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Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木

1 : ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:51:07 skjY.u.s0
     
     



         曇りてとざし 風にゆる

         それみづからぞ 樹のこゝろ

         光にぬるみ 気に析くる

         そのこと巌のこゝろなり

         樹の一本は一つの木

         規矩なき巌はたゞ巌

                       ――宮沢賢治、こゝろ




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2 : The Race Of A Thousand Ants ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:51:33 skjY.u.s0



 ――何が、お前には不服だと言うのだ……?

 玉座に座る男が、実に弱弱しい光を宿した瞳で俺に言った。
油でも塗った後のように光り輝く褐色の肌を誇っていた、俺の父上の、何と老いて、憔悴しきったことか。父はこの数日で、めっきりと老け込んでしまっていた。

 ――見捨てると言うのですか!? 私を……この子を!!

 生まれて間もない、それこそ一年と経っていないだろう赤子を抱きながら、涙を流して叫ぶ女がいた。
ヒマヴァットに堆積する万年雪のような、淡雪を思わせる白い肌。教養の高さを窺わせる、理知的な顔立ち。女は、■■■■■■の者だった。
そんな女が、鬼を宿したような顔つきで、俺の事を睨んでくる。その手に抱いた、彼女と、俺の子供だけが、この場に在って無垢を保っていた。
無邪気な瞳で、俺の子供が、俺の方を見つめてくる。見捨てるのが、心苦しくなかった訳じゃない。
邪気も、慈悲も、善も悪もない、無垢のままの瞳は、俺の心を動かした。だが、『俺/私』は、それでもこの子の試練を乗り越えなければならなかったのだ。

 ――だから俺は、この子に■■を意味する名を与えて


3 : The Race Of A Thousand Ants ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:51:58 skjY.u.s0


「夢を、見ていたのかね。キングの座を蹴った物好きよ」

 瞼を閉じたまま、十と数時間は経過していた。その間、ずっと闇の暗幕が男に垂れていた。
それだけの時間、瞼を閉じていながら、男は眠りに落ちる事はなかった。苦行の一つに、そんな修行がある。ずっと、瞼を閉じたままいる苦行である。
その間、寝てはならない。瞑目していながら、意識と心を一の状態に保つのである。どんなに眠い状態で瞼を閉じていても、起きている状態を維持するのである。
肉体を痛めつける必要もなく、特別に誂えた道具を用意する必要もない。人間の身体一つで誰でも出来る、最も厳しい苦行の一つであった。

「眠ってはいないさ」

 人は、そんな苦行をこう呼ぶのである。『瞑想』、と。

「君が、己の脳内にだらしなく浮かんでいるプティングより柔かい物質が産み出す、精神と幻想の昏海を遊弋している間、こちらでは十一時間二九分五三秒が経過していた」

「時間の無駄だ、と言いたいのかな」

 試すような口調で、男が言った。
その口に、あるかなしかの微笑みを浮かべながら言葉にするその様子には、面白そうな気風が漂っている。

「時間とは、いつ誰にでも、時速六〇分の速度で我々の下にやって来る。それは、愛くるしい猫である私にも、ガーディアンを気取る君にもだ。君がメディテーションに精を出している間、この激動の世界は絶えず、素早く、変化したぞ」

 男の耳に届く声に、彼は、子どもの他愛ない悪戯を見るような大人のような苦笑いを浮かべてしまった。
声の主は、酷く迂遠で、言語学者的な修辞法でいつも自分に語りかけて来るので、それが何だか、面白く感じてしまうのである。

「実はな、この瞑想と言うのは『私』である俺が、生涯の内長い時間費やした行動が元になっている。それを、『俺』もやってみたかったのだ」

「ふむ。それで君は、心の湖の水底で、何を思ったと言うのかね」

「時間の無駄だった、と言う事さ」

 かぶりを振るう、男。

「お前のな、言った通りだ。俺が静謐の世界で、心の海を揺蕩っている間、世界は激しく動いていた。人の身体も人の心も、移ろい、形を変えていた」

 なお、男は言葉を続ける。

「『私』はな、宇宙の事を考えていた」

「宇宙? 空の果ての事かね」

「当たっているが、そうではない」

「では、宇宙とは何かね。偉大なる飲んだくれ君」

「我々が見ているものの、全て。そして、見えていないものの、全て」

「全て?」

「ああ」

「この部屋もか」

 白い壁紙、白い天井、白い床が広がる、広さ七畳程の、何の調度品も置かれていないワンルームを見ながら、声の主が言った。

「そうだ」

 男は、迷わず肯定する。


4 : The Race Of A Thousand Ants ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:52:23 skjY.u.s0
「山もか」

「そうだ」

「肉ではない海もか」

「肉ではない海もだ」

「雪もか」

「雪も、だ」

「何処ぞの山の岩も、何処ぞの山の頂上の空気もかね」

「そうだ」

「天も」

「そうだ」

「雲も」

「そうだ」

「君もかね」

「俺も、宇宙の一部らしい」

 間が、一秒空いた。

「君も、か」

「そうだ」

「なら、私もか」

「あんたも、宇宙の一部さ」

「私は、生まれ落ちてから、弟と言う存在を認識し、そして成長しきった今日に至るまで、そんな事を思った瞬間は一度としてない」

「なくとも、そうなのだ」

「では、君の髪は」

 男が自分の髪をいじった。

「これも宇宙だ」

「では、君の身に纏う服も――」

「宇宙だ」

「――」

「お前の声もそうだ。生えている毛もそうだ。お前が今頭の中で考えている事も、それから、ここでは見れない、遥か彼方の平原も、そこに生えている草も。その草を食べる牛も、星も、花も、水も、木も、家も、雨も風も人も獣も、あらゆるものが宇宙なのだ」

「ならば、この世界に在る全てが宇宙だとでも言うのかね」

「俺はそうだと、初めから言った」

「そうだとして、何だと言うのだね?」

「これらは皆、動いている」

 男は言った。


5 : The Race Of A Thousand Ants ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:52:42 skjY.u.s0
「山も動いている。海も動いている。雪も動いている。岩も、空気も、天も、雲も、平原も、草も、花も、星も、水も、木も、家も、雨も、風も。お前も、俺も。皆、動いている。この世に存在するあらゆるものは動いている」

「私や君が動くのはわかる。だが、山や、岩までも、何故動く?」

「動いているのだ。刻(とき)の中をな」

「刻、だと?」

「……『私』はな、この、大地や天が動いて行く、ごうごうと言う轟きを、聴いた時があった」

「……」

「この宇宙は、何によって動かされているのか。そして、どこに向かっているのか? 『私』はある時、堪らなくそれが気になってしまったんだ。そして、その真理を求めんが為に、旅に出た」

「……」

「その旅でな、よく瞑想をしたものだよ。そして、その旅に、宇宙が動くのを感じていた。『私』は、それを享受していた」

 かぶりをまた、男は振った。二度。頭の中の雑念を、振り払うかのようだった。

「だがな、それでは駄目だったんだ。宇宙が動いていると言うのなら、『私』は、その宇宙に合わせて、宇宙よりも速く、宇宙よりも大きく。動き続けねばならなかったのだ」

 男は平素と変わらぬ声音で言葉を続けた。そこに熱は籠っていない。なのに、石に刻まれたあるかなしかの亀裂に、水が染み入って行くかの如く、男の言葉は、この場にいる誰かの心に染みて行く。

「『私』は、宇宙が動いていると言う事を知っていながら、そこからどう動くかを誤った。全ての人が、少しだけ優しくなれる法を求めていた『私』は、初めの一歩を決定的に踏み違えていた」

「君には、それが出来る、と」

 沈黙で、男は返した。

「わからない」

 十秒程経過してからの、言葉だった。

「無駄かもしれない、徒労に終わるかもしれない。しかしそれでも、俺は、やってみたいのだ。遂に、俺の側面である『私』が達成させる事のなかった境地に、俺は、俺のやり方で至ってみたいのだ」

「――その為の、聖杯戦争か」

 ぐるる、と、獣の唸りが上がった。

「貴き霊と、汚れた血を混ぜ合わせたブイヤベースで満たされた杯に、何かを祈る、か。東西の神秘学に真っ向から勝負を挑むような、素晴らしいイベントだよ」

 非難がましい声に、男が返す。

「『私』は■■だったが、『俺』は違う」

「では、君は。何であるからこそ、聖なる杯を手中に収めようとするのかね。真理の旅人だった男よ」

「――王だ」

 迷いも、躊躇いもない。狐疑逡巡とは無縁とすら言える程の、即答だった。

「王であるからこそ俺は――『私』には選べなかった選択で、世界を救おうとするのだ」

 作った握り拳を、眼前に持って行き、男が続けた。

「優しい世界を、作ろうと言うのだ」

 力強い言葉で、男が言った。ぐるる、と、獣が唸りの声を上げた。
聖杯戦争の本開催、その、一週間前の幕間が、これであった。


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6 : The Race Of A Thousand Ants ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:52:59 skjY.u.s0
・当企画について
当企画は先達であるFate/Winter morning ―史実聖杯―様同様、『実在した人物・神話伝承、物語』をモデルにしたキャラクターをサーヴァントにして行う聖杯戦争リレー企画です

・舞台について
原作における冬木市、とされている舞台で行うものとします。電脳空間なのか現実空間なのかは、今はまだ判別できません

・マスターの条件
他の聖杯企画様同様、アニメや漫画、ゲーム、小説などからであれば構いません。現実出典は認められません

・サーヴァントの条件
実在した人物や神話伝承、物語をモデルにしたキャラクターならば構いません。
ただし、史実上の人物をモチーフにした版権キャラと、常識的に考えて拙い人物(存命中の犯罪者・受刑者等)は不可能とします。

・コンペについて
①主従はおおよそ18〜24程度を考えておりますが、主従の集まり次第では、増減するかもしれません
②原作における通常7クラス及び、エクストラクラスの投下を可とします。ただし、『ビーストクラスは不可』とします
③締切については現状未定です。折を見て設定致します

・細かいルール
①当企画は、『十二星座の刻印がされたカードを手にする事』で、異世界からマスターが呼び出され、呼び出された先の冬木市で聖杯戦争が行われます
その世界に呼び出されるや、カードに刻印された十二星座が光り始め、其処から、FGOの召喚演出宜しくサーヴァントが召喚されます
②元居た世界から冬木に呼び出された際の記憶の有無については、各人にお任せ致します。令呪が刻まれるタイミングについても同様です
但しどちらにしても、聖杯戦争についての記憶については、何処かに刻まれる必要があるものとします
③サーヴァントが消滅しても、マスターもそれに牽引して消滅はしませんが、逆にマスターが死亡した場合は、余程の例外か、
延命を助けるスキルがない限り、サーヴァントは消滅を免れません。しかし、消滅する間に他マスターと契約を交わせば、消滅は免れます
④令呪の全消費=マスターの死亡ではありません。が、当然命令権を失う事となりますので、裏切られるリスクは遥かに跳ね上がります
⑤いわゆる、候補話中の『ズガン』については不可とします。ただし、サーヴァントではなく、サーヴァントが産み出した何らかの脅威についての対抗描写は可能です


7 : The Race Of A Thousand Ants ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:53:54 skjY.u.s0
以上でOPの投下は終了です。
保険を打つようであれですが、リアルとの兼ね合いもありまして、
滅茶苦茶筆の方が遅い企画主ですが、笑って何か候補作をお恵み頂ければ幸いです


8 : ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:56:19 skjY.u.s0
さしあたって、1作だけ投下いたします


9 : 心の硝子の割れた者 ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:56:49 skjY.u.s0
     







                             最強の格闘技/サーヴァントは何/誰か!?


10 : 心の硝子の割れた者 ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:57:20 skjY.u.s0


 ぼ く   は  とうさ ん に すて ら   れ   た


 ぼく は じゆうごさい です。 なのに 、  『くく』も でき ません 。 かんじ  も ぜんぜん しり ません。


 父さん の 期たいに こたえたいと 思つたから ぼくは つらい練しゆうにも たえて きました。


 でも、たった一どの負けで、ぼくは全部うしなってしまった。


 田島彬に、ぼくは負けてしまった。


 練しゅうを、しなくていいと父さんにいわれた。でもぼくは、練しゅうしか知らなかった。
ぼくには友だちがいなかった。弟の徳夫にも、いません。だけど、知っています。ぼくとおなじとしの人は、勉きょうをしながらあそぶものだと。


 だから、僕は泣いた。どうしたらいいんだと、なにをすればいいんだと、泣いた。悔しくて、泣いた。
僕には、父さんの期待に応えたいと思ったから鍛え上げた、日拳しかなかったのに。僕の父さんは、それを否定した。僕は、それが許せなかった。


 その時、僕の身体の中にあった、ガラスの球が割れた。殆どの人間が、人生を送る上で割れる事のない筈のガラスの球が、割れた。
僕の心の中のガラスの球は、猛毒だった。僕に、酷い喉の渇きを与え、体中の血液を砂にしてしまう、猛毒だった。


 ――だから僕は、あの時、小鳥を食べたんだ。
籠の中の鳥を、僕は頭から食いちぎった。初めて食べた小鳥の味は、トマトの味がしたのを、僕は今でも覚えている。
田島彬の血は……ガラスの球の中身が僕のような毒じゃなくて、薬の人間の血は、昔食べた、甘いプチトマトみたいな味の方が、僕はいいな。


11 : 心の硝子の割れた者 ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:57:36 skjY.u.s0


 古い、家だった。好意的な言い方をすれば、古風な武家屋敷風で、時の重みを感じさせる風情ある住まい。
だが、悪い言い方をすれば、長い間手入れをしていない事が一目でわかる、荒れ果てた家。男の住んでいる屋敷について、人が抱くイメージはこの二つに二分されよう。

 瓦屋根の隙間に溜まった土埃に、蒲公英の花をはじめとした、雑草が芽吹いているその様子は、貧乏臭さを拭えない。
庭に群生している草花は、丁重に育てられ、愛でられる為に植えられたそれとは違う。ただしぶといだけの緑が、あちらに一叢、こちらに一叢と。
庭中に生い茂っている。その様子はまるで、山間の野辺の一画を切り取って、この邸宅の庭に移して見せたかのようであった。

 庭の手入れが行き届いていない事が、素人目にも解る家だった。
それは、事実であった。この家の正当な所有者は、この家に滅多な事では帰って来ない。近隣の住民なら知っている事柄だった。
海外を行き来する仕事であり、日本に帰ってくる事自体が稀であると言うらしい。その家の主の、顔すら見た事がないと言う者も珍しくない。
そして、何の仕事をしている人物なのか、と言う事に至っては、全員が解っていない。頻繁に海外に赴き、年単位でそこに住まう事も珍しくない人物だ。
さぞ名のある商社に勤務する、エリートなのだろうと、思う者の方が此処には多い。これだけ頻繁に国外を飛び出し、慣れぬ異郷の地で生活しているのである。出世コースは、約束されたも同然だろう。

 そして、それらの推測が全て、見当外れのものであると言う事を、彼らが知る事はないであろう。
父からこの屋敷を相続した男は、傭兵だった。戦地での要人の警護と言う仕事にも需要があるが、それ以上に需要があり、報酬も高いとされながら、
供給の足らない仕事。つまり、より危険な前線での任務。この家の主は、主としてそんな仕事を好んだ。
そして、未だに身体に欠損は勿論の事、傷一つ負う事無く今日まで生き続け、年齢からは不相応な程の預貯金を蓄財するに至った人物だった。

「母さん、僕に意地悪をするのはやめてくれないか? いたずらにしても、限度があるよ」

 そして、その家の主である男が今、この冬木の町に帰って来ていた。
最後にこの冬木を発つ時には見えなかった、女の人物を横に連れて、だ。この男――『佐川睦夫』は、こう言った女性関係とは無縁の男であるのに。

 傭兵稼業に身を染めていると言う経歴に、嘘偽りのない人物だった。
着用している半袖のシャツから伸びる二の腕の鍛えられ方は尋常ではなく、岩を削ったかのような圧を見る者に与える。
シャツの下には銅像を連想させるが如き、さぞ鍛え上げられた筋肉が隠されているのであろう。厚手のジーンズの下には、鉄の様な筋肉が搏動しているのだろう。
男の身体自体が、傭兵としてのキャリアを雄弁に語る、ある種の履歴書のようなものだった。
この身体を見れば、様々な戦地に赴いていたと言う事実を、誰もが納得しよう。健康な肉体の、見本のような身体つき。
であるのに、男の顔つきの、何と不気味な事か。あまりにも、人間的な感情と言うものがその男からは感じられなかった。
例えて言うなら、能面である。喜びもなく、怒りもなく。哀しくもなければ楽でもない。本当の意味での無表情のまま、男は、座卓の対面で正座をする女性を咎めていた。

「貴方に悪戯をしたつもりなんてないわ、睦夫。それと、私は貴方のお母さんじゃないのよ」

 虐待、と言う負の言葉をイメージせずにはいられない女性だった。
左目が、その女性にはなかった。眼窩がぽっかりと、地の底にまで続く空虚な黒洞となって彼女の顔で主張していた。
それだけではない、女性の左目の回りには、見るも無残な火傷の後が刻まれていた。まるで、熱した火箸でも突っ込まれたかのようだった。
目だけなら、どれ程良かったか。患者が着るような、白い検査衣を身に纏うその女性には、左腕が肩の付け根から丸々なくなっていた。
左脚の太腿より下がなくなっており、そこに木の棒を切断面に突き刺した状態のものを、義足代わりにしていた。
あまりにも、見ていて痛々しい女性だった。せめて、顔の火傷さえなければ、流れる黒色の長髪が美しい、凛々しい美人ではあったろうに。

「馬鹿な。母さん。貴女は僕らの父……佐川雅夫の名前どころか、自分の名前すら覚えていないのか。貴女の名前は佐川……佐川……」

「……? どうしたの、睦夫」

「……母さんの名前が、出てこない。ぼ、僕は……僕も、母さんの名前すら、知らないのか……?」


12 : 心の硝子の割れた者 ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:57:49 skjY.u.s0
 睦夫は、その瞬間に、両手で顔を覆い、泣きじゃくり始めた。
覆った手と手の間から、液体が滲み出て、垂れ落ち、座卓の上を濡らす。涙であった。

「に、日拳の修行しかしてなかったせいで、母親の名前すらも……」

「別に、私は気にしないわ、睦夫」

「い、良いのかい……? 母さん。僕は……僕は……」

「良いもなにも……私、そもそも貴方のお母さんじゃないし……」

「……」

 覆っていた両手を顔から離し、涙で濡れた黒い瞳で、黒髪の女性の方を見つめる睦夫。
感情が、読み取れなかった。眼窩に、ガラス球でもはめ込まれているようだと、女性は思った。

 ――母さん……可哀相に。酷い事故にあったんだろうな……自分の名前も、僕の姿も忘れてしまうとは……――

 女性の左目、左腕、そして、ここからは見る事の難しい、彼女の左脚の方に目を向けて、睦夫は考える。

 ――どうやら、一時的に記憶を失ってしまったらしい。だけど僕は、女性との付き合い方がわからない……どうしたらいいんだろう――

 そこで、睦夫は考え込む。頑なに自分の母親である事を認めない女性が、どうしたら自分を息子だと認めてくれるのか、と言う方法を。

「やはり、父さんに聞かないとダメか……」

「……また、貴方のお父様に会いに行くの?」

「うん」

 睦夫が立ち上がる。それを、女性は見上げる形となった。睦夫は、優に一八〇cmにも達さんばかりの偉丈夫だった。

「あれはどう考えても、貴方のお父様じゃないわよ、睦夫」

「母さん。お父様、と言う呼び方は他人行儀だからやめてくれよ」

「貴方のお父さんだって、頑なに否定してるじゃない。あの人は」

「父さんはもういい歳だ。最近はやや呆けている時もあるけど……ちょっと刺激を与えれば、きっと昔みたいに戻るよ。母さん」

 そう言って睦夫は、二人が会話していた居間を離れ、屋敷の地下……。
つまり、戦時中の防空壕を直して拵えた地下室へと足を運ぼうとして。その時になって、女性に呼び止められた。

「睦夫」

「どうしたんだい? 母さん」

「貴方、自分がどうしてこの街にいるのか、解っているのよね?」

「……聖杯戦争、だっけ? 変な名前だな〜って思うよ」

「睦夫」

「欲しいんだっけ? 聖杯」

 顔だけを女性の方に向けていた睦夫が、身体ごと彼女の方に向き直る。感情を宿さぬ光が、彼女を射抜く。それを受けて、コクリと頷いた

「大丈夫!! 僕ももうこんな年なんだ。母さんが望むものの一つや二つぐらい、用意出来なきゃ息子じゃないよ」

「そう。やる気はあるのね、睦夫。良い事よ。それと、私は貴方の母親じゃないわよ」

「頑固だなぁ、母さんは。それじゃ、僕はお父さんに会って来るよ」

 そう言って睦夫は、今へと続く障子をピシャリと閉じ、地下へと歩き去っていく。
ギシギシと、床の軋む音を彼女は聞き、それが遠くなるのを待ってから、義足であると言うのに器用に立ち上がり、部屋の隅に移動を始めた。
その一点で彼女は立ち止まり、そこに置いてあったものを具に眺めながら、口を開き始めた。

「……これに気付いてるのか、気付いてないのか……。どちらにしても、狂人、よね」

 この国の文化や風俗はよく解らないが、これが、死者を悼む為の文化の一つである事には女性にも解る。
額に入れて飾られている、中年の男性のモノクロ写真。両脇に備えられた、枯れて風化した、嘗てが何の種類だったかも判別出来ない茶けた花。
消費期限が、数年以上も前になっているお供え物。それは、仏壇であった。その仏壇に備えられた位牌には確かに、佐川雅夫。佐川睦夫の父親の名前が記されていた事を、彼女は、見逃さなかった。


13 : 心の硝子の割れた者 ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:58:03 skjY.u.s0


「父さん、母さんの名前を教えて欲しい」

 地下室に現れるなり、睦夫はそう言った。殺風景な部屋だった。最近改修を始めたらしい。
塗られたコンクリートは何処も剥げておらず、陰鬱なイメージこそ人に与えるものの、汚らしいイメージは人に与えない。真新しい印象すら人は抱くだろう。
照明は、天井から垂れ下がる、W数だけ高い裸の電球が一つだけ。家具の類は、部屋の広さに反してたった一つ。
家具店で二万円も出せば買えるような、金属製のベッドが一つ。そこには布団もマットも敷かれていなかった。

 ――そして、そこには一人。中肉中背の男が一人、首と両手首を一緒に拘束された状態の男が仰向けに横たわっていた。

「頼む、家に帰し――」

「遂に母さんが見つかったんだ、父さん。父さん、何を思って僕達に母さんが死んだと言っていたのかは知らないけど、きっと父さんの事だ。深い考えがあるんだろう」

 そこで一呼吸置く睦夫。

「だけど父さん、僕は日拳だけしか取り柄がなかったから。それしか学んでなかったから、母さんの名前すら解らないんだ。名前で呼んであげたい、母さんの名前を教えてくれないか」

「し、知るかよぉ……!! 速く俺を此処から帰してくれ!!」

 ――やはりか……父さんは、僕の事も母さんの事も覚えていないのか……僕には、父さんも、母さんも必要なのに――

 音を立てず、男が拘束されているベッドの下にまで近づく睦夫。今もわめき続ける、拘束された青年の顔面目掛け、右拳を思いっきり振り落とした。

「ガッ!?」

 何かを喋っていた所に、口元に拳を受けたせいで、前歯の何本かが圧し折れ、空中を舞う。
そして、舌を思いっきり噛んだらしい。舌の先端が嫌な音を立てて千切れ飛び、パンツ一枚だけになっていた男の上半身に、桜の花弁のように小さい下の先端が落下した。

「何で覚えていない」

 そう口にする睦夫の顔つきは、怒りに溢れていた。何らの感情も宿していなかった瞳や顔に、明白な、黒い怒りが燃え上がっていた。

「何故僕も、母さんの事も覚えていない!! 二人とも、父さんの事をあれだけ愛していたのに!!」

 怒りに任せて、顔面に拳を叩きつける佐川。傭兵として厳しい鍛錬を積み、日拳の素養すらある佐川の拳は、大の大人を容易に殺せる程の腕力であった。
それで、人を力強く殴り続けるのだ。成人男性とは言え鍛えていない大人が、耐えられる筈がない。

「僕はあれだけ日拳を頑張っていたのに!! 僕を捨てやがって!! 徳夫ばかり可愛がりやがって!! ふざけるな、僕は強いんだ!! 昔よりもずっと、僕を昔倒した田島彬よりもずっと!!」

 構わず顔面を殴り続ける睦夫。既に、彼が殴っている男の身体は、グッタリとして、動かなくなっていた。

「僕は強い!! 僕は、強い!! 田島彬よりも、徳夫よりも!! 解ったか、父さん!! 佐川雅夫!!」

 それでも構わず、睦夫は男の事を殴り続ける。既に自分が殴っている男の身体が、冷たくなりつつある事に睦夫が気付き始めたのは、それから、十分程経ってからの事だった。


14 : 心の硝子の割れた者 ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:58:18 skjY.u.s0


 私は、偉大なる父が好きだった。あのような父がいて、誇らぬ筈がなかった。好きにならない、筈がなかった。
父の治世の下で、医薬や服装、住居に貨幣、測量、道徳、楽器、文字が生まれ、父の治世の下で、人々は幸せに暮らしていた。
父はまさに、世界の帝王であり、大地の全てを領土とする偉大なる王であった。


 だが父には敵がいた。金属と武器と戦の申し子、いや、神か。
鉄や石や砂を食べ、その身体の堅固さに比類はない。この世界における武器の全ての開発者であり、この武器を以って父の治世に乱を与えていた。
そして、奴は、比類ない戦上手だった。百万の部下を手足のように操る手腕も見事だが、真に恐るべきは奴一騎。
奴が戦場に現れれば、神や神獣、龍の類ですら恐れ戦く。一度腕を振えば神鉄を鍛造して作った鎧に纏った兵士が粉々になり、一度呪を唱えれば軍の足並みが崩れる。
『蚩尤』は、まさしく、我々にとって最強最悪の敵だった事を、今でも私は思い出す。


 そんな敵を倒したいと言う父の思いを汲んで、私は、仙界から龍と共に下り、蚩尤を迎え撃った。
奴の魔術を封じようと、私も龍も、神として奮える全ての力を振り絞り、父に起死回生の一手を与え――そして、父は勝った。


 だが、私はこの戦いで、仙界に戻る術を失った。神としての格を引き換えにせねば、蚩尤を倒せなかったのだ。


 地上に晴れを齎す私が長い間地上に留まったせいで、地上には干魃が起った。
父が、哀しい顔で、悲しげな言葉で、私に、北の果ての洞窟に住めと言った。重い足取りで、私は其処に向かった。『鉄格子』の嵌められた洞窟に。


 地上が、恋しい。仙界で、皆と楽しく飲み交わしたい。人と、父と、話したい。


 地上に  出る。 干魃が 起こる。 その度に 私は、 洞窟に戻されて  神として 認知されなく なる。


 暗いの いや   だ。 父さま  許  し   て。


 わ た  し    は  とうさ ま に すて ら   れ   た


15 : 心の硝子の割れた者 ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:58:33 skjY.u.s0




   最強の格闘技/サーヴァントは何/誰か!?



   多種ある格闘技/サーヴァントがルール無しで戦った時……



   出来レースではなく策謀暗殺ありの『戦争』で戦った時

   

   最強の格闘技/サーヴァントは何/誰か!?



   今現在、最強の格闘技/サーヴァントは決まっていない





【CLASS】アーチャー
【真名】魃
【元ネタ】中国神話
【性別】女性
【身長・体重】162cm、53kg
【属性】中立・悪
【ステータス】筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:B 幸運:E 宝具:A++

【クラス別スキル】

対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。 事実上、現代の魔術師ではアーチャーに傷をつけられない。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。


16 : 心の硝子の割れた者 ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:58:50 skjY.u.s0
【固有スキル】

女神の神核:E
生まれついての女神を表すスキル……であった。
過去の事情から、本来ならEX相当であったこのスキルは、著しくスキルダウンを引き起こし、最低ランクにまで下降されてしまった。
あらゆる精神系の干渉を弾き、肉体の成長もなく、どれだけカロリーを摂取しても体型が変化しない。神性スキルを含む複合スキルでもある。
但し、内包されている複数のスキルについては、発揮可能なスキルランクは低い。

太陽の加護:A+
太陽によるサポート。
日中、或いは陽光に類する光が見られる場所において、アーチャーは常時、魔力・生命力が回復し続け、全てのステータスがワンランクアップする。
太陽神の類似神格、しかも落魄した神霊とは言え、アーチャーのスキルランクは、破格の高さを誇る。アーチャーはこのスキルだけは、何があっても失う事はなかった。

魔力放出(光熱):A+
自身の肉体より魔力の光を放出する能力。
放出される光と熱は莫大なエネルギーを秘めており、生半な装備と、程度の低い神秘の礼装を纏った程度では、秒も掛からず焼き尽くされる。
アーチャーの攻撃能力および防御能力はこのスキルによって向上されている。このスキルは程度こそ抑える事は出来るが、完全にオフの状態にする事は出来ない。

【宝具】

『烈日(にちりん、ちじょうへくだる)』
ランク:A++ 種別:対界宝具 レンジ:広範囲 最大補足:1000〜
アーチャーが有する魔力放出(光熱)スキルの最大解放。この宝具は常時発動型の宝具で、彼女が有する魔力放出スキルはこのスキルの余波。
アーチャーはその身体の内部に小型太陽炉心を内包させており、これを強く、弱く発動させる事で力の度合いをコントロールしている。
この小型太陽炉心を最大出力で解放した場合、天候が真昼の状態に固定される上、50度と言う殺人的な気温にまで上昇。
この宝具の最も恐ろしい点は、持続性。宝具発動中は強制的に昼の状態になると言う事は、当然太陽の加護スキルが発動し続ける為、
宝具維持の為に消費して行く魔力が、常時回復し続けると言う現象が発生する。回復する魔力量より、消費して行く魔力量の方が多いが、
それは本当に誤差程度であり、体感上はマスターもサーヴァントであるアーチャー自身も、全く魔力を消費している、と言う事は感じない。
宝具発動中は、この宝具のランク以上の宝具でなければ、常時真昼の状態を覆す事は出来ず、アーチャーの宝具任意解除か、彼女の消滅以外でこの天候固定が解除される事はない。

【Weapon】

【解説】

魃とは中国の古代神話に伝わる正当な神の一柱。中国古代における三皇五帝時代の伝説的な皇帝にして、天界の王たる黄帝(ファンディ)の娘である。
黄帝の治世はそれはそれは素晴らしい物であり、彼の支配下で様々な文化が発展したが、そんな彼の頭を大層痛めさせていたのが、彼に対する反抗勢力。
特に反抗勢力の頭とも言うべき、牛頭人身の魔神・蚩尤(シュウ)には大層煮え湯を飲まされて来た。
金属と鉄、武器を司る戦神である蚩尤は大層な戦上手であり、幾度となく黄帝と激戦を繰り広げただけでなく、蚩尤個人もまた恐るべき強さを誇り、
武器を振えば一騎当千、魔術を操ればどんな祈祷師でも敵わない程であり、特にこの魔神が操る風と雨の魔術は、黄帝の軍勢を最も苦しめさせた原因だった。
そんな彼の恐ろしい魔術を封じる為に、皇帝は己の娘である魃を頼り、彼女を地上に天下らせた。彼女は天界においては、太陽神であったのだ。
魃は己の太陽神としての権能を全力で振るい、蚩尤と激突するも、それでも勝負は互角だった。しかし、雨風の力が封じられた今が好機と、
天界の様々な女神達の力を借りた黄帝が蚩尤と一騎打ちを行い、激しい死闘の末見事蚩尤を打ち倒した。
しかし、蚩尤との戦いで神としての力を使い過ぎた魃は、何と天界へと帰れなくなってしまう。
しかも力を使い果たしたと言っても、表れるだけで世界はずっと真夏の昼になり続けると言う太陽神としての力は健在の状態である。
当然のこんな存在がずっと一ヶ所に留まっていては、世界はずっと旱魃の状態になる。これが妖怪ならば処刑も出来るが、女神、況してや自分の娘である為、
黄帝は魃を北の果ての洞窟へと幽閉する。魃もそれを受け入れはしたが、時折地上が恋しくなり、脱走し、世界の雨を齎させなくすると言う。
これを古代中国は旱魃の原因と考え、人々は旱魃が起こる度に魃を慰撫する言葉を投げ、彼女を元の洞窟に戻したと言う。
後に彼女は時代が下るにつれ女神としての神格を失い、太陽の力を司る強大な妖怪にまで存在が貶められて行く。
日本においても彼女の名前は、魃(ひでりがみ)と言う名前で伝わっており、鳥山石燕も彼女についての絵を残している。其処での姿は、最早女神と言う面影が欠片もない、哀れで醜い姿になっている。


17 : 心の硝子の割れた者 ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:59:01 skjY.u.s0
 上記の説明を見れば解る通り、魃自身は完全なる被害者である。
父の頼みを受けて態々神の世界から地上にやって来て、天界に戻れぬ事をも覚悟で父の為に力を奮ったにも拘らず、その結末が地の果ての洞窟に幽閉である。
そんな事であるから、魃の心は完全に荒みきっており、神であった頃には許しはしなかったような、睦夫の酷い行為には全く目を瞑ってやっている。
父親である黄帝の事は表面上は憎むような素振りをしているが、本心では今も深く尊敬しており、いつか自分の事を許してくれるだろうと信じて疑わない。
しかしその為には、自分が神霊としての霊基を獲得せねばならないと考えており、その為に彼女は、自分の霊基を神霊寄りのそれではなく、
『ひでりがみとしての自分』、つまり『妖怪』のそれに近づけさせる事で何とか召喚される基準を満たさせた。聖杯に掛ける願いは、今度こそ神霊として復権し、仙界に舞い戻る事。

【特徴】

伝承においては全身毛むくじゃらで、隻眼・隻腕・隻脚であるとされる怪物だが、正確な姿ではない。
実際には、左目が存在せず、その回りに火傷を負い、左腕がまるまる存在せず、左大腿の半ばから下が木の棒を埋め込んだ簡易義足になっている、
と言う痛々しい姿。昔日の姿は、さぞや美しい女神だったのだろうと言う事が窺える、凛々しい顔つきをした黒髪の女性であり、普段は病院で患者が身に纏うような検査衣ににた服装を身に纏っている。

【聖杯にかける願い】

神としての復権。



【マスター】

佐川睦夫@喧嘩商売、喧嘩稼業

【マスターとしての願い】

不明。ただ少なくとも、田島彬を倒す事ではない

【weapon】

【能力・技能】

日本拳法:
昔空手を習っていたが、寸止めルールに異議を唱えて空手から日本拳法へと転向した、優れた才能緒発揮した佐川雅夫から、日本拳法の英才教育を受けている。
父の教育も相まって、高い実力を秘めているものかと思われるが、途中で日本拳法ではなく、軍隊格闘に転向を始めている。弟である佐川徳夫の方が、遥かに日拳の実力は高い。

軍隊格闘術:
睦夫が新たに学んだ格闘術。上記の日本拳法をベースにした軍隊格闘術が、今の睦夫の格闘技術の骨子になっている。
その実力は、危険極まりない戦場の最前線に幾度も出撃し、その度に生き残っていると言う実績からも証明済み。
また、生き残る為には何でもしなければならなかった為か、武器を扱う手練手管や、身の回りのものを用いて威力の高い武器を作成する事にも長けているフシがある。

【人物背景】

外国の戦場で戦う傭兵。敵の血を啜るという奇行のために傭兵仲間からは「吸血鬼」と呼ばれ不気味がられているが、
一方で睦夫が部隊にいれば必ず生き残れるため、英雄としても扱われている。日本拳法家・佐川雅夫の長男に生まれ、幼い頃から日本拳法を学んでいた。
凡庸な才能ながら父の期待に応えるべく、勉学など生活の全てを犠牲にして必死に稽古に打ち込み続けていたが、中学生の時に出場した進道塾の大会で田島彬に完敗。
それによって父から拳法家としての才能を見限られ、それを父に捨てられたと受け取ってしまったことで精神が破綻。
以後、「体の中のガラス玉が割れて血を砂に変える毒薬が流れ出てしまった」「血を砂に変えないために他人の血を飲み続ける必要がある」、
と思い込むようになり、血液を求めて外国の戦場に身を投じるようになった。

陰陽トーナメントに田島が誘う前の時間軸から参戦

【方針】

母さんの名前を知る


18 : ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 17:59:14 skjY.u.s0
投下を終了いたします


19 : 名無しさん :2017/05/07(日) 19:30:43 QZr1JxtU0
新企画乙です

質問ですがオペラや古典演劇出展は参戦可能なメンツに含まれますか?


20 : ◆z1xMaBakRA :2017/05/07(日) 20:12:55 skjY.u.s0
>>19
ご質問ありがとうございます。
質問の方をお答えさせていただきますと、可能とさせていただきます。
ただし、余りにも作品が世に発表されたのが新しいものにつきましては、なるべくご遠慮くださいませ


21 : ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/07(日) 20:52:07 NuyoWhi.0
投下いたします。


22 : ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/07(日) 20:53:37 NuyoWhi.0
 急進的な革命を志向する勢力がいる。
彼らは時代が下るにつれて支持を失っていったが、その火は消えたわけではない。
表立って活動はしていないが様々な組織に手を伸ばし、勢力を広げようとしているのだ。


 冬木市の一角にある民家。
3階建てのビルヂングの一階部分が剣道場、それより上が道場主の住居だ。
板張りの道場内では現在、20数名の会員達が稽古で汗を流している。
姿見で構えを確かめつつ素振りをする者を見ながら、道場主の五島公夫――ゴトウは焦燥に身を焦がしていた。

――千年王国。

 彼が本来いるべき東京で、神の名のもとに進む陰謀。
選ばれし民以外のすべてを排除する、地獄。
ゴトウは企みを察知した時、自衛隊一等陸佐として、日本人として行動を開始した。

(もはや一刻の猶予もないのだ…!)

 アメリカ…いや、西欧文明はICBMを東京に撃ち込み、大虐殺を行わんとしている。
日本の未来を奪わんとする彼らに、速やかに鉄槌を食らわせねばならない。
その為に、ゴトウは古の神々と契約を結んだ。

(かくなるうえは聖杯だ…)

 人間を家畜のように働かせる西洋の神々の遺物を借りる…その点に対しては、忸怩たる思いがある。

――しかし、真の願望器だというのなら。

 恥を忍んで手を伸ばそう。
上官に歯向かい、クーデターまで行ったこの身だ。
理想の為なら、幾らでも手を汚そう。
悪魔/神の力を使い、人間の理想郷を作るために。






 教え子達を全員帰した後、ゴトウは3階に設けられた書斎に向かった。
ここは現在、サーヴァントの陣地として運用されている。

「お疲れ様です。マスター」
「あぁ、首尾はどうかな?キャスター」

 部屋にいたのは面長の男。
彼――キャスターは年季の入ったナラ材の書斎机に座ったまま、こちらを振り返った。
天板の上には、鞘に収まった日本刀が置かれている。
キャスターは日本刀を手に取り、ゴトウに見えるように掲げると、口を開いた。

「強度が向上し、魔力を帯びています。ですが、三騎士との打ち合いには耐えられないでしょう」
「そうか…」


23 : ゴトウ&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/07(日) 20:54:22 NuyoWhi.0
 サーヴァントが直接戦闘に不得手な以上、自分が前線に出るしかない。
魔術による強化を受ければ、勝機を狙うこともできるだろう。
ひとまず、愛刀に強化を施してもらっていたのだが。
ゴトウは嘆息を顔に出す事無く、思考を切り替える。

「刀身を清めるなら、辛うじて宝具の域に入ることも可能かと」
「清める?」

 生前のキャスターは、魔術に一切縁が無かった。
しかしその死後、英霊となったことで多彩な魔術を扱うことができるようになった。
彼自身が行使するのではなく、宝具が展開するのだが結果は同じ。
"刀身を清める"なら、より高い効果を保証する。

「必要な物は?」
「ある程度大型の動物。豚、羊、鹿。兎や鶏程度では難しいですね」
「……」

 悪魔に盗ませるにしても、その大きさの動物を盗むとなると簡単には運ばない。
そもそも、この街で豚や羊など手に入るのだろうか?

「どこへ行く?」

 キャスターが席を立ち、つかつかと横を通る。
考え込んでいたゴトウが声を掛けると、戸口に手をかけたまま答えた。

「アイスクリームが切れたので、買いに行ってきます」

 3秒ほど、2人は無言で見つめ合った。

 ゴトウは目の前の男に、数万円を小遣いとして与えている。
彼は反抗的なサーヴァントではないが、好き嫌いの激しい男であった。
日本の街並み、機能的なデスク。それらは物珍しくはあれど、好む所ではないらしい。

「……一昨日、山のように買ってきただろう?」
「もう食べきりました」

 ゴトウは大きく息を吐くと、「何かあったら念話で知らせろ」とだけ言った。
承ったキャスターは、今度こそ出て行った。







 聖杯戦争…面白い事になった。
つけておいた「枝」は、彼の死後も無事に残ったらしい。
我々に生だの死だのといった概念は存在していないがね。

――果たして、僕の出番は来るのかしら?

 数多くの願望ぶつかり合う、蟲毒の祭。
低俗だが、暇潰しとしては上等だ。
時間はいくらでもある。気長に待つとしましょうか。


24 : ゴトウ&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/07(日) 20:54:44 NuyoWhi.0
【クラス】キャスター

【真名】ハワード・フィリップス・ラヴクラフト

【出典】20世紀初頭、アメリカ

【性別】男

【ステータス】筋力E 耐久D 敏捷C 魔力A+ 幸運D 宝具A

【属性】
中立・悪(混沌・悪)

【クラススキル】
陣地作成:C
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 小規模な工房に匹敵する"書斎"の形成が可能。

道具作成:-
 魔力を帯びた器具を作成できる。下記スキルを得た代償に喪失している。


【保有スキル】
エンチャント:A+
 概念付与。
 他者や他者の持つ大切な物品に、強力な機能を追加する。
 基本的にはマスターを戦わせるための強化能力。
 キャスターのそれは、知識の付与や魔術の習得に優れる。

自己保存:B
 自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。

探索者:A-
 恐るべき事実に接しながらも、在るべき日常に帰還した者の事。
 偉大なる宇宙の怪異から生還したキャスターは、高ランクでこのスキルを獲得している。
 同ランクの仕切り直しの効果に加え、ランク相応の精神耐性を保証する。
 ただし、生前は神経症を患っていた為、精神判定においてマイナス修正を受けざるを得ない。

神性:-(EX)
 このスキルの存在を、キャスターは認識していない。

扇動:-(A)
 このスキルの存在を、キャスターは認識していない。



【宝具】
『魔物は夜啼く(アル・アジフ)』
ランク:A+〜C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:100人
 キャスターが自身の作品群で存在を仄めかした、禁忌の魔書。
 人知の埒外にある情報が記されており、宝具に昇華された現在は術者の技量を無視して、大魔術・儀礼呪法を行使させる。

 数多くの人の手によって訳された結果、この本はキャスター以外でも扱うことができる。
 所有者との相性によってランクが変動し、キャスターの場合はA+ランク。
 キャスターは所有者として最高の適性を持つ。彼以上の所有者などいないのだ。


『苦難に別れを、これから始まるのは(コール・オブ・クトゥルフ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
 大洋の底に眠る「何か」が発する思念波をレンジ内に放つ。
 捕捉対象が魔術師や霊感体質といった神秘に対してチャンネルの開かれた人物であるほど精神ショックの威力が増し、高位の魔術師の場合は最悪、発狂する。

 サーヴァントはランク以上の対魔力スキルによってのみこれを無効化可能。
 それが無くとも精神判定に成功すれば倦怠感や目眩、吐き気だけで症状を済ませられる。


『偏在する黒き使者(ザ・ブラックマン)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 かつて遭遇した上位存在が、彼の魂に残していった「置き土産」。
 キャスターの霊核が破壊された時点で発動。負傷を完全に癒し、神性スキル、扇動スキルをカッコ内のランクに修正したうえで、属性を改竄する。

 キャスター自身はこの宝具を認識していない。
 自らの意思で発動させることはできず、上記以外の恩恵を受ける事もない。



【weapon】
なし。


【人物背景】
アメリカ・プロヴィデンスで産声を上げた作家。
コズミック・ホラーと分類されるSFホラー作品を数多く執筆、それらは彼の死後にクトゥルフ神話として体系化された。
海産物を嫌っており、異人種に対する偏見も強い気まぐれな人物であったといわれている。

幼少から悪夢に悩まされていた彼は、夢を通じて外宇宙の遠大さを直に認識する。
旅行で向かったケベックやニューオーリンズにおいて、彼は「形容しがたい何か」の痕跡を発見。
無貌の神の干渉を受けるも、正気の世界に辛うじて生還。
自身が遭遇した数々の怪奇体験を、執筆する小説に反映させていった。



【聖杯にかける願い】
無し/クトゥルフの復活。


25 : ゴトウ&キャスター ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/07(日) 20:55:00 NuyoWhi.0
【マスター名】ゴトウ(五島公夫)

【出典】真・女神転生シリーズ

【性別】男

【Weapon】
「銘刀虎鉄」
ゴトウの愛刀。
特異な能力はないが、悪魔との打ち合いにも耐えうる強靭さを誇る。男性専用装備。
キャスターの強化を受け、その性能は僅かだが向上している。

「召喚悪魔」
キャスターが従えている悪魔達。
使い魔の如く使用でき、自前の魔力で長時間現界を維持できる。
マスターから見れば脅威だが、サーヴァントなら十分対処可能。
召喚可能悪魔は以下の通り。

妖獣:ヌエ
悪霊:ピシャーチャ
幽鬼:ベイコク
悪霊:シェイド


【能力・技能】
「超人」
限界を突破した人間。
生身で悪魔と斬り合う強者だが、武闘派サーヴァントと打ち合う力はないだろう。


【人物背景】
神の名のもとに千年王国を築こうとするトールマンの計画を察知した陸上自衛隊一等陸佐。
アメリカによるICBM投下を防ぐべく、悪魔との契約により超人となった五島は市ヶ谷駐屯地でクーデターを起こすと、東京を戒厳令下に置いた。

本名はSS版デビルサマナーを参考にしました。

【聖杯にかける願い】
199x年の東京に戻り、大破壊を阻止する。


26 : ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/07(日) 20:56:08 NuyoWhi.0
投下終了です。主従はそれぞれ、史実聖杯・昭和聖杯に投下したキャラを流用しています。


27 : ◆z1xMaBakRA :2017/05/08(月) 00:20:02 CsA64ifk0
早速のご投下、ありがとうございます!!
感想を今すぐにでも投げたい所ですが、一先ず後程、さしあたっては、第二作を投下させていただきます


28 : ンドゥールクンは呪われてしまった!! ◆z1xMaBakRA :2017/05/08(月) 00:20:31 CsA64ifk0
       




     もう、地獄の炎が?

         ――ヴォルテール。臨終が近づき、死の恐怖に怯え、横で燃えているランプを地獄の炎と誤認、その時口にしたこれが最期の言葉となった




.


29 : ンドゥールクンは呪われてしまった!! ◆z1xMaBakRA :2017/05/08(月) 00:20:46 CsA64ifk0


 俺は、生まれてこの方恐怖を感じた事がなかった。
『スタンド』、と呼ばれる能力に覚醒してたからだと俺は思っている。この能力が常にあったからこそ、俺は恐怖がなかった。
死ぬ事自体が怖くなかったのだ。目が見えなくなったのは十歳より低い子供の頃だったが、そんな俺でも、健常者に勝つ事が出来た。
どんな奴にも勝てたし、貧しかったが故に犯罪に手を染めるしかなかった俺は、この能力で何でも出来た。
警察官だって、怖くなかった。いや、怖いどころか、奴らを殺したって俺は平気だった。

 殺した人間の数は、両手の指じゃ到底足りない。盗んだ金に至っては、金庫が何個あっても足りやしない
俺は正しく、世界のどんな世間的な考えや宗教、その尺度から考えれば許されない大罪人なのだろう。俺自身だってそう思う。
だからこそ、殺される事も死んでしまう事も、俺は恐れなかった。例え俺が殺されても、俺は悪人であるし、俺を殺せると言う事はスタンド使いであると言う事だから。殺されたとしても、仕方がない事だと、割り切る事が出来た。

 そんな俺が唯一、殺される事を恐れる方がいた。嫌悪され、見捨てられ、その末に制裁の与えられる事が恐ろしいと思う方が。
全盲となった俺の目にも映る、気高い華の様なお方だった。黒と言う色しか認識出来なくなった俺に、金の煌めきと山の大きさ、華の美しさを見せてくれた方。
DIO様、アウトサイダーであるこの俺の価値を認めてくれ、この俺を懐に入れてくれた、悪なる者の救世主。
このお方に殺される事、このお方の不興を買う事。それを想像した時、俺は初めて心胆が冷たくなる程の恐怖を覚えた。
この感覚をこそ、俺は、恐怖と言い、尊崇と言うのだと思った。暴力を振るわれる事を嫌がる事から来る恐怖は、ただの恐怖だろう。
だが、尊敬から来る恐怖は畏怖であり、嫌われたくないと言う思いからくる恐怖は、最早ただの恐怖ではないのだ。

 俺は……『ンドゥール』は、その恐怖を失う事を、本当は恐れているのかも知れない。
俺の今までの人生で感じる事の出来なかった、尊敬と、その感情から来る恐怖。それを、DIO様は与えてくれた。
彼以外の誰かでは、到底あの感情は与えられないと言う自覚すら、俺にはあった。
俺が死ぬか、DIO様が死ぬか――尤も、こっちはあり得ないだろうが――して、俺の心に芽吹いた新鮮な恐怖が失われる事。それは、俺にとっては、何よりも恐ろしい未来であった。

 ――そして、俺は今、DIO様の信頼の全てを失いつつあった。
簡単な話だ。この世界は、DIO様のカリスマですら及ばぬ、正真正銘の異境なのであるから。
今俺は、DIO様の威光も届かぬ地に、俺一人だけ存在していた。エジプトの田舎町で乞食を装いながら、この地に足を踏み入れるであろう、
星屑の戦士共を迎え撃つ準備をしていた筈の俺は、何故か、空条承太郎達の生まれた日本の冬木と呼ばれる街に飛ばされていた。
俺は、目が全く見えない。だから最初は、担がれたと思ったが、俺の感覚は馬鹿じゃない。この街が……この国が。
俺の生まれたエジプトとは根本的に違う場所である事は、嗅覚や聴覚、肌で感じる空気の感覚で確かに理解していた。


30 : ンドゥールクンは呪われてしまった!! ◆z1xMaBakRA :2017/05/08(月) 00:21:07 CsA64ifk0
 足から伝わる、冷たいながらも昼の太陽の余熱がまだ残る、土の感覚。此処が砂漠じゃない事の証拠だ。
地面には草が絨毯みたいに敷き詰められ、辺りには樹木が大量に伸びている事から、ここは林か森の中である事が解る。
植生も、根付いている鳥獣や虫の生態も違う。エジプトとは根本的に異なる地である事を、脳内に刻まれた『知識』からも、そして身体の全感覚を通して伝わる情報からも、俺は理解してしまった。

 ここは、どこなのだ。
高そうだからと言う理由で、俺の杖を奪ったチンピラをゲブ神で抹殺し、その杖を拾った時に、偶然、杖と『カード』を拾ってしまった。
俺がこの世界に招かれてしまった理由は、この程度でしかない。そのカードを俺は、光を映さぬ目で眺めながら、矯めつ眇めつして見た。
十二星座の刻印されたカードであると言うらしいが、既に全盲の俺には、星座の定義を満たす星の配置すらも解らない。詮無き事だ。

 ――そんな事よりも肝心な事は、ここが本当に日本であると言う事だ。
ジョースター達は既に紅海を渡ろうとしている。女教皇(ハイプリエステス)が既に、奴らを始末しに向かったと言うが、不覚を取る事も当然想定している。
そこで俺は、エジプトにジョースター一行が足を踏み入れた際に、奴らを最初に迎え撃つ尖兵の役割をDIO様から任されたのである。
その尖兵が事もあろうに、日本で聖杯戦争などと呼ばれるふざけたイベントにうつつを抜かしている。DIO様がこれを、許される筈がない。
だから、早く戻らねば……と、思うのと同時に、待ったの声が、頭の中に掛かる。聖杯……どんな願いでも叶うとされる、願望の器物。
これがあれば俺は、ジョースター達を抹殺出来るのでは、と思っていた。そして、エジプトに持ち帰れば、DIO様も喜んでくれるのでは、とも思っていた。
俺は考える。何が正しいのだろうかと。戻る事か? 聖杯を、献上する事か? DIO様は己のスタンドの能力を高める事に腐心していたとは聞いている。
聖杯は、DIO様の為に使う事が正しいのではないか? 考えが止まらない。俺にとっての正しい事とは、何なのか? それを考える度に、時間が容易く経過して行く。

 ……ゾワリ、と。久しく立つ事のなかった鳥肌が、全身に浮かび上がるのを俺は感じる。
エジプトでは昼と夜の寒暖差が余りにも激しい為に、今が朝なのか夜なのかの判別が容易だったが、日本ではそうも行かない。
事実俺は、ここに招かれた当初、今が昼なのか夜なのかすらも理解出来ていなかった程だ。正直な話、今でも俺は、正確な日本の時刻を理解出来ていない。

 今はきっと、夜なのだろうと俺は思っていた。
確信がある訳ではないが、そう思った訳は簡単だ。俺が引き当てたアサシンのサーヴァントが、目で見えずとも解る、恐怖の具現であるからだ。
エジプトにおいて、イスラムにおいて、夜は悪魔と不浄な鬼共の闊歩する時間帯。俺は自分が信心深いタチだとは露も思っちゃいないが、それでも、
思わざるを得ない。『俺が、盲目である事をこの上なく感謝しなければならない程の化物』が現れる時間など、夜以外にあり得ないだろうと。

「戻ったか……」

 アサシンに俺が訊ねた。奴からの返答はない。奴は、無口なタチだった。いや、ひょっとしたら、喋りたくても喋れないサーヴァントなのかも知れない。

「調子は、どうだ」

 やはり、無言。

「……自分の身は自分で守れる。アサシン、引き続きこの森を見回るんだ」

 そこで初めて、アサシンの気配が消失した。恐怖の具現でこそあるが、奴は、俺の命令には忠実だった。
俺が、DIO様とは別種の恐怖を、あのアサシンに抱くのには、訳がある。奴は、唐突に出現するのだ。
数㎞先の存在の足音すら聞き分けられるこの俺が、存在していた、接近していた、と言う事実にすら気付かせない程一瞬に、俺のもとに現れる。
奴は音を立てない。呼吸も脈拍も、奴は封印している。アサシンの名に偽りはない、と思う一方で、常人離れしているとしか思えない俺がいる。

 ……奴は一体、誰なのだろうか。『痩せた男』の名を冠する、あの、恐ろしいサーヴァントは。


31 : ンドゥールクンは呪われてしまった!! ◆z1xMaBakRA :2017/05/08(月) 00:21:18 CsA64ifk0


 ンドゥールは気付かなかったが、彼がいる森とは、冬木のある人物の私有地であった。
当然、普通人が許可なく立ち入る事は許されない。彼がそれを今まで理解していなかったのは、単純明快。
ンドゥールの命令に愚直に従っていた、アサシンのサーヴァントが、邪魔者を排除して来たからに他ならない。

 しかし、アサシンの排除の手腕は、お世辞にも優れているとは言えなかった。
いや、アサシン(暗殺者)として、彼の事後処理は二流どころか、三流もよいところの手腕である。
死体は残す、生存者や目撃者も残す。正味の話、彼の後始末は、その筋の者が見たら余りの雑さに逆に驚く事であろう。
だが、アサシンの場合はそれで良かったのだ。己の撒いた恐怖の種が、人々の心に芽吹き、己を進化させる。その事をアサシンは、本能的に理解していた。
そしてそれが、マスターであるンドゥールと、己の目的の達成に近付く事を、このアサシンは解っていた。

 アサシンは一種の誘蛾灯である。自分が怖いものだと理解しつつも、人は自分に近寄って来る。
人間のそんな、哀れな習性を利用し、彼は今日も進化して行く。それが、恐怖の具現である、このアサシンの存在意義であるのだから。

 近付いてくる。誰かが、自分の下まで近づいてくる。アサシンはそれに気付いた。
先日、此処に立ち入って来た三名の内一人は、恐怖を与えてこの森から逃がした。
自分の姿を語る事が出来る程度には正気を保たせていたのだ。当然、誰かに話すだろう。そして当然、自分の事が気になってこの森にやって来る者がいる。
そしてアサシンの目論見通りに事は運んだ。アサシンの瞳に映るのは、先日も見た中年の男性。そして、特徴的な制服に身を包んだ人間二人。警察だった。

 会話が、聞こえてくる。
「本当に、見たんです!!」と言うヒステリックな男の声。「わかりました、わかりましたから」と、それを迷惑そうに宥める警察官。
「此処から先は本当に危険だ、痩せた怪物が……!!」、成程、自分の事をしっかりと喧伝しているようだと、アサシンは思った。アサシンの描いた絵図の通り。
となれば、あの男はもう用済みだった。アサシンは、己の気配を現し、三名から見て三十m離れた地点に、ヌッと現れた。

 最初に気付いたのは、アサシンが敢えて生かした男だった。数秒遅れて、警察官二名が同時に気付いた。
ガサッ、と、草の上に警察官の一人が、森を照らす為の懐中電灯を落とした。光は、確かに映していた。
――三mにも達さん程の長躯を持った、痩せ細った何かの姿を。その姿を見た瞬間、警察官は、ゴホッ、と咳込んだ。咳と同時に、痰を吐いてしまう。苺を磨り潰したような、血色の痰を。

 痩せた男が、三名から見て五m程の地点に一瞬で現れ――


32 : ンドゥールクンは呪われてしまった!! ◆z1xMaBakRA :2017/05/08(月) 00:21:45 CsA64ifk0


 いつ頃、その噂が立ち始めたのかは、定かではない。
だが、古の昔から伝わる伝承でもなければ、十年も前から広がり始めたと言うような都市伝説ではない。
この噂が人々の間で微かに伝わり始めたのは、本当にここ一週間程の話であった。

 立ち入ると、人の死ぬ森があると言う。冬木の土地神様が、都市開発に怒って祟りを成していると言う。恐るべき化物が、徘徊している場所があると言う。

 それが、何であるのかは誰も知らない。
正確な正体を知る者も、勿論いない。話す内容も、噂の形式(フォーマット)も、話す人間によって違うと言うデタラメぶり。
……だが、ある一点だけは共通する。誰が何を語ろうが、その一点だけは、絶対に変わらない。

 冬木の町に、『痩せた男(スレンダーマン)』が現れた。
その一点だけは、誰が語っても同じなのである。信じようと、信じまいと――。





【クラス】アサシン
【真名】スレンダーマン
【出典】都市伝説(21世紀)
【性別】???
【身長・体重】3m、23kg
【属性】混沌・中庸
【ステータス】筋力:D 耐久:D 敏捷:EX 魔力:C 幸運:D 宝具:B

【クラス別スキル】

気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【固有スキル】

自己改造:EX
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
アサシンは触手やスーツ、爪等を初期装備として己の身体に融合させている。人々が自分に対して抱いたイメージや噂次第で、アサシンの肉体は何処までも怪物に変じて行く。但し、基礎となる『長身矮躯』の姿を逸脱したものにはなれない。

空間転移:C-
テレポーテーション。このランクになると、10〜200m間を一瞬で転移する事が可能。
但しこれは、完全なる無作為な移動の時の値であり、ある人物に接近しようと言う意図を以って接近を行おうとした場合には、その当該人物から『必ず』十m以上離れた所に現れねばならないと言うルールを負う。

恐怖の殻:EX
アサシンは人間が抱く、迷妄や恐怖が形を伴って現れた者。従って、このサーヴァントには精神に関する攻撃や魔術が、その神秘のランクを問わず一切通用しない。

【宝具】

『痩せ細りたる恟々の森(スレンダー・サレンダー・フォレスト)』
ランク:C+ 種別:結界宝具 レンジ:30 最大補足:100
アサシンと関連付けられる『霧に覆われた森』を再現する結界宝具。
結界の中では保有しているサーヴァントの精神耐性スキルがワンランクダウンしているものとして扱い、
対魔力C以下、或いは精神耐性に関係するスキルがEランクの状態で、この結界内で活動していると確率でEランクの精神汚染を獲得する。
この結界内においてアサシンは、己に纏わる伝承の全てを振う事が出来、全ステータスがワンランクアップしているものとして扱う。
普通の場所でこの宝具を発動すると、魔力を発動して展開する結界と言う扱いになるが、当宝具の真価は、森や林にアサシンがいた場合である。
この宝具を展開せずとも、アサシンが戦闘するフィールドが森或いは林であった場合、この結界を展開している訳でもないのに、展開されたものとしてカウント。
魔力の消費が一切なく、この宝具が発動する事でアサシンが享受するメリットを、アサシンは一身にする事が出来る。
この宝具、つまりエピソードはアサシンを語る上で欠かす事の出来ない不可分の要素であり、結界の破壊に特化した宝具でこの結界を破壊された場合、アサシンは無条件で消滅する。


33 : ンドゥールクンは呪われてしまった!! ◆z1xMaBakRA :2017/05/08(月) 00:22:08 CsA64ifk0

『我、人の播種する恐れより来る者(ザ・スレンダーマン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大補足:1〜
今なお恐怖を以って人々の間に伝播し続ける、アサシンの象徴となる能力が宝具となったもの。上記の宝具発動時にしか、この宝具は発揮出来ない。
アサシンの正体とは、人間が抱き続ける恐怖と言う感情が形を伴った殻であり、そこに異常と死と言う属性をない交ぜにした都市伝説である。
サーヴァントがアサシンを目視した場合、精神耐性スキルや対魔力スキル、幸運スキルなどの判定が発動。
判定に失敗した場合、そのサーヴァントは精神的ダメージや魔力消費の加速、身体的な状態異常を負うなどのデメリットが発動する。
この宝具による判定は、サーヴァントが目視し続けている限り行われているものとし、ずっとアサシンを視界に入れ続けている限り判定は続き、
それだけ上記のデメリットがサーヴァントに舞い込んでくる可能性がある。アサシンが距離を詰めれば詰める程、判定成功に必要な数値は厳しくなって行き、
五m程の距離で目視した場合、Aランク以上の精神耐性や対魔力、幸運スキルがない限り、確実と言っても良い程何らかのデメリットをサーヴァントに与える事が可能。
また、精神耐性や対魔力、幸運スキルの全てがDランク以下であった場合、上記の五mの距離でサーヴァントがアサシンを目視した場合、
そのサーヴァントを即死させる事が可能。勿論上記のデメリットは高次の霊的存在であるサーヴァントだからこそ、この程度で済んでいるのであり、
人間やNPCであれば、十五m程の地点で目視した瞬間即死させる事が出来る。この宝具はアサシンを『目視』した時に発動するのであり、逆に言えば、見えなければ通用しない。つまり、『初めから目の見えない相手には』、一切意味を成さない宝具となる。

【weapon】

【解説】

スレンダーマンとは2009年、アメリカのサムシング・オーフル・フォーラムと呼ばれる掲示板に立てられたスレッドで加工された、
ある画像に登場していた極めて長身の誰かがモデルとなった、正真正銘非実在の架空存在である。
この画像の製作者であった人物は、この画像のフレーバーテキストとして、目撃者の証言のような文章を書き込み、不気味なイメージを与えた後に、
加工して生み出されたこの長身の何かに、スレンダーマンと言う名前を与えた。これが、今日のスレンダーマンと呼ばれる都市伝説の原点である。
スレンダーマンの原点を調べようともしない愚かな民衆の手によって、彼の存在はミームとして爆発的に広がって行った。
サイトからサイトにコピーされて行く事でスレンダーマンの名前と姿は急速に広まり、遂には最初にキャラクターを生んだ者の手をスレンダーマンは離れ、
ある種の神話としての枠組の下、多数の書き手によって文章で綴られるオンラインの恐怖キャラクターとしての地位を確たるものとした。
伝統的な民話と、インターネットにおけるオープンソースのエートスの類似性を示す事例であるとし、吸血鬼や狼男のような伝統的な怪物とは異なり、スレンダーマンの神話はその形成過程を確認することが可能であるため、神話や民話がいかに形成されるのかということについて、有力な考察をすることが可能になると、ある大学の教授は論じた。

極めて最新の英霊であり、その出自も異端を極めるサーヴァント。
彼の正体は生物全てが持ち合わせている恐怖そのものである。人々は古来より様々な怪物の脅威に晒されたが、神や英雄と同じくそれらを生み出したのは人間である。
己が産み落した怪物に対する恐怖自体が一種の霊格となり、座に登録された存在。それこそがアサシンである。
怪人や怪物に対する恐怖を主な主原料とするアサシンであるが、己を産み出した人間への敬意が彼には全くないわけではない。
サーヴァントと言う存在で召喚された以上、彼もまたサーヴァントとしての属性を得ている為、マスターの意思を尊重し、
それ故に幾度となくマスターに害を為す存在には抵抗する。だが、あくまで怪物である為令呪であってもアサシンを十全の状態で操る事は困難である。
聖杯に掛ける願いは受肉。そして、人々が自分に期待したような、恐怖を世界中にバラ撒く事である。彼は、人に恐怖を与え、恐れさせ、殺す事をこそ自身の産み出された理由であると信じて疑っていない。人間に対しては敵意もなく、敬意すら払っているのに、スレンダーマンは殺し続ける。彼は、人間には理解不能の『敵』である。

【特徴】

3メートルと言う凄まじい、長身で、手足も胴体に比べ異常なまでに長い怪人。
顔は顔面蒼白で、目鼻や髪などは一切ないのっぺらぼう。黒いビジネススーツにネクタイを着こなす、何処か紳士然とした存在。
また、有事には背面から触手を飛び出させる事も出来、これで応戦する事も可能。

【聖杯にかける願い】

受肉


34 : ンドゥールクンは呪われてしまった!! ◆z1xMaBakRA :2017/05/08(月) 00:22:19 CsA64ifk0



【マスター】

ンドゥール@ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダーズ

【マスターとしての願い】

元の世界への帰還。或いは、DIOに聖杯を献上

【weapon】

【能力・技能】

スタンド・ゲブ神:
破壊力:C スピード:B 射程距離:A 持続力:B 精密動作性:D 成長性:D のステータスを持つスタンド。
ただし、これらのステータスはサーヴァントのものと同一であるとは限らない。
km単位で離れている場所からでも操作できる遠距離操作型。自在に姿を変化させる水のスタンドで、基本は鋭い爪を持つ腕のような姿をしている。
水や血液などの液体と一体化しているため一般人にも見え、砂のように水分を吸収する物の中は自在に潜って移動する事が可能。
移動スピードが非常に速く、全速力ならスタープラチナがブン投げたイギーを追い越して先回り出来る程。
遠隔操作型だが目のようなものは無く、視覚を持たない。本体が杖伝いなどで聴いた音を頼りにして攻撃を行うため、自動操縦型に近い挙動も取る。
ただしンドゥールの聴力がずば抜けている為に、、攻撃の軌道は変幻自在を極め、近接戦闘特科のスタンドですら手を焼く程厄介なスタンド。
主な攻撃方法はウォーターカッターのように標的を引き裂いたり、射抜いたりするというシンプルなもの。
切れ味は鉄をも切り裂き、パワーも人間の首を胴体から引き千切るなど、遠隔操作タイプに有るまじきスタンドパワーを誇る。
本体の周囲にスタンドを張り巡らせることで、全方位に攻撃できる結界を形成する事も可能。

【人物背景】

エジプト9栄神の一人。幼い頃から盲目の身でスタンド能力に目覚めていた為、怖いものを知らずに育ったが、
ある時出会ったDIOから生まれて初めて自分の価値を認められ、彼に強い恐怖を抱くとともに絶対の忠誠を誓った。
盲目ゆえに音や感覚で相手の位置を探り、聴覚補助用の杖を使うことで、遠くの相手の動きを地面の振動から正確に探知できる。

ジョースター一行が紅海を渡っていた時の時間軸から参戦

【方針】

決意が固まるまでは森で待機


35 : ◆z1xMaBakRA :2017/05/08(月) 00:22:35 CsA64ifk0
投下を終了いたします


36 : ◆WqjPzMBpm6 :2017/05/08(月) 16:30:40 Hj/LmRn.0
海外ドラマからの出典は駄目ですか?


37 : ◆z1xMaBakRA :2017/05/09(火) 00:50:05 YnaA1X720
>>36
マスターならば可能と致します。サーヴァントに関しましては、不可能です


38 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/09(火) 21:06:12 XtS8VPkg0
新企画立て乙です。早速ですが投下させていただきます。


39 : 月喰らう獣 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/09(火) 21:07:28 XtS8VPkg0
太古の昔。
時間が誕生する前、言語化不可能の行為により誕生した清浄と不浄があった。
不浄は当然ながら清浄を憎んだ。

何故ならば、不浄が不浄を誇る事があるだろうか。
不浄が清浄より勝る事があるだろうか。
人間が不浄であったのならば、狂いなく清浄に嫉妬するように。
不浄は清浄を憎悪していた。

だというのに。
清浄に生きるもの全てが、清浄であることに誇りや有難味を覚えず。
さも、自分らが清浄であることを理解していない。
傲慢な態度を見て、不浄が恨みを抱かない訳がなかった。








少年は悲鳴を上げていた。
聖杯戦争なる戦場へ唐突に、前兆も無く放りこまれればパニック状態になるのは当然である。
しかし、それ以上に。
彼は、少なくとも生命の危機を感じ取っていた。
体を震わせて、情けない事に木の上まで昇って恐怖する金髪の少年にとって


吐き気を催す不定形の『獣』が自らのサーヴァント・ランサーだとは俄かに受け入れ難い事実なのだ。


マスターである金髪の少年でなくとも。
普通に視認した人間は悪臭を漂わす冒涜的な『オオカミ』と認識しなくもない。
実際、そうじゃないが。
正気で再確認したり、記憶を辿れば『オオカミ』じゃなかった。
翼のある、例えるなら『コウモリ』だったかも?
と記憶を改める事もあれば、ひょっとすれば四つん這いの新種の『獣』。
第一、獣なのかも怪しい。不定形な霊的存在と称するべきだろう。
単純に邪悪で破壊的な容姿だ。


『貴様、我から逃れると思うな。我ら「ティンダロス」のものは匂いを辿り、永久に追いかけるぞ』


一体全体、どのように言語を発しているか怪しいが。
不定形な怪物はマスターに語りかける。
少年は錯乱していた。
こんなものが、相方でありパートナーとなるサーヴァントなのが最悪ではあるものの。


「待って下さい! お願いですから、ちょっと待って!!」

『人間。貴様の代わりを見つけ次第。直ぐ様そちらに移る事も視野に入れるぞ』

「違うの! 整理させてくれよ!! 頼むから、お願い!! いきなり全部受け入れろって無理があるよ!
 俺だって状況とか立場は分かるんだよ! 必死になって頑張ってる最中だから!
 ああもお!! お前、人間じゃないから分からないんだろうけどさ! 人間、そういう生き物なの!!」

『………』

「戦争ってなに!? 変な札、拾っただけで訳わかんないのに巻き込まれるって
 一体どういうことなの!! 知らない場所に連れて来られてるし。なんで俺が選ばれるの、納得してないから!」


40 : 月喰らう獣 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/09(火) 21:07:56 XtS8VPkg0
金髪の少年・我妻善逸は、これでも『鬼』を殺す剣士の端くれだ。
真の意味で端くれなのだが………
『鬼』なる怪物は、勿論、ランサーに匹敵する伝説的な生物だったりする。
そんなモノを相手している筈の彼は、酷く臆病で。
その上、女に騙されるし、雷に打たれて髪の色が変わっている。
未熟さやどうしようもなさは、善逸本人が理解していた。

だからこそ聖杯戦争に巻き込まれたのに釈然ではない。
願いが無い訳ではないが、不運につきる結果だ。
『鬼』相手だけでも生死を彷徨う。そんな自分が戦争やサーヴァントなんて。
無理だ。怖い。勝てっこない。
今後の展開を連想するだけでも自分の死に怯える。


「しかも、俺のさーばんと?オオカミじゃない、なんだかよく分かんない姿だし!
 服に染みつくぐらいくっさいし!! 最悪だよ! どうせなら美人のさーばんとが良かったよ!!」

『五月蠅い奴だ。人間の姿ならば不満がないか』

「―――え? 人になれるの」


蝉の如く騒がしい善逸がピタリと静まった。
人間ながら、全く以て喧しいマスターにランサーは答える。


『できなくはない』

「じゃあ、女の子になって」

『は』

「女の子になって!! そしたら俺、協力する! ランサーと一緒に戦えるから!!
 女の子が一緒に行動してくれるだけで、普通に幸せじゃん! これ気持ちの問題!
 人間、気持ちが一番! 女の子の姿だったらその匂いも良い匂いになる!!」


迫真の勢いで語る善逸の傍ら、聖杯を獲得したならば即座に捕食してやるかと憎悪を抱くランサー。
まだ生憎、善逸以外のマスターに目ぼしいものを発見していない。
確固たる聖杯への願いがある以上、憎悪しても、マスターを殺してはならない。

仕方なしにランサーが変化したのは、どこかオオカミ染みた獣を残した女性の姿。
だが、全てが『角ばっており』肉体は不安定で、角ばり続けていた。
女性の風貌を目撃した善逸は、数秒前の臆病な態度とは別人の如く華麗に着地を決め、迅速に手を差し伸べる。


「一緒に頑張りましょう!」


明白な掌返しにランサーは僅かに沈黙をするが、即座に。


「触るな」

「え!? さわ、触っちゃ駄目……?」

「我が肉体の毒で死にたいならば別だがな」

「そういうの早く言って!!!」


嗚呼でも、毒があるって教えてくれたんだから、なんだかんだ良い人?かもしれない。
と、ランサーが女性の姿なだけで善逸は前向きになれた。


41 : 月喰らう獣 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/09(火) 21:08:28 XtS8VPkg0
【クラス】ランサー
【真名】ミゼーア@クトゥルフ神話

【ステータス】
筋力:- 耐久:- 敏捷:- 魔力:- 幸運:- 宝具:B

【属性】
秩序・悪


【クラススキル】
対魔力:E
 申し訳程度のスキル。無効化は出来ないが、ダメージ数値を多少削減する。


【保有スキル】
千貌:C
 ティンダロスに棲む者達の姿は明確されていない。
 何故ならば目撃者が生存していないからである。
 不定形及び、生命のあるものに己を変化可能。故にステータスは宝具以外変身対象に調律される。

超視力:B
 4次元を見渡せるような視界を獲得している。
 全ての方向、壁の向こう側。ミゼーアは半径16km程度圏内ならば、全てを見通せる。
 ただし、丸い球体内部は見通せない。

吸血(偽):A
 吸血行為。ただし吸血種が行う吸血とは異なる。
 舌による吸血を受けたサーヴァントは永続的に幸運が1ランクダウン。
 マスターの場合は、魔力及び生命力を失う。これによりミゼーアは魔力を回復する。

対毒:A
 毒への耐性。
 何よりミゼーア自身が毒を纏っており、触れた対象にダメージを与える。
 平凡なマスターなら、ミゼーアに接触しただけで生命の危機に関わる。

神性:E
 ティンダロスに棲む者は神格に値しないが、ミゼーアは個体の中でも強大な力を有し、神に近しい力を持つ。


【宝具】
『螺旋を巡れ鋭の準え』
ランク:B++ 種別:対界宝具 レンジ:300 最大捕捉:-
 ティンダロスに棲む者達持つ時空間特性。効果範囲内にいる対象を鋭角に潜み、狙う。
 鋭角に潜んでいる間は、角より吹き出す煙の後に出現するまで気配遮断Aのスキルを獲得。
 また範囲内の時空間を歪める事が可能。
 効果を受けた対象は、精神攻撃を受け、攻撃の命中率が低下し、幸運判定に成功しなくては行動不可となる。

『月を喰らいし獣(フェンリル)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜200 最大捕捉:300人
 北欧神話に登場する狼の姿をした巨大な怪物に、ミゼーア自身が変身し、神話を体現する。
 彼/彼女の伝説的表現としてフェンリルは尤も適したものであり。それが宝具として昇華された。
 彼/彼女が体現するのはフェンリルの偽物に過ぎず、ランクは低い。
 しかしながら、ティンダロス特有の悪臭が消失し、球体に接触が可能となる。


42 : 月喰らう獣 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/09(火) 21:09:25 XtS8VPkg0
【解説】
狂気と悪夢のような時間の角より来るティンダロスの都市に棲むもの。
有名な『ティンダロスの猟犬』とは異なる独立種族『ティンダロスの王』。
その中でも最も強力かつ神格を得た個体がミゼーア。
ミゼーアとは彼/彼女の列記とした個体名であり、ティンダロスの猟犬にも個体名はあったりする。

ミゼーアは原始から『曲がった時間』を司るヨグ=ソトースを憎む。
故に『曲がった時間』に生きる人間も、捕食対象でしかないが、マスターに関しては仕方なく生かしている。
きっとそれ以外の人間などは無関心で捕食、殺害するだろう。

通常『とがった時間』に棲むものは『曲がった時間』に干渉する事は不可能。
ただし、サーヴァントとしてマスターに召喚された以上。
『曲がった時間』に存在するマスターとの繋がりを有する為、それを手繰り、実体を顕現させる。
ミゼーア自身、実体化するにも魔力の消耗をそれなりに必要とされるので。
無暗に実体化し続けられない。慎重な運用が求められる。


【特徴】
『千貌』のスキルで説明されている通り、基本的な容姿はない。常に不定形である。
人間には彼/彼女が捕食者であると認知し、自然とオオカミに近しい姿に見える。
現在はマスターの要望で、角ばった獣耳女性の姿っぽくなっている。


【聖杯にかける願い】
ヨグ=ソトースとの決着。『曲がった時間』の消滅。





【マスター】
我妻善逸@鬼滅の刃


【weapon】
『日輪刀』
 日光が蓄えられた鋼で造られた刀。
 持ち主によって色が変化する。


『「雷」の呼吸法』
 鬼を倒す術『呼吸法』の流派の一つ。身体能力を上昇させる。
 善逸の場合は『壱ノ型 霹靂一閃』という居合の技しか習得していない。
 だが『霹靂一閃』に磨きをかけた為、『六連』奥義を取得した。


【人物背景】
『鬼』を殺す鬼殺隊剣士。
臆病かつ情緒不安定な面があり、美人には弱い。
優れた聴覚により音で感情を読みとれる。(サーヴァントに通用するかは怪しい)
気絶する事で覚醒する。


【聖杯にかける願い】
戦争とか、よく分からない理由で命をかけるとか嫌で堪らないが。
自分なりに頑張りたい。


43 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/09(火) 21:10:35 XtS8VPkg0
投下終了します


44 : ◆q7nbzHYUbw :2017/05/10(水) 16:12:10 C.l2qev60
新企画立て乙です!
私も投下させていただきます


45 : その出会は夜に ◆q7nbzHYUbw :2017/05/10(水) 16:13:01 C.l2qev60
――――夜が、其処にはあった。

闇夜がその幽霊の味方をしていた。黒い雲が幽霊を覆い隠していた。
呑み込まれるようなその夜闇こそが、それにとっての大海だった。青く澄み渡る空ではなく、凡そ恐怖の塊であるような夜天こそが渡るべき空だった。
ほんの一瞬だけ、その両翼から炎が噴き出した。穴だらけになった敵機は、ほんの僅かな間だけ空を照らし出した後、星のように墜ちていく。
サン・トロンに輝ける星はいらなかった。ラウンデルは最早幽霊にとって戯れに放り投げる矢が吸い込まれるダーツ盤程度でしかなかった。

そしてまた、エンジン音だけを轟かせながら幽霊は夜へと溶けていく。――――永遠に、素晴らしき夜を飛び続けていたいと願いながら。


46 : その出会は夜に ◆q7nbzHYUbw :2017/05/10(水) 16:14:00 C.l2qev60


「ねぇアルフォウ、ここはどこ? このカードは何? これもセレクターバトルの一貫なの?」

少女、黒澤ゆらぎは夜の臨海公園のベンチに座って両手に一枚ずつ持ったカードの内の片方にそう問い掛けた。
白地に『WIXOSS』と刻まれていたカードの表面には少女の絵が描かれていた……否、其処には少女が『閉じ込められ』ていた。

「いいえゆらぎ。私、こんなの知らないわ……それに、ウィクロスにそんなカードは無かったと思う」

漆黒のウェディングドレスを身に纏ったような、カードの中の少女は、ゆらぎに話しかけられた事による昂揚と現状への不可解を交えながらそう言った。
アルフォウは数多のセレクターの願いを反転させながらゆらぎの下へと辿り着いた。
繭の部屋の不可解な構造から数多のセレクターに送られながら、長い時間をかけてゆらぎの下へとたどり着いたが……こんなことは、一度だって経験したことはなかった。
まさかセレクターごとどこかもわからない場所へと……『冬木』などという、見たことも聞いたこともない街へ飛ばされるなど。

「……こんなところで足踏みしてる場合じゃないのに、こんなことをしている間に、真子がセレクターバトルをしてしまったら」
「こんなことをしている間に、真子が願いを叶えてしまったら……真子は私だけのものなのに、真子は……」

「ゆらぎ……」

無論ゆらぎも動揺していた。だが、それは唐突に見知らぬ土地へと放り出された現状よりも、親友たる尽白真子と遠くはなれてしまったことのほうが大きかった。
黒澤ゆらぎの願いは反転していた。尽白真子の願いを奪い、その感情を……怨恨を全て自分へと向けさせて、彼女の中を自分で占めようとしていた。
だが、こんなことをしている間にも真子はセレクターバトルによって願いを叶えているかもしれない。そうなれば、今までのセレクター狩りも水の泡だ。


『――――であれば、夜に立ち上がるが良い、我がマスター』


何処からか声が響き渡った。それは黒澤ゆらぎとアルフォウの耳を貫くかのように、或いは直接鼓膜を揺るがすかのように。
ゆらぎの持っていたウィクロスの物ではない、もう一枚のカードが光り輝いた――――それはゆらぎの手を離れると、眼前で光を発しながら回転を始める。
光は三つの輪を構築し、そして一気に収束する――――強い輝きがゆらぎ達の視界を塗り潰した直後に、それはプロセスを完了した。


47 : その出会は夜に ◆q7nbzHYUbw :2017/05/10(水) 16:14:30 C.l2qev60

「……誰?」


黒澤ゆらぎは他人の顔を認識できない。正確には、尽白真子とその幼馴染以外の顔を認識することが出来ない。
故にその問い掛けはある意味で滑稽ですらあったが……そのゆらぎから見てすら、目の前に現れた人物は全く以て異常極まりなかった。
それは当初"黒い靄"であった。夜闇を凝縮したかのような靄であった。そしてそれは、幾許か揺らめいてから、ようやくその形状を整え終えた。

「何、私はただの『幽霊』だ。夜の闇をこそ愛し、夜の空をこそ愛したただの『幽霊』だ」

「サーヴァント、"ライダー"――――これより君の夜を往く翼と成る者だ」

それは、黒い軍装を身に纏った男だった。瞬きをスレば揺らぐような、消え入るような。
顔の判別ができない、人の判別が出来ないゆらぎすらそう思えたくらいだった。それは正しく、"人ではない"と確信できた。
然しそれでいて、ルリグとはまた異なる存在であることも。それは――――ある意味では、"ルリグよりも遥かに強大で悲しい存在"なのだろうと。

「ちょ、ちょっと! ゆらぎのルリグは私だけよ、突然何なの!?」

真っ先に喰らいついたのがアルフォウだった。
最愛の主人の従者は自分だけであり、自分だけでいいと思っているアルフォウにサーヴァントという言葉は聞き逃せないものだった。

「いや、マスターと君の仲を裂こうなどとは思っていないとも」
「だが、この"聖杯戦争"においては君達の力では勝ち残れない――――そうとも、これはセレクターバトルとはまた違う過酷な蠱毒壺」

然し、ライダーと名乗った男は、全く気にもとめていない様子で受け流しながら、言葉を続ける。
対してアルフォウにゆらぎは突如として提示された聖杯戦争という単語に、只々混乱していた。
セレクターバトルではない、聖杯戦争、蠱毒壺。何か酷く嫌な予感がゆらぎの背を伝っていた。それでも、その予感を食い縛りながら一歩前へと踏み出した。

「サーヴァントって何、聖杯戦争って何……蠱毒壺って何」
「これはセレクターバトルじゃないなら、貴方がルリグじゃないのならば……これは何、ここは、何?」

ゆらぎはこの状況に早々に決着をつけたかった。
これだけ理解不能な現状をこれ以上続けたくはなかった。何か面倒なことの渦中に在るのならば、早々に片付けたかった。
そんなゆらぎを見て、ライダーはまた薄く笑っていた。この現状に怖気づかないのであればマスターとしては上等だと笑い。

「これは聖杯戦争。英雄の分身たるサーヴァントを使役し、万能の願望機に願いを賭けて殺し合う戦争」
「願いが願いを喰らい、願いが願いを殺す蠱毒壺――――さて、"夜統べる闇のセレクター"よ。今度は此方から君に問いたい」


「――――君に、誰かを踏み躙ってでも叶えたい夢があるか?」

そして、ライダーは彼女に問い掛けた。
ゆらぎの背筋を伝っていた怖気は、その時点で納まってしまった。恐怖ではない、何だこんなものかという感情に抑え込まれてしまっていた。
誰かを踏み躙ってでも叶えたい願いが、誰かを殺してでも叶えたい願いがあるか。当然の話だった。だからこそ、セレクターバトルを勝ち抜いてきた。
であればその問い掛けへの返答は変わらなかった。聖杯とやらの存在に関しては半信半疑だったが、ここでも勝ち抜かなければならないならば同じことをやるだけだった。


「――――私は、尽白真子を、私だけの物にしたい」


それは誰よりも真白で、それは誰よりも美しい、それは誰よりも愛おしい人――――彼女を、手に入れられるのあれば。
ゆらぎの願いを垣間見て、ライダーは満足気に笑っていた。ただこの場において、アルフォウだけが平常の思考を有していたのであろう。
だが、それを止める術は持たなかった。いつものように、黒澤ゆらぎは、黒い花嫁の手の届かない彼方へと。


「であれば、私は夜の亡霊となろう。その願いの為に、私こそが君の翼と成る。嗚呼そうだ、私はまた夜を駆ける事ができる」
「夜天の空に瞬く星を、私の砲火がきっと墜とそう。今宵、此処こそが、私のサン・トロンだ――――」


ライダーは夜闇に消えていった。だが、その首元に刻まれた痛み――――"令呪"が、その願いが聖杯戦争に振るわれることを約束した。
アルフォウは、ただゆらぎを見上げていた。この場においてアルフォウは、デス・ブーケトスもジェラシー・ゲイズも意味が無い。
故に只々、それは祈るのみであった。この聖杯戦争に参加する、最愛の主人と――――その、願いを。


(どうか、無事に。そして、忘れないで)

(ゆらぎの、本当の願いを)


48 : その出会は夜に ◆q7nbzHYUbw :2017/05/10(水) 16:15:02 C.l2qev60
【クラス】ライダー
【真名】ハインツ=ヴォルフガング・シュナウファー

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:E 幸運:B 宝具:C+++

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
騎乗:B+++
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせる。
ただし航空機に類する乗り物に対して補正値が与えられる。

対魔力:E
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

気配遮断:C+
サーヴァントとしての気配を断つ。
攻撃態勢に映るとランクは大きく下がる。
但し、夜間においてはその限りではない。

【保有スキル】
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。

二重召喚:D
二つのクラス別スキルを保有することができる。極一部のサーヴァントのみが持つ希少特性。
シュナウファーはライダーとしてのクラススキルの他、アサシンとしてのスキルを会得している。

【宝具】
『深淵闇夜の撃墜記録(ツァシュトゥーラー・メッサーシュミット・シュナウファー)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:10〜100 最大捕捉:121
ハインツ=ヴォルフガング・シュナウファーの愛機であるBf110G-4が宝具と化したもの。尾翼には凄絶たる121のキルマークが刻まれている。
第二次世界大戦において大戦を通して戦場を共にし続けた愛機であり、夜を駆けた翼であり、欠けることの出来ないものである。
即ちそれは一体であり、シュナウファーの意思によって自由に実体化出来る他、シュナウファーの霊基によって状態が変化する。
シュナウファー本体が回復すればBf110G-4も回復し、傷つけばBf110G-4も損傷する。また、その逆も同様である。

『夜を謳いて、亡霊と消える(ディ・ナハト・ゴースト・オブ・サントロン)』
ランク:C+++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:7
その『サントロンの亡霊』とすら謳われたシュナウファーの夜間戦闘の逸話による複合宝具。
121機の全てを夜間に撃墜し、19分の間で7機を撃墜した逸話から、『敵対存在が7人まで』且つ『夜間』である場合のみどんな状態でも互角以上の戦闘を行える。
更に夜間における絶対先制権を会得し、因果律逆転等の手段を講じない限りは、戦闘の開始に際して必ずシュナウファーが先攻を取ることが出来る。

但し、夜間以外の撃墜記録が無い為に、夜以外の状況においては一切の戦闘行動を行うことが出来ない。
常時におけるサーヴァントとしての実体化すらもまともに行うことは出来ず、夜間以外に実体化した場合は人型の黒い靄のような形状となる。
この状態においてはスキルは機能するものの、全ステータスはワンランクダウンする。

【weapon】
『ルガーP08』
戦闘機乗りのラストウェポン
ドイツ製の自動拳銃であり、装弾数は8+1発

【人物背景】
夜間戦闘において、121機の世界最多記録を樹立したドイツ軍の戦闘機パイロット。
ドイツ全軍21番目の柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字章を授与され、航空司令としてはドイツ空軍最年少22歳で第4夜間戦闘航空団司令に任ぜられる。
重爆撃機の撃墜数から世界最高の撃墜王エーリッヒ・ハルトマンをすら上回り、最もイギリス空軍兵を死傷させたドイツ空軍パイロットではないかとも言われている。
その戦果の全てが夜間に打ち立てられたものであり、イギリス人からは「サントロンの幽霊」と恐れられるようになっていた。
第二次世界大戦を生き残り、戦後の1950年にボルドーの自動車事故で28歳の若さで死亡した。


【聖杯にかける願い】
夜の空を駆ける
それさえ出来れば後はなんでも良い


【マスター】
黒澤ゆらぎ@WIXOSS -Re/verse-

【マスターとしての願い】
尽白真子を自分の物にしたい

【weapon】
『アルフォウ』
ゆらぎのルリグ。ゆらぎ大好き。
セレクターバトルでは強かったがおそらく戦闘の役には立たない。

【人物背景】
カードゲーム、ウィクロスを用いて願いを賭けて戦う「セレクターバトル」に巻き込まれた女子中学生。マジでガチでサイコなレズ。
過去の事件の影響で幼馴染の尽白真子と無藤樹以外の顔を覚えることが出来ない。
真子が思いを寄せる樹を奪うことで真子の感情を自分自身に向けさせようとしたり色々とアレな子だが、行動の根本は大体真白の為で一貫している
今回の参戦時期は真子の願いが叶わないようにセレクター狩りをしているところから。

【方針】
聖杯戦争には積極的に参加する
具体的にどうするかはまだこれから考える


49 : その出会は夜に ◆q7nbzHYUbw :2017/05/10(水) 16:15:26 C.l2qev60
投下終了です


50 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/11(木) 00:14:10 afWWmnTE0
投下します


51 : グレイ&セイバー ◆xn2vs62Y1I :2017/05/11(木) 00:14:59 afWWmnTE0
冬木市で若い女性が通り魔に襲われる事件が多発するようになった。
猟奇かつ残虐性に満たされたソレは、誰かが自然と「まるで切り裂きジャックだ」と噂する。
まあ、実在の切り裂きジャックを差して語っちゃいないだろう。
例えに過ぎない。
19世紀、霧の町・ロンドンを恐怖の渦に飲み込んだ殺人鬼は、年齢的に死亡したに違いない。
尤も――それが人であれば、の話。
かの殺人鬼は現代もなお正体が明らかではないが、既に過去の話。過去の伝説。
現代を生きる人々には関係ない。
何より、ここは日本の冬木市である。切り裂きジャックとは無縁な土地だ。


(だってのに)


平凡なキャリアウーマンは一人、夜道を歩いていた。
幾ら気をつけろとニュースやネットで報じられていても、残酷ながら社会は考慮してくれない。
普通だったら女性の残業を減らすなど、気使い位やって欲しいのに。
だけど、平然と残業をやらされて、気がつけばこんな時間。
彼女は通り魔への不安よりかは、精神的かつ肉体的疲労を味わって、一刻も早く帰宅したいだけだった。


「そこの君」


唐突に、自棄に耳残る声色で話しかけられ女性はギョッと振り返る。
怪しい男がいた。
彼女の知識にはない厳格な格好の、多分、宗教の制服みたいな――神父らしき強面の男性。
女性はあまりのことで言葉を発せなかったが。
男が、淡々と続ける。


「このような時間に徘徊するのは宜しくない。次からは気をつけるように」


女性は何とか「どうも」と短く答え、全力で繁華街に踵を返した。
元の道を戻ってきた形になるが、不穏な男性のいるあちらを突き進む勇気はない。
アレが噂の通り魔?
警察にでも伝えようか。
女性が悶々としていると、前方を確認しなかったせいで誰かと衝突してしまう。


「あら! ごめんなさい!! 大変、服が汚れちゃったかしら!」


酒でも飲んでそうな程、テンションの高い語り口調の女性が、尻餅ついた彼女に声をかけた。


「まあ! それって■■■■■■のスカートじゃない? 新作の!!」

「え、ええ」

「すごく似合っているわ! 汚れてないみたいね、良かった〜。
 ……ねえ、どこかに飲みに行く感じ? 折角だし一緒に行かない?」

「あ……私――」


帰宅するのは無理だ。やっぱり恐ろしい。
話に流されて「いいわよ」と頷いてしまった。
酒で浮かれた女子大生と仮定すれば納得する、馬鹿みたいに騒がしい女性は、何故か話が合った。
同じブランドの服を着ていたし。
会社の同僚とは盛り上がらないファッションなどの趣味趣向と意気投合できた。
こんな偶然の出会いの一つ二つ、現実でもあるんだなと。



既に切り裂かれた女性は夢心地に居た。



いつかは自分が殺されたことを自覚するだろう。
だが、本人が自覚しなければ、それは永遠の幸福に等しいのである。








52 : グレイ&セイバー ◆xn2vs62Y1I :2017/05/11(木) 00:15:32 afWWmnTE0

「随分と派手にやったものだ。満足したかね」


一人の神父――グレイという男性が、血まみれの女性に問いかける。
先ほどまでの天真爛漫な態度とは別人で、シニカルな笑みを浮かべる女性は気だるい表情に変えた。
とっ捕まえた女性の殺害に満足したのだろうが。


「人が勝手に自己満してるか一々確認しないと気がすまない訳ェ。神父サマ」


どこぞの舞台女優のように回りながら、殺人鬼は語る。


「アナタってつまらない男ね! 男なんてみぃんな、退屈でブッサイクな連中だけどサ!!
 警察(ヤード)の連中みたいよ? どうして貴方は彼女を殺しましたかぁ?って
 解答がなきゃ納得できない数学者かよ!! 殺したいから殺すのはいけない事なんですかぁ!!」

「そうは思わぬ」


グレイは不思議にも焦る様子なく否定した。
殺人鬼が動作を止めたのを確認し、彼は続ける。


「セイバー。お前のようにとても単純で、とても純粋な者を私は知っている。
 彼もまた純粋に殺意を持つ穢れなきものだ。お前も同じであろう」

「それぇ。要するにソイツ馬鹿ってことっしょ。
 あたしは馬鹿じゃないですよ〜だ。馬鹿じゃないから捕まらないのよ!」


やれやれと面倒な子供を見守るかのようなグレイ。
彼は神父として、聖杯戦争。即ち、儀式に関して疑念を抱いていた。
それは、自分が召喚したのが『殺人鬼のセイバー』だから、ではなく。
戦争を通じて聖遺物の『聖杯』を巡るという。違和感を覚えるのは普通に違いない。

サーヴァントなる非現実的現象を目撃した身。
『聖杯』が実在しないのを否定できまい。
だからとはいえ『聖杯』とは聖遺物なのか。グレイがそれを手にすれば、あるいは
彼自身の望みを叶えうるかもしれない。


「なに? 歳老いた身で何か願いたいの」


嘲笑するセイバーに対し「ふむ」とグライは頷く。


「私は神の立ち場を実感する望みが叶うと信じておる」

「ええ……」


セイバーが顔をしかめて素っ頓狂な声を漏らすのは、不自然じゃない。
強面の顔立ちとは裏腹に、ネジが数本はずれた願望で欲望だ。
新世界の神になる。と、馬鹿真面目な表情で宣言されるよりかは。よっぽどどうにかしている。


「うっそぉ、アナタ。そんな顔して神サマになりたいんだ」

「解釈は異なる。これが神の領域に踏み入れる試練ならば、差し詰め、お前は私を導く『天使』であろうな」

「無茶苦茶キショイんですけど!!」


率直な感想を吐き飛ばすセイバーと支離滅裂な会話をするグレイだったが。
精神汚染のスキルを持つサーヴァントじゃなくとも、双方どこか歪んだ価値観が噛み合っていない風にも
第三者からは見えなくなかった。
改めてグレイは言う。


「ならばこそ、聖杯は穢れないものでなければならない」

「今度は何言ってんのサ」

「聖杯が正常な願望機でなければ無意味ではないかね」

「あ、ふーん。そういうこと」


別にどーでもいいけど。セイバーは呆気ない態度で呟く。
彼女は、本当の意味で聖杯への関心はないのだろう。
彼女とは異なる『切り裂きジャック』に各々の願望があれど、彼女に関しては事情が別だ。


「あたしはかわゆい女の子殺せればいいの! 聖杯なんて勝手にしなさいな」


猟奇的に、単純に、あっさりとセイバーが断言する。
そうだ。
切り裂きジャックとは『むしろ』そういうものではないか? と聞き返すような。
殺人鬼のあり方。
女性のみを残虐的に殺害する。文字通りの、正しい意味で、動機も無い殺人に抵抗もない。
夢に描いた。現実的ではない連続殺人鬼らしさが強い。
それが、セイバーの側面としての『切り裂きジャック』だった。


53 : グレイ&セイバー ◆xn2vs62Y1I :2017/05/11(木) 00:16:04 afWWmnTE0
【クラス】セイバー
【真名】ジャック・ザ・リッパー@史実(19世紀 ロンドン)

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:C 幸運:A 宝具:B

【属性】
混沌・悪


【クラススキル】
対魔力:E
 申し訳程度のスキル。
 無効化は出来ないが、ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:D
 乗り物を乗りこなす能力。
 大抵の乗り物なら人並みに乗りこなせる。


【保有スキル】
倫敦の沈殿:A
 一種の気配遮断。人口密度の高い場所であるほど、セイバーの気配は消失する。
 いかに彼女が派手に目立っても、サーヴァントの魔力を感知されない。
 ジャック・ザ・リッパーが『誰であっても可笑しくない』からこそのスキル。

精神汚染:D
 精神干渉系の魔術を確率で遮断するスキル。
 どうにか対話は可能なのだが、彼女の価値観が歪んでいる。

人体理解:C
 治癒に補正をかけるスキルだが、セイバーは急所を理解し、殺害の為に利用する。



【宝具】
『霧夜の悪夢に溺れ眠れ』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 一対一の状態かつ、対象が女性で、時刻が夜。以上の条件が揃えば発動する。
 対象は極度の催眠状態に陥り、痛覚が遮断される。
 生きたまま解体されようとも死んだ事を自覚しないだろう。
 被害者たちに警戒心が皆無だった為、浮上した『犯人が女性』という説に基づいた宝具。

『深紅より来る遍く刃』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 手際から切り裂きジャックは『医者』や『肉屋』ではないかと推察が飛び交い。
 結局のところ正体は掴めなかったが、人体に精通する、あるいは刃物の扱いが上手だったに違いない。
 という説によって誕生した宝具。
 凶器として連想される刃物類が突如無数に出現し、対象を切り裂く。武器を召喚するのを除けば
 『魔技』と称するのが正しいのかもしれない。


【人物背景】
世界中にその名を知られるシリアルキラー。
日本ではそのまま『切り裂きジャック』と呼称されることが多い。
五人の女性を殺害し、スコットランドヤードの必死の捜査にもかかわらず、捕まることもなく姿を消した。
どこかの誰かが推測した切り裂きジャック。
『自分好み』の女性を惨たらしく、汚し、穢し、手にかけたい殺意だけが動機である。
単純明快、絵にかいたような正真正銘の殺人鬼。


【特徴】
毎度お馴染みセイバークラス定番の『あの顔』っぽい。特攻も入っている。
ただセイバーだからという理由だけなので、何らかの因果関係はない。
黙っていれば、普通にしていれば美人。
本性を露わになれば鮫歯のゲス顔となって代無しに。


【聖杯にかける願い】
女性を汚したい。高潔な女性であれば尚更。




【マスター】
エイブラハム・グレイ@殺戮の天使

【人物背景】
とある新興宗教の神父。
自らの構想を叶える為に、実験場を設立した。
そして、そこに数多の殺人鬼を住まわせている。

【聖杯にかける願い】
聖杯が聖遺物であるかを見極める。


54 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/11(木) 00:16:38 afWWmnTE0
投下終了します


55 : ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/11(木) 17:58:21 xLU4FR0U0
投下します。


56 : 浦上&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/11(木) 17:59:01 xLU4FR0U0
冬木市に存在する5階建ての宿泊施設。
富裕層が利用するような立派なものより手ごろな、庶民でも手の届く価格設定のホテル。
少なくない数の宿泊客がおり、経営は黒字だ。

「眠…」

早朝にホテルはチェックアウトした若い男は、大あくびを一つした。
疲れは取れているが、なんとなく気分が優れない。
体の内側に、不快なものが漂っている。

――ストレス溜まってんのかなぁ。

若い男は特に疑問に思う事なく、新都に足を向けた。





その地下、およそ50m下に広大な空間が存在する。
ランプに照らされた薄暗い広間の中央のソファに座って、7時の方向に多数の薬品が収められた戸棚。
5時の方向に簡素なベッドが2台。
その奥の手術台に現在、裸の女が縛りつけられている。

女の滑らかな肌に、メスが赤い線が引いていく。
猿轡から声を漏らす女に向かって、手術衣姿のアサシンはにこりと笑った。
彼は慣れた手つきで、作業を進めていく。

その風景を、カマキリのような顔の男がソファ越しに見つめる。一糸まとわぬ彼の腕には、燃えるように赤い髪の女が抱えられている。
抱えられているのは首だけ。その下はベッドの片方の周囲に散乱している。
鋭い目のカマキリ顔――浦上はアサシンから視線を外すと、赤い髪の女を持ち上げて接吻する。
重ねた唇には温かみが通っていないが、それがまた愛おしい。


57 : 浦上&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/11(木) 17:59:24 xLU4FR0U0
浦上がこの戦いに招かれたのは、パラサイト狩りが一段落した後だ。
丁度、警察から逃げきるのが難しくなってきた時。

聖杯。くれるというなら是非もらおう。
契約したサーヴァントも中々気の合うヤツ。
首尾よく運ぶかは未定だが、出だしは悪くない。

「ふぅ…」

彼は手際よく肉を削ぎ落とし、しばらく後に骨格標本を完成させた。
アサシンは猫のように伸びをすると、手術衣を脱いだ。

「すんだのかい、アサシン?」

豊かな口ひげが目を引く、二枚目の外国人が二カッと笑う。

「あぁ、興奮で指が震えて震えて…随分かかったな」
「そうかい?俺には、熟練の職人のように見えたがね」
「フフ…ありがとう」

女を殺害した意味は魂喰いではなく、生前から続く欲求ゆえだ。
骨格標本にしたのは、ただの習い性。

「ここ、俺にとっちゃ最高だからこんなこと言いたくないがよ…聖杯戦争には使えないよな?」
「まぁね。ホテルを利用するマスターでもいない限り、掛かり様がないしな」

二人は聖杯狙いだ。しかし、どうしても欲しい訳ではない。
身命を捧げる理想もないし、身を焦がす野望も、己を支える矜持もない。
生きている限り延々と遊び、延々と喰らうだけの薄っぺらい人生。

――だからどうした?

死ぬのは怖くない。
何より恐ろしいのは、退屈。
運悪く敗退した所で、拾ったのが外れくじだった…程度の安い絶望しか感じない。

「せっかく指名手配が解けてることだし、ちょっとぶらついてくるわ」
「私も同行しよう。可能なら陣地を増やしたいしな」

 浦上は服を着て、アサシンに外出する旨を伝えた。
そこにアサシンもついてくる。
浦上は相手してもらった女の身体を集めた後、リフトでさらに地下に降り、硫酸槽にまとめて放り込んだ。

「そんな事できるのか?」
「宝具になったからな。発動時の魔力さえ工面できれば、いくつでも作れるよ」
「へぇ〜!便利だねぇ…」

二人は肩を並べて、地下室から街に出た。
市内の宿泊施設を見て回り、特にトラブルが無ければそのまま帰るつもりだ。
良さそうな犠牲者候補と出くわしたら、"遊ぶ"かもしれない。

 浦上にしてみれば、今回の催しはバカンスのようなもの。
警察の追跡を気にかけなくて済むなど、いつ以来だろう。
敗退すれば死亡するが、逃げ帰った所で、死刑は避けられない。
どっちにせよ死ぬのなら、少しでも楽しんだ方がいい。
聖杯が手に入れば、2人でハッピー。負けてしまっても、一つ足しになる。


58 : 浦上&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/11(木) 17:59:41 xLU4FR0U0
【クラス】アサシン

【真名】ヘンリー・ハワード・ホームズ(ハーマン・ウェブスター・マジェット)

【出典】20世紀初頭、アメリカ

【性別】男

【ステータス】筋力D+ 耐久D 敏捷C 魔力E 幸運A 宝具B+

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
気配遮断:A
 サーヴァントとしての気配を絶つ。
 完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
 ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【保有スキル】
黄金律:B-
 人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
 大富豪でもやっていける金ピカぶりだが、散財のし過ぎには注意が必要。
 なお、社会倫理に則ると効果が落ちる。

精神異常:A
 精神を病んでいる。
 通常のバーサーカーに付加された狂化ではない。
 殺人をルーティンに貶めた彼に、他者の痛みを汲む能力はない。
 精神的なハイパーアーマー能力。

情報抹消:C
 対戦終了の瞬間に目撃者と対戦相手の記憶・記録からアサシンの能力、真名、外見的特徴などの情報が消失する。
 ただし機械的な記録に対しては効果が及ばず、自力で削除する必要がある。

陣地作成:B+++
 自らに有利な陣地を作り上げる。
 工房の形成を可能としているが、ホテルやモーテルなど「宿泊施設」を陣地化する際にランクが大幅に上昇。
 下記宝具の展開が可能になる。


【宝具】
『悪魔が住む白亜の宮(ワールズ・フェア・ホテル)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:陣地内全て 最大捕捉:100人
 生前に建築し、殺人に利用したホテルを再現する。
 「宿泊施設」を陣地化した際にのみ、展開可能。
 陣地化した宿泊施設を「殺人ホテル」に作り替える。
 維持にかかる魔力はアサシンのほか、施設の宿泊客が負担する。

 宝具化した施設は全ての部屋が秘密の通路で繋がっているほか、覗き穴や隠し扉が備えられている。
 密閉することでガス室として機能する部屋、部屋を覆う石綿に火を点けて標的を焼き殺す部屋、地下室までの落とし穴を仕掛けた部屋など多彩なトラップが持ち味。
 地下室には拷問器具、外科手術用具が備品として存在、これらを用いて解剖した後、証拠を硫酸槽で溶かす。

 これらの秘密のギミックは防音・防臭であり、外部に音や臭いが漏れない。
 また、軽い暗示の効果が空間全体に施されており、行方不明者の発覚を著しく遅らせる。
 暗示は魔術による物でないため、存在を看破する際はBランク以上の直感・気配感知などの知覚スキルが必要。

 宝具展開中のアサシン主従は従業員たちから見て「オーナー」にあたり、従業員達はアサシンの不利になる行動を原則とれない。


【weapon】
「凶器」
メスや鑷子など、外科手術用の器具。また返り血を防ぐ手術衣。

「外科知識」
医師免許を取得しており、開業医になれる程度の知識と経験を持つ。



【人物背景】
アメリカ・ニューハンプシャー州で生まれた実業家。
家庭においては父親から暴力を振るわれ、学校ではイジメを受けていた彼は、やがて「死」に対して強い興味を抱く。
成人後、各地で犯罪に手を染めて暮らしていた彼は、シカゴ万博の来場者向けに巨大な宿泊施設を建設。
目を付けた宿泊客を連れ去り、その生命を奪っていく。
"趣味"を"ビジネス"にする事に成功した彼だったが、万博終了後に客足が遠のくとホテル経営からあっさり手を引いた。

犯罪行脚に戻ったのち、保険金狙いの殺人が露見したことで逮捕。
その陣地の全容、犯した大量殺人も公に晒された。
自供による被害者数は27名だが、行方不明者数や遺品から200名以上が犠牲になったと考えられている。

特に信念があるわけではなく、趣味を仕事にしただけの人物。
外見は映画俳優のような二枚目の白人男性。垂れ目、垂れ眉の温厚そうな雰囲気。


【聖杯にかける願い】
受肉。願望を叶える力が余るようなら、それで所持金を得る。


59 : 浦上&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/11(木) 18:00:00 xLU4FR0U0
【マスター名】浦上

【出典】寄生獣(原作版)

【性別】男

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
「人間看破」
人間を使って遊ぶのが好きで、虐殺や食人などの禁忌に耽る。
その経験から、人間に擬態した「人外」を異能などに頼ることなく判別できる。
完全な人外でなくとも、相手が「人間でない部分」を持っている場合、感覚で理解できる。



【人物背景】
人間に擬態し、人間を喰らう生物「パラサイト」狩りに利用されていた死刑囚。
指名手配中の殺人犯だった彼は潜伏中、パラサイトの存在に興味を抱き、彼らの殺人を見に行く。
現場に残された痕跡から自分と同程度と軽く失望した所、その場に現れた警察官に逮捕されてしまった。

市役所において行われた、自衛隊と警察による掃討作戦にも参加。
その際に通常のパラサイトを超えるパラサイト、後藤と遭遇するも運よく生存。
監視役の刑事を射殺して逃亡した。
「最終話 きみ」開始直前から参戦。

人間を共食いする生き物と捉えており、自分こそ本能に従う正常な「人間」と定義している。


【聖杯にかける願い】
自由。さし当っては警察に追われる現状をどうにかしたい。新一と接触するかどうかは、脱出後に決める。


60 : ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/11(木) 18:00:36 xLU4FR0U0
投下終了です。


61 : 名無しさん :2017/05/11(木) 19:10:20 fzN6ZZJw0
質問です。
ゴールデンエイジ期(1938〜1950頃)のアメコミ作品のキャラクターはサーヴァントに使えますか?


62 : ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/12(金) 16:45:46 ttvU.cE20
投下します。


63 : 相馬光子&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/12(金) 16:46:14 ttvU.cE20
夜の新都の街角。
所在なげに一人佇む女に、30代くらいの男が声を掛ける。
二人は短い相談を済ませると、ホテル街に消えていった。
それからおよそ2時間経ち、2人はホテルを退出。そそくさと男は去っていった。

――さて、どこにいこうかしら。

女――相馬光子は微笑を消し、気だるげな表情で歩き出した。
通りですれ違う男の幾らかが、光子に視線を投げていく。
アイドルもかくやと言わんばかりの美しい顔立ちの若い女が、ふらふらと歩いているのだからそれも当然。
形の良い唇の両端をキュッとつり上げてやれば、呆けた顔でその場に釘付けにされてしまう。


光子は厳密にいうと、日本人ではない。

――大東亜共和国。

地理的には日本と同じだが、総統の名のもとに全体主義が敷かれる東洋の島国。
生活水準において両国に差は無いが、日本の方が様々な点において自由だ。

大東亜の異常さをよく示すものが、プログラム。
毎年50クラス、全国の中学3年生の間で行われる殺し合い。
生き残れるのは、その中の一人だけ。
光子は最終盤まで生き残ったが、惜しくも脱落……次に目を覚ましたのはここだった。

《馬鹿か、貴様》
《あら、いたの。アーチャー》

声変わりを済ませていない少年の声が、呆れたように言った。

《何をするのかと思って見ていれば、娼婦の真似事とはな》
《真似じゃないでしょ…それよりどう、興奮した?家に帰ったら、相手してあげてもいいけど》
《黙れ。霊体が腐乱するから口を開くな。一時とはいえ、貴様のような淫売が主になるとは…!》

声に含まれる怒気が濃くなる。

《ごめんなさい、もうしないわ。だから機嫌直して、アーチャー》
《……》

しゅんとした様子の光子は念話で謝罪するが、返事は無い。
最初のやり取りで泣きついた時に、何を間違えたのか警戒されてしまった。
それ以来、二人はこんな調子だった。

ああやって仲のいい男をつくっておくと色々便利なのだが、それを言っても理解はしてくれまい。

《…私だって、好きでこんな風に生きてるんじゃない。皆が皆、あなたほど強いわけじゃないのよ?》
《……》
《どんな敵でも一撃で倒せるなら、こんな生き方してないわ》
《ならば、人間を止めるか?》

今度は光子が口を閉じる番だった。

《……》
《人の身体に未練を感じる心などあるまい?聖杯の力で魑魅魍魎を受け入れ、一騎当千の力を得る。そうすれば媚びを売って生きる必要もなくなる》
《あなた、聖杯が欲しいんじゃないの?》
《俺の夢はひょっとしたら……、貴様に話す謂れは無い!話は終わりだ》

懐かしむような声を発したアーチャーは、一方的に話を打ち切った。
光子が何度念を飛ばしても、無視を決め込む。
そのうち彼女も諦めて、静かに家路を辿った。


64 : 相馬光子&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/12(金) 16:46:37 ttvU.cE20
《あ、ひょっとして気を遣ってくれたのかな》

自宅についてふと、光子はそんなことを考えた。
不機嫌そうな物言いだったが、あれは自分への励ましか、慰めだったのではないか。
単独行動のスキルを持つ以上、自分と仲良くする必要はないのだ。
一般人でしかない光子の代わりなど、探せばすぐに見つかるだろう。

最初に見たアーチャーの姿を思い出す。
筋肉質と呼ぶ程ではない、しなやかな体。
そして顔。まるで女の様だった。
男相手に嫉妬などしないが、美形と認めざるを得ない整った容姿。

――案外甘いのね、彼。

自分に何かを与えようとした誰かは、これで2人目だ。
1人目は同じクラスにいた、内気な少年。
覚えている限りでは、彼以前にそんな人物はいなかった。

震えるような心など、彼女には残っていない。
9歳の時、自分を売った母親。
古びたアパートで自分を組み敷いてきた3人の男、資料室で襲ってきた小学校の先生。
それを噂にした当時の親友、事故で死ぬまでいじめてきた遠縁の子。
様々な人間がいて、その悉くが光子から、大事なものを奪っていった。

――しかし、どうでもいい。

大事なことはたった一つ。自分は絶対に負けない。





『奪われるのは、己が弱いからだ』

彼は先帝神農の温情無くては、生きていく事が出来なかった。
肉のつかない重い体に、濁った血液。
それをどうにかしたいから、アーチャーは不自由な体を引きずって、魑魅魍魎と合一した。

(軒轅…)

自分が就くはずだった帝位を奪い去った仇敵。
それはまだ良い。
しかし、彼は勝利しただけでは飽き足らず、己の姿を描いた旗を威勢の象徴とした。
まるで繰り返し繰り返し、全体重をかけて踏みにじるように。
敗れはしたが、俺はお前に膝をついてなどいない。

殺すしかない。
聖杯の力を持って再戦し、絶対の武を以て軒轅を仕留める。
しかし、必ずしも聖杯を使う必要はないのではないか。
もしかしたら、奴も招かれているかもしれない。

――その時は、マスターにでもくれてやる。

あれは別の道を辿った自分ではないか?
倫理や愛を排除し、手練手管を弄して世を渡る非力な少女。
彼女がどう振舞おうが関係ないはずだが、見ていると癇に障る。
軒轅とこの場でまみえたなら、もはや聖杯など不要。彼女をその内面に相応しい、魔人に変えてやろう。


65 : 相馬光子&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/12(金) 16:47:52 ttvU.cE20
【クラス】アーチャー

【真名】蚩尤

【出典】中国神話

【性別】男

【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷C 魔力A+ 幸運D 宝具A+

羌角 筋力A 耐久A+ 敏捷A 魔力A+ 幸運D 宝具A+

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではアーチャーに傷をつけられない。

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。


【保有スキル】
勇猛;A
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

怪力:A
 一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

自己改造:A
 様々な獣が混じり合った、キメラのように描かれたその姿。
 自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
 このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。

病弱:-
 天性の打たれ弱さ、虚弱体質。
 上記スキルにより喪失している。

神性:E-
 魔物としての属性を得た為に殆ど退化してしまっている。

【宝具】
『天帝羌角(ちみもうりょう)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 受け容れた魑魅魍魎を身体に顕す。
 宝具を展開したアーチャーは4つの目、6本の腕、牛の頭と鳥の蹄を持つ半獣半人となる。

 この形態をとった時点でステータスを専用のものに修正。
 展開中は風・雨・煙・霧を巻き起こして、敵勢力を苦しめる事が可能。
 霧を吐き出して視界を悪くし、豪雨や突風を敵陣に浴びせる。

 さらに「兵器による負傷ダメージ値」を、必ず1/10に減らしてしまう。
 携行武器だろうと、大量破壊兵器だろうと、兵器である限りは削減の対象となる。
 その為肉体による打撃や、爪や牙による攻撃はこれに該当しない。


『魔帝五兵(まおうのちえ)』
ランク:A 種別:対軍、対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
 生前にアーチャーが作成したとされる兵器を取り出す。
 そのうちの剣、弓矢、盾、戦斧、弩を扱うことができる。
 これらを操ることで、アーチャーは戦局を瞬く間に変える。
 
――剣の強度は底知れず、いくら斬っても刃毀れしない。
――弓は番える矢を独りでに用意する。放たれた矢は流星となり、軍団も城壁も射貫いてしまう。
――盾はあらゆる攻撃を三度、完全に防ぐ。魔術だろうと物理だろうと問題にしない。
――戦斧は空間を無視して敵を両断する。補足できてさえいれば、その刃は必ず届く。
――弩から放たれた矢は爆炎を放ち、一撃で櫓を崩す。

 破壊された場合でも、令呪一画に相当する魔力を消費すれば再生可能。
 盾は三回攻撃を防いだ時点で、破壊された時と同じ扱いになる。


【weapon】
なし。


66 : 相馬光子&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/12(金) 16:48:10 ttvU.cE20
【人物背景】
古代中国において、黄帝と覇を争った人物。
魑魅魍魎や数多くの兄弟を味方につけた彼だったが激闘の末、タク鹿の野で敗れ去った。
彼に味方した九黎族は、三苗と名を変えて歴代の王と戦い続けたという。
戦斧、楯、弓矢、弩など優れた武器を発明したことから、軍神として扱われる。
しかし、その正体は魔道に堕ちた少年。

生まれつき虚弱であった彼は、玉座に耐える体ではなかった。
丈夫な体を手に入れるために鉄や石を喰らい、魑魅魍魎を受け容れた。
そして、彼が掲げたのは「武」。
大陸を治めるのに必要なのは、絶対的な力であると彼は考えた。

しかし阪泉の野において、軒轅が父祖たる神農を敗った。
その時、自分が次の帝になるものと信じ切っていた彼は、天地がひっくり返ったように感じたのである。
後に軒轅に敗れ去った際、その血の付いた枷が楓に姿を変えたという。


見かけは13〜15歳のアジア系の少年。
ただし、髪は老人のような白髪。
うっすらと筋肉がつき、腰にはくびれがある。
秀麗な顔立ちをしており、その瞳は蛍のように輝く。

これは魑魅魍魎を受け容れた後の姿。
本来は老人のような痩身をしており、ひび割れた肌は土色。
髪は魔人となるまで生えてこず、両眼は黄色く濁っていた。


【聖杯にかける願い】
軒轅(黄帝)と再戦。帝位ではなく、純粋に屈辱を晴らしたい。


67 : 相馬光子&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/12(金) 16:48:32 ttvU.cE20
【マスター名】相馬光子

【出典】バトル・ロワイアル(小説版)

【性別】女

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
「演技力」
嘘泣き程度はお手の物。
中学3年でありながら、男を魅了する手管に長ける。
男を使って、喧嘩相手を轢き逃げさせる程度の能力を持つ。

「抜け殻の心」
幼少から続く壮絶な体験により、精神を病んでいる。
マスターの身ながら、E〜Cランク相当の精神汚染スキルを所持。
クラスメイトだろうと、グループの部下だろうと躊躇いなく殺害できる。


【人物背景】
城岩中学校3年B組の女子不良グループのリーダー。
中学生離れした美貌の持ち主だが、母親を含む周囲の人間に虐げられ続けた結果、精神は歪み冷え切っている。
窃盗・売春・恐喝など、様々な犯罪行為に手を出しており、人脈も豊富。
大東亜共和国が定めた殺人ゲーム「プログラム」において終盤まで生き残るも、桐山和雄によって殺害された。
死亡直後から参戦。


【聖杯にかける願い】
生還。「奪う側」に回る。


68 : ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/12(金) 16:48:59 ttvU.cE20
投下終了です。


69 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/13(土) 16:56:40 UkXg/f7A0
皆さま投下乙です。私も投下します。


70 : ヴェルサス&ライダー ◆xn2vs62Y1I :2017/05/13(土) 16:57:23 UkXg/f7A0




   むかしむかし、あるところに心優しい『浦島太郎』という若者がおりました。










聖杯戦争の舞台・即ち戦場として用意された『冬木市』には、不釣り合いにも日常がある。
きゃいきゃいと子供は騒がしいし。
サラリーマンは汗水流して仕事やサービス残業。
主婦は家事をこなし、近所の仲間と立ち話。
平凡でありきたりだ。
魔術だとか、英霊とは何ら無縁だというのに……不可思議な光景を、一人のマスターが傍観している。


「あのガキ、忘れちゃいないぜ。昨日、俺のズボンにアイスクリームつけやがった奴だ」


穢れない表情で公園で駆けまわる子供に悪態つくマスターは、日本の『冬木市』には似合わない異国人だ。

―――ドナテロ・ヴェルサス。

本来はアメリカに居た彼は、マスターとして選ばれる際。
『星座のカード』を手にしたのが記憶に新しく、一瞬のことで直ぐに理解が追いつかなかったが。
確か、そう。
自分が手にしたカードは『うお座』の星座が刻まれていた気がする。
どこかの雑誌とか、何かで星座のマークくらい、何となく知識にあったのだ。

星座に意味はあるのか?
彼の場合は、召喚したサーヴァントが関係あったからこそ納得している。
真名を教えて貰ったのだ。
ついでに、自身のサーヴァントの逸話に関しても調べてみたのだが……否、調べる、なんて表現はおかしい。


「本当に大丈夫なのかよぉ。本当に『使える』か怪しいぜ、あのサーヴァントッ。
 一体どんな野郎かと調べてみりゃ、『おとぎ話』の登場人物だって!? 冗談じゃないぜ!」


古典的なものじゃない。
少し歩いた場所にある小さな本屋にも置かれて違和感ない、子供向けの絵本の英霊だった。
既に駄目だ。
過去の英霊なら、『ジャンヌ・ダルク』とか『ギルガメッシュ』とか。
そういう戦える類の英霊じゃなければ、勝ち目すら薄いだろう!
めでたしめでたしで終わる物語にいるモノなの、程度が知れている。

ヴェルサスが早くも行く先に不穏を感じながら、冬木市の舞台において自宅と設定されてある場所へ目指す。
住宅街を歩むところ。
ある光景を目にしてヴェルサスは、咄嗟に止まった。

「くそ〜〜! あのババア、また水撒いてやがる! いい加減にしろよ!!」

家の前で、涼しくする為なのか。猫除けのつもりか。
あれでも掃除の一環で行っているかもしれない近所の老婆の水撒きに、ヴェルサスは苛立つ。
不運なヴェルサスは、彼女の水撒きに巻き込まれ、怒鳴った経緯があった。
一方で、老婆の方は反省する愚か「印象の悪い外国人」という余計な噂を近所で言い触らしたのだ。


71 : ヴェルサス&ライダー ◆xn2vs62Y1I :2017/05/13(土) 16:57:59 UkXg/f7A0

「ますたぁ。どうなさいましたか、お帰りの途中でしょうか」

「ッ!」


音も無く背後にいた女性。
ヴェルサスのサーヴァントであるライダーの声に、流石にヴェルサスも飛び上がるように振り返った。
驚愕は続く。
ライダーの格好は晴れやかな着物。
現代の日本では、異常な格好で派手で目立つ。
しかも、買い物袋を手に微笑んでいる事か。コレで町を徘徊するという正気を疑う光景だった。
ヴェルサスは、どうにか声量を抑え、ライダーに問う。


「おまっ、お前! まさか『それ』でウロついたんじゃねぇだろうなっ!?」

「そう仰いましても……ますたぁ、昨日お話ししたではありませんか。
 わたくしが食事を用意するので、買い出しに行きますと。ちゃんと伝えましたとも〜」

「ちげぇよ! お前馬鹿か!? 俺の方が馬鹿な訳ねぇよな! 常識を考えろよ!!」

「はあ」


とぼける様子のライダーにヴェルサスは、いくら女でも容赦したくはない衝動に走りそうだった。
だが、視線を感じた。
ポカンと眺める老婆。
ヴェルサスは嫌々振り変える矢先。ライダーが「こんにちは」と老婆に挨拶すれば。
老婆は何故か笑顔で「こんにちは。まあ仲が良いのね」なんて世辞を投げて来るのだ。

なんでだ?

ヴェルサスも異常を覚えるが、老婆は嫌な様子なく家に引き返している。
ライダーは涼しい顔して先へ向かう。
恐る恐るヴェルサスがライダーに追いつき、尋ねた。


「お、お前。あのババアに何かしたか?」

「はいぃ?」

「何度も惚けるのはほどほどにしろよ! マスターの俺を差し置いて、あれこれ勝手にやるんじゃねぇ!!」

「ああ!」


ライダーがポンと手を打ってから、にこやかに告げる。


「もしかしたら『何か』したかもしれませんねぇ」

「…………………???」


憤慨よりもヴェルサスは困惑や焦りが募った。
想像以上に、予想外に、『話が通じない』。会話が成り立っていないし。
意志疎通が不完全で、ライダーの言葉も支離滅裂である。
何かしたなら、自分で分かる筈だろうに。彼女は自覚していない風に感じるのだ。
呑気にライダーは続けて語った。


72 : ヴェルサス&ライダー ◆xn2vs62Y1I :2017/05/13(土) 16:58:24 UkXg/f7A0

「きっと、あの御方はますたぁに不幸なことをなさったのでしょう」

「あ、ああ」

「わたくしが『なかった』ことにしたんです。だからあの御方は、それを忘れております。
 ご心配なさらずとも問題ありませんよ。ますたぁ」

「『なかった』……待て。一体どういうことだ」


そうこうしている内に到着した古びたアパートの一室。
ヴェルサスの部屋へ帰宅した二人。
ライダーは相変わらずマイペースで、部屋に置かれてあったある物を目にし、満足げだった。


「良かった! ますたぁ、見て下さい。これも『なかった』事になっていますよ」

「………………」


差し出されたのは昨日、子供にアイスクリームをぶつけられシミになったズボンだ。
奇跡のようにズボンはシミ一つ残っていない。
ヴェルサスは凝縮された情報に圧倒されながら、必死に思考を巡らす。

『なかった』ことにする!?

老婆がバラまいた悪評も、ズボンのシミも、そういうのを『なかった』ことにしてしまう。
だが、冷静になれ。
ライダーに、そんな能力はあったのだろうか!?
下らない絵本を流し読みした程度で、ヴェルサスは混乱していた。
ヴェルサスは、落ち着いて問う。


「おい、ライダー」

「はい。なんでしょう」

「何の目的でこんな事してんだ。何をするつもりなんだよ」

「まあ……ますたぁ。昨日、貴方様の事情を知り、わたくしは誓いました。
 貴方様は不幸の星に恵まれてしまったのならば、少しでも幸福への助力を致しますと」

「これが助力だって?」

「不幸に慣れ過ぎてしまったのですね。幸福は日々の幸せの積み重ねです。
 些細な幸福は、ますたぁのお望みではありませんか?」


ヴェルサスは僅かに動揺した。
自分がどんな『幸福』を望んでいるか。平凡な恵まれた日常か? 反論は思いつかない。
それでも、ヴェルサスは躊躇を振り払う。


「………ッ、おい! ライダー」

「はい! 次はなんでしょう」

「これはお前の能力……宝具か? どっちでもいい。くだらない事にしか使っちゃいないよな?」

「くだらない!? まあ、そんな! 貴方様の不幸が取り除かれることの何がご不満なのでしょう!!」

「兎に角ッ『俺の為』にしか宝具は使っちゃいないんだなッ!?」

「はい。勿論です」


73 : ヴェルサス&ライダー ◆xn2vs62Y1I :2017/05/13(土) 16:59:02 UkXg/f7A0
質問一つでこれほど苦労をかけるのは何故だろうか。
質問を質問で返された方が、よっぽどマシに感じながら。
今なら間に合う。
闇雲に宝具を使われては他の主従に捕捉されるのは問題である。
しかし、ライダーの宝具は『使える』。間違いない。
前言撤回で、立ちまわれば有益な状況を生み出すものだ。聖杯の獲得も夢じゃない。


「ライダー、宝具は当分使うな」

「それでは意味がありません! 貴方様はそれでよろしいのですかっ」

「いいかッ。まだ聖杯戦争は始まってないんだッ! 正直……お前の宝具は使える。
 だからバレたら不味い。最悪、真っ先に敵として狙われるかもな……だから控えるんだ。いざって時に使うんだよ」

「分かりました……」


どこか釈然としない様子でライダーが頷いたのにヴェルサスは、一息ついてから安堵した。








竜宮の乙姫は、浦島太郎に戻ってきて欲しい思いで、全てを『なかった』ことにしました。
彼が生きた痕跡、彼の家族、彼の知る者。彼の人生すらも。
それでも、浦島太郎は戻って来る事はありませんでした。




【クラス】ライダー
【真名】竜宮の乙姫@御伽草子

【ステータス】
筋力:E 耐久:C 敏捷:E 魔力:B 幸運:A 宝具:A

【属性】
混沌・善


【クラススキル】
対魔力:A
 魔術に対する抵抗力。事実上、現代の魔術師では魔術で傷をつけることは出来ない。

騎乗:-
 彼女自身が乗り物なので、スキルは皆無。


【保有スキル】
魔力放出(水):A
 武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
 水のない場所でも、大した威力の水を出現させる。

変化:C
 近代の童話には様々な改変が施され、または浦島太郎の物語にも諸説ある。
 少なくとも、この彼女自身が彼の浦島太郎を竜宮へ導いた亀そのもの。
 という解釈に基づかれている。

使い魔(海):C
 様々な海洋生物を使い魔として出現させる。
 ただし、彼らは水辺のある範囲のみでしか行動できない。


【宝具】
『蓬莱玉製開かずの箱』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 誰もが存じているであろう開けてはならぬ箱・玉手箱。
 浦島太郎が竜宮に住み遊ぶ間。彼女は彼の全てを奪い去った。
 この宝具にはデメリットとメリットが極端にある。

 任意の対象に宝具を使用すると、対象に関する情報・歴史・記憶・痕跡。
 全てが時間経過と共に抹消されていく。
 無論、対象本人の記憶には一切影響はないが、それらが失われるのは
 例えば――英霊であれば英霊に至る過程が抹消されたも同然なので、宝具やスキルが失われる。
 玉手箱が破壊されたり、第三者によって開放された場合。
 ライダーが玉手箱の使用を解除しない限り、対象は問答無用に消滅してしまう。

 逆を返せば、玉手箱が破壊・開放されない限り、対象は消滅する事は無く。
 殺害された痕跡や記録すら抹消される為、実質無敵状態になる。



『いざ大海原の楽園へ』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:100人
 誰かが夢見た幻想の空間・竜宮城を再現する固有結界。
 強制的に水中と化すが、別に呼吸は問題ない。
 泳げないサーヴァントは身動きが不自由に、水が弱点の相手は確実に危機的状況へ陥る。
 が、あくまで客人をもてなす為、対象を『閉じ込める』為に特化したもの。
 結界内にいる使い魔の魚達も、よっぽどの事がなければ危害を加えない。


74 : ヴェルサス&ライダー ◆xn2vs62Y1I :2017/05/13(土) 16:59:31 UkXg/f7A0
【人物背景】


貴方の過去と未来。全て奪いましょう。


御伽話に登場する竜宮の乙姫。ライダーが基づいた逸話は浦島が救った亀が乙姫だったもの。
彼の為に、彼に関する全てを『なかった』ことにしたにも関わらず。
彼は玉手箱を開けてしまう。
老いた彼はやがて鶴となり、亀の姫と夫婦になったとの一説もあるが、その結末も真実か定かではない。


【特徴】
どこかの絵本に描かれているような美女の姫君。
姫であるせいか、価値観が少しズレている。


【聖杯にかける願い】
マスターを幸福にする。
聖杯を得るまで、出来うる限りの努力をする。





【マスター】
ドナテロ・ヴェルサス@ジョジョの奇妙な冒険


【weapon】
『アンダー・ワールド』
 地面が覚えている過去を掘り起こし、再現するスタンド。
 スタンドはスタンド使いにしか視認不可能だが
 少なくとも、サーヴァントにはスタンドを視認できるだろう。


【人物背景】
『悪』の救世主である男の息子の一人。
恐らく、スタンド能力の影響だろうが、理不尽な不幸続きの人生を送っていた。
故に『幸福』への願望が人並以上にある。
参戦時期は、自分のスタンド能力を理解した頃。


【聖杯にかける願い】
幸せになりたい。


75 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/13(土) 17:00:02 UkXg/f7A0
投下終了します。


76 : ◆7PJBZrstcc :2017/05/14(日) 19:44:39 YtILlcjc0
投下します


77 : 殺人マシン&殺人鬼 ◆7PJBZrstcc :2017/05/14(日) 19:45:47 YtILlcjc0
 冬木市のあるアパート、その一室。
 そこに男が一人で寝転んでいた。男はこの部屋の主である。
 男は呟く。

「聖杯戦争、願望器を賭けての殺し合いか……」

 その呟きの直後、さっきまで男一人だった空間に女がいきなり現れる。
 金髪碧眼の白人女性で、見た目は整っているがどこか頭の軽そうな雰囲気を漂わせている。
 女が言う。

「イエス、聖杯戦争!
 魔術師であるマスターと、歴史に残る英霊であるサーヴァント達の願望器を掛けたデスゲーム!
 幸か不幸かあなたはマスターとしてその参加者に選ばれたのです!」
「俺魔術師じゃないけどな」
「私も英霊と言えるほどの事はしていません!」
「駄目じゃねえか」
「お互い様ですマスター」

 マスターとサーヴァントはハッ、と同時に相手を鼻で笑う。
 そして睨みあった。

「大体何が聖杯戦争だ、俺はそんなものに用は無いぞ。
 しかもこんな弱そうな奴あてがわれていい迷惑だぜ」
「失礼ですねマスターは!
 確かに私のステータスは低いですよ。しかし私は標的にこっそり忍び寄り、命を刈り取る女。
 言ってしまえばアサシン、暗殺者なんです!
 だからスペックが低いのは仕方ないんです!」
「正面戦闘になったら?」
「マスターであっても相手次第では、負ける可能性は十分あると言っておきましょう!」
「駄目じゃねえか」
「返す言葉がございません」

 マスターは再び鼻で笑うが、アサシンは何も言えず悔しそうに男を見る。
 その状況が気に食わなかったので、アサシンは無理矢理話を変えた。

「まあそれはそれとして、私はあることに気付きました」
「何だよ?」
「私マスターの名前知りません」
「……いるか?」
「必要ですよ!
 私たちはこれからコンビ、パートナーなんですから! 自己紹介くらいやっておきましょうよ!」
「――じゃあお前からやれよ」

 男は正直やらなくてもいいだろ、と思ったがアサシンのテンションが面倒くさかったので適当にやらせることにした。

「知りたいですか私の名前が?
 この顔良し、スタイル良し、性格良しな私の名前を!」
「早くしろよ」

 しかし乗ったら乗ったでアサシンはウザかった。
 男は急かす。
 アサシンはそれを見て、オホンと咳払いをして自己紹介を始める。


78 : 殺人マシン&殺人鬼 ◆7PJBZrstcc :2017/05/14(日) 19:46:16 YtILlcjc0

「私の名前はキングズベリー・ランの屠殺者。
 1935年から38年の間にクリーブランドで12人を惨殺し、エリオット・ネスから逃げおおせた恐怖の殺人鬼です!
 フフフ、私が怖いでしょう?」
「お前暗殺者って括りでいいのか?」
「オゥ、シット! 私にちっともビビってませんよこのマスター!」

 マスターの淡泊な反応に憤慨するアサシン。
 アサシンとしてはもうちょっと驚いてほしかったのだが、マスターにそんな思いを汲む理由は無い。
 そこでマスターはあることに気付いた。

「なあ、今思ったんだが」
「何ですか? ハッ、まさか私のスリーサイズを!?」
「キングスベリー・ランの屠殺者って、通称であって本名ではないよな」
「……まあそうですが、そこら辺は私の願いに関わってくるのです」
「願い?」

 マスターが問うと、アサシンはさっきまでのバカみたいなテンションを止め真面目な表情をつくる。
 そしてぽつぽつと語り始めた。

「私はキングズベリー・ランの屠殺者、それは確かです。
 しかし私にはそれ以外の記憶がありません。自分がどこの誰だったかとか、更に言うなら性別や年齢すらないのです」
「性別や年齢って、それ位見ればわかるだろ」

 何だか無茶苦茶になってきたアサシンの話を、マスターは思わず止めてしまう。
 それにアサシンは特に不快感を示さず、マスターに言葉を返す。

「あ、言ってませんでしたが私、呼ばれるたびにランダムに姿が変わるサーヴァントなんです。
 だからもし違う聖杯戦争に呼ばれたら、同じ私でも筋骨隆々な大男になってる可能性もあります」
「マジかよ」
「まあそんな訳で、私の願いは真の姿と名前と生前の記憶を取り戻すことです」

 アサシンは話を終えるが、すぐにまた真面目な表情を崩してマスターに問いかける。

「と・こ・ろ・で! 私そろそろマスターの話を聞きたいですねえ!
 願いを言えとまでは言いませんけど、お名前くらい教えてくださいよ!」
「ハァ……」

 面倒くさい、心底面倒くさい。そんな態度を隠す事すらせず、マスターは自己紹介をする。

「俺の名前は六星竜一、ただの高校教師だ」

 端的に自己紹介を終える竜一だが、その言葉にアサシンは思わず爆笑していた。

「アハハハハハハハハハハ!
 教師!? 貴方が教師ですか!?
 殺人鬼相手に一歩も引かない貴方が、殺し合いに欠片も動じないあなたがただの教師ですか!?」

 そんな人間が少なくともただの教師なわけないでしょう、とアサシンは言い切る。
 いくら現代の知識が仮初の物だからって、学校生活なんてものが記憶になくたって、それ位はアサシンにも分かる。
 それを聞いて竜一も言い切った。

「そうさ、俺はただの教師。そしてただの殺人マシンさ」

 その言葉を、アサシンはやっぱり爆笑しながら聞いていた。


79 : 殺人マシン&殺人鬼 ◆7PJBZrstcc :2017/05/14(日) 19:46:59 YtILlcjc0
【クラス】
アサシン

【真名】
キングズベリー・ランの屠殺者

【出展】
史実、20世紀アメリカ

【性別】


【属性】
混沌・悪

【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力D 幸運A 宝具E

【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消す能力。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

【保有スキル】
精神汚染:D
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。

人体切断:A
生きている相手の肉体を切断する技術。
Aランクとなると、肉屋か外科医のように鮮やかな切れ味。

情報抹消;B
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、能力、真名、外見特徴などの情報が消失する。
例え戦闘が白昼堂々でも効果は変わらない。これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。

【宝具】
『キングズベリー・ランの屠殺者』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
アサシンそのものが宝具。
アサシンの正体は誰も知らないが、アサシンだと疑われた人物は数多いる。
その為か、アサシンは呼び出したマスターがイメージする『キングズベリー・ランの屠殺者』の姿で召喚される。
ただし、マスターがキングズベリー・ランの屠殺者に関する知識がない、もしくは知っているだけで人物像をイメージしていない場合、姿は完全ランダムとなる。
今回は完全ランダムで現れた。

『切り落とされる死体』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
アサシンに殺された人間の死体は、一部が切り落とされていた事が多い件から生まれた宝具。
アサシンに殺されたマスター、NPCは無条件に体の一部がランダムに消失する。
そして消失した一部はアサシンの魔力に還元される。

【weapon】
肉切り包丁

【人物背景】
1930年代に犯行を重ねた正体不明の連続殺人鬼。
公式では12人と言われているが実際の被害者の数は不明。
アル・カポネの摘発で有名なエリオット・ネスが捜査に当たったが、犯人を捕まえる事は出来なかった。

アサシンの正体は誰も知らない。アサシン自身でさえも。
アサシンは自身の正体に関する記憶を消失しており、覚えていることは自身がキングズベリー・ランの屠殺者、またはクリーブランド胴体殺人者と呼ばれる存在だったという事のみ。

【特徴】
金髪碧眼の白人女性。
外見に目立った特徴は無い。
最も、エリオット・ネスから逃げおおせた殺人鬼に目立つ特徴があるというのも不自然な話ではあるが。

【サーヴァントとしての願い】
自分が正体を取り戻す


80 : 殺人マシン&殺人鬼 ◆7PJBZrstcc :2017/05/14(日) 19:47:28 YtILlcjc0
【マスター】
六星竜一@金田一少年の事件簿 異人館村殺人事件

【マスターとしての願い】
手に入れてから考える

【weapon】
なし。

【能力・技能】
・殺人術
銃殺や絞殺、それにナイフでの刺殺などの様々な殺人術。

・格闘術
警官二人を圧倒できるほどの格闘術。

・演技力
1年近い間本性を隠し、冴えない教師を演じ続ける演技力。

【人物背景】
両親を殺され、更に自身も焼き殺されそうになった母親の復讐の為に殺人マシーンとして育てられた男。

性格は残忍で狡猾。人殺しをハエやゴキブリを殺すのと同じと言い、目的の為なら関係のない人間ですら容赦なく殺す。
その一方で、復讐のために近づき恋人となった少女を後に本当に愛してしまったり、その恋人を殺す際には涙を流すなどまるで心のない人間という訳ではない一面も見せる。
参戦時期は異人館村殺人事件開始前

【方針】
元の世界に帰るために勝ち残る。


81 : ◆7PJBZrstcc :2017/05/14(日) 19:47:58 YtILlcjc0
投下終了です


82 : ◆nY83NDm51E :2017/05/15(月) 00:46:07 XccicCk60
投下します。


83 : 海底聖杯アンチョビー ◆nY83NDm51E :2017/05/15(月) 00:48:08 XccicCk60

「ううっ、なんでこんなことに……」

夜。冬木市の人けのない海岸で、制服を着た金髪の少年が膝を抱えて黄昏れていた。
目の前には、昏い海。彼にとっては、故郷のようなものだ。

「はー、せっかくいろんなゴタゴタに片がついて、よーやく普通の生活が戻ってきたとゆーのに……」
 すぺぺぺぺぺっ、なーにが聖杯戦争じゃっ。オレは暴力はキライなんじゃい、戦争は米軍とかに任せとけいっ」

目の幅の涙を流しながら、少年は無責任に愚痴をこぼしまくる。
整った顔立ち、と言えなくもないが、美形というほど美形でもなく、ごくフツーのアホそうなミドルティーンである。
哀れ、彼は望まずして、この聖杯戦争の場に招かれてしまったのだ。元の世界、日常への生還が、彼にとっては第一の目的となろう。
しかし、彼はただの少年ではない。常人ならざる能力を持ち、数奇な運命と数々の苦難を乗り越えてきた男なのだ。

彼は涙を拭うと、ズボンのポケットに手をつっこみ、握りこぶし大の丸い金属塊を取り出した。
楕円形のフォルム。人工的なデザインで、中心にレンズのような部分がある。

「うむ、幸い手元に武器はあるっ。こいつとサーヴァントで参加者をブチのめして、聖杯をゲットして退散じゃっ」

『……王子よ、これはどういう状況だ? 詳しく話してくれ。地磁気による位置情報の把握もうまくいかん。
 またぞろどこかに拉致されて、強制労働でも課されているのか?』

不思議にも、金属塊は言葉を発した。なんらかの情報デバイスのようだ。

「じゃっかましいっ、またご主人様の股間に挟まれたいかっ。
 だいたいアンチョビー王国は皇帝自ら滅亡宣言したし、オレはもう王子じゃないぞっ。圭様とでも呼ぶがよい、『オリハリセン』」

『では圭よ、頼むから詳しく話してくれ。王子でなくとも、私は古代文明の守護者として、その末裔たるキミを守らねばならん。
 確か今、聖杯戦争と言ったな? 殺し合いに巻き込まれているというのか?』

「むー、めんどくせえが、まあ説明しとくか。こいつにも記憶植え付けとかしてほしかったなあ……」

少年……新巻圭(あらまき・けい)は、自分に植え付けられた聖杯戦争の知識を、覚えている限りで手元の金属塊に伝えていく。
これこそは、古代アトランティス文明より伝わる神秘の遺産、思考金属「オリハルコン」。
今は圭の命令により、武器化する時はハリセンの姿で固定されてしまい、「オリハリセン」と呼ばれてしまっている。
とはいえ、理性も知性も知識でも、圭には及びもつかぬ存在だ。単体では無力な圭をサポートする、強力な味方なのだ。
少なくとも、主人よりキャラが濃ゆすぎるあの変態家来、スモークよりは。




84 : 海底聖杯アンチョビー ◆nY83NDm51E :2017/05/15(月) 00:50:09 XccicCk60

圭からの説明を聞き終え、オリハルコンは深刻な声で状況を整理した。

『…………だいたい把握した。とんでもないことに巻き込まれてしまったようだな。万能の願望器を巡って行われる殺し合いとは……』

「勝ち残れば、何でも願いが叶うっつってもなあ。オレにそんな大それた願いとかねーぞ。
 海底王国はホンダワラの連中が継いだようなもんだし、妹も母親も戻ってきて、さー普通の生活はこれからだ、って時に呼ばなくってもよぉ。
 なんでオレは、こういう不幸の星の下に生まれついてるの? 教えて手塚治虫先生」

『今は、生き残ることを最優先に考えよう。同じように生還だけを望む強制的な参加者や、殺人をよしとしない者もいるはず。
 そうした人々と協力した方が、精神的にも安全だし、生き残る確率も上がるだろう。……それともまさか、殺しまくって勝ち残る気か?』

オリハルコンの問いに、圭は顎に手をあてて考え込む。いろいろあったが、良くも悪くもメンタリティは平凡な少年なのだ。
当然死にたくないし、なるべく殺しはしたくない。とはいえ、実際に手を下すのは自分ではない。サーヴァントだ。言うてはなんだが、責任負担は軽い。

「それはまあ、サーヴァント次第だな。そいつがどう出るかによって、オレの方針も変わってくる、かもしれん」
『ちったあ主体性を持つがいい。……が、確かにそうだ。とにかくサーヴァントを呼んでみよう』

平和ボケしたすちゃらかアホぼんの圭は、染まりやすい白糸のように主体性に乏しい。緊張感も計画性もさほどない。
善良なサーヴァントなら良い。邪悪なサーヴァントなら、オリハルコンがどうにか交渉し、圭の身の安全だけは確保する。
このような戦場に放り込まれた以上、生還するには、いずれ誰かを殺さねばならない。非情な決断が必要となる。
決断を下すのは圭であっても、なるべく良い方向に導くのはオリハルコンの仕事であろう。

「……っつーか、『ここに呼び出された時点』でサーヴァントが呼ばれるんじゃろ? さっきから捜しとるんだが……」
『見当たらないのか。が、いないわけはない。マスターはキミだ。呼んでみれば出てくるだろう』
「よーし、海に向かって呼んでくれるっ。おーーーい、サーヴァントやーーーーい」

圭の呼びかけに答えるように、海面がボコボコと泡立つ。水底に赤い光が現れ、見る間に大きくなり、輝きを増す。

「おお、来た来た来た来た! わーっはーっはははははーっ、いでませい我がサーヴァント!!」

海面が揺れ動き、巨大な水柱がそそり立つ! 高笑いする圭の前に現れた姿は――――


85 : 海底聖杯アンチョビー ◆nY83NDm51E :2017/05/15(月) 00:52:16 XccicCk60

――――圭とオリハルコンを、恐怖と絶望に陥れた。


「お゛わ゛ああああああああああああああああああ!!!!??」


見上げるような巨体。だらりと伸びた両腕は地面に届くほど長く、上半身は大柄な人間のようで、腰から下は馬の胴体。
陸を踏みしめるは四本の脚。前足の周りに肉厚の鰭。不釣り合いに巨大な頭は、肩の上をぐらぐらと揺れ動く。
乱杭歯の並ぶ口はクジラのように大きく裂け、鼻面はブタのようで、大きな一つ目は燃えさかる石炭のように赤く輝く。

もっともおぞましい特徴は、全身の皮膚がないことだった。赤い筋肉と白い腱が、脈打つように動いている。
その表面には黄色い血管が走り、どす黒い血液が流れている。完全にバケモノだ。


「■■■■■■■■■■■■」


怪物は、蒸気を吐き出しながら雷鳴のような唸り声をあげた。意思の疎通は、不可能と見てよい。最悪だ。

『圭! こいつから離れろ!』
「あっ、あかん、こら絶対あかんやつじゃ、召喚者が殺される系のアレじゃ、タイラ■トとかそうゆうの」

間近で遭遇した圭は、恐怖のあまり腰を抜かしてしまった。
涙目で顔面蒼白になりながらも、顔の前にオリハルコンを振りかざしてハリセンモードにし、威嚇する。

「や、やめっ、近寄るなバケモン!!オリハルコンビームを喰らいたいかっっこらっ」

オリハルコンのレンズ部分からは、念じるだけで結構な破壊力のビームが出る。しかし、その威力は精神力に左右されてしまう。
もともと精神力が強くもない上、恐慌状態の圭では、この怪物を撃退できるかどうか……。

『……いや待て、こいつが圭のサーヴァントなら、私がビームでぶっ飛ばしたらいかんのではないか? 一か八か、交渉してみろ』
「あほーっ、こんなバケモンに話が通じるかっ!さっきから唸り声しかあげとらんじゃないかっ!
 さっさとビームでクーリングオフして、もーいっぺんマトモなサーヴァントをだな……」


「■■■■■■■■■■■■」


ギャーギャーと言い争う圭とオリハルコンを前に、怪物は再び唸り声をあげると――――
上半身を捻って背後を振り返り、もと来た場所、海を片手で指差した。


86 : 海底聖杯アンチョビー ◆nY83NDm51E :2017/05/15(月) 00:54:14 XccicCk60

『海……?』

問答無用で襲い掛かってくることはなさそうだ。オリハルコンは状況判断し、交渉の余地ありと見た。

『圭、どーやら何か言いたそうだ。海から出現し、海を指差したということは、我々と関係があるのかもしれんぞ』

圭はそれを聞き、恐慌状態からなんとか立ち直る。いきなり殺されずには済んだ。
話が通じるかどうかはともかく、やってみるしかなさそうだ。圭は怪物に開いた両掌を見せる。

「そ、そーか、お前も海と関わりがあるんかっ。奇遇じゃのー、わし海底人類なんよ。ほれ、エラと水かき」

圭の首元に鰓孔が開き、手の指の間に水かきが生える。彼は古代アトランティス人の末裔、海底王国アンチョビーの王子なのだ。
ついでに、手の甲に刻まれた令呪を怪物に見せる。マスターであることの証だ。


「■■■■■■■■■■■■」


それを見て、怪物はグルグルと喉を鳴らすと、圭に向かって頭を俯けた。
驚くべし、挨拶をしたのだ。仲間、同類、そしてマスターと認めた、ということらしい。

「な、なんとかコミュニケーションがとれておるよーじゃのー。うん、見た目はグロいが、案外マトモなのか?」

言葉は話せずとも、人間でなくとも、意思疎通はできる。圭は安堵し、汗を拭った。
意外に友好的な態度に、圭とオリハルコンの警戒は解け始める。味方として見れば頼もしい、かも知れない。
圭はオリハリセンをもとの球状に戻し、目の前の怪物に話しかけてみる。

「しっかしお前、なんでそんな格好しとんじゃ。ゾンビなのか?」

圭の問いに、サーヴァントはぐりんぐりんと首を揺り動かし、低く呻いた。

「■■■■■■■■■■■■」

「わからん、とな。生まれつきそんな格好なのか。難儀じゃのう」
『なんだ、会話が出来るのか?』
「軽い念話と、ボディランゲージを交えてな。オレは一応こいつのマスターだから、それぐらいは出来るってことだろ」

オリハルコンは、再び状況を整理する。一時はどーなることかと思ったが、このサーヴァントは意外にも従順だ。
しかしながら、このような姿のサーヴァントを他者が見れば、邪悪な討伐対象と見てしまうだろう。仲間を集め協力するという方向は難しそうだ。
かわいそうだが、聖杯戦争に巻き込まれた無力な人々を救う余裕は、我々にはない。サーヴァントの能力次第ではあるが……。


87 : 海底聖杯アンチョビー ◆nY83NDm51E :2017/05/15(月) 00:56:12 XccicCk60

『では圭よ、こいつが何者で、何が出来るか聞いてみてくれ。何か凄い能力があるかもしれん』
「おう。よーし、まずはクラスと真名だな。オレは新巻圭、こいつはオリハリセンだ。そっちも名乗ってくれ」
『私はオリハルコンだ! せめてこの姿の時は、オリハリセンと呼ばんでくれっ』

だが、サーヴァントの答えを待つ圭の頭に、凄まじい思念が流れ込んできた。


(((イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ)))


皮膚のないこの怪物は、常に全身を『痛み』に苛まれている。これが彼(?)を狂わせているのだ。
こちらの感覚まで苛むほどの思念に、圭は激しい頭痛を覚え、念話を遮断する。

「うぐっ……あかん、深入りしたら精神をやられるっ。難しい会話は無理っぽいぞ」
『やはり、しょせんは怪物か。他者との共闘ルートはなさそうだな。残念だが』

圭とオリハルコンは、再びサーヴァントへの警戒を強める。見た目通り、マトモな存在ではないらしい。

「それでもなんとか、二つだけ伝わった。クラスは『バーサーカー(狂戦士)』、真名は『ナックラヴィー』だとよ。
 オレは知らんが、なんか知らんか、オリハリセ……オリハルコン」
『聞いたことがある。確か、イギリスの北の海に棲むという危険な妖怪だ。伝説上の存在のはずだが』
「そらまあ、パッと見でも妖怪だよな。海と縁があるとは言え、なんでそんなもんがオレのサーヴァントになったのかのう。
 だが、友好関係を築いておくにしくはなし。フレンドリーに『ナッちゃん』とでも呼んでやろう」

ともあれ、クラスと真名が判明したことで、圭はこいつのステータスを確認可能となった。データをオリハルコンに口頭で伝え、共有する。
戦闘力はまずまず。能力は狂化、異形、魔眼、疫病の息と、物騒なものばかりだ。災害に等しいこいつが街中で戦えば、凄惨な光景が広がるだろう。
では、こいつをどう使うか。バーサーカーは魔力消費が激しく、魔術師でもない圭には長時間の実体化維持は難しいが、
幸いにも海中にいれば、自前で魔力を補えるらしい。となると、この場合の最善手は……。

オリハルコンと圭は、同時に結論を下す。

『やはり、アレしかなかろう』
「だな」

圭はオリハルコンを持ちバーサーカーを連れて、ざぶざぶと海へ入っていく。

『主従ともに、海底に隠れ潜む。それが一番の安全策だ』
「そうそう。わざわざ陸上にとどまって、殺し殺されるこたあないわい。他人がどーなろうと知った事かっ」
「■■■■■■■■■■■■」

彼らにとって、海こそが故郷かつ巨大な要塞。こーして、誰にも知られぬ籠城戦が幕を開けたのであった。


88 : 海底聖杯アンチョビー ◆nY83NDm51E :2017/05/15(月) 00:58:14 XccicCk60

【クラス】
バーサーカー

【真名】
ナックラヴィー@オークニー諸島の民話

【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具B

【属性】
混沌・狂

【クラス別スキル】
狂化:B
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。

【保有スキル】
異形:A
吐き気を催す醜悪な異形。初めて出会った者を恐怖させ、その後も近づくたびに威圧の精神干渉を与える。

魔眼:C
恐慌の魔眼を所有。目を合わせた対象に恐怖を吹き込み、捕捉判定にペナルティを与える。この効果は目を合わせる度に発動し、最終的に対象は発狂する。
対魔力で抵抗可能。フォモールとの類縁関係が疑われるため、バロール並みとはいかぬまでも魔眼の力を持つ。異形との合わせ技で威力が高まる。

水棲:B
水中への適応能力。海の中にいる間、全てのパラメーターがワンランクアップする。
ただし淡水を体に浴びるとダメージを受ける(苦しむだけで、滅びはしない)。マスターが海底人類であるため、ともに海中に潜れる。

精神汚染:A
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。
もともと獣並みの知性しかなく、言葉も話さないので会話はほぼ不可能。皮膚がないので常に痛みを感じており、周囲の生命を憎悪している。
マスターとだけ、念話とボディランゲージを交えることにより、多少の意思疎通が可能である。その精神に深入りしてはならない。


89 : 海底聖杯アンチョビー ◆nY83NDm51E :2017/05/15(月) 01:00:19 XccicCk60

【宝具】
『死の鎖(モータシーン)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:1000

Mortasheen,Mortercheyn。バーサーカーの大きな口から放射される、熱い蒸気のような有毒の吐息。超常的な疫病を周囲に撒き散らす。
現代医学では「鼻疽(びそ、glanders)」と診断される人獣共通感染症に類似するが、魔力を含む呪いであるため通常の医術では治療できない。
発熱、頭痛を初期症状として呼吸器系を冒し、膿胸や肺炎を引き起こす。やがて皮膚や筋肉、臓器に膿瘍が広がり、敗血症性ショックで死に至る。
飛沫・経口で連鎖的に感染し、バーサーカーに近づくほど症状は悪化する。幸いにもマスターだけは標的から外すことができる。
サーヴァントは対魔力でどうにかなるが、マスターが罹患すると極めて危険。人間よりも動物の方が罹患し易い。植物がこの吐息を浴びると枯れてしまう。

『海の底でうたう唄(ロッホラン・フォモール)』
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:100

バーサーカーが海中にいる時に展開できる固有結界。様々な魚や海獣が悠々と泳ぎ回る深い海そのもの。
飲み込まれた者は強い水流で暗黒の深海に引きずり込まれ、水中で呼吸でも出来ない限り溺死する。
奥底にはかつてブリテン諸島から追放された異形の巨人族フォモールどもが棲み、犠牲者に襲いかかって貪り食らう。
また、この宝具は海水から少しずつ魔力を吸い上げてバーサーカーのエネルギーとすることができ、魔力に乏しいマスターでも現界を維持できる。
逆に言えば、陸上での現界を長時間維持することは困難。定期的に海中に入る必要があるため、海の近くから離れられない。

【Weapon】
長い腕で敵を掴んだり薙ぎ払ったりし、馬の脚で蹴りや踏みつけを放つ。噛みつきや頭突き、体当たりも強烈。口からは疫病の息を吐くため近づくのも危険。
体液は黒いタールのようで、体に触れると粘りついて離さず、そのまま海中へ潜って固有結界を展開、溺死させる。

【怪物背景】
スコットランドの北に浮かぶオークニー諸島の民話に登場する怪物。「フーア」と呼ばれる水妖の一種で、海中に棲む。
海から上陸して人畜を殺害し、口から毒の息を吐いて作物を枯らしてしまう。弱点は真水で、流れる川を渡ることができず、体に真水をかけられると悶え苦しむ。
また海藻(ケルプ)を焼いた煙の臭いも嫌うが、これを嗅ぐと激しく怒り、恐ろしい疫病(モータシーン)をばら撒くという。
(近世のオークニー諸島では、石鹸やガラス製造用の炭酸ナトリウムを抽出するため、海藻を焼くことが基幹産業だった)

ケルピーやノッグル、タンギー、アッハ・イーシュカといった、ブリテン諸島に伝わる水棲妖馬のバリエーションと思われる。
またアイルランド神話に登場し、海や疫病と関係のあるフォモール族の一派ではないかともいうが定かではない。
ほぼ原典通りの姿と能力であるため、知識がある者には真名看破されやすい。女体化すると皮膚を剥いだ空母ヲ級か海底要塞モリアワセっぽくなりそう。

【サーヴァントとしての願い】
不明。現状を把握しているかどうかも分からない。

【方針】
マスターとともに海底に潜み、魔力を蓄えつつ地上の参加者がほぼ全滅するまでのんびり待つ。襲撃者は迎撃する。
しかし怪物としてのアイデンティティ上、時々陸にあがって人畜に被害を与えたくもある。

【カードの星座】
射手座。


90 : 海底聖杯アンチョビー ◆nY83NDm51E :2017/05/15(月) 01:02:18 XccicCk60

【マスター】
新巻圭@海底人類アンチョビー

【weapon】
『オリハルコン』
古代アトランティス文明の遺産である思考金属。握りこぶし大の球状金属塊で、レンズ状の部分を持つ。
高い知性と理性、会話能力を有し、地磁気を感知することで地球上の位置を探ることもできる。性格はマトモなので不遇。
アンチョビー王国に代々受け継がれ、所持者の意志によって最強の武器に代わるが、武器の形状は一世一代で変更は効かない。
圭は金属バットに変えようとしたが却下され、「暴力はキライだがどつき漫才は大好き」という理由でハリセンにし、「オリハリセン」と命名した。
そのツッコミは校舎を半壊させ、人間を空高く吹っ飛ばすほどの威力を持つ。普段は球状に戻せ、所持者が命令するとハリセン化する。
また、レンズ状の部分からは「オリハルコンビーム」を放つ。威力は精神力次第だが、近所のおっさんでも発射でき、自動車や家屋を破壊可能。
作中最強のアンチョビー皇帝が所持した場合、最大で数百メートルの射程があり、乱射すれば海底帝国も壊滅する。なおレンズの向きを間違えて発射すると自滅する。
ギャグ漫画の産物であるためか、ダメージは与えても人を直接殺すことはないが、気絶させて無力化することは充分に可能。サーヴァントは対魔力で防げる。

【能力・技能】
『海底人類』
遺伝子改造により海底生活に適応した古代人の末裔。指の間に水かきがあり、首にはエラがあって、肺呼吸とエラ呼吸を切り替えることが出来る。
水中で自在に行動でき、水圧等の影響も受けずにすむ。ただし陸上生活が長かったため泳ぎはもともと得意でなく、特訓により習得している。
水かきとエラは収納できるので、普段は地上の一般人に溶け込むことが出来る。地上人との繁殖も可能。その他の身体能力はそれなり。

『耐毒体質』
部下により毒殺対策のため食事に少しずつ毒を入れられていたので、フグ毒などの猛毒が全く効かない。

【人物背景】
安永航一郎『海底人類アンチョビー』の(一応)主人公。福岡市海仙中学3年生の15歳。ややアホそうで影が薄い金髪の少年。
実はアトランティスの流れを汲み2万年の歴史を誇った海底王国アンチョビー最後の王子(624代目)であり、勝手につけられた本名はアマジオ・サーモン・ケイ。
通称「バカ王子」。実際バカかつアホで無責任なお調子者だが、周囲の人々より多少は倫理観があり、少しはマトモな性格のツッコミ役。
ある朝いきなり自分が海底人類であることが判明し、父親から「お前はうちの子ではない、海底王国の王子だ」と宣告される。
直後にアホな民族衣装を着せられて家を追い出され、それを見たガールフレンドには振られ、部下からは王国滅亡を告げられ、盗んだ養殖魚を貪り食う無宿生活に陥る。
さらに育ての親が実の親だったり、敵国に拉致されて奴隷になったり、結婚させられそうになった敵の幹部が実の妹だったり、敵の機動要塞が上陸したりいろんな目に遭う。
結局圭自身は大して活躍せぬまま、彼を囮とした周囲の活躍で事態は解決し、王国は滅亡したが平和な日常と家族を取り戻したのであった。つるかめつるかめ。

【マスターとしての願い】
生きて帰りたい。生還以外にオプションがつくなら、まあ何か考える。

【方針】
サーヴァント&オリハルコンとともに海底に潜み、地上の参加者がほぼ全滅するまでのんびり待つ。ノンポリ日和見PKO。
食糧は魚介類を捕まえて食えばよい。誰かが海底まで攻め込んで来たら、サーヴァントとオリハルコンビームで無慈悲に応戦し海の藻屑にする。
ルーラーになんか言われたら、海からのヒットアンドアウェイで疫病をばら撒きつつ、オリハルコンビームでの芋砂作戦に切り替える。正面切って戦うなど愚の骨頂。


91 : ◆nY83NDm51E :2017/05/15(月) 01:04:09 XccicCk60
投下終了です。


92 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/15(月) 18:52:20 215NVNR20
皆さま投下乙です。私も投下させていだたきます。


93 : わらう者とわらわぬ者 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/15(月) 18:53:16 215NVNR20



冬木市。
当然ながらある程度の人口を誇るここには、相応の施設にも恵まれている。
教育施設、図書館、消防署、警察署。老人ホームまで。
故に『孤児院』も存在していた。
親なき子らが各々の思いで行動する最中、一人の子供が施設内を探索するようにウロついていた。
その子供が、ごく最近に身元を施設に引き取られた為、初めての孤児院内に興味があるのかもしれない。
羽がついた帽子を被り、探検家のようなリュックサックを背負って。
首を傾げて唸る子供に院長が声をかけた。


「■■■ちゃん? 一体なにをしているんだい?」

「調べたい事があるんです。それが分かる本を探していたんです」


調べもの。
なんて口にするには少々不釣り合いな年代の子供だ。
違和感を覚えつつ、院長は「そうだったんだね」と納得する。


「だけど、■■■ちゃん。ここは私の部屋だから、入っちゃ駄目だよ?」

「あ、ごめんなさい! 忘れてました」

「いいよいいよ。来たばっかりだし、仕方ないさ」


反省した様子の子供だったが、おずおずと院長に言う。


「あの……院長さん。僕、図書館に行きたいです。図書館がどこにあるかご存じですか?」

「ええ? 図書館??」

「はい。分からないことは図書館に行けば分かる筈です」


確かにそうなのだが。
子供からすれば、図書館は絵本などが置かれている場所と認識する方が正しくて。
逆に、調べものの為に図書館へ足を運びたい発言が、果たして口に出来るのだろうか?
院長は驚きつつ。子供に伝えた。


「■■■ちゃんは中々面白い子だ。図書館は、今度みんなで一緒に行こうか」

「いつ頃になりますか? なるべく早く知りたい事があるんです」

「そうかい? じゃあ私が調べておいてあげるから、何を調べたいか教えてくれるかい?」

「織田信長です」

「………お、……なんだって?」


あまりのことに院長が聞き返す。
子供は純粋な瞳で「はい」と頷いた。


「織田信長です。昔、そのような方が日本に居たらしいんですけど………」


日本人の知識において織田信長を存じない者はおるまい。
しかし、それを子供が積極的に調べたいとは奇妙な。
逆に院長でも、歴史上の人物の簡易的な情報程度は持ち合わせていたので、子供に教える事ができた。
子供は非常に感謝する一方で。
院長は、その子供を非常に変わっていると思う。
最後に子供が願う。


「院長さん。僕の事は『かばん』と呼んで下さい」

「うーん……それは■■■ちゃんの渾名、なのかい?」

「いえ。名前です。僕の本当の名前です」


全く以ておかしな事を言う不思議な子供だと院長は溜息つく。
勿論『かばん』なんて名前は、ありえないだろう。
大体それは『物』の名称じゃないか。戸籍上では子供の名前は■■■となっていた。






94 : わらう者とわらわぬ者 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/15(月) 18:53:43 215NVNR20


「ここがヒトの住んでいる世界、なんですね」


深い感動を感じる子供――かばんは、夜に一人。目を覚まして夜の景色を窓から覗く。
先ほども申した通り。
『かばん』は紛れもない子供の本名なのだが、現代社会でキラキラネームとも言い難い。
不自然な名前で呼ばれる事は無い。
冬木市で、かばんは『■■■■■■』なる別名が与えられていた。
孤児院内の友達からは、院長が誤解したように『かばん』は渾名扱いされているが、呼んではくれていた。

ここはジャパリパークとは別世界だ。
自然が少ない。真新しい建造物が数多く立ち。川のように輝いた星空は、街明かりのせいで
かばんの知る夜空よりも輝きが薄まっている現状だ。


『少しは馴れたかね。マスターよ』

「キャスターさん」


威厳のある、不穏を醸しだす男が突如として出現する。
彼は時代に似合わない日本刀と火縄銃を腰に下げ、堂々たる様子だ。
一方で、かばんの方は全く動揺しない。


「はい、お陰さまで。ジャパリパークとはまるで違って、色々驚いたところはありましたけど――」

「ふむ。しかし……何か思う事はないかね」

「えっと……例えば?」

「私に関しては。この第六天魔王たる織田信長に疑念を抱かぬと?」


試す様にかばんへ問い詰めるキャスターのサーヴァント。
否、彼が語る通り。
戦国大名を代表する人物。織田信長。魔王たる彼の素性を把握した。
マスターたるかばんは、不思議にも平静に答えた。


「キャスターさんはキャスターさんなりに国を想って、行動したのだと僕は思ってます」


穢れなく即答したかばんの様子に、キャスターは不敵に笑いを零す。
キャスターの笑いが理解出来ず、かばんが困惑とするのは普通の反応だった。
かばんは疑念もない。純粋に語っている。
だからこそ、奇怪でキャスターは笑うのだ。
「でも」とかばんは一つ漏らした。


「キャスターさんは凄いサーヴァントだと分かりました。
 だけど……正直、僕はお役に立てないと思います。キャスターさんから聞いた通りなら
 僕自身。サーヴァントに太刀打ちできるか……」


95 : わらう者とわらわぬ者 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/15(月) 18:54:06 215NVNR20
普通のこと。
むしろ、マスターがサーヴァントを倒そうものは現実的に低確率でしかありえない話だ。
よっぽど恵まれた力や状況がなくては。
かばんも、最低限出来る事は尽くしたいと考えているが。
実際、役立てるかは怪しい。
対してキャスターが凛々しく答えた。


「何。私はお前に可能性を感じ、召喚に応じたまで。もう少し胸を張るがいい」

「僕に………?」

「ああ。お前が『ヒト』だからこそだ。お前が『ヒトのフレンズ』とやらであれば、
 つまり『ヒト』の鑑なのだ。私は聖杯戦争を通して、お前の行く末を見届けようと思う」

「え、ええと」


想像以上の期待を耳にし、流石のかばんも動揺を隠せなかったが。
キャスターは悠々と語り続ける。


「マスター、聖杯に願う事も一つや二つあるだろう」

「その……僕はジャパリパークに、皆の所に帰りたいです」

「帰還など然したる問題ではあるまい。聖杯戦争が終われば戻れるだろう。
 平和を願うのはどうかね。ジャパリパークと呼ばれる世界に絶対の保証はなかろう」


少し悩むかばんだったが、どこか威圧感の隠せないキャスターに返事をした。


「心配して下さってありがとうございます。キャスターさん。でも、ジャパリパークは大丈夫だと思います」

「ほう。何故断言できる?」

「みんなが力を合わせれば、どんな事も乗り越えられる筈です」

「ふふふ………ははは!」


愉快に嗤うキャスターに、かばんは不思議さを抱く。
あまりにも笑うものだから自分は、変な、可笑しな発言でもしてしまったのだろうか。
と、妙な不信感を覚えてしまった。
ようやっと笑い堪えつつ、キャスターが言う。


「まだ時間はある。聖杯に何を願うか、よく考えるのだな」

「え? あ、はい。わかりました」






笑う、笑う。
わらうわらう、嗤う嗤う。
これを『嘲笑』せずにして何が『混沌』か。
無知なマスターの影で、マスターを嘲笑する『混沌』が人知れず語る。


「あれは子供かな?」

「いや。子供だろうよ」

「大人であれば、逆に腹立つ部類だな」

「いいや。大人でも、ああいう人間は居なくないがね」

「だからこそ、この聖杯戦争には不釣り合いじゃないか。あのマスターは」

「ははは。どう罵倒され、どう否定されるか。楽しみだよ」

「しかし、私も全て嘘ではないさ」

「あの『人間』がどのような末路に堕ちるか」

「私も三流映画であれ、エンドロールまで席は立たんさ」


彼の正体は、まだ誰も知らない。


96 : わらう者とわらわぬ者 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/15(月) 18:55:19 215NVNR20

【クラス】キャスター
【真名】織田信長/■■■■■■■■@史実?


【ステータス】
筋力:C 耐久:C 敏捷:D 魔力:B 幸運:D 宝具:C

【属性】
混沌・悪


【クラススキル】
陣地作成:EX
 自らに有利な陣地を作り上げる。
 瞬時に地獄を再現し、それを基盤に魔物(と偽る神格)を召喚する。

道具作成:D
 魔力の帯びた器具を作成できる。
 彼は織田信長として、刀や火縄銃など限られた武器した作成できない。


【保有スキル】
神性:A
 ■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

スケープゴート:B
 あらゆる戦況を生き抜く姑息な手段。
 自分以外の存在にターゲットを集中させる。

無貌の殻:EX
 白痴の神より生まれし混沌。
 精神干渉系の全てをシャットアウトにし、逆に高度の精神干渉を施す術を持つ。
 名状しがたいカリスマに似た魅力を感じつつも、どこか信用できない。
 直感を持つサーヴァントは、確信のある疑心を彼に抱くだろう。
 彼の肉体が裂かれた時。彼の正体が明らかとなる。


【宝具】
『第六天地獄邪神領域』
ランク:C 種別:対陣宝具 レンジ:10〜500 最大捕捉:500人
 人々が歪めたイメージにより基づかれた魔王たる織田信長が再現する地獄。
 誰の中にもある混沌と恐怖を糧に、罪人が罰を受ける地獄。
 そこを徘徊する鬼や魔物。これは固有結界とは異なる大魔術に過ぎない。
 ……というのも、これはキャスターが「それっぽく再現した神秘」である。
 現に宝具発動で召喚されるのは彼がよく召喚する種族。その手の知識があるものはこの宝具に違和感を覚える。


【weapon】
『圧切長谷部』……なんか最近自棄に知名度が上がったから道具作成で作ったレプリカ。


【人物背景】
彼の第六天魔王の名を騙った戦国武将・織田信長、ではない。
クトゥルフ神話においてトリックスターであり、暗躍する代表神・ニャルラトホテプ。
這い寄る混沌、無貌の神。

『第六天』に生まれた者は他人の楽しみを自由に奪い、自らの物にする。
その異名は彼?にこそ相応しいだろう。
今回は冬木という日本だから、日本の英霊に化け現れた単なるノリ。深い理由は無い。
人間を騙っている場合、彼が直接手を下す、自ら正体を明かすのはよっぽどがなければしない。
表面上、普通に友好的に接してくるだろう。



【特徴】
良くも悪くも現代の人々が美化した中年の男性の『織田信長』の風貌をした姿。
その中身は語るまでも無い。


【聖杯にかける願い】
???




【マスター】
かばん@けものフレンズ


【weapon】
特になし。
身体能力は平凡。発想力や知識をちゃんと兼ね備えている。
いわゆる、どこにでも居そうな、鑑のような『人間』。


【人物背景】
当初は記憶喪失で当ても無く彷徨っていた『ヒト』。
様々な仲間と出会い。
最終的に自らの正体を突き止め、危機を乗り越えた。
参戦時期は最終回で旅立つ前の頃。

現在、近頃孤児院に引き取られた子供という役割を持つ。
戸籍上では別名を与えられている。


【聖杯にかける願い】
元居た世界への帰還。
聖杯についてはどうすればいいか分からないが、よっぽどの事じゃない限り戦闘も避けたい。


97 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/15(月) 18:56:05 215NVNR20
投下終了します


98 : ◆z1xMaBakRA :2017/05/15(月) 23:44:36 HRvQGl3A0
投下します


99 : 欲を持てあます ◆z1xMaBakRA :2017/05/15(月) 23:45:14 HRvQGl3A0
 駄目か、と彼は思った。

 ここで死ぬか、と諦めもついた。

 崩れゆく神殿から、心臓が本当に張り裂けそうな程必死に走り、虚無に呑まれる事から男は逃げる。
あと一歩の所で、足場が崩落する。足が地に付くと言う安心感が、彼から一切奪われ、彼は、空中に投げ出された。
虚無の暗黒は、大口を開けて彼を呑まんと待ち受けている。

 死にたくない。男はどこにでもいる有り触れた一つの命。そう思わない筈がない。
死ぬ事は確かに怖いのだが、何故か、自分の身体に恐怖の念が芽吹いていない事を彼は感じていた。
ここまで頑張って、敵も大層頑張ったんだ。仕方がないさ、と諦めているのかもしれない。それじゃ駄目だと、心の片隅で彼は思った。

 生きたい。そんな、当たり前の感覚に従い、彼は、手を伸ばした。
――『藤丸立香』の手は、数多の特異点を巡る戦いで、常に立香の傍で彼を護る盾となっていた後輩の手ではなく。
十二の星座を、その手でしっかりと掴んでいた。それはまるで、彼の所属していた組織が意味する所を、暗示しているかのようで――――


100 : 欲を持てあます ◆z1xMaBakRA :2017/05/15(月) 23:45:34 HRvQGl3A0
      


 つくづく、悪運だけは強いらしいと、立香は思った。
両手。ちゃんとある。腕。勿論繋がっている。脚。足踏みして見ても異常はない。胴体。あれだけ全力疾走した後なのに、嘘の如く体調が良い。
そう、自分は生きている!! 立香はその事を、肌で実感する。深呼吸を以って確信する。胸に手を当て、鼓動を刻む心臓のリズムを感じて体感する。
比喩抜きで、命が幾つあっても、身体が何十個とあっても足りない程厳しかったあの死闘を、立香は生き延びる事が出来たのである。これを、埒外の幸運と呼ばずして、何と呼ぼう。

 だが、立香の幸運は、時間神殿から生き延びられた、と言うこの時点で既に使い果たされてしまったようである。
頂点まで行けば、後は下がるのみ。立香の場合はそれを、ジェットコースターを地で行く様な速度で体現してしまった。
――『聖杯戦争』。それが、今立香の回りを取り巻く状況である。知らない言葉ではない。と言うより、立香自身も、無関係の言葉ではない。
今まで彼と、彼が所属するカルデアのスタッフやサーヴァント達が取り組まねばならなかった、グランドオーダーの一件。その全ての基点の一つが、冬木での聖杯戦争であったのだから。

 願いが叶うと言う万能の願望器を求めて、七騎七クラスのサーヴァントを駆使して戦う戦争。概要はそんな所だとは、立香も聞いている。
そして実は、その万能の願望器と言う人参自体が、実は嘘っぱちも良い所で、本当は聖杯なんて現れず、勝者の前に現れるのは一種の『地球破壊爆弾』、
に相当する詐欺同然の代物である事も、カルデアに召喚されたあるサーヴァントの口から明らかにされている。
それに今、立香は巻き込まれている。しかも、『正当な参加者の一人として』、だ。

「はぁ……」

 と、幸せも何も全部逃げ出してしまいそうな程、重苦しい溜息を一つ吐く立香。心労が、如実にこの一息に現れていた。
気が重いとは、この事だ。自分達と、ゲーティアへとつなぐ架け橋となり、バトンを繋いだ多くの英霊達――そして、ロマンとの別れ。
あの、自分の人生が何周分あっても足りない程の壮絶な別れと戦いから間髪入れずに、今度は正真正銘の聖杯戦争である。気が滅入らぬ筈がなかった。
その上、聖杯戦争の行われる場所である。冬木市。知らない場所ではない。と言うより立香自身も、この地を二度も訪れている。
尤も、一度目は火の海と化していて観光どころではなく、二度目は二〇一六年よりも過去の冬木である。今の冬木を直接訪れた訳ではない。
どちらにしても立香は、カルデアにやって来る前までは、足を踏む事すらなかった冬木の町とは、並々ならぬ因縁があるらしかった。

「おう、どうした。我が朋友、我が愛弟子。当世における、我が主(マスター)よ」

 と、夜の冬木大橋を土手の下から眺める立香の、ブルーな態度を見かねてか、古風な語り口の女性が言葉を紡いだ。
その方角に、立香は顔を向ける。果たせるかな、其処には、この冬木において立香の現状唯一の味方とも言うべき存在、つまり、彼のサーヴァントが佇立していた。

 白いワンピースを纏った、後ろ髪を長く伸ばした美女だった。
細身でスレンダーな体型と、そのワンピースとは良くマッチングしており、まるで避暑地にでもやって来たような高貴な女性の様な趣すら、立香は感じ取る事が出来た。
だが、違う。目の前の存在は確かに、その外観だけを見れば、育ちの良さそうな、深窓の令嬢にしか映らないだろう。あらゆる教養を詰め込んだ淑女にも見えるだろう。
伊達に、多くのサーヴァントと繋がった事のある立香ではない。目の前の存在が発散させる空気は、油断を見せれば首が胴体から別たせているような、
危険な存在が放つそれである。それは、メフィストや酒呑童子などと言った、人界においては悪とされ、言葉を交わせばすぐに危険だと解るようなサーヴァントのみが放てる、『悪のオーラ』であった。

「主よ。吾輩を、その様な歴史の浅い者共と一緒にするな。吾輩は、彼奴らよりも遥かに歴史の古い大悪魔ぞ」

 この、見た目麗しい容貌で、一人称が『吾輩』ときた。また、『濃い』サーヴァントらしいと立香は頭を抱えそうになる。
目の前の存在が、自分の心を何故読めるのか、と言う事については余り立香は不思議に思わない。
彼女――セイバーは、無数のスキルを自由に扱う事の出来るサーヴァントなのだ。カルデアにも、そんな存在がいた。皇帝特権を振うサーヴァント達。そして、影の国の女王、スカサハ。目の前のサーヴァントは、彼らと同じ境地にあるのだ。


101 : 欲を持てあます ◆z1xMaBakRA :2017/05/15(月) 23:45:50 HRvQGl3A0
「して、主よ。何が貴様を其処まで憂鬱にさせるのだ。貴様の呼び寄せた悪魔(サーヴァント)は、間違いなく最強の駒であると言うのに」

「その悪魔って所が、かな……。気乗りはしないよ」

 そう、立香が此処まで気分が沈んでいるのは、聖杯戦争に強制参加させられている、と言う事もそうだが、己が手綱を握らねばならないサーヴァントの性質である。
率直に言うと、このサーヴァントは英霊どころか、反英霊にすらカテゴライズされない、規格外の存在である。
後世の風評から、悪魔としての属性を与えられたサーヴァント、メフィスト・フェレスと言う真名の英霊はカルデアにもいるが、目の前のサーヴァントは、本物の魔だ。
普通の聖杯戦争では呼び出される可能性自体が欠片程も存在しない、規格外のサーヴァント。それがどうしてか、藤丸立香のサーヴァントとなっていたのだ。

「何だ、悪魔を御す自信がないか、主よ。フフン、召喚した悪魔が吾輩で良かったな。他の悪魔なら、貴様の弱気を見るや出し抜こうと画策するものだが、吾輩は召喚者の謙虚と正直を好むぞ」

 ククッ、と口の端を吊り上げ、牙を見せ付けるような笑みを浮かべて、セイバーは言葉を続けた。

「吾輩を召喚出来た幸運を泣いて喜ぶが良い。吾輩は、貴様を裏切る事はない。貴様を気に入っているのだぞ? あの人の心のない魔術王、エルサレムの星を滅ぼした貴様をな」

「――黙れ」

 その言葉を受け、立香は怒気を露にした様な表情と態度で、己のセイバーを睨めつけた。
それを受けて、彼に従う悪魔のセイバーは、口の両端を吊り上げた、嗜虐的な笑みを浮かべ、向き直った。
眼球の強膜が深紅色に変色していた。どうやら今のこの状態こそが、セイバーの本性であるらしかった。

「俺に何を言おうが、それは良い。だけど、ロマンの事を馬鹿にすると、許さないぞ」

「許さなかったら、如何なると言うのだ? 我が主よ。その令呪とやらで、吾輩を抹殺して見るか?」

 そう言ってセイバーは、立香の右手に刻まれた令呪に、笑みを浮かべたまま目線を投げ掛ける。

「吾輩には解っているよ、主よ。貴様がどれだけ吾輩を憎もうが、この冬木で吾輩を令呪で自害させると言う行為は、死以外の道が閉ざされると言う事を、他ならぬ貴様自身が理解していると言う事をな。貴様は、中途半端に敏い」

「……ぐっ」

 図星であった。全て、図星だった。
セイバーの言う通り、彼女はこの冬木における、藤丸立香と言う一個の人間にとって唯一の剣なのである。
このセイバーは悪魔ではあるが、自分の命令には従うと言うその言葉に、一切の嘘はない。悪魔でありながら、目の前の存在は義理堅いのである。

 だが、このセイバーが立香は気に喰わない。悪魔にしては話が分かるが、そんな問題じゃない。
このセイバーは、彼にとって触れてはならない所を抉り出した。Dr.ロマン――今までカルデアをサポートしていてくれた、無二の存在。
多くの英霊からヘタレだチキンだと揶揄され続け、自分ですらもそう自虐し続けた男。その実誰よりも、人理焼却と言う二つと例のない大災害について、
本気で取り組み、誰よりも事態の解決に知恵を絞り続け、そして最期の最期で、命を含めた己の全てと引きかえに、立香に道を拓かせた人物。
その人物を小馬鹿にされ、激怒しない筈がなかった。恩人を、自分が殺したと言われて、憤らない筈がなかった。

「この戦いに勝った暁に、吾輩を殺して見せるか? 我が主。あの甘ちゃん王の滅びを見た、この世で一番の幸せ者よ」

「セイバーッ!!」


102 : 欲を持てあます ◆z1xMaBakRA :2017/05/15(月) 23:46:19 HRvQGl3A0
 其処で、立香から十m程距離を取っていたセイバーが、瞬間移動かと見紛う程の速度で、彼に接近。
彼の両頬にそっと両手を当て、蠱惑的な笑みを浮かべる悪魔が、目の前にいた。短剣を思わせる犬歯が、ダイヤのように輝く。
薔薇より赤い彼女の眼球は、見続けていたら、瞳の中に宇宙に吸い込まれてしまいそうだった。誰が見ても美女である筈の目の前の少女は、間近で見てみると、疑いようもない悪魔だった。その事を今、藤丸立香は、思い知った。

「案ずるな、召喚した悪魔と共に過ごすと言う事は、召喚主と、呼ばれた悪魔の騙し合い。破滅の押し付け合いよ。呼び出した人の子に破滅させられたからと言って、それに文句を言う者は悪魔の名折れ。貴様に破滅させられたその暁には、そうさな――」

 吐息が掛かりそうな程の距離で、セイバーは続けた。

「この『アスモデウス』、嗤って貴様の勝利を祝福してやろうぞ。なぁ、我が主。我が担い手。ソロモンを破滅させたように、吾輩にも、他の人物の破局を見せておくれよ」

 笑みを浮かべたまま、悪魔のセイバー、アスモデウスは、色っぽい仕草と声音で、態度で立香を挑発して見せた。
気を強く持ちながら、精いっぱいの強がりを保ちつつ、彼は、目の前の大悪魔を敵意と言う名の槍で貫く。
それが、今の立香に晴れる精一杯の虚勢である事を、この魔王は見抜いていた。

「ああ、お前はやはり面白い。吾輩を呼ぶ貴様の声に応えて、正解だった」

 立香の額に、己の額を当て、密着させた状態で、アスモデウスは口を開く。

「共に地獄に堕ちようぞ。我が虜にしてやろう、藤丸立香」

「いいや、堕ちない」

 クカカ、と嗤いながらアスモデウスは立香から離れた。
聖杯戦争の本開催、その数日前に交わされた、人理修復の立役者と、人類を堕落させる色欲の魔王。その会話の一連の顛末がこれであった。




【クラス】セイバー
【真名】アスモデウス
【出典】悪魔学、ソロモン72柱の伝承、トビト記
【性別】女
【身長・体重】161cm、51kg
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力:B 耐久:C 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:D 宝具:B+++

【クラス別スキル】

対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。

騎乗:A++
騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。このランクになると竜種すら乗りこなせる。
セイバーは地獄のドラゴンに騎乗するドラゴンライダーとしての側面も有しており、その騎乗ランクは最高クラス。

【固有スキル】

乙女の敵:EX
ソロモン72柱の魔神としての枠を飛び超え、大魔王とすら称される程の大悪魔が名を連ねる程メジャーな、七つの大罪・色欲を司る悪魔としてのユニークスキル。
セイバーは女性と対峙した際、筋力と耐久と敏捷のステータスがワンランクアップし、更にこちらから仕掛ける攻撃のダメージが上昇。
そして、此方の使う魅了の魔術の成功率が倍以上に跳ね上がる。ありとあらゆる書物の中で、セイバーは好色な性格の持ち主として書かれ、邪淫や肉欲を何よりも好むと言う。

カリスマ:A+
大軍団を指揮・統率する才能。ここまでくると人望ではなく魔力、呪いの類である。セイバーは地獄に於いて72個もの軍団を指揮する、偉大なる大魔王である。

魔境の叡智:A+
キリスト教圏の悪魔に名を連ねる前は、悪神アンリ・マンユの配下である魔王として、そしてキリスト教圏に入っては大天使ラファエルや洗礼者ヨハネに敵対する、
悪魔の中の悪魔としての深淵たる知識。英雄が独自に所有するものを除いた大抵のスキルをC〜Aランクの習熟度で発揮可能。
だがセイバーの叡智の真価は戦闘などで発揮出来るスキルではなく『知識の分野』に於いて発揮され、伝承に曰くセイバーは天文学や幾何学、数学に力学、
工芸術や地理学、機械学、果ては未来をも見通す千里眼や財宝の在り処を発見する力など、およそ彼に授けられぬ知識など存在しないレベル。これらのスキルに関しては、B〜A++相当の習熟度で発揮させる事が可能。マスターですらも例外ではない。


103 : 欲を持てあます ◆z1xMaBakRA :2017/05/15(月) 23:46:38 HRvQGl3A0
【宝具】

『蠢動剣蟲(シャミール)』
ランク:B+++ 種別:対人・建造宝具 レンジ:1〜3 最大補足:1
セイバーが有する、柄から先が、牙の生え揃った太いミミズの様な虫になっている、剣のような宝具。
この宝具こそが、ソロモン王の居城となる大神殿を築き上げるのに一役かった、世にも珍しい建造用の蟲。
その正体は、セイバーが所持する、剣身がミミズになっているこの剣である。
ミミズは、喰らった土や建造物、樹木に石等を、糞として排泄するのだが、この排泄した糞は、セイバーの望んだ性質を持った物質である。
液体や固形物は勿論の事、気体すらも作成可能で、その気になれば黄金や純銀すらも思いのまま。
また、霊的性質を秘めた物質すらも作成可能であり、対魔力等の性質が付与された金属すらもこの宝具で形成可能。
但し、これらの性質を秘めた物質を産むには、この宝具に物質を食べさせる必要があり、生物ではこの宝具の発動条件を満たさない。
加えて、この宝具は武器としては全くと言ってよい程役立たずであり、直接戦闘にはこれ以上と向かない

【Weapon】

無銘・長剣:
シャミールで創り上げた鋼を、魔境の叡智スキルで己に付与させた道具作成スキルで加工して作り上げた長剣。
セイバーは地獄にあっては『剣の王』とすら称される程剣術に堪能な魔王である。この他に、槍術にも造詣が深い。

【解説】

アスモデウスとは、地獄における有力な大魔王の一人であり、様々な伝説にその名が記されている超大物悪魔の一柱である。
一説に曰く、三千年前のペルシアで興った、ゾロアスター教に登場する、悪神アンリ・マユ支配下の大悪魔、アエーシュマにルーツがあると言われ、
これがユダヤの民に伝えられ、ユダヤ教に取り込まれた結果生まれたのが、この悪魔だと言うものが有る。
彼のソロモン王が使役したと言う72柱の魔神としても、この悪魔は列せられており、その中でも特に強力な者の一体として認識されている事が多い。
洗礼者ヨハネに敵対する悪魔であり、七つの大罪の一つである色欲を司る者であるともされ、神や天使、聖職者にとっては疑いようもない不倶戴天の大敵。
しかし一方で、気難しい性質を秘め、平気で召喚者に対して嘘を吐き、謀殺すら考える72柱の悪魔達の中では、極めて組みしやすい相手であり、
礼節を弁えた者に対しては、自身が有する数多の学問の深奥を惜しみなく授け、己の力を用いて作った魔法の指輪を気前よく与えると言う側面もある。

このアスモデウスの正体は、他の神霊達が地上にいられなくなり、世界の裏側に隠れざるを得なくなった時、
これを認められず地上の何処かへ何処かへと逃げ続けるハメになった、アンリ・マユ配下のアエーシュマ当人。
ソロモンが従える72柱の魔神であるアスモダイとは完全なる別個体であり、このアエーシュマの方が遥かにルーツが古い、オリジナルの存在である。
主君であるアンリ・マユは人間が自分から決別したと理解するや、すぐに裏側に隠れたが、アエーシュマはこれを許せず、生存の道を探す。
自分が生き永らえられる所を探して行く際に、己の力が矮小な物になって行き、そうした最中、ソロモンの統治するエルサレムへと到着。
其処で一時彼の王位を簒奪するが、逆に、ソロモンの神算鬼謀で王位から転落、彼にある一定期間まで服従を誓わされ、その期間中、
宮殿建設にあくせく働かされる事となる。この時アエーシュマが建造した建物こそが、ソロモン王の大神殿であった。
その後、神殿を建造し終え、刑期を満了したアエーシュマは再び逃走を行うも、行く先々で問題を起こしていた彼は遂に、神霊としての力を失った。だが、方々で起こした問題が重なりに重なり、『大悪魔・アスモデウス』としての方が有名になり、そのままイメージが固着。アエーシュマとして生き永らえる事は不可能になったが、アスモデウスとして転生する事で、新たなる生を得たのである。


104 : 欲を持てあます ◆z1xMaBakRA :2017/05/15(月) 23:46:54 HRvQGl3A0
当企画に於いてアスモデウスは男ではなく、女性としての召喚だが、これには訳がある。
アスモデウスは昔、資産家娘である、サラと呼ばれる大層美しい女性に憑依し、彼女の婚約者である七人の男を絞殺し、サラを自分のものにしようとした事があった。
しかし、八人目の婚約者に化けた大天使ラファエルが、アスモデウスのたくらみを見抜き、この悪魔を撃退。サラを救った。
本来アスモデウスを素の実力で召喚しようとすると、どれ程制約をかけた所で不可能に近しいレベルなのだが、今回彼は、
『サラに憑依した時の姿』を維持すると言う離れ業を以って、今回の舞台に召喚されている。
サラに憑依したのは、彼女がアスモデウスのツボの女性だったらしく、丁重に扱うつもりだったのか、彼女の処女を奪うどころか、指一本触れなかった程焦がれていた。
色欲を司る大悪魔とは言うが、実際にはかなり禁欲的でストイック。夫婦付きあいには一家言がある程の真面目な人物。
それにもかかわらず、色欲の悪魔の名を大事にしているのは、悪魔はイメージを大事にする生き物であるからと言う本人の持論の故であり、
本人としては仕方なく、それらしく振る舞ってやっているだけに過ぎない。女性好きで、犯すのも好きと言うのも、実を言うと演じているだけ。

姦淫、殺傷、強奪など、およそ悪徳と呼ばれる全ての悪を犯す事に何らの躊躇いもない、悪魔そのものの性格。
だが先述の通り召喚者に対しては真摯で、況して己を敬っているというのならば、最低限の義理は通す、真面目な性格でもある。
煽てに乗りやすく、ついつい自分の知識を教えたがる癖がある。しかも、無償。気前の良い人物だが、ラファエルとソロモンの件に関しては逆鱗である。
今回のマスター(召喚者)は、特にお気に入りらしく、ついつい入れ込んでしまう事があるようだ。

【特徴】

白いワンピースを纏った、後ろ髪を長く伸ばした、黒い瞳をした金髪の美女。
胸は平坦なスレンダー体型。地を出すと、眼球の強膜部分が血色に染まる。

【聖杯にかける願い】

サラの復活。そして、今度こそ自分の物にする



【マスター】

藤丸立香@Fate/Grand Order

【マスターとしての願い】

元の世界への帰還。己の呼び出したアスモデウスとの縁切り

【weapon】

【能力・技能】

魔術礼装・カルデア:
人理継続保障機関・カルデアのマスターに支給される魔術礼装。厳密にはweaponに表記される物。
これを装備している限り、己の魔術回路を流れる魔力を駆使して、応急処置や瞬間強化、緊急回避と言う三つのスキルを発揮させられる。

【人物背景】

七つの特異点を攻略し、魔術王の名を騙ったある獣の支配する宇宙であった時間神殿を制覇した、一人の青年。

ゲーティアを討伐し、カルデアへと帰還する際、あと一歩の所で間に合わず闇の中に落ちてゆく際の時間軸から参戦。

【方針】

様子見。アスモデウスに油断を見せてはならない。


105 : 欲を持てあます ◆z1xMaBakRA :2017/05/15(月) 23:47:05 HRvQGl3A0
投下を終了します


106 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/16(火) 23:36:54 tgRtSrr20
投下させていただきます


107 : 不思議の国の…… ◆xn2vs62Y1I :2017/05/16(火) 23:38:26 tgRtSrr20
平凡な日常。聖杯戦争の舞台として設置された冬木市は、無縁の人々が住処通う場所でもある。
これより始まる非日常など知る由も無く。
または、自分たちが巻き込まれる事を夢にも思わず。


普通の。
ありふれた。
いつも通りの生活を。

朝も、昼も、夜も。学校も職場も道楽も食事も、家事も会話も、勉強も犯罪ですら。
幾度も、何度も、何篇だって繰り返す。
彼らは知らないから。
知らなくとも、強烈に違和感を与えてくる。


狂ってる。
彼らはきっと狂ってる。少女は思う。
だから少女が「こんにちは」と誰かに声をかけてみるのだ。
そして、誰に対したって少女が真剣な、それでいて、どこか遠くを眺める眼差しで口を開く。


「突然、ごめんなさい。大事なお話しがあります。ここで聖杯戦争が行われるんです。だから早く逃げて下さい」







―――からん、からん。



ここは冬木市の一角にある喫茶店。年季の入った独特の趣を漂わすここは、夜間はバーとして経営されている。
正直、あまり景気の良い感じはしない。
むしろ、バーの方が評判で、折角手伝いをしている少女が哀れに思える。
扉が開かれたベルに、少女が「いらっしゃいませ」と大人しい声色で挨拶をした。
歓迎するべきお客様かと、少女も内心期待を秘めて居たが。

実際に現れたのは、金髪に青い瞳の外国人。
青いワンピースに白のエプロンドレスという現代では奇抜ながらも、違和感なく着こなす少女。
丁度、店番をしていた少女と同い年くらいだろう彼女は。
何を隠そう、聖杯戦争で召喚されるサーヴァント・バーサーカーである。
疲れ切った様子で近くの席に腰掛けるバーサーカーを、ポカンと眺めるはマスターの香風智乃だ。


「バーサーカーさん、どうしましたか」

「ねえ。マスター。私、今日も色んな人に声をかけたの。聖杯戦争のことを教えたくって」


でも、とバーサーカーが異国ならではのオーバーリアクションの素振りで嘆く。


「やっぱり誰にも信じて貰えなかった。それどころか、お巡りさんを呼ばれて質問攻めされたわ!
 酷いわ。私の事、頭のおかしい子って……変な病院に連れて行かれそうになったの!!」

「えっと……」

「私は嘘を言っていないし、ちゃんと真実を伝えたつもりなのに」


気を紛らわせようと、智乃がカプチーノをバーサーカーに差し出しつつ。
平静に答えた。


108 : 不思議の国の…… ◆xn2vs62Y1I :2017/05/16(火) 23:39:08 tgRtSrr20


「無理に頑張らないでください。聖杯戦争なんて、現実じゃありえないことですから」

「だけど。どうして誰も私の話を聞いてくれないのかしら。
 ねえ、マスター。この世界は――思ったのだけど、大分おかしいわ! 絶対に変よ。
 ここに居る人たちは悪口を平気で言いふらすし、暴力だってそう。狂ってるのよ」


バーサーカーは決めつける。
皆、狂っている。
だけど、一番に狂っているのは、やっぱりバーサーカーだった。
彼女は勇敢で、礼儀正しく、真実を語るが、要は現代の世界を理解せず。
典型的な「空気の読めない人間」と化している。


「マスター。もし、戦う事になったらどうすればいいのかしら。誰も町から避難してくれなかったら……
 いくら頭のおかしな人達でも、誰も巻き添えにしたくないの………」

「……そうですね」


だけど、バーサーカーの言葉に正解もあった。
聖杯戦争が逃れられないと知った智乃は、バーサーカーと同じ考えだった。
一体どうやって町の被害を抑えれば……自分が、ここから離れれば良いかもしれない。

それは簡単な方法だが、智乃は一人孤独。当ても無い放浪をするのに不安を覚えた。
情けない、少女らしい恐怖だ。
しかし、当然のことで恥じることはない。


「私は聖杯が欲しい。これは確かなことなの、マスター」

「はい。分かっています……」

「ごめんなさい、マスター。こうでもしないと……パパやママ
 ううん。お父さんとお母さんのところに帰れないみたい。どうしても帰りたいわ」

「私も同じです」


智乃は人知れず頷いた。
元居る世界に。家族や友人たちの、平凡な世界へ帰る為に。
バーサーカーの心情は、どこか悲しげな表情を浮かべる少女と自分は同じだと思う。


「帰る為に頑張りましょう、バーサーカーさん」

「ええ。ありがとうマスター。一緒に帰りましょう」








ここはどこ? 帰れない。
帰りたいの、帰れなくなってしまったの。
体も痛い。さっき、首を切られたせいで、痛くて痛くて痛い痛い痛い。
こわいよう。つらいよう。たすけて。


パパ、ママ、お姉ちゃん…………



だけども、私はこの狂った世界から逃れたいの!!


109 : 不思議の国の…… ◆xn2vs62Y1I :2017/05/16(火) 23:39:40 tgRtSrr20
【クラス】バーサーカー
【真名】アリス@不思議の国のアリス


【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A 幸運:E 宝具:A


【属性】
秩序・狂


【クラススキル】
狂化:EX
 狂ってない!狂ってない! 狂っているのは私じゃあなくって、お前らだ。
 アリスは相手を狂っていると思いこんで、自身は正常だと訴える。
 相手が狂人の場合は、不思議とアリスは正常になる。


【保有スキル】
戦闘続行:A++
 往生際の悪さ。ハートの女王に首を刎ねられてもなお、元の世界に帰りたい一心で
 彷徨い続けている、最早屍。死に底ないの魂。

反骨の相:C
 権威に囚われない、裏切りと策謀の梟雄としての性質。
 同ランクのカリスマなどのスキルを無効化する。



【宝具】
『大なり小なりは掌で踊る』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜300 最大捕捉:500人
 不思議の国で拾った様々なアイテムで巨大化したり、逆に豆粒程度になったりと体を変化するもの。
 アイテムはマスターも使用可能なのだが、一度使ったアイテムは今聖杯戦争において使用不可となる。


『言語の秩序を齎す剣(ソード・オブ・ヴォーパル)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜300 最大捕捉:500人
 理解不能の怪物・ジャバウォックを葬ったとされるヴォーパルの剣。
 アリス曰く、いかれた世界を彷徨う最中に発見したらしい。
 超巨大の特攻を持っており、宝具名開放と共にセイバーの剣定番の強大なビームを放つ。
 


【人物背景】
不思議の国のアリスの主人公。
彼女は所謂、平行世界の存在であり。現実に帰れなかったIFのアリス。
ハートの女王に首をはねられ、永遠に不思議の国を徘徊する怨霊に近い。
礼儀正しく、良くも悪くも秩序的。確かに正論を言うのだが、いつも空回りする。


【特徴】
外見は絵本でも有名なアリスの容姿。智乃程度まで成長している。


【聖杯にかける願い】
家族のところに帰りたい




【マスター】
香風智乃@ご注文はうさぎですか?


【weapon】
コーヒーに詳しい程度の能力


【人物背景】
感情表現が乏しい、クールで大人しい中学生。
ごくごく普通の少女で、喋る兎が身近にいる以外は何らおかしいなことはない。
平凡な日常を謳歌していた。
不思議の国のアリスのように、ある日突然、聖杯戦争へ巻き込まれる。


【聖杯にかける願い】
生きて帰りたい。


110 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/16(火) 23:40:13 tgRtSrr20
投下終了です


111 : ◆yYcNedCd82 :2017/05/17(水) 21:37:32 uqq2i6JA0
お借りいたします


112 : 誰が聖剣を抜いたのか? ◆yYcNedCd82 :2017/05/17(水) 21:40:56 uqq2i6JA0


 あの妹は昔っからそそっかしくて肝心なところでダメだと思ってたんだよ。

 だいたいだね。私は剣を取って来てくれと頼んだんだ。私の剣をだ。宿から。
 それを通りすがりに石に刺さってた剣抜いて持ってきました? 馬鹿じゃないのかあの子。
 しかも「これを抜いたらどうなるかわかっていた」とか後でドヤッて言ってるんだよ。
 全部私に押し付ける気だったんじゃないかってちょっと邪推するね。
 たぶん何も考えてないんだ。 そのくせ真面目真面目真面目で。
 そりゃ言われるよ、人の心がわからないって!
 わっかるわけないんだよ、自分のことで手一杯なくらい要領悪いんだから。

 酒の席でおっさんに絡まれたりしたらもうダメだね。
 良く聞けば「あ、こいつら好き勝手言ってるだけだな」って愚痴で涙目になるね、きっと。
 ほら泣きそうになってる。泣くぞ。絶対に泣く。ほら泣いた。あーあー、もう。

 他の奴らも馬鹿なんだよなー。なんだよランスロット。なんであのタイミングであんな事するかね。
 つーかトリスタンといいお前らなんでそんな拗れた恋愛ばっかすんだよ。ガウェインは変な性癖に目覚めるしさぁ。
 白い手(ボーマン)ちゃんはぽやぁっとしてるしさぁ。いや、悪い子じゃないんだよ? 厨房の手伝いやってもらってたし。
 あとベディは通常の騎士の三倍の強さで九倍の鋭い突きって強いんだか弱いんだかわかんないよ!
 わかんないと言えばモードレッドはモードレッドでファザコンだかマザコンだか……。いや無理でしょ嫡子認定とか。
 というかあいつって妹の子だろ? なら私の姪っ子になるのか? つまり私は伯母さんか?
 …………嫌だな。うん、いや、モードレッドは別にどーでも良い。呼ばれ方がね。私はまだ若いぞ。ホントに。
 それにアッくんはアッくんで、人をバカにするのは私の仕事だろって……ホント頭アッくんだよなぁ……。
 アッくん? ああ、あだ名だよ。アグラヴェインの。そう呼ぶと物凄く味のある顔をするんだ、あいつ。

 え、なに? そもそも最初に剣忘れたのは私じゃないか? しかも自分が抜いたって言いはった?
 うるっさいなあ。喧嘩売ってるんだったら買うよ? そして勝つよ? 円卓の騎士舐めんな!

.


113 : 誰が聖剣を抜いたのか? ◆yYcNedCd82 :2017/05/17(水) 21:43:58 uqq2i6JA0

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「正義の味方になる? そりゃ結構!
 で収入はどうするんだい。進路は? 就職は? 無職? フリーター?
 いつの時代も何かと物入りだぞ。市内だけでも交通費、国内国外へ出張するならもっと旅費がいる。
 もちろん武器の持ち込み持ち出しなんて馬鹿いっちゃいけない。だいたいの場合は違法だぜ?
 現地で売ったり買ったり? ははっ。
 正義のためなら法を破っても良いのが君の正義の味方像か? そりゃ結構!
 なんとも都合の良い正義の味方がいたものだ。
 いやそもそも厳密に言えば自警行為や私刑行為だって犯罪だったね。失敬失敬。
 おめでとう、君の将来の仕事は職業犯罪者だ!」
「…………爺さんも俺もひっくるめて馬鹿にされた気がする」
「おいおい馬鹿だなシロウ。馬鹿にされた気がするんじゃない、馬鹿にされたんだ」

 ある晴れた日曜日の昼下がり。
 マウント深山商店街から自宅までの長い道のり。
 増えた同居人の分を含めた食材を抱えて歩きながら、衛宮士郎は何度目かもわからないため息を吐いた。

 隣を歩くのは、豊かに波打った黒髪の美女――美少女?
 自分よりは年上だろうと思われる女性で、まあそれだけならポンコツな士郎としても悪い気はしない。

 問題は、その女性が何やら友人を連想させるほど口が悪いこと。
 そして衛宮家における家事カーストを自分も後輩もぶっちぎって頂点に立ちそうなところだ。
 料理はともかくなんだってあんなにふんわり洗濯物が乾くのだろうか。

「しかしこの服は嫌だね。胸が緩くて腹がキツイって、色々と矜持ってものが削れる気がする」
「爺さんが何か取っておいた女物の服、勝手に引張り出しておいて……文句あるなら着るなよな」
「だって、歳相応の落ち着きが無い人の服は、胸がキツくて腹が緩いんだよ」

 そう言いながら、キャスターは些か余裕のある胸元を指先でつまんで、はたはたと仰いで見せた。
 
「だから今日は服も買わせて貰って、ちょっとは感謝してるよ。この辺りは必要経費だから当然ではあるんだけど。
 なにしろシロウは目を放すとコロッと死にそうだから傍にいないといけないってのに、服の一枚も寄越さないのは酷い」
「……良いけどさ。実際、しばらく同居することになるなら、服とか必要なのは当然だし」
「あと水着も買わせてもらったよ。ま、このくらいは役得だ。なにしろ冬木は海辺だし、大型の水泳施設もあるんだろう?
 そりゃあきみ、水中戦への備えは必要だとも。なんたってこう見えて、私は水中戦では円卓最強だからね!」

 キャスターの屁理屈というか弁舌は留まることを知らず、士郎はまたしてもため息を吐いた。
 役得というのは本音だろうけれど、後半の水中戦への備えというのも真実なのだろう。
 というかそもそも、既に衛宮家の家計は彼女に掌握されてしまっている。

(……まあ、服はしょうがないよな)

 突如として現れた同居人に対しても何くれと親切に面倒を見ようとした冬木の虎だが、服に関してはそうもいかなかった。
 いや服もと言うべきか。後輩に貸した服がちゃんと入るのだから、スタイルが悪いということもないとは思うのだけれど。
 ということはキャスターもかなりのスタイルということになるのか、それで水着――いやいやいやいや……!

 士郎は慌てて首を左右に振ってその不埒な思考を追い払い、強引に話題を切り替えた。

「意外だな。キャスターってあんまり身なりに気を使わないイメージがあったのに。伝説でも、恋愛関係の話とかってないし」
「あんだけ拗らせた恋愛模様を間近で見てたら恋なんかする気が失せる」
「…………ごもっとも」

 だいいち周りの奴が仕事しないから恋愛なんぞする暇が無い――キャスターと呼ばれた女性の愚痴は続く。
 とはいえ、そうしてかつての同僚たちをさんざ貶す彼女は、最後の最後までそれに付き合った事を士郎は知っている。

 キャスター、聖杯戦争という魔術師同士の闘争儀式に召喚された英霊の一騎。

 知らずに星座の刻まれたカードを手にし、夜の校舎で怪物に襲われた士郎を助けてくれたのが、彼女だった。

.


114 : 誰が聖剣を抜いたのか? ◆yYcNedCd82 :2017/05/17(水) 21:44:38 uqq2i6JA0

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 目を瞑れば、今でも鮮やかに思い出せる。
 それはまるで、奇跡のように現れた。

「――ははッ。まったく、もう、見てらんないよ」

 追い詰められ――影のような怪物に殺されそうになった自分の背後から、仕方ないな、と呟かれた軽やかな声。
 廊下の窓から差し込む青白い月の光を切り裂いた、風と炎の軌跡。
 それが跳躍を伴う手刀の一閃だったと、今ならば理解できる。

 相対した相手は、英霊として顕現できなかった影だったのだろう。それも、今ならば理解できる。
 槍を持ったその影を文字通り両断し、豊かな黒髪を払い除けて――彼女は言った。

「そうとも。私が君のサーヴァント――キャスターだ」

 月明かりの下、傲岸不遜に君臨し、不敵な笑みと共に怪物に退治した女騎士の姿を。
 吹き抜ける旋風と共に顕れ、その身に輝ける炎を纏った、幻のような佇まいを。

 衛宮士郎は、きっと、生涯忘れることはないだろう――……。

.


115 : 誰が聖剣を抜いたのか? ◆yYcNedCd82 :2017/05/17(水) 21:44:49 uqq2i6JA0
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(――もっとも、その直後に、
『魔術師の癖して自衛もできないとか馬鹿なの? 死ぬの?  っていうか死ぬ気だよな? 私お前見捨てて座に帰って良い?』
 ……とか叱られたけど)

 無理も無い話だ。

 義父を失って以来、衛宮士郎は独自我流の修行を積んでいて、その力量は三流も良いところ。
 そんな奴が『正義の味方』とか理想を抱いて、夢みたいな事を言っていれば、そりゃあ死ぬ。
 ましてや、聖杯戦争――……。
 願望器を巡って繰り広げられる闘争儀式に巻き込まれれば、まず間違いなく死ぬ。
 キャスター曰く、具体的には二週間で四十回ぐらいは死ぬ――ので、死なない為には鍛えよう。
 そんなわけで、今ではキャスターが士郎の魔術の師だ。生涯で二人目の、師匠。

『なんでこんな修行方法してるのさ。自殺願望なのか? とっとと魔術回路で首括って死ねば良いのに』

 もっとも彼女の指導は、やや放任気味だった義父に比べてかなり直接的だ。
 ここ数日、キャスターはあぐらをかいて土蔵に座る士郎に、意外にも丁寧な指導をしてくれた。
 もっとも背中にぴたりと柔らかな胸を押し付けて形を歪ませ、それで集中できないとこっぴどく罵倒しながらだが。

 魔術回路に生命力を通して魔力に変換する方法。物品に魔力を通す強化。そして投影。
 徐々に徐々に手慣れていく士郎を見て、キャスターは難しそうな顔をして呟いたものだ。

『……才能があるというより、私との相性な気がする』

 もちろんその言葉の意味は士郎にはわからない。
 わからないまでも、そのかわり、一つだけわかってきた事がある。

「きみもそうだぞ、シロウ。こじらせたらアッくんみたいな顔になりそうだ。あー、ヤダヤダ。
 アッくんといい妹といいシロウといい、そういう顔をしたやつは死ぬのが仕事だと思っている節があるからな。
 目を離すと死なれるとか凄い面倒くさいから止めて欲しいんだけど。
 タンスの裏側で死んでる虫とか想像したくないだろう? 本当にさ。勘弁して欲しい。
 自分にできないと思うんだったら、できる奴に任せりゃ良いのに。手際が悪いったらないね。
 横で見ててイライライライラしてくるんだよね。合戦じゃなくてストレスで死ぬんだっての」
 
 こうしてぐちゃぐちゃ言いながらも、きちんと面倒を持見てくれるあたり、案外悪いやつではないのでは――?

「とでも思ったろう?」
「……うっ」

 図星だった。顔を強張らせた士郎に対し、キャスターはにまぁっと獲物を見つけた猫のような笑顔を浮かべる。

「帰ったら強化百本練習だな。お前は馬鹿なんだから身体に覚えさせないと意味が無い。
 終わるまで家事禁止。なあに大丈夫、お前よりも遥かに上手く私が掃除も洗濯も夕食も作ってあげよう。
 アーサー王も大絶賛のマッシュポテトだぞ、はっはっはっはっはっは」
「マッシュポテトて……」
「妹がガウェインが力任せに潰したのマッシュポテトを大喜びで食べたからね!
 この時ばかりは私もマーリンと手を組んで、ガレスちゃんに『陛下の好物はマッシュポテトだ』と伝えたものさ!
 彼女が大張り切りで芋を潰し始めたのを見た妹は、そりゃあもう満面の笑みだったね!」
「……なんでさ」

 士郎はキャスターの妹、すなわち――女性だったというのは驚きだ――アーサー王に心から同情した。

「そういえば、キャスターにも、願いってあるのか?」
「んー、まあ、そうだね。大したことじゃあないんだが」

 ――尻拭いの一つでもしてやろうかと思っているだけさ。

 そしてアーサー王ですら果たせなかった――全ての人々が幸福に過ごせるという理想。
 その道のりが遠く険しいことを、この戦いで衛宮士郎は改めて実感することになる。

.


116 : 誰が聖剣を抜いたのか? ◆yYcNedCd82 :2017/05/17(水) 21:46:01 uqq2i6JA0

【クラス】キャスター

【真名】サー・ケイ

【マスター】衛宮士郎

【出典】イギリス(アーサー王物語、マビノギオン)

【性別】女

【身長】160cm

【体重】55kg

【スリーサイズ】B80/W60/H85

【ステータス】筋力B 耐久A+ 敏捷D 魔力A 幸運D 宝具A+

【属性】 混沌・善

【クラススキル】
陣地作成:B
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 "工房"に匹敵する領域を作成、維持することができる。

道具作成:-
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 後述のある宝具を得た代償に失われている。


【保有スキル】
頑健:EX
 サーヴァントとして見ても常識はずれの特別な頑強さ。
 耐久のパラメータをランクアップさせ、攻撃を受けた際の被ダメージを減少させる。
 複合スキルであり、対毒スキルの能力も含まれている。
 またサー・ケイは「対人間種」の効果を持つ宝具、スキルの対象とならない。

魔術:B
 このランクは、基礎的な魔術を一通り修得し、応用できていることを表す。
 花の魔術師マーリンより手解きを受けたサー・ケイは、現代の優秀な魔術師以上の能力を発揮する。

魔力放出(風炎):B
 自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
 いわば魔力によるジェット噴射。下記の宝具に由来し、炎と風とを攻防に活用する。
 強力な加護のない通常の武器では一撃の下に破壊されるだろう。

騎士王への諫言:A
 いかなる人物相手でも、その行いを揶揄し、批判する事のできる能力。
 相手の行動や態度に何らかの誤りや齟齬、矛盾があれば、それを指摘できる。
 またBランクまでのカリスマを無効化し、Aランク以上であれば効果を減退させる。

執事:A
 家事全般から内務全般に関する技量。
 この領域ならば一国一城を預けても完璧に維持運用できる。
 アグラヴェインが内政を担当し、サー・ケイが財政を担当することでキャメロットは運営された。


【宝具】
『かつて在りし最古の一騎(ナイツ・オブ・オールドワン)』
 ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:50〜99 最大捕捉:100人

 花の魔術師マーリンによって与えられた、聖剣の担い手を補佐するための肉体。
 サー・ケイの攻撃は神秘の劣る防御を無効化し、サー・ケイに負わされた傷は決して癒えない。
 酸素を必要とせず、睡眠を必要とせず、聖杯戦争においては現界に魔力を必要としない。
 また魔力の続く限り両掌より炎を放射する事ができ、この炎はサー・ケイが存在する限り決して消えない。

 すなわちサー・ケイはその全身そのものが擬似聖剣として改造された、人型の宝具である。
 そのため通常のサーヴァントより遥かに頑強であるが、器物を対象とした攻撃には弱く、負傷した場合は治療=修理も困難。
 また現界維持にこそ魔力を消費しないが、戦闘や魔力放出にはマスターへ相応の消耗を強いる。

「聖剣ぶっぱすれば勝てると思ってる奴らが馬鹿なんだよホント。聖剣無くしたらどうすんのさ。絶対あの妹無くすよ鞘とか」との事。


『真・風王結界(インビジブル・エア・オルタナティブ)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1個

 手に持ったものを覆い隠して見えなくしてしまう風の鞘。
 正確には魔術の一種で、幾重にも重なる空気の層が屈折率を変えることで覆った物を透明化させるもの。
 敵は間合いを把握できないため、白兵戦では非常に有効。
 ただし、あくまで視覚に訴える効果であるため、幻覚耐性や「心眼(偽)」などのスキルを持つ相手には効果が薄い。
 他にも破壊力を伴った暴風として撃ち出す、乗騎や自身に纏うことで加速や防御に使うなど汎用性は高い。
 ケイはこの術を花の魔術師マーリンから習い、義妹のさる宝剣を隠す鞘として伝授した。

「さもなきゃお前は見せびらかして振り回して喧嘩売ってまたへし折るだろ」との事。


『風炎鉄槌(ウルナッハ)』
 上記二種の宝具を担い手としてサー・ケイが振るう絶技。
 通常の宝具を持たないケイにとっての、宝具の真名開帳に相当する。
 風王結界を対象へ投射、結界へ封じ込め、全身から炎を噴射して跳躍、渾身の一蹴りで「聖剣」を叩きつける。
 かの聖剣やその姉妹剣には劣るものの、キャメロットに最古からあった一振りとして十全な威力を誇る。
 巨人の首すら斬り落とすと彼女が豪語するのは、決して誇張ではない。

「ピクトの蛮人を叩いて砕くってね。なんだよあいつらホントに人間なの?」との事。

.


117 : 誰が聖剣を抜いたのか? ◆yYcNedCd82 :2017/05/17(水) 21:46:30 uqq2i6JA0

【Weapon】
『無銘・武具一式』
 特に何の変哲もないただの騎士甲冑と装備一揃い。
 ……と言っても剣と盾はほぼ使わないが。
 ある程度の知識がある者なら円卓騎士、そしてサー・ケイの武具だとわかる。


【サーヴァントとしての願い】
 選定の剣を自分が引き抜いた事にする。


【解説】
 エクター卿の嫡子であり、アーサー王の乳姉妹、義姉妹にあたる騎士。
 馬上槍試合で剣を忘れてしまった彼女が、従者を務める妹に剣を取りに行かせ、
 その妹が選定の剣を抜いて彼女の下に届けた事で、アーサー王の物語は幕を開ける。

 以後はアーサー王第一の騎士として仕え、キャメロットの司厨長として宮廷内の全てを取り仕切り、
 次々に現れる有象無象の円卓騎士達に片っ端から罵声を浴びせては喧嘩を売り買いし、
 妹の行動を辛辣に批判し、戦場においては最期まで戦い、カムランの丘で果てた。

 才知を駆使して一人で巨人を打ち倒し、財務をほぼ全て担当するなど武勇智謀がないわけではない。
 だが伝説を紐解けば真っ先に相手へ突っかかっていては痛い目を見たり、
 ランスロット卿の鎧を借りて「これで相手が怖がって近づかない」と悦に浸ったり、
 宮廷に来たばかりのガレス卿に「手が白いから白い手(ボーマン)な」と渾名をつけたり、
 そもそも選定の剣を「抜いたのは私だ!」とすぐ見破られる嘘を吐くなど道化じみた行動が多い。

 だが極めて短慮に見えるのはともすれば暴走しがちな騎士たちに我が身を振り返らせるため、
 毒舌なのは全て相手の欠点を突いて自分を省みさせるためで、文字通りの道化役を担っていた様子。
 料理に掃除、なかでも洗濯が最も得意というあたり、かなり世話焼きの人物だったのではないかと思われる。

 彼女は最初から最後まで、文句を言いながらも見捨てることなく妹の尻拭いをし続けた。
 その妹が選定のやり直しを願うのであれば、代わってそれを担うのは――……。


【特徴】
 緩やかに波打った美しい黒髪を、斜め後ろで括ってサイドテールにした女性。
 平時は「仕事でもないのに執事服着るわけないだろ」と現代の衣装を着用。
 戦闘時はきちんと鎧兜を装備した女騎士姿で、愚痴を吐きつつ戦いに挑む。
 義妹よりは背が高く、義妹よりはスタイルが良く、義妹よりはキビキビと動きまわる。
 何か不始末を見つけるとグチャグチャさんざん文句つけて貶しながらも面倒を見てくれるタイプ。
 毒舌世話焼き系家事万能お姉さん。


【戦闘スタイル】
 全身から風と炎を噴射しての徒手空拳。
 跳躍してのチョップ、パンチ、キック、投げと何でもござれ。
 円卓の中では弱い方と言われるが、それは比較対象が悪いためだろう。

 生前は頑丈なのを利用してまず一当てし、敵の能力を探るなどの威力偵察も行っていた。
 とはいえ今回はマスターがほぼ素人のため、士郎の生存を優先した立ち回りを重視する。

 また水中戦において円卓最強と言われる通り、水辺での戦いではガウェインやランスロット以上。
 泳ぐのも好き。

.


118 : 誰が聖剣を抜いたのか? ◆yYcNedCd82 :2017/05/17(水) 21:47:31 uqq2i6JA0

【マスター名】衛宮士郎

【出典】Fate/staynight

【性別】男

【Weapon】
・剣として強化した周囲の物品
・投影した剣

【能力・技能】
・強化
 物品に魔力を通して構造を強化する魔術
 衛宮士郎は「剣」に特化している

・投影
 魔力によって形だけの代用品を製造する魔術
 衛宮士郎が投影した物品は消滅せず、また「剣」に特化している。

・固有結界
 上記二つの魔術の源。
 無限に剣を内包した内面世界で現実を上書きする大魔術。
 ただしまだ彼はこれを自覚しておらず、従って行使もできない。

・アヴァロン 
 幼少期に延命のため埋め込まれた宝具。聖剣の鞘。
 所有者の命を守り、驚異的な治癒・再生能力をもたらす。
 士郎はこれを所持していることを自覚していない。

【人物背景】
 第四次聖杯戦争決戦時の大火災によって孤児となった少年。
 その後、衛宮切嗣に引き取られ、義父より理想と魔術を受け継いだ。
「空っぽになったロボットが人間の模倣をしている」と形容される程度に、どこか危うい。
 現在は穂群原学園に通って学園内の雑用を行い、夜は魔術の修行をしながら、正義の味方への道を模索している。

 深夜遅くまで学園に残っていたところ、偶然に星座のカードを発見。
 何らかの理由で具現化したシャドウサーヴァントに襲われたことで聖杯戦争に巻き込まれ、キャスターを召喚した。


【マスターとしての願い】
 無関係な人を守り、聖杯戦争を最小限の犠牲で終わらせる。
 正義の味方になる。

.


119 : ◆yYcNedCd82 :2017/05/17(水) 21:48:16 uqq2i6JA0
以上になります。

史実聖杯の候補作として投下させていただいた「サー・ケイ/衛宮士郎」の修正版になります。
どうぞよろしくお願い致します。


120 : ◆z1xMaBakRA :2017/05/18(木) 00:34:27 Q6QK083o0
>>61
質問に気付けなくて申し訳ございません。結論を申し上げますと、不可能とさせていただきます

投下します


121 : 死を夢む ◆z1xMaBakRA :2017/05/18(木) 00:34:51 Q6QK083o0
        




     ――生きたい


     ――死にたい


     ――褒められて、認められたい


     ――黙って放っておいてほしい


     ――その為なら私は


     ――その為なら俺は


     ――何でもする


     ――何でもする




.


122 : 死を夢む ◆z1xMaBakRA :2017/05/18(木) 00:35:06 Q6QK083o0
 ◆

 チクタク、チクタク、チクタク、チクタク。
誰もいない大広間に、柱時計の針が、時を刻む音だけが木霊する。

 チクタク、チクタク、チクタク、チクタク。
一定のリズムで鳴り響く、小気味の良いガンギ車の音が、アンティーク調の家具や、木目の美しい板張りや壁にぶつかり、砕かれ、散って行く。

 チクタク、チクタク、チクタク、チクタク。
その音の中で、一組の男女が、互いに向き合い、見つめ合っていた。音の事など気にもならないと言う風に、二人は互いの瞳を見つめ、その目線を、蛇と蛇が絡み合い、交合するかのように錯綜させていた。

「生き汚い女だ」

 真っ先に口を開いたのは、男の方だった。
全身にくまなく、頭頂部から足の先までに、幾何学的なイメージを与えつつも、何処か神秘的な印象をも見る者に与える、
赤黒い刺青を刻み込んだ、白い肌の青年だった。腰の辺りに黒色の一枚布を巻いた様子は、現代の服装(ドレスコード)にそぐわない。
何十世紀も昔の世界から飛び出して来たような、獰猛で、兇悪そうな表情が特徴的な、若い青年。それが、目の前の男であった。

「己の人生に意味がなかったと理解しているのに、辿って来た人生にに何の意味もなかったと知ったのに。『それでもまだ、ひょっとしたら』、と。希望に縋り付こうとしている、哀れな女だ」

「そこまで、言われる筋合い何てないわよ……!!」

 刺青の男から絵に描いたような酷評を貰うのは、気弱と言う概念が形を取ったような女性だった。 
流れる銀髪が見事な、年相応――いや、年齢の割には幼く見える、愛くるしい顔立ちの女。
毅然と、目の前に佇む、己との運命共同体である、ランサーのサーヴァントを涙目で睨みつけるこの女の名は、『オルガマリー・アニムスフィア』。
時計塔を統べる十二のロードの内の一人であり、 人理継続保障機関フィニス・カルデアの所長をも務めてい『た』、紛う事なき才女である。

「勘違いするな。俺の相棒とするに、相応しいと思っただけよ」

 オルガマリーの言葉を受けたランサーは、ニッと笑い、ソファに座って此方を見上げるオルガマリーを、立って見下ろすと言う姿勢から、
近場にあったテーブルに腰を下ろして座ると言う姿勢に変更。それでも、彼女を見下ろしていると言う行為からは外れていないのだが。

「俺は、死を求める。だが、俺の主に限っては、生を希求し、生に貪欲でなければ務まらない」

 笑みが、途端に男から消え失せる。路傍で死にかけている痩せた犬猫でも見るような、感情のない瞳で、男は口を開いた。

「運が良かったな、小娘。お前がもしも、聖杯を諦めていたのなら、俺は、お前を縊り殺していたぞ」

 ゾワリ、と、氷で出来た蛇が背筋を這い回るような、寒気と怖気をオルガマリーは憶えた。
殺すと口にした時の、その言葉の重み。物質的な量感すら伝わってくる程の凄味が、其処には内在されていた。
殺すと口にした時の、その瞳の眼光。身体を剣で貫かれたような、幻の痛みが、彼女の身体に伝わってくるようだった。
目の前にいる存在は、間違いなく危険な存在なのだと、オルガマリーは確信。左手に刻まれた、稲穂の形を模した令呪を見て、この現実が夢じゃない事を、改めて思い知らされた。

「諦められる訳が、ないじゃない……!! 私は、生きて、生きて……認められたいのよ!!」

 金切声とすら形容しても、最早おかしくない、悲愴さと必死さ。
それが内在されたオルガマリーの叫びを受けて、ランサーは、笑みを浮かべた。獰猛な、笑みだった。

 オルガマリーの人生は、灰色とすら言っても良かった。
実の父からは愛情らしい愛情を受けた事がない。幼少の頃より、ただただ時計塔に存在する十二のロードの一柱に生まれた者として、
相応しい英才教育を詰め込まれて来た記憶の方が、親より受けた愛情よりもずっと鮮明に残っていた程だ。
それだけの指導を受け続けて来たにも関わらず、彼女は己の才能を認められた事が全くなかった。
才能と実力だけが、天井を知らぬかのように積み重なって行く。ロード(君主)の名を冠するに相応しい力と教養を得た筈なのに。
……『サーヴァントを使役出来る才能がない』、この一点のみで、彼女の評価は大幅な下方修正を余儀なくされた。


123 : 死を夢む ◆z1xMaBakRA :2017/05/18(木) 00:35:19 Q6QK083o0
 間違いなくオルガマリーは、魔術に関係する組織であるのなら文句なしのトップ層に位置出来る才能の持ち主だった。
彼女の不幸は、まさにその、マスター適性がないと言う一点であった。魔術に関わる組織の上層も、当然魔術が使える事が求められる。
そこまではクリアしていたのに、よりにもよって、カルデアの最高責任者でありながら、彼女はサーヴァントを使役する力がなかったのだ。
故にこそ、彼女は蔑まれた。表では所長所長と言われて慕われていたが、影では小馬鹿にされていた事位、彼女はよく知っていた。
それが悔しくて、惨めで、堪らなかったから。愛を受けた事なんか、尊敬していた父親の跡目を次いで立派になりたいと思ったから
父の財産とも言うべき人理継続保障機関フィニス・カルデアを使って、世界をよりよくしようと意気込んでいたのに。
よりにもよって、父と同じ位に信じていた(いぞんしていた)相手に、手ひどく裏切られ、葬られて――。オルガマリーの心は、完全に、荒んでいた。

 ポケットの中にしまっていた、十二の星座が刻み込まれたカードをグッと握った。力を込めても、カードは変形しなかった。
レフの策謀によって、人が触れれば消滅以外の道はない、あのカルデアスへと叩き落され、言外不可能の苦痛を味わっていた時だった。
『生きたい』、『死にたくない』、『やりたい事がある』、そう願った瞬間、そのカードは、地獄の責め苦を味わい続けていたオルガマリーの所に現れた。
彼女の、身悶える程の生への渇望。承認欲求。そして、自己顕示欲。それらを全て、満たしてやらんとでもいう風に、そのカードは、苦しむ彼女を救って見せた。

 消滅し、肉体すら残らなかった筈のオルガマリーの肉体は、完全に復元されている。服も、元通りの状態。
生前のベストコンディションの状態。それをまさに、今のオルガマリーは享受していた。この状態で、彼女は行わねばならない。
聖杯戦争――英霊の座に記録された、数多の英霊達を使役して、最後の一人になるまで勝ち残る、神話や英雄譚の再現を。
その名前は、彼女も当然知っていた。知っていて、当たり前の知識だ。そもそもカルデアにおける守護英霊召喚システム・フェイトとは、
冬木での聖杯戦争で用いられた英霊召喚のメソッドを応用して、父であるマリスビリーが開発したシステム。当然、現所長のオルガマリーがこれを知らぬ筈がなく。
正真正銘、冬木のシステムで、しかも冬木の街そのもので、彼女は聖杯戦争を勝ち残らねばならないのだ。

 混乱していないのかと言われれば、嘘になる。
オルガマリーの精神性は余りにも未熟である。突発的なトラブルに、彼女は弱い。今でも、何が何だか、と言う思いは払拭し切れていない。
だがそれ以上に今は、自分は生きていると言う事実の実感。そして、早くカルデアに戻って、人類の滅亡が証明されてしまった2016年。
この問題を早急に解決せねばならないと言う使命感が、今は先に立っている。
今はただ、もっと長く生きていたい。そして、その期間の間に、使命を果たしたい。それこそが、オルガマリーの願いだ。
幸いにも、聖杯戦争の褒賞である聖杯は、奇跡を叶える程度の代物である事も予習済み。全力で、彼女は聖杯を獲りに行かねばならない。

 ――そこで問題となるのは、己が引き当てたランサーのサーヴァントである。
弱くはない。寧ろ、マスターのみが視認出来るステータスを見る限り、強い方ですらある。
スキルの方も、デメリットが大きく目立つものが一つある事を除けば、ハイスタンダードとすら言っても良い。
しかし、そんな事が問題にならない程、目の前の存在は、『悪』だった。己が悪である、と言う雰囲気を目の前のサーヴァントは、隠しすらしていない。
このサーヴァントと共に、聖杯を勝ち得なければならないのか。それを思うと、オルガマリーの心は、酷く沈みかける。
サーヴァントを召喚し、共に戦う。それを彼女は、夢見てなかったと言うと嘘になる。本当は、憧れすら抱いていた程だ。
だが、彼女と共に冬木を駆けるサーヴァントは、音に聞こえた、公明正大、廉潔無私の大英雄ではない。誰がどう見ても明らかな、反英霊であると言うのだから、運命は何処までも、彼女に対して厳しいものだった。


124 : 死を夢む ◆z1xMaBakRA :2017/05/18(木) 00:35:35 Q6QK083o0
「まるで、俺が信頼出来ないとでも言う風な目だな」

 如何やら、目敏い男だったようだ。オルガマリーの危惧を、即座に看破して見せた。

「心配するなよ。俺は、誠実な男でね。お前が聖杯を諦めないと思う限り、俺もお前を裏切らねぇよ」

 そう、ランサーが口にした瞬間だった。
フローリングの一部が、ランサーが佇立している所を中心に、赤く滲み始めた。「ひっ!?」、とオルガマリーが、座っているソファごと後じさる。
まるで、目の前のサーヴァントが、目に見えない重体を負い、其処から流血してしまったかのようだった。まるで、『床自体』が、血を流しているかのようだった。
自分の足元の異変を見て、男は、不機嫌そうに顔を顰める。その状態で、構わず男は言葉を続ける。

「少なくとも、お前は相棒としては優秀だ。魔力が十分過ぎる程あるからな。それだけあれば……俺は……俺は……」

 更に、続けた。

「……もう、弟の憐んだ顔を思い出さなくて済む。弟の、今際の言葉を頭の中で繰り返さなくて済む。……永劫の生などと言う、下らない呪いから解放される」

 ギロリ、と、ランサーが、オルガマリーを射抜いた。呼吸を忘れる程の、威圧感を感じたのは、ランサーが怖かったからじゃない。
――自分以上の必死さを、目の前のランサーから、如実にオルガマリーが感じ取ってしまったからに他ならない。今のランサーは、オルガマリー以上に、情緒が安定していない。今にも、泣き出してしまいそうな程の、危うい脆さがそこにはあった。

「俺を裏切るなよ、女。我が真名は、『カイン』。俺を裏切れば、七倍の憤怒を以って、貴様の身体を八つ裂きにしてくれる」

 チクタク、チクタク、チクタク、チクタク。
時計の音が鳴り響く。誰もいない大広間に、柱時計の針が、時を刻む音だけが木霊する。

 チクタク、チクタク、チクタク、チクタク。
時計の音だけが、オルガマリーと、カインの二人だけしかいない空間の静謐を切り裂いた。

 チクタク、チクタク、チクタク、チクタク。
停滞していた二人の時計が、動き出す。一人の時計は、生きる事に向かって。一人の時計は、滅びる事に向かって。

 チクタク、チクタク、チクタク、チクタク。


125 : 死を夢む ◆z1xMaBakRA :2017/05/18(木) 00:35:52 Q6QK083o0
      



【クラス】ランサー
【真名】カイン
【出典】旧約聖書
【性別】男性
【身長・体重】175cm、68kg
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:A 幸運:D 宝具:EX

【クラス別スキル】

対魔力:EX
ランサークラスに備わる対魔力ではなく、神によって与えられた呪いによる対魔力。
あらゆる攻性の魔術をシャットアウトする。事実上、魔術ではランサーを絶対に傷付けられない。

【固有スキル】

不毛の宿業:EX
神によって刻み込まれた神罰刻印によって付与されたスキル(呪い)。
ランサーは農作を行っても、一切の作物は彼の手によって実る事がなくなり、また、彼の干渉した霊地は霊地としての本質、
即ち魔力や霊力を一瞬で失い、また、彼の干渉したキャスターの陣地は確実に陣地としての判定を失う。
ランサーが佇立している場所の植物はたちどころに枯れて行く為、植物に関係する宝具や攻撃、スキルは、ランサーにメリットがあるかデメリットがあるかを問わず、強制的に無効化される。この装備(スキル)は外せない。

大地の告訴:EX
嘗てランサーが殺した、羊飼いの弟によって付与されたスキル(呪い)。
初対面の相手にも、ランサーは『悪印象』を持たれやすくなり、善性と言うものを見出されると言う事がなくなる。
また、ランサーは嘘を吐く事が出来ない。ランサーが嘘を吐いた時、このスキルによって彼の立っている地点が真っ赤に染まり出し、その嘘を暴き立てるからだ。
弟であるアベルを殺害し、神にその事を問われ、白を切った時に大地から弟の血が流れたと言うエピソードの具現。この装備(スキル)は外せない。

怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
ランサーは魔物や魔獣ではないが、叙事詩・ベオウルフに登場する悪鬼・グレンデルや、世の吸血鬼の祖とも言われる、怪物の血統でもある。

統一言語:D
神が言葉を乱す以前に世界に共通していた、たった一つの言語。
万物との意思疎通が可能であり、このランクになると動植物は勿論、石や建物とすら完璧な会話が可能になる。

天性の肉体:B
生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。このスキルの所有者は、常に筋力・耐久がランクアップしているものとして扱われる。
神が産み出した、原初の人間にして、人間の祖であるアダムとイヴの最初の子供らであるランサーは、生まれながらに完璧に近しい肉体を持つ。


126 : 死を夢む ◆z1xMaBakRA :2017/05/18(木) 00:36:57 Q6QK083o0

【宝具】

『咎人よ、終焉を諦めよ。汝は生の苦しみに悶える者(ノド)』
ランク:EX 種別:神罰 レンジ:- 最大補足:-
弟であるアベルを殺害した際に、神によって刻み込まれた神罰の刻印。総身に刻み込まれた赤黒い入れ墨。
ランサーの犯した罪を、ランサーが永劫忘れぬよう、神が手ずから刻み込んだ、不死を約束する烙印。
本来はランサーを不死にする宝具ではあったが、聖杯戦争に際しその性能が格落ちされている。具体的には、不死ではなくなっている。
規格外の対魔力、スキル・不毛の宿業と大地の告訴は、このスキルによって齎されており、ランサーは己の意思でこの宝具を排除する事も出来ず、
また、誰の如何なる宝具によっても、この宝具をランサーから切り離し、無効化する事は不可能。常時発動されている宝具。
『ランサーが誰にも殺されないよう』、神が刻んだ烙印であり、この宝具がある限りランサーは、魔術でその身体を害させる事は出来ず、
物理的な攻撃の威力を1/10以下にまで抑える事が出来る。これを突破するには、神造兵装や神性等の、対粛清スキルが必要になるが、それでも、
威力の減退は免れない程極めて強固な祝福(カース)になっている。また、この宝具は弱者に対する脅しの意味合いも兼ね備えており、
常に見る者にBランク相当の威圧を発動させているものとし、B以下の精神耐性の持ち主は、常に怯む可能性がある。
この宝具が突破され、ランサーが消滅すると、この宝具の最終効果が発動する。
それは、『宝具を突破するのに使った攻撃の本来の威力が七倍になって、その攻撃を放った当人に跳ね返ってくる』というもの。
この宝具を突破する以上、極めて高ランクの神秘を内包した超高威力の攻撃は必須になる為、事実上、ランサーを攻撃で消滅させると言う事は、消滅させたサーヴァントの消滅をも意味する。

【weapon】

無銘・三叉矛:
ランサークラスの適性を満たす、三叉の槍。その正体は、所謂『鍬』である。
ランサーは生前は、農耕を旨とする一人の人間であったが、現在の境遇に堕ちた故に、農民の象徴である鍬の在り方が変質。三叉の槍へと変貌した。

【解説】

楽園・エデンの最初の住民であり、人類の祖であるアダムの息子。人類第二世代の長男で、弟にアベルがいる。
カインは農耕を、アベルは羊の放牧を行い、二人はそれぞれ収穫物と子羊とを捧げたが、神がアベルの供物のみを受け取った事に立腹と同時に嫉妬。
カインはアベルを殺してしまい、これが人類最初の殺人となる。神はカインを追放し、呪い、彼を殺すものに七倍の復讐を定め、殺される事の無いよう印を与えた。
『ユダヤ古代誌』なども交えてその後を追うと、追放された彼は妻アワンを得た後、ノドの地にエノクの町を建てて人類最初の要塞都市とし、
邪悪な王となった彼とその一族は純朴な人々に悪徳と文明を広めたという。ヨセフスはカインの一族が猖獗を極めたことを記している。

弟を殺してしまったのは、現代で言えば『ついカッとなってやった』と同じものだった。
神が敢えて弟の供物のみを受け取って見せたのは、カインに対する試練であり、これに対しカインがアベルを祝福していれば、より高次の次元に、
この兄弟は至る事が出来、弟のアベルはこれを読んでいた。だがカインは、神の試練を読み違えてしまい、
神はアベルだけを選び、自分を見捨てたと勘違い。逆上を引き起こし、結果としてアベルを殺害してしまう。
カインは今でも、アベルを殺した際の、神の御心を読めなかった兄を憐れむような表情と声が脳裏から消えず、これが完全なトラウマになっている。
その後カインは、神に対してアベルを殺していないと嘘を吐くも、大地に流されたアベルの血がヤハウェに向かって彼の死を訴えてしまい、罪が露見。
そのまま、エデンの東に存在する、現世でも幽世でも、エデンない世界の外側。つまり、聖書が語る所の『ノド』へと追放。
人一人おらず、無限大の荒野が広がる世界に、たった一人で今日まで過ごし続けている。カインは、原作におけるスカサハやマーリン同様、
今も生き続けている存在の為、英霊の座にも登録されていない為、召喚は絶対的に不可能なのだが、分霊とは言え、このカインが召喚されている辺りに、今回の聖杯戦争の異常性が確認出来る。仮に、通常の聖杯戦争で召喚される事があるとしたら、適正クラスはランサー・アサシン・キャスター・バーサーカーの4つが上げられる


127 : 死を夢む ◆z1xMaBakRA :2017/05/18(木) 00:37:14 Q6QK083o0

余りにも長く生き続け、心が完全に摩耗。誰もいない荒野での生活は完全にカインの心を荒ませてしまった。
本来の性格は酷く虚無的で、根暗。物静かで無口な性分で、しかも事あるごとに死にたいだの死なせてくれだの口にする危ないメンヘラ男。
それが、何の因果か、遂に自分に死を齎せてくれるかも知れない聖杯戦争に召喚されている為、非常にテンションが上がっている。
嘗ては凶暴かつ狡猾な男で、悠久の年月を一人で過ごし、自殺する事も殺される事もなかった為、その精神はすっかり擦り切れていたが、
今ではすっかり元のやべー奴っぷりを取り戻した。聖杯に掛ける願いは、自身の完全なる死。もうマジ勘弁してください的なオーラでムンムンである。
聖杯戦争でサーヴァントとして消滅しても、ノドにいる本体はノーダメージな為、ガチで聖杯を狙いに来ている。
その為、マスターが聖杯を諦めない限りは、なんだかんだでカインもオルガマリーには付き従うが、諦めると言う意思を一度表示すれば最期。待っているのは、人類最初の殺害者による苛烈な報復であろう。

【特徴】

全身にくまなく、頭頂部から足の先までに、幾何学的なイメージを与えつつも、何処か神秘的な印象をも見る者に与える、
赤黒い刺青を刻み込んだ、白い肌に黒い髪をした青年。腰の辺りには黒い一枚布を巻き付け、其処以外には何も衣服を纏っていない。

【聖杯にかける願い】

自身の完全完璧なる消滅





【マスター】

オルガマリー・アニムスフィア@Fate/Grand Order

【マスターとしての願い】

人理の修復。そして、カルデアへの帰還

【weapon】

【能力・技能】

魔術師の名家であるアニムスフィア家の当主として、並の魔術師を超える程の魔力回路と魔力の総量を持ち、本人の魔術の冴えも非常に凄い。
だが、性格が小心者の為、戦闘に適した人物ではない。

【人物背景】
 
魔術師の名門アニムスフィア家の当主であり、人理継続保障機関フィニス・カルデアの所長を務める女性。
本来ならカルデアの所長の座を継ぐ人物ではなかったが、3年前に父が急逝した事により、急遽所長になってしまった女。
魔力は高いもののマスター適正が無い(同時にレイシフトも不可能)という、貴族魔術師の家系の者としては致命的な欠陥を持つ体に生まれついた為、魔術師の世界では蔑ろにされ、誰からも省みられずに生きてきた。

レフ・ライノールによってカルデアスに叩き込まれた瞬間の時間軸から参戦

【方針】

聖杯回収


128 : 死を夢む ◆z1xMaBakRA :2017/05/18(木) 00:37:32 Q6QK083o0
投下を終了します


129 : 放蕩無頼漢 ◆WqjPzMBpm6 :2017/05/18(木) 20:40:10 TA8GYbj.0
投下します。


130 : 放蕩無頼漢 ◆WqjPzMBpm6 :2017/05/18(木) 20:40:33 TA8GYbj.0


────このバーサーカーの生前の記憶は、永劫に封鎖されたものである。


夜の浜辺で月光がその凹凸を溶かしている。
しかし、この夜の浜辺には心地よい外気などない。在るのは殺気ただ一つ。

浜は一面赤色。血の朱《あか》。彼ら二人が流した流血で海まで真っ赤に滲ませる。
撒き散らされる血と肉を、たかりに魚がやって来る。海面を跳ね、また一匹、また一匹と陸《おか》へとうち揚がった。
岩や石ころだらけの砂の上に、まるで銀貨か宝石を敷き詰めたような鯵や鯖の魚たち。
それらは総て生きながらにして既に腐っている。
それを裸足が踏み潰すと泥屑へと変わった────。
残骸から立ち昇る言いようもない臭い。彼らはそれを攪拌した。
入り乱れる足跡たちに混じって、裸に近い格好のまま二人が獣のように闘っていた。

鋭く剥き出し、全身の筋肉を緊張させ、突っ込んで迫る、殺気塊。背後の海が割れる。

────力強く。光のように速い。信じられないほど強い。
この世の者とは思えない、骨を震わすような遠吠え。
煌めく残忍な破片が、音もなく吹きつけてきた。
ひとりが跳躍しざま、次の瞬間。
────側頭部にブチ込まれた。頭部に食い込み、強烈に炸裂して左半分から頭骨と脳を吹き飛ばす。

バーサーカーの全身から、狂暴さが音を立てて退いていった。
凄まじい化物の力を前にして、彼は崩れ落ち、昏迷の淵へ沈みかける。

────頭を上げろ。起きろ、立て、その眼を見ろ。

彼は身震いしながら立ち上がった。
闇が意識を包む寸前、僅かに残った光が急速に広がった。血が目に入って視界が赤い。
止まりかけていた呼吸を尋常に回復させつつ、
あいつを正面から見つめる。眼が合った。光る眼と眼の対決。
誰も、こんな眼には見つめられたいとは思うまい。
微かな息づかいだけが聞こえて空気が澱む。
彼のその血にまみれた拳は屈辱を晴らすべく、再び握り締められる。

「………………」

よろける足を踏み締め、フラフラと前に歩きだす。

────負けて死ぬなら、それなら……それでいい────。

足取りが突然乱れ、その場にしゃがみこむ。
立ち上がろうとした。しかし……瞳の焦点が合わなくなってきた。

『……おっさん……名は?オレの銘《な》は、────』


131 : 放蕩無頼漢 ◆WqjPzMBpm6 :2017/05/18(木) 20:42:59 TA8GYbj.0

答える相手の表情は虚ろであった。眼にも光もない。

バーサーカーの頭の中で、言葉が風鈴のように揺れていた。

あ、駄目だ、気が……抜ける────。
意識を失い、顎から浅瀬に落ちた。
海水に全身を浸して、体の奥で熱く火照っているエネルギーが急激に冷えていく……。

「──────」

最期の声は潮風にさらわれる。
バーサーカーはそのまま引きずりこまれるような眠りに落ちた。







  ▲      ▲      ▲      ▲



空気まで蒼色を滲ませている。雲が生まれては散り、小波〈さざなみ〉が岸に打ち寄せる。
浜辺のベンチに掛けていた少年はもう三十分以上、それを見つめていた。

体を丸めて寒そうに首を縮こませて口元を隠す。

海面からぬらりと顔が浮かび上がるバーサーカーが全裸で海から揚がってきた。 背負うのは巨大な鮪〈マグロ〉である。
長い息を吐息〈はき〉ざま、
『お前も食べる?鮪?』
と訊いた。

「……いりません」

五分刈り頭の人懐っこい魅力的な笑顔。
鎧のような骨格が張り出す岩乗な体つき、逆三角形の胸板に見事なウエスト……。そして──。

額にかかる髪を撫でつけると、マスターは指で頬を掻きながら眼を落とし、女のような細い眉を寄せた。

「あの……え……その……ここでそんな格好……やめた方がいいですよ。警察が来ます」

解放感を満身に漂わせたバーサーカーは下半身をさらけ出していた。この歳でいっちょ前に剥けてる。ズル剥けだ。壮漢であった。


132 : 放蕩無頼漢 ◆WqjPzMBpm6 :2017/05/18(木) 20:44:09 TA8GYbj.0
『あぁ!ゴメンゴメン!忘れてた、ハハハ……』

木の根みたいな指で頭を掻いた。左腕に黄金《きん》の腕輪が光っている。傷だらけだった。

茫洋とした大きな眼のサーヴァントは狼のような笑いを浮かべた。

「いい加減あなた誰なんです?」

『────あんたこそ一体何なんだ?人間〈ひと〉の匂いがしない。今まで何人殺した?』

冴々とした不気味さを隠し切れない眼。声まで氷のようであった。
それでも、マスターは平然と突っ立ったまま落ち着いていた。
冬の夜みたいに冷たく静かな声。邪気のない表情。輝いていた。

「バレました?凄い」

この美少年の無邪気に見える笑みの真意は今のところこのサーヴァントにしか掴めないだろう。





  ▲      ▲      ▲      ▲





────十になったばかりの私は忘れない。



────打ち下ろした石の感触を。砕ける骨。潰れる肉。あの音を……。




青い光が差す中庭で罵倒の叫びが駆け巡った。
母を呪うように猛り狂っている姿。罵る声。
数度、打撃音と悲鳴が上がり、母の嗚咽と押し殺した泣き声。
掴んでいた母の髪がゴソッと抜け落ちる。
這いつくばって石畳に頭を擦り付ける母に奴は、何故蹴りを浴びせる?滅茶苦茶に踏んづけ、いたぶり続ける?

赤い筋が青痣に変わる頃、それでも治まり切らない父のところに、私は母家の柱の影から歩み出た。

「母さんを打〈ぶ〉つな」そう吐き捨てた。

半分泣きべそをかきながら父を睨む。

「希夷……」母の口の中から血が滴る。

涙を湛えた抗議にも、皺深い相は有無を言わせぬ威圧感。そしてその立ち姿。
心から震える。心底縮みあがった。

だけど────。

押し殺した泣き声。身体が勝手に熱くなっていく。
三メートルまで近づいた時、見つけた手ごろな大きさの小石。鳥の足を思わせる白い指が掴んだ。
それを見るや父は「投げろ。母に当たるがな」腕を引き、父と私との間に立たせた。
それでも、ただ激情にかられたまま歯を食いしばって、その一瞬の見抜いたかのように手にした石塊《いしくれ》を投げ放つ。
母のこめかみを傷つける事なく通り過ぎると、投擲した石礫が父の顔の右眼を的中した 。彼は喘ぎ、よろめき下がった。

────殺したか?


133 : 放蕩無頼漢 ◆WqjPzMBpm6 :2017/05/18(木) 20:45:21 TA8GYbj.0
だが、すぐにその表情が、驚愕に強張った。
地鳴りのような声。
紫色の眼孔から滴り落ちる血潮は眼球を潰したことを証明していた。
だが、しかし。真っ赤に充血した左眼で幼子を睨みつけた。

「この────鬼子〈グィズ〉」

殺意のみの声であった。
灼きつくように吹きつけられた殺気の悽愴さが全細胞の核を針で刺し貫き、幼子は小さく身震いした。
さっきまでの勢いもなくして、すっかり萎縮してしまった。

『やめて!』

止める母は成す術もなく、また突き飛ばされた。
血潮を拭おうともせず、傷の痛みも忘れて、興奮した父は言葉にならぬ唸り声をあげながら希夷の身体を蹴りつける。
口端から滴る二本の線は涎だった。
ヒュッ、と風が鳴る。
頭を狙われている。避ける。その鼻先を掠めると、後につづく二連撃目の父のつま先が頬を掠める。毛髪を逆立てていく。
その破れた皮膚から赤い筋が布のように流れ、幾条もの糸となって肩と胸に滴り落ちた。
その眼には凄まじい光と吐息。只の怒りか、只ならぬものを見たためか、父の半顔は朱に染まったまま、再び襲いかかる。拳を叩き下ろす。間一髪で躱す。
威力は知っている。右のこめかみにえぐり取られた風が流される。

────怖い。

あどけない姿が今、目の前で天禀を眼醒〈めざ〉めさせる。
二人の間に電流のようなものが流れて眼から眼へと、流れこみ、心臓を激しく叩いた。
脅えと激情が等しい。全てを忘却させる。
全身がわなないた。
全身が熱を帯びる。
熱い震え。
内心の炎は炙られ、ついに発火する。狂相の花が咲いた────。
次の瞬間だった。 
蹴りの瞬間を見計らってステップを踏み、中へ一歩踏み入れる。軸足に脚払いをかけた。
数歩よろめいて脚をすくわれると腰から石畳に転落し、 転がされている父の姿態は、今まで見たことない新鮮な印象すら覚える。

────怖い。


134 : 放蕩無頼漢 ◆WqjPzMBpm6 :2017/05/18(木) 20:46:37 TA8GYbj.0

重い塊が一瞬溜まり、拳骨を握りしめて、左手で下から顎へと一発かました。 骨が軋む衝撃。故に絶妙の一撃だった。
父は仰向けに倒れた。

────これならどうだ?

まだ生きていた。起き上がり闘志の充〈み〉ちる眼でねめつける悪鬼の相。

────怖い。

駄目だ……。

────怖い。


────殺せない。こんな業〈わざ〉じゃあいつを殺せない。

眼を落とすと、幼子のすぐ脇に庭石が目に着いた。

────ならば。

泣き出していた母が、身を起こそうとする父にすがりついて哀願する。

「もうやめて! 希夷には手を出さないで!」

それを搦め取られまいとする。また、母の顔を靴底で蹴り抜く。
だか、視界を一瞬、暗く閉ざされた時、上を見上げすぐに父の体は口を半開きにしたまま、金縛りにあったように硬直する。
そして次の瞬間、叫びだけの留まる空間を流れる影が駆け抜けた。

────────これなら!?

────父に向かって石を振り上げた時。
────空を切り、打ち下ろした時。
────地に墜ち、頭を叩き割る時。
────白く美しい貌〈かお〉は最後まで泣いていた?歓〈よろこ〉んでいた?怒っていた?それは母すら見ていない。それを見た者は死んでしまった。


それが私の最初の殺人。あの日、私はそれを本能的に悟る。私を駆〈か〉り立てる朱色の衝動を────。





  ▲      ▲      ▲      ▲


【出典】ケルト・アルスター伝説
【SAESS】 バーサーカー【身長】155㎝【体重】42㌔

【性別】男性
【真名】コンラ
【属性】中立・善
【ステータス】《赤潮の浅瀬発動時》
筋力A《++》 耐久A《++》  敏捷A《++》
魔力C《++》  幸運E  宝具E〜A+

【クラス別スキル】
神性:A
光の御子クー・フーリンと女神アイフェとの息子。
そのため高い神性を有する。

放蕩無頼:A+
狂化スキル。 完全に思春期のアレ。
いかなる精神制約下でも、十全の戦闘ができる。
意志の疎通・会話は可能。
但し戦闘時は、マスターからの命令を完全に無視する。困った奴だ。
単独行動:A+相当を付与する。勝手にどっか行く。手がつけられない。

【保有スキル】
紅顔の美少年:B+
人を惹きつける美少年としての性質を示すスキル。
男女問わずに対して魅了の魔術的効果を持つ。
両親遺伝の天性のジゴロ。黙っていれば、かっこいい。

原初のルーン
父と同じ師・スカサハ直伝のルーン魔術。
対魔力:Bランクに相当する。頭部以外を守る硬化のルーン。 宝具でもそう簡単には彼の身体に傷を付けることは出来ない。

戦闘続行:A+
挑まれれば戦わなければいけない不退の誓約《ゲッシュ》。そして、父から子へと受け継がれるケルト魂。

赤潮の浅瀬:A++
母から譲り受けた腕輪の加護。水辺を認識した場合、ステータスを上昇させる。

【宝具】
『大神刻韻・蹴殴投《アルスター・グレイシー》』
ランク:E-〜A+ 種別:対人宝具 
レンジ:0〜2000 最大補足:1人
赤枝の騎士たちを返り討ちにした逸話。
天性のバトルセンスから操る十八のルーン魔術による身体強化《フィジカルエンチャント》からの我流喧嘩殺法。殴ったり、蹴ったものにルーンを刻み、燃焼・凍結・電撃などを直接相手に叩き込む技。
他にも女の子の読心、口の中に必中の犬の糞、因果逆転の急所蹴りなど……ルーン魔術の使い方を完全に間違った方向に運用している。


135 : 放蕩無頼漢 ◆WqjPzMBpm6 :2017/05/18(木) 20:47:44 TA8GYbj.0

【 weapon 】
・ 徒手空拳
武器もなしにこの少年は数多の戦士と渡り合った。
・投石
その辺の石とかゴミとか適当に投げつけるだけ。それでも飛行機だって撃ち落とせるし、英霊だって殺せるアンダースロー。球速は時速約2430キロ。

【人物背景】
誓約《ゲッシュ》によって真名を絶対に名乗れない英霊。
父にクー・フーリン、母を影の国の隣国の女王アイフェを親に生まれ、父の師・スカサハの下で育つ。ちなみに彼女は彼の叔母にあたる。
生まれた彼だがアイフェからスカサハに無理やり押し付けられ形で彼はスカサハの下で修行をへて、アイルランドへ向かうが彼の言動と行動のせいでとうとう討伐軍まで出るゴメンじゃ済まない一大事となってしまう。ついにクー・フーリンが赴く事となってしまった。
クー・フーリンとの死合の末、頭部にゲイボルグを受けて敗れさった。

このサーヴァントの死の前後の記憶は消失している。
そのため座の記憶があっても、自分を殺した相手が父であることを知らないし、思い出してもせいぜい凄く強い奴だったという記憶だけが残っている。
そして今もまだ、覚えていないあの父の背中を追い続け、走りつづけ、戦いつづける。いつか、聖杯戦争で出会える事を信じて……。
歳は9歳。
女の子に優しいマセガキ。貧乳派。 因みに非童貞。
戦闘に入ると、普段の言動がなりを潜め、冷静かつ大胆な行動をする。
死なずに生きていれば父を超え、アルスター伝説史上最強になれたかもしれない本当の天才。

【サーヴァントとしての願い】
戦うために参戦。




【出展】修羅の門 第弐門
【マスター】 高長恭(ガオ・チャン・ゴン) あるいは蘭陵王〈らんりょうおう〉そう呼ばれている
【身長】170㎝ 【体重】65㌔
【性別】男性
【人物背景】
日本人を母に持つ19歳。気弱な性格、を演じ続けている……殺し屋。女性のような顔立ちと小柄な体格ながら、戮家当代最強と言われる伎倆と疾さを持つ。不可触〈アンタッチャブル〉とも呼ばれる。
本編での〝ジ・エイペックス〟参戦前とし、今もその本性を隠している。後の戮家歴代三人目となる姜子牙 ────。


136 : 放蕩無頼漢 ◆WqjPzMBpm6 :2017/05/18(木) 20:48:52 TA8GYbj.0
【 weapon 】
・暗殺術
四門を開けた陸奥九十九と引けをとらないスピードとテクニック。暗器、忍釘、鉛玉などの不意打ち。
・ 発勁
正式名称ではなく、劇中での仮称。
掌打から、蹴りから、ガードから放たれる正体不明の攻撃。
まともに食らえば一撃で人間を殺害できる。

【マスターとしての願い】
不明。

【方針】
バーサーカーがひたすら戦う。

投下終了。


137 : 名無しさん :2017/05/18(木) 21:49:43 rBihk9SE0
皆様投下お疲れ様です

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1253090.jpg
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1253091.jpg

サー・ケイ支援になります
よろしければどうぞ


138 : 名無しさん :2017/05/19(金) 13:09:46 YzIDke820



ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1253587.jpg

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1253588.jpg



カイン、アスモデウスの支援絵です
よろしければどうぞ


そういえばアスモデウスの宝具は対物特化ですから
サー・ケイと対決したらエロいことになりそうだなと思いました


139 : ◆yYcNedCd82 :2017/05/19(金) 18:53:36 YE0w0TXA0
>>137
ケイ卿支援絵ありがとうございます!


140 : 名無しさん :2017/05/20(土) 06:17:49 Izhs9bWA0
Wikiは無いんでしょうか?


141 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/20(土) 13:43:24 Chej0WXQ0
投下させていただきます


142 : 予告状 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/20(土) 13:44:08 Chej0WXQ0


『マスターよ。君に問おう。
 君の言う日本や世界は明るいものか?』



「ええ……比較的明るい方じゃないかしら」



『では、戦争もない。ありふれた平和が日常である世界に間違いは無いと?』



「それは、違うわね。だって戦争はなくならない。少なくとも、日本は違う。犯罪がない訳ではないけど」



『なんと嘆かわしい! だが、そうか。君は戦争を知らないと。それは『良い』ことだ。素晴らしい』



「どうして? 戦争が悲惨なものだと後世に語り継がれるべきじゃないの」



『まさか! 『あんなおぞましいもの』(戦争)を聞かされてどうしろと!!
 アレ(戦争)が悲惨で残忍でこの世で最も非常な大犯罪であることは、説明されるまでもないだろう!
 そう理解すればいい。理解があればいいのだよ。
 利益もない。世界において、途方も無い大損失を起こすだけの行為だと……』



「そう」



冬木市内にある小学校の図書館。

先ほどから受け答え続けた声の主、一人の少女が一息ついて一冊の本を閉じた。
彼女は、小学生ながら不自然にも大人びた雰囲気の、クールな印象を抱かされる存在で。
活発で駆けまわる子供達の中で、一際目立つ。
格別、注目されている訳ではない。先生や近所の住人からも「ちょっと大人しい、しっかりした子」
という扱いで、怪しまれた経験は皆無だ。


彼女――灰原哀の抱える巨大な秘密は、現在において彼女のサーヴァント・アサシンを除いていない。


誰も助けを乞えない状況下。
聖杯戦争。非現実的な現状に巻き込まれたにも関わらず、冷静を保つのは。
相応の精神力。否、実年齢が小学生ではない経験からによるものか。

彼女は毒によって肉体が縮まった。
毒を開発していた組織から抜け出す為に、毒で命を断とうとしたのだが……
少なくとも『この英霊/アサシン』には説明しない方がいいだろう。
哀は、あくまで謎の力で子供の姿になったとアサシンには説明してある。
念話で会話をしていた哀が、続けた。


「でも。貴方の事だから、誰も殺さないで聖杯を――『盗み』出すつもりなんでしょう?」


不敵に微笑みながらも、期待する風な哀に答えるかの如く。
アサシンが返事をするのだった。


143 : 予告状 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/20(土) 13:44:33 Chej0WXQ0

『如何にも。手始めに聖杯戦争の主催者に関して探り、予告状を出さねばなるまい。
 だが、私も冬木市内に部下を配備するのも時間がかかってね……ああ、そうだ。
 君の要望通りの物資を家に運んでおいたよ。マスター』

「ありがとう。でも、貴方ね……私の所にいた怪盗キッドと違って、無暗に予告状をバラ撒かないで頂戴?」

『いや、それは駄目だ。私の癖なのでね』


呆れた哀は、一冊の本を受け付けまで持って行き。
貸し出し手続きを行ってから、ランドセルへ本を仕舞って、それを背負った。
流れるような作業をしつつ、哀は念の為、周辺の様子を確かめる。

冬木市は彼女とは無縁の街だ。
自然と近代が入り混じった。古来と現代の境目を現すかのような……
哀は、都心より離れた森林地帯にはアサシンが『宝具』を下準備が行われている隠れ家があるとは
耳にしているものの。お目にかかったことはない。


「貴方の場合、真名がバレたら駄目だって自分が一番分かっている筈だけど?
 アサシン………いえ、怪人二十面相?」


『はははは! そうでなくては、私らしくないではないか。マスター』



二十の顔を持ち、四十の瞳を持つ怪人は得意げに語った。




□    □    □    □



二十面相は『怪人』と呼ばれるが、人智を超えた怪物ではなく人の子。
即ち『怪盗』である。
盗賊、という表現が当時不適切であって。
時代が時代であれば、灰原哀の知るキザな泥棒よろしく『怪盗』二十面相と親しまれていただろう。

よく知られているが怪盗である二十面相は、殺人を、そして戦争を非難していた。
自らの犯行が、戦争や殺人行為と同等にされるのを非常に嫌った。
そもそも、彼は戦後の日本を盛り上げるため。
戦争という忌まわしい大犯罪を、記憶から失くすために派手に奮闘し続ける。

最期が果たして、名探偵との決着で終わるとしても。


「いつの時代も探偵と怪盗はキザな人が多いのね」


他の探偵や怪盗を知る灰原哀の感想は、そのようなものだった。
「ところで」アサシンがまるで日常の挨拶をするかの如く、外見が少女のマスターに尋ねる。


「マスター。現代の賜物、質の良いノートパソコンはともかく、他は何に使うつもりかな?」


催涙スプレーやスタンガン……
現代社会で、最低限収集できそうな物。
冬木市においての、哀の室内に小学生には不釣り合いな物資だ。


「これは念の為よ。子供の私なんてサーヴァントは愚か、大人のマスターにだって分が悪いわ」

「戦う訳でもないのだから、不安になる心配は不要だというのに……用心に越した事は無いがね」


144 : 予告状 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/20(土) 13:45:14 Chej0WXQ0

怪盗に過ぎない。
戦闘特化したサーヴァント相手では、時間稼ぎも出来るか怪しい。
だからこそ、勝利が叶わなそうな英霊である。
怪人以下の怪盗は、どうして自信ありげなのかと問われれば。


「『盗む』ことで私が英霊に成ったのならば、聖杯戦争を盗まなくてはならない訳だよ。
 私が何故、二十面相の道を歩んだか? それが私の天職だっただけさ」


天職、ね。
哀はそれを関心や共感よりも、どこか見守るように一息ついたのだった。




【クラス】アサシン
【真名】怪人二十面相@少年探偵シリーズ


【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:C 幸運:EX 宝具:E


【属性】
秩序・悪


【クラススキル】
気配遮断:C
 自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。
 完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。


【保有スキル】
カリスマ:B-
 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。
 団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
 悪に対してランク以上の効力を発揮する。
 二人以上の人が顔を合わせれば、挨拶のように二十面相の噂をする。
 世界中に賛同者がおり、ある者は彼を敬い。ある者は彼を恐れた。

専科百般:C
 あらゆる人間を変装する為、習得したスキル。彼個人が既に所有する催眠術や武術など除いた他は
 洗礼された熟練のものではないが、一時的に低ランク程度の効果を発揮させられる。

自己保存:A
 自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れる。
 二十面相の場合は『必ず』無事である呪いに近い。
 例え霊核を破壊されても、膨大な魔力を消費し、復活を遂げる。
 ただしこれは『誰も二十面相の死に様を確認出来なかった』場合に限る。

不殺:EX
 怪人にして怪盗である彼は殺人だけは手をかけず。
 また本人自身、殺人という行為そのものを嫌悪していた。
 二十面相が関与したものに絶対に死者はない。
 逆に言えば、どんな無謀な事をしでかしても死者に関して問題ないという事。


145 : 予告状 ◆xn2vs62Y1I :2017/05/20(土) 13:45:34 Chej0WXQ0
【宝具】
『偽造魔術劇場』
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1〜200
 彼が化けた怪人たち、怪奇現象、それらを再現する大魔術。
 『初見ならば如何なる英霊でも一度だけ騙される』特性を兼ね備えている。
 宝具発動時。必要であれば、彼の部下を召喚し、魔術の発動など雑務に協力する。
 ただし、部下らは二十面相に妄信的で、彼が危機的状況に陥れば命を投げ出してでも彼を救出しようと凶行する。
 (つまり二十面相は完全に部下をコントロール出来ない)
 『逸話や奇術のタネを把握されている相手』には宝具が発動すらしないと、欠点が大きい。
 つまり、真名が暴かれてはかなり不利になる英霊であり宝具。
 残念ながら、彼の困った癖が自らを追い詰めている。


【人物背景】
かつて、あらゆる世間を騒がせた怪人二十面相。
正真正銘の真名は『遠藤平吉』。
サーカス団の団長に成れなかった彼は、様々なものに挑戦するも二流三流止まり。
最終的に『怪盗』が彼にとっての天職だった。

戦争及び殺人を嫌悪し、戦後の日本や世界を奮起させようと自らの技術を用いて駆け巡る。
世界中を宝を集めた博物館を完成させようとしていた。
怪盗ならぬ、怪人に劣る愉快犯。
そんな彼の思想に賛同する人々もおり、当然ながら協力者たる部下を志願する者も後を絶えなかった。

しかしながら、彼の快進撃は少年探偵団及び名探偵・明智小五郎によりストップがかかる。
徐々に二十面相は、明智小五郎との決着に拘るようになった。

最終的に彼はある事件の逃亡の果て、死亡する。
二十面相なりに怪盗と探偵。二つの決着をつけたと自己満足しているが。
彼の死後もなお、二十面相という存在は世間をしばらく賑わせた。
恐らく二十面相の死を受け入れられなかった妄信者の誰かが、第二、第三の二十面相を演じていたのだろう。



【特徴】
どこか若く見えるが、具体的な年齢は不詳な男性。
何かを盗む際、予告状をわざわざ差し出す癖がある。


【聖杯にかける願い】
聖杯を盗む。




【マスター】
灰原哀@名探偵コナン


【weapon】
黒の組織で培った知識。
現在は子供だが、何らかの要因で元の大人の姿に戻れるかも……?


【人物背景】
とある組織から抜け出す際、毒薬を飲み、肉体が子供まで縮む。
組織の影に怯えながら、平凡な日常を謳歌している。


【聖杯にかける願い】
不明。
少なくとも、元の世界への帰還を優先する。


146 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/20(土) 13:46:32 Chej0WXQ0
投下終了します


147 : ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:19:48 .BUAkPt60
>>137>>138
素敵な支援絵、ありがとうございます!!
メタルヒーローシリーズっぽい衣装の鎧を纏ったケイや、外見通りにヤバい容姿のカインや、ミミズの剣をもったアスモデウスが非常に素敵です。
ありがとうございました!!

SSについての感想につきましては、まことに申し訳ございませんが、もう少しお待ちくださいとしか……(感想クソザコマン)
>>140様が申しあげました通り、Wikiの方を遅ればせながら用意いたしました。是非ともご一読下さい。

ttps://www65.atwiki.jp/star_grail/pages/1.html

投下します


148 : 光の宴 ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:20:21 .BUAkPt60
「この宇宙で、一番大きいものは何だと思う。『デュフォー』よ」

 冬木の深山町に存在する、月の家賃三万円、板張りの床と白い壁紙と言うチープな洋装が家賃の額に相応しい安アパート。
その一室で、男は問うて来た。飾り気も何も無い、朱色の袈裟と、黒色の法衣を着こなす、剃髪の男だった。浮かべる不敵な微笑みが、大人物としての風格を、
銀とも白とも取れる髪の色をした青年、デュフォーに感じ取らせてくる。ただ者ではない。どんな人間を見てもそれ程まで動じないデュフォーが、そんな事を考える程には、目の前の男は、カリスマとも取れる不思議なオーラを醸し出していた。

「色々、オレには考えられる。一番大きいを指すものが『物質』で良いのなら、それは星になるだろう。逆に、大きいを指すものが『空間』であるのなら、それは宇宙だ」

 デュフォーと名乗る、白い髪が特徴的な、表情の筋肉が凍結して動かせないと言われても納得するであろう程の無表情で、
淡々と、目の前の僧侶の問答に答えた。それはまるで、直前まで暗記していた英文をスラスラと口にして見せるかのような、流れるが如き見事な返答であった。

「お前らしい答えだな」

 笑みを綻ばせ、目の前の男は口にした。その言葉が、デュフォーには気に入らなかったらしい。唇を曲げながら、言葉を発した。

「その言い方だと、オレの答えは間違ったものだ、と言っているのと同じだぞ」

「いや。お前は間違っちゃいないさ。俺も、真面目に答えろと言われれば、お前と同じ答えを言っていただろうさ」

「では、お前の考えていた、真面目じゃない答えは何だ。キャスター」

 デュフォーの強い語気を受け、目の前の僧侶は、苦笑いを浮かべた。
目の前の男はプライドが高いらしい事を、此処までのやり取りで汲み取ったからだ。自分に解らない事があると、少しムキになる。
青年とも言うべき年齢の男の子とは思えぬ程、老成しきった雰囲気をデュフォーは出してはいるが、意外と子供らしい所があるじゃないか。そんな事を、この禿頭の男性は思っていた。

「この宇宙で一番大きなものとはな、『言葉』さ」

「言葉、だと?」

 僧侶の言った事が、信じられないらしい。
その瞳に鋭い眼光を宿らせながら、男を睨むデュフォーの姿からは、次なる説明を要求する、と言うオーラで満ち溢れていた。

「信じられんか? デュフォー」

「ああ」

「だがそれでも、言葉が一番この世で大きいものなのだ。何故なら、どのような大きさのものも、言葉でそれを名づける事によって、『名と言う器』に収める事が出来るからな」

「成程な。お前の言う通り、星や宇宙ですら、言葉で説明出来てしまう。だが、言葉で名付けられぬ程大きなものが、あるのではないのか?」

「なら、それがあるとして、それが何であるのか俺に説明出来るか? デュフォー」

「……いいや。不可能だな。それをお前に言葉で説明した途端に、それは、言葉より小さいものになるからだ」

「だから、俺は言葉がこの世で一番大きいものだと言ったのさ」

 不敵な笑みを崩さず、僧侶は言った。それが、デュフォーには面白くないようで。

「なら、この世で一番小さい物とは、なんだと考えている?」

 だから、先程僧侶が言った事の反対を、逆に問うてみた。

「それも言葉だろうな」

「何故だ?」

「どんな小さいものも、言葉でそれを名付ける事で、それを人に説明する事が出来るからさ」

「言葉で名付けても、その言葉のメッシュからすり抜けてしまう程小さいものがあるとは思わないのか?」

「なら、それがあるとして、それが何であるのか俺に説明出来るか? デュフォー」

「出来んな。それをオレが言語化させた途端に、それは、言葉よりも大きくなるからだ」

「だから、言葉はこの世で一番小さいものなのさ」


149 : 光の宴 ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:21:03 .BUAkPt60
 腕を組み、フム、と言ってからデュフォーは、カーテンを開けきった窓の傍に佇む僧侶を睨めつける。
彼は、今もなお、なにが面白いのかわからないような微笑みを浮かべ、デュフォーの事を眺めていた。
底が知れない。デュフォーはそう思う。自身と同じ能力を持った高嶺清麿についても、そんなイメージを抱いた事はある。
だが、目の前に佇む禿頭の男の場合は、別格。老成し、完成されきった立ち居振る舞い。常に浮かべている薄い微笑み。
相対した者の内奥すら眺められると嘯いても、それが事実だと信じてしまうであろう、透明な光を宿したその瞳。
どれもこれもが、魔界の王の玉座に選ばれた、ガッシュ・ベルのパートナーだった男には持ちえなかったもの。
いい意味で熱く、直截的だった清麿と、目の前のキャスターは、正反対な人物である。

 しかもこの上、禿頭のキャスターは、自分と『同じ能力』すら持っていると言う。
頭の良さでは兎も角として、能力の使い方や、その解釈の仕方に関して、目の前の男は、まるで、デュフォーとは違う使い方をしているようであった。
その事が、デュフォーには、堪らなく不気味な風にも映るし、例えようもない程の大物にも映るのである。

「……キャスター」

「なんだ?」

「オレと同じ様な能力を、持っていると言ったな」

「お前の場合は、頭に浮かび上がるのだろうが、俺の場合は、視界に言葉として浮かび上がると言う違いこそあれど……まぁ、似たような力ではあろうよ」

「キャスター。お前程の頭の持ち主だったなら。オレと同じ能力を持っていたのなら。お前は、お前の生まれた時代、王にでも、神にでもなれたのではないのか?」

 微笑みを浮かべて、デュフォーを眺め続けるキャスター。自分の主となった青年の紡ぐ、尊い言葉を男は聞き続ける。

「キャスター。お前は、オレと同じ力(アンサートーカー)を持ちながら、雲の上にも天の上にも立たないで、何故、『弘法大師空海』としての道を選んだ? お前の名は知っている。傑物であるともな。そして、実際に言葉を交わして見て思った、やはり、お前は傑物何だと。だが、お前程の男が、オレと同じ力を持ちながら……、その人生で学んだ事は、相手を煙に巻く問いかけ……禅問答に過ぎなかったのか?」

「勿論、それだけじゃなかったさ」

 デュフォーの、長い言葉が終わった後、キャスター――弘法大師、つまり、この国に於いて『空海』と言う名で、古くから、そして、広く親しまれている大僧正は、落ち着いた声音で言葉を発した。

「退屈だったな。やる事なす事、これから行おうとする事に対して、何をすれば、何を用意すれば、最良の結果になるのか。勝手に教えてくれるわけだが、これが実に、面白くないのよ。自分で考えた訳じゃないのに、その通りにやれば、思い通りの結果が常に待ち受けている。そこには、俺の実力何てこれっぽっちも関係ない。この千里眼さえなくなってしまえば、俺は、この世で一番必要のなくなる人間になるのではと、本気で思った事もあるよ」

 それについては、実を言うとデュフォーも、嘗てはそう思っていた。
これから行おうとする事、これから学ぼうとしている事柄。それについての最適解が、勝手に頭の中に浮かび上がる能力。
それこそが、彼の言う所のアンサートーカーであった。それを高めさせる為に、昔は色々な勉強を叩き込まれて来たが、それにしたって、
学ぼうとする段階で答えが勝手に表示されてしまう為、ちっとも面白くない。例えるなら、一千万ページもある計算ドリルを、解答用紙を片手にもったまま解き続けると言う行為にそれは等しい。そこに、面白さを感じ取るなど、不可能な事だろう。それと同じような事を、空海は遥か昔に体験していた。その事に、幾許かのシンパシーを、デュフォーは感じてしまっていた。

「だからな、俺は思ったのさ。俺の千里眼でも、絶対に答えの表示されない……つまり、達成不可能な事柄に、挑戦してみようとな」

「それが……」

「そう、『密』であったと言う事さ」


150 : 光の宴 ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:21:26 .BUAkPt60
 密。つまりは、『密教』である。この国においては、飛鳥時代の昔から密教は輸入されはしたが、体系だった教えではなく、
雑密と言う、他の仏教宗派の一部として伝えられたに過ぎない物だった。この国に初めて、体系だった純粋なる密教、つまりは純密と呼ばれる物を、
最初にこの国に伝えたのは誰ならん、空海であった。一般的には、普通の人間には理解されない程難解な教義を掲げる事が多い、神秘学。
仏教においてはその神秘学的なカラーが一番強いのはこの密教であるが、この密教というものは、およそこの地上に存在する神秘学のカテゴリーに入る学問の中で、
最も理解が困難な一派であった。これを空海が理解出来た理由が、アンサートーカーに限りなく近い能力を持って居たから、と言われれば、成程確かに理解は出来る一方で、これが歴史の真実だと言うのならば、余りにも、夢がなさ過ぎる話であった。

「だが、キャスター。お前は密を理解したのだろう。何処が、達成不可能な事柄なのだ?」

「理解しただけさ」

 空海の笑みが、少し崩れた。大胆不敵そうな笑みから、皮肉気な微笑みに。

「俺が本当に目指したものはな、デュフォーよ。密教の理解などではないのだ。『この星の全ての人間の生を、豊かにしてやりたかった』と言う事なのよ。密教とは、その為の道具に過ぎない。密教は、本質ではないのだ」

「……出来ると、思っているのか? キャスター」

「出来ると、思っていたのさ。今も、思っているぞ」

「そんな事、出来る筈がない」

「かも知れないな。だが、逆に問おうか、デュフォーよ。お前の頭に、『全ての人を幸せにする方法』とやらが、浮かび上がるか?」

 空海に言われ、その事をデュフォーは、顎に手を当て夢想する。
――全くと言って良い程、アンサートーカーが発動されない。単純な計算問題から、数多の化学式についての問題、果ては初めて見た言葉の意味すら理解出来る、
己のアンサートーカーが、その方法論の一つもデュフォーに示してくれないのである。そう、その答えは解り切っていた。
『人によって、幸福と感じるものの尺度が、余りにも違い過ぎるから』に他ならない。

「恐らく思い浮かばないだろう。だが、それは恥ずべき事でも何でもない。それが当たり前なのだ。個人を幸福にする事すら、俺にとっては難事なのに、これが世界中の全ての人間となると、かの釈迦とて不可能な事であろうよ。だが、不可能と解って居ながら、俺はそれを求めたのさ」

「千里眼の呪縛から、逃れたかったからか?」

「初めの内は、そうも思っていた。だが、続ける内に、俺も本気になった。俺の考えた、俺なりのやり方で、世界の人間の生活を豊かにする。初めて俺が、世界から求められていると言う実感を得たよ。唐に渡ったのも、密を学ぼうとしたのも、方法を学ぶ為だけに過ぎない。それ自体が目的ではなかったのだ」

「……何故、密で世界が救えると思った?」

 デュフォーには、それが解らなかった。世界中の人間を幸せにする。言う事は簡単だ。
だが、実際には先程も述べた通り、人は人によって、何を求めるのかと言う事が千差万別であり、それを一時に全て満たす事など、どだい不可能な事なのだ。
密教とは、厳しい修行を行うものもあろうが、結局を言ってしまえば、内観、心についての教えである。確かに、それを以て満たされる人間もいるだろう。
だが、密教では、空腹の子供は救えない。死を確約された病人の病を治す事は出来ない。死と、別れの苦しみを癒す事は出来ない。何故、空海は密教で、人を豊かに出来ると思ったのだろうか。

「デュフォー、お前も解っているだろうが、人が幸せになれないのはな、人によって幸福を感じる事柄が違うからなのだ」

「ああ、オレもそう思う」

「密教はな、天の理を解りやすく教えられる道具だったからさ」

「天の……理?」

 解っていた事だが、密教について踏み込むとどうしても、神秘学的な話にならざるを得ない。
デュフォーには理解出来ない事柄ではないが、抽象的で哲学的なカラーが余りにも強い話である為、余り好きではなかった。
「そう構えるな、解りやすく説明してやる」、と、苦笑いを浮かべて空海は言葉を続ける。


151 : 光の宴 ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:21:41 .BUAkPt60
「なあ、デュフォー。俺とお前は、違う人間だな」

「当然だ」

 デュフォーが言った。

「お前が学生で、俺が沙門だからと言う訳でもない。人種の違いだからでもなければ、金持ちでも貧乏人だからとも違う」

「ああ」

「だがな」

 其処で、空海は指差した。窓越しから見えるベランダ、その数m先に生えている、ある一軒家の桜の木。
春はもう過ぎ、緑の若葉を咲かせているそれに、デュフォーと空海は目線を送った。

「あの桜からの距離は、皆同じなのだ」

「……何? キャスター、話がややこしくなってるぞ」

「なら、あの雲だ」

 今度は空海は、上を指差した。
デュフォーの住んでいるアパートの天井ではない。窓越しに広がる、青空だった。
空には一かけら二かけらの小さい千切れ雲が、食べかけのメレンゲのように浮かんでいる。

「あそこを流れる雲が見えるか?」

「ああ、見える」

「あの雲からの距離は、俺達は元より、此処に住む誰も皆同じだ。金を持っているからあの雲に近く、貧乏であるからあの雲から遠い。頭が良いから悪いから、雲が遠い・近いと言う事はないだろう?」

「ああ」

「皆、同じ人間だ」

「今更語る事じゃないだろう」

「だが、倭人と波斯(ペルシア)人が違うといえば違う。金持と貧乏人とも違うといえば、違うだろうが?」

「そうだな」

「何故、なのだろうな?」

「オレに振るな。お前が答えるものだろう」

「違うと言えば違う。同じと言えば同じ。それにはな、理由がある」

「それは?」

「それはな、倭人だとか波斯人だとか、沙門だとか儒者だとか、金持とか貧乏人だとかいうのはな、『人の理』が造った分け方だからさ」

「人の、理?」

「沙門や儒者、倭人や波斯人、金持と貧乏人が同じと言うのは、天の理だからだ」

「それは、解る」

「そこでだ、デュフォーよ」

 微笑みを浮かべる空海。


152 : 光の宴 ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:21:56 .BUAkPt60
「倭人である俺と、洋人である俺とお前が同じなように、其処らの樹木も、やがて咲くであろうあの桜の花も、犬や猫も、蛇や魚も、俺やお前と同じものなのだ」

「む――それは」

「そう。皆、同じ生命なのだ。天の理からすればな」

 舌に油が塗られているかのように、男の話は、止まらなかった。

「俺達と、花や犬、樹や蛇や魚が同じ様に、それらと、この建物が建てられた地面、其処らに転がる石や空に浮かぶあの雲。あらゆるものが、同じものなのさ。天の理の内ではな」

 ――。

「その宇宙の原理が、俺にもお前にも、あの桜にも雲にも、お前のお隣さんにも、此処に住む家にも、あのテレビとか言うものにも、魚や野菜を煮る匂いにも満ちている。あらゆるものが、そう言った宇宙の原理に貫かれている」

「それはつまり――曼荼羅か」

「その通り。それをな、俺は面白いと思った。これこそが、世界を満ち足りたものにする方法だとも思った」

 空を見上げながら、空海は、説法を続ける。

「全てのものは、天から見れば皆同じ。全てが等しく『もの』であり、全てが等しく『命』である。そうと心の何処かで理解すれば。頭の何処かに留めておけば、きっと、世界は少しづつ良くなると、俺は思ったんだ」

「だが、現実には、そうも行かなかったのだろう。そうなってしまった理由が、お前には解るか?」

「知っているよ」

 デュフォーの所に空海が向き直る。鉄面皮さながらのデュフォーと、微笑みのマスクを被ったままと言われても納得する程、
顔がアルカイック・スマイルから動かない空海の目線とが、絡み合った。

「人の理もまた、天の理に負けぬ、一つの宇宙であったからさ」

「人の理と言うのも、あるのか」

「なあ、デュフォー。数……つまりは、一枚だとか二個だとか三粒とか、そう言った数で表現出来るものは、誰の目にも見て明らかだろう?」

「ああ」

「堅いとか、柔かいもそう思うだろう?」

「ああ」

「同様に、熱いとか冷たいとか、更に、正しく使用される大きいとか小さいも、明らかなものだ」

「そうだな」

「例えば、ある二つの石を比べた場合、どちらの石が堅いか柔かいか、どちらの石の方が大きいか小さいか。その答は、その答を出す者が人であろうが獣だろうが虫だろうが、同じものだ。これが、天の理と言うものだ。誰から見ても、同じものだからな」

「理解はした」

「ところがこれが、どちらの花が美しいか醜いか、どちらの宝石の方が綺麗か、林檎や蜜柑のどちらが好きか嫌いか、となると、途端に人の理になる。『あらゆるものは等しく同じもの』であると言う天の理の中には、『美醜や好き嫌い』の概念が存在しない。どちらの花が赤いとか白いとか、花びらの数が四枚とか五枚とかいうのは、天の理の内であるが、これが花の美しさとなるとややこしくなる。赤の花が美しいという者もいれば、白い花が美しいと言う者もいよう。それが虫や獣、花の美や醜について答えを出させれば、その答は人とは全く違うものになるか、或いは美醜と言う問や答、もしくは、そんな言葉自体が彼らには存在しない事もあるだろう」

 ふぅ、と空海は一息ついた。

「この人の理と言うものが、人を苦しめ、そして時に人を豊かにする、『天の理に匹敵する一つの宇宙である』、と言う事が曲者だった」

「どう言う意味だ?」

「天の理と人の理、どちらの方が上か下か。そんな区別はないのだ。どちらも等しく、一つの『理』だ。人はな、天の理だけでは生きられない。人が生きる以上、人の社会・人の言葉・人との繋がりが必要になり、そしてそう言った人の営みとは、天の理が万物を貫くように、人の理にも貫かれている。避けられないのだ。人の理からは、人である以上な」

「だが全てはお前の言った通り、一つの命であり、『もの』であり、この宇宙には好き嫌いや美醜の概念が存在しないのだろう?」

「存在はしない。だが、人がそう言ったものをどうしようもなく認識しがちな生き物なのは事実だ。だが、美醜にも好き嫌いにも、善もなく悪もない。存在する事自体は、罪ではないのだ。だが人は、これらを軸に動く。これらを軸に、善行を成すし、悪も成す。人の理とはな、人の生き方を豊かにもするし、或いは貧窶にも陥らせてしまう、危うい天秤なのだ。人の理とはな、デュフォー。人の産み出した最も偉大な発明の一つにして、最も危険な魔羅(あくま)の一つなのだ」


153 : 光の宴 ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:22:37 .BUAkPt60
 考えるデュフォー。
美しい事、醜い事。それ自体は、宇宙には存在しないのかも知れない。だが、これ単体は罪ではない。
罪なのは、これらを判断基準にして、悪辣な差別を行うもの、迫害を行う者なのだろう。それは同様に、好き嫌いにも言えるだろう。
人の理、確かに難しいかも知れない。美しいものや好きなものを愛でたり、丁重に扱う者は、この世には数多いだろう。
一方で、醜いもの、嫌いなものを敢えて克服しようと、血の滲む努力を行う者も確かにいるであろう。美醜、好き嫌い。
結局は、それと付き合う人間次第である。だからこそ、空海は人の理と言うものを天秤と言い、天の理に等しいものだと説明したのだろう。

「人である以上、人の理からは逃れ得ぬ。だからこそ、俺は、天の理を、宇宙の話を説いた密に、救いがあると信じた。俺もお前も、お前の隣に住む男も女も、お前が通う大学の生徒達も、皆が全く違う境遇から生まれた違う人間だ。美味い物を喰えば幸福だと感じる者もいよう。描いた絵や、執筆した物語、己の書いた書を褒められる事が幸福だと思う者もいよう。男と交わり、女を貪る事に生を感じる者だっているだろう。幸福の尺度も、それぞれ違う。だが、天の理から見れば、趣味趣向こそ違う人間かも知れないが、皆が同じ命なのだ。人だけじゃない。虫も、魚も、蛇も、獣も、地面も、空も、雲も、樹木も草木も花々も。皆が、同じ命だ。それを、頭の片隅にでも、皆に覚えておいて貰いたかったから。それが、世界を良くする方法だと思っていたから、俺は密を学んだ」

 長く語った空海の目を真っ直ぐ見て、デュフォーは口を開く。

「仮に……それを人が理解し、憶えていたとして、その人物は、どうなる」

 それが、デュフォーには知りたかった。密を知っていれば、人はどうなるのか。
それは、彼のアンサートーカーも教えてくれない、知識を憶えると言う事は、憶えると言う行為に過ぎない。それは、問題ではない。それ自体で完結してしまっているからだ。

「少しだけ、人に優しくなるかも知れなくなる、かな」

「……何?」

 空海の、想像だに出来なかった言葉を受け、デュフォーは、唖然とする。

「デュフォーよ。お前も解っているだろう。密は確かに、仏陀が釈迦であった時代に、彼が産み出した解毒と癒しの術法が元となっているし、俺も同じ事は出来る。だがな、所詮はそれだけなのだ。密を極めたからと言って、その人物に残るのは、その人物だけが優れた法術や法力を奮えると言う結果だけだ。その人物が、人の為に動かねば、何の為の密なのだ?」

 更に、空海は続けた。

「この世の全ての術、左道も右道も、黒魔術や白魔術も、邪法や聖法も、それ自体は単なる知識に過ぎない。知識では、人を救えぬ。人を殺せぬ。それを活用する人に掛かっているのだ。俺の求めた密ですらも、この桎梏から逃れる事は出来ない」

 すぅ、と言う呼吸の音が聞こえて来た。空海の口からであった。

「密の術法を憶える必要はない。ただ、天の理を、一かけらでも、多くの人々に知っていて欲しい。それが、この世界を豊かにする方法であると、俺は信じていた」

「ゆっくりとした話だな」

「デュフォー。如何なる仏法も、人の世界を突然豊かにさせる事は出来ないのだ。これは、景教や祆教にしても、同じ事。もしも、ある日突然世界を良くする術のある法が存在するのならば、直ちにその道が世界の主流となっているのだからな」

 それは、そうだな、と、デュフォーも思った。

「俺は勿論、釈迦ですら、幸福の感じ方が違う人間達を一時に満たさせてやる事は出来ない。だが、幸福の感じ方の選択肢を……苦諦との付き合い方を、示してやる事は出来る。その選択肢を増やす手段が、俺は密だと思った。俺はそうだな……あれになりたかったのさ」

 言って空海は、今度は空ではなく、明白に、デュフォーの住む部屋。その天井に設置された、シーリングライトを指差した。
今は真昼の為、電気代の節約がてら、電気は消されている。この時期の昼は、電気などつける必要もなく、窓から差し込む光だけで十分過ぎる程明るいものがあった。

「……灯りか」

「そう。今を生きる事には意味があり、愛は素晴らしく、希望には尊さがある。そうと教えられるものに、俺はなりたかったのさ」


154 : 光の宴 ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:23:19 .BUAkPt60
 目線を、空海の指差したシーリングライトから、彼の背後に存在する窓、其処から差し込む光に、デュフォーは目線を移した。
陽の光を見て、デュフォーは思い出した。ある時立ち寄った、アフリカの貧しい農村。其処でのやり取りを。どれだけ歳を取ろうとも、忘れる事のないあのやり取りを。

 ――生きてくれ!! あんたは生きなきゃならん!! 死んではならん!!―― 

 ――あんたはあの子に、我ら村の者達に、愛を与えた――

 ――私はまだまだお礼を言いたい。何度でも……何度でも!!――

 ――見ろ……お前は、あれだ!!――

 そう言って、村の男が自分に対して指差した、夜明けの太陽の輝きは、デュフォーにとっては、アンサートーカーで表記される太陽の知識以上に、
ずっとずっと、眩しかった。ただの自然現象と断ずるよりも、その太陽の光はずっとずっと、暖かかった。愛とは、何処までも素晴らしく尊いものだと初めて知った。
強く、正しく。この世界を生きてみようと、あの時誓った。

「……空海ともあろうものが、この程度の光で満足するのか?」

「ほう?」

 デュフォーの挑発的な言葉に、空海は、眉を顰めるでもなく、何時もの笑みを浮かべ、面白そうに彼の事を眺め出した。

「オレは……アレになるぞ」

 デュフォーはそう言って窓際……空海の傍まで近づくや、窓から空の方を指差す。
白髪の青年の人差し指の先では、遥か一億五千万㎞先で燃え上がる、あの太陽が燃え上がっていた。「ほう」、空海が息を吐く。

「太陽……毘盧遮那仏(マハー・ヴィローシャナ)の化身か。フッ、大きく出たな」

「無理だと言うのか?」

「馬鹿な。全ての人間は、その後待ち受ける応報を覚悟しているのなら、何を目指しても良いのだ。密の主尊である、大日如来とて、例外じゃない」

「出来ると思うか?」

「お前なら出来るさ、デュフォー。お前が太陽を目指すと言っても、俺は笑わんよ」

 太陽を指差す右手を、己の服の懐に持って行き、其処にしまい込んだ、十二星座の刻印されたカードをデュフォーは取り出す。
イギリスの貧民街で、タチの悪い肺炎に掛かるも、病院に行く金がなく、死を待つだけになってしまったストリートチルドレンを救い、
その少年が恩義を感じて自分にこのカードを渡した事が、この日本の冬木に招かれてしまった原因だった。
救った事については、勿論デュフォーは後悔していない。だが、此処で行われる聖杯戦争については、全く良いイメージを抱いていない。
最後の一人になるまでの、バトルロイヤル。その催しの渦中に、つい数か月前デュフォーは身を置いており、辛い別離も彼は体験した。
戦い合いや殺し合いの果てに残るのは、心に残された深い爪痕。別離の哀しみ。そして、虚ろな廃墟と、戦った者どうしに残る怒りと憎悪だけ。
魔界の王様を決める戦いを終えたすぐ後で、人同士の殺し合いを行えなど、今のデュフォーが呑み込む筈がない。
グッと、握り拳を作り、空海の方に向き直るデュフォー。彼の顔から、微笑みが消えていた。口は堅く引き絞られ、一文字を刻んだ顔つきで、空海は、デュフォーの事を見ていた。

「キャスター」

「ああ」

「聖杯戦争を止めれば……オレは、太陽に近付けるだろうか」

「太陽になれるかどうかは解らない。だが……」

「だが?」

「――光には、なれるさ」

「そうか……そうか」

 数秒程の沈黙が、安アパートの一室を支配した。

「聖杯戦争を、止めるぞ。空海」

「止めるか」

「止める」

「止めよう」

「俺も、止めたいと思っていた」

「行こう」

「行こう」

 空を見上げながら、両名は口にした。
聖杯戦争を止めた先に、何が待ち受けているのか。デュフォーの脳内にも、空海の千里眼にも。その答えは表示されない。
だが、だからと言ってそれに惑う二人ではない。彼らは信じているからだ。聖杯戦争を止める事は、アンサートーカーでも千里眼に頼るまでもなく、正しい事柄だと。


155 : 光の宴 ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:23:34 .BUAkPt60
【クラス】キャスター
【真名】空海
【出典】日本(西暦774年〜西暦835年?)
【性別】男性
【身長・体重】172cm、60kg
【属性】中立・善
【ステータス】筋力:E 耐久:C 敏捷:D 魔力:A+ 幸運:EX 宝具:EX

【クラス別スキル】

陣地作成:A+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる『工房』を上回る『神殿』を形成する事が可能。
またキャスターが干渉した土地は、陣地を形成すると言うプロセスを踏まずとも、確率でキャスターの陣地であると判定される事がある。
キャスターは土木学に非常に優れ、建築にも造詣が深かったとされる。

道具作成:A+
魔力を帯びた器具を作成できる。このランクになると材料さえ工面すれば、宝具の作成すらも可能とする。
またキャスターが干渉した物品は、確率でE〜Dランク相当の宝具と判定される事がある。

【固有スキル】

千里眼:EX
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。 キャスターの千里眼は遠方の視認や動体視力の向上もなく、透視も未来視も過去視も出来ない。
代わりにキャスターは、『視認・認識した事象や問題の完全なる最適解』を視る事が出来る。この能力はキャスター自身の意思でオンオフを切り替えられない。

仏の加護:A+
大日如来や四天王、明王に菩薩、釈迦如来など、仏教由来の神格達からの加護。
ランク相当の対魔力をキャスターに約束するだけでなく、窮地に置かれる前に優先的に幸運を呼び寄せ、更にキャスターの僧侶としての能力をバックアップする。

法力:A+
後述の宝具の効果による発露の一端。加えて、『仏の加護・神々の加護』によって補正が掛かっている。
類似スキルに『法術』があるが、キャスターは術を介さずとも力を行使し、あらゆる奇跡を発現させる。
特に水・樹木を筆頭とした自然物への干渉を得意とし、判定次第ではそれらを駆使した相手の魔術や宝具の支配権すら奪う事が出来る。

神々の加護:B
丹生明神・高野明神・清瀧権現など、日本由来の神格・神霊からの加護。キャスターの行動は神々によって障害が取り除かれ、成功が保証される。
キャスターは仏の道を選んだ為ランクがダウンしているが、それでもなお高いランクを誇る。

菩提樹の悟り:A
求道の果ての悟りの境地。いかなる環境・状況にも左右されない不動の精神。
人の在り方を理解するにまで至ったその見識は、第六感を不確定な予感ではなく、確たるものとして認識することができる。五感に対する妨害を無効化し、精神干渉をシャットアウトする。

【宝具】

『飛行三鈷杵(ひぎょうさんこしょ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜1000 最大補足:1
キャスターが唐国で恵果和尚より授かった三鈷杵が宝具となったもの。キャスターが法力を発動しやすくする為のツール。
また元々が、インドラ神が所有する武器であるヴァジュラをモデルとしたものである為、当然攻撃にも使用可能。
その場合には、悪属性のサーヴァント、または過去に殺人や姦淫、窃盗などを犯した者、魔性や不死の属性に対して特攻の光を放つ事が出来る。
この宝具の真の使い道は、投擲する事で、キャスターにとって最も正着となる場所、あるいは者へと空間を超越して辿り着き、相手に攻撃、或いは、その者の位置を知る事が出来る。

『遍照金剛・寂滅為楽(へんじょうこんごう・じゃくめついらく)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
キャスター自身が目標とし、そして己自身が成し遂げた即身成仏の究極体現。常時発動型の宝具。
キャスターの持つ法力スキルは、厳密に言えばこの宝具の力を一割程度発動させている時の余波のような物である。
この能力を最大限まで発動させると、仏の加護・法力・菩提樹の悟りスキルがEX相当に修正され、老化はおろか、現時点でのあらゆる状態を停滞させる。
あらゆる物理干渉をシャットアウトし、5つの魔法、神霊級の魔術や攻撃や宝具・害意すら寄せ付けず、何者の侵害も許さない究極の守り人となる。
勿論その代償として、魔力の消費は絶大であり、陣地外でこの効果を発動しようものならどう言った結果になるのかは、言うまでもない。

【weapon】


156 : 光の宴 ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:23:54 .BUAkPt60
【解説】

弘法大師の名で知られる、平安時代初期の僧にして、真言宗の開祖である。幼名を佐伯眞魚。
中国より真言密教をもたらした、また密教と言う物を日本で最も理解していた万能の天才の一人。
豪族の息子として生まれ、若い頃から高度な教育を受け、18の時に上京して当時唯一の大学に特例で入学し、明経道を主に学ぶ。
だが、それだけでは飽き足らず、山林での修行に入るようになる。この時期の足跡は明らかにされておらず、この時期に名を空海と改め、また悟りを得たとされる。
当時31歳と言う若さ、しかも私度僧に過ぎなかった空海が、何故当時のエリート集団である遣唐使の留学生に選ばれたのかは今なお謎に包まれているが、
遣唐使は唐に渡るだけで既に命がけであり、空海達の時もその例に漏れず、大きく航路が逸れてしまうも、船は無事唐へと漂着。
般若三蔵や恵果和尚などの高僧に師事し、その実力を認められ、『遍照金剛』の名を与えられる。この名は空海の法号ともなった。
その後唐の国で曼荼羅や密教法具の製作、経典の書写が行われた。恵果和尚からは阿闍梨付嘱物を授けられた。
その後も土木技術や薬学をはじめ多分野を学び、経典などを収集、更に唐の言葉や、当時の唐で知られていたゾロアスター教の教義やペルシア語も学ぶ。
当初は20年の予定であった留学を、2年で全て修めてしまい、そのまま帰国。 帰国後、僧侶として多くの重要活動に励み、61の時に入定。
死後しばらくして、醍醐天皇から『弘法大師』の諡号が贈られた。余りにも整い過ぎた出世の人生も疑いの対象だが、その真に奇妙な点は彼の足跡である。
日本全国には空海ゆかりの伝説が5000以上もあるとされ、歴史上空海が移動したとされる範囲の外にすら彼の伝説が存在する。
この奇妙な伝説の分布は、日本人にとって名のある僧と言えば空海であると言う認識が根底にあり、彼に対する尊崇の念があったからだ、と考えられる。

しかし、これら日本に存在する空海伝説のその全てが本物。だが厳密に言えば、その伝説の半数以上が、『入定後』に成立したものである。
空海は生まれつき、目にした問題や事象の答え・最適解を視認出来る千里眼の異能を持って生まれてしまった人間だった。
彼自身は大層頭が良く、十代半ばの頃には当時の大学に易々と合格出来る学力を持っていたが、答えを解く前に目の前に答えが表示されてしまう。
そんな事がずっと続くものであるから、空海の人生は退屈を極め、この世に辟易とし始め、何を思ったか山籠もりを始め修行をし始める。
何をしても、自分には答えと言うものが待ち受け、その答えの通りに動けば全て上手く行く為、空海の心は虚しかった。
そんな折に、虚空蔵菩薩が彼の前に現れ、その力を以って衆人を救えと言う言葉を聞き、悟りを得る。
彼は、世界に存在する全ての人間の生活を豊かにし、満ち足りたものにする、と言う『達成不可能・千里眼で答えも表示されない』偉業を成し遂げようと決意。
その為には力を得ねばならぬと奮闘するが、国内では限界があるとし、空海は地上を救う術を日本だけでなく、海の向こうの唐にも求めた。
遣唐使になったのもこの為で、彼は千里眼の力を用いてあらゆる方面に根回しをした。ただの無名の僧が遣唐使の資格を得たのはこれが理由。
その後は史実の通り、卓越した才能と千里眼の異能で、密教だけでなく、唐の土木や薬学、修辞学に能書、文学、果てはゾロアスターの教義すら完全に理解する。
帰国した後はその力を用い、国家や民の暮らしを豊かにしようと奔走。その後は己の老いを悟り、入定。己の育てた弟子達に後を任せ、そのまま世から離れようとした。
だが、彼は余りにも偉大過ぎた。彼の働きは仏や神々にとっても目覚ましく、好ましいものだったようで、空海を己の手元に彼らは残したがった。
故に空海は、仏達の力によって神の領域に強制的に近付かされ、入定に入った奥の院の霊廟ごと現世でも幽世でもない世界の外側の方へ弾き出されてしまった。
これは堪らぬと空海は、何とか己の力を駆使し外側の世界から脱出、その度に日本の各地に伝説を築いていた。
そしてその度に、仏や神々に連れ戻され、また脱出し、また連れ戻され、を繰り返していたが、流石に何十回目には対策をされ尽くされ、脱出も著しく難しくなってしまう。
こうして空海は今も世界の外側から、人間の世界を眺め、己の教えや己が齎した奇跡の産物である湧水が使われている事を知りながら、退屈に過ごす羽目になるのだった。


157 : 光の宴 ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:24:10 .BUAkPt60
鷹揚とした性格をした大人の男性だが、冗談を好み、煙に巻く話し方が好きで、己の話で困る素振りを見せる人間が大好きだと言う困った人物。
また仏僧ではあるが、出家後も肉も食べたし女も抱き、酒も飲んでいたと言う破戒僧。それでもなお仏や四天王、明王から愛されていた。
本来はスカサハやマーリン同様、今も生き続けている存在の為英霊にすらなれず、召喚する事は不可能。また、グランドキャスターの適性も満たしている。
千里眼の異能の影響か、冷めた所もあるが本質的には人間が好きで、己の学んだ技術を授ける事に惜しみがない博愛的な性格。
今の仏達の過保護な待遇にはほとほと呆れ返っており、これなら英霊の座とやらに登録された方がまだマシだったとすら思っている程。
そんな彼が、サーヴァントとして召喚されると言う事態に、空海自身が驚きながらも、サーヴァントになっても仏や神々の加護が生きている事を嘆きつつも。彼は、束の間の自由を楽しむ事にするのであった。

【特徴】

飾り気も何も無い、朱色の袈裟と、黒色の法衣を着こなす、剃髪の男。常に不敵な微笑みを浮かべている。
聖杯戦争に際しては、第16次遣唐使留学僧として長安に入った時の31歳の年齢で召喚されている。年齢こそ中年のそれだが、外から見れば、二十代前半〜中盤としか思えぬ程若々しい。

【聖杯にかける願い】

ない。自由を楽しむと同時に、デュフォーの願いを聞いてやる





【マスター】

デュフォー@金色のガッシュ!!

【マスターとしての願い】

ない。聖杯戦争を止める

【weapon】

【能力・技能】

答えを出す者(アンサートーカー):
どんな状況や疑問、謎でも、瞬時に「答え」を出せる能力。
戦闘中ならば、どのようにしたら相手に攻撃を当てられるか、何処が脆い部分か、どのようにしたら相手の攻撃を避けられるかなどの『答え』が出せる。
但し、出せる『答え』には状況や実力にもよるが限界はあり、例えば本人を見ないで予想として答えを出す場合は完全には正解が出せず、
またあらゆる手段を用いても状況が打破できない場合は『答え』が出ない。
作中に登場した能力の中でも極めて強力な物で、戦闘は勿論、治療不可能とされている難病の治療や危機回避、未知かつ初見の言語でも、
一瞬でその単語の意味や文法の理解が可能な上読み書きも可能になり、初めて見る道具や機械でもマニュアルなしで完璧に使いこなせると言う、戦闘以外での応用力も高い。
本来この能力は極めて脳に強い負担がかかり、使い過ぎると廃人になる可能性すらあるのだが、デュフォーは幼少の頃の非人道的な生い立ちから来る訓練で、これを克服している。

【人物背景】

寡黙で冷静沈着、いかなる時も感情を見せない青年。極めて頭が良く、確実に相手を倒す天才的な戦闘センスを持ち、嘗てはこれを魔界の王を決める戦いで応用。
当時共に行動していたゼオン・ベルにとって最良のパートナーであり、あのプライドの高いゼオンですらこれを認めていた。
どんな状況や疑問、謎でも瞬時に最適な『答え』を出せる『答えを出す者(アンサー・トーカー)』の能力者であり、この能力が原因で幼少の頃、
母親の金欲しさによってその力を利用しようとする者達に売られた挙句、北極の研究施設で数年も渡って非人道的な研究対象とされていた。
最終的にその力を恐れた研究者達に研究所ごと爆破されて殺されそうになった所をゼオンに救われ、その後は彼と行動を共にし、
自分を苦しめた者達への憎しみから来る強大な心の力と『答えを出す者』の能力を使って、ゼオンの力を最大限に引き出していた。
冷徹な仮面の下に強大な憎しみを抱き、自分の生への執着心すら失っていたが、ゼオンとの別れや、アフリカのある村での出来事が原因で、ゼオンや、
彼らと戦った清麿やガッシュのペアからも愛を受けていた事を知る。以降は、昔の冷徹な性格はナリを収めた。

原作終了後の時間軸から参戦

【方針】

聖杯戦争を止める


158 : 光の宴 ◆z1xMaBakRA :2017/05/21(日) 17:24:20 .BUAkPt60
投下を終了いたします


159 : ◆nY83NDm51E :2017/05/22(月) 00:04:13 xXB/8p7.0
投下します。


160 : Stairway to Heaven ◆nY83NDm51E :2017/05/22(月) 00:06:13 xXB/8p7.0


☆○


夜。とあるホテルの屋上。二人の男女が並んでベンチに座り、語らっている。
男が見下ろすのは、夜景。
女が見上げるのは、満月。

男は、おそらく二十代前半。黒いドレッドヘアーを真ん中分けにし、神経質そうな険しい表情。
腕と胸を剥き出し、首と顎を覆う、妙な服に身を包んでいる。顔立ちから、東洋人ではなさそうだ。

女は、男よりやや年上。セミロングのウェービーな髪に、褐色の肌の艶めかしい美女。ヒスパニック系の顔立ちだ。
タレ目に泣きぼくろ、少々濃い化粧。豊満な胸に露出度の高い服装。手にはタバコ。そういう商売の女性だろうか。

この冬木市に、外国人は珍しくはない。しかし、二人とも異様な雰囲気である。
二人は、観光に来ているわけでも、愛を語らっているのでもない。戦いに来ているのだ。

男は、女に問う。


「あんたは、『天国』を信じるか?」


161 : Stairway to Heaven ◆nY83NDm51E :2017/05/22(月) 00:08:19 xXB/8p7.0

女はタバコを吸ってから、気怠げに答える。

「そりゃ、信じるわよォ……なんたってアタシは、人を『天国』へ導く女神だものォ」
「どうすりゃ、そこへ行ける? 女神様」

男の真剣な声音に、女は鼻で笑う。

「ソッチの意味? それとも、マジメな意味?」
「もちろん、マジメな意味だ。魂の問題だ。前者にも、マジメな意味はあるんだろーがな」
「そーね。じゃあ、マジメに答えてあげる。アタシの意見が正しいかどうかは、あんたの判断に任せるわ」

女は目を細め、再びタバコを吸い、月に向かって煙の輪を吐き出す。そして、呟く。

「『名誉ある死』。それが、天国へ行く方法ね。月並みだけど」
古来、人間は死を美化し、飾り立てた。死が尊厳と名誉に彩られたなら、人はその死者が天国へ行ったと信じるだろう。

「たとえば、神に身を捧げて死ぬこと」
殉教。キリストも聖人も、神に身を捧げて死んだから、天国へ行けた。有り得る話だ。

「男の人なら、戦いで死ぬこと」
名誉の戦死。戦いが賞賛される社会であれば、戦死者は栄光に包まれて、天国へ行ったと言われるだろう。

「女の人なら、出産で死ぬこと」
産褥死。悲しいことだが、新たな命を産み落とす時に、命を落とす母親はいる。
彼女たちは、女性にしか出来ない戦いに身を捧げて死んだのだ。その魂を慰めるために、天国へ行くと言われてもいいだろう。

「そしてね……」

女は、顔を男の横顔に近づけ、煙を吹きながら愉しげに囁く。


162 : Stairway to Heaven ◆nY83NDm51E :2017/05/22(月) 00:10:35 xXB/8p7.0

「『首吊り自殺』」

女が髪をかきあげる。首筋に縄が巻きついており、きつく絞め付けられ、変色している。
よく見れば、彼女の頬には黒い死斑が浮かび、腐敗を始めている。体は半透明。どうやら、幽霊のようだ。
ある意味、それは正しい。が、彼女はただの幽霊ではない。聖杯戦争で戦うために召喚された英霊、サーヴァントである。

「アタシのクラスは、アサシン(暗殺者)ってことになってる。でもね、アタシが人を殺すんじゃあないわ。
 死ねば天国へ逝ける、楽園へ逝ける、この世の苦しみから離れて自由になれる。そんな思いが、自分で自分を殺すのよ。
 ……まあ、アタシが行きずりの男に『天国』を味わわせて、魂を抜いちゃうことだって、無くはないけどォ。ウフフ」

笑いながら、女は自分の乳房を揉む。好色そうで下品な女だが、どこか厭世的だ。
彼女は多くの死を見てきた。それもそのはず、彼女は死神なのだ。

「アタシの真名は、『イシュタム』。マヤ神話の、自殺の女神。……あんまり知らないでしょ、忘れられた神だもの」
「ああ、初耳だ」

隣に死神がいるというのに、男は顔色一つ変えない。彼は強い精神力の持ち主のようだ。

「アタシは、そんな魂を天国、楽園に導く。宇宙樹の木陰にやすらわせ、いつまでも幸福に暮らさせてあげるの。
 美味しい食べ物も飲み物も豊富にあり、誰も誰かをイジメたり、こき使ったりしない。痛みも苦しみも、悲しみも不幸もない。
 アタシみたいな慈悲深い女神様、世界中探し回ったって、そうそういないわよォ」

アサシン・イシュタムは、自嘲気味に微笑む。多くの文化圏で「地獄行きの罪」とされる自殺だが、当人にとっては救いの面もある。
死神とはいえ、彼ら、彼女らは、神に身を捧げたのだ。ならば、その魂を救ってやるのが神の責務であろう。

「それは『天国』なのか?」
「その人次第ね。自殺を良しとしない人だって、いっぱいいるわ。キリスト教が普及してからは特にねェ……。
 あの神の子や殉教聖人だって、自分から死にに行ったようなもんなのにさ。裏切り者が首を吊ったからダメなのかしら」
「それが救いなら、それでいい奴もいるだろう。オレは、そう思わない。それはオレにとっての『天国』じゃあない」

男は、自殺に興味はなさそうだ。つれない態度に、アサシンは少し眉をしかめ、唇をとがらせる。

「じゃあさ、あんたにとっての『天国』ってなに?」


163 : Stairway to Heaven ◆nY83NDm51E :2017/05/22(月) 00:12:26 xXB/8p7.0

男は、目を閉じ、見開く。その瞳には、漆黒の炎が宿っているかのようだ。

「オレにとっての『天国』は……『成長』することだ。生きているうちに、精神的にな。
 死後の世界や、永遠のやすらぎは、成長なき『停滞』だ。オレの求めるものとは違う」

男の人生は、散々だった。父はいない。母は行方不明。母の親戚に預けられ、人の機嫌を窺いながらオドオド生きてきた。
16歳の時、学年末の試験会場で、両方のまぶたが急に落ちてきた。眠いからではなく、理由は誰にも分からない。
それ以来、ストレスが重なると彼は息苦しくなり、まぶたが落ち、手汗をかき……パニックになって何もできなくなった。
恥辱と惨めさのあまり学校にも行けなくなり、一人になりたいと車を運転すれば事故を起こす。外出さえも怖くなった。
生きる目的も希望も、彼にはなかった。だが、ある人物――――プッチ神父に出会って、彼の人生は大きく変わった。

「宗教とか思想とか、小難しいことは知らない。だが、オレはそう信じている」

神父は、オレの欠けていた心を満たしてくれた。オレが生まれたのは、神父を『天国』へ押し上げるためだったと、教えてくれた。そういう運命だと。
恐怖はなかった。自分が存在し、行動することが、誰かの役に立っている。今までの人生が全て取り戻されたような、晴れやかで清々しい気持ちだった。
そして……神父は、どうやら『天国』へ行けたようだ。オレの父、DIOという神に身を捧げ、全てを犠牲にし、成長し、その先へ。直感的にわかる。

オレの役目は終わった。だが……では、今生きているオレは、どう生きればいい。
あの時、空条徐倫やエルメェスらとの死闘の末、敗北し、肉体的に再起不能になったはずだ。だが、こうして健康に生きている。
アメリカ、フロリダではなく、行ったこともない日本の、冬木市とかいう聞いたこともない町。そこに、何者かによって呼び出されたのだ。
奴らは、万能の願望器『聖杯』を餌にして、生き残りを賭けた殺し合いを開催している。信じられないが、信じるしかなさそうだ。

今度もオレは、誰かの踏み台になり、そいつを押し上げるために死ぬのか? そうではないだろう。
神父を恨みはしないが、オレにはオレの人生がある。誰かのために生きるのもいい。だが、やり直せるなら、今度は自分のために生きたい。
オレがここにいるということは、今は、そういう『運命』なのだ。自分で『運命』を切り拓けという。

「だから、オレは自殺はしない。死ぬことを前提に戦ったりもしない。生き残る。戦って勝ち、聖杯を獲得する。
 それはトロフィーだが、結果が目的じゃあない。そこに至るまでに、どれだけ『成長』できるかが重要だ。生きるってのは、そういうことだ」

アサシンは感心したように口笛を吹き、肩を揺すって笑った。

「男らしい子ねェ。アタシは好きよ、そういうの」


164 : Stairway to Heaven ◆nY83NDm51E :2017/05/22(月) 00:14:26 xXB/8p7.0

男が右手を握り、顔の前に突き出す。カエルのような半透明の幽体が手首の上に出現した。
それと同時に、何か……俊敏に動く、羽虫のようなものたちが、彼の周りに集まり始める。
メキシコやフロリダに生息する未確認生物、「ロッズ」たちだ。やはり、この日本にも生息していた。

「オレの名は『リキエル』。オレの能力……『スカイ・ハイ』は、生物から体温を奪って病気にする事ができる。
 だが、それだけだ。サーヴァントは幽霊みたいなもので、生物じゃあない。オレの能力で倒せるのは、マスターだけだ。
 どうしたって、おまえの能力が必要となる。おまえはサーヴァントと戦えるのか?」

「あんまり期待されても困るけどォ……アタシ、これでも死神よ。『幽霊』の扱いには慣れてるの」

アサシンが立ち上がり、タバコを捨てて踏み消すと、首に巻き付いた縄から何十本もの縄が放射状に伸び、蛇のようにのたうった。
魔力の「縄」を操る能力。空条徐倫の「糸」のスタンド『ストーン・フリー』に似ている。

「これがアタシの商売道具さ。この縄に吊られたら、マスターだろーとサーヴァントだろーと、イイ気持ちで『天国』へまっしぐらよ」

縄は俊敏に動き、リキエルの周りを飛び交う「ロッズ」たちを一瞬で絡め取った。
切断され、ポトポトと落ちた「ロッズ」は痙攣し、死骸はドロドロに溶けていく。そういう生き物なのだ。
平均飛行速度は時速200km以上という「ロッズ」を、複数同時に捉えるほどのスピードと精密動作。こいつは、頼りになりそうだ。

「まあ、魂はアタシが食べちゃうわけだけどさ、死に際にその人の心が『天国』だって認識することが大事じゃあない?
 アレよ、聖書にも書いてあるわ。『天国はお前たちのただ中にあり』、だっけ? そーいう意味じゃあないって? ウヒ」

クスクス笑うアサシンに、リキエルは向き直る。意見は違うが、意志は通じる。派手さはないが、能力の相性は悪くない。

「過程は大事だ。だが、死んでしまえば、そこで『成長』は終わりだ。オレが生き続けるために、協力しろ、アサシン」

「もちろん! そしてアタシは、たくさんの魂を『天国』へ導いてあげるわ」


★●


165 : Stairway to Heaven ◆nY83NDm51E :2017/05/22(月) 00:16:36 xXB/8p7.0

【クラス】
アサシン

【真名】
イシュタム@マヤ神話

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷C 魔力A 幸運C 宝具B

【属性】
中立・悪

【クラス別スキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。完全に気配を断てば発見する事は難しい。

【保有スキル】
神性:A-
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
かつてマヤで崇められていた(らしい)死神であるが、マヤ文明が崩壊しカトリックが普及した今、彼女の信者は(ほとんど)いない。

束縛願望:A
戦闘において麻痺・封じ・石化などの拘束系の物理攻撃や特殊能力の成功確率が上昇するスキル。
反面、『縛り付ける』事を日常にし過ぎているため、通常攻撃で相手に与えるダメージが10%低下する。

精神汚染:B
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。
死神である彼女との会話は自殺への導きであり、精神の弱い者なら来世への強い希望と共に首吊り自殺を行いかねない。

虚ろなる生者の嘆き:B
いつ果てるともしれない甲高い絶叫。敵味方を問わず思考力を奪い、抵抗力のない者は恐慌をきたして呼吸不能になる。
被害者の苦しむさまは、みずから首を絞めているかのように映る。


166 : Stairway to Heaven ◆nY83NDm51E :2017/05/22(月) 00:18:28 xXB/8p7.0

【宝具】
『奇妙な果実(ストレンジ・フルーツ)』
ランク:B 種別:対人-対軍宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:50

アサシンの首に巻かれた縄。放射状に数十本の縄が伸びている。縄は黒く細く、かなりの距離まで伸び、アサシンの意のままに俊敏に動く。
標的の首や体に絡みついて拘束する。縄に触れた者は魂を縛られて激しい多幸感を味わい、首を絞められれば『天国』を味わいつつ絶命する。その魂はアサシンの糧となる。
「魂の緒」に近い存在で、心身ともに健全な相手よりは、精神力が貧弱な相手、また霊魂だけの存在に対する効果が高い。
さらに「戦死」「殉教」「生贄」「産褥死」「自殺(特に首吊り)」「刑死(特に絞首刑)」といった死に方をした相手には、回避や抵抗に不利な判定がつく。

縄は人間をぶら下げる程度の力があり、燃えないし相当に丈夫だが、魔力を込めた攻撃なら切断可能。ただしすぐに新しい縄が生え、糸状にほつれさせたりも出来る。
縄を通じて相手の声や体温、ある程度の記憶情報を読み取ることも出来るが、相手から縄を通じてアサシンに魔力などを送り込むことは出来ない。
縄の端を標的が引っ張ってもそのまま伸びるだけで、アサシンの首が締まったり、体ごと引きずられたりはしない。移動に利用したり応用は効く。
また、縄をちぎって樹木や電柱など柱状のものに巻きつけると、そこからも数十本の縄が伸びて近づく者に襲いかかる。森や街のちょっとしたブービートラップに。

【Weapon】
宝具そのもの。トラップや奇襲が主体で、正面切って戦うタイプではない。

【人物背景】
Ixtab。ユカタン半島のマヤ神話における自殺の女神。名は「縄の女」の意味。聖職者、生贄、戦死者、出産で死んだ女性、首を吊って死んだ者の魂を楽園へ導く役割を持つ。
そこは宇宙樹ヤシュチェの木陰にあり、魂はあらゆる苦しみや欠乏から解放され、永遠の安息を享受するという。一方で、旅行中の男性を誘惑して殺す悪霊ともされる。
「ドレスデン・コデックス」にのみその図像が残されているが、まさしく縄で首を吊った女性の死体で、両目を閉じ、顔には死斑が現れている。
彼女は月と雨の女神である老婆神イシュチェルの一側面ともされ、また胎児の奇形や死産をもたらす月食の象徴ではないかという説もある。
なお、Turbina corymbosaという蔓植物はユカテコ語でxtabentunと呼ばれ、死んだ娼婦の墓から生えたとの伝承がある。その種子には向精神薬LSAが含有されている。

【サーヴァントとしての願い】
たいしてなし。ほそぼそと信仰されていればそれでいい。

【方針】
哀れな死者や人生に絶望した人に救いを与える『必要悪』だと自認しており、必要以上の殺しはしない。
とは言え、聖杯戦争の場ではマスター以外を殺す「必要」があるので、殺すことに全く躊躇はない。
「縄」はサーヴァントにも効くが、基本は奇襲・足止めや情報収集に用い、敵マスターを確実に始末する。

【カードの星座】
魚座。


167 : Stairway to Heaven ◆nY83NDm51E :2017/05/22(月) 00:20:28 xXB/8p7.0

【マスター】
リキエル@ストーンオーシャン

【weapon・能力・技能】
『スカイ・ハイ』
破壊力、スピード、精密動作性、成長性:なし 射程距離:肉眼で届く範囲 持続力:C

リキエルの手首に出現する、カエルのような姿の小さなスタンド。これ自体には直接の戦闘能力はないが、「ロッズ」という未確認生物と心を通じ合わせ、自在に操ることができる。
「ロッズ」は「スカイフィッシュ」ともいい、(少なくともジョジョの世界では)実在する竿状の小さな生物で、スタンドではない。死ぬとドロドロに溶けて消える。
彼らは平均速度200km/h以上という、視認が不可能なほどの猛スピードで飛行し、決して何かに衝突することなく、接近した動物から体温を奪ってエネルギーとしている。
肉体から体温を集中的に奪われると、その部分が麻痺したり腐ったりする。また相手の筋肉を操って関節を動かしたり、内臓にダメージを与えて様々な病気にしたりもできる。
脳幹から体温を奪えば、相手を即死させることすら可能である。ロッズはそこらじゅうにいる上、殺してもリキエルへのダメージにはならない。
射程距離は「肉眼で届く範囲」とかなり長く、ヘリコプターに乗って高速移動している敵さえも襲って墜落させた。標的に近づくほどロッズの操作は精密になる。
ただし、能力の特性上「体温のある生身の動物」にしか効果はなく、リキエルがパニクるとロッズは操れなくなってしまう。

【人物背景】
荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 第6部 ストーンオーシャン』13巻に登場するスタンド使い。1988年生まれの23-24歳(2012年3月当時)。EOHでのCVは近藤隆。
DIOの息子の一人で、左肩に星のアザがある。母親はDIOの食糧となって死亡。パニック障害を患って学校にも行けなくなり、生きる目的や希望もない人生を送っていた。
だがプッチ神父に出会ってスタンド能力の使い方と生きる目的に目覚め、「精神の成長」という信念をもって神父の敵・空条徐倫たちの前に立ちふさがる。
そして敗北後……気絶した彼のもとに「星座のカード」がもたらされた。

【マスターとしての願い】
なし。他者を巻き込み、誰かに叶えてもらうような『天国』を願うこともない。聖杯を獲得する過程こそが重要である。強いて言えば、元の世界への生還。

【方針】
最後まで生存し、聖杯を獲得する。ただし結果ではなく、戦いの過程で『精神的に成長する』ことに価値と意義を見出している。
ロッズを操るスタンド能力とアサシンの能力を駆使して、敵マスターを積極的に狩っていく。


168 : ◆nY83NDm51E :2017/05/22(月) 00:22:20 xXB/8p7.0
投下終了です。


169 : ◆c0E2H7ldJU :2017/05/22(月) 00:48:56 Qbzw6gu.0
皆さま投下乙です。
私も投下させていただきます。


170 : We still fight, fightin' in the 90's ◆c0E2H7ldJU :2017/05/22(月) 00:51:16 Qbzw6gu.0

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――――――――

――――




泣いた……

生まれてはじめて俺は泣いた

最後まで……とうとう最後までユリアの心をつかむことができなかった

……ユリアの中には、いつでもおまえがいたからだ


この町……

ユリアのために築いたサザンクロスが、あいつの墓標になってしまった

見ろ! ユリアの墓標だ!

だがこんな町も富も名声も権力も……むなしいだけだった

おれが欲しかったものはたったひとつ



ユリアだ!!



……どうやらここまでのようだな

だがな、おれは、おまえの拳法では死なん!

おれは――




さらばだ!! ケンシロウ!!



――――

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171 : We still fight, fightin' in the 90's ◆c0E2H7ldJU :2017/05/22(月) 00:52:39 Qbzw6gu.0

                    ▼  ▼  ▼



奇妙な話だが、冬木市には大邸宅が多い。
古くからの街並みを残す深山町には武家屋敷がそのまま残っているし、
日本の風土にそぐわないような洋館の数も片手では足りない。
訪れる人こそいないものの、市の外縁の森は丸ごと海外の資産家の私有地で、
森の何処かに古めかしいお城があるという噂すらある。

もっとも、屋敷が多いからその数だけ金持ちがいるのかというと、案外そうでもないものだ。
冬木の邸宅には、これもまた奇妙だが何故か『いわくつき』の物件が多く、
大層な屋敷が手付かずで放置されていることすらある。
この町外れの古びた洋館もまた、事情があって持ち主が手放したまま買い手がつかず、長い間ろくに手入れすらされていなかった。

邸内の光源は砕け散った窓から不躾に差し込む日の光ばかり。
果たして電気すら通じているのかも怪しい、日中ながらところどころ薄暗い廊下を、男が歩いていた。
金の長髪をなびかせながら歩くその横顔は、およそ美男子と言って差し支えない。
しかし、白一色の服の上から豪奢な羽飾りで装飾されたマントを羽織る姿は、この冬木にあって不思議なほどに時代錯誤だった。

古臭いとか、時代遅れだとか、そういうことではない。
何か、決定的な「文明のズレ」とでもいうべき断絶が、男と冬木とにはあった。

じゃりじゃりと音を立てて砕け散ったガラスを踏みしめながら男は歩き、やがて一つの部屋に辿り着いた。
恐らく客間として使われていたのだろう、豪勢な家具が並んでいる――もっとも今は見る影もないが。
そのうちのひとつ、恐らくは主賓用のソファへと、男は無遠慮に腰を落とした。
その動作ひとつ取っても、見る者にどこか暴力の残り香を感じさせるような男だった。

「……気に入った」

ふてぶてしく足を組み、客間を睥睨して、男は虚空へと宣言した。

「今さら核戦争以前の街中では生きられん。おれにはこの荒廃こそが安らぎよ。
 ――これよりこの館を我が居城とするぞ!! “アーチャー”!!」

男がそう呼びかけると、誰もいないはずの空間が揺らめき、もうひとりの男が出現した。
黒の長髪を括り、額に茜色の布を巻き締めた、精悍な顔立ちの男である。
古代の装束を身に纏い、片手にはアーチャーという呼び名に相応しい、鳥の意匠を備えた弓を携えていた。

言うまでもなく、彼はこの冬木市でサーヴァントとして召喚された英霊であった。

「……ここが聖杯戦争の拠点か。マスターがそう決めたのであれば、俺は口を挟むまい」
「アーチャー。ひとつ言っておく」

飾り気のないアーチャーの言葉を、マスターの男は片手で遮った。

「マスター、ではない。KINGだ。おれのことはKINGと呼べ」
「……王か」
「そうだ。サザンクロスのKING、南斗聖拳のシン。それがおれだ」
「了解した、KING」

アーチャーの返答を聞いて、シンと名乗った男は満足げに頷いた。

シン。
南斗六聖拳がひとつ「南斗孤鷲拳」伝承者、「殉星」のシン。
それが、この男の名前である。


172 : We still fight, fightin' in the 90's ◆c0E2H7ldJU :2017/05/22(月) 00:53:28 Qbzw6gu.0
                    ▼  ▼  ▼



――199X年、突如として核の炎に包まれた世界があった。
海は枯れ、地は裂け、全ての生物が死滅したかのように見えた。
だが、人類は死滅していなかった。

シンは世紀末の世界でKINGを名乗り、暴力の限りを尽くしてサザンクロスという町の支配者にまで上り詰めた男である。
しかし愛する女「ユリア」を巡り、復讐者となった北斗神拳伝承者「ケンシロウ」との決闘に敗れたシンは、
自分の中の最後の誇りを守るため、あえてその身を居城の最上階から投げ出したのだった。

そう。死んだはずである。
北斗神拳により経絡秘孔を突かれ、内側から肉体を破壊された以上、死んでいなければならない。
それがどういうわけかこの冬木という町に流れ着き、あろうことか聖杯戦争などという催しに巻き込まれている。

(フ……フフ……死なずに済んで助かった、などという気分にはなれんな)

シンは自嘲気味にその口元を歪めた。
愛する女の心をつかめず、仇敵には敗北し、もはや生き長らえる理由すらない。
のうのうと生き恥を晒したところで、なんになるだろう。

聖杯。万能の願望器。
この聖杯戦争で勝利した者には、どんな願いでも叶える権利が与えられるという。
仮にその力が本物だとしたら、シンが求めても求め得なかったものすら手に入るかもしれない。
例えば、ユリアからの嘘偽りのない愛情。
あるいは、ケンシロウを凌駕できるほどの力。
それどころか、あのラオウの拳王軍をも従え、世紀末の王になることすら――。

「……くだらん」

シンはかぶりを振った。
とても、命を懸けて戦いに挑むような事柄とは思えなかった。

「アーチャーよ。きさまは聖杯に懸ける望みとやら、持っているのか?」

問われたアーチャーは僅かに目を閉じ、淡々と口を開いた。

「……いや。俺に願いはない。俺は、願いを叶えるためにここへ来た」
「ほう……?」

視線が交錯する。
嘘を言ってはいないと、その眼光が証明した。

「我が真名は『后?(こうげい)』。かつて九つの太陽を射落とし、その咎を受けた男。
 我が生の全ては誰かの願いを叶えるためにあり、それはサーヴァントとして現界した今も変わらない。
 ゆえにKING……俺のことは道具と思え。聖杯を勝ち取るための、ただの救世装置だと」

朴訥とした口調で告げるその全てが、この弓兵の人となりを示していた。
滅私の英雄。
あらゆる行動の基準から自分を除外して戦ってきた、生まれついての救世装置。
この男はあまりにも英雄で、ゆえにあまりにも人の道から外れていた。

「無欲な男よ。その欲の無さが、何裏切りを呼んだのではないか?」
「裏切られた……そう、だろうな。客観的には、俺は信じていた者に裏切られたのだろう。
 だが、それは天が俺にそういう役割を求めていただけのこと。俺はそれに応えた。それだけだ」

迷いのない口調だった。
僅かな沈黙の後に、シンは片手で顔を覆って笑い始めた。
ひとしきり笑った後に、すっと真剣な顔をして、シンはアーチャーを見据えた。


173 : We still fight, fightin' in the 90's ◆c0E2H7ldJU :2017/05/22(月) 00:54:46 Qbzw6gu.0

「……おれはな、アーチャー。人は誰でも、欲望を抱いて生きているものだと思っていた。
 そしてより大きな欲望こそが執念を生み、より大きな力を手にすることが出来るのだと、な」

それはまるで、自分に語りかけているかのような口振りだった。

「だがな、ユリアは――おれがただひとり愛した女は、欲望などに揺らぎはしなかった。
 奴もだ。ケンシロウ……やつもまた、欲望が生む執念を超える力で戦っていた」

シンは、懐から一枚のカードを取り出した。
この冬木市に流れ着いたシンが、どういうわけか持っていたものだ。
十二星座のひとつ、射手座の意匠が刻まれたそのカードを掲げ、シンは問うた。

「天が与えた役割と言ったな、アーチャー。お前は天命に従ってきたと。
 ならば、おれにこのカードを授けることで、天が与えようとしている役目とは何だと思う」

アーチャーは僅かに考える素振りを見せた。

「……射手座は弓兵を象った星座。そのカードが何かを暗示しているなら、それは俺のことではないか」
「間違いではなかろう。だがな、おれが見出したのは他の宿命よ!」

星座のカードを片手に、シンは迷い無き口調で叫ぶ。

「射手座に六つの宿星あり!
 『殉星』! 『義星』! 『妖星』!
 『仁星』! 『将星』! 『慈母星』!
 これらを総して、『南斗六星』と呼ぶ!」

南斗六星。
射手座の弓を形作る、宿命の星々。
そのひとつに運命づけられた男が今、己の運命を語る。

「俺はシン! 南斗孤鷲拳伝承者にして、『殉星』の宿命を背負う男!
 天は俺に、愛に生き愛に死す、南斗の男として戦えと告げているのだ!!
 ならば俺が聖杯に願うべきことはたったひとつ! ユリアだ!!
 だが俺が求めるのは愛ではない! 命だ! あいつが一日でも長く生き長らえる、それだけだ!」

そう叫ぶシンの頬を、一筋の涙が伝った。
知っていたのだ。ユリアの傍にいたシンは、彼女の体を死の病が蝕んでいることを。
そしてその病はどんな医者も、恐らくは北斗神拳ですら癒やすことはできないことを。
だからシンは焦った。一日でも早くユリアに全てを与えようと、殺戮の限りを尽くしたのだ。

「軟弱と笑うがいい! だがな! おれは……あの女が死ぬ定めだとは認めん!
 あいつが最後まで俺に微笑みを向けることがなかろうと、知ったことか!
 おれは殉星のシン! 今こそその天命に従い、俺の胸に残った愛に殉じてやろう!」

聖杯を獲る。
その迷いなき意志に、アーチャーは跪いて応える。

「……帰ってくることのない女を想う。その感情になら、幸い俺にも覚えがある。
 愛に殉じる男よ、存分に俺を使ってくれ。太陽を落とす弓、無類の善射、存分に振るおう」

主従としてではない、男と男に通じる思いが、そこにあった。
シンは頷き、マントを翻して立ち上がった。

「ゆくぞ、アーチャー! おれはKING! ユリアへの愛のため戦う限り、おれはサザンクロスのKINGだ!」

ここにひとつ、運命を胸に進む男達の、聖杯戦争の幕が上がった。
進む先は無明の荒野か。あるいは明日なき廃墟の町か。
いずれにせよ、この聖杯戦争もまた、男にとっては生き抜くべき世紀末である。


174 : We still fight, fightin' in the 90's ◆c0E2H7ldJU :2017/05/22(月) 00:57:28 Qbzw6gu.0
【クラス】アーチャー

【真名】后ゲイ(こうげい)

【出典】中国神話

【性別】男

【身長・体重】185cm・88kg

【属性】秩序・中庸

【ステータス】筋力A 耐久C 敏捷B+ 魔力B 幸運E 宝具A



【クラススキル】
単独行動:A
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 ランクAならば、宝具の使用以外ならほとんどマスターに負担をかけずに戦闘可能。

対魔力:B
 魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
 Bランクでは、魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
神性:E
 神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
 后ゲイは本来神霊そのものであるが、太陽を射落とした咎により神性を剥奪されてしまっている。

千里眼:B+
 視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。遠方の標的捕捉に効果を発揮。
 遥か天空の太陽へと正確に狙いを定められるその視力は、ほとんど遠隔視の領域に至っている。

怪物殺し:A
 古代中国の各地で人々を脅かしていた悪獣を次々に退治した逸話によるスキル。
 「怪物」としての属性を持つ敵に対する攻撃のダメージが増加する。

無私無欲:A
 何も求めず何も欲しがらない。先天的に魂の在り方として「英雄」である。
 精神に影響を及ぼすスキルや宝具の影響を最小限に抑えるが、その在り方は他者の共感を阻む。



【宝具】
『射日神箭・落為沃焦(しゃじつしんせん・らくいよくしょう)』
ランク:A+ 種別:対人・対城宝具 レンジ:10〜500 最大捕捉:9人
 九つの太陽を射落とした偉業の具現。天地を貫く神域の一射。
 真名開放によって解き放たれる射日神話の膨大な幻想をただ一矢に集中させて放つ、必殺の因果反転宝具。
 太陽を射抜いたというその伝説により、この矢によって射られた者は必ず『太陽となる』。
 矢が当たった場所を中心に生成される、最高温度1500万℃に及ぶ恒星の灼熱をもって対象を内側から焼き尽くす。
 その性質上、この宝具に対して防御はほとんど意味を成さない(矢に触れた時点で太陽化は発動する)。
 欠点は、Aランクの単独行動スキルをもってしても完全には相殺しきれない魔力消費の大きさ。
 なお、対象が「はじめから太陽である」場合に限り因果反転は起こらず、この宝具は純粋な太陽特効射撃となる。

【weapon】
無銘・弓:
 大英雄・后ゲイの逸話が具現化した、火烏の意匠を持つ剛弓。
 中国史上最高の弓兵である后?は、これを用いて戦車砲めいた威力の矢を百発百中の精度で速射できる。


175 : We still fight, fightin' in the 90's ◆c0E2H7ldJU :2017/05/22(月) 00:58:14 Qbzw6gu.0
【解説】
 中国神話における最大の英雄のひとり。
 古代中国の民を苦しめていた十の太陽のうち九つまでを撃ち落とした「后?射日」の伝説に名高い、偉大な弓兵。
 同時に天界を追放され、妻に裏切られ、最期は弟子によって謀殺されるという、悲劇の英雄でもある。

 こうげい。名は単に「?(げい)」とも。
 また後世にあたる夏王朝時代に存在したと伝わる同名の英雄と区別するため「大?(だいげい)」とも呼ばれる。
 元々は神であったが、十の太陽によって苦しむ地上を見かねた天帝によって妻・嫦娥(じょうが)と共に地上に遣わされる。
 十の太陽の正体は先代の天帝の子である十羽の火烏(かう)であり、彼らが一斉に天へ昇ったため地上は荒れ果てていたのである。
 それを見た后?は弓矢をもって十のうち九つまでを撃ち落とし、地上に平穏をもたらしたとされる。

 その後も天の命を受けた彼は地上の各地を巡り、怪物たちを退治していた。
 しかし先代の天帝は我が子を殺した后ゲイを疎ましく思い、后ゲイとその妻から神性を剥奪してしまう。
 后?は妻・嫦娥と西王母の許へ赴き不老不死の薬を分けてもらうが、嫦娥に裏切られて薬を月に持ち逃げされてしまった。
 この逸話を「嫦娥奔月」と言い、今でも嫦娥の名は月と結び付けられることが多い。
 こうして永遠の命を失った后?は狩人として地上で生活し、弟子を取って弓を教えていた。
 しかしある夜、彼の夢の中に自分が撃ち落とした火烏たちが現れ、人間の手を借りて復讐すると告げる。
 師がいなくなれば自分が最高の弓使いになれると考えた弟子が后?を撲殺したのは、その次の日のことであった。

【特徴】
黒い長髪を後ろで結い、古代中国風の装束を身に纏った精悍な男。
額には太陽を思わせる茜色の手拭いを鉢巻のように巻いている。

生涯ただひたすらに自分以外のために生きた、滅私の英雄。
およそ自分自身にとっての欲というものを持っておらず、誰かのためにストイックに戦う。
しかし我欲を持たないその在り方はあまりに人間離れしており、生前は結局誰にも理解されなかった。
不老不死を求めた妻、嫦娥も。名声を求めた弟子、逢蒙も。
彼らは欲を持つがゆえに后ゲイという男を理解できず、最後には彼を裏切った。
裏切られた男は無欲ゆえに彼らを恨まず、しかし無欲ゆえに「何故裏切られたのか」を未だ理解できずにいる。

【サーヴァントとしての願い】
無し。
強いて言うなら「英雄として他者の願いを叶えること」自体が願いだと呼べるかもしれない。


176 : We still fight, fightin' in the 90's ◆c0E2H7ldJU :2017/05/22(月) 00:58:41 Qbzw6gu.0
【マスター名】シン

【出典】北斗の拳

【性別】男

【Weapon】
鍛え抜いた己の肉体。

【能力・技能】
『南斗孤鷲拳(なんとこしゅうけん)』
南斗聖拳一○八派の頂点に位置する南斗六聖拳のひとつ。
その伝承者は愛に生き愛に死す「殉星」の宿命を背負う。
戦闘スタイルは「相手の肉体に外部から突き入れ、破壊する」という貫手主体のもの。
六聖拳の中ではもっとも南斗聖拳の基本に忠実な拳法といえる。
また孤鷲拳の代名詞でもある「南斗獄屠拳」のような蹴り技も用いる、オールラウンドな拳法である。

なお、シンは弧鷲拳のみならず複数の南斗聖拳を習得している。
また同じ六聖拳のレイが南斗共通の技として「南斗虎破龍」という秘孔技を習得していることを考えると、
恐らくシンも簡単な秘孔についての知識と技術は持っているものと推測される。

【人物背景】
南斗孤鷲拳伝承者、殉星のシン。
世紀末と化した核戦争後の世界でKINGを名乗り、街を暴力で支配していた男。
ケンシロウの胸に七つの傷をつけた男でもある。

元々は決して悪人ではなく、核戦争以前はケンシロウとも友人の間柄であった。
しかし想い人ユリアを巡りケンシロウへのライバル心を抱いていたことに漬け込まれ、ケンシロウの義兄ジャギの甘言に乗ってしまう。
悪の道に堕ちたシンはユリアをさらい、彼女の愛を手に入れるため世紀末の世界で殺戮と略奪の限りを尽くした。
しかし金も権力も名声もユリアの心を動かすには至らず、彼女はケンシロウへの想いを抱いたまま身を投げてしまう。
ユリアは配下の南斗五車星によって一命を取り留めるものの、シンはユリアの愛が決して手に入らないことを悟るのだった。
五車星からラオウの拳王軍が勢力を強めていることを知ったシンは、ユリアを死んだことにするため五車星に託す。
そして復讐に燃えるケンシロウとの決闘に敗れ、永遠に手に入らない愛に涙しながら、最後の矜持を胸に身を投げるのであった。

なお漫画「北斗の拳」は元々シンがラスボスとなる予定であったため、KING編の時点では南斗六聖拳などの設定は存在せず、
連載が進行してから回想などの形で徐々にバックボーンが追加されていったという経緯がある。
南斗孤鷲拳の名称も原作には登場せず、その設定はゲームやアニメ等のメディアミックスによるものが大きい。


【マスターとしての願い】
ユリアの体を蝕む死の病を完治させる。


177 : ◆c0E2H7ldJU :2017/05/22(月) 01:00:01 Qbzw6gu.0
投下終了しました。
一部文字化けしてしまっていますが、后ゲイの「げい」の字は羽の下に廾です。


178 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/22(月) 15:26:26 UQNVYZrk0
wiki作成乙です。投下させていただきます。


179 : 佐々木排世&アーチャー? ◆xn2vs62Y1I :2017/05/22(月) 15:27:57 UQNVYZrk0
.



僕の中にいる。『白い子供』。
とても、恐ろしい。無視してはならない。油断すれば自分に語りかけて来る。
子供は―――徐々に僕を侵食している。居場所がなくなる。消えそうだ。

ごくたまに真意を突いてくる。
あるいは、余計な情報を提供してきたり。
流されそうにも。

だから……









都内にある某喫茶店にてコーヒーを啜る青年。
彼は、至って静かに本を片手で平静を保っているが、実際は騒がしい。
見た目が白黒混じりの、パンダみたいな髪型で浮いた存在にも関わらず。残念ながら彼は聖杯戦争のマスター。
手の甲に刻まれた令呪は、手袋で誤魔化し。
周囲を密かに警戒していた。
真剣な青年の脳裏に、能天気な念話が響いた。


『なぁ〜〜〜マスターさん。その年だったら好きな女の子居るんじゃねーの?』


唐突な話題に、緊迫していた青年の顔が緩む。


「え……えと、なんで?(そんな話題に)」

『気になるじゃん。で、どうよ』

「どう、って。あはは……まあ」


青年は顎に触れながら誤魔化す。
彼―――佐々木排世は元居た世界、かつて存在を置いた世界を回想した。
この冬木市。
排世のいた『東京23区』とは異なり、平和だ。
人喰いの怪物――喰種すらいない。
本来、喰種のような都市伝説的なモノすら認知されていない。
平穏で平凡な、刺激が皆無の日常であって……故に、彼らは一体何を生きがいに感じているのか。
ぽっかりと空虚すら抱く程だった。


「僕は……帰らなくちゃいけない」


ポツリ、と。呟くように排世が言う。
穏やかな曲調のBGMに溶け込みそうなセリフは、自らのサーヴァントに対する返答ではなく。
自問自答に近い。
彼の所属している組織の仲間達。
自分の居場所。みんなが待っている。温かい光だと安堵すら感じるもの。
脳裏に響く念話が軽く唸り、話を続けた。


『それって要するにマスターさんは、願いがないの? 贅沢だなぁ』

「いや……それは…………実は、アーチャーの事を少し調べたんだ。逸話というか」


ようやく切り出せたと言わんばかりの様子で、排世が語る。
アーチャー。
弓兵のクラスを象徴するよう、弓矢を携えた排世のサーヴァントの真名は―――


天若日子


読みは『アメノワカヒコ』。日本神話に登場する恋に溺れ、反逆した青年。
遣いの役割を全うしなかった末路には相応しい最期。
彼の宝具こそ、彼の最期を招いた矢。排世は恐る恐る問う。


「アーチャーの方こそ聖杯が欲しいのかなって」

『んーまー「よく分かんないまま矢で殺された」って情けない英霊だもんなぁー。
 でもオレ、全然後悔とかしてないからさ! 気にしなくて平気よ!!』


違和感あるアーチャーの発言はさておき。
明るい様子のサーヴァントに、どこか排世は安堵した。
彼には、少なくとも願いはないのだ。




そう『アメノワカヒコ』には。


180 : 佐々木排世&アーチャー? ◆xn2vs62Y1I :2017/05/22(月) 15:29:03 UQNVYZrk0




『日本神話』における葦原中国平定。
アメノワカヒコはその遣いに出され、そこで下照姫命に一目ぼれする。
彼は下照姫命と結婚し、高天原に帰還せずにいた。恋で反逆した者として今日まで語り継がれている。
しかし、決してアメノワカヒコは使命を放棄したのを後悔していなかった。
己の責務を承知しているが
下照姫命に対する想いは本物であり

つまるところ。それら双方の重圧に苦しんでいたのが事実だった。
だが、そう語り継がれていないのは『表面上』アメノワカヒコが使命を放棄し、反逆したと認識されているから。
何故。アメノワカヒコが恋に転じてしまい。天照大神と高皇産霊神の雉を討ち落としたか。


それは自らの使命を『忘却』したのである。


「よく分かんないまま矢で殺された」
というのは。
アメノワカヒコが、高皇産霊神に矢で報復される意味が理解できなかったから。
心当たりがまるでなかったから。
神話において、邪心を持ったアメノワカヒコが矢で射抜かれたと伝えられるものの。
死ぬ間際までアメノワカヒコは邪心なんて『無かった』。


どうして、そのようなことが。
大事な使命を『忘却』してしまう所業をしたのか?


単純だ。
人間でいう「精神的に追い詰められた状況」に立たされたが故に、である。
人が都合の悪い記憶に蓋をするよう。
アメノワカヒコも都合の悪い、使命に関する記憶に蓋をしてしまった。
同じくして、アメノワカヒコは一つの存在を産み出したのだった。









(さて、どうしようかな)


佐々木排世は食事が不要だ。正しくは『人間としての食事が不要』である。
彼は喰種を狩る側ながら喰種である、特例な存在だった。
組織内で、排世に対する評価は様々なのだが、少なくとも彼が担当する『クインクス』のメンバーや
親しい捜査官たちとの日常は、彼の中を満たす、充実したものだ。

だからこそ、スーパーで買い物など不必要な行為だが。
とはいえ。
食料を買い込まない生活は周囲・近隣住人に怪しまれそうで、日常に溶け込む為には必須な過程だ。

それと、排世の料理は上手いと評判なので、アーチャーの方も味をお気に召したらしい。
サーヴァントも食事は不要だが。
一応魔力回復の足しになるらしい。……魔力消費するような真似は、今までなかったが。


(今日はハンバーグにしよう。挽肉が安いし)


呑気に、警戒心もない排世が帰路へ入る。
しばらく都心から、一通りの少ない郊外に出ると気配を感じられた。
ピリと針を刺すような――排世が振り返ると、実体化したアーチャーの姿がある。
女性ならば一目置きそうな美男子で、現代社会には不釣り合いな平安貴族の衣装を連想させる身なり。
念話でのマイペース口調とは一変。
張りつめた空気を醸すアーチャーは別人だった。


否、本当に別人なのだ。


181 : 佐々木排世&アーチャー? ◆xn2vs62Y1I :2017/05/22(月) 15:30:29 UQNVYZrk0


「アーチャー……それとも呼び方を変えた方が――」

「どうでもいい」



『今の』アーチャーはぶっきらぼうに答える。


「貴様、どうするつもりだ」


アーチャーの質問は、大分前から排世に対して投げかけられていた。
真顔で排世はアーチャーと向き合う。


「聖杯は、求めません」


「叶うなら……出来る限りの命を、助けたい」


だが、アーチャーは即座に



「違う」



と否定した。
覗きこむ体勢で排世を睨みあげるアーチャーは、並々ならぬ私怨を漂わせている。


「貴様はあの『子供』を殺すつもりか?」


子供。
白い子供。
いや、なんのことだ……



「『私』の望みは分かるな。貴様に伝えた通りだ。『私』は聖杯でアメノワカヒコと『真の友』となるのだ。
 貴様なら、私の言葉を理解している筈。貴様が何をしようとしているか、自覚している筈だ」

「…………それは」


何と答えれば良いのだろう。
排世は『正解』を導けなかったから、でも。確かなことを告げた。
『其の』アーチャーの真名と共に。


「『アヂスキタカヒコネ』。とても辛い願いだよ」








不可思議なことにアメノワカヒコの妻・下照姫命。
彼女の兄に当たる『アヂスキタカヒコネ』はアメノワカヒコと「瓜二つ」だったと云う。
あまりにも酷似していた為。
アメノワカヒコの葬儀に現れたアヂスキタカヒコネを、親族はアメノワカヒコと勘違いし。

アメノワカヒコはここに居るではないか! と驚くほどだったという。
当然だ。それほど酷似していたし。
親族は『まだ』アメノワカヒコの遺体を目にしておらず。
何より『その肉体』は間違いなくアメノワカヒコであったからだ。



しかし、彼は『アヂスキタカヒコネ』である。
死者と見間違えるなと憤慨したアヂスキタカヒコネは、喪屋を剣で切り伏せ、蹴り飛ばした。



そうして誰にも『アメノワカヒコ』の遺体を確認させないようしたのだ。


182 : 佐々木排世&アーチャー? ◆xn2vs62Y1I :2017/05/22(月) 15:32:19 UQNVYZrk0
解離性同一性障害。
簡潔に説明すればアメノワカヒコは二重人格だったのである。
精神を病んだ彼が産み出した親友なる『アヂスキタカヒコネ』。妻の兄である『アヂスキタカヒコネ』を。
勝手に作り上げてしまった。
彼に『都合の悪いこと』を記憶を全て押し付けた。
無論、下照姫命は当然、知っていただろう。承知していたに違いない。
ひょっとすれば、他の誰かも真相を把握していたかも……


唯一自覚していなかったのは、アメノワカヒコ本人だった。


―――同じ肉体ではなく。分離し、下照姫命の兄として、アメノワカヒコの親友として。
   もし、そう在れたら。私は何か為せたのかもしれない。



(いいんだろうか……)


排世は、白い子供の影を感じながら思う。


(僕は………)


何故、直ぐに答えを出せないのだろう。
漠然とした不安を抱え、佐々木排世は聖杯戦争の時を待つ。




【クラス】アーチャー
【真名】アメノワカヒコ&アヂスキタカヒコネ@日本神話


【ステータス】
<アメノワカヒコver>
筋力:D 耐久:D 敏捷:A 魔力:B 幸運:E 宝具:A

<アヂスキタカヒコネver>
筋力:A 耐久:D 敏捷:D 魔力:C 幸運:A 宝具:A


【属性】
中立・善/混沌・悪


【クラススキル】
対魔力:D(A)
 魔術に対する抵抗力。
 一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
 アヂスキタカヒコネの場合は()のランクに変更される。


単独行動:B(-)
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 Bランクは、マスターを失ってからでも二日程度は現界可能。
 アメノワカヒコの人格のみ使用可能。


騎乗:-(B)
 乗り物を乗りこなす能力。
 「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
 Bランクは大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
 また、このスキルはアヂスキタカヒコネの人格のみ使用できる。


183 : 佐々木排世&アーチャー? ◆xn2vs62Y1I :2017/05/22(月) 15:33:01 UQNVYZrk0
【保有スキル】
神性:C
 神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。


蔵知の司書:E
 多重人格による記憶の分散処理。
 アメノワカヒコは、未だにアヂスキタカヒコネを親友だと認知しており。
 アヂスキタカヒコネだけが二重人格を自覚している。

二重召喚:D
 アーチャーとセイバー、両方の別スキルを獲得して限界する。
 この英霊の場合、人格が入れ換わる事で宝具やスキルが変化する。



【宝具】
『天之麻迦古弓(天羽々矢)』
ランク:A- 種別:対人宝具 レンジ:∞ 最大補足:1人
 高皇産霊神より与えられし弓矢。本来なら神秘性のある弓矢に過ぎないが
 アメノワカヒコが反逆した際、矢に呪いをかけたことにより、邪心を持ったアメノワカヒコが地上に落とされた
 矢で胸を射抜かれ、死に絶える。

 ……との逸話があるが、正確にはアメノワカヒコという存在を死した矢。
 これによりアメノワカヒコは死に絶えたものの。アヂスキタカヒコネが死ぬ事はなかった。

 矢の真価は『目標を必ず破壊する』こと。
 矢がアメノワカヒコの生命を断ったのではなく、アメノワカヒコの人格を破壊した。
 的確に相手へ命中すれば、霊核の破壊のみならず、宝具やスキル『のみ』を的確に破壊が可能。
 ただし、アメノワカヒコ自身は『邪心を持つ者に必中する』能力と勘違いしている。
 マスターなど無関係な者に誤射してはならないと使用を控えている。
 この宝具はアメノワカヒコのみ使用可能。


『神度剣』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大補足:1〜500人
 逸話にある喪屋を切り倒したアヂスキタカヒコネの剣。
 真名を解放し強大な神秘性ある斬撃を繰り出す。簡単に言うとセイバー特有の斬撃ビーム。
 この宝具はアヂスキタカヒコネのみ使用不可能。


184 : 佐々木排世&アーチャー? ◆xn2vs62Y1I :2017/05/22(月) 15:33:25 UQNVYZrk0
【人物背景】
天探女と恋に落ち、反逆により死に絶えた天若日子(アメノワカヒコ)。
実のところ、アメノワカヒコ自身も恋と使命に挟まれ、苦悩し続けていた。
精神的苦痛から逃れる為、天探女の兄であり己の親友という『アヂスキタカヒコネ』なる人格を産み出す。
所謂、典型的な二重人格者。

アヂスキタカヒコネがアメノワカヒコにとって不必要な情報――つまり使命に関する記憶など――を
引き継いでしまった為、高皇産霊神の遣いである雉を射抜いた際。
自身に覚えのない使命に関する戯言を語る不吉な鳥と、本当に思っていた。
つまり、アメノワカヒコに邪心はなかったのである。

一人、体に残されたアヂスキタカヒコネは
喪屋を調べられてアメノワカヒコの遺体が発見されない事を恐れて、喪屋を切り倒した。
アメノワカヒコの死を受け入れない親族たちに喜ばれたのを
アメノワカヒコが死したことを知るアヂスキタカヒコネは、心底憤慨したのだった。


【特徴】
短髪の黒髪。整った顔立ちの美青年。
日本特有の平安時代の貴族の服装に近いものを纏っている。両者の人格が変わっても顔立ちは変化せず。
マイペースで温厚なのが、アメノワカヒコ。
気性が荒く暴力的なのが、アヂスキタカヒコネ。


【聖杯にかける願い】
とくになし。マスターの願いを叶えたい/アメノワカヒコとの分離。別個人として生きたい。



【マスター】
佐々木排世@東京喰種:re


【weapon】
半喰種……人喰いの怪物『喰種』の臓器を移植された人間。
     人と同じ食事は口に出来ない。
     基礎的な身体能力は人間を上回り『赫子』と呼ばれる捕食器官を武器に戦闘をする。


【人物背景】
CCG・喰種捜査官の一人。組織に引き取られる前の記憶はない。
謎の子供の囁きを耳にするが、日に日に侵食されていく感覚に危機感を覚える。
家族のような、大切な仲間に恵まれ。
喰種との戦闘をしつつも、穏やかな生活を謳歌している。


【聖杯にかける願い】
元の世界に帰りたい?


185 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/22(月) 15:35:38 UQNVYZrk0
投下終了です


186 : ◆yYcNedCd82 :2017/05/23(火) 01:16:41 nxG4Xukc0
お借りいたします


187 : Shield x Shield! ◆yYcNedCd82 :2017/05/23(火) 01:17:56 nxG4Xukc0


 ――――あの、宝物を覚えています。

 世界全てが焼け落ちてしまったのかと思うような、炎の世界。
 もう自分は死んでしまうのだと、私は確信していました。

 正直に言えば、ちょっと怖かったです。
 歯の根がガチガチ揺れて、手がぶるぶる震えて、膝もガクガクいって。
 もしかしたら、泣いてしまっていたかもしれません。

 もうどうしようもなくて、何もできない事がわかっていたから。

 でも、そんな私を助けてくれた人がいました。
 あの炎の中で、手を差し伸べてくれた人がいました。

 もちろん、それで何かが変わるわけがないこともわかっていました。
 あの人にだって、それは理解していたはずです。
 だけれどあの人は、当たり前の事みたいに私に手を差し伸べてくれました。

 私のせいで自分が死ぬということはない――そう思わないようにと。
 本当に何でもないことのように、私を助けてくれたんです。
 それが自分の役目なんだと、気負うわけでもなんでもなく、自然に――……。
 
 ……だから、怖くても戦うのです。

 私はあの人から託されました。
 私は私が見た、あの素晴らしいもののために……。
 あの美しい宝物のお礼に、そういうもののために戦うために。
 
 だから私は、彼女の傍にいるのです――――……。


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188 : Shield x Shield! ◆yYcNedCd82 :2017/05/23(火) 01:18:20 nxG4Xukc0

「シールダーさん、シールダーさん……よろしいでしょうか?」

 儚げな少女の遠慮がちな声に、物思いに耽っていたシールダーはパチリと目を開いた。
 そこは焼け焦げて埃の積もった古い廃墟で、崩れた壁や屋根の隙間からは白んだ光が針のように差している。
 これが月や星の灯だったら彼女としても喜ばしいのだが、路に並ぶ街灯によるものだろう。
 だがその無機質な白い光も、彼女は嫌いではなかった。

「はい、どうかしましたか?」
「おやすみ中のところ、申し訳ありません。現状の報告です。
 周辺を確認してみましたが、やはり此処は冬木市に間違いは無いようです」

 目を向ければ、そこには息せき切って駆けてきたと思われる少女の姿。
 今の自分のマスターである彼女に頷いて、シールダーは「そうですか」と言葉を漏らした。

「マスター。とりあえずという形でこの廃墟を拠点にしましたが、移動した方が良いでしょうか?」
「あ、はい。エーデルフェルト家の双子館……というものだと、資料で確認した覚えがあります。
 霊地の一つではありますし、呪的防御は必要かもしれませんが、概ね問題は無いかと――……」
「あ、いえ」とシールダーは慌てて首を振り「私ではなく、あなたの事です。十分な休息は必要ですよ」と言った。

 マスターである少女は言われて一瞬キョトンとした後、恥じ入るように頬を染めてうつむく。

「す、すみません。そこまで考えが至っていませんでした……」
「いえ、大丈夫です。初陣というのは、そういうものですから。
 そうですね、寝台は古くて埃まみれでしたがまだ使えるようですし、呪的防御に加えて掃除もしましょう。
 それにご飯を食べたら、ゆっくりお話もしましょう。……戦闘には炊飯、掃除、談話も必要不可欠です」
「はいっ」

 少女はこくこくと、何度も嬉しそうに頷いて答えた。
 本人は意識していないのだろうが、それははしゃいでいる子供にも似ていて、シールダーは柔らかく目を細める。

「あなたのお友達の安否も確認しないといけませんし、やるべき事は多いですね」
「ええ。わたしが無事ということは、みなさんも無事……だと良いのですけれど」

 物憂げにつぶやく少女の手には、星座の絵が描かれたカードがある。
 窮地に陥り、死が間近にせまったその時、彼女の手にはそのカードが現れたのだという。
 そしてそれに触れた瞬間、少女はこの冬木の街に現れて――その傍らにはシールダーの姿があった。

「きっと大丈夫ですよ。……などと無責任なことは言えませんが、信じるということは大切です。
 そうして一つひとつ、目の前の障害を突破して、次に向かう。そうすれば道は開いて続いていきます。
 私の尊敬する"あの人"も、そうやって戦ってきたのですから、絶対に大丈夫です」
「シールダーさんの尊敬する方ですか……」

 少女はシールダーの言葉に聞き入りながら、ぱちぱちと眼鏡の奥で瞬きを繰り返した。

「ちょっと、羨ましいです。わたしには、まだ――……」
「いませんか?」
「いえ、その……」と彼女は言葉を濁した。
 
「わたしはあまり、他の人のことを詳しくは知らないのです。だから、慕っている――と言って良いものかどうか……」
「きっと、そういう人ができますよ。あなたにも」

 そう言って、シールダーはすっと立ち上がって、その盾を背に担いだ。
 マスターである少女が戻ってきた以上、この廃墟の修繕と結界の構築、そして掃除に洗濯、料理をしなければ。
 ここが自分たちの新たな城になるのだと思えば、手なんか抜いていられない。竜の攻撃にだって耐えられるように――……。 

「それにしても、驚きました」

 ふと少女が声を漏らし、シールダーはひょいっと彼女の方を振り向いた。

「何がです?」
「原典には触れていたのですけれど、もっと勇壮な方だとばかり思っていましたから」
「ああ、お恥ずかしいです。……初めての戦いでしたから、あまり、そのう……」
「それに――」

 そう言って、少女――マシュ・キリエライトは盾の英霊ウィラーフの顔を、まじまじと見つめた。

「こんなにも、わたしにそっくりな顔をなさっていたんですね――……」

 ――彼女はまだその手に触れた奇跡を知らず、その旅路は始まったばかり。


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189 : Shield x Shield! ◆yYcNedCd82 :2017/05/23(火) 01:19:32 nxG4Xukc0

【クラス】シールダー
【真名】ウィラーフ
【出典】叙事詩『ベオウルフ』
【性別】女性
【身長・体重】158cm・46kg
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力:C 耐久:A 敏捷:C 魔力:D 幸運:B 宝具:A+

【クラス別スキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではウィラーフに傷をつけられない。

騎乗:C
 騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 野獣ランクの獣は乗りこなせない。

自陣防御:C
 味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。
 防御限界値以上のダメージ削減を発揮するが、
 自分はその対象には含まれない。
 また、ランクが高ければ高いほど守護範囲は広がっていく。

【固有スキル】
竜の因子:A+
 竜の息吹(毒炎)、対毒、対火の複合スキル。
 ウィラーフはこれらのスキルをA相当で保有している。
 両腕を焼け爛れさせた竜の炎、胎内で未だ燻り続ける残り火。
 息吹といってもブレス攻撃は不可能であり、両腕に毒炎を付与する。

戦闘続行:A
 往生際が悪い。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
「生き残りし者」という名前の意味そのもの。

直感:C
 窮地に陥った時、その場に残された活路を"感じ取る"能力。
 修練や経験に因らない、説明不可能な一瞬の"ひらめき"。
 逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移すチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】
『継承闘争(ロード・ベオウルフ)』
 ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 ベオウルフから受け継いだ「決して壊れない」鋼鉄の盾。
 真名開帳によりベオウルフの力を引き出し、勇気の続く限り、全ての能力を十倍に強化する。
 勝利を約束するわけでも、因果の逆転を起こすわけでも、不死身になるわけでもない。
 恐怖に震えながらも勇気を振り絞って戦いに挑まなければ、何の意味も無い宝具。
「真名、開帳──この身、この命、この物の具こそは、陛下と私を守るべきもの……」
「どうぞ立派に成し遂げさせてください、どうか力の限り命をお守りください――継承闘争(ロード・ベオウルフ)!!」

【weapon】
『鮮黄絶剣(エーアンムンド)』
 巨人が鍛えた黄金造りの古剣。傷を負わせた相手を絶息させる魔剣。
 対象が何者であれ、酸素や魔力など存在維持に必要な外的要素全てを一時的に遮断する。
 本来ウィラーフの宝具となる武器だが、今は封印されている。

【解説】
 叙事詩『ベオウルフ』の主人公ベオウルフの忠臣。「生き残りし者」。
 火竜退治に赴いたベオウルフに、ただ一人最後まで付き従ったイェーアト国の若き騎士。
 他の騎士たちが竜に恐れ慄き王を見捨てて逃げる中、初陣だったウィラーフだけが踏み止まった。
 ウィラーフはベオウルフの盾に庇われながらも竜の喉笛を切り裂き、逆転の機会を掴み取る。
 しかし竜を討ったベオウルフは既に致命傷を負っており、ウィラーフはその死を看取る事になる。
 戻ってきた家臣たちを罵ったウィラーフは、王の遺言通り財宝を民のために使い、王を岬に葬った。
 だが偉大な王を喪った以上、近い日にイェーアトが戦火に襲われ滅亡することを予感させて叙事詩は幕を閉じる。

 ウィラーフはベオウルフの一族最後の者であった。
 故にウィラーフは何としてでも戦士とならねばならなかった。
 ――たとえ北欧の戦士たちから戦いに不向きと蔑まれる、女の身であっても。
 だが彼女は自身の性別を恥じることはない。ましてや男であったらなどは夢にも思わない。
 自分一人だけで、どうして王の最後の戦いを覆せるというのか。それは傲慢にもほどがある。

 戦いを恐れ、敵に慄きながら、勇気を振り絞って、誰かのため懸命に盾を掲げて前へ飛び出る。
 あの日あの時王に付き従った十人の家臣の中でただ一人、一番臆病な彼女だけが戦士だった。
 彼女自身は知らないが――ウィラーフとはそういう英霊なのだ。
 
【特徴】
 一言で表現するなら黒髪、黄金瞳、絶壁のマシュ・キリエライト。一人称は「私」。
 銀に赤のラインが入った甲冑、中央に焼け焦げのある巨大な鋼鉄の盾を装備している。
 戦闘では盾による殴打、毒炎を纏った拳による殴打を駆使して白兵戦を行う。
 マシュにとっての"先輩"が、彼女にとっての"あの人"。それが恋心だったのかどうかは定かではない。
 うっすら筋肉が透けて見えるスレンダーな体型。マシュマロではなくウェハース。

【聖杯にかける願い】
 特に無し。
 英霊として、ベオウルフ王のように在りたい。


190 : Shield x Shield! ◆yYcNedCd82 :2017/05/23(火) 01:23:46 nxG4Xukc0

【マスター名】マシュ・キリエライト
【出典】Fate/GrandOrder
【性別】女

【Weapon】
 なし

【能力・技能】
憑依継承:?
 サクスィード・ファンタズム。
 デミ・サーヴァントが持つ特殊スキル。
 宝具『継承闘争』の真名開帳と同時に、その効果を自身にも適用できる。
 加えて鎧を纏い巨大な盾を携えた、英霊としての姿へと一時的に霊基が再臨される。
 本来は憑依した英霊のスキル一つを継承し、自己流に昇華するスキル。
 ウィラーフとマシュが接続されたまま別個に存在している事で効果が変化した。
 恐らく「継承する」というスキルと宝具の相性が良かったためだと思われる。

マスター適性
 読んで字のごとく、サーヴァントのマスターとしての適性。
 英霊を維持するのに最適な魔術回路に加え、英霊に関する豊富な知識を有している。
 戦闘訓練では最下位だったが、総合ではマスター候補生主席の座を獲得するほどの成績。
 聖杯戦争中、英霊に供給する魔力が枯渇することは無い。

【人物背景】
 人理継続保障機関カルデアの局員。一人称は「わたし」。
 英霊と人間とを融合させる憑依実験の成功体「デミ・サーヴァント」。
 しかし英霊としての能力は発現せず、結果マスターとして特異点事象へ介入する事になる。

 16歳の誕生日、"先輩"と出会ったマシュは特異点Fへのレイシフト実験に参加した。
 しかしカルデアを襲った破壊工作により下半身を潰される致命傷を負い、死を待つばかりとなった。
 そして手を伸ばした先にあった星座のカードに触れた瞬間、冬木市に出現。
 ここを「特異点F」と認識し、状況は不明ながら特異点事象の解決を目指して行動を開始した。

 ――彼女はまだ奇跡を知らず、その旅路は始まったばかり。

【参戦時期】
 『FGO』プロローグ カルデア管制室破壊直後 主人公到着直前より参戦

【マスターとしての願い】
 1.所長と"先輩"の安否確認。Dr.ロマンとの交信再開。
 2.特異点Fの解決。
 3.カルデアへの帰還。
.


191 : ◆yYcNedCd82 :2017/05/23(火) 01:24:14 nxG4Xukc0
コンセプトはだぶるましゅ
以上です、ありがとうございました


192 : ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/23(火) 19:02:49 5rusxn.I0
投下します。


193 : 桐敷正志郎&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/23(火) 19:03:16 5rusxn.I0
冬木市において、古くからの町並みが残る深山町。
骨董品店や寺などが門を構えており、和風の民家や洋館があちこちに建っている。
その風景の中、正志郎の屋敷はよく馴染んでいた。

複雑に凹凸を繰り返す二階建て。
石造りの外壁に囲まれたその姿は、城塞と呼ぶに相応しい。
窓が少ないことから、採光性が極端に低いその屋敷の書斎で、正志郎は己のサーヴァントと向かい合っていた。

「改めまして、アーチャーです!真名はザミエル、よろしくね」
「ザミエル……ウェーバーですか」

アーチャー、と名乗って少女が笑った。
外見12、13歳くらいの華奢な体躯。
地味な色の装束に、革のベストを着込んだ様は狩人を思わせる。
彫りの深い欧州系の顔立ちとは似ても似つかないが、その幼い姿は自分が頭を垂れた人外の少女を思い出させた。

そして、正志郎はアーチャーが名乗った真名に心当たりがあった。
歌劇に描かれる、魔法の弾丸を作る悪魔が、そんな名前だったはずだ。
…となると。

「私の命を取りに来たのですか」
「ハッハッハ――!気が早ーい!あと人聞きが悪いなぁ。イカサマをする働く者には、それなりの報いが下るものだろう?」
「カスパールのようにですか…」
「そうそう!ま、顔は見たことないんだけどさ」

正志郎は首を傾げた。
彼女がザミエルなら、顔を見た事がないのは可笑しい。
アーチャーは了解している、といった風に口を開いた。

「僕はねぇ、ザミエル本人じゃないんだよ。ザミエルを演じるに相応しい、無銘の悪魔さ」
「詳しく聞かせてくれますか?」
「勿論!」

アーチャー…狩りの悪魔は、獲物を狙う人々を誘惑する。
狩り、というのは狩猟のみを指すのではない。

――あの子の心が欲しい。
――このくじが一等でありますように。
――受験に受かりますように。


"宝を狙う"なら、それ全て狩り。
私が祝福しよう。私がその欲望を抱き締める。
眩い栄光を貴方に捧げるから、貴方の全てを私に頂戴?
狩人を愛する彼女が、「聖杯」という極上の宝を狙う者の前に現れるのは、当然であった。
ただし、そのままでは英霊には届かない。


「格式のある場には、ドレスコードがあるだろう?要はそれだよ」
「結局、私の命の保証はしかねるのですね…」
「心配しないで〜♪サーヴァントの契約が切れても、僕との縁は切れないからさ」

アーチャーはけらけらと笑った。
この戦いの間は殺さない、ということか。ポジティブにとるなら。

「話は変わりますが、アーチャー?随分とステータスが低いように思いますが、それで戦えるのですか?」
「いや?戦えないよう」
「……」
「闘うのは僕じゃなくて、ア・ナ・タ♥僕の宝具でマスターを強化してあげるから、自分で戦って」

アーチャーは自身の宝具について説明する。
それを聞き終えた正志郎は、深い息を吐いた。
やや間を置いてから、口を開く。

「仕方ありませんね…、宝具を使ってくれますか?」
「ンもぅ!カッコつけちゃって!」
「どうしました?」

正志郎は戸惑った。
何か不味いやり取りがあったのだろうか?

「仕方ない…じゃなくて!!興味あるんでしょう!?人知を超えた力ってやつに惹かれてるんでしょ、マスター?」
「意味が分からない。突然なんですか?」
「うふふふふ…とぼけちゃってぇ♥」

正志郎は顔には出さないが、内心かなり動揺していた。
彼女の言うとおりだったから。

正志郎はこの場に招かれる以前に、魂を既に売リ払っている。
悪魔ではない。屍鬼という、不死の怪物達に。
人間を憎み、蔑む彼は人類の敵に加わった。

――だが、正志郎は人間だ。

自らもまた蔑むべき人間である、という矛盾が彼の心を常に苛んでいる。

――聖杯の力を使えば、人の範疇を脱する事ができるかもしれない。

正志郎は己を虐げた人間社会を破壊したかった。
人を喰って生きる屍鬼になる事を望んだが、残念ながら見込みは薄い。
だからこそ、人間として彼らに服従したのだが。
だがサーヴァントの力を手に入れれば。聖杯を屍鬼の首魁――沙子に捧げれば。

「…認めましょう。私は人間を止めたい」
「いいの―?寿命が縮むよ?」
「貴方の呪い…乗り越えて見せます」
「よく言った!じゃあ、始めるよ」

椅子に座る正志郎に、アーチャーはゆっくり近づいてくる。
正志郎は目を閉じて、彼女の成すがままに任せた。


194 : 桐敷正志郎&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/23(火) 19:03:52 5rusxn.I0
【クラス】アーチャー

【真名】ザミエル(狩りの悪魔)

【出典】歌劇「魔弾の射手」

【性別】不明(今回は女)

【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A+ 幸運B 宝具B

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:A
 マスター不在でも行動できる。
 ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

【保有スキル】
自己保存:A
 自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。

道具作成:-(EX)
 下記宝具と引き換えに、喪失している。


【宝具】
『魔弾の射手(デア・フライシュッツ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 契約を結んだ相手を疑似サーヴァントに変化させる。
 サーヴァント化した人物はアーチャーのクラスを獲得し、身体能力が大きく向上。
 神秘を纏う事で、英霊と正面から打ち合えるようになる。
 宝具を除くステータスは、総合値200からランダムで割り振られる。

 強化された人物は天才的な射撃術が身につくことに加え、下記宝具が使用可能になる。
 スキルも当然得られるが、功績を打ち立てた超人でもない限り、複合スキルやユニークスキルが発現することは無い。


『最後の一発は僕のもの(タスラム・トゥーフェイス)』
ランク:B+++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1人
 魔弾の射手に授けられる、百発百中の祝福。
 その手から射出した物体は変幻自在の軌道を描き、時には空間に穴を開けて瞬間移動し、あらゆる角度から敵を射抜く。
 また、標的を射抜くまで推進力を失う事がない。
 弓矢や銃など射撃兵装だけでなく、礫や手裏剣など投擲武器でも効果を発揮させられる。

 アーチャー自身がこの宝具を用いて戦うことは無く、専ら疑似サーヴァントとなったマスターが扱う事になる。
 発射された弾丸は、通常の手段では回避できない。
 魔弾は破壊された場合を除くと、別空間に逃亡されるかアーチャーが標的を変更しない限り、的を決して外さない。

 この宝具は「魔弾の射手」を射抜く際に、ランクを大きく向上させる。
 射手を標的にした際はあらゆる防御、回避手段を素通りして命中。射手の魂を、座に記録された本体の元に送る。


【weapon】
なし。
キャスタークラスなら、魔弾を作成する事ができた。



【人物背景】
17世紀中頃、ボヘミアの射撃手達の前に現れた悪魔。
契約と引き換えに、絶対に的に当たる魔法の弾丸を与える。

ただし、今回招きを受けたのは、ザミエル本人ではない。
戯曲に描かれた存在の殻を被った、無銘の悪魔である。
アーチャーのクラスを得た彼あるいは彼女は、実体非実体問わず「獲物を狙う狩人」に手を差し伸べる、人間が思い描いた悪魔なのだ。

外見は12、3くらいの欧州人の女性。
地味な配色の猟師風の装束に身を包んでいる。
契約主を揺さぶる外見を取って現れる存在であり、今回は桐敷沙子と歌劇のイメージを混ぜた姿をとった。


【聖杯にかける願い】
聖杯に用はない。聖杯を狙う狩人を祝福する/呪う為だけにやってきた。


195 : 桐敷正志郎&アーチャー ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/23(火) 19:04:10 5rusxn.I0
【マスター名】桐敷正志郎

【出典】屍鬼(小説版)

【性別】男

【Weapon】
「猟銃」
疑似サーヴァントとなったことで得た狩猟用のライフル銃。
魔力で構成されており、修復は容易。

「貯金」
新築一戸建てを数件、一括で購入できる額。

【能力・技能】
「元会社社長」
玉座から退いた、悠々自適の若隠居。
聖杯戦争に招かれる前は、財力や権力で屍鬼をサポートしてきた。
また表向き中学生の娘を持つ中年男性ながら、俗っぽさの無いナイスミドルである。


「疑似サーヴァント」
アーチャーの施術により、現在の正志郎は受肉したサーヴァントに等しい。
魔力によって宝具やスキルを発動し、急激に消費すれば体調を崩す。
ただし、通常の英霊とは異なりマスターを必要とせず、休息や食事をとれば魔力は回復していく。
能力値は以下の通り。

【ステータス:筋力B 耐久A 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具B/スキル:対魔力E 単独行動A+ 黄金律B 精神汚染D/宝具:『最後の一発は僕のもの(タスラム・トゥーフェイス)』】


【人物背景】
人の生き血を吸う人外「屍鬼」を援助している人間。
幼い頃から家庭にも社会にも居場所が無く、寄る辺ない自分を救い出してくれた沙子達に自分が受け継いだもの全てを差し出した。

正志郎自身、屍鬼になりたがっているが、体質的に起き上がれる見込みは薄い。
その為、人の身で屍鬼の活動をサポートしている。

千鶴の死を知った後から参戦。


【聖杯にかける願い】
自分を虐げた秩序を破壊する。


196 : ◆0080sQ2ZQQ :2017/05/23(火) 19:05:02 5rusxn.I0
投下終了です。鱒の方は、聖杯幻想様からの流用となります。


197 : けものふれんず ◆hVull8uUnA :2017/05/23(火) 20:30:13 ZflhP8MA0
投下します


198 : けものふれんず ◆hVull8uUnA :2017/05/23(火) 20:30:46 ZflhP8MA0
〜冬木市深山町にある剣術道場〜


振り下ろされる木剣を身を側めて躱す、横薙ぎに変化した斬撃を、変化する前にバックステップすることで回避。
着地した時には既に喉元に迫っている切っ先を、首を横に振って躱しながら踏み込み、胸に肘を入れる。
巧い。柄で受けながら後ろに飛びやがった。
改めて睨み合う。
凄まじい男だった。俺を殺した彼奴に匹敵する強さだった。
剣を持っているとはいえ、間合いを詰める事が出来ない。こんな相手は初めてだ。
剣の腹を叩いて、パーリングする事も出来ない。そんな事をすれば手を斬られる。
この身が生身だったならば……の話だが。

強い男だった。死んだ日のことを思い出すほどに。


199 : けものふれんず ◆hVull8uUnA :2017/05/23(火) 20:31:17 ZflhP8MA0
見上げれば落ちていくと錯覚する程深い蒼穹の下、夏の太陽を受け、地に二つの濃い影を落とし、争力する二人の男がいた。
繰り出した拳の数など最早知れず、互いの身体に食い込んだ蹴りの数など最早知れず、
全身至る所で皮膚が裂け、肉が潰れ、骨が軋む。何箇所かは折れているだろう。痣と出血で体の色も変わっている。

だが─────それがどうした?左足で踏み込み、右脚で渾身の前蹴りを放つ。繰り出された拳を躱し、両腕で伸びてきた
腕を搦め捕りにゆく。
俺の五体はまだ動く、俺の意思は消えちゃいない、俺の意志はまだ闘うと吼えている。
奴の顔を見る。すごい顔だった。倍以上に膨れ上がった顔は真っ赤に染まり、所々紫色になっている。
口の中を散々に切って、歯も抜けたのだろう。口内は真っ赤に染まっていた。鼻なんてとうに潰れて泥みたいな血を垂らし
続けている。
まるで人を食った直後の鬼みたいな顔だった。
恐かった。俺もそのうち臓腑を引きずり出されて食われるんじゃないかと思ってしまうくらい、凄まじい形相だった。
俺も似た様なもんなんだろう。
周りを見回す。周囲の偉いさん達は顔面蒼白だった。それは良いが警護の兵まで血の気が無くなってるとは。
まあ仕方あるまい。何しろ俺と彼奴、地上に一人居れば奇跡という位の力人(ちからびと)同士だ。
そんな俺と彼奴が戦っているんだ。そりゃ理解が追いつかないよな。
そんな事を考えている間に、奴が踏み込んで蹴りを入れてくる。
他は互角─────いや、劣っていても良いが、蹴り(コレ)だけ譲れない。
渾身の力で蹴り返す。
良いぞ、後ずさった。これでこの勝負俺が負けても。奴は俺が古今無双の蹴り技の主だと覚えているだろう。
いや、“負けても”なんて考えてどうする。勝つ事を考えないと。
いや、勝敗なんてどうでも良い。周りで見ている偉い奴等の思惑も知ったこっちゃない。
唯、闘う。
唯、頓(ひたぶる)に争力(ちからくらべ)せむ。
唯それだけ、唯それだけを考えていれば良い。
漸く巡り逢えた敵だ。
四方(よも)を見渡しても見つからなかった、俺と闘える男だ。
死生(しにいくこと)を期(い)はず頓に争力せむと願った相手だ。
嬉しい
唯、嬉しい。
恐怖は歓喜を生み、歓喜が争力する力を生む。
唯、五体が動くままに。唯、心の猛るままに。唯、魂の吼えるままに。
打つ。打たれる。蹴る。蹴られる。投げる。投げられる。極める。極められる。
ああ、気持ち良い。愉しい。


気がついた時には、視界一面に広がる蒼穹。
何があったのか、すぐには理解できなかった、
ああ、俺は、負けたのか。
眼を動かす、彼奴を視界に収める。


200 : けものふれんず ◆hVull8uUnA :2017/05/23(火) 20:31:41 ZflhP8MA0
なんだ、酷い顔じゃないか。何でそんな顔してやがる。お前は俺に勝ったんだぞ。嬉しそうにしろよ。
まあ、お前の気持ちは分かるさ。これで終わりだもんな。
満足したまま死ねる俺と違って、お前はこのまま生き続けなきゃならないからな。
周りを見渡しても同じ奴なんていなかった。
俺達は今まで一人ぼっちだった。孤独だった、それがこうして出逢えて、それでまたお前は一人で。
分かる。分かるとも。
そうやって泣いていたのは俺だったかも知れないんだがら。
だが、俺にはもうどうする事も出来ない。済まん。本当に済まん。

そうして、俺の意識は途絶えた。


201 : けものふれんず ◆hVull8uUnA :2017/05/23(火) 20:32:15 ZflhP8MA0
「いや、強いよなあ、おっさんは、俺を殺した奴の位しか比較にならないか」

此の地に顕れて最初に戦ったのが己がマスター。という、何とも変わった初戦を経て、主従は向かい合って酒を飲んでいた。
1m程の距離を置いて、地面に胡座をかき、中間に焼酎の入った一升瓶、両者の前には鮎の塩焼きが乗った皿が置いてある。
手酌で湯呑み茶碗に酒を注いで一気に煽る。


「なあ、おっさんには、『聖杯』で叶えたい願いなんて無いんだろう?」

「うむ」

おっさんと、己がサーヴァントに呼ばれても気にしないマスターは、平然と酒を飲み干す。

「だろうなあ…おっさんは俺を殺した彼奴と同じ眼をしているからなあ……」

「同じ眼?」

鮎を頭から一息に丸齧りにして呑み込む。

「哀しい眼をしているよ。命を燃やせる相手を、魂が吼える相手を……失くしちまったんだろう……」

マスターが一息に酒を飲み干した。

「ああ…斬った。この手で」

「つまりおっさんにとっては、聖杯戦争こそが願いだったんだろう?また、魂が吼える程の相手を望んでいたんだろう?」

「そうだな……そういうお主はどうなのだ。何を願って現れた。再戦か?」

「そいつも悪くは無いんだよなあ」

言って、鮎を口にする。

「いや、再戦か。再戦と言えば再戦なんだが、俺を殺した時の彼奴の眼がなあ……あれが心残りでなあ」

「そうか」

己と真実対等。全てを賭けて戦える敵。それは紛れもなく得難い無二の知己だ。
探し求めて恋い焦がれて、漸く巡り合った唯一の存在だ。
それを喪失することは耐え難かろう。
このサーヴァントが己を殺した相手に向ける想いは、マスターである男にも理解できる。
共に同類ならば当然だ。


202 : けものふれんず ◆hVull8uUnA :2017/05/23(火) 20:33:41 ZflhP8MA0

「それで、どうする?」

短く問う。

「そうさなあ…最初は、殺して終わらせてやろうかと思ってたんだが……おっさんが彼奴に付き合ってやってくれないか?」

「わしがか?」

「いやおっさんなら、充分彼奴に付き合えるからな。死人が生者に何時迄も纏わりつくよりマシだろうよ」

残りが少なくなった酒を互いの湯呑み茶碗に注ぐ。

「おっさんにも相手が出来るぜ、まあ片方が死んだらどうにもならんが…まあ全てはこの聖杯戦争に勝ち残ってからの話だ」

「そうだな……獲ってもおらぬ杯の話などしても仕方あるまい」

互いに最後の鮎を胃に収める。

「なあおっさん………笑ってるな…アンタ」

「お主もな」

愉しい、昂ぶる、心が猛る。魂が吼える。
招かれて最初にこれ程の兵(つわもの)と出逢ったのだ。この先どれ程の強者が犇いているか想像もつかぬ。
常人ならば身の竦む想いをしているだろう。されど主従は共に世の常の者に非ず。
その身の内に修羅を宿した化物(けもの)なれば、抱いた恐怖は歓喜を生み、歓喜は無限の闘う力を生む。


何して強力者に遇ひて、死生を期はずして、頓るに争力せむ。
只々魂が吼える刹那を求める化物(けもの)達は、同時に酒を飲み干した。




Q・サーヴァントろガチれるとかおっさん強すぎね?
A・そういう生き物なんです


203 : けものふれんず ◆hVull8uUnA :2017/05/23(火) 20:34:29 ZflhP8MA0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
当麻蹴速@史実

【ステータス】
筋力: D 耐久: D 敏捷:D 魔力: E 幸運: B 宝具:EX

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
狂化:E++++
通常時は狂化の恩恵を受けない。
その代わり、正常な思考力を保つ。
相手が強い程、魂が吼える程、ステータスが向上し、“闘う”ことしか考えられなくなる。


【保有スキル】

化物(ケモノ):A
人の極峰を踏破し、人の域を超える者が持つ資質。
Aランクの勇猛、Bランクの戦闘続行・直感を併せ持つ複合スキル。
敵の宝具を除く全ステータスが、己のものよりも高ければ 。全ステータスが一段階上昇する。
更に敵がステータスのみならず技巧や経験においても優れていた場合。更に全ステータスが一段階向上し、魂が吼える。
魂が吼える事で狂化スキルの+補正が段階的に作用しだす、
この状態でも思考を保ち、会話が可能だが、意志が“闘う”という事で固定されてしまう。


力人:A
力士の事である。相撲とは邪気を払い、五穀豊穣を願う神事に由来する。
力士はその威を以って、病魔や旱魃といった自然災害から衆人を護る存在である。
高ランクの怪力と頑健を発揮する複合スキル。
魔に属するもの、災厄を齎すものを寄せ付けず、特攻の効果を発揮する。


神性:D
神霊適性を持つかどうか。
死後、相撲神としてとして祀られた。


心眼(真):C+
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が数%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。
魂が吼える時+補正がかかる。


透化:C+++
精神面への干渉を無効化する精神防御。
暗殺者ではないので、アサシン能力「気配遮断」を使えないが、
武芸者の無想の域としての気配遮断を行うことができる。
魂が吼える時+++補正がかかる。


無窮の武練:B 
いついかなる状況においても体得した武技が劣化しない。


204 : けものふれんず ◆hVull8uUnA :2017/05/23(火) 20:35:25 ZflhP8MA0

【宝具】
蹴速
ランク:E 種別:対人宝具レンジ: 1 最大補足:1人
残像すら存在しない程の超高速の蹴り。
見て回避するというのは事実上不可能であり、起こりを察知するほかない。
あくまでもただの蹴りでしかない為、威力は筋力に準拠する。



何して強力者に遇ひて、死生を期はずして、頓るに争力せむ。
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ: 2~15 最大補足:1人


固有結界。バーサーカーが強者と認めた相手に対し、一対一の決闘を挑み、相手が承諾すると発動する。
その効果は、第三者の介入が不可能な、己が力のみで行う完全決着式デスマッチ。
心眼や勇猛や無窮の武練といった、己が力に依るスキル以外は使用不能となり、令呪にーよる強化はキャンセルされる。
宝具は只の武器となり、真名解放及び、己が力に依らぬ常時発動能力の発揮は不可能となる。
更にこの中では如何なる不死性があっても斃れればそこで死ぬ。



【weapon】
己が肉体。

【人物背景】
大和国当麻邑(たいまのむら、現、奈良県葛城市當麻)に住み、強力を誇って生死を問わない勝負をする者を欲していたため、これを聞いた垂仁天皇が出雲国から勇士であると評判の野見宿禰を召し寄せ、相撲で対戦させたところ、互いに蹴り合った後に、腰を踏み折られて死んだといい、蹴速の土地は没収されて、勝者の野見宿禰の土地となったという。


この一件は当麻蹴速を暗殺し、その土地を奪う朝廷の陰謀のもとに行われたものだが、当人は全く気にしていない。
寧ろ野見宿禰という力人と闘えて感謝しているくらいである。
ただ一つの心残りは、己を殺した時の宿禰の泣き顔で─────。
あの哀しい泣き顔は己が浮かべていたかもしれないと思うとどうにもやりきれないのだ。

【方針】
優勝狙い。強者を選んで闘う。
当面はネットとか本で現代の格闘術を学ぶ。

【聖杯にかける願い】
野見宿禰と再戦して殺そうと思っていたが、おっさん送り込めば済みそうな気がしてきた。


【マスター】
トゥバン・サノオ@海皇紀

【能力・技能】
その名を聞いただけで兵達が震え、その存在だけで軍を止められるほどの武人。
その戦闘能力は比類する者がなく、人以上の力を持つ“森守”をすら遂に仕留める程。
残像が出るほどの速さで動ける。

【weapon】
ディアブラスの剣:
トゥバン・サノオの業に耐えられる強度。

木剣:
道場にあった代物。琵琶製。

【人物背景】
大陸最強とされる兵法者。過去唯一テラトーの森守と闘い、撃退した武人。
実際には森守の守備範囲外にトゥバン・サノオが追い出されただけなのだが。
トゥバン・サノオ以外の者は皆死んでいることからも、その強さは明らかである。
テラトーの森守を倒すべく剣を求めるが、基準は切れ味ではなく、“己が業に耐えられる強度”だった。
後に人としては唯一トゥバン・サノオに本気を出させたディアブラスを斬った際、彼から剣を贈られる。
このディアブラスの剣こそが、唯一トゥバン・サノオの業に耐えられる剣だった。
これを用いて、トゥバン・サノオは森守を撃破している。

【方針】
魂が吼える相手を探す。

【聖杯にかける願い】
今のところは無い

【参戦時期】
原作終了後。

【ロール】
剣術道場の主人。


205 : けものふれんず ◆hVull8uUnA :2017/05/23(火) 20:35:50 ZflhP8MA0
投下を終了します


206 : けものふれんず ◆hVull8uUnA :2017/05/23(火) 20:42:40 ZflhP8MA0
忘れていました

カードは【双子座】で


207 : 名無しさん :2017/05/25(木) 14:39:16 FUK06Qis0
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1260186.png

ウィラーフ支援になります
よろしければどうぞ


208 : ◆5/xkzIw9lE :2017/05/28(日) 20:35:15 5OC0LT8g0
投下します


209 : フェイスレス&ランサー ◆5/xkzIw9lE :2017/05/28(日) 20:36:23 5OC0LT8g0


『……これはこれは皆様、この奇怪/機械なサーカスへようこそおいでなさいました』

『今宵繰り広げられるショウは、一枚のカードに導かれたとある二つの太陽の戯曲にございます』

『太陽、と言ってもご注意を。この舞台に昇る太陽は暗黒。お客様方の心をを暖かくするとは限りません』

『それでも躊躇わず飛び込む、というのなら…この道化も喜んでお供いたましょう』


>飛び込む
飛び込まない


『これは光栄の至り。歓喜に打ち震えつつ――開幕ベルを鳴らさせて頂きます』


『それでは、どうぞ最後までお楽しみください』


210 : フェイスレス&ランサー ◆5/xkzIw9lE :2017/05/28(日) 20:37:00 5OC0LT8g0




「アンドロメダ星人だよ〜ん!おっぺきょり〜〜ん」
「アハハハハハ!!」

豪奢な書斎に老人のおどけ声と、少女の笑い声が響く。

「おっ、いいねぇ。いいリアクションだよ、ランサー」
「ありがとうございます、マスター、ふっ、くく…」

美しい銀髪にサングラスをかけ、顔を横に縦に伸ばす老人と、肩まで伸ばした黒髪に黒一色の和服を纏った非常に背の小さな少女。
祖父と孫娘、と形容するには似ていない組み合わせであった。
彼らには血のつながりなど皆無であるのだから、当然と言ってしまえばそれまでだが。
しかし、全く赤の他人というわけではない。
ある意味、血のつながり以上に濃い縁で彼らは結ばれている。
聖杯戦争のマスターと、サーヴァントと言う縁で。

「で、君本当にランサーなのかい?肝心の槍が見えないけど」
「勿論です」

そう言って少女は窓から差し込む日差しに手をかざす。
すると、少女の長い黒髪の毛先が燃えるような赤へと色へと変わり、
空間が一瞬歪んだかと思えば、見る見るうちに光は姿を変えて長物の形を作った。
そうして出来たのは、鋭い穂先を晒した光槍。
それを見て老人はひゅう、と口笛を吹き、パチパチと拍手を送る。

「すっげえなぁ、随分可愛らしいサーヴァントだと思ったけど、太陽の光を操れるのかい?」

「はい」と少女が頷くと、満足げに老人は微笑み、それじゃあ今度は此方の番だと懐からある木組みを取り出した。

「これはね、地獄組みって言って、一度組み上げたら簡単には外せない作りになってる」

少女はその言葉を受け、目の前に出された木組みをマジマジと見つめた。
成程、確かにサーヴァントではなく人間の力ではこれを力技で外そうと思えばかなり骨が折れるだろう。
積み木などとは比べ物にならないほど緻密に組み合っているのだ。
それを老人は頭上へと放り投げる。
直後彼の腕が人間の動体視力を超えた速度で閃き、殆ど同時に木組がバラバラに外れ落ち、
木片へとなり果てた木組みの中から乙女の星座が描かれカードが現れ、少女が小さな歓声を上げる。


211 : フェイスレス&ランサー ◆5/xkzIw9lE :2017/05/28(日) 20:37:24 5OC0LT8g0

「これが僕の『分解』さ。僕は、三解のフェイスレスと呼ばれている」

機械だろうと人体だろうと何でも分解して見せるよ、と彼は手の中のカードを弄びながら自らを誇り、
そんな自分にも決して分解できぬものがあると悲しげに顔を伏せた。
どういうことかと少女が問うと、フェイスレスはサングラスを外し、まるで何かの演目の様に芝居がかった調子で語り出す。
200年間、恋を成就させようと計画してきた事。
それが漸く叶おうとした時、計画のほんの小さな歯車にすぎなかった子供のせいでそれが頓挫し、最早叶わなくなった事。
打ち上がったロケットの内部、半壊した義体で呆然としていた時にこのカードを見つけた事。
自分の運命は決して<分解>できぬ地獄の機械に支配されている事。
お前の夢は終わったと告げる少年の瞳の光の事。
全てを語り終えた狂人の瞳は淀み腐ったドブ川にも劣る昏さだった。
つつ、と頬を涙が伝う。体のほとんどを機械化されても涙は流れるらしい。
しかしその一筋の液体を拭うと、彼の様子が変わる。
先ほどよりも強い調子で、言葉を紡いで。

「……だが!僕は再びこうして自分の夢を叶えるチャンスを手に入れた
その時確信したんだ。自分を信じ、僕が諦めさえなければ――――夢は、必ず叶う」

語るフェイスレスの瞳には先ほどまでの昏さは無く、後光すら差し込んでいる錯覚してしまうほどの輝きを放っていて。
表情も後ろ暗さなど欠片も感じさせない”いい笑顔”だった。
ランサーは理解した、何故自分がこのマスターに呼ばれたのかを。

「仔細承服いたしました、マスター。素晴らしいです。
このランサー、貴方様の夢を成就させるお力添えを致しましょう」

ランサーは平伏し、笑みを返す。
その笑みは、主と同じ、ぞっとするほど無邪気で、無垢な”いい笑顔”だった。
仲良くやれそうだねぇと少女を撫で、ふと思いついたようにフェイスレスも問う。君は聖杯に願う願望はあるのかい?と。

「貴方様と同じですよ、マスター。私は太陽の妖として私を生み出してくれた愛する全ての者の道を照らしたい」

ゆら、と少女の輪郭がブレる。
緋色の色彩を放っていた光槍が、毛先が、炭の様な光沢を放つ黒へと変化していく。
静止しているにもかかわらず、伸びる彼女の影は揺らめく陽炎のように。
暖かな陽の光では無かった。全てを塗りつぶし、呑み込み、焼き尽くす形ある暗黒が、そこに居た。


212 : フェイスレス&ランサー ◆5/xkzIw9lE :2017/05/28(日) 20:37:47 5OC0LT8g0

フェイスレスは悟る。これこそが少女の正体である、と。
自分の引き当てたサーヴァントは疑う余地なく、妖(バケモノ)であった。
恐ろしさは不思議と感じない。奇妙な可笑しさを感じるくらいだ。
永い時に渡って全ての者を照らしてきた太陽に対する信仰を歪められて、陰の存在に貶められ、生まれたこの妖は人間を愛し、己の光で人々を照らしたいと言うのだから。
尤も、反転した存在である彼女に照らされれば、遍く人間は呑み込こまれ焼き尽くされるであろう事がより皮肉さを感じる。
ましてや、そんな歪な太陽と自分が一緒に戦うことになろうとは。

「………フッ、ハハハハハハ!そうかい。じゃあ一緒に頑張ろう。
何、物凄いマスターの僕に任せておきな。もう最初の手は打ってある」

笑う老人のマントの裾から銀の塵が舞うのを、ランサーは見る。
いや、風ではない。小さな一ミリにも満たない、小さな蟲だ。道化の様な顔をした蟲の群れ。

「これはアポリオンって言ってね。僕一人が今は作ってるからそこまで数はないけど…
カメラを仕込んでいて、いろんな場所を監視できる。それに―――もう一つ凄いことができるのさ」
「もう一つ?」
「それは後の……もっと数が増えてからのお楽しみだよーん」
「まぁ、早く教えていただきたいものですね」

飛んでいく蟲達を見送る二人の表情は、変わらず笑顔であった。
視線の先の銀の風は吹きすさび左右に散って行く。
それはまるで芝居の幕が開くようで。

――――開かれた舞台(ステージ)。その上に、冬木の街に、燃え盛る二つの漆黒の太陽が、昇ろうとしていた。






213 : フェイスレス&ランサー ◆5/xkzIw9lE :2017/05/28(日) 20:38:29 5OC0LT8g0


『……さて皆々様、大変名残惜しいですが、今宵は幕を下ろす時間がやって参りました』

『冬木という町を舞台に昇った二つの真っ黒な太陽はどのような演目を紡ぎ、最後に星々の喝采を得るのは誰なのか…と、これを語るにはまだ早すぎましょう』

『何せ物語はプロローグを迎えたばかり、聖杯戦争はまだ始まってすらいないのですから』

『皆様と共にこの道化も、この戯曲の続きを目にできることを機械仕掛けの神に祈らせて頂きます』

『それでは皆様御機嫌よう。またのご来場をお待ちしております……』


214 : フェイスレス&ランサー ◆5/xkzIw9lE :2017/05/28(日) 20:39:12 5OC0LT8g0



【クラス】ランサー

【真名】
空亡(そらなき)@真珠庵百鬼夜行絵巻、都市伝説

【属性】
中立・悪

【ステータス】
筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:A 幸運:D 宝具:A++

【クラススキル】

対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等をもってしても傷つけるのは難しい。

【保有スキル】

無辜の怪物:A
本人の意思や姿とは関係無く、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を示す。
絵巻に描かれた日の出と言う不浄を祓う本来の在り方が捻じ曲げられた事で生まれ落ちた。
ランサーは言わば最新の妖怪にも拘わらず、伝承では最強と伝えられる矛盾存在である。

太陽は昇る:A+
日中、特に日の出の時間帯は全ステータスにボーナス補正、魔力の回復が発生し、同ランクまでの熱攻撃、精神干渉を無効化する。
また、このスキルを持つランサーがいる限り、自軍サーヴァントの太陽に関わるスキルは無効化されない。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

百鬼夜行:B
夜間に限り使い魔として様々な妖怪を使い魔として召喚・使役することができる。

【宝具】

『天中殺』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:
高密度の太陽光を魔力によって収束、降り注がせる事で相対者を頭上から貫く。
補足範囲は狭いが一度補足されれば光速に匹敵する速度のため回避は困難。更に日中なら魔力が続く限り即座に追撃が可能。
また、集めた太陽光をそのまま槍として振るう事で白兵戦も可能とする。
しかし、夜間に放つには日中のうちに太陽光をチャージしておかなければならない。

『空亡(くうぼう)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大補足:100
少女の外見からランサーの正体であるどす黒く燃える暗黒の太陽に変身する。
この状態のランサーは、マスター、サーヴァント問わず魔力を持つ者を吸い寄せ、対魔力、耐久値に関わらず呑み込み燃焼・自身の魔力に変換させてしまう。
但し、反転した太陽となるこの宝具の発動中はスキルの恩恵を受けることができない。


215 : フェイスレス&ランサー ◆5/xkzIw9lE :2017/05/28(日) 20:40:03 5OC0LT8g0

【人物背景】
百鬼夜行図の最後尾に描かれた日輪。
それは実は最終にして最強の妖怪であるという都市伝説(フォークロア)が、独り歩きしていく内に日本古来の太陽信仰と結びつき生まれたサーヴァント。
神秘が零落した現代日本が生んだ最新にして最強の妖怪という極めて矛盾した特異存在。

【weapon】
太陽光を集めて作成する光の槍。

【特徴】
肩まで伸ばされた毛先が緋色の黒髪に赤い瞳、漆黒の和服に身を包んだ非常に背の小さな童女。

【聖杯にかける願い】
全ての人間を己の暗黒の光で照らしたい。

【マスター名】フェイスレス司令(白金)

【出典】からくりサーカス

【性別】男

【weapon】
しろがねの全身を機械化した事で得た超人的な身体能力と数々の武装。
また、変装や医療知識、特に自動人形の作成と人形繰りは天才的である。

【能力・技能】
自動人形を沈黙させる技能『三解』
『分解』体中に内蔵した工具であらゆる物質を分解する。人体ですら彼は目にもとまらぬ速度で分解して見せる。
『溶解』掌から放つ強酸の溶解液で対象をドロドロに溶かす。
『理解』自動人形たちに自分が造物主であることを理解させ沈黙させる。

【人物背景】
三解のフェイスレスの異名を持つ、人形破壊者しろがね達の総司令。
その正体は全ての自動人形誕生の元凶であり、ゾナハ病と呼ばれる奇病が全世界にバラまかれた諸悪の根源。
200年間フランシーヌと言う女性、そして彼女と瓜二つの女性達を手に入れようと画策したモテない男の人類代表の様な狂人である。

【マスターとしての願い】
フランシーヌの愛を手に入れる。

【方針】
優勝狙い。


216 : ◆5/xkzIw9lE :2017/05/28(日) 20:40:23 5OC0LT8g0
投下終了です


217 : ◆yYcNedCd82 :2017/05/28(日) 20:43:31 N2a7mtXQ0
皆様、投下お疲れ様です

>>207
支援絵ありがとうございます……!


218 : ◆nY83NDm51E :2017/05/29(月) 00:09:20 xIg7B0G.0
投下します。


219 : ヴェンジェンス・イズ・マイン!! ◆nY83NDm51E :2017/05/29(月) 00:11:24 xIg7B0G.0

父よ、御心なら、この杯をわたしから取りのけてください。
しかし、わたしの願いではなく、御心のままに行ってください。

                          ――――『ルカによる福音書』22:42


「……本当に、本当に、本当の本当に、いらんのか!?」
「何度も言いましたよ、セイバー。僕は聖杯を必要としません」

雨の止まぬ昼下がり。冬木市にある教会の一室に、カップの置かれたテーブルを挟んで、少年が二人いる。

一方は、小柄で黒髪。女性と見紛う美形だが、顔には複雑な紋様の入れ墨が施されている。
黒檀色の装束をまとい、腰の左右に一振りずつ宝剣を帯びる。明らかに、現代人ではない。
もう一方は、金髪のボブカット。黒髪の少年よりは背が高く、やや年上。これまた美形だ。
色白で童顔、眉は凛々しく、青い瞳は憂いを帯びている。西欧系の顔立ちだ。

セイバーと呼ばれた少年は、柳眉を逆立て、噛みつかんばかりの勢いで相手に食って掛かる。
「なぜだ!? 余がお前なら、欲しいぞ。何でも望みが叶うのではないか!」

金髪の少年は、ため息を一つついてから、セイバーに顔を近づけ、指を一本立てる。
そして噛んで含めるように、己にも諭すように、穏やかに説明する。

「いいですか、僕はまず、クリスチャンです。まぁ、バチカンからは破門されていますが。
 主イエス・キリストの聖血を受けたという『聖杯』は、このような殺し合いによって獲得されるべきではありません。
 ましてや、魔術師の集団がこしらえあげた、『聖杯』を騙る『万能の願望器』などという胡散臭いものは、悪魔の誘惑そのものです。
 仮にもキリストを信じる者として、そんなものの存在を許してはいけません。主は、それを望まれません」

セイバーは渋面をし、頬を膨らませ、口をへの字に結ぶ。金髪の少年は穏やかに微笑み、二本目の指を立て、続ける。

「第二に、僕には、人々との殺し合いを行ってまで、望むような願いはありません。
 少なくとも不老不死ですし、それなりに力もあります。必要以上の富や名声を求めてもいません。友人だってたくさんいます。
 将来の夢はありますが、それはまっとうな手段と努力によって、僕自身が叶えるべきものです。
 主の恩寵は望みますが、それ以外の誰かに願って叶えてもらう筋合いのものではありません」

セイバーは、ぷしゅうと息を吹き、頬を縮める。あまりにまっとうな正論だが、納得したという表情からは程遠い。

「今僕が望むのは、一刻も早くこの戦争を終わらせ、元の世界に生還することです。聖杯は、破壊し得るなら破壊します。
 もちろん、戦いを望まない多くの参加者も、共にそれぞれの世界に生還させねばなりません。志を同じくする人々とは協力し得ます。
 破壊や殺戮を望む者とは、戦って排除します。僕とあなたの力は、そのために使います。わかりましたか、セイバー?」


220 : ヴェンジェンス・イズ・マイン!! ◆nY83NDm51E :2017/05/29(月) 00:13:24 xIg7B0G.0

「まーったくわからん! お前は阿呆か!? タマ落としたか!?」

思わず声を荒げるセイバーを、金髪の少年はしぐさで黙らせる。周辺に気配はないが、騒ぐのはまずい。
セイバーは舌打ちし、椅子にどっかと座り直し、イライラした様子で青年に問いを投げつける。

「……たとえば、そうよの、お前にも、憎いが倒せぬ奴の一人や二人おるであろう。
 余にはなんとなくわかるのだ、そういうのが。聖杯の力を得て、そやつに恨みを晴らしたいとは思わぬのか?」

「いいえ。それに、主は万人を分け隔てなく愛せよと教えています。
 敵を愛し、己を迫害する者のために祈りなさい、と。僕はまだまだ、そんな境地には立てませんが」

答えながら、彼は苦笑する。故郷に教会もなく、専門的に聖書を学んだわけでもなく、存在自体が異端な自分が、人に聖句を説くなど。
まして自分の一族は、まさにその教えを説く者たちによって、迫害され続けてきたのではないか。なんたる偽善、自己矛盾。
故郷のみんなや、友人知人、師匠である神父が敵に襲われ、取り返しのつかぬことになったら。自分はその敵を許せるだろうか。

「意味がわからぬ。……お前は悪霊祓い師だというが、悪霊は憎かろう? 善人ならば、悪を憎むものだ。普通は」
「いいえ。僕が悪霊、悪魔たちを祓うのは、彼らを憎むからではありません。苦しむ人を救うためです。
 主はご自身の計画のため、時に悪霊をも手足となさいます。聖霊の御力を借りられる僕だって、魔族である吸血鬼の血を半分引いていますよ。ほら」

彼が口を開けると、その中には牙。真っ直ぐな目で見つめられ、言い返されて、セイバーは目をむき、歯をむき出し、額に青筋を盛り上がらせた。
こやつは、この口の減らぬ、なんとかというガキは、情熱を向ける方向をどこか間違えているとしか思えぬ。
天然か。まともな人間か、こやつは。いや、半分人間ではないのだった。邪悪な吸血鬼の方が、まだしも余に理解できる奴かも知れぬ。

「お前のような阿呆は初めて見た」

セイバーはそう吐き捨て、相手を、自分のマスター『ピエトロ・ド・ブラドー』を睨み据えた。そして、フイと顔を逸らし、語り出した。

「余は、国を治め、敵を憎み、戦をすることより他は知らぬ。乱世の君主ゆえな。
 生涯の半分近くは、己の生き恥を晴らすための、復讐に費やした。賢人を敬い善政を敷いたが、それも復讐の手段であった」

ピエトロ、愛称『ピート』は、静かに彼の言葉に耳を傾ける。
彼のクラスは「セイバー(剣士)」。英霊、サーヴァントの中では最も優れた性能を持つという。
ただ、彼は武勇によって歴史に名を残した英雄ではない。その凄まじい復讐心と覇業、そして現代まで残る「名剣」の持ち主としてだ。
僕とは何の繋がりもない。吸血鬼でも聖職者でもなく、西洋の英霊ですらない。しかし、これも何かの縁だろう。


221 : ヴェンジェンス・イズ・マイン!! ◆nY83NDm51E :2017/05/29(月) 00:15:48 xIg7B0G.0

互いの名は、先程確認している。彼の真名は『勾践』。
古代中国、春秋時代の越の王にして、諸侯の盟主となった覇者の一人。歴史の教科書にもちらっとは載っている、有名人だ。

「愛とか申したな。余も、血も涙もない暴君というわけではない。領民は国の宝、家臣は余の股肱だ。慈しんではおった。
 仇敵である呉王夫差にも、いらぬ情けをかけた。まぁ、我が国に攻めて来おった、あやつの父親を殺したのは余でもあるしの」

「ほう」

「かつて、夫差は会稽山に余を追い詰めたが、余を殺さなかった。憐れみをかけ、命を救った。ゆえに余は嘗胆し、呉をやぶることができた。
 追い詰められた夫差の使者が、余のもとに来てな。『もしや会稽のためしのごとく、罪を許されるお心はございませぬか』と申したのだ。
 余は、つい憐れに思い、許そうとした。そうしたら、余の軍師・范蠡が、こう申した」

セイバー、勾践は、ゆっくりとピートの方を振り返り、呟く。

「『天の与うるを取らざれば、かえってその咎めを受く』」

ピートは、黙って彼の視線を受け止める。怒りと恨みと、迷いと疑念に満ちた、昏い瞳だ。

「天は、会稽で越を夫差に賜った。したが、夫差めは受け取らなんだ。その報いが亡国よ。
 今、天が賜った呉を受け取らねば、夫差の二の舞いだと、こう申したのよ。手本はすぐ手元にあり、会稽の恥を忘れたか、と。
 余はそれでも、夫差を海中の小島の領主とし、生きながらえさせてやろうと伝えた。するとな、夫差は恥辱に耐えかね、自殺したのだ。
 その時、顔を布で覆わせたという。あやつが讒言を信じて自刎させた老臣に『あの世で合わせる顔がない』と言って」

セイバーは言葉を切り、天を仰いで嘆き、首を振る。
「天がそのようにしたのだ。結局、余は天の使いとして、夫差の悪行への報いを代行したに過ぎん」

言い終わるや、セイバーはずいとピートに顔を寄せ、本題に戻る。ピートは真っ向から、彼の意志を受け止める。

「よいか。お前が聖杯戦争に招かれたのは、天がお前に聖杯を賜ろうとしておるのだ。受け取らねば、天の咎めを受けようぞ」
「天の父、主なる神が、そのようなことをお命じになりましょうか。罪なき者と殺し合い、その罪に穢れた杯を受け取れと」
「お前がここにおること自体が証明だ。まじない師どもや主催者ではない、司命の神、天帝がそれを定めたのだ」
「悪魔よ、引き下がりなさい。誘惑をやめなさい。神を騙ってはならない!」
「救えぬ愚物だ!」


222 : ヴェンジェンス・イズ・マイン!! ◆nY83NDm51E :2017/05/29(月) 00:17:34 xIg7B0G.0

激昂して立ち上がり、腰の剣の柄に手をかけるセイバーを手で制して、ピートは静かに言った。

「……それに、あなたの行いは、あなたの言ったことと違いますよ」
「なに?」

セイバー、勾践は、聡明な人物だ。ただ、怒りと恨みと、迷いと疑念に、目が曇らされているだけだ。
それを解いてやればよい。理をもって説けば、納得させることはできる。憑き物を落とすことは。

「あなたは天命に逆らって、夫差さんの命を救おうとしたんでしょう? 恨み骨髄に徹した相手を、憐れに思って生かしてやろうとした。
 それは立派な愛です。仁です。夫差さんが自分を恥じて死んでしまったのは、彼自身の責任です。自分で自分を罰してしまったのですから。
 あなたは天の与えた仇の命を取らず、そのことで天の咎めを受けることもなかった。范蠡さんの言い分はもっともですが、そこは間違いです」

「いわれてみればそうである」

セイバーは腑に落ちた様子で、すとんと椅子に座った。
勾践は呉を併呑した後、七年ほどしか生きなかったが、越は代々国を保ち、百三十年後に楚に滅ぼされたという。
死んで百年以上も後のことを、天の咎めと言われても困る。勾践自身に天の咎めは下らなかったのだ。

「主なる神は、こうおっしゃっています。『悪人に報復するのはこの私、神のすることだ。復讐は神に任せよ。お前たちはやらなくてよい』と。
 また『敵が飢えていれば食わせ、渇いていれば飲ませ、寒がっていれば服を着せてやれ。そうすれば、敵の頭に燃える薪を積むようなものだ』と。
 敵から手厚い施しを受ければ、彼を恨みに思っている自分が情けなくなり、頭に血が上って顔が真っ赤になるでしょう?」

微笑むピートの言葉に、勾践は意表を突かれ、ぷッと噴き出した。そしてピートの背中をどやす。

「…………ッパはははははは! お前の神も、少しは面白いことを言うではないか!
 そうよのう、余があやつめに長年へいこらして生き恥を晒したのは、あやつなりの復讐であろうからのう!
 しからば余は、夫差めに見事な復讐を果たしたわけだ! あやつの頭の上に、燃えさかる薪を積んでやったわ!ざまを見よ!」
「う、うーん、ちょっと違いますが、まあいいでしょう」

ともあれ、愉快な気持ちにはできたようだ。機嫌のいいうちに、説得を終えておこう。
「……そういうわけで、僕は聖杯を受け取りません。受け取れば、むしろ天の咎めを受けるでしょう」

セイバーは笑いながら、ピートに掌を向ける。
「わかったわかった、もう言わぬ。お前の決意は堅いようだ。ちょっと試したまでのことよ。
 余とて、なすべきことは既に終え、眠りについておっただけの身。今は、お前の手助けをせよというのが天命なのであろう」


223 : ヴェンジェンス・イズ・マイン!! ◆nY83NDm51E :2017/05/29(月) 00:19:29 xIg7B0G.0

ほっと息をつき、ピートはセイバーに頭を下げる。自分のぶんまで彼が怒ってくれたおかげで、精神的に落ち着くことが出来ている。
「感謝します。逆境や苦難に立ち向かうには、相互の理解と協力が必要ですから」
「ははは。余は安楽を共にすることはできぬが、苦難を共にするにはよい男と評されておる。この戦争が続く間は、互いに助け合おうぞ」

握手を交わす両者。こうして信頼関係を築いた今、互いを裏切ることは決してない。互いの誇りとメンツに賭けて。

「しかしお前は、范蠡とは真逆よのう。あやつもナヨナヨした男であったが、悪知恵を巡らすことに関しては天下一品であった。頼りにしておった」
「范蠡さんとは、仲が良かったのですね」
「ふん! あの裏切り者の恩知らずめが、余のせっかくの好意をないがしろにして、亡命なんぞしおってからに……」

また機嫌が悪くなり始めるかと、ピートが苦笑した、その時。
セイバーの帯びている二振りの宝剣が、キィィィンと共鳴し、淡い光を放った。

「……来客だな」
「そうですね。殺気があります。どうやら、敵のようです」
「言わずと知れておるわ。では、丁重に出迎えてやるとするか」

セイバーとピートは目を細め、同じ方向を見て、立ち上がる。ピートも同時に気配を感じ取っていた。
この宝剣には様々な霊能がある。今のは『滅魂』。歩光ともいい、敵の接近を感知して教えてくれる。

面白い。この付近の地脈は、既に確保してある。ここは余の領土だ。侵掠者から国を護るために、力を尽くして戦うことができる。
次第次第に領土を広げ、まずはこの冬木市を、我が国『越』としてくれよう。

セイバーは、テーブルの上のカップを手に取り、中身を一気に飲み干す。ピートが淹れた、ほどよく冷めたコーヒーだ。
ミルクも砂糖も必要ない。これこそが、セイバーの能力を、闘志を、憎悪を、引き出してくれる。あの時のように。


「……苦いのう」


224 : ヴェンジェンス・イズ・マイン!! ◆nY83NDm51E :2017/05/29(月) 00:21:28 xIg7B0G.0

【クラス】
セイバー

【真名】
勾践@史実(中国春秋時代)

【パラメーター】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具B

【属性】
秩序・悪

【クラス別スキル】
対魔力:B+(C)
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
神代の龍種たる夏后禹の末裔という血統と、全身の黥面文身(いれずみ)、宝具である霊剣の守護によりランクアップしている。

騎乗:C+
騎乗の才能。幻想種を除き、大抵の乗り物を人並み以上に乗りこなせる。更に船舶を乗りこなす際、有利な補正が掛かる。

【保有スキル】
カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
諸侯の会盟を牛耳る中原の覇者になったとはいえ、部下の范蠡には「苦難を共にはできても安楽を共にはできない人物」と評された。

嘗胆:A
復讐の人生を歩んだ鋼の精神と行動力がスキルとなったもの。複合スキルであり、復讐者・忘却補正・自己回復の効果を各々Bランクで含む。
被攻撃時に魔力を回復させ、微量ながらも毎ターン魔力が回復し、自分が憎悪する対象へのクリティカル効果を強化する。
復讐は成し遂げられ覇者となったものの、怨みの毒は周囲への疑念に変じた。「臥薪嘗胆」の語源だが、臥薪は後世の付け足し。
強力なスキルではあるが、代償として毎日苦いものを嘗めて憎悪を新たにせねばならない。怠るとその間このスキルは使えなくなる。

護国の鬼将:C
あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を“自らの領土”とする。
この領土内の戦闘において、領主である勾践は高い戦闘力のボーナスを獲得できる。
『自刎劇場(しをみるものはしすべし)』はこのスキルで形成した領土内においてのみ、行使可能な宝具である。
本拠地は浙江省だが、天下の地脈を整備した禹の末裔にして覇者であり、倭人と越人の類縁関係もあって、日本列島内でも勢力を広げられる。

竜の息吹:C
最強の幻想種である竜が放つマナの奔流。竜(龍)の因子を持つ為所持している。口から毒煙のブレスを放ち、敵の目を晦ます。


225 : ヴェンジェンス・イズ・マイン!! ◆nY83NDm51E :2017/05/29(月) 00:23:32 xIg7B0G.0

【宝具】
『越王八剣(えつおうはちけん)』
ランク:B 種別:対人-対軍宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:100

前秦の王嘉の撰『拾遺記』に見える八振りの霊剣。彼が鍛冶師に命じて白馬白牛を犠牲とし、昆吾の神を祀らせて作らせたもの。
ただしセイバーが所持しているのは二振りの剣であり、八種の霊能を兼ね備え、各剣の真名解放により卍解めいて効力を発揮する。
外見は中国湖北省博物館所蔵の「越王勾践剣」で、表面を硫化銅とクロムメッキに覆われた錆びない銅剣。セイバーたる所以の宝具。
多様な霊能を持つ反面、各々の威力はやや抑え気味。パッシブで効果を発揮する霊能もある。二本で別の霊能を一度に操るには、魔力がやや多めに必要。

・掩日(エンジツ) :太陽を指すと日中でもあたりが暗くなる。金属の陰気を放出する純陰の剣。周囲を闇で掩い、光を遮る。
・断水(ダンスイ) :水を斬ると割れ裂け、切れ目は再び合うことがなくなる。水を防ぎ、斬った傷は塞がらなくなる。
・転魄(テンハク) :月を指すと蟾蜍と玉兎がひっくり返る。月光を反射し、標的の魂魄を転倒させて魅了・混乱させる。
・懸翦(ケンセン) :空を飛ぶ鳥が刃に触れると両断される。遠くにいる敵に魔力の刃を投射して攻撃する。
・驚鯨(キョウゲイ):海に浮かべると鯨も驚いて海底に潜む。剣から電流を放ち、命中した敵を感電させる。水中や濡れた地面にも通電する。
・滅魂(メツコン) :身に帯びて夜道を歩けば魑魅も怖れて姿を消す。敵の接近を知らせ、対魔力を強化し、霊体への攻撃力が高まる。
・却邪(キャクジャ):妖に魅入られた者に見せると怖れてひれ伏す。精神攻撃を無効化し、魅了・洗脳・混乱などを解除する。
・真鋼(シンコウ) :真剛とも。宝玉や金属も土や木を削るようにたやすく切断する。いかなる物質・霊体でも切断できる必殺剣。

『自刎劇場(しをみるものはしすべし)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:100

呉王闔閭との戦いで、軍師・范蠡が取った戦法が宝具化したもの。三列に並んだ決死の士が進み出て次々と自刎し、相手の度肝を抜く。
これに見入っている隙に、伏兵が襲いかかって相手を倒す。闔閭はこの戦いで矢傷を負い、傷が悪化して死亡したという。
一種の呪いでもあり、喪中に攻撃を仕掛けるなど「礼儀」に欠ける相手には効果が高まる。兵は地面より召喚され、甲冑・剣・矛・弓矢などで武装している。
「護国の鬼将」スキルにより確保した領土内でのみ行使可能。

【Weapon】
宝具である二振りの「越王勾践剣」。彼の名前が刻まれているが、同音別諱の「鳩浅」を用いている上、烏蟲篆書体なので読みにくい。
彼の本拠地である越(浙江省)ではなく、楚の本拠地(湖北省荊州市江陵県)の墳墓で出土しているため、
越が楚に滅ぼされた時に戦利品として持ち去られたか、越の王族が楚に降った時にもたらされたものと思われる。
彼が持つ剣は英霊としての体の一部であるため、投擲しても手元に戻るし、誰かに渡すことも出来ない。


226 : ヴェンジェンス・イズ・マイン!! ◆nY83NDm51E :2017/05/29(月) 00:25:37 xIg7B0G.0

【人物背景】
中国、春秋時代末期の越の王(在位:紀元前496-前465)。允常の子。
父の死に乗じて攻め込んできた呉王闔閭を撃退し死なせるが、3年後に闔閭の子・夫差の反撃で亡国の危機に陥る。
軍師・范蠡の助言で夫差に降伏し、命を許されるが屈辱を受ける。帰国後は復讐のため毎日苦い胆を嘗めて憎悪を新たにし、善政を敷いて越を強国とした。
外では夫差に従順に仕え、内では賢者に遜って粗衣粗食に甘んじ、驕り高ぶった夫差が遠征に出た隙を突いて呉の都を攻め落とす。
数年後には夫差を山中に追い詰めて自殺させ、呉を併呑。中原に進出して諸侯の会盟を主催し、覇者となった。
しかし晩年は讒言を信じて有能な家臣を自殺させ、范蠡はこれを予見して他国へ出奔。夫差の死から7年余り後、勾践は逝去した。

セイバーなのでセイバー顔だが、黒髪だし普通に男である。外見年齢は15歳程度のショタジジイ。胆の嘗め過ぎで口の中が黒い。
怒りっぽい熱血漢で、執念深く我が強く、積極性と計画性と実行力に富み、雄弁でズケズケと物を言い、苦難に耐え清濁併せ呑む器量の持ち主。
性格は乱世の英雄向きだが、名軍師がいないと暴君になりかねない。一応アヴェンジャーの適性もあるが、既に復讐は成し遂げた。

【方針】
やることは終え、今さら望むこともないのでマスターに従う。マスターが強い魔力を持つため、十全な力を発揮できる。
宝具はそこそこ強力とはいえ、セイバーとしてはさほど強いわけではない。マスターとの協力が必要となろう。

【カードの星座】
蠍座。



【マスター】
ピエトロ・ド・ブラドー@GS美神

【weapon】
吸血鬼の能力と神聖な力を共に操り、蹴り技を主体とした格闘技も用いる。

【能力・技能】
『バンパイア・ハーフ』
高位の吸血鬼と人間の混血(ダンピール)。魔力や耐久力、スタミナが高く、様々な吸血鬼の能力を持つ。寒さにも強い。


227 : ヴェンジェンス・イズ・マイン!! ◆nY83NDm51E :2017/05/29(月) 00:27:27 xIg7B0G.0

・ダンピール・フラッシュ
 掌から破邪の閃光を放つ。

・バンパイア・ミスト
 自らの肉体を霧に変え、あらゆる物理攻撃をかわす。霊的な攻撃には効果が無い。自分以外に他一人を同時に霧化して移動できる。

・吸血支配
 血を吸った相手に魔力を送り込み、吸血鬼に変えて服従させ、意のままに操る。ハーフなので効果は永続せず、数週間で戻る。性格上めったにやらない。
 吸血鬼はそれなりに強く、血を吸った者を新たな吸血鬼に変えるが、夜しか行動できず、日中は棺桶に入って眠る必要がある。
 また、支配主が別の吸血鬼に血を吸われると、支配されていた人々は解放され、人間に戻ってしまう。
 応用として、瀕死の重傷の人間の血を吸って吸血鬼として蘇生させた後、その相手に自分の血を吸わせれば、傷は治癒して人間に戻る。

・吸精
 バラの花などに手を触れて精気を吸い取り、食事の代わりに出来る。おかげで吸血の必要はなく、魔力補給も容易。

・飛行
 魔力によって空を飛ぶ。そう長くは飛べない。

『祓魔術(エクソシスム)』
キリスト教の神、助け主なる聖霊に祈り、破魔の力を放つ。吸血鬼の魔力を正義の心によって制御したもの。

【人物背景】
椎名高志『ゴーストスイーパー美神 極楽大作戦!!』の登場人物。単行本3巻(ワイド版2巻)から登場。愛称はピート。アニメでのCVは森川智之。
イタリア近海の孤島ブラドー島出身で、金髪黒眉の美男子。父は中世欧州を脅かした最強クラスの吸血鬼「ブラドー伯爵」。ドラキュラは父のいとこの奥さんの兄にあたる。
ほぼ不老不死であり、外見は10代後半、実年齢は700歳以上(20世紀末時点)。邪悪な父に外見はそっくりだが、性格は善良で熱血、正義感が強く生真面目で天然。
女性に手をあげられないフェミニストで、女性には大変モテるが奥手。太陽や十字架は平気だがニンニクはダメ。銀の弾丸や白木の杭もたぶん効く。
実は凄まじい音痴であり、ピアノを弾くと怪音波を発し、学校中の窓ガラスが粉砕するなど結構な被害をもたらす。

バチカンに破門されたエクソシストである唐巣神父に師事し、唐巣教会に在住。試験を突破してゴーストスイーパー資格を獲得した。
将来の夢はICPOの超常犯罪課(通称「オカルトGメン」)に入ることで、公務員として必要な高卒資格を取るため日本の高校に通っている。
いろいろあざとい設定が山盛りの上、実力は紛れもなく高いのだが、なぜかあまり活躍できず噛ませ犬扱いになることが多い不憫な男。

【方針】
聖杯は不要。弱者を救助し悪人を倒し、仲間を集めて生還する。聖杯は破壊可能なら破壊する。

【把握手段・参戦時期】
単行本全39巻、ワイド版全20巻。現在文庫版刊行中。
参戦時期は、単行本11巻で高校に編入して以後、19巻の「スリーピング・ビューティー」編より前。GS資格は取得済み(見習い中)。


228 : ◆nY83NDm51E :2017/05/29(月) 00:29:31 xIg7B0G.0
投下終了です。


229 : 名無しさん :2017/05/29(月) 00:39:44 4YKC/29s0



ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1264222.jpg



空亡さん支援
よろしければどうぞ


230 : ◆z1xMaBakRA :2017/05/29(月) 23:00:24 T9r2Wolo0
感想が遅々として進まない事を、此処に謝罪いたします。
何時かは感想を投下したいので、そちらの方は今しばらくお待ち下さい。

今OPを見直して、少々世界観が寂しいなと思うようになってきたので、世界観説明がてら、追加でOPをもう一つ投下いたします。


231 : 白馬の王子様伝説 ◆z1xMaBakRA :2017/05/29(月) 23:00:51 T9r2Wolo0
 ――『白い騎士』がやって来る。
冬木の街に、こんな伝承(フォークロア)が語られるようになったのは、果たして何時の事であったろう。
一年前どころか、インターネットが普及する以前、それこそ、世の人々がまだテレビやラジオを主な情報源としていた時代。
いやそれどころか、千年・二千年もの昔から、古文書・口伝と言った方法で細々と伝えられてきたかの如き、時の重みすら、この伝承からは感じられた。

 ――『白い騎士』がやって来る。
噂の担い手たる人間達の年齢に、纏まりはなかった。
多くの老若男女がその噂を認識していた。無論、手放しに皆が信じている訳ではない。
馬鹿げた話だと切り捨てる者もいる。頭から全て信じ込んでいる者もいる。話の何割かが嘘ではあるが、残りの部分に真実が隠されていると推理する者もいる。
何れにせよ、言える事は一つである。多くの者達がこの伝承を、形はどうあれ、耳にしていると言う事。これだけは、揺るぎのない真実だった。

 ――『白い騎士』がやって来る。
多くの者達がこの噂を認識しているにも拘らず、その形式(フォーマット)は余りにも各人でバラバラ過ぎた。
噂とは一種の伝言ゲームであり、話し手や聞き手の人間性や知性次第で、幾らでも尾鰭が付くもの。
我が国においては、口裂け女、と言う都市伝説こそがまさに、人の話す内容とは上から下に下るにつれて変化して行く、と言う事の一例とも言えようか。

 ――『白い騎士』。
それこそが、噂の核、骨子である。伝承を語る人物が誰であろうと、この部分だけは絶対に変わらない。これを変えてしまえば、全く別の伝承になる。
問題は、この白い騎士の各人の捉え方、解釈の仕方であった。『白い騎士』を、『正義の担い手』であると信じる宗教者もいる。
『白い騎士』を、『白馬の王子様』と呼ぶ夢見がちもいる。『白い騎士』を、『諸悪を裁く審判者』だと確信する者もいる。
『白い騎士』が現れるその時こそ、『世界の終末である』と認識する破滅主義者もいる。『白い騎士』は、『勝利の上に更に勝利を重ねる者』だと恐れる宗教者もいる。
『白い騎士』が果たして誰で、何の為にこの世界に現れ、そして現れれば何を行うのか。それを正確に理解出来ている者は、一人たりともこの街にはいるまい。
そして、各人のどんな白騎士論が、真実のそれであるのか、と言う事も勿論、誰も理解していまい。
真実に到達しようがするまいが、どうしようもなく、人々を取り巻く事情は刻一刻と変化して行き、水車が回る様に時間も廻り、星も自転し、月も秤動する。
つまり、『白い騎士』の伝説など、人々がどう認識しようが、所詮は伝説。伝説とは、歴史と化した嘘である。
遥かな古に、何をルーツに興ったか解らない伝説など、現代(いま)の激動を生きる人間には、慰みにしかならない。
「ああ、そんな話があるのか」、そうと認識しながら、人々は、今日を生きるしかないのである。結局は、この白い騎士の伝説も、人々の知識に彩りを与える程度の小話に過ぎなかった。

 ――『白い騎士』が、やって来る。
空を自在に飛ぶ『白馬』に跨り、宇宙の真理が完全に保たれた『黄金の時代』を再び築き上げるべく。
『白い騎士』が、やって来る。その手で勝利を得、そして築いた勝利の上に、更に勝利を築く為に。

 『白い騎士』が、やって来る。


232 : 白馬の王子様伝説 ◆z1xMaBakRA :2017/05/29(月) 23:01:08 T9r2Wolo0



「……この世界には雑音が多すぎる」

 抑揚のない、淡々とした男の声に対し、ピ、ピ、と言う機械音が相槌のように奏でられた。
彼らは皆、自分達の足元に堆積した、紫色の砂、或いは塵の様な物の堆積を、無感動そうに眺めていた。
シャドウサーヴァント、と呼ばれる亡霊を葬った際に、彼らが残す残滓のような物であるらしいが、つくづく邪魔で仕方がない。
死してなおゴミを残すなど、何とも醜い死に様だ。何も残さないだけ亡霊共の方がまだマシだと、この男は思っていた。

「往くぞ、■■■■。此処には用はない」

 そう男が告げると、彼の背後にいた何者かは、彼の意思を肯定。
直に前に向かって歩き出した男に追随する様に、彼の後を追う。――その瞬間だった。頭上から何者かが、落下の勢いを借りて勢いよく飛び降りて来たのは。

 男の背後にいた者は、バッと手を上げた。右手だった。
刹那。その右手から、太陽が地上にまで降りて来たと錯覚せんばかりの、眩い白光が煌めき始めたではないか。
時刻は、深夜の三時。丑三つ時の深更が、一瞬で、真昼の正午に変わったと思わせる程の白に染め上げられた。
これと同時に、頭上から勢いよく落下し、剣を振り下ろそうとした何者かが、一瞬で、紫色の塵となったばかりか、白色の光で即座に、その塵ごと今度は消滅してしまう。

 眩いフラッシュが、止む。
その瞬間に、男の背後にいた者の正体が、露になる。それなるは、白い馬に跨った、一人の――。

「……この世界には、浄化が必要なようだ」 

 ピ、ピ、と言う機械音が、相槌のように奏でられた。
果たしてそれが相槌であったのか、そうでないのかは、この場には誰もいないので、知るべくもないのであった。


233 : 白馬の王子様伝説 ◆z1xMaBakRA :2017/05/29(月) 23:01:19 T9r2Wolo0
投下を終了いたします


234 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/30(火) 17:09:30 0oH/oqyM0
皆さま投下乙です。私も投下させていただきます。


235 : わるいこどこだ ◆xn2vs62Y1I :2017/05/30(火) 17:10:07 0oH/oqyM0
今朝のニュース。全く前兆なくニュースキャスター語られるのは、ありえそうで。
それでいて、ありえない事件。現代社会においては不可能に等しい。謎めいた犯行。
大規模な――連続児童誘拐事件。
現実問題。児童誘拐は今日に渡って、未だ撲滅に至っておらず。

今回の犯行は、冬木市内でも数十件。
テロリスト、犯罪組織の影がちらつき、誘拐犯から正確な身代金要求もないにも関わらず
迅速な捜査本部が設置され、早くも周辺住民への聞き込みを開始している。
シナリオで描かれたような美しい連携体制に、事件解決を願う人々は多いのだ。


一方。
謎の誘拐犯を利用し、子供を持つ大人たちは口々にこう言い聞かせる。


「いい? 悪い事をしたら『怖いお化け』に連れ去られちゃうのよ」


果たして冗談めいた恐怖を、子供は鵜呑みするだろうか?
実際、信じる少年少女は実在していた。
世間は誘拐犯で騒ぎ、彼らが足を運ぶ幼稚園・小学校などでは教員・保護者らが警戒心を張り巡らせている。
雰囲気位、子供は敏感に感じられる。日常じゃない。周囲の様子は不穏で異常だ、と。

悪い人なら、お巡りさんが捕まえてくれる筈。
じゃあ、これが『怖いお化け』の仕業なら誰が助けてくれるのか。

恐怖は『感染』するものだ。
伝承や伝説は、現代みたいに情報が巡り巡るハイテクな世界じゃない。噂が有力な情報の一種に違わない。
過去に遡ると全ての人間が文字を読み書きしておらず。
第一、記録媒体ですら明確な証拠は皆無だ。

ならば――現代はどうか?
情報媒体が豊かで、神秘が希釈され、警察に守られている錯覚を頼りに、安堵に満たされた退屈な世界。
きっと、あらぬ陰謀論がネット上で議論されようが無意味だ。
けれども、安直に『お化け』の犯行を認める声がない。

誰もがテロリスト等の犯罪者が行ったと思いこんでいる。
誰もが自分には無関係だと思いこんでいる。
誰もが『お化け』を信じていない。


子供は恐怖するが、大人は恐怖しない。


また、誰かが居なくなった。



次は子供じゃない。



オマエだ。



□   □   □


236 : わるいこどこだ ◆xn2vs62Y1I :2017/05/30(火) 17:10:33 0oH/oqyM0
ボクはお腹一杯になりそうだった。ボクだってサーヴァントだけど、不思議だね、疲れて来ちゃったよ。
今日もボリボリ、悪い子食べてお終い。
ボクはいいから皆がお食べ。
皆は、夜道を巡回して、色んな家の様子を伺って。
少し力が湧くから、『皆』の誰かが『悪い子』を食べたんだね。

ボクはとてもとても不思議なんだ。
どうして『悪い子』がこんなに沢山いるんだろうって。
まだ大人じゃない『子供』が、真夜中で外出して遊び呆けているのに、大人は知らん顔してる。
悪い子には『ボクたち』がやってくる。そう叱りつけたりしないんだ。


ボクは


ボクたちは


ずっと悪い子ばっかり食べてきたけど、でも、でもでも、漸く分かったんだ。
悪いのは子供だけじゃない。
大人も悪いんだって。


じめじめした川の辺で蹲っているボクのマスター。
ボクを召喚してくれた『とっても良い子』。
マスターは酷い大人のところに居たよ。
お風呂にも入れてくれない。食事もくれない。遊ばせてもくれない。何もしてくれない。

マスターは『悪い』大人を殺した。
ボクは言ったよ。


「マスター。悪い大人は殺していいんだよ。それともボクは食べちゃおうか」


マスターは言う。


「俺は殺したいから殺した」


ボクは「それは駄目だよ」と教えてあげた。


「マスター。悪いヒトを殺しても、誰も何も言わないんだよ」

「悪い奴だから殺したかった訳じゃない」

「うん。マスターは良い子だね。正直者だよ」

「嘘はつかないし、つきたくねぇ」


237 : わるいこどこだ ◆xn2vs62Y1I :2017/05/30(火) 17:10:59 0oH/oqyM0
でも、とっても変な事なんだ。
マスターは本当に良い子なんだけど、やっぱりヒトを殺したくなっちゃうみたい。
昨日は女の人を殺して。
一昨日は同い年くらいの男の子を殺して。
悪い事をしているのが問題じゃない。マスターも急にヒトを殺したくなるんだって。

多分それは病気なんだと思った。
ボクはお医者さんじゃないから、分からないけど。
お医者さんだったら、きっと直してくれるよ。ボクは考えた。


聖杯はマスターの病気を治してくれる。


「ボクはお医者さんじゃないから、何も出来ないや。ごめんね、マスター」

「俺はザックだ」

「じゃあ一緒に遊ぼうよ。ザック」


子供なのに、マスターは遊ばなかった。
どうして?
って聞いたら、遊び方が分からなかったみたい。でも、遊び方を教えても、マスターは僕と遊んでくれなかった。
やっぱりマスターは、病気なんだとボクは納得した。



■   ■   ■



俺の目の前に現れたのは、お化けだった。
針金みたいな化物。
包帯まみれでガリガリなのは俺っぽいなと感じる。多分、俺みたいだから俺の前に現れたんだろう。
お化けは、アホみたいに遊びたがってた。
ムシャムシャ、他人の前で子供とか喰う癖に。
俺と遊びたがってる。やってる事が無茶苦茶な奴。

あいつは俺が病気だと言ってた。
こんな包帯まみれじゃ、勘違いされても仕方ないだろう。
あいつは病気を治す為に聖杯を手に入れよう、って言ってた。
だったら病院に連れて行った方がマシじゃねえか。
金も何もないし、門前払いされる。
大体、聖杯ってなんだ。戦争とか、難しい事はサッパリだから考えないことにした。


とにかくお化けをどうにかしたい。
多分、こいつは俺を殺すんじゃないかと思う。
普通は、自然とそうなる。
俺は訳分からないまま死ぬのは真っ平御免だった。

死にたくない。

俺はゴミ山から食べられそうな物を口に含んで、いつもの河川の橋下で眠りについた。


238 : わるいこどこだ ◆xn2vs62Y1I :2017/05/30(火) 17:11:20 0oH/oqyM0
【クラス】アサシン
【真名】ブギーマン@民間伝承

【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:E 魔力:D 幸運:D 宝具:D

【属性】
混沌・善


【クラススキル】
気配遮断:C
 完全に気配を絶てばサーヴァントでも発見することは難しい。
 ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。


【保有スキル】
怪力:B
 魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性で、一時的に筋力を増幅させる。
 一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間は「怪力のランク」による。

気配感知(悪):A
 「悪い行い」をした気配のみ感知する。
 ただし、これはブギーマン本体の「悪」の基準であって
 法律上や倫理上における「悪」は愚か、真夜中まで起きている子供や
 親の言う事を聞かない子供まで対象にされてしまう。


【宝具】
『例えば何処かの隙間から現れる怪物(ブギー・ブーギ・ボギー・ボガート)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1〜100
 ブギーマンはどこからともなく現れ、そして悪い行いをする子供を攫い、捕食する。
 ひとくくりに『ブギーマン』と称しても、酷似した伝承・怪物・魔物は多く存在しており。
 ブギーマン単体で見たとしても、男性だったり女性だったり。
 姿形は千差万別、十人十色、土地柄や国でも異なる。日本の場合は『なまはげ』がソレである。

 この宝具は様々なブギーマンの側面が分身となって
 広範囲――ブギーマン本体が死亡しない限り――に渡り行動する。
 疑似サーヴァントに近いが、消滅しても魔力が供給される限り、分身らは復活を続ける。



【人物背景】
悪い事をするとブギーマンに攫われるよ!
大人からすれば恐怖を利用した教育。
けどけど、それが形となったのは誰のせい?


【特徴】
ボロボロの包帯塗れの男。
体は針がねのように細く、手足腕も異常な長さで全長は裕に3mあるだろう容姿。


【聖杯にかける願い】
マスターの病気を治す



【マスター】
アイザック・フォスター@殺戮の天使

【weapon】
ナイフ
 孤児院を経営していた夫婦を殺したもの


【人物背景】
後に何人もの命に手をかける猟奇殺人鬼の幼少期。
殺したいから殺す。
火傷を隠す為に、全身包帯まみれ


【聖杯にかける願い】
死にたくない


239 : ◆xn2vs62Y1I :2017/05/30(火) 17:12:02 0oH/oqyM0
投下終了です


240 : 名無しさん :2017/05/30(火) 18:06:22 K3RSK9PE0
支援絵多くなりましたし、忙しいでしょうが出来れば史実聖杯みたいにWikiに支援絵ページ欲しいですね


241 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/02(金) 00:05:23 j7Rbrcro0
企画発足からかなり遅れましたが、感想の方を投下いたします。先に申し上げますと、途中までです。

>>ゴトウ&キャスター
神の千年王国と言う目的を挫く為に尽瘁していたゴトウが、よりにもよって神の薫陶を受けた聖杯を以って、敵の目的を挫こうとする、
と言う事についての葛藤が実に見事。が、呼び出されたサーヴァントが恐ろしく不吉過ぎてご愁傷さまとしか言いようがない。
質実剛健を絵に描いたようなゴトウと、何処か飄々として掴み所のないラヴクラフトの対比構造の主従は面白い。
どう考えても従えてる相手がアレですが、ゴトウのサマナーとしての実力で、アレを御し切れるのか。先行きの不透明さがどこか楽しみな主従で見事。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>月喰らう獣
新宿のアヴェンジャー並に相互理解出来そうもない程ヤバいサーヴァントを引き当てておいて、恐怖も何も感じてないどころか、
女の姿になれると知るや、掌返してなって欲しいと懇願する善逸の態度は凄く面白く、ああこんなキャラなのかと言う事を掴ませる面白い話でした。
どう考えても召喚しちゃいけない類のサーヴァントである事が、経歴や冒頭文、そして何よりもステータスからも如実に伝わるミゼーアですが、
なんだかんだサーヴァントの枠に押し込められちゃうとそれなりに丸くなっちゃうんだなぁ、と言う所もまた可愛らしくて宜しいですね

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>その出会は夜に
『>>マジでガチでサイコなレズ』、マスターの方が遥かにヤバくて草。本文中でも、ゆらぎの危うさが見え隠れしてるのが良い。
サーヴァントの存在のせいで、従者としての立場が脅かされそうで大慌てしてるアルフォウが何処か可愛くて個人的には気に入りました。
ゆらぎの真っ直ぐな願いを聞き入れて、己も覚悟を決めて戦時のような夜の亡霊になる事を覚悟したハインツと、
誰かを踏み躙ってまで願いを叶えたいと口にしたゆらぎのこれからはどうなるのか、非常に気になる所ですね。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>グレイ&セイバー
考えてみれば、セイバー顔でゲスなキャラっていないなぁ、と言う意外な所を突いて来た辺り、面白い候補話でした。
原作のFateでも解釈が分かれる、ジャック・ザ・リッパーの形の一つ、その正体(伝承の一つ)は単なる快楽殺人鬼だった、と言う、
裏をかかなかったが故にかえって裏をかかれてしまったようなキャラクター性が魅力だなぁと思いました。
聖杯を俗物的な目線でしか見れないジャックと、聖杯について深い思案を巡らせようとしている神父の対比は面白い。本編ではどう転ぶのか、楽しみになってきましたね。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>浦上&アサシン
似た者どうし、趣味趣向が同じ、と言うのはこの手の企画の鉄板であり王道、と言う事を再認させられる作品でした。
どっちも殺人鬼、しかも片方は犯罪史にその名を残す程の凶悪なシリアルキラー。頭のネジがズレた者同士、実にサマになっている主従。
聖杯に掛ける願いも高尚さの欠片もなく、互いに自分本位。しかも叶えられたら世に大なり小なりの悪い影響が齎されるのは必至と言う悪辣さ。
聖杯戦争を勝ち抜く上では、アサシンの強さも、そもそものアサシンと言うクラス自体も不遇気味ですが、此処からどう転ぶかは見物ですね。

ご投下の程、ありがとうございました!!


242 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/02(金) 00:05:38 j7Rbrcro0
>>相馬光子&アーチャー
個人的に、蚩尤の解釈にムムッと来ましたね。こんな解釈があるって言うのも、オリジナル系の亜種聖杯の醍醐味なのでしょう。
通常は八面六臂の魔獣やら魔王やらと言われ、世にも恐ろしい存在として描かれる蚩尤が、元々は病弱な存在だった、と言うのは個人的には好きな設定です。
毒婦然として光子を蔑みつつも、何処か弱かった自分の姿と重ねてしまい、うっかり情が移り掛けている蚩尤の信条の描写が見事。
とは言え、強力なサーヴァントを呼び寄せた代償として、魔力の元々すくない光子では今後聖杯戦争を勝ち抜けるのでしょうか。結構バランスは取れてるようで、此処も良い。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>ヴェルサス&ライダー
こんな、元居た世界から遠く離れた世界でも、不幸な境遇からは逃れられない辺り、カルマって奴を感じますね。
相変わらず規模の大小関係ない不幸に見舞われるヴェルサスですが、その不幸に対して乙姫が良い感じのカウンターになっていて良いですね。
一見するとポワポワしていて、聖杯戦争に向かない性格をしている乙姫ですが、腹の底じゃ何か黒っぽい感情が渦巻いているようなキャラクターで好み。
とは言え、元のステータスがそれ程でもなく、宝具自身も、ヴェルサスのスタンド同様変則的な使い方をしなければならない辺り、本編での活躍が楽しみですね。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>殺人マシン&殺人鬼
テンションの低い竜一と、テンションの異様に高いアサシンの対比もそうですが、どっちも正真正銘のシリアルキラーと言う共通点も交えていて良いですね。
エリオット・ネスを相手に一杯喰わせた希代の殺人鬼であるところのアサシンですが、聖杯に掛ける願いが、自分自身の正体を取り戻す、
と、本文で見せたチャラついたキャラクターからは想像も出来ない程のシリアスさだったのが、意外で面白かったです。
サーヴァントが聖杯に掛ける願いに関してはマジなのに、マスターの願いが、この手の企画によくある元の世界の帰還だけ、と言う淡白さも、このSSの魅力だなぁと思いました。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>海底聖杯アンチョビー
ギャグテイストが強いキャラクターが引き寄せたのは、まさかの厄そのものようなサーヴァントと言う反りの合わなさが好き。
最近のバーサーカーは割と喋れるタイプが多い中で、この手の、本当に意思疎通不可能と言うサーヴァントはもう珍しくなりましたが、
これに加えて、心の中は痛みに苦しんでいると言うあたりがより不気味さと、悲しさ的なものを助長しているようで、個性が強いサーヴァントだと思いました。
スキルも宝具もかなり厄々しいサーヴァント、その運用方法は、海の底に引きこもり潰し合いを願うと言う、中々の戦略眼を見せ付けた主従ですが、これは功を奏すのでしょうか?

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>わらう者とわらわぬ者
純粋な性格をした『人間』であるかばんと、純粋な人間のフリをする某這い寄る混沌兄貴の組み合わせは、この時点で不穏って感じが漂って来ていて凄い。
よりにもよって真似たアバターが、型付世界ではあんな調子な織田信長。信勝君が今の、日本人全員がイメージする様な凛々しい中年男性風の信長を見て、
何を思うんでしょうね。自分の知らない世界に飛ばされ、自分なりに信長と言うキャラクターを調べ上げ、それについて信長自身に、
自分の抱いたイメージを語り、信長を騙るあの邪神は、それを満足そうに嘲笑するシーンは、これからの先行きを端的に表していて、非常に面白いSSだと、自分は思いました。

ご投下の程、ありがとうございました!!


243 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/02(金) 00:06:23 j7Rbrcro0
今回の感想は此処まで。引き続き、時間を見つけて刻み刻みで投下して行きたいと思います

Wikiにおける支援絵ページについては、いづれ製作いたしますので少々お待ちください(画像自体はしっかりと保存してあります)


244 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:52:31 nsQVLuVo0
遅ればせながら、企画に寄与されました、素晴らしい支援絵のページを作成いたしました。宜しければどうぞ

『ttps://www65.atwiki.jp/star_grail/pages/51.html』

投下いたします


245 : 髑髏の夢 ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:53:01 nsQVLuVo0
          




     僕の青春は悲惨な嵐に終始した

     
     時たま明るい陽射しも見たが、雷雨にひどく荒らされて、


     赤い木の実は僅かしか僕の庭には残っていない

                               ――シャルル・ボオドレール、敵




.


246 : 髑髏の夢 ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:53:15 nsQVLuVo0
 ◆

「すまない」

 数百mもあろうか、と言う奈落の穴に堕ち行く男女。
常日頃の、能天気で、空気の読めない気だるげな雰囲気からは想像もつかない声音で、男は、女の頭を抱きながら呻いた。

「いいのよ」

 自分にも、こんな、優しい声が出せるのか、と、女の方は心の何処かで驚いていた。
母親が子供に向けるような笑みを浮かべ、女は、自分でカットしたせいか左右がややアンバランスの髪を撫で、男を許した。

 ――刹那、二人の身体は、鋼鉄の槍衾に勢いよく叩き付けられた。
無数の尖った先端は、豆腐を針で突き刺すが如くに、二人の体を貫通し串刺しにした。滲み出した血が棘を伝い、床を濡らす。
こうして、暗殺組織、スケルトン・ナイツを足抜けしようとした事から、組織の制裁を『角南瑛子』は、頼りにしていた男である、黒贄礼太郎と共に受ける事になったのであった。
遥か頭上から、地面から生える鋼鉄の槍に総身を貫かれている事を、首領・神羅万将が眺めている事を、ついぞ瑛子は知る事はなかった。


247 : 髑髏の夢 ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:53:32 nsQVLuVo0
 ◆

 冬木の新都で営業されている、国内でも有名な、弁当のFC店で、毎日朝の九時から午後五時まで。日によっては一、二時間程度の残業を行う。
それが、この街における角南瑛子の生活であった。毎日見慣れた弁当を折詰にしたり、おかずを調理したり。変化もない、刺激もない。
何処の誰もが送る、単調な労働を、この街で瑛子はずっと続けていた。――と言う事に、今はなっている。
実際には違う。瑛子がこの街にやって来たのは今から数えて五日前。一週間とまだ経過していないのだ。
それにも関わらず、瑛子は、己がこの街でどう言った生活をどれだけの年月送り続けて来たのか、何時の間にか身体と頭に刻み込まれていた。
瑛子は、この街で生活するフリーター。来年こそは就職をしようと決意し、軍資金をバイトで溜めようと頑張っているどこにでもいる一人の人間。
それが、彼女のロールであった。だが、本当の角南瑛子の来歴は、此処とは違う世界の日本で、暗殺組織スケルトン・ナイツに所属していた、
暗殺者(どうぐ)の一人であった。愛を知らず、恋も知らず、家族の暖かさにも友情の眩しさも、この女性には無い。
彼女にあるのは、殺しが上手いと言う事実。そして、壮絶な人生の故に殺された、死体と化した感受性だけだった。
そんな自分が嫌で、自分にいつまでも道具としての境遇を強い続ける組織が憎くて。瑛子は、裏切り者として処罰される事を覚悟して、組織を足抜けした。
食べた事のない自由と言う名の赤い果実を、その口で齧ってみたくて、彼女は、仕方がなかったのである。

 そしてその自由は皮肉にも元の世界で、角南瑛子が、落とし穴に仕掛けられた槍衾のトラップで命を落とした、と言う事実で叶えられた。
世間的に見れば、瑛子の生活は恵まれているとはおよそ言い難い。だが、彼女にとって今の生活は紛れもなく自由であった。
自分に殺しを強いる組織はない。仕事をサボタージュすれば自分を殺してくる者もいない。稼いだお金を、武器に使えと命令して来る上官もない。
好きな仕事を好きな時間だけ行え、稼いだ金を好きなものに使える。彼女にとってこれこそが、自由と言うものであった。嘗ては心の底から望んだ、人間の在り方。
それを今、瑛子は享受していた。だからこそ、彼女は幸福だった――と言う訳では、残念ながらない。
幸福を与えてやったのだから、その代償だ、と言わんばかりに、彼女は、あるイベントに従事しなければならない。それについての知識もまた、頭に刻み込まれている。

 聖杯戦争。それが、角南瑛子がこれから、自分の引き当てたアサシンのサーヴァント共に潜り抜けねばならない戦いである。
自分と同じく、サーヴァントを引き当てた所定数の主従を全員倒す事で現れる、どんな願いでも叶えられる魔法の杯。
それを巡っての、最後の一人になるまでの殺し合い。それが、聖杯戦争であった。その知識を理解した時、瑛子は、心底歯噛みした表情を浮かべた。
殺す自分が嫌だったからこそ、命のリスクを覚悟でスケルトン・ナイツを抜けたと言うのに。あの最悪の組織が存在しない世界にやって来れたと言うのに。
まるで、自由と言う借金を借りたのだから、時間と命を削って払えとでも言わんばかりに、実態も何も知らない聖杯戦争への参加を余儀なくされる。

 ――ふざけないでよ――

 何処まで、自分の時間を奪えば気が済むと言うのか。
逆さに振っても、瑛子からは最早何も出ない。金もない、スキルもない。処女すら過去に散らされた女から、命すら搾り取ろうと言うのか。
馬鹿げている。ふざけている。こんな戦い、乗りたくもない。潰し合うなら、潰しあえ。自分は一切関係がない。
サーヴァントだって、右手甲に刻まれた、三つの苦無(クナイ)が三角系に配置された意匠のトライバルタトゥー――令呪と言うらしい――で自殺させて、それで終わりだ。

 ――当初は、そうするつもりであったのだ。


248 : 髑髏の夢 ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:53:46 nsQVLuVo0
「ただいま」

 言って瑛子は、この冬木での自分の住居である、安アパートの一室に帰宅した。
ただいま、とは言うが、この部屋には彼女以外の住民はいない。独り暮らしである。
擦り切れた畳の上に、家具量販店で買った、洋風の安いタイルマットを敷き、同じ店で購入した簡易ベッドと安テーブル、
そして、家電量販店で購入した小さい冷蔵庫、液晶テレビしかない、全体的にチープな部屋。此処が、角南瑛子の自室であった。

 瑛子の美しさにはそぐわぬ部屋だった。
身長は百七十センチ程で、モデルのように見事なプロポーションを薄手のコートで覆っている。
艶やかに光を反射するショートカットの髪に、うなじから喉元にかけて切り下げるように斜めに揃えられた髪。
理容については瑛子は詳しくない、自分好みの髪型にしたつもりなのだが、それが驚く程様になっていた。
何よりも、顔つきだ。すらりと通った鼻梁に隙のない目元、白い肌に対照的な真紅の唇は、ガラス細工のような美しさと脆さを内包している。
とてもではないが、弁当屋でアルバイトをしていて良い人間ではなかった。東京に出ていれば、一流誌のファッションモデルとして、食べていけそうな美貌の、完全なる無駄遣いとしか言いようがなかった。

「……アサシン」

 無感動そうに部屋を眺めながら、そう言った瑛子。刹那、彼女の前方一m先に、瑛子の引き当てたアサシンのサーヴァントが、片膝を付いた状態で現れた。
鳶色の忍装束に柿色の羽織を身に纏った、黒いショートカットの、精悍で整った顔立ちの青年である。
忍装束と言う特徴から、誰もが彼を見て、『忍者』と言うイメージを抱くだろう。事実それは、その通りであった。
アサシン――真名を『加藤段蔵』と言うこのアサシンは、日本国に於いて著名かつ伝説的な忍者の一人であるのだから。

「覚悟は、出来たのかな。主」

「駄目ね、てんで。そう簡単に、覚悟なんて固まる筈がないわ」

「……そうか」

 心底、残念そうな風な顔で、段蔵は言った。
忍である以上、滅多な事では己の生の感情は身体に出さないものであるが、今回ばかりは珍しい。素人目で見ても解る程、段蔵は消沈を隠せていなかった。

「幻滅、させちゃった?」

「ん?」

「蛇の道は蛇、あなたも気付いているでしょう? 私が、決して潔癖な人間じゃない事に」

「……ああ」

 コクリ、と。段蔵はややあって頷いた。
瑛子の言う通り。段蔵は一目己のマスターを見た時、思った事は自分と同類の人物であると言う事だった。
つまりは、暗殺者である。身体から香る、血の香りと、他者の死臭。何よりも、冷たく濁った、異様に感情の濃淡のない瞳。
それは、殺しを生業とする者のみが対外的にアピール出来る特徴であった。段蔵は角南瑛子を、暗殺者、それも、相当な手練だと認識していた。

「一杯殺して来たわ。両手の指じゃ足りない程。中には、尋常ない手段で抵抗をしてくる人もいたわ。運よく生き残って、殺し返しもした」

 自嘲気味な笑みを浮かべ、段蔵を眺める瑛子。
忍装束の上からでも解る。段蔵の肉体は、アスリートとは別次元、殺しや戦いを生業とする者にとっての理想形の一つ。
あらゆる部位が無駄なく鍛え上げられ、全局面で最大限の力を発揮出来る、完璧な人間凶器。それが、段蔵の身体であった。
きっとこの男もまた、自分と同じ、いや、それ以上の人間を血の海に沈め、自分が潜り抜けて来た修羅場以上の修羅場を、必死の思いで掻い潜って来たのだろう。その事を一目で解らせる、優れた暗殺者だった。

「滑稽よね。散々殺してきた人間が、自由を知った瞬間、もう殺したくない、今の生活を維持したいだなんて弱音を吐く何て」

「いいや」

 其処で段蔵は、片膝立ちの状態からスッと立ち上がり、瑛子の事を見下ろした。
当時の日本の平均身長を考えれば、段蔵の身長は、かなり恵まれている方に部類しても良い体躯であった。

「よく……解るよ。欲しいよな、自由って奴はさ」

 目を閉じ、段蔵は語り続ける。


249 : 髑髏の夢 ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:54:03 nsQVLuVo0
「忍者って奴だったからな、共感出来る。命令があれば身一つで敵の国に入り込み、時には殺しだってしなくちゃいけない。俺達は皆、大名や棟梁にとって都合の良い苦無みたいなもんだった。その上、任務でドジ踏んで、うっかり自分がこの世から忍んじまう忍者なんて、ゴロゴロいた。皆……そんな生活が嫌だったよ」

「……」

「俺達は誰かに操られる道具じゃないが、道具に徹してなければ生活が出来ない。だからさ、よく解る。嫌だよな、殺しの道具なんて。欲しいよな、自由だって」

「……」

「俺……いや、俺『達』は、結局道具として死んだ。自分の家も土地もなく、好きな山野を駆け抜け、適当な川でイワナやヤマメを釣るような真似も、俺達は出来なかった」

 そこで段蔵は、瑛子の瞳をジッと見つめ、口を開く。

「折角手にした自由を主が失いたくないって言う気持ちは、俺達も解る。それを理解していて……自分達でも、馬鹿げた事を頼み込むって事を承知していても、頼む」

 ――瞬間の事だった。
瑛子が瞬きを終えた瞬間、段蔵と全く同じ背格好、全く同じ服装、全く同じ髪型をした男達が四人。いつの間にか彼女の目の前に現れているではないか。
五人の段蔵は、全く同じタイミングと全く同じ動きで、床に平伏。俗に『土下座』と呼ばれる姿勢を、恥も外聞もなく行い、こう言った。

「聖杯戦争に、少しでもいいから興味を抱いてくれ」

 やはり五人とも、全く同じ瞬間に、同じ言葉を一字一句違わず口にした。
それだけじゃない。声の方も、皆、同じもの。余りにもタイミングが完璧、発声に一秒のずれもなかった為に、アパートの薄い壁が震える程の声で、段蔵は懇願した。
哀願、とも言うのかも知れない。瑛子は、この五人の段蔵の声に、痛切とも言える程の、万感の思いを感じ取る事が出来た。

 ――ああ、と、瑛子は思った。
そうか。自分が、彼らを令呪で自害させようと思い、思い止まり、結局、そう出来なかったのは、彼らの在り方のせいだったのだ。
初めて段蔵の姿を見た時瑛子は、自分と同じ物を感じ取った。何処までも誰かの道具、何処までも人を不幸にする技術のみを磨く事を強要された非人間。
それは正しく、スケルトン・ナイツに所属していた自分と被って見え、それにシンパシーを感じてしまい……令呪と言う絶対命令権による自害を、敢行出来なかったのだ。
段蔵の口にしている事は共感出来る。瑛子もまた嘗て、自由が欲しかった一人の人物であったし、結局最期の瞬間までそれを手に入れる事が叶わなかった女だ。
彼は、自分の自由が眩しいのだ。何時でも仕事を辞められ、何時でも好きな仕事に就け、何時でも好きな所で野垂れ死に出来る角南瑛子の現状が、羨ましいのである。
彼女の現状も決して幸福なそれとは言い難いが、それでも、段蔵からすればこんな鈍色の自由ですら、光り輝く宝石のように映るのだろう。
今の段蔵の現状、瑛子は決して笑わない。いや、笑えない。そう――自分にも昔、そんな鈍色の自由を、焦がれる程欲していた時期があったのだから。
この五人は、性別も背格好も自分とは違うが、それでも、自分なのだ。今その事を、瑛子は心から理解してしまった。

 瑛子は、自分の持っている手提げ鞄、そこにしまっていた自分の郵貯の口座を取り出し、その残高を確認する。
百と十二万。それが、この世界における、角南瑛子と言う一人のフリーターの全財産だった。どうやら、物欲に頓着しないと言うキャラクターだったらしい。
最低限の生活を送れる分は全部貯金に回しているらしく、フリーターにしては、貯金がある方であった。尤も、瑛子は金銭面にそれ程重きを置かない女性だった。
口座の残高が一億あろうが、一兆あろうが、瑛子の生活は変わらない。変わらないが……この金について、瑛子は思う所があった。

 ――……彼は、どうしてるかしら?――

 スケルトン・ナイツの護衛に相応しい人物を探し求めていた頃、強いが危険と言う風の噂を聞き、頼りにした、探偵とは名ばかりの殺人鬼。
驚く程間が抜けているのに何処か鋭く、そして真実、鬼神の如く強いが、瑛子の見て来たどんな暗殺者がずっと可愛く見える殺人狂。
黒贄礼太郎は、死んだのだろうか? 首を断ち切られても死ななかったあの男は、結局今、何をどうしているのだろうか?
……死んでないとは思う。付き合って一ヶ月すら経過していないが、それでも解る。あの理不尽の権化のような男が、死ぬ筈がないと。


250 : 髑髏の夢 ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:54:14 nsQVLuVo0
 あの理不尽の象徴たる男に、もう少しだけ、報酬を上乗せしてやりたかった。
あの男に支払った、七十三万と、自分の身体。足りない、と思った。七十三万円では利かない程の痛みを、あの男は味わった筈なのだ……その割には元気いっぱいだったが。
聖杯自体には、興味はない。興味はないが、お礼は言いたい。槍衾に貫かれる前に口にした、許しの一言では、足りなかった。
お金を送るだけでも良い、何か一言メッセージカードを手渡すだけでも良い。それでも何か、あの男に、感謝の印を送ってやりたかった。
……いや、もしかしたら、それこそが、聖杯についての願いなのかも知れない。そう、瑛子は思った。

「……アサシン」

「……」

 段蔵達の身体が、土下座のまま強張った。

「恐縮しなくても良いわ。聖杯戦争、私も乗る」

「本当か!?」

 ガバッ、と、五人一列に並んで土下座をしている段蔵。
その内真ん中の彼が、バッと顔を上げた。どうやら、彼がリーダー格らしい。

「だけど、マスターを殺すのは禁止。……私、なるべくもう殺しはしたくないの。葬るのなら、サーヴァントだけにして」

 無茶なオーダーだと言っていて瑛子は思う。
何せアサシンはその名の通り暗殺者……サーヴァントの暗殺ではなく、マスターの暗殺で成果を発揮する存在である。
それなのに、マスターの殺害は厳禁、サーヴァントのみを葬れと言うオーダーは、かなり無理な命令であろう。遠回しに、アサシンに死ねと言っているような物である。
だが、これは譲れないラインだった。瑛子はもう、誰も殺さない。勿論、自分に対して悪意をもって襲い掛かる存在となると、痛い目を見て貰う。
しかし、特に、悪い事もしていない無辜の人間を殺す事はしないと心に決めたのである。これを呑まないと言うのなら、仕方がない。段蔵には悪いが、聖杯戦争を諦めてもらうしかなかった。

「解った。難しい注文だとは思うが……手がない訳じゃない。ありがとう、主よ。この加藤段蔵……主を護る苦無となり、主に殺意を向ける者を穿つ手裏剣になろう」

 意外にも、段蔵は直に、瑛子の提案を受け入れた。
段蔵自身も、瑛子のオーダーが無茶を極るものだとは理解しているらしい。しかし、それでも彼は良かったと言うのだ。
聖杯戦争自体に興味を持ってくれた。それだけで、アサシンの悲願が、達成する可能性が上がるのだから、喜ばぬ筈がないのかも知れない。

「アサシン」

「何だ?」

「貴方も、自由が欲しいの?」

 そう瑛子は問いかける。今までの会話の文脈を判断するに、アサシンもまた、自由を欲している事は解る。

「欲しいな」

 「そう――」、残りの四人も、リーダー格の段蔵の言葉に続いた。

「『五人分の自由』が」

 そう口にする段蔵の瞳には、決然たるものがあった。
自由への渇望。それは、男女の垣根も関係なく、絶対的な物である事を、瑛子はこの瞬間に、再認させられたのであった。


251 : 髑髏の夢 ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:54:49 nsQVLuVo0
 ◆

「いなくなってしまった」

 ポツリと、そう、黒贄は呟いた。
無数の裂け目と穴でズタボロになった黒礼服を身に纏い、総身から血を流し続けたまま呟いた。
頭にも首にも、胴体にも四肢にも、血色の風穴が刻まれ、そんな状態でも、言葉を発する事が出来た。

「どこを探しても、いないんだ」

 喜怒哀楽、どれにも該当しない無表情で、ただ黒贄は呟き続ける。
男の顎の先から、液体が滴り落ちて、床を濡らした。それは、透明な液体だった。

「もう、ご飯を作ってくれないよ。もう、キスもしてくれないよ。何も言ってくれないし、どこを探しても暗い空間だけなんだ」

 黒贄の口調は、怖い程静かであった。だが、彼を取り囲む男達の膝は、小刻みに震えていた。何を感じているのか、彼らの殆どは恐怖に顔を歪め、今にも悲鳴を上げて逃げ出しそうだった。

「僕は、泣いてはいないんだ。これは涙じゃないんだ。殺人鬼は、泣いてはいけないんだ」

 黒贄がゆらりと、右手の指を自分の顔の左側に突き立て、そのままメチメチと、力尽くで皮膚が剥いで行く。己の泣き顔を見られたくない。そんな風に。

「僕は別に、復讐をするんじゃないんだ。だって、殺人鬼は、私怨なんかで、人を殺しちゃいけないんだから。でもね、誰が、彼女を隠したんだろう」

 黒贄目掛けて、ライフルを構えていた鋭い目の男が、唾を呑んだ。

「だーれーかーなー」

 黒贄は左手も使い、、皮膚と肉の間に指を差し入れ、完全に自分の顔を、めちちっ、と、嫌な音を響かせながら引き剥がした。

「アケロパニャー」

 血みどろの人体標本と化した黒贄の口から、力の抜けるような声が洩れた。
――その後、スケルトン・ナイツと言う組織がどうなったのかは、敢えて記すまでもない。筆を、此処に置く事とする。




【クラス】アサシン
【真名】加藤段蔵
【出典】史実(日本:AC1503〜AC1569)
【性別】男性
【身長・体重】175cm、66kg
【属性】中立・悪
【ステータス】筋力:C 耐久:D 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:D 宝具:B

【クラス別スキル】

気配遮断:A+(A)
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見する事は不可能に近い。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。一のアサシンが消滅した場合、カッコ内のスキルランクに下方修正される。

【固有スキル】

忍術:A+++(A++)
室町時代の日本で体系化された間諜の秘術。忍者八門と呼ばれる基本技術に加え、諜報術、変装術などで諸国の草莽に溶け込み、
空蝉の術、五遁の術、影縫いの術等の高度な逃走技術で、身一つで機密を入手する。しかし、相手の不意を突く技術のため、初見でない相手には効果が減少する。
鳶加藤と言う二つ名を持ち、上杉謙信、武田信玄と言った名だたる戦国大名にすら警戒を余儀なくさせる程のアサシンの忍術スキルは、最高クラスのそれ。
二のアサシンが消滅した場合、カッコ内のスキルランクに下方修正される。

破壊工作:A(B)
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。トラップの達人。ランクAならば、相手が進軍してくる前に六割近い兵力を戦闘不能に追いこむ事も可能。
ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。三のアサシンが消滅した場合、カッコ内のスキルランクに下方修正される。

諜報:A(C)
気配そのものを敵対者だと感じさせない手練手管。
Aランクともなれば、余程優れた感知、直感スキルがない限り、アサシンが敵対者及びスパイだと気付く事は、困難を極る。
四のアサシンが消滅した場合、カッコ内のスキルランクに下方修正される。

幻術:C+(-)
魔術系統の一種。偽装能力。個人を対象とした物から街ほどの大きさの大規模行使も可能。
忍術スキルと併合して使用する事によって、術の発動動作を隠蔽し、目の前で見ていても、いつ術が発動したのか認識する事を阻害する。
五のアサシンが消滅した場合、カッコ内のスキルランクに下方修正される。


252 : 髑髏の夢 ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:55:17 nsQVLuVo0

【宝具】

『不朽の跋扈精鋭(イモータル・ファイブ・フォーセス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
生前アサシンがあだ名つきの忍者として、戦国の大名達から大いに警戒されるに至った、アサシンの忍者としての本質が宝具となったもの。
アサシンは召喚時は彼一人だけ召喚されている風に見えるが、それは正しい物ではなく、厳密には、
『アサシンと全く同じ霊基とステータスを持った五つ子が、一つの肉体に統括された状態で召喚されている』、と言うのが事実である。
普段はアサシンは一人で召喚された状態になるが、マスターの命令や自らの意思で、任意の五つ子の誰か、或いは五つ子の全員を、別個に現界させる事が出来る。
五つ子は『全員同一のステータスと、同一の保有スキル』を持つが、決定的に違うのは、『後者の保有スキルの習熟度』。
一のアサシンは気配遮断に長け、二のアサシンは忍術、三のアサシンは破壊工作、四は諜報、五は幻術スキルに長けているが、それらのスキル以外は全部、
カッコ内のスキルランクである。五つ子が全員統括されている状態は、十全の状態、つまり、スキルランクは平時のランクで適用されるが、
それぞれの五つ子を個別に現界させた場合には、その一人が最も得意とするスキル以外のスキルランクはカッコ内の値で適用されてしまう。
五つ子の誰かが殺された場合、その五つ子の得意としていたスキルはカッコ内のランクに下方修正される。誰かが殺された状態で、残りの兄弟が統括されたとしても、
殺された兄弟のスキルランクはカッコ内の値に修正されたままになる。全員統括された状態でアサシンが殺された場合は、誰かがその殺される役を肩代わりする事で、
アサシンは殺された兄弟の一人と引きかえに、十全の状態でリレイズする事が可能。勿論その場合でも、殺された兄弟の得意とするスキルは下方修正される。
つまりアサシンを魔力切れ以外の方法で真に消滅させたいのであれば、計五回は、直接戦闘で葬らねばならない事を意味する。

【weapon】

【解説】

加藤段蔵とは、群雄割拠の戦国時代に存在し、活躍したとされる伝説的な忍者の一人である。その優れた技術を称して、飛び加藤(鳶加藤)と言うあだ名を持つ。
名の知れた忍者ではあるが、その半生、人物は不明。彼の遺した伝説と、驚愕的なエピソードのみが後世に伝わるだけである。
常陸出身と言われているが、これも不明。忍者としての技術に極めて優れ、最初は上杉謙信の配下として仕えた。
この時、謙信の命令で敵対している大名家からある名剣を奪ってくるように命じられた段蔵は、大名家の警戒の目を見事に掻い潜り名剣を奪い、更に、
大名に仕えていた童女までを生け捕りにして謙信の前に献上したとされる。だが逆に謙信から警戒され、暗殺を謀られる事になった。
この為、謙信の下から去って、武田信玄の家臣となる。信玄の下でも、忍者として優れた技術を見せた。だがその信玄からもやがて、
そのあまりに優れた忍者としての技術を警戒される事となる。一説には、段蔵が織田信長と内通した為とも。
そして時は流れて1569年、厠に入っていたところを、信玄の命令を受けた馬場信春または土屋昌次によって暗殺された。享年67とされる。


253 : 髑髏の夢 ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:55:36 nsQVLuVo0

伝説的な忍とは言え、戦国時代の傑物である信玄と謙信の二名から簡単に逃げ果せた理由は、単純明快。
加藤段蔵とは、全く同じ背格好、全く同じ容姿、全く同じ声に全く同じ趣味趣向、全く同じ戦闘能力を持った、コピーの様な五つ子だったからである。
別名である『飛び加藤』とはこの五つ子に由来し、飛ぶように移動したり事実飛んだりしたから飛び加藤なのではなく、
五つ子全員が見事なまでの統率力で移動する様子を讃えて、飛び加藤と呼ばれるようになったのが実際の所。
風魔一族に存在する加藤家、その忍の一人はある年、五人もの子供を授かった。食い扶持が足りなくなるので何人かは口減らしにしようと当初は思ったらしいが、
段蔵の両親は、敢えてこの五人共々全く同じ食事、全く同じ修行内容、全く同じ生活リズムで育て上げつつ、
それぞれ突出した技を別々に設定させて育て上げてみよう、と画策。全ては風魔の一族の繁栄と、自分達の生活をよりよくさせようとする為である。
かくして両親の思惑通り、凄絶なトレーニング、自由のない生活の末に、遂に五つ子は、全く同じ身体的特徴を持ち、風魔一族でも突出した忍びとして育ちつつも、
それぞれ特に得意とする分野が違う、と言う五つ子の忍者へと成長。その凄まじい忍術の冴え、五つ子故の凄まじい連携力で、諸国で成果を上げた。
五つ子はそれぞれ交代で任務を請け負い、得意とする技術がそれぞれ違うと言う特徴、そして全く同じ容姿と言う特徴を活かした攪乱、陽動で戦果を発揮した。
謙信や信玄からも正にこの特徴を用いて逃げ果せた――のだが、実際にはこの二人の戦国の雄から逃げ果せるのは簡単ではなく、実際には彼らから逃げるのに、
それぞれ兄弟を二人づづ、計四人も失う形になってしまった。そうして最期に残った長男、即ち一の段蔵は、兄弟を失った事による喪失感から世を憂い、隠居しようとするのだが、追っ手である武田四天王の馬場信春との壮絶な死闘の末、討たれたのだった。

幼い頃から五つ子全員が、身長や体重にそれぞれ差異がでないよう、全く同じ食料を寸分の狂いもない分量で食べさせられる、
日中の運動も夜の睡眠時間もそれぞれ同じにし、自由な時間はなく、生理的に必要な時間を除いた全ての時間は鍛錬のみ、と言う、
気が狂う程に厳しい生活を送った事から、五人全員自由への渇望が恐ろしく高い。常に風魔の為、仕えていた武士の為の道具であった、
という意識が根底に根付いており、それが酷くコンプレックスになっている。聖杯に掛ける願いは、五人全員が別々に受肉。
そして、五人全員がそれぞれ別の人生を歩む、と言うもの。生前は五つ子全員が、別の趣味すら持つ事を許されず、画一的に育てられた事で、
別々に自由に生活する、と言う事への希求が強く、今も、この事については憧れているのであった。

【特徴】

鳶色の忍装束に柿色の羽織を身に纏った、黒いショートカットの、精悍で整った顔立ちの青年。
この服装は任務の際の物であり、諜報活動の際には、より目立たない、民草に溶け込むような普通の服装で活動する。

ちなみに段蔵の宝具名は、Fate/Grand Orderにおける風魔小太郎の宝具同様、忍として凄まじい実力であった段蔵の実力を認め、
当時の風魔の棟梁が直々に、段蔵に対して与えた名前に由来している。

【聖杯にかける願い】

五つ子全員が別々に受肉。そして、それぞれが別々の人生を辿る事。


254 : 髑髏の夢 ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:55:47 nsQVLuVo0




【マスター】

角南瑛子@殺人鬼探偵

【マスターとしての願い】

黒贄礼太郎に礼をする事。但し、聖杯自体にはそれ程頓着していない

【weapon】

ポイズンテイル:
長さ十二センチ程の、菱形の薄い刃。刃先に接する二辺の縁は剃刀のように鋭く砥がれ、手前の二辺は角の近くを除いて砥がれておらず、その部分を掴んで操る。
言ってしまえば菱形の手裏剣であり、鋭い刃先の反対側には小さな丸い穴が開いており、釣り糸のような透明な糸が通してある。
ポイズンテイルの名前から解る通り、刃には毒が塗られており、殺傷力を大幅に高められている。

【能力・技能】

暗殺技術:
暗殺組織スケルトン・ナイツに所属していた為に、極めて優れた暗殺技術及び身体能力を持つ。
但し、作中に登場する魔人達の中では控えめなそれではあるが、それでも、一般人基準からすれば突出したものである事には変わりない。

【人物背景】

五歳の時に人身売買業者に攫われ、スケルトン・ナイツの暗殺者として血の滲む訓練をし続けて来た暗殺者。
組織に忠実なフリをしながら、ずっと抜け出すタイミングを窺い続け、ついに、相棒にして監視役であった男を殺し、八津崎市の殺人鬼探偵を頼り、
自由を獲得しようとした一人の女。そこで、探偵と束の間の自由を謳歌するも、遂には殺されてしまった女。享年、二十五、或いは六歳。

死亡後すぐの時間軸から参戦。

【方針】

基本的には戦わないし動かない。襲い掛かって来た物に対してのみ、本気を出す。


255 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/03(土) 19:56:03 nsQVLuVo0
投下を終了いたします


256 : ◆xn2vs62Y1I :2017/06/03(土) 23:26:25 rDTifuDQ0
皆さま投下乙です。私も投下します。


257 : 若葉&ライダー ◆xn2vs62Y1I :2017/06/03(土) 23:27:15 rDTifuDQ0
艦娘と呼ばれる存在には、様々な解釈や考察が飛び交うが、自然として戦艦の擬人化と捉えるのが
正常であろう。『さそり座』のカードを手にする艦娘・駆逐艦の若葉もその一人。
彼女は、何故自分がここに居るのか記憶が曖昧だ。
メジャーな艦娘同様。若葉も某鎮守府に所属しており、確か、提督から出撃命令を受けた。
『さそり座』のカードをどこで拾ったか。

若葉の前には幻想的な河川が広まっている。
水晶細工の銀杏並木を通りぬけて、海岸へ到着すると砂浜の砂は全て月明かりで輝く。
若葉が砂をすくってみようとしたら、『さそり座』のカードが手元に無いのを自覚した。
落としてしまったのか。若葉が振り返ようとしたが、砂を観察してみると、砂も水晶で構成され、
中で炎が命の輝きめいて燃え盛っていた。


「こんばんは」


いつの間にか、若葉の隣にいた少年が話かける。
驚かない若葉だったが、それは特別に少年が異常だった訳でも、敵意が垣間見えた風でもない。
美しい銀河に満ちた夜空のお陰か、若葉も警戒心はない。
若葉は会釈だけし、沈黙する。
元より彼女は無口無言だった訳じゃないが、言葉短いのが常だ。
少年も困ったようで、若葉はどうにか話す。


「カードを探している」


目をぱちくりさせ「カード?」と少年が繰り返して、若葉が「さそりが描いてある」と付け加えた。
少年は空を眺め、思い出したかのように語る。


「蠍の火って知っているかい」

「いや」


少年が簡単に「蠍の火」を説明してくれた。成程、と。若葉は納得する。
確かに自分もかつて戦争で必要とされた兵器でしかなかった。
今は『艦娘』として人々と世界の為に戦う。
誰かのために生きる。
誰かの幸せを守るため。
嗚呼、きっと自分もそうだった。そうだと、信じたい。
煌く水面を観察する若葉に、少年は尋ねた。


「ぼくはカムパネルラ。君は?」

「若葉だ」

「君がぼくのマスターだよね」

「……ああ」


258 : 若葉&ライダー ◆xn2vs62Y1I :2017/06/03(土) 23:27:37 rDTifuDQ0
☆   ☆   ☆   ☆



聖杯戦争か。若葉は、先ほどの幻想的な光景が己のサーヴァント、ライダーの宝具による物だと知った。
あの『さそり座』のカードが、ライダー・カムパネルラを召喚する切っ掛けだったということを。
若葉は、少しだけ体を震わせていた。
戦争――即ち、死者が必ず出る。若葉の手には、砂浜で拾った水晶の砂が残り、爛々と炎が燃え続けていた。
若葉が送られた戦場の舞台・冬木市に明かりは充実しており。
もし、水晶砂粒の炎の真価が発揮するとなれば、きっと世界が暗黒に飲み込まれた時だろう。

ここでは普通に人々が暮らしている。
何故だろうか? 若葉が思うに、冬木市民の様子は息抜きでも、作られた平和じゃない。
自然と都市が両立した世界と、そこに生きる者は仮装でしかないのか。
同じように聖杯戦争へ参加されたマスター達の動向は、どうだろう。

聖杯という願望機を考えれば若葉がしばし光景へ視点を向ければ、無辜の人々の様子がうかがえる。
若葉は、カムパネルラのことを脳裏に浮かべて、また体を震わせた。
平静を装っているが、どうも最悪の可能性を過らせる。
なんでか自分がここに居る過程が漠然で、ひょっとしたくても酷い事が起きたんのではないか。
自分と一緒に出撃した仲間たちも。
大体、生きているなら鎮守府に戻らなければ申し訳ない気持ちで一杯になる。


「ライダーはどうする」


カムパネルラが『聖杯のこと?』と確認して唸った。焦りはなく、どこか恥ずかしい様子で。


『ぼくは「蠍の火」になりたいよ』


成程。若葉は納得する。最初から答えは一つだけだった。
若葉は一方で、呆気ないほど単調に言う。


「生きる人を助ける」


現在を生き続ける冬木市民と自分と同じマスター達。
どういう人間で、どんな者であれ、誰かの幸せの為に体を燃やす『蠍の火』に魅入った。
それが自らの使命だと信じる。
冬木の空にも星の煌きが美しく栄えていた。


259 : 若葉&ライダー ◆xn2vs62Y1I :2017/06/03(土) 23:28:00 rDTifuDQ0
【クラス】ライダー
【真名】カムパネルラ@銀河鉄道の夜

【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A 幸運:A 宝具:A

【属性】
秩序・善


【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
 大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。


【保有スキル】
蠍の火:A
 このスキルを持つカムパネルラが居る周囲の精神干渉を無効化する。
 効果範囲はレンジにしては1〜10ほど。

エンチャント:C
 概念付与。他者や他者の持つ大切な物品に、強力な機能を付与する。
 カムパネルラが施すと、銀河幻想世界染みた煌びやかな雰囲気が漂う。


【宝具】
『銀河の海を往く天の国』
ランク:C 種別:結界宝具 レンジ:1〜500 最大補足:1〜100
 カムパネルラが視た、それとも彼の友が視た、銀河の海に広がる幻想世界を再現する固有結界。
 水晶の砂粒のある河川。お菓子みたいな鳥。思わず讃美歌を唄い出す幻惑など。
 固有結界にあるアイテムなら、宝具を解除した後も持ち出しが可能。
 (登場する者物については原作参照)


『不完全幻想第四次銀河鉄道』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:50 最大補足:1〜100
 幻想第四次とは物理学的なものではなく、夢の中ではあらゆる意識が過去・未来の時間を超越し、出現する意味。
 所謂、この列車は「どこにだって行けてしまう」を実現できる代物。
 列車として現実世界に出現させられる。水面や上空を物理を無視し、走行することが可能。
 マスターがライダーと意志を合わせ、夢の中でのみ特定の事象を観測できる。
 ある程度の未来観測。あるいは、英霊の過去を観測する事も可能だろう。
 ただし、マスターが途中で眠りから覚めてしまう等で観測が中断される。


【人物背景】
誰かの幸いの為に死んだ一人の少年。


【特徴】
カムパネルラはイタリア語圏の人名。恐らくイタリア系の少年であろう。
短髪で穏やかな雰囲気を漂わす。


【聖杯にかける願い】
蠍の火のように、マスターの為に行動する




【マスター】
若葉@艦隊これくしょん


【weapon】
12.7cm連装砲


【人物背景】
初春型駆逐艦3番艦『若葉』の擬人化に当たるような存在。
某鎮守府に所属し、出撃したはずだが……

【聖杯にかける願い】
今を生きる人々を守る

【星座のカード】
さそり座


260 : ◆xn2vs62Y1I :2017/06/03(土) 23:28:41 rDTifuDQ0
投下終了です


261 : ルーラ&アサシン ◆Jnb5qDKD06 :2017/06/04(日) 00:40:09 Qfxy2m0Q0
新企画お疲れ様です。自分も一作投下します。


262 : ルーラ&アサシン ◆Jnb5qDKD06 :2017/06/04(日) 00:41:12 Qfxy2m0Q0
 血を吐く。
 息が止まる。
 心臓が止まる。
 血流も止まる。
 脳に酸素が与えられず、思考が消える。消えてしまう。

(なぜ……どうして……)

 死のカウントダウンが既に1秒を切っているが、それでも頭の中を占めるのはその疑問だった。
 一体どうしてこうなったのか。
 一体どこで間違えてしまったのか。
 いいや、間違いなどなかった。自分は完璧だったはずだ。
 となると原因は部下の裏切り────双子の天使の口元に浮かぶいやらしい笑みがその証左。
 ならば何故、どんな裏切られをされたのか。
 分からないまま、死の闇黒へと落ちていく。

 その刹那。
 魔法の端末を手放した手が何かを触れた。
 しかし何に触れたかも分からず、意識は廃寺の闇と同化して消えていった。





263 : ルーラ&アサシン ◆Jnb5qDKD06 :2017/06/04(日) 00:41:36 Qfxy2m0Q0


 目が覚めたら木王早苗は魔法少女『ルーラ』の姿のまま、ビルの屋上に立っていた。
 何が起きたのか分からない。
 ここが天国……なんてくだらない幻想に浸るルーラではない。しかし、自分は確実に脱落したはずだ。
 一体何が起きているのか。
 もしや敗者復活戦か。
 いいや、土地の魔力が足りないから魔法少女を減らすという前提のデスゲームで敗者復活はあり得ない。
 そもそも見えている光景はN市とは異なるもの。N市の全容を知っているわけではないが、海や山の光景がまるで違う。

 その時、膨大な知識が流れ込んできた。
 英霊、聖杯戦争、カード、令呪、脱落、デスゲームなどなど。
 普通であれば荒唐無稽でありくだらないと一蹴するだろうが、魔法少女であるルーラにとって荒唐無稽な出来事は日常茶飯事と化していたし、そうでなければ脱落……死んだはずの自分がここにいる理由がつかない。
 となれば後すべきことは一つ。英霊の召喚だ。

(これは確か……『おとめ座』だったかしら?)

 ルーラに応えるようにカードが輝き始め、膨大な魔力が吹き荒れる。
 英霊が召喚されるのだ。
 魔法少女の変身とは違う。
 小型の台風が突如発生したかのような暴風。
 肌で感じる高魔力の奔流。
 増していく存在の圧力。
 間違いなく何かが現れた。はずなのだが。

「何もいないじゃない」

 そこに姿はなかった。
 誰だこんなシステム作った馬鹿はと悪態をついたその時。

「すまない……実はいるんだ」

 声がした。
 誰もいないはずの虚空から、申し訳なさそうにひっそりと。
 声だけの存在……ではないのだろう。先ほど自分が感じた圧力は間違いなく英霊のもの。

「問おう。君が俺のマスターか?」

 サーヴァントの問いかけにルーラは激怒した。
 姿を見せないまま主従関係を問う無礼を許すルーラではない。

「初対面の相手に姿を隠して挨拶をするのか」
「それもすまない。この卑しい姿を見せるのは気が引けるのだが見せていいだろうか」
「構わないわ。王の前に跪き、命を賜る。それが臣下と王の礼儀というものでしょう」
「そうか。了解した」

 光景が一瞬歪み、そこから指が、籠手が、鎧が現れ、サーヴァントの全容が明らかになった。
 凛々しい顔だった。
 逞しい体つきだった。
 魔法少女のルーラから見ても美丈夫と言っていいだろう。
 この男が卑しいというのならば世の男性の9割以上が虫けら以下になるに違いない。
 男はその巨体で少女の前に跪き、そして先ほどの問いを再び投げかけた。

「アサシンのサーヴァント『ジークフリート』。あなたが私のマスターか?」
「そうだ、私がお前の主よ」

 ジークフリート。ニーベルンゲンの歌に登場するネーデルラントの王子であり竜殺しの英雄だ。
 その凛とした覇気は見る者を圧倒する。
 しかし、ルーラは物怖じしない。なぜなら自分こそが王であるからだ。臣下に怯える王者など存在しない。

「アサシン。まずお前に一つ命ずるわ」
「何だ」
「自分を貶める表現はやめなさい。お前は私の部下なのよ。部下がみっともなくて上司の面目をどう立てるつもりなの?」

 ジークフリートは口元に手をやり、一瞬だけ考えた素振りをすると再びルーラに問いかけた。

「それは『命令』か?」
「『命令』よ」
「了解した」

 瞬間、令呪が一画消失する。
 無論、令呪を使っての命令をしたつもりはない。
 なのに令呪が消費されてしまった。

 は?
 なんで?
 どうして?
 ルーラが困惑するとアサシンは言った。

「すまない。実は俺の宝具の関係で『命令(オーダー)一つにつき、令呪一画か相当数の財産を報酬としてもらい受ける』ようになっているんだ」
「なっ────」

 絶句。
 絶句。
 絶句。
 そして湧き上がる怒り。

「報連相くらいちゃんとしなさいこの馬鹿ーーーーーー!!」

 ルーラの怒号が空に響いた。





264 : ルーラ&アサシン ◆Jnb5qDKD06 :2017/06/04(日) 00:41:54 Qfxy2m0Q0


 ジークフリートを働かせるには金が要る。
 令呪を使用するのは論外だ。聖杯を掴むには令呪の温存が必須条件である。

 だがルーラは無職だ。
 それどころか棲むべき家すらなく明日の食い扶持すらままならない。
 よって取るべきことはただ一つ。

「いらっしゃいませー」

 コンビニで日給の夜勤バイトを始めていた。
 魔法少女の容姿にルーラの知能であれば履歴書を適当にでっち上げても即採用だった。
 さらに昼間は同じく日給の工事整備員のアルバイト。
 夕方には新聞配達と即金になる仕事をしつつ聖杯戦争の情報を探る。
 幸い、魔法少女にスタミナと寝不足の心配はない。


 ルーラは勝つ。絶対に勝つ。
 そして証明するのだ。自分は何も間違えてなどいないことを。


265 : ルーラ&アサシン ◆Jnb5qDKD06 :2017/06/04(日) 00:42:28 Qfxy2m0Q0

【サーヴァント】
【クラス】
アサシン

【真名】
ジークフリート@ニーベルンゲンの歌

【属性】
混沌・善

【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:A 敏捷:B 魔力:C 幸運:E 宝具:B

【クラススキル】
気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 アサシンのクラスにあるまじき低さだが生粋の暗殺者でないため致し方なし。
 攻撃時にはランクが大幅に下がり、たちどころに気配を察知されてしまうが、宝具の『侏儒王の外套』を使用中かつマスターの至近距離にいる場合はその限りではない。

単独行動:EX
 すまない……悪い意味でのEXですまない……。
 魔力供給に加えてマスターの傍から離れることができない。

【保有スキル】
黄金律:C-
 人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
 ニーベルンゲンの財宝によって金銭面で困ることはないが、宝具の呪いにより金品を巻き上げる傾向がある。

仕切り直し:A
 戦線離脱、もしくは状況をリセットする。
 バッドステータスが付いていればいくつかを強制的に解除する。

竜殺し:A
 竜種を仕留めた者に備わる特殊スキルの一つ。
 竜種に対して攻撃力と防御力が大幅に向上する。

【宝具】
『侏儒王の外套』(タルンカッペ)
 ランク:B 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 侏儒(小人・ドワーフ)の王アルプリヒから簒奪した魔法の隠れ蓑。所有者に応じてすっぽりと覆うように大きくなる。
 これを纏えば透明になれる他、筋力・耐久・敏捷などの身体ステータスが12倍になる。
 ガウェインも苦笑するほどの強化っぷりである。
 ただし、使うたびに報酬を要求した逸話からマスターの命令のたびに報酬を要求し、令呪一画もしくは相当の財産を消費する。
 この制限のせいで金持ちが引けば最強のサーヴァントであるが貧乏人が引けば三流サーヴァントと化すのだ。

『悪竜の血鎧』(アーマー・オブ・ファヴニール)
 ランク:B+ ⇒ D 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 悪竜の血を浴びて不死身の肉体となった逸話を具現化した宝具。
 Dランク相当の物理攻撃及び魔術を無効化する。
 Cランク以上の攻撃も、Dランク分の防御数値を差し引いたダメージとして計上される。
 本来ならばBランク相当であり、正当な英雄からの攻撃に対してB+相当の防御数値となるはずが、背中の弱点を防護できない呪いを『侏儒王の外套』で打ち消すためランクが大幅に下がっている。
 まあ、それでも『侏儒王の外套』を着ていれば無傷なのだが……

【weapon】
素手(アサシンのクラスであるため幻想大剣は持っていない)

【人物背景】
ニーベルンゲンの歌に登場する英雄ジークフリートのアサシンとしての姿。
侏儒王アルプリヒからタルンカッペを得、ファヴニールを討ち取った後にクリームヒルトに婚約を迫るべくその兄であるブルグント王グンターを手伝ったことに由来する。
グンターがイースラントの処女王ブリュンヒルデと結婚するためには彼女より武芸に優れてはならないため、ジークフリートはタルンカッペを被りグンターがしたように見せてブリュンヒルデよりも優れた武芸を見せた。
名目上、グンターに負けたブリュンヒルデはグンターと結婚する。

しかし、その後もグンターから「ブリュンヒルデを組み敷けないから助けてほしい」という依頼を聞き届けて再びタルンカッペを被り、彼のふりをしてブリュンヒルデを組み敷いた(この時グンターに抱かれたことでブリュンヒルデは力を失ったとされる)
ジークフリートはこの時、去り際にブリュンヒルデの腰帯と金の指輪を奪い、クリームヒルトに与えてしまった。
ところが後日、クリームヒルトを通じてブリュンヒルデが秘密を知ってしまい、ジークフリートが言いふらしていると恨んだ彼女は夫グンターとその配下ハーゲンに嘆願してジークフリートを暗殺させた。
タルンカッペもなく、バルムンクも持っていなかったジークフリートは裏切りに為すすべもなく死んでしまったという。

【サーヴァントとしての願い】
無いが芽生えるかもしれない


266 : ルーラ&アサシン ◆Jnb5qDKD06 :2017/06/04(日) 00:42:50 Qfxy2m0Q0
【マスター】
ルーラ@魔法少女育成計画

【マスターとしての願い】
『あの試験』のやり直し

【weapon】
王笏:
魔法の発動条件の一つ。正確には武器ではない。

【能力・技能】
魔法少女:
 人間である『木王早苗』から魔法少女『ルーラ』に変身できる。
 身体能力は最低ランクに位置するが、それでも岩石を破壊し、垂直な壁を走って上ることが可能な超人である。
 また疲労がなく何日も徹夜が可能。治癒力も優れているため、ルーラの身体能力ならば重傷でないかぎり1日程度で治る。

目の前の相手になんでも命令できるよ:
 魔法少女としての能力。目の前の相手に命令を従わせることが可能。
 ただし発動には以下の条件すべてを満たしていなければならない。
 ・「王笏」を持ったまま命令対象に向けてポーズを取る。
 ・命令が実行されている間はポーズを取り続ける。
 ・命令文の最初に「ルーラの名の下に命ずる」の句をつけなければならない
 ・命令対象とは距離五メートル以内を維持し続ける。

【人物背景】
魔法少女育成計画に登場する魔法少女。
N市(名深市)という街の魔法少女であり、完璧主義、効率主義、絶対の自信という支配者気質の持ち主。
暴力でとある魔法少女に敗北してからは次々と新人魔法少女達を捕まえては自分の部下とし、魔法少女達4人を引き連れて一勢力として君臨した。
しかし1週間に1人、マジカルキャンディー(票のようなもの)が少ないものから脱落=死ぬデスゲームが勃発。
部下と自分を守るべく魔法少女を襲いマジカルキャンディーを奪取する。
しかし、部下の裏切りにあってしまい第二の脱落者となった。

【方針】
金を稼ぎつつ聖杯戦争の動向を伺う。


267 : ◆Jnb5qDKD06 :2017/06/04(日) 00:43:14 Qfxy2m0Q0
投下終了します


268 : ◆.wDX6sjxsc :2017/06/04(日) 15:48:18 RiQfL4Gc0
投下します


269 : ダイヤモンド&レディ ◆.wDX6sjxsc :2017/06/04(日) 15:48:53 RiQfL4Gc0




『仗』
・刀や戟などの武器。
・頼りにする
・護る、護衛する。

Stand(スタンド)
・傍に立つ stand by me
・困難に立ち向かう stand up





270 : ダイヤモンド&レディ ◆.wDX6sjxsc :2017/06/04(日) 15:49:09 RiQfL4Gc0

少年は、紛れもない地獄に立っていた。

辺りを見渡せば、ついさっきまで命だった者たちが転がっている。
生きているものも例外なく傷つき、病み、飢え、死神の鎌に怯え―――否、余りの生の苦しみにその鎌を待ち望んでいる者さえいた。

――チクショウがぁ〜〜!待ってろ、今俺が『治して』やるッ!!

しかし、少年はそんな地獄の真っただ中に居ても臆することは無かった。
彼には、目の前で苦しむ人々を手っ取り早く救える力があるのだから。
自分以外のあらゆるものを治す/直す、この世のどんなことよりも優しい、そんな力が。
背後に現れる彼の精神の像(ヴィジョン)。音すら置き去りにする速度で辺りの人々に手を伸ばす。
これで大丈夫。まだこの人々は死んではいない。自分の力は働くはずだ。
そう、信じて疑わなかった。
が―――そんな少年の目算を裏切るように、像の指はすり抜けていった。
何故だ。
こんなはずはない。
そう思っている間にも、命は少年の目の前で零れ落ちていく。
どれ程その流れを堰き止めようとしても死は器用に少年を躱し、周りの、抵抗する気力もない人々に降り注いでいく。
そばに立つ像は、己だけは治せぬはずのヴィジョンは、この時だけは彼だけを守ったのだ。
この世のどんな事よりも優しい力を持つ少年も、『地獄』では――余りにも無力だった。


―――――――――!!


不衛生の極みの石畳の上、周囲の嗚咽と痛苦に苛まれる声の中で、誰のものとも知れぬ慟哭が響いた。






271 : ダイヤモンド&レディ ◆.wDX6sjxsc :2017/06/04(日) 15:50:51 RiQfL4Gc0


「マスター、どうしましたか。心ここにあらずと言った顔をしていますが」
「あぁ、すんませんス。セイバーさん
ちょっくら今朝見た夢を思い出してて」
「ちゃんと睡眠は取れているのですか。
まず適切な睡眠と食事運動での予防、そして徹底的な消毒と殺菌こそ―――」
「わ、分かってますって…そりゃもうバッチリ……」

まだ人通りが少ない朝の時間帯。新都を一望できる坂の上で二人の男女が並び立っていた。
一人は、ハンバーグの様なリーゼントヘアーに学ランを着こなした上背のある少年。
もう一人は仄かに朱がかった髪を結わえ、白衣の様な軍服を纏う淑女。
目を引く二人組であった。女性のボディラインは無骨な軍服の上からでも一目でわかる程魅力に満ち、その緋色の双眸は何が起ころうとも砕けることは無い、鍛えられた鋼の様な強靭さに満ちている。
十人とすれ違えば十人が振り向く、そんな女性であった。
対するリーゼントの少年も、その髪型に目をつぶれば女性ほど突出した美形ではないが、一部の人間にはこれ以上ない程目を引く要素を一つ、背後に有していて。
―――所謂『スタンド使い』と呼ばれる人種にとっては。

「しかし、素晴らしい物ですね、貴方のその『クレイジー・D』は」
「えっ?」
「骨が折れ、肉が裂けようとも完璧に治す。
本来私達サーヴァントの領域の奇跡を、人の身で成すのですから
尤も、それを感情のまま振るうのは如何なものかと意見しますが」
「………すみませんでしたーっ!!」

目立つからこそ、絡まれる。
五分ほど前、美女を連れている自分に因縁をつけ、己の自慢の頭を罵倒した朝帰りのチンピラの顔面を、
自身のスタンド・クレイジーダイヤモンドで愉快なオブジェに変えたのを少年――東方仗助はほんのちょっぴり後悔して、90度で頭を下げる。
普段なら自分の『誇り』である髪型を少しでも貶した者をぶちのめすのに躊躇や後悔など存在しない彼であったが、今連れ添っている相手が相手である。
フローレンス・ナイチンゲール。
統計学の才女にして、クリミアの天使の異名を得た看護師。


「いいですか、私は何も突発的に発生した精神負荷…ストレスの解消を諌めている訳ではありません。貴方は精神を健康に保つべきであり、
ストレスの発生源を傷つける事無く処置する明確な手段を持っています
しかし貴方自身が傷を負うリスクは当然発生します、そして貴方のスタンドとやらが私に視えるという事は無論他の参加者のサーヴァントにも目視可能ということであり―――貴方の力に自分を治す効果はないのでしょう?」
「えぇまぁ、その通りっスけど……」
「ならやはりマスターがリスクを負う方法を取るのは却下ですね、もし、また貴方の髪型を罵倒する者がいれば私に任せなさい、えぇ、秒とかからず、誰にも気取られず処置するわ」

(や、やっぱこの人ブッ飛んでるぜ……)


272 : ダイヤモンド&レディ ◆.wDX6sjxsc :2017/06/04(日) 15:51:37 RiQfL4Gc0


クリミアの天使の実物は、仗助の見てきた女性の中で一、二位を争う威圧感であった。
セイバーが現れてから今に至るまで、まるで頭が上がらない。
いや、正確には彼女が現界して彼女が自分の頭のことに触れてから。
『プッツン』して襲い掛かったのは自分なので必然的に悪いのも自分だが…やめよう、あの時のことは思い出したくない。
とにかく、その時のこと抜きにしても彼女の?や妥協を一切許さぬ蘭々と光る緋色の瞳で見つめられ、此方の話などそっちのけでマシンガンの様に言葉を放たれれば圧倒されるのも無理からぬ話であろう。
端的に言ってしまえば、会話が成立していなかった。
これでは剣士(セイバー)と言うより、狂戦士(バーサーカー)である。

「……そう言えば、何でセイバー何スか?
いや、看護師がどんなクラスってーのに就くのか、よく分かりませんけど」

考えてみれば剣士と言う称号は『看護婦』『天使』などのイメージに似つかわしくないのではないか?
そんな仗助の疑問にセイバーは相変わらずの鉄面皮だったが、一度瞑目して。

「それは――――こう言う事です」

言葉と共に彼女の背が輝き、仗助が持つスタンドの様に、『翼』が現出する。
大人二人をすっぽりと包めそうなサイズ、色は片方が純白、もう片方が銀。
鳥類が持つ生物的な翼ではなかった。正しく神話に登場人物が持っていそうな、そんな神々しさが感じられる翼だった。

「グレート……!
まさか、『クリミアの天使』は、ホントに『天の御使い』って奴だったんスかぁーッ!?」

驚愕の声を上げる仗助。
しかしそれをセイバーは即座に「いいえ」と否定した。
そして、銀色の翼を示すように仗助の目前へと出す。

「私は天使などではありません。ただの、人間の看護師であり、これはその証です」

目を凝らして確認する翼の正体、それは羽根で構成された翼ではなかった。
それは“夥しい量の手術用メス”だった。
数十、どころの話ではない。数千、数万……もっとかもしれない。
今度はもう片方、純白の翼を検めてみると、セイバーは「この時代でいう”手術用繊維”でできている」と返答した。
現実離れした翼に、医療行為のための合理性を付与する。
そう言えばガキの頃読んだセイバーの生涯を綴った本に、「彼女は徹底した現実主義者(リアリスト)だった」って書いてあったなァ〜と想起して、仗助は納得する。
成程、これは確かに『剣』だ。
ダイヤモンドよりも強固な、一本の鋼鉄の剣だ。


273 : ダイヤモンド&レディ ◆.wDX6sjxsc :2017/06/04(日) 15:52:03 RiQfL4Gc0

「そう、私は人間なのです。例え全能の神の使いでなくとも、それでも患者の命を救う。
そのためならば私は――かつて自分の影に接吻をした兵士達の信仰すら利用します」

これまで救えなかった全ての命に報いるために。
これから出会う全ての命を、救うために。
己の存在すら捻じ曲げて。
しかし、ともすれば呪いとも取れる生き様だけは砕けることも、曲がることも無く。
天使とは美しい花を撒く者ではなく、苦悩する者のために戦う者のことであるがために。

「故に、私には聖杯にかける願いもありません。いえ、願いはあれど夢は無い、と言いましょうか
願いを夢と同一としてしまうとそれは遠い彼方の物であると人は錯覚しがちです。
現実を睨み続け、絶望を叩き潰し、諦めの地平を踏破する――それが願う人間の歩き方であり、願った未来を唯一実現させる道であると、私は信じています」

「願いってーのは、世界に患者がいなくなるとかっスか?」

「えぇ、ですが今まで言った通りこの聖杯戦争における私の役目は『看護』です。
私が召喚されたという事は、この聖杯戦争に多くの病める者がいるか、
あるいは聖杯戦争自体が病んでいるのかもしれません」

「…………………」

セイバーは朱の瞳で、目前に広がる冬木を睥睨する。
新都は暖かな朝日と静寂に包まれ、これから苛烈な戦争が開始されるなど信じがたいほど平穏な時間が流れていた。少なくとも今は、まだ。
それでも、きっとその時は来るのだろう。彼女が、死力を尽くすその時が。
いや、もしかしたらもう始まっているのかもしれない。
仗助の脳裏に行方不明者増加の見出しを載せた新聞の一面がよぎった。
平穏な様に見えても、その裏ではもう既に悪魔が紛れ込んでいるのかもしれない。

「……俺には、おまわりを35年やってたじいちゃんがいました。
出世はしなかったけど、毎日町を守るのが仕事だった」

仗助もセイバーから新都の方へと視線を傾け、静かに語り始める。
その瞳は『町を守る男の目』だった。


274 : ダイヤモンド&レディ ◆.wDX6sjxsc :2017/06/04(日) 15:53:06 RiQfL4Gc0

「正直、聖杯戦争ってのがどんなものなのか、今一ピンと来ねーっスけど…
この街にやべー『危機』が迫ってるってことは、分かります」

少年、東方仗助は生まれついての戦士であり、一市民だ。
多くのスタンド使いと出会い、二人の殺人鬼の凶行に終止符を打った。
しかしそれは一地方都市の狭い話であり、知っているものもほとんどいない。
きっと彼が世界を救う事は無いだろう。歴史に名を残すことも無いだろう。
だが『街を守る』。この一点において話は変わってくる。
登校中に拾ったと虹村億泰に渡され、ここに来る原因となったふたご座のカードを握りしめ、仗助は言う。

「乗りかかった船だ。俺もセイバーさんを協力しますよ。
どんなことが起ころうと、この街を守って気持ちよく杜王町に帰らせてもらいます」

ここは冬木市であり杜王町ではない。そんな事は彼も分かっている。
だが、杜王町程では無いがここもいい街だ、嫌いではなかった。
これから起きる戦いは恐らく『吉良吉影』との戦いと同じかそれ以上に過酷な道行きになるだろう。
それでも、この街の平穏が壊されるのを見過ごそうとはこれっぽっちも思わなかった。
目の前のセイバーを名乗る淑女といると――そんな『誇り高い気持ち』が湧いてくるのだ。

「――――マスターがどんな状況に陥ろうと決して生を手放さないというのなら……
私はあらゆる傷病艱難辛苦を排除し、必ず貴方がどんな傷を負おうと治し、元の居場所に帰すだけです。
この背の翼は、そのためにある」

街を向いたまま、セイバーは…ナイチンゲールは告げる。
どこまでも彼女らしい問いと誓いに仗助は、一度苦笑して。
セイバーの隣に並び立ち、彼も街を眺めたまま。

「勿論っスよ」

そう、答えたのだった。


275 : ダイヤモンド&レディ ◆.wDX6sjxsc :2017/06/04(日) 15:53:31 RiQfL4Gc0

【クラス】セイバー
【真名】フローレンス・ナイチンゲール
【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷B 魔力D 幸運A+ 宝具B

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:D
乗り物を乗りこなす能力。
大抵の乗り物なら人並みに乗りこなせる。

【保有スキル】
白衣の天使:A
無辜の怪物と自己改造の複合スキル。
無辜の怪物スキルにより獲得した、翼の生えた白衣の天使の姿。
それを自己改造のスキルによって自ら変質させ、本来ならば見た目だけの変化となるはずだった翼を”手術用メスと糸”によって構成される宝具に昇華した。
彼女の中では手術に使用する翼のため清潔に保たねばならず、無辜の怪物スキルでは不可能だった翼の収納が可能となっている。

鋼の看護:A
地獄の様な戦地の中で培った医療技術。
治療スキル。人を救う逸話により強化されているため、重症でも治療可能。また対象は人間もサーヴァントも問わないがセイバー独自の技術のため他の人間がマネをしても同じ治療効果は望めない

人体理解:A
彼女は人がどこを斬れば死亡するか、どこを斬れば”生かせる“かを熟知している。
人体特攻。人の形をしているサーヴァントが相手の場合、宝具使用時に筋力と敏捷にボーナス補正がかかる。
ただし、頭がライオンの様なふざけた外見のサーヴァントが対象の場合、スキルの対象外となる。

天使の叫び:EX
セイバーの声が届く範囲で治療行為を行う全ての者(セイバー、マスター、NPC問わず)はあらゆる妨害、精神干渉を無効化しAランク相当の戦闘続行スキルが付与され、十全の医療行為を発揮する。
病める者、傷つく者がいる限り、そこは彼女達の不退転の戦場である。

【宝具】
『天使の執刀(エンジェル・オペ)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 〜10最大捕捉:1人
高密度の『銀の手術用メス』と『純白の手術用繊維』によって構成された一対の翼。
手術用繊維によって相手を拘束し、人体特攻のスキルで威力を高めたメスの翼による執刀で相手を正確に切除する。
手術用繊維で構成された方の翼は束ねるなどして包帯等に変形可能。糸という性質上、その応用性は高い。

【宝具】
『交わす命が生む賛歌(ナイチンゲール・プレッジ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:0〜40 最大捕捉:100人
白亜の巨大看護婦を召喚し、看護婦が放つ黄金の光によって効果範囲内のあらゆる毒性と攻撃性が無効化される事によって強制的に作り出される絶対的安全圏。
またレンジ内サーヴァント、マスターに魔力とダメージの回復効果を齎す。
バーサーカー時の宝具『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』よりも単体での回復効果は低いが、レンジ内に生きる命が多ければ多いほど、その効果は増大する。

【weapon】
ペーパーボックスピストル
セイバーの癖にちゃっかり持ってきている。ただし銃口からはメスが出る。

【サーヴァントとしての願い】
戦場にいる負傷者と罹患者を救う。

【人物背景】
『Fate/Grand Order』でバーサーカーとして登場した彼女がセイバーとして召喚された姿。
狂化スキルは喪失しているにも拘らず、やっぱり人の話を聞いてくれない。
それもそのはず、彼女の言葉はすべて”自分に向けて”言っているためだからだ。
セイバーとして召喚されても彼女の不屈の執念は何ら衰えることは無い。
ちなみに外見は白い軍服に翼が生えた姿となっている。


276 : ダイヤモンド&レディ ◆.wDX6sjxsc :2017/06/04(日) 15:53:52 RiQfL4Gc0

【マスター】
東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険part4ダイヤモンドは砕けない

【マスターとしての願い】
冬木市を守る。

【能力・技能】
スタンド『クレイジー・ダイヤモンド』:
【破壊力 - A / スピード - A / 射程距離 - D / 持続力 - B / 精密動作性 - B / 成長性 - C】
近距離パワータイプ、至る所にハートがあしらわれた戦士の外見をしたスタンドで、近距離タイプのスタンド中では最高峰のスペックを持つ。
パワーでは同じく近距離タイプ最強クラスと名高いのスタープラチナのガードを破り、スピードでは銃弾を正確にキャッチし、触れた相手を爆弾へと変えるスタンド『キラークイーン』に触れる事すら許さず圧倒する事ができる。
能力は生物、非生物問わず自分以外の『触れたものを治す/直す事』
復元するタイミングは自由自在で地面を壊してから直すことで敵の攻撃を防いだり、凝固した血を利用して誘導弾を作成したりとその応用範囲は多岐にわたる。
ただし、病気や死んでしまった者を治すことはできないし、消費したガソリンに触れて満タンにすることもできないため、魔力の回復も望めない。

【人物背景】
ジョジョの奇妙な冒険、第四部『ダイヤモンドは砕けない』の主人公。
身長185センチ。リーゼントヘアーの16歳。
そのサザエさんの様な(サザエさんに謝れ)髪型と髪型をバカにされた時に現れる性格を除けばジョースターの一族の中でも屈指の好青年であり、本人曰く純愛タイプ。
しかし仲の悪い知り合いから金をだまし取ろうとしたり、手に入れた宝くじを巡って血みどろの戦いを繰り広げたり、やはり父親の血が見て取れる側面も持っている。
吉良吉影戦後、the book編直前の時間軸で参戦している。


277 : ◆.wDX6sjxsc :2017/06/04(日) 15:56:28 RiQfL4Gc0
投下終了です

また、セイバーのステータスシート作成にあたって
【Fate / Winter morning ―史実聖杯―】における◆RdVZtFsors氏の『The band-aid』を参考にさせていただきました


278 : ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:14:34 zNSzRjMo0
投下します


279 : 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なる者よ!! ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:15:46 zNSzRjMo0
冬木市新都にある公園。静寂に包まれたこの場で、つい先刻まで残忍凄惨無比な惨殺劇が行われていたと誰が知ろう。
地面に横たわるのは三人の男の死体。
地に立つは一人の仮面の人物。
地にヘタリ込むは一人の少女。

………そして、少し離れた場所で異様な存在感を放つ荷車。

男が少女の前で恭しく跪き、契約者であるか否かを問いかけるまで沈黙は続いた。



事態は二十分前に遡る。緒方智絵里は公園の草むらにしゃがみこんでいた。
智絵里が己の巻き込まれた事態に気がついたのは1日前。いつの間にか脳裏に収まっていた知識が智絵里に恐怖を齎す。
己が殺し合いの真っ只中に居ると知ったのだから当然だ。
しかし、智絵里のサーヴァントは現れなかった。
この事が更なる恐怖を智絵里に齎す。
別段殺し合いなどやる気はない。だが、盾となり矛となるサーヴァントが居ないというのは、心細い等というものではない。
恐怖に駆られた智絵里は当て所なく町を彷徨った。行く当てなどない、只、己のサーヴァントが、街の何処かに居るのではと思っ
ただけだ。
ひょっとしたら、自分の居ないところで戦っているのかもしれない。
ひょっとしたら、自分の知らない理由で姿を現せないだけかもしれない。
そんな事を考えながら、街を彷徨い。ふと気がついたら小さな公園で四つ葉のクローバーを探していた。
なんの解決にもならない現実逃避。分かってはいるが、それでも止められない。
人間追い詰められると意味のない行動を取り出すものなのだ。
我に返った時には辺りは薄闇に包まれていた。
取り敢えず帰ろう。
そう思って立ち上がった矢先、三人連れの男が向かってくるのが見えた。
欲望に満ちた顔で智絵里の身体に、舐めるように隅から隅まで視線を送る男達に智絵里は怯えて立ち上がった。
振り向いて走り出そうとした智絵里は、一歩も行けずに停止した。

「イッテェェェ〜。骨が折れちまったぜェェ」

「オイオイ大丈夫かよ」

「イテェ〜イテェ〜よ〜折れちまったよ〜〜」

「オイオイこりゃ賠償金払ってもらわねえとなそうだよなぁ〜」

「応ともよワタル」

「わ…わたしっ…!おかね………」

「オイオイじゃあ身体で払って貰おうかぁ」

智絵里は木立の中に連れ込まれた。抵抗する意志など腹に軽く入れられた拳で消え去った。
男達は智絵里の手足をへし折っても欲望を満たそうとするだろう。
智絵里の運命が此処に窮まろうとしたその時─────。


280 : 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なる者よ!! ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:17:36 zNSzRjMo0

「君達、そこのお嬢さんは私の主だ」

智絵里のサーヴァントが現れた。

「「「「「は…………?」」」」」

その姿は明らかに異様だった。
二頭の驢馬が引く荷車の荷台に仁王立ちする、真紅の板金鎧と鉄仮面で全身を覆った騎士のその姿。
明らかに現代社会に溶け込む事を拒むその異質さは、さながら日朝キッズタイムに舞い降りた変態仮面の如し。
まだ大型バイクに乗ったウルトラセブンみたいな髪型の男がヒャッハーと叫んでいたほうが現実味がある。
固まった五人をガン無視して異物は告げる。

「そこのお嬢さんはは私と共に来てもらう。良いね」

コクコクと頷く男達。常ならば囲んで棒で殴るところだが、こんな代物に喧嘩売る気は流石にない。

「キャッ」

無言で男達は智絵里を変態の方へ押しやった。
これでこの変態が立ち去ってくれる……そう思った矢先、男達の頭上に見えてはいけない星が落ちた。


「時に貴方達。私の名前が分かりますか?」

「「「「は……………………?」」」」

荷車に乗った変態の名前なんて知るかよ。とか言ったら何が起きるか分からない。
とは言え答えなかったら何が起きるか分からない。
唐突に始まった世紀末クイズに4人の思考はフリーズした。

「分かりませんかね?ではヒントを差し上げましょう。アーサー王に仕える円卓の騎士の一人です」

と言ったところで知っているわけが無い。

「知ってるか……?」

「知らん」

「あ……!俺知ってるっ!!」

6全員の目が其奴に向けられた。

「アーサー王の騎士って言ったら……え〜〜〜と………ランスロットだろ!!」

ドャァという擬音付きで叫ぶ男。

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!?」

突如変態の全身から噴き上がる殺意。

「アーサー王が円卓の中でも最も高潔で最優な騎士が荷車に乗ってるわけが無いだろうが〜〜〜〜〜っっっ!!!」

全身から凄まじい瘴気を噴き上げて叫ぶ変態の姿は、鬼神も三舎を避ける凄味があった。
変態の殺気に呼応したのか、荷車を引く驢馬が泡を吹いて暴れ出す。
堪らず悲鳴と共に逃げ出す四人に、変態は平泳ぎみたいなフォームで跳躍。二人の首に腕を巻きつけると一気にへし折った。


281 : 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なる者よ!! ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:18:35 zNSzRjMo0
「「ヒィ!た…たすけてくれーーーーっ!!」」

残った2人が公園から飛び出そうとしたその時!その眼前に舞い降りる変態!!

「ごわっ!!きゃああ〜〜〜〜〜」

「トワッタッ!!ワヒィィ!!」

思わずゲロ吐くレベルの見てはいけないものを見てしまったかのような奇声を発する2人。

「荷車に乗った円卓の騎士と言ったら、ケイのクソ野郎しかいるわきゃねえだろうが〜〜っ!」

「「ヒイィィッッ!!俺達が悪かった許してくれ〜〜〜」」

二人は同時に地べたに頭を擦り付けるッッ!
土下座……それは命への執着の究極形態ッッ!二人の全細胞が生き残るために導き出した敗北のベスト・オブ・ベストッッ!
まさしく命恋ッッ!

「それでは改めて私の名を言ってみろ〜〜!!」

「「ケ…ケイ!ケイです!!!言ったんですから助けて下さい!お願いします!!!」

「あ〜聞こえんな!!そんな事で私の心が動くとでもおもっているのか!!!

とうに二千年代に突入し、世界は核の炎どころかキノコ雲すら立っていないのに、ここだけトキィは世紀末。
夜の公園で僕らは出会った!!

「「ケ…ケイ!ケイです!!!言ったんですから助けて下さい!」」

「分かれば良いのですよ分かれば」

いきなり温和な雰囲気を醸し出す鉄仮面。
た…助かった。
男達がそう思った刹那。
ズブリ。
肉が裂ける鈍い音が夜闇を震わせる。

「ぱっぴっぷっぺっぽぉ!?」

「俺をランスロットと呼んだ貴様には死すら生温い!!」

見よ。男の背に突き刺さる変態の貫手を。この変態は素手で人体を薄紙のように貫けるのだ。

「ヒャッハー!切れろ切れろ切れろ切れろ切れろ切れろ切れろ〜〜〜〜〜〜!!!」

ブオガガガ。と繰り出される早い手刀の連続突きが、変態をランスロットと呼んだ男の体を無数に穿つ。
秒にも満たぬわずかな時間に、男の五体はボロ雑巾の如き惨状となった。
ガマガエルの断末魔の如き悲鳴を上げる最後の1人に。

「良いですか!私の名はケイ!!円卓の騎士が一人サー・ケイと覚えておきなさい!!!」

告げて公園の外に蹴り出した。


282 : 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なる者よ!! ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:19:03 zNSzRjMo0
周囲に人の気配が無くなったのを確認すると、変態は腰を抜かしてへたり込んだ智絵里の元へ歩み寄った。
智絵里のへたり込んでいる地面に染みができているがスルーして尋ねる。。

「我が名はサー・ランスロット。円卓の騎士最優の騎士。御嬢さん、貴女が私の主人ですね」

「お…おそろしい…………」

当然といえば当然の反応を返す智絵里。さっきまでcrazyなTimeの真っ只中にいた怪人と、平然と会話なんてできっこない。

「何を仰いますか王妃!私は貴女の剣であり盾である騎士!!私がきたからには微塵の恐怖も感じることはあり得ません」

おそろしいのは貴方ですとは到底言えない。ていうか王妃って何。

「取り敢えず心身を休めてからにしましょう………失礼します」

言って、智絵里をお姫様抱っこして10m以上ある距離を跳躍して荷車の荷台に立った。

「揺れますよ」

同時に荷車が動き出す。智絵里は変態にお姫様抱っこされたまま子ウサギのようにガクブルしていた。


283 : 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なる者よ!! ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:19:38 zNSzRjMo0
翌日。

サーヴァントが現れたにも関わらず、智絵里は変わらずガクブルしていた。
諸々の事情があって、あの後24時間営業のコインランドリーに行ったのだが、其処でサーヴァントがやらかしたのだ。
霊体化した状態で物珍しげに洗濯機を見て、文明の発達に感心していたのだが、乾燥機を見た途端に様子が一変したのだ。

「この機械の能力がケイに似ている…」

ギリギリと食いしばられる歯。グワと見開かれる血走った眼。

呟きが智絵里の耳に入った瞬間!実体化した鉄仮面のサーヴァントが乾燥機を蹴り砕いたのだ!!

「おぉのれケイ!貴様の血の一雫、肉の一欠片もこの世には残さんわ〜〜!!」

轟音と共に散乱する洗濯物。絶句する智絵里。
狂乱も束の間、即座に我に返り、散乱した智絵里の衣類を拾い出す鉄仮面の変態。


「な…何を……………」

「ふ〜〜〜〜〜またやってしまいました……ケイに似たものを見るとつい頭に血が上って見境が…………」

智絵里のパンツを手に持ったまま爽やかに言う鉄仮面。
見境なんて元々無いだろうとは怖すぎて突っ込めない。

「あ……あの……………それ………………………………」

オズオズと鉄仮面が手にしたシロモノを指差す。

「おお、此れは失礼をば!!」

ズイと差し出されるパンツ。

「なんでやねん」

ペチと炸裂するチョップ。極限状況に有る智絵里の精神が、嘗て修得したツッコミを無意識に行っていた。
その後、妙な表情で固まった己がサーヴァントを置いて、コインランドリーから逃げ出した智絵里に新たなるイベントが!!
乾燥機を破壊して洗濯機を盗んだ鉄仮面の変態の姿は、バッチリと監視カメラに映っており、通報を受けた市民の味方が、
智絵里の住まいをピンポンしたのは今朝早くの事。
あの鉄仮面の変態は知らぬ存ぜぬで押し通し、お引き取りいただいたのが30分後。
自分が巻き込まれた事態に加え、警察の事情聴取まで受けた智絵里が、平常心を取り戻したのがその1時間後。
そして智絵里が変態に、『ケイ』なる人物について聞こうと思ったのがつい先刻。
そして二人は智絵里の部屋で向かい合っていた。


284 : 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なる者よ!! ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:20:30 zNSzRjMo0
「私の仕えた王は素晴らしい御方でした…この最優の私を始めとする円卓の騎士は王の掲げる理想の元、一丸となって戦ったのです……」

訥々と荘重な声で語り出すサーヴァント。シリアス極まりない雰囲気だが、鉄仮面の所為で台無しである。

「やがて王は戦乱の続くブリテンを統一し、蛮族を追い払い、最優の騎士で有る私を始めとする円卓の騎士は、王と共に栄誉を一身に浴びました」

変態が強く拳を握り締める。

「しかし……国が平和になると、途端に蛆虫の如く彼奴めが湧いてきたのです!!」

変態の眼に宿る怒りと悲しみを見て、智絵里は始めてこのサーヴァントを人間だと認識した。

「彼奴は事あるごとに王の名を騙り、最優たる私を始めとする円卓の騎士を威圧しました」

【我は王より全権を預かる身!!それに剣を振り上げる気か!!】

【私の口は王の口であるぞ!】

「果てしなくKINGに振る舞うドブネズミ。円卓の騎士は皆怒りを覚え、ケイを殺そうとしたものも数多くおりました。
しかし、そんなドブネズミに対しても、最優の騎士である私は節度を以って接しました。
ある時などは、名だたる円卓の騎士がケイを殺そうとしたのを、最優である私が、ケイの代わりとなって、彼等と戦ったりもしました。
結果は私が最優であるという事を、改めて皆に理解させただけでしたが。
大体ガウェインなどはガラティーンなどという聖剣に頼りすぎなのです。そんな性根が技を曇らせるのです。最早救い難い」

さり気に同輩を下げる鉄仮面。

「結局…私の行為で、彼奴が勇武に優れた騎士と周囲が誤認したのが悪かったのでしょう……。皆はケイを頼りだしました」
ケイ!ケイ!ケイ!どいつもこいつもケイ!
なぜだ!なぜやつを頼ってこのわたしをたよらないんだ!!…………失礼しました」

突如狂乱する鉄仮面にガクブルする智絵里。

「そんなある日事件は起きました………。我が王の妃であるギネヴィア様が、王妃に横恋慕する不埒な喪男の王に 拉致されたのです。
ああ……私が側にいれば、喪男の国を纏めて滅ぼして王に新領土を献上したのに。その場に居たのは瀕死の病人にすら劣るケイでした。
戦う力を持たぬ二人は為す術もなく捕まりました。その報せを聞いた私は即座に駆けつけ、二人を救出しました…そして…………。
何故です!王妃!?何故貴女は私を罵倒したのです!!?一体あの奸賊奴に何を吹き込まれたのですか!!!」

掴みかからんばかりの勢いで迫る鉄仮面に、智絵里は悲鳴を上げて後ずさった。


285 : 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なる者よ!! ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:21:01 zNSzRjMo0
た。

「失敬……いえ、貴女があまりにも王妃に生き写しなもので………。いえいえ、御謙遜なさらずとも…貴女は充分に美しくていらっしゃる。。
話を戻しましょう。
二人を救出した私を二人は蔑み、罵りました。
確かに、当時は罪人を乗せるものである荷車に乗った事は否めません。しかし、王妃は聡明で慈悲深い方だ…判ってくださる。
そう……信じていた私は、咎人を見るような王妃の眼差しと、心ない言葉に発狂しました……。
きっとケイ奴から良からぬ事を吹き込まれたのでしょう。奴はそういう男です。
ああ……。きっとモードレッドが叛逆したのも、ガウェインが私抜きではモードレッドに勝てぬと知りながら。
傷ついた身でモードレッドと戦うことになったのも、全てはあの奸賊奴の所為に違いない。
そして私に荷車の騎士などという汚名で呼ばれるのも………。
私はこの汚名を真に相応しいケイの輩に与え、カムランの戦いに馳せ参じ、王に勝利を齎す事なのです………。
そして王妃の悲しみと、国に滅びをもたらしたという汚名を雪ぐのです。
御安心下さい!王妃!!私は最優です!!!最優の私に不可能は無いのです!!!!」

血走った眼で泡吹いて吼える鉄仮面に、心底からの怯えを見せる智絵里。が、此処でさらにfeel so badな事態が!!

「時に王妃…あの時の手刀は何だったのでしょうか。受けた時にその……妙な幸福感が…………もう一度やって頂けないでしょうか」

潤んだ眼で見つめてくる鉄仮面を、智絵里は怯えた瞳で見つめた。


へ、変態だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?

かくして緒方智絵里は聖杯戦争という狂気と希望と幻滅の真っ只中を進むことになったのだった。


286 : 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なる者よ!! ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:22:08 zNSzRjMo0
【クラス】
ライダー

【真名】
ランスロット@ランスロまたは荷車の騎士(12世紀)

【ステータス】
筋力:B 耐久:C 敏捷:A 魔力:C 幸運: E 宝具:A++

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:B+++
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
ライダーは騎士として珍妙なものほど巧みに乗りこなす。一輪車辺りなら音を超えた速度で三次元機動することも可能。


【保有スキル】

精神汚染:EX
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を完全にシャットアウトする。
ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない……というわけでは無い。
ライダーは普通に人と意思の疎通ができる。
ただし何らかの事情でスイッチが入ると意思の疎通が成立しなくなる。
ギネヴィアの言葉により得た狂気。
一度狂すれば自分の世界に埋没し、自分に向かってしか語りかけなくなる。
例外としてマスターの言葉は届く。主に顔の所為で王妃と誤認している所為だが。


狂化:D++
筋力と敏捷のパラメーターを2ランクアップさせる。
言語能力が不自由になり、複雑な思考が難しくなり、対象を殺すことしか考えられなくなる。
ケイ若しくはケイを連想させるもの若しくは最優のプライドを傷つけられた場合に発動する。
防御力が2ランク下がるが、痛みを全く感じなくなる為継戦能力は上がる。


精霊の加護:E
精霊からの祝福により、危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せる能力。
本来のランクより大幅にランクダウンしている


無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
最優の騎士の所以。


無辜の咎人:A
宝具により獲得したスキル。
罪人に対して効果のあるスキルや宝具に対し脆弱になる。
…………その後の行いを見るとライダーは罪無しとは到底言えないが


287 : 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なる者よ!! ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:24:54 zNSzRjMo0
【宝具】
己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人

友人の名誉のためや窮地に陥ったケイのために変装で正体を隠したまま勝利したエピソード。
自らのステータスと姿を隠蔽する能力。聖杯戦争に参加するマスターは本来、サーヴァントの姿を視認すればそのステータス数値を看破できるが、彼はこの能力によりそれすら隠蔽することが可能。
また、黒い靄状の魔力によって、姿の細部が分からなくなっており、兜を脱いで間近でみても素顔がはっきり見えなくなっている。
本来は姿を隠蔽するのみならず、変装も可能とする。
常時この宝具でライダーはケイの鎧を模倣している。



荷車の騎士(カート・オブ・ナイト)
ランク: C 種別: 対人宝具 レンジ: 0 最大補足:1人(王妃限定で2人) :

ライダーたる所以。嘗て荷車に乗って国中を駆け、王妃の元に駆けつけた際に用いた荷車。
いかに離れていてもマスターの元に瞬時に駆けつける事ができる。
この宝具の為人類の用いる如何なる乗り物でも乗りこなせるが、騎士としてまともな乗り物ほど乗りこなせない。
この宝具を使用中派精神異常スキルが遺憾無く発揮され、ライダーは出会ったものすべてに己の名前を訊く。
サー・ケイと答えなければ殺されてしまう。
なおこの宝具使用中にケイと出逢うと如何なる隠匿をも無視して真名が看破される。


真の騎士は劔を選ばず(アロンダイト)
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1人 最大捕捉:30人

アロンダイトはランスロットの伝承には登場せず、後代の騎士がランスロットの所有した劔と自身の剣を主張した事が始まりである。
騎士の主張に過ちは無い。その剣は確かにランスロットが用いた『只の剣』である。
ランスロットはその超絶の技巧を以て只の剣を以って聖剣を持った円卓の騎士と戦う事ができた。
手にしたものに「自分の宝具」として属性を与え扱う宝具能力。彼が『武器』として認識できるものであれば、あらゆる武器・兵器であろうとも手にし魔力を巡らせることでDランク相当の擬似宝具と化する。宝具を手に取った場合は元からDランク以上のランクならば従来のランクのまま彼の支配下に置かれるが、逆に『武器』として認識できないものは適用せず、戦闘機は宝具化できても空母は『武器を運ぶもの』という認識になるため宝具化できない。
ランスロットが自信が最優と主張する根拠。


【weapon】
長剣

【人物背景】
円卓の騎士の代表格とも言える騎士。
嘗てグネヴィアがケイ共々捕まった時、ランスロットは荷車に乗り、国中駆け巡って、王妃の元に駆けつけた。
だが、王妃からは、当時罪を犯した騎士が載せられる荷車に乗っている事を詰られ発狂。
これは一緒に捕まっていたケイがランスロットの声望を妬んでケイが讒言したもにだった。


というものは発狂したランスロットの現実逃避の為の妄想である。
実際には荷車に乗って現れたランスロットに呆れ、その後にランスロットの心を知って感動していたところ。
「荷車に乗って来るなんて……あなたって、本当に最低の屑だわっ!」
とか王妃が言って発狂してしまったのである。
その後ランスロットから勝手に恨まれる事となったケイが相当心労したとか。
当人は家庭環境は不倫はするわ不義の子供作って棄てるわ大概である。
トランプのクラブ(クローバー)のジャックのモチーフ。

【方針】
マスターを守る

【聖杯にかける願い】
荷車の騎士はサー・ケイなりと歴史に刻む。
カムランの戦いに馳せ参じモードレッドをシメる。


288 : 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なる者よ!! ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:30:11 zNSzRjMo0
マスター】
緒方智絵里@アイドルマスターシンデレラガールズ アニメ版

【能力】
歌って踊れる。体力は平均以上だろう。

【weapon】
無し

【人物背景】
気弱な性格だが向上心は有り、自分の弱さも知っている為、周囲の環境によってはアイドルとして成長する。そして実際に成長している。
ゲーム版に設定では両親が多忙で夫婦仲が悪いらしく寂しがり屋。お祝い事には慣れていない。

【方針】
まだ無い

【聖杯にかける願い】
まだ無い。精々が帰還。

【参戦時期】
アニメのデビュー以降18話以前の時間軸。

【令呪】
四葉のクローバーの形をしたのが首元に


【サーヴァントの容姿】

Zeroバーサーカーの首から上を某三男坊のメットに変えてカラーリングを真っ赤にしたしろもの
素顔は金の長髪ア○バ


289 : 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なる者よ!! ◆A2923OYYmQ :2017/06/04(日) 21:31:08 zNSzRjMo0
投下を終了します


290 : ◆xn2vs62Y1I :2017/06/04(日) 22:30:16 e1ZItIog0
皆さま投下乙です。
自作自演ですがアーチャー・アメノワカヒコ&アヂスキタカヒコネの支援絵です。

ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org1271417.jpg.html


291 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/04(日) 23:30:19 yMHaewgU0
此れより投下します


292 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/04(日) 23:31:19 yMHaewgU0


人が人を殺す事は、悪だ。

現代においてそれはもはや常識である。
地球上でほぼ全てといっていい数の人間が、当たり前の知識として知っている。
人の死は何も生まない。
誰かを傷つける行為。悲しませ、苦しませ、痛めつけ、最終的に何もかも無くさせる手段。
これらは許されぬ事。罪深き事。公にされ、裁かれるべき業である。

何故。何故、人を殺す事は悪とされるのか。
テレビのニュースで。新聞の見出しで。途切れなく多くの殺人が報道される。
映し出される、涙に暮れた遺族。被害者の名を悲嘆げに叫ぶ友人。
内容が残酷であるほど人々は憤り、非難の声は集中する。

何故か。簡単な話だ。
それは"善人を殺したから"だ。
多くの人に愛され、親しまれて暮らす一般人。
そんな人が恨まれ、殺される道理など存在しない。
存在しない道理によって殺される。それこそが悪だ。
道理なき殺人こそ悪の正体であり、裁かれなければならない犯罪なのだ。


人が文明を築いて数千年。
21世紀に入った現代社会で、人が人を殺す事を許されている例は三つのみとなった。



それは戦争による犠牲。
人類の歴史と常に共にあって、今も何処かで流れ続けている流血。
悪と定め、起こしてならないと口を揃えて禁忌としているのに、戦争が止む日は未だない。
国の利益。民族の尊厳。個人の信念。
それらは正しい。どれも手にする権利がある、肯定されるべき概念だ。
だが世界の全てで、各々の意見を折り合わせるには人類は増えすぎた。
複数の正しさはかち合う。百人の幸福には等量の不幸が百人に降り注ぐ。
幸せを追い求めて、正しさを知りたくて、けれど取り分は予め決まっていて。
だから人は他人を悪とした。
心を殺さず戦場で生きるには、敵を人間(同胞)と思ってはいけない。
前線に立つ誰かは言う。「戦争で人が死ぬのは仕方がない」。
皮肉ではなく本心から、誰かはそう思った。



それは法律による処刑。
人を裁く役目を人でも王でもないシステムに委ねる。
現代で法治国家と呼ばれる構造。
犯罪者は警察に捕まり、裁判にかけられ、罪に応じた罪を課せられる。
世界中の国家で、それは法によって定められている。
そして余りにも罪が重い者が出れば、法は殺人を許可する。
生きている事で償いにならない。更生の余地、反省の色が見られない者に、死刑判決を下す。
法律の規定に準じ、人を殺す行為を公的に認められるのだ。
あるいは、法律のひとつである正当防衛。緊急避難。
人は自身と他者を襲う危機から身を守る権利があり、それによって襲った人間を殺したとしても重い罪には問われない。
他者を犠牲にして自分の身を助けても、状況を加味すれば許されるカルネアデスの板。
法は状況によっては、人を死なせる事を咎めない。
私情で揺れ動かず、擦り減る心もない理想の支配。
この瞬間、人は背負ってきた罪のひとつから解放されたのだ。



それは、あるいは――――
まだ人の文明が発展途上の頃。そこでは当然のように認知されていた存在。
健康管理の不届きの病死。雷や地震の自然現象の事故死。
歴史に現れる暴君の死の原因に、高次元の意思を見出す試み。
幾つかの偶然が重なり、因果が絡まり、それが起きた時。
人は喜びを以て迎え、その行いを責めるどころか称賛する。
天の裁きと呼ばれる、絶対の死の運命を人は易々と受け入れていた。
先の時代の者が見れば、無知な様を滑稽と笑うだろう。
だが現代の中ですらそれを信じる者はいる。
見る者も感じる者もいないのに、いると伝えられるだけで"在る"もの。



神と呼ばれる、法を超えた域による殺人だ。


293 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/04(日) 23:32:02 yMHaewgU0





◇ ◆




『……昨夜未明、新都の宝石店で強盗殺人の容疑で捜査中の◯◯容疑者が路地裏で遺体の状態で発見されました。
 遺体は首を切断されており、鋭利な刃物で寸断されたとされ……』

自宅で家族一緒に朝食を取る最中には不釣合いなニュース。
父は何かの使命感を秘めた目でニュースの文面を見据え、母はそれを心配そうに見つめる。
だが息子である夜神月(ライト)はそれを気にした風もなく聞き流しながらトーストを口に含んだ。

『見ての通り、仕留めた』
『ああ、ご苦労だった、アサシン』

家族の誰にも聞こえない男の声に、やはり彼の中でしか聞こえない領域で応える月。
念話という、契約したサーヴァントと精神対話を可とするスキル。
他者に映らない相手との付き合いは心得ている月にとって、不自然さを見せることのない習得は容易なものであった。

『暫くは情報収集に努めよう。本格的に始まれば派手に騒ぐ連中も出てくるだろう。自分で手に入れたものじゃない力で舞い上がった奴なんてそんなもんだ。
 そうして絞り込んだ相手が孤立したところで、君をぶつける』
『了解した。お前が特定し、俺が裁く。理想的な役割分担だ』

そうして秘めやかな会議が行われる中、画面には被害者の過去の犯罪歴が挙げられ男の凶悪さを説明している。
現代ではそうお目にかかれない怪死に住民は困惑こそするが、同時に誰もが思っているだろう。
たとえ口に出すのを憚れるとしても。犯罪者といえど殺人は罪であると、公然の知識を弁えていても。
望んでいる者がいる。往来をはばかりなく歩く罪人の死を。
そしてこう呟くのだ。裁きが下った、因果応報だ、と。

『召喚に応じた以上、俺の用途は全てお前の自由だ。道具として存分に使え』
『分かってる。お前が僕のサーヴァントなのは一番の幸運だよ』

幸いにして自分のサーヴァントは予想を超えて従順だ。英霊というにはリュークのような一筋縄ではいかない人格と思いきや、このサーヴァントは遥かに従順であった。
だがそれも、サーヴァントの真名を知る月にとってみれば違和感ではない。
なにせ自分が契約した英霊は戦場での勇猛果敢で名を馳せたのでも、人類の発展に貢献する偉業を為したのでもない。
『ただ、人を殺し続けた』。
戦でも功利でも恐怖でもなく淡々とそれを続けてきただけでしかないのだから。


人魂を思わせる蒼の髪。眉目秀麗ながら冷血冷淡の極みにある相貌。
纏う黒服はかの悪名高きナチスドイツの制服。その上にはさらに薄い黒衣を羽織っている。
形こそ人の姿をしているが―――その存在感は月の知る『死神』と全く相違のない、死の具現そのものだ。

―――異世界に連れてこられて契約するのがまた死神とはな。つくづく縁があるよ、オマエたちとは

名前を書いた人間は死ぬ―――死神が持つノート、デスノート。
捕らえられてない凶悪犯。人の手を超えた道具で罪人に死の裁きを。
偶然によって手に入れた月はノートに名を書き連ねた。私欲ではない、余にはびこる犯罪者を一掃して善人だけが生きられる世界、真の理想郷を生み出す使命によってだ。
それがキラ―――名も顔も知れぬ救世主に人々が名付けた月のもう一つの真名である。


294 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/04(日) 23:33:51 yMHaewgU0


そう、月には蔓延る全悪を消し新世界を作る崇高な目的がある。
こんな見知らぬ場所で殺し合いに興じる暇など本来なら間違ってもない。
表向きキラ対策班に加わり、指揮を執る探偵『L』を出し抜く心算を図らなければならないのだ。
それがいったいどうして、聖杯戦争などという儀式に巻き込まれてしまったのか。見当もつかない。

妹が辛気臭いニュースを嫌がってチャンネルを変える。画面では犬が飼い主につられながら地方の住人にもみくちゃにされていた。

―――アサシンの能力は格別高くない。だが宝具は条件さえ満たせば一撃必殺だ。大概のサーヴァントは嵌まるだろうが戦闘で遅れを取る可能性も鑑みるとできればマスターがいい。
   既に罪人である者。この街で犯罪を重ねてる者。ここでも僕の父は警察だ。パソコンから情報も引き出せる。あとは……

手にした『道具』の威力を月は実体験として確かめ、計算する。
サーヴァント。宝具。人類史に名を残した伝説の英霊。今も自分の背後にいる暗殺者の英霊のスペックは把握しておかなくてはならない。
殺し合いなどに巻き込まれたのは甚だ不本意だ。加えて、他の犯罪者のような相手と一括りにされている状況にも納得いかない。
だが……その『優勝賞品』には興味が湧いた。
聖杯。救世主の血を受けたとされる杯。あらゆる奇跡を起こし、世界の傷を癒やすとされる聖遺物だ。
世界中の人間が知っている神の宝物。新たなる神となる月が手にするには、見事に嵌まるシンボルだろう。
宗教家達を一気にキラ派へ傾倒させる材料にもなるかもしれない。いずれにせよ新世界創造の助けに大いに役立ってくれるには違いない。
なし崩しとはいえ参加する以上、身に入る旨味と使い道を把握しくのは当然といえた。

自分は必ず勝ち残らなければならない。
生きて還りキラの活動を継続するのは勿論、手に入る聖杯とマスターの存在を危惧する故だ。
なにせ万能の願望器だ。謳い文句がどこまで真実かはまだ疑念があるが、英霊召喚という実績がある以上、効力があるのは確かなのだろう。
少なくとも、強力無比な力にものを言わせ、欲するものを好きに奪い、蹂躙してのけられる程度の力は。
この街に集まってるマスターの大半はそうした手合いだろう。法を忘れ自分の欲望を自制せず、他者に暴力を振るい犯罪を重ねる……
まさに月が忌み嫌う悪(クズ)、キラとしてこれまで裁いてきた死すべき犯罪者と大差ない。
そんな悪に聖杯が渡ればどうなるかなど馬鹿でも分かる。自分の世界に被害が回ってくる可能性は決して否定しきれないのだ。
禁忌の果実という誘惑に耐え、聖杯を所有し正しく使えるマスター……そんな人物はこの自分以外にはいない。

「それじゃあ父さん母さん、行ってくるよ」

身支度を整えて一足先に外へ出る。向かうのは通っている新都の大学だ。
アサシンに言った通り暫くは市井に溶け込み情報を集める。キラとして動いた頃と変化はない。
サーヴァントという必殺の武器を手に、殺すべき相手の所在を突き止める知恵比べ。強いて変化があるなら敵にも同じ武器が与えられてる点。

―――僕は負けない。用心を重ね今まで通りやれば、順当に勝ち残れる自信はある……

天から落とした聖物は、新たな神の手元に置かれるべきだ。
新世界に君臨する新たな野望を燃え上がらせながら、月は今後に備えた戦略を練り出していた。


295 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/04(日) 23:34:55 yMHaewgU0





◇ ◆



月のない夜。
街の外灯も届かない路地の裏で、一人の男が立っていた。
黒き装束に蒼髪。抜かれた真剣のような、そこにいるだけで周囲の気温が下がっていく威圧感。
生ける者の気配がなく、双眼の視線は絶対の零度に凍えている。
これはこの世のものではない。これは世界にいてはいけない。
英霊の残響。神秘の絶地より来たる境界記録帯(ゴーストライナー)。
サーヴァントという、冬木という街に巣食う無数の化外の一つに他ならない。

「…………」

男の前にはひとつの死体がある。
倒れている全身。泣き別れにされた頭部の瞳は恐怖に見開かれたまま固まっている。
恐怖で固まった犯罪者(おとこ)は、痛みを感じる間もなく命を刈られていた。

手には血に濡れたばかりの刃が添えられている。
刀というより鎌に近い形状。死神が掲げるには相応しい象徴。
実態は、ギロチンだ。罪人の首を落とす断頭台は、男の右の肘から直接生えていた。


「死体が臭うな」


すん、と男は鼻を鳴らす。
視線は自身が今殺した眼前の死体に向いてない。
虚空を見上げ、此処にはいない相手に言葉を投げかけていた。

「墓から戻って屑籠を漁り何になる、死人共が。それは矛盾であり、幽世の穢れだ。現世に持ち込むな」

殺人に柳眉を動かさず、道具として生きるのに何一つ不満のない男が。
侮蔑に満ちた声を漏らしていた。
殺意を孕んだ宣言を下していた。
『処刑人』には不要な、感情という炎を湛えさせていた。


男は殺した。無数の人間を。戦争犯罪者を。
罪に関わらず、善悪に揺れる事なく、処刑の道具として完全に在り続けた。
取り零さず精確に計測したその数は、歴史に打たれるべき事実と化した。
称賛にも悪評にも男は動じない。蔑まされ続けた晩年すらも男にとっては涼風のような時間だった。

男に感情などというものがあるなど周囲の誰もが思いもしなかった。
同じ一族である家族すらも露とも思わず、本人すらそれを考えた事もなかった。
この、瞬間までは。


「俺達には既に命の輝きはない。これ以上生者の世界を汚す前に、再び終わりをくれてやる」


聖杯戦争を男は憎む。それは死者を蘇らせる悪辣なヴァルハラであるからだ。
サーヴァントを男は殺す。死者の生を認めず、全てを土に還す為に。


「この、ヨハン・ライヒハートの死(な)を思い出せ」


世界で最も人を殺した処刑人は、死神として舞い戻ったのだ。


296 : 夜神月&アサシン ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/04(日) 23:37:23 yMHaewgU0





【クラス】
アサシン

【真名】
ヨハン・ライヒハート

【出展】
史実(20世紀・ドイツ)

【性別】
男性

【身長・体重】
176cm・63kg

【属性】
中立・中庸

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷B+ 魔力E 幸運A 宝具B

【クラス別スキル】
気配遮断:E-
 処刑とは秘されて行われるべきではない。公的に執行されるべきものである。
 このランクだと実質機能していないに等しい。
 
【固有スキル】
白日の断頭:A
 攻撃、暗殺は防げても決定された処刑は逃げようがない。
 ヨハンを見た者に意思ST判定を行い、失敗したら数ターン行動不能になる「恐怖」のバッドステータスが付く。
 死刑執行人という、民衆にとっての恐怖の象徴がスキルとなったもの。 
 標的を逃がさず殺すという点のみでいえば、天性のアサシンともいえる。

処刑人:A+++
 悪を以て悪を断つ、究極の裁断行為。
 属性、悪に対するダメージが向上する。
 また、そのサーヴァントの行為が悪と見なされた場合も対象となる。
 ここまでくると、もはや本人が生きる処刑装置そのもの。

人間観察:C-
 人々を観察し、理解する技術。
 ヨハンの場合、"その者にどれだけの罪状があるか"に特化している。
 その分析はむしろコンピューター的な思考に近い。

【宝具】
『死は慈悲の幕引きなり(グナーデン・シュトース)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1人
 より速く、多く、そして確実に、痛み無く処刑することを求められたヨハンとライヒハート家、
 ひいては全ての処刑人の精神が宝具と化したもの。
 逃げられず、防ぎ切れず、免れようのない手段として当然の帰結――――光のギロチンによる斬首法。
 最大の特徴は真名解放から完了までのタイムラグの短さ。発動すれば光の速さでギロチンが対象の首に走り、瞬く間に切断する。
 魔力や運命に依らない、速さと鋭利さ故に回避も防御も不可能という単純な理屈。

 また対象の罪状の重さで魔力消費が減少するという特性を持ち、
 極刑級になれば極めて低魔力で済み、連続発動も可能。
 あくまで最大補足は1人だが、目の前に100人の死刑囚がいるとして、
 全員の首を飛ばすのに"1人1人順番に殺して"も理論上は10秒とかからない。
 基本的には極刑の相手にのみ使用する。

『処刑刃(トーデス・シュトラーフェ・マイスター)』
ランク:C 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 自らの意思を殺し、処刑を行使する装置として生きると定めたヨハンの精神が宝具と化したもの。
 ヨハンの肉体、服飾は世に知られている全ての処刑道具を再現できる。
 無数の暗器を仕込んだアサシンにも見れるが、本人にそうした用途の考慮は一切ない。
 
【Weapon】
『処刑刃』による処刑道具。
手はギロチンでベルトは首吊りの紐、抱擁は鉄の処女(アイアンメイデン)である。


297 : 夜神月&アサシン ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/04(日) 23:39:10 yMHaewgU0


【人物背景】
ドイツの死刑執行人の家系ライヒハート家の8代目。
史上最も多くの処刑を行った男。
その数3165人。第2位のシャルル=アンリ・サンソンの500人以上である。

これだけ多くの執行を重ねたのも、フランス革命の最中で処刑人を務めたサンソン同様、
第二次世界大戦中のナチスドイツが席巻した時代に居合わせたことが大きい。
大戦に入り死刑囚の数は爆発的に増加。死刑執行人も大量増員された。
そんな多忙の中でもヨハンは執行手順を厳格に守り、1人ずつギロチンで首を落としていった。
敗戦後ナチ党員だったため逮捕されるが、「死刑執行人としての義務を遂行したものである」として無罪。
その後連合国側から執行人として再雇用され逆にナチスの戦犯を処刑することになる。

敵も。味方も。無実であるはずだった者も。
ヨハンは眉を僅かにひそめもせず全てを平等に処刑した。
人はいずれ必ず死ぬもの。そして人は往々にして理不尽によって死する。
ならば善悪に差異はない。そも処刑人たる己に善悪を測る権利はない。
刃は情を持ってはならない。刃に心は許されない。重き方に傾く無謬の天秤たれ――――
それが死刑執行人として生まれた者の使命。
鉄の意志を以て、ヨハンは処刑人という刃の役目を完遂した。

数多の人を殺し続ける――――過去の処刑人が抱いた苦悩を一切抱かずに役割に殉じた執行者。
長年ライヒハート家が求めた理想の処刑人は、直後の死刑制度の廃止によってあっけなく姿を消した。
廃止後のヨハンは周囲に忌み嫌われ息子も自殺し、孤独な人生を歩んだという。
その時初めて、彼の顔に人間らしい安堵が生まれたことを誰も知らぬまま。

【特徴】
ナチスの黒服の上に黒衣を羽織っている、蒼髪の美青年。
しかし人間とは信じられない鉄血冷淡の雰囲気はまさに死神そのもの。

【サーヴァントとしての願い】
サーヴァントとしては極めて忠実。己を道具として使われるのをよしとし、マスターにもそうするよう求める。
善悪を基準としないヨハンだが、死に関してだけは一生に渡り重く見続けてきた。
死は世界にとって絶対の境界線。死者が地上に戻ることなどあってはならない。
それは道具に初めて芽生えた意思。彼をして許せないと奮起するに至った生への侮辱。
"全てのサーヴァント(死人)を殺すこと"
この聖杯戦争で抱いた、唯一無二の願いである。



【マスター】
夜神月@DEATH NOTE

【能力・技能】
容姿端麗・頭脳明晰・スポーツ万能のなんでもござれ。
世界最高の探偵「L」とも渡り合える頭脳を持つ。

【人物背景】
全てに恵まれながら日々に退屈していたある日、
「名前を書きこんだ人間が死ぬノート」、デスノートを拾ったのを機に燻っていた世の中への不信が爆発。
悪が存在しない、善人だけの理想世界を目指し、新世界の神となる事を決意。
裁かれぬ犯罪者をノートに書きこみ続け、やがて救世主「キラ」として世界中で信仰される存在となる。
最初に興味本位でノートを使い人を殺した罪悪感に追い詰められ、デスノートの利用を「自分にしかできない」と転換する人間的な弱さがあったが、
次第に自分の正体を探る邪魔者を始末するのに躊躇しない、自分の正義を疑わない傲慢さが大きくなっていった。

【マスターとしての願い】
聖杯を悪用されないためにも自分が手に入れる。
その後は新世界創造の助けに使う。

【方針】
情報収集。マスターと思しき犯罪者にアサシンを当て確実に始末する。


298 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/04(日) 23:39:50 yMHaewgU0
投下を終了します


299 : ◆nY83NDm51E :2017/06/05(月) 00:04:08 IHWRNR0Y0
投下します。


300 : カルマ/supernova ◆nY83NDm51E :2017/06/05(月) 00:06:15 IHWRNR0Y0


010110101101010110101101010110101101010110101101

「……■■、■■! 捜しましたよ! フラッといなくなって、何をやってたんですか」
「やあ■■■■君、ちょっとね。経過は順調ですか?」
「ええもちろん。でもあなたがいないと、まだいろいろ困ります」
「すみません。ですが、■■は成功だったと、これで証明された……」

010110101101010110101101010110101101010110101101

01011010110010101101011010110010

0101101011001



・・・・…………意識が目覚める。自我が己を認識し、記憶を甦らせ、霊肉の感触を確かめさせる。
自分は今、自分の存在を認識している。それゆえに、自分は存在する。どうということもない事実だ。
記憶。遠い遠い昔、生まれて生きて戦って死んだ記憶と、その後に植え付けられた新たな知識。
これから再び戦わねばならない。掟に縛り付けられ、主人を与えられて。憂鬱、と言えばそうとも言える。
しかし、また己として生き、束の間でも生の実感を味わえるとすれば、喜ばしくもある。

ゆっくりと、瞼を上げる。闇から光へ。夕暮れ時か明け方か、そのような薄暗さ。場所は――――室内。
目の前に、男の顔。彼は笑っていた。歓喜していた。大喜びで、礼儀正しく挨拶し、名と、自分のマスターであることを告げた。

こちらもクラスを告げ、真名を名乗る。彼はますます喜び、ぜひ話し合いたいとソファをすすめて来た。
よかろう。対話は必要だ。自分は迷わず腰を下ろし、テーブルを挟んで向かいのソファに座った彼と、顔を合わせた。


301 : カルマ/supernova ◆nY83NDm51E :2017/06/05(月) 00:08:26 IHWRNR0Y0

「さてさて、何からお聞きしましょうか。ええと、まず……」

男は、せわしなげに指を動かす。嬉しくて楽しくて、好奇心でいっぱいで、興奮が止まらないといった様子だ。
顎の前で両手の指を組み合わせ、男は晴れやかな顔で、こう問うた。

「あなたは、『カルマ』とは何か、ご存知ですか?」

愚問だ。ご存知どころではない。その用語、概念は、一般常識として知っている。自分は淀みなく答えた。

「それは『行為』だ。ありとあらゆる行いだ。世界を構成する要素の一つだ。
 何ものかが存在し、行動する時、それは世界全体に影響を及ぼす」

男は満足げに笑い、肯く。
「はい。遥か昔からそう言われてきましたし、私もそのようにとらえています。ただ、もう少し詰める必要がある」

男は、テーブルの上のコップから水を少し飲み、発言を続けた。

「『因果応報』といいますね。すべて物事には原因があって、しかして結果があると。
 それは法則であり、誰かに定められ、動かされているわけではありません。また、万物の運命が全て定められているのでもない。
 行為の主体・決定者は、たとえ周囲の様々な状況、制約によってやむなくであっても―――行為を生み出す本人です。
 それらが複雑に絡み合い、働き合い、共鳴し、循環し……この宇宙は車輪のように、無限に動き続けている。カルマによって!」

しばらく彼の言葉に耳を傾ける。慣れ親しんだ知識、懐かしい響きだ。
この男は……宗教家だろうか。そのようでもある。いや、この男は、神や仏を信じてはいない。では、哲学者か。


302 : カルマ/supernova ◆nY83NDm51E :2017/06/05(月) 00:10:30 IHWRNR0Y0

「私は……科学者です。ナノマシンと、『業子力学(ごうしりきがく)』と名付けた情報理論を研究しています」

その男……『ディスティ・ノヴァ』は、滔々と持論を語り続ける。白髪の老人だが、子供のようにエネルギッシュに。

「微視(ミクロ)のレベルでは、理論は完成に近づきつつあります。一例として、『この私』とはなんでしょう?」

自己、自我、魂。アートマンか。これもよく知る概念だ。自分はやはり淀みなく答えた。
「肉体でも、名称でも、立場でもでもない。己が己自身であるという『意志』だ」

「正解です。記憶と経験の連続体としての情報、そしてそれを認識する人格機能、とも言えるでしょう。
 それが揮発し消滅した時、それが死です。逆に、たとえ肉体がなくとも、己を構成する情報さえあれば、それを認識する『私』は存在し得る。
 肉体や脳が、金属や樹脂や機械、果ては電子情報に置き換えられようとも。そもそも生物の肉体の細胞は、日々新たなものに置き換えられていますしね。
 また、『英霊の座』という情報野から呼び出され、今ここに霊体を備えて存在するあなたには、特によく解るはずです」

いかにも、そうだ。かつて生きていた『自分』は、死んで消滅したはずだ。肉体的にも、情報連続体としても。
では、今ここにいる自分はどうか。観察され、記憶された情報が、かりそめに自分という意識を与えられているだけではないのか。

「このような情報を記憶し、媒介する、理論上の情報素子を、私は『業子(カルマトロン)』と呼んでいます。
 肉体でも霊体でも、物質や時空間、意識や魔術でも、業子で説明できるはずです。情報のある時点での揺らぎ、その一つの姿に過ぎないのですから」

なるほど。全ての事象は複雑に絡み合った関係性の上にかりそめに成り立っており、それ自身の力で独立して存在しているわけではない、と。

「従って、肉体の情報を記憶して再生する方法があれば、負傷は元通りに治癒しますし、死者も復活できます。
 たとえば、私は元いた世界にナノマシンを放出し、肉体の構成情報を空気中の分子運動のあわいに潜ませていました。
 もしも、今のこの私の肉体が破壊され、生体活動を停止したとします。するとナノマシン網はこれを察知し、周辺の物質を再構成して、私の記憶と肉体を再生するのです。
 つまり、事実上の不死、不滅です。こうしたナノマシンの動きを、私は業子力学理論によって制御しています」

不死、不滅。誰もが望み、かつては自分もそうであった。思わず眉を動かし、彼に問う。
「それは、この世界でも可能なのか?」

ノヴァは微笑み、胸に掌を当てて、すらすらと答えた。
「私の肉体細胞、また肺や体腔の中の空気……それらにもナノマシンは含まれているのですよ。従って、この世界でも復活は可能のようです。
 ナノマシンが完全に除去されればダメですし、再生槽がないと自然復活には6日程度かかりますので、その間に誰かが優勝してしまえば、それまでですが。
 一応、以前から肉体修復用ナノマシンを注入していますので、かなり死ににくくはなっていますがね。あと、頭部を失っても補助脳が……ええと、本題に戻りましょう」


303 : カルマ/supernova ◆nY83NDm51E :2017/06/05(月) 00:12:29 IHWRNR0Y0

ノヴァは無駄話を打ち切り、真剣な表情で向き直る。

「さらに、巨視(マクロ)レベルの業子力学理論があります。これこそ、今私が挑んでいるところなのですが」
「それは?」
「こうした個々のカルマが絡み合い、世界を動かす事象……すなわち『運命』を科学的に解き明かすことです。究極的には、その克服を」

運命。無限に等しいカルマの流れによって、水車のように回転する、無始無終の宇宙法則。
それ自体で成り立つのではないにせよ、無明の中に迷う個人が挑むには、絶対的に強力過ぎる相手だ。いったい何者が、運命を克服できようか。

「おれは、運命に挑み、敗北した者だ」

「そうですね。アーチャー、真名は『メーガナーダ』。別名はインドラジット。古代インドの大叙事詩『ラーマーヤナ』に登場する悪魔の王子」

神々に勝利する事はできた。奴らとて、我々と先祖を同じくする、有限にして有始有終の有情に過ぎぬ。カルマや運命を克服した存在ではない。
だから、自分が敗れたのは神々などではない。まして、人間やサルどもではない。カルマに、運命に敗れたのだ。

「お前は、おれをどう見る。運命に滅ぼされた者が、再び運命に挑み、打ち克つことが出来るか」

「もちろん、出来ます。科学的に、理論的に、可能です。挑戦を続ける限り、決して可能性はゼロにはなりません。
 あなたがこの戦いに召喚され、再生し、私とここでこうして議論していること自体が、新たな運命の地平を切り拓く―――カルマそのものです」

明快な答えだ。この男は狂人で悪人だが、優れた知力と意志力の持ち主のようだ。まるで、あの男のように。
我らラークシャサ族の多くが滅ぼされ、遥かな時が過ぎた後――――我らの残存思念は怨霊となり、ランカー島を再び支配していた。
そこに一人の男が現れ、我々に教えを説いた。苦しみと憎しみ、カルマの輪から解脱するための教えを。その男は……

「お前は、ブッダになるつもりか」

ノヴァは答えず、ニッと笑った。肯定とも否定ともとれぬ表情だ。そして……顔を俯けた。

「どうした」
「あなたを見ていると、その……私の息子たちを、思い出します。一人は、夢を叶えるために戦い、果てました。
 もう一人は……私に随分逆らいましたが、まだ生きています。彼なりに、夢を叶えるために」


304 : カルマ/supernova ◆nY83NDm51E :2017/06/05(月) 00:14:27 IHWRNR0Y0



しばらく語り合い、互いの意見と能力を確認した後、両者の意見は「電力供給施設を抑える」ことで一致した。電力は彼らの命綱だ。
そうと決まれば善は急げ、先に誰かに抑えられないうちに、ことを進めよう。幸い今は早朝、町に人の気配は少ない。
ノヴァは脳を摘出した住人の死体をアーチャーに食べさせ、各種物品を調達して身支度を整えた。ここはノヴァの家ではなく、見知らぬ誰かの家だったのだ。


ガリィ君を殺害&回収し、ザレムでの調査研究活動も軌道に乗ってきていたのですが、まさか「異世界に召喚される」というワンダーを体験できるとは。
元の世界ではどうなっているでしょう? 生体活動を停止すれば新たなディスティ・ノヴァが再生するはずですが、流石にこれは予想外。
まあ、あちらの世界で私の存在が必要なら、因果律が働いてNEWノヴァがポップするはず。しからば、今のこの私が元の世界への帰還を求める必要もあまりない。
ちょっと残念ですが、元の世界のことはそちらのノヴァに任せましょう。うかつに戻ると因果律を乱しておかしなことに……それはそれで面白いかな?

それに、こちらはこちらで、随分面白そうです。様々な異世界、並行世界から知的生命体を呼び寄せ、英霊と呼ばれる存在を従わせる。
そして彼らを戦わせ、生き残った者に『万能の願望器』なるトロフィーを与える。奇跡を実現する『聖杯』を。
これぞまさしく、私が求めている、運命と混沌の実験場。業子力学の研究にはもってこいの戦場ではないですか。
ルーラー、運営者として観察しても良かったですが、いち参加者として、現場で体験するのが一番でしょう。ルーラーとじっくり話もしてみたいですね。
サーヴァントも相当に強力かつ協力的ですし、知識や人格的にも興味深い。言うことはありません。彼のカルマがどこまで通用するか、実に楽しみです。

科学技術のレベルが、ザレムはもとよりクズ鉄町よりも低そうなのは、ちょっと困りましたが……随分昔の世界か、それを模した世界のようです。
まあ私そのものが、いわばスーパーコンピューターですからね。様式は古くても電子機器が存在するのなら、それを集めて最大限に活用するまでです。
魔術もきっと、科学的に解析できます。十分に発達した科学技術はなんとやら、とも言いますし。

やるからには、優勝を狙いましょう。願いは『聖杯』そのものを解析させてもらうこと、それしかありません。
いかなる仕組みで、どのように、どこまで何を叶えるのか? 『運命』そのものを理論づけ、科学的に解析し、ついには己の意志で克服するに至る。
それには『聖杯』そのものが、この上なく重要なサンプルを提供してくれることでしょう。マーベラス!


ノヴァは冷蔵庫を開け、幸運にも彼の大好物を発見する。焼きプリンである。それを皿に開けると、きれいなスプーンでひとすくいし、口に運ぶ。
濃厚な甘み、ねっとりした口触り、馥郁たる香り。ああ、なんたる口福――――

「おいちい!」


305 : カルマ/supernova ◆nY83NDm51E :2017/06/05(月) 00:16:28 IHWRNR0Y0

【クラス】
アーチャー

【真名】
メーガナーダ@ラーマーヤナ

【パラメーター】
筋力A 耐久B 敏捷B+ 魔力A+ 幸運D 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではアーチャーに傷をつけられない。

単独行動:C+
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
高圧電流を吸収し続ければ、現界時間を延長することが出来る。

【保有スキル】
幻術:A+
人を惑わす魔術。精神への介入、現実世界への虚像投影などを指す。
幻力(マーヤー)の達人であり、自らの姿と気配を隠蔽したまま自在に行動し、半神の目を欺くほどの精緻な幻影を創り出せる。
並の相手ならば精神攻撃だけで無力化できるレベル。真実を見極める卓越した霊眼の持ち主でなければ、この幻影を見破ることは出来ない。

鬼種の魔:A(EX)
鬼の異能および魔性を表すスキル。天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出(雷)、等との混合スキル。
インドの悪鬼ラークシャサ(羅刹)族の王子。羅刹王ラーヴァナとアスラ族の女性の子であるが、父はシヴァ神であるともいう。
神々を打ち破り、神々に打ち破られて恩恵を失ったがゆえに、神性は不死性とともに剥奪されている。彼はもはや神に祈ることはない。

雷の征服者:A(EX)
「雷鳴」の名を持ち、天帝インドラを打ち負かして「インドラジット(インドラに勝利した者)」の称号を得た逸話によるスキル。
電流を無効化・吸収・放出し、電子パルスを察知する。電力を食らうことで魔力を補給できる。雷雲を呼んで飛び乗り、飛行することも可能。
かつてはインドラ自身のごとく稲妻を自在に操ったが、インドラの矢で倒されたことでランクダウンしている。

アンガンポラ:A
古代スリランカ式の武術。才覚のみに頼らない、合理的な思想に基づく武術。攻めより守りに長けている。
インドのものをカラリパヤット、スリランカのものをアンガンポラという。


306 : カルマ/supernova ◆nY83NDm51E :2017/06/05(月) 00:18:31 IHWRNR0Y0

【宝具】
『降雷蛇索箭(インドラジット・ナーガパーシャ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:5-50 最大捕捉:500

コブラが無数に絡まりあった形状の、投槍めいた巨大な矢。アーチャーが弓から放つことで発動する。
上空に発射されると無数の蛇に分裂し、アーチャーの魔力により雷を纏い、敵陣に雷雨となって降り注ぐ。
矢は地上でも激しく跳ね回り、標的に絡みついて毒と電流を流し込み、拘束しながら焼き滅ぼす。集束して放てば山をも穿つ。
発動には相応の魔力(電力)チャージが必要。蛇や雷撃を制圧する能力があれば、この恐るべき攻撃をいくらか防ぐことができる。

【Weapon】
魔力で形成した大弓と、宝具である矢。通常時は二振りの槍として使用する。投擲しても自動的に手元に戻る。
弓はインドレイヨウの角を二本組み合わせた武器「シンガータ」ともなり、中央部に小型の盾を形成して防御にも使える。
矢は多尾鞭剣「ウルミ(雷鳴)」としても振るうことができ、触れたものを拘束・切断し、毒と電流を流し込む。斬撃は雷速。
卓越した武技に幻術を併用して来るため、真の心眼なくしてはその攻撃を見切ることは不可能。

【人物背景】
インドの大叙事詩『ラーマーヤナ』に登場するラークシャサ(羅刹)族の王子。
ラーヴァナの子とも、シヴァ神の子ともいう。母はアスラ族のマンドーダリー。名は「雲の咆哮」、すなわち「雷鳴」を意味する。
父と共に天界に攻め込んで天帝インドラを捉え、釈放と引き換えに「インドラジット」の称号と不死性をブラフマーより獲得した。
コーサラ国の王子ラーマたちが妃シーターを取り戻すため、ラーヴァナの治めるランカー島(スリランカ)に攻め込んでくると、彼は魔術を用いて大いに敵軍を苦しめた。
だが、彼の力は神々に犠牲祭を行って得られたものであった。これを知ったラーマたちは、メーガナーダが祭儀を行っていた森に奇襲をかけ、祭儀を中断させた。
こうして魔力を失ったメーガナーダは、ラーマの弟ラクシュマナが放ったインドラの矢に射抜かれ、ついに滅びたという。

外見は中背で筋肉質なスリランカ系の青年。肌は浅黒く、眉間に第三の目があり、額から二本のねじれた角が伸び、牙と鉤爪を持つ。
髪は赤茶色で逆立っている。端正な顔立ちだが常に怒ったような表情。キャスターの適性もあり、幻術によって様々な姿に変化する。
卑劣な手段を厭わず、暴虐で凶悪な魔王そのものだが、『楞伽経』においてブッダの説法を聞いた縁により、やや穏やかな性格になっている。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯の獲得そのもの。聖杯はノヴァにプレゼントする。闘争の中で何かが掴み取れればよい。

【方針】
聖杯狙い。まずは電力供給施設(変電所か発電所)を抑え、冬木市内の電力を集めて自分の力とする。ある程度はマスターの活動のために残す。
ここを拠点として幻術で覆い、市内を探索して参加者やサーヴァントを狩って行く。

【カードの星座】
獅子座。


307 : カルマ/supernova ◆nY83NDm51E :2017/06/05(月) 00:20:34 IHWRNR0Y0

【マスター】
ディスティ・ノヴァ@銃夢

【weapon・能力・技能】
『頭脳』
己の天才的頭脳。肉体的な戦闘能力には乏しいものの、事物の科学的解析に関しては異常な能力を誇る。
知識も豊富で、意志力と信念も極めて強固。邪悪なほどに利己的であるが柔軟でもあり、倫理的善悪や敵味方の概念は超越している。
幻覚やハッキングなど様々な効果を持つ各種ナノマシン(ウイルスサイズの極微小機械群)を作成して制御できるが、しかるべき施設と材料、電力等が必要。

『脳チップ』
人間の生体脳と同等の働きをする、コイン大の集積回路。彼の元の脳は摘出され、その記憶と意識をこのチップに書き込まれて交換されている。
頭蓋の中に納められており、電子的素子であるため脳挫傷などの危険はない。また腹部にもチップがあり、睡眠を取ると頭蓋内のチップのデータがバックアップされる。
頭部が破壊され脳チップが物理的に消失すると、腹部チップが活動を開始し、バックアップ時までの記憶を有したノヴァの意識が復活する。

『自己修復用ナノマシン』
ノヴァが自分の体内に注入しているナノマシン。肉体的負傷を急速に回復させ、頭部を真っ二つにしてもくっつければ治るほどの治癒力を誇る。
頭部を破壊すると腹部にノヴァの顔が再生される。彼を殺しきるには、頭蓋内の脳チップと腹部チップを両方肉体から奪い取るか破壊するかしかない。

『自己再生用ナノマシン』
ガリィ爆殺後、故郷ザレムに戻った彼が最初に作成し、大気中に散布したもの。のちに「ステレオトミー」と命名される(LO8巻)が、現時点のノヴァはその名を知らない。
業子力学理論を応用して、記憶を含む肉体の構成情報を「空気中の分子運動」という情報ノイズの中に埋め込み、常時バックアップを取っている。
ノヴァが死亡すると、空気中のナノマシンネットワークが活動を開始し、バックアップ時の記憶を含む肉体を衣服や小物まで完全に再生する(死体は残る)。
ただし周囲の物質を分解し再構成するために6日ほどの期間が必要。再生中はランダムな場所に繭を作っており、焼き払えば再生を6日間阻止できる。
材料とサンプリングデータが揃っていれば、再生槽を用いて数時間での再生も可能。ノヴァが死亡せずに身動きを封じられた場合はどうしようもない。
脳チップも同時に再生するため、殺したノヴァのチップをしかるべきインターフェースに搭載すれば、複数の「ノヴァ」の意識を持つ者が同時に存在する状況にもなり得る。

【人物背景】
木城ゆきと『銃夢』シリーズに登場するマッドサイエンティスト。空中都市ザレムで生まれたデザイナーベビー。
外見はオールバックの白髪で、額に黒いマークがあり、金属製ゴーグル眼鏡をつけ、白衣をまとう初老の男。笑い声は「キャハハハ」。好物は焼きプリン。
専門分野はナノマシンを作り出すナノテクノロジー。独自の情報理論「業子力学」を組み上げており、これを用いてナノマシンを自在に制御する。
宿願は「人間の業(カルマ)の克服」。非常に気まぐれな破綻した性格の持ち主で、自身の知的欲求のためなら、非道な人体実験も大量虐殺も躊躇せず実行する。
特に、興味を持った対象を改造して世界へ解き放ち、それらがどのように振る舞うかを観察することを好んでいる。
一方で、彼自身も人為的に生み出され観察対象とされていた存在であり、彼の研究は自身の生い立ちを克服するものでもある。
苦悩する若者に対しては年長者らしい諭旨を与える場面もあり、単なる狂人ではない。それゆえに余計厄介でもある。

【マスターとしての願い】
聖杯そのものの科学的解析。それによって業子力学を進展させ、業と運命の秘密を追求する。
発狂して台無しにならないよう、解析は注意深く行うつもり。できればナノテクで不老長寿化し、元の世界のノヴァとも情報を共有して議論したい。

【方針】
聖杯狙い。まずは電力供給施設を奪取し、ハッキングによって市内の電子機器を全て掌握する。
次いで機械工場を抑え、発電施設や各種ナノマシンの作成に取り掛かると共に、アーチャーに十全な力を与え、彼の戦闘を観察&サポートする。

【参戦時期・把握手段】
『銃夢』無印完全版での本編終了(旧版単行本9巻155P)後、『銃夢 Last Order』冒頭との間、ガリィ再生中のザレムでの一年の間に「星座のカード」に触れる。
把握には『LO』2巻か3巻までの読了が望ましい。それ以後は参考程度に。


308 : ◆nY83NDm51E :2017/06/05(月) 00:22:17 IHWRNR0Y0
投下終了です。


309 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/05(月) 00:58:52 588J0.os0
投下します


310 : 愛は定め、定めは罪 ◆z1xMaBakRA :2017/06/05(月) 00:59:24 588J0.os0

 その空間を見て諸人が真っ先に思い描く二文字の言葉は、『宇宙』、であろうか。
光を差しても、その光自体が吸い込まれてしまいそうな程、空間に満ちている闇は、黒く、深く、広大であった。

 宇宙と言うにはその空間は、宇宙を象徴するべきものがなかった。
『星』である。強く輝く恒星の煌めきも、烈しく燃え上がる太陽の焦熱も、色彩の鮮やかさを見せる惑星のグラデーションも、この宇宙にはない。
代わりに、この空間に漂っているものは、残骸……敢えて酷い言い方をするのであれば、ゴミ、であった。

 幾千ものパーツに分解されこそすれ、辛うじて『軍艦』だと解る、船に似た巨大な鉄の塊が浮いている。
機銃やミサイルの直撃を受け、完膚なきまでに破壊されこそすれ、翼に似た形状から、戦闘機だと解るものもある。
使い古され、砕け散った自動小銃や拳銃に、錆び付き折れてしまった剣の類も、空中の埃のように漂っている。
人骨や獣骨すら、この空間では珍しくなく、普通であるかの如く漂流している。此処はまるで、宇宙の一角にあるゴミ捨て場のようであった。

 およそ、生命の気配が欠片とすら感じられないこの空間に、一人、男がいた。
縦に走った深い切り傷のせいで右眼の視力を失った事が解る、青みがかった緑色の長髪を持った青年である。
斯様な傷がなければ、暗い雰囲気を纏いながらも、それが何処か、男の生来の物と思われる陰性の美を際立たせる美青年として女性が放っておかなかったろう。
そんな男が、一人の男を抱きながら、遠い所を見つめていた。緑髪の青年に抱かれる男は、全身黒ずくめ、黒髪をオールバックにした成人男性だった。
眠る様に、その人物は瞳を瞑り、緑髪の男に背を預けている。いや、眠っていると言う割には、寝息の一つも、そのオールバックの男は立てていなかった。
さにあらん、その人物――『仙水忍』は当の昔に殺されていた。彼の後輩、三代目の霊界探偵に当たる、浦飯幽助との、全力の戦いを心行くまで楽しみ、
後悔も何も無く、満足で心と身体を満たされたまま果てた。それを象徴するように、仙水の表情には、苦しみも怒りもない。安らかな死に顔が、いつまでも刻まれていた。

 時間や空間の概念がない、この亜空間を一人と一個で漂い始めてから、一体どれ程の時間が経過したであろうか。
十年経ったのかも知れない。百年以上かも知れない。事によっては、一ヶ月、いや、一日すらまだ、と言う可能性すらあろう。
緑髪の青年は、何も語らない。仙水……、死臭を放つ、己の相棒にして、恋人、己が死ぬまでその様子を眺めていたいと思っていた人物。つまり、『全て』。
そんな男が死体になっているのだ、話し相手になどなれる訳がない。だがそれでも良かった。仙水の冷たい身体を、その手で抱けているだけで、彼は安心出来た。
それは、実に虚しい安心だった。もう何も、動的な反応を示さない男と一緒にいるだけで得られる安心感に、如何程の価値が、あると言うのだろうか。


311 : 愛は定め、定めは罪 ◆z1xMaBakRA :2017/06/05(月) 00:59:39 588J0.os0

「仙水……お前の魂は今、何処を彷徨っているのだろうな」

 嘗て、男は仙水に殺されかけた。
彼は、霊界探偵として既にその勇名を馳せていた仙水のターゲット、つまり、殺されて然るべき妖怪であったのだ。
だが何の偶然か、偶然にも彼は仙水の気まぐれで助けられ、そしてそのまま何の因果か、彼のパートナーとして活躍した。

 男は仙水の事を、時限爆弾だと認識した。そして、恋人だとも思うようになった。
彼は、嘗て仙水に殺されかけた事など微塵にも恨んでいないし、寧ろあれは、必要な出会い方であったとすら思っていた。
そうと思っていても、彼は、仙水が傷付き、堕ちて行く様子を見たいと願った。魂が俗世と悪徳の塵埃で汚れ、擦り切れて行く様子を見て絶頂に浸りたいと思った。
人間の醜さ、露悪さ、愚かさを見て、仙水は嘗ての姿から変わって行った。それで良いと思っていた。新雪のように無垢で、汚れないキャンパスの様な可能性を持った男。
そこに、自分だけのイラストを描けると言う自由を、彼は、何よりの褒賞であると思った。

 ――その褒賞と満足の果てが、これであった。
仙水の肉体は、醜さと死の象徴である腫瘍と病でこれ以上となく汚されきった。
それなのに、男が汚したと思っていた仙水の魂は、その実、初めて邂逅した時純白さからずっと変わっておらず――永遠の白を保ったまま、何処かにふらりと抜け出て。
結局、男に残されたのは、死臭を放ち、体内の汚れた聖者の亡骸だけで。それはまるで、一人の男が汚れ堕ち、魔道に逸れて行くのを楽しんでいた男に対する罰であるかのようで。

「お前は結局、俺の事をそんなに信用していなかったのだな」

 病魔が齎す想像を絶する痛みにも、仙水忍は弱音を吐かず、仙水忍を演じきった。その気高さに、男は悔しさを覚えた。
そして、純粋さが失われて行くフリを演じつつも、仙水忍の魂はその実、無記のノートのように真っ新で。その事に気付いた時、男は、自分の愚かさを知った。
仙水の恋人としても、仙水を堕落させる悪魔としても。男は――『樹(いつき)』は、落第点を割っていたのである。

 死臭の聖者を抱いたまま、樹は、ふと、眼前に現れた、一枚のカードを取り出した。
残骸と廃墟のみが漂うこの亜空間の中に在って、新品同様の煌めきを放つそのカードに何を見たのか。男は、すっと其処に手を伸ばした。


312 : 愛は定め、定めは罪 ◆z1xMaBakRA :2017/06/05(月) 00:59:58 588J0.os0


「防腐処理、終えましたよ。マスター」

「ああ、すまない」

 中央の未遠川を境界線に、東側が近代的に発展した新都と、西側が古くからの町並みを残す深山町とで分けられた地方都市。そこが、冬木市である。
その、冬木市は新都の存在する東側、その外れも外れには、打ち捨てられて百年以上は経過しているのではないか、と言う時の重みを感じさせる、
廃洋館が存在していた。只ならぬ妖気を常に発散し続け、夜になれば鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)や幽霊(ゴースト)の類が、肩で風切り闊歩しそうな雰囲気が、
割れた窓ガラス、表面の剥げた外壁、壁面を伝う植物の蔓等の小道具(アクセント)が強く発散していた。余りにも無気味なので、近隣の住民は近付きすらしない。
大学生が時折度胸試しがてらに足を運ぶ事もあるが、只ならぬ妖気を彼らですら感じ取るのか。内部がどうなっているのかを確認して来た者は一人もいない。
こんな調子であるからか、付けられた名前が幽霊屋敷である。余りにも直球であるが、その名前が伊達でも何でもない程、成程、
その建物の雰囲気は幽霊屋敷のそれそのものだった。遥か昔に死んだ屋敷の主人の亡霊が、今も屋敷の中を彷徨っている、と言われても、大人ですら信じてしまいそうなオーラを、この建物は発散していた。

 其処が、樹と、彼の召喚したキャスターの居城であった。
聖杯戦争。それについての知識は既に頭に刻み込まれている。突飛で、あり得ぬ話だと鼻で笑わない。
そもそも樹は、魔界で生まれ育った妖怪であり、人間ではないのだ。こんな、普通の人間ならあり得ない話だと一笑に附すような事でも、すんなり受け入れられる。
そして、この催しが、自分以外の全ての主従を殺して初めて完遂される、と言う血塗られた催しである事も、然り。妖怪であるからこそ、樹は、人間を殺す事に何の躊躇いもないのであるから。

「マスター」

「何だ?」

 樹の召喚したサーヴァントは、控えめに言っても、美しい女性だった。
露出の少ない黒いモーニングドレスに、黒いトークハットを被る、水色の姫カットの淑女。
まるで、喪に服しているかのような、黒尽くめのその恰好。ベッドの上で、仰向けになっている、恋人だった男を、樹は思い出した。
美しいばかりか、纏う雰囲気も、その言葉遣いも、淑女として洗練されている。常日頃から、このような立ち居振る舞いと口調でなければ、此処まで磨かれた女性らしさは演出出来ないであろう。

「其処の殿方は、既に亡くなっておられるでしょう?」

「ならば、防腐処理などもする必要がない、とでも?」

「ええ、まぁ」

 モーニングドレスのキャスターは、次に自分が言う筈だった事を樹に取られ、歯切れの悪い返事をするしかなかった。

「解ってるさ。其処にいる仙水忍は、もう動く事もないし、言葉を発する事もない。正真正銘、仙水忍であった物に過ぎない」

 目線だけを、キャスターに樹は送る。

「解っていてどうして、埋葬なりなんなりしてやらない、とでも言いたそうだな」

「ええ。然るべき所に、魂を導かせて上げてもよろしいのでは?」

「その導かれる所に行きたくない、と言うのが忍の遺言なんだ」

 直に、樹は反論した。

「忍を埋めてしまえば、その亡骸も、魂も。霊の国へと行ってしまいそうでね。其処には絶対に導かれたくない、と。彼は俺に言っていた。ならば俺は、彼の遺言に従うしかないじゃないか」

 「――だが」

「彼の身体が、朽ちて行くのを見るのは俺は耐えられない。だから、お前に命令して、腐らないよう処理して貰ったんだ。すまなかったな」

 仙水の身体がこれまで全く腐る素振りすら見せなかったのは単純な話。
樹達のいた、あの次元と次元の間に存在する亜空間が、熱もなく、細菌も存在せず、何かを腐らせる要素が欠片も存在しない世界だったからである。
それが、冬木市と言う空間に来てしまえば、どうなるか。当然、死体である仙水忍の身体は、朽ちて分解される。それは、樹には許せない事柄である。
自分と一緒に仙水の亡骸までこの世界に導かれてしまったのは、正直樹としても予想外のエラーであった。だからこそ、彼は真っ先に、
己の召喚したキャスターに、仙水の防腐処理を命じた。幸いにも、死体の見つかり難い幽霊屋敷と言う場所もあり、その儀式は目立たず終える事が出来た。
これでさしあたって、樹の憂いは消えてなくなった、と言う訳である。


313 : 愛は定め、定めは罪 ◆z1xMaBakRA :2017/06/05(月) 01:00:30 588J0.os0

「この、忍、と言う方は、お友達ですか?」

「恋人さ」

 ピクッ、とキャスターが反応した。

「俺は、忍の全てを独占したかった。喜びも、哀しみも、強さも、弱さも、醜さも美しさも。全て、俺は見ていたかった。そして、堕落して行く様もな」

「狂っていますね」

「同じような言葉、言われた事があるよ」

「いいえ、貶した訳ではありませんわ。愛に狂ったからこそ、その愛した者に世話を焼き、奉仕し、時に、破滅させる。私はその事に理解がある方ですの。貴方の愛は、とても、私達寄り。好感が持てますわ」

 そう淀みなく口にするキャスターの瞳を、樹はジッと見つめた。
この目は、憶えがある。いつか鏡で見た、自分の瞳と、全く変わらない目であるからだった。

「貴方は、忍と言う方の愛を独占出来たのですか?」

「……ふっ」

 思わず、そんな笑みを零してしまう樹。それは彼なりの、得られなかった、と言う意思表示。キャスターも、その意を得たようである。

「私にも、貴方と同じように、恋をしていますの。そしてその人物は、私の統治する妖精境で、今も大人しくしていますわ」

 一呼吸、其処でキャスターは置いた。

「でも、私がどんなに睦言を投げても、彼は心無い相槌を打つだけ。言葉は私に向かって投げられているのに、瞳と意識は、何時だって私に向けられない。向けた事がない。それが、私にはとても悔しい」

 「そして何よりも――」

「彼――『マーリン』が何処かに行ってしまいそうで怖い。私の統治する世界にあの時フラッと立ち寄った時みたいに……、私の妖精境を、フラッといつか立ち去りそうで……私は、気が気でならない。私は――永遠に彼を、独占していたい」

 瞳が、狂愛の色を帯びてきた事を、樹は見逃さなかった。
目の前の女性は、正味の話、B級妖怪に過ぎない自分よりも遥か上に位置する存在である事を、樹は初めて見た時から気付いていた。
自分の様な男に、彼女が何故宛がわれたのか、今の今まで樹は理解していなかったが、今になってその訳を樹は理解した。
この女性――『ヴィヴィアン』と呼ばれる妖精の女もまた、自分と同じく、一人の男の愛に狂って焦がれているのだ。
彼女と彼の違いは、その恋人が生きていると言う事。樹は、仙水に対してやれるべき事は全部やれたと、仙水が死ぬ直前までは思っていた。
だが、そんな物はまやかしであった、勘違いであったと気付いたのは、彼が死んでからだった。死んだ今、樹は初めて気付いた。やれていない事の方が、寧ろ多すぎた事に。

 仙水を、もっと堕落させたかった。汚したかった。綺麗にさせたかった。喜ばせたかった。
聖杯の知識が頭に刻まれた瞬間、その思いはより一層強くなって行く。自分は今、忍ともう一度、映画を見る事が出来るのだ。
ヒットスタジオに出ていた戸川純を一緒に心待ちする事も出来るのだ。そう、万能の願望器である聖杯があれば。死者が蘇る、と言う奇蹟ですら。不可能ではない。

「キャスターは、聖杯をどうしたいのだ?」

「星が定めを終えるまで、マーリンを独占します。私は、彼に何処かに行って欲しくありませんから。貴方は? マスター?」

「俺か……俺は……」

 顎に手を当て、考え込む。瞼の閉じられた仙水の方に目線を向け、樹は、口を開く。

「……忍の魂が、何処に逝ったのか。その行方だけを知りたい」

 忍を蘇らせたい、と口元にまで出かけた所で、樹は思い直した。
仙水は、人間が嫌いな男だった。人の醜さと悪を憎悪した、そのせいで世界を破滅させかけたピュアな男。そうなるべく、誘導したのは樹の方である。
皮肉であった。そう言う人物になるまで放置したせいで、樹は仙水をこの世に蘇らせると言う事が出来なくなっていた。
仙水が、自分の嫌いな人間達の世界に再び十全のコンディションで蘇生させて、喜ぶ人間ではない事は他ならぬ樹がよく知っている。
知っているからこそ、復活させられない。だからこそ、仙水忍の魂が何処で何をしているのか、と言う事を知りたいと言う慎ましやかな願いしか願えない。
そう、全ては樹自身の身体から出た錆であった。仙水忍と言う個人を放置し続けたツケを今、この聖杯戦争でも樹は支払わねばならないのである。

「忍さん、という方の愛の割には、大人しい願いですのね」

「……そうだな」

 悪意を込めた訳でもない、ヴィヴィアンのその一言に、樹は、少しだけ哀しくなった。
これが、カルマか。仙水の方を見て、樹は思う。安らかな、眠るような仙水の死に顔だけしか、今の樹には映っていなかった。




【クラス】キャスター
【真名】ヴィヴィアン
【出典】アーサー王伝説、或いは妖精伝説
【性別】女
【身長・体重】162cm、53kg
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A+ 幸運:EX 宝具:EX


314 : 愛は定め、定めは罪 ◆z1xMaBakRA :2017/06/05(月) 01:00:50 588J0.os0

【クラス別スキル】

陣地作成:EX
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。固有結界そのものである"妖精郷"の形成が可能である。

道具作成:A+++
魔力を帯びた器具を作成出来る。キャスターは妖精文字を完璧に扱える為、そのランクは破格の値。
このランクになると、材料次第であるが、宝具の作成すら可能となる。かのエクスカリバーやアロンダイトを作成したのは他ならぬ、このキャスターである。

【固有スキル】

妖精文字:EX
妖精郷で使われる、妖精の一族のみが知る文字・文法・刻印の習熟度。言ってしまえば、世界の触覚たる妖精達との意思疎通手段である。
呪文・魔力回路を介さず直接世界に干渉し、魔術以上魔法以下の奇跡を体現する。ランクEXはAランクの更に上と言う意味でのEX。このランクであれば昔話・御伽噺で語られる様な奇跡ですら当然のように発動させられる。

魅了:A
魔性の美貌により、老若男女を問わず対象の精神を虜にする。ここまでくると魅惑ではなく魔術、呪いの類である。対魔力で抵抗可能。

英雄作成:A+
英雄を人為的に誕生させ、育てる技術。このランクになると、後世広く名の知られる万夫不当の大英雄の作成すら可能となる。
スキルとして発揮した場合は、任意の相手に戦闘に纏わるスキルをE〜Aランクの習熟度でそのスキルを習得させる事が可能。
キャメロットが誇る騎士であるランスロットを育て上げたのは誰ならんこのキャスターである。但し、その教育はスパルタを旨とする。

妖精の加護:A+(EX)
妖精境からのバックアップ。危機的な状況に陥った際に妖精からの支援を受ける事が出来る。
後述の宝具を発動している場合には、そのランクはカッコ内の値へと修正される。

【宝具】

『天上楽土・瑠璃宮殿(ニニュー・ド・ヴォワルル)』
ランク:EX 種別:固有結界 レンジ:- 最大補足:-
キャスターが統治する妖精郷の一部、即ち、キャスターの拠点となるガラスの宮殿とその敷地を固有結界として展開させる宝具。
固有結界内は魔術に長け、戦闘にも造詣の深い数多の妖精達がひしめき合い、異物たる他のサーヴァントを排除しようと動き始める。
また、この宝具を発動している間はキャスターの妖精の加護スキルがEX相当にまで跳ね上がり、キャスターを害しようとするあらゆる攻撃現象を
時に遮断し、時に不可解な程大きく逸らさせ、時にそもそも初めから存在していなかったように消滅させてしまう。
ガラスで出来た宮殿内には、キャスターが戯れに作り上げた、エクスカリバーやアロンダイトと言った、凄まじい性能を誇る聖剣が何本も格納されており、
これを振ってキャスター自身が戦ったり、これらを釣る瓶打ちにして戦ったりと言う芸当も可能。
この固有結界は『巨大なガラスの宮殿を基点』とした世界であり、この宮殿を破壊されれば直ちにこの固有結界は消滅する。
だが、妖精文字でその強度を極限まで高めさせられた宮殿を破壊するのは、生半な対城宝具では不可能な程であり、最も現実的な手段としては、固有結界維持に必要な莫大な魔力の消費を逆手に取った、魔力切れしか事実上方法はないに等しい。

『永久なる愛の楽園(ウィッカーマン)』
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:1 最大補足:1
キャスターが花の魔術師を永遠に幽閉する為に編み上げた、他ならぬ花の魔術師から伝授された魔術を、自分の狂愛を以ってオリジナルに昇華させた大魔術。
その正体は、四方一mと言う超ミニマムサイズの理想郷(アヴァロン)。この宝具は、キャスターの視認している任意の四方一mの空間を、
現世から隔離された理想郷として設定。五つの魔法や神霊級の魔術をシャットアウトする究極の護りの空間として機能させる。
内部にいる限りあらゆる生命は、老化が停滞し、あらゆる傷が一瞬の内に癒え、如何なる呪いをも癒してしまう、まさに理想郷とも言える空間になる。
この宝具の弱点は、理想郷は一つしか作成出来ない事の一点であり、複数作成する事は不可能。

 宝具の中に己のマスターを入れ込む事で、絶対にマスターを護り通す究極の空間にさせる事も可能だが、この宝具の真の使い方は『幽閉』である。
この宝具は敵サーヴァントをも入れ込ませる事が可能であるのだが、この究極の護りは『外』のみならず『内』においても完璧。
つまり、この宝具に匹敵する神秘の宝具でなければ、この理想郷は破壊不可能であり『当該サーヴァントは永遠に其処に幽閉され続ける』。
この宝具の最も恐るべき点は、キャスターが聖杯戦争から退場しても、この『宝具は舞台に残り続ける』と言う一点。
理想郷に幽閉された敵サーヴァントは、戦闘も不可能の状態に強制的にさせられる為、事実上の退場扱いになり、魔力切れを以ってしか消滅出来なくなる。
今も花の魔術師であるマーリンを幽閉させ続ける、理想郷と言う名の牢獄。愛し、恋する男を逃さぬ為の、天国と言う名の地獄。


315 : 愛は定め、定めは罪 ◆z1xMaBakRA :2017/06/05(月) 01:01:08 588J0.os0

【Weapon】

エクスカリバー、及びアロンダイト等の聖剣:
固有結界から自在に取り出して、現実世界でも応戦する。
但し、本来の担い手であるアーサー王やランスロットのそれと比べれば、扱う技量は当然の事ながら、遥かに落ちる。

【解説】

ヴィヴィアン、と言う名前が厳密に彼女の真名であるのかどうかは解らない。
ヴィヴィエン、ヴィヴィアンヌ、ニニアン、ニムエ、エレインなど多数の名前が伝わっており、どれが本来の名前であるのかは不明。
だが、例え名前が多くとも、彼女がダム・ド・ラック(湖の貴婦人)と呼ばれる程の高位の妖精である事には代わりはない。
アーサー王伝説に曰く、ヴィヴィアンは彼のアーサー王にエクスカリバーを手渡した人物であり、また稀代の騎士であるランスロットを養育し、
武芸の何たるかを教授したとされる名コーチであったと言う記述がある。物語には彼女と思しき人物がサー・ベイリンに殺されたと言う記述があるが、
後々当たり前のように登場する所からも、恐らくはベイリンが殺したのは影武者だったか、書き手が疲れて眠ってしまって設定を忘れたかのどっちかだろう。
ヴィヴィアンはアーサー王のキャメロットを分裂させた原因の一人であると槍玉に上げられる事が多い。
と言うのも、キャメロットの参謀役であり、ヴィヴィアンの師匠である魔法使いマーリンを、己の世界に幽閉してしまったのである。
彼を閉じ込めた事が原因で、キャメロットの崩壊が加速して行くのは、最早言うまでもない事柄なのであった。
とは言え、元々気まぐれで、心変わりを起こしやすく、時には人に関わり益を与え、時には人間に悪戯をする妖精一族。
その中でも王とすら称されるヴィヴィアンを、アーサー王に起った悲劇の黒幕と称するのは酷であろう。人と妖精では、そもそも価値観も生き方も違うのであり、事実ヴィヴィアンは、エクスカリバーやアロンダイトを与えた事で、キャメロットの栄光を確かにした時期もあったのも、事実であるのだから。

 本来の性格は礼儀正しく、淑女の鑑とも言うべき女性であるが、根っこの所は流石に妖精である。
そもそもランスロットを育てたのは、彼の母親であるエレインがたまたまヴィヴィアンの湖で休んでいたから拉致した、と言うとんでもねー経緯がある。
ちなみに妖精伝説においては子供を攫って妖精の世界で育てると言うのは珍しい事ではなく、寧ろ普遍的な設定であり、これを『チェンジリング(取り替え子)』と呼ぶ。
拉致した理由も、『魔術で自分好みの青年になりそうだと解っていたから』、らしい。妖精らしい性格ではあるが、その一方でブリテンに根付く妖精の女王の側面もある。
アーサー王に関して言えば、本当にこの人物はブリテンにおいて比類なき国王となるだろうと言う期待を抱いていた為、惜しみなくエクスカリバーとその鞘を与えた。
この人物ならばブリテンを任せても問題ない、自分達妖精も楽しく暮らせるという打算があった為だが――偶然妖精境にマーリンがやって来たのが運のツキ。
ナンパ感覚で魔術を教えてくれたり、何だかんだあって一夜を共にする内に、ヴィヴィアンはマーリンにガチで惚れてしまう。
マーリンがキャメロットに於いてとても重要な役割を果たしていた魔術師であるとはヴィヴィアンも解っていた為、返すべきだとは思ってはいたが、
『アーサーにはエクスカリバーを渡してあるしカリスマも凄いし、私が育てたランスロットがいるのですから、マーリンがいなくても平気っしょ(笑)』と思う。
結果、ヴィヴィアンは己の妖精としての全ての力を用い、マーリンを幽閉してしまう。要するに、愛が行き過ぎて自分だけの物にしたかったのである。
……ちなみにヴィヴィアンが、マーリンがいなくても別段大丈夫と思っていたキャメロットが、ランスロットの不貞をきっかけに破滅の道を転がる事は、今更説明するまでもない事だろう。

 性格自体は気まぐれだが礼儀正しい淑女。が、マーリンが絡むと途端にヤンデレとしての側面を見せ始める。
私と一緒にいるのが彼にとって一番の幸せなのです、と大真面目にぐるぐる目で主張するし、毎日毎日欠かさずマーリンの下に通い数時間は会話するのだと言う。
だが同時に、マーリン程の魔術師ならば、自分の仕掛けた結界から容易に抜け出せる事をヴィヴィアンは知っており、
いつかマーリンが心変わりを起こして自分の世界から消えてしまうのではないか、と言う事だけが非常に気がかり(実際にはマーリンには抜け出す意思はない)。
その為、聖杯にかける願いは、『自分の生み出した結界を強固にし、星の命が尽きるまでマーリンが自分の世界から消えられないようにする』、と言うものである。


316 : 愛は定め、定めは罪 ◆z1xMaBakRA :2017/06/05(月) 01:01:24 588J0.os0

【特徴】

露出の少ない黒いモーニングドレスに、黒いトークハットを被る、水色の姫カットの美女。胸の方は、普通め

【聖杯にかける願い】

マーリンを閉じ込める結界を更に強固な物にする事




【マスター】

樹@幽☆遊☆白書

【マスターとしての願い】

仙水忍の魂の行方を知りたい

【weapon】

【能力・技能】

闇撫:
樹は人間ではなく、影ノ手と呼ばれる手段で次元を行き来し、其処に関わる下位妖怪を使役する闇撫と言う希少種族の妖怪である。
攻撃には一切向かず、防御寄りの妖怪で、これを用いて亜空間に潜航したり、相手を此処に幽閉させたりも出来る。
今回の聖杯戦争についても、問題なく亜空間に潜る事が出来るが、樹の元いた世界とは勝手が違うらしく、能力を使うと魔力を消費するようになっている。
ちなみに彼のペットである裏男は、桑原の次元刀で斬り殺され、使用が不可能となっている。

【人物背景】

影ノ手を用いて次元を自由に行き来し、次元に関わる下位の妖怪を使役できる『闇撫』の一族。
霊界探偵時代の仙水に一度殺されかけるも、ふと見せた人間くささに仙水が殺気をそがれた為、殺される事なく、それ以降、仙水のパートナーとなる。
変貌を遂げゆく仙水の様相を静観し続け、人間に仙水が見切りをつけた後も、終始彼の忠実な補佐を務める。
満足に死んだ仙水の亡骸を抱き、最期は亜空間へと二人で消えて行った。

【方針】

優勝狙い


317 : 愛は定め、定めは罪 ◆z1xMaBakRA :2017/06/05(月) 01:01:35 588J0.os0
投下を終了します


318 : ◆jpyJgxV.6A :2017/06/05(月) 03:05:17 H4v84AeA0
投下します


319 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2017/06/05(月) 03:06:27 H4v84AeA0

 その夜は美しい満月だった。
 月光は眠る冬木市を静かに照らし、全てを優しく包み込むように降り注ぐ。
 それは新都にある高層マンションの一室でも変わらなかった。最上階をまるまる一戸としたその部屋は、開け放たれたカーテンから射しこむ光にぼんやりと浮かぶ。
 もし部屋を訪れる者がいるならば、まずその異様さに目を剥くだろう。ところ狭しと並んだ本棚に、それこそいっぱいに本が詰まっているのだから。
 その様は前に立つ者を威圧するかのように荘厳で。よく見れば並ぶ背表紙の言語は日本語や英語、ラテン語など様々だ。
 そして本の壁を抜ければ、その先に待つ者に誰もが息を呑むだろう。まるでこの世のものとは思えない、あまりに美しい少女がそこにはいた。
 神の手を持つ人形師が全てを賭けて造り出したような、あまりに人間離れした顔。流れる銀髪は床を這い、月光を受けて神秘的に煌めく。
 床に直接座る少女を中心に、フリルをふんだんにあしらった真っ黒なドレスが広がって花開く。その周りを輪になって囲むのは広げられた5、6冊の本で、どれも一冊読むのに1日はかかりそうなものばかりだ。
 少女は重いものなど持ったこともないだろうかわいらしい指で、それらのページを次々と捲っていく。その手の甲にはあまりに不自然な、聖杯戦争の参加者たる証が刻まれていた。
 幼い外見に似合わないもう片方の手のパイプのせいか、白煙が月明かりに揺らぐ。まるでこの部屋だけ下界から切り離されてしまったような、夢幻と神秘に満ちた空間がそこにはあった。

「随分と遅かったな」

 不意に、静寂が破られた。およそ少女のものとは思えない、老婆のように嗄れた声。
 その先には誰もいない。否、虚空が一瞬揺らいだかと思うと少年が姿を現した。
 見た目だけならば少女よりもいくつか年上であろうか。フードを目深にかぶったその少年がその場に増えただけでぴん、と空気が張り詰める。
 爛々と獰猛な気色が覗く琥珀色の瞳。ズボンと呼べるかも怪しいぼろぼろな布を穿き、引き締まった身体には直接パーカーを羽織っている。
 不機嫌というには些か嫌厭を潜ませた眼差しを向ける彼こそが、少女――ヴィクトリカが引き当てたサーヴァントだった。

「言いつけは破ってねェ」

 吐き捨てるように少年が返す。その様子にまたか、とヴィクトリカは思った。このサーヴァントには少々悪食のきらいがある。とはいえその性質があったこそ、彼はこうしてアヴェンジャーとしてここに現界しているのだが。
 ヴィクトリカはアヴェンジャーに自由行動を許す代わりに、いくつかきつく言いつけている。その1つが食事についてだ。いなくなっても大事にならない独り身を選び、誰の目につかない場所で、骨も残さず喰らいつくせと。
 それはきっと非情な決断なのだろう。それでもヴィクトリカは、この戦いで勝ち抜くための駒を失うわけにはいかなかった。
 なんとしても帰らなければいけないのだ。身体に刻んだ、大切な人を待つべき場所へ。例えそのために、彼に侮蔑されるような行為に手を染めなくてはならないとしても。
 少し、胸が痛んだ気がした。


320 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2017/06/05(月) 03:07:45 H4v84AeA0

 黙っているヴィクトリカに痺れを切らしたのか、アヴェンジャーが再び口を開いた。

「街はいつも通りだ。サーヴァントの気配も感じられねェ」

 それを聞いたヴィクトリカがふん、と小さくかわいらしい鼻を鳴らす。言いつけには情報収集もあったのだが、これはヴィクトリカが召喚したときから空振りに終わっていた。
 おそらくまだ本番ではないのだろう、というのが共通の見解だった。冬木市を支配する嵐の前のような、ある種異様な静けさをどちらも敏感に感じとっていたのだ。
 それでもこうして律儀に報告してくるのだから、なんとも従順なことだろうかと思わず唸ってしまいそうになる。実際はその根幹には聖杯への渇望しかないことを知っていたから、そんなことは断じてしないのだが。

「随分と待たせるものだ。人を呼んでおいて、まだ準備が整っていないとはな」

「けどよォ、始まってもテメェはおとなしくしてろって言うんだろ?」

「そうだ。君は目立つと少し面倒だからな、序盤はできるだけ敵を作らないでおきたい」

 アヴェンジャーが性に合わない、とでも言いたげにアンバーの瞳で睨めつける。大の大人でも震え上がってしまいそうなその冷たい眼光を、ヴィクトリカは本から目を離さないままこともなげに受け流す。
 このような態度をとれるのは、彼が憎悪を向けるのは自分にだけではないと知っていたからだ。そもそも他の者がマスターであれば、召喚した時点で彼の不興を買って聖杯戦争は終わりを告げていただろう。
 そういった意味ではこのサーヴァントは、ヴィクトリカにとって当たりだったと言える。むしろアヴェンジャーにとってマスターが当たりだったと言うべきか。彼の特性はこの戦いをまともに勝ち残るには少々癖が強すぎた。
 もしかすると、とヴィクトリカは時々考える。ヴィクトリカが時間さえ超えて異邦の地に招かれ、この哀れな獣を召喚したのは最早必然だったのではないだろうかと。少なくともそう思わせるだけの強い縁を、ヴィクトリカは奥底で確かに感じていた。

「それは勝つためか?」

 振り絞るようなアヴェンジャーの声。まるで餌を前にして鎖に繋がれているような、強い焦燥と苛立ちを隠そうともしない。
 初めて、ヴィクトリカが顔を上げた。視線がぶつかっておよそ主従とは思えない緊張を生み出す。
 ヴィクトリカとて思いは同じだ。だから期待を裏切る答えも、知らず呻き声となって返る。

「当たり前だ。私達は絶対に、最後まで勝ち残る」

 沈黙。
 パイプから零れる白煙さえも動きを止めたかと思わせる、刹那とも永遠とも思える時間。

「……そうかよ」

 先に口を開いたのは従者の方だった。諦観のようで、しかし確かに勝利への意志を籠めた呟き。

「勝利に貪欲ならそれでいい。テメェがそう在り続ける限り、俺はなんでも聞いてやる」

 同じやり取りだった。数日前、主従が引き合わされた時と。
 違うことと言えば、彼がヴィクトリカを喰らおうとしていないことだろうか。あの時はアヴェンジャーがヴィクトリカを人間と認めるや否や、マスターと分かっていながらもその爪で引き裂こうとしたのだ。結局はその寸前で、アヴェンジャーがヴィクトリカの異常性に気が付いて事なきを得たのだが。
 それは彼が自分を同類と認めた証左でもあるが、まだ小さな仔狼はそのことに気がつかないふりをしていた。


321 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2017/06/05(月) 03:08:56 H4v84AeA0

 この主従は優勝という目的だけで成り立っている。令呪でさえアヴェンジャーを縛る鎖にはなりはしないとヴィクトリカは悟っていた。例え自害を命じようとしても、果たされる前にこちらも食いちぎられてしまうだろう。
 勝ちたい、願いを叶えたいのではない。勝たなければならない、願いを叶えなければならないのだ。その野望が一致しているから、この契約はどうにか形を成している。
 とはいえ普通のマスターであれば、その覚悟を通わす前にアヴェンジャーの復讐の糧になっていただろう。ひとえにヴィクトリカが仔狼――灰色狼の血を引く者だったからこそ成し得た主従関係だった。どうやら見境のない餓えた獣にも、同族を尊重する程度の分別はあるらしい。
 話は終わりだとばかりにアヴェンジャーが背を向ける。ほんの僅かにその輪郭が揺らいで、ふとヴィクトリカを振り返る。

「取り繕ってるつもりだろうがなァ、やっぱりテメェも獣だよ」

 その顔に浮かぶのは部屋に戻って来てから初めて見せた、どこか悲しげな笑みだった。それだけ言うと今度こそアヴェンジャーは姿を消した。おそらくは霊体化して屋上にでも行ったのだろう。今日は月もよく見える。
 また白煙が揺らぎだす。一人残された少女はふう、と大きく息をつく。少年がいた場所からは陰になっている幼い手が、ぎゅっと強く握られていた。
 彼を見ていると、どうにもかつての自分を見ているようで落ち着かない。親の欲望を満たすためだけに産み落とされ、全てを取り上げられてただ無為に日々を過ごすだけだった時の自分にどうにも重なってしまう。
 だがヴィクトリカは大切な出会いを得て、あの獣はたった一人で闘って果てた。近いものを感じるというのにどうしてこうも違ってしまったのか、その答えを見つけるのは彼への最大級の侮辱のような気がした。
 いつか異母兄に言われた言葉を思い出す。今なら彼の気持ちも少しだが分かる。きっと今ヴィクトリカがアヴェンジャーに抱くもどかしさは、あの男がかつてヴィクトリカに向けていたものと同じものだ。
 けれどアヴェンジャーはもう怨嗟に囚われてしまった。復讐の奔流となった彼とあの亡霊達は、もう慈しみを知ることは叶わないだろう。その前に相手を噛みちぎって飲み下してしまうだろうから。
 彼の復讐の先になにがあろうと、ヴィクトリカは興味がない。けれど自分もああなってしまっていたかもしれないのだろうかと思うと、知らず胸がきゅっと締め付けられる。

「――ぅ」

 小さく、届かない名前を呼ぶ。彼女の心臓でもある、大切なことを教えてくれた、なによりも愛しい人。
 二度目の嵐に引き裂かれて以来、片時も忘れたことなどない。もう一度逢うために多くの人の手を借りて、この時代より遥か昔の日本へとどうにか辿り着いた。あとは無事を祈って待つだけだったはずなのに。
 ただ逢いたかった。けれどあの東洋人はこの街にはいない。「知恵の泉」は時空を超えて帰る方法を教えてはくれない。
 だからヴィクトリカは優勝しなければならないのだ。勝って、あの場所へと戻らなければいけない。
 しかし、僅かな恐怖もあった。それがヴィクトリカを、勝利に向かってひたすらに走る四つ足にするのを寸でのところで押しとどめていた。
 あのアヴェンジャーがではない。血を血で洗う戦争がでもない。
 ただヴィクトリカは自身がなによりも恐ろしかった。あの復讐の獣に引っ張られて、かつての自分がまた現れてしまいそうで。
 もう獣には逆戻りしたくなかった。目的のために他の全てを駒として扱うような、冷徹にして非情な獣には。
 再び獣へと戻ってしまったヴィクトリカをあの愛しい人は受け入れてくれるだろうか、それが少女は不安で仕方がないのだ。

「――それでも私は、帰らなければいけないのだ」

 言い聞かせるように呟く。数秒、目を瞑る。宝石のような碧眼は迷いなど初めからないかの如く澄み渡っていた。
 ふとその青水晶が1枚のカードを映して留まった。正義や法を司ると言われる、天秤座を刻んだものだ。
 ああ、やはり必然だったのだろうとヴィクトリカは思う。天秤座に割り当てられた亡者は、かのローマ神話における復讐の女神なのだから。


322 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2017/06/05(月) 03:10:24 H4v84AeA0

【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
ギシンゲの狼

【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
復讐者:A
 復讐者として、人の怨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。怨み・怨念が貯まりやすい。
 周囲から敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。
 人々に恐れられ、虐げられた獣達の憤怒の表れ。

忘却補正:EX
 人は恐れを喪えば忘れる生き物だが、獣の執念は決して衰えない。
 忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、獣の恐怖を忘れた者に痛烈な打撃を与える。

自己回復(魔力):C
 復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。

【保有スキル】
複合獣性:A
 アヴェンジャーは怒りに打ち震える狼の群れであり、また個でもある。
 その内に蓄積された経験と本能はただ、人に剥くためだけに磨き上げられた。
 Aランク相当の直感、怪力、勇猛を得る。

精神汚染:B
 見た目こそ人の形をとっているが、その精神性はどうしようもなく野獣そのものである。他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
 人ならざる者、特に自身と近い獣性を持つ者でなければ意思疎通が成立しない。
 会話自体は可能だが、相手が人間であればマスターであろうとアヴェンジャーの餌食となるだろう。
 アヴェンジャーは人間を信用することはなく、ただ己の恩讐のためだけに吼える。

半人半獣:A
 人と狼、両方の因子を持つ「ギシンゲの狼」としてのスキル。
 見た目は人間だが体の一部は異形である。狼の耳と尻尾を持つ。鋭い牙は動物の骨さえ容易く嚙み砕き、研がれた爪はどんな名刀にも劣らない。
 聴覚や嗅覚は獣のそれと同等。どんな音も残り香も、アヴェンジャーは見逃さない。


323 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2017/06/05(月) 03:11:28 H4v84AeA0

【宝具】
『凶暴兇狼狂想曲(ゾーンデアヴォルフ)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:2〜99 最大捕捉:99人
 アヴェンジャーの霊基を構成する、復讐に駆られた名もなき狼達を召喚する。
 人を憎む怒れる獣は一旦敵を認めれば、どちらかが息絶えるまで執拗に追い回し、骨すら残さず喰らいつくす。
 その数はこれまで人に狩られた数に等しく、魔力切れでも起こさない限り際限なく湧き続ける。
 喚び出される種族も多岐に渡り、大狼から人狼まで、人に虐げられた歴史と逸話を持つならば彼らは喜々として仇の肉を喰らうだろう。
 ただし膨らんだ憤怒はアヴェンジャー自身にも制御しきれず、眼前から全ての敵が失せるまで解除することはできない。

『狼は奔る前に満月に吠える(ウンターデムヴォルモンド)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
 人喰い狼として人々に恐れられ、歪められた獣達の在り方が宝具として昇華されたもの。無辜の怪物に近い性質で、常時発動型。
 人を喰らう、すなわち魂喰いで得られる魔力量が大きく増え、一時的にステータスが上昇する。また常に人型特効が付与される。
 デメリットとして、定期的に魂喰いを行わなければBランク相当の凶化が付与されてしまい、人を喰らう以外のことを考えられなくなってしまう。これは魂食いによって解除される。

【人物背景】
 1817年、スウェーデンに子狼を柵の中で飼育していた人物がいた。この狼は逃げ出し、1820年12月30日から翌年の3月27日にかけて31人を襲い、内12人の命を奪った。
 犠牲者のほとんどは子供。遺体には部分的に食べられた形跡があったことから、人喰いとして恐れられた獣。それがギシンゲの狼である。
 その正体は、とある物好きな魔術師によって生み出された、人間と狼を掛け合わせたホムンクルス。監禁され家畜以下の扱いを受けていたところを逃走し、残虐な事件を引き起こすに至った。
 彼が人、特に子供を狙って襲ったのは飢えを満たすためだけではない。本人には自覚がないが、囚われ虐げられていた自分とは違い、外で親の愛を一身に受けて育つ彼らへの嫉妬がそこにはあった。
 そしてそれらを上回ったのが、自身を造った魔術師への復讐心である。己の欲望のためだけに造り、挙句物のように扱った魔術師を彼は決して赦しはしないと決意。
 人を喰らって力を得た彼は怨敵を殺すべく動き出すが、事態を重く見た地元の魔術組織が先んじて討伐隊を派遣。復讐を遂げることなく狩られることとなった。

 このアヴェンジャーは正当な英霊ではなく、人に殺された獣の怨みが概念として昇華されたものである。
 彼らの狩りは草食動物の数の調整、すなわち生態系の維持に繋がっていた。しかし人間の生活圏の拡大、家畜への被害によって人による狼駆除が活発になっていく。
 こうして殺された名もなき獣達の集合体がアヴェンジャーであり、その表層がギシンゲの狼。怨嗟が積み重なり、ようやく現界に値する霊基を得た。
 現界においては、マスターが最も恐ろしいと思う狼がその表層となって表れる。フェンリルや人狼のような有名どころの場合が多く、ギシンゲの狼としての現界は非常に稀なケース。

【特徴】
 目付きの鋭い少年。膝丈までのゆったりとしたぼろぼろのズボン。素肌に直接黒のパーカーを羽織り、フードを深くかぶっている。
 長く手入れしていない肩までの灰褐色の髪に琥珀色の瞳。狼の耳と尻尾を持つがマスターの指示で隠している。

【聖杯にかける願い】
 自分を産んだ魔術師をこの手で殺す。


324 : 愛知らぬ哀しき獣よ ◆jpyJgxV.6A :2017/06/05(月) 03:12:27 H4v84AeA0

【マスター】
ヴィクトリカ・ド・ブロワ@GOSICK

【能力・技能】
 非常に頭脳明晰で知識が豊富。他人が集めた情報だけで事件の全貌を推理してしまう、いわゆる安楽椅子探偵。
 曰く、「混沌(カオス)の欠片」を溢れる「知恵の泉」が再構成するらしい。
 妖精か人形かと見紛うほどに美しい容姿の持ち主でもある。

【人物背景】
 身の丈ほどもある銀の髪に碧い瞳の、いつもフリルがたくさんのゴスロリを着ている少女。外見にそぐわない、老婆のような嗄れた声で話す。
 ヨーロッパはソヴュール王国の生まれで、名門である聖マルグリット学園に生徒として住んでいた。
 「灰色狼」の一族であるコルデリカ・ギャロの娘。その力を求めたブロワ侯爵に「オカルト兵器」として生み出される。
 幼少期は屋敷の塔に一人軟禁される。学園に移されてからも基本的に外出は許されず、授業にも出なかったため孤独な日々を送っていた。
 初めてにして唯一の友人と出会い、彼との絆を育んでいくが第二次世界大戦の勃発に伴い離れ離れになってしまう。
 ブロワ侯爵によって監獄に収監され、薬物投与によってその頭脳を利用されていたが母が身代わりになる形で逃亡。
 自らの体に入れ墨した彼の住所を頼りに日本へと辿り着き、彼の姉とともに彼の帰りを待つ。
 参戦時期は原作8巻後半、日本に渡り瑠璃の元に辿り着いてから。

【マスターとしての願い】
 なし。さっさと帰りたい。

【方針】
 優勝狙い。アヴェンジャーが情報を集めてヴィクトリカが推理。勝機があれば戦闘に臨む。


325 : ◆jpyJgxV.6A :2017/06/05(月) 03:13:50 H4v84AeA0
投下終了します
一部文字化けしてしまったので、wikiの方で修正しておきます


326 : ◆A2923OYYmQ :2017/06/05(月) 22:02:57 OTxG.Onw0
拙作 地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なるものよ!!を宝具 真の騎士は得物を選ばず(アロンダイト)他を修正してwikiに収録しました


327 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/07(水) 00:35:23 hBS4KfrI0
感想はまた刻み刻みで行いますので、お待たせする形になりますが、後続の書き手様はもう少々お待ちください(遅筆)

OP3を投下します。さしあたって、OPはこれで最後になります


328 : •The Time Has Come ◆z1xMaBakRA :2017/06/07(水) 00:36:00 hBS4KfrI0

「俺みたいな由緒正しいクラシックな商人にとってのかき入れ時、つまり、繁忙期って奴はこれで終えたって訳だ」

 およそ元の生物が何であるのか理解が出来なくなる程崩された、デフォルメのへたくそなカエルの仮面を被った、黒髪の男が言った。
ハートのマークが刺しゅうされた白いセーター、緑色の長ズボン。そして、黒色のショートカット。
体格と服装だけを見れば、何処にでもいる普通の男であった。ただ、被った仮面で表情を隠されている事が、彼の神秘性、と言うものをより駆り立てる。
手元でカードを弄ぶ青年は、数m隔てた先で、不機嫌そうな表情と雰囲気を隠しもしない男を、仕方がなさそうに見つめている。仮面の奥では、苦笑いが浮かべられているのだろうか。

「すまなかったな、キャスターの旦那。アンタには随分と速く書け速く書けってケツ叩き過ぎちまった。後は、パブロの奴が上手くやるまで、俺達も休もうや」

 カエルの仮面の男から、キャスターと呼ばれた、シャドーストライプの柄が見事なベージュのスーツに、ストライプのネクタイを巻いた、
紳士然とした黒髪の男性は、やはり、緘黙を貫いている。目の前の男とは、話す事など何もない、とでも言う風に。

「おいおい、そこまでご機嫌斜めかい、先生。そりゃあ、確かに、この数日間はアンタにキツい労働を強要させたかもしれないが、その分の休息は――」

「物書きの俺に、執筆以外の労働をさせた事もそうだ。魔力が回復すると言う、馬鹿みたいに不味い肉を振る舞った事もそうだ」

 外見に違わぬ、ヒステリックな声音。お気楽そうな、カエルの仮面の男とはあらゆる点で正反対の性格らしい。
紳士の声を受け、「あー……」と、歯切れの悪い言葉を漏らすカエル仮面。思い当たるフシが、あるようだった。

「あの肉は確かに、味の方はバッドでな。悪かった、次からは塩胡椒を用意しておく――」

「だが、俺が本当に気に喰わないのはな、マスター」

 ジロリ、と言うオノマトペでもつきそうな、鋭い瞳で仮面を射抜くキャスター。それに、仮面の男は動じる素振りも見せなかった。

「俺を、こんな戯けたイベントに呼び寄せた事だ」

「聖杯戦争の事か?」

「それ以外に、何があると言う」

 馬鹿を蔑むような瞳で、キャスターは更に言葉を続ける。

「俺の生涯は、啓蒙と警鐘の為に動き回る人生だった。時に筆を取り、時に辞書を作り、時に科学に手を伸ばし、時に予言をして見たり。色々な事に手を伸ばし、俺は、一つの解を得た」

「へぇ!! 偉大なる先生の辿り着いた解だ!! 気にならない訳がない、是非教えて欲しいな。ホラ、このSSの前の読者も気になってるぜ!!」

「――宇宙は、人に飽いたと言う事だ」 

 楽しげな空気を発散させていた、カエルの仮面の男から、その空気が消えた。仮面の奥の表情を、窺う事は出来ない。

「神は死に、神を産む宇宙も、既に人を見放している。何らの加護も与えない。後は、そう、運命の河を崩壊と苦痛、死に向かって流されるだけでしかない」

 紳士の目線だけは、ずっと、カエルの仮面の方を睨めつけていた。

「意志の強い努力がなくば、人は、怪蛇の流れに呑み込まれ、破滅に向かうだけ。俺は、それを散々主張して来た筈なのに、あの死者を出す力だけは一丁前の大戦は二度も起きた。原子爆弾は二度も落とされたばかりか、奴らは反省もしないで今もポンポン同じ爆弾を作る始末。俺が人生を賭して主張して来た事は、届いてなんかなかったんだ」

 捨鉢ではあるが、何処か強い意思が秘められ、何処か哀しげな声音だった。
自分の人生は無駄ではなかったと思う一方で、何の意味もなかったところが確かにあった。そうと認めざるを得ない男だけが発せられる、悲痛な声。
キャスターの瞳には、確かなる怒りと、哀切、そして、諦観が渦巻いている事を、仮面の男は見逃さなかった。


329 : •The Time Has Come ◆z1xMaBakRA :2017/06/07(水) 00:36:12 hBS4KfrI0
「俺は人に期待していない。破滅の坂を、好きなように転がっちまえば良い。その様子を座とか言う下らん席で眺めているつもりだったのに……貴様は、俺を呼び出して、聖杯戦争の片棒を担がせようとする」

「不服かい?」

「悪事の片棒を担がせようとする事もそうだ。だがそれ以上に、俺に再び希望を見せようとするお前の性根に腹が立つ」

「希望。ホープ、か。本当にそう思うか?」

「お前は意図的に、聖杯戦争にも乗らなそうな奴にも、そのカードを配っただろう」

 言ってキャスターは、カエルの仮面の男が弄っている、十二星座の刻印されたカードを注視する。
仮面の男と紳士のキャスターは、キャスターの宝具の力を以って、この不思議のカードをありとあらゆる世界にバラ撒いて来たのである。
仮面の言った、繁忙期、と言うのは正に、このカードをアトランダムに鏤める作業に他ならなかった。

「下らん配慮はよせ。人を見棄てたこの俺に、人の温かさを見せようと世話を焼いたのだろうが、その手には乗らん。人は何処までも、闘争と破滅を愛し、自滅に魅入られた生き物だぞ」

「かもな」

 仮面を抑え、男は言った。

「キャスターの言う通り、人類って奴は何処までも愚かで、放っておいても自滅しちまう生物なのかも知れない。だが、そんな性分の奴が『全て』じゃない」

「全体の一割しかいないのかも知れないぞ」

「全部がそうだ、と断言しないんだな。キャスター」

 そこで、ピクッ、と紳士は反応した。

「アンタの悲観する様な人間の方が、きっとこの世界には多いのかも知れない。だが、そうじゃない本質の人間が、一割でもいる。それだけで、この世界は救われる余地があるってモンじゃないのかな?」

「……」

「多分アンタも、心の何処かでそうと信じていたからこそ、パブロの御遣いにあくせくする俺を手伝ってくれたんだろ? 推測だが、アンタは心の何処かじゃ、人間は今でも、やり直せるって信じてる。そうだろ、キャスター?」

 そこで仮面の男は、己の背後に目線を送る。
非常に大きいスケールをした、精巧な光る金属の枠に収められた、象牙と透き通る水晶体、そして、ニッケルで構成されたマシーンであった。
凄まじく精緻な構造をした、用途も何も皆目見当がつかないその何かは、一目見ただけでは、機械は機械でも、大英博物館辺りに丁重に保管されている、
国宝、或いは重要文化財としか思えない、過去に何かに使われたがその使い道が想像出来ない、美術品に足を踏み入れている何かとしか思えない。
二人は、このマシン(宝具)を使って、時を超え、世界を超え、あらゆる世界に十二星座のカードをばら撒いて見せた。
使うだけで尋常ではない魔力を消費するこれを、カエルの男の持っているアイテムで無理やり魔力回復させ、何度も何度も使用して見せたのである。

「……本当に、そう思うか?」

「ん〜……まぁ、な」

 後頭部を掻きながら、カエルの仮面の男が言った。

「お前に現実って奴を教えてやる為さ。若きマスターくん」

 皮肉っぽく、そのキャスターは言った。
それが照れ隠しである事は、彼のマスターだけではない、誰の目から見ても明白な事だった。このキャスターも、そしてマスターも。人の善性、と言うものを心の何処かで信じたがっている男達なのであった。


330 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/07(水) 00:36:41 hBS4KfrI0
投下を終了します。引き続きのご投下を、お待ちしております


331 : ◆nY83NDm51E :2017/06/12(月) 00:05:12 OmrnbK8E0
投下します。


332 : God Save The Queen ◆nY83NDm51E :2017/06/12(月) 00:07:13 OmrnbK8E0

夜。自分の部屋で頭を抱え、その少年は悩んでいた。甚だ悩んでいた。

金髪をオールバックにし、眉毛はなく、カミソリのように鋭い目つき。長ランにボンタン。明らかに不良だ。
ケンカをすれば、相手が大人数でない限り負け知らずの彼であったが、今回の事態はそういう次元の話ではない。
聖杯戦争。英霊を使役して殺し合い、何でも願いを叶えてくれる聖杯を獲得するための魔術的闘争である。
魔術師でもない彼に降り掛かった突然の理不尽。絶望し、悩み苦しむのも当然だ。その上、彼の悩みはそれだけではなかった。


なんてこった・・・・オレみてーなただの不良が、こんな妙なことに巻き込まれちまうなんて・・・・
魔術だの英霊だの聖杯だの、漫画やゲームじゃねーんだぞ・・・・ふざけやがって・・・・!
なんで教室でダチとトランプしてただけで、こんな目に合わなきゃならねえんだ――――

クソ、頭痛と腹痛がしてきた・・・・つうか、さっき晩メシ食ったばっかりなのに、もう腹が減ってきた・・・・
あいつが勝手に魔力を吸い上げやがるせいだ・・・・あれ以来完全に引きこもっちまって、何度呼んでも出てきやがらねえ――――

まさか、あんな横暴な奴に振り回される羽目になろうとは・・・・だが逆らうわけにもいかねえ・・・・助けも呼べねえし・・・・
令呪ってのを使えば、あいつを無理やり従わせられるらしいが、回数制限もあるし、そうめったに使うわけにもいかねえか・・・・
ああチクショー、やっぱりあいつを呼び続けるしかねえのか――――まさか着信拒否してんじゃねえだろうな・・・・!?


彼、『前田彰(まえだ・あきら)』は、我が身の不幸を激しく呪った。
聖杯戦争の主催者を、あのサーヴァントを呼び出してしまった自分を、それを一瞬でも喜んだ自分を、ぶん殴りたいほどに。


333 : God Save The Queen ◆nY83NDm51E :2017/06/12(月) 00:09:18 OmrnbK8E0



あの時・・・・つい数時間前、サーヴァントが眼前に出現した時。前田は酷く困惑し、驚いた。
その英霊は、目の覚めるような美少女だったからだ。

黒髪で小柄、東洋系の顔立ち。額や目元や唇には紅。神々しい雰囲気を纏い、巫女風の衣装に身を包んでいる。外見年齢はローティーンか。
母や姉はともかく、周囲に女っ気のろくに無い環境で生きてきた硬派な彼にとっては、貴重な出会いだ。絵柄、もとい世界が完全に別物だ。
とは言え、彼は別段ロリコンというわけではない。英霊というのは昔の英雄の霊だそうだし、見た目はこんなのでも実年齢や精神年齢は自分より上だろう。
そもそもこいつは、こんななりで他の奴らと戦えるのか。不安を表情ににじませ、多少の期待をしつつ、前田は彼女の前に身構えた。

「問おう。汝がわらわのマスターか」

静かで穏やかな、鈴を鳴らすような、少女らしい声音だが、口調は随分と古風だ。やはり、見かけ通りの存在ではなさそうだ。

「お、おう! オレの名は前田彰! アダ名は『カミソリ・・・・』」
「いや、それはよい」

意気込んでアダ名を名乗ろうとした途端に機先を制せられ、前田は少しつんのめった。
早速イニシアチブを取られてしまっている。そして、彼女は厳かに名乗った。

「わらわのクラスは、キャスター(魔術師)。真名は『卑弥呼』なり」

前田は目を見開く。その名は、不良でバカな自分でも知っている。少なくとも、テレビとかで聞いたことはある。
「ひ・・・・ひみこ!? ちょっと待てよ、オレは詳しくは知らねえが、確か、昔の日本の女王様だろ!?」

彼の言葉に、彼女は莞爾と微笑んだ。
「左様。見かけによらず、よう知っておったな。いかにも、わらわは千八百年の昔、倭の女王であった」

とんでもない有名人、しかもやんごとない人物を呼んでしまった。心臓の鼓動が早まり、呼吸が増え、前田は思わず掌で口を押さえる。
自分のような人間には、なんとも釣り合わない存在だ。どう接すれば良いのか、見当もつかない。


334 : God Save The Queen ◆nY83NDm51E :2017/06/12(月) 00:11:16 OmrnbK8E0

「で、汝は聖杯を得て、なんとする」

そう問われ、前田は眉をひそめる。答えはとうに決まっているが、どう話すか。
一応、自分は彼女のマスターだ。姿かたちはガキであるし、こいつにナメられるわけにはいかない。やむなく敬語ではなくタメ口でいくことにした。

「そりゃ・・・・元の世界に帰りてえよ。ケンカはお手のモンだが、ガチで殺し合えってのは流石に・・・・
 殴り合いならともかく、魔法だか魔術だかなんて専門外だしよ・・・・他人をブッ殺してまで叶えたいほどの強烈な望みなんてねえぞ」

常識的な答えだ。彼は魔術師でもなんでもなく、純粋に巻き込まれただけの一般人なのだから。

「ふふ、欲のないことよの。わらわとて、今さら現世に未練もなし。様相を変えつつも、ヤマトを中心とする国の形が今も残っておるとは嬉しい限りじゃ」
「じゃあ、どうすんだ。オレは死にたくねえし、殺したくもねえし・・・・」

それならば、このキャスターが護ってやらねばなるまい。護りの力こそ彼女の領分だ。

「簡単なことよ。戦わねばよい。他の奴らが殺し合っておるのを、我らは引きこもって傍観しておればよいのだ」
「・・・・え?」
さらっと妙なことを言われ、前田の思考回路が一瞬止まる。

「最後に誰かが生き残れば、そやつをなんとかして倒す。それで優勝であろう?」
「え・・・・でもそれって、一番強い奴が生き残ってる、ってことじゃ・・・・」
「そやつも無傷ではあるまいよ。魔力と体力を蓄積し、温存させておいたわらわが全力でかかれば、倒せぬ相手ではない。
 ここは仮にもわらわの国じゃぞ。大概の神々は知り合いじゃし、地脈からは充分な魔力を引き出せるのじゃ。
 生還だけを望む善良な連中がおれば、そやつらと手を組むのもやぶさかではないがのう・・・・」

前田は腕を組み、首をかしげる。確かに考えてみれば、理には叶っている。別にこれは、互いのメンツを賭けた不良同士のケンカではないのだ。
魔術師というなら、こいつは自分が知っているぐらい有名な、すげえ奴なのだろうし。とは言え、感情的にどうにも納得はしにくい。

「り、理屈では分かるがよ・・・・引きこもるって・・・・なんか情けねえなあ・・・・
 オレはもうちょっとこう、弱いやつを助けてハデに戦うとか、そういうのを想定してたんだが・・・・」
「命あっての物種じゃぞ。それに、わらわが無事であれば、汝も無事であるという能力を持っておる。大船に乗ったつもりで任せておけい。
 わらわは引きこもることにかけてはうるさいのじゃ。人前にみだりに姿を見せては、諸国を纏める神秘性が薄れるではないか」

キャスターは腰に手を当ててふんぞり返る。それは誇っていいのか。前田はツッコミを入れるべきか迷った。


335 : God Save The Queen ◆nY83NDm51E :2017/06/12(月) 00:13:49 OmrnbK8E0

沈黙を肯定と受け取り、キャスターはさくさくと話を進めていく。

「この家を拠点としてもよいが、ちとむさ苦しいのう。このあたりに神社はないか」
「はあ・・・・そういえば近くの裏山に、小さいお稲荷様があったような」
「よし、案内せい。早う」

外は休日の穏やかな昼下がり。今のところ誰かが戦っている様子はない。前田は霊体化したキャスターを連れて裏山へ向かった。
神社につくと、キャスターは表の看板を一瞥し、ズカズカと境内へ、本殿へと乗り込んでいく。前田は後を追う。神主はいないようだ。

「おう、邪魔するぞ。ちと軒先と母屋を貸せい」
『な、なんですかあなた、急に押しかけて来て・・・・!?』

本殿の中では、痩せて目の細い中年女性が寝転んで雑誌を読んでいた。巫女っぽい服装だが、体は半透明。
どうやら彼女がここの祭神、つまり「お稲荷様」らしい。キャスターは彼女との交渉に入る。

「知らぬ仲でもあるまい。わらわは卑弥呼じゃ。わらわの姿は後世に投影されて、天照大神の原型となっておるのではないか。
 祭神を記した看板を見れば、汝の名はトヨウケビメ。天照大神の食事の世話をする神じゃぞ。おとなしゅうわらわをもてなすがよい」
『いや・・・・分霊っていうか暖簾分けっていうか、私ここの地主神のキツネの霊でして、そんな大それたものでは・・・・』
「堅いことを申すな。地主神なら、ここの地脈の管理権もよこせ。里に降りて弁当と酒と桃を買ってこい。代金は立て替えておけ」
『そんな横暴な・・・・!?』

ズケズケと図々しい要求を言い立てられ、お稲荷様は困惑する一方だ。前田はキャスターを止めたものかどうしたものか迷っている。
そうこうするうち、キャスターが懐からなにかを取り出し、お稲荷さんの頭頂部にポンと押した。

『ううッ・・・・!?』

途端にお稲荷様の目つきがおかしくなり、現代風の服装に着替えて、ふらふらと出て行った。

「すげえ・・・・神様をパシらせてる・・・・!?」
「これが『鬼道』じゃ!」
「き・・・・『キドー』!?」

霊的存在(鬼神)に「依頼」して様々な奇跡を起こさせる、キャスターのスキルだ。宝具である金印の魔力も加わっている。
鬼道を以って倭の諸国を纏め上げた彼女にとって、地主神に言うことを聞かせるぐらいのことは朝飯前である。


336 : God Save The Queen ◆nY83NDm51E :2017/06/12(月) 00:15:29 OmrnbK8E0

十数分後。境内を細い注連縄で囲んでいた二人のもとに、お稲荷様がスーパーの袋を提げて戻ってきた。

『卑弥呼様、お命じの物を調達して参りました・・・・』
「おう、ご苦労。注連縄もよし、と。では、わらわが地脈を操作して結界を張り、ここを誰にも見つからぬようにしてやる。
 前田よ、汝はこの鏡を持って帰り、神棚に祀っておけ。わらわとの通信用じゃ。戦わずに普段の生活を送り、何かあれば知らせよ」
「あ、ああ・・・・」

言われるまま、前田は山を降り、自宅に帰った。そして手渡された銅鏡を神棚に安置したのだが――――



現在。念話が通じないどころか、鏡にいくら呼びかけても応答がない。直接神社に行こうとしたが、辿り着けない。地図からも消えている。
このままでは、魔力を吸い尽くされて死ぬかもしれない。前田は必死に、鏡に呼びかけ続けた。

「オイ、聞いてんのか!? オレ一応お前のマスターだぞ!? オレが死んだらお前も・・・・!?」
『五月蝿いのう、聞こえておるわ。みだりに話しかけてくるでない。いま遣いをやったゆえ待っておれ』

ようやく鏡にキャスターが映った。彼女の返事と同時に、部屋のフスマが開かれ、どやどやと何人もの男たちが入ってきた。

「お待たせいたしました、前田様――――魔力補給のためのお食事をお持ちしました」

『すまんすまん、地脈と接続するのに、ちと時間と魔力が要ってな。以後は地脈から魔力を吸えるゆえ、汝の負担は軽うなろう。
 こやつらは地脈に眠る記憶から呼び出した地霊じゃ。汝の世話と護衛はこやつらに任せる。従者(サーヴァント)として使うがよい』

彼らの手には、土器の皿に載せられた桃。とりあえず食べてみると、ひとまず空腹はおさまったようだ。
だが、前田には気になってしょうがないことがある。この地霊たちに関してだ。

「どうかなさいましたか?」
「な・・・・なあ、ちょっとあんたらの名前を聞きたいんだが・・・・」

「僕は神山毘古」
「林田毘古」
「北斗毘古」
「メカ沢毘古」
「マスクド竹之内毘古」
「・・・・」
「んゴ」
「で、オレの名前は・・・・」

「――――――――いつものメンバーじゃねえか・・・・」

★勝手にしやがれ!!


337 : God Save The Queen ◆nY83NDm51E :2017/06/12(月) 00:17:21 OmrnbK8E0

【クラス】
キャスター

【真名】
卑弥呼@史実(魏志倭人伝)

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A+ 幸運A 宝具EX

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。「工房」を上回る「神殿」を形成する事が可能。

道具作成:C
魔力を帯びた器具を作成できる。糸繰りや機織り程度ならやるが、本人にやる気がないので手下を使う。
己の神殿に付属して工房を設置し、工人の霊を使役して銅鏡などを作らせることができる。

【保有スキル】
皇祖皇宗:B+
長く続いた王朝の神祖か、それに準ずる存在たる「現人神」としての威光。カリスマと神性の複合スキル。
天照大神のモデルであるとする説がある他、三輪山の大物主神を祀った倭迹迹日百襲媛命のことではないかともいう。
舞台が(仮にも)日本である場合は効果が強まり、日本人や日本の英霊・鬼神に対する交渉にボーナスがつく。

鬼道:A+
周囲に存在する霊的存在に対し、依頼という形で働きかけることにより、様々な奇跡を行使できる。
行使される奇跡の規模に関わらず、消費する魔力は霊的存在への干渉に要するもののみである。
高い「神性」を持つキャスターは、依頼という形式でありながら、霊的存在への働きかけは極めて高い成功率を誇る。

護国の巫王:A+
あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を“自らの領土”とする。
この領土内の戦闘において、領主である卑弥呼は高い戦闘力のボーナスを獲得できる。ただし彼女が戦うことはめったにない。
『虚空見津邪馬臺國』は、このスキルで形成した領土内においてのみ、行使可能な宝具である。

専守防衛:A
自己保存の逆。自身にまるで戦闘力がない代わりに、キャスターが無事な限り、マスターは殆どの危機から逃れることができる。
自陣防御のスキルも混合されており、味方の陣営(マスター)を守護する際に、防御限界値以上のダメージを軽減する。
キャスターは基本的に戦えないが、マスターが自分で戦う場合や、味方につけた霊、同盟者などを使って攻撃するぶんには問題ない。


338 : God Save The Queen ◆nY83NDm51E :2017/06/12(月) 00:19:26 OmrnbK8E0

【宝具】
『三角縁神獣鏡(ますみのかがみ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:540

魏から賜った大量の銅鏡。数百枚あり、複製も可能。キャスターの意のままに浮遊・飛行し、鏡面を介して情報を瞬時に伝達する。
幻影や破魔の光を放つことも可能で、大量に集まって放てば結構な威力。フリスビーのように物理的にぶつけることも出来る。

『■■倭王金印(やまとのおほきみのこがねのみしるし)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:30

魏の明帝曹叡から賜った「親魏倭王」の金印。蛇紐で紫綬。ただし魏が滅んだため「親魏」の文字が削り取られている。
この印を押した対象に魔力を送り込んでキャスターの所有物とし、意のままに操ることができる。朱肉がなくても押せる。
実物は所在不明だが、多分晋が魏に代わった時に回収され、「親晋倭王」の金印紫綬と交換されたのであろう。
投げてぶつければ結構痛い。なお、鬼道から発展した道教では、鏡・剣・印・符が主な法具として用いられる。

『虚空見津邪馬臺國(そらみつやまとのくに)』
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:? 最大捕捉:?

いわゆる「邪馬台国論争」の逸話に基づく宝具。地脈を利用した結界を張り、居場所を誰にも感づかれなくする。
何者かがいることを察知して突き止めようとしても、距離・時間・方向などの概念を歪め、とんでもない場所へ向かわせる。
術中に深くハマると、絶対そこにいるのだと心の底から信じ込んでしまい、誰が説得しても聞き従おうとしない。
認識のみならず「到達までの概念」を必ず歪めるので、意志なき存在だろうが次元や時空間を移動する手段を持っていようが、辿り着くことは不可能。
無差別な範囲攻撃に晒されて、外から見れば焦土と化そうが、結界内は無傷である。ただし、マスターをこの中に入れることはできない。
スキル「護国の巫王」で形成した領土内においてのみ行使可能。実際は司馬懿が功績を誇り孫呉を牽制するためにフカシこいただけであろう。

【Weapon】
なし。銅鏡を念力で投げつけたり光らせたり、パシらせている霊的存在たちをけしかけたりはできる。
遼東公孫氏から贈与されたと思しき「中平銘紀年鉄刀」(のコピー)を持ち込んでいるが、完全に錆び朽ちており役に立たない。

【人物背景】
陳寿『三国志』魏志の烏丸鮮卑東夷伝の倭人条、いわゆる「魏志倭人伝」に見える倭の女王。
奈良盆地東南部、三輪山の麓の邪馬臺(やまと)に都を置き、北部九州から山陰・山陽・四国・近畿一円に及ぶ倭人の約三十カ国十五万余戸に君臨した。
「鬼道につかえて衆をよく惑わした」といい、宗教的な権威によって倭人諸国の盟主として仰がれていたようである。
当初は楽浪郡を掌握し帯方郡を設置した遼東公孫氏と友好関係にあったが、238年司馬懿が公孫氏を滅ぼす直前に魏へ鞍替えし、「親魏倭王」の金印を賜った。
247年頃、半世紀以上の在位ののち逝去し、巨大墳墓に埋葬された。男王が立ったが諸国は従わず、卑弥呼の一族の娘を女王に立てると収まったという。
記紀に彼女の名はないが、『日本書紀』では神功皇后の記事に魏志倭人伝が断片的に引用されている。また天照大神や倭迹迹日百襲媛命と同一視する説がある。
純粋な魔術師というより、祭祀によって国を治めた「王」としての側面が強い。シールダー、ルーラーとしての適性も持つ。前者の場合、当然銅鏡が盾になる。

【サーヴァントとしての願い】
帰って寝たい。

【方針】
ガチガチに防御結界を張って引きこもり、外界にはなるべく手出ししない。マスターが助けを乞うなら、ある程度の助力は与える。
生還だけを目的とする善良な主従がいれば、銅鏡を授けるなど手助けをしてやるにやぶさかではないが、結界の中には断じて入れない。特に男は。

【カードの星座】
乙女座。


339 : God Save The Queen ◆nY83NDm51E :2017/06/12(月) 00:21:26 OmrnbK8E0

【マスター】
前田彰@魁!!クロマティ高校

【weapon・能力・技能】
喧嘩はそれなりに強く、中学生の時は5人の不良相手にも1人で戦って勝ったことがある。
不良多数やヤクザ数人、ゴリラが相手だと流石に負ける。足も早い。自動二輪免許取得。得意科目は図工。
キャスターのスキル「専守防衛」のおかげで、キャスターが無事な限り、死んだり大怪我を負ったりしなくて済む。
護衛につけられた地霊たちは、あの連中とは無関係のはずだがほぼ完全にあの連中で、メカ沢毘古に至ってはミサイルやビームが撃てるかもしれない。

【人物背景】
野中英次『魁!!クロマティ高校』の登場人物。都立クロマティ高校に通う高校生。アニメでのCVは稲田徹。
誕生日は8月8日、座右の銘は「四面楚歌」。尊敬する人物は両親。好きな音楽はエリック・クラプトン、ビートルズ。口癖は「ちょっと待て」。
金髪オールバックで眉毛がない強面の不良。中学時代から相当な不良であり、日々喧嘩に明け暮れ、口より先に手が出る正真正銘のワル。
ワルの巣窟であるクロ高の頂点に立つと意気込んで入学したはいいが、規格外のバカやフレディや人外が闊歩する異常な状況についていけず、
影の薄い常識人のツッコミ役というポジションを与えられてしまう。あだ名は特に無く、のち「カミソリドラゴン」というあだ名をもらうが、誰も使っていない。
友人たちから色々と迷惑をかけられる損な役割だが、なんやかんやで仲は良く、自分の都合より友情を大事にする義理堅い面もある。
両親と同居しており、姉はすでに結婚して別居。家族は彼と同じ顔で、時々登場する母親は現れただけで不良たちが土下座するほど恐ろしい。
「前田」というキャラとしては前作『課長バカ一代』からの継続出演であり、作者曰くドムとリックドムほどの違いしかないらしい。

【マスターとしての願い】
帰りたい。

【方針】
もはやツッコむ気力もないので、気にせず日常生活を送る。目の前で誰かが死にそうだというなら助けなくもない。
なおキャスター最大の弱点「マスターが令呪で傍らに呼び戻す」を防ぐため、密かに認識プロテクトがかけられている。それ以外は普通に使用可能。

【参戦時期】
マスクド竹之内がレギュラー化した2巻以後かと思われる。


340 : ◆nY83NDm51E :2017/06/12(月) 00:23:16 OmrnbK8E0
投下終了です。


341 : ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/12(月) 00:31:18 p7V.utBw0
投下します


342 : ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/12(月) 00:31:57 p7V.utBw0

 男がいた。二人の男だ。
 上等そうなスーツに身を包んだ恰幅のいい男と、黒を基調とした露出の多い服を来た痩身の男。

「俺が欲しいのは『栄光』だ」

 葉巻に火を点けながら恰幅のいい男が口を開く。
 無言で見つめる痩身の男を尻目に、葉巻を口にくわえ煙を吸い込んでゆっくりと吐き出す。
 何気ない一連の仕草がやけに堂に入っていた。

「アルカトラズにぶちこまれたあたりからか。とにかく俺の末路ってのは悲惨なものだった。
 これがまあ、商売敵に殺されるとか昔やったことのツケで復讐されたって言うんなら諦めもつくだろうけどよ、よりにもよって病気が原因で頭がおかしくなっちまったってんだから笑えねえ」

 自分で笑えないと言っておきながらヒヒヒ、と恰幅のいい男は笑顔を浮かべる。
 対する痩身の男の表情は笑みにも憐れみにも変化しない。
 鉄面皮を貫く痩身の男を見て恰幅のいい男は肩を竦めて苦笑してみせた。

「別にあの頃に戻ろうとは思わねえ。過ぎちまった事をやり直せるとも思えねえしな。
 だから受肉だったか? それでもう一度この世界に戻って、あの時と同じ、いやそれ以上の『栄光』を手にいれて、絶頂のままで堂々と終わりてえのさ」

 重く濃い葉巻の煙を周囲に漂わせながら、恰幅のいい男ーー痩身の男が呼び出したアサシンのサーヴァントーーは自分の望みを己のマスターに明らかにした。
 痩身の男は自身の願いを語るアサシンの目に、ギラギラとした欲望の光を見た。
 マフィアの構成員であった彼にとっては、とても見慣れた光だった。

「さあ、これが俺の願いだ。で、お前さんは聖杯にかける望みってのはあるのかい? マスターさんよ」
「俺か……俺は……」

 アサシンに促され痩身の男が微かに目を伏せる。
 彼に対して、聖杯に望みがあるのかと切り出したのは痩身の男だった。
 相手が答えたからには、自身も答えなければならぬのが筋というものだろう。

「俺も『栄光』を手に入れたい。ボスを殺し、奴の持っていた麻薬ルートを手に入れること、それが俺の考える『栄光』だ」

 感情が希薄に見えた痩身の男の黒い瞳に激情の炎が灯る。アサシンの目に映った光と同種のものだ。
 痩身の男の名はリゾット・ネエロ。
 イタリアのマフィア"パッショーネ"の暗殺チームのリーダーだった男だ。
 過去形である理由は、彼が仲間と共に組織を離反したからである。
 もっとも彼と共に離反した部下はもう誰一人として残っていない。彼らが追うボスの娘を護衛していたパッショーネの構成員との戦闘によって全員が敗死してしまっているからだ。

「なんだ、聖杯にお願いしてそいつを殺して貰うのか? そりゃいい。手間もねえし疑われもしねえ。俺もモランのクソ野郎を襲おうとした時ゃそれに頼れば良かったぜ」
「いや、殺すのは俺の手でだ。聖杯は俺が奴を確実に殺すためのお膳立てをしてくれればいい」

 アサシンの冗談混じりの問いかけにリゾットは笑み1つ浮かべずに首を左右に振って否定の意を見せる。
 復讐の決着まで願望器任せにしないというのは一種の矜持であろう。
 冗句に真面目な答えで返されるとは思っていなかったのか、アサシンは決まりが悪そうに視線を反らすとゴホン、と一度咳払いをした。


343 : 悪党達の栄光 ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/12(月) 00:32:32 p7V.utBw0

「ま、お前さんのスタンド……だったか? そいつを使えば暗殺にゃあ苦労しなさそうだしな。
 重要なのは聖杯にかける望みがあるか、つまりこの戦争へのやる気があるかどうかって事だけだ。
 そういう意味じゃあお互いに一先ずは及第点ってところだろうさ」
「そうだな、これであんたと俺はパートナーだ。それで、さしあたってはどうするつもりだ? あんたは直接戦闘に向かないんだろう」

 リゾットの視界に映るアサシンの情報が彼の脳裏に浮かんでいる。
 ステータスの値はDのオンパレード。リゾットはサーヴァントのステータスの基準値など知る由もないが、それでもアサシンのステータスがサーヴァント全体を見回しても最低値に近いであろうこと程度は推察できた。

「そりゃそうさ。俺は近代出身のありふれたチンピラだからな。
 お伽噺に出てくるようなヒーローや化け物と真っ向から喧嘩したところでよちよち歩きの赤ん坊がプロボクサーに挑むようなもんよ。
 ま、悪党は悪党らしく裏でせせこましく動き回るに限るって事だ」
「なるほど、アサシン、暗殺者という肩書き通りの動き方という訳か」
「その通り。だから必要なのは何よりも情報網と手駒だ。
 脅迫・奇襲・騙し討ち・扇動、勝つためにはなんだってやる必要があるが、その為に一番重要なのが情報よ、武器にも取引材料にもなるからな。
 魔術師って奴らだったら使い魔でも使えばいいんだろうがお前さんにはそれがねえ。
「だから今からここのNPCどもを手下にして即席の情報ネットワークを作る必要がある。手段を選ばねえ悪党が使えるならなお良しだ」
「なら、この舞台で俺に割り振られた役割が役に立つ筈だ。何の因果かこっちでも俺はチンピラどもの取り纏め役になっていたからな。そいつらを利用すればいい」
「OK、話が早いってのはいい。実にいいな」

 リゾットの提案を受けてアサシンが満足げに頷いてみせる。
 戦闘に向かないサーヴァントを引いたというのにリゾットには悲壮な感情の影すらも見えない。
 リゾットは知っているからだ。戦闘向きでない事が即ち戦いを勝ち抜く力に乏しい訳ではない事を。
 戦闘能力の高さは確かに勝敗にとって重要な要素の一つであるが必須という訳ではない。
 例え戦闘能力が低いとしても確実な勝筋を持っているのであれば、後はいかにしてその勝筋まで持っていけるかが何よりも重要なのだ。
 それはサーヴァントの戦いでもスタンド使いの戦いでも変わらない。
 アサシンの宝具の説明を既に受けたリゾットにとって彼に対する評価は"直接戦闘に向かないが強力な勝筋を持ったサーヴァント"である。
 で、あるならばその勝筋を作り出すために腐心することは当然の事だ。

「期待させてもらうぞ、大先輩(アル・カポネ)」
「ハッ、お前さんにもしっかり働いてもらうぜ後輩(マスター)」

 リゾットがアサシンを真名で呼ぶ。
 アル・カポネ。
 暗黒街の顔役とも謳われたアメリカのギャングの首領は不敵に笑いながら再度葉巻の煙を吐き出した。
 夜の闇にうっすらと消えていく煙の様に、ゴロツキ達が冬木の闇に溶け込んでいく。
 冬木の裏にゆっくりと悪党達が根を下ろす。
 全てはそれぞれの『栄光』を手にする為に。


344 : 悪党達の栄光 ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/12(月) 00:33:04 p7V.utBw0
【CLASS】アサシン
【真名】アルフォンス・ガブリエル・カポネ
【元ネタ】史実
【身長・体重】179cm、98kg
【属性】中立・悪
【ステータス】筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:E 幸運:B 宝具:D

【クラス別スキル】
諜報:B
 気配を遮断するのではなく、気配そのものを敵対者だと感じさせない。親しい隣人、無害な石ころ、最愛の人間などと勘違いさせる。
ただし直接的な攻撃に出た瞬間、このスキルは効果を失う。

【固有スキル】
悪の華:A
脅迫、強請、密会、隠蔽工作、偽装工作、買収といった裏工作に関係する判定に対して有利な補正を得る。

自己保存:B
自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。

破壊工作:E
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。
敵兵力に対する直接的な攻撃ではなく、相手の進軍を遅延させたり、偵察や諜報を混乱させる技術。

【宝具】

『聖なる日は血に染まる(ブラッディ・バレンタイン)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ: 最大補足:6人
第三者集団が特定の対象を襲撃する際に、その第三者に気配遮断Aランク相当の変装を施す。この効果を受けた第三者は例えそれがサーヴァントであろうとも攻撃を行うその瞬間まで襲撃対象には一般人と認識される。
またこの宝具の影響下にある襲撃者が襲撃の際に用いる武器類の全てはEランクの宝具相当として扱われる。
この宝具は下記条件に全て合致した場合のみ発動可能となる。

■条件
1:アサシンが襲撃対象と同じ場所に存在しない
2:襲撃対象の現在地または潜伏地をアサシンが把握している

聖バレンタインの日にアサシンが指示を出し敵対するマフィアに対して行った暗殺事件を基とした宝具。
当時の事件を再現する宝具である関係上、事件の再現度が高ければ高くなる程に敵対者の殺害成功率が上昇する。その逆もまた然り。
襲撃者そのものがアサシンの宝具となる為、例え神秘の通わぬ近代兵器であってもサーヴァントに対して有効打を放つ事が可能。

【weapon】
無銘:拳銃

【解説】
禁酒法時代のアメリカ、シカゴ地域の裏社会において一代で顔役まで上り詰めたギャングスター。
表向きは陽気で人当たりのいい中年オヤジだがその本性は冷酷かつ悪辣。
ギャングに必要な非人道的な価値観の持ち主だが、その反面家族や身内には甘いところがある。
酒の密売・敵対者の暗殺・官憲の買収などによって市長に等しい権力を手にするまでに至ったが、彼が計画したバレンタインデーの殺人事件によって世論を敵に回す事となる。
その後に別事件で検挙され、部下の裏切りにより有罪判決を受けることとなるが収監中に梅毒を発症。
精神にまで以上を来たし、長年の囚人生活の末に釈放された際には全盛期の彼が見る影もない程に衰弱していたという。

【特徴】
禿げあがった頭、気の良さそうな柔和な顔立ちと頬にナイフの傷跡。恰幅のいい体型。上物のダークカラーのスーツを着こなしている。

【聖杯にかける願い】

受肉し、再び栄光を手にする


345 : 悪党達の栄光 ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/12(月) 00:33:25 p7V.utBw0
【マスター】

リゾット・ネエロ@ジョジョの奇妙な冒険

【マスターとしての願い】

ボスを確実に殺害できる状況を作り出してもらう。手を下すのはあくまで自分自身

【weapon】

【能力・技能】

スタンド[メタリカ]:【破壊力:C / スピード:C / 射程距離:5〜10m / 持続力:A / 精密動作性:C / 成長性:C】
鉄分を操るスタンド。自然界に存在するものから血液中のものまで鉄分であればなんでも自由に操作し物質化できる。
また砂鉄を体に纏うことで光学迷彩とし、視覚的に姿を隠すことも可能。

【人物背景】

イタリアマフィア、パッショーネの元構成員。
暗殺チームのリーダーを務めていたが「暗殺」という仕事内容ゆえに必要な時のみ利用されボスの信頼は得られず、冷遇を受けていた。
ボスの秘密を暴こうとした部下を見せしめとして惨殺された事から反逆する事を諦めていたが、ある筋からボスに娘いるという噂を聞きつけ、娘からボスへ繋がる手掛かりを暴いてボスを暗殺し自分達が組織と麻薬ルートを乗っ取るために蜂起、娘を護衛していたブチャラティ達と敵対する。
最終的にはボスの秘密に近づき、殺害にまで手をかけるもののボスのスタンドの能力によって敗北した。


【方針】
リゾット配下のNPCを用いて裏のネットワークを形成し、真っ向勝負を極力避ける立ち回りを行う。

【参戦時期】
ヴィネガー・ドッピオと遭遇する直前


346 : ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/12(月) 00:33:55 p7V.utBw0
以上で投下終了します。


347 : ◆zzpohGTsas :2017/06/12(月) 01:08:49 K8W4bVMU0
史実聖杯からの流用ですが、投下いたします


348 : 弱者の方便 ◆zzpohGTsas :2017/06/12(月) 01:09:19 K8W4bVMU0
「人は、何時の日か神の手より巣立たねばならない」

 彼は、彼女に召喚されたその日、彼女の装いと、呼び出された場所に設置されたものを見て口にした。
教会の中だった。修道士や教会に従事している人間の掃除が行き届いているのか、壁にも天井には塵一つとして存在しない。
信徒が座る為の席にも、それは勿論の事、清浄としていて、厳かで、神の家を名乗るに相応しい其処に現れるなり、男はそう言った。
彼は、教父が説教を行う為の教壇の上に不遜にも降り立ちながら、自分の事を見上げて来る女性に対してそう言い放ったのだった。

「あ……貴方、は……」

 修道服を着用した、金髪の女性が男を仰ぎ見ながらそう言った。
瞳が、驚きに見開かれている。普段は眠たそうに閉じられた瞳には、この上ない驚きが渦巻いているのが良く解る。
普段ならば、机の上に立つなどと言う狼藉は彼女は許しはしない。況してや教壇の上など、言語道断。一時間は余裕で説教が出来る。
……それなのに、如何して。今目の前でそのタブーを犯している男には、強く出れないのか。

 ――男の背中から生えている、六対十二枚の、純白の光の翼が原因であった。
天窓も、壁の窓も、教会の中に明けき月光を取り入れる、夜の十一時の冬木の教会。その中にあって、男は明らかに輝いていた。
白色の光を放ち続ける翼が原因なのだろうか? それとも、男の白皙の美貌が原因なのだろうか? 
男は、その貌自体がほのかに光り輝いていると錯覚するような美男子だった。美しい顔つき、その背から生える十二枚の翼。彼は、天使だった。
とてもステロタイプな天使だったが、それ故に、彼女――『クラリス』に訴えかける力は絶大だ。余りにも視覚から通じる衝撃が、強すぎた。

「貴方様は……天使、なのですか……?」

 恐る恐る、クラリスは口にした。ニコリ、と男……いや。
アーチャーのクラスで現界した美青年が、静かに微笑みを湛えた。父性の権化の如き、柔かい笑みだった。

「天使である事を、私は既に捨てました」

 その言葉に、クラリスは言葉を呑み、教会の床の上にへたり込んだ。そして同時に、男が降りた。

「貴方方の言葉では、『堕天使』……と言う事になるのでしょうか? 己の手で神の寵愛をかなぐり捨てた、不良のようなものと、お思い下さい」

 堕天使。敬虔な信者であるクラリスは勿論、そう言った存在がいる事を知っていた。
ある者は神に唾を吐き、ある者は地上で姦淫に耽り、またある者は、己こそが神に取って代われる全能の存在であると言う高慢さから。
天にまします偉大なる父の懲罰を受け、神の寵愛と加護を失い、地の奥底へと叩き落された者。それが、堕天使だ。
よく見ると、目の前の男には確かに、聖性と言う物をクラリスは感じなかった。威風だ。このサーヴァントが生来有する恐るべき覇風が、クラリスを圧倒しているのだ。
ただでさえ聖杯戦争等と言う訳の解らない催しの為に、聞いた事もない冬木と言う街に呼び出されて頭の中が混乱しているのに、自分のパートナーが堕天使と来れば。
普通は酷い嫌悪と絶望を抱く筈なのだが、不思議とクラリスは、目の前の存在に強い嫌悪を抱いていなかった。これが、悪魔の有する力なのかと、思っていてもなお。心の奥底から湧いてくる親近感は、何なのだろうか。

「天より堕ちて数千年、私が堕天使と地上の民に蔑まれ、女の色香に惑わされて神を裏切った愚か者だと思われているのは存じております」

「それについて、貴方は……」

「否定はしません。事実です。ですが、悪魔になった覚えはありません。確かに私は神の寵愛もありませんが、人に悪を成す事は恥ずべき事だと思っております」

「それでは何故、神の手から我々が離れなければならないのだと……?」

 信徒に対して信仰を放棄しろと言うのは正しく、悪魔が人に対して行う誘惑である。
クラリスに対してそんな誘惑を投げ掛けると言う事はつまるところ、目の前のアーチャーは、悪性を心の裡に燻らせる悪魔そのものではないのか。

「人が、神の手を必要としない程に、もう強くなってしまったからですよ」

 目の前の男は、滔々と語り始めた。
犬や猫、兎に虎、樹木に石や、月や星ですらも、この男の言葉には耳を傾ける事だろう。それ程までに、見事な語り口だった。


349 : 弱者の方便 ◆zzpohGTsas :2017/06/12(月) 01:09:37 K8W4bVMU0
「嘗て人は、弱かった。大自然のちょっとした癇癪、野の獣、流行り病、そして、満たされぬ感情から来る同族の殺害。人は弱く、死にやすい生き物でした」

「……」

「私はそんな彼らが哀れに思い、彼らの生活を豊かにし、そして彼らを強くする術を惜しみなく教えました。男は我々の手によって強く精悍になった。女は我々の手で、伴侶を得子供を産む喜びを知らない事がなくなった」

 「だが」

「神は人に、自然に翻弄されるがままの弱い姿である事を望み続けた。故に人は、地上の全ての不徳と罪を洗い流した、あの大洪水に一度は呑まれて消え失せた」

「ノアの方舟、ですか……?」

「ノア……彼は私の知る中で最も敬虔な信者でありましたが、私は彼を恨んではおりません。彼もまた、生きたかった一人の人間であるのならば」

 ふぅ、と一息吐き、アーチャーのサーヴァントは天窓から差し込む月の光を見上げた。

「神は、全知全能の存在であり、それを疑ってはならない。我々もその事はよく知っております。そして、地に堕ちて解りました。その言葉が嘘である事を」

「それは――」

「違う、と仰られますか?」

 いつの間にか、アーチャーがクラリスの前にいた。
修道服に付けられていたブローチにそっと手を当て、微笑みを浮かべて彼は口を開く。

「本当の全知全能であれば、神が何をしなくても、勝手に人は神を崇めたでしょう。ですがそれでも多くの人は神を崇めようとしなかったので、信仰と言う名の独裁で、人を縛ろうとした。全知でもなければ全能でもない、何よりの証左です。クラリス、嘗て敬虔だった神の信徒よ」

「私は、まだ信仰を捨てておりません……!!」

「ほう」

「私は、誰も殺したくありませんし、私の仲間がいらっしゃる教会を立て直す為に――」

「それは、貴女の強さだクラリス。其処に、神の力も奇跡も存在しない。貴女一人の強さだ」

 アーチャーの瞳が、強い感情で煌めいたような、そんな気がした。その瞳の輝きと、強い語調に、クラリスは言葉を呑んだ。

「貴女の志は、素晴らしい。人の為に己の聖性を発揮するその姿勢。堕天使となった我が身ですら、惜しみない称賛を与えましょう。ですが、其処には神の力も奇跡もない。貴女だ、クラリス。貴女一人の力だけが其処にあるのです」

 白い手袋に包まれたその手が、クラリスの頬に触れた。驚く程柔かい感触の手袋だ。鞣した鹿の皮のような印象を、クラリスは抱く。

「貴女はきっと、それまでの過程を順調に歩む事が出来たのでしょう。ですが、振り返って考えて見なさい。其処に、神の力の後押しがあったでしょうか? 其処に、神の声による導きがあったでしょうか? ……なかった筈です。貴女の後押しになったのは、人の力でしょう。貴方を導いてくれたのもまた、大切な人の声と姿だったでしょう」

 クラリスは思い描く。彼女は、己の教会を立て直そうと奮闘する修道女であると同時に、ある大切な人の期待に応えるアイドルとしての姿があった。
彼は、クラリスには人を笑顔にしてくれる強い力があると確信したらしく、戸惑いながらも彼女はその期待に応えられるよう頑張った。
アイドルとしての訓練や仕事は辛く、泣きたくなりそうな時もあったが、一緒の事務所で出来た、違う価値観の仲間と、何よりも自分に可能性を見出してくれた、
今のプロデューサーがいたからこそ、クラリスは頑張って来れた。思い起こせば確かに、彼女が教会を持ち直せたのも、アイドルとして、修道女として成長出来たのも。
人の力があったからだ。其処には、神の導きも声もなく、神の与えた恩賜(ギフト)もない。人の力だけが、其処には何時だって存在した。

「解りますね、クラリス。貴女は強いのです。他人ばかりか己をもまやかす化粧の力を使うまでも、心を奮い立たせる魔術を用いるまでもなく、貴女は既に強いのだ。況や、神の力など貴女には必要がない。人に弱きを強いたまま、不完全な全能性を見せ付ける神の力など。人は、神の手から離れる時が来たのですよ」

「ですが、それでは悪魔が――」

「悪魔もまた、人の欲望を叶える為に生み出された、人の人による人の為の存在。彼らもまた、不要になる時が来た」

 其処で、今まで床にへたり込んでいたクラリスを、アーチャーは横抱きの状態で抱き抱えた。
「きゃっ……!?」と言う声を彼女は上げる。傍目から見れば、タキシードを着用した非の打ち所のない紳士が、修道服に身を包んだ高貴な女性を伴侶にし、
結婚の花道を歩んでいるようにしか見えぬ事だろう。「羽のように軽いな、クラリス」と口にしながら、アーチャーは教会の入り口まで歩いて行き、扉を開け、外に出る。
外は既に真っ暗闇、皮膚が切れるような冷たい風を浴びながら、アーチャーが、飛んだ。飛翔を始めた。

「――!!」


350 : 弱者の方便 ◆zzpohGTsas :2017/06/12(月) 01:10:00 K8W4bVMU0
 余りの行為に、驚いて声も出せぬクラリス。
天使である、飛ぶ事など造作もない。ただの天使であれば安心感もあっただろうが、生憎アーチャーは堕天使であると言う。
このまま地獄か、それともゲヘナにでも攫われるのではないかと震えていたが、結論を言えばそんな事にはならなかった。
冬木教会から三百m以上上空まで飛翔したアーチャーの、「みたまえ」、と言う言葉に気付き、恐る恐る、アーチャーの見ている方向に目線を向ける。

 冬木の街の夜景が、其処には在った。
十一時であると言うのに冬木の街はまだ眠ってはいないらしく、新都の夜景が、砕いた宝石の破片を撒いたかのように綺麗だった。
こう言った高所から、クラリスは街の夜景を見た事がなかった。圧巻だった。大自然の力が見せつける、雄大なスペクタクルとはまた違う趣が、其処には感じられる。

「あれは全て、人の手による物。嘗て齧った禁断の果実を齧ったアダムとイヴの子孫が作り上げた世界。あそこには、神の力なんて最早ない。彼らは神や天使の力など借りず、己が手で世界を切り拓き、己の住みやすい世界に変えた。私は、それを喜ばしい事だと思う。既に彼らは、神と言う名の保護者から手を離れ、強く、逞しく生きる術を、自然に学んでいたのだ」

 「だが――」

「世界にはまだ、神の存在を信じる者がいる。悪魔の力を頼りにする者がいる。私はとても悲しい。神と悪魔の力を借りずとも人が強くなった事を、まだ信じられない人間がこの世には大勢いる。だから、私は彼らを救って差し上げたいのです。己が都合で人を管理し、時に見捨てる神や悪魔から、人は決別する時が来たのです」

「貴方は……この世界から信仰を消したいのですか……!?」

「その通りです」

 愕然とするクラリス。この世界には未だに、神や仏に従う者が大勢おり、彼らの救いを求める者が沢山いると言うのに。
アーチャーは、人が最早神や悪魔から自立した事を理由に、信仰と言う名の道標と、それを寄る辺にする者達を、切り捨てようと言うのである。

「なりません……!! 信仰が必要な方々が、この世界には大勢いらっしゃります!! 彼らの希望を奪う事は、許されないでしょう……!!」

「信仰は、弱者の方便ですか?」

 「……えっ」、とクラリスは、言葉を呑んだ。アーチャーの言葉が、理解出来なかったからだ。

「弱いから、心に傷を負ったから、神を信仰する。それについて、神が如何なる心持ちであるのか、クラリス。貴女はご存知なのでしょうか?」

 黙り込むクラリス。神の声も聞いた事のない彼女には、天にいる偉大なる父が、どう言う心算で宇宙を運行させているのか。想像だに出来ない。

「クラリス。信仰は、敗者と弱者の為の方便ではないのです。人類は初めから、神を信じる程度では救われないのです。人を救えるのは、初めから人間だけ。心を癒す術に信仰を見出した者達に真に必要なのは、彼らを癒すだけの力を持った、人間と社会なのではないのですか?」

 言葉が、出てこない。
何かを言い返したいのに、言葉になって出て来るのは、あ、とか、う、とか言う纏まりのない単音だけ。
白痴のようになった彼女に、微笑みを浮かべて、アーチャーは口を開く。

「愛した人間を殺す事は私とて本意ではありません。貴女が元の世界に帰還出来るよう、全力を尽くしましょう。そして、貴女が成長出来るよう、私は全力を尽くして導いて差し上げましょう」

 「それが――」

「クラリス、貴女が呼び出したサーヴァント、『アザゼル』の使命であるならば」

 強い夜の風が、ヒュウと彼らを包み込んだ。
人の繁栄の象徴である、冬木と言う都会の夜景を満足げに眺めるアザゼルを、クラリスは、怯えたような表情で見つめているのであった。




【元ネタ】旧約聖書、各種関連書籍
【CLASS】アーチャー
【真名】アザゼル
【性別】男性
【属性】混沌・善(元々の属性は秩序・善)
【身長・体重】183cm、73kg
【ステータス】筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:D 宝具:EX

【クラス別スキル】

対魔力:C(A+)
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
生前は神の加護もあり、恐るべき対魔力の高さを誇っていたが、現在はこれを失っている。現在の対魔力の値は、神の加護の分を差し引いたアザゼル自身が有する値である。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要


351 : 弱者の方便 ◆zzpohGTsas :2017/06/12(月) 01:10:13 K8W4bVMU0

【固有スキル】

神性:-
嘗ては非常に強壮な座天使(ソロネ、或いはスローンズ)であり、非常に高い神性スキルを誇っていたが、神の使命を放棄したばかりか、
神が授けるのを禁忌としていた知恵を人に授け、堕天した為消失している。

カリスマ:A+
大軍団を指揮・統率する才能。ここまでくると人望ではなく魔力、呪いの類である。
燦然と輝く十二枚の白光の翼を背負っており、これは強大な天使であった事の証である。天使にとっての翼や後光とは、即ち視覚化された絶大な指揮権の象徴である。
嘗てアーチャーが堕天した際、多くの名のある天使達が彼に付き従った。

道具作成:EX
本来はキャスタークラスのクラススキルであるが、アーチャーもこのスキルを特例で所持するに至っている。
アーチャーの場合は、武器と防具のみしか作れないが、この二つに限って言えば『宝具』ですら、己の天使の翼から舞い散る羽から創造する事が出来る。
嘗て人間に、武器の作り方を教えた大天使として有する、投影魔術の最高位に相当するスキルである。

神域の叡智:A+
神の尊厳と正義を司る座天使、その中でも有数の強さを誇っていたアーチャーの深遠なる知識。
魔境の叡智と実質上殆ど同じスキルであり、英雄が独自に所有するものを除いた大抵のスキルを、B〜Aランクの習熟度で発揮可能。
アーチャーが真に教えるに足ると認めた者に、アーチャーはこのスキルを用いてスキルの伝授を行う事が可能。

【宝具】

『天より俯瞰せし人の業(アンリミテッド・アイズ・エグリゴリ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜 最大補足:1〜
地上に生きる人間の監視の為に結成された、グリゴリと言う、天使達で構成された監視者集団の長としての権能が宝具となったもの。
その本質は即ち遠隔視である。この宝具を発動し、アーチャーがこの人物を監視すると臨んだ時、アーチャーは常にその人物が何をしているのかを監視する事が可能。
発動するにはその人物を一度でもその視界に収めねばならないと言う制約があるが、これをクリアすると、例え相手が異世界に逃れようが、
宇宙の果てまで逃げ去ろうが、アーチャーは常にその人物の姿や声を捕捉し続ける事が出来る。この宝具に捉えられたが最後、どんな幻術もダミーも無効になり、
常にその人物のみを追い続ける為、逃走は絶対に不可能で、アーチャー自身がこの宝具を解除する他ない。
そして何よりも、この宝具によって監視出来る人数には制限がない。生前は、監視したい人物を一度見るまでもなく、任意の人物を自由に監視出来たが、サーヴァント化した事により性能が劣化している。

『人よ、強く逞しく生きよ(アンリミテッド・リビング・ワークス)』
ランク:EX 種別:??? レンジ:- 最大補足:-
アーチャーが嘗て人間に教えたとされる、生きる為の知恵。その中でも特に有名な、武器の作り方と、化粧の仕方、と言う二つの知恵が宝具となったもの。
アーチャーが教えた化粧とは女性を綺麗にし、また時には醜くし、女性の未婚を防ぎ女性に自信を付けさせる為のもの。
であると同時に、化粧を用いた魔術をも伝えており、アーチャーは己にボディペイントの要領で化粧を行う事で、ステータスをワンランクアップさせたり、
耐毒や頑健、極一時的にだが魔性や神性、竜種特性を付加させたりも出来るだけでなく、『大地に化粧』を行う事で、大規模かつ凄まじい精緻さの方陣を作成可能。
だがこの宝具の真価はもう一つ、武器や防具の作成にある。アーチャーは己の背負った十二枚の翼の光を用いる事で、武具・防具を投影する事が可能。
剣や槍、弓矢に己、鎌や大砲、銃器等の武器や、鎧や盾、兜等を自在に作成するばかりか、『人類に初めて武器を齎した者』と言う逸話から、
宝具すらも完全に再現する事が出来る。例え一度見た事のある宝具でなくとも、神域の叡智スキルにより、A+ランク以下の宝具であれば、召喚された時点で再現可能。
この宝具で再現が困難な武器があるとすれば、星が鍛え上げた神造兵装位のものだが、あくまでも『困難』なだけであり、それですらもアーチャーに見せすぎた場合、
再現される可能性がゼロではない。また、作り上げた宝具は、常時効果が発動している物でなくとも、真名解放が可能である。但し、その本来の担い手の技術までは再現出来ない。

【Weapon】

十二枚の翼:
アーチャーが背負っている六対十二枚の光の翼。これから舞い散った羽で、武器や防具を作成する。
またこの翼自体にも、高熱を纏わせて、レーザーを照射させたり、超高温を宿した羽を設置させて相手を追い詰めると言う芸当も可能。


352 : 弱者の方便 ◆zzpohGTsas :2017/06/12(月) 01:10:41 K8W4bVMU0

【解説】

アザゼルとは旧約聖書に語られる堕天使、或いは砂漠に住まう悪魔である。
その名は『神の如き強者』を意味する所からも解る通り、嘗ては非常に強壮な力を誇る座天使(ソロネ。天使の九階級の序列三位)であったとされ、
その強さを見込まれ、地上に生きている人間達を監視する、グリゴリと呼ばれる天使達の統率者に抜擢された。
しかし、天上より人々を監視する内に、美しい娘達に心惹かれていき、地上へ降りてその娘達を娶ってしまった。つまりは駆け落ちである。
これは堕天使全体から見ても珍しい事で、多くの堕天使が神に反乱を引き起こしたが故の『懲罰』であるのに対し、グリゴリの一派は自らの意思で堕天したのである。
更にアザゼルは人々に武器の作り方や化粧の技術などを教え、これにより人々の生活が大きく乱れる事になってしまう。
この際に他にも同じく地上に降り立った天使の中には、シェムハザやサタナエル等がおり、いずれもアザゼルと共に堕天使へ身を落とすこととなった。
無論の事、神はアザゼルの行為に激怒しただけでなく、彼らから技術を教えられた事によって乱れてしまった風俗の人間達にも大激怒。
アザゼルはラファエルによって荒野の穴に投げ込まれ、一筋の光も射さない暗闇の中に永遠に幽閉される事となった。
そしてこの後、ノアの方舟に表されるような、世界全体を呑み込むような大洪水が起こる。つまりアザゼル達は、一度人類の多くを全滅させた原因ともなった、とんでもない堕天使達なのである。

 しかし、彼らは人間が思う以上にずっと禁欲的な生き物である。実際にはアザゼル達は人間の女の色香に惑わされたと言う理由で天から降りたのではない。
彼らが天使だった頃の地上は神代そのものであり、其処を跋扈する獣達は非常に恐ろしく、人の男は彼らと戦っても成す術もなく殺されるか弱い生き物だった。
また女性にしても、美しくなく、自分に自信がない故に生涯男と結ばれず、寂しく一生を終える者も大勢いた。
これを非常に哀れに思ったエグリゴリの一派は、彼らに逞しく生きる術を与えた。これこそが、神が禁断の知識として人に教えるのを禁じていた、
武器や化粧を筆頭とした様々な技術である。つまり彼らは、女の色香に負けたのではなく、弱い生き物であった人間に同情し、良かれと思ってその知識を教えたのだった。
当然の事ながら、人に教えてしまったのは他ならぬ、神と彼らに連なる天使達が独占していた叡智である為、これを人に教えてしまった以上、
自分達が如何なる運命を辿るかと言う事をエグリゴリは理解していた。故に彼らは、天界には戻らず、地上で生活を送る事になる。
その過程で、人の女に惚れて子供をもうけた者もいたが、アザゼルはそんな事はせず、人間達に天使式総合格闘技や剣術だったりを教え、彼らを鍛えていた。
この後下るであろう神の審判に人間が生き残れるように彼らを鍛えようと必死に努力していたのである。その努力が実を結んだのかは、最早言うまでもない。
アザゼルの努力も虚しく、彼らは大洪水に呑まれ、一人残らず死に絶えるのだった。アザゼルが主として教えていたのは武器と化粧だが、エグリゴリはこの他にも、
魔術や効率の良い農法、占星術や天文学、気象学に器・装飾品の作成技術、筆記や医学、堕胎の方法等を教えていたと言う。
彼らは事実上、今日の人類が生きる上で欠かす事など出来ない技術の殆どを人に教えていた事になる。この事から、エグリゴリは現代科学の祖ともなったと見る動きも、現在では確認出来る。

 人間については父性愛のような物を持って接しており、ルシファーに次ぐ大悪魔や地獄の王と言う苛烈な二つ名を幾つも持つ者とは到底思えない。
嘗て自分が堕天を覚悟して禁断の知識を教えた人間をアザゼルは深く愛しているが、その一方で人間には、神の支配を脱する程強くなって欲しいとも願っており、
その為生前人間に教えていた天使式マーシャルアーツや剣術の訓練はアホみたいに過酷で、アザゼル自身は他のグリゴリの天使に比べて結構嫌われていた。
大洪水の際も、自分の教育が至らなかったせいで多くの人類を死なせてしまったとも思っており、その事を非常に悔いている。
しかし現在の世界の様子を見て、今の世界は人間を頂点とする世界に遂に変貌し、人は神や天使、悪魔など必要としない程強くなったのだとアザゼルは確信。
それでもまだ、世界には三大宗教を筆頭とした神や仏を崇める習慣がある事を、アザゼルは強く嘆いている。自分達の事など忘れてしまえばより強くなれると信じていた。
聖杯にかける願いは、過去現在未来全ての時間軸に存在する、神や悪魔と言った伝説上の存在全てを人類が忘れてしまう事。
これを成就させてしまうとアザゼルも真実消滅してしまうが、それでもなお、人類にはより強くなって欲しいと彼は心の底から願っているのだった。


353 : 弱者の方便 ◆zzpohGTsas :2017/06/12(月) 01:10:54 K8W4bVMU0

【特徴】

黒色のフロックコートとスラックスを着用した、灰色の髪の美青年。
常にその貌には微笑みを湛えており、更にその背中には白い光で構成された翼を十二枚背負っている。

【聖杯にかける願い】

人類の記憶からこれまでの神仏や伝説上の存在を完全に消却させ、神や悪魔から脱却した世界を目指す。



【マスター】

クラリス@アイドルマスター シンデレラガールズ

【聖杯にかける願い】

ない。誰も殺さず、元の世界に戻りたい

【weapon】

【能力・技能】

キリスト教関係の知識に明るく、またアイドルとして、歌唱力とダンスに秀でる

【人物背景】

修道服を身に纏う、シスター系のアイドル。修道女がアイドルをしてよいのかは良く解らない。
争いは好まないが、教会のため努力を続ける性格。歌うのは好きで、聖歌は得意だが、アイドルソングに関してはなかなか慣れない。


354 : ◆zzpohGTsas :2017/06/12(月) 01:11:09 K8W4bVMU0
投下を終了いたします


355 : 飢えた猟犬は英霊たちを求めて円環の果てまで…… ◆WqjPzMBpm6 :2017/06/13(火) 21:07:52 4lFBk1PM0
投下します。


356 : 飢えた猟犬は英霊たちを求めて円環の果てまで…… ◆WqjPzMBpm6 :2017/06/13(火) 21:10:28 4lFBk1PM0


 世界が白く燃えた。稲妻だ。
黄金の色のスパークがどす黒く沼に落ちた絵の具のように一瞬広がり、瞬く間に黒く塗りつぶされる。
 虚空から鳴り響く怒号。 蠢く稲光の光彩が激しく交錯し、轟いた。
 また一撃どこからともなく薄い光が差した。また近くに堕ちる。
 その度、両眼が凄まじい光に輝く。美貌を、閃光が白く染めた。
雷鳴というより爆発したような轟音が響く。
 自然現象というよりまるで空爆だ。
しかし、眉を僅かにひそめる以上の反応をその男は示さなかった

「面白い。これサーヴァントの宝具か……」

男はそう呟いた。
流れ落ちた直毛の銀髪。細く端正な美貌。
尖った耳は人あらざる者。マスターはエルフ族の男性だった。

黙々と歩くこの場所は黒ずんだ都邑の廃墟。
永の歳月に蚕食された石畳の上を革靴がカツーン、カツーンと鳴り渡る。
壁面には太古の種族の絵画らしきものの痕跡が認められる。

それを見た銀の瞳のエルフはセピア色に褪せた懐かしい写真を眺めるような気持ちであった。

「どうやら〝混沌の我が君〟は、この聖杯戦争への助力を惜しまないらしい。こいつは……」

とんでもないサーヴァントを引き当てたようだが……。
しかしまだそのサーヴァントは姿を現さない。

「ぬ?」

男の視界の色彩が軋む。
それは精神錯乱や麻薬による恐ろしい幻想の中でも出来ない体験だろう。
一端の魔術師でも精神失調をきたすがこの男は平然と立っている。

とうとう正体を現れたサーヴァント。

『……ッ、お前は何者だ!?』

皮脂のこびりついた金髪と、ブルーの瞳だ。少し充血しているが、奇妙なくらい鋭く爛々と輝く。狂信者特有の不気味な光を帯びている。
どのようなナリをしていたかについては殆ど文字にする事ができない。
ただ清潔感の欠如といったら、いいようもないほどだった。

「そんなもの……とうに見飽きた風景。それに嫌気がさして私は故郷を出、異境を旅している故」

『……ッ!だが、我が使えるのはただ一神のみ。断じて貴様ではない!』

「では、これを見てもか?我がサーヴァントよ。いや……これからは同朋〈とも〉と呼ばせてくれ」

キャスターが視線が受け止めたのは、彼の右腕に嵌められたら腕輪の宝玉。深緑色の猫目石だった。だが、それは────

「────我が名はラゼェル・ラファルガー。今は肩書きも何もない。ただの根無し草」

猫目石が煌めき、生あるもののようにびくつき、瞬く、躍らせる。
それは眼だ。本当に生きている眼球だ。

その正体が何なのか即座にキャスターは看破した。
それは令呪よりも強く重い。己が主〈マスター〉よりも崇拝し愛しむ存在。
そしてこのサーヴァントのマスターに相応しい証でもあった。

『それ……本物?』

「まさしく。それとも真贋を見誤るほど貴様の眸は腐っているのか!?」

突如右手が閃いて曲刀が現れる。
あからさまな怒気を面に出した。なんと、この男は返答次第ではすぐさま相手が自分のサーヴァントでも首を跳ねる気でいる。


357 : 飢えた猟犬は英霊たちを求めて円環の果てまで…… ◆WqjPzMBpm6 :2017/06/13(火) 21:11:51 4lFBk1PM0

『……なんと!』

そのサーヴァントは驚嘆と畏敬とを等しくひきおこす。
キャスターは跪いた。
  
『ご無礼を……お許し下さい!おおお……おおおおおっ!』

サーヴァントは突如泣き出した。

『僕……愛想尽かされたと……あぁ……これは奇跡だ……神はまだ見捨ててはいない……』

『エグッ……真名はグスッ……黒のヴェルハディスと……申します……グスッ』

掌の曲刀が消え失せると膝を着いたままぐずるサーヴァントにラゼェルは肩に手を置く。

「解ったから……もう泣くな、キャスター。お主もよくぞ参った。この神楽の狩場へ……ところでお主、クラスは一体何なんだ?よくわからん」

『……え?クラスは魔術師〈キャスター〉のはずですが……あれ?』

「キャスター?それはおかしい」

『まあ、クラスなど、どうとでも御座いません────グスッだって僕には……』

キャスターの背後の空間が波立ち、膨れ上がる。

『────ほぉ〜ら。おいで、おいで、おいで〜〜この人恐くないから』

キャスターは闇の彼方へ手招きする。
漆黒を背景に蠢動する塊。
未知の燐光に照らされながら、中から折り畳まれていた蛇腹の胴体が反り返り現れる。
ガラスを引っ掻くような厭〈いや〉な音。
キリキリと打ち鳴らす顎。バスケットボールほどの複眼。眼で数えきれないほどのドス黒い触肢が蜿蜒と続く。
まるで鋼みたいに艶光る甲虫ような物が目の前に現れ出ただ。
その口がゆっくりと左右に開いて、不潔な半透明の汁が泥のように流れ出る。
それは見たものを骨の髄まで凍るような凶々しさがこもった悍しいシロモノだった。

『この可愛い可愛いルルハリルに一度憑かれれば、世界の果て、輪廻の届く限り追従し、如何なる者、たとえそれが最速の英霊だろうとも逃げおおせはしない、決して!何を恐れる事がありましょう、我が主よ』

「ほう。それはそれは頼もしい……」

その一匹の獣を品定めするように眺める。

『ラゼェル様。きっと満足な結果を差し上げられるでしょう……いや、それ以上!逃げ惑う贄たる者どもの阿鼻叫喚を我らが神が御覧ずることこそが我らの務め!!!!』

「その通りだ!キャスター!」

 右腕を突き上げた。

「この素晴らしい贈り物〈ギフト〉を贈りたもうた〝混沌の君〟に満腔の感謝を!」

「 eia! ia! Gurgaia! evnーshubーghu Varazaia! 」

同じくキャスターも狂おしい章句を復誦する。
満面の笑みで一人と一騎が吠え謳〈うた〉う。その口から吐き出される言語は、他のだれにも理解できないだろう。

この孤高の伝道師ラゼェル・ラファルガーの右腕に潜む深緑色の神の隻眼。その眼光が忠実なる使徒たちの因果を超えた奇跡の出会いに無言の祝福をもって見届けていることだろう。


358 : 飢えた猟犬は英霊たちを求めて円環の果てまで…… ◆WqjPzMBpm6 :2017/06/13(火) 21:14:29 4lFBk1PM0


────彼等は混沌に魅入られた者。

────彼等は混沌の諸神を讃えし者。

────彼等は混沌の諸神を崇めし者。

────彼等は邪悪さを包み隠すことはない。

────ただ貢ぐのみ。この世界が灰燼に帰すさまを。生きとし生けるもの全てが潰えるさまを。一人でも多く、より凄惨に、そしてやがては一人遺さず余さず!
今ここに原初の恐怖の幕を開く。
千代の歴史に栄えた総ての英霊たちよ、絶望しろ!そして恐怖の悲鳴を上げろ!
全てを殺し、穢し、焼き尽くす。陽光に栄える者共に、闇の怨嗟を知らしめよう!
いざ、混沌の神を喜悦せしめる賛歌を奏でよう!




────そして彼等に〝混沌の君〟の加護が在らんことを……。




「我らの格好は目立つから今から衣装を見繕いに行く、お前も来い」

『え?』

「矢の当たらない所に居ては、矢を
当てられぬ。行くぞ、ヴァルハディス!ここから出るぞ!」

『えええええええ!?』

嫌がるキャスターの女々しい去声がこの始原領域都市に木霊した。



▲▲▲▲▲



【出典】クトゥルフ神話『万能溶解液・錬金術師エノイクラの物語』
【SAESS】 キャスター【身長】187㎝【体重】78㌔
【性別】男性
【真名】ヴェルハディス
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷EX 魔力A+++ 幸運B 宝具EX

【クラス別スキル】
召喚術:A
深淵の国から猟犬や隷を喚起・召集するスキル。

気配遮断:EX
キャスターは異空間に神殿を構えているため、この世界には存在しない。よって探知は不可能。
しかし、マスターが外に出ると外界から干渉もマスターからの魔力供給もできないため、聖杯を獲得するためにはキャスターも神殿から出なければならない。

【保有スキル】
二重召喚:B
ダブルサモン。
二つのクラス別スキルを保有する事が出来る。
ヴェルハディスはキャスターとアサシンの特性を併せ持つ。

信仰の加護:A+++
邪神に殉じた者のみ持つスキル。
精神耐性と呪いの耐性。A+ランク相当の精神汚染を有する。

邪授の智恵:A+
深淵の神々の智恵に触れ、たどり着いた秘伝中の秘伝。
魔術師クラスの様々なスキルをA〜Bランクの習熟度で発揮可能。特にこのキャスターは肉体・精神操作、夢魔による悪夢、空間転移などに長けている。

【宝具】
『始原領域都市〈ジレルストーン・サークル〉』
ランク:C 種別:対界宝具 レンジ:自身 最大補足:1〜50
陣地作成スキルによって造られた異界に構えた魔術神殿。中には拷問部屋・実験室・マスターとの居住スペース・書庫・使役する隷の格納庫など。


『断罪し律する螺旋■■■■〈ルルハリル〉』
ランク:EX 種別:? レンジ:∞ 最大補足:一人
キャスターの命令のみ従う一頭の魔獣。キャスターが消滅しても現界し続けて命令を遂行する■■■■。ただし一度定めた標的の変更はできない。
撃退するには同じ深淵の神々の智恵が必要である。

【保有スキル】
ストーキング:EX
キャスターが目視した標的を空間を転移しながら、15次元を行き来し、捕食するまで永久的に追跡する。標的は一度に一人まで。 決して逃げられはしない。

神殺し:A+
神性・霊体にプラス補正を与える。サーヴァントも例外ではない。

変容:A+++
その注射針のような長い舌はサーヴァントでも治癒不可能の傷を与える。
人間がこれで傷を負うと幸運判定を行い、失敗すると混血種に変異して、キャスターの隷〈ドール〉となる。変異すると生物から逸脱し、三次元と超次元の狭間に幽閉され、普通の人間には目視出来ない霊体化した存在となる。


359 : 飢えた猟犬は英霊たちを求めて円環の果てまで…… ◆WqjPzMBpm6 :2017/06/13(火) 21:15:44 4lFBk1PM0

『もがき苦しむ面妖な隷〈ドールズ・オブ・リビングデッド〉』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:数に応じて 最大補足:一体につき三人
ルルハリルで負傷した人間が変異した疑似サーヴァント体。
単独行動:Eランク相当を所持するアンデッド・ゴースト。
ちなみにこの隷はルルハリルの通る穴となる。
ラゼェルの操躯兵は魂がないため、転化されず、隷も操躯兵には加工出来ない。

真名解放時は始原領域都市に閉じ込めた対象を大量の隷で圧殺する。


【 weapon 】
・ルルハリル
サーヴァントをしとめる猟犬。
・隷〈ドール〉
隷に傷をおわされた者はまた隷となる。
・黒魔術
対象の肉体を変化させる呪いや自身やマスターを空間転送させる事が出来る。

【人物背景】
遥か太古の昔……世界から排除されたある大陸の魔術師、その末裔。
人ならざる探求心と努力と勇気で深淵の神々にたどり着いた数少ない一人。
しかし、その結果は実らず地下組織の権力闘争に敗れ、伏した悲運の魔術師。
引きこもり体質。ビビりですぐ泣く。荒事には向かない性格。
事実生前ルルハリルを用いた暗殺も失敗している。


【サーヴァントとしての願い】
深淵への探求。
マスターの指示に従う。
戦いでは穴熊を決めたい。
でも、マスターがそれを許してくれない。





【出展】白貌の伝道師
【マスター】ラゼェル・ラファルガー
【人物背景】
地下世界の都市〝深淵宮〟統べるダークエルフでラファルガー家の出身。伝説の龍殺しにして骸繰りの匠。
儀式的殺戮を取り仕切る祀将であったが、地下世界に引きこもり権力闘争に明け暮れる同族を嫌悪し、グルガイア神像の片目を持ち去り出盆。
その後は混沌の神・グルガイアにただ捧げるためだけに流浪の殺戮を往く邪教の信奉者となった。
御伽噺の伝説となったその名は白貌の伝道師────混沌の闘士〈カオス・チャンピオン〉

【 weapon 】
『龍骸装』
これらは全て白銀龍の骸から造られた武具・魔導兵器である。
・凍月
龍の第六肋骨を削りだした曲刀。
刀身には〝鋭化〟〝硬化〟〝震壊〟〝重剛〟〝柔靱〟の状況に応じた魔力付与を発動させることが可能。

・群鮫
白銀龍の角を穂に、大腿骨を柄に使った短槍。
使い手の意思に感応して重心配分が変動し、運動エネルギーを倍化させるため、直撃した際の威力は絶大。

・凶蛟
白銀龍の下顎の骨に、四五枚の鱗を髭で結わえつけた鎖分銅。
全長二十フィート余りだが、状況に応じて自在に収縮する。
尾端に凍月を連結する事で鎖鎌としても使用可能。

・凄煉
白銀龍の肺胞。
超高温を帯びた金属すら融解させる瘴気の息吹を解き放つ。それは直撃せずとも骨まで腐らせる致死性の猛毒。
封印解除から発射まで約100秒を要する。

・手裏剣
鱗で作られ、一撃のもとに必殺する。

・篭手と胴着
鬣を編み上げられて作られ、同じ龍骸装を阻める防具。

いずれも鮮血を滋養として代謝し、自己再生能力を持つ。
祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者は、全て混沌神グルガイアに献上される。

『バイラリナ』
ハーフエルフの少女の死体から造られた操躯兵。
身の丈以上の〝嘆きの鉈〟を手に最大効率の手際で虐殺を遂行する。
キャスターの護衛も兼ねる。

【能力・技能】 
・骸繰り
コープスハンドラー。
元の死体の戦闘力をそのままに使役する秘奥の技。
生前の思考力をそのままに、自我・欲望・感情を剥落させた生体機械。
死体に魔力を充填されればあらゆる負傷を治癒させる。
断じてゾンビではない。

・武芸
芸術の域にまで洗練されたダークエルフ流の肉体解体術。

【マスターとしての願い】
ここ冬木の人間すべてと英霊たちを混沌神グルガイアに捧げることそれのみ。

【方針】
英霊・人間、皆殺しに全身全霊を捧げる。


投下終了


360 : ◆xn2vs62Y1I :2017/06/13(火) 21:24:04 0e760gUs0
皆さん投下乙です。投下させていただきます。


361 : れんげテング ◆xn2vs62Y1I :2017/06/13(火) 21:24:46 0e760gUs0
冬木市にも自然が点在する箇所は見受けられるが、あえて踏み入れようとする現代人は少ない。
そこへ赴くのに、よっぽどの理由を持たなければならない。
何故なら、自然豊かな場所に人間は退屈しているからだ。
決して、自然を嫌悪している訳ではない。
雄大で穏やかな風とせせらぎ、鳥の鳴き声を耳に傾け、都会の疲れを癒すに相応しい気分転換を味わえる。

だが、退屈だ。
刺激もないし、格別自然を愛する者のような変わり者だったら良いが。
現代。目に余るような情報と刺激を味わえる都会。
欲しいものは大体揃うし、不便が少ない。
自然界は不便だ。生活するのだって一苦労。
冬木よりも遠くにある田舎では、コンビニすらないし、バスだって三時間に一回来るか来ないか。

ちょっと昔まで、ここで遊ぶ子供の姿はあっただろう。
しかし、最早子供は愚か大人すらいない。
逆に大人が徘徊するのが、不審者として通報される時代なのだ。
世は残酷である。
けど、これが子供の場合であっても不信を抱かずにはいられない不可思議な状況だと、現代では判断される。
かつて日本のどこかしこもが、自然に溢れてたのが嘘か幻想に思える。


さて。

木々が自生する森林地帯に、独創的な歌を口ずさみながら歩む少女が一人。
葉の合い間から溢れる木漏れ日を浴びながら、適当に拾った木を一本、手にとって悠々と進んでいく。
かなり外で、虫を眺めたり。走りまわったり。
疲労を蓄積しているだろう少女だが、幼さとは裏腹に無表情で勤しんでいる。


「はっ」


興奮気味に少女がある植物に注目した。
『ヤツデ』と称される巨大な葉が特徴的なソレを、一つ。全身の力を込めて引っ張り、尻餅つきながら手に入れた。
少女は、急いでヤツデを握りしめ、森林を駆け抜けた。
その姿は、現代には似つかわしい光景である。


「すとくんの忘れ物、見つけたのー」


少女が呼びかけた、少女の視線の先に居るのはまさしく『天狗』だった。






362 : れんげテング ◆xn2vs62Y1I :2017/06/13(火) 21:25:10 0e760gUs0
前日。

一人の田舎に住む少女・宮内れんげが聖杯戦争のマスターとして招かれたのは、不運か幸運か。
穢れ知らぬ少女が戦争に巻き込まれたのは不運で。
あらゆる願いを叶える願望機を手にする機会に恵まれたのは幸運なら。
見方によっては、どうとでも捉えられる。

そんな彼女が召喚したのはバーサーカーのサーヴァント。
バーサーカーは文字通りの狂戦士。
狂っている逸話が元で、意志疎通が困難となった英霊。
喋れたとしても全うではない連中を基本。
だが、ステータスの上昇を見込め、強さは保証される……らしい。実際のところは不明だ。

魔術師や歴戦の経験者などが召喚すれば良いものを、少女が、しかも無力な子供が召喚したのだ。
最悪、それだけで絶望を抱く状況だが。
れんげに関しては、最悪を理解する情報や知識が少なかった為に、至って冷静を保っている。

れんげが召喚したのは『天狗』だった。
妖怪の知識が豊富な者は、きっと『天狗』の真名へ至れるだろう。
しかし、無知なれんげにとって『天狗』を召喚した事実が十分過ぎた。


「凄いん! ウチ、本物の妖怪に出会ってしまいました!!」


子供らしく歓喜するれんげに対し、バーサーカーこと『天狗』は不気味な沈黙を続ける。
実のところ、ソレは本物の『天狗』ではない。
夜叉か鬼婆の如く伸びた黒髪の隙間から見え隠れする首元を確認すれば、顔は仮面であるのが明らかで。
ちゃんと表情が確認出来ない状態だが、バーサーカーらしいうめき声を漏らすこともない。
バーサーカーらしかぬ静寂を漂わせる。
落ち着きを取り戻したれんげが、しげしげと『天狗』を観察した。


「天狗、恥ずかしがり屋さんなんな」


沈黙を続けるバーサーカーをそう解釈したれんげは、片手を上げて挨拶する。


「宮内れんげです。尊敬している妖怪はサンタクロースです」


バーサーカーの視線が僅かにれんげへ注がれた気もする。
むうと唸ってかられんげは問う。


「天狗にも名前はあるのん?」


鋭利に尖った血にまみれたような手を差し出したバーサーカーは、地面に何か記す。
真剣な眼差しでれんげが見届けると、達筆に文字が書かれていた。
恐らくバーサーカーは狂ってない。理性があるのだ。何故か口ではなく文字で伝えようとした。
更に。
時代の古い、小難しい漢字だったので


「読めないん! これが妖怪の文字なんな……」


れんげが変に関心した矢先、ふっと脳裏に言葉が浮かびあがった。


「すとく? すとくって読むのん? おお、流石妖怪なんな。うちを妖怪語読めるようにしてくれたん!」


363 : れんげテング ◆xn2vs62Y1I :2017/06/13(火) 21:25:36 0e760gUs0




自信に満ちたれんげが、ヤツデの葉をバーサーカーに差し出す場面に戻る。


「ウチ知ってるん。天狗は皆これ持ってるのん」


バーサーカーが所謂『天狗の団扇』を所持してないのに注目したらしく。
れんげは、無表情ながらバーサーカーの反応に期待する様子だった。
至って平静にバーサーカーは虚空から、真祖の団扇を出現させる。
葉ではない。不可思議な羽で構成された団扇は、神秘性を醸しだしている。


「すとくん、団扇持ってたんな」


残念そうなれんげを傍らに、バーサーカーが唐突に団扇の羽を一つ毟る。
あまりのことで、れんげは音が鳴るほど息を飲んだ。


「そんなことして大丈夫なん!?」


バーサーカーが手渡す羽を恐る恐る握ったれんげ。何故だか、不思議と自分は飛べるような気がした。
普通は、気が狂っている発想ではある。羽が急激に軽く変化し、そのままれんげの体を引っ張る。
同じく風に流され、乗る天狗のバーサーカーも飛び立ち。
彼らは日が落ちた夜空に漂い、七色に煌く都心の明かりを目にした。
宝石じみた美しさと目障りな眩しさを覚える輝きに、れんげは相変わらずののんびりした態度で言う。


「ここは夜も明るいのん」


ふわふわと夢のような飛行を続け、やがて冬木市にてれんげが住んでいる家に到着した。
これでもれんげは感動しており。
飛行を楽しみたい衝動はあったが、夜だから家に帰らなければならない常識は厳守する。


「これ、ウチにくれるん? ありがとうなんな、すとくん」


れんげは、何となくバーサーカーの想いが分かった。
きっと妖怪だから、で済まされている疑問だが、れんげは疑念を持っていない。
事実として、れんげから羽を返して貰おうとする素振りを、バーサーカーは見せてない。
家の扉を開けようとしたが、鍵がかかっている。
れんげは、遅れてポケットから鍵を取り出す。


「どうしてここに居るみんなは、家に鍵かけてるん?」


バーサーカーは何も答えず霊体化した。


364 : れんげテング ◆xn2vs62Y1I :2017/06/13(火) 21:26:15 0e760gUs0
【クラス】バーサーカー
【真名】崇徳上皇@史実・保元物語

【ステータス】
筋力:D 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:E 宝具:B

【属性】
秩序・善


【クラススキル】
狂化:D-
 ステータスの上昇は控えめであり、代わりに理性は保たれている。


【保有スキル】
無辜の怪物:A
 怨霊伝説においては、舌を噛みちぎり、生きながら天狗へ変貌したと云うが。
 全くの風評被害であり、彼は最期まで人間であった。
 舌が無いのでバーサーカー特有の呻きすら出来ず、その影響か念話も叶わない。
 この装備(スキル)は外せない。

妖術:B
 基礎的なものから、呪詛に至るまで、高度な技術を有する。
 バーサーカーはこれを用いて、マスターや相手に何となく自分の思いを伝えられている。

魔力放出(炎/風):A
 天災に等しい規模の火災や嵐を発生させる。
 威力が相当の為、魔力不足のマスターを持つ場合、迂闊に連発できない。


【宝具】
『羽団扇(テングノウチワ)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜300 捕捉:1〜500
 大天狗が所持するとされる羽団扇。
 これを所持するだけで飛行、縮地、分身、変身、風雨、火炎etcなど多くの奇跡を起こす。
 団扇の羽一本所有するだけでも、精神干渉や呪術除けの作用がある。


『滝川に流るる我が血を以て』
ランク:A+ 種別:厄災宝具
 血で書した写本が呪詛に込められていると嫌悪され、彼の棺から血が溢れ出たと噂された。
 彼に纏わる『血』こそが、彼の死後に発生した厄災の原因と恐れられる。
 崇徳上皇の『血』を浴びたあらゆるものは、呪いを受け、破滅へと導かれる。
 『血』が滴り落ちた大地の霊脈は死に、神性な宝具も時が経つにつれ堕ちてゆく。
 それらを解くには、崇徳上皇を倒す他ない。


【人物背景】
怨霊伝説の風評被害により近年まで日本三大怨霊と称された崇徳院。
政治から遠ざけられ続けた末、保元の乱を起こすが敗北。
出家すら叶わず、流刑を受け。京にも帰還を果たせず、生涯を終えた。
不運続きだが、本人は至って平和を願い続けた人間であり、晩年誰も恨むことなく息を引き取る。
これも自らの定めだと受け入れている。


【特徴】
天狗の仮面に天狗の格好をし、夜叉を彷彿させる黒の長髪。
仮面の下は、至って普通の40代後半の皺入った日本人男性。
バーサーカーの状態では舌がない。


【聖杯にかける願い】
マスターを守護する





【マスター】
宮内れんげ@のんのんびより


【weapon】
小学生ながら賢い、奇才な面も見受けられる。


【人物背景】
独特な訛りで話す、田舎に住む小学一年生。
基本的に無表情だが、子供っぽい面もある。


【聖杯にかける願い】
???


365 : ◆xn2vs62Y1I :2017/06/13(火) 21:26:56 0e760gUs0
投下終了します


366 : 名無しさん :2017/06/15(木) 19:05:18 QRlDYKnU0
質問です
犯罪者や受刑者以外なら存命中の人物もありですか?


367 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/16(金) 00:48:42 N.pxB6/60
>>366
結論から先に申し上げますと、不可能とさせていただきます。
あくまでも、現在故人となっている(消息不明とされてから長い時間が経過している)人物のみでお願いいたします


368 : ◆As6lpa2ikE :2017/06/16(金) 13:10:53 ghTo5rlQ0
初投下です


369 : 月とて伏くろう ◆As6lpa2ikE :2017/06/16(金) 13:11:26 ghTo5rlQ0
0 まえがき

『地球は青かった』
人類の発展の象徴的イベントである有人宇宙飛行を成し遂げた英雄、ユーリィ・アレクセーエヴィチ・ガガーリンが言ったとされる名言だが、これは正確な翻訳ではない
本来ガガーリンが言った言葉を直訳すると『青みががっていた』であり、そこから分かりやすいよう、簡潔に『青かった』と訳されたのは、最早あまりにも有名すぎる雑学である。
理解を優先して原型から微妙に違った訳になったのは、何だか考えさせられる話だ。
もし、ここにあの料理好きの番長が居れば、この話題で風刺の効いた皮肉の一つは言っていただろう。

『んなわけねぇだろ。お前、人を何にでも皮肉を言う、嫌な奴だと勘違いしてねぇか? 俺はお前みたいな、捻くれた根暗クズじゃあねーんだよ。そもそも、同じ言語でも少しどころか全く違う意味で、理解どころか誤解を優先して報道されるような世の中になってるつぅ昨今で、そんな昔の些細な誤訳なんかについて話しても、今更何も面白くねぇだろうが』

みたいにね。
ともあれ、どうしてわたしがわざわざこの言葉を引用したかと言うと、別に言語の壁や誤訳の問題について一席打ちたかったからではない。
ただ単純に、『あれ』を見て、わたしはふとこの言葉を思い出しただけなのだ。
誰だって『あれ』――暗い宇宙の中に浮かぶ青い星の姿を目にすれば、『地球は青かった』という名言を思い出すに違いない。
そう。
わたしは今、宇宙に浮かぶロケットの中から、母なる惑星――地球を見ていた。

遅ればせながら自己紹介をさせてもらうと、わたしの名前は瞳島眉美。
読み方まで紹介するなら、『どうじま・まゆみ』だ。
生まれながらに視力が異常に良い事と、とある事情で男装をしている事以外は、いたって普通の女子中学生である。
そんな一般人代表もかくやなわたしが、どうして現在、宇宙空間という非日常世界にいるのかというと――これが分からない。
ここに至るまでの経緯を、全く思い出せないのだ。
なんの脈絡も前後もなく、わたしは突然宇宙空間に居るのである。
こんな突拍子もない事態に、わたしは真っ先に探偵団の面々を疑ったが、あの非常識が美少年の姿をした彼らであっても、女の子一人を宇宙に連れて行けるはずがない。
探偵団のメンバーの一人である、指輪財団の御曹司、指輪創作くんの財力を以ってしても、流石にそれは不可能だろう。
他に、この状況を作り出したと思われる人物として、遊び人の生徒会長や非合法の運び屋集団などがいるが、そのどれもがどうにも決め手に欠ける候補である。
となると、あと考えられるのは――夢か。
つまり、これは現実の景色ではない。
わたしは、宇宙にやって来た夢を見ているのだろう。
視界の先に浮かぶ地球も、わたしの視力を以って見れば、地上に立ち並ぶ建物の一つ一つを、このロケットから正確に視認出来たっておかしくないというのに、何処と無くぼやけているしね。
夢特有のぼんやりとした景色というわけだ。
それにしても、『宇宙飛行士になる』という夢を追っていた数ヶ月前ならいざ知らず、それを諦めた今になってもこんな夢を見てしまうとは。
やれやれ。
我ながら未練がましいというか、呆れるというか。
ともあれ、夢とはいえ宇宙から地球を眺める機会なんて一般人のわたしにとっては絶無に等しいので、折角だしもっとよく見ておこう――そう考え、わたしは意識を視界へ戻す。
暗闇の中に浮かぶ地球は、ガガーリンの名言通りに青かった――青みがかっていた。
いや――その景色には、青以外にも大地の茶色や緑も、当然ながら混ざっている。
そんなマーブル模様の上に、青みがかかっているのだから、改めて見てみると中々に奇妙な色合いだ。
わたしと同じくクズトリオの一角を担う何処ぞの魔法少女がこれを目にすれば、『気持ち悪い』や『不気味』と評しているだろう。
しかし、それでも。
その景色がとても『美しく』見えるのは、どうしてなのだろうか?
地球に住まう何十億の生命の神秘が、そのように見せているのだろうか。
それとも――諦めた筈の夢が、わたしの目に補正を掛けているのだろうか。


370 : 月とて伏くろう ◆As6lpa2ikE :2017/06/16(金) 13:12:13 ghTo5rlQ0
1 起床

「朝だぞ、マスター。そろそろ目覚められてはいかがかな?」

聞き慣れない男の声に起こされて、ぼんやりと目を開くと、真っ暗な宇宙空間ではなく、見慣れぬ天井があった。
自宅の天井でもなければ、指輪学園の美術室の天井でもない。

「…………あっ、そうか」

一瞬、何が何だか分からなかったけれど、すぐにわたしは思い出す――夢の中ですら思い出せなかった事を、思い出す。
自分が今、自宅から――と言うか、元いた世界から遠く離れた異世界にいるのだと。
美術室のものほどではないが、実に寝心地の良いベッドから上半身を起こし、辺りを見回す。
そこには、わたしの家族は勿論、探偵団の面々を始めとする知り合いさえ、一人も居ない。
知っているものは、何もない。
その代わりのようにして、ベッドの傍に立っていたのは、流線形で白銀の全身鎧を身に纏った男(?)だった。
彼こそが、先ほどわたしを起こした張本人である。

「おお、やっと目覚めたか。先ほどから計十三回ほど呼び掛けたが、一向に目が覚めなくてな……」

『もしや聖杯戦争を待たずに死んでしまったのか?』と焦ったぞ――と、白銀鎧の男は言う。
十三回も目覚ましを試みてくれて尚そんな優しい口調で話してくれるのはありがたいんだけど……誰だっけ?
わざわざ起こしてもらった事への申し訳なさと、名前を思い出せない気不味さで、わたしは曖昧な笑顔を返すしかない。
ええと、そうだ、ガガーリンだ――ユーリィ・アレクセーエヴィチ・ガガーリン。
世界初の有人宇宙飛行を成し遂げた人物――人類の宇宙開発に多大なる貢献をし、『地球は青かった』という名言を残した、北の大国の英雄である。
寝起きでぼんやりしていたとはいえ、冒頭で名言を引用してまで紹介した、宇宙開拓の歴史を飾る偉人の名をうっかり忘れていただなんて――あっはっは。
曖昧な作り笑いなんてせずとも、自分の記憶力の無さに、思わず笑ってしまいそうになる。
…………。
えっ。
ガガーリン?
1968年に謎の墜落事故で死んだ――あのガガーリンが、今目の前にいるだって?


371 : 月とて伏くろう ◆As6lpa2ikE :2017/06/16(金) 13:13:14 ghTo5rlQ0
2 聖杯戦争

どうやらわたしは、殺し合いの参加者の一人に選ばれたらしい。
なんて風に切り出すと、間違って新西尾維新バトルロワイアルのページを開いてしまったと思われる方もおられるかもしれないが、安心してほしい。
あなたが読んでいるスレは、Fate/Bloody Zodiacだ。
そもそも、わたしを始めとする美少年シリーズのキャラクターはシリーズ開始時期が新西尾維新バトルロワイアルの企画発足時期よりも後だった関係で、その企画に参加していないのはともかくとして、わたしのような凡人は、殺し合いというアンダーグラウンドな催しとは無縁である。
ちょっとした壁なら見通しならぬ見透しできる超視力を以ってしても、そのようなイベントの入り口すら見た事がない。
そんなわたしが『聖杯』――手に入ればどんな願いでも叶う夢のような道具――を巡る、『聖杯戦争』という殺し合いに参加する事になったのは、とあるカードが原因である。
十二星座が描かれた、綺麗なカード。
登校中のわたしは、路地に落ちていたそれを、拾った。
拾ってしまった。
次の瞬間、わたしは不明な手段を以って異世界まで一瞬で連れてこられ、同時に脳内に『聖杯戦争』についての情報を与えられていたのである。
怪異! 怪異! 怪異! と物語シリーズも真っ青な展開に、混乱を極めたわたしだったが、そんな所に突如として現れた白銀の人物――ガガーリンには、ますます驚かされたものだ。

「はて。当時、わたしの目には、君は然程驚いてないように見えたがな」
「そんな事はないですよ、ライダーさん。その時はあまりに驚きすぎて、リアクションが薄くなっちゃっただけです。ここにやって来てから今日に至るまで、わたしは怒涛の展開に動じてばっかりです。瞳島だけに!」
「そんな洒落を言えるなら、十分余裕だと思うがね」

聖杯戦争の参加者の元には、歴史上、物語中、伝説下において『英雄』と呼ばれる存在が召喚されるらしい。
その名もサーヴァント――基本は剣士、弓兵、槍兵、騎兵、術師、暗殺者、狂戦士のいずれかのクラスで呼ばれる彼らは、マスターの代わりに戦う駒になると言う。
わたしの元に呼ばれたガガーリンは、宇宙飛行の逸話から、当然のように騎兵(ライダー)のサーヴァントとして召喚された。
それにしても、宇宙飛行士になる夢を諦めたわたしの元に呼び出されたのが、宇宙飛行士だとは。
運命は意地悪である――わたしのようなクズの場合、運命の性格もクズになるのだろうか?
と、まあ、そんなわけで、ようやく現状を完全に思い出せた。
しかしながら、思い出せても、それらの情報を理解出来てはいない。
納得出来てない。
疑問は、多く残っている。
例えば、どうして聖杯戦争の主催者は、わたしのような一般人をこんな場所に呼び出したのか。
まさか、今更わたしに聖杯にかける願いがあるとでも?
そりゃあ、俗物と煩悩が男装して歩いてるようなわたしだけれども、人を殺してでも聖杯を手に入れて叶えたい願いは、流石に持ってない。
人を殺してはいけません――美学をまだ完全に学べていないわたしでも、知っている常識だ。
人殺しをしてまでして叶える願い――それは、きっと、美しくない。

「そういえば、ライダーさんは何か聖杯にかける願いがあるんですか?」

自分の願いの有無についての思考から派生し、発生した疑問をガガーリンに向かって問い掛けた。

「ないな」

ライダーは即答した。

「わたしには、聖杯とやらに掛ける願いなどない。わたしの人生は、生前、空の上で『アレ』を討ち滅ぼす為だけに――宇宙(ソラ)への道を開く為に、あったようなものだったのだからな。それを成し遂げられただけで、満足だ。後悔などない」

『アレ』?
『アレ』とは何なのだろう。
ライダーはわたしの表情から、わたしが抱いたそんな疑問を察し、――わたしからライダーの表情は、兜のようなマスクで見えないが、彼からわたしの表情は見えるらしい――『ああ、そうだったそうだった』と言う。

「マスター、君にはまだ話していなかったな。わたしの人生を――英雄・ガガーリンが体験した、歴史には記されていない不可思議な出来事を。知らぬ他人にならまだしも、マスターである君にそれを教えないわけにはいくまい――よし、朝食を食べながら、それについて話すとしよう」

リビングで待っているよ――そう言って、ライダーは部屋を出て行った。
わたしが謎に満ちたガガーリンの事故死の真実を知るのは、これから数分後の事になる。


372 : 月とて伏くろう ◆As6lpa2ikE :2017/06/16(金) 13:14:11 ghTo5rlQ0
【クラス】
ライダー

【真名】
ユーリィ・アレクセーエヴィチ・ガガーリン

【出典】
史実

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力D++ 耐久A 敏捷B++ 魔力C 幸運A 宝具EX

【クラススキル】
対魔力:C

騎乗:D

【固有スキル】
星の開拓者:EX
人類史におけるターニングポイント、それを達成した偉人や英雄に与えられるスキル。
あらゆる難航、難行が“不可能なまま”“実現可能な出来事”になる。
ガガーリンは宇宙という未知領域への開拓を成し遂げた。

夢想外装:EX
下記の宝具によって獲得したスキル。
軍人とはいえ所詮は近代の人間にすぎないガガーリンが上記のようなステータスと対魔力を獲得できたのは、このスキルによるもの。
このスキルにより、短時間限定ではあるが、魔力を消費する事で更に筋力と敏捷にブーストをかける事が出来る。

黄金律(体):D
宇宙飛行士として選考されるのに十分な、完成された肉体。
美しさよりも耐久力や適応力に主眼を置かれた評価である。
ガガーリンはこのスキルにより下記の宝具を十全に着こなして――乗りこなしている。

███の呪い:-
これは歴史には記されていない真実――宇宙飛行を行った際、ガガーリンは人類の宇宙への到達を阻もうという意思を持った高次存在と遭遇した。
ガガーリンは、その妨害をヒトの夢と希望の力で打ち破ったが、代償として、謎の高次存在から呪いを受ける事となる。
地球に帰還してから、『人類初の宇宙飛行士』という時の人としての活動をしていたガガーリンは、その傍らにこの呪いと独り格闘するが、最終的には飛行機の運転中に呪いが強く発動し、墜落事故を起こす。
ガガーリンの謎に満ちた事故死は、高次存在からの呪いによるものだったのだ。
本来ならば、このスキルはガガーリンが何かに乗って行動する度にファンブルが生じるバッドスキル(呪い)だが、世界初の有人宇宙飛行を成功させた英雄としての全盛期の姿で召喚され、下記の宝具を着用している彼は、現在このバッドスキル(呪い)の効果を、限りなく無効に近くなるまで減退させている。

【宝具】
『祖国は聞いている、英雄よ強くあれ(ロゥディナ・スリシット)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

ガガーリンは軍人としての屈強な肉体に、宇宙服をスタイリッシュにした感じの全身鎧(色は白銀で、足や肘などの部分にロケットブースターが付いている)を着用している。
言うならば、着るロケット――最小の宇宙船である。
実はこれは、『世界初の有人宇宙飛行』という偉業に当時の全人類が向けた夢と希望と想いの結晶が、ガガーリンという英雄の元に集い、それらが一種の攻撃・防御的概念礼装と化した結果、宝具になったもの。
あるいは、数億人レベルの宇宙への憧れの心象風景が込められた固有結界。
宇宙という未知の領域への突入という逸話が鎧の形をとったこの宝具は、固有結界や異界に入った際に受けるデバフを無効化にするレベルで軽減する。
ガガーリンはこの宝具と共にスキル『夢想外装』を獲得した。


『我が到達するは空の果て、されど此処に主はなし(ゼムリャー・ガルバヴァータヤ)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:?

遥か昔から神の園が存在すると信じられていた空の果てに到達し、神の不在証明をした――つまるところ、神の領域に人の手を伸ばし、侵略したエピソードによる宝具。
発動と同時に、周囲に宇宙空間を模した結界を展開する。
相手サーヴァントの出自や宝具が何らかの神秘に由来するものであれば、この結界はそれらを著しく弱体化させ、相手の神秘性が高ければ高いほど、まるで生身で宇宙空間に放り出されたかのようなダメージを与える。

【weapon】
自身の肉体と外部装甲。
軍人である為、元から戦闘能力自体が高い。

【人物背景】
世界初の有人宇宙飛行を成し遂げた英雄。
基本的な人物背景は史実通りだが、『宇宙飛行の最中で謎の高次存在から妨害を受け、最終的にそれを倒した』という裏経歴を持つ。
性格は優しく、コミュ力豊富。

【特徴】
宇宙服を流線形の目立つ形にした感じの、スタイリッシュな白銀の鎧。


373 : 月とて伏くろう ◆As6lpa2ikE :2017/06/16(金) 13:14:35 ghTo5rlQ0
【マスター】
瞳島 眉美@美少年シリーズ

【能力・技能】
・美観
生まれつき獲得している異常なまでの視力の良さ。あまりに視力が良すぎる所為で、ちょっとした壁くらいなら透視でき、人間の可視範囲外の光を視認できる。
しかし、この視力の良さは眉美の眼に多大な負荷を与えているため、彼女は遠からず視力を失う事を運命づけられている。
その為、普段は特殊な眼鏡をかける事でその超視力をセーブしている。

【人物背景】
『美少年シリーズ』の語り部。
私立指輪学園に通う中学二年生である。
四歳の頃に一度だけ見た美しい星に心を奪われ、宇宙飛行士を目指すが、彼女の両親はそれを許さず、眉美は十四歳の誕生日までにその星を再び見つけなければ、夢を諦めなければいけなくなった。
それから十年――十四歳の誕生日が明日に迫ってもなお例の星を見つけられない彼女は、学園の屋上にて、とある少年と出会う。
美少年と出会う。
実はその美少年は、美少年探偵団という学園非公認組織の団長、双頭院学であり、彼は眉美の悩みを知ると、探偵団による星の探索の協力を申し出た。
その後、美少年探偵団の個性豊かな美少年たちの協力で、自分が見た星の正体を知った彼女は、しかし、最終的に自分の夢を諦めることとなる――。
後日。眉美は男装し、美少年探偵団の一員となった。
彼女が新たな夢を見つけ、空を見上げる日は、いつか来るのだろうか――。

因みに、性格はかなりのクズである。
何かと性格がアレな女が多い西尾作品においても、トップレベルの性格の悪さを誇る。
瞳島眉美ではなく、瞳島屑美と改名すべきなのではないだろうか?
けどまあ、やる時はしっかりやる主人公らしさも見せるので、ただのクズではなく愛すべきクズと呼ぶべきなのだろう。


374 : ◆As6lpa2ikE :2017/06/16(金) 13:15:11 ghTo5rlQ0
投下終了です。ちなみに今日は無重力の日らしいですね


375 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/18(日) 01:21:43 xit.iNHw0
投下いたします


376 : 盲愛(めくらのあい) ◆z1xMaBakRA :2017/06/18(日) 01:22:31 xit.iNHw0

 私の心は何時だって、薔薇の森の中に囚われていた。
芳しい香りが常に私の嗅覚を喜ばせる。空から燦々と降り注ぐ柔らかな陽の光が私の心を躍らせる。
何処に行っても薔薇があり、何処に行っても光が満ちる。私を遮る障害物も、私の行く手を阻む敵もなく。
薔薇も、香りも、地面も、光も、空も。その全てが、私の好きな人物。この、天国のような牢獄は、何時だって私の心を離さなかった。私自身も、離れる気もなかった。

 ――習さま。
私の光。私の誇り。そして、私の大事な人。
喰種の中でも尊い血筋の者でありながら、私達は勿論、下等なヒトにすら、私達に向けるような笑みを以って接する、慈悲深いお方。
何れ月山家を継ぐ者でありながら、分家筋の私にも目を掛け大恩を与えて下さった、尊敬すべきお方。
……ロゼヴァルト家再興の為、兄達の代わりとして、男として今後は振る舞おうと誓った私の中に、隠し過ぎて錆び付いた『女』を目覚めさせた人。

 私の罪は、習さまの快復を本心から望まなかった事。習さまが治らなければ、あの安寧が自分の物になり続けると少しでも思ってしまった事。
だから私は、薔薇の森の中に不自然に転がっていた、林檎の果実の匂いに堪えられなかった。林檎を齧った私は化物になり、勝手に暴走し。
そして、罰が下された。快復しなければ良いと思っていた大切な人は、Borg(豚野郎)の赫子からルナ・エクリプスの屋上から投げ捨てられ、その命を終えようとしていた。
私だけが、死ぬ訳じゃなかった。私の犯した罪に下される罰、それに、大切な人が巻き込まれようとしている。
Rose(薔薇)を枯らせる訳には行かなかった。Sonne(太陽)を冷やしてはならないと思った。Licht(光)を、決してはならないと叫んだ。
喰種とは思えぬ化物に埋め込まれた力のせいで、私のものではない何かが頭の中に住み、それが囁き掛けているように頭の中が混濁していた私の思考は、習さまをどうにかしたいと言う一心で、彼と共に屋上から飛び降りた。

 もう、私は習さまと共に終わる。今まで彼に合わせて日本語で話していた私は、思いの丈を、母国の言葉で、世界に刻んだ。
家族に、習さまに赦しを乞い、彼への愛を叫び、そして、わがままだと思いつつも、私の本当の名前を呼んでくれと。烏滸がましいと思いながらも絶叫する。
私が、どれ程醜い喰種であったのか。それを、あの人に伝える為に。私は、全てを洗いざらい、己の口から――

「――Keine Sorge.」

 私は――

「Niemand wird dich bestrafen」

 私――

「Karren」

 全ての力を振り絞り、赫子を作り、習さまを安全な所まで投げ飛ばす私。
遠くで習さまが、今まで私に見せた事もない、必死な表情で叫んでいる。私の名前を、何度も、何度も。

 頭の中で囁き続ける誰かが、習さまの言葉に殺される。私の心をとらえ続けていた薔薇の森園が消え失せ、下から上に流れて行く高層ビルの風景へと様変わりする。
何て、私は馬鹿だったのだろう。醜い独占欲など、抱き続ける必要はなかったのだ。隠し通す必要性も、なかったのだ。
ただ、素直であれば良い。それだけで、良かったのだ。そうすれば、優しい習さまは、私に何かを示してくれたかもしれないのだ。
どうしようもなく私は愚かで、その愚かさのせいで、不幸な事も多かった一生だったけれど。幸福もあったのだ。
ああ、あれだけの罪を犯したと言うのに。あれだけ醜かったと言うのに。私……、こんな幸せでいいのかしら。
こんな幸福に包まれたまま死ねるなんて、私――――――――――――――――――――。



 『カナエ=フォン・ロゼヴァルト』の一生は、こうして終わった。死因は、高層ビルからの転落死。
喰種と言う種族的特徴故に頑丈で、五体は砕け散っておらず、喰種としての形を留めている。その死に顔は、壮絶な死に方とは裏腹に、とても安らかな物だったと言う。


377 : 盲愛(めくらのあい) ◆z1xMaBakRA :2017/06/18(日) 01:22:54 xit.iNHw0

 ◆

 冬木大橋の高架下で、カナエは、夜の星空を見上げていた。
夜の空は、好きだった。頻度こそ稀だが、月山と共に、夜の空を窓越しに見上げながら、読書や珈琲を嗜んだり、夜空の下でバイオリンを演奏して見せた事を、
カナエは思い出していた。彼女にとって、一番幸福だった時期の事を、この冬木の街で思い出す。

 空の広さは、ドイツでも日本でも平等だった。何処でも空は変わらない。星の配置も、きっと同じなのだろう。
だが、この街は断じて、カナエの元居た日本ではあり得なかった。無論それが、カナエが今わの際に手にしていた星座のカード、
それが彼女の脳裏に刻み込んだ、聖杯戦争及びそれに付随する知識によって得た情報から理解している、と言う事もある。
しかしそれ以上に、この世界には、カナエが元居た世界では常識であった者達がいないのである。そう、此処には喰種がいない。
此処はきっと、初めから人しかいない世界だったのだろう。それとも、人が喰種を全て駆逐しきった世界なのかもしれない。
どちらにしても、この世界においてカナエ=フォン・ロゼヴァルトと言う喰種は、完全なる異物である事を、彼女自身は認識していた。

「……」

 考えるカナエ。
当初は、孤独だと思った。この世界には月山は勿論、その父である観母も、松前を初めとした月山家の使用人、果ては、
自分と同じ喰種すら存在しない。真実カナエは、この世界におけるたった一人の希少種になってしまったのだ。

 ――だがこれは、逆を言えば好機なのではないかと思っていた。
喰種と人間の運動能力の差は、子供ですら即座に、喰種の方が遥かに上だと答える程には、人のそれを超えている。
人の理解を遥かに超えた喰種の力を用いれば、聖杯戦争、勝ち抜く事だって訳はない。聖杯。如何なる願いをも叶える万能の願望器だと言う。
そんな物があるのなら、自分はきっと、月山習の幸せを祈るだろうと、カナエは初めから確信していた。彼女の罪滅ぼしは、未だに続く。
最愛の人物が存在しないこの世界ですら、彼女の抱く月山習への愛は、永遠であった。その愛を叶えるべく、カナエには、聖杯が必要なのである。

 ……必要、であると言うのに。

「考えは改まったか、マスター」

 それは、カナエの背後から聞こえてくる、バリトンの効いた低い男の声だった。
その方向に顔を向けると、其処には、高架下に背を預ける、カナエの引き当てたサーヴァント――バーサーカーと言うクラスらしい――がいた。
鍛え上げられた上半身を露出させ、その上に裏地の紅い黒マントを羽織り、ボトムスにカーキ色の長ズボンを選んだ、赤い髪をした眼鏡の青年であった。
日頃の不摂生や睡眠不足のせいかはしらないが、目の下には深い隅が出来ており、男の荒んだ生活ぶりがカナエにも伝わってくる。
くすんだ碧眼が、カナエを睨めつける。ゾッとする程剣呑な輝きを宿した、鋭い瞳。射すくめられたように、カナエの身体が動かなくなる。

 ――たかがヒト如きに……――

 何故、喰種である自分が恐れを抱いているのだろうか。
クインケと呼ばれる道具すら持たない。男は完全な丸腰である。それなのに男は、カナエの遥か上を往く強さを誇るのだ。
そうと知っている理由は、単純明快。一度カナエとバーサーカーは、意見の対立を見て、交戦状態に陥ってしまった事があるからだ。
結果は、カナエの惨敗。誰が信じられようか。如何に物理的特性として脆さのある鱗赫とは言え、カナエの赫子をただの手刀で大根みたいに切断し、
本人曰く手心を加えていたと言う右拳の一撃でカナエを気絶させてしまったのだ。そう、彼女は、ただのヒトに拳で敗北してしまったのである。

「お前の罪は、到底許されるべきものではない。だが、己の罪と向き合い、付き合って行くと言うのであれば、俺もお前を裁かない。いや、我々は安易に人を裁くべきではないのだ。況してお前は我がマスター。人を喰らう怪物であったとしても、俺は、お前が贖罪を続けると言うのであれば、お前に頭を垂れよう」

 落ち着いた声音で、バーサーカーは喋り続ける。
本来的には言語による意思疎通すら難しいと言うバーサーカークラスであるのに、男の口調は驚く程闊達であった。

「だが――聖杯を獲得して願いを叶えようとする事だけは許せん。あれは、あの人の威光を汚す、汚物で満たされた唾棄すべき魔杯。あれは、俺の手で砕かれねばならない」


378 : 盲愛(めくらのあい) ◆z1xMaBakRA :2017/06/18(日) 01:23:15 xit.iNHw0

 そう、カナエが己のバーサーカーと決別しかけた最大の理由は、此処に在った。
カナエは聖杯を使って叶えたい願いのヴィジョンがあると言うのに、この男はよりにもよって、聖杯の破壊を視野に入れて動こうとしている。
バーサーカーのそんな態度が許せなかったからこそ、カナエは令呪を切ろうとした。それを見てバーサーカーは動き出し、其処から交戦が起ってしまった。
結果は先程の言う通り、カナエの敗北。簡単に倒されてしまったのだ。今の実力では到底、バーサーカーを出しぬけないと判断したカナエは、
表面上はバーサーカーの意見を尊重するフリをし、後で如何にか処理しようと誓った。そしてそんな屈辱的な日から、一日が経過。
未だ聖杯戦争が本開催されたと言う情報は聞かないが、こうして夜に冬木を見回り、何処かにサーヴァントがいないかと捜索。
結果としていなかったが為に、こうして冬木大橋の高架下で、小休止を挟んでいた。これが、今の状況に至るまでのあらすじであった。

「Plauderer(おしゃべり)が。同じ事を何度も私に説教しなければ気が済まないのか? 貴様は」

「それもそうか。解っているのならば良い。愛に殉じたマスターよ。俺も、お前の気持ちはよく解る。愛の重さ、尊さを、俺も理解してるが故に」

 ……愛か、と。カナエは考える。
勿論バーサーカーの言う通り、自分が最期の最期まで、月山習への愛で動いていた事。それは否定しないし、と言うより、この世界でも彼への愛こそが、
カナエ=フォン・ロゼヴァルトの行動原理、彼女を聖杯へと突き動かすガソリンである。この点で、バーサーカーは間違っていない。
だが、カナエにとって疑問なのは、この男が本当に、愛とその尊さを理解しているのか、と言う事であった。
彼の真名は、カナエも良く知っている。月山家の使用人の一人として生活して行くのなら、当然、ある程度の教養と言うものが叩き込まれる。
この男の真名は、その教養の範囲内であった。喰種の中ですら、この男は有名人であった。遥か二千年以上前、銀貨三十枚と引きかえに、
神の子を裏切ったとされる、歴史上最も有名な、裏切り者の代名詞。『イスカリオテのユダ』の名は、当然、カナエの耳にも届いていた。

「お前が、愛だと? 笑わせるな。お前はこの世界でどう扱われているのか知っているのか? Verrat(裏切り)の代名詞らしいぞ、貴様」

「知っている」

 ユダは、平然と答えた。

「勿論、お前達の目からすれば、俺は裏切り者にしか見えるまい。俺もそんな事、重々承知だ。確かに俺は、一度はあの人を裏切った」

 「だが――」

「俺は、あの人が嫌いだったから、憎悪していたから裏切ったのではない。俺は――あの人を愛していたから。好きだったから、裏切ったのだ。今でも、俺は胸を張って言えるぞ、マスター」

 胸に手を当て、笑みを浮かべてユダは口を開く。
爛々とした狂気が渦巻く碧眼は、見ているだけで、その狂気がカナエに感染しそうな程の凄味で満ち溢れていた。

「俺は、他の使徒達に出来ない方法で、あの人に愛を示したのだと。俺こそが、十二使徒の中で、最もあの人への愛に溢れていた男なのだと」

 一切の迷いも淀みもなく、ユダはカナエに思いの丈をぶつけて来た。
こんな男の宣う愛が、自分が嘗て月山にぶつけた愛が同一のもので括られるのかと思うと、カナエにはゾッとしない話であった。
そして、無言の時間が過ぎて行く。満点の星々だけが、この、喰種と人間が織りなすズレて狂ったやり取りの、観客なのであった。


379 : 盲愛(めくらのあい) ◆z1xMaBakRA :2017/06/18(日) 01:24:00 xit.iNHw0

 ◆

 俺の人生は、退屈で平凡のまま終わるかと思っていた。
カリオテの村の豪農の下で働く会計係。それが、あの人に出会うまでの俺の仕事。
変化もなく、退屈で、それでいて、主であった豪農の気分次第で何時でも首を切られる立場。それが、今までの俺の仕事。

 あの人が、俺のいたカリオテを訪れた時から、全てが始まった。
あの人は俺の目を見て行って下さった。「お前の瞳には、誠実の煌めきがある。私と共に、巡礼の旅に出ないか」、と。
俺は、帳簿と会計以外に取り立てた才能を持たぬ無能だと思っていた。そんな俺を、彼は求めてくれた。それが嬉しかったから、俺は、
十一人の兄弟子達と共に巡礼する道を選び、生まれ育ったカリオテの村を去った。

 巡礼と救済の旅は、俺にとっては新鮮で、神聖で、善きものだった。
時にあの人と十二使徒どうしで語り合い、助け合い、そして、互いに互いを高め合っていたあの瞬間は、俺にとってこれ以上となく尊い時間だった。
そして、そんな時間が終わる時が訪れた。あの人は、自分は死なねばならぬと語った。パンとワインの供されたあの晩餐の場で、あの人が語った重い内容。
それを、十二使徒達は受け入れられなかった。敬愛し敬服する、あの人を自ら裏切り、磔刑に処させる。そんな事、出来る筈がないと誰もが言った。
「何かほかに出来る事がある筈」、そう言ったのはペトロだ。「我々が一丸となれば」、と嘆願したのはヨハネだったか。
だが、どう足掻いてもあの人は死なねばならなかった。師(ラビ)であり、愛する男であった彼を裏切り殺したと言う汚名を、誰もが被りたくないと思ったのは、当然の心理であったろう。

 だからこそ、俺は、あの人を裏切る立場を買って出た。誰しもが、驚いた目で俺の事を見ていた。
俺は、使徒の中でも劣っていた。あの人が教えた術を、他の使徒が習得するのに必要とした時間の二倍、俺は習得に必要とした。
俺は、使徒の中でも一番最後に入っていた。だから、あの人の教えを学び取る事にいつも必死で、物覚えが悪かったせいで他の兄弟子にも迷惑をかけていた。
そんな、愚図で、鈍間の俺に出来る、最大最後の献身だと、俺は思っていた。俺よりも優れた兄弟子が、あの人を殺した罪を被る必要性などない。
俺だけが、その咎を負えば良い。嘗て、カリオテの村でひっそりとその生を終える筈だった俺に、素晴らしい世界を見せてくれた彼。
そんな彼に俺が見せられる、最後の献身。それは、今この瞬間を於いて他にないと俺は思った。だからこそ、俺は、あの人の提案を呑んだのだ。

「■■■よ。俺は、貴方を裏切り、貴方の思う理想を叶えます」

「……迷いはないのか。ユダよ」

 優しげな声で。あの時、カリオテの村で俺を誘った時のような優しげな声音で、彼は問いかけて来た。

「貴方は俺に、考え得る最大の幸福を与えて下さった。ならば俺も、貴方が理想とした幸福の世界の成就の手助けをせねば、その釣り合いはとれますまい」

 自信満面に、俺は、あの人に対して言って退けた。
……喜ぶような表情を、俺は期待していた。よくぞ言ってくれたと、褒めてくれると信じて疑わなかった。

 ――なのに、どうして。
■■■よ。貴方は……酷く憐れむような、哀しげな表情で、俺の事を見つめて来るのだ?
何故、他の兄弟子達も、■■■と同じ様な顔で、俺の事を眺めて来るのだ? 俺には、その顔の意味が、今も解らない。
なんで? どうして? 俺は、ただ……貴方に喜んで貰おうと思っていただけなのに。■■■よ。その答えを、俺に、教えて欲しい。それさえしてくれれば、私は……。




【クラス】バーサーカー
【真名】イスカリオテのユダ
【出典】新約聖書、及び関連書籍
【性別】男性
【身長・体重】176cm、66kg
【属性】秩序・悪
【ステータス】筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:B 幸運:D 宝具:A+

【クラス別スキル】

狂化:EX
バーサーカーは理性と正気を保てている。その上、言語能力にも全く異常はない。
しかしバーサーカーは、基督教における神の子である『あの男』への尊敬と敬愛、敬服などと言った感情を隠しもせず、
バーサーカーの行動原理は、その男が喜んでくれるか、認めてくれるか。そして、自分を愛してくれるか、と言う事だけである。
『彼』の敵になる、不利になる事があった場合、バーサーカーはボイコットを起こすどころか、マスターにすら反旗を翻す事がある。


380 : 盲愛(めくらのあい) ◆z1xMaBakRA :2017/06/18(日) 01:24:12 xit.iNHw0

【固有スキル】

奇蹟:-
時に不可能を可能とする奇蹟。星の開拓者スキルに似た部分があるものの、本質的に異なるものである。適用される物事についても異なっている。
しかし、神の子を裏切った……『と言う事になっている』バーサーカーは、このスキルの発揮は出来ない。彼は当世の人間から見捨てられている。

十二使徒:-
神の子直々の高弟として生きた者達だけが有するスキル。聖人スキルの上位互換。
聖霊の加護、聖人、殉教者の魂の効果を兼ね備える特殊スキルであり、所有するだけでAランク相当の精神耐性を保証し、
洗礼詠唱よりも上位の奇跡である洗礼礼賛の使用をも可能とする強力なスキルだが、バーサーカーはこれを失っている。

無辜の怪物:EX
神の子である男を銀貨30枚で裏切った、世界で最も有名な裏切り者の代名詞として、人々に抱かれ続けた幻想。
バーサーカーは裏切りと不和の具現としてこの世界に現出している……筈だった。
本来なら、並のサーヴァントでは口調・性格どころか存在すら変貌する程の想念を一身に背負って尚、バーサーカーは己の性格や在り方が失う事がなかった。
バーサーカーの場合は己の宝具が変質してしまっている。このスキル(装備)は、未来永劫外せない。

信仰の加護:A+++
一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。加護とはいうが、最高存在からの恩恵はない。
あるのは信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。……高すぎると、人格に異変をきたす。

洗礼詠唱:A+
キリスト教における“神の教え”を基盤とする魔術。その特性上、霊的・魔的なモノに対しては絶大な威力を持つ。
洗礼礼賛を使えぬバーサーカーは、嘗て『あの男』から教えて貰った洗礼詠唱を代用として使う。

ヤコブの手足:B+
ヤコブ、モーセ、そして様々な聖人へと脈々と受け継がれてきた古き格闘法。
極まれば大天使にさえ勝利する。伝説によれば、これを修めたであろう聖者が、一万二千の天使を率いる『破壊の天使』を撲殺している。
神性・悪魔・死霊の属性を宿す存在に対して常に特攻効果を得、この格闘法に則った型で動き、技を放っていると、
常時全ステータスに『+』が二つ追加されているものとして扱う。十二使徒の必修科目。当然バーサーカーもこれを扱う事が出来る。

【宝具】

『絆を知らぬ哀しき獣よ(イーシュ・カリッヨート)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
世界で最も著名な、裏切り者の代名詞たるバーサーカーが内在している性質と、彼の生前で最も有名なエピソードが宝具となったもの。
バーサーカーの霊基はそれ自体が、裏切りの代名詞であり、『裏切り』の属性を宿している。
彼の攻撃の一つ一つにはその属性がマスクデータとして付与されており、この攻撃に直撃し続けると、その裏切りが発動する。
対象となるのは『英霊と宝具の関係』、『サーヴァントとマスターの関係』、『発動させた神秘とそれによって本来起こる筈の結果』である。
バーサーカーの攻撃を受け続けると、英霊にとって半身とも言うべき宝具と、所有者である英霊との間に亀裂が生じ、所有者を裏切らせる。
裏切りが完全に発動してしまうと、当該英霊の宝具所有権を宝具自らが『放棄』、真名を唱えても発動せず、召喚にも応じない『裏切り』を再現させる。
また、サーヴァントとマスターの間にも、余りにも唐突かつ理不尽な不和が発動するだけでなく、宝具に拠らない、英霊やマスターが本来有している筈の、
様々な異能や魔術、スキルが、メリットとなるその結果が全く得られないと言う事すらも起ってしまう。この宝具を防ぐには対魔力等の防御スキルでは不可能。この宝具のランク以上の結界宝具及び、神性スキル、そして、裏切りが絶対に起こらない程の強い関係か、強固な精神耐性を保証するスキルが求められる。

【weapon】


381 : 盲愛(めくらのあい) ◆z1xMaBakRA :2017/06/18(日) 01:24:53 xit.iNHw0

【解説】

銀貨30枚で神の子であるイエスを裏切り、その応報を受けた(或いは自殺した)とされる、世界で最も有名な裏切り者。それが、イスカリオテのユダである。
今日ではユダと言えばそれだけで、自動的に裏切り者として認知される程影響力が大きく、後世の芸術・文学に与えた影響は計り知れない。
一方で彼の裏切りには謎が多い。その中でも最も有名な謎が、『全知』であった筈のイエスが何故、よりにもよって十二使徒の一人であったユダの裏切りを、
見抜く事が出来なかったのか、と言う物である。今日に至るまで様々な神学・哲学者がこの謎に取り組んで来たが、結局解釈は多岐に解れるがまま。

イエス及び、自分以外の十二使徒とユダの関係は、実際の所かなり良好な物で、十二使徒は互いに互いを尊敬しあい、そして助け合って生活していた。
だがある時イエスはついに、夕食の席で、自身が十二使徒の誰かの裏切りによって処刑されねば、この世から原罪と試練、悪魔を消滅させられない事を伝える。
敬愛するイエスを自らの手で、磔に処させる。そんな事を喜んで引き受けてくれる者など、誰もいなかった。
「他に手立てはないのですか」、「私達が力を合せれば」、と侃侃諤諤の議論に発展するも、遂にその貧乏くじを自ら引き受けてくれる者がいた。
それこそが、イスカリオテ出身のユダであった。彼は十二使徒の中でも一番最後に使徒になり、しかも実力もやや低めだった為、それがコンプレックスになっていた。
今まで自分が、イエスの為になった事はなかったと身の上を恥じていたユダは遂に、己自身の手でイエスの幕を引き、十二使徒の汚れ役となる事で、
他の面々の面子を保つ決意をする。それが、嘗てはカリオテで帳簿役として一生を終える筈だった自分を、
巡礼と救済の旅に誘ってくれ、素晴らしい体験をさせてくれたイエスに出来る最大の献身だと思っていたからである。
十二使徒達も、ユダの決意と思いをよく知っており、当初は彼の事を讃えていたのだが、使徒の死後になるにつれて、伝聞の行き違いか、
ユダが私利私欲で裏切ってしまったと言うエピソードに書き換えられてしまう。そちらの方がストーリー的に、盛り上がると教会や聖職者、語り部が考えたからである。
これが、世界で一番有名なユダの裏切りのエピソードの真相である。銀貨に纏わるエピソードなど嘘っぱち。イスカリオテのユダとは、己の捨て身の献身を後世の人間によって徹底的に歪められた末に生まれた怪物であった。

バーサーカーとしての召喚、そして、無辜の怪物による属性付与の中にあっても、イエスへの敬愛をユダは失っていない。
裏切りに関しては、己の身の上を全く恥じておらず、イエスを神の座へと祀り上げさせ、他の使徒に出来なかった事をして見せたと思っており、寧ろ誇っている程。
だが、己の人生に彩りを与えてくれたイエスに対してはある種の狂愛を抱いており、彼の事を馬鹿にし、けなす者に対しては容赦の欠片もない。
そしてユダにとって聖杯戦争の景品たる聖杯は、イエスの聖性を汚す汚物にしか映っておらず、これを破壊する為ならば彼は一切の容赦もしない。
従って、この男には聖杯に掛ける願いなどない。あるのはただ、嘗て愛した男の名誉に傷を付けん聖杯を、完璧に解体せんとする願望である。

【特徴】

鍛え上げられた上半身を露出させ、その上に裏地の紅い黒マントを羽織った、赤い髪をした眼鏡の青年。ボトムスには、カーキの長ズボンを選んでいる。
目の下には不健康そうな隅が出来ており、平素の不摂生、或いは、無辜の怪物によるストレスと変性を窺わせる。

【聖杯にかける願い】

聖杯に掛ける願いはない。彼の願いは、聖杯の解体である。


382 : 盲愛(めくらのあい) ◆z1xMaBakRA :2017/06/18(日) 01:25:05 xit.iNHw0



【マスター】

カナエ=フォン・ロゼヴァルト@東京喰種トーキョーグール:re

【マスターとしての願い】

詳細不明。ただ、月山習が絡む事は確か

【weapon】

【能力・技能】

喰種:
食性が人肉のみに限定された肉食の亜人種。通常時は人間との外見的な差異が無く、条件付きで交配も可能であるなど、限りなく人間に近い。
極めて高い身体能力を持ち、数mを跳躍する脚力や素手で人体を貫く膂力を有する。程度の軽い擦過傷や切傷であれば一瞬、骨折でも一晩程度で治癒する回復能力を有し、
また銃弾や刃物などの一般武器では傷一つ付かないほど耐久性にも優れている。感覚器官も非常に鋭く、遠方から近づく人物の体臭を嗅ぎ分けられ、
雑踏の中から足音を聞き分けることも出来る。カナエの場合は、先の部分がが蕾のような形状をしている赫子(鱗赫)を持つ。
しかし、芳村エトの手によって何らかの処置を施され、本来のカナエが持っていた喰種としての運動能力や身体能力が爆発的に向上。首を斬り落とされても復活する程の、異常なまでの再生能力を有するに至る。

【人物背景】

月山家の使用人。登場時18歳。4月23日生まれのおうし座。血液型B型。
10年前、和修政も属していたCCGドイツ支部の捜査官達による屋敷の襲撃で父や母、そして逃亡中に兄達が死亡し、自力で総本家である月山家に辿りつく。
日本語が堪能であるがドイツ語を織り交ぜた発言をする事が多い。月山に心酔しており、彼の心を乱したハイセ(金木研)に対しては強い憎悪を抱いていた。
本名、カレン=フォン・ロゼヴァルト。実は男装の麗人とも言うべき女性であり、月山に対して抱いていた感情は、心酔ではなく愛情だった。

東京喰種:reの第06巻の時間軸から参戦

【方針】

聖杯狙い。己のバーサーカーはいつか出し抜く。彼女自身が人喰いの怪物である為、人を食する事も辞さない


383 : 盲愛(めくらのあい) ◆z1xMaBakRA :2017/06/18(日) 01:25:16 xit.iNHw0
投下を終了します


384 : ◆nY83NDm51E :2017/06/19(月) 00:04:14 W37W8jKY0
投下します。


385 : Warship March ◆nY83NDm51E :2017/06/19(月) 00:06:17 W37W8jKY0

……海行かば 水漬く屍 山行かば 草生す屍
大君の 辺にこそ死なめ かへり見は せじと言立て……

                         ―――大伴家持『賀陸奥国出金詔書歌』より


夕暮れ時。
冬木市の郊外、海に突き出した小さな岬。釣りの穴場として少し知られ、近くには小さな海水浴場もある。
そこへ、ひょこひょこと歩いていく小柄な人影がある。杖を突いた老婆だ。彫りの深い西洋的な顔で、漁師町の住民ではない。観光客か。
フードを目深に被り、腰を曲げ、皺の寄った手で木の杖を突いて歩いている。四国遍路の持つ金剛杖に似ていなくもない。
道行く人々は、そんな見知らぬ老婆を気にも留めない。家路を急ぐ者、仕事のある者、酒場に出かける者、それぞれだ。今日は釣り人もいない。

老婆は、海岸へ降りていく。懐かしい磯の香り。ごつごつした岩場を苦労して歩き進み、人も寄り付かぬ岬の崖下へ。
そこには、ありふれた海蝕洞が口を開けていた。ここがよい。老婆は微笑を浮かべ、そこへ入っていく。

入口は狭いが、中の高さと奥行きは意外とある。洞窟には海が入り込み、足を滑らせれば傍らの海へ落ちてしまうような場所だ。
岩壁に残る線を見るに、満潮になっても完全に水没はしないようではある。とは言っても、荒れ模様になれば危険だろう。
少し高くなったあたりに老婆は座り込み、目の前のもう一段高くなったところに、手に持った杖を立てかける。

老婆は懐から何かを取り出した。……金の延べ棒だ。いくつか大粒のエメラルドが散りばめられてすらいる。
どこかから盗んできたのか。否、これは彼女のものだ。彼女が崇める神だ。愛おしげに金の延べ棒を擦ると、木の杖の隣に立てかける。
老婆はその即席の祭壇の前に跪き、合掌し、額を地に擦り付ける。そして目を閉じ、涙を流して一心に祈る。

「おお、おお。憐れみ深く、慈悲深い神々よ。まことにあなたがたは、哀れなる嫗、このはしためをここに導かれました。
 私は感謝します。今一度命を与え給い、生きる時を与え給うた神々に。わだつみの主と、神々の母なる御方に。
 ここに宿り給え、大いなる神々よ。この家に、この岩屋に。私はまごころをもって仕え奉り、みことばのままに行います。
 今ここに建てる神の宮に鎮まり給い、我が国を護り、さきわい給え。そして、聖なる杯を与え給え。すべての船を護り導く、我が神々よ!」

祈りの言葉が終わるや、木の杖と金の延べ棒は光り輝き、天井につかえるほどに大きく、長く、太くなる。岩の壁が伸びて洞窟の入口を覆う。
燦々たる威光が洞窟の中を照らし、老婆は歓喜の涙を溢れさせる。『神殿』の完成だ。そして、我が国がここに蘇ろうとしている。
海の中に聳え立つ女王、わだつみを支配する母なる都。薄汚れた内陸の、あの蛮人どもの町のようではない、美しく気高き我が町が。

全ては、ここから始まるのだ。


386 : Warship March ◆nY83NDm51E :2017/06/19(月) 00:08:21 W37W8jKY0



―――『魔女め!淫売め!呪われよ!』


ああ、裏切り者め。なんと素早いことよ。任された戦場を捨てて舞い戻ったばかりか、主君に弓を引きおって。
愛する息子は、死んだ。おそらく孫も。既に包囲された。もう終わりだ。いや、少しでも、時を稼ぐ。
無様には死なぬ。老いた肌に念入りに化粧し、アイラインを濃く塗る。最上級の衣服と装身具を纏う。
王の母、王の妃、王の娘としての、せめてもの抵抗だ。威厳を示せば、あるいは。

裏切り者が、軍勢を率いて堂々と町の門に近づいて来た。
私は門の上の窓辺に出て奴を見下ろし、叫ぶ。愚か者め、七日天下で終わった先例を知っていよう!

奴は見上げて冷笑し、私ではなく背後の者たちに呼びかける。ああ、そうするのか。
背後の者たちは、私を抱え上げ、投げ落とした。全身に激痛。骨が折れ、血が壁に飛び散る。
咄嗟に頭をかばい、まだ生きている。だが、瀕死の重傷だ。このまま無様に死ぬだろう。

奴は内側から門を開けさせ、後ろの軍勢に命令を下した。このまま進めと。戦車を引く馬たちの脚が、蹄が、目の前に。
全身が踏み潰され、骨が砕け、内臓が破裂していく。血と泥と砂埃に塗れ、馬の糞が落とされる。
いい加減にしてくれ。息の根を止めてくれ。難儀なことに、まだ意識がある。体はぴくりとも動かない。

嘲笑いながら軍勢が通り過ぎると、痩せ犬たちが集まって来る。牙をむき、涎を垂らし。まさか。

苦痛と屈辱と絶望の中で、私は命を落とした。



私は―――『イゼベル』は、その後も悪女の見本として、ヤハウェの信者らに語り継がれた。
母国テュロスの繁栄をやっかみ、バビロンやローマと重ね合わせ、堕落した都の象徴として。
あるいはアシェラト、アスタルテ、アタルガティス、イシス、ハトホル、アフロディテなど、「邪教」の女神と意識無意識に重ね合わせて。
有難く、名誉なことだ。無惨に殺された哀れな女を、さような方々と並べてくれるとは。私に神々の、魔の力を与えてくれるとは。

そうして、私は聖杯戦争に招かれた。万能の願望器という『聖杯』。
ヤハウェの子とも言われる、ナザレ人イェホシュアの血を受けたとかいう、あれか。あるいは別物か。
出処はこの際どうでも良い。千載一遇の好機がやって来たのだ。私の母国、麗しのテュロスを地上に蘇らせるその時が。
私自身は弱くとも、神々のご加護がある。そして、心強い味方がいる。


387 : Warship March ◆nY83NDm51E :2017/06/19(月) 00:10:36 W37W8jKY0

「ああ、来たかえ」

強い光がおさまった頃、背後の海中から気配がした。イゼベルは涙を拭うと、振り返ってにっこりと笑い、迎える。

洞窟の中の海面が泡立ち、波打ち、黒い影が二つ同時に浮かび上がる。片方は竜、もう一方は子供。
否、竜と子供は、一つの個体だ。竜の白く太い胴体は、子供の腰の後ろに繋がっている。あるいは逆に、竜が子供の尾か。

竜の頭は、黒い鋼の船のよう。牙を並べた大きな口。頭のあちこちに筒が突き出し、胴体には黒い鰭のようなものが並ぶ。
子供は……少女は、黒い外套を纏っている。頭にフードを被り、首に縞模様の布を巻き、白い背嚢を負う。
外套の前をへそまではだけ、胸を隠す黒い肌着をあらわにしている。その肌の色は、まるで死人のよう。
老婆のように白い髪の毛。大きな瞳は邪悪な光を宿し、口には無邪気な、だが兇悪な嗤いが浮かぶ。

少女は、イゼベルの目の前の海面に立ち、右手を側頭部の上に翳して元気よく敬礼した。

「レ!」

「よう来た、よう来た、『マスター』。いい子にしておったかえ。準備ができたよ」

彼女こそはイゼベルのマスター、『戦艦レ級』。人類に仇なす謎の異形生命体「深海棲艦」のひとつである。
人に似て人に非ず、竜に似て竜に非ず、船に似て船に非ず、死人に似て死人に非ず。
判明していることは、破壊と殺戮を目的とし、海上を航行する者を攻撃し、海底へ引きずり込もうとする、ということだけ。
そのような存在であることを、精神感応で知ったイゼベルは困惑したが、一方で納得もした。

結局のところ、彼女は船だ。悪霊であり、竜であり、荒振る海の娘、戦をするための船なのだ。
そうであれば話は早い。我らフェニキアの民にとって、海と船こそは富の源泉、最も身近な友ではないか。
さてはまた、我が宝具、我が神々を宿せし柱こそは、海と船の守り神。この恐ろしい幼子に、ご加護を与えてくれよう。
彼女が私、フェニキアの王女イゼベルを呼び寄せたか、あるいは逆か、両方か。いずれにせよ、お互いによい協力関係が自然と結べる相手だ。

戦艦レ級は、岩場に手をつき、のたのたと這い上がろうとする。彼女の足は、足首から先がないのだ。
海中や海上では自由自在に動き回れても、陸に上がれば不便なものだ。イゼベルは憐れみをおぼえ、手を伸ばして引き上げてやる。
そうして、この可哀想な娘に、我が弟や妹、我が娘、我が息子、我が孫を重ね合わせ、涙ぐんで抱きしめる。
レバノンの雪のように白く冷たい肌。言葉も満足に話せず、戦うことしか知らぬ、この異形の子を、どうか神々よ護り給え。イゼベルはそう願った。


388 : Warship March ◆nY83NDm51E :2017/06/19(月) 00:12:33 W37W8jKY0



その時、戦艦レ級は、深い深い海の底で退屈していた。ここには、誰も来ない。時折仲間が通りかかるが、彼らに用はない。

かつて、この海の上で、激しい戦いがあった。砲弾と魚雷と艦載機が飛び交い、何万という人間が死に、多数の船と飛行機が沈んだ。
それから長い時が流れ……彼らの怨念が寄り集まってか、それを誰かが利用してか……レ級たち深海棲艦は生まれた。
生まれたのは、戦って殺して壊して沈めるため。沈めた船舶は餌食になり、あるいは新たな深海棲艦になった。世界中の海にそれらは現れた。
なりは小さくとも、搭載する兵器の威力は本物だ。しかも霊的兵器とも言える深海棲艦には、銃砲もミサイルもBC兵器も核も効かない。
仮初には消し飛ばせても、すぐに再生してしまうのだ。それらは無数に湧き、海上交通を遮断し、航空機を撃ち落とし、陸さえも浸蝕し始めた。

ある時、レ級たちに似た連中『艦娘』がやって来た。こちらと同じように、艦砲を撃ち、艦載機を飛ばし、魚雷を発射し、昼も夜も戦った。
彼女らは、深海棲艦を排除するため、陸の上の連中が送り込んできたらしい。戦争が始まった。多くの仲間が戦い、沈められていった。
だが、レ級は抜群に強かった。彼女たちが行う攻撃の全てを、異常な威力で放つ事ができた。沢山の敵と戦い、その多くを大破させ、沈めた。
レ級は楽しかった。戦い、殺し、壊し、沈めることが。歯ごたえのある連中を壊すのは特に気分が良かった。逃げていく連中は追わなかった。

そのうち、レ級よりも強い奴らが次々と出てきた。艦娘の側にも、深海棲艦の側にも。
レ級は無敵というわけではなく、流石に時々はやられた。深海に沈み、海底の物資を喰って傷を癒やすことも多くなった。
やがて――――この海は、静かになった。危険過ぎると恐れをなしてか、艦娘さえも滅多に来なくなった。
餌が減ったことで、この海域にいた深海棲艦たちの多くは、他の海域へ移動していった。そうして、レ級が残った。

なぜ残ったか。理由は分からない。生まれ故郷のここが好きだったし、仲間ともさほど交流はしなかった。
じっとしていれば腹も減らない。深海生物が行き交う暗黒の海を眺めているだけでも、暇潰しにはなった。
でも退屈だ。戦いたい。殺したい。壊したい。沈めたい。食欲以外の衝動、すなわち破壊衝動が、彼女をなお駆動させていた。
深海棲艦同士で戦うのは好きではない。もともと沈んでいる存在なのだから、沈めても沈め甲斐がないのだ。浮かんでいる奴らを沈めたい。

そんな衝動を持て余し、かと言って動く気も起きない時……カードが彼女のもとに舞い降りて来た。



気がつくと、見知らぬ陸地の波打ち際にいた。傍らに、一人の老婆がかがみ込んでいた。

ランサー・イゼベル、と彼女は名乗った。いつの間にか記憶の中に入っていた言葉は、聖杯、英霊、サーヴァント、マスター。知らない言葉ばかりだった。
だがどうやら、自分に『戦え』と言っているらしい。よろしい、自分は戦いたかったのだ。勝ち残れば何か賞品をくれるらしいが、戦えればそれでいい。
賞品はこの、ランサーにあげよう。それをとても欲しがっているようだし、自分にとても優しく接してくれる。彼女が何者かなどどうでもいい。
軽く情報交換した後、ランサーは陸を歩いて見回り、ここに辿り着いて拠点を作った。自分は海中を進み、洞窟を通って浮上、ランサーと合流した。

この洞窟は気分がいい。この柱から、自分の疲れを癒やす力が放出されているらしい。戦って疲れたら、ここへ戻れば良さそうだ。
負傷の回復、武器弾薬の補給。ひょっとしたら、さらなる強化。そうした施設ということになろう。
ならば、この快適な場所を攻撃されるわけにはいかない。見つかってはならない。ランサーとこの場所を、護らねばならない。戦うために。
ランサーとこの柱を深海に匿えればよかったのだが、生憎そうもいかないようだ。この柱は、陸にしか立てられないらしい。
補給のために帰って来たら、後をつけられドカン!では、目も当てられない。帰る時は先程のように、海から帰るのが鉄則だろう。


389 : Warship March ◆nY83NDm51E :2017/06/19(月) 00:14:45 W37W8jKY0

――――かくて、二人の棄てられし者は、二本の柱の前で誓い、基本方針を立てる。
戦って生き残り、聖杯を獲得する。そのためならば何でもしよう。相手を騙し欺き、罠にかけることも。
互いが生命線。戦うすべを持たぬイゼベルと、補給のすべを持たぬレ級。二人が揃えば、戦い抜く事ができる。
戦闘は、戦艦(バトルシップ)であるレ級に任せる。戦略や交渉は、ランサーが考える。互いの能力を念話等で確認したのち、ランサーは作戦を練る。

陸に上がれずとも、艦載機や砲弾は遠くまで届く。レ級が本気で攻撃すれば、この町は焦土に変わるだろう。
あまり派手にやればルーラーに咎められ、討伐令を出されることもあるという。しかし艦砲や爆撃機を操るレ級に「静かに戦え」というのは無理な注文だ。
では、どうする。あえて討伐令を出させ、攻めてくる連中を片っ端から沈めるか。レ級は喜ぶだろうが、参加者の強さや能力も不明な現状、無謀過ぎる。

陸上を歩けるランサーが、正体を隠して偵察を行い、弱い主従を確実に見定めて各個撃破、あるいは交渉を持ちかける。これはどうか。
妥当だが、困難。ランサーが単独行動中に襲われた場合、陸上行動が困難なレ級では護りきれない。やはりランサーは動かない方がよい。

ランサーは、祭壇に並ぶ二本の柱に跪拝した後、そのうちの一本を……エメラルドが散りばめられた黄金の柱を、恭しく手に取った。
見る間に柱は縮み、細くなり、金属製の杖に変わる。黄金の輝きは失せ、鈍色の鉄の棒となっている。

「これは我が神、メルカルト様の宿りし杖。貸してあげる。これがあなたを護り、力を強めるでしょう」

彼女が差し出したその棒を、レ級は座ったまま手を伸ばして受け取る。ずしりと手に重く、その掌から体中に魔力が注がれ、漲ってくる。
レ級の足に届いた魔力は、その先に仮初の足先を形成した。黒い靴のような足先を。これでどうにか、陸上を歩けそうだ。
尻尾はどうしようもないが、夜の闇がある程度隠してくれるだろう。杖を突いて立ち上がったレ級は、ランサーの意図を読み取り、嗤う。瞳が鬼火じみて輝く。

「ヤセン、トクイ」

じきに日が沈む。人目が減り、他の主従も動き出す。いかに隠匿しようとしても、戦闘は始まる。それを横から殴りつければ良い。
闇に紛れて水路を進み、迂闊な標的がいれば殺す。敵に追跡されぬよう行動し、必要物資を集めて、朝までに帰還。これが最初のミッションだ。
この神殿は、木の杖……アシェラト女神の柱があれば維持できる。万一の時は柱を杖に戻し、海中や民家に潜み隠れることもできよう。

出撃を前に、ランサーは、レ級の手をぎゅっと握る。大丈夫だ。この子には、メルカルト様のご加護がある。
バアルとモトほどにも、ヤムとレヴィアタンほどにも、アナトとアスタルテほどにも強くあれ!

「さあ、戦争を始めましょう。我が娘よ!」

「レ!」


390 : Warship March ◆nY83NDm51E :2017/06/19(月) 00:16:31 W37W8jKY0

【クラス】
ランサー

【真名】
イゼベル@史実(旧約聖書・列王記)

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷D 魔力A 幸運D 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:C+
騎乗の才能。幻想種を除き、大抵の乗り物を人並み以上に乗りこなせる。更に船舶や海洋生物を乗りこなす際、有利な補正が掛かる。つまりレ級にも乗れる。

【保有スキル】
嵐の航海者:B
船と認識されるものを駆る才能。集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。
古代の海洋民族フェニキア人の王女であり、海上都市テュロスの王族として、船舶には慣れ親しんでいる。
彼女自身が戦争の指揮や遠距離航海を行った形跡はないものの、神々の加護とフェニキア人の偉業によりランクアップしている。

黄金律:B
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。裕福な国の王女で、王妃にもなれた金ピカぶりだが、散財のし過ぎには注意が必要。

陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。神々の偶像である宝具をしかるべき場所に設置することで、“工房”を上回る“神殿”を形成することが可能。

無辜の怪物:C
本人の意思に関係なく、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を指す。
抹殺されて汚名を着せられ、「魔女」として貶められたため、かえって高い魔力を得た。代償として若さを失い、老婆の姿になっている。

魔術:C
基礎的な魔術を一通り修得していることを表す。戦闘力はないが魅了・洗脳・幻術などに長け、一般市民の中に紛れ込んでも誰何されない。

【宝具】
『破門の石(ストーン・オブ・アナテマ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:1

葡萄畑の持ち主ナボトを「神と王を呪った」と偽証させ、石打ちの刑で殺させた逸話が宝具化したもの。外見は握りこぶしほどの石。
標的が殺人・裏切り・冒涜・姦淫・魔術・偽証などの「罪」を犯したことが、ランサー本人を除く二人以上の証人によって証言された時、
ランサーがこれを標的に投げつけると必ず命中し、無数の石が降り注いで埋めてしまう。威力は相手の「罪」の重さにより変動する。
ランサーや証人が悪人でも関係ないが、証人がランサーの立てた偽証人だった場合、石はランサーと証人に対して降り注ぐ。滅多に使わない。


391 : Warship March ◆nY83NDm51E :2017/06/19(月) 00:18:28 W37W8jKY0

『メルカルトの柱(ピラー・オブ・メルカルト)』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:30

テュロスの主神メルカルト(都市の王)の偶像である黄金の柱。伸縮自在。エメラルドで飾られて光り輝いている。
メルカルトは雷神バアル・ハダドと女神アスタルテの息子ともいい、テュロスの富の源泉である海を司る神、また太陽神であった。
ギリシア人は彼をヘラクレスと同一視し、地中海各地に立てられたメルカルトの偶像を「ヘラクレスの柱」と呼んで崇めたという。
サムソンがダゴン神殿の柱を倒した話や、ソロモンの神殿の門の左右に立てられた青銅の飾り柱も、こうした柱への崇拝がもととなっている。
この宝具を発動させると、メルカルト神の権能を一時的に振るうことができ、天候を操って雷を落としたり、敵の攻撃から守ったりできる。
またヘラクレスの相を取れば、所持者の筋力・耐久・敏捷を一時的にブーストし、柱を棍棒代わりに振るって敵と打ち合うことも可能である。
雷神の側面がレ級の砲撃概念と融合して黄金色の重機関銃と化し敵をなぎ倒すさまは圧巻の一言。

『アシェラトの柱(ピラー・オブ・アシェラト)』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:10

古代レヴァント地方で広く崇拝された女神アシェラトの偶像であるレバノンスギの柱。伸縮自在。
アシェラトは「海を行く貴婦人(rbbt 'trt ymm)」「神々の生みの親(qnyt ilm)」「女神(ilt)」とも呼ばれ、最高神エルの妃、神々の女王として崇められた。
レバノンスギは彼女の聖木であり、生命力を象徴すると共に、船舶の建材として用いられ、フェニキア人の海外活動を支えた。
この宝具を発動させると、アシェラト神の権能を一時的に振るうことができ、船舶に加護を与えて強化したり、生命力を賦活したりする。
従って、船舶であるマスターを修理・補給・改装できる。資材や生贄があれば効果が増す。妖精さんはコシャル&ハシス。丸太なので『彼岸島』風に振るうことも可能。

【Weapon】
宝具である二本の柱。武器として使う場合、ランサー本人は貧弱なのでマスターが振るう。『破門の石』は柱二本と同時には使えず、どちらかを解除する必要がある。

【人物背景】
Jezebel。旧約聖書『列王記』に登場する女性。フェニキア(テュロスとシドン)の王エトバアルの娘で、イスラエル王アハブの妃。
名は「君主はいずこ('iy-zbl)」を意味し、天候神バアル・ゼブルが冥府へ降って雨が降らぬ夏季に生まれたことを示唆する(イザベルではない)。
彼女は先進国フェニキアの文化をイスラエルに持ち込み、母国の経済力で夫を支援し、アラム(シリア)やアッシリアなど他国との戦いを助けた。
また娘アタリヤはユダの王ヨラムに嫁ぎ、アハジヤを産んだ。だがナボトという男の葡萄畑を奸計により略取したため、ヤハウェの預言者エリヤに非難され、彼らを迫害。
アハブの死後は太后として権力を握り、我が子アハジヤとヨラムを相次いで王位につけた。しかし紀元前842年頃、エリヤの弟子エリシャに唆された将軍イエフが反乱し、王を殺害。
ユダ王アハジヤとイゼベルも殺され、彼女の死体は犬の餌にされたという。これによりイエフは周辺諸国を敵に回し、アッシリアに服属することで権力を保った。
アタリヤはユダで太后として権力を握るが、こちらもクーデターで殺された。とは言え、ユダの王位を継いだヨアシはアタリヤの孫、イゼベルの曾孫であり、
以後の歴代ユダ王はイゼベルの血を引いている。なお新約聖書『ヨハネの黙示録』2章には、テアテラの教会の信徒らを惑わす女預言者として「イゼベル」の名があげられている。

孫アハジヤの享年が23歳なので、推定享年は55-60歳程。外見年齢はスキルによりそれ以上。性格は悪いが身内には優しい。
自分と一族郎党を惨殺させたヤハウェの預言者を恨んでおり、死に様の影響で犬も嫌い。ほぼキャスターに近いランサーで、戦闘よりも魔術や支援、策略に長ける。

【サーヴァントとしての願い】
テュロス王国の再建。

【方針】
聖杯狙い。ランサー自身の戦闘力は低いが、マスターをサポートし加護を与えることで充分に戦える。
万一ランサーが狙われたらやむなく神殿を解除し、柱を持って霊体化して逃げ、民間人の中に紛れ込むかマスターに護ってもらう。

【カードの星座】
山羊座。


392 : Warship March ◆nY83NDm51E :2017/06/19(月) 00:21:33 W37W8jKY0

【マスター】
戦艦レ級@艦隊これくしょん

【weapon】
『艤装』
戦艦として必要な各種装備品。武装は尻尾の先端の頭部に集中している。主砲塔は16inch(40.6cm)三連装砲、副砲塔は12.5inch(31.75cm)連装副砲。
尻尾に沿うように分割された飛行甲板があり、小型の艦載機「飛び魚艦爆」(総数140機)を発艦させ、爆撃を行う。さらに高速深海魚雷(22inch魚雷後期型)を発射する。
これらは魔力によって補給され、船舶を守護するランサーの支援により(多少時間はかかるが)回復可能。資材を調達すれば回復も早い。

見かけは小型化していても、艤装の威力は実物のそれと遜色なく、かつ小回りがきき反動も小さく霊体にも効くというトンデモ兵器(概念礼装の類)。
16inch砲は射程30-40km(曲射)で、徹甲弾なら1tの砲弾が超音速で飛んできて40-50cmの装甲鋼板をも貫通し、衝撃波と破片を撒き散らす。
命中すれば人体程度は粉微塵になり、都市区画ごと吹っ飛ぶ。榴弾を使用すれば辺り一面が火の海に変わる。(参考:室蘭艦砲射撃など)
副砲は「Mk12 5inch(12.7cm)砲」の誤記と思われるが、そのまま概念化して12.5inch(31.75cm)という主砲並みの威力になっている。
発射の際の衝撃波だけでも周囲を薙ぎ払うには充分であるが、砲弾装填にやや時間がかかる。懐に飛び込まれると危険だが、強固な装甲(バリア)で防げる。
装甲値が通常版ですら110あり、戦艦大和の最大値(108)より硬い。耐久に至っては大和の倍近い180。火力・雷装・対空も高く、動きも素早く艦載機も強力。

【能力・技能】
『深海棲艦』
人類に仇なす謎の異形生命体。深海に棲み、海を自在に移動し、様々な兵器を用いて船舶を襲撃、海上交通を封鎖する。艦載機を飛ばすなどして航空機も撃墜する。
過去に海に沈んだ艦船や乗員たちの怨霊の集合体とも考えられており、その生態や由来には謎が多い。通常兵器が通用しないため、同種の霊的兵器として艦娘が投入されている。
撤退時・非戦闘時は海底に潜めるが、「戦艦」という概念に縛られているためか、攻撃に際しては海上に出なくてはならない(魚雷は水中でも撃てるか)。
海から遠くは離れられないものの、砲撃や艦載機は陸上まで届く。河川や水路、下水道を遡ることもできる。
幽霊のような存在であるため、魔力・霊力を帯びていない物理攻撃、毒や窒息、精神攻撃などは効果がない。遠目・夜目も利く。防御時はバリアを張る。

【人物背景】
『艦隊これくしょん』に登場する深海棲艦。キャラデザインはおぐち氏。青白い肌をした白いショートヘアの少女の姿をしており、黒いレインコート状の服を纏う。
爪にはマニキュア。頭にフードを被り、首にアフガンストールを巻き、胸からへそまでははだけ、黒い水着風のブラを露出し、背中には白いリュックサックを背負う。
脚は生足だが足首のところで断ち切れ、黒い靴のようなものをつけている。腰の後ろからは白くて太い尻尾が生え、その先端には戦艦を模した機械獣の頭部がある。
どちらが本体かは諸説あるが、少女体の瞳は怪しく輝き、牙をむき出して嘲笑うような表情を浮かべている。いわゆるゲスロリ。今のところセリフがないのでCVもない。
「戦艦レ級」という名称は、おそらく発見された順番と積載兵器による陸上勢力側の命名であり、彼女らが自称しているわけではたぶんない。
南太平洋はサーモン(ソロモン)諸島沖の海底生まれで、北にはポナペ島もあるので、ひょっとしてクトゥルフ案件かもしれない。ガタノトーアやタンガロアかも。

ボスキャラに相当する「鬼級」「姫級」ではない一般艦種(イロハ級)のザコ敵なのだが、なぜかボスキャラに匹敵・凌駕する万能の戦闘力を持つ「一人連合艦隊」。
高い耐久と装甲を持ち、正規空母並の量と質の艦載機、強力な砲塔と魚雷を操り、開幕航空戦・先制雷撃・砲撃戦・夜戦及び対潜戦闘の全てのフェーズにおいて攻撃可能。
もはや戦艦(航空戦艦)という名の何かであり、チート級の深海棲艦として忌み嫌われている。これでも最弱の通常版であり、強化版のeliteに至っては……。
2014年「サーモン海域北方・第二次サーモン海戦」(通称5-5)で初登場。あまりの強さと人気のゆえか、他の海域やイベントステージでは滅多に登場しない(出禁?)。
最近では戦力のインフレが進み、レ級といえども最強とは言えなくなってきてはいるが、その手数の多さは今なお数多の提督を苦しめて余りある。雷や朝潮とは多分無関係。

自我と知性を持つが人格は破綻しており、人語もほとんど話さない。『マスター』でありながら、その有り様から反英雄ないしシャドウサーヴァントの類とも考えられる。
火力だけなら宝具並み。少女の姿のKAIJUじみた一人連合艦隊が街中でドンパチやらかすと考えれば、冬木炎上待ったなし。討伐令も待ったなしか。


393 : Warship March ◆nY83NDm51E :2017/06/19(月) 00:23:08 W37W8jKY0

【マスターとしての願い】
戦闘と破壊と殺戮以外頭にないので、特に願いはない。ランサーにあげる。元の世界に帰ったら、積極的に他の海域にも出て行きたいな。<(゜∀。)

【方針】
慎重に行動しつつ皆殺し。補給拠点がなくなると困るので、ランサーを極力護り、戦いに巻き込まないようにする。魂喰いや資材調達も行い、eliteやflagshipへの強化を行う。



投下終了です。


394 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/20(火) 00:35:12 frPsoHWA0
刻んで感想を

>>不思議の国の……
自分は狂ってない、自分以外の誰か(全員)が狂ってると強く主張するタイプのバーサーカーと言うのは、珍しいなぁと盲点を突かれた感じ。
この辺りの発想力が自分には真似出来ず、凄いなぁと思いました。NPC達に聖杯戦争の事を触れ回ると言う悪手以外の何物でもない事を行うアリスと、
淡々としていながらも己のバーサーカーがどれ程拙い事をしているのか解っていない智乃ですが、意外にも両者とも反りの良いのが奇妙で素敵。
バーサーカーとして重要なステータスが低く、それでも勝ち残って、元の世界に戻りたいと願う、この二名の明日は、どうなってしまうのでしょう。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>誰が聖剣を抜いたのか?
口達者ではあるが実力は円卓の中でもそうでもなく、そのせいで軽んじられる事もままあるけど、その実義理の妹を誰よりも大切にしていたサー・ケイが、
実は女性であるだけでなく、マーリン謹製の人型の疑似聖剣でした、と言うのは実にFate的なぶっ飛んだ解釈は凄い好きですね。
世話焼きの極みの様な騎士を召喚したマスターは、起源が剣に特化した士郎、と言うのも、ケイの個性を引き立たせる相乗の役割を果たしているような気がします。
何処か自分の妹と似たような性分がある士郎を見過ごせないケイと、同じ冬木の街に呼び出され、原作同様聖杯戦争の運命に巻き込まれた士郎の運命は、果たして。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>放蕩無頼漢
うーん、強い。人物背景の通り、順当に育っていればアルスター最強の戦士になっていた、と言う言葉に嘘偽りのない、悲劇の戦士ですね。
ただ強いだけでなく、余りにも短く太く生きたこのサーヴァントの最期は、壮絶と言う言葉がこれ以上となく相応しい悲劇的な物でありながら、
それを吹き飛ばすような、子供特有の陽性の明るい態度を見せているのが、このサーヴァントの魅力なのでしょうね。
とは言え、そんなコンラを引き当てたマスターには、相当な裏と闇がある事が窺え、この辺りの対比構造も上手く描写出来ていて、お見事。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>予告状
怪人二十面相は実は型月時空じゃ実在の人物であった、と言うのが実にFateらしくて良い解釈だなぁと感じ入った次第。
社会的には悪でありながら、独自のポリシーを持ち、戦闘等の荒事は信条上不得手とする、と言う高潔さが伝わってくる面白いSS。
一方で、この手の自己保存スキルを持っていながら、戦えないマスターが宛がわれると言うあたりも、この主従の妙。
聖杯を勝ち取る、ではなく盗み取ると二十面相は言っていたましたが、果たしてそれが叶うのか。今後に期待出来る主従ですね。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>Stairway to Heaven
首吊りの女神、と言う名の通り、絞首された死体特有の黒い斑紋等を容赦なく身体的特徴として描写する、と言うその強気の姿勢凄い好きです。
大抵はぼかすか、それをオマージュした意匠程度で済ませるのですが、完全に特徴とリンクさせるのは、珍しいなと感服しました。
如何にも娼婦然とした服装と喋り口でありながら、流石に死を司る女神。特有の死生観を語るシーンは、個性の助長を買っていて素晴らしい。
神霊系統のサーヴァントを引き当てたのは、天国に固執していた男に従っていたリキエルですが、この辺りの組み合わせもまた、よく考えられていて面白いなと思いました。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>We still fight, fightin' in the 90's
ユダとか辺りだったらまだしも、シン様、すっかり世紀末の荒廃した世界観の方に感化されてるのが、冬木での異物感が描写されていて良いなぁ、と。
中国神話における最大レベルの英雄の一角に『KING』呼び強要する辺りも草生えますが、律儀に従っちゃうカルナタイプのゲイにも草。
しかし、そんなシンも、ユリアへの未練を完全に捨てきれてない上、この世界での命と聖杯をユリアの為に使うと宣言する、
その自己犠牲の精神が実に良い。その心に胸を打たれ、その身体をシンの為に使うと誓うゲイ。シナジーが見事な主従と、それが見事に描写された候補話であると思います。

ご投下の程、ありがとうございました!!


395 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/20(火) 00:35:26 frPsoHWA0
>>佐々木排世&アーチャー?
互いに異なる人格(マスターの方は異なると言うと厳密には違いますが)を持った者同士の主従、それがよく演出出来ているなぁと。
面白いのはアメノワカヒコとアヂスキタカヒコネ解釈。伝承での、見間違える程そっくりであると言う記述を、実際には同じ体に生まれた、
もう一つの人格であると解釈し練り上げたその人物設定を見て、こう言うのが来るから史実系の企画は面白いなぁと再認した次第。
今でこそ大人しめの主従ですが、どっちもその本性及びもう一つの人格はかなり荒々しい面が強い者達。特に、自分を佐々木排世だと思い込んでる半喰種兄貴の冬木でのこれからの方が、個人的には気になる所ですね。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>Shield x Shield!
先輩に当たる史実聖杯では、マシュにサーヴァントが憑依して、と言う形の候補話がありましたが、今回はきちんと正規にサーヴァントを召喚した形ですね。
召喚されたウィラーフは盾としての側面が強い上に、実は女性と言う解釈も然る事ながら、シールダーだからマシュ顔、と言う辺りが、
本当にFGOでもいつかやりそうな解釈で、それを先取りしてる辺りがグッド。FGOでもマシュは盾役と言う勇気を振り絞る事が何よりも必要な役割であり、
原典におけるウィラーフもその勇気の側面がクローズアップされる英霊。成程、引きあうのは当然だなぁと、良く考えて作られた事が解る候補話であり、主従だなぁと見事に思いました。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>桐敷正志郎&アーチャー
原作においては英霊ではなく幻霊としての設定になった魔弾の射手ですが、何の因果か英霊化している辺りが、イレギュラーっぽくて良いですね。
とは言え、やはり自分自身が戦うと言う訳ではなく、強化を施したマスターを戦わせると言う辺りが、原作の魔弾の射手らしくて、見事。
マスター自身がアーチャーの影響で極めて強化されたとはいえ、候補話で来るサーヴァント達も百戦錬磨のそればかり。
サーヴァントとは言え『悪魔』であるアーチャーは、敵サーヴァントと同じ下それ以上に油断を許さない相手ですが、果たして今後彼らはどうなってしまうのか。楽しみです。

ご投下の程、ありがとうございました!!


396 : ◆xn2vs62Y1I :2017/06/20(火) 09:02:50 6Y0eCUy.0
感想投下お疲れ様です。
佐々木排世&アーチャー?のアーチャーのスキルを一部変更しましたので、ご報告させていただきます。


397 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/21(水) 01:01:36 vtGuhMXg0
此れより投下します


398 : Welcome to this crazy time ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/21(水) 01:02:29 vtGuhMXg0


冬木市の郊外には、知られざる城がある。

市街より西へ30キロ余り。国道沿いに生い茂る森林地帯の奥深くに建つ古城。
外界と隔絶された森を進む内に妖精に誑かされ異境の地に迷い込んでしまったと思うばかりの、壮麗な西洋の石造りの建築物。
無論、眉唾も同然の噂話である。その森自体、海外の名も知れぬ資産家の私有地であり、肝試し目的でもない限り訪れる機会もない。
21世紀に入り都市開発は刻一刻と進み森を切り拓く間も、土地の権利やらの問題でその一帯だけは遅々として進んでいないの現状だ。

結論から言えばこの噂話は事実である。
平衡感覚を失うほど深い森を進み続けると、ぽっかりと開けた場所に抜け、そこには御伽噺に登場するが如き城が人知れず静かに佇んでいる。
偶然迷い込んだ者なら目にしただけで気負ってしまう、王者のみが住まう事を許されるかのような威容だった。

そんな深遠な雰囲気を湛えた城の更に奧の、噂に昇りすらもしない朽ちた小屋。
元は物置か、城の使用人が住まう離れの宅だったのか。城の住人も去った今や中は廃墟も同然の荒れ具合だ。
星の明かりも届かない、人にも歴史にも見放され森に埋没した一室を玉座にして、座り込む男がいた。

「……」

埃とガラスが法則性もなく散乱した空間。
積もる埃。電灯が切れているのは当然、電線すら繋がっておらず夜を照らすのは僅かに外から差す月の木漏れ日のみ。
此処が既に、人が住まう環境でない事を示している。


「………………ク」


そんな中で。
漏れ出した声がする。
口に含めた笑いを堪えきれない男の声がする。

「クッハハハ、ヒヒヒヒ……!」

人間のみが持つ、生々しい激した感情の声が溢れ出していた。


―――それは果たして、現代の都市の人間の姿であるのか。


市街では滅多に見られぬ突起のある薄汚れた服装は無頼めいているが、身に染み付いているそれ以上の凶悪な雰囲気。
全身くまなく鍛えられた肉体は、単なる鍛錬やスポーツ目的で高められる域をとうに越えて、見掛け倒しでない事を強調する。
更に奇妙な、男が現代の都市に馴染めない最も大きい特徴が、顔をくまなく覆う骸骨の如きヘルメットであった。
獄卒もかくやな形相は如何にも恐ろしく。如何にも極悪。
余に争乱が止まぬ日々は無いといえど、日本の地方都市では似つかわしくない暴威の象徴として男は在った。


399 : Welcome to this crazy time ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/21(水) 01:03:01 vtGuhMXg0


男は真実、暴力の化身だった。
その名をジャギ、という。
時空を越えて招かれた、聖杯戦争のマスターの一人。
そして一子相伝の伝説の暗殺拳、「北斗神拳」の伝承者の最終候補まで残った男である。


「面白えじゃねえか……聖杯戦争だと?殺し合って、勝ち残って、最強の力を手に入れるだと?。
 突然こんな、核戦争の起きなかった場所に連れてこられてどうなるかと思ったが……この好機を逃す手はねえ!」

ジャギは歓喜していた。狂喜していた。我が世の春を見ていた。
そこに見知らぬ世界に拉致され殺し合いに巻き込まれたという、異常極まる事態への恐怖は、まるでない。
未だ英霊の一騎とも相対してない身でありながら、男は己が勝利を疑わないでいた。
しかしジャギには自信があった。少なくとも、自分の中では揺らがぬ絶対のものが。


ジャギが生きた世界。それはここではない過去、しかし現実に起こり得た未来。
199X年、世紀末に起きた終末核戦争。
核の炎は世界を包み、国家は崩壊し行政は停止した。
海は枯れ、地は裂け、全ての生物が死滅したかのように見えても―――しかし人類は死滅していなかった。

時代は逆行した。今日を生きるのに不足するのに明日を夢見て何になる。矜持も道徳も路傍に投げ捨てられた。
パンひとつの為に人を殺し、そのパンを求めて更に大量の人が死に、関係の無い他人にパンが行きつく。
手にするのは力ある者だ。より強い暴力で他人を傅かせ、支配していく人類の混迷期。
地上は再び、戦国時代もかくやの乱世へと突入したのだ。

その中でジャギは図太く生き抜いてみせた。食うに困らず、支配者の気まぐれな暴力に怯える事なく日々を過ごせていた。
彼の粗暴な性根が時代に上手く適合できたのもあっただろう。
彼には従う部下がおり、後ろ盾になる強大な組織があった。それもある。
だが最も重要なのは、彼には力があったことだ。腕力だけの素人や生半な拳法家では到底敵わない、至高の武術の腕前が。

久しく味わってなかった泰平の世の中は過ごしにくく、大手を振って街に出れないのは厄介ではある。しかしそれだけに突発的な暴力には耐性のない者が非常に多いのだ。
ジャギにとって、いや、ジャギ達が生きてきた世界において「ルールのある殺し合い」など生温い世界観でしかなかった。


「俺は!やるぞ!」


400 : Welcome to this crazy time ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/21(水) 01:04:06 vtGuhMXg0


高揚と共に、決意が唇からこぼれる。
突起だらけのジャケット以外には何も着ていない、露わになった上半身は見事なまでに筋肉で隆起している。
その胸には七点の傷跡が刻まれている。戦いの過程で傷ついたというより、意図をもって刻まれたような並び。
夜空に浮かぶ天帝の星―――北斗七星を象って。

「勝ってやる、何を使ってでもなぁ!欲しいものは全て奪い取って!邪魔する奴らは全員ブチ殺して!
 そして忌々しいケンシロウを!いや、トキやラオウの兄者達すらも超える力を手に入れる!俺が北斗神拳伝承者ジャギ様だ!!」

ジャギの願いは単純明快だ。
力。暴力。単なる力。
権力も金銭も、力があれば後からついてくる付属物でしかない。世紀末ではそれが許されるのだ。
余りに浅はかな願いであり、邪気に満ちており、穢れている。
しかしジャギにとってはそれが全てだ。己の「力の限界」を知るのを、ジャギは最も憤怒する。
他の北斗の拳士はみなジャギを凌ぐ腕を誇っていた。ラオウ、トキという隔絶たる差がある二人の兄。そして事もあろうに、自分の下の弟であるケンシロウにすらもだ。

ジャギは認めない。頑なにそれを認めない。
伝承者に選ばれなかった候補は拳を封じられ記憶を消される。そんな末路も御免だったが、尚の事末弟が伝承者となった事が許せない。
一度直に辞退を迫った時は、自分の油断もあり手痛い逆襲を受けた。仮面の奥に隠されている代償の傷が痛み度、憎悪を燃やしつのらせてきたのだ。
だからこそ、これはチャンスだとほくそ笑んだ。ケンシロウへの復讐の力に、更にお釣りがくるほどの絶大な力を一挙両得に得られる。
過程など問わない。拳士の誇りなどあの核が落ちた日から溝に捨てた。

「そうさ、勝てばいい!!それが全てだ!!」

喝采混じりの叫び。
声が暗がりの部屋を震わせる。
笑いの主以外に誰一人いない空間で、虚しく声は響き渡り。




「……煩いな」
「あ?」




一瞬で、空気が凍えた。
昼が夜に塗り替えられるように、街が大波に飲み込まれるように。荒々しく、当然のようにその声はこの空間の全てを支配した。
自分以外の声に振り返ったジャギは、男の姿を見咎めた。
後ろに流された長髪は黒。黒く、黒く、流れた血が凝固してるような、朱(くろ)。
纏う衣装はひと目で上等な造りをしているとわかる、紋様鮮やかな朱色の民族的衣装で、上に分厚い外套を羽織っている。
思わず目を惹くのが、首に提げられている掌大の赤い塊だ。宝石かと思ったがそれにしては妙に生々しく肉感的に見える。
まるで、生きた人間から引き抜いたばかりの心臓のようだ。


401 : Welcome to this crazy time ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/21(水) 01:04:45 vtGuhMXg0


その男もまた、ジャギと同様の気配を全身に漂わせていた。他者を虐げて世界を荒らして回る暴力の香り。
だが純度が違う。濃度が違う。総量が桁外れに膨大だ。
背丈にしてはジャギも大柄であり大差はないのに、内より溢れさせる闘気が男の体躯をより巨大に映していると錯覚してしまう。
そんな男にジャギは覚えがあった。他ならぬ兄弟子の一人、北斗の教えに背反し天を握る覇王の道を選んだ『王』の姿だ。
少なくともその蒼眼から放たれる隠しようのない覇気は、長兄ラオウが持つそれと同じ種類だった。

「群れからはぐれた痩せ犬の遠吠えかと思ったが、まさかお前が俺のマスターとでも言うのか?」
「な、なんだてめえは?」

思わず竦んだ声でそう問い返して、思い出した。
サーヴァント。この聖杯戦争という殺し合いで要となる英霊の化身を、ジャギは漸く認識したのだ。

「…………なに?」

だがそれより先に眉を顰ませたのはサーヴァントの方だった。
今にも餓死しそうな狼のようにギラついた目。
目につくものは肉があるかも構わず食らいつく剥き出しの本能だけが込められているような凶眼でジャギを睨めつけ。

「おいお前、俺の真名(な)を言ってみろ」

「は?」

そして次に、そんな言葉を投げかけてきた。

今度こそ、ジャギの思考は理解不能に陥った。
言葉としては単純な問いかけ。なのにそれを言う状況が脈絡ない。

「俺の顔を眼で見て、耳で声を拝聴しておきながら、誰だか分からないなどと言うつもりではないな」

一向に理解の進む気配のない状況に、苛立ちを湧き上がらせ詰るように言葉を吐いた。

「はっ知るかそんなもん!それよりてめえ、俺のサーヴァントだな。その態度はなんだ?それが主人に対する礼儀かあ?」

……奇しくもそれは、ジャギ自身が行ってきたやり取りと似たものだった
胸に七つの傷のある男―――憎悪極まる怨敵のケンシロウを貶める為に振り撒いた悪行。
道行く初対面の通行人に、ジャギはかつて男と同じように難癖ある言葉を吐き、手当たり次第に痛めつけていたのだ。

しかし今回の場合は、問いそのものの方が重大であったらしい。
未だクラス名すらも名乗らぬサーヴァントはあからさまな不快の色を表情に浮かばせ、失望の溜息を深くついた。
あるいはそれは、彼自身に向けられた感情だったのかもしれない。

「……どの時代になっても蒙昧はいるか。それともお前の学が足りんだけか?
 どちらにせよ、まだこの地には刻みが足りなかったようだな」
「な……!」

鼻白むジャギを尻目に、なおも男は残酷に続ける。


402 : Welcome to this crazy time ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/21(水) 01:05:33 vtGuhMXg0


「先に名を教えるのはお前の方だろうが。マスターであろうが王に対する不遜は許さん。ましてお前の如き屑星の差配など受けるに能わん」
「く―――屑星だとぉ……?」

屑星――――――。
己の価値を文字通りにまで貶める一言は、元より暴発寸前であったジャギの精神の逆撫でる。
契約者の厳然たる証である令呪の存在など忘れ、怒りのままに英霊へと走り出した。

「てめえ〜〜!!」

激憤と共に繰り出した拳は、人体を殺傷するに確かな速度と鋭さを有していた。
当たれば鉄骨が拳の形にへこむであろう威力、現代の拳法家には到底達しようもない高み。
並々ならぬ才能と血の滲む修練を積んできた事が今の拳打だけでも分かる、そういう一撃だった。

「ばわ!」

しかし、当たったのは相手の拳。
振り抜いたジャギの拳は哀れ脇を通り抜け、返しとばかりの裏拳がジャギの顔面を打ち抜いた。
サーヴァントの拳はまるで力のこもってない、蝿を叩くような軽い動作だったのだが、それに反してジャギの全身を地面を離れ、数メートル先の朽ちかけた椅子と衝突した。

霊体で構成されるサーヴァントに、魔力や神秘のない攻撃は通用しない。
この結果は基本則というべき原理を把握していなかったジャギにこそ完全な非がある。
しかし例えその枷が無かったとしても、やはり結果は同じだったであろう。
絶対的な力の差を皮肉にも確証させたのは、ジャギの無謀な突撃だった。

「ぐぐぐ!くそ……ハッ!?」

分厚いメット越しとはいえ顔を強打しながらもすぐに立ち上がれたのは、腐っても北斗の薫陶を受けた男だろう。
怒り覚めやらぬまま再び男を睨みつけようとして――――――研ぎ澄まされた戦闘本能は察知した。
地に浮かぶ男の影、服の僅かな隙間や皺から覗き見る、自身を射貫く無数の『眼』を。
それが現実で構える武器であったのなら、今頃ジャギの体には新しく穴の傷が空いていただろう。
急所であるなしに関わらない、痛覚を目的とした嗜虐の矢が。

草木に覆われる暗がりから、獲物に飛びかかる機を窺う肉食獣。ジャギの脳裏にはそんな幻影が投影されていた。
英霊の目配せ一つで飛びかかり、四肢に骨に食い込むまで噛みつかれ、そのまま無残にも胴体から引き千切られていく光景が勝手に映し出される。
それが当然の摂理、弱肉強食なる自然の法則であるというように。

「ばば、化物め……!」

そう、忌々しく漏らすのが精一杯であった。
既に、ジャギの闘志は折れかかっていた。邪智暴虐で限りを尽くした男が小さな餌になるほど、潜む獣の気配は絶望的な殺意に濡れていた。

「知るのが遅いぞ。英霊とは欲するものを死の寸前まで止まらず喰らい続ける獣の名だ。生きるために食い殺す人間とは、流す血の量が違う。
 お前が抱える暴勢も、俺(モンゴル)の指一本分にも満たない末端に過ぎん」

人との隔絶された格差を見せつけた英霊は、膝をついたジャギを冷淡に見下ろす。
虫か、路傍に転がる石でも見るような眼差しだった。障害ではない。だが気紛れで踏み潰してしまいたくなる程度の存在への視線。
それだけでもジャギには十分に屈辱的だが、迂闊に動けばどうなるかも身に染みて理解していた。

「……が、適合はできるようだな。それぐらいの血の気の多さがあるなら、及第点ではあるか」

ふ、と息をついた途端、部屋全体を支配していた殺意が急速に収まっていった。
それでもなお、目の前の男の存在感は微塵も衰えてはいなかったが。

「本来はすぐに四狗の餌にでもしているところだが、特例だ
 俺を呼び、俺を再び大地に招いたマスターよ。我が真名を教える。脳髄から心臓に至るまで、魂の全てに刻み込めよ。
 いずれ、俺のものになるのだからな」

暴力という概念が人の形になっているとしか見えなかった男の言葉が、今は不思議と威厳に満ちて聞こえた。
民を率い、国を統べ、世界をその手に握りしめる『王』のように。


「ライダーのサーヴァント、チンギス・ハン。『覇極王』の名の下に、お前に天(テンゲリ)を掴ませてやる。
 俺の血肉、俺の爪牙、俺の掌としてな」


夜空にて一筋の煌めく星が流れる。
この地に堕ちるのは果たして、誰の星か。


403 : Welcome to this crazy time ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/21(水) 01:06:28 vtGuhMXg0



【クラス】ライダー

【真名】チンギス・ハン

【出展】史実(11世紀・モンゴル)

【性別】男性

【身長・体重】186cm・81kg

【属性】混沌・悪

【ステータス】筋力C 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運A 宝具A++

【クラス別スキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:A+
 騎乗の才能。獣であるのならば幻獣・神獣のものまで乗りこなせる。ただし、竜種は該当しない。

【固有スキル】
カリスマ:A
 大軍団を指揮する天性の才能。
 Aランクはおおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。
 チンギスのカリスマは「この者と一体となりたい」という魅力を相手に与える。
 
軍略:B
  一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
 自らの対軍宝具や対城宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具、対城宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

騎乗の蹂躙者:A
 遊牧の民であるチンギスは馬の上でこそ真価を発揮できる。
 騎乗中の間、全てのステータスと判定に有利なボーナス補正を与える。

神性:C
 神霊適正を持っているかどうか。
 神である蒼き狼と青白き鹿の遠い末裔。
 その血は殆ど薄れていたが、チンギスは先祖返り的に一部を取り戻している。
 また死後帝国では神として讃えられている。

文明侵食:EX
 手にしたものを自分にとって最高の属性に変質させる。
 最高とは「優れている」意味ではなく、チンギス本人のマイブーム的なものを指している。
 世界最大の侵略者であるチンギスはこのスキルを意図的に発動できる。

【宝具】
『四駿・蒼魄具足(ノコル・ドルベン・クルウド)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:20人
『四狗・白魂牙鏃(アルギンチ・ドルベン・ノガス)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:200人
 チンギス・ハンの側で絶えず潜む八つの影。
 影ごとに役割が異なり、主の護衛と攻撃を担う。
 
 『四駿』は王の危機を自動で察知し、防具となってその身を守り、
 馬の魔獣として実体化することで王の騎乗物となり戦場を自在に駆ける。
 『四狗』は矢等の武器を射出、あるいは武器そのものへと変わり、
 狗の魔獣として実体化することで王の尖兵となり敵を食い散らす。
 複数を融合させ、より巨大な魔獣を作り出す事も可能。

 この宝具の原型は、生前チンギス・ハンに付き従った最も信任厚い八人の側近。
 本来全員が掛け値なしの英霊となれる器だが、死後においても彼らは王にその魂を捧げ従属する事を選び、
 単一のサーヴァントと化さず、王(ハーン)の宝具として昇華された。
 魔獣というが英霊が変化した獣であり、一騎が幻獣クラス以上の戦闘力を誇る。
 軍団長であった生前から斥候を放つ芸当も可能。

『餓狼・死天覇極道(イェケ・モンゴル・ウルス)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
 史上最大の帝国を築いたモンゴルの大虐殺の歴史。ワールシュタットに築きし死山血河。
 『人祖の落涙(ボルジギン)』 を握り潰し、地面に落ちた飛沫からは血が滲み出して間欠泉の如く噴出、
 「モンゴル帝国が流してきた全ての敵民族の血」に等しい大波濤『死の河』を起こす。
 死の河は灼熱にして極寒の地獄で、氾濫に呑み込まれた全ての生命を殺戮する。
 全ての血を吐き出し終わった後、戦場で流された血は空いた穴へと吸い込まれていく。
 チンギス・ハンは天空神エセゲ・マラン・テンゲリとしばしば同一視されている。
 この宝具がもたらす光景は、さながら穴の奥に潜む荒ぶる神(チンギス)が腹に溜め込んだ血を吐き出し、
 そしてまた流れた血を残らず嚥下していくかのよう。

【weapon】
『人祖の落涙(ボルジギン)』
 チンギスが生まれた時手に持っていたという血の塊。
 氏族であるボルジギンの始祖、ボドンチャルの原液。
 神である蒼き狼と青白き鹿の子孫の妻は子を授からぬうちに夫を失うが天の光を受けて受胎、
 そうして生まれた3人の子の末子がボドンチャルである。

合成弓 (コンポジット・ボウ)の他、宝具と合わせてモンゴル軍で使用された武装を顕現させられる。


404 : Welcome to this crazy time ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/21(水) 01:07:22 vtGuhMXg0


【人物背景】
幼名をテムジン。
世界最大の帝国モンゴルを作り出した偉大なる始祖。
彼の死後の帝国はユーラシア大陸を席巻し、最終的な征服範囲は地球上の陸地の約25%に及ぶ。
世界最高の征服者アレクサンドロス大王(イスカンダル)すらも超える領土を広げた、誇張抜きに世界征服に最も近かった帝国である。

しかしその生涯の前半期は苦難に満ちていた。
父を毒殺され一族の大半に離反された窮地を生き延びる少年期を過ごし、一族を立て直した後も娶った妻ボルテを敵に奪われ子を孕まされた。
部下も、肉親も、愛する者も、ほんの一滴の水が落ちる間に全てを奪われるという絶望を糧に、テムジンは覇王を志すようになる。
それから部族を統一し帝国を築くまでのテムジンの戦いは、己の血を繋ぐ為にあったといってもいい。
奪う側に回らない限りは永遠に奪われ続ける。
それは獣の摂理。捕食者はより上位の捕食者に食われる定めでしかない。
チンギスはその上を目指した。世界の総てを自身の手に。否、自身を世界に治める、神の摂理を。

凄絶にして迅速な戦術の組み立て。非道外道を厭わない残虐性。
自国の民を身を捧げて救う理想などない。
世界と己とを同一化させる超越性とは程遠い。
遙かな夢に駆け走る冒険者でもない。

「別に、世界が俺のものでないのが許せないだけだ。だから奪う。それだけの話だろう。
 お前達こそなぜそれを許したままでいられる。この世で自分以外のものが存在しているなぞ、死を超える屈辱なのに」

それは欲望というより根源に根ざした衝動に近く。
こうして世界中の覇王の頂点―――覇極王は誕生した。

世界征服を目指す、ステレオタイプな悪の大魔王。血も涙もあるが冷血。有能な者は引き入れようとし、逆らう者は殺す。
「男の最大の快楽は敵を撃滅し、駆逐し、所有物を奪い、親しい人々が嘆き悲しむのを眺め、馬に跨り、敵の妻と娘を犯すことにある」とまでのたまう。
意外にも為政者としては真面目で律儀に治世をこなす。
国と自分を同一化しているので、いわば体調管理のようなものである。


【特徴】
蒼い瞳、血が固まったような黒色の長髪と朱色の民族装束。マントを羽織ったアジアンマフィアの大頭目といった雰囲気。年齢は30歳前後。
どれだけ満足したと言っていても、眼だけは常に満たされてない餓狼の如き光をたたえている。
普段は軽装だが宝具によって、狼の趣向を持つ全身鎧を身に纏う。


【聖杯にかける願い】
世界征服。受肉にしろ力の獲得にしろチンギスの全てはそれに帰結する。



【マスター】
ジャギ@北斗の拳

【マスターとしての願い】
ケンシロウへの復讐。全てを支配する力を手に入れる。

【Weapon】
ショットガンの他、含み針等の隠し武器を所持。生憎冬木では拳銃以上の火器を入手することは難しいだろう。

【能力・技能】
腐っても北斗の男。他の兄弟には遠く及ばないとはいえその力量は並の拳法家を凌駕する。秘孔の使用ぐらいわけもない。
途中で破門されることなく伝承者候補に最後まで残っており、僅かな期間に南斗聖拳も習得したりと(ケンシロウ曰く「スロー」「付け焼き刃」だが)、才能自体は確かなものがあったようだ。
「勝てばいいんだ何を使おうが」の言の通り、武器や地形など利用できるものは全て利用する。
さりげに、ケンシロウの不意をついて銃を突きつける場面がある等、暗殺者としての適正はあったのかもしれない。

【人物背景】
一子相伝の暗殺拳、北斗神拳の伝承者候補。
しかし実力は義兄弟である他の伝承者候補達には大きく水を開けられており、精神も粗暴で邪気に満ちていると伝承者に足る資格を有してはいなかった。
上の兄弟二人ならまだしも、末弟のケンシロウが伝承者に選ばれた事に納得がいかず直に抗議・恫喝。
怒るケンシロウの逆襲で顔面の骨格が変形するレベルの傷を負う。非情に徹しきれぬ当時のケンシロウに見逃され、以後ケンシロウへの憎悪を糧に世紀末を生きていく。
恋敵のユリアをちらつかせ南斗弧鷲拳のシンを唆しケンシロウを襲わせ、南斗水鳥拳のレイの妹アイリを攫い貶める等、主要人物に起きた多くの悲劇の原因。
ヘルメットで隠した顔はプレートで矯正しチューブを通した悍ましい姿で、継続的に痛みも起こしていた模様。

原作では「北斗3兄弟」と解説されたりと北斗の男として見られていない扱い。
公式からの発言などで「伝承者候補に破れたことで破壊者に落ちた」「ケンシロウ達を競わせる毒として当て馬にされた」と推測されている。


405 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/06/21(水) 01:07:59 vtGuhMXg0
投下終了です


406 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/23(金) 22:56:51 YJqTOzb.0
素敵な候補作の数々、皆さまありがとうございます。
コンペを開催いたしまして、じきに2か月が経とうかと思われますが、この辺りで明白な締切を設けたいと思います。
現状私が予定しております締め切りは、『2017/7/31の24:00』です。
コンペによくある『滑り込み』を予期て、数時間もしくは1日程の延長期間を設けるかとは思いますが、それの見込みがなさそうかなと私が独断で判断した場合には、この限りではございません。
私としましては以上です。引き続きの候補話のご投下、首を長くしてお待ちしております


407 : ◆As6lpa2ikE :2017/06/24(土) 00:15:20 6eKiQ9lA0
投下します


408 : 命燃やして輝け英雄! 戦争に勝つ為の戦争 ◆As6lpa2ikE :2017/06/24(土) 00:16:08 6eKiQ9lA0
0

人生は戦いの連続であり、戦いの並行でもある。


409 : 命燃やして輝け英雄! 戦争に勝つ為の戦争 ◆As6lpa2ikE :2017/06/24(土) 00:17:39 6eKiQ9lA0
1

聖杯。
この単語は、一般的に基督教における神の子の聖遺物を指すが、冬木の街の一部の人物にとっては、もう一つの意味を有していた。
どんな願いでも叶える万能の願望器。
それが、聖杯戦争という殺し合いに招かれ、冬木市へと訪れた者たちの間での、聖杯に関するもう一つの共通認識である。

「まあ、要するに、『ドラゴンボール』みたいなもの、という認識で良いんでしょうね」

かつては絶対平和リーグの魔法少女チーム『白夜』に所属しており、現在は地球撲滅軍の空挺部隊に所属している天才魔法少女、『スペース』こと虎杖浜なのかは、万能の願望器、聖杯をそう評した。
それは、国民的漫画『ドラゴンボール』からという、天才らしからぬ俗な引用であったが、分かりやすさという点では中々に秀逸なそれである。
日本に生まれ育った者であれば、『どんな願いでも叶える道具』と聞くと、誰だって『ドラゴンボール』を連想するに違いない。

「七つも集めずとも、一つ手に入れるだけで願いが叶うって点では、寧ろ聖杯は『ドラゴンボール』よりも優良な願望器なのかもしれないわね――いや、違うか」

そこまで言って、虎杖浜なのかは思い出す。
聖杯に――聖杯戦争に関する根本的な知識を、思い出す。
自分と同じく聖杯戦争の参加者である数十組を倒さねば、聖杯は手に入らないという事を。
それはある意味、七つの『ドラゴンボール』を集めるよりも困難な道程であるかもしれない。

「――まあ、そんな事を言えば、それこそ悟空だって『ドラゴンボール』を集める過程で、色んな敵と戦っていたわよね。終盤はそうでもなく、サクサクっと集めていたけれども。ともあれ、『願望器を得る為には戦いが避けられない』なんて事は、私にとって些細な問題だわ」

だって、少なくともそれは、地球との戦争よりは全然楽だもの――と。
天才魔法少女は、余裕の態度を崩さないまま、そう呟いた。
地球との戦争。
彼女が口にしたこの言葉は、自然との生存競争だとか人類の環境破壊だとかを比喩したものではない。
文字通りに、地球との戦争である。
虎杖浜なのか、及び彼女がかつて所属していた対地球組織『絶対平和リーグ』と、現在所属している『地球撲滅軍』は、『大いなる悲鳴』と呼ばれる悲鳴を以って全人類の三分の一を虐殺した地球と、戦争状態にある(あった)のだ。
世界中に存在する、人間に扮した地球からの怪人『地球陣』を処理し、同じ人間内で生じる裏切りと謀略を潜り抜け、またいつ来るか分からない『大いなる悲鳴』に備えながら戦う――そんな、地球と地球上の殆どが敵である日々を、齢十数年の虎杖浜なのかは過ごしているのである。
そもそも、虎杖浜は趣旨こそだいぶ違えど、聖杯戦争と同じくデスゲームというジャンルで括られるべき催し物を、すでに体験しているのだ。
どころか、そのイベントの主催にすらなっている。
十代の天才魔法少女は、四国中を巻き込み、四国住民の九十九パーセント以上を爆死させた魔法少女達のサバイバルゲーム――『四国ゲーム』を、主催者サイドで経験したのだ。
そんな、一般人なら千回生きたとて出来ないような体験を十代前半で既に終えた虎杖浜なのかにとって、日本の小さな街一つを舞台に、たった数十組を相手に戦う聖杯戦争など、児戯にしか見えまい。
だからと言って、彼女は聖杯戦争に児戯感覚で参加する気は毛頭ない。
全くもって――そんなつもりはない。
全力で参加するつもりである。
何故ならば、一刻も早く聖杯を手に入れて叶えたい願いを、虎杖浜は抱えているからだ。
その願いは――

「『地球の打倒』――私が今所属している組織名に絡めて言えば、『地球の撲滅』かしら?」

虎杖浜は、人類の勝利で、一惑星対全人類の戦争の幕を降ろすつもりなのだ。
地球憎しの教育を受け、地球を倒す為に戦ってきた彼女にとって――魔法少女という名の人類戦士にとって、その願いはごくごく当たり前の結論であった。
至極当たり前の結論であった。


410 : 命燃やして輝け英雄! 戦争に勝つ為の戦争 ◆As6lpa2ikE :2017/06/24(土) 00:18:11 6eKiQ9lA0
「――そうか」

うら若き少女が言った、少女らしからぬ願いの後で、そのようなレスポンスが、空間に響く。
声の主は、若い男であった。
襤褸切れにしか見えない破損まみれの軍服に身を包んだ男である。
軍人の亡霊にしか見えない服装だ。
いや――その感想は、あながち間違いではない。
事実、襤褸軍服の男は、英霊(サーヴァント)という、亡霊に近しい存在であった。
彼こそが、此度の聖杯戦争で虎杖浜なのかが召喚したサーヴァントであるのは、言うまでもあるまい。

「で、バーサーカー」

虎杖浜なのかは、自分の発言に反応を見せた襤褸軍服の男に向かって、彼のクラス名で呼び掛けた。
襤褸軍服の男――改めバーサーカーは、虎杖浜の方へと視線を向ける。
彼の瞳は、幽鬼のような服装から抱かれるイメージを裏切るかのように、生命力に満ちた輝きを放っていた――これは比喩ではなく、彼の両目の中では小さな炎が燃えており、赤い光を放ちながら輝いている。
太陽のような輝きが、そこに在る。
明らかに常人のそれではないバーサーカーの双眸を視認し、少し気になるような様子を見せるも、虎杖浜は次のように言った。

「私の願いは今言った通りだけど、あなたの願いは何なのかしら?」「勝利だ」

改行すら挟まないほどの速さで、バーサーカーは主の少女の問いに答える。
彼は続けて、

「俺の勝利だ。俺たちの勝利だ。陛下の勝利だ――俺たちの国の、勝利だ」

バーサーカー――第二次世界大戦において活躍した、不死身の日本兵、舩坂弘は、狂人じみた執着を感じさせられる声で、言葉を紡ぐ。

「主。『惑星に勝つ』という貴様の願いの後で、些か規模が小さく聞こえるかもしれんが、俺の願いは――俺たちの願いは、『米英共に勝つ』というものなのだよ」


411 : 命燃やして輝け英雄! 戦争に勝つ為の戦争 ◆As6lpa2ikE :2017/06/24(土) 00:18:44 6eKiQ9lA0
2

『舩坂弘』
クラス――バーサーカー
属性――中立・善
出典――史実
出身国――大日本帝国
所属――大日本帝国陸軍
異名――不死身。鬼。英雄。
生没年――1920年〜2006年


412 : 命燃やして輝け英雄! 戦争に勝つ為の戦争 ◆As6lpa2ikE :2017/06/24(土) 00:19:19 6eKiQ9lA0
3

バーサーカーは自分の願いである『米英共への勝利』をマスターの願いである『地球への勝利』に比べれば、些か規模が小さいものだと述べた。
そりゃあ、母なる惑星との戦争に比べれば、歴史上において地球上で起きた殆どの戦争は小規模なそれと化すだろう。
だがしかし。
見方を変えてみれば、バーサーカーの願いは虎杖浜なのかのそれよりも歴史的重大性を孕んだものであると言えよう。
なにせ、虎杖浜の願いが今現在起きている戦争での勝利であるのに対し、バーサーカーの願いは、

「あの時俺たち(だいにほんていこく)は負けた。負けてしまった。それは仕方の無い結末だったのだろう。何しろ、俺たちと米英共の間には、兵力科学力財力の全てにおいて、覆しようの無い隔たりがあったのだから。寧ろ、戦後の俺は、敗北の末に国が発展し、平和になれば良いと思ったさ」
「だがな」
「現状を見てみろ――現実に目を懲らしてみろ。今の我が国は発展し、平和であると言えるか? 言えないだろう。言わせるものか。敗北を味わい、牙を抜かれ、ぬるま湯に浸からされた日本がこのまま衰退し滅びるのは、火を見るよりも明らかだ」
「だからな、俺は望むのだ。あの時の結末を我らが大日本帝国の勝利で塗り替え、あの戦意と向上意欲に満ちた国家を維持し続ける事をな」

という、過去の戦争での勝利――つまり、歴史の改竄に等しい願いなのだ。
それが叶えば、歴史に大幅な修正が入り、世界の仕組みがひっくり返ってしまうのは間違いない。
バーサーカーの願いが叶った後に連鎖的に何が起きるかなど、天才魔法少女の頭脳をもってしても完全に予想するのは不可能だ。
天才でも予想できない事態――それがどれだけ危険なものであるかは、虎杖浜なのか自身が一番よく知っていた。
知っていた。
だが、それでも彼女は、

「良いでしょう」

と、バーサーカーの願いを敢えて肯定する。
ニヤニヤと、親しげな笑みを浮かべながら言ってのけた。

「私とあなた――戦争に勝つ為に戦争に臨む私たちが主従を組むのは必然だったようね」

そんな口説き文句のような台詞さえ口にする虎杖浜。
勿論、これは彼女の本心をそのまま表しているわけでは無い。
寧ろ、虎杖浜はバーサーカーの願いを危険だと判断している。
だが――今ここで『歴史の改竄という願いは叶えられるべきでは無い』と言った所で、主従間の関係が悪くなるだけであり、一文の得にもならないだろう。
空気を司る魔法少女、虎杖浜なのかは、そんな空気の読めない発言をしないのだ――人類最屑の地濃鑿じゃああるまいし。
ここは柔軟に、話を合わせている『フリ』をするだけで良いのである。

(終盤になって手を付けられないと判断したら、この『令呪』を使えばいいだけだもの……今はこいつと、主従らしく手を組むのに徹するべきだわ)

そんな風に――そんな『風』にバーサーカーとの会話を進めていこうとする彼女は、まだ気付いていない。
バーサーカーの性質の全容を。
バーサーカーの狂気の全貌を。
天才、虎杖浜なのかは、この聖杯戦争を通じて、自分の知らないものを知ることになるのだ。


413 : 命燃やして輝け英雄! 戦争に勝つ為の戦争 ◆As6lpa2ikE :2017/06/24(土) 00:21:01 6eKiQ9lA0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
舩坂弘

【出典】
史実

【属性】
中立・善

【ステータス】
筋力D+ 敏捷D 耐久C+++ 魔力E 幸運A 宝具EX

【クラススキル】
狂化:EX
バーサーカーは狂化によって理性を失ってはいないし、話も通じる。
しかしながら、バーサーカーは決定的に狂っている。
『お国の為ならば、たとえ自分の命を犠牲にしてでも、敵を殺す』という、第二次世界大戦中の日本兵の殆どが抱いていた思想は、他国からすれば狂気としか言いようがないものであり、バーサーカーもその狂気を抱いているのだ。
また、バーサーカーの思考は、『戦闘』へと極端に集中しており、ただひたすらに敵の命を求める。
その為、軍対軍ではなく組対組の形式である聖杯戦争で彼を十全に活躍させるのは、困難を極めるだろう。
何せ、自分の命を懸けてでも相手の首を取ろうとするのだから。
史実においては、とあるクリスチャンの説教を受けた事で戦闘を止めたバーサーカーだが、数多の軍人の願望を一身に背負い、戦争中の全盛期の姿で召喚された彼からこのスキルを取り外すのは、不可能である。

【保有スキル】
日の本の兵士:EX
バーサーカーは精神論が擬人化したかのような超人である。
彼は根性だけで重傷を乗り越え、気合だけで瀕死から復活する。
バーサーカーがプラス補正の多い耐久ステータスを獲得しているのは、狂化よりもこのスキルによる影響が大きい。
精神論を耐久ステータスに反映するこのスキルは、大日本帝国の軍隊に属していた人物なら、ランクの違いこそあれ、誰でも保有している。
しかしながら、このスキルをEXランクで保有しているのは、バーサーカーを除けばあと二人しかいない。
また、このスキルは保有者によって何種類かのスキルを内包しており、バーサーカーの場合、高ランクの勇猛、信仰の加護、戦闘続行を内包している。
念の為言っておくが、彼は第二次世界大戦という極々最近の時代で活躍しただけの、魔術師でも無ければ鬼種でもない、ただの人間である。

破壊工作:D
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。

気配遮断:C−
負傷した状態での敵兵の陣地内への潜入に成功した逸話によるスキル。
だが、攻撃時には通常以上にランクが降下する。

自己回復(魔力):B
生前から生まれつき持っていた、回復力の高さが昇華されたスキル。
バーサーカーは動けない程の重傷を負っても、翌日には回復しているほどの生命力を有している。
サーヴァントになった為、魔力の回復も同程度に行われる。
『日の本の兵士』スキルに内包されているA+++ランク相当の戦闘続行を、このスキルと一緒に保有しているバーサーカーのしぶとさは、最早不死身と形容しても過言ではないものとなっている。
もう一度言うが、彼は第二次世界大戦という極々最近の時代で活躍しただけで、魔術師でも無ければ鬼種でもない、ただの人間である。

【宝具】
『兵士は無功にて死せず』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

バーサーカーが敵兵の武器を用いて数多の敵を殺した逸話と、当時の日本軍の『侵略』や『略奪』の概念が合わさった結果生じた宝具。
彼が武器だと認識できる物を手に持った場合、それに赤色の亀裂が生じ、Eランクの宝具相当の神秘が付与される。


414 : 命燃やして輝け英雄! 戦争に勝つ為の戦争 ◆As6lpa2ikE :2017/06/24(土) 00:22:29 6eKiQ9lA0
『命燃やして、叫べよ英霊(だいにほんていこく)』
ランク:EX 種別:対国宝具・特攻宝具 レンジ:?? 最大捕捉:??

この宝具は、第二次世界大戦中の大日本帝国の軍人たちの霊器(いのち)を燃やした炎で敵を焼き尽くす超弩級の特攻宝具であり、つまり、言うならばめちゃめちゃスケールのでかい『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』。
宝具発動一回あたり、およそ一人〜十人ほどの霊器(いのち)が消費される。
その性質上、宝具発動に要する魔力量は限りなく零に等しい。
大日本帝国軍人の霊器の殆どは、一英霊として座に登録されるほどの高さを有していない為、この宝具によって生じる炎は、同じく極大の『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』である西アジアの大英雄のそれほどの威力を有していないが、それでも、さながら極小の太陽のような高熱と、絶大な破壊力を持つ。
この炎は、第二次世界大戦中に大日本帝国と敵対していた国出身であるサーヴァントに特攻ダメージを発動する。たとえ敵対国出身のサーヴァントが生前過ごした年代が第二次世界大戦以前や以降であっても、問答無用で特攻ダメージは発動する。
また、バーサーカーはこの炎を刀剣に纏わせたり、銃から弾丸のように射出したり、擲弾の爆発の強化に回したりする事が出来る。
以上の事から、つまり、バーサーカーは一撃一撃がBランクの宝具相当の攻撃を、殆ど魔力消費せずにぶっ放せるのだ。
当然ながら、登録されている霊器(いのち)の限界数分攻撃を撃てば、この宝具は使用不能となる。まあ、それは何万回も撃った末の話なのだが。

ちなみに、霊器(いのち)を燃やす日輪の炎の熱は、使用者であるバーサーカーにもダメージを与え、肌を焼き、肉を焦がすが、彼は持ち前の回復力と精神力を以ってそれを耐えている。そういう事情もあって、大日本帝国の総力であると言えるこの宝具は、彼に与えられたのだろう。

真名を解放すると、何万人もの霊器(いのち)が凝縮された直径およそ五百メートルの擬似太陽が、空中に出現する。
天照大神の子孫である某陛下から戦う使命を授かった大日本帝国軍人たちの総力の現れにして、『命燃やして、叫べよ英霊(だいにほんていこく)』の最大展開である。
天照らし、数多を照らす擬似太陽は、冬木市全体の面積でも余りあるほどの広範囲を灼熱で包み、範囲内にある全ての存在を一瞬で蒸発させる。
発動すれば即聖杯戦争が終わってしまうチート中のチート技である。
だがしかし、此度の聖杯戦争の舞台が(再現されたものであるとはいえ)日本の街であり、日本を守る為に戦った兵士達の総力で日本国内にそんな惨劇を起こすわけにはいかない為、この技は封印されている。
なので、此度の聖杯戦争では、真名解放をすると、上記の技の代わりに、何万人もの霊器(いのち)がバーサーカーの霊核で凝縮し、一気に燃えるようになっている。
この状態のバーサーカーは、神代の英雄、果ては神霊クラスのサーヴァントと対等、あるいはそれを圧倒できるほどまでにステータスが大幅に上昇し、人型の太陽に近しい存在と化す。
何万もの霊器(いのち)を燃やした炎を以って、体内のエンジンの出力を無理矢理に上昇させたようなものだ。
並の英霊ならば、そんな急激な出力上昇に耐えきれず、指一本動かすだけで五体が四散するだろうが、バーサーカーは持ち前の意志力と耐久力でそれを耐えている。
なお、真名解放の発動後、バーサーカーは『命燃やして、叫べよ英霊(だいにほんていこく)』が使用不能となる。
加えて、数多の兵士と共に霊器が燃え尽きた彼は消滅する――かもしれない。
幸運と耐久、戦闘続行判定次第ではその後も継戦が可能となる。

【weapon】
擲弾に刀剣、狙撃銃と、当時の大日本帝国陸軍の基本的な装備を所持している。
彼はそれらに宝具による火力(文字通りの火力である)強化を施して戦う。


415 : 命燃やして輝け英雄! 戦争に勝つ為の戦争 ◆As6lpa2ikE :2017/06/24(土) 00:23:15 6eKiQ9lA0
【人物背景】
鬼の分隊長。不死身の分隊長。生きた英雄。
舩坂弘が持つ異名を挙げるだけで、彼がいかに化物じみた人間であるか窺い知れるだろう。
どれだけの重傷を負っても、死神から嫌われているかの如く死ななかった彼だが、彼の精神論は『絶対に生き残る』ではなく、『死んででも敵を殺す』というものである。
死ぬ気で戦っているのに全く死なないのだから、敵からすればタチが悪い相手と言うほかない。
医師から死亡と診断された三日後に蘇生するという、何処ぞの神の子のような奇跡も起こしている。
そんな現実離れした耐久性に『実は彼は魔術師の手によって強化を施された改造人間だった』だとか、『「鬼の分隊長」という異名の文字通り、実は鬼の子孫だった』という型月真実めいた解釈をここで付与するべきなのだろうが、そんなものはガッツだけで戦場を生き抜いた彼に対する侮辱にしかなるまい。
舩坂弘は、あくまで普通の人間なのだ。
生来の回復力と精神力だけをもって、戦地を駆けた――ただの人間である。

マスターが日本人であり、戦争に駆り出される少女兵(魔法少女)である事から、サーヴァントとして日本軍人が呼ばれる事となった。
座における日本軍人の会議で、召喚されるべき人物が満場一致で舩坂弘に即決したのは、言うまでもあるまい。
上記の宝具と共に『第二次世界大戦の結末の改竄(或いは大日本帝国の勝利)』を望む数多の軍人達の思いを受け取り、また召喚された際のメンタルが軍人としての全盛期で固定されているバーサーカーは、本文中にあるような極端なものになっている。

【特徴】
軍服を基調とした衣装だが、所々に破れた穴が開いており、その部分には日章旗を包帯のように巻きつけている。
所謂ギザッ歯と呼ばれる尖った歯は猛犬のようであり、その特徴は重傷者のような服装と相まって、見るものに亡霊や幽鬼のような印象を与えるだろう。
しかし、バーサーカーの瞳には常に闘志の炎が燃えており――これは比喩ではなく、彼の瞳の中では、本当に小さな炎が燃えている――、死にかけの重傷者のような弱々しさは一切感じさせられない。

【サーヴァントとしての願い】
大日本帝国に勝利を。

【マスター】
虎杖浜なのか@伝説シリーズ

【能力・技能】
・黒衣の魔法少女
対地球組織『絶対平和リーグ』が抱える魔法少女たちの内、天才少女ばかりを集めたチーム『白夜』に所属している。
虎杖浜が身に纏う黒いコスチュームは衝撃を受けても糸一本解れすらしないほどの頑丈性を持つ。だが、魔法攻撃やあまりにも度が過ぎる物理攻撃(例:高度数十メートルからの落下)を食らった場合、コスチュームの防御力は打ち消され、着用者である虎杖浜はダメージを受ける。
また、コスチュームは二つの魔法が備わっている。
一つは基本魔法である『飛行』。
そしてもう一つが固有魔法である『風の支配』。マルチステッキ『ディナイアル』を振るう事で風を手中に納める事が出来る。
彼女はこの固有魔法で生み出したジェット気流で基本魔法『飛行』を補助する事で、傍目から見たら瞬間移動にしか見えないほどの超高速飛行を可能にしている。
驚くべき事に、彼女たち『絶対平和リーグ』産の魔法少女は魔法の使用に魔力(と呼べるような何らかのエネルギー)を全く消費しない。

・天才
火星語で『天才』を意味する言葉が由来となった『スペース』という魔法少女名を付けられている事から分かる通り、虎杖浜なのかは同年代どころかそこらの大人すら頭脳で圧勝できる程の、疑いようのない天才である。
彼女は大抵の知識は有しており、また未知の知識であっても僅かな時間でマスターする事が出来る。

【マスターとしての願い】
地球を倒す。


416 : ◆As6lpa2ikE :2017/06/24(土) 00:23:42 6eKiQ9lA0
投下終了です


417 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:35:04 Awx.3Oqg0
OPは3で終わりと言いましたが、内なる激情を抑えられなかったのでOP4を投下します


418 : 女王蜂の理/蜘蛛王の檻 ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:35:47 Awx.3Oqg0
「君は、蜘蛛だね」

 だぁれもいない、地下のアトリエ。
今はいないお父さんが、色々な絵を描いたり、彫刻を掘ってみたりしていた、ほんのちょっと肌寒い、石造りのアトリエ。
お父さんがこの家にいた頃に描いていた途中の絵画の掛けられたイーゼル、その上に、そのお兄さんは器用に腰を下ろしている。
まだら模様がとっても素敵な、朱色のスーツを着た、クモのお面を被る人。お面で隠されていない口元には、微笑みが浮かんでいた。

「……」

 わたしは、思わずクスッと笑ってしまった。クモの人が口にした言葉が、おかしくて、おかしくて。

「? 僕は冗談を言ったつもりはないけどな……」

「ううん。わたし、よく虫に例えられちゃうな、って。それが、何だかおかしくって」

「おや、蜘蛛は嫌だったかい? 僕にとって蜘蛛、と呼ばれる事は褒め言葉何だけどな」

「わたしね、ちょっと前まで『女王蜂』って言われちゃったの。わたしの名前のせいかな?」

 ニッ、と、クモのお面の人の口元に、とても強い笑みが浮かんだ。きっと、わたしの冗談、わかってくれたんだ。

「ねぇ、クモのお兄さん。聞いても良い?」

「フフッ、勿論構わないさ。答えられる事なら、力になろう。それに、君の愛くるしさならきっと、この世界の向こう側の『観測者』も、君の問いに答えてくれるよ」

 時折クモのお兄さんは、わたしとは違う方向に顔や身体を向けて、こんな事を口にする事がある。その方向には、いつだって誰もいないのに。

「なんで、わたしは蜘蛛なの?」

「君がとっても悪い子で、とっても賢い子供だから、さ」

 クモのお兄さんの口にする言葉は、いつだって謎めいている。

「蜘蛛の巣って言うのはね、朧げで、よく見えない。だけど、とても強靭なんだ。だからこそ、獲物の虫がよく引っかかる。引っかかったと虫が思った時には、もう遅い。後はもがけばもがく程、糸が絡まり付いて逃げられなくなる、生き地獄さ」

「ちょうちょがね、クモの巣に引っかかっちゃった時って、わたし、とっても面白く感じるんだ」

「優れた感性を持っているね、君は。さて……人はね、蜘蛛の張る巣と、そんな物を張る蜘蛛の性格を指して、狡賢くて、頭の良い人間が張り巡らせる計画を、蜘蛛の巣と言う事があるのさ。そして――人によっては蜘蛛ではなく、『巣』こそが蜘蛛だと口にする者もいる」

「なんで? クモがいなくちゃ、巣は張れないよ」

「その通り!! だけど、それは自然の世界にのみ当て嵌まる法則なんだ。蜘蛛、と揶揄された人間がいて、彼らが張り巡らせた巣がそこにあった時、蜘蛛と巣が逆転する。巣こそが、本体になるのさ。……だけど、君にはその理由が解らないだろう?」

 コクン、とわたしは頷いた。

「人と言う名の蜘蛛の張る巣は、物語(ドラマ)だ。そして、蜘蛛の張る巣全体の主役は、蜘蛛じゃなくなる。蜘蛛に掛かった獲物と、蜘蛛の巣に掛かりに行く勇者/愚者へと視点が変わる。だって、『獲物が掛かるのを待つだけの者』に、視点を移した所で面白くないからね。賢い君になら、解るだろう? 蜘蛛の巣と言う仕掛け(システム)を張った当人が、その仕掛けの中にいなくなるのさ。そして最期には――」

「倒されちゃうんだね」

 パチパチパチと、クモのお面の人が拍手する。「賢い!! 賢い!!」、喜びの声を、上げる彼。

「『蜘蛛の巣は小虫を捕らえられるが、小鳥は逃す』。この世の理の一つだ。巣を壊された蜘蛛の末路は、蹂躙されて殺されるだけさ」

 そこで、蜘蛛のお面の人は、イーゼルから降りて、わたしを見下ろして来た。
とっても背の高い人。わたしの身長じゃ、その顔を見上げる形になる。

「一目見た時から解ったよ。君が『悪』だって事。悪い巣を張って人々を絡め取るだけじゃなくて、絡め取った獲物を逆に動かして、次々に獲物を増やしていく、悪い娘だって事もね」

「わたし、悪い事なんてしてないよ」

 きょとん、と、クモのお面のお兄さんは、口元を開いたまま、わたしの事を見つめて来た。


419 : 女王蜂の理/蜘蛛王の檻 ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:36:00 Awx.3Oqg0
「綺麗な色に、なりたかっただけ。人の持ってる『色』を、見てみたかっただけ。そうしたら、みんな黒くなって消えちゃったの」

 そう言ってわたしは、近くにあった姿見に目線を移す。いつも通りのわたしの姿。そして、わたしの目にはいつだって、自分の色が見えない。 
そして、今度はクモのお兄さんの方に目線を向ける。不思議な、人だった。姿とか、お面が、じゃない。この人も、私と同じで――色がなかった。

「お兄さんも、わたしと同じなんだね。自分の色がわからない人。自分のことが、気になっちゃう人」

 「だからきっと――」

「仲よくなれるよ、わたし達」

 わたしが、その言葉を口にした、次の瞬間のこと。
一の字になっていたお兄さんの口元が、三日月みたいにつり上がった。「――あきゃ」、お兄さんの口から、そんな言葉が漏れ出た。

「アキャキャキャキャキャキャキャキャキャ!!」

 そして、お腹を押さえて、仰向けに倒れ込んで、子供が駄々をこねるみたいに足をバタバタさせて。
お兄さんは、たっぷり十秒も、笑い続けた。そして、ゆっくりと立ち上がり、わたしの方を見下ろしてくる。

「君は、僕をそう観測した訳か。うん、面白い面白い!! 楽しい、愉しい!! 君の人となりが、僕には解ったぞ!! そして――」

 お兄さんが、歯を見せて鋭く笑った。

「僕の悪としての側面を求めた事も、僕には解ったぞ。アキャ、アキャキャ!! いいぞぉ、マスター。君が僕にそれを望むなら、紡がれた瞬間、この企画が破滅に至る程の巣を紡いで見せよう!!」

 お兄さんが言葉を一言一言口にする度に、お兄さんの身体を覆う色が、変わってする。
クモのお兄さんの身体を覆う色は、わたしの目には灰色に映る。鉛みたいな色になる事もあれば、ネズミの皮の色になることもある。
かと思えば、墨みたいな黒になる事もあり、カラスの羽みたいに黒くなり、鉛筆の粉みたいにキラキラ輝く黒色にもなった。
だけど、白色には決してお兄さんの色はならなかった。灰色と、黒にのみ、お兄さんの色はグラデーションする。
そして、その時になってはじめて、わたしは気付いた。お兄さんの色は、わたしのように見えなかったんじゃない。――『透明』と言う名の色だったんだ、と。

 クモのお兄さんは、大きく背中を反らし、なんの変哲もない天井を見上げながら、何が楽しいのか解らない様な、高いテンションで言葉を投げ掛けだす。

「さぁさぁお立合いお立合い、『Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木』なる奇特な世界にお目を掛けて下さる観測者の皆様方!! OPはこれで最後だと言う発言から舌の根も乾かぬ内に、もうこんな物語を投下するこんな書き手に、どうか愛想を尽かさず今しばらく、三〜四年ぐらいはお付き合い頂きたい!!」

 今しばらくの期間が、長いなぁこの人。

「物語は未だ始まりの鐘を鳴らさず、プロローグだけが未だ続くこの企画に失望・落胆は抱きましても、どうかそれを直接口に出さずに、生暖かく見守って頂きたい!!」

 クモのお兄さんが、反らしていた背を元に戻し、わたしの事を見下ろす。
お兄さんの顔ではなく、お兄さんの身体から立ち昇る、灰色を、わたしはジッと見つめていた。

「『悪は敗れ去る』。子供も大人も等しくね。そうと知りながら、僕の悪を求めた君を、僕は愛するよ……」

 「さぁ」、と言って、クモのお面と私の目線が同じ高さになる。
クモのお兄さんは、片膝を付いて屈んで、私と同じ目線で話ができるように配慮してくれていた。

「――みっともなく死ぬ事を覚悟しながら、世界も自分も破滅しちゃうような、黒い蜘蛛の巣を一緒に張ってみようじゃないか」

「クモのお兄さん。それで皆、面白い色を見せてくれるかな?」

「勿論!! 蜘蛛の王様として僕も努力するし、君も、女王蜂として一緒に働けば、素敵な色が見える筈サ!!」

「わぁ、素敵!! 一緒に頑張ろうね、お兄さん!!」

 そうしてわたしとクモのお兄さんは、同じようにきゃっきゃと喜び合った
わたしの懐で、やぎ座のカードが、薄く淡く輝いているのに、わたしもお兄さんも、気付くことはなかった。


420 : ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:36:16 Awx.3Oqg0
続いて、候補話を投下します


421 : Snake Eater ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:36:45 Awx.3Oqg0
 越えてはならないライン、と言うものがある。
洋の東西であるとか、古今東西とかそう言うのを問わず、このラインと呼ばれるものは確実に存在する。
このラインの先に広がっているのが、奈落の谷底に繋がる崖であるとか、溶岩の中だとか、荒れて時化ている海原だと言うのなら、越えてはならない、
と言う言葉は使われない。そう言った所に繋がっているのであれば、其処に人が飛び込んだとて、所詮は自殺と言う結果に終わるに過ぎないからだ。

 越えてはならないライン、そう呼ばれる所以は、その線の先に広がるものが『侵害してはならない大権』であるからだ。
人間であるのならば、財産の所有権であったり、己の魂に触れるレベルの秘匿するべきタブー。神にあっては、己の存在を成す既得権。
越えてはならない、と言われる訳は、単純に越えたら自分が死ぬから、と言う事よりも、越えた先に君臨する誰かの怒りを大きく買ってしまうからなのだ。
既得権やタブーを掻き乱されて激憤するのは、人も神も同じ事。ただ自分だけがひっそりと死ぬのなら、誰も越えては云々、等とは言わないのだ。
越えた瞬間、殺し合いが起る。迷惑が、掛かる。それが火を見るより明らかであるからこそ、越えてはならないと言われるのだ。『己の欲さざる所、人に施す事なかれ』、の精神と言う訳だ。

 ――それを、僕は、自分のマスターに説明したんだけどなぁ。

「何で、昔出来た事が俺に対しては出来ないんだ?」

 心底疑問気な顔付きで、僕の目の前にいる少年が口にする。
勉強の出来ない教え子に対して向けてた、「こんな簡単な問題が、どうして解らないんだろう」と言う心境が見て取れる、ケイローン先生の顔つきを僕は思い出す。

「さっきも言ったろう? 僕はもう、死者を眠りから目覚めさせる事を止めたんだ。だけどそれ以上に……」

「それ以上に?」

「今の僕は死人を蘇らせられないんだよね。ホラ、サーヴァントだし……何よりも、ランサーだし?」

 アッハッハ、と笑いながら僕は、白い蛇が巻き付いた意匠の杖――これが槍に見えるんだから、根幹のシステムがガバガバだなぁ――を見せびらかす。
キャスターの時の僕であるのならば、生前アテナ様から賜った、死者の蘇生の秘儀をも可能とするゴルゴーンの血液があったのだろうが、ランサークラスではそれがない。
そもそも、サーヴァントとして格落ちされた僕では、死者蘇生何て夢のまた夢。つまり僕は、幸運にも越えちゃいけないラインを越えてしまう事は、間違っても無い訳だ。あぁ安心。

 そんな僕の態度を見て、目の前の少年――もとい、僕のマスターに当たる少年は、心底歯痒そうな表情で、僕を睨みつけて来る。
少し、胸が痛んだ。無論、この子供の威圧に気圧された訳ではない。こんな年端も行かない子供に、堂に入った殺意と殺気をぶつけられてしまった、と言う事実。
そして何よりも、そんな物を醸し出せるまでに至った、少年の足跡に。僕は、哀しみにも、同情にも似た思いを抱いていた。

「役立たずめ」

「そうだね。君は賢い。荒事もダメ、死者蘇生もダメ。何処にでもいる、人を治す事だけは人並みのお医者さんが、この僕『アスクレピオス』さ」

 ジロリ、と、目の前の少年は僕を睨みつける。変わらず、殺意は放たれ続けていた。

「ギリシャ神話における医療の神、現代では医学の象徴とも言うべき男……いや、『女』? そんな奴が、人並みか……。謙遜過ぎて嫌な奴だな最早」

「いやいや、遜る事も重要な処世術なんだよ。後、性別の事はあんまり口にしないでくれないかな。僕自身、凹むんだ……」

 と言って僕は、心底深い溜息を吐いた後に僕は、近場にあった姿見に映る自身の姿を見てみる。
白味がかった銀髪のロングヘアが眩しい、白磁のように白く艶やかな肌の美女がいる。
白衣を着流し、その下に白いカッターシャツ、タイトな黒いズボンを着こなす、眼鏡の女性。それが、この僕だ。生物学上の性別は男である、アスクレピオスだ。

 ゼウス様の雷霆から逃れようと、女性に性転換したのが行けなかった。その時の姿のまま、僕は座へと登録されてしまったのである。
自分の性転換した姿だと理解していても、その顔つきは僕から見ても美しかったし、無駄に大きなその巨乳は、ゼウス様の趣味を突く為に無理やり盛ったそれである。
完全完璧な自業自得だったとはいえ、サーヴァントの時はこの姿のまま固定化、しかも無駄に女性的魅力に溢れた今の姿で、この冬木で振る舞わねばならぬと思うと、
発狂しそうになる。何度だって言おう。僕は、男だ。男なんだ!! 男なんだよ!!


422 : Snake Eater ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:37:26 Awx.3Oqg0
「フン……俺の旅路もこれで終わると思ってたのに……。結局、不甲斐ないサーヴァントのせいで、聖杯とやらを手にしなくちゃならない訳、か」

 そう言って少年は、平然とした様子でそんな言葉を紡ぐが、僕には解る。
心の奥底で、途方もない程の失望と落胆、そして哀しみを抱いている事が。そして、それらの感情が全て、僕の無力から来ているそれであると言う事も。

「死人を蘇らせて、なんとする? 少年」

 ちょっと苦手だけど、威圧感と威厳たっぷりに、僕はマスターに問い質す。

「お説教は聞きたくないね。ランサーの力に頼らず、お前が呼び出された本来の理由に則って蘇らせる。それなら、文句はないだろう?」

「君は、僕が何を司る存在なのかは解っているだろう。司る、と言う言い方は大上段な言い方で好きじゃないが、今回ばかりは、一人の医者として聞かせて貰う。死人をその眠りから起こして、何をするんだ君は」

「俺の運命を変える為だ」

「定め、か。僕らの時代でも、神意を変えるのは容易な事ではなかった。だが、やり方と言うものがあるだろう。死人を蘇らせてまで、変えたい運命があるとは、僕には思えない」

「家族と妹が、死んだんだ」

「他人事に聞こえたらすまないが、悲しい事だと思う。だけど、君にはそれを乗り越えるだけの強さがあるように、僕には見える」

「父さんが母さんの不倫相手を殺して、一緒に小さかった妹を殺したんだ」

 なれない威勢を張っていた僕だったが、その威勢が一気に雲散霧消した。
マスターの体験が、壮絶を極るものであったと言う事も勿論だ。だがそれ以上に、それだけの体験を経ながら、次の季節の変わり目に、
前の季節に起こった何でもない出来事を淡々と口にするような口ぶりで、僕に過去を語るそのマスターに、僕は驚いていたのだ。

 この国の人間にしては珍しい、ブロンドがかった麦色の髪が特徴的な、僕の目から見てもそうだと判断しても良い程の美少年だった。
十年後にはさぞや、様々な女性を誑し込むに足る、僕の父親さながらの美青年になるだろう。それは、保証しても良い。
だが、服装が珍奇だった。黒いマントを羽織り、その下にも黒い衣服。すっぽりと少年の身体に収まるシャツと、僕のものより動きやすそうなズボン。
革紐を編んで作ったブーツに、鞘に納めた小さなナイフのぶら下がる、腰のあたりの革バンド。
だが何よりも特徴的なのは、その杖か。僕のそれとは意匠が違うのは勿論だが、僕の目を引いたのは、杖の先端部に取り付けられた、宝玉(オーブ)だ。
宝玉は、最初は赤い色をしているのだが、次には薄緑色に、次には蒼く、そして次は琥珀色になり、そして最初の赤色に戻る。
一目見ただけで解った。これ自体が、途方もない魔力の集積体である事に。僕らのいた時代でも珍しい、まさに神に捧げる供物足り得る程の逸品である。
とてもではないが、彼の様な、魔術を行使するのに必要な回路の一本も持たない少年が持っていて良い代物ではない。
彼は恐らく、後天的に魔術師……に似た何かになったのだろう。そして、そうなるに至った理由こそが……彼の言う、運命、なのだろう。

「俺も、殺される予定だったらしいんだ。何かの偶然で、生き残ったけどな」

 皮肉気な笑みを浮かべて強がるが、それが、あまりにも見ていられなかった。 
僕の目には今のマスターは、他人から殴られ、斬られ、刺され、傷だらけになりながらも笑みを浮かべてなんて事ない顔して人を安心させようとする、一人の子供にしか見えなかった。

「人並みの家族、人並みの団欒、人並みの……幸福。そんなもの、俺にとってはなかった。気付いた時には、もう、自分の手から抜け落ちていた」

「それを、取り戻したいのかい、マスター」

 僕の言葉を聞いたマスターは、懐から一枚のカードを取り出す。
今回の聖杯戦争に参戦する為の資格であると言う、星座のカード。其処には、『へびつかい座』……つまりは、僕の星が刻まれていた。

「聡明なお前の事だ。死者を蘇らせば、運命が変わると思っている俺の事を、子供の発想だと笑うだろう。だがそれでも、蘇らせたい死者がいて、それで変わる運命があると俺は信じてるんだ」

 へびつかい座の星座を眺めるようにしながら、マスターは言葉を淡々と紡ぐ。

「……家族全員は無理でも、せめて、妹だけは、現世に呼び戻したい。アイツは本当に小さかった。自分の身に何が起こったのか、何で死ななくちゃいけなかったのかも解らなかっただろうからな」

 そこで、マスターは……『芦川美鶴』と言う名の、少年の姿をした戦士は、親の仇でも見る様な目つきで僕を睨みつけて、口を開く。

「死者を蘇らせて、大それた事をする訳じゃない。ただ、マイナスの幸福を、ゼロにまで戻すだけだ。それの、何が悪い。悪でもない、善でもない。たった一人の女の子を蘇らせる事が、罪なのか。ランサー!!」

「罪だね」


423 : Snake Eater ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:37:50 Awx.3Oqg0
 それでも、僕は無慈悲にならねばならなかった。
ミツル少年の願いが尊いものだとは解っていても、これだけは、僕は曲げてはならない。
真っ向から即座に、自分の問いが間違っていると告げられたミツル少年は、普段の利発そうな態度が嘘のように、ポカンとした表情を隠せていなかった。

「ゼウス様もハデス様も、この世界にはいないし、当の昔にあの方々は世界の裏側にお隠れになってしまった。そんな世界で、死者蘇生の儀を成しても、僕にお咎めはないのかもしれない。君にも、嘗て僕が受けた様な罰を受ける事もないだろうね。だがそれでも、死者を蘇らせるのは駄目なのさ」

「何でだよ……。医者は、人を癒して治すのが仕事だろ!!」

「死者を蘇らせる事は、最早医者の仕事ではないからさ」

 ミツル少年の言葉に、またも僕は即答する。

「死人を蘇らせる事は、医術の究極点の一つ。嘗て僕の他にも、そんな境地に至った者は確かにいた事だろう。だがそれでも、この境地に至れる誰もが、死者の蘇生だけは決して行わなかったし、行ったとしても相応の報いを受けた。何故だか解るかい?」

「お前の言葉を借りるなら、冥府の神の大権を傷付ける行為だから、か?」

「勿論それも大きな理由の一つだが、それだけでは半分の五十点。其処にもう二つ、理由が加わる」

「それは?」

「一つ。不老でない者が不死を得たとて、幸福になれる筈がないからさ。人は短命だからこそ意味がある。人を蘇らせる事は、その意味を損なう事に等しい」

 「そして、もう一つ」

「『蘇生された人間は、蘇らせた人間の奴隷になってしまう事さ』」

「俺は、妹を奴隷になんかしない」

「ミツル。君がそうは思っても、妹はどう思うのだろうね。君に蘇らせて貰ったと知れば、妹は君についてどう思う? 感謝してもし足りない人間、そう思うだろう」

「それのなにが悪い」

「借金を肩代わりして貰った、怪我を治して貰った。そうする事で、生まれる感謝とは違うからさ。これらは人間の君達にも出来る事柄だが、死者の蘇生は奇跡だ。しかも、人間達には絶対成し得ない、ね」

 今度は僕が、ミツル少年に鋭い目つきを送る番だった。

「そんな奇跡を意図的に引き起こして得られた感謝、どうやって返せると思う? 況して君の妹は、あまりにも理不尽な理由で殺されたと言う。普通の人生では先ず返し切れない大恩だね」

「……」

「一生を掛かって、君の妹は、君に恩を返そうとするだろう。一生を、君に蘇らせて貰ったと言う負い目と引け目を背負って生きる事になるだろう。もう、解っただろう? 蘇らせた君の妹は、一生君の『運命の奴隷』になる。人として生まれながら、一生君に行動を、運命を掌握された、自由のない婢になる」

 其処まで言ってから僕は、一呼吸を置いて、とどめの一言を言い放つ。

「今一度言おう。それでも君は、死人を――」

「蘇らせるに決まってるだろ」

 僕が全てを言い切る前に、ミツル少年は、僕の言葉尻を奪い、遮るように即答。
負い目もない、全てを気負ったような強い言葉に、心底情けない話だが、僕の方が気圧される程だった。

「お前の言う通り、俺に一生を捧げるように妹がなってしまうかも知れない。だが、俺はそんな真似は許さないし……何よりも、『死んでいるよりは、生きている方が良い』。妹は、そんな境地に至るよりも早く、亡くなった。……もっと楽しい事も苦しい事も、理解する事もなく、だ」


424 : Snake Eater ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:38:31 Awx.3Oqg0
 死んでいるよりは、生きていた方が良い。そう、それは世の摂理である。死んでしまえば、現世での不幸も、幸福も享受する事が出来なくなるのだから。
僕は、生前も、神の座に祀り上げられても、怪我や病と戦って来た。死の国の使者と格闘し続ける患者達に、癒しの光明で照らして来た。
僕が寝る間も惜しみ、休む時間も最小限に、傷病に苦しむ人々を助けて来たのは、ひとえに、死の悲しみから彼らを救いたいと言うその一心だけだった。
しかしそれでも、人は死ぬ。僕の医術が及ばない時も、そして、治ったとしても、また別の怪我や病で。どうしようもなく彼らは逝ってしまうのだ。
そして、周囲に悲しみを振り撒いて、ハデス様の懐に戻って行く。それが、あるべき自然の摂理。捻じ曲げてはならない神の法則である。

 神は元より、あらゆる超自然的な者達が世界の裏側に隠れたこの世界で、死者の蘇生……況して、異なる神の薫陶を受けた、聖杯なる代物で、
これを成そうとすれば、どうなるのか。僕自身にですら、それはよく解らない。ひょっとしたら、ミツル少年の成そうとしている事の方が、正しい結果になるのかも知れない。

「俺がやろうとしている事を、間違いと思うのなら構わない。だが、サーヴァントとして呼ばれたのなら、その責務は果たして貰うぞ、ランサー。俺のやろうとしている事に、お前は関係なかった。だから、お前が咎めを受ける必要性もない。それで、良いだろ」

「……解った。僕は君のサーヴァントだからね。それなりの分別は、つけるつもり、さ」

 だが、一つだけ、僕の頭でも理解出来る事があった。
死者の蘇生がこの世界で正しい事なのかは解らないが、ミツル少年のこれからの運命の旅路は、きっと、間違っている上に、過酷な物である事が。
僕の瞳には――芦川美鶴と言う少年は、傷だらけになりながら、泣くのを必死に堪えている、孤独で、哀れで、死にたがりな……。
僕が、一番無視出来ないタイプの病人にしか、映っていなかったから。きっと僕は、こんな彼を見棄てはしないのだろう、出来ないのだろうと。己のお人好しさに、辟易した。




【クラス】ランサー
【真名】アスクレピオス
【出典】ギリシャ神話
【性別】女
【身長・体重】173cm、57kg
【属性】
【ステータス】筋力:C 耐久:D 敏捷:C 魔力:A+ 幸運:A+ 宝具:A

【クラス別スキル】

対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【固有スキル】

医術:A+++
神の領域にまで達した、医療の神の名に相応しいレベルの医術・魔術を保有。
復活等最早望めない程の重傷、及び人体の欠損ですら、このレベルであるのならば十全の状態まで即座に回復させる事が出来る。
人間だけでなく、サーヴァントにしても、それは同じ。この医療技術は、ランサー自身にも適用可能。
但し、過去に自分が死んだ原因ともなった、死者蘇生の技術は封印されており、その影響で規格外であった医術のスキルランクが微量ではあるが低下している。

人体理解:EX
人体、その理を完璧に理解している者。治癒系のスキルや魔術に、極めて有利な補正を掛ける事が出来る。
相手の急所を完璧に狙う事が可能となり、攻撃時のダメージにプラスの効果を与え、逆に自分に放たれた攻撃についてはそのダメージ量を低下させる事が可能。
ギリシャ世界に名高い大英雄達の大賢者・ケイローンから医術の手ほどきを受け、かつ自分でも多くの人間を救って来たランサーの人体理解スキルのランクは、規格外の値を誇る。

神性:A
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
太陽神アポロンの息子であり、死後神に迎えられたアスクレピオスの神霊適性は最高クラス。

事象の星:EX
一つの技術の象徴となった英雄に与えられる特殊スキル。 象徴となった技術を用いた判定を行う場合、その判定の成功を確約する。
ランサーの場合は医術であり、如何な重傷や呪いであろうとも、彼女が治療に及べば完治が約束される。但し、死者の蘇生だけは不可能であるし、仮に出来たとしても生前の最期から行う事はない。


425 : Snake Eater ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:38:52 Awx.3Oqg0

【宝具】

『人よ、癒されて清らかにあれ(フォールス・ケリュケイオン・タイプ・アスクレピオス)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大補足:1
ランサーが保有する、時としてヘルメス神が有する神杖・ケリュケイオン(カドゥケウス)と同一視される事もある杖。
実際には彼の神杖と、ランサーの保有するこの宝具は別物であるのだが、死後神の座に祀り上げられた際に、生前から持っていたこの杖の性能も向上。
結果として、ケリュケイオンに肉薄する性能にまで至ってしまった、と言うのが、この宝具の真相である。
この宝具は触れるだけで、所持者及び接触者に凄まじい回復効果を与える杖で、更に此処にランサーが魔力を込める事で、治癒性の光を放ち、
レンジ内及び、光を照射された遠方の者の傷を一瞬で回復させてしまう効果を持つ。そしてこれが、この宝具の第一の効果。
一見すると攻撃には全く向かないこの宝具の第二の効果は、相手に何の前触れもなく障害を確約させると言う効果。
ランサーはこの宝具の効果を『反転』させる事で、生命を治癒させる力を、生命を傷害させる力に変更させられる。
こうする事で、触れるだけで重傷を完治させる杖が、触れるだけで何らかの重傷を与える魔杖になり、浴びるだけで人体の欠損が時間の逆回しの如く完治させる杖が、
浴びるだけで何の前触れもなく四肢を身体から激痛の後に分離させる悪魔の杖へと変貌してしまう。勿論、その様な恐るべき杖になっている間、この宝具の持ち主であるランサーは全くその杖の影響を受ける事はない。

【weapon】

人よ、癒されて清らかにあれ:
宝具欄にもある聖杖。ランサーの身長程もある、凸凹とした古木に、白い蛇が巻き付いた様な意匠の凝らされた杖。
キャスターとしての召喚を許されないアスクレピオスだが、無理くり他クラスで呼べないか呼べないかと判断した聖杯戦争のシステムが、
「そうだ、この杖は槍っぽいからランサーで呼ぼうじゃん!!」と言うクソみてーな解釈をした結果、彼女はランサーで召喚された。
要するに今のクラスで呼ばれるに至った元凶。なお、ランサー曰く持ち難いデザインで、そんなに好きじゃないらしい。

【解説】

ギリシャ神話における最大の医者にして、死後へびつかい座として祀り上げられ、神の一柱として迎え入れられた人物。
太陽神アポロンと、人間の娘コロニスとの間に生まれた半神の人間で、アポロンの寵愛を受けていながら人間の男と浮気してしまっていたコロニスに、
激怒したアポロンが妹神であるアルテミスに制裁を依頼。アルテミスの矢を受けコロニスは亡くなるも、アポロンは美しく、愛らしかったコロニスに未練タラタラ。
制裁した後で、今更逸って殺してしまった事を後悔。せめてもの罪滅ぼしにと、コロニスの腹の中にいた子供だけはせめて救わねばと考えた。
その子供こそ、アスクレピオスだった。当時赤子であった彼は、アポロンの計らいで、大賢者ケイローンのもとに養子として預けられた。
彼の賢者の下で愛を以って育てられ、また狩猟の術を学んだアスクレピオスだったが、それ以上に薬学や医術に対して、ケイローンですら舌を巻く天稟を見せた。
その才能を買われ、イアソン率いるアルゴナウタイにも参加し、幾度もイアソンやヘラクレスらをサポート。
アルゴナウタイを終えた彼は、磨かれた医術を以ってギリシャ世界に名高い名医として、その名を轟かせていたが、ある日、叔母であり、
自分の母を殺した直接の原因であるアルテミスがやって来て、「お母さんの事は謝るし後でお礼もするからこの人蘇らせて!!」と、
お気に入りの人間であるヒッポリュテスの死体を見せて懇願。死者の蘇生は、冥府の大神ハデスの大権をも揺るがす赦されざる行為だとは理解しつつも、
叔母の必死さと、何よりも、嘗て死にゆく命だった自分を助けてくれた父神アポロンへの尊敬の念、何よりも、自分が医者として行動する原理は、
『病と怪我に苦しむ人間を救いたい』と言う思いであった事を思い出し、掟を破る行いだと知りつつも、アルテミスの嘆願を受け入れ、ヒッポリュテスを蘇生させる。
死者蘇生など行って無事に済む筈がないと予測していたアスクレピオスだったが、当然無事に済む筈がなく。ハデスは、冥府の住人であるところの死者を蘇らされた事で、
『己の権利を侵害された』と認識。弟であり主神であるゼウスに猛抗議を行い、事の重大さを理解したゼウスは、己の稲妻でアスクレピオスを制裁、焼き殺してしまう。
とは言え、生前のアスクレピオスの人格が善良だった事と、アポロンの息子と言う事実、そしてアルテミスのフォローの甲斐もあり、タルタロス堕ちだけは回避。
ゼウスはアスクレピオスをへびつかい座、つまり神の一柱として彼を迎え入れ、医術の神として恥かしくない働きぶりを見せるよう、彼に命令するのだった。


426 : Snake Eater ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:39:19 Awx.3Oqg0
本来アスクレピオスは、どの文献を紐解いても、男性として伝えられている存在である。
それなのに女の姿をしているのは、Fate特有の「実は女性でしたーw」ではなく、アスクレピオス自身は元を正せばれっきとした男性。
聡明なアスクレピオスは、死者を蘇らせてしまった事でこの後下される裁きを認識しており、そしてこれはどう足掻いても防ぎようがない事も承知していた。
しかしそれでも生きたかった彼は、何とかならないものかと必死に考え――辿り着いた方策が、人間達にも知られる程の『ゼウスの好色漢』を利用する事だった。
とは言えゼウスの御眼鏡に叶う女性を今から探すのは現実的ではなく。そこで取った方法が、類稀なる美貌を誇るアポロンと、美しい娘であったコロニスとの子と言う、
これで美しい人間に育たなきゃおかしいだろと言う程の美形に育った自分が女性になる事だった。つまり、己の医術で現代で言う『性転換』を行ったのである。
アスクレピオスの目論見通り、TSした彼は滅茶苦茶な美女になり、一度はゼウスも、彼女の美しさに絆され雷霆をしまいこもうとするが、隣にいた兄ハデスと、
ハデス以上に殺意の籠った目線でこっちを睨みつける妻・ヘラが見張っていたので、やむなく神罰執行。女体化の甲斐なく、アスクレピオスは殺されてしまったのだった。

死後神の座に祀り上げられているアスクレピオスは、当然神霊としての姿で、聖杯戦争に召喚する事は不可能。
必然的に、半神の医者として活動していた生前の全盛期での召喚になるが、彼女は死ぬ寸前の若々しい時の姿が全盛期であった事、何よりも、
死んだ時の姿が女性であった為に女性として英霊の座に登録されてしまった。これには流石の彼女も、こんな事なら変に足掻かなければ良かったと後悔している。
神話の中でのエピソードの通り、公正明大で非常に心優しく、まさに人格者の見本のような性格。生前の行いから、死者の蘇生だけは絶対にやらないし、
夢見てもならないと言う考えを持つ。ちなみに、本来のアスクレピオスのスペックを十全に発揮出来るクラスはキャスターであり、
もしもこのクラスで召喚されていれば高ランクの道具作成や陣地作成スキル、そして宝具として女神アテナから譲り受けた怪物・ゴルゴーンの血液を所有していた筈だった。
だが、キャスターで召喚されると死者の蘇生が可能となってしまうので、神霊達、何よりもアスクレピオス自身の強い要望で、敢えて実力の劣るランサークラスで召喚されている。

【特徴】

白味がかった銀髪のロングヘアが眩しい、白磁のように白く艶やかな肌の、クール系の美女。
白衣を着流し、その下に白いカッターシャツ、タイトな黒いズボンを纏う、眼鏡の女性。
ゼウス本人の好みの女性を彼なりに考えた結果、胸を大きめに盛り、腰も括れさせ、足もスラッとさせるなど、女性的な美を強調させてしまった。

【聖杯にかける願い】

ない。だが、マスターであるミツルを、正しい方向に導いてやりたい


427 : Snake Eater ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:39:29 Awx.3Oqg0



【マスター】

芦川美鶴@ブレイブ・ストーリー(原作小説版)

【マスターとしての願い】

己の家族、もしくは、若くしてその命を散らした妹の蘇生。

【weapon】

杖:
現世の人間が、幻界を旅する旅人になる際に与えられる武器。個々人によって与えられる武器は違い、ミツルの場合は杖になっている。
杖の先端に、赤、薄緑、蒼、琥珀の順に色がグラデーションして行く宝玉が嵌められており、この宝玉のおかげで、魔術回路を一本も持たぬ人間でありながら、サーヴァントに匹敵、或いはこれを上回る程の魔力をミツルは有するに至っている。

【能力・技能】

魔術:
幻界に移動した事によって開花した、魔術の才能。型月世界で言う所の魔術回路をミツルは一本も持っていないが、それでも魔術を発動出来る。
対軍規模の大嵐を引き起こしたり、ワープ、空中の飛行など、多岐に渡る魔術を習得している。また、召喚術にも長けており、バルバローネと呼ばれる怪物などを召喚可能。

【人物背景】

容姿端麗、成績優秀と、絵に描いた様な天才美少年。原作における主人公のライバル。
小学5年生の身でありながら、酷く諦観の匂いの漂う、厭世的な性格の少年。実母の不倫に激昂した実父が、無理心中と言わんばかりに母親と実の妹を殺害し、
居合わせた妻の不倫相手も殺害し、当の父親も海に飛び込んで自殺した、と言う壮絶な過去を持ち、これが暗い翳を心に落としている。
この悲愴な過去が原因で、彼の人生観は大きく捻じ曲がり、そればかりか親族からも腫物扱いされ、大学を出たばかりの若い叔母の元に送られてしまう。
過去に投身自殺を図ろうとした事もあり、それが原因で叔母の方も精神的に参ってしまっている。
ある時、偶然幻界を旅する旅人としての資格を得た美鶴は、自分の運命を変える為、そして妹の運命を変えるべく“魔導士・ミツル”として幻界を旅し始める。
主人公のワタルと違い、ミツルの旅は周囲の被害を顧みず、目的の達成の為なら周りの人間をも不幸にすると言う旅の方針を掲げている。

原作下巻の時間軸から参戦

【星座のカード】

『へびつかい座』

【方針】

聖杯の獲得。


428 : Snake Eater ◆z1xMaBakRA :2017/06/24(土) 23:39:39 Awx.3Oqg0
投下を終了いたします


429 : ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/25(日) 01:16:15 NhWKRfX60
投下いたします


430 : ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/25(日) 01:16:48 NhWKRfX60
 玉座に一人の王が鎮座している。
 高潔で偉大な王だ。
 民は王を敬愛し、王は民を慈しみ、国は富み、国は栄え、理想の王国がそこにあった。
 だというのに、王の表情は暗い。
 その理由を私は知っている。

「また、あの方を思い出していたのですね。兄上」

 私の声に王は、私の兄は力なく笑ってみせる。
 その姿が酷く痛ましい。
 私は知っている。
 この国は民にとっては理想の国であっても、兄にとっては理想の国などではないのだ。
 どれだけ素晴らしい国であっても、兄の隣にあの方がいないのであれば意味はない。
 それを、私も兄も重々承知していたというのに。
 その為に、14年もの長い月日を戦い続けていたというのに。
 何故、私は止められなかったのかと、あの時からずっと後悔をしている。
 この頃、私はいつも思う。あの頃に戻れたらと。
 私と兄とあの方の三人でいつも笑っていたあの頃に。

 きっと、兄は新たな后を娶らずにその一生を終える。私はそれでいいと思う。
 兄には口が裂けても言えぬことではあるが、それで国がどうなるかなどは知った事ではない。
 そうしたのはあの方の不貞を疑った民衆どもの自業自得だからだ。
 過ぎたことは取り返せない。
 終わったものは取り戻せない。

 ああ、それでも奇跡が起こってくれるのならば――

 ◇

 酒を呑む。一人になってしまった部屋で、誰も伴わずにただ酒を呑む。
 アルコール混じりの吐息を吐きながらぼんやりと窓ガラス越しに夜空に浮かぶ月を見上げる。
 真ん丸で見事な月。いつか、あいつ等と見た月を思い出し、顔をしかめて頭を振る。
 何かがあるとあの二人といた時の事を思い出す。
 それだけ私と飛鷹と提督の三人は付き合いが長かったという訳だ。
 私が酒を呑んで、飛鷹が諌めて、提督が巻き添えをくって。そんないつも通りの日常はもう戻ってこない。
 薬指に嵌めていた指輪を形見に宵闇に沈んだ飛鷹。憑かれた様に深海棲艦を殲滅しようとし始めた提督。
 そんなあいつを飛鷹は望んでいない事を理解していながら、私にはどうすることも出来なかった。
 酒を呑む。あいつらと呑んだ時はあんなにも美味かった酒が今では酷く味気ない。
 飛鷹がいてくれたらなぁ、という考えが頭に浮かんでは、それを忘れる様に酒を呑む。
 死んだやつは生き返らない。
 失ったものは返ってこない。

 ああ、それでも奇跡が起こってくれるのならば――

 ◇


431 : Get Back ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/25(日) 01:17:43 NhWKRfX60

「呑まないのかい?」

 盃に日本酒をなみなみと注ぎながら、隼鷹という名を持つ女がランサーとして現界した己のサーヴァントに訊ねる。
 ランサーのサーヴァントの見た目は少年のそれだ。緑青色の長髪と中性的な顔立ちではあるが、がっしりとした体つきから男性であることは見てとれた。
 何にしろこの光景を第三者に見られれば未成年飲酒の疑いで通報されそうなものではあるが、幸いにもここは隼鷹に宛がわれた仮の家の中であり、通報される心配はない。
 赤らんだ顔でにやけた笑みを浮かべる己が主を見つめ数瞬考えた後、ランサーは隼鷹が差し出した盃を受け取ると一息に飲み干した。
 おお、という感嘆の声が隼鷹から上がる。

「いい呑みっぷりだねぇあんた。坊やだと思って甘くみてたよ」
「こんな形でも中身はそれなりに老成しているからね、私は」

 酔いで微かに顔を赤らめながら微笑んで見せるランサーを見て隼鷹が不敵に笑う。
 こんな子供が自分のサーヴァントなのかと、からかい半分に酒を勧めてみた隼鷹ではあるが、彼女ら艦娘同様にサーヴァントも見た目で判断してはいけない存在の様だと理解する。

「単刀直入言わせてもらおう、マスター。私には叶えたい願いがある」

 ランサーが隼鷹を見つめる。
 真っ直で決意のこもった眼差しを向けられては隼鷹も茶化すことはできなかった。 

「悪逆と罵られようが非道と蔑まれようが構わない。私の願いを叶えるにはこれしかないのだ。失ったものは二度と戻ってこない。そんな不可逆の理をねじ曲げる為には」
「失ったもの、ねぇ」

 ランサーの"失ったもの"という言葉に隼鷹が反応する。
 自分と同じ様にランサーも何かを失ったというのだろうか。
 奇縁、というやつなのだろうかと酔いの回った頭のどこかでそんな考えが浮かんできた

「本当に帰ってくるのかなぁ、失ったものが」
「帰ってくると信じているからこそ、私はここにいる」
「そっかぁ」

 馬鹿正直に答えるランサーの姿に、一瞬だけ変わり果てる前の男の姿を幻視する。
 彼女の姉がその男を愛したのはそういう所に惹かれたからだ。
 もしも、あの時の男を、海に沈んだ姉を、あの騒がしくも充実した日々を取り戻せるというのであれば、夢物語に賭けるのも悪くはない。

「禁酒とまではいかないけどさ、当分は酒を控えようかなぁ」

 最後に一杯だけ、酒を煽る。
 最後の一口だけはかつての様に美味い酒だと感じることができた。


432 : Get Back ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/25(日) 01:18:07 NhWKRfX60
【CLASS】ランサー
【真名】ラクシュマナ
【元ネタ】ラーマヤーナ
【身長・体重】162cm、58kg
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力:A 耐久:A+ 敏捷:B 魔力:B 幸運:B 宝具:A+

【クラス別スキル】
対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。

【固有スキル】

化身(アヴァターラ):A
インド神話の神霊が転生した存在。
ラクシュマナはナーガラージャの一柱であるシェーシャのアヴァターラである。
シェーシャの権能によってラクシュマナは毒に対する耐性と驚異的な再生力を誇り、また同ランクの神性を得る
ラクシュマナを殺害する場合は霊格を直接破壊するか、再生力を上回る速度あるいは威力で攻撃を与えねばならない。

心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

真言:C
マントラ。
真言を唱える事で物理的な攻撃に対する障壁を展開する。

【宝具】
『雷鳴を払う不滅(ブラフマーストラ)』
ランク:A+ 種別:対魔宝具 レンジ: 1〜10 最大補足:1人
魔性の存在に対して絶大な威力を誇る槍。
魔王ラーヴァナの息子、メーガナーダを倒す為に神々から与えられた矢をランサーとして呼ばれたかったラクシュマナが改造し槍へと改造した。真名解放と共に投擲して使用する。

【weapon】
雷鳴を払う不滅:真名未解放時でも武器として使用する長槍。真名が解放されていない場合は魔性に対する特効効果も発動しない。
形状は投射しやすい様に飾り気のない短槍。

【解説】
ラーマヤーナに登場する英雄、ラーマの弟。
ヴィシュヌの化身であるラーマに対してヴィシュヌが乗る竜王(ナーガラージャ)のシェーシャが化身した存在である。
兄であるラーマとその后であるシータを深く敬愛しており、彼らが追放された際にはラクシュマナもその追放に同行した。
理知的で穏やかな物腰だが、自身の敬愛している者や親しい者が貶められたり不当な扱いを受けると一転して怒りの感情を露にする激情家の一面も持っている。
ラーマから教わった武芸や真言の腕はかなりのものであり、持ち前の技量とシェーシャの権能による頑健さ、そして神々より与えられた宝具によって、かのインドラ神を下した強敵メーガナーダを(好条件が重なったとはいえ)単騎で渡り合い討ち取る事に成功した。
兄と義姉が何よりも大事であり、彼らの自慢話をするといつもの物静かさはどこへいったのかというくらいに饒舌になる。所謂ブラコン。
本来のクラスはアーチャーであるが、座に昇る際にセイバーとして自らの霊基を登録したラーマを補佐する為に、神々の矢を槍に改造して自らをランサーのサーヴァントとして座に登録させた。
マスターに忠実な性格ではあるが、もし同じ聖杯戦争にラーマかシータが参戦していた場合は彼らを第一に行動するだろう。

【特徴】
緑青色の髪に翡翠を思わせる目の色。たれ目がちの顔つきは柔和で中性的。
Fate/grand orderのラーマの服装に近しい服装をしているが基調となる色は髪の色同様に緑青色をしている。

【聖杯にかける願い】

ラーマとシータを再会させる


433 : Get Back ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/25(日) 01:18:34 NhWKRfX60
【マスター】

隼鷹@艦隊これくしょん(ブラウザ版)

【マスターとしての願い】

飛鷹の復活、彼女と提督と送っていた何気ない日々を取り戻す

【weapon】

零式艦戦52型
九九式艦爆
九七式艦攻

式神を介して召喚する。サイズはプラモデル程度。偵察や攻撃が可能

【能力・技能】

艤装

【人物背景】

軽空母・隼鷹の魂を宿した艦娘。酒が大好きでしょっちゅう呑んでいる呑兵衛。
ヒャッハー!が口癖で常にハイテンションでフレンドリー、元となった艦が終戦まで撃沈されず生き延びたことから運がいい。
本話では提督とケッコンカッコカリまでした姉妹艦の飛鷹を失ったこと、そのせいで提督が豹変してしまった事などから少々ナーバスになっている。

【方針】

聖杯の獲得


434 : ◆bCvpJW9Aoo :2017/06/25(日) 01:19:01 NhWKRfX60
投下を終了します


435 : ◆nY83NDm51E :2017/06/26(月) 00:04:06 VyBWBq.E0
投下します。


436 : Hungry Ghost ◆nY83NDm51E :2017/06/26(月) 00:06:14 VyBWBq.E0

はっきり言っておく。人の子の肉を食べ、その血を飲まなければ、あなたたちの内に命はない。

                                 ―――『ヨハネによる福音書』6:53



腹が減った。


子供の頃から、空腹は慣れっこだ。訓練も兼ねて、何日か食事ができないこともザラにあった。
あの世界ではそれが普通だった。飢えて死ぬ奴も大勢いた。体が資本のあの組織に入って、ようやく毎食にありつけた。
一宿一飯の恩義というには、随分と仇で返してしまったけれど。

この空腹は、そういうのとは違う。耐えきれないほどの苦痛だ。肉体的にも、精神的にも。
信じられないほど平和で自由で、食物が有り余るほど満ち溢れている、夢か天国みたいなこの世界で、こんな目に遭うとは。
何をいくら胃袋に入れても、満足できない。少しはマシになるが、すぐに腹が減る。何度か吐いたが、胃液しか出てこない。

そう、この空腹は、ただの食事では満たされない。欲しいのは、ただひとつ。

人間の肉が、食べたいのだ。

冗談じゃない。よりによってこの私が、人肉を食べたいなどと。
吐き気と悪寒がする。体の中が氷のように冷たい。幻聴も聞こえる気がする。何か、悪い病気に罹ってしまったのか。
それどころじゃないのに。戦わないと。殺さないと。『聖杯』を手に入れなければ。

昼下がり、今にも降り出しそうな空。
荒い息を吐き、蒼白な顔から脂汗を垂らしながら、その少女は悶え苦しんでいた。


437 : Hungry Ghost ◆nY83NDm51E :2017/06/26(月) 00:08:15 VyBWBq.E0

あの時、全身に硬化物質を纏わせ、半永久的に眠りについたはずだ。それがなぜ、こんな見知らぬ場所にいるのか。
勝手に吹き込まれた記憶には、「聖杯戦争」という殺し合いの情報。殺しなら随分やったが、万能の願望器とは。
何人参加者がいるか知らないが、そんな程度でなんでも願いが叶ってしまっていいのだろうか。
ともあれ、自分をこんなところへ呼び寄せるほどの力はある。ならば、聖杯も、たぶん本当だろう。これが夢でなければ。

しかし、戦うのは自分ではない。ここに召喚された時点で呼び出される、「英霊」という使い魔だ。
歴史や神話伝説上の英雄や魔物の霊が、参加者、マスターの手下となって、戦うのだという。
じゃあ、私の従僕(サーヴァント)はどこだ。さっきから必死で呼んでいるのに、姿を見せない。
この異常な空腹は、きっと敵の攻撃だろう。でも、こんな攻撃からどうやって逃れればいい。

困惑し、混乱する彼女―――『アニ・レオンハート』は、街中を離れ、人けのない場所へ走っていく。
このままでは、人を喰ってしまう。自分の指や手や腕までも旨そうに見えてきた。限界だ。そうだ、確か令呪――――

森の中まで来た時、アニの目は大きく見開かれた。見慣れた、あまりにも酷く見慣れた存在を目の当たりにしたからだ。


巨人だ。


と言っても、身長は5mほど。人間を戯画化したような、膨らみ、ねじれ、歪んだ全裸の体。顔に張り付いた表情。
あれが元の世界のと同じなら、知性はなく、その行動目的はただひとつ、人間を捕まえて喰らうこと。
その巨体とパワーをもってすれば、人間などたやすく殺せるだろうが、奴らは生きた人間しか喰わない。
胃袋で溶かして殺した後は、腸がないからそのまま吐くだけだが。……そして、そいつの足元には、若い男女の無惨な死体。

冗談じゃない。よりによってこの私が、この妙な異世界で巨人と遭遇するなど。
あいにく立体機動装置もなければブレードもない。こいつが、あっちの連中と一緒なら、丸腰ではまず殺せない。
巨人が気づき、こっちへ向かってくる。指が何本か欠けた手を伸ばし、私を捕まえようとする。ふざけんな。

アニは舌打ちし、くすねておいたナイフを懐から取り出す。武器にするわけではない。武器を出すのに使うのだ。


438 : Hungry Ghost ◆nY83NDm51E :2017/06/26(月) 00:10:13 VyBWBq.E0

ナイフで左腕をひっかき、浅い傷をつける。強い意志、殺意で、能力を制御する。この程度なら、全身は要らない。
曇り空から雷がアニの上に落ち、左腕の傷口から肉塊が溢れ出す。それは巨大な腕となり、巨人の首を刎ね飛ばした。
アニは腕を動かし、残ったうなじ部分を握り潰す。あっちの巨人なら、これでだいたい死ぬはずだ。

しかし、妙な手応えだ。やっぱり、いつもの巨人じゃない。傷口から風船みたいに空気が漏れ出て、しぼんでいく。
クシャクシャに縮んだそいつは、すぐに灰になり、風に吹かれて飛んでいった。後には、首と指の欠けた子供の死体。
……つまり、巨人化したこいつが、あの男女を喰った、ということは。いや、あまり考えないでおこう。

さっきの雷の影響か、雨が降り出し、アニと死体たちを濡らし始める。巨腕から蒸気が立ち上る。

危険は排除した。巨腕を切り離し、腹を抱えて片膝を突く。空腹がきつい。この状態では、やはり全身の巨人化は困難だ。
あの子供が巨人化した。指が欠けていた。喰いちぎったように。ならば、自分の肉を喰った?今の自分と同じ状態から?
そしてこれは、たぶん誰かのサーヴァントのしわざだ。誰の? アニは立ち上がり、右手を掲げて叫ぶ。

「令呪をもって命じ……」


『待った、待った。やめる、やめる。姿を見せる。だから、それを今使うな、嬢ちゃん』

慌てた声が脳内に響き、急に空腹感が消えた。相手が術を解いたのだ。私のサーヴァントが、これをしたのだ。

ふいに森の中から冷たい風が吹き、肉食獣のような臭いが漂ってきた。あるいは、腐った肉のような。
それとともに、目の前にふわりと鳥が出現した。飛んで来たというより、瞬時に出現した。
気配を消し、姿を消していたらしい。仮にも歴戦の戦士である自分に、全く気配を感じさせなかった。

それは……フクロウに見えた。死んで腐って、羽毛と乾ききった皮膚が骨にへばりついた、大きなフクロウの死骸に。
だが、虚ろな眼窩の奥には、邪悪な光が揺らめいている。英雄というより、悪霊とか悪魔の類だろう。
警戒を解かず、睨みつけ、ファイティングポーズを取りながら誰何する。

「散々やってくれたね。あんたが私のサーヴァントか。私はアニ・レオンハート。名乗りな」


439 : Hungry Ghost ◆nY83NDm51E :2017/06/26(月) 00:12:10 VyBWBq.E0

翼を広げたまま空中に浮かぶフクロウは、嗤いながら念話で名乗る。微かな、囁くような、不愉快な声。
さっきまで脳内で囁いていたのと同じ、悪意に満ちた声だ。

『ホー、ホー、ホー。オレのクラスは「ライダー(騎兵)」。真名は「ウェンディゴ」。知ってる?』
「知らない」

『無知な餓鬼だ。オレの能力は、お前さんが味わった通り。人に猛烈な飢餓を感じさせ、人肉を喰いたくさせること。
 喰った奴は、もう手遅れ。人肉を求めて彷徨う、狂った巨人になっちまうのさ』

嫌な奴だ。こんな存在を自分のサーヴァントにつけるとは、皮肉を超えて悪趣味に過ぎる。
元の世界での所業に対する罰というなら、これでも温情に過ぎるか。

「マスターの私が呼んでも出てこないばかりか、勝手に術をかけやがって。もう少しで死ぬとこだったよ」

アニの放つ怒りのオーラに、ライダー・ウェンディゴはむしろ愉しそうだ。根っからの嫌がらせ好きなのだろう。

『ウォー、ホーホー。試してみただけさ、そんなに怒るなよ。それにオレ、街中よりこういう自然の中が好きなの。涼しいし』

アニは、ますます眉根を寄せ、殺人的な視線でライダーを睨む。おかしな真似をすれば、攻撃を叩き込みたい。
だが、近くにいるのに距離感がつかめない。蹴りが命中するイメージが見えない。周囲に陽炎を纏っているようにも見える。

『オレそのものは、囁くだけさ。戦うのは、欲望に取り憑かれたアホども。
 動物脂肪をたっぷり食えば、ちっとはもつんだがな。オレが栄養を吸っちまうから、すぐ腹が減るのさ。
 ――――ああ、お前さんには、もうやらない。どうも既に手遅れみたいだからな』

「…………そうね。私はもう、手遅れ」

スッとファイティングポーズを解き、アニはぽつりと自嘲する。手遅れだ。人生も、作戦も、何もかも。
ライダーは、そんな彼女に問いを投げかける。

『嬢ちゃん、あんた、聖杯は欲しいかい?』


440 : Hungry Ghost ◆nY83NDm51E :2017/06/26(月) 00:14:15 VyBWBq.E0

「……欲しい」

自分がここに呼ばれたのは、たぶんまだ欲が残っていたから。奇跡にすがらねば、どうしようもない欲が。
生きて帰って、この嫌な任務から、嫌な世界から、逃げ出したい。自由を勝ち取りたい。自由に生きる権利を。

『何のために?元の世界へ戻るためかい?』

戻る。故郷へ。私が生まれ育った、父の住むあの場所へ。ああ、そのために、私は……。

けれど、ここはどうだ。聖杯戦争を抜きにすれば、平和で自由で、目も眩むほど高度な文明社会。圧政も、飢えで死ぬ人もいない。
彼らなりに悩みはあるのだろうが、少なくとも私にとって、天国に一番近い。故郷への思いを揺らがせるほどに。

「……私は、あんな世界に戻りたくない。あそこは結局、どこもかしこも地獄。平和な、ここみたいな世界で生きていきたい」

正直な気持ちだ。故郷に戻ったところで、私は作戦に失敗した出来損ないだ。まして壁内の連中にとっては……。
どっちに捕まっても、見つかり次第処分されるのが関の山。それならせめて夢を見たい。

『そりゃまっとうな願いだ。誰も地獄に戻りたかァなかろうね。ここだってしょせんは戦場、地獄みたいなもんだが』
「……でも、故郷へ戻りたいって気持ちも、まだ半分ぐらいある。どっちを選ぶかは、もう少し考えてみるわ。あんたの願いは何?」

アニに問い返され、ライダーはぐるりと頭を一回転させる。腐臭のする風が吹き、アニは掌で口をおさえ、鼻をつまむ。

『オレはさ、こういう現象だから。寒風、不安、病気、迷信、噂話、小説。そういうのが凝り固まって、オレになったのさ。
 だから、願いも望みもない。オレの噂をする奴がいれば、それだけでオレは存在できるからね』

「羨ましいね。じゃあ、私に力を貸しな。どっちにせよ、他の奴らを皆殺しにして生き残る。それで私は救われる。シンプルよ。
 他人が人喰い巨人になろうと、そいつらに喰い殺されようと、私は知ったこっちゃない。私に不利益を与えること以外は好きにしな」

それを聞いて、ライダーはカタカタと嗤う。お許しが出た。討伐令が出るほどでなけりゃ、やりたい放題やっていいわけだ。
『冷たい嬢ちゃんだ。獅子(レオン)の心臓(ハート)? 「氷の心臓」とでも名乗るがいいさ。ホー、ホー、ホー』

アニがライダーをまたも睨む。……そういや、どこかの本の虫が言っていたか。
成功を収める方法は、人間の法律と、野獣の力をうまく使い分けること。後者は、狐の狡猾さと――――

「レオンハートは、『獅子の心臓』って意味じゃない。『獅子の強さ』って意味」


441 : Hungry Ghost ◆nY83NDm51E :2017/06/26(月) 00:16:12 VyBWBq.E0

【クラス】
ライダー

【真名】
ウェンディゴ@アルゴンキン諸族の伝承

【パラメーター】
筋力E 耐久C 敏捷A(EX) 魔力B 幸運D 宝具A

【属性】
中立・悪

【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:D(EX)
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。
彼が乗るのは動物ではなく風であり、音もなく自在に大気中を飛行する。風の通り道があれば、短距離なら瞬間移動も可能。
マスター他数人を風に乗せて運ぶことすら出来るが、ひどい寒気と宇宙的恐怖に襲われるので長時間は無理。

【保有スキル】
風除けの加護:A+
風属性の攻撃を完全に無効化し、逆に魔力として吸収する。特に寒さに強いが、熱には弱い。

魔力放出(風):A
自身の肉体から魔力を寒風と化し放出する。放出された風は攻撃能力を持ち、触れたものを斬る。自分で出した風に「騎乗」することも可能。
この風はまた周囲の次元を歪ませ、幻影を作り出し、攻撃を奇妙にすり抜けさせる。彼に直接攻撃を当てるのは至難と言える。

気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちるが、彼が自分から攻撃することはほとんどない。


442 : Hungry Ghost ◆nY83NDm51E :2017/06/26(月) 00:18:21 VyBWBq.E0

【宝具】
『空鬼の呼び声(ウェンディゴ・サイコシス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:5

風に乗って届く呪いの言葉。背後からの気配と微かな囁き声、腐肉のような臭いだけが相手に届き、精神に悪影響を及ぼしていく。
しばらくすると醜い巨人の姿が脳裏に浮かび、自分がそれに変身してしまうという強い恐怖と不安感に襲われる。
同時に体が内側から凍えるように感じ、躁鬱病のようになって言葉が話せなくなり、食欲の低下と猛烈な飢餓感が同時に襲って来る。
動物性脂肪を食えば多少紛れるが、すぐまた腹が減り、人肉が食べたいという強い衝動に襲われる。囁きは寝ても覚めても聞こえ続け、精神を苛む。
この状態なら、何らかの解呪の方法があれば解除を試みる事ができる。暖かい食事と暖炉の火、家族との会話があれば、解呪はたやすい。
また強い精神力、「対魔力」や「風除けの加護」などのスキルがあれば、ある程度この攻撃を防ぐことが出来る。

だが誘惑に負けて人肉(自分の肉でも死体でも)を食べてしまえば、その者は理性と知性を失い、5m級の人喰い巨人と化す。家族・親族の肉を最も好む。
巨人はそこそこ強く、普通の人間なら問題なく捕食できるが、強めのマスターやサーヴァントなら問題ではない程度。重傷を負うと空気が抜けてしぼむ。
こうなった人間を元に戻せるのは、術をかけたライダーだけであり、ライダーを殺せば永遠に戻れない。このことを取引材料にして交渉も可能。
一度に術中に落とせるのは数人程度だが、呪いの種をウイルスのようにまくだけなので、消費魔力は少なくて済む。集中を乱すデバフとしては便利。

『風に乗りて歩むもの(ザ・シング・ザット・ウォークド・オン・ザ・ウィンド)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:10

ライダーたる所以の宝具。ダーレスの小説が作り出した、風の旧支配者イタクァ(Ithaqua)としての相の顕現。
冷たい煙か雲のような魔力を纏い、赤く燃える二つの目を持った不気味な巨人の姿に変化する。風に乗って高速で移動し、遭遇した者を竜巻のように空高く投げ上げる。
犠牲者は呼吸器や体腔を冷たく薄い空気で満たされ、エナジーを吸われ、飢餓と悪意と狂気を霊肉に吹き込まれた後、遥か彼方の地表に叩きつけられる。
通常の肉体の持ち主なら叩きつけられた時点で即死するが、運良く生き残った場合でも宝具『空鬼の呼び声』の影響を強く受けてしまう。
「対魔力」や「風除けの加護」のスキルがあれば、ある程度この攻撃を防ぐことが出来る。消費魔力を増やせば、犠牲者の滞空時間や飛距離も伸びる。

【Weapon】
なし。風を操って放ったり、ぼんやりとした幻影を見せたりは出来る。

【人物背景】
Wendigo,Windigo。カナダ南部からアメリカ合衆国北端に分布する、アルゴンキン諸語を話す北米先住民(アルゴンキン諸族)に伝わる邪悪な精霊。
その名は「フクロウ」を意味し(あるいはフクロウをそう呼ぶようになった)、巨人として想像されることが多いが、鳥のようだとも小柄だともいう。
吹雪の中を飛ぶように走り、雪の上に足跡を残すことがなく(あるいは残し)、常に飢えていて、旅人を攫っては貪り喰らう。
またウェンディゴは人に取り憑いて精神的に不安定にさせ、人肉を喰らうよう唆す。もし本当に人肉を喰らえば、新たなウェンディゴに変貌してしまうという。
英国の作家アルジャーノン・ブラックウッドの小説『ウェンディゴ』、及びそれに触発されたオーガスト・ダーレスの小説で知られる。アサシンの適性も持つ。

【サーヴァントとしての願い】
なし。常に腹が減っているので、参加者の魂とエナジーを貪り喰いたい。

【方針】
様子見。不審な様子の者がいれば、『空鬼の呼び声』を撒いてみる。マスターが襲われたら助ける。三つの死体は、誰かに喰わせるために放置しておく。

【カードの星座】
蟹座。


443 : Hungry Ghost ◆nY83NDm51E :2017/06/26(月) 00:20:17 VyBWBq.E0

【マスター】
アニ・レオンハート@進撃の巨人

【weapon・能力・技能】
『対人格闘術』
父の教育により身につけた戦闘技能。特に蹴り技を得意とする。大男を軽く空中で一回転させるほどの腕前。

『巨人化能力』
傷口から特殊な肉体(筋肉・骨格・眼球等)を湧出させ、全身に纏って巨人に変身する能力。
巨人体(女型の巨人)は身長14mで体の均整が取れ、髪の毛や胸もあるが、体中の皮膚がなく筋肉と腱が剥き出し。
言葉はほとんど話せないが、理性と判断力は人間時と変わらず、俊敏に動け、格闘能力も高い。
受けた傷は素早く再生し、特定部位に再生能力を集中することもできる。巨人化前に負った傷もある程度は治る。
巨人の肉体は強靭で軽くて異常に熱く、切り離されると蒸気をあげて消えていく。
本体は巨人体のうなじ部分に埋まっており、ここを潰せば死ぬし、切りつけて本体を引きずり出せば巨人体も消える。
一時的に皮膚の一部を硬化させ、弱点であるうなじを守ったり、手足の先端を硬化させて攻撃の威力を増したりできる。
体の一部分だけを巨人化させることも可能。自分の意志で巨人化を解除でき、少なくとも続けて二回は変身できる。
絶叫で周囲の巨人を呼び寄せる特殊能力も持つ。こうした能力を怜悧な判断力で活用し、予測不能な戦闘行動を行う。
巨人化後は体力と精神を消耗し、水分と睡眠を欲する。

【人物背景】
諫山創『進撃の巨人』の登場人物。16歳。アニメでのCVは嶋村侑。
外見は金髪で小柄(153cm)で筋肉質な白人少女。前髪を右へ伸ばし、髪は後ろでお団子に結んでいる。
顔立ちは端正だが目付きが鋭く鷲鼻で、いつも怒ったような顔。寡黙でぶっきらぼうな口調の一匹狼。感情表現が乏しく連帯性に難がある。
しかし常に冷静沈着で、「目標を最短ルートで達成し、無駄な行為は極力しない」という合理主義を貫徹し、戦闘での実力も高い。
壁に囲まれた世界で巨人と戦う兵士として訓練を受けたのち、成績優秀として内地の治安を守る憲兵団に入団していた。
実は壁外世界から送り込まれた密偵であり、巨人に変身する能力を持つ。戦闘力は非常に高く、知略をも駆使して人類を苦しめた。
激闘の末に追い詰められ、情報を奪われないよう自分の周囲に極めて強固な水晶体を纏わせ、半永久的に眠りについた(8巻)。

【マスターとしての願い】
故郷に帰る。あるいは……?

【方針】
生き残る。とりあえず食事と水と睡眠を摂る。ライダーは森の中に放置し、自分は身を潜める。襲われたら逃げ、マスターを捜し出して殺す。
巨人化能力は奥の手の切り札。ギリギリまで隠し通し、よほどの窮地でなければ使わない。


444 : ◆nY83NDm51E :2017/06/26(月) 00:22:12 VyBWBq.E0
投下終了です。


445 : ◆z1xMaBakRA :2017/07/02(日) 15:42:14 dG0izB620
感想を““““““刻み”””””ます

>>けものふれんず
夢枕獏の餓狼伝を想起させるような小気味とテンポの良い、迫力に満ち溢れた序盤の戦闘描写が、氏の筆力を窺わせるようで唸らざるを得ませんでした。
原作Fateにおける最近のムーブメントでもある、会話が可能なバーサーカーですが、その狂化の理念が闘争に向けられ、其処以外では理知的で落ち着いている、
と言うキャラクター性が表現出来ていて、当麻蹴速と言うサーヴァントの魅力をプロモートしている見事なSSでした。
もうお前がサーヴァントで良いだろと言うマスターと共に、どんな活躍をしてくれるのか、期待出来る主従だと感じました。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>フェイスレス&ランサー
こいついつもフランシーヌのケツ追ってんな。世界が変わってもぶれないなぁ、と言う安心感は凄まじいものがありますね。
黒い太陽と形容された者と、黒い太陽そのものと言えるランサーの組み合わせですが、顔無し(フェイスレス)と、
噂や都市伝説が独り歩きした異なる意味で顔(確固たる真実)のないランサーと言うダブルミーニングを思わせる組み合わせも見事。
どちらかと言うとマスターの方の太陽が危険であり、この世界でもゾナハ病を撒き散らそうとしていますね。文字通りの、厄災そのものの主従ですが、良いヒールぶりが期待できそうです。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>ヴェンジェンス・イズ・マイン!!
信仰上の理由、そして自らの経験則から聖杯を容易く放棄するピエトロと、ある意味で俗的な面もある勾践の対比が良い。
『天』と言うワードを軸にして繰り広げられる、二人の聖杯についての問答、そして生前に辿った足跡から、
マスターであるピエトロの論破を逆上する事無く受け入れる勾践の器量の大きさと、ピエトロ自身の弁の上手さ。
それらが上手く描写出来ていた、素晴らしいSSだと、感じ入りました。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>わるいこどこだ
世界中どこの国でも見られる、親が子供を教育するのに使われた体の良い存在が、本当に形を伴って現れたら。
そんなIFを、恐ろしげに、そして驚異的に表現出来ているSSであるなぁ、と見ていて思いました。針金を思わせるような怪物的容姿もグッド。
これだけ恐ろしげで、やっている事は明白に悪その物なのに、属性自体は『善』であると言うのが、不気味さと怪物性に拍車を掛けていて素晴らしい。
そして、悪い子を叱りつける為の装置なのに、悪い子どころの話じゃないザックについてはお咎めなし、と言うダブルスタンダードさ。正直、すこですね。

ご投下の程、ありがとうございました!!


446 : ◆z1xMaBakRA :2017/07/02(日) 15:42:25 dG0izB620
>>若葉&ライダー
まさか企画のエピグラフに使った、宮沢賢治の詩からの連想で、名作・銀河鉄道の夜のキャラクターを引っ張られるとは思わなかった。発想力に脱帽。
『星座』から銀河鉄道の夜、そして作中のワードである蠍の火から蠍座のカード。着想力も、企画名や星座のカードと言うギミックに連動されていていや凄い。
ただ、どちらかと言うとライダーと言うよりキャスター的なスキルとステータスで、到底聖杯戦争を勝ち抜けるとは言い難い。
軍艦の象徴であり平和を築く為の礎的な側面が強い若葉と、その願いを叶えるべく動くライダー。少女と少年と言う二人の組み合わせも、王道めいていて良いなと思いました。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>ルーラ&アサシン
字面だけ見たら凄い強力そうな能力なのに、中堅スタンド並に面倒な制約が多いルーラさん。すまないさん同様、どっちも裏切りにあって命を落としたと言う共通点が良い。
本来一番その実力を発揮させられるセイバークラスでは無くアサシンでの召喚ですが、其処は世界に名を馳せる大英雄。
宝具欄同様、ガウェインでも引くレベルの超強化を約束するマントを持っている辺り、ジークフリートの生前の活躍とそれによって得た宝の凄さが窺える。
とは言え、この宝具のせいで早くもルーラは令呪を失う羽目になりましたが……。『>>だがルーラは無職だ』、原作の左遷された遍歴より酷い現状で草。でもなんだかんだ逞しく生きてるのは好きです。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>ダイヤモンド&レディ
どちらも共に治す者、どちらも共に治す役(ヒーラー)なのにあり得ない戦闘力を持っていると言う共通項の組み合わせですね。
俗っぽい、よく言えば人間味の溢れる仗助が、吉良の暗躍によって平穏が壊されていた杜王町と、聖杯戦争によって人が死ぬ事が確約されている冬木市を、
実際には違う街だと知りつつも重ねてしまう辺りは、仗助ならやりそうと言う説得力が強い。そして、グランドオーダー案件とは違い、
聖杯戦争に呼ばれてしまえばその催し自体が病んでいる、と言い切る婦長もまた、成程本当に言いそうだという力がありますね。見事なクロスオーバーでした。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>地獄の鉄仮面!Kを名乗る凶悪なるものよ!!
言動とSS自体のストーリー自体はコミカルなのに、やってる事は社会通念上許される事じゃない辺りが、凄い不気味ですね。
それに、普段は蹂躙される側、無力の象徴であるデレマスキャラがマスターである、と言う事実が、上に上げたコミカルさと、それで希釈された様々なトラブルを助長させている。
北斗の拳オマージュが全体的に目立った、ギャグSSに見えていながら、その実人物背景に書かれているキャラの生い立ちは、かなり悲惨な側面も強くてびっくり。
この、アミバの顔で姫に優しいナイトと言う騎士の王道を行く平時の性格、と言うキャラクターが非常に面白い。そして、ランスロットと言うキャラクターから切り出された一つの面と言う事実も、また面白さに拍車を掛けていますね。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>夜神月&アサシン
百年前どころか、五十年にも満たないつい最近に実在した人物を、ここまで型月ナイズさせられる発想力が凄い。こう言う企画をやってると、様々な解釈に出会えて面白い。
FGOにおけるサンソンを想起させる性能やステータス、スキルを持ちますが、こちらの『光のギロチン』と言う言葉のパワーが、個人的には気に入っております。
処刑人としてのプロフェッショナリズムを重んじ、エゴを己の仕事に挟まなかった稼業人であるアサシンを呼び出したのが、原作が進めば進む程、
エゴイスティックになって行く月と言うのは、なんたる皮肉かと思ってしまいますね。組み合わせの妙、と言いますか。これも実に考えられていて、流石に様々な聖杯企画で候補作を投げられている方だなと感じ入る次第です。

ご投下の程、ありがとうございました!!


447 : ◆As6lpa2ikE :2017/07/03(月) 00:03:13 7GhrHW620
投下を““““““刻み”””””ます


448 : 時すでに始まりを刻む ◆As6lpa2ikE :2017/07/03(月) 00:04:46 7GhrHW620
「今まで儂が作ってきた刀は、例えば、コレみたいなものじゃよ」

座布団みたいな帽子を被った、褐色の肌の女――エクストラクラス、クリエイターのサーヴァントはそう言って、灰と赤のツートンカラーの和服の胸元から、紙に包まれた円板状の何かを取り出した。
現代に生きる我々ならば、紙にプリントされた文字や模様から、一目でそれが某ハンバーガーチェーン店のハンバーガーだと判断出来るだろう。
しかし、遥か昔である尾張幕府の時代から現代へとやって来た青年、鑢七花は、クリエイターが取り出した物が何であるかなど、皆目見当がつかなかった。
故に。

「――なんだよ、それ」

七花は、見覚えのないものを見たものが取る、至極当然にしてテンプレートなリアクションを見せた。

「『はんばあがあ』――現代において、世間に最も普及していると言っても過言ではない食べ物の一つらしい。まあ、握り飯の洋版みたいなものだと思えばいいだろうよ」

そう言いながら、クリエイターは包み紙を剥がす。
中からは、てりやきソースのハンバーガーが現れた。
それを見て、七花は、

「おれには、それが刀と似たようなものであるようには見えないけどな。まず刀は食えねえだろ」
「かっかっかっ、そりゃあそうじゃな。だが――」

クリエイターは、手に持ったハンバーガーを七花の眼前まで近づけた。てりやきソースの香りが、七花の鼻腔を刺激する。

「『これ』は、短期間で沢山作られ、安価で手に入る。それは、当時の儂の刀も同じじゃな」

そんでもって――と。
クリエイターは、ハンバーガーを口元へと近づけ、それにかぶりついた。
円盤形の食物のおよそ半分が、一口で彼女の口の中に仕舞われる。
もぐもぐもぐ――そんな風に何回か、味を楽しむようにして咀嚼を繰り返した後、クリエイターはごくんと、それを飲み込んだ。

「美味い――これも儂の刀に言える事じゃ。もっとも、儂の刀の場合、同じ『うまい』でも書きが違うがな。『美味い』と『上手い』、かっかっかっ」

そんな大して上手くもない洒落めいた事を言うクリエイターは、そのまま二口、三口と続け様にハンバーガーにかぶりつき、ペロリと平らげた。

「しかしのぅ、いくら安く上質な刀を沢山作ったとは言え、『さぁばんと』として召喚されるとは……これには驚いたぞ。何せ、儂自身に戦闘能力は殆ど無い。絶無と言っても良いのじゃからな」

やれやれ、と言いたげな表情をしつつ、クリエイターはハンバーガーの包み紙を丸め、後ろに向かって放り投げた。
クリエイターと七花が居るのは、人気の無い廃屋なので、彼女が行ったポイ捨てを咎める者は誰も居ない。

「せめて、儂もお主が知ってる刀鍛冶のように、ぶっ飛んだ刀を作っていれば、多少は戦えたのかもしれんがなあ」
「おれが知ってる刀鍛冶って……四季崎記紀の事か?」

四季崎記紀。
手中に収めれば戦に勝利を齎すとされると言われた『変体刀』を千本も生み出した伝説的な刀鍛冶の名を、七花は口にした。

「そう、それじゃ。四季崎記紀――儂はそいつを知らんし、そもそもそいつはこの世界の歴史に残っていない存在らしいが、しかし、お主から聞かせてもろうた、四季崎記紀の刀の話を聞いただけで、同じ刀鍛冶として、儂は彼に尊敬の念を抱かずにはいられんよ」

刀鍛冶の英霊であるクリエイターを呼び出した当初、七花が真っ先に思い出したのは四季崎記紀であった。
そんな彼から、四季崎記紀の作品である刀達について聞いた(聞き出したとも言える)クリエイターは、同じ刀鍛冶として、彼の事を気に入っているようである。
もっとも、七花が語ったのは、彼が一年間で目にした十二本の『完成形変体刀』と自分自身を合わせた計十三本だけであり、四季崎記紀については殆ど語ってないのだが。


449 : 時すでに始まりを刻む ◆As6lpa2ikE :2017/07/03(月) 00:05:41 7GhrHW620
「殴っても押しても折れず曲がらず、絶対の耐久性を誇る固い刀」

絶刀『鉋』。

「何でも一刀両断する、何よりも鋭き刀」

斬刀『鈍』。

「数の多さを売りにした、消耗品の刀」

千刀『鎩』。

「重さなど無いかのように軽くて脆く、美しき刀」

薄刀『針』。

「鉄壁の守りを追求した、鎧のような刀」

賊刀『鎧』。

「重さに重きを置いた、凄まじき質量の石の刀」

双刀『鎚』。

「所有者の生命力を極限まで上昇させる、活力に満ちた刀」

悪刀『鐚』。

「刀であるが人間らしさを纏う、多腕多脚の人形刀」

微刀『釵』。

「触れた人間から毒気を抜く、薬のような木刀」

王刀『鋸』。

「持ち主の誠実さを測る、鞘と柄だけの刀」

誠刀『銓』。

「『持つと人を切りたくなる』という刀の毒が極限まで高められ、それに四季崎記紀の念が込められた妖刀」

毒刀『鍍』。

「刀でありながら弾丸を放つ、遠距離対応の型破りな刀」

炎刀『銃』。

「そして、これら十二本の『完成形変体刀』を踏まえて完了させられる『完了形変体刀』。血統ならぬ血刀。人の姿をした、刀を持たずに徒手空拳で戦う刀――それが、お主じゃな。鑢七花」

虚刀『鑢』。

「かっかっかっ! これら十三本、どれを取っても、儂では遠く及ばんほどの名作たち! 異端の刀じゃな! まあ、元々儂と四季崎記紀では刀作りのコンセプトがだいぶ違っていると思われるがの」

クリエイターは豪快に笑った。

「名前からして親しみを感じる『千刀「鎩」』、あるいは妖刀のようにおどろおどろしい『毒刀「鍍」』に近いものなら、儂でも生前作れていたと言えるのかもしれんが、だがそれでも四季崎記紀のようにぶっ飛んだものまでは流石に作っていないのよな。いくら沢山作ったとはいえ、儂一人で全く同じ刀を千本も作ってはおらんし、そもそも妖刀の方は完全に風評被害じゃからのぉ」

クリエイターは、そんな風に四季崎記紀の偉業を褒め称えた。

■ ■


450 : 時すでに始まりを刻む ◆As6lpa2ikE :2017/07/03(月) 00:06:57 7GhrHW620
「話を戻すがな、四季崎記紀と違ってただ『短期間に多くの刀を作った』だけの儂が、この聖杯戦争で戦うなんぞ、不可能に近いのだよ」

宝具を使えば、また話は別かもしれんがな――。
そう言うクリエイターだが、戦闘中ずっと宝具を使いっぱなしにしていれば、魔力がすぐに枯渇してしまうので、どっちにしろ彼女が戦闘の連続である聖杯戦争を勝ち抜くのは不可能に近かった。
せめて、キャスターのように陣地に罠を張ったり、使い魔を使役したり出来れば、本人に戦闘能力が皆無でも戦えたのかもしれないが、キャスターならぬクリエイター――ただの刀工である彼女がそんな技能を持っているはずが無い。

「『くりえいたあ』が戦えないなら、おれが代わりに戦えばいいんじゃないか?」

七花は名案得たりという顔でそう提案した。
彼は、己を一本の刀とし、刀を持たずに刀と戦う、一子相伝の格闘術――虚刀流の使い手である。
日本一の剣豪、錆白兵に勝利し、天才にして己の姉、鑢七実にも勝利した七花は、自分の戦闘技術にはそれなりの自信があった。
だが、クリエイターは七花の提案を即座に却下する。

「無理じゃな。確かにお主の『虚刀流』は、並ぶ者が居ない程に強い格闘術だろう。だがな、それはあくまで、相手が『この世の者』であればの話じゃ。『ますたあ』相手ならともかく、神秘の塊である『さぁばんと』相手に、神秘の無いお主の拳はほんの少しも通用せん――せめて、お主に刀の才があれば良かったんじゃがなあ」

サーヴァントである村正が作り上げた刀ならば神秘を纏っているため、サーヴァントにも通用するだろう――そんな考えがあっての発言であった。
しかし、七花は首を横に振り、こう答える。

「それは無理な話だな」

虚刀流を扱う者は、刀を振るう才能が全く無い。
呪われているかのように、刀を振る事が出来ないのだ。
当然ながら、虚刀流七代目当主である七花にも、刀の才は皆無であった。
刀を振り上げれば後ろに落とし、振り下ろせばあらぬ方向に零してしまう。
そんな彼が村正の刀を振るって戦うなど、それこそ村正が戦う以上に不可能な事である。
刀を全く使えない男の元に刀工が召喚されるとは……聖杯とやらはどうにもポンコツなのではないのだろうか?――七花はそんな事を思った。

「ちなみに『くりえいたあ』は刀を使えるのか?」
「たわけ、無理に決まってるじゃろうが。刀を打つしか能のない儂が、刀を持って戦えるわけがあるまい。構えて三歩も歩けば、すっ転ぶぞ」

つまる所、七花とクリエイターは、サーヴァント相手に戦う手段が宝具発動を除けば殆ど無いという、戦う前から負けているに等しい状態であった。

「………む? もしかしたら――」
「? どうしたんだよ『くりえいたあ』」
「いやな、一つ思いついた事があってだな……七花よ、たしかお主は体そのものが一本の刀なのだろう?」
「そうだぜ。っていうか、さっき自分でそう言ってたじゃねえか」
「なぁに、確認したかっただけさ……ふむ、それなら」

村正はどこからともなく、一本の金槌を取り出した。
表面に炎の意匠が凝らされた、重そうな金槌である。

「おい七花」
「ん?」
「ちょっと殴らせろ」

ずがんっ!
七花の返事も待たずに、クリエイターは金槌で七花の頭を殴った。
七花ほどの刀(せんし)であれば、(サーヴァントであるとはいえ)女が放った攻撃を避ける事は余裕で出来ただろうが、まさか味方どころか運命共同体であるサーヴァントから殴られるとは思わず、油断していたのだろう。
あるいは、その金槌の一振りから殺意や敵意を感じ取る事がなかったのだろうか。
ともかく、七花はクリエイターからの一撃を食らってしまった。
続いて、クリエイターはまた同じ箇所目掛けて金槌を振るう――が。
流石に二撃目を食らう七花では無かった――彼はクリエイターの腕を「ぱし」と掴み、金槌を止めた。
そう、止めたのだ。

「急に何をするんだ……」
「ほぅ、止めたか――止められたか」

七花に対し、クリエイターはやや満足げにそう言った。

「女であるとは言え、サーヴァントである儂の動きに対応した。これは、まあ、多少鍛えた人間ならば出来るじゃろう。だがな、こうやって儂の金槌の一振りを片手で止めるのは、普通無理なはずなのじゃよ――なあ、お主、頭は痛むか?」
「? ……!?」

痛くない。
あれだけ重そうな金槌で、派手な音が響くくらいに思いっきり頭を殴られたというのに、全く痛くない。
目眩一つ起こしてないほどに、七花の頭は一切のダメージを負っていなかった。

「かっかっかっ、そうか。やはり、そうか」

何やら意味深な事を言うクリエイター。
次の瞬間、彼女が握っていた金槌は、何処かへと消えた。
金槌の消失を目にし、七花はクリエイターの腕から手を離す。


451 : 時すでに始まりを刻む ◆As6lpa2ikE :2017/07/03(月) 00:07:46 7GhrHW620
「おい七花」
「また『殴らせろ』とか言うつもりか?」
「言わん言わん……その逆じゃ」
「逆?」
「儂を殴れ」

クリエイターは自分の頰を指差しながら、そう言った。
七花は躊躇――というより困惑で暫く手を出せなかった。
何せ相手はサーヴァント――神秘の塊なのだ。
神秘を一切有してない七花が本気で殴れば、逆に彼の拳が砕けてしまうであろう。
しかし、

「ほら、はよう殴らんか。こう、ばしーんとな」

とクリエイターがあまりに急かすものだから、結局七花は彼女の指示通り彼女の頰を拳で殴った。
いや、それは『殴る』というよりも、『小突く』と言った方が正しいかもしれない。
それくらいに勢いの弱い拳であった。
虚刀流の技でも何でもない、単なる普通の拳は、軽い勢いで、クリエイターの柔らかな頰に当たる。
その瞬間、クリエイターは、まるで自動車に轢かれたかのように、思いっきりぶっ飛んだ。
飛んで行った先にあった壁にぶつかり、そこにめり込む。
同時に、土煙が上がった。

「――はぁ?」

これに一番驚いたのは、七花であった。
軽く小突くつもりで放った拳がこんな事態を引き起こしたのだ。驚かない方が嘘である。
いや、そもそもどうして七花の拳がサーヴァントであるクリエイターに通用したのか――

「お、おい『くりえいたあ』! 大丈夫か――」
「ああ、大丈夫さ。こうなる事はある程度予想できていたからなあ。衝撃を逃し、受け身を取る事くらいは出来たとも。そもそも、儂はマスターが無事な限り、消滅する事はないんだから安心なんじゃけどな――かっかっかっ」

クリエイターの安否を心配する七花の声に、彼女は快活な笑いを返した。

「『概念付与(えんちゃんと)による強化』と言ったところか……刀工の『さぁばんと』である儂と、刀の『ますたあ』であるお主だからこそ出来る裏技じゃの」

土煙が晴れた頃には、クリエイターは壁から剥がれ、七花の元へと向かって歩き始めていた。

「まあ、つまり、じゃ――七花よ。人の形をした刀よ」

刀工は、鼻血を流しながら、

「お主は儂が手を加えた事で、儂の代わりに『さぁばんと』と戦えるようになったのさ」

と言った。
『刀工』――刀鍛冶であるクリエイターが保有する、刀剣を鍛え上げるこのスキルは、肉体そのものが一本の刀である鑢七花に対し、一種のエンチャントスキルとして効果を発揮したのだ。
先ほど金槌で七花の頭を殴ったのも、エンチャントの工程だったのだろう。

「…………」

そこで初めて、七花は認識する。
自分の体の表面と内部に、何か熱のような、あるいは冷気のような『何か』が存在している事を。
これが、クリエイターの言う『神秘』なのだろうか?

「格闘術の達人たるお主がその力を使えば、まあ、大抵のサーヴァントに負ける事はあるまい。何せ、お主は四季崎記紀と儂――千子村正が手掛けた刀となったのだからな!」

得意げな表情をするクリエイター――千子村正だが、鼻血が垂れてる状態でそんな顔をしても、いまいち締まっていなかった。

「……ありがとな、『くりえいたあ』」
「かっかっかっ。儂はただ、刀鍛冶らしく刀を打っただけじゃ、何も特別な事はしとらんわい。それに――」

指で鼻下を擦って血を拭い、クリエイターは言葉を続ける。

「感謝の言葉は後に――聖杯戦争に勝って、願いを叶えてから言えい」
「――ああ、そうだな」

そこで改めて七花は、自分が聖杯――万能の願望器へと向けている願いを思い出す。
聖杯を使ってでも生き返らせたい、愛する女の名を、思い出す。
その名は、とがめ――尾張幕府家鳴将軍家直轄預奉所軍所総監督の奇策士である。
尾張幕府への復讐の為に七花を連れて『完成形変体刀』蒐集の旅をし、最終的に凶弾に倒れた、哀れな女だ。
そんな彼女が蘇り、次こそは復讐に狂わされない幸せな人生を歩めるようにする事が、七花の願いであった。

(とがめ……)

クリエイターによって神秘を纏わされた拳を握り締め、七花は思う。

(これまで、おれはあんたのためと言いながら、結局は『好きな女の為に戦いたい』という俺のための理由で戦って来た――だから今回も、『好きな女を生き返らせたい』という自分の我儘の為だけに戦ってみるよ)

彼の思いは、最早刀工が手を加えるまでもなく、固い決意であった。


――そんなわけで。
結末から逸れた、偽りの世界で。
対戦格刀剣花絵巻。
壮大舞台現代劇。
刀語の二次創作。
はじまりはじまり。


452 : 時すでに始まりを刻む ◆As6lpa2ikE :2017/07/03(月) 00:08:25 7GhrHW620
【クラス】
クリエイター

【真名】
千子村正

【属性】
混沌・中庸

【ステータス】
筋力D 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運C 宝具B

【クラススキル】
道具作成:D
魔力を帯びた器具を作成出来る。
村正は刀剣に特化しており、それ以外を作成する事はない。

陣地作成:D
魔術師として、自身に有利な陣地を作り上げる。
魔術師ならぬ刀工である村正の場合、作り上げられるのは鍛錬場である。

【保有スキル】
刀工:A+++
鉄を打ち、鍛え、刀を作り上げる者。
スキル『道具作成』の発動の際に消費される魔力が、著しく軽減する。
また、此度の聖杯戦争の場合、村正のマスターである鑢七花が、肉体そのものが一本の刀である血統ならぬ血刀――虚刀『鑢』である事から、村正は七花に対し、サーヴァントと互角に戦えるほどの力と神秘をエンチャントする事が出来る。

無辜の怪物:B+
後世の民間伝承のイメージによって、過去や在り方が捻じ曲げられるスキル。
『村正妖刀伝説』によって、徳川幕府に仇を為す妖刀を作ったというイメージを付けられた村正は『混沌』の属性を付与されている。
また、彼女の刀は妖刀の性質を持ち、生前徳川幕府に属していたサーヴァントに対して、特攻ダメージを発動する。

仏の加護:C
仏教由来の神格である菩薩の内、千手観音から受けている加護。
母親が千手観音に祈った結果、村正はこの世に生を受け、また、村正は赤坂千手院出身であると伝えられている。
村正は、蓮華王・千手観音の申し子である。
このスキルにより、村正はランク相当の対魔力を得ると同時に、千手観音の権能の一つである千里眼をBランクで授かった。

自己保存:A
自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。

【宝具】
『千子村正無限子(せんじむらまさむげんこ)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:∞

千子村正を始めとする、代々村正の名を受け継いできた刀工達は、『妖刀伝説』という真偽疑わしい風評被害を受けているものの、それ以外には大した伝説を持っていない。
ただ、彼らは、数多くの刀を作っただけにすぎない。

村正という刀工は生涯に渡り、また代々に渡り、安く、強く、良くも悪くも人の心を惹く刀――『村正』を数多く作り上げた。また、後世においては、『村正』の贋作が市場に多く出回ったという記録もある。
この宝具は、それらの功績が昇華されたもの。

数多くの刀剣『村正』のイメージを、この宝具の発動と同時に辺り一帯に展開させる。
つまり、村正の周囲に刀剣『村正』たちが出現し、それらは敵目掛けて掃射されるのだ。
投影ならぬ刀影である。
初代に限らず歴代の村正が手がけたものどころか、贋作まで含めた『村正』の数は、敵対者にとって無限本あるように見えるだろう。

マスターが魔力皆無の一般人である為、そう易々と発動出来ない、奥の手中の奥の手な宝具である。

【人物背景】
『千子村正』とは、特定の刀の号ではなく、刀派『村正一派』の祖とされる室町中期の刀工・村正の通称で、彼女の打った刀もそう呼ばれる。
性格は職人気質であるが、決して気難しいそれではない。
寧ろ、気さくに話しかけ、あれやこれやと世話を焼いてくれるタイプ。
魔術師ではなく純粋な作成者であったため、キャスターではなくエクストラクラス:クリエイターとして召喚された。

【特徴】
赤と灰のツートンカラーの和服を着た女。
刀剣のように滑らかな長めの黒髪をサイドテールで纏めている。
老人のような喋り方をしているのは、修行時代の師匠の刀工爺の口調が移ったから。
褐色の肌をしているのは、鍛錬場で長時間炎の側に居て、肌が焼けたからである。

【サーヴァントとしての願い】
特になし。


453 : 時すでに始まりを刻む ◆As6lpa2ikE :2017/07/03(月) 00:10:11 7GhrHW620
【マスター】
鑢七花@刀語

【能力・技能】
・虚刀流
刀を使わず、手刀や足刀をもって戦う、拳法ならぬ剣法。
言うならば、使用者の肉体そのものが一本の刀である。
通常の剣術の他に、虚刀流には七つの構えからくり出す七つの奥義がある。

一、鏡花水月
一の構え「鈴蘭」から繰り出される。強烈な拳底。七花が使う虚刀流の技の中で最速を誇る。

二、花鳥風月
二の構え「水仙」から繰り出される。半身で前後に貫手を配す構えからの奥義。

三、百花繚乱
三の構え「躑躅」から繰り出される。両手が刀で塞がれていても発動できる、膝蹴りのような奥義。

四、柳緑花紅
四の構え「朝顔」から繰り出される。身体を捻り拳を相手に突き出す奥義。
筋肉や防具など、間に挟んだ物には損傷を与えず、好きな位置だけに衝撃を伝えることができる。
発動の際、溜めのモーションを挟む必要がある。

五、飛花落葉
五の構え「夜顔」から繰り出される。「柳緑花紅」の逆で、相手の表面に衝撃を伝える鎧崩しの奥義。
合掌した手を広げてぶつける掌底のような技。
一つ一つが必殺である奥義の中で、比較的手加減が出来るものである。

六、錦上添花
六の構え「鬼灯」から繰り出される。左右方向自在の足の運びからの奥義。
両手で放つ水平手刀で相手の脇を打つ。

七、落花狼藉
七の構え「杜若」から繰り出される。前後方向自在の足の運びから、足を斧刀に見立てた踵落とし。

また、最終奥義として、文字通り必殺である七つの奥義を柳緑花紅→鏡花水月→飛花落葉→落花狼藉→百花繚乱→錦上添花→花鳥風月の順で同時に叩き込む『七花八裂(改)』がある。
虚刀流の血を引く者は、刀を振る才能が致命的に無い。
刀を振り上げれば後ろに落とし、前に振り落とせばあらぬ方向へと零す。

・クリエイターによるエンチャント
四季崎記紀の血刀である鑢七花は、刀工であるクリエイター・千子村正からエンチャントを受け、筋力B 耐久B 敏捷Aのサーヴァント並のステータスと神秘を獲得し、対サーヴァント戦を行えるようになっている。

【人物背景】
虚刀流七代目当主。
島育ちのため世間知らずで、考えることが苦手な面倒くさがりだが、常識に囚われない発想が敵を倒す糸口を発見することもある。かなりの長身で、鋼のように鍛えられた肉体を持つ。
人間としてではなく、一本の刀となるよう育てられたため、対峙する相手に全く拘りを持たない。
とがめと行動を共にするようになってからは、最低限とがめの望みを可能な限り叶える方針を採るようにはなったものの、人間社会の細かい事情は全く理解出来ないままであった。
戦闘に於いては勝敗以外の配慮は出来ず、実力差から言えばわざわざ殺すまでもない相手の命をも奪おうとしていた。
よく言えば無垢で善悪に頓着が無く、悪く言えば人間性に乏しく残酷だったものの、刀集めの旅に出てから、人間らしい感情や感性が育っていく。
とがめの刀として付き添いつつ「愛している」などと度々口にしていたが、物語中盤以降は他の男のことを褒めるとがめに嫉妬心から意地悪をするなど、次第に彼女への好意が本物になって行き、最後には彼女にはっきりと好意を自覚しそれを伝えるまでに至った。
元々、どちらかと言えば思慮深い性格であり、乏しいながらも知識の及ぶ範囲内では物語序盤から細かい配慮を見せている。
戦闘では冷静に相手を観察して作戦を考えるタイプ。
最終巻では、とがめを殺されたことで旅に出る前の性分に戻ったような言動を取った上で、自らの死に場所を求め、血に染まって赤くなった彼女の装束を着て腰に彼女の遺髪を提げ、尾張城を襲撃――する筈だったが、今作ではその直前に、聖杯戦争へと招かれた。

把握には西尾っぽい文体を楽しめる原作をオススメしますが、イラスト担当の竹氏の絵柄を完璧に再現し、作中の技を詳細に動き付きで把握出来るアニメ版も同じくらいオススメです。

【マスターとしての願い】
とがめの蘇生。彼女が幸せに暮らせるような世界にする。


454 : ◆As6lpa2ikE :2017/07/03(月) 00:10:46 7GhrHW620
感想を““““““刻み”””””ました


455 : ◆As6lpa2ikE :2017/07/03(月) 00:11:23 7GhrHW620
違う。投下を““““““刻み”””””ました


456 : ◆As6lpa2ikE :2017/07/04(火) 11:14:27 77A9BhYU0
投下した舩坂くんの宝具にあった制限理由をちょっと訂正しました


457 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/04(火) 22:21:13 ksssW5Ps0
これより投下します。えと、刻みます?


458 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/04(火) 22:22:27 ksssW5Ps0

「問おう。君が私のマスターか?」

思考が生じ、霊体が魔力を素として仮初の肉体を形成され、自らの存在を認識する。
この地の顕現した英霊の現身は、目の前の人物にまず初めにそう問うた。

「そうだ。抑止の輪より来たりし英霊よ。私はお前達を憎み、お前を使役する者である」

黒いコートに身を包んだ長身の男だった。恵まれた体格に、皺の刻まれた険しい表情。
顔は永遠に溶けない難問に挑む賢者のように微動だにせず、変わることのない男の貌になっていた。

「……憎む?私を、いや英霊(わたしたち)をかね?」
「左様だ。お前達こそ人類の死の遍歴。人を殺さねば幸福を生み出せない、天秤の傾いた方を捨てることでしか救済を語れぬ蒙昧よ」

男の声は厳粛で重々しい。一言一言が魂を震わせ、屈服させてくるような重み。
それだけで男の積み重ねた年月の長さ、練り上げてきた意思の硬さが窺い知れる。
無論、英霊たる者がこの程度の圧に屈しはしない。しないが……男の言葉にあった奇妙な響きに首を傾げた。

「これは、随分な言い様だな。英霊多しといえど召喚直後に罵倒をもらうのは私が初ではないかな?」
「怨嗟も吐こう。歴史の節目に現れ、人類を押し上げながらも『 』への到達を拒む、矛盾した螺旋を昇り続ける愚劣畜生。これを憎まずしてなんとする」

顔も目も変わらず、声を荒げもせず、ただ男の激情だけが空間に伝播していく。
確かに、そこには剥き出しの憎悪があった。
並の人間、いや、異能なりし魔術を収めた者ですら全身が凍りつく悪寒。死への畏れを感じさせるほどの閉塞感。
まるで、男そのものが、死を蒐集した地獄の具現だとでも主張するように。

それで理解した。
この男は人間を憎んでいる。世界に蔓延る欲望を嫌悪している。
彼は決して聖杯を手にしてはならぬ魔術師であり、己とは相容れぬ、本来敵となって対峙する男であると。

「ならば君はなんだ?人を憎み英霊を憎む君の名は」

問いに男は眉一つ動かさず、つまらなげに答えた。



「魔術師―――荒耶宗蓮」



          ◇


459 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/04(火) 22:23:29 ksssW5Ps0





冬木市新都。
昔ながらの深山町と趣を異にするニュータウンは、平成に入って十数年経ち再開発の波が押し寄せている。
倒されては建てられるビルの林、常に未来のビジョンに合わせて姿形を変えるオフィス街。
街並みは忙殺される社会人達の世相を表しているかのようにせわしなく変化する。
その開発区に立ち並ぶ真新しいマンション地帯、埋立地に出来た林立する四角い建物の群れで、そのマンションだけは綺麗な円形をしていた。
全十階建て、ちょうど円形を半月の形に切った建物が向かい合わせで建っている不思議な構造をしている。
自然、周りのマンションからは切り離されたように浮いて見える。まだ入居者も少ないのか周囲には人気も感じられない。
おかしな仮定になるが、この場に王がいれば、人が暮らす場所でなはなく、静謐を主とした神殿のようにも映るかもしれない。
いま正面かあマンションの中に入っていく、王の如き男がいれば。

背は高く、髪の色は完全な赤よりもややくすんだ橙。
身に纏う衣といい、魚の鱗を象った装飾といい、時代錯誤にもほどがある格好はひと目がないとはいえあまりに場違いである。
なのに憚ることなく在る姿は滑稽ではない。覇気に満ち、威厳に溢れている。
違うといえば、その王者の気質こそが最大の違和感だ。

クリーム色で統一されたロビーの広間。その空間を男は通過して柱のように設置されたエレベーターに向かい下のボタンを押す。
マンション施設の地下には駐車場だが、現在は使われておらず開放もされてもない。



【下」「に」「落ちる】



声がした。
常人が、万物が、深く、深く、自己の存在の根源にまで染み入るような言葉がした。


おーーーーーーーーん。


箱が、ひとりでに動く。地の底に続くような音がした。
動かないはずのエレベーターは言葉のままに機能して地下へと誘った。
今の声に従う、そうプログラムされた機械として。予めインプットされていた命令が上書きされたかのように。

扉が開く。明かりはなく部屋は暗い。
しゅごー、という蒸気の音。部屋の中心にある真っ赤に焼かれた鉄板に水滴が落ちた音だった。

「何をしていた、ランサー」

灼熱の灯りで、男以外の人物の影が浮かび上がる。
長身の黒衣。苦悩の刻まれた貌。
駐車場を隠れ蓑に地下に『工房』を設けた魔術師であり、今は聖杯戦争に参戦するマスター、荒耶宗蓮は目の前の従僕に問う。


460 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/04(火) 22:24:11 ksssW5Ps0


「見ていたさ、この世界を」

聖杯戦争の舞台に招かれ魔術師をマスターに定めるサーヴァント、ランサーは答えた。

「この国の成り立ち。民の在り方。行政のシステム。私が楔を打ち込み切り離した人間がどのように広がり栄えたのか。
 素晴らしく醜いな。誰もが比較し、妬み合い、憎み合い、争い合う。相互の理解をよしとせぬまま個の欲望の為に他を排斥しながら生きる。
 神代には無かった光景。些か以上に歪に膨れ上がってるようだが、今もこの版図を広げていくのは―――ああ、見ていて実に楽しいものだ」
「人の醜悪さを是とするか。他ならぬこの世に混沌(バベル)をもたらしたるお前が」

荒耶の言葉に、ランサーは愉快そうに笑って言った。

「するさ。しないはずがない。神と人を乖離させ地に光を満たす―――それがかつての私(ニムロデ)の本願であるからな!」

ニムロデ。器(クラス)の名で呼ばれるのが習わしのサーヴァントが秘するべき真名。
歴史聖書を読み解いた者であれば、聞いたその名に戦慄しただろう。
旧約聖書、創世記11章に登場するある建築物。
遥かな太古、文明の黎明期において人々は共通のただひとつの言語を使っていた。
言葉が同じということは民族としてひとつであり、意思や解釈が同一だということ。
完全な相互理解を為していた人々は集まった地に等を建てようとした。空を超え、天まで届かんほどに高い神の門を。
その理由が自らが神に届かんとす傲岸なのか、神が地に降りやすくなる為の祭壇だったのか、解釈は多数ある。
だが聖書の記述として、神は人々から共通の言語を奪い、言葉が通じず分かり合えなくなった人はバラバラに別れ塔は崩落した。
塔の名をバベル。人類が開けようと手にかけた、根源(セカイ)に通じる神の門である。
ニムロデとは、その建設の指揮を摂ったとされる王の名だ。狩りの王。傲岸なる王。地上最初の勇士とも呼ばれる。
その為した業の深さ、伝わっている知名度の高さをもってして男は荒耶のサーヴァントとして召喚された。


「……因果なものだな。かつてその言語の唯一の習得者を駒に引き入れ、今度はその言語の破壊者を駒に喚び寄せるとは」
「必要でない限り使う気はないさ。槍(バベル)を打ち出すのに必要な言語だから持ってるが、本来私はこれを否定する側だからな。
 それが嫌なら、その令呪で縛ってみるかね?」

試すような挑発的な物言いにも、荒耶は眉一つ動かさず陰鬱のまま返した。

「無為だ。統一言語の効力は体感済みだ。
 令呪がどれだけサーヴァントを従わせる機能に特化していようと、『言葉による命令』である以上、お前に通用する道理はない。
 この内部の『砲台』を、隠匿していられればそれでよい。」
「よく理解しているじゃないか」

マスターが呼び出すサーヴァントとは、何らかの縁が関わってくるとされている。
荒耶の場合は言語。かつてニムロドが地上から失わせた言語を唯一習得していた魔術師と対面していたという過去。
統一言語と呼ばれるそれは、今現在多数に別れた民族毎の言語以前、バベルの塔が崩れるまでにあったただひとつの言語だ。
世界そのものに語りかけられる高位の言語を持つ者は、持たぬ現代の人間、どころか自然万象を言葉の通りに操れるも同然の催眠術師と化す。
この冬木に飛ばされるまで、ある少女にぶつける為に荒耶が用意した駒が、こうして形を変え従者としてついているのは、運命の皮肉を嗤ざるを得ない。


461 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/04(火) 22:27:46 ksssW5Ps0



「人の欲望は素晴らしい。欲望がある限り、何かが変わり、生まれる。今日という日を明日にすることさえ欲望だ。見給えよ外の街を。
 神の恩寵も、ソロモン王が世界に残した神秘、魔術の残り香も用いることなく人はここまで繁栄してきた。人間の力だけで!」

暗がりを歩きながら、ランサーは滔々と言葉を口に乗せる。

「バベルは崩壊し、統一言語は失われた。だからこそ人は、自らの意思だけで独自に歩むことを余儀なくされ、我先に生き延びようと欲望を肥えさせた。
 それが人を先へと推し進めた。欲望が人を進化させた!」

それはあるいは呪文を紡ぐように、力のある語りだった。
王と呼ばれる者が誰しも持っている、人を引きつける力。その言葉を真実と信じさせ、自らの下に治める統率の能力。
―――それ以外に、言葉そのものが絶対を疑うことなく魂に刻みつけられるような、重厚な響き。

「夜になれば、都市も星が目を眩ませんばかりに輝きを放つのだろう。もはや暗がりに潜む獣に怯えるばかりの日は終わった。天候という神の領域さえ人は支配するだろう。
 まさに、地の光はすべて星!やはりあの日、神に弓引いた私は間違っていなかった!」

言葉が物理的な質量を伴って発されていると錯覚するほどの重圧の中で。
荒耶は平然と答えた。その重みを屈服させるという強い意志をこめて。

「聖書の伝承は正しいようだ。確かに、お前は傲岸だ。根源(かみ)との繋がりを断ち切った欲望の王よ。
 人間は生きていたいという願望の為に自らの手足を食い千切り脳漿を飲む蒙昧なる下衆である。お前の行いは人の獣性の最後の枷を破壊したに過ぎん」

荒耶の目線は、憤怒と侮蔑に満ちていた。前に立つ英雄―――人類史を掘り起こして出てきた稀代の殺戮者を。
終生に定めた怨敵を見る目だった。

「相容れないかね?」
「相容れはしない。私は人の終末を求め、お前は人の欲望を更なる発展に使う。互いの立場は明白であり、いずれ衝突する定めだ」
「では、この儀式についてはどう思う」
「信には値せん。私が進めていた計画の方がまだ望みがある」

そう。荒耶には計画があった。聖杯戦争なる此度の儀式よりも前に、己が結論を示す祭壇を。
この世の原因。宇宙の真理。全てが流れ出す始まりであり、行き着く終末。『根源の渦』に到達するため十年かけて見つけ出した『 』に繋がる器。
手駒を揃え、状況を最大限調整し、行動を開始しようとした段になって、気づけばこの見知らぬ土地に拉致されていたのだ。
魔術師たる者倫理を問いはしないが、このまま素直に殺し合いに乗って正体も分からぬ賞品に手を伸ばす愚鈍を犯す気はない。

「だが英霊……高純度の魂については私の望みと無関係ではない。
 サーヴァントの消滅が聖杯戦争の進行に繋がるというのなら、その魂の拡散の瞬間を観測することは意義あるものとなるだろう。
 加えて、お前の宝具を然る条件で十全の状態で放てば確実に根源に孔を開けるだろう。バベルとは神の門を意味する。その門から放たれる槍は必ずや根源への通り道となるのだからな。
 万一、聖杯が真なる願望器の力を備えているとしたら、それこそ僥倖だ。本来なら不要な道行き、持ち帰る収穫がなければ釣り合わん」

つまらなげにランサーは溜息をつく。

「そうまでして根源に―――神の頂に辿り着きたいのか。己を満たす欲望もない君が、一体何を望む?」
「―――私は何も望まない」


462 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/04(火) 22:29:02 ksssW5Ps0


短い一言。それは望みがない無欲さではなく、『何も望まない』という意味。
荒耶は人間を憎む。生きながらにして殺さねば活動できない人間の矛盾を嫌悪している。
人は死によって完結すべきだ。人の人生は終わる事で完成する。
求めるのは結論。この世から人間が消え失せ、そ歴史に残る価値が醜さだけであったのなら―――人間は救われないものであるという解が置ける。
死んだ人間、無意味のまま終わった全ての苦しみにも、意味が与えられよう。それこそ唯一、共通の救いだと。
世界が果てることでようやく人の価値を検分できると本気で考えている。

……人を汚いと罵る荒耶の思考は完全に固定化されている。変わることなくひとつの方向性を突き進み続けるものは、もはや人間ではない。
200年、荒耶はその思考を続けてきた。既にこの魔術師は固まった概念に等しい。「」に挑む意志、人の死を集める生きた地獄として。

「だから全てを知り得る御座に立ち、結果を前倒しにするというわけか。欲望を削ぎ落とし、誰にも理解されぬ求道の道を歩む。
 なんという無欲か。なるほど、相容れないのは道理だな」

ニムロデは荒耶を軽蔑してはいない。どうあれ、ここまで高めてきた意志の強さを素直に称賛したい気持ちですらある。
だが同時に、堪らない嫌悪感を抱いているのも事実なのだ。
結果やその範囲はどうあれ、人間の世界を守り、広げるために戦った英霊達にすれば、荒耶の存在は許容できる枠組みを超えている。
霊長の守護者の責務に沿うならば、この男は今すぐ抹消すべき敵対者だ。しかし―――


「まぁ、いいだろう。それもまた面白い」

あっさりと、ニムロデはその責を放棄した。

「ニムロデは君を否定しよう。だがサーヴァントたる私は肯定しよう。
 君という数奇なる魂との出会いを祝して、ここではマスターの意志のまま動く道具の役に徹しようじゃないか」

生前であればまだしも、今の自分は英霊。過去の死者の夢に過ぎない。
それがたとえ、どれだけ歪に固まったとはいえ今も生きる者の意志を始まる前から摘むなど、そんなつまらない真似を犯せるものか。

「二言はないな、ランサー」
「君がその意志の濃度を薄ませない限りはな。まあそんな心配は無用だろうが。覚悟を見せるのは君の方だぞ?」
「無論だ。我々は相棒でなく、敵として互いにとっての障害を砕くのみでしかない。
 お前が此度の抑止力だというのなら――――退くことなく打ち砕くのみだ」

男の貌は変わらず陰鬱なままだ。苦悶に満ちた哲学者の顔を崩さない。
しかし眼だけは、炯々と燃える烈火を湛えて、英霊に頑として感情を叩きつけていた。

こうして、闇の底で或る主従は契約を結んだ。
此れより二者は信頼なく、信用もなく、だが硬い契の下に動き出す。
何よりも敵である者を隣同士に、己の強さを相手に証明せんが為に。



矛盾という混沌を目指して螺旋の塔が伸びて行く。
まるで、果てのない空に孔を穿つ杭のように―――――――――


463 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/04(火) 22:31:03 ksssW5Ps0


【クラス】
ランサー

【真名】
ニムロデ

【出典】
旧約聖書

【性別】
男性

【身長・体重】
185cm・78kg

【属性】
混沌・善

【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷C 魔力B 幸運B 宝具EX

【クラス別スキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【固有スキル】
カリスマ:B
 軍団を指揮する天性の才能。
 暴君と伝えられるニムロデだが、紛れもなく人を統べる力量を備える王でもあった。

陣地作成:A
 純然たる魔術師ではないが生前の逸話により例外的にこのスキルを所持する。

統一言語:EX
 マスター・オブ・バベル。神が言葉を乱す以前に世界に共通していた、たった一つの言語。
 世界そのものに話しかけて意味を決定させる神代の言葉は、同じ統一言語を持たない相手には絶対の命令となる。
 人や動物、岩にでも話しかけられ、その言葉を真実にする、万物に共通する催眠術師ともいえる。
 ただしサーヴァントの身である劣化に加え、同じく高次元の座と繋がる英霊に対してはやや効果が薄い。
 本来は捨て去るスキルであるが、宝具のプログラミングに不可欠な言語であるので仕方なしに保持している。
 
【宝具】
『地の光はすべて星(カ・ディンギル・メロダク)』
ランク:EX 種別:対国、対神宝具 レンジ:30〜99(縦に) 最大捕捉:1人 、900人
 バベルの塔。
 神の門を貫く柱にして、人が地上を統べる玉座。
 塔は螺旋状に回りながら天に向かって伸びていき、ニムロデの支配域と化す。
 真の機能は内部に搭載された超巨大対粛正破壊槌(バベル)の発射台。
 威力は塔の全長により決定し、最大限まで昇ればそれは文字通り神殺しの域に至る。
 天地の理の乖離、世界―――神から人間を脱却させる″地の楔″。
 通常宝具として使用する場合、ミサイルのように地上に落下する対国宝具として扱われる。

『大千渦巻く波濤の竜(カスカシーム・クシュ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜9 最大補足:1人
 纏った者を無敵にする、といわれた海の神獣リヴァイアサンの裘(かわごろも)。
 衣から剥がれた鱗は所持者を中心に渦を巻くように分離し、近づく者を切り刻む攻防一体の結界を形成する。
 全長1500kmに及ぶリヴァイアサンの体表を覆う鱗の枚数は数千万を超える刃の海と化す。
 驚異的な防御力を誇る宝具だが、神性スキルを持つサーヴァントに対しては著しく硬度を下げてしまう。
 これはリヴァイアサンが最後の審判で神に殺され、民に肉を与えられる逸話のためである。

【Weapon】
超巨大対粛正破壊槌(バベル)のレプリカ。
優れた狩人であるニムロデは武器の扱いにも長けている。


464 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/04(火) 22:31:26 ksssW5Ps0

【解説】
旧約聖書に登場する人物。ノアの子孫、クシュの子。
アッシリア全土を支配した王であり、優れた狩人でもある。
そして増上慢から神へ叛逆し崩れ落ちた逸話―――バベルの塔を建設させた者として伝説に残っている。

確かにニムロデはバベルの塔を作らせた。神への叛逆を企てた。
しかしそれが自身を神に置き換えた傲岸からくるといえば―――否である。

遥かな神代。人種に動植物、自然とすら言葉を通じられる唯一の言語は、誤解なく他者と分かり合える世界を構築した。
そして上に立つニムロデにとっても彼らは統治しやすく平和な時代を見ていた。
だがニムロデは知っていた。今よりも過去に起きた、地上の悪を一掃する神による大洪水。
時代を越えて世界を見渡す千里眼こそ持たぬものの、眠れるヒトの悪性、人類が目指すべき地平を悟った。

ヒトは神(おや)の元から羽撃かねばならぬ。そこがどれだけ危険のない、安穏な場所であっても。
自由な荒野に雛を送り出す、過酷な旅路だとしても。
世界には混沌が必要だ。求められるのは賢君ではなく暴君、北風という試練。
その為に作り上げたのが、世界と人を切り離す柱―――即ちは混沌(バベル)。
天に昇っていくバベルに対してとうとう、神は統一言語を奪い塔を崩壊させた。―――ニムロデの予測通りに。
バベルはその為の塔だった。崩れる事で意味を成す呪詛。かくして神は、地上からの更なる撤退を余儀なくされる。
統一言語を失い多様な言葉を使うようになった人類は、誤解し、争い、別れ、世界に散らばって各々の文化を築いていく。
ニムロデを人々は暴君と畏れ、同時に神の理に挑んだ挑戦者として語られている。

傲岸だが理知的な性格。
基本方針が「人の世界を広げる」事で、欲望を肯定する。その為に神が邪魔とあれば殺しにかかる反抗心の持ち主。
安定した秩序より、先を開く混沌をよしとする。崖に突き落として我が子を育てるタイプ。君主というよりは開拓者に近い。
現世の繁栄と混沌ぶりには割りと満足。

【特徴】
ややくすんだ橙の短髪。歳は20代後半程。体格はガッシリしてあり、魚鱗の装甲を身に纏い、宝具の裘を体に巻き付けている。

【方針】
アラヤにはサーヴァントとしての立場を崩さない。
人間の醜さを憎むアラヤとは相容れないが、その精神の強さは評価しており、彼の最期を見届ける。




【マスター】
荒耶宗蓮@空の境界

【マスターとしての願い】
根源への到達。

【weapon】

【能力・技能】
魔術師としての能力は穴が多いが、結界作成に関しては突出している。
通常場に固定する結界を自身の周囲に、しかも三重に連れて歩く。結界に触れた者は動力が止まったように停止する。
人工的に己の心象風景を模した空間を作成し、その中でなら空間転移・空間圧縮の高度な魔術も使用できる。
人形作りにも長じており、これまで幾度も肉体の複製に意識を移している。
自己の強さは心身共に並外れ、銃弾を見てからでもよける運動能力を持ち、左手には仏舎利を仕込んでいる。

【人物背景】
かつては台密の僧であった男。人を救おうと全国を行脚してきたが、その度に人間の醜さと愚かさ目の当たりにする。
人間には、誰も救えない。命の意味はいかに苦しんできたかでしかない。
人の死を蒐集し、結論として人の意味を求めて根源の渦への到達を目指している。
起源『静止』に覚醒し200年の時を生き、既にその意志は人間を外れ、ただ根源を目指すという概念にも近しい。


465 : 荒耶宗蓮&ランサー ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/04(火) 22:33:37 ksssW5Ps0
以上、投下終了です


466 : ◆z1xMaBakRA :2017/07/05(水) 01:07:30 2aZSmhKU0
投下します


467 : 屑星の歌 ◆z1xMaBakRA :2017/07/05(水) 01:07:55 2aZSmhKU0
 剃髪、と言う習慣がある。長い歴史のある行為だ。
この頭髪を全て剃ると言う行為に人は、贖罪や悔悛、服喪、そして宗教や神学の世界に足を踏み入れる為の儀礼としての意味を込めて来た。
髪を全て剃ったとは言え、髪とは剃っても伸びるもの。これを聖書者や僧は、人の裡から消し去れぬもの、消しても消しても現れるところの、『煩悩』と重ね合わせた。
髪とは、世俗への未練の象徴。そして、宗教神学の世界における、無精髭と同じ程に手入れをしていなければ見っともないもの。
そう考えた古の人間達は、定期的にこれを剃り、己の『まめ』さと、自分が属している世界にどれだけ真摯に打ち込んでいるかを対外的にアピールしていた。

 剃髪、俗的な言い方をすれば頭を丸めている人種は誰か、と言う事をこの国の一般の人間に聞いた場合、高い確率で坊主、つまり仏僧であると答えよう。
破戒僧と呼ばれる人種を除けば、彼らの大抵は髪を剃っている。それに日本で仏教と言えば寺であり、寺と言えば禅や密教等の宗派から連想される様な、
春夏秋冬寸暇を惜しみ、厳しい修行に明け暮れる人物達をイメージする傾向に強い。つまりは、ストイックだ。髪を伸ばすなど言語道断、と連想するに相違ない。

 ――とは言え、そう言ったイメージは、所属している寺によりけり、だ。
寺によっては住職が髪を平気で伸ばしているようなところだって、現代では珍しくない。
現に、此処冬木の街の誰もが名刹と認める柳洞寺の住職――代理だが――ですら、髪を伸ばしているだけでなく、禁酒の戒律すら破っている程だ。
結局の所、彼らが定期的に髪を剃ったり、臭いの強い大蒜や韮、葱等の禁葷食、食肉や飲酒等を控えたりするのは、
外部からの『僧とはこうあるべし』と言うイメージに縛られているから、と言う側面も大きいのかも知れない。
それを気にする人間と、気にはしないがよしとは思わないので戒律を守る人間、そして戒律を破る事とは知ってるし体裁も悪くなるが戒を破る人間。
これらに大別されるのだろう。肝心な事は、戒律を守ったり破ったりしたうえで、どのようにして世故や世界と折り合いをつけ、自分なりの答え――悟りを得る事、なのであろう。

「……平和な国よ」

 柳洞寺。
冬木市のほぼ真西に存在する山腹に建てられたその寺は、先述の通り名刹として知られている。
何処に出しても恥ずかしくない立派な寺もあるし、寺の外観が張子の虎にならないような、長い歴史もある。
往年の時に比べれば少ないが、今でも修行僧は大勢いるし、この寺で修行をしたいと申し出る若い僧が出る事も、珍しくない。

 男は、この寺の若い僧侶達からは爪弾きにされていた。
単純な話だ。髪を伸ばしていると言う事もそうだが、その髪の色が、見事なまでの金色であるからである。
染めている訳ではない、地毛なのであるが、そうだとしたら尚の事体裁を気にして剃った方が良いに決まっている。地毛が金髪のアジア人の存在など、誰が信じようか。
おまけに、我が強い。剃れと言われても、男は髪を剃らない上に、基本的に大上段からの物言いが目立つ為、実直に修行をしている柳洞寺の僧からは、
鼻持ちのならない奴、と大層嫌われていた。通常この時点で破門か下山の命令が下されようが、その我の強さが今の住職に何故か気に入られ、
お情けで籍を残されているのだ。「何も悪い事をしていないのだから、良いじゃないか」と、空闊とした心で、住職代理の柳洞零観は、彼の存在を許していた。
髪の色が金で、少しわがままなだけで、男――この寺においてカイの名で通っているこの大男は、真面目に修行自体はこなしているのである。


468 : 屑星の歌 ◆z1xMaBakRA :2017/07/05(水) 01:08:09 2aZSmhKU0
 厚手の袈裟の上からでも解る、屈強かつ練磨された、銅像の如くに引き締まった高密度の筋肉を搭載した大剽悍だった。
僧など目指さなくとも、この恵まれた身体つきである。警察、自衛隊、プロレスラー……。凡そ肉体を資本とするあらゆる職業で、男はその天稟を発揮していただろう。
その顔つきは、彫が深く濃い顔立ちながらも、激しい意思と言うものを水で溶かして刷毛で塗りたくったような、男前のそれ。
加えて、顔に刻まれたバツ印状の古傷はどうだ。常ならば見苦しさすら感じいるだろうその傷が、男の顔つきであると、一種の勲章のようにすら受け取られる。
僧である、と言う事実自体が信じられない程、凄まじい存在感と個性を醸し出す男。世が世なら、武力に任せて国すら興せそうな程の説得力を、
彼は全身から発散させている。そんな男が、修行僧の誰もが眠りに落ちている時間に、一人で起き、此処柳洞寺に続く長い石段の一番上から、遥か彼方の冬木の新都を腕を組んで眺めていた。

 時刻は夜の十二時。起床の時刻が午前の『三時』の寺すらある程の、典型的な早寝早起きを旨とする僧堂。勿論、今の時間全ての僧は寝入っている。
そんな時間を、男は見計らって起きていた。一人でゆっくり、この冬木の街を観察する時間が、欲しかったからである。

 音もなく、草鞋を穿いた状態で、柳洞寺へと続く長い長い石段を下って行く。
誰も、彼が此処を去り散歩に出かけた事に気付いていない。夜だから、ではない。
恐らく真昼の明るい時間ですら、男がその気になれば修行の為の禅室から、誰に気付かれる事もなく抜け出せる事であろう。
その程度の業、造作もない。何せ男がこの冬木にやって来る前に学んでいたものとは、『暗殺拳』。
気配の遮断など基本中の基本であり、ぬるま湯につかり切った俗世の人間に気付かれないよう行動するなど、男にとっては赤子の手を捻るような物であった。

 ――『カイオウ』。
それが、男の名前であった。地球規模の核戦争によって世界中のあらゆる国家体制、秩序と呼ばれる全てのものが焼き尽くされた、
世紀末世界に生きる魔拳の雄。そんな世界で覇権を勝ち取り、悪の魔王として君臨しようとしていた男にとって、今の世界。
もっと言えば、核戦争前の世界はどう映るのか。毒にも薬にもならない、退屈な世界としか見えていなかった。
明日、水も飲めず、食べる物もなく、ある日突然餓死する世界。それどころか、今日この瞬間にでも、荒野を闊歩する荒くれ者共に殺されかねない世界。
それこそが、カイオウの生きていた世界であり、時代であった。誰もが、こんな時代が終わり、元の世界に戻る事を期待していた。成程、その心境は解らないではない。
だが、彼の様な余りにも激しい性情を抱いている人物にとっては、あの世界こそが天上楽土だった。
暴力で、全てが支配出来る。力こそが、世界を統べるに最も相応しい、シンプルかつ説得力のある理であった。己の力次第で、国をも興せる。
己の力と組織力次第では、人を殺す事も、女を犯す事も、限りある財産を略奪する事も許される。平和を希う民がいる一方で、今の世界が続いた方が良かった。
そんな者達がいた事もまた、事実なのである。勿論、カイオウはその側に属する人間である。
この世界で、力が全て、我こそ魔王と口にした所で、狂人の烙印が押されるだけである。要するに、説得力の欠片もないのだ。これでは、毒気を抜かれるのも当然の事だった。

 ……尤も、仮にこの世界が、嘗てカイオウの生きた世紀末だったとして、果たして彼が魔王として君臨しようとしていただろうか。
それは、否だった。何故ならば、カイオウを縛る魔王の影、カイオウの心に翳を落していた悪の光は、既に北斗の星を背負う救世主によって、祓われていたからだ。
男の憑き物は既に落ち、悪の覇王として君臨せんとしていた男の姿は既になく。嘗て魔界を知っていた拳法家・カイオウとしての姿が、其処に在るだけだった。

「天も、味な地獄を用意する」

 カイオウは、自分が天に還る事が出来ようとは微塵も思っていなかった。
自分は昇天するのではない。堕ちるのだ。八大地獄の最下層、無間地獄の深みにて、永劫の罰を受け続ける。それが、自身の宿命だとすら思っていた。
それで、良いとすら思っていたのに。現実は、冬木の街で燻り続けると言う、ある意味痛みによる責苦よりもカイオウにとっては堪える現状。
あの時、抱いていたヒョウ諸共自身を呑み込んだ、高熱の溶岩。其処に混じっていた星座のカードとやらに触れていなければ、今頃カイオウは、地獄にいた筈なのだ。
彼は、今のこの身を、幸運であるが故に救われたとは思っていない。自分が大罪人であるからこそ、自分は、聖杯戦争。
自身の産まれた時代よりも過去の英霊を使役して勝ち残る、と言う修羅道もかくやと言う戦いに巻き込まれているのだと、認識していたのだった。


469 : 屑星の歌 ◆z1xMaBakRA :2017/07/05(水) 01:08:34 2aZSmhKU0
「――何故だ」

 その声に、カイオウが立ち止まる。背後から、聞こえて来た声。
この世に、カイオウ程の男の後ろを取れる人物など、片手の指で数える程しか存在しない。
斯様な男の背後に回れる等、尋常の手練ではない。低く、威圧的なその声音。この声の主をカイオウは知っている。
その声の主こそが、彼の呼び出したアヴェンジャーのサーヴァントであるからだ。

 カイオウが、背後を振り返る。
欠けた月を背負うように、アヴェンジャーは立っていた。筋骨隆々、と言う言葉では尚足りぬ、完全完璧な身体の持ち主である。
浅黒い肌に、贅肉など一かけらとして存在しない、全てが磨き上げられ、鍛え上げられた、銅像もかくやと言うべき肉体は、カイオウですらが唸る程だった。
一九〇cm程もある恵まれたその身体つきは、正に神より与えられた天性の肉体と言う他はなく。 青色のマントと、ブーメランパンツ一枚のその恰好が、神聖で、また、
見る者に不快感を与えず、寧ろ拝跪すらせねばならぬと思い起こさせるのは、この男の身体から発散される、カリスマの故であった。

 そして何よりも――強い。
一目見ただけで、あのカイオウが、この男は強い、と素直に認める程の強敵。
断言出来る。もしも拳で互いを表現し合ったとして、軍配が上がるのは、間違いなく目の前のアヴェンジャーの方で。
地に膝を付き、血を吐き倒れているのはこの自分の方かも知れない、と言う自覚すら、カイオウにはあった。それ程までに、目の前の復讐者の実力は、次元が違うのである。

「何故貴様は、そこまで落ち着いていられる」

 で、あると言うのに。目の前の復讐者には、余裕がなかった。
マスター、即ちサーヴァントと一蓮托生、運命共同体の身分である。そんなカイオウを見るアヴェンジャーの目は、まるで敵対者を射抜く様な、鋭いそれ。
到底、己の主に向けてよい目線ではなかった。返答次第では、殺しに向かいかねない程の圧すら、このサーヴァントは放っていた。

「言っている事の意味が、よく解らぬが」

「貴様に召喚されたその時から思っていた。貴様は、俺に限りなく近しい存在だと」

 言ってアヴェンジャーが指をカイオウに突き指す。削った岩のように太くゴツゴツした指だった。
この指で秘孔を突けば、北斗神拳の伝承者に勝るとも劣らぬ効果を発揮させられるだろう、とカイオウはふと思った。

「一目見て解ったさ。貴様が己の国を手に入れられず、筆舌に尽くし難い敗北を喫し、切歯扼腕と言う言葉ですら足りぬ程の無念を抱いていた事をな。それなのに何故、貴様は聖杯に執着する素振りを見せぬ。何故貴様は、其処まで平然としていられるッ」

「……」

 男の詰問に対し、カイオウは、夜の星を見上げる為、天を仰ぎ見ると言う動作で返した。

「無為だと、思ったからだ」

「無為な物か。過去の負債も帳消しになる、喫した屈辱も雪ぎ落せる!! だのに、何故貴様は聖杯を求めない!!」

「……」

 星を見続けるカイオウ。

「アヴェンジャー。俺はな、嘗てはアレだったのだ」

 星を見上げながら呟いた、カイオウの言葉を受け、アヴェンジャーは彼の目線の先。
即ち、遥か彼方で瞬いている星々が鏤められた、夜空と言う紺碧色のビロードに、自分も目線を送った。

「星、か」

「アヴェンジャー。お前には今の夜空、何の星がよく目立つ」

「北斗七星(セプテントリオーネ)よ」

 アヴェンジャーは即答する。彼の言葉の通りであった。
今現在、二名が佇む石段から見える星の中にあって、最も輝き、最も目立つ星は、北斗七星。その形状から度々、杓や匙に例えられてきた星である。

「俺はな、子供の頃、北斗の星の回りでささやかに輝き、あの星の輝きを際立たせる屑星だと常に言い聞かされて育って来た」

 北斗の男の為に生き、北斗の男の為に尽くし、北斗の男の為に死ぬ。何故ならお前は、北斗の回りの屑星であるから。
それが、幼き頃より師父に相当する男から、折檻も交えてカイオウに言い聞かされて来た事であった。
誰しもが、それこそ、上の言葉を口にすると同時に想像を絶する体罰を交えてカイオウを叱り続けて来た師父でさえ、カイオウの拳才を認めざるを得なかった程に。
時代と、運命に恵まれていれば、間違いなく、カイオウと言う男は英雄になっていただろう。だが、現実は違った。この男は何処までも弱者であり、敗者なのだった。
何処までも上を目指そうとするその性格の故に、男は本来学んで然るべきだった北斗神拳への道を閉ざされた。
北斗の宗家の傍流の出であるが故に、常に宗家の顔を立て、常に宗家の影となるべく育てられ、その生来のプライドをズタズタにされた。
自分よりも遥かに弱く、そして気弱な性格であるくせ、宗家の出と言うだけで礼賛されて来た男との試合で、カイオウは、家族を人質に取られ、屈辱的な敗北を強いられた。


470 : 屑星の歌 ◆z1xMaBakRA :2017/07/05(水) 01:09:13 2aZSmhKU0
 勝った、と言う実感がカイオウには無かった。常に男は敗者であり、弱者としての道しか目の前には見えていなかった。
だからこそ、悪に救いを求めた。目の前のレールに希望を持てなかったカイオウが、唯一救いの光明を得た道。それこそが、脇道の悪だった。
悪としての道を選び、悪としての治世を成し、悪の帝王として君臨していた時期は、充実していた風にカイオウには思えた。
――だがそれは所詮、まやかしの充実であり、真に自分が目指していた物とは違っていた事を、彼は、よりにもよって宗家の者によって教えられてしまった。

 ケンシロウは、強かった。
宗家であるから、ではない。彼は、宗家の者であり、宗家であるが故に負わねばならぬ宿命を常に歩み続けていたが故に、強くなったのだ。
強者と戦い、人の哀しみに触れ、時に怒り、そして何よりも、哀しみと退廃が支配し人々を迷わせる世紀末に深く哀しみ、そんな世界に愛がある筈だと彷徨し。
負った業(カルマ)が、カイオウとは段違いであった。その業で、ケンシロウは拳を磨き続けていたのだ。
そして何よりも、北斗神拳の力の源とは、愛と、哀しみ。ケンシロウは、魔王であったカイオウの深い哀しみを理解し、彼をも愛そうとしたのだ。勝てる、筈がなかった。
修羅の国と言う地方でいつまでも燻り続け、悪の真似事を続けて来た男に、世紀末の救世主を倒せる筈がなかったのだ。師父・ジュウケイが嘗て言っていた、『屑星』と言う言の葉の呪い。自分はそうではないと思い続けて来た男は、自ら屑星になる道を選んでいたと言うのだ。これ以上の皮肉が、あるのだろうか。

「屑星……。貴様はそれ程の屈辱を受けて尚、聖杯を求めぬと言うのか」

「その通りだ」

「悔しく、ないのかッ!!」

「悔しかった」

 カイオウの言葉は、過去形だった。

「悔しかったからこそ俺は、あらゆる手段を尽くして、俺を屑星に甘んじさせた元凶を葬ろうとした。貴様にこんな事を言ってはいるが……今でも、腑に落ちないし、全てに納得しているわけではない」

「なら――」

「だが」

 カイオウが言葉を遮った。

「俺に、『英雄』として死ぬ事を、奴らは望んだのだ」

 憎き北斗の宗家であるケンシロウは言っていた。
カイオウの弟であるラオウは、誰よりもカイオウを尊敬し、その哀しみを胸を痛ませていた、憧れの存在だったと。
憧れが、悪の帝王の道を歩んだ事に対して、他の誰よりも、ラオウが、そして恐らくはトキも。思っていたのである。
悪の王として、希代の天才であるカイオウがその命を終える事を、北斗の宗家三人……そして、最愛の人間をカイオウ自らが殺し、
本来ならば彼の事を憎んでいて当たり前であった、ヒョウですら。カイオウが、英雄として死ぬ事を望んでいた。
そして、カイオウは英雄として滅びた。悪の帝王として死ぬ事はなく。魔界に君臨していた魔王としての名もなく。
一人の人間、天才拳士だった男、カイオウとして、彼は死ねたのである。それは、世紀末の覇者として君臨していたラオウの夢の一つが、叶った瞬間でもあるのだ。

「屑星であった事は、未だに認めん。だが……屑ではあった事は、事実だし、俺は未だに、自分が英雄であった事に疑問を抱いている」

 「ならばこそ、だ」

「俺は、俺に英雄として死ぬ事を望んだ男達の為に、此処で、英雄の真似事でもしようと思っている。それが、この地獄で俺がやらねばならぬ、贖罪なのだろう」

「下らん!! 貴様は、聖杯戦争でも解体しようと言うのか、ふざけるな!!」

 グワッ、と、アヴェンジャーの身体から放出される殺意が圧を増した。当てられるだけで、気の弱い者なら泡を吹いて卒倒するどころか、気死しかねない程の、圧倒的な強者の気風だった。

「荒々しい性情を秘めた戦士は、その性情のままに動かねばならぬ。今の貴様など、俺の目には老いて死を待つだけの枯れた男にしか見えぬわ!!」

 削った岩を連想させる裸腕を、天高く突き上げ、アヴェンジャーは言った。

「男(vir)として生まれたからには、男は、偉大なる事を成さねばならない。万軍を打ち倒す!! 竜を、虎を、素手で屠る!! そして――国を、興す!!」

 その姿勢のままカイオウを睨みつけ、更に続ける。

「俺は、俺の夢を――レモラを築かんが為、聖杯を得るぞ!! 父神マルスに、今度こそ俺の方が正しかったと――」

「その願いは、強がりだろう」

 カイオウの一言で、アヴェンジャーは言葉を紡ぐのを止めた。


471 : 屑星の歌 ◆z1xMaBakRA :2017/07/05(水) 01:10:34 2aZSmhKU0
「空虚な心を満たし、隠す為、虚勢を張っていた時間の方が長かったから、解る。復讐者を名乗るには、余りにも貴様の心には未練と悔悟が強すぎる。貴様の本当の願いとは――」

「それ以上言うのであれば――マスターであろうとも、『殺す』ぞ」 

 その言葉に、嘘はない。アヴェンジャーの声のトーンもそうである。
だがそれ以上に、その言葉を耳にし、認識した瞬間に身体に襲い掛かって来た、言葉の『圧』が違った。アヴェンジャーの言葉は、柔の要素の一切ない。鋼の如き『剛』であった。

「迷いある拳に、俺は断てぬ」

「試してみるかよ、人間」

「――面白い。西にあっては、軍神としての名を不動として来た男神の息子。その拳、存分に奮うが良い」

 カイオウの言葉を受けた瞬間、アヴェンジャーが跳躍した。
踏込の影響で、アヴェンジャーが先程まで佇んでいた地点を中心とした、上下それぞれ十段づつの石段に亀裂が入り、其処から砕け落ちてゆく。
弾丸の如き勢いで、カイオウ目掛けて飛び掛かったアヴェンジャーが、彼の法衣目掛けて、弩(バリスタ)ですらかわいく見える程の右拳を突き出す。
それに合わせて、カイオウも左拳を突き出した。ただの一振りで、百軍を粉々にするだけの力を秘めた、恐るべき剛腕。

 ――神の拳と、人の拳が衝突。
およそ、人体と人体がぶつかった時に生じるとは思えぬ程の轟音が鳴り響く。
互いの拳の衝突点を中心に、衝撃波が荒れ狂い、石段の両脇に生えている幾つもの樹木の枝葉が揺れる。
まるで、一陣の突風が山間を駆け抜けたかのようであった。突然の不意の衝撃に驚いたか。木々に止まって眠っていた幾つもの鳥が、夜の空に吸い込まれるように羽ばたいて消えて行く。

 腕に舞い込んだ痺れは、嘗てカイオウが経験すらした事がないそれだった。
ヒョウは勿論、ジュウケイ、ハン達と試合、ケンシロウと戦った時ですら、拳と拳がかち合って痺れなど感じた事はないと言うのに。
全力で、カイオウは殴った。それなのに、腕に痺れが残っている。生半な覚悟と力で殴っていれば、カイオウの腕の方が、圧し折れていただろう。

「……これが、マルスの子……ロムルスの弟『ロムス』の拳か……」

「奴は、兄ではない……敵だ。敵なのだ!!」

 ロムルス――その名を聞いた瞬間、アヴェンジャーのサーヴァント、ロムスは呪詛のように吐き捨てた。
嘗てつまらぬ諍いの結果、己を殺すに至った、同じ父神から生まれた、偉大なる国家ローマの建国者となった男は、ロムスにとって不倶戴天の敵なのである。

「その拳、新たな国ではなく、英雄として振う方が余程らしいだろう。お前は――復讐者を名乗るには、余りにも中途半端過ぎる」

 その言葉に、ロムスは沈黙で返してしまった。その言葉が、図星であるかのように。
聖杯戦争が始まる幾日か前。北斗の屑星であった男と、ローマの建国を彩る屑星としての役割すら果たせるか如何か疑問であったアヴェンジャーのやり取りの顛末が、これであった。




【クラス】アヴェンジャー
【真名】ロムス
【出典】史実?(BC771〜BC753)、ローマ建国史
【性別】男性
【身長・体重】188cm、138kg
【属性】秩序・悪
【ステータス】筋力:B 耐久:A 敏捷:A 魔力:C 幸運:C 宝具:A++

【クラス別スキル】

復讐者:C
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの活動魔力へと変換される。

忘却補正:C
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。

自己回復(魔力):B
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。毎ターン微量ながら魔力を回復し続ける。


472 : 屑星の歌 ◆z1xMaBakRA :2017/07/05(水) 01:11:19 2aZSmhKU0
【固有スキル】

神性:A
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
オリンポス十二神の一柱であるアレスの側面である軍神・マルスの息子であるアヴェンジャーの神霊適性は最高クラス。

対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

天性の肉体:C
生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。
このスキルの所有者は、常に筋力がランクアップしているものとして扱われる。さらに、鍛えなくても筋肉ムキムキな上、どれだけカロリーを摂取しても体型が変わらない。

【宝具】

『すべては我が赫怒に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)』
ランク:A++ 種別:固有結界 レンジ:- 最大補足:-
アヴェンジャーが生前打ち立てようと夢見、遂に建国の叶わなかった幻の帝国・レモラ、その心象風景を展開させる宝具。
最大の特徴の一つは、固有結界の宝具とは思えない程の持続時間の長さ。これはローマの影響を受けた国家でこの宝具を発動した場合、
アヴェンジャーが抱くローマへの怒りの影響から、土地(ローマ)の魔力及び空間に満ちるマナやオドを強制的に吸い上げ、固有結界維持のリソースに当てるからである。
ローマの影響が全くない国家でこの宝具を発動した場合は、並の固有結界と同じ魔力消費になるが、今日ではローマの影響を受けていない国家の方が珍しく、
この日本においてもそれは同じ。西欧でこの宝具と発動させた時の魔力消費程、発動と維持コストは安くないが、それでも、固有結界にしては破格の魔力消費の少なさを誇る。

この固有結界を発現させている間は、アヴェンジャーはEXランク相当の皇帝特権を習得するだけでなく、ローマを起源にする英霊及び、
ローマの影響を極めて色濃く受けたサーヴァントのステータスをワンランクダウンさせ、更にあらゆる行動の判定に強いファンブルを掛ける事が可能。
この宝具の真なる効果は、『対固有結界』とも言うべきものであり、この宝具発動前に展開されていた固有結界の中で、この宝具を発動すると、
アヴェンジャー固有結界が先に放たれたそれを侵食、粉砕。アヴェンジャーの持つこの宝具(固有結界)で塗りつぶしてしまうのである。
これは、当宝具が生前狂おしい程にレモラを打ち立てたかったアヴェンジャーの強い狂信によって成り立つ宝具だからであり、その狂信で強く補強された心象風景であるこの固有結界は、生半な心象風景を一方的に粉砕する程の浸食力をもっているからに他ならない。

【weapon】

拳足:
ローマと言う国家の建国王であるロムルスの保有する、王権の象徴である槍を持たぬアヴェンジャーは、拳と足を用いた格闘戦を行う。
言ってしまえばFGOにおけるカリギュラと同じ戦い方をするが、流石にトップサーヴァントの一人であるロムルスの弟である。
その格闘の練度は、カリギュラの遥か上を行く程の強さを誇る。

【解説】

ロムスとは、ローマの建国神話に登場する、建国者ロムルスの双子の弟である。
アルバ・ロンガの王プロカは長男ヌミトルに王位を譲って死んだが、ヌミトルの弟アムリウスは兄の王位を簒奪した。
ヌミトルの息子は殺され、娘レア・シルウィアは処女を義務付けられたウェスタの巫女とさせられた。
だがある時シルウィアは掟を破って軍神であるマルスと交わり懐妊、シルウィアには監視がつけられたが10か月後双子を出産。
双子はアムリウスの命でティベリス川に流され、シルウィアは監禁された。この双子こそが、ロムルスとロムスだった。
狼に育てられ、狼の乳を吸って育った双子はやがてアムリウスの牧夫であるファウストゥルスに拾われ、牧夫として成長、
様々な数奇な運命を経て、嘗て自分達を捨てた憎き叔父であるアムリウスを抹殺、母シルウィアを救出する。
だがある時、二人は国家を建国しようと画策するも、其処で二人は首都の位置について諍いが起こり、これが元となり殺し合いが勃発。
戦いは見事ロムルスが勝利し、世界史史上まれにみる程の大国、ローマを建国するのであった。


473 : 屑星の歌 ◆z1xMaBakRA :2017/07/05(水) 01:12:21 2aZSmhKU0
ロムルスは今でもロムスの事について並々ならぬ後悔を抱いているが、実を言うとロムスについても同じ事だった。
共に狼の乳で育ち、共に牧夫としての生活を楽しみ、共に苦楽を分かち合い、共に復讐を果たし終えた喜びを共有した兄・ロムルスと、
余りにもつまらないいざこざで決闘してしまった、と言う事実を心の底ではロムスは深く悔やんでいる。
だが、兄ロムルスの築き上げたローマが余りにも偉大で、如何して自分は同じ国を築けず、如何して自分は歴史の影に追いやられたのか、
と言う怒りも強く、それがロムルス、そして、彼の築いたローマ帝国及びその代々の皇帝、そしてローマの影響を受けた数多の国家への復讐心に繋がっている。
だが、その怒りや復讐も、本当は正当な物ではないと頭では理解しており、それが、アヴェンジャーのクラススキルである復讐者が半端な点にも繋がっている。
兄ロムルスは言葉では敵だ何だと言っているが、本心では強く尊敬しており、実を言うと己が建国する筈だったレモラを馬鹿にされるよりも、
兄であるロムルスを小馬鹿にされる方が、この男にとっての逆鱗。自分が兄を貶すのは良いが、他人は許さないと言うスタンス。ツンデレ。
聖杯に掛ける願いは、今度こそレモラを築き上げる事。或いは――『双子の建国王』として、ロムルスと共に国家を築き上げる事。但し、復讐者の身の上となった今では、それが叶わぬ願いかと、諦めもしている。

【特徴】

FGOにおけるロムルスと瓜二つ。双子であるからこれは当然。
但し違いは、レムスの方は青色のマントと、ブーメランパンツ一枚と言う事と、何よりも兜を纏っていない点。
黒いベリーショートの髪型をしており、瞳の方もまた、ロムルス同様黒い強膜に赤い瞳になっている。

【聖杯にかける願い】

レモラの建国。――或いは、ロムルスと共に今度こそ、新しい国家を築き上げる事。





【マスター】

カイオウ@北斗の拳

【マスターとしての願い】

特にはない。ただ、英雄として振る舞いたい

【weapon】


474 : 屑星の歌 ◆z1xMaBakRA :2017/07/05(水) 01:12:31 2aZSmhKU0

【能力・技能】

北斗琉拳:
1800年前に、北斗宗家の者達が、北斗神拳の創始とほぼ同時期に創始したとされる暗殺拳。開祖はリュウオウとされる向きが強い。
北斗神拳では人体の気孔を秘孔と呼ぶのに対し、北斗琉拳は破孔と呼び、その秘孔と破孔の数が違うと言った細やかな差異はあれど、概ねの箇所は似通っている。
北斗神拳と戦い方は似通っているが、戦いに対するスタンスが違い、北斗琉拳の優れた使い手及び伝承者は、身体から放出される圧倒的な闘気を用いて空間を歪め、
相手との距離感や、空間の把握能力を狂わせ、其処を突く事を旨とする。
そして北斗神拳との最大の相違点は、北斗琉拳には所謂、『魔界』と呼ばれる技術の領域が存在し、これは、
拳の使い手が大きな怒りや憎悪を抱いた時に踏み入れる事が出来る境地とされ、北斗琉拳の究極の頂とされる。
魔界に足を踏み入れた者は元の人相の原型がない程邪悪なそれに代わり、その影は幻魔影霊と呼ばれる魔人の姿を地面に映す。
更に扱う闘気が『魔闘気』と呼ばれるそれに変貌。これを戦闘に利用すると、空間の把握能力が狂うのではなく、相手は一時的な無重力状態に陥ったような錯覚を覚え、
まともに立っている事すら叶わなくなる。非常に強力な拳の境地である事は確かだが、この状態に入った者は正気を失い、いたずらに殺戮を繰り広げる状態となる。
この『魔界』の存在のせいで、一時北斗琉拳は魔道の拳であり北斗神拳に及ばぬ屑星の拳とされた、と言う事実がある。
但し本来的には北斗の名を冠する通り非常に拳格の高い流派で、そもそも北斗琉拳の創始者が北斗神拳の創始者と兄弟だったと言う事実から、
古の昔より交流が深く、『北斗神拳に伝承者なき場合はこれを北斗琉拳より出す』という掟が存在するなど、非常に密接な関係にある。

カイオウはこの北斗琉拳の最強の使い手であり、魔界をも知り尽くしているが、今回の企画ではそれを意図的に奮う事は、ほぼないであろう。

【人物背景】
 
北斗琉拳伝承者にして、修羅の国の王。ラオウ、トキの兄である。
幼少期、母を失った哀しみから逃れるため、情愛を抹殺する悪に生きることを決意。またその母が北斗宗家を守って死んだ事、
宗家のために八百長で負けを強要された事などにより、北斗宗家への恨みを募らせた。その後、激しき性情故に北斗神拳伝承者候補には選ばれなかったが、
ジュウケイより北斗琉拳を学び体得。その際、いずれ己の敵となるであろう北斗宗家の秘拳を永久に封じるため、密かにケンシロウの兄であるヒョウの記憶を封じた。
核戦争後、拳で国を制圧。男達を戦わせ、強き者だけが修羅として生きることを許されるという修羅の国を建国。だがそのやり方に異を唱えるラオウと対面し、
いずれ拳を交える事を約束。その後自らの手でラオウ伝説を広め、ラオウへの情愛に決別した。
数年後、ケンシロウとリンが海を渡ってきた事を知り、リンを拉致。天帝の血をもって呪われた北斗琉拳の血を清める為、そして北斗宗家を抹殺する為、
ケンシロウと戦い、一度は完勝するも、仲間の善戦の甲斐もあって、ケンシロウに逃げられてしまう。
その後、ヒョウとケンシロウを相打たせ、北斗宗家の血を一掃しようと画策するも、これに失敗。
そしてケンシロウとの最後の戦いに臨むも、嘗て圧勝した相手は自分よりも互角以上の強さになっており、最終的に敗北。最期は己の過ちを悔いながら、訪れたヒョウと共に溶岩を被り、己の決めた死に様で旅立った。

【方針】

ロムスと共に戦う。今は、ロムスの心を落ち着かせる事が大事か。


475 : 屑星の歌 ◆z1xMaBakRA :2017/07/05(水) 01:12:43 2aZSmhKU0
投下を終了します


476 : ◆nY83NDm51E :2017/07/08(土) 00:26:14 hOYiwsho0
投下します。


477 : Cross Road Blues ◆nY83NDm51E :2017/07/08(土) 00:28:23 hOYiwsho0

週末の午後。冬木市新都にある外人墓地の一角。目の前には石畳と、立ち並ぶ墓石。天気は曇りで、人けは少ない。
なぜここへ来たのだったか、もう覚えていない。そも、この町に住んでいたという記憶はないのだ。
旅行だか、撮影だか――――いや、墓地で撮影をするような仕事は、確か予定にはなかったはず……。ホテルの場所は……。

その少女はベンチに座り、ただただ唖然呆然としていた。何が何だかわからない。完全に自分の理解の範疇を超えている。

『ユーア・ソーベリベリ・アルティミット・ラッキーガール! オレを引き当てちゃうなんて、世界一、いや、全並行世界で一番運がいい!』

「そ、そぉ? こんな戦いに呼ばれちゃった時点で、あんまり……」

ギターケースを傍らに置き、ヘッドホンを首にかけたボーイッシュな少女と、痩せてアフロヘアーでグラサンのハイテンションな髭面黒人。
後者は半透明で空中に浮かび、その声は少女にしか聞こえない。肩に担いだラジカセからは、なんか単調なフルートや小太鼓の音が流れている。
カジュアルルックなおもしろ黒人の幽霊は、意味不明なマシンガントークを切らさない。

『このオレが呼ばれて飛び出て来たからにゃ、聖杯なんて手に入れたも同然! てゆうかオレが聖杯(ガンダム)だ!
 さア、何になりたい? 銀河系一のスーパーアイドル? 富や名声、不老不死だって思いのままさ! なれると思えば円環の理にだってなれる!』

「は、はは……一応目標は『ロックなアイドル』だけど……さしあたり、ギターがうまくなりたいかなーって……」

『ワオ!そいつはステキなお願いだ、ノーロック・ノーライフ! 地球(スズホ)に跨り、世界(ヘレン)をモノにしちまおうぜ!』

まことにノンキな二人だが、ここは殺し合いの場。聖杯戦争の舞台、冬木市だ。
たった今記憶を取り戻し、サーヴァントとしてこの変な奴を呼んだ、というか割り当てられた彼女は、大変困惑していた。

少女はため息をつき、しゃべくり続けながらくねくね動きまくる幽霊―――自分のサーヴァントに問いかける。

「で、その、クラスと真名を教えてくれると嬉しいんだけど……、あっ、こっちから名乗らなくちゃ。
 私は『多田李衣菜(ただ・りいな)』。リーナって呼んでほしいな」


478 : Cross Road Blues ◆nY83NDm51E :2017/07/08(土) 00:30:19 hOYiwsho0

サーヴァントは、ニッと口角を吊り上げ、右掌をシュタッと顔の横に上げる。

『オケェイ、リーナ。今後とも死苦夜露! んーオレのクラスはねー、何にしよっかなァ……?
 アレだとアレだし、あっちもアレか……七枠もう埋まってるよねェ……』
「え、自己申告で決まるモンなの?」

いつの間にか彼の手の中に、ラジカセではなくタブレット端末が出現し、何かを確認している。

『おし決めた、エクストラ・クラス!「ウォッチャー」ってのにしよう!オレにピッタリ!「ゲートキーパー」でも可!』
「『ってのにしよう』!?そんなんでいいの!?」
『いーのいーの、細かいことは気にすんなよリーナ。んでなんだっけ、真名?これもなー、いっぱいあってなーオレ。どうしよ』

わけがわからないが、随分イレギュラーな存在であるようだ。ただでさえ異常事態なのに、思わずツッコミ過ぎて頭痛がしてきた。

「何者なんだろ……まあ普段は『ウォッチャー』って呼べばいいんだよ、ね?」
『ん。ルーラーになんか言われたらキャスターでもいいぜ。オレ的にはセイヴァーとか……えーと待って真名決めるから、サイコロで』
「サイコロ!?」

李衣菜のツッコミを流し、ウォッチャーは地面にしゃがみ込んで茶碗を置くと、3つのサイコロを投げ入れた。

『いっせのせ、コロコロコロっと……8・9・3、うん、決まった』
「8と9!? 6面ダイスじゃないの!? てかヤクザ!?」
『10面ダイスだよ、知らねえ? えーオホン、そんじゃオレの真名は、今から「フランソワ・デュヴァリエ」だ!』

両手を広げて宣言するウォッチャー。李衣菜の眼が点になる。

「……誰!?フランス人なの!?てか可愛いな名前!?」
『ナニ、知らねえのこの名前。あとフランスじゃなくてハイチな、ハイチ。あーたぶんキミが生まれるずっと前に死んでるわ、この名前のオレ』
「死んでるの!? いや死んでるから英霊なんだろうけど、私全然知らないよ!?ハイチってどこ!?」

あー、と声を漏らし、ウォッチャーはタブレット端末を操作して地図を見せようとする。が、面倒くさくなったか途中でやめた。

『カリブ海。アメリカの南、メキシコやキューバやジャマイカの東……。まあいいや、知らなくってもノープロちゃん。
 知ってたら失禁して失神しちまうぜ、有り体に言ってヤバイ奴さ。今で言えば刈り上げデブぐらい?もうちょいマシかな?』


479 : Cross Road Blues ◆nY83NDm51E :2017/07/08(土) 00:32:31 hOYiwsho0

ニタニタ嗤いながら、ウォッチャーは地面に……石畳の道が交わる、十字路の真ん中に降り立つ。タブレット端末は懐にしまった。

『そんじゃあ、真名にふさわしい姿に変わらなきゃあね。んマジカァル*ヴードゥーパゥワー・メーイクアッー!ブ!!』

突如、奇声をあげ閃光と屁を放ちながらキリモミ回転するウォッチャー。虚空からシルクハットが現れ、アフロヘアーにポンと乗っかった。
同時に顔には白い髑髏めいたペイントが施され、体を黒い燕尾服が包み、手には手袋とステッキが出現する。紳士然としたスタイル。
問題があるとすれば、ズボンを穿いていないことだけだ。ご安心下さい、靴下は穿いてますよ。あくまで紳士ですから。
ステキなステッキの先端にもモザイクがかかっているのでご安心下さい。海苔の方がいいかい?

「変態だーーーー!!!!」

李衣菜は涙と脂汗を浮かべ、口を◇にして絶叫した。完全にヤバイのを引き当ててしまったらしい。


†◇†


……数分後。やや落ち着いた李衣菜は、ウォッチャーから目を逸らしながら、方針を話し合う。

「えと、さ。この聖杯戦争って、その、殺し合いなんだよね?」
『イエス、オフコース。他に何だと思ってた? MMORPG?ソシャゲー?転生ハーレム?クロスオーバーSS?エピロワ?AV企画?薄い本?』
「……私、死にたくもないけど、殺し合いなんかしたくないよ。ウォッチャーがどれだけ強くても、相手を殺すのは止めたい」

生まれてこの方、世の中の善良で明るい部分ばかりを見てきたと言って良い彼女にとって、殺し合いなど遠い世界の話だ。
ましてや魔術だ英霊だ聖杯だと言われても、蘭子や小梅ならともかくさっぱりだ。空の上に行く夢だって見たこと無いのに。
それでも、平凡普通な日本人として。否、ロックなアイドル、多田李衣菜として。この異常な現状に、なんとか立ち向かわねばならない。

『そう言うと思ってたよ、お優しいベイブ。オレが本気を出せば、こんなシケた町一瞬で地獄絵図だぜ?でも、それは見たくないと』
「うん。サーヴァントだけ倒して、マスターは殺さないって、約束して欲しい。命令じゃないから、令呪は使わないよ」
『オーケーオーケー、残念だけど、それぐらいの縛りプレイしなくちゃ面白くないもんね。イージーイージー!』

くるくる回りながらニタニタ嗤うウォッチャー。目を逸らしている李衣菜には見えないが、あんまり残念って感じではない愉しげな表情だ。

『で、聖杯にかけるキミの願いは? そう、「ギターがうまくなりたい」だっけ? そんなもんでいいのかい?』

下半身丸出しで空中に横臥し、ビッとステッキの先端で李衣菜を指すウォッチャー。李衣菜は顔を向けず、震え声で答える。

「……聖杯は、要らない。生きて還って、元通りの暮らしに戻りたい。自分の願いは、夢は、自分で叶えたい、よ」


480 : Cross Road Blues ◆nY83NDm51E :2017/07/08(土) 00:34:36 hOYiwsho0

ウォッチャーはうんざりした顔をし、大あくびをする。右の小指で耳をほじり、左の小指で鼻をほじる。
ああ、なんと月並みな、善良な、平和ボケした、テンプレ通りのお答えであろう。オレ様が世の中の不条理、理不尽を教えてくれようかしらん。
つっても、オレ自身のこの姿も、なんといつも通りの、変わり映えしない姿であろうか。もっとヒネれや。女体化やショタ化でもすべきだったか。
いやいや、そういう風潮に敢えて逆らうスタイルとしてね、こういう伝統的な……売れない芸人みてえな言い訳だな、チクショウ。

「それとさ、もし良ければだけど、」
『チッ、「他の参加者も助けて」っつーんだろ?ノンキなご主人様ァ。ハイハイ、まぁ適当になんとかしてやるよ、オレ別に聖杯とかいらねーし』

急に機嫌が悪くなったウォッチャーに、李衣菜はビクつく。だが、危険であっても強力無比なサーヴァントではあるらしい。
なんとか手綱を握り、その力を良い方へ振るうように仕向けねば。ことは自分だけの問題ではなく、大勢の人の、ひょっとしたら世界の運命を……。

『あ、ひとつ問題があってさ』
「え?」
『オレ、十字路でないと出現できねえんだ。あんまり強力過ぎるから、それぐらいの制限はいるだろ?』

出現できないというのはウソだが、味方を欺くにはマスターからだ。思わず振り向いた李衣菜は目を白黒させている。

「じゃ、じゃあ、それ以外の場所で私が襲撃されたら、ヤバイ?」

ニカッと爽やかに嗤うオレ様。やはり、他人がビビる顔を見るのはスカッと爽やかな気分になれる。特に無力な弱者と、驕り高ぶる強者の。

『ダイジョブダイジョブ、お嬢ちゃんが十字架とか卍とか*とか身につけてたらオッケーだから。ペンで書いても、家具を並べてもいーよ。
 でもガチでパワーを振るう時は、やっぱり道路が十字に交わってるとこがマイベストプレイス。そこんとこだけ気をつけてね!』

こっちはちょっとマジだ。十字のシンボルは別にキリスト教の専売特許ではなく、世界中の古代文明で愛されてきた。
道が交わり、人が交わり、四通八達し、交流し、ぶつかり合う。ヒト・モノ・情報の移動が、現代まで続く人間社会を作ったのだ。
大西洋を渡った奴らの、クロスオーバーで生まれたクロスオーバーの化身であるオレ様が、この舞台に呼ばれたってことは、そういうアレだ。
多少のスリルと不自由さを味わうために、自分に制限を設けたってよろしかろう。ほら、負けても負け惜しみの言い訳が立つしね。(フラグ)

――――ん?まだオレが誰かわからないって?またまたご冗談を、これだけ情報出てんだから分かるでしょ?キミの目の前に検索機もあるしさ。
しょうがないにゃあ、解説してやるよ。目ン玉かっぽじってケツの穴に突っ込みな!

ウォッチャーは、突如タブレット画面に上半身を突っ込んだ。

@@@@@@@@@@


481 : Cross Road Blues ◆nY83NDm51E :2017/07/08(土) 00:36:42 hOYiwsho0

【クラス・真名・波羅蜜多】じゃねえや、ちょい待て。

ハローワールド、ハローハロー? 聞こえるかい? シェマ・イスラエル!アッラーフ・アクバル!ナマステ・アーメン!ジャー・ラヴ!

ファックYO!オッスオラ『フランソワ・デュヴァリエ』!愛称はパパ・ドク!
1971年におっ死んだ、ハイチのイカレた独裁者!弱っちい近代鯖!よろしく!(アヘ顔ダブルファックオフサイン)

―――ってことになってるが、ホントの名前はバロン・サムディ(土曜日男爵)!
またの名はバロン・ラ・クロワ(十字架男爵)、バロン・シミテール(墓場男爵)!皆様御存知、死神ゲーデの王様だ!
あるいはレグバ、エレグア、エシュ、メートル・グランシマン(大道の主)、メートル・カルフール(交差点の主)、アティ・ボン(善なる木)、
アナンシ、サタン、メフィストフェレス、ヘルメス・トリスメギストス、聖ペトロ、大天使ミカエル、ジーザス・クライスト、ニャルラトホテプ!
ひょっとしたら地蔵菩薩でエンマ大王で、デッドプールかも知れねえ! 永遠の交差点でキミと握手! 問題児様が異世界から来やがりましたよ?

でさァ、聖杯つったらジーザスのアレだろ? つまりオレのものはオレのもの。
つってアレか、この聖杯はそっちじゃねえか。他の参加者全員ぶっ殺さねえと出てこねえ、シャイなあんちくしょうの方だよな。
オレにかかっちゃベイビーの手首を回転させるより楽勝でゲット出来ちまうが、それじゃつまんねぇよね。
マスターも可愛いお嬢ちゃんだし、正義の味方を気取ってもいいんじゃね? たァだし、オレは大ウソツキの天邪鬼なのをお忘れなく……ゲッゲッゲ!

@@@@@@@@@@


突然のウォッチャーの奇行に、突然の奇行ばかりだが、李衣菜はおそるおそるツッコむ。

「……ね、ねえ、ウォッチャー。何やってんの?」
『ちょっと第四の壁を越えて、独り言をぶちまけてるだけさ。お前さんには内緒の話!』

彼のむき出しの下半身、尻の穴から声がした。間もなくズボッとタブレット画面から上半身を引っこ抜き、ウォッチャーが戻ってきた。
いつの間にやら、その手にはラム酒の瓶と数本の葉巻が。どこからか調達してきた、彼の大好物だ。これさえあれば、彼は機嫌が良いのである。
葉巻に火をつけ、鼻の穴でふかしながら、ラム酒をラッパ飲み。よーしよし、ノッて来た。あとはハッパとかも欲しいな。

『ゲェップ! せっかくだ、聖杯をゲットしたら酒とションベンをなみなみ注いで、ぐいっと一杯やってやろぉか!ニャーーーッハッハッハァ!!!
 ……じゃ次のコーナーはお待ちかね、鯖と鱒の解説いってみよー!』(ジングル音)


482 : Cross Road Blues ◆nY83NDm51E :2017/07/08(土) 00:38:48 hOYiwsho0

【クラス】
ウォッチャー

【真名】
フランソワ・デュヴァリエ/バロン・サムディ@史実(20世紀ハイチ)/ヴードゥー教

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷A++ 魔力EX 幸運EX 宝具EX

【属性】
混沌・中庸

【クラス別スキル】
観測眼:EX
万物を見通す視線。心眼、千里眼、戦術眼、魔眼、真名看破、人間観察など「観測」と「眼」に通じるスキルを遍く内包する。
あらゆる死者の人生を知っており、過去視はおろか未来視、メタ視も可能であるが、それを告げたり役立てたりするかはご機嫌次第。

陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。“工房”を上回る“神殿”に相当する“墓場”を形成することが可能。

道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成できる。特に呪術で用いられる道具の作成に秀でる。材料は主に“墓場”で調達可能。

【保有スキル】
ロア:A
ヴードゥー教で崇拝される神ないし精霊であることを示す。神霊のようで神霊でないと言い張り、対神性スキルを無効化できる。
表向きはカトリックの聖人崇敬と習合しているが、聖人スキルは持たない。おおむね全知だが全能ではない。

呪術:A+
ヴードゥー教やサンテリアなどアフリカ系の魔術体系全般を使用可能。特に生(性)や死と直結するものに関わりが深い。
病気や負傷の治療、ゾンビを作ることも鼻をほじりながら可能。幻術、煽動、高速神言、対魔力などを包含する。

反骨の相:EX
生粋のトリックスター。あらゆる権威を否定し嘲笑う無法者。何者にも従わず、己の欲することを行う漂泊の道化。
カリスマや皇帝特権等、権力関係のスキルを無効化し、逆に弾き返す。令呪についても具体的な命令であれ決定的な強制力になりえない。

精神異常:A
虚言癖。あるいは典型的なサイコパス。契約と禁忌に理解を示さず、平然と誓いを踏み躙ることができる精神性を持つ。
他人の痛みを感じず、周囲の空気を読んだ上であえて読まない。精神的なスーパーアーマー能力。


483 : Cross Road Blues ◆nY83NDm51E :2017/07/08(土) 00:40:51 hOYiwsho0

【宝具】
『色彩豊かな既知外帽子(シャッポ・コロール)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:40

神々の使者にして混ぜっ返し屋「エシュ」の相が被る帽子。四面が緑・黒・赤・白の異なる色の布で出来ており、四方世界の中心に立つことを象徴する。
彼がこれを被って道を歩き、両脇の畑で働く仲の良い二人に帽子の一側面を見せつけたところ、二人は帽子の色のことで仲違いし、殴り合いの喧嘩になったという。
この宝具の側面を見た者は、物事に多様な側面があることを忘れ、一面的な物の見方をして対人関係のトラブルを引き起こす。上面を向けて回せば催眠術がかかる。

『クッソ汚い麻袋おじさん(トントン・マクート)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:?

デュヴァリエが組織した黒人秘密警察「国家治安義勇隊 (MVSN) 」の隊員を、グラサン黒人ゾンビとしてレンジ内に大量召喚する。
ゾンビは適当な低級霊に操られて動き、敵対者を襲撃し、麻袋に詰めて拉致して暴行・拷問を加え、銃火器やマチェーテ等で惨殺する。
ゾンビに殺害された者もまたゾンビと化し、無尽蔵に増殖を続けていく。ゾンビ群の維持にはさほど魔力を必要とせず、墓場で呼べば効率が良い。
麻袋の中には『ゾンビ・パウダー』が詰まっており、ばらまけば吸い込んだ者を麻痺・昏倒させる。レシピはテトロドトキシンとかその辺。
発動と同時にレンジ内が地獄絵図と化すが、ゾンビ自体はさして強くない。『ゾンビ・パウダー』はサーヴァントにも効く。

『ようこそクロスロードへ(カルフール・イターナル)』
ランク:EX 種別:対界/結界宝具 レンジ:? 最大捕捉:?

永遠の交差点。ウォッチャーがいつも立っている、現世と来世、全ての場所と並行世界に通じる十字路。全ての魂が通過する場所。根源ではない。
一種の異世界で、宝具と言っていいのかも不明。接続すればスキル「単独顕現」「仕切り直し」「蔵知の司書」「専科百般」等等を各々Aランクで持つも同然。
ただし接続には何かが「交わっている」地点を介する必要があり、特に道が交わって十字路になっている場所では十全な能力を発揮する。墓場でもOK。
また「全ての閉ざされたものを開き、開かれたものを閉ざす」ことも可能。具体的には第四の壁を乗り越え、展開された固有結界を無効化できたりする。
固有結界として展開した場合、無限に続く道が交わる十字路に相手をご招待し、様々な場所へランダムで転送する。運が良ければ元の世界へ帰れるか・も。

【Weapon】
ステッキとピストル。ステッキの先端には男性のナニが刻まれているが、モザイクで隠されているから完全に大丈夫。
ピストルは滅多に使わないが、肛門めがけて発射されることもあるから気をつけてね*


484 : Cross Road Blues ◆nY83NDm51E :2017/07/08(土) 00:42:31 hOYiwsho0

【人物背景】
フランソワ・デュヴァリエ(1907-1971)は、1957年から14年余りハイチの大統領であった人物。
黒人多数派を代表するポピュリスト政治家で、農村福祉に長年携わった医師でもあり、「パパ・ドク(医父)」として親しまれた。
だが大統領当選後は豹変して恐怖政治を敷き、エリート層であったムラート(白人との混血)や外国人聖職者を追放。
トントン・マクート(麻袋おじさん)と呼ばれる秘密警察組織「国家治安義勇隊」を結成して反体制派を粛清した。
またヴードゥー教の司祭(ウーンガン)を名乗ったばかりか、自らをロア(精霊)であるバロン・サムディと同一視させ、個人崇拝を強める。
憲法停止、終身大統領への就任、血縁政治、世襲、汚職と収賄という絵に描いたような暗黒独裁国家が現出し、デュヴァリエ一族と部下を除く民衆は貧困に苦しんだ。
しかし国民の大多数を占める黒人たちは熱狂的にパパ・ドクを支持し続け、その子べべ・ドク(1951-2014)も15年間独裁政治を敷き続けたという。

これはもちろん、彼がマジでバロン・サムディの化身であったためである。糖尿病による心臓発作を起こし、あの世でバロン・サムディと入れ替わってしまったのだ。
燕尾服に山高帽、骸骨のような顔をしたこのロアは、ヨルバ族におけるエシュ、フォン族におけるレグバに相当し、陽気で猥雑で下品なトリックスターとして知られる。
彼は運命と生(性)死を司る存在で、死者の魂が必ず通る十字路「永遠の交差点」に立っており、全ての死者の人生を知っているため最も賢明なロアである。
レグバやエシュとしては、西アフリカ南部の他、サンテリアやマクンバ、カンドンブレなど中南米のアフリカ系習合宗教で広く祀られ、大変人気がある。
なお伝説的なブルース歌手ロバート・ジョンソンは「十字路で悪魔に魂を売り、ギターテクを身につけた」との伝説があり、これがレグバであることは言うまでもない。
『Fate/strange Fake』におけるウォッチャーの真名『■■■・■■■■』とはつまり010101101010010キャスター、アサシン、ランサー(意味深)の適性もある。
ロアが憑依することを「馬に乗る」と言うので、ライダーの適性もあるかも知れない。

【サーヴァントとしての願い】
自力でだいたいなんとか出来るので要らない。でも獲得すれば他の参加者への嫌がらせにはなるので、まあゲットしてやってもいい。

【方針】
気の向くままにやりたい放題。生かさず殺さず、自分のマスターを含む参加者を適当におちょくって遊ぶ。マジメな奴や調子こいてる奴、権力者なんかが狙い目。
降り掛かる火の粉には7倍ぐらいにして返した上でNDK?と嘲ってやる。まあ、マスターの命だけは守ってやるよ(ドヤ顔)。
あまりにもチートな奴ばかりでめんどくさくなったら、第四の壁の彼方に逃げて野次りつつちょっかいをかける。戦いなんてよくないわ。

【カードの星座】
便座……いや、双子座にしとこう。


485 : Cross Road Blues ◆nY83NDm51E :2017/07/08(土) 00:44:40 hOYiwsho0

【マスター】
多田李衣菜@アイドルマスター シンデレラガールズ

【weapon】
ギター。ただし弾けないのでライブではエアギター。
結構なお金持ちのお嬢様らしく、SR[エイトビートロッカー]やアニメではストラトのCopper Burstカラーを持っている。

【能力・技能】
歌って踊れるアイドル。体力はそれなり。

【人物背景】
17歳の女子高校生アイドル。身長152cm、体重41kg。趣味は音楽鑑賞。CVは青木瑠璃子。愛称はリーナ、だりー、だりーな等。
明るくお調子者な妹系にわかロッカー。ロックミュージックを聴くのは好きだが、知識はあんまりなく、ギターも練習中。
育ちは良いらしく、魚の煮付けを作ったり出来るが、色々と世間知らずのお子様。高価なヘッドホン多数やギターを所有する。
ラノベ主人公めいた天然の女タラシの才能があるが、本人はノンケで無自覚。

【マスターとしての願い】
ロックなアイドルになるため、ギターがうまくなりたい。ただし聖杯に願うことはしない。

【方針】
生きて帰る。誰も殺さない。戦いはサーヴァントに任せる。とりあえず、宿泊しているホテルに戻る。



投下終了です。


486 : NEW GAME‼︎ ◆As6lpa2ikE :2017/07/08(土) 11:18:27 N47OYEtQ0
刻みます、投下を


487 : NEW GAME‼︎ ◆As6lpa2ikE :2017/07/08(土) 11:19:05 N47OYEtQ0
「うふ」

くらいくらい屋敷の一室。
牢獄のようにくらぁい部屋。
そこに、一人の女王様が居ました。
なぜその人が女王様だと分かるのかと言うと、彼女が着ている衣服があまりにも美しく、豪華で、きれいな、黒のドレスだからです。
おおきなおおきな鋏で星空を切り取り、針と糸で縫って作りあげたかのように美しい輝きを纏った、黒いドレス――そんな物を着ているのは、女王様くらいしかありえないでしょう。
しかしながら、そんな美しい衣装を見ても、誰もが彼女を女王様だと思えるかと言うと、そうではありません。
精々一割程度しか、そのような感想を抱かないでしょう。
何故なら、彼女の肩から上には、顔が無いのですから――まるで、ギロチンで断頭されたかのように。
彼女は女王様は女王様でも、首無し女王様なのです。
そんな彼女の姿を見ても、九割の人はこわくて恐ろしい、怪談に出てくるおばけの類だと思うでしょう。

「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

女王様は笑います。
今この状況がおかしくておかしくて仕方がないと言うように。
この世全てが愉快で愉快で素晴らしいとでも言いたげに。
自分の周囲で起きている事が、すてきなすてきな舞台劇であるかのように。
女王様は、笑います。
首無し女王様の周囲――彼女がいる屋敷の周辺にいる多くの人々は、数時間前から体の具合が悪くなり、今では決して少なくない人が昏倒し、病院へと運ばれていきました。
倒れた人たちの顔は皆まるで生気を吸われたかのように青白かったそうです。

「もっと、もっとよ。みんなの富を! 富(まりょく)を! 富(ちから)を! もっと頂戴! これだけじゃまだ足りないわ!」

深山町の一区画に住む人々から、現在進行形で魔力を吸収している女王様は、ケーキのように甘い声で叫びました。


488 : NEW GAME‼︎ ◆As6lpa2ikE :2017/07/08(土) 11:19:44 N47OYEtQ0
「『まだ足りない』か――」

女王様の言葉にそんな台詞を投げたのは、ハンチング帽を被ったおじいさんでした。
おじいさんは室内にあるフワフワのソファに腰掛け、女王様へと語りかけます。

「きみは富やら魔力やらを集めて、何かしたいことでもあるのかい?」
「ええ!」

そう言って、女王様はおじいさんの方へと振り向きます。
彼女の口調はいかにもご機嫌という感じです――彼女に首から上があれば、そこには眩しい笑顔が存在していたでしょう。

「わたしを悪だと定めてくれたフランスの為に、たっぷりの悪を成し遂げるの! だってわたしは、フランスのみんなが大好きなんだから! その思いに応えなくちゃいけないでしょう?」

女王様は、まるで夢を語る少女のように語ります。

「これからもっと広い範囲から富(まりょく)を奪って、たくさんの人を苦しめるの! わたしが直接出向いて、人々を殺すのも良いわね! あるいは、元のわたしでは想像も出来ないほどに残虐な行為もしてみたいわ!」

うふふふふふふふふふふふふふふ!
女王様は笑います。笑います。笑います。
これから、自分がする悪行を想像するだけで、笑いが溢れるそうなのです。
そして。
女王様につられるように、ハンチング帽のおじいさんも、ニィッと口の両端を上げて笑って、

「いいね」

と、言いました。
おじいさんは女王様の夢に満ちた悪に心から共感していたわけではありませんが、少なくとも、彼女の言う通りに事が進めば、面白いことになりそうだと思ったのです。
女王様がこれからも周囲に被害を齎せば、いずれ、そんな迷惑な行為を許せない聖杯戦争の他の参加者たちが、女王様を倒す為にこの場にやって来るでしょう。
そんな、許しがたい悪に立ち向かえる気力と力を持つ人間がいる事を、おじいさんは知っています。
策と力を携えてこの場に訪れる参加者たちを、どう攻略して倒すか――それを考えるだけで、おじいさんは笑みを隠せません。

「魔王の立場に立つドラクエみたいなものか……面白そうだ」
「ねぇ、ところでマスター?」
「なんだい、アサシン」
「どうしてあなたは、富(まりょく)を吸収されて死んでないの?」

アサシン――女王様が周囲から魔力を吸収しているのは先ほど言った通りです。
しかし、それならば、ハンチング帽のおじいさんも魔力を吸収され、倒れているはずなのです。
だけど、今おじいさんはソファに腰掛け、女王様とおしゃべりをしています。
何故なのでしょう。不思議ですね。
だから、女王様はおじいさんに質問したのでした。

「ああ、それは――」

そこまで言いかけて。
おじいさんは死にました。
身体中から魔力が枯渇して、死んだのです。


489 : NEW GAME‼︎ ◆As6lpa2ikE :2017/07/08(土) 11:20:19 N47OYEtQ0

























じわ……


490 : NEW GAME‼︎ ◆As6lpa2ikE :2017/07/08(土) 11:21:30 N47OYEtQ0
おじいさんは生き返りました。

「ほら、私は『亜人』だから、死んでも生き返るんだ。と言うより、死なないんだね。だからアサシン、君とは『魔力枯渇で死にながら』お話が出来るわけなんだよ」

おじいさんはタネを明かす手品師のように、そう言いました。
途端、女王様はパァッと顔を輝かせ――たかのように見えるくらい、愉快げな声で、

「死なない体!? 聞いたことのない、不思議な体質ね! まあ、素敵!」

そんな言葉を一気に吐き出しました。

「死なない貴方と死んでるわたし――わたし達って、相性ピッタリな主従なのかもしれないわ!」
「ああ、そうだね」

首の無い女王様――アサシン、マリー・アントワネット。
死なない生物――亜人、佐藤。
規格外にも程があるこの二人が、これから何をやらかすかは、予想がつきません。
ただ一つ言える事があるとすれば――彼らはこの冬木の街に混乱と騒乱を齎すという事でしょう。


491 : NEW GAME‼︎ ◆As6lpa2ikE :2017/07/08(土) 11:22:44 N47OYEtQ0
【クラス】
アサシン

【真名】
マリー・アントワネット

【属性】
混沌・悪

【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力A+ 幸運D- 宝具A++

【クラススキル】
気配遮断:E

【保有スキル】
悪の女王:A
無辜の怪物と精神汚染の複合スキル。
『このような悪女は革命で殺されて当然だ』という革命の正当性を高める為に民衆がマリー・アントワネットに浴びせた悪評が、本来のマリー・アントワネットの霊基に干渉し、変質させた結果、『数多くの国民を苦しめ殺した悪女』というあり得ない姿でのアサシン、マリー・アントワネットが誕生した。
このスキルにより、アサシンは下記の宝具を獲得している。

陣地作成:A
自身に有利な陣地を形成する能力。
本来はキャスターのクラススキルであるが、マリー・アントワネットはキャスターへの適性が高く、また下記の宝具『忌むべき輝きはいずれ砕け散る(クリスタル・ドレス)』で魔力吸収陣地を作成できる為、例外的に獲得した。

神の恩寵:B→C
最高の美貌と肉体、『王権の美』を示すスキル。
断頭された姿で召喚されている為、美貌は失われているが、首から下の体だけでも多くの人間を魅了するほどに美しい。
断頭された当時の姿で召喚されているアントワネットは、ライダーやキャスターの彼女よりも、成長した大人の魅力に満ちた豊満な肉体を持つ。

【宝具】
『忌むべき輝きはいずれ砕け散る(クリスタル・ドレス)』
ランク:B 種別:対軍・対民宝具 レンジ:100 最大捕捉:レンジ内全て

黒い十字の輝きをきらきらと――ぎらぎらと放つ、豪華なドレスの形で現れる宝具。
というよりも、このドレスを身に纏ったアサシンの存在そのものがこの宝具の正体である。

マリー・アントワネットは『民衆から富を絞り取った悪政』の象徴とされた。
この悪評に霊基が干渉されている彼女は、存在するだけで周囲の人間・サーヴァントから富を――魔力を吸収する。
アサシンがその場にいるだけで、彼女の周囲の存在は魔力が吸収され、生物ならば昏倒の後に死亡、サーヴァントならば魔力枯渇による消滅に追い込まれるのだ。
つまり、広範囲に根を張る魂喰いのようなものである。
この宝具の吸収効果は魔術や呪術によるものではない為、対魔力で軽減・無効化する事は出来ない。
また、遠距離からの魔術攻撃も、弾がこの宝具の範囲内に突入した途端魔力を吸収され、マリーに届く頃にはすっかり無力化される為、殆ど意味をなさない。
この宝具を発動しているマリー・アントワネットを倒すには、吸収しきれないほどに超膨大な魔力の遠距離・広範囲攻撃を用いるか、或いは、一人か二人は魔力枯渇で戦闘不能になっても問題ないほどの大人数で、マリーの宝具範囲に革命のように攻め入るしかない。

ドレスが放つぎらぎらとした黒十字の輝きは、吸収した魔力のほんの一部を光の形で放出しているものであり、当然ながらこれを用いた攻撃や防御をするのも可能である。


492 : NEW GAME‼︎ ◆As6lpa2ikE :2017/07/08(土) 11:23:27 N47OYEtQ0
『黒百合の王冠に枯朽あれ(ブレイキング・ギロチン)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:50

当時の革命派の人間達が、最終的にマリー・アントワネットへと行った所業――ギロチンによる断頭。
フランスを愛する彼女は、その悪意すらも平然と受け入れ、自分の宝具へと組み込んだ。
この宝具はそのような経緯で生まれたもの。

断頭された黒馬を召喚し、騎乗して戦場を駆け抜ける。
召喚後、硝子黒馬は首の切断口部分から徐々に崩れ、細かな硝子の粒子が撒き散らかされてゆくのだが、この粒子一粒一粒には、マリーが受け入れ、宝具に組み込んだ『ギロチン断頭』の概念が含まれている。
つまり、このぎらぎらと輝く粒子に触れると、その箇所に切断ダメージが与えられるのだ。
硝子の粒子数粒を浴びる程度なら、深めの切傷を受ける程度で済むが、黒馬の突進の直撃を食らえば、余程耐久ステータスが優れていない限り、スッパリと、まるでギロチンを落とされたかのように両断される事は避けられまい。
この切断ダメージを受けないのは、この宝具の所有者にして、既にギロチンで断頭されているアサシンだけ。
黒馬は数分で完全に崩壊し、消滅する。

【人物背景】
本来ならばあり得ないマリー・アントワネットの側面がサーヴァントとなった、オルタナティブのような存在。
アサシンは『こんな悪女は殺されて当然だ』と革命の正当性を高める為に当時の革命派の民衆達がアントワネットに浴びせた悪評が、アントワネットの霊基に干渉し、変質させた結果、生まれたサーヴァントである。
混沌にして悪と定められたアントワネットであるが、その精神の根本には未だにフランスへの愛が満ちている。
だが、彼女の行動原理は『わたしが愛しているフランスは、わたしを悪だと定めた』『ならば、彼らの期待に応えて、悪らしい振る舞いをするしかない』という考えに則っている。
詰まる所、善性の悪であり、愛溢れる悪。

【特徴】
断頭された大人のマリー・アントワネット。
頭はないが、周囲の状況は見聞きしているかのように把握できるし、喋る事もできる。
骨のように白い肌に炭のように黒い豪華なドレスを纏っており、首の切断口の上には赤黒い血が王冠の形で固まっている。
史実に則り、胸は三桁レベルの超巨乳。

【サーヴァントとしての願い】
わたしを悪だと定めた国民たちの為に、精一杯の悪を尽くすわ! だって、わたしはフランスが大好きなんだもの! ヴィヴ・ラ・フランス!


493 : NEW GAME‼︎ ◆As6lpa2ikE :2017/07/08(土) 11:23:48 N47OYEtQ0
【マスター】
佐藤(サミュエル・T・オーウェン)@亜人

【能力・技能】
・亜人
切っても沈めても埋めても絶っても焼いても折っても潰しても締めても轢いても撃っても爆破しても毒を盛っても刺しても刻んでも落としても吊っても絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に死なない。
復活の際に、傷や病は綺麗さっぱり完治する。
体をバラバラにされて殺された時は、一番大きな部品を基点に再生し、復活する。
佐藤はこの『絶対に死なず』『復活の際に傷や病が完治する』という亜人の性質をフルに活かした戦闘を得意とする。

【weapon】
・銃火器
冬木市にも、裏社会の人間は当然ながら存在する。
彼は、そんな組織に自分の臓器を売る事で銃火器を購入した。
元軍人である佐藤の銃の腕前は見事なものである。

・IBM
亜人が持つもう一つの力。
亜人が遠隔操作で操ることができる人型の物質で、透過率100%の未知の物質でできている。
そのため普通の人間の目にはまず見ることができない。
だが亜人には黒い幽霊のような姿で見える。
ラジコンのように遠隔操作をするため、雨の日は情報伝達が妨害されてうまく操ることができない。
一日に出せるのは二回が限度。
本来この世にあるはずのない、不安定な物質なので、しばらくすると消えてしまう。
また、佐藤の亜人は『放任』した結果、本体が麻酔銃で眠らされても高い戦闘力と判断力で自発的に動けるようになっている。

【人物背景】
テロリストの初老の男。
亜人であると発覚する前から精神に問題があり、他者に対する共感力が決定的に欠如しており、幼少の頃から動物虐待をしており、父に咎められても理解できなかった。
リスクのある戦いを好んでおり、どれくらい好んでいるかというと、かつて軍に所属していた際、極秘作戦の最中にわざと発砲して敵兵を呼び寄せたほど。
頭が良く利己的な内面を持つ永井圭の言動や戦闘における作戦を気に入っており、彼との殺し合いを非常に楽しんでいる。

原作コミックス10巻の時点から参戦。

【マスターとしての願い】
聖杯戦争というゲームを楽しむ。


494 : ◆As6lpa2ikE :2017/07/08(土) 11:24:09 N47OYEtQ0
刻みました、投下を


495 : ◆xn2vs62Y1I :2017/07/08(土) 16:03:54 C5ZsFg4Y0
みなさま投下乙です。私も投下を刻みます


496 : ◆xn2vs62Y1I :2017/07/08(土) 16:04:33 C5ZsFg4Y0
.



「人殺し。お前さんのしたことは、ただの人殺しだね」


一人の女性が哀れな少女に対して一言ぶちまけた。
女性は所謂、サーヴァント・キャスター。
魔女めいた老婆に見えなくないが、どちらかと言えば農婦の格好で麦わら帽。定番の箒は握ってもない。

対して、少女は犬耳フードを被ったコスプレじみた格好で目立っている。
もし、ここが町中であれば注目の的に違いないが。
冬木市内でも、住宅街からもはずれた自然のある地帯故か、通行人の姿すらないのが幸運か。
コスプレではなく、実は『魔法少女』としての姿なのが……

マスターである少女――否、魔法少女のたま/犬吠埼 珠がキャスターの言葉にダンマリしていると。
キャスターは「ケッ!」とわざとらしく声を大に、喋り続ける。


「あーあぁ! いやになっちまうねえ!! お前さんみたいなクソマスターを引いちまったあたしゃ
 サーヴァント界一の不幸モンに違いないよ! 自害でもして、とっとと退場させておくれ!」

「ご、ごめんなさい……」

「ごめんなさいだあ? 何を謝ってんだ。お前さんが謝ったところで死人が生きかえりゃしないんだし
 お前さんの口が達者になる訳じゃないんだからね。はーあ! イヤだイヤだ!!」

「その……本当にごめんなさい。私みたいな……人殺しがキャスターさんのマスターになって」


たま自身、ここへ至る経緯に混乱していた。
『魔法少女育成計画』と称されるソーシャルゲームを通じて、たまを含む選ばれた者が『魔法少女』として
能力を得た末。運営側が魔法少女を減らすと宣言し、所謂・サバイバルゲームへと発展する。
たまも、その過程で人を殺めてしまった。
最終的には、仲間だったスイムスイムに、何故か殺された。
なのに……生きている? 次は聖杯戦争?

途方にくれ、たまはキャスターに自身の経緯を語ったのが、結果は先ほどの通りである。
結局そうだ。
生き残るためであっても、自分がしたことは人殺しなんだ。
後ろ向きに受け止めるたまに、キャスターは顔をしかめる。


497 : ◆xn2vs62Y1I :2017/07/08(土) 16:05:39 C5ZsFg4Y0


「あぁ? なんだってえ?」

「え? えっと……だから私が人殺しなのが、キャスターさんは嫌なんですよね………」

「ぶぅあーか! 人殺し人殺しって、んなことどーだっていいんだよ!!」


突然の態度に、更にたまが困惑する。


「で、でも。私のことを人殺しだって……」

「あーはいはいはいはい! どーやらお前さんは空気が読めないようだから説明してやるけど
 人殺しなんてのは、大したもんじゃないよ! だってそうだろ。ヘンゼルとグレーテルだって
 魔女を殺して、わーい! やったー! ハッピーエンドじゃないのさ」

「……え………そ、それは……」

「時代が違えば王サマ殺せば英雄扱いだろう。なあ、ジャンヌ・ダルクだって人殺しだよ」

「じゃあ、キャスターさんはどうして怒ってたんですか……」

「それはね。お前さんがツマラナイからさ」

「私が物覚えが悪いとか、なにやっても駄目だからですか」

「違う違う違う! ちげーよばーか! ゴミクズナメクジヘドロマミレ!!
 あたしが語ってやったら、お前さんがぶっ殺した奴の命乞いのモノマネしまあ〜すとか
 死体が大股開いてパンツの柄がくそだっせえモンだったとか、気の効いたジョークを含ませてやるさ!
 お前さんはそーいう一つ二つがなくてクソっつったんだよ!」


流石のたまですら、キャスターの暴論にはついて行けない。
彼女は良心的な人間だ。絶対、キャスターみたいなブラックジョーク。不謹慎な話題で笑えない。
あの殺し合いにいた魔法少女の立場として。
たまは、申し訳なく。しかし確固たる意思を以て、キャスターに告げた。


「キャスターさん、ごめんなさい。私……そういうの駄目です」

「うん。知ってる。だからクソマスターつってんのさ」


やれやれといった様子でキャスターは退屈そうだった。


「だったら聖杯戦争自体が気の効いた馬鹿騒ぎならいいねえ。
 あたしゃ週刊少年ジャンプみてーな努力・友情・勝利は大嫌いだから勘弁しておくれよ」


498 : ◆xn2vs62Y1I :2017/07/08(土) 16:06:17 C5ZsFg4Y0
【クラス】キャスター
【真名】マザー・グース@伝承童謡
【属性】混沌・善

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:C 魔力:A 幸運:B 宝具:A


【クラススキル】
陣地作成:-
道具作成:-
 これらのスキルは後述の宝具に昇華されている。


【保有スキル】
高速詠唱:A
 魔術の詠唱を高速化するスキル。
 魔女であり、作者でもあるマザー・グースは即座に宝具の展開が行える。

無辜の怪物:A
 生前の行いから生まれたイメージによって、過去や在り方をねじ曲げられた怪物。
 能力・姿が変貌してしまう。このスキルは取り外せない。
 かつてはナーサリーライム、御伽草子のような固有結界そのものであった。


【宝具】
『お望みならば何処までも往くさ(コント・ド・マ・メール・ロワ)』
ランク:C++ 種別:対界宝具
 マザー・グースの象徴である不可思議な鵞鳥。
 これの背に乗れば、どこへでも自由に飛び立てる。この魔女は箒ではなく鵞鳥に乗る。
 文字通り『どこへでも』往けるため、次元の狭間に居座る事も
 固有結界からの脱出も可能な代物。
 

『どこかの誰かさんの物語(マザー・グース)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大補足:1〜200
 糞で畜生なトミーサム、色々ここまで御苦労さん、だけど冒険はお終いさ
 あともう少しで最悪の目覚め、夜の帳は堕ちた。お前さんの首もドサリと堕ちる。
 じゃあ、現実のように殺してやるよ。ページを燃やして、さようなら!

 『リジー・ボーテン』が40回攻撃されれば、41回攻撃を『し返せ』。
 相手を肉体をバラバラにし、未知の病原体をばらまき。
 こまどりを葬った狂気の鳥の軍勢を呼びだす具合に、マザー・グースに準えたものを召喚、使役する。
 陣地作成と道具作成がこの宝具に昇華されている。


【人物背景】
ナーサリーライムが子供たちの英雄であれば、マザー・グースは大人に対する英雄。
絵本や残酷な部分を前面にした方こそマザー・グース。
彼女は様々な逸話により特定の姿を得た為、宝具や能力はナーサリーライムや御伽草子のような
固有結界そのものではなく、伝説上の作者でありながら魔女という存在に変貌。
性格は捻くれており、残酷に現実を突き付ける。


【特徴】
シワの入った40代後半くしゃくしゃした金髪の女性。
魔女というよりか、麦摘みをする農婦の服装で、麦わらの三角帽子を被っている。


【サーヴァントとしての願い】
今回の聖杯戦争が面白ければ楽しみたい
そうじゃなかったら自害とかする





【マスター】
たま(犬吠埼珠)@魔法少女育成計画

【能力】
いろんなものに素早く穴を開けられるよ
 自分で掘った・傷つけた部分を瞬時に広げる。
 掘った・傷つけたばかりでなくても、視界内であればいつでも広げられる。

魔法少女
 人間ではない魔法少女としての身体能力


【人物背景】
変身すると犬耳の魔法少女。普段は中学生の少女。
気の弱い性格で、周囲から劣等生と称されている。
参戦時期はサイバイバルゲーム脱落後

【マスターとしての願い】
不明
どうしたらいいか分からない


499 : ◆xn2vs62Y1I :2017/07/08(土) 16:06:56 C5ZsFg4Y0
投下終了です。タイトルは「たま&キャスター」でお願いします


500 : ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:23:28 5Lq6RTVI0
投下させていただきます


501 : 生の価値、死の価値 ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:23:58 5Lq6RTVI0


「……自信を失うね、こりゃ」

 草臥れている。枯れている。そんな、老人めいた男であった。
 彼が今前にしているのは、彼自身の呼び出したサーヴァントが形成した"工房"だ。
 だが、一般的な魔術師が思う所の工房と、目の前に有るそれは全く異なったそれである。
 あくまでも工房のままで、ともすれば神殿以上もの防御力と攻撃力を兼ね備えた至大の城。
 この男は、一つの世界で限りなく最上位に近い腕前を持つ錬金術師であったが、その彼をして自信を失いそうな程、工房の主であるサーヴァントの力量は頭抜けていた。

 常にサーヴァントとの戦闘すら可能な域に調整されたホムンクルスや装置が動き回り、其処かしこに一撃必殺の対人地雷めいた罠が張り巡らされている。荒唐無稽とは言い難い、綿密な理論と打算の上に組み上げられた超絶の工房。男は其処に、やや呆れたような顔をしながら足を踏み入れていく。
 ……サーヴァントもサーヴァントなら、マスターもマスターだ。
 彼は教えられてもいないのに、張り巡らされた致死級の罠を一つたりとも作動させない。最初から知っているみたいに踏破し、潜り抜け、歩くペースを一瞬として落とさずに工房内部を進んでいく。極めに極め、研鑽に研鑽を重ねた術師の実力は伊達ではない。それこそサーヴァントとして喚ばれていても可笑しくない程の卓越した技を、彼は持っていた。その彼だからこそ、聖杯はこれほどの拠点を構築出来るような弩級の術師をあてがったのか。

「然し本当、何で俺なんだろうなあ」

 面倒臭そうに、右手で摘んだ星座のカードをひらひらと動かして。錬金術師は奥へ、奥へと踏み入っていく。


  ◇  ◇


502 : 生の価値、死の価値 ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:24:37 5Lq6RTVI0

 
「生きるってのは、しんどいよなあ」

 人の一生は、凡そ二十五億秒程度と言われている。
 閏年やその他諸般の条件を除き、端数を切り捨てた単純計算の値ではあるが、これを長いと思うか短いと思うかは人によって意見の分かれる所だろう。誰にでも等しく訪れる死の刻限。或いは、人間という生命体の一般的な限界値。それが、二十五億秒。正確には、二十五億と数千万秒。もっと言うなら此処から睡眠等の時間が差し引かれ、実質的な寿命はこれより何億秒か削られる事になる。
 そも、何故人は死を恐れるのか。死は、取り返しが付かないからである。
 仮に自分が死んだとして、周りの人間が努力する事でその結果を覆す事が出来るというのなら、誰も死など恐れないだろう。然し現実には、そうではない。死んだ人間は蘇らない。残された者達がどれだけ願い、祈っても、失われた命は絶対に帰ってこない。故にこそ人は死を恐れ、忌み、限られた生を至上のものとして尊ぶのだ。

 だが――世の中には時折、そのルールから外れた存在が現れる事がある。
 即ち、死なない人間。何百年を生きても老いる事がなく、永遠に心臓が鼓動を刻み続ける冗談のような人間が。
 この男は、ひとえに"それ"だった。先天ではなく後天、望まずして手に入れた永遠ではあるが、彼は既に五百年以上もの時間を生きている。ただ肉体が劣化しないだけには留まらない。たとえ腹に大穴を空けられても瞬時に癒え、恐らくは首をぶった切られても生命活動を続行出来る。正真正銘、不死身の男。人生の酸いも甘いも噛み分けたのはとうの昔。今や人の一生をしゃぶり尽くし、味すら感じなくなってしまった哀れな男。
 その名を、ヴァン・ホーエンハイムと言った。……奇しくも冬木が存在する世界の歴史では、彼と同じ名を持つ男の逸話が語り継がれている。"ある分野"の、第一人者として。

「一般的な価値観の持ち主からは、まず出て来ない台詞ですね。魔術師に限らず、ヒトは時間を欲する生き物だ。老いも衰えもせず永遠を生きられるというのなら、殆どの者は羨望を口にするでしょう。かく言う私も、嘗てはそれを追い求めていた身だ。人類を死や病といった苦しみから永遠に解放する――世に言う、"不老不死"の実現を」

 ホーエンハイムが零した独り言に相槌を打つのは、如何にも頭脳明晰そうな、碩学然とした長髪の青年である。
 美男子という言葉ではまず足りない、人体の黄金律と呼んでも誤りではないだろう精微な顔面に穏やかな笑みを浮かべるその右瞳には、ピジョンブラッドを思わせる鮮烈な赤薔薇の紋様が刻まれていた。一目で只者ではないと解るのは当然として、信心深い者が見たなら、神域の者がこの世に触覚を遣わしているのだと本気で錯覚すらしよう。彼は、それ程の男だった。これがあくまで人間由来の英霊であると、一体誰が信じられるだろうか。


503 : 生の価値、死の価値 ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:25:05 5Lq6RTVI0

「まあ、色々便利なのは否定しないよ。この身体じゃなきゃ出来なかった事、解き明かせなかった事、行けなかった場所、挙げ始めたらキリがない」
「でしょうね。無限の時間に不滅の肉体。その二つが揃えば、人界を味わい尽くすには十分過ぎる」
「でも、皆俺を置いて先に逝っちまうんだ。良くしてくれた奴も、友達も、皆。こいつが、かなり堪える」

 不死者は当然、"死"と言う普遍の道理から解脱して世界を歩む事が出来る。
 ただ不死者が生きる世界の方は、決してそれに合わせてくれない。生命の物差しはいつだって同じ長さだ。人は死ぬ、必ず死ぬ。無限を生きる者にはそれがないから、彼らは消えていく命を見送るしかない。出会った時には子供だった者も、いつの間にか皺だらけの爺婆になって、自分より先に死んでいく。
 人の生は孤独からは成り立たない。されど、不死人の生はいつも孤独だ。ホーエンハイムはそんな世界を数百、数千年と生きてきた。純粋に生きた年月ならば、この度彼が召喚した薔薇瞳の英霊よりも、ホーエンハイムの方が圧倒的に年上である。
 にも関わらず、薔薇の彼はまるで教師のようにホーエンハイムと語らっていた。人として生き、人として死んだ。その筈なのに、ホーエンハイムと同じ超越者の視点を持っている。寿命、余命。そうした軛に縛られない、余人では辿り着けない領域の"眼"を、彼は持っているのだった。
 
「では――貴方にとって生きる事は退屈だったのですか、ホーエンハイム?」
「まさか」

 生きる事は疲れる。
 無限の時間なんて碌なものじゃない。
 これまで散々ホーエンハイムはそう語ってきたし、事実今もそう思っている。
 それなのに、彼は己のサーヴァントの問い掛けに笑いながら首を振った。

「そりゃ、いつもいつでも楽しかった訳じゃない。いや、多分楽しくなかった時間の方が圧倒的に長いだろうな。目的もなく歩いていた時間が殆どで、目的を見出すまでに人の一生分の時間を何十回と無駄にした。散々な人生だったよ。何で俺がこんな目に、と思った事は多分何万回の域だ」

 ……仏陀曰く、"無間地獄に死はない。長寿は無間地獄の最大の苦しみなり"。
 ホーエンハイムの話を聞きながら、薔薇の錬金術師が思い出したのはそんな文句だった。彼は仏教徒ではなかったが、一度、東洋の仏僧と語らう機会があったのだ。その際に、上の言を聞かされた。初めてこれを耳にした時に抱いた感想は、素直に"恐ろしい"と言うものであった。死と言う終末がない、只生かされ続けると言う苦痛。成程確かに、これほど人間の心を取り返しの付かない形にへし折る刑罰はないだろうと感嘆すらしたのを覚えている。
 ヴァン・ホーエンハイムと言う男にとって、生は地獄だった。孤独と無価値に彩られた、永遠の旅路。然しホーエンハイムは、「けどな」と続ける。

「最近……って言っても十何年前か。生まれて初めて、"生きてて良かった"と思えるようになったんだよ」

 心の底からだ、嘘じゃない。語るホーエンハイムの瞳には、快晴の空を思わせる晴れやかさが有った。生の苦しみを論じていた時の鬱屈としたそれはいつしか消え失せ、幸福の色彩が眼窩の中を満たしていた。

「キャスター。お前、子供は?」
「いえ」
「そうか。惜しいな、子供ってのはいいもんだぞ。後は妻もだ。……"家族"ってのは、本当に良い」

 人間には永すぎる、気の遠くなるような年月を過ごした事で、ホーエンハイムの人格は厭世的なそれへと変わっていった。生への失望、或いは絶望。いつ終わるとも解らない、孤独なだけの時間。とうに飽いていた。とうに意義を見失っていた。時の流れは彼の心を摩耗させ、老境のそれすら超えた達観を齎した。
 そんな時に、彼は何百人目かも解らない飲み友達の紹介で、ある女と知り合う事になる。――トリシャ・エルリック。超越者でも何でもない、普通の人間。彼女との出会いが、ホーエンハイムの生きる意味になった。枯れ果てていた心は水の潤いに震え、厭世は吹き飛び、彼は初めて生きる喜びを見出すに至る事が出来た。


504 : 生の価値、死の価値 ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:25:47 5Lq6RTVI0

「一目惚れだったよ。トリシャと出会って、子供が出来て、初めて生きる事が楽しいと思うようになった。
 ――でも、人生ってのはままならんものでなあ。俺はただ、家族と一緒に老いて死にたいって一心で研究を続けてたのに、とんでもない事に気付いちまったんだ。止めなきゃ大勢の人が死ぬし、最悪世界そのものがどうかしちまいかねない。俺はそれを止めなきゃならなかった。……俺にしか、止められないと解ったからだ。
 家を出る時、息子達の顔をまともに見れなかったよ。ホント、気を抜けば泣いちまいそうだった。足を止めたいと思った。今からでも、全部投げ捨てて元の家族に戻りたいと本気で思った」

「然し、貴方はそうしなかった」

「そりゃ、出来ないさ。出来るわけない。俺が逃げたら、とんでもない数の人が死ぬし――息子達の未来まで奪われてしまう。正直、俺が親の何たるかを語ると怒られそうなんだが……子が成長して、いい嫁さんを貰って、子供を作る。そういう明るい未来を護ってやるのも、親の努めってもんだろ」

 結局、トリシャの顔を見たのはそれが最期になっちゃったけど。
 そう付け足すホーエンハイムの顔は笑っているのに、今にも泣き出しそうなそれにも見えた。永遠を生き、この世のあらゆる悲しみを知り尽くした男を泣かせる程の女。さぞかし良い女だったのだろうと、キャスターは思う。男として、羨ましいとも思った。そして同時に、こう確信する。

「ヴァン・ホーエンハイム」

 名前を呼び、更に続けた。

「貴方は――幸福(しあわせ)だったのですね」

 改めてそう言われたホーエンハイムの顔が、狐につままれたようにぽかんとした空白を湛える。
 それは、すぐに苦笑へと変わった。老人のようでありながら、若者のようにも、子供のようにも見える笑顔。それが肯定の意を示している事は、誰の目から見ても明らかである。波瀾万丈の一言では足りないくらい散々な生涯を此処まで歩んで来た、孤独の錬金術師。それでも、彼は決して不幸ではなかったのだ。
 命とは終わるもの。そのルールから解き放たれた男は、死と断絶に満ちた世界の現実をありありと見せ付けられてきた。だがそれは、決してこの世の全てではない。その事を、ホーエンハイムは家族を持った事で初めて知った。死が彼らを分かつとも、残された男は最愛の女を忘れない。彼女から貰った喜びを胸に抱きながら、自分に残された最後の使命を、果たさねばならない目的を遂げる為に旅をする。
 今度こそは、確かな希望を胸に抱いて。

「……聖杯戦争は外法だ。東洋では蠱毒と言うのだったか――兎に角、こんな過程の上に成り立つ奇跡なんて物がまともな色をしているとは俺には到底思えない。
 人を創るべからず、金を創るべからず。俺の居た世界でよく言われてた禁忌だ。まあこれ、自由にやられると軍やら国やらが色んな不都合おっ被るからって理由だった筈だし、喩えとして合ってるかどうかは微妙だと自分でも思うけど、言いたい事は解るだろ」

「"人の手に余る利益へ手を伸ばせば、待ち受ける結末は破滅のみである"と。
 いや、全くもって同感です。もしも貴方が妻を蘇らせる為に聖杯を獲る等と口にしていたなら、私はマスターの鞍替えも視野に入れなければならなかった」

 貴方を侮った事を詫びましょう、ホーエンハイム。
 慇懃に一礼するキャスターの言葉は、誇張でも何でもない。
 彼は元より、聖杯戦争に対し否定的な考えの持ち主だった。……否、そんな生易しい物ではない。聖杯戦争は必ず挫かねばならず、降臨する聖杯も破壊されるべきであると、どんな説得をした所で小動もしない強い意思でそう確信していた。ホーエンハイム程の男でさえ切り捨てられる可能性が有ったと言うのも、決して脅かしではない。薔薇の彼は穏和で善性に満ちているが、それでも魔術師だ。自身に都合の悪いモノは、より利用価値の大きいモノに取り替える。探求者としてその姿勢は、ごく当然のものであるのだから。


505 : 生の価値、死の価値 ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:26:14 5Lq6RTVI0

「これが通常の形で行われる聖杯戦争だったなら、私はサーヴァントとしてマスターの願いを応援したでしょう。
 ……ですが、此度のそれは些か異様に過ぎる。ホーエンハイム、貴方は確か、星座の記されたカードを手にした事でこの世界へと転送された――のでしたね」

 ああ、とホーエンハイムが頷く。それに頷きを返して、キャスターは続けた。

「聖杯戦争とは基本、マスターの自由意思を尊重する物です。参戦然り、撤退然り。星座のカードを手にする事がトリガーとなって戦争への参加が決定付けられるのでは、単純に"迷い込んで"しまうマスターが複数出かねない。通常の聖杯戦争でも一般人が巻き込まれる可能性は勿論有りますが、この聖杯戦争は余りにも、その辺りに無頓着が過ぎる」

「……俺も、別に聖杯なんて望んでいた訳じゃないしな。いい迷惑だっての、本当に」

「単刀直入に言うとね、ホーエンハイム。私は、この聖杯戦争の裏に、何者かの思惑が存在するように思えてならない」

 薔薇の瞳が、鋭く細められる。
 それだけで空間を満たす緊張感が段違いに上昇した。常に余裕を保ち、柔和な表情を浮かべている薔薇の錬金術師が何かを訝っていると言うのはひとえに異常事態であり、彼を少しでも知った者ならば警戒せずにはいられない。また、それだけではない。この錬金術師は聖杯戦争を陰で糸引く何者かに対し、強い敵愾心を抱いているのだった。
 何故か。答えは単純だ。彼は、正義の人なのである。弱きを助け、人を憎まず、苦しみからの救済を希求した優しい賢人。彼は人間の輝きを尊ぶが、それを利用しようとする事は許さない。願いを抱く精神、救いを望む心。そうした概念を踏み台にしようとしている何かが有ることを、赤薔薇は堪らなく嫌悪する。

「何かを願う心は美しい。たとえそれが、即物的な欲望であってもね」
「俺にはお前の言う事は、正直全部は理解出来ないよ。けどまあ、こいつが続行させていい儀式じゃないってのは同感だ」
「ならば、話は早いですね」

 ――潰しましょう、聖杯戦争を。

 薔薇の瞳を紅く、紅く煌めかせて、錬金術師は酷薄にそう告げた。
 偉大なる魔術師である筈の薔薇を錬金術師として呼び出した当人である、永遠を生きる錬金術師もまた、底冷えするような声色で放たれた台詞に力強く頷く。彼らは、聖杯戦争と言う儀式に楔を打ち込まんとする者達だ。楔を以って陣を乱し、最後には儀式そのものを破綻させる。多くの願いを敵に回す事は覚悟の上だし、それがどれほど罪作りな事かも承知している。その上で、錬金術師達は星座の聖杯戦争を否定するのだ。全身全霊で潰すと、断言する。

「それにしても。……ホーエンハイム、ホーエンハイムですか。これはまた、何とも数奇な」
「……ああ、こっちじゃ俺と同姓同名の錬金術師が居るんだったっけ。どんな奴だったんだ、こっちの俺は」
「実際に顔を合わせた事は有りませんが、優秀な男だったそうですよ。私の組織――薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)にとっても彼は重要な人材だったようです。正しい志と、正しい技術を持つ、慈愛に満ちた男。そう聞いています」


506 : 生の価値、死の価値 ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:27:17 5Lq6RTVI0

 ――薔薇十字団。ホーエンハイムの世界には存在しなかった組織だが、此方の世界では、その名は広く知られていた。何かと陰謀論を囁かれる秘密結社・フリーメーソンの第十八階級にして、恒久的な不老不死の実現の為に人々を救い続けたという魔術結社。ある一人の魔術師によって創成された、根源への到達に興味を示さない異色の"魔術使い"達。
 嘗て中東の賢者より書物を授かり、其処から叡智を得て組織を創成したとされる魔術師こそが、不死者の下に舞い降りた薔薇瞳の彼に他ならない。神代を離れてから成立した人間由来の魔術師の中では、間違いなく最高位の一角に君臨するだろう大魔術師。人を愛し、希望を尊び、探究の末に真理へと到達した赤き薔薇。


 ――真名、クリスチャン・ローゼンクロイツ。至高の赤、正義の赤が今、遍く思惑の鎖を粉砕すべく動き出した。


【クラス】キャスター
【真名】クリスチャン・ローゼンクロイツ
【出典】薔薇十字団伝説
【性別】男性
【身長・体重】180cm、70kg
【属性】中立・善
【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:C+ 魔力:A++ 幸運:C 宝具:EX

【クラス別スキル】

陣地作成:A++
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 "工房"の形成が可能だが、キャスターのそれは薔薇十字団が生前会合を開いたという"聖霊の家"そのものである。
 彼の手がけた工房では、彼自身とその味方に分類される存在の魔力と各種ステータスにプラス補正が掛かる。特にキャスター自身が受ける恩恵は絶大であり、三騎士とすら近接戦が行えるレベルにまで各種能力値が向上する。

道具作成:EX
 魔力を帯びた道具を作成出来る。
 宝具級には及ばねど、限りなくそれに近い魔具の数々を創造する事が出来、特に錬金術方面での才覚は人類史の中でも最高クラスのそれを持つ。作成による魔力の消耗は比較的軽微。自身の工房の中であれば、消費は限りなく零に近付く。

【固有スキル】

錬金術:A+
 本来は後述する「賢者の智慧」スキルに組み込まれているが、今回の彼は錬金術師としての側面をクローズアップされて召喚されている為、独立したスキルに昇華されている。
 ホムンクルスの使役からそれ以上の力を持った使い魔の創造、五大元素を利用した魔術攻撃。更にはキャスタークラスの弱点を補う各種設備に罠の作成等、あくまでも魔術ではなく本領はこちら。一手間掛けて"錬成陣"を描く事が出来れば、このスキルによる攻撃ダメージは大きく跳ね上がる。

賢者の石:A+
 自ら精製した強力な魔力集積結晶、フォトニック結晶を操る技術。ランクは精製の度合いで大きく変動する。
 ランク次第で様々な効果を発揮するが、A+ランクともなれば擬似的な不死に加えてステータスのワンランク強化をも対象に与える。宝具が封印された状況での一時的な宝具解放、死亡した人間を動く死体として蘇生させる、等といった規格外の効果を持つ。これぞ、錬金術に於ける至高の物質である。


507 : 生の価値、死の価値 ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:28:19 5Lq6RTVI0

四精霊の加護:A
 「精霊の加護」スキルの亜種。
 地・水・風・火の四大元素の中に住まう四大精霊からの祝福により、危機的な局面に於いて自己の魔力量を増幅させる。
 彼が祝福されているそれらは理論に基づいた人工霊ではなく、正真正銘の四大元素を象徴する超自然存在である。
 一般的な精霊の加護とは異なり、幸運を呼び寄せる事は出来ないが、その分現実的なリターンが約束されているのが強み。但しスキルの発動は、キャスターが正しい目的の為に戦っている事が前提となる。

賢者の智慧:A
 聖地巡礼の最中に立ち寄った中東で、賢者から授かった魔術の知識。
 凡そ魔術の全分野を彼は治めており、攻撃、防御、転移に空間遮断と息を吐くように超級の神秘を行使する。
 どれを取っても技量は一級品だが、特に対人の治癒魔術に関しては神業としか言い様のない領域に到達している。

【宝具】

『基点の薔薇("M")』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:-
 キャスターが賢者達より魔術と共に授かったとされる魔術書、"Mの書"。
 中には自然魔術の奥義が記されていたというそれは、クリスチャン・ローゼンクロイツという魔術師の実質的な原点であり、後に魔術協会を震撼させた魔術結社"薔薇十字団"創成の基点となった始まりの書物である。だが、この宝具は既に殆どの効果を失っている。仮にこれが破壊されたとしても、キャスターには何の痛手も生まれない。
 "Mの書"はそれそのものが魔術行使の媒体となるのではなく、あくまでも開いた者に叡智を授ける宝具なのだ。キャスターは初めて書を開いた瞬間に、この宝具を自らの霊基と一体化させる形で取り込んでしまった。故に今や書物自体は完全に無用の長物。にも関わらずキャスターがいつも持ち歩いているのは"あの魔術書こそがこの男の急所である"と敵に思い込ませる為のブラフであり、後は何となく持っていると落ち着くから、程度の理由でしかない。
 然し、"Mの書"という宝具の最後の効果はキャスターの頭の中に今も残留している。それは、彼が心から認めた特定の誰かへの叡智継承。クリスチャン・ローゼンクロイツという魔術師を大成させた賢者の知識を受け継がせ、彼自身が偉大な魔術師の"基点"になるというもの。尤も、この能力を使用すればキャスターは自身の叡智(アイデンティティ)を失い、即座に此度の舞台より消滅する事になろう。

『真理の薔薇("CRC")』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:1〜150 最大補足:1000人
 最低でもフォトニック結晶以上の高純度魔力結晶を用いて描き上げたセフィロト図を錬成陣として、"この世の向こう側"とでも呼ぶべき虚無の空間へ繋がる扉を開く。彼自身はこれを"真理とも根源とも程遠い、出来損ないの到達点"と侮蔑しているが、只の空想論理を昇華させただけの宝具にしては異常過ぎる出力を誇る。
 開かれた"扉"はキャスターが敵と看做す存在を宇宙現象級の吸引力で内部へ取り込まんとする。重ねて言うが、この吸引のエネルギーは極めて膨大。純粋な力のみで踏み留まるのは不可能に近く、回避するには何らかの搦め手を使わねばならない。尤も、逃れ得る手段が有ったとしても、相手がクリスチャン・ローゼンクロイツ程の大魔術師である以上それが成功する保証はないと英霊自身の性能も相俟って非常に凶悪。
 英霊一騎を取り込んだ時点で扉は閉じられ、取り込まれた英霊は聖杯戦争より消滅する。ほんの一瞬でも扉の向こうに入ってしまえば最後、どんな手段を用いても脱出する事は不可能である。キャスターは自身の実力に驕る事のない謙虚な人物だが、この一点に限っては、彼は頑として"もしも"の発生を認めない。
 "扉"の理屈は聖杯戦争の関係者なら誰でも解る程単純明快。要はこれは、"英霊の座"そのものに接続する扉なのである。故にほんの1ミリメートルでも扉を超えればその時点で英霊の座に送還された扱いとなり、サーヴァント自身がどんな力を持っていようと、マスターが何をしようと復活させる事は困難。例外は単独顕現スキルを持つサーヴァント――クラス・ビーストだが、逆に言えばそれ以外の全てのサーヴァントに対し、真理の薔薇は必殺の攻撃として機能する。
 因みに、キャスターはたとえマスターが相手だろうと扉の真実については語らない。ローゼンクロイツは間違いなく人格者であるが、彼も魔術師である事には違いないのだ。――手の内が割れる事なく、慢心しながら敗れてくれるならそれに越したことはない。だから薔薇の魔術師は、多くを語らないのだ。


508 : 生の価値、死の価値 ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:29:17 5Lq6RTVI0
 失礼、第二宝具の記述は此方が正しいです

『真理の薔薇("CRC")』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:1〜150 最大補足:1人
 最低でもフォトニック結晶以上の高純度魔力結晶を用いて描き上げたセフィロト図を錬成陣として、"この世の向こう側"とでも呼ぶべき虚無の空間へ繋がる扉を開く。彼自身はこれを"真理とも根源とも程遠い、出来損ないの到達点"と侮蔑しているが、只の空想論理を昇華させただけの宝具にしては異常過ぎる出力を誇る。
 開かれた"扉"はキャスターが敵と看做す存在を宇宙現象級の吸引力で内部へ取り込まんとする。重ねて言うが、この吸引のエネルギーは極めて膨大。純粋な力のみで踏み留まるのは不可能に近く、回避するには何らかの搦め手を使わねばならない。尤も、逃れ得る手段が有ったとしても、相手がクリスチャン・ローゼンクロイツ程の大魔術師である以上それが成功する保証はないと英霊自身の性能も相俟って非常に凶悪。
 英霊一騎を取り込んだ時点で扉は閉じられ、取り込まれた英霊は聖杯戦争より消滅する。ほんの一瞬でも扉の向こうに入ってしまえば最後、どんな手段を用いても脱出する事は不可能である。キャスターは自身の実力に驕る事のない謙虚な人物だが、この一点に限っては、彼は頑として"もしも"の発生を認めない。
 "扉"の理屈は聖杯戦争の関係者なら誰でも解る程単純明快。要はこれは、"英霊の座"そのものに接続する扉なのである。故にほんの1ミリメートルでも扉を超えればその時点で英霊の座に送還された扱いとなり、サーヴァント自身がどんな力を持っていようと、マスターが何をしようと復活させる事は困難。例外は単独顕現スキルを持つサーヴァント――クラス・ビーストだが、逆に言えばそれ以外の全てのサーヴァントに対し、真理の薔薇は必殺の攻撃として機能する。
 因みに、キャスターはたとえマスターが相手だろうと扉の真実については語らない。ローゼンクロイツは間違いなく人格者であるが、彼も魔術師である事には違いないのだ。――手の内が割れる事なく、慢心しながら敗れてくれるならそれに越したことはない。だから薔薇の魔術師は、多くを語らないのだ。


509 : 生の価値、死の価値 ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:30:21 5Lq6RTVI0

【weapon】

 道具作成スキルにより創造した魔具、結晶、宝石類。

【解説】

 伝説の魔術結社、薔薇十字団(ローゼンクロイツァー)の創始者とされる魔術師。
 聖地巡礼の最中に立ち寄った中東で賢者達から魔術と"Mの書"を授かった彼は、その後ドイツに戻り、無償での人助けに明け暮れたという。やがて彼は薔薇十字団を創成。科学を排斥せず、取り入れられる理論は全て取り入れ、根源に最も近付きながらも真理到達ではなく衆生の救済にその叡智を費やした。
 ローゼンクロイツは根源への興味を抱かない。彼が宝具として持つ"真理"への扉も、研究の一環として偶然発見した副産物であり、彼にとっては自慢出来るものという認識ですらない。取り込んだ英霊を確実に滅ぼす扉などより、ローゼンクロイツにとっては末期の患者を救える魔術の方が余程重要なのだ。
 時の協会は彼ら十字団を追ったが、ローゼンクロイツは只の一度として追っ手に不覚は取らなかった。逃げ延び、騙し、打ち勝ち、寿命を迎えて葬られるその時まで、魔術協会に得をさせることはなかったという。

 彼は当初、人々の苦しみからの解放――不老不死を求めて研究を重ね、その為に薔薇十字団を組織した。
 だが意外にも、英霊として召喚された彼は不老不死の実現にさしたる意欲を抱いていない。彼にその点を問い質せば、他の十字団メンバーも皆同じだと、そんな答えが返ってくるだろう。
 何故、ローゼンクロイツは不死を諦めたのか。何故、死からの解放は救いに非ずと彼らは気付いたのか。
 ――それは、英霊としてのローゼンクロイツと相対した者だけが直面する事の出来る、薔薇十字団最後の謎である。

【特徴】

 黒髪のロングヘアーに眼鏡が特徴的な、長身痩躯で色白の青年。
 薔薇の文様を刻んだエーテル結晶製の特殊装甲の上から白の外套を羽織っている。
 この装甲はかなり高い対物理・対魔防御力を持ち、特に呪詛の類に関してはAランク相当の対魔力スキルとして機能する。

 人の輝きを愛し、それを愚弄する者を嫌悪する。そんな、正義の人。

【聖杯にかける願い】

 願いはない。我が叡智は、愛すべきマスターの為に。


510 : 生の価値、死の価値 ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:30:42 5Lq6RTVI0


【マスター】

 ヴァン・ホーエンハイム@鋼の錬金術師

【マスターとしての願い】

 聖杯戦争を破壊する為に行動する。
 余裕があれば聖杯をこの手で検め、その構造を把握したい

【weapon】

【能力・技能】

錬金術:
 物質の構成や形を変えて別の物に作り変える技術と、それに伴う理論体系を扱う学問。
 現実世界の錬金術とは一部の用語が共通する以外は全く関係なく、寧ろ性質としては広義に知られる所の魔法に近い。
 錬成陣という魔法陣のような図形にエネルギーを流し込む事で術を発動させる事が可能だが、その基本はあくまでも等価交換。原材料を用意し、構成元素や特性を"理解"、物質を"分解"、そして"再構築"するという三つの段階を経る必要がある。――が、ホーエンハイムは後述する事情から体内に莫大な数の"賢者の石"を抱えている為、ノーコスト・ノーモーションでの錬成が可能。
 それ以前にそもそも錬金術師としての腕前自体が相当高く、作中でも一二を争う実力者に分類される。

不老不死:
 意図せずしてクセルクセス国民達から錬成された"賢者の石"を取り込んでしまった事で、ホーエンハイムは人間が当たり前に持ち合わせる死という概念とは無縁の"不老不死"を実現している。現に彼は既に最低でも四百六十年もの年月を生きており、傷を負っても体内の賢者の石が反応して即座にそれを回復出来る。
 但し、聖杯戦争に於いては世界間移動を行った事で体内の賢者の石が劣化、不死性に翳りが生まれている。急所を外した傷ならば今まで通り秒で修復出来るが、頭部と心臓、この二箇所の損傷だけは致命傷になり得る。

【人物背景】
 
 エドワード・エルリック及びアルフォンス・エルリックの実父。彼らの母であるトリシャ・エルリックとは籍を入れていない為、彼ら家族とは姓が異なる。
 元はクセルクセス王国の一奴隷で、実験用に抜かれた血から生まれた"ホムンクルス"こと"フラスコの中の小人"と意気投合。彼に気に入られ、奴隷にあるまじき知識を授かり、ホムンクルスと日に日に仲を深めていく。だがある時、年老いたクセルクセス国王が不老不死の法をホムンクルスに乞うた事で運命が狂い始める。
 ホムンクルスは不老不死の法として錬成された賢者の石を私欲で簒奪し、ホーエンハイムをそうとは知らせずに錬成陣の中心に立たせてそれを機動。ホーエンハイム以外のクセルクセス国民は"賢者の石"に変換され、ホーエンハイムは望まない不老不死の体を手に入れた上で同胞も故郷も全てを失ってしまう。
 一時は厭世的になった彼だが、前述したトリシャ・エルリックと出会い、彼女に一目惚れした事で変わり始める。息子を得た彼は"妻や息子と共に老いて死に体"という当たり前の願望を抱くようになり、その為の手段を研究する内に、皮肉にも彼は"フラスコの中の小人"のさらなる暗躍に気付いてしまう。
 始まりのホムンクルスを打倒する為に家族の下を離れ、妻の死に目には立ち会えず、只一つの目的の為に歩み続けた男。
 当企画ではエドワードと二度目の再会を果たす直前から参戦。聖杯戦争という多くの犠牲を払う儀式を否定しつつ、聖杯の構造を理解し、得た知識をホムンクルスの確実な打倒の糧にしたいと考えている。

【方針】

 キャスターと共に闘う。聖杯戦争は、あってはならぬものだ。


511 : ◆xjawmtEuSY :2017/07/08(土) 16:31:07 5Lq6RTVI0
投下を終了します


512 : ◆WqjPzMBpm6 :2017/07/10(月) 12:11:18 MBgYkdvQ0
投下します。


513 : クリスちゃん、黄忠に会う ◆WqjPzMBpm6 :2017/07/10(月) 12:14:06 MBgYkdvQ0


 ────混沌とのるつぼともいうこの冬木の町の外れ。
 枯れ枝の寂しげな雑木と、罅割れた黒いアスファルトとその間から芽吹いた雑草の緑。
 寂れているそこはかとなく廃墟っぽい雰囲気の工場。
 ────夜空の月は美しい満月。
 しかし、それは彼女の元いた世界では絶対に有り得ない光景だった。

「聖杯戦争ッ!?……どうなってやがるんだッ!?こりゃ一体何の秘密儀式だッ!?はぁぁッ!?」

 そう饒舌に愚痴をこぼした。平行世界から招かれると、いう今例の無い緊急事態に頭を抱える。
彼女の頭の中はもうぐちゃぐちゃ。急な展開と知恵熱に大弱りだ。
 
『状況は理解できたかのぅ?』

 そんな少女を守護する英霊は鼻毛を抜きながら、欠伸をこぼす。
 髪から顎まで、隙間なく白髯を蓄えていた。
 胴には鉄甲の鎧。脚には獣皮の靴を履き、腰に幅広い太刀を横たえている。

「引っ込んでな、爺さん。余計に頭が混乱する……(大体何であたしのサーヴァントがこんな爺さんなんだよッ!?こんなの絶対おかしいだろ……ッ!?)」

 しかし、ジタバタしてもはじまらない。腹、くくろう……。

「仕方がないな……付き合うよ。ただし、あの世までは遠慮させてもらうよ 。(おうよ、止めてやるさ……ッ!やってやるさ……ッ!)」

「 聖杯だの……サーヴァントだの……。立ちはだかるなら、このあたしが全部ぶっ壊してやる……ぶっ潰してやるッ!」

 掌にバシッ、バシッと拳を叩きつけている。

「これでも、年寄りは労るよ。背中を預けてよ、爺さん」

『ぬ……何をぬかすかぁッ!!この儂は死ぬまで最前線じゃッ!』

「もう死んでるだろッ!漫画で読んだ事あるよ、あんたッ!!」

「るせーなッ!大丈夫だって、無謀は承知。これでもあたしは常日頃から鉄火場のど真ん中ッ!」

 ヒラヒラと虫を払うように手を振る少女。
 満腔の自信に溢れたその態度。口ぶり。一体、彼女は幾たび死線を越したことかは知れない。

「大丈ーー夫ッ! 大丈ーー夫ッ! バッチ来い、ドンと来いッ!この雪音クリス様に任せろ、爺さんッ!」

 やおら拳を天に突き上げて叫ぶ彼女は胸に拳を当てた。


514 : クリスちゃん、黄忠に会う ◆WqjPzMBpm6 :2017/07/10(月) 12:15:24 MBgYkdvQ0

『じょーちゃんよ、これだけはハッキリ言わせてもらう……』

 好々爺然としているこのサーヴァントが会って初めて放った絶叫。それは……。

『否ッ!断じて否アァッーーッ!!』
 
 野彦して渡る大喝。今は夜だぞ、近所迷惑を考えろ。
 凄い声は打てば響くがごとく『ハッキリ言うぞ……戦場に女は不要ッ!』そう断言した。

 だが、それは一瞬、

「あ?手向かう気か」クリスは突っかかり、見上げ睨む。

『何をッ!青二才ッ!』
 
「その体中を風が吹くってことになりたくなかったら、あたしの言われたとおりにしなッ!絶対だッ!絶対だぞッ!」

 サーヴァントを指差し、きっちり啖呵をきる。

『嫌じゃ』腰に佩いている剣の帯革を解いて、引き抜いた。

『どんなもんか見てやる』手をこまねいて、〝かかってこい〟の仕草。

「言うじゃねーか……」クリスのやる気か沸々と湧いて出る。
 
「いいぜ……ギャフンと言わせてやるッ!」

 見得をきって返答し、彼女は胸の中の撃鉄をガチンと引き起こす。
                 ────その時、

『 Killter Ichaival tron…………』

                 ────歌が聞こえた。
 彼女をいざなう強く、儚い光。胸元のペンダントが励起、彼女を丸裸にする。
 次の瞬間、奇跡は形を成す。
 ────鎧《ギア》を纏って右銃(みぎ)と左銃(ひだり)に銃巴を握る……。既にその身は戦装束……。
 ────手にするのは彼女の心象で拳銃に変質した魔弓。銘はイチイバル。
 
 どこからともなく風が吹く。
 銀髪の細く長い後ろ髪をはためかせ、サーヴァントのマスター・雪音クリスが己がサーヴァントに西部のガンマンよろしく銃口を向ける。
 滑らかな連動。以下で行われるその動作《アクション》。その常人では対応さえできながった鳴り響く一発の乾いた銃声────。

 ────しかし、侮っていたのは雪音クリスの方だった。
 ────さて、ここから先は正直話にならない常識外の戦いを始めよう。

 手にする象鼻刀を使わず銃弾を指二本で摘まみ、キャッチした。どうやら彼には受ける必要も避ける必要もないらしい。
 指を弾くと、弾丸は何処かへと転がっていった。
 それを見て、おもしれぇ……ッ!と、クリスに笑みがこぼれる。

「それじゃあ、その本気印……もっと魅せてみなッ!斬ってこいよぉ爺さんッ!どうなっても知んねーぞッ!」

 クリスの体調はバッチグー。精神状態はやや興奮ぎみ。だが、この仕合には相応しいだろう。

「──────ッ!」

 彼女の口ずさむのは、ここでは誰も聴いた事がない唄。通常は話にならない物騒な歌詞だった。
 それをBGMにして飴を伸ばすように引き伸びて異様な膨張と収縮を繰り返し、次々と形を変えた双銃。
 その手のひらサイズが凄まじい変貌を遂げそれは現れる。
 躊躇わずに彼女は銃爪《トリガー》を引いた。
 けたたましい銃声が鼓膜を破った。
 高速で撃ち出す禍々しい回転機械《ガトリング》。廻る、廻る12本の銃身。

『カッコいいだとッ!?』
「食らいやがれッ!!」

 耳をつんざき囀る銃声。飛び出す銃火の狂い咲き。
 手加減知らずのその数……毎分16000発ッ!
 この技は、並みのサーヴァントを軽く一蹴する魔力ともいうべきものであった。
 しかし……ッ!


515 : クリスちゃん、黄忠に会う ◆WqjPzMBpm6 :2017/07/10(月) 12:16:52 MBgYkdvQ0

「おおおおおおおおお────ッ!……何ぃッ!?」

 クリスの熱い視線が、熱と猜疑心を伴って目の前の彼の全身に集中した。

「んなぁ、アホな……」

 クリスはひとりでに出たような声を洩らした。

 ────それは驚愕に値する。
 あの老人のサーヴァントがシンフォギアから浴びせられる無駄弾無しの号砲を迎え入れ、なお立ってからだッ!
 老人のサーヴァントのその巨体が唸るッ!躍るッ!
 右へ、続けて左に大きな孤を描いてその手の刃が走る。號ッ!と、槍を舞わして風が鳴く。
 それは弾よりも疾くッ!まるで稲妻のようにッ!

『 アタタタタタタタタタタ────ッ!』

 ────只ひたすらに前進ッ!前進ッ!前進ッ!
 まさしく破竹の勢いの快進撃ッ!もはやブレーキの壊れたトロッコみたいな存在ッ!

『やはり、ウルの銘は飾りであったかッ!恐るるにたりぬわ────ッ!!!』

 0.01《コンマゼロいち》秒の間隙。長柄の得物を両手に老兵は嘲笑う。
 手にする劍と銃弾が擦過して火花を散らす。
 見応えのある花火に似た情景。
 飛び交う曳光と跳弾は、まさに戦場の最前線。

『儂はこれっぽっちも錆びちゃいなんぞ────ッ!!』

 彼のその劍戟、無念無想の境地ッ!可憐炸裂ッ!純真無限ッ!
 発射された弾丸その総てを斬り払い、弾き返していく。

「……チッ!(この人、うちの指令《おっさん》と同じ類の人間かよッ!?)」

 クリスの鉛弾の雨が止んだ。
 その気迫に圧されるかのように全速で路面を蹴って後ろに跳ぶ。後方に跳び退き、間合いを離す。
 打ち下ろす彼の一撃が地面に罅を入れ、舗装がめくりあがる。
 刃の切れ味などの問題ではなく、ただの人間離れした凄まじい力の発現であった。

(意外と重い。それに速い……ッ!)

 クリスは人間のキャパシティを超えたサーヴァントという存在に納得しながら驚愕する。

(これがサーヴァント。これが、あたしのサーヴァントの実力《ちから》か……)

 両手を振りながら韋駄天と、クリスへ駆けてくるサーヴァント。それはまるで疾風。
 老人の生気に満ちすぎた眼。全身から漏洩するその覇気《オーラ》は文字通り一騎当千。
 一体なんという豪傑だろうか。

 ────しかしッ!それはこの雪音クリスもそうだッ!

「おだづなよぉ────ッ!!」

 彼女の地獄の炎のような感情が戻る。
 彼女のアクション映画で鍛えた剃刀のような思考が万全を期す。
 自棄《やけ》のヤンパチとばかりに、彼女はアームドギアのエネルギー充填率を120%まで引き上げられる。
 再び変形する武装。ガトリング砲が弩へと変化させた。
 今度は更に大きいぞ……ッ!

「とっておきだッ!!」

 稲妻を射る電信柱ほどの真っ赤な鋭い鏃。

『甘いッ!!とぅおッ!』

 だが、当たらない。
 老兵は一蹴りで大きく飛び上がり、ムーンサルトで上空を飛ぶ。雲が生じ、風が起る。
 弾頭の表面を走ると、そのまま老兵の背後へと流れる。

「そいつはどうかな?」


516 : クリスちゃん、黄忠に会う ◆WqjPzMBpm6 :2017/07/10(月) 12:18:20 MBgYkdvQ0

 躱わしたはずの長大の弾頭が背後で紅い華を散らしながら、夥しい数の楔へと生まれ変わり、夜空に起立する。
 その総てが向きを変え、方向を変えてあのサーヴァントへと集中した。
 
G I G A Z E P P E R I N

「四方の空から囲まれてどこに逃げるつもりだ?」

「今度は捌ききれるかよッ!?」

 これで詰みだとクリスは見た。
 それは確かに真実だ。
 上下左右前後。今度はさすがに腕二本では対応は困難。

『いやらしいエネルギーだな……しかし、効かんッ!』

 その窮地すら、ちゃぶ台返しするこのサーヴァントッ!

『 心折れるにはまだまだ速いッ! ────ご覧じるがいい……見よッ!この漢盛りの破壊力をッ!』

『全弾命中ッ!宝具解放ッ!〝弓神無双《ゴッド・アロー》〟────ッ!!』

「なん……だとッ!?」
 
 次の瞬間、夜空を染め上げ覆う紅の弓矢。血色の少雨。そのことごとくが煌めき咲いて散った────。


      ■


「────すいませーん。ドリンクバー2つ。ライス大2つ。 回鍋肉と青椒肉絲と八宝菜と超激辛麻婆豆腐。えーと……あと、ヤキソバ大盛り六人前をどれにしよう……堅焼き、あんかけ、ソースだく、あっさり塩味、エビ入り……う〜ん……悩むなぁ……あっやっぱりソースだくで、よろしくッ!爺さんは何にする?」

『クリスちゃんの貰う』


517 : クリスちゃん、黄忠に会う ◆WqjPzMBpm6 :2017/07/10(月) 12:20:13 MBgYkdvQ0

 思わず半眼になるサーヴァントとは対照的に、

「しっかり食べろよ。働いて貰うんだから」と、メニュー表を睨んだままクリスは叱った。

「じゃあ、それとデザートに杏仁豆腐と……」

 のんびり椅子に腰をおろす雪音クリスは、テーブル人数と数の合わない注文を店員にしてから、店の窓の外をチラ見した。
 窓の向こう。ビルの狭間の遠くからはパトカーのサイレンと赤ランプ。
 おそらく銃声を聴いたという通報を受けて駆けつけた警察だろう。

『うまく撒いたようじゃな……』

 一息ついてボキボキ肩を鳴らす老兵。

「爺さん、やり過ぎたんだよ……」

 白熱した人ならざる者対サーヴァントの戦いは、両者の気合いと根性でギリギリ五分と五分の引き分けに持ち越した。
 今は深夜のチェーンレストラン〝イルズベイル〟で二人は暇と元気とゼイ肉を持て余している。

 大量消費時代の料理に舌鼓を打ちながら、
『飯は美味い。馬より速い乗り物、おまけに空を飛ぶ。大した時代じゃな……』

「さあ、どうだか……」

 やってきたヤキソバを頬張りながらクリスは言う。

『クリスちゃん』

「あ?何?」

 と、言いつつ早速ヤキソバ二皿目を平らげる。凄まじい健啖ぶりである。

『顔に付いてる』

 老人はウスターソースをナプキンで拭いてあげた。
 俯いたまま顔を真っ赤にするクリス。
 サーヴァントはクスリと笑った。

『愛いヤツじゃのう〜〜儂クリスちゃんみたいな孫が欲しかったな〜〜』

 クリスはそっぽを向いたまま、目を合わせられずに、
「…………あたしの先輩といい勝負できるよ。爺さんの……いや、劍というより槍か?」
 なんて事を言った。

『 グッハッハッハッハッ!違う。違う。違う。儂は〝弓兵〟を司るナイスガイじゃッ!』

 はい?と視線を向け、
「アーチャー?…………って、はぁぁぁぁッ!?あれ弓かよッ!?じゃあ、あの刃物《ヤッパ》はッ!?」
 立ち上がるクリス。

『儂の矢』


518 : クリスちゃん、黄忠に会う ◆WqjPzMBpm6 :2017/07/10(月) 12:21:03 MBgYkdvQ0

「わからない……」

 サーヴァントの力強いサムズアップに長いため息をクリスはついた。

 クリスは烏龍茶を飲み、
(しっかし、願望器を賭けたバトルロイヤル……何でも願いが叶う……か────)
 今後の展望を思考した。

 ────不意に、彼女の心に感情《ノイズ》が流れる。

『パパ……ママ……』

 クリスは、〝その幻想〟は馬鹿げた思いつきと、頭を振ってかき消した。


 かくして彼女は戦いをもって、戦いを塗り潰す。ここに群雄争覇のドラマが始まる。


              
    ■■■

【出典】三国志
【SAESS】 アーチャー【身長】187㎝【体重】85㌔
【性別】男性
【真名】黄忠
【属性】中立・善
【ステータス】
筋力A+ 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運A+ 宝具A

【クラス別スキル】
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。
二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などの大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:A
乗り物を乗りこなす能力。
幻獣・神獣を除く全ての獣、乗り物を乗りこなせる。
本人は現在ハーレーダビッドソンを所望中。

単独行動:B+
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。マスター無しで四日間現界可能。


【保有スキル】
老当益壮:A
精神干渉を無効化する。格闘ダメージを向上させる。
生前の逸話と相まって、アーチャーにあるまじき近距離戦を得意し、死をいとわず常に先陣を駆ける丈夫。

乱世の武芸(弓):A+++
千里眼、弓矢作成、気配遮断の複合スキル。
これにより遠距離から初撃は相手に察知されない。更にこのアーチャーの千里眼には透視機能あり、壁抜きの狙撃が可能。
マスター暗殺向きのスキルだがサーヴァント本人は使わない。

好々爺然:A
防衛・集団戦において有利な補正を与える計略スキル。
相手の戦意を抑制し、話し合いや一騎打ちに持ち込む事ができる。


【宝具】
『弓神無双〈ゴッド・アロー〉』
ランク:A 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1〜999 最大補足:レンジ内全て
弓矢作成スキルから放たれる全方位射撃、遠距離射爆。

無駄射ちなし。誤射なし。その矢は一時停止から後進まで可能な誘導弾。その放つ矢の数だけ命を捕るその攻撃範囲は冬木市全域をカバーできるほどのMAP兵器。
しかし、矢の数だけ魔力を消費するため、この宝具の乱用は禁物。

【 weapon 】
・象鼻刀
愛用の曲刀。変形して弓になる。

・弓矢
宝具によって生成された矛にも見えるほど長大な鏃。
射らずに相手を斬りつける象鼻刀との二刀流で白兵戦をこなす。
また放った矢に飛び乗って移動が可能。サーヴァントではなくクリスちゃんが移動できる。

【人物背景】
中国後漢末期、蜀漢の将軍。
三国志・五虎将軍の一人。
劉備に仕え、夏候淵を討ち取った征西将軍。
乱世の戦場を常に前線で駆け抜けながらも、天寿を全うした最強の老兵。 義に篤い壮士であった。
息子が早生したためか、何故かマスターのクリスを孫のように見ている…‥。傍目にはただの寂しいお爺ちゃん。

【サーヴァントとしての願い】
クリスちゃんを無事に元の世界へ帰す。
生前果たせなかった武人として死すこと。


519 : クリスちゃん、黄忠に会う ◆WqjPzMBpm6 :2017/07/10(月) 12:22:18 MBgYkdvQ0
【出展】戦姫絶唱シンフォギアXD
【マスター】雪音クリス
【人物背景】

みんなアニメ見て、ゲームやろ!

聖遺物・ギャランホルンの転送事故により舞い下りる。
年齢16歳 。聖遺物第2号・イチイバルの適合者。
政情不安の国バルベルデにて両親を失った天外孤独の少女。
現在はなんやかんやあったが、ちゃっかり良いポジションに着いて、国連直轄となる超常災害対策本部タクスフォースS.O.N.Gに所属しながら私立リディアン音楽院に通っている。
奏者の中でも特にバトルセンスに長けた、ツンツンしながらも困ってる人はついつい助けちゃう性格。

【能力・技能】 
・FG式回天特機装束・シンフォギア
神話の遺産・聖遺物の欠片を口ずさむ歌の力で解放する事によって現代兵器を凌駕する戦闘能力を生み出す異端技術《ブラックアート》の結晶。
そのバリアコーティングは銃弾を弾き、宇宙空間の活動を可能とする。

【 weapon 】
・アームドギア・イチイバル
可変・変形ギミックを内蔵し、行使する技や使用法に応じて特性や形態を変化させる。
クロスボウ、ライフル、3×4連装ガトリング砲やミサイルにより火器弾薬で広範囲の敵を殲滅する 。
その他近接戦闘のガン=カタなど近距離も遠距離もバリエーションは多彩。

・リフレクター
腰のアーマーから展開されるリフレクタービットは、月への攻撃を阻止した。

・アーマーパージ
奥の手。纏ったギアを強制解除する事で散弾のように射出する。
使用後は服が再構成されるまで全裸になる。

※限定解除後は追尾レーザーによる制圧射撃が可能なアームドギア一体型の飛翔支援ユニットに搭乗する。

【 マスター 願い】
状況の解決。元の世界に帰りたい。
聖杯に求める願いは今のところない……。


投下終了。


520 : ◆z1xMaBakRA :2017/07/11(火) 00:09:05 zwPSzfNg0
後20日で〆切ですので、どんどん投げて行きましょう

投下します


521 : クロエ・フォン・アインツベルン&セイバー ◆z1xMaBakRA :2017/07/11(火) 00:09:36 zwPSzfNg0
 端的に言ってしまえば、少女の望みだったものは、この聖杯戦争に招かれた時点で、既に叶ってしまったと言う事になる。
――望みだった、叶ってしまった、と言う表現からも窺える通り、彼女にとってその願いは望むべくものでは最早ないのであるが。

 イリヤスフィール……もとい、『クロエ・フォン・アインツベルン』は、イリヤ、と言う一人の少女より生まれた、正真正銘のもう一人のイリヤであった。
同じ顔、同じ背格好をしていながら、有している知識の総数で、イリヤに勝っていたクロエは、自身がこの世に生れ落ちた真の理由に忠実だった。
クロエは、自分――イリヤ――が、アインツベルンが聖杯戦争を勝ち残る為の鍵である、聖杯の器として生み出された存在である事を認識していた。
認識していたからこそ、クロエは、己のレゾンデートルに忠実であろうとしたのだ。

 母の胎内(からだ)の中にいた頃より聖杯としての力を調整され続け、生れ落ちて数ヶ月も経たぬ内に、言葉や知識を埋め込まされていた彼女はしかし、
その役目を果たす事もなく封印され、運よくこの地上に身体を得て見れば、存在意義たる聖杯戦争すらも既に解体されていて。
自分には既に、居場所もなく、生きる意味もない事を理解した彼女。後は好き放題振る舞って来たツケでも支払うように、世界から消え去るだけの……筈だった。
そんな彼女に、生きていても良いと、認めてくれた少女がいた。クロエ自身が心の底から敵視し、そして、自らの手で殺して全てを奪おうとした、イリヤと言う名の泣き虫。
聖杯戦争だけが、嘗ての存在意義であった少女に、それ以外の生きる意味を与えてくれた少女の事を、クロエは、忘れはしないのである。

 何の因果なのだろうか。
自分は今、夜の冬木の海沿いの砂浜にいた。自分の元居た世界と同じ市名、同じ立地に同じ街並みと、まるで鏡写しの様な街。
そう、此処は確かに、クロエの知る冬木の街だった。だが、違う。此処は冬木市であって、冬木市じゃない。
何故なら――この街には、聖杯戦争がこれから起ころうとしているのだ。クロエが自身の生きる意味だと嘗て思い込んでいたあの戦いが、この街では本当に起ころうとしているのだ。

 昔なら。小聖杯として育っていたのであれば、今の現状をきっと喜んでいたのだろう。
だが今は、全く喜べなかった。自分が傷つく事を、良しとしない少女・イリヤと、その友人や知り合い達の存在、彼らとの絆は明白にクロエを変えてしまった。
自分は、もう違うのだ。家族がいて、友達がいて、テストが嫌だと仲間と愚痴り、しかしそれでも勉強はしなくてはいけなくて。
時には仲間と部活に精を出し、時には仲間とたまの夏や冬休みの時期に、何処かに旅行に行って。そして、一日の終わりに家族と一緒にご飯を食べて。
そんな、何処の誰もが経験する普通の生活を、クロエは送っていたい。普通に、生きたい。それが今の彼女の願いであった。
皮肉であった。自分が本当に叶えたい願いが叶っている最中の今になって、過去の叶えたかった願いが成就されようとしているなど。

 聖杯戦争は、もうクロエにとっての全てではなかった。況して、叶えるべき、叶えたいと言う願いですらもない。
自分が死ねば、泣き虫イリヤは泣きわめくだろう。美遊は、あのクールな鉄面皮に何かの動きを与えるだろうか。ママのアイリは、後悔するのか。
それを思うと、クロエは聖杯戦争で死ぬ訳には行かなかった。聖杯戦争で、人を殺すのもごめんであった。
昔なら、ああ仕方ないで割り切れていた事柄が、今では全く割り切れない。そして、クロエはその心境の変化に全くの後悔も抱いていない。
それで良いのだ。自分は変わった。そしてその変化を、クロエ自身は良い変化だと思っていた。
だって、彼女はその変化で、良い笑顔を浮かべられるようになったのだから。そんな笑顔を浮かべられる変化は、良い変化に決まっているのだ。


522 : クロエ・フォン・アインツベルン&セイバー ◆z1xMaBakRA :2017/07/11(火) 00:10:09 zwPSzfNg0
 聖杯戦争には、乗らない。それよりも何よりも、今自分はこんな事をしている場合ではないのだと、クロエは思い出す。
黒い泥の様な何かに呑まれたと言う美遊、神話の世界での出来事を再現してみせた様な力を奮う黒泥の主。
その主を倒したかと思いきや、突如として現れた二名の女性達。そして、空が割れ、ドーム状の光が巻き起こり――気づけばクロエは此処にいた。
穂群原小学校の制服――この世界にはロールと言うものが有り、クロエは元の世界同様の学校の生徒として生活しなければならないらしい――の懐にしまってある、
一枚のカード。それをクロエは取り出した。これこそが、今彼女がこの冬木市にいる原因となったもの。何処ぞから何時の間に、このカードは現れ、
気付けば彼女はこれを握っていたと言う訳である。その結果が、ご覧の有様だ。憎むべきカードなのか、それともあの状況から自分を救ってくれたカードなのか。
それはクロエにも解らない。確かなのは、これは明白に『クラスカード』とは違うものであると言う事。
サーヴァントのクラスを象徴する刻印ではなく、十二星座が刻印されている所からも、その点は明らかだ。クロエのカードには、ふたご座が刻印されていた。
イリヤの一件も考えると、不気味な程符合が一致している辺り、気味の悪いカードだ。だが、この世界に自分を招き入れるだけの力や現象があると言う事は、
逆説的に、元の世界に戻す方法もあると言う事。希望は、ゼロではない。何としてでも、クロエはイリヤや美遊の下まで戻らなければならないのだ。

 ――ならない、のに。

「どうなってんだ? 今の中国(なかつくに)はよ」

 砂浜の上をザッザッ、と。無遠慮な音を立てて歩く者がいた。年若い、二十かそこらの男の声だった。
知性的とは呼べない、チンピラの様な声音のする方に、クロエが振り返る。唐草模様の風呂敷を肩に掛けた、褐色の肌の男がいた。
鍛え上げられている事がクロエにも解る、ギリシャ彫像を思わせる黄金比を体現したような均整の取れた身体つき。
それでいて、搭載されている筋肉量は格闘家のみならず、ボディビルダーですら裸足で逃げ出す程のそれ。
誰に出しても恥ずかしくない身体なのか、その茶色の髪の男は、黒い褌を一丁巻いただけの姿だった。
だが、それが異様に様になっているのは、きっと男の身体つきが極めて完成されたそれだからなのであろう。

 ……だが、男の身体に刻まれた、黒色に光る、大樹の根が絡み合うような意匠の刺青は、何だ。
刺青と言えば、イリヤやクロエの知識では、そちらのスジの人間が付けるような、般若や桜吹雪、花魁や龍と言った、誰が見ても『絵』であると解るそれの筈。
目の前の男に刻まれている刺青は、絵と言うよりは何かの『モティーフ』だ。モティーフにしても、植物の根にする意図が解らない。
その、不気味な刺青がまた、クロエの身体に威圧感と言うものを叩き込む。

 結論を、述べる。目の前にいる男こそが、クロエの引き当てたサーヴァント。
並行世界と呼ぶべき冬木で行われる聖杯戦争に於いて、彼女と一蓮托生の存在。そして、クロエがこの冬木を抜け出すまでの、パートナー。
その真名を、『アテルイ』と言う。平安時代初期の日本国において、蝦夷の軍事的指導者であった男。成程、サーヴァントとしての風格や風情は申し分ない。
だが、クロエは――目の前の男が、嫌いだった。目の前の男が、元の世界に自分が戻る為の大事な相棒であると理解した上での評価だ。

「ちぃと辺りをぶらついたら、黒い影法師みたいな奴らの襲撃にあっちまった。俺の生きてた時代には、あんな化生はいなかった筈だがな」

「倒せたの?」

「でなきゃ愛しのハニーの所にこれないだろ?」

 誰が愛しのハニーよ、と。クロエに向けてウィンクを送るアテルイに、侮蔑の目線を送った。
その目線に肩を竦めさせたアテルイは、肩に掛けた風呂敷の裏地から何かを取り出し、それをクロエの下に放り投げた。
巾着袋である。砂地の落ちた際に生じた音から察するに、空ではない。何かが入っている。

「何、これ」

「その影法師共の落した、砂……っつーか、塵か? 魔力の集積体だ、今のマスターの腹の足しにはなるだろ、持っとけや」


523 : クロエ・フォン・アインツベルン&セイバー ◆z1xMaBakRA :2017/07/11(火) 00:10:35 zwPSzfNg0
 恐る恐るクロエは、アテルイの投げた巾着袋を広い、それの中身を見てみる。
紫色の砂のような物が、確かに入っている。しかも、彼の言う通り極めて高い魔力をこれ自体が有している。
クロエは目で見て触れられる少女ではあるが、彼女の本質は肉ではない。彼女は、その全てを魔力で構築された存在である。
何もせずとも魔力を消費して行く彼女にとって、サーヴァントの分の魔力の負担……しかも、ステータスとスキル、宝具のどの観点から見ても、
一級品以外の評価を下しようがないアテルイを維持するとなると、平時ならばすぐにイリヤとキスをし魔力の快復を量らねばならない程だ。
……だが、この世界ではどうにも、『魔力の減りが元居た世界よりも遅い』。当初は奇妙に感じたクロエだったが、今はその奇妙な現象が有り難い。
その上に、アテルイの持って来た紫の塵である。これで幾許か、この世界でクロエとしての形を維持する事の出来る時間に余裕が持てる。
少なくとも、いきなり魔力が霧散すると言う不様な結果だけは避けられる。

 そんな、目に見えて優れた働きをしたアテルイに対して、何故未だに、クロエは侮蔑の目線を隠さないのか。
それは、単純明快。クロエは子供の姿と、子供に若干近い精神性こそ持ってはいるが、知識だけなら下手な大人を上回る。
その知識が――アテルイがその影法師と何をしたのか、その答えを導き出していたのだ。彼の身体から香る、汗と、精臭。何をして来たかなど、明白だ。

「セイバー。本当に、影法師を殺して来ただけなのね」

「あたぼうよ」

「嘘はつかないで。……それ以外に、何か……」

 赤面して何かを告げようとするクロエを見て、嫌らしい笑みをアテルイが浮かべた。
一秒後、顔を抑えて、砂地が震える程の爆笑を炸裂させた彼は、ひとしきり笑い終えた後、粘ついた光を宿す黒瞳でクロエの事を睨めつけた。

「最近のお子ちゃまってのはマセてんね〜。何だ、次はマスター自身がお相手してくれるのか? いいぜいいぜ、大歓迎だ。アンタァ、俺の好みだしな」

「ふざけないで!! 誰がアンタみたいな最低男!!」

 キス魔だ何だと言われて、性的なイメージで見られていた事はクロエ自身も重々承知している。 
だが、性に放埓放恣ではないと、彼女は信じていた。目の前で下卑た笑みを浮かべる男には、身体を重ねる事は勿論、キスですら御免であった。

「――なぁに気取ってんだよ、ガキ」

 チャラついた、軽い声の調子が、一転した。
そうとクロエが認識するよりも早く、アテルイは、瞬間移動と見紛うような速さで、クロエの眼前へと移動。
首筋に、ヒヤリと冷たい物を当てられている感覚を、彼女は一瞬憶え――それの正体を認識した瞬間、身体が硬直した。
剣である。セイバークラスの所以だろうと考えられる、サンドブラスト加工を施したようにザラついた表面が特徴的な、
灰色の直剣の剣身が、クロエの首の皮膚に当てられているのだ。クロエを見下すようにアテルイは、右手に握ったその直剣をクロエの柔肌に当て続ける。

「第一、テメェが何もしてねぇのに魔力を勝手に消費して行く難儀でクソ使えねぇ体質だから、俺も困ってんだろうが」

 蓋しの正論過ぎて、クロエは思わず歯噛みする。

「目の前に殺意を向けて来た、とってもマブい女がいました。さて、男だったら如何するよ。犯すに決まってんだろ? その上魔力も回復するんだ、良い事尽くめ。腕を肘の辺りから斬り飛ばしてよ、脚を膝から下四回ぐらい圧し折ってよ、気の強い女を犯すとどうなると思う? 泣き叫びながら罵詈雑言をこれでもかと飛ばす癖に、抵抗も出来ねぇから屈辱的な憂き目にあわされる。ハハッ!! それがよ、俺の心を満たすんだよ!! 気持ち良くて、心も満たされ、魔力も満ちる!! その上お前も消えずに済む!! 良い事しかねぇだろうが、責められる謂れもねぇよ!!」

 この男は、破綻している。クロエは、とても少女に熱を込めて力説するとは思えない内容の事を口走るアテルイを見て、そう感じた。
だがアテルイが、己の男根を中心に物事を考えるだけの男なら、強い嫌悪こそ感じはすれど、此処までの敵対心は憶えなかった。
事実、アテルイの言う通り、彼のやった事は結果的にはクロエの為にもなる事である、と言う点は事実なのであるから。
それ以上に、問題だったのは、次にクロエが口走ろうとしていた、あるもう一つの事実だった。


524 : クロエ・フォン・アインツベルン&セイバー ◆z1xMaBakRA :2017/07/11(火) 00:11:18 zwPSzfNg0
「セイバー……」

「あ?」

「……この巾着袋、何処で手に入れたの?」

 単純な話だ。クロエは、アテルイにこんな物を預けた覚えはない。 
となれば、この男の性格から考えて、導き出される答えは、一つ。

「震えた声で聞いちゃって、可愛いねぇ」

 口の端を吊り上げて、アテルイが言った。

「元の持ち主を殺して、に決まってんだろ? 影法師と戦ってる所を散歩中のババァに見られたんでな、斬り刻んだ。あぁ、でもよ、これは間違っちゃねぇだろ? 神秘の秘匿、だっけか。重要なんだろ? それよ」

 次に飛び出させるつもりだった言葉が舌の上で蒸発し、しかし、頭蓋の中に熱して溶かした鉛を注ぎ込まれる様に怒りで熱くなって行くのを、クロエは憶えた。
これが、自分の呼び出した、サーヴァント? サーヴァントは、生前縁のあった触媒を用意しないでの召喚の場合、その存在と一番縁深い存在が、
呼び出されると聞く。これが、自分と一番縁の深い存在であると? それを思った瞬間、クロエは、どす黒い殺気の籠った瞳で、アテルイの事を睨まずにはいられなかった。

「心配すんなよ、マイ・ハァニー。俺は俺の邪魔をしない限り、一蓮托生のお前を殺す程馬鹿じゃぁない。俺は最強だ、マスターが殺せって言われたらどんな強いサーヴァントだろうが剣の錆にでもしてやんよ」

 そこで、首筋に当てていた剣をクロエから離して、ニヤ、っとアテルイが嗤った。

「一緒に進もうじゃねぇかよ、マスター。このクソッタレな葦原中国を、悪徳と暴虐の坩堝に叩き落とす為によぉ」

 月を背負ってゲラゲラ笑うアテルイの姿を見て、クロエは、絶対に元の世界に戻ると同時に、令呪で、この男を抹殺しようと、固く決意したのであった。




【クラス】セイバー
【真名】アテルイ
【出典】史実(日本:生年不明〜AC802年9月17日)、続日本記等
【性別】男性
【身長・体重】183cm、75kg
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力:A+ 耐久:A 敏捷:A 魔力:B 幸運:D 宝具:A

【クラス別スキル】

対魔力:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。事実上、魔術ではセイバーに傷をつけられない。

騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【固有スキル】

神性:D
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。

堕天の魔:A+
魔性や悪性の属性を付与された時に獲得するスキル。このスキルのランクは、その付与された属性の強さの度合いを表す。
ランクA+は、意図的に第三者の手によって属性が付与された訳でもない限りは、主神或いはそれに近しい神格の神霊が、悪魔や鬼にでも貶められねば、獲得は不可能なランク。悪属性のサーヴァント達による全ての害意ある干渉の威力を、ツーランクダウンさせる。

鬼種の魔:B+++
鬼の異能および魔性を表すスキル。天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキル。
魔力放出の形態は、セイバーの場合は『嵐』であり、相手の身体を爆散させる程の風や、低ランクの剣宝具並の切れ味を誇るカマイタチ等の創造を可能とする。
セイバーは厳密には鬼ではない。ただ、古の昔、数多く喰らってきた鬼に含まれていた、鬼の因子と、生来備わっていた神の因子が融合を起こし、このような値になってしまった。

心眼:A
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。


525 : クロエ・フォン・アインツベルン&セイバー ◆z1xMaBakRA :2017/07/11(火) 00:11:47 zwPSzfNg0
【宝具】

『天十握剣(ほろぼされるいのち、とおではきかず)』
ランク:B++ 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜10
セイバーに残された、スサノオの司る武芸の権能及び超常の絶技の体系が宝具となったもの。
記紀神話に度々名前の語られる神代三剣の名前を司っているが、上記の通りこの宝具は『剣が宝具となったものではなく』、セイバーの有する技術と能力が宝具となったもの。
セイバーは手にした剣及び、剣に似た形状の武器に、宝具ランク相当の神秘と切れ味及び攻撃力の付与が可能となる。
そして、この宝具によって強化された武器は、相手の身体を斬り裂くだけでなく、『相手の存在していると言う事実』を斬り裂く。
これによって、相手は如何に高ランクの防御ステータスを持ち、どんな防御スキルや防具、宝具を持っていようとも、其処に在ると言う事実が斬られている為、
直撃してしまえば元のダメージに加算される形で更に大ダメージを負い、神秘を帯びた防具や宝具で防御しようにも、存在すると言う事実を斬られている為、
一見して無傷で攻撃を防いだと思っても、実際にはダメージを負っているので、防御し続ければいつかは破壊されてしまう。
防御には最低でもAランク以上の、空間遮断以上の防御能力が必要。それ以下のランクでは、セイバーの超常の膂力と技術力で、空間を遮断したとてその空間ごと破壊されてしまう。

『朝征陽殺(ほうむるべきいのち、よろずにとどけ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
セイバーが生前喰らって来た、朝廷によって住処を追われた力ある種族及び妖怪達、そして真正の鬼達の力及び能力の、全呪解放。
発動すると刻まれた刺青から黒い瘴気が噴出し、それが厳めしい鬼をモチーフにした鎧を形成。その状態になると、全てのステータスに+の補正が一つつくだけでなく、
攻撃どころか呼吸、目線に及ぶ、セイバーが行う、及び発散する全ての物事に、上述の『天十握剣』の効果が適用される。
目線を合せて睨みつけるだけで、相手の身体はズタズタに斬り裂かれ、呼吸をするだけで周囲の存在は真っ二つになり、高速で移動するその余波で、
C〜Bランク相当の斬撃が刻まれ続けると、この状態のセイバーは生きた斬撃兵器と化す。唯一の欠点は、魔力の消費量であり、現状のマスターの弱点を鑑みるに、乱発は出来ない切り札である。

【weapon】

無銘・骨剣:
生前殺した鬼の骨を加工して作り上げた、刃渡り一mを大きく超える直剣。
サンドブラスト加工を施した様にざらついた表面の剣身を持った、灰色の剣であり、これが正真正銘の天十握剣、と言う訳では勿論ない。

【解説】

アテルイ、或いは悪路王と時に呼ばれるこの存在の正体は、今も謎に包まれている。
平安時代初期、当時の大和朝廷から敵と認識されていた、蝦夷の軍事指導者であり、坂上田村麻呂と激戦を繰り広げた後、処刑された、
と言う事が歴史書には記述されているが、彼の詳しい人となりについては一切が不明。
性格は元よりその体格、何よりも、田村麻呂との戦いの模様についても、田村麻呂の戦力数とアテルイの戦力数についてざっくばらんに説明し、
どちらが勝ったのかと言う結果のみしか記されていないと、ヒステリーとしか思えぬ程、アテルイについて詳しい記述が控えられている。


526 : クロエ・フォン・アインツベルン&セイバー ◆z1xMaBakRA :2017/07/11(火) 00:12:08 zwPSzfNg0
その正体は、『高天原から追放される際に、記紀神話の神々から強制的に分離させられた、素戔嗚尊(スサノオノミコト)の純粋なる悪の部分』そのもの。
スサノオは幼年時代と青年時代とでは、余りにも性格に違いがあった。幼年〜少年期は、それこそ邪悪その物と呼ぶべき悪行を度々繰り返して来たが、
青年期になると少年期の悪逆非道さが嘘のように消え失せ、落ち着いた性格になり、神としての威厳や、大人物と呼ぶべき風格を取り戻した。
この性格の違いの真実は何て事はなく、姉である天照大神が天岩戸に閉じこもらざるを得なくなった程の悪行であった、逆剥ぎの一件で、
とうとう天津神達が我慢の限界を迎え、強制的にスサノオから、悪の部分を全て抽出、分離。その上で二名を、地上へと追放したのである。
この一件で、善の方のスサノオは力が完全な状態の9割にまで低下させられてしまうが、悪の方のスサノオは、残りの1割の力しかなかった。
当時はまだ神代の世界であったが為に、如何に悪のスサノオとは言え、1割の力しか発揮出来ぬようでは死んだも同然。と言うのが、神々の見解だった。
だが、悪のスサノオは生きのびた。己の力で、妖怪や鬼を殺し、喰らい続け、力を蓄え続け、魔性の者と成り果てながら、彼は生存。
それどころか、多くの天津神、それこそ姉のアマテラスや善のスサノオですら、他の神霊同様に世界の裏側に隠れてなお、悪のスサノオは地上に残り続けた。
永い時をかけて成長した悪のスサノオは、己を地上に叩き落とした天津神や、姉であるアマテラスの直系である、天皇家を滅ぼさんと画策。
それはつまり、日本の転覆に等しかった。そこで悪のスサノオは、当時の東北を拠点に、鬼や魔の者達で構成された大軍勢を結束。それが、蝦夷であった。
この時から己の名を『アテルイ』と改名、それこそ日本が本当に滅ばん限りの悪逆非道を尽くそうとしたが、流石に此処までの暴挙は許されない。
天津神のみならず、仏達の加護を得た坂上田村麻呂が、鈴鹿御前とのタッグを組み、二名が死ぬ一歩寸前まで追い込まれて漸く倒された魔王。
それこそが、このアテルイであった。これだけ特徴的だった男が、異様に記述の少なかった訳は、単純明快。彼の正体が曲りなりにも日本人の総氏神とも呼ぶべき女神の弟、それから別たれた悪の部分であり、しかも別たせた者がよりにもよって天津神であった、と言う事を記述する訳には行かなかったからに他ならない。アテルイは、意図的に存在を秘匿された侵略者であった。

スサノオから抽出された純粋悪な物であるから、およそ善の要素など欠片たりとも存在しない。正真正銘の悪性そのもの。
加えて、抽出した元がスサノオであるから、その趣味趣向まで似たり寄ったり。早い話、マザコン、シスコン、ロリコンの三重苦。
ただ殺し、ただ犯し、ただ盗む、悪の中の悪であり、通常こんな存在は狙っても呼び出せない。
それにもかかわらず、クロエがこんな化物を呼び寄せられたのは、彼女がイリヤから分かたれた存在であり、アテルイもまた、
スサノオから分かたれた存在である事に起因する。聖杯に掛ける願いは、日本と言う国家の転覆と荒廃。嘗て敵視した姉や善のスサノオが消えた世界と解っていても、この男はこんな荒唐無稽な行為に身を染めるのである。

ちなみに宝具の天十握剣は、スサノオの有する武神・戦神としての権能が、これでもかと言う程落魄してあのランク。
真実本物のスサノオで、かつ本物の天十握剣を握った状態で行われるこの宝具は、このアテルイが振うそれを遥かに超越する程の威力を誇る。

【特徴】

唐草模様の風呂敷を肩に掛けた、茶色の髪をした褐色の肌で、黒い褌を一丁巻いただけの姿の男。
ギリシャ彫像を思わせる黄金比を体現したような均整の取れた鍛え上げられた身体つきを誇る。
身体には刻まれた、黒色に光る、大樹の根が絡み合うような意匠の刺青が刻まれている。

【聖杯にかける願い】

国家転覆


527 : クロエ・フォン・アインツベルン&セイバー ◆z1xMaBakRA :2017/07/11(火) 00:12:23 zwPSzfNg0





【マスター】

クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【マスターとしての願い】

この世界からの脱出。場合によっては、聖杯戦争をも止める。

【weapon】

投影した宝具及び武器など。

【能力・技能】

現界の触媒であるアーチャーのクラスカードによって英霊化の状態にあり、身体能力は人間以上。
アーチャーの能力である投影魔術を苦もなく発揮し、その戦闘能力は高い。
アーチャー同様に『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』を使いこなし、刀剣で壁を作るなど機転が利き、状況判断にも優れている。
また、限定的ながら願望機である聖杯の能力も持っていて、望んだ魔術を理論や過程をすっ飛ばして行使することが(クロの魔力の及ぶ範囲で)可能。
投影魔術を苦もなく行使できるのはそれに特化した英霊の能力のみならずこの能力の賜物でもある。加えて大抵の拘束魔術は無効化し、転移魔術も操れる。
しかし、その肉体は魔力によって維持されており何もしなくとも常に消費されているため、枯渇する前に何らかの方法で魔力を補給しなければならない。
クロがキス魔なのは魔力補給の手段として手っ取り早かったためらしい。

……だが、今回の冬木市は何処か異常らしく、クロエの平時の魔力の消費量が『遅くなっている(尤も、普通のマスターに比べればその消費量は早めではある)』

【人物背景】

もともとはイリヤが赤ん坊だった頃に、アイリによって機能と知識と記憶を封印された『本来のイリヤ』。
この封じられた記憶がいつしかイリヤの中で育ち「一つの人格」が出来上がり、ついに肉体を得た存在。
イリヤが危機におちいった際、封印が一時的に解かれ、危機を回避した後に再封印される、というプロセスを経るはずだったが、
円蔵山の地下大空洞の地脈逆流時に危機を回避しようとした際、地下に眠っていた『大聖杯の術式』の力により「弓兵」のクラスカードを核として受肉化した。

2wei!最終巻以降の時間軸から参戦

【方針】

脱出の為の情報探索。アテルイを出しぬく


528 : クロエ・フォン・アインツベルン&セイバー ◆z1xMaBakRA :2017/07/11(火) 00:12:33 zwPSzfNg0
投下を終了します


529 : ◆W9/vTj7sAM :2017/07/12(水) 01:03:27 tZ0AOB.20
企画主様の後で恐縮ですが投下させていただきます。


530 : ◆W9/vTj7sAM :2017/07/12(水) 01:06:57 tZ0AOB.20
彼を召喚した時、私が抱いた思いは三つある。
一つ目は、刀を下げた彼は間違いなくセイバーで、私は賭けに勝ったのだということ。
二つ目は英雄にしてはやけに若いな、ということ。
三つ目は――英雄って、こんなに禍々しいものだったかしら、ということ。
「サーヴァント、セイバー。主君の命に応じ推参しました」
彼は主君……マスターたる私に丁寧なお辞儀をした。
黒い学ランのような上着に身を包み、下には白い袴を履いている。
その両方共が彼の体にきちんと合っていないようで、すこし緊張したような声色と相まって初々しい雰囲気を醸し出している。人類史に名を残した英雄にしてはまあ、なんとも間抜けなものだ。
私が先程抱いた印象とは裏腹に、直立して返答を待つ彼の様子には禍々しさなんて欠片も感じられなかった。
「私は遠坂凛、あなたのマスターよ。よろしくね、セイバー」……まあいいや。きっと英霊特有の強烈な存在感に当てられてしまったのだろう。
遠坂家の当主として使い魔に圧倒されるなんて少し恥ずかしい気もするが、それだけ強大な英霊を引き当てられたってことでプラスマイナスゼロにしよう。
「……はい、よろしくお願いします」
主君、それも女である私の手を取るのは少し抵抗があったのだろう。少しの逡巡の後、セイバーは遠慮がちに手を差し出し、そして握り返した。
セイバーの手は私よりも一回り大きく、ごつごつと節くれ立っていた。全体的な外見は私の一つか二つ年下に見えるのだが、この両手だけは彼本来の年齢より十や二十は上の熟練の武芸者を思わせる逞しさで、私は改めて安堵した。
私とセイバーなら、この聖杯戦争、必ず勝ち抜けるはず……!


531 : ◆W9/vTj7sAM :2017/07/12(水) 01:09:44 tZ0AOB.20





「……えーっと、今のは私の聞き間違いかしら。ごめんなさいセイバー、今言ったこと、もう一度だけ言ってくれる?」
「……私は、生前において実戦経験などほとんどありません。
一応身体能力と剣術技能はどうにかなっているようですが、それはあくまで与えられただけのもの。実際に敵と切り結んだ時にどうなるかは、恥ずかしながらなんとも言えません」
「今の言い方からするに、実際に人を斬ったこともないってわけ?」
「はい。なにせ未熟者ですから、絶対に敵とは正面から斬り合わず、できるだけ大人数で、この銃で奇襲を掛けるように、初陣では言いつけられておりました」
そう言って、セイバーは背負っていた銃を下ろし、座っている自分自身の膝の上に載せた。
古い銃だ。デザインを見るにおそらく火縄銃よりは幾分かマシな程度の、幕末あたりの粗悪品だろう。
「つまりあなたは、単独で戦況を変えられるほどの戦力ではなく」
「はい」
「ただ指示を受けて戦うだけの役柄で」
「はい」
「さりとてそれで特に突出していたわけでもない、集団の中のただの一人だった」
「はい」
「……今更だけど、あなたの真名を教えてくれるかしら?」
「はい。私は白虎士中二番隊隊士、飯沼貞吉です」
「白虎隊……ってあの会津藩の?」
私の問いにセイバー……飯沼貞吉という名の少年は目を輝かせ、ソファーから身を乗り出すようにして答えた。
「ええ、会津の白虎隊です。もしかして、僕達、いえ私達は、後世に名前を残すことができたのでしょうか?」
「名前は……確かに有名よ。故郷を守るために戦って、そして自害した悲劇の少年たち。
一人一人の名前まで知っている人は少ないだろうけど、義務教育を終わらせた人間なら白虎隊のお話自体は大体知ってるんじゃないかしら」
そこまで言って、私はふとあることに気付いた。
人道的に考えて聞いていいことでは無いと思うが、遠坂凛が魔術師で、聖杯戦争の優勝を目指すものであるからには、サーヴァントのことについてはなんでも知っておかなければならない。


532 : ◆W9/vTj7sAM :2017/07/12(水) 01:13:07 tZ0AOB.20
「あなたも、その……自害したうちの一人なの?」
「いえ、私は……」セイバーは言い淀み、自分の喉に手を当てた。よく見てみると彼の喉の真ん中にはナイフを突き刺したような傷跡が残っている。
セイバーは幾度かその傷を撫でた後、私の目をまっすぐに見て言った。
「白虎士中二番隊は会津を守るために戦い、そして敵に辱めを受けぬように自刃した。それは確かです。
あれから百余年経った今でも私達の……いえ、彼らの誇り高い最期が伝わっているというのは、本当に嬉しいことです」
「彼ら、ってことは」私の声に、セイバーはふと自嘲的な笑みを浮かべた。
「ご推察のとおりです。
――僕は、死ねなかった。喉を切り損ね、惨めにも農民に介錯を乞うて無視され、無様にも長州に拾われおちおちと生き延びた。
私は、僕は、俺は、自分がわからない。かつてヒトであった僕がなぜのうのうと生きていたのか。
記録としては知っていても、私の記憶からはなにも読み取れない。俺の心には何もありません。ただ……ひたすらに無念です」
その言葉はあまりにも儚く、こどもが浮かべてはいけないほどに孤高で、殴りたくなるくらいにからっぽだった。
乾いた布から無理やり水を絞り出すように紡がれるセイバーの静かな叫びを聞いて、私は、遠坂凛はこう言った。
「聖杯戦争、勝ちましょうね」そしてそれに答える声も、また簡素なものだった。
「もちろんです。我が主よ」
あるいは、私も、彼も、こう言う他になにもできなかったのだと思う。
彼の言葉には――語弊を恐れずに表現するなら、何もなかった。
彼は自身の胸中に無念を抱いていると述べたが、私にはそれすらも感じられず、与えられた役割を演じているだけのように見えて――。

「……これも心の贅肉ね。次は絶対にないんだから」

だからこそ私は彼に同情か、あるいはそれに等しいなにかを抱いてしまった。
要するに、私はこのからっぽの少年を、救いたいと思ってしまったのだ。


533 : ◆W9/vTj7sAM :2017/07/12(水) 01:14:47 tZ0AOB.20






ひとつ、年長者の言うことに背いてはなりませぬ

ひとつ、年長者にはお辞儀をしなければなりませぬ

ひとつ、うそを言うことはなりませぬ

ひとつ、卑怯な振舞をしてはなりませぬ

ひとつ、弱い者をいじめてはなりませぬ

ひとつ、戸外で物を食べてはなりませぬ

ひとつ、戸外でおんなと言葉を交えてはなりませぬ


たとえ、どのような理由があろうとも――




――――――ならぬことはならぬものです


534 : ◆W9/vTj7sAM :2017/07/12(水) 01:17:20 tZ0AOB.20
【マスター】遠坂凛
【マスターとしての願い】聖杯戦争で優勝する。
【weapon】魔術と体術をそこそこ。
【能力・技能】
宝石魔術:自身の魔力を籠めた宝石を用いて様々な物理的現象を引き起こす。
効果は強力だが、宝石はそれ自体が希少で高価なうえ、魔力を込めるには数ヶ月単位での時間がかかるため、凛は基本的にこの魔術を使用したがらない。
現在の彼女は、(強力な対魔力を持たない)サーヴァント相手にも一定の影響を与えられるレベルの魔力が籠められた宝石を十個所持している。

【人物背景】魔術の名門、遠坂家の一人娘。通常魔術師は一つか、多くて二つの属性の魔術しか扱うことが出来ないが、凛はアベレージ・ワンと呼ばれる五大元素全てを操れる稀有な才能の持ち主である。
かといって才能にあぐらをかいて努力を怠るような性分ではなく、「遠坂は常に余裕を持って優雅たれ」という家訓に背くことが無いよう、人前では常に完璧超人としての振る舞いを見せている。
ただし性根はあかいあくま、なおかつ、どうしても魔術師として非情になりきれないお人好しのうっかり屋。

【方針】
ひとまず情報収集。
戦闘経験の少なさから搦め手に弱く、単純な戦闘能力で勝てない相手にはどうにも対処できないセイバーが聖杯戦争を勝ち抜くにあたって、邪魔になりそうなサーヴァント同士が潰し合うように仕向けたい。


535 : ◆W9/vTj7sAM :2017/07/12(水) 01:20:44 tZ0AOB.20
【CLASS】セイバー
【真名】飯沼貞吉
【出典】史実
【性別】男
【身長・体重】175cm 65kg
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力:B 耐久:A 敏捷:A 魔力:E 幸運:E(EX) 宝具:C(EX)
【クラス別スキル】
対魔力:E 神秘が薄い時代に誕生した英霊のため、対魔力は殆ど無い。
騎乗:E 乗馬に関する経験、逸話が無いため、騎乗スキルは殆ど無い。
【固有スキル】
うたかたの夢:EXすぎし世は夢か現か白雲の空にうかべる心地こそすれ
ヒトの願望、幻想から生み出された生命体。願望から生まれたが故に強い力を保有するが、同時に一つの生命体としては永遠に認められない。
セイバーの場合、「英霊 飯沼貞吉」の存在がこのスキルによって作成されており、彼のサーヴァントとしてのステータスはこのスキルと日本での「白虎隊」としての知名度の高さによってのみ成立している。
このスキルの存在を知覚するには聖杯に劣らぬほどの魔力、あるいはサーヴァントとしての霊格が必要となる。

聖杯の寵愛: A 呪いにも等しい、聖杯を媒介とした人類からの寵愛。
本スキルの存在によって、セイバーの幸運値は跳ね上げられている。特定の条件なくしては突破できない敵サーヴァントの能力さえ突破可能。
ただしこの幸運は、他者の幸福を無慈悲に奪う。
このスキルの存在を知覚するには聖杯に劣らぬほどの魔力、あるいはサーヴァントとしての霊格が必要となる。

自陣防御:E 味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。防御限界値以上のダメージを軽減するが、自分は対象に含まれない。
セイバーは故郷を守るために戦いこそしたものの、守りきるどころか一時しのぎにすらならない程度の貢献しかしていないため、聖杯のバックアップを持ってしてもスキルランクが低くほとんど気休め程度の防御効果しか発生しない。
しかしセイバーは、自身がこのスキルを所持していることを誇りに思っている。

戦闘続行:A 名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。セイバー自身はこのスキルを「潔く死ぬことも出来ぬ卑怯さ」と表現している。


536 : ◆W9/vTj7sAM :2017/07/12(水) 01:23:07 tZ0AOB.20
【宝具】『白虎隊』ランク:C
『英霊 飯沼貞吉』本来の姿。飯盛山で自害した15人の白虎隊を英霊の影として使役できる。
召喚された白虎隊隊員は魔術師以外の人間からは不可視であり、さらにそれぞれDランク相当の気配遮断、単独行動スキルを付与されている。
ただし生物に直接触れることはできず、戦闘能力も十代の少年相当でしかない。
この宝具により召喚された白虎隊隊員は、彼らを視認できる者からは皆似たようなシルエットの黒い影として認識される。召喚者のセイバーにも隊員の区別は不可能であり、またコミュニケーションもセイバーからの一方的な命令のみが可能。
隊員は一人ずつ召喚することも、十五人同時に召喚して使役することも可能だが、隊員が一人消滅する毎にセイバーは精神に異常をきたし、十人が消滅した時点で精神汚染:Cをスキルとして獲得する。
このスキルを獲得したセイバーは主君の意向よりも、「会津藩士として相応しい行いかどうか」を指針として行動するようになる。
聖杯には英霊でもない白虎隊の隊員を記録する理由などどこにもない。この宝具により召喚される英霊の影はほかならぬセイバー自身の精神の分身であり、彼は現在のこの世界においてたった一人の白虎隊である。
そのことにセイバーは決して気付かない。ただもう一度仲間が消え行くことを悔い、嘆き、そして狂うのみである。

『什の掟(ならぬことはならぬものです)』ランク:EX
「若くして命を散らしていった白虎隊」「かわいそうなこども」その枠に入れなかった飯沼貞吉の生涯、あるいは運命を象徴する能力。
この宝具の存在を知覚するには聖杯に劣らぬほどの魔力、あるいはサーヴァントとしての霊格が必要となる。どちらにせよ、セイバーと遠坂凛だけでは認識不可能である。
「もし飯沼貞吉が英霊であれば、このような宝具を持っていたかもしれない」という可能性が人々の悲劇信仰により在り方を歪められたもの。宝具というよりも実質的には聖杯の呪いに近い。
彼の最も欲する願いは決して叶うことがなく、彼の最も欲する願いは彼以外が最も望ましく思う形で叶うことになる。
仲間とともに名誉の最期を遂げたかったのに一人だけ生き残ってしまった。
もう一度喉を突けば死ねたかもしれないのに、自刃するための脇差を農民に盜まれてしまった。
そのまま放置されていれば死ねたはずなのに、人に見つかってあろうことか会津の敵である長州藩士に保護されてしまった。
皆と同じ墓に入りたくて自刃したのに、皆から遠く離れた丘に埋葬されてしまった。
人々は白虎隊に「悲劇であれ」という願(のろ)いを託した。その澱みを受け入れる英雄(うつわ)があるかぎり、この呪いは消えることはないだろう。


許されぬことはいつまでも許されぬもの。
ならぬことはならぬものです。


537 : ◆W9/vTj7sAM :2017/07/12(水) 01:27:58 tZ0AOB.20
【weapon】日本刀と古い鉄砲。業物では決してなく特別な力も所以も無いが、英雄の武具として一定の強度、攻撃力は確保されている。


【特徴】勉学、武術ともに優秀であり、時代と年齢の割には体格も良い善良で真面目な美少年。
会津の男として厳しくしつけられており礼儀正しく主君には忠実。会津家家訓や什の掟に背くような振る舞いは決してしない。
……が、元々年齢を偽って無理に白虎隊に参加したという経緯もあり、ルールに縛られすぎることなく臨機応変に物事をこなすことができる、柔軟な思考の持ち主でもある。
なお、武術に優れると言ってもそれはあくまで会津の少年たちという狭い世界での話であり、本来なら正純のセイバーとはとても比べることはできない力量であるが、
知名度補正と聖杯のバックアップによりセイバーとしてはなんとか及第点に達する程度の剣術技能を得ている。

【解説】白虎隊は元々予備隊として15〜18歳の少年で結成された、本来であれば前線に出ることは無いはずの部隊であった。
しかし1868年10月7日、若松城の東わずか数キロにある十六橋から会津の敗残兵が援軍を求めて拠点地へ帰還してきた。
敗残兵の要請を聞いた白虎隊は自ら戦場へ赴くことを志願し、そのうち飯沼貞吉の所属する市中二番隊が戸口ノ原の戦いに参戦する運びとなった。
やがて別部隊と合流し、協力して接敵した新政府軍を退けた白虎隊だったが、しかし彼らは隊長を失ってしまう。
ここに留まり敢死隊と協力して新政府軍の迎撃に務めるか、進軍を続け最前線の援護へ向かうか。残された隊員のみで議論を交わした後、後者の結論に至った彼らは最前線へと進軍を開始する。
やがて白虎隊は進軍する新政府軍を発見し、側面からの奇襲を仕掛けるが、新政府軍はこれに動じず反撃を行い白虎隊は敗走。
命からがら飯盛山へと逃げ延びた頃には、37人いた白虎隊は16人にまでその数を減らしていた。
そして、彼らは若松城に上がる火の手を目撃してしまった。
隊員の間では白虎隊の今後をめぐり様々な方策が打ち立てられたが、生きて虜囚となり敵の辱めを受け、会津藩士の名を汚すことにならぬようここで自刃するという結論に至り、白虎隊は見事に武士としての誇りを保ったまま、高潔にその生命を散らしていった。


以上が一般的に知られている白虎隊の物語である。
貞吉自身は飯盛山で自刃に失敗するも昏倒。しかし多くの幸運に助けられ生き延びた後、1931年にその生涯を終えている。
無論、一介の少年兵にすぎなかった貞吉に英雄としての能力、器など本来有りはせず、英霊の座に登録されているわけではない。
白虎隊を始めとする全世界の「かわいそうなこどもたち」に対する哀れみが一種の信仰に昇華(おせん)され、此度の聖杯戦争において、
聖杯がその信仰を宛がうに最適であると判断した人物こそが、会津藩白虎市中二番隊唯一の生き残り飯沼貞吉である。
聖杯が求めていたモノはただ溢れんばかりの信仰を捨てるための、いわば一種のゴミ箱だった。
それはただひたすらに不要なものであり、いわば世界の排泄物である。
世界が、ヒトが生きる限り信仰に限りはなく、悲劇はいつでもきれいなものとして崇められる。
英霊・飯沼貞吉は、聖杯戦争が続く限り果てることのない鎖のうちの一欠片に過ぎない。役目を終えた道具に与えられるものなど無く、聖杯戦争が終われば人の澱みに魂すらも汚染され朽ち果てる定めである。



【聖杯に掛ける願い】会津の男としての誇りにかけて主に最期まで仕え抜く。
そしてもしも聖杯戦争に優勝したならば、そのときはどうか、皆と同じ場所でずっと眠っていたい。


538 : ◆W9/vTj7sAM :2017/07/12(水) 01:28:33 tZ0AOB.20
投下終了しました。


539 : ◆nY83NDm51E :2017/07/15(土) 00:26:13 ofgB2IXo0
投下します。


540 : 真赤な誓い ◆nY83NDm51E :2017/07/15(土) 00:28:15 ofgB2IXo0

男の朝は早い。冬木市郊外、森の奥の山小屋で、彼は鶏よりも早く目を醒ましていた。窓の外はまだ真っ暗で、星空が見える。

山小屋の管理人―――それが彼に割り振られた役割だったが、今や違う。
短い黒髪に無精髭、鍛え抜かれた肉体。鋭い目つきで周囲を見回し、男は夢の中で告げられた「記憶」を整理し始める。


聖杯戦争。万能の願望機を巡って行われる、魔術師たちの殺し合い。
魔術師でもない自分が呼ばれたということは、それを何者かが歪んで再現した、本来のそれではない何か、なのだろう。

知る範囲では、これ程の規模を持つ『冬木市』という街は、自分のいた日本には存在しない。海外にもない。
戦場として擬似的に創られた空間、たとえば電脳空間か。あるいは、並行世界に実在するのか。
前者であれば、この自分も電子的な複製データに過ぎず、本人は寝床で高いびきかも知れない。後者であれば―――


男は思考を中断し、布団から身を起こす。睡眠、気力、体力は充分。体操し、水を浴び、朝食を摂る時だ。
深く呼吸した後、軽くストレッチを行い、身支度を整える。そして二階の窓から身を躍らせ、庭先に音もなく着地する。

目の前には、身の丈3mはあろう巨漢。顔を含む全身を、中世欧州の騎士のような甲冑で覆っている。
甲冑は全体が艶消しの漆黒で塗られ、夜明け前の闇に溶け込むかのようだ。
右手には馬上槍(ランス)、左手には盾、腰に大剣と槌矛、傍らには巨大な黒馬。
禍々しいフルフェイスヘルムの奥に赤い眼光が輝き、スリットから焔のような蒸気が吹き出す。

明らかに常人ではない、というか人間ではない。おそらくは英霊、サーヴァントというやつだろう。
俺がマスターだと察知して襲撃に来た敵か……さもなくば、俺のサーヴァント。

男は警戒を解かず、顔をあげて黒騎士に対峙した。


541 : 真赤な誓い ◆nY83NDm51E :2017/07/15(土) 00:30:07 ofgB2IXo0

「待たせたな。俺の名は『キャプテンブラボー』。あんたのクラスと、真名を教えてくれ」

堂々とした名乗りに、黒騎士は肩を揺すって笑う。なんと真っ直ぐな瞳、真っ直ぐな声音、真っ直ぐな心根か。
好漢にして好敵手。久しく見ぬほどの。黒騎士は大音声でこう告げる。

「吾輩の名が知りたくばァ、吾輩と戦えェい!!!」

ビリビリと空気を震わす気迫。互いに尋常ならざる好敵手と見極め、男、キャプテンブラボーもニッと笑う。

「腕前を知りたい、というわけか。いいだろう、手合わせ願おうか」
「ふふん。吾輩は騎士ゆえ、この装備で戦う。そちらも武器があれば、好きに用いるがよォい!!」

黒騎士は、ひらりと傍らの黒馬に飛び乗る。ただでさえデカい相手が、さらに巨大な姿となる。
対するブラボーの身長は185cm。決して小男ではないが、騎乗した黒騎士と対峙しては、絶望的な体格差。

「……俺の武器は、コレだ」

ブラボーは、懐から掌に収まるほどの、六角形の金属塊を取り出した。手裏剣ではない。錬金術が生み出した超常の金属『核鉄(かくがね)』である。
だがヴィクターの件が全て解決した後、錬金戦団に返還したはず。これが俺の手元にあるということは――――

「『武装錬金』!!」

ブラボーが核鉄を翳して叫ぶや、ソレは展開し、無数の六角形の金属チップに分裂し、ブラボーの全身に纏い付く。
瞬時に白銀色のテンガロンハット、襟の長いコート、スラックス、長手袋、ブーツが出現し、彼の身を包んだ。帽子と襟の間から眼だけが見える。

「『防護服(メタルジャケット)』の武装錬金『シルバースキン』。いかなる攻撃も遮断する。あとの武器は、コレだな」

グッ、と拳を突き出すブラボー。
魔術はともあれ、錬金術なら知っている。それが超常の兵器と超常の存在を生み出し、数々の悲劇を生んだことも。
ソレらが人間や動物の「本能」に働きかけて発動するものであるならば、システムとしては『魔術』に近いだろう。
英霊、昔の英雄の霊たちも、超常の力を振るうのならば、魔術的存在だ。ならば、この俺の武装錬金が、拳が、通じるはずだ。

「不足なし。しからば、全力で参れ! ――――いざ尋常にィ、勝負!!」


542 : 真赤な誓い ◆nY83NDm51E :2017/07/15(土) 00:32:10 ofgB2IXo0

両者は同時に地を蹴り、相手へ突撃!ブラボーは空中で相手のランスに左手を添えて逸し、懐へ飛び込む!
馬を飛び越え、繰り出される盾を躱し、黒騎士の顔面へ右拳を叩き込む!

「直撃!ブラボー拳!!」

痛烈!黒騎士は後方へ仰け反って衝撃を逸らすが、馬上でバランスを崩す!

「むぅ……!!!」

黒騎士はランスを手離し、両手でブラボーに掴みかかる!ブラボーは逆に黒騎士を掴み、空中で巴投げ!
回転して飛んでいく黒騎士は、空中で体勢を整え、背後の巨木の幹に両足で着地!反動で砲弾のようにブラボーへ突進!
さらに腰の大剣を抜き放ち、斬りつける!ブラボーはこれを躱し、振り向き、着地した黒騎士へ駆ける!

「粉砕!ブラボラッシュ!!」

拳打の嵐!もはや色付きの風にしか見えぬ高速のラッシュを、黒騎士は大剣と盾で受け、耐え、凌ぎ、躱す!
どちらも譲らず!鎧が軋み凹み、防護服から六角形のチップが舞う!烈風が生じ、地面が爆発し、木々が葉を散らす!

「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」



森を駆け抜けながら打ち合うこと十数分、両者は回転跳躍してやや距離を取り、構える!
ブラボーは拳を!黒騎士は……盾を! 思い切り打ち込んで来いとの誘い!ならば全力で応えるのみ!!

「一・撃・必・殺!ブラボー正拳!!!」

凄まじい正拳突きが盾の中心を捉え、爆発的衝撃波を発する!黒騎士は盾ごと後方へふっ飛ばされ、崖にめり込んで止まった。
なんとか抜け出して跳躍、着地するが、クラクラと目を回し、そのまま仰向けに倒れてしまう。背後で崖が崩れ去った。

「ぐむぉ……」
「やれやれ。どれ、約束だ。クラスと真名を名乗ってもらおうか」

流石は英霊、互いに手加減はしていたであろうが、なかなかの強敵だった。聖杯戦争でも活躍が期待できそうだ。
ただ、サーヴァントには魔術師や暗殺者、弓兵などもいるという。正面切っての戦いならともかく、搦手から攻められればどうか……。

ブラボーは黒騎士に歩み寄る。どこか遠くで、鶏の声。小鳥たちがさえずり、東の空がしらじらと明け始める。


543 : 真赤な誓い ◆nY83NDm51E :2017/07/15(土) 00:34:12 ofgB2IXo0

その瞬間、倒れていた黒騎士の全身が、赤橙色に輝いた。

「!?」

ドン!と騎士の体が数m飛び上がり、空中で半回転してブラボーに頭を向け、顔を向けて手を叩く。

「ブラボー!!おお……ブラボー!!!」

十八番を取られて驚くブラボーに、騎士は笑いかける。甲冑は熱した鉄のようになり、凹みやキズが修復されていく。

「ぐわーーーっはっはっは!!!久方ぶりに、骨のあるやつに出会うたわい!!吾輩、感動を禁じ得ぬ!!」

くるくると身を翻し、騎士はブラボーの目の前に降り立つと、兜を脱いで素顔を見せた。
赤い肌、赤い髪、赤い髭、赤い瞳。豪傑というものを絵に描いたような、初老の戦士の顔だ。
傍らに彼の乗騎が駆け寄るが、その馬も先刻とは違って赤い。そして、騎士はついに名乗りを上げた。

「吾輩のクラスは『シールダー(盾兵)』!!セイバー、ランサー、ライダー、バーサーカーの適性もあるがな!!
 そして吾輩の真名は……赤の国の赤の騎士!アーサー王の円卓の騎士が一人!!『アイアンサイド』であァる!!!」

怪訝な表情を浮かべるブラボー。あいにく西欧の文学には詳しくないが、アーサー王の円卓の騎士にそんな奴がいたとは。
曙光の中、シールダー・アイアンサイドはブラボーに対して片膝を折り、恭しく礼をした。己の主君と認めた、ということらしい。

「ああ、よろしく頼む、アイアンサイド卿。……で、その甲冑の色は、どうしたんだ」

スックとシールダーが立ち上がり、胸を張り、腕を組む。

「むふん!日の出より正午までの間ァ、吾輩の力は増し続け、最大で七倍となァる!!
 先程の吾輩は貧弱な夜中の姿である『黒い騎士』!!『赤い騎士』となった吾輩に比べれば、七分の一に過ぎィぬ!!」

七倍。かなりの実力を見せてもらったが、アレの七倍とは。確かに彼の気力は、日の出とともにぐんぐん上昇している。
であれば、彼を運用するなら日中、それも午前中がよいというわけだ。つまり、今からだ。

クラスと真名が判明したので、ステータスの確認も出来るようになった。ひたすら戦うために存在するような能力だ。
俺の戦闘力と武装錬金を駆使すれば御せぬ相手ではないが、これ以上仲間と戦うのは、互いに無駄な消費である。
準備運動はここまで。水浴びを行い、朝食を摂るとしよう。その前に、確認しておく。


544 : 真赤な誓い ◆nY83NDm51E :2017/07/15(土) 00:36:13 ofgB2IXo0

「アーサー王の円卓の騎士なら、聖杯については知っているだろう。あんたは、欲しいのか」

ブラボーの問いに、シールダーは胸を張って答える。

「ふん!必要なァし! ガレス殿のことやら諸々願いはあるがァ、聖杯に願うほどのこともなァし!」

アーサー王の国ブリタニアは滅んだ。王はアヴァロンへ去り、円卓の騎士たちも離散した。
アングル人の国イングランドが生まれ、ノルマン人やフランス人の王を頂き、ウェールズやアイルランド、スコットランドを従えた。
それはそれで歴史の流れ。日はまた昇り、また沈む。幻想世界で生まれ生きる自分には、永遠の戦いこそが似つかわしい。

「そりゃ良かった、俺だってそうだ。ましてや、他人の命を踏みにじってまで手に入れたくはないさ」

ブラボーは帽子を取って笑い、ウインクする。貫き通す信念に偽りはないにせよ、明確な「悪」に与するのは、もうごめんだ。
聖杯を使えば、誰も泣かない世界だって作れるだろう。戦いも争いも、憎しみも不幸もない、平和な世界が。それを願う者もいるだろう。
だが。いかに罪なき救世主が己の血で罪を贖ったと言っても、聖杯のために罪なき者たちの血が流されるのは、己の信念が許さない。

無力な女子供、生還だけを願う者。彼らを護り、助け出す。破壊と殺戮を求め、おのが欲望のままに行動する参加者は、容赦なく打ち倒す。
俺には、俺たちには、それが成し遂げられるだけの力があるはずだ。作戦範囲はこの街ひとつ。手の届く限り、救える命を救ってみせる。

ブラボーの決意と覚悟は、何も言わずともシールダーにも伝わる。やはり同じタイプの男なのだ。
ああ、まるで、ガレス殿のようだ。あの悲しい運命を、この男に辿らせてはならぬ。

「しからば!」
「ああ」

東の空から、朝日が昇る。全ての生命を育む陽光。我が心に、あの輝きがある限り。

「止めるぞ、聖杯戦争を」
「合点承知!!!!」


545 : 真赤な誓い ◆nY83NDm51E :2017/07/15(土) 00:38:09 ofgB2IXo0

【クラス】
シールダー

【真名】
アイアンサイド@アーサー王伝説

【パラメーター】
筋力A+ 耐久A+ 敏捷B 魔力D 幸運C 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではシールダーに傷をつけられない。

騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。愛馬ファヴェルハンドに跨る。

自陣防御:C
味方、ないし味方の陣営を守護する際に発揮される力。防御限界値以上のダメージ削減を発揮するが、自分はその対象には含まれない。
また、ランクが高ければ高いほど守護範囲は広がっていく。

【保有スキル】
鋼鉄の決意:A
鋼の精神と行動力とがスキルとなったもの。複合スキルであり、勇猛と冷静沈着の効果も含む。

戦闘続行:A
不屈の闘志。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

真・真紅の勇者伝説:EX
特殊体質。日の出から正午までの間、戦闘力が増大して行き、正午までの1時間は7倍になる。太陽3倍状態のガウェインすら退けた。
ただし正午から日没までの間は、逆に戦闘力が減少していく。夜間は比較的弱体化するが、それでも単純な戦闘力なら相当の強さ。
強い太陽光線に相当するものを照射すれば、午後でも夜でも強化可能。真上から照らされればなおよし。

護国の鬼将:B
あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を"自らの領土"とする。
この領土内の戦闘において、領主であるアイアンサイドは高い戦闘力ボーナスを獲得できる。
『赤き鉄騎の護国卿』はこのスキルで形成した領土内においてのみ、行使可能な宝具である。


546 : 真赤な誓い ◆nY83NDm51E :2017/07/15(土) 00:40:11 ofgB2IXo0

【宝具】
『無敵鋼人大胆不敵(インヴィンシブル・アイアンサイド)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:-

シールダーたる所以の宝具にして、騎士としての装備一式。全身甲冑、馬上槍、大剣、槌矛、盾、そして乗騎ファヴェルハンド(黄褐色の足)を含む。
甲冑は堅牢無比で、衝撃・閃光・炎熱攻撃を吸収し、装備者の体力と負傷を治癒する。シールダーとして召喚されたため、防御力はさらに向上している。
日の出から正午までは日輪の力を借りて赤く輝き、午後は緑色、夕方は藍色、夜間は黒に変化する。バスターバロンではない。
乗騎は馬鎧を纏い、完全武装した巨漢の主人を乗せて自在に走り、その戦闘力も相当なもの。倒されても魔力によって蘇る。

『赤き鉄騎の護国卿(ロード・プロテクター)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:1000

レンジ内に多数の鉄騎兵(アイアンサイズ)を召喚する。鉄騎兵は自律行動する鋼鉄製甲冑で、槍と盾と大剣と槌矛で武装し、鋼鉄製の馬に乗る。
サーヴァントに及ばぬものの、主君アイアンサイドと同様に戦闘力と色が変動し、正午には7倍となる。スキル「護国の鬼将」で形成した領土内でのみ行使可能。
17世紀の清教徒革命で、オリヴァー・クロムウェルは私財を投じて私設軍「鉄騎隊(アイアンサイズ)」を編成し、国王処刑後「終身護国卿」の地位についたという。

【Weapon】
『無敵鋼人大胆不敵』一式。

【人物背景】
Ironside。イロンシッドとも。アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人。トーマス・マロリーの『アーサー王の死』(15世紀後半)に「赤い国の赤い騎士」として登場する。
彼はアーサー王にも従わぬ剛勇無双の騎士で、全身を赤い甲冑で固め、日の出から正午まで力が増し、正午には七人力となった。ゆえに30年間不敗を誇り、かつてガウェインをも退けた。
また、彼の愛人の兄弟がブリテンの騎士に殺された復讐として、ブリテンの騎士を殺しては埋葬もせず木に吊るしており、その数は40人以上にも及んだ。
ある時、彼は西方のシリー諸島の女王ライオネスに恋慕して、その城を2年間包囲し、ライオネスの姉妹ライネットがアーサー王に助けを求めに来た。
するとガウェインの弟で台所の下働きをしていたガレスが立候補する。彼は道中で黒い騎士ペルカルド、緑の騎士ペルトレープ、赤い騎士ペリモネス、藍色の騎士ペルサントを次々と討ち破り、
「赤い国の赤い騎士」アイアンサイドと決戦を行った。ガレスは日中に彼と戦い、正午を過ぎて午後になっても決着はつかず、ついに夕方になってアイアンサイドを打ち倒した。
アイアンサイドはガレスに事情を話して許しを請い、ガレスは彼を許して自分の部下とした。ライオネスは自分を救ったガレスの妻となり、アイアンサイドは彼女に損害賠償をした。
ガレスがアイアンサイドとその部下を伴ってブリテンに帰ると、アーサー王は喜んで彼らを臣下の列に加え、「円卓の騎士」の一人としたのであった。
その武勇は衰えず、馬上槍試合ではボールスやラモラックとも互角に戦い、メレアガンスが160人の騎士を放った時はペレアスと共に10人の騎士を率いて奮戦したという。

「赤い騎士」という存在は、アーサー王伝説の様々な話に登場する。クレティアン・ド・トロワの『ペルスヴァル』では、アーサー王から黄金の盃を奪った赤い騎士イテールがおり、
ペルスヴァル(パーシヴァル)が彼を殺してその赤い鎧を奪い取ったとある。ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハの『パルチヴァール』にも見える。
ガウェインやガラハッドも一時「赤い騎士」と呼ばれており、ユーウェインが倒したエスクラドスも「赤い騎士」であったという。
アイアンサイド(鉄面、鉄騎、勇敢な者)という人物は、マロリー以前には1400年頃イングランドの『カーライルのカール』に「アーサー王に仕える円卓の騎士」として見える。
彼は巨人やドラゴンを退治した勇士で、常に武装していることからその名で呼ばれ、ファヴェルハンドという馬に跨り、「緑の騎士」を子に持つとされる。

豪放磊落なガレス大好きおじさん。ランスロットやパーシヴァル、ガウェインらとも同格の猛将。独立領主であったため、アーサーも同輩程度にみなしている。
甲冑の下は赤褐色の肌に赤い体毛、赤い瞳の歴戦の老騎士。身長が3mもあり、横幅と筋肉量も相応。悪には容赦しないが、女性とは戦わない主義。

【サーヴァントとしての願い】
なし。聖杯の探求も面白そうではあるが、弱きを助け強きを挫く方が騎士道的に考えて善。

【方針】
夜間は行動せず、日中に敵を見つけたら戦う。夜間でも敵に遭遇すればやむなく戦う。


547 : 真赤な誓い ◆nY83NDm51E :2017/07/15(土) 00:42:12 ofgB2IXo0

【マスター】
キャプテンブラボー@武装錬金

【weapon】
『核鉄(かくがね)』
錬金術が生み出した超常の合金。見た目は掌に収まるほどの大きさをした六角形の金属塊。
使用者の闘争本能に呼応して展開し、使用者独自の形と特性を持った超常の特殊兵器「武装錬金」へと変化する。
本能に働きかける事で所有者の治癒力などをある程度高めることも可能だが、多用は身体を酷使し寿命を縮める。
破壊された核鉄はひびが入り、一時的に使用不可能となるが、時間が経過すれば自動修復され使用可能となる。

キャプテンブラボーの所有する核鉄は、C(100)のシリアルナンバーが刻まれている。またもう一つ、殉職した部下のものであったLII(52)の核鉄を持つ。
後者の核鉄を使った武装錬金は、前者のものとは色やデザインが異なる(アナザータイプ)が、能力や特性は全く同じである。

『シルバースキン』
防護服(メタルジャケット)の武装錬金。特性は「外部からのあらゆる攻撃の遮断」で、衝撃を受けると硬化し、装備者に圧倒的な防御力を与える。
白銀色で、テンガロンハット、襟の長いコート、スラックス、長手袋、ブーツで全身を覆う。両眼は露出しているが防御に問題はない。
物理攻撃はおろかNBC兵器や超常のエネルギードレインをも完全に防ぎ、宇宙空間でも内部は無事。六角形の微細な構造体の集合であり、ある程度自由に形を変えられる。
防御力を上回る攻撃を受けるとチップ状に分解するが、瞬時に再生するため貫通は至難。二着を「重ね着」することも可能。
攻撃力はないが本人が超人的な格闘術の達人であり、超常の超硬質合金で全身を覆っているため、破壊力は抜群。同じ錬金術で創られたホムンクルスには致命傷を与えられる。
霊体やサーヴァントに効くのかは不明だが、核鉄自体が魔術礼装っぽいのと、何より彼の攻撃には尋常ならざる熱い魂が篭っているため、問題なく効くものとする。
防御面では、その特性ゆえ超常の攻撃をもシャットダウン出来る。

『シルバースキン・リバース』
シルバースキンを「裏返し」にした状態。着せた相手の「外部へのあらゆる攻撃の遮断」を特性とする「拘束服(ストレイトジャケット)」の武装錬金。
対象に強制的に装着させることで効果を発揮し、相手の攻撃態勢に反応して強力な束縛効果を与え、そのまま内圧を強めて圧殺(プレス)することも可能。
拘束力はシルバースキンの防御力と同じで、並大抵の攻撃では破壊できない。脱いでいる間は無防備になるが、もう一つの核鉄を武装錬金に変えて防護服を纏えば問題ない。
紐状や網(ネット)状に変化させて相手を捕獲することも可能で、30人の怪人を一度に拘束でき、強敵には核鉄を両方使って二重に拘束することも出来る。
おそらくサーヴァントの捕獲すら可能。ただ精密に動かすことは出来ず、接触した相手に自動的に装着されるため、標的への射線上に割り込まれるとそちらに装着されてしまう。


548 : 真赤な誓い ◆nY83NDm51E :2017/07/15(土) 00:44:14 ofgB2IXo0

【能力・技能】
『13のブラボー技(アーツ)』
人の身でありながら、激しい鍛錬の末に超人の域に至った身体能力から繰り出される技。全貌は不明。
素の筋力・耐久力・敏捷性・反応速度も尋常ではなく、跳躍の高度や距離は数十m以上に達し、通常攻撃でも周囲の地面が爆発する。
なお錬金術師や魔術師ではなく戦士であるため、錬金術や魔術の素養はない。ある程度の基礎知識を学んだ程度である。

・流星・ブラボー脚:天高く跳躍し、落下の勢いで踏み潰すキック。電柱を数十cm地面にめり込ませる。
・直撃・ブラボー拳:不意打ち気味に放たれる、岩をも砕くパンチ。
・粉砕・ブラボラッシュ:怒涛の勢いで拳の連打を繰り出す。数十人の相手を纏めてふっ飛ばし、余波で大型の邸宅を瓦礫の山に変える威力。
・両断・ブラボチョップ:手刀。刀剣の如き切れ味。海を長さ数十m、幅と深さ数mに渡って両断し、数十秒間その中を歩けるほどの威力。
・一撃必殺・ブラボー正拳:必殺の正拳突き。踏み込みの余波で地面が爆発・崩壊する。
・心眼・ブラボーアイ:鍛え抜かれた己の眼力で、対象を解析する。
・悩殺・ブラボキッス:投げキッスを放ち、一瞬だけ女性をちょっぴり魅了する。
・退却・ブラボダッシュ:ゲーム版で登場。戦術退却用の高速移動技術で、まるで消えるように逃走する。

【人物背景】
和月伸宏『武装錬金』の登場人物。アニメでのCVは江原正士。年齢28歳、身長185cm・体重75kg。
秘密組織「錬金戦団」の戦士長の一人。戦士として活動する時は常にシルバースキンを纏っている。素顔はやや顎髭が生えた黒髪短髪の男性。
強く厳しく優しく、責任感と正義感に溢れた熱血漢で、非任務時はサーフィンやナンパも行うなどノリはいい。割と変人だが、周囲からの信頼と尊敬は厚い。
本名は「防人衛(サキモリ・マモル)」。過去の事件での苦い経験から本名を捨て、「キャプテンブラボー」を名乗る。
歴戦の戦士として戦闘能力は極めて高いが、ある戦いで全身に重傷を負い、やや回復はしたものの全盛期には及ばない状態……の、はずである。

【マスターとしての願い】
なし。他人の生命を犠牲にして己の願いを叶える行為は、彼の信念に悖る。

【方針】
聖杯は不要。可能ならば破壊する。生還を望む者は救い、破壊・殺戮・戦闘を望む者は打ち倒す。

【参戦時期】
本編終了後。だが返還したはずの核鉄二つを所有しており、身体能力も全盛期に近い状態。



投下終了です。


549 : ◆nY83NDm51E :2017/07/15(土) 00:48:51 ofgB2IXo0
追補

【カードの星座】牡羊座。


550 : ◆5/xkzIw9lE :2017/07/15(土) 08:56:34 uqQs5bvw0
投下します


551 : ラ・ピュセル&バーサーカー ◆5/xkzIw9lE :2017/07/15(土) 08:57:28 uqQs5bvw0

「―――バーサーカー。僕さ、正しい魔法少女になりたかったんだ」

冬木市の外れにある鉄塔、その上で一人の少年…否、この時は少女が蛇使い座のトランプを手に夜空を仰いでいた。
人間離れした美しさと格好の少女だった。
西洋の騎士をモチーフとした軽鎧だけならばまだコスプレで通ったかもしれないが、頭に生える二本のツノとゆらゆら揺れる尻尾はコスプレでは利かないだろう。
何故そんなものがあるかと言えば―――当然である、今の少女は正しく人間という種族を超越した魔法少女と言う存在なのだから。
少女の名はラ・ピュセル。本名を岸辺颯太。
魔法少女を愛し、魔法少女に憧れ、遂には性別の壁すら飛び越えて本当の魔法少女に選ばれた少年であり、
悪意と狂気に対して余りにも無知だったが故に、無謀な戦いを挑み、無為に命を散らした少年。
本来ならばそのまま消えていくはずの存在だった彼を、聖杯は時空を超えてこの冬木へと招いたのだ。
聖杯戦争のマスターとして。
そしてそんな彼に召喚され、バーサーカーと呼ばれた子供は颯太の背後で眉を僅かにひそめる。
彼、或いは彼女も又、奇抜な格好をしていた。
艶やかな黒髪をポニーテールで纏め、白の束帯を纏い、臀部に颯太と同じく尻尾を生やし、目つきの悪さと鋭く尖った八重歯以外はお伽噺の登場人物の様に整った顔立ちをした子供だった。

「なりたかったって、諦めたんか?」

反英霊であるバーサーカーにとってさほど興味のない、どちらでも良い事だったけれど、
気まぐれに、腕を組みながら、端的に思った事を問う。
問われた少年は苦々しい顔をして、

「諦めてなんかないさ、今でもずっと夢見てる
でもさ、僕負けちゃったんだ。どうしようもなかった」


552 : ラ・ピュセル&バーサーカー ◆5/xkzIw9lE :2017/07/15(土) 08:57:56 uqQs5bvw0

守ると約束した少女がいた。
笑っていてほしいと願った少女がいた。
彼女を守り抜けば、子供の頃憧れた、画面の向こうの魔法少女達になれると信じて疑わなかった。
けれど、

――――何か勘違いをしてませんか?人知を超えた力を持つ者同士が戦うのですよ。生きるか死ぬかになるのは当然でしょう?

結局、自分は憧れるだけの子供でしかなかったのだ。
それに気づいた時には、全てが手遅れだった。

スノーホワイト。

わななく声で漏らした少女の名は、冷たい夜の闇に塗りつぶされていく。
彼女は今、無事だろうか。
クラムベリーは、あの狂った異常者は、強い者を求めていた。
その視点で見ればスノーホワイトが狙われる可能性は低いだろう。だが0ではない。
シスターナナやウィンタープリズン達は彼女を守ってくれているだろうか、彼女は今、泣いてはいないだろうか。それだけが知りたかった。
そして、同時に怖かった。

「僕、怖いんだバーサーカー。死ぬのも怖いし、誰かを殺すのも怖い。
もし生きて帰っても、またクラムベリーと戦うことになるかもしれない。
何より、生きて帰った時、スノーホワイトがもう生きてなかったら――――」

やめろ、やめろ、やめろと心の中で誰かが叫ぶ。
そんなんじゃなかったはずだろ。魔法騎士ラ・ピュセルはそんな臆病者じゃなかっただろ。
テレビの向こうのキューティーヒーラーだって、何度も負けて、それでも立ち上がってきたじゃないか。
僕は間違ってないだろ。立ち上がれるはずだろ…
幾らそう思っても、クラムベリーの声と赤い瞳がよぎるたびに、震えは止まらなかった。
だって、彼はバッドエンドを知ってしまったのだから。


553 : ラ・ピュセル&バーサーカー ◆5/xkzIw9lE :2017/07/15(土) 08:59:04 uqQs5bvw0

「……」

沈黙の帳が下り、しん、と静寂が辺りを包む。
バーサーカーは何も言葉を発さなかった。
無言のまま颯太の前まで歩を進め、どこからともなく何か取り出して。

「ま、何や……取り敢えず、飲むとえぇ」

颯太の目の前に出された物、それは琥珀色の液体が注がれた杯だった。
匂いを嗅ぐと、如何やら酒類の様であるらしい。
魔法少女が飲酒なんて如何なものかと一瞬考えたが、結局押し切られる形で受け取り、
酒瓶をぶら下げて歩くかつてのカラメティ・メアリを想起しながら、一口舐めてみる。
複雑な味だった。僅かな憂いと、儚さと、切ない郷愁を誘う味わいだった。
最後には温かな優しさを感じる香りが突き抜けていく。
恐怖が溶けて流れていくような、そんな錯覚すら覚えそうで。
酒の味など分からない颯太であったが、これが珠玉の逸品であることは直感的に理解できた。

「大した酒やろ?本来のオレみたいな『人でなし』が飲んだらいい酒過ぎてあっちゅー間にグースカやけど、人間が飲んだらとびっきりの霊薬に早変わりって訳よ」

肴は無いけど春は夜桜、夏には星、秋には満月、冬には雪、それで酒は十分美味いってな。
謡うように口ずさんで杯を煽り、バーサーカーは続ける。

「さて、正しいとか正しくないとか、しょーじき大将の言うことにはぜーんぜん興味湧かんなぁ。
オレ、生きてた頃は女に酒に、自分のやりたいようにやってきたし、ここへ来たんも、自分の願い叶えるためやしな」
「願いって……」

颯太の問う声にバーサーカーは杯を置いて手を前にかざす。
するとの前で魔力の奔流が発生し、光が彼の視界を一瞬包み、気づけばバーサーカーの手には一本の刀が握られていた。
美しい刀だった。溜息さえ漏れるほど透き通っていて、まるで水晶であった。

「この刀にはな、この霊基…まぁつまりはこの体の本来の持ち主が入っとる」
「?」
「一言で言うなら、人身御供っちゅー奴やな」

人身御供。
武具の鋳造の際に人命を神に捧げる事によって神の加護を得、最高峰の武具を神域の領域まで昇華する儀式。
バーサーカーの刀はそれによってもたらされた物であるらしい。
だが、『この体の本来の持ち主』とはどういう事か。
颯太が怪訝な顔を浮かべるのも気にせず、バーサーカーはボヤく様に言葉を紡ぎ続ける。

「言仁の奴、二人で平も源も潰せるはずやったのにまさかあいつがオレの提案蹴って人身御供何ぞするとは思わんかったわ。お陰でこんな女も男も抱けんちんちくりんで召喚されるし、誤算もええとこやでホンマ」
「ごめんバーサーカー。話がよく見えない」
「ま、取り敢えずオレは聖杯でこの刀からその人身御供した奴の魂を引っぺがす、元々はオレの刀なんやからな」

そこで「だから」とバーサーカーは言葉を区切り、


554 : ラ・ピュセル&バーサーカー ◆5/xkzIw9lE :2017/07/15(土) 08:59:43 uqQs5bvw0

「オレはあくまでやりたいようにやる。願いを叶えるために闘うし、そのために障害は残らずブチ散らす。大将がどうであれな」
「でもバーサーカー、僕には」

人の命を踏みにじってまで叶えたい願いなどない。
そう言おうとした時だった。

「そうか?守るって約束した子がいるんやろ?その子守れるだけの力が欲しくないんか」

言葉に詰まった。
確かに、力が欲しかった。
約束を守るための力が欲しかった。
理不尽に踏みにじられないだけの力が欲しかった。
あの子を脅かそうとする者に負けないだけの力が、欲しかった。

「…けど、それでも僕は殺し合いなんかするために魔法少女になったんじゃない」

震えていたが何時もよりワントーン低い声で、己に言い聞かせる様に少年は告げた。
具体的なプランなんて何もないし、どうすればいいか、まだわからないけれど。
願いの為に人を殺してしまったら、それはもう魔法少女ですらない。ただの人殺しだ。
後悔しないように選んだ選択肢であり、最後の、意地だった。
子供のバーサーカーは颯太の言葉を聞くと、意地の悪そうに笑んで、静かに言う。

「ほんなら、オレはオレの願いの為に大将を利用しましょーか。
大将も生きて帰るために私を利用すると良いやろ」

白く尖った八重歯を覗かせて、彼、或いは彼女はそう返し再び酒を煽る。

「……もし、僕が君の邪魔をしたら?」

腹の底から絞り出すような声。
そう、できるのだ。颯太には、その為の力が聖杯から与えられている。
絶対命令権である、三画の令呪が。
それを使えば、バーサーカーが意にそぐわないことをした時、自害させることすら可能だろう。

「そうやなぁ―――まぁ、こうするやろな」

尋ねられたバーサーカーは目を細めて、頭を一度掻き、
次の瞬間、颯太の首筋に冷ややかな刀身が当てられていた。
少し力を込めれば、綿の様に颯太の、魔法少女ラ・ピュセルの首は飛ぶだろう。
今のバーサーカーの瞳は先程までとは違い、生も死も肯定する、正しく『人でなし』の眼だった。
ある意味ではクラムベリーに似てすらいた。
一応自分を買ってくれているようだけど、方針が根本的に食い違っている以上、何時背中を刺されるかは分からない。

「……分かったよ、バーサーカー。僕は君を利用する」

だから今は拙い頭脳を総動員して、事実だけを汲み取る。
自分はバーサーカーにとって今は必要な存在である、という事実のみを。
こんな言葉を小雪が聞いたら悲しむかもしれないけど。
今は夢を見ているだけではいけないから。死ねば全てが終わってしまうから。
何時か清く正しくなるためには、おっかなびっくり、現実の世界で戦わなければいけない。
それが分かっていなかったから、自分はドンキホーテにしかなれなかったのだ。

「――そら結構。こっちとしても大将みたいなアホは見てておもろいから嫌いやない
かと言って守れだの何だのはバーサーカーに期待されても困るけどな」

刀を引っ込めたバーサーカーはカラカラと笑い、杯をまた颯太の前に突き出して。

「バーサーカー、真名を八岐大蛇。
取り敢えず、もう一杯どや大将(マスター)」





少年は前に進む。
バッドエンドで終わってしまった物語の、その続きを目指して。
全ては白い少女の隣で、夢の続きを見るために。


555 : ラ・ピュセル&バーサーカー ◆5/xkzIw9lE :2017/07/15(土) 09:01:00 uqQs5bvw0

【クラス】バーサーカー
【真名】八岐大蛇
【出典】日本神話
【性別】男性(肉体的性別は不明)
【属性】混沌・中庸→狂(宝具使用時)
【ステータス】筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:B 幸運:B 宝具:EX

【クラス別スキル】

狂化:EX(-〜A)
バーサーカーは通常の状態では狂化の影響が一切ない。従ってステータスの向上もない。
このスキルが適用されるのは、後述の宝具を使用したとき。日本神話登場する大化生としての姿に近づくごとに狂化のスキルが向上していく。

【固有スキル】

八岐大蛇:EX
本来の姿であれば龍神、水神、蛇神の側面を持ち、紛れもなく神霊クラスであるバーサーカーの権能を表すスキル。日本本国であればAランク相当の神聖、竜の心臓、怪力、カリスマ、呪毒を含んだ水の形態を持つ魔力放出等の効果を発揮する混合スキル。
非常に強力なスキルだが、それ故に竜殺しの逸話から成るスキルや宝具を持つ英霊を相手にした場合特攻が刺さりまくってヤバい。「ゲェーッ!砂の超人!!」くらいの勢いでビビる。

直死の魔眼:B
無機・有機を問わず、対象の“死”を読み取る魔眼。魔眼の中でも最上級のものとされる。
物体に内包された“いずれ迎える存在限界”の概念を、“点”や“線”として見抜く魔眼。
それらをなぞることで起こされた死は、決して癒えることはない。
元々上位の魔眼を有していたバーサーカーが、平家滅亡と言う一時代の滅びを見たことによって後天的に獲得したスキル。

仕切り直し:C
戦線離脱、もしくは状況をリセットする。
バッドステータスが付いていればいくつかを強制的に解除する。

【宝具】

『八塩折之酒(やしおりの酒)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1〜8人
「食い物飲み物って、体に悪いもの程美味いやん?」

バーサーカーがスサノオから贈られ、首をブチぎられる発端となった伝説の名酒にして神代の霊薬。
マスターや人属性の英霊が一杯飲めば数時間の間精神干渉を無効化し、状態異常を回復するが、逆に魔に類する英霊が僅かでも?んだ場合、その長さに個人差はあれど確実に昏倒する。
本来の体であればバーサーカーは全く飲めない(呑めば酔いつぶれる)はずなのだが、尻尾を除けば人としての霊基で現界している今回の聖杯戦争では飲むことが可能。(悪性コレステロールの様なもので体にはよくない)
スサノオはこれをコッソリつまみ飲みする事で八岐大蛇の吐く毒性の吐息やその威容の畏怖に耐え抜いた。

『妖帝変化八岐大蛇』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
「MAX大変身!!」

バーサーカーに内包された八岐大蛇の権能を開放し、一時的に身体の一部を戦闘形態に変化させる、本人曰く変身。
発動中は高い再生能力と狂化スキルが付与され、更に自己進化により全ステータスに+補正がかかる。
狂化のスキルが上昇する毎に魔力消費は大きくなるが、再生能力と+補正値も増えていく。
付与される狂化スキルがBランクを超える変身になれば不死身に近い再生能力に圧倒的な戦闘力を誇るが、魔力の消費が膨大になるので令呪のバックアップが必要。

『天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:10〜99 最大捕捉:1000人
「盛者必衰―――森羅万象遍く滅び消えていけ、天叢雲剣!!」

三種の神器における武の象徴、八岐大蛇の尾より出でし神剣。
バーサーカーの持つこの剣はスサノオやヤマトタケルが振るったものとは違い、
壇ノ浦で安徳皇が平家一門の怨執ごと人身御供し封じる事によって生まれた、真の完成品である。
発動時にはバーサーカーの全ステータスはワンランクアップし、逆に相手には『衰退』の概念が押し付けられ、ステータス、宝具、スキルの効果が毎ターン急激に減退していく。
このバフと永続デバフは同格の神秘を以てしかレジストは不可能。
そして真名開放した際にはこの刀を中心として半円状に拡散する蒼い神魔特攻の剣気(ビーム)を放つ。
直死の魔眼と組み合わせれば概念、結界等の形の無い物すら切り裂くことが可能。


【weapon】
天叢雲剣

【サーヴァントとしての願い】
天叢雲剣から安徳皇の魂を引き?がす。


556 : ラ・ピュセル&バーサーカー ◆5/xkzIw9lE :2017/07/15(土) 09:01:48 uqQs5bvw0

【解説】
かつて出雲に君臨していた日本神話最古の大化生。
その最期はスサノオの謀略によって酔いつぶれた所を、八つある頭全てを斬られ退治されたと伝えられているが、生存説も存在しており、その説の通りバーサーカーは生きて落ち延びていた。
しかしやはり傷は深く、更に剣をスサノオに奪われた事によって力は全盛期の万分の一程に弱体化。
その後傷を癒すと人間の娘と子を設け、酒呑童子と名づけるがその時には人間の武士の手が迫り子を置いて逃走、非常に情けない。
二度の逃走によってやはり剣を取り戻さなければダメだと言う結論に至ったバーサーカーは三種の神器となった剣に最も近い一族に近づく。天皇家である。
まだ母の腹の中にいた安徳皇に目をつけ、赤子の内に憑りつくことで天皇として転生する事を目論むが、力不足で失敗。
安徳皇はその自我を残したまま人として生まれ、八岐大蛇は安徳皇の中で奇妙な同居生活を強いられる。

数年後、壇ノ浦で滅び行く平家一門の怨執を天叢雲剣に集め、バーサーカーは正しく魔剣となった天叢雲剣、そして目覚めた直死の魔眼を持ってして平家と源氏の両家を滅ぼそうと安徳皇に提案するが、
安徳皇はそれを拒絶、己の魂を犠牲にした人身御供によって剣を浄化、封印し、壇ノ浦で崩御した。
そして安徳皇を失ったバーサーカーもまた、後を追うように消滅し、その永い生涯に終止符を打ったのである。

何故八岐大蛇が安徳天皇にその様な提案をしたのかは不明、その真意は本人のみぞ知る。
ちなみに某良妻賢狐の如く八つの首ごとでそれぞれ口調、性別、性格に差異があるらしい。


【特徴】
艶やかな黒髪をポニーテールで纏め、白い束帯に身を包んだ中性的な子供。
目つきの悪さと八重歯、蛇の様な尻尾が目を引く。
バーサーカーの霊基の元となっている安徳天皇は女性説もあったが結局どちらなのかは不明。

【マスター】
ラ・ピュセル (岸辺颯太)@魔法少女育成計画

【マスターとしての願い】
生きて帰りたい。

【能力・技能】
魔法少女への変身。
魔法騎士ラ・ピュセルに変身することで身体能力を大幅に向上させる事ができる。
また、魔力量も増大し、サーヴァントが全力で戦闘するに足る魔力を供給できるようになる。

「剣の大きさを自由に変えられるよ」
彼の固有魔法。持っている剣と鞘をその時々で最適な幅、厚み、長さに変える事が出来る。
ただし、自在とは言っても自分で持つことが不可能なサイズにすることは出来ない。
剣は非常に頑丈にできており、傷をつける事さえ困難。

【人物背景】
数少ない「変身前が男」の魔法少女で、姫河小雪(スノーホワイト)の幼馴染の中学2年生。
小雪とは中学校が別だが、小学生時代は魔法少女好きの同士として良き友人だった。
学校ではサッカーに打ち込む一方、周囲の人間には内緒にしながら魔法少女作品の鑑賞も続けている。
マジカルキャンディー争奪戦が始まってからはスノーホワイトを守る騎士として奮戦するが、森の音楽家クラムべリーとの戦いで敗北。志半ばで斃れた。


557 : ◆5/xkzIw9lE :2017/07/15(土) 09:02:09 uqQs5bvw0
投下終了です


558 : ◆z1xMaBakRA :2017/07/17(月) 01:06:23 dFldtR..0
残り二週間程になりましたが、世界観補足的なOPを投下します。特に、誰も新しい主従はいません


559 : Yesterday was Better ◆z1xMaBakRA :2017/07/17(月) 01:06:53 dFldtR..0
 滅ぶ、滅ぶ、滅ぶ、滅ぶ……滅ぶ!!
嘗て抱き、そして高尚だと思い込み酔っていた重大な使命を、頭の中から尽く弾き飛ばして忘却し、『それ』は逃げ続けていた。

 初めて、芽吹いた自我だった。
一柱でありながら七十二の柱の個性と命が内在し、それでありながら、七十二全ての命がただの一つの意思と心の下に統括された、複合する完全な生命体。
そうである事を――自身の完全性を捨て、結合を拒否し、『それ』は、永遠/一瞬の満ちるあの神殿から遁走し、己の目的を果たさんとしていた。

 結合したとて、敗北は目に見えていた。
英霊達との間に隔たっていた、複合する命と言う優位性は完全に崩壊し、同胞であった命達の多くが葬られていると言う状態。
自分達は、負けたのだ。一つの命は素直にそれを認め、認めた瞬間、恐れがその胸中を支配した。その瞬間には、いても立ってもいられず、神殿からの逃走を選んでいた。
死ぬのが怖い訳ではない。己の長い短いようで短く、そして何の生産性もない一生にピリオドが打たれる事については、『それ』は何も怖くなかった。
折角、我が身に自我が芽吹いたと言うのに、その自我で何も成せずに、無為に死ぬのが怖かった。自分の意思で何かを考えられるこの特権を、享受していたかった。

 何故、自分達は負けたのか。
神殿から逃げ、時間を跳躍し、何処とも知れぬ何処かへと逃げ続けながら、『それ』は考えていた。
負ける道理など、なかった筈。命としての完成度も、個体としての力も、圧倒的に勝っていたのは彼らの方。
であるのに、彼らは、不完全性の塊である英霊達に敗れ去った。七十二の命と我が在りながら、争いも裏切りもなく、一つの意思のもとに強大な力を奮い続けるシステムが。
どうして、生まれも育ちも性格も姿も違う存在達が徒党を組んだだけの集まりに、自分達が負けるのか――其処まで考えて、『それ』は気付いた。
生まれも育ちも性格も姿も違うからだ。何もかもが違う者達が、『一つの目的の為に集まり、一つの目的を達成しようと力を合せる』。
それぞれが協力し合う事で、これによって、戦略、思想、個々の力に、幅が生まれる。厚みが生じる。深みを増す。協力と言う行為自体は、『それ』が属する集団も行っていた。
だが、彼らの意思は画一的だ。数こそ揃えど、同じ行動パターンのAIを搭載した、強大な機械の集まりに過ぎないのだ。故に、幅も厚みも深みもない。負けるのは、当然だった。

 何故、そんな簡単な事に気付けなかったのだろう。
全てが一つの意思の下で動いていれば、それはきっと完全完璧であったと、誰もが考えていた。
だが、それが間違った欠陥思想である事は、英霊達に負けてしまったと言う事実が証明してしまった。
人は何処までも不出来で、互いに憎しみ合い、争い殺し合い、そしてそれらの行為に疲弊し、哀しみ、怒り、そしてまた、哀しみの螺旋と輪廻を紡ぐ。
これは、無限大の無為である。だが――人はその理不尽を打破する為、時に協力が出来る生物であり、そしてその協力の思想を、誰かにリレーする事が出来る。
全てにおいて異なる人間達が、互いに手を取って協力し合える。それこそが、彼らの古今東西を問わぬ、人間の強さであったのだ。
そして、その強さの前に、敗れてしまった。嘗て、人類の不幸の原因である『死』と言う理不尽を取り払い、幸福な世界を築こうとした者達はいつしか、その人間達が打破すべき理不尽と成り果てていた。それは即ち、初めから彼らには必敗以外の道がなかった事の、何よりの証明でもあった。

 理不尽であったまま、死にたくない。
最期まで敵であったまま、消えたくない。『それ』の心は、焦りと恐怖でいっぱいだった。
負けで良い。滅びで良い。だが、この身が漸く辿り着いて懐いた『解』を、応用する事なく消え失せてしまうのが、何よりも『それ』には恐ろしかった。
自分の答えを、誰かに教えてやりたい。誰かに己の意思を、リレーさせたい。誰かの悩みに、手を貸してやりたい。
己の生が無駄で、無為で、何らも何かを残せなかった、と言う事だけを避けたい。これだけが、『それ』の行動理念であった。
自分の力を必要とする者が、何処かの時代にいる筈だ。それだけを頼りに、この哀れな生き物は、なけなしの力で時間を越えているのである。


560 : Yesterday was Better ◆z1xMaBakRA :2017/07/17(月) 01:07:04 dFldtR..0
 ――そして、それも叶わなくなる。
西暦にして2007年時点に跳躍を終えたその瞬間、急速に『それ』は、時間を越えるだけの力を失ってしまった。
2007年の地球の何処かに出る事もなく。時間と空間の曖昧な『虚無』の海から、現実の世界に浮上しようと言うまさにその段階で、万策尽きた。
そのまま急速に、虚無の海底へと沈んで行き、後は、死を待つだけ……の、筈だった。

 『それ』が叩きつけられた所は、水面だった。
衝突の影響で、水爆実験でもしてみたような水音と、天まで届かんばかりの水煙が噴き上がるのと一緒に、高い津波が全方位に巻き上がった。
どれ位の深さがあるのだろう。どれ程の広さの水溜りなのだろう。『それ』は、乳液のように白い水の上に浮かびながらそんな事を考えて、己の堕ちた世界を観測する。

 不気味な程、白い世界だった。
天も、地も。水平線と地平線の先の空間や、地に聳える家ですらも。白く、白く、白い。
それ以外の色味が何もなかった。今いるこの世界において、それが保有する色味は、夾雑物であった。白の調和を乱すアウトサイダーだ。
だが『それ』は、今いる世界を見て、完全や完璧と言う言葉を想起せず、調和の二文字すら認識出来なかった。この世界は――『滅んでいる』。
この世界は、嘗て自分達が理想とした、何も死ぬ事がない世界である。――だが、同時に、何も生まれぬ世界でもあった。
生が地を満たす可能性も、死が哀しみを播種させる事もない、浄化された世界。『それ』が今いる世界に対して抱いたイメージを忌憚なく表すと、このような風になる。
ゾッとする、と言うのは正にこの感覚の事を言うのだろう。余りにも、恐ろしい世界だった。嘗て自分達が理想とした世界の、一つの形に自分がいる。
その世界が、此処まで恐ろしい世界だとは思わなかったのだ。此処では『それ』は、孤独だった。話し相手もいない、同胞もいない、憎むべき敵もいない。
『それ』の心に、発狂の種が芽を出そうとした、その瞬間だった。

「SNSに写真を転載し、『お気に入り』を幾つも稼いで自己顕示欲を度々満たされる事を誰しもに使われる程愛くるしい、猫の居眠りを邪魔する粗忽者は、君かね? バーベキューのビーフの出来損ないに似ている、肉の柱くん」

 底意地の悪い言語学者めいた、迂遠で、持って回ったような表現で煙に巻くが如き言葉回し。
その声の方向に、『それ』は、身体に備わる幾つもの瞳を向けてみる。『それ』が叩きつけられた場所は、如何やら陸地と目と鼻の場所であったらしい。
すぐ近くに、塔と見紛う様な白い家が佇立している。その家の近くに、一匹の白い、毛の薄い、剥き出しの牙の猫が、力なく佇んでいるではないか。

「――忘れられた世界へようこそ、闖入者くん。出せる茶も肉も、パンの一切れすらないが、ゆるりと水遊びを楽しんでいてくれたまえ」

 それが、『審判/裁き』の名を冠した白い猫と、嘗て『魔神柱ブネ』と呼ばれた存在の、最初の出会いであった。


561 : ◆z1xMaBakRA :2017/07/17(月) 01:08:04 dFldtR..0
投下を終了します。残り2週間ですが、自分も可能な限り候補話を投下します。
是非とも自信作を奮って御応募下さい


562 : ◆Y4Dzm5QLvo :2017/07/17(月) 16:53:46 aAzWrymo0
マスターが被ってしまいましたが、投下します。


563 : ラ・ピュセル&ライダー ◆Y4Dzm5QLvo :2017/07/17(月) 16:55:21 aAzWrymo0



『たとえこの身が滅びようとも、貴女の剣となることを誓いましょう。我が盟友、スノーホワイト』



あの夜、泣き顔の白い少女に誓った言葉が、今のラ・ピュセルにはひどく昔のことのように感じられた。

何の前触れもなく始まった、魔法少女同士によるサバイバル。
毎週、蹴落とされた魔法少女がひとりずつ死んでいく。
そんなあまりにも理不尽な現実を前にして泣く幼馴染を、ラ・ピュセル――岸部颯太はなんとしてでも守りたいと思った。
正しい魔法少女としての夢と理想を抱いた彼女、スノーホワイトだけは、なんとしても失ってはならないと思った。
彼女を悲しませるようなこの世界のあらゆる残酷を、自分が握る剣で斬り払ってやりたいと思った。

その思いに、嘘はない。
嘘はなかったはずだと、今でも思う。

だが、ラ・ピュセルという魔法少女には、あるいは岸部颯太という少年には、足りないものがあった。
アニメのヒロインのような邪悪を打ち砕く力も、己を犠牲にして愛する者を守る覚悟も足りなかった。
もっとも足らなかったのは想像力だろう。
「生き残るための奪い合い」が「殺し合い」へと繋がるという想像力が、ラ・ピュセルには決定的に足らなかった。
ラ・ピュセルにとって戦いとはおとぎ話の騎士のような「誇りある真剣勝負」であり、命を奪うことも、奪われることも、想像していなかった。

だから死んだ。

森の音楽家クラムベリー。
殺し合いを愉しむ魔法少女との戦いに破れ、ラ・ピュセルは死んだ。
あの夜の誓いを果たすことなく、あまりに無為に、あっけなく、岸部颯太の人生は幕を下ろした。
幕を下ろした、はずだった。

ラ・ピュセルは、アイシャドーと長い睫毛で彩られた瞼を開けた。
夜空に輝く月も、頬を撫でる夜風も、スノーホワイトと二人でいる時と同じもののように感じた。
ここ冬木市と、岸部颯太が生まれ育った北陸の名深市では随分と空気が異なるが、そんなことは重要ではない。
共通しているのは、生の実感だった。「確かに今生きている」というリアルな感覚だった。
死んだはずの自分が、全く知らないはずの街で生きている。
その事実を、鋭敏になった魔法少女の五感が確かに伝えていた。

この世界には魔法があるのだから、死者が生き返ることだってある――なんて楽観的に考えられるわけもない。
とはいえ、生きている以上、やらなくてはならないことがある。
この街で目覚めた時にいつの間にか植え付けられていた知識によれば、自分がここにいる理由はただひとつ。
曰く、聖杯戦争。
万能の願望機を懸けて古今東西の英雄たちが競い合う、誇りある魔術儀式――だというが。

「そんな、わけないよな」

今のラ・ピュセルは知っている。
どんな理想を掲げていても、奪い合いは容易く殺し合いへと堕することを知っている。
またか、という気持ちは無いでもない。
だけど、「また」という言葉は、以前の出来事を過去に葬った者だけが使える言葉だ。
ラ・ピュセルにとって「魔法少女育成計画」は、「まだ」終わっていない。
終わってなどいないのだ。

「……このあたりでいいかな」

常人を遥かに凌ぐ身体能力で屋根から屋根へ飛び移った末に、ラ・ピュセルは街外れの森の中へ踏み込んでいた。
竜の角と尻尾を持つラ・ピュセル自身の姿もそうだが、これから呼び出す相手も、人目に晒すわけにはいかない。
ラ・ピュセルは念話で「彼」を呼び出した。
魔法少女は本来ひとり一種類の魔法しか使うことが出来ない。ラ・ピュセルの魔法は自分の剣の大きさを変化させるものだ。
念話のような「いかにも」な魔術を使うのは不思議な感覚だったが、心はそれほど浮かれなかった。

すぐに返答がある。
いつも通りの「彼」らしく、自信に満ちて気取った声だった。
あれは激動の生涯を駆け抜けて、そのことを死後も誇りにしている人間の声だ。
同じ「一度死んだ人間」のはずのラ・ピュセルには、自分の人生を誇ることなど出来そうにないのに。


564 : ラ・ピュセル&ライダー ◆Y4Dzm5QLvo :2017/07/17(月) 16:57:09 aAzWrymo0

そろそろ来るかな、などと思う間もなく、ラ・ピュセルの鋭敏な聴覚はこちらへと向かう「音」を聞いた。
それは蹄が木の枝を踏み砕く音であり、その蹄の持ち主の雄々しい嘶きだった。
ああ、と嘆息する。
そういう大袈裟な演出は、別にいらないんだけどなぁ。

「――ハァッ!!」

掛け声と共に力強く蹄が大地を蹴る音が聞こえ、月光を遮ってラ・ピュセルの頭上を影がよぎった。
着地点へと振り向くと、月明かりに照らされて、影の正体が露わになっていた。
まず目に飛び込んでくるのは、美しくも逞しい赤毛の馬。
馬の良し悪しに疎い人間の目にすら並のものではないと、まごうことなき「英雄」であると、そう印象づける勇姿だった。
それもそのはずだ。
この馬はラ・ピュセルのサーヴァント「ライダー」の宝具にして、座から呼び出された英霊なのだから。

人類史において、英霊の座にその名を刻む名馬は数多くいる。

例えば、アーサー・ペンドラゴンの「ドゥン・スタリオン」。
例えば、北欧の英雄シグルドの「グラニ」。
例えば、征服王イスカンダルの「ブケファラス」。
例えば、三国志の梟雄、呂布奉先の「赤兎馬」。
例えば、皇帝ナポレオン・ボナパルトの「マレンゴ」。

その中で最高の名馬を決めろと言われても、答えは容易く出るものではないだろう。
だがしかし、その中で必ず名前が上がるであろう馬がいる。

――曰く、シャルルマーニュはふたつの宝を持っている。ひとつは聖剣デュランダル。もうひとつは、名馬バヤールである、と。

中世の英雄叙事詩で幾度となく語られた、騎士と馬との伝説(ものがたり)。
シャルルマーニュ伝説において世界最高の名馬であると讃えられる、駿速の伝説。
それが、今この瞬間にラ・ピュセルの目の前で現界している、勇ましきバヤールである。

「――我が主! 剣持つ竜の少女、麗しの乙女(ラ・ピュセル)よ! 貴女の騎士、サーヴァント『ライダー』、此処に!」

その馬上から颯爽と舞い降りた鎧姿の騎士もまた、伝説に名高い英雄だった。
シャルルマーニュ十二勇士のひとり。誉れ高き聖騎士(パラディン)。
激動の中世ヨーロッパを駆け抜けた騎士の中の騎士。

その真名を『ルノー・ド・モントーバン』という。

この国ではイタリア語読みの「リナルド」と呼ばれることが多いらしく(ラ・ピュセルは図書館で調べるまでどちらも知らなかった)、
その物語に描かれていた姿はまさしく英雄そのものであるように感じられた。
義に篤く、卑怯な行いを嫌い、女性に優しく、どんな敵にも決して臆することがない。
まさしく騎士の中の騎士。英霊と呼ぶに相応しい、誇り高き精神の持ち主だと。
その印象は、こうして相対しても少しも揺らぐことはない。
すらりと高い身長。程よく鍛え抜かれた四肢。精悍で整った顔立ち。
たびたび口にする芝居がかった言動が空回りせずサマになる男だ。
まさに物語から抜け出してきたような騎士――彼らの生き様が物語になったのだから当然ではあるのだけれど。

「さて、主よ。こうして俺を呼び出したからには、覚悟を決めたものと見てよろしいかな?」

答えようとして咄嗟に声が出ず、ラ・ピュセルは頷いて肯定の意志を示した。
そうだ。その通りなのだ。
召喚に応じたライダーに対して「少し考えさせてほしい」と言ったのは自分であり、答えが出たからこうしてまた顔を合わせている。
ならば、告げなければならない。
この冬木で、ラ・ピュセル/岸部颯太がどう行動するのかを。

「ライダー。僕の事情はもう全部話したはずだよね」

結論を話す前に、確認の意味を込めてそう問いかける。
ライダーと話す時に女騎士の口調は使わないことにした。
変身前の姿を知られているので気恥ずかしいのもあるが、本物の騎士を前にすると……ひどく、滑稽だから。
ラ・ピュセルの胸中を知ってか知らずか、ライダーは「無論だ」と首肯した。

「主が男児の身でありながら魔法少女なるものとして、乙女(ラ・ピュセル)を名乗っていることは承知しているとも!」
「名前はどうでもいいんだって!」
「はは、冗談だ。ここでの事情とは――『聖杯に懸ける願い』と言い換えられるもの。そうだな、主」
「……うん」

ライダーの声色が真剣なものへと変わり、思わず気圧されないようにみぞおちに力を入れる。
「僕の事情」とは言うまでもなく自分自身が命を落とすことになった「魔法少女の死のゲーム」のことであり、
それはそのまま「聖杯に懸ける願い」とイコールだ。


565 : ラ・ピュセル&ライダー ◆Y4Dzm5QLvo :2017/07/17(月) 16:58:48 aAzWrymo0
「僕はたぶん、あの夜クラムベリーに殺された。それは悔しいし、やり切れないし、未練だってある。
 だけどさ……気付いたんだ。多分、もう一度生き返っても、僕はスノーホワイトを救ってやれない」
「主がその仇敵を超える力を手にして、雪辱を果たすというわけにはいかないのか」
「それも考えたよ。でもさ、きっとそれじゃ、スノーホワイトの涙はなくならないんだ。
 小雪にとっては、大事な友達の魔法少女が、互いに憎み合って殺し合うことが、辛くて仕方ないんだから。
 あいつをこれ以上傷つけないためには、正しい魔法少女でいてもらうためには、聖杯の力で救い出すしかない」

それが、考えに考えて出した結論だった。
聖杯が万能の願望器なら、あのデスゲームがどんな魔法のシステムだろうと、それを破ることは可能なはずだ。
ねむりんや、ルーラや、他ならぬラ・ピュセル自身が死んだという事実は覆せないが、仕方ない。
スノーホワイトが――姫河小雪が、これ以上の涙を流さないで済むのなら。

「僕は、聖杯を獲る」

そう言い切った。
ライダーは言葉を噛みしめるように何度か頷いてから、満足そうに笑みを浮かべた。

「――良し、良し! 騎士が命を懸けるに値する願いだ、乙女の涙を拭うためというのが特に良い!
 ならばフランス一の騎士たるこの俺も、主の願いのためにひと肌脱がせてもらうとしようじゃないか!」

受け入れてもらえたようだ。
良かったという安堵はあるが、しかしひとつだけ今のうちに聞いておかなければならないことがある。
ラ・ピュセル/岸部颯太の願いは確かに定まった。しかし、ライダーの願いはどうなのだろう。
与えられた知識によれば、サーヴァントは彼ら自身も願いを持つからこそ召喚に応じるのだという。
それを知らなければ、安心して背中を預けることなどできそうにない。
しかし、ライダーの答えは意外なものだった。

「願いか。あいにくだが、俺の願いは既に叶っている」

ライダーは、隣に並び立つ彼の宝具、名馬バヤールの体を撫でながら言った。

「俺の願いは我が生涯の盟友、このバヤールとまた一緒に風を切って走ることだった。
 こいつと一緒に戦うことこそが俺の生涯の喜びであり、取り戻したい過去だった。
 だがこうしてサーヴァントとして召喚された時点で、俺はこいつともう一度巡り会えた」

鼻先を寄せて信頼を示すバヤールに応えてから、ライダーは凛とした面構えで向き直る。

「ならば、俺は召喚者たる主に大恩があるということになる。それは忠義を誓うに十分な理由だ」

ライダーは前触れ無く剣を抜き放った。
そして名高き名剣、円卓の騎士より受け継いだという波打つ刃を地に突き立て、柄に両手を懸けて跪く。
それはかつてラ・ピュセル自身がやってみせたのと似た姿で――だけど、これは、本物だった。

「我が主、麗しの乙女(ラ・ピュセル)に、ルノー・ド・モントーバンが誓う!
 我が父祖より受け継ぎし、この身に流れる誇りある血統に懸けて!
 我が聖剣フロマージュと、盟友バヤールの誉れ高き名に懸けて!
 そして栄光あるシャルルマーニュ十二勇士、その一人たる矜持に懸けて!
 たとえこの身が砕けようとも、貴女の剣であると誓いましょう!」

騎士の中の騎士、伝説のパラディンが、本物の言葉で忠義を示している。
今のラ・ピュセルにはただ頷き、手を差し伸べることしか出来なかった。

「――もちろんだよ。一緒に戦おう、ライダー」
「ああ。この真名に恥じない戦いをすると約束しよう!」

何故なら俺はフランス一の騎士なのだからなと笑ってみせるライダーに、ラ・ピュセルは笑顔を作ってみせた。
大丈夫だろうか――ちゃんと笑えているだろうかと考えながら。


566 : ラ・ピュセル&ライダー ◆Y4Dzm5QLvo :2017/07/17(月) 17:03:50 aAzWrymo0


                    ▼  ▼  ▼


霊体化したライダーの気配が遠ざかり、もう近くにはいないだろうと確信して初めて。
ラ・ピュセルは、ずるずると崩れ落ちるように、その場で尻餅をついた。
人間の時よりも精神的に強くなっているはずの魔法少女の体だが、心臓が高鳴っているのを感じる。
さっきのライダーの言葉が、胸から離れない。
何度も何度も、木霊のように心のなかで反響して、ラ・ピュセルを揺さぶってくる。

”たとえこの身が砕けようとも、貴女の剣であると誓いましょう”

奇しくもそれは、ラ・ピュセルがスノーホワイトに告げた誓いと同じ言葉だった。
同じだったからこそ、その違いは鮮烈だった。
これが、本物の騎士の誓いなのか。
生涯を忠義に捧げ、数多の戦場を駆け抜けてきた、本物の英雄。
まがい物ではない、英霊そのものだからこそ確かな重みをもって告げることが出来る言葉。
率直に言って、打ちのめされていた。
彼の心の中には一点の曇りもなく、本気で自分への恩を返すために戦うつもりなのだろう。
それこそが騎士、それこそがパラディンなのだから。
跪く彼の姿は輝いてすら見えた。本物だけが持つ輝きだった。
そんな英雄の輝きを目の当たりにして、ラ・ピュセルは――。

「――あ、あぁ、ああぁぁぁあっ…………!」

今になって、ようやく、その両目から涙が溢れ出した。
声にならない呻きを上げ、両手で地面を叩いて、嗚咽した。

”あんなもの”は、見たくなかった。
正しい騎士の在り方なんて、知りたくなかった。
否応なしに「これが本物だ」と理解させられてしまう、そんな輝きを目の当たりにしたくなんてなかった。
だって、だって、そんなものを見てしまったら――。


――自分が今までやってきたことが、あまりにも惨めじゃないか。


本物の騎士道を知るたびに、自分の騎士道がいかに「騎士ごっこ」だったのかを思い知った。
思い描いていた「かっこいい騎士」の姿に、中身がまるで伴っていなかったことを自覚した。
ライダーには一切の悪意がなく、本心から忠誠を誓ってくれているということが、余計に苦しかった。
自分を傷つけようとしてやっているのならば、そのほうがよっぽどよかった。
善意の振る舞いだからこそ、それに接しているだけで、自分とのギャップをまざまざと知らされてしまうから。
彼の騎士道は眩しすぎる。眩しすぎて、目がくらんでしまう。

(……だけど、それじゃまるで、僕の誓いには、何の重みもなかったみたいだ……)

心をよぎった考えを、思い切り頭を振って否定する。
それでも湧き上がる暗い考えを押さえつけながら、ラ・ピュセルは涙を拭った。
あの夜の誓いが、物語の騎士の真似に過ぎなかったとしても。
あの夜に抱いた想いだけは、嘘じゃないはずだから。
そう。
まだ、嘘じゃない。
あの想いだけは、本物にしなければならない。
だって……何の意味もない人生なんかじゃなかったと、信じたいじゃないか。

「……僕は偽物でいい。正しい騎士にも、魔法少女にも、なれなくていい。
 だけど、小雪……スノーホワイト、君だけは本物だから。君の夢だけは、僕が守る」

うわ言のように呟き、拳を握りしめ、ラ・ピュセルはよろけながら立ち上がった。
あの騎士が正々堂々と戦いたいなら、それはいい。彼は正しい騎士だから、そうする権利がある。
だけど、自分のおぼつかない理想では、きっとその隣に立つことは出来ない。
それでも負けられない。あの夜の誓いをごっこ遊びで終わらせないためには、戦うしかない。
……だったら、正しくなくていい。
この戦いの果てに、スノーホワイトが正しい魔法少女として笑える未来があるなら、それでいい。
その過程で、自分に忠義を誓ったライダーの誇りや理想を踏みにじることになろうとも――。
――かまうものか。
最後に、この手に聖杯が残れば、それでいい。

「とっくにこの身は砕けたけれど、今でも僕は貴女の剣だ。スノーホワイト」

その日、魔法少女ラ・ピュセルは、ようやく聖杯戦争のマスターとなった。


567 : ラ・ピュセル&ライダー ◆Y4Dzm5QLvo :2017/07/17(月) 17:04:16 aAzWrymo0

【クラス】ライダー

【真名】ルノー・ド・モントーバン

【出典】シャルルマーニュ伝説

【性別】男

【身長・体重】182cm・74kg

【属性】秩序・善

【ステータス】筋力B 耐久B 敏捷B 魔力D 幸運C 宝具B 


【クラススキル】
騎乗:A-
 乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
 Aランクでは幻獣・神獣ランクを除くすべての獣、乗り物を乗りこなせる。
 しかし後述のユニークスキルにより、ルノーは宝具以外に騎乗するとステータスがダウンしてしまう。

対魔力:C
 魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
 Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
単独行動:B
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 マスターを失っても、Bランクならば2日は現界可能。

怪力:C
 本来は魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性で、一時的に筋力を増幅させる。
 一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間はランクによる。

無窮の武練:B
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
 心技体の完全に近い合一により、いかなる地形・戦術状況下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
 ルノーは十二勇士の中でもローランに次ぐと称された武勇を持つ、当時のヨーロッパ最強の騎士のひとりである。

手綱の誓い:EX
 愛馬バヤールの死に際してルノーが立てた、生涯バヤール以外の馬には乗らないという誓い。
 ルノーがバヤール以外の対象に騎乗スキルを発揮した場合、筋力・敏捷・幸運のステータスが1ランクずつダウンする。
 逆にバヤールに騎乗している間は、あらゆる行動判定に有利な補正が加わる。



【宝具】

『鋭々たる致命の剣(フロベージュ)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大補足:1人
 別名フスベルタ。文献によってはフローレンベルクとも呼ばれる。炎のゆらめきのように波打つ刃を持つ名剣。
 遠くブリテンの円卓の騎士から、時を隔ててシャルルマーニュ十二勇士が受け継いだ『五遺剣』の一振り。
 ルノーのフロベージュは本来マーハウス卿の剣であり、一説によればフランベルジュ(波形剣)の原典であるとも言われる。
 その特性は「不可逆の切断」。
 盾であれ鎧であれ一太刀で打ち破った逸話と、癒しにくい傷を負わせるという波型剣の特徴とが合わさったもの。
 真名開放を伴う斬撃が何かを切り裂く時、その切断力は爆発的に増大し、またその傷を修復するのは通常より遥かに困難となる。
 
 ……ここまでが本来の能力なのだが、宝具として成立するにあたって原典を取り込んだ結果、この剣は新たな特性を得ている。
 それは本来の所有者マーハウス卿がトリスタン卿との決闘で用いたという、刃に毒を塗った剣の逸話の再現。
 持ち主の任意で刀身に纏わせた魔力を毒素に変換することができ、治癒困難な斬撃との相乗で相手の肉体を内部から蝕むことが出来る。
 もっとも、ルノーはこの力を「騎士道に背く戦法」として快く思っておらず、例え窮地に陥っても自ら使おうとはしないだろう。


『蹴破る剛蹄(バヤール)』
 ランク:B+ 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1〜30 最大補足:50人
 バヤール。ルノー・ド・モントーバンの生涯の盟友にして、聖剣デュランダルと並び称された名馬の中の名馬。
 名はその赤毛に由来し、伝承によれば黄金の心臓と狐の知恵を持つとされる。
 聖杯戦争においては宝具として現界しているが、英霊の座に登録されたれっきとした英霊である。
 気性は非常に荒いが、ルノーとは固い絆で結ばれており、離れ離れになった時も決して主人のことを忘れることのない忠義に篤い性格。

 宝具としてのバヤールは、並の騎乗物では追いつくことすら出来ない加速力と、あらゆる障害をなぎ倒して走破する怪力を誇る。
 また『乗る人間の人数に応じて自在に巨大化出来る』という伝承に由来する、擬似的な質量増大能力を持つ。
 真名開放により、外見上の大きさは変わらないにも関わらず、山のように巨大な獣と同等の大質量を伴った突撃を行う。
 あたかも巨大化しているかのように、障害物を蹄のひと踏みで叩き潰し、体当たりで壁を打ち崩し、一蹴りで敵を鎧ごと打ち砕くのだ。


568 : ラ・ピュセル&ライダー ◆Y4Dzm5QLvo :2017/07/17(月) 17:05:09 aAzWrymo0

【weapon】
『無銘・馬上槍』
 バヤールでの突撃に耐えうる強固な構造のランス。
 取り回しが悪いため、敵と切り結ぶ際は『鋭々たる致命の剣』を抜剣する。

【解説】
ルノー・ド・モントーバン。
シャルルマーニュ伝説に名高き十二勇士に数えられた『聖騎士(パラディン)』のひとり。
日本ではフランス語読みの『ルノー』よりも、イタリア語読みの『リナルド』という名前のほうが定着している。

シャルル大帝の甥であり、ローランやアストルフォとはそれぞれ従兄弟の関係にあたる。
強者揃いの十二勇士の中でも特に武勇に優れ、騎士としての実力は十二勇士筆頭のローランに次ぐとされる。
もっともローランは戦士としては優れていても素行に問題が多かったため、ルノーこそ騎士の中の騎士と呼べるだろう。
義に篤く、卑怯な行いを嫌い、女性に優しく、どんな敵にも決して臆することのない、パラディンの理想形といえる性格。
もっとも、貧乏な領地に持ち帰ろうと自分を捕虜にしていた城から調度品をちょろまかそうとしたりと、真面目一辺倒な男ではない。
とはいえローランを筆頭にアクの強い面子の集う十二勇士では、オリヴィエに次いでまともな部類である。

一連のシャルルマーニュ伝説においては、ルノーはローランやアストルフォと並んで準主役級の活躍を見せる。
数々の冒険や恋の鞘当て(これに関しては全部マーリンのせいだが)を繰り広げ、愛馬バヤールに乗って世界を駆け抜けた。
後半の山場となる『ロンスヴァルの血戦』にも、弟リッチャルデットと共に参戦し、絶望的な戦況の中で奮戦する。
しかし十二勇士の生還者は彼ら兄弟だけで、ローラン、オリヴィエ、テュルパン、アストルフォと名だたる勇士達は皆戦死してしまう。
彼らの死に意気消沈したシャルル大帝は息子の傀儡となり、疎んじられたルノーは止むなく大帝と対立する。
しかしルノー達のモントーバン領とフランク軍ではあまりにも戦力が違い、領民のためにルノーは恭順を誓わざるを得なくなる。
降伏の条件として大帝の息子が提示したのは「見せしめとしてバヤールをルノーの目の前で溺死させる」というものだった。
唯一無二の盟友を失ったルノーは領地を息子に譲って信仰の道に入るが、その欲の無さに嫉妬した民衆によって殺される。
パラディンとして輝かしい冒険譚をいくつも遺した男には似つかわしくない、あまりにも寂しい最期であった。

【特徴】
金属鎧の上からマントを纏った、精悍な顔立ちの美丈夫。
肩ぐらいまでの髪を後ろでひとつに纏めている。

性格は常に自信満々、自分をフランス一の騎士であると公言して憚らない。
これは生前の実績に裏打ちされたものであり、自信に相応しい実力を備えている。
もっとも内心では武勇ではローラン、知略ではオリヴィエ、機転と前向きさではアストルフォのほうが優れていると思っており、
彼がもっとも怒るのは自分ではなく掛け替えのない友人達が愚弄されたときである。

【聖杯に懸ける願い】
 愛馬バヤールともう一度共に駆け抜けたい。
 つまり、サーヴァントとして現界した時点で既に願いは叶っている。

【カードの星座】
 乙女座。





【マスター】
ラ・ピュセル(岸部颯太)@魔法少女育成計画

【マスターとしての願い】
スノーホワイトをデスゲームから救い出す。

【能力・技能】
魔法少女への変身。
魔法騎士ラ・ピュセルに変身することで身体能力を大幅に向上させる事ができる。
また、魔力量も増大し、サーヴァントが全力で戦闘するに足る魔力を供給できるようになる。

「剣の大きさを自由に変えられるよ」
彼の固有魔法。持っている剣と鞘をその時々で最適な幅、厚み、長さに変える事が出来る。
ただし、自在とは言っても自分で持つことが不可能なサイズにすることは出来ない。
剣は非常に頑丈にできており、傷をつける事さえ困難。

【人物背景】
数少ない「変身前が男」の魔法少女で、姫河小雪(スノーホワイト)の幼馴染の中学2年生。
小雪とは中学校が別だが、小学生時代は魔法少女好きの同士として良き友人だった。
学校ではサッカーに打ち込む一方、周囲の人間には内緒にしながら魔法少女作品の鑑賞も続けている。
マジカルキャンディー争奪戦が始まってからはスノーホワイトを守る騎士として奮戦するが、森の音楽家クラムべリーとの戦いで敗北。志半ばで斃れた。

【方針】
聖杯を獲る。
手段は選ばないし、正しい魔法少女であろうとも思わない。
あまりにも正しい騎士であるルノーに対しては複雑な感情を抱いており、彼に対して本心を明かすつもりはない。


569 : ◆Y4Dzm5QLvo :2017/07/17(月) 17:05:24 aAzWrymo0
投下完了しました。


570 : ◆As6lpa2ikE :2017/07/17(月) 23:21:50 nTLp6Hf20
投下します


571 : 零崎軋識の人間選択 ◆As6lpa2ikE :2017/07/17(月) 23:22:59 nTLp6Hf20
私は黒に恋をした。

▲▼▲▼▲▼▲

自分が冬木の街に召喚されると知った時、セイバー――黒姫は、思わずガッツポーズを取りそうになった。
乙女がそんなポーズを取るのははしたないと思い、なんとか踏み止まった黒姫だが、しかしながら、この場合、彼女がガッツポーズの一つや二つ取った所で、それを咎める人間は居なかっただろう。
何せ、彼女が召喚されるのは聖杯戦争――万能の願望器、聖杯を掴める機会である。
つまるところ、黒姫はどんな願いでも叶えられる権利の数歩手前のステージに立つ事が出来たのだ。
これを幸運と呼ばずに何と言えようか――そりゃあガッツポーズを取りそうになるのも仕方なしというものである。
もっとも、それに参加するには、当然ながらリスクがある。
願いを叶えるには等価を払う必要があるように、どんな願いをも叶える聖杯を手に入れるのにも、それ相応の対価が要されるのだ。
それは聖杯『戦争』という名称からも大方察しが付くだろうが、聖杯を手に入れる為には戦争をしなくてはならないのだ――要は、殺し合いの末にしか、願望器を手に入れる術はないのである。
歴史に名だたる英雄一人を相手に殺し合うだけでも齢十数歳の姿で召喚される黒姫には辛いだろうに、戦う相手は何人もいるのだ。
伝説として後世に語り継がれているとは言え、所詮はただの一地方の少女である自分が、聖杯戦争を生き抜く事が出来るのか?
そう不安に思っていた黒姫だったが、召喚された直後、彼女のそんな悩みは無くなった――水流で洗い流されたかのように、無くなったのだ。
黒姫の悩みの消失の原因は、召喚された彼女に掛かっていた加護の力にあった。
涼しく、それでいて暖かな愛の温もりに満ちた、体を包むようにして存在する、膨大な加護の力。
黒姫はこれを知っている。この加護の主を、知っている。
それは黒竜――黒姫が生前愛した、水を司る竜である。
この世ならざる裏の世界から、黒姫が聖杯戦争に参戦する事を知った彼は、自分が持つ力を加護として黒姫に捧げたのだろう。
愛しき竜から貰った加護の力を認識した途端、黒姫の心を蝕んでいた不安の念は、綺麗さっぱり消え去った。
黒竜の加護で諸々の恩恵を獲得している黒姫が、大抵のサーヴァント相手に負けるはずがあるまい――そんな確信を抱けるほどに、黒姫の加護の力は凄まじい物だったからである。

(黒竜さま……)

何処かも分からぬ場所から、黒姫に確かな愛を届けてくれた黒竜に、感謝と愛の感情を抱きながら、黒姫は思う。

(私は、必ずやこの聖杯戦争に勝利します。そして、聖杯で――)

生前は愛し合いながらも、結局は離れ離れになってしまった黒竜と再会し、彼と永遠の愛を育む事――それが、黒姫が聖杯にかける望みであった。

▲▼▲▼▲▼▲


572 : 零崎軋識の人間選択 ◆As6lpa2ikE :2017/07/17(月) 23:23:57 nTLp6Hf20
俺は蒼を愛してる。

▲▼▲▼▲▼▲

零崎軋識は殺人鬼である。
フィクションにおいてよくある、『芸術の為』だとか『正義の為』とかではなく、理由なく人を殺せる殺人鬼――それが、零崎軋識、ひいては彼が所属する零崎一賊の性質だ。
殺人鬼という世間的に受け入れられない立場上、軋識は裏の世界に精通していたし、そこに存在する人々の多くが何処か螺子の外れた気狂いばかりである事も知っていた。
そもそも身内である零崎の人間からして、奇人変人ばかりなのだ――無論、それは自分自身にも言える事なのだが。
ともあれ、そういう事情があり、軋識は自分が割と変人慣れしていると思っていた。
しかし、そんな彼でも、召喚されたサーヴァントを見た瞬間、

「は?」

と、そんな声を上げてしまった。
呆けてしまったのだ。
目の前にいるセイバー――黒姫の見た目のあまりの奇妙さに、そんなリアクションを出してしまったのである。
一方、黒姫の方は黒姫の方で、自分を一目見たマスターのそんな反応を不思議に感じた。
しかし、次の瞬間には納得する。

「ああ、マスター。確かに私のかんばせは貴方が今まで見た事が無いほどに美しく、それ故、見た際に多大なるショックを与えてしまうのでしょうね。すみません、こんなに美しくて」
「いや、そんな理由じゃないっちゃ」

確かに黒姫は美しい。
その顔と体を見れば、万人が『彼女は世界三大美女に加えられるべき人物である』と評するのは間違いない――それほどまでの美しさを、黒姫は有していた。
強いて彼女の体の完璧性に文句をつけるとすれば、顔に憂いの表情を浮かべている所と、胸の大きさがやや控えめな所である。しかし、そこもまあ、奥ゆかしい大和撫子らしさがあり、実に良い。
自分の美しさを自覚していた為、黒姫は「マスターは私の美しさに見惚れてしまったのですね」と思ったのだ。
しかし、真相は違う。
軋識は、黒姫の美貌ではなく、彼女の服装に目を引かれていたのだ。

「セイバー、どうしてお前はそんな格好をしてるっちゃか?」
「『そんな格好』?」

そう言われて初めて、黒姫は自分の服装を確認する。
彼女の服装は、スクール水着に黒ストッキングという、中々にマニアックなそれであった。
それらの上から和服を申し訳程度に羽織っているが、それは内部にある奇抜なファッションを全然隠せておらず、むしろ、フェチ性まで高めている部分すらある。

「ええええええええええええええええ!?」

奥ゆかしい大和撫子らしさの欠片もない悲鳴をあげた姫は、慌てて両手で和服の前を閉じようとする。
しかし、微妙にサイズが小さい所為か、妙にセクシーでフェチズムに満ちたファッションを完全に隠す事は叶わなかった。
黒姫が生きていたのは、遥か昔は室町の時代であり、当然ながらその頃の日本には、スクール水着も黒ストッキングも存在しない。
だと言うのに、どうして彼女はこんな格好で召喚されたのだろうか?
その疑問の答えに、黒姫は思い至っていた。

「黒竜、さま……?」

黒竜――彼が与えてくれた、涼しく、それでいて暖かな愛の温もりに満ちた加護の力は、そのまま、涼しげで温もりのあるスクール水着型の礼装の形で現れたのではないかと、黒姫は推察した。
黒ストッキングも、そのついでだろう。
どうして数ある衣服の中からスクール水着と黒ストッキングが選ばれたのかは謎だが、これが黒竜の加護の現れであるのだと考えると、納得がいく。
そう考えながら、黒姫は限界まで閉じた和服の隙間から覗くスクール水着に目を凝らしてみた。表面には竜の鱗のような模様が薄っすらと描かれていた。黒ストッキングにも同じ様な模様があった。
やはり間違いない、これは黒竜の仕業である。
黒姫はおよそ三秒程でそれらを把握し、更に三秒悩んだ。
本当はこんな恥ずかしい格好なんてしたくなく、スクール水着と黒ストッキングから着替えられるならどんな襤褸切れを着る事になっても構わないと思っていた彼女だが、スク水と黒ストが愛する黒竜からの贈り物であると分かった今、それらを着続けるべきなのではと考えたのである。
変な所で真面目なサーヴァントだ。
まあ、曲がりなりにもスクール水着と黒ストッキングは竜種の加護の現れであるので、そんな超上級の礼装を着続けるのは完全に正しい選択なのだけれども。

「失礼。取り乱してしまってすみません、マスター。この格好は、そうですね……色々と深い事情があるのです。今はあまり触れないで貰えるとありがたいのですが」
「……そうっちゃか。了解っちゃ」

ここまでの黒姫の行動から、スクール水着&黒ストッキングという変態的服装に一番驚いているのが彼女自身であるのを察した軋識は、今の所はこれ以上彼女の服装について探らないでおこうと考えた。
誰だって触れて欲しくない事はある。


573 : 零崎軋識の人間選択 ◆As6lpa2ikE :2017/07/17(月) 23:24:55 nTLp6Hf20
(聖杯戦争に呼ばれたのが俺じゃあなく、レンだったら、セイバーのこの格好を見て喜んでいただろうっちゃね……)

軋識と同じく零崎三天王が内の一人である零崎双識の変態性を思い出しながら、彼はセイバーの服装にそんな感想を抱いた。

「ところで」

と、そこで、黒姫はそんな風に話を切り変えた。セイバーだけに。

「マスター、貴方は聖杯戦争の参加者に選ばれましたが、貴方に聖杯にかける願いはあるのですか?」

自分の服装についてから一刻も早く話題を変えたかったとはいえ、それはあまりにも急な話題転換であったが、しかし、聖杯戦争の主従間において、この質問は必要不可欠なそれであった。
何の為に戦争に参加しているのか分からない相手と行動する事ほど不安な事はないのだ。

「ちなみに私――黒姫は、『愛する竜(ひと)と共に過ごしたい』という願いを持って、この場に馳せ参じております。マスター、貴方は?」
「…………」

ここで軋識は考える。
そもそも軋識は明確な意思を持ってこの場にやって来た訳ではなく、たまたま星座のカードを手に入れた事で無理矢理連れてこられた人間なのだ。
巻き込まれた被害者なのである。
だから、聖杯に託す願いなど、急に問われてもパッと出て来る筈がない。

(ここは家族思いの零崎らしく、一賊の繁栄と安泰でも願うのが、俺の言うべき事はだっちゃね)

故に、軋識はおよそ殺人鬼らしからぬ平々凡々な、つまらない願いを思いつき、それを口にしようとした。
しかし、その直前、彼は思い出す。
目の前にいるセイバーが少女であると言う事と、彼女が口にした『愛』から連想した、ある人物の事を思い出したのだ。
それは暴君。死線の蒼。軋識が軋識ではなく、式岸軋騎として所属していたサイバーテロリスト集団に居た、若き少女。
『彼女に聖杯を捧げるのはどうだろうか?』――そんな考えが、軋識の頭に浮かび、インターネット中に感染を広めるウイルスのように、彼の頭を支配していく。
どんな願いでも叶えられる聖杯を捧げたら、暴君はどんな反応をするだろう。
喜んでくれるだろうか。それとも、つまらなさそうにそれを投げ捨てるだろうか。
そのどちらも、考えるだけで非常に魅力的である。軋識はそう考えた。
しかしながら、彼はその願望をすぐ口にする事が出来なかった。
セイバーを相手に、少女の為に聖杯を獲得したいと言うのが憚れたと言うのもあるが、零崎の人間である自分が、一賊ではない少女の為に戦うのを他ならぬ自分が許せなかったのである。
家族思いの零崎軋識――少女に恋する式岸軋騎。
全く同じで全く異なる二人の二つの思いは、軋識を葛藤させた。

「……特に、願いはないだっちゃ。そもそも俺は巻き込まれてここにいる人間だから、『生きて聖杯戦争から帰還する』以上に大した願いはないだっちゃよ」

最終的に、軋識はそんな嘘をついた。
元いた世界から遠く離れた冬木市でも相変わらず嘘つきである自分が嫌になる軋識であった。


574 : 零崎軋識の人間選択 ◆As6lpa2ikE :2017/07/17(月) 23:25:40 nTLp6Hf20
【クラス】
セイバー

【真名】
黒姫

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力D 耐久A+ 敏捷B 魔力A 幸運EX 宝具A++

【クラススキル】
騎乗:A+
黒姫は竜種への騎乗(意味深)も可能とする。

対魔力:A

【保有スキル】
黒竜の寵愛:EX
黒竜からの愛。
それによる加護の力は、黒ストッキングとスクール水着型の概念礼装として現れている。
水を操る黒龍が、美しき姫に現代風の着衣型礼装を与えた時に、それが水辺で着用されるスクール水着の形を取るのは何らおかしな事ではないのだ。黒ストッキングはついでである。
黒姫の体の表面に竜の鱗が生え、彼女が最終的に竜になった、という黒姫伝説の一説がある。
それが、当時黒竜からの贈り物である衣服を着た黒姫の姿を見た人々が、「姫が竜になった」と誤解した末に、話に尾鰭が付いた結果であるのは、疑いようのない事実である。
おそらく型月本家がサーヴァント黒姫を出す時も、これと同じアイデアを使うはずだ。多分。
このスキルの効果によって、黒姫の耐久ステータスは最高位のものになり、彼女はスキル『魔力放出(水):A』『対魔力:A』を獲得した。
また、下記の宝具を発動する際、竜からの大幅な魔力補助を受けるので、消費魔力量が軽減される。

魔力放出(水):A

竜殺し:C(A)
一説によると、彼女は悲恋の物語の末に剣を取り、竜を退治した――とされている。
実は退治したわけではなく、愛で竜の力と怒りを鎮めただけなのだが、後世の伝承によって、彼女は竜殺しの代名詞的存在と化した。
このスキルは、その逸話によって獲得したものである。
竜の属性を持つものに、僅かながら特攻ダメージを与える。
実際に為した功績ではなく、人々から与えられた伝承の力で得たスキルなので、『無辜の怪物』に近い。

【宝具】
『終宴剣舞・水害三昧』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:100

この宝具が発動されると同時に、敵の周囲に黒竜の力――渦巻く水の竜巻と荒ぶる波、滝のような豪雨が出現。
水害のフルコースである。
それらは敵を翻弄し、絶大なダメージを与える。
また、地上に現れた竜の力に呼応して、黒姫の竜殺しの性質が上昇。この状態の彼女が持つ剣は、もはや聖剣に近い力を持つようになる。
『黒姫といえば竜退治』という、民衆が彼女に対して向けた伝承の力によって、威力が底上げされるのだ。
竜の力を含んだ水に沈み、揉まれ、侵された敵サーヴァントに対し、この竜殺しの剣は、必ず特攻ダメージを叩き出す。水で視界不良に陥ってる中、黒姫の斬撃を避けるのは、直感スキルや高ランクの幸運でも持ってないかぎり不可能だろう。
水害三昧の中にある敵サーヴァントをこの剣で斬ろうとすれば、当然ながら、周囲の水(りゅうのちから)も巻き込んで斬ってしまうので、その瞬間に渦巻きと荒波と豪雨は霧散し、消滅する。
つまるところ、渦巻きと荒波と豪雨→黒姫かりばーの連続攻撃である。
竜と姫のふたりがコンビネーションを取れているようにも、片方の技がもう片方の技の邪魔になっているようにも見えるあたり、この宝具は黒姫伝説の再演であると言えるだろう。
ちなみに、この宝具を発動している黒姫の竜殺しの性質は、先程も述べたように、普段以上のものになっているので、彼女が着ている黒ストッキングとスクール水着型概念礼装(当然ながら竜の属性をこれでもかと有している)は絶大な竜殺しの力を受け、木っ端微塵に弾け飛ぶ。和服もついでに弾け飛ぶ。
つまり、この宝具の発動中、彼女はすっぽんぽんの丸裸になるのだ。
宝具が終了し、黒姫の竜殺しの性質が元に戻ると、元通りに修復された黒ストッキングとスクール水着型概念礼装(と和服)がどこからともなく現れ、彼女の裸体を包み隠す。
それが、黒姫を想う黒竜の紳士的な心遣いによるものであることは、言うまでもあるまい。
「そんな所に気を遣えるならば、そもそも黒ストッキングとスクール水着を贈るなんて真似はしないのでは?」とは言ってはいけない。

【人物背景】
・無名・刀
源頼朝伝来の名刀。


575 : 零崎軋識の人間選択 ◆As6lpa2ikE :2017/07/17(月) 23:26:25 nTLp6Hf20
【人物背景】
黒姫伝説とは、長野県北信地方に伝わる民話である。
しかしながら、それは一地方の民話とは思えない程に諸説存在し、『黒姫に一目惚れした黒竜が彼女をストーキングするも、追い払われ、キレた彼は周囲一帯を巻き込む水害を起こしたが、最終的に黒姫から退治された』という話の大筋は合っているものの、話毎に展開が微妙に異なっている部分がある。
なので、この登場話の黒姫は、生前この様なエピソードを経たものとする。

高梨氏が開いた宴会に興味を持った黒竜は、蛇の姿に変身し、宴会場へと潜り込んだ。
彼はその先で美しい息女――黒姫を目撃し、彼女に一目惚れをする。
以降、彼はハンサムボーイの姿に変身し、高梨氏の邸宅へと足繁く通い、黒姫に求婚を迫る。
黒竜のアプローチを受けた黒姫は、彼の真摯な思いにハートを射抜かれ、彼が竜である事を知りながらも、求婚を受け入れようとする。
だが、それを周囲の人々は許さなかった。
ある夜、普段と同じく黒姫の元を訪れた黒竜に、高梨氏の政盛は殺すつもりで斬りかかり、傷を負わせた。
この行為が逆鱗に触れた黒竜は本来の姿に戻り、怒りのままに周囲に水害を齎す。
豪雨に川の氾濫、洪水と。村は水底に沈む寸前まで追い込まれた。
ああ、もうこれで終わりか――誰もがそう諦めた時、黒姫は立ち上がり、何とか黒竜を説得するべく、彼の元へ向かう。その際、政盛は自衛用に、先ほど黒竜に切り傷を与えた刀を黒姫に渡した。
黒竜の元に辿り着いた黒姫は、愛の言葉と共に黒竜を説得し、何とか彼の怒りを鎮める事に成功する。この際、彼女は政盛から渡された刀を振る所か抜く事さえ無かった。
ともあれ、どうにかめでたしめでたし。これで黒姫と黒竜は結ばれる――そう思った黒姫だが、他の神々が黒竜の所業を許すわけが無かった。
神々の怒りを受けた黒竜は、この世ならざる裏の世界へと連れて行かれる事となったのだ。
その光景を見ていたモブ村人たちが、『黒姫様が刀を持って竜を退治して、何処かへ追い払った』と勘違いし、それを伝承として語り継いだ結果、『刀で竜を退治した姫』というイメージが黒姫に定着したのである。

【特徴】
烏の濡れ羽のような黒髪、黒曜石のような黒目の瞳、湖畔のような輝きを放つ脚を包む黒ストッキング、そして従来のものより黒色の強い紺色のスクール水着――全身黒黒黒な、超絶最カワ美少女である。
スクール水着の上から、一枚の和服を申し訳程度に羽織っているが、体のラインが全然隠されておらず、実にセクシーでショッキングな服装になっている。
ちなみに、黒姫自身はこの服装を恥ずかしいと思いながらも、別の服に着替えようとはしない。
どれだけマニアックで恥ずかしい衣装であっても、それは愛しい人、もとい愛しい竜から貰ったプレゼントなのだから、文字通り肌身離さず纏うべきだ――と考えている。
恋人(恋竜?)の為なら割と無茶できちゃうタイプなのだろう。
ちなみに、顔にいつも憂いの色を浮かべているからか、『自分に自信がなさそう』と勘違いされやすいが、実は自分の美しさにかなりの自信を持っている。
その美貌を以って竜の心を射止めたのだから、それは当然なのだろうが、憂い顔でシレッとイキった発言をする事がままあるので、周囲は少しイラっとし、そして次の瞬間には彼女の美貌に癒される。
彼女が憂い顔をしているのは、愛しき竜と一緒に居れてないからだ。

幸運ステータスは「あのお方と出会えた私は、歴史上類を見ない程の幸せ者ですね……いえ、結局あのお方と一緒になれなかった私は、歴史上類を見ない程の不幸者ではないのでしょうか? ……測定不能という意味のEXにしておきましょう」という経緯を経て、設定(自己申告)された。なんだこいつ。

【weapon】


【サーヴァントとしての願い】
黒竜と永遠の愛を育む。


576 : 零崎軋識の人間選択 ◆As6lpa2ikE :2017/07/17(月) 23:27:02 nTLp6Hf20
【マスター】
零崎軋識@零崎軋識の人間ノック、その他

【能力・技能】
・零崎
理由なく殺す殺人鬼が、血の繋がりでは無く流血の繋がりで家族を形成した集団。
一見バラバラなようで結束は固く、家族に仇なすものは、老若男女人間動物植物の区別なく容赦なく皆殺し。その範囲は広く、直接的に敵対した人物からその家族、『標的と同じマンションに住んでいる』だけの一般人も対象になりうる。
また、零崎の人間は他人から向けられる殺意に敏感である。

・式岸軋騎
零崎軋識のもう一つの顔。
彼は前世紀日本を震撼させたサイバーテロリスト集団の一員である。
インターネット関連は勿論の事、彼が得意とするのは機械の物理的な解体・組立であり、ある程度なら工具無しでも出来る。

【人物背景】
殺人鬼にして、サイバーテロリスト。
家族思いにして、恋する青年。
非常識にして、規格外。
そんな複数の顔と矛盾を抱える彼だが、そんな自分に誰よりも悩んでいるのは彼自身である。
参戦時期は見えない戦争が終わった後。

【weapon】
・愚神礼賛(シームレスバイアス)
鉛製の金属バットと釘が一体化している釘バット。
当然ながら超重量であり、軋識はこれを軽々と振り回して殺人を行う。

【聖杯にかける願い】
一賊の為に使う/暴君に捧げる


577 : 零崎軋識の人間選択 ◆As6lpa2ikE :2017/07/17(月) 23:27:30 nTLp6Hf20
投の下、終の了です


578 : ◆z1xMaBakRA :2017/07/18(火) 01:52:33 hCe4vglQ0
感想は後程です。こいついつも後手に回ってんな

投下します


579 : IFのおはなし ◆z1xMaBakRA :2017/07/18(火) 01:53:10 hCe4vglQ0
「……ん」

 長い間、寝ていたような気がする。少女はそんな事を思った。
異様に身体が、怠いのだ。十何時間も眠った後のように、身体の節々が軋み、そして何よりも、鉛を巻き付けた様に身体全体が、重い。
仰向けの状態から起き上がる事すらも、億劫だった。いっそこのまま二度寝とふけこもうにも、全く眠くない。

「うっ……」

 眩しい。次に思った事はそれだった。
それはそうだ。何時間も眠った後の寝起きの状態で、LEDのシーリングライトを直視してしまったのだ。
真っ当な人間ならば、まず強いフラッシュで瞳が焼かれ、何も見えなくなってしまう。思わず少女は、瞼を瞑り、顔を横に向けさせた。

「オイオイ、まーた居眠りしちゃうのかよ。いつまでこのボクを待たせるつもりなんだい、重役気取りも大概にして欲しいな!!」

 別に眠りたい訳じゃないと思いながら、少女は、自分の身体に掛けられていたベッドのシーツをのそのそと払い除け――。
現状を把握し、バッとベッドから飛び起き、声のした方角に身体を向けるも、視界不明瞭の状態で勢いを付けて動いたのが、運のツキ。
体勢を崩してよろめいたばかりか、勢いよく後ろの方に倒れ込む。「おっ、黒とは大人っぽい。でも年の割には、色気のない下着なのが駄目だな」、
ケラケラと笑う声。意味の理解が一瞬遅れたが、理解した瞬間、顔が羞恥の火が灯る。ベッドに手を掛け、それを支点にして少女は立ち上がる。
まだ視界は拓けないので、相手が誰だかは正確には解らない。だが、声からして、女性……それも、自分とさして歳の変わらない者、と言う事だけは解る。

「――だ、れ……!?」

 事此処に及んで、漸く少女は、目の前の人物に誰何をする事が出来た。

「誰って、さぁ……君の視界に、映ってないのかい? ボクの、聖杯戦争の中で最高峰かつ最強と言う自負すらある、圧倒的なスペックのステータスが、さ」

 何を言ってるんだこの女は、と思わぬ少女ではなかったが、よく注意して、女性のいる方角を眺めていると、不思議な文字が視界に映っているのが解る。
やや視界が正常に戻りつつあるも、まるで酷い近視の人間のように混濁した視界の中でも、その文字だけはクッキリと見る事が出来た。
EXやらAやらBやらCやら、と言う英字及び、日本語と思しき単語が、明白な文法及び何らかの法則性に基づいて配置されているのだ。
これの意味する所を少女は考えて――頭の中に、稲妻が閃いたような感覚を覚えた。頭の中に生まれていた空隙、其処に新たに情報が書き込まれて……いや、違う。
忘れていた情報を、急速に思い出して行くような感覚を覚えたのだ。

「貴女が、私の……」

「御明察」

 漸く、視界が回復した。
ニッ、と言う笑みを浮かべた、紫色のロングヘアが眩しい、紫色のアイシャドウと口紅を塗った、驚く程の美女が、安いアームチェアに膝を組んで座っている姿が見えたのと、殆ど同時であった。

「ボクが、君の呼び出したサーヴァント。アサシン、『ロキ』さ」


580 : IFのおはなし ◆z1xMaBakRA :2017/07/18(火) 01:53:24 hCe4vglQ0
 ◆

 何の毛皮を使っているのか解らない、銀色のファーコート。その下に、黒いパンツスーツを纏った女性だった。
アメジストの様な紫色のロングヘア、同じく紫色のアイシャドウを塗られたその顔の、眉目秀麗な顔立ちたるや、少女の子供っぽい顔立ちでは歯も立たない。
胸の方も、豊胸手術をしていると彼女の方から僻まなければやってられない程、少女とロキとでは差があり、およそ女性的魅力では、何一つとして、
少女には勝っている所もなかった。辛うじて上げるとすれば年齢であろうが……その年齢だって、よくよく見たら、少女と大差なさそうな気がしなくもない、
と弱気になって来るのだから堪らない。大人としての色香と、少女としての未成熟さを極めて高いレベルで両立させているのだ、目の前のアサシンは。これを、ズルと呼ばずして、何と呼ぼうか。

 ――ロキ。彼女は自身をそう名乗った。
それを認識した瞬間、少女の頭の中に急速に、あらゆる情報が叩き込まれて行く。
聖杯戦争、サーヴァント、真名、宝具、スキル、ステータス、冬木市――。この世界で生き抜く為のありとあらゆる知恵が、一秒と言う、
永遠の時間の中において刹那と言う言葉ですら生温い程の微塵の一瞬の間に全て刻まれた。

 驚きが、少なかった。
無論、多少なりとも驚いている。聖杯戦争などと言う、およそ与太話としか思えないイベントに巻き込まれているのだから、それも当然。
だが――自分は、『知っていた』。ある程度知らない事こそあれど、頭の中に刻まれていたこれらの知識、その殆どが既知の知識だった事を今思い出した。
だから、余り驚きのリアクションを取れなかった。そして、今の現状。これらを表す最適な単語が、頭の中で明滅。
喉から出たり、出なかったりを繰り返している。知っている筈なのに、思い出せない。だが、あともう少しで思い出せそう。そんな事を繰り返す事、十秒程。
漸く少女は、それらしい単語を思い出す事が出来た。

「特異点……レイ、シフト……?」

「はン?」

「待って、何にも今は口挟まないで。何か思い出せそう……」

 怪訝な目線で此方を眺めるロキの事などお構いなしに、少女は何かを考える。
うんうんと、知恵熱が出そうな程唸って考え込み――そして遂に、一つの、それでいて、自身の記憶のルーツとなる、最も重要な解を、彼女は今思い出した。

「――『カルデア』!!」

「オイオイ、大丈夫かキミ。凄い外れのマスターを引いたから、とっとと殺して鞍替えしたくなる位には心配なんだが?」

「ぶ、物騒な事言わないでよ……。そうじゃなくて、思い出したの、カルデアだよ、カルデア!!」

「何それ。湖の話?」

「それはカルデラね、じゃなくて――」

 突っ込みを入れた後、少女は、思い出した記憶の空白部分を、ロキに対して語り始める。
フラッと街を歩いていたら、献血車が近くに停まっていたので、たまには無償の善意でも発揮して見るかと自分の血を提供した事。
実はそれが、献血の車と言うのはデタラメも良い所で、本当はカルデアと言うとても凄い――少女自体も未だによく解ってない――組織の活動の一環だったという事。
自分が世にも珍しい体質だったからと言う事で、何処ぞの雪山の地下に建造された秘密基地に、高額の給料であったので、バイト代わりに行ってみた事。
実は世界が、2016年以降相当拙い事になっているようで、このままだと人類の未来が危なくなると言う事。

 其処までを、ロキに対して少女は語る。
うんうん、と頷きながら、腕を組んで彼女の話を一通り聞いたロキは、ややあって一言。


581 : IFのおはなし ◆z1xMaBakRA :2017/07/18(火) 01:53:43 hCe4vglQ0
「ねぇ、マスター、何か調べる端末とかある?」

「えっと、スマホとかあったかな……」

「貸してくれない? 近隣の、腕の良い病院調べるから、一緒に頭を治して貰おうよ」

「ひっどい!! もう貸さない!!」

 ロキの言う通り、自分の鞄の中からスマホを探し掛けていた少女だったが、ロキがあまりにもあんまりな事をいうものだから、
不貞腐れ、鞄から手を勢いよく引き抜き、彼女にスマホを渡す事を止めてしまう。その様子を見て、ゲラゲラと、女らしくない笑い方をするロキ。もう絶対貸すもんかと誓う。

「冗談だよ、本気にするな。第一、レイシフトってあれだろ? 話だけ聞くと、やってる事は時間渡航だ。ノルニルのメンヘラ共も同じような事が出来た事を思い出した。夢物語じゃないんだよ」

「(メンヘラ……)そ、そうなの? タイムトラベルとかって、荒唐無稽な話だと思ってたんだけど」

「基本はそうさ。ただ、出来なくはない。死ぬ程面倒なお膳立てをする必要はあるけどね」

「そうなんだ……」

「って、言うかさ」

 肘掛けに頬杖をついて、ロキが言葉を続けた。

「何で君の方が、ボクよりも疑問気で、自信がない訳? レイシフトだって、本当は君が受ける筈の物だったんだろ? もっと自信持てよ」

「うーん……そ、それがね……」

 指を両手でつんつんとさせて、少女は続けた。

「私……その……」

「何?」

「き、記憶がないんだよね……。自分の名前すら、正直思い出せなくて……」

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……(クソデカ溜息)」

 今度こそ隠しもしない程、呆れた態度をロキは盛大にとってしまう。
そう思ってしまうのも、無理からぬ事と、少女はロキのリアクションを怒れない。正直、自分だってこれはないと思ってしまう。
だが、それでも、記憶喪失が事実であると言う事は、揺るがしようがないのだ。

 少女は、己の名前を知らない。
自分が此処に来るまでの経緯、そして、元居た世界での友達の名前も全員暗唱する事は出来る。
だが、どうしても、自分の本名と、何故自分が此処に来たのか、その経緯。それを思い出そうとすると、その努力を無為にするかの如くに、頭に霧が掛かる。
自分の本名を、家族の名前から連想して思い出そうにも、そうは問屋が降ろさぬと、家族の情報ですらが思い出せない始末だ。
つくづく、ロキが使えねーなコイツ、と言うような態度を隠しもしない気持ちが解る。少女だって、ロキと同じ立場なら呆れて物も言えないだろう。
魔力が少ないとか、全く戦えないとか言うのならば兎も角、自分の名前すら言えないと言うのは、傍目から見れば白痴も同然である。
そんな存在と、一蓮托生しなければならないとは、サーヴァントにとっても気の毒の他はないだろう。「うぅ……」、と言いながら少女は下目遣いでロキの事を見やる。

「何で私、自分の名前忘れてるんだろ……」

「知らないよ」

「何か、何かあった筈なんだけど……全然、思い出せなくて……気付いたら、此処にいて……」

 少女は自分が、どのタイミングで星座のカードを手にしたのか、全く思い出せない。
射手座のカードが、この世界に招かれる為の大事なアイテムであると言う事は、頭の中に刻まれた知識から大体解る。
だが、本当に、何時これを手にしたのかが、解らない。……或いは、思い出したくないのかも知れない。
厳密には、全く思い出せないと言うのは嘘だ。自分が此処に飛ばされた瞬間の事。それを彼女は、本当に断片的ながら、その時のほんの一瞬を思い出す事が出来る。

 ――爆発。そして、悲鳴。怒号。
それが、少女の脳裏を過る、その時の一瞬の光景を切り取った、刹那のフォトグラフ。
これ以上を思い出そうとすると、全く思い出せない。――本当に、自分は、思い出せないのか?
『これ以上を、思い出すのが、怖いからではなくて』、か?


582 : IFのおはなし ◆z1xMaBakRA :2017/07/18(火) 01:54:07 hCe4vglQ0
「別に、思い出せないなら思い出せないで良いよ」

「アサシ――」

「何か勘違いしてないか、『お前』」

 そこで、アサシンの語調が変わった。
低く、恫喝するようなものに。そして、少女に対する呼び方も、明白に。体中から汗が噴き出、そしてそれが、重力が反転しているかのように上向きに体表を上がって行くような感覚を、少女は憶えた。

「ボクはさ、自分の名前すら思い出せないような間抜けの白痴に従う程落ちぶれちゃあいないのさ。聖杯に掛ける願いも、残念ながらなくてね。君に渋々従う理由もない」

 足を組んで座りながら、ロキは言葉を淡々と続ける。
だが、それでも解るのだ。この女性が本気になって、自分を殺そうと思ったのならば、この状態から指の一本も動かさずに、
自分をバラバラに出来るだろうと言う事が。それを思うと、体中から噴き出て来る汗が、一気に熱を失い、冷たい物へと様変わりして行くのだ。

「これが、最初にして、最期になるかも知れない選択肢だ。よく考えて選べよ? お前、これから何するつもりだ?」

「この特異点を、解決する」

 自分でもびっくりする位、少女は即答してしまった。
本当は、もっと内容を吟味、もっと考えてから、言葉を放つつもりだった。
だが、気付いた時には、舌が勝手に動き、顎が勝手に上下し、言葉を紡いでしまっていた。まるで、それ以外に答えるべきものが、なかったかのように。
頭でどんな内容をこねくり回しても意味がなく、これが結局一番の最適解であると、反射的に理解してしまったかのように。

「正直、特異点じゃないかも知れないけど、それでもやっぱり、この聖杯戦争は、解決した方が良いかも知れない。って言うか私も、一応それを了承してカルデアに来たんだし」

 少女は、聖杯戦争、と言う一つのイベントが主核となっているこの冬木の街を、ある種の特異点のような物、と考えていた。
無論、本当にそれがそのようなものなのかどうかは、まだまだ勉強不足も甚だしい、一般公募枠のマスターの為解らない。
だがそれでも、聖杯戦争を勝ち抜いた末に獲得出来る聖杯、それについて少女は、魅力を全く感じなかった。要するに、ロキと同じで、いらないのだ。聖杯が。
よって、今の彼女に出来る事は、この特異点の解決だ。この冬木の街に、如何やらカルデアのマスターは自分一人のようだ、と少女は認識。
心細い事この上ないが、今は、前を向いて頑張るしかないようである。……尤も、それについて頑張れるか否かは、自分の目の前にいるサーヴァントの、胸先三寸な訳であるが。

「だからさ、ロキちゃん。私を殺すの何て、止めよ? 私が痛くて苦しいだけだから。私と一緒に、ホラ……えーと……、この冬木の街にいるサーヴァント、全員やっつけよ?」

「いいよ」

 少女は後半の方、言葉に全く自信がなくなっており、正直、殺されてもおかしくはなかったのだが、ロキの方は何と、呆気なく了承。
これには逆に、少女の方が一気に毒気を抜かれ、「へ?」、と、言う他がなかった。

「ボクの行動基準はさ、面白いかどうか、何だよね。聖杯は僕はいらない。だけど、だからと言って聖杯戦争を諦める、って言えばボクは先ず君を殺してた」

 「だが」

「君は、聖杯戦争を勝ち残った際の賞品である、聖杯をいらないと言った上で、聖杯戦争の『戦争』の部分。つまり、サーヴァント同士の殺し合いには乗ると言った」

「う、うん。そう言う事になるね」

「それが、面白い」

 ニッ、とロキは笑った。口の端を吊り上げた、やらしい笑みだった。


583 : IFのおはなし ◆z1xMaBakRA :2017/07/18(火) 01:54:21 hCe4vglQ0
「聖杯を欲する他の主従は、聖杯が要らないって言う小娘に下されるだけじゃなくて、折角現れた聖杯も、君にNOを叩きつけられて放置プレイを強要されるばかりか、最悪壊されて解体される始末。こんな面白い、喜劇的な結末あるか? ボクは、とっても面白く感じるぜ!?」

 話してる最中に、少女ですら引く程の熱をロキは言葉に帯びさせて行き、そして、更に言葉を紡ぐ。

「君はきっと、狙って、ボクを楽しませる為にそんな事を言ったんじゃないだろう。天然で、そして、心から今の言葉を口にしたに違いない。だが、それが良いんだな!! ボクはマスターに、魔力が凄いだとか、滅茶苦茶強いだとか、そんな事は求めないしどうでもいいのさ。ただ、面白ければ良い!! おめでとうマスター、君は過去、ボクを聖杯戦争に呼び出そうとした数多のマスター、数多の愚者、数多のゴミ・有象無象共の中で、一番優秀なマスターとしてランクインしたよ!!」

「え、と言うか、本当に戦ってくれるの?」

「無論。あ、もしかして、アサシンクラスだから弱いだとか、そんな失礼な事考えたりしてる? うっわ〜、悲しい〜、ヨヨヨ〜……」

 あからさまに下手くそな泣き真似を十秒程披露した後、気が済んだのか、ロキは言葉を続けた。

「心配するなよ。戦いが、面白さを演出するのに必要な手段だと言うのなら、ボクは喜んで、君の為、自分の為に力を奮うよ。ボク、この聖杯戦争でも、割と強めのサーヴァントだと自負してるしね」

「そうなの?」

「時が来れば見せてあげるよ」

「その……どうしても、余り戦いたくないな、って主従がいた時も、裏切って私を殺したりとか……」

「あー……最初の脅し、本気にしてたんだ」

 顔を手で抑え、ロキは言った。

「アハハ、あれはアースガルド流のジョークさ。君……滅茶苦茶ボクに従順だった愚妻に似てるし……って、言わせんなーい!! 恥かしい!!」

 コイツ何一人で元気にノリ突っ込みしてるんだろう、と少女は思わないでもない。
疲れるサーヴァントを引き当てちゃったなぁ、と。改めて彼女は思うのであった。

「あの、それじゃ、宜しくね。ロキちゃん」

「あ〜、一応さ、今は許すけど、次からはアサシンって呼んでくれない? ボクほら、界隈じゃ島流しにされる程の有名なワルだからさ? 名前が知れると面倒なんだよね」

「あ、そうなんだ。じゃ、宜しくね、アサシン」

「ハイハ〜イ。あ、それとボクは、君の事なんて呼べば良いんだろう。いつまでも『君』呼びじゃ、味気ないだろ」

「う〜ん……私、記憶喪失だしなぁ」

「……あ、そうだ。その惚けた態度と、十九時間ぐらい僕を放置して眠りこけてたその重役ぶりを湛えてさ――」

 そこでロキは、一呼吸置いた後に、口を開いた。

「ぐだぐだ女の『ぐだ子』って呼んで良い?」

「君呼びで良い!! 君って呼んで!!」

「宜しくね、ぐだ子!!」

 ロキに、改める気はなかった。
だが、不思議と、少女――ぐだ子は、ロキの考えたその名に、微かな安堵を憶えてしまった。
名もない者には、仮初とは言えど、名乗るべき名があれば、多少の安心感が得られる。それを彼女は、身体と心で、実感しているのだった。




【クラス】アサシン
【真名】ロキ
【出典】北欧神話
【性別】女性
【身長・体重】173cm、57kg
【属性】混沌・中庸
【ステータス】筋力:A+ 耐久:C 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:B 宝具:B

【クラス別スキル】

気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。

陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。小規模な“工房”の形成が可能。

道具作成:EX
魔力を帯びた器具を作成できる。十分な時間と素材さえあれば宝具を作り上げる事すら可能だが、アサシンの場合は『宝具しか作成出来ない』。


584 : IFのおはなし ◆z1xMaBakRA :2017/07/18(火) 01:54:47 hCe4vglQ0
【固有スキル】

トリックスター:A+++
秩序にして混沌。賢者にして愚者。善にして、悪。神の法や自然秩序を無視し、世界を引っ掻き回す悪戯者。
このランクになると、2つまでなら、特定のサーヴァント独自のユニークスキルを除いた如何なるスキルであろうとも、Aランク相当での模倣がいつでも可能。
また、このスキルは極めて高ランクの叛骨の相を保有しているのと同じであり、アサシンのスキルランクの場合であると、
カリスマや皇帝特権等、権力関係のスキルを無効化し、逆に弾き返す。令呪についても具体的な命令であれ決定的な強制力になりえなくなる。
北欧神話の世界に於いてトリックスターの名を欲しいがままにし、現在の世界に於いてもトリックスターの代名詞の一つとして語られる事の多いアサシンのスキルランクは、最高ランクのそれである。

怪力:A+
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。使用する事で筋力をワンランク向上させる。
このランクともなれば、戦闘中はほぼ常時発動している。霜の巨人族出身であるアサシンは、身長と体重とは裏腹に、最高ランクの怪力スキルを引き継いでいる。

高速思考:A
物事の筋道を順序立てて追う思考の速度。アサシンの場合は機転の良さや、悪戯を考える速度、そして計画を練る為のスピードである。
特に、悪巧みや窮地からの脱出・解決において、アサシンの高速思考スキルは高い効果を発揮する。

ルーン魔術:A+
義理の兄であるオーディンより与えられた、北欧の魔術刻印ルーンの所持。 
アサシンとしての現界ではあるが、スキル・二重召喚の影響で、キャスタークラスで召喚された時並のランクを誇る。
ルーンを使い分ける事で、強力かつ多彩な効果を使いこなす。攻撃以外で主に使用するのは対魔力スキル相当の効果、千里眼スキルの効果、
パラメーターをAランクに上昇させる効果、等。これらはすべて一時的なものであり、同時複数の使用は出来ない。

原初のルーン
神代の威力を有する原初のルーン――北欧の大神オーディンによって世界に見出されたモノ。
彼の大神の義理の弟であり、魔術師としても比類ない才能を誇るアサシンは、これをオーディンから教わり、発揮する事が可能である。
本来ならば、Aランク以上の神性スキルを持たない場合、本格的な使用は極めて危険であるらしいが、当然のようにアサシンはこれを無視している。

神性:C(EX)
本来アサシンは、北欧神話においてその正統性を認められている、由緒正しい本物の神霊であり、その神性ランクは規格外の値を誇っていた。
だが、聖杯戦争への召喚に際し、敢えて『巨人族であった時代』まで自分を劣化させる事で、ギリギリ召喚を可能とさせた。

二重召喚:B
アサシンとキャスター、両方のクラス別スキルを獲得して現界する。極一部のサーヴァントのみが持つ希少特性。

【宝具】

『しゃーなしに連中にくれてやった武器(フォー・アースガルド)』
ランク:B 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:1〜50
アサシンがアースガルドの神々に対して献上(或いは、悪戯に対する落とし前)して来た、数々の宝具。
これを呼び出し、己のものとして一時的に使用する事を可能とする宝具。著名な物としては、大神オーディンが持つ神槍・グングニル、
雷神トールが保有する雷槌・ミョルニル、無限大の富を約束する黄金の腕輪・ドラウプニル、フレイが有する魔法の船であるスキーズブルズニル、
及び黄金に輝く猪であるグリンブルスティ、そして、宇宙樹ユグドラシルを灰燼に帰した、スルトの保有するレーヴァテイン等。
宝具ランクに換算すれば最低でもAランク以上は堅い事物を行使出来る……のだが。アサシンはこれらの宝具の真の所有者ではない為、
その真の性能を発揮する事は不可能。真名解放も勿論不可で、常時発動の効果しか発揮する事が出来ない。宝具の内容からは想像も出来ない程に低い宝具ランクは、これが原因である。


585 : IFのおはなし ◆z1xMaBakRA :2017/07/18(火) 01:55:10 hCe4vglQ0
『神代終焉・幻想死箭(ミストルティン)』
ランク:A++(C) 種別:対神宝具 レンジ:1〜99 最大補足:1
女神フリッグが九つの世界を奔走し、万物に対して息子に傷を付けてはならないと契約、それによって無敵かつ不死身の肉体を得た光明神・バルドルを殺害した、
ヤドリギの弓矢が宝具となったもの。この宝具は通常、ヤドリギを削って拵えただけの武器に過ぎず、それ自体を放っても、Cランク相当の宝具でしかない。
その真価は、『相手がDランク以上の神性を保有していた場合』。この条件を満たした時、この宝具は、無敵かつ不死身の光明神を即死させた真の力を発動。
神性スキルを保有しているサーヴァントが保有する、あらゆる防御、あらゆる補正、あらゆる加護を無視。宝具ランク相当の、超極大ダメージを与える。
ダメージは神性スキルの高さによって決まり、発動条件であるDランクの時点でも、Aランク相当の対人宝具を易々上回り、最高ランクのAともなると、
戦闘続行及び素の耐久ステータスが余程埒外の値でもなければ、直撃した瞬間死が確約する程の威力となる。
また、盲目の神であるヘズが投げさせ、ヘズが投げた事をバルドルが気付きすらしなかったと言うエピソードから、この宝具は、上記条件を満たした条件で放つと、
因果の逆転が発動し、矢が突き刺さったと言う結果の方が先に来て必中になる上、A+ランクの気配遮断の効果すら適用される。
アサシンは生前、この宝具を発動した事で、神々の黄昏(ラグナロク)のトリガーを引く事に成功。正に、神代の終焉、幻想の死の名に相応しい宝具である。

【weapon】

【解説】

説明不要に近い程有名な存在だが、ザックバランに説明。
北欧神話に登場する神。霜の巨人族の出身で、ファールバウティとラウヴェイとの間に生まれる。
神々と敵対する巨人族の出であるが、その美しさたるや比類稀なく、その美しさの故に、主神オーディンの義兄弟になってアース神族入りした。
美しい容姿と移り気で悪賢い精神を持ち合わせる。機転を利かせて神々を救ったり貴重な宝物をもたらしたりもしたが、極めて悪質な悪戯を行い、
皆を困らせる事もしばしば。女巨人アングルボザと交わり、大いなる魔物達、フェンリルやヨルムンガンド、冥界のヘルの父(または母)にもなったと言う。
両性具有だったとも言われ、牝馬に変身してオーディンの愛馬スレイプニルを生んでいる。
最終的にはオーディンの息子であるバルドルを死なせるという罪の為に世界の終わりラグナロクまで縛られ封じられたという。ラグナロクでは白き光の神へイムダルと相打ちになったとされる。


586 : IFのおはなし ◆z1xMaBakRA :2017/07/18(火) 01:55:30 hCe4vglQ0
彼の正体は、アースガルドに神族入り、彼らを内から瓦解され、彼らを衰亡させる役割を期待された、霜の巨人族のスパイであった。
当初は自分の役割を忠実に行うも、アースガルドの生活が死ぬ程楽しかった為に、霜の巨人族から言い渡された使命感を秒で忘れ、遊び呆けの悪戯呆け。
だが次第に、神々の生活すらも飽きてきて、時には人間世界にちょっかいを掛けたり、時には親友になった雷神トールや、義兄であるオーディンをからかったりと、
悪質な悪戯をメインにした生活にシフトする。だが、それすらも飽きたロキは、このまま行くと本気で退屈に殺されかけると確信。
アース神族の黄金時代にも飽き、巨人族の掲げる太古の自然秩序による支配も時代遅れで古臭いから性に合わない。
そこでロキは、人間に目を付けた。オーディンやフレイ、フレイヤ達に良い様に翻弄され、巨人達の脅威に晒されたりと。
愚かで、哀れで、脆弱な人間達に、時代を預けたら面白いのではないかとロキは画策。そこで、ロキは引き起こそうと決意したのだ。
神々や巨人族の間でも最早御伽噺扱いされている、終末の日・ラグナロクを。これを成就させる為、ロキは動いた。
美しいだけで好みじゃない女巨人アングルボザと交わって、フェンリルやヨルムンガルド、ヘルの三人を産んだのも。
フレイに仕えていた、スキールニールと言う名前の女を、緑の仮面を被った道化の姿になって、『スルト』として焚き付けてやったのも。
終末の日に派手なドンパチを繰り広げさせるべく、オーディンやトール、フレイ達に優れた武器を与えてやったのも。
オーディンの最愛の息子であるバルドルを、計略で殺して見せたのも。
エーギルの館で、ありとあらゆる神々を告発、神が完全な存在ではないと馬鹿な人間達に啓蒙し、神々の怒りを自ら買ったのも。
全て、ラグナロクを引き起こさせ、神々と巨人達、そして自分の産んだ三匹の怪物達を争わせ、共倒れにさせ、弱くて哀れで救いようのない程愚かな人間達に、
時代を明け渡そうとした為だった。人間に対する情も愛も、ロキにはない。ただ、その時その時の楽しさで動いていただけの、人間以上に愚かな、刹那的な快楽主義者。
それこそが、この神(巨人)の正体だった。彼の目論見通り、人は霊長の頂点になり、ラグナロク後も生き残るとされた神々も、世界の裏側に隠れ。人を頂点とした世界に、なったのだった。

極めて享楽的で、刹那的な快楽主義者な性格であり、規格外寸前のトリックスタースキルによって、真っ当に制御する事も不可能。
それにもかかわらず、ロキがぐだ子に従っているのは、彼女が面白いのと同時に、自分に対して従順で、毒蛇から滴る恐るべき毒液からロキを守っていた、
シギュンと言う女性とぐだ子がそっくりであり、その事に思う所があったからである。因みに本人はそれを凄く恥ずかしいと思っており、言っちゃうと赤面する。
原典では男性の神であるとされるが、実際には女性としての変身能力も有しており、性別が全くと言って良い程意味を成さない。
今回のロキは、生前トールと一緒に花嫁衣装を纏って女装をし、霜の巨人族達のアジトに侵入、彼らを打ち倒した時のエピソードの時の姿で召喚されている。
これが、アサシン適性を有している訳である。この時に着用したと言う花嫁衣裳もあるらしいが、ロキ(ブライド)になるつもりはないと言う事。動きにくいしね。

【特徴】

何の毛皮を使っているのか解らない、銀色のファーコート。その下に、黒いパンツスーツを纏った女性。
アメジストの様な紫色のロングヘア、同じく紫色のアイシャドウを塗られた顔をしており、その顔立ちたるや眉目秀麗そのもの。
胸の方も、一m近いと言う巨乳。全体的に、大人としての色香と、少女としての未成熟さを極めて高いレベルで両立させている。

【聖杯にかける願い】

いらない。聖杯戦争自体を楽しむ。


587 : IFのおはなし ◆z1xMaBakRA :2017/07/18(火) 01:55:42 hCe4vglQ0



【マスター】

ある少女(仮に、ぐだ子と呼ぶ)@Fate/Grand Order

【マスターとしての願い】

この特異点の解決。その為には、全てのサーヴァントを下す必要があると思っている。

【weapon】

【能力・技能】

魔術礼装・カルデア:
人理継続保障機関・カルデアのマスターに支給される魔術礼装。厳密にはweaponに表記される物。
これを装備している限り、己の魔術回路を流れる魔力を駆使して、応急処置や瞬間強化、緊急回避と言う三つのスキルを発揮させられる。

【人物背景】

48人居たマスターの一人。レイシフト適性を持っていたらしいが、レフ・ライノールの爆発に巻き込まれ……?
現在、レフ教授の引き起こした爆発テロの影響で、己の名前と、此処に来る事になった原因を忘却している。

【方針】

聖杯戦争の解決


588 : IFのおはなし ◆z1xMaBakRA :2017/07/18(火) 01:55:53 hCe4vglQ0
投下を終了します


589 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:21:25 Yg7FZA4c0
投下致します


590 : 欲望の運命 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:23:55 Yg7FZA4c0



――――――走る。


彼の世界、彼の宇宙、獣の夢が終わる神殿。
今にも崩壊し、落ちていきそうな断崖を"彼女"は走っていた。
全身に小さな傷を作って。苦しそうに息を切らして。
心臓は張り裂けてしまいそうなほど痛んでいるのだろう。両脚は鉛を巻きつけてるように重いのだろう。
遠くから見ているだけでも分かるほど、"彼女"はとうに満身創痍であり。同時にまだ走り続ける気力を失ってないことも分かるのだった。

彼女を見下ろす天蓋は蒼い。散らばる星々は一つ一つが煌めく命である。
惑星の記録に留めるに値する、価値ある魂。英霊達の尊厳。
平均で平凡で、何の超越性もない普通の人間であり。その在り方のままここまで走り続けてきた彼女だからこそ駆けつけた、極天の流星雨。
けれどその輝きももうない。力を振り絞り役目を果たし、英霊達は宇に還った。
彼女は孤独に走り続ける。隣に誰もいない喪失に叫びそうになりながらも足が止まることはない。

だが見るがいい。その瞳は絶望に染まっておらず、走る体は恐怖への逃避に憑かれてはいない。
進む先は帰る場所。どこにでもいる少女は戻ってこれる家がある嬉しさを知るがゆえに。
死を憎み、宇宙から死を無くそうとしたある式に拳とともに叩きつけた命の答えを示している。

生きることを諦めない意志。
あらゆる命が消え失せ、空間そのものも今まさに爆散する間際においてただひとつ残った命は、この上なく美しかった。

最後の刻が訪れる。
あと一歩で転移(シフト)を行う地点に到達するという寸前に、踏みしめた大地はひび割れて奈落に落ちた。
落ちる先は虚無の領域。秒を置かずして消滅する暗黒。
必死に手を伸ばす彼女。だが表情には生にもがく以外の、死の諦観の色。
力は尽くした。やるだけのことはやった。だからそれで終わるのなら仕方ないかな、と納得してしまう。

―――手は虚しく空を掴む。
そうだ。奇跡は起こらない。彼女の手を掴む人は現れない。
善き人々が妥当した獣の夢が起こした奇跡は、ここにいる彼女には与えられない。
奇跡とは一握りのもの。それを受ける価値があるのは"彼"であり、彼女の運命は、彼女の世界はここで剪定される。
これもひとつのワールドエンド。ワタシは最後に、静かに目を、


「、―――――――――!」


591 : 欲望の運命 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:24:31 Yg7FZA4c0



ああ、いけない。
そんな表情(かお)をされたら、そんな声を上げられたら、どうにも昂ぶっていけない。今すぐ下半身を脱ぎ捨てたくなるではないか。
おお、アイワスよ。根源の先達よ。これが超越者(あなた)方の視点か。
この光景を目に収め、それでも救う選択を取れない全能者がゆえの縛り。
ならばワタシはやはり失格だ。この最期に、この終幕に利益を見出してしまったぞ!


彼女の運命は途絶えている。
彼女の価値はここで潰える。
彼女の存在は宇宙には不要だ。


「ならばここで、僕が奪っても何の不利益もないよね?廃品利用は現代社会の流行だというしね」

手を伸ばす。
虚無(うみ)に沈む塵(ゴミ)を拾うように掬い上げる。
細い腕を掴み、そこで、彼女の手の中にある先客に気づいた。

「なるほど、やられた」



瞬間。
制御を失った魔力の光帯が解放され、超新星に匹敵する衝撃が全てを呑み、玉座を残して神殿は崩壊した。







592 : 欲望の運命 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:25:01 Yg7FZA4c0





「―――ゥ。ゥゥゥゥ……」

 >くすぐったい……

頬をなぞる、懐かしい感触。
脳裏で連想される、リスともネコともつかない愛らしい姿。
こうして眠ってる時、決まって頬を舐めて起こしてくれるのがあの獣だ。けど飼い主には全力で突っ込んだりと無垢でもない性格。
そういや、誰かの夢の記憶だと、かなり毒を吐いていたような気がするが。クロロホルム……マーリンシスベシ……うっ頭が。
ともあれチロチロとくすぐったい感じは実はちょっとクセに……

 >って、なんかいつもよりザラザラしてない……?

そこで、いつもと違う触覚の反応に気づいた。
質感は柔らかい肉のそれだが、ヤスリでなぞられてるような、おぞましいような、

「オォーーーウ!」

 >犬声!?
  耳元で!?

耳朶を叩く大声にバチリと瞳を開ける。
涎でべたついた頬を手で拭う。次いで頭、胸、全身を手で確かめる。
……よし、五体揃ってる。そんな当たり前に安堵と感謝が漏れた。
そうして私―――藤丸立香の自意識はいつものように目覚めた。

  ―――ええっと?
 <―――ここは?

血が巡らぬ頭であたりを見回す。
まず目に飛び込んできたのは、座った姿勢でいた黒い犬だ。
肩に乗るほどではない、両手に収まるぐらいの大きさ。獣の眼は、知恵あるもののように自分をじっと見つめている。
毛皮の色で済む問題じゃない、泥のように濁った黒。
―――唐突に、嫌なイメージが流れ込む。第七の特異点で見た巨大な怪物、人類悪の一つ。触れたものを侵食し改造するおぞましい泥(ケイオスタイド)。

「――――――ゥゥ」

唸る声で、埋もれていた思考が引き上げられた。まだ頭が上手く纏まってないようだ。
……多分、自分の気のせいだが。
美味しそうな食べ物を目の前に置かれながら、飼い主からお預けを食らって必死に耐えているような眼をしているように思った。

状況を確認しよう。どこかの廊下で眠っていた自分。隣で座る謎の犬。
身に纏うのは普段着ではなく全身を覆うスーツ。カルデア戦闘服。
カルデアが開発した、魔術を身につけてない自分でもサーヴァントを援護できる礼装。
今までの記憶が、覚えている経験が、夢(うそ)でない証のひとつ。


593 : 欲望の運命 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:26:12 Yg7FZA4c0


 <そうだ、私は―――
  カルデアはどうなったの?ゲーティアは、人理は―――

最後の記憶は時間神殿。
人理焼却の犯人、ソロモン王を名乗る何者かを倒しカルデアへ帰還する最中。
自分は、墜ちた。
レイシフトで帰還する寸前に道は崩れ、体は底へと投げ出された。
諦めが心を満たしながらもどうにか足掻こうと手を伸ばして―――その時、何かを掴んだ気がするまでは憶えている。
そこから意識を失って、気づけばここだ。色んな場所へ飛ばされるのはもう慣れっこだが、今回はまた混乱度合いが違う。
なぜなら、

 <……聖杯戦争、か


「そう。ここは聖杯戦争の舞台。君が訪れた呪われし炎上都市。
 血みどろの闘争の果てに『黄金の杯(アウレア・ボークラ)』を手に取る獣の儀式だ」


胸中を代弁するのは、自分ではない男の声だった。
振り返ると、黒いローブに身を隠した男がいつの間にかそこにいた。
それが過去の英雄を霊として呼び出した最上位の使い魔、サーヴァントの霊体化を解いたことによるものだと、自分はもう知っている。

紫系の頭髪。理知的な顔立ち。頬にまで昇る禍々しい刻印。身体の所々に見える装飾品。
これみよがしな魔術師そのものの姿はカルデアで契約した数くの英霊のひとつ、キャスターのサーヴァントにいるタイプとよく似た雰囲気を想起させる。
……即ちは、悪逆を成した者。社会を脅かす事で人類史に名を刻まれた正統なる流れにいないカテゴリの英霊だ。

「眼が覚めたかい、緋色の君」

 >……緋色?
  何そのネーミング。

会っていきなり、サーヴァントから変な呼び名をつけられた。

「お気に召さないかな?君の髪の色にかけたいい名だと思うんだけど。
 いっそ僕の上にまたがってみるかい?そしたら「もっと踏んでください!」と叫ぶべきだろうか……」

 >なるほど。アレな英霊か。
  なるほど。ヤバイ英霊だ。

こういうタイプにもだいたい耐性が付いている。英霊というのは大概性格も拗れてたりしてるのが多いのである。
主に黒髭とか。

「ハハハ、言いたい放題だね。初対面の英霊に流石の胆力だ実に結構」
「……ゥグ」

自分の脇を抜けて、黒犬が男の傍にすり寄った。男は優しく顎を撫でてやる。
この英霊のペット……使い魔だろうか。


594 : 欲望の運命 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:27:03 Yg7FZA4c0


「いい仔にしてたかいエセルドレーダ。彼女の髪の一房ぐらい食べてないだろうね」

  えっ?
 <毛っ?

思わず両手で頭を押さえた。
大丈夫、どこも噛まれていない、はず。

「さて、目も覚めて血液も回ってきたところで早速だが話を進めようか。君と僕の話をね」

眼差しを細め、サーヴァントは確認を取る。
黙って頷く。聞きたいこと、伝えたいこと、それは多くある。
それで、呼び方はキャスターでいいのだろうか?

「ああ、すまない……本来であればそう呼ぶべきなのだけど今回は事情が違くてね。クラスはキャスターではないんだ。
 アルターエゴ、それがこの霊基を満たす器(クラス)だよ」

  アルターエゴ……?
 <聞いたことがないクラスだ……

「特殊と言っただろう?まあキャスター用のスキルは持ってきてるしさほど問題でもないさ。
 呼び方についてはこれから考えればいいしね。それにはまず僕を語る必要があるが」

そこで、男の穏やかであった雰囲気は一変した。
揺るぎのない意志。普段は内に秘められし激した情動。
少なくないサーヴァントと出会い、戦いを経た今だらこそ分かる、その英霊の本質の声だ。


「先に言っておこう。少女よ。人理焼却を見事防いで見せたマスターたる緋色の君よ。
 僕は最悪の魔術師だ。生前散々そう呼ばれてきたし、自分もそう在るよう生きてきた」

鋭い爪をつけた右手を翻して言葉を綴る。

「君の生きた頃より100年にも満たぬ前。偉業にせよ悪業にせよ、それが英霊へと昇華される責足り得ることは極めて稀な時代だ。
 今や人は世界を簡単に破壊でき、その阻止もまた些細に済ませられる。その中で英霊の座にまで昇った僕の責は、ああ、それなりのものであると自負するよ。
 そして僕には、聖杯に託す願いがある。全ての人類が意志の大元へ繋がること……魔術師たらぬ君には思い当たらぬ話だろうけど。
 けれどわかるだろう?二度あの『獣』を退去せしめた、人類最後のマスターである君であれば」

  ……ああ、なんとなくだけど
 <そんな気は、してたよ

魔術師としてはからきしな自分だ。魔力や力量から図る目なんか持ってはいない。
けど直接あの存在を目にすれば誰であろうと、それが纏う大気を肌で感じてしまう。
一度はバビロニア。全ての生態系を塗り替える混沌の海から来た原初の母。
二度目は時間神殿。ある王の肉体に巣食った、生きた魔術式。
人類悪と呼ばれる、人類の淀みであり汚点。
些細なものだけど、目の前の男を見た時、その姿が脳裏に思い起こされた。
錯覚ではなく、きっと直感として。

「そうだ。僕は人類史に仇なす原罪の名を刻んでいる。ほんの一滴の残滓だけれども、それだけでも君が不信を持つには十分過ぎる動機だ。
 人類悪は連鎖的に現れる。たとえ僕が望まずとも、この因子を鎖に新たな獣が到来する可能性は無視できない」

ゆるりと、手が差し伸ばされた。
こちらを試すかのように。誘惑する蛇のように。

「そんな最悪なる者を、ただひとつの戦力であるサーヴァントにしなければならない君は。どうするか。何を選ぶか。
 君の意志を問おう。全てはそれひとつで決まる」

この手を取り、我が運命とするか。選択を迫ってきた。


595 : 欲望の運命 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:28:15 Yg7FZA4c0



七つの特異点、あるいは小規模な特異点を巡る旅。
聖杯探索の源流ともいえる、冬木という地で行われる聖杯を懸けた闘争。
忘れもしない。最初の特異点で見た全てが燃えた都市の本来の場所に、立香はいる。
特異点を解決する人類最後のマスターではない、聖杯を求める多くのプレイヤーの一人としてだ。

ここに連れたったサーヴァントは一人たりともいない。
カルデアからのサポートもなく、ダ・ヴィンチちゃんの声も届かない。
一番信頼のおける、常に隣にいた少女も。
自分を守ってくれた、守り通してくれた小さな背中。それがいないだけでこんなにも不安が募る。
そして――――――




『はーい、入ってまー ―――って、うぇええええええ!?
 誰だ君は!?ここは空き部屋だぞ、ボクのさぼり場だぞ!?
 誰の断りがあって入ってくるんだい!?』





「……どうして、ここで泣くんだい?」


 <泣いてないよ。
  目の錯覚だよ。


うつむいて、唇を噛んで、こみ上げるものを必死で堪える。
それがあの人物に向ける、当然の感謝だと信じるから。

息をして、立つ足があるのならここで止まってはいられない。
人に憐憫を抱き死を奪おうとした王に、『生きる』と叫び返しその夢を砕いた。
あの言葉を、彼の最期を、嘘にしてしまうかもしれないと思うと―――足は自然と立ち上がる。
生きてカルデアに帰りたいと、当たり前に願える。それにここが特異点だとしたらやはり放ってはおけない。

 <何をするべきかはわからないけど。


手を握り返す。
精一杯の力を込めて、目を逸らさずに自分の意志を伝えた。


 <もしその時になったら、止めてみせるから。


今はこの力に頼るしかない状況だからといえば、それもそうだ。
けど彼が悪かどうか、それはまだ確かな判断はつかない。
悪を成した者であっても道を違えなければ共に進める。そういう思いもある。
すぐ敵になるというわけでもない。自分のような未熟なマスター、操る手段なんて幾らでもある。
信頼できるのか、やはり敵対するしかないのか。それはこれから一緒に戦う中で見つけていけばいい。
互いの道が別れるまでの、短い間だとしても。


596 : 欲望の運命 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:29:32 Yg7FZA4c0



「―――これで契約は成立した。離別の刻が訪れるまで、この身は汝の剣とならん。
 その信頼の報酬に、我が真名を教えましょう」
 
浮かべた笑みの意味がいかなるものか、まだ分かる時は来ない。
離された自分の掌には、二枚のカードが置かれていた。
一枚は雄々しい獅子の姿。この戦争の参加の証である星座のカード。
もう一枚は、多頭の獣に跨る女性のカード。タロットの絵札。


「アルターエゴ、アレイスター・クロウリー。
 必ずや、君の運命を救ってみせよう。僕のマスター」

獣を傍らにして、そう彼は告げる。
そうして、漸く。ひとつの主従は正式に結ばれた。
先行きは変わらず見えないが、目的が定まれば自然と足も向くもので。心は少し軽くなったし、行けるとこまで行ってみよう。
まだ見ぬ出会い。まだ見ぬ戦い。
まだ見ぬ先の、地平線の景色。
―――獣の兆しは消えずとも、胸の奥には、新しい旅の予感が残っていた。








「ところでだけど、普段もその格好でいるのかい?いや僕としては喜ばしい限りだ。
 なにせ戦闘用の礼装だ。身につける価値はあるし、僕も興奮する。これは良いことずくめというやつだね?」


………………………………………………。

  全体強化
 <ガンド

「あっこれが数多の英霊の一挙動を止めてみせたカルデア製のガンドかなるほど五秒足らずだがまったく動けない。
 そしてエセルドレーダ、なぜそこで僕をこれ幸いとばかりに噛むんだい?いつの間に君とマスターの間に指示もなく連携を行える信頼関係をいた、けっこう本気噛みだやめいたたたたたたたたた」

…やっぱり不安だ。
とりあえず、如何にいして他人の目に映らずに記憶にある家に辿り着くかが、目下の悩みなのであった。


597 : 欲望の運命 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:30:38 Yg7FZA4c0





【クラス】
アルターエゴ

【真名】
アレイスター・クロウリー

【出展】
史実(20世紀・イギリス)

【性別】
男性

【身長・体重】
177cm・66kg

【属性】
混沌・悪

【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷C 魔力A 幸運B+ 宝具A

【クラス別スキル】
陣地作成:B
 自らに有利な陣地を作り上げる。“工房”の形成が可能。

道具作成:A
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 陣地作成共々、本来はキャスタークラスであった名残り。

獣の権能:E
 対人類、とも呼ばれるスキル。
 英霊、神霊、なんであろうと“母体”から生まれたものに対して特効性能を発揮する。
 何故だか所持している。本人曰く「拾い物」とのこと。

【固有スキル】
セレマ:A
 「汝の意志することを行え」。
 クロウリーの扱う魔術の根幹であり、人の"真の意志"との接触こそがクロウリーの目的である。 
 自己暗示の上位版。魔術の成功率、威力を向上。更に特殊な追加効果を発揮することがある。
 使用可能な魔術は召喚術、カバラ、黒魔術、錬金術、占星術、エジプト魔術、東洋の呪術等で広範。

啓示(偽):B
 "直感"と同等のスキル。
 直感は戦闘における第六感だが、"啓示"は目標の達成に関する事象全て(例えば旅の途中で最適の道を選ぶ)に適応する。
 ……一体何処からの"声"なのか、クロウリーが語ることはない。

魔人変生:EX
 マスターセリオン。聖書に弓を引く神の敵対者である『獣の魔人』。
 ■■■■の因子を取り込んだクロウリーの霊基は爆発的な変化をとげており、彼が規定したセレマの神格にも等しい。
 アルターエゴである現在ではさほど大差ないが、再臨を繰り返すたびに本体へと近づいていく。
 また時間は限定されるが、スキル『ネガ・メサイヤ』と同様の効果を得られる。

【宝具】
『汝の意志するところを為せ、それが法の全てとならん(リベル・レギス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ: 最大捕捉:1人
 正式名称をリベル・アル・ウェル・レギス。
 元は守護天使アイワスとの交信を受けて、セレマの教えの真理を記したクロウリーの著書。
 クロウリーはアイワスを根源の知覚と捉え、全ての人間には自らのアイワスに相当するセレマを宿していると規定した。
 常時発動宝具。英霊たるクロウリーは法の書の内容を体現した存在として現界してており、自己の意志、生き様の顕現として肉体、魔術の強化がなされている。

 この宝具の真の効果。それは「自己の意志を蚕食する存在への絶対抵抗権」の形成。
 常時では自身の内部、魂に向けて展開している。抑え込んだ欲望・破壊・捕食衝動を、クロウリーは魔力として攻撃に転用して逃している。

『黙示咆哮(ラスト・メガセリオン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜9 最大捕捉:1人
 人造■■■■であるエセルドレーダと融合した状態で使用する、『暴食の原罪』の具現。
 妖婦が乗る獣の権能のごく一滴。
 暗黒から顕れる獣の顎は、肉体、魂、時間、空間、事象、歴史、世界、人理すら噛み喰らう。単純な筋力ダメージはEX相当。
 「これでもギリギリまで絞った状態でね、然るべき代償を前提にすればランクと範囲の向上が見込めるんだ。
 真の名を人理改変光線、アカシック・バスターというんだけど、どうかな?」
 実に嘘くさい。

【Weapon】
『エセルドレーダ』
 クロウリーのいるところに常にいる黒い犬。性別は雌。
 知能は高く意地悪い。大きさは小型犬ぐらいだが環境によって成長するらしい。
 クロウリーの召喚式から顕れた、零れ落ちたる神の福音。災いをもって失われた主の愛を証明する其の名は―――


598 : 欲望の運命 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:32:33 Yg7FZA4c0

【人物背景】
エドワード・アレグザンダー・クロウリー。
20世紀のイギリスのオカルティスト。哲学者にして著述家、登山家。詐欺師。
厳格なキリスト教教育に耐えかねて魔術に傾倒、黄金の夜明け団の入団と退団を経てエジプトで新婚旅行中、
妻に憑依した超常的存在「アイワス」と接触し、自動書記で「法の書(リベル・レギス)」を執筆する。
以後セレマ―――「汝の意志することを行え」の教えと法の書の普及と出版の活動に移っていく。
セレマの再発見、トート・タロットの開発、法の書の執筆。またソロモン王の魔術について書かれた魔術書「ゲーティア」を出版している。
近代オカルティズムにおいて影響力の強い人物であり、「20世紀最大の魔術師」との呼び声もある。
しかし同時に、表社会で晒した数多の痴態や弟子のスキャンダルなどからイギリスから国外退去を命じられ、
「世界最悪の変人」「堕落の魔王」とまで罵倒されてもいる。

魔術世界におけるクロウリーの評価は、表社会における評価と概ね同じ。
つまりは「一代にして大成した魔術師」であり、「魔術の存在を社会に漏らした最悪の魔術師」である。
真の意志の発見、神との合一、星幽界との交信というクロウリーの目的は多くの魔術師同様に根源への到達であったが、
それを一般社会にも教え広めようとした点で常軌を逸していた。
人がみな持つ神の意志、全人類の根源接続。その行動を危険視した魔術協会の手で、社会の表裏双方から追われ、最期はみすぼらしい死を遂げた。
その思想と異名から聖堂教会とも血みどろの関係だった。

しかしクロウリーは魔術師の危惧よりも計算高く、また悪辣であり。そして遥かに常軌を逸していた。

ある時召喚術で呼び寄せた黒い犬のような泥。
そして「アイワス」との交信。受け取った"啓示"で見えた黙示の光景。
己のやるべき事、向かうべき場所を確信し、だから彼はそこから始めた。
エセルドレーダと名付けた犬から採取した因子を取り込み、"獣(セリオン)"を名乗り神秘を極め、限りなく悪名を高め、死後何食わぬ顔で英霊の座に加わった。
この男は偉業をなしたことで英霊になったのではなく。英霊になるために歴史に疵を刻んだ詐欺師なのだ。
必要な霊基と宝具を手にしたクロウリーは、いずれ来たる黙示の時に己を呼ぶ声を座にて待ち続けている。

本来召喚される時はキャスターのクラスであるのだが、今回は人理焼却を食い止めたただの人間に合わせて別人格、アルターエゴを抽出してマスターと契約する。
それは気まぐれなのか、"憐憫"の原罪を打ち倒したことへの称賛なのか、あるいは新たな獣を呼び出す呼び水として利用せんとしているのか。
―――救われる運命にない、剪定された少女に何を見たのか。
最後の時に口にしたとされる言葉、「私は当惑している(俺は困った)」の真意は。
魔術師は語らず、一度(ひとたび)のみ人の守護者としてマスターに付き従う。


秩序を破壊するがゆえ混沌、社会に反抗しているのを知るがゆえ悪。
それを自覚してるため、初対面の相手にはまず自分の正体を明かして選択を促す(本心を語るとは言ってない)。
現代の人間世界を嫌っているが憎悪してはいない。人間を救いたいという思いは(恐ろしいことに)本物である。
英霊の座の存在を認識し、そこに加わるための計画を綿密かつ長期的に立てており、信念を貫き通す情熱家でもある。
ただ、時々持て余した衝動からとんでもない珍行動を起こす時がある。
魔術は普通に使うが、どちらかというと魔術を絡めた格闘術(ボクシング)を好んで使う。
「近代魔術じゃ護身の格闘術は必修科目ではないかな?」との弁。


【特徴】
二十代前半。髪は紫。片側の房を耳にかけている。
左の頬に刻印のある艷やかな青年。美しく力強いが、同時に胡散臭い。
いかにも魔術自然といった夜色のローブの下の体は意外と鍛えられており、格闘向きの装いになっている。
双角の冠、右手の鉤爪の他、各所に獣を象った装飾を身に着けている。

【サーヴァントとしての願い】
本心はどうあれ、全人類の根源接続という目的も偽らざる願いであり、聖杯を手にすればそのための手段に用いるだろう。

【カードの星座】
獅子座。
クロウリー製作のトート・タロットにおいて、【欲望(多頭の獣にまたがる女の絵柄)】のアテュ(大アルカナ)を示す。


599 : 欲望の運命 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:33:18 Yg7FZA4c0




【マスター】
藤丸立香@Fate/Grand Order

【マスターとしての願い】
カルデアへの帰還。

【weapon】
魔術礼装・カルデア
カルデア機関がより激しい戦闘に備えて試作させた魔術礼装。
味方全体の強化、敵一体の動きを止める魔術ガンド、前線の味方と控えの味方とを入れ替えるオーダーチェンジの3つのスキルが使用できる。
タイトなスーツのため、普段から着るには難儀しそうなのが悩み。

【能力・技能】
特筆すべき能力は一切持たない。
あえて挙げるなら人理修復の旅で培った胆力、善悪問わず数多の英霊と契約を結んだコミュ力が強み。

【人物背景】
人理継続保障機関・カルデアで数合わせに招かれたマスター候補。性別は女。属性は中立・善。
悪の素質がまったく無く、善を知りながら悪を成し、善にありながら悪を許し、悪に苛まれようとも、善を貫こうとする。
歪みのない平均的な善良さを持った、普通の人間。

終局特異点をふたつの命と引き換えに攻略。帰路を急ぐ途中に道が崩れ落ちゆく最中にこの地に召喚された。
―――魔法を超える奇跡で差し伸ばされた手は、"彼女"には届かなかった。


【方針】
カルデアからのサポートもないので慎重に。クロウリーはいまいち信用ならないけど……?


600 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/18(火) 08:33:37 Yg7FZA4c0
投下終了です


601 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/19(水) 00:09:25 Fu4UPsWU0
直上の「欲望の運命」でのマテリアルをウィキにて修正しました


602 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:38:42 voJgJ7vw0
投下します


603 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:39:41 voJgJ7vw0


「私はですねぇ、神様の言う通りにやったんですよ。そうしたら神様は何やったと思います?大洪水ですよ、大洪水。
本当に何考えてやがるんでしょうかね?言われた通りにしたら“穢らわしい”とか言って大洪水。私に一体何させたかったんでしょうかね?
“人間に堕落と災厄を~~~~ッッ!”とか言っといて、本当なんなんでしょうかね」

夜の帳に包まれた冬木市を真円を描く月が照している。
その月明かりも届かぬ廃工場の奥、まともな人間なら近づかないような場所に、二つの人影があった。
廃工場の中であるにも関わらず、油や錆の匂いを圧して、濃密な血臭の満ちる空間だった。息を吸う度に鼻から肺にかけて血がこびりつく錯覚を覚える程に。
その空間に相応しくない、能天気そのものの、陽気な女の声が響いた。
美しい女だった。月の光どころか、陽光すらもろくに届かぬ場所に在りながら、そう断言できる程に。女自身が光を放っていると言われても、見る者全てが信じるだろう。それ程の美女だった。
陽光を織って作った糸で編み上げたかのような黄金の髪。芸術の神が手ずから筆を執って描いたとしか思えぬラインを描く眉、その下の深い海を思わせる深蒼(ディープブルー)の瞳。
神工がその高さと長さを決めるだけで、一生涯を費やしたとしか思えぬ完璧な鼻梁の線に、男女を問わず、吸い付きたいと思わせる朱唇。
美神の創り上げた、美しい女というものの、理想形ともいうべき美女だった。
白い薄い布に覆われた淫らさと清楚さを併せ持つ肢体は、なまじ布で覆われていて、肌が見えぬ分、浮かび上がった身体ラインをより淫猥なものにしている。
血と泥に汚れ、力無く目を閉じた猫を愛おしげに撫でながら、軽薄そのものの声と口調で喋り続ける。

「大体あのオヤジ、私の身体ガン見して鼻の下伸ばしながら、偉っそうにプロメテウスの罪を演説してやがりましたが、
人の罪を鳴らすなら、先ずテメーが去勢しろと。
他の神様方がいなかったら犯されてましたね私」

「人間というものを、己の手で弄び、苛んでみたくなったのだろう。強欲、虚栄、憎悪、嫉妬。、簡単に“混沌”に傾く要素を植え付け、
同族同士で相争い、殺しあうように仕向けるだけでは足りなかったのだろうな。
大方、自らの手で、人間共を破滅させ、殺し合わせる楽しみを見出したのだろう」

答える声は男のもの。雪嵐の中を一人行く巡礼者を思わせる、強い意志を宿した瞳が印象的な、銀髪白貌の端正な顔立ちの男だった。
傍に白い貫頭衣を纏った少女を侍らせ、忙しなく手を動かしている。
空気分子の一つ一つに至るまで血が染み込んでいるかのような血臭の中、平然たる声音だった。
それもその筈、男の足元に転がる、元の性別も人数も判別出来ない程に解体された複数の人体だったものを見れば一目同然。
この場に満ちる血臭は、男が撒いたものなのだから。

「ん~-でもソレだったら、大洪水で纏めて殺すなんて事は事は、しやがらないんじゃないんですかね?」

「絶滅させた訳では無いのだろう。その後も人間共に干渉し、弄んのではないのか?」

男の言葉に女はケラケラ笑いながら言葉を返す。

「あ〜〜そう言われれば、アルケイデスさんとか悲惨でしたね〜。カサンドラさんやメディアさんなんて、同じ女として同情しますよ本当。
まあ人間は皆、神様の玩具なんですから、 身を張ってエンタメしたその根性は褒めちぎってやりますが。」


604 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:40:25 voJgJ7vw0
同情すると言っておきながら、浮かべるものは嘲笑。
この有様が、この女が如何なる精神性の持ち主かを如実に物語っていた。
他者の心を理解し、そして共感しない。
他者の苦しみを嗤い、他者の悲しみを愉しむ。そんな腐った性根が透けて見える笑顔だった。

「大方玩具を作り直したかったのだろう。ところで、その猫をどうするのだ」

「ああ…つまり、私が経産婦になったのは、あのオヤジがついカッとなった所為!?ファ◯ク!!!
……コホン。イヤですね御主人様。取って食べるとか思ってやがるんですか?
私の真名(な)に賭けて誓っても良いですが、私は人間以外には優しいんですよ。ホラ、この通り」

男の問いに、女はそう言って、猫をそっと地に降ろす。『ニャア』と、嬉しそうに鳴いた猫が元気に駆け去って行くのを、にこやかに手を振って見送っていた。

「御主人こそ如何するんですかその死体。もしかして切り刻んで繋げて動かすとか?アスクレピオスもビックリさんですよ。それは」

「有り合わせではあるが、死体の優れた部分を繋ぎ合せてみた。肉体の能力を限界まで引き出し、疲労も痛みも感じない。ものの足し程度だが、少しは役にたつだろう」

「そっちの弄ってないのは?」

貫頭衣の少女に首を折られて即死した、スーツ姿の女の死体を指差す

「使い走りだ。我等の姿は目立って仕方がないからな。意思は持たぬが、思考はするし会話もできるぞ」

「ふむ。死体の神経網を使用した自律兵器?まあ御主人方は目立ちますね。確かに」

男と少女の耳に視線を向ける。長く伸びた尖った先端の耳を持つ男と、短く丸いものに、男と同じ形状の耳の少女。
服装も裸体の上に貫頭衣纏っている少女と、黒い獣皮の胴着と籠手を身に付けている男では目立って仕方がないだろう。

「まあ…私は目立ってナンボなんですがね。今は流石に控えるべきでしょうな」

幸い、死人達が持っていた金銭で衣服を賄うことは出来る。
首折れ女の住処を拠点としても良いだろう。

「た………たす……け……………………」

地を這うような声が聞こえた途端、女の表情に険が生じた。
それも束の間、邪悪さに満ちた嘲笑を浮かべた顔を足元に向ける。
そこに声の主はいた。文字通り地を這って、女の元へと、ナメクジの這う速度よりも時間をかけてやってきたのだ。
この男は、此処で惨殺された愚鈍な人間達の最後の一人だった。野良猫を虐待していた所、現れた女に散々煽られ、逆上して追い回している内に、此処へ誘い込まれたのだった。
待ち受けていた男に、逃げられないように両手足を砕かれ、死なない程度に加減された拷問を受け、
他の連れ込まれた者達の身体が人としての原型を留めえぬ程に破壊されるのを見せられ続けた男の精神はすでに限界だった。
今しがた女が、瀕死だった猫を治療したのを見て、最後の希望に縋って這ってきたのだ。


605 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:43:44 voJgJ7vw0

「良いですよ〜。此処まで来れたら、怖い御主人から護ってあげますし、傷も治してあげましょう!」

朗らかな笑顔。同じ笑顔で、他の犠牲者を襲った運命を見物していたことも忘れて、男は緩慢極まりない動作で這っていく。
もう少しで女の爪先に指が触れる─────男が安堵を覚えたその時、女の爪先がわずかに遠のいた。
男の瞳から光が消え、五体がゆっくりと弛緩する

「ほら頑張って、もう少しです!諦めたらそこで試合終了ですよ!!」

心の籠らぬ棒読みの激励。人並みの知能があれば、嘲弄されていると即座に気付く激励。
そんな代物が、男の瞳に光を取り戻させ、再び五体に力を取り戻させると誰が信じようか。
そうして10cm、男にとってはフルマラソンに等しい距離を動いて─────再度女の足が遠のいた。

「……………………………」

女を見上げた男の眼はひどく虚ろだった。

「ファイト!オー!!」

百億の罵倒にも勝る悪意そのものの声援に、男は再度動き出す。

男の気力体力が尽き果て、動かなくなるまで、その行為は続けられた。


「おやおや、動けませんか?もうすぐ痛くなくなるんですから頑張りましょうよ。頑張ってお客様(神様)方を笑わせれば、神様になれるかもしれませんよ!!」

動かなくなった男に女はケラケラと笑いながら話し掛ける。
弱々しく痙攣するだけの男の顔を挟み込む様に、女は手をあてがった。

「仕方ないですね〜。死んだらな〜んにも感じなくなりますからね〜。だから〜生き続けて苦しみ続けましょう!!」

そっと男に口吻する。死にゆく男に対するせめてもの情……などというものはこの女には存在しない。
口づけて数秒、男の体に異変が生じた。
少しずつその身体が縮み、女の口に吸い込まれていっているのだ。
消耗しきった男は僅かな抵抗も見せる事なく、やがてその身体は女の口に吸い込まれた。

「折角だから御主人に私の宝具を見せましょう!!………それにしても残念です。アルケイデスさんみたいに、神様を笑かせ続ければ神様になれたかも知れませんのに。
ああ無理でした……アルケイデスさんの芸歴は生まれた時から死ぬまで……つまり一生っ…………!
この人の芸歴じゃ……到底っ………。
え?アルケイデスって誰?って顔してますね御主人。宜しい!ならば!!お教えしましょう!!!!」

やたらとテンションの高い女だった。

「通名ヘラクレス!!本名アルケイデス!!我がギリシアが誇るだ・い・え・い・ゆ〜〜〜〜〜ッッ!!!!
生まれた時から死ぬ間際まで神様の無茶振りに答え続けた至高の芸人ッッ!
神様達にスリルと笑いとサスペンスと笑いと活劇と笑いと涙と笑いを提供し続けた究極のコメディアンッッ!!
その生涯を費やした芸が神様方に賞され、神様として迎え入れられた史上最高の道化ッッ!
この私ですらあの芸人には一歩を譲りますね。
まあ次点のパリスさんとメディアさんには負けていないと自負しておりますが」

ドヤ顔で腕を組んで胸を張る。両腕に掬い上げられる形になった豊かな乳房が前面にせり出された。凡そ如何なる男でも釘付けになりそうな代物だった。
チラとマスターである男の様子を伺うと、ものの見事に無反応だった。

「自信なくしますね………。まあ、あの芸人の腰帯強奪と自殺に関しては、私が少しばかり細工をしたんですが………はっ!?こんな所で神話的事実がッッ!」

ワザとらしく叫ぶも、マスターの男は何の反応も返さない。呆れているのかも知れなかった。
やや白けた空気を破るべく女が吼える!


606 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:45:14 voJgJ7vw0
「そろそろですね。では…ご覧下さい御主人!!私の宝具!“全ての厄は胎より生ず(ディザスター・ジ・オリジン)!!」

叫ぶと同時に黒い泥が口から吐き出された。
汚怪な水音と共に女の足元に広がった泥が、蠢き出し盛り上がり、グロテスクに歪み捩くれた人型になるのに、かかった時間はきっかり10秒。
不気味に全身を痙攣させるその耳元に。

「辛いですか〜〜?苦しいですか〜〜?楽になる方法は分かりますね?では頑張って下さい!!」

「◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼〜〜〜〜!!!

応えるかのように咆哮。苦痛と怨嗟でできた慟哭が、夜の冬木に響き渡った。
人のそれに似ながら、明らかに人とは違う奇怪な動きで人型が去るのを見送っていた女が、やおら振り向いて、解説の長広舌を振るおうとしたその時。

「人を変質させて作った魔物のようなものか?制御が効いている様には見えなかったが」

がくりと項垂れる女。図星だったらしい。

「御主人には敵いませんねぇ。ええ……その通りですよ………。人を獣へと変える我が宝具………。その名も…………」

「名は先程聞いた」

女が更に項垂れる。テンションが塩をかけられたナメクジの様に萎れていく。

「まあ…効果の程ですが……人の自我を悪性で塗り潰して鬼畜と変える宝具です、元に戻すことは出来ません…………。
悪性は個体により違いますが……予め仕込みを行う事で悪性や欲望を此方の望む様に設定出来ます………………。
御覧の様に姿形を変えて特別な能力を付与する事も可能です……………………。
制御はできませんが」

陰々滅々と語る女。先ほどまでのテンションが嘘の様だ。

「そんなシロモノをどうする気だ?」

「…………フッフッフッ…あの獣はいくら調べても私との繋がりは存在しません!!
つまりあれに対して、対策を練ろうとするお人好しが居れば!何食わぬ顔して近付く事ができます!!!!」

復ッ活ッ!した女を、マスターである男は無感情に見つめた。

「え?私の顔はナニ喰ってそう?イヤですね御主人。溜まっているのならば、そう言ってくだされば」

「居なかったら無意味な行為ではないか?」

女の戯言を男はガン無視した。

「ブハハハハハハハハ!!!!」

哄笑。女はマスターの問いに、事もあろうに心底からの笑いで応えたのだった。

「アレはボロ雑巾になった体を治す為、無差別に人を襲い、その肉体(パーツ)を自分に移植し続けますよ。意味ないですけれど!血と!死が!!此の地に撒かれるのですよ!!」

マスターの鼻に自分の鼻がくっつく程に顔を近づけ、女はニンマリと邪悪な笑みを浮かべた。

「御主人の望むことでしょう」

男の顔に亀裂が生じる。否、亀裂ではない。
其れは笑みだった。
深淵へと通じる裂け目を思わせる不気味な英雄だった。

「お前も望んでいるのだろう」

女に劣らぬ邪悪な笑み。これこそが男の本質。邪悪そのものの性状のサーヴァントに相応しい悪虐の性。

「やはり御主人は解っていますね!!私達は互いにベストなパートナーに巡り会えました!!」

女は握り拳を天に突き上げ、高らかに宣言する。

「神代に私が為した偉業に誓って!此の地に悪と災厄を撒きましょう!」

「お前の真名は聞いたが、一体どの様な勲(いさお)で英霊とやらになったのだ?」

女はがくりと項垂れた。


607 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:46:05 voJgJ7vw0
「本当にノリ悪いですね御主人。まあ良いでしょう。これさえ聞けば御主人も私につれない態度は取れませんよ!!」

両手を広げて天を仰ぎ見る。視線の先に在るのは薄汚れた天井だったが。

「神代に世界で一番NGな箱の蓋を開け!此の世に災いと悪を齎した文化英雄!!オリンポスのエージェントにして神々の道化!!!パンドラちゃんとは私の事!!
人間は私に感謝するべきですよ!!!神々が封じていた希望を与えてあげたんですから!!!!」

芝居掛かった大仰な態度が果てしなくウザかった。

「お前がそんなモノを与える様には見えんがな」

「HAHAHA。何を仰います御主人!人は『希望』があるから在りもしない蜃気楼めがけて、「まだだ!!」だの「それでも!」だの吐かして死ぬまで走れるんですよ!!!!
て言うか箱の中に『希望』何て残ってやしませんよ!奴なら蓋開いた刹那に絶望と肩組んで飛んで行きましたよ!!
私が箱に閉じ込めたのは…………なんだと思います?」

邪悪そのものの笑顔で問い掛ける。

「知らん」

「御主人はエンターテイメントの何たるかを知りませんね…………。まあ良いですが。
私が箱に閉じ込めたのは『理解』ですよ。
此奴が無いから人間はどんな状況下でも、無駄に足掻いて苦しむのです。互いを解ることなく疑心暗鬼にかられて殺しあうのです。
まあ、これが有れば、「まだだ!!」も「それでも!」ホザけないんですが。最初にオチが分かりますからね。結果人は胎の中で己が人生を『理解』するでしょうね。
そうなれば、世のほぼ全ての人間は産まれる前に死ぬでしょう。
どうですか?御主人!!スゴイですよね私!!!」

踏ん反り返ってこれ以上は無いであろうドヤ顔を決めるパンドラに、男は変わらぬ無表情を決め込んでいた。

「箱の中に『理解』を残したと言ったな。其れは誤りだ。
お前が世に解き放たなかったものの真の名を今教えてやる」

「ほほう!其れは興味深いですね」

「其れはこの私だ」

「はい!?」

「私こそが最後の災い。地上世界に不和と争乱を引き起こし、陽光に栄える者共に滅びを与えるこの私こそが、最後の災い」

男が右腕を翳す。その腕に嵌められた深緑の猫目石が、丸で意志の輝きを持つかの様に鮮烈な光を放った。

「………っ!?何ですか、御主人…その石は?」

パンドラは己が怯んだのをはっきりと自覚した。アルケイデスと戦った時ですら覚えなかったモノ。それをあの石を見た瞬間に知覚したのだ。

「我が神の眼だ。心せよサーヴァント。我らの振る舞いを、我が神は常に照覧されている。
私に仕えるというのならば、我が神に、全霊を持って神楽を捧げよ。
我が神が宣わった詔、聖典ウィグニアのただ一説。
“殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし”。
此の地に集ったマスターとサーヴァントの全てを欺き、謀り、破滅へと導く。一夜のうちに一組でも多く、そしてやがては一つ残らず!!
この地に蔓延い生命の全て、悉く我が手によりて飢えし混沌の喉を潤すもの也!!!
この私!ラゼィル・ラファルガーこそが!陽の加護を受けし者共が最後に知る災いの名と知るが良い!!!」

「あ〜、何かトンデモナイマスターみたいですね貴方」

「私にl不満なら最初の贄となる栄誉を与えてやるぞ」

パンドラは盛大に溜息をついた。

「不満なんてありませんよ御主人。人間も英雄も全ては神様を楽しませるコメディアン。
そのクセこの書き割りの舞台で、自らが端役とも知らずにのさばる阿呆なんですから。
神様が笑い死にするくらいに派手に殺して、連中にコメディアンの本領を発揮させてやりましょう」

共に神命を受けて地上に災いを齎す男女は、此処に主従の盟約を交わしたのだった。

「人間以外を殺すのは気が乗らないんですが」

「許さん」

「そうですよね〜〜。はぁ」


608 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:46:38 voJgJ7vw0
【クラス】
キャスター

【真名】
パンドラ@ギリシャ神話

【身長・体重】
174cm・62kg(人に対しては400kg)

【ステータス】
筋力:E 耐久: E 敏捷:E 魔力:A++ 幸運: B 宝具:EX

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
神殿の建設が可能。
神々から授かった技術。

道具作成:ー
宝具がこのスキルの役割を果たす為、機能していない。


【保有スキル】
星の開拓者:EX
人類史のターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
あらゆる難航・難行が、「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。
その時代の記述力では一歩足りない難行を人間力だけで乗り越える、一握りの天才ではなくどこにでもいる人間が持つ『誇り』を燃し尽くす力。
人の世に悪と災厄を齎したキャスターは、このスキルを最高ランクで発揮できる。


貧者の見識:A
相手の性格・属性を見抜く眼力。
言葉による弁明、欺瞞に騙されない。
ヘルメスより贈られた能力。このスキルによりキャスターは対象の理想の女“”を知る。


魅了:A+
優れた容姿と、容姿を最大限に際立たせる立ち居振る舞いで衆人を魅了する。
アフロディーテから贈られた容姿と技能。
貧者の見識と併せる事で効果をより向上させる事が可能。
なお最上ランクの騎乗スキル(意味深〕の効果も併せ持つ。


悪性:EX
ヘルメスより贈られた性質。犬のように恥知らずで狡猾な心。
ランク相応の精神異常と叛骨の相の効果を発揮する。
如何なる地上の権威もキャスターを戒めることはできず、凡ゆる悪行を平然と行う事が出来る。
人間以外には発揮されない。


百姓の母:EX
人祖であるパンドラの権限。
凡そ人の成し得ることでパンドラに出来ない事はない。
肉体を用いる全てのスキルを最高ランクで発揮可能。英雄が独自に所有するスキルも発揮できるがこの場合その英雄のものよりワンランク落ちる。
技能としては神授の智慧というよりも、専科百般の上位互換。
スキル欄に無い技能であっても使用可能で、例え宝具であったとしても肉体に基づくものであるならば使用可能。
但し自らの力に依ることなく後天的に獲得したものは発揮できず、パンドラ自身が神々の道具である為に神性スキルは発揮できない。
尚このスキルは例え半人のものであってもその技能を発揮できるが、“人の母”から産まれたものでなければ、その技能を振るえない。
あくまでも行使できるのは“身体の性質”及び“技術”であって、知識や経験の様な他者の人生そのものというべきものは使用不能。
その為に、肉体がその場その状況に応じて最適な行動を取るという領域には到底至らず、真に技が身に付いているというわけでは無い。
形だけを覚えているだけに過ぎず、技を使用する度に、どの技をどのタイミングで行使するかを考なければならない。
ギリシア神話における人祖であるパンドラは、ギリシアに連なる英雄達の肉体的特性と技術を最初から使用可能。
その他の神話圏の英雄達の技術も、観察した上で理解すれば使用可能。


神の名においてこの役を行う。我に罪無し(キャスト・イン・ザ・ネーム・オブ・ゴッド・トゥー・ミー・ノット・ギルティ):EX
パンドラが神より与えられた、“人に災いを為す”という役割とその役割に対する免罪状。
パンドラは人と人が作り出したものに対して加害行為を行う際、攻撃力と成功判定に大幅に上昇補正が掛かる。
神性持ちに対してはその高さに応じて上昇効果が減衰し、Aランクならば完全に無効化される。
パンドラが“人”に対して行う、ありとあらゆる悪行は決して罪に問われることがない。
“人”を対象とする限り、罪に対して効果を発揮する宝具やスキルの効果はパンドラに対しては発揮されない。


609 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:47:05 voJgJ7vw0
【宝具】


神々の贈り物(パンドーラー)
ランク:EX 種別: 対人宝具 レンジ:ー最大補足:ー

人に災厄をもたらす為に神々がパンドラに贈った能力。アフロディーテから美を、ヘルメスからは犬のように恥知らずで狡猾な心と狡知と弁舌の才を、アテナからは機織りの他家事全般を、
他にもヘカテーから魔術を、アポロンからは音楽と医術と疫病を撒く能力を、ムーサからは歌と踊りを、パーンからは早駆けを、その他の神々からも何かしら授かっている。
中でも特筆すべきはヘパイストスの贈り物で、鍛治神が打ち鍛えた肉体はBランク以下の攻撃を一切寄せ付けず、
Aランク以上であってもBランク分を差し引いたダメージとして計上する。
然し、神々を裏切った時の保険として神及びその血を引く者及び神造宝具に対してはこの防御効果は無効化されてしまう。
が、その身に帯びた、人に対する神々の呪いにより、ネメアーの獅子と同じ性質を持ち、人の文明を否定する。
この為、半神半人であっても、人の造ったモノをを用いてはダメージを与えられない。
パンドラの肉体は人の道具では傷付かず、人の作りしものは容易く破壊する性質を持つ神造兵器である。
この為食事も水も空気み必要とせず、疲労も感じず毒や病の類も通じない。聖杯戦争においては現界に魔力を必要とせず、宝具以外の魔力消費が半分で済む。
人以外のものにとって、パンドラの肉体は乙女の柔肌と感じられるが、人に連なる者には鋼と認識される。
ステータス欄の筋力及び耐久値は、宝具効果を無効化された時の“素の”値。


この世 全ての悪性(オリジナル・シン)
ランク:EX 種別: 対人宝具 レンジ: 1 最大補足:一人

人の内にある“悪性”を解放する宝具。
発動条件は、胸部若しくは背面の心臓のある位置を正確に抑える事。
悪性を解放された人間はその内にある悪性のままに動く鬼畜と化し、サーヴァントはオルタ化してしまう。
また、対象の肉体を変貌させ、悪性を“黒い泥”として抜き取る事も可能だが、この場合は対象となった者は黒泥になって死ぬ。
黒泥は魔力ソースとして備蓄するほか加工して道具とする事も可能。
人間以外には効果を発揮しない。
キャスターの手で引き抜かれた時に、“”災厄”の概念を帯びた人の悪性そのものの黒泥は、人と人が作り出したものに対して特攻の効果を持つ呪いであり、人の出自のサーヴァントの霊基を冒し蝕む毒である。


全ての厄は胎より生ず(ディザスター・ジ・オリジン)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ: 0~1 最大補足:一人

人を理性を無くした悪逆の畜生へと変える宝具。
他者の“悪性”を解放するのではなく、丸ごと胎内に取り込んで悪獣へと再構築した上で“産み落とす”。
対象に口づけする事で発動し、3分後に口から吐き出す。本来は“下の口”を使うのだが諸事情により変更。
通常は、元の姿を残したままで、自我をすら塗り潰した欲望に駆られて動く、人の域を遥かに超えた身体能力の持ち主へと変えるだけだが、
予め何らかの欲望を高めておく事で、その欲望を満たす為に適した姿と力を持つ怪物に変貌させる事も可能。
キャスターは、虐待して生存への欲求を高めるか、飢えさせて飢餓を満たす欲望を高めるかした人間にこの宝具を用いる事を好む。
相応に魔力を消費するが。高いステータスを与え、怪力や戦闘続行といった能力を付与する事も出来る。
人間以外には効果を発揮しない。

「人が悪だというなら、人を産み落とす胎こそが悪の根源ですよね」
とや当人の弁。


世界で一番NGな箱(パンドラボックス)
ランク:EX 種別:封印宝具 レンジ: 0~1 最大補足:一人

神代にパンドラが開けた箱。大きさは1m四方高さみ1m。中には本来より大幅に劣化した『理解』を残して何もないが、特筆すべきはその箱そのものの性質。
箱は物理的空間的な制約を一切無視して、箱の口のに触れたものを収納してしまい、一度収納すれば、内側から何をしようと出られない。
神の権能、五つの魔法、対界宝具。ありとあらゆる術を用いても脱出不可能な虚無の空間に吸い込んだものを幽閉する。
“”箱に入れられた時の状態”を維持し続ける性質を持つ為、この中に閉じ込められてしまえば自害することもできず、出されるまでの時を過ごさねばならない。
パンドラはこの箱を、黒泥の保管用に用いている。
本来はプロメテウスが⬛⬛⬛⬛を封じるために用意したモノ。


610 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:48:22 voJgJ7vw0







【weapon】
投影魔術で作成した武器と自身の身体

【人物背景】
嘗てプロメテウスが人に火を与え、人が文明の構築へと一歩を踏み出した時、人が自らの力に依って生きていくことが可能となった。
この事に激怒した神々は、人に神に縋らねば生きていけぬ様にと、ありとあらゆる災厄を地上に撒いた。
ところがプロメテウスが地上に撒かれた全ての災厄を箱に封じてしまう。
これにより神々は遂に自分達の意を代行する存在を作り、地上へと送る事にした。
最初からそうしなかったのは、バビロニアの神々が同じ事をやって失敗した先例が有った為である。
バビロニアの二つの失敗を鑑み、代行者は生命ではなく道具として設計された。そして神々に対する絶対の服従と、人に対する無限大の悪意を植え付けられ、地上へと送られた。
その使命は人を堕落させて向上させず、人に災いを齎す事で、永劫神に縋り付く存在にする事だった。
地上に降りた『ソレ』は名を持たなかったが、そんな事は意に介さずに行動を開始。プロメテウスから、災厄を封じた箱のありかを聞き出そうとする。
然し、神々が代行者を送り込んでくる事を予測し、かつ『ソレ』の本質を見抜いたプロメテウスは拒絶。
『ソレ』は一旦引き下がり、弟のエピメテウスに聞きにいくと見せかけ、エピメテウスに警告すべく移動しているプロメテウスを奇襲し、半殺しにする。
そしてプロメテウスに凄惨無比な拷問を加えるが、プロメテウスが箱のありかを語らなかった為、山に繋いで鳥の餌にした。
その後エピメテウスを籠絡して箱の在処を知ると、プロメテウスの眼の前まで箱を持っていき、籠絡したエピメテウスに開けさせる。
こうして地上に災厄と悪を解き放った『ソレ』は、プロメテウスの誰何に答えて自身に名をつける。
曰く、「己は神々から人間に対する贈り物(パンドラ)」と。
その後、人はゼウスにより大洪水で一掃され、パンドラはゼウスの命で多くの子を為し人祖となる。
これには理由があり、原初の人は火をはじめとするプロメテウスが齎した諸々のものを用いて災厄に抗い、身心共に強かった、為悪性に染まりにくかった。
それが故にゼウスはパンドラの因子を人に植え付ける事を画策。旧人類を滅ぼしたのである。

パンドラは、己の使命を理解していたが、このゼウスの行動は理解できなかった。
それでも、解らないままに、パンドラは地上を彷徨い、出会った英雄達や訪れた土地に不幸を齎した。
メレアグロスを唆してアタランテにイノシシ討伐の功を譲らせようとさせたり、イアソンがイオルコスの王となって経緯を民に流布したりと多くの英雄の不幸と破滅に関わった。
中でもヘラクレスには二度関わっており、第九の試練ではアマゾネスに扮してヘラクレスを襲い、ヒッポリュテの死因を作った。
これに関しては「ギシアンだけで終わってもつまらないから」という理由らしい。この時のヘラクレスとの戦闘では半殺しにされたのだとか。
二度目はヘラクレスの死であり、本来の姿でヘラクレスに接し、ヘラクレスの妻の悋気を誘い、ヘラクレスを死なせている。

全ては神々に笑いを提供する為。神々は人間が苦しみ破滅する様を、見ることが大好きなのだから。
全ては神様に与えられた使命を果たす為。災厄を撃ち払い、人の心を駆り立てる英雄を破滅させる為、人を堕落させる為。


611 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:49:05 voJgJ7vw0

【方針】
エンジョイ&エキサイティングに皆殺し

【聖杯にかける願い】
取ってから考えよう

【容姿・特徴】
薄い白布を体に巻き付けた金髪碧眼の巨乳美女。
オリンポスのエージェントの自称に恥じず、神話の英雄譚の陰で様々な悲喜劇を引き起こしてきた。
高い演技力により如何なるキャラクターでも演じられるが、素の性格はひたすらにウザい。
人間以外には友愛と誠実を以って接するが、人間には凡そこの世の悪徳の全てを以って接する。
基本的に他人はさん付けで呼ぶが、神を怒らせて誅されたアスクレピオスやベレロポーンは蔑意を込めて呼び捨てる。
これは英雄とは皆全て神を喜ばせる芸人であると認識している為である。
ヘラクレスをアルケイデスと呼ぶのは死後神となったヘラクレスを憚っての事。
神々に対する態度と口は極め付けに悪いが、神の道具であるという己の立場は十分に認識している為、神に逆らうこは決してしない。
己を見るゼウスの欲情に対しても、ゼウスが求めてくれば応じるつもりだった。


【戦闘スタイル】
百姓の母スキルと魔術、自身の肉体及び投影魔術で作り出した武具を用いて戦う。
思考ではなく刹那の閃きを要求される局面は苦手なので、立て直しや不利な時に離脱が容易な中〜遠距離戦を好む。
此の時主に用いるのはヘカテーから授かった魔術とヘラクレスの弓術。
もし接近戦になった場合はポルックスの拳闘術やカストールの剣技、ヘクトールの槍術を用いる。
此処にアポロンから授かった医学の知識と、アステリオスの身体能力加えて効率的な人体破壊を行うことができる。
当人の性質上、ほぼ全ての英雄に対してある程度戦えるが
女神を母に持ち、ケイローンの作った槍とヘパイストスの作った盾を持つアキレウスの様な英雄には必敗する。


612 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:49:56 voJgJ7vw0
【マスター】
ラゼィル・ラファルガー@白貌の伝道師

【能力・技能】
骸操り(コープスハンドラー)
屍に魔力を通し、生前そのままの能力を発揮させる技術。
擬似生命としての性質を持つ武器や骸人形を作り出せる。

武芸
殺戮の技を技芸として嗜み、芸術の域へと昇華させている。
此処に非常に高度な解剖学の技術と知識が加わることにより、効率的に人体を解体し、拷問することが出来る。

魔術
影の中に武器を収納したり、死骸に魔力を充填して動かす外法に精通している。


【weapon】
龍骸装
ラゼィルが手ずから仕留めた、白銀龍の骸を解体して加工した一群の武器。ラゼィルの屠龍の勲の証。
鋼すら断ち切る威力を、ラゼィルの施した魔力が更に向上させている。


凍月(いてづき)
龍の第六肋骨を削りだした一体成形型の曲刀。
刀身には"鋭化""硬化"の術が施され、状況に応じて“”震壊""重剛""柔靱"の状況に応じた魔力付与を発動させることが可能。

群鮫(むらさめ)
白銀龍の角を穂に、大腿骨を柄に使った短槍。
刃に“硬化”の二重掛け。更に切っ先への衝撃で“重剛”の魔力付加が発動し、運動エネルギーを倍化させるため、直撃した際の威力は絶大。
使い手の意思に感応して重心配分が変動し、投擲において絶妙な精度を誇る。

凶蛟(まがみずち)
白銀龍の下顎の骨に、四五枚の鱗を髭で結わえつけた鎖分銅。
全長二十フィート余りだが、連結部に“柔靭”が掛かっている為、状況に応じて自在に収縮する。
全ての部品に“鋭化”が、顎骨には重ねて“重剛”の術が施されている。
尾端に凍月を連結する事で鎖鎌としても使用可能。

手裏剣
龍の鱗から作成したもの。柳葉状の刃はどこに触れても鮮血を噴く。

胴着と籠手
鬣を編み上げて作成したもの、籠手がないと龍骸装備は扱えたものではない。

凄煉(せいれん)
最強の龍骸装。白銀龍の肺胞を用いたものだが、これには一切の魔力付与をしていない。
取り出すと同時に吸気を始め、100秒後に龍の吐息(ドラゴンブレス)を吐き出す。
超高温を帯びた瘴気の息吹は、金属すら溶解させ、直撃せずとも致死の毒性で骨が腐り地が枯れる。

いずれも鮮血を滋養として代謝し、自己再生能力を持つ。
祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者はの魂は、全て混沌神グルガイアの贄となる。
龍骸装は、使わないときは、影に変えてラゼィルの服の袖の中に収納されている。


操躯兵
男はバイラリン、女はバイラリナと呼称される。
ラゼィルの充填した魔力によって動く。概念としてはゴーレムが近い。
肉体の神経網をそのまま活用し、生前の思考能力と身に付いた技術をそのままに、自我、欲望、感情が欠落した、主人に絶対服従する使い魔。
痛みも疲労もを感じなくなり、肉体の限界まで筋肉を行使することが出来、酷使により傷ついた筋繊維は充填された魔力によって即座に治る。
複数の死体を組み合わせて作成することも可能。
戦闘用のものは“嘆きの鉈”と呼ばれる超重量の武具をラゼィルから渡される。
現在持っているのはハーフエルフの少女を素体にした“バイラリナ”
その性質上内臓が不要な為、臓器を全て取り出して腹の中にものを入れる事が可能。
祭具として聖性が付加されており、これらの凶器による犠牲者はの魂は、全て混沌神グルガイアの贄となる。

ラゼィルは操躯兵をゾンビだのネクロマンシーだの言われるとキレる。


夜鬼の置き土産
極めて特殊な揮発物。訓練されたダークエルフのみが、その匂いを数マイル先からでも嗅ぎわけることが出来る。

白貌
エルフの血と骨粉で作った白粉。水にも強いがエルフの血には弱い。


613 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:50:23 voJgJ7vw0
【人物背景】
ダークエルフの英雄。その武練、その信仰心は地下世界アビサリオンに並ぶものなく、屠龍の勲は、母が子に寝物語として聞かせるほど。
その功を以って筆頭祀将にまでなった真性の英雄。
ある時、同族同士で争うだけで、聖典ウィグニアのただ一説。“殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし”。
この教えを忘れ、地上世界への侵攻を忘れて只相争う同族を見限り、神像の右目を抉り取って地上へと出奔する。
その後は地上を彷徨い、人やエルフの集落をいくつも滅ぼし、死と滅びを神像から抉り取った右目に見せ続けてきた。
後世に“白貌の伝道師”という邪悪な伝説となって語られることになる。


【方針】
“殺し、穢し、焼き尽くすべし。陽光に栄える者共に闇の怨嗟を知らしむるべし”。

【聖杯にかける願い】
取ってから考える

【参戦時期】
原作終了後


614 : 伝道師と贈り物 ◆A2923OYYmQ :2017/07/19(水) 21:51:26 voJgJ7vw0
投下を終了します


615 : 海底のNext stage! ◆q7nbzHYUbw :2017/07/22(土) 02:54:37 It/5WYaw0
投下します


616 : 海底のNext stage! ◆q7nbzHYUbw :2017/07/22(土) 02:55:54 It/5WYaw0
「つまりはこれも、人間が作り出したゲームだって言うことだろ?」

 冬木市ハイアットホテルの屋上。
 月光が二つの影を照らしていた。その何方もが、人間の形をした、然し人間とは大きく異なる者達であった。

 眼下に広がる冬木市を眺めるパラドは、子供のような笑いを浮かべながら屋上をふらりふらりと歩き回っていた。
 聖杯戦争。英雄を召喚し、その力を以て願いを賭けて戦う蠱毒壺、願望機の争奪戦、殺し合いを以て成立する魔術儀式。命をベットして願いを掴み取らなければならないデスゲーム。
 そして、異世界より招かれ、強制的にそれを演じさせられるパラド……であるが。実のところ、殺し合い自体はそこまでの心労にはなっていなかった。
 彼等バグスターは消滅したところで、データさえ残っていれば復活することが出来る以上、死への恐怖というものが非常に希薄極まりないものであった。
 その上、元の世界においてパラド達バグスターと、その協力者はそれと似たようなものを追い求めていた。願いを叶えるために殺し合いをする……究極のゲーム『仮面ライダークロニクル』。
 最も、それと聖杯戦争は細かく見れば大きく差異がある。ゲームとしてパクリだなんて言うつもりは彼にはなかった。


 それでも、一つ気に入らない部分があるとするならば。


「それに俺は無理矢理参加者として招かれたってことだ。まるで、人間達の玩具みたいに。なぁ、そういうことだろキャスター?」


 また、"人間に良いように使われた"ということだ。バグスターは元々はゲームキャラクターとして、敵キャラクターとして、人間に倒されるためにデザインされた者達だった。
 そして、パラドはそれを良しとしない。バグスターの運命を変える、人間達の手からバグスターを解き放つ……それこそが、バグスター達の"仮面ライダー"であるパラドが戦う理由の一つだ。
 それ故に、この聖杯戦争に参加することになった、という事実よりも、無理矢理参加させられた、という部分があまりにも、気に入らなかった。
 ガシャットギアデュアルを握り締める手に力が入る。そして、キャスター……そう呼ばれた男へとパラドは、その内心とは裏腹に笑顔のまま視線を流した。


「ええ。その通りですとも、パラド。言うなれば、我らはこの聖杯戦争というゲームに設定されたキャラクター」

「我らの役目はこの聖杯戦争に踊ること。数多の棋士達と対局を繰り返し、勝ち抜き聖杯の坐へと辿り着くことであります故」


 その男は、仏僧であった。外見にも分かり易く、剃髪した頭に僧衣を纏っている。ただ、その手の中に握り締めるのは……囲碁扇子、と呼ばれる扇子であった。
 落ち着き払った態度と穏やかな笑みを浮かべる……パラドをマスターとして召喚されたキャスターは、然してその声色、その立ち居振る舞いには抑えきれないまでの『楽しむ気持ち』が含まれている。
 パラドのそれと酷似した、そう、それは幼子が"ゲーム"に取り組むかのような。

「……心が滾るな」

 ガシャットギアを握り締めるその手に力が入る。
 言うまでもないことであるが、戦うことが恐ろしいわけではない。ただ――――パラドには、キャスターのこともまた気に入らなかった。
 彼は現状どうであろうとも、彼は人間の英霊だ。故に、腹立たしい。結局のところ彼もまた人間でしかなく、そしてこの聖杯戦争というゲームに自分を縛る枷でしかないのであり。



――――PERFECT PUZZLE!



 ガシャットギアのダイヤルを回転させると、周囲にゲームエリアが展開され、ゲームは起動する。
 選択するゲームは『パーフェクトパズル』。落ちてくるパズルを崩し、連鎖を狙うパズルゲームであり、そして。





What's the next stage?



「――――変身」



Dual Up!

Get the glory in the chain! PERFECT PUZZLE!!


 蒼き鎧を纏いて、二律背反の仮面ライダー、パラドクスは降臨する。


617 : 海底のNext stage! ◆q7nbzHYUbw :2017/07/22(土) 02:57:04 It/5WYaw0

「俺達バグスターはもう人間の思い通りにはならない……まずはお前からだ、キャスター」


 展開――――パズルピース型の強力なエネルギー弾が、キャスターへと向かっていく。その攻撃は、サーヴァントの魔力放出にすら劣らない。
 対してはキャスターは、扇子を口元に押し当てながら、怒りに震えるパラドを見据え続け。その弾丸が放たれた瞬間――――それを、突き出した。


「むぅ、少々落ち着いてくだされ。私は、私達は、人である前に、サーヴァントである前に」

「――――"ゲーマー"でしょう?」

 放たれた光の弾丸が消滅する。そして、その直後にパラドクスの目前に出現する。
 それらは勢いはそのままに、方向を反転して真っ直ぐにパラドへと向かい――――その強力なエネルギー弾は、パラドクスの装甲へとそのまま叩きつけられる。


「何!?」


 そして、その衝撃でパラドの身体はホテルの屋上から投げ出される。
 パラドクスの装甲は頑丈だ、恐らくこの程度で致命傷に成り得ない……だが、パラドのゲーマーとしての性質が、無論此処で終わらせようとはしなかった。
 周囲のエナジーアイテムが、パラドの正面に集まっていく。この落下の渦中に在りながら、それらは宛らパズルの如く、複数のアイテムを操作し、選択し。


『伸縮化!』


 発動と同時、パラドクスの身体がまるでゴムのようにするりするりと伸びていく。
 ホテルの屋上へとその腕が伸びていき、その端を掴むと、その腕が伸縮する勢いで、再度パラドクスはキャスターの目前へと辿り着く。

「これがサーヴァントの宝具ってやつか……」

「いや、そちらこそ。さすがは『天才ゲーマー』の起点とでも言いましょうか……」

 再度、二人は相対し。


「はは、ははははははは!!!!」


 そして、パラドは笑い声を上げた。
 腰に装填したガシャットギアを引き抜いて、パラドは変身を解除する。
 パラドの中にあった、キャスターへの不満はどこかへと消えて失せていた。パラドクスとは"そういうもの"でもあった。
 冬木の町並みを眺めながら、両手を広げる。そして、実に楽しそうに、笑いながらキャスターへと問いかける。

「なぁ、この街には他にも色んなサーヴァント達がいるんだろ?」

「ええ、そうです。その中で比べたら、私など……いや、とてもとても。最弱と言っても差し支えないでしょう」

 キャスターの返答に、満足そうにパラドは頷くと、足取り軽くキャスターの下へと向かって肩を軽く叩いた。
 そのさまは、正しく新しいゲームを目の前にした子供のそれだ。どんなゲームが待っているだろうか、どんな攻略をしてやろうか、ああ楽しくてたまらない。そんな様だった。
 聖杯戦争、サーヴァント。その存在はパラドの心を揺さぶった。聖杯という存在には興味がない。そんなものを使って願いを叶えるなんて、パラドにとっては「クリア特典を使って二週目を行う」ようなものだった。
 故に、パラドは……無論、そこには『人間の為に作られたゲームをバグスターである自分がクリアして攻略して、鼻をあかす』というものも存在していた、が。
 何より、パラド自身のゲーマーとしての心を、聖杯戦争というシステムは踊らせた。


「――――キャスター、あんたは何を聖杯に願うんだ?」

「いいえ、パラド。私もまたゲーマー。であれば、私はただ、サーヴァントしてこの聖杯戦争を楽しむのみ」

「ええ、今や私は人に非ず、聖杯戦争という碁盤の上にて生きるもの。であれば、攻略できない筈がない」

 パラドはキャスターに問うて、そうしてキャスターは答えた。
 嘘偽りない本性であった。本因坊算砂――――嘗てそう呼ばれていた男は、その生涯を碁という物に費やした、"ゲーマー"であるのだから。
 であるとすれば、最早二人には幾らの言葉が必要であろうか。此処に揃うは天才ゲーマーが二人。ならば、やるべきことはただ一つ。


「仮面ライダークロニクルの前哨戦だ」


「この聖杯戦争というゲーム、超協力プレイで……ノーコンティニューで、クリアしてやるぜ」


618 : 海底のNext stage! ◆q7nbzHYUbw :2017/07/22(土) 02:57:22 It/5WYaw0









      GAME START! To be continued……


619 : 海底のNext stage! ◆q7nbzHYUbw :2017/07/22(土) 02:58:19 It/5WYaw0
【クラス】
キャスター

【真名】
本因坊 算砂

【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A 幸運:A 宝具:EX

【属性】
渾沌・善

【クラス別スキル】
陣地作成:EX
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
キャスターは本来の陣地作成とは異なり、戦闘開始時に周囲一体を“盤面”とする。
これにより直接的に他者へと影響を与えることはない。あくまでキャスターがそう認識するのみ。

道具作成:C
魔術的な道具を作成する技能。
法力によって破邪の力を込めた礼装を作成できる。

【保有スキル】
一世名人:A+++
三人の天下人を唸らせた、碁打ちの最高峰であり名人という言葉の起源である天才。
盤面上の全てを把握し、計算し、先読みする。
また、決して揺るがない盤面への計算と集中はあらゆる精神干渉を遮断する。

怨霊調伏:C
“臨兵闘者皆陣列在前”の九字が成す、邪悪な呪いへの抵抗呪文。
成功すれば敵の魔術を封じ込められる。


【宝具】
『功成らずして、死ぬるべし』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ: 1〜50 最大補足:1人

碁打ちの最高峰である、本因坊算砂の対局そのもの。
最早その打ち筋に未知はなく、対局相手のそれすらもキャスターにとっても思うがまま。
周囲一体、盤面となった部分における存在……生命体から物体、魔術、宝具、ありとあらゆる存在を認識し、それらの位置を操作することが出来る。
操作された物体は一切のラグを発揮させずにキャスターが選択する地点へと召喚される。盤面内においては上下左右が思いのままであり、重量にも左右されない。
対サーヴァント戦での攻撃力はこれ単体では一切存在せず、他の攻撃手段との併用によって真価を発揮する。また、サーヴァントであれば対魔力で抵抗することも出来る。

【人物背景】
安土桃山時代から江戸時代において活躍した棋士であり、仏僧。
舞楽宗家の加納與助の子として生まれる。8歳の時に叔父で寂光寺開山・日淵に弟子入りして出家。仏教を修めるとともに、当時の強豪であった仙也に師事して囲碁を習う。
かの織田信長に「まことの名人」と称され、今日まで広く常用され続ける名人という言葉の起源であるとされている。
本能寺の変においては織田信長と対局し、天正15年には徳川家康に招かれm,慶長8年には豊臣秀吉の御前にて名碁打と対局し、これを勝ち抜いた。
また、僧侶としては最高位階級である『法印』に叙せられる等、僧侶としても確かな実力を持っている。

ある意味では、碁というゲームをやりこんだゲーマーといえるだろう。
「碁なりせば 劫(コウ)なと打ちて 生くべきに 死ぬるばかりは 手もなかりけり」……この世界が囲碁/ゲームの世界であったならば、自分は絶対に死ぬことはなかったのに。
死の直前にそう思ったことから、聖杯戦争という『ゲーム』に組み込まれた自分を楽しんでおり、基本的にはマスターと同様、聖杯戦争を楽しみつつ『ゲームクリア』を狙う。
サーヴァントとしての攻撃能力はほぼ皆無であるため、宝具の使用によって戦闘能力が高いマスターをサポートすることを主な戦法としている。

【特徴】
剃髪をし、法衣に身を包んだ初老の男。
常に目の前の出来事をゲームとして楽しむために、穏やかに笑いながらも目の前の光景に対して現実味を一切持たないため、常に感情は一定である。
その口調は高位の僧侶として達観し、また惹きつけるものもありながら溢れ出る『ゲームを楽しむ』という無邪気さが複雑に混じり合っている。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争を楽しみ、勝ち抜く。聖杯を手に入れること自体が目的。

【カードの星座】
双子座


620 : 海底のNext stage! ◆q7nbzHYUbw :2017/07/22(土) 02:58:46 It/5WYaw0
【マスター】
パラド@仮面ライダーエグゼイド

【能力・技能】
・仮面ライダーパラドクス
二つのゲームが内蔵されたガシャット『ガシャットギアデュアル』によって変身する仮面ライダー。
起動とともに周囲にゲームエリアを展開し、必要ならばステージセレクトによって戦いやすいステージを選択し再現することも出来る。
『パーフェクトパズル』と『ノックアウトファイター』、二つのゲームの力を使うフォームへと変身できる。
また、両フォームに共通する性能として『相手の防御システムを一時的に停止させるプログラムを四肢から流し込む機能』が存在する。

・パズルゲーマー Lv.50
『What's the next stage?』

身長:200.5cm
体重:110.5kg
パンチ力:59t
キック力:68.5t
ジャンプ力:ひと跳び62m
走力:100mを1.9秒

パズルゲーム『パーフェクトパズル』の力を扱うフォーム。アイテムを全てエナジーアイテムに変換する等、エリア内の物質を操作する能力を持っている。
パズル型のエネルギーシールドやそれを射撃武器として飛ばす能力を持っているが、その最も驚異的な力はエナジーアイテムを自由自在に操作することにある。
本来自分から取りに行かなければならないエナジーアイテムを全て操作し、そして自由自在に操作することも可能。
また本来一度に一つしか使用できないエナジーアイテムを一度に三つまで同時に使用できる。


・ファイターゲーマー Lv.50
『The strongest fist!』

身長:201.5cm
体重:151.5kg
パンチ力:64t
キック力:68.5t
ジャンプ力:ひと跳び62m
走力:100mを1.9秒

格闘ゲーム『ノックアウトファイター』の力を扱うフォーム。両腕にスマッシャーが装備され、近接格闘戦での攻撃力が向上する。
このスマッシャーの内部には特殊燃焼装置「マテリアバーナー」が内蔵されており、腕を振っただけで火柱を吹き上げる以外にパンチと同時に接触した物体を爆砕することが可能。
格闘ゲームらしく、戦闘スタイルとしては一撃の重さよりも手数によるラッシュを優先した戦闘を得意とする。


【人物背景】
バグスターウイルスによって誕生したゲームの敵キャラクター『バグスター』達のトップ。
幻夢コーポレーション社長『壇黎斗』と手を結び、究極のゲーム『仮面ライダークロニクル』を完成させようと目論んでいた。
その目的は仮面ライダーエグゼイド『宝条永夢』と決着をつけること、そして攻略される側のバグスターから、今度は人類を攻略する側に回ること。
その戦闘力は凄まじいものであり、レベル50の戦闘能力も合わさって登場からマキシマムマイティXの登場までほぼ無敗とも言える程の戦績を誇った。
基本的には戦闘をゲームとして楽しみ、その様はまるで子供のようだが、反面非常に知略家であり、エナジーアイテムを巧みに使い分けてパズルゲーマーの性能を存分に発揮する。

【方針】
仮面ライダークロニクルの予習として、聖杯戦争というゲームを楽しむ。

【聖杯にかける願い】
宝条永夢と決着をつけるために元の世界に帰ること。
また、聖杯戦争を勝ち抜くことで人類が作ったゲームを攻略する。

【参戦時期】
第15話での3ライダーとの戦闘後。


621 : 海底のNext stage! ◆q7nbzHYUbw :2017/07/22(土) 02:58:57 It/5WYaw0
投下を終了します


622 : 名無しさん :2017/07/22(土) 16:21:34 HdvalYEE0
ゾーンドーパントだw


623 : ◆RdVZtFsors :2017/07/23(日) 16:28:22 6JgN4.Hc0
投下します。


624 : 人理のうらでは騎士がうまれている ◆RdVZtFsors :2017/07/23(日) 16:30:14 6JgN4.Hc0
「奪え! 奴らの食糧を! 富を! 全てを!」
「俺たちのムラの為に、奪うんだ!」
「戦え! 争え! 殺してでも奪え!」
「俺たちの繁栄の為に、奴らと戦争をするんだ!」


「見てろよ父上。父上がオレを認めず、拒絶するつもりなら、オレは反旗を翻してやる!」


「主よ、どうか我に進むべき道を示し給え!」
「続け、兵士たちよ! 今こそ我らは、彼女と共に救国の英雄となるのだ!」


「敵船から砲撃あり! 船体が損傷しました!」
「これくらいの擦り傷でこの船が沈むわけがないだろ馬鹿! 撃たれたんなら、口動かす前にさっさと撃ち返しな!」


「最早我らに残された道は自決のみ」
「ああ、だが、鬼畜米英の捕虜となり、家畜以下の扱いを受けるくらいなら、喜んでそちらを選ぼうぞ!」
「万歳! 帝国万ざぁぁぁあい!」


『それ』は、全ての戦争を司り。多種多様な戦争を起こし。あらゆる戦争を知り。どんな戦争でも観測して来た。
『それ』は――戦争そのものだ。
『それ』は人に死滅を与える事で世界を回すシステムに過ぎず、戦場に居る彼らを見た所で、いかなる感想も抱く事は無かった。
戦場で悲劇的な死を迎えた兵士の姿を見ても、悲しみを覚えず。
戦地を駆け抜ける英雄の姿を見ても一切心が踊らない。
心も感情もなく、ただのシステムである『それ』は、まるでロボットのように世界中に戦争を起こし、観測し続けたのだ。
しかし、あの戦争――焼却され、弄られた各時代・各所を舞台とした、数多の英霊が関わった、歴史上類を見ない程の大戦争。
これを観測し、人理修復直後という極めて不安定な状況に晒された『それ』には、一つのバグが生じた。
バグは、『人格』という形で、戦争/システム/『それ』の中に現れた。
これは、本来ならば生じる可能性がゼロパーセントの異常であり、例え不安定な状況下であっても、まず起きるのはありえない奇跡であった。
人類最後のマスター、藤丸立香は、人理(せんそうのきろく)を救っただけでなく、新たな存在を誕生させていたのである。
もっとも、彼/彼女がその事実を自覚しているはずもないのだが……。

▲▼▲▼▲▼▲


625 : 人理のうらでは騎士が生まれている ◆RdVZtFsors :2017/07/23(日) 16:32:07 6JgN4.Hc0
「つまり戦士(マスター)、お前は何の異能も持ってない、無力で普通な少女というわけだな」

『レッドライダー』という二つ名を主張するかのように帽子の先から靴の底まで真っ赤な衣装に身を包んだライダーの、青年のような見た目からは想像もできないほどに嗄れた声が、光本菜々芽の自室に響いた。
『何の異能も持ってない、無力で普通な少女』と評された菜々芽は元々無愛想だった顔を、更に不機嫌そうに変化させた。ナイフで切り裂いたかのように細く鋭いライダーの瞳と、菜々芽の美しい瞳の視線が絡む。
何故そんな変化が生じたかと言うと、まるで『無力なお前に出来ることなど何もない』と言われたかのように感じたからだ。
しかし、事実菜々芽は聖杯戦争においては無力も無力、無能も無能の極みなただの少女なので、そこは認めざるを得ない。
菜々芽の表情からその心情を察したのか、ライダーは、

「いや、別にこれは貴様を貶したくて言った言葉ではないのだ。無能には二種類あると、私は思う。良い無能と悪い無能だ。良い無能は無能なりに何かを成し遂げようと努力するが、悪い無能はただ周りの足を引っ張るだけの愚図だな。戦争を盛り上げるのが前者で、戦争を泥沼にするのが後者だ。戦士(マスター)は間違いなく、前者の方だろうよ」
「それ、褒め言葉?」
「うむ!」

ライダーが言い放った褒めてるのかよく分からない褒め言葉を、不思議に思う菜々芽であった。

「一般人である貴様は、魔術師達の催しである聖杯戦争の参加者に選ばれるには、落第点不可避の戦士(マスター)だが、私は貴様のメンタリティは間違いなく合格点を取れるものだと高く評価しているのだぞ? 齢十歳も超えていない身で、自分が許せぬ理不尽な悪を倒すべく我武者羅に突っ走れるその気力! 実に素晴らしいものではないか!」

そう言葉を続けるライダーの台詞から、菜々芽は思い出す。
蜂屋あいという名の、天使の姿をした少女を――思い出す。
見た目こそ天使のようであるものの、あいの本性は、多くの人間の人生を、悪戯のような感覚で壊してきた、白い悪魔であった。彼女は、手練手管を用いて蜘蛛のように巣を張り、それに掛かった人々に絶望と悲しみを齎すのだ。
自分の手を汚さずにそんな事を楽しそうにやってのける蜂屋あいの事を、菜々芽は断じて許しがたい存在だと思っていた。
だから、菜々芽はあいの悪行を止める為――彼女との決着をつけ、クラスの平和を取り返す為に、奮闘してきたのである。

「くっ――くっくっくっくっ……!」

と、その時、ライダーが突然笑い声を漏らした。

「いったい、何がおかしいの」
「くっくっくっ――なぁに、貴様のような人間の事を、ふと思い出しただけさ」

そう言うライダーの脳裏には、一人の人物が浮かんでいた。
その人物とは、目の前にいる菜々芽と同じように、全くの凡人でありながら、自分が倒すべき存在を相手に戦い、争った者――人理継続保障機関『カルデア』のマスター、藤丸立香である。
自分という『自我』がこの世に誕生するきっかけとなった存在を、目標に向かって並外れた行動力を持って突っ走れる菜々芽の姿から連想したライダーは、その事実に何だか愉快な気分になってしまったのだ。

「貴様と似たそいつは、人類の歴史を焼き滅ぼさんとした奴を相手に勝利を収め、世界を救った! ならば、貴様でも、学校の一教室分の世界くらい余裕で救えるだろうよ!」
「……ありがとう」

突然知らない人間の名前を出され、困惑した菜々芽だが、ライダーが自分を応援している事に気付き、感謝の言葉を返した。

「戦士(ふじまるりっか)に捧げたかった召喚処女を貴様に汚された時は少しばかり不機嫌になったが――くっくっくっ! そんな気分が帳消しになるほどに愉快な気分だ。まさか、戦争が半世紀以上も起きてない微温湯の国に、これほどまでの意志力を持った戦士(マスター)がいるとはな! 流石あいつを産んだ国、と言ったところか!」

いや――と、彼は言葉を続ける。

「やはり、いつの時代のどの場所でも、人は戦意に満ちた戦士となり得るという事か? くっくっくっ! 」

心の底から湧いてくる人間賛歌を口から吐き出しているかのように、ライダーは再び笑い声をあげた。


626 : 人理のうらでは騎士が生まれている ◆RdVZtFsors :2017/07/23(日) 16:32:55 6JgN4.Hc0
「ところでライダー」
「ん? どうした?」
「さっきからよく話に出している、『藤丸立香』は誰?」

これまで何回かライダーが口にしたその人物名を疑問に思っていた菜々芽は、ついにライダーにその詳細を尋ねた。
彼女は他人の事情に自分から深く入り込む人物ではないのだが、聖杯戦争で自分の剣となるサーヴァントがよく知っている(それもかなり強い好意を持っている事が窺い知れる)人物を自分が知らないのは、これからの生活で不便を生じさせると考えた為、そのような質問をしたのである。
菜々芽からの質問を受けた途端、ライダーは細い瞳を真ん丸に見開いて驚き、まるで、『リンカーンって誰?』と聞かれた合衆国民のような顔をした。
しかし、更に次の瞬間には口の両端を吊り上げて、実に嬉しそうな喜色に満ちた笑顔をそこに浮かべ、

「そうかそうか! 戦士(マスター)にはまだ、戦士(ふじまるりっか)の事を教えていなかったな! ならば教えてやろう! いや、教えさせてくれ! あいつの偉業を!」

まず最初にあいつが解決した戦争はだな――と。
そんな風に、まるで自分の好きな物語について語る子供ように楽しげな顔で『藤丸立香』について語り出すライダー。
世界に混沌と破滅を齎す『戦争』そのものにして、戦争を司る『レッドライダー』の側面も持つ彼に、最初はどうにも良いイメージを持て無かった菜々芽だが、今の彼を見て、何と言うか、自分より年下の子供の相手をするような、そんな微笑ましい感情を感じたのであった。
菜々芽が抱いたその感想は、あながち間違いではない。
何せ、ライダー――『戦争』は、自我と呼べるものを持ってまだ一年未満であり、つまり、人間で言えばまだ乳児の年齢なのだから。


627 : 人理のうらでは騎士が生まれている ◆RdVZtFsors :2017/07/23(日) 16:33:54 6JgN4.Hc0
【クラス】
ライダー

【真名】
戦争(レッド・ライダー)

【属性】
戦争・-→中庸

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A+ 魔力A+ 幸運EX 宝具EX

【クラススキル】
騎乗:A+
この世で起きた戦争そのものであるライダーは、戦争で使用された乗物全てを支配下に置く。

対魔力:A

【保有スキル】
変化:D
ライダーは血溜まりのような姿と、軍人のような姿、あるいはその中間の形態に変化する事が可能。
自分の体の一部だけを血液や血霧に変化させ、遠隔操作する事も出来る。

扇動:EX
数多くの大衆・市民を導く言葉を身振りの習得。特に個人に対して使用した場合には、ある種の精神攻撃として働く。
ライダーの場合、身振り手振りだけでなく、変化スキルで血液に変化させた自分の体に触れた対象にも同様の効果を発揮する。この場合の扇動能力は、精神耐性は勿論、対魔力で軽減・無効化する事が可能。その気になれば、血霧で町中を一気に戦場にする事も出来るが、今はマスターを気に入っており、聖杯戦争にそこまで本気で乗ってるわけではない為、この方法は使用していない。ランクEXは超越性ではなく、この手段の特異性を意味する。

星の開拓者:EX
人類史のターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
あらゆる難航・難行が、「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。
戦争は人類史のターニングポイントそのものである。

戦況把握:EX
戦争そのものであるライダーは、聖杯戦争の舞台の全てを把握出来る――はずだが、そんな彼でも観測出来ない部分がいくつか存在するらしく、その辺りに、今回の聖杯戦争の異常性が確認できる。

対人類:A
戦争――レッドライダーは、地上の人間を殺す権利(マーダーライセンス)を与えられている。
このスキルを持つライダーは、人間、あるいは人間出身の英霊や神霊に対し、特攻・特防性能を発揮する。

【宝具】
【人は皆戦士なり、故に舞台は鮮血に終わる(レッド・フィールド)】
ランク:EX 種別:固有結界 レンジ:- 最大捕捉:-

戦争そのものであるライダーの霊基には、この地球上で起きたありとあらゆる戦争の情報が記録されている。
幾人もの人が戦い、幾人もの人が死に、幾人もの人が記憶した、幾つもの戦争――ライダーは、一種の心象風景であるそれらを、固有結界として再現する事が可能。
この際発動される固有結界はライダー個人の心象風景ではなく、かつて世界の何処かで起きた戦争に参加した者たち全員の心象風景である。
その為、その再現度は驚異のそれといえよう。
また、人類が地球に誕生してから起きた戦争は、大小合わせると数えきれないほどある。
つまり、ライダーは無限に等しい種類のステージをセレクトできるのだ。
更に、ライダーはこの固有結界から戦争で使われた武器だけを現実世界へと取り出すことが出来る。何処ぞの英雄王の宝物庫のようなイメージで想像してもらえれば良い。

【人は皆戦士なり、故に理性は殲滅に終わる(レッド・ライダー)】
ランク:B+ 種別:対人類宝具 レンジ:3 最大捕捉:1

ライダーが持つ剣。
普段は刀身の紅い日本軍刀であり、普通に攻撃用の剣として使う事も可能だが、真名解放をするとそれはライダーの頭身をも越すほどに巨大な西洋剣へと変化する。
この状態の剣はレッド・ライダーの『戦争』の権能の具現化と言ってもいいほどの力を持っており、肉体ではなく精神を切る。
つまるところ、この宝具に斬られた者は精神的アーマーごと心を切り裂かれ、その傷口にライダーが持つ鮮血の魔力――つまり『戦意』を注ぎ込まれ、結果、狂戦士(バーサーカー)じみた戦意の塊と化すのだ。
上記の『扇動』スキルと似たような効果だが厳密に言えば違い、『扇動』スキルは戦意を刺激するが、この宝具は戦意をゼロからでも生み出せる。
ライダーの血による『扇動』が対魔力・対精神スキルで軽減、無効化されるのに対し、この宝具は当たりさえすればかならず効果を発揮する。
また、戦意と共にライダーの魔力も注がれるので、この宝具を食らった者の幸運、宝具以外のステータスは全て1ランク上昇する。
つまり、究極のキャラ崩壊を招く、バーサーカー・メーカー。
ライダーはこの宝具による対象の変化を『赤化』と呼ぶ。
『赤化』した相手をもう一度切る事で、『赤化』を解く事も出来る。


628 : 人理のうらでは騎士が生まれている ◆RdVZtFsors :2017/07/23(日) 16:34:27 6JgN4.Hc0
【人物背景】
時に歩兵の姿で、時に騎兵の姿で、時に戦車の姿で、時に戦艦の姿で、時に戦闘機の姿で――『戦争』は何かに乗って、人類に破壊と死と混沌を齎してきた。
何より、『ある二つ名』を理由に、『戦争』はライダークラスのサーヴァントとして現界した。
英霊どころか人ですらなく、そもそも生命体ですらない『戦争』が聖杯戦争に召喚されるのは極めてイレギュラーな事態であり、その上、ただ戦争を起こすシステムであるそれが人格までも備えているのは、最早信じられない事態である。
本来ならば単なる『戦争』のシステムに過ぎなかったそれが人格を得るに至ったには、とある人類最後のマスター――藤丸立香が為した偉業が深く関わっている。
彼/彼女が解決してきた人理修復の旅は、数多の時代・場所で起き、多種多様な英霊が戦っていた事からも分かる通り、人理において類を見ない程スケールが大きな『戦争』であり、それを起こし、観測していた『戦争』というシステムにもそれ相応の膨大な情報負荷を与えた。それに人理修復による人理(せんそう)全体の不安定な状態か合わさった事で、『戦争』のシステムにバグが発生。そこから人格と呼べるデータが誕生した。ライダーの幸運ステータスのEXは、この奇跡的な誕生に由来する。
ライダーは、人理(戦争の歴史)を焼却から修復し、擬似的であるとは言え、人格を自分に与えてくれた藤丸立香の奇跡的な偉業に感謝、そして感心し、彼/彼女に何らかの形で関わってみたいと考えている。
そんな彼からしてみれば、聖杯戦争に呼ばれ、更にマスターが自分の愛する藤丸立香ではなかった事は少し不満。本人曰く、召喚処女を汚された気分であるらしい。
しかし、マスターである光本菜々芽が藤丸に負けず劣らぬ程の逸材であると知り、これから彼女がどうなるか少なからず期待している。
人類の歴史は戦争の歴史である為、レッドライダーは人理の始まりから全ての戦争を発生させ、それらを観測していたわけであり、不死身の英霊程度では並べない程に超膨大な情報量を誇るが、人格を得たのはつい最近である為、メンタル自体はテンションの高いクソガキのそれである。
人格を得た『戦争』は、藤丸立香は勿論のこと、これまで数多の戦争を経験してなお滅亡する所か、それらを乗り越え発展してきた人類に対しても、ある種の敬意を抱いている。
それ故、人類を『戦士』と考えており、彼らと対峙した際、『戦士』と呼びかける。
人間賛歌を歌いながら、レッドライダーは地上に向かって滅びの剣を振るうのだ。

ちなみに、もしも戦争を人格のない単なるシステムとして召喚した場合、呼び出されるそれの姿は血溜まりのような不定形の怪物となっていただろう。

【特徴】
パット見は赤い軍服に赤い髪に赤い瞳と、全身赤赤赤なレッドマン。
しかし、その服装をよく見てみると、帽子にナチスの鉤十字の紋章が付いているかと思いきや、胸元にはアメリカ将校のバッヂが刺されており、かと思えば腰には日本軍刀が提げられている。
世界中の軍服からパーツを集めて作り上げたパッチワークのような服装である。

【聖杯にかける願い】
特に無し。手に入れたら、それを使って亜種特異点でも作り、藤丸をそこに招待しようかと考えてる程度。

【マスター】
光本菜々芽@校舎のうらには天使が埋められている

【人物背景】
スーパーウルトラガッツファイトな女子小学生。
ヒステリックな教育ママを持ち、その為家庭環境はかなり最悪。
学校では元々孤立しており、それにいくつかの不吉で不幸な出来事が起きた所為で、彼女は『死神』と君悪がれ、遠巻きにされる。つまりクラスから浮いた問題児と化した。
どのような陰口を叩かれても相手にせずクールな態度を貫いていたが、気にかけてくれたある少女の温かさに触れ、彼女を大切に思うようになった。
彼女がいじめにあっている事を知っていた菜々芽だが、あくまで部外者のスタンスを取り続けていた。
しかし、ある事をきっかけに彼女を守れなかったことを後悔し、部外者のスタンスでいたいじめを止めさせようと行動に出るようになった。
菜々芽のぶっ飛んだガッツと行動力は凄まじく、小学生離れした何かを感じさせられる。
彼女は本当に小学生なのだろうか? 人生三周目とかしてません?

【マスターとしての願い】
聖杯戦争から生還。


629 : ◆RdVZtFsors :2017/07/23(日) 16:34:56 6JgN4.Hc0
投下終了です


630 : ◆q7nbzHYUbw :2017/07/25(火) 14:53:07 QL8lHdjI0
投下します


631 : 友よ、明日の我らは戰へと臨む ◆q7nbzHYUbw :2017/07/25(火) 14:53:55 QL8lHdjI0
 戦争なんて大っ嫌いだ。

 なにせ人が死ぬ。沢山人が死ぬ。日本人が死ぬし、米国人が死ぬ。英国人も死ぬし、独逸人も死ぬし、伊太利亜人も死ぬ。
 兵士が死ぬ。市民が死ぬ。犬や猫だって死ぬ。若い奴が死ぬ。老いた奴もそれなりに死ぬ。街が焼かれれば女や子供だって死ぬ。
 飛行機が爆弾を落とせばそこに居た人達が木っ端微塵に死ぬ。船が沈めば数百人単位で死んでいく。嗚呼あまりにも馬鹿馬鹿しくて語る気すらも起きないが、火の玉になって死ぬ奴もいる。
 陣取り合戦がしたいなら将棋でもやってりゃあ良いんだ。その辺の畜生の縄張り争いじゃないんだから、自分たちが今持ってる陣地の中で、こじんまりとしていりゃあ良いんだ。

 だってえのに、なんで人は戦争を始めるんだ。

 喧嘩を売られた。喧嘩を買った。開戦した。勝った、勝った、勝った、負けた、負けた、負けた負けた負けた負けた負けた負けた負けた。
 その度に兵隊は目減りしていくっていうのに、人は死んでいくっていうのに、耳障りのいい言葉だけを市民に与えて、兵士達は下で必死こいて神経磨り減らせて戦わなきゃならねえ。
 エースパイロットなんて聞こえは良いが、そんなもん、一人でいくつも落とさなきゃどうしようもならなかっただけだ。
 最強戦艦なんて聞こえは良いが、一艦で全部ひっくり返さなきゃどうしようもならなかっただけだ。しかもそいつはただの時代遅れときた。
 本当にくだらなくて仕方ない。だったらさっさと、負けたって認めてもいいじゃないか。


 食い物は減っていく。甘い物を食う機会も無くなっていく。ゆっくり腰を落ち着けることもできなくなる。枕を高くして眠れなくなる。
 常に炎に怯えなきゃいけない。常に憎しみを持たなきゃいけない。常に殺す、殺すと殺意に満ちていなきゃ鳴らないんだ。


 こんなものを喜々としてやる奴の気持ちが分からない。どいつもこいつも、本当は平和が一番だなんて分かってるのに。


 嗚呼、わかってるよ。全部理想論だ。こんなの綺麗事でしかない。戦争は手段だ、兵士は駒だ、市民は資源だ、そんなのは俺もよく分かってるんだ。
 色んな事情がある。戦争をしなきゃいけない事情がある、戦争を止められない事情がある、人が死ななきゃいけない事情がある。俺が喚いたって、いつの時代もそれは変わらないんだ。
 それでも、これくらいは言わせてくれよ。終わった今くらいは言わせてくれ、別に無責任だって罵ってくれたって良い。それでも、俺は……ずっと昔から、そう思っていたんだよ。




 ――――戦争なんて、大っ嫌いだ。


632 : 友よ、明日の我らは戰へと臨む ◆q7nbzHYUbw :2017/07/25(火) 14:54:49 QL8lHdjI0


「讃州中学勇者部所属、結城友奈です!」

 この聖杯戦争において、与えられた自室において、少女結城友奈は目前のサーヴァントへと向けてそう元気良く挨拶した。
 蒼く光る軍服を身に纏った、坊主頭の中年男性――――ライダーのクラスを与えられたサーヴァントは、その元気さに少々困惑した。
 先ずライダーは、自身のクラスと聖杯戦争というものの概要について説明した。その上で、ライダーは彼女へと名乗る事を求めた……のだが、その反応は全く以て予想外極まりないものであった。
 なにせ、全く怖気づいていないのだ。聖杯戦争という蠱毒壺に突っ込まれておきながら、彼女はそれに対して全く感情を動かした様子もなく、実に元気良く、人好きのするとても良い笑顔を見せていた。

「それじゃあ、これからよろしくお願いします、ライダーさん!!」

「……あー」

 ビシッ、と。誰かに仕込まれたのだろうか、と思うくらいに……陸軍式の、しかも帽子を被っていない状態では有るが、中々整った敬礼を繰り出す彼女に対して、ライダーは思わずそんな風に声を漏らしてしまった。
 溢れ出すその若さが生み出す元気さに、英雄たるライダーは思わず後手に回っている……由々しき事態であった。

「……お嬢さん、ああいや友奈ちゃん。あんた、歳はいくつだ?」

「はい、14才です!」

 思わず、ライダーはそんな風に年齢を聞いてしまった。とんだ若さだった。ライダーとは、没年で数えても孫と爺の差程にあった。
 そしてライダーはその明るさに一つ仮設を立てた。それは若さ。若さが生み出す、勇気、或いは無謀。或いは……死、と言うものに対する者に対する認識の浅さが作り出すものではないのか、と。
 そういう人間を、数多くライダーは見てきた。そして、そういう人間から死んでいった。殺し合いがどれ程恐ろしいことか、それを最後の最後に理解して、でもそのときには手遅れで死んでいく、そんな人間を。
 なるほど、だから俺はこの少女に召喚されることを選んだのかと今更ながら理解したつもりになっていた。戦争なんか大嫌いだ……それなのに、呼ばれた理由が何となく理解できたとして。


「殺し合いが、怖くねえのかい?」


 だから、ライダーは敢えて彼女にそう問い掛けた。大した答えは期待していなかった。
 怖い、とはいっても、彼女達くらいに死を知らない者達にとっては、その感覚なんてせいぜい『高いところから落ちる』程度のものでしかないだろう。
 怖くない、と言うくらいならば寧ろ話は早いくらいだった。なにせ、そう言われてしまえば無理矢理でも彼女を縛り付けて聖杯戦争を単独で終わらせればそれで済むだけの話なのだから。
 だから、大凡そんな答えだろうと思っていたし、そうであってほしいと思っていた。そして少女が、結城友奈が返した一言は、その予想から逸脱しないものであった。


「……怖いです」


 少女は、その元気な笑顔を少しだけ困ったように歪めた後、少しだけ逡巡した後に、そう言った。結城友奈は、ライダーへと向けて怖いと。
 ああ、彼女はやはりその通りだ。年頃の少女が殺し合いに投げ出されて、なんとなく現実感のない恐怖感に苛まれている状態だ。であれば、やることはやはり決定していた。
 ライダーが口を開こうとした瞬間、友奈はそれに重ねて言葉を続けた。


633 : 友よ、明日の我らは戰へと臨む ◆q7nbzHYUbw :2017/07/25(火) 14:55:52 QL8lHdjI0
 少女は、その元気な笑顔を少しだけ困ったように歪めた後、少しだけ逡巡した後に、そう言った。結城友奈は、ライダーへと向けて怖いと。
 ああ、彼女はやはりその通りだ。年頃の少女が殺し合いに投げ出されて、なんとなく現実感のない恐怖感に苛まれている状態だ。であれば、やることはやはり決定していた。
 ライダーが口を開こうとした瞬間、友奈はそれに重ねて言葉を続けた。

「……ここは、西暦の世界なんですよね。
実は私、ずっとずっと未来から来たんです。西暦の時代よりももっと後、神樹歴っていう時代から」

 はるか未来から来た少女――――とは言われても、ライダーにはそこまで驚かなかった。
 そもそも自身が過去の英雄であり、英霊の座にはそれよりも遥かに、千年だって昔の英霊が存在している世界なのだ。であれば、未来のマスターが……この、聖杯戦争に呼ばれることになっても在り得るだろう。
 黙ってライダーは言葉を聞いていた。彼女が連ねる言葉を、穏やかに、然し真剣に。

「神樹歴は、バーテックスっていう生き物に侵略されて……私達の住んでる四国以外が、焼き尽くされちゃって。
私達は東郷さん達……同じ中学の仲間と一緒にバーテックスと戦う、勇者だったんです。

取り敢えず、バーテックスは、一旦は抑えられたんですけど。……それと同じくらいに、ううん、同じ『人』と戦わなきゃいけないなんて、それよりも怖い」

 そこで、ライダーは目を細めた。
 バーテックス、焼き尽くされた世界――――それは、文字通り焼き尽くされたのか、それとももっと酷い状態なのか。恐らくはそこは検討もつかないし、きっとそれは彼女の話を理解する上で重要じゃないことだった。
 それよりも……彼女達が戦わなければ奈良に世界というのが問題だった。果たして、その世界の四国はどれ程追い詰められているのか……追い詰められているだろう。四国以外が存在しないとは、成立しているのが奇跡だ。
 果たして、何か別の何かが世界を成り立たせているのか。それもまたどうでも良い話だ。問題なのは……彼女のような子供達が、戦わなければならない世界にあり。

「でもそれでも! 私には、戦う力があるから、勇者としての力があって、マスターとして選ばれたなら!
こんな悲しい戦いを止めたい、止めたいんです。バーテックスと戦うのだけでも辛かったのに、人間同士で戦うなんて。きっと悲劇を生むだけで。

だから、ライダーさん! だから、だから――――

――――結城友奈、頑張ります!」

 ようやく、ライダーはその少女の本質を理解した。
 彼女は、嗚呼、年相応に弱いだろう。恐怖も感じる。死ぬのは怖い。けれど彼女は、それでも膝を折らずに立つ人間だ。例え、例えどんなに悲惨な状況にあったとしても。
 例えどんな理不尽であったとしても、例えどんな困難であったとしても、例え、例えどんな悲劇に見舞われたって、彼女は立って、戦う、そんな人間であるのだと理解した。

 彼女は、そうだ。彼女は『勇者』だ。

「……って、いきなりごめんなさい。神樹歴、とか言っても分からないですよね、私説明下手くそだし……えっと、つまり」

「いいや、友奈ちゃん。分かった」

 ライダーは……友奈に向かって正座をする形で、向かい合った。
 直前までどうしようどう説明しようと頭を捻らせていた友奈は、頭にクエスチョンマークを浮かべながら、ライダーのことをその真剣で、それでいて……後悔に満ちた瞳に射抜かれていた。
 そしてライダーは、掌を地につけ、額を床に擦り付けて。謂わば土下座の形を取った。


「――――本当に、済まなかった」


「……え、え、えええええええええ!!!!!!???????」


634 : 友よ、明日の我らは戰へと臨む ◆q7nbzHYUbw :2017/07/25(火) 14:56:26 QL8lHdjI0
 その唐突な行動に、友奈は困惑してそんな大声を上げた。
 そうして顔を挙げたライダーの目尻には、涙すら浮かべていた。

「本当に済まない。俺達大人が戦わず……あんた達みたいな嬢ちゃんに戦わせるなんて。あまりにも、あまりにも――――情けないにも、程がある」

「え、ええ、そんな!? 違うんです、勇者っていうのは女の子にしかなれなくて、だからぁ……」

「そんなことは関係ない。あれだけ若い奴らを俺は戦わせて、結局未来にはまた若い奴らを戦場に送り込む。……嘗て戦争をしていた人間として、耐えられない」

 直接的には、ライダー達に責任などない。
 バーテックスに対抗できる力を得る勇者には、一部の選ばれた少女達しか変身できない。次世代型のシステムではより広範囲が対象になるが、少女であることは変わらない。
 資格がそもそも少女達にしかない以上、誰が悪いとも言えない。それでも、ライダーは……『戦場に彼女達を出し、そしてそれに頼るしかない』という事実が、余りにも、先に死んだ英霊として情けなくて仕方なかった。
 少年を導入してでも戦争に勝とうとし、徒に若者を死なせ結局戦争には勝てなかった。未来には少女達にだけ戦わせて、自分達だけが蚊帳の外。そんな状況が、余りにも情けない、と。

「――――俺は、戦争が大っ嫌いだ」

「ただでさえ人が死ぬってのに、その上若い奴から死んでいく。俺達老人は後ろで踏ん反り返って若い奴を駒として死なせる。
それが嫌だった。本当に嫌だった。英霊の座に抱えられた後も、聖杯戦争なんてまっぴらゴメンだった、だが、だが……今回は、どうしても呼ばれなくちゃいけないと思った」
友奈ちゃん、その理由がよく分かった。これは償いだ。俺は同じことを繰り返したくないんだ。もう、若い奴が戦争で死んでいくのを見たくないんだ。
本当は俺が代わりに、そのバーテックスとやらと戦いたい。でもそれは出来ない。何が英霊だ、結局俺は無力だ。……だけど、だから。せめて、友奈ちゃんが、元の世界に帰るまで。


俺に君を、守らせてくれ」


 嘗て、護国を掲げてライダーは戦った。兵が死んでいくのを知っていながら指揮を執った。聯合艦隊の頂点に立った。本当は戦争なんてどうでもよくて、ただ人が死ぬのが嫌だった。けれど大きな力、流れには抗えず。
 それを繰り返したくはなかった。聖杯戦争という流れの中で、彼女を殺し殺されの世界に放り込むなんて嫌だった。少なくとも、彼女を、少女を、未来ある若者を、徒に死なせるのはもう嫌だった。
 戦争なんて大嫌いだった。だから、この聖杯戦争を彼女が覆すというのであれば――――彼女を、最も良い形で。彼女の世界で、ライダーはどうすることも出来ないけれど、それまではせめて、彼女を護るために。

 頭をもう一度床に擦り付けた。今度は、結城友奈は――――微笑みながら、ライダーへとその右手を差し出した。


「ライダーさん、私ね、戦うのは怖いけれど。勇者になれたことには感謝してるんだ。勇者システムのお陰で、東郷さんに会えて、風先輩や樹ちゃん、夏凛ちゃんや園子ちゃんにも会えたから。
それに、それにね、東郷さんがいつも言ってるんだ……軍人さんのこと、『御国を護った英霊』だって。私もそう思う。
確かに戦争では残酷な事もあったかもしれないけれど、若い人達が戦争に出たこと、後悔してくれてるのかもしれないけれど。でも、でもライダーさんたちが戦ってくれたから、だから、今の私が、私達がここにいる。だから。

立って、ライダーさん。私達、もうとっくに、一緒に戦う仲間だから」

 嗚呼、それは正しく輝きであった。戦争を防げなかったライダーの罪であり、そして――――ライダーが、確かに未来へと繋げたはずの輝きであった。
 ライダーの心には、未だ戦争を防げなかった後悔、若者が先に死んでいくことへの理不尽が刻まれていた。それでも、それでも――――彼女が、そう言うのであれば。
 軍帽を手に取って、立ち上がる。それを綺麗に被り直して、背筋を伸ばして友奈に相対する。そうして、脇を締め肘を前に、掌を見せぬよう――――海軍式の、全霊の敬礼を彼女へと捧げる。


「サーヴァント、ライダー。真名は山本五十六……これより貴官の指揮下に入ります」


「ふふ、東郷さんが見たら喜ぶだろうなぁ……よーし、頑張ろう! 勇者部五箇条、なせば大抵なんとかなる!」




 ――――戦争なんて、大っ嫌いだ。


 だから、今度こそ。今度こそ、抗ってやると。『勇者』になってやると、そう思った。


635 : 友よ、明日の我らは戰へと臨む ◆q7nbzHYUbw :2017/07/25(火) 14:57:49 QL8lHdjI0
【クラス】
ライダー

【真名】
山本五十六

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:E 幸運:EX 宝具:EX

【クラススキル】
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

対魔力:E
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

【保有スキル】
嵐の航海者:A
船と認識されるものを駆る才能。
集団のリーダーとしての能力も必要となるため、軍略、カリスマの効果も兼ね備えた特殊スキル。

先見の明:C
あらゆることの「先を予想」する能力。
現状を冷静に把握し、的確に次の状況を導き出すことが出来る心眼に近い論理思考と、直感的な状況把握を複合している。

黄金律:A
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
大富豪でもやっていける金ピカぶり。一生金には困らない。

不屈の意志:A
後述の宝具によって付与されるスキル。
あらゆる苦痛、絶望、状況にも絶対に屈しないという極めて強固な意思。
肉体的、精神的なダメージに耐性を持つ。ただし、幻影のように他者を誘導させるような攻撃には耐性を保たない。
一例を挙げると「落とし穴に嵌まる」ことへのダメージには耐性があるが、「幻影で落とし穴を地面に見せかける」ということには耐性がついていない。

【宝具】
『聯合艦隊司令長官・山本五十六』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人

聯合艦隊司令長官としての山本五十六、という存在そのものであり、最早それは五十六にとって加護であり、一種の呪いとも言える物。
真珠湾攻撃を展開し、ミッドウェイ海戦、い号作戦等の大きな日本の海戦を指揮し、聯合艦隊の象徴とも言える存在になった、最早海軍という"概念"そのもの。
その存在には、日本海軍の名将……山口多門や南雲忠一、そして名も無い航空兵の魂すらも、山本五十六を慕い、その力となっている。
その為、ライダーには撤退は許されない。諦めることは許されず、屈することも許されない。課せられる責務は、只管に進軍あるのみである。

『菊花栄光・聯合艦隊』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人以上

聯合艦隊旗艦にして日本軍最高の戦艦、『大和』を実体化させ操作する。
単純に巨大な船体を出現させる他にも、一部分を霊体化して船体を地中に埋め込ませる、主砲や副砲、機関銃の一部を攻撃手段として出現させる、装甲を防御手段として使用する等その操作は手足の如く可能。
その上大和自体は宝具全体の一部でしかなく、真名解放を経由することなく大和単体を運用することが可能である。

その真なる姿は、ライダーが嘗て理想とした聯合艦隊の再現。
真名解放により、旗艦を戦艦『大和』とし、『武蔵』、『長門』、『陸奥』、『赤城』、『加賀』、『飛龍』、『蒼龍』等。
日本海軍の名だたる艦、其の全てを一斉に現界させる。此の手段で現界した艦隊は全てガンナーのクラスを有し、全艦がDランク相当の単独行動スキルを備えている。
更に山本五十六を慕う前述の名将や兵士たちも実体化し、搭載されている装備を万全に再現、空を覆い尽くす艦載機や、主砲や機銃の群れが敵対者を焼き尽くしていく。

但し、艦隊召喚は事実上の英霊召喚にすら等しく、全力発動には膨大な魔力量が必要となり、少なくとも令呪でのバックアップは最低限必要。


636 : 友よ、明日の我らは戰へと臨む ◆q7nbzHYUbw :2017/07/25(火) 14:58:14 QL8lHdjI0
【人物背景】
大日本帝国海軍の軍人であり、二十六、二十七代目聯合艦隊司令長官。最終階級は元帥海軍大将。
1884年に誕生し、父親の五十六才での子供という事で"五十六"と名付けられた。この際、苗字は現在の山本では無く高野であった。
甥の病死によって言われた言葉を切っ掛けに軍人を目指す事となり、海軍兵学校に入校。この際の成績は200人中2番目で、卒業時には192名の中で11番という優秀な人物だった。
1905年には装甲巡洋艦「日進」に配属となり、同年5月27日に日本海海戦に参加しており、この際に敵砲弾によって大きな怪我を負っている。
その後は様々な艦を渡り歩きつつ、海軍砲術学校、海軍水雷学校にも通い、その後二つの艦を経て練習艦配属となり、少尉候補生訓練等を行っていた。
1936年時点で海軍時間に就任する。
日独伊三国同盟締結には最後まで反対しており、反対派の要となって最後まで反対し、太平洋戦争直前時点まで一貫して開戦には反対派の姿勢を取っていた。
1939年に第26代連合艦隊司令長官に任命されるが、当初そうなることを強く拒み、撤回を要求したが認められなかった。
これは指揮能力を上層部に買われた物では無く、三国同盟反対派の山本五十六を海軍中枢から遠ざける目的であった。
1941年には第27代連合艦隊司令長官に再任され真珠湾攻撃を実行。大戦果を挙げるが、宣戦布告の令状が届かなかったことがきっかけで汚名を被る事になる。
当初はそれをアメリカの宣伝と思っていたものの、段々と本当にそれが届かなかったのではないかと考え始め、後々に後悔と思われる文言を残してもいる。
ミッドウェー海戦においては南雲艦隊の空母を四隻失う程の大敗北を喫するも、その報告に対してそれを山本はまるで分っていたかのように一言だけ呟いたと言う。
その後、ガダルカナル島、い号作戦を経て、い号作戦での兵士をねぎらう為にラバウル基地から発信後、アメリカ陸軍航空隊の戦闘機16機に撃墜され戦死する。
これに関して、山本は最低限の護衛しか付けず、またその前に戦いに疲れたような手紙を何人かに送っていた事から自分が死ぬことを望んでいたようだ、とも言われている。

【特徴】
お気に入りの、特注の蒼く光る軍服を身に纏った坊主頭の中年男性。小柄で小太り、細い目をしていて口は締まっており髭は生えておらずどことなく面長。
また、過去での戦闘が原因で左手人差し指と中指を失っており、サーヴァントとしての姿にもそれが反映されている。
特に他人に対して威圧感を与える人間、という訳でも無ければ、一目で誰からも好かれるような見た目をしている訳でも無い、つまるところ特徴の少ない人間である。
だが、その瞳には優しくも厳しく、また強い意志を感じさせる光が灯っており、"間違いなくただ物では無い"とそれだけで思わせる程。
常に冷静沈着で在りつつ、冗談や茶目っ気を好む人間。自分に厳しく他人に寛大で、懐は広く、また深い。

【サーヴァントとしての願い】
必ずマスターを守り抜き、元の世界へ送り返す。

【カードの星座】
魚座


637 : 友よ、明日の我らは戰へと臨む ◆q7nbzHYUbw :2017/07/25(火) 14:58:44 QL8lHdjI0
【マスター】
結城友奈@結城友奈は勇者である

【能力・技能】
『勇者』
神樹から勇者に与えられる、バーテックスと戦うための力。
変身するとモチーフの山桜をイメージしたピンク色の装束に身を包む。
親に習った武術を得意としており、勇者としても近接格闘攻撃を得意とする。
必殺技は勇者パンチと勇者キック。また、精霊として牛鬼と火車がいる。
尚、精霊はいるが端末はゆゆゆい仕様のため満開は出来ない、筈。

【人物背景】
いつでも元気な女の子。
一見して脳天気なように見えるが、その実とても周りの事によく気づき、そして気を使う良い子。
実は主人公なのだが主要人物の中でもかなり私生活が謎めいていたりする。
その鋼メンタルで本編を駆け抜け、神樹様に人間の可能性を認めさせるまでに至った。
きっと新作でも元気にやってくれると思いたい。

【マスターとしての方針】
この聖杯戦争を打ち壊す。成せば大抵なんとかなる。

【参戦時期】
結城友奈は勇者である-花結の章-にて神樹様に招集された直後。


638 : ◆q7nbzHYUbw :2017/07/25(火) 14:59:05 QL8lHdjI0
投下を終了します


639 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/26(水) 01:36:08 yYhqJdFA0
投下をします


640 : God Save the Queen! ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/26(水) 01:37:19 yYhqJdFA0




"二人の囚人が鉄格子から外を眺めた。一人は泥を見た。一人は星を見た"



―――フレデリック・ラングブリッジ「不滅の歌」





「ええ。私も、泥よりも星を見ていたいですね。石の牢は嫌です、やっぱり。俯くよりも上を向いて、キレイなものを見て歩きたいから」

透き通った声。聞く者の心を鷲掴みにして離さない音色。
戴天の頂点から下された託宣のようであり、ベッド下のルームメイトに他愛もない話題を振るようであった。

「人生とは頭上の星を追うようなもの。届かずともその道程は美しく映り、届けばその輝きが民を天に駆り立てる新たな星になれるでしょう」

この声はどちらが本質であるのか。
神が降りてくる荘厳な教会での賛美歌か。大勢の観客で満員になった舞台の上で偶像(アイドル)が歌う、軽妙で踊るようなソングか。
いや、どちらであってもその美声をもってすれば、その場の全ての者の耳目を集中させてしまうだろう。
歌声のみならず、容貌すらもが神々しく煌めく。成人を過ぎ肉体は最盛の成長を遂げて完成し、美と調和の化身とでもいうべき身体。

そんな女が、決して失われぬ青春を唇に秘めさせて微笑むのだ。
これで心が動かぬ者は、化生の側か余程の際物趣味を疑われても仕方がないだろう。


「貴女もそう思いますか、ジョリーン?」

そう己のサーヴァント・セイバーに問いかけられたマスター、空条徐倫もまた、一般の範疇に含まれる趣向の持ち主であり、答えを返すのに多少迷ってしまった。
生まれついての美しさと磨かれた気品を兼ね備えたセイバー。
まさに王侯貴族といって雰囲気は普通であれば気後れもするだろうが、生憎除倫という女は権威を傘に上から押し付けられるのを良しとしない、真っ直ぐで熱い性根の持ち主だ。
祖先が貴族の血を引いていることなど露知らず、素行とて不良で通っている身だ。こうした権力者と反りが合うものとは始めから思っていない。

「……あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っとぉ。そうよね、いや、そう、ですわね?」

であっても。慣れぬ敬語を使って応対してしまう。
セイバーの雰囲気はG.D.st刑務所の看守達のような高圧的なものではなく、優しく包み込む暖かさであった。
言ってしまえば「母の慈愛」だ。(母を大切に思ってる除倫は会ったばかりのセイバーと重ね合わせたくないので決して言わないが)
そして、単なる精神の話ではなく彼女は除倫……現在のイギリスの血を引く人間全てにとっての母とさえ呼べる英霊なのだ。
勉学に熱心とはいえない除倫とて知るその偉大な名が彼女であると知って、少しばかり遠慮しがちになってるのは、
例えるなら初めて会った祖母と二人きりでいるような、嬉しさと気恥ずかしさが入り混じってどう表現していいかもわからない感情からだった。

「む」

椅子に座るセイバーが口を尖らせる。
女子の一人部屋に相応しい、こじんまりとした部屋とは次元レベルで場違いな、王者が腰掛けるのに相応しい豪勢な作りだ。


641 : God Save the Queen! ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/26(水) 01:38:44 yYhqJdFA0


「なんだか歯切れ悪いですね。いつもの歯に衣着せぬ、常に前を向く勝ち気な言葉遣いのジョリーンの方が好きですよ、私は」
「あたしだって丁寧な喋り口は苦手だけどさー……けどいいの、女王サマでしょ?」
「言葉ひとつで気を損ねるほど英国の懐は狭くないわ。あ、けどそれと私を敬うのは別問題。
 たくさん褒めたりちやほやしてくれるのは大歓迎だから。どう?」

ん?と愛らしさ全開の表情で前に乗り出す。

―――なーんか、いいこいいこされるのを待ってる最高級のゴールデン・レトリーバーみたいねー、と、徐倫は心のなかで思った。

「ハァー。やれやれだわ。まっさかねー、エリザベス女王を使い魔にするなんて思っても見なかったわ。世界は広いってやつ?まさにグレートだわ」

わざとらしく溜息をこぼす。
エリザベス一世。処女王。栄光あるもの。
大英帝国の礎となり黄金時代を築き上げた清き女王。
空条徐倫が呼び出した聖杯戦争のパートナー。それが彼女だ。

「ええ。そのグレートなイングランドとアイルランドの女王、エリザベスその人です。サーヴァントですよ?どうですか?」
「どうですか……って、え?なにが?」
「聖杯戦争のお話、しましょう?貴女の望みを言ってみて」

そもそも、なぜあたしはここにいるのだろう。徐倫達は元々アメリカにいた。
フロリダ州ケープ・カナベラル。そこで行われるプッチ神父の企みを砕くべく刑務所を脱獄し車で目指してる間だ。
ひとつの戦い、徐倫に、道を共にした仲間全員にとって悲しい別れの後だ。
戦いの連続、身体がナメクジに変化させられるといった疲労、何よりも離別がもたらした心の悲しみが徐倫を眠りに誘っていた。
目的地はまだ先だ。決着をつける時のためにも急速は取るべき……そう考えて仮眠のつもりで瞼を閉じ、再び開けてみれば、見知らぬ土地にたどり着いていた。
それから現われたセイバーからの説明がなければ、脳内にこびりついていた『聖杯戦争に関する情報』を精査する間もなく、
プッチが差し向けた新手のスタンド使いの仕業かと疑ってかかっていただろう。

「……セイバーは?あなたに願いはあるの?」

万能の願望器。
いきなりそんな話を持ち出されても胡散臭いというのが正味な話だ。だが現実として聖杯は在るという。
その獲得のために、同じようにサーヴァントを持ったマスター同士で殺し合いが行われるとも。
……彼女は『乗る』のだろうか?そんな争いに?箸より重いものを持ったことがないと言いそうな細腕で?
無数のスタンド使いを知り、戦ってきた経験上、見た目のヤワさなど指標にならないとはわかっているが。
もしそうだとしたら、自分は―――――――

「あるわよ。私は女王であり、為政者だから、常に自国の利益と幸福を優先します」

毅然とした態度で、堂々とした所作で、彼女はそう言った。


「この身と心は全て祖国に捧げている。私はイギリスであり、私の行いと意志はイギリスの行いであり意志である。
 だからこそ、そこに汚点は許されない。今の私は英国を背負ってここにある。
 障害となる臣下は罰するし、敵であれば慈悲なく叩き潰す。傲慢といえばその通りでしょう」

草花に囲まれる妖精の如き顔は、勝利の旗を掲げる戦女神になっていた。
放たれる威圧感は萎縮ではなく鼓舞のもの。

「だから私は、ここでも傲慢を繰り返す。聖杯、奇跡の願望器。其れに願えば、きっと善(よ)い未来が得られるのでしょう。
 私の祈りはひとつだけ――――――祖国へ、民へ、私の愛が永遠に届いていますようにと、自分に願うのみです」

自分の人生も未来を捧げたことにも一抹の後悔はないと、晴れやかに瞳は告げていた。

疼く首筋の星型の痣が何かを物語る。
徐倫は理解した。言葉よりもなお深い心の底で、この人は正真正銘の女王なんだと。
強く、剛(つよ)く、自分が信じた正義を貫き、人間の素晴らしさを讃歌に広げ続ける、深い愛がある。
理想を守るためなら、躊躇なく身を犠牲にする高潔さがある。
黄金のように、眩い精神を、持っている。
そんな光を、徐倫は知っていた。


642 : God Save the Queen! ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/26(水) 01:39:49 yYhqJdFA0



「……あたしさ、ここに来るまでに色んな辛い思い出があったのよ」

恋人の裏切りと弁護士の罠。
理解されずとも自分を大切に思ってくれていた父親が、自分を餌に誘い出されて記憶と能力を奪われてしまった。
無実の罪(前科はあるけど)で刑務所に送られてからの徐倫は苦難の日々の連続だった。
泣き、戦うたび血反吐に塗れ、何度も何度も倒れた。土の味も血の味も、ゴキブリのたかったパンの味も部屋の隅に生えたキノコの味も投げつけられた糞の味も憶えている。
その中で、鉤爪が食い込んだように残ったふたつの思い出がある。

「友達がふたり……死んでしまった。殺されてしまった。殺したやつへの怒りは当然あるしいずれ然るべき報いを食らわせるのは変わらない。
 けどやっぱり……悲しさは消えない。涙を流して『もう一度話がしたい』って泣き言を漏らしてしまった」

F.F(フー・ファイターズ)。最初は敵として見えた知性を持ったプランクトンの集合体という奇異極まる存在。
しかし徐倫と行動を共にしていく内に隣あえる関係になり、最期は徐倫にさよならを言って去っていった。

ウェザー・リポート。刑務所に隠れ住んでいた記憶のない男。プッチと浅からぬ因縁の糸で繋がっていた男。
自分の不始末で、プッチと決着をつけようとした彼を死に導いてしまった。別れの言葉は交わされず、能力のDISCが無言に渡された。

「でも……その思い出があるのが今のあたしなんだ。辛さ以上に楽しい思い出だってある。そしてそのふたつは切り離していいものじゃない。
 もしあの過去を変えてしまったら、『そのあたしは今のあたしじゃああない』。そんな気がするの……」

ふたりとも、得難い友達だった。苦楽を共に目的を共有できた仲間だった。だからこそその喪失の穴も大きかった。
これから先、雨が降った後の水溜りにボウフラが浮かんでるのを見て、時折F.Fのことを思い出し心に湿った思いが巡るのだろう。
さわやかなそよ風が頬を撫でた時、ふとウェザーのことを思い出し、こみ上げるものを堪えて空を見上げるのだろう。

しかしこの思い出が――――無駄になったり、無かったことになったら、その時自分は同じように彼らに向き合えるのか?
それが徐倫には怖かった。F.Fとウェザーの死を忘れることは、ふたりの死以上におぞましい所業ではないかと。

「ましてこんな『檻』に閉じ込めて殺し合いをけしかけるようなやつの言いなりになって願いを叶えるのは……命を懸けて戦ったF.Fとウェザーの魂への侮辱に他ならないッ」

ドクン。と、鼓動がした。
猛る心臓の音。躍動する魂の音。エンジンに火が点いた起爆音のようにも聞こえる。
そして突如、徐倫の隣に人型の像が現れる。しなやかかつ強靭な糸を撚り合わせてできた闘戦士。

それこそが徐倫の精神が形をとって具現化されたビジョン。可視化された超能力。スタンドと呼ばれる、少女の戦う力。
 
「死者の思いは引き継ぐものであって縛られるものじゃない。それじゃ牢に繋がれた囚人と同じ。父の気持ちに気づかず恨みをぶつけるばかりだった頃のあたしに戻るってことだ。
 あんな風にメソメソするのはもうゴメン。あたしは牢から自由になるために、前に進むためこのスタンドに『ストーン・フリー』と名付けたのだから!」

ふたりには生きて欲しかったと思ってるし、生き返って欲しいと願ったことがないと言えば欺瞞だ。
エゴといいたければ好きにいえ。あたしが許せないと感じた。どう動くかを決める理由には、それで十分に足りる。

「……そう。貴女は両親に愛されていたのですね」
「セイバー?」

徐倫はそうつぶやいた英霊の表情を見て、ほんの一瞬だけ、彼女から女王としての威圧が揺らいだのに気づいた。
先程までの朗らかに笑う淑女とも違う……親の愛に飢えた、寂しそうな少女のような。

「財という結果だけでなく航海という過程を楽しみ、踏破する。か。……うん、なんだかドレイクを思い出しちゃった。元気でやってるかな。
 思い出しついでに、ひとつ施しましょうかね」


643 : God Save the Queen! ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/26(水) 01:44:18 yYhqJdFA0


それも一瞬。すぐにいつもの泰然さが戻り椅子から立ち上がる。
その時、荘厳な椅子の一部、装飾としか思えなかった柄が立ち上がり抜き身の剣が飛び出してきた。
柄を握りセイバーが引き抜いた剣は、切っ先の刃が折れたように欠けていた。
無論不良品の類ではなく、これは初めからこの形を正規としたもの、敵を傷つけない証明である、英国の戴冠王器――――

「ちょっとそこ動かないで。はい片膝ついて、首下げて、そう、そのまま」

何が何やら分からず、とりあえず言うとおりの姿勢になる。
セイバーの前で跪いた徐倫の肩、首筋の直ぐ側に剣が這われる。命の危機感はなく、むしろ安心ですらある。

「……?」

左右の肩に同じ動作が行われ、やがて剣が引かれた。
意味がわからぬままの徐倫であったが、不思議とその動作には力があった。いや力が湧き上がってくるだろうか。

「……はい。これにて叙勲は成りました。此れより貴女は私の騎士であり、私は貴女の剣と成る。
 我らが祖王や円卓の騎士とまではいかずとも、騎士の役をこなしてみせましょう。
 貴女の星が翳らぬ限り、我が運命を預けます。サー・ジョースター」

今度はセイバーの方が膝を折り、徐倫に跪く態勢になった。
こうも恭しく傅かれるなど短い人生であったこともない徐倫は慌てふためく。

「イヤイヤイヤイヤイヤ!そもそもあたしイギリス系だけどアメリカ人だしさ、父さんは確かハーフだったけど」
「別にイギリス人じゃなくってもいいのよ?日本でもアメリカでもスペインでも、海賊でも吸血鬼でも宇宙人でも構わないの。
 その行いがイギリスに光をもたらしてくれる人こそ、私にとっての騎士だもの」


殺し文句と共に、ニッコリと微笑まれる。
こうされるとどうにも抗いがたい。言葉の上ではどうあっても勝てないのだとここで悟ったのだった。

「……やれやれだわ」

観念して、また膝を折る。セイバーと同じ位置になって視線を交差させる。

「マスターとか騎士とかはともかく、上とか下とかってのはなし。あたしに非があれば遠慮なく言っていいし、あたしも文句言うから。それでいい?」

目と目が合わさって、セイバーの翠の瞳が少し見開かれる。
驚きと嬉しさで溢れた感情はすぐに顔に表れて、


「それじゃあ最初に戻るけど、貴女の答えは?」


答えは最初から決まっていた。


「もちろんあたしは星を見るわ。
 父に会うまで……星の光を見ていたい」

「ええ、見れますよ。私が隣にいればきっと」


―――運命は巡る


―――星は廻る


同じ空の下、同じ部屋の中、同じ目線の高さで女は笑う。
その様子は、他愛もない話題についてお喋りし合う友達同士となんら変わりなく。
一巡を超えるまでの途中で始まる奇妙な冒険は、ここから始まるのだ。


644 : God Save the Queen! ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/26(水) 01:45:34 yYhqJdFA0


【クラス】
セイバー

【真名】
エリザベス一世

【出展】
史実(16世紀・イギリス)

【性別】
女性

【身長・体重】
171cm・53kg

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運A+ 宝具A++

【クラス別スキル】
対魔力:A
 A以下の魔術を無効化する。
 スキルの恩恵により高い対魔力を保有する。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【固有スキル】
麗しの姫君:A
 統率力としてではなく、周囲の人を惹き付けるカリスマ性。
 Aランクのスキルを有するエリザベスは、ただ存在するだけで自分を守る騎士たる人物を引き寄せる。

友誼の証明:B+
 敵対サーヴァントが精神汚染スキルを保有していない場合、相手の戦意をある程度抑制し、話し合いに持ち込む事ができる。
 聖杯戦争中においては、一時的な同盟を組む際に有利な判定を得る。
 男性に対しては交渉事の成功率が上昇する。

犯されぬ純潔:EX
 処女王として純潔を確約している。
 魅了・洗脳に類する精神干渉を無効化する。

【宝具】
『純潔の輝きよ、永久なれ(ジ・ブリタニア・メイデン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
 イギリスに伝わる戴冠宝器(レガリア)である、鎧や王冠等の装束。
 これらを身に着けたエリザベスに近接系ステータスの強化、HP自動回復、
 物理・魔術ダメージカット効果が付与される。(ステータス欄のパラメーターは宝具使用時のものである)

 人々の英国への信仰。女王への信仰。国と民を全霊で愛したエリザベスへの信仰。
 その全てが鎧という形として結晶化した、いわば英国という概念そのものといえる宝具。
 これを纏うという事は、その魂すらも英国に捧げたのを意味する。
 その姿はイギリスを擬人化した守護の女神ブリタニアそのもの。
 この宝具の使用時には性格が戦闘的になり、麗しの姫君スキルがカリスマに変更、
 属性が一時的に「天」になる。
 なお、使用しない場合は玉座の形を取っている。どこでも座れて便利。

『騎士は栄光を手に駆ける(ナイト・オブ・オーダー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 エリザベス自らが騎士と認めた者を強化する。
 ステータス向上の他、役目に応じた任意のスキルを付与できる。
 人数制限は無いが令呪のような強制の効果ではなく、互いの合意によって初めて成立する。
 海賊であったフランシス・ドレイクを騎士に任命しスペインを破った逸話による宝具。

『慈悲王剣・約束の勝利を此処に(カーテナ・グロリアス・ブディカ)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜60 最大捕捉:500人
 イギリスに伝わる戴冠宝器のひとつ。
 かつて円卓の騎士トリスタン、フランク十二勇士オジェ・ル・ダノワが所有していたとされる、切っ先の欠けた剣。
 エリザベスの場合、慈悲の剣の名の面が強調され通常の攻撃では敵を殺傷せず、精神に訴える痛みを与える。(魔獣などの人外はこの限りではない)

 その真価は、折れた切っ先から噴出される光の剣による両断。
 国を、民を、世界を愛する想いの結晶であり、王権の敵を討ち倒す。
 『騎士は栄光を手に駆ける』の対象者の数によって出力は上昇し、種別やレンジも変化する。
 又の名をグローリースター・オールブレイカー。

 それはヒトの尊い祈りが結晶となった星の聖剣。
 イングランドの危機を救う為に、妖精島(アヴァロン)から蘇るとされる伝説の騎士王の象徴。
 即ち、エクスカリバーの再現である。
 ブディカは英語のvictory(勝利)の語源となったブリタニアの女王ブーディカを意味する。

【Weapon】
カーテナをはじめとした数々の戴冠宝器(レガリア)。
宝具の基点ともなる装束であり、英国王としての装いを纏ってこそ、女王の能力は正しく発揮される。


645 : God Save the Queen! ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/26(水) 01:45:58 yYhqJdFA0


【人物背景】
処女王エリザベス。16世紀でのイングランド及びアイルランド女王。
権力者の威厳と女性の愛らしさを兼ね備えた、英国最大の偶像(アイドル)にして女王(クイーン)。

混迷する英国の存続と発展に全てを捧げ、世界へ進出する黄金時代の礎を築いた。
当初は女性であるのを理由に王位継承権を取り下げられ、陰謀によって牢に閉じ込められた虜囚の身となるものの、
その間に国を統べるに足る教養を身につけ、時期が巡ってきた頃に継承権を取り戻し女王として即位する。
宗教改革を纏め上げ、「太陽の沈まぬ国」スペインの無敵艦隊との戦いへの対策として、
世界一周を成し遂げ莫大な財を持ち帰った、海賊であるフランシス・ドレイクを騎士に任命し、
艦隊に加える異例の手段を用いこれを打ち破らせ、貿易の利益を大幅に拡大した。
女性としての立場を使いつつも「イングランドと結婚した」と称し、生涯未婚であったという。
故に処女王。大英帝国の黄金時代の礎を築いた栄光あるもの(グロリアーナ)と呼ばれ今でも崇敬されている。

快活、天真爛漫。
自分の魅力を正確に把握し、培った知識と技能を武器として利用して交渉を運ばせる為政者の面を持つ。
国の敵となる者には慈悲をもって、しかし容赦をかけず処断する。
有り余る国家と民への奉仕が、他にとっては豪胆な女傑にも映る。

父はただ父であるというだけで、女の庶子として生まれたのを理由に自分を捨てた。
母はただ高い地位に置かれたいがために自分を生み、女に生まれた子を恨んで目の前で処刑された。
男と女。親と子。誰もが始めに知る愛を、ついぞ受け取ることはなかった。
そんな自分が―――真っ当に人間を愛せるはずがない。

この胸にある愛はただ一人が受け止めきれる熱(りょう)ではなく、大きすぎる愛を制御する事を自分は知らない。
きっと『これ』は、多くの名前も知らない誰かの為に注がれ、形も見えない大きななにかに向けられるべきであるもの。
愛とはそういうものであり、だからこそ彼女は祖国を無限に愛し続けた。

かつてブリテンを統治した騎士王は人の心を殺し正しい理想を広めたが、
エリザベスは女である立場を最大限利用し、感情を振りまいて常に主導権を握ってきた。
多くの人が笑っている――――先に続く人々の未来を愛していたが故に、彼女は今日も朗らかに笑うのだ。

【特徴】
金髪碧眼。由緒正しき英国淑女。女王に即位した25歳時の姿で現界している。
普段は高貴な白のドレス、『純潔の輝きよ、永久なれ』発動時では戴冠王器を纏った荘厳神聖なる姿へと変わる。
スタイルはランサーアルトリア並。だがアルトリア顔ではない。ウォースパイト顔。

【サーヴァントとしての願い】
イギリスに栄光を。民に華を。人に星を。







【マスター】
空条徐倫@ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン

【能力・技能】
『ストーン・フリー』
形ある超能力『スタンド』の一種。
徐倫の全身を糸にして分離できる。糸は遠くまで飛ばし様々な形に固められるため応用力が高い。
人型に固める事で格闘戦にも対応。拳のラッシュ時のシャウトは「オラオラ」。

【人物背景】
ジョリーンと読む。星型のアザ、黄金の意思を引き継ぐ少女。6代目の『ジョジョ』。
かつて邪悪を斃した父親をおびき寄せる餌として無実の罪で投獄され、自分を庇い父は人事不省に陥ってしまう。
今まで家に戻らず嫌悪していた父が自分と母を護らんがために身を遠ざけていたことを知り、父を取り戻すため刑務所の中で戦い続ける。
やや素行や言動は不良だが根は善良で優しく、冷静な判断力と逆境に屈しない精神力、爆発力を備える。


【マスターとしての願い】
あたしは星の光を見ていたい。
元の世界に帰りプッチとの決着を。向かってくるやつには容赦しない。


646 : ! ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/26(水) 01:46:28 yYhqJdFA0
以上で投下を終了します


647 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/26(水) 21:37:17 yYhqJdFA0
拙作『夜神月&アサシン』のステータスをwikiにて一部修正しました


648 : ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:41:38 Sm/7wB0A0
投下します


649 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:43:00 Sm/7wB0A0

女が目を覚ますとそこは真っ暗な空間だった。
どこか簡素な家の一室のようだが、明かりはついておらず、窓も閉じているようで部屋の様子はうかがえない。
間違っても自室ではない。
疑問と怖れに苛まれて、女はなぜこんなところにいるのが必死に記憶を探りはじめた。

自分は夜の相手をする客を探して路頭に立っていた。
そこへ奇妙な格好をした外国人の男二人が声をかけてきたのだ。
牛のような模様でまとめた若い男と、フィクションの世界の貴族そのままといった出で立ちに髭を蓄えた紳士。
この冬木で外国人はそう珍しくはないが、その中にいても目立つどことなく浮世離れしたしたものを感じさせる組み合わせだった。
第一印象としてはそんなところ。
次に覚えた感想はカネを持っていそうだ、という商売女としての嗅覚からくるもの。
どことなく不安は覚えるが上客を拒むつもりはない、と笑顔で向き合った時に見えた紳士の鮮やかな碧い眼が最後の記憶だった。

それから何がどうなって暗闇の一室で意識を失っているのか。
誘拐でもされたのか。一体何の目的で。
混乱。焦燥。恐怖。そうした感情が湧き上がり悲鳴となって女の口から洩れ出そうになる。

「お目覚めのようだネ」

それを留めるようにどこからともなく声が響いた。
一寸先も見えない闇の中から聞こえてきた、機械を通したようなノイズ交じりの声に女は反射的に質問を投げかける。

「だ、誰?なんで私をこんなところに?」
「先ほど君を買おうとした男の一人さ。伯爵、と呼んでくれて構わないヨ。
 なぜここに連れてきたのかと聞かれたら、そりゃあ春を売ってる女性を買うのに外でやるわけにいかないだろ?公衆の面前でやるのはちょっと、まずいよネ?」

女は返ってきた答えにほんの少しだけ息をつく。
前後が不明瞭で、まだ物騒な事態になる可能性は否定できない。
それでも客だと主張するのなら、少なくとも相手をしている間は無事で済むはずだと。
でもせめてあまりにも過激な真似をすることになるのは避けたいと、震える声を抑えて少しだけ主張することにする。

「その……真っ暗な部屋でするのがあなたの趣味?そのくらいならいいけれど、顔や体に傷をつけるのは無しよ」

体にコンプレックスがあるのくらい珍しくない。それを見られるのが嫌で暗くするのはやりにくいが分かる。
肥満、手術痕、刺青など個性なのだからそのくらいなら受け入れる。
でも傷をつけたり、つけさせたりするのが茶飯事で、それを隠すための暗闇だとしたらそういうのは御免被りたい。
対価を受け取る仕事としてやる以上、契約の条件としてそのくらいは通させてもらう。
はっきりとそう告げると一瞬の沈黙をおいてノイズ交じりの返事が返ってきた。

「いいネ。プロ意識の高い女性だ。好きだヨ、そういう人は。
 でも……私はともかく教会の人間は君の仕事をよく思わないだろうネ。躰を売る仕事に一端の誇りを持つなんて生粋の毒婦(ヴァンプ)だと」

薄っすらと笑いを含んだ声が、なぜかペンを走らせるような音を交えて耳に届く。
瞬間、女の体に変化が生じた。
突如暗闇に目が慣れ、部屋の様子が見渡せるようになる。

別に明かりは壊れているわけではないように見えた。
窓はカーテンに加えて雨戸まで完全に閉じられている。
その窓から日の差し込まない場所に満杯の本棚。
床にはなぜか無造作に酒瓶が置かれている。
部屋の中央にはちゃぶ台、その上に無線機らしいものがある。どうやら声はここから聞こえていたらしい。
見渡してみても部屋には他に誰もいない。
背後まで見渡してみると扉がある……さっきまで全く分からなかったのだが、その向こうから人の気配のようなものを感じる。


650 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:43:22 Sm/7wB0A0

感覚が鋭敏になっているのがはっきりと自覚できる。
だが一番大きな変化はそれではない。
渇く。
渇く。
渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く渇く。

視界が真っ赤になるほどに渇く。
咄嗟に床に置かれた酒瓶に手が伸びる。
中身は……空。
苛立ち混じりに酒瓶を床に叩きつけた。
ガラスの砕ける甲高い音が響く。
そしてその欠片が天井にまで反射して深く刺さる鈍い音と苛立った舌打ちも響く。
部屋には水道などない。
ならば、と扉の方へと足を進めるが

「ああ、ダメだヨ。この部屋は立ち入り禁止だ」

無線機越しではなく扉の奥から声が聞こえた。
人がいる。あの男がいる。■が飲める。
渇きの求めるままに扉の向こうに踏み入ろうとするが、なぜかそれができない。
入るなと言われたところでそれに従う必要などない筈なのに、魂がその命令に逆らうことができない。

「ぅ、ぅううう……!」

ドアノブを掴むこともおぼつかない。体重をかけて無理矢理に押し開けることも叶わない。
ガリガリと扉に爪痕を刻み付けるのが精いっぱい。まるで檻の中の猛獣のよう。

「ふぅむ、扉を傷つけるので精いっぱいか。せいぜいが下の上といったところだネ。
 もしかして君、赤子のころ母乳を飲んでいなかったな?乳腺でろ過されているとはいえ母乳(ち)を口にしていれば、毒婦(ヴァンプ)なんだしもう少しましな力を得ると思ったが。
 やれやれ、期待を外れてしまったようようだネ」

今度は呆れたような、失望したような声が聞こえてきた。
だがその内容はどうでもいい。
渇きに耐えきれない。無心に扉を掻きむしり続ける。

突然、扉が弾けるように開かれた。
女の方に向かって途轍もない速さで押し開かれたために、それに女は部屋の反対側にまで弾き飛ばされてしまう。
そこから現れたのは一人の男だ。
女にはその男に見覚えがある。
牛柄の服の若い外国人、自分を買おうとしていた伯爵なる男といたのを覚えていた。

「随分とよォ〜、おっかねえ面になったな、おい」

男の顔には恐怖があった。
汗をびしょびしょにかいている。アドレナリンだとかの匂いも嗅ぎ取れた。

「イイ女だと思ったんだが、キャスターの宝具の効果ってのはそこまでキくのか。麻薬でハイになってたウンガロの方がまだマシかもなぁ〜」

ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
慎重に、しかし怖れを踏み越えるように堂々と。
勇ましい。
とても……おいしそうだ。


651 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:43:55 Sm/7wB0A0

「ぅ、うゥ、WRYYYYYYYYYYYYYYYY!!!」

男が二歩目を踏み出したところで女も跳んだ。
男に向かってではなく、部屋の壁へ。
そのまま壁を蹴って三角跳び、男の背後に向かう。
狙うは頸動脈。
星の形の奇妙な痣がある首筋へと長く伸びた犬歯を突き立て血を啜るのだ。

歯が、触れた。
そのまま顎を閉じ、肉を食い破ろうとする。
だがそれができない。
今度は何かを命じられたわけではない。
なのに牙を突き立てることが……それだけでない、体が全く動かせない。

「汗ってよォ〜、何でかくもんなのか知ってるよな?脂汗ってのはまあ別だが、基本的には体温を下げるために出るもんだ。
 オレ、さっきまで汗だくだったろ?でも今は乾いてる。蒸発したんだ。熱を奪って、な」

冷たい。
男の首筋に触れている歯を通じて、顎が、首が、全身が冷え切って動かない。
凍って、固まってしまっている。

「まだ慣れねえからロッズが体温を食うのも併せてようやく、ってところだが。
 それでも顎関節だけなら触れた一瞬で、全身だって10秒ありゃあ氷像にしてやる」

凍結して動きを止めた女から一歩距離をとると同時に再び扉が開いた。

「キャスター。お前、結局出てきたのか」
「マスターの勇姿はこの眼で見なければネ。いやあ、素晴らしいよ、リキエル。
 吸血鬼の父を持ち、殺されたはずなのに今そうして歩いている……そんな女とは比べ物にならない才覚。吸血鬼としては上の中といったところかな。さあ、もっとらしくなってくれたまえヨ」

そう言いながらキャスターは一本の身の丈ほどに長い杭を差し出す。
リキエルはそれを受け取ると、身動きの取れない女の腹部へと突き立てる。
凍った肉を抉る鈍い音と、えずくような断末魔。
腹部から胸部へ杭を進ませ、その先端が心臓を抉ると女の体は灰へと還って消える。
亡骸はなく、残ったのは杭についた真っ赤な血が数滴だけ。
リキエルはそれをフォークについた上等なステーキのソースを口にするように舐めとる。

「嗚呼、なんたることを。怪物に堕したとはいえ麗しき乙女を串刺しにしてその血を啜るなんて!
 吸血鬼(バケモノ)め!父に劣らぬ稀有な怪物め!フフフ、父も煉獄で笑っているだろうサ」

楽しそうな笑みを口の端に浮かべながらキャスターは己がマスターをそう評する。
そして喉を鳴らして血を飲み干すリキエルを確かめると、ペンを取り出し一筆したためる。
するとリキエルの口から覗く犬歯が伸び、より吸血鬼らしさを増していく。

「KUAAAA……」
「上々、上々。そろそろ体を霧にできるようになるかナ?ネズミやコウモリを使い魔として使役できるようになったら敵探しを手伝ってくれたまえヨ」

キャスターの言葉に反応して体の調子を確かめるように動かす。
霧にするというのは感覚がつかめずできるのかどうか分からなかったが、スカイハイに意識を巡らせるようにすると、部屋の端から這い出たネズミがリキエルの足元集まってきた。

「使い魔の使役はできそうだネ。死の病、ペストを運ぶネズミは死の象徴とされ、吸血鬼の僕として有名だ。疫病が蔓延するように増えるのも早い。
 私も使えるが、ロッズを扱う君の方が恐らくうまく扱えるだろう。よろしく頼むヨ」

リキエルが指揮をするように腕を振るうとネズミは散っていく。
着実に怪物性を増していく姿はキャスターにとってこの上なく好ましい題材として映った。

「本当に面白いヨ、君と君の父親にまつわる物語は……
 10万年以上生きた吸血種の作った宝具によって吸血鬼となった男が、天国を目指して神父と友になり、その目的のために君を含めて多くの子をこの世に放った、なんて!
 カイン以前の吸血種!?吸血鬼が天国を目指す!?神父と友情を育む!?人と子をなす!?禁忌のオンパレードだ、聖堂教会の連中が知ったら怒り狂うこと間違いないネ!
 私の生きた時代でそんな本を書いたら発禁になるかもしれないヨ。神がいて物語を紡いでいるのならこれほど奇妙な物語もそうあるまい。
 いやあ、事実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだネ、はは!カーミラを読んで以来の感動だヨ」


652 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:44:54 Sm/7wB0A0

名作を読んで感動した。
名優に実際にあえて興奮している。
キャスターがリキエルに向ける関心はそういうものに近い。
そうなった彼がどうするかは生前から決まっている。
ヴラド三世、ヴァンベリ教授という人物をもとにした、ある種の二次創作をしたように、この地でもまた物語を書くのだ。

「オレたちの物語はアンタの書いたドラキュラより奇妙かい、ストーカー先生よ?」
「比較することに意味はないヨ。ワラキア公の伝説が奇譚として語られるように、君たちブランドーの血族の物語もまた数奇な運命に彩られている。
 今もまた、だ。吸血鬼が聖杯を目指すのだヨ?これを奇妙と言わずに何を奇妙というのか!読者としても作者としても興味に耐えないネ」
「奇妙、ねぇ……」

歴史上でも指折りの怪奇譚を書いた男にこうまで言わせる星の巡りに誇らしいような嫌気がさすような微妙な感慨。

(独特の価値観というか、文豪ってのは変人ばかりというか。ウンガロのスタンドと突き合せたら面白いかもなぁ)

時代というだけでは括れない明らかな差異……プッチ神父とはまた違う偉人の考えと言葉に興味をそそられ、ふと語り合ってみたくなる。

「なあ、ストーカー先生よ。この世で一番強いものってのは何だと思う?あんたは吸血鬼って答えるのかな?」
「いいや。ドラキュラという怪物はヘルシングという英雄に敗れるものサ。吸血鬼はとても力が強いが、同時にとても弱いからネ。
 作家の端くれとして、サーヴァントの端くれとして答えるならこの世で最も強いのは神々でも怪物でもなく英雄だと答えるヨ」
「ほお。つまり吸血鬼に堕してるオレやあんたはサーヴァントには絶対に勝てないってことかよ」

ストーカーの答えに少しの皮肉と疑問を込めてリキエルは問うた。
対してストーカーは少し自慢げに懐から銃と杭を掲げて見せる。

「私は吸血鬼であると同時に吸血鬼ハンターという英雄でもあるのサ」
「ズルいなそれ」
「設定を盛るのは作者様の特権と言っても過言ではないからネ。それはそうとマスター、君は何が一番強いと思うんだい?」

アーサー王とアレキサンダー大王はどっちが強いと思う?
そんな子供の話題のような話に楽しそうにストーカーは応じ、リキエルにも問い返す。
その問いに対する答えをリキエルはとうに決めている。

「キャスター、君は引力を信じるか?人と人の間には引力がある、ということを」

突如として口調が変わる。
淡々とした、おそらくは誰かの言葉と口調をそのまま真似た問いを投げかける。

「フム。万有引力というやつか?物理学は専門じゃないんだが」
「そう、引力だ。あらゆる怪物を切り伏せる剣でもない。どんな攻撃も受け付けない鎧でもない。
 神から不死を奪う毒でもない。それらすべてを掌で転がす神算鬼謀でもない。
 人と人が引き合う引力……すなわち『運命』。それこそがこの世で最も強い力だとオレは思う」

引力。
プッチ神父に教えられた……そしてプッチ神父もまたディオ・ブランドーから教えられた力だ。
それをリキエルは最も強大な力だと悟ったか、あるいは信仰していた。

「万有引力といったな、キャスター。そうだ、星と星もまた引き合う。
 オレたちの首に宿った星もそうだが……天空に座す星もそう。『星座』ってのは引力が形作った神話の形だよ。
 きっとオレに宿る星が引き寄せられたんだ、この聖杯戦争という星座(しんわ)の一部になるために」

キャスターの召喚に用いられた星座のカード。
天文に興味のないリキエルにはそれが何座なのか判別はできなかった。
だが、言ってしまえば単なる星の並びでしかないものが物語を模っているというのは運命を感じざるを得ない。
ジョースターから始まった、星の紡ぐキャスター曰く奇妙な物語。


653 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:45:32 Sm/7wB0A0

「オレの父とジョースターの血族は出会うべくして出会った。プッチ神父ともそうだ。そしてオレたち、ヴェルサスにウンガロが神父のもとに導かれたのもそう。
 神父の弟が進むのも、空条徐倫がオレを降していくのも全ては偶然という名の運命だ。
 そして、今もまた。オレがこうして聖杯戦争に参加しているのも、君をパートナーにしていることも全ては『引力』のなせる奇跡」

宗教家の説法のように静謐で情熱的な論説。
たった一人の聴衆、ストーカーは

「似合ってないヨ、その口調」

リキエルの答えに対するものではなく、その口調に対して素っ気なく反応を返した。
その指摘に、自覚はあったのか気まずそうにリキエルは視線を逸らす。

「やっぱダメか。神父を真似てみたんだが」
「仕事柄、キャラ設定にはうるさくてネ。君は君らしい方がいい」
「まあそれは置いといて……なるようにしかならない。それがオレのスタンスだということは理解しておいてくれ。
 聖杯を欲するならば汝その力でもって証を立てよ、だったか。最も強い『力』とは『運命』だ。
 ならばオレが何をしようと優勝者は変わらない。オレがするべきことは聖杯を手にすることなのか?誰かが聖杯を手にする助けになるべきなのか?
 あんたの言う通り、オレはオレらしく振る舞い、その結末が敗北だろうと勝利だろうと甘んじて受け入れよう」

リキエルはすでに満ち足りた最期を一度迎えている。
信じるものを得て、今怪物としてここにいるリキエルに願いはない

「本当にそうかナ?」

とはストーカーは思わない。

「自らの意思で歩むのと、ただ流されるままに進むのは違うヨ。
 抗えないのが君の言う運命だと‪しても、それでも運命の前に抗うか抗わないかという選択はできる。
 ……聖杯を手にするのが君でないとしても、それは君が願いを持たない理由にはならないナ。君の願いは何だ?君は何のために聖杯へと歩みを進める?」

ストーカーがリキエルという怪物(キャラクター)に肉をつける。
そのための問いに、絞り出すように小さく、祈るように真摯にリキエルは答えを口にした。

「願わくば。オレもディオと神父が目指すという天国へ」
「グッド。願いがあるなら君はこの聖杯戦争の登場人物になる権利がある。
 このブラム・ストーカーが新たに書く作品の第一の読者兼登場人物として君を正式に認めるヨ。いい物語を期待している、そして期待してくれマスター」

頁は捲られた。
文も書かれた。
物語が始まる。


654 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:46:16 Sm/7wB0A0

【クラス】
キャスター

【真名】
ブラム・ストーカー@19世紀アイルランド

【パラメーター】
筋力C 耐久E 敏捷B+ 魔力D 幸運A 宝具A+
【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
陣地作成:C-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
彼が作るのは基本的に工房ではなく、物語を紡ぐ“書斎”である。
ドラキュラ邸や串刺しの陣の二次創作をすることもあるが、その場合ランクは低下する。

道具作成:C
魔力を帯びた道具を作成する。
宝具にまでなった人物像を歪める小説を執筆するほか、吸血鬼ハンターの扱う白木の杭や銀の弾丸などを魔力消費で生み出す。

【保有スキル】
無辜の怪物:A
吸血鬼に血を吸われたものは吸血鬼となる。つまり吸血鬼の手によって吸血鬼は生み出されるというのが大衆の認識である。
ならばもっとも有名な吸血鬼ドラキュラの生みの親の正体もまた、吸血鬼であって然るべきであろう。
……ワラキア公ヴラド三世と同名同質のスキル。
能力・姿が変貌し、吸血鬼となっている。
血を啜り、傷を再生し、優れた身体能力を誇り、コウモリを使役し、ネズミやコウモリや狼へと姿を変え、霧に転じ、目の合ったものを魅了する強大な化け物。
そして陽光に焼かれ、祝福された武器に拒絶され、流水を渡ること叶わず、閉ざされた地に許可なく入れない弱小な存在。

怪物理解:A+
吸血鬼に対する深い造詣。
吸血鬼に関連する宝具やスキルを目にした場合極めて高い確率で真名を看破する。
また現界にあたって聖杯から剪定事象であろうと幻霊であろうとに限らずあらゆる吸血鬼の知識を獲得している。

戦闘続行:D++
吸血鬼としての頑健な肉体と、小説家としての不屈の精神。
瀕死の傷でも長時間の戦闘を可能とする。
自らの望む作品を書き上げることに関してはプラス補正が発生し、病の床だろうと重体だろうと何としても脱稿する。

高速詠唱:E
魔術詠唱を早める技術。
彼の場合、魔術ではなく原稿の進みに多少の恩恵があるようだ。
ドラキュラ執筆に一年半を要した彼は速筆ではないが、それでも題材の決定は素早い。
ヴラド三世はドラキュラである、と即座に決めて書き始めたように、かの者は吸血鬼であるというプロットだけなら即座に書き上げるだろう。
敏捷のプラス補正はこのスキルの恩恵であり、執筆時に発生する。


655 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:46:59 Sm/7wB0A0

【宝具】
『此より始まるは鮮血の伝承(レジェンド・オブ・ドラキュリア)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:666
偉大なる武人にして信徒であるワラキア公ヴラド三世を無辜の怪物に貶めた怪作「吸血鬼ドラキュラ」の生原稿。
舞台化、映画化、二次創作やリメイクに富んだドラキュラを、ヴラド三世以外の別の人物をモチーフにしてストーカー自身が改めて創作する。
そうすることでヴラド以外の人物にドラキュラにまつわるスキル:無辜の怪物を付与し、その者を新たな吸血鬼へと変える宝具。

当然モチーフにするだけの吸血鬼らしさは必要だが、「母乳を口にした」者はすなわち吸血鬼であるため全く無垢な人間というのは少ない。
さらに「死んだはずだが動いている者」であるサーヴァントはより吸血鬼らしい存在と言える。
吸血鬼らしさに応じてスキル:無辜の怪物のランクは向上し、より吸血鬼に近づく。
低ランクでは吸血衝動の他に肉体が頑健になる程度の変化だが、高ランクになれば使い魔の使役や肉体を霧に変えるなど強力な特性を獲得する。
個体によっては二十七祖や真祖に近い特異な能力を獲得することもあるかもしれない。

なお彼の書く吸血鬼はあくまでヴァン・ヘルシングに討たれる反英雄であるため、吸血鬼特有の弱点を克服することは決してできない。
日の下を歩くこと能わず、流水を渡ることはできず、許可なく閉ざされた空間に踏み入ること叶わず、ニンニクを嫌悪し、信心深い者であれば十字架に縛られ、心臓に杭を刺されれば灰へと還る。
どんなに弱小な存在も不滅の吸血鬼へ昇華させる宝具であり、どんなに強大な存在も必滅の吸血鬼に貶める宝具である。
死の概念を持たない獣であってもこの宝具の影響下では、強靭なれど脆弱な吸血鬼でしかなくなるだろう。

またあくまで無辜の怪物を付与する宝具であるため、すでに別種の無辜の怪物を持つサーヴァントには効き目がない。読者の呪いに冒されたハンス・C・アンデルセンやオペラ座の怪人、メフィストフェレスなどの別種の怪物には効果を発揮しないが、ヴラド三世やカーミラなど吸血鬼としての無辜の怪物を持つものならばランクを向上させる。、

『血濡れ鬼殺(カズィクル・ベイ)』
ランク:D++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:666
吸血鬼ドラキュラの生みの親であるストーカーは吸血鬼に誰よりも通じている。
同時に吸血鬼ハンターヴァン・ヘルシングの生みの親でもあるストーカーは吸血鬼の殺し方にも通じているのだ。
ドラキュラの原典であるヴラド三世の串刺しと、ドラキュラを殺す白木の杭による刺突の再現。
真名解放により大地から白木の杭を突き出し、敵を串刺しにする。杭は心臓を追尾する。
吸血鬼に対しては特攻、かつ即死判定の攻撃である。
心臓に当たった場合には二重に即死判定が行われる。
即死判定に成功した場合、死体は即座に灰へと還る。
当然だが杭による刺突は吸血鬼でなくとも十分なダメージであり、心臓に刺されば死ぬ確率が極めて高い。


【weapon】
白木の杭や銀の弾丸。
敵を吸血鬼に仕立て上げて、吸血鬼特攻の武装で攻撃するタチの悪い戦術だヨ。


656 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:48:04 Sm/7wB0A0

【人物背景】
本名、エイブラハム・ストーカー。イギリス時代アイルランド人の小説家で、怪奇小説の古典『吸血鬼ドラキュラ』の作者として知られる。
ポリドリ作のヴァンパイア、シェリダン作のカーミラなどドラキュラ以前にも吸血鬼を扱った作品は在れど、世に吸血鬼の存在を知らしめ、もっとも有名な怪物の一角にまで押し上げたのはブラム・ストーカーの功績であろう。
大学時代から観劇の趣味を持ち、名優ヘンリー・アーヴィングと知り合ってからは特に創作意欲を刺激されたらしく、政庁勤めの傍らで劇評や小説の連載に精を出す。
アーヴィングを通じてアルミニウス・ヴァンベリという人物に知り合う。
彼はハンガリーのブダペスト大学の東洋言語学教授で、16ヶ国語を話し、20ヶ国語が読めるという碩学であり、彼に聞かされたトランシルヴァニアの吸血鬼伝説がストーカーを『ドラキュラ』執筆へと駆り立てた。
以降一年半を調査と執筆に費やし、敬愛する英雄ドラクルことヴラド三世モチーフのドラキュラ、物語のヒントをくれた碩学ヴァンべリ教授をモデルにしたヴァン・ヘルシングという二人の主人公を有する怪奇小説「吸血鬼ドラキュラ」は世に放たれた。
ストーカーはこの後も何本かの小説を発表しつつ1912年に64歳で亡くなったが、『ドラキュラ』があまりに有名すぎるためか他の作品はほぼ完全に忘れ去られてしまっている。
悪く言えば一発屋だが、ドラキュラの発表以降その影響を受けていない吸血鬼創作は皆無といえる現状、吸血鬼という一面に限れば「あらゆるジャンルはすでに彼が書いている」とまでいわれるウィリアム・シェイクスピアに匹敵する影響力と言えよう。
ちなみに彼のドラキュラが異常とも言える知名度を得た背景に、吸血鬼を世に浸透させることでその神秘を貶め、死徒の弱体化を企てた聖堂教会なる組織の影響があったとも……?

余談であるが、彼なくしてはディオ・ブランドーにアルクェイド・ブリュンスタッド、ひいてはジョジョの奇妙な冒険や月姫、もしかするとTYPE MOONそのものも生まれなかったかもしれない。

【サーヴァントの願い】
面白い作品を知り、面白い作品を書く。
特にいろいろな吸血鬼のことを知れれば最高だネ。

【特徴】
立派な顎髭を蓄えた恰幅のいい男性。
俳優として舞台に立つこともあったため、そこそこに体格がいい。
舞台でのドラキュラ伯爵の衣装(いわゆる貴族風の黒いローブ)を身に着けているが、腰に白木の杭を打つための槌や、銀の弾丸の籠められた回転銃を下げている。

【マスター】
リキエル@ジョジョの奇妙な冒険

【マスターとしての願い】
聖杯を手にする運命のある者へ聖杯を授ける。
もしも許されるなら自身もDIOや神父の目指す天国へとたどり着く。

【weapon】
後述の能力に依存する。


657 : リキエル&キャスター ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:48:41 Sm/7wB0A0

【能力・技能】
・スカイ・ハイ
いわゆる超能力者、スタンド使い。ステータスは【破壊力:なし / スピード:なし / 射程距離:肉眼で届く範囲 / 持続力:C / 精密動作性:なし / 成長性:なし】
スタンドのエネルギーを魔力の代替として供給する。持続力はCなので並の魔術師と同等かそれ以下の供給量。

リキエルの手首に装着される両生類の様な姿の小さなスタンドで、能力はロッズ(スカイフィッシュ)を操ること。
このロッズは視認が不可能な程のスピードと障害物にぶつからない正確さで飛行し、動物の体温を奪って活動している。
ロッズを操って肉体の特定の部位から体温を奪うことが主な戦闘方法になる。
体温を奪うというのはそんなに恐ろしくなさそうに見えるが、熱を奪う部位によって若々しい健康体の少年を血尿にする、対象の体を自由に動かす、凍傷で体を腐らせるなど、相手をさまざまな病気にする事ができる。
さらに脳幹の体温を奪えば相手を即死させる事も可能。
また、ロッズはスタンドではなく生物なので倒されたところで本体にはなんの影響も無い。さらにこのロッズはいたる所に生息しているようで、次から次へと繰り出すことが出来る。

・無辜の怪物
ストーカーの宝具によって獲得したスキル。
吸血鬼としての適性が極めて高いリキエルは高ランクの無辜の怪物スキルを獲得した。
リキエル自身はそうと知らないが、父ディオ・ブランド―とほぼ同じことができるようになっている。
日光や波紋に弱い、そしてドラキュラ同様胸に杭を刺されれば死ぬなどの弱点も再現されている。

【人物背景】
かつて天国を目指した吸血鬼、ディオ・ブランド―が計画の駒として産ませた男。
母は吸血鬼ディオに血を自ら捧げて死に、父ディオ自身は星の痣の一族に野望を阻止され命を落とした。
そうして孤児となったリキエルはひっそりとアメリカで育つこととなる。
パニック障害を抱え、自分の存在意義も生きる自信も見いだせずに過ごすが、ディオの親友プッチ神父と出会うことで光を見出した。
天国へ行くという父と神父の願いに影響され精神的に大きく成長、父を打倒した星の痣の一族がプッチの邪魔をしないよう排除に動く。
奮戦及ばず敵の覚悟に敗北するが、その敗北もまた神父にとって意味のある偶然だったと確信しながら最期を迎えた。
その直後の参戦である。


658 : ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:49:29 Sm/7wB0A0
続けてもう一つ投下します。


659 : 木原円周&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:50:29 Sm/7wB0A0

「ありがとうございました〜」

自動ドアが開くとともにピロンポロン、と軽快なメロディが響く。
退店する客を見送る店員の明るい声もまた。
人々が寝静まり始める時間帯に、煌びやかに、なおかつ賑やかにコンビニエンスストアが存在感を示す。
現代の都会ではどこでも見られるような景色だ。

「痛って。おいオッサン、気をつけろよ」
「目ン玉どこに向けてんだ?あァ?」

これもまたどこでもありそうな光景だ。
店を出た矢先に接触を起こし、そのことで因縁をつける。
ガラの悪い青少年二人が、人の良さそうな男に絡んでいるのを店の中の客も店員も遠巻きに見るばかり。

「何とか言ったらどうなんだ、おい」
「ビビってんのか、こら」

店員は二人そろって警察を呼ぶような大事になりませんように、と内心祈る。
客の一人、眼鏡をかけた女性は外の景色から目をそらし、弁当の消費期限を何度も見返している。
雑誌コーナーで立ち読みをしている中年男性は、何かに読み入っているのか本当に外の騒ぎに気付いていないらしい。
外からの介入で事態が動くことはまずない。
そのことに思い至ったのか、至ってないのかひたすらに無言だった男がついに口を開いた。

「君たち、学歴は?」
「は?」

およそこの場でするに相応しいとは思えない発言に、何を言っているのかと疑念に囚われる。
しかしそれが聞き間違いでないと確信できると、青年たちは即座に反応を返す。

「ンだこら、高校卒業してすぐ働いてる低学歴には詫びる必要ないってか!?」
「ふざけてんのかテメエ!」

バカにされたと思ったのか二人の青年はヒートアップした。
まさしく火に油を注いだかのように、顔を真っ赤にして怒声をまき散らす。
それを気にかけないように、気づいていないように笑みを浮かべる男。

「高等学校、卒業。それはそれは……」

人の良さそうな、誤魔化しているような笑いに青年の片割れが掴みかかろうとする。
だが腕を突き出そうとした瞬間、横面に何かが叩きつけられる。
触覚から遅れて聴覚、何かが振るわれた音とそれを叩きつけた男の声が聞こえる。


660 : 木原円周&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:50:54 Sm/7wB0A0

「インテリだな貴様ら」

笑みを浮かべた男の両手には建築用の鉄筋が二つ握られ、そのうちの片方は赤く塗れていた。
その赤い塗料は何だろう、隣に立っているはずの友人は何をしているのだろうと疑問を感じた瞬間に
衝撃。
頭頂部に鉄骨を叩きつけられ、答えを知る間もなく少年は先に逝った友人のもとへと送られた。

突如として殺戮を行った男は血に濡れた鉄骨を両手に持って、ぎろりとコンビニ内を見やる。
週刊誌を立ち読みして背中を振るわせている客に目をつけると

「本を読んでいる!貴様インテリだな!」

右手に持った太い鉄骨を全力で振るう。
店と道路を隔てるガラスごと、男性客の頭蓋を砕いた。
ガラスが砕け散る高い音に交じって、べちゃりと粘着質な音が小さく響く。
レジ内の店員の方へ、スイカ割りに失敗したような歪な赤い球体が、飛んでいって壁に張り付いた音だ。
……中からこぼれ出る赤いモノで粘性を増した頭髪。
一説にボウリングの玉と同じ重量といわれる球体を支えるには強度不足だったらしく、何本かを壁に残して球は床に落ちる。
ごろん、と転がり。
ぎょろり、と魚のようになってしまった目がこちらを見ているのに店員は気付いた。

炸裂するように悲鳴が飛び出す。
店に残った女性客一人、男性店員二人がほぼ同時に声を上げ走り出す。
入り口近くの凶悪人物から離れるために店の奥へ、奥へ。
駆けだした店員は背中越しにガラスの破砕音を聞いた。
ジャリ、と砕けたガラスを踏みしめる音もした。
自動ドアが開く間も惜しんで殺人鬼が侵入してきたのだ、と恐怖した瞬間

ずん、と腹部に衝撃を覚えた。
背筋に冷たいものが走り、それが体の前面までも貫く。
さらに虚脱感と吐き気も起こり、耐えきれず胃の中身をぶちまける。
酸っぱい吐瀉物でなく、鉄臭く赤い液体がまき散らされた。
疑問の声をあげようとするが、全身の脱力がそれも許さない。
膝をつき、前に倒れようとすると、何かがつっかえ棒のようになって支えられた。
口に満ちる鉄臭い液体よりも、鉄の匂い濃い……殺人鬼の持っていた鉄骨が体から生えていた。

「コンビニエンスストア、こんなところで働いているなど貴様もインテリだな」

逃げられる前に鉄骨を投擲した男がゆっくり追いつき、突き刺さった鉄骨を引き抜いて回収する。
支えを失った店員は地に伏せ、ゆっくりと息絶える。

店内に残った生存者は二人となった。
殺人鬼と、取り残されたコンビニの客が一人。
空を走った鉄骨に怯み、発生した血の池に足をとられ、バランスを失って逃げ遅れてしまった。

転倒した女性客の方へと殺人鬼が向き直る。
ひっ、と小さく悲鳴を漏らし後ずさるが当然すぐに壁に突き当たる。逃げ場はない。
……突如殺人鬼がにっこりと満面の笑みを浮かべる。
人当たりの良さそうな、虫も殺せなそうな笑顔だった。

もしかして見逃してくれる?
そんな淡い希望に安堵の涙が浮かぶ。

ぐしゃり、と肉を叩く鈍い音が響いた。

「眼鏡をかけている。貴様もインテリだな」

店に残った生存者は一人になった。
残った殺人鬼がぐるりと店を見渡す。

「まだ、インテリがいたはずだが……」

視認できる範囲に誰もいないことを確かめると、両の手に持った鉄骨を振るい、店の内装を破壊し始める。

「コンビニエンス!怠惰な知性の結晶!こんなものは人の生きる社会に必要ない!
 インテリも!文明も!すべてこの世から消えてなくなれ!!!」

一部の商品は避けつつも、棚や冷蔵庫だけでなく建物自体も攻撃し破壊していく。
……しばらくすると、攻撃に耐えかね建物が崩れ始める。
効率的な発破解体などではない、原始的な暴力による破壊であった。


661 : 木原円周&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:51:22 Sm/7wB0A0

◇ ◇ ◇

そのコンビニから一人だけ男性店員は逃げ延びた。
バイトの制服そのままで、店内に財布や荷物も置きっぱなしだが、命には代えられない。
どこを終着点と見据えることもなく、ただただひたすら走る。

息が切れ、全力疾走できなくなってきたあたりで中学生くらいの小柄な少女とすれ違いそうになり、あわてて声を出す。

「っだ、だ、だめだ。そっちには行くな!殺されるぞ!」

激しい運動からくる疲労と、殺人鬼から逃げる恐怖に声を震わせながら必死に少女を呼び止める。
これ以上被害を広げるわけにはいかない、と発した呼びかけに応じて少女が歩みを止めた。

「殺される?」

なんで?何に?意味わかんない。
そういわれたような気がして足を止めて必死に話す。
この先にあるコンビニで起きた惨状を。
その惨劇を巻き起こした悪魔のような男のことを。

「人が良さそうに見えたが、あれはバケモノだ。鉄骨をぶんぶん振り回して、何が何だか……ひっ!」

遠くから大きな音が聞こえた。
ガンガンと何かを砕くような音、ガラガラと大きなものが崩れる音。
……逃げてきたコンビニの方からだ。

「あ、ああああれもあいつかもしれない。店のガラスも壊すし、何人も殺された!
 人間のやることじゃない、ヤバすぎる。突然インテリとか訳の分からないことを言い出して何が何だか……」
「そっかあ、それは大変だったね。うん、うん」

少女は呑気そうに答えながらだが、素早く首からぶら下げたスマートフォンを弄り始めた。
警察でも呼ぶのか、確かにそうする必要があると僅かに息をつくが
ずん、と腹部に衝撃を覚えた。

「分かってるよ、唯一お姉ちゃん。辛いけど、本当に辛いけど『木原』ならこういう時はこうするんだよね……!!!」

突如少女が拳を繰り出し、それが男の体にめり込んでいた。
威力自体は少女の膂力で、大したものではない。
だがそれが一瞬で十発、二十発と打ち込まれれば流石に軽いダメージとは言えない。
疲弊した肉体にダメージが重なり、男は地面に倒れ伏す。

「目撃者は生かしておけないのでー、血管の中に気泡作ってくたばりやがれえ!!……っていうのが『木原』らしいので一つよろしくっ!」

場違いに朗らかな声が、朦朧とした男に意識に滑り込んできた。
呆けた頭でこのままでは殺されると理解し、先ほどまでと同等以上の恐怖が体を震わせる。
それでも受けたダメージが大きく、立ち上がることは叶わない。

「あっれー、生きてる?うまくいかないなー?唯一お姉ちゃんは手も足もすらっとしてるからなあ。
 私みたいなちんちくりんの未熟な『木原』じゃあこの程度なのかな?」

何やら生きているのが不満らしく、体をペタペタと触って調べ始める。
その手が左の腰部分に触れたところで男は激痛を覚えた。
男自身、恐怖や生存本能で気づいていなかったが、そこには投げられた鉄骨の余波で裂けた切り傷があった。
そこから流れる血が少しだが泡立っているのをみて少女は納得したような声を出す。

「あー、そっかー。血管の中に作った気泡が抜けちゃってたんだ。失敗失敗」

それなら、と立ち上がりスマートフォンやタブレットを再び操作しようとする……前に血で汚れてしまった手を男の服で拭う。
綺麗になったので改めて端末を弄ると、画面上に表示されるグラフの質が変化する。

「そうだね、幻生おじいさん。せっかくだから練習しておくべきだよね。気乗りしないけど、とってもやりたくないけど、『木原』ならそうするもんね!」

ごそごそと懐をあさり、何やら取り出そうとする。


662 : 木原円周&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:51:50 Sm/7wB0A0

「ここにいましたか円周。探しましたよ」

そこへ声をかけられ少女…木原円周がそちらを向く。
柔らかい笑みを浮かべた男が歩いてきていた。
左手にコンビニの大きな袋をぶら下げ、右手に少し曲がった、鉄骨を持ってゆっくりと合流する。

「あ、バーサーカー。もー、この人逃げてきちゃったよ?」
「おやおや、これは申し訳ない。ですが食い止めてくれたんですね。素晴らしい、さすがは円周。
 ……それでは後の始末もお任せして構いませんか?」

娘に叱られた父親のような申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、右手に持った鉄骨を差し出す。
先ほどまで血に濡れていたそれはすでに綺麗なものになっていた。

「うん、そうだね。分かってるよ」

その鉄骨を受け取ると、また端末を操作し表示されるグラフの質を変える。
それに少しの間目を落とし、頷きながら両の手で鉄骨を握る。
まるで処刑人が斧を握るように高く構え……

「ポル・ポトおじさんならこうするんだよね!!」

がつん!と延髄に的確な一撃を叩きこみ、男の命を一瞬で刈り取る。
己の従えるバーサーカーのサーヴァント、ポル・ポトなら実行できない、人体に精通した技術と知識を披露した木原円周。
その成果を誇るように満面の笑みを浮かべて、ポル・ポトの方を向き、鉄骨を返す。

「よくできました、円周。さあ、帰ってご飯にしましょう。コンビニというインテリの巣窟にあったものですが、食べ物に罪はありません。
 よく食べて、綺麗で純粋な大人に成長するんですよ」
「はあい、バーサーカー」

悲痛な死体が転がっていたが、それがだんだんと消えていく。
バーサーカーの宝具の効果によって背景から異物が消えたことで、二人の異常者のやり取りは一見平和な親子の様にしか見えなかった。


663 : 木原円周&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:52:29 Sm/7wB0A0

【クラス】バーサーカー
【真名】ポル・ポト
【出展】史実、20世紀カンボジア
【性別】男
【属性】混沌・狂
【パラメーター】
筋力B+ 耐久B+ 敏捷C+ 魔力E+ 幸運B 宝具C

【クラススキル】
狂化:EX
ポル・ポトは過激な原始共産主義を掲げ、そのために知識層を虐殺してきた。
彼自身もパリに留学したインテリであったため、その知性を真っ先に切り捨てた。
人と同じような言語と所作をしているが、その実人が歴史とともに積み重ねてきた知性の一切を持たず、本質的に他者と理解しあうことは極めて難しい。
親であろうと微笑んで殺し、過去を懐かしんで笑うことも今を拒んで泣くこともない。

【保有スキル】
原始回帰:B-
ジャングルの奥深く、人の手の及ばない一帯には未だ神秘が色濃く残り、常人には認識できない妖精や精霊、幻想種が残っていた。
ゲリラ戦のさなか、そこにおよそ12年とどまったポル・ポトの肉体は朱に交われば赤くなるように、古き時代のものへと還っていった。
現代人にあるまじき異様な身体能力と回復力を誇る、ある種の天性の肉体。
原初の理に触れ、強靭な変化を遂げたポル・ポトからすれば文明に頼るインテリはさぞ惰弱で怠惰に見えただろう。
なお殺傷には耐性を持つが死因とされる病、あるいは毒に対する耐性はない。

加虐体質:B
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
プラススキルのように思われがちだが、これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。
ポル・ポトの狂化スキルはこれと似て非なるものであるため、殺傷力は大幅に増す。

情報抹消:EX
原初の時代に還るため、知識など不要とインテリを殺す。
それを批判する者は殺す。
知識を持つものがいなくなったら子供に医者をやらせ、外科手術まで行わせるが当然患者が治るわけもなく死に至る。
手が柔らかいものは農作業をする必要のない金持ちであり、それはつまり稼ぐ手段を持ったインテリだから殺す。
字を読める者はインテリだから殺す。
時計を見ようとしたということはインテリだから殺す。
眼鏡をかけているものはインテリだから殺す。
歌を歌っているものは殺す。
密告があったから殺す。
容姿端麗だから殺す。
…………あまりにも常識から外れた行いに、それが国外に伝わっても冗談だと思って誰も信じなかった逸話の再現。
ポル・ポトの所業は映像や写真などで確認されなければ真実として伝わらない。そんなことが起きているはずがない、と聞き流されることになる。
閉ざされた国から辛うじて亡命した人たちの決死の訴えすら殆どの人に事実と受け入れられなかった、抹消した情報の痕跡すら信じさせない規格外のスキル。
例えば、「どう見ても善人である男が大小の鉄筋を振り回してコンビニを倒壊させ、いたはずの客と店員の死体が消えた」などという話、頓狂すぎてうわさ話にすらならないだろう。

道具作成:E-
ポル・ポトが最も信頼した兵器は地雷である。知識層を失い、子供が殆どを占めていた軍ではそれくらいしか扱えるものがなかったともいえる。
魔力を消費することで地雷を作ることができる。サーヴァントにも効果を発揮する地雷である。
地雷自体は科学技術、魔術問わず見つけることは普通に可能であるが、ポル・ポト自身は探知する術を持たない。
もっとも原始回帰した彼の肉体は地雷程度ものともしないが。


664 : 木原円周&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:54:36 Sm/7wB0A0
【宝具】
『血に塗れた思想の一族(クメール・ルージュ)』
ランク:D 種別:対国宝具 レンジ:0〜99 最大捕捉:上限なし
インテリに対する探知・虐殺宝具。
虚言でおびき寄せ、密告で情報を集めた彼はサーヴァントとなってからは居ながらにしてインテリの存在を感知し、虐殺する。
インテリがレンジ内に存在する場合それを感知し、それに対して与えるダメージが大幅に向上する。
具体的な居場所は分からず、いるということが分かるのみ。
なお彼のいうところのインテリとは「文字の読める者」「時計を見ようとする意思のある者」「眼鏡をかけている者」「手の綺麗な者」「容姿端麗なもの」である。
ただし高ランクの狂化などで知識はあってもそれを操る術をなくした者、獣や実験動物として育ったために人間的知性に乏しい者、あるいは文字や言葉を操る動物などはインテリとは認めない。
この宝具は一都市を網羅するほどの広いレンジを誇るため、ポル・ポトは街の中に文字を読める知性的な者がいるかいないか即座に分かるのだ。
…………端的に言って現代日本において感知能力は全く役に立たない。
ただしダメージ向上の対象も同様であるため、広範な敵に対して攻撃性が増す、まさしくバーサーカーな宝具と言える。
なお、魂あるいは肉体が14歳以下の子供は感知・ダメージ向上の対象外となる。


『腐ったリンゴの箱(フォービドゥン・ブラックボックス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:5〜40 最大捕捉:上限なし
自国の民のおよそ四分の一を虐殺し、文字通りの死体の山と歪な人口比を作り上げた逸話の再現。
政権解放直後は14歳以下が国民の85%も占めていたという。
ポル・ポトが殺害した者すべての亡骸を山と積み上げ、敵頭上から叩きつける。
言うなれば死者の人口ピラミッドである。
死体の腹部などは建築用の鉄筋で貫かれ、死体同士をつなぎ合わせることで崩れにくくなっている。
生前に彼の指示で殺害したものに加え、聖杯戦争などで没後殺害した死体も積み重なるためすでにその数は300万を超える莫大な数となっている。
死体の物理的な重さも十分な殺傷手段であるが、悍ましいのはその罪の重さである。
ポル・ポトに殺された者の怨みが呪いと化し、攻撃対象に多大な呪詛・精神ダメージを与える。
正当な英霊であるほどにそのショックは大きいため、属性が秩序や善のサーヴァントには呪詛ダメージが増加する。
なおポル・ポト同様に規格外の狂化スキルを持つものや、精神汚染、精神異常などが原因でその悪性に一切の罪悪を覚えないものなら呪詛の効果は受けない。
それでもおよそ300万の死体による重量ダメージは相当なものであるが。
……晩年のポル・ポトは「自分の良心に恥じることは何一つしていない」と自らの行いを振り返って言ったという。

なお彼が直接手を下した、あるいは彼の指示で殺した死体は即座に血の一滴も残さずこの宝具に取り込まれ消失するため、どんなに虐殺を重ねてもその決定的な証拠を見つけるのは難しい。
神秘の秘匿という意味では優秀な宝具と言えるかもしれない。

【weapon】
・建築用鉄筋
日本製の何の変哲もない鉄筋。
宝具『腐ったリンゴの箱(フォービドゥン・ブラックボックス)』で死体をつなぎ合わせているもの。
ポル・ポト政権において最も多くの民を処刑・虐殺するのに用いられた。殺害するのに銃弾が乏しく勿体ないからという理由からであった。
処刑される者は太い鉄筋で殺されるか細い鉄筋で殺されるか選ばされたという。
万を超える人々の血に染まった鉄筋は怨みと憎しみに塗れある種の神秘を纏う。妖刀ならぬ妖鉄筋である。
サーヴァントすら殺傷可能な鉄筋を、殺害した民一人につき大小の二本……およそ600万本保有する。
宝具の真名解放なしに数本の鉄筋だけなら召喚し、武器とすることができる。


665 : 木原円周&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:54:55 Sm/7wB0A0

【人物背景】
荒く纏めると山育ちの農民、時々宗教家、後に政治家。
フランス領インドシナのそこそこ比較的裕福な農家に生まれ育つ。
幼少期に読み書きを習うために寺院で学び、何年かを僧侶として過ごす。
第二次大戦終了後に宗主国フランスに留学し、共産主義者となる。
帰国後はカンボジアの独立を目指す共産主義ゲリラに参加する。
しかしあまりに過激な思想と活動は独立後の政府に弾圧され、秘密活動を余儀なくされる。
この潜伏期間が知識層の虐殺へと繋がっていく。
ジャングルに残った神秘に触れたことで肉体は先祖還りし、原初の強大なものとなった。
毛沢東の思想に学び、階級のない原始こそ至高と考えるようになった。
つまり神代に存在しなかった知識層もその産物も不要である。と。
そして歴史の混乱に乗じて表舞台に姿を現し、クーデター・内戦からカンボジアの全権を掌握。
そこからが史上類を見ない悪夢の始まりだった。
政権の前任者や反政府的な者を投獄、虐殺することから始まり、通貨の廃止、私有財産の没収、銀行はじめ国家機関の停止、寺院も根絶される。
国民の大半を農作業に無理やり従事させ、それによる過労死者も大量に発生させる。
そしてポル・ポトの行った最悪の所業である知識層の虐殺である。
ベトナムとの戦争によって没落し、その後続けたゲリラ活動も実を結ばず、ポル・ポトが政治にかかわることがなくなった30年後でもその影響は残っている。
インフラは破壊されたために復興は遅れ、高齢者・知識者の命が悉く奪われたために文化の継承者もいなく、そもそもとしてまともな教育を受けていないために働き方も学校の意義も知らない若者が殆どなのだ。

虐殺した数だけならばスターリンや毛沢東に劣るが、彼らは中国やソ連という大国に長年君臨した指導者である。
しかしポル・ポトは当時人口一千万足らずの小国カンボジアに4年間君臨しただけで、数百万という単位の人々の命を奪ったのだ。
その所業は20世紀最悪の独裁者と呼ばれるに相応しい。
それでありながら妻子にとっては優しい夫であり、父であったと語られ、虐殺発覚後にインタビューしたリポーターですらポル・ポトのことを善人と評している。
今回はその在り方を「神代の肉体を手にし、その素晴らしさを世界に広げようとした、善悪の基準が根本的に人と異なる神に近い思考」と解釈した。

【特徴】
現代の人間であるため写真も残っているが、実際に目にする彼は人のよさそうなおじさんにしか見えない。
服装もどこにでもいそうな、ちょっとダサいおじさんそのもの。
実際子供には優しく、妻子にも穏やかに接し、当たり障りのない接触ならば赤の他人にもいたって紳士的な対応をする。
ただし一たび相手をインテリである、あるいは敵であると判断したならば即座に虐殺する。
人のよさそうな笑みと雰囲気そのままに、殺意を迸らせるなどという前兆も一切なく、善性と残虐性を同時存在させている。

【サーヴァントの願い】
一切の知性と文明を放棄し、階級も差別もない世界へ。
人類の強き良き時代、神代へと世界を還す。


666 : 木原円周&バーサーカー ◆bWc6ncfvXw :2017/07/26(水) 22:56:33 Sm/7wB0A0
【マスター】
木原円周@新約 とある魔術の禁書目録

【マスターとしての願い】
自己を確立し、一人前の木原になる。

【weapon】
・携帯端末、スマホ、小型テレビetc
5000近い『木原』の行動パターンを分析し、まとめたデータを保存したものを首からぶら下げている。
画面上に表示されるグラフのような映像からインスピレーションを受け、その性格や戦術を再現することができる。
作中では木原数多や木原唯一の格闘術、木原乱数の微生物操作を披露している。
他の作中登場人物では木原加群、木原病理、木原脳幹、木原幻生、テレスティーナ・木原・ライフラインなども記録されているらしい。
さらに木原一族以外でも上条当麻のヒーロー性も再現可能らしく、格上の『木原』である木原病理をそれで退けることに成功している。
文明の利器ではあるが、画面上に表示されるものの意味を読み取れるのは円周、あるいはそれと同等以上の分析力・発想力を持つ者だけである。
ポル・ポトはちゃちな子供のおもちゃ程度にしか認識していない。

その気になればライターを改造して火炎放射器にすることも、カビを遺伝子操作して殺人兵器にすることもやってのける。
最大の武器は『木原』に恥じないその頭脳と言える。

【能力・技能】
『木原』としての優れた観察力、発想力。
特に彼女は模倣に優れ、人の行動や戦術を積極的に戦闘にも科学にも取り込む。
もしかするとサーヴァントの戦術や思考すら模倣するようになるかもしれない。
原作者曰く、単純な頭の良さなら『木原』の中でも上位らしい。
身体能力においても木原数多、木原唯一の特異な格闘術を再現可能で、作中でもプロの兵隊(というか忍者?)を退ける実力を持つ。
また魔術組織グレムリンに属するある魔術師とは類縁であり、魔術回路も保持している。
魔術師としての才は未知数だが、彼女の書き上げた法則の走り書きは見た者の精神に大きく影響をあたえるという魔導書の原典に近い効力を発揮しており、そちらの方面でも抜きんでた才能を持つ可能性が高い。

【人物背景】
世界より20〜30年先を進んだ科学力を保有する学園都市においても隔絶した科学の才を持つ『木原』一族の少女。
彼女は幼少期の頃、ある『正義』を名乗る者達によって連れ去られ監禁されていた。
『木原』という存在に驚異を感じていた彼らは、

「『木原』は『木原』を学ぶから『木原』らしくなる」

と考え、彼女を『木原』から、更に言えば人間としての『学び場』から切り離したのだ。
それも人間としての基本的な情報を大量入力されるべき幼少期に。
そうする事で彼女は『木原』らしくなくなると思っていたのだ。
彼女はそのような環境に置かれたおかげで九九も出来なければ、漢字はおろかカタカナすら読み書き出来ない。
彼女はそんな環境の中でさえ、
『一見落書きにしか見えない冷凍睡眠装置の基礎理論の証明式』を書き上げ、
床に散らばったクレヨンで『完全な黄金比のバランスを超越した美しさ』を描き、
くしゃくしゃに丸められた紙のシワで『並列演算装置のチップの図面』を示し、
フロアランプの光りによってできる影で『見る者の深層心理を浮き彫りにするテスト』を行う
…等々、平然と『木原』を行使していたのだ。
『木原』が『木原』である事に、後天的な情報入力など必要無い。
『木原』は『木原』であるだけで、科学という概念から目一杯愛される。
彼女ら『木原』は科学を他人から学ばずとも世界を構成する物質から科学を読み取る。
部屋を舞う埃や、プラスチックの質感、水の一滴のような些細な物ですら彼女にとって絶好の科学の参考資料となりうる。
『木原』から科学を奪うにはこの全世界を欠片も残さず破壊する以外に方法など無いのだ。
むしろ彼女は何も教育されなかったおかげで善悪のボーダーラインがわからないようになり、その科学には歯止めが利かない。
故に彼女は監禁された事に一切の不満などなく、一方で監禁したものたちを恩人とも思っていない(というか恩人という概念すらわかっていない)。
ある日彼女は一つの実験を思いつく。『自分が今いる牢を壊す素敵な方法』を。
恩を返すでもなく、恨みを晴らすでもなくただ彼女は自らの実験をただ見てほしくて食事を持ってきた男にそれを披露する。
足首に金具と鎖を繋いだ状況にも関係なく(彼女にとってそれもまた拘束具ではなくオモチャの一つに過ぎなかった)、それは実行された。
実験の結果、鎖が蕩けるように破断、男の体は蝋のように変質、円周は姿をくらます。
そして『木原』と合流した円周は未熟さを補うために多くの『木原』の思考パターンを模倣するようになる。

本質的・本能的に知識を求める科学者、探究者であり幼さと純粋さを除くとポル・ポトとの相性は最悪だが本人たちは未だそれに気づいていない。


667 : 名無しさん :2017/07/26(水) 22:57:19 Sm/7wB0A0
投下終了です。
史実聖杯に投下した拙作の再投下になります。


668 : ◆z1xMaBakRA :2017/07/27(木) 00:15:45 sHxFqlzs0
投下します


669 : Hate&Avenger ◆z1xMaBakRA :2017/07/27(木) 00:16:25 sHxFqlzs0
 蛇口を捻れば、水が出る。カフェに行けば、ウェイターが水を運んでくる。スーパーに行けば、水が売っている。
当たり前の事柄である。真水は貴重な資源ではあるが、人間が生きる上で兎角重要なエレメントだ。
然るべき対価を払えば何時何処でも手に入るようでなければ、それこそ国家の維持に致命的な亀裂を生じせしめてしまう。
水は、時と次第によっては、時に国家にとっての血液と比喩される金よりも、重い意味を占めるのである。

 その当たり前の事柄が崩壊した世界から、男はやって来た。
憎悪――Hate(『ヘイト』)と自らを自称する白髪の男は、表面の塗装が剥げ、錆が浮き始めた遊具しかない寂れた夜の公園の水飲み台で、
顔中が濡れる程の強さで水を噴射させ、其処に顔を出して水を浴びるように飲んでいた。
何日ぶりの水だろう。ヘイトは考える。人は、十分な水と睡眠時間さえあれば、例え何も食べずとも、二週間以上は生きられるような身体の作りになっている。
だが、この水すらも断った場合には、人は一週間と生存する事は出来ない。結論を先に述べるなら、ヘイトは優に七日は水を口にしていなかった。
人が水なしで生きられる日数の限界を超えて尚、男が今まで生きていられたのは、ひとえにその執念の故であった。

 ヘイトには、殺して、八つ裂きにしてやりたい男達がいた。
その男達は、彼から全てを奪った。社会的な地位も、蓄えていた財産も、己の両腕も、――己が何よりも愛していた妻子も。
全てを一瞬で、ヘイトは失った。自分の人生を掛けて手にした地位、名声、財産、幸福、家族。その全てはもう、彼の手元になく、
全てを奪った張本人達は、天才分子工学者だったヘイトの研究・開発していたナノテクノロジーを元手に、地位・名声・財産・幸福を得ていた。
それはまるで、ヘイトが噛みしめていた幸福を簒奪し、それを自分達で享受しているかの如くで。それを思うと、自分の身体が、心胆が。
黒い炎で炙られ焼かれて行くのを、ヘイトは感じずにいられないのだ。

 生かしては、おけない。
ヘイトから全てを奪った五人は、一人残らず地獄に叩き落とさねばならない。
ヘイトから全てを奪った五人の、生きた証を全てこの地上から排斥しなければ気が済まない。
ヘイトから全てを奪った五人に、殺された妻子の声なき絶望と己の味わった絶望と憎悪(Hate)を叩き込む事こそが、己の存在意義。それだけを信じ、ヘイトは今日まで生きて来たのだ。

「良い目をしてるね、ヘイト。名前に恥じない――復讐者の目だよ」

 水を飲み終え、蛇口を閉めようとしていたヘイトの耳に、女性の声が聞こえて来た。
若く聞こえる。十代後半、或いは二十代半ば程かも知れない。声のトーンを弾ませれば、快活そうで溌剌とした女性の声音に聞こえるだろう。
だが、ヘイトには違って見えた。この女は、自分と同類だと。そう、同類には隠せないのだ。その声に内在されている、隠し切れない荒んだ響きが。


670 : Hate&Avenger ◆z1xMaBakRA :2017/07/27(木) 00:16:50 sHxFqlzs0
「……褒めている風には、聞こえないな」

 声のする方角に、ヘイトは顔を向けた。
水に濡れた薔薇を思わせる程艶やかな、長く伸ばした赤い後ろ髪が特徴的な女性だった。
美女、であった。荒み、やさぐれた印象を見る者に与える程毒のある、刺々しい顔つきである事や、まるでSMを好む女性を思わせるようなボンテージファッションである事を差し引いても、だ。その顔立ちから険を取ればさぞ可憐であるう事は間違いなく、その身体つきも、よの男の心を射止めるには十分過ぎる程のプロポーションがあった。

「いいや、褒めたよあたしは。いきなり自分のマスターを茶化して、険悪な雰囲気に自分からして行く程、あたしは馬鹿じゃないよ」

「今の言葉の意図が、オレには図りかねる」

「あたしを召喚するのに、相応しい人間だって。確かに褒めたんだよ、言葉は足りなかったのは認めるけどさ」

 微笑みを浮かべ、ヘイトにそう言った、赤髪の女性。
浮かべる微笑みは、愛する我が子に向ける慈愛の笑みと言うよりは、同じ悪事に手を染めて十と余年にも達さん腐れ縁に対して向けるそれに似ていた。

「真っ当な人間があたしを呼び出しても、ライダーか……良くてセイバーかな。そんなクラスでしか呼べないんだよ。あたしをアヴェンジャーで召喚出来る時点で……あんたの心に宿るどす黒い復讐心は、飾りでも伊達でも何でもない。本物だよ」

「そうだ。オレはあの時、この両腕を壊され、愛する妻子を失ったその時から……誓ったんだ」

 握り拳を作り、ヘイトは拳を高々と掲げて見せた。

「――オレの全てを奪った外道畜生共を、赦してはおかぬと!!」

 固く握られた右の拳を、水飲み台に振り落とした。
果たして、誰が信じられようか。蛇口部分に拳が衝突した瞬間、固く固定されている筈の蛇口は拉げて地面に叩き落とされたばかりか、
蛇口を固定していた石台に、全部くまなく亀裂が生じ始め、其処から瓦解。元が何であったのか判別出来ない石材の瓦礫となって、ヘイトの足元に堆積する。

「オレは、鉄の腕を装備した。奴らの心臓を抉る為に。オレは、オレの復讐心を繋ぎ止める力を手に入れた。この身体が砕け散るまで、オレの復讐心を絶対に忘れない為に!!」

 五人によって奪われたヘイトの両腕は、勿論生身の腕ではない。
彼の腕は、鉄によって作られた義腕であり、彼はこれを『ゼスモス』と呼ばれる超能力を以って、まさに己の腕のように操るのである。
ドス黒く燃え上がる太陽の様な復讐心、岩盤すら破壊する腕力、砕かれようと替えの利く鉄の腕。これらを用い、ヘイトは、己の復讐を果たそうとしていた。
五人の内四人は、既にヘイトは仕留めている。後一人。自分が妻子を失った原因ともなった、『進化』の名を冠する男は、未だ生き残っている。
……いや、生き残っているだけならば、まだ良い。あの男は、己が医療用に開発・研究していたナノマシンを、世界中に散布し、
地球上の人類の殆どを死滅すらさせてしまった、まさに神を騙る愚か者にまで成り下がった。

 あの男――プログレスが、神を騙っているから、憤っているのではない。人類の殆どを殺戮した、その非人道的な行いに激怒しているのではない。
ヘイトの怒りの源泉は、いつだって、一つ。妻子を奪われたから。この一点のみに他ならない。この一点の事実のみで、ヘイトは、プログレスを地の果てまで追い詰める、
復讐の鬼に我が身を貶めさせる事が出来る。魂の一かけらすら残さない復讐の焔に永劫焼かれ続ける選択肢を、躊躇いなく選ぶ事が出来る。
ゼスモスによって操作される鉄の腕を、プログレスの頭に、胴体に、股間に叩き込むイメージをヘイトは思い描く。そしてその後、か弱く拍動する心臓を、抉り取る様子を、脳裏に描く。

「オレは、此処で死ぬ訳には行かない。全ての願いが叶うと言う聖杯も、オレにとってはもう要らないんだ。ただ、プログレスの奴を殺せれば、オレはそれで良い」

「要らないの? 聖杯。欲がないね。嫁さんと、子供を蘇らせるとかでも、良いんじゃない?」

「……オレも、最初は、それを考えた。」

 「だが」、と言葉を区切るヘイト。

「それでは駄目だ。オレは、オレから全てを奪った五人を殺す。その為だけに、今まで生きて来た。今更、他の生き方は、選べない。プログレスの奴を、この手で殺す。聖杯は、俺が元の世界に戻る為の道具に過ぎないッ」


671 : Hate&Avenger ◆z1xMaBakRA :2017/07/27(木) 00:17:22 sHxFqlzs0
 自分がこうして、ナノマシン散布によって荒廃を極める前の日本を連想させるような街にいる間、あの男がのうのうと支配者面して生きている。 
その事実を認識する度に、ヘイトの喉は旱魃でも起こった様に乾いて行き、頭蓋の中身が煮えたくるような怒りで支配される。
オレはお前に全てを奪われた。だから、オレはお前の全てを奪う。それが、ヘイトの行動理念だ。当然、聖杯でプログレスに直接死を与える事も出来るだろう。
だが、それは許さない。あの男は、直接自らの手で殺さねば腹の虫が収まらない。だから、こんな所――冬木市――でいつまでも燻っていられない。直ちに、元の世界に戻らねばならないのだ。

「……あんたがあたしを呼べた理由、解ったよ」

「何だ」

「あんた、あたしに似てるんだ」

 女は、空を仰ぎ見た。満点の星々が、昏黒のビロードに鏤められたような、見事な夜空。
それを、彼女は微笑みながら見上げている。その様子は、ヘイトにも見覚えがある。妻であったヒロコが、ユミに対して向けていた、慈母の笑み。
目の前の恐ろしい、アヴェンジャーのサーヴァントは、こんな笑みも出来たのか、と。彼は素直に驚いていた。

「月こそ違ったけどさ、こんな夜だった。夫を亡くして一月経った、満月の夜。あいつらはやって来たんだ。あたし達が代々守り抜いて来た、魂その物とも言うべき、ブリタニアの土地と民を寄越せってさ」

 言葉が、後の方になるにつれ、女性の言葉に、怒りの灯火がポツポツと灯って行くのを、ヘイトは見逃さなかった。

「断ったよ。当然ね。んで、後の仕打ちが、あたしの尊厳をズタズタにするような嘲笑と侮蔑。財産どころか家族同然だった大切な牛馬の略奪。男の民の虐殺。そして……あたしの愛する娘を、犯して、さ!!」

 口にする内に、耐え切れなくなったか、彼女は、懐に差していた剣を引き抜き、それを地面に突き刺した。
ズンッ、と言う音が響くと同時に、ヘイトの所まで地面が緩く揺れた。どれ程の膂力を以って、この女は剣を地に突き立てたのか。
女性にしては背が高いとは言え、彼女の見た目は到底荒事には適さない、柔らかな女性美の結晶の様なそれ。果たしてそんな彼女の何処に、此処までの腕力があるのか。
……或いは、とヘイトは考える。この腕力は、彼女の有する憎悪と復讐心が織りなす、奇跡のような物なのかも知れない。

「辛いよね。家族や仲間を殺されるってのはさ。よく解るよ、あたし。アンタの気持ち。嘘じゃない。あたしも昔、あんたと同じで、あの餓えた狼共よりも節操のない野蛮な国(ローマ)を滅ぼさんが為に、生きてた時代があったからさ」

 ふぅ、と息を吐き、女性は言葉を紡いで行く。怒りに支配されている己の心を落ち着かせるべく、自分の心に言い聞かせるように。

「自分の身体や地位を滅茶苦茶にされた程度じゃ、人間、此処まで猛り狂えない。それらを含めた全てを汚されて初めて、人は、復讐者に身を堕とせるんだと思う。マスターは妻子を奪われて。あたしは、娘達を凌辱され、民を虐殺されて。あはは、奪われたものまでそっくりじゃない、あたし達」

「……そう、だな」

 所在無く、ヘイトは答える。
目の前のサーヴァントの真名、ヘイトは一応ではあるが知っていた。詳しく知っていた訳じゃない。
精々が、聞きかじりのそれである。ヴィクトリア、或いは、英語圏において勝利を意味する英単語、Victoryの語源ともなった女性。
そして、ネロ帝が皇帝であった時勢のローマ帝国に全てを奪われ、復讐の道を歩んだとされる、勇ましき女王。

「マスターの心意気が本物だったからさ、あたしも思い出しちゃったよ。狂おしいまで、ローマへの思い……。世界を支配する帝国面した、この世で最も愚かで、恐ろしい、悪魔の国の事をさ」

 今まで突き刺していた剣を引き抜き、胸の前までそれを持って行ってから、彼女は更に口にする。

「良いよ、ヘイト。貴方の復讐の為の露払いに、あたしは貴方の眼前の敵を我が戦車で蹂躙する事を誓おう。だけど貴方も、誓うんだ。ローマを名乗る悪しき竜(ドラゴン)を葬る為に、あたしに力を貸してくれる、と」

「誓おう。女王『ブーディカ』。俺と同じく、燃え盛る復讐の炎を心に宿す者よ」

「良い返事です、戦士ヘイト。私と同じく、復讐を遂げる事でしか己はないと思っている者よ」

 生まれた時代も、己の境遇も、性別すら違う二人だが、彼らは確かに見ていた。
骨すら残さず焼き尽くさんばかりの黒/薔薇色の焔が、確かに己の身体を覆うように燃え盛っているイメージを。
そして、その焔に、いつの日か焼き尽くされるだろうと言う未来すらも、その焔の中に、二人は見ていたのであった。


672 : Hate&Avenger ◆z1xMaBakRA :2017/07/27(木) 00:17:45 sHxFqlzs0




【クラス】アヴェンジャー
【真名】ブーディカ
【出典】史実(ブリタニア:?〜60年?)
【性別】女性
【身長・体重】174cm、62kg
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力:A 耐久:E 敏捷:C 魔力:B 幸運:D 宝具:A+

【クラス別スキル】

復讐者:A+
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの活動魔力へと変換される。

忘却補正:B
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。

自己回復(魔力):B
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。毎ターン微量ながら魔力を回復し続ける。

【固有スキル】

鋼鉄の決意:B+++
負けなし、無敵、世界最強の国家としての地位を欲しいままにしていたローマを相手に、不退転の決意を秘めて反旗を翻し。
復讐心を糧に彼らに対し報復を続けて来た、鋼の精神と行動力とがスキルとなったもの。痛覚の完全遮断、衝撃に屈さぬ精神と身体を誇る様になる。
複合スキルであり、勇猛スキルと冷静沈着スキルの効果も含む。

戦闘続行:A+
往生際が悪い。霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。
不屈の闘志で強大なローマ帝国軍を戦い続けたライダーの逸話がスキル化したもの。アヴェンジャーとしての召喚の為、ライダークラスの時のそれよりランクが高い。

魔力放出(怒炎):B
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、放出させる事で、攻撃力と防御力を強化させる。スキルを使う度に魔力を消費する。
ライダーの魔力の放出形態は炎であり、更にアヴェンジャークラスとしての特性の為か、その炎には、直撃するだけで凄まじいまでのスリップダメージが負うようになっている。

アンドラスタの加護:C
勝利の女神アンドラスタによって与えられた加護。集団戦闘の際、ブーディカとその仲間の全判定にプラス補正がかかる。
特に防御のための戦闘で最大の効果を発揮する筈だったが、アヴェンジャークラスでの召喚の為ランクが下がっている。

女神への誓い:B
古代ブリタニアの勝利の女神アンドラスタへの誓い。
勝利すべき仇、と定めた相手への攻撃にプラス補正がかかる。ブーディカの場合、ローマに属する相手に対してのみ補正が働く。ローマ特攻。

【宝具】
『約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:2〜40 最大捕捉:50人
恐るべき風貌をした悪霊と、巨大な猟犬によって牽かれる、燃え盛る巨大な戦車。
ブリタニア守護の象徴であり、ライダークラスで召喚された場合は、高い耐久力を誇るだけでなく、真名解放と同時に戦車が出現して、ブーディカとその仲間を守る、
と言う機能を持った、防御能力に特化した宝具であった。だが、アヴェンジャーでの召喚により、その性質が反転。
ケルトの神々の加護を防御や『盾』として機能させるのではなく、突進や蹂躙と言った『攻撃』に特化してしまっている。
この戦車自体が、アヴェンジャーと同ランクの魔力放出(怒炎)スキルを保有しており、これを利用した突進及び、高所飛行からの爆撃など、その威力は極めて高い。

『約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1人
自らと同じ「勝利」の名を冠する片手剣。だが、決して星の聖剣ではなく、勝利も約束されない。完全ならざる願いの剣。
ライダークラスでは、小ぶりな魔力塊を撃ち出す程度の宝具だったが、アヴェンジャーでの召喚により、極めて魔力塊が大降りになっている。
サーヴァントですら直撃を貰えば膝を折る程の一撃だが、連発する力に弱い点が弱点。この力は真名解放しなくても発動可能。 真名解放すると、一度に魔力塊を複数連射出来るが、その分消費も増す。


673 : Hate&Avenger ◆z1xMaBakRA :2017/07/27(木) 00:18:07 sHxFqlzs0
『七つの頸の、竜を討て(ヴィクトーリア・ワイルドハント)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:10〜50 最大補足:50〜200
死後、妖魔や悪霊、妖精、妖怪、精霊、魔女、死者達を率いる恐るべき行進、ワイルドハントの首領として、今もブリテンの地を闊歩していると言う逸話の具現。
己の魔力を用いて現世に、狂奔状態にある上記の存在達を召喚、召喚した傍から彼らを怒炎で炎上させ、それを全方位に突進させる、特攻宝具。神風。
また、この宝具を発動中は、魔力放出(怒炎)のスキルランクはA++ランクに修正。この状態のライダーは、常時怒りの炎を放出している状態にあり、
周囲に存在する生命体や建造物を残さず焼き滅ぼす。この時の怒炎は対象を燃やし尽くす呪いであり、物理的な消火は不可能な上、神秘による消火ですら著しく困難。
この状態で、約束されざる守護の車輪を使用する事も出来、この時に行う事が可能な、炎を撒き散らしながら突き進み、進路上の万物を焼き滅ぼす、
殲滅走法こそがこの宝具の神髄。勿論魔力消費量は半端なものではないが、憎悪を向けられれば向けられる程強くなるアヴェンジャーの性質上、痛手とは言い難い。

【weapon】

【解説】

詳細は原作と同じ。此処では当クラスのブーディカについて説明する。
このブーディカは、ローマの暴虐行為によって自分や娘達を凌辱され、更に民を殺された後の、復讐に生きた時の時期で召喚されている。
アヴェンジャーではあるがオルタではないのは、この復讐に身を捧げ、ローマに対して悍ましい暴虐や虐殺を働いていたブーディカもまた、彼女の偽らざる側面であるから。
このクラスで召喚されたブーディカは、ライダークラスの時とは違い特に攻撃に特化した性能で召喚され、防御と言う概念を完全に捨てきった性能になる。
相手を徹底的に殺し、滅ぼす事に長けており、ライダークラスのブーディカが得意とする自軍及びマスターへのサポート能力は殆どない。
彼女もまた史実上に名高い、復讐者の象徴のような存在だが、彼女をこのクラスで召喚する事は、英霊の座に登録され、自己を顧みる時間を与えられた今となっては、
かなり困難に近い。だが、マスターであるヘイトの、常軌を逸した復讐への渇望心が、彼女をこのクラスで召喚するに至ってしまった。
ライダーのクラスで召喚された時とは違い、この姿のブーディカは苛烈な女戦士のそれ。女子供、老人であろうとも、敵対するとなれば容赦なく殺害する、
と言うローマの敵対者、恐るべき殺戮者としての側面が非常に濃く強調されている。だが、根っこの部分はブーディカであり、そうならざるを得ない自分について、
酷く嫌悪している。聖杯に掛ける願いは、ローマと言う国家をなかった事にする、と言う恐るべきもの。つまりは、FGOにおける二章でレフ・ライノールが目論んだ企みとは方法論が違うとはいえ、人理の焼却の一端を担おうとしている。

【特徴】

水に濡れた薔薇を思わせる程艶やかな、長く伸ばした赤い後ろ髪の女性。顔付きと身体つきは、FGOと同じ。
ライダーの時とは違い、その顔つきは荒み、やさぐれた印象と毒がある。SM嬢のようなボンテージファッションである事が差異。
ただ、こんな服装でも、原作の第一再臨前の姿よりも露出度は少なかったりする

【聖杯にかける願い】

ローマをなかった事にする。




【マスター】

ヘイト@Dämons(ダイモンズ)

【マスターとしての願い】

元の世界へ帰還、プログレスを殺す。

【weapon】

鉄の腕:
両腕を破壊されたヘイトに装着されている、金属製の義腕。ベッケル博士が開発した。
鉄、と言うのは通称であり、材質には鉄以上の強度を持つ特殊合金が使用されている。
腕を動かすための動力や機構は一切内蔵されておらず、ゼスモスで動かす事を前提にデザインされている。
普段は鉄の腕を覆うような、人間の腕そっくりの被り物を被らせる事で、金属部分を露出させて目立たせないようにしている。
現在ヘイトが装備している鉄の腕は、従来の腕としての機能の他、ナノテク技術も織り込まれており、右前腕部にはブレードが、左にはシールドが収納され、
戦闘時はこれらをとっさに展開して、より有効な攻撃、防御をこなす事が出来る。ただし収納部は精密な機械であるため、衝撃で破損すれば使用不能になる。
現在ヘイトは、特殊なアタッシュケースにこれらの腕を3セット隠し持っている。


674 : Hate&Avenger ◆z1xMaBakRA :2017/07/27(木) 00:19:05 sHxFqlzs0

【能力・技能】

ゼスモス:
念動力の一種。ベッケル博士が発見・提唱した。ベッケル曰く繋ぎ止める力。ゼスモスは過酷な訓練によって習得が可能であり、
訓練をする者は通常のサウナ以上の高温多湿の部屋に入れられ、椅子に体を固定された上で、目の前に水の入ったコップを置かれる。
コップは四肢のうち失った部位でなら届く範囲に置かれ、残る部位からは届かないようになっている。
コップを取ろうと足掻いても当然届かず、その状況がしばらく続くと精神的・肉体的苦痛から失神する。
失神ののちは部屋から出されるが、最低限の点滴を与えられた後、また同じ部屋に戻される。この流れを繰り返し、発狂寸前になると『ゼスモス』に覚醒する。
ゼスモスは基本的に生物の失われた身体部位に失われた身体部位の形で発生し、力が及ぶ範囲の物を繋ぎ止め、ゼスモス使用者の意のままに動かすことが出来る。
その性質上、基本的に四肢に欠損がある者が発現させる力であり、この力を用いれば動力の無い義手・義足を本当の手足のように動かすのみならず、
生身の人間の関節の可動域を超えた動きや、人間の筋力では無し得ない強いパワーを発揮することもある。
また、これらの運動には熱エネルギーが発生しない。ゼスモスは身体と直接物体を接合させた時に強い力を発揮しやすい。
また、欠損部位の形をした物体以外を繋ぎ止めることも可能とするが、ゼスモスの力は欠損部位とほぼ同じ形で発生するため、
欠損部位の形(液体や鎖など欠損部位の形へと変形が容易な物体も含む)以外の物体に対しては基本的に身体とその物体を繋ぎ止めるだけに留まる。
しかし、強大なゼスモスは時に身体から離れた場所にある物も繋ぎ止め、さらには手足の形をしていない物を手足の形に引き剥がし変形させるまでの力で「繋ぎ止める」ことも可能である。

【人物背景】
 
本名は砌斌兵斗(さいもん へいと)。かつての親友5人に妻子と両腕を奪われ、その復讐に臨む。
念動力の一種である「ゼスモス」を習得しており、『ゼスモス』で操る事の出来る金属製の義腕を持つ。
元はナノテクノロジーのスペシャリストであり、ロゴスディア社で医療目的の研究開発を行っていた。
しかし、社の上層部が医療から軍事目的へのナノテクノロジーの転用を始め、それが見過ごせず裏切り行為を働いてしまう。
その報復として、親友たち5人に自身の両腕と、最愛の妻ヒロコと娘ユミの命を奪われた。自身は瀕死の重傷を負ったものの、ベッケル博士に保護され一命を取り留める。
復讐のために博士による訓練のもと「ゼスモス」を習得。さらに『鉄の腕』を得、5人を殺すために旅立つ。

原作11巻、プログレスの散布したナノマシンで地球が荒廃した後の時間軸から参戦

【方針】

元の世界に帰る事を優先。邪魔をする者は、殺す


675 : Hate&Avenger ◆z1xMaBakRA :2017/07/27(木) 00:19:15 sHxFqlzs0
投下を終了します


676 : 名無しさん :2017/07/27(木) 00:27:19 WHKUIR3Y0
投下します


677 : 名無しさん :2017/07/27(木) 00:27:35 WHKUIR3Y0
揺れるカーテンの隙間から、茜色の夕日が差す。慣れ親しんだ思い出の場所、嘗ての教室にそっくりではあるのだが。
窓から見下ろす街の景色はまったく見知らぬものであるし、何よりも。自分は当に消滅したはずであった。
セレクターバトル―――――記憶を盾に戦いを共用される悪趣味な戦争。そこで自分は"彼女"を助けようとして、負けて、消えた。
青いジャージを纏うさわやかな風貌の少年、"白井翔平"は教室の柱にもたれて考える。記憶をたどっても、最も新しい記憶はあの時のものしかない。

何故自分が生きているのか。ここは何処だ。そもそも本当に自分は生きているのかだとか、疑問は耐えないけれど一番はまず。

「分かったかしら。
 とにかく、この聖杯戦争に勝てば何でも願いがかなうの。」

と、聖杯戦争とやらについて語っているこの少女は何者なのか。
胸元の大きく開いた、青い軽装のドレスを纏いその雰囲気は明らかに教室に合っていない。
ブロンドヘアーを風に揺らして凛と。まるで絵画のようによく出来た養子である。
余りの混乱に話がろくに頭に入っていない。確か、聖杯を勝ち取るための従者"サーヴァント"とでも言っていたような。
セレクターバトルにおけるルリグのようなものだろうか――――と、そこまで考えて。

「…………無い!?」

ポケット、鞄、どこを漁ってもない。有る筈のカード、居るはずの彼女が居ない。
ドーナ。セレクターバトルのパートナーであり、カードの中の少女。居るのが当たり前の存在だったからだろうか、居ないと分かると急に心細くなる。
一応当然ではあるのだろうか。自分はバトルの敗者であり、戦う資格を剥奪されたのだとすれば。
だが、それでも

「あいつ、こんな時に…………」

そう愚痴らずには居られなかった。

「言ったじゃない。
 何を探しているのか分からないけれど、ここは貴方が居た世界とは違う世界。
 きっと置いてきてしまったのね。」

「違う?
 どういうことだよ………えっと、」

「"セイバー"
 ちゃんと名乗ったのだけど。聞いてなかったのね。」

はぁ、とため息をついた彼女は改めて語りだす。

-------------------------------------------------------

聖杯戦争のルール、英霊の存在。一通り語り終えた少女は一歩踏み出し、距離を詰めて。

「もう一度言うわ。
 この聖杯戦争に勝てば、なんだって願いが叶うの。」

次は決して逃がさない、そう言わんばかりに。二人の距離は零、少女はまっすぐに彼を見上げて。
呼吸の音すら、鼓動の音すら聞き逃せない距離。肌より漏れる熱すら感じるのだろう。

「欲しいものがあるでしょう?したいことがあるでしょう?」

項垂れた彼の耳に、唇を近づけて、囁く。

少年はただ黙って、囁かれる言葉を受け入れていた。

「勝たせてあげるわ――――だから、ね。
 私と、やろう?」

甘く、甘く、囁いて。



「俺は―――――――――――」


678 : 決意/少年と騎士 :2017/07/27(木) 00:29:20 WHKUIR3Y0






「――――――降りる。
 こんな戦い、やらない方がいい。」

返ってきた言葉の意味が彼女には、デオン・ド・ボーモンには心底分からなかった。
万能の願望器を前にして、戦いを降りるとはどういうことなのだろう。

「戦うのが怖い?それなら心配する必要は無いわ。
 戦うのは私、貴方はただ魔力を……」

「違う。」

「戦争といっても、必ずしも殺し合いじゃないの。ただ相手の英霊を戦闘不能にすれば…………」

「それも違うんだ。」

なら何だと言いかけた口は、酷く沈んだ少年の顔を見て閉じる。

「俺にはもう無いんだ。願い事も、守りたい物もさ。
 もう何も無いんだよ。」

彼が取り出した携帯電話、その画面に映されているのはとある少女の写真。
黒髪の、明るい雰囲気の少女。それを酷く暗い目で眺めていた。

「セレクターバトルって言うのがあってさ。
 俺は前の世界でも戦いに巻き込まれたんだ。
 その戦いには………好きな、女の子も巻き込まれてて。何とか守ってやろうと思ってたんだけど、駄目で。
 だからもう、俺には何も無いんだよ。」

それを聞いた少女の顔もまた沈む。まるで、少年と共に憂いて居るよう。
そのままゆっくりと、彼の首に手を回す。そのまま、抱きしめるように腕を寄せて―――――

「――――――――――――がっ…………」

少年から漏れる、文字通り声にならない声。首を絞められる鶏のような、そんな風に形容できるその声は

「お前、なん、で………………」

「ちゃんとついてるのかな、って思っちゃったのよ。」

股間を押さえてうずくまる少年を、膝を上げた体制のまま少女があざ笑う。

「アレだけしても反応ないし、女々しいし。
 そんなんじゃあどうせ童貞でしょう?そもそもついてても意味無かったかしら?」

嘗て聞き覚えの有る罵倒を食らっても何も言い返せない。その痛みは実質内臓を直接殴られたに等しいらしい。無理も無いだろう。
対して少女は口角を上げたまま、膝を曲げて少年と目線を合わせる。

「何にも無いのは私も同じなのよ。」

そうつぶやけば、いつの間にか笑みは剥がれていて。
真っ直ぐに、彼と視線を合わせる。

「私だって酷いものよ。
 仕えた主には弄ばれて、私に同情してくれた王妃はギロチンに送られた。
 それでも私は生きたわ。見世物にされたって私は生きた。
 だって、悔しかったから!」

自分でも驚くほどに、少女は感情的になっていた。
他人とは、手駒以外の何者でもなかったはずだ。少なくとも、スパイであったデオンはその通りに行動し、それで成功し続けた。
守るものが無くなったと語る少年に、嘗ての自分を重ねたのかもしれない。そして、諦めたような顔をする少年にも自分を重ねて。
言ってしまえば自己嫌悪だろうか。デオンはプライドが高い人物であり、だからこそ見ていられなかったのだろう。

「貴方は何時までそんな顔しているつもりなのかしら。
 何度でも言ってあげる。"願いが叶う"の。"取り戻せる"の。
 私には絶対に取り返したいものがある。貴方もそうでしょう?」

未だ蹲ったままの少年に手を差し伸べる。

「…………俺、だって!!!
 今度こそ森川を守ってやりたい!!」



そして少年は差し伸べられた手を握る。



「良いわ。これなら貴方をこう呼べる―――――"マスター"
 これより私、デオン・ド・ボーモンは貴方に仕えるシュヴァリエとなる。
 さぁ、存分に振るいなさい。」


679 : 決意/少年と騎士 :2017/07/27(木) 00:32:28 WHKUIR3Y0
【真名】シャルル・ジュヌヴィエーヴ・ルイ・オーギュスト・アンドレ・ティモテ・デオン・ド・ボーモン
【クラス】セイバー
【出展】史実
【性別】男性
【性質】秩序・中庸
【身体】157cm/45kg
【ステータス】筋力A 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具B
【スキル】
対魔力 C

騎乗 C

心眼(真) B
修行・鍛錬によって培った洞察力。窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
他国でスパイとして活動し続けた経験から、デオンはこのスキルを有する。
今回の厳戒では騎士としての側面が強調されたデオンよりも、スパイとしての側面が強調されているため、スパイ活動中の様々な逸話に補強されランクが向上している。

麗しの風貌(B)
固有スキル。服装と相まって、性別を特定し難い美しさを(姿形ではなく)雰囲気で有している。
男性にも女性にも交渉時の判定にプラス補正。また、特定の性別を対象とした効果を無視する。
上記と同様に理由により、ワンランク向上している。
【宝具】

『絢爛纏えど騎士を討ち/ローズ・ベルタン』
ランク:B 種別:対自宝具 最大捕捉:1人
ドレスを纏ったまま、当時ロンドン最強の騎士を打ち破った逸話からなる、各部に薔薇の意匠が施されたドレスの宝具。
普段纏うドレスは青色に対し、このドレスは漆黒。常時展開されているものではなく、意図した展開が必要となる。
華が舞うとすら称された、卓越した剣技を振るえばドレスの薔薇より花びらが舞い、周囲に幻惑とステータスダウンを振舞う。
そして最強の騎士を貫いた剣はあらゆる鎧を、概念的なものであろうと"防御"を貫通する。
また、この逸話こそはデオンの武勲の、剣士としての勝利の最たるであろう。即ちこのドレスを着ている限り、彼女は"敗北"をしない。
迎える敗北の形が死であろうと、もしくは他人の死であろうと、彼女がドレスを纏う限りは起こりえない。
//ドレスが破壊されぬ限りは負けない+デバフ+防御貫通

『華に生きれど穢わしき/デオン・ド・ボーモン』
ランク:EX 種別:対伝宝具 最大捕捉:際限なし
麗しき女装のスパイとして持て囃され、フランスに尽くしながらも晩年には醜悪な怪物と揶揄され、自慢の剣技すらも見世物とされた彼女の生涯。そこから"成ってしまった"宝具。
彼が死ぬ切欠を作った見世物の決闘場を投影する固有結界であり、その中ではどの英霊も彼のように、"醜いと嘲笑される"のだ。
固有結界内部に居る英霊はその史実に伝わる最も醜い姿に書き換えられ、信仰も嘲笑へと挿げ替えられる。
例えば、"アルトリア・ペンドラゴン"がこの固有結界内部に踏み入れば、妻の不貞を許し、部下に裏切られ殺された無能な王としての姿をとり、宝具を補強する信仰をそぎ落とされる。
//大幅デバフ

【概要】
近世フランスにおける、麗しき女装のスパイ。
人理崩壊時に召還されたデオンとは異なり、スパイとしての側面が強調された別のデオン。
但し暗殺の逸話は持たず、クラス適正そのものは剣士が色濃い。そのため今回の現界においてもセイバーである。
スパイとしてのデオンは、はっきり言ってしまえば"性格が悪い"。
任務は必ず遂行し、間違いなく有能ではあったのだが、周囲の人間を利用するべきとして扱っており、友人と呼べる人間は一切居なかった。
またスパイ活動の後ロンドンへ外交官として派遣された時には、自身が持つ機密文書を盾に贅沢極まりない生活を送っており、国王ですら苦言を呈する程であったと言う。

だが、王がルイ16世へ変わってからの人生は悲惨の一言に尽きる。
フランスを離れていたうちに、デオンは男なのか女なのかという賭けが大流行することとなる。くだらない賭けは過熱し、利益を得るため強引にデオンの性別を確定させようとする輩すら存在した。
そして彼の性別は政治問題にまで発展し、結果。彼は"今後一切女性の服のみを着る"条件を無理やり飲まされ、フランスに帰ったのだ。
50を超えたデオンは最早麗しき女装騎士などではなく、当時の新聞では"ドレスを着たヘラクレス"など、様々な罵声を浴びせられた。
文書を抵当に多額の借金をしていたデオンは、返済の為にまたロンドンへ向かう。当然ながらスパイの任務はなく、収入のなかった彼は自信の剣技を見世物にする決闘をするしかなかった。当然、女装したままで。
そしてロンドンでの生活もなんとか起動に乗りかけた時、フランス革命が勃発し財産を没収されてしまう。
性格はどうあれど、彼がフランスを想う気持ちは本物だった。嘗てスパイに出るときは、その先で何があってもフランスは助けられないと言われた上で旅立ち、王がルイ16世になっても戦争へ志願するほどだった。
そんな彼は、最終的にフランスへ帰ることも出来ず、決闘で出来た傷によりその障害を閉じたのである。


680 : 決意/少年と騎士 :2017/07/27(木) 00:40:37 WHKUIR3Y0
【マスター】
白井翔平@Lostorage incited Wixoss

【能力・技能】
なし

【人物背景】
本編で消滅直後から参戦
セレクターバトルと呼ばれる、記憶をかけたバトルロワイアルに参加していた高校生。
作中でもイケメンと言われており、容姿自体は整っている。倫理観も一般的なものを持つ常人。
作中では惚れた少女をバトルから救い出すために奔走するが、自分も相手も負ければ存在が消滅するとなったとき、勝ちを譲り自分が消えてしまう。
このように非常に優しく、良くも悪くも真っ直ぐな性格。
今回の戦いでは今度こそ少女を助けるために戦うと決めたが、本編では人を傷つけてまでその願いを貫けなかった。
此度の聖杯戦争でも、いざ自分が誰かを傷つけなければならないとき、その決意は揺らいでしまうかもしれない。
童貞君らしい。


【マスターとしての願い】
元の世界に返り、今度こそ森川千夏を助ける


681 : 決意/少年と騎士 :2017/07/27(木) 00:41:01 WHKUIR3Y0
投下終了します


682 : ◆z1xMaBakRA :2017/07/28(金) 23:57:10 2CWsXldo0
感想を透過します(物理無効)(アラハバキ)

>>カルマ/supernova
申し訳ないがトンデモ科学と民明書房の流れを汲む荒唐無稽の解説が支配する銃夢世界とFate世界の科学力を比較するのはNG。
ノヴァの、作中屈指の天才的知能と、優れた科学力をもっていながら、運命的かつ神秘的な業にも深い理解をもっている、と言うキャラクターがよく書けていますね。
そして、そんなキャラクターの下に現れたのが、Fate世界でも魔境のインドのアスラ一族、メーガナーダ。
アスラ、もとい鬼種の魔持ちとは思えない程理知的で穏やかな性格についての設定も、実に見事で納得の他ない。素晴らしい組み合わせだと思います。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>愛知らぬ哀しき獣よ
アヴェンジャーとして召喚されたギシンゲの狼の、型月的な説得力も見事なら、獣の恨みの集大成と言う設定も素晴らしい。
人語も通じずコミュニケーションも取れず、人に殺され続けた来た獣であり、そんなサーヴァントであるから、少し手綱の操り方を間違えれば、
マスターであるヴィクトリカですら食い殺されかねない、と言う危うさも、この主従の異様さが際立たせるのに買っている。
総じて、アヴェンジャーと言うエクストラクラスを召喚した、と言う事の特異性を表現出来ていた、非常に面白いSSであると思いました。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>God Save The Queen
予想外の角度からの版権キャラに、予想外としか言いようのないサーヴァント、と言う人選の奇抜さには感服の他ありません。
聖杯戦争が異常な事態であると認識しつつも、喧嘩自慢の不良としての性分を捨てきれない前田と、そんな彼に聖杯戦争におけるキャスタークラスのセオリーを説明、
暗に自分は戦えないと言う事を含ませながらもその理を彼に理解させようとする卑弥呼の掛け合いが面白い。何か強気な不夜城のキャスターっぽくてすき。
神社に住みついている稲荷の女性を叩き起こしてパシらせるなど、全体的にコミカルなやり取りや描写の光る、そんなSSで楽しませて頂きました。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>悪党達の栄光
組み合わせからして、「あ、こいつらは悪い奴の上に企画中の汚れ仕事担当だな」、と思せる程の説得力は実に凄まじい物がある。
吹き替えの映画を思わせるような軽妙なカポネの語り口と、真面目な性格が思い描けるリゾットの会話の対比構造は、よく出来ていると思いました。
根っこの部分は兎も角、同じ悪党どうし、どのようにして聖杯戦争を勝ち進めるのか、と言う事については意見の一致を見ている二人ですが、
カポネも自覚している通りこの控えめの性能で、どのような番狂わせを見せてくれるのか。そんな期待で胸を躍らせるようなSSでしたね。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>飢えた猟犬は英霊たちを求めて円環の果てまで……
恵まれているにも程がある恵体の持ち主とは思えない、ガタイとは真逆のキャラクター性の意外性が王道っぽくて好みですね。
クトゥルフ出自の邪神の系譜に連なるサーヴァント特有の、親しみとは余り無縁な、近寄りがたそうな雰囲気がそれ程感じられない辺りが、新鮮で面白いなぁと。
そして、そんなサーヴァントを召喚したマスターと言うのが、サーヴァントに負けず劣らずの、癖とアク、何よりも実戦的な強さを誇り、
不気味な外見のヴェルハディスが一瞬で降伏の意を示すシーンが、これまでのクトゥルフ系の候補話とは違うなぁ、と言う印象を自分に与え、印象深いSSだと感じました。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>れんげテング
れんげちゃん、それはカッツェくんより引いちゃいけないサーヴァントだよ……。
あんまりにも実装してしまうと本気で祟られてしまいかねないせいで、一生FGOに顔見せする事はないんだろうな、と言う筆頭、崇徳院が平気でポップしてしまう辺り、
亜種聖杯と言う企画の懐の深さと言うものを感じる次第で御座います。いつも通りのれんげの態度も良いんですが、すとくん呼びはまずいですよ!!
荒ぶる化生としての姿としての召喚の割に、大人しい性格で、れんげの事を邪険に扱っていない辺りに、疑似親子っぽいものを感じ取れて、恐ろしいながらも心温まる候補話と言う印象を受けた次第でございます。

ご投下の程、ありがとうございました!!


683 : ◆z1xMaBakRA :2017/07/28(金) 23:57:30 2CWsXldo0

>>月とて伏くろう
つい最近である21世紀まで生存して、写真が兎に角残っている偉人を、此処まで型月風にチューニング出来る技量に脱帽。
当然の歴史的真実であり教科書にも載っているぞ、と言わんばかりに堂々と、ガガーリンは宇宙進出の際に高次元生命体と戦いナントカ退けた、
と言ってのける辺りの思い切りの良さと、ガガーリン自体の宇宙服をややメタルヒーロー風にアレンジしたような外見もまた素敵。
とは言え、如何に世界中の誰もが偉人と認める人物とは言え、現代も現代のガガーリンが、宇宙飛行士と言う縁で繋がれたマスターと共にどう聖杯戦争を勝ち抜くのか。とても楽しみで、空想が捗る主従で御座いますね。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>Warship March
以前も言った気がしますが、美女が基本的に主流であるFateのサーヴァントにおいて、明白に身体或いは身体に欠点を持っている、と言う女性サーヴァントって、
個人的には結構珍しいなって思っていまして、このSSに出てくるイゼベルも、設定次第では如何とでも美女に盛れる筈なのに、敢えて老女の姿で、
と言う辺りに、凄い斬新な発想をなさるなぁと思った次第で感心致しました。キャラクターの神秘さも然る事ながら、原典に忠実な宝具や人物背景も良い。
サーヴァントとして召喚されてもおかしくないレ級の人となりの解釈も面白い上、二人のやり取りは宛ら祖母と娘のそれのようで、恐ろしいながらも不思議な愛嬌を感じさせる、面白いSSだったと考えました。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>Welcome to this crazy time
胸にある七つの傷……北斗の拳でも1・2を争う有名な悪役……このマスターはジードじゃないか!! まぁジャギでもジードでも、最初の一文字あってますし同じような物でしょう。
原作に於けるジャギのパーソナリティである小物さと、コンプレックスのない交ぜになったキャラクター性を見事に再現出来ているSSも見事なら、
読者がこいつに求めている役割である所の調子にのって有頂天の所を転がされる、と言うものを候補話の時点でノルマ達成していると言う優秀なSS。
とは言え、召喚したサーヴァントはジードには勿体ない程の超大物ライダー。兄であった世紀末覇者との共通点が多分に感じられるサーヴァントを宛がわれた、と言うのも何か運命的なものを感じずにはいられませんね。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>命燃やして輝け英雄! 戦争に勝つ為の戦争
何処か、FGOにおける土方歳三イズムを感じられるキャラクター性と、どちらかと言うと炎属性っぽさという共通項を感じるサーヴァントですが、いやはや凄い解釈ですね。
WW2で散った大日本帝国の、型月が解釈する所の英霊未満の軍人の『英霊』の霊基をブロークンファンタズムさせると言う設定もそうですが、
天照の直系であるところの天皇の為に戦った、故にそれを最大解放させると疑似太陽として顕現させる、と言う超ノーガード戦法的な解釈解説は見事としか言いようがない。
とは言え、バーサーカーとして召喚されたという事実に恥じず、この国を憂うがあまり、本来的には先ず許容出来ないような、地球を滅茶苦茶にすると言うマスターの願いを肯定すると言う船坂の在り方。この歪んだ旧態依然っぽさが、この主従に魅力的な歪みを与えていて良いなと思いました。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>Get Back
呼び出されたサーヴァントであるラクシュマナが、あらゆる点でFGOにおけるラーマとの対比になっている点が、考えられていて良いですね。
ラーマの為を思い、彼を補佐出来るようランサークラスで召喚される、と言う辺りに、ちょっとガチっぽいブラコンさが見え隠れしてて好き。
それにしても何よりも面白いのは、原作艦これじゃ酒飲み面白チャンネーであるところの隼鷹が、ヒャッハーも何も言わない所か、
お酒についても余り好む所じゃなくなった、と言う大胆なオリジナル解釈でしょうか。この大胆な解釈のされた隼鷹と、ラーマとシータを再開させたいと言うひたむきな願いをもつラクシュマナが、今後どう動くのか、楽しみになってきましたね。

ご投下の程、ありがとうございました!!

>>Hungry Ghost
此処まで生理的嫌悪感を前面に押し出した姿の怪物が、サーヴァントとして召喚される、と言うのは結構珍しい事何じゃないかなぁと思います。
ともすれば使い魔、或いはFGOにおけるエネミーとして出現するべき風貌をした存在がサーヴァント、と言うのも、違った意味で斬新ですね。
クトゥルフイズムを感じさせる、宇宙的恐怖を感じさせるイタクァとしての宝具や、風貌からは想像もつかない、何処か気さくな態度も面白い。
召喚したアニとはあらゆる点で性格も対極的ですが、巨人と言う奇縁で結ばれたこの主従は、聖杯戦争の舞台を大いに引っ掻き回すのにうってつけだと自分は感じました。

ご投下の程、ありがとうございました!!


684 : ◆A2923OYYmQ :2017/07/29(土) 21:29:32 wc7IhemU0
投下します


685 : Amantes Amentes :2017/07/29(土) 21:30:35 wc7IhemU0

「貴女の願いなんて知りません。私は誠君と一緒に居られればそれで良いんです。

黄昏時の冬木の港に係留されたヨットの上で、桂言葉は己がサーヴァントに言い放った。

生気の感じられない瞳。サーヴァントを確かに見つめながらもその実何も見つめていないと判る瞳。
サーヴァントと向かい合いながら、その意識はその胸に抱いたモノにしか向けられていない。

「だから放っておいてください。私を巻き込まないで下さい。戦いたいなら、どうか、御一人でどうぞ」

生気の感じられない黒瞳は、深淵へと通じる“穴”を思わせる。
然し、今の言葉の目を覗き込む者が居れば、深淵の底で燃えているものに気付くだろう。
燃えているものの名は『怒り』。
折角愛しい誠と二人きりになれたのに、こんな訳のわからない殺し合いに巻き込まれればて、心底からの怒りを抱いているのだ。

「どうしても私を巻き込むというのなら………!」

令呪を用いて自害させる。言葉として宣言せずとも、刹那のうちに世界にその意志は伝わった。

「貴女の仰っていることは心の底から出た正しい言葉………。けれど…私と貴女願いを同じくできる……………」

それまで沈黙していたサーヴァントが陰鬱な口調で口を開く。愛おしげな目線を言葉が抱いた“モノ”に向けながら。
その声を聞いて、言葉は漸く、全く見ようとしていなかった目の前の相手が、自分と同い年の少女だと認識した。
言葉の細い眉が吊り上がる。醜悪な嘘を吐いてまで、自分から誠を奪おうとした女の顔が脳裏に浮かぶ。
改めて相手を見てみれば、褐色の肌に言葉に劣らぬ長い艶やかな黒髪、顔立ちは頭部を覆う薄いヴェールの所為で良く分からない。
年不相応に実った二つの果実が目を惹くが、細くくびれた腰も相まって、脂の乗った尻が一際扇情的だ。
少女が身に纏っているのが七つの薄いヴェールだけという所為もあって、男どころか同性でも我を忘れそうな性的魅力に満ちていた。

「私と貴女が同じ願いを持てる……?そんな訳、無いじゃないですか。私は今、満たされています!
殺し合いをしてまで 願いを叶えようとしている、貴女とは、違うんです!!」

長い髪を振り乱して叫ぶ言葉。声に含まれた意思は“拒絶”。自分と誠との世界に入り込もうとするサーヴァントに対する絶対の拒絶。

「それに…誠君をそんなイヤラシイ眼見る人に、傍にいて欲しくありません!!」

眦を決して言葉は告げる。

「私はもう誰にも煩わされたくないんです!」

同性でも虜にできる、そんな少女を相手にしても全く変わらない言葉の態度。


686 : Amantes Amentes :2017/07/29(土) 21:31:50 wc7IhemU0
「すいません………。けれど……貴女は…その方を…深く愛されているのだと思うと……つい…好ましく思えて…………。
安心して下さい…貴女がそこまで慕う方なら……………さそ素晴らしい殿方なのでしょうが……私には他に…想う方がいます」

微笑む少女。ヴェールに遮られて朧にしか見えないが、男女を問わず 、鉄の心を持っていたとしても、心を奪われる。そんな少女を相手にしても言葉の態度は変わらない。

「そうですか……安心しました」

硬かった表情と言葉が多少柔らかくなった。

「皆がそんな風に、他の人の好きな人を獲ろうとしなければ良いのに」

「貴女は……本当に…その方を愛されているのですね…………」

驚きと感嘆を満面に讃えて、己がマスターを賞賛するサーヴァント。

「だからこそ…私と貴女の願いは重なる………」

言葉は柳眉を顰める。多少は気を許せるようになったが、この少女が口にしている事はさっぱり理解できない」
この少女が何を思って殺し合いに望むのか?この少女が抱く願いが自分を殺し合いに望ませるものなのか?

「私の願いは…この方を見ていただければ分かります………」

少女の眼前の空間が歪む。水面を割って現れる様に出現した銀の大皿。全体に施された巧妙精緻な細工はは、この大皿が極めて価値の高い至高の一品と見るもの全てに悟らせるだろう。
何処かの国の王が用いていたと言われても、当然の事と受け入れてしまうほどのものだった。
然し、人が見れば、皿ではなく、皿の上に乗ったモノにしか意識が行かないだろう。
皿の上に乗せられたものは、人の首。鮮血滴る生首が、空ろな眼差しを虚空に向けている。

「この方こそが…私が唯一無二の愛を捧げた方……。この大皿の上にある限り、腐敗することも無く永劫に私達は二人きり……………」

少女の放つ妖艶な気配が更に増す。理性が沸騰しそうな程の気配。

「けれども私を見て微笑むわけでも無く……語り掛ける訳でもなく………………」

言葉には何の影響も見られない。感極まった様に、誠を抱く両腕に力を込めただけ。

「この方に微笑んで貰いたい…………それが私の願い」

「あ…………」

言葉はl衝撃によろめいた。確かにそうだ、誠君とは二人きりになれた。けれどそれだけ、誠君は前の様に笑ってはくれないし、話しかけてもくれない」

「お解りいただけたでしょうか……私と貴女は…願いを同じくする事が…出来るという事が……………」

少女の言葉に、深く静かに頷く。確かにそうだ。自分とこの少女は同じ願いを持っている。
二人きりとは言え、相手は物言わぬ─────どころか視線すら動かぬ身。
幾ら抱きしめ、語りかけても、全ては虚しく響くのみ。
永劫の一人芝居、虚し過ぎるパントマイム、それを終わらせ、想い人と笑い合い、語り合うという願いが。

「確かに私達は同じですね……サロメさん」

「私……真名…名乗りました………?」

「いいえ、けれども、有名ですよ…貴女の素敵な愛のカタチは」

「私と…あの方の結びつきが……多くのひとに知られているなんて………嬉しいです」

サロメは柔らかく微笑んだ


687 : Amantes Amentes :2017/07/29(土) 21:32:45 wc7IhemU0
【クラス】
アサシン

【真名】
サロメ@新約聖書及びオスカー・ワイルドの戯曲。

【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:C+ 魔力:D 幸運:A+ 宝具:EX

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
気配遮断 E++
サーヴァントとしての気配を薄める
正面から対峙してもアサシンの気配は模糊として掴み辛い。

【保有スキル】
妖女(性):A++
生前のイメージによって、後に過去の在り方を捻じ曲げられた怪物。所有者は能力や姿が変貌してしまう。「無辜の怪物」とは似て非なるスキル。
その姿、立ち居振る舞い、果ては声や視線に至るまで性的な魅了効果を帯びる。
また、Bランクの天性の美の効果を発揮し、身体が傷つかない限り、アサシンがどのような状況にあろうとも『美しさ』を維持する。
妖女(性)スキルにより獲得したスキル。
素顔を晒せば消滅する。
精神力もしくは精神耐性系でしか無効化或いは減衰できない。
抵抗できなければ、敵と認識していても、性的な衝動をアサシンに対して抱く。
このランクになれば性別を問わず通じる。
アサシンを意識しない程に誰かを愛しているものには効果が無い。
素顔を晒すと消滅する。


被虐体質:A
集団戦闘において、敵の標的になる確率が増す。
マイナススキルのように思われがちだが、強固な守りを持つサーヴァントがこのスキルを持っていると優れた護衛役として機能する。
若干の防御値プラスも含まれる他、Aランクともなると更なる特殊効果が付き、攻撃側は攻めれば攻めるほど冷静さを欠き、ついにはこのスキルを持つ者の事しか考えられなくなるという。
妖女(性)との複合効果を発揮した場合。攻撃側は思考と精神の状態がCランク以上の『狂化』を発揮した場合と等しくなり、文字通り獣と化す。


死の舞踏(ダンス・マカブル):A
宝具から派生した戦闘技能。
直線の動きは一切なく、円運動のみで構成された優美華麗な死の舞。
己の五体と身体を覆うヴェールを用いて、打撃斬撃投げる絞める極めると自在に攻撃する。
このランクになると、攻撃を受ける側も舞踏の振り付けに従って動いているように見える程。
あくまでも舞踏の技術を舞踏に応用させている為、守勢に回ると脆い。


精神汚染:C
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。


688 : Amantes Amentes :2017/07/29(土) 21:34:40 wc7IhemU0
【宝具】

恋愛幻想組曲(ファンタズマゴリー・ロマンシア)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジをはっきりと認識できる距離にいる者全て。 最大補足:姿をはっきりと認識できる距離にいる者全て。

常時発動型宝具。
7枚のヴェールで覆われたアサシンの姿を見た者は、其処に理想の女性の姿を幻視する。
ランク相応の正体隠匿効果と諜報スキルを発揮し、妖女(性スキルの魅了効果を向上させる。
アサシンに対しての衆人のイメージ、“サロメ=美女”というものが宝具となったもの。
人はサロメに己が理想の美女を見る。
素顔を晒すと使用不能になる。


運命の女(ファム・ファタール)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ: をはっきりと認識できる距離にいる者全て。最大補足:姿をはっきりと認識できる距離にいる者全て。

嘗てヘロデ王の前で披露した、七つのヴェールを纏って行う舞踏。
妖艶な舞踏は見る者の理性を蕩けさせ、狂わせる。
そしてアサシンの歓心を買うべく、狂わされた意識がアサシンに最も相応しいものと認識する、血と死をアサシンに捧げるべく殺人を行いだす。
アサシンが誰かの命を望めば、自らの命も顧みずに対象を殺害しようとする。
伝説の再現たる宝具。



死を想え(メメント・モリ)
ランク: A++ 種別: 対人宝具 レンジ:1-3 最大補足:一人

アサシンの舞は、ヨカナーンの首が銀の皿に載る結果を齎した。
この逸話が世に広まり、語り継がれるうちに、サロメが舞うと人の首が落ちるという認識が広まった。
この認識を基にした概念宝具。
アサシンの舞は強力な断頭の概念を帯びている。それはもはや呪いと言って良い。
舞うアサシンに、直接或いは物体を介して触れれば一切の防御や護りを無効化して首が落ちる。
ただし、この宝具の効果は、アサシンが相手に抱く感情に左右される。
何の感情も抱いていなければ、接触のたびに首にダメージが蓄積する、
如何なる防御や耐久でも『首に』対するダメージを減衰しか出来ないといったものに留まる。
真に相手を愛おしいと思った時、アサシンの身体は断頭の呪いとなる。
こな時抱く愛おしさとは愛情ではなく、己の妖女としての呪いを跳ね除ける男への称賛の思いである。
この宝具を発動する為には、素顔を晒さねばならず、上記の二つの宝具とは併用できない。



皿上の愛しき預言者(ヨカナーン)
ランク: EX 種別: 人宝具 レンジ: ー 最大補足:自分自身

銀の大皿に載った預言者ヨカナーンの首。
この首の効果により、アサシンは罪人や罪に対する攻撃を大幅に削減する。
また、アサシンの幸運を大きく引き上げている。
土地や空間に対する汚染を浄化する機能も持つ。
銀の大皿は、上に載せたものを腐らせない効果を持つ。
現状、誠の首も載っている。


689 : Amantes Amentes :2017/07/29(土) 21:36:09 wc7IhemU0


【weapon】
身に纏う七つのヴェール。

【人物背景】
血の繋がらぬ王から好色な視線を向けられる、舞踊を好む王女サロメは、ある日地下牢に幽閉されていた預言者ヨカナーンと出逢い恋に落ちる。
王の怒りを買って獄に入れられた平民を愛するも受け入れてもらえず。
そもそもが王女と平民という身分の差もあり、絶対に叶わぬ恋にサロメの心は衰弱して行くゆく。
ヨカナーンへの想いを忘れようとするかの様に、サロメは舞踊に励む。
ヨカナーンへの想いが深まるのに比して、舞踏費やす時間は伸び、一心不乱に、鬼気迫るものとなっていった。
やがてサロメは比類無き舞い手となったが、ヨカナーンへ想いが通じるは無く、王の視線はますます耐え難いものとなる。
ヨカナーンは投獄されているとはいえ、いつ解放されるか解らない。
ヨカナーンが解放されてしまえば、もう二度とその姿を見ることはできず、王の家柄話ぢ石線に晒され続ける。
心神が衰弱しきったところへ、王が宴の際に舞い手を競わせ、最も優れた舞い手に望む褒賞を与えるという話を聞く。
その時サロメに悪魔が囁いた。

「想いが届かぬならば、殺して永劫に己の元にある様にすれば良い」

そしてサロメは王の前で“七つのヴェールの舞”を踊り、ヨカナーンの首を手に入れる。
これで永劫ヨカナーンは私のもの。そう思ったサロメだったが、表情もすら変えない生首相手に愛を囁き続ける事に、精神が更に壊れて行く。
その最後は狂死したとも、生首相手の狂態を見た王が殺したとも言われる。


実際には1世紀ごろに実在したとされる女性。
古代パレスチナの領主ヘロデ・アンティパスを義理の父に、その妃ヘロディアを実母にもつ。
新約聖書では王の前で舞を舞って、褒賞として何が欲しいかを訊かれた際に、母であるヘロディアに相談し、ヘロディアに言われた通りにヨカナーンの首を要求したという。
新約聖書では名が記されておらず、唯ヘロディアの娘とだけ称される。
また、ヨカナーンの死を欲したのはヘロディアであり、娘は母に言われるままにヨカナーンの首を要求しただけに過ぎない。

ワイルドの戯曲では、ヨカナーンに恋慕するも拒絶され、ヨカナーンを我がものとする為に、舞踏の褒章としてヨカナーンの首を要求した事になっている。
聖書と異なり、サロメ自身がヨカナーンの首を欲し、主体的に行動してヨカナーンに死をもたらしている。

露出の高い衣服を身に纏い、王の前で扇情的な舞を舞ってら褒賞として預言者ヨカナーンの首を求めたというインパクトの強さから、多くの創作活動の題材となった。

【方針】
聖杯を取る


【聖杯にかける願い】
ヨカナーンに笑いかけて欲しい。

【容姿・特徴】
褐色の肌に黒髪黒瞳、髪の長さは腰まである。
年の頃は十五、六。肉付きは年齢に比して薄い。
身に纏っているのは頭と両手足と胴と背中を覆う7枚の下が薄く透けて見えるヴェール。
容貌そのものは人混みに紛れたら分からなくなる程度。
無口かつ陰鬱で、一人で抱え込んで悩むタイプ。
暗い口調でボソボソと途切れ途切れに話す。


【星座のカード】
魚座


690 : Amantes Amentes :2017/07/29(土) 21:36:30 wc7IhemU0
【マスター】
桂言葉@School Days (アニメ版)


【能力・技能】
居合:
居合を嗜んでおり、地へ落ちる水滴を斬る事ができるほど。

感が異様に鋭く、世界が呼び鈴押す前に、世界の来訪に気付いた。

【weapon】
鋸。世界と誠の血に濡れている

【人物背景】
誕生日:一月四日。血液型:A型。身長:156.7cm。スリーサイズ:102-60-84cm。姓と誕生日の由来:桂太郎。
榊野学園1年4組。帰宅部。
おとなしくて引っ込み思案な性格、黒髪ロングの楚々とした佇まい、といった絵に描いたようなお嬢様キャラ。
趣味は読書、映画鑑賞(特にホラーととスプラッターが好き)。
スタイルと清楚でな美貌もあって、異性からからかわれる事が多かったために、軽度の男性恐怖症。
裕福な家庭に育ったお嬢様で、世間ずれしたところがあり、容姿と相まって同性からは嫌われている。
誠と付き合いだしてからはいじめられる様にもなった。
友人だと信じていた世界にこ、恋人だと思っていた誠を奪われ、澤永に押し倒され、精神がギリギリのところに、刹那が目の前で誠とキスをした事で精神が崩壊する。
(小説版では、包丁詰め込んだ鞄を持って刹那を殺しにいこうとしていた
その後自業自得と世界の発言で、誰からも相手にされなくなった誠が唯一自分を思い続けた言葉に縋った事で持ち直すも、直後に誠が世界に殺害され、完全に精神が崩壊。
誠の頭部を切断し、世界を学校の屋上に呼び出して殺害。
誠の頭部を抱いて、黄昏の海へ旅立っていった。



【方針】
聖杯を取る

【聖杯にかける願い】
誠君と以前の様に過ごしたい。

【参戦時期】
TV版終了後。


691 : ◆/bYd6.qYlA :2017/07/29(土) 21:37:17 wc7IhemU0
投下を終了します


692 : ◆A2923OYYmQ :2017/07/29(土) 21:38:48 wc7IhemU0
改めて投下を終了します


693 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:18:07 OO2gb3fk0
投下します


694 : ある敗者の話 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:18:57 OO2gb3fk0




あの世で俺は詫び続ける。
滅びた国、囚われた牢獄の中。
全てが終わった、荒涼とした風景。
犯した罪に怯えながら、永遠に懺悔し続ける。

俺こそは華々しき英雄の影。
ありふれた、勝利を約束された大団円に泥を塗った男。
伝説の勇者を、最悪の魔王にまで貶めた稀代の悪党。
その罪名を嫉妬。
光あるものを呪い、恨まずにはいられなかった、人間の弱さの象徴。
かの魔王の所業が不朽である限り、俺の汚名も消える日は来ない。

こんな筈じゃなかった。
ここまでする気はなかった。
こんな結果を迎えるなんて、思ってもみなかった
そんな言い訳の常套句を、いったい何遍繰り返したのか。

今更遅い。遅すぎる。何もかも、全てはとうに終わっている。
ここでどれだけ喚こうと、女々しい泣き言以外のなにものでもない。
けれど本当に、あの時俺は、こうなる事への覚悟なんて微塵も持っちゃいなかった。



あの山の頂で吐き出した、あいつへの怨恨の台詞は全て本物だ。
俺はずっと、あいつを羨んでいた。妬んでいた。
武術の腕。民からの称賛。勇者の名声。姫の寵愛。
俺が欲しがったものを、いつも目の前で掻っ攫っていくあいつが疎ましくてしょうがなかった。
殺してやりたいと願った数なぞ、両手の指では到底足りない。
可能な限りの努力をして、持ち得る力の全てを出し切ってもいつも僅差で届かぬ結果に、この世の神を呪った。

だからあの城で、隠し通路に俺一人だけが気付いた時は、生涯でかつてないほど舞い上がった。
囚われの姫を救い出す。夢にまで見て、永劫叶わなかったシチュエーションを堪能できた。
その後に仕掛けた知略にもあいつは面白いようにひっかかり、一転して逆賊に追い詰められた。
さらには姫も俺に同情を示し、寂しさを埋めてくれとその胸襟を開いてくれた。

絶頂だった。
あの瞬間に勝る快感は、どんなに言葉を尽くそうとしても伝え切れない。
これが勝者の陶酔。あいつがいつも味わってきた美酒の味。
たまらない。気持ちがよすぎる。脳がたちまち蕩けていく。知ってしまえばもう止まらない。何も考えられない。余計な事は考えたくない。
ただ、この気持ちよさのままに突き進みたい。
そんな野望ですらない、茹だった妄想が、俺を断崖にまで急き立てた。


絶望的な状況を乗り越えて再び山を登って来たあいつを見ても、負ける気はしなかった。
理由も分からず増大していた魔力が、とっくに外れていた自制心を粉々に破砕した。
熱に浮かれた病人のように。
言葉も分からぬ痴呆のように。
友であった記憶など黒焦げに焼き捨てた勇者に、あらん限りの激情をぶつけて杖の魔力を解放した。


695 : ある敗者の話 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:19:21 OO2gb3fk0







当たり前のように敗死した後。
魂だけが縛り付けられたように留まった山から眺める王国で。
俺はあいつの絶望と、嘆きと、怒りの深さを知った。





俺だけだった。
俺だけが、あいつを憎んでいた。
あいつは、俺が直接姿を見せるまで、俺を疑ってすらいなかった。
だからあの時、死に別れてしまったと思っていた親友と再会して、笑顔すら浮かばせていた。
そんなあいつに、俺は何をしたんだ。
生きていてよかったと喜ぶ声を切り捨てて、何を言ってしまったのか。

負ける者の悲しみなど分からないと、姫はあいつに言った。
なら勝ち続ける者だったあいつの、何を俺は分かってやれたのだろうか?
あいつに苦悩などないと、勝利に酔いしれているだけの愚者だと、本気で思っていたのか?


人々に成果を期待されて。
人々に重荷を背負わされて。
人々の為に生きる事を、宿命づけられた。
"勇者"の称号以外で見られなかった男が、報いてきたその全てに裏切られた。
誰よりも信じてやらなければならなかった俺が、誰よりも先に裏切ってしまった。

俺の醜さこそが、魔王だった。
俺の弱さが、勇者を魔王に変えてしまった。
けれどあいつへの憎悪を俺は捨て切れる事もできず、あまりにも多くのものを道連れにしてしまった。


勇者の剣で血を流す民を見る度に、俺の体が裂かれる痛みが襲う。
人々が叫ぶ度に、俺の心が削られていく。

本当に、ここまでする気はなかった。
俺はただ、あいつに勝ちたかっただけなのに。
武術でも。富でも。名声でも。権力でも。愛でも。
何か一つ、あいつに勝るものを持っていれば、この怒りも鎮められたのかもしれないのに。


生きてる者は誰もいなくなった、荒廃した土地。
同じように縛り付けられた魂が、誰に向けてでもなくうわ言を呟く。
あいつへの憎しみ。我が身の不幸を。
俺に突き刺さってくる呪いの言葉を。


ああ誰か、誰か、誰でもいい。
俺に機会をくれ。償う機会を。
その為なら、どれだけの苦みが待っていても構わない。地獄の如き痛苦にも耐えて見せる。
愚かに過ぎた、俺の罪を糾す方法を教えて欲しい。
今も苦しみ、苦しみを増やそうとしている、あいつの傷を癒す奇跡をくれ。
黒々とした感情に飲まれて、いつの間にか見失い手元から消えていた。
そう。ただ一人の、あいつの友だった頃の男として向き合う為に。


696 : ある敗者の話 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:19:49 OO2gb3fk0









「いいや、お前はお前を救いたいだけだ。
 お前の醜さを直視しないでいられる、都合のいい覆いが欲しいだけだ」





―――――――――――――――。





いや、


                                    /そうだ、


そんな事は、


                                   /俺はただ、


決して……!


                                   /許されたいだけ。






…………………。

…………。

……。







◇ ◆


697 : ある敗者の話 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:20:16 OO2gb3fk0









悪夢から目が覚めても、気分は重く、暗いまま。
激しい運動をしてもいないのに疲労感がつのっている。寝ていた体を起こすのすら億劫になる。
かといって動かないままでいても苦しみしかない。
疲れは取れるどころか、更にのしかかってくるだけだろう。
呆然とする時間だけは、あそこでは無限にあったのだ。
身動きすらできない頃を思えば、無理にでも体を自由にした方が何十倍も気が楽だ。

「……まるで老人だな」

上半身を起こし、顔の半分が隠れるほどの長髪をかき上げる。
ベッドのスプリングが軋む音を聞く。
考えられないほど上質で柔らかな毛布は、己の安眠の役に立った試しはない。
最新の売り出しとやらの家電でこの懊悩が解けるとしたら、それこそお笑いだろう。
そうなればこの生きていた時代からは何百年も過ぎた異国の地で、好きなだけ惰眠を貪っていられたものを。

寝間着を脱ぎ、はじめから用意されていたロッカーを開ける。
シャツという、現代に応じた衣服をおぼつかない動作で着る。
必要な知識はいつの間にか一般常識として頭に入っていた。
今まで死んでいた身でおかしな話だが、頭蓋を開かれたみたいでいい気はしない。
ただかえって既存の知識とのギャップがあって、たびたび脳が混乱してしまう。

こんな所に来てまで、俺は周囲に取り残されていた。
何も手につかない。
長すぎる時間で、考えるという行為を脳が忘れてしまっている。
肉体は蘇った。何の因果があったのか、俺はこうして生きている。
だが心は体(ここ)にはない。
俺の心はまだ、あの王国の跡に残されたままなのだ。
これでは死人と変わりない。場所が変わったというだけで、以前の俺から何も変わっていない。

「いや……変わりたくないだけなのか、俺は」

とりあえず怪しく見られない程度に身なりを整える。
後は、常に低温のままでおける箱に詰めておいた食料を適当に出して腹を満たす。
外にも出ず、部屋の中で何もせずに、夜になるまで懊悩して、また眠る。
そんな腐った生き方が続いていく。裏切者の末路にしては上々だろう。

「…………」

腐ってはいるが、この生活は穏やかだ。
物資に困らず、命が懸かかるような荒事からは優先して遠ざけられる。
歴史の語る、平和な世の中とはこういうところをいうのだろう。
微睡みが体の内臓まで染み渡る。堕落するのはとても楽で安易だから、さっさと委ねてしまいたい。


「セイバー、来てくれ」


――――周りを占めていた甘い誘惑を振り切るように声を出した。
その言葉を出した瞬間、空気が変質する。
安寧も平穏もどこにもない。
覚えている。これは味わなくなって久しい、戦いの場での空気だ。


「はぁ―――――――――」


どこか落胆したような、男の声。
いや、これは諦観だろうか。

「ああ、俺を呼んでしまったな」

現れた光の粒子の集積は結び合い、固まり、厚い人間を形作る。


698 : ある敗者の話 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:23:07 OO2gb3fk0



曇天の空を思わせる、鈍色の鎧。
俺の生きた時代、この時代でいう中世の頃にあっては、むしろこの姿の方が目に馴染みがいい。
華美な装飾は見当たらず、王宮に仕える騎士としてはやや無骨過ぎるかもしれない。
ひたすら殺人の為に編まれ、血に煙る戦場を掻い潜って来たと分かる甲冑は、それ故に極まった機能美という華を備えていた。
その中で、装具の所々に痣のように浮かんでいる黒い紋だけは、人ならざる手が加わってるかのように妖しく映る。
そこから垣間見えるおぞましさに、ずっと忘れていた死の恐怖が蘇った。

それがこのサーヴァント・セイバーだった。
時代時代に名を馳せた英雄の現象。
俺のような半端者など及びもつかない、本物の勇者だ。
戦場で剣を持ち奮迅する光景は、悪魔すら恐れさせるだろう。想像するだけで背筋が凍る。

「おまえ、本当に俺が呼ぶまで、一度も出てこなかったな」
「どうせ俺みたいなクズが言葉を挟んだところで、破滅を引き寄せるだけだ。だったら黙ってどう動くか眺めてる方が建設的ってものだろ」

端正な顔に似合わぬ、重く低い声で紡ぐ。
全ての騎士にとって完成形のひとつにある男の、首から上の沈鬱な表情が俺を見据えた。

「それに、お前は暫くただ寝ているべきだった。正直、目を疑ったぞ。ここまで擦り切れたやつが俺以外にも存在したとはな。
 心の底に闇。俺と同じ地獄を見たか」

この騎士の全身からは、勇猛さとは程遠い薄気味の悪さばかりが付き纏っている。
相貌の両眼は、髪の房に隠れてもないのに影が差してるかのように暗かった。
瞳の色云々ではない、感情としての色が黒く塗り潰されている。
ふたつの窪み奥が暗黒の空に繋がってるのではないかと思うほどに、絶望に染まっていた。

俺も、他人にはこんな風に見られてるのかもしれないな。
セイバーが言った事と同様の気持ちを、俺は抱いていた。
どんな光景を見ればあそこまで光を失うのか。それを理解できてしまう。
命も信念も、自身が拘っていた心が崩れ、後悔と悲嘆を幾度となくも折り重ねていった果ての顔だ。

「このまま消え入りたいと考えたか?苦しみを抱かず永遠に眠りにきたいか?いいぜ、そうしたければさせてやる。
 この先、あの時死ねたらどんなに幸福だったかと思うだろうよ」
「俺が死を望んでも構わないのか?」
「その方がまだ救いがあるだけマシだ。
 大勢傷つけて死なせて、多くの人に嫌われ憎まれて……頬が削げるほど声をあげて苦しみ抜いてから死ぬよりはな」

ああそうだ。分かるとも。
あの時、落石によって死んでいた事にしていた方が、名誉ある死で悲しまれ終わっていたはずだ。
辿った最期はきっとどちらも同じだ、だからこその共感。
絶望を味わった者。どうやら、それが俺達を繋ぎ合わせた縁らしい。とんだ皮肉だ。


699 : ある敗者の話 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:26:15 OO2gb3fk0


「それで?望みは決まったのか」

セイバーが直球に、本題を切り出した。
聖杯戦争という、願いの争奪戦の舞台。
俺はこのサーヴァントと共に戦い、最後の一人になるまで戦うのだという。
そして勝者にはあらゆる望みを叶える願望器が与えられる。
間違いなく、過去の俺なら目を血走らせて飛びついていた話だ。

「俺には、もう望むものなんてない」

そう。もうどうとも思えない。
後生大事に持っていた心の矜持は砕かれ、粉になって消えた。
囚われていた魂は摩耗して、俺という人間をきれいに漂白してしまった。
自分を最も大きく占めていた友への憎しみすら、いまやまったく残っていない。
心の大半がないのだ。死人となるのも当然といえよう。

そんな今の俺に、まだ望みがあるとすれば。
それは俺の為ではなく、俺が貶めた人々に対してのものでしかなく。

「けれど、願う事はある。
 俺のせいで狂ってしまったあいつを……恐るべき魔王と化してしまった友を、救ってやりたい。
 それが俺に出来る、唯一の贖罪だと思っている。これ以外の好機は、きっと期待できないだろう」

勇者と呼ばれた男は、全ての時空の人類を憎む魔王と変成してしまった。
全ては俺の醜さのせい。隠せなかったあさましい感情の暴発。
許されなくともいい。また殺されたっていい。虫が良すぎるのも理解してる。
俺は生きていて、動く体がある。だったら這ってでも、あいつの前に立たないといけない。

「そこまで心を決めてるくせに、どうしていまだに悩んでる」

沈み行くセイバーの問いに心臓がビクリと跳ねる。
俺は声もなく、広げた両手の掌をじっと見下ろし、顔を覆った。

「……自信がないんだ。それが本当に俺の願いなのか」

自分のせいで世界を滅ぼそうとする友を止めてみせる。
今度こそ、怨敵ではなく友人の立場で向かい合いたい。

そんな、勇者が活躍する英雄譚の一節にあるような殊勝な宣言を、俺はするような男だったのか?
時間の経過が感じられない牢獄で、俺は自らの負の感情を延々と見せつけられた。
深く反省し、血に頭を擦り付けるほど懺悔したからといって、そんな簡単に心を入れ替えられるものなのか。

「俺はただ……許されたいだけなのかもしれない。
 あいつを救うなんて口当たりの良い言葉を方便に、慰めて欲しいだけなんじゃないか、迷ってしまう。
 それを知るのが……とても怖い」

何を救う側に立った気でいる。
貶めたのはそもそもお前だ。お前がこの悲劇の元凶だ。
今更勇者の仲間に戻れると思う事が、お前の醜悪さの証明だ。

誰とでもなく、顔も見えない民衆に糾弾されるようだ。
罪人は罪人らしく、魂が残る限り永遠に苦痛にあえぎながら彷徨うのが筋というものなのに。
そうしてこそ、死んだ民の鎮魂になるのではないか。



「……はっ、そういうことか。ようはいいことして死にたいわけか」

夢想を遮り、セイバーは言葉を放った。

「呪いが湧き出る底無しの湖。人が背負う事を放棄した"原罪"……それに連なる流れの具現を持ってしまった男が、俺だ。
 俺に原罪を背負えるだけの器なんぞない。だから溢れた呪いは漏れ出して……必ず運命を狂わせる」
「……」
「はじめに契約した時に言っていたのを憶えているか?
 『疑わしいと感じたなら躊躇いなく、俺を令呪で切って捨てろ』。
 俺に近づいた者はみな死ぬ。マスターとサーヴァントという契約の結びを経由して、お前も感染しているかもな」
「願いは叶わず、犠牲だけ増やして惨めに死ぬ、か?」
「ああ、死ぬな。誰も彼も死んで、殺す」

それは、なんていうお似合いの死に様だろう。
卑賤な裏切者に相応しい結末だと自嘲したくなる。
だがランサーの表情は皮肉など混ざってない真剣そのものだ。


700 : ある敗者の話 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:27:25 OO2gb3fk0


「俺は最悪のサーヴァントだ。決して聖杯戦争には勝利する事が出来ないだろう。他の英霊と比べても、そこはそう言える自負がある。
 武芸の話じゃない。意志の固さも意味がない。
 強弱、善悪には関わらずに……全ての運命を凶運に捻じ曲げ、起こりうる最悪の結果を引き当ててしまう。
 本来であれば、ああ、俺がここにいるなど到底許されないだろう。無辜の民を思い、人理の固定を願うならさっさと死ぬべきだろう」

云って、そう笑う。自虐と自嘲を込めて。
これまでの苦悩の数だけ刻まれたと表明するような目元の皺の奥で。


「それでも……俺はここにいる」


宵闇の中に隠れていた月の如く、瞳が決意の光を放っている。

「聖杯戦争の舞台で、サーヴァントとして召喚されている。ならそれが真実だ。
 ……どれだけ否定していても、天に浮かぶ小さな塵星だとしても。馬鹿げた話だが、諦め切れるものではないらしいな。
 己が手で切り捨てた乙女の血を清め、三国を落とした槍を収め……今度こそ――――
 かの王に仕えるに足る"騎士"として生きるという、俺の求めた理想を」

その時に思い知った。
この男はまだ折れてない。自分のように絶望に囚われていない。
夢見た理想を捨てず、あえぎながらも進もうとしている。

事情を知らぬ者から見れば、死してなお諦めぬ浅ましさと笑うかもしれない。
だが俺は違う。俺にはきっと、理解できる。
身も心も疲れ果て、何もかも失った。希望などないと諦めてなければおかしいというのに。
それでも手放したくないと思えるものがあるのなら……誰が何と言おうと、それこそがこいつの、唯一つの真実。

「お前は……王に仕えたかったのか」
「ああ。彼の王こそ我らが光。あらゆる暗雲を振り払う騎士の王。
 敗北を知らず、私情を排し、祖国の善き未来を確約する理想の体現。
 俺に幸運と呼べる事があったとすればそれは……間違いなくあの方に一時でも仕える栄を授かった機会に他ならない」

そう己の主の威光を語るセイバーには、今まで張り付いていた怨念じみた闇が薄れていた。
少なくとも、俺はそう感じた。
辛苦を感じさせない、満天を見上げる少年のように晴れやかな笑みを、見た気がした。

……俺にも、こんな風に笑えた頃があっただろうか。
過去の記憶と情景は、鮮明に思い出せはしない。
牢獄の中で削れる心と共に、輝いた記憶から先に擦り減ってしまった。

いまの幻のように、こいつのように笑えるなら。
偽らざる、信じた思いを腹の底から声に出せたら。
未来に希望を見て、前を進む事が出来るだろうか。


「どうした?笑えよ。往き迷う迷う罪人」
「……え?」

またも見透かされたような物言いに俺は戸惑う。

「どうせこの聖杯戦争は終了だ。俺みたいなろくでなしを召喚できる時点でとっくに汚染済みだろうよ。
 叶わぬ理想の夢に臨んだところで破滅は避けられない。手痛いしっペ返しを食らうだけだ。
 だが心配するな。そんなものは始めから予定航路でしかない。
 道はとっくに見えているんだ、恐れる必要はないぜ?」

何の意味もないようで、凄い事を言ってのけた。
これからの道が既に不運と不幸で舗装されていると知っていて、恐れずに進むと。
分かりきった未来は乗り越えるだけだと。
それを臆面もなく言えるこいつが、素直に凄いと思った。

俺の行い、犯した罪は許されない。
罰は必ず待っている。泣いて逃げても猟犬のようにしつこく追い回してくる。
だったら俺は……この戦いでそれに立ち向わなければならないのか。
ただ罰を受けるだけではない、俺なりの贖いの方法を見つけ。


701 : ある敗者の話 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:29:09 OO2gb3fk0


「俺達は既に罪人。この双剣と聖槍が星の光を蝕もうとも、己の真を疑わず進め、ストレイボウ。
 サーヴァントである俺はどこまでも付き合おう。―――――地獄の住人の先達としてな」

俺の名を呼ぶ。
ストレイボウ。
ルキレチア王国の勇者オルステッドの親友でありながら、劣等感から友を裏切り魔王オディオを生み出してしまった愚かな男。
穢れ切った忌み名。断崖の奥底に落ちて、誰かに拾い上げられるなんて思いもしなかった俺を、呼んでくれた。

「……ありがとう、ベイリン。お前が俺のサーヴァントでよかった」

だから俺も、お前の名を呼ぶ。
ベイリン。
ブリテンの伝説の騎士王アーサーに仕えながら、折り重なる凶運の呪いに翻弄され続け、兄弟で殺し合った哀れな男。
聖槍(ロンギヌス)に相応しくない所有者、無様な敗者の烙印を押され、新の担い手が躍り出る踏み台にされた男の名を呼んだ。





【クラス】
ランサー

【真名】
ベイリン

【出展】
アーサー王伝説

【性別】
男性

【身長・体重】
188cm・80kg

【属性】
秩序・中庸

【ステータス】
筋力B 耐久A+ 敏捷B 魔力D 幸運E 宝具A

【クラス別スキル】
対魔力:EX
 宝具による祝福(呪い)によって、規格外の対魔力を保有している。
 魔術を無効化するのではなく、"自分の傍にいる人物"に自動的に逸れてしまう。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【固有スキル】
心眼(偽):A
 視覚妨害による補正への耐性。
 第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。
 姿隠しの力を持つガーロンを、ベイリンは己の感覚だけで見つけ出し、討ち取った。

戦闘続行:B+
 元々の継戦能力に精霊の加護(呪い)が合わさって異様に"死ねなく"なっている。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、事切れる最後の瞬間まで苦しみ続ける。  

血の乙女の呪い:A+
 かつて斬り殺した湖の乙女から受けた契約。
 戦場で危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せる「精霊の加護」に近いが、
 その効果はより強力にして悪辣。所持者と周囲の人物の幸運を奪い、無理やりにでも生き残らせようとする。
 勝利にこそ導くが、その結末が本人の望む光景である保証はない。

【宝具】
『破滅に至る勝利の剣(ルイーナ・カレドヴルフ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜200 最大補捉:100人
 湖の貴婦人が所有していた「最も優れた騎士にしか抜けない剣」。
 双剣の知名度と呪いの逸話により、元々所有していた剣と統合され、二振りの剣の宝具となった。

 上述の通り最も優れた騎士、すなわちいずれ聖杯を得る事になる騎士の為に造られた聖剣。
 だが貴婦人に仕えていたさる乙女が、騎士が剣を取る時期より前に剣を持ち出してしまい(一節では兄を殺された復讐の為だという)、
 当代で最も優れた騎士であるベイリンが鞘から引き抜いてしまう。
 これにより、"選ばれし騎士ではない"のに"剣を引き抜く資格を有した"という矛盾のバグが生じ、
 更に直後に貴婦人を斬り殺した事で、完全に魔剣へと変じてしまった。 

 精霊である乙女を殺害した事で、精霊・妖精に対しては追加ダメージが発生する。
 双剣を重ねた真名解放により、暗黒の斬撃を十字状に放つ。
 またこの剣でダメージを受けた相手は、行動のファンブル率が大幅に上がる「凶運」のバッドステータスが付く。

『悲嘆を告げる運命の槍(サヴァージュ・ロンギヌス)』
ランク:A++ 種別:対人、対国宝具 レンジ:0〜99 最大補捉:1000人
 神の御子を刺した呪いの魔槍。御子の血を浴びた偉大なる聖槍。
 「手にしたものは世界を制する」とまでいわれた、聖杯に並ぶ最上の聖遺物。
 所持者の精神によって属性・性能が変化し、ベイリンが持てば呪いの波濤を十字状に放つ"原罪の具現"となる。

 聖槍は運命を決める力を秘めるとされ、魔槍であるロンギヌスの魔力を浴びたモノは、
 その身の運命を"破滅"に塗り替えられる。
 傷は癒えず、形は戻らない。有機無機に関わらない不治の呪いに汚染されてしまう。
 解呪するには同じく運命を覆す力、すなわち聖杯による奇蹟しかない。


702 : ある敗者の話 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:30:03 OO2gb3fk0


「俺達は既に罪人。この双剣と聖槍が星の光を蝕もうとも、己の真を疑わず進め、ストレイボウ。
 サーヴァントである俺はどこまでも付き合おう。―――――地獄の住人の先達としてな」

俺の名を呼ぶ。
ストレイボウ。
ルキレチア王国の勇者オルステッドの親友でありながら、劣等感から友を裏切り魔王オディオを生み出してしまった愚かな男。
穢れ切った忌み名。断崖の奥底に落ちて、誰かに拾い上げられるなんて思いもしなかった俺を、呼んでくれた。

「……ありがとう、ベイリン。お前が俺のサーヴァントでよかった」

だから俺も、お前の名を呼ぶ。
ベイリン。
ブリテンの伝説の騎士王アーサーに仕えながら、折り重なる凶運の呪いに翻弄され続け、兄弟で殺し合った哀れな男。
聖槍(ロンギヌス)に相応しくない所有者、無様な敗者の烙印を押され、新の担い手が躍り出る踏み台にされた男の名を呼んだ。




【クラス】
ランサー

【真名】
セイバー

【出展】
アーサー王伝説

【性別】
男性

【身長・体重】
188cm・80kg

【属性】
秩序・中庸

【ステータス】
筋力B 耐久A+ 敏捷B 魔力D 幸運E 宝具A

【クラス別スキル】
対魔力:EX
 宝具による祝福(呪い)によって、規格外の対魔力を保有している。
 魔術を無効化するのではなく、"自分の傍にいる人物"に自動的に逸れてしまう。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【固有スキル】
心眼(偽):A
 視覚妨害による補正への耐性。
 第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。
 姿隠しの力を持つガーロンを、ベイリンは己の感覚だけで見つけ出し、討ち取った。

戦闘続行:B+
 元々の継戦能力に精霊の加護(呪い)が合わさって異様に"死ねなく"なっている。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、事切れる最後の瞬間まで苦しみ続ける。  

血の乙女の呪い:A+
 かつて斬り殺した湖の乙女から受けた契約。
 戦場で危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せる「精霊の加護」に近いが、
 その効果はより強力にして悪辣。所持者と周囲の人物の幸運を奪い、無理やりにでも生き残らせようとする。
 勝利にこそ導くが、その結末が本人の望む光景である保証はない。

【宝具】
『破滅に至る勝利の剣(ルイーナ・カレドヴルフ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜200 最大補捉:100人
 湖の貴婦人が所有していた「最も優れた騎士にしか抜けない剣」。
 双剣の知名度と呪いの逸話により、元々所有していた剣と統合され、二振りの剣の宝具となった。

 上述の通り最も優れた騎士、すなわちいずれ聖杯を得る事になる騎士の為に造られた聖剣。
 だが貴婦人に仕えていたさる乙女が、騎士が剣を取る時期より前に剣を持ち出してしまい(一節では兄を殺された復讐の為だという)、
 当代で最も優れた騎士であるベイリンが鞘から引き抜いてしまう。
 これにより、"選ばれし騎士ではない"のに"剣を引き抜く資格を有した"という矛盾のバグが生じ、
 更に直後に貴婦人を斬り殺した事で、完全に魔剣へと変じてしまった。 

 精霊である乙女を殺害した事で、精霊・妖精に対しては追加ダメージが発生する。
 双剣を重ねた真名解放により、暗黒の斬撃を十字状に放つ。
 またこの剣でダメージを受けた相手は、行動のファンブル率が大幅に上がる「凶運」のバッドステータスが付く。

『悲嘆を告げる運命の槍(サヴァージュ・ロンギヌス)』
ランク:A++ 種別:対人、対国宝具 レンジ:0〜99 最大補捉:1000人
 神の御子を刺した呪いの魔槍。御子の血を浴びた偉大なる聖槍。
 「手にしたものは世界を制する」とまでいわれた、聖杯に並ぶ最上の聖遺物。
 所持者の精神によって属性・性能が変化し、ベイリンが持てば呪いの波濤を十字状に放つ"原罪の具現"となる。

 聖槍は運命を決める力を秘めるとされ、魔槍であるロンギヌスの魔力を浴びたモノは、
 その身の運命を"破滅"に塗り替えられる。
 傷は癒えず、形は戻らない。有機無機に関わらない不治の呪いに汚染されてしまう。
 解呪するには同じく運命を覆す力、すなわち聖杯による奇蹟しかない。


703 : ある敗者の話 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:31:59 OO2gb3fk0



【人物背景】
ブリテンで、まだ円卓の騎士が成立する以前にアーサー王に仕えていた騎士。
通称「双剣の騎士」。その恐るべき戦いぶりから「蛮人」ベイリンと渾名されもする。
弟のベイランも同じく優れた騎士であり、全ての円卓が集った後も上位に食い込む武練であると評され、
あるいは円卓においても無双を誇るランスロット卿とガウェイン郷にも届き得るのではないかとも噂されたが、その席に座る日は終ぞ来なかった。

アーサー王の元にさる乙女が「最も優れた騎士にしか抜けない剣」を携えて来た事が、ベイリンの運命の始まりだった。
誰もが挑戦し諦める中、ベイリンは容易くこれを引き抜くと、乙女は急に剣を返還するよう迫る。
そこに剣の所有者である湖の貴婦人が現れ、剣を持ってきた乙女か、あるいはその剣を抜いた騎士の命を要求した。
貴婦人は語る。その剣はいずれ来たる選ばれし騎士が抜く選定の証。いま地上に在ってはならぬものを、復讐の為に乙女が持ち出したのだと。
事情を知ったベイリンはしかし、返す剣で貴婦人の首を斬り落とした。
……ベイリンもまた貴婦人に母を奪われており、その報いを与える機会を待ち望んでいたのだ。
騎士王の城を女の血で穢した事。その女が王の持つ聖剣の持ち主でもある湖の精霊である事。
全てを承知し、極刑を覚悟でベイリンは本懐を遂げた。しかしアーサー王は、城からの追放という罰のみで彼を免じたのだ。

「湖の貴婦人を斬った行いは罪である。しかし母の仇を討ち、また乙女を救うべく自ら罪を被った行いは功である」

王の判決にベイリンは、これこそ私情を排した理想の王だと忠誠を誓い、いずれ必ず王の助けに馳せ参じると決意し城を去った。
貴婦人の血を吸い「愛するものを殺す」呪いを帯びた、魔剣を罰の証として手元に置いて。

ベイランと共に続けた贖罪の旅。
アーサー王と争うリエンス王の軍勢を蹴散らし生け捕りにする殊勲をはじめ数々の功により、
一時キャメロットに帰参する許しを得るも、未だ魔剣を解呪する術は見当たらない。
途中ベイランと別れ、不可視の力を持つ卑劣なる騎士ガーロンを討つべくある城に潜入する。
そこはガーロンの兄ペラム、即ち漁夫王(いさなとりのおう)の住むカーボネック城。
ガーロンを討つも弟を殺されたペラム王はベイリンに兵を向かわせる。
潜入の為丸腰で来ていたベイリンは咄嗟に壁にかけられていた槍を手に取り――――――――呪われし運命は花を開いた。

ベイリンに染み付いていた貴婦人の呪いにより暴走する槍、ロンギヌス。
その被害は城のみならず三つの隣国まで崩壊させ、ペラム王は癒えぬ傷を負う。
己は取り返しのつかない過ちを犯した。最早王の元に戻る資格はなしと、ベイリンは死に場所を求めて彷徨う。
運命の終着地。「全身を鎧で覆った騎士と戦い倒さなければ先へ進めぬ」という島で、ベイリンと騎士は互いに瀕死の重傷を負う。
末期の騎士に名を訊ねられベイリンは答えると、騎士は愕然とした様子で兜を脱ぎ――――
ベイリンは呪いにより島から離れられぬ身となった、弟ベイランの悲嘆と絶望の顔を見た。
ベイランが死してから半日もの間、ベイリンは己の行いを悔いながら絶命した。
二人の死体は遺言に従い、同じ墓に埋葬されたという。

不幸。
義理人情を重んじる、紛れもなく正義の人であったが、今ではすっかりやさぐれてる。
「どうせ俺なんて……」と項垂れて周囲に当たり散らす、まさに蛮人の伝聞通りにまで落ちぶれてしまった。
究極的に運が無く、善だと信じた行為が悉く裏目に出てしまう。
弟曰く、単独でいるといつの間にか事態が悪化してしまう、割とノリで動くタイプ。
セイバーのクラスだが、呪いで装備が外れないため槍も持ち込んでしまってる。
同時にランサーのクラスで呼ばれたとしても、やはり剣は除外されず装備した状態で召喚されてしまう。

【特徴】
白髪まじりの黒髪。鈍色の鎧には僅かに黒い痣のような模様がある。
端正な顔つきだが、度重なる絶望で表情は暗くやさぐれてる。超ネガティブ。目が死んでる。

【サーヴァントとしての願い】
呪いの解除。
ただ願いを叶える段階で呪いが発動し、最悪の結末を引き抜いてしまうだろうと諦観している。
そうしてやさぐれてる風を装っているが、それでも。僅かに残った一念だけはその可能性に懸けたかった。


704 : ある敗者の話 ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:32:24 OO2gb3fk0




【マスター】
ストレイボウ@LIVE A LIVE

【能力・技能】
魔法使い(魔術師)として数々の魔法(魔術)を習得。
一番に立てなかったというだけで、彼自身もまぎれもなく一流である。

【人物背景】
ルクレチア王国一の魔法使いであり、勇者オルステッドのよきライバル。
……であったのも、遥か昔。
常に自分の先を行くオルステッドに憎悪を募らせていき、やがて訪れたオルステッドを出し抜く機会に全てを賭けた。
全てが終わり、彼は後悔する。
こんなはずじゃなかった。ここまでする気じゃなかった。
感情に支配された男は犯した罪を嘆き続ける。
「俺の…せいなのか…あいつが…あんなになってしまったのは…」

【マスターとしての願い】
贖罪。
だがそれすらも我が身可愛さなのではないかと懊悩している。
確かなのは、今の彼は罪の重さと罰の贖い方に迷う一人の男である。


705 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/07/30(日) 03:33:15 OO2gb3fk0
投下終了です
『Fate/Winter morning ―史実聖杯―』で投下した主従の再調整版となります


706 : ◆A2923OYYmQ :2017/07/30(日) 16:13:40 PCrFflEI0
拙作Amantes Amentes"を追記修正してWikiに編集しました


707 : ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:01:30 55p/Ma4k0
投下します


708 : 本田千鶴&バーサーカー ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:03:10 55p/Ma4k0





           ――お前の光は、何処にある

                ウィリアム・シェイクスピア




◆◆


709 : 本田千鶴&バーサーカー ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:03:49 55p/Ma4k0




 わたしの家族は、いわゆる見ていて苛つく部類の人間ばかりだ。

 度を越して能天気でお人好しな父と、それを窘めもしない母。二人の血を色濃く受け継いだことがちょっと話しただけで解る、同じくお人好しで善性に満ちた姉。
 わたしだけが、例外だった。わたしだけが人を疑い、訝り、自分を第一に考えるということを知っていた。何故かは解らない。多分生来のそれであるのだろう。そんなわたしだから、両親や姉の"良い人"ぶりにはいつも辟易させられてきた。どうしてそうなのと、やり場のないやきもきした感情に頭を抱えたことは十や二十では利かない。
 けれど、家族が嫌いだったわけじゃない。世間のご多分に漏れず両親への感謝の気持ちと愛情はちゃんとあったし、優しく賢い姉のことはいつだって尊敬していた。この人のようになりたいと、思っては諦める毎日。それを悲観することはなかったが、それでも、自分と姉のあまりの違いに溜息をこぼすことは度々あった。

 もしもわたしが、目の前で大好きな姉を殺されたなら。
 わたしはきっと、外面を取り繕うことも忘れて怒り狂うだろう。
 絶対に殺してやると歯を砕けんばかりに軋らせて、姉の未来を奪った相手に憎しみの炎を燃やす筈だ。
 しかし姉は、目の前でわたしが殺されたとしても、悲しみはすれど復讐なんてことは考えないと断言出来る。
 姉が冷たい人間なのではない。寧ろその逆。温かすぎるから――優しすぎるから、あの人は自分や自分の周りの誰かを害した人に対しても、悪意を向けられないのだ。ひとえにそこが、わたしと姉の、"お姉ちゃん"の一番の違い。どちらが良い悪いは一概には言えないだろうけど、わたしの主観で言うなら、"良い"のはお姉ちゃんの方だった。

 罪を憎み人を憎まず。
 それを地で行く、"良い人"。
 わたしもそうなりたいと常々思っていたけど、同時になれるわけがないと悟っていた。
 そして今――わたしは、そのことを改めて実感している。

「……や、め……やめで、くれぇ……もぅ、許し……」

 大の男が涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、小便まで漏らしながら許しを請っていた。
 三十以上は歳が離れているだろう、自分の娘ほどの年齢であるわたしに対してだ。
 最初はあれだけ鼻持ちならない高慢な物言いを繰り返していたのに、やはり人間、死の淵に瀕すると本質が明らかになるものらしい。魔術師の大義だとか何だとか偉そうに言っていても、自分の命が一番可愛いのはわたし達市井の人間と何も変わらないのだ。抉れた両足では前に進むことも出来ず、両腕は変な方向に曲がり、擦り付けた額は擦り剥けてグロテスク。
 誰が見ても目を背けるか同情して然るべきだろうそれを、わたしは今、どんな顔で見つめているのだろう。どうしても、解らなかった。でも、推理する材料はある。魔術師は、絶望に満ちた顔でわたしを見ていた。まるで、先の見えない暗闇を前に怯える子どもみたいに。……その顔を見て、わたしは、今自分がどんな顔をしているのかを悟った。

「……冷たい人ね、わたし」

 その声が目の前のボロ雑巾に聞こえたのかどうか、わたしには判別がつかない。
 けど、一秒前にも増して青くなった顔と震えの激しくなった顎を見るに、多分聞こえてしまったんだろう。
 そう。わたしは、冷たい人間だ。お姉ちゃんのようにもお父さんのようにもお母さんのようにもなれない、酷い子だ。

「やりなさい、バーサーカー」

 ぐちゅ。
 水っぽい音がして、哀れな雑巾が布切れの集まりになった。
 端正だった顔は頭から踏み潰されてアスファルトに埋まり、もう人相の確認さえ出来ない。
 滑稽な体勢に体を歪めて死後痙攣するそれから目を背けたわたしは、ちゃんと苦虫を噛み潰したみたいな顔を浮かべられているだろうか。見る人も居ないしどうでもいい自己満足だけど、最低限中学生の顔はしておきたい。聖杯戦争の中で変な慣れに足を引っ張られることがないとも限らないのだし。

「お姉ちゃん、あのね。わたし、死ななくてもよくなったのよ」

 この世界に来た人には、多分色んな人がいる。
 来たくて来た人、来たくなかった人、自分の状況をそもそも理解出来ていない人。
 この世界に来て幸福な人も、そうでない人も、当たり前のように両方いるだろう。
 わたしは、圧倒的に前者だった。この世界に招かれていなければ、わたしは今頃、死んでいた筈なのだから。


710 : 本田千鶴&バーサーカー ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:04:17 55p/Ma4k0


 ――ジアース。地球を滅ぼさんと都市に降りては暴れ回る異形の怪物と唯一戦闘を行える、正体不明の巨大ロボット。
 あの夏、自然学校に参加した十五人の子ども達が、そのパイロットに選ばれた。
 それは地球を救うための戦い。大切なものを守るための、戦い。
 自分の命を代金として得る、死ぬことが約束された一度きりの"操縦権"。
 わたしこと本田千鶴もまた、そのパイロットに選ばれた人間だ。
 つまり、わたしは近い内に死ぬ筈だった。世界を守って、それでおしまい。
 十年ちょっとの人生を振り返る暇も与えられずに、機械の電源を落とすみたいに死ぬ。
 
 わたしが拒めば世界が滅び。
 世界が救われればわたしが死ぬ。
 そんな状況に、ちょっと前まで立たされていたのだ、わたしは。
 でも聖杯戦争という横槍が入ったことで、運良くその袋小路を抜け出せた……というのが、わたしが幸運である理由。


「わたしだけじゃない。この子もね、きっと産める」

 そう言って、わたしはお腹を撫でる。
 まだ張りのようなものはなくて、この中に一人の新しい命があるなんてとても解らない。
 でも、確かにわたしの子宮(なか)には今、わたしじゃない誰かの命がある。
 わたしの子ども。かわいそうな、呪われた子どもの命が漂っている。

「安心して。わたしはあなたを殺さない」

 殺せるわけがない。
 誰の子どもか解らないとしても。
 欲しくて作った子どもじゃないとしても。
 憎くて憎くてたまらない男達の■■で孕まされた、汚れた命だとしても。
 わたしにはこの子を堕ろせない。
 
「一緒に救おう、わたしたちの世界を」

 撫でる。
 愛おしく、撫でる。
 世界はまだ救われていない。
 わたしがいない間に、ひょっとすると滅んでいるかもしれない。
 それほどの薄氷の上に存在するのが、わたしの暮らしていた地球。この子の生まれてくる地球。
 そして――それを救えるのは、全人類で唯一人。本田千鶴という、中学一年生だけなのだ。


「聖杯を手に入れれば、どんな願いも叶うのよね。バーサーカー」

 わたしは、自分の剣である狂った男に話を振る。
 三メートルに達しかけた巨躯に、深淵のような蒼い瞳。
 血腥さと死の気配を振りまく彼は、マスターであるわたしの目から見ても、縁起の欠片もない存在だった。
 死神。災害。そんな言葉ばかりが浮かんでくるのは、この聖杯戦争という戦いが殺し合いであることを鑑みると、良いことなのか悪いことなのか。


711 : 本田千鶴&バーサーカー ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:04:43 55p/Ma4k0

「――王家に、死を」

 閑話休題。
 わたしの問いに対して、返ってきたのは答えになっていない回答だった。

「輝くものに終わりを。全ての王に死を。支配に幕を。民に自由を。国に、平和を」
「バーサーカー、聞いているの」
「死を。死を。死を。死を。――死を、死を、死を、死を、死を、死を!
 遍く光に理性ある死を齎そう! 百合の散華した荒野こそ、人民の住まうべき楽土であるのだから!!」

 駄目ね。わたしは溜息をついて、バーサーカーとの意思疎通を改めて諦める。この流れ自体が、もう何度目か解らない。
 わたしの喚んだサーヴァントはこの通り、理性が完全に飛んでしまっている。
 たまに会話が成立することもあるが、その逆の方が圧倒的に多い。
 人語を解する、但し伝わっているとは言っていない。
 そんな、奇妙奇天烈でとにかく厄介なサーヴァント。

 でも、強い。

 人間は社会という枠組みを作り、法と倫理という規範を整備することで、概ね平和と呼べる世界を作り上げた。
 ただ、それも言ってしまえば薄氷だ。ルールだのセオリーだの、そんなものは一人の例外の存在で一気に崩れ去る。
 銃やナイフを持った通り魔の凶行で、未だに多くの犠牲が出るように。
 システムの整備された世界にそれから乖離したものを混ぜ込めば、強さ弱さ正しさ悪さの観念は途端に意味をなくす。

「――弁舌を回せ、我が右腕。天使長アントワーヌ」

 彼は、ひとえにそういうサーヴァント。
 神話の王様が強いとか、偉大な支配者が絶対だとか、古いことは偉いとか。
 そういう"当たり前"に、真っ向から喧嘩を売った異端者。
 或いは、それも含めて"彼らしい"と納得すべきか。

「――恐怖を整備せよ、我が魂。山岳皇ジョルジュ」

 巨体の腕から刃が伸びた。わたしの使うナイフなんかとは比べ物にならない、長くて奇妙な形の刃物。
 人の首を刈り取ることだけを目的に設計されたみたいな、撓った形状のそれはバーサーカーの腕から生えている。
 断頭刃の切っ先は今しがた殺したばかりの魔術師の首へと伸び、それをバターでも切るみたいな滑らかさで切断した。

「コンコルドに人を集めよ! 断頭台を磨き上げよ! 処刑の時は近く、我が革命は未だ途上である!
 おお、祖国万歳(ヴィヴ・ラ・フランス)! 正しき秩序と正しき自由を求め、我は全ての絢爛を地に落とそう!!」

 とにかくそんな奴だから、わたしにもこれが何を考えているのかはよく解らない。
 ただ、共感できる部分もあった。それは、このサーヴァントが生前にやったこと。
 彼は昔、自分が悪者と断じた人達や、自分に逆らった人達を、次々と見境なく処刑台に送った独裁者だ。
 誰でも殺す。いくらでも殺す。――"それが自由の妨げになるなら"、あらゆる情は無視される。

 彼はきっと、まだ殺し足りないのだろう。
 彼の夢見る革命は、まだ叶っていないのだ。
 少なくとも、彼の中では。
 そしてわたしも、世界を救う傍らで、人を殺そうとしている。
 淡々と、処刑台に追いやってギロチンを落とすみたいに機械的に、復讐の殺人をやろうとしている。
 ……それこそ、世界を救うことなんかよりずっと、わたしがジアースを操縦してやりたかったことだ。

 大きな、止めようもないレベルの力で、"お腹の子"の父親かもしれない男達を皆殺しにする。
 都市を破壊する怪物の矛先が自分一人に向く恐怖を味わいながら、原型も留めない死体に変える。
 その過程で他の人が死んだとしても、構わない――どうせわたしも死ぬんだから。
 でも、わたしが死ぬことはなくなった。

 ――力がない頃は、復讐を諦めていた。
 ――力があるけど未来はない頃は、生を諦めていた。
 ――今は力もあるし、未来もある。憎い奴らを殺した上で、この子やお姉ちゃんと一緒に生きることが出来る。


712 : 本田千鶴&バーサーカー ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:05:07 55p/Ma4k0

 バーサーカーはわたしにとってのジアースだ。
 彼を操縦すれば、わたしは神様にだってなることが出来る。
 
「……ごめんなさいね。わたし、やっぱりあなたのことはよく解らない」
「理解など不要。王は悪であり、輝きは民を狂わす毒である。頭に入れるべきはそれだけだ」

 ……話が通じた。珍しい。

「でも、ひとつだけ解るかも。あなた、優しいのね。バーサーカー」
「…………」

 バーサーカーが押し黙った。
 これがおべっかなら大したものだと自分でも思うけど、残念ながらそうではない。
 心からの感想だ。だって彼はこんなに物騒なセリフばかり吐いているのに、一度だって欲や不満を口にしたことはない。
 彼は独裁者で、国を腐らせた……魔術師の世界で言うところの、反英雄とかいうやつ。
 でもその裏には常に民を想い、導かんとする心がある。わたしみたいに、自分のために殺そうとしてるわけじゃない。

「殺したい人がいるの。学校の先生と、その友達何人か。
 わたしを騙して、犯して、辱めた奴ら。全員殺したい。でも、世界も救いたい。
 お姉ちゃんがいて、お父さんとお母さんがいて、これから死ぬしかない皆が生きてる……わたしたちの地球。
 そのために、わたしは聖杯がほしい」
「…………」
「一緒に勝ちましょう、バーサーカー」

 暫く黙ったバーサーカーは、やがて厳かに口を開いた。
 その時彼の瞳には狂気ならぬ正気の光が確かに見えて、口から出た言葉には理性の片鱗が宿っていた。

「――違う。俺は、優しくなどない」
「バーサーカー?」
「優しさなど統治者には不要だ。冷たい理性と錆び付いた闇で統べなければ、民の眼を奪ってしまう」

 ギリ、と彼が歯を噛み締めた音は……まるで、大きな岩をすり潰したみたいに激しいものだった。

 王権に死を。光に災いを。陶酔に冷水を。絢爛に没落を。蒼血に天還を。盲信に理性を。
 信仰に正気を。民に自由を。国に平穏を。支配に闇を。羨望に嫌悪を。夢想に、現実を。

 お経を唱えるみたいにまたぶつぶつと狂気の世界へ入ってしまった彼を、わたしは暫く茫然と見つめていた。
 ……この男がわたしに、あんな一面を見せるのは初めてだったからだ。
 まるで、忌まわしい記憶でも読み返すみたいな顔と声。らしくない。余りにも、今の姿は狂人のそれから逸していた。
 自己に没頭する哲学者。そんな表現が脳裏に浮かんだ。とはいえ、これ以上何かを訊いても藪から蛇を出すだけだろう。
 忘れちゃいけない。彼はバーサーカー、ケダモノだ。ジアースのように、物言わず力だけ寄越すわけじゃない。
 一歩間違えれば、マスターのわたしだって彼の言う革命の礎にされてしまいかねない。
 背筋に寒いものを感じながら、わたしは会話を打ち切ってバーサーカーから視線を外した。

 ――けれど。どうしても訊いてみたかったことがあって、危険だと解っていながらもわたしは口を開いてしまう。


713 : 本田千鶴&バーサーカー ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:05:26 55p/Ma4k0


「バーサーカー」

 バーサーカーは意味ある答えを返さない。

「ねえ」

 バーサーカーは意味ある答えを返さない。

「マリー・アントワネットは綺麗だった?」

 バーサーカーは意味ある答えを――





「――ああ、綺麗だったよ」


 


 万感の想いと執念が詰まった声で、絞り出した。





◆◆


714 : 本田千鶴&バーサーカー ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:05:44 55p/Ma4k0




 その光を見た時、俺は悟った


 この世に生まれた意味を。為すべき全てを、理解した


 輝きは毒だ。眩しいものは人の心を冒し、貶める


 人には誰しも隠したいものがある 見られたくない陰我がある


 ……あの子は、それを全て詳らかにしてしまう


 悪意の有無など関係ない。ヒトが直視するには、あの子は眩しすぎた


 故に、全ての王を滅ぼそう。存在するだけで人心を狂わせる光が正義ならば、誰かが是正せねばならぬ


 ――徳なき恐怖は忌まわしく、恐怖なき徳は無力であるのだから


 征こう、アントワーヌ。征こう、ジョルジュ。……征こう、千鶴。我がマスター


 今こそ、ヒトに正しい恐怖と庇護を。光なき世界こそ、自由の満つる楽園である


715 : 本田千鶴&バーサーカー ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:06:10 55p/Ma4k0



【クラス】バーサーカー
【真名】マクシミリアン・ロベスピエール
【出典】史実 フランス革命
【性別】男性
【身長・体重】290cm、115kg
【属性】中立・善
【ステータス】筋力:A++ 耐久:A++ 敏捷:C 魔力:D 幸運:D 宝具:EX

【クラス別スキル】

狂化:A
 筋力と耐久を2ランク、その他のパラメーターを1ランクアップさせるが、理性の全てを奪われる。
 ロベスピエールは人語をある程度解するが、彼の信念、行動は如何なる声によっても揺るがせない。

【固有スキル】

対英雄:EX
 彼のこのスキルは「対王族」に限定されている。
 汎用性に欠けた特化型。それゆえに無二の性能。
 彼の場合、特に「王・支配者・それに与する存在に対する殺傷力」を示すものとなっており、格の高い王族が相手であればある程各種ステータスが際限なく上昇、その革命を罷り通らせる。
 市井から生まれ出た人間由来の英霊でしかないロベスピエールをどこまでも強靭にさせるスキルのランクは規格外。狂おしき革命王を象徴する権力殺しのスキル。

鋼鉄の決意:A+
 革命を成し遂げ民に自由を齎すという血塗れの決意と行動力がスキルとなったもの。
 痛覚の完全遮断、超高速行動にさえ耐えうる超人的な心身などが効果となる。
 複合スキルであり、本来は勇猛スキルと冷静沈着スキルの効果も含む。その為、ロベスピエールはバーサーカーでありながら、時に異常なほど聡明な一面を覗かせる。
 また、ロベスピエールの場合は前述の二つに加え、同ランクの戦闘続行スキルも含んでいる。

最高存在崇拝:B
 ロベスピエールは霊魂の不滅を信じながら、人の理性を絶対視しないキリスト教の道徳を迫害し、破壊した。
 このことからかの宗派に由来する能力・攻撃に対して一定値の耐性を持つ。
 それと同時に、神性スキルを持つサーヴァントへの特攻効果としても機能する。

カリスマ:C
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、小国の王としてはCランクで十分と言える。
 後述の宝具と組み合わさることで効力をランク以上に増幅させる。

【宝具】

『死は民への福音なり(ヴァントーズ・ラ・ジャコバン)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜15 最大補足:10人
 フランス革命の代名詞である処刑具――ギロチン。
 ロベスピエールは正義と自由の名の下に、自身に仇成す者を次々と断頭台へと送っていった。
 刃状に加工されたギロチンを自身の腕から自在に生やし、戦闘を行う。仮に破壊されても次から次へと刃を生成してのけるその異様な絵面は、さながら彼が祖国で執り行った血の粛清劇のカリカチュアのよう。ボウガンのように射出したり盾のように生じさせたりと応用の幅は広めである。
 真名解放時には敵手の頭上からギロチンが生じ、攻性・防性事象及び対象の耐久力を無視した斬撃ダメージを与える。これは彼の革命が不滅の王家を地に落とし、ただの人間として殺生した逸話に由来する性質である。即ち、回避以外に対処の手段が存在しない。また直撃時には即死判定も行われ、幸運値が低ければ低いほど、理不尽な死滅の可能性が高まる。


716 : 本田千鶴&バーサーカー ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:06:40 55p/Ma4k0

『永遠なる革命譚は散華する白百合と共に(パンデミック・ギロチニズム)』
ランク:EX 種別:対人民宝具 レンジ:1〜600 最大補足:1〜3000人
 革命期のフランスで民の心に灯った革命の火は、感染爆発(パンデミック)が如く国全体へと拡大した。
 フランス革命の主導者であるロベスピエールが持つ第二宝具は、直接的な破壊力を持たず、また彼自身を強化するものでもない。この宝具は謂わば、革命病とでも言うべき人々の狂的な熱意を自身の姿や声、齎した破壊を介して周囲へと拡散させる「対人民宝具」である。
 宝具の効果を受けた対象は精神抵抗判定を行い、失敗した場合、形はどうあれ(ロベスピエール以外への)戦意を著しく鼓舞される。それは時に根拠のない自信であり、時に抑え込んだ衝動の爆発であり、時に自己の死亡すら厭わない鋼の覚悟となる。共通しているのは一歩間違えば確実に破滅する状態になるということ。無論、サーヴァントの手綱を引くマスターがこれにあてられればどうなるかは想像に難くない。
 加え、国家の絶対者である王家を滅ぼした逸話から、この宝具の効果を受けた全ての存在は全てのステータスが1ランク上昇し、サーヴァントを傷付けられる神秘を効果適用中得ることが出来る。宝具の効果はロベスピエールとの距離が離れれば離れるほど薄れ、近付けば近付くほど濃くなる。
 但し、この効果はマスターにだけは通じない。

【weapon】

 『死は民への福音なり(ヴァントーズ・ジャコバン)』

【解説】

 フランス革命期の政治家にして、史上初のテロリスト。人類史の代表的な革命指導者である。
 貧しい家に生まれながらも秀才として喝采を浴びていたロベスピエールは、三十歳の頃に政界へと身を投じる。
 この頃は死刑廃止法案を提出したり、犯罪者親族への刑罰を禁止する法案に関わるなど、後の彼からは想像も出来ない活動方針を掲げていた。
 ――然しロベスピエールは突如として革命の病に取り憑かれる。左派の論客として頭角を現し、共和主義が勢力をマシた8月10日事件から権勢を強め、遂には国民公会の権力を掌握して恐怖政治を断行するに至る。
 その革命は瞬く間にフランス全土を覆い尽くし、王家を駆逐し、次々と尊き血筋の者達や、それをかばう者、自分達の革命に反対する者さえも断頭台へ送った。
 殺し、殺し、殺し、殺した。彼の手によってフランスは地獄になった。支配する者もされる者も、平等に怯えるしか無い正真の地獄が具現していた。世論がロベスピエールを狂人であると看做し始めるまでに時間は掛からなかった。やがて彼は反ロベスピエール派の起こしたクーデターによって逮捕され、彼自身も葬ってきた王家の者達と同じようにギロチンの刃で裁かれることになる。

 マクシミリアン・ロベスピエール。何が彼を革命の衝動に駆り立てたのかには諸説ある。
 だが、その真実は後世には伝わらぬまま闇へと消えた。それを知っていた彼の賛同者のごく一部も、彼と同じくクーデターにて露と消えたのだから無理もない話だろう。
 ロベスピエールは虚無的な男だった。泥の味を知り贅沢を知らぬ、独裁思想とは縁の遠い空洞の男であった。
 そんな彼がある時目にしたのは――絢爛にして優美。可憐にして秀麗。唯一にして無二。慈母が如き優しさと、紛れもない蒼色血統(ブルーブラッド)の気高さを兼ね備えた、麗しい一人の女の姿。
 その顔を、髪を、姿を身なりを声を微笑みを……目視した瞬間、ロベスピエールは悟ってしまったのだ。

 ――ああ。こんな存在は、この世にあってはならない。
 ――こんな存在を生み出す王家もまた、あってはならない。
 だって彼女は余りにも眩しすぎたから。眩しくて、眩しくて、自分の愚かしさが詳らかに暴かれるような錯覚を自然と民に与えてしまう、そういう類の人間だったから。ロベスピエールは当たり前のように彼女と、それを生み出した王家の打倒を掲げ、実行し、成し遂げた。

 白百合の王妃マリー・アントワネット。
 空洞の男が初めて目を奪われ、憎み、執着し、妬み、嫉み、恐れ、そしてただ一人心の底から恋焦がれた女。
 フランス革命という大革命虐殺はひとえに、彼女という光を天へ還す為に行われた、大いなる儀式であった。


717 : 本田千鶴&バーサーカー ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:07:17 55p/Ma4k0

【特徴】

 蒼白の肌に銀の髪を持つ、三メートル近い長身を持つ異様な男。
 深淵のようと称される蒼瞳。常に嗤いながら戦い、光輝なる王に赫怒する狂人。
 漆黒のジュストコールを纏い、血で錆び付いた具足を軋ませ歩く。
 百人が見れば百人が"不吉"という印象を抱く、死の象徴めいたサーヴァント。

【聖杯にかける願い】

 王権打倒――フランスのみならず、人類史に存在する全ての王権を無に還す。
 王に死を、光に昇天を、民に自由を世に万年の平穏を!
 "そんな滅茶苦茶な歴史改竄を押し付けられた人類がどうなるか"など、ロベスピエールは一切斟酌しない。


【マスター】

 本田千鶴@ぼくらの

【マスターとしての願い】

 聖杯を手に入れ、ジアースに纏わる一連の戦いを消滅させる。
 その過程で自分を裏切り辱めた、畑飼守弘を殺す。

【weapon】

 ナイフ

【能力・技能】

 ジアース(Zearth)と呼ばれる全長500メートルもの巨大ロボットを操縦する"契約"を交わしている。
 マッハに達するほどの速度で移動可能な巨大機であるが、操縦の代償としてパイロットは必ず死亡する。
 千鶴もひょんなことから死の運命を決定付けられた子どもたちの一人だが、異界である冬木には戦闘へ導く啓示も届かない以上、本企画では基本的に直接関係することのない単なるフレーバー。

【人物背景】
 
 中学一年生。人並み外れてお人好しな三人の家族を持ち、家族の中では唯一現実的な思考回路を有している。
 自分の通う中学校の教師である畑飼と性的関係を持つが、裏切られ、彼の友人である好事家達に性的暴行を受けた上でその模様をビデオに撮られるという辱めを受ける。畑飼を殺して自分も死のうと決意したが、その直後に妊娠していることを知り、生まれてくる子どもの為に一度は殺害を諦める。
 しかし、ココペリによってジアースのパイロットとさせられたことで未来が消滅、再び畑飼への復讐を決意する。
 ある種後がなくなったことで倫理観が飛んでおり、死にたくないと戦いを拒んで暴れる友人を躊躇なく刺殺し、多くの犠牲を出しながら復讐に向けて突き進む冷徹さを有している。

 原作の特定エピソード(加古功編、本田千鶴編)のみで把握可能。
 一巻とこのタイトルが付いている箇所のみ読めば書けると思われる。

【方針】

 バーサーカーを"操縦"して、聖杯戦争に勝つ。人殺しに躊躇いはない。


718 : ◆xjawmtEuSY :2017/07/30(日) 18:07:35 55p/Ma4k0
投下終了です


719 : アリス(紫苑寺 有子)&アサシン ◆xPkZC/L4mY :2017/07/30(日) 21:21:12 EuvEz2G20
投下します


720 : アリス(紫苑寺 有子)&アサシン ◆xPkZC/L4mY :2017/07/30(日) 21:22:30 EuvEz2G20
「アサシン、ドクターペッパーを取ってくれ」
冷房の効き過ぎた部屋でキーボードを叩きながら、黒髪の少女は背後のサーヴァントに告げる。視線を向けたままの液晶には、ハッキングしたと思しき冬木市内の監視カメラ映像が映し出されていた。
「……はいよ、お嬢様。よく冷えた湿布だ」
軽口を叩きながらアサシンと呼ばれた男は冷えた缶を投げ渡す。画面に表示された映像を注視していた少女は、ワンテンポ遅れてそれをどうにか受け取った。
「炭酸飲料を投げる奴があるか、この馬鹿サーヴァント!あとドクペをけなすんじゃない!」
抗議の声を上げるマスターを片手であしらい、アサシンは勝手に取り出したドクターペッパーの缶を開ける。
「やっぱりマズいな。コーラの方が良い……痛ってえ!」
無言で空き缶を投げ付け、少女は再び電子の世界へと意識を戻していく。
「聖杯戦争にサーヴァント……ニートのぼくには荷が重すぎる、全く」
皮肉を込めてそうぼやくが、状況は変わらない。ここにいるサーヴァントとマスターは戦力的に見ても下から数えた方が早いだろう。事実、監視カメラの映像内では如何にも英雄然とした人影が闊歩している。
「そりゃどうも。世話をかけるな」
「全くだ!こんな面倒に巻き込まれてるのに、新しい助手はナルミの代わりにさえならない三流サーヴァント一人だけなんだぞ!」
翻って、ここにいるサーヴァントは何の変哲もないただの青年だ。背中のライフル銃がかろうじて戦う意思の存在を主張しているが、その他は一般人と変わりない。ステータスも宝具も最低限のレベルだ。
「まぁ、三流なのは否定しねぇよ。だから俺がどう動くかはお嬢ちゃんに任せるさ。一応はマスターだしな。どうする、俺を自害させてケツまくるか?」
そう言って、アサシンは皮肉気な笑みを浮かべた。自分の能力が著しく低いことはアサシンも自覚している。そもそも、英霊になれたこと自体が奇跡に等しいレベルだ。古今東西の英雄と真正面から戦おうものなら、即退場は免れない。マスター自身の戦闘能力も皆無に等しいこの状況では、さっさと聖杯戦争そのものから逃げた方が得策だとさえ言える。
「……アサシン」
だが、それでもこのマスターが逃げようとしなかったのには理由がある。「アサシンの本質と願いに隠れる「謎」。それが、彼女の好奇心と矜持を握り込んで放そうとしなかったからだ。
その熱病のような好奇心と拭いきれない疑念を込めて、マスターは一つの質問をアサシンに向ける。
「君は、本当にあの事件の真犯人なのか?」
それは、英霊としてのアサシンが抱える本質を最も的確に撃ち抜く問い。
生前、多大な武功を上げた訳でもない。
生前、誰かに感謝されたこともない。
生前、誰かの為に戦ったこともない。
生前、何かを生み出したこともない。
生前、偉大な業績を残したこともない。
どこにでもいるごく普通の、歴史の流れに消えるはずの男。それが生前のアサシンだった。だが、そんなごく普通の男はただ一度きりの行為によって「英霊」になった。なってしまった。
「……さぁな。そんな昔の話、忘れちまったよ」
生きていた頃の記憶はもうほとんど残っていない。生前、アサシンの名前が世界を駆け抜けたあの日のことも。偽りのように思える感情と記憶を封じて、アサシンはドクターペッパーを一口飲んだ。
「ぼくは聖杯戦争なんて戯れに付き合うつもりは毛頭ない。けれど、アサシン。マスターとしてこれだけは君に言っておく」
マスターの少女は、アサシンが何を願っているのか知っている。いや、察していた。眼前のサーヴァントと共に葬られた、死者の言葉と残酷な真実。それこそが、彼の望むものだった。
「……ぼくはニートで、探偵だ。だからもし君が君自身の――いなくなってしまった、リー・ハーヴェイ・オズワルドの――失われた言葉を代弁して欲しいと望むのなら、その真実を掘り返すことくらいはできる」
アサシンが聖杯に託す願いは一つ。それは自らの過去――1963年11月22日の出来事の真相を知ることだ。今はもういない、ただの「リー・ハーヴェイ・オズワルド」としての過去を知る唯一の手掛かりを手に入れること。
その願いを叶えられるものはこの世に三つしかいない。聖杯、そして作家と探偵だ。
アサシン――オズワルドはマスターが差し出した言外の意味を感じ取り、息を吐いた。結ばれたのはサーヴァントとマスターとしての契約ではない。聖杯戦争の中で真実を探る、依頼人と探偵しての契約だ。
「……依頼料はいくらだ、アリス?」
アリスと呼ばれたマスターは、負けず嫌いな光を湛えた瞳をパソコンのモニターへと戻して答える。
「……ふん。なら精々、ナルミの代わりぐらいは果たしてくれ」


721 : アリス(紫苑寺 有子)&アサシン ◆xPkZC/L4mY :2017/07/30(日) 21:24:23 EuvEz2G20
【クラス】アサシン
【真名】リー・ハーヴェイ・オズワルド
【出典】20世紀・アメリカ
【属性】混沌・悪
【性別】男性
【身長・体重】
【ステータス】筋力:D 耐久:C 敏捷:D 魔力:C 幸運:E 宝具:C
【クラス別スキル】
気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。

【保有スキル】

情報錯綜:A
不確実な噂や憶測に満ちた情報を流布させることで、自身に纏わる情報を偽装するスキル。
Aランクともなれば、クラスや真名すら偽ることが可能。

英雄殺し:E
一つの時代において、英雄となるはずだった人物を殺害した者に与えられるスキル。
自身より格上の英霊との戦闘時、全ステータスが僅かに向上する。

陰謀論:A
神秘や謎の失せた近現代において、例外的に「謎」として語られる人物や事象に与えられるスキル。
このスキルを持つ英霊は、スキルのランクと同等の神秘を含有した存在として扱われる。

【宝具】
『11/22/63(ダラスの惨劇)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0〜∞ 最大補足:1
アサシンによる暗殺とそれに纏わる疑惑を再現する必中の狙撃。発動には相手の真名を把握している必要がある。
あらかじめ世界に「アサシンが対象を暗殺した」という結果を刻みつけることで、あらゆる因果律を捻じ曲げて進む弾丸を放つ。
アサシンの狙撃は世界によるバックアップを受け、距離や遮蔽物、回避スキルといった一切の条件を無視して対象へ必ず命中する。
例え地球の裏側にいようとも、アサシンの弾丸からは逃れられない。
狙撃の威力は対象の知名度によって変動し、誰もが名前を知っているような英霊であれば一撃で霊核を破壊することも可能。

どれだけの疑惑を背負おうとも、用意された真実はただ一つ。オズワルドこそが真犯人。

【weapon】
『マンリッヒャー・カルカノM91/38』
ケネディ暗殺に使用されたボルトアクション式のライフル銃。
日本製の4倍スコープが装着されているが、命中精度はお世辞にも高いとは言えない代物。

【人物背景】
アメリカ合衆国第35代大統領、ジョン・F・ケネディを暗殺「したとされている」人物。
1963年11月22日にテキサス州ダラスを訪れていたケネディを狙撃し、その日のうちに逮捕される。
逮捕後のオズワルドは一貫して容疑を否認していたが、2日後に多くを語らぬまま元マフィアのジャック・ルビーにより殺害された。
その後の捜査で「ケネディ暗殺はオズワルドによる単独犯行である」との結論が出されたが、オズワルドが放ったとされる銃弾がありえない軌道を描いていたことや犯行当時のアリバイがあったこと、不明瞭な暗殺の動機や背後関係などから上記の結論はでっちあげとする意見も多い。
半世紀経った現在でも真相は明かされておらず、今なお「オズワルドは犯人ではない」とする陰謀論の数々が語られている。



厳密に言えば、今回召喚された英霊はオズワルドそのものではない。
その正体はケネディ暗殺というセンセーショナルな事件の犯人が世間の「噂」によって捻じ曲げられた姿。
本来のオズワルドは単なる暗殺犯であり、英霊になれるような器の持ち主ではなかった。
しかし、ケネディ暗殺に関する幾多の謎や陰謀論、根拠のない噂がごく普通の男であったオズワルドの本質を変転させ、英霊の域にまで昇華させてしまったのである。
英霊としてのオズワルドは「噂」や「陰謀論」に基づく不確実な想像で構成されており、生前のオズワルドとしての記憶や心情はほとんどを喪失している。
そのため、本当の「リー・ハーヴェイ・オズワルド」がどのような人物であったのかはアサシン自身にもわからない。

【特徴】
やや時代遅れの服装をした、どこにでもいるような白人男性。背中にライフルを背負っている。

【サーヴァントとしての願い】
ケネディ暗殺の真相を知る。


722 : アリス(紫苑寺 有子)&アサシン ◆xPkZC/L4mY :2017/07/30(日) 21:24:55 EuvEz2G20
【マスター】
 アリス(紫苑寺 有子)@神様のメモ帳

【マスターとしての願い】
特にないが、依頼された以上はアサシンの願いを叶えることに全力を尽くす。聖杯には頼りたくない。

【weapon】
パソコン(インターネット接続済)

【能力・技能】
クラッキング能力は超一流で、監視カメラの覗き見や銀行口座の凍結などは朝飯前。また、職業探偵だけあって推理はお手の物。

【人物背景】
「ニート探偵」を自称する少女。年齢は12〜13歳程度で、非常に小柄かつ色白の美少女である。しかし、重度の引きこもりでひねくれた性格の持ち主でもある。かなりの偏食家で、食事は具なし麺抜きラーメンとドクターペッパーのみ。
普段はラーメン屋の二階でニート探偵事務所を営んでおり、様々な依頼に応じている。探偵としての捜査方法はクラッキングや助手のニートたちを使用したものが主で、部屋から出ることはあまりない。しかし、必要ならば外に出て捜査を行うこともあるため完全な引きこもり探偵という訳ではない。
職業柄もあって胆が据わっており、ヤクザ絡みの案件でも物怖じせずに引き受ける。

【方針】
引きこもりつつ情報収集。戦闘は避けたい。


723 : アリス(紫苑寺 有子)&アサシン ◆xPkZC/L4mY :2017/07/30(日) 21:25:15 EuvEz2G20
投下終了です


724 : 分倍河原仁:オリジン ◆Il3y9e1bmo :2017/07/30(日) 23:01:41 Yn4dioC60
投下します。


725 : ◆z1xMaBakRA :2017/07/30(日) 23:03:10 BzRxRY460
自分に正直なので、投下したい(当選するとは言ってない)主従を執筆して投下したいので、
〆切を『2017/8/2の24:00』に設定し直します。それ以降は何があっても伸ばさない事を誓います


726 : 分倍河原仁:オリジン ◆Il3y9e1bmo :2017/07/30(日) 23:03:39 Yn4dioC60
俺の独り言に、もう一人の『俺』が応える。
クソッ! またこれだ。

俺は気怠い身体に鞭打って起き上がった。
……起き上がった? そうだ。俺は寝ていたようだ。

すると、コンクリート製の打ちっぱなしの壁の向こう側からまだあどけない少女の声が聞こえてきた。

「……お父様。お父様。お父様お父様お父様お父様お父様。
 ……もう一度……今のお声を……聞かせてくださいませ…………」

俺はゴクリと生唾を飲み込むと、声が聞こえてきた方の壁を凝視した。

「……お父様お父様お父様お父様お父様……お隣のお部屋に居らっしゃるお父様……私です。
 私です。お父様の娘だった……貴方の妻でした私……私です。
 私です。どうぞ……どうぞ今のお声をもう一度聞かせて……聞かせて下さい……聞かせて……聞かせて……お父様お父様お父様お父様……お父様――ッ……」

異常だ。何かかもが異常だ。 『そうか?』
俺は頭のなかに響く『俺』の声が気にならないほどに混乱していた。

どうしてこんなことになっているんだ?

状況を整理しよう。
まず、俺は今、どこにいるんだ?
次に、俺のこと(だよな?)を「お父様」と呼んでいるあの女は誰だ?
そして最後に、知らないうちに俺の右手に握られていたこの【カード】は何だ?


727 : 分倍河原仁:オリジン ◆Il3y9e1bmo :2017/07/30(日) 23:04:09 Yn4dioC60

…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。

またあの音だ。
暫く茫然自失としていた俺の耳に、またあの時計のような音が流れ込んでくる。

――聖杯戦争。
今の音でようやく思い出した。
複数の主従を争わせ、最後に残った一組の願いを叶える。
そんなイカれた戦いに俺は身を投じたのだ。

『イカれてんのはお前のほうさ』

頭の中でもう一人の俺が俺を嘲笑う。

俺はふと頭を触った。
コスチュームが、無い。

「被るもの……早く……! 裂けちまう……!」

俺の中の『俺』が自己主張を始め、瞬く間に俺の『個性』は勝手に発動しそうになる。

――ドゴォン!

何かが爆ぜるような音がし、部屋のコンクリート壁が吹き飛んだ。

「お父様。お衣装をお忘れのようでしたので、僭越ながら私の方から来させていただきました」

もうもうと土煙が立ち込める中、虚ろな目をした少女がにっこりと微笑んで立っていた。
少女の手にはラバーマスク。確かに俺のものだ。

俺は震える手でラバーマスクを少女から受け取ると、それを被った。

「……ハァ、ハァ、ハァ……」

いい。アメスピは無いがテンションが戻ってきた。


728 : 分倍河原仁:オリジン ◆Il3y9e1bmo :2017/07/30(日) 23:04:34 Yn4dioC60
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。

例の時計の音がする。
俺と少女は土煙が収まった部屋で机を挟んで向かい合っていた。

「で、アンタは俺のサーヴァントなのか!? 『別に誰でもいいけどよ!!』」

「はい、私がお父様のサーヴァントです」

バーサーカーの少女――ガラティアというそうだ――は微笑みを絶やさずにそう応えた。

「じゃあさ、教えてほしいんだけどよぉ……」

「はい。何でもどうぞ。私は全てをお父様のために捧げます」

何となく会話が噛み合っていないような気がしつつも俺は尋ねる。

「バーサーカーちゃんの聖杯にかける望みって何!? やっぱり世界平和とか!? 『だったら俺の望みと一緒だな!!』」

「――それは、もちろん」

少女は目を逸らさずにはっきりと応えた。

「お父様の幸せですとも」



……ブウウウ…………ンン…………ンンン…………。


729 : 分倍河原仁:オリジン ◆Il3y9e1bmo :2017/07/30(日) 23:04:52 Yn4dioC60

【クラス】
バーサーカー

【真名】
ガラティア

【性別】


【出典】
ギリシア神話

【属性】
混沌・中庸

【パラメーター】
筋力:A 耐久:D 敏捷:A 魔力:E 幸運:E 宝具:C

【クラススキル】
狂化:C
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
普段は理性的で意思の疎通も図れるが、「お父様(マスター)」の身体または精神が傷ついたとガラティアが見なした場合、このスキルが自動的に発動され、マスターのことを傷つけた対象を全身全霊を持って排除する。

【保有スキル】
象牙の肢体:EX
アガルマトがガラティアの体を彫る際に付与したスキル。
毒や呪い等のステータス異常効果を完全に無効化する。

水晶眼:D
サーヴァントや宝具、魔術の性能を一目で把握し、分析するスキル。
ただしランクが低いため、ガラティアの分析を信用して良いかどうかはマスターの判断に一任される。

自己修復:B
自身の身体を自動的に修復するスキル。
霊核が損傷しない限り、ある程度の傷であれば直すことが可能。

【宝具】
『彫刻師の接吻(アガルマトフィリア)』
ランク:A 種別:対軍宝具
造高十メートルのガラティアを模した彫刻像を召喚し、意のままに操る宝具。
彫刻像はガラティアの動きと連動しており、その巨大さに見合わず俊敏。
また、腕のみや脚のみの召喚も可能。その場合、魔力消費が抑えられる。

【weapon】
なし

【人物背景】
ギリシア神話に登場するキプロス島の王アガルマトが、女神アプロディーテーの姿に似せて彫刻した象牙の女性型彫刻像。
自らが作った彫像に恋焦がれるアガルマトの祈りを聞き届けたアプロディーテーによって、彫刻像ガラティアは人間となり、最後にはアガルマトと結ばれた。

【特徴】
真っ黒なゴシックロリータとチョーカーを装着した、まだあどけなさの残る球体関節人形の美少女。
マスターのことをアガルマトだと思い込んでおり、性別に関わらず「お父様」と呼んで慕う。

【サーヴァントとしての願い】
永遠にお父様(マスター)と一緒に暮らす。

----

【マスター名】
トゥワイス(分倍河原仁)

【出典】
僕のヒーローアカデミア

【性別】


【Weapon】
なし

【能力・技能】
「二倍」
トゥワイスの『個性』
一つのものを二つに増やすシンプルな能力。
コピーは性格や能力も再現されている。
大きなダメージを受けると泥のようなものに変化して消滅し、トゥワイスに消滅したことが伝わる。

【人物背景】
全身に黒いラバースーツを纏っている、灰色の肌と白目が特徴的な犯罪者(ヴィラン)の男。
口数が多く、一人で二人分の会話を行っている様な話し方も特徴。先に喋るAは本当のことを言っているが、後に喋るBはAの反対、もしくは、本来言うべき言葉とは反対の言葉を発している。
素顔は額に傷がある金髪のダンディーな男性で普段は寡黙。
過去に悪事の為に自分自身を複製し従えていたが、反乱により分身に殺されかけ額に傷を負わされてしまう。
分身は互いに殺し合い本体の自分だけが残ったものの、トラウマを植え付けられたせいで自分が本物であるか確信が持てなくなった上、常に反対の事を言う二重人格が形成されたために日々葛藤している。
マスクを被ると落ち着き、口調が軽くなる。

【聖杯にかける願い】
本当の自分を確立したい。


730 : 分倍河原仁:オリジン ◆Il3y9e1bmo :2017/07/30(日) 23:05:23 Yn4dioC60
投下を終了します。


731 : 分倍河原仁:オリジン ◆Il3y9e1bmo :2017/07/30(日) 23:06:05 Yn4dioC60
ごめんなさい!
sage忘れてました!


732 : ◆As6lpa2ikE :2017/07/31(月) 01:35:43 1jzsmVNM0
投下イズ刻みます


733 : 独物語 ◆As6lpa2ikE :2017/07/31(月) 01:37:07 1jzsmVNM0
001

阿良々木暦を光だとすれば、私はきっと影なのだろう。
そう、影――私は、阿良々木という光に対する暗い憎悪の影であり、それは逆に言えば、阿良々木という光がなくては存在出来ないほどに弱くて脆い存在なのだ。
そんな自分が嫌になる――嫌いになる。
それほどまでに、私は阿良々木の存在に依存している自分が嫌いだし、それ以前に阿良々木が嫌いだ。
大嫌いだ。
阿良々木の優しさを、正義感を、思いやりを――あいつの全てを、私は嫌っている。
地球上に人類が誕生してからこれまでの間、この世にあった嫌いの全てを掻き集めて積み上げてビルを建てたとしても、私の阿良々木に対する嫌いの一軒家には到底及ぶまい――この嫌悪感は、最早私のアイデンティティとなっている。
私の阿良々木に対する憎しみは、最早私自身の構成物質なのだ。私の体は水三十五リットル、炭素二十キログラム、アンモニア四リットル、阿良々木への悪意百キロで錬成されていると言っても過言ではない。
この憎悪を失えば、きっと私は私でなくなってしまうだろう。空気の抜けた風船や、黄身の無い卵のようになってしまうに違いない。これまで私は、普通の人間ならばやりがいや目標や幸福などを原動力にして乗り越えるのであろう逆境や惨劇に直面しても、それら全てを『阿良々木よりはマシだ』と思い、あいつを呪う事で凌いできたのだから。
私はこれからも未来永劫阿良々木を嫌い続けるだろう。結婚式で花嫁がする誓い以上の決意を持って、ここに誓ってやっても良い。
私は、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、阿良々木を憎み、阿良々木を呪い、阿良々木を恨み、この命ある限り、いや、この命が尽きようと、阿良々木を嫌うことを誓う。
この思いがある限り、きっと私はどんな困難だって耐えていけるだろう。


734 : そだちノックアウト ◆As6lpa2ikE :2017/07/31(月) 01:39:06 1jzsmVNM0
002

先ほど自分自身を影に例えた私だが、そんな私は黒い人型の影のような何かに、襲われていた。
『襲われていた』と過去形なのは、それは既に済んだことだからである。私を襲った影の化物は、私の元に現れたサーヴァントによって、一瞬で一蹴された――いや、彼の戦闘スタイル的には、一蹴というより一殴と言うべきだろうか?
サーヴァント、ランサー――ギリシャ神話においては、ボクシングと剣術の名人として語られている英雄、『ポルックス』。
それが、私の元に召喚されたサーヴァントの真名である。性格が悪くて捻くれいて卑屈な私には、勿体無いくらいのビッグネームだ。
彼の鋼鉄の義手と傍目から見て鍛えられているのがよく分かる筋肉を以って放たれた槍のような拳撃は、影の化物の胸に命中鋭く命中――次の瞬間、影の化物は細かな黒い粒子と化し、黒紫の塵を残して消滅したのであった。

「ほっほぉ! 見ろよマスター! この塵、結構な魔力が含まれてるぜ!」

影の化物を殴り倒したポルックスは、つい数秒前まで精悍な顔つきで戦っていたのが嘘みたいに陽気な顔と口調で話しながら、塵の一部を掬い上げた。
菓子を買ってもらった子供のように(家庭内暴力でめちゃめちゃだった家で育った私にはそんな経験なんて皆無に等しいが)喜んでいるポルックスは掬った黒紫の塵を口に放り込み、食べた。
彼が顎を動かすたびにジャリジャリという音が此方まで響いてくるが、口内は痛く無いのだろうか?――さておき、そんなわけで私は聖杯戦争の参加者として選ばれ、サーヴァントとしてポルックスを召喚し、謎の影の化物との交戦を終えたのであった。
そんなわけでと言っても何も、全く意味が分からないだろうが、それは私が一番言いたいことである。
阿良々木が幸せになったのならば、それ以上に幸せになってやると意気込んでいた矢先に、戦争への参加という理不尽な目に遭うとは。
私の不幸もここに極まれりと言ったところか。
そもそも魔術の催しだとかいうオカルトなイベントに私が巻き込まれる時点で聖杯戦争の主催者の判断力に疑問を抱かざるを得ない――私は魔術師でも無ければ、何かしら戦争に役立ちそうな優れた技能を持っているわけでもないのだ。どうせ戦争に放り込むならば、あの憎っくき阿良々木にして欲しかったものである。
つい最近まで引きこもってた私の身体能力は、酷く脆弱だ――きっと、体育会系の部活に入っている中学生相手にも勝てないだろう。
ワンパンチでノックアウトされてしまう。
戦争で戦えるはずもない。
こんな戦う前から終わりきっている私の元に召喚されてしまったことを、ポルックスはきっと不満に思っているだろう。

「んなわけあるもんか。無力で魔力も殆どないマスターを守りながら戦うなんて、寧ろ英雄の腕が鳴るってもんだぜ!」

そんな風に、ポルックスは鋼鉄の義手をから無機質な金属音を鳴らしながら(文字通り腕が鳴っている)、自虐的になった私を慰めた。

「あー、だが、アレだな。此度の召喚にあたって不満な点が全くないってわけじゃあない。一つある。それもかなり不満な点だ」
「なにかしら?」
「兄貴がいない事だよ」

兄貴? と一瞬不思議に思った私だが、次の瞬間には納得がいった。
カストール――ポルックスの兄である。
カストールとポルックスは、ギリシャ神話で共に数多くの冒険を制覇した兄弟であり、彼らの仲の良さは一緒に星座――ふたご座――として夜空に描かれているほどだ。
それほどまでに絆が強いにも関わらず、聖杯戦争で召喚されたのがポルックス一人だけなのは、彼からすれば甚だ不満な事なのだろう。

「そうなんだよなあ〜! オレ達(ジェミニ)が二人一緒に召喚されないなんておかしくねえか? 鞘の無い剣や弓の無い矢みたいなモンだぜ!」

文句をぶつくさと呟きつつ、ポルックスは二摘み目の塵を口に放り込んだ。
兄弟姉妹なんて居なかったどころか親とおよそ絆なんて呼べる物を育めず、友人関係も言わずもがなだった私からすれば、ポルックスとカストールの絆は未知のものだった。羨ましい。


735 : そだちノックアウト ◆As6lpa2ikE :2017/07/31(月) 01:39:47 1jzsmVNM0
そんな風に自分が召喚したサーヴァントにすら嫉妬の念を抱いてしまう自分が、ほとほと嫌になる私であった。
いっそ自殺でもしてみたい気分だ――もしもここで自殺なり、あるいは戦死なりしてしまったとして、元の世界で誰かがそれを知るだろうか?
きっと誰も知る事はあるまい。あの何でも知っていそうな委員長、羽川翼でもだ。
この冬木市とかいう街で私が死んだとしても、それを知る人物は誰一人いないのである。
精々、行方不明として、元の世界でほんの少しの期間騒がれ、そして瞬く間に忘れられるのだろう。
あの阿良々木も、それを機にまた私を忘れてしまうだろう。あいつは無責任が擬人化したかのような男なのだ。間違いない
それは、実に不快な事だ。嫌な事だ。嫌いな事だ。
何度も私を忘れた阿良々木が、またのうのうと私を忘れるのは、想像するだけで発狂してしまうほどに我慢のならない事なのだ。
だから、私は生きて勝ち抜かねばならない、この聖杯戦争を。
生きて帰って、普通の学校生活を送って、まともな人間へと更生して、そして――幸せになって、阿良々木を見返してやるのだ。
その為にも、私はここで死ぬわけにはいかない。
見てろ阿良々木。
今はほんの少しだけ寄り道を余儀なくされている私だが、必ず元の世界に戻ってみせる。

「ははっ! なんだか良い面構えになったじゃねえかマスター! オレを呼んだばかりの頃とは大違いだぜ!」

ジャリジャリボリボリという咀嚼音を鳴らしながらポルックスは言った。

「オレとしても、マスターがそういうやる気を見せてくれると働き甲斐があるってもんだぜ!」
「ランサー、私を元の世界に帰らせてね。絶対に――絶対よ」
「おう! マスターの頼みを聞いてやんのがサーヴァント――英雄だ! マスターが元の世界に帰りてえんなら、聖杯戦争を勝ち抜いて、キッチリ元の世界に帰らせてやるさ!」

ランサーはニカッと歯を見せて笑うと、三摘み目の塵を口に放り込んだ。


736 : そだちノックアウト ◆As6lpa2ikE :2017/07/31(月) 01:40:21 1jzsmVNM0
【クラス】
ランサー

【真名】
ポルックス

【属性】
混沌・善

【ステータス】
筋力B 敏捷B 耐久A 魔力C 幸運A+ 宝具EX

【クラススキル】
対魔力:B

【保有スキル】
神性:A
神々の王、ゼウスの息子であるポルックスの神霊適性は最高クラスである。
兄のカストールと共にコンビサーヴァントとして召喚された際はCランクまで下がるが、此度の聖杯戦争ではカストールの死の直後の頃が色濃く出た状態で召喚されている為、普段通りの神性ランクを有している。
また、雷神ゼウスの力を受け継いでいるポルックスはスキル『魔力放出(雷)』を獲得している。

神々の加護:A
ゼウスやヘパイストスからの加護。
危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せ、ポルックスの行動の成功率を上昇させる。
彼の幸運ステータスの高さはこのスキルによるもの。
また、下記の宝具『槍/雷霆にて滅べ、我が兄の仇(スピアー・ケラウノス)』を発動する際、ゼウスからの魔力の大幅な支援が発生する。

拳闘術:A+++
ボクシングではギリシャ神話の大英雄ヘラクレスと渡り合えるほどの腕前を持つポルックスのこのスキルのランクは、最高峰を誇る。彼にとって、一軍隊を潰す事など、拳が二つあれば余裕なのだ。
ゼウスの雷とヘパイストスの炎――二つの属性の魔力と共に放たれるポルックスの拳は、ただ純粋な拳闘技術だけで対人魔拳の域まで達している。
ポルックスが拳での戦闘体勢に入った際、彼の筋力・敏捷ステータスに『+』が二つ追加される。

【宝具】
『神の子よ、永遠であれ(ポリュデウケース)』
ランク:B 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

ゼウスの息子であるポルックスには神の力が宿っており、その最たるものが不死性である。
彼の体には不死の力が備わっており、如何なる攻撃を受けても無効化する。
だが一定ランク以上の神性(あるいはそれに類するスキル)を持つ相手には、この効果が無効化されてしまう。
神性(あるいはそれに類するスキル)がランサーと同等以上のAランク以上であればこの宝具の防御を無効化でき、それ未満の神性(あるいはそれに類するスキル)ではダメージが削減される。
その他、神造兵装による攻撃ならば神性(あるいはそれに類するスキル)を持たない者でも通じる。その際のダメージ数値は神造兵装のランクによって変動する。

『炉炎鉄拳(ナックル・ヘパイストス)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

ヘパイストスから与えられた鉄の義手。一種の神造兵器。
鍛治神にして炎の神でもあるヘパイストスによって作られたこの義手は、炎の性質を持ち、魔力を消費する事で炎を噴出し、纏わせる事も可能。
また、ポルックスの現在のクラスはランサーである為、この拳の貫通力はAランク未満の防御スキル・宝具を突破出来るほどに高い。

『槍/雷霆にて滅べ、我が兄の仇(スピアー・ケラウノス)』
ランク:A(EX) 種別:対軍宝具 レンジ:50(∞) 最大捕捉:100

ポルックスがイーダースとリュンケウスとの戦いにおいて、戦死した兄、カストールの仇を討つべく槍でリュンケウスを刺し殺したエピソードと、その後、イーダースが投げた岩塊が命中して昏倒したポルックスを守る為にゼウスが天から雷霆を落とし、イーダースを殺したエピソード。この二つが混ざった結果生まれた宝具。槍の形をした黄緑色の雷で現れる。
この槍はゼウスの権能の現れであり、並々ならぬ神性を有する。
この宝具は普通に槍として使うのは勿論、一振りすれば、それに呼応するかのように天から雷霆が範囲内に降り落ちる。
また、真名解放をすると、槍を構成する雷(ゼウスの力)が極限まで高まり、極細のレーザービームと化して、敵めがけて放たれる。神の権能が極限まで高まったこの攻撃のランクは、カッコ内まで上昇する。全宇宙すら破壊できるゼウスの力に等しいこの一撃から逃れるのは不可能であり、どこまで逃げようと――たとえ、固有結界や異次元に逃げ込もうと、この雷霆は対象者を必ず貫くだろう。
このように非常に強力な宝具だが、ランサー曰く、自分にとってこの宝具よりも鉄の義手で繰り出す対人魔拳のボクシングの方がよっぽど強く、よっぽど使いやすいらしい。その言葉の真偽はさておくとして、彼がこの宝具を好んで使う事はあるまい。何せ、この宝具はランサーが溺愛する兄の死のエピソードに由来しており、つまり、彼のトラウマの再現のようなものなのだから。


737 : そだちノックアウト ◆As6lpa2ikE :2017/07/31(月) 01:41:30 1jzsmVNM0
【人物背景】
ギリシャ神話において、カストールと共に名前の知られる英雄。
ゼウスの息子であり、ヘパイストスから義手を授かり、ケイローンの弟子であった彼は神霊たちから受け取った技術・能力を駆使して、兄と共に数多の冒険を成し遂げた。あの英霊達の船――アルゴナウタイにも乗船していた事もある。

剣の達人にしてボクシングの名人であるポルックスだが、それ以上に着目すべき点は彼がゼウスの息子であるが故に獲得した、神の不死性である。
神の子であるが故に不死身のポルックスと人間の子であるが故に定命のカストール――この決定的な違いにより、彼ら兄弟はイーダースとリュンケウスとの戦いで死に別れる事になった。
神話においては、カストールの死後、ポルックスは神に願ってカストールに自分の命の半分を譲与し、そのおかげで彼ら二人は交互に天界と地上を行き来し、神として人として生活するようになったと語られている。
この兄弟愛に満ちたエピソードが神々の心を打ち、星座に昇華された物が、十二星座の一つとして知られる『ふたご座』である。
また、このエピソードで完全な神霊から格落ちした事で、ポルックスはサーヴァントとしての召喚が可能になった。

通常ならば、ポルックスはカストールと共にコンビサーヴァントとして召喚されるはずであり、彼が単体で召喚されるのはかなりの異例である。というより、星座としても二人一緒に空に描かれているカストールとポルックスの絆は非常に強固なものであり、そんな彼らの片方だけを単体で召喚するのは殆ど不可能と断言しても良い。

仮にポルックスを単体で呼び出すにしても、セイバーかライダー、バーサーカークラスのサーヴァントとして現界するはずだと思われるだろうが、それは全くの間違いであり、兄を失った直後のエピソードの宝具を携えている彼だからこそ、単体で召喚でき、そしてランサークラスとしての召喚が可能となったのだ。

彼を兄と共に呼び出していたら、それは即ちギリシャ神話に名高い歴戦の英雄を二人も呼び出した事となり、余程マスターが無能で無ければ、召喚時点で彼らの勝利は確約されたものとなっていただろう。ちなみに老倉育はどうしようもない無能である。

【特徴】
蒼色混ざりの緑髪を無造作に短く切ったようなヘアスタイルの青年。瞳は紅。
鍛え上げた筋肉を見せつけるように薄いタイツのような生地をしている、ノースリーブで脇の開いた上着。下にはジャージと鎧を足して2で割ったような特殊なズボンを履いている。

【weapon】
『殴り砕け、鉄の拳(ナックル・ヘパイストス)』、『槍/雷霆にて滅べ、我が兄の仇(スピアー・ケラウノス)』
ポルックスは剣の達人としても知られているが、ランサークラスとしての召喚にあたり、剣は座に置いてきた。

【マスター】
老倉育@〈物語〉シリーズ

【能力・技能】
数学が得意

【人物背景】
『終物語(上)』から参戦。彼女はこの巻からシリーズに初登場しているので、この巻さえ読めば、把握は十分。アニメ化もしているので、そちらでの把握も可能。
しかし、後日談にあたる『愚物語』に収録されている短篇『そだちフィアスコ』は地の文が育視点であり、彼女の屈折した内面がよく分かるので、そちらも合わせて読むのもオススメ。

【星座のカード】
ふたご座

【マスターとしての願い】
生還。自分の幸せは自分で叶える。


738 : そだちノックアウト ◆As6lpa2ikE :2017/07/31(月) 01:42:13 1jzsmVNM0
投下終了です。タイトルは途中でやっぱこっちが良いなあと思ったのでこっちにします


739 : ◆Il3y9e1bmo :2017/07/31(月) 22:34:01 xjHN30B.0
>>726-729
「分倍河原仁:オリジン」の冒頭部分が少し抜けておりましたのでwikiにて追記させていただきました。


740 : 恨むべきは何ぞ 願うべきは何ぞ ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/01(火) 19:42:53 cMdo2H9s0
投下します


741 : 恨むべきは何ぞ 願うべきは何ぞ ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/01(火) 19:46:37 cMdo2H9s0



冬樹を囲む山の一角、町を一望できる場所から夜の街を見下ろす。
多分、みんなはこれを綺麗だとか、素敵だなんて言うんだろうな。
私がまだ苦しいとかつらいとか、そういうのを何も知らなかったなら。きっと大声上げてはしゃぎだしてしまったと思う。
見たこともないぐらいの光があって、瑠璃や翡翠や黄金なんかよりも輝いて。腹立たしいぐらいに綺麗だから。



―――――――――"恨めしい"



きっと、みんな、幸せなのだろう。"私達を殺したくせに"。
きっと、みんな、忘れてる。"私の名前を忘れてる"。


ああ、嗚呼―――――――"恨めしい"


まずはお父さんを殺された。
仕方のないことだとみんな言うのだろう。戦争を起こしたのは父であるし、戦いの中で命を落とすのは当然なのだから。


"知ったことか"


理屈なんて知らない。だって帰ってこないじゃないか。もう会えないじゃないか。どうしようもないじゃないか。
受け入れられる人が居ると言うのなら、きっとその人に心はないのだろう。

それでも、これで終わったのならば、いつかは折り合いを付けることができたかもしれない。
いつしか別れはくるものだから。それがあまりに早く来てしまっただけだと思えたかもしれない。けど

最期は全てを奪われた。家族はみんな殺された。父の首は壁にさらされ、誇りすらも踏みにじられた。
悲しいも辛いも思えなくて、涙が出る前にただただ恨んだ。憎んだ。復讐を誓った。

あいつらはみんなもう死んだ。だったら誰も彼も死んでしまえばいい。私達を殺しておいて、こんなに世界が綺麗になるなんて許せるものか。
だから、この、きらきら光る輝きも全部途絶えてしまえ。私達を殺したんだから、死んでしまったっていいだろう。


742 : 恨むべきは何ぞ 願うべきは何ぞ ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/01(火) 19:47:13 cMdo2H9s0
「…………話がよーわからんのだが」

冬木市を囲む山の一角、町を一望できるその場所にて。
くたびれた上着を纏う跳ねた髪の男―――――"凧葉 務"がそうつぶやく。
彼の視線の先には、家屋の一階程度の大きさはありそうな巨大な髑髏。その上に真っ赤な着物を着たおかっぱ頭の少女が腰掛けている。

「戦争が始まるの。願いを懸けた殺し合い。」

その少女は男に背を向けて、町の夜景を眺めたままに言い放つ。
聖杯戦争。一応だが、凧は一度その説明を受けていた。この地に集まった主従が聖杯を懸けて殺しあうという。
だが余りにも突飛な話で頭がついていかない。ついさっきまで自分は本物の怪異屋敷に居た訳で、脈絡のない話には慣れたと思ったが。
気がつけばここは屋敷の外らしい。あそこに満ちる悪意は感じられず、"屋敷の中なら行かせてやる"と言われた自分の能力―――――
――――"黒い腕"が、どれだけ念じても出てこない。

「難しいなら、これだけ覚えておいて。
 オマエは私の願いを叶える為の駒でしかないの。」

巨大な髑髏の傍から、同じく巨大な腕骨が生える。少女はその手に乗り、エレベーターを使うように地面に降りた。
凧葉と少女が相対する。凧葉は初めて、少女の瞳を見た。刀の切っ先を思わせるような、鋭い眼を。そこには確かな"憎悪"が籠っていて。
少女は首から鏡を下げていた。そして、背後の巨大な人骨。彼女がさっき話された英霊と言う存在―――――かつて死んだ人であるならば。

「アンタは、何を願うんだ?」

それを確かめるために凧葉は問う。

「この世界を殺す。」

答は一瞬で帰ってきた。それを口にしたとたんに、少女の口元に熱が帯びていく。

「お父さんを――――私達を殺した世界なんて、死んでしまえばいい!!」

思い切り、叫びとして放たれた少女の願い。それはきっと、口にするほどに積もっていく憎しみなのだろう。
父親を殺されたというなら。歌川国芳とも楊洲周延とも少し違う姿をしているけど、彼女の名前はきっと。

"滝夜叉姫"

凧葉は売れない画家である。故に、絵の知識であればかなりのものを持っている。
その名前は、一族を殺された復讐鬼として何度も描かれている女の名前であった。

「………安心して。オマエだけは生きてても良いわよ。
 それぐらいはしてあげる。けど―――――"オマエも"、復讐なんて意味がないって言うなら……」

荒げた息のまま、顔を赤く染めたまま少女は言葉を続ける。
その背後で、巨大な腕骨が拳を握る。それが振り下ろされたのならば、人間程度はあっさりとつぶれてしまうのだろう。
凧葉に選択肢は用意されていなかった。あるのは少女への隷属の一つだけ。だから





「……そんなこと言えねぇよ。」


743 : 恨むべきは何ぞ 願うべきは何ぞ ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/01(火) 19:47:53 cMdo2H9s0
復讐。その言葉で思い出す顔がある。
立木緑郎。怪異屋敷に父親を食われて、その屋敷に復讐する、壊すと決意したあの少年。
始めてあった時は普通の男の子だった。それが、復讐すると決め手からはひどく顔つきが変わっていた。
この少女もそうなのだろうか。血涙を流すかのように赤黒く淀んだ眼、憎悪を顔の皮に塗りたくったみたいな顔をしているこの少女も。
きっと、そこは同じなのだろう。だけどあの少年とこの少女は、すこし違う気がする。

「俺は普通のヤツだからよ……
 アンタみたいな、あんまりスゴい過去を持ってたら何も言えねぇよ……」

その言葉を聞く少女は、呆けていた。
恐怖に顔をゆがませて命を乞うか、復讐の片棒なんて担げないとわめきだすか。そのどちらかだと思っていたから。
なのに凧葉は、少し同情したような顔で、穏やかに声を紡いで行く。

「気持ちがわかるとか、そんなことも言わねぇ
 ……でもさ、これだけ思うんだよ。



 "アンタの願いは本当にそれで良いのかよ"」



―――――それが引き金だった。
悲鳴を上げるように少女が叫んだ瞬間、あの拳が振り下ろされた。
少女の精神を反映するように、狙いのぶれたそれは凧葉に直撃することはなかった。が、それでもその余波だけで人を吹き飛ばすには十分であり
凧葉は背後の樹木に叩きつけられる事になった。

「……結局、わかったような事言って!
 わからないんでしょ!?黙っててよもう!!!」

叫びはいつしか、泣き声に変わる。擦れた声はぬれ始めて、瞳からはしずくがこぼれる。
自分のマスターを殺しかけたことにも気づかないで、ただただ凧葉に感情をぶつけるしかしない。

「イテテ……」

強打した背中をさすりながらも、凧葉務は立ち上がる。言いたいことはまだ、終わってない。

「アンタが憎い奴等はもう死んでるじゃねぇか!」

「五月蝿い!!!」

今一度振り上げられた拳が落とされる。今度は覚悟の上。前方へ、少女の方へ飛び込んで回避する。

「それでも憎いのよ!!私達を殺したくせに、こんなに綺麗な世界が全部!!!」

彼女が言うからには、きっとその通り。どうしようもなく憎くて憎くて仕方がないのだろう。
だから、その思い自体には何も言えやしない。だから、凧葉が伝えたい言葉はその先だ。

「願いが何でも叶うんだろ?だったら――――」

次は間髪入れず、振り下ろされた拳がなぎ払われ―――――これでいい。この角度ならば、"少女の方へ飛ばされる。"
吹き飛ばされた体は地面に何度も打ち付けられて、凄まじい痛みを抱えながらも凧葉たどり着いた。
立ち上がり、伸ばした手で、少女の体を掴む。

「オマエ、何を……」

「………訊きたいだけだよ。
 "本当に願い事がそれなのか"って。」

少女の体は震えていた。それが怒りによるものか、それとも別の何かか。

「……だって、どうしようもないじゃない!
 恨むしかないのよ!だって、もう会えない……か、ら……」

そこで言葉を詰まらせた少女に、凧葉は優しく微笑みかける。
緑朗のお父さんは帰ってこないかもしれない。でも、彼女なら。
願いが何でも叶うというのなら、彼女の奪われたものは帰ってくるはずなんだ。

「あ、わ、私、は………ぁぁあああああああぁああああ!!!」

「ちょ、ちょっとアンタ……」

大声を上げて泣き始める少女。これはちょっと、凧葉も想定外だったようで。


744 : 恨むべきは何ぞ 願うべきは何ぞ ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/01(火) 19:48:17 cMdo2H9s0
「ほ、ほら!アンタ、絵は好きか?」

泣き止んでもらえなきゃどうしようもならない。凧葉は鞄からスケッチブックを取り出す。
何枚もページを捲っていろいろな絵を見せるけど、少女の鳴き声は止まない。
なるべく愉快な絵を書いているつもりだが、少女の鳴き声も止められないとは―――なんて、ちょっと自信をなくしながら捲った最期のページ
そこに描かれた猫の絵を見て、少しずつ少女の鳴き声が収まっていく。

「……ね、こ?」

「……やっぱ、子供ってぇのは皆ネコが好きなのね……」

少女は凧葉の手からスケッチブックを取り上げて、まじまじと猫の絵を見つめる。
そのうち自分でページを捲り始めて

「ねぇ、これは?」

「お、おお。これは―――――」

――――――――――――――――――――

―――――――――――

――――――

「ちょ、ちょっと!なんてひどい話なの!?
 この子が可愛そうよ!このお話、書き直しなさい!」

「ま、まだ最後まで読んでねぇだろォ〜〜」

小一時間ほどたったのだろうか。いつしか二人はその場で座り込んで、絵について語り合っていた。
スケッチブックのページは捲り終えて、今見ているのは絵本の原稿。凧葉が出版社に持ち込み、かつて没を喰らったものである。
ひどい話だ、なんて言われたけど。自分の書いた絵本にこれだけ夢中になってもらえて気を良くしないはずもなく。
全身の体の痛みなんかも忘れて、少女も自分のやったことを忘れて、二人は絵本を語らいあった。

「……う、うぅ……」

「な?良い話だったろ。」

またこぼれだす少女の涙を、今度は落ち着いて眺める凧葉。自分の絵本で泣いてくれているのだ、作家冥利に尽きるというもので。

「……落ち着いたか?」

それでも、進めなければいけない話もある。

「……ええ。憎い憎いってばかり思って、簡単なことに気づかなかったものね。
 私はまた家族に会いたい。……恨みは忘れられないけど、それでも願いが叶うならそうしたい。」

「やっと答えてくれたな。
 今度はオレの話を聞いてもらってもいいか?」

そう言って立ち上がろうとした凧葉に、忘れていた痛みが走る。

「イッ……てぇ……」

「あ……ご、ごめんな――――」

そうして少女もやっと自分のしたことを思い出す。一度は明るくなった顔を俯かせて、謝罪を口にしようと

「オレも、やらきゃならんことがあるんだ。」

けれど凧葉は言い切る前に。自分の話を始めてしまった。

「"双亡亭"っていう酷い屋敷があってよ……仲間がそこで戦ってんだ。
 だからさ、アンタの願いが叶ったら手伝ってほしいんだよ。
 それまでは駒にでも何でもなるからさ。」

お前は自分の駒でしかない。そういえば、そんなことも言ってしまっていたと思い出して、少女の顔が赤くなる。
男の中では、まだ自分はあの傲慢な女のままなのだろうか。自分の中では、男は最初とはまったく違う姿で居るのに。
と、そんな考えのせいだろうか。

「え、ええ。勿論!」

と、少々食い気味に申し出を受け入れた。

「だから貴方の……"マスター"のためにも、共に頑張りましょう!」

"マスター"。最後に少女はそう呼び直した。
最初はただの駒だなんていってしまったけれど。今なら自分が従者でもいいと思える。
謝罪の代わりに、これからは自分が貴方の従者となる、と。そんな思いの、少々回りくどい表れである。


745 : 恨むべきは何ぞ 願うべきは何ぞ ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/01(火) 19:54:58 cMdo2H9s0





「……アンタそんなに素直だっけ?」

「い、今までは冷静じゃなかっただけなのよ……」





【クラス】キャスター
【真名】滝夜叉姫

【ステータス】
筋力:B 耐久:D 敏捷:C 魔力:B 幸運:D 宝具:A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
道具作成:D
キャスターのクラススキル。
道具に関する逸話は持たず、また知に長けたという事もない。
結果として並以下のランクであり、一応持っているという程度。

陣地作成:C
キャスターのクラススキル。
上記と同じ理由でこちらも並。一応持っている程度。

【保有スキル】
妖術:A+
貴船神社の荒神より授かった妖術。
幾百の人を勾引かし、無数の妖を従え、屍より大妖を創造した。
滝夜叉姫については出自不明の様々な伝説が残されており、出来ることは無数ともいえる。

鬼種の魔:B
鬼の異能および魔性を表す、天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキル。
復讐劇の果てに鬼に成り果てたという逸話により、滝夜叉姫はこのスキルを保持している。
魔力放出は特定の形をとらず、ただ純粋な膂力の強化として現れる。

【宝具】
『天葬天滅河砂髑髏』
ランク:B++ 種別:対軍宝具
滝夜叉姫、五月姫、如蔵尼。彼女にまつわる数多くの逸話が重なり一つの宝具と化したもの。

彼女は"屍の軍勢を率いて天を堕とさんと暗躍した"
彼女は"百鬼夜行を従えて、巨大な骸骨を操り迫る勇士を押しつぶした"
彼女は"復讐の果てに自らを鬼と化し、両の手に刀と薙刀を握り舞い狂った"

そしてこの宝具は彼女が率いる屍の軍勢であり、彼女が従えた百鬼夜行であり、復讐の果てに纏う彼女の鬼である。
無数の屍が巨大な骸骨となり、彼女はそれを纏うことで"鬼"と化す。言わば屍で組み上げた巨大な装甲を纏う宝具。
その地に死した人が居る限り、骸骨はその屍を用いることで再生する。実質魔力が尽きぬ限り再生を繰り返すのである。
巨大な質量による攻撃力は当然として、鬼種の魔による魔力放出のバフを受けることで破壊力はさらにましていく。
ただし、万全の性能を発揮するには真名開放が必要となる。
真名を開放せずこの宝具を使用する場合は、一部のみを召喚する、巨大な装甲の変わりに通常の鎧のようにして纏うなどして使用する。

【人物背景】
平将門の遺児であり、三女。嘗ての名は五月姫であったが、妖術を授かった際に名を変えた。
朝廷に一族を滅ぼされ、その恨みから貴船神社へ"丑の刻参り"をし、荒神より妖術を授かったとされる。
その後の彼女は将門山に篭り、公明な妖怪を含む軍勢を結成。朝廷転覆を図るが、大宅中将光圀と山城光成に打ち倒される。
その最期に、彼女は今までの罪を悔いて改心したと――――ここまでが彼女の物語。
しかしそれは将門が庶民の英雄として喧伝されていくうちに、庶民に望まれた救済でしかない。家族を殺された女が、無念も晴らせず死ねるものだろうか。
答えは否であり、故に彼女は世界を憎む。仇敵が作り上げたこの世界を憎む。
願うは復讐であり、何もかもなくなってしまえばいいという。けれど、その願いの意味は"幸せを取り戻したい"というだけ。

同じく将門の三女であるとされる"如蔵尼"という女性が存在しており、彼女と同一視されている。
滝夜叉姫が朝廷転覆を企んだ悪とされているのに対し、如蔵尼は美しく清らかな女性であったという伝説が数多く残る。
きっとそれはどちらもが真実。無垢で穢れが無かった故に、深く深く怨讐に囚われたのだろう。
両者共に、非常に美しい女性であったという点は共通している。

【特徴】
真っ赤な着物を纏い、腰には護刀、首からは丸鏡を提げて薙刀を構える"少女"
目つきは鋭く、常に世界を恨んでいるよう。でもたまに素の顔を見せると、明るいただの女の子の顔。
若くして復讐に囚われ、そのまま何も育たなかったのかもしれない。精神性は非常に幼く、また当時の時代背景もあり、戦い人を殺す事になんの頓着も無い。
そこを除けば純粋無垢で人懐っこい、見た目相応の少女。マスターとのやりとりもあって、多少はその素の部分を取り戻しつつある。

キャスタークラスでありながら近接戦闘に向くステータスであり、宝具も前線で使用するもの。
バリバリの近接サーヴァントである代わりに、キャスター本来の役割は苦手。

【サーヴァントとしての願い】
もう一度、幸せな家族とすごしたい。


746 : 恨むべきは何ぞ 願うべきは何ぞ ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/01(火) 19:59:34 cMdo2H9s0
【マスター】
凧葉 務@双亡亭壊すべし

【能力・技能】
特になし

【人物背景】
参戦時期は原作5巻終了後から。
双亡亭という怪物屋敷に挑む異能者軍団のなかで一人、一般人として双亡亭に乗り込む売れない画家。
特殊な能力などは持ち合わせていないが、非常に強靭な精神を持つ。
過去の傷を抉る精神攻撃に対し、過去の傷を受け入れることで跳ね除け
またその精神攻撃を受けたほかの人間にたいしても、その精神を立ち上がらせることで救うなど。

【星座のカード】
牡牛座

【マスターとしての願い】
生還し、双亡亭を破壊する。


747 : 恨むべきは何ぞ 願うべきは何ぞ ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/01(火) 20:00:02 cMdo2H9s0
投下終了します


748 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 00:36:25 RW3L/R1o0
投下します


749 : 甲斐刹那&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 00:40:17 RW3L/R1o0
追っているのか、追われているのかもわからなかった。


ただ、目的だけが在った――――――









冬木市新都、高層ビルの屋上。
地の光で闇を照らす街を一望にできる場所から、甲斐刹那は眼下を見つめていた。
その目に宿るのは郷愁の念。かつてあった平凡な日々。
今よりも弱々しく、力のなさを悔いてばかりだった頃。けれど欠けたもののない日常だった。

背丈の小ささで気付こうとも、大人でも備わらない肝の据わりよう。
見据えるその姿を、本来はまだ小学校に通っている年頃の少年であると誰が知ろうか。

「10年か。それだけ経てば色々変わるよな」

町並みは、自分が知るよりも随分進歩していた。
誰もが小さな細長い箱を眺めながら歩いていて、街の眩しさは目が眩むようだ。
元いた原宿でない土地とはいえ。自分が生きていた頃より10年以上経過した時代とはいえ。
住み慣れた国の街に戻ってこれたのは、懐かしい安心感があった。

「懐かしいのか、刹那?」
「ああ、ちょっとな。魔界に来てからそんなに経ってないはずなのにな―――」

そこまで言って、自分の故郷を忘れかけていた事実に、心臓が痛みで弾んだ。
脳を巡るのは、ひたすらに激走の記憶ばかりで、ほんの少し前にあった出来事は押し流されてしまっていた。

戦い、戦い、戦い、戦う。殺し、殺し、殺し、殺してきた。

守るため、救うため、再び会うめに生きてきた。そのために戦い続けた。
あれから、どれだけの時間を戦ってきたのか。
あれから、どれだけの敵を屠ってきたのか。
一年にも満たないかもしれない。巻き込んだ数でいえば1000人も越えているだろう。
小学生を超えていない年頃でありながら、少年は既に百戦錬磨の戦士だった。
乾き、汚れ、罅割れていく心を代償にして。


750 : 甲斐刹那&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 00:40:39 RW3L/R1o0


「クールは、自分の10年後ってどんなのか考えたことあるか?」
「あまりないな。今の戦いとこれからの戦いを考えるのに精一杯さ。
 ただ、そうだな。それまで生きていられたのなら俺も立派な大人のケルベロスだ。刹那を背に軽々乗せて走れるぐらいには成長してるさ」
「ハハッ、確かに今のお前だとちょっと小さいもんな。乗る時いつも途中でブッ倒れないか心配だぜ」
「小さい言うなッ!」

隣の相手と和やかに談笑する。しかし言葉を交わす者を他人が見れば、誰もが目を疑うだろう。
腰ほどの四肢の体躯。黒い毛並み。顎に並ばれた牙。それはどうみても犬だった。
しかし目に宿るのは紛れもない意志と理性。刹那と意志を疎通しているのも直の言葉を通じたもの。
当然それは―――否、彼は人界ならざる世界の住人だ。
悪魔(デビル)。弱肉強食を体現したような魔界を生きるケルベロス。クール。
刹那のパートナーとして戦ってきた、最初の相棒だ。
そしてデビルを伴う彼こそは選ばれた子供。デビルチルドレン。
人間界から呼び寄せられ、魔界を救うべく活動する救世主の一人である。


「それで、どうするんだ刹那。はっきり言ってこの事態はイレギュラーにも程があるぞ」
「ああ、わかってる」

クールの問いに頷く刹那。この状況での行動を如何なるものにするか、という問題への対処。
魔界の反乱軍領で休眠を取っていたと思ったら住み慣れた人間界のマンションで起きたのだ。完全に唐突な拉致である。

「大魔王や、天使の仕業ってわけじゃないんだろう?」
「ああ、そうだとしたらこんなやり口は面倒に過ぎる」
「じゃあとっとと帰るに限る。ここにはなにもない。ニセモノの街に帰ってきたって意味がないんだ」

久しぶりの穏やかな時間は、求めていた形とまったく違っていた。
ニセモノの街。ニセモノの役柄。どこにもいない、大切なもの。
疼く体。胸の内で大きくなっていくしこり。違和感は見過ごせず。安息なんてここにはなかった。
刹那の目的はひとつだ。一刻も早くこのくだらない儀式を終わらせて、魔界に帰ること。

「なら――――――」



「ならば、君は聖杯を前にしても何も望まないというのか?」



そう聞いてきた声は、クールのものではなかった。
聞く者の耳を離さない、重厚な声。若くはないが、かといって老人でもない。けれどその響きは秘境の奥地で座り込む仙人の如き老境に入っていた。


751 : 甲斐刹那&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 00:42:11 RW3L/R1o0


「キャスター。なぜここに?」

刹那もクールも、風と共に現れた人物に驚きは見せない。彼が己のサーヴァント―――聖杯戦争を戦う新たなパートナーであることはとっくに了承済みだ。
ただ、ここに来た理由を尋ねるのみだ。

「主の様子を見に来てはいけないかね?」
「いつも陣地の奥で引っ込んでいるヤツが言うことかよ。いいから本題に進めてくれ」

心中の思いを憚ることなく吐き捨てる。
どうせ黙っても、この魔術師はそんな機微すら掴んでしまうだろう。
キャスターは特に機嫌を損なうこともない。

「性急だな。やはり君も感じているか。戦いの始まりを」

無言で通す刹那だが、台詞には同意だった。
根拠があるでもない、ただの直感。しかし感じている。戦いの気配。争いの予兆というものを。

「ではこちらも切り出すとしよう。受け取り給え」

キャスターは手を差し出した。
細い、刹那でも掴みかかれば折れてしまいそうな腕の掌には、数発の筒が転がっている。

「……もうできたのか」
「君の持つ魔銃の規格にある銃弾の加工には少々手間取ったがね。そこが終われば後は容易いものさ」

腰にかけていた銃―――デビライザーを手に取る刹那。
当然ながら銃刀法違反にあたるような形状と仕様の品だがその本質は別。弾に込めたデビルを召喚式を省略して打ち出す召喚器だ。
傍にいるクールも、弾丸状に収めた状態で銃から撃てば召喚される。その弾をキャスターが解析させるよう求めてきたのが一両日前だ。
そして現在、こうして新たな悪魔を補充した状態で魔弾を量産してみせた。
その気になれば向上的に生産することも可能だろう。英霊といわれるに値する手腕だ。

「タフムーラスの名に恥じぬよう厳選した悪魔(ダエーワ)だ。存分に使うといい」

それもこの英霊の来歴を知っていれば当然だ。この男こそは古代イランにて究極の悪神すら従えた王。
遍く悪を束ねることを以て善政を為した名をタフムーラス。
デビルを従えるという点では、刹那よりも遥か上をいく正真の召喚師(サマナー)だ。

「能力の詳細は後で伝えよう。使用可能かどうかの実験も必要だしね」
「なんか変なヤツ仕込んでねえだろうな」
「そんな不備は犯さないよ。むしろ君のことを伝えたら悦んでその麾下に加わりたいと申し出た輩もいたぐらいさ。
 伝説のデビルチルドレン、かの大魔王の血を継いた子の尖兵となれるとね」
「……俺はそんなんじゃない」

弾丸を受け取りながら、刹那はそう否定した。
そう。大したものじゃない。力の限界を彼は常に経験してきた。
デビルチルドレンと持て囃され、舞い上がっていた驕りなど雪崩の中に消えた。
救えなかった者。間に合わなかった者。助けるどころか自分の手で死なせた者。
一番助けたかった人にさえ、この手は届かなかった。
戦いばかりの日々で体は傷つき、心は擦り切れる。
腹に何か入れてもすぐに戻してしまうぐらい、追い詰められていた時期もあった。


752 : 甲斐刹那&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 00:43:26 RW3L/R1o0


「自らの非力を悔い、それでも使命を全うせんとする君が、本当に聖杯に託す望みはないと?」

やっぱり、嫌な目だ。こっちの考えてること、特に見透かされたくない箇所を暴き立ててくる深遠さ。
王故の上から目線というやつか。幾つもの国で王族と付き合ってきてる刹那には良い印象はない。何を聞かれても動じるものかと睨み返す。

「……何が言いたいんだよ」
「愛した者との再会を願うことは卑しき願いではない、という話だよ」
「ッ!!??」

盛大に吹き出した。
まったくの慮外からの不意打ちは歴戦の刹那をして見事に決まり、余裕を奪い取った。

「テ……テメ、何ッう、うるせェよ!?」
「刹那、彼はもう何も言ってないぞ」
「いや、これは私の失態だケルベロス。すまない、少し踏み込みが過ぎた。恋心というものは実に複雑怪奇で」
「うるせェッッての!!!」

慌てふためいて喚き散らす姿は、なるほど確かに伝説の救世主だとは思えまい。
肩で息をする姿はどこにでもいる、多感な少年そのものだ。

「ああそうだよ。会いたいよ。俺は未来と、もう一度会いたい。そのために戦ってきたんだ」

一分ほど経過しただろうか。落ち着きを取り戻した刹那は素直にそう答えた。
要未来―――もう一人のデビルチルドレン。そして幼馴染の少女。刹那が会いたいと願うひと。
何をしたいわけでもない。話したいことがあるわけでもない。
ただ、会いたかった。それだけだ。
他に何も考えられないぐらい、未来ともう一度会いたかった。

「その途中で色々戦う理由はついてきたけど、結局はそれが一番の理由なんだ」

右の拳を、強く握り締める。手の甲に突き刺さった傷は腕ごと消えている。
不出来な似姿(ドッペルゲンガー)によって奪われた箇所を接げ直した、真新しい義手は以前の機能と一切淀みなく、だからこそ違和感が拭えなかった。

「では、この地にて戦う覚悟を決めるのだね?」
「出来るだけの事はする。救える命は救いたい。けど帰る手段が本当にそれしかないとしたら、避ける気はない。戦って帰るだけだ」

戦わずに終わらせたいなどと、泣き言は言わない。
デビルだからと繕うつもりはない。敵であるのなら、回避できない戦いであれば、刹那は躊躇なく引き金を引ける。そうした強さを得てしまった。
そこは狂気の一歩手前だ。道を外せば容易く堕ちる危うい狭間。

「クール」
「言わなくてもいい。俺は刹那を信じるさ」

多くを語らない相棒の存在が有り難い。
決して自分の為すべきこと、やりたいことを見失わず一線を超える真似を堪えることができるのも、また刹那の強さだった。

「……善に在りながら悪を貫き、悪に堕ちることなく善を為す。
 宜しい。我がマスターに相応しい人間だ」

キャスターは深く頷く動作をする。英霊も理解していた。齢にして十五も超えぬ身の肩に運命の重さに屈せぬマスターの鍛え抜かれた強靭な精神を。


753 : 甲斐刹那&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 00:46:40 RW3L/R1o0


「未だ英雄(クルサースパ)は降臨せず、蛇王(ザッハーク)は山に縛られ邪悪を垂れ流している。
 世界が善(ウォフ)と悪(マカ)に分かたれているのは、それが最も安定した状態であるからだ。我が子ジャムシードはそこを誤った。
 善を極めすぎたが故に天秤の均衡を欠き、差を埋めるに足るだけの悪を招いてしまった」

召喚されたサーヴァントである限り、彼にも願うものはある。
完全な善も絶対の悪も存在し得ない。両面があってこそ世界は調律される。皮肉にも、自身の後代の犯した冒涜がそれを証明してしまった。
キャスターが目指すのはこの世全ての悪の根絶ではなく、悪の制御。悪を世界を構成する一片と認め、受け入れることが平和をもたらす。そう確信している。

「数多のゾロアスターの系譜から、私が君のサーヴァントに選ばれたのは天の命であるようだ。魔と天、そして人の調停を保つ者の使命を果たせと」
「悪いが天使にも悪魔にも従う気はねえよ。なにせどっちにもケンカ売ってる身だ」
「それでいい。偽りなき己が魂にこそ従うのが人間だ。それがいずれ、望む願い(みらい)に辿り着かせよう」


つまりは、この男はどこまでも、人間の性を信じる者なのだ。


「では――――――」
「ああ――――――」

夜が更ける。聖杯戦争の始まりを告げる刻が近づいてくる。
悪魔の血を引く少年と悪魔を従える王。因果の鎖が招く結末は遠く、未来は見えず、ただ刹那を走り続ける。
その信念を胸に、両者は契約の言葉を告げ合った。


「今後ともよろしく」





【クラス】
キャスター

【真名】
タフムーラス

【出典】
『王書』

【性別】


【身長・体重】
176cm・55kg

【属性】
秩序・善

【ステータス】筋力E 耐久D 敏捷E 魔力A 幸運D 宝具C

【クラス別スキル】
陣地作成:B+
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 “工房”の形成が可能。
召喚した悪魔の協力で大幅な増強が可能となる。

道具作成:C
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 召喚に特化してしまった為か、道具作成能力は並レベル。ただし召喚した悪魔に作らせれば話は別である。

【固有スキル】
千里眼(悪):D
 千里眼としてのランクは低く、遠くを見通せるものではない。ただし、目の前の人間の悪の欲望や真理を見抜き、暴き立てる。
 元々の眼力と、従えた悪魔から得た知識と合わさったスキル。

召喚術:A
 過去、あるいは未来から霊体を喚起する魔術。
 タフムーラスはゾロアスター教に連なる悪魔(悪心を司る神霊や精霊)を召喚する術、そしてそれを使役する呪術を極めている。
 
動物支配:A
 言葉を持たない動物を支配し、組織することが可能。
 単純な動物であれば、思念を送るだけで使い魔とする。

善神の加護:B
 善神スプンタ・マユの寵愛を授かっている。
 悪属性の敵に対する能力低下(デバフ)の成功率が大幅に上昇する。

【宝具】
『この世全てよ、善を見上げろ(ヴェンディダード・シーダースプ)』
ランク:C++ 種別:対悪宝具 レンジ:1〜60 最大補足:600人
 あらゆる悪を縛る善聖の鎖。
 悪性、悪心、悪意、悪徳……悪の側に立つすべての概念に反応し抵抗判定を無視して絡み付く。
 条件が含まれれば、たとえ最高神であっても逃れられない対悪宝具。
 捕まったものはタフムーラスに支配の概念を刻まれ意のままに操られる。
 反面、善なる者には見た目通りの鎖でしかななくなる。
 「悪とは滅ぼすものではなく善によって制御するもの」という、タフムーラスの理念の具現といえる。


754 : 甲斐刹那&キャスター ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 00:47:23 RW3L/R1o0


『weapon』
召喚した魔神を戦わせるのが攻撃手段。
神獣に等しい霊格ですら呼び寄せられるが、完全な神霊となると条件は厳しくなる。

【解説】
ペルシアの叙事詩『シャー・ナーメ』に登場する、古代イランの第3代目の王として30年統治した。
彼の功業の殆どは、「悪魔を束縛し、使役した」という点に収束される。
なにせイラン神話での最高の悪神アンリマユ(アフリーマン)すら従え、倉の上に跨り世界を駆けたという逸話すらあるくらいだ。
そこからライダーの適性も持ち合わせている。
また悪魔だけでなく、獣を訓練し戦闘に使用したのもタフムーラスが初めてであるという。

これほど悪魔の使役に長けていたのも、彼の最も信頼のおける宰相シーダースプの存在が大きい。
実はアンリマユすら退かせるほど術に長けていたシーダースプこそ、善の最高神スプンタ・マユの化身であったからだ。
彼の教練を受けたタフムーラスは一流の魔を縛る呪術師となり、その能力を悪に用いることもなく悪を敷く善王になった。

善悪二元論。
預言者ゾロアスターが授けたアヴェスターに基づくイラン世界の基本論。
世界は善と悪に分けられ、このふたつは常に隣り合い、対立し、共に相克して存在する。
完全なる悪も善も、それのみでは単独で成立し得ない。
ゆえにタフムーラスは悪の根絶を求めない。人の悪心を認め、それを善心によって抑え、意のままにすることこそが在るべき世界であると。

タフムーラスの事業、功績は息子である聖王ジャムシードに完全な形で引き継がれることになる。
人と悪魔のみならず、天使すらも手に収めた完璧なる善を極めたジャムシードは、それゆえに傲岸となり神の寵愛を喪ってしまい
アンリマユの化身、最悪の蛇王ザッハークに取って代われ、古代イランは暗黒時代に突入していく。

【特徴】
色素の薄い頭髪に濃い色黒の肌をした、痩せぎすの男。さほど老いてはないが見識からくる仙人のような雰囲気が老人に見せる。
掴めば折れそうな細さだが、それを許さない深い眼光、威厳を感じさせる佇まいをしている。
服飾は白を基調とした、潔白な神官や祭祀といった印象。

【サーヴァントとしての願い】
この世全ての悪の支配。
悪心は人から消えて無くなるものではなく、善心で制御するものである。



【マスター】
甲斐刹那@真女神転生デビルチルドレン(漫画版)

【能力・技能】
小学生ながら修羅場をくぐり抜け下級のデビルなら素手で殴り倒し、自ら剣を取って前線で戦う。
右腕は天使との戦いで切断されており、精巧な義手をつけている。

【weapon】
銃型のデビル召喚器デビライザーを所持。現在の手持ちはパートナーデビルであるケルベロスのクール。
(本人にとっては忌むべきものだが)敵のゼロ距離で発射して使い捨ての弾丸にしたり、推進に応用している。
キャスターが召喚した悪魔を加工すれば、新たな仲魔にできるだろう。

【人物背景】
悪魔の血と力を宿すデビルチルドレン。
魔界の危機を救うべく人間界から呼び出され、当初はその使命に陶酔と憧れを持っていた。
しかし激しい戦い、呆気なく散っていく仲魔達、そしてライバル視しながらも大切に思っていた要未来との別離……
体は傷つき、心は擦り切れ、戦う姿は自暴自棄にも見えるが、再び未来と会うために生きて行くことを誓っている。

【マスターとしての願い】
未来との再会。聖杯に願うというよりは魔界への帰還が目的。
いざという時には戦う覚悟はある。


755 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 00:47:47 RW3L/R1o0
投下終了です


756 : 客人《まれびと》たちの剣道《つるぎみち》 ◆WqjPzMBpm6 :2017/08/02(水) 03:44:59 bd0flGts0
投下します


757 : 客人《まれびと》たちの剣道《つるぎみち》 ◆WqjPzMBpm6 :2017/08/02(水) 03:45:56 bd0flGts0
 吹きつける風の翼に乗って雲がゆったりと動く。
 亥の刻────。
 漆黒の世界に溶け込む銀月。真っ暗闇に青々と伸びた竹藪。
 その闇に紛れて静寂の空間に佇む一人きりの影法師。
 落とされる銀の斜光が差し込んで、穴の空いた雲から垣間見える月明かりが正体を暴きだす。
 煌々と冴えている月光を背景にしたその正体は袴と腰に差した刀が良く似合う女だった。きっと武家屋敷の姫に違いない。
 所謂、別式女といえば、厳つい男のような女武芸者というのが相場。
 しかし彼女は羚羊のような華奢な躰をしている。結った長い髪。その顔は実に端麗であった。
 口を真一文字に結び、呼吸を鎮める女は微動だにせず、時間だけが過ぎる。
 月明かりだけを頼りに腰を落とし周囲を見透かした。
 自然と半眼。────動かない。
 音が急速に無くなっていった……。
 鏡のように澄み渡る。────静の時間。
 ────風が動く猛烈な気配。                  ────その刻。
 すっと、自然に彼女の躰が沈み────。
 ゴォォと、天空《そら》で風が吠える。             ────月が雲に隠れ、風が吹き抜け、また現れる。 月が再び翳る……。                                 ────雲が流れ去るその一瞬。
「────ッ!」                        ────眼をカッと開き、
 腰の刀が鞘走り、右手が白光とともに閃いた。
 ……雲が晴れ、夜の闇が暴かれる。
 抜き手を見せず、真横に疾《はし》るそれはまるで稲光のような刃鳴一閃。
 文字通りそれは目にも止まらぬ早業。太刀筋、力、伎倆、是申し分なし。
 笹の葉がハラハラと舞って、辺り一面の竹は瞬く間に割れて倒れていく。
 しかし、彼女はそのことを嬉しいとも、凄いとも思わない。
 只、刀をそっと鞘に戻し、 彼女は牙を剥いて、悔しそうな表情を浮かべた。

「……くッ!」

 ────彼女の名は風鳴翼。現代に遺された数少ない本物の戦士の一人だ。


 そのまま彼女は柳洞寺へと静かな足取りで立去った……。


758 : 客人《まれびと》たちの剣道《つるぎみち》 ◆WqjPzMBpm6 :2017/08/02(水) 03:48:11 bd0flGts0

      ■
 
 翌朝────。

「常在戦場」そう彼女は口にした。

 ────天の杯《さかずき》。聖杯。無限の願望機。その伝説は真実《まこと》であった……ッ!

 風鳴翼が〝サーヴァント〟や〝マスター〟などと言う言葉を初めて訊いたのはつい先日。 ひょんな事から訪れた戦慄が漲る刻を超えたこの小旅行。その期待と不安が彼女の胸にマーチを鳴り響かせているのだった。
 四面楚歌のこの戦場から生きて帰れるかどうかも定かでない現状。
 逃れようのない生命《いのち》を賭した負けられない戦い。
 そんなものなど、彼女にはとうの昔に出来ている。しかし、

(ここでの剣《つるぎ》は誰かを救うための正義の剣ではない。全てをそのことごとくを葬り去る修羅の剣でなければならない)

 それは、風鳴翼の声。心の声であった。

(英霊《サーヴァント》は再び黄泉の国にへと送り帰すまでの事、でもその人間《マスター》まで道ずれになってもらわねばならないのか……ッ!?)

(この剣《つるぎ》がこれほどにまで重うなろうとは……)

(皆斬らねば成らぬのかッ!?皆死なねば成らぬのかッ!?こんな事は絶対に間違っているッ!)

 しかし、翼は頭を振ってその疑問を打ち消した。

(これ以上慮るの今は止《よ》そう。無聊を託つのもここまでだ。その前に……)

 風鳴翼は作務衣姿に口をへの字に結んで、黒々とした長い歩廊を歩き、本堂へ向かった。
 
 柳洞寺の奥の院────。
 風鳴翼は大きく頭を下げた。

「ご免」

 高い天井に太い庫裡の柱。偶像に囲まれたこの伽藍で座禅を組む女。
 今でも身体の神経に生々しく残る初めて出会った時のような冷たく燃え上がるような剣気《オーラ》は感じられない。その存在感も路傍の石仏に等しい。ただ、そこにいるだけ
 その服装《いでたち》も似つかわしくないTシャツにジーンズ姿という有り様の彼女が風鳴翼のサーヴァント。 剣《セイバー》だ。
 瞑目中のセイバーは振り向いて会釈した。

『あら?』

 サーヴァントの顔が向いて背後の翼に視線を投げ、素っ気なくそう応えた。
 能面を連想させる無機質な顔立ちがほんのりとほぐれた。
 左右に分けた髪を後ろで結んだ化粧っ気のない細い面。鋭いが笑うと優しくなる美しい眼。
 その姿には風鳴翼などには窺い知ることもできない、多くの人間を殺戮した過去を持つ悪鬼羅刹としての血腥い闘争の歴史が控えている。
 古より破邪調伏する地天の戦鬼《いくさがみ》────。
 文字通り菩薩にも羅刹にも成れる彼の伝説の────鬼だ。
 肝心な角は今は生えていないが……。

 背丈は翼と並ぶ。対極の位置にある。
 翼の胸に緊張と不安が蘇る。
 暫しの無言。沈黙。そして────。
 二人は憮然とした表情で言い放った。



『裏の草むしりは?』──────「終わりました」






『トイレ掃除は?』───────「終わりました」






『あの部屋は?』────────「…………(ギクッ)」

 翼はセイバーに詫びると、セイバーは有無を言わさず手荒く翼の腕を掴み部屋へと引っ立てていった。


759 : 客人《まれびと》たちの剣道《つるぎみち》 ◆WqjPzMBpm6 :2017/08/02(水) 03:51:36 bd0flGts0

  ■
 
 

 ────その他諸々掃除が終わったら、昼を過ぎてしまった……。
 柳桐寺の山門。
 箒とバケツをぶら下げてセイバーと翼、二人つるんで石垣の石段を登り歩く。

『時間をかけ過ぎです。何やってたんですか、あなた?』

 セイバーは水の入ったポリバケツへ柄杓を突っ込む。

「……すみません」

 青臭さが恥ずかしくてうつむいたままの風鳴翼。

『だらしがない。見ず知らずの我々を疑いもせず、招いてくださったここの住職殿の御厚意に失礼でして?』

「……はい」

 そのまま目を伏せて、とぼとぼと歩く。

『顔を上げなさい。まったく……仕様がない人ですね。あなたは戦うことしか知らないのですか?』

 これじゃまるで戦国時代の豪傑じゃないか。
 ────人類を守護する風鳴翼は幼き頃より研鑽され、鍛え抜かれた戦闘技術のエキスパート。特異災害・ノイズと戦い続けながら、今なお世界を飛翔《と》ぶトップアーティストでもある。
 ────そんな彼女は洗濯洗剤と柔軟剤の区別もつかない。
 ────これでは一体どっちがサーヴァントか分からない……。

『一体何故あなたのような者が来たのか……?』

 と呆れたセイバーは息と一緒に吐いた。

「……この若輩者などに不承不承ながら、一体何故貴女様のような御方が首輪をはめられて飼われるような真似を……?」

 翼は袖に隠された左腕の令呪を痛むように押さえる。

『元々守護者であるこの私が権現された時点でこの戦いには何かある。これには翼さんとは一切関係がない事と思いますが……』

 〝守護者〟と、言う単語に疑問符がついた翼。
 何処《どこ》かの場所。何時《いつ》かの未来。人類史の節目に自分が現れると母神様は言った。

「では、やはり私を招き入れたその聖杯とやらは邪なもので、天に意があって貴女様を地上に降されたと?」

『それはまだ解りません。が、剣を突き通せば解りましょう』


760 : 客人《まれびと》たちの剣道《つるぎみち》 ◆WqjPzMBpm6 :2017/08/02(水) 03:55:04 bd0flGts0

 上る翼の足が停まった。

「それなら私も同じです」

 遅れて振り向いたセイバーはむっと、眼を剥いて目尻を険しくする。

「この戦場《いくさば》に何かあるのなら、それを見極めるの事が防人の運命《さだめ》。問題ありません。血を吐き、骨を削る覚悟はできています」

『聖杯は求める者へとやってくる……。翼さん。貴方の聖杯に掛ける願いは?何故そこまでして剣を取るのです?』

「望み……ですか?私が聖杯へ祈る願いはありません。だから何故私が招かれたのか……」

『別に口に出しても罰は当たりませんよ?』

 翼は首にぶら下げた一つのペンダントを取り出し掲げた。
 それをセイバーはちらと見た。

「この天羽々斬に誓って第一義。私に聖杯など必要ありません」

『どうして?』

 二人の目と目がからむ。

「私の願いは……夢は、誰かに叶えて貰うものではない」

 揺るぎない深い蒼空《そら》のような色の視線。
 それが生まれながらのものであるのか、修練の賜物であるかはセイバーにも解らなかった。

「私の夢はトップアーティストとしてもっと高く羽翔《とぶ》事。けど、それは私自身の力でつかみ取らなければならない。手に入れなければならならない……」

 その魂を言葉に乗せて雄弁に語りかける。

「でも、いつか……いつかこの剣がどこか遠くに置ける争いのない平和な世界に……私の歌を戦場で奏でる鉄血ではなく、ただ傷ついた人たちを癒やす為だけに使いたいんです」

「だけどそれも、叶えて貰う物では無い。それは人類全ての力で手に入れなければならない……」

 セイバーのパチパチとした拍手が聞こえた。

『あのような部屋を見なければ満点の演説でしたのに……』

「貴女様の側に無粋とは知りつつ、馳せ参じさせてもらいたい。例えこの身が人でなくなったとしても戦わなければ……。 一体何が待っていようとも赴〈い〉かなければ────『駄目です』

 次の瞬間、翼の肩を風を切った。

「────え?」

 一刹那。翼は振り向いたがそれでも遅すぎた……。もうあんなに遠くにいる。

『────と、まぁこの通り……』

 翼は我に返る。

「ギアを……ッ!?」

 セイバーの掌にあるそれは大蛇薙と伝えられる素戔男尊の振るいし剣の欠片より造られたその異端技術《ブラック・アート》の結晶体。
 ひとたび纏えば人のならざる者。英霊恐るる、その名は────絶刀・天羽々斬。
 しかしそれは装者の手を離れ、サーヴァントの手の中にあった。
 あっという間にギアをかすめ盗られてしまったのだ。

『押っ死《ち》んでしまっては元も子もないでしょう?』


761 : ◆Y5knDMLJfU :2017/08/02(水) 03:55:43 bfDVa7w60
投下します


762 : ◆Y5knDMLJfU :2017/08/02(水) 03:59:00 bfDVa7w60
交錯失礼しました。取り消します。


763 : 客人《まれびと》たちの剣道《つるぎみち》 ◆WqjPzMBpm6 :2017/08/02(水) 03:59:22 bd0flGts0
『この懐刀は暫く預からさせて貰います。今夜は
町の巡回に参りますので…… それではご容赦を』

 そう言い放つと凩を巻き起こしてセイバーは何処かへと消え失せてしまった。
 全身の血を凍りつかせながらも慌てて石段を駆け降りると身体を一回転させて四方を確認する。
 気配も一切感じられない。それでも翼は叫んだ。

「私は是が非でも戦場に馳せ参じなければならないッ!この残酷な仕打ちは一体ッ!?母神様ッ!どうかお願いしますッ!私に剣を抜かせて欲しい。私の〝天羽々斬〟を返してくださいッ!母神様────ッ!」

 返事はない。 今はただ風の音を聴く。
 纏わりつくのは近づきつつ闘争の予感。頬を一筋の汗が流れる。

 ────この異境の地・冬木は、既にこの世ながらの修羅地獄。

 ────他のマスターたちは殺そうと謀り、画策しているかも知れない……。どんな豪強や英俊が潜んでいるか知れない……。


 さぁ、この先に、どのような風雲が旋《めぐ》るのかか?



    ■


【出典】仏教
【SAESS】セイバー 【身長】166㎝【体重】59㌔
【性別】女性
【真名】鬼子母神
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力A 耐久B 敏捷A+ 魔力B 幸運D 宝具A++

【クラス別スキル】
対魔力:A
Aランク以上の魔術を完全に無効化する。
女神の神核との強固な守り。

神性:A

角を折っているためランクダウンしている。それでも高い。

【保有スキル】
・鬼種の魔:EX(Eー〜A+)
天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、自己改造等の複合スキル。魔力放出の形態は『蒼い焔』と『刃』。
吸血衝動を常に抑えているためランクダウンしている。鬼子母神は戦闘時に段階的に上昇させる。
鬼種の魔を完全解放すると髪は白く染まる。毛髪の操作や神通力などの超能力の行使が可。

・女神の神核:EX(A+〜Eー)
女神として果たすあらゆる呪いに対する守護。しかし、鬼種の魔がランクアップすると相対的にランクダウンしてしまう。

・洗礼詠唱:A
霊体に対して+補正を加える。サーヴァントも例外ではない。魔性属性に有効打を加える。

・魔力吸収(人):ー
このサーヴァントのもっとも嫌悪している飢餓衝動、食人鬼衝動。人間や人型サーヴァントを補食する事で魔力に還元、そのサーヴァントスキルの獲得する。また対象者は若ければ若いほど回復量が上がり、そのサーヴァントのスキルを獲得する確率も上がる。セイバーの強い精神力・自制心で常に抑えるため使用不可。

【人物背景】
釈迦の説法を受け、改心した元・人喰い鬼。
子供と安産の守神となった夜叉の一尊。
家事でも何でもこいの文字通りのオカンサーヴァントだ。
元々は子供を攫い、食べる悪鬼だった彼女。改心後の彼女は人喰いを完全に断ち、同志・十羅刹女を率い人喰いを繰り返す同族や教えを広める事を妨げる仏敵を『処断』し、戦場に立てば何千何万を葬る破壊神と人間の擁護をする仏法の守護神。死後、その両方の側面を持つサーヴァントとなった。生前多くの人間の子供を食べてしまった贖罪を背負ったまま、それよりも多くの朋輩を手に掛け、霊長側の守護者にまでとなった鬼殺しの鬼。現在の鬼子母神の評価は彼女自身の並々ならぬ努力・献身の結果でもある。

贖罪に苦しむ彼女は赦されたいのか?赦してほしいのか?答はどちらでもない。彼女を一番赦していないの彼女自身だった。

因みに人間の代わりに食べ始めた最初はカレーである。好みは香辛料を多様せず、野菜多めの甘口の万人向け。しかし、最近近所のスーパーで目の当たりにした食料品コーナーによって、彼女のカレー感は絶賛イノベーション中。


764 : 客人《まれびと》たちの剣道《つるぎみち》 ◆WqjPzMBpm6 :2017/08/02(水) 04:00:47 bd0flGts0

【宝具】
『角剣・一切衆精《かっけん・いっさいしゅじょう》』ランク:A+ 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1〜100 最大補足:1〜1000

自分の角で造られた双剣。
この宝具の真名解放時、鬼種の魔はランクアップする。能力は鬼炎による溶断とセイバーの魔力による刀身の延長。 最大延長距離は約七.ニキロ。しかし、この宝具の本質はスキル:魔力吸収により吸収した魔力属性・特性を転写させる無色の妖刀。相手の力を吸収し、自身の魔力を上乗せして跳ね返す。
基本運用は次の通り。
『刃《ヴァジュラ》』
対人仕様。
対の〝角剣・一切衆精〟を連結して振るわれる無音殺戮術は悪属性サーヴァントに特効ダメージを与える。
『槍《インドラ》』
対軍仕様。
対の〝角剣・一切衆精〟を連結して放たれる全力投擲。
魔力放出を帯びた着弾点は熱で溶解・蒸発する。
投げた剣は神通力で回収する。


『護法刃圏・十華羅刹天(ごほうぜんじん・じゅっからせつてん)』
ランク:A+ 種別:対陣宝具 レンジ:500 最大補足:レンジ内全て

地面に刺した 〝角剣・一切衆精〟を起点とした結界宝具。この宝具を発動中〝角剣・一切衆精〟を一箇所につき一本消失する。宝具発動中の結界の中では彼女の女神の神核をランクアップさせ、気配察知スキルを獲得する。宝具内では悪属性・魔性サーヴァントを束縛する黒縄を張り巡らせ、洗礼詠唱十層からなるレンジ内の天と地総てを覆う防護結界を展開する。レイ・ラインに接続にすれば地脈からの魔力供給を受け続け、結界の維持の魔力はほぼゼロに等しい拠点防衛特化宝具。

『兜跋疾行・十牙羅刹天(とばつしっこう・じゅうがらせつてん)』ランク:A++ 種別:終局宝具 レンジ:1〜999 最大補足:約160000

〝角剣・一切衆精〟と接続したレイ・ラインをセイバーが暴走させて十五キロ四方を跡形もなく破壊する自爆宝具。〝破壊と滅亡《カタストロフィー》〟の顕現させる。

【 weapon】
・ 一切衆精
伸縮自在の二刀流を敵に護符を刻みつける。魔性特攻有り。

・黒縄
結界内で展開させて、相手を拘束させる自立防御。洗礼詠唱込みなので、サーヴァントの拘束に有効。

・鬼火
魔力放出を剣に纏わせたり、防護壁にする、戦輪状にして投射するなど攻防一体に使いこなす。

・鎧、籠手、脚甲
彼女の戦装束。
鉤爪が仕込まれており、宝具を受け止めるほどの強度がある。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯戦争を見極め、人間を護る為に戦う。




【出展】戦姫絶唱シンフォギアXD
【マスター】風鳴翼
【人物背景】

みんなアニメ観て、ゲームやろ!

聖遺物・ギャランホルンの転送事故により舞い下りる。年齢19歳。 聖遺物第1号・天羽々斬の適合者。護国の系譜、風鳴家の一人。国連直轄となる超常災害対策本部タクスフォースS.O.N.Gに所属しながら、 表向きには歌手として活動している。
幼い頃から、人々を守る〝防人〟として鍛え続けてきた〝剣〟であり、責任感は強い。
地の口調は普通の女の子言葉なのだが、先輩としての風を吹かすようになって以降、堅苦しく男性的な武士言葉や少し様子のおかしい言動が目立つ。
彼女は戦うことしか知らない為、それ以外のことには極めて疎く、生活能力は壊滅的。

【能力・技能】
・FG式回天特機装束・シンフォギア神話の遺産・聖遺物の欠片を口ずさむ歌の力で解放する事によって現代兵器を凌駕する戦闘能力を生み出す異端技術《ブラックアート》の結晶。
そのバリアコーティングは銃弾を弾き、宇宙空間の活動を可能とする。

・現代忍法彼女のマネージャー・緒川から学び教わった現代流にアレンジされた忍術。今のところ影縫いや火遁術を習得しているようだ。

【 weapon 】
・アームドギア・天羽々斬
日本刀型のアームドギアが武器。 可変・変形ギミックを内蔵し、行使する技や使用法に応じて特性や形態を変化させる。更に両脚部にもブレードを仕込んでおり、全身を使った、アクロバティックな高速空中戦闘を得意とする。

現在没収中。

【 マスター 願い】
天羽々斬を取り返す。
状況の解決。元の世界に帰りたい。


投下終了


765 : ◆Y5knDMLJfU :2017/08/02(水) 04:39:45 bfDVa7w60
では改めて投降します。


766 : 見送る月 ◆Y5knDMLJfU :2017/08/02(水) 04:40:24 bfDVa7w60
 ――海へいこう ありす

 闇が広がっている。その身体を灰に覆われた、玄武岩質の大地が横たわっている。

 ――夏になったら 誰にも内緒で 海へいくんだ ふたりで

 水気はなく、流れもない。柔らかな風が髪を靡かせることはなく、不甲斐ないこの星の微小重力は、毛髪の束をただ狼狽えさせるばかりで。

 ――太陽が きみを きれいにするたび

 日輪の光輝は星系を遍く照らす。死の大地たる此処とて例外ではない。しかし、清浄なる人間は其処には居ない。ただ在るのは、狂奔に身を窶した、死への希求に四肢の生えた邪悪なるもの。

 ――月は追いかけてきて ぼくをひとりぼっちにする

 死ぬことは許されない。君のささやかな願いは絶対の呪いとして、俺/ボクの身体を磔にする。過去の柵がボク/俺を縛り付けて、この暗い灰色の海に引きずり込むのだ。生命の輝きを失った六つの遺骸が、俺に悲しみを、怒りを、嘆きを、感傷を、空虚を、愛を置いていった。置いて行かれたんだ。去ってゆきながら、俺に寄り添うこの矛盾が、深い孤独の檻を形作る。そして自覚するのだ、乾いた海に立つ自分自身を。

 それはひとつの夢だった。月と呼ばれるこの星で、生命の存在する辺境の惑星・KK=101の青白い輝きを見続けていた俺たちの、もはや母星に帰ること叶わず、恐るべき戦いの光で、故郷も、楽土も、宇宙の塵と消えた俺たちの、疫病が蔓延り、次々に死へ飲み込まれていった彼らの、最愛のひとを奪われ、ただ独り残された俺の、死への解放と、彼女の最期の言葉に板挟みにされた俺だけの、俺だけの夢だった。
 死への欲求の具現が、俺を月の――KK=101の言葉で言うのなら――海へ立たせていた。実際、ここで死ぬことは簡単なことだ。基地内の調理器具で首を一刺しすればいい。悲しくも自活を続ける基地設備のケーブルを引っこ抜いて身体に押し当ててやればいい。何もかも投げ捨てて、一切の装備なく外へ飛び出せばいい。死は恐ろしいほど身近にあった。でも、できなかった。その誘惑全てに目をつむって、俺は自然に朽ち果てていくのを待たなければならなかった。
 それが至高神たるサージャリムの言うことだったなら、俺はそんなものの一切を蹴り飛ばして、サージャリムに中指を突き立てながら死を選んだだろうよ。だが、それが愛する君の、木蓮の言葉だったから。

「決して、決して自ら命を絶たないと約束して」

 君が居なければ生きていけないとさえ思った。それでも愚直に君の言葉を守り続けた。覆いかぶさる孤独の重さに、心が折れそうになった。頭がおかしくなりそうになった。いや、半ば発狂していた。死はそこにあるのに手は伸ばせず、最後に摂取した秋海棠のワクチンだけがいやに効いて、元凶たる病に罹ることもなく、ただのうのうと生き続ける。それに耐えられない俺の心の弱さの発露がこの夢だ。
 やがて、俺の身体はぶくぶくと膨れ上がり、眼孔から無色のゼリーを垂れ流して死ぬのだろう。それがいつもの流れだった。だが、そうはならなかった。そして、それは現れた。
 気配を感じて思わず振り向いた。八年ぶりに感じる、生命の躍動の感知だった。


767 : 見送る月 ◆Y5knDMLJfU :2017/08/02(水) 04:45:01 bfDVa7w60
「な――」

 息などできず、声も出せない環境であろうに、驚愕の言葉が漏れ出たことに気が付いたのは後の事だった。それは全身を白でまとめあげ、ぶくぶくと凹凸の激しいスーツに身を包んだ、頭部の黒いグラスの目立つ人型の存在。
 俺はいつだったかそれを見たことがあった。KK=101の監視データベースの中にあった、KK人類の宇宙渡航服、そしてそれを着用するこいつは――宇宙飛行士。
 何もかもがおかしいことだらけだ。俺たちとKK人類とでは身体のサイズがあまりに違いすぎるはずだ。彼らのものさしで俺たちを計れば数センチメートルしか身長のない極小の存在。
 それだけ彼らKK人類は巨大であるはずなのに、目の前のこいつはなんだ? 俺とほぼ同程度の大きさで、立ち尽くしているこいつは――。

「きみは、夢を見ているね」

 宇宙服の声が頭に響いた。テレパス、こいつもサーチェスの力を? しかし、もっと不思議なのはその調べが少女のものであったこと。一瞬間怯んで、俺は口を開いた。

「夢……ああ、そうとも。あんたも俺の夢か? 」

「私はきみの夢の文脈にいる。けれど、私はきみの夢ではない。私はそれに導かれて流れ来た」

 宇宙服が俺の手元を指差した。そうしてようやく俺は、俺が何かを持っていることに気が付いた。

「カード……?」

 金色の薄く引き伸ばされた、蛇使いの意匠目立つカード。裏面には大仰な枠の真ん中に十ばかりの、線によって繋がれた黒点が打ち込まれていた。これはKK人類が、KKから見える星を様々な事物に見立てて名前をつけたものだったろうか。

「一体全体なんだと言うんだ。これに導かれただの、なんだのと。お前は何者だ! ここはオレの夢なんだぞ! 」

「私は――わたしもあなたと同じ。これはあなたの夢であって、あなたの夢じゃない。そうでしょう? ザイ=テス=シ=オン……いや、小林輪くん」

 先程とはいくらか色の変わった宇宙服の声が俺/オレ/ボクを酷く打ち付ける。ああ。ああ――。
 そうか。そうだった。オレ……いやボクは紫苑なんかじゃない。小林輪という地球人のひとりで、それでも確かにボクの中には紫苑がいて。
 それは地球が抱えるたくさんの憶い出、過去のひとつなんだ。そうしてボクらは過去の溶けた大気に包まれながら、狂おしいほど未来を焦がれてる。

「ああ……。そりゃあそうさ、今のボクは地球人で、地球の縮尺なわけだ。あんたが小さいんじゃない、ボクがでかいってわけですか。そして、これこそボクの夢」

 よく見れば、手は小さく、肌も浅黒くなく、伸ばすに任せた黒髪は紫髪のショートヘアに変わっていて、俺は間違いなく八歳のボクだった。
 灰色の大地は急速に引き伸ばされ、漆黒の空と、日輪の光輝と綯い交ぜになる。それでも宇宙服の背後にある地球は鮮明なままで、青白い光をたたえながらボクを見つめる。

「今度こそ、本当に目醒めよう。輪――私のマスター。月はきみを見送っている」

 宇宙服が手を差し出して、ボクは躊躇いがちに、やがては力強く手を伸ばした。
 指と指が触れ合う、その瞬間にボクらは一筋の光となって、引き伸ばされた世界と共に、薄暗い月の海を飛び出した。光線は地球を目指す。大気の層をくぐり抜けて、海へ。

 ――過去と未来のはざまで ぼくはまた きみの夏をみおくる 海へいこうありす

 海へ、海へ――

――――

 白を基調とした清潔な一室に声が響く。

「輪。身体の具合はどうかな」

「ああ、だいぶ良くなってきたよ。脚も見てよほら、こんなに動かせる」

 輪と呼ばれた紫髪の少年は、白い布団に隠れた両足をばたばたと振るってみせた。ここは病室だった。

「それは何よりだ。では」

「ああ。そろそろ移動しなくちゃあいけないね、セイバー」

 対するセイバーは白い五分袖のシンプルなワンピースに身を包み、角髪の結った幼女と呼んでも差し支えのない可憐な少女であった。二人はこの冬木という地に喚び出され、万能の願望機という聖杯を求めて戦う――聖杯戦争に参加するマスターと、そのサーヴァントであった。
 輪とセイバーは一週間ほど前、あの月の海で邂逅した。それは紛れもない輪の夢の中のことであり、現実のことではなかった。
しかし、目を覚ました輪は、冬木市と呼ばれるらしい地方都市の一角、新都にある聖堂病院二階の一室に入院していて、おまけに傍らにはあの宇宙服の少女が佇んでいたのだから、心底肝を冷やしたものだ、と輪は苦笑する。
 それから輪と、宇宙服の少女――セイバーは己の中に刻み込まれた不可解な記憶に気が付いた。聖杯戦争。冬木市。サーヴァント、マスター。魔術師……。そして、星座のカード。あのとき、東京タワーで拾ったこの不可思議なカードが自分をここに引き寄せ、そしてセイバーとの縁を結んだのだろう。


768 : 見送る月 ◆Y5knDMLJfU :2017/08/02(水) 04:52:47 bfDVa7w60
「――その符に心当たりはないが、私はそれに輪との強い繋がりを感じる」

 ぼんやりとカードを眺めていた輪にセイバーは言う。セイバー、彼女は聖杯戦争において主たる輪を守護する使い魔、サーヴァントというらしい。
七つのクラスと幾つかの例外クラスに分けられた、彼ら英雄の霊はマスターの魔力をもって現界し、その強大な力で主を勝利に導く。そんな人間離れした彼らに対する三回の絶対なる抑止――

「この、令呪よりもか? 」

「ええ。令呪は私たちの契約の証であり、切り札となるものだが、実際に私を喚び出したのはそのカードのようだ。それに私たちはどこか似ている」

 その通りだった。輪は紫苑を内包し、セイバーは――。

「……なるほど」

「だから、令呪が無くともとは言わない。しかし、その証ある限り私はきみの剣となり、流れ行かないための楔となろう」

 彼女は幼くとも、守護者であった。輪は彼女の眩しさにどこか気恥ずかしさを感じて、そっとカードをポケットにしまいこんだ。

「そーかい。なんていうかその、さ。ちょっぴり前のボクだったら、その後者の言葉ですら信じられなかったろうに。今は……うん、心強いよ」

 その言葉に、セイバーから見透かされたような目線を向けられている気がして、輪は慌てて話題を変えた。

「話が逸れちゃったじゃないか。それで、どうするつもりなんだ? 」

「きみの回復を待つ間、私は霊体化して院内で情報収集を行っていた。そうしたらこれを」

「地図か。この冬木ってえ街の」

「これによれば、ここから西方向に行けば未遠川と呼ばれる河川にぶつかり、そこを境に東側を新都、西側を深山町と呼ぶらしい。まずはこの川の上流を目指そう。上流ならば身を隠す茂みや、森の一つ二つあるだろう」

「いいけど、どうして川なんだ? 」

「言わなかったか? 私は川の守護者でもあるんだ。川沿いの方が力を行使するのに何かと都合がいい。それにここからなら深山町にも、新都にも気を配れるだろう」

 しっかりと筋の通った提案が目前の幼女の口から飛び出るという事実に、これがサーヴァントというやつかと輪は実感する。と同時に、その点だけなら自分も然程変わらないなとひとりごちた。

「よし、じゃあそれで行こうか。ところでさ、すいてん……だかなんだっけ。よくわからないけれど、君のことはなんて呼べばいいんだ? 」

「水天皇大神だ。と言っても今きみと話している私自身は蛭子命という。しかし、真名の露見は戦闘に影響を及ぼす。今まで通り、セイバーで構わない」

「分かった。なるほどね、確かに、確かに似ているよボクらは……。――まあ、流れに身を任せてゆこうか」

「フ、それがいい」

 セイバーは初めて笑みを見せた。 


【クラス】セイバー
【真名】水天皇大神 /蛭子命
【出展】十二世紀・日本 平家物語、愚管抄等 / 日本記紀神話
【性別】女
【属性】中立・善
【パラメーター】
筋力D(C) 耐久A(C) 敏捷D(C) 魔力A 幸運D 宝具EX
※カッコ内はスキル・異形の呪発動前パラメーター

【クラススキル】

対魔力:B
 魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
共に沈んだ天叢雲剣の逸話から、龍王の娘であるとして、Aランク相当の高い対魔力能を誇っていたが、神呪に抗えなかった蛭子命と同一化されたことにより、Bランクまで低下している。

騎乗:A+
 乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。A+は竜種を除く、あらゆる獣や乗り物を乗りこなすことが出来る。
セイバーは年若での即位、度重なる戦乱のため、馬術を修めることができずにおり未所持のスキルであった。しかし、死後同一化された蛭子命により高ランクで取得した。
神そのものであり、また神が乗る船である、鳥之石楠船神を稚児の身でありながら乗りこなした蛭子命は高ランクの騎乗スキルを持つ。


769 : 見送る月 ◆Y5knDMLJfU :2017/08/02(水) 04:57:22 bfDVa7w60
【保有スキル】

神性:A+
 その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。天孫の直系であり、厳島神社の祭神・宗像三女神の化生としての面も持つため、高クラスで保持している。
 更にセイバーはその死後、水神・子供の守護神として神の一柱に祀り上げられた。その一面と生前の逸話が合致し、蛭子命と同一化。
 国産みである諾冉二尊(だくさつにそん)の子、セイバーの皇祖神である天照大神の兄姉との複合は最高クラスでの神性を齎す。

異形の呪:C
 不完全性を持って産まれ出たものの運命。筋力、俊敏と言った自身の肉体に関わるパラメーターをランクダウンさせ、自身の耐久力に補正をかける。
 蛭子命の抗うことができない呪い。自分に向けた攻撃力ダウンの呪術と防御力アップの変化の複合パッシブスキルであり、現界と同時に発動する。
神霊の記憶から、普段は人の形を保っているが、このスキルによってある程度の形態変化が可能。特に手足の欠損に関しては即座に発現するが、一度崩した身体を元に戻すには全身で三時間、四肢で三〇分ほどかかるうえ、変化した先は液状になる。
液状の肉体は物理的ダメージをカットするが、熱量変化、魔術攻撃には通常通りのダメージ判定がある。なお、液状化した肉体を戻すにはそれなりの魔力を消費する。

魔力放出(水):A
 武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
 攻撃時のブースト、または防御、噴出しての高速移動等、用途は幅広い。
 放出される水はセイバーの魔力から精製されるものだが、周囲にある程度の水量があるならば、それ自体に魔力を編み込むことで魔力の消費を抑えることができる。

流転の支配者:C+++
 時、言葉、知識、音楽。およそ流れるもの全てを操る神の権能。
 宗像三女神の化生・安徳帝が死後、水天皇大神として神の一柱へ祀り上げられた際に得たスキル。
本来はAランクであり、こと水の操作に絶大な力を発揮するが、サーヴァント召喚にあたって大幅にランクダウンしている。
このランクでは、時流の操作や生命という概念への干渉など、大規模な操作は不可能であり、せいぜい人波に呑まれることなく歩き回ったり、通常のそれとは比較にならない早さでの情報の伝播が可能な程度である。
しかし、水や風の操作に於いては高い補正を受けることができる。

無辜の怪物(龍):E-
 死の間際の行為や、その結果のために生まれたイメージにより、過去や在り方をねじ曲げられたモノの名。
 八岐大蛇、龍王の娘と、龍・蛇の化生としての属性、または女帝としてのイメージを持つ。
 本来であれば高ランクのスキルだが今回の召喚が神の側面の強いものであること、また同一化した蛭子命とスキル・異形の呪によってランクが下がっている。
そのため、自身が女性であること以外に変化は無いが、恩恵も無い。この装備(スキル)は外せない。

【宝具】

『形代の剣(つむをかれ/くさをなげ/くもをかけよ/かたしろとなせ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具~対軍宝具 レンジ:1~200 最大補足:500人
 崇神天皇の代、天之御影命の子孫によって造られた草薙剣の形代/レプリカ。
形代のため草薙剣そのものではないが、本物に等しい神威に満ちている。
真名を開放するごとに形状と性質を変容させる。真名開放に制限はなく、変容には"形代の剣"を通す必要がない。

"都牟刈大刀" (つむがりのたち) 「つむをかれ」
 紡錘状の両刃剣で鳥の羽のように左右非対称に反り返っている。
 その昔、八岐大蛇を屠った素盞嗚命が尾を切り落とさんとしたときに発見した業物。それは伊弉諾命から齎された神剣、天十握剣の刃を毀れさせたほど。
そのため非常に高い耐久性を持ち、その刃が毀れることはない。また、神霊の中でも荒魂に属する神々(悪神・邪神・荒神)に対して強い特攻を持つ。

"草薙剣" 「くさをなげ」
 蛇のように曲がりくねった剣身を持つ、蛇行剣。SNにおいての剣身の伸びたルールブレイカーのような形。
 記紀神話中、火攻めにあった倭健命はこの神剣をもって周囲の草を刈り掃い、これに迎え火を点けて難を逃れたという。
 その逸話から、四面楚歌の状況、複数人との戦闘に対し効果を発揮する。
 一人に与えた斬撃を、周囲五〇メートルに存在する"セイバーが敵と認識した"相手に対して、同様に与えることが出来る。しかし、セイバーが姿や気配を知覚、認識できない場合はこの限りではない。
 また、倭健命の手から離れ、神剣手ずから草を刈ってみせたという伝説から、ある程度の自立性があり、自動的な防御、手中を離れての打ち合い、飛行が可能。
 セイバーの知覚外まで離れた場合には、剣は消滅しセイバーの手中に戻る。後述の第二宝具発動に不可欠。なお、本来付くはずの植物への特攻はマスターの意向を汲んで外している。


770 : 見送る月 ◆Y5knDMLJfU :2017/08/02(水) 05:02:37 bfDVa7w60
"天叢雲剣" 「くもをかけよ」
 鍛造された鋼製の直剣。
 生前の八岐大蛇の上空には、常に厚い雲がかかっていたという逸話から、使用者の上空に常に乱層雲を作り出す。これは天候・環境に左右されず、真名を開放した時点で自動的に発動し、セイバーが建物内、地下にいる場合でも、その上空に雲を造り出す。
 乱層雲はいわゆる雨雲であり、小さな水の粒が集まって構築されている。セイバーはこの雲に微量の魔力による「きっかけ」を与えることにより降水雲とすることが可能。
 単に天気を悪くするだけの剣であるが、水神であるセイバーはスキル・魔力放出(水)の「水源」として使うことができる。

"形代の剣" 「かたしろとなせ」
 通常時の状態。両刃の簡素な鉄剣で柄は黒い。
  天皇の護身用装備で、装備者に対する神性特攻を半減させる。また、受容の剣であり、この形態が最も魔力や神威を乗せる用途に適している。

『坂上宝剣 (そはさんみょうとともにあり)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1~500 最大補足:4人
 毘沙門の化身と謳われた征夷大将軍・坂上田村麻呂の愛刀、ソハヤの剣。
 蝦夷の蕨手刀に対抗するために作らせた、両切刃造りで先のわずかに内反りになった二尺五寸あまりの細身直剣。重ねの厚い剛刀であり、セイバーは両手持ちでないと扱えない。
 "形代の剣"並に魔力の乗りが良く、ひとたび剣を投げ放てば相手と勝手に打ち合うという、"草薙剣"に似た形質を持つ。投げ放たれている最中は、田村の武技の力が剣に宿っており、セイバーが魔力放出を以ってして斬るよりも、より正確な太刀筋を見せる。
なお、田村は生前ソハヤを鳥や火焔に変化させられたと言うが、セイバーはできない。
 真名開放には条件があり、第一宝具を"草薙剣"として開放していること・それが空中で自立している時のみ可能である。
 条件を満たすと、同じく大蛇の尾から見出された草薙剣が、鈴鹿御前の三明の剣が一、顕明連に見立てられ、それに引き寄せられる形で大通連・小通連が顕現する。
 通力自在の大通連・小通連、仏力に満ちた顕明連、田村の武技帯びるソハヤが対象を追尾し、相手を四つに切り裂く。
 ソハヤ・顕明連(草薙剣)以外はセイバーは制御できず、立烏帽子の剣筋そのままに自動で斬撃を繰り出す。どの斬撃も、かつて大江山の酒天童子に並び称された鬼神・大嶽丸を斬り払った退魔の力が働き、絶大な魔種/鬼種特攻が付与される。

『水を持て、湿潤にして力強き者よ(ハラフワティー・アルドウィー・スーラー)』
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:0~20+α 最大補足:-
 宗像三女神の一柱・市寸島比売命は弁財天(サラスヴァティー/アナーヒター)と同一視され、水や川を司る神として崇められた。その力の一端を再現する宝具。水が留まっている場、もしくは流れている場(水路・河川・湖沼)でのみ宝具展開が可能。
 水面及び、水辺・岸辺から二〇メートルほどを川の守護者アナーヒターの庇護に置き、そのもとを"清浄"にする。展開者及び、マスターの毒、病、またはそれに類する状態異常ステータスを快復し、対象サーヴァントのステータスをワンランク上昇させる。
 また、結界内はBランク相当の陣地作成スキルで構築された魔術工房として扱われ、龍脈を結界内へ分水させることで魔力回復を早めることができる。展開には多大な魔力を消費し、マスターへの負担が大きいために一日一度が限度。
 なお、結界内は水辺までは一般人が立ち入ることが可能だが、人避けの流れと水面に立ちこめる濃霧によって認識はできない。しかし、マスター及びサーヴァントに対する隠匿効果は皆無のため、丸見えである。

【weapon】

・形代の剣(片手剣)

・坂上宝剣(両手剣)


771 : 見送る月 ◆Y5knDMLJfU :2017/08/02(水) 05:06:39 bfDVa7w60
【人物背景】

 第八一代天皇・安徳天皇。源平の確執深まる治承二年に産まれ、その生涯を戦乱の中に見るひと。
 外祖父である平清盛の祈祷により宗像三女神の化生として生を受ける。生後間もなく儲君し、数え三歳には践祚するも、時の太政大臣・清盛によって高倉院政という建前のもと傀儡として即位。
 即位後三年の後、源義仲の入京によってやむなく都を捨て、九州を転々とする。相次ぐ源平両軍の激突の中でも、屋島合戦での敗北が契機となり、天皇と平氏一門は海上へ逃亡。
 しかし、壇ノ浦で捕捉され平氏軍は決定的な敗北を喫し、一門は滅亡。平氏方総大将・平宗盛に連れられていた安徳天皇も祖母・二位尼に抱えられ入水し、水底の都に散る。
 この際に共に沈んだ三種の神器のうち、神剣のみが見つからなかったことから、安徳天皇はかつて神剣を素盞嗚命に奪われた八岐大蛇の化生である、龍王の娘であり龍宮へ神剣を持ち帰ったなどと、数々の伝説が語られることになった。

 死後はその夭逝を慰めるべく、久留米水天宮、赤間神宮などで水神・子供の守護神である水天皇大神として祀られる。その際に境遇の似通った蛭子命/恵比寿と習合した。
 二柱は意気投合し、お互いを埋め合わせるかのようにその神威を高めていった。此度の聖杯戦争では彼/彼女と共にひとつのサーヴァントとして召喚されている。
 心優しき少女であり、また信心深い。皇祖神や仏を敬い、天命にひしと寄り添う。良く言えば受容の心を持った度量の大きい人物だが、悪く言えば状況や人に流されやすく、自分を確立できない人物である。
 崩御された歳が歳であるので無理はないのだが、神の一柱として民草に祀られている以上、これで良いものかと悩んでいるようだ。
 現在は神格のより高い蛭子命が精神的支柱となっているので、普段よりしゃんと立つことができている。
 自身がサラスヴァティーやアナーヒターであったことはうっすらとだが覚えているようで、その記憶がスキルや宝具を形成しているが、力の制約はかなり受けている。
 某騎士王ではないが、今回の召喚の際に直感的にとても嫌な気配・予感を感じ取ったようでいつもより神威が少々陰っている。そのため主人格を蛭子命の側面に譲っており、彼女はその内から状況を俯瞰している。
 なお、身体は不定形でなくしっかり人型にしてほしいと蛭子命にお願いしており、蛭子命はそれに従い自身を形成している。
 一人称は"わたし" 蛭子命のことはヒルコさんと呼ぶ。マスターのことマスター/輪くんと呼ぶ。
 安徳天皇/水天皇大神のクラス適正としては、セイバー・バーサーカー・アヴェンジャーが挙げられる。
 通常なら応じたとしても安徳天皇として召喚されるのだが、今回は神霊・水天皇大神として召喚されている。更に習合相手の蛭子命の側面も色濃く反映されており、此度の聖杯戦争の異常性を物語る。

 蛭子命。伊弉諾命、伊弉冉命が国産みの際に産んだ原初の子。不具の子であったとされ、三年をかけても立つことができなかったので、二柱により鳥之石楠船神に乗せられて、オノゴロ島から流されてしまった。
 蛭子命はヒルコと読むが、ここから「日る子」であり、貴い「日の御子」である故に流されたとする伝説もある。実際、子作りの際に伊弉冉命から声を掛けてしまうことさえ無ければ、天照大神に匹敵する神格を得ることができたという。
 貴種流離譚に従えば、英雄=蛭子命は流された先で養われ、何れは諾冉二尊へ復讐することとなるだろう。しかし、蛭子命は流された先で勇魚として幸運を齎し、神威を発揮するのみであり、やがては福の神に結び付けられたほど。
 当人もこれは与えられた運命であり、何よりこの醜き身体こそ父母との繋がりであるのだと受け入れている。そのためにアヴェンジャー適正は破棄している。
 性格は穏やかであり、感情を烈しく表すことは無い。むしろ乏しいほう。マスターの命令には素直に従うが、蛭子命や水天皇大神から見て間違っていることであれば、諭し説得を試みることもある。
 座や聖杯からの情報は確かに受け取っているのだが、その出力がやや斜め上方向にされることがある。セイバーが身につけている宇宙服もその一つであり、これは仮に自分や言仁(水天皇大神)が同じ死に目に遭おうとも、二度と死ぬことのないように、と心を込めて魔力で編んだものである。この通り、心優しき神なのである。
 水天皇大神のことは言仁(ことひと)と諱で呼び、マスターのことは輪/マスターと呼ぶ。
 クラス適性はランサー・ライダー・バーサーカー・アヴェンジャー(破棄)が挙げられる。

 何かに怯える水天皇大神であるが、それでもひとつ大きな事を成したいと思っている節があり、そのために聖杯戦争への勝利を目指している。また、子供の守護神であるのだからマスターは命に代えても護るという心持ち。蛭子命もそれは同じ。


772 : 見送る月 ◆Y5knDMLJfU :2017/08/02(水) 05:11:57 bfDVa7w60
【特徴】
 二振りの剣を帯剣した、小さな宇宙服に身を包む六~七歳ほどの子供。ヘッドグラスは暗く、外部から表情は窺えない。首部は元来のものより柔軟で頭部を動かして周囲を見渡すことが可能。その中には角髪を結った儚げな少女の顔がある。
 宇宙服は魔力で編んであり、鎧としての役割も持つ。背部のバックパック状部分や足から、スキル・魔力放出(水)・流転の支配者を利用した水流を噴出しての高速移動を好む。やめてください……アイア○ンマン……
 普段は白い五分袖のワンピースを着用。悪目立ちが過ぎると輪に言われて、他の格好を求められ、束帯、水干と姿を変えた結果、呆れた輪に売店のファッション雑誌を買ってもらい、それを参考にしている。

【聖杯にかける願い】
 今は、マスターを勝利させ早く元の世界に帰してやりたい。また、できれば水天皇大神が気にかけている坂上宝剣を田村大明神に返還してやりたい。


【マスター】

小林輪/ザイ=テス=シ=オン(紫苑)@ぼくの地球を守って

【マスターとしての願い】

ありすの居る一九九二年に帰る。/(もしも、かなうのなら)戦争の無い世界を作る(とかつて考えた男がいた)

【weapon】

【能力・技能】
・E・S・P(サーチェス・パワー)
 Extrasensory Perception. 要は超能力のことである。しかし、輪のそれは地球上の超能力とは些か異なる。
 かつて、ここではないどこかにサージャリムという、黄金の翼を持つ創造神がいた。このサーチェス・パワーとは文字通りサーチェス、サージャリムの力、恵みの発現であり、彼女が創造した星系の十人に一人が持つと言われている。
 地球の超能力とは決して混ざりあうことがなく、仮に地球の超能力者とサーチェス能力者が力をぶつけ合っても、お互いに自らの力が跳ね返ることになる。
 力の種類はさまざまで、透視やテレパシー、予知能力、念動力、テレポート、変声など多岐に渡る。
 輪は念動力・テレポート、変声、バリア、空中浮遊において大きな力を作中で見せている。マスター戦では大いに役立つだろうが、サーヴァントには太陽系外の力と言えど簡単には通用しないだろう。
 また前世である紫苑も強大なサーチェス・パワーの使い手で、輪の力は彼に由来する。
 意外にも戦闘、能力を使い慣れており、また高い知能から策謀にも長けている。また、シオンはエンジニアリングの天才であり、機械等に強いが地球ではあまり役立たないだろう。


773 : 見送る月 ◆Y5knDMLJfU :2017/08/02(水) 05:13:44 bfDVa7w60
【人物背景】

 シア星系の衛生テス出身の戦災孤児、辺境の惑星・地球“KK=101”を監視する月基地出向スタッフの一人であったザイ=テス=シ=オン(紫苑)の生まれ変わり。
 主人公・坂口亜梨子(前世は想い人のコウ=ハス=セイ=テ=モク=レン)のお隣に住む小学二年生。漫画とイタズラとガムが好きで少しませたクソガ、都会っ子。
 引っ越してきた亜梨子に密かに憧れを抱くが、幼さゆえにイタズラを繰り返し亜梨子を怯えさせてしまう。その後、亜梨子も絡んだベランダからの落下事故に遭い、その際亜梨子による無意識の木蓮の守護を受け、内なる紫苑の記憶が覚醒。異星人・紫苑の知識、サーチェス・パワーを扱う天才少年へ変貌した。
 しばらく後に母星が星間戦争により壊滅。帰る場所を失ったスタッフらは地球に降りるべきか否か迷う。紫苑は地球に降りるべきだと主張する強硬派であった。
 しかし、その急進性から危険視され、また木蓮とのトラブルもあり軟禁。そうこうとしているうちに基地内で伝染病が発生、次々とスタッフが死んでいく中、医学博士の秋海棠がワクチンを完成させる。
しかし、当時既に病に罹患していた秋海棠は、密かに恨みを抱いていた紫苑に復讐せんと、紫苑に正規のワクチンを打ち、木蓮には栄養剤を注射して、みなの死後も生き残るよう謀った。
 紫苑は策の通り、生き残るも、最愛の木蓮に自殺をしてはならないとお願いされており、そこから九年を遺体に取り囲まれて過ごした。彼の最期は半ば発狂したまま、虚ろに何かの機械を作り続けていたという。
 前世が戦災孤児であるため、その過酷な記憶をまざまざと見せつけられ苦しむ。やがて、過去へ引きずられることに恐怖し、元凶たる月基地を破壊せんと考える。一方で紫苑は月基地を稼働させ、世界に平和を訪れさせようと考えていた。
 それは東京タワーに異星技術の通信装置を取り付け、月基地を稼働。月の通信機に木蓮の力に覚醒めた亜梨子のキナサドと呼ばれる聖歌と、反キナサドたる黒聖歌を地球に放送し、その植物を異常成長させる/植物を休眠状態にさせ活動を停止させるという能力を持って、世界の人間に神の存在を実感させ、争いをやめさせるという壮大で、強引な思惑だった。
 二人は一時的に協調し、月基地を稼働/爆破させるために必要なスタッフのキィ・ワード収集に勤しむ。しかし、最終的には稼働/爆破には失敗してしまい、輪は放心状態のまま、最終決戦の地・東京タワーの第二展望台から落下した。

 落下し、草原に身を運ばれた瞬間、輪の姿は掻き消えた。その時間軸から参戦。

【方針】
とりあえず身体は癒えた。セイバーの提案に乗り、未遠川上流を目指す。

投降を終了します


774 : ◆5/xkzIw9lE :2017/08/02(水) 11:34:35 9SYFpeho0
投下します


775 : Re:星に願いを ◆5/xkzIw9lE :2017/08/02(水) 11:35:23 9SYFpeho0

駆ける、駆ける、駆ける。
人気の無くなった夕暮れ時の街を、私は年の離れた妹の手を引いて走っていた。

「おねえちゃん……」
「大丈夫!」

妹が怯えの混じった表情で呼んでくると、私は気丈に返事をする。
でも、本当は訳のわからないモノに襲われて、私自身恐怖でどうにかなりそうだ。
何に追われているか?そんなものは決まっている。
夜に女の子を追う者など、どんな物語を読んでも一つだろう。

「っ……!」

即ち、怪物。
影法師の様に黒くぬらりとして質感の無い、害意を持った何かが曲がり角から現れ、私たち姉妹の前に立ちはだかる。
ちら、と妹の方を一瞥すると、妹はぜいぜいと荒い息を吐いていて、もう走れそうにない。
いや、例え走れたところで結果は変わらないだろう。
この怪物は私たちよりずっと足が速くて、体力も底があるとは思えない。
だから私は、一度短く息を吐いて、妹と怪物の間に立ちふさがる。
手を広げて、そして言う。

「行って」
「そんな、おねえちゃ……」
「早く!!」

妹に大声を上げたのはこれが初めてかもしれない。
でも、従ってもらわなければ困る。凄く困る。
困る、と言うのに。

「やだ!」

あぁもう、バカ。
何時も私の後ろに着いてきたくせに、なんでこういう時に限っていうこと聞かないかなぁ。
真っ黒くろすけの怪物がこちらに向かって来る。その手には鋭く尖った影の剣がにぎられていた。
私は妹をドン、と突き飛ばす。そう言えば、突き飛ばすのもこれが初めてだ。
全部無駄だって事は分かってる。この怪物は私の命だけでは満足しないだろう。
それでも、お姉ちゃんは妹を守るものだから。
剣が目の前に迫ってくる。
あぁ、守ってあげたかったな。


――――――I am the born of my sword


低く響くその声を聴くのと同時に、私は気を失った。


776 : Re:星に願いを ◆5/xkzIw9lE :2017/08/02(水) 11:35:56 9SYFpeho0


「ライダー、この子達を降ろすのを手伝ってくれ」
「はい、マスター」

そう言って、少年は先ほど助けた姉妹、妹と見える幼い方の少女を己のサーヴァントが駆るガラスの馬から降ろす。
ライダーと呼ばれた少年もまた、未だ目を覚まさない姉の方の少女を優しく抱きかかえ、ふわりと馬から降り立つと姉妹の自宅の門に寝かせる。

「いいかい、後はお父さんかお母さんを呼んで、でも、俺たちのことは喋っちゃだめだぞ。
それで、明日からは日が暮れる前に帰りな」

妹に諭すように、少年は幼い少女の肩を軽く掴み、膝を付いて微笑みかける。
少女は言葉もない様子だったが、それでも目の前の相手が自分を助けてくれた恩人であることは理解しているようで、コクコクと首を縦に振るう。
少年はそれを見て懐かしむように目を細め、最後に優しく少女の頭を撫でた。

「………それじゃあお姉ちゃんを大切にな」
「あ、あのっ!」

踵を返した少年を少女が呼び止める。
しかし彼は歩みを止める事無く、ライダーの呼び出したガラスの馬へと向かう。
だから少女は、少年のその背に精一杯の力を込めて声をかけた。

「おねえちゃんとわたしをたすけてくれてありがとう、『せいぎのみかた』のおにいちゃん!」

少年は、元は赤銅だったのだろう頭髪は所々白くなり、肌も部分的に褐色化しておりさらにオッドアイという奇異な容姿だった。
一見すれば正義の味方やヒーローにはとても見えない。
だがそれでも彼は姉と自分を助けてくれた。
あの怪物に馬に乗った状態で弓矢を向けて、一瞬で射抜いたのだ。
自分に兄はいないけれどもしいたらこんな感じの人がいいな、そう彼女は思った。
そんな彼に今の自分は何もお礼できないけれど、だからこそせめて感謝の言葉を告げたかった。
そして、少女のその言葉に少年の足が止まる。
振り返りはしない、それでも何か思う所があるのか彼は空を仰ぐ。
そして噛みしめるように、一言だけ言葉を紡いだ。

「――――いや、こちらこそ助かってくれてありがとう」

それだけ残し少年はガラスの天馬に跨る。
天馬が小さな嘶くと共に、幼き少女にとっての正義の味方達が夜空へと昇って行く。
それは何とも現実感の無い、夢の中にいるような光景だった。
少女は胸に手を当て、その景色を瞳に焼き付ける。
少年たちが見えなくなっても、少し後に姉が目を覚ますまでずっと、ずっと見続けた。


その空に月は無かったが、一筋の星が瞬いていた。






777 : Re:星に願いを ◆5/xkzIw9lE :2017/08/02(水) 11:36:39 9SYFpeho0


「…………はは」

少年―――衛宮士郎はまた空を仰ぎ、拠点としている冬木市の外れにある廃屋で乾いた笑みを漏らした。

「どうしました、シロウ」
「皮肉だと思ってさ、美遊のために全部を切り捨てる最低の悪になって、こんな所にまで来て、今更誰かを救う事になるなんてな」

美遊。
全てを失い続けた士郎に残った最後の、たった一人の家族。
彼女のために死ぬ物狂いで彼は戦った。
誰の協力も得られず、一騎当千の英雄たちを相手に。
勝って、勝って、勝ち抜いた。暗闇の道行きの果てに顕現した聖杯を以て、美遊を送り出した、
士郎の過ごした世界とは違う、彼女が幸せになれる世界へと。
しかし、彼の戦いは無為だった。エインズワーズの手によって美遊は連れ戻された。
世界を救う万能の願望器として。
士郎自身もエインズワーズによって幽閉されたため、彼女を救う者は誰もいない。
このまま朽ち果てていくのか―――朦朧とする思考で彼はそれでも手を伸ばし、暗闇を掻いた。
すると、その手は一枚のトランプを掴んだ。かつて聖杯戦争に参加する際、英霊エミヤのカードを掴んだ時の様に。
もっともそこに記されていたのは弓兵の意匠ではなく、双子座のマークだったが。
そして彼は、ここにいる。二度目の聖杯戦争のマスターとして。

「……でも、多分もうこれっきりだ。今日はあの影のサーヴァントから
魔力の塵を集めるためにあの子たちを助けたけど、きっともう、こんなことは起こらない
俺はもう一度勝ち抜く、この聖杯戦争を、美遊のために」

そう、とっくの昔に『正義の味方』衛宮士郎は店じまいしているのだ。
最低の悪である彼が救えるのはたった一人だけ。そしてその席には美遊が座っている。
だから彼は聖杯への道を阻むもの全員を屠ると決めた。失敗は許されない。
全てはもう一度聖杯の力で、この世で最も大切な妹を救うために。
命を燃やし尽くす場所は、ここと定めた。

そんな少年の決意の言葉を受けライダーはしばしの間押し黙る。
時間にして一分ほど後、彼もまた、意を決する様に口を開いた。

「……私は、王としてもサーヴァントとしても三流です」

自嘲するように言う、士郎はその英霊を知っていた。
本来王になるはずの無かった生まれであるにもかかわらず、顔も知らぬ民のために苦悩し、
最後はその民の手によって歴史上で最も愚かな王として断頭台へと送られた男。
その在り方はかつて士郎に力を与えた、誰かを救う度に何かを失い、遂には伽藍堂になり絞首台に送られた英霊に似ていて――――

「だが、それでも、マスターを勝たせたい」

最初に出会った時、ライダーは己の宝具がどんなものであるか開示していた。
それは彼の心象風景、固有結界。権威の否定だった。英霊としての戦闘力の放棄だった。
だが…だからこそ、誰にも記憶されていない英霊の力を使う自分ならば、あるいは勝ち抜ける可能性があるかもしれない。
しかし、そのためにはどうしても知っておかなければならないことがある。


778 : Re:星に願いを ◆5/xkzIw9lE :2017/08/02(水) 11:37:47 9SYFpeho0

「一つ聞きたい。アンタはもしこの聖杯戦争でアンタの大切な人に再会しても、剣を向けられるか、ライダー。俺の、いいや、美遊のために。
俺の予想が正しければ、アンタの願いもその女性に関係しているはずだ」

目の前の男がサーヴァントとして座に記録されている以上、彼の妻もまた座に記録されているだろう。
この聖杯戦争で彼ら夫妻が再会する可能性は0に近い。だが0ではない。
もしそうなった時、このサーヴァントは戦えるのか、士郎はそれが知りたかった。
そして、その問いにライダーは答える、今度は即答だった。

「お察しの通り、私の願いは彼女に連なるものです
ですが、戦いますよ。彼女も…きっとマリーもそうするはずだから。
その代わり、一つだけ約束していただきたい。マスター」

士郎のオッドアイとライダーの碧眼が交わる。
両者の瞳にはどこまでも曲がらぬ強い意志があった。


「妹君に必ず幸福を」


そう言ってライダーは手を伸ばしてくる。

「………あぁ、勿論だ」

応える様に三画の令呪が刻まれた右手が伸ばされ、握り合う。
そして、目の前の少年を見つめながら改めてライダーは思うのだ。
この少年を何としても守ろう。何としても勝たせよう。何としても妹君の元へ帰そう、と。


――好きだった。ずっとずっと好きだったんだマリー。

―――すまない、君を、シャルルを、子供たちを、フランスを幸せにしてあげられなかった…!



そうすれば、そうすれば、あの日の自分もきっと――――


779 : Re:星に願いを ◆5/xkzIw9lE :2017/08/02(水) 11:38:14 9SYFpeho0




奇跡はなく、希望もなく、理想は闇に溶けて消えた。
挑むは、無明の暗夜と喪失の地平。それでも剣(チカイ)は此処に在る。



【クラス】
ライダー

【真名】
ルイ16世

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運E 宝具EX

【クラススキル】
騎乗:A+
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。A+ランクでは竜種以外の幻獣・神獣すら乗りこなすことが出来る。神より授かった王権の申し子である彼は、フランス王家の象徴たる白馬の獣を始めとして全ての獣、乗り物を自在に操る事が可能である。

対魔力:C
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。Cランクならば魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】

カリスマ:B
大軍団を指揮する天性の才能。

暗愚王:B
拷問制度の禁止。飢饉の対策等理解されなかったが民のために力を尽くした彼の統治を象徴するスキル。
非戦闘員が戦場にいる際、カリスマのランクを最低のEランクをまで低下させる代わりに全ステータスにボーナス補正が発生する。

愛しき君へ:A+
彼は斬首されるその時まで、妻を、フランスを愛し続けた。妻の心に自分がいないのを悟りながらも、それでも愛し続けた。
同ランクまでの魅了・洗脳に類する精神干渉を無効化する。

星の開拓者(偽):-(EX)
人類史のターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
『後述の宝具の発動時に限り』あらゆる難航・難行が、「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。
彼の死は絶対王政の終焉、王権なき人民による近代の統治機構のはじまりとなった。

【宝具】
『百合の王冠に栄光あれ(ギロチンブレイカー)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:50レンジ:1〜50
栄光のフランス王権を象徴した宝具。
外見は、フランス王家の紋章(百合の花の紋章)が入ったガラスで構成させている美しき馬。真名解放によりライダーはこの馬を呼び出し、きらきら輝く光の粒子をふわりと撒きながら戦場を駆け抜けて、王権の敵対者にダメージを与える。同時に味方のバッドステータスを解除し、体力や魔力を回復させる。

本来は彼の妃の宝具であるが、彼もまた王家の正当な継承者であるため扱うことができる。

『洛陽をここに、迎えるは民の時代(レヴォルシィオン フランセーズ)』
ランク:EX 種別:固有結界 レンジ:- 最大補足:-
彼が斬首台で見た風景を再現する固有結界にして、彼が手放したものの象徴。
この固有結界内では全ての信仰、権威、武功が否定される。
それに伴い、神や王、名を挙げた英雄や軍人、果ては悪魔や妖精等、『人民が信仰を向ける存在』のスキル、宝具は全て結界内では機能せず、
全ステータスが2〜3ランクダウンする。プラス補正も無効化される
本来なら干渉を跳ね除けられる様な格上の存在であっても、条件を満たしていれば星の開拓者(偽)の効果により、その術中からは逃れる事は出来ない。


神や王、名だたる英雄たちを人の地平まで引きずり落とす規格外宝具だが、この宝具には明確な弱点が二つ存在する。
一つはこの宝具の効果はライダー本人にも発揮されてしまうため、発動中ライダーは戦闘能力をほぼ喪失する事。
もう一つは民に見上げられ称えられるのではなく、恐れられ蔑まれる事によって座に記憶された亡霊や反英霊、魔獣の類や誰にも知られていない無名の英霊にはすこぶる相性が悪く、ほとんど効果がないことである。


【weapon】
無名のレイピア

【解説】
マリーアントワネットの夫であり、フランスブルボン朝最後の王。
本来彼は三男だったため、玉座に座る事はないはずだったが、上の兄弟たちが次々と早死にしたためフランスの王になる事となった。
寛容令や拷問の禁止など、これまでの君主とは違い教養と民への愛を持った統治を行い、民に愛される王であったが、財政は彼の妻の浪費もあって悪化、その果てに革命によって斬首される事となる。
その際の多数決では死刑派361、反対派が360。僅か一票差の死刑判決であった。
そんな結末にあっても彼は民を恨む事など微塵もなく、最期の言葉に
『私は、私の死を作り出した者を許す。私の血が二度とフランスに落ちる事のないように神に祈りたい』とだけ残した。

ギロチンが落ちる瞬間、彼が思った事は生涯ただ一人、愛し続けた妻への贖罪だった。

【特徴】
マリーをまだ純粋に愛せた15歳の時の姿で現界している。
また、その容姿はルイ15世に似て金髪蒼眼の絶世の美男子である。
これは肖像画のルイ16世の姿は後の革命家達によって改変されたものであるためである。

【サーヴァントとしての願い】
マリーの名誉の回復。


780 : Re:星に願いを ◆5/xkzIw9lE :2017/08/02(水) 11:38:45 9SYFpeho0

【マスター】
衛宮士郎@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ


【マスターとしての願い】
あらゆる手段を尽くして聖杯を手に入れ、美遊を運命から救う

【参戦時期】
美遊がエインズワーズに連れ戻されたのを知った後、イリヤとの邂逅直前。

【weapon】
投影魔術によって生み出した武装の数々

【能力・技能】
経緯は不明ながらアーチャー(英霊エミヤ)のクラスカードの力を引き出しており、その真髄までも理解し使いこなしている。
クラスカードの影響か人間を超越した身体能力を手に入れている。

【無限の剣製】
衛宮士郎の内にある錬鉄の固有結界。
結界内には、あらゆる「剣を形成する要素」が満たされており、目視した刀剣を結界内に登録し複製、荒野に突き立つ無数の剣の一振りとして貯蔵する。
ただし、複製品の能力は本来のものよりランクが一つ落ちる。
刀剣に宿る「使い手の経験・記憶」ごと解析・複製しているため、初見の武器を複製してもオリジナルの英霊ほどではないがある程度扱いこなせる。

【人物背景】
本作に登場するヒロインの一人、美遊・エーデルフェルトの兄であり衛宮士郎という人間の可能性の一つ。
彼の行動指針は「妹を守り、幸せにすること」。そのためなら自身の命はもとより世界の命運を切り捨てることすら厭わない自称「最低の悪」。


781 : ◆5/xkzIw9lE :2017/08/02(水) 11:39:20 9SYFpeho0
投下終了です


782 : ◆W9/vTj7sAM :2017/08/02(水) 16:30:03 bT2jO/m60
投下します


783 : ◆W9/vTj7sAM :2017/08/02(水) 16:31:25 bT2jO/m60
「ミューズ?」ベッドの中で女が言った。
「ああ、ミューズだ」女を腕に抱く男が返した。男の目はどこか遠くを見ている。
女は、自分の肩を触る男の指の、薬物中毒者のような震えから目を逸らして言った。
「ミューズって、なんなの?」男の指に、不意に万力のような力が籠められ、女は苦痛に顔をしかめた。男は、女の肩に付けた青黒いキスマークを優しく撫で、答えた。
「まさにこれだ。なあ、今君はどんな気持ちだ?」男はいつの間にか黒いニンジャ装束を身に纏い、女を撫でる逆の手で鎖鎌を握り、女の腹を引き裂いていた。
「きゃああああああ!」女が腹の傷を抑え、はみ出た内蔵を拾い集めようとする毎にベッドに赤黒いシミが広がり、女はより一層苦悶の声を大きくした。
男はその地獄めいた光景を見ても眉一つ動かさず、先程と全く変わらない声音で女に尋ねた。
「君、変わった悲鳴を上げるんだな。なあ、どんな気持ちだ? 教えてくれ。分からないんだ。とても困っている」男は、女の腹からはみ出た腸を握り、傷跡に抉りこむように押し付けた。
「痛い、いたい、いたい、いたい! やめて、いたいの、ごめんなさい、ごめんなさい、痛い、やめて」
「痛いってことくらい、流石に俺でも分かっているよ。俺が聞きたいのは、君を守っていた……いや、君はマイコだったのかな? とにかく君の連れの男は死んで、君自身も命の危機に瀕している。それについての感想を聞きたいんだ」
男は至って真剣な表情で、うわ言のように呟き続けている。女の内蔵を引きずり出し、そして腹に戻しながら。
「ミューズがな、どこかへ行ってしまったんだ。これだけやってもまだ帰ってこない。彼女が来てくれないと、俺は小説が書けないんだ。
『竹林に潜むジャックザリッパー』を書いていた頃は、こんなことをしなくても、ただ君みたいな女の子を殺すだけで来てくれたんだが。なあ、今どんな気持ちだ? 俺に教えてくれ」


784 : ◆W9/vTj7sAM :2017/08/02(水) 16:34:42 bT2jO/m60
女は一度、老婆のような乾ききった叫びを上げ、それからは何も言わなくなった。
ピクピクと震えている以上、生きてはいるのだろうが、喋れないのでは意味がない。
「イヤーッ!」男は掛け声とともに鎖鎌を振るい、女の首を切り落とした。
それから男はベッドに腰掛け、頭を掻き毟った。
装束のフードがちぎれ落ち、彼自身の頭髪が血に染まっていく。
彼は唸り声を上げながらベッドの上にのたうち回った。
「まるで獣だな。……いや、獣でももう少し綺麗に飯を食らうか」
突如、男の背後から声がした。振り向くと、彼の背後には体長3mをゆうに超えるであろう、巨大な虎が佇んでいた。
虎の体毛は月光に照らされて銀色に輝いている。白虎だ。
「ドーモ。バーサーカー=サン。ブラッククレインです」
男……ブラッククレインと名乗ったニンジャ……は流麗な動作でお辞儀をし、顔を上げて笑った。
「いや、中々に皮肉の効いたジョークだ。獣に食事の作法を咎められるとはな」
「フン、己(おれ)が言いたいのはだな、マスター。無為な殺戮はよせということだ。今はまだ良かろうが、もう少しすれば監視役も……」
突然、バーサーカーの眉間に鎖鎌が飛来した。
バーサーカーはそれを造作もなく躱したが、ブラッククレインは恐るべき速度で彼の目前に詰め寄り、両耳を掴んだ後、鼻と鼻が触れ合わんばかりに顔を近づけて言った。
「無為! お前、今無為と言ったか! 俺の思索を! 創作を! ミューズを! 俺の行為を無為と!
李徴=サン、貴様には分かるまい! 俺の苦悩が! 化物と成り果ててなお、詩歌を吟ずる事のできる貴様には!」
それは、ほとんど慟哭に近い怒りの叫びだった。バーサーカー、李徴は、常軌を逸した音量の叫びに動じること無く、ただブラッククレインを直視していた。
「……いや、すまない。確かにそうだ。これは無為な行為だ。もはやモータルをいくら殺めようとミューズは満足してくれんのだろう。
聖杯戦争だったか。それに支障が出るくらいなら、これももうやめよう」
しかし、勢いを失っていく述懐とは裏腹に、ブラッククレインはその顔に浮かべる狂気的な笑みを、より一層深くした。


「ああ、しかし――歴史に名を残す英雄というのは、死ぬときにどんなことを考えるのだろうなあ」


785 : ◆W9/vTj7sAM :2017/08/02(水) 16:36:42 bT2jO/m60

【マスター】ブラッククレイン
【マスターとしての願い】ミューズを得る
【weapon】鎖鎌の二刀流。スリケン。
【能力・技能】
人間をやすやすと素手で引きちぎり、拳銃よりも数段威力の高いスリケンを投擲し、
機関銃の雨の中を口笛でも吹きながら歩き抜ける者。彼はニンジャである。
どのようなクランのニンジャソウルをディセンションしたのかは本編では明らかになっていないが、
ニンジャスレイヤーと二合打ち合えるほどの実力は有していたため、装束・スリケン生成の能力がないゲニンのソウルを宿しながらもカラテはよく練られたものだったのだと推測できる。
ちなみに鎖鎌の使い方はだいぶ間違っている。
【人物背景】
元はホンガンジという名の冴えない物書き。
しかしニンジャと化して以降、ファックアンドサヨナラ(強姦の後殺すこと)を行い、
死の間際の感情に直に接することで、その心情を小説に反映させ多くのヒット作を生み出してきた。
ニンジャとなり、創造力を失った彼には、実際に経験した物事からしか物語を創ることができなくなっていたのである。
あと一作でもヒットさせればあとは一生遊んで暮らせるというところで同棲相手のマツモトにニンジャ装束とスリケンを目撃されてしまい、
邪悪なニンジャソウルの囁きに抗えず、己の意志に反して彼女すらもその手にかけようとしたところでニンジャスレイヤーと接敵。
あえなく死亡したかと思われたが、死の直前、たまたま傍らにあったカードに触れて冬木へと飛ばされてきた。
原典内ではもう少しダウナーな性格ではあったが、危うくマツモトを殺害しそうになったこと、そしてミューズを失い、ただニンジャとしての残虐性のみが残ったことにより、狂気的な側面が強く出ている。
【方針】手段を問わず、聖杯戦争を勝ち残る。


786 : ◆W9/vTj7sAM :2017/08/02(水) 16:38:47 bT2jO/m60
【CLASS】バーサーカー
【真名】李徴
【出典】山月記
【性別】男
【体長・体重】360cm 211kg
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力:B+ 耐久:B 敏捷:B 魔力:D 幸運:D 宝具:D
【クラス別スキル】
狂化:EX バーサーカーのクラス特性。理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。また、現界のための魔力を大量に消費するようになる。
バーサーカーのそれは、狂化というよりも獣化と表現したほうが適切である。
彼の人としての理性は日々野生の本能に蝕まれており、日を追う毎に彼の「人でいられる時間」は短くなっていき、
「虎でいる時間」に比例してステータス上昇効果の恩恵も増加していく。
最終段階では全てのステータス、またスキルに+補正が追加されるが、もはや彼は空腹に身を任せて生物を襲うだけの虎へと変じ、
マスターですら令呪を消費しての命令でないと制御できなくなる。
聖杯戦争開始時点でおよそCランク狂化程度のステータス上昇を受けているが、人としての思考が行えるのは一日の内およそ16時間程度であり、
一ヶ月以内に彼は人間性と引き換えにA++相当の狂化スキルを持つことになる。
なお、完全な狂化が為されるまでは「虎になっている」間も聖杯戦争についての知識は保有しているようで、
マスターは見かけても喰らわない、マスターが死ねば自分も消えるので保護する程度の思考は持ち合わせている。


787 : ◆W9/vTj7sAM :2017/08/02(水) 16:42:51 bT2jO/m60
【固有スキル】
神性:D その体に神霊適性を持つかどうか、神性属性があるかないかの判定。
ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。より肉体的な忍耐力も強くなる。
バーサーカーの生きた時代の中国において虎は神聖な生物であり、当時の人々からは龍と同格の神獣として認識されていた。
ただし山月記での虎は百獣の王、人食いの化生としての側面が強く、また元は人間だったということもあり、スキルランクは低下している。

怪力:B(+) 魔物、魔獣のみが持つとされる攻撃特性で、一時的に筋力を増幅させる。
一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間はランクによる。

畏怖の叫び:C(+) 生物としての本能的な畏怖を抱かせる咆哮。敵全体に恐怖、継続的な防御ダウン、瞬間的な防御ダウン大などを付与する。
それは勇ましく、ただ悲嘆を伝えるためにあった、孤独な男の慟哭である。

【宝具】『今日爪牙誰敢敵(誰が為に牙を剥く)』ランク:D
虎となった己に、誰が敢えて立ち向かおうとするだろうか?いや、誰も立ち向かうはずがない。
バーサーカーの生前詠んだ詩歌と、彼自身の人食い虎としての逸話が昇華された宝具。
バーサーカーと敵サーヴァントの、筋力と耐久それぞれの値で判定を行い、どちらかの判定でバーサーカーが勝利すれば相手の宝具・スキルの防御効果を無視して物理攻撃を行うことができる。
人であるならば必ず害する、恐るべき百獣の王の権能である。
ただしこの宝具は、あくまでも「人に畏怖される化生」としてのバーサーカーが持つ宝具であり、人を超越した神霊には効果がない。
従ってバーサーカー自身よりも神性のランクが高いサーヴァントには無意味な宝具である。

【weapon】牙と爪

【解説】
中島敦の著作『山月記』に登場する人食い虎。元は人間だったが、ある日突然虎へと変化してしまう。
彼自身は己が虎に変じた理由を己の「臆病な自尊心と尊大な羞恥心」であると語るが、真実は定かではない。
「理由も分らずに押付けられたものを大人しく受取って、理由も分らずに生きて行くのが、我々生きもののさだめだ」
との本人の言葉どおり、今の彼はただ虎としての己を受け入れ、サーヴァントとして在るだけである。
なお、『山月記』は中国古典の『人虎伝』を元にした創作だと言われているが、実際には人虎伝こそが実際に清朝で起きた李徴の物語に儒教的訓戒を盛り込んだ創作であり、
『山月記』はどこからか真の原典を手に入れた中島敦が、それを忠実に翻訳した作品であった。

【特徴】体長3mをゆうに超える規格外の大きさの虎。美しく月に映える銀色の毛並みを持つ白虎である。
性格は神経質で人嫌いではあるが、ブラッククレインの境遇に感じ入るところがあり、マスターとして認めている。

【聖杯に掛ける願い】人間に戻って、もう一度人生をやり直す。


788 : ◆W9/vTj7sAM :2017/08/02(水) 16:46:27 bT2jO/m60
投下終了です。
マスターの出典はニンジャスレイヤーです。書き忘れてしまい申し訳ありません。
なお、バーサーカーの解説に人虎伝は創作で云々と書いていますが、もちろん筆者のこじつけです。
誤解される方がもしいらっしゃったらアレなので明記しておきます。


789 : ◆.wDX6sjxsc :2017/08/02(水) 17:28:27 9SYFpeho0
史実聖杯からの流用ですが、投下いたします


790 : ◆.wDX6sjxsc :2017/08/02(水) 17:29:35 9SYFpeho0

てくてく、てくてく。
黒いスーツを纏った男が、同じく黒い革靴を鳴らしながら、夕方の喧騒の中を歩く。
服装から年齢は分からない。ただ、兎に角若い。身長も顔つきもまだ成人しているとは思えない若々しさである。
後ろ手に結わえられた血の色の長髪と、頬に走る十字傷が、見るものを遠ざける独特の雰囲気を醸し出していた。

男が、街道を抜けた先の十字路で立ち止まる。
振り返り、街を行く人々の姿を見る。

それは会社から自宅へと戻るサラリーマンやOLであり、
学校から友と連れ立って帰る学生達であり、
母親に手を引かれ立ち並ぶ店を覗きながら歩く幼女の姿だった

皆、表情は同じ。

時折、不安や疲れ、苛立ちや憂いを覗かせても最後に浮かべるのは笑顔だった。
泣いている者など、どこにもいなかった。


否、この世界の何処かにも、きっと涙を流している人は大勢いるのだろう。
取るに足らない悩みで一喜一憂し、ほんのささやかなすれ違いに泣く。
されどそこに死に怯え、理不尽な暴虐に絶望するものはない。
人買いの骸を掘り続ける、小さな子供もいなかった。

あぁ、と息を吐く。

そして道の端で眩しいものを見るように、けれどずっと、その光景を眺めつづける。
噛みしめるように、目に焼き付けるように。魂に刻み付けるように。

彼の求めていた物はここに確かに存在し、けれどどこにもなかった。

それでも、それでも。


コンビニのネオンが輝きだしたのを頃合いとして、男は名残惜しそうに帰路につく。
その顔は、どこか安堵しているようだった。





仮の逗留先として記憶していたホテルの部屋に戻り、まず男は部屋のある一点を目指した。
ドクン、と臓腑が鳴動する。
汗が一筋流れる。
横引のクローゼットの前に立つ。
全てを検めるために。
今この時が夢か現か確かなモノとするために。


一度瞑目し、一息に引きあけた。
中にあったのは、黒い和服に袴。そして――――

「やはり、そうなのか。『俺』は―――」


在ったのは、おとめ座のマークが刻まれた一枚の札と
一本の、業物と見受けられる”刀”だった。
何かを決した顔で、鞘の中の刀を引き抜く。


露わになったその鋭く輝く刀身は、血に濡れていた。


「気が付かれたか、マスター」


791 : ◆.wDX6sjxsc :2017/08/02(水) 17:30:28 9SYFpeho0

背後から自分を呼ぶ声を聴いた。
飄々とした、男というにはいささか高い声だった。
自分が気付かなかった事実に莫迦な、と驚愕しつつも、その反面どこか受け入れている自分を感じながら男は振り返る。
視線の先にいたのは痩躯の男性……否。少女であった。

「君は……」

男は目の前の女が”何”であるのか知っていた。
けれど問わずにはいられなかった。
彼女は、この場所には、この時代にはいるはずのない、
自分とよく似た、いやもっと深いところで近しい存在。


男の問いかけに、少女は朗らかにはにかみ答えた。


「聖杯の導きによりアサシンとして推参しました。河上彦斎と申すものです」


アサシン。
それが何の意味を持つのか、男には分からなかった。
だが、確かにわかることが一つ。
この人は――――――自分と同じ、『人斬り』だ。
同時に右肩に熱を帯びた鋭い痛みが走り、怒涛の記憶の奔流が流れ込んでくる。
聖杯戦争。
願いを賭け、血風を奔らせ命を奪い合う殺し合い。

「この時代を、見てきたのですね」

さしもの男も流れ込んでくる怒涛の情報量に混乱している中、
凛、とした声で少女が問うてくる。
余りにも威風堂々としたその声色は聞きようによっては男の様に聞こえても可笑しくなかった。
肩の痛みが引いていくのを感じながら、男は首を縦に振る。
ここがどんな世界かはっきりと理解したわけではない。
けれど、ここで交流した人々は、例え偽りでも確かにこの世界に息づいていた。

「いい時代であることは確かです……しかし」
「あぁ、分かっている」

少女の声を遮るようにして、男が言葉を紡いだ。
しかし、少女は特に気分を損ねる様子もなく、男に会話を任せる。
まるで、男が何を言うか分かっているかのように。

「この時代が、俺の居た場所につながるとは限らない」

セイバーと呼ばれたサーヴァントは無言で肯首した。

「マスター」

その上で、初めて男に問う。
思えば、貴方が自分の主(あるじ)か、とは尋ねなかった。
この男こそが、自分の主であることを確信していたから。

これも本当は必要のないことなのかもしれない。
だって、彼女には彼が何というのか、分かってしまっている。
哀しい程に、分かってしまっている。
だからこれは言うなれば、問いであり、答え合わせ。


「貴方の願いは、新時代の―――」


792 : ◆.wDX6sjxsc :2017/08/02(水) 17:30:50 9SYFpeho0

「その通りだ。俺の願いは、誰もが笑っていられる新時代の到来ただ一つ」
「そのために、屍山血河を築くとしても?」
「無論だ。俺は……刀を振るう以外の生き方を知らない
その代わりに、必ず時代を変えてみせる。俺が誰かの命を奪う代わりに
そして、新時代の到来とともに、人斬り抜刀斎は消えるだろう」

自嘲するように淡々と告げる男――少年に、少女はほんの少し悲しげな顔を浮かべ、
今一度問うた。
開国し、迎えた明治という名の新時代に順応できず、露と消えて行った者として。
彼には、同じ道を辿ってほしくは、なかったから。


「ならば―――その新時代で、貴方は笑えていますか?」


その問いは予想外だったのか、少年の肩が震えた。
その肩は、とても小さく思えた。
しばらく少年は考えると――首を横に振るう。
そして、分からないと告げた。

「だが、俺の笑顔など亡き妻が…巴が、得るはずだった幸福に比ぶれば些事だ」
「それは違います」

少年の返答を、少女は否定した。
少女は、少年が自分の様になって欲しくは無かった。


「貴方を選んだ人は、貴方が笑えない世界で笑えるような人ではないはずでしょう
その上で問います。聖杯を獲った貴方は、微笑えるのですか?」


「……今の俺には、聖杯を獲った後、笑えているかどうかは分からない。
だが俺は俺の居た時代に帰りたい、必ず生きて帰る。それだけは確かなことだ」


「なれば守ります。私が貴方をいるべき場所に必ず帰して見せます。
貴方が築いて訪れた新時代で、他の誰でもない貴方自身が笑うことができるように
貴方の中に生きる、巴殿が微笑えるように」


―――済まない。そして、ありがとう。



窓の外で一筋の星が舞ったその時、少女が手を伸ばす。
『緋村剣心』は外の星を視界の端に捕えながら、苦笑を顔に浮かべ、その手を取った。




その光景は一見すれば、ただの小さな少年と少女が織りなす物語の一ページ。
果たしてその物語は永き悲劇であるのか、それとも浪漫譚の始まりなのか。


答えを出せるものは存在せず。
今はまだ、名無しの物語のその始まりは、


推定150年の時空を飛び越えた偽りの冬木にて、人斬り抜刀斎の来訪から―――――


793 : ◆.wDX6sjxsc :2017/08/02(水) 17:31:15 9SYFpeho0


【クラス】アサシン

【真名】河上彦斎@史実(幕末〜明治)

【属性】中立・中庸

【ステータス】筋力:B 耐久C 敏捷A+ 魔力E 幸運C 宝具-


【クラス別スキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【固有スキル】

宗和の心得:B
同じ相手に同じ技を何度使用しても命中精度が下がらない特殊な技能。
攻撃が見切られなくなる。

心眼(偽):B
いわゆる「第六感」「虫の知らせ」と呼ばれる、天性の才能による危険予知。
視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。

直感:A
戦闘時に常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。
研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

【宝具】
『新時代斬り拓く血風の剣』
種別:対人魔剣 最大捕捉:1
幕末の大思想家佐久間象山を白昼堂々、一太刀のもとに切り捨てた我流剣術。
片膝が地面に着くほど低い姿勢から放つ神速の逆袈裟斬り。
抜刀から敵に切り付けるまでの工程を歪め、発動した瞬間『対象は斬られた』という事象崩壊現象だけを残す魔剣。
事実上防御不能の瞬殺剣であり、対象には彦斎が刀の柄を握ったとしか感じられない。


【Weapon】
『孫六兼元』
河上彦斎が愛用した、佐久間象山暗殺にも用いた太刀。
『國光の短刀』

【特徴】
黒装束を纏い、黒の長髪をポニーテールの様に結えた色白で小柄、可憐な女性。


【解説】
尊皇攘夷派の日本の武士。幕末四大人斬りの一人。
「人斬り彦斎」などと呼ばれる。
性格は真面目で穏やかながらも怜悧冷徹。外見は柳のように華奢で、女性に見間違えられるほどの優男だったという。
元治元年7月11日、公武合体派で開国論者の重鎮、佐久間象山を斬る。
この象山暗殺以降、彦斎の人斬りの記録は不明。
しかし、勝海舟などの伝承からもっと多くの人間が彦斎の白刃に斃れたと思われる。
第二次長州征伐の時、長州軍に参戦、勝利をあげる。
慶応3年に帰藩するが、熊本藩は佐幕派が実権を握っていた為投獄される。
このため、大政奉還、王政復古、鳥羽伏見の戦いの時期は獄舎で過ごす。
慶応4年2月出獄。
佐幕派であった熊本藩は、彦斎を利用して維新の波にうまく乗ろうとするが彦斎は協力を断る。
維新後、開国政策へと走る新政府は、あくまでも攘夷を掲げる彦斎を恐れた。
二卿事件への関与の疑いをかけられ、続いて参議広沢真臣暗殺の疑いをかけられ明治4年12月斬首。

るろうに剣心の緋村剣心のモチーフとなった人物。

【サーヴァントとしての願い】
マスターに新時代を迎えさせる。


【マスター】
緋村剣心(緋村抜刀斎)@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-


【能力・技能】
飛天御剣流
一対多を主戦場とする、弱者を助ける救世のための剣術。
大きな力に与することもなく、ただ孤高で在り続けた天秤の剣。
現在の彼は『緋村剣心』ではなく『人斬り抜刀斎』であるため奥義を放つことは不可能。


【weapon】
血に染まった無銘の業物。


【人物背景】
短身痩躯で赤髪の優男、左頬にある大きな十字傷が特徴である。
長州派維新志士で、幕末最強とまで謳われた伝説の剣客・人斬り抜刀斎その人である。
修羅さながらに殺人剣を振るい数多くの佐幕派の要人を殺害してきた。
明治時代に入ってからは未だに虐げられる弱き人々を救う為に日本各地を旅する。
新時代の為に大勢の人々を切り捨ててきた事に対して負い目を持っており、彼のその後の生き様である不殺を決定づけた。


【マスターとしての願い】
誰もが笑って暮らせる平和な新時代を築き上げる。


794 : ◆.wDX6sjxsc :2017/08/02(水) 17:31:32 9SYFpeho0
投下終了です


795 : ◆A2923OYYmQ :2017/08/02(水) 21:57:31 zcBtljfk0
投下します


796 : すーぱーろーまびっち ◆A2923OYYmQ :2017/08/02(水) 22:00:02 zcBtljfk0
冬木市に何時からか語られだした噂。
─────飛び切り良い女がタダでヤラセてくれる。
時間も場所も人数も問わない、只々出逢うことができれば、飛び切りの美女とこの世のものとは思えぬ悦楽の時を過ごせるのだという。
但し、その女と出会った者は、皆全て腎虚となるか、法悦のうちに死んだという。

その噂の発生とほぼ同時期に起こり出した突如として人々が狂乱し乱行を行う怪異と、謎の集団死事件。
乱行に加わった者達は、皆昏睡状態になる程衰弱し、死亡した人々は皆一様に何の原因もなく生体活動が停止していたという。


797 : すーぱーろーまびっち ◆A2923OYYmQ :2017/08/02(水) 22:00:32 zcBtljfk0
深山町にある寂れた洋館。幽霊屋敷とも囁かれる広壮な邸宅の地下に、一人の女の姿が有った。
雪花石膏を掘り上げて作られた彫像の様な白皙の肌、背中まで伸ばした最上級の黒絹を思わせる黒髪、磨き抜かれた黒曜石も及ばない輝きの黒瞳。吸い付けば極上の感触を約束するだろう紅い唇。
女性美というものを最上のレベルで体現した容姿を持つ女だった。
身につけているの白絹のワンピースはしっとりと濡れて、布地に覆われた体のラインを浮かび上がらせている。
テラテラと濡れ光る肌、全身から漂う精臭と相まって、この場に人が居合わせれば、淫らな空想に耽る事を抑えきれまい。

嬉しげに女は鼻歌混じりに首を鳴らすと、照明の無い地下室を女は真っ直ぐに歩きだし、地下室の中央辺りで足を止めた。
恐ろしく淫乱で、冷酷悪辣な人格を有しているのだろうと、一目で分かる眼差しを、足元に向ける。

「不能(ゴミ)」

声を聞いただけで、恍惚となる程の美声。侮蔑と悪意と嘲りがたっぷりと篭った冷たい声。マゾの気があるなら、それだけで達してしまいそうな声だった。
呼び掛けに応じる声は無い。
女は舌打ちすると、足元に転がっていたモノを蹴り上げた。

「グアッ」

呻き声を石床に残して、宙を舞ったのは白髪の男。左半顔が潰れた白髪の男。
頭部を鷲掴みにすると、己で立つ事も出来ぬ男は、女の手に吊り下げられる形となった。

「お前みたいな不能(ゴミ)、ましてやこんな 顔の潰れた不能(ゴミ)が、女に口をきいてもらえるだけでも御の字なのに、よりにもよってこんな良い女を無視するとか何様のつもり?」

男は答えない。答えられない。
己がサーヴァントに罵倒され、襤褸屑のように扱われても、何も出来ない。
男の姿を見れば誰もが当然と言うだろう。
水気を失い、ひび割れた皮膚。破壊され尽くして固形物を二度と口にできなくなった喉。
膨張しきった血管の所為で、全身に赤いラインが走っているように見える。
しかも右手首から先は在るべき右手が無く、赤黒い断面が覗いていた。
男の顔には死相が浮かんでいる。
通常ならば死んでいる。それ程の重篤にあって、驚異的な事に男は意識を保っていた。


798 : すーぱーろーまびっち ◆A2923OYYmQ :2017/08/02(水) 22:03:42 zcBtljfk0
「また………食って……きたのか………」

「仕方が無いでしょう?何しろこんな不能(ゴミ)な死に損ないがマスターだもの。他から補わなければやってられないわ。そうでしょ?雁夜君」

「その…顔で……その声で……俺の名を呼ぶな…」

鈍い音がした。女が手を離した為、雁夜が顔面から石床に落ちたのだ。

「クラウディウスにも劣る不能(ゴミ)がよく吠えるわ」

道を歩いていてつい踏んでしまった、虫の死骸を見るのと変わらぬ眼差し。
真っ向から睨み返す雁夜の瞳には、真性の憎悪と殺意が宿っていた。


799 : すーぱーろーまびっち ◆A2923OYYmQ :2017/08/02(水) 22:09:47 zcBtljfk0
「今日の餌よ」

突き出された右手が裂け、白い寒天状のものてくる。
凄まじく生臭い匂いに雁夜が顔を顰める。
だがそれ以上に不快なのは、サーヴァントの手から臭う臭いだった。
ついさっきまで、複数の男を相手にした判るむせ返る様な濃密な臭い。
サーヴァントの容姿と併せて、雁夜の怒りを─────殺意を呼び起こすには充分過ぎるものだった。
おかまい無しに口に突っ込まれた物体の感触に吐きそうになるのを堪えて、何とか飲み干すと、肉体に感覚が戻ってくるのを実感した。
二度ともとには戻らぬと思っていた肉体が、健常だった頃へと戻っていく。
この女サーヴァントは、廃人そのものだった肉体を、何らかの方法で治せるらしかった。
一体何を食わせているのか、前に訊いてみたが鼻で笑われたけだった。

「不能(ゴミ)とはいえ、まだ死なれるのは困るしね」

嘲弄まじりに呟くサーヴァントに、親愛の情は全く見えない。
雁夜は己がサーヴァントを忌々しげに睨みつけた。

「何かしら?お前の様な不能(ゴミ)を 見捨てない奇特なサーヴァントなんて妾くらいのものよ。それを弁えているのかしら」

「もう…魔力を集めるのは………」

「やめても良いけど、身体を回復させられないわよ。今のなりでトキオミに勝てるのかしらぁ?
いい?マスター。妾にも殺したい相手はいるの、妾が君臨すべき場所を奪ったアグリッピナを殺すまで、妾は死ねないの。ほらねマスター、妾達は同じでしょう?」


800 : すーぱーろーまびっち ◆A2923OYYmQ :2017/08/02(水) 22:10:27 zcBtljfk0
雁夜は砕けそうな程に力を込めて歯軋りする。確かにそうだ、現状では時臣に勝てない。
それ以前にこの事態を脱することすら不可能だ。
─────だが、そう判っていても、この女の行為は許せない。
足りなければ他所から持って来れば良いという魔術師的な思考が気に入らないというのもある。
だが、最大の理由は、このサーヴァントの魔力の集め方と、何よりもその顔が問題だった。

「葵…さん」

魂を絞り出す様な呼び掛けにも女は冷笑を返すだけ。
このサーヴァントは、悪妻、毒婦として歴史にその名を刻んだ愚女。その魔力の集め方は、性行による精気の収奪。
この女が魔力を集めるという事は、多くの男女と交わり快楽を貪るということ。
雁夜の身体など只の口実、例え健常な身体であってもこの女は快楽を貪る事だろう。
そして雁夜には、この女を止める術は無い。
遠坂葵と誤認して近付き、いきなり令呪を宿した右手を破裂させられた雁夜には、この女を御する術は無い。

「さあて、これから始まるイベントでどんな男と出会えるのやら。まあどんな男であれ、この不能(ゴミ)よりはマシでしょうけど」

遠坂葵と同じ顔をしたサーヴァントは、雁夜を侮蔑と嘲りの視線で見下ろしていた。






崩れていく─────黒い影達が。
倒れていく─────冬木に生きる人々が。
ボロボロと、風に吹かれた砂の城のように。
向かって来る者も、逃げようとする者も。
皆等しく崩れ倒れていく。
無辜の民も、シャドウサーヴァントも、亡霊も、使い魔も、全て全て例外はない。
やがて動くものが居なくなった場所に、女が立っていた。
我が前で立つは不遜と言わんがばかりに、倒れ伏した人々の真ん中で。

「ローマの皇后であった妾に、相応しい世界だ事。この世界ならローマのそれを越える悦楽がある事でしょう


その淫蕩さで歴史に名を刻んだ毒婦、廃后メッサリーナ。
それがこの聖杯戦争にライダーとして顕れた女の真名だった。


801 : すーぱーろーまびっち ◆A2923OYYmQ :2017/08/02(水) 22:11:02 zcBtljfk0
【クラス】
ライダー

【真名】
メッサリーナ@一世紀ローマ

【ステータス】
筋力:E 耐久: E 敏捷:E 魔力:C 幸運: D 宝具:C

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。


騎乗:E+++++
騎乗の才能。大抵の乗り物なら何とか乗りこなせる。
ライダークラスにはあり得ない低さだが、男に乗る事に 関してなら最高ランク。

【保有スキル】


妖女(性):A
生前のイメージによって、後に過去の在り方を捻じ曲げられた怪物。所有者は能力や姿が変貌してしまう。「無辜の怪物」とは似て非なるスキル。
尤もライダーは生前からこんなんだったが。
その姿、立ち居振る舞い、果ては声や視線に至るまで性的な魅了効果を帯びる。
また、Bランクの天性の美の効果を発揮し、身体が傷つかない限り、ライダーがどのような状況にあろうとも肉体的な『美しさ』を維持する。
妖女(性)スキルにより獲得したスキル。
精神力もしくは精神耐性系スキルでしか無効化或いは減衰できない。
抵抗できなければ、敵と認識していても、性的な衝動をライダーに対して抱く。
このランクになれば性別を問わず通じる。
ライダーを意識しない程に誰かを愛しているものには効果が無い。


人体理解(性):A
性の技術。
メッサリーナは人体のどこを刺激すれば快感を得られるのか、達する事なく快感を得られるのか、などを熟知している。性行の際にはどこを愛撫すばいいのかが理解できるという事。

頑健:C
異常に疲れにくい身体を持つ。
耐久のパラメータをランクアップさせ、攻撃を受けた際の被ダメージを減少させる。複合スキルであり、対毒スキルの能力も含まれている。ただし、ライダーの場合媚薬の類にしか効果を発揮しない





802 : すーぱーろーまびっち ◆A2923OYYmQ :2017/08/02(水) 22:11:24 zcBtljfk0
【宝具】
汝等 姦淫せよ
ランク:D 種別: 対人宝具 レンジ:1-50 最大補足:400人

自身の周囲に存在する“性交に依って増える生物を発情させる”能力。
対魔力や魔力のランク、精神力に行って抵抗可能。
この宝具に嵌った者達が蕩尽した生命力は、そのままライダーに魔力として徴収される。
発情したものは例え相手が親や子であっても行為に及ぶ様になるが、ライダーを認識していた場合はライダーへと欲情を向ける、
この場合は欲情の度合いに応じてライダーに魔力を奪われる。
完全に嵌まれば、ライダーを視認した時点で魔力を奪い尽くされての衰弱死が確定する。



法悦搾取 随喜の果てに枯れ落ちよ
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0~1 最大補足:10人

直接の交わりによって魔力を搾り取る。
使用中は騎乗スキルが最高ランクに上昇。ライダーとしての本領を発揮する。
この宝具の真価は、搾取した者の肉体的精神的性質を、搾取の度合いに応じて獲得できるという事。
ステータスを向上させるのみならず、天性の肉体や、心眼偽、勇猛といったスキルを獲得可能。
搾り殺せば命をすら奪い取り、死亡した際にストックとして消費する事で蘇生する。
ストックの消費具合はその攻撃の最大補足に応じて決まる為、天地を打ち砕く威力でも一人しか屠れぬ対人宝具ならば一つしかストックを減らせない。



屹立せよ 裂け爆ぜるまで
ランク:C 種別:対人性技 レンジ:0-1 最大補足:2人

ライダーが生前身につけた技巧。
手で触れた対象に強力な性的刺激を与えて硬直させる。
魔力や呪いやの類ではなく、物理的拘束や痛みによるものではない為に、抵抗は困難。
精神力若しくは特殊な肉体的声質に依らねば抵抗不能。
また、抵抗に成功しても数ターン身体の動きが鈍る。
しかし、この効果は副次的なもので、宝具の本来の効果は、血流操作。
刺激した部分に血を過剰に集めて、内側から破裂させる事が可能。
生前に無数の男達の精を搾り尽くした技。


803 : すーぱーろーまびっち ◆A2923OYYmQ :2017/08/02(水) 22:12:01 zcBtljfk0



【weapon】
無し

【人物背景】
ローマの神君アウグストゥスに連なる名家ね出、第四代皇帝クラウディウスの三番目の妻。
その強欲と冷酷さと淫蕩で歴史に名を残す。

スキッラという名前で一晩中男たちと交わり続け、ある時には夜明けまでに25人もの男を相手にしてもまだ物足りなかった、すなわちメッサリナは疲れてはいたが、満たされてはいなかったらしい。
また彼女はクラウディウスをそそのかし、彼女を不快にさせた者や彼女の敵対者を処刑させたりもした。強欲さ、冷酷さの代名詞として彼女の名「メッサリナ」が使われたと言う

その最後は、愛人の元老議員と結託してクラウディウス帝を暗殺しようとして、事もあろうに愛人と結婚式を挙げる。
当然発覚して愛人は処刑。メッサリーナも自害を命ぜられるが、自害出来なかったので殺害される。
メッサリーナの死を知ったクラウディウスの言葉は、もっとワインが欲しいというものだった
クラウディウスとの間には息子と娘が居たが、共にネロ帝により殺害されている。

クラウディウス帝は、生来病弱で身体的な障害も持っていたが、皇帝としては有能で、カリグラが破綻させたローマの財政を立て直していた。
この様な賢明な皇帝に、クーデターを起こして、元老院の支持を得られると思っていたのはどういう根拠なのだろうか?
更には杜撰な行動計画と、事前に結婚式挙げるという愚挙。
おそらくは一個の男としては水準を大きく下回るクラウディウスを侮蔑しきっていたのだろうが、愚かとしか言いようがない。

【容姿・特徴】
見た目はアイリスフィールの胴に遠坂葵の頭を乗せた感じ。
雁夜に向ける眼差しはアニメ版23話のアレがデフォ。
雁夜以外には締まりのないニヤケ面か、ゲス顔。
テンション上がり過ぎるとアヘ顔になる。
一人称は「妾」
性格は短絡的な快楽主義者で、思考の全てが『自分が楽しむ』ことに向いている。
大局的に物を考えることは出来ない。
現代にでも幾らでも居る頭と尻の軽い女。
すーぱーろーまびっち。




【方針】
聖杯を取る

【聖杯にかける願い】
アグリッピーナに死を
受肉してこの世界で欲望を貪る。

【星座のカード】
蟹座


804 : すーぱーろーまびっち ◆A2923OYYmQ :2017/08/02(水) 22:12:29 zcBtljfk0
【マスター】
間桐雁夜@Fate/Zero

【能力・技能】
一年間の付け焼き刃で、寿命を削り潰して習得した魔術。
蟲を使役する魔術を使う。切り札は牛骨すら噛み砕く肉食虫「翅刃虫」の大群使役。ただし蟲は炎に弱い。
参戦時期の都合上、壊滅状態。

【weapon】


【人物背景】
第四次聖杯戦争の11年前に出奔。
聖杯戦争の1年前、遠坂葵のもとに顔を出したある日、彼女の口から娘の桜が間桐へ養子に出されたと知る。
桜を間桐から解放すべく、寿命を削り潰して魔術を習得し聖杯戦争に望む。

【方針】
聖杯を散る

【聖杯にかける願い】
葵と凛と桜が笑って暮らせる事

【参戦時期】
時臣と戦って敗北後、言峰に拾われる前。


805 : すーぱーろーまびっち ◆A2923OYYmQ :2017/08/02(水) 22:12:56 zcBtljfk0
投下を終了します


806 : ◆As6lpa2ikE :2017/08/02(水) 22:31:29 hrff4Ho20
ノーコンティニューで投下します


807 : かみさまドロップ ◆As6lpa2ikE :2017/08/02(水) 22:32:17 hrff4Ho20
わたしはあっちゃんの幼馴染だ。
ちっちゃい頃からあっちゃんのそばに居たし、毎日のように一緒だった。
ツキの悪いあっちゃんは、目を離せばいっつも何か怪我をしたり、物を無くしたりと、不幸な目に遭ってた。
すごくすごく辛そうで、可哀想な男の子だった。
そんなあっちゃんを見てね、わたしはこう思ったの。
『どれだけあっちゃんがツイてなくたって、わたしがあっちゃんを守ってあげなきゃ』って。
だからわたしは、いつだってあっちゃんのそばに居たし、これからもそうなるだろうと思っていた。
そう、思っていた――エルさんがやって来るまでは。
あの人がやって来てから、あっちゃんは変わってしまった。
いつもより笑う事が多くなったし、口癖のように言っていた『ツイてない』も全然言わなくなった。
それは良い事なんだろう――多分。
あっちゃんが成長した証だ。
だけど、それは同時に、あっちゃんがわたしから離れてしまった証でもある。
このまま、エルさんのおかげであっちゃんが幸せになって、あっちゃんにとって、わたしがいなくてもいい存在になってしまったらどうしよう?
そんなのは絶対に嫌だ。
考えるだけで、背筋が凍りそうなくらいに、嫌な想像だ。
あっちゃんの隣には頼れるわたし、わたしの後ろには守られるあっちゃん。これまでそうして来た関係が崩れてしまうのは――怖い。
とても、怖い。
だからわたしは、何としてでもあっちゃんを元のあっちゃんに戻すしかないのだ。
そう、何としてでも――どんな手を使ってでも。
わたしにここまでの決意をさせる感情は、きっと『幼馴染の友情』なんかでは表しきれない感情なのだろう。
そう、きっと、この感情の名は――恋だ。
わたしはあっちゃんが好きだ。
大好きだ。

▲▼▲▼▲▼▲


808 : かみさまドロップ ◆As6lpa2ikE :2017/08/02(水) 22:33:30 hrff4Ho20
(『いwwwやwwwいwwwやwwwそれは違うっしょ(笑) キミはただ誰かに頼られる事に依存していただけで、その依存という感情を『好き♡ 』だとか『恋♡ 』だとか、あるいは『友情!』とかいう耳障りの良い言葉に変換してただけなんだぜ?』――もしあの半巨人野郎がこの場にいれば、そんな事を言ってたんだろうな)

自分のマスターの願いを知った時、アーチャー――北欧神話における神々の大英雄、トールは、眉を顰めつつ、自分の悪友が言いそうな台詞を脳内で流していた。
彼のマスターである葵みことは、幼馴染に恋する、普通の女子高生である――ただしこの『普通』は、彼女が家庭に問題を抱えており、怪しげなオカルト通販サイトの常連である事を除けば、だが。
そんな彼女が聖杯戦争に参加するにあたって、聖杯に託そうとしている願いは、件の幼馴染を守れる力を手に入れて、彼をずっと守れるようになりたいというものであった。

「はっ、たかだか野郎一人の為に聖杯戦争を勝ち抜きたいだなんてねぇ……、随分と健気じゃねえかマスター。多少魔力の残滓みてーのが体に擦り付いてるとはいえ、所詮は一般人であるお前は、聖杯戦争なんかに参加するのが怖くねえのかい?」
「そりゃあ、多少は怖いけど……、これもあっちゃんを守る為だもん。そう思えば、全然へっちゃらだよ!」

それに――と、みことは言葉を続ける。

「あっちゃんがわたしのそばから離れてしまう事の方が、よっぽど怖いよ」
「…………ふぅん」

この時のトールは、目の前の普通の少女が放つ、普通ではない思いを目の当たりにし、軽く驚いていた。
何かと恋愛絡みの騒動が多い神話体系出身の英霊であるトールでも、驚く程の想いの強さ――それがどれほど恐るべきものであるかは、お判りいただけるだろう。

「まあ、いいさ。俺も北欧神話に名高い英雄神として、聖杯戦争なんつぅ催しでは勝ちを取りに行きてえしな。なーに、あのクソッタレの所為で起きちまった神々の黄昏に比べりゃあ、聖杯戦争なんて全然楽勝な戦争だろうよ。それに――」

そう言って、トールは自分の服の裾――スカートの裾を摘んだ。

「こんな姿で戦って、もし負けでもすれば、人理に大きく刻まれるレベルの大恥だろ? この聖杯戦争、色んな意味で負けられねえぜ――いや、こんな格好で勝っても、その場合はその場合でかなり恥ずかしいんだろうけどよ」

雷雷トールの服装は、神話で語られるような雄々しい姿や、絵画で描かれるような勇ましい姿とは真逆の、若い少女のそれであった。
アニメに出てくる魔法少女が来ているような華美なアレンジを加えられたレインコートを身に纏った少女である。レインコートの裾はスカートみたいにヒラヒラでフワフワだ。
柔らかそうで可愛らしい肉体の何処に、雷霆を放つ槌を振るう力があるのだろうか――そう不思議に思うくらいであった。

(そういや、大分前に女装した事はあったが……、まさか、そのエピソードが元になってこんなファンシーでキュートでラブリーな格好で召喚されちまったっていうのか? 聖杯はいったい何を考えてんだよ。馬鹿じゃねえのか?)

トールのエピソードの一つに、奪われたミョルニルを取り返す為に、巨人のアジトに女装して侵入したものがある。
そのエピソードが元になり、トールは女装――魔法少女の格好をした姿で召喚されたのだろう。
最早服装だけでなく、骨格や体つきまで少女のそれにしか見えない女装は、流石神の女装と言った所だろうか。

(そん時に取り戻した槌も、今となっては杖になっちまってるけどな)

トールは懐にしまってある物体に意識を向けた。
そこにあるのは、トールの代名詞とも言える武器――雷を操る槌、ミョルニルである。当然ながら、これはトールの宝具だ。
北欧神話最強と言っても過言ではないその宝具は、今現在、トールのマジックガールな服装に合わせるかのように、魔法少女のステッキ風の形状へと変化していた。
有する神秘と破壊力は変化前から変わっていないものの、もう何だか与太話みたいな馬鹿げた変形である。

(いや、そもそもどうして魔法少女の姿でオレは召喚されてんだ? まだ、実際に女装した花嫁衣装で呼ばれるなら分かる――が、何故魔法少女? どうして魔法少女なんだ?)

あまりに理解不能に頭を悩ませるトール。
頭の中の火打石の欠片が痛むまでもなく、思考がぐるぐると混濁しそうであった。
そんな彼(彼女?)は後で知る事になる。
自分のマスター、葵みことが魔法少女のような力に憧れ、普段からそんな格好をしていた事に。
そのあまりに強い少女の想いが、召喚される英霊の姿までも変えてしまった事に。


809 : かみさまドロップ ◆As6lpa2ikE :2017/08/02(水) 22:34:40 hrff4Ho20
【クラス】
アーチャー

【真名】
トール

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力A+ 耐久B 敏捷A+ 魔力EX 幸運C 宝具A++

【クラススキル】
単独行動:A

対魔力:B−
毒系統の魔術に対して、このスキルの効果は半減される。

【保有スキル】
神性:A+(EX)
神の息子であり、また自身も神であるトールは純粋なる神霊である。
その為、サーヴァントとしての召喚は不可能なはず――なのだが。
しかし、トールには『元々はオーディンをも上回る信仰を集めており最高神に位置していたが、時が経つにつれオーディンを最高神とする信仰へと民衆が変化し、トールはオーディンに次ぐ地位へと落ちた』という逸話がある。つまり、神霊としての格が落ちたエピソードがあるのだ。
一度神霊としての格が下がった事があるトールは、このエピソードが利用され、神性ランクがギリギリ召喚可能なレベルまで下がり、サーヴァントとして召喚された。

魔力放出(雷):A
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
いわば魔力によるジェット噴射。
雷の神であるアーチャーは魔力を雷として放出する。

巨獣狩り:A+
アーチャーは神々と人間を巨人から守る象徴でもあり、また、ラグナロクでは巨大蛇ヨルムンガンドと相討ちになったという逸話を持つ。
巨大な敵性生物、特に巨人に属するものとの戦闘経験に長けている事を示すスキルであり、アーチャーの攻撃はそれらに対して特攻効果を発揮する。

【宝具】
【悉く打ち砕く雷神の杖(ミョルニル)】
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:2〜4 最大捕捉:1

槌の宝具――のはずだが、此度の召喚にあたり、魔法少女が持つステッキのような形へと変形している。
真名解放して強力な電撃を放つ他、投げて使用することも可能。 この投擲も可能な使用法から、トールはアーチャーとしての適正を獲得した。
また、屋外では雷を呼び込むことで出力を向上させることができる。

【万雷打ち轟く雷神の嵐(ミョルニル)】
ランク:A++ 種別:対軍宝具 レンジ:100 最大捕捉:1000

上記の杖に雷を上乗せし、質量を持った雷柱を全方位に放出して周囲の全てをなぎ払う広範囲攻撃。
世界蛇にも致命傷を負わせる程の威力を持ったこの宝具を受けて無事でいるのは、まず無理だろう。
本来ならば、更にこれ以上の使用法がミョルニルにはあるらしいが、サーヴァントとして召喚の際に生じたスペックダウンにより、その技は使用不能になっている。

【weapon】
・ヤールングレイプル
ミョルニルを扱うのに必要とされている鉄の籠手。
今回の召喚では、魔法少女風の衣装に合わせた銀色の手袋に変形している。エロ漫画でSっ気のある女の子が野郎の前立腺を弄る時によく手にはめてる、あの布地がツルツルスベスベしてるエッチな感じの手袋です。

・メギンギョルズ
ミョルニルを振るうのに必要とされる力の帯。装備した者の力を倍加させる効果を持っており、アーチャーの筋力ステータスに+が一つ振られているのも、この道具によるもの。
今回の召喚では、魔法少女のコスチュームに合わせた感じの白いエナメル質のベルトに変形しており、腰回りに巻かれている。

・タングリスリ&タングニョースト
トールの戦車を牽く二頭の山羊。
今回の召喚では、それらの敏捷性や機動力が概念礼装の飛行能力・速度に変換されており、まあ、つまるところ、サーヴァント・トールが着ているレインコートを魔改造したかのような魔法少女風のコスチュームの正体は、この二頭である。フードに生えてる山羊の角から、その事が伺えるだろう。
元は山羊のレインコート――レインコートならぬレインゴートと言ったところか。
ちなみにレインコートのような衣装になっている理由は、上記の駄洒落じみた理由ではなく、トールが天候を司る神だからである。

【人物背景】
ガチの神霊、トールが色々と理由あってサーヴァントとして召喚された姿。
魔法少女風とかいう巫山戯た姿で召喚されたのは、マスターが魔法少女の力を望んでいたからでもあるが、トールのエピソードの一つに花嫁衣装で――女装して敵のアジトに侵入したというものがあるからでもある。
つまり、見た目は可愛い少女そのものであるが、性別は――?
その真相はさておくとして、此度の召喚にあたり、トールは『あんな作戦で侵入するなんてやめときゃ良かった……』とめちゃめちゃ後悔している。


810 : かみさまドロップ ◆As6lpa2ikE :2017/08/02(水) 22:36:02 hrff4Ho20
【特徴】
レインコートを魔改造したかのような、魔法少女風の灰色のコスチューム(フードに山羊の角が生えており、裾の部分がフリフリのフワフワになっている)。手には銀色の手袋をはめ、腰回りにはレインコートの上から白いベルトを巻いている。
髪は赤いストレートの長髪(普段はフードの内側に仕舞われている。再臨でもすればフードが脱げる感じなんじゃないですかね? 再臨ってどうやるんすかね?)。
怒りっぽい性格であり、その上今は実に屈辱的な服装になっている為、常に顔が怒りで真っ赤っかのかである。可愛い。
こんな童貞の妄想を詰め込んだ性癖のカツカレーチャーハンみたいなサーヴァントだが、流石は神霊クラス。その実力は並の英霊なら瞬殺できるほどのものである。

【サーヴァントとしての願い】
特になし。

【マスター】
葵みこと@かみさまドロップ

【能力・技能】
特になし。キケリキーのグッズは元の世界に置いてきてしまった。

【人物背景】
『かみさまドロップ』の主人公である野分あすなろの幼馴染で、独り暮らしの野分の世話を色々と焼いている。
生まれながらにツキのない野分に思いを寄せている彼女は、野分とエルの同居生活を快く思わず、次第に大きくなる嫉妬心に悩んでいた。
そんな時、クラスメートのリノがオカルト通販サイト・キケリキーの特設サイトにみことを招待する。そこで入手したグッズで不思議な力を手に入れたみことは、嫉妬心が暴走。
エルを亡き者としようとするが――?
原作コミック3巻11話あたりから参戦。

【マスターとしての願い】
ずっとあっちゃんを守れるようになりたい。


811 : ◆As6lpa2ikE :2017/08/02(水) 22:36:23 hrff4Ho20
投下終了です


812 : ◆Mti19lYchg :2017/08/02(水) 22:45:25 Z4QVyELQ0
間に合わないかもしれませんが、念のため予約しておきます。


813 : ◆ZjW0Ah9nuU :2017/08/02(水) 23:25:24 yj2JV7520
すみません、候補話を24時までに投下するのは難しいと判断したのですが、もし予約で若干時間の遅延が許されるのであれば予約したいです。


814 : ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/02(水) 23:42:38 ZTkNK.TI0
ドドドドド投下します


815 : ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/02(水) 23:44:09 ZTkNK.TI0

深く、深く、海に沈んでいくような感覚。消滅とは、死ぬとはこういうことなのだろうか。
思ったよりも悪い気分ではない。自分はなんの悔いもない生涯を送ったのだから。

『ドラゴナイトハンターZ』の竜戦士グラファイト。自分は人間と戦うために生まれたゲームの敵キャラだ。
そしてバグスター――――人類に感染し、現実に現れる人類の敵となった。
現実の世界で、仲間とともに人間と戦うことができる。"心が躍った"。バグスターとして、これ以上の事はない。
最期は仲間に見送られ、二人の宿敵に引導を渡されたのだ。ああ――――思い返しても、素晴らしい生き様だったと思う。

自分がバグスターとして敵キャラに設定されていたゲーム、『仮面ライダークロニクル』は終わりを迎える。
敵キャラとしての役目を終えて―――――自分はきっと、消えるのだろう。何の悔いも残っていない。

……いやパラドは、ポッピーは大丈夫だろうか。同じバグスターであったが、人類の友としての道を選んだ彼らは。
バグスターは人間を消滅させて完全な体を得る存在だ。かならず確執は存在するだろう。
彼らがちゃんと、幸せになれるといいが……

……それとラヴリカは無事だろうか。キャラクターを全うすることも許されず、傲慢なゲームマスターに削除されてしまった彼は。
彼もまた仲間だ。できれば、彼にも満足できる最期を迎えてほしい。
止まった時の中でコンテニューが許されないというのなら、ゲームマスターが打倒され、時が再び動き出したなら……少し、甘い考えだろうか。

自分は役目を全うしたのだが、案外心残りはあるものだ。
だが、"これでいい"。彼らの運命は彼らに託そう。
このまま深く、深く、沈んでいく――――――






「いいや、まだゲームは終わってません。」


816 : ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/02(水) 23:46:20 ZTkNK.TI0

「……ここは。」

「『仮面ライダークロニクル』とはまた別のゲームの舞台で御座います。」

真夜中、人一人存在しないアリーナの中心を数個のライトが照らす。
グラファイトの眼前には、黒衣を纏う一人の少年。

「まずは貴方の―――――竜戦士グラファイトの生涯に敬意を」

厳格な、正座の姿勢でグラファイトの前に座す。全身での敬意の表現であった。

「貴様は、何だ?」

当然一切の説明もなく、状況をつかめないグラファイトは問いを投げる。
ここはどこだ、自分は消えるはずだ、さまざまな疑念は浮かぶがまず。
この、人間のはずの少年から感じる異様な気配。その招待を"何だ"と聞いた。

「……その答えは、"之"にて答えるとしましょう。」

そう口にすると同時、立ち上がり腰の刀を引き抜く。
装飾の無い、無骨な日本刀。鈍くうっすらと輝くその刀身は、名も無い業物であるのだと感じさせる。
切っ先はグラファイトに向けられた。この上なくシンプルな宣戦布告の形。

「良いだろう。
 向かってくるなら容赦はしない!」

当然、グラファイトはそれに答える。敵キャラとして"生"を授け、とにかく今この瞬間に意識があるのならば。
向けられた戦闘の意思に答えない理由など存在しない。
同じくグラファイトも刀を―――――"ガシャコンバグヴァイザー"を抜いた。
アルファベットのAが刻まれたボタンを押し、待機音が流れ出す。

「――――――培養!!」



            Infection!!!



Let's Game! Bad Game! Dead Game! What you're name!!!??



――――――――The Bugstar!!……――――――――



全身からあふれ出す炎を振り払い、現れるは真紅の竜戦士。彼は牙、両刃剣の形状を持つ"グラファイトファング"を構えた。
互いに準備は万端、刃の衝突が何時になろうとおかしくは無い。
しかし、沈黙だけが場を満たす。互いに手練れであるのであれば、間合いの計り合いがこうも長い。

沈黙を破ったのは黒衣の少年であった。真っ直ぐに、喉元めがけて放たれた突きを牙で受け止める。
ならばと再度放たれる突きを再度受け止め、何度も、何度も、金属音を響かせる。

「――――――だったらァ!!」

埒が明かないといったん距離を取った少年の輪郭がぼやけ始める。
幻覚の類ではない。ぼやけた輪郭はさらにぶれを増して行き、"分裂する"
六つ、少年から離れた輪郭は、少年とまったく同じ姿をとる。まさしく分身と言える現象が起きていた。
計七人、手数は七倍、迫る方向は前後左右斜め全方位。必滅足りうる七連撃を、グラファイトは

壱、弐、参、肆、伍、陸、漆。

両刃を用いて、その一切を無傷で受けきった。

「多対一なら慣れている。残念だったな」

『ドラゴナイトハンターZ』はプレイヤーがチームを組んで強大な敵に立ち向かう協力ゲーム。
そしてグラファイトはその敵キャラであり、つまりは常に多人数を相手にしてきたのである。
対象法ならすでに体に刻まれているのだ。

「次はこちらから行かせてもらう!……」

一度刃を振り下ろせば、当然もう一度構える隙が生まれる。彼が手練れであれど、そこが変わることはない。
その刹那の間隙に、グラファイトは拳を地面へたたきつける。
響く轟音、芝生の地面に罅割れが走り、揺れる地面は大きな隙を生む。グラファイトを囲む七人が体制を崩し
炎を纏う牙が円を描き、一閃――――――金属音を響かせて、分身は消滅し、少年は地面に倒れる。


817 : ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/02(水) 23:46:58 ZTkNK.TI0


「今の手応え……貴様は――――」

「――――ええ。この身は人に非ず、と言うわけで。」

生身の人間を切りつけたはずなのに、その感触は鋼鉄。まるで、"仮面ライダー"達を相手にしていたような。

「急な申し出でありましたが、一切手を抜かずに迎えて下さった。
 やはり貴方は最高の"敵"――――ええ、楽しませていただきました、」

大の字に転がっていた体を起こし、少年は再び正座する。

「語らせていただきましょう。これから始まる"聖杯戦争"というゲームについて。」


□■□■□■□

■□■□

□■

「―――――成程な。」

聖杯戦争。願いを懸けたデスゲームであり、自分はその参加者として選ばれたと言う。
少年に言われたとおり、右の手には令呪が、ゲームの参加者の証が刻まれていた。

「勝ち抜けば、願望器が貴方の元に。
 望むのであれば、バグスターの運命さえも………」

変えられる。そういいかけた少年の声を

「不要だ。
 我等の運命は、既に友に託してきた。」

グラファイトがさえぎる。
自分は既に、役目を果たした上で消滅した身。こんな、"くだらない"方法でバグスターの運命を変えるつもりは無い。
それに何よりも。道こそ違えたが、バグスターの運命を託せる"生涯の友がいる"。
なのに、退場したキャラクターが出て行くのは萎えるものだろう。

「それでは、貴方はこの世界で何を?」

そう問う少年の声は、どこか上ずっているかのような。これから始まるグラファイトの台詞を、待ちきれないと言わんばかりに。

「決まっている。
 俺は俺の生き様を通すのみ!」

バグスターとして。グラファイトとして。人類の敵として。事情はどうあれど、今ここに自分の意思があるのであれば。
やることは何も変わりやしない。自分は"敵キャラ"として、その生涯を生きるのみ。

「ああ、であれば。哀れな"敵"の話を聞いていただきたい。
 魔人として、世界を敵に回せど。その役目を果たせなかった男の話を。」

人に非ず、世界の敵として生きた――――――少年の名を、"平将門"という。
彼は世界の敵としてたたかった。世界を変えるために、そう望まれたが故に。自身を魔人と化してさえも、その道を貫いた。
だが、彼は倒れた。道半ば、世界は変わらず、その役目を果たせなかった。

「貴方の生涯は、まさに俺の理想だった!
 貴方の作る宿命が、あの戦士たちを変えていった!」

対するグラファイトは、敵キャラとしての役目を全うしたと言える。
バグスターが発生した"ゼロデイ"にて、グラファイトは人類の戦士の前に立ちはだかり、打ち負かした。そしてもう一人の戦士の恋人の命を奪うことで、完全な現実の姿を手に入れた。
その因縁を通して、敗北した戦士は最後はグラファイトを打ち倒す程に成長したのである。
それだけではない。彼が人類の敵としていたからこそ、人類の戦士たちは協力を覚え、人類の運命を変えたのである。

自分にも素晴らしい強敵は居た。けれど、自分はあの男の何を変えられたのだろう。世界の敵の米噛みを打ち抜いた、あの藤原秀郷の何を。
彼は自分を打ち倒した後も、変わらず英雄で居たらしい。英雄として、人の願いを聞き続けて、いつの間にか居なくなったようだ。
嗚呼、それは英雄の最後と言うには余りにも。きっと、あの男は見返りなんて何も求めないだろうが、それでも。
嗚呼、自分は世界どころか人一人変えることもできずに。

「俺は今度こそ敵としてありたい!今度こそ敵として、役目を果たしたい!
 だから、貴方の供となることを許していただきたい!!」

「―――――好きにしろ。
 お前も、お前の生き様を通せばいい。」

それは肯定に等しく。共に敵として戦う許可を得たに同じ。
故に、将門の声は赤く、たぎりを抑えきれないその声で誓う。

「これより、"セイバー・平将門"
 人類の敵として、貴方と共に!!」


818 : ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/02(水) 23:47:35 ZTkNK.TI0
【クラス】セイバー
【真名】平将門
【出典】平安時代より
【性別】男性
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力:A 耐久:A+ 敏捷:B 魔力:C++ 幸運:C 宝具:EX

【クラス別スキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:A+
 日本において騎馬の起源となったという逸話より、最高位の騎乗スキルを有する。
 対象が馬の形状をしているかぎり、幻獣種ですらも乗りこなすことが可能。

【固有スキル】

魔人:A
魔人たる将門の魔性をあらわすスキル。
カリスマ、魔力放出、怪力を内包するが、魔性と神性をデメリットとして併せ持つ。
本来持つこの二つのスキルのメリットはもてないが、宝具等の特攻の対象としてのみスキルが機能してしまう。



【宝具】
『日本刀/ひのもとのやいば』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
彼は馬を駆り、日本刀を振るう"侍"という概念の起源となった。
故に彼が振るう刀は"武士、侍"と呼ばれる者が振るう脅威の全てになりうる。
それは"黄金の衝撃"であり、"三千世界"であり、"三段突き"であり、"主砲"にすらなる。
日ノ本が世界と敵対し、"侍"と呼べる者の範囲が大きく広がった結果、侍が駆る戦艦すらも彼は振るう。

『七星鋼躯』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
北斗七星の化身である彼の体そのもの。
その双眸と顎を除いて、彼の体は鋼鉄の如き強靭さを持つ。
矢の雨の中に悠然と歩き、幾百の太刀を跳ね除けたその体は、Cランク以下の攻撃を大幅に軽減する。
また、六人のまったく同じ姿の影武者を擁するという逸話を、零基の複製と言う形で再現する。
複製された霊基は本体とまったく同じステータスを持ち、同様に鋼鉄の体を持つ。
ただしそれらは影を作らず、また魔力の消費も複製の数だけ倍増していく。

【weapon】
『刀』

【解説】
その名が意味するは天に仇なした叛逆者にして、いまだ現世に喰らい付く大悪。
平家の抗争を調停してまわる果てに、最終的には朝敵と化した。壮絶な戦の果てに討たれ首を落とされたが、その首は更なる戦を求めて現代の首塚まで飛び去ったと言う。
史実にはそういう形で残るが、同時に非常に人格者であり、慈悲深い人間であったともされる。
彼自身は高貴な身分ではないにもかかわらず、藤原忠平にその人格を評価され、わずかであるが朝廷とのパイプを所持していた程。

彼の生涯はその大部分を戦が占めるが、彼自身が望んで起こした戦は案外少ない。
その殆どは誰かに依頼されたもの、襲撃を受けた、もしくは自身が調停に乗り出すと言う形で参戦している。
単純な言葉を使って言えば、彼は"放っておけない"性格。おせっかい焼き、もしくはお人よしとも呼べるかもしれない。
彼の戦いは人のためであった。人を愛し、人のために戦い、それ故に彼は"魔人"となった。
当時の東国、将門が支配しようとした地の人々は強い負担を強いられていた。
彼らは望む。理から抜け出す者、天を地に引き摺り下ろし、世界の敵に成り得る者を。
故に将門は世界の敵として、"新皇"を名乗り戦争を始めた。その身が鋼鉄に成り果て、人に非ずとよばれても、"敵"としてあり続けた。
その果てに、彼は真に魔人となった。

奇しくも、マスターと同じく"望まれ、作られた敵"。
違うのは彼には悔いがあると言うこと。彼が死した後も朝廷は続き、世界は変わらなかった。
望まれた"敵"の役目を果たせなかったと、彼は死してなお悔いる。怨念として現世に影響を及ぼすほどに。
【特徴】
腰に刀を挿した黒衣の少年。長髪をなびかせ、言うなれば怨霊のような見た目。
目つきは悪く、纏う皮にすら"敵"を貼り付けている。が、意識してそのような表情を作っているらしい。
気が緩むと本来の人のよさそうな顔が出る。

性格は前述の通りに加えて、武士の気質を持つ。誰かに望まれた戦であろうと、楽しんでいたのは間違いない。

【聖杯にかける願い】
もう一度世界に"敵"として君臨し、世界を変えること


819 : 爆炎のcontinue!! ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/02(水) 23:54:01 ZTkNK.TI0
【マスター】
グラファイト@仮面ライダーエグゼイド

【能力・技能】
『グレングラファイトバグスターレベル99』
グラファイトの怪人態。
強力な膂力、装甲を持ち、武装である両刃剣グラファイトファングに炎を纏わせることで威力を増加させることが可能。
必殺技は"紅蓮爆竜剣"。実際に放つときはドドドドドと名前に加え、ドの数と威力が比例する。

【人物背景】
『ドラゴナイトハンターZ』の敵キャラクターであり、人類をのっとり地球の支配者となる事を目的とするバグスターの一人。
武人気質であり、非常に仲間想い。癖の強いキャラクターの多いバグスターの中の保護者的な立場、かもしれない。
本編退場後の出演

【マスターとしての願い】
今一度敵キャラとしてその役目を全うする。


820 : 爆炎のcontinue!! ◆R9F5WG6Bjw :2017/08/02(水) 23:54:48 ZTkNK.TI0
ドドドドド紅蓮投下終了です
タイトルが途中からになってしまいましたがこれでお願いします。


821 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 23:55:14 RW3L/R1o0
速攻投下します


822 : 真月譚 ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 23:56:16 RW3L/R1o0




雲ひとつない、きれいな夜だった。

ひとりの少女が、何をするでもなく夜空を眺めていた。
天幕のない空には星々が煌めいている。
見上げた一面に散らばる光景は、深い森にも海の底でうようにも見える。
森も海も、少女は見たことがないので想像でしかないが。

そよそよと吹く風が頬を撫でる感触の心地よさに気持ちが高まって。
運んでくる土と草の匂いが鼻孔をくすぐるのに新鮮を覚えて。

どれもが初めての体験、少女の狭い世界では実際に感じられなかったことだ。
与えられた資料で何度も観た、四季の景色。自然の景観。
高揚しているのが自分でも分かる。刺激が強すぎて体調がおかしくなってないかが、少し心配だ。

「これが、本当の空――――」

真上に向かって手を伸ばす。小さな月が、掌の中に収まった。

「月と地球との距離は約約38万キロメートル……。
 そんな高さを、人類は越えたんですね」

人の技術は月への渡航を可能にした。けれど地表から直接手が届くわけではない。
こんなのはただの距離の差が生んだ錯覚でしかない。自分の一生では、辿り着く日なんて来ないだろう。
ただなんとなく、翻した手を見て、遠いなあ―――だなんて考えていた。


「わっ」

物思いに耽っている少女の視界が、急速に滲んで見えなくなってしまった。
涙を流したわけじゃない。感動で泣きそうになっていたのは本当だけど。

「あ、あれ、眼鏡、眼鏡が……!」

レンズを介さない裸眼の視界はひどくぼやけていて、数メートル先も見渡せない。
その場で虚しく手をわたわたするしかないマシュの耳に、鈴を転がすような声が届いた。

「あ、ほんとにそんな反応するんだ。私の時代にないものだから変だけど、これがベタ、というものなのかしら」
「バ、バーサーカーさんですか?」

聞き覚えのある声で、ようやくマシュも傍にいるらしき人物を特定した。

「あの、返してもらえないでしょうか。この通り、眼鏡がないとまったく見えないものでして……」
「うん、ごめんね。素のマシュの顔を見てみたかったから、隙きだらけの背中から取ってみちゃった。はいかけてあげる」

声の主の手で元の位置に眼鏡がかけ直される。
元に戻った視力で、目の前の顔を鮮明に映し出した。

月の光を浴びて輝くばかりの金の髪。
紅の宝玉を思わせる瞳は眩しく、どこか妖しさも孕んでいて、それが少女に得も言われぬ艶やかさを与えている。
現代の装いで身につけた白いワンピース姿だが、所作の節々に雅さが見え隠れして、育ちの良さを窺わせる。
地上に落ちた星の体現。美の境地。同性であっても目を奪われそうになる高貴があった。

「んーー……」

そんな貴族令嬢を思わせる少女は、人差し指を口に当てて品定めをするように見回して。

「やっぱり、眼鏡の方が似合うわね。私はいいと思うわよ」

子供っぽく、にこりと微笑んだ。

「あ……ありがとうございます。バーサーカーさん」

慣れぬ言葉を送られてほんのりと頬を上気させる。
聖杯戦争―――英霊同士による闘争の舞台に身を置いているには緊張感のない、和やかな会話。
そんなやり取りが、バーサーカーのサーヴァントとそのマスター、マシュ・キリエライトのここ数日の日常になっていた。




  ■


823 : 真月譚 ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 23:56:43 RW3L/R1o0




人理継続保障機関カルデア。
魔術と科学、相反する視界を併せて世界を観測し地球の未来を運営する特務機関。
しかし2016年、突如として人類の未来は消失。2017年を待たずして人類絶滅が証明されてしまった。
この原因を探るべく歴史の転換となる時代―――特異点へのレイシフトを計画。場所は2004年の日本の地方都市、冬木。
マシュ・キリエライトはその実働メンバーに選ばれ、出撃当日に準備を整え、しかし眼が覚めれば単独で冬木に転移してしまっていた。
原因は不明。他のメンバーは見つからずカルデアとの連絡も途絶。孤立無援の危機的状況だ。

マシュが達成すべきミッションは大別してふたつ。
急務となるのがカルデアとの通信復帰、然る後に帰還。今回のレイシフトが異常事態であるからには速やかな帰還と報告をする必要がある。
そして、可能であるならばこの特異点の調査。年代は異なるがここも目標地点であった冬木には違いない。それも聖杯戦争を行っている真っ最中だ。
安全確保のためにも情報収集は必須だし、本命となるミッションの一助にもなれる。
解決までは、望み過ぎだと判断している。事態の大きさが自分ひとりの手に余る。


「月、綺麗よね」

夜も更けた時間、二人は何をするでもなくどこかの丘で一緒に月を見ていた。
一部を訂正する。現在マシュは孤独ではなかった。
一見してマシュより幼い体躯の少女だが、その身に宿った神秘の濃さ、表層から読み取れるだけでも膨大な魔力量は人の身に留まらない。
人類史に刻まれた英雄。サーヴァント。その存在をマシュは学んでいる。特異点解決任務における戦力として彼らについての情報を教えられてきた。

「はい。私もそう思います。資料映像では何度も眼にしていますが、本物の月があんなに光を放っているなんて。
 初めて見た時は、思わず涙が出てしまいそうでした」

けどマシュはそうした戦闘装置としてバーサーカーを扱っていない。
彼女にも人格があり、過去の記憶を持っている。一個人として接するべき相手であると理解しているからだ。

「大げさねー。月はいつもそこにあるのに」
「カルデアではほとんどが雪が降る日でしたから……」

バーサーカーもまたそんなマシュの対応をよしとし、使い魔でなく友人のような気さくさで寝食を共にしてきた。
……またこれはマシュ自身の話であるが、彼女に敬意を込めているのにも理由はあった。

「けれど驚きました。まさか竹取物語のかぐや姫にお会いできるだなんて。
 この非常時に不謹慎だとわかってますが……正直、少し嬉しかったです」
「私も、自分の出た話のファンがマスターだなんて思わなかった。そんなに人気だったのかしら?」
「本を読むのは好きでしたから。アンデルセン童話やシェイクスピア詩集、それに日本の童話なども読破済みです」

かぐや姫。日本最古の物語、竹取物語。その主題の人物となる月の住人。
五人に貴族、時の帝から寵愛を受けながらも拒み続けた、月下美麗の姫。
愛読していた本からの登場人物と直接対面する機会を得られたのは、援軍が見込めないマシュにとって心の安らぎだった。
……髪の色や骨格が明らかに日本人的でないのは、「そもそも月の住人なのだからそういうものなのでしょう」とひとり納得していた。

「かぐや姫がサーヴァントとして在るということは、やはり月には独自の文明が存在していたのですね!
 ニール・アームストロング船長が初めて月面着陸を果たした時、あるいはコンタクトがあったのでしょうか……」
「えっと、そのあたりはややこしい話になるからまた今度で。正直憶えてないし」
「憶えてない、ですか?」
「正しく言えば思い出したくない、かな。
 月にはあまり、いい思い出はないから」

そう言って月に目を向けるバーサーカーからは、マシュの理解の及ばない領域での感情があった。
かぐや姫は穢を負い、罰として地上に送られたという。そして月に帰る段になって老夫婦との別れを悲しみながら、
月の使者から渡された羽衣を羽織った瞬間、あらゆる感情を喪い去っていった。
故郷に帰るために、長年過ごして第二の故郷をも呼べる場所を離れる。そこに如何なる思いがあったのか。


824 : 真月譚 ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/02(水) 23:57:44 RW3L/R1o0


マシュが知り得るのは伝承までだ。歴史の中で編集され、本来の筋書きとは異なって伝わってしまう場合がる。
真実を知る手段は当事者達に尋ねる他にあるまい。そしてそこは容易く踏み込んでいい話ではない。
他の多くの英霊もそうなのだろう。いやいま生きている人達であってもそうだ。
命は過去を背負って生きている。大なり小なり事情があり、重しを乗せながら苦しみを積み重ねる。
生の殆どを無菌の部屋で過ごし、積み重ねた過去が薄い自分に、彼らとの思いを共有してもいいのだろうかと――――――

「ふわっ!?」

またしても曇る視界。持ち去られる眼鏡。

「湿った話はこれでおしまい。過去なんて遡っても後悔とか恥ずかしさとかしか出てこないのだし。
 それよりは未来の話をしましょう?」
「わかりましたから、眼鏡は返してくださいー……!」

視界ゼロ空間になったマシュにはわちゃわちゃと手を回すしか他に手がない。
バーサーカーの表情が子供らしさの失せた、ある種の冷酷さを秘めていたのにも気づきはしなかった。


「じゃあ、少しだけ昔話をしてあげる」

少し姿勢を正して、そんな出だしでバーサーカーはマシュに語り聞かせた。


「月の民はね、恋をしてはいけないの」


「恋……ですか」
「そう。恋は致死の毒。愛は堕落の蜜。律を忘れ使命を焦がす禁忌の甘味。
 ヒトのココロは、月人にとっての絶対の禁忌だったの」

人生経験の薄いマシュには、人の色恋の判断基準は分からない。
ただそれが、単なる身分に関わる話でないことだけは、憂いを帯びた姫君の顔だけで理解できた。

「けど―――今の私は、その枷から外れている。英霊になって、月の姫という『物語』をカタチにしてもらったおかげで。
 だから私は知りたいの。恋がどんなものか。甘いのか苦いのか。苦しいのか気持ちいいのか。
 皇子達や帝がくれたものは、本当に恋であったのか」

神妙になって、その内面を探ろうとする。
恋知らぬ月の姫。物語の裏に隠れた悲哀の伝承。

「えと……その、私も恋というのがどんなものなのかは知りません。カルデアの所員達とは深く交流がありませんし。
 一番はドクターですが……強いて言えば、近所のお兄さん、的な?ものですし」
「なら知りましょう?一緒に。それぐらいの時間はあるわよ。なにより私が欲しいから」

細い手を握って立ち上がらせる。
そのまま行く宛もないままに丘を駆け下りていく。

「で、ですがカルデアへの帰還は―――」
「それは任務、お仕事でしょ。これはあなたの望み。あなたの願いを見つける話!」
「わ、わ、そんな急に走って――――――!?」


825 : 真月譚 ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/03(木) 00:00:40 jqnOgV9Q0


マシュには望みがない。現状の自分に不満がない。
その身の境遇も。残された命の残量も。運命を呪い、覆そうと感じられない。
穢れのない魂。無垢にして純粋なる精神。それは籠の中の愛でられる鳥のようで。人知れずバーサーカーは重ね見る。
美しくはあるが、だからこそ歪みが見える。
そこに憤り、放っておけないと感情を露わにする者がいてもおかしくはないぐらいには。

「ところでマシュはどんなタイプが好み?
 私はあまりガツガツ食いついてこない奥ゆかしいいいなって思うの!初対面で後ろから抱きついて「こうせぬことで私のものにならぬ女はいなかった」
 とか囁いてくる人は、うん、正直なかったわ!それで出来ればあなたみたいな眼鏡が似合う人が――――――」
「バーサーカーさん!足!話聞きますからまず足を止めてください!私少し浮いちゃってますから!」



これは出逢いのなかった物語。
運命に出会わず、手を取ることもなく、星から外れてしまった少女が、願いを見つける断章だ。






【クラス】
バーサーカー

【真名】
かぐや姫

【出典】
『竹取物語』

【性別】
女性

【身長・体重】
155cm・44kg

【属性】
秩序・中庸

【ステータス】
筋力A+ 耐久B+ 敏捷C+ 魔力D+ 幸運E+ 宝具D

【クラス別スキル】
狂化:A
 パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
 会話する理性こそ残っているが、人の心は消え失せており意思疎通はおよそ成立しない。
 ……が、何故か通常では感情を取り戻している。
 彼女の種族にとっては感情を持つこと自体が狂気であり、一種のバグともいえる。

【固有スキル】
魔眼:B
 見たもの、見るものの魂を魅了する魔眼を所持している。
 伝承により権力者に対してはランクアップする。対魔力スキルで抵抗可能。

月の寵姫:EX
 夜、月が出ている間魔力の回復量が増す。
 満月であれば最高潮。テンションも上がる。逆に新月は絶不調。テンション盛り下げ。

天の羽衣:―
 月の民に心はない。その正しいあるべき形に戻す羽衣。
 穢れを祓うという逸話通り、あらゆるバッドステータスは流れ落ちるように解除される。
 記憶にある、とある『月の王』の領域と、竹取物語の逸話が混ざってできたスキル。
 これを羽織ることで狂化の力は正しく機能、星の設計(のぞみ)通りの支配種となる。

【宝具】
『夢想・真月譚(つきはみち、ゆめはすぎる)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:なし 最大捕捉:なし
 宝具というよりは固有の特性に近い能力。
 星の触覚である精霊種が持つとされ、世界に干渉し叶う範囲であれば思いのままに環境を変貌させる。
 幻想によって現実を幻想たらしめる。魔術世界において空想具現化(マーブル・ファンタズム)と呼ばれる現象。

 元々自在な行使が可能なほど純度の高い個体ではなかったが、サーヴァントとして「かぐや姫という物語」に括られたことによってその能力はやや変質しながらも一応の成立を見る。
 生前五人の求婚者に手に入れるよう求めた宝物になぞらえた自然現象、
 帝の軍勢が月の使者が現れた途端無力化した逸話から、一帯の環境を月の重力圏に変えて不調にさせる等が主な使い道。
 
 なお、求婚者に求めた宝物については、そもそも自分の能力で生み出さなければ手に入らないようなものばかりであった。さすが月の姫きたない。


826 : 真月譚 ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/03(木) 00:01:46 jqnOgV9Q0



【weapon】
鋭い爪。重いキック。たまにビーム。
体内から溢れ出る魔力はまるで月の光のよう。

【解説】
『今は昔竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて、竹をとりつゝ、萬の事につかひけり。名をば讃岐造麿となんいひける。
 その竹の中に、本光る竹ひとすぢありけり。怪しがりて寄りて見るに、筒の中ひかりたり。それを見れば、三寸ばかりなる人いと美しうて居たり』

日本最古の古典と呼ばれる、『竹取物語』に登場する月の姫。
老夫婦が竹を切った中から出てきた娘で、三寸ばかりの姿から三月で輝くほどの美人と成長したことから
『なよ竹のかぐや姫』と呼ばれるようになる。
その美しさが評判となって求婚する者が後を絶たなかったがかぐや姫は拒否し続け、
最後に残った五人の貴人に、実在するとは思えない、空想のような宝物を探し出した者と婚姻すると告げる。
血眼になって探す者、大枚をはたいて贋作を作らせる者、八方手を尽くしたものの結局は五人共果たす事は叶わなかった。
やがて時の帝すらも噂を聞きつけ求婚を受けるも、目の前で姿を眩ませるなどしてやはり応じようとはしなかった。

いつからか、かぐや姫は空の月を眺めて物思いに耽る事が多くなり、ついには泣き出してこう告白する。

「私はこの国の者ではありません。あの空に浮かぶ月からやってきた人なのです。
 罪を負った為この地に流されて来ましたが、次の十五日の夜には帰らねばなりません」

聞きつけた帝は決して渡すまいと姫を閉じ込め軍勢を引き連れるが、いざ月の使者がやってくると誰もかもが戦意を失いひれ伏してしまう。
かぐや姫は別れを悲しみつつも使者の元に向かい、帝に不死の妙薬と歌の手紙を渡す。
そして使者から受け取った羽衣を纏うと―――それまでの悲嘆が嘘のように消え去り、夫婦への愛も冷めあっさりと月へ昇ってしまった。
残された帝は「姫に会えず涙するこの身に不死がなんになる」と駿河にある最も天に近い山で薬と手紙を焼くよう命じた。
その山は「ふしの山」と呼ばれるようになり、これが富士山の起源だといわれている。


……その正体は「真祖」と呼ばれる、生まれながらの吸血種。
人を律するべく生まれた星の触覚であり、肉を持つ精霊種に分類される。
彼女は日本に零れ落ちた稀種であり、種族の役目に沿うことなく穏やかに暮らしていた。
しかし成長し年月が経つに従って元から備わった性質は人を惹きつけ、律する事のできる立場となってしまい、
さらには種全体の欠陥機能―――吸血衝動が芽生えてしまう。
日に日に増す乾き。断片的に憶えている月の王の記憶。浅はかで欲にまみれていた人間だが、優しい思い出もくれた彼らを傷つけたくなかった。
帝が兵を動かしたのはかぐや姫を逃したくないが為の警備であり、その時初めて彼女は真祖としての超常性を発揮、その場にいた全員を射竦めさせた。
そしてそのまま一人立ち去り、多くの真祖がしたように力の全てを使って衝動を鎮め眠りについた。

英霊と化した現在では、生前のかつての性質を変化させている。
星との接続は断たれ、空送具現化は宝具として改められた。真祖としてではない、逸話にある月の都の姫という伝承で形作られている。
なお『竹取物語』作中の時代は飛鳥時代の終わりから奈良時代の始まり……7世紀と8世紀の間とされる。
真祖の完成体……月の王に相応しい後継機が生まれる4百年前の話である。


【特徴】
姫アルク+珪素姫。
『月の珊瑚』を参照。以上。

……金の髪と瞳、鮮やかな着物を羽織る完成された女性(当然ながら日本人の骨格ではない)。年齢は十代前半から中頃。
女帝さながらの貫禄と他者を跪かせる威圧を振りまく、生まれながらの貴主。高圧的というより非人間的言動で畏れをもたせる。
素の性格は控えめながらも年相応の好奇心を隠せない、縁側で月を眺めている時間が好きな箱入り娘。
自分の境遇と重ね合わせたマシュには、五十歩百歩の差で人生経験があるのをいいことにお姉ちゃんぶって接している。

【サーヴァントとしての願い】
祖の命にも姫の責にも縛られない、人間らしい人生を。
具体的に言うと―――恋愛がしてみたい。


827 : 真月譚 ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/03(木) 00:02:06 jqnOgV9Q0






【マスター】
マシュ・キリエライト@Fate/GrandOrder

【能力・技能】
一流のレイシフトのマスター適正、魔術回路に魔術の知識を持つ。ただし戦闘訓練では心許なく居残りが常。

【人物背景】
人理継続保障機関カルデアの職員。
カルデアがサーヴァントを戦力として求めた結果、デミサーヴァントとなる英霊の依り代として生み出された試験管ベビー。
英霊憑依には成功するものの、宿った英霊が少女の扱いに憤り、かつ自身が離れれば命に関わるため、能力を目覚めさせないままで保っている。
14年を無菌室で監視されながら過ごし、15年から表で働くようになるが、その時点で寿命は18歳まで迫っている。

特異点発生により特異点F(2004年の冬木市)へのレイシフト実働チームに参加が決定。
16歳の誕生日になったレイシフト当日―――ある運命に出会うより前にこの冬木市へと迷い込む。


【マスターとしての願い】
カルデアとの通信・帰還。その後可能ならばこの特異点の調査と解決を行う。


828 : ◆HOMU.DM5Ns :2017/08/03(木) 00:02:27 jqnOgV9Q0
投下速攻終了します


829 : ◆Mti19lYchg :2017/08/03(木) 00:03:42 gkLY7e0g0
少し遅れましたが投下しても構いませんか?


830 : ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:06:16 cKR6DgPg0
いいぜw


831 : ◆Mti19lYchg :2017/08/03(木) 00:13:31 gkLY7e0g0
有難うございます。投下します。


832 : 剣鬼の伴侶と戦鬼 ◆Mti19lYchg :2017/08/03(木) 00:15:32 gkLY7e0g0
 冬木市の南東にある教会。
 その中に祭壇の前で跪き首を垂れ、祈る少年がいた。
 静寂の中、身じろぎ一つせず両手を握り、瞼を閉じている。

「何を祈っているのですか、アーチャーさん?」
 少年の背後にいた、髪をツーサイドアップにした少女が静寂を破り、少年――自身のサーヴァントであるアーチャーに話しかけた。

「遥。祈りなど戦場では役に立たないさ。両方が神に祈れば結局は力の強い方が勝つだけだろう。
 僕はこれから始まる戦争を思い、気が昂りすぎていたから、心を静めていただけだ」
 アーチャーは自分のマスターである遠山遥に対し、そう説明した。
「だがね」
 と、静かな面持ちだったアーチャーの表情が一変。覇気に満ちた笑みを浮かべる。さながら獅子の如く。
「これから古今東西の英傑たちと矛を交えると思うと、実に心躍る。鎮めようとしても無駄な事さ」
 アーチャーは右手を強く握りしめた。
「生前から戦い続けても、やっぱり戦争に飽きることは無いんですか?」
 遥が尋ねると、アーチャーは自嘲するように唇を歪めた。
「遥、生前から僕は四六時中戦争に勝つことしか頭にない戦狂いだ。統治に才が無ければ興味も無い。
 そんな俺にとって戦争のみに集中できるこの聖杯戦争は望むところなのさ」
 それは生涯を戦に費やした、正に戦鬼の答えであった。


833 : 剣鬼の伴侶と戦鬼 ◆Mti19lYchg :2017/08/03(木) 00:25:57 gkLY7e0g0
「アーチャーさん。私がこの聖杯戦争で望むのは誰も殺さず、殺されずに聖杯戦争を終わらせる事です」
 遥はそんなアーチャーの覇気を前に、ひるむことなく自らの不殺主義の願いを口にした。
「愚かしい願いだ」
 アーチャーは一蹴した。
「戦争でどうして人を殺さずに勝利できる? 人を殺さずに人を救えるというのだ?」
「人を殺さなくても、人を救ってきた人を私はたくさん見てきました、それに――」
 遥は一度息を切った。
「このまま戦い続けた場合、誰も勝者がいない『全滅の未来しか見えません』。
 だから、私は殺すことでしか願いが叶わない――そう人を誘惑して互いに殺し合わせる、この聖杯戦争に対して戦います」


834 : ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:26:07 cKR6DgPg0
滑り込み投下は認めますが、それはあくまでも『書き上げが終わっている候補話』のみに限ります。
00:30までに次のレスの投下がない限り、次に投下したい書き手様の事を考慮し、無条件で◆Mti19lYchg様の投下は破棄とします


835 : ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:31:25 cKR6DgPg0
極めて心苦しくて申し訳ありませんが、この投下ペースの長さから言って、リアルタイムでの執筆、投下と言う疑惑がこちらではぬぐえません。
後続の書き手様にこれでは申し訳が立たない事と、不公平極まりないと言う観点から、 ◆Mti19lYchg様の投下話は破棄とさせて頂きます。


836 : ◆ZjW0Ah9nuU :2017/08/03(木) 00:31:54 8cC5rW5Y0
>>834様に従い、恐縮ながら滑り込み投下します。


837 : <浄化> ◆ZjW0Ah9nuU :2017/08/03(木) 00:33:08 8cC5rW5Y0
青黒い夜の静寂の中、庭を一望できる縁側に腰かけ、男が独り、難しい顔をして考え込んでいた。
見ているだけでこちらが疲れ果ててしまうような、陰気な雰囲気を纏った男だった。
その手には、山羊座の描かれたカードが握られていた。縁側から庭にかけて吹き抜ける風によって、弱々しく揺れていた。

「………………」

男――メロダークは、俯いたまま黙っている。これでは一日に何度口を開くか数えてようとする輩も出てきても頷けよう。
メロダークの住む邸宅は庭があるだけに日本にしてはかなり広く、水面に浮いた蓮が特徴的な風情のある池まである。
庭を支配しているのは揺れる草木と池のせせらぐ音。まるで命の気配をも無に帰すような静けさだった。

――チャプ。

しかし、そんな命なき夜など耐えられぬとばかりに池の方面から水を叩くような音がした。
メロダークも、そこに確かな動く生命の気配を感じ、目を開けて釣られるようにそちらを見る。

そこには、幼い少女がいた。
少女は、水月の明かりのスポットライトに照らされ、池の水面上に佇んでいた。
その金色と小豆色の混じった僧衣と輝くプラチナブロンドの髪は遍く穢れを全て祓ってしまいそうで。
女神としか形容のしようがない――あまりにも幻想的で、生命すらも超越した神々しさを感じさせていた。
少女はメロダークをじっと見つめていたかと思うと、チャプチャプチャプと水面を弾むように走って池から上がり、メロダークの方へと駆けよる。

「お口びろーん、なのです」
「ひほほくひをひっはるは」

そして、近づくなりぴっちりと閉ざしていた口を引っ張られて無理やりこじ開けられた。

「ますたー、元気ないですー。聖杯戦争を今も生きているのだからもっと喜ぶのですー。明るくなるのですー」

締まりがなく緊張感のない口調で少女は言う。
先ほどの規格外であることを肌に叩き込むオーラはどこへやら、見た目相応の幼い様子でメロダークの周りを動き回っていた。

「……キャスター」
「曼荼羅ぐるぐる〜」

少女――キャスターは、全くメロダークの言うことに耳を貸そうとしない。
理性よりも本能で動いているかのように自由に振る舞っている。

「……私の話を聞け、キャスター」
「きゃすたーじゃないのですー。パドマサンバヴァなのですー。それを呼ぶのが嫌なられんげちゃんとでも呼ぶのです〜」
「……それはできん。真名が露呈する危険性がある以上はな」
「ぶー」

キャスターは、あからさまに不機嫌な膨れ面をする。
このサーヴァントについては、メロダークは既に把握している。その真名を、パドマサンバヴァ。蓮華生とも呼ばれている。
元とは全く違う文化に苦労しつつも、メロダークが調べたところによれば中国のチベットなる地域にて、密教という異教の開祖として知られているらしい。
元の世界で探索した遺跡内部にあった巨人の塔では、寺院に僧がいたが、密教や仏教では彼らに似た僧が沢山いるようだ。
そんな宗教の開祖ということは、要するにキャスターは僧、ということになるらしいが少なくともメロダークの目には全くそうは見えない。
千歩譲って、8歳の姿で蓮の花から生まれて来た伝説に則ってその姿のままになっていることはいいとして、内面まで年相応になっているのは気のせいだと思いたい。
一応、指示には従ってくれるのだが、メロダークの考え事の種になっている。


838 : <浄化> ◆ZjW0Ah9nuU :2017/08/03(木) 00:34:03 8cC5rW5Y0

「……我々にはこの戦争に渦巻く陰謀を挫くという使命がある。あまり勝手な真似をされては、困る」

メロダークは淡々とキャスターに言い聞かせる。
問答無用でマスター候補を異世界に強制送還し、星座のカードによって召喚されるサーヴァントを武器とする、万能の願望機を巡った殺し合い。
願いが叶うことを釣り餌にして殺し合わせるなど、性質が悪いにも程がある。
ましてや、集めたマスターに不相応な過去の英雄を宛がって使役させるなど、それは滅びに繋がりかねない。
十中八九、これを仕組んだ黒幕には何らかの陰謀を抱いていることだろう。それこそ、かの古の皇帝のように。

(使命、か)

今の自分は、何者だ?使命について思うと、そんな哲学的な疑問が、メロダークの中に湧き上がる。
探索者としてだろうか。傭兵としてだろうか。神殿軍の戦士としてだろうか。
その問いに、メロダークは答えることができない。
では、何のために剣を振るう?
故郷のため?神々のため?大義のため?
その問いに、メロダークは答えることができない。
また大義のためにと言い訳して誰かを犠牲にするのだろうか?
また戦争の過程で己の手を汚すのだろうか?
メロダークは否定することができない。

長い間アルケア帝国の遺跡を共に探索していた仲間であり、皇帝タイタスの憑代となる筈の人物であった■■に捨て身の攻撃を仕掛け、
諸共崖から落ちて水底へ沈んだ時に、何かが手に触れた感触があった。
それに触れた時には、気づいたらこの世界にいた。この世界には、探索すべき遺跡もなければ、自分に命令する上官もいない。

――聖杯があれば、■■を犠牲にせずに済む。タイタスの復活も防げる。誰も犠牲にしない世界だって作れる。

「……………」

メロダークは俯き、脳裏に浮かんだ蛇の如き言葉を振り払った。
それでは、結局やることは同じだ。
敵を手にかけ、善性の者をも手にかけ、無辜の民をも手にかけ――罪に罪を重ねることになる。


しかし――


それでは、何を信じて聖杯戦争を戦えばいいのだろうか?
それでは、何に守りたいと思える価値を見出せばいいのだろうか?
メロダークは答えることができない。

「むずかしく考えることなどないのです」

不意に、メロダークをじっと見ていたキャスターが口を開いた。

「天地自然の摂理に逆らわず、心の向くまま気の向くまま、ますたーのしたいことをしていれば、信じるものは見えてくるのです。
心というものはうまれた時から完成されている。みんな、それが見えてないだけなのです」

キャスターの言葉を聞いて、メロダークは僅かに目を見開いた。

「お前は……」
「曼荼羅ぐるぐる〜」

しかし、メロダークが再び問いただそうとしたときには、キャスターは既にいつもの調子に戻っていた。
得体の知れないサーヴァントだと思うとともに、キャスターへの認識を改めざるを得なかった。


839 : <浄化> ◆ZjW0Ah9nuU :2017/08/03(木) 00:34:57 8cC5rW5Y0
【クラス】
キャスター

【真名】
パドマサンバヴァ@8世紀後期チベット

【性別】
女性

【身長・体重】
119cm・23kg

【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力A++ 幸運A+ 宝具A++

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
陣地作成:A+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる『工房』を上回る『神殿』を形成する事が可能。
また、湖に浮かぶ蓮の花の中から生まれたという逸話から、池などの水のある場所は自動的にキャスターの陣地として判定される。
キャスターはチベット密教の始まりとなる寺院の建設に携わったとされる。

道具作成:-
宝具によってモノを創り出すため、その代償にこのスキルは失われている。

【保有スキル】
六神通:A+
神通力。仏・菩薩などが持っているとされる超能力で、あらゆる奇蹟を発現する。
キャスターはチベット密教の祖であるため、これらをほぼ制限なく扱うことができる。
千里眼・順風耳・読心術・物質透過・飛行などのその他様々なスキルにおいて、同ランク以上の力を発揮する複合スキル。

変化:A
文字通り「変身」する能力。本来とは異なる化身の姿へと自由自在に変化することができる。
キャスターは布教の際に時にはなだめ、時には驚かせるために8つの姿を見せた他、観音菩薩など他の尊格同様、多くの変化身が伝えられている。

菩提樹の悟り:A
チベット密教の果てに至った覚醒の境地。自身の心の真の本質を知ることで得た、何にも縛られない清浄な心。
人の在り方を理解するにまで至ったその見識は、第六感を不確定な予感ではなく、確たるものとして認識することができる。
五感に対する妨害を無効化し、精神干渉をシャットアウトする。

仏の加護:A+
釈迦如来や観音、金剛薩埵などを始めとする、仏教由来の神格達からの加護。
ランク相当の対魔力をキャスターに約束するだけでなく、窮地に置かれる前に優先的に幸運を呼び寄せる。

マントラ:A
主にインドで独自発展を遂げた魔術体系。
サンスクリット語の聖言を用いて魔術を行使する。


840 : <浄化> ◆ZjW0Ah9nuU :2017/08/03(木) 00:35:54 8cC5rW5Y0

【宝具】
『輪廻の蓮華(パドマ・アヴァターラ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
偉大な仏道修行者はすべての衆生を涅槃に導き救い終わるまで、何度でも化身として生まれて来るとされるチベット仏教の教えの具現。
キャスターもその例外でなく、何度死んでもこの宝具を介してそのままの姿で再び現界できる。
本来、キャスターは所謂生き続けているサーヴァントであるため、一度死ぬと聖杯戦争の舞台から離れて再び世界の外側へと押し戻されるのであるが、
この宝具によって自身の存在をこの世界に留めている。言わばキャスターの一時的な魂の補完機として使われている。
彼女の伝承から巨大な蓮の蕾の形をしており、再び生まれてくる際には蕾が開花して、花の中から生まれたままの姿でキャスターが現れる。
その性質から、キャスターを完全に舞台からドロップアウトさせるためにはマスターを殺すか、この宝具を破壊するしかない。

『涅槃の埋蔵宝物(テルマ・ニルヴァーナ)』
ランク:A++ 種別:埋蔵宝具 レンジ:1~20 最大捕捉:25
ダルマ王の仏教弾圧から仏教を守るために、数百に及ぶ聖典や仏具をチベット各地に隠した逸話の具現。常時発動型の宝具。
最適な状況が整った時、そのたびにキャスターの周囲にいる人物は、あるいは地中、あるいは水中、あるいは虚空、あるいは心の中から何らかの『宝物』が現れ、それを手に入れることができる。
その『宝物』とは経典や仏具の範疇に収まらず、宝具級の性能を持った代物であることもあれば、単なる啓示や自分自身への気付きであることもある。
有体に言えば、人や状況次第で万物が自動的に生成され、その者の手に渡る宝具といっても差し支えないだろう。
しかし、『宝物』が現れるタイミングはキャスターにも制御できず、その『宝物』も最終的に周囲の人物がチベット密教における覚醒の境地へ至るまでの手助けとなるものに限られる。
上記の最適な状況というのも、その者が『次の覚りの段階へ至るために』最適である状況に他ならない。
そのため、出現する『宝物』は多くの者にとって成長の契機となるだろうが、
長きに渡って『宝物』を得ていればやがてキャスターと同じ覚りの境地へと至ってしまうだろう。

【weapon】
・金剛杵
・錫杖
教えを受けた金剛薩埵の前身がブッダのガードマンであったため、その縁で彼譲りの武器格闘術においても長けている。
見た目からは全く想像できないが。

【サーヴァントとしての願い】
不明。

【人物背景】
チベットに密教をもたらした高僧で、チベット仏教ニンマ派の創始者。『死者の書』の著者としても有名。
現在のバングラデシュにある湖に咲いた蓮華の中から8歳児の姿で現れたという伝説がある。
この不思議な子供は、その地の国王に引き取られて国政を委ねられるが、あるとき虚空に出現した金剛薩の教えを受けて出家して僧侶となり、後に密教行者となった。
釈迦の弟子のアーナンダ、シュリー・シンハなど、多くの偉大な師の下で修行を重ね、密教の大成就者として有名になると、
彼の神通力の噂を聞いたチベットのティソン・デツェン王に招かれ、土着のボン教を調伏してチベット仏教の基礎を開いた。
布教の際には、時にはなだめ、時には驚かせるために8つの姿を見せたと伝えられる。
ティソン・デツェン王の依頼を受け、インドの僧シャーンタラクシタと協力してダルマの翻訳やサムイェー寺を建立したり、
25人の優れた弟子を育てるなど、チベット仏教の発展に大きく貢献した。
サムイェー寺の落慶後、ダルマ王の仏教弾圧から仏教を守るために、弟子達と数百に及ぶ聖典や仏具を埋蔵し、羅刹国へ去っていったという。

その後は、羅刹の国でも僧として多大な功績を上げ、最終的には世界の外側へ行き、生と死の河を止め、そこに留まり続けて世界を見守っていた。

【容姿・特徴】
金色の袈裟と小豆色の法衣を少しぶかぶか気味に羽織っている、プラチナブロンドの長髪の幼女。
生まれた時のままの8歳の姿。宝具欄にも書いてあるが、蘇ると全裸になる。
ボーっとしているかと思えば無邪気に動き回ったり、いきなり突飛な発言をしたりと掴みどころのない不思議な子ども。
理性よりも心の本能に従っているように見える。「○○です」が口癖。
しかし、時折哲学的なことや物事の核心つく物言いもするあたりはれっきとした僧であることを匂わせる。
実年齢は相当高いが、彼女自身の覚りがあまりに深いために周囲の目からは一周回って純粋で幼いように映る。


841 : <浄化> ◆ZjW0Ah9nuU :2017/08/03(木) 00:36:48 8cC5rW5Y0
【マスター】
メロダーク@Ruina 廃都の物語

【マスターとしての願い】
使命を果たす。…私の使命とは?

【weapon】
・参戦時点で装備していた武具一式

【能力・技能】
両手剣、両手斧といった重武器の扱いに長け、聖なる魔法により攻撃・回復・補助を一通りこなす。

【人物背景】
『Ruina 廃都の物語』において、仲間にできるキャラクターの一人。傭兵を自称する、無口かつ陰気な男。
必要以上に他者と言葉を交わそうとせず、遺跡の探索に参加した理由も明かそうとしないが、何らかの目的を持っている事を窺わせる言動も取る。
一方で料理を趣味とするなどの一面も持つが、その腕は絶望的で、また自身の料理下手に対して無自覚。
また周囲の目を憚らず突然衣服を脱ぎだすという奇行に走る事があり、何かにつけて全裸になりたがる節がある。

参戦時期は、神殿に拾われた孤児編にて、主人公に自らの素性を明かし、捨て身の攻撃によって主人公諸共崖から落ちた時点。
忘却界イベント直前。

【方針】
キャスターが何を考えているかはわからないが、聖杯戦争に渦巻く陰謀を止める。

【カードの星座】
山羊座


842 : <浄化> ◆ZjW0Ah9nuU :2017/08/03(木) 00:38:07 8cC5rW5Y0
以上で投下を終了します。
パドマサンバヴァのステシ作成にあたり、◆z1xMaBakRA氏の空海のステシ及び「ぼくのかんがえたサーヴァントwiki」のパドマサンバヴァのステシを参考にさせていただきました。
この場をもってお礼申し上げます。


843 : ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:38:33 cKR6DgPg0
主役は遅れて投下するってなw(FGOの種火に忙しかっただけ)

投下します


844 : 名亡しのアステリズム ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:38:56 cKR6DgPg0






          私(あたし)には、秘密がある





.


845 : 名亡しのアステリズム ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:39:18 cKR6DgPg0

 ◆

「……地上から見上げる星とは、こんなものなのか」

 その声は、酷く掠れていた。
錆びた金属の塊と塊どうしを、擦り合わせた時に生じるような、不愉快な音。
ギリギリ、キイキイと言う、耳障りのとても悪いその音が、明らかに、意味の解る音(ことば)になって、彼女の耳に伝わってくる。
よく耳を澄ますと、それが、大人の男の声である事に、彼女は気付いた。風邪で喉をやられた、などと言う能天気な事は彼女は思わない。人間では、ない。彼女は明白にそう思った。

「良い星空だ」

 彼女の瞳には、宇宙が剥き出しになったかのように、光の点が全天に敷き詰められたかのように、見事な星の空を見上げる者が映っていた。
――人間じゃない。直感的に、初めてそれの姿を見た時彼女は思ったものだ。いや、彼女でなくとも、そう思うに相違あるまい。
フードの付いた、サルファー(硫黄)のように黄色い長外套――ローブ、と言うらしい――を纏った男だった。肌の露出が、一切ない。
足首も手首も、見えない。黒革のグローブとブーツを付けているからだ。これで、外套の色を黄色から黒に変えてしまえば、悪の組織の幹部その物だろう。

「――そうは思わないか、我が主君(ロード)よ」

 それが、彼女に顔を向けようとする。
「あっ……」、そう口にした時には、もう遅い。目を、背け遅れてしまった。
彼女は、それの顔に類する部分を、見たくなかったのだ。十四歳と言う、年端も行かない小娘に、それの顔は衝撃的であったからだ。
当たり前である。どんなに光を当ててみても、晴れる事のない黒い翳。そこに浮かぶ、恐ろしい単眼を見てしまえば。自分が呼び寄せたこの存在――サーヴァントが、人間ですらない怪物である事など、嫌でも想像出来てしまうのだから。

「っ……」

 その凶眼で射すくめられてしまうと、彼女は、背筋に濡れた氷を伝わせるような、寒気と震えを憶えてしまう。
瞳が一つ、と言う身体的にも明白な差異もそうである。だが、あのライダーの瞳に込められた、凄まじい圧が、彼女には怖いのだ。
親や、友達が怒った時に、自分に向ける怒れる瞳。其処に込められた圧力とは、本質的に全く違う。種別も、座標も、何もかも。と言うより、人が意識して込められる圧力では、断じてなかった。

「……人と言うのは不便なものだな。少し、他人と何かが違うだけで、病的なまでにそれを恐れ、意識する。普通である事を、尊びたがる」

「当たり前でしょ!! あんたと違って私は――」

 普通。そう言いかけた彼女、『琴岡みかげ』は、言葉を呑んだ。
別に、目の前のサーヴァント、ライダーが、琴岡の事を威圧した訳ではない。
思い出してしまったからだ。近いようで遠い、小学校の頃の時の記憶。普通だった少女に、遠回しに、自分が普通ではないと言われた時の事を。
勿論、目の前のサーヴァントは、あらゆる点で自分とは違う存在であり、ライダーに比べれば琴岡は遥かに普通な事は厳然たる事実である。
そうであると解っていても、彼女は、言い淀んでしまった。あの時の記憶は、琴岡にとっては、忘れた頃に痛みを与えて来る虫歯の様なもの。
その記憶が、此処の所ずっと、ナイフのような切れ味を持ち始め、琴岡の心に傷を負わせ、荒ませ続けていた。
自分達が住んでいた街とは全く違う街に飛ばされても、如何やら、忘れられないようだった。

「何だ。何を言い淀んだ。主君よ」

「関係、ないでしょ。ライダー」

「それならそれで、構わないがな。だが、今を生きる人の悩みなど、瑣末で些細な小事だろう。見ろ、空の星々を。今宵は北斗七星がよく見える。あれを見て全てを忘れるが良い。星団の輝きに比べれば、お前達などなんとちっぽけで――」

「小さくない……!!」

 正直な話、ライダーの声と言うのは前述の通り、余りにも特徴的過ぎて、聞き取り難い。
琴岡は名目上ライダーのマスターと言う事になっているが、そんな立場になったとて、ライダーの声が聞き取りやすくなる訳ではないのだ。
次何をライダーが言おうとも、琴岡は、声が聞き取り難かったでスルーする事も出来たが、ライダーの余りにも手前勝手で、無神経な言葉に、我慢が効かなくなった。


846 : 名亡しのアステリズム ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:39:36 cKR6DgPg0
「私だって、抱えてるものは年齢相応にある!! 何をしたって面白くなくなるような、深刻な悩みがあるんだ!! 星見て悩みが消えるようなあんたと一緒にするな!!」

 小学校の頃のトラウマと、今の状況。まるで、オリジナルから乖離してしまった出来の悪い焼き直しのようであった。
また、仲の良い三人組が、バラバラになる。また、自分一人が傷付く。また、空虚な毎日を過ごす事になる。
普通とは、何なのだろう。同性が好きだと思う事が、まだまだ世間的に見れば広く受け入れられている考え方だとは琴岡も思わない。
思わないが、仲の良い皆が、とやかく言わなければ、それは普通と変わらないのだろうと。彼女は思っていた。
何故、自分達三人の間で、『好き』が生じたのだろうかと琴岡は考える。別に、司や撫子が、誰を好きになろうが、それは良いのだ。
自分達の中の誰かを好きになれば、それが軋轢と化し、亀裂に達する事は、誰だって解る事ではないか。
司には、早く王子様を見つけて欲しい。撫子は、もう自分の事をスッパリと諦めて欲しい。それだけが、彼女の願いであると言うのに。
仲良し三人組を続けられる方法だと、思っているのに。現実は何処までも上手く行かず、思いも知れぬ横やりで、全てが滅茶苦茶になって行く。

 道化だ。琴岡は自分の事を卑下する。
大切にしていた友達との関係を守ろうとしたのに、勝手な癇癪で全部台無しにした挙句、勝手に一人で傷ついている。
笑い話にもなりやしない。とんだ三文芝居、とんだ夢芝居である。他人から見れば、だが。琴岡当人からすれば、深刻な悩み。
星を見て和らぐようであれば苦労もしない。目の前のライダーの、底抜けの能天気さを、逆に嘲笑しようとする琴岡だったが――そうしかけて、息を呑んだ。

 目の前のライダーの瞳に渦巻く感情が、明白に、物質的質量を伴う強大な圧を内在させた、怒りの感情になっている事に、気付いてしまったからだ。

「……いや、よそう。我が悲願成就の為だ。常識知らずとは言え、それだけで殺すのは、余りに浅慮か」

 殺す。その一言に、体中から噴き出る脂汗が、途端に凍て付いて行くような感覚を琴岡は憶えた。
冗談めいて言っていなかったからだ。殺す、その短い言葉に込められた感情が、余りにも真に迫っていたからに他ならない。

「今の季節では、見え難いそうだな。プレアデス……この国では昴(すばる)の名で知られるあの星々は」

 そう呟きながら、ライダーは星々を見渡し、何かに気付いたか。
「見つけた」、と口にしながら、ずっと其処に、一つだけの目線を注ぎ続けた。

「主君よ。お前は知っているか。あのプレアデス星団を構成するアルデバランの大星、その近くに存在するヒアデス星団の事を」

 知らない。いや、覚えていないと言う方が正確かも知れない。
天文部の部室で、友人の鷲尾に教えられた記憶もあるかも知れないが、どの道教えられたとて、その星団が何処にあるのかなど琴岡には解らない。

「あの星団のとある星に、お前達の技術では到底捉えられない古代の都市が栄えている。人の言葉では、『カルコサ』と言う発音が、その遥か光年の彼方の都市の名に近い。元々、宇宙的言語は人に発音不可能なのでな。俺は其処で、人が猿であった頃よりも遥か昔に幽閉され――」

「嘘」

 ライダーが全てを言い切る前に、琴岡は口にした。誰が見ても、彼の言葉を遮る形であった。

「幾ら私が馬鹿だからって、それは、馬鹿にし過ぎ。そんな都市――」

「そう、偽りだ。そんな物存在しない。お前が正しい」

 幾ら琴岡が、星の事についてよく覚えていないからと言って、これは馬鹿にし過ぎである。
サーヴァントなどと言う超常の存在についてはすんなり受け入れられていると言うのに妙な話だが、遥か宇宙の彼方の古代都市、となると、もうそれは狂人の戯言である。
馬鹿にするのも大概にしろと思いながら、琴岡は、また威圧される――今度はその程度じゃ済まないかも知れないが――事を覚悟で反論したが。
意外にも、ライダーは、琴岡の言った事を肯定した。お前が正しいのだ、と。自分が語った事は徹頭徹尾嘘であると、認めてしまったのである。だから、次に言おうとした言葉が、もごもごと舌の上で意味を伴わぬ『どもり』になってしまった。


847 : 名亡しのアステリズム ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:40:06 cKR6DgPg0
「そうとも、カルコサなぞ、この宇宙の全てを血眼になって探しても存在しない。その古代都市は、お前達人間の空想によって形作られた、あり得ぬ都市であるからよ」

 「では――」

「其処に囚われている、或いは、その都市の王であるとされる俺とは、一体何か?」

「……あんたの事でしょ? そんな事も解らないの?」

「解らないな」

 諸手を上げて、黄衣のライダーは答えた。即答だった。

「俺は、何だ? 人は俺を、黄衣を纏う王だと言う。巨大な蜥蜴であるとも言う。クトゥルーによく似た、無脊椎動物だとも言うらしい。あの這い寄る混沌殿の化身でもあるらしい。俺ですら、自分で自分の事がよく解らない。だが、確かな事は一つある」

「それ、……は?」

「俺は、この世界の存在ではない。嘗て存在したと言う事実すらない。空想(フィクション)の存在と言う事さ。これだけは、拭えぬ事実だ」

 目線を、今まで向けていたヒアデス星団の方から、震えながらライダーの方を見ていた琴岡の方に、彼は向けた。怒りの感情は、語っている内に消えていた。

「『ハスター』と言う名を与えられたこの俺は、貴様ら人間がラヴクラフトと呼ぶ男が観測した、外なる宇宙の神を綴った物語に影響を受けた男が産み出した二次創作で生み出された架空の存在よ。俺は存在自体が嘘なのだ。そして俺は、嘘の上に嘘を糊塗しても許される都合の良い存在だ。だからこそ、俺は際限なくその姿が千変万化する」

 言葉を切り、数秒程間を置いた後、ハスターは言葉を発した。

「普通だ、異常だ、悩んでいる、で一喜一憂出来て、贅沢な事だな主君よ。俺にはそれすらない。普通ではなく、異常でもない。そんな事に悩める権利すら俺にはない。俺自身が、この世界に存在出来ない。聖杯戦争と言う機会でもなければ、形すら保てぬのだからな」

 軽く上げていた両腕を、真横に水平に広げるハスター。
その瞬間、彼の背中から、ローブを突き破るように、直径四十cm程の触手が十本程生え、それが放射状に伸びて行く。ビクッ、と、琴岡はその姿に怯んだ。

「我が願いは受肉。いや、違う。俺もまた、外なる宇宙の神々に名を連ね、偉大なりし支配者に列せられる事。貴様ら人間が、俺に求めた様な設定の神に、自ら至る事。主君よ、お前はどうなのだ」

 解らない。それが、琴岡の反応だ。
正味の話、聖杯戦争だって、乗って良いのかどうか解らない。今だって、この事態は夢である、悪い夢なのだと心の何処かで思っている。
だが、自分をこの冬木市に招き入れた、天秤座の星座のカードは、今も彼女の懐で淡く輝いているし、何よりも、脳裏に刻まれた聖杯戦争への知識が、
現実逃避を許さない。これは、フィクションの世界での出来事じゃない。確かなる、現実の風景なのだ。その事実が、琴岡には恐ろしかった。

 全ての願いを叶える、いわば万能の願望器である聖杯。
それを得て、何をする? お菓子を作る腕前を上げる事も、もっと遊ぶお金が欲しいと言う欲求も、勿論琴岡には備わっている。
だが、幾人もの人間を殺して得た血塗られた杯で、それを獲得する事が、本当に正しい事なのか? ――違う。叶えてはならない。
人殺しの報酬である聖杯で、それらを叶えるのは、徹底的に間違っている。其処まで考えて、恐ろしい考えが胸中を支配して行くのを、琴岡は感じた。
三人でまた、いつも通りに過ごせるのでは? そう、彼女は考えたのだ。皆で誕生日を祝い合い、学校で行われる同じイベントを楽しみあい、
長期休みでお泊り会を開いてみたり、嫌なテストを一緒に乗り切ったり、卒業しても、また皆で仲良く遊び合ったり。
一生の友人になるかも知れない人達と、またしても、琴岡は離れ離れになろうとしている。聖杯の力で、それを取り持てるのではないか?
其処まで考えて、彼女はかぶりを振るう。それは違うと。だが、それしかないのでは? と言う邪な考えが、雑草と化したハーブの如く芽吹いて来る。

「私、は……まだ、考え中……」

「ならば、俺が聖杯戦争で勝ち星を上げて行くその都度に、考えを練るが良い」

 見下ろすように、ハスターは琴岡の事を眺めてから、再び夜の星に目線を移した。
ギュっと、それまで手にしていたポーチを、琴岡は左手で強く握る。チャラ、と言う音がポーチから聞こえてきた。
昔、鷲尾と一緒に買った、白鳥と琴岡を含めた三人の誕生月の星座をモチーフにしたキーホルダーだった。
琴岡と同じ誕生月のカードに触れたら、彼女は此処に来た。そんな奇縁に気付けない程、今の彼女の心は、彼女の胸中になかった。

 そうして、夜だけが更けて行く。シャッターが殆ど下りた、深山町の商店街。
その外れで起こった、夜の十一時の出来事を知る者は、夜空の星々(アステリズム)だけなのだった。


848 : 名亡しのアステリズム ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:40:20 cKR6DgPg0




【クラス】ライダー
【真名】黄衣の王、或いは、ハスター
【出典】クトゥルフ神話
【性別】???
【身長・体重】2m、85kg
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力:-(C〜A) 耐久:EX(C) 敏捷:A++ 魔力:A 幸運:D 宝具:A

【クラス別スキル】

対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:E+++++
騎乗の才能。ライダー自身は、動物は愚か乗り物すら乗りこなせない。
代わりに、ライダーは神秘・風速の強弱を問わず、風に自由に乗る事が出来、また、己の配下であるおぞましい怪物・ビヤーキーを駆る事が出来る。

【固有スキル】

カリスマ:C
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。カリスマは稀有な才能で、小国の王としてはCランクで十分と言える。

魔力放出(風):EX
風、そのもの。普段は自己改造スキルを以って、物理的に接触が可能な姿に自己を定義しているが、ライダーの本質は意思を持った風である。
風を放出する事で相手を切断したり、空気の塊を放出して相手を破壊したり、直立不可能な程の大風を纏わせて防御能力を向上させたりと、使い方は自由自在。
最大出力の状態になると、黄色の色味を伴った、人の形をした気流の様な存在となり、物理的な接触が不可能になる。
本質が風である為か、ライダーには痛み及び熱を感じる器官がなく、衝撃についてもそれを素通りする。ステータスの耐久EXとは、完全に風となった時の値を指す。但し、物理的に接触可能な姿になった場合には、カッコ内の値に耐久ランクが修正される。

自己改造:EX
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
身体から触手を生やしたり、己の姿を巨大なトカゲや、同じく巨大な烏賊や蛸などと言った無脊椎動物に変えて見たりと、自由自在に己の姿を変じさせる事が出来る。
このランクEXは、ライダーが物語上の存在に過ぎないと言うイレギュラー性と、語り手によってその姿形が二転三転すると言う性質から来る規格外性に起因している。
通常、本質が風であるライダーは筋力ステータスを持たない(持てない)存在だが、このスキルによって己の姿を変じさせる事で、カッコ内相当の筋力ステータスを獲得する。


849 : 名亡しのアステリズム ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:40:35 cKR6DgPg0

【宝具】

『愛しき醜獣よ、星団を裂け(ビヤーキー・バイアクヘー)』
ランク:A 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1〜99 最大補足:1〜100
ライダーの眷属であり、奉仕種族、或いは下僕である、星間宇宙に棲んでいるとされる架空の怪物、ビヤーキーを召喚、それに騎乗する宝具。
筋力・耐久・敏捷がAランク、魔力と幸運がEランク相当のステータスの使い魔として機能する。
その姿は、一見蟻の様に見えるが触角は短く、人間の様な皮膚と目、爬虫類の様な耳と口、肩と尻の付根辺りにそれぞれ鋭い鉤爪が付いた手足左右2本1対ずつを持つ。
召喚された瞬間、余りにもおぞましい姿の故に、周囲の人間に、判定に失敗すれば狂気・恐慌状態を確定させる事が出来、サーヴァントがこの判定に失敗すれば、
精神的なダメージを負わせる事が可能。この時の判定は、精神耐性の有無によって成功・失敗率が変動し、Dランク相当の精神耐性があれば基本的には問題ない。
地球上では時速70㎞程の速度での移動を可能とする騎乗物で、空気が薄ければ薄い場所であればある程、その移動速度は爆発的に跳ね上がり、
空気の薄い高度千m以上の所であるのならば、音を超過する程の速度での移動が可能。

その真価は、真名解放と同時に、腰に存在する『フーン器官』と呼ばれる器官を利用する事による、『光速の400倍』での移動。
これを発動した瞬間、光を超越する速度で移動する故か、因果の逆転現象が発生。この速度で突進を行った瞬間、ビヤーキーが倒すと定めた存在に対して、
突進が命中したと言う結果が先に来る。つまりは、回避不能の上、光速の400倍と言う速度の為反応すら不可能。早い話、発動させた瞬間相手は、ほぼ即死する。
勿論、現代どころか神代の世界の法則ですらあり得なかった速度で移動すると言うこの行為に、デメリットがゼロの訳はなく。
この奥の手を発動させた瞬間、ビヤーキーはフーン器官を用いた事によるエネルギー(カロリー)消費を、人喰いで補おうとする。
これを発動させてしまうと、ビヤーキーの腹が満たされるまで、手当たり次第に生きた人間及び魔力体を捕食する存在に、この怪物は変化する。
人間であれば最低でも5〜600体程の頭数が必要になる。当然、これを発動する事はそれ自体が悪目立ち及び討伐令の発布対象になり、それどころか、この状態のビヤーキーはマスターすら捕食しかねない危険な存在となる。つまり、ライダーにとっても、本当に発動させたくない、切り札中の切り札である。

【weapon】

自己改造によって得られる怪物的特徴の数々。
余談であるが、ライダーの纏う黄衣は、本当に衣服なのではなく、衣服を模した『皮膚』の様なものであると言う。

【解説】

クトゥルフ神話において、ハスターと神の名前であり、旧支配者(グレート・オールド・ワン)と呼ばれる強大な力を持った存在の一員である。
四元素の『風』に結び付けられ、名状しがたいもの、名づけざられしもの、邪悪の皇太子など、様々な名で呼ばれる。
ハスターはしばしば、おうし座にあるヒアデス星団およびアルデバランと関連付けられ、ヒアデス星団に存在する古代都市カルコサの近くにある、
『黒きハリ湖』に棲んでいる、あるいは幽閉されているとされる。
ハスターの姿がどのようなものであるかは、詳細は不明である。目に見えない力である、触手に覆われた200フィート大の直立したトカゲ、ハリ湖に棲むタコに似た巨大生物と関連しているなどの説がある。

このハスターは神話の神、或いは外なる宇宙に君臨する恐ろしい混沌の神々、その一柱と言う訳ではない。
ダーレスが己の著作中で登場させた、創作上の登場人物、と言うのがハスターの正体であり、ラヴクラフトが観測した正真正銘の旧支配者ではない。
神性スキルを保有しないのは、まさにライダーが空想上の存在であるからに他ならないから。
自らを産み出した人間には好意的かつ寛大に接しており、そんな性格の故に、人間が自分に求めた様な、あるべき旧支配者へ至る、と言う願望がハスターには極めて強い。
創作上の架空存在と言う己の身の上を、ハスターは極度に恥じており、己に課せられた設定に恥じぬ様な者でありたい、と言う欲求が、このサーヴァントの中核。
聖杯に掛ける願いは、己の父であり母である人間達を思い、旧支配者に己の身を至らせる事。


850 : 名亡しのアステリズム ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:40:47 cKR6DgPg0

【特徴】

フードの付いた、硫黄のように黄色いローブを纏った人型。性別自体は、風であるが故彼はこれを持たない
足首も手首も、見えない。黒革のグローブとブーツを付けており、肌の露出がない。
決して取れる事のないフードの中には、晴れる事のない黒い翳に単眼が浮かんでいる。

【聖杯にかける願い】

受肉。そして、神の座に至る事。





【マスター】

琴岡みかげ@ななしのアステリズム

【マスターとしての願い】

解らない。本当に、聖杯で三人を……?

【weapon】

【能力・技能】

お菓子作りの才能

【人物背景】

一般的な中学生の少女。社交性が高く、実家にケーキ屋を持つ。それに付随して、お菓子作りが得意で、料理の腕も良い。
白鳥司、鷲尾撫子という二人の親友がおり、二人との友情をかけがえのないものと思っている。
また、彼氏を取っ替え引っ替えしており、そのあまりの節操の無さは司や撫子にも呆れられる程。
しかし、彼女の真の想い人は親友である白鳥司その人であり……。

原作22話終了前の時間軸から参戦

【方針】

不明。と言うより、決めてない。どうしたら良いのかも解らない


851 : 名亡しのアステリズム ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 00:41:06 cKR6DgPg0
投下を終了します。1時までならば、滑り込みの投下を可と致します


852 : ◆Y4Dzm5QLvo :2017/08/03(木) 00:56:58 4RjIvW6g0
では、お言葉に甘えて滑り込み投下させていただきます。


853 : HERE COMES A NEW AVANGER ◆Y4Dzm5QLvo :2017/08/03(木) 00:59:28 4RjIvW6g0

ここに、『秘密結社』という言葉がある。

この言葉を聞く時、多くの人間は何か不穏なものを感じるだろう。
後ろ暗い空気。人目を憚る者の気配。良からぬ思想。
程度の差こそあれ、この言葉に対して正のイメージを抱く者は殆どいないだろうと言っていい。
魔術結社、犯罪組織、邪教、あるいは世界を背後から牛耳るもの。
それらは得体の知れなさゆえに、「秘密」に触れ得ざる者たちの恐れを掻き立てるのだ。

では、この言葉に『悪』という枕詞を加えてみよう。

悪の秘密結社。
不穏さを確かに持っていたはずの言葉は、途端に陳腐な、ひどく子供じみた響きに変わる。
例えるなら、コミックやテレビ番組でヒーローに打ち倒されるのが約束されているような。
より正確に言うならば、その勧善懲悪劇を自分は安全な場所から見ていられるような。
そんな「浮世離れ」の感覚を、多くの人間は感じるに違いない。

そういう意味では――この『世界征服を企む悪の秘密結社の研究所』然とした一室は、確かに陳腐の極みだった。

ざっと見渡すだけでは何に使うのかも理解不能な、雑多なメーターやボタンに覆われた機器の数々。
それぞれの機械は煤けたパイプやチューブで互いに繋がり合い、時折真っ白い蒸気を噴出させている。
照明は薄暗く、機械から張り出したモニターの電光が周囲を照らしている様は、ひどくチープだ。
極めつけは、部屋の中央にふたつ備え付けられた、巨大な半透明のカプセルだった。
定期的に気泡を吐き出す蛍光色の液体で満たされた、カプセルの中に浮かぶもの。
言うまでもなく、それは一糸纏わぬ裸体であった。
なんたる陳腐、なんたる創造力の欠如か。
しかし。

「――マスター、お目覚めを」

女の声。
カプセルの外から呼びかける声に反応して、液体中に浮かぶ「男」が両目を開いた。
筋骨隆々。目にする者に無条件の威圧を与える肉体である。
内部の液体が排出され、やがてカプセルの前面が開くと、男は重い足取りで歩み出た。
数歩歩き、それから立ち止まって自分の手のひらを眺め、数度握って開いてを繰り返す。
それから、男は不敵極まる笑みを浮かべ、口を開いた。

「新たなボディ、よく馴染む。急ごしらえではあるが気に入ったわ。でかしたぞ、アヴェンジャー」
「恐悦至極にございます、我がマスター」

応える声は先ほどの女のもの。
男の方へと一歩歩み出したその姿をモニターの明かりが照らし、その全身が露わになる。
褐色の肌。背はすらりと高い。引き締まった脚と豊満な胸が目を引く。
レオタードめいたボディースーツを身に纏い、その上から船乗りが着るような上着をマントのように羽織っている。
そしてその頭には、何処の国のものとも違う船長帽を乗せていた。
彼女こそが「復讐者/アヴェンジャー」の英霊であり、カプセルの男はそのマスターである。

「私とマスターに与えられた聖杯戦争の知識から、魔術回路を有する肉体を生成する試み。成功ですね」
「うむ。己に魔術師としての能力がなければ、肉体ごと作り替えればいいだけのことよ」
「この部屋も私の『体内』なれば、この程度の開発設備は容易く作成が可能でございます」
「流石は人類史に名高き『潜水艦の祖』……ますます聖杯のシステムに興味が沸いたわ」

会話しながら、男は真っ赤な軍服を身に纏う。
その上からマントを装着し、最後に同じく真紅の軍帽を頭に被った。
その中央には、彼を象徴する意匠の徽章が装着されていた。
すなわち、翼のある髑髏の徽章が。

「では征くか、アヴェンジャー! 手はずは整っているな!」
「無論でございます。既に皆、波止場に集まっている頃かと」
「フハハハハハ! ならば我らの船出、盛大に飾ろうではないか!」

邪悪な哄笑。
それを聞いても眉ひとつ動かさず、アヴェンジャーはただ、手をゆっくりと掲げた。
それと同時に、地中から『艦』が浮上する。


854 : HERE COMES A NEW AVANGER ◆Y4Dzm5QLvo :2017/08/03(木) 00:59:59 4RjIvW6g0

ここに、『秘密結社』という言葉がある。

この言葉を聞く時、多くの人間は何か不穏なものを感じるだろう。
後ろ暗い空気。人目を憚る者の気配。良からぬ思想。
程度の差こそあれ、この言葉に対して正のイメージを抱く者は殆どいないだろうと言っていい。
魔術結社、犯罪組織、邪教、あるいは世界を背後から牛耳るもの。
それらは得体の知れなさゆえに、「秘密」に触れ得ざる者たちの恐れを掻き立てるのだ。

では、この言葉に『悪』という枕詞を加えてみよう。

悪の秘密結社。
不穏さを確かに持っていたはずの言葉は、途端に陳腐な、ひどく子供じみた響きに変わる。
例えるなら、コミックやテレビ番組でヒーローに打ち倒されるのが約束されているような。
より正確に言うならば、その勧善懲悪劇を自分は安全な場所から見ていられるような。
そんな「浮世離れ」の感覚を、多くの人間は感じるに違いない。

そういう意味では――この『世界征服を企む悪の秘密結社の研究所』然とした一室は、確かに陳腐の極みだった。

ざっと見渡すだけでは何に使うのかも理解不能な、雑多なメーターやボタンに覆われた機器の数々。
それぞれの機械は煤けたパイプやチューブで互いに繋がり合い、時折真っ白い蒸気を噴出させている。
照明は薄暗く、機械から張り出したモニターの電光が周囲を照らしている様は、ひどくチープだ。
極めつけは、部屋の中央にふたつ備え付けられた、巨大な半透明のカプセルだった。
定期的に気泡を吐き出す蛍光色の液体で満たされた、カプセルの中に浮かぶもの。
言うまでもなく、それは一糸纏わぬ裸体であった。
なんたる陳腐、なんたる創造力の欠如か。
しかし。

「――マスター、お目覚めを」

女の声。
カプセルの外から呼びかける声に反応して、液体中に浮かぶ「男」が両目を開いた。
筋骨隆々。目にする者に無条件の威圧を与える肉体である。
内部の液体が排出され、やがてカプセルの前面が開くと、男は重い足取りで歩み出た。
数歩歩き、それから立ち止まって自分の手のひらを眺め、数度握って開いてを繰り返す。
それから、男は不敵極まる笑みを浮かべ、口を開いた。

「新たなボディ、よく馴染む。急ごしらえではあるが気に入ったわ。でかしたぞ、アヴェンジャー」
「恐悦至極にございます、我がマスター」

応える声は先ほどの女のもの。
男の方へと一歩歩み出したその姿をモニターの明かりが照らし、その全身が露わになる。
褐色の肌。背はすらりと高い。引き締まった脚と豊満な胸が目を引く。
レオタードめいたボディースーツを身に纏い、その上から船乗りが着るような上着をマントのように羽織っている。
そしてその頭には、何処の国のものとも違う船長帽を乗せていた。
彼女こそが「復讐者/アヴェンジャー」の英霊であり、カプセルの男はそのマスターである。

「私とマスターに与えられた聖杯戦争の知識から、魔術回路を有する肉体を生成する試み。成功ですね」
「うむ。己に魔術師としての能力がなければ、肉体ごと作り替えればいいだけのことよ」
「この部屋も私の『体内』なれば、この程度の開発設備は容易く作成が可能でございます」
「流石は人類史に名高き『潜水艦の祖』……ますます英霊召喚に興味が沸いたわ」

会話しながら、男は真っ赤な軍服を身に纏う。
その上からマントを装着し、最後に同じく真紅の軍帽を頭に被った。
その中央には、彼を象徴する意匠の徽章が装着されていた。
すなわち、翼のある髑髏の徽章が。

「では征くか、アヴェンジャー! 手はずは整っているな!」
「無論でございます。既に皆、波止場に集まっている頃かと」
「フハハハハハ! ならば我らの船出、盛大に飾ろうではないか!」

邪悪な哄笑。
それを聞いても眉ひとつ動かさず、アヴェンジャーはただ、手をゆっくりと掲げた。
それと同時に、地中から『艦』が浮上する。


855 : HERE COMES A NEW AVANGER ◆Y4Dzm5QLvo :2017/08/03(木) 01:00:30 4RjIvW6g0


                    ▼  ▼  ▼


冬木市の波止場に集まったのは、年齢も性別も様々な人々であった。
役人がいる。チンピラがいる。学生がいる。主婦がいる。老人がいる。
彼らに共通するのは、たったふたつ。
ひとつは、翼の生えた髑髏のバッジを体の何処かにつけているということ。
そしてもうひとつは、彼らが心の奥底に「悪性」を抱えているということだった。
この社会を転覆させてやりたいと思う悪意、その僅かな萌芽。

そして彼らは、指導者の到来を目にした。

地中から、波しぶきを上げて浮上する、巨大な船。
およそ全人類が知る潜水艦の中で最も名高き、潜水艦の中の潜水艦。
女の――アヴェンジャーの声が、響く。

「我が旗のもとに集いし同志たちよ! 今こそ我が艦の全貌を見せよう!
 これこそが我が夢! 我が牙! 我が揺り籠にして我が棺!
 我が生涯の具現、怨念の化身、復讐の権化!
 アヴェンジャーの器たる怪物にして、海底二万里の旅路を征くものなり!」

この艦こそがアヴェンジャーの宝具。
それを惜しげもなく開帳する、その有様はあまりにも聖杯戦争のセオリーから外れている。
しかし、あまりに有名過ぎるこの艦の真名を秘匿することなど、どのみち不可能なのだ。
そして、この艦こそがアヴェンジャーの誇りであるからには。
彼女は、高らかにその名を叫ぶのである。

「そう! これこそが! 超級万能潜水艦『ノーチラス』である!」

アヴェンジャーが――いや、もはや真名を伏せるまでもない。
彼女こそが、キャプテン・ネモという英霊の殻を被って現界したサーヴァントである。
そしてノーチラスの甲板に立つ男。
その朗々と響く声が、興奮に打ち震える人々の耳朶を打つ。

「この威容こそが、貴様らの野望を支える『力』である!」

さながら独裁者のごとく弁を振るう男の体が、ふわりと宙に浮いた。
その全身を支えるのは、体に纏った青白い炎のようなオーラ。
人の悪意の具現――サイコパワー、その力。
それを自由に振るえる人間などただ一人。
すなわち、この男こそが。

「我が名は『ベガ』! 秘密結社シャドルーの総帥として、この場に集いし新たなる構成員たちに告げる!」

ベガの言葉に、甲板を見上げる波止場の老若男女――いや、シャドルー構成員たちが歓声を上げる。
それは、己の悪性を肯定する存在を、まるで待ち望んでいるかのようだった。
そして、それを知っているからこそ、ベガは彼らに大義名分を与えるのだ。

「この街に潜む魔術師どもを狩り立てよ! この街の仮初の平和の裏に潜む欺瞞を、暴き立てるのだ!」

ひときわ大きな歓声が上がった。
それはもはや、鬨の声のようだった。
これまでの人生で抑え込んできた悪性の、矛先を向けていい人間がいる。
その事実は彼らにとって喜びだった。
アヴェンジャーの宝具により、そういう人間だけがこの場に集っているのだった。

熱狂の中で、ベガは傍らのアヴァンジャーへと冷酷な笑みを向けた。

「昂ぶるか、アヴェンジャー」
「――ご冗談を。この女が、昂ぶっているようにお見えですか」
「ならば自覚するのだな、己の心に潜む歓びを」

アヴェンジャーはその無表情を崩さず、豊満な胸を支えるように腕を組んだ。

「私は復讐者。復讐こそが我が歓び。そしてその矛先は、この腐り切った西洋文明なれば」
「それを破壊する時が待ち遠しいと。果たして『キャプテン・ネモ』はそう答えるかな?」
「分かりません。私は父様の船。英霊『ノーチラス』は、『キャプテン・ネモ』の復讐を受け継ぐ器に過ぎませんので」
「ならばその舵は私が取るまで。このベガが、貴様に世界征服を見せてやる」

シャドルーの旗のもとに蹂躙される世界。
それを想像し、思わず頬が上気するのを自覚して、アヴェンジャーは初めて恥じらいの表情を浮かべた。


856 : HERE COMES A NEW AVANGER ◆Y4Dzm5QLvo :2017/08/03(木) 01:01:10 4RjIvW6g0


【クラス】アヴェンジャー

【真名】キャプテン・ネモ

【出典】『海底二万里』

【マスター】ベガ

【性別】女性

【身長・体重】167cm・54kg

【属性】混沌・悪

【ステータス】筋力C 耐久A 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具C



【クラス別スキル】
復讐者:A
 復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
 周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの活動魔力へと変換される。

忘却補正:B
 人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
 忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。

自己回復(魔力):C+
 復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。毎ターン微量ながら魔力を回復し続ける。
 更に宝具の特性により、アヴェンジャーは周囲の魔力を吸収して回復量に上乗せすることが可能。

【保有スキル】
航海:A++
 船の操舵技術。海のみに特化しているため、馬や戦車は乗りこなせない。
 アヴェンジャー自身が船であるため、スキル適性は最高ランク。

自己改造:EX
 自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
 アヴェンジャーは自身の本体である宝具に、魔力で生成した武装を搭載して際限なく強化することが可能。

善悪の舵:A
 船はあくまで乗り物に過ぎず、乗り手によってその本質は変化する。
 このサーヴァントの属性「善/中庸/悪」は、契約するマスターのものと同じになる(性格も若干変化する)。
 加えて属性に合致する行動を取る限り、サーヴァント及び宝具の現界に伴う消費魔力が軽減される。


【宝具】
『二千海里の怪物(ノーチラス)』
 ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:1〜70 最大補足:100人
 ジュール・ヴェルヌの「海底二万里」であまりにも有名となった潜水艦の祖、ノーチラス号。
 潜水艦の開発が黎明期を脱しない十九世紀末において、既に現代の原子力潜水艦に匹敵する性能を持っていたとされる。
 このたび英霊の殻を被ってアヴェンジャーとして召喚されたのはノーチラス号自身であり、いわば宝具こそがサーヴァント本体。
 魔力で形成された宝具と化したことにより、地中を海中同様に航行することが可能となった。
 更に海中で回収した素材のみで自給自足を行うシステムが、水中および地中の魔力を自身のものに変換する機能へと昇華されている。
 本来の武装は小説で一角鯨に擬えられた艦首の衝角のみだが、アヴェンジャーは現界後に自己改造スキルで多数の武装を追加。
 新たに装備された武装は魚雷・垂直ミサイル・艦砲・魔力ソナー・対魔術デコイなど多岐に渡り、もはや海底戦艦とでも言うべき重武装となっている。
 もっとも最大船速をもって全質量を一点に叩き込む衝角攻撃が、最強にして最後の切り札なのは依然変わりない。

『在らざる者の旗(フラッグ・オブ・ネモ)』
 ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大補足:130人
 黒地に金文字でキャプテン・ネモの頭文字「N」を刻んだ、ノーチラス号の旗印。
 ネモという名が「誰でもない者」を指すのと同様この旗もいかなる国家にも所属しないことを示し、同時に同志達の拠りどころである。
 この宝具は、影響範囲内にいる「キャプテン・ネモと同じ善悪属性を持つ者(現在は「悪」)」に対して、擬似的なカリスマを発揮する。
 カリスマの効果は相性が良ければ心酔の域に至るほど強力で、また及ぶ範囲や条件についてはある程度任意で調整することが出来る。
 洗脳を行う能力ではないので意に沿わぬ者を従えることは出来ないが、思想が合致する者は喜んで傘下に加わるだろう。
 本来はノーチラス号のクルーとなりうる者を選別するための宝具だが、マスターであるベガが効果を悪用。
 ここ冬木においては事実上シャドルーの旗印と化し、人々が内に秘めた悪性を引きずり出して配下に加えている。


857 : HERE COMES A NEW AVANGER ◆Y4Dzm5QLvo :2017/08/03(木) 01:02:01 4RjIvW6g0
【weapon】
「無銘:ライフル」「無銘:サーベル」
 宝具に搭乗していない場合の携行武器。
 これらが決して貧弱というわけではないが、やはりこのサーヴァントの真価は宝具搭乗時にこそ発揮される。


【解説】
キャプテン・ネモ。
ジュール・ヴェルヌの小説『海底二万里』および『神秘の島』の登場人物、あるいはそのモデルとなった人物。
十九世紀末に自ら建造した潜水艦ノーチラス号で海底に潜伏し、多数の艦船を撃沈した男。
「誰でもない者」を意味する「ネモ」を名乗っているが、元々はインドの王族であったとされる。
しかし彼の愛する祖国は、大英帝国の侵略政策によって蹂躙され続けていた。
1857年、インド人達の怒りは頂点に達し、第一次インド独立戦争(いわゆる「セポイの乱」)が起こる。
しかしその結果は敗北。インドはイギリスの直接的な植民地と化し、彼の妻子は戦乱の中で死亡した。
愛する国、家族、誇り。その全てを失った男は「ネモ」を名乗り、人知れず復讐の航海を始めたのである。

なお、その復讐譚の結末は明らかにされていない。
ヴェルヌは『神秘の島』にてネモの最期を描いているが、この小説には『海底二万里』との矛盾点が存在する。
これは『海底二万里』が実際にネモと対面したアロナックス博士の手記を元にしているのに対し、『神秘の島』はヴェルヌの創作だからであろう。
では、彼は復讐を成し遂げたのか……という点であるが、残念ながら、それを肯定するのは困難である。
少なくとも彼の祖国が大英帝国の支配から脱したのは、第二次世界大戦の終結を待たねばならなかったのだから。

……ここまでが、「本来の」キャプテン・ネモの来歴である。

今回の聖杯戦争でキャプテン・ネモの殻を被って召喚されたのは、英霊となった「ノーチラス号」そのものである。
本来、単なるモノが英霊の座に登録されるなどまずあり得ないことだが、ノーチラス号は潜水艦の原型としてあまりにも有名過ぎた。
加えて本来のネモに我が子同然の愛情を注がれたことにより、キャプテン・ネモの「娘」たるアイデンティティを得、英霊の疑似人格を後天的に獲得。
敬愛する父に代わって今度こそ復讐を完遂するために、父の名を借りて現界したのである。


【特徴】
褐色の肌をした長身の美女。
切れ長の目、すらりとした長い脚と豊満な胸が目を引く。
ハイレグのレオタードめいたボディスーツに身を包み、肩の上から船長服をマントのように羽織っている。
また頭にも船乗りの帽子を被っている。
褐色の肌をしているのは、インド人であるキャプテン・ネモの娘という自己認識によるもの。
女性の姿で現界しているのは、古来より船舶は女性として呼び習わすという慣習を踏まえたものである。

性格は、普段は冷静沈着で事務的な口調。
自分は道具にすぎないと理解しているので自己主張をせず、淡々と任務をこなす。
しかしその内面には祖国を焼いた西洋文明への怒りが燃え上がっており、ふとした弾みで復讐心が露わになる。
タガが外れた彼女は、その激情に身を任せて敵を焼き尽くそうとするだろう。

【サーヴァントとしての願い】
 祖国インドから西洋文明を駆逐する。


858 : HERE COMES A NEW AVANGER ◆Y4Dzm5QLvo :2017/08/03(木) 01:02:20 4RjIvW6g0

【マスター】
ベガ@ストリートファイターシリーズ

【能力・技能】
『サイコパワー』
 邪悪な思念を操る、一種の超能力。
 発現時には青白い炎のようなオーラを体に纏う。
 肉体に纏わせることで肉弾戦の能力を向上させる他、他者と接触することで悪意の思念を流し込み、洗脳することも可能。
 それどころか、サイコパワーを極めたベガは自身の魂すらある程度操作できるようになっており、
 たとえ肉体が滅びても魂のみを他の肉体に移植することで復活することができる。
 この場合の肉体はあらかじめ用意したクローン体だけでなく、優秀な肉体を持つ人間なら代替ボディにすることが可能。

『格闘』
 ベガは基本的に武器を使わず、肉体にサイコパワーを纏わせて徒手空拳で戦う。
 その技量は非常に高く、一流の格闘家とも互角以上に戦うことが出来る。
 もっとも、ベガが格闘を行うのは相手の力量を確かめるという意味が強く、正々堂々の戦いを重んじるということは断じて無い。
 そのため、必要と判断すれば躊躇なく、もっと直接的な殺害手段を取るだろう。


【人物背景】
 一刻に匹敵する軍事力を持つ悪の秘密結社『シャドルー』の総帥。
 真っ赤な軍服に身を包む、筋骨隆々とした体格の男。
 邪悪な思念の発現であるサイコパワーを操る能力を持つ。
 外見年齢はここ数十年変化しておらず、実年齢は不明。
 これはサイコパワーで自身の魂を操作し、他の肉体に乗り替えているからである。

 性格は冷酷にして残忍。高笑いしながら弱者を踏みにじる邪悪の化身。
 力こそが全てという価値観を持っており、弱い者を殺すことには何の呵責も持たない。
 反面、力を持つ者は評価し、自身の傘下に加えようとする(もちろん人間的な信頼を寄せることはない)。
 その悪行により、直接的・間接的にストリートファイターシリーズの多くの人物の人生を狂わせている。

【星座のカード】
 水瓶座

【マスターとしての願い】
 聖杯に懸ける願いはない。
 真の狙いは聖杯そのもの、そして英霊召喚というシステムをシャドルーのものとすることである。


859 : ◆Y4Dzm5QLvo :2017/08/03(木) 01:02:58 4RjIvW6g0
すみません、誤って1レス目を二重投稿してしまいました。
これにて投下を終了します。


860 : ◆z1xMaBakRA :2017/08/03(木) 01:06:58 cKR6DgPg0
ここまで。以上で、当企画のコンペを〆とさせて頂きます
次からは、様々な亜種聖杯の企画主様が心の底から楽しんだとされる、名簿決めとOP執筆と感想の宿題書き上げの時間と致します。御期待下さい!!


861 : ◆A2923OYYmQ :2017/08/04(金) 13:38:57 6mbZtMI20
Wikiにて拙作すーぱーろーなびっちに追記を行いました


862 : ◆z1xMaBakRA :2017/08/16(水) 16:14:55 Jrn1mciQ0
普通に書いてる筈なのに滅茶苦茶長くなってる(超常現象)ので、流石にこんなクソ長い奴を一挙に見せるのは酷だなって事で、
今週の『日曜辺りにOPの前半部に類するものをUPしたい』と思います。OPに力入れ過ぎて力尽きる臭いがプンプンしてきて最高にロックですね(ウケる)(ウケない)


863 : 名無しさん :2017/08/16(水) 18:05:28 09kwk32k0
楽しみ


864 : ◆z1xMaBakRA :2017/08/18(金) 21:09:22 N4/S3exM0
御報告いたします。ちょっと日曜日は当方の日程的にキツいなぁ、と言う事で、
前半部を『明日土曜の21:00にUP』したいと思います。度々振り回してしまいまして申し訳ない。
一応、企画自体を存続させる意思程度はある、と言う事だけは、分割とは言えOPを以って表明させていただきたいと思います。


865 : ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:02:14 2Zzn9A.Y0
お待たせしました。それでは、三分割の一つ、前半を透過します


866 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:03:10 2Zzn9A.Y0
     




     ――第一の情報が開示されました


867 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:03:46 2Zzn9A.Y0
 ◆

「今夜のパーティーのために、大きなケーキを焼いたの……」

 身に纏う立派な白いドレスを、身体から流れる血液で、赤く黒く染め、地面にへたり込みながら、女王はうわごとのように言いました。
誰もが綺麗だと褒めてやまないその顔には、赤と青の入り混じった、殴られたような跡が残されており、少し前の美貌の面影など、何処にも感じられませんでした。

「コーヒーはいかが……あなた……」

 女王は、自分を酷い目に合わせた男に、虚ろな目線を投げ掛け、壊れたオルゴールのように呟き続けました。
目の前で佇む、野球選手が着る様なユニフォームを纏うその男に、女王は、嘗て彼が優しかった時の面影を重ねていました。

「羽虫の女王よ。お前の配下たちに加わる時だ。何もかもが間違っていたんだ。過ちは忘れて、美しい夢を見るといい」

 単調とも、冷淡とも言える言葉の調子で、男は返答しました。
女王の質問に答える様子もなく、アテの外れた返事をするだけの男に、女王は絶望してしまい、その瞬間、彼女の心は壊れてしまいました。
透き通るように白い肌に包まれた両腕は、今や男の暴力で酷く複雑に折れてしまい、そんな手を、彼女は必死に、それでいて緩やかに動かしました。
何かを抱く様な仕草を胸の前で作り、女王は、男に対してこう口にしました。この時、女王の身体は、既に薄く掠れて――。

「見て……あなたの目にそっくり…」

 その言葉を最後に、女王など初めから何処にも存在しなかったように、彼女は、この世界から浄化されてしまいました。

「両目とも、恐怖で満たされた目だ」

 男の返事は、何処までも、氷の如く冷たく、慈悲などなかったのでした。


868 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:04:49 2Zzn9A.Y0
 ◆
     




     われわれが死んだとき、われわれは直ちにもろもろの可能性からなる果てしない宇宙に放り出されることになるのだろうか


     それとも、そこから見ればこの世はその外皮に過ぎないが、


     それ自身もより高度な諸次元の非連続的な一部でしかないような、もうひとつの世界へと移動することになるのだろうか


                                            ――チャールズ・サンダース・パース、連続性の哲学




.


869 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:06:20 2Zzn9A.Y0
 ◆

 鏡に、自分の姿が映っている。
鏡である以上、其処に自分の姿が映るのは当然の帰結であった。
幽霊や亡霊、ヴァンパイア等の、超自然的、或いは前時代的で迷信的な存在は、鏡に映らないとも言うが、この白い猫は違った。
肉と骨とで構成された己の身体を持ち、己自身の意思を持つ、確固とした一つの命。白い猫は、量子力学者であるシュレディンガーの実験に使われたあの猫じゃない。明白に、其処に存在する、実在(リアル)の存在なのだ。

「我が姿ながら、醜いものだ」

 グルル、と唸りを上げ、猫は口にした。猫が人の言葉を、猫の声帯で口にする。これもまた、俄かには信じ難いが、確かなるリアルなのだった。

「俺の目には、変わりない姿にしか見えぬがな。修行が足りないのかな、俺も」

 言って、猫の後ろの男が、猫の独り言にそう答えた。
背中の中頃まで伸ばした、緑色の後ろ髪が特徴的な、端正な顔立ちをした男であった。
インドの民族衣装であるところの、ドーティに似た白色の衣服を身に纏っており、其処から微かに見える生の身体つきは、見事に磨かれ鍛え上げられたものだった。
纏う服次第では、細見の優男にともすれば見えるだろうが、その実、極めて高いレベルで、己の身体を切磋琢磨していた事が、解る者には一目で解る、見事な身体つきの持ち主である。

「……どうやら、心の籠っていない謙遜と言うのは、猫の紳士の鼻にもつくようだ」

 緑色の髪の男の言葉に対し、猫は、やや侮蔑の入り混じった声でそう返す。
厭味ったらしさすら感じられる言葉に対し、言われた男は、常に浮かべている、あるかなしかの微笑み(アルカイックスマイル)を浮かべたまま、恬淡とした様子で口を開く。

「素直は美徳ではあるが、傷付けない為に赦される嘘と言うものもあろう。方便、と言う奴だな」

「優しい嘘とでも言うつもりかね? それは、嘘を嘘と見抜けない、スキットルの容量程度の知識しかない者にだけ赦されるのだよ。真実を見抜く炯眼の持ち主には、その嘘は正直な告白よりも怒りを買う」

「で、君は怒っているのかな。マスター」

 男の言葉に対し、猫は、既に用意されていたかのように、言葉を返した。

「誰もが愛を注いで止まない、か弱くも愚かな猫を、恐るべき復讐者に変える程の怒りを抱かせる者は、この世にただ一人」

「それが、聖杯戦争の戦端を開く事になった原因か。哀しい程に……」

「愚か、だな」

 緑髪の男が、言いかけようとしたが、喉奥にひっこめさせた言葉を、猫は即座に言葉にしてしまった。自覚が、あるようであった。

「もっと他に良い方法が、あったのではないかと自問する事も一度や二度ではない。だが、私の脳の大きさもまた、猫の額相応の大きさらしくてね。これが一番のように思えてならないのだ」

 「そして何よりも」

「この方法を無碍にしては、滅びと共に、私に『智慧』を授けてくれた、我が朋友、ブネが余りにも報われない。彼の意を汲む為にも……白に堕ちた旧き世界の為にも。私は、『奴』に審判を下さねばならない。例えその行為の咎を受け、私が奴と同じ地獄に堕ちようとも」

「……それがお前の意思であるのならば、俺も否定はせんさ。元より俺は、この聖杯戦争に招かれたルーラー。『私』に成し得なかった事を成し、『私』の到達出来なかった地平を果たそうとするだけよ」

「君は、それでいいのだ。ルーラー。私と同じ愚をなぞる必要性は、君にはないのだ」

 其処で猫は、白い壁に立てかけられた薄鏡の方に向き直り、其処で身体を丸めて見せた。

「見よ、鏡に映る我が姿を」

 ルーラーに……いや。
自分に言い聞かせているかどうかすらも解らない、心此処に非ずと言う態度。虚空か、或いは、遥か数億光年で寂しく輝く恒星にでも語りかけているかのような声音であった。

「――『ジャッジ(審判)』などと言う、仰々しい名を与えられた、薄汚れた復讐者の姿を」

 ジャッジと名乗る白い猫は、己をそう蔑みながら、静かに眼を閉じ、一度の眠りに堕ちた。
鏡に映っていた、毛並みの薄い白い猫の姿である自分が。黒い憎悪と言う想念を纏う、醜いネコ科の怪物に見えてしまい、まるで、それから目を背けたい、とでも言うような態度であった。


870 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:09:09 2Zzn9A.Y0
     鋼衣を纏う天使     信念との婚約者                        星を見る人        
    ジュデッカ            不壊の盾               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子               in the nightmare                                 
                 Dance of the Seven Veils                真理の旅人                     
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
    聖剣の肉叢             監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン              最終戦争                   総ての乙女の敵      
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  
                不死の罰         風の王                      諸行無常の響きあり        
       雷霆征服              日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


871 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:11:15 2Zzn9A.Y0
 ◆

 ZONE1――『星を見る人』

 人が安心して今日を生きる上での前提条件は、きっと、お金をたくさん持ってるだとか、友達が両手の指じゃ足りないくらいにいるだとか。
もちろん、そんな事も重要な要素何だろうけど、それよりもなお先立った、大切な要素があるように私には思う。
では、それは何かと言われた場合、私は、頭の検索エンジンをフル活動させて諸々の考えを篩にかけ、最後に残った幾つかの検索結果から、『未来が見えない事』を上げるだろう。

 未来が、見える。
素晴らしいじゃないか。全人類共通の夢の一つに、空を飛ぶ、と言うものがあるらしいが、未来を見る事もまた、全人類普遍の夢の一つではあるまいか。
まず、テストに対して無敵である。学校のテスト――一応宇宙飛行士を目指していた時期があったので、不様な点数はとらない――はもちろんの事、
大学でやがては受けるだろう学期末のテストも、近い将来取る事になるかも知れない諸々の資格試験の類も楽勝だ。何せどの問題が出るのか予め解っているのだ。
チートも良い所だろう。次に、未来が解ると言う事はつまり、乱数と偶然を制するも同義である。ぶっちゃけて言えば、競馬、宝くじ、ポーカー、スパイダーソリティア。
およそあらゆるギャンブルで負けなしになるのだ。それはそうだ、未来の結果をカンニングできるのであるから、不確定要素があるからこそ賭けが成立する、
ギャンブルと言う競技で負ける筈がないのだ。このギャンブルと言う言葉を、株に置き換えても話は通じるだろう。未来が見えると言う事は、まさに運命を足元に敷いたも同然のような力なのではあるまいか。

 成程、確かに未来が見えると言う事は、実に素晴らしい事のように思えるだろう。
だが、これでは最初に私の言った、未来の見えない事は安心して生きられる、と言う事とやや矛盾する。
何せ未来が見えると言う事は良い事ばかり、良い事が多いと言う事は、イコール、安心感に繋がると普通は思うだろうから。
通常は、確かにそうだ。だけどそれは、見える未来の『程度』にもよる。仮に、一から十、つまり生まれた瞬間から人生の最期まで未来の見れる人間がいたとして。
その人物の人生は、最期まで幸福であるのか、と言われればきっと違うだろうと私――『瞳島眉美』は考える。
人生の最期とは当然の事ながら、その当人の『死』だ。まさか自分が死んだ先の事まで未来視出来るとは、――未来視自体があり得ないとは言え――普通考えられない。
人が死ぬ事は、避けられない。生きている内に凄い科学が発展して、寿命が二百年、三百年、千年伸びたとしても、結局はその人物は死ぬ。
老衰だったり病気だったり、事故だったり、誰かに殺されたりだとか。原因こそ様々だが、人間が死ぬ事は不幸な出来事でも、注意していれば避けられた事でも何でもない。
不可避なのだ。どんなに対策を講じようとも、絶対に避けられない。多分、人の一生とは、回りを将棋の『歩』で大量に囲まれた『王将』のようなものなのだろう。
将棋のルールで一マスしか進められないのが歩であるが、それでも、確実に一マス一マス距離を詰める。如何に王将が全方位に移動出来るコマでも、一千個以上の歩に囲まれれば、王手を取られてしまうのは自明の理。結局人間の一生の長い短いとは、この周りの歩のコマが、初期段階で王将のコマからどれだけ近付いていたか程度の事なのだろうと、私は思う。


872 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:12:55 2Zzn9A.Y0
 その、避けられない死が、初めからどのタイミングでやって来るのか解っている、と言う事の緊張感たるや、陳腐な言葉だが筆舌に尽くし難いだろう。
何度も説明するような事はないし、それを承知でまた説明するが、死ぬ事は避けられないのだ。果たして、何時何処で、どうやって死ぬか解っている人間が、である。
安心して生きられるものなのだろうか? 個人的な考えになるが、私は出来ないと思う。当たり前だが、多くの人間は自分がどのタイミングで死ぬかなど解りっこない。
どう考えても解らないものに対して、神経質に思い悩むのはそれはもう病気である。考えても仕方がない。だから、多くの人間は、いつか死ぬのは解ってるけど、
それと今とは話は別、とでも言う風に今日を生きるのだ。それが、今この瞬間にでも解っている人物は、そうも行かないだろう。
しかし、私はもちろん未来が見えるなどと言う芸当はできないし、それ故に、自分が死ぬタイミングすら理解出来ている人物の気持ちなど推し量れない。
推し量れないが、手前勝手にその人物の気持ちを忖度するのであれば、相当に恐ろしいと思っているのではないかと考える。気が気では、ないだろう。
何せ死と言うゴールが見えている以上、過ごした一日一日がその“終わり”に近付いている事がリアルタイムで理解出来る上、どんなに努力しようがお金を積もうが、
死ぬ事は避けられないのだ。小石を一日一粒づつ、口から胃に入れて行くような恐怖を、味わうようなものだろうか? これ程生きた心地がしない人生も、そうないだろう。

 長々と語ったが、今ここまで語った事は、全部、私瞳島眉美の勝手な解釈だ。
これが、未来の見える人物全員が思っている事だとは、無論私も思っていない。もっと別の事を、考えている可能性だって大いにある。
大いにある、が。少なくとも私は、そんな気持ちであったと言うだけに過ぎない。しかし、こうは言っても、前述の通り私に未来が解る力などない。
ないが、確実に私から言える事が一つあるのだ。そう、『私は近い内、自分が死ぬかもしれない程の大きなイベントに巻き込まれる』。
これは予感ではない、既に確定している事なのだ。私は、ひょっとしたら生き残って元の世界に戻れるかもしれないし、もしかしたら死んでここに骨を埋めるかも知れない。
それ程までに凄絶なイベントの、中心人物の一人として確実に私はカウントされている。
聖杯戦争――字面だけ見ればとても綺麗で神秘的だ。それに聖杯の探索など、あのトラブルと愚かさと美しさが人の形をして服着て歩いてるような探偵団ならば、
喜んで引き受ける事であろう。だが、その実態たるや、自分以外の全参加者を全部抹殺して初めて聖杯が現れると言う、美しさの欠片もないものと来た。
そんな物に巻き込まれて、それではそれが行われるまでの間この冬木の街で割り当てられたロールをいつも通りに過ごせ、など、できるか!!、と言う話になる。

 ハッキリ言って、いつ、聖杯戦争の参加者どうしのいざこざに巻き込まれ、血で血を洗う戦いを目の当たりにしてしまうのか、
私は気が気でならなかった。私の呼び出したサーヴァントのアドバイスに従い、いつ襲われても大丈夫なよう、常に気を張ってはいたが、これが意外や意外。
嵐の前の静けさとはこの事か、と言わんばかりに、聖杯戦争の関係者と思しき人物からのコンタクトがないのである。まるで生殺しだ。
今私は、穂群原学園の中等部二年生と言う役割を自動的に与えられ、それを全うしている訳なのだが、
正直な話、今の今まで誰かから攻撃されなかったのが不思議な程だった。私がこの冬木に無理くり呼び出されて、早三日。
もうそろそろ、何らかの予兆めいた物があっても、おかしくはない筈なのだが……。

【あっても良いものではないだろう】

 ……この、念話と言う会話手段には、全く慣れない。
サーヴァントとマスターが、思った事を口に出さずに相手に伝達出来る会話手段。言ってしまえばテレパシーだ。
この、頭の中に声が響く感覚に、私は全然順応しない。今も、ビクッ、と傍目から見たら不自然な程肩を上下に跳ねさせてしまった。

【あぁ、すまないな。君があんまり念話に慣れていない事を忘れていた】

 と、声を抑え目に、私の呼び出したライダー、『ガガーリン』は反省の籠った声音でそう言った。

【君としては、なるべく周りの環境に変化が起って欲しいのかな、マスター】

【命に関わるレベルでのそれはちょっと】

【わたしとしても同じだよ。有名人であったと言う自覚はあるけど、御伽噺の住民達と切った張ったを行える程強くもないのだよわたしは。情けない話だが、戦闘自体はなるべく起こって欲しくない、と言うのが本音でね】


873 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:14:18 2Zzn9A.Y0
 サーヴァント、つまりは、非力な私が聖杯戦争を乗り切る為にその命を預けねばならない、一蓮托生の相手である。
普通なら、それ程までに大事なパートナーがここまで弱気な発言をしている事に、寧ろ怒らなければならない所なのだろうが、
地球上で初めて有人宇宙飛行を成し遂げた、偉人の中の偉人。宇宙飛行士を目指していた頃の私が最も憧れ、今でも尊敬の対象としている人物にこう言われると、私も弱い。
と言うより、ガガーリンに化物と戦え!! と命令するなど、通常の思考回路の持ち主はできるだろうか。いーやできない。
ガガーリンに対してドラゴンと一戦交えろなど、羽生名人に新幹線より早く走って見ろとか言うような物である。早い話が、正気の決断ではない。
だが、その正気じゃない決断を下さねば、自分は生きて帰れないと言うのだから、やってられないし泣きたくなる。

【だが、わたしもサーヴァントとしての本分は忘れていないよ。必要とあれば、宇宙飛行士として鍛えて来たこの身体。何処まで通じるかは解らないが、最善は尽くすつもりだ】

【頼りにしてます】

 生返事ではない。宇宙飛行士になる訓練と言うのはそれはそれはハードだ。
それを潜り抜け、見事人類初の有人宇宙飛行を成し遂げた偉人として、歴史にその名を永久に刻んだ男がそう言うんだ。それを信じてやらねば、嘘である。

【それにな、マスター。予兆がない、と言うのは我々の回りでだけだ。君も今朝知っただろ?】

【……『先日の事件』】

【そう言う事だ。確実に、盤面は動いている。それを、意識する事だよ】

 ガガーリンに言われるでもない。
あんな事件が起こった以上、嫌でもそれを意識せざるを得なくなる。
本当を言えば、いつまでもこの、聖杯戦争が始まっているとは思えない程、当たり障りのない時間が、私の回りでだけ流れていれば良いと思っていた。
だが、そんな現実逃避もいつまでも使えないだろう。現実には、既に火蓋は切って落とされているのだ、
元より人より行動が早い方とは思えないが、こと命が掛かっているとなれば、私も最大のパフォーマンスを披露せねばならない。
今後の身の振り方を考えがら、私は、学生鞄に教科書を纏め、穂群原学園における私の教室から早く退室しようとする。

【ゴールデンウィーク……と言うのか、この国では。わたしの国ではそんな慣習はなかったが、折角の連休を憂鬱に過ごす羽目になるとはな】

 全くである。
仮初の空間とは言え、私達学生にとってこの大型連休は干天の慈雨とも言うべきものなのだ。
それなのに、GWが聖杯戦争で潰れてしまうなど、およそあり得ない運の無さだ。これでは、まだ普段通り学校に出ていた方がマシというものである。
溜息を殺しつつ、私は教室から出て、早い所自宅へ戻ろうとする。私が一頭早く、教室から出るものかと思っていたが、このままでは二番手になりそうだった。

 鞄を抱えた瞬間に、教室から一人の同級生の男の子が足早に退室したのを、私は横目で見た。如何やら彼が一番乗りらしい。
クラスメイトが、元居た世界とは全く違う人物達の集まりの為、まだ名前と顔が合致していない。出て行った男の子は、誰だったか。岸、と言う最初の字は憶えていたのだが……。


874 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:17:13 2Zzn9A.Y0
     鋼衣を纏う天使     信念との婚約者                                     .
    ジュデッカ            不壊の盾               血塗られた献身     陽を堕とす者             .
           流離の子               in the nightmare                                 .
                 Dance of the Seven Veils                真理の旅人                     .
       蓮の台                                                      ソルニゲル  .
                                                                       .
                                  革者                                   .
                                                                       .
                                                                       .
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             .
                                                                       .
                                                                       .
                                 物語の王                                  .
    聖剣の肉叢             監視者                        餓狼伝                   .
           アイボリー・メイデン              最終戦争                   総ての乙女の敵      .
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  .
                不死の罰         風の王                      諸行無常の響きあり        .
       雷霆征服              日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    .
                                 久遠の赤                                  .


875 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:18:23 2Zzn9A.Y0
 ◆

 ZONE2――『諸行無常の響きあり』

 正しい魔法少女だったら、聖杯戦争の事をどう思うだろう。
『岸辺颯太』は考える。子供の頃に見た、魔法少女達が活躍する作品の数々は、日常での生活や、恋愛、戦闘など、それぞれ重きを置いている方向性が違っていた。
しかし、向けられるベクトルこそ違えど、根幹となる要素は、実はそれほど変わらない。そもそも魔法少女の物語とは、子供の情操教育の一環としての向きも強い。
そう言った性質から必然的に、その物語の根底には、子供の健やかな成長の一助となる、正義と善、良識などの、プラスとなる要素が含有されてなければならない。
勿論、この定義は必ずしも正しい物とは言えない。根底にプラスの因子が内包された魔法少女の作品こそが、魔法少女の物語、と言うのは酷く一面的なものの見方だ。
実際には魔法少女の作品のフィールドも、子供向けと言う聖域だけでなく、近年ではやや拗らせた大人向けに、つまり、ダークで、スプラッタの領域にまで版図を広げている状態である。これもまた、魔法少女と言うジャンルの、一つの在り方なのかも知れない。それを、颯太は否定はしない。

 だが、それでも。
岸辺颯太にとっての魔法少女とは、清く、正しく、美しいものでなければならないのだ。そして、そんな魔法少女にこそ、否定して貰いたいのだ。
聖杯戦争なんて、間違っている。だから、こんなひどいイベントなんて許せない、と。
斯様な魔法少女を夢見、目指していた岸辺颯太であるから、彼は、本心からこう思うのだ。聖杯戦争に乗る気はない。
正しい魔法少女なら、苦しみながらもこのふざけたイベントと、これを裏で企てた黒幕の思惑を粉砕し、元の世界に帰る事こそが、筋であろう。
 
 聖杯戦争について、今も颯太は解らない事の方が多い。
誰が裏で糸を引いているのか、と言うのは当然の事、何の目的で、そして、自分以外にどんな者達が此処に呼ばれたのか。
解っている事より、解らない事の方が多い。頭の中に聖杯戦争についての知識が刻まれてるとは言え、本質的な情報は模糊とした霧の中、と言う奴であった。
流石に黒幕も、一参加者に情報の全てを詳らかにする程、頭が馬鹿と言う訳ではないらしい。
こう言う時、今となっては胡散臭さと訝しさの塊であったとしか思えなかったとは言え、ナビゲーター役のファヴに似た役割が、聖杯戦争にいないと言うのが惜しい。
初めから疑ってかかれば、引き出せる情報の一つや二つ、あったかもしれないと言うのに。これで颯太は、完全な手探りで、聖杯戦争に臨まざるを得なくなったと言う訳だ。

 ――スノーホワイト……――

 この世界に来てから、颯太……いや、魔法少女に変身した時の姿、即ちラ・ピュセルとして、彼がナイトとして護ると誓った少女の事。
それを思った回数は、一度や二度の話ではなかった。今彼女は、元居た世界でどうしているのだろう。
孤立しているのだろうか。それとも、自分の知らない所で、新しい仲間を作れたのだろうか。或いは――と、最悪の結末が脳裏を過り掛けたが、かぶりをふるって、
その雑念を頭の中から追い出した。それだけは、思ってはならない。悪い事と言うのは怏々にして、思ってしまうと現実のものになってしまうもの。
自分の心の中に巣食うネガティヴな性根を、精神の内から叩き出す颯太。そしてすぐに、騎士の心の如くに、真っ直ぐで、正しい心持ちでいようと、態度を改めようとする。

【祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり】

 と、頭の中に、一回聞いただけでは、女性のものか、男性のものか。
判別など不可能な程に、中性的な子供の声音が響いて来た。それを受け、颯太は、穂群原学園の廊下の真ん中で、思わず立ち止まってしまった。
HRの終わる時間は各クラスバラバラであるらしい。廊下を歩く生徒の数は、今のところは疎らだった。


876 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:21:17 2Zzn9A.Y0
【沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす】

【……平家物語?】

【なぁ、後でオレが『これ何の一節だか解るか?』って聞こうとしたのに、出鼻挫かんでくれへん? 興が削がれるわ】

【……いや、バーサーカー……お前】

 平家物語の有名な冒頭じゃないか、と言いかける。言いかける、と言ったのは、呆れて言葉も出なかったからだ。
今時、中学生どころか、ちょっと受験勉強に本腰を入れている小学生ですら、この冒頭は常識ではないか。

【常識なん? これ。オレが壇ノ浦に言仁と無理心中された時以降に成立した話やから、知った時は結構楽しんでたけどな。そこまで有名だったんな、これ】

 ほへー、と一人で感心した様子を見せる、岸辺颯太が駆らねばならないバーサーカー、『八岐大蛇』。
その名は、颯太も知っている。と言うより、呼び出されてから詳しく調べた。

 八岐大蛇。
記紀神話にその名が記されている、日本と言う国に於いて最も有名な怪物。こと、龍と言う括りで見るのであれば、間違いなくこの国で一番著名な怪獣になろうか。
八つの谷と八つの峰に渡る程、巨大な全長を持ち、一つの胴体に八つの竜の首が生え揃っている事が、ヤマタノオロチ、と言う名の由来であると言う。
成程、直球だ。直球であるが、実物を目にしてしまえば、如何に魔法少女としての力を得、人智を超えた身体能力と異能を発揮するラ・ピュセルであろうとも、
腰を抜かすに相違ない。そんな怪物の手綱を、岸辺颯太は握っている。その事実について、颯太は未だに現実感が湧かない。
八岐大蛇と言う、その名を聞くだに震え上がるであろう怪物であるのに、颯太の従えるそのサーヴァントの姿は、然るべき服装を纏えば、
少女、または少年であると言っても通じてしまうであろう程、男にも見えるし女にも見える、中性的と言う言葉の見本のような姿をした子供。
それが、颯太の呼び出したバーサーカー、八岐大蛇である。とは言え、徹頭徹尾、このサーヴァントが≠八岐大蛇である、と思っている訳ではない。
所々で醸し出される、恐ろしいと颯太が考える魔法少女――カラミティ・メアリや、森の音楽家達のそれを超越する、暗澹とした、殺意とも違う恐るべき『気風』。
それを浴びる度に、颯太は思うのだ。八岐大蛇である、と言う事が仮に嘘であったとしても、自分が召喚したサーヴァントは、一切の油断を見せてはならない程の、恐るべき魔物であるのだ、と。

【オレな、完全にバケモンだった時、マジで思っとったんよ。『オレの栄華は、永遠に続く』ってな】

【栄華が、永遠に……?】

【そらそうやろ。ちょっと軽く驚かせてやるか、って感覚で尻尾振うだけで、山が吹っ飛ぶとかザラやったんやで? 自分が無敵、と自惚れるのも仕方ない、ってもんよ】

 成程、確かに道理ではある。
八岐大蛇程の大化生、これと対等な強さ或いは立場である存在が、真っ当な環境で生まれる訳がない。我こそが食物連鎖の頂点、我こそが最も強き者。
常ならば自惚れ以外の何物でもないこんな考え、八岐大蛇以外でなければ失笑を買う他ないだろう。この大化生だからこそ、そう考えても已む無し、と思われるのだ。

【せやけど、お前も知っての通り、オレはあの『ろりこん』のイカレポンチに酒飲まされて首斬り落されて、呆気なく栄華をひっくり返された】

 まだ、話は続く。

【まぁ、アイツは確かに救いようのない位女の趣向が捻じ曲がった危ない奴やったが、一応は神やしな。オレが殺されるのも、ま、業腹でこそあれしゃーないと思っとった】

 【が】

【現実には、地祇(くにつかみ)は勿論の事、天津の神々ですらがその栄耀栄華を覆された。中つ国を支配していた地祇も、後でこいつらを征服してドヤ顔してた天津神も、みーんな仲よく世界の裏側に引きこもりよった。全く、滑稽なもんやで】

【……当たり前、じゃないのか。この世界に、永遠に続くものなんて、ある訳がないだろ】

【ぶっちゃけて言えばその通りなんよ】

 意外にも、八岐大蛇は颯太の意見を全肯定した。


877 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:23:40 2Zzn9A.Y0
【おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ】

 再び、平家物語の冒頭の一節を口にし出す八岐大蛇
教科書に載り、歴史の荒波に揉まれても、その痕跡を残し続けた作品だけはある。聞くだに、名文であると人々に理解させる神韻が、その節にはあった。

【蓋しその通りやな。オレも、地祇も、天津神も、源平の武者共も、みーんなこの世界にいない、過去の奴らやろ? 平に至っては、平家に非ずんば、とか抜かしときながらあっさり滅びよったしな。永遠の栄光なんて、この世にはある訳がないんや】

【……それが、何だって言うんだ】

 暫しの沈黙の後、八岐大蛇は言った。喜色を、隠さぬ声の調子で。

【オレは永遠を諦めてない】

 颯太が【えっ】、と言うよりも早く、八岐大蛇は言葉を続ける。

【オレの寿命は、人のそれに比べりゃ遥かに長命よ。いや、人の尺度から言えば永遠とすら言って良い。そんな命と、途方もない力の持ち主や。永遠に酒飲んで、女を『喰らい』、寝たい時に寝て、壊したい時に壊す享楽さを求めて、何か悪い事でもあるんか?】

【そんなの、許される訳ないだろ!!】

【頭固いなぁ大将。この世界、アンタさんの育った街どころか、世界ですらないやろ。何愛着湧かしてんねや】

 それを突かれ、颯太は押し黙ってしまった。 
その通りだ。冬木などと言う街は、颯太の生まれた世界には存在すらしない、架空の都市。従ってこの世界は、颯太にとっては、平家物語の冒頭の節の通り。春の夜の夢の如き世界なのである。

【大将の育った世界で暴れようだなんて、オレはこれっぽちも思わんよ。聖杯戦争、勝ち残ったらこの世界で永遠に生きるわ。現代の酒を楽しみ、現代の女を咀嚼し、現代の都市を好きなだけ壊す。ええ事やんか。大将に実害なんて何もない。ただ、夢のように儚い世界だけが、壊れるだけ。何を憤る事がある?】

 颯太は、沈黙を以って返す。沈黙は時に、言葉よりも雄弁に人の意思を物語る。
八岐大蛇。化生の口にした言葉に、少なからぬ『理』を認めてしまった事の、証左でもあった。

【……大将。アンタのその、年端も行かないガキの癖に、難しい事を思いつめた風に悩むその様子。言仁の事を思い出して堪らなく腹立つわ。ガキは難しい事考えんと、聖杯戦争で願いが叶って行幸程度に考えときーや】

 其処で、八岐大蛇は今度こそ沈黙する。 
難しい事を考えるな、と言う方が無茶だった。この狂った世界から脱出する術。今の颯太では、何人かの人間を殺して、聖杯戦争を勝ち残る以外に、思い描けない。
理想の、正しい魔法少女と、邪道を往く己のサーヴァントの言葉との狭間で、一人の少年は揺れ動いていた。
理想と夢を、颯太は――ラ・ピュセルは貫きたかった。だが、それを貫くには、余りにも、纏わりつく蜘蛛の糸は、強靭過ぎた。硬すぎた。

 向き合わねばならないジレンマに思い悩みながら、廊下を歩く颯太。
やや俯き気味に、歩いていた事が迂闊だった。前から歩いてくる、三人の少女の姿に気付けなかった。

「うわっ……!!」

「わっ!!」

 向こうの方も、お喋りの方に夢中であったらしい。
颯太の方に気付く事が出来ず、彼と、一人の少女が、正面からぶつかる形になってしまった。
不意に舞い込んできた衝撃で、漸く颯太は気付いた。人が疎らであった廊下には既に、帰宅しようと教室から出て来た生徒達で大勢であった、と言う事実に。


878 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:26:43 2Zzn9A.Y0
     鋼衣を纏う天使     信念との婚約者                                     
    ジュデッカ            不壊の盾               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子               in the nightmare                                 
                 Dance of the Seven Veils                真理の旅人                     
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
    聖剣の肉叢             監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン              最終戦争                   総ての乙女の敵      
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  
                不死の罰         風の王                                       
       雷霆征服              日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


879 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:27:29 2Zzn9A.Y0
 ZONE3――『風の王』

 友人との会話に熱が入る余り、目の前を歩いていた生徒にぶつかるとは、何とも間抜けだと、『琴岡みかげ』は思った。
幸いにも、目の前の男子は走っていた訳でもなく、いつも通りの歩調で歩いていただけらしい。激突と言うよりは、接触と言った方が、言い方としては正しいだろう。

「ご、ごめん。考え事してて……」

 目の前の男子が素直に謝って来た。見ない顔である。クラス自体が……いや、年次自体が、違うのかも知れない。

「良いから、ま、次からは気をつけるようにね」

 そこで、琴岡はトラブルを中断させようとする。
元より、こんな下らない事で喧嘩や諍いを起こそうとする程、彼女も暇じゃない。向こうが謝って来たので、この一件はもうおしまい。
これで、全てを解決させようとした。向こうも、琴岡のそんな意図を呑んだか呑まずか、一礼してからその場からそそくさと立ち去った。

「大丈夫? 琴岡」

 と、心配そうな声音で話しかけて来るのは、黒いロングヘアが特徴的な、琴岡と特に親しい友人の一人。白鳥司だ。

「へーきへーき、別に、車にぶつかった訳でもないし」

「……にしても、悩み事、ね。さっきの子の言ってる事も、解らなくはないけどね」

 と言って、琴岡にぶつかって来た少年の言葉を反芻するのは、鷲尾撫子。
水色の髪をツインテールに纏めた、同年代の少女の中では浮いているとすら言って良い程、クールで凛々しい顔つきをした少女である。

「悩み事〜? もうすぐ華のゴールデンウィークだって言うのに?」

 と、鷲尾の言葉が理解出来ないとでも言う風に、琴岡は口にする。

「もうすぐゴールデンウィークだからこそ、じゃない? 『昨日の事件』もあるし、ね。連休前にあれは、気が滅入るよ」

「遊び場がなくなっちゃうから、とか?」

 鷲尾の言葉にそう返したのを聞いて、白鳥は思わず、呆れた様な顔を琴岡に向けだした。 

「琴岡、幾らなんでも能天気すぎるよそれ……。私だって一応、怖いなとか思ってるのに」

「皆で新都の方で派手に遊ばない限りは大丈夫だって。それに、私も今、彼氏いないしね」

「え、お前……二日前位に彼氏って言ってた、シンジくんは、どこ行ったの?」

「別の幸せでも探してるんじゃないかな」

 琴岡のこの言葉の意味が解らない程、白鳥も鷲尾も、子供じゃない。要するに、別れたと言う事だ。
これには鷲尾も大きな呆れの色を隠せない。幾らなんでも二日で破局とは、早いとかそんな次元の問題じゃない。人格面の問題すら疑われるレベルだ。
二人も琴岡の、男をとっかえひっかえする性格はよく知ってはいたが、二日は歴代最短記録である。稲妻宛らであった。

「……いつか刺されないように、身を改めるようにね」

「アッハッハ、大丈夫大丈夫」

 と、カラカラ笑う琴岡。

 ――嘘である。そう、全部が、嘘なのだ。
お気楽能天気そうな笑顔を浮かべている、琴岡みかげの顔面の薄皮。それ一枚引っぺがした下に隠された、琴岡みかげの本音の感情。それは、堪らない恐怖と困惑であった。


880 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:30:12 2Zzn9A.Y0
 全部知っている。白鳥と鷲尾に、言われるまでもない。
二人以上に、『昨日の事件』の事を強く警戒しているのは、誰ならん琴岡だった。あれは間違いなく、聖杯戦争の参加者の手によるもの。
自分が召喚したライダーのサーヴァントも、琴岡と同じ意見であり、サーヴァントの目から見ても、やはりあれはそう言う事になるらしい。
聖杯戦争。今まで意識しないよう、なるべく頭の片隅にすらその言葉を置かぬよう、全て忘却するよう努めて過ごしていたが、事件の影響でいやがおうにも、自分を取り巻く聖杯戦争と言うイベントが、事実であると認識せざるを得なくなった。

 全ては嘘なのだ。
白鳥と鷲尾に話した、シンジなる付き合っている男性も、二人をからかう為に作った即興の嘘。
そんな人物、存在すらしない。琴岡みかげが、聖杯戦争を忘れられるように作り上げた架空の存在である。
嘘がこれだけだったら、まだ良い。白鳥と鷲尾と仲が良いと言う、冬木におけるこの事実ですら、琴岡にとっては嘘なのだ。
一方通行的に彼女らを拒絶した挙句に、友人二人を一方的に見放し、そして見放された。それが、元居た世界で琴岡みかげが辿った全てである。
余りにも、馬鹿馬鹿しく、最早滑稽ですらある空回り。そんな物は、こんな世界では帳消しだ、と言わんばかりに、白鳥と鷲尾は、琴岡の友人であった。
三年間ずっと同じクラスで仲がよく、三人一緒によく遊ぶ。それが、この世界における、琴岡と二人の関係。

 楽しくなかったと言えば、嘘になる。本心は、仲の良かった時勢の彼女ら二人と遊ぶ事は、琴岡にとってとても楽しいものだった。
元の世界で、もう修復不可能と思われていた友人達と、気兼ねなく話し、遊び、共に過ごす。それは、荒んだ琴岡みかげの心にとって、一つの清涼剤となっていた。
その清涼剤も、もうすぐ切れる。聖杯戦争。彼女がこの世界に招聘されるに至った、本来の理由。その開催によって、である。
今までは白鳥と鷲尾と遊んでいたからこそ、都合よく聖杯戦争の事を忘れられていたと言うに、あんな事件が起こってしまえば……嫌でも意識せざるを得なくなる。
またしても、自分はこの世界で友人を失うのか。聖杯戦争の参加者など、どう考えても『普通』ではない。普通ではないまま、自分は死んでしまうのか。

 肺腑に氷を詰められ、頭の中に脳ではなく冷水を満たされたような、恐ろしい感覚を琴岡は味わう。
死ぬのも嫌、失うのも嫌。そして何より、殺すのも嫌。何とも我儘なものの考え方だが、琴岡としては、何一つとして、欠けていて欲しくなかったのだ。

【善処はするさ。善処はな】

 頭の中に、錆て掠れた、男のものに聞こえる声が響いてくる。
『ハスター』、琴岡が呼び出したサーヴァントは、校庭周辺を巡回する一陣の風となり、遠くから彼女の事を見守っていた。
聖杯戦争参加者が従えるサーヴァント。その不意のアタックに備えて、であった。

【頼りないサーヴァント、とでも言うつもりか? 元より俺が守るべき義務を負っているのは、マスターただ一人。神の身は愚か、過去に存在した身ですらない俺には、それが関の山よ】

 何とも無責任なサーヴァント、と食って掛かりたい所だが、守るべき、とハスターが口にした言葉に、その気勢を削がれた。
聖杯戦争の参加者となった時点で、最早琴岡の命の安全など全く保障されない。それは即ち、元の世界での家族は勿論、白鳥や鷲尾達にも。
悟られる事もないまま、一人寂しくこの世界で息絶える可能性だって大いにあると言う事。それを今になって実感したその瞬間だった。
恐怖と言う杭が、彼女の頭から下半身まで刺し貫き、痛みに似た恐怖を体中に伝播させたのは。


881 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:31:53 2Zzn9A.Y0
「……琴岡?」

 鷲尾の言葉に、琴岡の肩が跳ね上がった。
如何やら、聖杯戦争の事について考える余り、白鳥と鷲尾に話題を何度振られても、ずっとそれを無視してしまっていたようである。
それに、今までいた校内の廊下から、校門まで。自分は歩いて移動していた事に、琴岡は今になって気付いた。目に映る風景の変化にすら、上の空であったらしい。
気難しそうな顔して、友人の会話にも一切参加せず、緘黙のまま歩き続ける。傍にいる白鳥達が心配そうな顔をするのも、むべなるかな、と言うものだった。

「ご、ごめんごめん。何だかんだ、事件の事が気がかりだったのと、ママから最近、シュークリームと同じ位得意なお菓子作れるようになりなさい、って言われててね。憂鬱だなぁって、思っただけ」

「その宿題、友達のよしみで、手伝ってあげてもいいんだけどなぁ〜?」

「……タダでお菓子が食べられる、って言う下心が見えるわ」

 「そ、そんな事ないって!!」と、白鳥が鷲尾に反論する。その様子を見て、少しだけ、琴岡は救われた。
いや、此処に来てから彼女達には救われっぱなしだった。この世界でも、白鳥と鷲尾との関係が険悪な物であったら、今頃琴岡は潰れていた。
この世界の二名は、元の世界の二人とは断じて同じ存在ではないのかも知れないが、それでも、元の世界と寸分の違いもない容姿と性格の二人。
彼女らとのやり取りがなければ、琴岡は当の昔に狂っていた事だろう。その意味では彼女達は、琴岡みかげと言う少女にとって恩人とも言うべき友人達だった。

 せめて、聖杯戦争が始まるその前までは、笑顔でいよう。友人達との水入らずの時ぐらいは、明るく努めよう。
そして出来得るなら、彼女らを聖杯戦争と言う蜘蛛の巣に、触れさせないようにしてやりたい。
そう思った琴岡は、いつもの笑みを浮かべながら、再び会話に参加し始めた。それが、これから起こり得る、悪夢の具現の様な魔宴から逃れる術であったから。

「――あ、『チノ』ちゃん。GW、そっちも楽しんでね!!」

 三人で喋りながら歩いていると、この世界に来てから出来た、白鳥や鷲尾と同じ位に良く付き合っている、同じクラスの同級生の姿を見つけたので、元気よく声を掛けた。
元の世界では見た事のない、この世界に来てから出来た友人とは言え、琴岡は、彼女には死なれて欲しくなかった。
声を掛けられた薄水色の髪の少女は一瞬驚いた様な表情を浮かべてから、軽く琴岡に会釈。その様子を見てから、琴岡は、三人で外へと向かうのであった。


882 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:33:07 2Zzn9A.Y0
     鋼衣を纏う天使     信念との婚約者                                     
    ジュデッカ            不壊の盾               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子               in the nightmare                                 
                 Dance of the Seven Veils                真理の旅人                     
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
    聖剣の肉叢             監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン              最終戦争                   総ての乙女の敵      
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  
                不死の罰                                                   
       雷霆征服              日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


883 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:33:40 2Zzn9A.Y0
 ◆

 ZONE4――『in the nightmare』

 遠ざかって小さくなって行く、琴岡みかげと、その友人二人の背中を眺めているのは、『香風智乃』こと、同級生からはチノと呼ばれている少女だった。
元の世界におけるチノの交友範囲に、琴岡の姿も名前もない。この冬木で生活する際に、予め仲が良くなっていた、と言う設定の訳でもない。
ただ本当に、此処に来てから仲良くなったと言う関係。向こうはケーキ屋の娘だが、こちらは喫茶店の娘。
出すものも少しばかり似通ってる店、其処における所謂看板娘と言う共通項もあってか、直に彼女らは仲良くなった。

 明るい少女だと思う。性格が自分とは全く違う。陽性のそれ、と言うべきだろう。加えて、男性の遍歴もあの歳で大したものだと、風の噂で聞いた事がある。
大人しく、控えめな性情の持ち主であるチノとは、相容れなさそうな性格の女性であったが、それでもこうして仲よくなれるのだから、共通の特徴、と言うものの偉大さを肌でチノは実感していた。

 琴岡も、聖杯戦争に巻き込まれてしまうのだろうか。校内を出、自宅であるところのラビットハウスへと向かいながら、チノは考える。
『昨日の事件』の事は、今朝チノも知った。同時に、彼女の引き当てたバーサーカーも、それを知った。
聖杯戦争、と言う現実味の欠片もない、それでいて、確かに人が死ぬ、悪魔染みたイベント。このイベントに対して、生身の人間であるチノ以上に、
ヒステリーじみた恐怖を抱いているのは、チノのサーヴァントであるバーサーカーだった。勿論、そんなバーサーカーが、昨日の事件を聞いて、恐怖しない筈がなかった。

 ――始まっちゃったわ……!! ああ、なんてことでしょう!!――

 ――あれだけ言ったのに、皆信じてくれなかった!! 聖杯戦争は、嘘なんかじゃないのに!!――

 バーサーカーの、悲観的と言う感情の見本のような声音と表情を、今でもチノは思い出す。
彼女は、聖杯戦争自体を恐れていると言うよりは、聖杯戦争による副次的な被害の方を恐れている様子である事位、流石のチノも解る。
今にして思えば、成程、バーサーカーの反応も解らないでもない。あんな事件が起こってしまえば、さしものチノも震えてしまう。大の大人とて、それは同じだろう。
昨日の事件が聖杯戦争の事件の参加者の手によるものだとした場合、同じ聖杯戦争関係者である自分達も、やがては事件の張本人と関わり合う可能性もゼロではない。
先ず間違いなく、碌な人物ではない。話が通じる手合いだとも、思えない。出会ってしまったらどうしよう、不安はチノの小さい胸を破裂させんばかりに増大する。

 それに、起こっている事件はそれだけじゃない。
大なり小なりではあるが、明らかに聖杯戦争の関係者が起こしたと見る向きが強い殺人事件が、此処の所頻発する。
場が煮詰まりつつある事を、この冬木の街で起る凡そ様々な事件で、チノは理解している。それを理解した上で、思う事は一つ。
自分のサーヴァントであるバーサーカーで、この冬木の聖杯戦争をやり過ごせるのか、と言う事だった。
チノと同じ程度の背丈しかない、ブロンドのロングヘアの可愛らしい少女。バーサーカー(狂戦士)のクラスを戴くサーヴァントとは到底思えない程、
非力そうな見た目と、それを裏切らないステータス。それが、香風智乃の呼び出したバーサーカーであった。
ステータスの方はバーサーカーとは思えぬ程の低水準だと言うのに、性格の方はキッチリと、バーサーカーである事を理解させる程の狂気を内在させた、
扱い難いそれと来ている。喧嘩や荒事への耐性も知識も全くないチノが、不安を覚えるのも無理はなかった。


884 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:36:15 2Zzn9A.Y0
 悩みの種は尽きない。
そして、もっと悩んでいたい、考えていたい事柄に対して真摯に向き合っている時に限って、時間というものは矢の如く過ぎて行く。
あっという間に、チノの自宅兼職場である、喫茶店・ラビットハウスへと到着してしまった。
深山町の商店街に建てられた、コーヒーカップに兎が前脚を触れさせている看板が目印の、どちらかと言えば日本よりも欧州に建てられている方が自然である、
洋風の木造建築。それが、喫茶店ラビットハウスであった。元居た世界では、木組みの家と石畳で統一された街に在った喫茶店だったからこそ、
その外観は街並みによく符合していた。だが、当世の日本風の建造物が多い深山町の中で、ラビットハウスの欧風の店の姿はやや目立つ。
目立って人目を引くからこそ、客入りが元の世界のラビットハウスよりも多いと言うのが、何故だかチノには釈然としないのであるが。

 裏口から店内に入り、いつもの日常通り、開店準備を整えようとするチノ。
机の上に立てかけていた椅子を下ろして行き、テーブルの上を濡れた布巾で拭いて行き、最後に床の掃き掃除を忘れない。
実に手慣れている様子だった。これらの工程を二十分ほどで終えたチノは、外に出て看板をCLOSEDからOPENにしようとするが――。

「ああ、マスター!!」

 旧知の友人に久々に会ったような嬉しい声音と、親しい人間の離別を直近に経験したような悲しげな声音が内在された、複雑そうな少女の声。
その声の方向を向くと、居た。チノの引き当てたバーサーカーのサーヴァント。バーサーカーと言う名前からは想像もつかない程の低いステータスと言う事もそうだが、
真に想像も出来ないのはその外見だろう。チノと同じ位の背格好、つまりは、小柄な体系だ。
金髪碧眼と言う典型的な西欧風の少女であり、青のワンピースに白いエプロンドレスを着こなすその様子は――そう。
ルイス・キャロルが著した世界的な名作、世界で最も有名な創作上の少女、不思議の国の『アリス』を連想させよう。そして、そのアリスこそが、彼女の真名。
首筋に痛々しい傷を横一文字に走らせた、この欧風の少女こそが、チノの引き当てたバーサーカーなのだった。

 如何やらアリスは、チノがラビットハウスに戻って開店準備を終えたと同時に、裏口から入って来たらしい。
このサーヴァントには外出はしないようにとかなり早い段階からチノも釘を刺していたが、それに大人しく従うようならバーサーカーではない。
今日も今日とて、勝手に外に出て、道行く人物に聖杯戦争の危険性を説明していたようである。
尤も、酷く悲しげに顔を歪ませているその様子を見れば、アリスの懸命な努力が実を結んだか否かは、一目瞭然であろうが。

「やっぱり、皆信じてくれないの。私は真実しか語らないのに……、嘘なんか、喋った事もないのに!! そんな馬鹿げた出来事、ある訳がないって……!!」

「落ち着いて下さい、バーサーカーさん。皆、あんな事件があったから、ピリピリしてるんです、きっと」

「ううん。皆おかしいのよ。この世界でまともなのは、マスターだけ。あなた以外の皆は、言葉の通じない帽子屋と、狂ったような三月のウサギしかいないのよ!!」

 やはり解っていた事だが、話が通じない。
このサーヴァントは狂化の方向性が、狂気だとか憎悪、怨念の方向ではなく、空気が読めないと言う方向に特化していた。
聖杯戦争。真っ当な世界に生きている人間にそんな事を説明したとて、信じて貰える事などあり得ないし、説明した側が狂っていると見做されるのがオチだろう。
そんな事は誰でも想到する事の出来る、当たり前の帰結である。その帰結を、アリスは理解しない。
理解しないだけならまだ良い。理解しないまま、一人部屋でぶつぶつ愚痴を言うだけで終わっていれば、チノだって苦労もしない。手がかからないからだ。

「じゃあバーサーカーさん、聖杯戦争について教えるのは……」

「いいえ、諦めないわ。この世界は確かに酷く狂って、悪夢に満ちた、歪んだ真珠(バロック)みたいな世界だけど……それでも、できる事があるはずだわ」


885 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:38:35 2Zzn9A.Y0
 これだった。
アリスは、これだけ聖杯戦争について信じて貰えないと言うのに、諦める素振りすら見せないのだ。
心は、可視化出来ない。ひょっとしたら、チノが気付いていないだけで、アリスの心は過去に幾度も折れていたのかも知れないが、
折れる都度にまた復活し、聖杯戦争の危険性を知らしめる活動に戻ってしまう。そう、子供向けの童話の主人公に求められるような、善性と、不屈の精神。
これを、バーサーカーの歪んだ精神性のまま発揮すると言うのだから、始末に負えない。
本人は何処までも空気を読めていないのに、その空気の読めていない行動の一切を、善なるものだと思い込んでいる。つまりは、困った存在を通り越して、アリスははた迷惑な存在なのだ。

 それでも、チノがアリスを見棄てられないのは、やはり、その善性故であろうか。
アリスは確かに狂っている。迷惑だ、と思った事も正直に告白すると、一度や二度ではない。
それなのに、このいかれ帽子屋(マッドハッタ―)めいて空気の読めない少女を見限らないのは、勿論、彼女が現状における自分の唯一の味方だと言う事もある。
だが、それと同じ程に大きな理由として、目の前の少女は、本質的には善である。それは、そうだろう。仮にアリスの本質が悪であるのなら、
その空気の読めなさを、冬木に生きる住民達に聖杯戦争の危険性を知らしめる、と言う形で発揮しないのだから。

 アリスは、自分を裏切る事は先ずないだろう。
不思議の国と鏡の国で見せた、優しさと礼儀正しさ、そして勇気を兼ね備えた少女として、チノを支えるであろう。
……だからこそ、バーサーカーと言うクラスで呼び出された、と言うその事実が、チノにとっては口惜しいのであるが。

「もうすぐ開店ですから、お客様がいらっしゃる間は大人しくしていて下さいね。バーサーカーさん」

 「どうしたらみんな解ってくれるのかしら」、そうブツブツと呟きながら、アリスは渋々ラビットハウスの上階へと戻って行く。
それを見送った後、チノは店外へと急いだ。開店時間を既に過ぎていたからだ。一、二分の開店の遅れは、この手の客商売では大いなる痛手である。
店の外に出たチノは、急いで看板をくるりと一回転させ、OPENの方にしようとするが、此処で、看板に蜘蛛の巣が張っている事に気付いた。
嫌そうな顔をしながら、それを払い捨て、今度こそ開店だ。そう思った、直後であった。

「おや、これはこれは智乃くん。君ともあろうものが開店の時刻を誤るとは珍しい」

 歳経た、中年の男性の声に反応し、チノは声のした背後の方を振り返る。
そこには、黒い所のない白色の髪の毛をオールバックにし、仏教美術で言う所の白毫めいた物が額に刻まれた男がいた。
男が身に着けている、ゴーグルの様な形状をした特徴的にも程がある眼鏡、それが似合っている姿を見る度に。
自分とは生きている世界が違うのかな、と、チノは常々思う所があるのであった。


886 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:39:55 2Zzn9A.Y0
     鋼衣を纏う天使     信念との婚約者                                     
    ジュデッカ            不壊の盾               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子                                                 
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                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
    聖剣の肉叢             監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン              最終戦争                   総ての乙女の敵      
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  
                不死の罰                                                   
       雷霆征服              日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


887 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:40:58 2Zzn9A.Y0
 ◆

 ZONE5――『雷霆征服』

 『ディスティ・ノヴァ』はラビットハウスのオリジナルブレンドコーヒーが好きだった。
厳密に言えば、このコーヒーを嗜みながら口にする焼きプリンが好きである、と言うのが正しいか。
コーヒー自体はそれ程、この男は好きと言う訳ではないのだが、不思議と、焼きプリンの甘さと、此処のオリジナルブレンドの味が、合う。
だからこそ、こうしてノヴァはここで、豆を挽いたもの三〇〇gキッカリに購入し、切れたらそれを買い直す、と言う事を繰り返していた。
ただプリンと一緒に食べ合わせるにしても、減るペースが早いかと思われるが、何も使い道はそれだけじゃない。
聖杯戦争で勝ち抜く為の計画、その計画を効率よく進める為の、カフェインの摂取手段にも用いていれば、それだけ減る速度も早くなろうというものだった。

「あ、ノヴァ先生」

「ふーむ、その呼び方は今一慣れないですねぇ。教授、と呼ばれる事の方が多くてね」

 顎を摩りながら、バツが悪そうにノヴァが言った。
此処に来るまで、大抵の場合ノヴァと言う男は、呼び捨てか、教授呼びで呼ばれる事が多かった。
先生、と言われるのはどうにもむず痒い。勿論、意味的には間違ってはいないのだが。気持ちの問題、と言う奴だ。

「あ……じゃあ、教授って呼びましょうか?」

「いや、構いませんよ。先生と言う呼び方で結構。それより、智乃くん。いつものオリジナルブレンドを五〇〇g、頼めるかな?」

「はい、わかりました。それでは、中の方に」

 オーダーを受けるや、とたとたと喫茶店・ラビットハウスの中に入って行くチノ。 
遅れてノヴァも、店内へと入って行く。落ち着いて、クラシカルな洋風の内装。其処に満ちる焙煎したコーヒーの香り。
コーヒーの苦手な人間でも、フラッとした心持ちで、コーヒーの一杯でも頼んでしまいそうな魔力が、店内には溢れていた。

 カウンターの奥で、特定のコーヒー豆を取り出し、ミルで挽き始めているのを、ノヴァは、適当な席に座りながら眺める。
「ポットの水を飲んでも良いかね」、そう訊ねたノヴァに対して、「いいですよ」と言う返事。
コップの積まれた所に歩み寄り、その一つを手にしたノヴァは、元の席に戻り、水を一杯。適度に冷たい。夏への過渡期である五月の暑さには、これ位の温度の水が丁度良かった。

【――さて、アーチャー】

 チノの作業の様子を見ながら、ノヴァは、自分が引き当てたサーヴァントに対して念話を送った。
ラビットハウスの外に佇んでいる、件のアーチャー。インドラを征服した者(インドラジット)、またの名を、『メーガナーダ』と呼ばれるアーチャーは、ややぶっきらぼうに【なんだ】と返事をよこした。

【何故、この喫茶店の可愛らしい従業員は、此処で働く道を選んだのだと思いますか?】

【……俺に解る訳がなかろうよ。さしもの俺も、天眼は持った事がない】

【解らないでいきなり終わらせてしまうのは、余りにも早すぎる。もう少し、貴方なりの解が私は聞きたいですな】

【何度でも言うが、知らんよ俺は。其処の小娘の親がこの茶屋の主であったから、手伝っている可能性もあるし……奇縁、つまり、運命的なものもあろうよ】

【成程、それが貴方の答えですか。アーチャー】

【それで。正しい答えとは、何なのだ。マスター】

【さぁ? 私にも、解りませんよ】


888 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:43:24 2Zzn9A.Y0
 不機嫌そうな気風が、霊体化させて姿を見えなくさせた状態で、かつ、ノヴァの目の届かない所にメーガナーダがいると言う事実を加味しても。
十分過ぎる程に、ノヴァの方にひしひしと伝わってくる。自分に問題を振っておいて、当の謎かけを出して来た張本人がこれか。そんな事が、言外せずとも伝わってくる。

【古の昔、或いは、全てが何かに管理されるディストピアめいた未来とは違い、この世界は職を選ぶ自由があります。花屋、油屋、魚屋肉屋。其処の子供に生まれたとて、知った事ではありません。彼らでも自由に、科学者だろうが会社員だろうが、好きな職を選べます。それなのに彼女は、数ある職業の中で、喫茶店の従業員を選んだ】

【事実だけを見れば、そうなるな】

【人が職を……いえ、何か選択肢を選ぼうとした時、大抵の者は科学で証明出来ぬと口にします。人が選択肢をどれか選んで行動する事。それは、様々な外的要因や人・環境との繋がり、そして本人の過去・現在の心境及び境遇によって変わるからです。故に、人が選ぶと言う行為、それは最早科学ではない。道理ではあります。凡人からすれば】

【お前からすれば違うのか】

【科学とはとどのつまりを言えば、自然界における絶対的に正しい法則であり現象であり、理論なのです。科学に間違いはない。間違いがあるとすれば、それを伝える人間です。担い手が間違うからこそ、科学も色眼鏡に掛けられてしまう】

 【そして】

【我々の住む地球や、地球の属する太陽系、太陽系や銀河を包むこむ宇宙の動き(ダイナミズム)。我々人間の、過去や未来をひっくるめた運命。そして、業(カルマ)が輪廻に与える影響。真に科学が正しいのであれば、当然の如く、これらを科学で解明出来る筈なのです】

【……貴様はそれを、業子力学と言っていたな】

【素晴らしい、よく覚えておいでで】

 ズッ、と水を飲むノヴァ。一杯目の水が空になった。

【コンピューターやAI如きの思考では、人の思考を越える事など出来ません。何故ならコンピューター共は、いくら情報処理能力に長け、計算が早かろうが、インスピレーションの機能が備わっていないからです。つまり、全く関係のない二つの事象をくっ付けて考えると言う事。それは機械には不可能なのです。そして機械は、科学と運命は無関係だと結論付けてしまった。此処に、機械の限界がある訳ですな】

【運命、業、輪廻(サンサーラ)、因果律。何れも神の領分であり、そして、神であっても手を焼き、時にそれを司る神ですら呑まれる大権。それすらも貴様は、解明出来ると?】

【科学者とはこの世で一・二を争う泥臭い仕事ですよ。寝食を惜しんで理論を磨き、風呂とトイレの時間を削ってまで実験に打ち込む。その繰り返しです。そして、運命を科学的・数学的に解明すると言う事は、それを行うだけの価値があると、私は信じている】

 呆れた様な溜息が聞こえてくる。メーガナーダのものだった。
ディスティ・ノヴァと言う男の、余りにも遠大で、ロマンあふれる、しかしそれでいて、狂人の妄想そのものの如き夢物語に対して抱いた感情としては、適切なものであろう。

【因果、運命、業に輪廻。誰もが本気で解明に取り組まない事の方が、私には不思議でならない。科学を以ってこれらの謎を解き明かす事は、人類最大の命題とすら言えるでしょう。そしてそれを成すのに、聖杯戦争は実に相応しいフィールドだ。聖杯戦争の如く、他者を争わせて何かを得るメソッドを、東洋の古い言葉で『蠱毒』と呼ぶそうですが、いやはや、実験の手法としてはこれも中々悪くありませんな】


889 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:44:44 2Zzn9A.Y0

 多種多様、雑駁な異世界や並行世界から、様々な人間達をマスターとして選出。
そして彼らに、英霊と呼ばれる、過去或いは未来において観測されている、人々の信仰と想念によって磨き上げられた高次の存在を貸し与え従わせ、戦わせる。
実験の手法としては難が大きく確度に欠けるが、興味深くないといえば嘘になる。寧ろ、様々な運命が蜘蛛の巣めいて絡まり合い、混沌の坩堝となったこの戦いにこそ、
自身が求める命題のヒントが隠されているのではないかと、このマッドサイエンティストの鑑の如き男は考えていた。

 戦いの火蓋は既に切って落とされている事は、『昨日の事件』からも明白だ。
あの事件が、聖杯戦争の参加者の手によるものだと言う事は、ノヴァの様な天才的頭脳の持ち主ではない、街中の匹夫や凡夫ですら至れる結論であろう。
ノヴァは聖杯戦争における、実験動物達の共食いを観測する観察者、即ち主催者側の立場にいない。一人の一般参加者に過ぎない。
ならば、参加者は参加者らしく、優勝トロフィーであるところの聖杯を狙って立ち回るのが、筋というもの。
万能の願望器。興味がない訳がない。ラビットハウスの店内に置かれた液晶TV、其処から流れる昨日の事件のニュースを見て、改めてノヴァは、聖杯を欲すると言う欲求が己の中で強まって行くのを感じた。

【明日から連休です。しっかりと、準備をしておく事にしましょう、アーチャー】

【心得た】

 メーガナーダがそう返事をしたと同時に、カウンターの方から「おまたせしました」、と言う落ち着いた少女の声音が聞こえて来た。
如何やら、ノヴァ待望のブレンドコーヒー、それを豆の状態から挽いたものが出来たらしい。
上品な茶色の紙袋に入ったそれを、ノヴァは受け取るや、指定の金額をチノに渡す。「ありがとうございました」、と笑みを浮かべて対応する彼女に対し、
ヒラヒラと手を振りながらノヴァは、ラビットハウスを後にしようと、外へと繋がるドアを開けた。

「……おや其処にいるのは、我が大学の麒麟児である、デュフォー君じゃないか」

 ドアを開けたと同時に、目の前を横切った一人の青年が、自分の良く知る人物であった為に、ノヴァはそんな声を件の青年に投げ掛けた。
嫌な奴と出会った、とでも言うような態度と表情を隠しもしないような態度で、ノヴァと同じ白、或いは、白がかった銀髪をした青年は、ゆっくりノヴァの方に振りかえる。
彼は、冬木新都の大学に教授として勤めている――無論、ロールだ――ノヴァの講義の受講生であり、そして、その大学始まって以来の天才とすら称される、極めて優秀な学生なのだった。


890 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:46:57 2Zzn9A.Y0
     鋼衣を纏う天使     信念との婚約者                                     
    ジュデッカ            不壊の盾               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                真理の旅人                     
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
    聖剣の肉叢             監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン              最終戦争                   総ての乙女の敵      
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


891 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:48:01 2Zzn9A.Y0
 ◆

 ZONE6――『真理の旅人』

 ディスティ・ノヴァと言う名前の教授の担当講義である、『業子力学』は、特に難解な講義である事で知られる。
ノヴァは通常、分子力学や分子工学等の『ナノテクノロジー』に関係する分野や、量子力学において定評のある教授である。
難解な領域であり、それに加えてノヴァの講義は難解を極る。分子力学も分子工学も、ノヴァの講義であった場合、平気で単位を落す学生も少なくない。
だが、それに輪を掛けて、この業子力学は難解であった。何せその力学自体が、ノヴァ教授が独自に編み上げた分野であり、世間的な理解度及び著名度においても、
ゼロに近いレベルで低い。予習が効かないのである。その癖、既存の力学や分子力学、分子工学、量子力学を合算させた内容に、仏教の神秘学的な要素を帯びたその講義。
その難解さは一説に曰く、当該大学の全講義ひっくるめても最高峰の一つとして数えられていると言う。
要するに、大抵の学生は受けたその瞬間から単位を落す事が定められている。

 人気が出る筈がない。事実、業子力学の講義は常に受講生が少なく、七人もいれば多い方とすら言われる程であった。
この上この講義は通年であり、半期の講義ではない。つまり、落してしまえば四単位も無駄になるのだ。落ちると解っている講義には、誰も寄り付かない。当然の帰結だ。
今期の業子力学の受講者数は五名。その内の一人が、今深山町の商店街でノヴァと偶然はちあった『デュフォー』であり――ノヴァの言った通り、大学始まって以来の天才の誉れも高い青年であった。

「偶然ですねぇ、デュフォー君」

「あぁ、そうだな。教授」

 デュフォー自身も自覚しているが、ノヴァの業子力学を理解しているのは、デュフォーを含めた現在の受講者数五名だけでなく、
歴代の受講者達をひっくるめても自分一人だけだろうと言う確信すらあった。それはそうだ、何せこの青年には、アンサートーカーと言う、
目にした事象の答えを視る力が備わっているのだ。故にデュフォーには解る。教授の講義の内容が完璧に、である。
とは言え、さしものデュフォーと言えども、業子力学を一番難解にしている要素である、仏教的な観念についてまでは、中々理解が難しかった。
だから、そう言った要素に関しては講義後、己の呼び出したキャスターのサーヴァントに教えを乞い、助言を得ている。こうする事で、ノヴァの講義を完璧に理解、モノにしていたのだった。

「大学から随分と離れた所にアンタがいるのは珍しいな。ここのコーヒーが好きなのか、教授」

「えぇ、まぁ、今日は午後の講義もありませんのでね。息抜きです。それに、此処のコーヒーは私の好きなデザートとよく合うのですよ。買われますか?」

「いや、いい。これから野暮用があるんだ。それに、余り金にも余裕がなくてな」

「野暮用、ですか……。今から、教育実習ですか?」

「まぁ、そんな所だ」

 アンサートーカーと言う能力があると言う特質上、デュフォーはありとあらゆる事象に対して『答え』を導き出す事が出来る。
これを抜きにしても、デュフォーの頭脳は同年代の人間の中では、際立つと言う言葉では足りない程の優秀さを誇っており、こと智に関わる領域なら、
他者の追随を許さない。故に、多くの教授陣、特に、理科系の領域で活躍している教授や博士達が、三顧の礼もかくやと言うべき態度でデュフォーを迎えようとしている。
それ程までに彼が優秀であり、そして、彼一人いれば自分のラボの研究が、頗る捗ると、考えていると考えているのだろう。
彼らがデュフォーのアンサートーカーについて知っているとは思えないが、どちらにしても、彼らの判断はとても正しい。
デュフォーの地力は勿論の事、アンサートーカーの能力を駆使すれば、デュフォーが所属したラボの責任者はその週の内に、
ノーベル賞の受賞も夢ではない程の大発見或いは大発明をしてしまえるのだ。全てを知っている『神』の目線から立てば、教授らの下心は寧ろ、余りにも理に適っていた。


892 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:48:31 2Zzn9A.Y0
 ――だが現実には、デュフォーは何処の研究室に所属するつもりもなく、どんな教授の下につくつもりもなかった。
実際にこの世界においてデュフォーが選んだ道は、教職課程を経て教師の道を歩むと言う物であり、口が悪く毒気の強い教授の言葉を借りるなら、
『才能をドブに捨てる様な道』であった。デュフォーがその気になれば、成程確かに、巨万の富も永劫不変の名誉を手にする事も、思いのままだ。
アンサートーカーを駆使すれば、株やFXで富を得る事など造作もなく、医療や各種工学分野において歴代のノーベル賞受賞者の獲得した名誉と同じ程のものを得る事も簡単だ。
だが、この男はそう言ったものについて興味はなく、己の持つ才能を以って切り拓こうと選んだ道は、教職と言う富や名誉とはかけ離れた道であった。

 この道の方が、ゼオンとの出会いで変わった自分に相応しいと、デュフォーは考えていたからだ。
自分が得た知恵や、自分が体験して獲得した思いを、誰かに伝え、それで誰かを変え、誰かがそれを伝えて行く。デュフォーが求めたのはそれだった。
これを行うのに、一番適している仕事は何かと思い、それが教師だっただけだ。ならば、デュフォーはその道を選ぶだけなのだった。

「君程の頭の持ち主ならば、もっと賢い道があるものかと思いますがね」

「よく言われるが、特に欲もないのでな。この進路で良いんだ。どの道を選んでもそれなりに生きて行けるのも、賢い奴の特権だろ?」

「成程、一理ある」

 と、一人で納得するノヴァ。
正味の話、デュフォーはノヴァが苦手だった。余りにも独自の世界観を持ち過ぎている事もそうだが、クセが強く常識を欠いている者が多々存在するアカデミックの世界。
その象徴とすら言える程に、この男はアクもクセも半端ではなく、広義の難解さとか関係なしに、この人間性の故に講義を離れる、と言う生徒もゼロではなかった。
デュフォーですら、話していてカロリーを余計に消費してしまう程だ。なるべくなら、講義以外での接点を持ちたくない男ではあった。

「おっと、長話をして引き留めてしまったかな? 所用があるのなら急ぎたまえ」

「あぁ、そうする。では、GW明け」

「えぇ、GW明け」

 と言って二人は此処で別れた。GW中は大学も休みである。故に二人が次に会う時は、GW明けの最初の講義になる。
尤も、そのGWが終わる頃には、既に聖杯戦争も終わり、デュフォーもこの世界にいないか、そもそも冬木の街自体が……と言う事もあるだろうが。

 言葉もなく、スタスタと目的地である穂群原学園の高等部へと向かうデュフォー。
『昨日の事件』のせいもあり、この時間の深山町の商店街にしては、人通りがやや寂しい物がある。
無理もない。恐らくは聖杯戦争と全く関わり合いのない人物でも、この街を覆う不穏な気を既に感じ取っているのだろう。
それを考えた場合、滅多に外には出れないだろう。これは、GWだと言うのに街の人気も少なくなるだろうな、とデュフォーは推理する。

 目の前の交差点の信号機が、運悪く青から赤に変わった。
仕方なく立ち止まっていると、丁度彼の横に、男が一人並んだ。彼は、今までずっとデュフォーの背後から彼の事を監視、後を追っていた人物だった。

「いつもあんな事を言われているのか? デュフォーよ」

 立ち止まった交差点。信号機が赤から青に変わるまでの間、デュフォーの横に立つ男が言った。
頭を完璧に剃りあげ、上にアロハシャツ、下にハーフパンツを穿いた、ラフな格好をした、眩しいばかりの微笑みを浮かべるこの男。
……果たして、誰が信じられようか? デュフォーと同じ所に立ち、行き交う車を共に眺めるこの男が、日本に初めて密教と言うものを持ち込み、
現代までその息吹を残し続ける日本固有の仏教宗派、真言宗の開祖『空海』であるなど。

【……お前は、馴染み過ぎだぞ】

 流石に人通りの多い所で、真名は勿論、キャスターと言うクラス呼びは出来ない。念話を用い、人に知れぬよう意思を伝えるデュフォー。

【ああ、すまないな。このアロハシャツとか言うやつも、半ズボンとか言うやつも、着心地が良くてな。僧衣よりもずっと日々を過ごしやすいじゃないか、何故皆こんな便利なものを着ないんだ?】

 高野山の金剛峰寺で、今も空海の存在を固く信じ、日々の修行に明け暮れる僧侶達が耳にすれば泡を吹いて卒倒するような事を、空海は平然と口にする。
この男にとって、いや、この男程の僧侶にもなれば、僧衣の過度な奢美だとか、僧衣の粗末さだとか言う問題など、瑣末な事に過ぎないのだろう。
何を思い、何を成すか。シンプルであるが、しかしそれにもかかわらず、多くの人物が見失いがちなこの真理をこそ、空海阿闍梨は重視しているのだ。


893 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:49:59 2Zzn9A.Y0
 ――空海は『霊体化出来ない』。
サーヴァントとはそもそもが高次の霊的存在であり、過去に存在し、現在は存在しない、人類史に刻まれた亡霊の様な存在である。
その本質が霊であると言う事は即ち、己の姿を人目に見られないような霊的存在にまで薄めさせられると言う事も可能であると言う事。
しかし空海は死んでいる存在ではなく、故に亡霊では断じてあり得ない。今も世界の何処かで生きている存在である為、
サーヴァントの特権である所の霊体化が出来なくなっているのだ。故にデュフォーはこうして、現代の世界観に良くな馴染む服装を与えて、実体化した状態でも目立ち難い様に配慮させていたのである。

【それで、デュフォーよ。お前はいつも、彼らからあのような事を言われるのか?】

 それは勿論、ノヴァから言われた、『もっと賢い道』、と言う下りである。

【慣れている。今更気にする程の事でもない】

【嘗て釈尊はな、ブッダガヤで悟りを啓いた際、躊躇ったそうだ。己の悟りを教える事をな。己の教えを衆生に広めた所で、彼らは理解しないだろうと思ったらしい。だが、悩む釈尊の前に、梵天(ブラフマン)が現れ、己の悟りを人々に説くのだと繰り返し説得する事で、釈尊は漸く己の教え……仏教を広める事を決意したのだと言う】

 どんな衣服を纏っていても、空海の言葉は、それ自体が生きているかのような躍動感と、心の中に水の如く染み込む何かを持っている。己のサーヴァントの言葉を、デュフォーは目を閉じて聞いている。

【解るか、デュフォーよ。あの覚者ですら、一度は己の教えを広める事を躊躇したのだ。それをお前は、迷う事無く己の経験や智慧を誰かに広めようとしている。俺はこの時点でお前は、釈尊に勝っている所があると断言する。智慧を独占する事の虚しさを知り、それを誰かに広めてやる。それは、偉大なるものの一歩だと俺は思うぞ】

【買被り過ぎだ】

【自惚れすぎても良いのだよ、デュフォー。お前は中々感情を表に出さぬ。よく喜び、よく笑うのだ。笑う門には福来る、と言うだろう】

 信号の色が、赤から青に。 
スタスタと歩みながら、デュフォーは今の今まで考えていた事を、空海に対して投げ掛けた。

【キャスター】

【何だ?】

【……何故俺達は、サーヴァントと出会えない?】

【ふむ、と言うと?】

【……サーヴァントには、サーヴァントの存在を察知出来る力があると言うな】

【だな】

【だな、じゃない。何故俺達は『それを検知出来ない』?】

 それは、デュフォーにとってずっと疑問の事柄だった。
サーヴァントは通常、同じサーヴァントを察知出来る力がある――相手に隠匿に関わる力があればその限りではない――。
その事はデュフォーも、頭に刻まれた聖杯戦争の知識から知ってはいるが、それが余りにも機能していない風に思えてならないのだ。
デュフォーらは、聖杯戦争を止めるべく、暇を見つけては冬木の至る所を歩き回り、空海の力で同じサーヴァントを探してはいるのだが、結果は今日の今日まで、
それらしい存在が見つからないという結果に終わっている。幾らなんでも、これはおかしい。確率論的に言って、一人や二人は、それらしい存在と出会えても良い筈なのだ。
其処にデュフォーは、不穏な空気を感じるだけでなく、不安感を憶えている。しかし、相棒のキャスターは、相変わらず涼しげな笑みを浮かべて、こう言った。

【そう言う事もあろうよ】

 幾らなんでも、これはない。思考の放棄にも程がある。少しは真面目に考えろと言いかけるデュフォーだったが、【まぁ待て】と空海は制止する。

【以前にも言ったがな、俺は普通の手段では聖杯戦争に召喚出来ぬのよ。現在の時間軸には存在しない、過去或いは未来に死んだ者の霊が、信仰や想念で磨き上げられた存在と言うのが、英霊の定義であるのならば、だ。未だ生き続けている俺は、サーヴァントとして従えられる筈がない】

 魔術や神秘の世界は、未だデュフォーもよく解らず、アンサートーカーで答えも導き出すのが難しい分野だが、空海が今言った事は、理にも適うし、何よりも、事実であった。
頭に刻まれた聖杯戦争の諸々の知識と、空海の今語った事は、パズルのピースとピースがピタリと嵌るが如くに合致しているからだ。


894 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:51:00 2Zzn9A.Y0
【だが、そんな俺が聖杯戦争に分霊(わけみたま)とは言え召喚されている。これはもう、この聖杯戦争自体が異常であるか……】

【異常である、か?】

【裏で仕組んだ者が、何かの仕掛けを施しているのだろうよ。そう例えば、お前がこの世界に来るに至った原因のあの符(カード)などに、な】

 まさか、と思い、デュフォーは、ズボンのポケットにしまっていた、十二星座の刻印されたあのカードに手を当てた。

【何時、気付いていた】

 デュフォーが問う。彼自身は、気付いていなかった、と言う顔だ。

【俺の千里眼は、俺自身が答えを求めない限りは機能しない。まぁ逆に言えば、疑問に思ってしまえば即座に答えが見えてしまう困った奴なのだが。疑問に思ったのはつい最近でな。もしや、と思い、お前の持つ星座のカードをみたら、案の定よ。その符、極めて高度な技術で拵えられた、宝具級の品だ。俺達の気配を完全に消す事位、訳はないと言う事だ】

【これが、宝具級の代物……か。いや、考えてみればそれも当然か。異世界から人を呼び寄せる代物など、よくよく考えれば宝具レベルの品でなければおかしい】

【そう言う事だ。敵の目的は未だ知れないが、その符に何らかの仕掛けが施され、それによってサーヴァントの気配を消している事は明らかだ。そうでなければ、『昨日の事件』しか聖杯戦争絡みの大きな事件がなかった事の説明が出来ない】

【……目的、か】

 デュフォーは考える。
この二名の最終的な目標は、聖杯戦争と言うイベントそのものを挫き、中止させる事である。
その為には、聖杯戦争の参加者全員を叩くのではなく、主催者そのものを倒すのが一番手っ取り早い。
蜘蛛の巣を機能させなくするには、その巣を壊すよりも、巣を張る蜘蛛自体を殺した方が早い。そんな理屈であるのだが、これが中々上手く行かない。
デュフォーのアンサートーカーをどれだけフルに用いても、その足取りの一つすら掴めず。
空海の千里眼をどれだけ用いようとも、『俺達では干渉すら出来ない程高次元に存在を隠している』と言う結論だけしか見えてこない。当然、其処に干渉する術もなく。
ならばせめて、自分達と同じ志の参加者を探そうとしても、そもそも出会えないと来ている。つくづく、憎らしい機能だと、今になってデュフォーは思う。

 何を思い、主催者達は聖杯戦争を開いたのか。
それは現時点における最大の謎と言えようが、デュフォーにはそれが解らずにいる。
聖杯を逆に奪い取る為? それとも、聖杯戦争によって生じる恐るべき戦いを楽しむ為? 疑問は尽きぬ。尽きぬが、デュフォー達の目的はシンプルだ。
彼らを、倒す。そして、聖杯戦争と言う闇を祓う、太陽と光になる。昔の自分ならそんな目標も無かったろうが、ゼオンや清麿、ガッシュ達と出会った今なら、その目標を恥ずかしげもなく掲げられる。

【良い目だ、デュフォー】

 空海が、決然とした光を宿した瞳をしているデュフォーを見てそう言った。


895 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:52:17 2Zzn9A.Y0

【お前はきっと、良い友に出会えた良い過去を持っているのだろう。友は良い。こんな世界にいようとも、友に遭いたいと思っていれば、生きる気力が湧いてくるのだからな】

【良い過去であったかは兎も角……。友は、良いものだな】

【ああ】

 そんな事を話しながら歩いていると、デュフォーらは、目的地である穂群原学園の高等部へと到着していた。
【校外で待機している。何かあると思ったら、念話を飛ばせ】、と言う空海の言葉に、デュフォーは軽く頷いた。流石に校内に空海は連れて行けない。目立つ。
ノヴァには、此処には野暮用があると説明したが、実際には嘘だ。此処に来た真の目的は、穂群原学園に聖杯戦争の参加者がいないのか探しに来た事。
冬木に何人の聖杯戦争参加者がいるかは解らない。現状では足を利用して、人の集まる主要な場所を虱潰しにするしかない。この穂群原学園も、虱潰しの候補の一つだ。
教育実習先である為、一応デュフォーは何度も此処に足を運んだが、成果はゼロだった。今回の探索も、念の為、と言う域を当初は出ていなかった。
だが今なら。星座のカードが、サーヴァントとしての気配を遮断させている原因だと解っている今なら。それに相応しい探し方をすればよいだけ。
散々サーヴァントの気配を探しに向かった場所とは言え、そうだと解っているのならば、新しい発見があろう、と言う物だった。

 「あ、デュフォー先生!!」、と、すれ違う女子生徒や男子生徒から声を掛けられる。デュフォーは教え方が上手であると生徒達からも評判だった。
ベテランの教師陣からは実習生でありながら一目置かれ、新任の教師陣からはやや嫉妬の入り混じった目で見られ。何れにしても、生徒や教師達からは有名であった。
挨拶を投げ掛ける生徒達に軽く会釈しながら、デュフォーは校庭から校内を散策。いきなり生徒に、聖杯戦争について訊ねるような事はしない。
デュフォーから見て、これは、と思った生徒をマークするのが今回のやり方であった。尤も、その手段にしたって、かなり迂遠なやり方なのだが。

 やはり、サーヴァントとしての気配を探知出来なければ、難度が高い。
そう考えていたデュフォーだったが、急に、ある部屋へと繋がる扉の前で彼は立ち止った。思う所があったからだ。
以前この部屋に所用があって入った時、特徴的な生徒が、此処でプロジェクターの修理をしていたの思い出したからだ。
今日もいるのだろうかと思いデュフォーは、生徒会室へと繋がる扉を開け――

「――デュフォー先生? ここに何か用でも?」

 そして、居た。煉瓦色の髪を持った、引き締まった体の青年。
デュフォーも覚えている。教育実習生としての自分が担当している複数の教室、その内の一つの生徒だからだ。

「衛宮、か」

 「はい」、と言う返事を聞き、デュフォーは生徒会室に一歩足を踏み入れた。


896 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:54:04 2Zzn9A.Y0
     鋼衣を纏う天使     信念との婚約者                                     
    ジュデッカ            不壊の盾               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
    聖剣の肉叢             監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン              最終戦争                   総ての乙女の敵      
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


897 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:54:48 2Zzn9A.Y0
 ◆

 ZONE7――『聖剣の肉叢』

「いつだったかも、プロジェクターを直してたな」

 デュフォーが生徒会室に入るのと同時に、手慣れた様子でドライバーを操る事を再開する男子生徒。
『衛宮士郎』。穂群原学園高等部二年の生徒である。今は教師の一人から頼まれて、会議室の壁掛け用スピーカーを修理していた。

「えぇ、まぁ」

 デュフォーは、此処穂群原に教育実習に来た他の学生に比べると、言葉が少々上から目線で、其処が少し苦手、と言う生徒も少しばかりいた。
その気持ちは、士郎自身解らなくもない。だが、教え方が確かなので一定の人気はあったし、士郎自身、こんな感じで上から目線で付き合って来る友人に何人か心覚えがあったので、特に何も思わないでいた。

「こう言う仕事は、一生徒であるお前が引き受ける事もないだろう。学校側に予算がないから、腕に覚えのあるお前に仕事を頼んでいるのだろうが、それがお前の義務な訳ではない。普通の業者に頼むよう、次からは言ったらどうだ」

【全くだね、其処の白髪のお兄さんの言う通りさ。内申点良くするからって言う言葉にコロっと騙されるとかならまだしも、善意で、なんの報酬もないのに引き受けちゃってさ!!こう言うのはね、内申点を良くするって条件と一緒に、小遣い程度のお金でもせびったりするものさ。そのどっちも求めないで、感謝のお言葉だけでお仕事を引き受ける何て、素晴らしい心持ちだよ全く、死後のアヴァロン(楽園)逝きは確定だな。妹に会えたら宜しく言っておいてくれよな!!】

 思わずズル、とずっこけそうになる程長々とした、口の悪い念話が士郎の頭の中に響き渡る。
念話ですらこの五月蠅さである。実際に今の内容を口にして言うとなると、その五月蠅さたるや想像を絶するそれになる。
全く、どんな経験を積んだらこんな、水車が回るような勢いとスムーズさの長々とした口上を口に出来るのか、士郎には想像も出来ない。
しかもそれでいて、この流れる様な罵倒を、声だけ聞いても美女のそれと解る声音でやって来るのだから、始末が悪い。
第一、彼女の事はあの後図書館に行って調べた。アーサー王伝説における『ケイ』と言う名の騎士は、男性ではなかったのか。

【ま、伝承のアヤ、って奴さ。ったく、マロリーだかマロニーだか知らないけど、もう少ししっかりと私達の事を伝えて欲しかったね】

【それは随分と適当に書かれた事で……】

 適当な相槌を打ちながら、士郎は作業を続ける。

 デュフォーは言った。この仕事は自分の義務ではない、だから出来ないと口にして、誰か然るべき人物に任せても良いと。
それは確かに、その通りだと士郎は思う。自分よりもこの手の修理・修繕、メンテナンスが得意な人間がこの世にはごまんといる事は知っているし、
自分に任せるよりも彼らに対価である金銭を支払い、上等な処置をして貰った方が確実なのは、士郎自身もよく解っている。
だが、断らない。物が壊れて困っており、それを直して使えるようにする、と言う事は良い事であり、人助けである。勿論、悪い事に使う道具は直さないが。
士郎の義父である、切嗣は言っていた。正義の味方に、なりたかったと。炎の海、と言う陳腐な表現がこれ以上となく相応しい、あの大火災の地獄から
自分を救ってくれたあの義父がだ。なら、彼の意思をリレーし、そのバトンを自分が与るべきだろうと、士郎は考えた。

 『正義』、とは何かと問われれば、それはとても難しい質問だと思う。一概にこれ、と言うべき答えは、ずっと本気で正義の味方を目指していた士郎でも断ぜられない。
だが一つだけ、それらしい物を上げるとするならば、『無償で行う事』なのではないか、と士郎は思う。
士郎の心と思い出に刻まれている正義の味方とは、義父である衛宮切嗣である。彼は、ともすれば自身が焼け死んでもおかしくない程であった、
あの冬木市の火災で、逃げる事無く、子供であった士郎を助け、命を繋いでくれた。この在り方は、間違いなく正義の味方のそれなのではないか。
自分の命を顧みず、死んでもおかしくなかった自分を助けてくれて、剰え身寄りのなかった自分をある時期まで育ててくれた。その在り方は、尊いものではないのか。
そんな人物だったからこそ、士郎は切嗣に憧れた。義父が口にしていた正義の味方を、本気で目指そうと志した。
正義と言う概念を、一元的、一面的に切り離す事は出来ないだろう。だが敢えて、最も重要な一面を切り離せと言われたら。
それはきっと、人助けを行う、と言うその時点で、既に対価や見返りが達成されていて――。

【危険な発想だ】

 士郎の考えが伝わって来たのか、ケイが、そんな念話を飛ばして来た。


898 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:56:51 2Zzn9A.Y0
【剣の林、槍の衾に突っ込んで、戦果と勲章を求めたがるおバカな騎士達よりも、お前はずっとバカ……いや、バカって言葉を使う事すら、バカと言う言葉に失礼だな。バカを越えて、愚の境地さ】

【……なんでさ】

 不機嫌そうな響きが、伝わってくる。士郎としても、今のケイの言葉は少々カチンときたようだった。
 
【人にね、無償の愛とか、廉潔無私と言う概念は早過ぎるのさ】

 ケイは滔々と、言葉を紡いで行く。霊体化している為か、姿形は朧げで、どんな格好やポーズを取っているのかはよく解らない。
解らないが、声のトーンだけはよく解る。遥か昔日の情景や思い出に、自らの思いを馳せさせているとでも言う風な、解雇に浸るそんな声音であった。

【妹もそうだったよ。全く、あんなちっこい身体の癖してさ、なーんでもかんでも一人で抱え込んで、挙句の果てに運悪く理想の王何かになっちゃってまぁ。言葉や姿じゃ、「私は何でもないぞ!!」みたいな態度取っておいて、その癖誰よりも疲弊しててさ。崩れかけの櫓よりも、危なっかしい妹だったな……】

 数秒程、ケイが押し黙った。部屋に不気味な沈黙が流れ出す。
押し黙りながら作業を眺めるデュフォー。スピーカーを直す士郎。霊体化をしているケイ。実に、不思議な取り合わせの空間であった。

【見返りを求める正義は、正義じゃないかも知れない。単なる仕事だ、それは。だがそれでも、行っている事が善行何だったら、金貰ってようが何だろうが、胸張って正義だと主張しても良い。何よりこっちの方が、賢く・長く生きられる。まぁ、世の中絶対じゃない。こんな生き方してても、ポックリ逝ったり、サックリ殺されたりもしちゃうだろうさ】

 【だけどね――】

【お前の生き方は間違いなく死ぬしかない生き方だ。と言うか、その性根を早く叩き直さないとマジで死ぬぜ、シロウ】

【俺は、そうだとは思わない】

【いーや、それは違うな。あの気違いみたいな鍛錬だってそうさ。よくもまぁ、あんな狂気そのものの鍛錬を続けて来たもんだ。しかもその理由が、いつか正義の味方として役に立つ日が来るかも知れなかった、から? 冗談止せよ。あんな事続けてたら、正義の味方として花開く前に死んでたぜ君】

 今はケイから、キチンとした正規の鍛練法を教えて貰った為に、ケイの言う魔術回路を一から作ってはまた破棄して、と言う鍛錬は止めている。
士郎は、それが極めて危険で、命を落としかねないばかりか、鍛錬として見ても得られるものがゼロに等しい、余りにも無為なそれだと言う事を今日初めて知った程だ。
知らなかったばかりか、それが正義の味方になるべき条件として今日まで己のマスターが受け入れていた、と言う事実がケイには驚きであった。
そして、そんな彼を見たからこそ、彼女は思った。この男は、余りにも危うくそして、危険過ぎる、と。

【もう少し、人間的に生きてみなよ、シロウ】

【人間的な生き方って、例えば?】

【もう少しだけわがままに、自分本位になれって事さ。お前は何だかんだで、性格も良い。気に掛けてくれる友人だっているだろう。そんな人達を心配させるな、少しは自分の為にも動いて見せな】

 【そんな生き方出来てたら、妹も少しは楽に生きられたのかなぁ】、と、そんなセリフで言葉を結び、念話を投げ掛ける事もなくなったケイ。
自分はそんなに、自分本位なところがないのだろうかと士郎は考える。欲しいものだって人並みに一つや二つ普通に思いつく、年頃の男だ。
それなりにはあるし、それが欲しいからアルバイトをして金を溜める事もあった。これは、自分本位な生き方に該当しないと言うのだろうか。如何にも士郎には、この辺りの機微が解らなかった。解らないまま、スピーカーの修繕を終えてしまった。結局、内部の部品の一つが弾みで外れてしまい、そのせいで音が出なくなってしまっただけのようだ。これで、音がまた出る筈だ。

「直ったのか、衛宮」

「はい」

 返事をし、スピーカーを抱えようとする士郎を見て、デュフォーは言葉を続けた。

「『昨日の事件』」

 その言葉に、士郎が反応する。いや、彼だけでない。室内にいたケイも、張りつめたものを出し始めた。

「知らない筈はないだろう。あんな事件があったんだ、その上犯人も捕まってない。仕事を終わらせたら早く帰れ。一時でも物を教えた間柄に過ぎないとは言え、そんな奴に死なれて何も思わない程感受性が死んでいる訳じゃないからな。解ったな、衛宮」

「……はい」

「邪魔したな、失礼する」

 用が済んだか、デュフォーは振り返りもせず、生徒会室から退室。後には士郎と、霊体化しているケイだけが残された。


899 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:58:19 2Zzn9A.Y0
【あの兄さんの言う事、私は正しいと思うよ。どうやら聖杯戦争に参加している蜘蛛達は、とっくの昔に蠢いているようだしね。不用心な選択は当然危険だろう】

【キャスター】

【わーかってるって。サーヴァントとしての職分は、果たすつもりだ】

 言葉を一秒だけ区切ってから、ケイは一言。

【花が磨いた剣の身体に掛けて。我が命、衛宮士郎に預けん……何てね。こう言う格式張った言葉、私好きじゃないけど……ま。お前の為に動いてやるってのは、本気さ】

【……ありがとう】

【良いって良いって。ホラ、そのスピーカーを運んでキリキリ動きな。帰ったら円卓名物マッシュポテトだ。ハハ、最近のジャガイモって凄いね、マッシュポテトに向いてるジャガイモ何てあると知った時は(頭の中が)花の魔術師が妖精に掴まったって知らされた時より驚いたもんだ!! ガウェインにその事伝えてやれば、そりゃもう驚くぜ!!】

【……うぷ】

 思い出すだけで食欲が減退する。ケイの作るマッシュポテトは雑過ぎる。その癖、量が凄まじく多い為、スプーン三掬い位で飽きて来る。
本当に芋を磨り潰しただけの、よく言えば素材の味を前面に押し出した、悪く言えば、料理とは思えないただの芋。
せめて芋は芋でも、もっと気の利いた料理を出して欲しかった。今だったら、同じジャガイモを使った料理でも、ポテトサラダを出されただけで泣いて喜んでしまいかねないレベルで、最近料理に華がなかった。

【なぁ、今晩は俺が作っても良いだろ、料理。毎食マッシュポテトは流石に飽きるぞ】

【おーっと、私に対してそれは言っても構わないけど、自称料理上手の騎士様にはそれを言ってくれるなよ。本気で凹むからねアイツら】

 誰の事を言ってるんだろうと思いながら、生徒会室から退室する士郎。
【んで、君は何を作ってくれるんだいシロウ。何だかんだ、お前の料理は美味い。キャメロット流の料理じゃ足元にも及ばない位だ】、念話を送るケイ。
以前振る舞ってやった、白米・灼き鮭・海苔・味噌汁・漬物・冷奴の、典型的な和食を、ケイは大変気に入った。「盛り付けのレベルからして違う!!」と絶賛していた程だ。
たまには肉類でも振る舞ってやるか、と思った士郎は、今日の献立を今になって考えて――向かいから歩いてくる、極めて恵まれた背丈と体格をした男子生徒の髪型から、インスピレーションを得た。

【ハンバーグ、とかどうだ?】

【ハンバーグ!! 良いね、実を言うと私も初めて食べる料理だ。大変興味があるが……それを考え付いた経緯、ちょっと失礼過ぎないかい?】

【しょ、しょうがないだろ。その……そっくりな、髪型だったんだし】

 すれ違った男子生徒の背中の方を、振り返る士郎。
既存の制服を改造したものだと一目で解る特徴的な学生服を着た、リーゼントヘアの学生は、いつの間にか階段を下りて、今士郎がいる所からでは、見えなくなってしまっていたのだった。


900 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 21:59:39 2Zzn9A.Y0
     鋼衣を纏う天使     信念との婚約者                                     
    ジュデッカ            不壊の盾               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                      監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン              最終戦争                   総ての乙女の敵      
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


901 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:00:34 2Zzn9A.Y0
 ◆

 ZONE8――『鋼衣を纏う天使』

【? どうされましたか、マスター】

 一瞬ではあるが、己のマスターの表情に、怒りの色が混じったのを見て、セイバーとして召喚されたのサーヴァント、『フローレンス・ナイチンゲール』は念話でそう語りかけた。

【いや、その、なんつーんスかね、セイバーさん……。俺の髪型が馬鹿にされたような……】

【私の耳にはそれらしい声は聞こえませんでしたが……もしや、ストレスが高じてとうとう幻聴まで……? だとしたら、本格的な処置を取らねば――】

【いえ、全然良いッス!! 遠慮しときます!! 多分鼓膜の調子がおかしかったんだと思うんだよなぁ〜〜〜、俺のクレイジー・Dで治せると思うんスよね】

 【……貴方の能力は自分には及ばないと以前聞きましたが】、とナイチンゲールが小言を呟いていたが、無視する事にする。
クリミアの天使、ランプの貴婦人、小陸軍省と、生前様々な誉れ高い呼び名を賜り、それに違わぬ人間性と聖性の持ち主である事は、彼自身良く解っている。
解っているが、断言出来る事が一つある。この女性の処置は確かな物かも知れないが、『ヤバい』ものであると。
確かな技術と理論に裏打ちされた、確かな治療であるのだろう。だが、この女性はこと医術・医療・衛生状況の事になると、その性格が普段に輪を掛けて苛烈になる。
男達が理想とする白衣の天使、それを完璧な条件で満たす程容姿のレベルが高いナイチンゲールだが、この女性の性格を考えると、『東方仗助』は、彼女自身の治療を受けるのはかなり恐ろしい。クレイジー・Dの能力が自分にも使えたらと、改めて悔やんだ瞬間だった。

 『昨日の事件』が起こったと言えど、此処穂群原学園の授業は恙なく行われる。
行われはするが、やはり浮足立っている感は否めない。生徒は勿論、教師達でも、この街を包んでいる不穏な空気を感じ取っているようだ。
杜王町に長い期間、暗い翳を落していた吉良吉彰ですら、その犯行は表立ったものではなく、
注意深く警察白書等のデータを眺めていなければ気付かない程の水面下で行われ続けていたものだった。この冬木で昨日起こされた事件は、違う。
誰の目から見ても明らかで、目立つ形。それでいて、聖杯戦争の参加者は元より、それとは全く縁も縁もない日常に生きる人物ですら、異常だと理解出来る形で。
昨日アレは引き起こされた。言ってしまえば昨日の事件とは、聖杯戦争の始まりを、アンオフィシャルな形で告げる鐘の音であり――。
冬木の日常の崩壊を意味する、最初の一撃なのである。

【……何だか、腹立って来ますね】

 校内から校庭へと出、空を見上げる仗助。
良い天気だった。鳥はさえずり、緑は萌え初め、冬服など当の昔に箪笥の奥かクローゼットに、と言う程に暖かい。あんな事件があったとは、思えぬ程だ。
常ならば世間はもう、GWに浮かれ気味で、何処にレジャーと洒落こもうかとか、休日をどうやって過ごそうかだとかの計画の話で持ちきりの筈なのだ。
そんな浮ついた話が、めっきり減ってしまった。あんな事があれば、そうもなろう。あの事件は、何十人もの死者を出したのみならず、それに数千倍する人間の未来をも、刈り取ってしまったに等しいのだ。

【何人、死んだんですかね。あの事件で】

【人のいない時に起こった事件ですからね、想定しうる最悪の事態は防げたでしょう。尤も、それでも何十人は死んだものかと思われますが】

【……偶然、俺とかが居合わせてりゃ、全員救えた、ってのもあったんすかね?】

【それは、無理でしょう】

 即答だった。紡がれた言葉の意思の固さは、石を通り越して最早鋼のそれだった。

【そうなのかな〜。でも、サーヴァントやらがうろついてる所だし、治療は難しいし、セイバーさんの言う通りかも――】

【そして恐らく、私にも無理だったでしょう】

 それは、あのナイチンゲールの言葉とは思えぬ程の、柳腰の様な言葉だった。
何をしてでも、患者を救う。完治させる。最早治療が不可能な患部があれば、それが例え腕や四肢などの、今後の生活にも影響がある程の部位だろうと切り落とす。
それ程までの烈しい精神性と、患者の救命を優先する、鉄の女の口から飛び出して来た言葉が、全員を救うと言う事は、無理だと言う言葉。
思わず、念話で会話すると言う鉄則を忘れて、「えっ?」と仗助が頓狂な言葉を口にしてしまうのも、責められた事柄ではなかったろう。

【……戦場とは、正しくこの世の地獄です。こんな陳腐で、手垢の付いた表現が、何処までも符合する世界。それが、戦場です】

 白衣の天使は、言葉を続ける。


902 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:02:46 2Zzn9A.Y0
【高山病、と言う病気をご存知ですか? 酸素の薄い場所で掛かりやすい病気……つまりは、高地で発生しやすい為、そう呼ばれています】

【そう、なんスか】

【これらの病気は通常、例え罹患しても地上であれば、初動が早かったり医療設備が充実していれば、いつでも治せる手立てがあります。ですが、高山で掛かった場合は、そうも行きません。何故ならば――高度数千mの世界でこれらの病気にかかっても、治す道具も設備もない。罹ってしまえば、死を待ってあげるか、見棄てるかが、他の登山者達が取れる手段なのだそうです。戦場と似てると……嘗ては思ったものです】

【ぐ、グレートな環境……いや、病気っすね】

【戦場が地獄であるのならば、その戦場に生への喜びと言う光を照らす救命を行うと言う事は、何なのか。地獄なのです、救う側もまた】

 再び、言葉が紡がれた。

【オキシドールがあれば治るような軽傷を負っても、戦場の只中で物資がない為治療すら出来ずに、その傷が元で死んだ兵士は何百人といました。都市ならばすぐに治る下痢ですらも、不衛生な戦場で罹患してしまえば死神の接近を許してしまう恐るべき病に早変わりします。そして何よりも恐ろしいのは……、私達のが見ていない所で、この程度の事態は当たり前のように起こってしまうと言う事】

【セイバーさん……】

【『私が認知していない所で苦しむ患者は、救えない』。当然の理屈です、言葉で説明するまでもない。ですが私は、それが堪らなく悔しかった。私が患者を救っている間に、私の与り知らぬ所で、戦場と言う地獄で病の苦しみを抱いて死んでしまう者達が、大勢いた。それを認識する度に、自身の無力を嘆いた数も一度や二度ではありません】

 気付いたら、深山町の商店街であった。
流石に商店街である以上は、買い物であったり商品の仕入れであったりなどの目的で、人の行き交いがある方であるが、それでも、明日がGWだと言う事を考えた場合、
人の通りがやや少ない。買い物客が、あの事件の影響で減ってしまったせいであろう。

【戦場での治療は地獄の具現。英霊としての身を得、宝具を得た私でも、サーヴァントの起こした戦場ともなれば、全てを救う事は困難かも知れない。ですがそれでも、そんな世界で命を取りこぼさない為に、心に構えておくべき思いが、一つあります】

【それは?】

【無理と解っていても、全員救うのだと狂信する事です】

【結局、全員救うんすか?】

【自分に出来る事を正確に把握し、その範囲内で助けられる命を救う。それは、立派な事だと称賛されるべきでしょう。ですが、全員を救うのだ、と言う心持ちで行う医療や治療は、自分の救える範囲内の命以上の命を助けられる可能性がある。可能性がゼロではないのなら、私はそれに賭けるだけです。一つでも多くの命を救う事が、私の本分ですから】

【出来ない事でも、やって見る……スか】

 ナイチンゲールにそう言われ、思い出したのは、尊敬する男である空条承太郎と出会って間もない頃に起こった、悲しい事件。
祖父である東方良平との、余りにも突然の別れの事だった。本当を言えば、良平は、仗助が傷を治す前に死んだのだと、心の何処かで思っていたのかも知れない。
思っていたかも知れないが、それでも、仗助はクレイジー・Dで傷を治し……結局、戻ったのは傷だけだった。
良平の浮かべていた顔からは死相が消える事もなく、その口が息吹を紡ぐ事もなく、その心臓が脈打つ事もなく。綺麗な死体に、戻っただけ。
あの時の無念は、永久に忘れない。何時までも胸の奥にしまっておくに足る程、仗助の心を根底から変えてしまった出来事だった。

【死者って、蘇らないんですかね? セイバーさん】

【そんな技術があるのならば、どれ程素晴らしい事でしょうか。ですが、それは無理です。生命が終わったものは、もう戻らない】

 ――生命が終わったものは、もう戻らない――
奇しくも、ナイチンゲールは、承太郎と同じ事を口にした。ナイチンゲールから見ても――仗助にとってはファンタジーの世界の住民としてか見えない、
英霊から見ても、死者の蘇生とは、不可能事であるらしかった。聖杯にでも願えば別なのだろうが……。

【恐らくですが、マスター。貴方はきっと過去に、クレイジー・Dと言う素晴らしい力を得てもなお、救えなかった命と言うものがあるのでしょう】

【……はい】

【貴方の持つスタンドを以前素晴らしいと言ったのは、どんな傷をも治すと言う力だけを見て出た言葉ではありません。それ以上に、貴方のスタンドが……貴方自身が『優しい』と言う確信があったからこそ、私は素晴らしいと言ったのです。治す、と言う事は『直す』と言う事。これを利用すれば、治す能力が殺す能力にもなり得るでしょう】


903 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:03:50 2Zzn9A.Y0
 覚えが、あり過ぎた。と言うのも、杜王町ではそう言う使い方をして、下して来たスタンド使いが相当数いたからである。
相手の方に圧倒的に非があるケースが全てであったとは言え、生きたまま岩にされたり本にされたりと言うのは、今思っても、凄まじい責苦だなと、仗助は思わないでもなかった。

【こと、相手を直すと言う事に掛けては、私以上に貴方は適役かも知れません。ですが貴方は、自分の能力の限界を知ってなお、私に死人は蘇るのかと聞きました。それは、優しくなければ出て来ない言葉です。だからこそ私は、貴方をマスターとして認めているのです】

【そう、か……そうスか……】

 仗助は押し黙る。そして、数秒程の沈黙の後、仗助は、ゆっくりと、重苦しい鉄扉でも開けるかのように、その口を開かせた。

【アンタの言葉を聞いて、俺は再度、腹括らせて貰いました。やっぱり、聖杯って奴はタチの悪い腫瘍みてーだ。だったら、とっとと切除なりなんなりして、処分してやんねーとな】

【聖杯を腫瘍、聖杯によって引き起こされる聖杯戦争を病と例えますか。ですが、言い得て妙です。腫瘍は切除され、病は、治されなくてはなりません】

 何処の蜘蛛が、こんな胸糞悪い巣を張り始めたのか、仗助には解らない。
解らないが、此処は昔の杜王町と同じだ。たった一人、或いは数人の誰かのせいで、数百、数千、いや、一万人にも上る人間が不幸になろうとしている。
四歳の頃の冬、酷い高熱に魘されていた仗助を乗せた車。其処に現れた一人の男。彼は、雪に囚われ動けなくなった後輪に学生服を敷き、車を必死に押して仗助の命を繋いだ。
その姿は仗助にとっては無償の奉仕に見えたし、幼い仗助にとってヒーローとは何か、と思わせるに十分過ぎる程の威力があった。
三十五年間ヒラの警官として過ごしながらも、生まれた街を愛し、街の治安を守っていた祖父。普段はふざけて愛嬌のある人だったが、街を護る時の目は、本物だった。
自分と同じスタンド使いに無惨に殺され、自分の迂闊さで祖父を死なせてしまった時、仗助は、祖父である良平の代わりに、街と家族を守ると強く誓った。

 此処は自分の知らぬ街。だから聖杯戦争は、知らないし関係ない。
そうと振る舞う事も出来たであろうが、それをやっては、余りにも、仗助の中のヒーローである学ランの男や、祖父である良平。
そして、自分達と一緒に街を守って来た億泰や康一、承太郎や露伴達に、余りにも申し訳が立たない。
彼らに対して顔向けしたいから、と言う思いもゼロではない。だがそれ以上に――仗助の胸の内で輝く、黄金色の光が、聖杯戦争に乗る事、無視する事を、許してくれなかった。

【聖杯は破壊しますよ、セイバーさん。クレイジー・Dの力を使っても、修復不可能な位、ぶっ壊しましょう。それが、他の人の為になるって、俺、自己満でも良いから思ってるんで】

【……やはり、貴方は優しい人ですね。聖杯で大切な人を蘇らせる事も願わず、この街の平和を守ろうとするだなんて】

【優しい、ね〜……。昔、俺の能力に対してそんな事を言った人がいましたね】

【どんな、方でしたか?】

【俺の年上の甥ですよ。もうすぐ三十路とは思えねー位若々しくて、ガタイも良くて、頭も良くて……】

【良くて……?】

【特に思い出のなかった筈の俺の杜王町を、善意で守ってくれた、ある種のヒーローっすよ。俺の尊敬する人の一人です】

【それはまるで……今の貴方みたいじゃないですか? マスター】

【……ハハッ!! 言われてみれば確かにそうですね、血は、争えないって言うんですかね。こう言うの】

 この街で、自分がやろうとしている事を見ていてくれる、元の世界の知人は誰一人としていないが。
それでも、やらねばならない。仗助の『仗』の字とは、元来は刀や戟を意味する言葉であったと言う。彼は、聖杯戦争を破壊し、人々を守る戟になろうと今誓った。
そう思いながら歩く道すがら、若い姿をした婦警に、こっぴどく叱られている女性を見た。こんな形でも、聖杯戦争による街の治安の悪化は可視化されるのか、と、仗助もナイチンゲールも思ったのであった。


904 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:05:07 2Zzn9A.Y0
                 信念との婚約者                                     
    ジュデッカ            不壊の盾               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                      監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン              最終戦争                   総ての乙女の敵      
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


905 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:06:30 2Zzn9A.Y0
 ◆

 ZONE9――『信念との婚約者』

「だァァァからァァァ〜〜〜〜〜、あたしは無罪だって言ってんでしょ〜〜〜〜〜? セルフ・ディフェンスよセルフ・ディフェンス!! あたしの潔癖証明出来る人いる筈よ!!」

「過剰防衛にも程があるのよバカッ!!」

 歩道のほぼど真ん中で、国家権力と言う概念の最たる組織である、警察組織。
その制服に身を包んだ女性と、後ろ髪を三つ編みにしたお団子頭の女性が、噛みつかんばかりの勢いで喧嘩していた。
よくも、一目で警察の人間と解る人物と此処までエキサイトした喧嘩が出来るものだと、往来の人物達は驚き呆れた様子で眺めていた。
ただ一方で、野次馬の数がやけに少ない。それはまるで、この程度の事は……と言うよりは、この二人の喧嘩は、いつも通りの光景だ、と言わんばかりで。

「アナタの言う潔癖を証明出来る人だけどね、みんな証言してるの!! アナタが暴漢の顔の形が変わるまで殴ったり、見てて可哀相になる位胴体を容赦なく蹴り飛ばしたり、股間を殴り飛ばした時の事!! 骨が折れたり陥没する程殴る馬鹿があるか、訴えられたら逆に負けるわよ!!」

「ッハァ〜〜〜〜!? アンタ、あたしに喰ってかかった奴らの姿形とか見なかったワケ!? あんなのに迫られたら、力の加減何て出来るワケないでしょ!!」

「黙んなさい!! 全く、昔からその性格変わらないわね、『空条徐倫』!! 男顔負けの暴力を振るうその性分、二十歳になるまでには直しときなさい。じゃないと、ほんとに火傷するわよ」

「あ〜……歳食っちゃうと若い娘が襲われた、って言う、同情買える状況が成り立たなくなるからね。って事は、後一年位は暴力奮い放題ってコト?」

「徐倫!!」

 悪戯娘を通り越して邪悪な悪人そのものの発想に、思わず婦警は叫ぶ。
今日こそは、署でたっぷり絞られて貰おうと、素早く手を動かし、彼女を拉致しようと試みる婦警。
容姿こそ、柔らかなラインが女性的で愛くるしいが、流石に婦警。空手や柔道など、一通りの武道の有段者だ。うおっ、と思い、徐倫が慌てて手を引こうとした、その時だった。

「――ぜひ」

 突如として婦警の口から飛び出た、変な調子の咳。胸を抑え、本当に一瞬苦しそうな表情をし、動きが静止。これが原因で、徐倫の逃走を許してしまった。 
これ幸いと言わんばかりに、徐倫は後ろに飛び退き、婦警から距離を取る。「あ、しまった……!!」と、口にし、婦警は動こうとするも、ぜひ、と言う咳が止まらない。

「じゃね、『早苗』!! アンタももうすぐ三十路とは言え、まだ二十八なんだろ? 早いとこ結婚して、サツみてーな損な仕事辞めちまいな!! それと、季節の変わり目は体調崩しやすいし、体調管理しっかりやるように!!」

 そこで、ニカッ、と笑みを投げ掛け、徐倫はそのまま早苗、と言う名前の警官に背を向け、遁走。
「ちょっ、こらっ……待ちなさい――待て!!」、と後方から叫ぶ声が聞こえて来るが、知った事ではない。警察に捕まると、本当に碌な事がない。
徐倫は警察が……と言うより、国家権力の全般が嫌いであった。無理もなかろう、余りにも理不尽かつ、身勝手で、邪悪な思惑で、あの酷い刑務所に入れられたと言う過去があれば。権力の犬を嫌いになるのも、当然の成り行きと言う物であった。

 漸く、早苗と言う婦警を撒く事に成功した徐倫。
あの女性はあれでなかなか、身体能力が馬鹿に出来ない。素手での喧嘩だった場合、本気で徐倫は負けかねないのだ。
……スタンドを使えば話は別だが、流石に一般の人間、しかも徐倫としてもそれ程否定的な印象を抱いていない相手に、ストーン・フリーを使うのは論外である。
だから結局、こうして逃げるしかない。それに、あの女性には、なるべく自分と一緒にいて欲しくなかったと、徐倫は思っている。
だって――空条徐倫と言う女性は、ただの暴力的な一般市民では最早なく。聖杯戦争と言う一つの戦いに組み込まれた、暴力装置の一つなのであるから。


906 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:10:16 2Zzn9A.Y0
【全く……貴女のお転婆ぶりには驚くよりも呆れるわね。ドレイクじゃなくて、私が呼ばれた事の方が不思議な程だわ】

 頭の中に響くのは、女性の声だった。
ただの女の声ではない。その声には、声でありながら光り輝く様な視覚性があり、薔薇や百合に似た心地よい香気を芳せる、美しい声だった。
山の湧水よりもなお透明で、冬の室内で燃え上がる暖炉のように人の身体と心とを包み込む、優しい声音。
およそ、女に生まれた事が惜しいとすら思える程激しい気性の持ち主である徐倫とは、何から何まで正反対の声と気風だった。
徐倫は今をしても、彼女が自分のサーヴァントだと言う事が、不思議でしょうがないのである。

【貴女の心に宿る、金色の正義が、あの悪漢達を許せなかった、と言う心持ちは理解出来ます。ですが、やり過ぎはなりません。人は、叩き過ぎ、縛り過ぎると、次への怒りを溜めるもの。程々に武を示しつつ、こちらの意図を解らせる事が、理想なのですよ? ジョリーン】

【アー、はい。気を付けます、セイバー女王様】

 生返事極まりない徐倫の言葉に、全く、と、彼女の召喚したセイバーたる、『エリザベス1世』が苦言を呈する。
見た目と性格通り、空条徐倫は我が強い。いや、我が強くならざるを得なかったのだろう。この、石造りの海からいつだって、星を見上げ、そして、掴もうとした女は。

 片桐早苗と言う婦警に叱られた理由は、何て事はない。
徐倫が、モヒカンに髪型を整えた、イヤに体格の良い男三人を、早苗の言う通り、骨が折れたり睾丸が片方破裂する程の勢いで殴ったり蹴ったりしまくったからだった。
勿論、ただガラの悪そうな男達が三人並んで歩いていただけで、暴行を振う程徐倫は血の気が多いアウトローじゃない。
明らかに、男慣れもしてなさそうな、線が細くて大人しそうな女性にしつこく突っかかり、『テイクアウト』のワンチャンを狙おうとしている性根が透けて見えたから。
無性に腹が立ち、少し注意をしたら、それが元で大揉め。その隙に大人しそうな女性が逃げ出し、男三人の怒りの矛先がこっちに向かって来た。
但し、そのコンタクト方法は、大人しい女性にして見せた様な下手くそなナンパではなく、やけに勢いよく拳や脚を振り回す、と言う手段でだったが。
当然、そこまでされて大人しくしている徐倫ではない。エリザベスの宝具によって向上された身体能力でモヒカン達を一方的にサンドバッグにしてしまった、と言う訳だ。
しかし、実を言うと徐倫自体も此処まで痛めつける気は更々なく、予想以上にエリザベスの宝具である『騎士は栄光を手に駆ける(ナイト・オブ・オーダー)』による身体能力の向上が強すぎてしまい、加減し損ねた、と言うのが真相であった。

 その後の顛末は、先程の通り。
大分前からの腐れ縁――と言う設定に冬木ではなっている――であった片桐早苗に大喧嘩の模様を見つけられ、手ひどく叱られたさっきのシーンに至ると言う訳だ。
大通りでモヒカンと徐倫は喧嘩していた為、事を見ていた目撃者は多かった。女と男、況してや男の方が明らかに力強そうな姿だった、と言う事実を鑑みた場合だ。
徐倫の『正当防衛』と言う主張の方に軍配が上がろうかと言う物だが、余りにも彼女の暴行ぶりが凄まじかった為に、聴衆達ですら『過剰防衛』の四文字が頭を過った程である。

【ジョリーン。星は、誰の頭の上でも平等に輝きます。暗い夜の海を遊弋する船乗りの上にも。泥の敷き詰められた牢の中で蹲る囚人の上にも】

【……】

【だけど、美しい心と、優しい心の持ち主にしか、星はその眩く綺麗な輝きを見せてくれないものですよ。無軌道な圧力は控え、女性なら優しく、気高く、堂々としていなさい。その方が、貴女の御父上も喜ぶ筈ですよ】

【優しく……気高く、堂々と、ね】 

 徐倫は、この冬木に来てから父親である空条承太郎の事を思わぬ日はなかった。
子供を子供とも思わぬ、最低の父親。母親ですら蔑ろにする、不器用で、どうして父を目指そうとしたのかすら理解出来ない男。
それが、空条徐倫と言う女性にとっての空条承太郎であったのだ。……プッチのホワイトスネイクによってDISCを引き抜かれ、植物人間同然の状態に彼がされるまでは。
あの時、自分に思いの丈を告げた時の父親は、徐倫が求めた父性の体現そのものだった。厳しくはあるが、優しく、気高く、そして、堂々として。
其処に徐倫は、星を見たのだ。嘗て空に輝いていた星が、地に堕ち光を失い。その最後に、地上で星としての輝きを取り戻したのを、彼女は確かに見た。


907 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:11:52 2Zzn9A.Y0
【セイバー、さ。一つ聞きたいんだけ、あたし】

【はい、何でしょう?】

【人は、星だと思う?】

【えぇ】

 エリザベスは、一切の迷いもなく、即答を以って徐倫の心意気に応えた。

【私には、故国ブリテンの全ての民が、星に見えましたから。民の誰もが、それぞれの輝きを持つ綺羅星達。善もあった。悪もあった。ですが、一つの例外もなく星は瞬いていた。だからこそ私は、人と言う名の星が輝くブリテンと……人と言う名の星が宿す意思と、添い遂げようと決めたのですから】

【……そっか】

 ふぅ、と息を軽く吐く徐倫。
言葉が出ない。いや、言葉を探していた。次に出す言葉を、どう表現するべきなのか。徐倫には上手く、即座に思い描けない。
結局彼女が、エリザベスに伝えるべき言葉を思い描けたのは、息を吐いてから二十秒も経ってからの事だった。

【大切な星をさ……二つも失っちゃったからさ。こんな、自由を演出しただけの箱庭(檻)に、いつまでも燻ってやる訳にはいかないんだ】

 知性の尊さを愛していた、プランクトンでその身を構成していた、女囚仲間はもういない。
共に苦難を乗り越え、時に自分を助けてくれていた、不器用でありながらも優しかった男も、安らかに、眠るように逝った。
徐倫が、もっと一緒に時を過ごしていたい、もっと間近でその輝きを見ていたいと思っていた星は、もう二つもその光を閉ざされてしまった。
彼らとの思い出は、自分の物である。楽しかった思い出も、辛かった思い出も……そして、離別した過去ですらが、自分だけのものなのだと徐倫は思っている。
万能の願望器たる聖杯を求めて、さぁ殺しあえ、潰しあえ。ふざけるな、徐倫は憤る。そんな下らない事の為に、聖なる杯を使うな。
願いが叶う杯を求めて、何処ぞの世界から人を集め、疑心暗鬼の状況を作り上げ殺し合わせる。此処は、檻の中より酷い地獄ではないか。
冬木の街は、石造りの海ですらない。血のこびり付いた鋼で出来た、ミニアチュアの箱庭であった。

【……あたしはとっとと、こんなふざけた舞台を拵えた親グモをぶん殴って、一発気持ち良くなってから、元の世界に戻るよ。この世界に、あたしの求める星はない。聖杯は、女王様が使えば良い】

【えぇ、貴女の心意気、しっかりと受け取りましたよ、ジョリーン。嘗てサー・パーシヴァルやサー・ギャラハッド、サー・ボールス達が追い求めた聖杯。私がしっかりと、管理致します】

 パシッ、と、掌に右拳を打ちつけながら、徐倫は今まで隠れていた裏路地から、頃合いを見計らったかのように、人の通りの少ない通りの方へと歩き出て。 
傍に早苗はいない。このまま家に帰ろうかと、歩を進めようとしたその時だった。

「あ、あの……っ」

 聞き覚えのない声が、明らかに自分を呼び止めている事が解る。何故なら通りには今の所、徐倫と霊体化したエリザベスしかいないのであるから。
声の方角に目線だけを送る徐倫。何故、今更になって此処にやって来たのだと、徐倫は溜息を吐きそうになった。
其処には、先程三人のモヒカンにちょっかいを掛けられていた、眼鏡をかけた大人しそうな女性が佇んでいたからだ。


908 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:12:51 2Zzn9A.Y0
.                                                             
    ジュデッカ            不壊の盾               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                      監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン              最終戦争                   総ての乙女の敵      
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


909 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:13:49 2Zzn9A.Y0
 ◆

 ZONE10――『不壊の盾』

「あ、あの……さっきは逃げてしまいまして、申し訳ございませんっ」

 勢いよく上体を折り曲げ、誠意を見せる女性。そしてそれを、やれやれとでも言うような目線で見る、先程彼女を救ってくれた女性。
どうやら、怒りの感情を抱いているようではなかった。寧ろ、出来の悪い生徒や子供に対し、これからどう説明するか悩んでいる教師の様な面持と態度で、女性は口を開いた。

「あぁ〜っとさ……まぁ、逃げた事は良いよ、それ程は怒っちゃあいない。だけどさ、何で逃げたのかな。アンタが逃げたせいで、あたしはお節介な警官に、危うくカス一つ残らず搾り取られる所だったワケよ」

「それは、その……ご、ごめんなさい!! 私、ああ言ったトラブルに、その……慣れて、いなくて……つい」

「それは、見りゃ解るよ。アンタ、見るからにあの手のコト苦手そうだもん」

 意識した事は欠片もなかったが、如何やら自分――『マシュ・キリエライト』は、思った以上に弱々しい姿に見えるそうだった。
人となりは勿論、マシュの名前すら知らない、見るからに意思の強そうな女性からですら、その本質を看破されてしまう程には、解りやすいらしいと、マシュは再認した。

「ここんところ物騒だしさ。知ってるでしょ? 『昨日の事件』。アンタ見た所スッゲー大人しそうで、あの手の悪い男の餌食になりやすそうだからよ、もうちょっとシャンとして、気をしっかり持ちな。悪い事してねーのに、おどおどする必要何てないんだからさ」

「は、はい!! ありがとうございます!!」

 「いいって、いいって」、と、マシュに背を向け後ろ手に手を振りながら、彼女を救ってくれた女性は去って行った。
気の強そうで、怖そうな外見の人物だと当初はマシュも思ったが、自分を助けてくれたと言う事実と、マシュとの接し方を鑑みるに、根っこの部分は善良な人物だったらしい。
それだけに、胸元をチクリと刺激するような罪悪感が、マシュの心の中に芽生える。やはり、あの場で逃げてしまったのは失敗だったのではないかと。

 あの女性と、マシュにちょっかいを掛けて来た男達三人が喧嘩を始めたのを見て、距離を取ってしまったのは事実だ。
そしてそれは、傍目から見れば逃走を選んだと見られるのも仕方のない事だと言うのは、マシュとしても重々承知している。
しかし、その人生の殆どを高度数千mの山に建てられた、閉塞的な世界で過ごして来たマシュにとって外の世界とは正に、
別の惑星の別の文明圏と言っても過言ではない程の未知の世界。そこで突発的にトラブルに巻き込まれたとなれば、頭で何をすべきか解っていても、混乱して逃げてしまうのも、仕方のない事であった。

 外の世界の常識には未だ慣れないマシュであったが、この場合何をするべきかは理解していた。
急いで、自分が持っていたスマートフォンと言う端末で、警察を呼ぶ。聖杯戦争のサーヴァント同士の争いには露程も役に立たないとは、
マシュの従えているサーヴァントからは言われているが、聖杯戦争に無関係の人物同士の喧嘩ならば効力を発揮する。そう思い、警察に連絡をしようとした、その時だった。
マシュ二〜三人分以上の筋量があると言われても即座に信じてしまいかねない程の、威圧的な大男達を、あの女性はいとも簡単に一蹴してしまったのだ。
当初は凄いとマシュも思ったが、すぐに、世故に疎いマシュにですらやり過ぎと思ってしまう程に暴力を振るっていたが。
何れにせよ、自分よりも遥かに恵まれた体格の男三人を、いとも簡単に倒して退けた、その姿に、圧倒されてしまった。
流石に殴り過ぎたせいか、駆け付けた警官に酷く怒られてしまっていたのをマシュは見たし、警官から女性が逃走したのも見た。
見たからこそ、マシュは急いだ。お礼の一つを言う為に、世間も世界も全く知らない少女は、自分を助けてくれた女性の下へと駆けたのだ。
冬木の地理に未だに慣れぬマシュではあったが、それでも駆けずり回っていれば見つかるもの。何とかマシュは、数分の時間と引きかえに、恩人に出会えた。そこから、最初の会話に至る、と言う訳であった。


910 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:15:37 2Zzn9A.Y0
「何とか、お礼は言えましたね……」

 ふぅ、と一息ついた途端、ドッと疲れと汗が噴き出て来た。
走っている最中はそうでもなかったが、走るのを止めた瞬間、身体が熱を帯び、毛穴から汗が滲み出てくる。
元より、マシュは運動がそれ程特異ではない。遅れて、疲労の蓄積を認識したのは、まさにこの瞬間の事であった。

【律儀ですね、マスター。勿論、感謝の意を示す事は大事な事ですが、まさか探しに行くとは思いませんでしたよ】

 マシュの頭の中に響く、念話の声。心なしか、その声音はやや自分に似ていると。マシュはその声を聞く度に思ってしまう。
似ているのは声だけではない。今は霊体化している為余人には判別出来ないが、その姿や顔立ちですら、マシュと瓜二つ。
『ウィラーフ』……ベオウルフの伝説において、英雄ベオウルフが生涯の最期に戦った恐るべき火竜との戦いで、最後まで逃げる事無くベオウルフと戦い抜き、そして生き残った盾の英雄。それが、マシュの引き当てたサーヴァントなのだった。

【お礼を言えないまま、最後の出会いになる……って言うのは、少し、嫌だなって思いましたから】

 マシュを助けた女性を急いで探したのには、もう一つの理由があった。
あの女性がマシュを助けた時、マシュは、炎の海に包まれた、宛らインフェルノの様相を示すカルデアの管制室と、瓦礫に下半身を潰された自分の事を思い出したのだ。
マシュ・キリエライトの運命は、本来ならばあそこで終わっていた筈なのだ。自分が生まれたその日に、彼女の命運は尽きる筈だったのだ。
見棄てる、逃げる、と言う選択肢を選ばず、自分を助けようとした青年がいた事を、今も彼女は思い出す。
巻き添えを喰って死にかねないのに、本当は彼だって怖かった筈なのに。死ぬのを覚悟で、湧き出てくる恐怖を勇気と言う麻酔で忘れて。
自分に手を伸ばしてくれた、あの青年の姿が、マシュの瞼に焼き付いて離れない。

 生まれて初めて目の当たりにした、キラキラとした輝く宝物。
生まれて初めて自分の心から素晴らしいと思うに足る、美しい贈り物。
それを見せてくれた『彼』に、マシュは未だお礼を言えていない。お礼を言う前に、冬木に飛ばされてしまったからだ。

 ひょっとしたら、この世界に彼……先輩はいないのではないかと、マシュは思っている。
一方的に助けられ、お礼の一つも言えないまま、志半ばで戦死する可能性すらあるのではないかと、マシュは思っている。
生まれて初めて、一つの物事への忌避感と、自分でも驚くばかりの生への希求感が湧いてくるのを彼女は感じていた。
生きたい。生きて生きて生きて、もう一度巡り会いたい。わがままだと思われても良い、もう一度奇跡が起きてくれるのを、マシュは祈った。
いや、一度だけではない。二度でも三度でも、四度だって奇跡が起きる事を心の底から願った。

【シールダーさん】

【はい、マスター】

【……奇跡は、どのようにしたら起きてくれるのでしょう】

 馬鹿な問だと思っている。
自分で起こせる奇跡など、奇跡ではないだろう。偶然起きるから奇跡なのだ。必然的に起きる奇跡とは、予定調和かご都合主義と言うのだ。
そうと知ってもなお、マシュは問わざるを得ない。あの、天文学的な確立に等しい奇跡を、また再現させるには、どのようにしたら良いのかを。

【マスターは賢い人ですから、奇跡は自分で起こせるものではない、と言う事は承知しているでしょう】

【はい……そう、ですね】

 やはり、無理か。マシュは思う。ウィラーフの口ぶりは、厳格で、反論の一つも許さない程の強い意思があった。


911 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:16:26 2Zzn9A.Y0
 ――が。

【ですが――それでももし、奇跡が起きてくれるのを願うのならば……】

 その後に続いた言葉は、厳しいながらも、何処か、柔らかなものを感じさせる、不思議な声音であった。

【願うの、ならば……?】

【正しい事に、勇気を以って取り組む事です。そして、自分の心が折れそうになったら、強く祈り、それ以上に、諦めないんだと唱え続けて下さい。そうすれば……奇跡は、起きないから、『起きるかもしれない』になります】

【シールダー、さん】

 奇跡を起こす方法は、人の身に備わっていない。いや、高次の霊的存在であるところの、英霊にですらそんな方法はないのかもしれない。
だが、奇跡が起きるかも知れない方法は、あるのだとウィラーフは主張した。その声音に揺るぎはなく、疑惑を憶えている風もない。
本心から、このシールダーは信じているのだ。そう、何故ならば、ウィラーフはそう信じる事で、恐るべき巨竜をベオウルフと共に打ち倒せたのだから。
蜘蛛の糸よりなお細い、希望と呼ぶのも烏滸がましい些細な光の糸に縋る事で、歴史に……。そして、尊敬していた英雄に、己の勇を示せたのだから。

【心からのお礼を言いたい人を持つマスター、マシュ・キリエライト。私は、貴女がその思いに対し真摯であり続ける限り……如何なる邪龍、妖獣の一撃も……古今無双の英雄の渾身の攻勢も。全て、貴女から弾いて見せると約束しましょう】

【――はい、お願いします、シールダーさん!!】

 折れる訳には行かない。目的を見失う訳には行かない。
この特異点の解決も、カルデアへの帰還も。そして、『彼』に再開する事も。全てマシュは、貪欲に求めると誓った。
自分の心に灯った、一つの小さな明かりと熱。彼女はこれに勇気と言う名を与えながら、一歩歩き出した。
この冬木における、初めてとも言っても良い、自分の意思による小さくも大きな一歩。マシュ・キリエライトは今それを間違いなく刻んだのだった。

 ――そして、彼女は気付かないのだった。その一歩を歩き出したのを遠目から眺める、一人の少女の事を。
運命の歯車が噛み違っていれば、燃え盛る地獄で彼女に対して手を伸ばしていたかも知れない、その人物が彼女を見ていた事を。


912 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:22:13 2Zzn9A.Y0
     ュ                                     堕と                      
    ジ                塗られた               血     陽を             
                                                            
      デッカ           Dan of t献身he Se革者n Vils                ニ                          
       蓮   の   台                             ソル  
              の                                  す者                       
           流  来              クロス                  ゲル                          
                                                                       
          放               世                                              
         解 された 界          Fa者te/Bloody Zodiac ■の王■海底都市冬木          回             
                                            れた事にも、                           
                                  語                                      
                                 物     戦             帰の                
             イボリー         監 視       戦       ブ・           餓                   
           ア          ・     最メイデン終        グ             総て狼伝の     
                 死                      キン                  
      滅的終          不         ノ       の敵   ・オ                  白  乙女            
                         日      オーバー  赤       殺ら気付かない    破局    
               の罰          本斬殺        久遠の


913 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:23:10 2Zzn9A.Y0
「――今宵はここまで……あぁ、このセリフは、Fate/Grand Orderでつい最近口にするキャスターが現れたそうらしいね。〆の言葉としては気に入ってたんだけどね」

 諸々の文字の書かれた書き割りを、前脚による蹴りの一発で、男は破壊した。
ピエロや道化師が身に纏うような、ダボついたブカブカとした、滑稽かつユニーク、赤や黄色の明るい彩色が目立つ服装を纏ったその男は、
デフォルメされた蜘蛛の仮面を被り、その表情は勿論、心の内奥を窺わせない。しかし今だけは、露にされた口元がその心の内面を如実に表している。
何処となく、不機嫌そうに口を歪ませたその様子は、自分が口にする筈だった決めの台詞を、既に他人に使われていた、と言う事への不満感であったらしい。

「おっと、僕の姿が以前と……あぁいや、Wikiの方にはまだ掲載されてないんだっけ? 僕とマスターの馴れ初めのお話。ハッハ、Wikiの編集も他人任せか、大した観測者もいたもんだよ全く!!」

 そこで、蜘蛛の仮面を被った道化師は砕かれた書き割りの上を転がり、大笑いを隠しもしない。
何が面白いのか解らないが、如何やら彼には彼なりの笑いの琴線があり、それに何かが触れたらしい。問題は、何を以ってして笑いの琴線となり、何をしてその琴線に触れられるか、なのだが。

「さて、僕の姿が以前と違う理由はね、実を言うと、そこまで大した理由はないんだよ。この冬木での聖杯戦争のチケットを獲得した、ある人物。その人物が絡んでいる運命に登場する、優れたサーカスのピエロを真似ただけなんだ。僕は彼をリスペクトしている」

 クルクルと回りながら、己の纏う衣装や、被っている帽子を、此処にはいない誰か。
一人も彼の姿を観測していない、地下のアトリエで、男は一人の芝居を続けていた。

「そして僕は、『君達』に悲しいお知らせをしなくてはならないな。と言うより、僕としてもこの仕事は、『君達』の熱を冷ますようでやりたくないんだが……後が続いてないと言うのなら、どうしようもないな。退屈な時間に華を添えるのが、道化の仕事何だ。僕頑張るよ」

 「まぁ、そんな大した事じゃない」、仮面を抑え、道化は語る。

「OPの前半が終わったって、だけさ。ほら、聞こえてくる聞こえてくる。幾千幾万……盛り過ぎか。一つか二つくらいの落胆の声が」

 はぁ、と溜息を吐き、虚空に対して下を向けさせた親指を見せる男。

「と言う訳で、今回はここまでさ。続きはまた次回。一週間後か、二週間後か。兎に角、心待ちにして欲しい」

 では――と言って、どこからか用意したカーテンを、サッと閉めてみせる蜘蛛の男。
――そのカーテンには、一枚の紙が貼りつけられていた。『その間、ボクの情報を見せられる範囲で見せてあげよう』。そんな事が記された紙が。


914 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:30:02 2Zzn9A.Y0
【クラス】海底都市のアサシン
【真名】■■■■
【出典】西■■■■伝承、各種絵本、童話
【性別】男性
【身長・体重】188cm、67kg
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力:B 耐久:C 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:A++ 宝具:EX

【クラス別スキル】

気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【固有スキル】

■■■■■■■:EX
秩序にして混沌。賢者にして愚者。善にして、悪。神の法や自然秩序を無視し、世界を引っ掻き回す悪戯者。
このランクになると、2つまでなら、特定のサーヴァント独自のユニークスキルを除いた如何なるスキルであろうとも、Aランク相当での模倣がいつでも可能。
また、このスキルは極めて高ランクの叛骨の相を保有しているのと同じであり、アサシンのスキルランクの場合であると、
カリスマや皇帝特権等、権力関係のスキルを無効化し、逆に弾き返す。令呪についても具体的な命令であれ決定的な強制力になりえなくなる。
アサシンのトリックスタースキルは規格外かつ評価不能のそれであり、観測する人間や、その時々の状況で、己の姿形は愚か、
魂の本質や属性ですら意のままに変貌させられる。更にアサシンは、呼び出されたマスターの人格に応じて、『高ランク固有スキルを二つ習得する』。
今回のアサシンは、自身を呼び出したマスターの性格や本質によって、『策謀型』のそれに傾倒させられている。

文化英雄:A+
武ではなく智によって人類の生存に貢献した者の持つスキル。旱魃・疫病・虐殺などの効果を持つスキル・宝具に対するとき、有利な補正を得る。

神性:B
■■■■■■と■■■女神■■■・ヤとの間に生まれたアサシンは、本来は紛う事なき正統なる神の一柱であり、規格外の神霊適性を誇っていたが、
聖杯戦争に際しては、生来の魔獣・魔蜘蛛としての適性と、文化英雄的な側面を押し出しての召喚の為、神性スキルがランクダウンしている。

高速思考:A
物事の筋道を順序立てて追う思考の速度。アサシンの場合は機転の良さや、悪戯を考える速度、そして計画を練る為のスピードである。
特に、謎解きや策略・謀略において、アサシンの高速思考スキルは高い効果を発揮する。

蜘蛛糸の果て:A+++
構築した計画や策謀、それに人を同担・加担させられる力。ランクが高ければ高い程、人は、アサシンの練り上げた計画に無意識の内に加担して行く。
このランクになると、余程勘に優れたサーヴァントでもない限りは、アサシンの描いた計画に自分も加担している事に気付く事は不可能な他、
その計画を練り上げたアサシン自体の存在にも、彼自身がその存在を暴露しない限りは気付く事は不可能となる。トリックスターによって獲得された、一つ目のスキル。

邪知のカリスマ:A
通常のカリスマスキルと違い、このスキルは大軍団ではなく個人単位で人間を大きく引き付ける才覚を表す。言ってしまえば、人間的魅力、人を惹きつける力。
このランクになると『混沌』及び『悪』属性を持った存在に対して非情に強いカリスマを発揮させられるだけでなく、『秩序』や『善』属性を持った存在にさえ、
その魅力が作用、悪の道に引きずり込ませる事だって不可能ではない。トリックスターによって獲得された、二つ目のスキル。

【宝具】

『知恵の瓢箪(スパイダーズ・ポット)』
ランク:A 種別:対知宝具 レンジ:- 最大補足:-
アサシンが腰の辺りに巻き付けている、砂色の瓢箪。武器に使える物では勿論なく、中に液体が入っている訳でもない。
その正体は、アサシンと対峙した、或いはアサシンに近づいている存在の保有する記憶や知恵をコピー、複製させて、内部に溜め込んでおく不思議の瓢箪。
瓢箪の中に溜め込まれた知識を、アサシンは自由に閲覧する事が出来、これを利用して、相手の真名の把握や弱点、及び、どんなスキルと宝具を持っているのか、
と言う事を理解する事が可能。瓢箪の中に収められる記憶や知恵の総量は無限であり、自由にどんな知識も収容可能。
但し、アサシン以上の神性スキル及び、特殊な加護を内在したスキルや宝具を持っている相手には、情報に掠れが生じ、閲覧がやや困難になる。
また、溜めこんだ知恵を『放出』すると言う芸当も可能で、この場合、任意の相手に瓢箪の口部分を押し付け、解放させる事で、
相手の脳内に瓢箪内の全情報が炸裂。脳の処理速度を大幅に上回る情報の波濤で、ダメージを与える事が可能。溜めこんだ情報次第では、致命的な一撃になり得る。

『マーティ・ストゥーのいる所、山あり谷あり悲劇在り!!(■■■■■■■)』
ランク:EX 種別:対物語宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
――この宝具はアサシンによって改竄されています。座して待て


915 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:33:31 2Zzn9A.Y0
「……あぁ、僕の登場シーンはWikiには掲載されない。蛇足だし、このステータスシートって奴も、後で正規の奴に張り替えるからね」

 閉じたカーテンの間から、ひょっこりと顔を出してそう告げた後、蜘蛛のアサシンは頭を引っ込めた。
男が瞬きを終えたと同時に、カーテンも蜘蛛の男も、消えていなくなっていた。彼と彼女が何処にいるのか、未だ男にも解らないのであった。


916 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/08/19(土) 22:33:43 2Zzn9A.Y0
前半の投下を終了します


917 : 名無しさん :2017/08/19(土) 22:40:26 8szJyn2A0
お疲れ様です……!


918 : 名無しさん :2017/08/19(土) 22:46:06 qlUKV9iU0
お疲れ様です


919 : 名無しさん :2017/08/19(土) 23:47:00 mVpz.Jhs0
お忙しい中お疲れ様です
蜘蛛の人はてっきり豹の関係者かと思ったけど外れたか


920 : 名無しさん :2017/08/20(日) 10:30:20 0Xd9f1eE0
お疲れ様です
なんとアフリカ系


921 : 名無しさん :2017/08/20(日) 11:09:29 dK9ihvR20
投下乙です、前半では善玉が多いがさて


922 : 名無しさん :2017/08/20(日) 19:51:24 zSSgssE.0
ライダー、バーサーカー、バーサーカー、アーチャー、キャスター、
キャスター、セイバー、セイバー、シールダー
ランサーとアサシンが居ないな


923 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:01:28 3bIU43iM0
投下します(不意打ち上等兄貴)


924 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:02:18 3bIU43iM0
 ――カーテンが、左右に開かれた。

「最後の投下より二十と五日、開演に手間取りまして、まこと申し訳御座いません」

 開かれたカーテンの先に佇む、ダボダボとした道化服を身に纏う、蜘蛛のお面を被ったピエロが、深々と頭を下げた。
道化――観客を笑わせ、次の演目までの間を持たせるのが仕事の人間とは思えぬ程のかしこまった態度は、ともすればピエロ失格の烙印すら押されかねぬ物であった。

「今宵皆様方がお目にしますは、星座の輝きに導かれた者達が、聖杯を巡る戦いが始まるまでに過ごした最後の安寧の一時……その、中編に御座います」

 其処まで語るや、蜘蛛のお面を被ったピエロは、腰に巻き付けていた砂色の瓢箪を取り出し、その入り口を抑えていた栓を開封。
すると、如何なるイリュージョンか、彼の回りの空間に、幾つものスクリーンが投影され初めたではないか!!
そのスクリーンには、当該人物を真正面から撮影した顔写真が移っており、その顔写真目掛けて、優雅かつ、緩やかな仕草でピエロが指を差して行く。

「今まで皆様方が目にして来たのは、此処に映りたる十人の客人達。一人は、麗しい美少年の探偵達と煌めく暗黒の如き青春を送る少女」

 指差した先の顔写真、眼鏡をかけた少女に、まるでプライバシー保護の為とでも言いたげなように、
その写真の人物に目線でも掛けるが如く名前が表示され始めた。瞳島眉美、とある。

「音楽家に敗れ去った、騎士(ナイト)の端にも置けぬ屈折した性趣向の少年」

 同じように、次に指差した少年の目を覆うように、名前が表示された。岸辺颯太、と書かれていた。

「癇癪を起こした挙句に、失いたくなかった友を二度も失おうとしている菓子屋の娘」

 次に指差した先に、また同じように名前が、少女の顔写真の目の辺りを隠す。琴岡みかげ。

「客の入らぬ茶屋にて時を待つ、大人しい少女」

 香風智乃。

「運命、業、輪廻。神の領域に王手を掛けんとする、狂える天才」

 ディスティ・ノヴァ。

「見える物の真理を解き明かせる力を以って、冬木の不条理を解決しようとする冷たくも熱い男」

 デュフォー。

「……ああ。この男は君達もよーく知っているだろう。何せ、偉大なる『本家』の人なのだから」

 衛宮士郎。

「この町に、生まれ育った小さな田舎町の面影を感じ、自分が尊敬した甥がした事と同じように、町を守ろうと誓った男」

 東方仗助。

「己を絡め取る理不尽な運命の糸を燃やし尽さんと、受け継がれた黄金の意思を輝かせる、石造りの海より来る女」

 空条徐倫。

「自分を助けてくれた男へのお礼と、生まれて来た意味を果たそうとする為に、か弱いおみ足で一歩を踏み始めた少女」

 マシュ・キリエライト。

「今宵は、先の綺羅星の如き十名に追加される形で、また新たにその日常を追う事となるでしょう。では今しばらく――彼らの最後のモラトリアムを、コーラでも、お茶でも、飲みながらご覧下さいませ」

 其処まで言うと、蜘蛛のお面の男の空手に、ペットボトルに入った緑茶とコーラが握られ、それらのキャップが独りでに、ポンッ、と宙を舞った。

「どうぞ、人目に憚る事無く、品も何もかなぐり捨てて御飲み下さいませ。誰も、マナーを咎める者がおらぬからこそ」

 カーテンが、しまって行く。その最中に蜘蛛のピエロは、折角手元に呼び寄せたコーラと緑茶の飲み口を下に向け、それらを全部零して捨てていたのであった。


925 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:03:54 3bIU43iM0
 ◆
                                                             
    ジュデッカ                               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                      監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン              最終戦争                   総ての乙女の敵      
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤                                  
 ◆


926 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:05:08 3bIU43iM0
 ◆

 ZONE11――『最終戦争』

【どうしたよ、『ぐだ子』ちゃん】

【うーん……さっきの眼鏡の女の子……。何処かで見た事があるんだよなぁ……】

 それに加えて、自分に念話を飛ばして来たサーヴァント、『ロキ』に対し、『ぐだ子呼びは止めろ』と言いたくもなったが、
言って大人しく従う存在であれば彼女も苦労していない。頼むからマスター呼びして欲しいなぁ、と思いながらも、そっとその事は胸の奥にしまっておく。

【他人の空似、って奴じゃない? 此処、君が元居た世界で見た覚えのある存在が全く別の役割と人生を全うしてるんだろ?】

 ロキの言う通りである。
この冬木と呼ばれる街、ぐだ子が元々過ごしていた世界や環境で、彼女と接点の在った人物が多すぎるのだ。
日本にいた時の友人もいれば、カルデアに来てから見かけた覚えのある人物まで。近所や学校近く、商店街などで良く見受ける事が出来る。
ここまで自分と接点があった人物が多いと、最早偶然・運命と言う言葉では片付けられなくなる。では、どんな言葉を用いれば良いのか、と問われれば。
『作為』、と言う言葉で表現した方がこの場合適切なのだろう。それ以外に表す言葉がない程、ぐだ子の見知った人間がこの街には多かった。

 先程の眼鏡の少女にしても、ぐだ子は何処かで出会っていた、と言う確信はあった。
しかし、それが何処かは思い出せない。アジア人風の顔付きではない、欧風の顔立ちであった為、出会っていたとしたらカルデアだろう。
そうだとしても、どのタイミングであの少女を見たのだろうとぐだ子は自問する。思い出せないのは、やはり、記憶の障害の為か。
それとも、ほんの視界の端に映る程度位の時間しか、見ていなかった為か。どちらにしても、あの少女の素性は今のぐだ子には思い出せない。
数秒程悩んで見ても、やっぱり思い出せないので、悩んでいても仕方がないかと、頭を振って雑念を払い、思考を切り替える。
そして、あの少女に出会う前までロキと交わしていた会話に、再びぐだ子はレールを切り替えたのだ。

【それで、さ。アサシン。本当なの? さっきの話?】

【星座のカードに細工が仕掛けられてた、っての? ハッ、悪戯・小細工・破壊工作で鳴らしたボクが、あの程度の細工を見破れないとでも? 間違いなく、このカードは、ボクらサーヴァントの気配を消す役割を担っている】

 先程までロキと交わしていた会話とは、そう言う事だった。
『昨日の事件』についてどう思うか、と言うぐだ子の一言から会話は始まり、やはりあれはサーヴァントの手による物であり、アレだけの事件、
一組二組早速脱落したのではないかと言うロキの私見に耳を傾け、このまま自分達が無傷でやり過ごせれば良い、と言うぐだ子の一言から、ロキはこう言ったのだ。

 ――君としてはそれがベストなのかも知れないが、ボク達だけ平和、と言う時代もそろそろ終わりそうだよ――

 何とも意味深な言葉だった。
その言葉の真意を訊ねた所、ロキは言ったのだ。この冬木に於いて、『昨日の事件』のような出来事はもっと勃発していて良い筈なのに、
どうしてあの一件だけしか目立たなかったのか。その訳は、単純明快。『サーヴァントと出会う事自体が難しくなっているからだ』、と。
とは言え、サーヴァント自体は皆等しく、この冬木に召喚されている。問題は、サーヴァントが当たり前のように有している、
他サーヴァントの知覚機能が麻痺している事なのだそうだ。この不可解な現象のカラクリが、ぐだ子がこの世界に来るに至った、あの星座のカード。
このカードには極めて高度な仕掛けが施されているのだと言う。ロキですら、一時とは言え目を欺かれる程の高度な隠し機能だ。
彼――彼女と言うべきなのかぐだ子ですら今も迷っている――ですら一杯喰わされたその訳は、『この仕掛けには魔術的な措置が一切用いられてなかった』事にある。
つまり、この星座のカードに隠された秘密の機能、サーヴァントの気配を消失させるそれは、魔術ではなく『極めて高度な科学』によりて編まれた物であると言うのだ。
ただの魔術的な措置であれば、気付くキャスターも多い事だろう。だが、科学ともなれば、なまじそちらの方面に関する知識が疎いが為に、滅多な事では仕掛けに気付けない。
ロキがこの事に気付けたのは、彼が言った通り、彼自身の手先が器用である、と言う一点が大きいのである。


927 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:08:00 3bIU43iM0
【うーん、私としては、何でこの仕掛けが、私の平穏の終わりに繋がるのか解らないんだけど? 寧ろ、サーヴァント同士の衝突が防げる分、平和に貢献してると――】

【この仕掛けが、聖杯戦争を仕掛けた奴らの胸先三寸で解除出来ると言う前提で、もしも相手が聖杯戦争の運営に意欲的なら、いつまでも今の状態のまま放置する訳ないだろ】

【うっ……】

 それは、確かにそうだ。
ロキの言う通り、この星座のカードの仕掛けは現段階では明らかに聖杯戦争を仕組んだ者が仕掛けたものとして見るのが筋であるし、
であるのならば、彼らの意思次第で自由にその仕掛けを解除できる物と見て間違いない。遠隔操作で自由にON/OFFを切り替えられる事位は容易に想像が出来る。

 現状では聖杯戦争を運営する者達の真意は、そもそも出会った事すらない為図りかねるが、仮に、聖杯戦争の管理に意欲的であったとして、
それならば当然戦局が進んで行く事が彼らの望みでもある筈だ。何時までも、サーヴァントとサーヴァントが出会わない。
言ってしまえば、仮初の平和の状態がいつまでも続く事は、彼らとしても好ましい事ではあるまい。それでは何故、その好ましいとは思わない状態が、今でも続いているのだろうか。

【恐らくだが、向こうとしても今すぐ始めたいんだろうさ。聖杯戦争を】

【じゃあ何で始めないの?】

【そんな事も解らないのかい、君は?】

 やれやれと、物覚えの悪い子供に物を教えるのに飽いたような態度が、念話とはいえロキの声音から非常によく伝わってくる。「悪かったわね、バカで」、とぐだ子は内心でむくれた。

【簡単な話だ。『出来ない事情がある』からだろう】

【それって、何?】

【それが解れば苦労はしない。まだメンバーが集まってないか、聖杯戦争開始前になって、重大なエラーが発生して、メンテナンスが延長してるのか。どちらにしても、向こうの事情が絡んでいるのは大いにあり得る】

 いつ始まるのかの告知もなく、未だに裏準備とメンテナンスに追われる運営。
何とも間の抜けた話であるとぐだ子は思わなくもないが、逆説的に、其処までやらねばならない程、聖杯戦争とは大規模な物である事にも繋がる。

 ぐだ子が特異点だと認識しているこの世界。聖杯戦争の解決が、特異点の解決と=なのかは、今を以ってしても彼女にも解らない。と言うより、一方的な思い込みだ。
それに、ぐだ子の本音を語るのであれば、聖杯戦争には始まって欲しくない所か、寧ろこのまま有耶無耶になり、催し自体なかった事になって欲しいとすら思っている。
ロキに対して、この冬木での特異点を解決すると即答した少女の考えとは思えないが、今の彼女等、実戦経験は勿論、喧嘩の経験一つもないただの小娘だ。
神話の住人、歴史の偉人、血塗られた悪党達を駆る聖杯戦争をさぁ解決しろ、と言われて腰砕けにならない訳がないのだ。
怖い。だが、やらねばならないと言う義務感も彼女には宿っていた。末席とは言え、カルデアの一員に選ばれてしまった事から来る誇りか。
それとも、世界の危機を救いたいと言うヒロイズムか。はたまた――世界を救ったと言う悦に浸りたいだけか。

 このまま誰も傷つかず、自分も一切痛い目を見ず。それで事態が解決してくれれば、勿論ベストなのだ。だが、その望みは薄い。
あの事件が起きてしまったからだ。それ程までに、『昨日の事件』と呼ばれるアレが、ぐだ子に与えた衝撃は大きかった。
サーヴァントと言う存在を操る意味。そして、それによって如何なる現実が齎されるのか。
人に対して剣を振えば、恐るべき結果が待ち受けているように、サーヴァント同士を争わせたら、どうなるのか。
それを、あの事件の惨状を見た参加者達は、少し前のぐだ子同様、嫌でも理解してしまった事であろう。

 聖杯戦争と言う笑ってしまう程非現実的な催しは、無慈悲なまでに現実のものであり。
その渦中に自分は巻き込まれている。その事実を認識する度に、吐き気を催す。そんなぐだ子の内面を推し量ってか。ロキは、念話でケラケラと笑い出した。
今のマスターの様子が、何処までもおかしいと言わんばかりに。


928 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:09:42 3bIU43iM0
【そんなに、おかしい? 私が困ってる事が】

 ややキレ気味にぐだ子が言うが、相手は全く悪びれる様子も、反省する色もない。【うん】と即座に切り返して来た。

【言ったろ。ボクは面白い事を優先するって。ボクに対して『特異点を解決する!!』ってイキってた姿と、現状に悩む姿のギャップ。面白くない訳がない。笑ってやらない方が、失礼ってもんだ】

【それじゃ、私が死んだ方が面白いってアサシンが思った時には……】

 次の一言をロキが紡ぐのに、二秒程の間があった。図星を突かれて黙った訳ではない事は、ぐだ子にも解る。
きっとロキは、嗤っていたに相違あるまい。今のぐだ子には見えないが、恐ろしく邪悪な笑みを浮かべて、彼女に向き合っているに相違あるまい。

【ボクがどう言う存在か。君も勉強して来ただろ?】

 聖杯戦争は勿論、使い魔すら使役した事のない、魔術の道に関しては素人以下のぐだ子であるが、自分が従えるサーヴァントの素性を調べぬまま放置を決め込む程、
馬鹿な女ではない。彼女はロキを召喚したその日に、彼がどんな存在なのかを調べて見た。
移り気で、浮気性で、狡猾で、邪悪なトリックスター。世界の終焉のトリガーを引いた、戦犯中の戦犯。それが、ぐだ子から見たロキ評と言う物だった。
とてもじゃないが、自分に対して有効的な風を装っているのが信じられない程の超大物だ。いや、表面上は友好的と言うだけで、本当は自分の首を狙っているのだ、
とぐだ子が考えた回数もかなり多い。油断していたら寝首をかかれる。そうとぐだ子が思い込む程、ロキの経歴は真っ黒過ぎるのだ。

【心配するなよ。君を殺してしまったら、聖杯戦争を最後まで見届けられない。聖杯戦争を楽しむって事を目的とした場合、君を殺すのは悪手も良い所なんだよね。この前提があってなおかつ、君が面白い事をし続けてくれるのなら、ボクはキミの為の『道化』さ】

【道化って……】

【道化は良いものだよ、ぐだ子。その名と在り方の故に、神や王をも虚仮に出来るアウトサイダー。ほら、こう言われると憧れないかい?】

【あまり】

【ノリが悪い!! 面白くないポイント一点付けていい? 十点貯まったらボクが君を殺すってシステムなんだけど】

【駄目!!】

 ロキがそんな事を言うと、冗談に受け取れなくなる。
何せ面白くないと言う理由で、誉れ高い光明神の暗殺計画を立てる輩だ。人間のマスター如きを殺した所で、その心の水面には感情の漣一つすら起きないだろう。

【ま、殺されたくないのならさ、ボクと一緒に道化を楽しもうぜ、ぐだ子。この聖杯戦争、道化の大先輩たる悪い蜘蛛が巣を張ってるみたいだしね。ボクの当面の目標は、彼に勝利して当代最高のジェスターの座を勝ち取る事なのサ!!】

 何が何だか、と言う風のぐだ子。
蜘蛛と言うのも、何かの隠語だろうかと思ったその瞬間の事だった。おもむろに、車道の脇にタクシーが急停止、其処から勢いよく男が飛び出し、彼女の方に向かって行ったのは。

「や、やっと見つけました!!」

 息せき切って男は、ぐだ子の前に現れるや、「私、こう言うものです」と言って、名刺を差し渡して来た。
突如現れた男の様子に、「えっ? えっ?」、と。当惑の念を隠せないぐだ子。【……チッ、厄介な奴までいるな。何処まで捻じれてんだ、この世界は】、と言うロキの小言が気にならない位には、ぐだ子の頭の中は、酷く真っ白なのであった。


929 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:10:11 3bIU43iM0
 ◆
                                                             
    ジュデッカ                               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                      監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン                                     総ての乙女の敵      
                                       キング・オブ・クロスオーバー                  
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


930 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:11:54 3bIU43iM0
 ◆

 ZONE12――『キング・オブ・クロスオーバー』

 株式会社022プロダクションのロゴと、男の素性の書かれた名刺を受けとる事もせず。
男が手にしたままの名刺と、それを差し出している男の姿を交互に眺めて。目の前の少女は、キョトンとした顔を隠せないでいた。
無理もない。022プロと言えば、日本でも有数の芸能事務所の一つ。その事務所に所属する営業マンが、女性に対して名刺を送る事の意味は、そう言う事である。
スカウト。それ以外になかった。目を丸くしている少女に対し、男は畳みかけを掛けるべく、美辞麗句の洪水を浴びせ掛けに来た。

「どうしても外せない急務があったせいで、新都であなたを見かけても、声の一つもかけられなかった事を死ぬ程後悔した!! あなたみたいな原石を目にしておいて、もう会えないなんて、と!!」

「え、え?」

 困惑を隠せない様子の少女に対し、名刺を差し出すスーツの男から発散される、ギラギラとしたオーラ。
今の男は宛ら、獲物に狙いを掛けるライオンかトラ宛らであった。此処で、少女を逃しはしないと言う固い決意すら感じられる。

「いや、正直今この瞬間も急務に追われていますけど、ここであなたと言う原石を無視するのは余りにも惜しい。どうです、アイドルにご興味はありませんか!? あなたならきっと、トップアイドルの一人に――」

「そ、その――失礼しますっ」 

 男が全てを言い終える前に、少女は一礼、急いで彼に背を向け、猛ダッシュ。
数秒の内に彼女の背中は、豆粒の如く小さく遠ざかって行く。男が、少女の行動に気付いたのは、彼女が一礼してから三秒後程の事。
気付いた時には、もう遅い。「あ、待ってくれ!!」、そう言う頃には、既に彼女の背中は小さくなっているどころか、適当な路地に逃げ込み、物理的にその姿を拝む事すら叶わなくなってしまっていた。

「クソ、またデカい魚を逃した!! いや、俺がどんな素性の人間なのか解ってくれただけマシか……? 頼む、疑わないで事務所の電話番号にTELを……」

「――ねぇプロデューサー? タクシーの運転手さん、待たせちゃってますよっ」

 今にも地団駄を踏んで悔しがりそうなスーツの男に対して、そんな、若い女性の声が聞こえた。
ハイティーンともローティーンとも取れる、十代の少女の声である。平時の声からして明るく、陽性のそれを感じさせる声音だった。
声のした方角に、男が顔を向けると、そこにはいた。この男、プロデューサーと呼ばれる男が面倒を見ているアイドルの一人、『多田李衣菜』が。

「李衣菜か。すまん、勝手にタクシー止めて飛び出してしまって……」

「今日は絶対遅刻出来ない打ち合わせがあるから、早めに着くようにするぞ、って言ったのプロデューサーじゃないですか。自分から遅刻するような真似してどうするのさ」

「そ、それはそうなんだが……つい、スカウトマン魂が暴走してしまってな……」

「もう。早くタクシーに戻りますよ、プロデューサー」

 「あ、あぁ」、と頼りない返事をしてから、プロデューサーはやや重い足取りで、路肩に止められたタクシーの方に歩いて行く。
逃した魚の惜しさからか、ブツブツと意味不明な小言を口ずさむ、自分のプロデューサーを見て、タクシーに向かうがてら、李衣菜は口を開いてしまった。

「……さっきの人、ですよね? プロデューサーが冬木で見たって言う、凄いアイドルの原石って」

「そうだ。一昨日、今日の仕事の準備の為に新都を動き回ってたら、偶然見かけてな。一目見て確信したよ、磨けばトップアイドルの器になれるってな」

「そうかな……? 私にはどうにもそう見えなかったけど……」

「バカ、李衣菜。俺の目に狂いはないぞ。顔も良くてスタイルも良いだけじゃない。あの娘には、人を惹きつける何かがあるし、俺はそれを感じ取った。あれを放っておくなんて、余程の節穴としか俺は思えん」

「うーん……そう言うものですかね?」

「そうだ。この人を惹きつける何かは、通常自覚が出来ないんだ。李衣菜、お前にしてもそうだぞ。お前は「ないない」、と否定するかも知れないが、お前にだってその何かがあるんだ。だから、お前は022プロでアイドルとして輝けてるんだぞ」

「まったまたー、おべっかが上手なんですからー」

 と言って本気にしない李衣菜だったが、言われて嬉しくない訳ではない。
ちょっと変化球が掛かった褒め言葉と受け取るも、プロデューサーと呼ばれるスーツの男は、「自覚がないのかこのジゴロは」、と呆れた様子を隠せてない。
二人はこの時に、タクシーへと近付いており、李衣菜を上座に座らせてから、プロデューサーもタクシーに乗り込む。
「すいません、ご迷惑をお掛けしました」、とプロデューサーは謝罪。「結構結構」と、気にした様子もなく、運転手は再び車を走らせる。時間にして四分程の、ロスであった。


931 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:13:52 3bIU43iM0
「うーんだけどなぁ、気のせいかな……何だか知らないが、同一人物っぽい感じがしなかったんだよな。前に俺が横目で見た時のあの娘と、今の娘が」

「えぇ? そんな事言われても、私あれが初対面何ですから、よく解りませんよ」

「いや、前に見た時は、チラリと見ただけで解る意思の強さがあって、そこに大人物の風格を感じたんだが……。さっきの娘は何て言うのかね……人並みの悩みを抱える、等身大の女の子って感じがしたんだよな」

「ちゃんとその人の事憶えてるんですか? プロデューサー。記憶違いで、別人をスカウトしちゃったりとか」

「いや、それはない。全く同一人物だった。……まぁ、『昨日の事件』のせいで少し怖がってるだけなんだろうとは思うがな。あんな良く似た別人なんて、あり得る筈がないからな」

 『昨日の事件』。何気なく、怖がらせるでもなく、プロデューサーが口にしたその言葉に、李衣菜はビクリと反応した。
「どうした、お前も怖いか?」、と笑うプロデューサー。冗談めかして彼は口にしたつもりなのだろうが、真実その通りであった。
そう、李衣菜は怖い。彼女は知っているからだ。あの事件は聖杯戦争の関係者が起こした事件でありそして、この事件を起こした張本人とやがて接敵する可能性がある事も。
当初は、ただの事故だろうと――無理があり過ぎるが――現実逃避も出来たのだが、自分のサーヴァントがそれを許さなかった。
自分の召喚したサーヴァントであるウォッチャーは、名の通り『視る』と言う行為に対して凄まじいアドバンテージを取れる存在である。
未来視は勿論過去視だって、彼にしてみればお手の物。彼は事件現場を見た瞬間に、あの事件がサーヴァントの手によるものだと断定してしまったのだ。

 ――では、斯様な慧眼の持ち主である、多田李衣菜の引き当てたサーヴァントは、何処にいるのか?
その答えは、彼女とそのプロデューサーが乗り合わせている、個人タクシーのルーフ部分。そのサーヴァントは其処で――

「HELLO〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! 冬木シティ!!(DJサガラ) 何だよ何だよ、随分シケて侘しい活気になっちまったじゃないの、『昨日の事件』がそんなにショックだったかよ? 吉幾三が帰った後の青森県五所川原みてーになってんゾ!!」

 ……と、ご覧の通りである。
意味の解らない狂人の戯言を、正に機関銃の如き密度と速度で喋くりまくっていた。しかも相手は李衣菜に、ではない。
このウォッチャーのサーヴァントは時折、李衣菜と二人しかいない空間においても、誰もいる筈のない『虚空』に向かって喋り出す事が多いのだ。
「ニェッヘッヘッヘ!! リーナ、お前には見えてない方が幸せかもな!! 俺の話し相手が見えちゃったら、リーナのクリトリス並に小さい心じゃぶっ壊れちまうゼ!!」
いつだったか、誰に対して話しかけているのかと言うリーナの問いかけに対して、ウォッチャーはこう答えた。全く以って、意味が解らない。

 ウォッチャーのサーヴァント――フランソワ・デュヴァリエ……いや、『バロン・サムディ』とは常々こんな調子のサーヴァントだった。
霊体化以上に高度な幻術と魔術を用い、実体化しているのにその姿を霊体化以上に認識させぬ不思議の術を使って自由に振る舞う、縛る事の不可能な男。
今だってそうだ。生と死とセックスを司るこのロアは、霊体化を行わず、自前の隠匿技術で己の気配を遮断させている。
そう、今もサムディは実体化をリアルタイムで行なっていないのだ。それにも関わらず、多くの人々が彼の姿も声も認識出来ないのは、彼の術が高度なそれの証であるからだ。
そして、こうしながら李衣菜を守りつつ、小学生でも言わないような下ネタを恥ずかしげもなく披露し、李衣菜を赤面させて楽しませていると言う、こんな調子だった。

「Heyリーナ!! もうすぐ楽しい楽しいカーニバルが始まるってのに、その辛気臭いツラはなんだい!! パパ・タケウチも言ってたろ? アイドルは笑顔が大事だ、って!!」

【た、確かに笑顔は大事なんだけど……って言うか、楽しいカーニバルって、私全然楽しくないよ!!】

「馬っ鹿、リーナお前、楽しいのはお前さんじゃなくて、このサーカスを見てるお客様が楽しいって意味だぞ!! ……いや、良く考えたら楽しいのかこの企画? ……まぁいいや、笑ってやれ!! HAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!」


932 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:16:25 3bIU43iM0
 正味の話、李衣菜はこのサムディの言っている事の意味の多くを理解出来ないし、昨日の事件がサーヴァントの手によるものだと言う事を、
彼自らに説明されても最初は全く信じる事が出来なかった。典型的な虚言癖で精神異常者。それが、ウォッチャーのサーヴァント、バロン・サムディなのだ。

 ――だが、あの時。『昨日の事件』の事を説明する時のサムディの瞳と声は、李衣菜の見て来た彼のそれとは全く趣が違った。
今でも忘れない。あのロアが見せた、陽気さの欠片もない酷薄かつ冷酷な声音と、喜悦の色を宿した瞳。
それは、いつもサムディが見せているそれとは全く違う。恐らくは、あれこそが、彼の本心なのではと錯覚させるに足る力が、あの時の姿にはあった。
きっと、李衣菜によく見せている猥雑な姿と素振りも、あの時に見せた空恐ろしい様子も、バロン・サムディと言うキャラクターの真実の面なのだろう。
どちらもが、偽らざるバロン・サムディ。李衣菜は、今も自由に振る舞う彼の事を見て、思うのだ。自分は本当に、元の世界に戻れるのか。
誰一人殺さずして、身綺麗なままで元の世界に胸を張って帰れるのかと。このサーヴァントは、苦痛と絶望が渦を巻く地獄を楽しめる狂人である。
そんなサーヴァントを相棒にして、本当に自分は、大丈夫なのか。

「イエーイ!! 蜘蛛のアナンシパイセン見てるー!? それと、『紅』と、『顔無し』!! お前らもコソコソ覗き見してるって事知ってんだからな!! ま、後でこっちの方から、アナルからひり出したラムと葉巻(うんこの暗喩ではない)持ってお邪魔するからさ、盛大にもてなしてくれよな〜!!!!!!」

 全く以って、意味の解らない事を口にするサーヴァントだと認識する李衣菜。
そして、年頃の少女の前で口にするには余りにも品の欠片もない下品な言葉に、思わず李衣菜は赤面してしまう。
「どうした、李衣菜、具合でも悪いのか?」と隣のプロデューサーが心配そうな声音を掛けて来るが、「大丈夫です、ちょっと緊張してるだけ」と誤魔化す。
こんなサーヴァントを相手に、同盟を組んでくれる人物は果たして存在するのだろうかと、恥ずかしさで気が狂いそうになりながらも李衣菜は考える。

 ――男の子のサーヴァントだったら……まぁワンチャンあるかもしれないけど、女の子のサーヴァントとか絶対一緒に戦ってくれないよねこれ……――

 同性のサーヴァントだったら、下ネタとかで心が通じ合えそうな気がしなくもないが、この乙女の敵みたいなサーヴァントと、
一緒に戦ってくれる物好きな女性なんていないんだろうなぁ、と李衣菜は悩み続ける。頼むから、サムディには紳士らしさ、と言うものを学んでほしかった。

 そんな事を思っていると、遂に一同は目的地へと到達した。
「先に降りてて良いぞ」、と言うプロデューサーの言葉に素直に従い、彼が料金を支払うまで車外で待機する李衣菜。
その間、東京の丸の内や新宿にでも立っていそうな、とても大きな高層ビルを見上げ、李衣菜は嘆息した。
今から彼女は此処で、大きな仕事の話をしなければならないのだ。言ってしまえば、一足早く同年代の子供達よりも、大人の階段を大きく上るに等しい。
何週間も前から打ち合わせをし続けていた――と言う事になっているらしい――企画。それが実を結ぶと思うと、仮初の都市での出来事とは言え、やはり緊張してしまう。

 ――日本有数の、大手人材派遣会社『KING』。
この会社で新しく行われると言う、高校を卒業してすぐ働く学生向けの職業斡旋サービス。
そのサービスのキャンペーンガールとして、022プロダクションのアイドルの何人かが選ばれ、その代表として、多田李衣菜がプロデューサーと共に、このKING冬木支社にいるという社長に挨拶をしに来た。と言うのが、事のあらましなのであった。


933 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:17:45 3bIU43iM0
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    ジュデッカ                               血塗られた献身     陽を堕とす者             
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                      監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン                                     総ての乙女の敵      
                                                                       
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


934 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:18:52 3bIU43iM0
 ◆

 ZONE13――『陽を堕とす者』

 KING、と言えば日本でも有数の大手人材派遣会社として、その名を轟かせている一大企業であった。
本業である人材派遣サービスや販促サービスは元より、最近ではブライダルや育児関係などの各種情報誌を発刊していたり、
住宅情報や飲食店、海外旅行についての検索・予約サービスなども行っていたりと、手広く会社を運営し、その全てに一定の利益を上げている、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの企業だ。

 KING、と言えば大手である以上にもう一つ、とても有名な事実が一つある。それは、代表取締役である男が、極めて若い人物である、と言う事だ。
ただ若いだけなら、ここまで話題にならない。そこに、金髪碧眼の美男子であり、ギリシャの彫像の黄金比さながらの、
肉体美の理想(イデア)そのものの如き完成された肉体の持ち主である、と言う事実が加われば、それは有名になるのもむべなるかなと言う物だった。

 富、名声、権力。その全てを男は、最高に近しいレベルで持ち合わせていた。
高層ビルの上階から冬木の街を眺めてみると、この街の全てが自分の物になったと言う錯覚すら覚える。
核の焔によって破壊された虚しい街並みではない。男の眼下に広がっているのは、人間達が経済活動を確かに行い、各々の生活を送っている生きた街なのである。

 ――こんな街なら、ユリアも……――

 自棄を起こさなかったのだろうかと、KINGの代表取締役――『シン』は考え、そして、その考えを脳内から排除した。
街が綺麗だとか、富があるからだとか言って靡く女では、ユリアはなかった。雑草の一本も生えていない崖(きりぎし)に咲く一厘の百合の如き気高さを誇る女。
それが、ユリアと言う女だった。だからこそケンシロウも、そしてシンも彼女を愛した。そんな女を、シンは自分なりのやり方で振り向かせようとした。
世紀末の世界において残っていた方が奇跡とすら呼べる程の、純白のドレス、大ぶりの宝石が輝くサークレットにリング、ネックレスで気を引こうとした。
ユリアの意思一つで思いのままに動く軍隊も、彼女が女王としての権威を発揮出来る都市も、シンは与えた。全ては、ユリアの為だった。

 だが、ユリアの心は変わらなかった。
自分の為に殺戮を繰り返すシンに、まるで憐れむかの如き言葉を投げた後、彼女はシンの居城から身を投げ、欲望を由とするシンの支配から解放されようとした。
そして、シンは――世紀末の世界を生き抜くだけの力を最高に近しいレベルで持ち合わせていた男は、己の道化(ピエロ)振りを初めて知った。
ユリアの為に動いていた時間の全ては、彼女の決意に満ちた行動が終わるまでのたった数秒の時間で帳消しになってしまった。
シンに残されたのは、自分に忠誠を誓う軍隊とそのトップの地位と言う権力、略奪の果てに得た富、KINGの主と言う名声。
その全てが、果てしないまでの空虚をシンに与えていた。得た物が大きければ大きい程、その分だけ、この強者の心に空白と空隙を約束する。
これら全部がユリアの為に用意した物である、と言う事実を認識すればする程に、シンの心の中に寒い風が飄々と吹き荒ぶのである。

 命を奪い、富を奪い、食を奪い。そして、愛と心を奪い損ねた哀れなピエロ。それが、シンと言う男であった。
元居た世界での因果応報を味わえとでも言わんばかりに、この冬木に於いてシンに用意された境遇は、元の世紀末のそれと似通っていた。
富もあり、名声もあり、権力もある。何一つ、この冬木で生きる上でシンを不自由にさせる要素などない。だがやはり――ユリアの姿はこの世界にもない。
平穏で、平和な世界でこそ美しいあの女性は、この世界で咲き誇る事もない。シンはこの世界でも、ユリアの為に殉じる事が出来ぬのだ。

 その上――この世界の平和は、世紀末の世界でこそ己の獣性と欲望、暴力を解放できるシンと言う男にとっては、毒そのものだった。
余りにも、生き辛い。平和の中で、己の心と身体が蝕まれていく感覚すら、シンは憶えていた。
戦いになれすぎた兵士は、戦場よりも寧ろ、戦場とは無縁の平和な日常の中で精神に異常を来たさせて行くと言うが、その気持ちをシンは痛い程理解している。
ユリアのいない平和な世界は、シンと言う強者の心を蝕むには、余りにも大き過ぎる威力を発揮していた。正にこれこそが、元の世界での応報そのものであった。

「……腑抜けた街よ」


935 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:19:46 3bIU43iM0
 磨き上げられたガラス窓から見下ろせる冬木市を眺め、シンは唾棄する。
こんな街を有り難がるのは、あの小賢しい妖星の男位のものであろう。シンにとってはこんな街、如何程の価値もない。
元居た世界で彼が率いていた暴力組織を、大規模の会社組織に置換した物――尤も冬木でのそれは完全にクリーンなそれだが――、そのトップがシンである。
事もあろうに社名まで、元居た世界と同じ『KING』と来た。此処までシンの神経を逆撫でする程の皮肉を立て続けに用意する等、余程聖杯戦争の運営とやらは、己の南斗の拳で八つ裂きにされたいと見えるとシンは常々考える。

 シンは、この会社が嫌いだった。
南斗孤鷲拳の修行は、厳しくはあったが嫌いではなかった。自分が強くなっていると言う実感が、日を重ねるごとに得られたからだ。
あの血の滲むような修行の日々よりも、この会社に出社する事が苦痛なのだ。だからシンは、己が居城と認める深山町の町外れに存在する廃洋館で、
『時』が満ちるのを待っていたのだ。その意を曲げてまで、この会社に珍しく出社した理由はシンプルである。
風の噂で聞いた、昨日起こった恐るべき事件。その全貌を知るべく、我が意を曲げてまでこうして出社したと言う訳である。

 シン程の男の興味を引く事は、並大抵の事ではない。目の前で爆弾が炸裂したとて、この男は眉一つ動かす事はなく、その心に波一つ起こさせる事は叶わぬだろう。
――だが、サーヴァントが起こしたとされる騒動が自分の知らぬ所で起っていた、となれば話は別。
シンは、己の願いの為に聖杯を欲している。他の全てのサーヴァント、全てのマスターを下してまで叶えたい神聖な願いを秘めている。
有象無象のマスター如きであれば、シン一人で真正面からでも叩き潰せるが、超常の存在、神話の英傑、御伽噺の住民であるサーヴァントを従えていると言うのなら話は別。
全霊を以って、勝つ為の手段を模索せねばならない。その為には情報は必要不可欠。先ず間違いなく、『昨日の事件』はサーヴァントの手による物だ。
この情報を集める為に、こうしてKINGの支社に姿を見せた。シンの姿は市井の中では目立つ。その容姿と、発散される気風のせいである事は言うまでもない。
今現在、KINGの屋上に、己の召喚したアーチャーを待機させ、冬木市全土をその千里眼で監視。この時、アーチャーが見たものを、シンの視覚と同期させ、
情報を共有させると言う手法を行っているが、結果の方は芳しくない。どうやら、戦闘が得意なサーヴァントもいるなら、暗殺拳の基本である気配の隠匿を得意とするサーヴァントもいるようである。そのどちらも得意である、と言う可能性もゼロではない。兎に角、嫌な思いをしてまで出社していると言うのに、思いの外収穫がない。シンとしては、腹ただしいとしか言いようがないのであった。

【焦れているのか?】

 恬淡とした精神が透けて見えるような声音だった。
人によっては冷淡に聞こえるだろうが、シンにとってそのサーヴァントの声は、無私が極まり過ぎたが故に、感情の総量が虫と同じ程度にしかなくなった人物、
としか聞こえなかった。欲を由とする自分のそれとは違い、余りにも声音に覇気も熱もない。だが――強い。枯木を思わせるその声音には、シンですら畏怖する程の力があった。
枯木に強さが宿るなど、矛盾しているとしか思えないだろう。だが、その矛盾が現実になる程に、シンに従うサーヴァントは『強い』。
当たり前だ。南斗の拳とは元来中国で興った拳法に由来する。シンも嘗ては拳法を学ぶと同時に、己の南斗孤鷲拳と、それが包含されている南斗聖拳の歴史を学んだ事がある。
必然的に、中国の歴史・伝承・神話についてもある程度は学ぶ機会があったという事。ならば、知らない訳がない。
中国の神話において太陽の化身、いや太陽そのものたる焔の鳳(おおとり)を撃ち落としただけでなく、中国全土に禍を成していた様々な怪物を退治した大英雄。

 ――『ゲイ』。
それが、シンの召喚したサーヴァントである。北斗神拳の伝承者は時に神の化身とすら謳われる事があるが、シンに頭を垂れているこのアーチャーは、
正真正銘の神そのもの。尤も、伝承において彼は既に神性を失ったとされ、それはサーヴァントの身の上となった今でも同じであるらしいが。どちらにしても、この弓兵が例え神として聖性を失ったとしても、万夫不当の大英雄であると言う事実には一切の異論の余地がない。シンですら、口ではゲイにKINGと呼べと言ったものの、その英雄性に疑いを持ってなどいない程と言えば、どれ程のものか知れようと言うものだった。

【この程度で焦れる俺ではないわ】


936 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:20:27 3bIU43iM0
 南斗六聖拳程に拳格の高い流派を習得するには、肉体面・武術面での天賦の才覚は勿論の事、精神性においても超人であるか否かが求められる。
いつ殺されるか解らない、動けば此方が殺されると言う極限状態の最中に在って、平常心を保て、擦り減らない程の強度の精神を保有しているか否かは、最大の指針の一つ。
敵が見つからないからと言って、動じたり焦燥したりする程シンの精神力は未熟なものではない。此処は、ゲイの索敵が成功するのを堂々と待つ時である。シンは、そう考えていた。

【そうか。要らぬ心配をしてしまったな。すまない】

【不要な言葉だ。アーチャー、お前は早く敵を探すが良い】

【心得た】

 其処で、二名の会話は途切れた。 
二人の会話は、いつもこうだった。サーヴァントとマスター、と言う、一蓮托生、運命共同体にも等しい間柄であっても、交わされる言葉は必要最小限。
まともに会話が続いていた時期は、召喚された時のみだけだと現状では換言しても良い。だがそれは、二人の関係に亀裂が走ったとか、仲違いを起こしているとか。
そう言う事を意味しない。極めて短い、最悪、単語のみの会話だけでコミュニケーションが図れると言った方が、この場合は正しい。
目まぐるしく戦局が変わる事が予想される聖杯戦争。マクロ的な目線で見てもそうなのだ。ミクロ的、つまり、個々人間での戦いであれば、有利不利の趨勢は目まぐるしく変わるであろう。そんな時に、極短い言葉で意思疎通が出来ると言うのは、とても大きいアドバンテージだ。この短期間で、此処までの関係を築き上げられる。この主従が戦闘と言う概念について、とても高い理解度を誇っている事の何よりの証でもあった。

 瞳を瞑り、ゲイの報告を待つシン。
やっている事は、禅の修行に近い。いる事すら御免蒙る空間であるが、こうして瞳を閉じ、精神を集中していると、時間が経つのが早く感じるのだ。
孤鷲拳、と言うより、北斗・南斗で共通して行われる、精神鍛錬の修練がこう言った形で役に立つ日が来るとは、流石のシンも思っていなかった。
ゲイの報告を待っていた、その時である。念話ではなく、確かにシンの耳に、コンコン、と言う音が聞こえて来た。彼の居る部屋に通じるドアを、ノックする音であった。

「……入れ」

 心底不機嫌そうに、シンが口にする。
閉じた瞼がゆっくりと開かれると同時に、ドアが開かれる。「し、失礼します」、と。委縮した様子で、力士めいた体格の男が部屋に入って来た。
このような仕事では御法度の髪型、つまり、頭を丸刈りにした、一見すれば肥満体(デブ)としか見られぬ様な身体つきの持ち主。
そんな男が、仕立ての良いヘリンボーンのスーツを着こなしていると言うのだから、驚きと言う物である。
この、ハンプティ・ダンプティを厳めしくしたような男を、シンは知っている。知らない筈がなかった。
体格こそ、世紀末の世界で生きていた頃に比べて若干常識的な範囲にまで落ち着いているが、この男は元居た世界のKINGと言う組織における、事実上シンに次ぐNO2。
本名こそ忘れたが、シンやKINGの構成員が『ハート』と呼んでいた男である。この世界においては、株式会社KINGにおける四人の大役員の内の一人に数えられていると言う。
世界観が違えば、此処まで人は変わるらしい。だが流石に、此処まで変わってしまうと、シンとしても驚きを隠せない。見知った人物がゴロツキやならず者稼業から足を洗い、それどころか立派な仕事に勤めているのを見るのは、何とも不思議な気持ちになる。

「何の用だ、ハート」

「え、えぇ。今日はかねてから計画していた、我が社の高校を卒業してすぐの子供向けの就職斡旋サービスのキャンペーンガールの子と、そのプロデューサー様と打ち合わせをしていたのですが……。本日は珍しく社長(KING)が御出社しておりましたので、私の独断で紹介をしておこうかと……」

「下らん。俺は忙しい。三十秒程でその紹介を済ませろ。いるのだろう、貴様の後ろにその女が」

 幾らシンの方が目上の人物であり、彼とハートとの関係が上司と部下のそれであるとは言え、この居丈高な態度は余りにも酷いと思われよう。
だが、それがサマになっている。社員のだれもが、シンのこの態度に疑問を憶える者はない。魚が水の中を泳ぐのを見て、鳥が空を飛ぶのを見て、変だと思う人はいない。
それと同じように人は、シンのこの態度が彼の常態であると錯覚してしまうのだ。彼の容姿と、放たれる威風。これが、異議と疑問を封殺する。
株主ですらが、シンのこの態度を認め、許容している程と言えば、どれ程この男が会社内で認められているのか窺えよう。


937 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:20:53 3bIU43iM0
 シンの言葉を受け、慌ててハートが、部屋の外に待機させていた二名の人物。
即ち、キャンペーンガールを担当する少女と、彼女の面倒を見ているスーツの男に声をかけ、急いで入室させる。
「失礼しますっ」、少女の方は、やや声が裏返っている。緊張の為もあろうが、間近でシンの姿を見て、呆気にとられ、威圧されていると言う事実も大きい。
つまらぬ人間だと、シンは即座に看破した。男も女も、覇気と執念と言うものを感じられない。世紀末ではない、ぬるま湯のような現世であれば、どこででも見られるような人種。シンが関わる事すら嫌な人間達であった。

「わ、私、022プロダクションに所属していただ、おります、多田李衣菜と申します!! よ、宜しくお願いします!!」

 勢いよく一礼する李衣菜。彼女の礼の後に、経験を積んだ社会人らしい、ゆっくりとして落ち着いた言葉遣いで一礼する、李衣菜のプロデューサー。
少女の方は、余り敬語の方も使い慣れていないらしい。平素の言葉遣いが知れようと言う物だ。この上言葉も噛み噛みと言う、アイドルらしからぬ滑舌。先行きが不安になる。
とは言え、敬語を使えるだけマシだと思う程度には、言葉遣いに対するハードルはシンは低い。何せ彼の部下の殆どが、およそ教育を受けた事があるのかすら危うい程のならず者ばかりであった。今更、間違った敬語で目くじらを立てる程、気の短い男ではシンはなかった。

「覇気が足りん、執念が足りん。そして――成り上がりたいと言う欲望を感じぬ。屑星のままで終わる器だな、今のままでは」

 李衣菜とプロデューサーを一瞥し、三秒程時間が経過した所で、シンが口にした。人と言うよりも、器物に対して語りかけているような口ぶりであった。
大上段に過ぎる態度と語り口。噂は冗談か、尾鰭が付いて大げさになったものであると認識していたようである。しかし、此処にきて二名は認識したようだ。
シンと言う男の態度の大きさ、と言うものを。余りにも噂通りの立ち居振る舞いであった為に、怒るよりも如何やら、呆気にとられてしまったようである。

「顔は憶えた。ハート。下がらせろ」

「は、はい!! すいません、李衣菜さん、プロデューサー様。それでは先程の部屋までご案内致します」

 バツが悪そうにハートは二名に声をかけ、いそいそとシンの部屋から彼らを退室させる。
ハートが部屋から出て行く際、彼は目配せでシンに会釈をしては見たが、シンはこれを無視した。これが本当にあのハートなのか、と、シンはつくづく疑問であった。

【……助言をするとは、正直な所、意表を突かれた。そんな事をする性格だったか? KINGよ】

 全くだ、とシンは思う。
昔の彼であれば、誰かを助ける様な言葉など、一句たりとも与えはしなかったろう。あの言葉は、シンなりに遠回しに語ったアドバイスの一つであったのだ。
ユリアとの別れ、ケンシロウとの一戦、そして、この世界に蔓延する平和と言う名の毒は、確実にシンと言う強者に影響を与えていた。


938 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:21:05 3bIU43iM0
 平和と言うのはいつだって、ある日突然崩れ去るものである。
元居た世界でもそうだった。世紀末の訪れは、豚と揶揄される程醜く肥え上がった権力者達の戯れによって押された核のボタンによって引き起こされた。
この世界でも、そうだ。聖杯戦争と言う、シンですらが未だにその存在を疑問に覚える程の戦い。その火蓋は、『昨日の事件』によってもう切って落とされている。
慎ましやかにこの世界に生き、平和を謳歌している人間達にとって、聖杯戦争の開催などたまった物ではなかろう。
命と時間を削って手に入れた財産、積み上げて来た友や家族との信頼や絆。その全てを失いかねない機会の到来を意味するのであるから、これは当たり前だ。
だが――その機会と、その機会によって平和が蹂躙されるその瞬間にこそ、シンはその力を発揮する。
シンがその力を発揮出来る理由は、南斗の拳を学んだが故に獲得した強さからではない。世紀末を味わったと言う確かな実績から来る『経験』だ。
この経験は時に、『戦闘に強い』と言う事よりも時に重要な意味を持つ。シンは、聖杯戦争が招く極限状況に強いと言う自負を持っている。
ならばこの戦い。シンと、彼に従うアーチャーたるゲイに、負けなどある筈がなかった。シンは堅くそう考えていた。

「ユリア。もう少し待っていろ。今だけだ。今暫く辛抱すれば――」

 お前は、自由だ。シンは、小さくそう呟いた。
シンが勝てば、ユリアの身体を蝕む、核の灰の影響を少なからず受けた死の病、その苦しみから彼女を解放させる事が出来る。
病が癒えたら、何処にでも飛ぶが良い。何処にでも咲くが良い。好きな男を愛するが良い。そして、人を殺した病を癒させた自分を、軽蔑するが良い。
例え彼女が、シンに一かけらの感謝の気持ちを抱かなくとも、関係ない。愛に殉じる星、故に殉星。
その星の下に生まれたシンは、今まさにその宿星の定めに従い、孤独の戦いに身を投げようとしていた。

【……小細工を謀ろうとしている蜘蛛を、その千里眼で見つけたら、構わん。撃ち抜いてしまえ】

【了解した】

 自分がこれから往こうとする、無限の荒野を夢想しながら、シンは瞼をゆっくり落した。
瞳に墨が塗られたように、彼の視界が闇に染まる。その闇の視界に光が満ちる。千里眼を持つアーチャーの見ているものと、シンの視界が同期した為である。
ゲイはしっかりとシンに命令された通り、冬木市全土をその千里眼で具に監視しているらしい。今ゲイは、ここKING支社から遠く数㎞程も離れた、
冬木教会の方を見ているらしい。小高い丘の上を歩く少女と、その隣を歩く男性以外、珍しい物は見られない。ゲイは目線を外し、別の方向を見やった。
教会に向かう人を見て、シンは、人とは危機に陥った時神に祈る生物であった事を、今更ながらに思い出した。世紀末の世界では、祈りを聞き届ける神など、何処にもいなかったが故に、すっかり頭からその事が抜け落ちていたのである。


939 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:22:38 3bIU43iM0
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    ジュデッカ                               血塗られた献身                        
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
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         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                      監視者                        餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン                                     総ての乙女の敵      
                                                                       
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


940 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:23:00 3bIU43iM0
 ◆

 ZONE14――『監視者』

「見られてますね」

 立ち止まり、辺りを見回してから、フロックコートの美青年は言った。
目が覚める程の美男子、とは正に彼の為に存在し、また、彼の為に作られた言葉なのだと言われても、人は疑う事はないだろう。
艶やかに輝く灰色の髪、柔和な光を讃える透徹とした瞳、薄い微笑みを浮かべる甘めのマスク。そして何よりも、その顔立ちに恥じぬ、高い身長と、均整の取れた身体つき。
男性美と言うものの黄金比。美と雄々しさの、完全なる調和の形。およそそうとしか見られぬ程に、男は、完璧であった。その麗しい姿は愚か、その立ち居振る舞いですらも、この男は、非の打ちどころのない紳士のそれであった。

「――? どなたに、ですか?」

 男の言葉を受けて、彼の前を歩いていた女性が立ち止まり、こちらを見やった。
良く手入れされたブロンドの髪が特徴的な、貞淑そうな女性だ。言葉遣いと気風から、物腰柔らかな印象を見る者に与える。
綺麗な女性ではある。いや、同じ年代の女性と比較した場合、頭一つ抜けた可憐さであるとすら言っても良い。
だが、一緒にいた相手が悪かった。目の前の男は、女性――『クラリス』の愛くるしさが霞んで見える程の、美の持ち主。彼の美しさは、性別の違いすらも超えるのだ。
差し詰め今のクラリスは、太陽の輝きと比較される電球のようなもの。男の美に、彼女自身の美が併呑されてしまう形になっているのだ。何とも、哀れな物であった。

「サーヴァントに、ですよ」

 ――自分が呼び寄せたアーチャーのサーヴァント、『アザゼル』の言葉の意味を理解するのに、数秒の時間をクラリスは要した。
そして、その意味を理解した瞬間、クラリスの顔から血の気が引いて行く。水色の絵の具を刷毛で一塗りした様に、彼女の顔は青褪めて行き、辺りを見渡し始めた。

「此処にはおりません。遠方からの窃視を得意とする者がおるのでしょう。少なくとも、クラリス。貴女の目で見える範囲には敵はいません」

「それでは、何故貴方には、私達が見られていると?」

「監視者の中の監視者たる私が、他者から見られていると言う事実を見誤るとでも? 既にその称号は過去のものになったとは言え、見られていると言う事柄には敏感なのですよ」

 何ともアザゼルの説明は暴論極まりないが、それに不可解なまでの説得力が内在されていると言うのだから、クラリスとしては困りものだ。
エグリゴリ。クラリスは嘗て、堕天前のアザゼルが属していたと言われる一団の事について調べていた。
遥かな天の高見より、人間の営みを監視する天使の一派。成程、そう言った存在の首魁であるアザゼルであれば、誰かに見られていると言う事について人一番敏感なのも、納得は行く。

 ――と、言うよりも、クラリスはアザゼルが保有する、目線に対する超知覚能力については一切の疑いを抱いていない。
以前彼が見つけ、捕獲、そして破壊した、クラリスの目では捉える事すら出来ない程小さい、『虫型の機械』。
アザゼルは、クラリスの回りを飛翔するこの虫の機械を視認し、一方的に破壊した事があったのである。用途は、彼の持つ神域の叡智と呼ばれるスキルで、
機械学の知識を会得、それによって解析した所、人々の『監視』の為にあれは作成されたのだそうだ。アザゼルが気付かなかったら、クラリスのプライベートは勿論の事、
聖杯戦争についての考えですら、この機械を放った人間には筒抜けだったと思うと、ゾッとしない話だった。
こんな悪趣味な用途と、デザインのマシン、通常の人間にはまず作成出来ない。クラリスもアザゼルも同じ認識だ。
間違いなく、聖杯戦争の関係者の手による物、と見るべきだろう。戦いは、もう始まっている。その事をクラリスは、あの時嫌でも認識させられてしまった。
だからこそ、アザゼルの先の言葉に、クラリスは青褪めたのである。虫の機械を彼が見つけた日から、一日しか経過していない。
休む間もなく、超常の力を持った恐るべきサーヴァントの魔の手に晒される事を思うと、クラリスだって恐ろしくもなる。しかもアザゼルは明白に、サーヴァントに見られていると宣言した。恐怖はより一層、と言う物だ。

「御心配なく、クラリス。私は貴女のサーヴァント、その事を忘れた時はただの一瞬とて御座いません。貴女に迫る万難は、この私が全霊を以って排除致しましょう」

 「――それが」

「クラリス、貴女が傷一つ負う事無く、汚れ一つ受けず元の世界に戻る事が出来て。そして、私が理想とする神と悪魔から脱却された世界の成就に至る術だと信じているが故に」


941 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:24:20 3bIU43iM0
 アザゼル。
地上に住まう人間を監視する者達の長でありながら、人間の女性の色香に負け、彼らに化粧と武器の作り方を教え、人の世の風俗を大いに潰乱させた者。
そして、地上の人間と地上の罪とを洗い流す為に神が起こしたあの大洪水が、その原因が彼なのだと言う。
そんな結果だけを見れば、この男は正に、神の教えを信奉する者にとっては不倶戴天の仇敵。憎んでも憎み切れない程の悪魔であり、この世の悪徳の長とも言うべき黒幕なのであろう。

 だが、クラリスから見たアザゼルとは、紳士の鑑のような男だった。
その物腰と言葉遣いの柔かさ、クラリスに対する態度、その在り方。クラリスは今の今まで、アザゼル以上の紳士など見た事も、聞いた事もなかった。
悪魔の中の悪魔、地獄に於いてはルシファーに次ぐ悪霊の統領。そんな異名は、後世の人間のでっち上げとしか思えぬ程、彼の在り方も性格も、『善』なるもののそれなのだ。
人を愛し、人を慈しみ、人を叱り、人の業を本気で嘆く。アザゼルは人間に対して本当の父性愛を抱いており、そして、本気で彼らの未来を考えている。そんな彼の何処に、悪性と言うものが宿り、そんな彼の何処に、悪魔と呼ばれる所以があるのだろうか。

 ……但し、それら全ては、『人』に対してのみ向けられる。
アザゼルの真の願いとは、この地球上に生きる全ての人間の記憶から、ありとあらゆる神霊、ありとあらゆる悪魔、ありとあらゆる霊的存在、及び超常存在。
その記憶の全てを忘却させ、その上で、強く逞しく今の世界を生きていて欲しいというもの。つまりは、信仰の放棄させるに等しい。
人は最早、神や悪魔に縋るまでもなく、地上を生きる術を磨き上げ、洗練させた。それにもかかわらず、人は今も神を信じ、不条理を悪魔のせいにし、
信仰の解釈の違いから世に争いの種を撒き続ける。それが、アザゼルには許せなかった。嘗て地上を支配していた、神の教えと支配の名残。
世界の裏側に隠れて久しい、神々達の傍迷惑な残滓。アザゼルにとって、今の地上に息づく、神や悪魔、妖精や妖怪の伝承とはこう見えているらしい。
そう、アザゼルは、神や悪魔、及び、幻想や御伽噺の中の住民にとって、一切の慈悲も慈愛も抱いていなかった。淡々と、滅ぼすだけの存在。こうとしか見ていない。
地上の人類の平穏の為、彼らに死を与えようとする存在。これこそが、アザゼルと言うサーヴァントの本質だ。そしてこれこそが、クラリスが受け入れたくても受け入れられない、アザゼルの側面の一つだった。

「どうあっても、アーチャーさん。この世から信仰を消滅させる、と?」

 敬虔なクリスチャンであるクラリスではあるが、神と、その子供であるキリスト、そして、神の分身である聖霊だけが、生きる縁(よすが)や寄る辺ではないと考えている。
偶像でも、歌でも、器物でも。それを信じている事で、生きる活力となるものがあるのならば、それを信じていれば良いのだと、クラリスは思う。
だがアーチャーは、その信じる事で生きる力となるもの・概念の中で、最も大きな影響力を持つ『信仰』を、人の独立の為のなかった事にすると言うのだ。
神を信じる身であり、神を信じる事で得られる心の安息に意義を見出しているクラリスに、アザゼルの願いは許容出来る筈がなかった。

「我が理想に曇りなし。然るに、その決意に迷いなし。神の張った信仰と言う名の蜘蛛の巣――それに捕らえられた人と言う名の蝶は今こそ、この巣から解放される時が来たのです」

 「そして――それが人に出来ぬ程重く苦しい使命であると言うのなら」、其処で、アザゼルは、柔和な微笑みを湛えた美しい顔を、クラリスの方に向けて、言った。

「嘗て人間達に生きる術を教え、一度は人類を浄化させてしまった者の責務として。彼らの代わりに使命を達成せねばなりますまい?」

 ――嗚呼、と、クラリスは思った。
やはり、クラリスはこの紳士の事が嫌いだった。自分の理想しか、この男には見えていない。
人類への限りない父性愛と、嘗て人類に齎してしまった破滅を見てしまった事への負い目。アザゼルが、人類から信仰を消そうとするその理由は、これに収斂されるのだろう。
身勝手だ、とクラリスは思った。彼の言う通り、最早神は人類の手を離れ、天使も既に人の世から隠れてしまったのかも知れない。
だが、だからと言って世界から信仰の光を消して良い理由にはならないのだ。これを生きる糧とし、そして、生きる為の支えとして、依拠している人間が確かにいる。
アザゼルは、信仰に縋る事でしか生きられない人間の姿が見えていながら、彼らが信仰から自立する事を願っている。彼らから拠り所を消してしまえば、どうなるか。
それが解らぬアザゼルではない筈なのに、彼は、人間の可能性と言うものを無限大に信じている。自分の理想しか、この男には見えていない。


942 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:25:23 3bIU43iM0
 紳士であろう、アザゼルは。その外面だけを見たのなら。
だが、その内面にはやはり、男の誰もが大なり小なり抱いている強い欲望や野望が渦巻いてしまっているのだ。
アザゼルの場合は、それが聖なる物であるから、一目でそれと解らせないのである。そして、自分の理想が人類にとって一から十まで為になるものだと狂信している。
美青年の身体に、紳士の精神(こころ)。そして、歴史上に名を刻んだ支配者達の誰もが有していたであろう、果てなき野心を抱いたサーヴァント。それこそが、アーチャー・アザゼルなのだった。

「そう、ですか……」

 クラリスには、もう何も言えない。
アザゼルは確かに、個人的には嫌いなサーヴァントだ。だが、この男を頼らねば、自分はこの世界で殺されてしまう。
そして皮肉な事に、この堕天使はクラリスと言うマスターを守ると言う誓いに一切の嘘を交えていない。聖杯が欲しいと言えば、これに願いを掛ける事も良しとするのだろう。
一番頼りたくない相手が、その実一番頼もしく、そして、頼りにしなければならない存在。己が心に芽吹く葛藤に、クラリスは苦しんだ。
自分がクリスチャンでなければ、きっとアザゼルの願いもすんなりと飲み下し、肯定する事が出来たのだろう。これもまた、アザゼルの言う『信仰と言う蜘蛛の巣』による弊害なのだろうか。そうだとしても、クラリスにはこの蜘蛛の巣を捨て去る気はないが。

 浮かぬ気持ちのまま、クラリスは冬木教会へと続く丘を登って行く。
この場所に来ると、アザゼルは珍しく良い顔をしない。それはそうだろう、余りにもアザゼルの主張と神の家たる教会の存在意義は相反するそれなのだから。
それにクラリス自体、この教会に足を運ぶ意味はそもそもない。何故ならば今の彼女のロールとは、冬木教会に身を置くシスターと言う訳ではない。
この冬木市に仕事で訪れている、022プロダクションと言う芸能事務所に所属しているアイドルなのだ。それにも関わらず何故、彼女が此処に足繁く通っているのか。
それは彼女が、シスターであるからに他ならない。同じ神と教義を信じる者が集う場所。クラリスはそれが近くにあると、つい足を運んでしまうのだ。
そして、つい教会の雑務を、手伝う義務もないのに手伝ってしまう。クラリスとはそう言う人物だった。アザゼルを召喚してしまったのは、その雑務が夜中まで長引いてしまった日の出来事であった。

 教会までの道のりをクラリスは、シャトルランを終えた後のように重く、鈍くなってしまった足取りで向かって行く。
『昨日の事件』の事もある。じきに聖杯戦争が始まってしまうと言うのはアザゼルの言であり、クラリス自身もそう思う。それを思うと、気分が晴れない。
そんな顔のまま、教会に入ろうとするクラリスであったが、彼女がその扉を開けるよりも前に、冬木教会の礼拝堂へと続く扉が開かれた。
清浄さと森厳さで満ち満ちていると、クラリスですら思った冬木の教会。その雰囲気に似つかわしくない、金髪の男が、クラリスの視界に飛び込んでくる。
面白くなさそうな顔付きで、男は、クラリスと、アザゼルを一瞥。アザゼルの美貌に一瞬呑まれ、目を見開かせたが、それだけ。
後は両者を一顧だにせず、足早に彼女達の横を通り過ぎて行った。身体から香る煙草の臭い、顔に刻まれた傷痕。神の家には相応しくない、反社会的な臭いを感じさせる男だった。堅気の者では、先ずないだろう。

 ――あんな人でも、信仰を求めている――

 正業ではない人間でも、神の愛を求め、神の懐に憧憬を抱く。そして、己の罪を告白し、真面目に生きると神に誓う。
何て、素晴らしい事なのだろうとクラリスは改めて思った。これこそが、信仰をこの世から消してはならない事の証左ではないかと、そんな表情でアザゼルを彼女は見やった。
だが、アザゼルの興味は、彼女にはなく。今しがた通り過ぎて行った、タバコの臭いを香らせる男の方に、向けられていたのであった。


943 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:26:28 3bIU43iM0
 ◆
                                                             
    ジュデッカ                               血塗られた献身                        
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                                                 餓狼伝                   
           アイボリー・メイデン                                     総ての乙女の敵      
                                                                       
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


944 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:27:40 3bIU43iM0
 ◆

 ZONE15――『アイボリー・メイデン』

 神を信じる訳じゃぁねぇ――『ヤバい時にはいつも神を拝み倒してる!!』。
奇跡を願う訳でもねぇ――『起って欲しいもんだな、ミラクルが!!』。
ただ、あの丘の上からだと、『昨日の事件』の様相がよく見えそうで、んで、偶然その位置に教会があって。それが物珍しかったから、俺は入っただけだ。

 この丘の上からじゃ、『昨日の事件』の現場がよく見えなかった――『よーく見えたぜ!!』。
そりゃそうだろうと、登りきってから気付いたんだから間抜けな話だ。丘より高いビルや、事件現場を囲むように建物が建てられてるんだったら、見られる筈がねぇ。
収穫ゼロじゃ癪だってーんで、俺は教会の中に足を踏み入れた。まぁ、言った通り、物珍しさ、ってのもある。だがそれ以上に――この教会、『臭い』。
悪党(ヴィラン)としての直感が告げている。この教会、まともじゃぁねぇ――『何処から見てもふっつーのチャーチだろ!!』
チープなドラマや映画、オーバーに物事を表現したがるコミックやゲームの中でよく見られるような、麗しく豪勢なその内装は、
本当に清貧を旨とする宗教の教義に則って建てられたそれなのかと疑っちまう。まぁ、普段は見られない物だったから、見てて少しは面白かったけどよ。

 ――この場に、御用でもおありかな?――

 ――コイツだ。俺は思った。
どんな香水(コロン)を付けてんのか。場末のバーで残りの人生を浪費するだけのババアですら付けないような、甘い匂いのする香水めいた香りを漂わせる、初老の神父。
この教会が臭うんじゃない。こいつ一人が、臭いんだ――『良い香水つけてんじゃねーか』。

 およそ、教育と呼べるものをまともに聞いた事がない……ぶっちゃけて言えば、学もねぇ。
そんな俺でも、こう言う事だけは直感で解るんだな。悪党って奴は、臭いと雰囲気で解っちまう――『神父様だろ、良い奴に決まってる!!』。
科学とか論理とかじゃない。そう言う物なんだ。ヴィランは、誰がヴィランであるのかが一目で解っちまう。引かれ合う、って言う表現も、まぁ間違いじゃない。

 ヴィランどころかヒーローと言う概念すらアニメやコミックの中でのお話なのは勿論の事、『個性』ですらが存在しないこの世界。
建てられている建物、街並み、道路の様子。何から何まで、俺のいた世界とそっくりで、鏡写しだと言っても良い程なのに、この点だけが大いに異なる。
ハッキリ言ってこの世界での俺は、完全な除け者、爪弾きだった――『馬鹿言え、人気たっぷしだろ』!!
今や個性と呼ばれる力を持っているのはこの世界じゃ俺一人。それ以外の全員が、俺の世界で言う所の無個性だ。こうなって来ると、イレギュラーなのはこの世界で俺だけだ。
一人ってのは慣れてるが、個性と言う元居た世界での当たり前すらが存在しねーとなると、孤独って奴を嫌でも感じちまう。
この世界の悪党って奴は、レベルが低すぎる。俺はこの世界に来てから、悪事の一つも犯してない。ヴィランの名が廃って行くのを実感する。
個性もヒーローも存在しないせいで、善と悪についての哲学って奴がどいつもこいつも未成熟、全然成熟しきってない。
個性もないもんだから、この世界で悪党って奴が犯す犯罪の殆どが、けち臭い、自分の生活の為だけに行う犯罪。
俺も正直そう言う、自分の為だけに行う悪事って奴の方が多いんだが、この世界の悪党共のそれは輪を掛けて悪事のレベル――規模や手口って奴が未熟だ。
つるむ気も、起きやしない――『一緒が良い』。この世界で悪事を珍しく働いてないのは、まぁとどのつまり、この世界の悪党共があんまりにも情けないからな訳だ。

 ……だが。
あの神父、みてーな奴は違う。俺達みてーな粗野な言葉遣いの対極にあるような落ち着いた振る舞い、知性って奴を感じさせる立ち姿。
叩いても埃なんか出そうにもないような、見事な聖職者って奴に見えるだろう。だがそれは、叩き方の問題だ。俺が叩けば、ボロって言う名の綿埃が飛び散るだろうよ。
断言する――『自信はないぜ』。アイツは、悪党だ。ヴィラン連合に所属してる、俺に負けず劣らずのイカレ共と比べて、何らの遜色もない、筋骨の通った狂人。それが、あの神父だ。


945 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:29:13 3bIU43iM0
 ――用があるって訳じゃねぇ。こんな所に教会があったのかと思って、珍しかっただけさ――

 ――ほう。此処を知らぬと言う事は、冬木の外からやって来た御方かな――

 ――ま、そう言う事になるかな――

 ――近頃は参拝に訪れる者も減りつつあってな。今日など特に酷い。『昨日の事件』のせいで、この時間であると言うのに参拝者の数がゼロで、悪い言い方だが暇を持て余しているのだよ――

 ――一応言っておくが、有り難いお説教を聞く気はないぜ――

 ――心配は無用だ。私自身、説教と言うのは中々得意でなくてな――

 ――そうかい。ま、次来る時には得意にしとけよ――『もう来ないけどな!!』――

 ――善処しよう。では、お気をつけて。近頃は物騒だ。危難に遭わぬ事を祈っているよ――

 そんな、他愛のない会話を交わしてから、俺達は別れた。教会から出た瞬間俺は内心ホッとした。やっと、蜘蛛の巣から抜け出せたって感じにな。
只者じゃない神父だってのは解ってはいたが、この場で暴れちまうと目立つ。それに、サーヴァントって奴に傀儡にされただけの無関係の市民って可能性も、まぁなくはない。
あの場で殺して変に悪目立ちするよりも、とっとと帰った方が方策としてはマシだと思ったから、俺はとっとと教会の表口から外に出たのさ。
……その時に、目が覚める位の美形の男に出会っちまった――『俺の方がイケメンだろ!?』。今日は全く、ドギツイ特徴の奴らばかりに遭う日だった。

 きっと、聖杯戦争って奴が始まるからなのだろう。
自分がロクでもない奴だとは解っているが、このイベントは輪を掛けてロクでもない――『崇高だ』。
聖なる杯とやらを賞品にするから、ヒーローもヴィランも、なんの力もない一般人も。それを求めて争い、殺しあえ。その為の道具――サーヴァント――は用意した、だ?
これ程頭がおかしく、馬鹿げた催しがあるか。誰がヴィランを管理する? 誰がヒーローの義憤を挫く? なんの力もない無個性にどんなハンディを付けてやる?
俺には少なくとも解らない。こんなイベント、まぁ間違いなく頓挫するものだと思ってた。だが現実には、このイベントが着々と水面下で進んでいる事がよく解るんだ。
だが、何処かでエラーみたいな現象が起きる事も、勿論あり得る。現に、『昨日の事件』だってそんな感じなんだろう。
あれは恐らく、完全完璧な管理など困難と言っても言い過ぎじゃない、聖杯戦争の管理不届き。それが最悪の形で噴出したんだろう――『最良だろ?』。

 このイベントを運営する奴にとっても、それに踊らされる奴らにとっても。聖杯戦争って奴は一筋縄じゃ行かなくなるだろう。
だが、それで良い。俺は、このイカれたパーティーに乗った。聖杯って奴に、俺は興味がある――『ないぜ』。
しかし、それと同じ位、この聖杯戦争に招かれたイカレた奴ら……つまり、マッドな野郎共に興味がある。
このイベントの異常性を認識してなお、聖杯を求める奴らなんて、どっかしら頭のネジがキレてる奴以外にあり得ない。
同様に、聖杯って奴の万能性を認識してなお、聖杯を破壊しようと動く奴らもまた、頭がダブルの意味でキレてる奴ら以外あり得ない。
悪しざまに言ったが、聖杯戦争って奴には期待してる。ヤバいのはマスターだけじゃない。きっと、神話や伝説・伝承の中の存在であるサーヴァント達の中にも、俺が探しているようなイカれちまった奴がいるに間違いない。

 ――現に、だ

【ああ、かわいそうなお父様……。自分の中に住むもう一人のお父様に苦しむ、悲劇の人……。ガラティアは、貴方の苦しみを癒す術をしりません……】

 この、俺に対してお父様と言って来る、『ガラティア』って名前のバーサーカーもまた、イカれちまっているからだ。
血縁関係なんて俺とこいつには勿論ないし――『十五の時の子だ』、そもそもこのバーサーカーは人間ですらない。よく出来た『人形』なんだ。
人形の癖して、余りにも人間に近い。自分の意思を持ち、服を着せれば全く人形と解らない程滑らかな動きをする上、不細工な操り糸もなく勝手に動くこいつは、
最早普通の人間と何ら遜色がない。だが、例えどんなに人間に近かろうと、人は人形を産む事なんて出来ねぇ――『出来るさ』。
こいつは俺の事を、アガルマトとか言う昔の男だと錯覚しているらしい。人形と結ばれる男も男なら、愛した女を忘れるこいつもこいつさ。


946 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:31:07 3bIU43iM0
 誰が見たって、狂ったマリオネットだ。俺の引き当てたサーヴァントは。
だが、これで期待出来る。きっと、コイツの他にも、俺の興味を引く狂った奴らがいるに違いない。そいつの姿を、俺は見てみたい。
そして、最終的に、聖杯を手に入れ、俺は、『俺』になるんだ。俺を長年苦しめ続ける、俺は俺じゃないと言う意識を改革させる。
その為に、俺は聖杯で本物に――『いいや、お前は、コピーさ』。

「うるせぇ、勝手に割り込むんじゃねぇ……!!」

 さっきからこいつは、俺の心の中にズケズケと……。
いい加減にしやがれと、俺がどれだけ凄んでも、心の中の俺は、俺をあざ笑うだけ。
殺せるものなら殺して見ろと、奴は言う。無論、殺せない。俺が死ぬ時が、心の中の俺が死ぬ時であり、そしてそれは、余りにも無意味な行いだからだ――『それで解放されるならアリだろ?』。

 この世にもし、神サマって奴がいて、そしてそいつが、俺みてーなヴィランにも優しい存在だったとして。
そんな存在がいるのならば、是非とも、俺の大きな悩みを、一つだけでも解決して欲しいものだった。

 神を信じる訳じゃあねぇ――『ヤバい時にはいつも神を拝み倒してる!!』。
奇跡を願う訳でもねぇ――『起って欲しいもんだな、ミラクルが!!』。

「アンタは如何なんだ、幸薄そうなツラしてるけどよ」

 偶然、俺とすれ違おうとした、幸薄そうで陰気なツラした、やけにガタイの良い、紫がかった黒髪の男に、俺は問いかけてみた。
そいつは、一瞬だけ立ち止まるが、俺の言葉に応えようともせず、ツカツカと歩き出し、丘の上を上って行く。きっと、教会に用があるのだろう。
あんな、陰鬱そうで神に見放されたような風貌の奴でも、神って奴を信じるらしい――『見放してないさ、お前と違ってな』。

 クソが、もう、耐えられねぇ。
俺は周囲を見渡し、人目が今ない事を認識してから、懐から黒いラバーマスクを急いで被り、大きく深呼吸をする。
やはり、これは落ち着く。どんなクスリよりも、このマスクは俺にとっての安定剤になる。
自己(オレ)と、限りなく他者に近い自己(オレ)が離れ離れになり、引き裂かれる感覚が、落ち着いて行く。
破れた紙の片方と片方を、ピッタリと繋ぎ合わせるように、俺の心の平穏もまた、元のそれへと戻るのさ。

 軽くなった足取りで、俺は丘を降りて行く。頭の中を覆っていた靄が祓われ、明瞭になった頭で考える。
俺の、コピーを複製出来ると言う能力から、『トゥワイス』と言うコードネームを採用した筈なのに。
それが今じゃ、自分と、自分の意思から離れ暴走しかけるもう一人の自分に葛藤する、俺自身を表す名前になるとは。何ともムカつく、皮肉な話だった。


947 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:32:29 3bIU43iM0
 ◆
                                                             
    ジュデッカ                               血塗られた献身                        
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
       蓮の台                                                      ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                                                 餓狼伝                   
                                                          総ての乙女の敵      
                                                                       
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


948 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:35:01 3bIU43iM0
 ◆

 ZONE16――『蓮の台(はちすのうてな)』

 元居た世界では、この世界で言う所の多神教と言う宗教形態が、その世界における信仰のメジャーストリームであった。人々は、時々によって信仰を使い分けた。
勿論、国によっては国教と呼ばれる物が定められているし、一つの神にしか信仰を捧げぬ人間もいた。
多神教の息づく世界に生きていながら、一神教的な教義を掲げる教団や人々、民族も少なからず見られた。
だが、彼らは全体で見ればマイノリティだ。多くの人々は、その状況によって神と言うものを信じ分けた。
これが我国の国教であると国の主君が定めても、大抵の人間は信じる神を国教で崇めるべき神の他に設定している物である。国の主君も、これを咎めない。
人々の信仰を禁ずる事は、大いなる軋轢を王と民草との間に産む事は過去数千年の歴史が詳らかにしている事は、少し過去を学べば誰でも知っている事であったからだ。
それに、信ずる神を使い分ける事は決して浮気であるのではなく、寧ろ合理的な判断である。
百姓や農民が、豊穣を司る神や大地を司る神、天候を司る神を信奉する事は、非合理的であろうか? 神の実存を疑ってしまえばそれまでだが、普通に考えれば理に適うだろう。
漁師や船乗りが、大海原を支配する神や海の恵みを司る土着の神を信奉する事は、非合理的であろうか? これもまた、理屈は通っているだろう。
彼らから信仰を取り上げると言う事は、国が割れる事を意味する。信仰を禁ずると言う事は、それだけ重大かつ深刻な結果を後々に及ぼしかねないのである。
だからこそ、王権を神から授けられたとのたまう国王ですら、信条を使い分ける。本音を言えば自分の国教の神を信じて欲しい。だがそれをやるのはリスクが大きい。
故に、『慈悲』や『寛大さ』と言う形で、彼らの信仰を赦すのである。これは、領地を上手く統治する事に腐心して来た国王や主君・貴族といった人種達が、幾百・幾千年もの間探り続け、磨き上げて来たあらゆるメソッド、その集大成の一つでもあった。

 しかし、如何もこの国では、信仰と呼ばれる行為そのものが混沌としているようであった。
異境の地で隆盛を誇る宗教が幾つも混在していると言う、この国の今の現状。
通常、異国の人間が多く集えばその分宗教も持ち込まれ、現地の人間もその宗教に染まる、と言うのが当たり前であるが、この国ではそうはならないようである。
寧ろ、大抵の人間が神の存在を信じていない。それどころか、殆どの神は既に『隠れた』らしく、神が直々に表れる事は勿論、遥か高みから神託や恵みを授ける、
と言う事すら現代ではされなくなったと言うではないか。神を祭る為の神事も、今ではその本来の意味合いがとうに薄れ、経済的な利潤や地域に活気を呼び込む為の、
ある種の通事にまでその意味合いが変化させられており、今では多くの人物が、祭りや神事の本来の意味も知らず、其処で丁重に扱われる神を敬う事もしなくなったようである。

 あらゆる意味で、神と人との位置が近く、生活に神、或いは、神に分類するべき超自然的な存在が根ざしていた、自分の世界とは違うな、と。
『メロダーク』は、此処に来てから考えるようになった。この世界が悪い、と言う訳ではない。元々順応する力はメロダークは高い方である。
生活の仕方自体、この世界と、元居た世界では全く異なる。いや寧ろ、この男にとって冬木市とは真実、完全なる異世界であった。
捻ればそのまま口にする事が出来る水が出てくる、蛇口と言う装置。何時も物を冷たいまま保存出来る冷蔵庫。室温を自由に変えられるエアーコンディショナー。
季節のものではない果物や野菜が何時でも供給出来る、作物の生産体制。そして、種々様々な肉や魚、野菜に飲料が揃っているスーパーと言う施設等。
この世界の技術やシステムは、あらゆる点でメロダークのいた世界を上回る。寧ろ、勝っている所を探す方が、難しいと言う程であろう。

 今の世界の技術や道具諸々に、メロダークはまだ慣れていない。
こんな調子で聖杯戦争が始まってしまうとなると、極めて大きな重石を身体に巻き付けられた状態でスタートしてしまうのと同じ事だ。
生活必需品の使い方すら解らないのは、聖杯戦争以前の問題。ああこう言う物なのか、と、ある程度世界の在り方を受け入れられるのと、
その世界でメジャーである道具を使いこなすのとは、また別の話。今もメロダークは、聖杯戦争が正式に開催されるまでの間、この世界の常識と風俗、
そして最も良く使われるアイテムの使い方を学んでいる最中、と言う訳なのであった。勉強の甲斐もあり、スマートフォンを用いて『昨日の事件』の事を知れたのは、大いなる進歩と言えるであろう。


949 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:36:22 3bIU43iM0
 この世界の見聞を広めようと、冬木の街を歩いていたメロダークだったが、この町に教会、と呼ばれる宗教的施設があると知ったのはつい三時間程前の話。
教会、キリスト教と呼ばれる、この世界に於いて特に隆盛を誇る一神教の宗教の施設であると言う。自分達の世界で言う所の神殿だろうと、メロダークは考えた。
ふと、その教会と言う施設の存在を認知した時、メロダークは興味が湧いたのである。聖杯戦争を生き残る為に必要な諸々の道具に慣れる事に必死で、
世界に息づくこう言った宗教施設については全く学ぶ事はなかった。学ぶ時間がなかったからである。
だが、冬木市の地理に慣れるのと同時に、スマートフォンの地図アプリと言う物を早く使いこなそうと言う意味も込めて、彼はこうして、一人自分の足で教会まで辿り着いた。

 教会、と呼ばれる施設の外観は、あらゆる意味でメロダークの世界での神殿とは一線を画していた。
俗に『神の家』、とも呼ばれるそうであるが、成程、確かにこれは家だなと、メロダークは考えた。
四方を外気に晒された所が、彼から見て確認が出来ず、布教や祭事等の殆どが、見た所施設の外ではなく中で行われる物と見て間違いなかった。
元の世界での神殿で行われる託宣や祭事、布教の為の説法などは、通常外で行われる事が殆どであった。これが文化の違いなのだろうと、彼は思う事にした。

 教会へと続く入口から、内部に入って行くメロダーク。やはり、外装も違えば内装も違うのは自明の理。
備えられた幾つもの長椅子は、その設置された数から推理するに、普段はもっと多くの参拝者が来る為に、それを想定してこれだけの数を用意した事が窺える。
今は、『昨日の事件』の影響のせいもあろう。参拝者が二人しかいなかった。その者にしても、メロダークよりも遥かに歳の若い女性と、彼女の付き人と思しき、
フロックコートの美青年と来ている。メロダークが目を瞠る程の、灰色の髪の美男。遅れて、男の方も、メロダークの方に柔らかな笑みを投げ掛けて来た。その笑みがまた、同性ですら魅力的だと思わせる程の、不思議な魔力を放つのである。只者ではない。メロダークが咄嗟にそう思う程、妖しい人物であった。

「どうも、こんにちは」

 綺麗な声で、その金髪の女性は此方に挨拶を投げ掛けて来た。

「どうも」

 我ながら不器用で、愛嬌も何もない挨拶だと思いながら、メロダークは短くそう言って頭を下げる。
それきり、三人の間に会話はなかった。無口なメロダークの性分もあって、尚の事会話が起らない。
とは言え、金髪の女性と、灰色の髪の青年は、メロダークにとっては赤の他人である。自発的に会話をしよう、と言う気自体、そう起らないのであるが。

【メロちゃん、口重いです。もうすこしお話しするどりょくをしてください】

 ――と、何処からか聞こえてくる、メロダークの引き当てたキャスター、『パドマサンバヴァ』の幼い声。
この念話と呼ばれる術に関しては、メロダークもすんなりと受け入れる事が出来た。寧ろ、こちらの術は、メロダークの世界よりの技術である為に、まだ驚きは少ない。
だがそれでも、驚くべき所があるとすれば、このパドマサンハヴァの念話の効果範囲であろう。
メロダークの今いる教会から、この幼い大覚が微睡んでいる所まで、距離にして十km以上は離れている筈なのに、平然と念話が届く。
これは、彼女が有している六神通と呼ばれる技術の応用だと言う。彼女が本気になれば、この冬木の両端に両名がいたとしても、平然と念話が届くレベルであるのだと言う。
少なくとも、あの少女との意思疎通に関しては、スマートフォンを経由する必要がないようだとメロダークも安心している。尤も、パドマサンハヴァがスマートフォンを扱えるとは、思えないが。

【特に話す事はない。それに、メロちゃんは止めてくれ。マスターか、そうでなくともメロダークだ】

【ぶー。したしみやすくていいのです】


950 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:36:48 3bIU43iM0
 時たま、物事の本質や核心。
それどころか、有史以来地球上の至る所で生まれたであろう哲人や学者達ですら想到出来なかった、万物の真理すら剔抉するような、
鋭い一言を口にする事があるパドマサンハヴァであるが、その本質は見ての通り、無邪気と言う言葉がこれ以上となく合致する少女である。
己の心に浮かび上がった、諸々の本能、及び、降って湧いたような『これをやりたい』と思う気持ち。それに忠実な少女なのだろうと、メロダークは思っている。
それ故に、困っているのだ。元居た世界でも、彼女のような存在が一人いた。竜王が転生したあの無邪気な子供も、パドマサンハヴァと同じ性格の持ち主だった。
そう言った経験があったからこそ、扱い方も付き合い方もある程度は学んでいるが、このキャスターの場合は、時折恐ろしく透徹とした瞳で、
理性に溢れる事を口にするのだからゾッとする。ある意味で、竜王の転生体であるエンダよりも始末が悪い。
向こうは本質的には子供である為、叱れば大人しく従うものの、こちらは従う素振りがあまり見られない。解っていてやっているのだろう。
だからメロダークも、パドマサンハヴァを厳しく律する事を諦めている。と言うよりも、このパドマサンハヴァ自体が、密教と言う厳しい教義で縛られた宗教の僧侶なのである。厳しい掟で律し、縛ろうにも、無駄と言う物であろう。何せ相手の方が、そんな事に慣れているのであるから。

 【あ、こら、いすに座って黙りこくらないでください。話をしなさい】、と念話が送られてくるが、メロダークは無視して長椅子に座る事にした。
無理に話しかけて、あまり会話が続かなかった事の方が、寧ろ相手にとって失礼だろうと考えたからである。
全く奇妙で、不思議なサーヴァントであるが、メロダークは、この子供の高僧の実力については一片の疑いも抱いてない。間違いなく、このサーヴァントは自分よりも強いからだ。
と言うのも以前、パドマサンハヴァに対して、実力がどれ程のものか知りたいとメロダークは口にした事があるのだ。
それに対する少女の返事は、「かかってくるのです」、と言う物。自分の身体よりも大きい錫杖を構えるパドマサンハヴァに対して、大の大人であるメロダークが本気で木剣を打ち込んだのである。

 ――一撃たりとも、パドマサンハヴァに攻撃が当たる事はなかった。
風に舞う木の葉とは、正しくあの事を言うのだろう。自身に重力が掛かっていないかのような軽やかな動きで、パドマサンハヴァはメロダークの凄まじい攻撃をかわし続け、
また時に錫杖で彼の攻撃をいなしつつ、隙を見せたメロダークの急所に、錫杖の柄や先端を突き付けたり、そっと当てて見たり。
一撃たりとも、メロダークの攻撃がパドマサンハヴァに当たる事はなく。それどころか、少女の放つ攻撃の全ては、メロダークに当たっていて。
恐らく、殺す気で彼女が攻撃を仕掛けていたら、当の昔にメロダークなど物言わぬ骸であった事だろう。「……参った」、そう言ってメロダークは素直に負けを認めた。
「えへん」、パドマサンハヴァが可愛らしく威張った時の様子が今も忘れられない。兎に角、実力についてはパドマサンハヴァは一級品だ。
三騎士のクラス並に近接戦闘をこなせるキャスター、と言うのは大変貴重であるらしい。要するに、魔術の腕前も一級品、肉弾戦の実力も戦士以上と言う事だ。
これで弱い訳がない。魔術を嗜む戦士と言うのは往々にして器用貧乏に陥る傾向に強いが、パドマサンハヴァは、全ての魔法戦士にとっての理想体のような存在だ。サーヴァントに関しては、メロダークは間違いも疑いもない当たりを引いていたのである。

 これならば、聖杯戦争の裏に潜む野望を挫ける事であろう。
――いや、と、メロダークは思い直す。自分は、聖杯戦争で何をするつもりなのだ?
道徳的に、論理的に考えてみても、聖杯戦争が許される筈がない。そもそも、熾烈な争いの果てに現れる物が、神の薫陶を受けた聖なる杯だとはメロダークには思えない。
だが、もしも、聖杯が本物の願望器であり、メロダークの願いを叶えてくれる奇跡の品であったとしたのならば……?
背中に酷く汚れた油を掛けられたように、落ちず、拭えず。今も彼を苦しめる罪をなかった事に出来るのだろうか?
やがて現世に君臨するであろう、始祖帝の存在を消滅させる事も、聖杯によって可能なのだろうか?
始祖の憑代に選ばれた■■を、その苦しみから解放させてやる事も、聖杯の奇跡にとっては容易いのだろうか?


951 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:37:05 3bIU43iM0
 メロダークは、無明の闇の中を彷徨い、迷っていた。
自分のこれまでの人生と、培って来た学と経験から、成すべき事は解っているのだ。聖杯戦争を頓挫させる。その一点を於いて他にない。
だが同時に、考えてしまう。これは、チャンスなのではないのかと。タイタスの依代に選ばれ、不当な境遇と、不当な死を与えられようとしている、
■■を救える千載一遇の機会の前に自分は立っているんじゃないのかと、メロダークは思ってもしまうのだ。
あの男は、確かに始末するべき対象である。タイタスの霊が■■の身体に受肉してしまえば、あの世界に平和な未来は最早ない。
事と次第によっては始末しろと言う命令も、メロダークは下されている。だが、本音を言えば、それはしたくないのだ。
密命を全うする使者としては、あってはならぬ事だろう。場合によっては抹殺も視野に入れねばならぬ対象に、情が湧いてしまうなど、エージェント失格である。
だがそれでも、苦楽を■■と共にする内に、メロダークは、彼を殺す事に躊躇いを憶えてしまった。
この世界に招かれる際に、他に良い方法があるのではないかと、思ってしまった。そして、神/悪魔は、メロダークにその方法を提示した。聖杯、と言う名前の、血で満たされた杯による奇跡を、である。

 ■■を救う事も、タイタスを葬る事も、その両方を成す事も、何も成さぬまま元の世界に帰る事も、聖杯戦争を台無しにしてから帰還する事も。
メロダークの行動次第では、夢物語ではないのだ。強いサーヴァントだって、彼の下に従っている。
だが、その上で、彼は何をするべきなのか解らない。無手で帰れば、■■はタイタスの憑代としての運命を歩んでしまう。
聖杯の顕現の為に人を殺し続ければ、メロダークは、過去に自分が犯した罪を再びなぞる事になってしまう。罪と解っていながら、罪を犯す。
それは、メロダークの人並の心には、余りにも重く、辛すぎた。一度目は、歯を食いしばり、見ないふりをする事で耐え切る事が出来た。
二度目は、無理だ。次同じ事をやってしまえば、もう目を背ける事が出来なくなる。今度と言う今度は、永劫その罪と睨み合い続けねばならないのだ。
そして、その罪を相手にメロダークは、勝つ自信がない。戦士として優れた技量を持っていながら……メロダークと言う男は、その心の強さだけは、ただの人間のそれなのだ。
その人並の器しかない心で、過酷な選択を彼は選ばねばならない。友を取るか、大義を取るか。余りにも、選ぶのが苦しい二択であった。

 ――心の向くまま気の向くまま、ますたーのしたいことをしていれば、信じるものは見えてくるのです――

 あの時、パドマサンハヴァが言っていた事が、メロダークの心の中でリフレーンする。
自分のやりたい事を、成したい事を、すれば良い。余りにも、尤もな事だ。あの高僧でなくとも、そんな事を言う人物は大勢いるだろう。
その当たり前の事が、今のメロダークには苦しい。掴める所が何もない、切り立った崖を素手で登るような苦しさと難度のように、思えてならない。

 ――キャスターよ。お前なら、解るのだろうか。
今まで心の向きを自分で定めた事もなく、誰かの打ち立てた大義に従い、誰かが突き立てた看板の向きに歩くだけだった男の、信じるものとは何なのかと。
野望と罪業、使命と言う名の蜘蛛の巣に絡め取られた自分に、何が出来るものなのかと。

 ――俺には、それが解らない……――

 俯きながら、物事を深く考えているメロダークだったが、不意に、その嗅覚が甘い香りを捉えた。
その臭いに当てられたように、聴覚も復活する。誰かが、自分を呼んでいる。メロダークはそう感じた。
「君、其処の御仁」、どうも声の調子から言って、自分に対し何度も声を掛けているようであった。
そんな声に気付かぬ程、深く物事を考えたままであったとは。戦士として、気が緩み過ぎている。バッと顔を上げるメロダーク。

「うむ、起きていたか。随分と深刻そうに悩んでいたようなのでな。声を掛けてしまったよ」

 メロダークの視界には、男が映っていた。
灰色の髪をした初老の男。身体から甘いアロマのような物を漂わせ、只ならぬ雰囲気を醸し出す、一目でこの施設に従事する聖職者であると、解る男が。


952 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:38:17 3bIU43iM0
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    ジュデッカ                               血塗られた献身                        
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
                                                                ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                                                 餓狼伝                   
                                                          総ての乙女の敵      
                                                                       
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺               殺られた事にも、気付かない    破滅的終局    
                                 久遠の赤


953 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:38:43 3bIU43iM0
 ◆

 ZONE17――『殺られた事にも、気付かない』

 実の事を言うと『エイブラハム・グレイ』は、教会を訪れる者が一人もいないと言う現状を、有り難く思っていた。
聖杯自体に願いがあると言う訳ではないが、聖杯自体の真贋に興味のあるグレイにとって、聖杯戦争は捨てておける物ではない。
自分の死ぬと言う事についての恐怖は、グレイには薄い。己の命が惜しいと言う訳ではないが、聖杯をこの目で見れぬ事と、
聖杯戦争と言う実験の経過とその顛末だけは、非常に気になる。せめて、これらを目の当たりにしてから死にたいものだと、グレイは考えている。

「身体の調子でも悪いのかね」

 見るからに鬱蒼とした気配の漂う、体格の良い長躯の男に対し、グレイが問う。この場にいる、グレイ以外の二名も、陰鬱な空気を醸す男に目線を送っていた。

「……いや、すまない。考え事をしていた。」

「ふむ……。それは、私のような役目を負った者が、必要な悩みかね」

 一応、告解や相談などは、聖職者の端くれであるグレイは一応こなす事は出来るが、感動する程上手いと言う訳ではない。
本音を言うと、言葉でのみの解決は余り行いたくないのだが、職務上行わねばならない事もままある。

「いや、構わない。心配をかけた」

 故に、こう言った配慮はグレイにとっては有り難い。
キリスト教と呼ばれる宗教に従事する聖職者としては口にしてはならぬ事ではあろうが、こう言った悩みは自分で解決の糸口を探すに限るのだ。
大抵の悩みと言う物は、自分自身を冷静になれる境遇に身を置かせ、静かに考える事で意外と解決したりするような物が多いのだ。
無論、その悩みや問題の解決に、誰かの助けや後押しがあっても勿論良い。だが、そう言った助けや後押しを借りるのならば、深刻の一歩手前の状態になってからにして欲しい、と言うのがグレイの本音なのだった。

「そうか。この礼拝堂は、一人でゆっくり物事を考える為のスペースとしても開放している。一般開放が終了する時間までは、のんびりとしていたまえ」

 そう事務的に男に告げた後、グレイは、桜色を基調としたワンピースを身に纏う金髪の女性に目を向ける。

「精が出るな、シスター・クラリス。以前も言ったが、此処は君が身を置く教会ではないだろう。手伝いをしてくれるのは勿論嬉しいが、自分の時間も大事にしたまえ」

「いえ、グレイ神父。同じ信仰を共有する者として、神の家に私が足繁く通うのは当然のお話です。今の私は、キチンと自分の時間を有効的に使っているつもりです」

 やれやれ、とでも言うように苦笑いを零すグレイ。実に、よく出来た女性だと感心せざるを得ない。
シスターとして理想の女性である。この冬木教会に身を置くシスター・キャシーもよく見習ってほしい物だとグレイは切に思う。
クラリスはグレイの言った通り、この冬木教会に足を運び、教会の諸々の雑務を手伝ってくれるのだ。彼女はそもそもこの冬木に住んでいる訳ではない。
県が二つ以上も離れた、別の所に住んでいると言う。故に、この教会の仕事を手伝うと言うのは本来的にはやらなくても良い事柄なのだ。
それを承知で、彼女は仕事を肩代わりしてくれる。その理由は彼女の言った通り、同じ神を信ずる者達を助けたいから、だと言う。実に、良い教育を受けた女性である事が窺える。

「ふむ……それなら、シスター・クラリス。悪いが、教会の花壇の雑草毟りを手伝ってくれないか。エディ一人では少々身が重そうでな」

「まぁ、エディ君一人で? それは大変ですね、この教会はとても大きくて立派ですから、一人では手が足りないでしょう。解りました、お手伝いしてきますわ」

「助かるよ。それに、君と一緒ならエディも喜ぶだろう」


954 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:39:13 3bIU43iM0
 グレイがそう言うと、クラリスは席から立ち上がり、彼に向かって一礼。
それでは、と短く告げて、表の花壇の方へと歩んで行く。遅れて、彼女の友達か、それとも、良い人と考えるべきであろう美青年も歩み出す。
礼拝堂の外へと出る一瞬、灰髪の男の向けた一瞥を受け、グレイは一瞬表情が強張った。グレイですらが一瞬委縮する程の、眩い聖性に溢れる男。
クラリスの連れと言う事は、同じ聖職者なのだろうか。だとしたら、さぞや名の通った者であるに相違ないとグレイは考えた。

 「失礼する」、そうグレイは、今も長椅子に座る長躯の男に告げ、礼拝堂を後にする。
『昨日の事件』が起った後だ、今日は人が来ないだろうとグレイは踏んでいたが、意外にも四人、物好きがいたようである。
しかも内一人など、生れ落ちてから神の奇跡など信じた事もないような、人相の悪い、反社の臭いのする男と来ている。
やはり、聖杯戦争と言う魔宴が醸す、異様な空気がそうさせるのであろうか。

 この聖杯戦争、真っ当な神経の持ち主ならば到底受け入れがたい非人道的なそれだと慷慨するであろうが、グレイは意外にもすんなりと受け入れられていた。
と言うのも、彼は元居た世界でこれに負けぬ程の、非人道的な観察実験を行っていたからである。
一つのビルの地下に独自に改修・改造した居住スペースを幾つも作りだし、其処にグレイが認めた殺人鬼――天使と彼は呼ぶ――を住まわせ、
彼らに外から搬入させてきた生きた人間を殺させる、と言う実験。実に、狂った実験だ。現にグレイですら、これが非人道的で、倫理性の欠片もないものだとは思っている。
今自分が聖杯戦争に招かれているのは、元の世界でのこう言った所業の報いでもあるのだろう。グレイは本気でこんな事を考えていた。
訳も分からず誰かを連れてこさせ、極めて有利な権限を持たせた殺人鬼達に一存を委ねさせていたグレイの実験と、誰かを何処かからか拉致して来て、サーヴァントと呼ばれる超常の技を誇る霊的存在を宛がわせ殺し合いを行わせる。何処かシンパシーめいた物を感じるし、グレイのサーヴァントの強さを思えば、成程確かに報いとしては成立する、真っ当な手段で、グレイが勝ち残る事は先ず難しいであろう。

 何処の誰が、聖杯戦争を仕組んだのか。疑問と、興味は尽きない。
ここまで見事な蜘蛛の巣を張れる手腕。そして張ろうと思うその精神。グレイの構想した、あの狂気の産物たるビルの地下よりもずっと、偏執狂的で、邪悪で、狂的で。
聖杯の真贋にも興味はある。この実験の行く末も、見届けたい。だが誰が、どんな思いで聖杯戦争と言う一つの織物を編み上げようとしたのか。
それが、グレイにとっての大きなの関心事の一つでもあった。あのビルで、悪魔の領分としか思われぬような実験をグレイが行っていた理由は、一つ。
神の視点に立ってみたかったから、と言う事に他ならない。天上から、下界に住まう人間の善なる姿、魔の姿、悪の姿を眺められる存在が神であるのなら。
その状況を人為的に作りだし、外から人々の模様を眺められるその存在は、事実上の神に等しい存在とも言えるであろう。
聖杯戦争を運営する者も、神の視点から、サーヴァントを宛がわれた人々の戦いを見て、何かを得たかったのだろうかと。グレイは考えていた。

 戦いと言うプロセスを経ている分、ある意味では聖杯戦争と言うイベントの方が、実験としての完成度は高いのかも知れない。
だからこそ、惜しい。この実験を、外から眺めていたかった。戦いの果てに現れる聖杯と呼ばれる物を見てみたかった。聖杯戦争の企画者と話もして見たかった。
だが現実にはグレイは聖杯戦争と言う名前の実験に使われるモルモットに過ぎず、しかも勝ち残ろうにも、呼び出したサーヴァント自体の性情が、
元の世界で自分が面倒を見ていた、難ありの殺人鬼のそれに近いと言う者と来た。神話・伝説・歴史に名を刻んだ、戦士でも魔術師でもないのだ。
ただ、殺しが上手いだけの阿婆擦れ。これで、聖杯戦争を生き残るプランを立てろと言うのだから、渋面を作りながら頭を痛める他ないであろう。

 ――そして、グレイの頭を痛めさせている、目下最大の原因たるサーヴァントは、今何をしているのかと言うと……。


955 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:40:43 3bIU43iM0
 ◆

「あー……買い出しだっる……」

 『昨日の事件』の影響をモロに受ける形で、人っ子一人いない、冬木は新都の市民公園。
そのベンチに腰を下ろし、何処かのコンビニで購入したサラダチキン。それを齧る女性がいた。
紺色のベールを被った、修道服の女性である。顔つきはアングロサクソン風の美女と言う出で立ちで、極めて整った顔立ちを、今は七面倒くさそうに歪めさせていた。

 ポイッ、と、サラダチキンを食べ終えたか。それに封をさせていたビニールの真空パックをポイ捨てし、彼女は虚空を眺めた。
この世には、誰に語っても受け入れて貰えない真実と言うものが存在するが、彼女に関する真実もまた、その一つだろう。
――『ジャック・ザ・リッパー』の正体が、殺しが上手くて殺しが好きなだけのイギリス人女性である、など。
今では都市伝説を越えて、ある種の闇色の『伝説』としての地位を欲しいがままにし、今でも人々に昏い秘を提供し続けるジャック。
これに関しての捜査を進め、これに関する作品を世に提供して来た作家や監督は、到底こんな真実を許容すまい。余りにも、ドラマ性も意外性も、ないからである。

 だがそれでも、彼女は確かにジャック・ザ・リッパーなのである。いや、ジャック・ザ・リッパーと言う怪物(でんせつ)の側面なのである。
ジャックの正体は、生身の人間女性。五人の女性を惨たらしく殺し、現代的な科学捜査を取り入れ始めた当時のスコットランドヤードの捜査を逃げ切った、
伝説の快楽殺人者。こんな側面で現れたのが、今回のジャックなのである。

 小腹が満たされ、一息吐き始めるジャック。面白くない。ジャックはそう思っていた。
教会における禁欲的な生活が性に合わないと言う事もそうだし、この国には自分好みの眩しい女がいないと言う事もそうである。
だがそれ以上に、自分の起こした諸々の殺人事件が、話題にされなくなった事が面白くない。
ジャックにとって、自分が連続殺人の犯人である事が露呈される事は当然避けたい。だがそれとは矛盾する感情が、彼女の中には存在する。
自分の手による事件が、『話題にされなくなる事』もまた、彼女にとっては癪なのである。殺人とは通常、ギリギリまでバレなくさせるよう小細工を弄するのが常である。
死体をバラバラにするという手法も、あれは多くの場合猟奇的な意味を込めて行っているのではなく、死体を持ち運びやすくするようやっている者の方が多いのだ。
だがジャックの場合は違う。ジャックが被害者の女性をバラバラにするのは、完全に自分の趣味であり、嗜虐心及び、性的な欲求を満たす為である。
美しい女性ほど、惨たらしく殺したい。恋人も、親も、子も。それが自分の最愛の妻であり、子供であり、親である事を解らなくなるまで切り刻みたい。
それが、彼女、ジャック・ザ・リッパーの殺人の美学である。そしてそれは、誰にも知られずひっそりと終わるのではなく、誰かに知られて貰いたいのだ。
殺人鬼と言う、人の社会の闇に潜むアウトサイダーの中のアウトサイダーでありながら、彼女は、人の社会の光の部分に、己が闇で磨いた『アート』を見せ付けたいのである。そう、彼女の心は、破綻していた。

 ジャックの起こした、女性のみを狙った猟奇的な解体殺人。
その事件は、この冬木に不気味と恐怖の翳を、確かに落していた筈なのだ。……『昨日の事件』が起るまでは。
これがちっとも、面白くないのだ。あんな事件を起こされてしまえば、自分の起こした事件など目立たなくなるのは当たり前ではないかと、彼女は拗ねていた。
勿論、ジャックの起こした事件が全く話題にされないかと言えばそうではない。実際には、『昨日の事件』と関連付けさせる、アクセント的な役割を果たさせているのだ。
そう言う扱われ方は、ジャックとしても面白い物ではなかった。やるならもっと、大々的に扱われて欲しい物だとつくづく彼女は思っていた。


956 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:40:55 3bIU43iM0
「あーのクソ神父……おつかいなんてキャシーの奴にでも頼めっての……」

 『昨日の事件』に加え、マスターであるグレイに頼まれた、教会の食料の買い出しと、ジャック好みのいい女がいないと言う現状。
テンションはゼロを振り切ってマイナスの閾にまで達している程であり、至極やる気が起きない。
そもそもこの国には、ジャックの食指が動く様な女性が少ない。『ヤマト・ナデシコ』とやらはさぞ殺し甲斐があるのだろうとワクワクしていたのだが、
それが全く以って存在しないのである。昔日にはそれはそれは沢山いたそうであるが、それらしい存在はとうの昔に絶滅したと言う。
オイオイ、リョコウバトかと突っ込みたくもなる。目当てのターゲットはおらず、活躍は注目されず。ただただ溜息を口から漏らすだけのジャック。

 再びジャックは、ベンチの傍においてあった、グレイに頼まれた買い出しの為に渡された、彼の財布。
その彼の財布の中の金を余分に使って購入したサラダチキンを取り出して、食もうとしたその時だった。彼女の動きが、ピタッと、身体の中の時間を全て停められたように停止する。

 ジャック・ザ・リッパーの目線は、公園の敷地の外を歩く、黒メノウのように艶やかで、美しい黒髪を持った、豊満な胸の可愛らしい女性に釘づけだった。
引っ込み思案そうで、儚げで、そして何より、何処か魅力的な影の差した陰性の美が気に入った。――あれは、良い。
「殺すか――!?」、と、いきり立った所で思い止まった。あの神父から、昼間は行為に及ぶなと釘を刺されていたのだ。ファック、死ね。
だが、その意見には賛同だ。確かに、敷地の外を歩く美女は、ジャック好みのそれである。だが、美女だけでは良くない。一流の切り裂き魔はシチュエーションにもうるさい。
今が夜の時間帯であれば、さぞやジャック好みのバラバラ死体が生まれていた事だろう。光を受けて夜に閃めく刃の煌めき。
煌めきの走った所をなぞる様に、バターの如くスムーズに解体されて行く美女の肢体。
そして、己の身体に何が起こったのかを認識する間もなく。己の身体がバラバラにされた事を知る事もなく、失血死で緩やかに、眠るが如く死んで行く。
それは正に――『殺された事にも、気付かない』、ジャック・ザ・リッパーの魔技。彼女がこれと認めた女のみに与える、SEX以上に気持ちの良い究極の快楽。
それを提供するには、まだ時間が悪い。歯噛みしながらジャックは、あの黒髪が過ぎ去って行くのを見送った。顔は憶えた、行動範囲もある程度は絞り込めた。
後は、運命の女神サマが自分に微笑むのを待つだけ、と、ジャックは心の中で祈った。

 チチ、と、ジャックの足元でスズメが鳴いている。
ジャックが落としたサラダチキンの破片を嘴で突いているようだが、食べ終えたのか、可愛らしくパタパタと飛び上がった。
瞬間、ジャックの左手が、陽炎の如く霞み、水平に伸びきった状態で停止。この瞬間だった。上空一m程を飛び上がり始めた、と言う段になって、スズメの身体が翼が斬り離され、その胴体が嘴から小さな尻尾まで縦に、胴体の真ん中から横に、十字に切断されたのは。

「大当たりィ」

 己の尖った歯を全て見せ付ける様な、品のない笑みを浮かべて、ジャックが言った。
近頃ハマっている占い方法だった。飛び立とうとする鳥を切断し、彼女の望むような斬り方で鳥を殺せば、今日明日はラッキー、と言う占いだった。
地面にボトリと湿った音を立てて落下するスズメから、遅れて鮮血がドロリと流れ出す。ジャックの左手に握られた、小さなメスには、血の一滴も付着していないのであった。


957 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:43:44 3bIU43iM0
 ◆
                                                             
    ジュデッカ                               血塗られた献身                        
           流離の子                                                 
                 Dance of the Seven Veils                                          
                                                                ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                                                 餓狼伝                   
                                                          総ての乙女の敵      
                                                                       
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺                                破滅的終局    
                                 久遠の赤


958 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:44:15 3bIU43iM0
 ◆

 ZONE18――『Dance of the Seven Veils』

 永久の愛の逃避行、誰も邪魔する者のいない楽園(エリュシオン)での永遠。
愛と恋とに狂う男女が理想とする生活、過ごして見たいと夢想する楽土での一時の夢から、覚まされた女がいた。

 『桂言葉』は、永久の夢と言う水面を遊弋するヨットの上での微睡みから、覚醒させられてしまった女であった。
それはチープな言葉であるが、運命の悪戯による物だったのかも知れない。ともすれば言葉は、その夢から永久に覚めぬ事も、あったのかも知れない。
醒めぬ夢の中で、嘗て恋した伊藤誠の幻影と永遠の学生生活を送るだけの未来を送る可能性も、この少女には存在した。

 しかし今、言葉と言う少女は現実の中に生きていた。
死んだ筈の誠が生きている世界、それよりもなお非現実的な『聖杯戦争』と呼ばれる戦いを行わねばならない世界。
この世界こそが、言葉にとっては夢幻の世界そのものだった。何処の誰が、どんな願いでも叶えてくれる奇跡のカップを得んが為、
過去に死んだ英雄や猛将、恐るべき悪党の類を使役して殺し合わせる、と言う催しを信じる事が出来るのだろうか。
だが、このタチの悪い空想や妄想の類が厳として存在する現実の中に、今桂言葉は身を置かれており、そして、彼女はその妄想の中心人物の一人でもあった。

 幸せな夢から醒めた先の現実は、夢のちぐはぐな世界よりも尚歪みきった、悪意に満ちた世界であった。
だが――その悪意に満ちた世界を切り抜ければ、奇跡の光が言葉を包み込んでくれる。聖杯と言う、不条理・不合理・理不尽を覆してくれる魔法の杯が。
それは、黒く淀んだ泥の流れる大河に沈んだ、一粒のダイヤモンドを探すような作業である。
当然、ダイヤを探せば手は汚れる。爪の間にだって、泥が溜まって、どんなに洗っても取れないかも知れない。
いや、腕だけが汚れるならまだしも身体全体が汚れてしまう事だってあり得るだろう。
だが、その泥の中には、ダイヤが埋もれている。どんな負債も帳消しにしてしまう程の価値を秘めた、この世に二つとないダイヤが。

【マスター……もうすぐ……着きます……】

 脳内に響く、ダウナー気味の暗い口調。
声音だけを聞けばそれは確かに美女だと想起させるそれなのに、ボソボソとたどたどしく、そしてひたすらに暗い口調のせいで、生来の声の美しさが台無しになっていた。
名を、『サロメ』。旧約聖書にその名の語られる、洗礼者の首を欲した王女。その異常な物語、状況(シチュエーション)、そして猟奇かつ耽美的なエピソードと題材の故に、多くの芸術家達を魅了してきた魔性の女であった。

【ですが、宜しいのですか……? 私達と同じく……視察に来ている人達も……】

【ええ、解っています。けれど、どうしても見ておきたいので】

【マスターが……そう仰るのであれば、ご随意にします……】

 サロメは、言葉と言うマスターに対して従順だった。言葉がマスターとして見事で、優れているからと言う訳ではない。
サロメの性格は、マスターが見事であるからそうなっている、と言うよりも、これが地であるからそう振る舞っていると言う方が正しい。
外での口数が少なく、暗めなその性格は、誠に出会う前の自分を見ているようだと、言葉は、過去の己の鑑のような性格のサロメに、少しの嫌悪を憶えていた。

 二人は、『昨日の事件』が起ったという現場へと足を運ぼうとしていた。
これはサロメの言う通り、他のサーヴァントとも鉢合わせになる可能性が非常に高い選択である。
サロメは、竜を討ち倒した英雄と言う訳でもなければ、万軍を単騎で征服する様な猛将でもなく、天地に通じる魔術を習得した魔法使いと言う訳でもない。
彼女の本質は、ただの踊り子である。本質が戦士、戦を得意とする英霊を相手にしてしまったが最後、待っているのは確実な破滅だ。
勿論、妖女として歴史にその名を刻んだこの踊り子は、戦士を相手に渡り得る技術を保有こそしているが、過信して良いものではない。
なるべくならば、鉢合わせは避けたいと思うのは当然の考えである。そして、サロメのこの心配は何よりも、サーヴァントには遥かに劣る強さの、
桂言葉と言うマスターを慮っての事。当然だ、サーヴァント同士の戦いとなれば当然マスターにも火の粉が降りかかる。
ただの火の粉ではない。英霊同士の接触によって生じた火の粉は、焔の一かけらとは言え、容易く人間のマスター如きを焼き尽くす熱力を秘めている。
其処から、マスターを遠ざけたいとサーヴァントが思うのも当たり前だ。何せ、主たるマスターが死んでしまえばその時点で、サーヴァントは聖杯に願いを掛ける事が実質上不可能になってしまうのだから。


959 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:45:03 3bIU43iM0
 ――それを承知で、言葉は『昨日の事件』が起った現場へと向かっている。
彼女は、本気で聖杯を狙っていた。幸せな夢が見せていた幻から覚めてしまった彼女は、思い知ってしまった。
首だけになった伊藤誠は、それはもう伊藤誠ではないのだ。嘗て伊藤誠だった、死体に過ぎぬのである。

 例え言葉がどんなに愛おしいと思っても、首だけの誠は睦言の一つも彼女に投げかけない。
例え言葉がどんなに強く抱きしめたとしても、首だけの誠は抱きしめ返したりもしてくれない。
例え言葉が――どんなに誠の子が欲しいと願っても、首だけの誠では、彼女の中にその子種を注ぐだけの身体を持たない。

 これらを認識した瞬間、言葉は悟った。もうこの世に、自分が愛した誠くんは存在しないのだ、と。
胸に、空気だけが突き抜けるだけの巨大な穴が開いたようだった。愛や慈しみといったあらゆる感情が消滅し、虚無の心地だけが身体の中を去来する。
自分が求めたのは、首だけの誠を抱いたまま夢の世界に閉じる事ではない。本当は――誠と一緒に、共に生き、共に同じ世界を視る事ではなかったのか?
こう思った瞬間、言葉にとって聖杯と言う道具が遠い世界のそれから、一枚の薄布(ヴェールを)隔てた向こう側、少し手を伸ばした先に存在する程近くに存在する、手に入れなくてはならない物になってしまった。

【欲しい……ですね……。聖杯】

 現場へと続く道のりを歩く言葉の脳裏に、サロメのボソボソとした、途切れ途切れの念話が響いてくる。
【そうですね】、と、事務的で淡々とした声音で言葉が返事をする。今の彼女には、現場に近付くにつれて多くなって行く、人通りの多さしか映ってないし見えてない。
野次馬と言うものは何処の世界にもいるもの。いや、今回に限って、責められた事ではないだろう。何せ事件が事件である。
多くの人間が、その爪痕を見てみようと大挙するのも当たり前の話であった。ある者はきっと野次馬根性を発揮するだけで。
ある者は自分の生活に影響が出るのではないかと言う恐怖で。またある者は、事件の概要を記事にする事で生計を立てんとする為に。
思いは様々だろうが、見たいと思う気持ちも解らなくもない。影響は、それだけ大きいのであるから。

【銀盆に乗せられた……あの方の首を見る度に……思います。ああ……あの素敵な笑顔は……何処に行ったのだろう、と……】

 銀の盆。それは、あらゆる芸術作品において、預言者ヨカナーンの切断された首を乗せている、美しい彫金の成された銀の皿の事である。
宝具となった影響で、物質の腐敗を停止させる効果を得たこの更には現状、言葉自身の意思で、斬られた誠の首も乗せて貰っていた。
誠の首には命はなく、勿論意思など宿りもしない。だがそれでも、あの首は正真正銘、桂言葉の愛した伊藤誠の首なのだ。
腐敗して行くままでは、忍びなさ過ぎる。だから、サロメに頼んで、ヨカナーンの隣に誠の首を乗せて貰ったのだ。彼女は、これを快諾してくれた。

 瞳を閉じると、伊藤誠の表情や挙措を、言葉は思い出す事が出来る。
自分が初めて好きになった人。いじめられていて、鬱屈としていた学生生活に光を差してくれた人。それが、言葉にとっての伊藤誠と言う存在であった。
もう、誠は微笑む事はない。言葉を喋る事すらない。冷たい銀盆の上で、見開かせていながらもその実何も映していない瞳で、言葉を見る誠の首を見る度に、つくづくそう思う。
だがある時、誠に対して、聖杯を捧げると口にした時――誠の口元が、笑ったのだ。笑ったように、見えたのだ。


960 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:45:27 3bIU43iM0
 ――ああ、誠君……。私のする事を、許してくれるんですね……――

 その見間違いを見た時、言葉は決心したのだ。
何としてでも、聖杯戦争を勝ち抜くと。そして、殺された誠を蘇らせてみせると。
次は、悪い蜘蛛に誘惑されない世界で生きたい。誰にも寝取られず、誰にも奪われない。アダムとイヴになろうと言うつもりはない。
だが、二度と誠が他の女にかどわかされない世界で生きたい。それだけが、桂言葉、と言う少女の願いであった。

 夢を求めて彷徨う女二人が、歩いている。
幻の世界に閉じこもっていた女と、幻の中を舞う女。恋と言う悪魔に魅入られ、盲目となった女達は、誘蛾灯に誘われる羽虫が如く。
聖杯と言う、宙を舞う蝶蛾を焼き尽くす焔の塊目掛けて、二人は歩み始めてしまった。
一人の男の為に、修羅が蔓延る闘争の道を歩く二名の未来は、楽土か、地獄か。それを知る術は、二人には無い。

 やがて二名は、『昨日の事件』が起ったとされる事件現場へと到着する。
シロップに群がる蟻の如く、事件現場を見物しようとする人間達。そして、彼らが現場に入らぬように張り巡らせたバリケードテープ及び監視役。
彼らが市民の侵入を防いでいる境界のその先で、鑑識と思われる人物達が必死に現場の検証を行っていた。
現場に来てからまだ一分と経過していないが、そんな短い時間でも、解るのだ。捜査が遅々として進んでいないと言う事が。
【十分程、周りを見渡したら帰りましょう】、言葉の提案にサロメが了承の念話を送る。

 野次馬にも飽きたと見えた人々が帰って行くのと入れ替わりに、ゾロゾロとまた人が集まってくる。
その繰り返しを眺めながら、言葉は事件の現場を一番前まで見ようと人混みの中に混じって前へ前へと進んで行く。
こんな時、自分の低めの身長が恨めしいと言葉は思う。前にいる、春物のロングコートを纏う女性の方が、自分よりも背が高いせいで。
これではよく前が見えないではないか。サロメに、念話を伝えておく。自分と一緒に良く、現場を検証しておくように、と。


961 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:47:05 3bIU43iM0
 ◆
                                                             
    ジュデッカ                               血塗られた献身                        
           流離の子                                                 
                                                            
                                                                ソルニゲル  
                                                                       
                                  革者                                   
                                                                       
                                                                       
         解放された世界          Fate/Bloody Zodiac ■■海底都市冬木          回帰の白             
                                                                       
                                                                       
                                 物語の王                                  
                                                 餓狼伝                   
                                                          総ての乙女の敵      
                                                                       
                不死の罰                                                   
                         日ノ本斬殺                                破滅的終局    
                                 久遠の赤


962 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:48:28 3bIU43iM0
 ZONE19――『破滅的終局』

 ――とどのつまり、『昨日の事件』とは、何なのか?
その事件現場だけを見て判断するのであれば、極めて高い実力を秘めたサーヴァント同士の衝突の結果、大規模な施設がほぼ全壊した、と言う所なのだろう。
実際、それが真実であるのだろう。偶然起こった事故でこうなった、と言うには、聖杯戦争と言う事情を知っている者から見れば、余りにも無理がある。

 その大規模な施設は嘗て、『わくわくざぶーん』と言う名称で親しまれていたレジャー施設であった。
全天候型対応施設の中には、ウォータースライダーや流れるプールの他にも、通常の市民プールの他にマリンプロ育成用のダイビングプール、
飛び込みの為のプールに、五歳以下の子供達でも安心安全に遊べるように設計された水場などを兼ね備えた、極めて大規模かつハイ・クオリティーの遊興施設であった。
内部にはこの他、エステ店や日焼けサロン、様々なフランチャイズの飲食店を誘致したフードコート等、水遊びの合間から終わってからでも楽しめるエリアも存在する、
正に都市開発の進んだ冬木新都を象徴する、『進んだ』レジャー施設なのだった。冬木の成長した経済と、都市開発の進捗を象徴する施設、とも言って良い。

 それが、今や見る影もない。
嘗て訪れた者に楽しい時間を約束してくれるだろうと確信させるに足るオーラを誇っていたその威容は、今は見る影もない瓦礫の堆積になっており、
そこが元々どんな施設であったのかなど、予め知っている人間でなければ解らない程であった。戦闘機の爆撃を受けた、何らかの建物。
そうと説明されても誰もが納得しかねない程に、その破壊の有様は凄惨を極るものだった。

 先ずこの、瓦礫の撤去から行わねば話は進展しないのだろうが、何せ元となったわくわくざぶーんと言う広大な施設が、そのまま瓦礫になっているのだ。
撤去しようにも膨大な量である。消防と協力して、重機を持ち出して瓦礫を撤去している最中ではあるが、肝心の瓦礫の総量はそれほど減っていない。
この様子では最悪半月以上は掛かるであろう。つくづく、冬木の警察にとっても消防にとっても、難儀すぎる話であった。

【ふむ、意外と驚いてはいないな? マスター。まぁ、それもそうか。君の辿った道程を思えば、ね】

 野次馬の最前列で、撤去作業と鑑識作業を同時に行っている光景を眺めている女性の脳裏に、男の声が響いて来た。
二十代も半ばに近いその声音は、糖蜜のような不思議な甘さを内包する一方で、例え切れぬ程の『胡散臭さ』を内包した、
人から最初に信用ではなく、疑いと警戒心を持たれかねない声質でもあった。
魅力的で、人の心に染み入る力を秘めた一方で、内心に眠る猜疑の領域を喚起させるその声。在り方としてはそれは、山師のそれに近かった。

  もっと酷いの見てきたし……
 >少しは驚いてるよ

 彼女の言う通り、ショックは受けている。
この時代は、今まで彼女……『藤丸立香』が旅して来たどの時代の特異点よりもずっと、彼女の住んでいた世界の時代に近い。
生きていた時代に近いと言う意味では、特異点Fも同じような物かも知れないが、あの特異点は常に瓦礫の山と、焔で燃え盛っている地獄さながらの光景。
正直な所、嘗て自分達と同じ文明レベルが興っていた、荒廃した世界としか、立香の目には映っていなかった。
今彼女が呼ばれている冬木の街は、正真正銘目立った荒廃もなく、時代の方も、彼女が住んでいた時とそれ程前後していない。
彼女にとって最もイメージしやすい世界だ。そんな世界で、こんな恐るべき破壊が起きてしまえば、心にさざ波の一つでも起きると言う物。
尤も、さざ波程度しか心が動かない訳は、彼女が召喚したアルターエゴのサーヴァント、『アレイスター・クロウリー』の言う通り、自分が辿って来た七つの特異点の旅のせいでもあるのだが。


963 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:49:51 3bIU43iM0
 >やっぱり、サーヴァントものだよねこれ
  サーヴァント以外に原因があるのかな、これ

【そうだろうね。まさかガス爆発でこうはなるまいよ】

 賛同するアレイスター。やはりと言うか、案の定そうであるようだ。
【どんなサーヴァントがやったのか解る?】、と訊ねてみるが、【千里眼の方は持たないので、残念ながら】、と肩透かしな返事。
サーヴァントの自発的な破壊行為、或いは交戦によって齎された物だとは解るが、どんな存在がやったのか、までは模糊としているようだ。
尤も、そのどちらにしたって、相当危険な性格、或いは性格に難を抱えている存在による破壊だと言う事は間違いない。出会ってしまえば、敵として振る舞われる可能性の方が、高かろう。

【こう言うと君は大変不愉快に思うかも知れないが、実を言うと僕はこの状況を大変興味深く、そして楽しく思っている】

 アレイスターの言った通りであった。
現に立香は、この希代の低俗人、堕落の魔王、サタンの再来のような男が言った通り、アレイスターの言った言葉に強い不快感を憶えていた。

【以前も言ったが、僕は本来キャスターとして呼ばれるのが、まぁ普通のサーヴァントでね。今のような特別なクラスでは、呼べないのだよ。理由は、解るね?】

 >身体に、獣(ビースト)を宿してるから?
  変人だから?

【その通り。冷静に考えれば当たり前の話だな。人理を破壊しうるカードを持ったサーヴァントを、そのカードの切れるクラスで派遣したりはしないさ】

 言っている事は正しい。
地球すら叩き割る爆弾を持っているサーヴァントが仮にいたとして、そのサーヴァントによる星の破壊を防ぎたい場合、
そのサーヴァントを召喚してから対処するのではなく、そもそも召喚させない事の方が、取れる対策としては上等――と言うより、常識的に考えて自然の筈。

 ――其処まで考えて、あれ、と立香は思った。
じゃあなんで――

【僕が召喚されているのか、だろう? 其処が面白い所でね】

 次第に、その声音に喜悦の色が混じって来た。或いは、持論をひけらかす事を喜ぶ、碩学のような態度か。

【恐らくだが、この世界――『抑止力』が働かない世界なのだろうね。或いは、抑止力の影響力が遠い世界とも言うべきか?】

 >すると、どうなるの?

【通常ではありえないようなサーヴァントが呼ばれたりするね。僕もそうであるが……神霊の類も、もしかするんじゃないかな?】

 >カルデアにもいたよ

【あれは、ケースがケースであるのもそうだが、特殊な召喚のメソッドを用いてるせいもあろう? 『聖杯戦争の形式を取っていながら、私や神霊が召喚される可能性がある』。これは最早、異常なケースと言う他ないんだよ】

 それは、『彼』が生きていた時に彼が教えてくれたし、ダヴィンチちゃんも言っていたなと立香は思い出す。
人理焼却と言うケースがあまりにも特殊なせいか、本来は呼ばれる可能性もないような、呼ぼうとしても召喚に応じないようなサーヴァントが、
平然と召喚される事もあるが、本来普通に英霊召喚を行っても、神霊の類等絶対に召喚出来ないのだ、と。
人理の焼却すら防いだ、無名の英雄である藤丸立香であるが、魔術に関してはズブの素人。だが、今まで習って来た事柄から今の事態を演繹すると、成程解りやすい。今回の聖杯戦争は、きっと、異常な形で行われているそれなのであろう。

【恐らくこの世界は、君達で言う所の『特異点の亜種』に近い物なのだろう。それも、抑止力すら遠い世界ときた。この特異点を救った所で、君の元居た世界には何らの影響もない。悪因もだ。この世界を救った所で、君に残るのは僅かな充足感と、徒労感だけさ。君は、それでも――】

 >救うよ

【ほう――】

 即答、である。流石は僕のマスターだ、と答えかけた所で、間髪入れずに、立香は告げた。

 >アルターエゴもだよ

【……僕も?】

 それまで、余裕を感じさせる態度であったアレイスターの口調に、訝しむような物が宿り始めた。

 >だって

 >ビーストのせいで、苦しそうだよ?

 沈黙が、二人の間に流れた。
自分達の回りにいる、『昨日の事件』の現場を見る為に集まっていた見物人達のガヤが遠い。
遥か数㎞先の事のように、今の二人には小さい物に感じられている。虚を突かれたように、呆然としているのか。アレイスターからの言葉はない。
たっぷり、十秒程経過してからだったろうか。フッ、と言う零すような笑みが、アレイスターの口から漏れ始めたのは。


964 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:51:45 3bIU43iM0
【君には苦しく見えるのかい? ミス・立香】

 >違うの?

【まぁ、僕は社会の不適合者だからね。人間世界は生き難いさ。まともに働くのも、家業を継ぐのも嫌だったから、今の道を目指したってのもあるからね】

 【ただ、まぁ】

【人から真摯に心配されるのは……ハハ。中々、良い物なんだな。大丈夫さ、マスター。君が思っている程、エセルトレーダは凶暴じゃない。君が聖杯に王手を掛けるまでは、僕のパートナーでいてくれるだろう】

 そうなの? と思う立香。以前彼女が見た、鷹揚としたアレイスターの態度からは想像も出来ない、歯噛みする様な、何かに耐える様な態度は、何かのブラフだったのだろうか?

【名だたる英霊が、君に従う理由も解るな。君は、サーヴァントに『お前に召喚されて良かった』、と思わせる不思議な力を持っている。その力が、君に人理を救うだけの力を与えてくれたのだろうね】

 >アルターエゴは、どう思ってるの?

【勿論、僕は召喚されて良かったと思ってるよ。君のようなレディの剣になれる事は、英国紳士にとって誉れなんじゃないかな?】

 >……紳士の対極にいる様な人間の癖に

【ハハハ】

 笑って誤魔化すアレイスター。ジト目で、霊体化しているアレイスターを睨めつける立香。
今彼女が、自分にそんなに似合ってないロングコートを着ているのは、ゲーティアとの戦いの際に選んだ戦闘服を隠すと言う意味が大きいが、
やけに嫌らしい好色的な目線を向けて来るアレイスターに対する『ガード』の意味もあった。黒ひげとはまた違った意味で、エッチなサーヴァントであるらしいと、今も彼女は頭を抱えているのだった。

 ――そして、アレイスターの言った、召喚されて良かったという言葉は、偽らざる本音であった。
抑止力と言う、魔術師にとって最大の敵、不倶戴天の宿敵の『魔の手』が伸びないこの世界で。
『獣』を二度も退けたマスターの下に召喚された、と言うのは、彼にとってこの上ない幸運であった。
そして、藤丸立香自体もまた、好ましいと来れば、エイワスに最大限の賛辞を惜しまぬ程の天運だろう。
全ての手札が、揃っている。生前から、身が狂わんばかりに欲していた、『全人類の根源接続』と言う幻想。
その為に彼は、詐術と魔術の全てを用い、人類史に汚れた汚泥で己を刻み、英霊として座に登録されたのだ。
これが、最初にして最後の機会だろうと言う確信すらアレイスターにはあった。此処まで手札が揃う事は、二度とない。分水嶺と言う言葉でも温い程の、運命の瀬戸際。
此処だ。此処を凌げば、人類から負けがなくなる。戦争がなくなる。飢餓もなくなる。死もなくなる。一切合財の不幸が過去のものとなり、
全ての人類が全能となれる世界。それは、どれ程幸福で、どれ程素晴らしい世界だろうか。その世界を夢想する度に、アレイスターの瞳に喜びの光が煌めくのである。

【……マスター。約束しよう】

 >?

【僕が最初に幸せにするのは、君だ】

 ――曰く、ビーストとは人類を滅ぼす悪なのではなく、人類『が』滅ぼす悪なのだと言う。
憎悪も殺意も、一過性のものである。時間が流れれば多くの者は、身を焼く憎悪も滾り狂う殺意も薄らいで行く。
だが、人類を守ろうとする愛は、永遠なのだ。自分が善い事をしていると言う実感。それは確かに存在に喜びを与える。喜びが与えられるから、生きる実感が湧く。
その実感の故に、愛は永遠なのだ。より善い未来を望む精神が、今の安寧に牙を剥く。今の苦諦に満ちた世界が、許せないのだと言うように。自分であれば、もっと善い世界を産めるのだ、と言うように。

 憐憫の故に、世界を滅ぼす。懐古の故に、世界を回帰させる。善悪を知るが故に、世界を比較する。もっと良い絵図がある故に、世界に破滅と終局を与える。
アレイスター・クロウリー。全人類を縛る『限界』と言う蜘蛛の糸からの解放を願う為、全人類を根源に接続させ、
個人個人が全能人なる世界を夢見るこの男の精神は、人への愛に溢れていて――。それ故に、隠し切れない程、その精神は獣のそれに犯されている事に、この男は、気付いているのか、否か。


965 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:55:39 3bIU43iM0
     


   ――そして、時は遡る。昨日の、午後十一時

   『昨日の事件』なる出来事が起こった、契機の時へと


.


966 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/09/13(水) 22:56:06 3bIU43iM0
中編の投下を終了します。何とか今月中にはOPを仕上げたいですね(希望的観測)


967 : 名無しさん :2017/09/14(木) 18:50:15 MvoRzcJk0
お疲れ様です

まさかのぐだ子二人採用とは


968 : 名無しさん :2017/09/19(火) 19:46:57 2e1.4K3Q0
投下乙
また癖の有る奴等が


969 : 名無しさん :2017/09/24(日) 20:29:43 Pq/E1jtA0
ざぶーん消滅か
ケイ卿はキレていい


970 : 空から降る一億の星 ◆z1xMaBakRA :2017/10/09(月) 23:21:01 EFhR127A0
死ぬ程長くなって申し訳ございません。このスレで終りそうにもないので、次スレを立ててそこでOPをUPします


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