか。良く言えばハツラツとした感じの、悪く言えばクソガキである。

「あのね、桃ね、気がついたらね、一人だったの。ケータイ貸してくれない?」
「そうか、そいつぁ大変だ。だが悪いなぁ、オジサンも迷子だし、電話も通じねえのよ。」
「そんなぁ……」

 嬉し気な顔が一転して陰り、小さな手でスカートを掴む。その目に涙が溢れてくるのを見て、ウォッカは出目で言えば『4』ぐらいかと思った。
 幼女と行動を共にすることにはメリットとデメリットがある。
 メリットは他の人間への第一印象を良くできること。自分の強面さはわかっているので、アクセサリーとしての価値は高い。
 デメリットは足手まといなこと。隠密行動にも戦闘行動にも多大な障害となるだろう。


821 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/06(月) 02:49:23 ???0

(サイコロで言うなら『4』ってところですかね。)

 ウォッカが値踏みするのと同じように、幼女こと桃花・ブロッサムもウォッカを値踏みする。
 一目見てすぐに闇の気配を感じたが、とりあえずは殺る気はないようだ。なら問題は無い。桃花は『子供を保護してくれる大人』という価値を提供し、『矢面に立つ大人』という価値を頂く。
 だがその立ち振る舞いには気になるところがあった。男はあまりに堂々と歩いていた。考えられるのは警戒心のない馬鹿か、そう装うタヌキ、気にする必要のない化物か。

(ボロを出さないように気をつけないと。)
(このガキ、何かがおかしい。)

 そして桃花が警戒するように、ウォッカも桃花を警戒する。
 それは直感だった。何かがおかしい。何かが違う。

(おかしいが……そう思うことがおかしいかもしれねえ。チクショウ、自分の正気を疑わなきゃなんねえってのはやりにくすぎるぜ。)

 だがその直感を信じきれない。
 元々ウォッカはロジックで考えていくタイプだ。そのロジックが前提から揺さぶられると動きがとれない。

((とにかく、正体がバレないように動く。))

 心中でどう相手を騙すかを考えながら黒い2人は自己紹介を始めた。



【0011 『南部』駅ビル】


【桃花・ブロッサム@黒魔女さんのハロウィーン 黒魔女さんが通る!! PART 7(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 ウォッカを利用する。

【ウオッカ@名探偵コナン 純黒の悪夢(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 桃(桃花)を利用する。


822 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/06(月) 02:50:22 ???0
投下終了です。
タイトルは『ダイスの目は4』になります。


823 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/09(木) 06:04:13 ???0
投下します。


824 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/09(木) 06:04:52 ???0



 竜宮レナの歩きははたと止まっていた。
 まるで未来を見てきたかのようなデジャヴや化けガエルの死体を見つけたことで、自分が覚せい剤の影響下にあると確信した彼女は、根本的な問題に気づいたのだ。

「いつの間にかヒロポン打たれたって、大変なことになってるんじゃ……?」

 自分の頭がおかしくなったのではなく薬物のせいだと結論づけて。
 じゃあそんなドラッグを使われてしまった自分は大丈夫なのかと、冷静になることで気づくことになった。

「どうしよう、クスリって一回でも使ったら一生依存するんだよね。今はなんともないけど、もしこのまま文字が読めなかったりしたら……」

 微妙にずれたことを考えながら、首をかく。薬のせいかストレスのせいか、なんだか首にかゆみを感じ始めている。そういったことは今までもあったことがあるので特段の驚きはないが、ウザったさはある。悩ましいことが山盛りなのに、そこにまためんどくさいことが起きるとまたストレスを感じずにはいられなかった。

「警察は、信用できない。自分で使ったと思われて逮捕させるかもしれないし。まずは……」

 首をかきながら独り言を言いながら歩き始める。とにかく突っ立っていても仕方がない。歩いたところでどうなるというわけでもないが、とにかくマトモそうな人でも見つけたい。そのマトモそうなとはどうやって見分けるのかも決めずに街を彷徨えば、いつしか見覚えのある景色が見えた。おや?と思って角を曲がると、そこにはさっきの化けガエルの死体。どうやらぐるりと回って同じところに出てしまったらしい。しかしレナが気になったのはカエルではなく、その側に立つ和服の男だった。
 どうやら行き違いになっていたが、この近くにも人がいたらしい。
 レナはじっと男を見る。方針はノープランだが、自分以外の人間に出会ったのなら接触は検討していた。問題は、男の人となりがわからないこと。腰に刀を差した侍っぽい男など、警戒してしかるべきだろう。

「この町、変な男の人しかいないのかな……」
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
(後ろ? しまった!)

 背後から男に呼びかけられて、レナの背筋が凍った。
 あまりに迂闊!
 自分が侍を見つけたように、誰かに見つけられる可能性を軽く見ていた。ほぞを噛む思いをしながら、それでもなんとか冷静さを保つ。わざわざ声をかけたということは、少なくとも直ぐには殺されはしないだろう。

 しかし、そのレナの期待はすぐに裏切られることになる。

(先手は取られたけど、まだ巻き返せる。)
「あの、実は──」

 振り向きざまに襲うことも考えつつ、レナはなるべく真面目な中学生らしさを意識して男に振り返った。実は男がお巡りさんだったりすれば、第一印象を良くしておけば、なんかこう、上手く行くかもしれない。そんな期待を込めたレナの目に入ってきたのは。

 ふんどし一丁の全身をハチミツでコーティングした、筋肉質な男の笑顔だった。
 思わず、視線が股間にいく。
 明白なもっこりの横からは黒い陰毛がはみ出ていた。

「変態だあああああああああああ!!!」
「ひでぶっ!」

 レナの拳が男へと突き刺さる。
 木霊する二人分の悲鳴とハチミツのヌメヌメを感じながらレナは確信した。
 この町ヤク使ってる人ばっかだと。


825 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/09(木) 06:05:19 ???0



「レナ殿、もう大丈夫でござるよ。」

 緋村剣心の言葉で、レナはおそるおそるキッチンからリビングを覗いた。

「いやー、いい湯だった。」

 そこにいたのは、すっかりハチミツを洗い落とし、なぜかバスローブを着込んで寛いでいる近藤勲だった。

(大丈夫じゃない!)


 ──レナの強力なパンチで起きた音は当然彼女が影から見ていた侍こと剣心にも聞こえたわけで。
 剣心がハチミツふんどし変態こと近藤と共に行動していたこともあり、3人で情報交換する流れとなっていた。
 もちろん、レナとしては避けたかったのだが、なにせ相手は侍を自称する変質者2人。しかもレナの考えとしては彼らもヤク中である。そのうえ侍らしく腰には刀。こうなってしまってはすぐに逃げられる体勢を整えつつ、2人にしたがって刺激しないようにするしかなかった。

「……すみません、近藤さん。さっきは気持ち悪いと思ってつい。」

 謝ってるのか謝ってないのかよくわからない謝罪をしつつ、レナもリビングのテーブルについた。
 近藤曰く、カブトムシを採るためにハチミツを塗りたくっていたらしい。まあシャブ中のすることだと流した。しかもお巡りさんらしい。世も末だが、無理やり覚せい剤を打たれればそうもなろうとなんとか納得した。
 近藤だけでなく、剣心も当然警戒している。第一印象では背丈は同じぐらいなのもあり同年代かと思ったら、軽く情報交換すると三十絡みの侍口調の変態だとわかった。というかそもそもあんなハチミツふんどしと理由があれど一緒に動いている時点で好感度はゼロだ。

(どっちも信用はできないけど。最低限の情報は聞き出さないと。)
「で、その鎧武者っていうのは?」

 なんでも剣心は鎧武者に襲われたという。また幻覚なのかと思ったが、しかしなまじ2人が侍なので考え直す。侍がいるのだ、自分を武者だと思い込んで襲いかかる可哀想な人がいてもおかしくないだろう。目の前に可哀想な人の実例があるので信憑性はある。
 刀と拳銃で武装して鎧を着て錯乱している男。危険人物のことは少しでも知っておきたいと、やむを得ず話に乗る。どうやら2人はその男を追っている中で、レナも見た化けガエル(レナにポケモンの知識は無い)を見つけ、首が刀で撥ねられていたことから近くにそいつがいると思って周りを調べていたらしい。
 情報交換が進むと、剣心はレナの出会った参加者の話に食いついた。

「背中に、『悪』の文字でござるか?」
「なんだ剣さん、知り合いかい?」
「ああ。相楽左之助。腕の立つ用心棒でござる。喧嘩っ早いが信頼できる男だ。」

 それから聞かされた左之助なる喧嘩屋の人となりでまた剣心への評価が下がった。どう聞いてもヤンキーである。なまじ園崎という存在が割と身近なので、どうしてもそっちの業界という認識になる。近藤といい人づきあい考えろと思った。
 そして思った。この2人から自分のことを話されたら、自分も変態だと思われるんだろうなと。

(聞きたいことは聞けたし、そろそろ離れよう。)

 もう2人から得られそうな情報よりも、関わり合いになるリスクのほうが大きい。そう判断して離れる口実を探す。
 しかしそれを思いつくより早く、2人の動きが変わった。突然剣心が窓際に立つと、外を伺う。すぐに近藤も続き、やや遅れてレナも窓の外を見た。
 そこにいたのは、天狗のお面をつけた変態だった。
 面の下から覗く白髪頭を見るに、オジサンだろう。そしてもう当たり前になった腰の刀。どうやらこのヒロポンは人間を侍にさせたがるらしい。

(また変態が増えた……)
「また刀持ったやつだよ。廃刀令違反だぞ。剣さん、レナさん見ててくれ。」
「いや、ここは拙者が行こう。その格好ではまた揉め事になるかもしれぬ。」

 離れると言い出せる雰囲気でなくなり、レナは内心で天を仰いだ。


826 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/09(木) 06:05:42 ???0



「──病院に探そうと思う。アキノリ、ここで診ていてくれ。半刻経っても戻らなかったら、死んだものだと思え。」

 怪我を負った日向冬樹を前にして、鱗滝左近次が考えていたのは数秒だった。
 命に別状はないが、それは適切な治療を施せればの話だ。放置すれば死ぬ傷というのは、鬼殺隊時代に見た傷と照らし合わせるればハッキリしていた。
 問題は病院に行くかと、冬樹を動かすかだった。病院には先の鎧武者のような危険人物がいる可能性はあるが、他の病院を探すよりかは確実に医薬品があるだろう。冬樹を動かせば傷に障るだろうが、より早く治療を行える可能性が高まる。

 取りうる選択肢は4つ。
 1、冬樹を病院に連れて行く。
 2、病院に行き医薬品を持って帰ってくる。
 3、冬樹を連れて別の病院を探す。
 4、別の病院を探して医薬品を持って帰ってくる。

 まず冬樹の傷の具合から連れ歩くことは難しいと判断した。大八車なりなんなりがあれば別だが、無い以上は鱗滝がおぶって行くしかない。この傷でそんなことをすれば傷を開くことは避けられない。
 となると病院から医薬品を持って帰る以外に道はないが、地図も土地勘もない以上、あの病院を探し当てれる保証がない。条件としては、大体の位置がわかっているので少し見つけやすい程度である。危険人物に会わないように気をつけて病院に入ることも考えると、他をあたったほうがまだ短時間だろう。

 鱗滝は最低限の応急処置と説明を残すと、直ぐに病院へと駆け出した。早く行動すればそれだけ冬樹の負担を減らせ、なにかあって時間を食っても持ち直せる。
 たとえば、他の参加者と会ったとしてもだ。

(! この気配は、近い。)
「失礼、拙者、緋村剣心と申す。急がれているようだが、話を聞かせてもらえぬか?」
「鱗滝左近次。怪我人の治療のため医者と病院を探している。知らぬのなら問答している間は無い。話があるのなら着いてこい。」

 町を駆けること30分。
 余計な戦いを避けるために隠密行動を心がけていたが、未だ病院は見つけられていなかった。判断を誤ったかとも思うが、他に妙案もないのでこれに賭けるしかない。そう考えていたところに突然とも言えるほど近くに現れた剣心に驚きながらも、鱗滝は素早く答えた。
 剣心も鱗滝の韋駄天ぶりには驚いていたが、話の内容に更に驚いた。「どちらも拙者に覚えは無いが」駆け出す鱗滝について行きながら続ける。「拙者が待たせている者たちならば知っているかもしれぬ」そう言うと、鱗滝の足は止まった。

「案内を頼めるか?」
「もちろん、こっちだ。」


「おーはえーなあ。」
(なんなの……人間なのかな。)

 一方、先の民家の窓から見ていたレナはドン引きしていた。
 天狗ハッピ変態に侍変態、ダブル変態がオリンピック選手みたいなスピードで走って行ったりこっちに来たりしている。
 この殺し合いマトモな人はいないんだろうなとまた確信を深めて、ストレスからかまた首を掻いた。


827 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/09(木) 06:06:10 ???0



【0140 市街地】


【竜宮レナ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
●大目標
 覚せい剤の幻覚をどうにかしたい。
●小目標
 また変態だ……

【近藤勲@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
 殺し合いに乗った連中を取り締まる。
●中目標
 レナさんを保護する。
●小目標
 手が足りねえ!

【緋村剣心@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 一つでも多くの命を救う。
●中目標
 レナを保護する。
●小目標
 鱗滝と話す。

【鱗滝左近次@鬼滅の刃〜炭治郎と禰豆子、運命の始まり編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める。
●中目標
 冬樹の治療を行う、戦力を集め、大太刀を倒す。
●小目標
 剣心たちと話す。


828 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/09(木) 06:06:39 ???0
投下終了です。
タイトルは『薬物乱用、ダメ、サムライ』になります。


829 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/11(土) 05:39:59 ???0
投下します。


830 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/11(土) 05:40:33 ???0



 智科リクトと嘴平伊之助の2人は、我妻善逸の死体からほど近い廃村に来ていた。
 野山で獣同然に生きてきた伊之助にとって、血や肉片を辿ることは造作もない。更に周囲にはいくつもの同じ足跡や不自然に倒された下草がある。容易に見つかったそこは、まるで人の気配を感じない無人の村。伊之助から見れば先進的な、リクトから見れば旧時代的な村だが、伊之助が気になったのは視覚ではなく嗅覚に訴えるものであった。

「血のにおいが強くなった。火薬のにおいもだ。」

 不機嫌さを隠しもしない言い方でずんずん進む。直ぐに臭いの元は2人の前に現れた。
 先に伊之助と会っていなければ目を疑っていただろう。リクトが見たところ、馬か何かの着ぐるみの上から警備員の制服を着たような巨体だった。首は無く、体の各所に銃で撃たれたような跡がある。そして首輪には一発の銃弾が撃ち込まれていて、全身が硬直していた。

「死後硬直かな? 銃で撃ったあとに首をはねた。」

 また血の気が下がる感覚を覚えながら、冷静になるように努めてリクトは言う。自分にできることは科学の知識を使うこと。人間なのかも怪しい死体ではどこまでやれるかはわからないがやるべきことはやる、そう気合を入れ直すリクトの耳に聞こえたのは、底冷えするような「違う」という伊之助の声。

「首ハネてから撃ったんだろ。善逸と同じで手足の傷から血がほとんど出てねえ。なのに、首の周りは血まみれになってやがる。」
「なるほど……」

 伊之助の言葉に感嘆と嫌悪が混じった声をあげた。
 大して身の上話などしていないが、伊之助の言葉には説得力を感じさせる凄みがあった。獣として生きてきた経験から、生き物と死肉の血の流れ方は安全な食事に直結するため理解している。ゆえにわかる。

「この鉄砲ヤローは死体を撃ちやがった。善逸も同じヤローに殺されたんだ」

 怒気を顕にした声に、リクトにかける言葉は無かった。
 死体が残っていることから鬼ではないのだろうが、この頸を撥ねたのは善逸だと直感で理解していた。鬼殺隊でもなければ頸などそうそう撥ねられないからだ。そして、2つの死体には同じ大きさの銃の傷があった。なら、状況は簡単だ。
 おそらく善逸は馬人間と戦っていた。そして頸を撥ねたところを銃で撃たれた。耳の良い善逸なので、隠れ潜む相手に気づかないはずがない。撃たれないと思った相手でなければ、躱せないということはないだろう。
 つまり、善逸は騙し打ちされた。味方だと思っていた相手に撃たれ、死んだ後まで撃って壊された。状況を五感で分析すると、伊之助はそう結論づけた。

「銃持ってるヤローが善逸殺したヤローだ。探すぞ!」

 言うが早いが伊之助は刀を地面に突き刺して、両手を広げた。
 『漆ノ型 空間識覚』。
 伊之助だけが使える獣の呼吸により、元から高い触覚の感覚を極限まで高める技術である。
 それは今までも何度か使ってきたが、今回の空間識覚は常よりもなお鋭く気配を読み取る。赤い霧の阻害も、生き物が全くいない森という好条件で無理矢理にねじ伏せて、全集中により捉えた。
 感知範囲ギリギリに動く気配。

「誰かいるぞ! リクト! 着いて来い!」

 そうと決まれば、猪突猛進しようとして。

「待ってください! お願いがあります!」
「あぁ!? 後にしろ!」

 刀を抜いて駆け出した伊之助は、思いっきりつんのめった。
 ガラの悪い叫びを浴びせる。元々あってないような堪忍袋の緒は善逸の死によりマカロニより短くなっている。少し前の自分なら置いてってると思いながら次の言葉を待てば、リクトは馬人間の死体を指差した。


831 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/11(土) 05:42:31 ???0

「秀人! みんなとさっき会ったところで待ってて!」

 そう言い残すと、シスター・クローネは本気で走り出した。体形からは想像もつかないような本格的な走りに、追われている次元大介は目を剥く。
 なんであんなメイド服みたいな格好で、足場の悪い暗い森をマラソンランナーのような速度で走りながら銃を撃てるんだ。

「くそーっ、傷が開いちまってきたぞ。」

 悪態をつきながらジグザグに、それでいて距離を稼ぐように走る。先の廃村でのダメージが残っている中でこのクロスカントリーは流石に堪える。おまけに相手は走りながらでも正確な銃撃を加えてくる。しばらく走ったが、逃走に専念させてもらえない。
 こうなっては仕方がない、殺す気はないが痛い目で黙らせてやろうとも思うが、手負いで帽子もない自分では、一発で黙らせられないため却下だ。バッドコンディションですぐに無力感できるほど甘い相手ではない。

「うおおおおお! 猪突猛進! 猪突猛進!!」
「なにっ。」
「なんだぁっ。」

 どうするべきか、そう悩む次元の横合いから聞こえてきたのは、やたら気合の入った奇声。なにかめんどくさいのがまた来てるともうげんなりしてるが、藪から顕れたそれを見て、次元は咥え煙草をしていたら落としたであろうほどに口をぽかんと開けた。
 頭はイノシシだろうか。獣の頭にムキムキの上半身、和服っぽい下半身の、二刀流男。エキセントリックな格好をしているやつがエントリーしてきた。その頭には、なぜか落としたはずの次元愛用の帽子を被っている。そして腕輪のように、血のついた首輪を着けていた。

「猪突猛進だからイノシシなのか?」
「お前ら! 金髪のいけすかねえヤロー見なかったか!」

 そして開口一番、叫んだ。両手の刀をそれぞれに向ける。思わず終わっていた追いかけっこ、クローネと視線が交差する。木陰に隠れながらどう返答すべきかを考えたのは、次元の一番の失敗だった。

「金髪の男の子なら見かけたわ!」

 次元がなにか言うより早くクローネは叫び返した。クローネは善逸より伊之助の情報を得ている。おおかた仲間の仇討ちにでも来たのだろうと、必要最低限のことを言った。死に目にあったことを話してお前が殺したなどと疑われればたまらない。

「ああ、さっき襲われたぜ!」

 一方の次元は、伊之助の「いけすかねえヤロー」という彼なりの言葉、廃村に亡くしてきた帽子、そして腕の首輪から、自分と同じように廃村で襲われたと判断した。あの廃村には自分たちより先に誰かがいたことは、帽子を探しがてら見つけた足跡でわかっている。一度逃げてから次元と入れ替わりでもう一度廃村に行ったのだろうと思い、嫌な予感を感じた。

(──そういやあの足跡って、渡辺直美の──)

「『捌ノ型 爆裂猛進』!!」

 咄嗟に飛び退いた、自分の体が見えた。
 隠れていた木ごと頸をぶった斬られている。

「──チックショウ、ドジ踏んだぜ。」
「土に還れ。」

 らしくないミスを重ねた。そう後悔するが、あまりにも遅い。
 走馬灯すら見る間もない、神速の踏み込み。
 上弦の陸・堕姫すらも驚愕させた、善逸の霹靂一閃に匹敵する高速移動。
 かすかに五エ門の顔が浮かび、次いでルパンの顔が浮かんで、次元の意識は闇に落ちた。


832 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/11(土) 05:43:43 ???0



「ハァ……ハァ……伊之助さん、速すぎるよ……どこ行ったんだろう。」

 同じころ、リクトは廃村から少しした森を、善逸の日輪刀を抱えて走っていた。
 彼が伊之助を呼び止め頼んだのは、馬人間から首輪を外すことだった。これから先、首輪の解除のためにはサンプルが必要だ。とはいえ生きた人間から取るわけにはいかないし、人間でなかろうと生き物から取るわけにも、死んでいようと人間から取るわけにもいかない。
 ゆえに、『死んだ化物』から首輪を取るというのは、リクトの中でギリギリのラインだった。
 調べたところ、キグルミでも伊之助のような被り物でもなく、本当に特撮に出てきそうな怪人だった。それだけで充分科学的な興味はそそられるが、それより大事なのは首輪だ。

「取ったらソッコー行くからな! 首輪は持ってくからな!」
「ナムアミダブツナムアミダブツ……わかりました。」

 見様見真似のお経を上げて、「取れた
!」という声で目を開けたときには「猪突猛進!」と走り出していた。慌てて追いかけるも、さっきのような超感覚で探し出せると思っている伊之助は無視して行ってしまった。元々善逸の死でいつもよりなお猪突猛進だったのだ、呼び止めて協力してもらえただけでも、初対面の人間としては奇跡の部類にはいる。

「あの〜……」
「うわ!」

 と、息を整えつつ足を止めたところに声がかかる。キョロキョロと見渡すと、木の影から女の子が覗いていた。
 彼女の名前は二神・C・マリナ。
 今まさにリクトの同行者、伊之助によってかつての同行者、次元を殺されている少女である。



【0200 廃村周辺の森】


【智科リクト@怪奇伝説バスターズ 科学であばく!!旧校舎死神のナゾ!?@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを破綻させる。
●小目標
 伊之助と合流する。

【嘴平伊之助@鬼滅の刃ノベライズ 〜遊郭潜入大作戦編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 クソウサギをぶっ飛ばす!
●中目標
 リクトを守る。
●小目標
 デブ(クローネ)から話を聞く。

【シスター・クローネ@約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する。
●中目標
 対主催集団を作っておく。
●小目標
 伊之助から話を聞く。

【二神・C・マリナ@ミステリー列車を追え! 北斗星 リバイバル運行で誘拐事件!?@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 この事件を解決したい。
●小目標
 次元さんと合流したい。


833 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/11(土) 05:44:24 ???0
投下終了です。
タイトルは『ことろことろのおわりとはじまり』になります。


834 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/11(土) 05:45:24 ???0



【0222 廃村周辺の森】


【智科リクト@怪奇伝説バスターズ 科学であばく!!旧校舎死神のナゾ!?@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを破綻させる。
●小目標
 伊之助と合流する。

【嘴平伊之助@鬼滅の刃ノベライズ 〜遊郭潜入大作戦編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 クソウサギをぶっ飛ばす!
●中目標
 リクトを守る。
●小目標
 デブ(クローネ)から話を聞く。

【シスター・クローネ@約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する。
●中目標
 対主催集団を作っておく。
●小目標
 伊之助から話を聞く。

【二神・C・マリナ@ミステリー列車を追え! 北斗星 リバイバル運行で誘拐事件!?@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 この事件を解決したい。
●小目標
 次元さんと合流したい。



状態表間違えてたので訂正します。


835 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/11(土) 05:46:44 ???0



【0222 廃村周辺の森】


【智科リクト@怪奇伝説バスターズ 科学であばく!!旧校舎死神のナゾ!?@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを破綻させる。
●小目標
 伊之助と合流する。

【嘴平伊之助@鬼滅の刃ノベライズ 〜遊郭潜入大作戦編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 クソウサギをぶっ飛ばす!
●中目標
 リクトを守る。
●小目標
 デブ(クローネ)から話を聞く。

【シスター・クローネ@約束のネバーランド 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する。
●中目標
 対主催集団を作っておく。
●小目標
 伊之助から話を聞く。

【二神・C・マリナ@ミステリー列車を追え! 北斗星 リバイバル運行で誘拐事件!?@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 この事件を解決したい。
●小目標
 次元さんと合流したい。


【脱落】

【次元大介@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】



すみません、再訂正します。


836 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/14(火) 05:00:19 ???0
投下します。


837 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/14(火) 05:01:25 ???0



 バトル・ロワイアルでオープニングで首輪外そうとするタイプ、という人種が存在する。
 古今東西様々なデスゲームにおいて、行動力はあるものの忍耐力や思考力といったものがない人間も多数参加してきた。
 そういう人間は参加者になれば場をひっかき回す存在になるので主催者も参加させたがるのだが、同時に彼らには役割がある。
 すなわち、見せしめ。
 このロワではサイコロステーキ先輩こと、累に切り刻まれた剣士のようなそこそこの戦闘力を持った人間が選ばれやすい。ただ一人だと確実に動いてくれるかわからないので、そういうタイプは何人か参戦させがちである。複数のうち誰かしらかを見せしめにして、あまりは参加者というわけだ。

「ねーこれカメラどこー!? アタシノーメイクなんだけどー!? それとも心霊ゲンショー!? チョコー! いないー?」

 さて、この少女紫苑メグはまさしくバトル・ロワイアルでオープニングで首輪外そうとするタイプだった。
 ブランド物の服に、時間をかけてセットされただろう髪、そしてバカっぽいしゃべり方。
 メスガキという言葉がしっくりくる彼女は、ホラー映画のお色気ブロント美女のように序盤も序盤で死ぬことを期待して参加者にさせられた。
 実際、1度目のループにおいては他の参加者を見つけてドッキリだと安心すると、直ぐさま首輪を外しにかかり、力ずくで引っ張った結果脱落した。
 期待通りの結果に主催者であり彼女のクラスメイトである大形京はひとしきり笑い、彼女が騒いだために同じくクラスメイトである須々木凛音も死ぬことになってまた笑ったのだが、それを見たギロンパとしては興ざめである。
 デスゲームに詳しくない大形としては単に参加者にしたら自滅しそうだなぐらいの感覚だったが、デスゲーム主催者のギロンパとしては、こういう展開はもっと目立つところでやってもらいたい。これだとなんでメグを参加者にしたのかわからなくなる。
 というわけで彼女は。

「ねぇー! ほんとうにだれもいないのー! ねぇー! ねぇーったら……」

 配置をずらされて近くにいる参加者も変更されていた。
 おかげで森の中で1人きりである。
 ふだんなら落ち着くという言葉も落ち込むという言葉も縁遠い彼女だが、今回は流石に参っていた。
 東京で暮らし活動エリアはもっぱら原宿。そんな彼女に、赤い空と赤い霧に覆われた森など不気味すぎる。

 さて、彼女はバトル・ロワイアルでオープニングで首輪外そうとするタイプである。
 デスゲームにおいてそう何人もいらないタイプだ。なにせ人数が多いと心理戦や頭脳戦といったものに発展させにくくなってしまう。
 あまりいると、「なんでこのメンツでこいついるんだよ、もっと他に参加者にした方がいいやついただろ、名簿考えて作れよ」などと観客からブーイングがくる。
 「主人公の幼なじみよりカップリング優先しろ」だとか「マーダー候補増やせ」だとか「原作見てない奴が作った名簿」だとか「主要キャラだけど枠考えたら抜いても良かったんじゃ」だとか「首輪解除要因と差し替えろ」だとか観客からブーイングがくる。
 というわけでギロンパも最初はメグも参加者から外すことも検討したのだが、そこで大形からNGが出た。
 大形としては彼が執着するチョコの腐れ縁であるメグの参加はマストである。
 そんなことを知らないギロンパはこれだから素人は困るなどと思いながら、彼女でも役目を果たせそうなところへと配置換えした。
 バトル・ロワイアルでオープニングで首輪外そうとするタイプから、ホラー映画のお色気ブロント美女のように、序盤も序盤で殺人鬼に殺させるために。


838 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/14(火) 05:04:00 ???0

「……だれ?」

 木を背にして座り込んだ彼女の耳に、草が擦れる音が聞こえてきた。
 この森に入ってからほとんど風を感じていなかったところになった音に、人との遭遇を期待する。クマだとかの野生生物が出てくるという発想がゼロのあたり、彼女がデスゲームで長生きできそうにないとわかるだろう。
 デスゲームで野生生物に襲われること考えろという方が趣旨考えろと言われればそのとおりだが、とにかく現れたのは忍者っぽい男だった。

「……ガキか。」

 男の名前は、乙和瓢醐。
 雪代縁の六人の同志の一人で、暗器などでなぶり殺しにすることに喜びを見出す異常殺戮者である。
 道化のバギーに都合2度出し抜かれた彼は、素早く離脱すると態勢を整えようと森を駆けているところであった。
 思いの外ダメージがあり足音を消しきれなかった。そのことに反省するも、思考は直ぐに目の前の相手を殺せるかに変わり、そして直ぐになぶり殺しにできるかに変わった。
 多少息は上がっているが、戦闘への支障はほぼない。ダメージも相手が幕末の強者ならともかく、並の警官よりもなお弱い女子一人ならまるで問題は無い。

「なに? コスプレ? あ! わかった、ドッキリだこれドッキリ! なんか鬼ごっことかそういうの?」
「……ああ、鬼ごっこの時間だ。」

 瓢醐の体が風になる。
 20メートルほどの距離をまたたく間に詰めると、鎌のような異形の刀を振るう。
 メグが慌ててポケットから何かを取り出すが、あまりに遅い。一転して驚愕に染まった瞳に切っ先が突き刺さる。手首のスナップ。眼球がえぐりだされ、眼軸をもう一方の刀で切断し切り離す。痛みを感じさせるより早くえぐってしまったことを微かに後悔しながら視線をメグへと戻した瓢湖に。

「イヤーッ!」
 ブシュウウウウウウウウ!!
「グワーッ!」

 メグの悲鳴と共に何かが顔へとかけられ、今度は瓢湖が悲鳴を上げた。

(目潰し……唐辛子!)

 ボロボロと涙が流れ、鼻は殴られたように痛み、喉は呼吸を止めさせるように動きが鈍い。
 幕末は闇乃武として幕府の汚れ仕事をしてきたからわかるが、それの厄介さはよく理解している。至急顔を洗わなければ今後の戦いに大きな支障が出る。

「ごで、ごぼぅ、ごぼっ!」

 捨て台詞も吐けずに逃げ出す。元々瓢湖はいたぶりたいから襲いかかったのであって、自分がやられるのは割に合わない。抜刀斎のように友の仇であれば、不殺の信念を嘲るのも含めて特攻する気になるが、基本雑魚狩りが目的である。
 脇目もふらずに、ふれずに森を駆ける。なんと3度も殺し損ね、あまつさえ今までで最も大きなダメージを負った事実に激怒しながら、瓢湖は森へと消えた。


「ひっ、ひっぐ、い、痛いよぉ……!」

 取り残されたメグは、瓢湖が来る前と同じように木に持たれかかる。その左目からは涙を、右目から血を止めどなく流しながら、終わらない嗚咽を続けた。
 メグが持っていたのは痴漢撃退用のスプレーだ。こんなものを使うという発想は全く無かったが、瓢湖の姿から『不審者に襲われるドッキリ』だと勘違いしたのが幸いした。
 その結果、彼女は片目を失うだけで助かったのだから。

「な、なんでこんな、やだぁ……やだよ……」

 力無く泣く彼女に声をかける者はいなかった。


839 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/14(火) 05:07:34 ???0



【0123 『北部』山岳部裾野の森】


【乙和瓢湖@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 殺しを楽しむ。
●中目標
 赤鼻の男(バギー)を殺せる手段を考える。
●小目標
 顔を洗う。

【紫苑メグ@黒魔女さんが通る!! チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
●大目標
 助けてほしい。


840 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/14(火) 05:08:23 ???0
投下終了です。
タイトルは『バトル・ロワイアルでオープニングで首輪外そうとするタイプ』になります。


841 : 名無しさん :2023/03/15(水) 00:21:52 SQu5rg660
投下乙です
いつも感想が追いつかないので、3話ほどまとめて感想を言わせてもらいます

>薬物乱用、ダメ、サムライ
男三人だけなら特に問題なかったのに、現代に近い時代のレナが混じったばかりにカオスにw

>ことろことろのおわりとはじまり
次元がこんな形で退場するとは……
このロワの彼は、つくづく間が悪かったなあ

>バトル・ロワイアルでオープニングで首輪外そうとするタイプ
乙和、重傷は負わせたものの一般人に撃退されるとはふがいない
まあ時代的に防犯グッズの知識なんて無いから仕方ないね


842 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/23(木) 03:25:21 ???0
感想ありがとうございます。
読んでもらえるのはやっぱ嬉しいですね、ええ。
ちょっとこれからは似たノリの企画のコンペに児童文庫を輸出しに行くんでペース落ちますけれど、こっちもこっちでコンペみたいなもんなんで好きに楽しんでってもらえたらと思います。
それでは投下します。


843 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/23(木) 03:25:53 ???0



 キットンは首輪を手にして固まっていた。
 キットンは首輪を手にして固まっていた。
 キットンは首輪を手にして固まっていた。

「大事なことなので3回も言ってしまいましたが、これは……」
「もっと出せるよ〜。」

 ポイ、という擬音と共に更に首輪が置かれる。
 バトル・ロワイアル開始から5分、キットンは外れた首輪を手に入れていた。



 事の顛末はこうだ。


 〜回想はじめ〜

キットン「いやー、殺し合いに巻き込まれてしまいました。どうしましょうか。緊張するなぁ。」

クララ「ドーン!」

キットン「なんかスゴい音聞こえてきましたね。興奮してきましたね。ちょっと見に行きましょう。」

クララ「イルマっちー! アズアズー! みんなどこー!」

キットン「何言ってるかわかんないですけど人を探してるみたいですね。ちょうどいい、話を聞いてみましょう。すみませえええええん!!!!」

クララ「え、何語?」

キットン「あ、そうだ、言葉通じないんだった。」


 〜回想おわり〜

 以上だ。
 その後2人は言葉は通じないがお互いが仲間を探していることを理解し合い、今に至っている。
 問題は、その情報交換中にクララがどこからともなくジュースとおやつを取り出してからである。

「ムムムムム……なるほど、おそらくクララさんの魔法は『見たことのあるものを持ってこれる』、でしょうか。」
「これね、私の家系の特技なの! 見たことあるものなら何でも出せるよ!!」

 キットンの言葉はわからないが勘で言いたいことを察すると、ウァラク・クララは制服のポケットからまたお菓子を出してみせた。
 見た目はまんま中世の農夫で、職業も『農夫』のキットンからしても、クララの魔法は特異なものだとわかった。
 キットンは一応冒険者だ。メイン武器が図鑑で攻撃に使えそうなものがクワでサブクラスが薬剤師のバリバリの支援職だが、パーティーに魔法使いもいるのである程度は魔法への造詣や魔力を感じるセンスもある。
 しかしクララの用いた魔法はどれだけの高度さが要求されるのかもわからない、図鑑にも載っていないようなすさまじいものだ。

「これはスゴイですよ! 私たちが殺し合わなくてはならないのはこの首輪のせいです! その封印を解くには首輪のサンプルが必要ですが、これならいくらでも手に入ります! クララさん、あなたはスゴイですよ!!」
「えへへ、それほどでも、ある!!」

 見た目はくさそうな小さいおじさんが、見た目はハデな髪色の女子高生の手を取ってぐるぐる回る。一見すると犯罪的絵面だが、当人たちにとってはそんなの関係ない。殺し合いから脱出するための第一歩が、本人たちは知らないがふつうなら半日以上かけてやる対主催のフラグ立てが即行で終わったのだ。これなら殺し合わなくてはならないと思っている参加者を止めやすくなるし、それだけ犠牲者が少なくできる。

「やりましたねぇ! あとは首輪を調べられられる設備と首輪を解除できる人を探すだけです!」
「そんなにホメられても、アイスしか出ないよ!」
「あーっ急に手を離すと飛んで行くううう!!」

 人間台風と化していた2人が、ポップコーンをぶちまけながら分離する。
 キットンの頭の上にアイスがコーンを上にして突き刺さる。
 クララが横回転から縦回転へと移行する。
 背中へと伸ばした手で自分の足を掴み、円形になる。
 そして車輪から外れたタイヤのように転がっていって、見えなくなった。


844 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/23(木) 03:26:33 ???0



 暗御留燃阿とミモザは公園から離れて町に潜んでいた。
 蜘蛛の鬼(姉)の感知範囲がどれほどのものかわからないので、姿をごまかす魔法をかけ、ほうきを飛ばしてだいぶ移動する。その間、銃声のような音も聞こえた気がしたが、幸か不幸か誰とも会わずに落ち着けそうな場所を見つけられた。
 背中から手を回し、空飛ぶ魔女にしがみつくという経験はさすがにミモザにもない。高度を落としてビルの屋上に着陸した時には、安堵で足の震えが治まった。
 ──それが襲ってくる怪人から逃げ果せたことによるものとは、決して認める気はない。

「ここならいいかしら。腰を落ち着けてお話しましょう? ミモザ。」
「え、ええ。暗御留燃阿さん。」

 ほうきを片手に颯爽と歩く暗御留燃阿のあとに続く。
 彼女が「ルキウゲ・ルキウゲ・アプリーレ」と取り出した杖を振るって唱えると、ドアからカチャリと音がした。屋上ならば閉まっているであろうそれは、暗御留燃阿がノブを引くと当然のように開く。
 まさしく魔女の所業に、ミモザは固唾を呑んだ。
 ここに来るまでの空中、彼女はラ・メール星については話さないように、つまり姉であるパセリの経歴を騙る方法で能力などについて説明した。数ヶ月前から記憶喪失で、北海道でおじいちゃんとおばあちゃんとお兄ちゃんと暮らしていた小学生、というのが今のプロフィールだ。だがそんなことよりも特に関心を持たれたのは、やはりミラクル・オー。あの水はなんなのかについてはしつこく聞かれた。
 無論、教える気はない。あれはミモザが手に入れた力の象徴であり、現在の存在価値の証明だ。利用価値があると思わせるためにも、なんとかはぐらかした。

(そう、こいつは魔女よ。あの時助けてくれたのだって、利用するために決まってるわ。でも、利用するのはこっちよ……!)

 心の中で翻心を抱きながら、暗御留燃阿の後を行く。
 そんな彼女に告げられたのは。

「──それでは、しばらくは別行動としましょうか。」
「……え?」

 突然の解散宣言だった。

「な、なんで。」
(ウソだって気づかれた? そんな、どうして!?)
「あなたの言っていた、隼人だったかしら。似ている男の子を見かけたかもしれないわ。ここから少し離れたあの鉄塔の近くね。待ってて、すぐに会わせてあげるから。」

 あからさまに動揺するミモザと対照的に、暗御留燃阿は冷静に言う。その姿からは考えが読めない。しかしミモザを焦らせるには充分だった。
 今知り合いと会うのは非常にマズい。ウソを突き通す演技の準備も何もない上に、隼人も秀人も事情を知らなければ腹芸ができるタイプでもない

(うれしいけど、今じゃない! 今会われたら、きっとコイツはウソを見抜く。なんとか先に会わなきゃ!)
「なら、私が行くわ!」

 咄嗟に言うしかなかった。

「私なら本当に隼人かわかるし、隼人も信じてくれるわ! 隼人は、疑い深いから、私が行ったほうが確実よ。」
「そう。あなたがそう言うならいいけれど。場所は、見えるでしょ、あの鉄塔の辺りよ。」
「わかった。待ってて。」

 なんとか暗御留燃阿を行かせないで済んで、またも安堵する。
 そんなミモザを冷徹に見る彼女の目には気づかなかった。


845 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/23(木) 03:27:20 ???0

(ここまでは予想通り。あなたの成績をチェックさせてもらうわ、ミモザ。)

 暗御留燃阿は小走りでエレベーターへと駆け込んでいくのを見届けると、屋上に戻りほうきで空を飛ぶ。
 教えたとおりの方向へ向かうミモザの頭上につくと、じっくりと観察を続けた。

(ウソツキな子どもはウソツキな大人に利用されるのよ。)

 ミモザに教えた知り合いの情報はウソだ。
 たしかに鉄塔の近くで人影を見かけたが、それはなにやら騒いでいた二人組で、ミモザと同年代の男子など全く見ていない。
 暗御留燃阿が知りたいのは、ミモザの能力。そのために他の参加者とぶつけてスペックを調査する。そのためにミモザが一人で動くように誘導した。戦闘力はそこそこあるのだろう、多少リスクはあってもいざとなれば自分が手助けしてやればそうそう死にはしない。
 そう考えて数分もすると、誘導したミモザの様子が変わる。おおかた耳を澄ませているのだろうか、なにか能力は使わないかと高度を落として注視する。騒がしい声が暗御留燃阿にも聞こえてきたところで、ゴロゴロと輪っかが転がってくるのが見えた。

(え、なにあれは。)
「な、なんなの!?」
「ドンガラドンガラドーン!!」
「あああああ危なああああああい!!!!」

 傍から見てても困惑するのだ、間近で見たミモザは驚愕しているだろう。
 なにせ、『人が輪っかになって転がってきて自動販売機にブチ当たった』のだから。

(あれさっきの騒がしい二人よね、なにあれ、人間?)

 正解である。人間ではない、悪魔だ。
 ブチ当たったのはもちろん、キットンとフザケていたクララである。
 首輪を出してから早2時間。波長が合ったのかキットンと打ち解けたクララは、2時間あのノリで騒いでいた。いちおう二人でお互いの仲間に向かってそれぞれの文字で書き置きを残しつつ人を探していたのだが、なにぶん互いの仲間しか読める者のいない文字のため、やってることはスプレーでそこかしこに落書きをしているようにしか見えない。
 暗御留燃阿が目撃したのもそんな光景だったのだが、たまたまなんやかんやあってクララが自分をボールにしてボーリングしているところにミモザは出くわしたというわけである。
 なぜクララがそんなことをしたのか。その答えは一つ。
 クララはバカだからだ。

(ま、まあいいわ。これであの子がどういう反応をするのか見ましょう。)
「うわあああ『ペルモン オー サクリー』! 『ミラクル・オー』!! 私にそいつを近づけるなあぁぁ!」
「フギャアアアアア!!??」
「うわ、即殺し。」

 ドン引きする暗御留燃阿の前で、ミモザは先の戦いでも使った水を使う。やはりと言うべきか、あの『ミラクル・オー』なる水は毒性があるようだ、『ペルモン オー サクリー』というのはそれを操る呪文だろう、そう水をかけられた少女を見て分析する。駆け寄ってきて助け起こしている男といい何語なのかはわからないが、よくよく見れば人間ではないと推察する。

「あら? あれってまさか……」

 人間離れしたスピードで駆け出したミモザが気になりはするが、暗御留燃阿が目ざとく見逃さなかったのは道路上に転がる輪っか。もしかしてと思い近づけば、それは紛れもなく首輪だった。

「■■■■■! ■■■■■!」
「■■■、■■……■■■……!」
「……まさか、ね。」

 まさかあの二人が誰かを殺して首輪を手に入れたというわけではないだろう。ないだろうと思いたい。でないと大形の時以上に自分の観察眼を疑わざるをえなくなる。
 きっとこれは、あの二人が道っぱたで拾ったとかそんなんだろうと自分を納得させた。

「それにしても……もう首輪が2つ。しかもそれを『ヤった』参加者が首輪を落とさなくてはいけない事態が起こっている。油断できないわね。」

 暗御留燃阿はそう呟くと、ほうきをひるがえしてミモザの後を追った。


846 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/23(木) 03:30:13 ???0



「フォー……エバー……ラーブ……フォー……エバー……ドリーム……」
「どうして……どうして現場に血が流れるんだ!!」

 毒で錯乱しつつ、クララは弱々しく鼻歌を歌う。
 段々と目の前が暗くなり、自分を抱き上げて助けを呼ぶキットンの声も体臭もわからない。

 クララもキットンも理解していなかった。
 町には自分たちの仲間への書き置きが、スプレーによる奇怪な文字の落書きとして残り。
 手には首を撥ねねば手に入らないはずの首輪を持って気勢を上げるくさい男と、やはり奇声を上げて人間パンジャンドラムで突っ込んでくる女。
 どう見ても首輪を狩って回っているイカれマーダーコンビである。
 しかし首輪を手に入れたことで全く気が回らなかったキットンと、元々難しいことを考えるのが苦手なので馬が合うキットンのテンションに便乗したクララでは、そんなことには全く気がつかなかったのだ。

 魔界の悪魔である彼女だからなんとか耐えられてはいるが、ミモザによって毒の水と化したミラクル・オーは着実に彼女の命を奪っている。
 毒の知識もない上に、そもそもミモザしか作り出せない毒なので解毒剤も無い。
 つまりチェック。よほどのことがない限り助からないのだ。
 クララの脳内に走馬灯が流れる。
 楽しかった学校生活、無駄なことは一つもなかった。
 おままごとしたりレースしたり万引き扱いされて追いかけられたり。
 いやけっこう無駄なこと多かっただろこれ。
 しかしそれらも楽しい思い出だ。

 刻一刻と意識が遠のく。
 首輪解除の鍵は、いきなり死にかけていた。



【0202 町】


【キットン@フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち(フォーチュン・クエストシリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 みなさん(フォーチュン・クエストのパーティー)と合流したい。
●小目標
 クララを助ける。

【ウァラク・クララ@魔入りました!入間くん(1) 悪魔のお友達(入間くんシリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 ???

【暗御留燃阿@黒魔女さんのハロウィーン 黒魔女さんが通る!! PART7黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する。
●中目標
 主催者の大形を出し抜けるような人間を弟子にする。当面は首輪の解析ができるような。
●小目標
 ミモザを追う。

【ミモザ@パセリ伝説 水の国の少女 memory(10)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する。
●小目標
 くさい男(キットン)と変な女(クララ)から逃げる。


847 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/03/23(木) 03:35:36 ???0
投下終了です。
タイトルは『首輪解除の鍵』になります。
あと書き手枠が半分埋まったんでそろそろ児童文庫オリジナルじゃない作品からは参加者絞ってきたいと思います。
児童文庫ロワなのにジャンプに頼りすぎてはいけない(戒め)


848 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/04/19(水) 00:00:05 ???0
投下します。


849 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/04/19(水) 00:01:15 ???0



「なんてことだ……なんてことだ……」

 温泉旅館で浴衣姿の少女、天照和子は怯えていた。
 高級そうな内装にはそれにふさわしい家具があり、材質はわからないがなんか高そうな小机の上には、これまた高そうな籠に入れられたおかしがいくつかある。
 その空き袋を震える手でつまむと中を呆然と見る。
 当然だが、空き袋なのだから中身は無い。
 ではそれがどこに行ったかと言えば、和子の体内。
 つまり、おかしを食べたのは他ならぬ彼女であり──

「ヨ、ヨモツへグイだーっ!?」

 絶望的な叫び声を上げると、ガックリと机にうつ伏せになった。


 天照和子は歴女である。
 家には大河ドラマのBOXが並び、口を開けば歴史のことか最低限の事務的なこと、無論友だちはおらずそもそも歴友以外を求めていない。
 そう、歴史だ。悠久の歴史ロマンのみが彼女の心を踊らせるものだ。専門は戦国だが、幕末もイける口だ。もちろんそれ以外の日本史も囓っている。この分野なら大学の授業でだってこなせるぐらいだ。
 そしてそれほどの知識があれば、当然日本神話も理解している。というかもはや常識レベルだと思っている。
 というわけで、『死後の国で食べ物を口にすると帰ってこれなくなる』という、日本はもちろん世界中の神話に見られる伝承も理解しているわけで。

 で、その手にあるのはおかし。おかし。おーかーしー。あとついでにコーヒー牛乳。

「もう終わりだぁ……帰れない……」

 旅館でくつろいでしまったことで禁忌をおかしたと知り、和子はさめざめと泣いていた。

「そんな気にしてもしかたないですよ。ほら、ボクも食べてますし、ヘーキヘーキ、ヘーキだから。」
「鬼と人間を一緒にしないでください! 故郷から出られなくなるのと日本に帰れなくなるのじゃ全然違います! もう終わりだぁ!」

 いつの間にかあずきバーを囓りつつ部屋にいた鈴鬼に反論すると、またおいおいと泣き始めた。

「まあまあ落ち着いてください。まだここが地獄とかそういうのとは決まったわけじゃありませんよ。どっちかっていうと生地獄です。」
「結局地獄じゃないですか!」
「どのみち飲まず食わずで殺し合いなんてできませんよ。3日も経てば戦わなくても死んじゃいます。覚悟決めて食べて飲んだ方が気が楽ですよ。」
「うぅ……なんのなぐさめにもなってません……」

 早くも心が折れそうな和子。
 を、放っといて鈴鬼は神経をとがらせる。
 彼には人を招く力がある。
 彼が居候している春の屋旅館にやたら濃いお客さんが来るのは、だいたい彼のせいである。
 なんならそれ以外のトラブルとかも彼に依るところが大きい。
 若おかみであるおっこが巻き込まれた事故のように、当然例外はあるのだが、鈴鬼はトラブルメーカーでありトリックスターであった。
 さて、そんな嵐を呼ぶ男である彼は今現在、力を使っていない。
 当たり前だ。こんな場所でふだんのように人を集めたら、寄ってくるのは殺し合いに乗った人間か、あるいはそれよりもヤバイ人外だろう。
 なのに、なんとなくだが、嫌な予感がする。
 そういう感覚があるわけではない。だが、経験と直観ともよぶべきものがとんでもないことが起きそうな気がしてきた。
 さてこれを今の和子にどう話したものかと頭をひねる鈴鬼の耳に、物音が聞こえてきた。


850 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/04/19(水) 00:02:29 ???0

(早すぎますね。ボクの勘じゃそんなもんでしょうけど、これはもう旅館に入られている……)
「今の音は?」

 和子には見えないように──眼鏡を外している彼女にはどのみち見えないのだが──鈴鬼は渋い顔をする。
 和子も立ち直ったわけではないが気づいたようだ。
 冷や汗が出るのを感じながら、鈴鬼は言葉を選ぶ。パニックにさせてはいけないが、危険な人物かもしれないのだ、逃げるように言わなければならない。

(下手に話しても和子さんは賢そうだからバレますね。ここは、素直に。)

「誰か来たんでしょうか。それとも野生動物ですか。見てきますね。」
「ま、待った。危なくないか。」
「ボクの姿はふつうの人には見えないのでご安心を。ただ、そうですね、何かあると怖いので、ボクの鈴を持って裏口に向かってもらえませんか。わっこさんに運んでもらわないと素早く動けないんです。」
「わかった……よし、やるぞぉ、行くぞぉ……」
「まずは逃げ道を確保しておきましょう。ボクが先に行って調べますんで、着いてきてください。裏口まで行ったら旅館の中を調べます。さあ、行きましょう。」

 逃げ足の早さには定評のある鈴鬼だ。旅館内の逃走経路も頭に入っている。
 小鬼であることを活かして密やかに和子の前を進むと、聞き耳を立てたりふすまを微かに開けたりして確かめていく。
 結果は、ビンゴ。

(この音は、まさか、鎧?)

 聞こえてきた物音の正体がわかった。鎧だ。ガチャガチャ感が鎧っぽい。
 ウソだろと思いつつ廊下の角から覗く。目に入ったのは、どう見ても落ち武者だった。

(落ち武者? なんで落ち武者? え、この殺し合いって『和』がテーマだったりします?)
「誰だ! そこかあっ!」
(ゲェッ! 勘が鋭い!)

 突然落ち武者は叫ぶと、鈴鬼目掛けて走り出した。
 落ち武者の名は、明智光秀。三日天下状態でいっぱいいっぱいの彼は、視線や気配に敏感になっている。ふだんなら単なる思い込みなのだが、今回は鈴鬼という明確な存在がいたためにたまたま勘が当たっていた。

(これはヤバい! 見えているのか、なら戻れない、声も出せない、和子さん逃げてっ!)

 走る鈴鬼の後ろから迫る光秀。自分に気づいている、という想定で動くしかない。和子の方に向かわせないように、わざと足音を立て、ふすまを開け放って逃げる。が、それは失策。光秀は鈴鬼に勘づいてはいるが、姿は見えていない。そもそも判断能力が正常ではない。

(なにっ。そっちは和子さんの方──)

 結果、光秀が向かったのは、和子の隠れる方。
 一気に鈴鬼からの血の気が引く。
 光秀の腰には武者らしく当然刀。そして手には拳銃。対する和子は丸腰の上にメンタルも落ち込んでいる。

「くっ、かかってこい! 落ち武者!」
「刺客かあっ!」

 声を上げて誘導しようとするが、光秀は止まらない。
 歯を噛み締める。頭に浮かぶのは最悪の展開。
 やむを得ず鈴鬼は光秀を追う。こうなったら力づくで止めるしかない。小鬼の鈴鬼にできることはないだろうがやるしかない。
 しかし、それは不可能。そもそも小鬼の彼では、光秀に追いつくことすらできない。

「お前は──!」
「あ、貴方は──!」

 遅かった。目の前が暗くなる。しかし、鈴鬼に聞こえてきたのは、弾むような和子の声だった。

「明智光秀殿!」


851 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/04/19(水) 00:06:54 ???0



「なんとかなるもんですね。」

 数分後、先ほど鈴鬼達がいた一室に、3人はいた。
 目に見えて機嫌が良くなっている和子と、目に見えて警戒している明智光秀と、どうしたものかと見比べている鈴鬼である。
 経験が生きた、と言うべきか、和子は光秀に剣を納めさせることに成功していた。この殺し合いに巻き込まれる前も、記憶を失い自らが何者かを忘れていた織田信長の亡霊を鎮めることができた彼女だからできたことである。
 とはいえ、できたのは和子が問答無用で殺されるのを防ぐところまで。いつでも斬りかかれるように柄に手をかけたままの光秀に対して、和子は正座のまま語りかけた。

「つまり、光秀様。私は貴方からみて四百年ほど後の時代から来たのです。おそらく、あの奇っ怪なウサギは時間を越えて私たちをこの地獄のような場所に集めたのではないでしょうか。」
「……ここが地獄やもしれぬのは認めよう。」

 緊張はしつつもどこか興奮した様子でそう言う和子に、光秀は苦々しげに認める。正気を失っているとはいえ、赤い空に赤い霧となれば自分が地獄にいるという話は受け入れられないものではない。未来についてはともかく、自分たちが元いた場所からさらわれ殺し合わされているということを、光秀は納得した。
 だがそれで和子を殺さない理由ができたわけではない。むしろ逆、落武者狩り以上に状況が危険であると理解したことで、光秀の殺意が研ぎ澄まされる。そう、今のこの会話は話し合いではなく、光秀から和子への尋問である。

「光秀様、私は死にたくもありませんし殺し殺されもしたくありません。貴方様にも。私とこのたわけた企みを止めていただけませんか? 信用できないのなら縄で縛って頂いても構いません。光秀様のお側で働かせてください。」

 その上で和子は自分を売り込む。その言葉に嘘は無い。光秀に殺し合いの参加者になってほしくない。だって戦国武将が殺し合いとかもったいなさすぎる。ご本人登場ならどこかお寺とかそういうところで茶会でも開いて根掘り葉掘り生の戦国トークを聞きたい。
 その熱意を感じ、和子の利用価値を考え、そしてなにより和子の脅威を考え光秀は逡巡する。今の光秀にとって全ては自分の脅威となるか否かが最大の問題だ。これまで散々に秀吉の手の者どころか報奨金目当ての農民(と光秀が思ってる)たちに襲われ、戦国時代の平均的な女性と同じ程度の体格の和子へも警戒を緩めることはない。
 畳に頭を擦りつけ懇願する和子相手にも全く気を緩めず、むしろ罠ではないかと気を配る。故にその鋭敏になった聴覚は、その場の誰よりも真っ先に足音を捉えた。

「何者だっ!」
「み、光秀サヴァ!?」

 光秀が突如として駆け出し、和子は慌てて追おうとしてすっ転んだ。足が正座で痺れている。ふだんならこんな無様なことはないのだが、緊張があったのだろう、ものの見事に力が入らない。やむを得ず這っていくと、光秀は縁側から庭園に飛び出していた。その先には、中学生ほどの女子。
 まずい、このままでは殺されてしまう。そう思い叫ぼうとして、「ぷむっ!?」と奇声が出た。口が寸前で閉じた。誰に?と思う間もなく、視界に現れたのは褐色の小さな手。それが鈴鬼のものだとわかるのと声が聞こえたのは同時であった。

「わっこさん、逃げましょう。」

 逃げるってそんな、そんなことできない。そうモゴモゴと言い、同時に目で訴える和子に、鈴鬼は真剣な表情で続けて言った。

「あの女の子はヤバイです。さあ早く。」

 女の子がヤバイ。その言葉の意味を、和子このあとはすぐに理解することとなる。


852 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/04/19(水) 00:12:30 ???0

「あああああっ!」

 鈴鬼の剣幕に押され、ズリズリと這って後退る和子の目は、聞こえてきた叫び声でもう一度庭園に向く。灯籠でかすかに明るくなった辺りにいた制服姿の少女は、何事か言いながら「あっちゃー」という感じのリアクションをとる。
 次の瞬間、少女が消えた。

「そこかっ!」

 叫ぶ光秀。振るわれる刀。倒れる灯籠。
 そして、破裂音と共に光秀の首が急にこちらを向いた。
 和子と目が合う。
 しかしそこには、既に光が無かった。

「そんなっ……そん……」

 倒れた灯籠から火が上がり、にわかに明るくなる。それでもなお薄暗い闇の中で、ゆっくりと膝から崩れ落ちる光秀の姿を見て、和子は言葉を失った。
 光秀の首はありえない方向を向いていた。

「和子さん……声を出さず……着いてきてください……」

 鈴鬼のその言葉は、直前に聞こえた音で届かなかった。
 灯籠の倒れた音に続いて起こったその音は、和子も小学校で聞いたことのあるものだ。
 ジャングルジムなどの遊具の高いところから飛び降りた音。
 その特に珍しくもない音が異様な大きさで聞こえてきたのだ。
 そして和子は見た。
 灯籠からの炎で照らされながら少女が着地し、何食わぬ顔で光秀の首を踏み砕くのを。


「明智光秀だっけ。手加減できなくてうっかり殺しちゃったよ。マーダー候補だったのになぁ。」

 和子たちには気づかず、少女は光秀の絶命を確認する。その口調に後悔はあれど、人を殺したことへの後ろめたさなど微塵に感じさせないものだった。
 それもそうだろう。彼女がデスゲームに参加することは初めてではない。それどころか、彼女は『こういうこと』のプロである。

 少女の名前はピース・ホワイト。
 『トモダチデスゲーム』のジョーカーであり、このバトル・ロワイアルにおけるジョーカーである。

 灯籠で三角跳びをして光秀の斬撃を躱し、カウンターの飛び回し蹴りで顎を蹴り抜き首をへし折る。
 いとも容易くそれをやってのけたピースは、光秀から武器を奪いながら考える。
 彼女の役目は当然マーダーだが予定と少し違った。どういうわけか森の中に配置されてしまい、ようやく人の気配を感じて旅館に行けば勘づかれてマーダーに襲われてしまった。
 素手での戦闘は得意だが森歩きや隠密行動はそこまででもない彼女では仕方がない面はあるものの、予想とは違う展開だ。光秀が相手というのは都合が悪い。下手に剣の心得がある上に武装していたため手加減もできずに殺す他なかった。これじゃあ自分の仕事が増えちゃうなあと肩をすくめる。このあたりの子供は光秀に襲わせる予定と聞いていたので、その分の穴埋めを考えなくてはならない。

「うわ、血で汚れてるよ。ま、旅館にも武器落ちてるけど持ってっとこ。このあたりは鬼とか剣豪とかいて面倒だしね。首輪に当てれるかはわかんないけど、動きを止めればさっきみたいに倒せるでしょ。」

 なんてことのない様子で言うと、ピースは音を立てて駆け出す。ゲーム開始時の配置を考えれば、旅館には光秀以外もいる可能性がある。彼の仲間とは限らないが、どのみち皆殺しにする予定なのだ、どんな相手であれ殺すことに変わりない。
 走る勢いのままに旅館に駆け上がり障子を蹴り倒して突入する。速度を落とすことなく室内をクリアリングすると、そのまま土足で襖を倒しながら進んだ。
 そして唐突に止まる。畳に顔を近づけたピースの目の前には、彼女のものではない足跡。土足のまま上がったのだろうと直ぐに察する。そしてその前にある座布団にわずかに凹みを認め、手で触ってぬくもりを感じる。

「まだ近いね。」


853 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/04/19(水) 00:27:13 ???0



【0227 温泉旅館】


【天照和子@歴史ゴーストバスターズ 最強×最凶コンビ結成!?(歴史ゴーストバスターズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する方法を探す。
●小目標
 温泉旅館を脱出する。

【鈴鬼@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出を図る。
●中目標
 自分の知る魔界の知識や集めた情報を残す。
●小目標
 温泉旅館を脱出する。

【ピース・ホワイト@トモダチデスゲーム 人を呪わば穴二つ(トモダチデスゲームシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 ジョーカーとしてバトル・ロワイアルを優勝する。
●小目標
 温泉旅館にいた参加者を脱落させる。


854 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/04/19(水) 00:29:13 ???0
投下終了です。
タイトルは『無垢なる獣』になります。
また1月から3月にかけての月報を置いておきます。




各ロワ月報2023/1/16-2023/3/15

ロワ 話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
オリロワZ 73話(+27) 35/50(��8) 70/100(��16)※OP2話含む
児童文庫 114話(+22)  169/220(-18)2L目名簿より 86.0(-4.9)※総参加者数365
オリロワVRC 27話(+20) 37/40(��2) /92.5(��5)※OP含む
界聖杯  ?話(+10)  33/46(-4)  71.7(-8.7)
決闘 42話(+5) 95/112(-2) 84.8(-1.8)
チェンジ 123話(+3)  32/60(-0)  53.7(-0)
媒体別 89話(+5) 135/150(-1) 90.0(-0.7)※OP含む
表裏 101話(+4) 10/52(-0) 19.6 (-0)
FFDQ3 786話(+3) 18/139(-0) 12.9(-0)
虚獄 121話(+2) 34/75(-0) 45.3(-0)
令和ジャンプ 55話(+1) 47/61(-2)  86.4(-1.6)
お気ロワ 18話(+1) 48/50(-0) 96(-0)
ゲーキャラ 116話(+0)  41/70(-0) 58.5(-0)
多摩聖杯(異界聖杯) 7話(+0) 48/48(-0) 100(-0)
誰が為 8話(+0) 59/70(-0) 84.3(-0)
二次聖杯OZ 2話(+0)  52/52 100.0(-0)※OP含む
烈戦 37話(+0) 59/61(-0) 96.8(-0)
辺獄 62話(+0) 68/119(-0) 60.5(-0)
コンペ 90話(+0)  88/112(-0) 78.5(-0)
観察都市 18話(+0) 22/22(-0) 100(-0)※OP含む
狭間 55話(+0)  32/44(-0) 72.8(-0)



・パロロワwikiで本期間分の月報が更新されてなかったので勝手に月報作っちゃいました。たぶん抜けは多々あります。
・ロワ系のスレ並びにハーメルン・pixivで行われている企画を集計しました。
・修正前・修正後・破棄全て1話としてカウント、分割話は投下開始時点でまとめて1話としてカウントしました。
・FFDQ3ロワさん・表裏ロワさん月報協力ありがとうございます。


855 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/04/19(水) 00:30:49 ???0


各ロワ月報2023/1/16-2023/3/15

ロワ 話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
オリロワZ 73話(+27) 35/50(-8) 70/100(-16)※OP2話含む
児童文庫 114話(+22)  169/220(-18)2L目名簿より 86.0(-4.9)※総参加者数365
オリロワVRC 27話(+20) 37/40(-2) /92.5(-5)※OP含む
界聖杯  ?話(+10)  33/46(-4)  71.7(-8.7)
決闘 42話(+5) 95/112(-2) 84.8(-1.8)
チェンジ 123話(+3)  32/60(-0)  53.7(-0)
媒体別 89話(+5) 135/150(-1) 90.0(-0.7)※OP含む
表裏 101話(+4) 10/52(-0) 19.6 (-0)
FFDQ3 786話(+3) 18/139(-0) 12.9(-0)
虚獄 121話(+2) 34/75(-0) 45.3(-0)
令和ジャンプ 55話(+1) 47/61(-2)  86.4(-1.6)
お気ロワ 18話(+1) 48/50(-0) 96(-0)
ゲーキャラ 116話(+0)  41/70(-0) 58.5(-0)
多摩聖杯(異界聖杯) 7話(+0) 48/48(-0) 100(-0)
誰が為 8話(+0) 59/70(-0) 84.3(-0)
二次聖杯OZ 2話(+0)  52/52 100.0(-0)※OP含む
烈戦 37話(+0) 59/61(-0) 96.8(-0)
辺獄 62話(+0) 68/119(-0) 60.5(-0)
コンペ 90話(+0)  88/112(-0) 78.5(-0)
観察都市 18話(+0) 22/22(-0) 100(-0)※OP含む
狭間 55話(+0)  32/44(-0) 72.8(-0)



・パロロワwikiで本期間分の月報が更新されてなかったので勝手に月報作っちゃいました。たぶん抜けは多々あります。
・ロワ系のスレ並びにハーメルン・pixivで行われている企画を集計しました。
・修正前・修正後・破棄全て1話としてカウント、分割話は投下開始時点でまとめて1話としてカウントしました。
・FFDQ3ロワさん・表裏ロワさん月報協力ありがとうございます。


856 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/04/19(水) 00:33:01 ???0
状態表間違えていたので修正します。




【0227 温泉旅館】


【天照和子@歴史ゴーストバスターズ 最強×最凶コンビ結成!?(歴史ゴーストバスターズシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する方法を探す。
●小目標
 温泉旅館を脱出する。

【鈴鬼@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 脱出を図る。
●中目標
 自分の知る魔界の知識や集めた情報を残す。
●小目標
 温泉旅館を脱出する。

【ピース・ホワイト@トモダチデスゲーム 人を呪わば穴二つ(トモダチデスゲームシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 ジョーカーとしてバトル・ロワイアルを優勝する。
●小目標
 温泉旅館にいた参加者を脱落させる。


【脱落】

【明智光秀@映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】


857 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/02(火) 09:45:52 ???0
投下します。


858 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/02(火) 09:46:25 ???0



「どうしよう、またへんなことにまきこまれちゃった……」

 そうポツリとこぼすのは金髪パッツンの10歳ほどの少女。魔法の世界は銀の城のお姫様、フウカはしきりに首輪を気にしながらトボトボと赤い町を歩いていた。
 ことはつい先日、母親に没収されたゲーム機を取り返しに行ったら封印されていた闇の魔女を復活させてしまったことにある。あの時も外れない腕輪をつけられて、謎の遊園地で心と体を殺しに来る闇の魔女・メガイラに襲われた。幸運なことに、巻き込んでしまった頼りになる仲間たちが助けてくれ、数々の殺人アトラクションからメガイラの心の闇とその中にある光に気づき、フウカ自身も光の魔法に目覚めたことで事なきを得た。
 しかし、今回はもっと危険な何かを感じていた。
 あのツノウサギという魔物?からは怖いという感覚はなかったが、今のこの光景だけでもとても強い魔女がいるとフウカにだって察せられる。なにせ、空や霧を赤くするというのは、不気味な森や遊園地を用意したメガイラと同じやり方だからだ。

「うーん、でもなんであたしだけでなくてかんけいなさそうな人もたくさんまきこんだんだろう。あの子たちも魔女なのかな?」

 メガイラの場合は自分の受けた苦痛を自らを封印した魔女たちの子孫に味合わせるというのが理由の一つにあったが、しかしツノウサギからは全くそんな感じがしなかった。本当に単純に殺し合いを楽しんでいるような感じに必然的に感じるのは、困惑。恨んでるわけでもなく人を殺そうというのはフウカにはとんとわからない感覚だった。

「とにかく、チトセやカリンもまたまきこんじゃってるかもしれないし、あたしにできることしないと!」

 もともとフウカは難しいことを考えるのが苦手だ。潜在能力は凄いのだが魔力のコントロールが終わっている上に、シンプルに勉強が嫌いである。そもそも自分の母親が封印したメガイラについても、教科書を流し読みしているのでよくわかっていなかったあたり、『らくだい魔女』と言われるのもさもありなん。
 それでも彼女に親友がいるのは、その真っ直ぐな心根だろう。もちろんこんな殺し合いに乗る気はゼロ。なんとかして巻き込まれた子たちと脱出しよう、そう意気込み早1時間。この間も迷子になってたなと何回目か思いはじめていたところだ。

「あれ? くつが落ちてる。なんでだろう?」
「うわっ、人がたおれてる! だいじょうぶ!?」

 第一参加者発見。道の脇にかかと側を下にして直立する靴を認めて近づくと、にょっきり伸びている足に出くわした。
 駆け寄って覗き込めば、黒い髪のツインテールの少女だった。年は黒の城の王子様であるキースほどだろうか、とにかく年上だ。
 だがフウカの目を引いたのは、少女の肌だ。太陽に照らされた夏の川のような、複雑な色合いの透明さがところどころにあった。少し見て肌だけでなく体そのものが透けているのだとわかった。

「きれい……こんな魔法もあるんだ。はっ!」

 思わず感心してしまったが、それどころではないと少女を起こそうとする。怪我人相手なら0点の対応である肩を掴んで頭をガクガク揺らすという無茶が、少女を容赦なく起こした。
 眉間にしわを寄せてゆっくりと目を開く少女を見て、フウカは安堵の息をつく。良かった、生きてたと。呼吸を確かめれば一発で気づいたというのは言わない話。よしじゃあまずは話を聞こう、そう思い口を開いて。

 コツン。コツン。

 二人の耳に、足音が聞こえてきた。


859 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/02(火) 09:46:44 ???0



 安土流星は武市変平太の着物を彼が持っていた刀で裂き、変平太と木本麻耶にきつく抑え付けていた。救急救命としてはオーソドックスな圧迫止血であり、高校生警察官の有能さを示すような手際の良いものであった。この場に救急隊員がいれば、その技術に100点をくれたであろう。
 だがそもそも応急手当をしている段階で0点だというのは流星本人がわかっていた。変平太は頭部からの出血、麻耶は肋骨の開放骨折。そしてこの場に救急車も医療機関も期待できない。ならば手の施し用などない。トリアージなら限りなく黒に近い赤だろう。
 実際、二人は直ぐに死ぬ。変平太は頭部挫傷により脳内出血、くも膜下出血、その他名前にすれば数々の症状を負い、心臓が止まるのは時間の問題だ。麻耶も同様である。折れた肋骨の破片が心臓に突き刺さり、鼓動の度に出血する。こちらは今すぐに心臓移植をすれば助かるかもしれないが、もちろんそんなことはできない。
 目の前で人が死んでいく。何もできずに二人も死んでいく。流星の明晰な頭脳はそれを理解していても、体は手当てをやめない。やっている自分が一番無駄だとわかっているが、それでも何もしないというのはできない。

(あの時動いていれば、そう後悔してるんだろうな。)

 必死で圧迫しながら、それと裏腹にどこか頭の冷静な部分で考える。
 つい2、3分前。流星の目の前で人知を超えた戦闘があった。目で追えぬほどの速さで移動する超人たちによる銃撃戦・格闘戦・斬撃戦。まばたきを忘れた10秒ほどの間だろうか、短い間に戦いが起こり、決着した。
 その結果がこれ。目の前で2人死んでいく。全く見ず知らずだとか、そもそもこの2人があの現場にいなかったとか、そんなことは関係ない。あの時、流星があの男児を撃てていれば、彼が名を知らぬタイを射殺していれば、彼が名を知らぬ変平太と麻耶は死ぬことにはならなかっただろう。

「おいオッサン、何してるネ。」

 意外と近くから聞こえた声にも流星は振り返らない。この声はチャイナ服の少女だなとぼんやり考えながら、自分の知識を総動員して応急手当を考える。
 その集中の糸を切ったのは、視界の端に見えた、刀。

「なにを、してる?」
「見りゃわかるだろ、介錯だ。」

 ぎこちなく呟いた流星にうんざりした声で返ってきたのは、岡田似蔵の冷たい声だった。
 聞きたくない、そう思う。
 しかし、理解している。

「……たとえこの状況でも、それは、殺人だ。」
「お寒いねぇ、法律ってのは。侍に介錯もくれず生き地獄とは。」

 顔を見ずとも、似蔵がどんな顔をしているかはわかる。
 たぶんチャイナ服の少女も、神楽も自分のような顔をしているのだろう。そう思い、流星はこの場の誰の名も知らぬことに気づいた。

「気にすることないネ、たしかこいつヤバいテロリストの仲間ヨ。」
「ひでぇこと言ってくれるなぁ。それじゃあそのテロリストの仲間を必死にって助けようとしてる坊っちゃんがかわいそうじゃねぇか。」

 似蔵が変平太の横に立ち、その後ろに神楽が立つ。いつでも切りかかれる態勢といつでもそれを止めれる態勢だと、流星は気配で感じた。だがそんな察しは鬱陶しいだけだ。今もこうして死んでいっている人を前にしてそんなことをしないでくれ、状況を考えろ、そう言いたいが。

「やめだ。」

 2人の雰囲気の変わりと、似蔵の言葉に、流星は手から力が抜けた。
 武市変平太と木本麻耶は、安土流星の手の中で死んでいった。


860 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/02(火) 09:50:49 ???0



 コツン。コツン。
 二人の耳に、足音を響かせ去っていく。
 岡田似蔵と名乗った侍を見送って、天野陽菜は所在なげに己の腕を抱いた。


「……なんでバトル・ロワイアルの会場に幼女ばっかいるんだ? はぁ……手向けだ。今回だけは見逃すか。」
「■■……■■■■?」
「こっちの話だ……天人の言葉か?」

 気づいたら自分が消えていて。
 気づいたら空の上にいて。
 気づいたら殺し合いに巻き込まれていて。
 気づいたら赤い空の下にいた。
 陽菜の体感した現象を言葉にするとそうなる。
 大雨を晴らす晴れ女となって1年、晴れ女ビジネスで東京に晴れ間を作り、その代償として身も心も持って行かれそうにって、空に落ちたと思ったら謎の殺し合いに巻き込まれた。話が飛躍しすぎていて理解が追いつかない。
 今現在もそうだ。陽菜を手荒く起こした少女は外国人のようで言葉が通じず、次に現れたのは奇抜なファッションセンスの盲目のオジサンだった。

(この体を見られないのは、良かったかも……)

「ここから10分ほど歩いたところにあるお寺さん、そこに殺し合いを潰そうって連中が集まってる。行くかどうかは好きにしな。」
「岡田さんは。」
「性に合わないんでね。首輪をどうにかできる人間を探しにほっつき歩くとするさ。天野さん、アンタはフウカさんと一緒にいてやんな。天人ならガキでも首輪を外せるかもしれない。」

 微かに血の付いた服でそう言うと、似蔵は振り返りもせずに去っていく。あとに残されたのは言葉の通じぬ少女、フウカと2人きり。
 これも晴れ女の役割とかそういうのだろうか。途方に暮れて陽菜は思う。あの流れで殺し合いに巻き込まれたのだ、きっとこれもそうなのだろう。空赤いし霧赤いし。だが、はいそうですかと殺し合いに乗れるわけがない。
 だが初めて会った少女・フウカとは言葉が通じず、次に会った似蔵からは不穏な空気を感じる。何を信じればいいのかがわからなくて、どうすればいいかがわからない。

「どうしよう、あたしだけ言葉がつうじないのかな。」
「……ごめん、フウカ。どうしたの?」
「え、なに? ヒナ、どうしたの?」
「……わかんないや。英語じゃないみたいだし、どうしよう……」
「うう、やっぱりつうじないよ……」

 言葉が通じないながらもフウカは気にかけてくれているが、やはりコミュニケーションがとれない。思わず2人から出るのはため息だ。お互い困っているということはわかったが、だからなんだというのだ。


 寺で起こった戦闘は2名の死者を出した。
 危険人物は皆離れ、新しく向かうのは殺し合いに乗っていない参加者。
 しかし状況の好転の兆しは無く。
 依然として霧は深いままだった。


861 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/02(火) 09:51:01 ???0



【0127 寺近辺の住宅地】


【フウカ@らくだい魔女と闇の魔女(らくだい魔女シリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 チトセやカリンやまきこまれてる子たちといっしょににげる。
●小目標
 どうしよう、言葉がつうじないよ……

【天野陽菜@天気の子@角川つばさ文庫】
【目標】
●小目標
 岡田さんの言ってたお寺に行く……?

【岡田似蔵@銀魂映画ノベライズ みらい文庫版(集英社みらい文庫)】
【目標】
●大目標
 殺し合いをさっさと終わらせる。
●小目標
 斬りがいのある奴に会いたいんだがなぁ……

【安土流星@小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める。
●小目標
 ???

【神楽@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 バトルロワイヤルとその主催者を潰す。
●中目標
 首輪を外せる人間を探す。
●小目標
 助けた女の子(ナツメ)と手当してた男(流星)と話す。



【脱落】

【武市変平太@銀魂映画ノベライズ みらい文庫版(集英社みらい文庫)】
【木本麻耶@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】


862 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/02(火) 09:52:16 ???0
投下終了です。
タイトルは『らくだい魔女と死の遊戯』になります。


863 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/10(水) 08:55:34 ???0
新パロロワ板でアニロワ議論開始中です。上手く行ってほしいですね。投下します。


864 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/10(水) 08:57:03 ???0



 緊急事態はそれに直面した人間の本性を顕にする。
 被災地で我が身を顧みず人助けに奔走する人間もいれば、火事場泥棒に走る人間もまたいる。

「よっしゃあ取り放題じゃあああ!」
「100%オフッ!」

 さて、この二人はものの見事に火事場泥棒するタイプだった。
 瓜ふたつなこと以外特徴がない、20歳過ぎぐらいの男たち。
 そんなどこにでもいそうな男たちが、胡乱な目をしてスーパーへと突入していた。

「看板とか変だしこれ全部セットだろう! オラァ奪え! 根こそぎじゃああ!」
「メロン! 松茸! メロン! 松茸!」

 男の一人がカートを転がし始めると、もう一人の男がボブスレーのようにそこに座る。
 まずは果物売り場。一番目立つところに置かれたメロン。次に隣の野菜売り場。これも霧の箱に入った松茸を狙う。その後も蟹、海老、肉、肉、肉、スイーツ。万引きは終わらない。盗んだ品物を抱えながら男たちは店内にあるファーストフード店へと入っていった。



「あら? なにかしらここ。スーパー?」

 同じ頃、店の前に人影があった。
 彼女の名前は弱井トト子。このエリアで最も早く、そして最も多く引鉄を引いた参加者である。
 ストレス発散にマシンガンをバラ撒きにバラ撒いた彼女は、その事実をストレスと共にスッパリ頭から追い出して町を散策していた。
 今更ながらに町の異様さを理解した彼女は、とりあえず交番でも探していたところでスーパーを見つけた。文字がわからなくてもそれがどういう店かは店頭を見ればわかる。

「中はふつうなのね。あら、メロン……」

 中に入ってみる。スーパーは客の流れを誘導するようにレイアウトを考えるのはどこも同じ、トト子も流れに乗って歩く。
 その結果、果物売り場ではメロンが、野菜売り場では松茸が、そこからは高級そうな商品ばかりがなくなっていることに気づいてレジまで来たところで、その声を聞いた。

「チクショウ……ポテトなんて食うんじゃなかった……」
「あ、えーっと、おそ松くんたち?」

 やや迷った末に彼女は名前を呼んだ。声を頼りに歩いていけば、目の前にいたのはこのスーパーの先客であり、ダイナミック強盗後ファーストフード店で寛いでいた知り合い、松野おそ松と松野十四松であった。
 思わず疑問形で問いかけてしまうのは、彼らの惨状だ。どう見ても彼らの甲斐性では買えないような品物を馬鹿みたいにテーブルに積み上げている。こんな場所でなければ絶対に他人のフリをしている。単に彼ら六つ子の誰なのかパット見でわからなかったというのもあるのだが。

「トト子ちゃん?」
「うわーんこわかったよぉー!」

 リアクションを許さずトト子はおそ松と十四松に抱きつきにかかる。ラッキーという顔をする二人に交互にこれまでいかに寂しかったか心細かったかを囁きながら、おいおいと泣く。このあざとさ、アイドルになりたいなどと言って六つ子を振り回すだけのことはあり、こんな場所でもというかこんな場所だからこそ遺憾無く発揮されていた。


865 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/10(水) 08:57:36 ???0



「待て、イチカ。変な臭いがする。これは、あれだ、あれ。」
「ガソリンの臭いね。さっきバイクみたいな音がしたしそれかもしれないわね。」
「あそこのスーパーに向かってたら面倒だな。どうする?」
「物が手に入るところを他の参加者にひとり占めさせるわけにはいかないでしょ。抑えるわよ。話し合いができる人ならいいんだけど。」

 マンションから荷物を持ち出し、更なる物資を求めて会場を歩く新庄ツバサと宮美一花はスーパーへと向かっていた。
 彼らの目的はいずれも家族との合流。それぞれ会いたい人間は何人も思い浮かぶが、しかし二人とも慎重に事を進める質だ。地図も何もない場所をほっつき歩くわけには行かないので、拠点となる場所を探すこととする。
 マンションでも拠点としては良かったのだが、近くで銃撃戦が起こっている都合、流れ弾が怖い。それとこれだけマンションや家があるなら近くにスーパーがあるはずというのもあり、そこを拠点に人を探すにも危険な人間と戦うにしてもできることが今後大きく増える。
 というわけで重たい荷物にライフルを抱えてここまで歩いてきた二人は、今更マンションになど引き返したくなかったのだ。既に二人とも汗だくで、今すぐにでも腰を下ろしたい。貧乏性なのもあり荷物を多く持ちすぎた二人は、軽く10キロを超える重量に膝が笑いかけていた。

「これね、まだ温かい。荷物を下ろして突撃しましょう。」
「援護してくれ、先に行く。」

 駐輪場には一台のバイクが熱を持ったままだった。ついさっきまで誰かが乗っていたのは明らかだ。身軽になると、近くの入り口をライフルを抱えて伺う。二人の目が大きく開いた。

「人だ、中学生ぐらいだ、どうする?」
「あの子がバイクに乗ってた?」
「違うんじゃないか?」
「じゃあ、他に誰かいる?」

 互いに疑問形で会話していると、二人が見つけた人影が振り返る。慌てて物陰に身を隠す二人に聞こえてきたのは、「そこの二人、出てこいよ。俺たちは殺し合いになんて乗ってない」という少年らしき声だった。

「どうする?」
「どうするって……」

 視線だけは少年に向けながら言う。物陰に隠れているため二人とも見ているのは壁なのだが、そんなことにも気づかないほどに視野が狭くなっている。それでも少年の言葉を飲み込んで、ツバサは気づいた。
 俺たち、ということはもう一人いる。バイクを運転していたもう一人と、あの少年。理由はわからないが、二人いる。

「ヘタなことはしないほうがいいんじゃないか? 降伏するぜ。」
「ちょっと、本気?」
「後ろから見てたのに気づかれたんだぞ。アイツがバイク運転してた感じでもないし、仲間がいるんだろう。」

 ツバサの言葉に舌打ちして一花はライフルを下ろした。二人でハンズアップして立ち上がり、壁際から離れる。すると意外なほど近くから足音が聞こえてきた。

「冷静だな。宇野、戻ってこい。」
「おう。」

 後ろからは高校生ほどと思われるイケメンが、前からは中学生ほどの少年が二人を挟む。やっぱりもう一人いたかと思うツバサの目の前で、中学生の方は拳銃をポケットへとしまった。

「へへっ、そんな緊張すんなって。殺し合いなんてするわけないだろ。宇野秀明だ。お前らも自己紹介してくれよ。それとも先に店ん中入るか? 立ち話もあれだしな。」
「待てよ、まだ中が安全かはわからないんだぜ。」
「おっと、そうだった。」

 思っていたよりもフランクな対応に、ツバサと一花は顔を見合わせた。今度はちゃんと壁では無く人の顔を見れた。


866 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/10(水) 08:58:56 ???0


「──で、銃声が止んだなと思ってしばらくしたらここ見つけてさ、入ろうって話になったんだ。でもヤバい奴も同じこと考えてるかもしれないだろ。だから体の小さい俺が偵察に行って、竜土が援護するって作戦を立てたわけ。そしたらドンピシャよ。」

 誇らしげにそう言いながらバナナを食う宇野に何か言いたかったが、まんまと彼の策にハマった一花とツバサに返す言葉はない。
 彼女たち二人は出会った少年たち、宇野秀明と竜土と共に四人パーティーとしてスーパーへと入っていた。彼らはビーストの襲撃から逃れて以来トト子の乱射に怯えて街中さまよっていたのだが、音が止んだこともあってどこかに腰を落ち着けようとしていたとのこと。

「よくホラー映画とかだとスーパーに立てこもったりしてるけど、みんな考えること同じなんだな。」
「ホラー映画の影響じゃねえか?」
「卵が先か鶏が先かってやつか。ところでこのスーパー卵とかの安そうなもんしかないな。メロンとか置いてないのか?」
「バナナだけでガマンしろ。」
「せっかく用意されたんだから食べなきゃ損だろ。」
「あ、そういうことね。」
「え、どういうこと?」
「先から不自然に棚が空いてると思っていたの。ほら、ここのメロンとここの松茸。」

 四人で5メートル四方の四角形を作るように陣形を作り店内を歩く。全方向を警戒しつつ進みながら雑談していたが、一花の言葉で一同に緊張が走った。宇野がバナナを銃に持ち替えて振り返る。

「また先回りされてんのかよ。スーパーに集まりすぎだろ。」
「待ち伏せされてるかもしれない。俺が先に行く。みんなは後ろを警戒してくれ。俺ならそういうふうに挟み撃ちする。」

 先頭の宇野が拳銃を両手でしっかり構えて素早く前進する。彼と竜土は元々軽装だったのもありスーパーに入ってからも拳銃装備だ。汗だくでマシンガンを抱えるよりは普段通りの方がマシという判断だったが、それを若干後悔する。スーパー内に転がるのはゴツいライフルたち。非日常なはずの拳銃がこんなにも心細く思える日が来るとは思わなかった。
 宇野は順路ではなく商品棚の間を進むことにした。順路は客通りが多いことを前提とした作りなので開けていて障害部も少ない。そしてこれまでの宇野の経験からつい隘路を選びがちである。なまじぼくらの仲間が下水道でも構わず進めるような奴らばかりだったため、ぼくら基準でものを考えてしまう。
 故に宇野は、自分が大人たちを出し抜いてきたように、大人も自分を出し抜けることを、挑戦者として頭脳を使ってくることを失念していた。

 ──ダァン。

「ぐっ……逃げて!」

 誰だ? 誰が撃たれた?
 聞こえてきた破裂音を銃声と判断した宇野は咄嗟に床に伏せながら後方を見る。
 突然聞こえた銃声。奇襲されたのだろうが、後ろにいた三人は困惑と緊張の表情で身を屈めていた。宇野はよく見る。彼らの中に怪我をしたらしき人間は、いない。

「ナメてんじゃねーぞ! オラァ!」
「十四松!? トト子ちゃん!?」

 聞こえてきたのは罵声と銃声だった。
 マシンガンのような音が響き、宇野たちの上の商品棚から商品が弾け飛ぶ。思わず全員床に伏せるが、その中で一人竜土は素早く立ち上がった。何をしている、などと言う間もない。宇野の目の前に落ちてきた黒い何かをスライディング気味に蹴り飛ばすと、そのまま宇野に覆いかぶさる。次の瞬間、宇野の体を衝撃が走り、頭痛が襲った。

(これは、手榴弾……)
「みんな下がれ!」
「下がれってどこに!」

 仲間の怒声が交錯する中、脳を揺さぶられた宇野はぼんやりと考える。最初自分たちは襲われていなかったが、すぐに攻撃された。なんだかよくわからない。
 一体何が起こっているのか理解できず、宇野はゆっくりと意識をとりもどした。何か妙だ、とても違和感がある。

(誰かが撃たれたリアクションをした。でも俺らは撃たれてない。)
(誰かがキレて俺達を撃ってる。そいつが撃たれた?)
(誰かが撃たれた、で、キレて俺達を撃ってる、てことは。)
「みんな気をつけろ! もう一人撃ってきてるやつがいるぞ!」


867 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/10(水) 08:59:26 ???0


「みんな気をつけろ! もう一人撃ってきてるやつがいるぞ!」
(アクン・メ・チャイ(魔が差した子)の言葉か。とにかく気づかれたか?)

 宇野の言葉はわからなくても、叫んだ後に周囲を見渡す動作から自分に勘付かれている可能性がある。
 ヌガンは油断無くスーパーの店内を出ると、他の入り口へと回り込んだ。

 小林聖司を殺し、茜崎夢羽に致命傷を負わせた彼は、しかし夢羽の死を確認できずにしばらく街をさまよっていた。あの傷ならば長くは持たないが、万が一ということもある。死体が見つからないのもあってその不安は大きい。そうして歩いているうちに見つけたのが、おそ松たちと宇野たちが集まったスーパーである。
 夢羽が杉下元に看取られたように、元々ヌガンが夢羽を襲撃した位置と一花達がいたマンションはすぐ近くであった。必然どちらも目につきやすい工夫がされたスーパーに吸い寄せられる。ただ彼が違ったのは、一花達よりも先にスーパーに入っていたということだ。 
 おかげで入ってすぐおそ松達がトト子と再開する場面を見て、すぐさまに掃射の準備をすることができたのだが、射角の都合上3人を1連射で殺すことが難しかった。そのため何か他の工夫をと考えているうちに宇野たちが来てしまう。その陣形からこちらも1連射では殺しきれない上に、警戒している様子からなんらかの訓練を積んでいると見て襲うことを躊躇っていたのだが、そこでヌガンに電流走る。今この状況でおそ松にせよ宇野にせよ撃てば、どちらかをどちらかに襲わせることができるのではないかと。

「十四松? おいおい、しっかりしろよ、らしくないだろそんなの?」
「死ねよやぁっ!」
(撃った方は一人は殺せたんだろう。あの女の反応は異常だ。)
「もう一人!? どういうことだ!?」
「わかるように言って!」
「たぶん誰かが別の誰かを撃ちやがった、それで俺らが撃ったと誤解されてる! 俺も似たようなことやったことある!」
「いいから逃げるぞっ。」
(撃たなかった四人の方は冷静だ。ただの子供ではないな。)

 結果はまずまずと言ったところ。とりあえず一人は殺せて、一人は恐慌状態だ。できればあの女が子供たちの方を殺してくれればいいのだが、高望みはしない。ヌガンはすぐに離脱すると店外に出て再突入。宇野たちごしに十四松を銃撃したポジションから、両者の横合いをつく位置に移動する。ここは2組から最寄りの出口、逃げるのならここからだ。

(大人たちは三名、子供たちは四名、合わせて七名。ここで殺す。)

 ヌガンは静かな殺意を持ってライフルを構える。一発の銃弾で蜂の巣を突いたような騒ぎになったことをほくそ笑んで。


868 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/10(水) 09:00:12 ???0



【0106 『南部』住宅地・スーパー】


【松野おそ松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 死にたくない。帰りたい。
●小目標
 十四松撃たれた? マジで?

【松野十四松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 死にたくない。帰りたい。
●小目標
 マジ痛い。でもトト子止めないとなんかヤバい。

【弱井トト子@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 主催者をぶっ殺す。
●中目標
 気分が晴れるまで暴れる。
●小目標
 十四松を撃ったやつをハチの巣にする。

【宮美一花@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 姉妹を探して合流する。
●小目標
 それは撃ち返すでしょ。ナメてんじゃねーぞ。

【新庄ツバサ@生き残りゲーム ラストサバイバル 最後まで歩けるのは誰だ!?(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族を探して合流する。子供しか参加者じゃねーなら親はいないと思うが……
●小目標
 手榴弾で耳キーンとなっててそれどころじゃねえんだわ。

【宇野秀明@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族を探して合流する。でも、たぶんいないよな? 大丈夫だろ? なんでぼくらの仲間たちと合流したいな。
●小目標
 これ誰かになすりつけられてるやつじゃね?

【竜土@天使のはしご5(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 誰かが死ぬのは嫌だ。
●中目標
 紅絹たちが巻き込まれてないか心配、探したいが……
●小目標
 とにかく、逃げねえとな?

【ヌガン@獣の奏者(4)(獣の奏者シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 優勝し技術をリョザ神王国で独占する。
●小目標
 スーパーにいる自分以外の7人を皆殺しにする。


869 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/10(水) 09:01:15 ???0
投下終了です。
タイトルは『会場南部住宅地・スーパーの戦い』になります。


870 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/11(木) 07:40:51 ???0
投下します。


871 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/11(木) 07:41:22 ???0



「ようやく銃声がおさまりましたね……」

 会場南部、オフィス街。
 警察署を数ブロック先に望むカラオケボックスで、四宮かぐや(まんが版)は油断の無い目つきで景色の端から端まで見ると拳銃を一つ手にとって店を出た。

 自分のスマホで時間を計ること既に1時間以上、彼女はこのカラオケボックスに籠城していた。理由は簡単、弱井トト子の乱射した銃弾や銃声や、それによって同じように発砲した参加者を恐れてのことである。
 オープニングの会場で橋本環奈似の自分のクローン、あるいはドッペルゲンガーと出会った彼女がパニックから立ち直り普段の調子を取り戻すと、真っ先の方針として『警察に行く』こととした。
 どう見ても警察ごときでどうにかできる事案ではないのだが、冷静に考えるとどうしようもない。首にいつでも殺せる機械を着けられているのだ。これはいわゆるデスゲーム、脱出の方策など無い。
 ではなにもしないかというとそれもNO。結末の変わらない無駄なあがきだろうが、それなら逆に開き直ってものを考えられるというものだ。とにかく一分一秒でも長く生き残る。そうすれば何か妙案も出てくるだろう。なにせ今のかぐやはこの場に誰が参加者として巻き込まれているかもわからない状態。色々と考えなくてはならないことが多いのはわかっているが、それならまずは手がかりを集めてからだろう。
 というわけでまずは他の参加者が集まりそうな警察署に行くことにしたのだが、そこで聞こえてきた銃声にビビって今まで立ち往生である。元々開き直って手に入れた冷静さ、何かあれば簡単に折れる。
 とはいえそこは四宮かぐや、待ち時間を有効活用して会場の文字の解読に成功していた。それは期せずして彼女が愛する完璧で究極の生徒会長、白銀御行と同じキーボードと照らし合わせるというものだ。
 自分の持つスマホと会場に放置されていたスマホを並べれば一目瞭然。そして文字が分かればそのスマホを使って最寄りの警察署を調べるのも簡単だった。自分のスマホで警察署と入力する時と同じ操作をすれば後は位置情報と合わせて最寄りの警察署までのルート案内だってしてくれる。文明の利器を使いこなす彼女はやはり天才か。

「右良し、左良し、右良し。さあ行こうぜ……!」

 問題はその頭脳について来れない精神。今までその社会的地位から大人の悪意というものは見てきたという自負があっても、だからこそ鉛球飛び交う場所に足を踏み入れるのには並人以上の恐怖を感じる。それでも前へと踏み出す。恐れはするがそれでも何某かの行動をするのがかぐやだった。そしてその行動力が出会いを呼ぶ。

(会長! じゃない……銀髪の男性でしょうか。)

 つい身長が高くて髪色が明るいと白銀を思いつなげてしまうが、すぐに全く似ても似つかないと気づいた。男は帯刀した銀髪、風貌が気になるがその首には首輪、つまりは参加者だ。パッと見ヤクザだが、結局はかぐやと同じく首輪を着けられている立場。ものすごく怖くて話しかけたらヤバい感じがプンプンするが、いざとなれば口でも銃でもどうとでもしてみせるとここの中で意気込んで話しかけた。

「失礼します──」

 かぐやが言い終わるより先に、男は振り返った。一瞬たじろぐ。男の眼光はまるで人でも殺したかのように鋭く、どう考えても関わってはいけないタイプだ。だがそれも想定内、かぐやは言葉を続けようとして、「頬に十字傷のある男を見たか?」男の言葉に遮られた。

「いえ、貴方が初めて会った方ですが……あ、ちょっと!」

 男は元見ていた方を一瞥すると、かぐやの横を通り抜けて猛然と走り去った。
 これにはかぐやも調子を崩さざるを得ない。まさかあの風貌で、後ろから話しかけられたら人に会ったか聞くだけ聞いて走り去るとは予想できなかった。そして男の速さ。オリンピック選手のような猛ダッシュに追いかけるという発想など出ることはなく、ただ見送るしかない。
 だがかぐやが男について考えるよりも先に、考えなくてはならないことは背後からやってきた。

「■■■■、■■■■!?」
「……ラテン語?」

 音を聞いて振り返ると、泥にまみれた服を着たイケメン──アスモデウス・アリスが背後にいた。


872 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/11(木) 07:41:53 ???0



 話は30分ほど前に遡る。
 アスモデウス・アリスと竈門禰豆子の戦闘は、アリスの優勢で進んでいた。

「無駄無駄無駄ァ! これが人間の血というものかっ!」
「……っ!」

 アリスに殴り飛ばされ、禰豆子の顔が歪む。炎を纏った拳で焦げた肌はすぐに再生するが、その息は荒い。
 サイコロステーキ先輩の血を飲み悪魔としてのギアが上がったアリスは、先ほどまでの醜態が嘘のように禰豆子を追い詰めていた。
 人間の血はアリス達悪魔にとって値千金、力が漲り魔力が迸りキャラがどっかに行く。それはさながら稀血を飲んだ禰豆子たち鬼と同じ理屈だ。

「しいっ!」
「ぐっ……むうっ!」
「温いっ!」

 アリスの手刀が頸に迫り、ギリギリで両手をクロスさせガードする。腕への痛みのすぐ後に走ったのは、喉下への突きに纏わされた炎の熱だ。
 血と冷や汗を滝のように流しながら禰豆子は焦る。今までもそうだったが、今回の敵は輪をかけて強い。まるで勝ち目が見えない。さっきまでとはまるで別人だ。その理由はわかっている。禰豆子が助けられなかった鬼殺隊の血を飲んだからだ。
 かすかにサイコロステーキ先輩に目線をやり、かすかに目を伏せる。それが隙となりアリスに蹴飛ばされる。サイコロステーキ先輩への負い目と合わせて禰豆子の動きは精彩を欠く。実際はサイコロステーキ先輩は勝手に自殺しただけなのだが、そんなことを彼女が知る由は無い。今はただ、自分が殺されないようにするのが精一杯だ。
 ゴロゴロと地面を転がる。首輪から嫌な音がした。

「獲った──なにっ!?」

 アリスの驚く声が熱とともに禰豆子に届く。彼に唐竹割りにされる寸前に禰豆子は体を小さくすることで致命傷を避けた。
 危機一髪の生存。だが禰豆子にはまるで安堵の気持ちはなく、むしろいよいよ追い詰められたという心境だ。体を小さくすることは的を小さくすることであるため逃げることには役立つが、筋力もリーチも劣ってしまう。今狙われれば次は頸を斬られる。その確信がある。

「…………!」
「…………」

 ジリジリと睨み合う。不意にアリスが火球を放ち、それを身を低くして禰豆子は躱す。とその眼前にアリスの手刀が迫り、目が、耳が、鼻が潰された。
 火球を目くらましにしての下段への攻撃、それが禰豆子自身もしゃがんだことで顔への攻撃と化した。慌てて頸をガードする。五感のうち三つが瞬く間に潰された。再生するまでの時間を稼がなければ殺られる。禰豆子は必死になって無茶苦茶に駆け回った。何度も木にぶち当たり、気がついた時にはアリスの姿は消えていた。


「ちいっ、遊びが過ぎた。急いでこれを献上せねばならんというのに。」

 アリスはサイコロステーキ先輩の死体を担ぐと羽ばたきを強くする。会心の一撃を体を小さくすることで躱された時、彼は自分の異変に気づいた。
 出力が落ちている。今までのハイな状態ではなく、精神的にも肉体的にも高揚が落ち着いている。なんのことはない、サイコロステーキ先輩の血の効果がなくなったのだ。そのことに気づくぐらい冷静になったことで、自分にかかったバフが切れかけていることを実感した。
 改めてもう一度血を飲めれていれば殺せたが、それでは入間に献上する人間を消耗させてしまう。だから最後の力で顔を潰し、再生に手間取らせている間にとっとと離脱した。あの状態でも殺しきれるかはわからない以上、安全策を取った。
 そうして目指したのは街。空を飛べば森の外にあるそこに気づくのは容易い。元々彼の飛行能力は学生のみでありながら高い水準にある。難なく移動すると、最も目立つ建物へ──警察署へと向かうこととした。
 近くまで行くと高度を落とし、滑空する。地上からの攻撃を警戒し、音も無くビルの間を縫うと地面へ降り立ち、それを銀髪の男、雪代縁に見つけられた。


873 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/11(木) 07:42:30 ???0

「空を飛んでいた? 落ちていたのか?」

 思い浮かべるのは志々雄真実の十本刀。話に聞いたアレのようなものかと思いつつ、縁は対戦車ライフルをアリスへ向ける。
 東方仗助を殺した彼は、当初は風見涼馬を殺す気だった。しかしその逃げ足は彼からみても大したもの。エリート揃いのサバイバーの中でも優秀な彼はそんじょそこらの大人よりも機敏に離脱を済ませ、近くを捜索した縁の目から逃れていた。となると予定通りに警察署を目指すことにしたのだが、そこで目撃したのがアリスが滑空する場面というわけだ。
 ライト兄弟が飛行機を発明するより前の時代の彼だが、気球という最新鋭の機械を運用していることから原理はわかった。ようは大きな翼で高いところから落ちればゆっくりと飛んでいるように見えるというものだろうと当たりをつける。それにどのみち大した問題ではない。銃で撃たれれば人間は死ぬのだから。

(怪我人か。いや、死体だ。)

 ゆっくりと狙いをつける。手に持っていたのが人間だとわかり、ついでそれが死体とわかり若干の知的興味が湧くが、そのことが引鉄を引かない理由にはならない。そして指に力を入れようとしたまさにその時。

「失礼します──」
(なにっ。)

 四宮かぐやに声をかけられた。
 彼らしくないミス。つい空から舞い降りるという衝撃的な登場に目を奪われて、背後から近づく人間に気づかなかった。慌てて振り返ると、そこにいたのは可憐な女性で。

(姉さん──)

 縁の視界が歪んだ。その年の頃は、記憶の中の彼の愛する姉、雪代巴と同じほどで、目の前の人物が姉へと変貌していき──

(違ウッ! 姉サンじゃない!)
「──頬に十字傷のある男を見たか?」

 すんでのところで意識が歪むのを堪えた。
 努めて落ち着いて話そうとして、それでも声が震えるがなんとか絞り出す。かぐやの返事もろくに聞かずにアリスを確認すると、一目散に駆け出した。アリスに気づかれたというのもあるが、それ以上にかぐやのそばにいれば頭がおかしくなりそうだった。

(姉さん……)

 それほどまでにクリティカルに、四宮かぐやは雪代巴を連想させた。
 その背丈も、その黒髪も、その美貌も、彼の最愛の姉を。

「姉さん……!」


「しまった、遅れたか!?」
「……■■■■?」

 そして時間は先頭へと戻る。
 縁の声を聞いて慌てて駆けてきたアリスは、信じられないものを見る目でかぐやを見た。

「人間だと……! 生きた人間だと!」

 これには驚愕せざるを得ない。死んだ人間だけでなく、まさかの生きた人間も見つけられたのだから。死体だけでも充分価値はあるのに生きた個体となればどれほどの価値があるかわからない。

「■■■、■■?」
「言葉は通じないようだが、この美貌。この理知的な雰囲気。人間というのはこれほどまでの……!」
「■■■■■? シノミヤ、カグヤ。」

 名前のようなものを名乗りながら手を差し出す彼女に、アリスも名乗って握手を返す。絶対に彼女を入間に献上しようと固く決意したことを、かぐやは知る由もなかった。


874 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/11(木) 07:42:58 ???0



【0203 『南部』オフィス街】


【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― まんがノベライズ 恋のバトルのはじまり編@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 何が起こっているか調べて、脱出する。
●中目標
 警察署へ向かう。
●小目標
 アスモデウス・アリスさんとコミュニケーションをとりたい。

【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる。
●中目標
 警察署へ向かい緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す。
●小目標
 走る。

【アスモデウス・アリス@魔入りました!入間くん(1) 悪魔のお友達(入間くんシリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 会場を探索し、入間がいれば合流。
●中目標
 シノミヤ・カグヤを入間に献上する。
●小目標
 生きた人間だぁ……!


875 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/11(木) 07:43:30 ???0



「おい、大丈夫か?」
「む?」

 一方その頃、禰豆子。
 森の中で途方に暮れていた彼女に声をかけてきた少年がいた。
 漣蓮。トモダチデスゲームというデスゲームに参加されたことのある少年である。
 この少年、頭は良くて運動神経も良く顔も良くて家も金持ちで性格も良いという天から五物ぐらい与えらた人間なのだが、一つ特徴があった。それは。

「こんな小さな子どもで……峯岸の野郎!」
「むぅー……」

 微妙に活躍しないのだ。
 もしさっきの場に彼がいれば、彼は刺し違えて禰豆子を守ろうとし彼女を曇らせていただろう。しかしいなかったので、こうして鬼を取り逃がすどころか見逃されたことに落ち込む禰豆子が生まれている。
 決して悪いスペックではない。彼がいることでプラスにはなっている。だがしかし、どういうわけか、彼はめぐり合わせがいまいちなのだ。
 しかしこうして強対主催に巡り会う。それもまた彼である。

「怪我はないみたいだな。立てるか?」
「むう!」

 危険人物とは出くわさずに禰豆子と出会った蓮。護身なるか。



【0203 平原】


【竈門禰豆子@鬼滅の刃 ノベライズ〜きょうだいの絆と鬼殺隊編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 人間を守る。
●小目標
 目の前の人(蓮)と一緒にいる。

【漣蓮@トモダチデスゲーム(トモダチデスゲームシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 ゲームを潰す。
●小目標
 女の子(禰豆子)を守る。


876 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/11(木) 07:44:20 ???0
投下終了です。
タイトルは『踏み出す一歩は完璧で究極のあなたへ』になります。


877 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/19(金) 03:02:11 ???0
投下します。


878 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/19(金) 03:03:44 ???0



 春野サクラは夢見キララの手を取ると町中を必死に走っていた。
 この会場に気がついたらいて、動揺から立ち直ったところで話しかけてきたキララと互いの名前すら名乗る間もなく走り出すことになった原因が、彼女の目の前へと降り立つ。

「「危ないっ!」」

 二人が互いを気遣う声をあげたのはなんの偶然か。そしてその口が閉じるより早く蹴り飛ばされる。
 一蹴りで二人を、それも忍者であるサクラすらもキララを庇うことすらできなかったことが、襲う者と襲われる者の戦力差を端的に示している。
 繋いでいた手が離れ地面を転がるサクラに広がるのは絶望。殺し合いに巻き込まれたのもまさかなら、その人物もまさかだ。

「終わりだ。」

 サクラよりも何歳か年下だろう外見からは想像できない冷徹さでそう言う少年の目は、赤い瞳に黒い渦を巻いていた、

「写輪眼……アンタ、うちは一族の……」
「写輪眼じゃない、うず目だ、魔眼だがな。」

 その瞳の特徴からサクラが連想するのは、同じ第七班の仲間であるうちはサスケだ。木の葉の名門にして忍界最強の瞳術を持つうちは一族は、サスケの兄によって一夜にして皆殺しにされたと聞く。圧倒的な強さもあってサクラがそれと勘違いするのも無理はなかった。
 少年の名はタイ。サクラとは別の世界である日本で悠久の玉を得るために暗躍していた伝説の子である。そして伝説の子である証のその瞳は、期せずして写輪眼と同じ赤に黒。この瞳は彼に高い動体視力・身体能力・反射神経をもたらしていた。そしてそんな力を持つ彼に蹴られれば下忍であるサクラとて怪我は避けられず。

「くっ……がっ、あああ!」
「ふん、まだ生きてたか。」

 ましてや肉体的には一般人のキララになど助かる道理がなかった。
 いくら人気アイドルとしてレッスンに打ち込んでいるとはいっても、特別な異能などはない。
 鋭い蹴りで腹の皮をぶち破り、内臓にまで直接ダメージが及んでいる。人間として、なによりアイドルとして致命的なその傷を自覚したことでキララの顔色が青くなる。その青さはすぐに失血によるものに変わるだろう。
 タイが血に濡れた靴の爪先を地面になびり、彼女にとどめを刺そうと歩き出すのをサクラは見ていることしかできない。サクラにとっても先の一撃は今までの人生で最も大きいダメージだ。立ち上がるどころか意識すら保てそうにない。

(こんなに強いなんて、コイツ、カカシ先生さんぐらいの身体能力があるんじゃ……)

 絶望に沈む心で想像するのは、自分たち第七班の担当上忍。彼女の中では同じ写輪眼を持つサスケすらも文字通りに子供扱いする体術の使い手。もっともはたけカカシの場合は身体能力だけではなく体術そのものの技量が上忍としても高い水準にあるのだが、どのみちサクラからすれば目で追うのが難しいほどのスピードで動いているので大差はない。たしかなのは、下忍レベルのフィジカルしかない自分では抗いようがないということだけ。忍術も幻術も使わない相手に文字通りの一蹴をされて打つ手というものが思いつかない。
 呆然と名も知らぬキララを見る。その口がかすかに動き、微笑んでいるのを、サクラは凝視した。。

(! それでも……)
「分身の術!」
(アカデミーの頃とは違う! しゃんなろー!」

 写輪眼のように卓越した観察眼が無くても、キララの口の動きでわかる。
 『逃げて』、そう言ったのだ、彼女は。
 名前も知らない自分に、同い年ぐらいとはいえ忍者でもない女の子が、これから殺されるとわかっているはずなのに心配させないようにと。


879 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/19(金) 03:04:12 ???0

「へぇ、幻か。それで?」

 なんとか2人の分身を出したサクラを面白いものでも見るような目で見て、タイはキララに向けていた足を返す。これで少しでもこの危険人物を足止めできる。そう思ってサクラがクナイを取り出し構えた次の瞬間、タイの姿が消える。次いで訪れたのは、ボフンッ!という破裂音、そして腹部の熱。

「うっ、ああ、あああ……」
「やっぱり君はただの人間じゃないようだけど……それでもぼくは持ってる基本性能が違う。"格"が違う。」

 タイの声が聞こえたのは自分のすぐ近く。視線を下に向けると、そこにはクナイを出したサクラの手を掴み彼女の腹へと突き刺したタイがいた。膝立ちになるような低い姿勢から見上げるうず目と目が合う。その瞳に吸い込まれるように意識が遠のく。それでも。

「変わり身の術!」

 クナイから手を離し印を結べば、サクラの体が煙とかす。残ったのはクナイに突き刺さったサクラの服だけ。

「なにっ。幻か。ちがう、たしかに刺した。」

 一瞬とはいえ視界を塞いだことが上手くいった理由だろう。深手を負っていたがなんとか術を発動すると絶望的な状況を脱することができた。サクラは聞き耳を立てタイの独り言から察する。
 変わり身の術はアカデミーで習う基礎的なものだが、それゆえに相手の不意をつく基本的な術だ。本来は当たる前にやるものだが、変わり身用の木や動物の用意もなければ、相手が早すぎてタイミングを取ることもできない。
 問題があるとすれば、キララを見捨てる形になったことだ。だが背に腹は替えられぬ。

「まだ気配は近い。先にお前を殺して……いや、いいことを思いついた。」

 だがそう思った矢先にタイの声でサクラの顔が更に青くなる。何をする気だと思えば、先ほどサクラに刺さっていたクナイをキララの顔の前に持っていく。
 何をする気だと言う疑問は続いて発せられたタイの独り言でとけた。

「そのきれいな顔をズタズタにされたくなかったら、さけんで助けをよべ。まだあいつは近くにいるはずだ。」
(なっ……! サイテーねコイツ!)

 サクラから見てもカワイイとしか言うしかないキララの顔の前に、クナイがチラつかされる。まさしく目の前に刃先を突きつけられ、瞳が潤む。傍から見ても心臓に悪いのだ、大怪我を負った上で当事者となっているキララの恐怖はどれほどのものだろう。それをわかってるタイはもう一度脅しの言葉をかけようとして、眉をひそめた。
 キララは口だけは笑っていた。

「笑うな、なにがおかしい、おびえろ。」
「あ……あ……」
「そうだ、そのままさけべ。」
「あ──あっかんべぇぇぇ!!!!!」
「うるさっ!?」

 大声を上げながら跳ねるようにキララの顔が持ち上がる。伝説の子として人間離れした身体能力や視力を持つ彼だが、聴力もまた人間離れしている。可聴域の広さと単純な耳の良さが仇となり、アイドルの大音声を顔の前でくらい、思わず耳を抑え上体を反らした。
 そして耳を抑えるような時は、なぜか人間目までつむってしまうものだ。

「はっ! そこか!」
「しゃんなろおおお!」

 気づいたときにはもう遅い。
 サクラは変化の術を解くと、タイの手の中に持たれたままだったサクラの服が元の彼女の姿に戻った。
 先の変わり身の術、実は変わり身などしていない。そもそもの話、ただ単に「変わり身の術」と口にして煙玉を使っただけで、実際に発動したのは変化の術だったのだ。
 攻撃が当たったと騙す変わり身のように、変わり身だと騙す変化。下忍になるまでの彼女ではそんなふうに応用は効かなかっただろうが、今の彼女はうちは一族の末裔であるサスケと意外性ナンバーワン忍者のナルトと同じスリーマンセル、波の国で2人が見せた変化の術を使った連携をいまの自分にできる形で落とし込んだのだ。


880 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/19(金) 03:05:11 ???0

「おおおおおお!!」

 裂帛の気合と共に、先ほどまで掴まれていた手の平にクナイを振るう。最短距離で、かつそこには弱点だろう、瞳があった。

「まずい、がああああっくそがあああっ!!」

 伝説の子たる証である第三の目、タイの場合は手の平にあるそれにクナイが突き刺さる。その瞬間、タイの妖力に乱れが生じた。
 変化した自分を弱点を曝け出した手で掴んでくれた。その僥倖を逃しはしない。目なのだからきっと弱点だろうというサクラの希望的観測は、しかし、実際弱点。それ以前に感覚の鋭い手を傷つけられたことで一瞬のパニックとなる。とっさに払いのけるように手を振るうと、くるりと回って手が離れた代わりに自分からサクラに体を突っ込ませるような体勢になってしまう。そこにあるのは、先ほど刺さっていたクナイ。そして彼の超身体能力を反射的に無理やり作動さしてしまい。

「がああああ、あ?」

 すとんと、体の真ん中に吸い込まれていく。
 クナイが、彼の心臓へとぶち刺さった。
 信じられないものを見る目で、タイは自分の胸を見る。そこには黒光りするクナイ。ニ度見する。三度見する。クナイ。

「そんな……バカな……ぼくは、伝説の子なんだぞ……こんな、ことが……こんな死に方が……こんな、悪い、じょうだんだ……」
「……いやだ、こんな、死に方……」
「…………………」

 タイの声が小さくなって、膝から崩れるように仰向けに倒れた。

「ハァ……ハァ……ざまあみろ……」

 それを見送り、サクラもキララの横に寝転がるように倒れた。腹からの血は刺されたときよりも勢い良く流れている。激しい動きで動脈の傷が完全に開いたのだろう。そして大声を出したキララもまた同様であった。こちらはずっと仰向けだったので一見して出血は少ないが、サクラ以上に大量出血を起こしている。

「イッタぁ……どうしよう、これ……ダメかもしれない……ごめんなさい、助けられそうにないや。」
「ううん……さっきの、なに? マジック?」
「ただの変化……忍者だからさ。木の葉隠れの……」
「へー……すっごい……忍者……」

 ぐにもつかない話をするのは、血を失いすぎて2人とも痛みを感じなくなってきている。意識が眠るように遠くなり、睡魔に抗うように喋り続ける。口を閉じたときが命の灯火が消えるときだと、本能的に察しているからか。

「そう、忍者……春野サクラ……第七班……木の葉隠れの……」
「キララ……夢見……キララ……アイドル……それで……この間……」
「春野……サクラ……サスケくん……」
「教室……アイドルで……行先……アイドル……マヨイ……迷宮……」

 もはや互いの声も聞こえていない。自分が何を話しているのかもわかっていない。耳に血が行っていないため聴覚を喪失し、脳に血が行っていないため言葉を音としてしか認識できない。
 それでも名前を名乗る。自分が誰なのか伝えられずに死んでいくのは嫌だという感情は残っている。何か言いたい、言って死にたい、それがたわごととして口から流れる。
 それから10分ほど、2人はせん妄状態で意味の無い言葉を話し続けたあと、まず夢見キララが、その数分後春野サクラが、それぞれ心停止した。


881 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/19(金) 03:05:38 ???0

(なんかきな臭いと思ったらこれか……これどこ行っても殺人事件起こっとるんちゃう?)
「ダメだ、死んでる……」

 せやろな、と心の中で思うに留める。
 名波翠は一難去ってまた一難という言葉を今日ほど噛み締めたことはなかった。
 殺し合いに巻き込まれ、時間遡行の感覚を覚えて未来を変えようとし、テレパシーで相棒の死を感じて、明らかに殺し合いに乗ってそうな参加者を見つけ、ここまでで1時間ほど。人生で一番辛い時間だったと思う。だがそれから先1時間もそれと同じぐらい辛いことになりつつあった。

「心臓を一突きされた男の子と、お腹を刺された女の子、それにこっちは、どういう殺され方でしょうか?」

 立ち話も何なのでと近くに見えた建物を目指したのが悪かったのか。カレンが自分たちが居たという農協に案内しようとするのをジュンが警戒したことに便乗したのが悪かったのか。行ってみたら漂ってきた血なまぐさい臭いにまさかなと思っていると、3人の子供の死体と対面した。
 そしてそんな凄惨な殺害現場で比較的冷静にそう話すのが、翠が頭を悩ませている原因である参加者の少女、大場カレンだ。
 カレンは、というかカレンの知り合いだという朱堂ジュンとカレンの同行者だという滝沢未奈は、どちらも殺し合いに乗っていた。テレパシーもそうだが、雰囲気が尋常ではない。それも単に事件に巻き込まれた人間のものではなく、事件を起こす側の雰囲気だ。これまで何回も普通ならば考えられない事件に巻き込まれているからわかる。この3人は絶対に気を許せない。

(なんで一度に3人も殺し合いに乗ってるやつに会うねん。もしかしてそういう子供ばっか集めとるんか?)
「アンタ良く平気だね。」
「これは殺し合いなんです、こういうのとだって起こってもおかしくないでしょう? それとも、あのウサギの話を聞いて人が死なないドッキリだとでも思ったんですか?」
「そういうことじゃなくて、アンタの心について聞いてんのよ。」
「やめなよ二人とも……」

 とても友好的とは思えない会話をしているが、これで元からの知り合いだというのだからいったいなんの知り合いだったのだと聞きたくなる。

(この3人に比べたらまだメイ子のほうがマシや。)

 膝を折って遺体に手を合わせている玉野メイ子の姿は、3人と比べると一般人らしさがある。惨殺死体を前に真剣に祈りを捧げているのは割と普通ではないのかもしれないが、とにかく死者をいたんでいるのでだから死者を増やそうとしている人間よりはマシだろう。これで自分のような能力を持ってたり自分と違ってあまり心根が良くなさそうなのでそこは心配だが、と自分を棚に上げて思う。割とどっこいどっこいの人間性である。

「いや待て、こいつ生きてるぞ!」

 そして最後の一人で唯一の男子で一番まともそうな藤山タイガとどうこの4人を管理しようかと考えようとしたところで、彼の叫び声に耳を疑った。

「そんなアホなこと──ホンマや!?」
「少しだけど心臓が動いてる!」

 メイ子と2人で駆け寄ると男子の胸に目をこらす。たしかに、かすかに上下していた。

(どう見ても心臓に刺さっとるよなあ。でも刺さってない……いやこれ絶対刺さっとるやろ。ど真ん中やん。それにこの子、なんや、この感じは……?)


(ちっ、気づかれたか。このまま気をうしなったふりをしておこう。)

 ──タイは死んでいなかった。
 たしかに心臓は刺された、妖力も上手く操れない。
 だがしかし、しかしそれだけではタイを殺し切るには足りなかった。
 タイ自身も自分の体の再生能力には驚いていたが、彼は子供の頃から親代わりの男によって虐待を受けて育つという哀しき過去がある。その過去が彼に、姉の竜堂ルナをも上回る再生能力をもたらしていた。
 とはいえ、心臓に何か刺さっても刺さり方が良かったので生きながらえた、というのは時々聞く話。これは精々、常人なら確実に死んでいた傷が、ギリギリで自然治癒が見込める程度でしかない。動かず喋らず身動ぎせず、それで少しずつ傷が閉じていっているレベルだ。しかもクナイが刺さったまま。それでは治ったとしてもまともに動けないが、背に腹は替えられぬ。わずかでも動かせば途端に血が吹き出るという予感がある。

「なるほど、死人ではなく、怪我人ですか。」

 そしてもう一つ。今喋ったカレンと呼ばれている少女。彼女が話した途端に場の空気が剣呑なものになった。理由はわからないが、カレンかもしくはカレン意外も何か危険なものを感じる。タイは顔が強張るのを抑えられない。今の自分はほんの少し喋るだけでも、大きく息を吸うだけでも死にかねない身。狩る側から狩られる側に回ったことを、突き刺さる少女たちの視線から理解した。


882 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/19(金) 03:07:23 ???0



【0139 森・『チーム過半数ステルスマーダー』】


【タイ(青い鳥文庫)@妖界ナビ・ルナ(5) 光と影の戦い(妖界ナビ・ルナシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いに乗る。
●中目標
 心臓の傷が塞がるまで死んだふりをして安静にする。
●小目標
 こいつら、いやな気配がする……

【名波翠@宇宙からの訪問者 テレパシー少女「蘭」事件ノート9(テレパシー少女「蘭」事件ノートシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
●中目標
 このグループ危なすぎるわ、なんとかしないと……
●小目標
 この子生きとるんか? そもそも人間か?

【大場カレン@生き残りゲーム ラストサバイバル つかまってはいけないサバイバル鬼ごっこ(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 バトル・ロワイアルを優勝する。
●中目標
 このグループを利用する。
●小目標
 うまくごまかしてマーダーだとバレないようにステルスする。

【朱堂ジュン@生き残りゲーム ラストサバイバル 最後まで歩けるのは誰だ!?(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝する。
●中目標
 命の百合を手に入れる。
●小目標
 うまくごまかしてマーダーだとバレないようにステルスする。

【滝沢未奈@絶体絶命ゲーム 1億円争奪サバイバル(絶体絶命シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 由佳(妹)を助けるために1億円とせっかくなら命の百合を持ち帰る。
●中目標
 このグループを利用する。
●小目標
 うまくごまかしてマーダーだとバレないようにステルスする。

【藤山タイガ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 主催者をぶちのめして生き残る。
●小目標
 目の前の男子(タイ)を助ける。

【玉野メイ子@サイキッカーですけど、なにか? (1)ようこそ、ウラ部活へ!?(サイキッカーですけど、なにか? シリーズ)@ポプラキミノベル】
【目標】
●大目標
 まず死にたくない、話はそれから。
●中目標
 とりあえず翠に従っとく。
●小目標
 目の前の男子(タイ)を助ける。


883 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/19(金) 03:08:13 ???0
投下終了です。
タイトルは『強き者の蹂躙、弱き者の欺瞞』になります。


884 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/22(月) 07:20:50 ???0
投下します。
それと前回の状態表に抜けがあったので追記します。


885 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/22(月) 07:21:06 ???0


【脱落】

【春野サクラ@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【夢見キララ@迷宮教室 最悪な先生と最高の友達(迷宮教室シリーズ)@集英社みらい文庫】


886 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/22(月) 07:21:46 ???0



 いやいや悪い冗談でしょ。
 そりゃ何度もお世話になった場所だけどさあ。

「殺し合えって言われて気づいたら警察署ですか……シャレがきいてるのか何なのか……あっ、いいお茶使ってる。」

 デスクや床に銃やら手榴弾やらがでーんと座っている部屋の中で、私、園崎魅音はお茶をすすっていた。
 生活安全課の課長さんのらしい椅子に座って、おせんべいと一緒に口に入れる。うん、こっちはいまいちだな。醤油がくどい。
 さて、なぜ私がこうしているかって言うと、そりゃもうパニックだからですよ、ええ。
 こう見えても私、園崎魅音は園崎家の次期当主でして、その園崎っていうのは、いわゆる「ヤーさん」なわけで、まあ人殺しにも無縁じゃないですよ。言っちゃなんだけどオカルトな噂のある村で本当に人殺しちゃってる一家だし、地元の社会では表も裏も名が知れてるわけですし、殺し合いってことには、まあ、かなりビビってはいますけどわからなくもないんですよ。
 だから私は、人は人が殺すって思ってました。本当に怖いのは鬼よりも人だって。
 でも違いました。鬼、出てきました。
 うちの村ではオヤシロ様っていう鬼みたいなのが人殺すとか攫うとか噂になってて、それはうちの家がやってることなんだけどなあって思ってたんですけど、本物の鬼いました。これどう受け止めるのが正解なの?

「鬼って実在するんだねえ。あんなマスコットみたいなのとは思わなかったよ。」

 デスクの上に置いてあったタバコから一本咥えて、これもデスクの上に置いてあったライターで火をつけます。うん、マズい。臭い煙が肺の中に入ってきて、すぐ灰皿で消しました。
 そのまま酸欠になった頭でぼーっと壁を見ます。掛けてある時計は0時半を指していました。30分ぐらいこんな感じでぼーっとしてたんですね。時間無駄にしすぎだろあたし。
 さて……

「夢かなって思ったけどぜんぜん覚めないな……ははっ、どうしよ。これがオヤシロ様かぁ……」

 ……どこからか聞こえてくる銃声が次第に連射されたものに変わって、音のバリエーションも増えた。叫び声も聞こえてくる。近くで銃撃戦が起こってるな、こりゃ。
 いくら現実逃避したところで私のすぐそばで殺し合いは起きてて、そのとばっちりがいつ飛んできてもおかしくない場所に、私はいる。
 ──そのことに私は、デジャブと違和感を同時に覚えて、すすっていたお茶にむせた。

 なにかが、おかしい。

 なにかが、変だ。

「あれ? なんだっけ、なにか、忘れてるような……」

 言いようのない奇妙な感覚に、私は襲われている。
 園崎魅音は、こんなわけのわからない状況を知っている気がする、忘れていたのを思い出したような感覚がある。
 それはまるでいつも使ってる外開きの扉が内開きだったと思いだしたときみたいな、自分が今まで信じていたものが嘘で、常識を何故か忘れていたときのような、そんな経験したことのないものだ。
 いつから変わった? 何が変わった?

「……変だな、変になってる。」

 息がいつの間にか荒くなってて、心臓の鼓動早くなる。私は急須からお茶をそそぐと、フーフーするのもそこそこに飲み干した。熱いお茶が喉からお腹へと落ちていく。それでもこの感覚は飲み込めそうになかった。
 なんとなく遠くを眺めてしまう。赤い霧に覆われた街は、遠くの方で細く煙が上がっているのが見えた。別の部屋にはバズーカや迫撃砲まであったし、もしかしたらそういうのを使ったのかもしれない。


887 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/22(月) 07:25:05 ???0

「これって、私みたいな筋者を参加者にしたってことなのかな? そういえばあの鬼が喋ってるときになんか侍みたいのがいたような……あれ? 私、前にもこのセリフ言わなかったっけ……? あぁもう! 頭重いし喉痒いし、オジサンには手に負えないよ、はぁ……」

 おちゃらけてもため息してみても応えてくれる人は誰もいなくて。硬いコンクリの壁とか床に反響してるんじゃないかってぐらいしんとしている。
 やってられないなあ。
 でも、やらなきゃなぁ。

「……あー、もう、現実逃避はやめやめ。」

 と言ってみたけれど、何をすればいいのかがわからない。世の中の人ってさ、殺し合いに巻き込まれた時に何すればいいのか知ってるもんなのかね? これが知ってる人や知ってる場所でもあればそれ目印にしようってなるけど、知らない街で知ってる人いないならどこにも行きようがない。

「誰か来た。」

 なんて考えていたのに、気がついたら私は、自分でも引くぐらい冷たい声でつぶやいていた。刑事ドラマみたいにブラインドを指で折って外を見る。見間違えじゃない、二人来た。髪の長い女と、小柄な……っていうかあの背格好って……嘘でしょ……

「圭ちゃん?」

 撃鉄を起こす。
 ヤバい、泣きたい。こんなことってあるの? 会いたくない人が来た。なんでよりによって、知ってる人が巻き込まれてるかな。圭一がいるってことは、レナも、梨花ちゃまも、沙都子もいるかもしれないってことじゃん。
 待て、園崎魅音。それはおかしい。決めつけるな。そうじゃないかも知れない。まずは今やるべきことを考えろ。
 へたり込みそうな膝を立たせて、エレベーターまで走って、停めておいたからすぐ開いたドア入って、ボタン押した。ドジったな、これじゃこの階に誰かいますよって言ってるみたいじゃん。気が回ってなかった、最初に来たのが圭ちゃんで良かった、いや良くない。

「誰だっ!」

 チン、という音と一緒に声が聞こえてきた。聞きたかったけど、聞きたくない声だ。

「圭ちゃん、ビビりすぎだよ。」
「そ、その声、魅音かっ!?」
「よっ、圭ちゃん。」

 私が返事をしながら柱の影から出ると、圭ちゃんはわかりやすく動揺した。
 それに苦笑しかけたけど、すぐに圭ちゃんの横にいる女の様子に気づいてそれどころじゃないってわかる。

「どうしたのそれ、誰にやられた?」

 女は腕から血を流していた。だらんと垂れた指先からはポタポタと血が落ちている。2人の後ろには血痕が続いていた。
 そして、2人とも話そうとしなかった。圭ちゃんはどう見ても挙動不審で、女の方も困ったような感じだった。
 そして2人から微かに香るのは、硝煙の臭い。
 誰かと戦ったってすぐにわかる。

「こっちに来て。手当てしないと。私は園崎魅音、圭ちゃんの部活仲間です。」
「山田奈緒子です、東京で天才美人マジシャンをしていまして、あだっ。」
「マ、マジシャン、ですか。こっちです、救急箱を見つけてあるんで。」

 自分で言うぐらいあってたしかに美人だ。私に負けないぐらい髪の毛ツヤツヤだし。
 これは……下心があったね、間違いない。あとで圭ちゃんはシメる。
 それは置いとくとして、私は山田さんが東京から拉致られたってとこに引っかかった。圭ちゃんもいるからてっきり雛見沢のみんなを集めたと思ったんだけど違うのかな? オヤシロ様はどうして山田さんを選んだんだ? それともこの殺し合いって、オヤシロ様とは関係ないのかな?
 もっと話を聞かなきゃなんないけど、でもその前に。

「この傷は、結構深いですね……弾丸が貫通してる。残ってるよりはマシだけどこれは……」
「ありがとう、えっと……園崎さん?」
「園崎魅音です。山田さん、何があったんですか?」
「……どこから話せばいいか……結論から言うと、私たちが銃撃戦をしたせいで子供を1人殺したかもしれません。」

 山田さんが絞り出すように言った。
 思わず腕を止血帯で縛る力が入りすぎたけど、身動ぎするだけで何も言わなかった。


888 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/22(月) 07:25:31 ???0


「──なあ、そろそろ入っていいか?」

 部屋の外から圭ちゃんの緊張した声がする。撃たれたところを手当てするのに上を脱いだほうがやりやすかったから追い出したけど、その声の感じはおかしかった。思春期だからとかそういう理由だったらどんなに良かったか。
 小さな子供を撃ち殺したかもしれない。そんなことになったら、私だってああならないとは言い切れなかった。

「もういいよ。」

 呼びかけた私に応えて扉が開くまでの時間が、嫌に長く感じられた。
 それが私の心の問題なのか、圭ちゃんの心の問題なのか、今の私にはわからない。
 小さく音を立ててドアノブが回って、圭ちゃんはゆっくり入ってきた。場所のせいもあって、まるで自首しに来た犯人みたいだった。

「じゃあ、まずもっかい聞いとくけど、本当に他のメンバーとは会ってないんだね?」

 私はいきなりその話題をすることは避けた。そもそも最初に聞きたかったのはこっちだったし。

「……あ、ああ。お前が初めてだ。この、こ、殺し合いが始まってすぐに山田さんと会って、そこから……」
「私たちが会ったのは、さっき話した子供だけです。」

 圭ちゃんは力なく頷いた。
 その顔はどんどん青くなってるようだった。

「わかった。こっちはずっと警察署にいたけど、圭ちゃんたちとしか会ってないよ。」

 ここまでは会ったときに聞いたこと。あらためて確認する。ここからが、本当に聞きたいことだ。

「それで、山田さん、聞きたいんだけど、圭ちゃんが撃ち殺したかもしれないって本当?」
「魅音「圭ちゃんは黙ってて」……」

 これは聞いておかなきゃいけないことだ。
 この人のせいで圭ちゃんが人を殺した。
 この人がいなければ、とは言わないけれど、でも真実は知っておかないと。

「……撃ち殺してはないと思います。二人で警察署に向かっていたらあそこの交差点で子供たちと会いました。子供の一人がこちらに駆け寄ってきたら、その近くに銃撃があって、前原さんと子供たちの間で撃ち合いになったんです。お互いに弾切れになるまで撃ち合って、終わったら。」
「真ん中で男の子が、頭から血を流して死んでいた。圭ちゃん、合ってる?」
「あ、ああ! 銃を持った、女の子たちと会って、そしたら突然女の子たちと一緒にいた男の子がこっちに来て、そうしたらどこからか撃たれそうになって、それで撃ち合いが始まった……」
「そうしたら、男の子が。」
「ああ……頭から血を流してた……」

 ……二人が言っていることはだいたい一緒だ。大きな違いはない。
 あそこの交差点で、拳銃を持った女の子たちのグループと出会った。
 そうしたらそのグルーブにいた小さい男の子がなぜか山田さんに駆け寄ってきた。
 その男の子の近くに銃弾が飛んできた。
 そのあと女の子たちに撃たれて、ショットガンを持ってる圭ちゃんが撃ち返した。
 パニックになって弾切れになるまで撃ち合って、気がついたら男の子が死んでいた。
 一つ一つ冷静に考えていく。
 いちおう撃ったっていうショットガンも見た。
 結論は、すぐに出た。


889 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/22(月) 07:25:55 ???0

「だから、山田さんは女の子が撃った弾丸が男の子を殺したって言いたいんですね。」

 ハッと圭ちゃんは顔を上げた。

「ショットガン、つまり散弾銃の玉なら頭から血を流して死ぬなんてぐらいじゃすまない。交差点の出会い頭で、男の子が中間地点にいたなら数メートルぐらいの距離のはず。そんな近くにいる子供にショットガンを撃ったら、散弾が1発しか当たらないはずがない。」
「ええ。もし当たるなら、他の玉も当たるはずなんです。園崎さん、雛見沢には漁師はいますか。」
「言いたいことはわかりますよ。ジビエで見たこともある。散弾銃の玉は十何メートル離れてたってそんなに散らばるようなものじゃない。それなのにたまたま散らばった1発がたまたま頭に当たるはずがない。頭だけでなく顔や首や胸にも当たるはずなんですよ。」
「つまり、前原さんは殺していない。」

 私たちの答えに、圭ちゃんは目を見開いていた。
 はぁはぁと大きく息をして、それが何分も続いて。
 最後に両手を広げて顔を覆うと、大きなため息を一つついて。

「……良かった……!」

 そう言って泣き出した。

(そう、圭ちゃんはそっち側でいて。)

 自分が人を殺したのではない、それがどれだけホッとすることか。
 私の目の前で、その実例がいた。
 これがふつうの反応なのだろう。園崎という家にいるから感覚が鬼によってしまっているけれど、ふつうはこうなるものなんだ。
 誰だって人殺しにはなりたくないし、人殺しとは関わりたくない。
 そう納得して私は。

「……あれ?」
「どうしました?」
「あ、いえ、なんでも、ちょっとお花を摘みに。」

 山田さんの気遣うような声を後ろに、トイレへと駆け込んでいた。
 ゴシゴシと手を洗って、顔を洗って、うがいする。
 喉のかゆさのかわりに、全身が冷たいような気持ちがあった。
 心が落ち込むような気がして、さっきの圭ちゃんみたいにひどい顔なんだろうなと思って鏡を見る。

「……そっかあ、私、かなしいのかぁ……」

 鏡の中の私は、なぜか泣いていた。
 水滴なんて言い訳がつかないほどに、目から涙があふれていた。
 ……ほんとうは、理由もわかっていた。
 圭ちゃんは、私とは違う。
 私のような、園崎のような鬼とは違う。
 ふつうに生きている、殺し殺されからは遠い人なんだ。
 人の死が近くて、それを振りまくような一族とは、まるで違う。
 いっしょになんて、いられるはずがない。

「あなたもそう思ってたから、私の顔を見るのが怖かったんでしょう? 圭一くん……」



 ──遠のいたのは誤解を解く道
 ──ありえたかもしれないのは理解か
 ──時のカケラは前原圭一から少年の死を奪いさった
 ──かわりに齎されたのは


890 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/22(月) 07:26:34 ???0



【0113 『南部』 繁華街・警察署】

【園崎魅音@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第二話 綿流し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族や部活メンバーが巻き込まれていたら合流する。

【山田奈緒子@劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 まず病院行きたいんだけど無さそうっすね。これ死ぬんじゃないか……?

【前原圭一@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。


891 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/05/22(月) 07:27:05 ???0
投下終了です。
タイトルは『警察に行こう?』になります。


892 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/06(火) 02:19:51 ???0
投下します。


893 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/06(火) 02:20:30 ???0



 地面に背中を擦りつけると、森の土の匂いが辺りに広がる。
 学校から離脱した賢王ロボは、元いた森に戻ると人間の匂いを落としていた。
 その鋭敏な鼻は微かに香る銃などの人工物の匂いを逃さず嗅ぎ取り、自然の匂いに書き換えんとする。先の戦いは熊に見つかったことがきっかけだったので、人間からすれば神経質に見えるほどの入念さで脱臭にかかる。
 しかし、先ほどロボが死に追いやった高橋大地のように、その表情を読み解けるものがいたならばこう思っただろう。困惑している、と。

「……………………」

 ロボは改めて自分の匂いを嗅いだ。すっかり人間や人間に関係する匂いは落ちてはいる。
 しかし、森の匂いになっていない。正確には、森の匂いとしては不自然に足りていない。
 ロボの嗅覚は人間では感知できない匂いの不完全さに気づいていた。本来、森というものは様々な菌類、あるいは動物、またあるいは植物が存在し、それぞれが匂いの元となる物質を代謝・発生させている。たとえば雨の日の独特な匂いも土中の微生物が匂いの原因物質を発するからだが、しかしこの森はそういったものがない。
 人工的に再現された森では微生物などの再現はできず、膨大な種類の動植物をそれらしく配置しているだけだ。いわばある種の無菌状態。それでは本来するであろう匂いが立つ道理は無い。

「……………………」

 発する言葉は狼なので無い。
 だがしかし、ロボははっきりと不満を感じていた。この森は、人間の手のものだ。森そのものが人間の手に落ちている。畑や牧場よりもなお酷い、形だけの自然だ。
 とはいえ別にそのことに文句を言う気もなければ言おうという発想もない。問題はこれでは人間を狩るのに支障が出かねないということ。

 この殺し合いに巻き込まれてからの一時間で、ロボが出会った参加者の数は11。
 最初に会ったのは森の中にいた四道健太。銃を持った中年男性でロケットランチャーまで使ってきたが、ヒットアンドアウェイと投石により狩った。
 次に会ったのはこれも森の中にいたヒグマ。アンブッシュを試みようともしたが、先の戦いでの匂いが染みついていたこともあり気づかれ、人間に狩らせることにした。この時の反省からロボは匂いに関して過敏になり、消臭に努めた。
 そしてライオンとヴァイオレット・ボードレールと芦屋ミツル。ヒグマを連れてきた学校にいた参加者だ。これらにヒグマをぶつけるという作戦までは良かった。問題は次だ。
 古手梨花、富竹ジロウ、大場大翔、高橋大地、白井玲、磯崎蘭。一挙に6人の参加者と遭遇し、ここでロボのカウンティングが崩れた。狩るべき獲物が何体か把握するのは初歩の初歩、それができなくなった時点で狩る側から狩られる側へと落ちたことを逃走しながら悟った。振り返ってみれば、おそらく6人全員にヒグマとヴァイオレットを入れた計8人がミツルによって狩られたと見ていいだろうが、狩り漏らしもありうる。そのためロボとしては追撃をかけたいのだが、しかし自分の情報が既に伝わっている可能性を考え踏み止まる。
 ロボは知っている。人間というのは狼よりも早く正確に情報をやり取りすると。同族たちと違い人間並みの知能を持つ賢狼であるがゆえに、その一点で自分が野うさぎよりも容易に狩られる存在になりうると。
 しばし考える。情報が広まるより早く自分の存在を知るものを狩るか。罠が張られているのを避け森へ逃げるか。返り討ちのリスクと狼がいると知れ渡るリスク、口封じのリターンと獲物が他の参加者に狩られることに賭けての安全というリターン。
 迷っていたのは数秒。野生の理性が出した結論はどちらもよしとしないというものだ。双方とも遅いか早いかの差はあれど致命的な状況を招きかねない。折衷案で行くことにする。ロボは狩場となった学校を遠巻きに監視することとした。


894 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/06(火) 02:22:27 ???0

 見晴らしの良い場所に移動し、高低差を利用して低木に登る。狼は本来木登りができないが例外はある。器用に木の股に座ると木の葉で姿が見えにくくなっているのを確認する。そうしてしばらく学校を監視していると、あらためて人気のなさを感じた。見える景色には人間の縄張りである建物がいくつも見えるが、それらから人の気配というものを感じない。作りの違いもあるのだがそれ以上に不気味なものを覚える。
 そんなふうに思うのは神経質になっているからか。ロボにもそれはわからないが、注意深くなっていたことで微かな音にも敏感に反応するようになる。ピクリと耳が後方へ向いた。

「見ろよ、学校だ……ようやく森から抜けられそうだぜ……」

 木から降りて慎重に足を運ぶと、森の中を突っ切る道に出る。そこにいたのは先のミツルと同じ体格の3人の人間だった。
 関本和也・小林旋風・早乙女ユウは、森の中で拡声器を使ったことで蜘蛛の鬼(兄)に襲撃を受けてからこれまでさまよい続けていた。その顔には疲れが見えるが、ロボは慎重にその後を追う。3人が相手ではなかなか手が出しにくい。全員殺すことは容易だが、声を上げられたりと、狩りの痕跡を残す恐れがある。狼の存在を気取られたくないロボとしては、たとえグリズリー(ヒグマ)のような他の大型肉食動物がいるとわかっていても慎重に動く。

「なあ小林、気にしすぎだぜ? あんな状況で小さい子どもまで助けてられないだろ。」
「まあな……でも、今ごろ死んでるかもしれないって思うと、ダメなんだ。」
「死んだ仲間のことを思い出すから?」

 ロボの静かな殺意に気づくこともない3人が気に病むのは、自分たちが使った拡声器に寄って来たマーダーを円谷光彦と佐藤マサオに押し付けたかもしれないことだ。彼らの名前すら聞く間もなく逃げたため知る由もないが、実際に押し付ける形になり光彦は命を落とした。そうでなくても明らかに幼い子供を見捨てたことは、3人に後味の悪いものを残している。

「話しただろ? ギルティゲームのこと。あの時も見捨てたり助けられなかったりした……今回はそんなことにならないようにって思ったのに……」
「でもさ、あそこで助けてたらたぶん死んでたと思うな。さっきも言ったけど、オレ一人で突っ込んでったことあってさ、そんときは先生が助けてくれたからなんとかなったけど、100%死ぬって場面になっちゃったんだよ。ホラー映画で真っ先に死ぬやつ、まさにあれ。そういうのってあるだろ?」
「そうなんだけどな……助けたはいいけど後で死んだりとか……でも、そのときだけでも助けられたらって……」
「オレが言うのもなんだけど、自分が死ぬかもしれないときはやめといたほうがいいと思うぜ。オレを助けてくれた先生も最終的に死んじゃったし。自分を助けるついでぐらいでいいんじゃね?」
「2人とも、あそこ。車のところに人が倒れてる。」

 小林と関本の問答の内容など、ロボにわかるはずもない。だが彼らが落ち込んでいることはわかる。疲れからだけではないとふみ仕掛けるタイミングを図っていると、2人の会話に加わわらなかった早乙女が学校の方を指差して言った。ロボも目で追う。ヒグマをなすりつけた軽トラを指しているようだった。

「あれ、死んでるよな……まさか。」
「待てって小林っ。今言ったばっかだろ。落ち着けって。」
「ああ……まずは様子を見よう。」
「少し高低差があるから、ここからなら学校に地の利があるよ。」
「んじゃまず、校舎の偵察とかする?」

 突っ込むかと思ったが、ロボと同じく監視を選んだようだ。思いの外冷静に動かれ、襲うタイミングが来ない。
 腰を据えて、しかし周囲を警戒して動きを止めた3人から、ロボは距離を取ることにした。襲うにはリスキーだと判断する。
 その判断が正しかったとわかるのは、それから数分後のことだった。


895 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/06(火) 02:25:00 ???0



 桜井リクと沖田悠翔。
 学校の中に潜んでいたためにミツルとヒグマの殺戮から難を逃れた2人は、ちょうどロボが森へと戻ったあたりで校舎からの脱出を図っていた。
 元々校舎にいるライオンを警戒して上層階にバリケードを築いていたが、ロボがヒグマを学校に連れ込んだ時に校庭に出たライオンを目撃している。この機を逃さずに猛獣が徘徊する学校から逃げようと急ぎ、しかし。

(まずい……! 校舎の中にライオンが……!)
(チィッ、なんでライオンなんか参加者にしてるんだよ。)

 ヒグマや人間に驚いて校舎に戻ってきたライオンに脱出を阻まれていた。
 物音を立てないように階段にへばりつき、一つ下の踊り場へ聞き耳を立てる。そして抱えていたライフルの重さに耐える。安全装置を外す音さえ聞こえてしまいそうで、ひたすらどこかに行ってくれることを祈る他ない。そんな彼らは、彼ら自身から銃を撃つという発想が無くなっていることに、気づくことはない。
 先のヒグマによる参加者の皆殺。軽トラに乗っていた何人もの人間がまたたく間に殺され、そのヒグマも突然土中から突き出た黒い何かに串刺しにされ死んだ。正気を疑う光景は、小学生の2人から殺人や発砲を選択肢からなくすのに充分すぎた。
 数分が10分にも1時間にも思える。そんな経験にそれぞれ思い出がある2人だが、回想シーンに入る余裕もない。ひたすら息を殺し続ける。そうして時間の感覚が無くなってきたところで、ようやく重々しい足音が遠ざかっていくのが聞こえた。爪がリノリウムの床に当たる音がナイフかなにかがぶつかる音に聞こえて、2人の背中が寒くなる。あの爪に割かれればどうなるのかは、ヒグマに襲われた軽トラの子供たちを思い出しなくても思い出しわからされる。人間は猛獣には勝てない。これは差別ではない、差異だ。

「──っはぁ! 死ぬかと思った……」
「下駄箱からは逃げられないな……」

 目で会話を交わして、もと来た階段を上がって、ひとまず近くの教室に転がり込むと緊張の糸が切れる。想像よりも過酷な状況に、ただ学校から出るだけで異様な疲労感を2人は感じていた。しかしここで休んでいるわけにも行かない。いつライオンが1階から2階に上がってくるかわからないのだ。脱出しなければまた籠城するしかない。既に戦うという選択肢は無くなっている。

「カーテンつなげれば、校庭まで降りられないか?」

 それでも機転は効くのは気質かそれとも経験か。悠翔の提案で手早くカーテンを窓から外すと、2人がかりで固く結び1本のロープとする。
 リクが先に降りると撃てないライフルを構え、代わりに悠翔がライフルを担いで降下する。
 降りたのは校庭に面した校舎際。焦りから見晴らしの良いところに降りてしまい2人で敷地際に駆ける。幸いなことに襲撃はないと、物陰に隠れて何分経っても何も起こらないことで判断して、校門へと急いだ。
 それは冷静に考えれば適切な判断とは言えないだろう。ヒグマにより多数の人間が殺され、そのヒグマも謎の手段で死んだにもかかわらず、その現場に行こうとする。その蛮勇さは、なまじ命懸けの状況への経験があるためリスクを過小評価していることもあるが、それよりも。

「ダメだ、みんな死んでる……」
「こっちもだ……待った、この女の子は!」
「生きてるっ!?」

 2人は軽トラに生存者がいないのかを確認せずにはいられなかった。
 校舎では何もできずに殺されていくのを見ているしかなかったが、それを良しとするような人間ではない。
 ゆえに、惨劇の唯一の生存者──古手梨花が彼らに助けられるのは必然だったのだろう。


896 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/06(火) 02:27:31 ???0

「開かない、ドアが歪んでるんだ。」
「窓から出そう。でも、生きてるのか?」
「他の人と違って血を流してない。銃をハンマーにしよう、せーのっ。」

 特にリクは、歩けなくなった妹のために命懸けのラストサバイバルに参加しておきながら、瀕死の母親を助けるために立ちはだかったライバルのために、優勝したにもかかわらず『なんでも叶う願い』を使ったほどのお人好しだ。目の前で死に瀕している人間を放っておきたくない。それが助けられなかった人間の中にいた、助けられるかもしれない一人ならばなおさらだ。
 既にヒグマによって大部分が砕けているフロントガラスを、銃床で殴りつけていくと、なんとか子供1人潜れるほどの穴が開く。梨花に破片が容赦無く降りかかるが、それが刺激となったのか、表情と血の気が無かった顔はかすかに動き出し、やがてゆっくりと目を開けた。

(ここは……? 車の中……? だれ……雛見沢の子供じゃない……雛見沢じゃない!)

 そして気絶による意識の混濁が急速に晴れていった。記憶がつながり、思い出した光景は熊に襲われるという信じがたいもの。しかし、自分に半ば覆いかぶさる男が、それが現実だと無言で教える。

(富竹……! 富竹がまた死んでるっ!)

 殺し合いに巻き込まれる前からの知り合い、富竹ジロウ。元自衛官だと名乗った彼が、頭から脳が見える状態で微動だにせずもたれかかっている。どう見ても死体だ。そして梨花の鼻を突くのは、濃厚な血の臭い。その強さから出血の程を推し量り、身体で分析した結果は明白。

(たしか、校門のあたりで、外国人の、女の子が襲われてて……オオカミとクマが突っ込んできて……それで……ミツル……そう、ミツル、アイツが何かした?)
(待って、蘭は? 大翔は? 超能力者に、主催者の関係者なのよ。あの2人に死なれたら──)
「開いた! 息もある、この子だけでも助けないと。」
(この子だけ、ですって? それじゃあ……)

 記憶を芋づる式に思い出していく。自分の身体が引っ張られていく感覚は、すぐに足元から這い上がってくるような絶望感にかき消された。
 超能力者、磯崎蘭。時間が巻き戻る前の記憶を失わずにいたエスパーで、様々な能力を持つ盾であり矛。
 生還者、大場大翔。司会者であるツノウサギが前に開いた命懸けの鬼ごっこで逃亡に成功した、主催打倒の切り札。
 その2人が同時に失われた。信頼の置ける富竹と合わせれば3人。絶対に失ってはいけない、換えが効かない人材がまたたく間に全滅した。

(蘭の仲間は、前の時は今頃には死んでたはず。合流は期待できない。大翔の仲間は第一放送までには会えなかった。これはもうダメかもわからないわね。それに……)

 名前も知らない少年たちに呼びかけられても、梨花は無反応で思考を巡らす。怪我によって話せないとでも思っているのだろうなと、2人を他人事で分析して、内心で鼻で笑った。もう何もかも手遅れなのに、と。
 気心の知れた自衛官も、超常現象に何度も遭遇してきたエスパーも、主催者に一度は勝利したリピーターも死んだ。そして自分は。

「大丈夫? しっかり!」
「立てるか?」
「みー……からだが、動かないのですよ……」

 首から下の感覚が、古手梨花には無かった。

(フフ、フフフ……笑えてくるわ。こんなにも、人の手の上で踊らされていると……)
(ここでも、雛見沢でも、結局は同じ……何度やり直してもダメなように世界はできている……)
(今度は、同じように記憶を持っている蘭もいるから、もしかしたらって思ったのだけれど。甘かった。何もかもぜんぶ……)


897 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/06(火) 02:35:02 ???0

 乾いた笑いしか出てこなかった。もはや勝ち筋も未来への道も見えない。それは奇しくも彼女の人生そのもののようであった。
 何度やり直しても、どれだけ努力しても、全てはムダ。今回は同じような立場の蘭がいたが、それでもダメだった。これではもはや、何も改善点が見つからない。
 実際には、蘭の仲間は今現在は生きているし、大翔の仲間もすぐ側まで来ている。しかし神でもなければ髪が近くにいもしない彼女では、そんなことに気づくはずもない。
 梨花の心に諦めが募っていく。雛見沢での頑張りも、今となっては惰性でやっていたように思えてきた。
 だが、しかし、そのまま心折れて眠りにつこうとする彼女は、ふと目を開けた。それは悠翔とリクの言葉が届いたから、ではない。一つの疑問が、全てを投げ出す前に気になったからだった。

「……なんで、蘭は記憶を失くさなかったのかしら?」
「? なんて言った? 大丈夫か?」
「私がやり直すから私だけ記憶が残ってたのだと思ってたけれど、そうじゃない? あの子やあの子の友達みたいに、記憶の残る人間がいる? それとも、あの子がやり直した?」
「頭かどこかを打ったんだ。動けないなもそれが理由なのかも。」

 悠翔とリクの話しかけを無視して梨花は独白を続ける。話すうちにピースがハマっていく感覚があった。

「やり直せる人間は何人もいる? たとえば……ゲームの主催者。そう、時間を巻き戻しているのは、殺し合いを開いているツノウサギ……」
「……まさか、雛見沢でも? 私以外に記憶を持ってるなら、やり直せなくても妨害はできる……」
「そうかっ! あははははは! だから、だからかっ! だから、何度やってもダメだったんだ。百年の魔女は2人いたっ! いや、3人かも、4人かも!」

 錯乱したかのように梨花は叫ぶ。助けに来た2人のことなど全く視界に入らない。
 まさか、こんな、わけのわからない殺し合いで、自分を永らく苦しめていた原因に行き着くとは。100年探し求めた答えの一端が見えたと、梨花は笑わずにはいられなかった。

「なら……今度こそやり直すだけね……フフフ……あなたなら、楽に殺してくれるかしら?」
「悠翔くん、急いで病院に運ぼう。」
「運ぶって行っても、病院やってる……?」
「それは……」
「必要、ないわ……どのみち、助かりそうにないもの。それよりも、逃げた方がいいわね。」

 自分の言葉に困惑した様子のリクと悠翔を見て、梨花はまた笑う。差し迫った死に気づかない2人は滑稽で、しかしとても簡単なことを100年見落としていた自分は更に滑稽だと、嘲笑わずにはいられない。
 自分が2人ではなく、その後ろを見ている理由がわかれば行動を変えるのだろうか? そんなふうにも思うが、梨花はあえて言わないでおいた。
 そして、ダァン。雷鳴のような銃声が響いた。

「熱っ! えっ?」
「悠翔くん!」

 地面に寝転がる梨花の上体を起こして呼びかけていた悠翔が、音のすぐ後に叫ぶと、何が起こったかわからないという表情のまま自分に倒れ込んでくる。富竹の時もこうだったのかなと思いながら、梨花は硬いコンクリに頭を打ち据えながらも依然として視線をミツルへと向けていた。

「しまった、罠か!」
「イッテえ……この子、囮にして……あがあああっ! い、痛いっ、くそっ!!」
「悠翔くん、しっかり!」


898 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/06(火) 02:38:23 ???0

 ここに来てようやく事態を飲み込めたようだが、リクは銃をミツルに向けつつも悠翔を助け起こすことに専念していた。それを見て梨花はまた笑う。ミツルがいたのは、学校の塀の角。距離は数十メートルはあるので、自分たちを見捨てて走ればまず助かるのに。
 ミツルはゆっくりと狙いをつけると、発砲した。梨花の顔に血が数滴かかり、見上げるとリクの耳たぶが千切れ飛んでいた。落ち着いて撃てるとわかったのでヘッドショットでも狙っているのだろうか。あるいはこちらが撃ち返せないとわかっているのだろう。それはリクのメンタルの問題ではなく。

「──撃ちたくないのにっ。」
(ああ、これで終わりね。今度目が覚めたときは、もっと上手く──)

 リクが震える手に手を重ねて無理やり発砲する、その瞬間軽トラから漏れ出たガソリンにマズルフラッシュが引火し、梨花たち3人を爆風が襲った。



「……これで、更に3人。」

 燃え盛る軽トラに近づき、ミツルはリク、梨花、悠翔へとヘッドショットを決めた。ついでに車にいる死体にも死体撃ちしておく。なかなか狙ったところに飛ばないことに苛立ちながらも、ひとまず扱えるようになった銃を撫で、ミツルは背を向けて学校へと歩き出した。


 ヒグマごと軽トラを串刺しにしてからロボたち猛獣の追撃を行っていたミツルは、早々に諦めて近くの民家へと腰を落ち着けていた。
 先の一連の戦闘、ミツルにとっても想定外の事態は多々あった。ダメージにせよ猛獣にせよ多数の参加者にせよ、受け止めきれていないことは多い。学校裏の森へと逃げ込んだらしいロボを、赤い霧に阻まれ上手く魔法も決まらずに追っている中で、無駄なことをしている暇はないと思い直した。
 民家に押し入り、顔を洗うと軽くストレッチする。身体を走った衝撃はまだのこっているが、少しの違和感といったレベルだ。戦闘にも支障はないと判断して、適当に冷蔵庫からジュースを出すとコップに注ぎ、リビングテーブルに座った。
 今更殺人に抵抗はないが、割と命懸けの状況だったと、まだかすかに武者震いする手をまじまじと見る。口に広がる甘みを味わいながら、この異世界も一筋縄では行かないと、肝に銘じようとミツルは思った。

「魔法が少し使いにくいし、気が散りやすい。この霧自体に魔力があるからかな。」

 わざわざ自分の杖を埋めていたほどだから杖さえ取り戻せば楽に勝てると思っていたが、どうやら甘かったと反省する。最初に戦った2人の機転は自分を出し抜くほどで、もしヒグマたちが現れなければ逃げられていたかもしれない。そうなれば手の内も殺し合いに乗っていることもバレる。さっきまでの自分ならそれがどうしたと思っていたが、今は肝が冷える思いだ。名前も知らない明智とヴァイオレットの顔を思い浮かべながらコップを置く。

「……というか、なんでこんなに銃が落ちてるんだ。今まで建物の中に入らなかったけど、もしかしてどこの家にも置かれているのか?」

 そしてなにより驚いたのは、室内に入ると武器が落ちていることだ。ライフルにショットガンにハンドガン。あるいは幻界にありそうな刀剣まで。トイレに入ろうと思ったら便座の蓋の上に手榴弾が置かれているありさまで、さすがにミツルも閉口した。
 どうやらあのツノウサギとかいう魔物は、魔法ではなく銃や剣で殺し合ってほしいのだろうと理解する。もしかして杖を奪ったのも単に魔法を簡単に使わせたくなかっただけなのではとも思ったが、とにもかくにも魔法頼りではいつ銃殺爆殺されかねないところだとはわかった。


899 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/06(火) 02:40:15 ???0

「使えるようになっておいたほうがいいな。え、重い……」

 魔法の有効射程距離が落ちているように感じて、とりあえずライフルだけ持っていくことにした。どうせそこらじゅうの建物の中に武器はあるようなので最低限のものとする。そもそも拳銃が必要な場面では魔法を使うとわかりきっているので、半分ハッタリだ、少しでも身軽にしたい。

「無いほうがマシかもしれないけど、持ってないのも不自然かな? まあ、とりあえず学校に戻ろう。ライオンはまだ学校にいるかもしれない。」

 そして休憩も終えたことで、あらためて残党刈りに乗り出すことにした。もう油断はしない。魔法を過信せずに銃も使っていくし、猛獣が参加者なのも理解した、そして参加者は短い時間で10人ぐらい集まるほどの人口密度。いつ新しい参加者と出会ってもおかしくはないことを念頭に動くと決めて。


「……これで、更に3人。」
「この火事に寄ってくる参加者を待ちぶせて、あと何人かは狩りたいな。コイツらは学校から来たみたいだし、今なら無人か。少し身を潜めよう。」

 そして現在、ミツルは学校へと向かっていた。
 あの軽トラの惨状に他の参加者が引き寄せられてるのを見たときは、射撃訓練も兼ねて襲うと決めた。思いの外当たらなかったが、魔法でも倒せる距離の上に軽トラからはガソリンが漏れ出ている。そんな状態では銃を撃たれても自滅するだけだと高を括って襲い、予想通りに自爆した。
 結果だけ見れば3人撃破。パーフェクトだろう。

「落ち着けって早乙女! 関本も!」
「離して、今なら殺せる。」
「ウソだろ……死んだ? 撃たれて、燃やされて……」
「……」

 だから気づかない。既に自分が他の参加者に捕捉され、銃口を向けられていることに。その銃口をじっと見る狼がいることに。
 賢王ロボは監視を選んで正しかったと冷徹に思う。彼が見張る中で行われたのは、彼が最も危険視する人間による殺傷。最初は自分のことを伝えることも警戒し、口封じのために関本たちを狩ってから速攻で襲おうとも思ったが、その心配は杞憂だった。勝手に人間を襲い殺してくれる。勝ち残るために便利なことをしてくれる人間だ。
 しかもどうやら、殺された人間はコイツらの仲間らしいと早乙女と関本の反応を見て察する。正確には関本の友人である大翔は死体撃ちされただけなのだが、そんなことは関本にもロボにもわからないし、どちらでも似たようなものだ。
 ロボにとって重要なのは、自分の存在を知るミツルの死。そしてその為に動いてくれそうな3人の人間。

「みんな、スマホ出せ。アイツの写真取ってバラ撒こう。」
「なにっ。」
「そんなことしなくても今殺せばいいよ。」
「返り討ちにあうかもしれないだろ。アイツにも仲間がいるかもしれないし。写真を撮ってから襲うかどうか決めようぜ。」
「おお、小林おまえなんか突然かしこくなったな。なんだかわかんねえけどとりあえず賛成するぜっ。」

 3人が何やらしながらまた話し出しすのを、ロボはじっと見る。
 ミツルを狩った時がお前たちが狩られる時だと、静かな殺意を込めて。


900 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/06(火) 02:45:08 ???0



【0124 『北部』学校】


【ロボ@シートン動物記 オオカミ王ロボ ほか@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残り、縄張りに帰る。
●中目標
 人間(ミツル)を警戒。
●小目標
 人間(ミツル)と3人組(関本和也・小林旋風・早乙女ユウ)で狩らせあわせる。

【関本和也@絶望鬼ごっこ くらやみの地獄ショッピングモール(絶望鬼ごっこシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●小目標
 殺された? 大場大翔が? ヒロトオオバが?

【小林旋風@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●小目標
 マーダーを警戒、ユウを警戒、和也も警戒、警戒する奴多いっ!

【早乙女ユウ@生き残りゲーム ラストサバイバル 宝をさがせ!サバイバルトレジャー(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 リクくんを殺したやつ(ミツル)を殺す。

【芦川美鶴@ブレイブ・ストーリー (4)運命の塔(ブレイブ・ストーリーシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 ゲームに優勝し、家族を取り戻す。
●中目標
 学校近くの敵を殺す。
●小目標
 まずは学校に潜む。



【脱落】
【古手梨花@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【桜井リク@生き残りゲーム ラストサバイバル つかまってはいけないサバイバル鬼ごっこ(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【沖田悠翔@無限×悪夢 午後3時33分のタイムループ地獄@集英社みらい文庫】


901 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/06(火) 02:46:20 ???0
投下終了です。


902 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/20(火) 10:18:21 ???0
投下します。


903 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/20(火) 10:18:55 ???0



 杉下元と茜崎夢羽はさほど親しかったというわけではない。

 ついこの前に転校してきた彼女。男子の中では一番話すし、なんなら一番仲がいいかもしれないなんてうぬぼれはあるが、それでも彼女の家のことやふだん何してるかなど、友人なら知っているようなことでもろくすっぽ知らない。
 それを知るのは、これから何日も何ヶ月も先のこと。まだそこまでに、この元は至っていない。
 それなのに猛烈な虚無感に襲われていることに、元自身がとまどっていた。

「ずっとあの調子だよ。」

 キッチンに入ってきたアキラはそう言いながら、テーブルの上のカップ麺をとる。フタを外すと、少し伸びたそれを無理やり口に押し込み始めた。
 アキラと小笠原牧人の2人が彼女らを保護して既に1時間が経っていた。目の前で息を引き取るのを看取り、泣きじゃくる元をなだめて、彼が落ち着くのを待つ。無駄な時間とは思わない。元々行くあてのないアキラたち、自分でもあの状況なら時間がほしいし、急いでどうなることもない。

「立てるようになるまで一人にさせといてやろう。」

 おなじように立ちながら、牧人もカップ麺をすする。夢羽を殺した人間が近くにいるのなら、ここも狙われるかもしれない。元は動けないのなら、彼を守るためにも2人が備えなくてはならない。
 無理やりに栄養を補給すると、牧人は家の2階へと戻った。カーテンの隙間から油断無く街を見る。民家の高さなどたかが知れているし死角も多いが、気休めにはなる。それに、牧人もアキラも1人になる時間が欲しかった。

(亜知、詩緒里、麻紀……)

 ここまでの情報を整理すると、おそらくこの殺し合いには子供しか参加していない。それはほんの少しの安堵と一層の不安を牧人に感じさせている。
 親が巻き込まれていなさそうなのはまだマシだが、妹や彼女(一応)や幼なじみが代わりに参加させられているのでは話しにならない。特に妹の亜知はまだ小学校にも入っていないのだ。なにがあっても助けなくてはいけないが、しかし動きようが無い。
 名簿が無いので巻き込まれているのかわからない。地図が無いので行きそうな場所もわからない。ただただ不安だけが増していく。

「水でも飲むか……」

 焦燥感からかカップ麺の塩気からか、喉の渇きを覚えて、キッチンへと戻った。扉越しに元が何かつぶやく声が聞こえる。それが母親を思い起こさせて、牧人は険しい顔で冷蔵庫へと向かった。と、気づく。冷凍庫が開いている。

「おい、開けっ放しだぞ。」
「え、なにが?」
「冷凍庫だよ。」
「なんで?」
「なんでってお前じゃねえの?」
「開けてないよ、人の家の冷蔵庫開けるのは失礼じゃん。」
「いやそうだけどそうじゃなくて、ん?」

 隣の部屋で先ほどまでの牧人と同じように窓から外を伺うアキラとやり取りしている中で、ふと視界の端にある何かに目が止まる。さっきまで気づかなかった黄色い何か。まじまじと見ると、戸棚の出っ張りに置かれたぬいぐるみだった。牧人の目が驚きに開かれる。ぬいぐるみには、参加者が付けられているのと同じ首輪があった。

「おい、ちょっと来てくれ。」
「今度はなに? なにこれ、ぬいぐるみ? 持ってきたの。」
「くるわけないだろ。それよりほら、ここ。」
「ネックレスしてる。ちがうこれ首輪だ!」
「気がついたらここにあったんだ。銃みたいにあのウサギが用意したアイテムじゃないか。」
「そんなことないよ、さっきまでここになかったもんこんなの。」
「とりあえず首輪引っ張ってみるか。」
「あかんそれじゃワイが死ぬぅ!」
「「うおおおおお!?」」

 手に取って2人で首輪をつつきながら話すと、突然ぬいぐるみが関西弁で喋った。
 取り落とした次の瞬間、信じられない光景があった。
 ぬいぐるみが宙に浮かび上がっていた。


904 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/20(火) 10:19:23 ???0



「ウ……ウソやろ。こ……こんなことが。こ……こんなことが許されていいのか。」

 ケロちゃんことケルベロスは驚愕に震えていた。
 ケロちゃんは大魔術師クロウ・リードが生み出した使い魔だ。現在は木之本桜のパートナーとして、魔法少女もののマスコットポジションにいる。
 そんな彼なのでこういった異常事態にも慣れているかというとさすがに限度があった。いくらなんでも何人も誘拐して蠱毒のように殺人遊戯をさせるなど聞いたことがない。

「人間でやるかふつう。しかもこの空間、魔力みたいな力がアホほど練りこまれてる。この霧とか息してるだけで呪われそうや。これはスーパーまずいで……!」

 顔をしかめながらそう言うのは、単に事態の危険性に心胆を震わせているからだけではない。ケロちゃんは太陽を司るのに対し、この空間には闇の力が満ちている。魔に属するものの上に真逆の属性のため、他の参加者よりも如実に影響を受けているのだ。

「ユエとかなら楽かもしれんけど、これはしんどいなぁ。魔力の消耗もふだんより激しい気がするし、なんか腹減るし。おるかわからんけど、急いでさくらと合流せんと。」

 そして1時間経った。

「ちょっと待ってこんな広くてええん!?」

 思わず関西のノリでツッコんでしまう。
 ケロちゃんは戦慄していた。たしかにクロウ・リードが生み出したクロウカードにも、結界を作るものはある。しかし街一つを用意するというのは信じられないものだ。シンプルな迷宮などではなくしっかりとした建物の群れに、幻覚などを疑う。しかしそれを確かめることも今のコンデションではままならなかった。

「どないなっとんねん……結界で街を作り出してるんやなくて、どっかの街に結界張ってるとかか? いやそれでもこんな広いってなったら、クロウ以上かもしれへん。銃とかぼんぼこ置いてあるけど、こんなん魔法で作れるんか?」

 疲れてくると独り言が多くなる。さらに腹の虫もなってきて、よろよろと飛ぶ。

「あかん、ホンマに腹減ってる。ユエみたくなっとるやがな……な、なにか食わんと飛んでるだけで死んでまう……あ、あそこ窓開いてるわ、おじゃましよ……」

 中に入ってみる。とりあえず人の気配は無い。喜び勇んでキッチンに行き、さて冷凍たこ焼きでもないかと漁りかけたところで、上から足音が聞こえてきた。


「──で、思いっきり人おるやん!?ってなって、とっさにぬいぐるみのフリしたったねん。そしたら首輪突くわ引っ張ろうとするわやろ? そんなん絶対したらあかんやん100%外そうとしたらボカンってなるやつやん。」

 そう言いながら、ケロちゃんは牧人たちの目の前でたこ焼きを食べていた。元など未だに現実を受け入れられずにポカンとしている。
 結局家に入った後、ケロちゃんは牧人に見つかって身の上話をしていた。

「……元、ほっぺつねって。」
「あ、ああ。」
「痛いたいたいっ、なにっ、夢じゃない。」
「なんだ……この……なんだ?」
「とにかく、妖精的なもの、かな?」

 頑張って男子小学生3人は納得する。殺し合いに巻き込まれたのだ、不思議な存在の1つや2つ今更疑っているのはナンセンスだ。


905 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/20(火) 10:19:54 ???0

「ふぅー、ごちそうさん。いやーおおきにな。さてさて、こっからの話や。」

 一方当のケロちゃんはとっとと話を変えていた。本人としてはキリッとした顔を作った気で切り出す。

「あらためまして、ワイの名前はケルベロス。簡単に言うと使い魔みたいなもんや。ゲームとかであるやろ、人間と話せるモンスター。怪物扱いは傷つくけど、あんなんと思うてもろてかまわんよ。」
「「「ど、どうも。」」」

 空中に浮かびながらお辞儀したケロちゃんにつられて3人もお辞儀する。
 「もう一人おったな」と隣の部屋に飛んで行って夢羽の遺体に手を合わせる姿はとても人間臭いものだ。彼女の名前を聞かれて答えながら、元は自分が妙に冷静になっているなと自覚した。

「ホントなら花の一つ供えてあげたいんやけど、堪忍な。ゲン、ムーが好きなものってなんや。見つけたらお供えしよか。」
「……わからないんだ。最近転校してきて……家のことだって……」
「そうか……それでも大事な人やったんやな。」
「……」

 沈黙で答える元に、ケロちゃんは顔の前まで飛んで行く。その真剣な面持ちは、今度は伝わった。

「ゲン、それにマキト、アキラ。3人に頼みがある。この異変を解決するの、手伝ってもらえんか?」
「……ムリだよ。さっきだって……」
「できるできないやない。3人がええ奴やから言うとるんや。その血まみれの服、みんなであの子助けようとしたんやろ。転校生にせよ初対面にせよ、よう知りもせんのに人助けなんて、なかなかできることやないわっ。」

 唐突にほめられても、元の心には哀しみの代わりに困惑が占めるだけだ。アキラたちはともかく、自分は何もできなかった。見つけた時にはもう手遅れだった。助けようとなんてできていない。

(……でも。)

 でも、彼女はそんな自分に託して逝った。何もできなかった自分に、アキラでも牧人でもなく、助けようとした彼らではなく自分に託したのだ。

(イジケてたら、ガッカリさせるよな、きっと……だったら。)

 元は一度強く目をつむる。
 頭の中で思い描くのは夢羽の猫のような目が自分を見つめる姿だがそこに唐突にグレネードランチャーが発射される。回想に入ろうとしたところで爆風に包まれた元たちはしめやかに爆散、生命活動を停止した。


「──うかつだな、とは言わん。この力に一番戸惑っているのはわたしなのだからな……」

 目の前でグレネードが撃ち込まれた家屋が炎上を始める。それをやった張本人のサウードは、自分が持っている武器と燃えていく家を見比べて困惑の表情を浮かべていた。
 悪の魔法使いサウード。砂漠一の魔法の使い手として自分自身にお墨付きを与えている彼は、ゲーム開始よりしばらく現実を受け入れられずにいた。
 魔法に精通しているからこそわかる。この会場に施されている深遠な術式を。そして高貴な生まれだからこそわかる。この会場に誂えられている設備の先進性を。
 願望器たる魔法の杖を手に入れるため、砂漠の国々で七つの鍵の争奪戦を引き起こした彼をもってしても、どちらも受け入れがたいレベルに非現実的なものである。どちらか一方だけならまだわかるのだが、何もかも自分の想定を上回るものを見せつけられれば思わず茫然自失となってしまう。店先のショーウィンドウの巨大な一枚ガラスにさえ驚愕するほどなのだ、自分では及びもつかないものに、さすがの彼も心が折れた。
 もちろん彼としてはこんな殺し合いに乗る気はない。ないのだが、自分が既に生贄同然の立場だと誰よりも理解せざるを得ない。国一つを石化させた経験があるので、自分の首に巻かれているものがどれだけ厄介かを嫌というほど痛感しているのだ。


906 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/20(火) 10:23:06 ???0

「わたしと同じほどの使い手に、わたしでも見たことのない進んだ錬金術……儀式の供物にされているのはわかるが、他に手はないな。」

 自分なら完璧にこの血に濡れた遊びを取り仕切れる自信があるため、参加者となったからには反抗の手段はないと知る。
 ならば道は一つ。殺し合いに乗り活躍し、元締めから良い待遇を引き出すまでだ。単に殺し合わせるよりも、子飼いにしたほうが有用だと思わせる。
 もちろんそれは茨の道だ。単に主催者打倒を謳ったほうが遥かに生存確率は上がる。だからこそサウードはそこに勝機を見出した。冷静に考えればゲームに真剣に乗る意味などない。それは似たような策謀を企てるサウードならば当然理解している。
 ゆえに、彼は主催者の視点で考える。自分ならば、殺し合いを加速させるような工夫を施す。それは例えば大量に配置された武器だが、そんなものよりもっと効率的な方法がある。殺し合いに参加している人間と会場の地図を参加者に教えることだ。彼が得意とする人を諭すやり方で。
 全参加者の名前を教える、死んだ参加者の名前を教える、人に出会い疑心暗鬼を産むよう内容の地図のありかを教える。そんなところだ。それだけで一気にこの殺し合いは加速する。本当の事を話す必要もなく。
 明らかに人間に向かって使うにはオーバーキルな武器を使ってわかった。この殺し合いでは死体の確認は一般的な戦場よりもなおのこと困難だ。参加していない人間を参加したことにして、死んでもいないの死んだことにする。それだけで復讐に駆られる人間は大勢出てくるだろう。それだけ復讐というものは人間を左右すると、思いっきり左右されているサウードは思う。
 情報面で圧倒的な差があるなら、嘘をついたもの勝ちの状況になるのは必然だ。しかもそれを疑い出すと、本当に死んだ人間についても誤った判断を下す。仲間の死を伝えられて騙されていると思ったり、ゲームに乗って死んだ人間が本当に死んだのかと不安になったり、少し考えただけでも悪用の仕方が出てくる。そして嘘をつくことにメリットがあるからこそ、全く本当の事だけ話しても構わない。魔法の面から言えばルールに関しては本当の事を言って主催者と参加者でルール『制約』を共有することにもメリットはある。

(つまりは、どちらの場合も考えて動くしかないな。わたしならバレようがないように嘘をつく。魔法の線もすてがたいが、手がかりが少なすぎる……)

 悩んだ末にそう結論を出し、商店で拾った武器を試し撃ちしつつ他の参加者を探していたところで見つけたのがアキラたちだった。正しくはヌガンの銃声に引き寄せられて発見した夢羽の血痕を追ったのだが、出血量から致命傷だとはすぐにわかり、それでも家の中に人がいるようなので殺すこととした。出血している人間を殺したのか助けたのかはわからないが、あの痕跡を残しておいて場所を変えない危機感のなさ、理由はわからないが生かしておくメリットを感じない。主催打倒の足手まといにも無能なだけの殺人者にも用は無いのだ。

「しかし、これも、『銃』なのだろうか? 1発しかうてないようだが、まさかあんな爆発を起こすとは……わたしのわからないものがこれだけ多いとなると、この空間そのものが魔神のつくり出したものなのか……?」

 その結果が先のグレランである。
 サウードとしてはあくまで家の中から追い出すために驚かせようと撃ったのたが、予想外の威力に驚かざるを得ない。自分の魔法よりも強いものがそこら辺に落ちている武器から生じるとは思わなかったのだ。
 せつなさを感じながらも、サウードは民家に押し入り死体撃ちしていく。これも威力がいまいちピンときていないので念入りに死体を損壊していった。またたく間に4人の子供の惨殺死体が生まれる。
 息の根を止めて満足していると、煙が強くなり、撤退する。だからサウードは見逃していた。死体に折り重なるように、黄色い小さなぬいぐるみのような生き物がかすかに痙攣しているのを。


907 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/20(火) 10:25:04 ???0



【0124 『南部』住宅地】


【ケルベロス@小説 アニメ カードキャプターさくら さくらカード編 下(カードキャプターさくらシリーズ)@講談社KK文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める。
●小目標
 ???

【サウード@シェーラひめの冒険 魔神の指輪(シェーラひめシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 主催者に取り入り寝首をかく。
●小目標
 全員にとどめを刺す。


【脱落】

【杉下元@IQ探偵ムー そして、彼女はやってきた。(天才推理 IQ探偵シリーズ)@カラフル文庫】
【アキラ@ふつうの学校 ―稲妻先生颯爽登場!!の巻―(ふつうの学校シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【小笠原牧人@星のかけらPART(1)(星のかけらシリーズ)@講談社青い鳥文庫】


908 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/20(火) 10:25:32 ???0
投下終了です。
タイトルは『吹かない疾風』になります。


909 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/26(月) 00:01:09 ???0
投下します。


910 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/26(月) 00:09:39 ???0



「うーん……寝落ちしてもうたかな。僕の場合は気絶やけど。」

 アミィ・キリヲはよろよろと立ち上がりながら言う。この痺れ方は数分の気絶だな、この頭の重さは寝入りばなだったなと身体で分析。タフさには悪い意味で自身があるので具合の悪さで経過時間を計る。
 しかし彼の特異なところはそんなことではない。青白い顔で背伸びしながら小屋から出る姿はイヤに人間臭いものだが、出た先に転がっている死体に一瞥もくれずに辺りを伺っているのを見れば、彼がただの人間とは思えないだろう。
 それもそのはず、人間ではない。他ならるその死体を作ったのは彼自身、破滅主義者にして同族からも理解不能の精神性を持つ悪魔なのだ。

(けっこう大きい音したからだれか来るかなって思ったけどハズレやったなあ。さっきみたいに参加者でつるんでるのは、もしかしたら珍しいんかなぁ? ま、そのうちどんどん固まっていくやろ。)
「それよりも、と。」

 殺した刀剣男子・日本号の死体に近づくと、その血に触れる。感触を確かめたり匂いを確かめると、「こっちもハズレかなぁ」と立ち上がった。

 先の襲撃でわずかに感じた、風変わりな良い匂い。もしやなにかの素材になるかもと考えたが、そう簡単にはいかないかと思い直す。実咲の人間としての体臭に悪魔の本能的な部分が反応したのだが、いかに彼といえどもまさか人間が実在するとは思い至らず。ただ日本号の悪魔とは一味違った雰囲気が気になったものの、一度小屋に戻って腰を落ち着けて考えることにした。
 思考すべきことは多い。このブラッドパーティーの主催者や目的、規模に仕掛けといったことはもちろん、首輪の解除方法に他の参加者とのあて。

「さっきのお兄さん、変わった言葉喋っとったなあ。どこの方言やろ。全く聞き取れんかった。」

 しかし、彼が気にしたのはそんなことではなく日本号の話していた言葉だった。
 元より殺戮にさしたる抵抗がないどころかどう殺るかに凝るタイプの彼、このデスゲームのもろもろも当然一通り考察したが、それについてはある意味興味が薄い。元々魔界には似たようなイベントがあるし、彼自身こういう企みや妄想も好きなので、他の参加者ほど困惑から考え込むことはない。むしろ自分が主催者ならこうするだろうから、参加者としてはこういう行動をしたほうが良いというような、メタ的な観点からの考察を楽しんでいた。
 その興味が移ったのが、先の戦闘。自分の知らない武器が転がっているのもそこそこ興味深いが、刀剣男子という悪魔とは違う存在に知的好奇心を抑えられない。

「女の子の方ほどやないけれど、悪魔っぽくない。でも魔物って感じとも違うし、気になるわぁ、半殺しにしといた方が良かったかもなぁ。でもそれやとカウンターされそうなのが僕やし……」
「しゃーない、切り替えていこう。他にも参加者おるやろ。ここで待ってたら誰かまた来る……いやアカンかも、死体あったら寄り付かんか?」
「僕やったら気になって小屋入るけど、警戒する子も多いかもなぁ。そもそも、山小屋にそんな人来るか? 参加者に地図とか配られてたら別やけど。せやけどここから離れるのも無理やしな。山歩きとかほんとに死んでまう。」

 まるで殺し合いなどどこ吹く風と言わんばかりに、のどかな口調で独り言を言いながら眼鏡を拭く。するとそのグロスからペラリと1枚の紙が落ちた。見覚えのないものに「おや」と手を止めて拾い上げる。
 それは地図だった。さきほど彼が使ったガトリングの所在が書かれている。

「なんや、こういうのあるんか! こんなん気づくかいな! うん? あの子は気づいてたのかな? 2人が合流したのも、同じ地図があるからとか? 1回ちゃんと死体調べな──」

 思わぬアイテムに呆れながらも興奮して小屋の外に出る。さっそく日本号の死体を漁ろうとして。

「──ついてるわぁ、またお客さんや。」

 自分につけられているのと同じ首輪をした参加者を見つけて、薄く笑った。


911 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/26(月) 00:12:13 ???0



「ちぃ……水の気配が無い……!」

 紫苑メグに催涙スプレーで撃退された乙和瓢湖。
 あの後盲目状態で森の中をさまようも、結局川も池も見つからず。ようやく涙で流れてある程度視力が回復してきてもなお水辺を見つけられずにいた。
 幕府の暗部にいた彼であっても、さすがにどこともしれぬ森の中で目が見えずに水を探すのは困難なものだ。そもそもこの森に川のようなものがあるのかすら彼は知らないのだ。なんとか知識と経験で水がありそうな場所を探すが、目と鼻をやられているせいで歩行すら至難の業である。元々暗い森の中なのもあって、疲労だけ溜まってろくに移動もできない。
 そんな状況だったので、フラフラと歩くうちに小道に出られたことは僥倖だった。枝に頭をうち、草に足をとられることのない道の有難味を今ほど感じたときはない。しかも歩くうちに山小屋を見つけた。ようやく水が手に入るかと喜ばずにはいられない。
 しかしその足がはたと止まる。小屋から人が出てくるのが見えた。視界がまだ歪んでいるのでハッキリとはわからないが、それなりの背丈の人間だろう。
 思わず歯噛みする。いくら瓢湖でもこの状態では遅れを取りかねない。しかも相手の手にはなにかが持たれている。刀ならまだましたが、銃が相手では分が悪いどころの騒ぎではない。

「お兄さん、大丈夫かぁ?」
(何語だ?)

 京言葉っぽいイントネーションで話しかけられて、相手が若い男だとわかった。日本語でも中国語でもないようだが、威嚇するような声色では無い。
 ニヤリと心の中で瓢湖は笑う。どうやら運はまだ自分にあると。どこの国の外国人かは知らないしそんなことはどうだっていい。重要なのは今の自分が利用できそうな相手だということだ。


(返り血みたいなんがついてるけど、怪我してるみたいやしなぁ、これは僕みたいなタイプか、それとも……)

 瓢湖から利用しようと考えられているとはつゆ知らず、アミィ・キリヲもまた彼をどう利用するかを考えていた。
 血のついた服を着て武器を装備している、怪我人らしき男。怪しさは言うまでもないが、だからこそ信用できる。この感じであれば、さっき逃げられてしまった女の子から情報は行っていないだろうと。

(それに、このお兄さん、さっきの子と同じ匂いがする。もしかしたら、殺ってたりしてな。)
「あとこれなに、スパイスかなんか? なんかめっちゃ辛い匂いするんやけど。うわ辛っ! おっべぇ! ごっほっ!」
「なんなんだお前は……」

 どうやらまた言葉が通じないようだ、しかしさっきと同じ言語を話しているみたいだなと、咳き込みながら考える。いや考えてられない。発作的に咳きが止まらなくなる。

(あ。これアカンやつや。)
「なにっ、倒れたっ。」

 催涙スプレーを直接かけられた瓢湖は経験上耐えられたが、元から虚弱体質の彼には、服に染みついた匂いだけでもダメだった。
 瓢湖の前でしばらく咳き込むと、ついには涙を流しながらまた気絶した。

「……なんなんだ、お前。」

 目の前でなんか勝手にぶっ倒れられて、瓢湖は困惑しかない。そんなに臭くはないだろう。泣きたいのはこっちの方なのだ。というか未だに涙が止まっていない。

「……まずは水だ、水!」

 瓢湖は彼の気絶を確認すると、直ぐに無視して山小屋へと入った。


912 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/26(月) 00:20:02 ???0



【0200 『北部』山の麓の森の山小屋】

【アミィ・キリヲ@小説 魔入りました!入間くん(3) 師団披露(魔入りました!入間くんシリーズ)@ポプラキミノベル】
●大目標
 大量の武器を持ち帰る。
●中目標
 絶望した表情を見るために、他の参加者を襲う。まずは男(乙和瓢湖)に友好的なフリをして近づく。
●小目標
 アカン、発作が……

【乙和瓢湖@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 殺しを楽しむ。
●中目標
 赤鼻の男(バギー)を殺せる手段を考える。
●小目標
1.顔を洗う。
2.この男(アミィ・キリヲ)は……?


913 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/26(月) 00:20:24 ???0
投下終了です。
タイトルは『偽装した殺意悪意』になります。


914 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/30(金) 06:00:36 ???0
投下します。


915 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/30(金) 06:01:21 ???0



 石川五エ門が宮美ニ鳥の話を聞いて思ったのは、なんと言葉をかければいいか、だった。
 ナルトの影分身に偵察を任せ、2人を喫茶店へと案内する。アイスティーしかなかったがコーヒーよりはマシなのでとグラスに注ぎ、ニ鳥が落ち着いて話せるようになるまで数分。そして話し始めて数十分。事件の概要はあらかたわかったが、それゆえに五エ門は気づいてしまった。
 おそらく、ニ鳥が恨んでいる少年が殺した可能性は低く、むしろ彼女やその仲間が誤射した可能性が高いことに。
 五エ門は侍だ。怪盗仲間が愛銃を肌見放さず持つ一方で、彼自身は銃など手に取ったことすらほとんどない。それでも人並み以上の知識があるのですぐに気づいたし、仮に知識がなくとも違和感を持つだろう。
 ショットガンと拳銃で撃ち合って、間にいた人間に1発だけ流れ弾が当たる。どちらが撃った弾かは自明だ。
 もちろん、ニ鳥の話が正確でないというのは充分に考えられるが、そこを疑うとそもそもこうして話を聞いていることに意味が無くなる。仮に嘘ならニ鳥を警戒しなくてはならないし、妄想なら手の施しようがない。殺し合いの場で全く関わるメリットがなくなる。それよりかは、興奮で冷静さを失っている少女の方がまだ五エ門には扱いやすかった。
 そして、彼が気になったのはもう一つ。それは。

「あのさ、ニ鳥、ところでさ、そのチョコと円ってどうしたんだ?」
「……………………あ。」

 五エ門の聞きたかったことをナルトが聞くと、ニ鳥は嗚咽と共に言葉を止めた。
 泣いている女の子と話すことなど五エ門と同じく苦手なので、これまでナルトにしては珍しく黙って聞いてきたが、その2人が心配なのもあって、話が落ち着いたところで聞いてみる。
 聞かれたニ鳥はというと、全く失念していたというようなリアクションだった。

「そ、そうやっ。完全に抜けとったっ。どうしよ、どうしたらええっ。」

 やおら立ち上がったニ鳥を五エ門が諌めるが、聞く耳は持たれない。今すぐにでも店から飛び出しそうな勢いだ。

「待て、ニ鳥。この店で使えそうなものの一つでも手に入れてから行け。」
「そんなことしてる場合かっ。てか泥棒やん!」
「既に落ちていた銃を持ち歩いているではないか。それに気に病む必要もない、元々あのツノウサギなるものが用意したものだろう。」
「でも急いどんねん!」

 なんとかナルトから偵察の結果を聞き出す時間を取ろうとするが、口下手な五エ門では見ず知らずの少女を納得させるようなセリフは吐けない。
 自分の至らなさに閉口する間にニ鳥は店から出て行ってしまった。こうなっては仕方がないので情報共有を手早く終えることにする。もちろんニ鳥に追いつくためだ。

「ナルト、分身を呼び戻せるか。」
「え、できないってばよ。」
「戻ってくるのを待つしかないか。」
「あ、でも、分身がやられて消えると分身が見てたもんとかもわかるんだ。だから今んとこあそこら辺は、あ。」
「どうした?」
「いま……分身がやられたってばよ……」

 出会って間もないが、この少年には似合わないと思う渋い表情を見て、嫌な予感がする。

「それはつまり、殺されたということか。」
「そうっちゃそうなんだけど、あ、待って、ヤバいってばよ。」

 更に渋い顔になるのを見て、五エ門は店から出た。まだニ鳥の背中は見える。

「今……警察署の外を調べてた分身がやられて、ちょっと前に中を調べてた分身もやられたってばよ。」


916 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/30(金) 06:03:20 ???0



 前原圭一には余裕ができていた。
 野原しんのすけという名も知らぬ子供を撃ち殺したかもしれないもという不安・後悔。それらから解放されたことは強い安堵をもたらし、リラックスさせられる。
 緊張が強ければ強いほどそれが解かれたときの弛緩も強くなるのはまた道理。そっと部屋を出ていった園崎魅音にも気づかずにしばし呆けていた。
 だから山田奈緒子の呻き声を聞いてようやく我に返った時にはしばらくの時間が経っていた。

「あ、あの山田さん大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけないじゃないですか撃たれてるんですよ!」
「すみません!」

 とりあえず声をかけたがブチ切れられる。一目見れば腕に巻かれた包帯は赤く染まって、寝かせられたベッドにまで血が付いていた。その光景にしんのすけの死体を思い出してドン引きする。

「無いと思いますけど、救急車とかお医者さん探してもらえませんかね……このままじゃ冗談じゃなく死にそうなんですけど。」
「あ、そうだ、魅音が探してくるとか言ってましたよ、手伝ってきます。」

 都合のいいでまかせを言ってそそくさとその場を離れる。気まずさから解放され再び安堵の息を吐くと、そういえば魅音はどこだ?

「いつの間にかいなくなってたよな。警察署のどっかにはいるんだろうけど。お。」

 饒舌に回るようになった口で喋りながらエレベーターの前に差し掛かると、階数が来た時と変わっていることに気がつく。直ぐに合点がいくと、同じ階まで上がれば、窓辺からこちらに振り返っていた魅音が開いたドアから見えた。

「ここにいたのか。さがしたぜ。」
「ああ、うん。なんか使えそうなものないかなって。」
(……ん?)

 前原圭一には余裕ができていた。
 だからすぐに気がついた。
 魅音の雰囲気が普段よりも、そしてさっきよりも暗いものとなっていることに。

(どうしたんだ、なんか元気ないな。)
(少し前は気合入ってたのに、どうしたんだろう。)

 魅音の心の変化になど気づく余裕はあの時は無く。しかし変化した態度にはようやく気づいて。
 それが自分と彼女との間に引かれた線などとは思わない。

「あのさ、山田さんのことなんだけど、具合が良くないみたいなんだ。」
「あの傷だしね……でも、病院もここみたいに誰もいないんじゃないかな。はっきり言って、できることが思いつかないよ。」
「それは……そうだな。」

 なまじ気掛りなことがあるのですぐに思考はそちらへと引っ張られる。
 重傷を負っているのにどうしようもない人間を保護していることが、圭一が魅音の様子の変わりように気づくことを遠ざけていた。
 2人の間に気まずさから沈黙が横たわる。
 どちらも、山田が手の施しようがないことはわかっていて、しかしつい先ほど人の死についてやり取りした手前それを言い出せない。このまま死んでいくのを看取るしかない。そのことを考えたくなくて、「ほら」と圭一は魅音の分もジュースを自販機で買った。電子マネーの機械が気になったが、そのことで気を紛らわせるほど薄情でもなく、2人で並んで外を見る。
 そのままどれだけ無言の時間が流れた時だろうか。互いの息と時折ジュースを飲む音だけが流れる空間に、足音が聞こえてきたのは。
 2人で目配せする。足音から忍び足だとわかる。慎重さを伺わせるものだ。身を固くする。必然的に思い出すのは、警察署前の遭遇戦。圭一がゆっくりと肩からかけているライフルに手を伸ばそうとして、魅音がかすかに首を振って止めた。そして手で銃把を握ってみせた。

「──ゲッ! アイツの言ってた──」

 そして廊下の角から現れたのは、オレンジのジャージに金髪というハデな格好の少年だった。年は圭一より1つか2つ下だろうか。驚きを現れにした言動よりも、2人の目に止まったのは、彼が持っている黒光りする武器だ。形状的にナイフだろう。それを手にしたまま、少年は回れ右して駆け出し。
 魅音のライフルがその背中を撃ち抜くと同時に煙へと変わった。

「な、なんで。」

 圭一のその言葉は何に向けてのものなのか、本人にもわからなかった。


917 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/30(金) 06:06:05 ???0



「おいおいウソだろまた銃声かよ。」

 傷む腕を抱えて歯を食いしばりながら山田は呟いた。
 圭一が帰ってこない。魅音も帰ってこない。そんな状況で近くに銃撃犯。中学生を頼りにするのは自分でも情けないと思うが、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
 このままじゃマジで殺される。殺されなくてものたれ死ぬ。

「冗談じゃない! 逃げないと、痛っ、あこれ、ムリだ。」

 しかし残念ながら体が言うことを聞いてくれない。腕に走る痛みでとてもじゃないが動けないし、立ち上がろうとしたらふらつくのは失血からだろう。
 ヤバいヤバいと呟きながらベッドに座り込む。万策尽きた。こうなったら圭一達が戻ってきてくれることを祈るしかない。
 お前のせいで撃たれたようなもんなんだから戻ってこいよと願うが、こんな時でも、もといこんな時だから回る頭が考えてしまう。もしや、圭一達が銃を撃ったのでは?

「そもそも、さっきの子たちだってここの近くにまだいるかも知れないような……」
「それで前原さんが撃たれた。もしくはこっちから撃った。さっきの様子だとどっちもありえるぞこれ……あたた……」

 考えればより絶望が深くなる。死ぬかもしれないとなると頭が回りに回るのが山田だ。上がった回転で自分の腕への心配も増していく。この大怪我、仮に命は助かったとしてもマジシャンとしてやっていけない後遺症になるんじゃないかと、今現在もマジシャンとしてやっていけていないことを棚に上げて考え込む。ここに腐れ縁の上田がいれば余計なことを言って怒りを買っていただろうが、幸い今はいない。考えうる中で残念ながら最も頼りになる男がいないので、不幸を超えた不幸中のささいな幸いだが。

「あの無駄筋肉が恋しくなる日が来るとは……! ああ痛いっすマジ無理っすこれ死ぬぅ!」
「大丈夫ですか?」
「だから大丈夫じゃないって! え、誰?」

 突然聞こえた声にキレ気味にツッコんでから、その声が初めて聞くものだも気づいた。

「天地神明です。あなたと同じ、巻き込まれた参加者っていえばいいんでしょうか。」
「あ、ども……」

 その姿を見てハッとなる。現れたのは、少女漫画から出てきたかのようなイケメンだった。纏っている雰囲気が王子様っぽくて高校生ほどかと一瞬思い、顔の幼さから圭一と同じぐらいだろうと思い直す。自分を心配そうに見るその表情に、見ず知らずの殺し合いの相手ということから感じるはずの恐怖よりも救いの騎士様を想像する。

「そうだ、すみません。あなたと同い年ぐらいの男の子と女の子見ませんでしたか。さっきまで一緒にいたですよ。あ、私は山田奈緒子です。」
「いえ。この街で意識を取り戻してからはあなたとしか会っていません。銃声みたいな音が聞こえて、警察署に逃げ込んできたんですが……その怪我は?」
「……話せば長くなります。警察署前で撃たれまして。この手当も2人にしてもらったんです。」
「そうですか……ですが、その出血、かなり傷が深いようですね。手当しましょうか? 良かったら。お話も聞きたいですしね。」
「いいんですか?」
「ええ、もちろん。父が医師なので、怪我をしている人は見過ごせないんです。こういう時のために応急処置の心得もあります。」

 まさかの今求めていた治療できる存在と巡り合って山田は言葉も無い。

(こんなイケメンで実家は医者とか、できすぎてんだろ……!)

 外からは銃声がまた鳴り始めた。降ってわいた幸運に内心で何か騙されているのではと思いつつも嬉しさしかなかった。


918 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/30(金) 06:10:29 ???0



(よし、とりあえず話が通じそうな人がいたな。さっきのアレじゃ無理そうだしね。)

 一方で天地神明は冷徹に山田の利用価値を考えていた。思い出すのは先程の光景、彼が文字を解読してようやく警察署に辿りついた時のこと──


「うーん、全然人いねえなぁ、危ないやつがいないのはいいけどさあ。」

 彼が最初に見つけた参加者はナルトが2体作った影分身のうちの一人だった。
 その容姿と話し方から頭が悪そうだと踏み、さてどうやって丸め込むかと考えいたその時だ。

「うおっ、なんだ! 人が落ちてきた!?」
(羽根の生えた男? なんだ、ARか?)

 2人が見つけたのはアスモデウス・アリスの降下だった。さすがに羽根の生えた人間がビルの隙間を縫って降りてくる光景には唖然とする。
 警察署からは少し離れた位置だったので、当然ナルトはそちらの方に向かい、一方で天地は動かずにいた。
 彼はトモダチデスゲームと呼ばれる別のデスゲームの経験がある。その時は社会的生命をかけた戦いであり、クラスメイトの前で善人の仮面を被り最終決戦まで勝ち残ったが、ギリギリで久遠永遠に破れ人望も信頼も全て失った。
 そんな自分が、今度は本当の命がけの戦いに巻き込まれている。慎重に慎重を重ねなければ、生き残ることは難しいだろうと、前回の敗北から反省し、ナルトを見送った。彼の身体能力は運動神経抜群の自分より上の超人的なものだと駆け去る姿を見てわかったし、この殺し合いに馬鹿みたいにある銃はああいった手合いを殺すためにあるのだろうと推察していると。

「うわああっ!!」
(さっきの子の悲鳴か。)

 1分としないうちにナルトの悲鳴が聞こえてきた。そのまま警察署の中で息を潜めれば、現れたのは白髪に片手に大型のライフル、片手に刀を持った男だった。その体格はどう見ても格闘技か何かをやっている感じである。そして刀にはベッタリと血。服にももちろん血。どう見ても人を殺してきたと言わんばかりの姿だ。
 ここに来て天地は完全に殺し合いに直接乗ることを諦めた。さっきダッシュするのを見かけたナルトですら、少年漫画のキャラみたいな動きをしていたのだ。そんな人間を即殺したらしい男を見ると、自分はモブキャラ程度なのだとわからされる。
 それもそうだろう、ナルトは実際に少年漫画のキャラだし、それを分身とはいえ即座に殺した雪代縁にもまた少年漫画のキャラ。彼の抱いた印象はまさに正解である。

(考えたくないけど、あのツノウサギや最初の出来事を考えると、本当に少年漫画のキャラクターみたいなのばっかり参加者になっている可能性がある。魔法や超能力なんかもあるかもしれない。考え過ぎならいいけど……)

 考え過ぎではない、正解である。
 自分でも突飛な発想だと思うが、天地が経験したトモダチデスゲームは主催者が内閣総理大臣だったので、いまさら魔法ぐらい出てきても驚きが薄い。そして総理大臣でもこれだけの銃や設備を用意できないのではと思うと、空や霧の異常さもあって検討の余地はあった。
 さて困ったことに件の殺人鬼はよりにもよって警察署を目的地としていたようだ。自首するという雰囲気ではないので、自分のような参加者を殺しに回ってきたのだう。入ってきたタイミングで適当な窓からでも外に出てやり過ごすか、と考えて外を見回す。考えたくはないが複数犯の可能性もあるし、あの空から降ってきた男もゲームに乗り気な可能性がある。

(……あれ、生きてた。うまく逃げて仲間を連れてきたのかな。)

 その警戒心は功を奏した。こちらへとかけてくるナルトたちを見て、数瞬考えを巡らす。

(戦力的には五分かな。超人同士で潰し合ってもらえるかもしれない。なら今は、自分の信頼を高めておくか。)

 警察署内には血痕があった。おおかた怪我人がいるのだろう。まさか死体を安置しに来たというわけではあるまい。あの白髪の殺人鬼に襲われるリスクはかなりあるが、このあたりで誰かと接触しておかないと後で詰む。仮に出くわしたとしても、自分の話術ならば数分は時間を稼いでみせる。その間にナルト達がくれば分が良い三つ巴ぐらいには持ち込んでみせよう。そのためにも怪我人を保護しているというカードがほしい。

(この部屋か。さて、手負いの化物とか出てこないでくれよ。)

 天地は王子様の仮面を被ると、山田のいる扉を開けた。


919 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/30(金) 06:15:05 ???0



「姉さん……!」
「お、参加者発見! なあ兄ちゃん、この辺りで──」
「! 邪魔だっ!」
「──女の子たち見なかっ、うわああっ!!」

 四宮かぐやに姉を思い出し思わず駆け出していた雪代縁。
 そこに声をかけてきた少年に、反射的に倭刀を振るっていた。
 気がついた時には、斬ったという感覚もそこそこに少年は煙と化していた。

「……なんだったんだ、幻影か?」

 空から人は飛んでくるは姉に似た少女を見つけるは斬ったら煙になる少年は出てくるは、おもわずひとりごちてしまう。
 苛立ち紛れに近くの道路標識をたたっ斬って、電信柱に蹴りを入れる。ちゃんと斬れて蹴れるものに自分の正気をみると一度深呼吸をして警察署へと歩き始めた。気になることや驚くことが多すぎる。1つしか起きていないのなら足を止めて考えてから動くが、こういくつも起きると考えていたらきりがないので、当初の予定通りの行動をすることに。
 縁の認識ではとりあえず大きいビルが警察署だ。石造り(実際は鉄筋コンクリートだが、彼から見ると違いはわからない)の多層階建築物=政府の建物というのは、明治の日本にいるものならば当たり前のもの。なにせビルというものがほとんど無いし、木造でないものもほとんど無いのだ。ビルがいくつも並ぶ様には驚いたが、いまさらそんなことで驚いてもいられないのでスルーして、赤いランプが回っていた建物を見つけて入る。ひとりでに開いた自動ドアに驚き叩き割ったが、しばらく辺りを警戒して敵襲が無いことを確認する。発達した聴覚が捉えたのは、駆けてくる足音。

「あ! おっちゃんアイツだ!」
「さっきの……」

 警察署から飛び出ると同時に足音目掛けてライフルを撃つ。そこにいたのは、先程煙になった少年だった。何かの技で逃れたのか、と疑問に思うより早く対戦車ライフルが火を吹く。
 その瞬間、縁は信じられないものを見た。少年、ナルトの後ろから追い越して飛び込んできた侍が居合を放つ。まさか、と思った縁の耳にキーンという音が聞こえてきた。ライフル弾を、刀で斬ったのだ。

「うおっ! な、なんだ、あれって銃か!?」
「ひいっ!」
「ニ鳥を連れて下がれ。足手まといだ。」

 突貫してくる侍、五エ門に向かって、未だ驚き冷めやらぬままライフルを放つ。
 縁は知らないとはいえ対戦車の名前を関するそれは凄まじい反動だが、それを五エ門がいとも容易くに切り捨てていくことに戦慄する。とても人間業とは思えない。
 腰を落とし刀を振るい納刀すると同時に弾丸は五エ門の足元に転がる。それを見て即座に縁は警察署内へと戻った。対戦車ライフルを捨てると、落ちていたマークスマンライフルとアサルトライフルを両手に持つ。遅れて突入してきた五エ門に、2丁ライフルが火を吹いた。

「バカなっ!?」

 再び信じられないものを縁は見た。ガトリングの如き連射が、凄まじい速度の抜刀により斬り伏せられていく。数秒で弾丸の残骸が五エ門の足元に重なっていく。

「オ前……何者ダ! 武士カ! 妖怪カ!」
「石川五エ門。武士ではない、侍だ。怪盗だがな。」
「石川五エ門……実在シタノカ……」

 縁もその名前は知っている。江戸時代にいたとされる伝説的な義賊だ。半ば架空の歴史上の人物だと思っていたのだが、堂々とその名を名乗り神業を見せる男を前にしては、偽名だ何だと野暮なことを言う気も失せる。
 五エ門が一歩前に出ると、縁は一歩後退る。目の前の侍の強さを理解していた。人間離れしたその強さは、怨敵たる緋村抜刀斎よりも上ではと、そこまで考えが行き、後退る足を止めて前に出した。


920 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/30(金) 06:21:08 ???0

「本物ノ五エ門デモ偽物でもどうでもいい……オレの人誅ノ踏み台になれ……」
「……場の空気に当てられたというわけでは無いようだな。手加減はせん。ここで斬る。」
「お前も人斬りか。人斬りが子供のお守りとはな。」
「笑いたければ笑え。行くぞ。」
「来いっ!」

 五エ門が踏み込むと同時に、縁はライフルを投げつけた。当然のように両断されるが、突撃の勢いを殺したことで、床に転がるライフルへと手を伸ばす時間が生まれる。セミオートで弾丸を放ちながら、素早く室内に転がる武器を把握する。弾が切れるより早く次の武器へと手を伸ばし、弾丸の雨を途切れずに浴びせかける。

(強い。守りながらでは厳しかったな。)

 五エ門は2人を引き離せたことに心の中で安堵する。銃の腕はないようだが、それは裏を返せば流れ弾が多いということ。弾がバラけられるとそれだけ足を止めて斬らねばならない。さっきの屋外や突入してすぐがまさにそれで、後方へと気を使いながらでは前進ができなかった。
 しかし今なら気兼ねなく前進できる。五エ門はそう思い縁の隙を伺う。それは存外早く来た。縁が何かに驚いたように遮蔽物の陰へと身を滑らせたのだ。同時に感じる背中からの殺気。縁へ間合いを詰めようとした足を止めて後ろへと向くと、弾丸が近くを通り過ぎていくのが見えた。

「挟まれたか。」
「み、魅音。お前が撃たなくても。」
「あの侍っぽい方、圭ちゃんを撃った子と一緒にいたんでしょ。さっき撃ったら煙になった男子とも一緒にいたし、怪しすぎるでしょ。そこのお侍さん! そういうことだから、武器を捨てて! 疑わしきは罰するから!」
「……違う、姉さんじゃない。」
「早く! 今度は当てるよ!」

 五エ門は半身になって縁と後方から銃撃してきた少女、魅音を両睨みする。
 状況が複雑になった。少女と共にいる少年は、ニ鳥の話していた少年だろうと当たりをつける。その殺気は本物だ。本気で殺す気でいる。
 説得は、困難だ。縁と戦いながらでは厳しいというレベルではない。せめてあっちにも武器を捨てろと言ってほしい。なぜこっちだけなのか。

(あの男の姿が見えていれば、話は簡単だったのだが。)

 たぶん自分だけが殺し合いに乗ってると思い込まれてる。縁の隠れる位置は五エ門からは見えるが魅音達からは見えない位置だった。殺し合いに乗ってる人間の仲間と、それと戦っている相手では信用に差がある。あの返り血の着いた服を見ればそれもひっくり返せるのだが、と思わずにはいられない。

「早く刀を捨てろ! 本当に撃つぞゴラァ!」
「断る。話なら後で聞く。」
「じゃあ死ね!」

 魅音から殺気が膨れ上がる。向き直って放たれた弾丸を切り払いつつ、背中へと意識を向けると、こちらかも殺気が来た。フェイントを入れて魅音の銃口を逸し、縁へと接近する。予想通りに魅音の銃撃とタイミングを合わせて縁は撃ってきていた。大きく後ろに飛び退いているが、それも予想内。魅音の狙いが定まるより早く縁を斬り伏せる。
 最低限の弾丸を切り払い、体を弾丸が掠める衝撃を覚えながら一太刀入れた。予想を超えたバックステップで距離を取られ、ライフルの銃身を切るに留まる。更に踏み込んで斬ろうとして、縁に刃が届く寸前、空中で姿勢制御が崩れた。
 銃弾、ではない。撃たれた感覚とは違う。これは、爆風だ。

(手榴弾──)

 視界の端に飛んでいく破片を見て、自分が何を食らったか察した。
 縁が仕掛けたのは、遮蔽物に使っていた観葉植物のプランターに投げ込んだ手榴弾だ。いくつかの鉢植えを並べられるそれは、手榴弾の破片を防ぎつつそれ自体の破片を飛ばす。こうすることで威力を落とし、かつ自分と爆心地の間に五エ門を挟むことで極力被害が及ばないようにした。無論これは縁にとっても一か八かの賭けである。五エ門が必ず自分を殺しに来ることを信じて、少しでも動いた瞬間に仕掛けなければ間に合わない。そして間に合ったとしても、五エ門の縮地からの一太刀は自力で防がなければならない。

「破ァッ!」

 縁はこの殺し合い始まって以来の裂帛の気合で倭刀を抜き放った。大型の猫を思わせる靭やかな筋肉が倭刀を振るう。対するは、姿勢を崩され、刃筋を立てられなかったとはいえ斬鉄剣。衝撃の走る筋肉を無理矢理に動かして縁の首を取りに行く。結果は。

「見事、だ。」

 五エ門は縁を置いて走ると、窓ガラスを切り捨てて警察署から飛び出した。
 太刀打ちは、火花と共に双方の刀が刃こぼれするだけに終わった。
 縁の抜刀は、寸でのところで五エ門の居合を食い止めたのだ。
 五エ門は着地すると同時にふらつく。その身に負ったダメージは無視できない。遮蔽物の残骸で和らいだとはいえ、少なくとも数十分はろくに筋肉が動かない衝撃を与えられてしまった。

 戦場からはこうして1人が退場して次なる局面を迎える。


921 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/30(金) 06:26:18 ???0



【0209 『南部』 繁華街・警察署】

【石川五エ門@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いからの脱出。
●中目標
 二鳥やナルトなどの巻き込まれた子供は守る。
●小目標
 警察署から逃走する。

【うずまきナルト@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いとかよくわかんねーけどとにかくあのウサギぶっ飛ばせばいいんだろ?
●小目標
 ニ鳥を守る。

【宮美二鳥@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 あの男子(圭一)を殺す。
●小目標
 なんやあの血まみれの服のお兄ちゃん(縁)……

【前原圭一@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 山田さんを助けたい。
●小目標
 さっきの女の子(ニ鳥)と煙になった金髪ジャージ(ナルト)の仲間っぽい侍(五エ門)を警戒。

【園崎魅音@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第二話 綿流し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族や部活メンバーが巻き込まれていたら合流する。
●小目標
 圭ちゃんが言ってたっぽい女の子(ニ鳥)と煙になった金髪ジャージ(ナルト)の仲間っぽい侍(五エ門)を警戒。

【山田奈緒子@劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 手当してもらえそうなのはいいけどなんか銃声凄くない?

【天地神明@トモダチデスゲーム(トモダチデスゲームシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 信頼されるように努めて、超人的な参加者から身を守れる立ち回りをする。
●小目標
 始まったみたいだな……まずは山田さんが逃げたいと言い出すまで治療して、それからは状況を見ながらやるしかないかな?

【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる。
●中目標
 緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す。
●小目標
 石川五エ門を追撃する。


922 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/06/30(金) 06:27:15 ???0
投下終了です。
タイトルは『決戦の狼煙は突然に』になります。


923 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/09(日) 07:48:57 ???0
投下します。


924 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/09(日) 07:49:38 ???0



「殺し合いに車椅子の障害者を参加させるってそんなのあり?」
「そもそも人を殺し合いに参加させるな。」

 乙和瓢湖の襲撃から早数十分。園崎詩音たちは情報交換を終え軽口を言い合える余裕まで出てきた。
 依然として鬱蒼な森の中、ろくな灯りもなく歩く4人だが、常人離れした身体能力を持つ千両道化のバギーと冒険者として鍛えられているクレイ・C・アンダーソンなら、山田クミ子ことジョゼの車椅子を押すぐらい造作もない。言葉が通じずとも時折クレイが山刀代わりにロングソードを振るい、あるいはバギーが無理矢理持ち上げ、そうこうするうちになんとか山道まで出ることができた。

「俺、王下七武海なんだけどな……こ、こんなの納得できない……」
「バギーさん、そこ窪みあるんで気をつけてください。」
「了解しましたー、てオイ!」

 クレイだけ話にまじれなかったものの3人で身の上を話し合い、一応全員対主催だと確認しあっている。「とつぜん拉致されて殺し合うわけ無いだろいい加減にしろ!」というバギーの言葉には納得しかない。なお、バギーの海賊という話は、『千両道化』という二つ名を名乗ったせいですっかり設定だと受け止められていた。

「で、どっちに行くよ。地図も何もねえ(本当はメモがあるけど)から勘で選ぶしかねえぞ。」
「うーん、山で迷ったときは必ず山頂を目指すように、っていいますけれど。わかってます掴まないでくださいジョゼさん。」
「一瞬見捨てよう思っただろ。」
「ハハァ……」

 話すうちに詩音が中学生だということにジョゼから驚いたり、ジョゼが成人していることに詩音が驚いたり、話に入れないクレイが切なそうな顔をしたりしたが、目下の問題はこれ。
 4人揃って森の中で遭難していることだ。
 海賊であるバギーや冒険者であるクレイはともかく、女性陣2人に地図の無い見知らぬ土地を歩く技術などない。そもそも一人で出歩けず引き篭もっているジョゼは、自宅の周りすら最近はまともに行っていない。そして彼女の車椅子。バリアフリーの欠片もない今のこの場所では行動が大きく制限される。
 悩みから自然と口数が減り、一堂に沈黙が訪れる。言ってはなんだがジョゼが文字通りの足手まといだ。それでいて詩音もバギーも空気的に見捨てようとは言い出しにくいし、クレイは何も言わないので存在感が無いが一番彼女を見捨てる気は無い。なんでこんなやつをバトロワの参加者にしたんだよ、生きてても死んでても持て余すだろと酷いことをバギーが考えたとき、遠くから連続した破裂音が聞こえてきた。
 バギーと詩音の顔色が変わる。その音の正体には心当たりがある。疑問の声を上げたジョゼを詩音が手で制したのを見ると、バギーは地面に耳をつけた。それを見てクレイも同じようにする。3人の行動にジョゼも黙り、数分息の音しかしなくなると、バギーは神妙な顔で立ち上がった。

「足音が聞こえてきたな。誰か来るぞ。」
「さっきの銃声と関係が?」
「■■■?」
「ああいう音はガトリングだろ。あんなん持って歩けるやつ、東の海でも首領・クリークとかいたか……」
(あっちってお宝がある方じゃねえか。ガトリングなんていらねえぞ。)

 先にお宝を取られたことにもそれが強力だが自分には使えない武器なことも腹立たしい。しかし今は接近している何者かへの対処が先だ。
 クレイは鎧を軽く直すと、道の一方を油断無く見る。一方でバギーは素早く木の上に登ると反対側を警戒しだした。それからほどなく現れたのは。

「! た、助けてください!」

 メガネを曇らせ荒い息を整える間もなく、氷室実咲はそう叫んだ。


925 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/09(日) 07:50:42 ???0



(起爆札、じゃねえな。)

 桃地再不斬は包帯の下の口を歪める。ようやく次の獲物が見つかった、と。
 再不斬が蜘蛛の鬼(兄)を撃破して、次にしたのは早乙女ユウたちの拡声器の声を追跡することだった。佐藤マサオが気絶していることを確認すると、その場に放置して音のした方向を目指す。赤い霧が立ち込める見知らぬ森だが、当代の忍刀七人衆であり今は抜け忍として追われる身である彼からすればさしたる障害では無い。ましてや彼は霧隠れの鬼人と呼ばれた男。霧自体はむしろ好ましくすらある。
 素早く動きものの数分で展望台を見つけた。罠を警戒し慎重に捜索するも、人影は無し。あるのは3人分の足跡と爆発痕だけだった。
 とりあえず成果はあったということにする。足跡から見るに一般人のガキだろうが、3人殺せるチャンスではある。追えば直ぐに見つかるだろう。

(……またガキか。)

 が、率直に言えば気が乗らない。
 殺し合いというからには、彼が忍者になったときのような忍同士の戦いを期待したのだが、出会う相手は子供の頃の自分でも簡単に殺せるような子供ばかり。子供時代には見習いとはいえ年上の忍を殺していた彼からすれば、子供の遊びよりもなお簡単なおままごとに参加させられた気分だ。
 しばし考える。このまま追うのが常道だろう。しかしさっき拾ったマサオもいる。何か面白いことができるかもしれないし、単純に首輪のサンプルがほしい。

(捨てるのももったいねえか。)

 小休止がてら悩み、マサオを拾ってから追うことにした。数分のロスと引き換えに首輪を1つ手放すのは惜しい。荷物にはなるが無いよりはマシだろう。邪魔になれば首を刎ねるだけだ。決めると行動は早い。数分と経たずにマサオの下へと戻ると、無造作に担ぎ上げる。
 あらためて首輪を見てみる。自分に着けられているものを水分身で確認したが、他人のものと違いは見られない。外見的には忍者とそれ以外に差はないのだろうか。そんなことをしばし考えて、もと来た道を戻る。
 足跡を追ってしばらく歩くと、再不斬は足を止めた。木から木へと飛び移り、じっと地面を見る。そこは磯崎蘭の初期配置地点だ。続いて近くにある富竹ジロウの足跡にも気づく。
 突然出てきた足跡に、再不斬はしばし周囲を警戒した。主催者によって配置された彼らは当然、そこに至るまでの足跡などない。そのことが再不斬の警戒心を呼び起こす。またマサオを放置して周囲を調べ、2人が道を歩いていったことを確認し、悩む。

(大人の男もいるようだな。しかもこいつ、重心がブレてない。忍か?)

 ようやく見つけた手応えの有りそうな相手にほくそ笑む。どうやら展望台から離れた3人はこの山道には気づかなかったようだ。さてどちらを追うかとしばし考えて、山道を駆けることにした。あちらは下草が踏まれているので追いやすいし移動も遅いだろうが、こちらはいつのものかもわからない。少々追ってみて駄目なら諦めるかと欲を出す。少しして木ばかりの視界に建物が見えた。どうやらシンプルなサバイバルゲームとは違うらしいと思ったところで、今度は分かれ道が現れる。そして、爆発音。

(音の感じからするにあっちの町より距離はあるな。忍でなければ聞き漏らす。行くか。)

 ここで再不斬は再度目標を変更した。明らかに人がいる方へと行き先を変える。水分身を先行させると更に駆けるスピードを上げ、緩やかな坂を行くと、山小屋が見えた。水分身はそのまま突っ込む。後方から追う再不斬にフィードバックが来た。水分身が中の人物をアンブッシュし、その情報を共有するために術を解いたのだ。


926 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/09(日) 07:51:19 ???0

(角の生えたガキか。こいつが殺ったんだろうな。なるほど、少しはマトモなカモもいるのか。)

 再不斬は悠々と山小屋へと踏み込んだ。既に水分身がクリアリングを終えている。室内の情報も共有されたため、すぐに何が起こったかわかった。
 気絶させた眼鏡男が、槍を持った男を殺した、シンプルな状況だった。
 フン、と鼻を鳴らす。さっきといい今といい、あっさりと奇襲が成功してしまい手応えというものがまるでない。元々無音殺人術はそういうものではあるが、忍相手に暗殺する彼からすれば、欠伸が出るような戦いだ。しかも今回は水分身なのでより達成感は無い。別に戦って回りたいわけではないのだが、若干の飽きはある。それでもまだガキ以外を見つけられたので良しとし、さて死体から首輪を切り取ろうとして、再不斬の聴覚が足音を捉えた。すぐさまマサオをまた放置して駆ける。見つけたのは、バギー達4人である。

「あそこです! 日本号さんが、はぁ……はぁ……」
「氷室さん、落ち着いて。バギーさん、クレイさんと見てきてもらえますか?」
「お前俺のこと便利に使いすぎじゃない?」
「海賊なんだから強いんでしょ。ジョゼさん見てくださいよ車椅子ですよ。」
「そうだよ。」
「便乗すんじゃねぇ。たくしょうがねえなあ、おい竹アーマー、着いてこい。」
「■■■、■■?」

 ベラベラと喋る一行だと思った。この会話だけで、小屋から逃げたのが氷室という少女であること、変なピエロが自称海賊のバギーだということ、車椅子の少女がジョゼでそれを押すのが詩音だということ、竹でできた鎧を着ているのがクレイということ、都合5人の名前が手に入った。この情報を変化の術でどう利用しようかと考えるが、それより先にやることがあると思い直した。

(アイツらに殺されちゃ面白くないからな。)

 山小屋に戻ると、マサオとアミィ・キリヲを担いで離脱した。せっかく生きてる首輪が2つ手に入ったのだ、奴らにどんな因縁があるかは知らないが、みすみす殺されては面白くない。ついでに水分身に日本号の死体を山小屋の外に出させて置く。死体が動かされたことに気づくかでバギー達の程度を見ようという判断だ。それに死体が室外にあれば、あの山小屋で休憩しようという気も起きよう。そうすればなおのこと様子も伺いやすくなる。

「チっ、死んでんじゃねえか。この傷はハデにガトリングだな。」
「■■■……」
「とりあえず戻んぞ。」

 聞き耳を警戒していない様子に、再不斬は内心で彼らへの評価を下げる。もと来た道を行くバギーとクレイを見ながら、再不斬は何度目かの悩みに眉間にシワを寄せた。バギーたちをどう利用するか、集めた情報をどう使うか、そして今接触なり攻撃なりしていいのか。

(このまま聞き耳立てとくのが一番得策か?)

 車椅子の人間を連れていることから甘い奴らなのだろう。まさか首輪がのキープというわけではあるまい。
 マサオとアミィの下に水分身を残して、再不斬はまた追跡した。


927 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/09(日) 07:51:42 ???0



【0215 『北部』山の麓の森の山小屋】


【園崎詩音@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第二話 綿流し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族や部活メンバーが巻き込まれていたら合流する。
●小目標
 氷室さんの言っていた山小屋に向かう。

【山田クミ子@アニメ映画 ジョゼと虎と魚たち@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 ちょっと待ってこんな展開ええん?

【バギー@劇場版 ONE PIECE STAMPEDEノベライズ みらい文庫版(ONE PIECEシリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
 とりあえず、生き残るのを優先。
●小目標
 オイオイオイ死んでたわこいつ。

【クレイ・シーモア・アンダーソン@フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち(フォーチュン・クエストシリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 みんな(フォーチュン・クエストのパーティー)が巻き込まらていないか探す。
●小目標
 話しについていけないがジョゼを保護する……あれ、なんかまた影薄くないか? やっぱりセリフがないからか?

【氷室実咲@怪盗レッド(1) 2代目怪盗、デビューする☆の巻(怪盗レッドシリーズ)@角川つばさ文庫】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 日本号を助ける。

【桃地再不斬@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 誰から話を聞き出すか……

【佐藤マサオ@双葉社ジュニア文庫 映画ノベライズ クレヨンしんちゃん
ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい。
●小目標
 ???

【アミィ・キリヲ@小説 魔入りました!入間くん(3) 師団披露(魔入りました!入間くんシリーズ)@ポプラキミノベル】
●大目標
 大量の武器を持ち帰る。
●中目標
絶望した表情を見るために、他の参加者を襲う。
●小目標
 ???


928 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/09(日) 07:52:11 ???0
投下終了です。
タイトルは『鬼の目にも迷い』になります。


929 : 名無しさん :2023/07/10(月) 22:03:57 uCi8M7nI0
投下乙です
山の方面ががっつり動いてきてますなあ


930 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/17(月) 08:24:04 ???0
感想あざーす(ガシッ)
これからも読んでもらえるように頑張って行きたいですね。
投下します。


931 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/17(月) 08:24:41 ???0



「なんてこと……この霧、とんでもない妖力が練りこまれてるわね。町一つをおおうなんて、並の妖怪のしわざじゃないわ。むしろ陰陽師の結界に近いのかしら。」

 霧状の姿は朧気に大型の猫型動物を思わせるもの。
 妖怪・スネリは地を蹴り高く飛ぶと、眼下に広がる町と赤い霧に苦々しくつぶやいた。

 スネリは妖界にて伝説の子として言い伝えられてきた者を守る使命を帯びて人間界に来た妖怪だ。
 現在は当代の伝説の子・竜堂ルナと行動を共にし、人間界と妖界を阻む封印をし、願望器たる悠久の玉を回収しようとしていた。
 していた、というのはその志半ばで命を落としたからだ。
 正確には致命傷を負い意識を失ったタイミングでこの殺し合いに巻き込まれたのだが、本人としては死んだと思ったら地獄のような場所で地獄のようなことをさせられるハメになったので、死んだと判断している。それに、スネリ自体が自身の妖力を用いて他者の体力を回復させられるのでわかるが、あの傷はどうあっても助かるようなものではなかった。それこそ死者を蘇らせるほどのすさまじい妖力でもなければ不可能である。
 ともかく、スネリは一年におよぶ冒険の末に、悪しき妖怪をルナの妖界ナビゲーターの力で送り返し、封印と悠久の玉の回収まであと一歩のところであった。

「日本のようにも見えるけど、雰囲気は人間界よりも妖界に近いわ。とにかく、ルナたちが同じように巻き込まれてないか調べないと。」

 使命を果たせなかったこと、そしてルナを守れずに先に死んだこと、自分が死んだあとルナたちや世界はどうなったかなど気になることは多い。
 気がかりすぎて足を止めて考え込んでしまうが、その度に思い直す。
 スネリ自身は高い戦闘力に嗅覚、回復能力、記憶操作などを持つが、それでも上には上がいる。彼女が未だ知ることではないが、3人がかりで倒してきた妖怪やそれをも上回る超人と人外が練り歩いている。上の下ほどのレベルはあるとしても、それでも首輪の都合上人間への変身も作動させてしまうリスクもあって、全力で戦うことは難しい。
 そんな中で、彼女がすべきことは多い。主催者の目的を始め数や能力などの情報収集。会場に仕掛けられた術式の調査。そしてなにより仲間の捜索。自分が生きているのか死んでいるのかもあやふやな中で、しかし動きを止めるわけにはいかない。

「町の文字は、日本語じゃないみたい。それになに? この武器は。お店の中になんでこんな大きな銃なんて落ちてるのよ。」

 悩みながらも足を動かし、この殺し合いで親の顔より聞いたツッコミをスネリもしながら、まずは町を調べることとした。銃や剣には驚くも特段なにも手にせずテキパキ調査と移動をしていく。使われたら殺されかねないとはいえ元々武器など必要としないぐらい強いし、そもそも使ったことがない。ましてや今は化け猫の姿から迂闊に変われない身。使えない物に気をかけることはなく、ゆえに銃に使われている文字が読めることには気づかずにそのまま調べていく。
 そんな彼女らしくないミスは、やはり焦りからだろう。これまでも九死に一生を得る戦いはあったが、今回はレベルが違う。いつもの仲間とははぐれ、今は一人手がかりもなくさまようしかない。
 だから自分の嗅覚が霧で鈍っていること、そして銃や手榴弾により火薬の匂いに慣れてしまっていることを、軽視してしまった。それはいかに妖怪といえども、致命的な隙。

(! 人の気配だわ。距離も方向もわかりにくいけれど、あっちね。ふつうの人とはちがったなにか──)


932 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/17(月) 08:25:14 ???0

 次の瞬間、スネリの右前足が爆音と共に吹き飛んだ。

「な! ぐああっ!?」

 突然の爆音と、前足からの激痛。ショックを受けながらも咄嗟にバックステップできたのは、これまでの経験の賜物か。建物の中に転がり込むことで続いて投げ込まれた手榴弾を幸運にもやり過ごせる。しかし一発では済まない。使われたのはグレネードランチャー、続いて撃ち込まれた手榴弾の破片が、容赦なくスネリの右顔面を抉った。目と耳と鼻が瞬く間に潰され、それでも首輪に被害が及ばなかったのは奇跡としか言いようがない。なおも続く手榴弾の連射をどうにか物陰に滑り込み身を小さくしてやり過ごした。

(ど、どうして、なんで。ダメよスネリ! 今は冷静にならないと! 妖怪並に感知にすぐれた敵にねらわれている!)

 そこからの判断は早かった。一気に体の治癒を始めると、出血が弱まっていくのがわかる。素早く爆風渦巻く店内を残った左眼で見ると、薄くなった壁を突破して3本の足で一気に地を蹴る。数秒遅れて、近くの建物から機関銃が火を吹くが余りに遅い。手負いとはいえスネリはその外見通りに車並みの速さで地を駆ける。照準が合うよりも早く離脱する。

(なっ、そんなっ。あんな、子供にやられた!? この感じ、妖怪!?)

 その一瞬でスネリは、襲撃者を視界の端に捉えた。美しい少年だった。年齢はルナより少し上の、小学校高学年ぐらいだろう。その少年が自分を狙い撃ってることに驚くも、すぐに思い直す。さっき僅かに感じた気配は、間違いなく彼のものだと、そして彼が見かけどおりの人間ではないと。

「う、油断した……じゅ、銃ってこんなに痛いのね……」

 後ろから飛んでくる弾丸が何発か掠め、右後ろ足の皮膚をごっそり持っていく。その痛みに総毛立つが、気合いでデパートらしき建物へと突入した。
 そして気づく、入った途端に感じたのは、さっきの少年と似た、しかしもっと禍々しい気配。

(……キャラ付けをしておいたほうがいいか。一応、主催者に抗う演技はなにっ!?」
「あなたはさっきの! 先回りされた……? ぐっ……」
「なんだ……? 気絶した?」

 自分を狙ってきた少年と同じ顔が、銃を片手に待ち構えている。そう把握するも、そこでスネリの意識が遠のく。こんな時にと食いしばるが、視界が回る。この程度の出血でなぜと疑問に思うが、それこそが自分の状況を理解できていない証。ふだんの彼女ならば、自分が爆風、正確にはそれの衝撃によりダメージを受けていることに察しがついただろう。

(ルナ……あなたは──)

 走馬灯のように少女の顔が浮かぶ。自分を泣きそうになりながら心配そうに覗き込むルナの顔が視界に焼き付きながら、スネリは意識を闇へと落とした。


「悪魔……じゃないな。なんだ?」

 一方、スネリに襲撃者と間違われた少年、日守夕夜ことユーヤは、現れたと思ったら気絶した化け猫を前に困惑しながらも冷静に考察していた。
 悪魔を討つ超能力者・マテリアルである彼はこういった異常事態にも異常存在にも心得があるどころかむしろ当事者だ。霧や雲もそういうものだと直ぐに受け入れたし、殺し合いというのも大方どこかのトチ狂った悪魔たちがしでかしたのだろうと当たりをつけている。その上で心配事はただ一点のみ。自分の妹であるサーヤが巻き込まれていないかだけだ。それ以外は自分の能力でどうにでもなるという自負がある。


933 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/17(月) 08:26:48 ???0

「すごいな、もう血が止まってる。」

 ゆえに落ち着いて武器や装備を整えることを優先し、デパートで手早く必要なものを見繕い銃器を吟味していたところに、スネリが現れた。
 さて、なぜスネリが彼を襲撃者と間違えたか。それは今の彼の体にある。
 彼、ユーヤは肉体が滅ぼされ魂だけの存在なっているのだが、そこで弟のレイヤの体を乗っ取って行動していた。妹のためならば年齢1桁の幼女の体を乗っ取りプールで遊ぶことすら厭わない異常妹愛者である彼は、妹に近づくために悪魔を差し向けて誘拐しようとしたり弟の体を乗っ取ったりと悪魔的行動を繰り返していたのだがそれはともかく、彼は弟と瓜ふたつなのだ。というわけで彼は直ぐにスネリの言葉から自分が誰に間違われているかを察した。

「ぼくと間違ったってことは、レイヤに化けた悪魔がいるのかな?」

 自分がレイヤの体を使っている以上、誰かが彼に化けているのだろうと察する。悪魔は憑依以外にも変化できるので、敵であるマテリアルに化けて殺し合いに乗ったのだろうと判断した。
 命がけで守りたいほど仲が良いか殺したいほど憎いかのどちらかしかないという児童文庫のファンタジーものの兄弟の例に漏れずに、彼も弟への好感度はゼロを通り越してマイナスなので正直ざまあみろとは思うが、それとは別にマズイことになったと思う。
 この殺し合い、首輪の解除などを総合的に考えた結果対主催路線で行くことにした矢先に、自分と同じ姿のマーダーがいるなどやりにくすぎる。最悪、自分がマーダーだと誤認されて襲われかねない。

(アリバイが必要だ。早く他の参加者と合流しておかないと。)

 予定を変更して参加者を急いで探さなくてはならなさそうだと軽くため息をつく。策を弄する側から策に翻弄される側になるのは釈然としないが、癇癪をぶつける相手もないのでとっとと行動しようと決めた。
 ユーヤはさっそく集めておいた包帯を取り出す。そしてスネリの傷の手当を始めた。

「まずは誤解を解いておかないとめんどくさそうだからね……これ自体めんどくさいけど。」

 今スネリを放置して下手なことを言いふらされるのは困る。ぶっちゃけ殺してしまうのが手っ取り早いのではあるが、それではマーダーだと疑われないために殺人することになり本末転倒だ。死んでくれたら面倒はないのだが、一応手当はしておく。運悪く意識を取り戻しても、自分に化けた参加者がいると納得させられるように。
 死んでほしいのに助けるという矛盾した行動。いったいなんでこんなことになったのだろう。
 たぶん弟の体を乗っ取ったからだと思う。

「ぼくが何したっていうんだよ。ていうか悪魔なら銃とか爆弾使うなよ。」

 ポケットに手榴弾を突っ込んでいる自分を棚に上げて言う。
 今こうしている間にもサーヤに危険が迫っているかもしれないのに、彼女を保護する自分が危険視されかねない状況はとても煩わしい。探すのにも守るのにも、余計な恨みを買ったらマズイと思って対主催をやろうしているのに、どこの誰とも知らないバカのせいでなぜ自分が苦労しなくてはならないのかと憤る。

「そうだ、コイツから話を聞き出して偽物を消しに行こう。」

 結局本末転倒な解決策を言いながら苦労してスネリの足に、顔に包帯を巻いていく。悪魔としてもすさまじいレベルの治癒能力があるようだが、それでもこの不思議な大きい猫は血を止めるのがやっとで肉体の再生までは厳しいらしいとみる。いざとなったら殺すことも考えながら、ユーヤはまだ見ぬ自分そっくりの悪魔を殺すときを夢見て治療に専念した。


934 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/17(月) 08:29:17 ???0



「逃した。でも、まだ追える。」

 一方、ユーヤの弟レイヤはスネリの抹殺に血道を上げ追跡を続けていた。
 ユーヤは弟に化けた悪魔だと思ったがなんのことはない。レイヤ本人がスネリを襲ったのである。
 これには2人の参戦時期が影響している。ユーヤが参戦したのは弟の体を乗っ取っていた時なのに対して、レイヤは乗っ取られる前の時からの参戦なのだ。
 そしてレイヤもまた悪魔を倒すマテリアルであり、やはりサーヤを守るためなら何でもする異常姉愛者である。そんな彼は、スネリを悪魔だと誤認していた。悪魔は灰色の霧がかった姿だが、赤い霧の中を白い霧の姿で移動していたスネリを悪魔だと判断したのだ。
 そして悪魔を倒すのにマテリアルは必須ではない。別に物理的に殺せばそれで済むのであって、なにか魔法的なもののエンチャントされた武器でなければダメージが与えられないというわけではない。好都合なことに、建物の中には大量の銃火器。となればクレイモア地雷を設置し、わざと気配を立てて誘引し、地雷とグレランの飽和攻撃で抹殺にかかるのは当然のことである。
 想定外だったのは、殺しきれなかったことだ。たしかに慣れない武器で上手く使えなかったが、一発でも当たれば悪魔でも即死しかねない威力なのは実感していた。あれだけの攻撃を奇襲で撃ち込んでいてまだ飛ぶように動けるというのは誤算である。そして同時に戦慄した。あんな相手と直接やり合っていれば何秒持ちこたえられたかわからないと。

(上級悪魔か……手負いのうちに倒す。)

 レイヤは足を急がせる。あんな悪魔が相手ではサーヤはひとたまりもない。精気の多いマテリアルは悪魔からすれば格好の餌。ここで殺しきらなければ、サーヤにも他の参加者にも必ず害となる。
 無表情の内に殺気を満ちさせながら駆ける彼は知らない。自分が襲ったのが悪魔ではなく妖怪であることに。彼と同じく対主催であることに。そして彼と同じ姿の兄が、彼が守りたいと願う相手の為に行動としているのを妨害していることに。
 ゲーム開始から小一時間。3人の対主催の出会いは1人が瀕死になり1人がそれを殺そうとし1人がそれを助けようとすることになった。



【0012 街】


【スネリ@妖界ナビ・ルナ(10) 黄金に輝く月(妖界ナビ・ルナシリーズ)@フォア文庫】
【目標】
●大目標
 ルナを守り、殺し合いを止める。
●中目標
 ルナと合流する。
●小目標
 ???

【日守夕夜@魔天使マテリアル(8) 揺れる明日(魔天使マテリアルシリーズ)@ポプラカラフル文庫】
【目標】
●大目標
 サーヤを守り、脱出する。
●中目標
 サーヤと合流する。
●小目標
 化け猫(スネリ)を助けて誤解を解く。もしくはいっそ死んでほしい。

【日守黎夜@魔天使マテリアル(1) 目覚めの刻(魔天使マテリアルシリーズ)@ポプラカラフル文庫】
【目標】
●大目標
 サーヤを守り、脱出する。
●中目標
 サーヤと合流する。
●小目標
 化け猫(スネリ)を倒す。


935 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/17(月) 08:30:55 ???0
投下終了です。


936 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/26(水) 08:56:35 ???0
投下します。


937 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/26(水) 08:57:12 ???0



「……ねぇ。それ意味ある? どうせお店も商品もアイツらのセットでしょ?」
「おまえは家計簿をつけないタイプか。手に入れたのなら目録を作るのは当然だろう。」
「盗むのは抵抗ないのね……」

 呆れたように言いながら、久遠永遠はコンビニの商品ケースからアイスを取り出し、キャップを回す。凍ってなかなか出てこないアイスを握り潰すように揉みつつ吸いながら、虹村形兆がメモを書いていくのをまじまじと見ていた。

 永遠と形兆。
 公園で出会い共に行動を共にすることにした2人は、まずは武器の調達に来ていた。
 お互い出会って数分、永遠の側からしか簡単な情報を共有していないが、どちらもまずは武装を優先する。永遠としては自分1人だけでなく協力者が得られたことで一か八かの仲間集めの方針を変えたし、形兆も腰を据えて情報を聞き出すためには相応の時間がかかるとみた。ということでまずは目についたコンビニで刃物の一つでも手に入れておくかと思ったら、床に落ちていたショットガンに閉口し、数分後には銃で武装し商品を強奪する強盗コンビの完成となる。

「あの総理、コンビニに銃置いとくか何考えてるんだ。本当に殺し合いさせる気?」

 力がこもり無理やり押し出されたアイスを舐めながら愚痴る。永遠が前に経験したトモダチデスゲームでは一応人は死なないようになっていたが、今回は絶対に殺すという強い殺意を感じるやり口だ。昔、国会で中学生が殺し合う小説が問題になったことがあるらしいが、今は総理大臣が中学生を殺し合わせるようだ。世も末である。
 暗い……あまりにも……そう日本を憂いている永遠の目の前で、形兆は一心不乱にコンビニから集めたもののリストを作っている。几帳面な性格もあって、エコバッグにキチンと物資を詰め込むと、種類ごとに名前や量などを書いていく。武器は銃が手に入ったので良いとして、主なアイテムは医薬品や非常食になりそうなものだ。もちろんぜんぶ盗品。
 しかしながら、彼の行動は単に几帳面さから来るだけのものではない。弟の億泰が見れば、彼のメモの早さから機嫌の悪さを察しただろう。

「先入観は捨てろ。ここにあるのは西側だけでなく東側の装備だ。日本の首相であっても簡単には手に入りはしない。」
「西とか東って何?」
「アメリカを中心とした資本主義国とソ連を中心とした社会主義国のことだ。小学校の教科書にも書いてあっただろう。」
「ああ、アメリカと中国のなんとかってやつ?」
「中国も東側だが……いや、未来では枠組みが変わっているのか? 四半世紀近くあれば国際情勢も変化するはず。だがこの銃は……」

 永遠に醒めた目で見られながら、形兆はまた考察に頭をひねり始めた。
 タベケンを殺したときはさほど動揺しなかったが、永遠という未来人と遭遇したことは、彼に少なくない衝撃を与えている。空条承太郎という時間を止めるスタンド使いを知っているので時間遡行にせよ時間跳躍にせよすんなりと受け止められるが、それゆえに主催者はどれだけ遠い未来からやってきたのかと考えてしまう。霧や空や会場のあれこれは、スタンドによるものだとしても科学技術によるものだとしても規格外のレベルだ。しかし、たかだか10年先には実用化されたアイテムであるスマートフォンですら形兆はスタンドの可能性を考え警戒したほどなのだ。首輪を科学的に解除しようとするのは原始人がパソコンを使おうとするような無謀なことなのかもしれないと思い始める。
 そもそも形兆自身がよくよく考えれば生き返ったかもしれない存在なのだ。よくよく考えれば、というのはその記憶が曖昧だからだ。今まで無意識に考えないようにしていたのもあるが、一度考え出すと自分の記憶におかしいところがある。特にオープニングでの光景、この部分に関しての記憶がいやに曖昧だ。ルールも含め誰が言っていたかや何が起こったかが頭から抜けそうになる。東方仗助が《クレイジー・ダイアモンド》を使っていたおかげで印象に残ったが、もしそうでなければ記憶が思い出せなくなっていた可能性もある。


938 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/26(水) 08:57:36 ???0

(スタンドがそうでないのかは不明だが、記憶を操作する能力がこのゲームの主催者にはあるッ。)

 目録を作りながら同時に頭の中で整理した記憶をメモしていく。そうしなければ夢の中の出来事のように記憶は急速に薄れていってしまうという予感がある。
 形兆が苛立たしげに、神経質に目録を作るのは、それを永遠に気取られないためだ。自分の頭を整理するためにメモに没頭しているなどと、そんな隙を殺し合う関係の相手に見せるわけにはいかない。
 それに目録を熱心に作る理由はもう一つ。武器が簡単に手に入る環境だということのストレスが彼にマメな行動をとらせていた。
 形兆の持つ超能力、《バッド・カンパニー》のスタンドはミニチュアの軍隊。同じスタンド使いでなければ目視できないそれは、一般人相手ならば無双できる戦力だ。それが当初想定していた、一般的な日本を舞台に一般的な日本人を相手に行うものならば。だがそこかしこに銃が落ちていては話は別だ。不可視で一方的に攻撃できるとはいえ、形兆自身も銃撃され得るとなれば戦略を練り直さなくてはならない。
 軍隊のスタンドを使っている彼は、当然それの脅威も理解している。屋外を歩けば1キロ先からでも一方的に狙撃や砲撃されかねないとなれば、強いストレスがかかるのは当然だ。

「とにかく、目立つ行動をするなよ。ここは紛争地帯だと思え。どこからミサイルが飛んでくるかわからないからな。」
「ミサイルって、ハリウッド映画で軍人が肩に担いで撃ってるやつ? あんなのまである?」
「コンビニにアサルトライフルを用意するような主催者だぞ。スーパーにはバズーカがあると思え。」

 実際にはバズーカどころか地対空ミサイルや化学兵器もある。形兆の懸念は杞憂どころか甘い想定なのだが、永遠からすればいくらなんでも突飛なものに思えて無言でアイスを飲み込む。
 トモダチデスゲームでは武器を持った大人もいたが、それは永遠でもニュースで見る程度の軽武装であって、金曜ロードショーでムキムキの軍人が化物に向かって撃ってるようなアレで殺し合うというのはなんともピンとこない。あんなものがなくても拳銃ぐらいで充分殺し合いになるだろうと思うのだ。というか実際デスゲームしたわけなので、そんな大層な用意をする必要性を感じ得ない。

(まあ、どこに銃を持った奴がいるかわかんないってのはわかるけどさ。)

 アイスをレジの中のゴミ箱に捨てると、アイテム回収を形兆に任せて資料はないかと漁りはじめる。
 銃があるとわかった以上公園のようには動くわけには行かなくなったが、どうにも形兆は神経質に思えてならない。元からそういう性格なのが気にしすぎなのかはわからないが、適当に付き合って自分は自分のことをする。
 永遠としては、この殺し合いに自分の家族が巻き込まれているかが気がかりだ。前回のことを考えればおそらくその心配はなく、小学校の頃の友人や中学に入ってからの友人も大丈夫だとは思うが、一方で自分を苦しめるためにもしかして、とも思う。やるかどうかならそういうことをやるタイプだろう。特に中学の友人は既に一度ゲームに巻き込まれているだけに心配が募る。たとえば漣蓮は前回の優勝の決定打になった。バスケが上手くてイイ奴だが、永遠から見ても無愛想で人付き合い下手そうなアイツは変な誤解されてそうである。

(ぼくもあんまり人のこと言えないけどね。悪い奴じゃないんだけどな。)

 少なくともあの天地神明よりは断然信頼できるのでここにいたら心強くはあるのだが、その一方でこんな場所には絶対にいて欲しくもなくある。

(……そうじゃなくて、今は手がかりとか集めないと。ホラーゲームとかだと、こういう場所にあるちょっとしたメモとかがなんかのヒントになったりするんだよね。てかこれ何語だ。)


939 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/26(水) 08:58:04 ???0

 自分を心配そうに見つめるイケメンを想像したところで永遠はわざとらしく咳払いをする。つい気にしてもどうにもならないことを考え込んでしまったと、カウンターの内側を漁っていこうとする。銃声が聞こえてきたのは、ちょうどそのタイミングだった。

「形兆。」
「ああ。おそらくは拳銃だ。」

 元々外から撃たれないようにしていたため恐怖は感じない。むしろ逆、銃声が聞こえたということは自分たちではない参加者の存在がわかったということ。つまりは銃を持った誰かの存在に気づけたということだ。
 永遠も形兆も闘争性は常人より高い。喧嘩っ早い永遠は元より殺人も厭わない形兆からすれば、銃音は回線の合図にほかならない。
 永遠はカウンターになぜかあったハンマーをくるりと回すと、両手の間で2、3回飛び交わさせた。軽く何度か素振りして、頷く。これなら割と使いやすそうだ。

「発射したのは屋外だな。音の種類は1種類。撃っているのは1人だ。」
「なんで連射していると思う。」
「さあな。本人に直接聞くほうが早えだろう。」

 形兆から小分けされた包帯やテープなどが入ったポーチをエコバッグと共に受け取ると、慎重に裏口からコンビニを出る。2人とも他の参加者との接触を望んでいる。それが有用な人物ならば友好的に、危険な人物ならば潰せる好機を逃さないために動き出す。永遠はその目的の違いに気づくことはなく、形兆の後に続いた。
 店を出ると聞こえてきたのは、子供の叫ぶ声だった。直ぐに聞こえなくなったが、足音は聞こえる。おそらく複数だろう。それも直ぐに聞こえなくなった。

「どっちから聞こえたかわかる?」
「いや。だがどこから逃げたかはわかる。さっきの公園だ。」
「なんで?」
「複数の人間が出会うのなら見通しの良い場所でなければ難しいだろう。」
「じゃあ公園でバトルがあったかな。広いよ、どうしよう。」
「安全に見えるところだけ偵察だ。こだわる必要もないからなあ。」

 自信を持ってそう言う形兆が気になったが、永遠は異論は言わないでおいた。形兆のこの方針はスタンドを目の前で使っても永遠にはわからないことが前提なのだが、そうは知らないので単に自分より軍隊とかそういうのに詳しいのだろうと解釈している。先のコンビニでの会話や銃の使い方を教えられたこと、それと服装を含めた風貌でミリタリーマニアの不良というのが永遠の中での形兆の評価だった。

(既に《バッド・カンパニー》を先行させているが、誰の姿も確認できないか。)

 一方の形兆の関心は、公園でのタベケン殺しが露見していないかだ。さっき永遠に言ったことはその関心から出た部分が大きい。死体の処理に問題はなかっただろうが、油断はしない。それにうまく行けば銃声を起こした参加者に犯行をなすりつけるような利用方法もあるかもしれない。
 コンビニを漁りながら永遠と情報交換をする中で未来についての知識を得たりはしたが、それでも当初からの方針に変更は無い。すなわち、優勝狙い。わざわざ他の参加者の前でそう言う必要性も無いので永遠には誤解させたままにしているが、参加者は原則サーチアンドデストロイ、彼女に見えないところでスタンドで殺す気である。

(──発見したぞ。)

 永遠と共に公園を伺えそうな高い建物を見つけたところで、感あり。《バッド・カンパニー》のヘリが参加者の一団を捉えた。数は、4。やや数が多い。それは殺さない理由よりも殺す理由になる。永遠と出会った時のように1人だけなら情報を集めてから処遇を判断できるが、人数が増えれば不確実性も奇襲への対応の困難さも増大する。それでも会場に銃器がばら撒かれていなければ考えも変えたが。

(死体の処理は難しそうだが、やむを得ない。)

 《バッド・カンパニー》はスタンド使い本人を守るには向かない攻撃特化のスタンド。隠蔽工作に気を使いたかったがそれは難しそうだ。
 僅かな逡巡の後に、形兆の周囲に小さな兵隊が展開を始めた。


940 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/26(水) 08:58:53 ???0



「僕は崇、こっちはネネちゃん。もしかして、今のってドッキリとかじゃなくて、本当に撃たれたの。」
「ハァ……ハァ……英治……疾風……さっき死体を見つけた。死んだフリだったみたいだ。銃持ってるみたいだ、もっと遠くに逃げよう。」
「ちょっと! 男の子だけでわかった感じにならないでよ!」
「悪いけどそうは言ってられないんだよ、走るぞ!」

 音を立てて息をしながら、英治と名乗った少年はそう言って走り出した。疾風と紹介された少年も続き、広瀬崇は桜田ネネをおんぶして続いた。
 崇がネネと出会ったのは今から少し前のこと。全く見覚えのない街に途方に暮れていたところに聞こえてきた、ネネの人を呼ぶ声に引き寄せられてのことだ。
 それはもちろん迷子の子供を助けなければという善意からの行動ではあったが、同時に誰かに今の自分の状況を教えてほしいからでもあった。
 困惑と共にネネと出会い、そして銃声を聞きつけて菊地英治と小林疾風に出会い、今はまた走っている。状況が全く飲み込めていない。
 しばらく移動すると、ようやく疾風たちは足を止めた。どうやらコンビニに逃げ込むことにしたようだ。
 そこは期せずして先程まで形兆達がいたコンビニだ。簡単に内部に入れる屋内が時間的に限られる深夜も、24時間営業には関係ない。鍵を壊したりせずに入れる気軽さもあって必然的に多くの参加者が集まる。

「はぁはぁ……それで、なにがあったの?」
「ああ……はぁ……実は……死んだふりしてたやつに襲わ、れ……」

 ようやく落ち着けると、4人で情報交換を始める。まだお互いの名前すらろくにわかっていないのだ。まずはそこから聞きたいところだが、どう見ても尋常じゃない様子なのでまずはそっちから聞こうとする。
 もっとも、崇にその機会が訪れることは、ネネにも疾風にも英治にもその機会が訪れることは永遠にないのだが。

(──この感覚、は。)


 同じタイミングで、虹村形兆は久遠永遠の目の前で、唐突に一つの言葉を口にしていた。
 「全隊攻撃開始」と。


 そのダメージを形容することは崇にはできなかった。
 自分の脳の中の大切な部分が、生命維持に不可欠な部分が、致命傷を負う感覚。生きている人間では到底理解できない独特な感覚。それを経験して生き延びることが不可避な、後戻りできない感覚だ。

「れ、れ、れれれ、れ……」

 英治のろれつが回らなくなり、膝から崩れ落ちる。それを支えようとした疾風は上半身だけ動くも下半身が動かず、引き倒される銅像のように横転する。
 崇が同じように倒れずに済んだのは、壁に寄りかかっていたからに過ぎない。だがそれも一瞬のこと。同じように体が崩れていくのを止められない。
 何が起こったかわからない。なぜ突然、自分の脳が破壊されたのかわからない。とにかく、何か危険だ。そう考え、せめてネネだけでも逃さなくてはと。

「あ……」

 そのネネが目から眼球の残滓を零しつつ自分に倒れ込んでくると、崇の意識も闇へと落ちていった。


941 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/26(水) 09:00:44 ???0



「なんか言った?」
「いや、別に。」

 永遠の言葉に背中越しにそう答えながら。《バッド・カンパニー》からの報告を待つ。少ししてもたらされたのは、敵沈黙の報。奇襲の完全な成功であった。

 《バッド・カンパニー》のヘリから降下した空挺部隊は4人の頭部へと取り付くと、口呼吸のために大きく開いた口や耳の穴から頭部へと侵入する。そして鼓膜付近や口蓋上部、喉仏に爆薬を取り付け離脱する。
 そして形兆の命令と同時に起爆。脳幹を中心に頭部を損壊されたことで、瞬く間に4つの子供の死体が出来上がった。

(これで5人。やはり我が《バッド・カンパニー》は依然として精強な軍団だ!)

 永遠からは見えぬよう、背中越しに薄く笑う。形兆の《バッド・カンパニー》は現実の軍隊のように柔軟に事にあたり、破壊工作さえこなせるのだ。その対象が人体となれば、一見拍子にしか見えない殺し方も可能となる。
 そして既に仕上げも行っている。

「形兆、今の!」
「ああ、さっきのコンビニのあたりだな。」
「本当にミサイル?」

 事件現場となったコンビニに本物の手榴弾を放たせ、簡易な証拠隠滅も図る。完璧には程遠いのでスッキリしないがやむを得ない。場所が場所なので永遠に戻ると言わせないためにもしっかりと爆破しておかなくてはならない。幸い、駐車場で周囲の建物とはスペースがある。火事になろうとも形兆たちの今後を妨げるものにはなるまい。
 遠くから聞こえてきた爆音に耳を澄ませ、形兆は作戦が首尾よくなったことを確信した。

「まずは離れるぞ。既に狙われている可能性があるからな。」
「わかった、公園からは離れたほうがいい。」

 2つの事件現場から永遠を引き剥がすことも成功した。まだこの女には使い道がある。
 目の前で殺人を犯しても気づかれないというアドバンテージ、最大限に活かさなくてはならない。



【0107 『東部』住宅地】


【久遠永遠@トモダチデスゲーム@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 ゲームを潰す。
●中目標
 形兆と共に行動する。
●小目標
 ここから離れる。

【虹村形兆@ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 優勝を目指す。
●中目標
 自分の存在を露呈しないように発見した参加者を殺していく。
●小目標
 ここから離れる。



【脱落】

【広瀬崇@泣いちゃいそうだよ (泣いちゃいそうだよシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【菊地英治@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【桜田ネネ@双葉社ジュニア文庫 映画ノベライズ クレヨンしんちゃん
ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【小林疾風@ギルティゲーム(ギルティゲームシリーズ)@小学館ジュニア文庫】


942 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/07/26(水) 09:01:13 ???0
投下終了です。
タイトルは『虹村形兆のドクトリン』になります。


943 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/01(火) 08:53:43 ???0
投下します。


944 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/01(火) 08:54:35 ???0



 バギー。職業:海賊。
 『千両道化』の二つ名を持ち、世界政府から公認された7人の海賊が1人、『王下七武海』。
 偉大なる航路『グランドライン』だけでなくあまねく全ての海にその名を轟かせる彼は。

「なんでこんなどことも知れねえ森の中でパシられてんだろうなぁトホホ……」

 今現在殺し合いに巻き込まれ、そこで出会った軽く2周り近く年下の少女たちに頼まれて、山道の先にある山小屋を目指していた。

「?」
「いや、なんともねえよ。」

 言葉の通じない剣士、クレイをお供に男2人で霧の道を行く。出世して手に入れた部下の猛者共は1人もおらず、首には爆弾付きの首輪。しかも行き先にはガトリングをぶっ放してくるらしい敵。いったいなぜこうなってしまったのか。

(チクショウ、どこの誰だよバトルロイヤルなんかやろうなんて言い出したのは。どうせインペルダウンの脱獄囚だろ。)

 とりあえず自分と同じように脱獄した海賊へと疑いの目を向ける。こういうことをやるかやらないかで言うと、やろうとする奴はいくらでもいる。そしてそういう厄介ごとに巻き込まれた時の対応は一つ、流れに逆らわないことだ。
 この大海賊時代、自分一人ではどうにもならないことなど吐いて捨てるほどある。そういうときは流れに乗ったほうが上手く行くと、今の地位を手に入れる過程で何度も経験している。今回とてそれと同じ理由で、出会ったばかりの小娘たちの頼みを聞いているわけだ。
 氷室実咲と名乗った少女の頼みで、ガトリング相手に殿を務めた日本号なる男の救助に当たる。どう考えても手遅れで死んでるであろう無意味な行いなのだが、それを言ってしまえるほど薄情でないのがバギーだった。もっとも、言わなかった理由はガトリングを独り占めできるチャンスだからというのが大きいのだが、わざわざ馬鹿正直に言う必要はないので、親切な道化として付き合っておく。

「チっ、死んでんじゃねえか。この傷はハデにガトリングだな。」
「■■■……」
「とりあえず戻んぞ。」

 そうこうしているうちに目当ての山小屋が見えた。近づくにつれて、撃ち抜かれた扉の様子や、山小屋の前に落ちている何かが見えてくる。森の中に分け入って遠巻きに伺えば、惨状は明らかだ。
 あれが日本号だろうと、体をズタズタにされた男の死体を見て思う。いくつもの弾痕らしきものが開いた体からは血が流れ出し、地面を赤く染めている。傷の割に流血が少ないようだが、それは気にせずもと来た道を戻り始めた。山小屋がどうあれ、一度合流して情報を共有してから動くことになっていた。迂闊に突入すれば二の舞いになることは明らかなのだが。

「おい、行くぜ。」

 クレイはしばし死体に向けて黙祷してからバギーの後に続いた。殊勝なことだとは思うが、どうせろくに名前も知らない相手なのだからそんなことしてる間があるなら動けと思う。
 乙和瓢湖に一度殺されかけただけあって、バギーは既にこの殺し合いで相当数の参加者が死んでいると考えている。実咲やジョゼのようなあからさまに弱い者と、自分のような強い者、半々が参加しているだろうというのがバギーの予想だった。狩る側と狩られる側を用意して殺しが起きやすくするのだろうと。それは海賊的な経験からくるものであった。

(コイツやさっきのアイツ程度なら俺でも殺せるが、グランドラインにいるような海賊もいたらヤベえな。東の海のザコ共しかいませんよーに!)


945 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/01(火) 08:57:59 ???0

 実際は天竜人は五老星からも目をつけられるような超厄種も参戦している上に、新世界の海賊とも渡り合えるような猛者も何人もいる。なので彼の祈りは全く通じていない上に、さっそくそんな猛者に目をつけられているのだが、もちろんバギーは気づいていなかった。
 見聞色の覇気があるならともかく、その男は無音殺人術の使い手、足音1つ立てずに正面から先回りしていく。
 ジョゼたちの所へ戻ってきた時になって、何食わぬ顔でいる桃地再不斬にずっと監視されていたなどとは夢にも思わなかった。

「なっ……! アイツはやべぇ。」
「あっ! バギーさーん!」
「バカッ!? 声かけんな!」

 一目見た瞬間、バギーは回れ右しようとしたが、園崎詩音の声で再不斬と目が合う。どう見ても殺ってる人の眼光にバギーは諦めて愛想笑いを返した。


「桃地再不斬。お前らと同じ参加者ってことになるんだろうな。」
(どっちも下忍程度。殺すのは楽だが……)

 一方、バギーたちを監視し先に詩音たちと接触することにした再不斬は品定めの最終段階に入っていた。
 彼がバギーたちの前に姿を表すことにした理由は、彼が今も担いでいる佐藤マサオにある。
 ようするに、マサオが邪魔なのだ。
 動こうとするとかさばる荷物のくせに、生きた首輪のサンプルとして首を刎ねるわけにもいかない。そう思ってバギーを追う前後から持ち歩いているのだが、想像以上に手間である。持って歩こうにも気をつけなければ鞭打ちを起こしかねないし、どこかに置いておくのも移動の度に取りに戻らなくてはならないのでめんどくさいことこの上ない。
 そこで見つけたのがジョゼのような車椅子の少女をも保護する詩音たち。コイツらならどう見ても殺し合いには乗っていないし、一応戦えそうな男手もいるので、首輪の生体サンプル置き場としてうってつけだったのだ。

「その……日本号さんは、どうでしたか?」
「──そういうわけで、拡声器を使ってたガキ共を探してたら見つけたのがコイツだ。もう一人いたんだが、そいつは人面蜘蛛に襲われててな。」
「忍者に人面蜘蛛、ですか……もうなんでもありですね。」
「なんでこっち見ながら言うんだ。」
「いや別に……」

 実咲がバギーに問いかけているのを無視して再不斬は詩音とジョゼと話を進める。別に再不斬は詩音たちと馴れ合うつもりはない。首輪解除の道も残すためと、せっかく手に入れたマサオを無駄にしたくなかったために接触しただけだ。元々解除できるとも期待していないが、売り込んでおくのも悪くはないだろう。殺し合いに乗っていないと言うだけならタダなのだ。それに気絶している子供を保護しているというカードもある。

(いやこの人絶対カタギじゃないですよ。仕事で人を殺す人の目をしてますもん。)
(こんな眉無しがいい人なわけないだろ。趣味で人を殺す人の目をしてますもん。)

 そのカードのおかげで明らかに詩音たちに警戒されながらも穏当な会話に成功している。趣味と仕事を兼ねて殺人している再不斬だが、ビジネスができないわけではない。ここで迂闊なことを言えばどうなるかを雰囲気と背中に担いだ首斬り包丁だけで示しつつ、自分を対主催だと受け入れさせていた。

「そう、ですか……あの、ありがとうございました。」
「まあ、その、なんだ、お前が無事なだけソイツも安心してるんじゃないか?」
(さっきのアイツが殺したのは間違いなさそうだな。)


946 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/01(火) 08:59:07 ???0

 落ち込む実咲を慣れないながらもなんとか励まそうとするバギーを横目で見つつ、再不斬はもう一枚のカードについて考える。彼が先ほど拉致って森の中に置いてあるアミィ・キリヲは、やはり実咲の同行者を撃ち殺したようである。ならば、このままあの男には霧隠してもらうとしよう。
 この対主催チーム、少し話して確信したがお人好しの集まりだ。いざとなればどうなるかはわからないが、逆に言えばならなければそうそう崩れはしないだろう。それならチームの仇であるキリヲと出会わせなければこのままなあなあで行ってくれるはずだ。復讐相手が見つかったとなればその処遇でもめるだろうし、殺せば割り切れずにしこりになり、捕まえるなら足手まといを抱えることになる。どちらも再不斬には望ましくない。かと言って殺すのも惜しい。あの程度の雑魚なら泳がせて殺し合いを進めさせたほうが手間もなく、自分の対主催としての価値も上がるからだ。

(白もいねえ以上、死んだふりとかやってられねえからな。地盤は整えておくか。)

 暗殺者である再不斬は正面戦闘だけでなく搦手も使える。わざわざ敵対するよりは友好的に振る舞った後のほうが殺しやすいとなればそれを選ばない道は無い。

「うーん、じゃあ山小屋に行くのは危険そうですね。このまま山を降りようと思います。」
「そうか、俺はそいつらを『保護』しに行く。代わりにコイツも連れてってくれ。」
「「ハハァ……((殺す気じゃない?))」」

 愛想笑いをする詩音とジョゼに押し付けるようにマサオを渡す。
 「マジかよ……」そんな声が聞こえてきそうな表示でジョゼと顔を見合わせる詩音を無視して、「見つからなくても日の出頃には麓に降りる」と残すと、枝から枝へと森の中を移動し始めた。


「何が起こってるんだよ……誰か説明してくれよ……」

 そして一人、クレイは話についていけずに途方に暮れていた。
 一人だけ言葉がわからないので状況がサッパリだ。
 なんとなく、実咲が同行者を犠牲にして助かって、それが悲しくて泣いているのをバギーが慰めて、再不斬がマサオという子供を保護していたが何か理由があって詩音とジョゼに預けたというのはわかるが、それ以外はなにもわからない。
 そんだけわかってるなら十分だろと思うかもしれないが、殺し合いの場で自分だけ言葉が通じないのだ、嘆きたくもなる。他のパーティメンバーが、もともと幼女なのであまり言葉が通じないルーミィや、もともと言葉が通じても会話に難があるキットンなどなので、彼は特にコミュニケーション能力のデバフを受けていた。

「うわぁ、本当に忍者みたいだぁ……え、これ、どうしましょう……ジョゼさんパス。」
「ええ……」
「そのな、だからえーっと、いや無理だろこんな時に効かせられるアドリブねえよ!」
「ごめんなさい……バギーさん………」
「……」
「ルーミィたち大丈夫かな……はぁ……」

 人数は増えたのにバラバラのまま、6人という大集団の対主催が結成された。


947 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/01(火) 08:59:48 ???0



【0230 『北部』山の麓の森】

【バギー@劇場版 ONE PIECE STAMPEDEノベライズ みらい文庫版(ONE PIECEシリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
 とりあえず、生き残るのを優先。
●小目標
 なんかよくわかんねえうちに子供押し付けられた!? 孤児院じゃねえんだぞ!

【クレイ・シーモア・アンダーソン@フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち(フォーチュン・クエストシリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 みんな(フォーチュン・クエストのパーティー)が巻き込まらていないか探す。
●小目標
 話しについていけないがジョゼとマサオを保護する……やっぱり影薄くないか? 言葉わからなくてもなんかしゃべったほうがいいかな?

【桃地再不斬@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 首輪解除の保険として使えそうな対主催には接触しておく。
●小目標
 アミィ・キリヲを元の場所に帰してきたあと下山。

【園崎詩音@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第二話 綿流し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族や部活メンバーが巻き込まれていたら合流する。
●小目標
 氷室さんには悪いけど山小屋に向かわずに下山しよう……てかこの子(マサオ)どうすんの?

【氷室実咲@怪盗レッド(1) 2代目怪盗、デビューする☆の巻(怪盗レッドシリーズ)@角川つばさ文庫】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 日本号さん……

【山田クミ子@アニメ映画 ジョゼと虎と魚たち@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 ちょっと待ってこんな展開ええん?

【佐藤マサオ@双葉社ジュニア文庫 映画ノベライズ クレヨンしんちゃん
ガチンコ! 逆襲のロボとーちゃん(クレヨンしんちゃんシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 帰りたい。
●小目標
 ???


948 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/01(火) 09:00:15 ???0
投下終了です。
タイトルは『話し合おうにも言葉が通じねえんだから話しになんねーよ』になります。


949 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/04(金) 03:00:26 ???0
>>934で日守黎夜という名前のキャラを出しましたが参戦時期のタイミングでは雫沢黎夜だったので訂正します。
投下します。


950 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/04(金) 03:02:40 ???0



 その光景を見て立花紗綾がとった行動は失神だった。
 つい先日までは睦月紗綾で後には日守紗綾を名乗るサーヤは、その苗字の移り変わりのように複雑な産まれにある。
 悪魔の王である魔王と、その悪魔を討つマテリアルの間に産まれた彼女は、人間として孤児院で育てられた。その後彼女が5年生になると、魔王の命を受けた悪魔によって引き取られ、命を狙われ、破魔のマテリアルとして覚醒し、そして今に至る。
 これだけ聞くと少年漫画の読み切りのような境遇なのだが、一つだけ違うところがある。バトルもののキャラではなく、ただ単に年の割に大人びているだけの美少女ということだ。
 孤児院では年長だったのでそういう振る舞いが身についてきたが、本質的にはただの女子小学生である。目の前で殺人が行われれば怒りのあまり秘めたる力に覚醒するようなバチクソやべえ男子中高生とは違う。たしかに生き別れの弟が腸ぶち抜かれた時はその場の勢いで戦えたが、今現在のサーヤにそこまでのバトル慣れは無い。
 ゆえにその光景を、美少女の頭部が転がる惨殺死体や猛獣に襲われたかのような惨殺死体を見て、必然的に意識を失った。

「あれ……ここは……」

 それから何分ぐらい経っただろう。サーヤがはじめに感じたのは、獣臭さだった。毛深い犬に顔を埋めて深呼吸した時のような匂い。ついで感じるのは、温かさと柔らかさ。ゆっくりと上下するそれはサーヤの顔を撫で、それが意識を覚醒させていく。
 そして、パッチリと目が開いたときに見えたのは、自分を覗き込む犬の顔だった。

(はえ〜……すっごい大きい……)

 まだ寝起きでハッキリしない頭で最初に思ったのは、犬の大きさだった。顔が自分より大きい。それが近いからそう見えるのでなく単純に大きいことに、意識が鮮明になっていくにつれて理解する。
 次に目に入ったのは、首輪だった。自分が付けられているのと同じ首輪だ。そしてその下に、元から付けられていたのか首輪が見える。

「定春……?」
「アン!」

 書かれていた漢字を読み上げると、犬は元気に吠えた。


 定春がサーヤを見つけたのは、かまちに屠られた生絹たちの血の匂いに惹かれて惨殺現場に向かったからだ。
 ツノウサギの言葉を完全に理解できたわけではないが、これでもただの犬とは違う化生、自分が殺し合いに巻き込まれたことは嫌な臭いのする首輪と合わせてわからされる。となればまず考えるのは、万事屋の仲間が巻き込まれているかだ。定春自身も含め全員常人よりは強いとはいえ、怪我の一つもないとは限らない。むしろふだんのことを考えれば傷だらけでボロボロになっているだろう。
 そんなこんなで会場をさまよっていたわけだが、不快な霧のせいでろくに鼻が効かない。ようやく嗅ぎつけたのが血の匂いで慌てて向かえば、そこに倒れていたのは5人の子供。さすがにその死体の有り様に驚愕していると、1人だけ無傷だったのがサーヤというわけである。
 これがマルでダメなオッサンならともかく万事屋の神楽と同年代であるサーヤとなると放っておく気にもなれない。口と体で器用に自分の上に載せると、血なまぐさい現場から引き剥がしたのだ。

 こころなしか誇らしげな表情の定春に、サーヤは困惑しながらも礼を言いつつ頭を撫でる。先日のことがことだけに、どうしても悪魔を連想してしまうのだが、それはそれとして助けてもらったので感謝の気持ちはある。しかしそういう心を利用するのが、虫や動物の姿から人間に化ける悪魔なので警戒してしまうのだ。生き別れの兄だと思ったら自分を殺しにした悪魔だった経験はどうしてもしこりのように残る。と、定春を悪魔と疑いだしたところでサーヤは気づいた。


951 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/04(金) 03:05:24 ???0

「あっ! 破魔の笛がない!」

 驚きの声と共に慌てて自分の体を探す。だが何個もないポケットをひっくり返しても見つかる気配はない。出てきたのは変なメモだが、書かれてあるのはパッと見で関係なさそうなのと、どこで落としたか心当たりがあったので無視する。

「そっか、あの時に落としちゃったんだ。」

 破魔の笛というのは、サーヤがマテリアルとしての力を使うために必要なアーティファクトだ。これがなければ彼女は常人より精気が多いせいで悪魔に狙われやすいだけの無力な少女になってしまう。
 つまりはまさしく生命線。状況が状況なので常に手に持っていつでも吹けるようにしていたのだ、失神した時に落としたことは想像に難くない。
 サーヤの顔にサっと影が差す。この間も自分と弟のレイヤを救ったそれを失くしたことは、体の半分を引き裂かれたよう喪失感がある。なにより、孤児院に引き取られた際に紗綾という名前以外で唯一持っていたものなのだ。形あるものでは無二のそれが、自分と見たことのない親を繋ぐかけがえのないものだ。

「取りに行かなきゃ……」
「アン?」
「あのね、さっきの場所に笛を落としちゃったんだ。」

 近くに見える商店街の端の店が、さっき気絶した場所だ。大した距離ではない。直ぐに向かおうとして、しかし足が震えることにサーヤは気づいた。自分の体がなかなか言うことを聞いてくれない。大切なものなのに、それが落ちている場所のことを考えてしまうとつい二の足を踏んでしまう。

「アン。」
「え?」

 それでも一歩踏み出そうとしたところで、モフモフとしたものがサーヤを押し留めた。定春が頭突きするように頭を押し付けると、一声鳴いて商店街へと向かう。その表情がどことなくニヒルなものだと万事屋のメンバーならわかったことだろう。
 失神するような惨状の場所にサーヤをいかせるわけにはいかない。気遣いのできるナイスガイとしてそう判断するとトコトコと歩く。元々距離などあってないような近さ、直ぐに戻れるため警戒することもなく、どこに落としたかもだいたいわかっている、もし見つからなくても鼻を使えばすぐにわかる。
 それが甘い判断だった。

「な、なんだこの巨大な犬はっ!?」

 行きしなも鼻を使わなかったのは油断だろう。
 現場に戻るとそこでオッサンと出くわした。思わず見つめ合ってしまう。
 しかし直ぐに思い直すと、オッサンの足下に落ちていた小笛を器用に咥えて駆け出した。見知った顔ならともかく、誰ともわからぬこんなオッサンに構っているヒマはない。大事なのはサーヤの方だ。

「あっ! 遺品を持っていったらいかん! 待てえ!」

 予想外だったのは、オッサンが追いかけて来たことだ。しかも早い。出遅れたはずなのに距離を詰めてきている。いかにランニングとダッシュという違いはあれど、定春はスクーターと並走できる程には足が速い。その定春にダッシュで追いつこうとしてくるオッサンは何者なのか。
 定春は予定を変更することにした。このオッサンをサーヤの下に行かせたら危険ではないか。なんならもしかしてあの死体の山はオッサンが刀か何かで切りまくったもので、犯行現場に戻ってきたのではないか。

「グルル……!」

 定春は方向転換すると一気にダッシュしてオッサンをサーヤから引き剥がしにかかる。自分を追いかけて着いてくるのを後ろ目に確認すると、近くの公園へと駆け込み、ベンチの上に笛を置く。

「持ってかないで〜!」

 彼方ではサーヤが定春を追いかけて駆け出したとはつゆ知らず、公園へと駆け込んできたオッサンに臨戦態勢をとった。


952 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/04(金) 03:09:33 ???0



(ヒグマか何かが襲ったのかとも思ったが、まさか犬とはな。獲物だと思っているのか知らんが、その笛は返してもらうぞ! でなければ親御さんも浮かばれんからなっ!)

 一方、オッサンこと銭形警部は牙を向いて唸る定春に固唾を呑むも、こちらも油断無く拳銃へと手を伸ばしていた。
 もちろん、銭形はあの惨状とは無関係だ。かまちに向けて生絹たちが発砲した時の音を聞きつけて向かっただけであり、単にサーヤ達とは入れ違いになっただけである。
 だがそんな彼も、刑事として引くわけにはいかない理由があった。

「──むう、なんと酷い……子供ばかり四人も……それにこの子は、さっきの子でないか。」

 話は銭形が現場に到着した時のことだ。サーヤのように失神することはないが、その惨状に眉を顰めていた彼は、あることに気づいた。無造作に転がる羅門ルルの首に見覚えがあったのだ。
 それはオープニングでのこと。気がつけば子供たちに囲まれ妙な首輪を着けられていたことに気づくと、銭形は直ぐに自分が拉致されたことに気づいた。こういう大掛かりな首輪に爆弾を仕込むケースを知っていたのと、自分以外もなぜここにいるのかわからないという様子の子供ばかりだからだ。
 警察手帳を見せつつ自分が警察官であることを話し、混乱する子供たちを収めようとした。状況的に犯人を刺激することは最悪の結果に繋がるという確信があった。案の定、サイコロステーキ先輩が暴発してしまい、制止する声も同じく制止する子供たちの声にかき消され、オープニングの展開となったわけだが、その際に自分の近くにいたのがルルだった。日本人離れした容姿だったので印象に残っている。できることなど何もなかっただろうと頭では理解する反面、もしあの時しっかり保護していれば、守れる力があればあるいはという思いにかられる。

「しかし、顔を見るまでこの子に声をかけたことを忘れていたとは。首輪に薬物を入れているようだが、その影響か?」

 そして悔やむ気持ちと同時に、自らの異変に気づいた。伊達に何度もルパン一味を追い詰めてはいない。記憶力は人よりは優れている方だ。それなのに、オープニングでの光景が嫌に朧気なのだ。この症状を経験と肉体で分析すると、出てくる答えは自白剤や幻覚剤の使用だ。拉致した人間にそういうものを使って、暗示や証拠隠滅を図ることがある。となると事態はかなり切迫している。殺し合うことを暗示で刷り込まれている可能性があるからだ。しかも建物に入ると銃器が落ちている。これでは次元大介のような腕でなくとも容易に殺しができると考え至ったところで、銭形はハっとした。そういえばあのオープニングで次元と石川五エ門の2人を確認していた。自分が動けなかったのは、2人を監視し続けていたのもあったからなのだが、つい先程まで覚えていたはずのそれが頭から抜けていた。

「むぅ……これはかなり厄介だ。記憶に頼るのは危険だな。しっかりメモを残して置かなければ……」

 自分の症状に愕然としながらも、しかしどうしてか僅かな希望を感じずにはいられなかった。ルパン一味はこのような殺し合いに乗ることはまず無い連中だ。こんな首輪を着けられているとなったら真っ先に主催者を出し抜くために動き出すだろう。特にルパンがいるならばこの首輪の解除に動いているはずだ。あるいは仲間の救出のために外部から動いているかもしれない。こと拘束から抜け出すことにかけて、アイツより信用できる人間を銭形は知らなかった。

「泥棒に警察が期待するなどあってはならないことなのだがな。さて、まずは現場検証だ。といっても写真を撮っておくぐらいしかできないのだが、しかしこれはクマの足跡か? 爪もかなりの大きさだが、形は犬に近いような……なにっ。」


953 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/04(金) 03:12:15 ???0


「なんとしても、その笛は返してもらうぞ。」

 そして、時間は現在に戻る。
 現場検証でかまちの足跡を見つけたことで、銭形は定春を容疑者として見ていた。あの遺体の状況から何か鋭利なもので身体を切り裂かれたことは明らかだ。定春の爪では小さすぎ、その体のどこにも返り血が付いていないことは気になったが、落ちていた動物らしき毛の色も考えると定春がやったとしか考えられない。ヒグマのように自分が仕留めた獲物に執着し、そのために笛を持ち去ったのだと考える。
 だが銭形にもその笛を渡せぬ理由がある。サーヤが倒れていたのはたまたまだがルルの首の近く。そのため笛もルルの頭部の側に落ちていたのだ。それは単にルルの頭部が建物の出入り口付近にまで転がったことによる偶然なのだが、銭形にはルルの遺品に見えた。
 死んだのは小学校低学年から中学生ほどの子供ばかり4人。いずれも年若い身で、彼らを失くした親御さんの気持ちを考えるとやりきれないものがある。せめて彼らの遺品だけでも返さなくてはならない。それは単なる証拠品以上の大切なものなのだから。

「グルァッ!」
「来るかっ!」

 互いを子供たちの虐殺者と見なして定春と銭形は睨み合う。この状況を止められるサーヤは失神から目覚めたばかりで足下が覚束ず、体育が苦手なのもあって数分は両者の下へ来れない。そしてどちらかが死ぬのに数十秒あれば事足りる。
 勘違いから始まった一触即発の空気は、それを止められる人間不在のまま戦闘の導火線に火を付けた。



【0056 商店街】

【立花紗綾@魔天使マテリアル(1) 目覚めの刻(魔天使マテリアルシリーズ)@ポプラカラフル文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する。
●中目標
 巻き込まれてたら仲間と合流したい。
●小目標
 定春を追う、あとあのオジサン誰?

【定春@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する。
●中目標
 万事屋メンバーが巻き込まれてたら合流する。
●小目標
 襲ってくるならオッサン(銭形)を叩きのめす。

【銭形幸一@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いに巻き込まれた人間を脱出させる。
●中目標
 殺し合いに巻き込まれた人間を保護する。
●小目標
 犬(定春)から笛を取り戻す。襲ってくるなら駆除する。


954 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/04(金) 03:12:43 ???0
投下終了です。
タイトルは『ローリング・ストーンズ』になります。


955 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/16(水) 03:57:30 ???0
投下します。


956 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/16(水) 03:58:34 ???0



 四宮かぐやはアスモデウス・アリスと共に。
 雪代縁は石川五エ門を撃退して。
 うずまきナルトは宮美ニ鳥を護衛しつつ。
 前原圭一は園田魅音の凶行にとまどい。
 山田奈緒子は天地神明の手に絡めとられ。

 5ヶ所で10人がそれぞれに動く警察署。

「ようやく街に出れたと思ったら、また銃かよ。」

 火の点いた火薬庫と化したそこにまた1人参加者が現れ。
 爆発は文字通りの秒読みとなる。



「熱っつー、どんだけ銃あんだよ。」

 銃声にも怯まず堂々と車道の真ん中を歩く少女が、ビルの立ち並ぶ街に1人。
 吉永双葉は森を抜け開けた視界にビルを見つけると、繁華街へと向かっていた。
 わけのわからない森に比べて、街に出れば人もいるだろうと思ったが、その考えの甘さはすぐに理解する。どこを探しても、落ちてた銃を撃ってみてもまるで無人。そもそも本物の銃が落ちてるということにひとしきりツッコミを入れると、それから小一時間あてもなく歩いていた。
 もちろん、双葉は殺し合う気などない。元々襲われれば半殺しにするご町内でも有名な狂犬だが、誓って殺しはやってこなかったのが双葉だ。それに不思議なことにも少しは知識がある。不本意だが家には喋る石像のガーゴイル(犬)がいるのだ。赤い霧も赤い空も銃が多いのも、まあなんかそういうヤバイ空間なのだろうと納得する。というか、関心が薄い。なぜなら。

「あああ! 人全然いねえなあ! 相手がいないバトロワはバトロワじゃねえ!」

 とにかく誰にも会わないからだ。
 殺し合えと言われて一応襲われることを警戒して早2時間。来るなら来いというテンションだったのだが、いい加減勢いも注意も薄れ、全く他の人間が見つからないという事実にイラ立ちを募らせていた。別に会ってどうこうというわけではない。ただ、巻き込まれてからずっと敵と遭遇することを考えていたのにそれが無駄になったようで腹が立つのだ。それは同時に不安の裏返しでもある。銃声などの人の気配はするのに、1人迷子でい続けることは、本人は認めなくてもストレスに違いなかった。
 無意識に大きくなる声、そして早くなる足。試し撃ちと拳銃を撃ってみても、1人。そんな中で見えた赤いパトランプに、双葉の眉根が下がった。

「警察だ!」

 これほどまでに赤色灯を見て喜んだことはない。双葉は早足になるとズンズン進んだ。道なりに行けば近いのは裏手。駐車場に行くと、直ぐに入口は見つかった。いわゆる通用口だろう、トラックなどが停められるスペースの横にある扉は開いていた。ふだんなら見張りがいるために物理的なセキュリティが緩かったのが幸いしたのだろうか。とにかく警察署の中に入ると、とりあえず近くの扉を開けて適当な椅子に座った。
 さすがに歩き疲れて、背もたれに身を預ける。別に歩き続けただけなのだが、異様なロケーションというのはそれだけで気疲れさせるのだ。ゆえにそこから開放されることは何事にも代え難く思える。でなければ段々と大きく、近づいてくるような銃声を無視して警察署になど来たりしない。
 それに例外があるとするならば、例えば自分の入った警察署の内側から聞こえたとしか思えない銃声を聞いたときだろうか。


957 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/16(水) 03:59:02 ???0

「なんだ今の、すっげー近くから聞こえたぞ……」

 上の階で魅音がナルトの影分身を射殺した音に、直ぐに背中を起こした。なぜかテーブルの上に置いてあるプラスチック爆弾とサブマシンガンを見比べて、とりあえずサブマシンガンだけ持っていくことにする。一応ここまでで拳銃を拾っているが、これから銃を持った相手と戦うとなると、やはり強そうな武器がいい。
 そう、双葉は戦う気であった。どのみち銃を撃ってるやつなんてろくなやつじゃないんだと、ここに来るまで暇つぶしを兼ねて試し撃ちしまくってた自分を棚に上げて考える。とにかく、先に見つけて銃を突きつける、殺る気があるならヤるし、ないなら話をしよう。相手の出方次第だ。

「ピストルとは重さもデカさも違うな、こ、これなら。」

 ニヤリと凶暴に笑い、部屋を出る。強そうな武器というのはそれだけで持つ自分をも強くするように錯覚させる。そしてなにより、双葉は気づいていない。引鉄を引けば確実に相手を殺しうるそれを、自分が使うべきときに使えるかを。暴力を知っているからこそその凶器を使えるかを。
 より近くから聞こえてくる音に導かれるように警察署内を歩く。角と廊下による距離だけが、縁と五エ門の超人的な戦闘と双葉とを分ける。それを自分で無くした双葉は、角を曲がって即座に理解した。

「──ヤベぇ。」

 爆音と共に五エ門が縁に斬りかかり、切り払われ逃げて行く。どちらの動きも、非人間的。現実離れした戦いが自分の目の前で行われている。
 そして双葉がなによりも戦慄したのは、縁の殺気だった。
 重ねて言うが、双葉は喧嘩っ早くて喧嘩好きと言えども誓って人を殺したことはない。暴れん坊と言えども人を殺すかどうかには線があり、その線を踏み越えないから同じ匂いを感じる。
 だが、縁からはそれがない、暴力の匂いはあっても双葉の知る喧嘩の匂いではない。彼から立ち籠めるのはもっと濃密で吐き気を催す、死の臭いだ。

「……」
「あっ。」

 気がつけば、縁は双葉を見つめていた。目が合ってから、発砲していないことに気づく。そこでようやくこう思った。「ヤバい、なんで撃たなかったんだ」と。
 嘘か真か女の子の喧嘩は男の子の喧嘩よりも残酷という専門家もいる。今まで一度も暴力を振るったことのない人生なので、加減を知らずに血を見ることになるというのだ。だが双葉は真逆。血を見てきたからこそ、他の子供のような気軽さが無い。

「……な、なあ、アンタも参加者か?」
「……」

 他の参加者に出会った時にしようと思っていたことなど忘れて、沈黙が気まずくて話しかける。
 たいして縁は無言。ゆっくりと向き直ると、双葉の身体を上から下までなめ回すように見つつ、ゆっくりと歩るき出す。

(ヤバイヤバイヤバイ! 殺される!!)

 頭の中でアラートが鳴る。上がった心拍数と同じリズムでガンガンと響くうるささだけが、双葉がまだ生きていることを双葉自身に教えてくれる。この音が止まった時は2つに1つしかない。ヤツが死ぬか、自分が死ぬかだ。
 縁が1歩足を前に出して、バチンという感覚が双葉の身体中を駆け巡る。感電したかのようなショックにハっとなると、ヘビに睨まれたカエルのようだった体が動くようになったのを感じた。

(動けるっ!)

 暴力を知っているからこそ硬直してしまった体が自分でも驚くほどに柔軟になったのを感じた。自分が相手を殺しうることが、相手が自分を数秒後に殺すことで上書きされる。


958 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/16(水) 03:59:37 ???0

 ドン!

 人体から出たとは思えない音が靴と床の衝突に発せられると、縁が砲弾のように突っ込んでくる。

「来いやぁ!!」

 人生で最も大きい声を出すと、双葉はマシンガンを両手でしっかり構え発射した。
 恐怖とそこから来た闘争心が、双葉の人殺しへのリミッターを外す。
 拳銃弾が1秒のうちに5発も10発も発射された。反動で銃口が跳ね上がり、線状の死が放たれる。縁を逆袈裟にするような銃弾の斬撃は、しかしまたも発せられた轟音により届かない。
 強烈な踏み込みにより縁は床から壁へと走行レーンを変え、天井すらも自分踏み台に変えた。追いすがるように迫る弾丸を速度で躱し、しかしその体勢が崩れる。三角跳びの要領で踏みしめられた天板が縁の踏み込みに耐えられずに上へと崩落する。凄まじい加速により一瞬天井裏へと突っ込んだ縁の肩を弾丸が掠めた。視界が天板で遮られ、一瞬だが双葉を見失った。それを無視して縁は自由落下に身を任せつつ片手突きの構えをとる。それは奇しくも怨敵たる緋村抜刀斎と幾度も刃を交えた斉藤一の牙突を思わせるもの。
 天板をぶち抜いて縁が双葉の頭上に現れる。落下の勢いを乗せて半身で片手突きを放つ縁と、サブマシンガンを手から離して足ではステップを踏み本身で正対する双葉。
 次の瞬間、縁の倭刀が双葉の眉間へと迫り。

「ナニッ!?」
「しゃあっ! 弾丸滑り!」

 驚愕の表情を作る縁の顔が直ぐに苦痛の表情へと変わった。
 弾丸滑り、またはスリッピング・アウェイとは格闘技に置ける防御の技術である。相手の攻撃に合わせて当たる部分を動かし、文字通りに滑らせるようにして躱す。
 双葉は反射的に引鉄を引いたが一瞬縁が視界から消えたことをきっかけに一瞬闘争心が揺らいだ。逃げを優先することとし、即座に思考を切り替えて相手の攻撃を躱すことに専念したのだ。
 それでも本来であればなすすべ無く額を貫かれていただろう。それを避けられたのは2つの幸運。即ち、連射した弾丸の1発が縁を掠め僅かに体勢を崩させたこと、そして一瞬双葉を見失いステップを踏まれていた為に僅かに離れた間合いを修正することが間に合わなかったこと。
 そしてもう一つあるとすれば──これは縁にとっての不運か悪運かだが──双葉を殺すことを縁が躊躇ったことだ。

「ぐっ……ハァ!!」
「……っあ……」

 カウンターとして入った双葉のパンチの威力よりも、自分の不甲斐無さに顔が歪む。それを振り払うように腕を振り回すと、双葉の体はカーリングのストーンのように廊下を滑った。
 なんの技もないそれが、縁の殺意の薄れを如実に表している。しかし同時に、双葉相手にも暴力を振るえることも意味していた。

「姉サン……どうして……」
「あっ、一発で折れたッ!?」

 咄嗟にガードした腕がへし折れ、双葉の顔が痛みよりも驚きで歪む。あまりにパワーが大きすぎる。まるでゴリラにでも殴られたように双葉は感じた。どう考えても人間に出せる力を超えてるだろと思う。そんな双葉は眼中に無く、縁は身悶える。双葉の驚愕の表情も縁には違って見える。彼の目に映る双葉の顔が歪み、かすみ、姉へとダブって見える。

(何故だ! さっきの女ほど似ていないのに! まだ子供なのに!)

 その子供ならば女でも殺せるという考え自体が、少女を姉と重ねてしまっていることを認めるようなものだと縁は気づかない。気づくわけにはいかない。
 線引きだ。女でも姉のようでなければ殺せる。それが最低限譲れない縁のラインだ。抜刀斎への人誅を果たすには、抜刀斎を愛する神谷薫を殺す必要がある。人誅を果たせない己に価値など無い。復讐の為に生きてきたこれまでを否定する訳には行かない。

「殺す……!」

 吐き気を催しながらも、縁は倭刀を構え直し早足で双葉へと向かった。アレを殺さなければ前へ進めない、人誅を成せない、そんな強迫観念。
 だらりと脂汗を流しながら、双葉はなんとか立ち上がって後退る。そんな姑息な手しか、今の双葉にできることはない。ほんの数秒の死の先延ばし。
 しかし、それが双葉の命運を繋ぐ。

「死ネッ!」
「ち、くしょぉぉっ!」
「ダイナミィィック・エントリィィイ!!!」

 刀を真上に振りかぶり唐竹割りにしようとした縁が、窓をぶちやぶって現れた何かに吹き飛ばされた。


959 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/16(水) 04:01:27 ???0



「オマエ、なんて名前ネ。」
「……安土流星だ。」
「ソ。流星、チョット頼むヨ。行くとこできたネ。」

 タイの襲撃により、自分たちの知らない、それでもすぐ近くで人が死んだ。なまじ即死ではなくゆっくりと命の炎が消えていったのを見て、神楽はしばらく俯き、そして流星へと言った。

「どこへ行く気だ。」
「街に行って病院探すヨ。ここにずっと居ても仕方ないネ。」
「それは……危険だが、助かる。」

 歯切れが悪いなと流星は自分の口から出た言葉に思った。高校生の身で警察官をやっている以上、精神力は常人よりも高いという自負がある。それでもそんな曖昧な口調になったのは、やはりこの死が堪えているのだろうなと自己分析する。
 本来であれば警察官として止めるべきかもしれない。拉致され危険物の入った首輪を巻かれた民間人は保護すべきだ。しかし、自分に何ができるのか? あの戦いになにも参加できなかった自分に何ができるのか?

(まるで映画に出てくる無能な警察だ、これでは、無能の証明ではないか……! だらしねえ……)

 さっきの流星はまるでモブだった。目の前の超人たちの戦いをただ見ているだけで、その結果が今の自分と神楽の間に横たわる2つの死体だ。

「見つけたら帰ってくるから、コイツら、寺ん中に寝かせといてナ。」
「ああ、わかったが……日の出近くになったら見つからなくても戻ってきてくれ。」

 現場保存、なんて野暮なことは言わない。神楽の表情には決意があった。その顔だけで流星は神楽に託すことを決めた。自分より強い少女に病院を探しに行ってもらうのが有効だとしてもふだんの彼ならば止めるだろうが、しかしそれを追認しなくてはならないと、神楽の精神的にも、止めても力ずくで行かれてしまう以上はこう言うしかないと判断した。

「それまでには見つけてるヨ。んじゃ。」
「待てよ、もう一つ。」
「ナンネ?」
「お前の名前は?」

 本当ならもっと情報交換するべきだ。少し時間を取るだけでも充分だから。
 しかし、今はいち早く別れるべきだ。目の前で人が死んだのに動揺するなとは言えない。ましてやこんな超人には錯乱してもらっては困る。なにより。

「……神楽ネ。万事屋の神楽って言えばアタシのことヨ。」
「神楽か、病院探しを頼んだ。どんな病院でも動物病院でもいい。お前が頼りだ。」

 神楽の顔に浮かぶ様々な感情を見て、いち早く立ち直ってもらいたいと思ったからだ。



「なんだぁっ!?」
「病院かと思ったら警察署だし中には小学生襲う変態がいるし、どうなってんだこの街ハ。おいオマエ、動けるか。」
「お前じゃねぇ、吉永双葉だ……っう……こんぐれえなんてことねえよ……」
「ウソつけ死にかけの鹿みたいになってるネ。ここはこの神楽様に任せて先に行け。」
「コノヤロウ、カッコいいセリフ言いやがって……気をつけろ、メチャクチャ強いぞ。」
「上等ヨ。」

 2人の死体から逃げるように駆け出して、さまよい見つけた赤色灯。たまたま聞きつけた銃声、誰かいるかもと見てみれば侍が窓を突き破って出てきた。そして中から聞こえたサブマシンガンの銃声。神楽は咄嗟にダッシュしていた。その勢いのままツッコミ、とりあえず悪そうな縁を飛び蹴りする。迷っている暇など無いと言わんばかりの行動の早さ。

「さっきみたいなのは……気にくわないネ。」
「……お前はさっきの……いや、別人、か?」

 体勢を立て直した縁と神楽の視線がぶつかる。縁の視界で神楽の顔が、警察署の外で見たかぐやと重なる。そしてまるで似ていないはずの、姉への顔へと。

「……だが、子供だ。子供なら、殺せる。」
「おいおい少年漫画のキャラが絶対言わなそうなこと言い出したヨ。それじゃあこっちも苦情が来るぐらいボコボコにしてやんヨ。」

 五エ門、双葉と撃退した縁は顔を歪めながら倭刀を構える。
 苦虫を噛み潰したような顔をしながら神楽は番傘を構える。
 警察署は更なる戦闘を迎える。



【0211 『南部』 繁華街・警察署】

【吉永双葉@吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 こんなことしでかした奴をぶっ飛ばす!
●小目標
 逃げて助けを読んでくる。

【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる。
●中目標
 緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す。
●小目標
 襲ってきた子供(神楽)を殺す。

【神楽@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 バトルロワイヤルとその主催者を潰す。
●中目標
 病院と首輪を外せる人間を探す。
●小目標
 変態(縁)をぶちのめす。


960 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/16(水) 04:04:44 ???0



「あなたが、岡田さんが言ってた……?」
「岡田……なるほど、あの人と会ったのか。安土流星だ。」
「……天野、陽菜です。こっちがフウカちゃん。」
「で、おれが日比野明だ。なあ、アンタひでえ顔だぜ。一体なにがあったんだ?」
「それを話すにはまずウソみたいなことについて説明する必要がある。少し長くなるぞ。」

 そして同じ頃、神楽と別れた流星は寺に現れた子供たちと情報交換を進めていた。
 しばらく迷ったあと、町での手がかりもないので岡田似蔵の言葉で寺へと向かった陽菜とフウカは、石段の途中で日比野と出会い、情報交換の後に境内へと踏み入った。
 石段に伸びる血や日比野からの話に警戒しながら進んだ先にいたのは、無表情な若い青年、流星。そして安置された2人の遺体と、気絶した少女天野ナツメ。

「──つまり、超人同士が戦い、逃げようとした襲撃犯があの2人を殺した。単純に言えばそういうことだ。」
「おいおい……お前ヘンな薬でもやってんのか?」
「お前も見たんだろう。あの黒い服の子供を。」
「そりゃそうだけどよ。でもそんなマンガみたいな奴もいるのか?」
「いっそ幻覚ならいいんだがな。とにかく気をつけろ。そこらじゅうに銃があるのは、そうでもなければ太刀打ちできない参加者がいるからだと思え。」
(うぅ……みんな言葉が通じてるのに……)

 にわかには信じがたい話に困惑を隠さない日比野。黙って考え込む陽菜。そして依然として話しについていけないフウカ。未だ目を覚まさないナツメを後ろにして流星は考える。今自分にできることは、少しでも明らかな脅威を共有することだと。
 超人と言えども民間人の神楽に病院を探しに行かせてしまった以上、警察官としてより責任を持って行動しなくてはならない。特に注意しなくてはならないのが、日本語が通じない参加者がいることだ。語学にもそれなりに心得がある気でいたが、フウカと意思疎通できないことは流星に己の不甲斐なさを更に実感させる。言葉が通じないということは情報を与えることも聞き出すこともできないということ。ここが殺し合いの場であるのなら、それによる不利益は震災などの被災者となった外国人と比べ物にならない。

(参加者が全員日本人なら、説得して殺し合いを止めさせることもできたが。言葉が通じない外国人もいるなら穏便に話し合うことすら困難だ。このデスゲームの主催者はそこまで考えて……?)

 法律などまるで通用しない状況だ。警察官にはこの上なくやりにくいことはない。
 頭の痛い問題は減りそうにないと流星は思った。



【0211 『南部』寺】


【安土流星@小説 魔女怪盗LIP☆S(1) 六代目夜の魔女!?@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める。
●中目標
 寺で神楽の帰りを待つ。
●小目標
 脅威についての情報をなるべく広く共有する。

【天野陽菜@天気の子@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いたくない。
●小目標
 ???

【日比野明@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 このクソッタレなゲームをブッ壊す。
●中目標
 仲間を探す。
●小目標
 超人ってなんだよ……

【フウカ@らくだい魔女と闇の魔女(らくだい魔女シリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 チトセやカリンやまきこまれてる子たちといっしょににげる。
●中目標
 ヒナ、ヒビノ、リューセイといっしょにいる。
●小目標
 どうしよう、言葉がつうじないよ……


961 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/16(水) 04:05:13 ???0
投下終了です。
タイトルは『無法地帯』になります。


962 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/23(水) 04:36:17 ???0
投下します。


963 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/23(水) 04:37:28 ???0



(……不幸中の幸いとは言えんが、拾っておいて良かったな。)

 定春と向かいあう銭形幸一は、懐のデザートイーグルを意識しつつ、油断無く銃口を定春へと向け続ける。
 初期位置の喫茶店のテラスに置いてあったものを押収したのだが、今はその『証拠品』を使うことも考えていた。

「グルル……」

 日本人としては体格に恵まれている方である銭形よりなお大きい定春は、今にも銭形へと飛びかかってきそうな剣幕だ。子犬のような外見とは不釣り合いな体躯とプレッシャーに、銭形は自分の背中を冷や汗が伝うのを感じる。
 熊を相手にしたときでもこれほどまでの危機感を感じない。自分が持つ拳銃のなんと頼りないことか。猟銃でもその突進は止められないのだ、人類が撃てる最上位のマグナムが無ければ太刀打ちもできまい。
 警察官として、そして銃を持つものとして拾った銃を使うなど考えられないのだが、今はそうも言っていられない。これならば事前に簡単にでも点検しておくんだったかと思いつつ、いつでも抜き打ちできるように意識する。
 猟犬などが典型だが、ある程度以上の動物は銃というものを理解する。それはこの怪物犬も同様のようだと銭形は安堵していた。この拮抗状態は定春が銃を理解していなければ成り立たない。

「グルル……」

 そう、定春は攻めあぐねていた。
 銭形の向ける銃口は常にピタリと定春の目へと向けられる。左右にステップを踏み、頭を上下に振っても振り切りれない。こうなると迂闊に踏み込めなくなる。さすがの定春も銀時や神楽のように放たれた弾丸をどうこうするのは難しい。ましてや相手は目に狙いを付けられ続ける相手だ。撃たれれば躱すのは無理だろうし、もし目を撃ち抜かれれば即死しかねない。
 定春は焦る。まずいことにサーヤが自分を呼ぶ声が聞こえてきた。聴覚に優れているため先に気がつけたが、直ぐに目の前のオッサンも気づくだろう。そうなれば巻き込むことになる。
 逃げるか、速攻か。吠えつつ常に動きつつ考える。さっきのようにひきつけてサーヤから遠ざけるのは悪くない。撒くにしても戦場を変えるにしても。あるいは負傷は覚悟の上で突っ込むか。おそらくは頭を撃たれるだろうが、あの拳銃くらいなら痛いけど死なない。何発か食らうだろうがタックルではね飛ばせば終わりだ。

「! この声は──」
「! グルァ──」

 方針を決めかねていた定春だが、一転して突っ込もうとした。
 銭形の耳がピクリと動き、片目だけ定春から別の方向へ向けた。それはまさに定春がサーヤの声を聞きつけた方向。驚くべきことに定春ですらかすかに聞こえる程遠くからのサーヤの声を、目の前のオッサンも聞こえたのだ、そう判断して予想よりも時間が無いと理解する。
 横に横にと飛んでいた足を前に向けて踏み出す。やるしかない。オッサンは新選組のバカ共のように並の相手ではなさそうだが、この隙とも言えない隙でなければチャンスがない。サーヤを守りながら戦えるような相手ではないのに、そのサーヤが近づいてきている。しかもその声に興味を持っているならばやることは一つ。
 それが定春の最期の思考だった。

「なにっ!」

 銭形は驚愕した。
 定春の突貫ではない。その定春の顔面から突如として血飛沫が上がったことだ。
 銭形が狙いを付けていた目を中心に血が吹き出る。それが何なのかを、聞こえてきた音で理解した。

「これはM2重機関銃かっ!」


964 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/23(水) 04:38:55 ???0

 銭形は大慌てで走り出した。その銃声には聞き覚えがある。いかにも機関銃だと言わんばかりの音は、重機関銃の代名詞M2によるものだろう。ハリウッド映画に出てくるデカいマシンガンと言えば日本人でも思い浮かべることができるアレだ。100年に渡ってアメリカ軍で使われ、そして全世界で見られるそれは軍・テロリスト・はてはマフィアまで使うものだ。コピー品含め世界中で作られているため、だいたい重機関銃が出てくればこれである。数が多いため相対的に入手も整備もしやすく安価とくれば、必然出くわすことも多い。というこれ以外の機関銃など次元大介のような一部のガンマンでなければ早々手に入らないし手に入れたところで運用もできない。

(助けられたのか、それとも、とにかく隠れねば!)

 公園という開けた場所は機関銃にとって格好のフィールドだ。一丁あるだけで生身の人間相手なら軍隊ですら相手どれる。そんなものまで配られているのかと考えながらなんとかコンクリート塀の物陰に隠れた。
 一応の安全地帯に逃げ込めたが、一息ついてはいられない。射線は通っていなくてもこの程度のコンクリートならば撃ち抜かれかねないし、破片でも充分に危険だ。小走りにはなったが移動は続ける。次いで考えるのは定春のことだ。公園に目を向けると、ピクリともせずに横たわっていた。即死だろう。ヒグマよりも怖いと感じたほどの猛獣だったが、目から血を流すのを見るに、12.7mm弾で眼球や脳を貫かれれば死は免れないということか。銭形の視線が定春から外れる。その後方に人影が見えた。子供だ。

「定春ー! どこー! 定、は、る……」
「いかん、近づいては!」

 その声には聞き覚えがあった。定春に襲われる直前に聞いた声だ。見たところまたも小学校高学年ほどだろうか。思わずさっきの子供たちの惨殺死体が頭によぎった。

「な、なにこれ、死……」
「離れろっ!」
「ひいっ!?」

 銭形の叫びに、サーヤは弾かれたように立ち止まる。笛のようなものを持った手で自分を抱くように見をすくめ、恐怖で開かれた目は銭形を凝視する。

「地面に伏せろ! その猛獣以外にも銃を持った人間がいる!」
「もしかして、あなたが……!」

 そしてその目が、怒りのものへと変わった。
 定春を見つける直前、銃声のようなものが聞こえたのはサーヤもわかっていた。かなり近いところから大きな音がして不安で足を早めた。
 そして見つけたのは、白い毛並みを赤く染めて全く動かず地面に横たわる定春。何があったかは察しがつく。銃を持った誰かが定春を殺したのだ。
 そして現れたのは、銃を持った中年男性。必然的にこう考える。「このオジサンが定春を撃ち殺したんじゃないか」と。

「来ないで!」

 笛を持つ手に力が込められる。微かに温かいそれは定春の体温だろう。元はといえば自分がこれを落としてしまったせいでこんなことになったのだと、他ならぬ自分に怒る。
 八つ当たりだとわかっている。この人が定春を殺してしまったのは、自分のように驚いたからだろうと。
 しかしそれでも、口から出た拒絶の言葉は周囲に響いた。

「あ、ごめんなさい……」

 なおも近づいてくる銭形に後ずさりながら謝る。
 思わず目を伏せてしまった、次の瞬間。

 ズガガ!


965 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/23(水) 04:41:40 ???0

「え。」
「のわっと!?」

 また銃声が聞こえた。
 今度は自分の足下──実際にはだいぶ離れていて銭形寄りの場所──のアスファルトが砕けるのが見えた。
 撃たれた、そう理解するのに時間はかからなかった。
 誰に、それを銭形からだと思い込むのにも。
 考えつかなかった。これまでほとんど誰とも会ってないのだから、自分たち以外に生きた参加者が近くにいるなどと。

(まさか、この人殺し合いに──)

 そして結びつけてしまう。
 銭形が定春を殺した。エロエース達の惨殺死体のように定春を殺した。なら、銭形があの子供たちも同じく殺したのではと。
 気がつけば、サーヤは走り出していた。

「待て! ぐおっ!?」

 再び銃声が聞こえる。待てと言われて待つやつはいない。ここに来るまでに既に走ってヘトヘトだが、それを無理して走る。

「ごめん………いっしょに……いれば……戦え……てれば」

 頭にあるのは、定春へ謝る言葉ばかりだった。



「……いちおう、殺さないでおくか。」
「待て! 危険だ!」

 ビルの屋上で、まだ小学生ほどの少年が、身の丈に合わない銃を構える。
 下から聞こえる銭形の声を吟味しながら、その足下に銃口を合わせ続けていた。

 雫沢黎夜がその声を聞きつけたのは必然だった。最愛の姉の声を聞き逃したりなどしない。サーヤの何かを呼ぶ声に耳を傾ければ、割と近くの公園で睨み合う銭形と定春を見つけられた。
 彼はスネリを銃撃後しばらく追撃をしていたが、撒かれてしまったために方針を変えることとした。手傷を与えたとはいえ逃してしまったのは痛いが、優先すべきはサーヤだ。切り替えると近くでも一番高いビルへと移動する。どうにも手がかりが少なすぎるので、せめて高所から探そうと思ったのだ。
 そこで気づいたが、どうやら大きな建物ほど強力な武器が落ちているらしい。室内はライフルはもちろん、屋上には重機関銃が置いてあった。さすがに持っていけないのでその前に座り。見つけたスナイパーライフルのスコープで街を探る。そしてサーヤの声を聞いて、さっきの銃撃というわけだ。
 定春を殺すことに抵抗は無かった。あのサイズの犬がいるわけがない。さっきのスネリの件もあるしあれも悪魔だろうと、銭形に襲いかかった瞬間に完全にクロだと判断して即刻射殺した。普通の子供ならば重機関銃など扱えないが、レイヤにその常識は通用しない。もちろん簡単なことではなかったが、100mもない距離なので連射によりヘッドショットを決められた。栄養状態の悪い少年兵でもその重さにより反動が比較的小さいため撃つことだけはできるという特性が、定春の命を奪ったのだ。

「気づかれた。」

 一瞬銭形と目が合い、レイヤはライフルをM2に撃ち込むと駆け出した。どう見ても持ち歩けるような武器ではないので、他の参加者に使われないために破壊してから逃げる。ライフルも捨てると、予め目をつけていた逃走経路である隣のビルの屋上へと、背面跳びで鉄柵を飛び越え移動した。半階ほど低いそこに空中で体勢を整えて受け身を取って転がる。背中から嫌な音がして息が止まるが、転がる勢いのまま立ち上がり駆け出した。鍵のかかったドアを近くに落ちていたショットガンでぶち抜き、また放り投げて駆け出す。銃ならそこら中にあるのだ、逃げるのに重荷にする必要は無い。


966 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/23(水) 04:42:44 ???0

(サーヤ。)

 とにかく今は、サーヤとの合流だ。
 まさか、とも、やっぱり、とも思った。悪魔の狙いはサーヤなのだ、自分が巻き込まれたのなら当然彼女も巻き込まれているという想定はできていた。だがそれでも、実際に自分の目で確かめてしまえば行動も変わってくる。
 だから、サーヤの拒絶の声に、サーヤと銭形との間に銃弾を撃ち込むことを選んだ。いつものレイヤならばもう少し冷静に成り行きを見守っただろう。だが殺し合いの場にサーヤがいることと、悪魔と睨み合う胆力のある銭形の姿に、彼が悪魔であるというリスクを無視できなかった。射殺しようとは思わないが、近づかせてはならないと。

(必ず守る。)

 サーヤを守る。レイヤにあるのはそれだけだった。



「ムムム……せめて盾がほしいが、やむをえん! 突入する!」

 一方、銭形は先ほどまでレイヤがいたビルへと踏み込んでいた。逃げてしまった少女も心配だが、重機関銃を持った人間を野放しにはできない。というかサーヤを追おうにも彼女との間に銃弾を撃ち込まれてしまったので追いようが無かった。少なくとも彼女は撃たれる心配が少なくなったことは発射地点からわかったので、先に銃撃犯を確保することにする。定春に当てられて自分を撃てなかったとは考えにくいので、さっきの射撃は牽制だとは思うが、それにしてもやり方があんまりだ。いずれ人を殺しかねない。
 それに、一瞬見えた銃撃犯の顔は、またも子供に見えた。さっきの惨殺死体の子供たちとそう変わらない年齢だろう。

(子供ばかりを集め、猛獣や警官もわずかに参加させる。ええい、これを仕出かした奴らは何を考えているのだ!)

 このままでは子供に人殺しをさせてしまう。既に化け犬を殺させてしまったが、次は人間にエスカレートしかねない。即刻止めなくては。
 それに気になるのはM2以外の銃声だ。種類はわからないが、2種類の音が聞こえた。場合によっては重機関銃を撃った子供以外に2人参加者がいて銃撃戦になった可能性もある。

「これ以上殺させんぞ……! インターポールの銭形警部の名に賭けて!」

 銭形は階段を駆け上がる。そこに誰も居ないと気づくのは、先の話。


 銭形警部は子供たちを殺し合いの毒牙から守るために奔走し。
 サーヤは自分が定春を死に追いやったと自己嫌悪し。
 レイヤは最愛の姉のために悪魔を撃つことを躊躇わない。
 そして定春は、走馬灯を見る間もなく、自分が死んだことにも気づかぬ間に息絶えた。


 誰も彼もバトル・ロワイアルをする気は無いのに。



【0058 商店街】

【銭形幸一@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いに巻き込まれた人間を脱出させる。
●中目標
 殺し合いに巻き込まれた人間を保護する。
●小目標
 重機関銃を撃った子供を保護する。

【立花紗綾@魔天使マテリアル(1) 目覚めの刻(魔天使マテリアルシリーズ)@ポプラカラフル文庫】
【目標】
●大目標
 脱出する。
●中目標
 巻き込まれてたら仲間と合流したい。
●小目標
 ???

【水沢黎夜@魔天使マテリアル(1) 目覚めの刻(魔天使マテリアルシリーズ)@ポプラカラフル文庫】
【目標】
●大目標
 サーヤを守り、脱出する。
●小目標
 サーヤと合流する。


【脱落】

【定春@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】


967 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/08/23(水) 04:43:40 ???0
投下終了です。
タイトルは『一瞬のすれ違い、永遠の回り道』になります。


968 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/01(日) 07:30:07 ???0
投下します。


969 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/01(日) 07:31:55 ???0



 銃弾と人外が飛び交うこのバトル・ロワイアルも2時間が経ち、既にいたるところで殺し合いが行われている。
 その殺伐さとこれまで無縁でいられたうちはサスケは、数百メートル離れた警察署を眺めながら思案していた。

(何も起きないと思ってたが、今度はいきなり起きすぎてるぜ。)

 冷や汗が頬をつたうのをそのままにして、サスケは気を張る。
 また一つ銃声がした。


 サスケのこれまでの経過は全て吉永双葉の尾行で言い表せるものだった。
 突然に拉致され、謎の生物に殺し合えと言われて、どことも知れぬ森の中に放り出される。まずは幻術を疑い、次に彼が所属する木の葉隠れのなんらかの抜き打ちテストを疑い、最終的に自分が謎の勢力に拉致されたと結論づけた。彼がいた木の葉隠れの里の警戒網を突破してそんな幻術をかけられるのならば、自分を拉致するのもさほど不可能ではない。あるいは考えにくいものの、自分が忍界でも名門中の名門であるうちは一族の末裔ためにどこかの里の陰謀を、そして復讐すると誓っている兄のイタチの関与を疑う。
 そこまで考察したところで見かけたのが双葉だった。右も左もわからぬ森では他にあてもなく、ただその場にとどまり続けるよりはマシだと彼女をつけ始めた。その途中で寺の鐘のような音や街を見かけても彼女を追いかけ続けてたのは、惰性によるところが大きいだろう。他に目当てになりそうなものがあっても乗り換えることに恐怖と忌避感があった。これが中忍試験を経たあとのサスケならば、もっと積極的に動いたであろう。しかし今のサスケは波の国での再不斬たちとの戦いから帰ってきて日の浅い頃、まだ命のやり取りをする経験値がかけていた。
 しかし、そのサスケが今は双葉の追跡をやめてビルの屋上の物陰から周囲を伺っている。原因は明白である。双葉が入っていた警察署から爆音が聞こえるのだ。
 銃というものが皆無と言っていい忍界では、爆発音とは起爆札の存在と同義である。チャクラが無くても使えるそれはどこの里であっても使われるありふれたものだ。当然サスケもその存在は知っているが、そんな彼の下へと聞こえてくるのは『奇妙』な音。銃によって違う銃声というのはサスケからすると不審な起爆札の音として聞こえる。そして必然考えるのは、爆音を立てて戦う忍の存在。わざわざ大きい音を立ててまでの死闘をしているのではと考える。単に銃を持った参加者がいるという以上の脅威をサスケは感じていた。

(写輪眼!)

 しばらく眺めていたサスケの目の色が文字通りに変わる。赤い瞳には黒い紋様が浮かぶ。うちは一族に伝わる血継限界、写輪眼は類稀な視力と洞察力でサスケは戦場を見渡した。
 続く爆音。即座に発生源と思わしき一画を見定める。するとそこから侍風の男が飛び出してきた。別のところではチャクラのような力を2ヶ所で感じる。そこでサスケの目の色が変わった。素早くビルの壁面を駆け下り、一気に走り出す。
 目指すのは双葉が入っていった一画や侍らしき男が飛び出してきたのとはまた別の方向。警察署から少し離れた位置の路上へとひた走る。
 息せき切って辿り着いたサスケの目の前には、2人の同年代の子供がいた。

「サスケェ!」
「チッ……お前も巻き込まれてたか。」
「だ、誰なん? 知り合い?」
「ああ、コイツがさっき言ってたサスケだってばよ!」
「忍が仲間の情報をペラペラ話すな。」

 呼びかけられた声にクールに返しながらも、内心では安堵していた。
 その金髪にオレンジのジャージは、まさしくサスケと同じく第七班の忍者、うずまきナルトであった。


970 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/01(日) 07:32:34 ???0

(狙われたのは、木の葉の忍か?)
「……面倒な話になったな。お前がここにいるってことは、サクラやカカシもいるかもしれない。」
「? どういうことだってばよ?」
「このデスゲームの主催者は、適当に参加者を選んだんじゃなく、オレたち第七班を狙っているかもしれないってことかだ。」
「マジかよ。それムチャクチャヤベえじゃねえか。」

 担当上忍であるはたけカカシはともかく、春野サクラは単独で戦うには不安がある。いくら一般人よりは強いと言っても、天才である自分や波の国での意外な活躍を見せたナルトと比べると、直接的な戦闘力では劣るというのがサスケの見立てだ。もっとも世渡りという意味では一番得意そうであるし、なにより意外性がありすぎて何をしでかすかわからないナルトよりも遥かに安心できはするのだが、自分の目の届かない所となるとやはり心配になる。

「それで、ソイツは?」

 一旦サクラから離れて棒立ちで戸惑っている少女に水を向ける。「実は……」と話しだしたナルトの話を聞いて、サクラの時とは比にならない頭の痛さをサスケは覚えた。
 一般人の子供同士で撃ち合ってしまい幼児が死に、保護してくれそうな侍と出会ったが警察署で戦闘になったので彼女を連れて逃げてきた。話をまとめると、先程警察署から飛び出してきたのは、その侍が敗走してきたからだろう。
 明らかにメンタルが通常ではないニ鳥に、危険人物と足止めで戦い逃げることになった五エ門なる侍、もとい五エ門をそこまで追い込んだ銀髪の男。サスケが森をさまよっている間に他の参加者は後戻りが難しくなるほどに殺し合っているらしい。ハッキリと主催者打倒を目指しているわけではないがこれには閉口した。

「……そういえば、その銃っていうのはそれか?」

 とりあえずナルト話の中で気になったものについて聞いてみてお茶を濁す。そんなことしてる場合ではないだろうとサスケ自身思うが、子供でも人を殺せる武器というのは知っておく必要があると納得して聞く。

「ああ、ここを引くと。」

 そして銃弾がサスケの脇を通り過ぎていった。

「危ねえなドアホ!!」
「ごめんってばよぉ!?」

 サスケは思った、やっぱりサクラよりコイツと先に合流できて良かったと。
 それはともかく、サスケは改めて銃を見る。なるほど先からやたら聞こえてくる爆音はこれかと理解した。小さな爆発を起こして礫を打ち出す武器だと、写輪眼で見切った。その上で思う。手裏剣で良くないか?と。
 手裏剣術を得意とするサスケから見ると、銃というものの不便さが見て取れた。かさばり、音が大きく、臭いもする上に、弾道は単純。速さはスゴいが、これで使い物になるのかと。
 それは比較的オーソドックスな忍者の視点だ。特に木の葉隠れのある火の国は森が多く、交戦距離も近い。そういえば波の国でガトーが似たような物を持っていた気もして、サスケから見るとますます忍向きではない武器に思えた。手裏剣を使う筋力が無くても打てそうだが、忍ならば近接戦闘ができる間合いでなければ当たりそうもなく思える。

(さっきコイツが打ち合いになったって言ってたが、コイツもその仲間も当たってないんじゃな。)

 真っ青になっているニ鳥を見ながらそう結論付ける。どうやら今のでトラウマをフラッシュバックさせたらしい。パニックを起こされても困るのでどう落ち着かせるかということに思考を切り替えたところで、「なあこれってよ」とナルトの声がした。
 このあとすぐにサスケはナルトの意外性に驚かされることになる。そしてそれは、警察署周辺の全ての参加者も同様だった。


971 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/01(日) 07:33:25 ???0



 一番早く気づいたのは、石川五エ門だった。
 ナルトが二鳥を連れて警察署から離脱したことと雪代縁を園崎魅音から引き離すために、戦闘を切り上げた警察署の外に出た彼は、縁の様子を伺うために未だ警察署の近くにいた。魅音からは敵視されてはいるが縁の毒牙にかけさせていいとは思わない。というわけで囮半分怪我半分で飛び出た窓からわざと見える位置で縁の追撃を待った。
 想定外だったのは、縁が魅音とも別方向の内部にいた誰かに襲いかかり戦闘になったことだ。それはサスケが見送った双葉と後からやってきた神楽だったのだが、そこまでは五エ門も見ることができず。もう一度内部に突入して助太刀をと考えたところで、視界の端にオレンジ色のものが複数見えた。

「なにっ。」

 思わず二度見しかけて目を見開く。そこにいたのは『ナルト達』だった。手に手にライフルを抱えたナルトが計16人駆け寄ってきていた。


 ──これさ、これさ、こんだけあるんなら打ちまくれば当たるんじゃね?
 ──打ってる間に手裏剣でもクナイでも投げられるだろ。
 ──だったら一度に何人も打てばいいだろ。
 ──オレたち2人しかいねえの忘れてんのかこのウスラトンカチ。
 ──だから、人数増やせばいいんだろ!

 ──影分身の術!


 それはナルトの四人一組だった。影分身16人で1個中隊を作り、警察署周辺、警察署1階正面、警察署1階裏口、警察署屋上に合わせて4隊を展開、64人からなる1個大隊が警察署へと殺到した。
 当のナルトは元の喫茶店までニ鳥を連れて戻り、1個中隊で卍の陣を組み、もう1個中隊を伝令兼増援に、自分を含む1個小隊でニ鳥を護衛する。総数100体のナルトが一度に警察署近辺へと現れたのだ。

「あ、いたぞ! 五エ門のオッチャン!」「大丈夫かー!?」「よし、伝令よろしく!」「オレじゃねえってばよ! コイツ、いやアイツか?」
「お主、いやお主たちは、ナルトか?」
「おうっ! 迎えに来たぜ。」「へへっ、チャクラすんげー使っちまったけど、これなら直ぐ見つかるからな。」「忍術使うチャクラはねーけど、銃なら撃てるからな。」「しょうがねえからオレが戻るってばよ。」

 五エ門に元の調子でナルト達は返事をする。その様子に毒気を抜かれるどころか神妙な面持ちを崩さない。
 五エ門はすぐに察した。銃を持った人間が突然多数現れる意味を。ナルトの分身術と銃がいくらでもある環境の組み合わせの脅威を。

(もし、ナルトのような忍でなくとも、次元のようなガンマンが分身したら……背筋が寒くなるな……)

 次元ほどのガンマンもそういなければ分身できる人間もそういないだろうが、つい想像してしまう。ろくに銃を撃ったことのないナルトでもどこに飛ばすかわからない銃弾と高い身体能力という厄介さがあるのだ。これが確かな技量と戦闘経験のある同じ数のガンマンなら、いかに五エ門といえど無傷で切り抜けられるかは難しい。斬鉄剣を持ってしてもその制空権はせいぜい自分の周囲3mほど。銃撃に手榴弾などの搦手を混ぜられれば十分に危うい。とはいえ、これだけの技に何ら代償がないとも思えない。

「いや、警察署に戻らねばならん。さっきの男が別の参加者を襲っている。」
「大丈夫だって、そっちにも分身送ってるからよ。」
「すさまじい……随分と多いな。」
「まあそのかしあんま長く出してらんないんだけどな。」「チャクラほとんど使っちまったから術使えねえし。」「でもコレがありゃ戦えるだろ。」「だからオレらも着いて行くってばよ。」

 時間制限に能力制限と、本来ならデメリットも多いのだろう。しかしそれを打ち消すほどに火力と手数がある。それを産んでいるのは、会場にばら撒かれた銃。主催者はここまで考えてナルトを参加者にしたのかと考えつつ警察署に向かってすぐに、激しい銃声と爆音が聞こえてきた。と同時にナルトの叫ぶ声。警戒を強めた次元の目が窓越しにナルトの姿を見つけ、直後にそれが煙に変わった。

「なんだ?」「おい今やられなかったか?」
「来るぞ、気をつけろっ。」

 五エ門の言葉通りに、窓から人が飛び出してくる。銀髪に片手に持った番傘。
 雪代縁はナルト16人を瞬殺し五エ門の前へと現れた。


972 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/01(日) 07:34:19 ???0



 警察署周辺のナルトたちが五エ門と合流した頃、警察署1階裏口から突入したナルトたちは、ほぼ同時に2グループの参加者と遭遇していた。
 1つは山田奈緒子、天地神明の部屋に隠れていたグループ。もう1つは吉永双葉と神楽、そして彼女たちを殺さんとする雪代縁のグループである。
 神楽が足止めする縁から這うように逃げる双葉、彼女がドタバタとした気配に気づき顔を上げ、「なにっ」と同じ顔が4人いることに驚いた次の瞬間、「なんだぁっ」と更に驚愕の声を上げざるを得なかった。
 「おい! 大丈夫──」そうセリフを言い終わるより早く、縁の銃弾がナルト×4を射殺した。ナルトの登場で縁も神楽も一瞬意識をそちらに向けたが、敵か味方か判断する神楽に対して縁は自分以外全て敵である。狭い廊下という戦場もあり、適当に掃射するだけで瞬く間に駆逐する。

「な、なんだったんだアイツ……」
「……なんなのねアイツ?」
(何なのだあれは。)

 各員が困惑しながらも戦闘は継続する。縁は二度三度の打ち合いで神楽の筋力を察したため倭刀術から銃撃を主体に変え、一方の神楽は後ろの双葉に弾が行かないようにいつでも傘を広げられるようにして戦う。戦況としてはほぼ互角。連戦でわずかに息の上がる縁と、そこそこの距離を徒歩で移動した直後の神楽、自分以外全て敵の縁と、守るべきものを背後に抱えての神楽。一進一退の攻防が続く。その均衡を破ったのは、またもナルトだった。

「行くってばよ!」「ギャフンと言わせてやるってばよ!」「おっしゃぁっ!」

 気合いの雄叫びを上げながらまたナルトが現れる。しかし前の二度と違って、縁の背後からだ。

「ホントにナルトじゃねぇカ!?」

 今度は神楽の判断が早かった。神楽はジャンプを読んでいるのでナルトを知っているが、縁にとっては妙なトリックを使う西洋人にしか見えない。その差で神楽の突然のグラップリングに対応できなかった。それまで振るってきた傘を手放し両手で掴みに行く。意表を突くその動きにこちらも武器を捨てなんとか捌く縁だが、それは背後に大きな隙を生む。

「サンキュー!」
「ぐあっ……!」

 ギリギリでクナイは躱すが、蹴りがパンチが、縁に突き刺さる。一撃入れたら消えていったが、今度は体が振るわれる。手を掴んでのジャイアントスイングの体勢に入られた。

「ふんぬらばあっ!」

 グルグルと回していた縁の身体が、それまでの横から縦へと振られ地面に叩きつけられる。これで決める。そう思って振るった神楽だったが。
 ドン! 人間が床に叩きつけられて出た音とは思えない音が響く、が、神楽の顔に焦りが生まれた。
 叩きつける瞬間に離した手を、縁は即座に受け身へと使った。同時に体勢を入れ替えて脚から落ちる。そして震脚の要領で衝撃を受け止め、流し、拳へと勢いを乗せる。無手での虎伏絶刀勢!

「オオォォォッ!」
「おおおおっ!?」

 裂帛の気合いと共に放たれるそれが顎へと突き刺さる寸前で、神楽は両手を重ねて滑り込ませた。ギリギリで間に合ったガードごと殴られ頭が揺れる。しかし、脳震盪をなんとか免れる。かすむ視界で、ナルトが双葉をおぶっているのが見えた。

「やっべ! しっかりつかまれ!」
「逃さ、ムッ?」
「とっとと行くネ!」


973 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/01(日) 07:35:32 ???0

 先程殺し損ねた少女がまたも現れたナルトにおぶわれ逃される。さっきの3人はこのための陽動かと判断するも武器は無く、駆け出そうとしたところに神楽がまとわりつく。舌打ちをすると、手近にあった消火器を投擲した。それが何なのかも重いということもわからなかったのでこれを神楽に使っても殺しきれないと思ったが、ナルトが脆いことは既に把握済みだ。

「おい後ろ後ろ!」
「え、なにぃっ!?」

 まるで砲丸でも投げたような勢いで消火器が飛ぶ。双葉の声で気づいたナルトは、目を白黒させながらも咄嗟に自分の体を盾にした。ボフンという気の抜けた音と一緒にナルトは消え、悲鳴を上げた双葉が投げ出される。これで奴は逃げられない。先に神楽を殺してから次はと算段を立てる縁の耳に、またナルトの声が聞こえてきた。

「悪ぃ、コイツ頼んだ!」
(何人いるんだ?)

 痛みにうずくまる双葉が2人のナルトによって廊下の角へと引きずられていき、その横を2人のナルトが駆けてくる。これで警察署1階裏口の16人のナルトは全てだが、縁からすると無限湧きしてくるようにも思える。

(まずはコイツだ。)

 となると優先順位は完全に神楽が上に来た。羽交い締めされかけたのを倒れ込むことで振りほどき、ナルトへと駆け出す。双葉を引きずっていた2人も加わり4人になったナルトを狙う、というわけではない。欲しいのは、床に転がる神楽の傘。そしてこの位置取り。
 手に取り引鉄を神楽に引いた。その威力を知る神楽は咄嗟に飛び退きながら両手を顔の前でクロスさせる。ガードした腕に、そして肩にと弾丸が突き刺さった。

「テメェ!」

 後ろからナルトがアサルトライフルを乱射する。予想通りの行動に、縁は顔色を変えることなく体を反転させつつ横へとズレた。そして傘を広げる。これに防弾性があるのは既に把握している。ナルトの乱射した弾丸はその大多数が当たらず、残りも傘で防がれ、そして大多数の弾丸は。

「バッカ野郎ォォォォォォォォォ!!!」
「わっ、悪ぃ!」「撃つな撃つな撃つな!」

 大多数の弾丸の何割かは後方の神楽へと向かった。バックステップを続けてギリギリのところで横っ飛び、廊下の角へと飛び込む。その短い間に縁は傘から銃撃を加える、1人また1人と倒されついに16人が全滅した。
 だがナルトたちを倒しても縁の動きは止まらない。すぐさまに後ろに向き直り、神楽へと追撃を行おうとする。その視界が赤く塗り潰される寸前、縁は傘を振るった。反射的行動、傘が何かにぶつかる、その正体は、消火器。直後、雄叫びを上げながら迫る神楽が傘ごと窓の外へと縁を蹴り飛ばした。
 意趣返し言わんばかりの一撃は、偶然にも五エ門が突き破った窓から縁を放り出す。それでも猫のように空中で体勢を立て直すが、目にした光景にそれまでの無表情が崩れた。
 先程辛勝した五エ門、そしてさっきさんざん殺したはずのナルトが待ち構えていた。

「こいつさっきの奴だってばよ!」「みんなやられたのか?」
「チィッ……!」

 混乱する声を上げるナルトをよそに突っ込んでくる五エ門に銃撃で足止めしながら警察署内へと退避しようとする。このままでは五エ門に勝ててもハチの巣にされてしまう。狭い廊下と違って屋外では傘のガードなど信用できない。しかし、ああ逃れられない、後ろから叩きつけられた気配に慌てて身を投げ出す。真上を赤いチャイナ服が通り過ぎていった。

「傘パクってんじゃねえぞ銀髪ブタ野郎。今謝るなら半殺しで済ませてやるネ。」
「助太刀しよう。拙者も奴には借りがある。」
「……邪魔ダ。」

 五エ門と神楽、2人の猛者を前に縁の頬を汗が伝う。しかしそれでも微塵も闘争心が陰ることなく、戦いは新たな局面を迎えた。


974 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/01(日) 07:36:48 ???0



 同時刻、警察署1階正面側。
 裏手での戦闘に1個小隊が向けられてもなお10人を超すナルト達はライフルを持って探索している。
 同じ姿同じ顔の人間が銃を持って練り歩くという光景は、見る者によっては大きな恐怖を感じるだろう。
 ましてそれが、つい先程撃ち殺したのと同じ相手ならば。

(なんで? なんで何人もいるの?)
(わ、訳がわからねえ……幻覚でも見てるのか?)

 たまたまほとんど空のロッカーを見つけて、園崎魅音と前原圭一はそこに隠れ潜んでいた。
 五エ門の一件で縁の存在に気づいた2人はすぐさま後退し、その後双葉たちと戦いだしたことで山田の回収に向かったのだが、その間にナルト達の突入を受けてしまった。最初は迎撃も考えたが自分たちが殺したはずの顔が何人も現れたことで一転逃げることになり、しかしそれもできずにロッカーに滑り込むのがやっとであった。
 狭い空間にぎゅうぎゅう詰めになりながら、魅音と圭一は隙間から外を伺う。何度見直しても死んだはずの人間が10人以上に増えて銃まで持っているのだ。募るのは恐怖と困惑である。
 互いの吐息が首筋にかかり、痒みを引き起こしても身動ぎできずに息を潜め続ける。2人とも何らかのトリックなのだろうとは思っている。思わなければやっていられない。これまでの殺し合いであれだけの人数と出会うことすら今までなかったのに、突然二桁の参加者が死人の顔をして現れたのだ。魅音は圭一の、圭一は魅音の心臓の早さで負の感情が煽られていく。
 汗でじっとりと濡れた互いの肌が張り付く。無意識の内に互いを抱きしめるように回した腕には、冷たい銃が握られている。またこれを使うべきだろうか? そう考えだした魅音の前でナルト達に動きがあった。1か所に集まって何か話し出す。よく聞き取れないがいくつかの単語はなんとなくわかった。「撃たれた」、「銀髪」、「山田」と。

「山田さん、もしかして……」

 小声で呟く圭一に咄嗟に注意しようとして、しかし魅音は無言で圭一と目を合わせた。魅音も同じことを考えてしまう。さっきからの銃撃戦と動けない山田、そして今のナルト達の言葉。「山田奈緒子は殺されたのではないか」と。
 荒唐無稽な考え、とは思えない。既に2人の目の前でつい先程銃や爆弾を使った殺し合いがあったばかり。山田も巻き込まれたかもしれない、2人が名を知らぬ侍の五エ門に見つかって斬られたかもしれない、名前どころか姿すらろくに見えなかった縁が投げた手榴弾が当たったかもしれない、なによりナルト達に撃ち殺されたかもしれない、次々に嫌な想像が頭を巡る。

「落ち着いて、今出て行ったらヤられる。」
「わかってるぜ、でもよ。」

 小さく言葉を交わす2人の耳にどかどかと足音が聞こえてきた。何があったのかはわからないが、10人ほどのナルト達が揃って駆け出す。実はこの時、縁との戦いの情報が入ったことでのナルト間での話し合いの末に、3個小隊が裏手への増援として向かった。残された4人は1人が本体へと伝令に向かい、残る3人で捜索を再開する。しかしナルト達が部屋から出て行っても魅音達は動けなかった。裏手へ向かったということは山田のいる方へ向かったということ。魅音達としては助かったがむしろ迎えに行くのは難しくなったとも言える。そして直ぐに銃声が聞こえ始めた。

「ダメだ、助けにはいけない。逃げよう圭ちゃん。」
「でも、それじゃあ山田さんが……」
「無理だよ。アイツら、みんな同じ顔に見えるんだ。何か毒を食らったみたい。」
「でも逃げるったって、どこに。」
「大丈夫、着いてきて。」

 魅音はしっかりと圭一の目を見ながら言った。暗いロッカーの中でも圭一の顔がナルトでないことを確かめるように。


975 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/01(日) 07:37:28 ???0



(忍者にヤクザ、何でもありだな……)

 苦笑いするしかない。双葉をナルトから預けられた天地神明はとりあえずお姫様だっこしながら山田の車椅子を押していた。
 縁の戦闘音は同じ階にいた2人にも当然聞こえていて。身動きがまともにできない山田がいる以上、その後のナルト達との遭遇も不可避のものだった。
 事情が変わったのは、遭遇した裏口から突入したナルト達が神楽の援護に回ったことだ。1人のナルトと自己紹介しているうちにどんどんやられていき、最後には負傷した双葉を押し付けられることになった。
 一体誰がこんな展開を予想できただろう。分身する金髪少年忍者にチャイナ服の片言少女、おまけに銀髪のヤクザときた。どう考えても少年漫画にでてきそうなメンツであって少女漫画にはでてこないタイプだ。自分が少女漫画のイケメンのようなキャラだと自覚のある天地からすると、ノリが違いすぎてお近づきにはなりたくない。彼らの中では強みが生かせないのだ。

(ただ、アイツらでも銃で殺せそうなのは幸いだな。不死身の化け物でないならやり方はある。話し合いにさえ持ち込めるのなら丸め込める。)

 しかしながら、状況の悪さは否めない。迂闊に逃げても流れ弾で死にかねないし、怪我人2人を置いていくのは悪評のリスクもある。それを避けるために口封じしようとすれば更にリスクを負うことになるし、現状としてはあの銀髪ヤクザに死んでもらうしかない。できれば共倒れしてもらいたいが流石にそれは望み薄だろう。
 結局のところ、天地は少年漫画と上手く付き合うしかないという結論に達した。あのレベルのチートがありなら、他の参加者にも同レベルの化け物が入る可能性を無視できない。現に警察署に入る前には翼の生えたイケメンが空から降りてくるのも目撃している。だったらまだ話が通じそうな化け物を丸め込む方向で動こう。

(車椅子の美女に気絶した少女、カードとしては悪くない。これを足手まといだと言うような合理的な人間なら、自然と他の参加者から孤立していく。組むなら頭の少し悪いお人好しだな。)
「天地さん、あれ。」
「あれは、またナルトくんたちですね。」
「やばっ、同じ顔が3人に見える。」
「大丈夫です、僕も同じですから。」


976 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/01(日) 07:49:47 ???0



【0217 『南部』 繁華街・警察署】


【うちはサスケ@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いから脱出する。
●小目標
 ナルトと共に春野サクラを捜索する。

【うずまきナルト@NARUTO-ナルト-白の童子、血風の鬼人(NARUTOシリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いとかよくわかんねーけどとにかくあのウサギぶっ飛ばせばいいんだろ?
●中目標
 サクラを探す。
●小目標
 ニ鳥を守る。

【宮美二鳥@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 あの男子(圭一)を殺す。
●小目標
 忍者? 分身? なんやこの……なんや?

【石川五エ門@ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE(名探偵コナンシリーズ)@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いからの脱出。
●中目標
 二鳥やナルトなどの巻き込まれた子供は守る。
●小目標
 縁を斬る。

【雪代縁@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 人誅をなし緋村剣心を絶望させ生地獄を味合わせる。
●中目標
 緋村剣心と首輪を解除できる人間を探す。
●小目標
 侍(五エ門)と襲ってきた子供(神楽)を殺す。

【吉永双葉@吉永さん家のガーゴイル@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 こんなことしでかした奴をぶっ飛ばす!
●小目標
 ???

【神楽@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 バトルロワイヤルとその主催者を潰す。
●中目標
 病院と首輪を外せる人間を探す。
●小目標
 変態(縁)をぶちのめす。

【園崎魅音@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第二話 綿流し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族や部活メンバーが巻き込まれていたら合流する。
●小目標
 警察署から脱出する。

【前原圭一@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 山田さんを助けたい。
●小目標
 魅音に着いていく。

【天地神明@トモダチデスゲーム(トモダチデスゲームシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 信頼されるように努めて、超人的な参加者から身を守れる立ち回りをする。
●小目標
 チート参加者を丸め込んでグループを立ち上げる。まずはナルトだ。

【山田奈緒子@劇場版トリック 霊能力者バトルロイヤル 角川つばさ文庫版@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●小目標
 このトリックは…?


977 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/01(日) 07:53:48 ???0
投下終了です。
ついでに3月から5月分の月報も作っておきました。
どなたかパロロワwikiの更新できる方いらっしゃいましたらお願いします。

各ロワ月報2023/3/16-2023/5/15

ロワ 話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
界聖杯  149話(+9)  28/46(-5)  60.9(-10.8)
オリロワZ 80話(+7) 32/50(-3) 64/100(-6)※OP2話含む
児童文庫 119話(+5)  176/230(-3)2L目名簿より 85.2(-0.1)※総参加者数365
媒体別 94話(+5) 135/150(-0) 90.0(-0)※OP含む
虚獄 125話(+4) 33/75(-1) 44(-1.3)
チェンジ 126話(+3)  31/60(-1)  51.7(-2)
表裏 104話(+3) 9/52(-1) 17.3 (-2.3)
烈戦 39話(+2) 59/61(-0) 96.8(-0)
決闘 43話(+1) 95/112(-0) 84.8(-0)
令和ジャンプ 56話(+1) 47/61(-0)  86.4(-0)
ゲーキャラ 117話(+1)  41/70(-0) 58.5(-0)
コンペ 91話(+1)  88/112(-0) 78.5(-0)
オリロワVRC 27話(+0) 37/40(-0) /92.5(-0)※OP含む
FFDQ3 786話(+0) 18/139(-0) 12.9(-0)
お気ロワ 18話(+0) 48/50(-0) 96(-0)

異世界オリロワ 3話(+3) 36/36(-0) 100(-0)
シンチェ 59話(+59) ?/? 100.0(-0)※登場話候補作58作品含む


・パロロワwikiで本期間分の月報が更新されてなかったので勝手に月報作っちゃいました。たぶん抜けは多々あります。
・ロワ系のスレ並びにハーメルン・pixivで行われている企画を集計しました。
・修正前・修正後・破棄全て1話としてカウント、分割話は投下開始時点でまとめて1話としてカウントしました。
・FFDQ3ロワさん・表裏ロワさん月報協力ありがとうございます。


978 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/08(日) 08:55:06 ???0
投下します。


979 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/08(日) 08:56:45 ???0



 その名の通りの大太刀が、乱暴に右腕一本で振るわれる。
 それをダッキングのように身を沈ませて躱す。
 返す刀に振るわれるのはカウンターの右手。
 強かに打ち据えたボディーブローは、しかし一瞬怯ませただけに留まり、また同じように大太刀が振るわれた。

 相楽左之助と大太刀の戦いは既に30分以上に達していた。
 人間離れした体躯を持つ大太刀は、その身に宿る筋力以上の力を持って刀を振るう。それをこれも人間離れした筋力を持つ左之助は余裕を持って躱せるようになっている。
 元来左之助は戦うに当たって相手の情報を調べ上げておく質だ。それを抜きにしても、長く戦えば自然と相手の癖を見抜くことはできる。ましてや大太刀は精緻な技巧ではなく人外の速度と威力を押し出す剣技、見切ることは容易い。
 が、しかし。

(チッ! 速え上に……)

 左之助の拳が再び大太刀の腹に当たる。常人ならば腸をぶちまけかねないその拳は、しかし強靭な腹筋に阻まれわずかにめり込むだけだった。

(メチャクチャ硬え! 熊でも殴ってる気分だぜ。)

 恐るべきは大太刀の肉体。人間では到達不可能な体格は頑強な骨格によるもので、それを分厚い肉が覆っている。通常の生物とは異なるとはいえ、打撃で有効打を与えることは極めて困難だ。
 あるいは、左之助が原作からの出典ならば話は違ったであろう。常人離れした数々の猛者と戦った彼ならば、二重の極みを身に着けた彼であれば。
 志々雄真実との戦いを通して本来であれば身につけていたであろう二重の極みは、しかし彼は体得していない。安慈との一戦で彼の動きからその絶技の一端を垣間見ているが、まだ十全に使えるわけではなく、最初の一発だけのまぐれでしか使えていない。

(なんとなく掴めてきてはいる。あの時の感覚を思い出せ。)

 不幸中の幸いか、大太刀のタフさのおかげで練習の機会を得られている。戦いを通じて一つ一つものになっていくのがわかる。だがしかし、大太刀はただの案山子ではない。左之助と言えども即死しかねない斬撃を疲れ知らずに放ち簡単には寄せ付けない。風を切って放たれる連続斬撃の一太刀を躱しきれず、左之助の胸を皮一枚切り裂いた。

「おっと! ヤキが回ったな。こりゃそろそろ仕留めねえとな。」

 さすがの左之助も息が上がっている。太刀筋を見切れているので躱すのは難しくなかったが疲れが足にもきはじめていた。本人も信じ難いことに体力勝負では分が悪いらしい。
 しかしタフという言葉は左之助の為にある。大太刀が人外の体力ならば左之助も超人の体力。無自覚に遅くなっていた足が何段階も加速した。

(聞きてえ事もあったし手加減してたが、全力で行っても死ななそうだな。なら…。)
「本気で殺すぜ!」
「!?」

 低空タックルのように大太刀を躱す。普通ならリーチの都合足を取るまではできない。だが左之助は違う。無茶な体勢から加速すると、一転身体を飛び上がらせた。

「■■■■■■!!」
(かかったな!)

 声にならぬ声を発する大太刀の振り戻しに、左之助は殴られながらほくそ笑んだ。回転を乗せた裏拳に身体が吹き飛ぶ。が、空中で体勢を整えて脚で踏み止まる。そこはちょうど、大太刀の真後ろ。

「歯ぁ食いしばれよ。」

 がっしりと左之助が大太刀の腰をホールドする。体格差から普通に立ったままでも腰に手が回る。太い胴は掴みきれないが、装飾なのか身体に巻きついている骨やらなんやらで掴むところはある。
 そして大太刀の巨体が宙を待った。

「おぉおりゃああぁぁっっ!!」
「オオオオオオオオオオオ!!」

 左之助は後方へと跳んだ。身体が弓なりになり、大太刀の頭部が真後ろに地面へと突っ込む。柔術の裏投げに着想を得たそれは後世の人間ならこう言うだろう。『幕末バックドロップ』と。
 雄叫びを上げながら、大太刀は首から地面に落ちる。強い衝撃で首輪が作動する。毒が効くかわからないので大太刀用に用意された爆薬が起爆する。

「オオアアッ!?」
「ぐああぁっ!?」

 大太刀の首が吹き飛ぶと同時に、左之助も爆風で吹き飛ばされた。

 30分一本勝負デスマッチ
 勝者 相楽左之助(幕末バックドロップ)


980 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/08(日) 08:57:52 ???0



「てことがあったんだよ。」
(どういうことだよ。)

 竜宮レナはアスファルトの上で伸びていた左之助の話を聞きながら、「また薬中が出てきた」と思っていた。
 緋村剣心と近藤勲と共に鱗滝左近次を見つけて、彼女が選んだのは鱗滝と剣心に着いていくことだった。理由は近藤から離れたかったからだ。
 ぶっちゃけた話、彼女は一人になりたかった。いい加減部活の仲間を探したい。しかし3人ともそういうところはちゃんとした大人っぽそうなので単独行動させてくれなさそうなのはなんとなくわかっていた。レナは鱗滝含めてみんなシャブやってると思っているのだが、話を聞くと3人とも口ではマトモそうな方針を、というか殺し合いなんてする気はないし参加者は保護したいという当たり前の話をしていたのだ。鱗滝に至っては、あのカエルのような化け物に襲われている少年を助けて、しかも手当のために病院まで探しているらしい。やっていることはものすごく真っ当だろう。
 その姿が天狗の面を被って血の付いた刀を持ち歩く姿でなければ。

(あのカエルが化け物なのかもしれないけど、それを刀で切り殺すなんて、こいつ強さもまともじゃない。)

 重ねて言うが、レナは参加者全員に覚せい剤を使用されていると思っている。でなければ赤い霧や赤い空の理由がつかないからだ。それにカブトムシを取るためにふんどし1丁で全身にハチミツを塗りたくった警察官だったり、ござる口調の自称明治の流浪人だったり、天狗の面に法被の大正剣士だったりなど、変な薬でもやってなければ頭のおかしいおじさん達でしかない。それはレナにとって無意識だが避けたい事態だ。参加者の共通点が精神を病んでいるということは、自分も「そちら側」であるためだ。

(違う、そうじゃない、コイツらはクスリやってるだけだ。この首のかゆさも、首輪からクスリが入ってきてるからだ。)

 レナは首の痒さを感じながら思う。自分の頭がおかしいと自覚すること、そして周囲からそう思われることは、時にとてつもない恐怖になる。レナはその辛さを知っている。そして親しかった友人を自分から離れていってしまうことや傷つけてしまうことは、更に恐ろしいものだ。だから自分がそうだとは認めたくない。殺し合いの場でそんなことになってるなど考えたくもない。たとえ殺し合いが狂気による妄想だとしても、それを受け入れることは、殺し合いが何か超常的な存在によって現実に起こされたものであることよりも、受け入れ難いのだ。

「しかし妙だな。死体がないとは。まさか生きていれば手負いでも気絶した相手にとどめを刺しそうなものでござるが。」
「ああ、それも気になってんだが、あの爆発なら生きていられるわけねえと思うぜ。てかよ、首が吹っ飛ぶところ見た気がすんだよなぁ。落ちる直前だったけど見間違えってわけじゃねえはずなんだが。」
「おそらく、あやつも鬼だったのだろう。この際だ、話しておかねばなるまい……」

 レナは剣心達の会話を聞きながら首をかく。首輪で上手くかけずに苛立ちを募らせながら、どうこの3人を撒くかを考えていた。
 参加者全員に麻薬が使われているという前提から、当然に左之助もキメてると思っている。謎の巨人と戦ったとかその巨人と鱗滝も戦ったとか、もう精神病院で聞いたような会話ばかりでついていけない。しかも人を喰う鬼がどうたらとか言い出した。幻覚や妄想をオヤシロ様に結び付けないでほしい。

(間違えた、かな?)

 近藤から離れるために鱗滝に病院を見かけたかもしれないなどと言ってしまったのだが、そのことを後悔し始める。発言自体は正直に言ったものだが、混濁した記憶からのものなので自分でももちろん自信はない。なんかブザーが鳴ってる病院の近くに行ったような行ってないような気がしないでもない。そしてそのブザーの音を頼りに走ったら、道の真ん中で気絶した左之助。何がなんだかよくわからない。

「ところで左之、この辺りで病院を見かけなかったか?」
「病院? いやわかんねえな。どうした?」
「怪我人の治療をせなばならぬでござるよ。レナ殿が見かけたらしいのだが。」
「……うん? お前さんどっかで……まあいいや、探してんだろ? 俺も手当てしてえしな。じゃあ嬢ちゃん、よろしくな。」
(離れたいのに……!)

 馴れ馴れしく話しかけてくる左之助に愛想笑いしながら内心でレナは更に苛立つ。
 こんな連中には間違っても部活のことは話せない。どんなことをしでかすかわかったものではない。
 ジワリとまた首が痒くなった気がした。


981 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/08(日) 09:00:07 ???0



「みんな今頃どうしてるのかなぁ。向こう楽しそうだなぁ。」

 同じ頃、1人近藤は日向冬樹の元へ向かっていた。
 治療を待つ彼と一緒いるのは有星アキノリただ1人。常人よりは戦えるとはいえ怪我人を抱えて危険人物に襲われればひとたまりもない。というわけで近藤が護衛を買って出されていた。
 これまでの捜索で土地勘が付いてきた鱗滝と病院を見かけたレナは病院探しに行くしかない。人では多い方がいいので剣心も捜索チームだ。というわけで余っている近藤が護衛に向かうこととなる。もちろんぶっちゃけ剣心と役割は逆でもいい。だが剣心は近藤に護衛を頼んだ。レナがバリバリに拒絶していたからだ。

「ダメかよぉ、ふんどし1丁で全身にハチミツ塗ってカブトムシ採ったらダメかよぉ!」

 ダメでござろうよとは剣心の心の声だ。まぁあの第一印象ならばああいう態度にもなろうとわかる。実際は近藤がヤクをやっているとまで思われているのだが。剣心も明智光秀に襲われている状況でなければ近藤にツッコミの一つも入れていた。それすらもできない状況だったし、自分に付いてくる身体さばきから幕末を生き抜いた猛者だと見抜いてスルーしたのであって、出会い方によってはなんなら逆刃刀でちょっと飛天御剣ってたかもしれない。

「にしても剣さん、コスプレのクオリティ高えなあ。本当に抜刀斎みたいだもん。やっぱ実写化するならイケメン俳優とか歌舞伎役者とかにやってもらいたいよな。」

 一方の近藤も実は剣心にツッコミを入れるのをスルーしていた。最初はるろうに剣心のコスプレをした男が明智光秀のコスプレをした男と戦っていると思ったのだが、どうやら光秀コスプレおじさんのほうが重症っぽそうだったので佐藤健っぽい剣心は流していた。しかもその後に天人か宇宙生物のような謎の死体(ポケモン)に可憐な女学生だ。廃刀令無視のコスプレイヤーなどどうでも良くなってくる。

「今は急ぐしかないか。もしかしたらトシ達も巻き込まれてるかもしれないしな。」

 自分の勘違いに気づくことなく近藤は冬樹の元へと急ぐ。彼が真実に気づく時は、果たして来るのか?



【0147 市街地】


【相楽左之助@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 殺し合いをぶっ壊す。
●中目標
 仲間を探す。
●小目標
 病院を探す。

【竜宮レナ@双葉社ジュニア文庫 ひぐらしのなく頃に 第一話 鬼隠し編 上(ひぐらしのなく頃にシリーズ)@双葉社ジュニア文庫】
●大目標
 覚せい剤の幻覚をどうにかしたい。
●中目標
 単独行動して部活の仲間を探したい。
●小目標
 また変態だ……

【緋村剣心@るろうに剣心 最終章 The Final映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
●大目標
 一つでも多くの命を救う。
●中目標
 レナを保護する。
●小目標
 病院を探す。

【鱗滝左近次@鬼滅の刃〜炭治郎と禰豆子、運命の始まり編〜(鬼滅の刃シリーズ)@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める。
●中目標
 冬樹の治療を行う、戦力を集め、病院を探す。
●小目標
 大太刀を倒したか……しかし死体がないとは、鬼だったのか?

【近藤勲@銀魂 映画ノベライズ みらい文庫版(銀魂シリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
 殺し合いに乗った連中を取り締まる。
●中目標
 冬樹の元へと向かう。
●小目標
 レナさん変態を見る目でオレを見てなかったか?


【脱落】

【大太刀@映画刀剣乱舞@小学館ジュニア文庫】
※死体は消滅しました。


982 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/08(日) 09:00:34 ???0
投下終了です。
タイトルは『脅威は目の前に』になります。


983 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/18(水) 07:51:18 ???0
投下します。


984 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/18(水) 07:51:52 ???0



「どこからだっ、どこから撃たれてるっ?」
「銃声は一つだ、撃ってるのは一人だ。」
「だからどこから撃ってんだよ!」
「知らねえよ頭下げろっ!」

 新庄ツバサに怒鳴り返したところに至近弾を浴びて宇野秀明は慌てて頭を引っ込める。徐々に手榴弾の衝撃から立ち直ってきた頭は、冷静に周囲を見えるようになりつつあった。
 しかしそれでわかったことは自分たちが追い詰められたということ。

(どこから撃ってるって全然わかんねえぜ。映画とかじゃすぐに撃ち返せてるけど、あれウソだろ!)

 なんとか柱の近くに伏せてなるべく体を平たくすると改めて周囲を見直した。
 状況はハッキリ言って悪い。銃撃そのものなら、ふだんの仲間と一緒ならばなんとかなっただろう。事前の準備が上手い奴、とっさのひらめきがすごい奴、大事なところでの度胸が半端ない奴。あいつらがいればこんなピンチもくぐり抜けられた自信がある。
 しかしここにいるのはほぼ初対面の3人。ツバサとその同行者である宮美一花とはさっき出会ったばかりだし、これまでの1時間ほど共に動いていたリュードはよく考えたら苗字もわからない。もちろん互いがどういう人間かなど全くわかっていない。
 頼りになるのは自分だけ。いつもと違って、今回は宇野が他の仲間を助けるための道筋を導き出す必要がある。

(俺だって、修羅場はくぐってきてないんだ。やってやる、やってやるぞ……!)

 菊地ならどうするか、相原ならどうするか、そして他の仲間ならどうするか。冷静になるように自分に言い聞かせながら宇野は考える。とにかく今は下手に動いてはいけない。焦ったり怖がったりして何も考えずに行動するのが一番危険なのだ。努めて冷静に。

(よし、周りが見えてるぞ。今やんなくちゃならないのは、どう逃げるかだ。)
「こうなったら撃ち返すしかないっ。銃撃がやんだら一気に。」
「待て、宮美。その必要は無い。」
「なんで!」
「撃ってきてる奴は俺達がどこにいるかわかっていない。だから適当にバラ撒いてるんだ。」

 自分で一花に言いながら、宇野は更に冷静になっていく自分を自覚した。リュードとアイコンタクトをとる。青い顔をしながらも頷き返してきた。
 左右を見れば商品棚から広範囲に売り物が落ちている。通路の端から橋までまんべんなく。つまり、それだけ広範囲に撃っている。なら、自分たちは見つかってはいない。もしくは撃ってる奴がよほどの下手くそかだ。
 後方を見る。入ってきた入口まで数十メートル。どれだけ急いでも10秒はかかるだろう。そして視界は開けている。走ればいくならなんでもバレるし、走らなくても最後の数メートルは丸見えになりそうだ。
 周囲を見る。他にも入口は左右に2ヶ所ありそうだ。正確な位置はわからないので、知るには誰かが偵察に行く必要がある。もしかしたら、例の第三者がいるかもしれない。

(クソっ、冷静に考えると動けないぞ。こういう時にひらめきがある奴がイレバ……)

 少し遠くから爆発音がした。またさっきのように手榴弾だろう。腹ばいになった床から伝わる振動に肝が冷える思いをしながら宇野は舌打ちする。
 ここまで自分は冷静に動けている方だと思う。足手まといになんてならずに、映画の主人公のようにクールに振る舞えていたと。
 だが、それでも足りない。銃弾の雨に突っ込んで行って敵を皆殺しにするような強さも、見ている者の度肝を抜く思いもよらないアクションもできない。自分達に希望が無いことしか冷静さから導き出せないのならなんの意味があるだろうか?


985 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/18(水) 07:52:36 ???0

「そうか……江藤……お前ならそうするよな……」
「リュードさん?」
「宇野、合図したら2人を連れて入ってきた入口まで走れ。」

 突然聞こえてきたリュードのつぶやき。呼びかけたら返ってきた言葉に何言ってるんだ、そう言おうとして宇野はリュードの目の色に気づいた。光の無い暗さがそこにあって、そんな人間の目を初めて見て、出そうと思った言葉が出なかった。

「何する気だ?」
「あっちにも出口が見えた。そこで銃を使えば、囮になるだろ。」
「無茶だ、とは言わねえけどヤバすぎる。なら体の小さい俺が。」
「こういうのは年上に任せろよ。それにさ、言ってなかったけどおれ、プロのキックボクサーなんだよ。元チャンピオンにだって勝っちゃうぐらいのな。だから心配すんな、おれすっげぇタフだし。」

 そう言って笑うリュードの目は笑っていないように宇野には思えた。
 バイクに乗っていた時に感じたが、たしかにリュードの体は凄まじく引き締まっている。日比野よりも軽いだろう。線が細い宇野とは違い、減量で文字通り身を削るようにして得た鋭さがあった。
 ストイックさには人並み以上に憧れがある。虚弱な自分を変えたくて、強い男には好感が持てる。リュードは正に宇野が理想とするような『強さ』を体現したモデルであった。あったはずなのに。
 どうしてだろう、今のリュードはとても小さく寂しく見えた。

(なんて言えばいいんだ。こういう時って。)

 リュードのような強い男の言うことだ、二言はないだろう。止めたって聞きはしない。でもそれでも何か言わなければならない。ここで言わなければ、致命的なことになる。そんな予感がする。

「別に死ににいくわけじゃないさ。おれだって怖いしな。新庄、宮美、そういうわけだから宇野から遅れんなよ。そんな重いもん捨ててけ。」
「リュードさん……入口まで逃げれたら援護射撃する。」
「……ごめんなさい、なんて言えばわからないの……」
(おいおい特攻する前の空気じゃんか。とにかくこうなったら──)
「よし……準備はいいか?」
「待ってくれリュード、俺に作戦がある。」

 こうなればヤケ、とっさに口から言葉を出した。「なにっ」と出鼻をくじかれたリュードに問われる。宇野はなんとか思いつきだと思われないように言葉に気合を込めて話しだした。

「ようするに陽動すればいいんだろ? だったらわざわざあっちの入口に向かう必要は無い。」
「どういうことだ?」
「それは……」

 どういうことだろう? ここまで全くの思いつきなので言葉に窮する。何もひらめかない。とりあえず、周囲を見渡して時間を稼ぎ、意味深にリュードが向かおうとした方を指差してみた。

(やっべなんも思いつかない。)

 みんなが指差す方を見ながら、宇野はほとんどパニックだ。次第に変な空気が流れる。また手榴弾がどこかで爆発した。

「そういうことかっ。」
「え、どういうこと?」
(え、どういうこと?)
「手榴弾をあそこに投げて敵を引きつける気なんだな。」
「そうだよ(サンキュー新庄!)。」

 宇野は嬉しさが声に出ないように頑張って便乗した。時間稼ぎは無駄ではなかった。なんかいい感じの案をツバサが出してくれて、それに力強く便乗する。

(そういえばこういう手口、何回かやったことあんな。)
「新庄、手榴弾持ってるか。それか時間差で音の出るもの。それをあっちの入口に投げる。音で驚いてあっちに気が向いてるうちに、入ってきたとこから店の外に出る。リュード、キックボクシングやってるなら肩も強いだろ。頼んだぜ。」
「宇野……」

 まだ青い顔に暗い目をしたリュードに、宇野は強く言う。ひらめきは無かったが、それでも自分を引っ張っていったリーダーシップを思い出しながら、目に力を込める。

「……オッケー、任された。」

 数秒見つめ合った末に、リュードは1度目を閉じると、そう言いながら笑った。開いた目には光があった。


986 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/18(水) 07:53:08 ???0



(幸運だな。蹴落とし合うところに出くわすとは。さてどうやって殺してやろうか。)

 悪の魔法使いサウードは、スーパーの入口が見える建物の中で顎に手をやり考えていた。
 元、アキラ、牧人の3人をグレランで殺し、夢羽の死体と合わせて死体損壊した彼は、更なる獲物を求めて銃声を辿ってここまで来た。端正な顔の裏に殺意を込めて、使えそうな参加者がいらば利用しようと思い、少々難しい局面に出くわし戸惑う。自分以外の参加者間の殺し合いはノーリスクで敵が減るので大歓迎なのだが、それだといつものように利用できる人間を使う手がやりにくいと気づいたのだ。
 自分が美しく賢いことをわかっているため、大抵の相手ならば丸め込める。だが流石に死の恐怖に怯え武器を無茶苦茶に振るう相手など関わりたくはない。そして困ったことに、戦っている人間の精神状態など簡単には見抜けない。さてどうしたものかと考えていると、中から爆発音が聞こえてきた。

(さっきのような武器か。決着がついたのか?)

 自分が撃ったグレランを思い出しサウードは身を縮める。どうやらあれはなかなか珍しいものらしく街では見かけなかった、そう思いながら銃口を窓越しにスーパーの入口へと向ける。試し撃ちはもちろんしている。グレランに比べれば貧弱に感じるが、それでも10数メートル先の相手1人殺すのなら申し分無いだろう。そう思い入口を見つめ、そしてその眉根が寄った。出てきたのは、4人の若者だった。

「よし、全員いるな! 作戦成功!」
「あそこに逃げ込め!」
(まずい、こちらに来る気か?)

 現れたのは宇野達だ。ツバサが取り出した手榴弾をリュードが投げて、首尾良く計画通りに脱出に成功した彼らが向かってくる。脱出に精一杯で逃げ出した後のことなど考えていなかった彼らは、集団でダッシュで向かって来られると考えていないサウードの下へと突っ込んでくる。
 舌打ちする間もなくサウードは急ぎ2階へと上がった。この建物の間取りなど知らない。宇野たちから見え難い出入口に心当たりも無いのでとにかく隠れる。

(待てよ、なぜ隠れる必要がある。普通に話せばよかったのでは? いや、どんな相手かわからないのだから隠れるのも当然。しかし……)
「■■■■! ■■、■■■!」
(あ、言葉の通じない異民族だ。殺そう。)

 ちょっと悩んだ末に下から聞こえてきた宇野達の声で、すぐ様サウードは方針を決めた。アラビアンな砂漠の国のサウードは当然日本語など知らないし話せない。発音的に東国の異民族だとはわかったが、やることは一つだ、抹殺だ。
 サウードが欲しいのは自分の役に立つ駒であってコミュニケーションが取れない人間では無い。それに宇野達は4人、言葉の通じないサウードが懐柔もできないで接触するにはリスクがあり過ぎる。言葉の通じない者なら自分なら殺す、そう考えるからサウードは、殺されると思う。
 ひらりと2階の窓から飛び降りた。ノータイムで魔法を使い減速、静止する。そのままくるりと上下を入れ替えて、まるで逆さにラペリングしているかのように銃を構えた。
 サウードの決断は早い。元々殺しへの躊躇や倫理観などというものは捨てた身だ。自分が有利になる機会への嗅覚と反応は人並みでは無い。会って5秒で即殺害を決めた。とはいえここは1人か2人に怪我を負わせて引こう、あとはスーパーの連中とでも潰し合うだろう──

「──見えた、死ねっ。」

 次の瞬間、サウードの目が見開かれた。サウードの体が急速に後方へ飛ぶ。1階の窓へと撃たれた銃撃は、突如現れた少女──ビーストへと直撃した。


987 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/18(水) 07:53:35 ???0



 ビーストがなぜそこにいたのかは、本人も含めて誰も知らない。
 宇野に襲い掛かり、白銀御行と関織子とニアミスした彼女がスーパーへと向かったのは、夢羽の血痕に誘導されたのか銃声と爆音に引かれたのか。
 原因は不明だが、スーパーまで来た彼女は目にしたのだ。逃げ出してくる宇野達を。

「ウウウウウ……」

 一度逃した相手だ。迷うことなく駆け出した。サウードが窓から飛び降りても、それは変わらなかった。狙うのは宇野、それだけだった。

「■■■!」

 そして窓から飛び込もうとし、ビーストは寸前でサウードの銃口の前に身を踊らせた。鋭い爪がサウードに迫りかけ、しかしとっさに後ろに飛ばれ、後に残ったのは、無数の弾丸。
 ビーストがなぜそんなことをしたのかは、本人も含めて誰も知らない。
 だがただ一つ言えたのは。
 その行動は結果的に宇野を守ったということだ。

「なんだぁっ撃たれたぞっ!」
「コイツはさっきの!」
「人が飛んでるぞ!」
「何が起こってるの!」
(チイッ、何なのだこいつは! ここは引かざるをえない!)

 ドタドタと窓際に宇野達が集まる。それに銃撃を加えるが一つも当たった様子はなく、サウードは撤退を即断した。それでも己の判断の遅さに顔をしかめる。ビーストが現れたのでとっさに引鉄を引いてしまい、宇野達に見られたのでとっさに引鉄を引いてしまった。その結果自分が危険人物だと知っている武装した人間4人が生まれることになった。これでは全くのマイナスだ。ビーストというイレギュラーを見た瞬間に撤退すべきであった。距離を取ってしまい狙いもブレた状態で宇野を撃つべきではなかった。

(反省は後だ。まずは逃げねば。)


「コイツ、さっきのシャブ中コスプレイヤー……」
「なんて?」
「ここも安全じゃない! 早く逃げないと!」

 アラビアンな格好をした男がライフルを抱えて飛んでいく。空飛ぶイスラム過激派のような男にビビる一花をよそに、宇野とリュードは呆然とビーストの死体を見つめていた。
 サウードに撃たれた、その事はすぐにわかった。窓から見たら銃を構えている男が空中にいたのだ、察しはつく。
 わからないのは、なぜビーストがここにいるのか、そして死体になっているのかだ。自分をついさっき殺そうとした女が、自分を殺そうとした男に殺されている、そんな状況。

「……アンタ、何がしたかったんだ?」
「……」
「2人とも早く!」
「……ああ。リュードさん。」
「そうだな。」

 もし彼女がいなかったのなら、今頃自分はどうなっていたのだろうか。宇野はそう思う。無事ピンチを切り抜けたと思ったら、突然出てきた別の敵キャラに殺される。そういうのはパニック映画で見たことあるが、自分もそうなるはずだったのだろうか。
 ではこれはどういうことなのだろうか? 突然出てきた敵キャラが、最初の方に出てきた敵キャラを殺した。それで自分は助かった。こんな展開見たこと無い。

「リュードさん?」
「わ、悪い。行こうぜ。」

 思い詰めたようにビーストを見つめるリュード二声をかけると、宇野は急いで建物から出た。一度だけビーストを振り返ると、ツバサ達を追いかけて走った。


988 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/18(水) 07:54:02 ???0



【0134 『南部』住宅地・スーパー近く】


【新庄ツバサ@生き残りゲーム ラストサバイバル 最後まで歩けるのは誰だ!?(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族を探して合流する。子供しか参加者じゃねーなら親はいないと思うが……
●小目標
 一花達と逃げる。

【宇野秀明@ぼくらのデスゲーム(ぼくらシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 家族を探して合流する。でも、たぶんいないよな? 大丈夫だろ? なんでぼくらの仲間たちと合流したいな。
●小目標
 コイツは何がしたかった……?

【宮美一花@四つ子ぐらし(1) ひみつの姉妹生活、スタート!(四つ子ぐらしシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 姉妹を探して合流する。
●小目標
 ツバサ達と逃げる。

【倉沢竜土@天使のはしご5(天使のはしごシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 誰かが死ぬのは嫌だ。
●中目標
 紅絹たちが巻き込まれてないか心配、探したいが……
●小目標
 ???


【脱落】
【ビースト@角川つばさ文庫版 けものフレンズ 大切な想い(けものフレンズシリーズ)@角川つばさ文庫】


989 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/10/18(水) 07:54:44 ???0
投下終了です。
タイトルは『You're a beast!』になります。


990 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/11/02(木) 06:30:10 ???0
投下します。


991 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/11/02(木) 06:31:10 ???0



(どう出てくる……)

 ジリジリとしたものを感じながら、ヌガンはライフルを抱える。商品棚に遮られた視界に潜む獲物を思い、今か今かと戦況が動くのを待った。
 スーパーでおそ松グループを宇野グループ越しに銃撃し、双方を潰し合わせる。妙案だと思ったがそう上手くは行かなかったなと、ヌガンは振り返る。
 1人射殺できたようだが、おそ松グループの銃撃に宇野グループが撃ち返さなかったのは誤算だ。銃の威力を知らずとも音に驚いて足並みを乱すかと思ったが、子供の割に落ち着いている。一筋縄ではいかない相手だと肝に銘じて、長期戦も考え始めた。このままおそ松グループしか撃たないようであれば、どちらかのグループが何かしらかの動きを見せるだろう。いつまでも成果の上がらないことをし続けられる人間はいない。
 ここは我慢の時間だなと腰を落ち着けて戦場を見る。狩りと同じだ、動いたほうが負けである。そう思い目を凝らす。
 相変わらずおそ松グループだけが攻撃を加えているようだが、ヌガンはときおり飛んでくる物体が気になった。それは手榴弾なのだが、そんなものを知らないヌガンからすると未知の兵器だ。どういったものか、どのように使うのかを観察する。

(勢い良く破裂する武器なのか。落ちた時の衝撃で破裂するのか?)

 ──生兵法ほど危険なものはない。
 ヌガンは、自分が冷静に振る舞えていると思っている。しかし実際にはそれこそが既に誤認。自分がどれだけ危険な状況にあるのかを理解していない。
 なまじ銃というものに早く触れたからだろう。生きている人間との交流の乏しさが誤った前提をヌガンに生む。
 よく考えればわかった可能性はある。彼が撃ち殺したと思っている松野十四松は確かに傷を負ったものの即死しておらず、そのために苛烈な銃撃を弱井トト子が行っていると。
 宇野たちが動きを見せるのならば、それはおそ松達ではなくヌガン自身を狙ったものかもしれないことを(とはいえ、ヌガンへのアプローチは確かに優先順位が低くはあった。)
 そして手榴弾というものが落ちた時に作動するのでは無く時間差で作動する物だと。

(動いた! 子供達も投げかえ──グアアッ!?」

 それでも運はヌガンへと向いている。
 リュードが投げた手榴弾は、本物では無くフラッシュグレネードだった。殺傷範囲を誤認していたヌガンでは、それでこのロワイアルから脱落していただろう。
 その代償に光と音で感覚を焼かれるぐらい、死ぬよりかはマシなのかもしれない。

「な、なんだ……動きが読まれていた……ああっ、くっ、た、立てない! 目が……ぐうっ……!」

 潜んでいたことも忘れて悲鳴を上げてのたうち回る。なまじ目が良いのが命取りだ。しっかりと網膜を焼かれ、衝撃は脳まで突き抜けている。声を上げないようにということすらできず、芋虫のように這い回ることしかできない。

「こ、こんなことが……! こんな、ことでぇ……! ぐうっう!」

 必死に立ち上がり逃げようとするも、それは全く無駄な試みだ。フラッシュグレネードの炸裂は三半規管を麻痺させている。立って歩こうにも、床が壁になるだけだ。
 それでもヌガンは立とうとするのをやめない、やめれない。今の動けない自分はいつ殺されてもおかしくない。早急に立ち上がり逃げなくては。

「ヤマン・ハサル……! ご加護を……!」

 父祖に祈りを捧げつつ、ボロボロと涙が出てくる。
 自分が戦場の誰からも無視されていることに、彼は気づくことはなかった。


992 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/11/02(木) 06:32:13 ???0



「うおっなんかすっげぇ音したぞ!」

 松野おそ松は爆音に飛び上がった後、耳を手で抑えながらツッコむ。周りに誰もいないがそれでもフラッシュグレネードの音など聞いたらツッコむっきゃない仕方ない。
 そう、今のおそ松は1人だ。1人でスーパーの上階へと行き、必死になって事務室を漁っていた。
 十四松の怪我は割と深刻だ。太ももを貫通して血が止まらない。とりあえず店にあったテープで固くテーピングしてみたが、それでは全く治る気配などない。銃創なのだから当然である、医者に見せるしかない。
 というわけで病院に担ぎこむことになったが、119にも110にも繋がらず、こうなればスーパーの備品の車で病院まで向かうしかないと車の鍵を探しに来たわけだ。

「クッソ、どこにあんだよ鍵。わかるとこ置いとけ、あった!」

 バックヤードから階段を上がって事務所まで行き、鍵がかかっていたので事務所の鍵を探し、警備室なら鍵があるかと思えばここも鍵がかかっていて、いい加減面倒くさくなったので受付の窓ガラスを割って侵入しようとしたら思いの外手間取り、そんなこんなでやっと事務所に入れば鍵がなかなか見つからない。
 なんでこんなゲームみたいに鍵探してんだよと思いながら、何気なく見た壁にかかっていた鍵を見つけておそ松はダッシュで引っ掴んだ。見たことのないエンブレムが刻まれているが、そもそも車にさして詳しくないのでとりあえず車の鍵っぽいものもそうでないものも持っていく。
 おそ松は事務所を飛び出すと廊下を走り、2段飛ばしで階段を駆け下りた。自分でもらしくないと思うが、これでも長男だ、弟が大怪我したのなら似合わない熱血もやる。

(ここまでやったんだぜ、絶対死ぬなよ十四松!)

 慣れない運動で既に膝が笑っている。もちろん息も上がり、階段の最後の一段はよたよたと歩いて降りた。脇腹の痛みにヒイヒイ言いながら、壁に手をついて進む。「十四松!」と転がり込むようにファーストフード店へと戻った。
 この時まで、おそ松は気づいていなかった。トト子があれだけ乱射してうるさかったはずの店内がやけに静かだということに。
 自分の荒い息以外に聞こえるのは、トト子のすすり泣く声だけだということに。

(おいおいなんだよ十四松、トト子ちゃんに膝枕なんかしてもらってさ。お前それでノーリアクションはねえだろ。)
(トト子ちゃんようやく正気に戻ったんだな。マシンガン撃ちまくってたもんな。)
(てか空気重! ようやく戻りましたよ松野家長男が、笑顔で出迎えないとかそんなのあり? 弟の自覚足りないんじゃない?)
(だからさ……)
「起きろよ……十四松!」
「起き……てるよ……」

 我慢できなくなって、おそ松は叫んだ。
 十四松のズボンは赤く染まっていた。床には血だまりができている。ホラー映画でしか見ない血の量が弟の身体から抜け出ていた。
 そしてなにより、十四松の顔は青白すぎた。自分と同じ顔で兄弟一の突飛さがある十四松の顔からは、今までで一度も見たことないぐらい血の気が失せていた。

「バッカお前……こんなとこで死んでんじゃねえぞ。死ぬにしたってこんな死に方ありか?」
「ごめん……」
「謝んなよ。ほら、車の鍵だ。すぐ病院連れてくらからな。」
「ごめん……」
「だから、謝んなって!」
「……」

 十四松はかすかに笑うと、小さく口を動かした。それまで掠れていても聞こえた声が聞こえなくなる。慌てておそ松は耳を口へと近づけた。

「みんなに……よろしく……あと……」

 とても小さな声で、十四松はそう言った。

「畳の裏のエロ本捨てといて!!!!!」

 とても大きな声で、十四松はそう言ってニッコリと笑った。

「うっさ!? 声デケえよ! ボリューム逆だろ!」
「おいツッコんだから無視すんじゃねえ! なんとか言えよ。」
「なあ……なんとか言えよ……こういうのは、俺らには似合わないだろ……」


 それから10分後、おそ松とトト子は2人で車を出した。


993 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/11/02(木) 06:33:09 ???0



(1時半か……仕方ない、そろそろ動こう。)

 読み解けるようになったデジタル時計から現在時刻も直ぐに出てくるようになった。奇怪な文字も、母音はすぐに判読できる。
 白銀御行は解読した文字と数字を元に改めて今後の方針を学校に向かうこととしていた。
 懸念事項はある。もう三十分以上も前のことだが、少女のようにも野獣のようにも聞こえる咆哮が聞こえた。人間にせよ猛獣にせよ、そんな風に叫ぶのとは距離を置きたい。場所を移るなり落ち着くなりを期待して時間をあけることを決めた白銀は、その間に改めて地図を作っていた。

「おっこちゃん、一休みしたらそろそろ行こうか。」
「はい。それで、これはどうしましょう?」
「武器か……銃弾だけ持っていこう。」

 思えば最初はかなり気が動転していた。殺し合いということに囚われひたすらに武器を集め、無駄に時間と体力を使った。おっこと出会わなければまだ惰性でやり続けていた可能性がある。
 その結果が目の前にある大量の銃火器だ。全部で100キロでは済まない重量の武器をよく集められたものだと自分で呆れてしまう。もちろんこんなに持っていけないので、軽そうな銃を選ぶと、それと同じ銃弾を使っていそうなものから弾丸を抜き取っていった。拳銃弾と同じ弾丸を使うサブマシンガンを選んだのもあって、集めた銃から取り出す弾丸はかなりのものになる。これならゲームのように撃ちまくれるだろう。取り出した銃は銃の山に置く。万が一この武器の山を見つけられても、取りやすい位置にあるのはどれも空だ。

(ひらがなと数字とアルファベットは解読できた。一応この辺りの地図も作れた。ここからなら、警察を目印にすれば最寄りの小学校まで避難できる……!)
「白銀さん、終わりました!」
(……だが問題はその後だな。文字を置き換えたあたり、このデスゲームの仕掛け人には明確な知性がある。)

 単調な一仕事をやりつつ、白銀が考えるのは『次』だ。
 このバトルロワイアル、いっそのこと悪い魔法使いだとかなんだかにやられている方がマシだと、文字の解読を進めていく中で思った。
 きっかけはまたもおっこだ。雑談の中で続いた双方の認識の齟齬だ。互いに日本人のはずが、一つ明確に話が噛み合わない点があった。『花の湯』、おっこが若おかみを務める『春の屋』がある温泉地について。
 自分の通う秀知院についておっこが知らないのは納得できる。田舎の小学生で家庭が複雑そうで受験もしないならそんなものとは思える。
 しかし、花の湯という温泉地を白銀御行が知らないのは白銀御行が納得できない。観光地については人並み程度の知識かもしれないが、逆に言えば常識的な知識はあると自負している。その自分が著名な観光地を知らないなどあり得るだろうか?
 記憶の操作や平行世界など、オカルトも視野に入れて考える。その結果が、悪い魔法使いならともかく超科学なら手に負えないということだ。
 これが何か不思議な力で集められているというのならまだなんとかなりそうな気がしてくる。呪いとかそういうのには、何か解くためのものとかありがちだ。
 だが科学ではどうしようもない。魔法としか思えないことを科学技術で行っているとしたら、そんな高度な知性を持つ相手にどう戦えばいいというのだ。
 知能というのはある意味とても理不尽なものだと、白銀は身に沁みている。それは貧困や運動神経よりもだ。学ぼうとする意欲に、それを続けられる気力、そして効率的な成長、天才とは即ち努力を実力に変えられる人間のことだ。
 自分が天才だと言われているのは、そうなるための努力が実を結んだからにほかならない。ではその努力を何倍もできるような相手にどう勝てばよいのか? 例えば戦前の天才が現代の天才と同じ条件で競うとして、どうすれば勝てるのかというものだ。知らない知識を学ぶところから始めなくてはならない者と、既に知識を持って戦えるもの、勝敗は火を見るより明らかだ。いっそ現代の天才が現代の凡人に変わっても変わりない。スポーツで競うにしてもまずルールを理解するところから始めなくてはならないし、勉強で競うにしてもスマホとネットを使えるようでなければ学習効率にも差がある。同じ天才でも歴然としているのだ、天才を超えた天才を相手にすればどうなるか。


994 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/11/02(木) 06:34:08 ???0

(この首輪も、呪いの首輪とかならなんとかなりそうだが……)
「白銀さん?」
「すまない、考え込んでいたようだ。小休憩したら出発しよう。」

 暗澹たるものを感じる。自分が理解できない現象を起こせる相手が、自分にない知性を持つ相手と認めるのは苦しい。それが科学技術によるものならば、少なくともこの殺し合いの中でその分野で主催者を出し抜くのは困難だろう。記憶の操作ならまだしも平行世界の移動などのSFチックなことが行われているのら、もはや知略では勝ち目がない。心から呪いの人形なりなんなりが不思議な力で参加者を集めたと祈る他無い。
 ──しかし、白銀のそんな憂鬱は、もっと現実的な問題で吹き飛ぶこととなる。

「白銀さん、これって、銃の音、ですよね。」
「ああ、そこの角を曲がると警察署のはずなんだが。」

 遅かったか、そう白銀は思った。
 出発して15分ほど歩くと、どちらからしているのかわかるほどに銃声が聞こえてきた。しかも警察署に近づくほどにだ。
 主催者についてなど考えている場合では無い、銃撃している参加者がいる。しかもかなりの数だ。最初はあまりに音が多すぎて現実感が無かったが、まるで爆竹に火をつけたように銃声が連続している。

(──銃声だけじゃない、この音は。)
「白銀さん、車です。」
「なにっ。」

 緊張が走る。低速の車が後方から接近していた。運転手と目が合う。減速し、停車し、出てきたのは二十歳過ぎあたりの男女だった。
 服を血に染めて手に銃を持った。

(しまった……! 警戒していた気になっていたが、おっこちゃんだけでも逃さないと。いやまずは、友好的に意思疎通を試みるんだっ。)
「あの、あなたたちも、その……誘拐された人、かしら?」
「……ええ、気がついたらこの街にいて。」

 話しかけてきたのは助手席から降りた女の方だった。言葉は冷静に思える。しかし白銀は声を出すことにすら抵抗を覚えた。2人の顔は赤い服とは対象的に青白く、生気がなかったからだ。

「そう……そうだ、警察知らない? 2人で向かっているところなんだけど。」
「警察ですか……あの、銃声がしている辺りにあるんじゃないかと思います。この辺りに警察署があるらしいんですが、もしあるならみんなそこに集まるので、それで……」

 言葉が出てこない。白銀は自分の回らない舌を憎く思いながらも喉は意味のある音声を発してくれない。女の方は最初から銃をこちらに向けていて、男の方はそっぽを向いているがこちらも手には銃。
 普段の生徒会長という顔を、維持できない。
 不自然な間が開く。女の方が「どうしたの?」と水を向けてきて更に喉が張り付いた。女が見ていたのは、おっこの方だ。

(まずい……対応を誤った。)
「その……すみません、そちらの方が気になってしまって。ずっと踊ってる方は双子なんですか?」
(なに? 何言ってるんだ?)
「……あ? 何言ってるんだ?」

 おっこの言葉で、場の空気に殺意が生じたのを白銀は感じた。
 それまでそっぽを向いて黙っていた男が、明らかにおっこを睨みつけている。銃こそ向けてはいないが、怒気が声に出ている。

「ごめんなさい、その、大変な時に。」
「……ああ、大変だ。」
「すみません、彼女は悪気があったわけじゃ──」
「お前に話してるんじゃねえよ!!」

 突如男が激昂した。それと同時に、銃声が響いた。

「え、あれ?」

 一瞬で真っ赤になって叫んだ男の顔は、直ぐに色を失っていく。男だけではない、驚いた様子の女も、自分の顔を覗き込むおっこもモノクロームになっていき、視界が闇に閉ざされる。

(体が、動かない。息も、できない。)

 突如起きた体の異変に微かな驚きだけ抱いたが、まるで心が動かない。さっきまでの緊張が嘘のように、心が凪いでいた。
 まるで心が死んだようだ。何も思わないし、何も感じない。
 誰かの後ろ姿が遠ざかって行く光景が、白銀の最後の認識だった。


995 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/11/02(木) 06:35:10 ???0



 時間は100分前に遡る。

「ギュービッド様、ギュービッド様、南の窓からお入りください!」
「ギュービッド様、ギュービッド様、南の窓からお入りください?」
「声が小さい! もっと愛をこめて!」
「ギュービッド様、ギュービッド様、南の窓からお入りください!」
「ギュービッドさま、ギュービッドさま、ミナミのマドからおハイりください!」

 レストランの店内、野原しんのすけの遺体をソファに寝かせると、黒鳥千代子は一心不乱に師であるギュービッドを召喚した時の呪文を花丸円とルーミィと共に唱えていた。
 テーブルの上に店の奥から取ってきた裏紙を広げて、コックリさんの用意をする。かつてギュービッドを呼び出したのと同じやり方による召喚だ。
 神頼みならぬ黒魔女頼り。文字通りのオカルトだが、円はチョコを止めることはできなかった。今も臭い立つ、しんのすけの死臭。流れる血も無くなってなお血なまぐさいしんのすけを鼻や目で感じる度に、チョコに向けて開こうとした口は怪しげな呪文を唱える。

(これでいいのかな……でも……)

 チョコを止めなくてはいけないのでは、そう思う気持ちはもちろんある。それでも、その一心不乱に呪文を唱える姿と血の臭いに円は止める言葉が出てこなかった。
 そうしてどれくらいの時間が立っただろうか。ふと円は煙の臭いを感じた。煙草の臭いだ、そう思って視線をコックリさんもどきから上げると、一筋の煙が見えた。煙を辿る。隣のテーブルにいつの間にか一つの煙草が置かれていた。

「チョコちゃん、ルー──え?」

 呼びかけようとして気づいた。2人は動いていない。死んだというわけではない。まるで、『時が止まったように』固まっているのだ。

「なに、これ……」
「少し煙が遠いみたいだね。」
「だれ!?」

 聞こえた少年の声に円は慌てて辺りを見渡す。仮面が見えた。煙草の置かれたテーブルのすぐ近くに、まるで最初からそこにいたかのように、仮面の少年が立っていた。

「君には用はないんだけれど、せっかくだしいいか。」

 手に煙草を持ち近づく少年に、一歩また一歩と円は後退る。早く逃げなくては、異様な姿にそう思うも体が言うことを聞いてくれない。そして少年はテーブルに置かれた煙草を取り上げると、チョコ達のテーブルに投げた。
 次の瞬間、チョコとルーミィが呪文を唱え出した。

「──さま、ギュービッドさま、南のあっつナニコレタバコ!? え、だれ!?」
(あのタバコ、なにかへんだよ。)

 裏紙の上に投げられたタバコに気づかずにいたチョコが素っ頓狂な声を上げる。そしてようやく気づいたのか、仮面の少年に向かっても。
 そんなチョコを見て、「あいかわらずだね」と言って少年は肩をすくめる。そして仮面を外すとまたチョコは素っ頓狂な声を上げた。

「大形くん!」
「やあ、黒鳥さん。そのタバコからは離れないようにしてね。時間が止まるから。」
「時間が止まるって、そんな黒魔法みたいな……」
「僕ならそれができるって君は知ってるでしょ? さあ思い出して。」
「なにを、なにを言ってるの?」
「……あんまり時間はないんだけどねえ。」


996 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/11/02(木) 06:36:17 ???0

 やれやれといった様子の少年からは悪意のような物を感じない。第一印象からは違って見えるチョコとのやりとりは、明らかに知り合いとのそれだ。だがなにか噛み合っていない。
 「どういうことなの?」とチョコに聞いても、「どうって言われても……」と要領を得ない。

「黒鳥さん、君はさっき時間を巻き戻せるって言ったね。黒魔女しつけ協会の4級合格には時間巻き戻し魔法があるからそれかな?」
「そこまで知ってるの? 大形くん、もしかして黒魔女?」
「そうさ。でもおかしいよね、君が4級になった頃には、僕は君に黒魔女だってバラしたのに。」
「……あれ?」

 チョコの顔が変わった。それまでの驚きの顔から、より困惑が深くなった。

「そうそう、その頃には桃花・ブロッサム……大形桃もいたねえ。」
「……そうだ、桃花ちゃんとは、あれ? 桃花ちゃんと会ったのは……え?」
「校外学習のバスで、はじめて魔界に行ったときのことを覚えてるかい? 君はシンデレラだった。」
「校外学習は……今度の……」
「運動会、鈴風さんが黒魔法を使おうとしたよね。暗御留燃阿にそそのかされて。禁断の契約妨害呪文で防いだのは見事だったよ。クリスマス、君が魔界に乗り込んできた時は楽しかった。僕の想像をこえるのが君だった。」
「待って……まだ一学期でしょ?
校外学習も、運動会も、クリスマスも、まだだよ……なのになんで……」
「さあ、思いだして。」
「なんで……全部やった記憶があるの?」
「チョコちゃん、どうしたの? チョコちゃん?」

 思わず円は肩をゆすりながら呼びかける。だがチョコはされるがまま、頭を抱えるように抑えてつぶやくだけだ。顔からは脂汗が流れる。表情は困惑から苦痛を示すものへと変わっている。更に声をかけようとしたその時、大形と名乗った少年の言葉で、チョコの目がカッと見開かれた。

「黒鳥さん、今の君は何年生だい?」
「小学、5年生……じゃない! 中学1年生だ!」



【黒鳥千代子@黒魔女さんが通る!!
チョコ、デビューするの巻(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】


【黒鳥千代子@魄溷ク晢スュ豕鯉コ霈費ス
イ竏壹Ι郢晁侭ホ礼ケ晢スシュ豕鯉コ霈費郢晢鯉スコ霈費ス鍋崢�◆�魄溷ク晢スュ豕鯉コ霈費ス鍋スュ豕鯉コ霈費@講談社青い鳥文庫】


【黒鳥千代子@黒魔女さんと最後の戦い 6年1組 黒魔女さんが通る!!(20)(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】



「そうだった、黒魔法と一緒に記憶を……記憶をすてたんだ!」
「思い出したようだね。黒曜石の君ならできると思ったよ。」
「ど、どういうこと、チョコちゃん?」
「円ちゃんごめん、忘れてたけどあたし中1だった。」
「え、それ忘れる!?」
「無理もない、僕らのように強い魔力を持たなければ永遠に思い出さなかっだろうさ。」

 まだ荒い息をしながらも、チョコはテーブルに突っ伏すようにしていた頭を起こす。その顔には苦痛が消えて、代わりに困惑と驚愕が満ちていた。

「そうだった、あたし、またギュービッド様を召喚して……ちょっと待って、大形くん、あの時あたし記憶を思い出したのになんでまた……ていうか、もしかして大形くんがこんなことを?」
「ああ、記憶をもう一度封印したのも殺し合いを開いたのも僕だ。まあ、記憶は失くしてあった時の君に戻したんだけれどね。」
「なんのそのためにそんなことを……」
「それはね──」


997 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/11/02(木) 06:37:21 ???0


「大形くんの説明は長かったので短くまとめると
1、大形くんが画面に入れる魔法の『ルキウゲ・ルキウゲ・エントラーレ』で色んな物語を支配しようとする。
2、あたしやギュービッド様に時間を巻き戻されたり画面に入られたりしないようにして殺し合いを開く。
3、『ひぐらしのなく頃に』という物語の登場人物を誘拐したら『オヤシロさま』っていう神様も一緒についてきちゃった。
4、『オヤシロさま』に祟られたせいで殺し合いを開いた人達が死にそうになってる。
5、そのせいで殺し合いを管理できる人がいなくなってみんなも死ぬことになる。」
「黒鳥さん、その人の話を要約するの好きだね。」
「あたしのまわりの話って小学生には長すぎるよ。今は中学生だけど。」

 10分ほど話したものをチョコにいつも通りの要約をされ、大形は肩をすくめる。そして用意した皿の上に煙草を置くと、同じようにチョコ達のテーブルの上に用意させた皿の上に煙草を投げた。

「あとこの煙草なに?」
「止まった時間の中でも動けるようになる煙草かな。主催者の中には時間を操れるロボットもいる。だからだろうね、君がさっき時間巻き戻し魔法を使おうとした直前には君や花丸さんやルーミィの首輪からの音声がとだえた。そのおかげで、君の記憶が蘇っていることに気づけたけどね。」
「えっ、どうしよう鼻歌たくさん歌ってたの。」
「あたしも。でもすごいねこれ、『モモ』みたい。これって魔道具?」
「いや、『モモ』の世界から持ってきた。それに時間泥棒も僕の仲間だ。」

 煙草の煙が目に染みたのか、大形はそこで一度言葉を区切った。そしてやや咳き込みながら「そして『オヤシロさま』もたぶん時間を超えられる」と、改まった調子で語りだした。

「もう一度言おう、僕はこの殺し合いの主催者の大形京。この僕に見える君は選ばれし者。惨劇打破のチャンスを与えられた強き者。」
「単刀直入に言おう、会場にいるある少女を助けてほしい。名は古手梨花、神通力を持つ神社の巫女で"オヤシロさま"を持つ小学生だ。もちろんめちゃくちゃ弱い。」
「しかもこの戦いには絶対守らなければならない条件がある。古手を守るには他の主催者に"オヤシロさま"について知られてはならない。古手に"オヤシロさま"について伝えることも禁止。なぜなら万が一にも"オヤシロさま"にループされてはならないからだ。何よりも"オヤシロさま"が大事なんだ、ぶっちゃけあの子の命なんてどうでもいいんだ、"オヤシロさま"さえ倒せればね。」
「さぁ殺し合いを止めることに熱意のある者は今すぐ助けへ行け。古手を襲う者を失神KOさせろ。急げっ、乗り遅れるな、殺し合いをやめようという僕の心を掴むんだ。"オヤシロさま・ラッシュ"だ。」
「ようするに神社の巫女さんを誘拐したら呪われて死んじゃいそうだからあたしの記憶を取り戻させてなんとかさせようとしてる……ってコト!?」
「みもふたもない言い方だと、そうだね。」
「大形くんこの前も悪いことしようとして大変なことになったのに、なんでこんなことを……」
「僕たち主催者はオヤシロさまと共にループの外にいる。古手梨花とオヤシロさまをなんとかできるのは、時間を巻き戻ることで祟りを無かったことにできる君たち参加者だけだ。」
(話を変えた。)
「この祟りはかなり厄介でね、感染魔法みたいに人から人へと感染る。だから君たちともこうしてソーシャルディスタンスを取ってるんだ。そして古手梨花はその感染者ってところかな。東海寺と違って本物の霊能力者みたいだね。」
「えっと、つまりあたし達は何をすればいいの?」
「ここから北にある小学校に向かってほしい。そこでヒグマや魔王と戦ってる古手を救出して殺し合いを打ち破って欲しい。」
「ヒ、ヒグマ? 魔王?」
「ああ、僕が用意した。」
「……それ黒魔女さんじゃどうしょもなくありません?」
「心配ないよ、僕よりは弱い。僕に何度も勝った君なら、きっと勝てるさ。じゃあ、健闘を祈るよ。」

 チョコが呼び止めるより早く大形の杖 が翻る。そして目の前の皿から立ち上る煙が消えたと思ったら、その姿はなくなっていた。


998 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/11/02(木) 06:38:09 ???0



 ──ルキウゲ・ルキウゲ・リボビナーレ!



「そう……そうだ、警察知らない? 2人で向かっているところなんだけど。」
「警察ですか……あの、銃声がしている辺りにあるんじゃないかと思います。この辺りに警察署があるらしいんですが、もしあるならみんなそこに集まるので、それで……」
(ヤバいヤバいヤバいまた殺されちゃうよ織子ちゃん!)

 そして約100分後、チョコは凄まじい勢いでほうきで空を飛んでいた。スピードの事ではない、焦りっぷりである。
 既にここまで数十回ループしているが一向にループから抜け出せないのだ。
 チョコが失敗した時間巻き戻し魔法は、呪文はあっていたが杖の振り方を間違えたために時間ループ魔法として発動してしまっていた。このループ魔法、前の自分とは違った自分にならなければループから脱することができない。しかもどう前の自分と違うかを調べるところから始めなくてはならないのだ。
 更に困ったことに、古手梨花はどれだけ急いでも助けらないタイミングで時報の如く死んでいた。思わず詰みセーブかと思い、自暴自棄になること体感半日。そして十数度の捨て回を挟んだ末に見つけたのが、織子が射殺される光景だった。

(大形くんには悪いけれど、織子ちゃんだけでも助けるからね!)
「その……すみま「すみませええええん!!」はひっ!?」

 おっこが地雷を踏む直前に大声を上げて音をかき消す。そのまま超スピードで4人の元へと突っ込む!

「なにっ。」「なんだあっ。」
「え、ちょ、おわあああ!!」

 驚く4人の中心に舞い降りる、黒いゴスロリに身を包み箒に乗ったその姿は正しく魔女。それが空から落下してくる! 翻るスカート! 垣間見えるドロワーズ! 咄嗟に受け止めようとする白銀! 顔が股間に突っ込む! 首にかかる重量!

「な、なんだこれ、なんだ、これ……」

 呆然とする3人の前で、白銀は首を抑えて困惑し、チョコは股間を抑えて地面を転げまわっている。しかしこんなことをしている場合ではない。なんとか立ち上がり、「ずみまぜん! 今何時何分でずが!?」と問いかける。
 「えっと、2時15分ぐらいかな?」とおっこが言うと「ヤバいヤバいヤバいまた間に合わない!」と叫び出す。
 単にチョコを助けるだけでは足りないのだ。どうやら他にも助けなければならないらしく、古手梨花の友達らしいこの後前原圭一と園崎魅音など警察署の面々も助けなければならない。
 しかし焦るチョコを嘲笑うように、突然警察署の方から爆音が聞こえてきた。振り返れば、いつの間にかいたヘリコプターが、空中で起こった爆風に煽られてこちらに向かってくる。というか、墜落してくる。

(ま、またこの展開だ……)
 「なんなんだよこの急展開!」とおそ松が叫ぶも、ヘリコプターは止まってくれない。このあとの展開を知っているチョコはまたやり直しかと呆然と佇む。そんな彼女をチョコが咄嗟に屈み込ませると、ヘリコプターはギリギリで高度を立て直し空へと飛んでいった。

「……あれ? 助かった? 巻き戻らない……もしかして、あの、今何時何分ですか?」

 ループ魔法では自分以外の人間の行動は変わらない。というルールはオヤシロさまにより撤回された。彼女が助けようとした圭一達は、彼女のループに巻き込まれたことで記憶を引き継ぎたまたま行動を変えたのだが、そんなことは彼女の知ることではない。

「えっと、20分かしら。」

 その言葉を聞いた途端、チョコはガッツポーズをして「やったぁ!」と叫ぶ。何がなんだがわからないおっこに抱きつきながら、目から滝のように涙を流した。


999 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/11/02(木) 06:39:17 ???0



【0221 『南部』住宅地・スーパー】


【ヌガン@獣の奏者(4)(獣の奏者シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 優勝し技術をリョザ神王国で独占する。
●小目標
 ???

【松野おそ松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 死にたくない。帰りたい。
●小目標
 十四松……

【弱井トト子@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
 主催者をぶっ殺す。
●中目標
 この女の子の目的は……?
●小目標
 十四松くん……

【白銀御行@かぐや様は告らせたい―天才たちの恋愛頭脳戦― 映画ノベライズ みらい文庫版@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
 情報を集めて脱出する。
●中目標
 小学校を目指す。
●小目標
 情報交換したいけど首痛い……

【関織子@若おかみは小学生! 映画ノベライズ(若おかみシリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 白銀さんといっしょに殺し合いから脱出する。
●中目標
 白銀さんと学校に避難する。
●小目標
 この女の子は……?

【黒鳥千代子@黒魔女さんと最後の戦い 6年1組 黒魔女さんが通る!!(20)(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
 殺し合いを止める。
●中目標
 ギュービッド様と古手梨花さんを探す。
●小目標
 大形くんとか野原くんとか気になること多すぎ! だけどとにかく織子ちゃんを助けられたよかった。

【花丸円@時間割男子(1) わたしのテストは命がけ!(時間割男子シリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
 生き残る。
●中目標
 しんのすけくん……
●小目標
 なんだかとんでもないことに巻き込まれちゃった……

【ルーミィ@フォーチュン・クエスト1 世にも幸せな冒険者たち(フォーチュン・クエストシリーズ)@ポプラポケット文庫】
【目標】
●大目標
 みんな(フォーチュン・クエストのパーティー)に会いたい。
●中目標
 チョコと円に着いていく。
●小目標
 しんちゃん……


【脱落】

【松野十四松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】


1000 : ◆BrXLNuUpHQ :2023/11/02(木) 06:40:14 ???0
投下終了です。
次スレもよろしくお願いします。


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