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多ジャンルバトルロワイアル Another

1 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/21(火) 20:30:42 4D0tryGQ0
6/6【Fate/stay night@ゲーム】
○衛宮士郎/○セイバー/○遠坂凛/○アーチャー/○間桐桜/○ランサー

6/6【仮面ライダー555@実写】
○乾巧/○草加雅人/○木場勇治/○海堂直也/○長田結花/○村上峡児

5/5【けいおん!@漫画】
○平沢唯/○秋山澪/○田井中律/○琴吹紬/○中野梓

5/5【涼宮ハルヒの憂鬱@アニメ】
○涼宮ハルヒ/○キョン/○長門有希/○古泉一樹/○朝倉涼子

5/5【ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース@漫画】
○空条承太郎/○ジョセフ・ジョースター/○花京院典明/○ジャン=ピエール・ポルナレフ/○DIO

4/4【とある魔術の禁書目録@小説】
○上条当麻/○御坂美琴/○一方通行/○白井黒子

4/4【仮面ライダークウガ@実写】
○五代雄介/○一条薫/○ゴ・ガドル・バ/○ン・ダグバ・ゼバ

4/4【鋼の錬金術師@漫画】
○エドワード・エルリック/○ロイ・マスタング/○エンヴィー/○キング・ブラッドレイ

4/4【ハピネスチャージプリキュア!@アニメ】
○愛乃めぐみ/○白雪ひめ/○大森ゆうこ/○氷川いおな

3/3【ベルセルク@漫画】
○ガッツ/○ゾッド/○シールケ

3/3【金色のガッシュ!!@漫画】
○ガッシュ・ベル/○高嶺清麿/○ブラゴ

3/3【テイルズ オブ シンフォニア@ゲーム】
○ロイド・アーヴィング/○コレット・ブルーネル/○ゼロス・ワイルダー

2/2【遊☆戯☆王@アニメ】
○武藤遊戯/○海馬瀬人

2/2【フルメタル・パニック!@小説】
○相良宗介/○テレサ・テスタロッサ

2/2【カウボーイビバップ@アニメ】
○スパイク・スピーゲル/○ビシャス

2/2【警部補 矢部謙三@実写】
○矢部謙三/○秋葉原人

2/2【メタルギアソリッド3@ゲーム】
○ネイキッド・スネーク/○リボルバー・オセロット

1/1【キノの旅@小説】
○キノ

1/1【古畑任三郎@実写】
○古畑任三郎

主催者
1/1【Fate/stay nigh@ゲーム】
○言峰綺礼

計64名


【避難所】
ttp://jbbs.shitaraba.net/otaku/17765/

【まとめwiki】
ttps://www65.atwiki.jp/tarowa_another/pages/1.html


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2 : オープニング ◆wIGwbeMIJg :2017/03/21(火) 20:32:09 4D0tryGQ0

「……っ、なんだ……?」

鉛のように重い体を起こし、俺は目覚めた。
いや、目覚めさせられたって言った方が正しいかもしれない。
周囲のざわめきを鬱陶しく感じながら、無意識に疑問の言葉を漏らした。
当然その疑問に答えは返らない。気を取り直すように溜息を一つ吐いて、辺りを見渡す。
目に入ったのは一面の人だかりだった。数える気にはなれないが、ざっと50以上は居るだろう。
その中の多数は、目覚めたばかりの時の俺と同じような反応をしている。
ということは皆俺と同じで、突然ここに連れてこられたって事だろう。

(……どういう事だ?俺はさっきまで、あの土手で寝っ転がって……)

そうだ、ここはあの土手じゃない。
啓太郎と、真理と、三人で日向ぼっこをしていた――あの土手じゃない。

燦然と輝く太陽の代わりに俺たちを照らすのは、無機質に肌を刺す照明の光だった。
見渡す限りの白。まるででっかいダンスホールから色彩を奪ったような場所だ。
妙な居心地の悪さを感じる。それに、何故か全身の鳥肌がおさまらなかった。

まるで、何かを予感しているように――


「――みな、目覚めたようだな」


突然響いたその声に、全員が一斉に視線を向ける。
そこに居たのは、神父服に身を包んだ男だった。が、あいつの雰囲気はとても神父のものとは思えない。
俺達を見下すような冷たい目。喩えようのない、悪意のような何か。
そして何よりも、その男の表情はこれ以上ない程の"無"だった。

「お前っ……言峰!!」
「言峰テメェ、どういうつもりだ?」

集団の中から、二人の男が神父に向かって声を上げた。
一人は赤色の短髪が特徴の、高校生くらいの男。もう一人はそれより少し大人っぽい青髪の男だ。
二人ともあの神父と知り合いなんだろう。言峰ってのは、あの神父の名前らしい。
だがどうやら、青髪から伝わる尋常じゃない殺気からするといい知り合いって訳じゃなさそうだ。

「それについては今から説明するつもりだ。
 二度は説明しない。聞くか聞かないかは自由だが、それによる不都合は全て自己責任だ」

言峰の言葉に、赤髪と青髪は険しい表情で言葉を呑んだ。
そいつらだけじゃない。ほぼ全員が、言峰の威圧に声を上げる事が出来なかった。
相変わらず表情の見えない顔で、会場の全員を見渡す。そして遂に、言峰は口を開いた。


3 : オープニング ◆wIGwbeMIJg :2017/03/21(火) 20:32:52 4D0tryGQ0



「今から君達には、殺し合いをしてもらう」


「なっ……」

その瞬間、会場がざわめいた。
殺し合い――確かに、確かにこの神父はそう口にしやがった。
訳が分からねぇ。視線を逸らせば、さっきの青髪の男が鬼の形相で言峰を睨んでいるのが見える。
人を殺せそうな程に殺意が乗せられた睨みを、言峰は眉一つ動かさずに受け流していた。

「殺し合い……って!どういう事だよッ!」

赤髪の方の男が、俺達の疑問を代弁する。
それを皮切りに、同じ疑問をぶつける奴らが一人、また一人と増えていった。

「言葉通りの意味だよ、諸君。
 二度とは言わないと言ったはずだ、これから殺し合いのルールについて説明する」
「待てよッ!勝手に進めんじゃ――」
「衛宮士郎」

衛宮士郎、そう呼ばれた赤髪の男の動きが止まった。
いや――止まったんじゃない。止められたんだ。
赤髪の体は見えない糸で張り付けられたように、指一本動かない。
勢い良く声を上げたそのままの姿勢、そのままの表情で、衛宮士郎の時間は奪われた。
そして、俺たちの時間さえも。

「……失礼、説明を続けよう。
 ルールは非常に簡単だ。最後の一人になるまで殺し合う、ただそれだけだ。
 最後の一人、すなわちこのゲームの優勝者となった者には……どのような願いも叶える権利を与えよう」

そう口にしたところで、言峰は全員の顔を見渡す。
願いを叶える権利。その言葉に俺は思わず声を上げようとしたが、さっきの赤髪の姿が浮かんでそれを止めた。
こいつは、スマートブレインなんかよりもよっぽど脅威だ――脳内に響く警告音が、嫌と言うほどにそれを知らせてる。

「次に……君達の首には首輪が付けられている。
 当然だが、この首輪はただの首輪ではない。君達の行動を制限する枷のようなものだ」

そう言われて俺は、はっと首元に手をやる。
指先に伝わるひやりとした感触――間違いない、あいつの言った通り首輪が嵌められていた。

「指定された禁止エリアの侵入、その他我々にとって無視できない言動が確認された場合起爆する仕組みになっている。
 無論この首輪が爆発すればその時点で死亡する。例えそれが人外であろうとも、な」

ばくはつ――爆発、か。
ただの首輪じゃねぇとは思っていたが、まさかそんな物騒なもんだとは思わなかった。
会場の空気が険しくなる。……なんだよ、よく見たら子供だって居るじゃねぇか。

「……言葉だけでは足りん、か。
 いいだろう、この首輪が本物だという事を証明しよう」
「なっ……んだと?」

証明?あいつ、そう言ったのか?
そんな俺の疑問を無視するように、言峰の野郎はパチンッと指を鳴らした。
一瞬の間も置かず、4、5人の黒服の男が言峰を囲うように雪崩込む。
その黒服の内の1人は、高校生くらいの女の子を連れていた。
……目隠しをされて、両腕を縛られた女の子を。


4 : オープニング ◆wIGwbeMIJg :2017/03/21(火) 20:33:23 4D0tryGQ0

「憂っ!!」
「お姉ちゃんっ!お姉ちゃんなのっ!?」

お姉、ちゃん……?
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で言い表せない熱い感情が渦巻いた。
まさか、おい――やめろ、おい、やめやがれ。そんなこと、許されるわけがねぇ。

「やだ!お姉ちゃんっ!!怖いよ!!助けて!!助けてっ!!」

――やめろ。

「憂!憂ぃっ!!待っててっ!今お姉ちゃんが助けてあげるからっ!!」

――やめろ、やめろ……やめろっ!!

「お姉ちゃん!お姉ちゃんっ!!お姉、ちゃ」



ぼんっ!



軽い爆発音と一緒に、女の子の首から上が弾けた。
肉の焦げる匂いが鼻を突く。白かった会場の一部が、真っ赤に染められる。
ごとり――何かが、落ちた。いや、それは――頭、だった。
姉に助けを求めていた表情のまま、不安そうな表情のまま。
女の子の顔は、俺のすぐ傍に転がった。

「………っ……」
「いやぁぁぁああああああああ!!!!」

絶叫が、響いた。
それを皮切りに、会場にはざわめきと悲鳴が伝染し始める。
だが、俺は悲鳴を上げる事も、騒めく事もできなかった。
ただ俺の胸を支配するのは、悲しみや戸惑いでもない――身を焦がす程の、怒り。

「さて、理解してもらえたようだな。
 このように、この首輪の爆弾は本物だ。生憎実験台は人間だが、生物である限り死は免れない。
 自分が人外の再生能力を持っているから、そんなつまらん慢心は滑稽でしかないぞ」

なんなんだ、こいつは。
目の前で人が死んだのに、子供が死んだってのに。
どうしてこの男は、平気な顔で居られるんだよ。

「最後のルールだ。君達には支給品が配られる。
 中身は武器や道具がランダムに1〜3個、加えて地図や食料などもな。
 そして6時間毎に定時放送が報される。死者の情報、禁止エリア等が放送されるので聞き逃さぬように。
 ……これで、ルール説明は終わりだ。では、殺し合いを始める」

言峰が何かを言っているようだったが、その言葉を理解する気にはなれなかった。
精一杯の殺意を込めた視線を言峰に向ける。初めて、言峰と目が合った。
冷や汗がどっと噴き出す。さっきまでの怒りが嘘のように、俺の思考は真っ白に染められる。
そんな俺の心を見透かしているように、言峰は初めて”笑った”。


全てが、終わったはずなのに。
もう、戦う必要はないと思っていたのに。

啓太郎、真理……。
あいつらの笑顔を思い浮かべながら、俺の――乾巧の意識は、奪われた。







――――バトルロワイヤル、開始――――








【平沢憂@けいおん! 死亡確認】
【残り64名】


5 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/21(火) 20:34:24 4D0tryGQ0
オープニングは以上となります。
続いて基本ルール説明になります。


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6 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/21(火) 20:35:10 4D0tryGQ0
【基本ルール】

 全員で殺し合いをし、最後まで生き残った一人が優勝者となる。
 優勝者のみ元の世界に帰ることができる。
 ゲームに参加するプレイヤー間でのやりとりに反則はない。
 ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
 プレイヤー全員が死亡した場合、ゲームオーバー(勝者なし)となる。


【スタート時の持ち物】
 プレイヤーがあらかじめ所有していた武器、装備品、所持品は全て没収。
 ただし、義手など体と一体化している武器、装置はその限りではない。
 また、衣服とポケットに入るくらいの雑貨(武器は除く)は持ち込みを許される。
 ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側から以下の物を支給され、「デイパック」にまとめられている。

・「デイパック」→他の荷物を運ぶための小さいリュック。主催者の手によってか何らかの細工が施されており、明らかに容量オーバーな物でも入るようになっている。四●元ディパック。
・「地図」 → MAPと、禁止エリアを判別するための境界線と座標が記されている。
・「コンパス」 → 安っぽい普通のコンパス。東西南北がわかる。
・「筆記用具」 → 普通の鉛筆と紙。
・「水と食料」 → 通常の成人男性で二日分。肝心の食料の内容は書き手さんによってのお楽しみ。SS間で多少のブレが出ても構わない。
・「名簿」→全ての参加キャラの名前のみが羅列されている。ちなみにアイウエオ順で掲載。
・「時計」 → 普通の時計。時刻がわかる。開催者側が指定する時刻はこの時計で確認する。
・「ランタン」 → 暗闇を照らすことができる。
・「ランダムアイテム」 → 何かのアイテムが1〜3個入っている。内容はランダム。


【禁止エリアについて】
 放送から1時間後、3時間後、5時間に1エリアずつ禁止エリアとなる。
 禁止エリアはゲーム終了まで解除されない。


【放送について】
 0:00、6:00、12:00、18:00
 以上の時間に運営者が禁止エリアと死亡者、残り人数の発表を行う。
 基本的にはスピーカーからの音声で伝達を行う。


【状態表テンプレ】
【座標(A-1など)/詳細場所/日付 時刻】
【キャラ名@作品名】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
3.


【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0〜2
 黎明:2〜4
 早朝:4〜6
 朝:6〜8
 午前:8〜10
 昼:10〜12
 日中:12〜14
 午後:14〜16
 夕方:16〜18
 夜:18〜20
 夜中:20〜22
 真夜中:22〜24


7 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/21(火) 20:36:21 4D0tryGQ0
【作品ごとの参加条件、能力制限】

【Fate/stay night】
・サーヴァントの霊体化、マスターの霊呪の使用不可。

【涼宮ハルヒの憂鬱】
・閉鎖空間の生成、侵入は不可。
・涼宮ハルヒの時空改変能力は使用不可。その他の能力についても空気を読んで制限。

【仮面ライダー555】
・ファイズ、カイザの基本変身ツール(ファイズアクセル、ファイズブラスターを除く)はアイテム枠二つ分で本人支給。
・オートバジン、サイドバッシャー、ジェットスライガーの呼び出し不可。
・アクセルフォーム変身後、4時間再変身不可。
・ブラスターフォームの変身は5分で強制解除。変身後、6時間再変身不可。

【ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース】
・スタンドは常に可視状態。
・スタンドと使用者は感覚を共有している。

【仮面ライダークウガ】
・アルティメットフォームへの変身は基本不可。特殊な条件下で変身可能。

【ハピネスチャージプリキュア!】
・プリチェンミラーとプリカード(イノセントフォーム専用カードを除く)はアイテム枠二つ分で本人支給。

【金色のガッシュ!!】
・魔本は魔物本人に支給。
・魔物自体が自由に呪文を放つ事は出来ないので、パートナーを見つける必要がある。

【遊☆戯☆王】
・モンスターカード召喚時、モンスターが場に居られる時間には制限時間が設けられている(時間設定は書き手さんにお任せします)。
・トラップカードの発動は回数制限有り。
・モンスターカード、トラップカードの再発動にはクールタイムが必要(時間設定は書き手さんにお任せします)。

【メタルギアソリッド3】
・メタルギアの支給は禁止。


8 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/21(火) 20:40:47 4D0tryGQ0
基本ルールは以上となります。
ちなみに非リレー形式ではありません。
ご興味が湧いたら是非参加してください。


9 : 名無しさん :2017/03/21(火) 20:44:36 TWoBH1lI0
スレ立て乙です
質問なのですが、
【メタルギアソリッド3】メタルギアの支給は禁止 とありますが、フルメタル・パニックのアームスレイブはOKなのでしょうか?
また、メタルギアソリッド3にはメタルギアは登場せず、いわゆるメタルギア枠で出るのは戦車のシャゴホッドですがこちらはOKでしょうか?


10 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/21(火) 20:58:51 4D0tryGQ0
申し訳ありません、説明不足でした。

登場するだけでバランスブレイカーとなりうるロボット、戦車系の支給は須らく禁止とさせていただきます。
メタルギア3のシャゴボット、フルメタのアームスレイブは勿論、ビバップのモノマシンなどの武装が積まれた乗り物も対象です。

ですが単なる乗り物(キノの旅のエルメスなど)は支給可能となっています。
その他の支給可能と不可の線引きは基本書き手さんにお任せします。


11 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/21(火) 21:07:09 4D0tryGQ0
会場の地図を記載するのを忘れていました。
こちらが会場となっています。

ttp://i.imgur.com/Tdb2GfF.png


12 : 名無しさん :2017/03/21(火) 21:33:55 JHnBfcBU0
遊戯王は新しい映画から参戦させることは禁止でしょうか?
あれは原作漫画の続編と位置づけられていると聞いているので確認したいのですが


13 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/21(火) 21:57:16 4D0tryGQ0
はい、構いませんよ。


14 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/24(金) 23:40:01 s9e/4T.Y0
投下します


15 : 少年よ、大志を抱け。 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/24(金) 23:41:11 s9e/4T.Y0




“―――問おう。貴方が、私のマスターか”




あの時、あの場所で。
セイバーは、俺の剣になると誓った。
同時に、俺も彼女の助けになると誓ったのだ。

丁度今日のような、綺麗で淡白な月光が彼女を濡らしていたと思う。
それから俺とセイバーの物語は始まった。一言や二言じゃ、言い表せない程の記憶。
セイバーは笑っていた。怒っていた。だけど、泣き顔だけは見た事がなかった。
そんな希望は、もう二度と戻る事はない。
走馬灯のように浮かんでは消えるそれが、俺の心を深く抉る。


――許される訳がなかった。


俺は彼女を、セイバーを。
この手で、血に塗れた手で。
思い出ごと、殺めることを決めたのだ。

”正義の味方”という理想を捨ててまで、桜という一人の少女を救う事を決意した。
その為に立ち塞がったセイバーをライダーと共に打倒し、殺すことを選んだ。
桜を助けるために、親しい人を、最期まで俺を守ってくれた少女を――

だから、許されない。
後悔も懺悔も、許されない。

刻まれた記憶(おもいで)と決別して、俺はセイバーの胸に刃を突き立てた。


16 : 少年よ、大志を抱け。 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/24(金) 23:42:00 s9e/4T.Y0



――はず、だった。



短剣を振り下ろした瞬間、俺はあの白い空間に佇んでいた。
そして、言峰から告げられる殺し合い。無慈悲に、なんの脈絡もなく、衛宮士郎(おれ)の意思は奪われたのだ。
狼狽するよりも先に、俺の頭を埋め尽くしたのは疑問だ。何故、言峰が殺し合いなどを開いたのか。
俺の知る言峰は、理解し合える事は出来ずとも、共に桜を救うことに協力出来た人間だった。
桜を生かす理由がどうあれ、刻印虫を摘出したのは紛れもない言峰本人。
言峰の素性はよく知らない。だが、こんな酔狂な真似をするとは到底思えなかった。
だからこそ、言峰が殺し合いの説明をしていた時には何者かに操られているのではないか、とさえ疑った。

女の子の首輪が、爆発するまでは。


「――っ、――!」

込み上げる吐き気を、烈しい怒りが抑え込む。

虫を潰すかのように殺されたあの子は、最後まで”お姉ちゃん”と、”助けて”と叫んでいた。
だがあいつは、言峰綺礼という邪悪は、表情一つ変えずに彼女の命を奪い去ったのだ。
その瞬間、俺は確信した。


言峰綺礼は、自分の意思で殺し合いを開いたのだ、と。


わけのわからない力で肉体の自由を封じられた俺は、怒りのままに言峰の名を叫んだ。
だが、それさえも許されない。大量の空気を吐き出せど、その名を口にする事さえ出来なかった。
――あの場で衛宮士郎という男は、どうしようもなく無力だったのだ。

その事実を認めてしまった自分が、嫌になる。
言峰綺礼は確かに憎いし、殺意さえ覚えたのも事実。
だが結局のところ、俺が一番憤りを覚えているのは俺自身に対してだった。
救えたかもしれない命を取り零し、それを見ている事しか出来なかった自分に対して。



「――――さく、ら……」

名前を、呼んだ。
俺にとって一番大切な、理想を捨ててまで救うと誓った女の子。
今まで自分が支えにしてきた信念を捨て、道徳を捨て、衛宮士郎たる所以だった想いを捨て、救う事を決めた女の子。
”この世、すべての悪(アンリマユ)”だとか、自分が知っている桜じゃないとか、関係ない。
間桐桜という存在を、救うのだ。
それは、この場においても変わらない。


17 : 少年よ、大志を抱け。 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/24(金) 23:42:26 s9e/4T.Y0

――本当に救えるのか?

俺の声が、俺に訊ねる。

――救ってみせるさ、必ず。

俺の声が、俺に答えた。


「……迷ってる暇なんか、ない」

そうだ、救えるか救えないかじゃない。
悩んでいる時間があるのならば、一秒でも行動に移すべきだ。
吹っ切れた訳ではない。まだ俺の心には、迷いも疑問もある。
だけどそれ以上に、桜を救いたい――その気持ちが、俺を突き動かした。

「桜、俺はお前がどんな姿になって救ってみせる。
 だからお前も、俺が行くまで……死ぬんじゃないぞ」

最後の言葉は、懇願に近かった。
俺の手の届く限りは桜の事を守れる。けど、届かない場合は?
勿論桜との再会は急ぐつもりだが、すぐに出会えるかどうかと聞かれれば首を横に振るしかない。
願わくば、桜が彼女を守れる人物と出会える事を。優しい人物と出会える事を。

「……よし」

覚悟はとうに決めた。
もう、立ち止まる必要はない。
一通り目を通した名簿をバッグに詰め込み、月を見上げた。
綺麗な月だった。儚く、淡く――それでいて、力強く俺を照らしている。
その光と決別するように、俺は勢い良く振り返った。


「――そこの者ぉぉぉぉおおおおおおおッ!!」
「……へ?」


その直後に、目に飛び込んできたのは。


「私のっ!仲間にぃっ!!」
「え、えっ……ちょ、待っ――」


目にも止まらぬ速さで駆け抜ける。


「なってくれぇぇぇえええええええッ!!!」
「ごふ”ぅっ――!?」


金色の砲弾だった。



◇ ◆ ◇


18 : 少年よ、大志を抱け。 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/24(金) 23:43:00 s9e/4T.Y0


ガッシュ・ベルに迷いはなかった。
もはや説明するまでもないだろうが、彼にゲームに乗るつもりなど毛頭ない。
言峰の説明を聞いた時から、見せしめとして平沢憂が殺された時から、殺し合いの場に放り出された時から。
ガッシュの方針はただ一つ。仲間を集め、”やさしい王様”としてこの殺し合いを破壊する事だけだ。
その為ロクに支給品の確認もせず(単に忘れていただけだが)、周囲を駆け回り徹底的に人探しに没頭した。

そして見つけたのが、赤毛の少年だった。

迷う事なくガッシュは少年へと疾駆し、その胸へと飛び込んだ。
悪い人間かも知れないと、そんな可能性は微塵も考えずに。
ガッシュ自身に見る目があったとか、少年が良い人そうだったとか、そういう訳ではない。
人の姿を見つけたから飛び込んだ。ただ、それだけだった。
その結果、勢い余って少年を吹っ飛ばす事になってしまったのだが。

「あっ……」

錐揉み回転し吹っ飛んでゆく少年。その行く先は、静かに波を立てる海だった。

――びちゃーんっ!

盛大な水音と共に顔面から海に突っ込む少年。
その体はピクピクと二、三度震えた後、ぐったりと海に沈み込んでしまった。
今さっき自分のしでかした事を数秒遅れて理解したガッシュは、口と目を大きく開き冷や汗を大量に落とす。
だがそれは一瞬で消失し、晴れやかな、開き直るような笑顔に戻った。


「……まぁ、よいかっ!」
「よくなぁぁぁぁいっ!!」


水飛沫を上げながら勢いよく立ち上がる少年に、ガッシュはひっ、と後退る。
しかし少年はガッシュの腕をがっちりと掴んでおり、引き攣った笑顔を浮かべていた。
かつての清麿と同等かそれ以上の悪寒を感じたガッシュは咄嗟に両手を地に付け、土下座の体勢に。

「ご、……ごめんなさいなのだぁっ!!」
「……よろしい」

びしょ濡れの少年、衛宮士郎はガッシュの姿を見下ろしながら満足気に頷く。
無論士郎に子供に土下座させて悦ぶ趣味などはないが、いきなり突撃をかまされれば話は別だ。
まぁそれでもいつまでも頭を下げさせているのは何となく居心地が悪いらしく、すぐに頭を上げさせる。
その際にガッシュは”清麿よりも優しいっ!”と感激していたが、それは結果的に清麿は意地悪な人間だと言っているようなものだ。
だが士郎は、その清麿という人間も苦労しているのだろう。という、どこかお節介に似た感情を募らせていた。


19 : 少年よ、大志を抱け。 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/24(金) 23:43:42 s9e/4T.Y0

「で、なんで突然突っ込んできたりしたんだ?」
「ウヌ!お主が最初に見つけた人間だったからつい勢い余っての!」
「……それで、ダイブしちゃったと?」
「ウヌッ!」

はぁ、と思わず溜息が漏れた。
思った通り、この子供は無茶苦茶な奴だった。
こういうタイプは死んでも治らないタイプだと、士郎は知っている。

衛宮士郎自身が、そうであるように。

「お前、もしも俺が危ない奴だったら……どうするつもりだったんだ?」

だからこそ、こんな質問をしたのだろう。
そして、その回答は――


「それならば私が更生させるまでだっ!そして友達になればよいっ!」
 


――あまりにも、予想通りだった。



「……ぷっ、はは……ははははっ!」

気が付けば士郎は、腹を抱えて吹き出していた。
その様子にガッシュは首を傾げる。何かおかしいことでも言ったか、そう問い掛けるように。

そう、この少年は――同じだった。

一度捨てたはずの”正義の味方”を目指していた自分と。
アーチャーがそうであったように、自分も今、古い鏡を見せつけられている。
その道がどんな修羅の道であっても、突き進んでやるという揺るぎない決意。

士郎はガッシュという少年を知らない。
魔物も、魔界も、戦いも、知らないことが多すぎた。
だけど、それでも、たった一言二言会話を交わしただけでも、分かった事がある。
この少年は、自分が捨てた理想を本気で叶えようとしているのだと。

「……衛宮士郎だ」
「ム……?」

散々甘いと、理想を捨てろと言われ続けてきた。
士郎自身、正義の味方という理想が高すぎるものだと理解していた。
その道は果てしなく地獄であり、辿り着く先もまた地獄。
士郎もそれを知って尚、正義の味方で在りたいと願っていた。

「ガッシュ!!私の名は、ガッシュ・ベルだっ!!」

そんな自分よりも、甘い存在が居たのだ。
皮肉なものだと思う。理想を捨てた直後に、その理想を拾い上げるように少年が姿を見せたのだから。
もう二度と、振り返らないと決めた。だがこの瞬間、衛宮士郎は――隔絶された記憶を、呼び覚ます。
無謀でも、無様でも、ひたすらに誰かの為に在りたいと願った少年の姿を。





20 : 少年よ、大志を抱け。 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/24(金) 23:44:15 s9e/4T.Y0


「なるほどな、ガッシュにはパートナーが必要なのか」
「ウヌ、ここに来る前は清麿と一緒だったのだが……今は離れ離れになってしまっているからのう」

衝撃的な出会いから約30分。
士郎とガッシュは互いの情報を交換し終えていた。
互いに最初に出会った参加者であること、互いに知り合いがこの殺し合いに参加させられていること。
その知り合いというのがまた、士郎にとっては頭を抱える要因となっていた。

ガッシュは清麿とブラゴの二人であるのに、士郎は五人も名前に心当たりがあるのも原因だ。
だがそれ以前にアーチャーとランサーは士郎の知る限りでは闇に取り込まれ、命を落としているはずだった。
同名の人物が参加させられているとも考えられるが、その可能性は限りなく薄いだろうと士郎は理解している。
考えられるのは言峰が何らかの細工を仕掛け、二人の命を蘇らせたことだ。
あの時の言峰の言葉、”優勝すればどんな願いも叶える”というのが本当なら、その程度造作もないだろう。
しかし、それはあまりにも――命というものを、冒涜しているように思えた。
それが殺し合いをさせる為だというのだから、尚更に――


そして、これはガッシュが一方的に持ちかけた事だが、簡単に互いの境遇を打ち明けた。
それは先程のアーチャーとランサーの件で沈んでいた士郎を少しでも元気づける為にと、彼なりに気を使って提案した話題だ。
結果、情報交換の時間の2/3ほどがその話題だったので、どうやら効果は望めたらしい。

「……魔界だとか、王を決める戦いだとか……正直、容易に信じられるものじゃない」
「ウヌゥ……だが本当なのだ」

当然、士郎は魔術師や聖杯戦争の事は話すつもりはなかった。何しろ余りに非現実的な内容だから。
しかし、ガッシュの話はそれを優に超えていた。現実性の無さにおいては、聖杯戦争の上を行くだろう。

「ああ、知ってるさ。……ガッシュは俺の話、信じるか?
 正直言って、ガッシュの話と同じくらい信じられるものじゃないぞ」

だからこそ、ガッシュがそうしたように士郎も嘘偽りなく話した。
と言っても聖杯戦争、英霊、魔術師などの根本的な内容を大まかに説明しただけだが。

「当然だっ!士郎は魔法使い?なのだなっ!」
「魔法……うーん、ちょっと違うけどそんな感じだな」

ガッシュの話が真実かどうかは士郎には分からない。
だが、ガッシュは士郎の話を信じて疑わなかった。
本来ならば笑われてもおかしくないような、途方もない話だというのに。


21 : 少年よ、大志を抱け。 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/24(金) 23:44:43 s9e/4T.Y0

「なら俺も信じるさ、ガッシュの事を」
「なにっ!?本当か士郎っ!?」
「ああ、本当だ」

だがそれはきっと、お互い様なのだろう。
”やさしい王様”という理想を語るガッシュの姿があまりにも無邪気で、眩しくて。
自分が捨ててしまった理想を、この少年なら叶えられる――そう、衛宮士郎は思ってしまった。
それが意味する事がどんなに罪深く、許されることがなくても。
士郎にとってガッシュ・ベルは、一つの”希望”だったのだ。

「ウヌ……?」

だから士郎は自然と、手を伸ばす。
かつて衛宮切嗣という男が、正義の味方になりたかった男がそうしたように。
笑ってしまうほど不器用な手付きで、金色の髪を乱雑に撫でた。


「ガッシュならなれるさ、”やさしい王様”ってやつに」
「……ウヌッ!」


ガッシュが、釣られて士郎が笑う。
その笑顔を祝福するように、月の光が二人を濡らした。





「士郎、士郎っ!」
「ん……ガッシュ、どうしたんだ?」

あの後、二人は北にある温泉を目指し歩みを進めていた。
温泉を目指していた理由は体を流したいから、というのもあるが、それ以上に他の参加者が集まりやすいであろうという士郎の判断だ。
もしかすれば互いの知り合いとも出会えるかもしれないという、願望に近い期待を抱いて。
その最中、不意にガッシュが士郎の前へと躍り出てぴょこぴょこと小さな体を跳ねさせる。
彼の両腕には大切そうに赤色の一冊の本が抱き抱えられていた。

「これを預かって欲しいのだ!」
「……いいのか?」
「ウヌ!清麿がいない今、パートナーとなってくれる者が必要だからの」
「パートナー……」

ガッシュから聞いていた情報を、士郎は改めて整理する。
ガッシュの能力は確かに強力だが、自らの意思で術を放つ事が出来ない。
それは即ち術を唱える存在が必要ということだ。彼の言い方に合わせるなら、パートナーの存在が。
士郎にとっては断る理由などはないし、ガッシュも士郎を信頼して魔本を預ける事を提案している。
だが一瞬、ほんの一瞬だが――士郎の脳裏に、ある英霊の姿が過ぎった。


22 : 少年よ、大志を抱け。 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/24(金) 23:45:40 s9e/4T.Y0




“―――問おう。貴方が、私のマスターか”




「――ああ、俺で良ければ……ならせてくれ」


かつての日の言葉を返すように、力強く士郎は頷く。
その言葉はどうやらガッシュの期待通りだったようで、キラキラと宝石のように瞳を輝かせていた。
そしてすぐさまガッシュは猛烈な勢いで士郎に近づき、ウヌウヌと激しく頷きながら自身の魔本を押し付ける。
余程士郎の言葉と、その決意に満ちた表情が嬉しかったのか、ガッシュの浮かべる表情はあまりにも年相応で。

「ならば士郎よ、我がパートナーとして共に戦おうぞっ!」
「おう!ガッシュ、お互いに頑張ろうなっ!」

こうして、一組のパートナーが誕生した。
その二人は決して心が通じ合っているわけでも、長年付き添った相棒というわけでもない。
ただ、ほんの少し――ほんの少しだけ、似た者同士であるだけ。



◆ ◇ ◆



(……セイバー)

果てしなく続く闇の中に現れた、俺を照らし出す光。
その光には、何度も助けられた。俺と、俺の大切な人を、何度も何度も。
だからこそ彼女は俺の手で、決着を付けたかった。

(お前も、呼ばれてるんだな)

名簿で彼女の名を見た時、俺はどこか安堵していたんだと思う。
だって、セイバーがこの場に居れば俺が止めてやることが出来るから。
自分でも歪んでると思う。こんな場所に連れて来られる事なんて、あっていい訳がないのに。
それでも、彼女と決着を付ける事は――彼女の事を一番知っている、俺でなければならない。

(お前の事は俺が止めてやる、だから――)


――無事でいろよ。


あまりに身勝手で、あまりに残酷な言葉を呑み込んで。
夢から目を覚ますように、柔らかな月光を握り締めた。


23 : 少年よ、大志を抱け。 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/24(金) 23:47:41 s9e/4T.Y0



【D-7/北部/一日目 深夜】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:健康、びしょ濡れ
[装備]:ガッシュ・ベルの魔本@金色のガッシュ!!、アーチャーの左腕(投影可能回数残り5回)@Fate/stay night
[道具]:支給品一式、ランダム支給品(確認済み)(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:言峰を倒し、このゲームを破壊する。桜を救う。
1.ガッシュと共に互いの仲間の捜索。桜を優先的に探す。
2.ガッシュのパートナーとして相応しい行動をとる。
3.魔物、魔本についてもう少し調べたい。
4.もしもセイバーと出会ったら、決着をつける。
5.アーチャー、ランサー……。

※参戦時期は桜ルートのセイバーオルタにトドメを刺す直前。
※名簿を確認しました。
※アーチャーの腕は未開放です。
※ガッシュのおおまかな呪文、そしてその効果を知りました。
※金色のガッシュ!!の世界の情報を大まかに聞きました。

【ガッシュ・ベル@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品(確認済み)(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:”やさしい王様”として皆を導く。
1.士郎と共に互いの仲間の捜索。出来れば清麿優先。
2.清麿が見つかるまで士郎に本を預ける。
3.士郎が優しい人間で良かった。
4.ブラゴ……。

※参戦時期はファウード戦後。
※名簿を確認しました。
※Fate/stay nightの世界の情報の一部を聞きましたが、理解できているかは不明です。
※術に制限がかけられているかどうかは他の書き手さんにお任せします。


24 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/24(金) 23:48:26 s9e/4T.Y0
投下終了です。
指摘や感想などがありましたらお願いします。


25 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/25(土) 23:30:30 OqMtKTT20
海堂直也

予約します


26 : 名無しさん :2017/03/27(月) 02:27:52 k2OCP9tE0
投下乙です。
桜ルートからの参戦でマーダー寄りの選択をすると思いきや、まさかの対主催。
正義の味方に憧れた人間、衛宮士郎とガッシュの会話はロワの中の清涼剤になるかもと思わせるものでした。
反面、セイバーと桜がどういう風に行動するかの不安もあって一筋縄ではいかない感じも良かったです。
オープニングも雰囲気と不可思議が出ていていいスタートだったと思いました。


27 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/27(月) 04:39:04 DiYsB4WY0
感想ありがとうございます。
そうですね、どちらも人の為に有りたいと願っていますから…惹かれ合うところもあったのでしょう。
今後彼らの関係者がどのような行動を取るのか、自分でも楽しみです。


28 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/27(月) 09:44:25 DiYsB4WY0
投下します


29 : 夢のかけら ◆wIGwbeMIJg :2017/03/27(月) 09:46:22 DiYsB4WY0

とある世界、とある場所に海堂直也という男がいた。
男には夢があった。だが、その夢はとある心無い人間によって奪われてしまった。
ギタリスト人生を絶たれ、男は叶えきれなかった夢に押し潰されるような日々を送っていたのだ。

そう、まるで”呪い”のように。

そんな男はようやく、自分の才能を継ぐ人間と出会い夢という呪いから解放されたのだ。
散々人間を嫌いと言っていた彼が選んだのは、やはり人間だった。
あるいは、海堂直也は木場勇治よりも、長田結花よりも、人間が好きだったのかもしれない。
だからこそ、彼は正当防衛を除き一人たりとも人間を殺さなかった。いや、殺せなかったのだろう。
オルフェノクという人間を遥かに超越した存在なのに、その力を人間に向けなかった――それだけで、海堂直也がどのような人物なのかが伺える。


「――ちゅーか、さ」


海堂の脳裏に浮かぶのは、あの白いホールで首輪を爆破された少女の姿。
人集りの中でも大分後ろの方だったためよく見る事は出来なかったが、彼女の最後の叫びは海堂の鼓膜に張り付いて離れなかった。
人間が死ぬところを見るのに慣れていなかった訳ではない。
だが、あんなにも呆気なく、残虐に殺されたのは、海堂の知る限りでは初めてだった。

「まぁな? 殺し合いたいやつを片っ端から集めて開くのはいーさ。
 けどよ、あの子は……ただの女の子じゃねぇか。それに木場や長田、乾のやつだってそういうタイプじゃねぇ」

名簿に被った土をパッパッと払い、怪訝な視線でそれを見詰める。
海堂の関心が向けられる名前は、”乾巧”、”草加雅人”、”木場勇治”、”長田結花”、”村上峡児”の五つだ。
それら五つの共通点は、自身が知っている名前だという事。そして、もう一つの共通点がある。
その共通点というのは、乾巧を除いた四人は既に”死亡”している、という事だ。


30 : 夢のかけら ◆wIGwbeMIJg :2017/03/27(月) 09:46:43 DiYsB4WY0

本来ならばそれは疑問を抱くべきだが、海堂はその名前を見て驚きこそすれど疑うことはなかった。
何故ならば、草加雅人も、長田結花も、村上峡児も、実際にこの目で死を確認した訳ではないからだ。
木場勇治に関したって、クリムゾンスマッシュの余波に巻き込まれただけで、実はしぶとく生き残っていたかもしれない。
なによりあの木場たちがそう簡単に死ぬなんて、海堂には到底思えなかった。

いや、それは海堂の願望だったのかもしれない。

木場も、長田も、草加だって、決して死んでいい人間ではなかった。
村上については良い印象はないが、だからといって死ぬべきだとは海堂も思ってはいない。
だからこそ、会ってその真実を確かめたいと思っていた。もしも生きていれば、それが何より。
なんだかんだ言って、海堂直也という男はどうしようもなくお人好しだったのだ。


「――何が言いたいかっちゅーと、あのエセ神父の思い通りになってたまるかってんだ」


一人結論づけた海堂は、ふと自身のデイパックに目をやった。
そう言えば名簿を確認しただけで支給品とやらを見ていなかったなと、今頃になって気付く。
気持ちを切り替えるのも含めて、海堂は意気揚々とデイパックへと手を伸ばした。

「さーって、ロクでもないもん入ってたらタダじゃおかねぇぞ……」

誰に言うわけでもない呟きを一つ、手探り気味に中身を漁る。
一見するとコソ泥のように見えてしまうのは海堂の胡散臭さからか、にやりとした表情が更にそれを加速させる。
ご満悦な表情で海堂が取り出したのは、ちゃりちゃりと軽い音を鳴らす一つの手錠だった。
さすがの海堂でも玩具と本物の見分けはつくようで、その手触りが金属のものである事を確認すればうそれでもんうんと頷く。
強力とは言い難いが、ハズレというわけではない。持っていて損はないといったところだろう。

次に海堂が取り出したのは、透明な袋に入れられた三つの黄色いグミ。
正直これを手にした時にはとんでもないハズレ品だと思ったが、付属されていた説明紙を見て目の色を変えた。


31 : 夢のかけら ◆wIGwbeMIJg :2017/03/27(月) 09:47:22 DiYsB4WY0



          『レモングミ』

   食べればHPを大幅に回復するグミ。
   具体的な回復値は最大HPの60%程。



「HP……って、体力って事か? なんか胡散臭ぇなぁ……」

説明書に記されていたのは、あまりに簡潔で胡散臭い説明だった。
まるでゲームの世界から持ってきたような、それこそスマートブレイン社でも開発できるか怪しい品物。
馬鹿にしているかと叫びそうになったが、現状本物かどうか確かめる手段がないので保留にしておく。
もしも本物だった場合無闇に消費するわけにもいかない。と、海堂らしからぬ冷静な思考で判断したのだ。

さて、ここまで確認した支給品は二つ。
その内一つは手錠という明確に役に立つもので、もう一つはレモングミなる胡散臭い代物。
確か主催は支給品は一つ〜三つと言っていた。ならばここらで尽きても良い具合だが、海堂の運はそこそこ良いらしい。
なにかないかとデイパックに突っ込んだ右手は、すぐになにか硬いものに触れた。

「さってと、お次は……おっ、こりゃでっけぇな! もしかして当たりなんじゃ…――っ!!」

その感触に引っ張られるように、海堂は期待に濡れた表情で”それ”を引っ張り出す。
しかしその手は途中で止められる事となった。その理由は、”それ”が何かを海堂が知ってしまった為。
”それ”は、海堂のよく知るものだった。形や種類は違えど、海堂はそれをなんと呼ぶのか知っている。
海堂の手に良く馴染み、視線を離す事を許さないそれは――――


32 : 夢のかけら ◆wIGwbeMIJg :2017/03/27(月) 09:47:56 DiYsB4WY0




――――ギター、だった。




「……なんだよ」

ぽつりと、掠れた声が溢れる。
体の奥底から燃えるような熱が湧き上がり、思考を支配していくのが分かった。

「そうまでして俺を馬鹿にしたいかよっ!
 夢を諦めることが、そんなに悪いことなのかよっ!」

激情のままに叫び散らし、ギターを振り上げる。
そのままアスファルトに叩きつけようとして――――出来なかった。


「……っ…」

いや、あるいは、そのギターが新品で指紋一つついていなかったのならば、海堂は躊躇なく振り下ろしただろう。
海堂がそうしなかった理由は、そのギターが酷く使い込まれている事に気が付いたからだ。
一見新品に見えたのは、新品だと錯覚する程手入れが行き届いているから。
余程持ち主はこのギターを大切にしていたのだろう。そんな思考が、海堂の行動を阻んだ。
身体の熱を冷やすように、長い溜息を吐き出す。幾分か冷静になれば、丁寧な手付きでギターを降ろした。
その最中、不意に一枚の紙がギターのヘッドに括りつけられているのが海堂の目に入る。

「……中野、梓……?」


『中野梓のギター』

その文字からするに、中野梓というのはこのギターの持ち主の名前なのだろう。
さっき確認した名簿に同じ名前があったのを、ふと思い出した。
思わず海堂の顔は渋る。中野梓という人間がギターを愛しているというのは、痛い程伝わっていた。
そして、こんな殺し合いに連れてこられるべき人間ではないということも。

「――しゃーねぇな」

暫し考え込んだ後、パンッと自身の両膝を叩き立ち上がる。
続けて地面に寝かせておいたエレキギターを持ち上げれば、付属のストラップを肩に掛けた。
本来彼はクラシックギターの専門なのだが、エレキギターを肩に提げる姿は、不思議と様になっていた。


「届けてやるよ、この俺様が」


顔も年齢も分からない、中野梓という誰かへ向けて。
海堂直也は持ち前のニヒルな笑顔を浮かべ、そう宣言した。


33 : 夢のかけら ◆wIGwbeMIJg :2017/03/27(月) 09:48:22 DiYsB4WY0



【F-2/一日目 深夜】

【海堂直也@仮面ライダー555】
[状態]:健康
[装備]:中野梓のギター@けいおん!
[道具]:支給品一式、レモングミ×3@テイルズ オブ シンフォニア、手錠@古畑任三郎
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らず、人間として生きる。
1.中野梓を探し、ギターを渡す。
2.乾、木場、長田と合流したい。草加は微妙。
3.村上と出会うことは避ける。
4.木場達は生きてた……?

※名簿を確認しました。
※参戦時期は50話、アークオルフェノク撃破後。


【レモングミ】
一口サイズのゼリー状の薬品。レモン味
食べればHPを大幅に回復する。シンフォニアでは最大HPの60%程。

【中野梓のギター】
けいおん!の中野梓が所持しているギター。通称むったん。
モデルはフェンダーJAPANのムスタングMG69で、カラーはキャンディアップルレッド。
ムスタングとは日本語で「じゃじゃ馬」という意味で、これは中野梓のキャラソン『じゃじゃ馬Way To Go』のタイトルにも用いられている。
ちなみにストラップ(肩掛け)付き。


34 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/27(月) 09:48:48 DiYsB4WY0
投下終了です。
指摘や感想などがありましたらお願いします。


35 : 名無しさん :2017/03/27(月) 12:27:11 k2OCP9tE0
投下乙です。
支給品をそう持ってきましたか。
ギターの元所持者を見せしめの親友にしたのが奥深くていいですね。
ギタリストとしての夢を持っていた彼がけいおん勢とどう関わっていくか気になります。


36 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/27(月) 13:03:05 DiYsB4WY0
感想ありがとうございます。

シールケ
ン・ダグバ・ゼバ

予約します。


37 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/27(月) 13:36:38 x6q9qyTY0
さようならシールケ

ゾッド ポルナレフ 花京院

予約します


38 : 名無しさん :2017/03/28(火) 00:34:53 Qtqkzw120
シールケレイプ!


39 : 名無しさん :2017/03/29(水) 00:40:51 yRbJZX9c0
お、久々のロワ系
期待


40 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/31(金) 23:50:23 9f545cRA0
投下します。


41 : 白き闇 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/31(金) 23:51:06 9f545cRA0

「はぁ……殺し合いだなんて、馬鹿げてるわ」

トレードマークの大きな魔女帽子を揺らし、緑髪の少女、シールケが独り言ちる。
その顔には呆れとも怒りとも取れる表情が浮かんでいた。
当然だろう。いきなり拉致された挙句に殺し合えと、あまりに身勝手で非人道的な事を告げられたのだから。
無論彼女に殺し合いに乗るつもりはない。早いところガッツと合流して、主催者を打倒したいというのが彼女の心情だった。

(それにしても……願いを叶える、とは本当なのかしら)

ふと、シールケの脳に蘇るのは言峰が放った言葉。
優勝すれば願いを一つだけ叶える――それを狂人の戯言と聞き流す事は、出来なかった。
願いを叶える、というのは即ち魔術の終着点。いや、魔術だけではなく思想という概念の最果てとも言えよう。
シールケはそんな馬鹿げた魔術は知らない。それは恐らく、師のフローラでさえも。
言峰が嘘を吐いているようには見えなかった。となると、言峰はフローラを凌ぐ魔法使いだというのか?
いや、彼からはそんな力は感じられなかった。というよりも、魔力の類を一切感じられなかったと言える。
ならば考えられるのは、言峰の他にそれを実現できる力を持った者が居るという事。
と、そこまで考えたところでシールケは一旦思考を止めた。

(ダメね、情報が少な過ぎる……今はとにかくガッツさんとの合流を急がなきゃ)

そう、現段階で分かっている情報は精々上澄み程度。
様々な怪異や異形を前に、思考が無駄だという事は散々叩き込まれた。
正直そういう生き方はシールケは苦手だったが、少なくとも今はそうでありたかった。
いつも自分を引っ張ってゆくあの背中が、そうだったように。

そうと決まればあとは行動に移すのみ。
まずは支給品の確認だ。花を摘むように慎重な手つきでデイパックを開き、覗き込む。
シールケの目に飛び込んできたのは一本の棒状の何かだった。
材質は木材を主としていて、その先端は獣の毛のようなものがびっしりと埋め込まれている。
杖と呼ぶにはあまりに奇抜なデザインのそれは、シールケの世界には無いものだった。


42 : 白き闇 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/31(金) 23:52:17 9f545cRA0

「これは……?」

もしも此処に彼女の世界以外の者が居たのならば、それをこう呼ぶだろう。


――デッキブラシ、と。


その通り、彼女に支給されたのは紛れもないデッキブラシである。
だが呆れる前に聞いて欲しい。このデッキブラシは、恐らく皆が想像しているデッキブラシとは一線を越した物。
ロイド・アーヴィング達の世界――即ち、テイルズオブシンフォニアの世界にて、”デッキブラシ”という武器が存在するのを知っているだろうか。

実はこの武器、かの世界でも五本指に入る程に強力な”杖”なのだ。
杖と呼称するには少しばかり苦しい見た目だが、その内に秘めたる魔力は本物。
風の精霊の力を宿し、500超えの攻撃力を持つこのデッキブラシなる杖は、本ロワ内でもかなりの当たり品だろう。
問題なのはその見た目か。数多の参加者はその見た目から、とんでもないハズレ品を引いたと判断してしまう筈だ。

(……これ、かなり強力な武器なんじゃ……)

だが、シールケは違った。
いくら見習いとはいえ彼女の魔術士の端くれだ。
”デッキブラシ”に秘める魔力の膨大さを感じ取り、戦慄が走るのも当然と言えよう。
本来のデッキブラシの用途を知らない事は、彼女にとって幸運だった。
もしも少しでも知識があったのならばこれを武器と認識する事はなかっただろう。
少なくとも今のシールケにとってこの”デッキブラシ”は、国宝レベルにさえ錯覚する程の杖なのだ。
思わずその魔力に魅了され、瞳を輝かせるのも無理はない。


ところで、幽界(かくりよ)というものを知っているだろうか。
ざっくりと言ってしまえばあの世のことで、人間が肉の体では知覚できない世界を言う。
”あの世”とは言っても、死んだ者の霊ばかり存在しているわけではない。
現世で生きている人間の幽体や、人が「存在する」と信じることによって存在している妖精などの精霊や、そして夢魔(インキュバス)やトロールなどの魔物。
さらには巨大な意識体(アストラル体)であるゴッド・ハンドまでが存在している。

対して現実の世界、現世(うつしよ)は幽界とは全く別に存在する。
しかし実は現世に存在する全ては、”幽界”と魂の世界である”本質(イデア)の世界と重なり成り立っている。
これは現世に住まう人間にとっても例外ではなく、その存在は”現世”の肉体と”幽界”の幽体と”本質の世界”の魂とで成り立っているのだ。
だが、人間達が見たり触れたりできるのは現世で肉体などの物質を持ったものだけで、肉体を持たない幽体のみの存在(悪霊など)は基本的に知覚することはできない。

その幽体のみの存在を退治するのが、シールケら魔術士である。
魔術士は自身の肉体から幽体のみを解放し、幽界へと潜り込める術を持つ。
幽界へと潜れば現世ではどうしようもなかった幽体への攻撃も可能で、他にも気(オド)を繋いだ仲間との意思疎通も可能となる。
結論から言えば、その気になればシールケは一度オドを繋いだガッツとの意思疎通など簡単に出来てしまうのだ。


当然、主催はそれを良しとはしなかった。
故に幽界へ潜る事自体を厳しく制限し、結果的にシールケは幽体を解放する術を失った。
これはシールケにとって過去に類を見ない異常事態だ。だからこそ、最強の杖を手にしてもその表情から陰は消えない。
今まで当然の如く出来ていた事が出来なくなる。そのショックは、予想以上に大きい。

(ダメ、どうしても幽体を切り離せない……こんな事態、初めてだわ)

先程から幽体を解放しようとしているが、その努力に結果は答えてくれない。
徐々にシールケに焦燥が募る。このままでは、ガッツと出会う事が出来ない――途端に、心細さが襲い掛かる。


その最中、不意に草を揺らす音が鼓膜を叩いた。


43 : 白き闇 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/31(金) 23:53:02 9f545cRA0


「――誰ッ!?」

デッキブラシを構え、音の方向へと振り返る。
朧な逆光に浮かび上がったシルエットは、細身の男性のようなものだった。
白いくたびれたシャツを身に付け、白いズボンを履いた、闇夜の中でも目立つ程の真っ白な男。
月光の影で表情は見えなかったが、くつくつと押し殺したような嗤い声を響かせていた。


「――…っ!!」


その瞬間、シールケは全身の毛が総毛立つのを感じた。
”アレ”は危険だ――脳内で警報音がけたたましく鳴り響く。
姿こそ人間のものだが、発せられる殺気は並みの使徒の遥か上を行っている。
下手をすればあの不死者ゾッドと同じか、或いはそれを越えるほどだ。
杖を握る手が震える。気を保つことに全力を注がないと、一瞬で持っていかれる。
常に心臓を握られているような感覚の中、シールケは来訪者へ精一杯の睥睨を決めた。

「ねぇ、君は僕を笑顔にしてくれるの?」
「えっ? なにを、言って――――はッ!?」

声が響いた頃には、青年はシールケの懐へと潜り込んでいた――その姿を、異型に変えて。
そこからは自分でも何をしたのか分からない。ただ、生に縋る本能に身を任せて体を動かした。
回避は出来ない。直感でそう判断したシールケは、ありったけのオドを結界状に展開し、その下からデイパックと杖を盾にした。



「ぁ――か、はっ」



瞬間、信じられない衝撃が身を襲った。


44 : 白き闇 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/31(金) 23:53:50 9f545cRA0

鉄並みの強度を誇る結界を紙切れの如く破り、デイパックをボロ切れに変えて、拳が降り注ぐ。
幸いデッキブラシはその直撃に耐え威力を殺す役割を果たしたが、それでもこの有様だ。
肋骨の二、三本は折れているだろう。全身を蝕む激痛と凄まじい嘔吐感、揺れる三半規管が未だ生きている事を実感させてくれる。
結界、デイパック、杖。そのどれか一つでも欠けていたのならば、命はなかっただろう。
考えたくなくても、自然とそんな思考に至ってしまっていた。

「っ……は、…おえっ……!」
「へぇ、まだ立ち上がれるんだね。嬉しいよ」 

感心したように、あまりに無邪気な声を漏らす白い異型。
ベルセルクという特段異常な世界の住人であるシールケをもってして、異常と判断される程の狂人。
異型の名は”ン・ダグバ・ゼバ”。グロンギなる未確認生命体の頂点にして、絶対なる魔王。

ダグバにとってシールケに放った一撃は、軽く小突く程度のものであった。
それこそ子供同士が戯れ合う時のような、そんな一撃。
それでも並みの人間ならば容易く屠れる事をダグバは知っていた。
知っていたからこそ、行ったのだ。その結果、未だ命を繋いでいるシールケに対して興味を持った。
もしかしたらこのリントは自分を笑顔にしてくれるかも知れない――絶望的な希望が、湧き上がってしまったのだ。

「君も、リントの戦士なんだね。
 ならきっと、僕のことを笑顔にしてくれる」
「はぁっ……、っ…なに、を……っ!」

純白の肉体を月光に映えさせ、心底愉快そうに言葉を紡ぐダグバ。
そんなダグバの姿を見たシールケが抱いた感想は――有り体に言って、ヤバい。
もしもあの怪物がその気になれば、自分の命など容易く奪い取れるだろう。
ある程度威力を殺した筈の一撃で、満身創痍な状態の肉体がこれ以上なく絶望を物語っている。
デッキブラシという最強の杖を手にして自信付いていた心を、この男は粉々にぶち壊してくれた。

(なん、なの……こいつは……っ!)

シールケの心底からの疑問に答えてくれる存在は、居ない。
人間の姿から怪物へと変化させる点は、彼女の世界で言う使徒に近いのかもしれない。
だが、明らかに違う――幾多もの使徒と相見えてきたシールケだからこそ、そう断言出来た。
男の正体は分からない。その正体を思考する時間は、全て現状を打破する思考へと注ぐ。
壮絶なまでの殺気と威圧に見舞われながら、シールケの脳は生存へ導くためにフル回転させていた。


――逃げる?

いいやダメだ、ボロボロの体ではすぐに追いつかれる。

――戦う?

絶対にダメだ、殺される。


そうなれば、選択肢は一つだ。
自身が持てる最大の攻撃を放って、全力でその場を離れる。
チャンスは一度きり。杖の力を使えば撃破には及ばずとも、膝を付かせる程度は出来るだろう。


45 : 白き闇 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/31(金) 23:54:22 9f545cRA0

(正直、一発撃つのも辛いけど……やるしか、ないっ!)

痛む体に鞭打ち、決死の思いで立ち上がる。
体を起こすという行為が、こんなに気怠く感じたのは初めてだった。
霞む視界に確りと悪魔の姿を収め、口の中に充満する鮮血を吐き出す。
幾分か楽になった口内に目一杯の空気を送り込んで、口早に詠唱を始めた。

「―――、――」
「……ん?」

詠唱者であるシールケを中心に緩やかな風が渦巻き、徐々にそれは暴風へと変わりゆく。
杖自体の魔力にオドを乗せて、更に風の元素霊(エレメンタル)の力を加え、それでも足りぬとばかりに黒風は大地を抉る。
彼女に取り巻く風の刃は触れるだけで身を切り刻む、絶対なる結界と化した。

だがその結界も、ダグバの前ではそよ風に過ぎない。
全身に刻まれる裂傷も無視して、ダグバはシールケへと緩慢な動作で歩み寄る。
距離が縮むに連れて濃密さを増してゆく殺気に意識を持っていかれそうになりながらも、詠唱は途絶えさせない。


――互いの距離が、10mにまで狭まる。

ぼうっ、という音と共にシールケの杖に集う暴風が焔を纏った。
炎の元素霊、サラマンデルの力を注いだのだ。


――7m。

ローブの一部が一文字に裂け、袖が千切れ飛ぶ。
余風に乗り降り注ぐ瓦礫や石礫を、ダグバは避けようともしない。


――5m。

頬に赤い線が走る。
杖を握る両腕の至る所に裂傷が走り、白肌を赤く染めてゆく。


――3m。

シールケの目が、見開いた。


「――――はぁぁぁぁっ!!」


何処にそんな力が残っていたのか、自分でも驚く程の叫びを喉奥から響かせる。
瞬間、杖という制御棒から遂に魔力の塊が解放された。同時にシールケの体が勢い良く後方へ弾き飛ばされ、地に投げ出される。
デッキブラシの膨大な魔力、炎と風の元素霊、そしてオドの力――それらは、一個人の存在に向けるには余りに有り余る程の力。
大気を切り裂き、地面を半円状に削り、炎の螺旋が突き進む。重い威圧や殺気を押し退けて、それはダグバの肉体を呑み込んだ。


46 : 白き闇 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/31(金) 23:55:21 9f545cRA0

獣鬼(トロール)や霊は言うまでもなく即死。並みの使徒でさえも一撃で屠れると確信させるには、十分過ぎる。
だが慢心はしない。あの白い怪物はきっと、死に至ってはいないだろう。
だからこそシールケは厄災の後を確認する事なく、一気に駆け出した。
一歩踏み込む毎に体が悲鳴を上げる。最初の一撃に加え、魔法の反動が響いたのだろう。
しかし立ち止まる事は許されない。立ち止まってしまえば、今度はこちらが狩られる番だ。

もうすぐ、目の前の橋を渡れば入り組んだ市街地へと抜けられる。
複雑に建物が並ぶ市街地ならば、追跡も容易ではない筈だ。
だから今は、今だけは、この足を止める事は許されない――!









「今のは少し驚いたよ」







「――えっ?」

シールケの視線の先、即ち市街地へ続く橋の中央。そこに、魔王が居た。
その純白の肉体に僅かに焦げ跡を残した、致命傷と呼ぶには程遠い姿で。
破壊の権化、ン・ダグバ・ゼバが――無情なまでに無機質な瞳で見下ろしていた。


47 : 白き闇 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/31(金) 23:55:54 9f545cRA0

「でも、さっきのが全力なら……笑顔にはなれないかな?」
「……はは、っ」

思わずシールケは渇いた笑みを漏らしてしまう。
命を賭した渾身の一撃がまるで通じず、それどころか足止めにさえならず、無駄に終わった。
もはや笑うしかない。こんな規格外の化物を相手に、どう生き残れというのか。
壊れかけのシールケの心を、絶望と諦念が瞬く間に支配してゆく。

シールケは運が良かった。
デッキブラシという最強格の杖が支給されたのだから、かなり恵まれていたと言えよう。
だがそれ以上に、相手が悪かった――どんなに強い武器を持っていようとも、通用しない者が相手ならどうしようもない。
もしも相手がダグバではなくゾッドやガドルだったならば、彼女は無事逃げおおせていただろう。
ただただ彼女は運に恵まれていながらも、相手に恵まれていなかったのだ。

ふと、シールケの脳裏にセピア色の情景が浮かんでは消えていった。
走馬灯、というのだろうか。フローラやイバレラ、パックにイシドロにセルピコ、ファルネーゼが微笑みかけている。
その中には、あのガッツの微笑みもあった。


「少しは楽しめたよ、ありがとう。じゃあね」

(ごめんなさい、ガッツさん……私、もう――)


刹那、シールケの体が燃え上がる。
唐突に襲い掛かる膨大な熱量に、シールケの痛々しい絶叫が響き渡った。
悲痛な悲鳴が途切れるよりも先に、シールケの体が炭と化してゆく。
爽やかな風に飾られる草原に、肉が焦げる音と匂いが充満した。


そして、後に残ったのは――黒色の炭の山だけだった。






48 : 白き闇 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/31(金) 23:56:18 9f545cRA0



シールケ”だったもの”を見つめ、ダグバは無言のままに人間体へと戻る。
ダグバにとって彼女は、十分に興味を引く存在だった。特に、あの魔法の一撃にはこんな感想を抱いた。

”綺麗だな”、と。

自分の命を奪わんと迫る攻撃を前にして、そんな感想を漏らすのは彼ぐらいしか居ない。
それ程までにン・ダグバ・ゼバという存在は世界にとって異常であり、異端であり、間違った存在なのである。
そんな彼が求めているのは、ただひたすらの愉悦。間違った自分を、笑顔にしてくれる”間違ったもの”。
あのリントの少女も、自分の知らない力を使うということは――自分と同じく、間違った存在なのだろう。
此処でならば笑顔にしてくれる者に出会える可能性が高い。それこそ、究極の闇をもたらす者となったクウガのように。

「ふふっ、楽しみだなぁ……」

まだ見ぬ強者達に想いを馳せ、ほんの少しだけ笑みを溢す。
その笑みはあくまで期待によるもの。”本物”の笑顔には程遠い。
いつか自分に本物の笑顔を齎してくれる存在と出会う事を期待して――魔王は、気ままに足を進めた。






【シールケ@ベルセルク 死亡確認】
【残り63名】

※E-4の一部がシールケの魔法の影響で焼け焦げました。
※シールケのデイパックは遺体と共に放置されています。
※シールケのランダム支給品は以下の通りです。

デッキブラシ@テイルズ オブ シンフォニア
マールボロ@カウボーイビバップ


49 : 白き闇 ◆wIGwbeMIJg :2017/03/31(金) 23:56:47 9f545cRA0



【E-4/一日目 深夜】

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[状態]:全身に裂傷(極小)、火傷痕(小)(再生中)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品(確認済み)(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲゲル(殺し合い)に乗る。
1.自分を笑顔にしてくれる存在と戦う。
2.もう一度クウガと戦いたい。
3.シールケ(名前は知らない)のような自分の知らない力を持つリントに期待。

※参戦時期は死亡後。
※再生能力にある程度の制限が架せられています。
※超自然発火能力は対象ではなく、対象の周辺の空気分子をプラズマ化させる程度に抑えられています。
  さらにその応用もプラズマ化させる際の運動の強弱、要するに、定められた範囲内で炎の温度を上下させる程度に抑えられています。
※瞬間移動の範囲は最大でも100m程度です。連発は出来ません。


【デッキブラシ】
テイルズ オブ シンフォニアに登場するブラシ。ではなく杖。
ピコハンDXやバット等と同じ、所謂”強いネタ武器”である。
高い攻撃力に加え風の精霊の加護を受けているので、劇中でも最高ランクの武器。

【マールボロ】
カウボーイビバップのスパイクが愛好する煙草のブランド。
持ち主のスパイクはかなりのチェーンスモーカーであり、頻繁に咥えていたり持っていたりする。
そんなスパイクを象徴するとも言える煙草だが、アメリカでは規制の対象となってしまった。


50 : ◆wIGwbeMIJg :2017/03/31(金) 23:57:57 9f545cRA0
投下終了です。
皆さんの予想通り、シールケが最初の死者となってしまいました……。


51 : 名無しさん :2017/04/01(土) 12:49:17 9FKR4ssMO
投下乙です

死亡後参戦なのにいつも通りだ!?
ダグバを殺した五代のことも「楽しかった」くらいにしか思ってないんだろうな
シールケは、運が良かった以上に運が悪かった


52 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/03(月) 01:10:30 eE5B4dgY0
申し訳ありません
予約を破棄します


53 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/03(月) 11:04:55 vZ2vpz6s0
秋山澪
ジョセフ・ジョースター
エンヴィー

予約します


54 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/04(火) 21:15:15 hoLCQng20
予約を破棄します


55 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/05(水) 18:22:40 Nmmahp7U0
白井黒子
五代雄介

予約します


56 : ◆EPyDv9DKJs :2017/04/07(金) 03:18:22 D5xY7gYI0
キノ
ランサー
以上の二名を予約します


57 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/10(月) 04:59:59 Wq5a70vY0
投下します


58 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/10(月) 05:00:55 Wq5a70vY0

「――殺し合い、かぁ」

青年、五代雄介が夜空を見上げ煩悶とした様子で溢す。
実感が湧かない、という訳ではない。命の奪い合いには慣れている。
いや、慣れてしまったというべきか。本来五代雄介という人間は、進んで命を奪う人間ではないのだ。
そしてそれはこの場でも変わらない。ホールでの惨劇を思い出し、白々とした空虚感が強い怒りに変わる。
嵐のように波立つ黒い感情を抑え込むように、拳を強く握り締めた。

あの神父のような服装の男は、何の躊躇いもなく一人の少女を惨殺した。
それは最早人間の所業ではない。感情という必要不可欠なものを失くした、人間とは呼べぬ存在。
五代はそれを許せなかった。命の重さをこれ以上ない程に知っている五代だからこそ。
固く握られた拳が行き先を失くし、傍のビル壁を殴り付けた。
拳にじわりと滲む熱が遅れて痛みとなる。
しかしそれを意に介さず、五代は悲哀の表情を崩さなかった。


「……悲しむのはこれまでだ。
 これからは、皆の笑顔を守るために動かないと」


苦い憂愁を忘れぬまま、両頬を勢い良く叩き気持ちを切り替える。
そんな五代を迎えるように、視界を覆い尽くすのは切紙細工のような都会の夜景。
星屑のような煌びやかな灯りが街を彩り、ほんの少しだけ欠けた白い月が一層景色を際立たせる。
それでも拭えない侘しさは、やはり人が居ないせいか。
絢爛な景色とは裏腹に、世界に一人だけ取り残されたような寂寥感が胸を突く。
自分以外にもこの寂しさに苛まれている存在が居ると考えれば、それさえも彼を動かす動力源となった。

視界の端に瞬く夜景を気にも留めず、五代は大地を蹴り出す。
左右の灯が瞬く間に流れて行き、徐々にそのスピードは早まる。
アマダムの力によって上昇した身体能力をフルに使い、我武者羅に疾走した。
行く先も決めていないし、当てもない。ただ彼を動かすのは、人を助けたいという信念のみ。


「……!」


その最中、不意に五代は足を止めた。
止めざるを得なかった、という方が適切だろう。
猛烈な勢いで疾駆する自身の前に、突如少女が立ちはだかったのだから。
何時から立っていたのだろう? 五代が浮かべる疑問を振り払うかのように、少女は悠然と一歩踏み出した。
ふわりと冷たい風が吹き、少女の絹糸のように艶やかな茶髪が揺れる。
思わず五代がそれを目で追う。当の少女は依然余裕を崩さず、気が付けば五代の目前にまで迫っていた。
不意を突かれた五代がはっとする。同時に少女は腕に巻かれた腕章を、見せ付けるように横に引っ張った。


59 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/10(月) 05:01:51 Wq5a70vY0





「――ジャッジメントですのっ!」
「へっ……?」





高らかな宣言と、間の抜けた声が響く。
その反応が気に入らなかったのか、少女は怪訝な表情で首を傾げた。
一方の五代は、未だ呆気にとられた様子で少女の瞳を覗いている。
しかし少女はそんな五代を置いていくように、一人溜息混じりにブツブツと呟き始めた。

「ジャッジメントを知らない……となると、学園都市外の人間?
 ……うん、確かに服装も少し昔っぽいし……そう判断して良さそうですわね」
「えっと、……君は?」

ジャッジメント、学園都市――続け様に耳を流れる自分の知らない単語。
巡り巡る疑問を抑え切れず、ついに五代は少女へと質問をぶつけた。
すると少女は自慢の栗色の髪を靡かせ、真っ直ぐに五代と向き合う。
とはいえ身長差は拭えず、五代を見詰める瞳は若干上目気味になっているが。

「申し遅れましたわ、わたくしは白井黒子。
 ジャッジメントという治安維持組織に属していますの」
「治安維持組織……へぇ〜! すごい立派だね!
 ああ、俺は五代雄介。2000の技を持つ冒険家だよ」
「2000の技……?」

互いに名乗りを上げた結果、今度は少女、黒子が疑問を抱く番だ。
2000の技を持つ冒険家。何の躊躇も無く、初対面の相手に向かってそう名乗ったのだ。
そのあまりにも堂々とした言葉に、黒子の頭に疑問符が浮かぶのも無理はないだろう。
もしかしたら、何かの超能力を持っているのか? 一瞬でも、そう思ってしまった程だ。

「五代さん、2000の技というのは……?」
「おっ、聞きたい? えっとね、まず1番目の技が笑顔で――」
「ああ、いえっ! ……もう大丈夫ですわ」
「そう? 遠慮しなくていいのに」

黒子は思わず頭が痛くなるのを感じた。
彼女が五代の言葉を遮った理由は二つある。
一つ目は、このままでは本当に2000個の技全てを聞かされるような気がしたから。
そしてもう一つは、”笑顔”という言葉で彼がどのような人間かを大体察したからだ。

「……はぁ」

黒子が五代雄介という人間に抱いたのは、”呑気で危機感のない青年”という印象だった。
争い事に疎い都市外の人間だから、というのもあるだろうが、それを加味しても五代からはまるで緊張感が感じられない。
黒子からすれば、変に勇敢なよりも臆病で居てもらいたいのが本音だ。
勇敢な事は悪い事ではない。だが、それが無能力者であるとすれば別の話になってくる。
勇気を持っている人間は守る事が難しいのだ。ジャッジメントという職業柄、黒子はそれをよく知っていた。

彼女の能力はレベル4の空間移動(テレポート)能力。
その名の通り自分を含め、限界質量である130.7kg以内の物ならば一瞬で転移させる事が出来る。
自分が触れているもの、という制限はあるが、それでも強力な能力に変わりはないだろう。
それこそ、レベル4でありながらレベル5の能力者も相手取れる程に。

黒子はそれを自覚している。
言い方は悪いが、目の前の五代よりはよっぽど戦えると確信していた。
だからこそ、五代雄介という”無能力者”を”能力者”である自分が守らなければならない。
黒子自身それを当然の事だと思っているし、その事に抵抗はない。
ただ、贅沢を言えば――五代にはもう少し危機感を持って欲しかった。


60 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/10(月) 05:02:31 Wq5a70vY0


「五代さん、貴方は今の状況を理解していますの?」


だから、つい呆れ気味にそう溢してしまう。
少し冷たい言い方になってしまった事を、黒子はほんの少しだけ後悔した。

「うん、分かってるつもりだよ」
「……なら、もう少し慌てても良いのでは?」

それに対し五代はきっぱりと、面と向かって返答した。
曖昧な返事が返ってくると予想していた黒子は一瞬だけ沈黙し、また質問を変える。
今度はすぐに返事が返ってくる事はなく、五代は暫し考え込む動作を見せた。

「確かに、慌てるのが普通なのかもしれない。
 でもさ、俺の他にこの状況に戸惑ってる人や、不安になってる人が居ると思うと、そうも言ってられないんだ」
「――――」
「俺も突然こんな事になって驚いてるし、不安にもなってるよ。
 けどそれって伝染しちゃうんだよね。誰かが不安だと、周りの人も不安になる。
 そんな時、一人でも笑顔の人が居ると……大分その気持ちも解れると思うんだ」

断言するように語る五代の揺るぎない瞳を見て、黒子は口を噤んだ。
五代の言葉を、考え無しのものだと流す事が出来なかったのだ。
そして、その言葉に納得している自分が居るのも事実。

「……つまり貴方は、わたくしに気遣ってそんな態度を取っていると?」

だが、返せた言葉はそんな捻くれたものだった。
なんとも子供じみた返答をしているものだ、と黒子は自嘲する。
五代の言う事は間違っていないし、彼が緊張感を持っていないというのも訂正しなければならない。
しかし、自分の考えが否定されているような気がして――黒子は素直に認める気になれなかった。

彼女の些細な反発心に、五代は困ったように苦い笑いを浮かべる。
本来安心出来るその笑顔に、黒子はチクリと胸が痛むのを感じた
慌てて先程の言葉を訂正しようと口を開くが、その前に五代が言葉を紡ぐ。

「うーん、俺って元からこういう感じなんだよ。
 だから気遣ってるってよりも、黒子ちゃんにも笑顔で居て欲しいっていうわがままかな」
「わがまま……ですか」
「そそ、わがまま。そんなに重く捉えなくて良いよ」
「……わかりましたわ」

上手く返されてしまったものだと、黒子は思う。
自分は中学一年生という年の中では、大人びた思考をしている方だと思っていた。
だからこそジャッジメントという組織でも上手くやっていけているのだろう。
しかしそれも、五代のような本物の大人には及ばなかったという事だ。
いや、そもそも五代雄介を本物の大人として見る事自体が間違っている。
黒子はまだ知る由もないが、五代は到底普通とは呼びがたい人生を送っているのだから。


61 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/10(月) 05:03:06 Wq5a70vY0

なんにせよ、黒子は心の内で何処かわだかまりを残したまま引かざるを得なかった。
そして、黒子は密かに五代雄介の事を苦手な人間だと評した。

先程の言葉が嘘でなければ、五代雄介は相当なお人好しだ。
そのお人好しさが、あの上条当麻という男を思い浮かばせるから。


「――――、っ」


頭を振り、邪念を振り払う。
あのような男がこの世に二人も居ては、堪ったものではない。
それを本音として、今はこんな事を考えている場合ではないと切り捨てる。
見れば、五代は不思議そうな表情で黒子の顔を見つめていた。

途端に胸奥に羞恥心が湧き上がる。
五代を置いて一人盛り上がっていた黒子の姿は、それはもう不思議だっただろう。
そんな彼の視線から逃れるように、ごほんっ! と大きな咳払いを一つ。
びくり、と五代の肩が揺れた。

「ところで五代さん、貴方は名簿と支給品を確認しましたの?」
「えっ? ……あー、そう言えばまだだったな」

出来うる限りの真剣な面持ちで、黒子は五代に問い掛けた。
話題を切り替える為、というのもあるがその疑問は純粋に確認しておきたい事だ。
そしてその反応は予想通り。黒子はすぐさま表情を余裕のある薄笑いを浮かべた。

「やはり、そんな事だろうと思いましたわ。
 ちなみにわたくしは全て確認済みですのよ」
「おぉ〜……黒子ちゃんってしっかりしてるんだね」
「ま、当然ですわ。……では、ここは一つ情報交換といきましょうか」
「うん、俺もそうしたいと思ってた」

答えながら、五代はキョロキョロと辺りを見渡す。
黒子は怪訝そうな表情を浮かべるが、”あそこ”という五代の声が届くと同時にその疑念は晴れた。
五代が指差す先。そこには質素ではあるが、人二人が座るには十分なベンチが澄んだ月光を浴びている。
特別座り心地は良さそうには見えない。だが、冷たい地べたよりかはずっとマシだ。
5分も歩けば着く場所にホテルがあるが、情報交換を終えたらすぐに移動するつもりなのでその必要はない。
そんな五代の気持ちを汲んだのか、黒子は無言のままベンチへと歩み寄り、洗練された動作で腰を下ろした。
続けて五代はそれを真似るように、ぎこちない動きで黒子の隣に座る。
そんな彼の様子が可笑しかったのか、黒子は少しだけ吹き出した。

「あっ、黒子ちゃん今笑ったでしょ?」
「え? ……ああ、失礼」
「いやいや、全然失礼なんかじゃないよ。
 さっきも言ったでしょ? 俺、皆に笑顔でいて欲しいからさ。
 やっと笑ってくれたなー……って、ちょっと嬉しかったんだ」
「あら……そうでしたのね、ではこれからは遠慮なく笑わせて頂きますわ」
「うんうん、そうしてっ!」
「……変な方ですわね、本当に」

そんな他愛もない会話が出来る程には、二人の心は落ち着いていた。
滅多に取り乱す事はない二人だが、互いに出会わず一人だったのならばここまで心が和らぐ事はなかった。
人を探し奔走していた五代は言うまでもなく、あくまで冷静な態度を崩さない黒子も例外ではない。

彼女はジャッジメントである前に一人の中学生だ。
殺し合いという訳の分からない状況で孤独であれば、不安になるなという方が無理がある。
五代と違って名簿や支給品の確認こそすれど、いつもと変わりなくとはいかなかった。
特に、御坂美琴の名を名簿で見た時は声を押し殺して涙を流し、お姉様と何度も呟いた程だ。


事実、彼女は五代雄介の足音を聞くまで行動出来ずにいた。
反して五代は、白井黒子の存在のお陰でようやく足を止めた。


互いに知る由もないが、二人の出会いは――まるで歯車が噛み合うように、仕組まれたものだったのかもしれない。
曇りなく笑う青年と花咲くように微笑む少女の遥か上にて、ぽつんと浮かぶ月は氷のように冴え返っていた。


62 : 月夜の邂逅 ◆wIGwbeMIJg :2017/04/10(月) 05:03:38 Wq5a70vY0



【I-7/ホテル付近ベンチ/一日目 深夜】

【五代雄介@仮面ライダークウガ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品(未確認)(1〜3)
[思考・状況]
基本行動方針:皆の笑顔を守る。
1.白井黒子と情報交換。
2.殺し合いに乗っている人は説得する。
3.クウガの力はこの場ではあまり使いたくない。

※参戦時期は48話から49話の間です。
※アルティメットフォームへの変身は現状出来ません。
※アメイジングマイティの変身可能時間は5分間です。
  時間を過ぎたら強制的にグローイングフォームへ戻されます。

【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:フォーク@メタルギアソリッド3
[道具]:支給品一式、ランダム支給品(確認済み)(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いはせず、ゲームから脱出する。
1.五代雄介と情報交換。
2.御坂美琴の捜索。ついでに上条も。
3.一方通行と出会う事は避ける。

※本編8巻、車椅子生活復帰後以降からの参戦。
※名簿を確認しました。
※能力に制限が掛かっており、生物の中に物を転移させる場合は激しく演算が乱れます。
※五代雄介が学園都市外の人間だと思っています。


63 : 月夜の邂逅 ◆wIGwbeMIJg :2017/04/10(月) 05:04:34 Wq5a70vY0
投下終了です。


64 : 名無しさん :2017/04/11(火) 05:50:23 mVHgO4PQ0
投下乙です。
情景描写がきれいでややコミカルながらも引き込まれてしまいます。
五代が茶化しながら接しられる大人として魅力的に見え、それで落ち着けた黒子に安心しました。


65 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/11(火) 16:19:52 ClBciWkE0
感想ありがとうございます……そう言って頂けるととても嬉しいです。


66 : ◆EPyDv9DKJs :2017/04/11(火) 17:06:19 wEoMIxW60
投下します


67 : ◆EPyDv9DKJs :2017/04/11(火) 17:12:47 wEoMIxW60
 休日だったら、多くの人がスクリーンに釘付けになるであろう映画館。
 今まさにスクリーンは煌く剣から光を放ち、空を舞う敵を倒す金髪の麗人を映している。
 多数横並びにされた中央の席に、座りながら参加者の名簿を閲覧している人がいた。

 その姿は十代中頃で、短い黒髪に精悍な顔を持つ。
 黒いジャケットを着て腰を太いベルトで締めており、
 そして隣の座席には、デイバッグがおかれている。

(───また、か。)

 名簿を見終えた後、スクリーンを軽く眺めながら、人間───キノは少し呆れた。
 またと言うのは、以前キノは似たような国を訪れたことがあるからだ。
 一対一のトーナメントのような命がけの戦いを行い、優勝者には褒美を与える。
 今起きてやらされている事は、あのコロシアムと内容は殆ど変わっていない。
 否、むしろあちらの方がマシだったかもしれないと、体験したキノでさえ思えてくる。
 あちらは相手が認める必要があれども、降参と言う形で負けながら生きることが出来るが、
 これは降参もなければ、参加拒否することで奴隷として生きる道もなく、『死』だけなのでなお質が悪い。
 (戦闘不能に追い込む形以外で降参を認めるような人間がいたかと言われれば、ほぼいなかったのだが。)

 キノは人を殺した経験は、一人や二人ではない。
 相棒を奪還するためにかなりの人数を撃った事もあるぐらいに人を撃てる。
 しかし、理由は基本的に旅に支障が出る場合か、自衛以外では人を撃たない。
 たとえ先のコロシアムのような場合でも、キノは対戦相手は殺さないで勝ち進む程だ。
 ・・・・・・もっとも、事故と言う形でその国の王を射殺している上に
 その国の奴隷を対象にしないと言うルールを付け加えたとは言え、
 今の殺し合いのような法律を作って住人同士を争わせたりと、容赦がないこともある。
 前者は暴君であり、後者は住人もノリノリだったので、外道や非道かと言われるとそうでもないが。

 この状況においてもキノはそのスタンスを変えるつもりはなく、
 相手が殺し合いに乗るつもりがないのならば協力する。
 この殺し合いと言う舞台に錯乱してるだけの相手なら気絶に追い込む。
 ただし、コロシアムと違って優勝のために躊躇いがない相手ならば、
 戦闘不能に追い込もうとは一切考えず、そのまま引き金を引く。
 コロシアムはただ戦うだけでなんとかなったが、今回は首輪やこの島の調査が必要だ。
 手がかりになるかもしれない人物を、優勝のために喜々として殺し回る相手を放っておく理由はない。
 無論、脱出が出来ないなら優勝を狙うことも考える。『優勝者の願いを叶える』は当てにならないが、
 少なくとも生存の道に繋がる以上、最後の手段として考慮しておく必要はある。
 方針を決めながらジャケットに隠れた腰のホルスターに手を当てるが、

(流石に没収されたか。)

 そこにあるはずのハンド・パースエイダー(銃器のこと。この場合は拳銃)はない。
 万が一の時にしか使わない、銃の機能を備えたナイフもなかった。
 銃器があれば殺し合いを是とする連中を相手にしても有利に立ち回れるが、
 流石に都合よく武器を残してくれてると思ってはなかったので、それほど落胆はしてない。
 寧ろ見方を変えれば、武器になりうるものは全員が没収されていると言う裏返しでもあるだろう。
 徒手空拳のような、武器を使わない人物でもない限り、今すぐ十全の力を発揮する人は限られてくる。
 勿論、キノも十全の実力が発揮できない状況であり、不利にこそなりにくいが有利になったわけでもない。
 コトミネと呼ばれた神父の発言を思い返し、武器があるとされる隣の座席のデイバッグの中身を調べる。
 大半は特に何の変哲もない、キノでも見知ったものだから特に気には留めない。
 そんな中見つけた、筆記用具に注目する。

『指定された禁止エリアの侵入、その他我々にとって無視できない言動が確認された場合起爆する仕組みになっている。』

 神父は説明でそう言っており、首輪やゲームの打破を画策するのも、無視できないものになるだろう。
 一方で、この言葉に語弊がなければ、『言動以外で此方の行動を把握する手段がない』と受け取ることも出来る。
 ならば言葉を解さず意思の疎通が出来る手段が最初からあるのならば、脱出についても円滑に進められるだろう。
 無論、これがミスリードという可能性を秘めているので、確信を持ったわけではないが。


68 : ◆EPyDv9DKJs :2017/04/11(火) 17:15:39 wEoMIxW60
 バッグを漁ると、剣の鞘らしきものがある。
 蒼と金を基調とした鞘は詳しいわけではないキノでも高価な代物だと感じ取れた。
 一応武器ではあるのだが、これはキノにとっては余りありがたいとはいえない。
 キノは細身の身体なので、長剣や大剣よりも短剣と言った小回りの利く武器の方が有用だ。
 他に武器がなければ使おうと言う気持ち程度にとどめておいて、他を探す。
 探すと何か物々しい雰囲気の宝箱のような箱があり、その中身を特にためらいもなく開ける。
 中に入っていたのは十本程収納されている、調理用のナイフで、中に入っていた紙を手に取る。

 『DIOのナイフ十本セット』

 紙にはそう書かれており、数が多いのは単純にセットだから、特に疑問は持たない。
 一方で、DIOと言う名前にキノは注目し、先ほど軽く見た名簿にも同じ名前が書かれている。
 このナイフのDIOが名簿のDIOを指すのであれば、参加者に縁のある物が支給されてるかもしれない。
 つまり、他の参加者にハンド・パースエイダー『カノン』を筆頭とした武器も存在する可能性が出てくる。
 中でも、キノが愛用するパースエイダーのカノンは銃としては低性能で、普通の銃器よりも不便な部分が多く、
 説明書があったところで、素人では弾丸の装填すら出来るか怪しいほどに使い勝手が悪い代物だ。
 殺し合いを否定する者からならその性能の低さから譲渡されやすく、是とする者なら不便さゆえに有利に立ち回れる。
 一方で威力はともかく、性能はカノンよりもはるかに高い『森の人』、ライフルである『フルート』、
 ならびに仕込み銃のナイフの方も、意表をつくのに優秀であり、否定する者でも譲ってもらうのは難しいだろう
 また、武器以外もあると明言されているので、もしかしたらエルメスもどこかにいるのかもしれない。
 ありがたいことではあるが、脱出の前に回収しておきたいものが増えて、遠回りになる可能性もある。
 出来ることならないことを願いつつあさるが、他に武器と言えるものはなく、
 これ以上は時間の無駄と判断してナイフを数本程懐にしまい、背後の映像は特に気にせず動き出す。



 広い上に静寂のせいで、扉を開ける音でも、足音でも響く。
 デイバッグの中身を調べる際に時間を費やしたので、
 敵が潜んでいるかもしれない可能性があるとなると、あまり好ましいことではなかった。
 とは言え、廊下には観葉植物すらない、赤を基調とした廊下だけなので身を隠す場所はない。
 なのでさほど気にすることなく、非常口などのいざと言う時の逃走経路を確認した後、売店に向かう。
 食料や水は多めにあるものの、キノという人物は貧乏性で、パースエイダーを用いるにも関わらず、
 銃を無闇に使うこともなければ、そもそも銃弾すら買うことをしないこともザラである。
 カノンは材料があればその場で弾を作ることが出来るので、キノと相性がいいのが証拠だ。
 だから摂取できる可能性があるなら、今すぐデイバッグのを使う必要はないという考えである。

 特に何か起きるわけでもなく、キノは売店と受付の場所へとたどり着く。
 売店の頭上に明るくライトアップされた、ポップコーンやコーラの看板。
 売り子がいない、と言う観点を除けば、キノも何度か見たことのある映画館の受付だ。

「よぉ。」

 売店の向かいにある休息用のスペースの席に、一人の男が座っていた。
 青いライダースーツのような、体格が分かる青い服に青い髪の男だ。
 その格好から鍛えられているというのは、考えずとも理解できる。

(あの人は・・・・・・)

 キノは彼のことを知っている。この催しの主催者の神父をコトミネと呼んだ一人だと。

「こんにちは、でいいのでしょうか。僕はキノ、
 こっちは・・・・・・ああ、エルメスはいないんだった。」

 少なくとも、神父に反発していた以上、協力が見込める人物な方であることは察しており、
 殺し合いの場であるので何時も通りでいいか悩んだが、普段と余り変わらない挨拶を交わす。

「俺はランサーだ。変な名前って思うかもしれねえが、
 名簿にはそう表記されてるからそう名乗らせてもらう。」

 ランサーは席を立ちながら自己紹介をする。
 立った後、横においてあったデイバッグを拾い上げ、キノと距離を置きながら向かい合う。
 友好的な発言をしているが、相手の視線は突き刺すように鋭く、
 修羅場をくぐった経験のあるキノでなく、普通の人間ならすくみあがるだろう。
 距離もそこそこ開けており、敵か味方かの判断をしていることが察せられる状態だ。

「早速だが質問させてもらう。てめーはこの殺し合い、どう動くつもりだ?」

 『返答次第では殺す』。暗にそういわれてるような気がする質問だ。


69 : ◆EPyDv9DKJs :2017/04/11(火) 17:16:38 wEoMIxW60
「・・・・・・進んで殺すつもりはありません。ただ、自衛のためなら躊躇いません。
 もっと正確に言えば、錯乱せず、喜々として殺し合いに乗る人だけ、と言った所しょうか。」

 キノは特に動じるわけでもなく、自分の方針を軽く相手に伝える。
 淡々と答えては嘘と疑われるのも困るので、顎に手をあて、考えて数秒の沈黙の後に答えた。

「ただの坊主だと思ってたが、えらい達観してんな、おい。」

 返答にランサーは呆気に取られたが、直後に呆れてるような顔へと変わった。
 彼からすれば、聖杯戦争に参加していた志郎や遠坂よりもキノは年下に見える。
 だが、キノの方針は殺し合いと言う現実から逃避することなく現実を受け入れて、
 一方で脱出不可能だから殺し合いに乗る、と自棄になっているわけでもない。
 理解した上で必要であるなら人を殺すことを、初対面の相手に明言する事が出来る。
 大人よりもこの状況を理解しているかのようだと、ランサーは思えたのだ。

「そちらの方針を伺っても、構いませんか?」

「俺か? 二度も言峰に従うつもりなんざねえが、
 この先何処を目指すとかの方は決めてなかったな。
 そうだな、何人か俺の知り合いが此処に参加している。
 まずはそいつらに当たってみる、ってのが俺の考えだな。
 ああ、そうだ。そっちは誰かにあったか? 俺は会ってねえが。」

「いえ、貴方が最初の人です。」

「ま、そう都合よくはねえよな。
 んじゃま、此処には用はないし次の場所にいくとすっか・・・・・・」

 ランサーの知る知り合いが、篭城と言う待ちに徹する性格を持つ人物はいない。
 となれば、先ほどのキノの足音を聞いてこの場に姿を見せるはずなので、
 それがないのだから、知り合いが此処にはいないのが察せられる。

「良かったら、同行させてもらえますか?
 僕は貴方の知り合いが何処を目指すのかわかりませんので。」

 二手に分かれたところでエルメスのないキノでは短時間で探す範囲は限られる。
 多くの人と出会えばカノンやエルメスを見つかるかもしれないのもあるので、
 相手を無力化するための人員も、一先ずは欲しいところだ。

「俺は構わねえが、テメエの知り合いはいねえのか?」

「僕は深く人と関わらないので、いてもいなくても変わりはありません。
 相棒のエルメスは、多分支給品で誰かに配られている可能性もあることですから。」

「そうか。んじゃ、行く場所についてだが......」

 一先ずは、ランサーと同行することになったキノ。
 制限時間は奇しくも、自分が国に到着して、滞在する日数と同じ、三日だ。
 だが、この三日だけはきっと一番長い三日になる、キノはそんな予感がした。




 仕方がないとは言え、キノは一つミスを犯していた。デイバッグに眠る剣の事だ。
 否───そもそも、キノのデイバッグに剣などない。あれは『鞘しかない』。
 デイバッグを逆さにするか、鞘を引っ張り出すか、奥に眠った説明書を見れば、気づいたかもしれない。
 魔術の素養がないキノではその鞘が優秀な支給品と気づくのは、今後も難しいだろう。
 納める剣こそ不在だが、その鞘は傷を癒す騎士王の聖剣の鞘だということをキノは知らない。
 この殺し合いにおいては有力となりうる、治癒能力を持った宝具。
 鞘がその真価を発揮するのは、この三日間に果たしてあるのだろうか。


70 : ◆EPyDv9DKJs :2017/04/11(火) 17:17:55 wEoMIxW60
【H-5/映画館売店/深夜】

【キノ@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:DIOのナイフ(懐に三本、後の七本はデイバッグのケース)
[道具]:基本支給品、全て遠き理想郷(アヴァロン)
[思考・状況]
基本行動方針:探し物回収した後、脱出優先。喜々として殺し合いに乗ったものは殺人を優先
1.カノン、森の人、フルート、エルメスを探す。一番入手出来そうなカノン、移動手段からエルメスを優先
2.1は最悪、カノンとエルメスの二つだけも考える。他の二つは危険を冒すリスクと。仕込み銃は機会があれば程度
3.首輪をなんとかしないといけない。機械に精通した人物を探したい
4.万が一脱出が不可能なら、優勝も視野に入れる。考えたくはないけど
5.ランサーさんと同行

 ※参戦時期は原作からして曖昧なので、
  『カノン』『森の人』『フルート』『名称不明の仕込み銃』を所持していて、
  少なくとも『コロシアムの国』『宗教の国』を経験しているキノです
 ※主催者が何かしらの手段で言動だけを把握していると推測してますが、確信は持っていません
 ※全て遠き理想郷が鞘だけで、剣がないことに気づいていません
 ※ランサーが性別を間違えてる事に気づいていますが、理由がなければ訂正する気はありません
 ※志郎など、最初の場で目立った人の顔は覚えてはいます

【ランサー名@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3(槍に該当しないものか、もしくは未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:言峰の言う通りに従うつもりはない
1.坊主(キノ)と同行
2.槍が欲しい。出来ることならゲイ・ボルグだと尚いい
3.アーチャーはわからねえが、他の連中なら協力は見込めそうか

 ※参戦時期はUBWルート、少なくとも遠坂と協力〜言峰を道連れにする前の間
 ※キノの性別が女性であることに気づいていません
 ※ルーンの魔術は特に制限されてませんが、サーヴァントのクラスによる制限は受けてます

 ※映画館は参加者に縁のある映像が流れています
  現在はFate/stay nightですが、一定の時間で変わるかもしれません

DIOのナイフ@ジョジョの奇妙な冒険
時止めを体得した承太郎に対して使用する前に突っ込んだ店から拝借したナイフ
調理用なのでサバイバルナイフなどよりかは劣るが、店の調理用故にちゃんと研がれている
吸血鬼の腕力もあると思われるが、投げナイフの要領で分厚い雑誌にきっちり刺さるほど
因みにナイフのケースはDIOが眠っていた棺桶に類似した造型

全て遠き理想郷(アヴァロン)@Fate/stay night
セイバーの所持する宝具で、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の鞘
鞘を持つ者の傷を、本人が死亡してなければ癒す力がある
効果の制限については
・真名開放で妖精郷に使用者を隔離することは不可能
・体内に取り込んでの使用は不可。鞘を押し当てる事で回復
回復速度については後続の書き手にお任せします


71 : ◆EPyDv9DKJs :2017/04/11(火) 17:19:21 wEoMIxW60
以上で投下を終了します
支給品の制限や施設の扱いなどは初めてなもので、
何か問題、不都合がありましたらお願いします


72 : ◆EPyDv9DKJs :2017/04/11(火) 17:21:29 wEoMIxW60
タイトル忘れてました、タイトルは『殺し合いの話』です


73 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/11(火) 18:08:51 ClBciWkE0
投下乙です。

キノの心理描写や言動が原作を彷彿とさせ、とてもキノらしいと感じる作品でした。
特にカノン、森の人、フルートや仕込み銃といった道具に関しての思考は見ていて非常に楽しかったです。
原作の作風から参加が難しいと思っていたキノですが、ここまでキャラを生かしたまま動かせるとは感服です。
そして彼女の支給品、かなりの当たり品であるアヴァロンですが……これを見逃してしまうのもキノらしいですね。

そしてランサーですが、UBWルートからの、それも一番漢を見せたシーンからの参戦ですか。
他ルートから参戦したFateキャラとの接触によって起こるいざこざなど、色々と期待してしまいます。
果たしてこのロワでも原作のような兄貴分として活躍出来るのか、楽しみにせざるを得ませんね。


74 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/11(火) 18:16:21 ClBciWkE0
それと、特に問題や不都合などは見られませんでした。
強いて言うならば、『制限時間は〜三日だ。』の部分ですが、三日間という制限時間は設けていないと記憶しています。
原作の一つの国に滞在するのは三日まで、というスタンスを加味するとそちらの方が味があるかもしれませんが……。


75 : ◆EPyDv9DKJs :2017/04/11(火) 20:15:18 wEoMIxW60
感想ありがとうございます
アー、時間制限なかったこと忘れてました・・・・・・
WIKIに収録の際修正しておきます、失礼しました


76 : ◆EPyDv9DKJs :2017/04/11(火) 20:41:16 wEoMIxW60
既にWIKIに収録されてたよようなので、
修正したことだけを報告させていただきます


77 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/11(火) 21:41:37 ClBciWkE0
修正お疲れ様です。


78 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/15(土) 16:38:47 b/PswiBc0
ネイキッド・スネーク
白雪ひめ
キョン

予約します。


79 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/22(土) 14:39:56 9hvGCujc0
予約を延長します


80 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/27(木) 03:02:10 xKzDyplI0
投下します。


81 : 君の名は? ◆wIGwbeMIJg :2017/04/27(木) 03:03:24 xKzDyplI0

深夜だというのに賑やかさを失わない絢爛豪華な遊園地。
メリーゴーランドの白馬は背に人を乗せぬまま、無限回路を彷徨い続けている。
惜しげも無く目に優しくない粉飾をばら撒く観覧車は、ゆったりと円を描いていた。
本来ならば人を楽しませる為に存在するそれらも、肝心な人が居ないのならば意味がない。
そんな事実を否定するように、無人のアトラクションは動き続ける。
それは最早アトラクションというよりも、一種のパレードのようだった。

「わぁ〜、きれぇ〜……」
「……従業員は居ないのか?」

懸命な働きが功を成したのか、華やかな色彩に釣られて二人の男女がそれぞれ異なる反応を見せた。
一人は目も覚めるような深い青色の髪を腰まで下ろした、童話に出てきそうな程に端麗な少女。
一人は黒に近い焦げ茶色の短髪を懊悩するように掻き回す、何処か達観した様子の青年。
少女の名は白雪ひめといい、青年の名はキョンという。

どちらも変わった名前だが、それも当然。何しろ二人共本名ではないのだから。
白雪ひめの本名は、彼女の一番の親友でさえ覚えられない程長く、大層な名前である。
キョンの本名はとある人物によると、どことなく高貴で、壮大なイメージを思わせるとのこと。
偽名とあだ名という違いはあれど、何処か点と点を結んだように共通する彼女らが出会ったのはついさっきの事だ。
どちらも積極的とは言えない性格な為、そこまで親交は深まっておらずとりあえず行動を共にしている様子だが。

「……白雪」
「ひぇっ!? ……な、なに?」
「……いや、やっぱり何でもない」

その為、先程から二人の会話は殆ど続かない。
最大の原因はやはり、ひめの極度な人見知りにあるだろう。
キョンが声を掛けても、大袈裟なまでに喫驚し途端に小動物のようなか弱さを見せてしまう。
その性格のせいか、彼女の世界でも友人と呼べるのはめぐみとゆうこの二人しか存在しないのだ。
いや、正確には最終的に数え切れない程の友人が出来るのだが、”今の”ひめはそんな事知る由もない。
少なくとも今此処に居る白雪ひめは、人の扱いには慣れているキョンでも苦戦する程の人見知りだった。


「「……はぁ」」


互いに、何度目かも分からない溜息を吐き出す。
キョンには涼宮ハルヒが、ひめには愛乃めぐみが。
積極的な人――というより、積極的過ぎる人が身近に居たからこそ苦悩も大きい。
即興とはいえ共に行動する人物なのだから、出来るだけ仲は深めておきたいのが両者の本音だ。
それでもこうして気不味い雰囲気に呑まれているのは、それ相応の理由があってのものだ。


82 : 君の名は? ◆wIGwbeMIJg :2017/04/27(木) 03:03:47 xKzDyplI0

「お腹すいたぁ〜……」
「おいおい、今食料を消費するのはちょっとマズイんじゃないか……?」
「うう、分かってるけど〜……」

やっと会話らしい会話が成立したのは、その数分後だった。
唐突にひめが腹の虫を鳴らし、その場にへたり込んでしまったのだ。
しかし、ゲーム開始からまだ20分程度しか経っていない上、デイパック内の食料の数も限られている。
これから何時間行動しなければならないか分からない故、無駄な消耗は避けたいのがキョンの本音だった。
だが自分より年下の少女が涙目で腹を空かせているのを見過ごせる程、キョンは大した精神の持ち主ではない。
仕方ないので自分のデイパックから食料を取り出そうとした刹那、勢い良くひめが立ち上がった。

「あぁ〜〜っ!!」
「うおっ!?」

今度は逆に、キョンが地に尻を付けてしまう。
喫驚に目を見張るキョンを尻目に、ひめはビシッと一点を指差しキラキラと目を輝かせている。
その指に釣られて視線を動かせば、”たい焼き”と大きく書かれた木製の看板がキョンの目を刺した。
販売員など居ない筈なのにご丁寧に照明まで付いており、その文字を強調している。
そして何よりも目を惹くのが、淡い照明に照らされたパック入りのたい焼き。
透明パックを白く曇らせる湯気から見るに、そのたい焼きは作りたての状態を保っているのだろう。
俄かに、というよりも大分怪しいが、空腹となったひめは一直線にたい焼きへと駆け出した。

「だ、大丈夫なのか……?」
「平気でしょ! 多分!
 じゃ、いただきまーっす!!」

先程の鬱蒼とした雰囲気は消し飛び、意気揚々とした様子でパックから取り出したたい焼きに齧り付くひめ。
慌ててキョンが止めようと手を伸ばすが、既にたい焼きの頭は哀れにも噛み千切られてしまっていた。
思わず溜息を溢し額に手を添える。が、当の本人はハムスターのように頬を膨らませ満面の笑みを浮かべている。
その姿に安堵の表情を見せたキョンだったが、今の一瞬で垣間見えたひめの現金さに、呆れたように肩を竦ませた。





83 : 君の名は? ◆wIGwbeMIJg :2017/04/27(木) 03:04:36 xKzDyplI0


「ひょんふんもはへへは?(キョン君も食べれば?)」
「喋る時は物を飲み込んでからにしろ。……いや、俺は別にいい」

既に二つ目のたい焼きの頭が齧られた頃、もしゃもしゃと口を動かしながら白雪が俺に声を掛けた。
白雪には悪いが丁重にお断りさせてもらう。なんたって、こんなあからさまに怪しいもの食えたものじゃないからな。
だって見てみろよ。ふわふわの生地から覗く餡子の甘ったるい匂いと、アツアツの湯気が食欲を誘いやがる。
おまけにそれを頬張る白雪の姿。女子中学生らしいその豪快な食べっぷりは、下手な食レポよりも効果的だ。

……ああ、認めよう。
この俺、キョンは猛烈に腹を空かせている。

だが仕方ないと言えよう。こんな事に巻き込まれるなんて微塵も考えていなかったからだ。
食欲がないからって晩飯を抜いたのは、どうやら失策だったらしい。
こんな状況に巻き込まれたと言っても、意識とは別に腹は減ってしまう。
女の子の前だからといって格好付けたが、たい焼きを見た瞬間俺も一緒に飛び込みそうになった。

「もったいなーい……こんなに美味しいのにー」
「ぐっ……!」

そんな俺が何故素直にこの甘味を口にしないのか、それは単純な理由だ。
ほら、さっきまであんなに警戒しておいて喜び勇んで頬張るのは、格好悪いだろう?
女性諸君にはバカバカしいと笑われるかもしれないが、男ならばこの気持ちは分かってくれるはずだ。

しかしこのお姫様は、そんな俺の気持ちを知ってか否かすっごく美味そうにたい焼きを貪る。
その名前を聞いた時は何処かのお嬢様かと思ったが、正直上品さや気品は感じられない。
まぁこんな状況なら気品なんて捨てても仕方ないが、白雪は根っからこういう性格なんだと思う。
何故そう思うかって? その答えは勘でしかない。
俺の勘はよく当たる。当たり過ぎて怖いくらいにな。

「ふー、満腹満腹……」
「…………」

今はそんな事より、このたい焼きをどうするか考えるのが先だ。
勿論これからの事を考えるのが最優先だが、100%の思考をするには腹を満たす必要がある。
かと言って、先程も言ったが白雪の目の前で食べるのはなにか負けた気がする。
仕方がないからデイパックの食料を……って、これもさっき俺が言ったばっかじゃねぇか!
ハルヒや長門以外の女の子の前だからって格好付けるのは良くないな。うん。

と、ここまで考えたところで自分が物凄くちっぽけな悩みに苛まれているのだと感じた。
本格的に空腹で頭がおかしくなっているらしい。こんなつまらないプライドに縛られるなんてらしくない。
ここは正直に腹が減っていると伝えて、馬鹿みたいにたい焼きを貪るべきだろう。
答えは最初から出ていた。そう考えるとすごく心が軽くなったのを感じる。
そもそも、要らないプライドに縋るなんて逆に女々しいんじゃないか。
さて、ならば俺のすることは一つ。正直に空腹を訴え、胃に食料を届けなければ……。


ぐぅ〜…。


84 : 君の名は? ◆wIGwbeMIJg :2017/04/27(木) 03:05:05 xKzDyplI0


「……ぷっ!」

その瞬間、俺は戦慄した。
そうだった。こいつは、腹の虫は俺の意思なんて知ったこっちゃないんだった。
本当に、俺は馬鹿だった……! 何故、何故このタイミングなんだっ!
俺が死ぬほど悩んでる時に鳴ってくれていたら、仕方ないなと納得できたのに!
決心した瞬間に鳴ってしまったら、本当に馬鹿みたいじゃないか……。

「やっぱりキョン君もお腹すいてたんじゃ〜ん!」
「……ぐうの音も出ない」

それにしても白雪はなんだ、さっきまでの極度の人見知りは何処に行ったんだ。
今では完全に満面の笑顔で俺のことをからかってくる。……悪い気はしないが、正直恥ずかしい。

だが、たい焼きが食べられるのならこの位の羞恥屁でもない。
人間吹っ切れてみると凄いものだ。どんどん恥ずかしさが薄れて誇らしささえ感じる。
いや、腹が鳴ったことに誇らしさを感じるのは少し危ういか……。

「……ん?」

そんな思考を遮るように、俺の目の前にたい焼きが差し出された。
途端に俺の鼻を甘い匂いが擽る。今すぐに齧り付きたい衝動に駆られた。
呆れたように首を傾げる白雪の顔が、今は聖母の微笑みにも見えてしまう。

「タダみたいだし、食べようよ」
「そうだな……」

白雪の言葉に、自分でも驚く程のスピードで反応する。
湯気を立て食欲を煽るそれを鷲掴み、勢いよく頭から齧り付いた。


「……美味い」


無意識に漏らしたのは、そんな月並みな言葉だった。
「でしょ?」という白雪の相槌が隣から聞こえてきたが、返事をする余裕もなく次の一口へ移る。
もっちりした生地の食感に次いで、中にぎっしりと詰まった餡子の甘味が口の中にふわりと広がった。
別に命の危機という程空腹だった訳ではないが、今後これ以上美味いたい焼きは味わえないだろうと確信する。
白雪と同じか、それ以上の勢いで食べ進めていく俺の姿は、白雪にはどう映っただろうか。
食べ盛りの男で、それも晩飯が軽食だったんだから仕方ないだろう。
そう自分に自分で言い聞かせつつ、あっという間に平らげてしまった。

「よっぽどお腹空いてたのねー……」
「晩飯を食べる暇がなかったんだよ、……食べる暇がなかったんだ」
「何で二回言ったのよ。……ま、温かい内にお腹いっぱい食べるわよー!」

さっき満腹って言ってなかったか?

そんな心の中のツッコミを無視するように、ばくばくと豪快な勢いで食べ進める白雪。
うん、エネルギーをしっかり摂るのはいい事だ。栄養バランスは悪いけどな。
だから俺が今こうして両手にたい焼きを二つ持っているのも、なんら可笑しいことではない。
腹が減っては戦はできぬ。昔の人は大した言葉を残したものだ。

さて、と意気込んで二つ目のたい焼きの頭を食らおうと口を開ける。
そのまま柔らかな生地へ歯を通し、キメ細やかな餡子が顔を覗かせて――――




「――少し、いいか?」


85 : 君の名は? ◆wIGwbeMIJg :2017/04/27(木) 03:05:27 xKzDyplI0

「んぐぅッ…!?」
「ひゃあっ!?」


耳元で響くやけに渋い声が、至福の時を奪い去った。
あまりにも不意打ちだったせいか、口の中のたい焼きは味さえ分からないまま喉に詰まる。
その瞬間俺は迷った。声の主へ振り向くのが先か、たい焼きを喉に通すのが先か。
そして0.5秒の思考の中で前者を選択したのは、我ながらいい判断だと思う。
涙で滲む俺の視界に映ったのは、やけに体格のいい眼帯のおっさんだった。

「ごほっ、ん”っ…けほ、……」
「……落ち着いたようだな。なら、俺の質問に答えて欲しい」
「ちょ……ちょっと、いきなりなんなのよ貴方っ!」

情けなく咳き込む俺と反し、白雪が勇ましくおっさんへ食って掛かった。
しかも然り気無く俺より一歩前に出ている。つくづく、自分の情けなさを痛感させられてしまう。

「悪いが俺の質問が先だ」
「うっ……」

だがそんな白雪も、おっさんの鋭い眼光に射抜かれて黙り込んでしまう。
無理もない。なんというか、あの視線は普通の成人男性が出来るようなものではなかった。
恐らく俺が白雪の立場だったとしても、強く出ることは出来なかっただろうな。
なんというか、このおっさんからは”歴戦”っていう感じが嫌というほど伝わってくる。

「……質問ってのは、なんですか?」
「ああ、それは――」

思わず敬語になってしまった俺の問いに、おっさんが勿体ぶるように一呼吸置く。
言いようのない緊張感がその場を包んだ。全身が強張るのを感じる。
そしてそれは白雪も同じのようで、眉尻を下げて緊張の面持ちでおっさんを見ている。
一体どんな言葉を紡がれるのか。高鳴る鼓動に合わせて、俺の頬に一筋の冷や汗が伝った。














「――お前達が食べているそれは、美味いのか?」













「「……は?」」



……訂正しよう。
このおっさんは歴戦の戦士とか、そういうのではない。
ただの変人だ――――それも、とびっきりの。


86 : 君の名は? ◆wIGwbeMIJg :2017/04/27(木) 03:09:42 xKzDyplI0



【C-4/遊園地/一日目 深夜】

【ネイキッド・スネーク@メタルギアソリッド3】
[状態]:健康、空腹
[装備]:インスタントカメラ@ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース
[道具]:支給品一式、ランダム支給品(確認済み、武器と判断出来ぬ物)(0〜2)
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに乗る気はないが、敵対者に対しては容赦しない。
1.まずは目の前の二人と接触する。ついでに食料も欲しい。
2.この殺し合いの首謀者は一体?
3.オセロットもここに居るようだな……。

※参戦時期は不明、少なくともオセロットと関わりを持ってから。

【白雪ひめ@ハピネスチャージプリキュア!】
[状態]:健康、不安、困惑
[装備]:白雪ひめのプリチェンミラー&プリカード@ハピネスチャージプリキュア!
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本行動方針:めぐみ、ゆうこと合流。生存第一。
1.なんなのよこのおじさん……。
2.めぐみやゆうこと会いたい。
3.危なくなったら逃げる。

※参戦時期は第六話、ゆうこの弁当屋を手伝った頃からの参戦です。
  なので氷川いおなの名前と、その正体を知りません。
※名簿を確認しました。
※キョンに自身の正体を明かしていません。

【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:モンキーレンチ@現実
[道具]:支給品一式、工具一式セット@現実、大嵐@遊☆戯☆王
[思考・状況]
基本行動方針:どうにかして殺し合いから脱出。
1.なんだこのおっさん……。
2.ハルヒ達との合流。朝倉涼子は避けたい。
3.長門ならこの状況をなんとか出来るかもしれない。

※参戦時期は本編終了後です。
※名簿を確認しました。

【白雪ひめのプリチェンミラー&プリカード】
ハピネスチャージプリキュア!の白雪ひめがプリキュアに変身するための変身道具。
プリキュアに変身するだけでなく、様々な職業に応じた服装に「お着替え」すれば様々な職業スキルを使えるようになる。

【大嵐】
遊☆戯☆王に登場する魔法カード。
効果は『フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する』という壊れた性能。
その性能故に現在では禁止カードにされてしまった。

無論この殺し合いでもそれは例外ではなく、『罠』や『魔法』に関する物ならば対象が生物でない限り全て破壊する効果がある。
例えば狩猟罠やまきびしといった罠や、魔法や魔術、超能力によって生み出された攻撃などは全て破壊する事が出来る。
効果範囲はカードを中心とした半径100m程で、その範囲を超えたものは破壊できない。
尚、一度使用したら6時間のクールタイムが必要となる。


87 : ◆wIGwbeMIJg :2017/04/27(木) 03:10:13 xKzDyplI0
投下終了です。


88 : ◆wIGwbeMIJg :2017/05/02(火) 17:51:24 ZziUm1Xw0
ジョセフ・ジョースター
秋山澪
エンヴィー

予約します


89 : ◆wIGwbeMIJg :2017/05/07(日) 09:32:32 F8UYSXNo0
メモ帳が消えてしまったので予約を破棄します


90 : ◆wIGwbeMIJg :2017/05/15(月) 20:49:12 J9SPkQjM0
キング・ブラッドレイ
花京院典明
矢部謙三

予約します


91 : ◆wIGwbeMIJg :2017/05/31(水) 21:30:41 744.xtKA0
>>90
矢部謙三を抜いて再予約します


92 : ◆EPyDv9DKJs :2017/07/09(日) 23:45:08 0euDCB4w0
DIO 遠坂凛
を予約します


93 : ◆EPyDv9DKJs :2017/07/11(火) 17:09:30 A5VlHE.Y0
投下します


94 : ◆EPyDv9DKJs :2017/07/11(火) 17:11:28 A5VlHE.Y0
「ふん、下らん。」

 月明かり照らす洋館の部屋の一つ。
 高そうなソファに座り、一人の男はこの殺し合いで思った一言を呟く。
 二メートル近い巨躯、逞しい筋肉は誰が見ても男と思うだろう。
 一方で、女性と見紛うかのような、妖美な色気を持つ、金髪の男。
 彼の名はDIO。ジョースターと長き因縁を持つ、邪悪の化身。

 殺し合いなど、彼としてはどうでもいい事だ。
 一人になるまで残れ? それなら帝王であるこのDIOが当然である。
 なので、態々殺し合いに乗る乗らないだの考えるだけで『無駄』だ。
 別に人を殺すのが嫌なわけではない。嫌なのは、誰かに命令されてする事。
 殺し合いをしろと言われて、殺し合いをするのでは、彼からすれば犬の所業。
 既に首輪と言う犬のような扱い。優勝を目指せば犬と認めているようなものだ。
 しかし、そうは言うも、思うところや懸念すべきことがあるのもまた事実だった。

(ジョースターの名前があるが、厄介だな。)

 名簿に目を通せば、空条承太郎とジョセフ・ジョースターの名前が並ぶ。
 他にも敵の名前がずらりと並ぶも、部下であるンドゥールやエンヤ、ヴァニラ・アイスはおろか、
 ホル・ホースと言ったエンヤ婆が雇ったスタンド使いさえも、この殺し合いの参加者にはいない。
 これはこの場でジョースターの因縁を抹消できるチャンスと同時に、味方が誰もいない危機的状況でもある。
 DIOは吸血鬼、太陽の下を歩くことが出来ない。となれば、行動できる時間は半日の約十二時間のみ。
 十二時間、不老不死の吸血鬼にとっては瞬きに等しいかもしれない時間だが、この状況では別だ。

 自分がどれほどジョースターに悪評をばら撒かれたか、利用できる人間を利用できなくさせられる、
 そういった自分を追い詰めてくるであろうジョースターの涙ぐましい努力の光景が、容易に想像がついた。
 しかも現在は零時、僅か六時間しかDIOは外を歩けない。六時間と十八時間で得られる情報は明らかな事。
 つまり、DIOはこの六時間が極めて大事になる。早急に行動が必要でもあるが、地図を見れば相当広い。
 吸血鬼と言う疲れ知らずな身体だとしても、六時間で島を全部、参加者全員と出会うなど無理と言うもの。
 しかも出会うだけではだめだ。それらとの会話や衝突があれば、更に時間は削られてしまう。
 それに、朝日が昇るまでに退避できる場所も判断して向かう方向を決めなければならない、
 日の出までに朝に行動してくれる存在を用意したい等......問題は山積みである。
 時を止めるスタンドを持つのに時間に急かされる。時間と言う存在はDIOの強敵だ。


95 : ◆EPyDv9DKJs :2017/07/11(火) 17:12:06 A5VlHE.Y0
(あの神父、コトミネと言ったか。名前から察するに東洋人のようだが・・・・・・)

 問題は山積みではあるが、他にも思うことがあった。
 それは、殺し合いの主催者たる存在の神父のことだ。
 彼の友に神父がいる。気の安らぐ親友、エンリコ・プッチ。
 神父の格好だが、していることは神父とはかけ離れた所業。
 いや、寧ろそんな所業をするからこそ、DIOは彼に興味を持つ。
 首輪をつけたのはいただけないが、それでもDIOを出し抜いて殺し合いに招いた、
 その度胸や手段、そういった面もあるが、何より興味を持ったのはあの眼。
 あの何も映っていないかのような漆黒の眼は何を映しているのか。
 一番の理由は、友と声が似てる気がした事による懐かしさによるものだが、
 少々語り合ってみたい気もしてくる。

「ところで、君は何時まで隠れているつもりだね?」

 名簿を見終えると、正面のドアへ向かって声をかける。
 数秒の静寂の後、開かれる扉と、銃を構える一人の少女がいた。
 西洋の面影を残しつつも、東洋人らしい黒髪の、秀麗な女性。

「・・・・・・気づいてたのね。」

 遠坂凛―――冬木の町で聖杯戦争に臨んだ御三家の、遠坂の血を引く魔術師。
 可憐な少女に対し、手に構えるものは物騒極まりない。

「幾つか質問があるわ。殺し合いにアンタは乗る?」

 少女からの質問。
 銃を向けている事への謝罪や罪悪感など、
 そういった道徳的な事は一切感じられない。
 知り合いであろうとも、疑わなければならないのだ。
 初対面でこの状況下なら、誰だってそうする。

「しろと言われて、君はするのかね? それが答えだ。」

 銃を向けられても特に気にも留めず、
 DIOは足を組み、手を組みながら言葉を交わす。
 月明かりに照らされる彼の姿は、絵画のような光景に感じさせられる。

「次の質問よ。衛宮君・・・・・・嫌、名前じゃダメか。
 誰かとであった? まあ、まだ始まって間もないから、当てにしないけど。」

 此処に招かれてから、DIOはずっとこの場にいた。
 出合うことはなかったものの、一人だけ名前には覚えがある。

「ないな。衛宮と言う男の名前を挙げるに、君はあの神父と知り合いなのかね?」


96 : ◆EPyDv9DKJs :2017/07/11(火) 17:12:41 A5VlHE.Y0

 衛宮士郎。神父へと反抗していた、赤髪の少年。
 他に衛宮と呼べる人物はいない事から、彼で確定だ
 その少年と知り合いならば、神父について知っていることがあるかもしれない。
 神父のことが聞けると興味を持って問いかけるも、

「悪いけどまだ質問が終わってないわ。」

 主導権は一応、彼女が握っている。質問に答えられることなく話が進む。
 これが、一番彼女が疑問に思っていたことだ。

「最後に―――何でそんなに冷静でいられるわけ?」

 殺し合いに突然呼び出されて、銃口を向けられて、冷静でいられる一般人は普通はいない。
 感情が欠落してたりなどの例外はあるかもしれないが、そういったものは見受けられない。
 にも関わらず、平静を保ち続ける彼の姿に、遠坂は表情には出さないが困惑していた。
 彼が同じ、聖杯戦争に参加していたマスターなら理解できなくはないが、
 最初のあの場で、サーヴァントのランサーが目立っていることは目にした。
 マスターであれば、サーヴァントを倒すなど無理だと分かりきっているはず。
 サーヴァントならば、サーヴァントのステータスぐらい見えるはずだが、見えない。
 どちらでもないならば、殺し合いと無縁の人間だ。自分以上の動揺があって当然だ。
 いずれにも該当しない。だから彼女もそのことで問いかけた。

「君が既に答えを出しているではないか。」

 答えを出していると言うのは、彼女が銃を持って質問をしている事にある。
 殺し合いと無縁の人間が、いきなり銃を持って、震えず冷静に構えられるだろうか。
 自棄になった人間であろうと、短時間でそこまで出来ることではない。
 握るものは、引き金一つで命を奪う。日常生活しか送ったことのない人間は、
 今の彼女のように持つことは出来ない。となれば、答えは出会った最初から出ていた。

「私も君も―――こういう出来事に慣れている、と言うことだ。」

 銃口を向けられた状態でDIOは名簿を机に置いて、席を立ち、遠坂へ歩み寄る。
 物陰に潜みながらや銃口を避けるような動きではない。
 モデルが舞台を歩くように、自分の姿を堂々と見せ付けるかのごとく。
 場所が場所であれば、スポットライトが当てられそうなほどに、優雅に。

「待ちなさい! それ以上近付くなら撃つわ!」

 動揺はするが、慣れもしない武器で照準を定める。
 こんなものに頼りたくはないが、彼女に向いた武器で、
 この状況下に使えるものはない以上、仕方がないことだ。

「撃つと良い。ただし、私は少々頑丈だ。狙うなら頭を一点にした方がいい。」

 DIOは忠告を受けようとも、進む。
 それどころか自分の額を指して狙うように指示する。
 忠告をしてもなお進む彼に対し、遠坂は―――



 躊躇うことなく撃つ。
 聖杯戦争に参加してた以上、殺せないなんて事はない。
 ちゃんと忠告もした事から、躊躇う理由も罪悪感もなかった。

「敵と認識すれば躊躇わず撃つ覚悟、目も背けず引き金を引いた・・・・・・実に冷静だ。」

 無論、こんなことで死ぬようならDIOは世界の頂点に立とうなどとは思わない。
 相手からは何がおきたか分からないが、単純に停止した時間の中を動いただけだ。
 それだけで、撃つと同時にDIOの姿は消え、遠坂の背後から囁くように遠坂へ声をかけることができた。

「い、何時の間に!?」

 汗が溢れるように流れる。
 目を一切離さず、苦手とはいえ銃も使った。
 瞬きすらせずに、驚くほど冷静に撃ったはずだが、
 弾丸はDIOの背後の壁に銃創を残し、なぜかDIOが背後にいる。
 極限状況の中、困惑するなと言うほうが無理からぬ事だ。

「君のような優れた人物に、私は会いたかったのだよ。」

 風が吹いてすらないこの場で、生き物のようにうごめくDIOの髪。
 そして遠坂は―――


97 : ◆EPyDv9DKJs :2017/07/11(火) 17:14:20 A5VlHE.Y0
 そして遠坂は―――





 情報交換を終えて、遠坂とDIOは別れる。
 と言っても知り合いの情報と、その中に出てきた固有名詞ぐらいだ。
 殺し合いが始まって間もないのだから、当然ではあった。

 自分からはジョースターの情報、ある程度のスタンドの特徴、
 遠坂からは先ほどの発言に出た五名の人物の特徴などの情報を得た。

「中々興味深かったな。」

 彼女から聞いた話は言峰のことは勿論、スタンドや吸血鬼並みに飛躍した存在。
 魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)と呼ばれたアヴドゥルとも違う、別の魔術師。
 この殺し合いに類似した戦争、聖杯戦争とその使い魔『サーヴァント』。
 果たしてそれらはどんな血がするのか、そういう意味でも興味深かった。
 ジョースターのような血筋と言うもので馴染むものもいいかもしれないが、
 魔術師と言った人間以上の素質を持った存在では、身体にどう影響するのか。
 もしかしたらザ・ワールドの時間停止の能力も成長するかもしれない。
 時間を長く止められることを楽しむ彼が、心躍らないはずがなく。

 最初は犬畜生の扱いに憤りもしていたが、
 言峰、魔術師、サーヴァント・・・・・・まだ見ぬ存在と出会い、
 案外この殺し合いに招かれたのは、僥倖とも思えた。

「さて、私も動くとしよう。」

 余り時間は経ってないが、六時間は既に切っている。
 山積みの問題を一つでも解決していかなければならなかった。

「君の働きに期待しているよ、遠坂凛。」

 窓から見える彼女の姿を一瞥して、帝王は動き出す。
 一世紀にもわたる過去の因縁を排除するために。





「何だったのかしら、あの男。」

 洋館を出てから、遠坂は一人ごちた。
 信用できる人物ではあるとは思うも、色々奇妙だ。
 不気味だが、何処か安心させられる、妖美とも言える雰囲気。
 生き物のように蠢いた気がした、髪の毛から感じた寒気。
 何より、一瞬にして気配もなく背後へ回ることの出来るあの手段。
 疑問はあれども、あれがスタンドが持つ能力の類なのだろうと認識できた。

「信用できない要素もあるけど、仕方ないって思った方がいいか。」

 聖杯戦争も騙し騙されあう関係もあるはずだ。
 万能の願望器を奪い合うのだから、当然である。
 と言うより、そもそもこんな状況下の初対面だ。思い込みによる補正、
 人間が持つ至極当然な防衛本能、そう思って特に気には留めなかった。

「はやいとこ見つけたいわね・・・・・・桜。」

 戦力と言う意味でもセイバー達と合流したいものの、
 やはり気になるのは、妹である桜の事だ。
 彼女は魔術師の才能はあるが、自分ほど戦いに身を投じるタイプではない。
 此処では保護されるべき存在と同時に、優勝狙いには狩りやすい存在であるだろう。
 出来ることなら、早く見つけたくもあった。


98 : ◆EPyDv9DKJs :2017/07/11(火) 17:15:44 A5VlHE.Y0
 彼女に肉の芽は―――つけられることはなかった。
 昼に使える駒が必要であった彼が、何故しなかったのか。
 理由は単純で、彼には肉の芽を使わなくても信用できる人物が必要だった
 自分一人でも勝てるだろうが、ジョースターの血統は侮ることは出来ない。
 寧ろ、こういう極限状況であればあの時のジョナサン・ジョースターのような、
 とてつもない爆発力を発揮して倒しに来る事だってありうるかもしれなかった。
 土壇場で逆転するのはジョナサンで嫌と言うほど、首から下を失う経験を味わっている。
 だから彼女には肉の芽を植えつけないで、一つの役割を渡して別れた。
 役割はDIOを信用できる人物を増やすこと、ジョースターの敵を増やす事の二つ。

 仮に、ジョースターが誰かと既に出会い、DIOの情報を手にした者が彼女と邂逅した時。
 DIO信用派の遠坂と、ジョースター信用派のほかの参加者。確実に衝突が起きるだろう。
 DIOと出会いながらも、肉の芽による洗脳を受けてない彼女の『DIOは信用できる』は効果が大きい。
 『出会えば餌』『肉の芽で奴隷にされる』、そう情報がリークされることを見越した上での判断だ。
 こうしてまずはまだ見ぬスタンド使いが敵に回ることを阻止し、ジョースターの刺客も増やす。
 それもあってか、彼女との情報交換においては、ジョースターのスタンドの特徴をさほど教えていない。
 例えば、花京院のスタンドは紐状に出来る、承太郎のスタンドは視力と言った機能もずば抜けて高いこと。
 そういうのは、複雑な性能をしてるジョセフが多少伝えられたぐらいで、他は近距離、遠距離で戦う程度の説明だ。
 敵対してると言う間柄は伝えたとしても『殺される前に殺したほうが良い』と押し付けるわけではなく、
 DIOは『信用できる人物かは怪しいだろう』程度に留めておいた。
 余り細かく言うと『何が何でも殺して欲しい』と押し付けてるようで、
 信用を得ようにも得られない。だからこそ、必要なものだけを提示した。

 DIOこそ危険人物と言うジョースターの評価と、信用できないと控えめなDIOの評価。
 人を悪く言う方は信じがたい、たとえ事実であったとしも、この考えに当てはまる人間は多い。
 聞こえが良すぎると疑われても、遠坂は肉の芽で洗脳するには有用な人材であるのは、
 話せばよほどのバカでもない限り分かること。優秀な人材を洗脳しないとなれば、
 出会ったものが疑り深い者であっても、信用されやすいだろう。

 ある意味、DIOと敵であるジョースターのみで、部下が誰一人いなかったのも大きい。
 もしヴァニラ・アイスやンドゥールと言った自分に命すら差し出すであろう重臣がいたならば。
 DIOを優勝者へ導こうとするのは必然であり、主の為に躊躇わず殺し合いを加速させる奴が部下、
 これでは何を話そうと簡単に信用などされるはずがない、だから味方がいない事を利用した。
 『逆に考えるんだ』とは、昔ジョナサンから聞いた、ジョースター卿の一言だ。

 もっとも、花京院やポルナレフが肉の芽をつけた頃から招かれたと言う、
 予想できるはずもない展開が起きてしまえば、この計画は容易く破算してしまうが。

「・・・・・・そうだ。」

 遠坂は立ち止まり、洋館へと振り返る。
 何か神妙な顔つきで、あることに気づいた。





「あいつの支給品に宝石とか何かあったか聞くの、忘れてた・・・・・・」

 ・・・・・・こんな状況だからか、寧ろこんな状況だからこそか。
 彼女は肝心な時に限って、変わらずうっかりしているのであった。
 帝王が撒いた不安定な種が芽吹くかは・・・・・・今はまだ分からない。


99 : ◆EPyDv9DKJs :2017/07/11(火) 17:16:54 A5VlHE.Y0
【E-9/洋館/深夜】

【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康 言峰に興味 色々楽しめそうなことにより少しハイ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(いくつあるのかは不明、確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:ジョースターの始末。その後優勝、脱出、世界の成長・・・・・・色々出来そうで思案中
1.ジョースターの味方になりうる人物は減らしていく
2.『DIOが肉の芽で操りそうな人物』への肉の芽は控える。無論、必要であればするし、使わないわけではない
3.神父と語り合ってみたいが、語り合うには優勝が一番早いか・・・・・・?
4.遠坂の知り合いに出会ったらどうするか。魔術師やサーヴァントの血に興味はあるのだが
5.案外、この殺し合い楽しいのではないだろうか

※参戦時期は少なくとも、ポルナレフがジョースター一行に加わる〜カイロ市街での戦いに入るより以前の間

※肉の芽の疲労、時間停止との同時使用による疲労、洗脳の度合い等は後続の方に任せます
 時間停止は背後に回るまでの時間は止められます(それでも具体的な時間は後続の方にお任せします)

※遠坂と情報交換をしました
 魔術師、聖杯戦争についての知識を得ました
 肉の芽による洗脳してからの会話ではないので、省かれてる部分もあります
 志郎、桜、セイバー、アーチャー、ランサーの身体的特徴、及び彼女が分かる範囲で人物像を得てます

【E-9/洋館周辺/深夜】

【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]:健康
[装備]:ハンド・パースエイダー『森の人』
[道具]:基本支給品、ランダム支給品?(あるかは後続の方にお任せしますが、あっても魔術絡みではないです)
[思考・状況]
基本行動方針:神父をとりあえずボコボコにする
1.館に戻る? いや、もう別の場所に行っちゃった?
2.知り合いを探したい。特に桜か衛宮君辺り
3.魔術師なんだからこういうの(銃)には頼りたくない。今は仕方なく使う
4.ジョースター一行には警戒
5.DIOは信用は出来る?

※参戦時期、ルートは後続の方にお任せしますが、
 少なくともFateの参加者全員と面識があります
 遠坂の参戦時期で、DIOが聞いた彼等の人物評価が変動します

※サーヴァントのステータスが見えるかは後続の方にお任せします

※DIOと情報交換をしました
 ジョースター一行にどういったことを吹き込まれたかは、後続の方にお任せします
 身体的特徴、大雑把なスタンドの情報、信用できる人物ではないの三つは聞いてます
 一応、DIOは信用しきってはないが『初対面だから当然か』程度で、比較的信用してる方です

※洋館のどこかに銃創があります
 互いに何処へ向かうかは後続の方にお任せしますが、同じ方向には向かわないでしょう

森の人@キノの旅
ハンド・パースエイダー(パースエイダーとは銃器のこと。この場合は拳銃)の一つ
若いころ、師匠と一緒に行動していた相棒が、後にキノが『優しい国』に訪れた際に譲り受けたもの
性能はカノンよりは高いようだが、威力は高くはないようだ
もっとも、あくまで銃器の威力での話であって、普通に人は殺せる


100 : ◆EPyDv9DKJs :2017/07/11(火) 17:17:38 A5VlHE.Y0
以上で投下終了です
タイトルは『孤独の帝王』です


101 : けいおん!パニック! :2017/09/16(土) 01:15:44 mnvt0/CI0
>>25相良宗介、平沢唯予約します。また、よろしくお願いします。


102 : 管理人★ :2018/07/05(木) 23:56:15 ???0
本スレッドは作品投下が長期間途絶えているため、一時削除対象とさせていただきます。
尚、この措置は企画再開に伴う新スレッドの設立を妨げるものではありません。


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