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Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木 ZONE2

1 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/10/09(月) 23:24:58 ID:dwWMLsPM0
 






          わかっております。みんなわかっております。


          わかっていても人は鬼になるのでございますよ。


          憎しみや哀しみを癒すどのような法も、この人の世にない時、もはや、人は鬼になるしか術がないのでございます


                                                           ――夢枕獏、陰陽師
 






.

368 ◆nY83NDm51E :2018/07/28(土) 00:17:38 ID:lgbWXIBg0
投下します。

369 The Day Is My Enemy ◆nY83NDm51E :2018/07/28(土) 00:19:38 ID:lgbWXIBg0
草木も眠る、丑三つ時。雲が沸き起こり、月や星の光を隠す。

闇の中を、影が進む。闇夜の鴉。誰にも見られず、気づかれず。音を立てず、臭いも立てず、百鬼夜行が進む。
百鬼夜行の主ならば、実はこの冬木市にいるが―――この百鬼の長は、それではない。

今、仮に読者諸君に霊的な眼を授け、その様を見せよう。直視すれば眼が潰れ、肝が潰れる、恐ろしい有様を。
悍ましき影絵芝居、光なき夜のワヤン・クリを。

眼が一つの、大きな耳の、耳がない、先の尖った耳を持つ、鼻先が上へ突き出た、上半身が異常に大きな、首が細長い、縮れた髪の、全身が毛に覆われた、
耳が垂れ下がり額の大きな、乳房と腹が垂れ下がった、唇が垂れ下がった、唇が顎にくっついた、顔が長い、膝が長い、背が低い、背が高い、せむしの、こびとの、
恐ろしい黒色の、いびつな顔の、銅色の眼の醜悪な顔の、怒りっぽい、喧嘩を好む、鉄の大きな投槍や斧などの凶器を持つ、猪顔、鹿顔、虎顔、水牛顔、山犬顔、
象足、駱駝足、馬足、胸に顔がめり込んだ、一本腕の、一本足の、騾馬耳、馬耳、牛耳、象耳、獅子耳、大鼻、曲鼻、無鼻、象鼻、額まで鼻が盛り上がった、
大足、牛足、足に鶏冠めいた毛の房がある、大頭、大胸、大腹、大眼、長舌、山羊顔、象顔、牛顔、馬顔、駱駝顔、驢馬顔、このような羅刹たちがいた。

羅刹(ラークシャサ)。インドの悪鬼。闇夜に疾行し、四辻に立ち、血肉を飲食し、人畜を害するものども。
ブータ、プレータ、ピシャーチャ、クンバーンダ、プータナー、ダーキニー、ヴェーターラ。低級なものは亡霊と変わらぬが、高級なものは神々をも脅かす。

これらはみな、幻影だ。闇の中、影の中を彷徨する妖怪変化、魑魅魍魎。
街中に散らばり、路地裏を這い回り、ゴミ箱を漁り、下水道をのたくり、ドブ川を進み、低空を飛行し、電線を伝い、家屋に入り、跳梁跋扈する。
彼らが探すのは、英霊たち。その戦闘の痕跡。そして、小さな機械。

鬼の長、羅刹の王、アーチャー『メーガナーダ』は―――彼らから遠く離れた一室で坐禅し、瞑想し、三昧に入っている。
マスターが魔力にやや乏しいため、部屋のコンセントから多少の電力を吸う必要はあるが……この程度の街ならば、夜の間なら幻で覆える。
この程度の街ひとつ、その気になれば皆殺しに出来る。それでもよいが、そうも行くまい。天敵とも言えるカルキ、それに……先程見つけたが、ラクシュマナがいる。
シヴァより授かり、己がものとした「闇(ターマシー)の魔術」。カルキならともかく、ラクシュマナには見つかるまい。
見つけたところで、数が多すぎ、範囲が広すぎる。一網打尽にしようとすれば、術者を殺すか、街中を壊し尽くさねばなるまい。

370 The Day Is My Enemy ◆nY83NDm51E :2018/07/28(土) 00:21:41 ID:lgbWXIBg0
この夜の間にも、街ではいくつかの戦があった。
羅刹女の如き女ども。狂信者の男。有翼の天人。黄色い風。赤い戦神。狗と馬を連れた王。
カルキ、ラクシュマナ。それぞれの主人ども。闇の中を這い回る羅刹らを介して、羅刹王は多くの情報を得ていた。
手強そうなものも多いが、容易く殺せそうなものもいる。見た、知った、覚えた。

小さな機械は、すぐに見つかった。それも、いくつか。やはり眼や耳がついているが、幻力によって惑わす事はできる。
羅刹らに回収させ、速やかに持ち帰らせる。おれの失態を責めたマスターも、夢の中でこれらの成果を知ることができよう。
あとは、これを用いておる奴を見つけねば。

川の西、街の南。虱潰しに闇の中を這い回ってきた幻影の羅刹たちが、妖の気配を感じ取る。
人ではない。神ではない。自分たちと似ている。しかし……これは、闇ではなく、光。羅刹の嫌う光のにおい。
どうにせよ、サーヴァントがいることに間違いない。おそらく、そのマスターも。
羅刹たちは躊躇いつつ、その気配の方へ―――館へと近づいていく。


【B-9/大学教職員宿舎/1日目 午前2時】

【アーチャー(メーガナーダ)@ラーマーヤナ】
[状態]健康
[装備]弓矢(矢は宝具)
[道具]同上
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲得する。聖杯そのものより、獲得の過程で何かが掴み取れることを期待する。手段は問わない。
1.ライダー(カルキ)やラクシュマナは泳がせておく。襲われれば逃げる。遠くから戦闘を観察できればしたいところ。
2.マイクロマシン(アポリオン)の作成者を突き止める。
3.デュフォーがマスターの一人ではないかとのノヴァの意見に同意。観察対象に加える。
[備考]
※ライダー(カルキ)の真名を解明、ステータスシートを確認しました。
※基本的に霊体化しています。幻術により姿を隠したまま自在に行動できますが、攻撃時には一瞬だけ姿を現してしまうようです。
※幻術で別の姿に変化することも、幻影を呼び出して操ることも自由自在。ただマスターが魔力に乏しいため、大規模な術には電力を必要とします。
※街中に羅刹の群れの幻影を放ち、「アポリオン」数体を確保。マスターであるノヴァのもとへ送りました。
※羅刹を通じて、夜間に戦闘した主従をいくつか確認しました。

371 The Day Is My Enemy ◆nY83NDm51E :2018/07/28(土) 00:23:41 ID:lgbWXIBg0


【もしもし、聴こえますか?】
【よく聴こえますし、観えますぞ。先輩】
【確かに百年ほど先輩なのですけど。れんげちゃんとでも呼びやがりなさいなのです、遍照金剛さん】

同時刻。同じく坐禅を組む者たちが、念話で会話している。互いに英霊、『キャスター』のクラスであり、宗教を同じくする僧侶だ。
サーヴァントたちの気配が感じ取れるようになってすぐ、両者は互いの存在に気づいた。
マスターたちは就寝しているが、夢の中で念話を伝えることはできよう。

対話する両者には、互いの姿がありありと見える。
呼びかけた方は、プラチナブロンドの長髪の幼女。金色の袈裟と小豆色の法衣を、少しぶかぶか気味に羽織っている。
こんななりだが、霊格は高い。彼女こそはチベット密教ニンマ派の開祖『パドマサンバヴァ(蓮華生)』。グル・リンポチェ(如意宝珠師)とも。
チベットの王ティソン・デツェンによって北西インドより招かれ、西暦775年頃、チベット最初の仏教寺院「サムイェー寺」を建立したことでも名高い。

応えた方は、一見二十代の剃髪した青年僧。宝亀五年(西暦774年)に讃岐国に生まれた、弘法大師『空海』その人。
彼については贅言を要すまい。日本に真言密教をもたらした男であり、真言宗の開祖だ。

【……で、気づいていますね。アレ】
【はて、アレとは】
【いろいろです。白馬の騎士とか微小な機械とか、龍王とか羅刹とか。なんか制限されてて、全部は観えませんけど】
【こちらもです。分霊とはいえ、蓮華生菩薩や私に制限をかけるとはね】

この空海は、分霊とはいえ「生きている」。
史実としては荼毘に付されたはずだが、10世紀以後は「肉身を保って入定状態にある」、と信じられている。
否、この空海は―――海の彼方のウェールズの大魔術師マーリンの如く、生きながらに世界の外側へ、仏神らにより「遷された」存在だ。
パドマサンバヴァもまた、死んでも死なぬ身。こちらは遷された者ではなく、自ら世界の外側に赴き、世界を見守る者となっていた。

372 The Day Is My Enemy ◆nY83NDm51E :2018/07/28(土) 00:25:42 ID:lgbWXIBg0
【我々でも逆らえぬものはいくつもあります。それこそ、正法(ダルマ)に逆らう事は出来ません】
【然らば、この聖杯戦争を主催しておる存在は、何処の如来でしょうな。仏が地獄を創るとは、ちと捨て置けません】

にこやかにそう語る空海に、パドマサンバヴァは笑って小首を傾げる。
【おや、あなたらしくもない。全ては空、幻、因縁生起。実体なきものです。これもなにかの仏縁であり、仏の思し召しでしょう。勘ですが】
【六神通を保ち、悟りを開かれた方の直感ならば、そうであろうとしか。自分もそう思いますが、止めたいという気持ちも嘘ではない】
【たとえマスターの影響であっても、それはあなたのカルマであり、仏縁です。やりたくばおやりなさいなのです】

しばしの沈黙。互いの気心は知れた。これも仏縁。このような場でなくば、百年でも語り合いたい相手ではあるが。

【……さておき、どうなさる。白馬の騎士を討つおつもりか。それとも龍王や羅刹を退治なさるか】
【今のところ、どちらも放っておこうかと。龍王や羅刹を討つのは比較的容易そうですが、だって、アレでしょ。
 まして白馬の騎士は、アレじゃないですか。流石に私でも手に余る、と思うのです】
【まあ、そうですな。聖杯戦争を止めるには、白馬の騎士をどうにかするのが一番手っ取り早いとは思うのですが】
【主催者は、白馬の騎士をどうにかできてます。つまり、アレによってさえ倒せないとしたら?】
【方法を探ります。なにせ、先が見えないことは久しぶりなもので。愉しみながらやっていますよ】

二人の僧侶は情報を共有し、互いに敵対せぬことを約束する。協力関係になれるかどうかは、状況次第だ。
――――対話の中、パドマサンバヴァは、ふと呟く。蓮華の開くように咲(わら)いながら。

【あの羅刹には、仏縁があります。そこに緒(いとぐち)があるやも】
【ほう。魔を討滅するより、済度したいと仰るので】
【それが仏門の徒のつとめでしょう】


【???/1日目 午前2時】

【キャスター(パドマサンバヴァ)@8世紀後期チベット】
[状態]健康
[装備]金剛杵&錫杖
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:?
1.とりあえず戦闘は避ける。ふりかかる火の粉は払う。
※六神通によって市内の様々なことを見抜いています。
※キャスター(空海)とは互いに敵対しないと約束しました。
※羅刹王(メーガナーダ)に仏縁があることを見抜きました。

【キャスター(空海)@平安初期日本】
[状態]健康
[装備]飛行三鈷杵
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を止める。
1.まずは白馬の騎士(カルキ)をどうにかする方法を探る。
※千里眼によって市内の様々なことを見抜いています。
※キャスター(パドマサンバヴァ)とは互いに敵対しないと約束しました。

373 The Day Is My Enemy ◆nY83NDm51E :2018/07/28(土) 00:27:44 ID:lgbWXIBg0


冬木市上空。痩せた半裸の黒人の男が、タブレット端末を操作しながら。

YOメン。消えぬ桂の春団治、D.J.ウォッチャーです。おひさ渋谷凛、様子見に来たよ。
まったくもー毎日暑くて暑くて、太陽が十個出てるか日本がメキシコ化してんじゃあねーの?って感じ。真っ黒に日焼けしちゃうわほんとに。
いや、今はまだゴールデン・ウィークですけどもね。(支離滅裂な思考・発言)

そんで、えーと。(ポチポチ)おお、だいぶ投下があるじゃないの。まだ脱落者は出てないみたいね。
これで本編未登場は……主催者側を除けば、あと数組ってとこか。鯖だけ出て鱒が出てないのもあるけど。
しかしまあ、この手の企画はなんとも話が進まねえな。こんなシケた街、気軽に爆発炎上させちまってもいいし、愚かモブを暴れさせてもいいのにさあ。
オレ様が動かせって? いやあ、あっちでも忙しいんだよね……。気軽に僕らを動かしてご覧?

あ、さて。メタい与太話ばかりもなんですから、景気づけに街の一角にゾンビ・ゾーンを作ってみよう。リーナには内緒ね。
英霊を誘き寄せる餌場になったりしなかったりするかもしんないじゃない。カルキとか来たら? そりゃその時よ。

今回のサブタイは、The Prodigyの曲からでした。夏場はほんと、太陽は敵!夜が好き!って感じさ。
ほんじゃ諸君、台風に気をつけてね! シーユーアゲーン!


【B-9/ハイアットホテル/1日目 午前2時】

【ウォッチャー(バロン・サムディ)@ヴードゥー教】
[状態]健 of the 康
[装備]ステッキ&ピストル
[道具]タブレット端末(なんか執筆中)
[思考・状況]
基本行動方針:気の向くままにやりたい放題。まあ一応マスターは護ってやるよ。
1.エピロワの次の展開どうしよっかなー。
2.オレはノヴァ&メーガナーダ組を支援してもいいし、しなくてもいい。どっちかと言えば守護りたい。
3.ロキ野郎のおっぱいを揉みたい。
4.討伐令は無視する。バトルがあったら観察してみる。
[備考]
※この聖杯戦争に集った全てのマスターと、そのサーヴァントの真名を知っています。相手が死者なら、その全生涯を。
※聖杯戦争中にどこでどう動き、何を喋ったかまでは、意識して「観測眼」のスキルを発動しないとわかりません。
※スキル「観測眼」は、過去・現在・未来・メタ視点について観測できます。観測者効果で事象が変化する危険もあります。
※観測した事象を誰かに伝えるか否かはご機嫌次第です。あなたはラム酒と葉巻とハッパを捧げて機嫌を取りなさい!
※意識して姿を現そうとしない限り、基本的に目に見えません。ロキの前にはわざと姿を現し、M字開脚をしてみせました。
※下半身は丸出しです。
※街のどこかにゾンビの群れを召喚してみました。李衣菜には認識出来ません。
※ヴォーパルの剣が効くかどうかは不明。キャロルさんも「剣が何かなんて説明できない」つってるしさ。蜘蛛野郎やロキ野郎には効くんじゃない?

374 ◆nY83NDm51E :2018/07/28(土) 00:29:33 ID:lgbWXIBg0
投下終了です。

375 ◆VdpxUlvu4E :2018/08/12(日) 16:56:49 ID:OlQbnzVw0
隼鷹&ランサー(ラクシュマナ)
ジャギ&ライダー(チンギス・ハン)
ライダー(ハスター)
アルターエゴ(アレイスター・クロウリー)
衛宮士郎&キャスター(ケイ)

予約させてもらいます

376 ◆VdpxUlvu4E :2018/08/30(木) 03:45:19 ID:cK7xISMg0
すみません予約を破棄します

377 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:14:08 ID:sBGHi1pY0
企画主ですが池沼過ぎてトリップ忘れました(池沼)
本人何ですが証明する術がないので本編UPして証明します(絶対強者)(ティガレックス2頭クエスト)

378 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:15:24 ID:sBGHi1pY0
 ◆

 何処でも最大限の力を発揮した状態で戦える、と言う能力が、優れた戦士である事を証明する資質である事に誰も疑いを挟む事はしないだろう。
だがそうは言っても、個々人によってやりやすい所と、そうでない所が別れているのもまた事実。水辺、平原、斜面に海上。此処での戦いが特に優れている。そんな英霊は、座においても珍しくない。

 一般に聖杯戦争において最優のクラスと称されるセイバークラスで召喚されておきながら、安徳帝は、悲しい程に戦う力の低いサーヴァントだった。
戦えない訳ではない。この少女は有する宝具の強力さ、そして、彼女自身と契約、身を共にする存在は、聖杯戦争どころか座全土を見渡しても屈指の格を持っている。
戦闘となれば、花の茎すら手折れないのではと心配したくなる程儚げな姿からは想像もつかない程の力を発揮する。
が、それはあくまで宝具や、彼女と共に在る蛭子の存在があってこそ。安徳帝は元々、御伽草紙や軍記に出てくるような武者や将軍のような武功を持たない。
十歳にも満たぬ身空で夭折した、悲劇の天皇。平清盛の傀儡として死んだ少年の天皇。それが、一般的な安徳天皇のイメージであり、そして、事実の姿だ。
宝具の力を借りないで行う直接的な戦闘では、安徳の実力は底辺に等しいと言っても過言ではない。見た目から誰もがイメージするであろう程度の戦闘力しかないのだ。

 そんな安徳だ。多少なりとも、自分に有利なフィールドで戦おうと判断するのは、当然の事である。
彼女の場合その有利な環境とは、池や川、湖沼である。つまりは、水場だ。其処で彼女は、十全以上の力を発揮出来るのだ。
これは、安徳の運命共同体である蛭子が、水と『流れ』に深い関係がある神霊と言うのもそうだが、安徳自身もまた、生前の最期から、水に纏わる逸話に事欠かない。
入水の一件と紐付けられた個性は、安徳としても複雑なものではあるが、それが有用な物である以上、利用しない手はなかった。その有用性も明白な物であるのだから、猶更だ。

 安徳と、そのマスター、小林輪は、未遠川上流をその拠点としていた。
未遠川及び、その上流である事には訳がある。一つに、冬木に於いて安徳の力を発揮出来る大規模な水場が其処以外に少ないと言う事。
そして、上流である事の理由は、人目だ。未遠川は日本海に向かって流れる川であり、その出口は冬木港に近い所にある。
今現在冬木港は、今日の未明に起こった謎の破壊活動の調査の為県警及び施設関係者でごった返しており、とてもではないが拠点にするにはリスクが高い。
そうでなくとも未遠川は両サイドを土手に囲われた、散歩コースにも選ばれる程の場所である。つまり、下流〜中流にかけては、何かしらの人の目があるのだ。
つまりどうしたって彼らの拠点は、滅多に人の入り込まない、いや、入り込めない位自然の手が強い上流以外にならざるを得なくなる。

「……結構我慢強いな、輪」

「ま、慣れてるからな」

 上流になれば、川の勢いも強くなる。
せせらぎを超えて、奔流の域に達しかけている川の流れの音を聞きながら、輪は座るのに適した岩に腰を下ろしていた。

 我慢強い、と言うのは、この環境での生活に不平不満を言わない事を言っているのだろう。
何せ現状の二名を取り巻く環境は、家は勿論雨風を防ぐ為の壁や天井すら存在しない屋外。しかも、放っておけば虫にも喰われ放題の森のど真ん中である。
大の大人だってキツい状況だ、しかも、食料の供給すら不安定。そんな所を拠点にしていると言うのに、輪は一切弱音を吐かない。
こんな生活に慣れているからだ。シオンとしての我を取り戻してから、輪は、家出少年のような生活を送る事の方が多かった。身一つ頼りの外での生活。
そのノウハウを彼は知っているのだ。だからこそ、安徳を召喚してから今の今まで、嫌な顔一つせず此処で生活を送れているのだ。

379 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:15:44 ID:sBGHi1pY0
「今はサーヴァントだから何も不自由は感じていないが……生前のわたしなら、こんな生活、不満の一つ覚えていたかも知れないな」

 六歳と言う若さでこの世を去った安徳は、傀儡であったとは言え、生涯の殆どを何に不自由する事もない生活を送れていた。
それはそうだ、如何に平家の操り人形としての側面が強かったとは言え、彼女は時の帝だ。平民同様の生活を送らされる筈がなかった。
だからこそ、源氏に追われ、壇ノ浦でその命脈を断たれるまでの生活は、幼いながらに苦痛であった。その生活に慣れる事もないまま、彼女は世を去ったのだ。
輪は、見た所安徳とさして年齢に差がない。違ったとしても、数歳程度の差しかなかろう。そんな少年がこの環境で見せる予想外のタフさに、安徳は、少しだけ尊敬を憶えていた。

「キャンプの延長線上みたいなものさ、出来るからって偉ぶれるもんじゃーないぜ」

 尤も、輪としては特に誰かに尊敬される物でもなかった。精神的に参っていた時期に培った程度の経験、そんな認識だった。

「……それより、目下の問題を片づけるとしよう」

 言って輪は、聖杯戦争の参加者である事の証に等しい、星座のカードを取り出し、其処からホログラムを投影させる。
文字が、光のスクリーンに表示される。軽妙で洒脱な訳にすれば良いと考える二流の翻訳家が考えた様な映画の字幕を思わせる、軽い語り口の文面。
それは即ち、聖杯戦争の始まりを告げるアナウンスであった。それは良い、語り口こそイラっとするものの、言いたい事は伝わる文章だからだ。
問題は、その文章が告げる、要警戒の危険サーヴァントと、そのマスターの情報だ。ただ注意喚起をするのであれば、「そうか」、で終わる。
それで終わっていなかった。聖杯戦争の運営が警戒しろとアナウンスしたこのサーヴァント、何と倒せば令呪十画ばかりか、望めば元の世界への帰還すら可能と言う、
凡そ大盤振る舞い以外に表現出来る言葉がない程破格の懸賞を掛けられているのだ。

「聖杯戦争の運営ってーのは馬鹿らしい」

 輪から見た、此処冬木の聖杯戦争、その運営を司る者は、端的に言えば馬鹿であった。
余りにも、私怨が見え透き過ぎているのだ。討伐される理由こそ、運営に対する反逆とあるが、要するにこのサーヴァントとマスターは、
運営側にとって生きられていると困るサーヴァントなのだ。いや、ともすれば、『この主従を倒した瞬間運営側の目標は達成される』、
と考えられる程重要な意味を持つ主従の可能性もある。どちらにしても、一方ならぬ因縁がある事は容易に想像がつく。
そして同時に、もう一つ考えられる可能性としては、この主従は他主従と一線を画する強さの持ち主であると言う事。
その事実を雄弁に語るのは、その余りにも大きすぎる討伐報酬だ。特に、元の世界への帰還など多くの主従にとっては魅力的な提案と言えるだろう。
何せ多くのサーヴァント達を打ち倒した末に手に入る聖杯に望まねば叶わないような願いが、サーヴァント一騎倒せば成立するのだ。これ程光り輝いて見える提案はない。
だが、そんな報酬を設定すると言う事は、この主従は並々ならぬ強さの持ち主であるのだろう。詰まる所、この報酬は『こませ』だ。
餌につられた馬鹿な魚達を集め、数の利で叩かせる為に、こんな報酬に設定したのだろう。少し考えれば容易に想像が出来る。その想像すら出来ない馬鹿を釣る為の設定、それが、令呪十画と元の世界への帰還、と言う事か。

「……流石に向こうも、怪しいと思われる事位織り込み済みだと思うが」

 安徳の話しぶりが、輪を掛けて落ち着いた理知的なそれに変わる。人格の方をバトンタッチしたのだろう。
彼女に宿るもう一つの人格……いや、敢えて言うなら神格か。蛭子神、記紀神話における流離の神である。

「牽制の為、ってか? まぁ、そう言う意味じゃ成功だろうな、このアナウンスは」

 特定主従を叩かせる、と言う目的でなら、この討伐令の主従の告知は悪手も良い所だが、参加者にインパクトを残すと言う点では大成功だ。
警戒して見よう、叩いてみよう、コンタクトを取って見よう。思う所は皆様々だろうが、それでも、何かしらの指針を強制的に立たせるだけの力はある。
それが運営の狙いであると言うのなら、輪が思う程、向こうも馬鹿ではないかも知れない。

「君は如何する、輪。この主従を相手に何をする」

「様子見」

 無難な判断だが、実際それしかない。
判断材料が余りにも少ない今の段階で、御近づきになってみよう、と考える方がどうかしている。
況して理由はどうあれ、討伐令の対象に選ばれる程の曲者なのだ。そんな判断になるのも、むべなるかな、と言うものであろう。

380 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:15:55 ID:sBGHi1pY0
 安徳は輪の判断を尊重、現状の待ちの姿勢をそのまま継続しようとして――固まった。

「どうした」

 怪訝そうな表情を浮かべ、輪が言った。その反応も当然だ。
ノミを当てたように険しい表情を作りながら、木々が密集していて十m先すら見通す事が難しい方向を、幼帝は睨み付けているのだ。良からぬ事を予期したのか、以外に解釈の仕様がない。

「……此処から離れた所で、サーヴァント達が戦っている可能性が高い」

 安徳の語調が変わった。声音自体は平時の彼女のそれであるが、輪には解る。人格を変えた。
これは、蛭子の言葉であろう。勤めて発散させないようにしているがまだまだ甘い。隠し切れない、神特有の、上から目線風の気配が香るのである。

「何でそんな事が解るんだい?」

「音だ。輪、君の耳には捉えられないかも知れないが、私は捉えた。金属同士が高速でかち合う戛然とした、戦場の音を」

 神とは、常に一つ。絶対的な支配権を持つ事を許される事象・現象・物が存在する。
それは通常『権能』と呼ばれ、それを振るう事を許可された時空や世界に於いて、当該神霊はことその事象を操作すると言う点では、他の追随を絶対に許さぬ存在と化す。
安徳の中に住まう蛭子の神にとっての権能とは、『流れ』である。即ち、『運動』と呼ばれる概念の上位に当てはまる事象を彼は支配出来る。
蛭子が神として力を発揮する事が出来る時空に於いて、彼は時間にすら容易く干渉する程の力を有する事が出来るが、神秘が急速に失われた現代では、
其処までの全能性を発揮する事は出来ない。だが、彼を彼足らしめるこの力は、劣化する事こそあれど失われる事はない。
そう、この流れを支配する力を利用し、蛭子は音を捉えたのである。音とは即ち空気を媒介として伝播し、『流れ』行く物。
流れを支配する蛭子の聴覚から完全に逃れたいと言うのであれば、たかが一km・二km距離を離した所で、何の意味にもならないと言う事である。

「……」

 考え込む輪。その様子を見て蛭子が付け加える。
戦っている、顔も知らぬ誰からは、此方に気付いている様子は聞いた所ない。戦闘に専念している事が伺える。
だが、その戦闘の規模が激しい。これは確実であると言う。少なくとも、物見遊山気分で見物しに行き、五体満足で情報だけを持ち帰って来れる、
と言った甘い考えは到底通用しない程のレベルであると言う。大なり小なりのリスクは、必ず背負って貰う事になる訳だ。

「輪。君がその火事場に近づく、その必要性を感じ取れないと言うのなら、此処で待機するのも良いだろう。私は君の意見を汲み取ろう」

381 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:16:08 ID:sBGHi1pY0
 ◆

 小林輪は偵察の実行及び、状況次第によっては交戦をも辞さない考えを示した。
状況次第と言ったのは、漁夫の利狙いである。こちらでも倒せそうな相手、或いは此方が仕損じる可能性が低い相手なら、倒しにかかると言う手筈だ。
勿論、輪の目から見ても善良な相手であると、心が痛む。此方が心を鬼にしたとて、安徳が良い顔をしない事もあるだろう。それだけが、彼らにとっては気がかりだった。

 結論を言えば、その気がかりは杞憂だった。
大盾を持った戦士である少女・ウィラーフ。蛇の尻尾を持った、何故か安徳帝に似た容姿で刀を振るうバーサーカー・八岐大蛇。
彼らと大立ち回りを繰り広げるセイバー・アテルイは、消滅させても何の後腐れも『しこり』もない悪漢であった。
気兼ねなく消滅させられる。殺す事が出来る。そう思った瞬間、輪は、安徳にアテルイ達の戦闘への横槍を入れるよう頼んだ。
恩を売っておきたかったからだ。輪が積んだ経験、シオンとしての記憶。それらの経験知を合算させて考えた結果、あの二名のサーヴァントのマスター。
その両名共が、善良な性格の持ち主だと見抜いたからだ。あれならば、自分の子供としての容姿が機能する。輪は打算的にそう考え、行動を実行に移した。

「――田村麻呂オオオオオオオオオオオオォオオオォォォォォオオォォオオオオォォォッッ!!!!」

 ――唯一にして最大の誤算は、攻撃を仕掛けた人物である安徳の姿を目の当たりにした瞬間、凄まじいまでの怒気と殺意の火花を瞬かせながら、アテルイが彼女の方向へ猛進してきた事であろう。

 ――何ッ――

 勿論安徳も蛭子も、不意打ちを仕掛けた側である。アテルイの持つ殺す対象への意識。卑賤な言い方をすれば『ヘイト』だ。
その何割かは此方に向けられる事位は当然のように予測していた。だが、誤算があった。彼らはその憎悪は分散される物だと思っていたのだ。
即ち、自分、ウィラーフ、オロチ。この三体の間で憎悪と殺意の比率は分割され、状況次第で攻撃の対象を逐次アテルイは変えるのだと、予測していたのである。

 予測は頭から、完全に裏切られた。
アテルイは安徳の姿を見た瞬間、それまで蓄積させていたウィラーフやオロチへの敵意の全てを、安徳の方へと一点に集中。
そのベクトル方向に突き動かされるが如く、アテルイは、それまで戦っていた両名に目もくれず特攻を仕掛けにいった。
それまでずっとアテルイと戦っていて、多少なりとも会話も交わしたであろうウィラーフとオロチ達ですら、アテルイの突如の行動に目を丸くしているのだ。
中途でこの場に現れて、少し人となりを観察した程度にしかアテルイの事を知らない安徳達が、混乱状態に陥らぬ筈がなかった。

 五十m近い距離を、瞬きの速度で、己の持つ骨剣の間合いにまで短縮させたアテルイは、感情の赴くまま――しかし。
確かな技巧を感じさせる軌道で、自らの得物を振り抜く。それに、安徳の身体が反射的にでも動いて、反応出来たのは一生に一度と言うべきレベルの奇跡だった。
防御したのではない。攻撃されたのだ、と感じ、慌てて手にしていた形代の剣を、アテルイの骨剣の軌道上に配置しただけだ。
アテルイの攻撃と、安徳の持つ形代の剣が衝突。鼓膜が破裂するどころか、目がグルリと回転しかねない程の巨大な金属音が響きわたるのと、
宇宙服状の戦闘服で身を鎧った安徳の身体が、丸めた紙のように吹っ飛んだのは全く同じタイミングだった。

「あぐっ……!!」

 だが、アテルイの霊基が有する身体能力と、安徳の霊基が有する身体能力とでは、天と地ほどの開きがあった。
そもそもをして、幼い子供に毛が生えた程度の身体能力しかない安徳が、鬼神もかくやと言う程の身体能力のあるアテルイの攻撃を凌ぐと言う事が無理な筋なのだ。
必然、吹っ飛ばされる。アテルイが剣を振るった方向へと。十数m、矢の如き勢いで吹き飛ぶ安徳だったが、幹の太い一本の樹木に背面から衝突し受け止められた事で、漸くその勢いが止まったのだった。

382 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:16:23 ID:sBGHi1pY0
「田村麻呂、テメェ田村麻呂か!? ハハ、妙にチンチクリンな姿になったじゃねぇかオイ死ねッ!!」

 情緒が余りにも安定していない。心の中に浮かんできた泡のような言葉や思いを、スピーカーのようにアテルイはぶちまけているようだった。
死ね、と言う言葉の後に、真空刃を安徳の周りに展開させ、彼女の幼い肢体を輪切りにしようとした、その瞬間。
先ほど安徳がアテルイ目掛けて投擲した、宝具・坂上宝剣が、窮地に現れるヒーローめいて、主である少女の目の前まで高速移動。
真空の刃を独りでに、悉く切り裂いて破壊して周り、安徳を危機から救ってみせる。この剣を本来振るっていたある大将軍、その魂が宿っているかのような、高潔な剣であった。

 急いで安徳は木の幹に背を預けて倒れている体勢から立ち上がり、形代の剣を構えて見せる。
怒気も露な表情で、安徳の事を眺めていたアテルイだったが、宇宙服を纏うそのセイバーの構えを見た瞬間、毒気を抜かれたような顔をし始める。
余りにも急激な表情の変化だったので、表情を窺わせぬヘッドグラスの向こう側で、安徳は困惑してしまっていた。アテルイの感情の触れ幅が大きすぎる。そう言う作戦なのかと邪推してしまう程であった。

「……んだ? テメェ、その素人同然の構えは」

 ぽかんとした表情を塗りつぶす様に、アテルイの表情が不機嫌そうなそれに変わって行く。構え。間違いなく、安徳の形代の剣の持ち方、構え方を言っているのだろう。
言われるのも当たり前だ。何せ安徳は生まれてこの方喧嘩らしい喧嘩すらやった事のない子供であり、よりにもよって彼女と共にある蛭子ですら、そんな逸話が存在しない。
早い話が、戦いと言う概念から最も遠い所にいるのだ。宝具にもなっている坂上宝剣を持てば、ある程度田村の技量をトレース出来る為不恰好なそれではなくなるが、それを抜きにした場合の安徳の剣術の腕前など、最底辺も良い所だった。

「お前さては、田村のクソじゃねぇな?」

 当たり前だと、安徳も蛭子も思う他ない。どの世界に、こんな奇妙な出で立ちの坂上田村麻呂が存在すると言うのか。
しかし、まこと見当外れと言う訳でもない。そもそも安徳が振るっている坂上宝剣、いわゆる『そはやの剣』と呼ばれるこの宝具は事実、
生前坂上田村麻呂が振るっていた大業物その物であるからだ。田村麻呂本人では勿論有り得ないが、ゆかりの者ではある、と言う意味ではある意味正しい。

 ――そして此処で問題となるのは、一つ。

 ――あのサーヴァントは誰だ……?――

 安徳から見た目の前のサーヴァントが、自分の振るうそはやの剣から、自分を田村と誤認したのは明白だ。
では、この男は一体何者なのか? と言うのが最大の疑問となる。田村に恨みを抱いているフシがありありと伝わってくる、その言動。
田村麻呂が征夷大将軍として東北の地へと遠征しに行った際に討伐して来た、荒ぶる鬼達。その伝説は寝物語で安徳も生前良く聞かされてきた為知っている。
あの下品な言動のサーヴァントは、田村麻呂に征伐された鬼の誰かなのだろうかと安徳は考えたが、思い当たる節が多すぎる。
悪路王、高丸、大嶽丸に八面大王、鬼ヶ城の大鬼達に、由加山を根城とした阿久良王など。有名所でこんな所か。
流石は後世の武士の理想像、戦う者達の尊崇を集める神霊とも同一視された男なだけある。田村麻呂が征した鬼の数は限りなく、だからこそ、『類推が出来ない』。
上に挙げた鬼達は皆、田村麻呂憎しの念を抱いていても全くおかしくはない連中である。それに田村麻呂程の男だ。
安徳が知らないだけで、伝説には記されていない、東北への遠征中に倒して来た他の猛き鬼達の存在も当然あるのだろう。彼らであった場合、今度こそ誰なのか解らない。
田村麻呂に恨みの念あり。これだけでは、彼――アテルイと言うサーヴァントの真名には、誰も辿り着けないのであった。

「まぁテメェが誰なのか何ざぁ知った事じゃねぇ。その剣を持ってる以上、テメェは俺の敵だ。今すぐその甲冑ごと、テメェの身体を俺の剣がぶった斬ってやる」

 言ってアテルイが意識を集中させた、刹那。
安徳の意識の外から、攻性の何かが高速で飛来して来た。自分に向かってではない。アテルイの方へと。
その方向に彼は目もくれず、目線だけを安徳に投げかけた状態のままで。骨剣を器用に片腕の力だけで音のスピードで振るい、迫り来る物を破壊する。
ウォーターカッター状に高圧縮された紫色の水と、青緑色の焔の塊。これをアテルイは、ただの骨剣の一振りで斬り裂き雲散霧消させてしまったのである。

「お前達の存在だって忘れてねぇからよ!! 事が済んだらぶっ殺してやるから覚悟しな!!」

383 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:16:40 ID:sBGHi1pY0
 アテルイがそう言い切ったと同時に、安徳が動いた。
「つむをかれ」、独特の韻律でそう呟いた瞬間、彼女の持つ形代の剣が反応。簡素な両刃の剣身全体に、淡く水色に光る筋が描かれ始める。
すると、その光の筋を基点として、剣身全体が分離、展開して行く。分離した剣身のパーツはそれぞれ、一mmあるかないかと言う極細のワイヤーめいた物で連結されており、
それが魔法の様にスムーズかつ激しく動いて行き、他の剣身パーツとそれぞれ合体してゆき、一つの形を形成して行く。常軌を逸したカラクリ振りであった。
合体に掛かった時間は、一秒を大幅に下回るゼロカンマ四秒。その一瞬の間に、安徳の持っていた形代の剣の刃部分が、
鳥の羽めいた左右非対称の、紡錘状をした両刃のそれへと変形していた。変形が完了した証なのか、剣身に刻まれた光の筋から蒸気が噴出し、これと同時に筋がスッと消えてなくなった。

 これぞ、安徳の持つ宝具である形代の剣の変形機構の壱の形、『都牟刈大刀(つむかりのたち)』。
葦原中国に君臨していた蛇龍・八岐大蛇の体内から発見された当時の形を再現した状態である。
狼藉を働く荒ぶる御魂を、その命ごと『鎮め/静め/沈め』させる力を持つこの業物は、まさにその名の通り『つむ(罪)』を刈る剣なのである。今のアテルイを相手するには、これ以上となく相応しいチョイスであった。

 全くのノーモーションでアテルイは、自身を中心とした直径25m圏内に、風の刃を無数に生み出させ、それを高速で旋回させる。
その範囲内は例えて言うなら、ミキサーの中。一度足を踏み入れようものなら高速で旋回する無数の真空刃に切り刻まれ、原形を留めぬ程バラバラにされてしまうだろう。
そしてそのミキサーの中に、安徳はいた。勿論対策はしている。蛭子の持つ、流れる物を支配する権能である。
生前の様な支配力こそ褪せてしまったがしかし、こと『水と風』の支配については、蛭子は高い適正を誇る。
これは帆すらない葦の船に乗せられながらも、自前の流れを支配する力で風と水とを操作し何とか生き残った事に由来する。
如何にアテルイの起こす風の力が凄かろうが、風が流れる物である以上、蛭子の支配からは逃れられない。
真空刃は安徳に当たるその直前で、殆ど直角に近い角度で折れ曲がり、彼女を避けてゆく――どころか。
この現象を生み出した当の本人であるアテルイ目掛けて、無数の刃が殺到して行くではないか!!

「んだと!?」

 空気の刃は不可視だが、流石にアテルイは何らかの力で自分が生み出したこれらを察知出来るらしい。
急ぎ骨剣を振るい、迫り来る真空刃を悉く破壊――その隙を縫って、安徳のみならず、真空のミキサーのせいで右往左往していたウィラーフとオロチですらが彼目掛けて急接近。

「チッ、上等だクソ共が!! 纏めてクソミソにしてやるよ!!」

 常ならば、嵐の形態をとる魔力の放出で三者纏めて粉微塵にする所なのだが――。
アテルイは今の一瞬で、自分の繰り出す嵐は、安徳がこの場に健在な限り彼女の支配下に置かれ、逆に此方が痛手を負う事に気付いていた。
無論、癪である。俗な言葉で言うのなら、ムカついている。だが、これが事実の以上、魔力の放出を用いない戦い方をせざるを得ない。
そして、それを持たぬアテルイではない。ステゴロ、剣術。そのどちらにもアテルイは卓越した技量を示す。これらで相手を圧倒する事もまた、アテルイにとっては造作もないのである。

 此方に向かって高速で飛来する、ウィラーフの放つ毒炎の塊を骨剣で真っ二つにし破壊した後で、
時間差で放たれた呪毒のウォーターカッターを、スウェーバックでアテルイは回避。そしてそんな彼へと追いすがろうとする安徳と、その周囲を旋回するそはやの剣。
ライフル弾もかくやと言う勢いで、彼の首を喉仏から穿とうと迫るそはやを、右足によるハイキックで剣の腹を蹴り抜く事で軌道を大幅にずらさせ回避。

384 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:16:56 ID:sBGHi1pY0
 体勢が、かなり崩れている。素人目から見ればそう見えるだろう。
現に、この場に於いてアテルイに次ぐ戦闘経験を持つウィラーフにですら、今の彼は無防備そのものとしか映っていなかった。
安徳がアテルイに追いすがり、手にした都牟刈を胴体目掛けて振り下ろす。この際、足りぬ技量を速度と言う形で、安徳は補っていた。
彼女もまた、魔力の放出を可能としているのだ。斬らない側の刃部分から、魔力で構築した真水をジェット噴射の要領で噴出させており、その勢いを借りてスピードを増させ、斬ろうと言う算段だった。幼い身体故の身体能力の低さ、これを補う安徳の知恵だった。

「そ、ら、よ、ッ!!!」

 ――そんな努力と知恵では埋められぬ程、安徳とアテルイの技術と身体能力には、差があった。
そはやを蹴り抜いたその右脚だけを器用に動かし、何と、振り被る前段階のそはやの剣、坂上宝剣の刀身を足の親指と人差し指だけで挟んで、白刃取りしてしまったのだ。
ヘッドグラスのその奥で、愕然の表情を浮かべる安徳。彼女の身体に宿る蛭子にも、動揺が走る。
この余りにも曲芸師染みた動きで攻撃を防がれた事もそうだが、足指の力だけで、此方の攻撃の勢いを完全に殺しきるアテルイの凄まじい力。
万力にでも挟まれたかのように、ビクともしないし、動かない。認めたくない事実だが、本当に、渾身の一撃が防がれているのだ。

 足の指で都牟刈を挟んだ状態のまま、アテルイは左足の力だけで地面を蹴り、軽く跳躍。
その、都牟刈の剣身を指で挟みながら宙に浮いた、その状態からグンッ、と、安徳の握る業物越しに全体重を込める。
筋力Aを上回る上に、其処に加えて鬼の怪力を込めた加重である。当然、耐えられる筈がない。
そのまま地面に背面から勢い良く押し倒される形となる。宇宙服状の戦闘服自体がかなり強固かつ内部の衝撃吸収機構が優れている為、
倒された時のダメージは絶無だ。だが、これからアテルイがもたらす行動如何では、一瞬で首が飛びかねない。
何故ならアテルイは今、仰向けの状態の安徳の首元に骨剣の刃を当てた状態のまま、彼女の事を見下ろしているのであるから。

「殺す前に、面見せろテメェ!!」

 言ってアテルイは、安徳が纏う宇宙服のヘッドグラスを蹴り抜く。
ガラスの割れるような、儚い音と同時に、破片が雲母の様に煌いて宙を舞う。
踵の先にある安徳の素顔を見て、苛立ちを露にするアテルイ。舌打ちが、盛大に響き渡る。

「チッ、何処が田村麻呂だ。唯のクソガキじゃねーか」

 記憶の中の田村麻呂と安徳の顔は、当然の話だが全然違った。そもそも性別からして異なるのだ。
田村麻呂だと思っていたこのセイバーは、素顔を隠すヘッドグラスを破壊して見れば、年端も行かない少女だった。
僅かに除く素顔の幼さから類推出来る体格を考えるに、少女の纏う宇宙服は彼女自身の体格と合致していない。早い話、宇宙服の方が遥かに大きい。
宇宙服の手足に相当する部分に、これでは少女の手足は通らないだろう。通らなくても問題ない機構を有している事は想像に難くない。
だからこそアテルイは騙された。宇宙服自体の大きさと、田村麻呂の背格好が合致していたのだ。これが、中の少女相応の大きさだったら見間違える事は有り得ない。
この年端も行かぬ小娘を、田村麻呂だと誤認して一人騒いでいた自分に、アテルイは心底腹が立っていた。そして、自分を騙していた上に、しかし、
田村の振るっていたそはやの剣を操る安徳自身にも、無限大の憎悪を彼は抱いていた。

385 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:17:14 ID:sBGHi1pY0
「もう良い、とっとと死ね」

 骨剣を振り上げ、即座に安徳の頭を縦にカチ割ろうとした、その時。
意図せぬ衝撃が骨剣その物に舞い込み、思わず体勢がよろめきそうになる。そうなるよりも早く、アテルイは飛びのき、安徳事態から距離を離した。
風や水の塊をぶつけられたのとも違う、明白に物質的質量と実体を伴う何かが、高速で勢い良くぶつかって来たような衝撃であった。
剣に叩き込まれた衝撃の正体を知ったのは、飛びのき終えてからすぐだった。

 スタッ、と言う音を立てて、倒れている安徳の隣に着地するオロチ。
如何やらこの化生が高速でアテルイの所まで接近し、その剣にドロップキックを仕掛けたらしかった。
「このクソガキが」、凶暴な顔で、オロチの方を睨めつけるアテルイ。

「悪いなクソザコ、このガキはオレの獲物なんよ」

 そう口にするオロチの言葉には――例えようもない情感が宿っていた。
その感情の名は、怒り。アテルイにではない。立ち上がろうとしている安徳帝自体に、抱いているようであった。

386 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:17:24 ID:sBGHi1pY0

 ◆

387 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:17:52 ID:sBGHi1pY0

 ◆

 ――一言で言えば、その一族は滅びつつある者達だった。 
オレは人間如きの一族、門閥に何ざ欠片も興味がない。人間が、アリの集団の敵対関係や同盟に興味を抱かないのと同じ事や。
オレがあの、言仁っちゅう幼い子供に憑依したのは、入念な下調べの末に、そのガキが後に天皇――オレの身体より生まれ出でた叢雲に、
最も近づける大王になる事が確定していたからだ。時の帝になる事が定められた赤子と、それに連なる一族達。
栄耀栄華の運命は約束されている筈なのに……そいつらが歩む道筋は、紛う事なき滅びの道だった。

 趨勢が滅びに傾きつつある奴と言うのは、直感で解る。ツキがないのだ。
悪い情勢を引っ繰り返せるだけの余力を感じない。そして、余力を培うだけの時間もなく、それを恵んで貰うだけのツキもない。んなもん、滅ぶ以外に道がない。
後に、オレが取り憑いた赤子は、『平家』と呼ばれる一族に属する奴だと解ったのだが、こいつらは正に、死と滅びの終着に向かいつつある一族やった。
まるでそれは……人の諸々の意思からも滅ばれる事を期待され、それに呼応するように、歴史や時間と言う大いなるものからも、
滅べ滅べと言わんばかりに急かされ、今後の歴史から剪定される事が約束されてるような……。それが平家……ほんの数年前までは、『平氏でなければ人にあらず』とすら言われた一族の今だった。

 オレは別に、こいつらと馴れ合う心算もなかった。
取り憑いた子供の意思を乗っ取って、平氏を操って贅の限りを尽くす、と言う真似もない。
神々ですら畏れ慄いたこのオレが、人を騙って栄華を満喫するなど誇りにかけて許さない。目標は唯一つ。
八首の龍王として君臨していた時代のオレの骨と腱とが変異して生まれた、人間共が『天叢雲剣』だとか『草薙剣』だとか呼ぶあの剣だ。
アレは明白に、全盛時のオレの力を保有し、オレの力を増幅させる装置だ。それを葦原中国の奴らは、王威の証だとか何だと言って尊んでいるのだからお笑い草や。

 ――一言で言えば、オレの取り憑いた赤子は、孤独な奴になった。
折角人間に取り憑いたのだ。話して惑わしたりして無聊を慰めたりもしてみたが、所詮は子供。大した反応は期待出来ん。
成長するにつれそいつは、オレの良く知るガキとは違う方向に育って行きよった。
生まれた時から天皇足る事を望まれたこの小僧に求められる資質と、それを培う為の教育は、そんじょそこらの馬の骨とは違う。
宮中でのクソ下らない作法や、帝として当然求めれる歌や歴史、神話の知識などなど。馬鹿馬鹿しいにも程がある。そんなもん学んでも、じきに滅ぶっちゅーんに。

 そう言った事を学んで行く内に……と言う訳でもなかったか。
言仁は、ガキなりの嗅覚で感じ取っていた。自分の所属する一族を覆い包む、不穏な気……死の匂いを香らせるツキのなさを。
清盛とか言うジジイの天命が尽きかけるその時点で、平氏の運命は崖から転がり落ちるよう。実際言仁だけじゃなく、他の奴らもその予感を感じ取っていたらしい。
一国の頂点に最も近い位置に君臨する一族でありながらしかし、あいつらには余裕がなく、緊迫した雰囲気を常に纏わせていた。

 時の帝に言仁が即位した際も、当然奴らは敬った。形だけ。
一国の頂点に近しい者として、接する人間も増えていった。亡霊の如くに印象のない奴だらけやった。
言仁の周りにいる大人は皆、言仁を敬っていたのではない。言仁と言葉を交わしていたのではない。
連中らが敬っていたのは、言仁という傀儡を操る清盛であり、連中らが会話をしていたのは、時平の纏う帝の御衣。本心では、安徳……言仁の事はどうでも良かった。
天皇はただ、機能としてそこにあるだけやった。必要なのは、あの衣装。あの椅子――そしてその外見。天皇と言う機能が宿らせるのは、誰の肉体でも良かったのではないか? オレはそう思った。

 言仁を人間として見ていた人間は少なかった。いなかった訳やない。極少数ではあったがいた。
……皮肉な事に、オレもその一人だった。叢雲を取り戻す為の道具、今しばらくの共存関係。オレと奴の関係は、そんなもの。
その程度の関係未満だったのだ。オレと、言仁を敬う有象無象共の関係など。

 ――寂しい奴やね、お前は――

 都を逃れ、行く先々を転々としていたある時期に、オレはそんな事を奴に言った記憶がある。
皮肉をたっぷりに、嘲るような声の調子。奴を馬鹿にするような感じでオレは言った。

 ――……そうだね――

 普段オレが馬鹿にするとムキになる言仁は、その時だけは肯定した。
言ったオレが面白くなくなる程の素直さ。言ったオレが……面白くなくなる程の、寂しい声音。
屋島での合戦を追え、次の場所へと逃げ惑っている時の、一幕やった。

388 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:18:07 ID:sBGHi1pY0
 ◆

 安徳は実は、この場に於いてアテルイ以上に警戒していた相手がいた。
アテルイを侮っている訳ではない。彼の戦闘技術の恐ろしさを加味した上で、彼より得体の知れない相手がいたと言う事だ。

 ――蛇の尻尾を持つ、自分と同じ位の年齢と背格好の童子。それが、安徳が一番警戒していた相手だった。
この場に集うサーヴァントの中では、――人の事を言えた義理ではないが――正直一番侮られてもおかしくない姿をしているあのバーサーカーを、
安徳が不気味だと思っていた理由は単純明快。似ているのが、何も歳と背丈だけじゃなかったからだ。
顔立ちすら自分のそれと瓜二つであれば、怪訝に思うのもむべなるかなという物だ。そう、サーヴァント・八岐大蛇と安徳帝は、鏡写しのようにそっくりだったのだ。

 影法師(ドッペルゲンガー)……或いは、双子。
そんな言葉が頭を過ぎったが、前者は兎も角、後者については覚えがない。
意図的に何者かが安徳の姿を模倣したのかもしれないが、それにしたって、理解不能だ。自分を真似て意味などあるのか? 卑下する訳ではないが、真剣にそう考えていた。

「アァン……? 何だこの出来損ないのクソ蛇が。子供のやわこいお肉がお好みかよ」

「この小僧には怒鳴り付けたい事が山程あるんでな、お前如きカスの剣の錆にはしてやれんのよ」

 目を見開かせる安徳。驚いた理由は、簡単である。自分の事を小僧と呼ぶ存在――それは、彼女の記憶の中で一人しかいないからだ。
漸く、解った。聖杯戦争におけるサーヴァントの仕組み、それを考えた上で、一部の特異な身体的特徴を除いて自分とそっくりな姿をしたこのバーサーカーが、自分を小僧と呼ぶ事実。もしやこのサーヴァントは……。

「まさかお前は……」

「積もる話は後や。今気ぃ張らんと死ぬぞ言仁」

 よろっ、と。安徳が立ち上がろうとしたその瞬間、風めいた速度でアテルイが接近。
安徳の方に左のローキックを叩き込もうとするが、即座にオロチがこれに反応。蹴りが迫る方向にすぐに移動し、脛目掛けて左の掌底を叩き込み、迎撃。
キックの勢いを完全に殺しきり防ぎきった刹那、水晶のように透明な剣身をした刀――天叢雲剣をアテルイの首目掛けて振るうオロチ。
勿論、技量の差は天と地ほどにも離れている。攻撃は速いが、所詮は拙速。技術を伴わない速度など、アテルイの脅威とはならない。
ギリギリ引き付けるように、それこそ、一cmも離れていないと言うギリギリの間合いで身体を反らして回避する。
最小限度の動きで回避したのは、次への反撃へと繋げ易くする為。避けざまに、オロチの頭を骨剣で叩き割ろうとするアテルイだったが――。
振り下ろそうと動かした骨剣を急速に、オロチとは見当違いの方向に向きなおしたのだ。瞬間、骨剣越しに腕に伝わる衝撃!!

「チィ、このクソが!! 剣だけになってもイラつかせる奴だ!!」

 アテルイの出鼻を挫いた物。それは、劈頭の段階で安徳が投げ放った坂上宝剣であった。
この宝具の本来の持ち主である坂上田村麻呂程、安徳はこの剣を上手く扱えない。剣術の腕の差自体も然る事ながら、彼程場数を踏んでいないからだ。
しかしそれでも、この宝具の基本の使い方の一つである、『自らの手から離れても自動的に、田村の技量を記憶したこの剣が勝手に攻撃してくれる』、
と言う機能は問題なく扱う事が出来る。その機能を以って、この宝剣はアテルイの攻撃を未然に挫いてくれたと言う訳だ。

 これ幸いと言わんばかりにオロチが口腔から、呪毒を孕んだ紫色の水を細い線状にして、射出。
超高水圧のそのカッターで、アテルイの首を跳ね飛ばそうとする、が。これをアテルイは勢い良く屈む事で回避。
その隙を縫って、都牟刈を持った安徳がアテルイ目掛けて斬りかかろうとし、それに合わせる形で坂上宝剣も、超絶の技量と速度で以ってアテルイに上段からの振り下ろしを見舞おうとする。

389 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:18:39 ID:sBGHi1pY0
 身体を屈ませきったこの状態から、アテルイは両膝の力だけで勢い良く後方に飛びのく。
安徳の攻撃をこの動作で避け、今も自動的に動き回り、アテルイに追い縋って致命傷を与えんと迫るそはやの剣を、骨剣の腹で吹っ飛ばす。
タッ、と距離を離し終え、着地するアテルイ。この瞬間、彼は背後から迫る敵意を感じ取る。徒に放出するのではない、特定の相手にのみ狙って放出する、鋭い殺意。
歴戦の戦士のみが放てるその、磨き抜かれた殺意。これを感じる方角を振り向かぬまま、アテルイは後ろ手に骨剣を自らの背中に持って行く。
骨の剣が、鋭い衝撃を捉えた。一点に高速で、鋭い角度で強いインパクトを与えたようなこの感触。拳だった。
そしてそれは、アテルイの読み通り。叩き込まれた一撃を放った者、その正体はウィラーフだった。
此方の存在に気付いていないとアタリをつけた彼女は、なるべく気配を殺し、己の存在を悟らせないように、しかし、素早くアテルイの元へと接近。
毒の炎を纏わせた右拳によるストレートを叩き込もうとしたのだが、流石にシールダークラスの彼女に、本職のアサシンの様な真似は出来なかった。
不意打ちは、ウィラーフが放ってしまった僅かな敵意を察知したアテルイによって防がれ、失敗に終わってしまったのだから。

 己の身体が健在な時に限り、戦闘に際して有効的に活用出来る選択肢や手段を『技術』と呼ぶのなら、それにこの場において最も優れているのはアテルイだろう。
技術を有効的に活かす事の出来る、極めてハイスペックな身体能力を保有している戦士もまた、この場においてはアテルイであろう。
間違いなく戦闘面では、彼はこの場に於いて安徳帝・オロチ・ウィラーフの三名を上回っているであろう。
一対一での戦いならば、この三名を相手にアテルイは余裕綽々で勝利出来るかもしれない。但し――条件はあくまで、一対一と言うものに限る。
三人全員で襲い掛かられれば、如何な彼とて苦戦は必至である。それはそうだ、この三名は、『弱くはない』のだ。
一人は記紀神話に於いてその名が記されている上に、神秘の世界は勿論神秘とは無縁の表の世界に於いてもその名が畏怖を以って知られる大化生である、八岐大蛇。
一人は彼のベオウルフ王に仕えた若き騎士、老いた拳王に仕え、彼が火竜を打ち倒す決定打を身一つで生んだ勇ましき戦士、ウィラーフ。
そして一人は、歴史上最後の草薙剣の所有者だった者。六歳と言う若さで壇ノ浦にて夭折した、悲劇の幼帝。その身に不具の神を宿す者、安徳天皇。
勿論三者とも強さは一様ではない。宝具一つ、身体能力一つ、スキル一つとっても個々人に差がある。しかし、皆が皆、一癖も二癖も難敵ばかり。
その三人が、互いの邪魔にならないレベルの連携を組めば、どうなるのか。脅威にならない筈がない。現にアテルイは、攻撃するだけの十分な時間が与えられていない。
常ならば嵐の魔力放出で三名とも粉微塵にするところであるが、安徳の持つ権能がある以上、それも出来ない。確実に、防戦一方を強いられていた。

 誰かが思う。勝てる可能性が、見えてきたと。
オロチも、安徳も、ウィラーフすらも。目の前の難物を、この早期に落とせるのだと確信していた。

 ――戦いとは、水物。
生き物のように千変万化する、怪物のような存在である。アテルイが苦境に陥るであろう事は、彼ではない。
彼の『マスター』が織り込み済みであった。そう、アテルイ達の目的は、サーヴァントを倒して消滅させる以外に、もう一つあった事を、彼らは知らなかった。

 このまま押し切ろうと決め込んでいたオロチ。
その身体に貯められた魔力のプールが、ガクン、と。栓を抜かれた風呂の様に抜け始めるのを感じた。
膝がガクンと抜け、一瞬体勢をよろめかせてしまうオロチ。一体何がと思い、目線を一瞬主であるラ・ピュセルの方に目線を向け、その訳を知った。

 これまで見た事もない人物が、ラ・ピュセルやマシュがいる方向へと乱入。
何らかの手段で、マスターである彼から魔力を奪い取っている瞬間を、目撃したのであった。

390 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:19:03 ID:sBGHi1pY0
 ◆

 この調子なら、勝てる。
そう思ったのは何もサーヴァントだけではない。アテルイと大立ち回りを繰り広げるオロチとウィラーフのマスター。
ラ・ピュセルと、マシュもまた、召喚したサーヴァントの頼もしい戦いぶりを見てそう思っていたのだ。

 無論、懸念するべき要素は他にもある。
突然この場に現れ、済し崩し的に加勢し始めた謎のセイバー。宇宙服を纏ったあのサーヴァントが現状、どう言うスタンスの下で動いているのかは未だ解らない。
もしかしたらこの戦いが終われば、敵として相対する可能性もなくはなかろう。だが今は、アテルイと言う敵を滅ぼすと言う利害の一致を見て、戦っている。
オロチ自身の意向は解らないが、ラ・ピュセルとしては、避けられる戦いは避けるべきと言う、よく言えば穏健。悪く言えば弱気のスタンスである。
自分達に加勢してアテルイを叩いているのも、そうした方が利があったからだと判断したからなのかも知れないが、それでも、
常識で考えて明らかに利があるのはどちらか? と言う事が判断出来る程度の理性と知性がある事を、この事実は証明している。
後のがんばりで、敵対の道はなくせるかも知れない。そんな希望的観測を、この魔法少女は抱いていた。

 油断なく、アテルイやオロチ達との戦いに目を向けるラ・ピュセル。
だからこそ、気付かなかった。それまではずっと、彼らとの戦いに意識を向けつつも、他にいるであろう、謎のセイバー――安徳と、
アテルイのマスターの動向にずっと警戒、気を張っていた。しかし、四名のサーヴァント達の戦いが激化する内に、意識は、彼らの戦いにのみ集中してしまっていたのだ。

「余所見はだ、め、よ?」

 ――ラ・ピュセルの聴覚が捉えた、マシュのものともウィラーフのものとも、と言うより、この場にいる如何なるマスター・サーヴァントとも違う声音。
それが、自らの背後から、この魔法少女の耳元を撫で上げた。バッ、と振り向いたその瞬間、彼の唇に、ぬめりを帯びた、ぬるい熱の塊のようなものが差し込まれる。

「む、ぐ……っ!?」

 当然、その謎の何かに口を塞がれるものだから、一気に呼吸という物を封じられる形となる。
余りの自体に焦るラ・ピュセル。口に入れ込まれている物の正体が判別つかない事も然る事ながら、自分よりも幼そうな、褐色の肌をした少女の顔が、
異様に近い位置に存在すると言う事もまた、混乱に拍車を掛けていた。熱の塊はまるで生きている物の様に、ラ・ピュセルの舌や歯を舐って行き――。
それが一秒程続いたのと、少女の顔が近い位置にあると言う相対関係から、自分が今何をされているのか、彼は漸く理解した。

 ――もしかして僕……キスされてる!?――

 戦闘中にされる行為としては、余りにもラ・ピュセル……岸辺颯太の意表を突いたものであった事から、彼は自分が何をされているのかてんで解っていなかった。
だが、理解してしまえば明白だ。自分は唇を奪われ、口腔を蹂躙されている。自分よりも幼く見える、小悪魔的な愛くるしさに満ちた目の前の少女に。彼は、成すすべなくファーストキスを奪われていた。

「――ご馳走様。中々美味しかったけど、もう少し舌を動かす練習した方がいいわよ?」

 舌を抜き、ぷはぁ、と一息吐いてから、褐色の少女――クロエは言った。
ラ・ピュセルの口と、クロエの口は、泡立った唾液の橋で繋がっており、ほんの数秒前の行為の熱烈さを雄弁に物語っていた。
それを人差し指で絡め取るように巻きつけ、プツン、と彼女は切って見せる。外気に当てられ冷えた唾液の一部が、ラ・ピュセルの身体に当たる。それによって、彼の意識は覚醒した。

391 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:19:17 ID:sBGHi1pY0
「っ、何をするんだ!!」

 行為の意味を理解し赤面しながら、懐に差した鞘から剣を引き抜くラ・ピュセル。
その、剣を抜く速度が思いの他素早かったので、面食らったクロエは、慌てて瞬間移動を行い、魔法少女の背後に数mに回った。
この神技に驚きながらも、ラ・ピュセルは即座に気配の濃厚な背後に振り返り、中段の構えを取り出す。何時の間にかクロエはその両手に、それぞれ白と黒の剣身が特徴的な、二振りの剣を両手に持っていた。

 改めて見ると、凄いコスチュームの少女だと――いや、それは自分も同じかとラ・ピュセルは思い直す。
彼女なりのファッションなのだろうか、年季を感じさせる色合いと擦り切れが特徴的な、赤く長い外套に、それとは対照的に手入れの行き届いた艶やかな黒いプロテクタ。
これだけみればヒーローの衣装のように感じさせるが、女性的な魅力をわざと相手に伝えさせるかの如くに、そのコスチュームの露出度は全体的に高い。
戦隊・特撮ヒーロー的な意匠を凝らした魔法少女めいた服装だと、ラ・ピュセルは思った。そして、同類なのかとも。

「驚いたわね……凄い恥ずかしい格好の割には、結構優秀なマスターなのね貴女。魔力、全然まだ残ってるじゃない」

「何を……!?」

 クロエのこの言葉で、ラ・ピュセルは気付いた。彼自身に備わる魔力が、明らかに奪われている。二割半ば程も、今の一瞬で、消えてなくなっている。
元が魔法少女であるラ・ピュセルは、通常のマスターと比しても潤沢な魔力を保有する、サーヴァントの側から見ても当たりにラベル訳される人物だ。
それは、オロチレベルのサーヴァントを多少贅沢な運用をしてみても無茶が利くと言う事でもあるのだが――今回オロチは、その無茶な使い方をしていない。
つまり、今のクロエとのキスに掛かった僅か数秒の間に、彼は、魔力をクロエにドレインされた以外に考えられず、そしてそれは真実、その通りであった。
クロエとしては魔力を今の数秒で奪い尽くし、自分の活動リソースに当てようとしたのだが……如何やら吸いが足りなかったようだ。
これぐらいで相手は骨抜きだろうと、そう思っていたら、実はまだまだ全然魔力を残していたのである。ラ・ピュセルというマスターを過小評価し過ぎていたのである。それは同時に、千載一遇のチャンスをみすみす逃してしまった事をも意味するのだが。

 過小評価していた点は、魔力量だけじゃない。その戦闘能力についても、見誤っていた。
ラ・ピュセル、かなり奇矯な姿の割には、かなり強い。身体能力についても、自分となんら遜色は無いだろうとクロエは踏んでいた。
尚の事、先程の判断ミスが響く。あそこでもっと魔力をドレインしていれば、趨勢は此方に傾いたやも知れないのに。余裕そうな笑みとは裏腹に、内心でクロエは強く歯噛みしていた。

 仕掛ける、と言うタイミングで、クロエは一瞬で、ラ・ピュセルの背後に回ったような空間転移の応用で、彼の前から消える。
「!?」とラ・ピュセルが驚いたのもつかの間、凄い速度で、先程までクロエが佇んでいた地点を、紫色のウォーターカッターが通り過ぎて行く。
オロチだった。彼が、自らのマスターを害するであろう敵対者を抹殺せんと放った一撃が、目標を失ってスカを食ってしまったのである。

「な、何が……!?」

 漸くマシュも、ラ・ピュセルに起こった異変に気付いたらしい。慌てて、サーヴァント達のいる方向と、ラ・ピュセルのいる方向を交互に見比べ始める。
如何やら魔力を奪われる決定的瞬間は目の当たりにしていなかったらしい。それはそれで幸福だったのか、不幸だったのか。よく解らない。

 一本の木の枝の上に佇立するように転移したクロエは、マシュとラ・ピュセルの双方を見下ろす。
ラ・ピュセルは、正直難敵だ。戦うとなると、此方も多少の骨を折る事になるだろう。だが、マシュならば、簡単に倒せるし、殺せる。
出来る……が、おっちょこちょいな妹分との出会いを経た今となっては、そんな手段に出れる筈も無い。弱く、甘くなってしまったと内心で自嘲するクロエ。
そんな彼女の感傷をぶち壊すように、凄い速度でアテルイが、クロエの構える杉の木の下まで接近。
どうやら、クロエがアテルイのマスターだと当にオロチは気付いていたらしい。気付けば、この蛇の化生は樹木の根元まで近づいていた。
急いでクロエを抹殺しようとするオロチであるが、それを許すアテルイではない。この蛇のバーサーカーに追随する形で、この場に現れた、と言うのが正解であるらしかった。

392 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:19:32 ID:sBGHi1pY0
 クロエのいる杉の木、その近くの地面を勢い良く踏み抜くオロチ。
すると、間欠泉の要領で、地面から勢い良く呪毒の水が吹き上がり、彼女を飲み込もうとするが、やはりこれを、オロチが地面を踏みつける前段階で、
空間転移を行う事で回避する。間欠泉は杉を飲み込む程の直径と高さを誇っており、まともに食らっていればクロエの耐久力では即死は免れなかったろう。

 呪毒の間欠泉が噴出するのと同時に、アテルイは背後からオロチ目掛けて斬りかかるが、目にも留まらぬ速さで彼の方を振り返り、
振り返りざまに草薙剣を、アテルイの振るう剛剣の軌道上に配置。凄まじい大音と同時に、衝撃波が周囲を駆け抜ける。
オロチが攻撃を行うよりも早く、アテルイは左足によるミドルキックを放っており、これに対応したオロチは、一足飛びに後方に飛びのく事で、蹴りの範囲内から逃れ出る。

「どう言う事だクソマスターがよ!! 全然魔力奪えてねぇじゃねぇか!!」

「これでも善処はしたのよ!!」

 アテルイのすぐ近くにクロエが転移し終えるや、烈火の如くこの褐色の少女に対し激怒し始めるアテルイ。
これでクロエとアテルイが互いに主従の関係にある事が白日の下に晒された訳であるが、マシュもラ・ピュセルも、そしてオロチもウィラーフも安徳も。アテルイが自身の主に対して怒っているのか理解が出来ていなかった。

 上位サーヴァントの例に漏れず、アテルイの魔力の燃費は悪めのそれである。
魔力放出と言う、魔力と言う活動リソースを攻撃に当てるスキルを多用する事もそうだが、秘している第二宝具と言う切り札の存在などもある。
加えて自身の出自が神と鬼のハイブリッドと言う物であるが故に、平時の段階でも通常サーヴァントと比較して消費される魔力が高く設定されている。
だが、魔力放出と第二宝具を使わずとも、アテルイは強い。剣を握れば自動的に発動する、天十握剣の性能が破格の故である。
だから当初は、魔力の放出と第一宝具・天十握剣を駆使した戦闘でサーヴァントを圧倒しようと試みていたのだが、不幸な偶然が重なり続け、
遂には三対一と言う極めて悪い状況にまで陥ってしまった。しかし、それもまた、クロエは織り込んでいた。

 彼女の打ち立てた作戦は、簡単な陽動である。
アテルイがサーヴァントを押さえ込んでいる内に、クロエが自前の魔力供給(強奪)手段でマスターから魔力を奪い、無力化。
そして奪った魔力をアテルイの――そして、クロエ自身の活動リソースに充てる。自分は持久戦への布石に持ち込めて、相手は早期脱落の伏線を張られる。
極めて利に適った作戦であり、事実クロエの魔力は見違えるように回復してはいたのだ、ラ・ピュセルの魔力量を見誤っていたせいで、要らぬ危機に陥ってしまったと言うのもまた、疑いようの無い事実。

 アテルイとしては、自身を小馬鹿にした憎たらしいサーヴァントのマスターから魔力を奪いきれていないと言う現状と、
クロエの判断ミスで彼女自身が命の危機に陥ったばかりか自分にまで面倒を掛けさせている。この事実に、むかっ腹が立っていたと言う訳だ。

 風が殺意を伴ってスライドするのを、アテルイは知覚する。振り向かずとも、解る。
凄い速度で、超低姿勢の状態でこちらに向かって駆け抜けているウィラーフと、此方に向かって迫り来る、憎き田村麻呂の剣。これをアテルイは認識したのだ。

 ウィラーフが、理想的としか言いようが無い程に見事なタックルを披露し、音に倍する速度で自動追尾するそはやの剛刀がアテルイの心臓に突き立たれようとする。
この二つを、クロエの外套を掴んだ状態で、バッ!! と、左方向に大きくサイドステップを刻む事でアテルイは回避。逃げの一手しか、選ぶ事が出来ない。
苛立ちにアテルイの顔が歪む。切り札……そうでなくとも、嵐の魔力放出が出来れば、と苦悶する。いっそクロエの意向を無視して、第二宝具を発動するか? と決めかけた、その時だった。

393 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:19:44 ID:sBGHi1pY0
「セイバー、此処は引くわよ」

「ふざけんなよコラァッ!!!」

 クロエが提示した次なるプランは、逃げ、だった。
当然これに対し、煮え湯を飲まされ続けているアテルイが許容出来る筈が無い。
オロチにもウィラーフにも、そして安徳にも。等しく苦い思いを味わされているのだ。自分が受けた苦痛を、万倍にして返さない事には、この男の気は晴れない。
そんな単純な男である事は、クロエもよく解っている。解っていて、この計画だった。今は余りにも状況が悪過ぎる。
ただの三対一の戦いなら、アテルイの持つ暴力で蹂躙し尽くせたかもしれないが、此処にいるサーヴァント達は皆余裕綽々では屠れない者達ばかり。
持久戦に持ち込むか、切り札たる宝具を発動すれば勝てる可能性もゼロではないが、こと魔力の消費のし過ぎは、クロエの場合冗談抜きで死に直結する。
電撃戦が、彼女らの場合理想なのだ。戦闘を長引かせた時点で、いわば彼女らの戦いは失敗。寧ろ失った分以上の魔力を奪えたばかりか、
サーヴァント三名の情報を知れたこの時点で、十分過ぎる程のリターンは既に得られているのだ。……但し、アテルイにとってリターンとは、気持ちの良い勝利のみ。そこに、双方の着地点の違いがあるのであった。

「一回の攻撃で、サーヴァント三名。全員纏めて倒せる手段があるのなら良いわよ。但し、『アレ』は抜きで」

「んな都合の良い方法あるわけないやろ」 

 ケラケラと嘲笑うようにオロチが告げる。
アテルイの実力については疑いようも無いが、一時に纏めて三騎ものサーヴァントを葬り去れる手段。
それはもう、広範囲に渡り甚大な破壊を齎す宝具でも開帳しない限り有り得ない。そしてそれをアテルイは、有しているのだろう。
だが、その手段或いは宝具こそが、クロエの言う『アレ』なる手段であろう事は明白だ。それを使わないのなら、もう少し粘っても良い。そうクロエは言っている。
そしてその方策は、ないのだ。つまりこれは、アテルイを諦めさせる為の方便である事を、オロチとウィラーフは看破した。

 ウィラーフは盾を構えながら、ジリジリと、主であるマシュの方へと距離を詰めて行く。
最優先すべき防衛対象はマスターであるマシュであるのだから、この判断は正しいものと言える。
そして安徳の方はと言うと、都牟刈を構えながらも、あらぬ方向に意識を向けていた。この場にて唯一姿を現していない、しかし実在する筈の事物が、
この安徳のマスターである。意識を向けている方角に、そのマスターがいる事は、確実であった。

 そう、普通ならばある筈がない。
それにクロエは知らないが、今のアテルイは嵐を伴う魔力放出と言う手段すら封じられている。
尚の事、三人纏めて倒し得る方法など、無い筈なのだが――。

「あの奇妙な形の剣を寄越せ」

 アテルイはゾッとする程冷静だった。声音や、発散される気風からも、普段のから放っている荒ぶる気風が感じられない。
冷静に、状況(シチュエーション)と動き(プラン)を構築し、どうすればオーダーを達成出来るのか? それを計算し、それが実現可能だと解った時のような。
問に対する解を求め終えた数学者のような口ぶりで、彼はクロエに対し注文をする。奇妙な形の剣、それはもう、クロエの中では一つしかなかった。

394 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:20:05 ID:sBGHi1pY0
 ◆

 ――『天十握剣(ほろぼされるいのち、とおではきかず)』。
それは、セイバーのサーヴァント、アテルイが保有する第一宝具。そして、彼の戦闘における骨子となる、常時発動形の宝具。
手にした剣状の武器に、『存在していると言う事実を切り裂く効果』を付与させるこの宝具は、例え握ったものが刀だろうが西洋における剣であろうが、
最悪斬れない木刀や、魚や肉を切る為のテーブルナイフだって構わない。兎に角、刃を携えた物品であるのなら、それに上記の効果を付随させる絶技なのである。

 だが、この宝具の本質は其処にはない。
この宝具は言ってしまえば、アテルイに残されたスサノオの権能の残滓。
即ち、嘗てスサノオが有していた武芸の権能と超絶の絶技の体系、それらをひっくるめてこの宝具なのである。
事実を切り裂くと言う効果は、上記の権能・絶技と言う括りが包含している中で、最も強力な要素の一つに過ぎない。
アテルイは、この権能の残り滓を徹底的に磨き上げ、残った滓に経験値と努力量を、薄皮を張り合わせるかの如くに積み重ねた末に、
坂上田村麻呂と鈴鹿御前に死をも覚悟させる程の鬼神へと至ったのである。故に、今のアテルイの強さには本人の血の滲む程の努力があった事に異論の余地はない。
ないが……それを理解した上で、残り滓とは言え、彼に残されたスサノオの権能の残滓は強力な物であった。

 では、武芸の権能とは、何か? それは文字通り、戦う為に必要な技術を支配する権利。
この権能を持つ者は、戦闘と言う行いに必ず勝つ。何故ならばこの権能を有する者自体が、戦いを支配する者だからである。
剣・銃・弓矢に棍。これらを握れば、確実に対峙した相手よりも遥かに上の技量であったと自動的に設定される。
初めて握る、そもそも自分達が生きるテクスチャ外から齎された武器であっても、十全の状態で扱う事が出来る。
放つ一撃が全て、最小限度の労力で、最高速、最高威力、最高のタイミングと最高の軌道で、常に放たれる。
攻撃が必ず当たる、空間を遮断したとてそれを撃ち抜く、そもそも相手の攻撃自体が当たらない、一撃で相手を討ち滅ぼせる。
武の権能とは凡そこう言った物であるが、アテルイには勿論、其処まで強力な物は宿っていない。いないが、これだけ強力な力なのだ。残滓の時点で強力なのも、むべなるかな。

 アテルイは、『握った武器はどうやって扱えば最適なのか』と言う事が解る。上に上げた力の中で、アテルイにも出来る技術の一つである。
こう言った力があるものだから、彼は、クロエの能力で投影出来る武器を粗方彼女に作らせ、自分で軽く握り、その使い方を予習していた。
そのどれもが、アテルイ好みの武器ではなかった。刃渡りが長く、そして大きく、壊れにくい剣を好む所とするアテルイにとって、
クロエの投影する武器は余りに小振りで脆弱過ぎた。特に、脆弱さが問題であった、彼女の投影する武器が、アテルイの余りの暴威に耐えられないのだ。
サーヴァントの戦いで用いようものなら、数分と立たずに自壊してしまうだろう事は、アテルイもクロエも理解していた。
だから、クロエの投影した武器は、有事の際の緊急避難の時に用いる事とする、とアテルイ自身は決めていた。――が。
一つだけ、アテルイの眼鏡に適う武器があった。頑強さと大きさはこの際捨て置くとして、何よりも、フォルムと、広範囲に渡る破壊を齎せる。その二点が気に入った。

 アテルイが伸ばした左腕に、武器が投影される。彼が握ったそれは――男が普段振るう、鬼の骨を削って作った骨剣に比べれば、ずっと小振りな武器だった。
骨剣をボートの櫂とするのなら、クロエの投影してやったその武器は、まるで園芸に使うような小振りなショベル。それ程までに、大きさには差があった。
剣身もまた、特徴的である。剣と言うのは究極的に言えば、斬るか突くかしか使い方はない。その剣は形状だけを見るのなら、『突く』事を目的としているのだろう。
だが、その形が極めて異質だった。螺旋状に捻じくれているのだ。現代の語彙に倣うのであれば、その形は掘削用のドリルに近い。
形だけを見れば確かにこれは、突く事を前提とした得物であるのだろうが、この奇妙な形状の故に、これでは相手の身体に突き立てる事自体に、妙錬の技術が必要になる。

395 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:20:17 ID:sBGHi1pY0
 ――クロエと、彼女の拠り代となっているクラスカードの元となった英霊は、弓矢に番えてこれを放つ事で、必殺の一撃とした。
この名剣の本来の主……正しい形と正しい性能(スペック)で振るう事の出来るケルトの大英雄は、これを地面に突き刺す事で、地形破壊兵器として利用していた。

 ――アテルイは、後者の方。
即ち、フェルグス・マック・ロイと呼ばれる英霊が好んで使う方法で、三体の英霊を纏めて消し飛ばそうとしていた。

「テメェらにホンモノの殺戮って奴を御披露してやるよ」 

 そう告げた、刹那。
クロエが、『偽・偽・螺旋剣(カラドボルグⅢ)』と呼ぶ投影宝具が、凄まじい轟音を立て始める。
悲鳴と、ある者は思った。軋み、とも思った。断末魔、そう思った者もいる。そのどれもが、正しかった。
アテルイはこの投影された宝具に、自身の有する魔力を嵐の形で流入させているのだ。到底、投影したに過ぎない劣化宝具が耐えられる魔力量ではない。
この調子では良くて数秒で、忽ち自壊を始め、広範に渡る程の爆発を発生させる、極めて危険な時限爆弾と化す。
これは正に、悲鳴、断末魔、軋み。壊れた幻想(ブロークンファンタズム)に怯える、泣き叫ぶ螺旋剣の哀れな姿であった。

 武器に黒味がかった緑色の亀裂が入り始め、其処から光が漏れ始めた瞬間、クロエは驚きに目を見開かせながら、空間転移でこの場から距離を取った。
ウィラーフはマシュの正面に即座に移動し、大盾を構えて踏ん張り始めた。「私の腰に組み付いて!!」、そう叫んだウィラーフ、慌ててマシュが彼女の腰に抱きついた。
『大将、その剣で防げやぁ!!』オロチがそう叫んだと同時に、引き抜いていた剣を、ラ・ピュセルは巨大化させる。
声を発する事もなく、慌ててその場から退散し始める安徳。逃げたのではない。離れた箇所にいる、輪の事が心配であったからだ。

396 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:20:35 ID:sBGHi1pY0
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      テ メ ェ ら 全 員 ぶ ッ 殺 し て や る ! ! ! ! ! ! 
     「偽   ・   偽   ・   螺   旋   剣   !   !   !」





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397 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:20:54 ID:sBGHi1pY0
 そう大渇し、螺旋の剣を地面に勢い良くアテルイが突き立てたその瞬間、彼を中心とした直径百五十m範囲内の地面に、
深緑色の亀裂が生じ始め、其処から地面及び、其処の植生、地上に伸びる樹木の全てを巻き上げ、粉砕する程の風刃が生じ始め、荒れ狂い出す。
凄まじい勢いで飛び交う樹木の破片、土の欠片、小石に岩の破片。それらは全て、風に煽られ高速で飛来する凶器と化しており、
掠めただけで致命傷を負う凄まじく危険な代物と化している。これが、クロエの投影する宝具を、自分が最も有効活用する方法。アテルイはそう考えていた。
破裂寸前なまでに嵐の魔力を流入させ、自壊寸前の状態で地面に突き刺し、地面から風の爆発を発生させ、範囲内の相手を悉く塵殺する絶技。
余りに範囲が広い為、クロエですら巻き添えを食う可能性があるが、彼女は空間転移を使える為容易く範囲外に逃れる事が出来る。
嵐を防ぐ為の風除けの加護がある英霊でも、無傷でやり過ごす事は出来てもそのマスターだけは護れない。そもそも風を防げる手段がない英霊ならば、
成す術もなくアテルイの生み出す烈風に斬り刻まれ、死に至る。正に、合理的な攻撃手段であった。

 勃発する風の爆発が、土煙を巻き起こし、範囲内の生態系を破壊し尽くし――。
遂には、朦朦と立ち込める砂と土の塵煙で、何も見えなくなったのを見計らって、アテルイは、クロエの転移したであろう方角目掛けて走り出す。
仕留められたかどうかは、もうこの際どうでも良い。まだまだ業腹であるのは変わりないし、溜飲も全然下がってはいない。
だが、無傷ではないだろう。何かしらの手傷は負わせたかもしれない。良いさ、次殺せば良い。生前もそうやって来た。
強い鬼や魔獣が相手なら、しつこく、何度も、寝込みを襲ったり飯時を狙って不意打ちを仕掛けたり。こうして勝利を拾って来た。
それを、この世界でもやるだけだった。……それを、まさか強くなってからの自分がやる事になるとは、さしもの彼も思っても見なかったが。
そう思うと余計に腹が立つ。もう何も考えない。クロエの元に戻る事のみを考えながら、彼は駆け抜ける。そうしないと、怒りで頭がおかしくなってしまいそうだったからだ。



【D-5(森林内部)/1日目 朝6:30】

【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[虚影の塵]有(残数1)
[星座のカード]有
[装備]アーチャーのクラスカード
[道具]
[所持金]一万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争からの脱出。場合によっては、聖杯戦争自体に勝利する
1.アテルイは信用が出来ない
2.現状は森林内での籠城戦を主にする
3.なるべくならマスターを見つけ魔力を無理やり供給して貰い回復する。なるべく女性が良い
[備考]
①セイバー(アスモデウス)、オルガマリー&ランサー(カイン)の存在を認識しました
②ラ・ピュセル&バーサーカー(八岐大蛇)、マシュ・キリエライト&シールダー(ウィラーフ)、セイバー(安徳天皇)の存在を認識しました
③わくわくざぶーんでの一件から、自分達の存在が世間に露呈したのではと疑ってます
④冬木でのロールは、ヨーロッパからやって来たイリヤ家の居候と言う事になっていますが、現在は家出中で家の方に帰っていません
⑤ラ・ピュセルを女だと思っています


【セイバー(アテルイ)@史実】
[状態]肉体的損傷、魔力消費(共に極小)、激怒しっぱなし
[装備]骨剣
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝利し、日本転覆
1.この国をぶっ壊す
2.あのランサー(カイン)とセイバー(アスモデウス)は絶対殺す
3.セイバーの方はついでに犯す
4.あのバーサーカー(八岐大蛇)は殺す
5.■■■■■■■■■■(安徳帝の剣を見て発狂する程の怒りを抱いている)
[備考]
①セイバー(アスモデウス)、オルガマリー&ランサー(カイン)の存在を認識しました
②カインに対して並々ならぬ怒りの感情を抱いています
③バーサーカー(八岐大蛇)殺す
④セイバー(安徳天皇)殺す
⑤基本的に、クロエの投影する武器は全部知っており、これを利用した戦法も立てる事が出来ます

※現状クロエはどこかに転移し終え、アテルイはそれに向かっている形となります。何処に向かっているのかは、後続の書き手様に一任します



.

398 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:21:12 ID:sBGHi1pY0
 ◆

「死ぬ思ったわ」

 あっけらかんとした様子で、耕運機で耕された後の如き様相となった場所に佇みながら、オロチは言った。
其処が果たして、つい数十秒前までは、何の変哲もない森林地帯であったと誰が信じられようか。
ツングースカで昔起こったとされる、謎の大爆発。その冬木版と言われても、皆信じてしまうだろう。それ程までに、凄惨な様相だった。
何せ見渡す限りが破砕された植物と小石ばかり、よく目を凝らすと、野生動物の内臓の破片や、獣毛のついた肉片が地面にこびり付いている所もある。
本当に、巨大な鋤か鍬で、何度も何度も地面を執拗に耕した後としか思えぬ程、悲惨な状況。それが、オロチらを中心とした直径百m以上にも渡り広がっているのだ。

「み、皆は……?」

「おう、よう生きとったな大将」

 けほけほ、と、粉塵に噎せながら何とか言葉を紡ごうとするラ・ピュセルを労うオロチ。
ラ・ピュセルの方からは、このバーサーカーの姿は見えやしない。それ程までの色濃さの土煙であったからだ。

 オロチの指示通り、自分の能力である、剣を巨大化させる能力、それで剣と鞘を凄まじく大きくさせ、バリケードを展開させて正解だった。
これがなければ今頃、風に斬り刻まれ、飛来物に激突して戦闘不能になっていたかのどちらかであったろう。
無論、バリケードを超えるような勢いと大きさの飛来物や風は、彼自身で対処しなければならなかったが、それが必要最小限度で済んだのは、
オロチの指示に従ったお陰である。いけ好かない面もあるバーサーカーなのは事実だが、今回は命を救われた形になった。大きな借り一つであろう。

「サーヴァントの気配はまだ残っとる。つっても、あの褌のガキはどっか行ったみたいやがな」

「じゃあ、この場にいるのは……」

「さっきの魔酒っておぼこと、アレが従えてる筋張った盾持ちの女。後は……言仁やろうな」

「と、トキヒト……?」

 聞き慣れぬ言葉に、きょとんとした様子を示すラ・ピュセル。それについて、オロチは答えもしなかった。

「此処煙いやろ、大将。こんな場所で話しとっても互いにウザいだけや。とっとと河岸変えるで」

 明らかに話題を逸らされたが、此処が話すのに適さない場所である事は間違いない。
魔法少女としての身体能力と、各種五感の鋭さを以ってしても、この土煙では何も見えない状態なのだ。
「あっちやで」、とオロチが言う。声のする方向にラ・ピュセルが歩を進める。多分オロチが示したその方向に、マシュ達はいるのだろう。
確固とした足取りで進み、しかし、何が起きてもおかしくないよう剣だけは構えた状態のまま、ゆっくり、ゆっくり歩き出し――。
遂に、立ち込める土煙を抜けた。空気が此処だけ違う。綺麗だ。抑えていた呼吸をめい一杯行い、肺の中の空気を換気する。

「あ、お二人とも!! ご無事でしたか!!」

 抜けた先に、マシュとウィラーフがいた。驚く事に、両名共に傷一つない。最初にその姿を観測したままの姿である。
彼女らはきっと、ウィラーフが有する驚異的な防御宝具、その防衛力で、風の爆発と、それに煽られて生じた飛来物を防ぎきったのだろう。盾の英霊、シールダー。その面目躍如であろう。

「そっちも、無事で何よりだ」

 ラ・ピュセル。

「……アンタらが無事なのは、まぁ解りきってた事やが……もう一方のセイバーは如何した?」

 やや低めの声音で、オロチが訊ねる。オロチの態度が異なる物に変わった事を認識出来たのは、鋭い直感を持ったウィラーフだけだった。

「あの方は、近くにいるのは解りますが……見えませんね。かなり遠くまで離れた様子で……」

「いや――もう良い。近づいて来よったわ」

399 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:21:24 ID:sBGHi1pY0
 言ってオロチもウィラーフも、身体を横に向け始める。
果たせるかな、其処には、アテルイによってヘッドグラスを破壊された宇宙服を纏ったセイバーと、この場にいる誰よりも幼い――
それこそ、外見的な特徴だけは幼く見えるオロチは例外として、兎に角、誰が見ても小学校低学年としか思えない程の年齢の男子が、セイバーの後ろを追う様に歩いていた。

 ――この子が、聖杯戦争のマスター……?――

 うっとなったのは、ラ・ピュセルだ。
下手した自分の年齢の半分近くも年下の男の子じゃないか。しかも特別、喧嘩慣れしている風にも見えない、か弱そうな男子。
そう思ったのはマシュのみならず、ウィラーフとて同じ事。時が進めば、こんな子供とも争わねばならないのか……。
ウィラーフは内心で憂鬱になって行く。魔獣や火竜、アテルイのような戦士と戦うのであれば勇猛の一つや二つ、示して見せるが、流石にこんな子供を相手に、威を示せる程、ウィラーフの精神性は未熟なそれではなかった。

「――これは、私に敵意がない事を示す意思表示だと思ってくれると有難い」

 そう、目の前のセイバーが告げた瞬間、空気の流れに分解され、溶けて行くかの如く、彼女の纏う宇宙服状の戦闘服が消えて行く。
――宇宙服の中身の戦士は、もっと幼かった。それこそ、皆が驚きに目を見開かせる程に。
白い五分袖のワンピースを着用したその姿は、輪よりも幼い姿の女児。風にあおられれば、その風に身体が崩されて消えてしまうのではないか。
そうと思わずにはいられぬ程の、悲しい程の儚さに溢れた子供だった。こんな少女が、何もかもが対極の存在としか言いようがないアテルイと、死闘を演じていたのか。
そう思うと聖杯戦争の異質さ、そして、サーヴァントなる存在の超常さを、改めて認識せざるを得ないと、マシュもラ・ピュセルも思うのであった。

「……久し振りやの、言仁」

「……私の中の言仁が言っているよ、久しぶりだね、オロチ、と」

「テメェみてぇなカタワの神に興味ないんじゃクソボケが、言仁と話ししてんねんぞこっちはよ!!」

 ラ・ピュセルですらが未だに聞いた事もない様な裂帛の気迫で、オロチが叫んだ。
そして叫びながら、手にしていた透明な剣身の刀、天叢雲剣を、安徳――もとい、今安徳の身体を借りて話している蛭子の首筋に触れさせ、威圧する。
「バーサーカーッ!?」と、焦るのは彼を御すラ・ピュセルだ。マシュも、そして安徳のマスターである小林輪も。
いくらなんでもこれは、突拍子もない行動過ぎるし、後先を考えていなさ過ぎる。何を意図して、彼がこんな行動に出ているのか。ラ・ピュセルはてんで理解していなかった。

「どうした、オレが怖くて話も出来んか? んな訳ないやろ。どうや今のオレの愛くるしい姿はよ。貴様に取り憑いたせいでこーんなちんちくりんな姿になってしもうたわ」

「……ごめんよ。私が不義理だった。君と話すのなら、私以外に適任はいないね」

 安徳の声のトーンが、先程と比べ幾分か柔らかい――と言うより、年相応の子供の物に戻った。
先程の声は年の割には老成した、と言うか、達観した雰囲気を感じさせるそれであったのだが……今は幾分か、
言葉のイントネーションが独特な事を除けば、普通の、外見から想起される位には歳幼い風の声色であった。

「……久しぶりだね、オロチ」

 いろいろな状況が重なり過ぎて混乱していたラ・ピュセルだったが、今になって漸く気付いた。
ウィラーフは前から気付いていたし、遅れてマシュや輪も気付き始めた。安徳が目の前のバーサーカーの真名らしき物を語っている事もそうである。
だが何よりも、その格好だ。服装の違い、そして、蛇の尻尾と言う目立ち過ぎる特徴のせいで判別がつきにくいが――。
安徳とオロチの姿は、殆ど相似のそれと言っても過言じゃない程に、瓜二つ、鏡写しであったのだ!!

「取り合えず、この刀は下ろして欲しい。私は兎も角――『私』が許容出来ない」

「チッ、けったいな悪霊に身体を貸してるようやな、言仁」

 言ってオロチは、手にしていた叢雲を下げ、面白くないように安徳を一瞥。
その後、ラ・ピュセルとウィラーフ達に目線を送り、深い溜息を吐いてから、一言。

「嵐は去ったんや。落ち着ける場所で話そうや。……其処行ってから、賽を振るうのも悪ないやろ」

 それはつまり、其処での話し合い次第で、血を見る事になると言っているのに等しかった。
縋るように、ウィラーフの方とラ・ピュセルの方に目線を送るマシュ。ウィラーフは緊張感を秘めたまま肯んじ、ラ・ピュセルの方は、
「助けて欲しいのはこっちの方だよ……」と言う態度を隠しもしなかった。そしてそれは……輪にとっても、同じ事。

 当分、嵐は止みそうになさそうだった。

400 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:21:39 ID:sBGHi1pY0
.



【D-5(森林内部)/1日目 朝6:30】

【小林輪@ぼくの地球を守って】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[虚影の塵]不明
[星座のカード]有
[装備]
[道具]
[所持金]こづかい程度
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界への帰還
1.こんな奴(オロチ)と話し合うのか……
2.NPCとは言え、元いた世界の知り合いを模したNPCに危害は加えたくない
3.安徳の陣地確定を急ぐ
[備考]
①安徳と共に、未遠側上流であるD-6エリアを拠点としています
②クロエ&セイバー(アテルイ)、ラ・ピュセル&バーサーカー(八岐大蛇)、マシュ・キリエライト&シールダー(ウィラーフ)の存在を認識しました


【セイバー(安徳天皇)@史実】
[状態]実体化(宇宙服状態解除)、魔力消費(小)
[装備]
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:輪の意向を尊重
1.オロチ……君もいたんだね
2.ごめん、あのセイバー(アテルイ)は誰?
[備考]


【ラ・ピュセル (岸辺颯太)@魔法少女育成計画】
[状態]健康、魔法少女に変身中、魔力消費(中)
[令呪]残り3画
[虚影の塵]無
[星座のカード]有
[装備]
[道具]
[所持金]こづかい程度
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界への帰還。
1.郊外周辺の調査。
2.出来れば協力者を探したいが……
3.ライダーの討伐は保留。少なくとも協力者が得られるまでは避ける。
4.キスか……いや、魔力奪われたんだから駄目だって!!
[備考]
①本人は克服しようと前向きですが、戦闘関係になると恐怖が悪化します
②クロエのキスによって魔力を二割半ば程を奪われました
③クロエ&セイバー(アテルイ)、マシュ&シールダー(ウィラーフ)、小林輪&セイバー(安徳)の存在を認識しました


【バーサーカー(八岐大蛇)@日本神話】
[状態]実体化、肉体的損傷(極小)、魔力消費(中)
[装備]
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.言仁め……
2.あの褌小僧は如何でも良いわ
[備考]


【マシュ・キリエライト@Fate/GrandOrder】
[状態]健康、魔力消費(極小)
[令呪]残り3画
[虚影の塵]無
[星座のカード]有
[装備]
[道具]
[所持金]生活に困らない程度
[思考・状況]
基本行動方針:特異点の解決とカルデアへの帰還
1. 所長と『先輩』の捜索
2.先ずは皆と話し合いましょう
[備考]
①エーデルフェルトの双子館(西)を拠点にしております。
②クロエ&セイバー(アテルイ)、ラ・ピュセル&バーサーカー(八岐大蛇)、小林輪&セイバー(安徳)の存在を認識しました


【シールダー(ウィラーフ)@叙事詩『ベオウルフ』】
[状態]実体化、健康、魔力消費(極小)
[装備]
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守り抜く
1.マシュの護衛
[備考]
①双子館(西)の修復等の作業は終えております。


<その他>
・深山町の住宅街を実体化したウィラーフと八岐大蛇が駆けた為、他のサーヴァントが感知するかもしれません。
・現在D-5エリアは、アテルイの放った広範囲の破壊攻撃によってかなり目立つ規模の破壊が巻き起こりました
・現在上記三組はどこかに移動しています。移動先は後続の書き手様に一任します

401 劣化神話再演 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/01(月) 23:21:59 ID:sBGHi1pY0
投下を終了します

402 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/03(水) 00:37:54 ID:O3aCl/5.0
蜂屋あい&アサシン(アナンシ)
多田李衣菜&ウォッチャー(バロン・サムディ)
予約します

403 ◆ikjF72IIL2 :2018/10/21(日) 23:05:37 ID:K/UBEupA0
投下します

404 キチガイ共のバラード ◆ikjF72IIL2 :2018/10/21(日) 23:06:04 ID:K/UBEupA0
 ピアノの音で、目が覚めた。
ショパンの、夜想曲第2番。曲名は知らずとも、CMやゲーム、ドラマや音楽の授業で、聞いた事はある。そう答える者も、多かろう。
世に広く膾炙された名曲であり、夜想曲の立役者たるショパンの作曲した曲の中でも、秀でて有名な一曲である。

 目を瞑っていると、黄金色の光の螺旋が立ち昇り、消えて行く様なイメージを連想するような、美しい旋律だった。
ショパンの作曲したこの曲自体が美しい事もそうだが、曲の主役とは、これを演奏する奏者本人である。
高い技量を持っている事がすぐに解る程に、優れた演奏者であった。間(リズム)の取り方、指運び、ペダルを踏む加減。
実際に演奏している姿を目の当たりにはしてないが、見ないでも、解る。どれを取っても、超が着くレベルの一流のそれ。
どのピアノコンクールに出場しても、首位の座は確実であろう。そうと断定出来る程に、冠絶的な腕前であった。

 シワの一つもない白色のシーツが、セッティングした人物の几帳面さを伺わせる、ダブルサイズのベッドから、蜂屋あいは立ち上がる。
ストロベリーブラウンの髪には寝癖の一つもなく、その顔立ちにも、寝起き特有のむくみも何もない。平常時のそれのままだった。
天使の美は常に、最高の水準が保たれる。いついかなる時でも、それこそ、今のような寝起きの状態でもそれは揺らぐ事はない。と、言われても信じてしまうだろう。
それほどまでの崩れてなさだ。あるかなしかの微笑みを浮かべながら、あいはスリッパを履いて、パジャマのままスタスタと歩き出す。
寝室を出、廊下に出ても、そのノクターンは流れ続ける。窓から注がれる、爽やかな緑の香りすらが溶けていそうな五月の光と、このピアノ曲とは良くあっていた。
このピアノ曲が弾かれてから、何分が経過したのであろう。あいは思う。2番、とあるように、1番も勿論存在する。
それを弾いてから、この曲に移行したのだろうか。はたまた、この曲から弾き始めたのか。解らない。
ひょっとしたらこの希代のピアニストが演奏を始めてから、数十分もの時間が経過し始めているのかもしれない。こんな、朝の六時半と言う早朝から弾き始めるのも近所への迷惑があろうが、この技量では、文句を挟む余地もあるまい。寧ろ快適な目覚めの提供者として、持て囃される可能性のほうが、高いであろう。

 蜂屋あいの屋敷に於いて、ピアノを置いている部屋は一つしかない。リビングだ。
家族が皆揃っていた時は、母親か、自分がピアノを弾いて、皆を楽しませていた……らしい。この冬木で刷り込まれた記憶であるが、実感は湧かない。
そのリビングに近づくにつれ、当然の事ながら、音は大きくなって行く。母親が帰ってきたのか等とは、あいは思わない。
ロールの都合上、母親も父親も海外での仕事が多い……と言う事になっており、現在屋敷にはあいの家族はいない。
今この屋敷にいるのは、あいと、蜘蛛。そして、幾人かの使用人である。但しその使用人達は邪魔になるので、暇を出した。永遠に。

 リビングへと繋がるドアを開ける。開放的なまでに広いリビングだ。年頃のはしゃぎ盛りの子供が数人、遊びまわってもおつりが来る程の広さ。
其処に置かれたグランドピアノを、蜘蛛は弾いていた。縁日で売られているような、安っぽくデフォルメされた蜘蛛のお面を被った、まだら模様のスーツの男が。

「おはよう、アイ」

「おはよう、お兄さん」

 譜面から目線をあいに移し、蜘蛛――アナンシは語った。白く輝く歯を見せて、笑っていた。
仮面で顔は伺えないが、きっと満面の笑みを浮かべている事だろう。性善とは程遠い、悪辣そのものの笑みであろうが。

「ピアノ、上手だね」

「腕を八本生やせばもっと上手くなるよ?」

「二本の腕の方がステキだと思うよ、お兄さん」

「そりゃ残念、カッコいいとこ見せたかったな」

405 キチガイ共のバラード ◆ikjF72IIL2 :2018/10/21(日) 23:06:20 ID:K/UBEupA0
 ふぅ、と。残念そうに一息吐くアナンシ。
あいはアナンシの方を視界に納めながら、テーブルの上に置いてある二枚のジャムトーストと、カップに注がれたアイスココアに目線を送る。
いや、それだけじゃない。パンフレットと思しき長方形の紙束が何枚も、トースト乗った皿の横に扇状に広げた状態で置かれている。

「朝食だ、僕の演奏を聞きながら食みたまえ」

「いつもありがとうね、お兄さん」

「なんのなんの。まったく、僕の料理を食べられるなんて君は幸せ者だよ、アイ。画面の前の彼らは、食べたくても食べられないのに」

 あいは、アナンシのこう言った戯言を、彼の強い個性の一つなのだと認識する事にし、受け流す術を覚えた。
もう、こう言った何処の誰について言及しているのか解らない言葉については、以前に比べて反応が薄い。

 苺のジャムが塗られたトーストを口にするあい。サクッとした食感と、ふんわりとした噛み心地が実に良い。
良い食パンを使っているのだろう。それに、トースト自体もまだ暖かい。作られてから間もないと見える。或いは、放置していても冷めない『業』を用いたか。

「お兄さん、旅行に行きたいの?」

 パンを一枚食べ終えてから、あいは言った。演奏を続けながら、アナンシは口を開く。

「またどうしてそう思ったんだい?」

「テーブルの上のパンフレット、全部旅行のものだよ」

 あいの言った通りだった。
これ見よがしに、あいに見て欲しげに広げられたパンフレットの全てが、レジャー関係の物。
北海道や東北、九州に四国に沖縄などの国内の観光地についてのパンフレットもあれば、海を隔てた向こう側、中国や韓国、アメリカに中南米、
モルティブ諸島にエジプトなど。近場で手頃な所が紹介されている物から、奮発して観光する所が紹介されている物など。
様々な需要に応えた観光パンフレットもあるではないか。しかもその全てが、ご丁寧にGW仕様のレイアウトだ。日本においてGWは旅行会社の掻き入れ時、繁忙期である。長期休暇の要素を全面に押し出すのも、当然の流れと言えるだろう。

「なぁ、アイ。人間って奴はさ、休みが二日以上連続している時は、旅に出るべきなんだよ。そう思うだろ?」

「友達と遊ぶのも楽しいよ?」

「おっと、それもそうだ」

 口元だけで、一本取られてしてやられた、と言うような苦笑いを表現してみせるアナンシ。

「だけど、友達と一緒に旅行に行く事はもっと楽しいと思わないかい? アイ」

「じゃ私とお兄さんと一緒に行けば楽しいね」

「エクセレント!!」

 其処でアナンシは、それまで演奏していた夜想曲第2番をめちゃくちゃなスピードで速弾きし始めた。凄まじい速度だ、肘から先が霞んで見えない。
余りに演奏するスピードが速いので、それは最早メロディと言うより同時に一斉に音の塊を浴びせかけられたような……言ってしまえば雑音にしか聞こえない。
ものの五秒で、それまで演奏していた曲目を終えたアナンシは、ピアノから指を離すと同時に、椅子に座ったまま空中に跳躍。
椅子に座ったままアナンシは空中で二回転、三回転――そのままアナンシは、あいが座って朝食を摂っているテーブルの向かい側に椅子ごと着地。
その際に、音はなかった。絨毯の上であったとは言え、到底有り得る現象ではない。どんな魔法を、使ったと言うのか。

406 キチガイ共のバラード ◆ikjF72IIL2 :2018/10/21(日) 23:06:33 ID:K/UBEupA0
「折角のゴールデンウィークなんだ。僕らの思いでも黄金色に彩られるべきじゃぁないか」

「でも聖杯戦争が起きてる間は、冬木の町から外には出られないね」

 少し残念そうな声音で、あいは言った。
モルティブ諸島の青い海、エジプトのピラミッド、歴史の重みが視覚から伝わってくる地中海の街並みから、日本とはまた異なる形で現代的なアメリカの大都会。
そう言った外国の国々は愚か、新幹線でいけるような国外の観光スポットにすら、今のあい達は赴く事が出来ないのだ。それを知らぬアナンシではない筈だが……。

「旅行の目的は、美味しいものや観光地だけじゃないんだよ、アイ」

「そうなの?」

「そうさァ。人との出会いや逢瀬もまた、旅の醍醐味。冬木でも、それが出来る」

 何時の間にか、パンフレットの一枚があいの手元から消失する。
気付いたら、それはアナンシの左手に収まっていた。中国旅行のパンフレットだった。

「こんなご立派な所に行かなくてもさ、冬木の市内だけでも楽しめるんだぜ? アイ。君も僕も、外に出なさ過ぎだ。どんなに従順なサーヴァントでも、外に行動に出ないマスターには良い顔をしないものだぜ」

「うーん、そうだね。私も、ずっとお家ばかりにこもってて飽きちゃった」

「そうだろうそうだろう!! 怠け者と言うのは実に良くない。童話や寓話でも、何時だって奴らは割を食うからね。兎にも角にも、行動する事が大事さ、アイ」

 アナンシの声音はどこか遠い。思うところがあるような、思わせぶりな語り口だ。経験者にしか、出せぬ声の調子であった。

「アイ、君は何処に いき/イキ/行き/生き/逝き/ たいんだい?」

「お兄さんにお任せするね。素敵なエスコート、期待しちゃうな」

「おおっと、デートのプランは僕に決めさせてくれるのかい!! 良いだろう、素敵な旅路を乞うご期待!!」

 パンッ、と拍手を打つアナンシ。
その様子は、傍目から見れば引く程に楽しそうに、あいには見えた。……悦しそうに、見えた。それは、あいにとっても同じだった。
見蕩れる程艶やかな黒い焔が、アナンシの身体を包み込んでいるのが、あいにだけ見える。自分とは方向性の違う黒は、何時間見ていても飽きが来ない程に、美しかった。

407 キチガイ共のバラード ◆ikjF72IIL2 :2018/10/21(日) 23:06:48 ID:K/UBEupA0

 ◆

 Hey Yo!! 見てるか俺を投下した◆nY83NDm51Eさん!!(一応投稿者にとっては他人なのでさんづけはする)
遂にアンタ以外の書き手が本編でオレを動かしてくれてるんだぜ!! 作中時間じゃ全然経ってないが、そっちの時間じゃ実に一年以上振りだ!! 遅ぇよ!!

 オレがこうして本編に、他の誰かに動かして貰うまでに長い時間が経過した。
エピックオブレムナント(スペルが解らない)は終わってしまったし、何時の間にか第二部なんて物が巷じゃ始まった始末だ。
後なんか、相変わらずキャスタークラスには人権級のサーヴァントが新しく実装されたらしい。スカディってアレだろ? 
だっこちゃんみたいに肌が黒くて、マハブフダインとか使いそうな奴だった気がするんだが……まいっか!! 消費税が10%になる前に登場させて貰えたしオレも嬉しい!!

 勿論このオレ、ウォッチャーこと、バロン・サムディは現在時刻までに起こったあんな事やこんな事も全部知ってる。
知ってるから、書き手にとっちゃ煩わしい、何が起こったのかと言う反芻の描写も考察の描写も既読スキップする事が可能だ。Wow!! 負担の少ねぇなんて優しいサーヴァントなんだ!!

 FGOに出てくりゃ人権どころかストーリークリアの配布にしなきゃ最早公平じゃないってレベルで基本的人権級のこのオレを引いたにも関わらず、
リーナの顔つきはさてもまぁシケたモンだった。お前の引いたサーヴァントって、オレのソウルプレイス足るアフリカの魔術使いや呪術師共が、
どんな供物や上物の葉巻やラムをダースで用意しても現れる事はないってぇレベルの超大物なんだぜ? もう少し喜んでくれよな〜。

【……何かやけに静かじゃない?】

 不審そうな声音で、リーナの奴がオレに念話を送って来る。
大方オレが地の分でマシンガントークしてるせいで、台詞の方が疎かになってておとなしめになってるのを疑問に思ったんだろう。
馬鹿野郎、台詞と地の分で言葉の洪水を浴びせ掛けたら読み難い文章になるだろ!! 大人の配慮って奴だ。

「まぁ久々の登場だからな、緊張しちゃってた」

 聡明な読者さんなら凡そお分かりだろうが、【】は念話を表すクレバーな表現方法だ。
オレ様は念話なんて通さずベラベラと実体化して口にしているわけだが、NPCは勿論下手なマスター、サーヴァント共ですらオレの姿は認識出来ないぜ。
アフリカ由来の呪術や、ブードゥー発祥の魔術――実を言うとあんましこいつらの魔術は好きじゃねぇ。聖堂教会の流れを若干汲んでやがるからな――を掛け合わせて、
認識阻害を行ってるからな。ペニス……じゃなかった、ペニーワイズみたいなもんだと思えば良い。オレ様の姿はマスターであるリーナと……オレ様でも対面がイヤな野郎共にしか見えないって事。これだけはハッキリと伝えておきたかった。

「て言うかリーナさぁ……お前さんその、仙台市の給食みたいな貧相な朝食はなんだい?」

【な、何ってそりゃ普通の朝ごはんだけど……】

「ホテルのバイキングはよ、リーナ。ヴィーガン共に唾吐き掛けて屁コキ散らすレベルで喧嘩売るレベルでタンパク質タンパク質&タンパク質を摂るモンだろうがよ。それをお前、なんだお前(低語彙)。その、上品な朝食は!! オレはそんな奴のサーヴァントになった覚えはないゾ!!」

 【私はアンタに育ててもらった覚えないから……】、くそう……突っ込みすら上品過ぎる……。
朝のホテルのバイキングだけあって、重めの物はない。要するに、牛や豚とかの肉々しい物とか、後油物だな。そう言った奴らは夕食に回される。
代わりに用意されてるのが、焼き立てのロールパンやそれに塗る為のジャム、焼き魚に白米、後スクランブルエッグとか目玉焼きやら、納豆や味付け海苔。
汁物にはポタージュやら味噌汁、中華風のスープ等も用意されていたりする。優等生過ぎる品揃えだが、手堅すぎて面白くねぇ。

408 キチガイ共のバラード ◆ikjF72IIL2 :2018/10/21(日) 23:07:01 ID:K/UBEupA0
 リーナの食ってる物の、まぁ何と慎ましやかな事か。
ロールパンに苺のジャム、目玉焼きに炊き立ての白米に焼き魚、味付け海苔、後は軽いサラダに氷水と。
オレのマスターらしからぬ、バランスの良い山本選手並にバランスが良い食事だった。アッ、でも目玉焼きにケチャップを塗るのは中々ロックだ。悪くない。ちなみにオレは黒蜜をかける。

 アイドルのスケジュールって言うのはタイトだ。人気が上がれば猶更だな。
仕事の予定に拘束されるなんざ、聖杯戦争をする上じゃデメリット以外の何モノでもない。だって自由じゃないもんな。
リーナはその辺り育ちが良いから、律儀に従おうとする。ロッカーとしては中途半端だな。
はっきり言ってこの冬木の聖杯戦争は、舞台としては笑っちまう位に儚いし、その上……おっと、これ以上は言わない方が良いかね。種明かしには早すぎるか。
どっちにしろ、仮初の世界に敷かれたレールの上を律儀に走る必要はないだろ。もっと予定をスッポかせ。あのMステをスッポかしてパパ・タモリをガチ困惑させたt.A.T.uみたいにな。そうしないとオレが退屈で死ぬ。ロキのパイオツ揉みたいもん。

「煮詰まるのは相当先か……」

【? 何が?】

「黒豆がだよ。昨日から強火で茹でっ放し」

【消そうよ!!】

 純粋かこいつ。
どちらにしても、このオレ様が本格的に動き出すのは、まだまだ先の事になるかも知れんな。
今状況を動かすのは、後先考えず動きまくるお馬鹿さん達だ。ブチ切れ金剛して見せたオグンの奴見たいに暴れまわって、状況を大回転させれば良い。
そしてそれは、オレの仕事じゃない。低質かつ下等なクソサーヴァント共の仕事だ。オレはそれ見て笑うだけサ。ヘヘ、オレみたいな大物がこんな初っ端から因縁消化する訳ないだ――――――。

「……クソが。つくづく空気を読まないスパイダーマンだ」

【? ウォッチャーもアメコミ好きなの?】

「グリーンランタンの映画クソだったゾ。まぁそれは兎も角、そっちのスパイディじゃないんだな」

【もう、訳解らないなぁ!! 一体全体何なの!?】

「いや。……説明する手間が省けた」

409 キチガイ共のバラード ◆ikjF72IIL2 :2018/10/21(日) 23:07:26 ID:K/UBEupA0


 声のトーンが、明白に変わった事に私は気付いた。
ウォッチャーは何時だって不真面目だ。言ってる事も訳が解らない上に、その意味不明さもおふざけの延長線上で、その上……私を含めた全てを見下してる感が否めない。

 ……そんなウォッチャーが初めて、私にも解る位明らかに、マジメな声音で言葉を紡いだ。
思わず、えっ、と、間抜けな顔と声で口にする私。髑髏が笑っているモチーフの、顔に塗られた白塗りのボディペイント。
本来ペイントに過ぎないそれが、不愉快そうに歪んでいるように見えたのは、私の見間違いなんだと信じたい。連日の仕事疲れのせいだと思いたい。
でも……そうじゃない。ウォッチャーは――何時だって軽薄な笑みを浮かべていた彼の顔は今確実に、冷たい何かを放つ真顔に変じていた。

「そこにいてチョーダイ」

 と、何処かの中古ピアノのCMみたいなトーンでそう言うウォッチャー。
声の方は聞いての通りだったけれど……顔に遊びが全くない。その様子はまるで、プロデューサーが仕事先の偉い人達と話す時のそれにそっくりだった。
スタスタと、目線を向けた方向に歩いた時、私は気付いた……気付いてしまった。

 ――ズボン穿いてる!!――

 私は決して狂っていない。先ず、それだけは伝えて置きたい。
ある種の感動すら覚えている。あのウォッチャーが、タキシードの下を穿いていると言う事実に!!
そう、あのウォッチャーは普段は穿いてない。パンツの類すらも。だから、その、えぇと……普段はアレを丸出し……あぁこの話題やめやめ!! 言ってて恥ずかしい!!
兎に角、あの裸族がズボンを穿いている何て異常事態そのもの!! 私がどんなに穿いてって頼んでも、
「フルチンは全ての男の理想。男として生まれたからには無限の富とキリマンジャロの山より高い地位、そして何時だって裸でいられるライセンスを求めねばならない」と言って取り付く島も与えなかったアイツが、ズボン穿いてるなんて有り得ない!! それこそ、どんな風の吹き回しなのか。アイツでも萎縮する程の偉い奴を目に――。

 そこで私もハッとした。
あの天衣無縫の具現みたいなウォッチャーが、タキシードの上下……つまり、『フォーマルな格好』に着替え直したと言う事は。
そうしなきゃ不味い相手の姿を見たからなんじゃ、そう思ったのだ。

 バッと目線を、ウォッチャーが歩いて向かっている方向に合わせると――そこには、いた。

「……」

 一言で言えば、それは、浮いていた。有り得ない程の、存在感だった。
見事な朱色にまだら模様の刻まれたスーツを身に纏い、口元だけを曝け出すように、縁日などで売られてそうなチープさの、蜘蛛をデフォルメしたようなお面を被る、
黒髪褐色の男の人。背は、高い。きらりみたいにだ。だから、際立つ。彼の隣で、キャリーバッグをよいしょよいしょと位置調整させている、
夜空を切り取った様に綺麗な漆黒の服装が特徴的な、ストロベリーブラウンの髪が特徴的な女の子がだ。頭何個分の、頭身差があるのだろう。親と子とか言う次元じゃない。

「さ、サーヴァント……」

 声が掠れる程の緊張を私は覚える。私の視覚には、明らかにあのお面の男の人の実力を指し示すある種のパラメーターが映り込んでいる。
ウォッチャーを見ても、同様の物が映り込むのはとっくに確認している。兎に角、アレが出てくると言う事は、あのお面の人は……そう言う事なのだろう。
緊張のメーターを示す針が、限界値に達し過ぎて、如何でも良い思考が混乱気味に私の頭の中に挿入されて行く。
誰もあのお面を被ってる人の存在に気付いていない事とか、そもそもあのストロベリーブラウンの女の子の着ている衣服が喪服である事だとか、
そんな、重要性の低い事だけを考え始めるようになる。命の危機であると言うのに、如何でも良い事に思案する。そしてそのテンパってると言う事実を冷静に俯瞰して、どうしたものかと考える私もいる。どうしていいのか、わからない。

410 キチガイ共のバラード ◆ikjF72IIL2 :2018/10/21(日) 23:07:48 ID:K/UBEupA0
 ステッキをクルクルと、人差し指に引っ掛け回転させながら、ウォッチャーはお面の男の人に近づいて行く。
「あ、あのステッキの先端……」、そう言ってお面の人の隣にいる女の子は、ポッと赤面し困った顔をする。
すぐに彼は、懐からハンカチーフを取り出し、それを少女の頭に垂れ掛けた。ハンカチは絶妙に彼女の目を覆い、視界の前面を見えなくさせてしまう。
ウォッチャーが持っているステッキの先端についたアレを見る事もないと言う訳だ。ナイスフォロー。

 ウォッチャーと、お面の人との距離は遂に、三mを切った。
もう、普通に会話を交わせる距離だった。そして……何が原因で喧嘩……ううん、殺し合いが起きてもおかしくない距離にもなった。
喉が急激に渇いていく。舌から唾液が消え失せる。口内の体液が全部、私の皮膚と言う皮膚から冷や汗として吹き出ているんじゃ、と思わずにいられないぐらいだった。
変な事はしないで……!! 私はそう祈り、目を瞑るが――。

「――エピロワ二作完結おめでとう〜〜〜〜!!!!!! #エピロワ」

「サンキューマイフレーンズ!!!!!! #エピロワ」

 蜘蛛の男の人が陽気な声音でそう告げるや大きく両腕を広げ、ウォッチャーもそれに応えるようにそう告げながら両腕を広げた。
そしてそのまま男二人はハグしあい、互いの頬を摺り合わせている。…………あれ、え、うん?

「ユカタンと殷周まだ見れてないんだけど、終わった事だけは人伝にね〜〜」

「何だよ先輩、両方とも終わってから随分時間があったのにまだ見れてねぇのかい!? しっかりしてくれよ〜」

 そう言ってウォッチャーは旧来の友達にでもするかのような肩パンを、お面の人に行ってみせる。ちょ、それは不味いって!!
でも、お面の人はにこやかな笑みを口元だけで浮かばせて見せながら、ごめんごめんと、叩かれた左肩を払って見せる。

「同郷のよしみだ、一緒に食べようぜ先輩!! カラバル豆を炒ったコーヒーで良いかい?」

「おっ、良いねぇ。早速ご馳走になろう。行こうよ、アイ」

「お兄さん、ハンカチ」

「おっと、僕とした事が」

 ワハハハハと二人で大笑いするウォッチャーと、お面の人。
……雰囲気が弛緩したのを見て、私はホッとした。そして、蒸発しきった口の中を潤すように、コップの中の水を口に含め始めた。

411 キチガイ共のバラード ◆ikjF72IIL2 :2018/10/21(日) 23:08:03 ID:K/UBEupA0
短いですが前半部の投下を終了します

412 名無しさん :2018/10/23(火) 21:08:13 ID:CGcif/4g0
一体何が始まるんです!?

413 名無しさん :2018/10/24(水) 20:05:23 ID:ODde2i3s0
大惨事聖杯戦争だ

隠す気のないダイマにワロタw
早速読みに行きました

何はともあれ乙です

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416 名無しさん :2018/11/20(火) 17:42:59 ID:SaDgnsvg0
すごいの一言しか言えません!普通の人にはこんな文章は絶対に書けないと思います!

417 ◆4avBUXlFPo :2019/04/20(土) 08:07:21 ID:nt4EuAUI0
ジャギ&ライダー(チンギス)
ライダー(ハスター)
隼鷹&ランサー(ラクシュマナ)
アルターエゴ(クロウリー)
衛宮士郎&キャスター(ケイ)


予約します


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