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ゲームキャラバトル・ロワイアル【第二章】
1
:
◆NYzTZnBoCI
:2019/11/07(木) 15:20:03 ID:SrO2rlvw0
【ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】7/8
○イレブン(主人公)/○カミュ/○シルビア/○セーニャ/○ベロニカ/○マルティナ/○ホメロス/●グレイグ
【ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】6/7
○リンク/○ゼルダ/○ミファー/○ダルケル/○リーバル/●ウルボザ/○サクラダ
【FINAL FANTASY Ⅶ】6/6
○クラウド・ストライフ/○ティファ・ロックハート/○エアリス・ゲインズブール/○バレット・ウォーレス/○ザックス・フェア/○セフィロス
【クロノ・トリガー】4/6
○クロノ/●マールディア/○ルッカ/○ロボ/●カエル/○魔王
【ポケットモンスター ブラック・ホワイト】4/5
○トウヤ(主人公)/○N/●チェレン/○ベル/○ゲーチス
【ペルソナ4】4/5
○鳴上悠(主人公)/○花村陽介/●天城雪子/○里中千枝/○久保美津雄
【METAL GEAR SOLID 2】4/5
○ソリッド・スネーク/●ジャック/○ハル・エメリッヒ/○リボルバー・オセロット/○ソリダス・スネーク
【THE IDOLM@STER】4/5
●天海春香/○如月千早/○星井美希/○萩原雪歩/○四条貴音
【BIOHAZARD 2】3/4
●レオン・S・ケネディ/○クレア・レッドフィールド/○シェリー・バーキン/○ウィリアム・バーキン
【ドラッグ・オン・ドラグーン】2/4
○カイム/○イウヴァルト/●レオナール/●アリオーシュ
【龍が如く 極】3/4
●桐生一馬/○錦山彰/○真島吾朗/○澤村遥
【NieR:Automata】2/3
○ヨルハ二号B型/○ヨルハ九号S型/●ヨルハA型二号
【MONSTER HUNTER X】2/2
○男ハンター/○オトモ(オトモアイルー)
【名探偵ピカチュウ】1/1
○ピカチュウ
【Grand Theft Auto V】1/1
○トレバー・フィリップス
【BIOHAZARD 3】1/1
○ネメシス-T型
【テイルズ オブ ザ レイズ】1/1
○ミリーナ・ヴァイス
【大乱闘スマッシュブラザーズSP】1/1
○ソニック・ザ・ヘッジホッグ
【ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー】1/1
○レッド
58/70
【主催側】
マナ@ドラッグ・オン・ドラグーン
ウルノーガ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
宝条@FINAL FANTASY Ⅶ
ガッシュ@クロノ・トリガー
足立透@ペルソナ4
エイダ・ウォン@BIOHAZARD 2
890
:
タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:09:34 ID:WfubCnaA0
Nの城最上階、王の間。
備え付けられた窓から、外の景色を見下ろす隻眼の長身痩躯──ゲーチス。
忌々しげに歪む左目は、眼下の中庭にて繰り広げられる死闘を捉えていた。
(想定外だ……! まさか、トウヤが既に来ているとは……!)
あのヘリの音を聞いて、襲撃を予想したゲーチスは王の間にて篭城することを選んだ。
イレブン達を当て馬にして様子を見ようと、迎撃の準備を整えていた矢先にこの結果。
まさかあのヘリに乗ってきたのがトウヤだというのか。だとしたら、とんだ挑発だ。
更に、彼の計画を狂わせた要因はもう一つある。
今現在トウヤと互角のバトルを繰り広げている謎の少年もまた、ゲーチスにとってのイレギュラー。
遠目でも分かるほど、両者の戦いは一般的なポケモンバトルという枠組みを外れている。
それこそ、伝説のポケモン同士の争いにも匹敵するような──次元の違いをひしひしと感じ取り、ゲーチスは歯噛みした。
あんな怪物が二人もいるなど、悪夢を通り越した理不尽さに笑いすら起きる。
カメックスとギギギアルという強力な手札を手に入れたというのに、まるで勝てるビジョンが見えない。
ここはイレブン達ごと切り捨てて、ひとまずこの場を後にするべきか。
(…………いや、待て)
と、受け身な思考がピタリと静止する。
この危機的状況、むしろ利用できるのではないか。
総帥まで上り詰めた頭脳が導き出した答えに、ゲーチスの焦燥は消え失せて笑みへと変わる。
「ハハハ……! やはりワタクシは天に味方されている!」
なぜ気が付かなかったのだろう。
トウヤも、あの少年も、自分を追い詰める脅威として訪れたわけではない。
むしろその逆──自身が生き残るために用意された舞台装置なのだと、今この瞬間確信した。
(そうと決まれば、手筈を整えなければ……今無闇に動く必要はありませんが、迅速さが求められますね…………)
思い至った計画をより綿密なものに変えるため、脳内でシミュレーションを繰り返す。
幸いここはNの城。間取りや各部屋への最短経路は頭に叩き込んでいる。
今はただ機を待つだけでいい。
まるで溢れ落ちる砂時計を見るかのように、ゲーチスの瞳は窓の外へ注がれていた。
「ゲーチスさん!」
と、扉が勢いよく開かれる。
見遣ればそこにはどこか落ち着かない様子のベルとイレブンの姿。
「おや、お二人共。どうかされましたか?」
「えっと、さっきレッドさんがお城に来て、それで、どっか行っちゃって……」
「レッド?」
しどろもどろながら状況を説明するベル。
吐き出される言葉を掻い摘んで、頭の中で要約していく。
子供の世話をするような感覚に嫌気を差しながらも、得られた情報はゲーチスにとって有益なものだった。
891
:
タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:10:25 ID:WfubCnaA0
「なるほど、あのヘリの音はレッドさんが乗ってきたものだと……いやはや、これはとんだ奇縁だ」
「それでその、レッドさんが見回りに行ってくるって言ってたんだけど、心配になっちゃって……」
合点がいった。
カントーとジョウトを制したチャンピオンの噂は、勿論ゲーチスの耳にも届いている。
トウヤと渡り合えるトレーナーなどこの世に居るのかと疑問だったが、それがかのレッドであれば不可能ではないだろう。
ゲーチスは逡巡する。
ベルとイレブンは、自身の計画を遂行するには邪魔になるだろう。
蚊帳の外でいてもらうためにはトウヤとレッドのことを隠しておくべきだろうが、逆に巻き込むことで利用する手もある。
「ベルさん、そのレッドさんなのですが……」
そうして選び取ったのは、真実を打ち明けるという方向。
ベルとイレブンの二人を窓際まで誘導し、中庭の光景を見せつける。
イレブンは戦慄の表情で息を呑み、ベルは愕然と目を見開いていた。
「トウヤ……!?」
「え、トウヤって…………」
彼女のこぼした名前に、イレブンも驚きの声を漏らす。
ベルの幼馴染であり、イレブンからすれば彼女と同じく紛れもない保護対象である存在。
それが今、巧みにポケモンを駆使してレッドと戦闘を行っている──状況整理すら追いつかず、目が回るような感覚を抱く。
なぜトウヤとレッドが戦っているのか。
そもそも、なぜトウヤが彼と渡り合えるほどの実力を持っているのか。
渦巻く疑問の矛先は、この光景を見せた大人へと向けられる。
「ゲーチスさん! どうなってるの!?」
「落ち着いてください、ベルさん。ワタクシとしても状況が分からず、下手に動けませんでした。……まさか、あの二人がトウヤさんとレッドさんだとは…………」
我ながらの名演技に心中で笑いかける。
傍から見れば今のゲーチスの姿は、ベルやイレブンと同じく状況を掴み切れておらず焦燥する一参加者として映るだろう。
「ゲーチスさんは、ずっとここにいたんですか?」
「ええ。外から物音がしたのでこの窓から覗き込んだのですが、その時にはもう戦いが始まっていましたね」
「そんな…………!」
嘘ではない。
事実、事の発端は目にしていないのだから。
しかし容易に予想はつく。あのバトルに飢えたトウヤのことだ、レッドを誘き出して先に仕掛けたのだろう。
必要以上の情報を与える必要は無い。
ここからの流れは、すでに掌握したも同然なのだから。
「とにかく、あの二人を止めないと……!」
「そーだよっ! トウヤもレッドさんも、なにか誤解してるだけだからっ!」
──ああ、やはりこうなった。
あまりにも予想通りの展開。
好都合を通り越してもはや滑稽にも思える。
「そうですね……お二人にお任せしてもよろしいでしょうか? ワタクシは周辺の様子を見てきます。あの音を聞き付けて危険な者が来ないとも限らない」
「わかりました……お願いします、ゲーチスさん…………!」
深く一礼し、イレブンがベルを連れて外へ出る。
その様子を見届けて、ゲーチスの顔面は遂に綻びを隠さない。
ベルとイレブンの信頼は、彼らを山小屋から助けた事ですでに勝ち取った。
もし万が一〝計画〟に不備があったとしても、あの二人を利用すればどうとでもなるだろう。
トウヤとレッドの戦いにあの二人が介入するとなれば、否が応でも混乱は避けられない。
それに乗じて自身がどんな動きをしたところで、気に掛けられる余裕などないだろう。
892
:
タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:10:54 ID:WfubCnaA0
「さて、もう少ししたら動きましょうか…………フフフ、それまでは高みの見物といきましょう……! 精々無様に踊り狂え、トウヤ……!」
世界は自分を中心に回る。
そう確信した男の哄笑は、まるで波瀾の序奏かのように響く。
役者は今、足並みを揃える。
白城を舞台にして、群像は織り成す。
熱く燃ゆる陽の喜劇も、淡く幽かな月の悲劇も。
如何なる結末であろうとも、目指す先は高く遠く。
花形の腕は、藻掻くように天へ伸びる。
◆
893
:
タイプ:ワイルド ──金色の夢、銀色の現
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:11:17 ID:WfubCnaA0
OK! 次に 進もうぜ
OK! 一緒なら 大丈夫
OK! 風が 変わっても
OK! 変わらない あの夢
ここまで来るのに 夢中すぎて
気づかずに いたけれど
新しい世界への 扉のカギは
知らない内に GETしていたよ
GOLDEN SMILE & SILVER TEARS
よろこびと くやしさと
かわりばんこに カオ出して
みんなを 強くしてくれてるよ
◆
894
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:12:16 ID:WfubCnaA0
︎◾︎
『────ポケモンはトレーナーの正しい心に触れることで物事の善悪を判断し、そして強くなる』
──ホウエン地方四天王、ゲンジ
◾︎
895
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:12:59 ID:WfubCnaA0
夢物語だと思っていました。
トレーナーとの絆こそが、何にも勝る力となる。
そんな謳い文句を幾つも見聞きして、私もそれを信じていました。
いいえ、きっと──信じたかっただけ。
薄々、そんな不確かで曖昧なものよりも、合理的な取捨選択こそが力なのだと気付いていました。
そんな現実を受け止めたくなくて。
いつしか私は、思考を止めてトウヤの指示に従っていました。
アイリスはどう思うか。
本当に、これが強さなのか。
そんな風に考えると、毒に侵されたかのような頭痛に襲われて。
心臓を茨に巻き付かれたような、鋭い痛みに見舞われて。
私は、己の本心から逃げ続けていました。
部屋で、ジャローダと会話をしました。
けれど彼女は、私よりも先に〝現実〟に気が付いていて。
私よりもずっと実力を伴う彼女は、まるでそれが真実だと突き付けるように。
物言わぬ、トウヤの人形と化していました。
ああ、やっぱり。
彼女は、私より遥か先を進んでいる。
それを自覚した途端、全てを投げ打ちたくなりました。
諦めていたのかもしれません。
私やアイリスの理想は、間違いだったのだと。
旅路の中で変わってしまったトウヤの考えこそが、強さに直結するのだと。
そう自分自身を納得させることで、苦しみから解放されたがっていたのかもしれません。
──そんな時でした。
赤い帽子を被った少年。
トウヤに似ていて、けれど決定的に違う存在。
彼は手持ちのピカチュウとオーダイルを、強く信頼しているようでした。
そしてそれは、逆も然り。
少年の期待に応えるように、持ちうる限りの力を尽くす二匹の姿を見て。
私の心は、強く揺さぶられた。
ああ、もしかしたら。
この子たちなら、もしかしたら。
夢を叶えてくれるかもしれない、なんて。
身勝手なのは重々承知しています。
けれどもう、トウヤを止められるのはこの世に貴方達しかいないから。
純粋だった少年の心に火をくべられるのは、今この瞬間しかないから。
だから、どうか。
絆の糸よ、解けないで。
◆
896
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:13:32 ID:WfubCnaA0
レッドから見て、旗色は非常に悪い。
既に優勢は目に取れるというのに、トウヤは一切油断も隙も晒す気配がない。
一パーセントの危険すらも排除し、妥協を許さない指示は残酷とさえ思える。
順当にいけば、トウヤの勝利は揺るがない。
もしも観客がいればそう思うのが当然の状況。
「ピカ、かげぶんしん! オーダイル、かみくだく!」
けれど、この少年は。
己と、相棒達の勝利を微塵も疑わない。
「ジャローダ、リーフブレードで切り払え! オノノクスは後ろに回り込め!」
翠色の横薙が分身を霞へ変える。
オーダイルの巨牙はオノノクスの影を噛むだけに終わり、回り込んだ竜の反撃を警戒し横っ飛び。
疲弊の息衝きを呑み込んで、オーダイルは再びオノノクスの鱗を噛み砕かんと迫る。
「オノノクス、下がれ」
やはり、捉えられない。
空振りに終わるオーダイルの隙を縫うように、ピカチュウが電撃を二匹へ放つ。
素早さに秀でたジャローダ、強化によりそれを上回る機動力を得たオノノクスはこれを余裕を持って回避。
体勢を立て直すオーダイルとピカチュウが、互いに背を預ける形に。
「へへ、強いなトウヤ……!」
「…………それはどうも」
二人の王者は、戦況と相対するかのように対照的。
窮地に立たされているレッドは心底楽しそうに笑い、勝利の兆しが見え始めたトウヤは無表情。
単なる心境の違い、という言葉で片付けていいほど単純な話ではない。
深い根っこの部分で繋がっている二人だからこそ、彼らが立っている舞台は、背負っているものは。
決定的な差を紡ぎ出し、遥か遠く映し出される。
「おかしな人ですね、負けるかもしれないのに笑うなんて」
だから思わず、問いかけた。
バトルの最中に余計な私語を挟むなど、とっくに無駄だと思っていたのに。
それでもこの少年は〝話す価値〟があると、そんなふとした気紛れで。
返答なんてろくに期待していなかったけれど、レッドは笑顔を崩さずに応える。
「まだまだだな、トウヤ」
歯を食い縛り、挑発の笑み。
弧を描く目元の先にいるトウヤは、ぴくりと眉を顰める。
「負けそうになるくらい白熱したバトルだからこそ、勝った時の喜びが大きいんだろ!」
────言葉が、詰まる。
返答する価値もないだとか、そんな理由ではなくて。
脳裏を掠めるセピア色の残影が、喉を震わせた。
勝負事においてなんの意味もないと、奥底に封じ込めていた懐旧の記憶。
少年の手によって無理やり引きずり出されたそれは、風の音や景色、草原の匂いまで鮮明に再現する。
897
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:14:09 ID:WfubCnaA0
『────がんばれ、ツタージャ!』
思い出したくもない、かつての自分。
絆が力となり、激励が勝利に繋がると本気で信じ込んでいた未熟な青二才。
邪魔だと切り捨てたはずのそれを、目の前の王者はさぞ大事そうに抱えていて。
得体の知れない忌々しさが、胸を焼いた。
「そんな強がりも、勝たなきゃ意味がない」
それを受けてか。
彼にしては珍しく、勝負を急ぐ。
水面に波紋を作り出すかのように、場の流れに手を加える。
「────ジャローダ、リーフストーム」
空気が変わる。
逆巻く強風が、ひしめく大地が。
この場にいる生命に、極度の緊張をもたらした。
「ピカ、オーダイル! 柱の裏に隠れろ!」
下した号令に耳にして、二匹は迅速に障害物に身を隠す。
もしその命令がなくとも、本能で回避を選ばせたであろうと確信させる厄災。
〝それ〟が鎖から解き放たれたのは、二匹が跳び立つのとほぼ同時であった。
「────っ……!」
咆哮、大嵐、竜巻、暴風、鎌鼬。
足りない。それを形容するには、どれも足りない。
荒れ狂う翠風は螺旋を描いて、中庭の一部を抉り取り我が物顔で突き進む。
捲り上がる地面、散る草花。
直撃を受けた柱に穴が開き、重厚な音を立てて地へ沈む。
もはや応戦どころではない。
回避に全力を尽くすピカチュウ達は、もう一つの脅威を野放しにしてしまった。
「オノノクス、りゅうのまい」
それは、冷酷な死刑宣告。
無慈悲な指令を聞いたのは、オノノクスだけではなく。
暴風の中でも確かに届いたその声に、レッドは戦慄を抱いた。
三段階の強化を経たオノノクス。
素の力では四匹の中で最も劣っていたはずの彼女は今、〝最強〟の存在と化した。
◾︎
898
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:14:52 ID:WfubCnaA0
────リーフストーム。
莫大な威力と引き換えに、己の特殊攻撃力を著しく下げる大技。
安定しない命中率とデメリット効果を鑑みて、下手な乱用は身を滅ぼすとトウヤは考えている。
事実、無造作に振るわれた大技は一匹も仕留められず、自身の能力を下降させるだけの結果で終わった。
しかし、それはシングルバトルでの話。
「ジャローダ、戻れ」
「え……!?」
トウヤの手にあるボールへ、赤い閃光と共に吸い込まれるジャローダ。
二対二のバトルの最中で、戦闘不能に陥った訳でもないポケモンを下げるなど正気の行動ではない。
驚愕するレッドはしかし、彼の狙いをすぐに察する。
(まさか────!)
「オノノクス、ドラゴンテール」
推察の答え合わせをするかのように、オノノクスがオーダイルへ飛び掛かる。
もはや回避が間に合うレベルではない。
咄嗟に防御したオーダイルの巨体を、しなる尻尾が無慈悲に吹き飛ばす。
「ピカ、十万ボルト!」
「かわせ、オノノクス」
残るピカチュウの電撃を、オノノクスは余裕を持って回避する。
これが、ジャローダが不在である〝一手〟で行われた攻防。
「いけ、ジャローダ」
そして再び、森の君主が顕現する。
森林に住まう生命を平伏させる高貴さを纏って、それは目前の敵を睨む。
空気のざわめきと共に訪れる不穏な予感。
当たって欲しくないと願っていた推測は、答えとなって示された。
────ポケモンバトルの基礎の話をしよう。
バトルの最中に行われた〝りゅうのまい〟や〝つるぎのまい〟といった能力値の変化は、永続ではない。
一度ボールに戻してしまえば、ポケモンのステータスは元の値に戻される仕組みだ。
ここで重要なのは、なにも戻されるのは強化効果に限らないということだ。
ステータスが元に戻るのであれば、逆を言えば──能力値が下がった場合、一度ボールに戻してしまえばいい。
言うだけならば簡単だが、思いついても出来るような者はそういない。
ダブルバトルにおいて一匹を戻すということは、残された一匹で二匹の相手を担うことが強要されるのだから。
まともな神経をしていれば、そんな不利に直結するようなことはしない。
「ジャローダ」
けれど、例えばそれが。
圧倒的な能力上昇で、他の追随を許さない力を得た者が残されたのならば。
たったの〝一手〟程度、時間を稼ぐことなど造作もないのかもしれない。
「リーフストーム」
暴威が降る。
先程のそれと全く遜色のない破壊力を伴って、潰滅の限りを尽くす大自然の奔流。
二度目となるそれは、強制的にレッドの選択肢を奪い去った。
899
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:15:18 ID:WfubCnaA0
「ピカ、オーダイル! 避けろ!」
回避を怠れば即座に敗北を叩き付けられる。
大袈裟なまでの横っ飛びでリーフストームをやり過ごすが、そう何度も躱せるものではない。
砕けた柱の破片がピカチュウの身体に衝突し、短い悲鳴を上げさせた。
「戻れジャローダ。オノノクス、ドラゴンテール」
負傷したピカチュウを気にかける余裕もない。
再び下げられるジャローダ、同時に襲いかかるオノノクス。
そこからはもう先の光景の焼き直し。距離を取らされたオーダイルと、ピカチュウの反撃を躱すオノノクスの姿。
────戦況は絶望的。
ペースが、完全に呑まれ始めている。
トウヤの姿が遠く、遥か遠くに見える。
眼前のオノノクスが、怪獣の如く巨大に映る。
勝ち目などまるで見えない。
だというのに、この少年は。
逆境の中でこそ、熱く燃え滾る。
風で吹き飛ぶ赤い帽子。
鮮明に映える王者の顔。
レッドは────笑っていた。
◾︎
900
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:15:55 ID:WfubCnaA0
トウヤは理解できなかった。
レッドが浮かべている笑みの正体を。
まさか、ここから打開策でもあるというのか。
常人では到底並び立てぬ思考力を持ってしても、答えは出せずにいて。
再びジャローダを出そうとボールに手をかけた、まさにその瞬間。
「オーダイル!」
強く、振り絞るような声色。
ぴたりと嵐が止んだような、そんな〝予感〟に囚われた。
「────じわれ!」
今度はトウヤが目を剥く番だ。
じわれ──地割れ。その単語の意味を理解すると同時、夥しい情報量が彼の脳を埋め尽くす。
(馬鹿な、オーダイルはじわれを覚えないはず……!)
まず最初に浮かぶ疑問はそれ。
トウヤの知る限り、オーダイルはじわれを習得しない。
全てのポケモンが習得するワザを死ぬ気で叩き込んだのだ、〝ほぼ〟間違いないと言っていい。
────要するに、断言はできない。
この世には、なみのりやそらをとぶを覚えるピカチュウがいるという。
通常では習得不可能なわざを、果たしてどんな理屈か、使用出来るポケモンが確かに存在するのだ。
加えてオーダイルは、じわれこそ覚えないが同系統の〝じしん〟を習得できる事実がある。
なにより、決め手となったのは。
一瞬の迷いもなく片足を振り上げ、今まさに地面を蹴り抜こうとしているオーダイルの姿。
「────オノノクス、上に跳べ!」
トウヤは、誰よりも勝利に徹底している。
驕りや油断といった、読み負ける要因の尽くを排除してきた。
それが例えどんなに可能性の薄いものだとしても、一切の妥協を許さない。
戦闘特化のアンドロイドであるA2にさえ、容赦がないと称されるほどに。
並のトレーナーであれば、目先のメリットを優先して攻撃指令を下すであろう。
じわれは当たりさえすれば一撃必殺であるが、その命中率は恐ろしく低い。
けれどそれはつまり、ゼロパーセントではないということだ。
理を突き詰め続けたトウヤは勝負事において、〝天運〟というものに信頼を置くことができなかった。
901
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:16:37 ID:WfubCnaA0
そして、それが。
トウヤのその容赦のない性格が。
このバトルの風向きを変えた。
オノノクスが跳ぶ。
オーダイルが地面を踏む。
同時に起きた出来事。同時に行われた攻防。
しかし結論から言えば、一撃必殺の地殻変動は起きなかった。
〝起きるはずが〟なかった。
「っ──、しま────」
しまった、と。
口にするよりも先に、遮られる。
力強い指差しが狙いを定めて。
翼も持たずに宙へ投げ出され、機動力を殺されたオノノクスへ。
少年の相棒が、目を光らせた。
「ピカ、でんじは!」
黄色い円形の帯がオノノクスを包み込む。
バチバチと、強烈な静電気が鱗を迸る。
着地と同時に体勢を崩す竜の姿が、彼女の身に起きた異変を存分に知らしめた。
(やられた……!)
この瞬間、オノノクスが受けてきた素早さ上昇の恩恵は無意味と化す。
最初から狙いはこれだったのだ、と。理解した瞬間に抱いた感情は畏怖に似ている。
よもやポケモンバトルでブラフを交えるなど、それこそ無法も無法。
しかしトウヤが総毛立つ理由は、それではなかった。
あの瞬間オーダイルは。
躊躇いも逡巡もなく、覚えもしない地割れを行う〝フリ〟をしてみせた。
どんなに忠実なポケモンであろうとも使えないわざの命令を下されれば、まず戸惑いを見せるはずなのに。
あの一瞬で意図を汲み取る知能を持っていたのか、もしくは────よほどの信頼関係を築いていたとしか思えない。
そう──、絆や信頼。
トウヤが〝不要〟と切り捨てたそれが決め手となって。
今まさに、形成を覆す要因となったのだ。
「ピカ、ボルテッカー!」
「っ、……ジャローダ! リーフブレード!」
ノイズを振り払いジャローダを出す。
固定砲台の役目は、相方であるオノノクスが麻痺している以上放棄するしかない。
電撃纏う突進がオノノクスに到達する寸前、ジャローダの尾がそれを相殺する。
「オーダイル!」
呼びかけられたオーダイルが攻撃態勢に入る。
ペースを乱されたことに僅かに動揺の色を見せたトウヤは、オノノクスへの指示を迷う。
今のオノノクスの機動力は皆無に等しい。下手な回避は困難だろう。
しかし、りゅうのまいによって得た攻撃力上昇の効果はまだ潰えていない。
オーダイルの攻撃の癖はもう見抜いた。
顎を大きく開ける姿勢、今まで散々みせた〝かみくだく〟の予備動作だろう。
今のオノノクスであれば十分に受け止められる。そこで反撃を見舞えばいい。
そんなトウヤの〝妥協〟は、
致命的なミスとなり、窮地を引き寄せる。
「こおりのキバ!」
喉奥から息が漏れ、汗が頬を伝う。
驚きよりも先に、己の犯した失態に血の気が引いた。
そうだ、あの地割れはブラフ──つまりオーダイルはまだ四つ目のワザを見せていなかった。
902
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:17:04 ID:WfubCnaA0
「く、……オノノクス! きりさく!」
「いっけーーー! オーダイルっ!!」
冷気を纏う巨牙がオノノクスの首筋に食らいつく。
黄金の鱗に亀裂が走り、弱点であるこおりタイプということも相まって容易く防御を貫いた。
苦悶の呻きを上げるオノノクス。
勝負が決してもおかしくないダメージを負いながら、それでも応戦する彼女もまたこの死闘に参加する〝資格〟を有していると言える。
「オノノクス……!」
「オーダイルっ!」
牙と牙が、互いの首筋へ突き立てられる。
どちらかが倒れるまでこの拮抗は続くのだと、誰もが確信する。
ここまで来れば互いのトレーナーが介入できることなど、なにもない。
「グルルル……」
オノノクスが低く唸る。
その声が届いたのは、相対するオーダイルだけだった。
──〝どうして、貴方は戦うのですか。〟
竜の問いかけに、鰐が答える。
「オォダ、ァ……!」
──〝この人になら、従ってもいいと思ったからさ。〟
蒼玉のような澱みのない瞳。
濁りのない、宝石のような煌めき。
ああ、そうか。と。
やっぱり自分は間違っていなかったのだと。
オノノクスは、まるで何かを掴んだかのように。
後のことを託すかのように。
紅玉のような瞳を、静かに閉ざした。
◾︎
903
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:17:52 ID:WfubCnaA0
ずしんと、大きな質量が地に伏せる。
力を失い倒れるオノノクスを、勝者であるオーダイルが見下ろして。
誇り高さを象徴するような彼の笑みが、陽光の下で輝いた。
「へへ、やったな……オーダイル!」
「………………戻れ、オノノクス」
オノノクスを失った今、トウヤができる事はぐんと狭まる。
振り返るピカチュウとオーダイルの視線が、ジャローダへと向けられた。
二匹同時の猛攻を凌げるような機動力は、今のジャローダにはない。
オノノクスをボールに戻すと同時、焦燥と決意の入り交じった顔を浮かべた。
背に腹はかえられない。
未来を見据えて出し惜しみすれば、今を切り抜くことなど出来ない。
そうしてトウヤが導き出した答えは────
「ジャローダ、リーフストーム!」
三度目となる大技。
異なる点は、もうデメリットを打ち消す手段がないということ。
一度きりの大技──乱発を避けるべきと下したが、今撃たずにして〝次〟は来ないだろう。
破壊の権化が辺りを灼き尽くす。
避けろ、と。迷いなく下された指示は、暴風に掻き消されたのか否か。
もしくは届いたが、それが許される余力が残されていなかったのか。
「グ、オォ……ダ…………ッ!」
翠色の螺旋がオーダイルを呑み込む。
タダでさえボロボロであった肉体が、弱点の大技を耐えることなど出来るはずもなく。
強靭な筋肉に無数の切創を走らせ、骨が軋む音を聞きながら。
圧倒的な推力に見舞われて、壁へと叩きつけられたオーダイルはそのまま倒れ伏した。
「オーダイル!!」
「ジャローダ、リーフブレード!」
「っ、……ピカ! 避けろ!」
オーダイルを気遣う余裕もなく、流れざまに放たれるジャローダの一撃。
反撃の体勢を立て直す暇もなく襲いかかる連撃。ピカチュウは大きく後方へ距離をとる。
「オーダイル、ありがとう……よくやった! ゆっくり休んでくれ!」
警戒をそのままに、オーダイルをボールへと戻すレッド。
トウヤもまた、今まで以上に慎重に相手の出方を伺う。
顔を向かい合わせ、対峙するピカチュウとジャローダ。
戦況もルールも一変した今、今まで以上の緊張が迸った。
「言っただろ、トウヤ」
レッドの声が耳を木霊する。
「バトルは負けそうな時ほど、楽しいんだって」
言葉のやり取りをする気など毛頭ないのに。
この飢えを満たすのは、戦いだけだと思っていたのに。
なぜだかその声を無視することが出来なかった。
904
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:18:36 ID:WfubCnaA0
「今のトウヤも、そんな顔してるぜ!」
華やかで、濁りのない笑顔。
曇天の隙間から差し込んだ陽光のように、眩しくて。
チャンピオンという栄誉に囚われず自由に。
未だ残影を追いかける自分を置いていくように。
ただひたすらに前を向き続ける彼にあてられたのか、トウヤの口元には薄笑いが浮かんでいた。
「第二ラウンドです、レッドさん」
「ああ! ──のぞむところだっ!」
ああ、もしかしたら。
自分が本当に求めていたのは、〝勝利〟ではなく。
敗北だったのかもしれない、なんて。
────ひどく、今更な話だ。
◾︎
「イレブン! あれ──って、うわっ!?」
ベル達が中庭に辿り着いたのは少し前。
リーフストームの余波が周囲を呑み込む瞬間。
王の間で見た時よりも凄惨な戦場に、ベルの体を庇うイレブンは戦慄を抱いた。
「…………とめないと、」
それは半ば、己へ発破をかけるためのまじない。
こうして使命感を与えなければ、尻込みしてしまいそうだったから。
死闘を広げる彼らとイレブンたちを隔てるのは、頼りない腰程の高さの鉄柵のみ。
いつ誰が怪我をするか分からない状況に急かされ、イレブンはラリホーを撃とうと掌に魔力を宿らせる。
「まって、イレブン!」
そして、それを止めたのは。
潤んだ瞳で見上げるベルの一声。
「ベル…………?」
「よく見て、イレブン! 二人の顔!」
なぜ止めたのか、と。
そんな疑問を先読みしたかのように、ベルが述べる。
「…………あ、……」
目を凝らす。
我ながら、間の抜けた声を漏らす。
イレブンが見ていたのは、ポケモン達が繰り広げる激闘という状況だけだった。
けれど彼らの顔に注目してみれば、まるで見え方が違ってくる。
なんのしがらみもなく。
殺し合いという使命も忘れて。
自分自身をぶつけ合う彼らは、まるで互いのことしか目に入っていないようで。
想起したのは、戦いを会話とするグロッタの闘士たちだった。
「二人とも…………すごく、楽しそう」
ベルの顔は、どこか羨ましそうで。
テレビの中でしか見た事がなかったチャンピオン達の戦いに馳せる、一緒に巣立った幼馴染の姿を、自慢気に見ていて。
遥か遠くにいる彼の姿を、心から祝福しているようで。
「……そう、だね」
勇者は、見届ける道を選ぶ。
歴史上においても、最高峰のポケモンバトルを目の当たりにするのは、たった二人の観客(オーディエンス)。
世代を越えて、時空を越えて。
集う彼らは、前を向き続ける。
(次なる世代へ)
────アドバンス・ジェネレーション。
◆
905
:
タイプ:ワイルド ──紅玉の栄誉、蒼玉の残影
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:20:11 ID:WfubCnaA0
勇気凛々 元気溌剌
興味津々 意気揚々
ポケナビ持って 準備完了!
先手必勝 油断大敵
やる気満々 意気投合
遥か彼方 海の向こうの
ミナモシティに 沈む夕陽よ
ダブルバトルで 燃える明日
マッハ自転車 飛ばして進もう!
WAKU WAKU したいよ
ぼくらの夢は 決して眠らない
新しい街で トキメク仲間
探していくんだよ
◆
906
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:21:07 ID:WfubCnaA0
︎◾︎
『────ポケモンには優しく、どこまでも優しくしてあげてね。
あなたのポケモンはあなたのために頑張るんだから!』
──フタバタウン、ママ
◾︎
907
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:22:29 ID:WfubCnaA0
「ピカ、かげぶんしん!」
「ジャローダ、リーフブレード!」
一対一、シングルバトル。
何事も介入を許さない、正真正銘混じり気のない実力勝負。
命運を預けられた相棒は、〝全力〟という形で主人へと応える。
「ピカ、十万ボルトだ!」
「避けろジャローダ! 返しにアクアテール!」
指示をするたびに。
攻撃を当て、受けるたびに。
かつて見た、旅の記憶が蘇る。
「まだまだ! ピカ、でんじは!」
「ジャローダ、柱を盾にして回り込め!」
──〝ねえ、ツタージャ。〟
「後ろからリーフブレード!」
「尻尾で受け止めろ! ピカ!」
──〝誰にも負けないぐらい、強くなろう。〟
「がんばれ! ピカ!!」
「っ──、…………」
──〝ボクたちなら、きっとできるよ。〟
ジャローダが打ち負ける。
体勢が崩れ無防備な腹を晒す蛇姫へ、鋭い電撃が振るわれた。
苦い結果に歯噛みをしながらも、トウヤはその光景をどこか予感していた。
なぜだろうか。
打ち合いに関しては、体格の勝るジャローダの方が有利だというのに。
トウヤはこの結果に、不思議と疑いを持たなかった。
「ピカ、もう一押しだ!!」
「ジャローダ、リーフブレードを地面に撃て!」
追撃を仕掛けるため、疾駆する電気鼠。
避けるためでもカウンターのためでもなく、縦一文字の斬撃が大地を貫いた。
抉れた衝撃で四方八方へと繰り出される無数の礫。
散弾となって襲いかかるそれらは、でんきタイプであるピカチュウにとって致命的な弱点となる。
「よけろ! ピカ!!」
引き連れた影分身のうち、いくつかが身体を撃ち抜かれ霧散する。
しかし本体であるピカチュウは、壁や倒れた柱を駆使した三次元的な動きで、掠り傷一つ負わずにやり過ごした。
「ピカ、ボルテッカーだ!」
「ジャローダ、リーフブレード!」
着地から切り返し、迅雷と化すピカチュウ。
ジャローダもまた翠緑の斬撃で返し、互いに衝撃で弾かれる。
ぐるりと反転する身体。
そのまま回転を活かして互いに尻尾を打ち付け合い、幾度目かの鍔迫り合い。
軽快な音が鳴り渡る。
ワザでもない純粋なフィジカル勝負。
一瞬の拮抗の後、疲弊の差により今度はピカチュウが吹き飛ばされた。
「ジャローダ、追いかけ──っ!?」
追従の指示を下そうとして、異変を悟る。
蛇妃の体表にはバチバチと電気が迸り、高貴さを失わなかった顔は苦しげに歪んでいた。
「〝せいでんき〟か……っ!」
「へへ、さっすが俺の相棒!」
ピカチュウの特性、せいでんき。
その効果は接触技を受けた際に発揮し、低確率で相手を麻痺状態に陥れる。
この土壇場でそれを引き当てるなど、なんという幸運の持ち主だろうか、と。
そんな無粋な考えを浮かばせたところで、トウヤは首を振る。
────幸運?
本当に、そんな言葉で片付けていいのか。
このレッドという男は、これまで幾度も不合理な戦い方を見せつけてきた。
それの原動力となったのは、ポケモンへの揺るぎない信頼。
ならばこの現状も、理に囚われない力が働いたのではないのか。
「ジャローダ……ピカチュウをよく見ろ。冷静な君なら出来るだろう」
それに気がついたところで。
トウヤに出来ることは、理に満ちた戦法。
908
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:22:58 ID:WfubCnaA0
「ピカ! かげぶんしん!」
ジャローダはそれに無言で従う。
細めた瞳がピカチュウを追いかける。
五匹の分身が撹乱のために動き回るが、冷静さを乱さないジャローダには意味を成さない。
絶え間なく動き回るピカチュウに対し、ジャローダは最小限の動きで対応する。
どこまでも対照的な〝静〟と〝動〟の戦い。
「ピカ! ────!」
「ジャローダ、────!」
繰り出される電撃や突進は、蛇妃を捉えられずに時間だけが浪費される。
しかし残像を描くほどのスピードに加え、麻痺が響いて完全には躱しきれず、チリリと焦げ跡が目立ち始めた。
体力が消耗してゆく。
精神がすり減ってゆく。
折れぬ意志、欠けぬ理念。
磨き上げられた宝石のように、硬く美しく。
互いの掲げる輝きを、これでもかと見せつけ合う。
「がんばれ、ピカ──!!」
「っ、…………!」
そこにいるのは、王者ではない。
冠もマントも放り投げて、強敵(ライバル)と競い合う挑戦者。
「ジャローダ────」
栄光も、過去も、彼らを縛るものは何もない。
無垢でまっさらな一人の旅人となって、高みを目指す。
必要なのは知識でも、技術でもなく。
金剛のように、決して砕けない〝情熱〟。
口にすることなど、もうないと思っていた。
今更彼女にそれを言う資格など、ないと思っていた。
強くならなくちゃ、と。
そんな呪縛に囚われていた心が、熱に当てられて雪解けるように。
風に帽子をさらわれた少年は、喉奥を震わせる。
「────がんばれ!」
旅人の一声は、鋭く空気を切り裂いて。
耳にした蛇妃の目には、かつての情景が広がる。
戦って、負けて、負け越して。
悔しさに打ち震え、誰にも負けないと臆面もなく宣言する少年を見て。
その道を共に歩もうと誓う、自分の姿が──そこにいた。
◆
909
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:23:48 ID:WfubCnaA0
彼(トウヤ)が私を選んだ理由は、本当に些細なきっかけだったらしい。
最初の三匹の中で、私が一番人を怖がっていたから。
そんな意味のわからない理由に首を傾げていたけれど、彼と旅をする中でなんとなく本心が見えはじめた。
私は、人と関わるのが怖かった。
人間というのはポケモンよりもずっと複雑な感情を持っていて、何を考えているのかまるで分からなかったから。
閉鎖的な世界で閉じこもることを理想としてきた私は、自然と外の世界に対して消極的になっていた。
きっと彼は、そんな私の気持ちを見抜いていたんだと思う。
少しでも私を前向きにさせようと。
少しでも私に世界の広さを教えようと。
途方もない旅の相棒として、選んだのだろう。
『ねぇ、ツタージャ』
『ジャァ?』
何気ない会話。
まだ彼の手持ちが私を含めて三匹しかいない頃。
苦手なむしタイプで固めたヒウンジムのジムリーダーに、それは見事に返り討ちにされた時の記憶。
私たちは、夕陽のよく見える丘にいた。
『ごめんね。君を勝たせられなくて』
彼の気持ちは、分からなかった。
負けて悔しいのは、誰よりも彼自身のはずなのに。
口癖のように「ごめんね」と口にする彼が何を考えているのか、理解できなかった。
けれど思い返してみれば。
それが私の、行動理念だったのかもしれない。
『ツタージャ。ボクはね、一番にならなくてもいいと思ってたんだ』
ぽつりと、帽子を深く被り直してトウヤが言う。
いきなり何を言い出すんだと、訝しげな視線を向けた覚えがある。
そうするとトウヤは少しだけ微笑んで、思い返すように目を閉じた。
『ベルもチェレンも、一緒に一歩を踏み出したから。ボクだけが先を歩く必要もないかな……なんて、そんな風に考えてたんだよ』
知ってる。
その光景は、ボール越しに見ていた。
きっとそれはベルが選んだミジュマルも、チェレンが選んだポカブも同じだったはずだ。
『けれど、ね。ボクはボクが思っていたよりも、ずっと負けず嫌いだったみたいだ』
夕陽に照らされた彼の顔が、儚げに映る。
眉尻を下げて、唇を震わせる彼はとても悔しそうで、私はなぜだかそれを見るのが嫌だった。
『負けてもいいだなんて、そんな中途半端な気持ち……ベルもチェレンも持ってない』
いや、きっと彼が悔しいのは。
バトルに負けたことじゃなくて、それを受け入れていた自分自身なのだろう。
物事を俯瞰的に見てしまう〝れいせい〟な性格だからこそ、断片的に彼の感情を読み取れてしまう。
『それに気付かせてくれたのはキミだ。ありがとう、ツタージャ』
ひどく穏やかに、そう微笑むトウヤ。
橙色の光源が横に差し、彼の顔に明暗がくっきりと浮き上がる。
私は、控えめに頷くことしか出来なかった。
────うそつき。
どうしてだろう。
人の考えなんて、まるで分からないのに。
私はなぜだか、トウヤの心だけは読むことができた。
910
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:24:19 ID:WfubCnaA0
トウヤは嘘をついていた。
まるっきりの出任せではないけど、彼が勝ちに拘るようになったのはそれだけの理由じゃない。
本当の理由は、私にあった。
『ジャ、ァ…………』
負けず嫌いだったのは、私。
プライドが高くて、高飛車で、身の丈に見合わない自信に満ちていた私は。
敗北という屈辱に耐えられなかった。
トウヤはそんな私の性格を、誰よりも先に見抜いていたんだ。
彼は、私よりずっと冷静だった。
可能な限り私を傷つけないように、優しい嘘を吐き続けて。
がむしゃらに、だけど的確に。勝利を得るため成長を遂げていった。
────ねぇ、トウヤ。
────あなたを変えてしまったのは、他でもない私なの。
彼から純真さを奪い取ったのは、私だ。
だからせめてその責任を取ろうとして。強くなるために、努力をした。
〝勝利〟という結果を過程として、共依存じみた関係を築いていたのかもしれない。
そんな私が、〝強さ〟に囚われた彼に捨てられることになったなんて。
皮肉な話だけど、自業自得だ。
だから私は運命に呪いをかけて、蓋をして、彼の操り人形となることで自身を保とうとした。
なのに。
それなのに。
どうして今になって。
がんばれだなんて言うの。
勘違いしてしまう。
自分は人形ではなく、彼のパートナーなのだと。
そんなことを思う資格なんてないはずなのに、心のどこかで喜んでしまう。
ああ、本当に。
彼はなんて残酷なんだろう。
女心を弄ぶなんて、ひどい人だ。
けれど、トウヤ。
私はきっと、そんな貴方のことが────
◆
911
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:25:03 ID:WfubCnaA0
翠色の尾が斜めに這う。
地を抉り、目眩しとなった砂埃にピカチュウは反応が遅れて直撃。
それは間違いなく、これまでジャローダが見せた中で最も冴え渡る一撃であった。
「ピカ!!」
レッドの呼び掛けに応じ、空中で体勢を整えるピカチュウ。
ダメージを感じさせない強気な顔で振り向いて、にやりと笑ってみせる。
まだまだやれるぞ、と。そう伝えるように。
「行けるよな、ピカ」
相棒の意図を汲み取り、レッドが笑う。
対してピカチュウは、頬にバチバチと電気を走らせながら頷く。
「ジャローダ」
名を呼ばれたジャローダは、横顔を見せる。
紅蓮の目線はぎこちなく空を彷徨い、少ししてトウヤの目を見た。
僅かに緊張と期待の入り交じった面持ちを浮かべて、耳を澄ます。
「いい攻撃だったよ、その調子で勝とう」
高貴なる蛇妃は、不意に心が軽くなる。
ひどく久方ぶりな感覚だ。緩む口元が彼女の抱くモノを物語る。
ピカチュウは、折れない。
レッドという少年を心から信頼しているからこそ、自分が折れてはならないと理解しているのだ。
そしてそれは、ジャローダも同様に。
違う点があるとすれば、彼女が折れない理由はトウヤへの信頼というよりも、過去への贖罪のためといえる。
金剛のように砕けぬ意志が相手ならば。
静かなる海底で目覚めを待つ、真珠の如き理念をもって応えよう。
「ピカ、ボルテッカー!!」
「ジャローダ、かわしてリーフブレード!」
まるで落雷が水平に落ちたような白い輝き。
その源となる小柄な身体は、触れるだけで勝負を決しかねないパワーを秘める。
全身全霊で回避を試みるも、麻痺によって機動力の落ちた今完全に躱しきれず皮膚を掠めた。
迸る激痛と熱に顔を歪ませる。
気品さなど感じられない必死の形相。
しかしここには、それを嗤う者など一人としていない。
「ジャ、ァ……ッ!」
「ピ、カ……!?」
返しのリーフブレード。
ピカチュウの前脚を掠め取り、苦悶の声を上げさせる。
即座に反応してみせたが決して浅くはない。
ジャローダほどでは無いにせよ、自由が利かない身体では闇雲な突撃は無謀。
一度距離を取り、互いに数歩分の猶予を残して相克する。
片や稲妻を頬に、片や翠風を尾に。
可視化出来るほど凝縮された力を溜め込んで、主人へ目配せをする。
いつでもいけるぞ、と。
それを汲み取れないほど、彼らの築いた関係は浅くない。
「ピカ、十万ボルト!」
「ジャローダ、リーフストーム!」
疾風迅雷、とはまさにこの光景。
高密度のエネルギーが塊となり、衝突。
迸る稲光、荒れ狂う烈風。
あれほど圧倒的とも思えたリーフストームの破壊力も、二段階の威力低下を経て電撃を喰らうことを許されない。
拮抗はほんの一瞬。
異なる属性による最高峰のせめぎ合いは、爆発という結末で終わりを告げる。
爆風に晒されて勢いよく吹き飛ばされる二匹の身体。
二匹は鏡写しのように同時に宙返り、体勢を立て直した。
912
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:25:40 ID:WfubCnaA0
「ピカ、もう少しだ! がんばれ!!」
「ジャローダ、油断するな! 冷静に勝ちに行こう!」
決着が近い。
互いにそれを悟ったトウヤとレッドは、激励を飛ばす。
ここまで来ればいい加減、もう読み合い云々ではなく、相手の考え方も分かってくる。
良き理解者であり、良き強敵(ライバル)だからこそ────全力で受け止めてくれるだろうと、信頼していた。
「ピカ──」
「ジャローダ──」
恐らくは、これで決まる。
互いの体力量を見る限り、これを当てた者が勝利すると確信する。
これまでに培われた絶対的な経験と洞察力は嘘をつかない。
「──……、……」
「トウヤ…………」
空気が歪む程の圧に当てられる観客席。
イレブンとベルも、激闘の終わりを感じ取り固唾を呑む。
一言も声を出せず、一瞬足りとも目を離すことも許されなかった戦い。
それが今、終わろうとしている。
「────ボルテッカー!」
「────リーフブレード!」
稲妻のようなジグザグ走行。
並のスポーツカーを遥かに越える神速もしかし、前脚の傷により不完全。
しかし条件はジャローダも同等。
麻痺により回避が困難な今、衝突の直前を見極めて居合を放つしか道はない。
交錯は刹那。
コンマ数秒のズレも許されない、シビアなカウンター。
糸のようにか細く薄い勝機を、手繰り寄せんと決死を尽くす。
電撃が迫る、まだ遠い。
電撃が迫る、まだ遠い。
電撃が迫る、もう少し。
電撃が迫る、今だ。
刀が振るわれる。
あまりに静かに放たれたそれは、音さえ切り裂いたのではないかと錯覚させた。
交錯が終わり、二匹は互いの傍を過ぎる。
喧騒に溢れていたはずの中庭を、静寂がしんと呑み込んだ。
913
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:26:27 ID:WfubCnaA0
勝負を制したのは。
ジャローダであった。
「ピカ……っ、……!!」
無音を打ち消したのは、レッドの悲痛な声。
慣性に則った減速の後に倒れ伏すピカチュウの身体には、流れるような一筋の傷が刻まれていた。
対するジャローダは。
振り返り、ピカチュウからトウヤへと視線を移す。
その顔は果たして、勝利の余韻に浸るわけでも達成感に満ち溢れるわけでもなく。
実感の追いつかないような、戸惑いが滲んでいた。
「…………オレの勝ちです、レッドさん」
そんな彼女を後押しするかのように、そう告げる。
紙一重の勝利だった。
一つでも違っていれば、負けていたのは自分だった。
けれどこの瞬間をもって、バトルを制したのは間違いなく自分なのだと。
「何言ってんだよ」
そんな〝間違い〟は、呆気なく否定される。
「まだ、勝負は終わってないだろ」
何を、と。
口にするよりも先に、鋭い悪寒が背筋を捉える。
「そんな、……ばかな……!」
トウヤの視線はレッドからピカチュウへ。
瞬間、彼の瞳は有り得ないものを見るかのように大きく見開かれた。
ボロボロの体で、今にも倒れそうになりながら。
それでも燃え上がる闘志を隠そうともせずに、瞳の奥に炎を宿して。
────ピカチュウは、立っていた。
耐えるはずがない。
残り体力から見て、リーフブレードを受け切ることなど不可能だったはずだ。
幾千幾万の戦いを乗り越えて、対象のステータスを数値化するほどの慧眼を持つトウヤだからこそ、断言できる。
914
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:27:25 ID:WfubCnaA0
どこかの悪の首領が言った。
────君は、とても大事にポケモンを育てているな。
その時に見せた表情は。
威厳と風格に、一抹の寂寥を交えたような複雑さを持っていて。
どこか遠くに置いてきてしまったモノを見遣るような双眸が、忘れられなかった。
────そんな子供に、私の考えはとても理解できないだろう。
確かにそうだ。
俺はその男の思想を、理解出来なかった。
どうしてポケモンを悪事に使うのか。どうしてポケモンを世界征服の道具にするのか。
時に笑い、時に泣き、時に喧嘩し、時に仲直り。
俺にとってポケモンは、かけがえのない仲間だと思っていたから。
彼らと共に足並みを揃えることこそ、最高のポケモンマスターだと信じていたから。
何故みんなその光を目指さないんだろう、なんて。子供だった俺は心から不思議だった。
けれど、今思えば。
その男もきっと、目指していたんだ。
夢の果てへ進み続けて。
躓いては立ち上がり、遂に手の届く所まで来た頃には。
眩い光に当てられた世界に生まれた、影の部分に染められてしまった。
皆が皆、幸せでいられる世界になればいい。
そんな綺麗事を吐くだけでは、理不尽に涙する人も、ポケモンも、救えない。
だからあの男はきっと、〝光〟でいることをやめてしまったんだと思う。
あいつはきっと、理解して欲しくなんかなかったんだろう。
けれど今なら、少しだけ理解出来てしまう。
あの男とトウヤは、同じ目をしていたから。
だったら、もう一度教えてやる。
忘れていたなら、呼び覚ましてやる。
どんなに世界が残酷でも。
どんなに世界が不平等でも。
仲間と過ごした時間は、築き上げた絆は。
そんな闇なんて切り払う、強大な光になるんだってことを。
あの時俺達が過ごした時間は、何にも負けない力になるんだってことを。
なあ、そうだろ?
────トウヤ。
◆
915
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:28:12 ID:WfubCnaA0
おかしな話だった。
あれほど忌避していた敗北に直面したというのに、心はこんなにも晴れやかなんて。
ゆっくりと倒れ伏すジャローダをボールに戻し、トウヤは空を仰ぐ。
彼の心情を表すかのような晴天。
雲の隙間から顔を覗かせる太陽が、勝者を照らし出す。
「やった……! やったぞ、ピカ! ありがとう、よく頑張ったなピカ!!」
満身創痍のピカチュウを抱きかかえ、惜しみない賞賛を送るレッド。
力なく声を上げ、嬉しそうに笑顔を見せるピカチュウがレッドへ頬を擦り寄せる。
その光景はまさしく、旅立ちから間もない無垢な少年の姿そのものであった。
(…………眩しいな)
自分もかつては、こんな風に映っていたのかもしれない。
けれどすっかりくすんでしまって、汚れてしまって。輝きはとうに失ってしまった。
だというのにこうして食い入るようにレッドの姿を見つめている理由は、未練と言う他ない。
「レッドさん」
だからこそ。
心の奥底に仕舞い込み、見ないふりを続けてきたそれを気が付かせてくれたチャンピオンに。
昔の自分を着せて、向き合わなければならない。
「トウヤ……」
「ありがとうございました。……とても、強かったです」
目線を向けるレッドは、最初こそ憂慮の色を覗かせていた。
けれど憑き物が落ちたかのようなトウヤの顔を見て、すぐに喜色が滲む。
ゆっくり休め、と。傍らの相棒をボールに戻して、黒髪を靡かせるレッドが顔を向けた。
「俺も同じ気持ちさ! あんなに緊張感のあるバトル、本当に久しぶりだったよ!」
「こちらもです。…………レッドさん、あなたには一つ訂正しなければいけませんね」
深く、息を吸う。
肺に送り込まれる新鮮な空気が、乱れた思考をリセットする。
トウヤの眼差しに当てられて、レッドもまた真剣味を乗せた面持ちを見せた。
「思い入れや愛着なんて、力にならないと思っていた」
思い返す。
旅を共にしてきた仲間の数々。
勝利や敗北に一喜一憂していた、あの日々の記憶。
「けれどそれは言い訳でした。どんなに大切に育てても、負けてしまったら思い出が否定されてしまいそうだから……いつの間にか、自らそう言い聞かせていたんです」
普段の声色よりも幾分かトーンを落として、贖罪を綴る。
ぽつりぽつりと、自らそれを絞り出すことがいかに苦難を伴うのか。
年頃もそう変わらないはずなのに、まるで彼の心境を知るかのように見届けるレッドの姿は、ひどく大人びて見えた。
916
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:28:39 ID:WfubCnaA0
「ありがとうございます、レッドさん」
「へへ、……どういたしまして!」
差し伸べた手は、トウヤから。
レッドはこれを握り、屈託のない笑顔を返す。
「トウヤ! レッドさん!」
と、慌てた様子で駆け寄る金髪の少女。
しかし表情には安堵の色が濃く浮かび、付き添うサラサラヘアーの青年も、緊張を交えながらも同様に警戒はない。
「ベル……久し振りだね」
「ねえねえトウヤ! さっきのバトルすごかったよ! いつの間にあんなに強くなったの!?」
「イレブンさん、黙って出てきてごめん!」
「いえ…………僕も、止められなかったので……」
もうここに、敵意を持つ者はいない。
誰かを殺すためではなく、矜恃と意思を持った死闘を経て。
荒れた中庭を舞台に、四人の演者が宴を取り囲む。
張り詰めた糸は弛み、ささやかな安らぎをこの場にもたらした。
──なにをしていたんだろう。
トウヤはこれまでの半日を思い返す。
ひたすらに戦いを求めて、飢えを凌ごうとして。
大切なものを見落としていたのかもしれない、と。ベルの顔を見て思う。
チェレンの死を悼むこともせず、取り憑かれたように命のやりとりに身を馳せて。
本当に、愚かだったと思う。
もしも赦されるのならば。
もう一度、一歩を踏み出してみてもいいかもしれない。
チェレンの無念を晴らす為に、ベルやレッド達と一緒に────
「トウヤっ!」
「っ…………え、……」
その瞬間。
レッドに視線を向けたと同時、トウヤの身体が突き飛ばされる。
無防備に尻餅をついて、顔を上げれば。
「なん、で」
突如、二階の窓から蒼い光線が放たれる。
激流伴う瀑布を嘲笑うかの如き勢いで放たれたそれは、荒れ狂う津波を凝縮したかのようで。
狙い澄まされた砲撃は、トウヤの居た場所を貫く。
その矛先にあったレッドの胸には、大きな風穴が空いていた。
◆
917
:
タイプ:ワイルド ──金剛の意志、真珠の理念
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:29:00 ID:WfubCnaA0
長い長い 旅の途中にいても
数え切れぬ バトル思い出せば
時空を超えて 僕らは会える
まぶしい みんなの顔
イエイ・イエイ・イエイ・イエ!
まだまだ未熟 毎日が修行
勝っても負けても 最後は握手さ
なつきチェッカー ごめんねゼロ
ホントに CRY CRY クライネ!
きらめく瞳 ダイヤかパール
まずは手始め クイックボール!
マルチバトルで バッチリキメたら
GOOD GOOD SMILE!
もっと GOOD GOOD SMILE!
◆
918
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:30:03 ID:WfubCnaA0
︎◾︎
『────トウヤ、難しいね。自分と向き合うのは。
自分のイヤなところや、嫌いな部分ばかり目につくよ』
──カノコタウン、チェレン
◾︎
919
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:30:48 ID:WfubCnaA0
何が起きたのか分からなかった。
困惑に置き去られた少年と少女は、崩れ落ちるレッドの姿を見て呆然と立ち尽くす。
「ベホマ!!」
一番最初に動いたのはイレブンだった。
レッドの身体を優しい光が包み込むが、焼け石に水。
胸に空いた穴は塞がらず、中途半端な再生が止血だけを施した。
誰がどう見ても致命傷。
喉奥から迫り上がる血液に噎せ返り、痛々しく痙攣する彼の姿にトウヤは正気を取り戻す。
「えっ、え…………レッド、さ……ん…………?」
「ベルはここにいて! あなたはここをお願いします!」
今にも崩れてしまいそうなベルの肩に手を置き、レッドを治療する青年の方へ視線を向ける。
それを受けたイレブンは大きく頷き、周辺への警戒を最大限に引き上げた。
(今のはハイドロカノン……! 方角は、あそこか……!)
先程の奇襲────ハイドロカノン。
襲撃者はバトルが終わったあのタイミングで、トウヤだけを狙っていたように見えた。
心臓を這う悪寒が、襲撃者の輪郭を朧げに映し出す。
よりにもよってこの城、そして自分を強く恨む人物など察せない方がおかしい。
レッドの手から零れ落ちたボールを手に取り、激流の放たれた方角へ走り出す。
「トウヤっ! 待って、行かないで……!」
と、背中をベルの声が叩いた。
悲痛な少女の声に、ほんの少しだけ次の一歩を躊躇い、けれどまた踏み出す。
本当は、戻るべきなのかもしれない。
チェレンを喪い、最後の幼馴染が危険に立ち向かう姿など見たくないはずだ。
もう誰も喪いたくないと、たとえ極悪人を前にしても平気でそう言いのけるだろう。
「ごめん、ベル」
けれど、トウヤは違う。
あの神聖なる戦いに、文字通り水を差した〝悪人〟を許すことなど出来ない。
自分とレッドが築き上げた誇りを、栄華を穢しておいて、むざむざと逃げ果せようとする悪を看過できない。
「トウヤっ! トウヤぁぁっ!」
泣き崩れるベルの身体を支え、イレブンがトウヤの背中を見送る。
その傍では数刻の猶予も残されていないレッドが、失った胸の上下運動を繰り返していた。
「…………、ぁ…………」
「え……?」
重い息衝きに交じり、レッドが懸命に言葉を紡ごうとしている。
もはや意味は無いと知りながらもベホマで苦痛を取り去り、イレブンは静かに耳を貸す。
一つの単語を紡ぐのに、数秒。
掠れた砂嵐のような声色は、彼に遺された時間を物語る。
それでも魔力の消耗を省みず、イレブンは懸命に治療を重ねて、紡がれる言葉を拾い上げる。
920
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:31:29 ID:WfubCnaA0
────〝あいつを、助けてやってくれ。〟
たったそれだけを言い残して。
助けを乞う訳でもなく、心残りを託して。
赤い焔は、音もなく掻き消えた。
「…………レッド、さん……」
薄く見開かれた目元から、光が失われる。
熱が落ちてゆくレッドの身体へ、未だ現実を受け止め切れないベルは縋り付く。
もう一度目を覚ましてくれるのではないか、と。子供でも分かる現実に目を逸らして。
「うあ、あぁ……っ! う、あぁ……!」
甲高い嗚咽をかき鳴らして、みっともなく泣き散らして。
年端もいかぬ少女は、醜い現実に打ちのめされる。
「…………ベル」
イレブンは、何も言えない。
自分が何かを言ったところで、彼女の心を救うには酷く足りないだろう。
穴の空いたバケツに水を注ぐように、まるで気休めにもならないとわかっているから、イレブンは立ち尽くすことしか出来ない。
無念に満ちたレッドと目が合って、その目を閉じる最中──初めて、自分の手が震えていることに気がついた。
「イレブン」
どれだけの時間が経っただろうか。
涙も乾き切らない内に、ベルが口を開く。
「あたし、トウヤを追う」
「え……、……」
飛び出した宣告に、イレブンは言葉を失った。
そう、言葉が出なかった。
本来であれば制止しなければならないのに、それすらも出てこなかったのだ。
何故なのか、イレブン自身でも分からない。
奇しくもその理由は、ベルの口から代弁される形となる。
「トウヤまで、喪いたくないから……!」
そうだ。
イレブンは、ベルの気持ちが分かってしまう。
幼馴染が、仲間が、友人が、手の届く場所で散っていく残酷さを、イレブンはよく知っている。
一度そうなってしまえば最後。
どんな言葉を投げられたところで、自分を呪わなければ生きていけなくなる。
無力な自分を心の底から嫌いになって、そんな己を騙す為になにかを成そうとする。
それがいかに無謀でも、危険でも。
自分がああしていればという後悔から目を逸らすために、自分を怨み傷つける。
(…………これじゃあ、まるで……)
イレブンが〝呪い〟を掛けられたのも、あの時からだった。
ウルノーガの手によって故郷が滅び、幼馴染のエマや家族たちが行方不明となったあの日。
自分が故郷に残っていれば。
デルカダール王を疑っていれば。
もしかしたら、エマ達を助けられたかもしれない。
そんな風に思う内に、自分を呪うようになった。
勇者という重荷を背負うには、あまりにも無知で無力で。期待の眼差しを向けられるより、罵倒を浴びせられていた方がずっと楽だった。
ああ、はずかしい。
何も出来ず、誰も守れない自分が。
どうしようもなくはずかしくて、憎かった。
「待って、ベル──!」
そして、こうしてベルが走り出すのを止められない今も。
レッドを喪って傷心する彼女へ、〝大丈夫〟とひと声かけることも出来ない自分が。
狡猾な悪意に苛まれて、身勝手な善意に溺れて。
何をするにも、自分の意思では動けずに責任を撮ろうとしない。
卑屈と躊躇いに囚われて、常に後ろを歩こうとする自分が。
はずかしくて、堪らなかった。
◾︎
921
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:32:23 ID:WfubCnaA0
「カメックス! 何をしているのです! さっさと戻りなさいッ!」
二階の一室、ゲーチスの叫びが木霊する。
彼の手持ちであり、レッドを殺害した下手人──カメックスは、目一杯の咆哮と共に暴れ狂っていた。
ボールに戻そうと奮闘しようにも、床や壁を砕き暴れる巨体を前にすればロクに動けやしない。
結果ゲーチスは、この部屋で二の足を踏むこととなっていた。
「まずい、ワタクシの計画が……! くそッ! なぜ、なぜ従わないのです!?」
ゲーチスの計画に不備はなかったはずだ。
周辺を警戒するという理由で王の間を離れ、手頃な部屋に籠り機を狙う。
トウヤが消耗したところでカメックスのハイドロカノンで狙撃し、殺害。
その後カメックスに自身を攻撃させてボールに戻し、襲撃された状況を装ってイレブン達を欺く。
カメックスという手持ちが誰にもバレていないこと。
イレブン達を救出したことで彼らの信頼を得ていること。
移動ルートを熟知している城であること。
この好条件を踏まえて、ゲーチスの作戦はかなり分のある賭けだった。
しかし、ただ一点。
不測の事態が全ての歯車を狂わせた。
(あのレッドという子供は、なぜトウヤを庇ったのですか……!?)
不可解だった。
自身の命を捨てて他人を救うなど、理解不能の自殺行為。
レッドが異常者であるという一言で片付けてしまえばそれまでだが、そもそもとして疑問はそれだけではない。
なぜレッドはあの奇襲を察知できたのか──破綻の終着点はそこにある。
(仕方がない、ギギギアルを使って一度戦闘不能に……)
いくら考えたところで目前の問題は解消しない。
〝なぜか〟自分に従わないカメックスを落ち着かせるためにギギギアルを繰り出し、十万ボルトを浴びせようとして。
「っ、……誰だ!?」
蝶番の軋む音と共に、扉が開く。
目を向ければそこには、幼くしてイッシュのチャンピオンとなった少年が佇んでいた。
「トウヤ…………!!」
「やっぱり貴方だったんですね、ゲーチスさん……いや、ゲーチス」
体躯に見合わない重圧を伴う威容。
思わず後ずさりそうになる片足を抑えて、冷静に状況を鑑みる。
戦力分析を終えたゲーチスは両腕を広げ、高らかな哄笑を響かせた。
「フフ、ハハハハハ……! お前一人で何をしに来たのです!? もう手持ちのいないお前に! 何ができる!?」
なにも焦ることはない。
今のトウヤはレッドとの戦いに敗れ、戦えるポケモンがいないはずだ。
対してこちらはカメックスとギギギアルの二匹を従えている。生身の人間が太刀打ちできる戦力ではない。
トウヤは顔を俯かせて、手を挙げる。
降参宣言かと嗤ってやろうとして、彼の手に視線をやったゲーチスの目が見開く。
その手には、赤と白のボールが握られていた。
「────力を貸してくれ、ピカ」
重力に従い、ボールが地に落ちる。
少し転がった後に勢いよく上下に開き、赤い閃光が前方の床へ飛散。
眩い光と共に顕現したポケモン──ピカチュウは、はち切れんばかりの怒りと哀しみを投影させて、ゲーチスを睨む。
922
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:33:18 ID:WfubCnaA0
「…………ハッ」
なにが来るのかと思えば、と。
身構えたことが馬鹿馬鹿しくなり、ゲーチスは嘲笑を飛ばす。
「そんな瀕死の雑魚一匹でどうするつもりです?」
ゲーチスの言う通り、ピカチュウはもう戦える状態ではない。
既に越えている限界を、気合い一つで持ちこたえている状態だ。
かすり傷一つで意識が刈られる状態だというのに、それでも尚立ち上がる原動力は、仇敵への怨みに他ならない。
「見なさい、この戦力差を! そんなネズミ一匹で勝てるわけがない!」
しかし、非情な現実は変わらない。
威圧感を纏って佇むカメックスとギギギアルは、明確な敵意をその身に纏う。
たとえ天地がひっくり返っても勝ちは揺るがない。
多少計画は狂ったが、ここで始末する。
そう、本気で思っていたのに。
「憐れだな、ゲーチス。お前もNのようにポケモンの言葉が分かれば、この計画も遂行出来たかもしれないのに」
「なに……!?」
他愛もない挑発。
しかしその真意を汲むよりも早く、ゲーチスの頭は綿が詰められたかのように真っ白に染め上げられた。
自分があのN(バケモノ)と比べられ、あろうことか同情された。
捨てきれないプライドに罅が入り、激情が理性を上回る。
もはや言葉の応酬など付き合うことない。
崇高な自身を見下した罪を、その身で償わせてやろう。
「「カメックス!」」
名を呼んだのは同時。
なぜトウヤが敵の手持ちであるカメックスに呼びかけたのか。
駆け抜ける疑問に無視を決め込んで、ゲーチスは指示を飛ばす。
「ハイドロカノ──」
「そんなやつに従う必要なんてない!」
ゲーチスの攻撃指示が掻き消される。
トウヤは最初からゲーチスなど眼中になく、なにかに抗おうと悶え苦しむカメックスにだけ意識を向けていた。
「なにをし──」
「そいつは、レッドさんの仇なんだ!!」
耳奥をつんざく叫び。
それを聞き届けたカメックスは、ハッと目を見開く。
まさか、と。今更になってトウヤの意図に気がついたゲーチスは、顔面を歪ませて焦燥を顕にする。
「カメック──」
「呑み込まれるなカメックス! 自分がどうするべきなのか、よく考えるんだ!」
そう、最初から。
トウヤは気がついていたのだ。
なぜレッドはあの時、はるか遠くにいるはずのカメックスの存在に気がついたのか。
その答えは、実に単純であった。
この部屋に入ったその瞬間から、じたばたと暴れ狂うカメックスの瞳を見て。
まるてなにかを訴えるかのような、悲痛な叫びを聞いて。
トウヤは確信した。
────カメックスは、レッドの〝仲間〟なのだと。
ゲーチスはとんだ思い違いをしていた。
レッドがトウヤを庇ったことが、筋書きを狂わせた最大の〝不運〟だと思っていた。
けれど違う。
ゲーチスは、一度たりとも〝幸運〟であったことなどない。
レッドの長い旅路を共にしてきたカメックスを、この計画に利用した時点で。
一人劇に勤しむ憐れな道化の目論見は、破綻していたのだ。
923
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:34:10 ID:WfubCnaA0
「ガァァ……メェ……!!」
そこには幸運も不運もない。
あるのは、積み重ねた悪事への報いだけ。
ポケモンを己の為に利用し、絆や愛情など持ち合わせず、Nのように心を通い合わせる事も出来なかった男の末路。
空気が震える。
悪の総帥は、あまりの悪寒に総毛立つ。
己を護る双璧の片方が、音を立てて倒壊したような錯覚に陥って。
「ガァァメェェェエエエ────ッ!!」
噴き出す水流が天井を打ち崩す。
制限を越えた一度きりの〝抵抗〟により、天井の一部が瓦礫となって崩落した。
咄嗟に腕で顔を覆うゲーチスは、自身へ接近するトウヤへの反応が送れた。
「が、…………っ!?」
振り翳されるモンキーレンチ。
飛び込む形ですれ違いざまに放たれた横薙ぎが、ゲーチスの頭を撃ち抜いた。
歪な音を聞きながら、勢いよく床へと背中を打ち付けられるゲーチス。
朧げな視界に追撃を仕掛けるトウヤの姿が見えて、声を張り上げた。
「ぐっ……ギギギアル、……十万ボルト!!」
迸る稲妻がトウヤの行き先を封じる。
トウヤは咄嗟に後方へ跳んで躱すが、距離を取らされる。
額から血を流しながら立ち上がるゲーチスは、充血した瞳でトウヤを睨む。
「許、さん……! このワタクシを、ここまで、コケにしてくれるなど……! そこのネズミ諸共、地獄に落としてくれる!!」
脳を蝕むような痛みが、逆にゲーチスに冷静さを与える。
トウヤの肩に乗るピカチュウは動きを見せない。
当然だ、あの傷では放てる攻撃は精々一撃。トウヤとしても下手な指示は出せないだろう。
ならばカメックスがおらずとも十分に勝てる──と、未だに藁に縋るゲーチスへ。
「あの、ゲーチスさん……?」
遂に、幸運の糸が垂れ落ちるかのように。
歪む扉が開いて、第三の乱入者が現れた。
◾︎
「ベル、来ちゃダメだ!」
「え……っ?」
位置関係の都合上、扉に一番近いのはゲーチスだ。
駆け出すトウヤよりもゲーチスの方が早く、無我夢中で少女の身体を絡め取り、背後へ回り込む。
声を上げる間もなく、華奢な首筋には隠し持っていたガラスの破片があてがわれた。
「ひ、……っ!?」
「動くなッ! 動けばこの子供を殺す!」
──形勢逆転。
予期せぬ事態にトウヤは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、額に汗を伝わせる。
追い詰められた今のゲーチスはなにをするか分からない。
ピカチュウの電撃はベルを巻き込む可能性がある上、頼みのカメックスも再び頭を抱えて苦しんでいる。
ゲーチスはこちらを視界に捉え、いつでもギギギアルに指示を飛ばせる状態。
「トウ、ヤ…………」
「…………ベル」
────何を迷う。
過去の残影が、トウヤに語りかける。
そう、人質に取られているのは〝どうでもいい〟と切り捨てたはずの幼馴染。
レッドの仇を取るという目的を果たす上で障壁となるのなら、今まで通り見捨てればいい。
一緒に踏み出したはずなのに、自分は遥か先を進んでいて。
後ろを振り返らなきゃ姿が見えない〝落ちこぼれ〟。
ひたすらに前を進み、山を登るうちに、遂に影も踏ませなくなった。
そんな眼中にない存在一人見捨てたところで、自分にはなんの影響もない。
『ねぇ、トウヤ! みんなで一緒に一番道路に踏み出そうよ!』
ああ、確かにそうしたかもしれない。
かつての自分なら、きっとそうしただろう。
けれど今は違う。
レッドから教えてもらったことは、そうじゃない。
強さの代償に今まで築き上げた大切なものを切り捨てるなど、あってはならない。
「…………わかった。ベルには、手を出すな」
警戒をそのままに、トウヤはレンチを手放す。
肩に乗るピカチュウも同様、頬に走らせていた電気をおさめ忌々しげにゲーチスを睨む。
924
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:34:46 ID:WfubCnaA0
「それでいい……ハハ、まさかこの小娘がこうも役に立つとは…………!」
「っ……、……」
右腕の中で囚われるベルは、目尻に涙を浮かべてトウヤを見つめる。
恐怖と戸惑いによって声も出せず、必死になにかを伝えようとしているが届かない。
しかし命を握られていることよりも、ベルの心を追い詰めているのは。
彼を助けようと飛び出したのに、逆に彼の足枷となっている状況そのものだった。
「ギギギアル、ラスターカノン!」
「っ…………!」
銀色の砲弾がトウヤへと向けられる。
即座に横へ飛んで回避するが、爆風によって壁へ叩きつけられた。
受け身を取ったとはいえ、疲弊した身体には無視できないダメージだ。
よろりと立ち上がるトウヤは、服の汚れを払ってゲーチスの前へ。
「おや、外しましたか……ではもう一度、ラスターカノン!」
「────トウヤっ!!」
少しずつ、小動物をいたぶるように。
かつてバイバニラにされたことの意趣返しをするかの如く、トウヤを痛め付ける。
衰えぬ反射神経により直撃は避け続けるが、消耗した体力が次第に身体を重くする。
三発、四発。繰り返される乱撃が、トウヤの肌に生傷を作り上げてゆく。
「────…………はぁ、…………はぁ……」
「ほう、……存外しぶといですねぇ。ですが次で終わりですよ」
ギギギアルの口元に銀色の粒子が集う。
容赦のない死刑宣告を受けた囚人はしかし、ギロリと威圧を込めた眼光を飛ばす。
次弾を躱す余裕はない。
着弾点が分かっていても、脳内のシミュレーションで直撃している。
困憊した足が縺れたところを狙い撃ち。
そんなつまらない終わりが見えて、トウヤは。
「お前は、悲しい人間だ」
精一杯の強がりを見せた。
「……ギギギアル、ラスターカノン!」
それに誘われてか否か。
放たれた光撃は、トウヤの腹部へ突き進み。
──ああ、やっぱり。回避を試みたトウヤは、足が縺れて。
その身体に、衝撃が突き刺さる。
925
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:35:13 ID:WfubCnaA0
────はずだった。
「な、──キ、サマ、は……ッ!?」
黄金の一閃が尾を引き、空を裂く。
音をも遅れて辿り着くかのような、洗練された達人の剣技。
白昼夢じみた技巧は容易くラスターカノンの炸裂を呑み込み、トウヤの身体には掻き傷一つ見えない。
「ゲーチス、さん」
呆然と驚愕、それら各々を瞳に乗せて。
全ての視線が集う部屋の中央に──茶髪の青年が静かに佇む。
それは地獄に舞い降りた天使の如く場違いで、ひどく空想的だった。
「ベルを……離してください」
──〝勇者〟イレブン。
目前の惨状に抱くのは、激情か哀愁か。
眉間に皺を寄せ、眉尻を下げながらも全身から滲ませる風格に、一同は息を呑む。
気弱さなど微塵も感じさせない精悍な顔つきはまさしく、勇者の名に相応しい。
◾︎
926
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:35:50 ID:WfubCnaA0
遡ること、数分前。
中庭にてレッドの最期を見届け、ベルがこの場を去ってすぐ──イレブンは人目もはばからず蹲っていた。
「う、──っ、──ぐ、ぅっ…………!」
蘇るのは、溢れんばかりの後悔と自己嫌悪。
目の前で誰かを喪うことを恐れる癖に、学びもせず取り返しのつかない失態を犯す男。
イレブンはその男が嫌いで、嫌いで、大嫌いだった。
声を押し殺して涙を流す。
みっともない、情けない、はずかしい。
頭は夢の中にいるような浮遊感に満ちて、身体は一向に動こうとしてくれない。
──ああ、またこれだ。
一体何度これを繰り返せば、本当の〝勇者〟になれるのだろう。
『疑問:イレブンの心的状態』
その時、無機質な女性の声が鼓膜を撫でる。
くしゃくしゃに歪んだ顔面を上げればそこには、空中に漂うポッド153がこちらを覗き込んでいた。
「はずかしい……!」
『はずかしい、とは?』
「もう誰も死なせないって、そう誓ったのに……! 結局、それも破って……っ! 今も、足を踏み出せない……!」
懺悔を絞り出す。
唯一の告解の相手が神父ではなく、機械という数奇な光景。
しかしそれでも、誰かに聞いてもらいたくて。
自分を責めて欲しくて、ぽつぽつと続ける。
「僕は、勇者失格だ……!」
それがイレブンの〝呪い〟。
自分を否定することでしか心を保てない、残酷な神からの賜物。
教会へ行こうとも決して克服出来ないこの呪いは、一生ついて回るだろう。
──ああ、はずかしい。はずかしい。
こんなことをしている間にも、救える命はあるかもしれないのに。
ベロニカやシルビア、グレイグという勇敢な者たちが死に、自分が〝生きる〟理由は。
自分よりも彼らが生き残った方が、事態は好転したのではないか──なんて、無意味なたらればすら頭を巡る。
──ああ、はずかしい。はずかしい。
ポッドは何を思うだろうか。
感情を持ち合わせない機械だから、冷淡で合理的な答えを出すだろうか。
それでもいい。最初から答えなんて求めていない。
こんな不甲斐ない自分を叱責して、どうするべきかを指示してくれるのなら。
──ああ、はずかしい。はず──
『構わないではないか』
え──と、素っ頓狂な声を洩らしてポッドを見る。
発せられた声色は、普段の無感情なものとはどこか違う。
どちらかといえば、落ち着き払った大人のような印象を受けた。
『生きるという事は、恥にまみれるという事だ』
──その言葉を受けた瞬間。
イレブンの視界が、鮮明に色を取り戻す。
空虚で満ちていた頭はまるで花火が上がったように活力を取り戻し、脳が思考を開始する。
先ほどの鬱屈とした気分が嘘のように、すんなりと身体が起き上がった。
927
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:36:19 ID:WfubCnaA0
「──っ、はは」
イレブンは思わず笑う。
言葉一つで立ち上がる単純な自身への自嘲か。
感情を見せなかったポッドが見せた人間らしさへの戸惑いか。
そのどちらでもなく。あまりに簡単に示された〝答え〟への呆れに近い。
────ああ、そうか。
自分が求めていたのは、〝否定〟ではなくて。
ずっと、誰かに〝肯定〟してほしかったんだ。
勇者だから、完璧であれ。
勇者だから、正しくあれ。
正義感と責任感に押し潰されて、自ら作り上げた期待の壁を越えられず。
力不足を自分一人で抱え込み、自虐の癖を作り上げてしまったイレブンは。
情けなくて人間臭い弱音を、〝構わない〟と言って欲しかったのだ。
勇者とは程遠い、気弱で臆病で恥ずかしがり屋な自分を。
そんな生き方があってもいいじゃないかと──そう、言って欲しかったのだ。
「ありがとう、ポッド」
自分でも驚くほど、声に震えはなかった。
七宝のナイフを手に取り、ベルが向かった先の景色を見据える。
中庭の出入口から見えるロビー。左右に続く階段を右に昇れば、目的地へ辿り着ける。
『回答:どういたしまして』
ポッドの声は再び機械音へ。
イレブンは穏やかな微笑みを返し、転じて険しい視線を先刻の光線により割れた窓へ。
瞬間、両足に力を込めて──ドン、という地鳴りじみた音と共に勇者の姿が消える。
ぽつんと残されたポッドは一人、世話の焼ける──と、これまた人間らしい台詞を吐いた。
◾︎
928
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:37:21 ID:WfubCnaA0
大部分の倒壊した一室に、瞬きすら許さない緊張が漂う。
しかしその圧力が向けられる対象は、ゲーチスただひとり。
カチカチと震える腕が目の前の青年の危険度を如実に示し出す。
その風格たるや、かのレシラムにも匹敵するとさえ感じてしまう。
(なんだ、こいつは……!?)
ゲーチスは、イレブンを知っている。
山小屋で襲撃されて気絶し、その後の情報交換でもしどろもどろ。
ベルという少女に引っ張られなければ主体性を持ち合わせない、危険性の低い人物だと認識していた。
なのに今はどうか。
まるで自分の知るイレブンとは別物だ。
「ゲーチスさん、お願いです……」
懇切丁寧に、悲願とも取れる言葉遣い。
しかし有無を言わさぬ迫力が、ゲーチスの警戒を色濃くさせる。
「あなたを、傷つけたくありません……」
──本気で言っているのか、この状況で。
ゲーチスが彼の正気を疑うのも無理はない。
ベルという替えの利かない人質を取り、カメックスとギギギアルを従えている有利な状況。
いつ誰が殺されてもおかしくないのに、なぜ奴は〝自分を〟気に掛けることが出来る?
侮辱されている。
ゲーチスがそう結論付けるのに、時間は要さなかった。
「っ、まずい──」
トウヤが声を上げる。
ベルの首元に突き付けられた硝子の刃が、薄皮に食い込み赤い雫が落ちる。
ゲーチスも冷静な判断を下せなくなったのか、人質という優位性に傷を付けてまで〝プライド〟を示そうとした。
「イレブン」
痛みと恐怖を押し退けて、ゲーチスの腕の中から鈴音のような柔声が鳴る。
いつ命を取られてもおかしくないのに、ベルは不思議と自信を持てた。
今のイレブンは、とても頼りになるから。
まるで絵本の中から飛び出してきた王子様みたいに。
だから安心して、この台詞を言える。
ずっと無理に抑え込んできた不安を、言葉にできる。
「────助けてっ!!」
一瞬の出来事だった。
細長い影が、宙に舞う。
未練たらしく硝子の刃を握り締めるそれは。
他ならぬ、ゲーチスの右腕だった。
「は、──ぇ、ぁ──?」
疑問、そして激痛。
獣のような雄叫びを上げながら、ゲーチスは目を剥いて膝から崩れ落ちる。
綺麗な断面を残して消失した右肘から先。その根元を左手で支え、半狂乱になりながら叫んだ。
「カメックス、ハイドロカノンッ!! ギギギアル、はかいこうせんッ!!」
降り注ぐ破滅の二重奏。
青と白の光は、人体が触れればもれなく消滅するほどの破壊力を伴って暴れ狂う。
慌ててイレブンは解放されたベルを抱きかかえ、屈み込んだ。
「うわっ、──きゃっ──!?」
「っ、──ダメだ、動けない……!」
ロクに狙いを定められず、滅茶苦茶に放たれる予測不可能な線条はかえって対処が難しい。
今のゲーチスは正気ではない。もはや一人でも多く殺すことが最優先なのだろう。
自分一人の捨て身であれば話は別だが、ベルの傍を離れるわけにはいかない。
かといってこのまま指を咥えて見ていれば、部屋が保たずに倒壊する。
「どう、すれば……!」
と、思考を巡らせるイレブンの傍ら。
一人の少年が、暴風雨の中を駆け抜ける。
彼の右肩には、黄色い電気鼠がしがみついていた。
929
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:37:54 ID:WfubCnaA0
「トウ────駄──!」
ベルの声が、破壊光線の慟哭に掻き消える。
イレブンも同様に、殺されてしまう──と止めようとして。
それが杞憂であるのだと、次の光景を見て思い知らされた。
「いけるかい、ピカ」
「ピィィカァ……!」
少年、トウヤは。
二つの光線が織り成す超危険地帯を、まるで微風をやり過ごすかのように進み。
必要最低限の動きで躱し、跳び、舞踏の延長線のようにゲーチスへ距離を詰めてゆく。
どこから攻撃が来るのか、どう動けば避けれるのか。
まるで最初から分かっているかのように。
「な、ぜだ……ッ! なぜ、当たらないのです──!?」
全てのポケモンの技を、癖を熟知しているトウヤにとって。
狙いもつけずに放たれた攻撃など、当たる方が難しい。
「……本当に、いいんだね」
瓦礫が頬の傍を通り、一筋の傷を作る。
その傍らにてしっかりと敵を見据えるピカチュウへ、トウヤは〝最後の〟確認を。
仇敵からライバルへ。ちらりと向けられる瞳の奥で唸る決意を見て、トウヤはふっ──と笑う。
────聞くまでもない。
そう叱責されているようで、自身の無粋さを省みた。
「この──汚らしいネズミがぁぁッ!!」
吠えるゲーチス。
傍らに従えたギギギアルにラスターカノンの指示を飛ばし、接近するトウヤへ照準を定める。
しかしトウヤは減速せず、寸前で滑り込む形で回避。
後方からの爆風によってトウヤの身体が前へと投げ出されるが、これすらも〝計算〟の内。
「ピカ────」
トウヤは空中で、抱きかかえていたピカチュウをゲーチスへと放り投げる。
自由落下の勢いを付けた小柄な身体は、まるで因果律の収束の如く、真っ直ぐに総帥へと猛進して。
トウヤは、大きく息を吸う。
「────ボルテッカー!!」
その輝きは、あまりに眩く。
今まで見せた中で、最も強い彗星となって。
悪の総帥を、呑み込んだ。
◾︎
930
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:38:34 ID:WfubCnaA0
決着が、ついた。
倒壊を食い止められた部屋の中、遺された者にあるのは種々の感情。
「イレブン、っ──! ありっ、がとう……! こわかった、……こわかったよお!」
「ベル……ごめんね。もう、大丈夫だよ」
部屋の片隅で、子供のように泣きじゃくるベル。
悍ましい死線を経て、今になって実感と恐怖が湧き上がってきたのだろう。
彼女の背中を擦るイレブンの目には、どこかやるせなさが映されていた。
「────仇、討てたね。ピカ」
ゲーチスの遺体の傍にて。
主を失ったカメックスとギギギアルをボールに戻し終えたトウヤ。
やり遂げたような、誇らしげな顔のまま眠りにつくピカチュウの頭を撫でる。
ボルテッカーの反動により、限界を迎えたピカチュウの身体は徐々に熱を失い始めていた。
悪意の連鎖は、断ち切られた。
その犠牲は、決して小さくはないけれど。
長き戦いの末に得たものは、彼らにとって大きな一歩となる。
「トウヤ、少し……変わったね」
やがて、暫くして。
イレブンの腕の中で、目を腫らしたままベルがそう問いかける。
含まれた感情は幼馴染の成長の喜びと、一抹の寂しさ。
「……ああ」
トウヤは、過去に想いを馳せる。
本当に、本当に色んなことを思い返して。
穴の空いた天井へ手を伸ばし、忘れていた〝善意〟を掴み取る。
「────呪いが、解けたんだ」
【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー 死亡確認】
【ピカ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー 死亡確認】
【ゲーチス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト 死亡確認】
【残り36名】
◆
931
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:39:12 ID:WfubCnaA0
終わらない道
終わらない 出会いの旅
終わって 欲しいのは
この ドギマギ!
それでも なんとなく
気づいているのかな おれたち
そう 友だちのはじまり!
ありがちな話
最初どこか 作り笑い
でも すぐホントの 笑顔でいっぱい!
風よ運んで
おれのこの声 おれのこの想い
はるかな町の あのひとに
──〝おれは大丈夫!〟
──〝めっちゃ大丈夫!〟
──〝ひとりじゃないから〟
──〝仲間がいるから大丈夫!〟
◆
932
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:40:04 ID:WfubCnaA0
【全体備考】
※ゲーチスの基本支給品、 【雪歩のスコップ@アイマス+マテリア(ふうじる)@FF7】、【モンスターボール(空)】はゲーチスの遺体の傍で放置されています。
※ピカチュウの死亡により、モンスターボールが空になりました。現在はトウヤが所持しています。
【C-2/Nの城 二階の一室/一日目 午後】
【イレブン@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:疲労(中)、MP3/5
[装備]:七宝のナイフ@ブレワイ、豪傑の腕輪@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1個、呪いを解けるものではない)、アンティークダガー@GTA、ブルーオーブ@DQ11、ポッド153@ニーア、モンスターボール(オーダイル)@ポケモンHGSS
[思考・状況]
基本行動方針:ウルノーガを倒す。
1.トウヤと話をする。
2.ブルー以外の他のオーブを探す。
3.ひとまずNの城を拠点にする。
※ニズゼルファ撃破後からの参戦です。
※エマとの結婚はまだしていません。
※ポケモン世界の情報を得ました。
※恥ずかしい呪いを克服しました。
【ベル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:疲労(中)、気疲れ(大)
[装備]:ランラン(ランタンこぞう)@DQ11
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:チェレンの死を受け止め、歩き出す。
1.イレブンとトウヤについていく。
2.ポカポカ(ポカブ)を探す。
3.レッドさん……。
※1番道路に踏み出す直前からの参戦です。
※ドラクエ世界の情報を得ました。
【トウヤ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:全身に切り傷と打ち身、ダメージ(中)、疲労(大)
[装備]:モンスターボール(オノノクス)@ポケモンBW、モンスターボール(ジャローダ)@ポケモンBW、モンスターボール(空)@ポケモンHGSS、チタン製レンチ@ペルソナ4
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)@ポケモンBW、モンスターボール(カメックス)@ポケモンHGSS、モンスターボール(ギギギアル)@ポケモンBW、カイムの剣@DOD、煙草@MGS2、スーパーリング@ドラクエⅪ
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.オレは──……。
※チャンピオン撃破後からの参戦です。
※全てのポケモンの急所、弱点、癖、技を熟知しています。
933
:
タイプ:ワイルド ──漆黒の悪意、純白の善意
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:40:27 ID:WfubCnaA0
【モンスター状態表】
【ランラン(ランタンこぞう)@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:MP消費(小)
[持ち物]:なし
[わざ]:メラ・ギラ・メラミ
[思考・状況]
基本行動方針:ベルについていく
1.ベルに褒められて嬉しい。
※トレバーとの戦闘を経てレベルアップしました。
【ポッド153@NieR:Automata】
[状態]:健康
[持ち物]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
※Eエンド後からの参戦です。
【オノノクス@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]:ひんし
[特性]:かたやぶり
[持ち物]:なし
[わざ]:りゅうのまい、きりさく、ダメおし、ドラゴンテール
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う。
1.???
【ジャローダ@ポケットモンスター ブラック・ホワイト ♀】
[状態]:ひんし
[特性]:しんりょく
[持ち物]:なし
[わざ]:リーフストーム、リーフブレード、アクアテール、つるぎのまい
[思考・状況]
基本行動方針:トウヤに従う?
1.???
【オーダイル@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:ひんし
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:かみくだく、アクアテール、きりさく、こおりのキバ
[思考・状況]
基本行動方針:シルバーが見つかるまでレッドと行動する。
1.???
【ギギギアル@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
[状態]:健康
[特性]:プラス
[持ち物]:なし
[わざ]:10まんボルト・ラスターカノン・はかいこうせん・きんぞくおん
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???
【カメックス@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー ♂】
[状態]:健康
[特性]:げきりゅう
[持ち物]:なし
[わざ]:ハイドロカノン・ラスターカノン・ふぶき・きあいだま
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.レッド……。
934
:
果てなき夢
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:41:11 ID:WfubCnaA0
◆
シロガネ山の山頂には幽霊が出るらしい。
ジョウト地方の一部では、その噂で持ち切りだった。
ゴーストタイプの存在が当たり前なのだから、人間の幽霊程度で騒ぐほどのことではない。
ならばなぜそんな〝些細な噂〟が人を惹きつけるのか。
その理由は、〝強さ〟にあった。
なんでもその幽霊は、法外に強いらしい。
腕っ節や呪力が、ではなく。ポケモンバトルの腕前がだ。
ただのオカルト話であれば焚き付けられなかったが、腕利きのトレーナーと聞けば話は別。
かくして腕に覚えのある者が挑戦しては敗北し、噂に尾ひれがついてゆくのだった。
そしてここにまた一人。
新たなる挑戦者(チャレンジャー)が、躍り出る。
その少年はトレードマークの金と黒のキャップを後ろに被り、吹雪の中でも闘志を燃やす。
見据える先には、赤い帽子を目深に被った〝幽霊〟が佇んでいた。
互いの間に言葉はない。
けれど、掲げられたボールが何よりの会話となる。
腕を振り上げ、ボールを投げる。
寸分の狂いもなく同時に繰り出された動きに伴い、互いの相棒が姿を現した。
片や、背から轟々と炎を噴き出すバクフーン。
片や、頬にバチバチと電気を走らせるピカチュウ。
世界においても比肩を許さない、最高峰の実力を持った相棒。
繰り出される指示を聞き入れ、彼らは爆炎と雷鳴を撒き散らす。
果てなき夢は、未だ終わらずに。
雪の吹き荒ぶ山頂にて、伝説が幕を開ける。
二人の少年は────笑っていた。
◆
935
:
果てなき夢
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:41:32 ID:WfubCnaA0
マサラタウンに サヨナラしてから
どれだけの時間 経っただろう
擦り傷切り傷 仲間の数
それはちょっと 自慢かな
あの頃すっごく 流行っていたから
買いに走った このスニーカーも
いまでは 世界中 探しても見つからない
最高の ボロボロぐつさ!
いつのまにか タイプ:ワイルド!
すこしずつだけど タイプ:ワイルド!
もっともっと タイプ:ワイルド!
つよくなるよ タイプ:ワイルド!
そして いつか こう言うよ
──〝ハロー マイドリーム〟
【レッド@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー タイプ:ワイルド!】
【ピカ@ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー タイプ:ワイルド!】
936
:
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/05(木) 19:41:48 ID:WfubCnaA0
投下終了です
937
:
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/06(金) 22:42:58 ID:5kMVewf.0
すいません、今気づいたのですが
>>913
と
>>914
の間にコピペミスによる描写漏れがあったので、以下の本文を追加させていただきます
-
「ピカ、見せてやろうぜ! 俺たちの絆を!」
いいや、違う。
そんなつまらない理屈、意味などない。
本質はもっと、もっとシンプルで────
ピカは レッドを
かなしませまいと もちこたえた!
トウヤが動揺から戻るほんの僅かな時間。
それが決定的な差となって、レッドの雄叫びが届く。
「ジャローダ、よけ──」
「──十万ボルト!!」
それは、混沌を射抜く光。
それは、勝利を齎す希望。
それは、決して堕ちぬ星。
「あ、…………」
稲妻は一筋の矢となって。
導かれるように、大蛇を撃ち抜いた。
◆
938
:
名無しさん
:2025/06/06(金) 22:49:08 ID:/XISmXc60
投下乙です!
じわじわと因縁が形成されていったチャンピオン対決、お互いに一歩も引かない期待以上の戦いでワクワクしました
トウヤが戻れデバフ解除とかいう無法をしたかと思ったら、レッドの方もじわれブラフとかいうムチャクチャしてきてこいつらやべえとなった
ゲーチスのせいでレッドとピカの最強コンビは倒れたけど、彼らによって呪いが解かれたトウヤのこれからが楽しみ
939
:
◆vV5.jnbCYw
:2025/06/08(日) 22:59:34 ID:LAL6Xn1s0
投下乙です
セフィロス予約します
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