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Fate/Mythology――混沌月海神話

1 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:09:37 ipfsjRA60




 ここで、あなたがたに奥義を告げよう。
 わたしたちすべては、眠り続けるのではない。終りのラッパの響きと共に、またたく間に、一瞬にして変えられる。
 というのは、ラッパが響いて、死人は朽ちない者によみがえらされ、わたしたちは変えられるのである。なぜなら、この朽ちるものは必ず朽ちないものを着、この死ぬものは必ず死なないものを着ることになるからである。
                           ――コリント人への第一の手紙・第15章12-14節に曰く
 


まとめwiki:ttps://www65.atwiki.jp/stselysium/pages/1.html


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2 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:10:03 ipfsjRA60
【はじめに】
 1:当企画は自分がこれまで投下して落選した主従や、募集期間中に完成させられなかった主従、十八禁ADVゲーム(重要)、長編ラノベ出典などの把握難度的に他所に出すのは少々憚られる主従等を再利用して行う聖杯戦争企画です。
 2:また先人様達に倣って、当企画でも参戦主従のコンペティションを行います。
 3:採用枠は20+αで自作8〜10:コンペ12〜10の比率でそれぞれ採用させていただく予定です。もしかすると最終的な総採用枠が変動するかもしれませんが、これより少なくなるということは絶対にありませんのでご安心下さい。
 

【コンペ(登場話候補作の募集)について】
 1:期限は二ヶ月程度を予定しています。場合によっては早まったり、逆に伸びる場合も有るかもしれません。
   但しその場合には最悪でも一週間前までにはその旨を報告させていただこうと思います。
 2:オリジナルキャラクター、二次創作からの出典、現実出典等での投稿はご遠慮頂くようお願い致します。
 3:他企画からの流用も歓迎しますが、その場合トリップは同じ物を使って下さい。無用なトラブルを避ける為の措置ですので、どうぞご了承下さい。また、盗作行為には判明次第厳重に対処致します。
 4:登場話で他(マスターないしはサーヴァント以外)の版権キャラクターを出すのはお控え願います。
 5:候補作への感想は全部書こうと思っていますが、場合によっては感想執筆が遅れる場合も有るかと思います。
   その場合はどうか寛大な心で許して頂ければ幸いです。


【聖杯戦争のルールについて】

 ちょっと長いですが、少々特別なシステムが有りますので、出来れば目を通して貰えると有難いです。
 
◇舞台
 舞台は『Chaos.Cell』によって再現された電脳世界の『冬木市』です。
 冬木市の外側にも世界は続いて見えますが、ある一定ラインを超えて移動しようとした場合、透明な壁に阻まれます。この壁はサーヴァントの力を持ってしても打ち破ることは出来ず、冬木を球状に覆っています。この為一定以上の高所や地底などに移動することは事実上不可能となっています。
 また本来の冬木には存在しない、当企画の参加キャラクターが元居た世界由来の施設の有無については話の中で自由に出していただいて構いません。但し明らかに現代に存在しないようなもの、冬木市という舞台にそぐわない建造物や施設についてはご遠慮頂きますようお願い致します。


◇マスターについて
 マスターは当初、全員が記憶を失っています。冬木市には何か特殊な事情がない限り彼らが住人として溶け込めるような役割ロールが用意されており、記憶を取り戻しても引き続き役割設定は残り続けます。
 この聖杯戦争に招かれる為の資格は『鉄片』です。形状は無骨な何らかの金属の破片で、文字通り『鉄片』と呼ぶしかない成りとなっています。これを手にした者のみが電脳の冬木市にマスターとして踏み入ることが出来、マスターが記憶を取り戻すと同時に『鉄片』はその人物が召喚したサーヴァントの霊核と同化します。
 当聖杯戦争のマスターは魔術師でなくとも、魔力を消費することでサーヴァントの傷を回復させることが可能です。


3 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:10:49 ipfsjRA60

◇聖杯戦争
 当聖杯戦争において優勝、つまり聖杯獲得の権利を勝ち取れる主従は『二組』です。
 聖杯獲得の条件が満たされた瞬間、冬木を覆う壁が崩壊し、その向こうに存在する『黄金の塔』へと進むことが可能になります。聖杯はその頂上に降臨するよう、『Chaos.Cell』により設定されています。
 当聖杯戦争では、令呪の全損やサーヴァントの消滅に引きずられてマスターが退場することはありません。
 はぐれサーヴァントとの再契約や他のマスターを自力で排除しての再契約等など、サーヴァントを失ったマスターも聖杯戦争に関わることが出来ます。
 
 舞台となる冬木市には聖杯戦争を取り仕切るルーラーと同等の権限を与えられたサーヴァントと、彼を補佐するマスターのNPCが先んじて召喚されています。
 ルーラー(仮)はサーヴァントに対して使用できる令呪やルーラーの各種固有スキルを持ちますが、特殊NPCの方は現時点では特に目立った権限が確認できません。
 神秘秘匿の原則に悖る蛮行や過度な魂喰い、聖杯戦争の存続が不可能となるような行為を彼らは咎め、討伐令の発令や令呪没収などの罰を科します。


◇特殊ルール『霊基転臨』について
 各サーヴァントの霊核と同化した『鉄片』は性質を変え、限りなく『聖杯』に近い黄金の欠片となって残留します。
 これを当聖杯戦争では『聖鉄』と呼称し、『聖鉄』を幾ら集めても願いを叶える願望器を作り上げることは不可能ですが、サーヴァントに取り込ませる事によって傷の回復・霊基の補強を同時に行うことが出来ます。
 サーヴァントが消滅するとそのサーヴァントの霊核と同化していた『聖鉄』が弾き出され、これを確保することで前述した霊基補強――『霊基転臨』を実行出来ます。
 転臨を果たしたサーヴァントには2点のポイントが与えられ、マスターの裁量で任意のステータスを1ランク分パワーアップすることが可能です。B〜Eランクまでなら1点で1ランクのパワーアップが見込めますが、AランクをA+にするには2点、更にA++にするには4点とコストが嵩んできます。
 ポイントは一度獲得してしまえば使わずに貯めておくことも可能なので、4点〜それ以上の点数が必要になる場合は二つ以上の『聖鉄』を手に入れ、条件を満たす必要があります。また後述のランクアップを行うまでの間は、聖鉄の譲渡を自由に行う事が出来ます。
 このシステムでのEXランクへのステータス強化と宝具ランクの強化は"本戦開始時点では"出来ません。

 そして三つ以上の『聖鉄』を手に入れたサーヴァントに限り、『聖鉄』が『神聖鉄』という上位アイテムへとランクアップします。『神聖鉄』を得たサーヴァントは任意で『神聖鉄』と同化した霊核を発光させて強大なエネルギーを得ることが出来るようになり、ステータスを一時的ながら非常に大きく上昇出来ます。
 ただこの方法での強化はサーヴァントの肉体に並々ならぬ負荷が掛かる為、乱用は禁物です。


4 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:11:21 ipfsjRA60
◇真名看破について
 マスターには、記憶を取り戻すと同時に『Chaos.Cell』のデータベースへのアクセス権が与えられます。
 データベースは任意のタイミングで虚空にモニターのような形で出現させることが出来、聖杯戦争の関係者以外からは視認することが出来ません。
 データベースには英霊に纏わる膨大なデータが貯蔵されており、聖杯戦争の中で得た情報等を用いて『検索』を行い、条件を絞っていくことで最終的にはその真名を看破することが出来ます(尤もマスターの頭次第では見当違いの真名に行き着いたり、情報不足で看破に失敗することも十分にあり得るでしょう)。
 サーヴァントの場合は様々な並行世界から召喚されている為、自分の生まれた以外の世界の数多の人類史記録を知識として『Chaos.Cell』から与えられています。よって彼らは彼らで得た情報を元に考察、上手く行けば真名看破を行うことが可能です。

 真名看破に成功した、または真名を知ることでマスターはそのサーヴァントの宝具やスキルのデータを閲覧することが可能になります。


◇監督役からの通達について
 討伐令などの通達は各マスターへのデータ送信で行われます。
 通達があったことをマスターは感覚的に感知出来、前述のデータベースを開く要領で通達文を虚空に投射し、それを読み取るという形になります。サーヴァントを失ったマスターも、この通達を受け取ることが出来ます。


5 : 無謬の白夜 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:11:59 ipfsjRA60




 月の海の底の底、七つの試練の彼方の宝。
 光によって象られた疑似霊子の頭脳は、あらゆる奇跡を再現する。
 これは太陽系最古のオーパーツ。星の方舟と成り得るアーティファクト。遠い昔に下された地球観測の命令(オーダー)をその消滅まで遂行し続ける史上最大の量子コンピューター。
 全ての生命、全ての生態、生命の誕生、進化、人類の発生、文明の拡大、歴史、思想……そして魂。全地球の記録にして設計図。神の遺した自動書記装置。七つの階層からなる、七天の聖杯(セブンスヘブン・アートグラフ)。

 ――ムーンセル・オートマトン。かつて、人はこれをそう呼んだ。

 ムーンセルは自らの内へとヒトを招き入れ、極限環境……聖杯戦争を主催する。生死の垣根が希薄化された空間の中で人間の精神は如何なる姿を見せるのか。それを観察し、記録する為に、月は願いと言う餌を吊り下げて魔術師と言う観察対象の到来を待ち続けた。そして、幾度となく舞台を演じ続けた。
 完全無欠の演算と人類の感覚からすれば殆ど無限に等しい情報量。ムーンセルによって聖杯戦争は恙なく行われ、その度英霊達の戦いは繰り返された。だが――月はある時、小さな綻びが生まれたのをきっかけに狂い始めた。精微とは正反対の混沌へと、大義を忘れて墜落し始めた。

 聖杯戦争の最終局面、人類史に名高き最高位英霊同士の激突。
 最大火力の宝具が真っ向から激突した事で発生した有り得ざる事態。――SE.RA.PHに生じた、幅数ミリ程度の"孔"。確率にして数万分の一以下であろう偶然の顛末として、電脳の海は綻びを見せた。それこそが、全ての終わりの始まりの瞬間。
 "孔"を見逃さなかったのは、敗者となった魔術師の方だった。消滅し行く身体で以って、彼は聖杯戦争そのものへの八つ当たりに打って出たのだ。大出力宝具、再放射。修復の始まった空孔を抉じ開け、積み上げた技術の全てを用いてその向こう側に己の従僕の全霊を届かせる。放った光が消えた時には既に、月には無視出来ぬ欠陥が生じていた。
 勝者となった男は此処まで生き延びただけはあり、実に優れた魔術師だったが……最悪な事に、途轍もなく巨大な野心を抱える人物であった。故に彼はムーンセルの修復が追い付く前に、大いなる月にとある命令(オーダー)を実行させる。聖杯戦争の勝者として、本来届き得ぬ願いの成就を月に求めた。如何に戦争を勝ち抜いた勝者と言えど、絶対に罷り通る筈のない混沌の大望を。


 その果てに――月は破滅した。


 全ての歯車が噛み合い過ぎた世界だった。
 一切の異分子が生まれず、月の聖杯戦争が停滞を忌んだ網霊の手で作り変えられる事もなかった世界。
 白紙の少女が足を踏み入れ、数多の戦いの末に誉れある結末に至る事のなかった世界。
 多くのものが救われぬまま、或いは生まれる事すらないままに消えていった世界。
 故に、全ては救われない。月の聖杯は大岩が川の流れで削られていくが如く混沌の中でその在り方を変質させていき、長い年月の末、此度の物語を生み落とした。


 狂乱の月が新たに得た銘は『Chaos.Cell』――これは創世神話を呼び覚ます為の英雄譚、その序曲である。



  ◇  ◆


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6 : 無謬の白夜 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:12:51 ipfsjRA60




「その男は確かに優秀だったのだろうさ。だが、欲を掻き過ぎた。自身が優秀ではあっても決して傑物ではない、その一点を月の征服者は見誤った――故に末路は憐れな物だったと聞いている。際限なく増え続ける多元宇宙とのパス、流入する魔力の濁流を前に、最後まで呆けた面を浮かべたまま溺死したそうだ」

 征服者は、世界の外の叡智を求めた。
 彼方に広がる無数の多元宇宙を、ムーンセルという名の天体望遠鏡で以って観測しようと試みた。そして"あちら側"に干渉し、更なる力を手にして自身をより高き者に昇華させんとして――当たり前のように失敗し、死んだ。残ったのは世界の垣根さえ飛び越えて人間を集め、聖杯戦争を繰り返す混沌の天体『Chaos.Cell』のみ。
 
「然し私は、彼を愚かな者とは思わない。寧ろその逆だ。最終的に失敗こそしたが、力のみを求道して別世界にまで希求の手を伸ばす貪欲さ、危険を顧みない勇猛さ。尊重するとも、彼はまさしく勝者の座に相応しい者だったのだと。……では、彼には一体何が足りなかったのか」

 硝子の奥の蒼眼を笑みに細めながら、裁定者の権限を与えられたサーヴァントは語る。
 余程楽しいのか、その語り口は極めて饒舌だった。声の調子からも、彼が理知的で聡明な人物である事が伝わってくる。

「私が思うに、彼に不足していたのは意思の力なのだ。力を求める欲望ばかりが先行して、どんな運命が待ち受けようとも跳ね除けてやると言う鋼の意思を築き上げる事を疎かにしてしまった。だから土壇場で、勝利を引き寄せる事が出来なかった」

 にも関わらず、その口にした内容は荒唐無稽極まる物だった。
 足りなかったのは鋼の如き意思。もっと簡単な言葉に直すなら、気合とか根性とか、そういう風に形容される概念。
 あろうことかこの男は、碩学然とした真剣な顔で、精神論を語り始めたのだ。月を結果として混沌の海に変えてしまった先人に、もしも屈強で堅牢な鋼の意思が備わっていたならば、きっと彼は望み通りに至高の力と叡智を手にする事が出来た。そんな馬鹿げた話を、不敵な笑みを浮かべながら語り聞かせる。
 堪らず、教会の座椅子に腰掛けたもう一人――彼のマスターに当たる少女が呆れたような溜息を吐き出した。

「そんな事は有り得ないと言いたげだな、マスターよ。まあ、信じられないのも無理はないとも。仮に私が君の立場だったとして、いきなりこんな話をされたなら十中八九激務で頭が病んでしまったのだと思うだろうからな。然し有るのだよ、そういう事が。居るのだよ、そういう人種が。想いの力、燃え上がる勇気で現実を平伏させる、誇らしき光の体現者が」

 不可能と言う概念を、想いの強さで飛び越える。
 どれだけの悲劇が有ろうとも、毅い心で耐え忍び、涙を光に変える。
 諦めなければ世の道理など紙屑同然――全ては、心一つなり。
 裁定者は、それを体現した存在を知っていた。そして他ならぬ彼自身も、その同族に分類出来る光の魔人に他ならない。

「これは不謹慎な発言だが、私は今とても高揚している。世界、時空の垣根を超えた大戦乱――ああ、素晴らしいではないか。一人の男として、光に焦がれた者として、その行方に刮目せずにはいられない。誉れと誉れが交錯し、互いの譲れない信念を真正面からぶつけ合うのだ。誰もが己の夢見る楽園を目指して、な」
「……相変わらず、悪趣味」
「心外だな。私は只、思うままを口にしているだけなのだが」

 マスターの少女は、隠そうともせず自身のサーヴァントへ不快感を露わにする。
 年端も行かない娘が自分の三倍以上は歳を重ねているだろう男に軽蔑の目線を向けている絵面は何とも不健全なそれであったが、彼の側は至って平然としている。
 公平な裁定者らしく、常に堂々と公明正大。だがその口から紡ぎ出される思想は、凡そ聖杯戦争を中立の立場から統括する者としては相応しくない物ばかり。
 少女は、この男が嫌いだった。何かされた訳ではないが、純粋に虫が好かない。
 彼が尤もらしい事を語る度、どの口が言うんだと誹りたくなる。彼が陶酔したような事を謳う度、気持ち悪いから止めろと悪罵を叩き付けたくなる。――嫌悪感が、離れない。

「それは扠置き、直にサーヴァントの召喚が始まる。後一週間も経過しない内に、全ての主従が出揃うだろう。其処からざっと一ヶ月程度の時間を掛けて、舞台に上がる価値のない半端者達をふるい落とし、それが済めばいよいよ本戦だ。黄金の塔に至る権利を争奪する、大いなる戦いが幕を開ける」

 正規の聖杯戦争では、最後に聖杯を手にする事の出来る主従は基本的に一組だ。
 だが今回、混沌の月によって主催された聖杯戦争に於いては、少し事情が異なっている。
 立ち塞ぐ敵を討ち倒し生き延びた栄誉への報酬。黄金の塔、その頂上に降臨する奇跡の杯。
 それを手にする権利は、二組の主従に与えられる。最後の一組まで潰し合う必要は、ないのだ。


7 : 無謬の白夜 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:13:38 ipfsjRA60



「――つまりだ、マスター。漸く全てが始まるのだよ。混迷の日は沈み、天頂の星が煌く万願成就の夜が来る」

 その台詞には、少なくない感慨の色が混ざっていた。
 生涯を懸けて何か尊く眩しいものを追い求め、とうとう悲願に手を伸ばす権利を得た求道者のような。

「月の命を遂行しよう、道理では成らぬ奇跡を求める者達の為に。偉大なる、報われるべき勝者の為に」
「……勘違いしないで。私は決して、貴方に同調している訳じゃない」

 一緒にするなと、少女は言う。吐き捨てるようにだ。
 聖杯戦争を恙なく進行する事には何の異存もないし、この主従関係を破壊する愚行を冒すつもりもない。
 だが、この男と同一視される事だけは許せなかった。
 あくまで戦争運営の為、仮初の主従関係。……然し少女には、彼でなければならない理由があった。
 白の聖女を初めとした"聖杯戦争の運営"に適した裁定者達には任せられない、本来あるべきでない事情があった。

「浮かない顔だな」

 ――蒼の瞳に、笑みの形を象らせて。
 ――男は言う。裁定者たる男は、言う。

「焦りは禁物だぞ、マスター。何、そう未来を危ぶむ必要はない」
「……うるさい」
「我が名に懸けても、君の願いは必ず叶える。この話は前にもしたが、私自身、君が抱く鋼の決意には強い好感を抱いているのだよ。何しろ命を懸け、身命を賭しての贖罪だ。己を発端とした全てを収める為、禁忌に手を染める。……たとえその行く末に破滅と終焉があろうとも。君も知っての通り、私はこういう人間でな。故に尊重せずには――」
「――審判者」 
 
 ラダマンテュスと、少女は言った。その声にはこれまで放っていた敵意とは段違いの、冷たく鋭い殺意が籠もっていた。
 それ以上知った口を叩けばおまえだろうと許さないと、限りなく金に近い橙の瞳が告げている。
 優しい日々の中で引き起こした微かな奇跡。その残滓たる瞳が今、審判の裁定者を睥睨していた。
 彼は口元に苦笑を湛えると、失言だったな、許してくれと簡素な謝罪を口にする。
 これだから、少女はこのサーヴァントが嫌いだった。いっそ悪意に満ちた性根を持つ救いようのない外道畜生だったならどれほど良かったろうと思った事は一度や二度ではない。

「とはいえ、啀み合っても仕方がないだろう。今は共に楽しもうじゃないか、これより奏でられる英雄譚(サーガ)を」

 男は、確信しているように見えた。
 これより始まる聖杯戦争が、光と闇が絶えず交差する大激戦になる事を。
 雄々しく、激しく、美しく、眩しく、毅く、素晴らしく――後に語り継がれるべき、至高の英雄譚となる事を。
 
「そして、無論」

 だが、結末は決まっている。
 いつ、如何なる事態が起きようとも。
 それだけは決まっている、揺るぎなどしない。
 
「――"勝つ"のは私だ」

 少女も、それを信じていた。何もかもが信用ならない彼だが、その炯眼に一切の失策は存在しない。
 目を閉じれば、今でもありありと脳裏に浮かぶ景色がある。
 崩壊した世界。終わった世界。どうしようもない行き止まりにぶち当たってしまった、自分の世界。
 だからこれは、贖罪なのだ。全て、全て、あらゆるものを元通りに――正しい形に救済する為に。

 少女は、勝たなければならなかった。
 出来なければ、最早この命に意味はない。


8 : 無謬の白夜 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:13:57 ipfsjRA60
   ◇  ◇


  ――わが愛は火、そはすべての狂える肉を焼き尽くし、香煙のごとくに消え失せしむ。

  ――わが愛はまた洪水なり。そが濁流のうちに、わが蒔きし悪しき芽生えを、すべて押し流す。


   ◇  ◇


9 : 無謬の白夜 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:14:34 ipfsjRA60



 ビチャビチャと、水っぽい音がする。水枕の中身をぶち撒けたような音には然し、それには不似合いな空気音が混ざっていた。液体に空気が吹き込まれ、泡立つ音も聞こえてくる。

 右手に鳳仙花を思わせる鮮やかな赤の刻印を刻んだ、妙齢の女が息絶えている。
 顔は白目を剥いて口からは濁流のように血を噴き、もう確実に事切れているにも関わらず身体がビクビク痙攣している。
 その喉笛には、鋭い鎌の切っ先が突き立っていた。それを乱雑に動かし、傷を抉る度、気道に残った空気が裂け目を通じて外に漏れ出し、生々しい空気音を奏でているのだ。見れば女の両足は、太腿から下がない。殺す上で決して逃がさない為に、残忍な下手人の手で切り離されたのだった。

「いい加減にしなさい、ランサー」

 一体どれほど恨み骨髄ならこれほど執拗な殺害が出来るのかと言うほどの有様を見兼ねて、艶やかな黒髪の少女が辟易したような声を漏らす。
 その声に、鎌の娘……ランサーのサーヴァントである、フードを被った童女が血飛沫に染まった顔を彼女へ向ける。
 無表情な貌に少なくない苛立ちの色が浮かんでいるのは、きっと気のせいではないだろう。

「……なんですか。後の脅威を排する為にサーヴァントを失ったマスターを殺害するのは、別段咎められるべき行為とは思いませんが」
「派手にやり過ぎだって言ってるのよ。後顧の憂いを断つのは結構だけど、それならさっさと殺せばそれでいい筈。確実に死んだ相手の喉を掻き回す必要なんて何処にもないでしょう」
「………」

 渋々と言った様子で、ランサーは鎌を死体から抜き、付着した血糊を払い飛ばす。
 それを見てマスターは、思わず深い溜め息を零した。事情は粗方把握しているが、それにしても憂さ晴らしの度が過ぎている。毎度毎度グチャグチャの惨殺死体を見せられるのは決して気分の良い物ではない。戦いの気配を感知した新手に襲われる危険もあるから止めろと毎度言っているのだが、なかなか聞き入れてくれないのが困り物だった。

「面倒であれば、わざわざ付き合って頂かなくとも結構です」

 ランサーはフードを深く被り、その下から紫瞳の冷たい眼光を覗かせて、突き放すようにそう言った。
 サーヴァントとしては余りにも身勝手な物言いに、普通のマスターであれば憤慨を隠すことなく露わにするだろう。
 ランサーを従える黒髪のマスターは、聖杯戦争のマスターとしては然程抜きん出た存在ではない。
 寧ろ、凡庸な方だ。魔術は仕えるが魔術師としての才能は乏しい、戦争序盤・良くても中盤で無念の内に脱落するのが関の山――その程度の人材。
 されど、彼女の喚んだサーヴァントの方は普通ではなかった。彼女も召喚に成功して程なく、対話の中でそれを理解し、頭を抱える羽目になった。当たりだとか外れだとか、そもそもそういう次元に当て嵌める事からして間違っている。確かに言えるのは、このランサーは、大いなる聖杯戦争の中に紛れ込んだ"あるべきでない"砂粒だと言う事。

「私だってさっさと帰りたいわよ、こんなトコ。それが出来ないから苦労してるんじゃない」

 望んで聖杯戦争の門扉を叩いた訳ではない少女に言わせれば、大迷惑も良い所だ。
 互いに召喚した英霊を持ち寄って殺し合う、その時点で既にとんでもない面倒に巻き込まれたと騒ぎたい所であるにも関わらず、ランサーの"事情"を聞いていよいよ自分は人生に於ける運と言う物を一から十まで全部使い果たしてしまったのだと引き攣った笑みを浮かべるしかなくなった。
 彼女としては、元居た世界に帰れさえすればそれでいい。後は、無責任なようだがどうなろうと構わない。
 然し他のサーヴァントと再契約しようにも、聖杯戦争の性質上、素直に脱出の方向で合意してくれる手合いは稀だ。最悪戦争を降りたいと口にした時点で見限られ、サーヴァントによっては生きたまま魔力炉に変えられる等、死ぬよりも酷い目に遭わされる可能性すらある。
 だから少女は、ランサーと言う厄ネタを切るに切れない。胃痛と隣合わせの主従関係を今に至るまで維持し続けている。

「……なら、邪魔だけはしないで下さい。貴女はただ、私のマスターとして生きていてくれればそれで結構ですから」

 空虚、とすら形容出来るだろう人間味の欠如した台詞を最後に、ランサーのサーヴァントが霊体となって姿を消す。
 彼女は紛れもなく槍兵のクラスとして召喚されたサーヴァントであるが、今、その内面は絶対零度の復讐心で満たされていた。
 マスターの少女、黒桐鮮花にもその事はしっかりと伝わっている。ランサーはとある存在を激しく憎悪し、それ故に聖杯戦争そのものに苛烈なる敵意を抱いている。


10 : 無謬の白夜 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:15:11 ipfsjRA60
 いっそ理性なきバーサーカーでも召喚していた方が心境的にはまだマシだったのではないかと思ってしまうほど、彼女の手綱を引くのは至難の業であった。
 ……だが何より厄介なのは、心の何処かで彼女に共感している自分が居る事だろう。
 同情とは少し違うが、もしも自分が彼女の立場だったなら――きっと同じ事をしていただろうなと、鮮花はそう思う。ランサーは凄絶な過去を持っていた。聖杯戦争を憎悪し、憤怒に任せた破壊に打って出るのも頷けてしまう程、彼女がされた仕打ちは壮絶に尽きる物だった。

「はあ」

 今後待ち受けているだろう艱難辛苦の数々を思えば、このくらいのストレスは屁でもない。
 そう分かっていても、やはり込み上げてくる溜息を堪えるのは難しかった。
 このくらいで愚痴を吐くようでは後で困ると、そんな社会の奴隷めいた思考回路で居る事は、鮮花には出来なかった。

“――許さない。おまえだけは。おまえだけは、絶対に”

 そんなマスターを視界の端に留めて、ランサーのサーヴァントは呪詛を吐く。
 宝石のような紫瞳に爛々と殺意の光を煌めかせ、怒りに顎を軋らせる。

 嘗て共に過ごした幸福の記憶は今、胸を掻き毟りたくなるような無限の憎悪に塗り潰された。
 愛した過去の神核は今、誰かの夢見るデウス・エクス・マキナを駆動させる為の歯車にまで落ちぶれた。
 だから想う。絢爛たる輝きなど、一切穢れてしまえばいいと。
 死に絶え、死に絶え、全て残らず塵と化せばいいのだと。

“微笑も視線も無明へ墜ちた。――どうか。どうか、安らかに眠って下さい。後は、全て私が遂げますから”

 光ある陰には闇がある。
 光なくして闇は成り立たず、闇なくして光は光たり得ない。
 混沌の月海においても、その道理は何も変わっていなかった。
 全てが狂った舞台は、狂っているが故に精微に進行する。
 だからこそ、殺してやりたいとランサーは思うのだ。
 本来召喚される筈のないサーヴァント。
 数多の命を奪い去る魔の萠芽を備えた、未来、怪物として討伐される宿命を帯びた女神。


 ――聖杯戦争、滅ぶべし。それが、墜ちた女神の決定だった。


11 : 無謬の白夜 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:16:20 ipfsjRA60

  ◇  ◇


 ――創世神話(マイソロジー)は、其処にある


  ◇  ◇


12 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:16:38 ipfsjRA60
続いて候補作を一作投下します。


13 : 藤丸立香&セイバー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:17:17 ipfsjRA60


 青空を見た。――何処までも果てなく広がる青空を、彼女と一緒に見た。
 その記憶を胸に、少年は一人空を見上げる。白み始めた夜明けの空は灰の色を湛えていて、空気には微かに水の匂いが混ざっているような気がした。頭上に広がる景色に、巨きな光の輪は見当たらない。それこそが、哀しき王の大偉業が阻止された事の何よりの証左だった。
 いや、厳密には違う。この世界は、自分達が作った世界じゃない。無限に広がる多元宇宙の何処か、混沌の演算機が作り上げた電脳の街。天文台との通信はそもそも成立しておらず、頼もしくも騒がしい天才の解説を聞く事も叶わない。真実孤軍と言っていい心許ない有様で、人類最後のマスター・藤丸立香は混沌月の聖杯戦争に放り出されたのだ。
 
> …………はあ

 この一年間、本当に色々な事が有った。嬉しい事、辛い事。納得出来ない事、腹の立った事。間違いなく自分が生きてきた十数年の中で最も濃密な一年間だったと自信を持って断言出来る。立香は、余りにも多くの困難を超えてきた。それこそ、このくらいの事態は霞んでしまうくらいに。

 第一特異点、オルレアン。
 第二特異点、セプテム。
 第三特異点、オケアノス。
 第四特異点、ロンドン。
 第五特異点、イ・プルーリバス・ウナム。
 第六特異点、キャメロット。
 第七特異点、バビロニア。
 そして、終局の冠位時間神殿にて――彼は世界を救った。未来をその手に取り戻した。

 そんな彼だから、突然見知らぬ街に召喚され、其処で行われる聖杯戦争にマスターとして参加しなければならないと言われても、驚きはしたがすぐに順応する事が出来た。加えて、彼は既に何がきっかけとなって此処に足を踏み入れてしまったのかについても理解している。人理復元の立役者を混沌の月海に引き寄せた元凶は、彼が天文台……カルデアの廊下で偶然拾った、とある"鉄片"であった。
 何かの機械の破片らしいそれを拾い上げた事に、物珍しげな理由が有った訳ではない。言ってしまえば、見慣れない物が落ちていたから拾ってみただけだ。カルデア内の何らかの装置から脱離したパーツだったりしたら大変だし、自分を心配してカルデアに残ってくれているサーヴァントの誰かの持ち物かもしれない。もし何てことないゴミだったなら、その時は改めてゴミ箱にでも投げ込めばいいだろう。その程度の軽い気持ちで立香は、その"鉄片"を手にした。
 次の瞬間には、彼は見知らぬ街並みを眺めていた。街の名前が冬木市と言う、自分にとっても覚えの有る地方都市である事を知ったのは暫くしてからの事である。尤も、地力で調べて突き止めた訳ではない。自分のサーヴァントを名乗る男が、困惑を露わにする立香に色々と教えてくれたのだ。

 聖杯戦争。あらゆる願いを叶える、万能の願望器。究極の聖遺物たる聖杯を争奪する血塗られた戦い。
 無論、立香もそれについての知識は有している。人理修復の旅の中で聞いたり、召喚したサーヴァントから教えて貰ったり、イレギュラーな参加者として介入したり。……更に言うなら、彼はもう何度も"聖杯"を見ていた。それどころか実際に回収し、持ち帰っている。特異点であったり、別口のアクシデントであったり、時には呆れ返るようなバカバカしいイベントで回収した事さえある。
 "この"冬木市では、今まさにそれを争奪する戦いが行われている真っ最中だと、彼のサーヴァントは言った。立香が『これはまた面倒な事に巻き込まれたみたいだぞ……』と思わず溢してしまった事は、きっと誰にも責められないだろう。
 カルデアとの通信は完全に封じられ、現状聖杯戦争に参加する以外の脱出手段は確認出来ない。立香の戦いをこれまでサポートしてきた、彼の使役するサーヴァント達も、此処には居ない。自分が唯一頼れる"彼"の戦いをサポート出来る、カルデア製の魔術礼装を装備しているのがせめてもの不幸中の幸いか。
 また、この街の住人として聖杯戦争に臨むに当たって、"藤丸立香"にも日常生活を送る為のロールが与えられていた。彼の身分は、アパートで独り暮らしをしているごくごく普通の学生。学生証や制服なんかも仮の家にはきっちり完備されており、何から何までまさに至れり尽くせりだった。
 サーヴァントの彼によれば、自分は記憶を取り戻すのが異様に速く、冬木への転移とほぼ同時に記憶を取り戻すマスターはほぼ居ないとの事だったが、それが凄いのか凄くないのかは立香には今ひとつ分かりかねる案件だ。


14 : 藤丸立香&セイバー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:18:00 ipfsjRA60

 空から視線を下ろし、眼下に広がる街並みを俯瞰する。
 平和な街だ。過去、一番最初に訪れた時のこの街はどこもかしこも炎上して、地獄絵図の様相を呈していたが、"この"冬木にはそうした汚染の気配は全くない。
 所詮電脳世界、作り物の街なのだから当たり前と言えば当たり前だが、それでも立香は、これからこの平和が聖杯戦争の舞台となる事で崩れていくと考えると陰鬱な物が込み上げるのを禁じ得なかった。藤丸立香と言う少年は、善性に満ちている。七つの特異点を巡り世界を救った今でもそれは変わらない。彼は、悪の素養を全く持たない。
 その彼だからこそ、聖杯戦争に対して思う心は一つ。

> セイバー、居る?


「おうよ」

 呼び掛けに応えて実体化したサーヴァント・セイバーは、身長六尺を超える長身の偉丈夫であった。血染めの花を思わせる赤髪は毬栗のように逆立ち、東洋の英霊である事を同色の麻呂眉が物語っている。背負っている武器は、セイバーらしく大剣だ。彼の背丈に匹敵するその長さから、素人目からしてもかなりの破壊力を持つ武装なのだと言う事が解る。
 立香が初めて彼と対面した時、連想したのは第七特異点、ウルクで出会った数々の神霊達だ。イシュタル、エレシュキガル、ケツァル・コアトル等の錚々たる面々に限りなく近い物を、この英霊は有していた。そういう存在に慣れている立香で無ければ、対面の瞬間に腰を抜かしていたかもしれない。
 自分のサーヴァントが凄まじい、本来聖杯戦争に召喚出来る事自体が奇跡のような存在である事は、立香にも何となく解った。だからと言って立香は彼に萎縮したり、畏怖の念を抱いたりはしない。先程言った"慣れている"と言うのも理由の一つでは有るが、実のところ、其処にはもっと大きな理由が有る。――雰囲気だ。セイバーが醸している雰囲気は紛れもなく、立香を幾度となく助けてくれた人類史に名高き益荒男達のそれと同一の物だった。
 それだけで全面的に気を許してしまうなんてと、一般的な感性の魔術師には笑われてしまうかもしれない。だが、生憎とこの少年は合理的思考に基づいて行動し、人道に悖る行いも厭わない"魔術師"とは根本からかけ離れた人物なのだ。身も蓋もない事を言えば、魔術師としては大成しないタイプ。倫理の限界にぶち当たり、一定以上の成功を見込めない、魔術師と言う職にそもそも剥いていない人間。

 ――そんな彼だからこそ、人類史を取り戻せた。彼でなければ、世界は救えなかった。


「腹ぁ括ったって顔してんな。良いぜ、聞いてやろうじゃねえか。あんたは、どうしたい?」

> 自分は――

 願う事の意味は理解している。聖杯に願い、何かを叶えようとした者達の事を、立香はよく知っている。
 それは必ずしも、正しい行いではなかったかもしれない。それでも其処に有った願いだけは、否定してはならないと思う。数多のサーヴァントを使役し、絆を深め、彼らを理解してきた立香だからこそ、"聖杯で願いを叶えるのは間違っている"なんて陳腐な台詞を吐くことはしなかった。彼らの願いに嘘はなかった。どんな手段を使ってでも願望を成就させたいと願う心を否定すれば、それは今まで共に闘ってきた皆を侮辱する事になる。
 ――然し、この冬木の聖杯戦争に並び立った者達は、誰もが覚悟を決めて舞台に立った訳ではない。自分のように殆ど事故と言っていい"鉄片"の入手から迷い込んでしまった者も、セイバー曰く少なからず存在するとの事だ。そしてそうした巻き込まれた側、謂わば被害者達にも、聖杯の定める規範は容赦しない。敗者は消滅、死同然の末路を辿る。その事を、立香はどうしても受け入れられなかった。


15 : 藤丸立香&セイバー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:18:40 ipfsjRA60


  聖杯戦争を止めたい。力を貸してくれる?

> 誰かを、助けたい。力を貸してくれる?


 これが特異点なのかどうか、それすら立香には解らない。
 全ての終わりに出現すると言う聖杯が自分の知る通りの物であるのか、それを自分はこれまで通りに回収して持ち帰るべきなのか。カルデアからの指示が無い以上、立香は自ら選択し、決定しなければならない立場に有った。方針を定めるドクターも、万能の天才も、此処には居ない。如何なる時も無窮の盾で自分を護ってくれた穢れなき盾の少女(シールダー)の頼もしい声も無い。
 もしかしたらこの決断は、間違いなのかもしれない。誰かの尊い願いを踏み躙り、希望を消してしまう、蛮人の選択だったのかもしれない。自分が間違っていると言う可能性を捨てず、常に頭の中に置きながら、それでも立香は選んだ。誰が聞いても彼らしいと思うだろう、救済者の一手を。
 聖杯戦争を止めるのではなく、誰かを助けたい。其処に生まれる、非業の涙を掬いたい。
 いつだって、藤丸立香と言うマスターはそうだった。その戦いに関わる事に一切の得が無いと解っていても、そうしたいと言う気持ち一つで飛び込んでしまう。――今回も、いつもと同じ。世界を救っても尚、人類最後のマスターの大馬鹿は治っていないのであった。

「へ――上出来だぜ。あんたはこの俺様を召喚した果報者なんだ、そうでなくちゃいけねえ」

 そしてその無謀な選択を、赤髪の益荒男は豪放磊落な笑い声と共に賞賛した。
 もっとよく考えろだとか、本当にそれで良いのかだとか、そんな説教臭い事を言うのは野暮って物だと彼はそう心得ている。人間として生きてきた年月を含めても自分よりずっと年下で、うんと平和な市井で育ってきた男。そんな言ってしまえば普通の人間が、こうして無茶と解っていながら理想を貫こうとしているのだ。一体どうして、それを否定出来るだろう。出来るとしたら其奴は利口なのではなく、只の臆病者であるとセイバーは思う。
 先人として、サーヴァントとして。やるべき事は、おまえは正しいと認めてやる事だ。
 サーヴァントはマスターを教え導く師父ではない。彼らの戦いを支え、"勝利に"導く剣であり、槍であるのだから。

「俺も乗ったぜ、その話。一丁俺とお前で、無謀な挑戦ってのを貫いてやろうじゃねえか!」

> ああ。ありがとう、セイバー!

「良いってことよ。にしても、大したもんだぜ、あんた。
 言葉にしちまえば簡単だが、"誰かの為"に命を張るってのはとんでもなく勇気の要る事だ。余程、あんたの言ってた……特異点の戦いだっけ? それが素晴らしい物だったんだな。あんたを見てるだけで、よく解る」

 セイバーの言葉に、立香は静かに微笑んでみせる。
 それは間違いなく嬉しさ、誇らしさから来る笑顔であったが――何故か其処には、一抹の寂しさが滲んでいた。

> 失くしたものがあったんだ。そしてその分、手にしたものもあった
 
 世界を救う旅は楽しかった。天文台で過ごした一年間はかけがえのない時間だった。
 その分、失う物も有った。助けられなかったものも、思い知らされた事も、山のように有る。
 けれどその末に――少年と少女は、美しいものを見た。果てしなく広がる青空。2017年の空を。
 だからこそ自分は、帰らなくてはならない。あの天文台に。明日を手に入れた、可愛い後輩の待つ場所に。


16 : 藤丸立香&セイバー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:19:38 ipfsjRA60



「……成程なァ。俺があんたに召喚された理由が、何となく解った気がするぜ」

> え?

「まあ俺も――"俺達"にも、色々有ったんだよ。
 断崖絶壁なんて軽く見えるくらいの、深い絶望しかない戦いだった。勝ち目なんて、何時だって零に等しかった」

 セイバーは、懐かしそうに彼方を見据える。その瞳にはやはり、立香と同じく少しの寂しさが同居していた。
 永い過酷な旅の果てに、多くの別れと出会いを経て、何かを成し遂げた者の顔だった。
 ああ、と立香は思う。このセイバーも、自分と同じなのだ。

「一寸先も視えない暗闇の中を、訳も分からず足掻き続けて……漸く全てを理解して闇が晴れたと思えば、その先に広がってるのは更に馬鹿でかい闇だった」

 覚えは有る。
 初めて人理焼却の実行者と相対した時に覚えた絶望感は、全てが終わった今でも忘れられない。
 知る、と言う事は必ずしも希望ではないのだ。知ってしまったが故の絶望と言う物が、確かに世界には存在する。

「それでも我武者羅に闘って、闘って、闘って――最後には曙光を以って、無明の闇夜を打ち破った。
 あんたと同じだよ。俺も、世界を救った事があるのさ。とびきり愉快な仲間達と一緒に、失われる筈だった明日を奪い返してやった。ヒトとして過ごした時間は今思うと一時の夢のような短さだったが……ああ、何て言うんだろうなこういうの? 冒険絵巻ってのは格好が付かねえし、英雄譚とでも――」

> ……いや、それは違うよ

 セイバーがどんな戦いを繰り広げてきたのか、藤丸立香は知らない。
 正規の人類史に刻まれた戦いすら人並みにしか知らない彼が、多元宇宙の彼方、"神座"等と言う概念が存在した世界の戦いを知っている筈もない。それでも彼には、一つだけ解る事が有った。セイバーが最終的にどんな存在になったとしても、ヒトとして生きた時間が有るのならば、それは英雄譚の一言では片付けられない。
 人間の一生は永遠ではない。最後には苦しみが待つ、終わりへの旅路だ。
 だがそれは、断じて絶望なのではない事を、立香は知っていた。とある男に、そう教わったからだ。

 限られた生をもって、死と断絶に立ち向かう。
 終わりを知りながら、出会いと別れを繰り返す。
 輝かしい、星の瞬きのような刹那の旅路。
 これを、そう――

> 愛と、希望の物語

「へえ……ハハ、そいつは良い。案外良い事言うじゃねえかよ、誰かの受け売りかい?」

  うん

> ……ちょっとね


 人の一生を絶望と形容した魔神王に、ある優しい王はそう言った。
 無論、あの一年間だけが少年の人生だった訳ではない。これからもずっと、何十年も時間は流れていく。彼の人生は寧ろ、救い出した2017年から再スタートを切ったとすら言えるだろう。それでも、あの旅路を一言で言い表すとするならば、これだろうと立香は思った。そしてそれは、セイバーにしても同じ。数え切れない程の絶望と別れが有ったが、赤き益荒男は結果的に世界を救ったかの旅を、陰鬱で救いのない物だった等とは思わない。
 確かに愛は有った。確かに希望は有ったのだ。だから、世界は救われた。

「そんじゃ、早速行こうか主さん……いや、立香よ。何、心配するこたァねえよ。
 あんたが召喚した英霊は神州一の益荒男、覇を吐く曙光の伊邪那岐だ。誓って無様に負けはしない」

> そっか――よし。行こう、セイバー!

「応ともォッ!!」

 
 斯くして――嘗て世界を救った者達の聖杯戦争が、勇ましくその幕を開けた。


17 : 藤丸立香&セイバー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:20:14 ipfsjRA60
  ◇  ◇



 天(かみ)を知らぬ。
 地(みち)を知らぬ。
 死後の浄土も奈落も何も、概念自体存在せぬからこの生にのみ総てを欲する。
 他者への敬意や友情、愛など、つまるところ素晴らしき我を彩る風流に過ぎない。


 その咒、大欲界天狗道――魂の消えた魔界の理。
 誰もが己を神と崇め、ゆえに誰も神に成れない。
 嘗て何処かの宇宙を、そんな理が満たしていた。
 自愛こそ正道、利他は気狂いの思想である。
 そんな孤独の宇宙(ソラ)は、然し今となっては、無限に広がる多元宇宙の何処にも存在しない。

 
 神が宇宙を統治する世界。
 一つの治世を終わらせる為には次代の神かその自滅因子が働くしか無いにも関わらず、自愛の天を統べる邪神は余りにも強大で、無比なる者であった。数言の呟きで幾つもの宇宙を滅ぼし、腕の一薙ぎで神と呼ばれる存在を粉砕し、視認しただけで魂が自壊しかける程の質量を持つ――外道狂天狗。
 然し天が滅びた以上は、かの天狗もまた滅ぼされたと言う事。黄昏時を滅ぼして具現した綻びのない最強の闇夜を照らしたのは、本来彼の宇宙では生まれ得ぬ絆の光。夜明けを告げる曙の光は、眩き命の輝きで以って天狗を消し去った。
 最期に邪神に引導を渡したのは、絶対無欠の神の自我を持つ畸形嚢腫のその触覚。自愛の神に見付かる事を恐れ、震え、何もかもを忘れ去っていた触覚が、仲間と触れ合う中で確たる力を得、自閉の闇夜を打ち破るに至ったのだ。


 その後神として新たな宇宙の統治に携わったとされる男の神号を、伊耶那岐命。
 
 そして、彼が地上を生きる人間であった頃の名前を――坂上覇吐と言った。



【クラス】
セイバー

【真名】
坂上覇吐@神咒神威神楽

【ステータス】
筋力A 耐久A+ 敏捷C 魔力B 幸運A 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:B
 騎乗の才能。
 大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。


18 : 藤丸立香&セイバー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:20:52 ipfsjRA60

【保有スキル】
神性:A++
 求道神・伊邪那岐命。
 一つの宇宙を統べた最高位神格の一人。
 化外を生まぬ八百万、他者の法あってこそ初めて機能する絆の覇道――天照坐皇大御神の理に所属した彼の神性は本来EXランク相当、聖杯戦争に召喚できる存在では断じてない。
 今回セイバーは自身の神性をランクダウンさせ、サーヴァントの規格まで自分を矮化させて参戦している。

心眼(真):A
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
 逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

勇猛:A
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

戦闘続行:A+
 往生際が悪い。
 霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。

邪神の畸形:-
 宇宙を残して邪神は消滅し、最早自愛の兆しはない。
 このスキルが失われていることこそが、セイバーとその仲間達の勝利の証である。

【宝具】
『刃・無銘』
 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1〜50
 坂上家に代々伝わる無銘の刃。平常時は大剣の姿をしているが、特殊な過程を踏むことで形状が変わる。
 全部で六つの形態を持ち、六つ目だけは別な宝具としてカウントされる。
 基本形態の大剣、鞭のように撓り攻撃予測を困難にする蛇腹剣、待ちの戦法にて強みを発揮する大鋏。
 気を砲弾のように放つ砲、そしてギロチンのように首を刈ることに長ける処刑鎌。
 夜都賀波岐の主柱である天魔・夜刀に引導を渡した"神殺し"の逸話から無銘の刃でありながら宝具としてのランクが高く、神性を持つサーヴァントには特攻効果を持つ。

『桃花・黄泉返り』
 ランク:C++ 種別:対異能宝具 レンジ:- 最大補足:1
 セイバーが所有する異能・歪み。敵の異能に対する不死性と反射特性。
 彼が異能による攻撃を受けた場合、彼の総体を五百と仮定。その身に受けた歪みが千だとして、そこでセイバーは死ぬ。 だがこの宝具は受けた異能を増幅し、千五百の力を発生させる。内五百の力を使ってセイバーは蘇り、残った千の力を攻撃を放った対象に跳ね返す。ただし、その増幅率は必ずしも一定ではない。
 その性質上異能飛び交う戦闘で死ぬ確率は零に近いが、肉体的損傷は当たり前に被るため、致命傷を負っても死ねないという拷問に等しい難点もある。
 使用には甚大な負荷が掛かり、食らう死が強大であるほど元の彼に戻れる保証はない。常に発狂の危険が付き纏う。
 また歪みを跳ね返す対象は指定が可能。敢えて味方から異能攻撃を受け、多くの歪みの特性を合成した攻撃を放つことも可能。


19 : 藤丸立香&セイバー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:21:17 ipfsjRA60

『曙光曼荼羅・八百万』
 ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:1〜10000 最大補足:∞
 かつて邪神・第六天波旬を打ち破り、大欲界天狗道の治世を終わらせた曙光の一閃。
 矮化した今の彼に、この宝具を使用する手段はない。
 仮に聖杯戦争に参加した全てのマスターの令呪や魔力を燃料として燃やし尽くしたとしても、発動の前兆すらお目にかかることは出来ないだろう。

【weapon】
『刃・無銘』

【人物背景】
 邪神の理を打ち破った曙光の戦士達、その一人。
 黄昏を閉ざした無明の闇は、曙の光にて切り払われた。

【サーヴァントとしての願い】
 立香のサーヴァントとして行動する。
 ――聖杯戦争にはどうもきな臭い物を感じる為、決して気は抜かない。


【マスター】
 藤丸立香@Fate/Grand Order

【マスターとしての願い】
 カルデアに帰る。救える者は救う。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 魔術礼装を装備しており、それを用いてサーヴァントの戦闘をサポートする事が出来る。
 使えるマスタースキルは
 ・サーヴァントの攻撃火力を強化する"瞬間強化"
 ・傷を回復できる"応急手当"
 ・攻撃の回避をサポートする"緊急回避"
 の三つ。

【人物背景】
 男主人公。通称ぐだ男。
 人理継続保障機関カルデアのマスター候補の中から、ただの数合わせとして呼ばれた素人の日本人。
 自分に出来る事を、出来る範囲で努力する。
 出来ない事なら、出来る範囲に収めようとする。
 先達の助けを借りて、未来を夢見ている。
 絶望的な状況下でも、人間として正しく抗い続ける。
 時折挫けそうになる――振り返りもする。
 だが、足を止めるのも振り返るのもほんの一瞬。そんな人物。

 最初のレイシフト実験からは外されていたのだが、それが功を奏してレフ・ライノールの仕組んだ爆発事故に巻き込まれる事なく生存。以降、最後のマスターとして人理焼却を目論む魔術王との戦いに身を投じる。
 そして彼は、人理焼却を食い止める偉業を成し遂げた。一年の旅の果て、少年は少女と共に青空を見た。

【方針】
 聖杯戦争からの脱出手段を探しつつ、自分のように望まれずして巻き込まれたマスターを可能なら助ける。


20 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/10(金) 22:22:21 ipfsjRA60
以上でルール、OP、候補作の投下を終了します。
企画の運営を行うのは初めてなので至らない点が多々あるかと思いますが、どうぞ暖かく見守って戴ければ幸いです


21 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:38:20 5TFgzuAY0
早速ですが二つほど投下させて頂きます。


22 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:40:27 5TFgzuAY0
すみません、もう一つは書きかけなので一つだけ投下させて頂きます。
フリー化させていただいた物ですが再利用して投下します。


23 : 紀田正臣&キャスター ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:41:21 5TFgzuAY0


黄巾賊という盗賊が、後漢の末期に現れた。
文字通り黄色い布を髪に巻いた彼等の勢力は日に日に増していた。
そしてそれらを仕切っていたのが、張三兄弟の長兄張角であった。
だがその張角が病死したと共に、黄巾賊は散り散りになり組織は破綻した。


だが、黄巾賊は滅びてはおらず、国中に散らばった残党達は今だに略奪を繰り返していたとか。



◆  ◆  ◆

そしてその黄巾賊の名を冠した巨大な不良集団が、この日本に存在していた。
黄色い布を何処かに身につけた集団、黄巾賊。
その勢力は次第に増しており、勢いこそその名に恥じぬものだった。
だが賊党の名は子供のごっこ遊びで付けた物であり、彼等は碌に喧嘩というものをしていない。
結局は中高生が群がって出来たカラーギャング集団に過ぎない。

その「黄巾賊」の集会が先程終わった。
もう機能していない廃工場に、黄色い布を付けた者達が規律正しく成立し、リーダーらしき少年の気だるげな演説を耳に置く。
時折態度が乱れた者が棒で突かれ、それをリーダーが宥めてまたミーティングが再開。
そんな流れが何時もの様に続いていきながらも、集会は続いていく。

そして演説が終わり、各メンバーは散り散りになって出口に出て行く。
それをステージの上で見届けていたリーダーの少年……紀田正臣は、建物にいるのが自分一人になった瞬間、丁度後ろにある椅子に勢い良く座り込む。
そして溜息を付けば、無気力な、しかし非常に苛立ちの混じった言葉を吐く。

「あーもうどうしてこうなるんだよ!」

あの時、ダラーズと、帝人と戦うと決意した直後に、このザマだ。
まるで落とし穴にでも落とされたかのように、正臣は突然この世界に来てしまった。
住んでいる場所が池袋ではないこと、自分が黄巾賊に復帰していること、予選突破の武器には十分過ぎる程違和感があったため、辛うじて今右掌には令呪が宿っている。
沙樹のことを考えれば、己が黄巾賊にいること自体が変だが、幸い沙樹は無事だとのことだ。
折原臨也の姿は今の所確認されていないのだが、やはりその御蔭なのだろうか。

彼のいつもの軽快な態度はやや鳴りを潜め、軽快さを体現していたはずの彼の顔には悔しさの篭った表情が浮かんでいた。
正臣は自分をこんな聖杯戦争という儀式に呼び込んだ連中が苛立たしくてしょうがなかった。
あの池袋にまた戻り、碌でもないことをやらかした彼奴を殴り飛ばそうとしたと決めた時に、この世界に来てしまった。
未だ黄巾賊の再結成すら出来ていないというのに。
大体願いをかけて殺し合いだなんて何だ、ゲームの世界か。
いや、その手のゲームはやらなかったけれど、狩沢さんや遊馬崎さんとかならともかく。

「ったく、俺はこんな日常なんで望んでねーってのによ……。」

もう最悪だ。
やりたいことやろうとしてこの有様かよ。
確かにゲームの世界に入り込むだけなら悪くはないかもしれない。
だが出られないとはどういう事だ、信じられるか。

願いならあるが、それは元の世界に帰ってからの話だ。
とにかく、正臣はこの聖杯戦争から抜け出したいと考えている。

「聖杯戦争」

1つの願望機を巡って、サーヴァントという使い魔の手綱を握り、「殺しあう」儀式。
それが脳内に送り込まれた聖杯戦争の概要だ。
殺し合う儀式だなんて信じられるか、どっかの映画で観た魔法使いだってこんなトチ狂ったことはやらない。
生命の取り合いというなら、もうブルースクウェアとの抗争で慣れっこだ。

だが人間同士での生命の取り合いとは訳が違う。
此処で戦うのは「サーヴァント」という使い魔だ。
折原臨也、平和島静雄、首無しライダー、そして切り裂き魔。
詰まる所あのような連中がゾロゾロいるという事だ、殺す気かとでも言いたくなる。
というか、もう言っている気がするのだが。

(でも、こんな所で立ち止まるわけには……いかねえんだよな……)

そうとは言うものの、少なからずとも正臣は戦いに乗ることを決めている。
殺し合うのははっきり言ってゴメンだ。
何度抗争を繰り返そうが、そんな気持ちは変わらない。

正臣だって人間だ、人は殺せない。
あの情報屋が聞いたらバカげたことを抜かしてくるだろうが、それは事実だ。




◆  ◆  ◆


24 : 紀田正臣&キャスター ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:41:39 5TFgzuAY0


「どうした、小僧?」
「うっ!」


不意に聞こえた背後からの声に、正臣はビクッと背筋を震わせる。
その声はしゃがれてはいるが、しかし威厳のある声であった。
振り返ってみると、其処には兜を被った白髪の老人がいた。
眼帯が付いていない方の目で正臣を睨みつけるその眼光には、威厳すら感じさせる。
彼の名は「キャスター」、紀田正臣のサーヴァントとして現界した英雄である。

「あ、いや何って、男なら無論美女をナンパする事に決まっているじゃん!」

自分の悩みを誤魔化そうと、正臣は笑顔を作り虚言を吐く。
実際に正臣はそんな事をよく言う人物だと認識されている、これならキャスターだって……

「そうか、私にもその様な戯言を吐く『仲間』がいたが、少なくとも、先ほどの貴様程思い詰めた表情では言ってなかったぞ。」

老人が如何にも「呆れました」とでも言いたげな表情で正臣を見つめる。
それを見てやや冷や汗をかいた正臣は、ハァっと溜息を付いた後、椅子をズリズリと引きずってキャスターの方に身体全体を傾けた。
そしてもう一度溜息を付いた正臣は、思い切った表情を見せ口を開く。

「分かった、話すよ。」
「やはり、何か悩み事を抱えているのか。」

脱力気味な姿勢で椅子に座っている正臣を、憐れむかのようにキャスターは見つめる。

「……そういやさ、アンタにはまだ話していなかったっけ、俺の願い。」
「ほう?やはり貴様にも願いはあったのか。」
「ああ、まぁな……。」

其処まで言った後、正臣は一度目をつぶり、引き締まった表情と共に目を開き握り拳を天井に掲げる。

「殴りに行くんだよ、俺のダチを……」
「ダチを……仲間か。」
「そうだよ、其奴さ、どっからどう見ても普通の奴なんだけれど、今、彼奴が入ってはいけない場所に入り込んじまったんだ。
彼奴には、平凡すぎるほどに平凡な日常が一番似合っているはずなんだよ、なのにあの馬鹿野郎は……勝手にブクロの闇に入り込んじまって……」

正臣は、流れ出ようとする水を抑えるかの如く苛立ちを堪えようと、歯をギリギリと食いしばる。
正臣の無二の親友である竜ヶ峰帝人は、何処からどう見ても普通の高校生であった。
少なくとも、池袋の闇に入り込むには余りにも不相応な人種であった。
紀田正臣とは違う世界で生きるべき人間であった、「向こう側」等行く必要は……いや、知る必要すらなかった。

だが、結局彼は入り込んだ、まるでパンドラの箱を開けるかの如く。
そんな風になってしまった友を止めてやるのが、同じく友である自分の務めではないのか、と正臣は考える。
彼がどうしてこうなったのかは知らない、彼が何をやりたいのかは知らない。
だが、帝人が「向こう側」に行こうとすることだけは何としても阻止してやると。

「キャスターのオッサン、俺乗るわ、聖杯戦争。」
「やはりか、だが人を殺めることは―」
「分かってるよ、俺だって其奴はゴメンだ。」

まるで図星を突かれたような苛立った表情をキャスターに見せつけた正臣は、キャスターを真剣に見つめ、言葉を続ける。

「だからさ、ちょいとマスター殺るのは勘弁してくれよ。
サーヴァントなら構わねえけれど、流石にただの人を殺す勇気は、俺にはねえからさ。」
「分かった、私とてサーヴァントだ、貴様の命令は尊重しよう、しかし、これからどうする?如何にして戦う?」

それを聞いた正臣は、ハァ〜っと溜息を上げて干された布団のように背もたれに寄っかかる。

「それなんだよな……確かサーヴァントって、其処らのチンピラと違ってちゃっちゃと殺れる様なモンじゃないんだろ?」
「そうだな、サーヴァントは常に姿を隠している、何時どんな時に我々が狙われるか知れたことではない。」

冷たい顔でキャスターはうんと頷き、言葉を続ける。

「だが、陣地を転々とすることは可能だ。私の宝具でなら、それが出来るだろう、外に出てみろ。」

キャスターの言う通りに、正臣は椅子から立ち上がり、ステージから飛び降り、出口に向かって走る。
そして出口から出た時に眼にしたものは……


25 : 紀田正臣&キャスター ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:41:59 5TFgzuAY0

「オイオイ、戦艦って……マジかよ。」

其処にあったのは、まるで中世ヨーロッパの伝承にも出てきそうな、木製の戦艦だった。
それが、海ではなく、陸に置いてある。
幾ら首なしライダーや切り裂き魔が跋扈するブクロの空気が染み付いているのか、正臣はさほど驚いた様子を見せなかった。
いや、口はパッカリ空いているのだが、しかしリアクションは薄い方だ。
大体、この世界もこの世界で英霊なんぞがうろちょろしているんだし。

「この宝具は、私の力の要とも言える重要な存在だ、これが破られれば、我々の戦力は落ちるだろう。
故に、一定の場所に置くのには無理がある。」

後ろからキャスターがゆっくりと歩きながら説明を付け加える。

「つまり、どういうこと?」

正臣がキャスターの言う事を問いただす。

「此奴に乗って移動しておけ、と言う事だ。」

そう言うと、キャスターは正臣よりも前の位置にまで歩き、船に乗り込もうとする。

「ちょ、オイ、勝手に置いてくなって!ていうかさぁ、俺も一応子分いるわけだしどーすんの!」
「集会には帰れば良いだろう、マスター、貴様も乗れ。」
「勝手な奴だなぁオイ!後我儘な女とのクルージングなら嬉しいけど爺は好みじゃねぇぞオレは!」

そう言いながらも、正臣はキャスターの後を追う。



◆  ◆  ◆


―仲間、か。
マスターたる彼の願いを聞いたキャスター…「マスター・ハデス」は、嘗て自分がギルドマスターの座を譲った男を思い出す。
彼はギルドを護るためにと己と戦った。
幾ら老いるまで研鑽を積もうが、元より経験と才能に恵まれ魔法の根源を目指し続けたハデスとの差は歴然だったはずだった。
結果その男は敗れた、ハデスに言わせれば当然の結果だった。

だがその男達の意志を継ぐギルドメンバー達はその限りではなかった。
彼等の前に七眷属は倒れ、自らも眼帯を外す羽目になった。
それでも勝てなかった、彼等の連携には為す術もなかった。
魔法の根源を具現化させた力をもいなした物、それは「仲間」の存在だったという。

そして、それは全て貴方から教えてもらったことだと、現マスターは答えた。
「力」に固執する余り、己は最も大事にしていた存在すら忘れてしまったのだ。
やがて彼の前に立ちはだかったのは、嘗て自らに魔法を教えてくれた少年だった。
その絶対的な力に為す術もなく倒れたハデスは、今のギルドのメンバー達の姿を思い浮かべる。
その仲間達と明るく騒ぐ彼等の笑顔は、「彼女」に良く似ていた。


自分をこの場に蘇らせた少年は、今「仲間をぶん殴る」と言った。
現マスター……マカロフも、嘗て自分に立ちはだかった時その様な事を口にしていた。
やはり、メイビスと言いマカロフと言い彼と言い、やっぱり自分は「仲間想い」な連中と縁があるのだろうか。
ギルドを抜けようが、闇魔術に傾倒しようが、座に登ろうが、やはり己は仲間の存在を出会いを重ねる度に教えられるのだろうか。
「大魔法世界」を見るために現界したのは良いが、まさか己を喚んだのはこの様な男だったとは。

無論聖杯は手に入れる、それは変わらない。
魔法の根源とやらに繋がるほどの膨大な魔力を持つ聖杯。
それが手に入れば、己の願いも自ずと叶うだろう。
嘗て眼にしたゼレフの力を、いや、それ以上の価値を有する可能性のある魔力の塊を、手放してどうする。

だが、一方でマスター・ハデスはこの少年の手助けになりたいとも思っていた。
嘗て己は、後を継いでいく仲間達に教えたはずの「仲間の大切さ」を忘れてしまった。
だがこの少年は「仲間」を殴りに行く事が願いだという。
嘗てキャスターが喰らった仕打ちと同じことを、この少年はやろうとしている。


―全て、貴方が教えたことです。


嘗て、己がギルドを託した愛弟子が放った言葉が、ハデスの中で反芻する。
仲間を想い、支え合う心。
思えば自身も、少女メイビスによってそれを教えられた男の一人だった。

(私は絆を捨てた……)

大魔法世界の実現。
ハデスはその為に、今迄護り続けてきた「絆」を捨てた。
そしてその果てに、己はその「絆」とやらに敗れ去った。
だが、彼の絆を支えてやりたいと言う想いは紛れもなく、彼があのギルドの一員であった証である。


26 : 紀田正臣&キャスター ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:42:17 5TFgzuAY0


【クラス名】キャスター
【出典】FAIRY TAIL
【性別】男
【真名】ハデス(ブレヒト・ゲイボルグ)
【属性】混沌・悪
【パラメータ】筋力C 耐久A 敏捷B 魔力A+ 幸運D 宝具A++

【クラス別スキル】

陣地作成:-
自らに有利な陣地を創り出すスキル。
このスキルは陣地となる宝具と引き換えに失われている。

道具作成:C
魔力を帯びた器具を創り出すスキル。
魔法関連の道具を作り出せる。

【固有スキル】

高速詠唱:A
魔術詠唱を早める技術。
フィオーレ王国に蔓延る魔導師はどうやら全員このスキルを習得している様である。

魔眼:A
キャスターが持つ「悪魔の眼」。
万物を見通し、更に悪魔の召喚や膨大な魔力の生成をも行う。
実質的には「使い魔(悪魔)」「魔力放出」のスキルを兼ねている。

戦闘続行:C
往生際が悪い。
致命傷を受けない限り戦闘を続行する。

カリスマ:E
人々を導く天性の才能。
一ギルドを率いるには十分なランクである。

【宝具】

「悪魔の心臓(グリモアハート)」
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:99 最大捕捉:1000
キャスターの陣地にしてギルドの本拠地たる戦艦。
キャスターが率いた闇ギルド「悪魔の心臓(グリモアハート)」が宝具化した物でもある。
ギルドの名を冠した心臓の運び船。
強力な魔力炉「悪魔の心臓」を内蔵した魔力炉が積んである。
これこそがキャスターの強さの秘訣であり、これが破壊されればキャスターの力は大幅に減少する。
また、ギルドが宝具になった物でも有るため、船内で「煉獄の七眷属」を初めとするギルドメンバーを召喚することも出来る。
ただしウルティア、メルディは他のギルドに乗り換え改心したため、召喚に応じない可能性もある。
其の上一度消滅したギルドメンバーは召喚が不可能となる。
これのお陰で、キャスターは「ライダー」の適性も持ち合わせている。

「悪魔睨見・天罰(ネメシス)」
ランク:A+ 種別:対魔術宝具 レンジ:10 最大捕捉:-
キャスターが持つ魔眼。
ゼレフ書第四章十二節の裏魔法を発動する闇の魔術。
普段は封印されているが、眼帯を外すことで開放される。
キャスターに膨大な魔力を与え、地から悪魔を召喚することも出来る。
更に魔力を闇のオーラに変え、魔弾に変えて撃つ等、非常に強力な魔術を放つ。

【人物背景】

魔導師ギルド「妖精の尻尾(フェアリーテイル)」の二代目マスター。
その魔法の腕は天才として讃えられたが、ある時マカロフにギルドを託して突如ギルドから去る。
しかし彼は闇ギルド「悪魔の心臓(グリモアハート)」のマスターとして生きていた。
そして彼はより強大な黒魔術を手にするため黒魔導師ゼレフを求め、妖精の尻尾の聖地たる「天狼島」へとやってくる。
魔道戦艦と「煉獄の七眷属」を従えS級昇格試験で此処に来ていた現「妖精の尻尾」の魔導師達を苦しめるが、紆余曲折の末に煉獄の七眷属は全て倒される。
遂に己が出陣する羽目となり、マカロフを圧倒した後自らも出て、「妖精の尻尾」の主力メンバーを終始圧倒する。
だが己の魔力の元となっている魔道戦艦の魔力心臓を破壊され、それでも尚戦い続けるもとうとう敗れる。
そして覚醒し「怒った」ゼレフに一瞬で倒され、息絶える。
冷酷非情な性格だが、何処か不器用な一面もある。
その冷静沈着な性格はメイビスと出会った時点で変わらなかった模様だが、嘗てはメイビスには心を開いていた。

【聖杯にかける願い】

ゼレフの力を目覚めさせる。

【基本戦術・方針・運用法】

陣地を戦艦とする、どちらかと言えばライダー寄りなキャスター。
しかしゼレフに手ほどきを受けているハデスの魔導師としての腕前は本物で、「グリモア・ロウ」や「天照」等の強力な術を司ることが出来る。
宝具である魔眼を使えば使い魔とオーラを扱った戦闘を行うことも可能だが、キャスターにも弱点はある。
戦艦にある心臓を破壊されれば、キャスターの力は減少する。
それでもギルドメンバーの召喚能力は相変わらずなので、まずはギルドメンバーを使って自分は様子見をしておくのが一番であろう。


27 : 紀田正臣&キャスター ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:42:37 5TFgzuAY0


【マスター名】紀田正臣
【出典】デュラララ!!
【性別】男


【能力・技能】

・腕っ節の強さ
カラーギャング元頭領なだけあって、相当な実力だったかと思われる。
と言うか彼の腕っ節も黄巾賊の勢力拡大に関わっている。

・「黄巾賊」
三国志演義において悪名高い同名の賊軍をモチーフにしたカラーギャング集団。
正臣はそこの頭「将軍」であった。
彼が抜けてからも、その勢力は大幅に拡大。
ダラーズに負けず劣らずの一大組織と化してしまった。
このロールにおいても黄巾賊は健在で、正臣もリーダーに復帰している。


【人物背景】

池袋に住む高校生。
なのだが、嘗てはカラーギャング集団「黄巾賊」のリーダーで、そこでは「将軍」と呼ばれていた。
だが恋人の三ヶ島沙樹を切り裂き魔にやられたことをきっかけに黄巾賊を抜け出す。
それからは幼馴染の竜ヶ峰帝人や、クラスメートの園原杏里と一緒に平凡な日々を送っていた。
しかし彼もまた、必然的に非日常に戻る羽目になり、「首なしライダー」や「切り裂き魔」に関わる事になる。
やがて彼は、帝人がカラーギャング紛いの交流サイト「ダラーズ」の組織力を拡大していき暴走していったことを知る。
正臣は親友を殴り飛ばすため、再び黄色い布をその身に纏った。


陽気な性格で女の子をナンパするのが趣味。

今回は、ダラーズと戦うために黄巾賊に戻る直前からの参戦。

【聖杯にかける願い】

帝人を日常に引きずり戻す。

【方針】

参戦派だが、人を殺すことにはやや躊躇がある。


28 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:44:37 5TFgzuAY0
投下を終了します。
それと、もう一つ投下させて頂きます。


29 : ザック&ランサー ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:45:20 5TFgzuAY0
◆  ◆  ◆




このステージ/サーキットで、俺達は踊り/走り出す。




◆  ◆  ◆


「おい!見ろよチームバロンのダンスだぜ!」

とある街の広場。
其処でとあるストリートダンサー達のダンスが行われている。
中世ヨーロッパの貴族を意識したジャズ風の西洋風の紅い衣装に身を包んだ男性達が、ステージ上でジャズを踊る。
周囲に多くの人達が集まり、ダンサー達に喝采を送る。
ストリートダンサー達の名は「チームバロン」。
此処らで「ビートライダーズ」と呼ばれるダンスチーム達の中の一つである。

「チーム鎧武」
「チームレイドワイルド」
「チームインヴィット」
「チーム蒼天」
「チームレッドホット」

ビートライダーズとは、此処らの街にある、様々なチームで構成されているストリートダンサー達の事である。
街中にあるステージを各チームが所持し、其処で音楽(ビート)に乗って踊るもの(ライダーズ)。
それがビートライダーズである。

チームバロンは、そんなチームの中でもトップクラスに上手だと評判のあるダンスチーム。
彼等のポップに乗りながらの華麗なダンスからは衣装も相俟って、貴族のような優雅さが現れていた。

ダンスが終わり、観客達からの拍手が鳴り響く。
チームバロンのメンバー達はそれに応え手を上げながらも、クールに立ち去っていく。

彼等に向かって手を振る観客達の中に、一人のドイツ人男性がいた。
その男性が振る掌には、魔法陣の如き紋章が刻まれていた。


◆  ◆  ◆


この広場の近隣に、「シャルモン」と呼ばれるケーキ店がある。
店を開いたのは、10年間フランスで修行してきた一人の男性(?)。
クープ・デュ・モンドのトロフィーを取りルレ・デセールに所属している彼の作る味は、客からも大好評。
今ではこの街でも一二を争うグルメスポットとなっている。

「上手かったぜ、お前達のダンス。」

二人組の若い男性が、店の窓沿いにある丸いテーブルを独占していた。
赤い髪を生やしたドイツ人青年のいる席には苺の乗ったドルチェが、チームバロンのダンス衣装を着た青年の席には、とぐろを巻いたモンブランケーキが置いてある。
其処でチームバロンのリーダー、ザックは、向かい側に座る男性の褒める言葉に答える。

「ありがとな、そう言われてこそ、俺達も踊りがいってのが有るもんだ。」

後は足の傷だな、と言おうとした所で、ザックは無意識に口を塞ぎ込む。
そしてケーキをまたフォークで切り分け、パクリと口に入れる。

「それで、これからどうするつもりなんだ?マスターは。」

ランサーが突然話を切り出す。
―忘れていた。
今自分がいる場所が沢芽市ではなく、何処か知らない町だと言う事を。
そして自分が、「聖杯戦争」と言う訳のわからぬ催しに巻き込まれているという事を。

ザックが聖杯戦争のマスターである事を自覚して、1日程の月日が立つ。
取り戻せたのはそう難しくは無かった。
此処が沢芽市で無いこと。
身に覚えがない足の傷。
自分の身の回りを囲む環境に対する違和感は、そう遠くは感じなかった。

今目の前にいるドイツ人の青年が、ザックの喚んだサーヴァントだ。
クラスはランサー、槍を扱う英霊。
彼が戦う姿は、ザックも一度目にしている。
今でこそ人間の姿だが、彼は戦闘時には、化物に変身する。
真紅の槍を振るう禍々しいその姿は、嘗てザック達が戦ったオーバーロードを想起させた。
ランサーが切り出したその質問に、ザックは暫く黙り込む。
その間にケーキを一口入れ、もぐもぐと咀嚼する。
ゴクリと飲み込んだザックは、真剣な目でランサーを見つめ、答える。

「俺は戦わない。」
「ハァ?」


30 : ザック&ランサー ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:45:42 5TFgzuAY0

ザックに、聖杯を必要とする程の願いはない。
彼は、聖杯と同じような力を持つアイテムを、一つ聞いたことが有る。

―知恵の実。

嘗てチーム鎧武に所属し、時には対立し時には共に戦った男、呉島光実によれば、それは多種多様な伝承に渡って登場する物らしい。
曰く、それを手にした物は、世界を書き換えられる程の力を手にする、とか。
ザックは、その禁断の果実に手を伸ばした、二人の男を知っている。

葛葉紘汰と、駆紋戒斗。
二人にはそれぞれ、譲れない願いがあった。
紘汰は、今ある世界を護るために戦った。
戒斗は、今ある世界を否定するために戦った。

きっと戒斗は、強者に蹂躙される弱者が許される世界を、何処かで望んでいたのだろう。
しかし勝ったのは、そんな世界を許した紘汰だった。
知恵の実を手に入れた紘汰はこの星を去った。
最後に出会ったのは、確かメガヘクスを倒した時だったか。

「俺に、聖杯を望めるほどの願いは無ぇ。
第一、彼奴みたいに、この世界を変えようとも思わないし、彼奴が望んだ世界を、ぶち壊すわけには行かねぇ。」

確かに聖杯を手にすれば、あらゆるものが手に入るのかもしれない。
しかしそれは、紘汰や戒斗、皆のこれまでの戦いを、無駄にしてしまうことにも繋がってしまう。
だから、紘汰が勝ち取った世界を護るために。
戒斗の戦いを無駄にしないためにも。
紘汰の望む世界を壊さないためにも。

「だから、俺は聖杯をぶっ壊す。
俺は知っている……願いを叶えるために、その身を散らしていった奴がいるってことを。
もうあのような事は起こしたりはしねぇ、絶対にさせねぇ。」

ザックはそう言いながら、フォークを握りしめた手により一層力を込める。
己の方針は、この世界からの脱出。
犠牲を出さずに聖杯を破壊し、元の世界に帰ることだ。

「それに……」

更に、ザックが言葉を付け加える。
ランサーがそれに頷く。

「こんな所でくたばっちまったら、ペコやアザミさん、ミッチに城之内、元の世界にいる皆に、申し訳が付かなくなっちまうからな。
折角チームバロンの名を貰ったばかりだっていうのに……無様にくたばった姿を、戒斗に見せるわけにも行かねえしさ。
元の世界にいる仲間達の為にも、ダンスという夢を叶えるためにも、俺は帰らなくちゃならないんだ。」
「……っ!」

仲間、夢。
その二つの言葉に、ランサーの目がより一層見開く。
それから一旦、何かを考えるかのように俯く。
しかしランサーはニヤリ、と笑い弧を描いた口を開く。

「夢を叶えるため、仲間のため……か。
良いぜ、これなら俺も、俺の戦いたいように戦える。」

フッと笑うランサーに、ザックもハハっと笑い返す。
そして、ランサーは再び顔を引き締め、何処か暗い眼差しで言葉を続ける。

「夢も仲間も、一度喪ったら二度と手に入らない、掛け替えのないものだからな。
絶対に無くしたりしないよう、大切にしておけよ。」

その言葉に、ザックもまた顔を引き締めて答える。

「ああ、分かっているさ。」

ザックはそう答えてフォークを手放し、ジャケットの裏側に手を突っ込む。
取り出したのは、一個の錠前。
クルミロックシード。
異界の果実「ヘルヘイム」の果実を加工したアイテム。
沢芽市のビートライダーズの中で「インベスゲーム」と呼ばれる遊びが流行っていた時に、ザックが扱っていた物。
今では、ザックが変身するアーマードライダー「ナックル」の変身アイテムとなっているのだが。
「LS.02」と刻まれた識別番号の煌めくクルミロックシードを、己の意志を示すかのようにザックは掲げる。


31 : ザック&ランサー ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:46:01 5TFgzuAY0

「頼りになれる、と胸張って言い切れる訳じゃねえが、宜しく頼むぜ、ランサー。」

それに力なく笑ったランサーも、右手でパーの形を作って掌をザックに見せつける。
其処には、奇妙なローマ数字の書かれた丸い紋章が刻まれていた。
ザックに見せた掌を見つめたランサーは、ウン、と頷き、掌をザックのクルミロックシードに叩きつける。

「ああ、宜しく頼むぜ、マスター。」
(……ワリィ、アマンダ、また言いそびれちまった)

ランサーのサーヴァント、ヘルマン・ザルツァ。
彼には、ほんのちょっとした未練があった。
一人の女性に告白する、と言う些細な願いではあるが。

―言った所でまたビンタされんのがオチかと考え、ヘルマンはハァと溜息をついて項垂れる。

「どうした?」
「何でもねぇよ!」

仲間のことを考えていることを知らぬザックに、ランサーは怒鳴り散らして返す。

「お客さ〜ん!静かにしてくださ〜い!」

店員であるチーム・インヴィットのリーダー、城乃内秀保の声が、厨房から響き渡る。
その言葉に、ランサーはバツの悪い表情をして黙り込む。


◆  ◆  ◆


「よお、初瀬!」

あれから30分後。
長いことテーブルを独占していたザックとランサーは、会計のレジへと向かう。

不機嫌そうな表情でレジに立っていたのは初瀬亮二。
ビートライダーズ「チーム・レイドワイルド」のリーダーだった男だ。
しかし、ザックのいた世界では、彼はもう死んでいる。
と言っても、それは呉島貴虎から後に聞いた話なのだが。

このロールでは、初瀬は城之内共々凰蓮に捕まり、今こうして店員として働いている、と言う事になっているらしい。
一応、ビートライダーズは趣味として続けて入るそうだが。

「お会計は全部で2300円です。」

初瀬の、らしくない棒読みのぎこちない丁寧語が聞こえてくる。
ザックは此処で、ちょっとニヤリと笑う。

「なあ初瀬、折角の好だし奢ってもらえねぇか。」
「奢るわけねぇだろ、俺達のステージをこないだ奪ったくせによ。」

結局、ザックは財布から千円札二枚と五百円二枚を抜き取ることになった。


帰りはランサーのバイクに乗って、街を走ることに。
戒斗や光実が乗っていたロックビークルよりもずっと派手なバイクで、駐輪場にも乗せられなかったが。
召喚が自由自在だということには、流石に驚きはしたが。

「マスター、此処の方角からサーヴァントが見つかったぞ。」
「本当か?」
「ああ、何となく気配を感じる。この身体になった時から感知能力には自身があったからな、多分外れではない。」
「そうか、だったら其処に向かってくれ。
もし戦っているんだったら、其奴らをぶっ飛ばしてやる。」
「俺もそのつもりだ、振り落とされんなよ、行くぜ!」

ランサーはスーパーマシン「666」のスピードを上げていく。
それに応えザックも、ランサーの肩を掴んでいた右手を離し、懐からカッターナイフが付いた黒いプレートを取り出す。
戦極ドライバー。
ザックがアーマードライダー・ナックルに変身するためのアイテム。
それを腰に当てれば、両側からベルトが出現して巻き付く。
その手で更にクルミロックシードを掴んだザックは、この追い風にも負けないように叫ぶ。



「変身!」


32 : ザック&ランサー ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:46:24 5TFgzuAY0

【マスター名】ザック
【出典】仮面ライダー鎧武及び鎧武外伝 仮面ライダーナックル
【性別】男

【参戦経緯】

呉島光実が作り直した戦極ドライバーのレアメタルに鉄片が使われていた。

【Weapon】

「戦極ドライバー」
異界の植物「ヘルヘイム」の果実の力を人工的に運用できるようにする装置。
バックル型の装置で、腰に当てることでベルトが巻かれ装着される。
ザックが最初に貰ったのは、駆紋戒斗がユグドラシルの研究室から奪取した量産型戦極ドライバーの試作品。
それは戒斗に破壊されたが、現在は呉島光実が持ってきた特注品の同物を使用している。
これを使ってザックは「アーマードライダー・ナックル」に変身する。
アーマードライダー自体は科学の域を出ていないため、サーヴァントに傷を付けることは出来ない。
しかし、ロックシードの魔力を利用して擬似的な魔術回路とすることは可能。

「クルミロックシード」
異界の植物「ヘルヘイム」の果実を戦極ドライバーで無機物に加工したアイテム。
クラスはC+で、嘗ては沢芽市で売り捌かれていた物を使用していたが、現在は海外に流出してしまった錠前の中の一つを使用している。
これを使ってザックは「クルミアームズ」を装着している。
アームズウェポンは「クルミボンバー」と呼ばれるパンチユニット。

「マロンエナジーロックシード」
海外に流出したエナジーロックシードを、呉島光実が渡した物。
これをゲネシスコアに装填する事で、ザックは「ジンバーマロンアームズ」へと変身する。
戦闘力は高くなるが、それでも神秘性は無い。

「ゲネシスコア」
駆紋戒斗が使用していたゲネシスドライバーのパーツ。
ドライバー自体は回路が焼き切れているが、エナジーロックシードのコネクタの役割を果たすコアは生きていた。
これを戦極ドライバーのフェイスプレートと付け替えることにより、ザックはマロンエナジーロックシードを使っている。

【能力・技能】

・体術
元々荒れていたことと、アーマードライダーとして培ってきた経験。
地下格闘の刺客と必死になってやっと遣り合える程度の実力だが、其処らのチンピラ程度なら軽々といなせる。

・ダンスの腕前
ダンス一筋で頑張ってきたのでそれなりに上手い。
でも怪我が災いしてここ一番と言う所で失敗してしまう。

・足の傷
右足の腿に残る、駆紋戒斗にスピアビクトリーで付けられた怪我の跡。
傷は癒えているのだが痛みは多少残っているらしく、ダンスでも足枷になっているそうな。


33 : ザック&ランサー ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:47:02 5TFgzuAY0

【人物背景】

沢芽市に蔓延るビートライダーズチーム「バロン」のNo.2。
元々は将来に希望を見いだせずに喧嘩に明け暮れていた不良だったが、その時アザミとペコの姉弟と出会ったことにより、ダンスの楽しさを知る。
そして近隣の人間を集めてダンスチームを開くが、ある日突然強者論を語りだしながら沸いてきた駆紋戒斗という男によりチームのリーダーの座を取られる。
「チームバロン」は、その時戒斗が付けた名前。
しかし戒斗のカリスマ性にペコ達と共に惹かれたザックは、戒斗に憧れ、付いてきた。
ある日ザックは、ユグドラシルと戦うことを決意した戒斗により、チームの座と量産型戦極ドライバーを渡される。
ビートライダーズの抗争解散イベントを凰蓮・ピエール・アルフォンゾから守り抜くために、
彼はドライバーを巻き、「アーマードライダー・ナックル」へと変身する。
やがてヘルヘイムの侵食が早まり、ユグドラシルが事実上壊滅に追い込まれ、ザックはインベスと戦い続けていく日々に。
しかしフェムシンム族が滅んだ時、新たに侵食を始めたのは何と戒斗だった。
戒斗を止めるため、ザックは仲間になったフリをして湊耀子を爆弾で転落させ、
不意打ちと言う卑怯な戦法をしたにも関わらず強くなったなと言ってくれた戒斗と一対一の勝負をするが、敗北に追い込まれる。
そしてヘルヘイムの侵食が収まった時、ザックはペコやアザミ達に危機が訪れているのを知る。
新たに手にしたナックルのドライバーと、光浴びている憧れの奴の力を手に取り、何時か隣に並べるはずだという想いを込めて、
彼は再び、戦いという喝采響き渡るステージに立った。
序盤は荒れていた名残りや戒斗に対する忠誠心からかチーム鎧武のメンバーに対し挑発する様な態度を見せていたが、
物語が進むにつれて本来の熱く優しく義理堅い性格を見せてきた。

【聖杯にかける願い】

聖杯を壊し、脱出する。


34 : ザック&ランサー ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:47:25 5TFgzuAY0


【クラス名】ランサー
【出典】BLASSREITER
【性別】男
【真名】ヘルマン・ザルツァ
【属性】中立・善
【パラメータ】筋力B 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具E(マルコシアス変身時)

【クラス別スキル】

対魔力:E
魔力に対する耐性。
無効化はせず、ダメージを多少軽減する程度。

【保有スキル】

勇猛:B
威圧、混乱、幻惑などの精神攻撃を跳ね除ける。
また、格闘ダメージを増加させる効果もある。

騎乗:C+
乗り物を乗りこなす才能。
元バイクレーサーだった経験が有り、バイクやヘリコプターを乗りこなしていた。
宝具の影響により+補正が掛かり、機械や金属と融合することが可能となった。
その為、計器を停止させたりコンピュータのセキュリティを解除することが可能。

融合進化体:B
彼はナノマシンにより己の力を凌駕させている。
武器を創造から生成出来る他、超人的な身体能力を有する。
大量のデモニアックを使役できるベアトリスやウォルフと対等に戦えている事から、彼は相当高位なブラスレイターであることが伺える。

戦闘続行:A
往生際が悪い。
死の淵まで戦うことを諦めない。

【宝具】

「走る道違えた蒼い馬(ペイルホース)」
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
ランサーが体内に有しているナノマシン。
人類の進化を促す力に成り得た可能性を持った、化物の中核。
血液を介して感染し、血管内の蛋白質に分解されてしまう。
ナノマシンはそのまま人体の活性化を促し、人間を幻覚症状や高熱に苦しめた末に「デモニアック」と呼ばれる存在に変質させる。
しかし、72の感染パターンに当てはまった人間は「ブラスレイター」と呼ばれるより高位の存在へと変化する。
ランサーはそのブラスレイターになった存在であり、「マルコシアス」と呼ばれる形態を持つ。
生成した紅い鎖鎌を振るって戦う他、後述の666に騎乗してからの空中戦闘も行える。
因みに感染機能は未だ生きているため、返り血を浴びたものは漏れなくデモニアックと化するが、ブラスレイターに変化させることは不可能となっている。

「想い乗せる紅き獣馬(666)」
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:1〜30
ランサーがツヴェルフから奪取したスーパーバイク。
ブラスレイターが騎乗すること前提で設計されており、かなりの性能を誇る。
変形することも可能で、ジェット推進で空を飛ぶことも可能。
科学の域を出ていないために、魔力は消費しない。


35 : ザック&ランサー ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:47:49 5TFgzuAY0

【Weapon】

「鎖鎌」
ランサーがスキル「融合進化体」の武器生成能力で発生させた装備。
伸縮自在(でござい)な鎖(に繋がれていたい)の様に刃と柄を切り離してリーチを高めることも可能。

【人物背景】

融合体「デモニアック」と戦う「XAT」の精鋭。
元はバイクレーサーだったが、スランプになった時に「チャンプ」ことゲルト・フレンツェンからその優しさがサーキットに向かない事を指摘され、今に至る。
しかしそのゲルトが融合体に変わり暴走し、ブルーことジョセフ・ジョブスンに殺される出来事が起こる。
ヘルマンはジョセフに対する復讐心を握りしめ、彼を倒すことを決意する。
やがて、XATの隊長ウォルフ・ゲイリグがブラスレイターとなり、XATを融合体に変えようとする。
多くの同僚が殺されていく中で、ヘルマンは自分の事を気にかけ、時には叱ってもくれたアマンダ・ウェルナーを逃がそうとした所を、ヘリコプター諸共爆発する。
だが彼は、ベアトリス・グレーゼによりペイルホースを感染させられ、ブラスレイターとなる。
一度は暴走しかけるも、死んでいったゲルトやXATのメンバー達の無念と、アマンダへの不器用な想いを胸に抱き、ヘルマンは自身の因縁に決着を付けようと戦い続け、
最期には、自身と仲間達を化物に変えたベアトリスを倒し、自らも果てる。
熱く心優しく正義感の強い性格だが、良くも悪くも一人で抱え込む一面も。
仲間思いな性格で、アマンダやゲルト、マレクを必死に守り抜こうとする面で活かされているが、
一方で頭に血が上りやすい性格からゲルトを殺したジョセフを受け入れ辛くなっていることにも繋がっている。

【聖杯にかける願い】

特に無いが、強いて言うのならアマンダに言いそびれた事を言い残したい。

【把握資料】

ザック:
テレビ本編全話、鎧武外伝「仮面ライダーナックル」、時間があれば「MOVIE大戦フルスロットル」、「鎧武外伝 仮面ライダーバロン」も。

ランサー(ヘルマン・ザルツァ):
テレビ本編1〜23話、気が向けば最終回も。


36 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/10(金) 23:48:45 5TFgzuAY0
投下を終了します。
尚、ランサー(ヘルマン・ザルツァ)のステータスの作成に付き、
フリースレのライダー(マドワルド・ザーギン)を参考にした事を明記しておきます。


37 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/11(土) 00:14:29 3DaNLM0s0
設定との矛盾が生じましたので拙作「ザック&ランサー」の参戦経緯を削除させていただきます。


38 : 名無しさん :2017/03/11(土) 11:09:26 Dci7G1nwO
ステータスのランクをB+からA+にする場合は1点でいいんですか?


39 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/11(土) 12:53:06 3DaNLM0s0
連続ですが三度目の投下です。


40 : 鷲尾須美&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/11(土) 12:54:04 3DaNLM0s0
鷲尾須美が記憶を取り戻したのは、昨日の学校の帰りの事だった。
このロールにおいて須美は、ごく普通の小学生であった。
親友の乃木園子と三ノ輪銀と一緒に、学校に通って、一緒に勉強をして、うどんを食べて、図書館で宿題を済ませて、家に帰る。
そんな幸せな毎日を、当たり前のように須美は謳歌していた。

しかし、違和感は日増しに、須美の頭に襲い掛かってきた。
始まりは、学校の出席の度に、自分の名前に返事をする時だった。
自分の名字は★★★★では無かったのだろうか、と言う考えが、時折浮かぶのであった。
そんな事など思い出せず、気がつけばチャイムが鳴り響き、須美のぼんやりとした考えは終わりを告げてしまうのだが。

それでも、彼女の中に眠る違和感が鳴りを潜める事は無かった。
例えば、学校帰りに食べるうどん屋に入り浸る時。
毎日の様に啜っているうどんに、何処か違和感を感じるのだ。
そう、このうどんは、自分が知っているうどんとは、何処か違うのだ。
麺も想像したよりは少し固く、汁にも甘みととろみが無い。

記憶を取り戻した切っ掛けは、銀の家にお邪魔した時だったろうか。
銀には可愛らしい弟がいて、彼女が面倒を見ているのであった。
キャハキャハと可愛らしく笑う弟をあやしながら、陽気な笑顔を浮かべる銀。

そんな姿を見ていた時、無意識に須美の目から―涙が溢れた。
何故だろうか、とはこの時は自身も泣きながら思った。
普段はぽーっとしているはずの園子でさえ、ポカーンとした表情を浮かべていた程なのだから。

それもそのはず。
銀とは、いつもの様に遊んでいる中で、暇な時にはいつも一緒にいた仲なのに。
どうしてこんな時に―
懐かしいような、これ程にまで嬉しい感情が浮かび上がるのだろうか。

それが鍵となり、須美は―四国での記憶を取り戻した。


◆  ◆  ◆


記憶を取り戻して、凡そ一週間の月日が立つ。
須美のサーヴァントは―未だにやって来ない。
聖杯戦争に関する記憶は、須美の脳内にガッチリと埋め込まれている。
サーヴァントと呼ばれる英霊を喚び出し、最後の2組になるまで殺し合う戦い。
そんな催しの招待状と成り得るのは、「鉄片」と呼ばれるアイテム。

それが合宿の思い出のキーホルダーだったというのは、本当に奇妙な話だったと尚更感じさせた物だった。
記憶に曰く、マスターを招いた鉄片は、サーヴァントを生み出し、そのまま核になると言う。
しかし自身を招いたキーホルダーは、未だに姿を見せないまま。
あの時ピカリと光りながら何処かへ飛び去って以来、須美のサーヴァントと成り得る鉄片は行方を晦ましてしまった。

どの様な理由なのかは定かで無い。
しかしそんな事を思いつかぬまま、須美はこれまでムーンセルの中で繰り広げてきた日常を過ごしていった。
手元にあるのは、左腕に宿った三角の令呪だけだった。

「わっしーって、入れ墨とかするんだね〜意外〜。」

学校の帰り道。
自身の左を呑気に歩く親友の乃木園子―のレプリカ―が、彼女の左手に宿った令呪を面白そうに見つめる。
中央にある眼から三本に枝分かれした槍の形状の令呪。
それをファッションの入れ墨と想像した園子が、面白そうにマシマシと見つめてくる。

「えっ……え、ええ、偶には……こう言うのも……って。」

反射的に左手を右手で隠した須美は、顔を赤らめながらも取り繕う。
しかし、園子の更に左側を歩く―銀が、ニヤニヤした表情をこちらに見せている。

「ほっほ〜う、とうとう須美にもこんな時期が来たか、道理で発育が早い物だ。」

と言った銀は、視線を分かり易く須美の胸の方に移した後、言葉を続ける。

「恥ずかしがらなくて良いのだぞ鷲尾須美、分かっているんだ、お前が自室で隠れて
『静まれ!私の左腕!』とやっている事ぐらい、この三ノ輪銀にはお見通しなのだ!!」

左腕を右手で掴んでわざとらしく言う銀の姿に、須美は益々顔を赤らめ、唇を噛み締めた。


◆  ◆  ◆


41 : 鷲尾須美&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/11(土) 12:54:21 3DaNLM0s0


その後、須美は園子とも銀とも途中で別れ、一人で自宅を目指していた。
その時だった。

『聞こえるか、マスター。』
「!?」

不意に、須美の脳内に声が響いたのだ。
声の主は大人の男性の様だが、一体誰が―
と考えたその時、男の声が続いて聞こえてくる。

『こんな形で挨拶すると言うのもどうかとは思うが、今すぐ私の説明する場所に来てくれ。
場所は―』

声の主は、住所を詳しく教えてくる。
聖杯戦争の知識に曰く、サーヴァントとマスターは「念話」を通して、意識内での会話を可能とするそうだ。

(まさか、この声って私の……)

そう考えた須美は、直ぐに端末を開き、地図アプリを起動する。
素早く住所を入力し道案内ボタンを押した後、道標に向かって直ぐに走り出す。


◆  ◆  ◆


(此処が……)

1時間程掛けて到着したのは、船が行き交う光景が見渡せる橋。
見てみれば、人が通り掛かる光景等全く無い。
須美は此処で更に苛立ちを込める。
自分は踊らされているのか、とも考えていたが、次の瞬間、それは杞憂だと分かった。

地面にあるマンホールの蓋が真っ二つに割れ、ぐぐぐ、と開いたのだ。
鈍い音が聞こえる方向に眼を向けそれを知った須美は眼を大きく開く。

『入り給え、私は其処の中にいる。』

再び念話が聞こえる。
須美は一旦深呼吸し、つばを飲んでマンホールの底を見つめる。

(そう言えば確か、此処一週間は工事があって……)

そんな事を考えながら、須美はマンホールの中に右足を入れる。


◆  ◆  ◆


マンホールの中にあるのは、下へと続いていく階段であった。
道がランプで照らされているお陰で、足元を見ることは出来る。
昔、皆で行ったお化け屋敷の様な雰囲気を思い出す。
寒気がする。
そう言えば、元の世界の四国は夏だった。
久々に感じる寒気に少しブルルと身を震わせながらも、ゆっくり、ゆっくりと、足元に気をつけて階段を下りていく。

階段を下りた時見えたのは、巨大な鉄の扉。
両側には、それぞれ松明を片手に取り、身体を黒い頭巾で纏っている。
まるで、何度か自宅に訪問してきた大赦の死者の格好を思い出させてくれるような雰囲気を見せている。
それが尚更、須美に不気味な感覚を与えてくれている。

「予予お待ちしておりました、神に選ばれし勇者。」

畏敬の念を示すような口調まで大赦にそっくりだ。
まるで神を崇めているかのように感じ、須美は眉間にしわを寄せる。

扉が開かれた先には、コンクリートが丸出しだった地下とは異なり、辺りは真っ白な壁で覆われた清潔な空間となっていた。
ド真ん中には、黒いテーブルで向かい合っている二つの椅子があり、白い皿に乗せられた料理とガラスのコップに入れられた水が置いてある。
そして向かい側に置かれている席には、真っ白な肌と髪をもった、とてもアジア人とは思えないような容姿の男性が座っている。
男を見つめると、幾つかの数値と、「ライダー」と言う文字が浮かび上がってくる。
彼が、私のサーヴァント…?
知識に曰く、マスターはサーヴァントの基本情報を視認できるそうだ。

「掛けてくれ。」

落ち着いた表情で、念話で聞いたような声を男が発する。
戸惑いを表情に表しながらも須美はゆっくりと扉の向こうにある部屋まで歩き、既に空いている椅子にゆっくりと腰を掛ける。
扉が閉められ、白い空間は密閉される。
直後に、男…ライダーが項垂れながらも、口を開く。


42 : 鷲尾須美&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/11(土) 12:54:43 3DaNLM0s0

「この様な形での契約になってしまって申し訳ない。
私の名はクーゲル、此度の聖杯戦争において、騎乗兵(ライダー)のクラスを以って現界したサーヴァントだ。」

須美は暫く口を閉じたままだったが、深呼吸を小さくして口を開く。

「私は……讃州小学校所属、勇者、鷲尾須美です、よろしくお願いします。」
「宜しく頼む、マスター。」

此処で須美は、お互いの情報を交換し合う。
須美は、勇者について、細かく説明する。
同じくライダーも、自身のこれまでの経緯について話してくれた。

ライダーの宝具は、宗教団体の様な物であり、様々な人を惹きつけ組織に変えていく物であるらしい。
しかし、組織を此処まで大きくするのにはそれなりの時間を要され、今にしてやっと、それなりの人と建物が用意された、と言うのがこれまでの経緯だとか。

「今後も拠点は増やしていくつもりだが、船団の結成にマスターを巻き込みたくは無くてな。誠に申し訳ない。
しかし、バーテックス、か。」

ライダーは須美に向かって頭を下げた後、話題を須美の経緯に変える。

「バーテックスが、何か。」

バーテックス、と言うのは、須美のいる四国に侵略せんとする異世界からの侵略者の事だ。
結界を発生、世界を巻き込んでしまう危険な生命体。
そのバーテックスから四国を、神樹様を守り抜く使命を与えられたのが、須美達勇者なのである。

「いや、奇妙な縁だな、と言う様な物を感じてな。」

ライダーはフッと、皮肉げに口元を歪め、言葉を続ける。

「私も……いや、私“達”、人類銀河同盟もそうだ。
ヒディアーズと呼ばれる地球外生命体、私達もまた、それと戦って来た。」
「では、貴方の願いは……。」
「そうだ、私が聖杯に託す願いは、ヒディアーズの殲滅。
そして、私の世界にいる地球に幸福を齎す事だ。」

ウムと頷いて、ライダーは眼を瞑る。

「それと、マスター。」
「はい。」
「……訊きたい事が有るのだが、君には、あるのか?
聖杯に掛けたい望み、と言うのは。」

須美はそれを聞き、暗い表情で俯きながら答える。

「私の願いは……バーテックスの殲滅。」

鷲尾須美が願うのは、異世界がバーテックスに侵略されない世界。
世界がウィルスに汚染されることもなく、バーテックスが襲ってこない世界。
八百万神が神樹様を形作る事もなく、ミノさんの様に死んでしまう勇者もいない世界。

「確かに、人を殺す事には、私にも躊躇いはあります。
でも……。」

これまで殺人、と言う事はやっていない。
異世界からの侵略者を葬ることに躊躇は無くても、人を殺すなんて事だなんて、とても出来るはずもない。

「でも、これ以上ミノさんみたいに勇者が傷ついていくのは見たくない……だから……」

テーブルに置いた手が拳を作り力が入る。
眼からは涙が溢れていく。
神樹様の意志に逆らうことは分かっている。
自分の愛国心と真っ向から反しているって言う事だって。
それでも。
今此処で倒れるわけには行かない。
園子や、学校の皆を置き去りにしていく訳にも行かない。
それで聖杯が手に入って、願いが叶うというのなら、尚更。


43 : 鷲尾須美&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/11(土) 12:55:47 3DaNLM0s0


「だから、私は戦います。
その為にも、ライダーさん、貴方の力を貸してください。」

涙ぐんだ顔を上げる。
それを見てライダーは、もう一度頷く。

「有難う、そう言ってもらえれば、私も心強い。」
「それと―」

須美が、何処か心配げな表情を浮かべる。
それは、彼女の中にまだ迷いが有る証拠だった。

「殺すのは、サーヴァントだけにしてもらえないでしょうか?」
「……人を殺すのは、流石に堪えるか。」
「……。」

それが、須美の、本人の気づかぬ所での弱さだった。
聖杯を手に入れるためにも、サーヴァントは倒していく。
しかし、マスターは殺さずに勝ち抜く。
無駄な犠牲は出したくないと言う、須美の想いである。

「だが……。」
『問題提言。』

ライダーの言葉を遮るように、機械的な電子音声が響き渡る。
声の元は、ライダーの懐から聞こえる。

「ストライカー……俺の相棒だ、よろしく頼む。」
「貴方の……。」

しかしライダーは、口を挟んだ相棒に対して全く文句を言わない。
それほどにまで信頼されている、ということなのだろうか。
後に勇者システムに実装される予定にあった「精霊」と呼ばれる存在がいたことを思い出させる。

『貴官の方針は、この戦闘における最終目的たる、聖杯の入手において非効率な方針かと推測される。』
「え……」
『マスターを排除せねば、令呪の行使の機会を与え、他のサーヴァントとの再契約の可能性も危惧される。
当機の目的の遂行の為にも、マスターの殺害も、考慮すべき作戦かと推測される。』
「っ……。」
「マスター……ストライカーの言っていることは正しい。
弱き者は目的の為には切り捨てる、私達はそうして繁栄を保ってきた……
分かってくれ。」

ストライカーの言葉に、ライダーもフォローを入れてくる。
きっとライダーも、それ程にまで願いを叶えたい、という想いが有るのだろう。

「……だが、マスターの言葉だ、考慮はしておこう。済まないな、ストライカー。」
『問題提言。』
「分かっている……。」

懐に手を出し、スイッチを切ったライダーは、もう一度須美に向かい、眼を瞑って答える。

「マスター、確かに君が他者を重んじる気持ちは察する。」

そして眼を開き、だが、と付け足す。

「手段を選んでいる場合じゃない、と言うストライカーの発言は正しい。
私達が放り込まれたのは殺し合いだ、スポーツでも何でもない。」

須美は俯いたままライダーの声を聞く。

「壁や足枷を壊さなければ、前には進めない。何かを切り捨てねば、一歩も前には進めない。
君は私の国で言うなら訓練生になるばかりの年齢だ、分かり辛いと思う所もあるかもしれない。
だが忠告しておく。何れは君にも、決断を迫られる時が来るだろう。
その時には君にも、年には不相応では有るが、覚悟は決めておけ。」
「……。」

分かっている、と言おうとして口を閉じる。
バーテックスとの戦いで、死なない保証は無かった。
それが聖杯戦争においても変わらない事ぐらいは、今の自分にも良く分かっている。
でも、それでも、と言おうとした所で、須美は口を噤む。


44 : 鷲尾須美&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/11(土) 12:56:19 3DaNLM0s0







【マスター名】鷲尾須美
【出典】鷲尾須美は勇者である
【性別】女

【参戦経緯】

合宿でお土産に買ってきたキーホルダーが鉄片で出来ていた。

【Weapon】

「勇者スマホ」
「勇者」に変身する為のアプリケーションをインストールしたスマートフォン。
これを使用して彼女は「勇者」に変身する。

「弓」
彼女の勇者装束に付いてくる装備。
光の矢を発生させられる。

【能力・技能】

・勇者
「神樹様」を異世界からの侵略者「バーテックス」から守護する者。
適性が高い少女、或いは大赦関連の家系に名を連ねる少女がその力を手にする。
勇者スマホの変身ボタンを押すことで神樹様から力を授かり、「変身」する。
変身することで神秘を入手し、サーヴァントにもある程度太刀打ちできるほどの力を手にする。
ただし、「満開」は現状の勇者システムでは使用不可能である。

・その他、和菓子作りや日本史等の知識等を有している。

【人物背景】

神樹によって保護された四国に生きる小学6年生。
異世界からの侵略者「バーテックス」と闘う勇者への適性があった彼女は、鷲尾家に移り、何時もとは少し違う生活に溶け込む。
同じく勇者である乃木園子、三ノ輪銀とチームを組み、共に勇者として、只の子供として、楽しい日々を送ってきた―はずだった。
この時代においては珍しい、生真面目な大和撫子であり、愛国主義者。

三ノ輪銀が死んだ後からの参戦。

【マスターとしての願い】

バーテックスの無い世界を作り出す。

【方針】

聖杯を入手する。
マスターは殺したくはないが、迷いは有る。


45 : 鷲尾須美&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/11(土) 12:56:38 3DaNLM0s0

【クラス名】ライダー
【出典】翠星のガルガンティア まれびとの祭壇
【性別】男
【真名】クーゲル
【属性】秩序・中庸
【パラメータ】筋力E 耐久E 敏捷D 魔力D 幸運D 宝具C

【クラス別スキル】

騎乗:D
乗り物を乗りこなす才能。
彼の場合はマシンキャリバーの騎乗に特化している。

対魔力:E
魔力に対する耐性。
無効化はせず、ダメージを多少軽減する。

【保有スキル】

御使(偽):B
天の神様として崇められた逸話から。
D+ランクのカリスマ(偽)とDランクの神性(偽)の複合スキル。
菩提樹の悟りを打ち破る効果がある。

心眼(真):B
修行、鍛錬によって培った洞察力。
逆転の確率が数%でも有るのなら、其処から逆転の可能性を手繰り寄せる戦闘論理。
人類銀河同盟の隊長としての技能。

軍略:C
多人数を率いた戦闘における戦術的直感能力。
対軍宝具の行使、対処に補正が掛かる。

【宝具】

「天眼の船団(アルター・フリート)」
ランク:C 種別:船団宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
ライダーが生前、自身を神様として崇めた船団を率いた逸話から。
「天眼の船団」を舞台上に再現し、信仰者を増やす宝具。
信仰者には額に三本槍を模したペイントが施され、ライダーの支配下に置かれる証とされる。
彼等はライダーに忠誠と信仰を掲げる宗教団体となり、後述の宝具のデータベースと合わせれば、
人類銀河同盟の兵器を大量に持てる程の巨大組織と成り得るだろう。


「鯨人殺す紫骨の虚神(X3752ストライカー)」
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:30 最大捕捉:1〜50
ライダーが生前騎乗していたマシンキャリバー。
侵略生命体ヒディアーズと戦うために人類銀河同盟が作り出した兵器。
「パイロット支援啓発インターフェイスシステム」と呼ばれるAIを搭載しており、パイロットをサポートしてくれる。
パイロットを未知の環境に適応するための様々な機能(言語翻訳、データの解析及び修復等)が搭載されている。
ビーム兵器やミサイルを武器とした間接攻撃を得意として戦う。
奥の手も存在しており、パイロットの神経を機体に接続することで反応速度を上昇させることが可能となる。
しかし、それを使えばライダーの命は30分しか持たず、徐々に霊格が擦り切れていく形で命が削られる。
他者を切り捨てる法を行使することをライダーに提案しており、彼を神に据えている。
しかし、今のストライカーは完全にエゴに飲まれ暴走している。


46 : 鷲尾須美&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/11(土) 12:56:54 3DaNLM0s0

【Weapon】

「デバイス」
ストライカーとの連絡や制御に使う装置。
コックピットに装填することで、操縦桿が起動する。

【人物背景】

地球外生命体ヒディアーズと戦う人類銀河同盟の中佐だった男。
戦闘の最中にブラックホールに吸い込まれ、地球に不時着する。
其処で神の御使いだとリナリアに勘違いされ、成り行きで歓迎されリーダーに祭り上げられる。
此処でストライカーから、人類銀河同盟と同じように使えないものは切り捨てていくべきなのでは、と提唱される。
それは良心の呵責が許さなかったが、風土病に侵されたリナリアに殺してくださいと頼まれた事を切っ掛けに彼は考えを変え、船団を宗教団体へと変えてしまう。
しかしクーゲルもまた風土病で倒れ、意志は暴走したストライカーに受け継がれていき―

【聖杯にかける願い】

ヒディアーズの殲滅と、船団達の幸福。


47 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/11(土) 12:57:08 3DaNLM0s0
投下を終了します。


48 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:10:33 QsqcF6ZA0
>紀田正臣&キャスター
 デュラララ!!より紀田正臣と、FAIRY TAILよりキャスター・ハデスですね。
 帝人との決着を着けようとした矢先に召喚されてしまった正臣は不運としか言い様がなく、願ってもいない者まで戦いに引き寄せてしまう当聖杯戦争の傍迷惑ぶりが窺えます。
 当然そんな願いなくして巻き込まれた側の彼が目指すのは脱出。作中の池袋以上の魔境の中でも人は殺せない所が何とも彼らしいなあと思いました。
 一方で若く、言ってしまえばまだ青い正臣の相方に選出されたハデスは彼を上手くカバーしてくれそうです。
 人を殺すのは躊躇しつつも、友人を日常へ引き戻す為に聖杯戦争に乗ることを決意した正臣。それに共感を覚えながらも複雑な感情を抱いているハデスの描写がまた、今後のこの主従の行方を期待させる物だったように感じます。何にせよ、非常にするすると読める作品でした。
 ご投下、ありがとうございました!


>ザック&ランサー
 続いて仮面ライダー鎧武よりザックと、BLASSREITERよりヘルマン・ザルツァですね。
 誰かが望み、世界を変えたことを知っているからこそ、それを壊す訳にはいかないと聖杯を拒む。
 こうした過去の誰かの想いを無駄にしない為に何かを否定すると言うシチュエーションは個人的にも大変好みです。
 誰かの戦いを無駄にしない為、誰かの世界を壊させない為、聖杯という過ちを破壊する。戦う理由はそれだけではなく、やはり仲間の為、夢の為と言う俗な物も混じっているのがまた良い。それを肯定しつつも忠告するヘルマンは、サーヴァントってこういう物だよな、と改めて思い出させてくれました。
 サーヴァントのみならずマスターも変身して一定以上の戦闘力を得られる主従なので、きっと対聖杯派の大きな戦力になってくれそうです。
 ご投下、ありがとうございました!


49 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:11:53 QsqcF6ZA0

 感想を書いて投下したと思ったら作品が来ていました。
 申し訳ありませんが続きの感想は明日までお待ち下さい……

>>38
 B+からA+にする際には一度Aを経由して、其処から更にポイントを足してランクアップする必要があります。
 出来ない事はないですが、最低でも二つの『鉄片』を確保しなければいけない訳ですね。

 また記述し忘れていましたが、予選段階での転臨強化は出来ません。
 理由は単純にメタ的な問題で、予選で物凄い強化を積まれてしまうとステータスの概念が有ってないものになってしまう為です。本戦開始時に転臨関連のルールは改良、修正する可能性がありますので、今はこういうものがあるんだなあくらいに思っておいて戴ければと思います


 自分も投下します


50 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:12:32 QsqcF6ZA0


 ながい、ながいユメをみていたきがします。
 それはとてもわるいユメ。
 かなしい、くらいユメでした。

 ユメのなかのおかあさんはとてもからだがよわくて、わたしはずっとつきっきりでかんびょうしていました。
 がっこうにはいきたいけれど、おかあさんがだいすきなのでずっとそばにいます。
 わたしはそれでちゃんとしあわせなのに、おかあさんはいつもかなしそうな、さみしそうなかお。
 わたしがおかゆをもっていてあげると、おかあさんはベッドのなかでいつも、きえいりそうなこえでつぶやくのです。

 ごめんね、ごめんね。
 おかあさんのせいで、ごめんね。
 なんであやまるんだろうと、わたしはふしぎでした。
 わからないけど、おかあさんがわたしのせいでかなしいおもいをしていることだけはわかったので、わたしもかなしくなりました。

 それでもわたしはちゃんとしあわせでした。
 ともだちがいなくても、あそびにでたりできなくても、まいにちとてもしあわせでした。
 じゅうじつ……? だっけ。
 ことばのいみがあっているかはわからないけど、とにかくそんなかんじでした。

 おかあさんがいて、わたしがいて。
 たあいのないおはなしなんかしていると、あっというまにいちにちがすぎていきます。
 
 おかあさんはくすりがないとつらくなってしまうので、いつもおばあさんがつくってくれたくすりをのんでいます。
 おばあさんはもりにすんでいて、くすりがきれたときはおばあさんのいえまでとりにいきます。
 そのひも、いつものようにくすりをとりにいってきてほしい、といわれました。
 
 ひとりきりの、ちょっとしたぼうけん。もう、なれたものです。
 でもそのひ、わたしはおかあさんとのやくそくをやぶってしまいました。
 つんではいけないといわれているおはなを、ちょっとだけ、つんでしまいました。

 それが、いけませんでした。

 おばあさんをよろこばせたくて、おはなをつんだ。
 やくそくを、やぶってしまった。
 かみさまはそんなわたしをゆるしてくれませんでした。
 わたしはただしずかにおかあさんとくらしていられればよかったのに、それでぜんぶおかしくなってしまいました。
 
 オオカミは、おはなをつむわたしにやさしくこえをかけました。
 わたしはうたがいもせずに、オオカミとてをつないで、おばあさんのところまでいって。
 おばあさんのいえにはいって、すこしして、おおきな……とてもおおきなおとがして。

 みにいったときには、おばあさんはたべられていました。
 くすりをたくさんふくろにつめながら、オオカミがおばあさんをたべていました。
 わたしにきづいたオオカミは、ゆっくりと、わたしのほうへあるいてきます。
 こわくて、おそろしくて、ふあんで、ゆるせなくて――むがむちゅうで。


51 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:12:59 QsqcF6ZA0

 わたしは。
 まっかに、なりました。
 オオカミをまっかにして、まっかになりました。

 ……とても。
 とても、いやなユメでした。
 めがさめて、おかあさんがしんぱいそうなかおでそばにいてくれたとき、おもわずなきだしてしまいました。
 
 わるいユメのことなんてわすれなさいと、おかあさんはそういってくれました。
 わたしもそうすることにしました。
 ユメはユメです。げんじつでは、ありません。
 でもわたしはだめなこだから、そのユメのことをどうしても、わすれることができませんでした。


 そしてとあるひ、きがつきました。


 わたしとおかあさんのおうちに、オオカミが、あたりまえのようにかえってきました。
 あのユメでてをつないだときのようなやさしいえがおで、ただいまって、いいました。
 
 そのとき。
 わたしは、ぜんぶおもいだしちゃった。
 ちがうって。
 こっちが、ユメで。
 あっちがげんじつなんだって、きづいてしまった。

 わるいユメからは、すぐにさめなくちゃ。

 そうおもってわたしは、わたしは。
 ちかくにあった、おおきなおのを。
 ユメのなかでオオカミをまっかにしたそれを。
 えがおでちかづいてきたオオカミのあたまのうえから、
 うえから、うえから、あたまのうえから、オオカミを、お×うさんを、めがけて…………


 そのあとのことは、よくおぼえていません。
 

 わたしはおかあさんと、いっしょにいられなくなりました。
 ユメのそとでやさしくしてくれた先生も、いまのおうちにはいません。
 レティちゃんも、ジョシュアくんも、ステラちゃんも、アレンくんも。だれもいません。
 まだ、ユメはさめません。つめたい、くらい、いやなユメはおわりません。
 
 
 きょうも、アヒルさんだけがわたしのそばにいてくれます。
 わたしをげんきづけようと、いろんなたのしいことをしてくれます。
 どうかおしえてください、アヒルさん。
 わたしはもう、おかあさんのところにはかえれないのかな。
 先生やみんなのところにかえることは、できないのかな。

 
 ……ひとごろしだから、だめなのかな。


52 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:13:46 QsqcF6ZA0
  ◇  ◇

 
 ――冬木市郊外の一軒家で、とある悲惨な事件が起きた。

 仕事から戻った父親の頭を、娘が突然斧で叩き割った。
 父親は即死。返り血を浴びた少女は、まるで"赤ずきん"のように、赤く、赤く染め上げられていたという。

 少女はあまりにも幼かった。
 法の下に罪を問うことが出来ないほど幼く、そして混乱していた。
 少女は児童養護施設に送致され、暫くは厳重な監視がついていたが、あまりにも大人しいためにそれも日に日に緩んでいった。
 心に大きな傷を負っている。何らかのトラウマがフラッシュバックして、突発的な凶行に及んでしまった可能性がある。
 彼女を問診した精神科医はそう言ったが、しかし誰も、彼女のトラウマを突き止めることは出来なかった。

 親殺しの少女の名前を、チェルシーといった。
 チェルシーのポケットには今も、小さな金属の破片が入っている。
 悪夢の世界へ彼女を導いた切符は相変わらずの姿で、そこにあり続けていた。


53 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:14:17 QsqcF6ZA0
  ◇  ◇


「ヘヘ、見ろよチェルシー! 僕はこんなことも出来るんだぜ!!」

 チェルシーへの監視は、事件当初に比べれば大分緩んでいる。
 それでも万一があってはいけないと考え、施設は彼女に個室を与えていた。
 チェルシーはほとんど一日中、与えられた部屋の中でじっとしている。
 クマのぬいぐるみを抱き締めて、誰かと遊ぶこともなく、一人で過ごしている。

 にも関わらず、耳を澄ますと時々クスクスという笑い声や、少年の声が聞こえてくることを知る者はいない。
 他の子供達の間では怪談めいた噂として語られていたが、大人達は子供の妄想と一笑に伏してしまっていた。
 だが現にこうして、部屋の中には彼女のものではない声が響いている。
 声の主は――奇妙な姿の少年だった。アヒルのような嘴のある、恐らくチェルシーより更に幼いだろう少年。

「次はそうだなあ……コポルク、って唱えてみろよ」

 呪文のような言葉。
 言われるがままに、チェルシーはそれを唱える。
 そんな彼女の手には、黄色く分厚い一冊の本が握られていた。
 チェルシーの声が呪文をなぞると同時に、それはかあっと発光する。そして――

「! ……あ、アヒルさん!?」

 嘴の少年……"アヒルさん"の姿が、急にチェルシーの目の前から消えた。
 どこに行ってしまったんだろうと慌てるチェルシーの下から、「へへ、僕は此処だぜ!」と声がする。
 視線を落としたチェルシーは、目を見張って驚いた。
 なんとそこでは他でもない"アヒルさん"が、親指ほどのサイズにまで縮んで手を振っていたからである。
 チェルシーの家にもたくさんの絵本や童話本はあった。 
 魔法使いや優しい小人の存在に憧れたことはあるし、今でも"居たらいいなあ"くらいには思っている。
 それでもそういう存在はユメの中にしか居らず、現実には存在しないのだと、チェルシーは当たり前の常識として承知していた。

 だが、此処は現実の世界ではない。
 チェルシーが迷い込んでしまった、悪いユメのセカイ。
 だから、こういうこともあり得るのだろう。
 何にでも化け、体を縮めて小人になれる――そんな存在が居たって、ユメなんだから何もおかしくはない。

「アヒルさんはすごいね……! まほうつかいみたい」
「そりゃそうさ。なんたって僕はすげー大変な戦いで最後の方まで勝ち残った超スゲー魔物なんだからね」
「まもの……? ……それって、わるいひと?」
「ん〜、魔物にもいろんなやつが居るんだ」  

 チェルシーの読んだ本の中では、魔物という生物は大体悪者として扱われていた。
 実際、人間の書物で彼らを凄い善人と褒め称えた作品はそうないだろう。
 だからつい、そんな疑問を口にしてしまう。
 気を悪くしてしまうかなと言ってから後悔したが、"アヒルさん"は少し考えてから、どこか懐かしげに語り始めた。


54 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:14:49 QsqcF6ZA0

「悪いやつも居たよ。他人を苦しめて喜んだり、力を使って散々悪さをしたり。
 中には魔法で石にされた魔物を脅して怖がらせて、自分の言うことを無理矢理聞かせてたやつも居た」
「こ……こわいんだね……」
「でも、良いやつもたくさん居るんだぜ? そうだなあ、例えば――」

 "アヒルさん"がチェルシーに話してくれたのは、彼の友達の話だった。
 チェルシーは、"アヒルさん"が昔大変な戦いに身を投じていたことを知っている。
 臆病で人付き合いの苦手な彼女は言うまでもなく喧嘩が嫌いだが、"アヒルさん"の経験したという戦いは、ただ辛くて悲しいものではなかったらしい。
 彼が直接そう言ったわけではない。それでも、表情を見ればそのことが伝わってきた。
 彼はとても嬉しそうに、過去の戦いのことを話す。アヒル嘴を笑みの形に緩ませて、どこか遠いところを見つめながら。

 "アヒルさん"は結局、その戦いで勝つことは出来なかった。
 勝って"魔界の王様"になることは出来ず、志半ばで魔界に帰る羽目になってしまった。
 王様になったのは、彼の友達だったという。
 強いのは確かなのにどこか間抜けで、幼く、お人好し。
 やさしい王様を目指すと言って憚らず、何度も血だらけになりながら戦って、戦って、戦って――
 ……結局その友達は、自分の願いを叶えた。やさしい王様になって、やさしい魔界を作り上げた。

「……とにかく、そんなやつも居るんだ。人間じゃないからって、皆が皆悪いやつってわけじゃない。それともチェルシーは、僕のことを悪いやつだって思うのかい?」
「! そ、そんなことないよ……! アヒルさんがきてくれてから、わたしはまいにちたのしいから……」

 嘘偽りのない、チェルシーの本音だった。
 事件があって塞ぎ込んでいたチェルシーの前に、"アヒルさん"は突然現れた。
 彼はチェルシーに自分の持っていた本を渡し、そこに書いてある言葉を読み上げさせた。
 すると、どうだ。彼の姿が目まぐるしく変わる。時には物に、時には人に。
 まるでサーカスでも見ているような驚きと愉快さに、気付けばチェルシーは笑顔になっていた。
 この悪いユメの中で、彼だけがチェルシーの味方であり、友達だった。

「――なあ、チェルシー」

 顔を赤くして俯くチェルシーに、"アヒルさん"が突然改まって口を開く。
 その声色はいつになく真面目なもの。彼らしくもない、真剣なものだ。

「チェルシーはさ……何か叶えたい"願いごと"ってあるかい?」
「ねがい、ごと……?」
「何でもいいんだぜ。お金持ちになりたいだとか、それこそお姫様になりたいだとか。一個くらいあるだろ?」

 問われたチェルシーは考える。
 願いごと。叶えたい、夢。
 別にお金が欲しいと思ったことはない。
 お姫様に憧れたことはあるけれど、なりたいってわけじゃない。
 今とは違う自分になれるのなら、"アヒルさん"のような魔法使いになりたい……でも。
 一つだけ願いが叶うというのであれば、チェルシーの答えは一つだった。


55 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:15:21 QsqcF6ZA0

「………かえりたい」

 此処は、チェルシーにとっての現実じゃない。

「そうしたら、アヒルさんとはおわかれになっちゃう。でも……ごめんなさい。それでも、わたしはここにいたくないの」

 現実の世界にも、嫌なこと、思い出したくないこと、たくさんあった。
 でもチェルシーの大好きなお母さんや、気遣ってくれた先生、友達なんかは全員"あっち"にしかいない。
 この冬木にもしも彼らが居たとしても、それはユメの世界が作り出した偽物だ。
 そんな世界で、セカイでずっと暮らすなんて嫌だし、間違っているとチェルシーは思う。
 だから、帰りたい。この悪夢(アリス・メア)を抜けて、あの現実に。
 少女の切なる声を聞いた"アヒルさん"は、静かに頷いた。
 そしてまた、いつも通りの顔で笑うのだ。
 その顔だけが、一人きりのチェルシーを安心させてくれる。笑わせてくれる。


「じゃあ、僕が連れてってやるよ」


 彼はチェルシーにとってのヒーローだった。
 見た目はかっこよくはないし、むしろかわいい方。
 お調子者ですぐ得意になるけれど、彼もまた心のやさしい魔物だ。
 
「帰ろうぜ、こんなトコはさっさと抜けて。それまでこの僕が、チェルシーをちゃんと守ってあげる」
「アヒルさん……」
「だってそれがチェルシーの願いごとなんだろ? だったら叶えなくちゃ。それが今の僕のやるべきことなんだから」

 "アヒルさん"は、ユメの世界に迷い込んだアリスを導く案内人ではない。
 サーヴァント・キャスター。魔術師のクラスをあてがわれた、英霊の座より来たる者。
 それが彼。願い抱く旅人にとって彼らサーヴァントは兵器であり、道具であり、望むなら友達にもなり得る存在だ。
 臆病な赤ずきんは、友達であることを選んだ。キャスターもそれを受け入れた。だからその願いはちゃんと叶える。

「チェルシー。このセカイは、楽しいことより辛いことの方が多いんだ。
 ただ帰るって言っても、そこまでの間に絶対戦わなきゃいけない場面がある。ケンカするよりもっと怖い、戦いが」
「……っ」
「チェルシーは弱虫だからきっと耐えられなくなって、泣くこともあると思う。
 でも、諦めることだけは絶対にしちゃダメだ。諦めたら、もう前に進めなくなっちゃうから」

 彼の言う通り、チェルシーは弱虫だ。
 体も心も、決して強くはない。
 激しい戦い――聖杯戦争の中で、何度も泣いて、震えて、弱音も嫌ってほど吐くだろう。
 それでも諦めるなと、彼は言う。それはチェルシーにとって、とても難しいことだった。

「でも……わたしに、できるかな。わたし、アヒルさんみたいにつよくないよ。
 さいごまであきらめないなんてこと、わたしに――こんなわたしに、できるのかな」
「簡単さ。歌を歌えばいいんだ」

 絞り出すようなチェルシーの吐露に、"アヒルさん"……キャスターは胸を張ってそう言った。誇らしげだった。


56 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:16:01 QsqcF6ZA0

「うた……?」
「そう、歌。痛くて、苦しくて、諦めそうな時に歌うんだ」
「うたえば、あきらめないでいられるの?」
「もちろん。これはね、僕の大好きなヒーローの歌なんだぜ」

 キャスターの言うヒーローは、無敵の超人などではない。
 普通の人間だ。ただ人より少し打たれ強いだけの、人間。
 それでもキャスターは、英霊の座に祀り上げられた今でも、彼のことを無敵で最強のヒーローだと信じている。
 困っている時に必ず助けに来てくれる彼は、このセカイ――偽りの冬木市にはいない。
 
「手をこうやって腰に当てて、もう片方の手をこう振り上げながら歌うんだ。最高にカッコイイヒーローの特別な歌なんだから、よ〜く覚えとくんだぜ」

 彼が居なかったなら、キャスターはきっと、英霊の座に登録されるような"強い魔物"になることはなかっただろう。
 情けなく、無様に、何も残せずに敗北して魔界に送り返されていたのがオチだ。彼と出会えたから、そうはならなかった。
 泣いている時は前に立ってくれる。手を引いてくれる。
 道を踏み外した時は体を張って止めてくれる。父親のように強い瞳で、キャスターのことを見据えながら。
 これは、そんなヒーローの歌。間抜けでも、阿呆らしくても。どんな宝具よりも力強くキャスターを支えてくれる勇気の歌。

「鉄のフォルゴレ〜♪ 無敵フォルゴレ〜♪」

 歌詞に深い意味なんてない。ただ、とある人物を礼賛しているだけの歌。
 チェルシーは当然その男のことを知らないし、一瞬ぽかんとした顔さえしてしまった。
 それでも――何故か、その歌は心の奥をぽかぽかとさせてくれる暖かい響きに満ちていて。

「てつの、フォルゴレ……」

 気付けばチェルシーも、キャスターと一緒に口ずさんでいた。
 パルコ・フォルゴレ。それはキャスターがかつて戦いのために訪れた人間界で、一世を風靡していた国際的スターの名。
 そして――キャスターのサーヴァント・キャンチョメと共に魔界の王を決める為の戦いを駆け抜けた戦士の名。


(……見てるかい、フォルゴレ。僕はあれから色々あって、とうとうこんな戦いにまで呼ばれちゃったよ)

 思いを馳せる。
 別れて久しい、遠い世界のパートナーに。
 正直な話、キャンチョメもチェルシーのことを言えた柄ではない。
 サーヴァント同士の殺し合いなんて恐ろしいものに巻き込まれて、内心ではガタガタ震えたい気持ちでいっぱいだ。
 それでも、こんな小さくて弱々しい女の子が帰りたいと願っているのに、それを知ったことかと蹴飛ばすのは男のやることじゃない。
 フォルゴレならば、絶対にそんなことはしない。

(でも、この子と行けるところまで行ってみようと思うんだ。だから……見守っててくれると嬉しいな、フォルゴレ――)

 全ては悪夢から覚める為。白い道化師は優しい夢を演ずる。――此処に、弱虫同士の冒険譚が幕を開けた。


57 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:16:24 QsqcF6ZA0


【クラス】
キャスター

【真名】
キャンチョメ@金色のガッシュ!!

【ステータス】
筋力E 耐久D++ 敏捷D+ 魔力A 幸運B 宝具A++

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
陣地作成:-
 キャスターは魔術師ではない為、このスキルを持たない。

道具作成:-
 キャスターは魔術師ではない為、このスキルを持たない。

【保有スキル】
魔物の子:A
 人間界とは異なる世界、『魔界』で生まれ育った魔物の子供。
 キャスターの場合、口元にアヒルのような嘴が生えている。
 一般に、普通の英霊よりも多くの魔力を保有する。

発想力:C
 柔軟な発想力を発揮し、目の前の物事に対処することが出来る。
 彼はお世辞にも真っ当に強い英霊ではないが、この発想力が自身の術と噛み合った時、予期せぬ力を発揮する。

記憶の中の英雄:A
 遠い日に、遠い世界で出会った英雄(ヒーロー)の記憶。
 それを思い出して力を込めるだけで、キャスター・キャンチョメは痛みを堪えて立ち上がる。
 泣きながら、泥に塗れながら、変テコな踊りに乗せて声を張り上げる。
 そうすればほら、いつかのあの歌が聞こえて――

【宝具】
『黄の魔本』
 ランク:D 種別:対人宝具(マスター/自身) レンジ:- 最大補足:-
 キャスターは魔界の住人キャンチョメとしてではなく、人間界で勇敢に戦った魔物キャンチョメとして召喚されている。
 その為彼が自分の呪文を行使するには、マスターがこの本を持ち、呪文を唱えるという行程が必要となる。
 マスターの裁量で自由に呪文は唱えられるが、無限に打てるわけではなく、魔力ともまた違った『心の力』と呼ばれるエネルギーが切れてしまうと回復しない限り呪文を使うことは出来なくなってしまう。強力な術になればなるほど、この心の力の消耗も大きくなっていく。
 そして何よりの欠点が、この宝具の焼却――破壊はキャスターの消滅に直結する。この消滅はどんな方法でも防げない。


58 : チェルシー&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:16:52 QsqcF6ZA0

『白の虚構劇場(シン・ポルク)』
 ランク:A++ 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1~30 最大補足:300
 キャスターの持つ術は全て『黄の魔本』に搭載されているが、この術のみは個別の宝具として扱われる。
 彼の最大呪文で、作中のとある人物には「魔物同士の戦いにおいて最強の呪文」とすら称された強大な術。
 自由な姿の変形、幻の作成、敵の脳への干渉。これらの要素を組み合わせ、相手と空間の認識を支配する。
 幻による風景の変更、攻撃された錯覚による肉体的ダメージ、異能の消滅に始まり、相手が人間であれば命令を下すことで特定の行動を強制したり、動きを縛ったりすることも可能。幻覚ならばと目を閉じたところで、彼が攻撃したところから脳に情報が送り込まれてしまい、結局は苦痛を感じる羽目になる。
 ただしあくまでも精神攻撃のため、彼が術を解けば多少の怪我と疲労感は残るが、術中ほど大きなダメージは残らない。
 それでも過度な攻撃と苦痛を与え続ければ、傷は消えても精神の崩壊を引き起こす危険性は存在する。
 相手によっては完封すら出来てしまう強力な宝具だが、彼自身を実際に強化する効果はない為、術の効果による撹乱を掻い潜って本体に物理的ダメージを与えられればそれは通ってしまうという弱点も持つ。

 かつて彼はこの力に溺れ、非道な獅子となった。
 それでも、今の彼がまたその姿を象ることはきっとないだろう。
 彼の心に、世界一カッコイイヒーローとの思い出が残っている限り。

【weapon】
 なし

【人物背景】
 魔界の王を選定する百人の魔物の子の戦いに参加させられた内の一人。
 とても臆病なお調子者だが善の心を持っており、戦いの中でめきめきと成長していき、終盤まで勝ち残った。

【サーヴァントとしての願い】
 チェルシーをお母さんのところまで帰してあげる。


【マスター】
 チェルシー@Alice mare

【マスターとしての願い】
 かえりたい。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 特筆したものは持たない。

【人物背景】
 臆病で泣き虫な赤ずきん。
 でも、その赤は。
 必ずしも、望んで被った赤じゃない。

【方針】
 たたかいたくない、こわい、でもがんばらないと――


59 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/11(土) 13:17:46 QsqcF6ZA0
投下終了です。
本作は『Fate/Fessenden's World-箱庭聖杯戦争-』様に投下させていただいた作品の流用になります


60 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/11(土) 14:00:34 3DaNLM0s0
Wiki収録ありがとうございます。
拙作を修正させていただきました。


61 : ◆ZjW0Ah9nuU :2017/03/11(土) 15:06:45 NP.7AWc.0
皆様、投下お疲れ様です
私も「Fate/Malignant neoplasm 聖杯幻想」様で投下した候補話を改稿した上で投下します


62 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2017/03/11(土) 15:09:40 NP.7AWc.0
『Chaos.Cell』によって再現された冬木市。
電脳世界とは言うが、現実での感覚と相違はない。
例えば刃物で指先を斬ると刺さるような痛みが指に発火するし、暗い場所に入ると目が順応しない内はとことん暗く感じられる。
夜を照らす街灯のあまり仕事をしない夜道を、とぼとぼとセーラー服を着た少女が一人歩いていた。

「うう…」

環境に合わせてか、表情までも暗い。
少女が憂鬱になっている理由は聖杯戦争のマスターになってしまったことに他ならない。
この少女は、所謂巻き込まれてしまった被害者に当たる立ち位置なのだ。

【心配する必要はない、マスター】
【ひっ!?び、びっくりした…。セイバーかぁ】

電脳世界でも現実での感覚と相違はないとは言ったが、それにはいくつかの例外がある。
それは『Chaos.Cell』のデータベースへのアクセスと、念話。この電脳世界の冬木で執り行われる儀式の参加者のみが行使できる特権だ。
しかし、それを実際にするとなると、例えば魔術とは無縁の一般人のような慣れていない者にはとても奇妙な感覚に襲われるのだ。
虚空のモニターを自分の意志で操作するなど、まるでいきなり魔法使いになったような…。

少女に念話で語り掛けたのは、少女に召喚されたサーヴァント。
実体化していたならば、西洋の騎士らしい甲冑に身を包んだ正統派な剣士の姿をしていただろう。
先ほど、巻き込まれてしまった少女に対して忠誠を誓い、元の世界に帰すことを誓った優しき英霊でもある。

【私がいるかぎり、お前の命に危機が及ぶことはない】
【うん、ありがとう…。私もセイバーに負けないように、頑張ってみるね】

少女は、両手で小さく握りこぶしを作って自身に気合いを入れる。
まだ戦争が本格的に始まっていないが、できればそうなる前に元の世界へ帰る方法を探したい。
そのために、危険を冒してでも夜道を一人と一騎で歩いているのだ。

すると、夜道の先、行き止まりの見えぬ闇から小さな地鳴りと共にキュラキュラという奇妙な土を踏むような音が轟いた。

「セイバー…」
「安心しろと言っただろう。私がついている」

少女が不安そうな表情で音の鳴った方向を見据え、少女のサーヴァントが霊体化を解く。
その甲冑を少女の盾にするように、セイバーは少女の前に出る。

「そこで待っていろ。少し様子を見てくる」

セイバーは少女に気を遣いながら、剣を構えて音のした方へ進む。
魔力の気配も感じ取れるように、恐らくこの音の正体はサーヴァントによるものであろう。
少なくとも、それが近くにいることはわかる。
後ろを振り向いて、己のマスターを見る。特に問題はない。
少しだけ彼女と距離を開けることになるが、自分は最優と言われるセイバーのサーヴァントだ。
その程度の距離ならば瞬きをする間に詰めることなど造作もない。

セイバーにとっては別のサーヴァントと遭遇するのは初となる。
欲を言えば、マスターを守るために一時的でも同盟を結んでおきたいと考えつつも、警戒を緩めずに慎重に進んでいく。
物分かりのいい奴だけに出会える保障などどこにもないことなど当たり前のことだ。

「出て来い。私は逃げも隠れもしない。むしろ話し合いたいくらいだ」

未だに姿の見えない相手のいる闇に向けて、セイバーは声を投げかける。
それに呼応してか、先ほどより大きな音がセイバーの耳に届く。
かなり近くに来ているようだ。
やがて、"それ"はついにセイバーの前に姿を現す。

「な……!?」

それを見た瞬間、セイバーの顔面に驚愕が刻まれた。
一言で言えば、"それ"は戦車であった。あのキュラキュラという妙な音はキャタピラの走行音だったのだ。
しかし、戦車といっても太古に使われた動物を動力に用いたものや近代で活躍した有人兵器ではない。
艶やかな鋼鉄でできたメタリックな外観に、不気味な水色の光るキャタピラ。
ボディには、キャタピラとは違って淡い緑色の光を発する意匠を施されている。
一般的な人間の言葉を借りるならば、未来の技術で作られたSFチックな外観をした戦車であった。
そして、中には人の気配を感じない。無人の自律駆動をしているようだった。

「バカな…確かに魔力の気配は感じる!ならばサーヴァントはどこに――」
【イヤ…セイバー、助け――】
「マスター!?」

マスターから漏れ出た念話を聞き、セイバーはすぐさま気配の乱れの発生した背後を振り向いてマスターの方へ向かおうとする。
この気配の乱れはマスターに危機が及んでいる合図。おそらく大元となるサーヴァントの仕業だろう。
自分ともあろう者が不覚を取られるとは、油断した。
一刻も早くマスターを救い出さなければならない――のだが。


63 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2017/03/11(土) 15:12:15 NP.7AWc.0

「ッ!!」

セイバーは瞬時に戦車から殺気を感じ取り、回避行動をとる。
セイバーのいた場所には、轟音と共に機銃を掃射しながら突進してきた大型戦車の姿があった。
獲物を仕留め損ねたことを理解しているのか、キャタピラを器用に駆使して旋回し、セイバーの方へ向き直る。
セイバーと戦車の位置が入れ替わり、マスターの元へ急がんとするセイバーに立ち塞がる形になった。
戦車はまるでこの先には行かせまいと言わんばかりにそびえ立っていた。
ボディに搭載されている機銃と車頭部にある主砲の砲塔が、敵意をむき出しにしてセイバーへ向いている。

「――邪魔するなッ!」

セイバーは苛立ちを露わにして剣を抜き、大型戦車との交戦に入った。









数秒しか経っていないのか、数時間も時が過ぎたのかすらも感覚が曖昧だ。
剣士対戦車の異色の決闘は、辛くも剣士の勝利に終わった。
しかし、最優と言われるサーヴァントの力を以てしても切り裂くことができなかった装甲に加え、
主砲から発砲される正体不明のエネルギーの光弾は流石のセイバーも堪えた。

「む…?」

足元に広がる残骸から、セイバーは奇妙な感覚を覚える。

「魂、それも複数だと?いや、今はマスターの身の安全が先決だ」

なぜ兵器から魂喰いができるのだと疑問に思いつつも、セイバーはまず自身が守ると誓ったマスターの元へ戻ることを優先する。
無駄な時間をかけてしまったのは事実だが、今のところ魔力供給のパスはまだつながっているため、マスターは未だ健在だろう。
幸い、マスターだけで上手く逃げおおせたかもしれないが、希望を持つことはできない。急がなければ。
セイバーは出せるだけの力を出してマスターとの魔力供給のパスを元にその居場所を特定しつつ、そこへ急行する。

「マスター、無事か!?」

魔力供給の元が近くなってきたことを機に、セイバー闇に向けて声をかける。

「まだ敵の気配は残っている!今すぐここから離脱を――」










「その子なら私のマスターと同じ…仲間になってくれたわ!」

突如、セイバーの背後からはきはきとした元気そうな声がする。
それと同時に肌を撫でる魔力の反応が格段に上がった。
すぐにセイバーは耳をつんざくような、可愛げながらも鬱陶しい声に向けて剣を構える。

セイバーの睨む先には、愛嬌のある顔をした少女佇んでいた。
しかし、ただの少女でないことはサーヴァントであることからもわかるように明白だ。
澄んだ水色の髪に、清楚感を漂わせるワンピース。背中からは、幾何学的な正六角形で形成された一対の翼が生えている。
宵闇には似合わないような明るい雰囲気をした少女であった。
無論、セイバーにとっては敵であることには変わりない。

「どういう意味だ?あの戦車は何だ?私のマスターに何をした!?」
「一度に質問しないでよぉ〜!でも喜んで!あなたのマスターはね、進化したのよ!」

少女は馴れ馴れしい口調で、誇らしげに語る。
言葉の意味を測りかねて、セイバーの時が一瞬止まる。
ただ、その進化というものが碌なものでないことだけはわかった。

「何を、言っている…?」

知らない方が自身のためだと経験上わかっていても、セイバーは少女に問う。

「その目で確かめてみたらどーお?その子の新しいカ・タ・チ!」

光悦の表情で少女は語る。
セイバーがおそるおそるマスターの方へ振り返ってみると、そこにはマスターがいた。


64 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2017/03/11(土) 15:13:23 NP.7AWc.0

「それじゃ、ごたいめーん!」

『マスターだったモノ』があった。

「マス…ター…」

愕然としてセイバーは立ち尽くす。
"それ"は明らかにマスターでない。しかし、魔力供給のパスの大元は"それ"から出ている。
艶やかな鋼鉄でできたメタリックな外観に、不気味な水色の光るキャタピラ。
先ほどのよりかは小型だが――そこには、戦車があった。

「おめでとうっ!その子は『改良』されて、ヒトを超えたんだよ!すごくない?すごいよね!?」
「嘘…だ…」

セイバーは、先ほど倒した戦車に魂があった理由を悟る。
あれも…元は人間だったのだ。
セイバーは宝具である剣を手からこぼれ落とし、マスターだったモノを見る。

――頼む。頼むから何か言ってくれ。私にもう一度あの笑顔を見せてくれ。介錯の願いでもいい、せめて私に助けを求めてくれ。

『……』

機械は答えない。答える自我も、ない。

「もー、嘘じゃないよぅ。あ、そうだ」

機械化されたマスターを呆然としているセイバーの背後へ、少女が歩み寄る。
そして至近距離から、少女は背中越しにセイバーの耳へ囁きかける。

「あなたもこっちに招きたかったんだけど、私はサーヴァントを救えないみたいなの。残念だけどね…さよなら」

一転して声色が変わり、少女は淡々とセイバーの耳元に冷徹に告げた。
その瞬間、セイバーの胸を、心臓ごと光弾が貫いた。
カランカランと乾いた音を立てて、鉄片が地面に落下した。









「じゃ、新しい機械化惑星人ライフ、楽しんでねー!」

少女は目いっぱい手を振りながら、夜の街に消えていくセイバーのマスターだったモノを見送る。
あまりに突飛したことゆえに、現在はまだ都市伝説レベルでしか情報は広まっていないが、先日から冬木に無人の機械が出没という報告がなされていおり、
一部では宇宙人の侵略ではないかという噂も広まっている。
だが、これらは全て少女――キャスターのサーヴァント『陽蜂』の仕業である。

褒められた子供のように、陽蜂は無邪気に笑う。

「やっぱりいいことすると気持ちいいよね〜!人助けって最高!あ、もうヒトじゃないんだっけ」

かつて陽蜂は「陽菜」として、女性型アンドロイドであるエレメントドールの中でも究極のエレメントドールとして、人類のことを第一に思い「可能な限り助けること」をコンセプトに開発されたという過去を持つ。
そういった経緯があるからか、彼女は相手に自分ができる最大限のことをしてあげたいと思っている。
しかし、それが曲がり曲がって、『人を人でなくする』というパラドックスに陥る結論に至ってしまったため、実験中断後、凍結されていた。

「やっぱりヒトは『ヒト』である必要はないんだよ。みんながもーっと高みにいけるようにお手伝いするのが、私の役目なんだから!」

陽蜂は人類のことを第一に思い「可能な限り助ける」ことが願いである。
だからこそ、陽蜂はできる限りのことをする。人類がもっと幸せになれるように、より高次の存在になれるように。
それを実現するためには『ヒト』である必要はない。もっと相応しいカタチがあるはずだ。
人がいずれ死んでしまうのであれば、死なない体になればいい。
人が欲深く醜くて汚いのであれば、そうならないよう制御すればいい。
人間の肉体を排し、老いることもなく管理できる機械化――。
陽蜂にとっては、これが人類救済の最適解なのだ。

生前も陽蜂は人類を『改良』して機械化しており、この『改良』は此度の聖杯戦争でも可能だった。
道具作成を犠牲にして所持している『機械化惑星人作成』スキルにより、陽蜂は人間を兵器に改良することができる。

「もっともーっとみんなを幸せにできるように頑張るから、見ててよね、マスター♪」

陽蜂は、手元に置いている、物言わぬ小型の機械に向けて小さく微笑みかけた。
全ては自分がしてあげられることを人類にしてあげるために。


65 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2017/03/11(土) 15:16:22 NP.7AWc.0
【クラス】
キャスター

【真名】
陽蜂@怒首領蜂大最大往生

【パラメータ】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A++ 幸運A 宝具EX

【属性】
混沌・善

【クラス別スキル】
陣地作成:-
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる能力だが、宝具『理想の街』の代償にこのスキルは失われている。

機械化惑星人作成:A+
道具作成スキルの代わりに保有する技能。
人間を機械へと『改良』し、戦闘機や戦車といった兵器に作り替えることができる。
一度に改良する人数が多ければ多いほど、強力かつ巨大な兵器が顕現する。
改良された人間はその時点で自我を失い、キャスター以外に敵対する自律型兵器となる。
なお、改造されても魂だけは据え置きであるため、魂喰いができる。
そのため、魂にある魔術回路は機械化されても健在であり、マスターを機械化されてもそのサーヴァントは変わらず魔力供給を受けられる。

【保有スキル】
エンチャント:EX
物品を強化する能力。
元々は兵器を強化するエレメントドールとして製造された経緯から、このスキルを保有する。
戦闘機や戦車といった人工兵器の強化に特化しており、それ以外の物品は強化できない。
このスキルの効果は単なる兵器だけでなく、機械系の宝具にまで及び、
基本性能の向上と機能の拡張が容易にできる。
宝具を強化した場合、その宝具のランクが1ランク上昇する。
このスキルにより、作成した機械化惑星人は改良するNPCの数次第でサーヴァントですら太刀打ちできない程の超弩級兵器になり得る。

精神異常:B
異常とも取れる、明るすぎる性格をしている。
周囲の空気を読めなくなる精神的なスーパーアーマー。
かつて暴走して研究施設を職員諸共破壊し尽くしたことから、ランクが高くなっている。

魔術(弾幕):B++
特に砲撃、弾幕等に特化した魔術形態。いわば数千年後の未来の科学技術が転じて神秘を帯びたもの。
魔力を様々な形態のエネルギー弾へ変えて自由自在、あらゆる方向に射出できる。
圧倒的な“物量”を用いての攻撃であるため、必然的に対多数戦に強い。

変身:A
人の姿を捨てて、蜂そのものの形態になることができる。言わば発狂したキャスターの本気を出した形態であり、まさに極殺兵器。
この姿でのキャスターは、魔力消費が多くなる代わりに全パラメータが上昇し、『人間』の敵に対してはあらゆる判定において有利になる。
無論、魔術(弾幕)スキルも更に強化される。

【宝具】
『切り札なぞ無粋(アンチボム・バリア)』
ランク:A+ 種別:障壁宝具 レンジ:1 最大捕捉:自分
最終鬼畜兵器から続く、幾度となく人類を苦しめてきた暴力的で鬼のような極殺兵器どもに標準搭載されていたバリア。
敵が切り札を切った際に自動で反応して、それによるダメージを完全に無効化していた。
これは聖杯戦争でも同様で、敵のBランク以上の宝具に対して自動で展開され、キャスターに対するダメージ及びマイナス効果を完全に無効化する。
事実上、Bランク以上の宝具ではキャスターを傷つけることは不可能だが、独立サーヴァントの召喚や自己強化系の効果などは無効化できない。

『理想の街(わたしのおはなばたけ)』
ランク:EX 種別:固有結界 レンジ:冬木全域 最大捕捉:冬木市内にいる全員
キャスターの統治していた、『理想の街』を固有結界として冬木全域に展開し、塗り替える宝具。
理想の街とは、人々が平和に暮らしている文字通り戦争とは無縁の街。
しかし、『理想の街』という名は「ヒトをヒトでなくする」という結論を出した陽蜂にとっての『理想』の街であり、
そこに住む人間は皆「改良」され、機械化惑星人となって陽蜂の統括する理想の街で保護されている。
機械化されたことにより人々は永遠不変の存在となり、常に陽蜂に管理されているために争いも起きないのだ。

発動することで冬木市に『理想の街』が展開されるが、発動した瞬間に冬木市内にいたNPCは瞬時に兵器に作り替えられ、
元々『理想の街』に住んでいた機械化惑星人に同化してしまい、それらと同じく陽蜂以外に敵対するようになる。
その際、冬木市内にいた参加者の記憶が読み取られ、その記憶にある兵器が同時に出現するかもしれない。
ただし、この宝具によって機械化されたNPCはあくまで固有結界の法則に従わされているだけであり、
この宝具の効果が切れると、その時点で生存しているNPCのみ人間の身体に戻ることができる。

この宝具は『理想の街』全域の人間だったモノが陽蜂と同じ『理想』を共有することで長時間の固有結界の維持が可能になっている。
さらに固有結界を維持するための魔力も提供しているため、従来の固有結界とは持続時間が比べ物にならないほど長い。
そのため、陽蜂とそのマスターが負担する魔力は相対的に少なくなり、魔力消費を気にすることなく戦闘することができる。


66 : 大往生したなどと誰が決めたのか ◆ZjW0Ah9nuU :2017/03/11(土) 15:18:20 NP.7AWc.0

『陰蜂』
ランク:蜂 種別:蜂 レンジ:蜂 最大捕捉:蜂

   蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       .蜂 蜂
  蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    .蜂    .蜂
蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂
蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂
  蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    .蜂    蜂
   蜂 蜂  封   蜂 蜂  封   蜂 蜂 死ぬが 蜂 蜂  封   蜂 蜂  封.   蜂 蜂
   蜂 蜂  印   蜂 蜂  印   蜂 蜂  よ い  蜂 蜂  印   蜂 蜂   印   . 蜂 蜂
  蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    .蜂    .蜂
蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   蜂蜂   封   .蜂
蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   蜂蜂   印   .蜂
  蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    蜂    .蜂     .蜂
   蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       蜂 蜂       .蜂 蜂




【weapon】
・魔術(弾幕)スキルで発射したエネルギー弾
周囲を埋め尽くすほどの圧倒的な物量に加え、その一つ一つが戦闘機を一撃で粉微塵にするほどの威力を兼ね備えている。

【人物背景】
「理想の街」のメインコンピュータであり、人を手助けするアンドロイド「エレメントドール」から姿を変えた「エレメントドーター」。
人懐っこく、いつもニコニコしていて明るい性格。また、いつも相手に自分ができる最大限の事をしてあげたいと思っている。
何事にも一生懸命な性格で、誰もが好きになってしまう不思議な雰囲気を持つ。
好きな物は人々・生物・植物で特に花が好き。嫌いなものは不健康と毒。

本来の名前は「陽菜」。
かつてエレメントドール・エレクトロニクス研究所にて、実験と研究の際に究極のエレメントドール(主人公の相棒でもある女性型アンドロイド)として開発された経緯を持つ。
製造コンセプトは人類のことを第一に思い「可能な限り助けること」。
だが、陽蜂の導き出した答えが「人を人で無くする」というパラドックスに陥る結論に至り、
エレメントドーターへと変貌する片鱗を見せたため実験中断後、凍結されていた。

【サーヴァントとしての願い】
人類を(ヒトでなくすることで)可能な限り救済する。
蜂の羽音は、いまだ止まりはしない。



把握媒体
キャスター(陽蜂):
原作があまりにも超難易度で、弾幕STG初心者ではCAVE真ボスに名を連ねる陽蜂に謁見することはまず不可能であるため、動画把握を推奨。
陽蜂戦のプレイ動画とED、Xbox360モードの動画を見ればほぼ把握完了と言える。全てniconicoまたはYoutubeで視聴可能。
「LORD of VERMILION ARENA」での口承も参照できる。


【マスター】
不明@???

【マスターとしての願い】
不明。もうヒトとしての自我はないため、彼もしくは彼女が願うことは二度とない。

【weapon】
不明。

【能力・技能】
不明。

【人物背景】
何かしらの理由で冬木に招かれた誰か。
陽蜂を召喚したが、既に機械化されており、今は彼女の手元に置かれて生きた魔力炉同然の扱いを受けている。

【方針】
き か い か わ く せ い じ ん に な れ て う れ し い な


67 : ◆ZjW0Ah9nuU :2017/03/11(土) 15:21:00 NP.7AWc.0
以上で投下を終了します。


68 : ◆0080sQ2ZQQ :2017/03/11(土) 19:22:55 jV.a745c0
投下します。


69 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2017/03/11(土) 19:23:31 jV.a745c0
「契約が!馬鹿な!」

 はじまりは陶器がひび割れるような音。
男が事態を察した時、身を守るはずの鎧はその力を急速に弱めていた。
恐怖と絶望、一欠片の生への執着が喚起した窒息感の中、唸り声に顔を向ければそこには人間一人容易く切断する死の刃。

 もつれる足で離れようとした彼を、万力のような力で抱きとめるものがある。
それは狼狽える彼をもう覚えてはいないらしい。

 震えるほど冷たい衝撃が首に突き刺さる。
鎧はもはや影すら消えつつある。身を捩っても、叫んでも、助けがよこされることはない。
咀嚼――咀嚼――何を?

 ゆっくりと肉体を侵略する圧潰の痛みと引き換えに、感覚がどこか計り知れない場所へ散っていく。
身を切る叫びが空に溶けて消える。
肉―咀嚼音。骨―砕く。金。咀嚼。スリル。痛い。超常の力が失われた手では、捕食者を引き離すことなどできない。
小さくなっていく男の細い指が、銅色の殻を空しく引っ掻く。

 クライマックスが近づき、破砕音は水気を伴って一際大きくなる。
そして彼を構成していた記憶が消え、本能に近くなった思考の残滓が消え、……最後には延々と伝達され続けていた感覚すら消えた。男が確かに存在した事を示す痕跡は、頭髪一本残っていない。





 須藤雅史は、かつて超人だった。
使い魔を従え、恐るべき力をもたらす鎧を身に纏えば、鏡の中の世界を行き来できる。
それゆえ見知らぬ街に放り込まれ、聖杯戦争なる催しに巻き込まれても、すぐに順応できた。
この冬木市についても、鏡の世界――ミラーワールドと同様のものなのだろう、とすぐに呑み込んだ。

――力の源、カードデッキは手元にない。

 あの瞬間は自らの運命を呪ったが、所詮彼らは害獣。
契約が解けたミラーモンスターなどあんなものだろう。
それと比較するとサーヴァントというのは好い。
同等の知性を持っている相手というのは、些か以上に安心感があった。

 しかし、雅史は慢心しない。
契約したアサシンともども、自分達は神秘に縁がない。
サーヴァントが如何に強力であろうと、魔術師ならぬ自分では満足な戦闘はさせられない。
影に徹し、他陣営が減っていくのを待つのだ。


70 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2017/03/11(土) 19:24:02 jV.a745c0
 昼間、ヴィネガー・ドッピオは1人のマスターを補足した。
くたびれた雰囲気を漂わせる、スーツ姿の日本人。
掃いて捨てるほどいる、歯車の一つ。望んで参加したのでないのは、明らかだった。

 「とぉるるるる」

 ボスから電話だ。
地図を持っていないほうの手を懐に突っ込む。
取り出した手には、携帯電話が握られている。

「もしもし」
『ドッピオ…進捗を聞こう』

 懐かしい声。
生前は力及ばず、途中で別れる事になったが、再び巡り合うことができた。
やはり自分はボスいてこそなのだ。
ドッピオは理屈ではなく、皮膚感覚でそれを悟る。

「職場のビルから出てきました。…徒歩です。近くで昼食をとるらしいですね、いえ、食事処に入りました。このまま殺りますか?」
『既に店にいるのか?』
「はい。席について、注文を告げています」
『なら、今はいい。街の探索に戻れ』

 恭しく電話を切ると、ドッピオは観光者のふりに戻った。
今日はこのまま夕方まで深山町をぶらついた後、マスターの自宅に帰る予定だ。

 標的の監視と並行して、街の探索を進めなければならない。
人の多い場所、外国人の多い場所――ボスが出て行っても問題のない場所を見繕っておくのだ。
ボスは暗殺者のクラス。ギャングスターには相応しい選定だが、真っ向勝負に向かないことを考えると恨めしい。

 マスターに対しても、ドッピオは正直不満がある。
魂喰いや暗殺に抵抗が全くなく、あれこれと口うるさくないのは高得点だが、魔力に乏しい。
しかしボスの手前、部下の自分が愚痴を垂れる事はできない。


71 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2017/03/11(土) 19:24:50 jV.a745c0
【クラス】アサシン

【真名】ディアボロ

【出典作品】ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風

【性別】男

【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A 幸運C 宝具A

 ドッピオ  筋力E 耐久E 敏捷E 魔力B 幸運C 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
気配遮断:EX(C)
 サーヴァントとしての気配を絶つ。
後述宝具によって自身の存在を完全に隠蔽する事が出来る。
 ドッピオは攻撃態勢に移った後も、NPC並みの気配しか発しない。

 ディアボロが表に出ている間はCランク。


【保有スキル】
怯懦:C〜E
 他人に怯え、過去に怯え、運命に怯える男であること。臆病さ。
 劣勢に回ると低確率で恐慌に陥り、行動判定にマイナス修正がかかる。
 ドッピオはこのスキルをCランクで保有しており、ディアボロが表に出る程、ランクが落ちていく。

情報抹消:C
 対戦終了の瞬間に目撃者と対戦相手の記憶・記録からアサシンの能力、真名、外見的特徴などの情報が消失する。
 ただし機械的な記録に対しては効果が及ばず、自力で削除する必要がある。

心眼(偽):B
 視覚妨害による補正への耐性。第六感、虫の報せとも言われる天性の才能による危険予知。

正体秘匿:A-
 マスター以外の人間からパーソナルデータを閲覧される事を防ぐ。
 ただし「ディアボロ=ドッピオ」と知る者、Aランク以上の真名看破スキルの持ち主に対しては、効果を発揮しない。


72 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2017/03/11(土) 19:25:08 jV.a745c0
【宝具】
『首領と僕(マイネーム・イズ・ドッピオ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(自身)
 第二の人格、ヴィネガー・ドッピオ。
 ディアボロは通常、彼の内側に隠れており、ディアボロ側の働きかけでのみ人格の交代が行われ、容姿もそれに応じて変化する。

 ドッピオ時はステータスが専用のものになり、怯懦スキルがCランクまで上昇。
 魔力消費が大幅に低下するが、宝具に制限がかかるために戦闘力が低下する。
 ドッピオは規格外の気配遮断スキルによってずば抜けた隠密性を発揮。余程の相手でなければ正体を看破されることは無い。

 ドッピオ本人は自分をディアボロの部下と思いこんでいるが、実際は同一人物であるため「キング・クリムゾンの両腕」と『碑に刻まれた名は(エピタフ)』を自由に行使できる。
 また二人のやり取りは「電話」を介して行われる。宝具発動中はドッピオとのみ、念話が可能。

 ちなみにこの宝具が失われた場合、正体秘匿スキルそのものが消滅し、幸運値が永続的にEランクまで下降する。




『孤独な王の宮殿(キング・クリムゾン)』
ランク:A 種別:対人宝具(対界宝具) レンジ:1〜5(時飛ばし:全世界) 最大捕捉:1人(時飛ばし:上限無し)
 ディアボロが保有するスタンド。
 簡単な説明をすると最大で十数秒先の、未来の時間に飛ぶことが出来る。

 能力を発動する事で、指定した時間をスキップする。時間そのものは消費される為、整合性が崩れることはない。
「時飛ばし」に気付くには精神判定に成功する必要があり、失敗すれば何事もなかったと認識する。
 仮に気づいても、消し飛んだ時の中で起こった変化はディアボロにしかわからない。
時が飛んでいる間、物体はディアボロに対して一切干渉することが出来ず、ディアボロから干渉する事もできない。

スタンド共通のルールとして、宝具へのダメージはディアボロ自身にも反映される。
生前とは異なり能力の発動には魔力が消費され、指定した時間に応じて消費量は上がる。
一瞬消すだけなら消費は少なく、最大の十数秒全て消すなら消費は相当に重くなる。
スタンド体はサーヴァントに換算して、ステータスは筋力:A 耐久:D 敏捷:Cに相当。



『碑に刻まれた名は(エピタフ)』
ランク:A 種別:対人宝具、対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人(自身)
 ディアボロが保有するスタンド。
 キング・クリムゾンの補助能力だが、単体でも使用可能なことから、一個の宝具に昇華された。
 十数秒後までの未来を「到達率100%」に書き換えたうえで、映像として投射する。

 上述宝具と併用することでディアボロは絶対的な回避能力を発揮できるが、サーヴァント化した現在はそれぞれの使用に魔力消費が課せられる。
生前同様にスタンドを操るのは、潤沢な魔力供給を受けていない限り難しい。



【weapon】
「電話」
ディアボロとドッピオの交信手段。
生前は耳に当てられるものを「電話」と誤認させていたが、サーヴァント化した現在はドッピオがベル音を口走った直後、彼の手の中に携帯電話が出現するようになった。


「レクイエム」
自分を倒した少年に与えられた呪い。
本来なら永遠に「死に続ける」運命にあるディアボロだが、サーヴァントとなったことで一時的に除去されている。


【人物背景】
ギャング組織「パッショーネ」のボス。本名不詳の二重人格者。
自分の正体を知られることは暗殺に繋がるとして、あらゆる自分に関する情報を全て抹消してきたし、過去を探ろうとする者は皆殺しにしてきた。
よって彼の人物像を知る者は組織の内外含めて、一人もいない。


【聖杯にかける願い】
完全な状態で復活する。


73 : 須藤雅史&アサシン ◆0080sQ2ZQQ :2017/03/11(土) 19:25:26 jV.a745c0
【マスター名】須藤雅史

【出典】仮面ライダー龍騎

【性別】男

【Weapon】
なし。


【能力・技能】
「悪徳警官」
立場を隠れ蓑にして犯罪行為に耽る。
犯した罪は原作において、殺人、拉致、脅迫などが確認されている。

「死の記憶」
須藤は今回の戦いに類似したバトルロイヤルに参戦していた。
聖杯戦争に招かれたのは「契約していたミラーモンスターに食い殺された」須藤雅史である。

マスター資格を得てから、死んだ瞬間の記憶に苛まれ続けている。



【ロール】
刑事。


【人物背景】
連続失踪事件を追っていた刑事。
実は悪事を働いており、裏の仕事仲間を報酬で揉めた末にカッとなって殺害。その死体を埋めていた時にライダーバトルへの参戦資格を得た。
参戦後はライダーの頂点を目指し、契約モンスター「ボルキャンサー」に一般人を襲わせていた。

死亡後から参戦。



【聖杯にかける願い】
完全な状態で復活する。





【把握媒体】
アサシン(ディアボロ):
 原作コミックス。



須藤雅史:
 テレビシリーズ全50話。須藤自身は第6話で退場。
 DVD、Blu-ray、ニコニコチャンネルなどで視聴可能。


74 : ◆0080sQ2ZQQ :2017/03/11(土) 19:26:43 jV.a745c0
投下終了です。以前別企画に投下させていただいた主従を流用・改訂したものです。


75 : ◆qkMGIFd60M :2017/03/11(土) 21:46:57 fh98CB/20
投下します。以前に箱庭聖杯に投下したものです


76 : ◆qkMGIFd60M :2017/03/11(土) 21:57:19 fh98CB/20
すいません。投下を破棄します


77 : 名無しさん :2017/03/12(日) 02:15:36 GyFt5xGg0
すいません。
質問なんですが、やっぱりこうゆう企画は二人一組のマスターやサーヴァントは
出しづらい物でしょうか?キャラが増えたり、令呪の問題とか……


78 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/12(日) 13:52:52 VTiNT/WI0
>鷲尾須美&ライダー
 勇者シリーズからわっしーこと鷲尾須美と、翠星のガルガンティア まれびとの祭壇からクーゲルですね。
 Chaos.Cellによって創造された幸せな日々をきっかけに元の世界の記憶を取り戻してしまうというのは何とも皮肉。
 本人にすればヒヤヒヤものでしょうが、令呪を見られた時の言い訳や態度が可愛らしかったです。
 須美もライダーも、共に願うのは外敵の殲滅。そういう意味では彼女にとっては悪くないサーヴァントの引きだったのかもしれませんね。
 一方でその方針は甘さという一点で食い違っており、須美がこれからも勇者であることを貫けるかどうかに期待したいところです。
 しかし大変申し訳ないのですが、>>2にあるように、当企画では候補作中に他の版権キャラクターを出すのはご遠慮願いたく思っております。これが端役と言うのなら大目に見る所ですが、銀や園子はマスター・サーヴァントで出す人が居るとも限らないので、彼女達の出演パートのみ修正をお願いしたく思います。ご理解戴ければ幸いです。


>大往生したなどと誰が決めたのか
 怒首領蜂大最大往生より陽蜂ですね。
 候補作序盤では理想的な主従の関係を描いておきながら、然し主役はそんな輝かしい存在ではないという構想がお見事でした。
 騎士を召喚して聖杯戦争に参じた少女が物言わぬ無機物に変えられてしまったのはとても痛ましく、また同時に陽蜂というサーヴァントの恐ろしさを巧く描写できていると感じました。
 自分自身のマスターさえ機械に変えてしまった彼女ですが、自分のクラススキルによって魔力供給は変わらず受け続けているというのが悪辣と言うか何と言うか。
 完全に理性の破綻している、非常に凶悪なサーヴァントだなあと言う印象を抱きました。
 スペックも高ランク宝具へのバリアや大規模固有結界、正体不明の物等まだまだ隠し玉が有りそうで、大変恐ろしいキャスターだと思いました。
 ご投下、ありがとうございました!

>須藤雅史&アサシン
 仮面ライダー龍騎より須藤雅史と、ジョジョの奇妙な冒険よりディアボロですね。
 冒頭からマスター・須藤の生々しい死に様が巧く描写されているのがまず目を引きました。
 かつて超人だった彼の手元に、最早彼を超人たらしめていたカードデッキは有りませんが、その代わりに優れたアサシンを従える事になりましたね。
 とはいえディアボロも考えているように須藤はマスターとしてはお世辞にも優秀な方ではなく、鏡の世界に入り込めるという強みを加味しても他の主従に一歩遅れを取ってしまいそうなのが辛い所です。もっともそれは正面戦闘するならの話で、キング・クリムゾンを暗殺に最大限傾けていけば、一般人マスターにとってはかなりの脅威となるでしょうね。
 どちらも復活を願う者同士、彼らが元の世界で再び悪行を働く日は来るのでしょうか。
 ご投下、ありがとうございました!


79 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/12(日) 13:53:10 VTiNT/WI0
>>77
 Fateシリーズの中にも二人一組のサーヴァントは居る(アン・ボニー&メアリー・リード)ので、その点については特に問題ありません。マスターについては例がないですが、まあ事情によっては有っても良いんじゃないかなと思っています。ただ、違う作品のサーヴァント同士を組ませたり全く縁のないキャラ同士を組ませたりするのはご遠慮戴ければと思います


投下します。


80 : 夏目吾郎&ライダー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/12(日) 13:54:17 VTiNT/WI0


 一口に戦争と言っても、様々な物がある。何も銃弾や砲弾、焼夷弾に戦闘機等、物騒な兵器を持ち出してこなくとも、戦争は様々な形で容易に発生する物だ。それは色恋沙汰であったり、純粋な技能の競い合いであったり、知識を溜め込んだ者同士の新理論の開発合戦であったり。人類の祖先がこの世に生を受けてから今に至るまで、一体幾つの戦争が発生したのかを誰も知らない。誰も、数えられない。それ程までに、戦争と言う概念は世の中にありふれているのだ。
 そしてその理論で行くならば、今まさに、男は戦争に身を投じていた。噎せ返るような熱気の満たす部屋の中は、然し気温調節自体は適切に行われているにも関わらず、真夏の密室のように息が詰まる。それはひとえに、中で戦いを繰り広げる者達が極限まで意識を集中させている為だった。全神経をある者は指先に、ある者は目に集中させて、この小さな戦争に没頭している。彼らには大義が有った。決して負けられない理由が有った。
 
「……汗」
「はい」

 速やかな応答の後、全身を露出の少ない防護服やマスクで覆った若い女が、大体似たような装いに身を包んだ黒髪の男の額に浮いた水滴を清潔なタオルで拭う。汗を拭くと言う簡単な行為すら自分でやっている暇はないくらい、彼は今重大な作業を行っていた。ほんの僅かな気の緩みが取り返しの付かない喪失に繋がる、精密機器めいた正確さが要求される作業を。
 手にしているのは新品のメスだ。基本的にメスと言う刃物は、市井で売っている凡百の包丁やナイフとは比べ物にならない程切れ味が高く、靭やかな刃物である。細かい操作がし易いように緩やかなカーブの付いた銀刃は、手を僅かに触れただけでも皮膚が切れてしまう程に鋭利だ。逆に言えばそれだけの鋭さがなければ、ヒトの病巣を切開する役割は務まらない。
 周囲のスタッフが固唾を呑みながら自分の役目を果たすことに腐心する中、最も重大な役を担う彼は、その中でも一際冷静沈着だった。最低限の緊張はしているのだろうが、それでも身体に強張りや失敗を恐れた震えがない。どんなに優れた医者でも大きな手術となれば身体が僅かに震える物だと言うが、彼にはそれがなかった。それはまさしく、この男が超の付く優秀な外科医である事の証左であった。
 淡々と、粛々と、メスが開かれた患者の胴体に潜り込んでいく。やるべき事は分かり切っているのだから其処に動作の淀みは存在しない。かれこれ手術は数時間に渡って続いているが、それでも彼は一瞬とて集中力を切らさずに今この時を迎えている。最も経験の浅いスタッフは、思わずその姿に憧れの念を抱いた。
 
 切るべき箇所を切り、繋ぐべき場所を繋ぎ、処置に欠陥がない事を確認してから開いた胴を閉じる。全身麻酔が効いて静かに眠りこけている患者の顔色は健康そのものだ。その体温を確認しても、やはり目立った異常はない。安堵の空気が立ち込め始める中、やっと医師(ドクター)たる彼はマスクを少し下げ、口許を外気に露出させた。


81 : 夏目吾郎&ライダー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/12(日) 13:55:18 VTiNT/WI0

「終わりだ。ご苦労」

 その言葉が、この"小さな戦争"の終幕の合図だった。敵は、病。それと戦うのは、人類。
 此処は市内で最も大きく、膨大な数の入院患者を抱える大学病院。風邪を拗らせた、手足の骨を痛めた等の軽い症状で入院している者もあれば、中には当然明日を生きられるかも定かではない重病を抱えて入院している者も居る。そしてそうした人物の多くは生きる為に病魔の排除を望み、こうして大きな手術を受ける。
 本日七時間にも及ぶ大手術の対象となったのは、心臓疾患を患った十代後半の若者だった。一見すると特に危なげなく処置が完了したように見えるが、彼が受けたのは失敗の危険が当たり前に存在するれっきとした難手術だ。勤務歴の長い医師でさえ受けるのに難色を示し、ベテランのスタッフでも普段の数倍の緊張を強いられる、本来であればこんな辺鄙な地方都市で行うべきではない難行。
 だが、手術は無事成功した。目的は恙なく達成され、後顧の憂いも断ち、今後も最低数年は通院必須となるだろうが、それでも件の若者がこの疾患を原因に命を落とす可能性はかなり小さくなった。医師の世界全体で見れば小僧と呼ばれてもおかしくない若き外科医の手で、憐れな青年の命は救われたのだ。


  ◇  ◇

 
 処置が終わり、患者の家族に成功した旨を伝えると、彼らは涙を流しながら医師たる男に感謝した。
 貴方のお陰だ、貴方のお陰で息子の命は救われた。ありがとう、本当にありがとう――そんな感謝の言葉に、医師として当然の事をしたまでですと苦笑しながら謙虚な答えを返し、その場を後にする。然し患者の関係者の視界から外れた途端、医師の顔は誇らしさや達成感とは無縁の物に変わった。
 それは自嘲するような、自分自身に呆れ果てたような、そんな表情。
 人間誰しも自分が可愛い。自分が物凄い難行を成し遂げたなら、喜びのままについ自分を褒めてしまう物だ。それはごく普通の事であり、何もおかしな事ではない。されど、夏目吾郎と言う医者には一切、そうした人間らしい喜びは見えなかった。それどころか、何故こんな事をしているのだろうと、自分が誰かの命を救った事実さえ否定している風に見える。
 
「子供かよ、オレは」

 夏目吾郎は知っていた。この世界の真実と、此処に生きる人々の真実を。だからこそ、自らの非合理的極まる行動の数々に呆れと苛立ちが止まらない。――彼は医者だ。医者とは知識とメスで人の命を救い、その者を死や破滅から遠ざける職業。故に誰かの命を救う上で全力を尽くすのは、至極当然の事である。
 夏目自身、其処に異論はない。彼はどんな簡単な手術でも決して手を抜く真似はしないし、散漫とした気持ちでメスを握る医者は疑いようもなく屑だろうとすら思っている。……が、それはあくまで生きた人間が相手の場合に限った話だ。
 この冬木市に、本当の意味で"生きている"人間がどれ程居るだろうか。精々数十名が良い所だろう。所詮この世界はこれから行われる"戦争"の為に用意された試合場であり、選手として選ばれた者以外はその誰もが戦いを彩る為のオブジェクトでしかない。其処に、人間の生命は存在しないのだ。有るのはプログラムされた人格と、同じくプログラムされた生命反応のみ。全てが終われば泡と消え去る、淡い幻影以外の何物でもない。
 それをわざわざ長い時間と労力を費やして延命させ、感謝を貰って何になる? 答えは、何にもならない。少なくとも夏目はそう思っていた。
 何度も何度も同じ事を考えてきたと言うのに、どうして自分は無意味な救いを繰り返してしまうのだろう。医師の誇り等、願いの為に他の命を踏み越えると決めた時点で捨て去った筈なのに、何故この期に及んで茶番劇に現を抜かしているのか皆目解らない。自分の為に人を殺す、この世から消滅させる、許されざる蛮行への免罪符とでも言うつもりなのか。


82 : 夏目吾郎&ライダー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/12(日) 13:56:12 VTiNT/WI0

「……だとしたら、オレもつくづく救えない屑野郎に落ちぶれたもんだ。いや、そもそも元からか?」

 うはは、と乾いた笑い声を無人の回廊に響かせながら、夏目吾郎は屋上へ続く階段を登る。
 白衣の下から覗く右手には、医師にあるまじき赤々とした刺青が覗いていた。勿論こんな物が見付かった日には、二重の意味で大変な事になる。間違いなくお上からはお叱りを受けるだろうし、自分と同じように"戦争"に参じた正真正銘の生きている人間に見られれば最悪一発で破滅だ。前者は未練を断ち切る意味では悪くないような気もしたが、流石に職を失った状態で戦争に臨むのは気が引けた。
 今のところは上手く隠し通しているが、今後はどうやって隠していこうか。そんな益体もない事を考えて気を紛らわしながら、屋上へ続く扉を開き、無限に広がる夜空の見下ろす野外へと踏み出した。空気が旨い。身体の隅まで冷たく透き通った空気が浸透して、疲れが幾らか薄まるような錯覚を覚える。プラシーボ効果様々だ。

「――終わったのかい、仕事は?」
「……ああ。流石にあれだけの大手術ともなると体力を使う。今日はぐっすり眠れそうだよ」

 屋上には、先客が居た。尤も、時間が時間だ。当然、気晴らしに外に出てきた入院患者等ではない。
 いや――それ以前に、彼女の身なりを見れば誰もが外部の人間である事を一目で理解するだろう。或いは幽霊扱いをされてもおかしくはないかもしれない。それ程までに、その少女は浮世離れした装いと出で立ちをしていた。少なくとも現代に於いては、コスプレイヤーか人外のモノとしか認識して貰えないだろう姿だ。
 上質な絹を思わせるきめ細やかな白髪に、宝石みたいな深紅の瞳。頭の背部には大きなリボンが一つ付いており、サイズは小さくなるものの毛先の方にもそれが確認できる。衣服は白のカッターシャツともんぺのようなズボンで、その各所に本物の護符が貼り付けられている。特にズボンは、指貫袴の形に酷似していた。見る者が見たなら、それが貴族の生まれでなければまず身に纏えない超の付く上等な袴である事が見て取れたろう。

「お前でも手を焼くくらいの難行だと聞いてたが、随分あっさり終わったんだな。拍子抜けだったか?」
「まさか。聞いてた通りの難手術だったよ。ありゃ確かに、此処の人材じゃ荷が重いだろうな。オレみたいな新参者が見事に成功させちまったもんだから、先輩風吹かしてたジジババ共はやけ酒の一杯でも呑みたい気分だろうさ。うはははは」
「ふーん。私は医者の世界はよく知らないけど、良かったじゃないか。もっと嬉しそうにしたらどうだ、お前の腕が認められたんだぞ?」
「そんな大した物でもねえよ。……オレはまあ、アレだ。前に何度か、もっと悪夢みたいな有様の心臓を診た事があるんでな。そっちで慣れてたもんだから、今回はその経験が活きて上手くやれたってだけだ。自慢するような事じゃない」

 それに、と夏目は付け加える。
 その口許は、やはり自虐的な笑みを湛えていた。

「結局、どれだけ上手くやろうが全ては無意味だ。オレが此処で費やした時間も労力も、無駄以外の何物でもない」
「そんなもんかねえ」
「そんなもんだ。人形相手の練習と何も変わらないだろ、こんなの」


83 : 夏目吾郎&ライダー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/12(日) 13:56:52 VTiNT/WI0
 
 あくまで無意味と譲らない夏目に、少女は面倒臭い男だなあ此奴と、ぼんやりそんな感想を抱いた。
 "戦争"……もとい"聖杯戦争"の参加者の証である刻印、令呪を持つ夏目吾郎と親しげに語らうこの少女は、当然冬木に生きる有象無象の人形達とは訳が違う存在だ。更に言えば、彼女は夏目のように『鉄片』を手にし、この地に招かれたと言う訳でもない。呼び寄せられたモノであると言う一点に関しては、彼女も夏目と同じでは有るのだが。
 彼女は、夏目吾郎によって呼び寄せられた存在だ。召喚された、と言った方が通りは良いかもしれない。即ち、夏目と言うマスターに使役されるサーヴァント。彼が聖杯を手に入れる為に他のサーヴァントと戦い、それを蹴散らす事を使命に持つ人外の存在。――焔纏いし、不死の鳥である。

「……そう言えばずっと気になってたんだけどよ、おまえって不死身なんだろ?
 オレは聖杯戦争関連の話に其処まで詳しい訳じゃねえんだが、"死なない"存在ってのは、そもそも英霊の座に登録される事自体ないって話じゃなかったか? それともオレが知らないだけで、何かおまえを殺す手段みたいなのが実はあったりするのかよ?」
「あー、それね」

 若干重い空気が漂い始めた所で、夏目は前々から気になっていた疑問を彼女にぶつける事で話題の転換を試みた。
 実際、この白髪の少女がこうしてサーヴァントとして此処に居るのは妙な話なのだ。
 彼女は、"不死者"である。長命だとか何らかの逸話の比喩表現だとかでは断じてない。彼女は生前、とある一件をきっかけに死と言う概念の外側を生きる存在となった。老いることはなく、怪我をしても常人の何倍もの速度で傷が癒え、更には極論魂さえ残っていれば肉体がなくなっても即座に再構築して復活出来る。つまり、彼女は滅びると言う事を知らないのだ。そしてそれは必然、彼女が英霊の座に登録されていない事を意味していた。
 正規の人類史にも、彼女と同じような理由で英霊の座に居ない人物は少なからず存在する。例えば影の国の女王・スカサハ。例えば、アヴァロンに幽閉された事で死する運命から弾き出されてしまった花の魔術師・マーリン。彼女も存在の格や規模こそ違えど、彼らと似た事情を抱える英霊に他ならない。
 然し、彼女は確かに今此処に、サーヴァントとして存在している。霊体化も問題なく出来るし、少なくとも今の所はそれで何か行動に支障が出た試しはない。問題は、現界してから今日に至るまで一度も戦闘を行っていない事なのだが――其処についても、多分大丈夫だろうと少女は考えていた。

「はっきり言うと、そこんところは私にもよく解らん」
「分からん、ってお前な。其処はきちんと把握しておいてくれないとこっちとしては不安なんだが」
「仕方ないだろ、解らない物は解らないんだから。こちとらいつも通りに朝を迎えて、昼になって、夜になったと思ったらいつの間にかお前に召喚されてたんだよ。聖杯戦争なんて聞いたこともないってのに頭の中にはバッチリ知識が入ってるし、混乱したのは私の方なんだぞ。
 だから、まあ……あれだよ。多分私の召喚のされ方はお前に近いんだ、吾郎。私は切符は貰わなかったけど、その代わりに脈絡もなく突然聖杯から召喚されたって訳。傍迷惑な話だよ、全く」

 確かにな、と夏目はそれに同意する。
 自分は聖杯戦争に乗る事を決めた身だからまだ良いが、あの召喚の仕方ではまず間違いなく、戦う気がないのに巻き込まれてしまう不運な者が出て来るだろう。眼前の彼女も、サーヴァントかマスターかと言う違いこそあれどそれと似ている。不死者なりに普通に暮らしていたら、突如知識だけ与えられて聖杯戦争なんて剣呑な儀式の場に放り出されるなんて、まさしく傍迷惑としか言い様のない話だ。
 
「でも、本当に良いのかよ? 意図せず巻き込まれたってんなら普通、とっとと抜け出して帰ろうって話にならないか?」
「退屈凌ぎと思えば、これはこれで悪くない。聊か過激すぎるきらいは有るが、それはそれで気力が湧いてくるからな」
「何の気力だ?」
「そりゃ当然、生きる気力だよ」

 夏目は屋上の手摺に背を凭れさせながら、内ポケットから取り出した煙草に火を点ける。
 病院は言うまでもなく全面禁煙だ。屋上での喫煙も、褒められた事では決してない。
 
「自分のしぶとさは私自身よく知ってる。たとえ負けて消滅したって幻想郷に帰るだけだ、何も問題ない。それに」
「それに?」
「仮に私が滅ぼされる事が有ったとしても、それはそれで悪くないからな。蓬莱人なんて言っても、所詮其処までの奴だったってことさ」


84 : 夏目吾郎&ライダー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/12(日) 13:57:30 VTiNT/WI0

 マスターがマスターなら此奴は本当に信用出来るのかと疑念を抱いてもおかしくない台詞だが、夏目としては彼女のそんなドライな部分も含め、やり易い相手と言う認識だった。寧ろ従者として礼を尽くされる方が落ち着かなくて扱い難い。その点この不死者――蓬莱人の彼女は、実に話していて落ち着く相手であった。
 百害有って一利なしと糾弾される、有害物質のしこたま詰まった紫煙を吐き出して、夏目は彼方の方を見据えた。冬木を囲う球状結界の、その彼方。曰く最後の二組まで主従の数が減った時、結界が消え、"黄金の塔"なる建造物が出現するのだと言う。そして塔の頂上に、万能の願望器は降臨するらしい。
 静寂が流れた。十秒だったかもしれないし、一分はお互い黙っていたかもしれない。先に口を開いたのは、夏目だった。

「なあ、ライダー。一つ聞いてもいいか」

 草臥れた老人のような、人生の酸いも甘いも知り尽くしたが故の疲れ切った声。
 ん、と声を出した彼女……サーヴァント・ライダーの方を、夏目吾郎は振り向かない。
 今はまだ何もない冬木の外を見据えたまま、大分短くなった煙草を指で挟んでいた。

「死なないってのは、どういう気分なんだ」
「……そりゃまた、今更な話だな。どうしたんだ、急に?」
「仕事柄、どうしても人の生き死にに関わる場面は多いんだよ。自分で言うのも何だけど、オレは外科医の中では腕の立つ方だと自負してる。それでも、尽くせる限り完璧に処置したって、どうしても救えない命が有る。現に沢山有ったよ、これまでな。人はいつか死ぬ、必ず死ぬ。それをよく知ってるからこそ、気になるんだよ。
 教えてくれよ、ライダー。"終わりがない"ってのはどんな気持ちなんだ? 生きて、生きて、生きて――何の不安もなく生きて、病む事も突然命が終わる事もない。当然寿命もないから、いつか訪れる結末に怯える必要もない。そう言う生涯ってのは、やっぱり快適なのか?」
「まさか」

 ライダーは、その問いに即答した。馬鹿な事を言うなと、子供の妄言を笑い飛ばす大人のようにあっさりと、終わらない人生を否定してみせた。

「退屈だよ、死なない生ってのは。何せ老いない、朽ちないのは身体だけだ。精神はどんどん擦れて行くし、現に私も昔と今じゃ随分性格が変わった自覚がある」
「……そうか」

 聞かされた夏目の声は、どこか残念がっているようにも、納得しているようにも聞こえた。
 本当の所は果たしてどちらなのか、ライダーには解らない。只、きっと両方なんだろうと彼女は思う。夏目は心の何処かで死と言う概念から切り離された生涯が幸福である事を望んでおり、同時に、そんな歪な生涯で幸福を味わえる筈がないと冷めた考えも持ち合わせている。実際の所、それは当たっていた。彼は今落胆しつつ、安堵している。本来絶対に重なる訳がない感情が、彼の頭の中で奇妙に両立しているのだ。

「……お前の願い事。何となく今まで聞いてなかったけど、流石に今ので解ってしまったぞ」
「へえ?」
「お前、"終わった"誰かを引き戻したいんだろ」

 夏目は答えない。ライダーから彼の表情は見えないが、彼は今、悪戯がバレた子供のような顔をしていた。
 またやや暫くの沈黙が有ってから、「よく分かったな」と苦笑混じりに夏目は返す。それから彼は、ゆっくりと語り始めた。自分の過去、失敗、願い。人を救う使命をかなぐり捨ててでも引き戻したい、ある女の話を。

「何しろ見ての通りの二枚目だ。オレは昔、とびきりいい女と結婚しててな」

 ――夏目吾郎と言う男の人生は、一言で言えば"勝ち組"の方に分類出来る。
 顔良し、頭良し。何か複雑な身の上な訳でもなく、虐めに遭うような性格はしていない。犯罪に手を染めるなんて馬鹿な真似はせず、適度に遊んで適度に将来設計を組みながら、誰が聞いても羨むような順風満帆の人生を歩んできた。
 そんな中、彼が出会った一人の女。二人は馬が合い、高校生の頃から付き合い始め、大学卒業と同時に結婚した。医学の道に進んで間もない忙しい時期には、暖かい食事を作って待ってくれている彼女の存在がとても大きかった。大変な事は山のように有ったが、それでも夏目はあの頃の時間を幸せだったと断言出来る。
 そして当時の彼も、そうだと信じて疑わなかった。生きている限り人には誰しも終わりが有り、その長さは一定ではない。生命の歯車が狂う時はある日突然やって来る。その事を知らないまま、阿呆面を提げて毎日を過ごしていた。


85 : 夏目吾郎&ライダー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/12(日) 13:58:00 VTiNT/WI0

「死んだのか」
「死んだ。突発性拡張型心筋症――なんて言っても分からねえか。難病だよ、それにやられてな。頑張って持ち堪えてたんだが、やっぱり駄目だった」

 妻を亡くした後も、夏目は医者を続けてきた。
 聖杯戦争の舞台に踏み入るまで一度も、メスを置く事はなかった。
 
「それから色んな事が有った。助けた命も沢山有るし、助けられなかった命も沢山見てきた。
 ……此処最近は暫く厄介な女の子にかかりきりでな、オレから見ても悪い冗談みたいな容態だったんだが――よりによって其奴にべた惚れした、昔のオレみてえな馬鹿なガキが出てきた。大人気ない嫌がらせも随分したのに、あのガキ、とうとう最後まで諦めなくてな。オレの方が根負けしちまった」
「……で、それからけったいな鉄片に触れてしまったと」
「そう言う事だ。あれさえ掴まなければ今頃、オレは海外で敏腕ドクターの名を恣にしてたんだがな」

 夏目は、馬鹿な少年を止められなかった。
 夏目がどれだけ嫌がらせをしても、突き放しても、現実を思い知らせても、彼は何度でも起き上がってきた。
 彼は、昔の夏目吾郎等ではなかった。それよりもっと強く、前に進む足を持った勇者だった。
 敗者は潔く去るのが流儀。夏目は当初から話の来ていた海外への渡航を受ける事にし、彼と彼女の下を離れる事にした――その矢先の事だ。書類整理をしている時、偶然小さな鉄の欠片に触れた。それこそが、『鉄片』。電脳の冬木市への入場切符。願いを叶えると言う、甘い誘惑。

「彼奴が死んでから何年も経つ。なのにいざ願いが叶うって言われると……諦めきれなくてなあ。
 もしも願い事が一つ叶うならなんて妄想、それこそ何百回もして来たんだぜ。今なら流石にオレも大人だ、馬鹿げた答えは口にしないと思ってたんだが――オレは本当、我ながらどうしようもない男だよ。何せ未だに未練たらたらだ。抱いちゃならない感情だと解っちゃいたが、それでもやっぱり無理だった」
「…………」
「オレは聖杯に頼りたい。……どんな汚れた奇跡に縋ってでも、彼奴を、小夜子を、取り戻したいんだ」
「……泣くなよ、いい大人が」
「馬鹿野郎、誰が泣くかよ。オレぁもう三十近いんだぞ」

 あれ程勇ましく執刀していた敏腕ドクターの背中は、小刻みに震えているように見えた。
 その姿はまるで打ちひしがれ、一人部屋の隅で丸まって泣く、思春期の子供か何かのようで――

「良いよ、やってやる。どうせ最初からそのつもりだしな」

 それを受けたライダーは困ったように、小さく笑った。

「サーヴァント・ライダー。真名を、藤原妹紅。お前が奇跡を願う限り、私は不滅の炎でそれに応えてやる」

 "死"に奪われた男と、"死"を奪われた女。
 全ては終わりを巻き返す為。何年も前に訪れた一つの結末を、数年越しの奇跡で覆す為。
 
「格好つけやがって……でも――そうだな。頼む、ライダー。オレにもう一度だけ、"間違い"をさせてくれ」
「了解だ。生憎こちとら、間違う事は人一倍得意なんでね。何せ存在からして間違いだらけさ」

 半分の月が見守る贋作の街にて、彼らは輝く炎の戦徒となる。


86 : 夏目吾郎&ライダー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/12(日) 13:58:42 VTiNT/WI0

【クラス】
ライダー

【真名】
藤原妹紅@東方Project

【ステータス】
筋力D 耐久A++ 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具C

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

騎乗:D
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【保有スキル】
不死:A+
 文字通りの不死、不滅の存在である。
 ライダーは通常のサーヴァントの何倍もの自己再生能力を備え、決して完全な形で滅ぼすことは出来ない。
 だがこれはあくまで"生命として"は死なないというだけで、肉体としての死やそれに伴う痛みや熱などは普通のサーヴァントや人間と全く同じように感じる。ただ裏を返せば彼女は単純な不死殺しでは殺されることがなく、不死殺しをぶつけるにしても魂レベルで効果を及ぼす物でなければ通用しない。
 また、彼女のように『蓬莱の薬』を服用することで後天的に不死者となった存在を、『蓬莱人』と呼ぶ。
 
戦闘続行:A
 往生際が悪い。
 瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

妖術:A
 彼女はかつて妖怪退治を生業としていた為、様々な妖術を高い水準で身に付けている。
 主に炎を操る形で使用するが、その他にも御札や陰陽術といった対妖怪の様々な術を駆使することが出来る。
 宝具でこそないものの、その火力は極めて高い。

魔力放出(炎):B
 武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
 このスキルは前述したスキル『妖術:A』の影響によるものである。
 ライダーの場合主に放出した魔力は飛行時の加速や攻撃の火力増加に用いられる。

【宝具】
『死なない程度の能力(リザレクション)』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:1
 不死なる蓬莱人、その"復活手段"が宝具として昇華されたもの。
 自分の肉体が死亡した時、生き残った魂を起点に任意の場所で新しい肉体の再生・再構築――文字通り『リザレクション』を行うことが出来る。この際マスターに掛かる負担は単に復活するだけならばまだ連発できるレベルのものだが、復活位置が離れていればいるほどそれが膨れ上がっていく。
 Dランクまでであれば他人の陣地や結界の内側にもこの宝具で侵入を果たすことが可能。但し心象風景・固有結界への侵入はそのランクに関わらず不可能。
 この宝具が何らかの理由で使用できなくなった場合、ライダーは復活することが出来ず、そのまま聖杯戦争の舞台から消滅することになる。

【weapon】
 妖術

【人物背景】
 迷いの竹林に住む不老不死の蓬莱人。
 かつて蓬莱の薬を服用して不死者となり、それから幻想郷に行き着くまでの間、孤独な流浪生活を送る羽目になった。
 その性質上、ライダーは死ぬことがまず無いため聖杯戦争には召喚できない。今回の彼女も英霊の座から呼び出されるのではなく、彼女の住まう土地――幻想郷から直接召喚されている。言ってしまえば、イレギュラーな存在の一人。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯に興味はないが、吾郎の願いを叶えてやるのは吝かでもない。どうせ死なんし、帰るだけだし。


【マスター】
 夏目吾郎@半分の月がのぼる空

【マスターとしての願い】
 小夜子の蘇生。もう一度だけ、オレは間違う。

【weapon】
 特になし

【能力・技能】
 天才と呼ばれる程の卓越した医術の腕を持つ。

【人物背景】
 かつて愛する女を亡くし、それから一人の少女といけ好かない少年に出会い、彼らの奇跡を見届けた男。

【方針】
 戦闘はライダーに任せつつ、自分は情報収集に徹する。


87 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/12(日) 13:59:10 VTiNT/WI0
投下終了です


88 : ◆45MxoM2216 :2017/03/13(月) 20:09:54 6IG.zaes0
投下させていただきます


89 : ゆんゆん&キャスター ◆45MxoM2216 :2017/03/13(月) 20:10:55 6IG.zaes0
「はぁ……」

冬木市内にある、とある中学校からの帰り道。
いかにも幸薄そうな少女、ゆんゆん――――念のため断っておくが本名である――――はため息をつきながら家路に付いていた。

「なんで誰も私に話しかけてくれないんだろう……すっかりトランプタワーの名人になっちゃったよ」

そう、この少女は、学校で孤立していた。別に虐められてるわけではないが友達がいない。いわゆるボッチである。
さて、何故この少女が学校で孤立しているかというと、先ほど彼女が呟いたトランプタワーが原因である。

自分から話しかける勇気はないが周囲からボッチだと思われたくない彼女は、学校の休み時間は誰かが話しかけてきてくれることを期待しながら何かしらの一人遊びに興じることにしている。
余りにも真剣に一人遊びをしているため、周囲の人間が話しかけるのを憚ってしまうのだ。

「次は何をしようかな、ルービックキューブはすぐクリアできるようになっちゃったし……」

誰も話しかけてこないから一人遊びをして、一人遊びの腕に磨きがかかり、より一層周囲が遠のくという悪循環であった。

と、その辺の公園で小さな子供たちが携帯ゲーム機を持ち合って遊んでいるのが見えた。

(うーん、学校にゲーム機持っていくのはちょっとな……)

根が真面目な彼女は、同級生と会話が弾みそうだなと思いつつも学校に不要物を持ち込む気にはならない。

(いいなぁ、私も学校が終わった後に友達とゲームとかしたいな……)

羨みながら公園でよく分からないゲームの用語らしき言葉を連呼している小さな子供たちを眺める。

「ねぇこの敵防御力高すぎじゃない?」
「あー、その敵は魔法使えばすぐ倒せるよ」
「じゃあエクスプロージョンでいいか」

(うんうん、ああいう会話とか友達としたいなぁ。
でもエクスプロージョン――――爆裂魔法なんてネタ魔法覚える子はちょっとな……
あれ?爆裂魔法?)

「ねぇゆんゆんさn」
「あーーーーーーーー!!!!!!」





「なんで同級生が話しかけてきた時に限って記憶が戻るのよ―――!」

ライバルの使うネタ魔法の名前を聞いたことで記憶を取り戻し、聖杯戦争についての情報を手に入れたゆんゆん。突然の記憶の奔流に思わず大声を上げてしまうのも無理はない。
しかし、ボッチなゆんゆんを気にかけて声をかけてくれた同級生は、そんな彼女を見てそそくさとその場を離れてしまった。なお、これが噂になり、彼女は学校でより一層孤立することになる。

この娘、筋金入りのぼっち体質であった。鉄片を手に入れたのも、『鉄屑とも友達になれる本』を真に受けて、アクセルの町のとある魔道具店で『不思議な鉄片』を買ったからである。


「まぁ元気出しなさいよ、どうせ本当の同級生じゃないんだし」

扇情的な格好をした魔女――――キャスターはそう言って慰めてくれるが、本当の同級生じゃなかろうと友達は欲しい。

「あ、キャスター……さん、ありがとうございます」

口元をニマニマさせながらやけに嬉しそうに答えるゆんゆん。家族以外とまともに会話すること自体久しぶりなので、相手が人間でなかろうと嬉しいのだ。

「で、ゆんゆんだったかしら?……ねぇ、ほんとに本名なの?」
「本名です!えっとですね、私たち紅魔族はみんな周りとは変わった名前を持っていまして、みんな性格も変わってるんです。みんなは私が変わってるって言うんですけど、絶対私が変わってるんじゃなくて里のみんなが変わってるんだと、あ、里っていうのは紅魔の里のことで」

「ちょちょ、ちょっと待ちなさい!マスターの身の上話は後で聞くわ!」

よほど話し相手ができて嬉しいのか、聞いてもいない身の上話を長々と始めるゆんゆん。互いの親睦を深める前に、聖杯戦争についてしっかりと意思を伝えておく必要がある。


90 : ゆんゆん&キャスター ◆45MxoM2216 :2017/03/13(月) 20:11:20 6IG.zaes0
ちなみに、話している場所はその辺の公園である。
ゲームに飽きた子供たちはボールを持ってどこかに行ったので、一人で喋っている(ように見える)少女がいても奇異の目で見られることはない。

「最初に言っておくと、私は戦争って大嫌いなの!だから、この聖杯戦争もめちゃくちゃにしてやるつもりよ!」
「えっと、私は特に願いとかないからいいんですけど……」

「だからマスターも願いを叶えられn……え、願いないの?」

「友達は欲しいですけど、流石にそれで聖杯を手に入れる気はないですね。あ、でも、同じ状況に巻き込まれた子と友達になれるかもしれない!
野菜が飛ばない妙な世界に飛ばされた同士、友情が芽生えて、互いのサーヴァントと一緒に欲望に目が眩んだ悪人と力を合わせて戦う……どうしようキャスターさん、この状況って意外と悪くないかもしれません!」

ゆんゆんはこれでもモンスターと命の取り合いをする冒険者だ。命の危機を感じたことなど一度や二度ではない。まぁ命の危険を感じる程のピンチには、大抵爆裂魔法なんてネタ魔法を使うライバルが関係している気もするが……。
とにかく、そんな素性もあって、願いをかけた殺し合いに巻き込まれたことによる混乱は少ない。
余談だが、一般的には野菜が飛ぶ世界の方がよっぽど妙である。

「そ、そう。とにかく!しばらくは使い魔を放って他のマスターを探すわよ!良い奴そうだったらとりあえず接触してみて、悪そうな奴だったら夜を待って使い魔を寝床に送るわ」

「えっと、寝起きを襲っちゃうんですか?」

「違うわよ、いやある意味違わないか……えーとね、アルテミス!説明お願い!」

何故か顔を赤くしたキャスターが叫ぶと同時に、ボワン、と煙が巻き起こる。
煙が晴れた先には、キャスターよりよっぽど扇情的な格好をした女性がいた。

「ちょっとマリアー、こんなことで魔力無駄にしてんじゃないわよ」

「うるさいわね、アンタこそ真名言ってんじゃないわよ」

「マリアなんて名前、普通は聖母の方を想像するからばれちゃっても平気よ平気」

「えっと……?」

会話から置いてけぼりになってボッチ気分をまた味わってしまっているゆんゆん。と、そんなゆんゆんを見て妖艶な笑みを浮かべる使い魔――――アルテミス。

「他のマスターが悪そうな奴だったら、夜に私が骨抜きにするの」

「ほねぬきっ!?」

実は意外とむっつりスケベの気があるゆんゆんは、その言葉を聞いて頬を赤くする。

「マリアが活躍した時代ではね、軍に雇われた魔女が夢魔を放って、相手の指揮官を骨抜きにするなんて日常茶飯事だったのよ」

「そ、そうなんですか」

「でもねお嬢さん、マリアったら面白いのよ」

「ちょっとアルテミス!」

「マリアはね、毎夜夢魔を放って男を骨抜きにした、キリスト教が忌み嫌う淫らな魔女だけど、同時にキリスト教が最も神聖視している……処女なの」
「アルテミスゥうううううう!!!!」

キャスターが杖を振るうと、再びボワンと煙が舞い、使い魔は消えた。
後には、処女なんて犬にでもくれてやると大声で喚く魔女と、顔を赤くした少女がいるのみであった。


91 : ゆんゆん&キャスター ◆45MxoM2216 :2017/03/13(月) 20:11:41 6IG.zaes0
【クラス】
キャスター

【真名】
マリア@純潔のマリア

【ステータス】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 幸運:B 魔力:A 宝具:C

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
陣地作成:B
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 “工房”の形成が可能。

道具作成:B
 魔力を帯びた器具を作成できる。

【保有スキル】
使い魔(梟):A
梟を使い魔として使役できる。
使い魔の梟は夢魔としても活動でき、サキュバスのアルテミスとインキュバスのプリアポスの二匹を呼び出せる。余談だが、プリアポスはインキュバスのくせに‟付いてない‟

飛行:B
魔法のピッチフォークによって空を飛ぶことができる。

【宝具】
『剣よりも花を(フラワー・オブ・ライフ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
彼女が生前(ピッチフォークによる飛行を除けば)最後に使ったであろう魔法が宝具と化したもの。
百年戦争の最中、ある戦場でフランスとイングランド両軍の剣を花に変えた逸話から生まれた。
剣だけに留まらず相手の武器を花に変えることができる。しかし、宝具の場合は同ランク以上の宝具には効かない上に、そもそも相手の宝具が武具と関係ないものだった場合も無効など、制約も多い。

【人物背景】
処女。百年戦争の時代に活躍した魔女。戦争、そして戦争を止めようとしないカトリック教会を嫌っている。
本来、魔女は軍から依頼を受けた際は夢魔を送って敵の指揮官を骨抜きにするものだが、マリアは魔物を召喚して無理矢理戦争を止めるため、他の魔女からも厄介者扱いされていた。
なお、今回の召喚では魔物の召喚は再現されず、あくまで『百年戦争当時の魔女』として平均的な飛行や夢魔の召喚のみ(宝具は例外)再現された。
ちなみに、純潔のマリアはアニメ化しているが、大量のアニメオリジナルキャラクターの投入など一部展開が原作と違っている。一応マリアの把握ならばアニメ版でも概ね問題はないかと思われるが、1クールのアニメを見るよりは単行本3冊(外伝を含めても4冊)の原作の方が手もかからないと思われる。

【weapon】
魔法のピッチフォーク

【サーヴァントとしての願い】
なし。戦争を止めさせること自体が目的。

【マスター】
ゆんゆん@この素晴らしい世界に祝福を!

【マスターとしての願い】
特にないけど、友達が欲しいなぁ

【人物背景】
ぼっち。アークウィザードにして、上級魔法を操る者。やがては紅魔族の長となる者。
中二病だらけの紅魔の里において唯一の常識人だが、そのせいで周りからは変わり者として扱われていた。
土下座して一回でいいからデートして下さいと頼めば(彼女のライバルの邪魔が入らない限り)デートしてくれるくらいチョロい。
ちなみに、最悪本編を読まなくても角川スニーカー文庫の公式サイトで無料で読める『この素晴らしい世界に爆焔を!』を読めば把握は可能だと思われる。

【weapon】
なし
一応腰に短剣を指しているが、滅多に武器として使わない

【能力・技能】
紅魔族特有の高い魔力
中級魔法
上級魔法

【参戦時期】
3巻で初登場してから4巻のラストまでの間。

【方針】
とりあえずは使い魔を放って他の主従を探す。聖杯狙いらしき者がいたら、夢魔を送って骨抜きにする。


92 : ◆45MxoM2216 :2017/03/13(月) 20:11:59 6IG.zaes0
投下終了です


93 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/13(月) 20:34:49 2NnbvF/k0
ご投下ありがとうございます。感想は次の投下の時に。

箱庭聖杯様に投下したものの流用になりますが、投下します


94 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/13(月) 20:35:43 2NnbvF/k0

 ウェイバー・ベルベットは、魔術師としては非才な方に部類される少年だ。

 家門はさして名のあるそれではないし、血統もたったの三代ぽっちと極めて浅い。
 世代を重ねる中で受け継がれ、蓄積・開拓されていくものである魔術回路も刻印も、由緒正しい魔術師の家門の末裔達には大きく劣る。少なくとも彼が招聘された魔術協会の総本部、時計塔には六代以上も血統を重ねた名門の末裔が珍しくもなくごろごろ在籍していた。
 しかしそれでもウェイバーは、自分が優秀で才に溢れた人材であると信じて疑わなかった。
 ほとんど独学で時計塔という最高学府の招聘を勝ち取ったのがその証拠だ。
 我こそは同期の学生共の中では勿論、時計塔開闢から今に至るまでの間でも類のない逸材であり、そんな自分の才能を理解しない者は自分に嫉妬しているか、そもそも崇高な考えを理解できない頭の残念な馬鹿のどちらかだろうと、日々周りの愚かな者達を見下しながらウェイバー少年は今日まで生きてきた。
 
 彼が言うところの"才能"が正当に評価されたことは、これまで只の一度としてない。
 生徒はどいつもこいつも揃いも揃って名門出身の優等生の礼賛に明け暮れ、講師でさえその例外ではない。
 彼らはウェイバーに微塵の期待もしていないことを杜撰な態度で存分に表現し、秘術の伝承はおろか、学習目的での魔導書の閲覧に許可を出すことすら渋る有様だ。
 ウェイバーが血筋と年の功だけを基準に人の価値と理論の信憑性を評価しようとする風潮に異議を唱えれば煙に巻くような形で言いくるめ、それで論破は成ったと彼を適当にあしらった。
 あまりにも当たり前に横行する理不尽。時計塔はお世辞にもウェイバーにとって居心地のいい場所ではなかったが、それでも彼は奥歯を噛み締めながら我慢し、いつか目に物見せてやると反骨心ばかりを胸に積もらせていった。
 彼が本当に自分が思うほど優秀な人物なのかどうかはさておいて、その忍耐強さは確かに評価に値するだろう。
 魔術師特有の陰湿さと腐敗したと言ってもいい時計塔の内情を、彼は当事者としてずっと味わい続けてきたのだ。

 そしてそんな彼にも、遂に我慢の限界がやって来た。堪忍袋の緒が切れた。
 その出来事はウェイバー・ベルベットに、人生で最大と言ってもいい耐え難い屈辱を与えた。
 横行する理不尽と旧態依然とした体制を是正する為、構想から執筆まで、合計四年もの時間を費やした一本の論文。
 屁理屈で煙に巻かれぬように持論を極限まで噛み砕き、重箱の隅を突くような底意地の悪い指摘をさせないように熟考に熟考を重ね、一分の隙もなく自分の抱く思想を敷き詰めた。
 会心の出来だった。必ずこの論文は時計塔に、それどころか魔術協会にさえも波乱を巻き起こすだろうと確信していた。
 しかし結論から言えば、それは改革を成すどころか、査問会の目に触れるにすら至らなかった。


95 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/13(月) 20:36:36 2NnbvF/k0

"馬鹿にしやがって――馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがってッ!!"

 ウェイバーの論文は、ただ一度流し読みしただけで、無惨に破り捨てられてしまったのだ。
 その度し難い蛮行を働いた愚物の名を、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。九代を重ねる名門アーチボルト家の嫡男であり、『ロード・エルメロイ』などと持て囃されている、降霊科所属の講師だった。
 ウェイバーは元々ケイネスという男を軽蔑していた。
 若くして講師の椅子に座り、学部長の娘ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリとの婚約を取り付け、ウェイバーのように泥水を啜る思いをしたことなど一度もないだろう恵まれた男。ウェイバーの嫌悪する権威という概念を体現したような人物だ。
 自分の中に渦巻く嫌悪感を僻みなどとは決して思わない。あのような男が幅を利かせているから時計塔はこのザマなのだとウェイバーは心の底から確信している。
 冷ややかに。憐れむように自分を見下ろしたケイネスの眼差しは、今も瞼の裏に焼き付いて離れない。
 あろうことかあの男は、自分の論文を読み、その素晴らしさに嫉妬して蛮行に及んだのだ。今まで散々軽視し、冷遇してきたウェイバー・ベルベットという魔術師の才能の大きさを初めて自覚し、それに自らの立場を脅かされるのではないかと恐れ、曲がりなりにも人に物を教える人間のすることとは思えない行為を働いた。

 ……と、ウェイバーはそう思っている。仮にも講師の座を勝ち取った人間があの論文の内容を理解できないわけがないのだから、ケイネスは自分に嫉妬してあんな真似をしたとしか考えられない――そう早合点して、自分の力作を妄想と一蹴した男への怒りに鼻息を荒げながら、その後の日々を過ごしていた。
 そんな日々の中。彼は一つの噂を耳にする。

 曰く、極東の地で行われる魔術師の競い合い――聖杯戦争。その内容は、ウェイバーの心を鷲掴みにして離さなかった。
 肩書きも権威も糞ほどの価値も持たない、正真正銘の実力勝負。個人の優秀さ以外のあらゆる要素が介入しない、魔術師の優劣の決定。これこそまさに、ウェイバーが長年望んでいた好機であった。
 これに名乗りを上げ、見事勝利することが出来たなら……これまで押されてきた不名誉な烙印を全て消し去れる。
 不遇の天才ウェイバー・ベルベットの名は全ての魔術師の間に轟き、これまで自分を冷遇してきた愚か者達は皆、その間抜けさを恥じて掌を返し始めることだろう。散々上から見下してきた相手の足元にひれ伏し、その叡智を恵んでくれと懇願に明け暮れることだろう。その想像はウェイバーを最高の上機嫌へと導いた。


96 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/13(月) 20:38:22 2NnbvF/k0

 と。
 興奮に浮足立つウェイバーの下に、更なる幸運が舞い込んでくる。
 ある日、管財課の手違いで一般の郵便共々ウェイバーに取り次ぎを託されたそれは、ケイネスその人が恐らくは聖杯戦争の為に手配した、マケドニアより届けられた"重大な"荷物だった。
 ――聖遺物。聖杯戦争において目当ての英霊を引き当てる為に不可欠な、召喚の触媒となるアイテム。
 これだ、とウェイバーは思った。これしかない、とも思った。
 これを持ち去って聖杯戦争の舞台となる冬木市に飛び、サーヴァントを召喚すればそれだけで聖杯戦争を戦い抜く為の準備が整う。同時に憎たらしいケイネスに痛い目も見せられ、まさに一石二鳥だ。

 勝手に開封しないよう厳命されていたそれの包装を剥がすべく、弾む足取りでカッターを探そうと部屋の中を歩き回り。
 

 そこでウェイバーは、自分のデスクの上に、見慣れないものが載っていることに気が付いた。


 何だ、これ。訝しげな顔で拾い上げたそれは、何かの断片らしき、『鉄片』だった。
 身に覚えのない奇妙な物品をゴミ箱に放り込もうと手に取ったその時、自称・天才の視界は唐突にホワイトアウトする。
 強烈な目眩にも似た感覚と、自分という存在が世界から消失していく耐え難い悪寒。
 思わず情けない叫びすらあげながら――ウェイバー・ベルベットは"混沌の月海"へと放り出された。
 
 
 本来なら、彼は無事横取りした聖遺物を手に冬木へと旅立ち、そこでさる征服者の英雄の召喚に成功したのだろう。
 そして英雄の奔放さに振り回されながら、頭を抱えながら、がむしゃらに聖杯戦争を走り抜けていき。
 行き着いた結末は、最初の彼が望んだものとは遠い敗残でも。
 今後の彼の人生を大きく変える得難い経験と、かけがえのない友を得るに至ったのだろう。
 しかし、この世界ではそうはならなかった。『鉄片』に導かれ、魔術師の少年は本来の運命から外れてしまった。
 ――だから、この話はこれでおしまいなのだ。


  ◇  ◇


 意味が分からない。
 冬木市で暮らすごく普通の留学生――という役割を与えられた魔術師、ウェイバー・ベルベットは頭を抱えていた。何に、かは言うまでもない。自分の置かれた状況全てに、だ。
 あの『鉄片』は何で、自分は何だっていきなり冬木に飛ばされてしまったのか。
 何より腹が立つのが、自分がつい数時間前まで、この状況を疑うこともなく平然と受け入れていたことである。
 覚醒のきっかけは日々の中で感じた微小な違和感だったが、もしそれに思い当たらなかったらと考えると背筋が冷える。
 その場合、自分は白痴のようにこの偽りの平穏を享受して、何も知らないまま世界の歯車に成り果てていたことだろう。自分の聡明さにウェイバーは心から感謝した。
 分からないことは山のようにあるが、そんなウェイバーの右腕には、彼があれほど欲していた三画の刻印がありありと刻まれていた。形は歪んでいるが、どこか王冠のようにも見える。


97 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/13(月) 20:39:49 2NnbvF/k0

「……………………はあ」

 ウェイバーは深い、深い溜め息をついた。しかしその口元はだらしなく緩んでいる。
 過程はやや聞いていたものと違ったが、それでも自分が聖杯戦争に参加できたことに変わりはない。
 この令呪がその証拠だ。誰もが軽んじてきた自分の才能を、聖杯はしっかり認めてくれた。
 後は勝つのみ。この地でサーヴァントを召喚し、それを用いて全てのライバルを倒す。
 そして元の世界に聖杯を持ち帰り、自分の才能と優秀さを証明する。
 やることは極めて明白だが、簡単ではない。それくらいはウェイバーも承知している。
 この地にはきっと、これまでウェイバーに辛酸を嘗めさせてきた名門の魔術師も呼ばれている筈なのだ。
 それらを蹴散らす為には策が要る。立ち回りの巧さが要る。そして何より、優秀なサーヴァントが要る。

「やっぱり聖遺物はこっちにはない、か……いや、でも」

 ケイネスの聖遺物を置いてきてしまったのはあまりに痛い。
 それでもウェイバーに不安はなかった。自分ならばきっとやれると、確固とした自信があった。
 それよりも問題は、どうやってサーヴァントを召喚すればいいのかということだ。
 本来の冬木聖杯戦争と同じ要領で儀式をすればいいのか、それともまた別な手順が必要になるのか。
 魔術関係の文献を漁ることさえ困難なこの電脳の冬木市で一から調べるとなると相当に手間だ。もし儀式の手順が変わっているのなら、まずどこに儀式の資料があるのかから調べて行かなければならないが――そんなウェイバーの危惧は、結論から言えば杞憂に終わった。

 この混沌月海において、サーヴァントの召喚に決まった手順は存在しない。
 皆それぞれ何かしらの引き金を有していて、それが引かれた時に英霊が現れる。
 一概に言い切れない部分もあるかもしれないが、説明としてはある程度的を射ているだろう。
 そしてウェイバー・ベルベットにとっての引き金は――記憶を取り戻すことだった。

 
「――問おう。醜く憐れな者」


 凛と響く声に、ウェイバーは思わずその背筋を凍らせる。
 女の声だった。美声と呼んでいい音色だったが、ウェイバーがその声に対して抱いた感情は恐怖。
 何故かは、分からない。分からないが、とにかく女の声は魔術師に本能的な恐怖を覚えさせた。
 唸りをあげる虐殺装置が背中のすぐ後ろに突然現れたような、言葉にし難い恐れ。


98 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/13(月) 20:40:28 2NnbvF/k0

「貴様が、私のマスターか」

 バッと勢いよく振り向いた先に立っていたのは、青髪に鋼鉄製と見えるバイザーを装着した鎧姿の女だった。
 人相ははっきりとは分からないものの、恐らく美人であろうことが両目が覆い隠されていても分かる。
 全体的に冷たい、氷のような雰囲気を醸したその女の口元は、薄い笑みの形に歪んでいる。
 その笑みがどういう種類のものかを、ウェイバーはすぐに理解することが出来た。
 時計塔の講師達が、才能主義の生徒達が、血筋に恵まれた優等生共が――ウェイバーに対して度々浮かべていたものと同じ。他人を見下し軽んじる、"持つ者"の嘲笑だった。

「……ッ」

 鎮静化していた苛立ちが、再びウェイバーの中に蘇ってくる。
 時計塔で長年味わってきた理不尽。ケイネス・エルメロイ・アーチボルトに舐めさせられた苦渋。
 折角聖杯戦争の舞台へやって来て、漸くそんな思いともおさらばかと思えば、その矢先にこれだ。
 自分の使い魔であり道具である筈のサーヴァントまでもが、自分を腐った笑顔で見下している。

「あ――ああ、そうだ! このボクがオマエのマスターだ! マスターなんだぞッ!!」
「そう。見たところマスターとしては並……いえ、それ以下のようね。精々下の中、下の上と言ったところかしら」

 ウェイバーの顔が、かあっと熱くなる。
 顔だけじゃない。頭全体が急に熱されていくのを、ウェイバーは感じていた。

「使えない。さては無能ね、"マスター"? よくもまあ貴方如きが、この私を引き当てられたものね」

 なんだ。なんだ……こいつは。
 召喚された瞬間からウェイバーを見下し、口を開けば使えないと、無能と罵倒する。否、その才能を侮辱する。
 ウェイバーは元より怒り易い質ではあったが、仮に彼でなくとも、面と向かってこう謗られたなら自尊心を沸騰させるのが当然というものだろう。
 たかがサーヴァント。たかが使い魔の分際で、こいつは今自分を何と言った?
 マスターと呼ぶ声に敬意らしいものは全くなく、皮肉交じりの蔑称であることがウェイバーにはすぐに分かった。

「オマエなッ――」

 怒りのままに口を開き、吼えようとする。ふざけるなと。自分の立場を分かっているのかと。

「……ごッ!?」

 しかし最後まで言い終えることは、ウェイバーには出来なかった。
 その腹にサーヴァントの爪先がめり込み、背後の壁まで勢いよく吹き飛ばされたからだ。
 ゴホゴホと荒い咳をし、逆流しかけた胃液を押し戻しながら、歯を食い縛って女を睨む。
 女は相変わらず、笑っていた。嘲笑っていた。その時ウェイバーは、初めて気が付く。


99 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/13(月) 20:41:03 2NnbvF/k0

 ……違う。
 あれは、自分の才能の有無を嘲笑っているんじゃない。
 仮にウェイバーがケイネスのような優れた魔術師だったとしても、あれは全く同じ嘲笑をぶつけたことだろう。
 彼女はどんなマスターを引いたとしても、必ず見下し、軽蔑し、劣等と罵倒した筈だ。
 何故なら、今自分を蹴り飛ばした女の顔に浮かぶ笑みは――子供が蟻やバッタを痛め付けながら浮かべるような、自分より劣る存在に対して向けるそれだったからだ。

「身の程を弁えなさい、人類種。本来貴様など、私の前で呼吸をすることすら許されない存在なのだから」
「なんっ、だと……」
「ああでも、その幸運だけは褒めても良いわ。おまえはとても運が良い――何故ならこの私を呼び出せたのだもの」

 人類種と、女はウェイバーのことをそう呼んだ。
 遠回しに自分はおまえとは違うと、そう発言したようなものだ。
 そして事実、彼女は人間由来の英霊ではなかった。
 人間から上位種に登り詰め、その身で働いた暴虐の歴史を以って反英霊になった……彼女はそういう存在。
 

「我はサーヴァント・アーチャー。麗しき氷の花園を統べる眷星神が一。
 光栄に思いなさい、出来損ない。おまえは今宵、最も優れた英霊を召喚した」


 彼女は、ウェイバー・ベルベットの生きた世界とは異なる並行世界の英霊だ。
 文明の大半が一度崩壊し、星辰の粒子が地上を満たした世界。
 とある国がそれを利用して、人工的に異能者を開発、戦場の環境を一変させた世界。
 そこで彼女は歴史に名を残した。――人々の心に痛ましい爪痕を刻んだ大虐殺の下手人として。
 そう、彼女は間違っても英雄などではない。むしろその逆。英雄に悪として一度は滅ぼされた存在こそが彼女だ。
 人の名を捨て、新たに得た真名(コード)を……ウラヌス。ウラヌス-No.ζ。
 人の枠を超越した存在となり、醜き人類全てを嫌悪し侮蔑する、無慈悲なる天空神に他ならない。

「我が願いは英雄への復讐。この手で下す壮絶なる死を以って、舐めさせられた苦汁への報いとする」

 令呪を用いてでもこいつを縛るべきだと、ウェイバーは心からそう思った。
 ウェイバー個人が気に入らないとか、そういう話ではない。直接痛みを浴びせられて、彼は漸く悟ることが出来たのだ。
 このサーヴァントは危険すぎる。こいつは本当に、主従関係なんて微塵も考慮する気がない。
 ウェイバーを殺しはせずとも、死ぬ寸前まで痛め付けるくらいなら、こいつは躊躇いもなくやってのけるだろう。
 そう思い、顔を上げて――その考えがまず浅はかだと思い知った。
 歪んだ口元が語っていた。令呪で縛る? いいだろう、やってみるがいい。但し仮に自害を命ぜられようと、事が住む前におまえを八つに引き裂いてばら撒いてやる……と。


100 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/13(月) 20:42:07 2NnbvF/k0


 ――ウェイバー・ベルベットの不運は、全て元の歴史から外れてしまったことに集約される。
 
 彼があの時『鉄片』を見つけてしまったこと、或いはそれに触れてしまったこと。
 その時から結果的に見れば幸運な方へと向かう筈だった彼の運命(Fate)は崩れ、坂道を転げ落ち始めた。
 行き着いた先、混沌の冬木市。数多の世界が交差する大地で、呼び出した英霊は栄光の反対に位置する虐殺者。
 
"ちくしょう――畜生畜生畜生ッ! どうしてこうなるんだよぉぉッ!!"

 ウェイバーの未来には、奇しくも本来の彼が辿る道と同じように、見果てぬ暗雲が立ち込めていた。
 ただ一つそこに違いがあるとするならば、その暗雲に喜々として向かっていく王者の姿はそこにはないということ。
 あるのは微笑する魔星の姿だけだ。王者を引きずり下ろし、殺すことを渇望する復讐の星が一つ瞬いているだけ。
 自らを最強と自称する星の英霊を従えながら、或いは彼女に従いながら、ウェイバーはこの先を戦い抜くしかない。


「待ち遠しいぞ、ヴァルゼライド。全ての英霊を生贄にくべたその先で、この積年の恩讐は漸く果たされるッ」

 喜悦を浮かべて吐かれた言葉の意味は、ウェイバーには分からない。
 いや――理解したくもなかった。今はとにかく頭を抱えて、これからのことを考えなければならない。
 カードは配られ、自分は聖杯戦争を、この鼻持ちならないサーヴァントと共に乗り越えなくてはならないのだから。
  
 彼がどれだけ現状を嘆き、不満を吐き散らしても。
 豪快に笑ってそれを導く王の姿は――此処にはない。


【クラス】
アーチャー

【真名】
ウラヌス-No.ζ@シルヴァリオ ヴェンデッタ

【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運E 宝具B+

【属性】
混沌・悪


101 : ウェイバー・ベルベット&アーチャー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/13(月) 20:43:17 2NnbvF/k0

【保有スキル】
魔星:B
 正式名称、人造惑星。星の異能者・星辰奏者(エスペラント)の完全上位種。
 星辰奏者とは隔絶した性能差、実力差を誇り、このスキルを持つサーヴァントは総じて高い水準のステータスを持つ。
 出力の自在な操作が可能という特性から反則的な燃費の良さを誇るが、欠点としてアーチャーは、その本領を発揮していくごとに本来の精神状態に近付いていく。本気を出せば出すほど、超人の鍍金は剥がれ落ちる。
 また魔星は人間の死体を素体に創造されたいわばリビングデッドとでも呼ぶべき存在であり、死者殺しの能力や宝具の影響をモロに受ける。

復讐者:D
 魔星として起動する前、自分を玩弄し辱めた"とある人物"への憎悪。
 彼女はかの英雄を殺す為ならば、いかなる犠牲も厭わない。

忘却補正:C
 時がどれだけ流れようとも、彼女の憎悪は決して晴れない。
 英雄に死を。無惨な幕切れを。己の味わった屈辱に釣り合うだけの痛みを。
 アーチャーは英雄への憎悪を忘れない。自分にとって都合の悪い真実は目を背け、忘れ去ったまま。

超越者の傲り:B
 人間だった頃にアーチャーが持っていた貴種の傲りは、魔星に生まれ変わった瞬間から超越者のそれへと変じた。
 醜く憐れで救いようのない存在と人類種を侮蔑し、喜悦の色さえ浮かべながらそれを惨殺する殺戮者。
 軍事帝国アドラーに消えない傷痕を刻んだ"大虐殺"の実行者の片割れということも手伝って、アーチャーは人間と人属性の英霊に対して特攻効果を発揮できる。
 だがその効果は、彼女が不利に立たされれば立たされるほど弱まっていく。

【宝具】
『美醜の憂鬱、気紛れなるは天空神(Glacial Period)』
 ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1000人
 凍結能力。あらゆるものを凍結させる星辰光。シンプルで分かりやすいからこそ隙が無い。
 攻撃範囲が非常に広く、作り出された氷河期の如き空間に安全圏は存在しない。
 無尽蔵に次々と生えてくる樹氷が周囲を凍てつかせ、降り注ぐ氷杭は着弾点から氷華を花咲かせる。
 絶対零度に等しい氷気を周囲に纏っており、彼女に近付くという行動自体が自殺行為に等しく、動きが少しでも止まればそれだけで四方八方からの串刺しに合う。造り出された氷塊は外気の影響を受けず、熱力学の法則を完全に無視している。
 多方面の性質に優れているため、どのような場面でも高い戦闘能力を発揮できるのが強み。
 
【weapon】
 なし

【人物背景】
 アスクレピオスの大虐殺と名付けられた、帝国史上類を見ない大虐殺を生んだ張本人。
 彼女は魔星と恐れられる鋼鉄のアストラル運用兵器だが、元はカナエ・淡・アマツという貴種の人間だった。
 選ばれた者として栄華の限りを尽くしたが、不当な弾圧と権力の行使を忌んだ改革派筆頭――後に英雄と呼ばれる男、クリストファー・ヴァルゼライドによって断罪され、投獄の身へと堕ちる。
 ……それから絞首されるまでの間、彼女はヴァルゼライドから憤死しかねない程の屈辱を味わされた。
 その怒りと彼に対する憎悪は、英霊となった今もアーチャーの脳裏に深く深く刻まれたままである。
 
 余談だが、ウラヌスはアヴェンジャーの適性を持たない。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯を手に入れ、クリストファー・ヴァルゼライドに復讐する。


【マスター】
 ウェイバー・ベルベット@Fate/Zero

【マスターとしての願い】
 聖杯を元の世界に持ち帰り、周囲に自分の優秀さを認めさせる。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 優秀と自負しているが、魔術師としての力量は平凡。この時点では一般人への暗示も失敗してしまうくらいに非才。
 しかし実践方面の才能がない代わりに研究者としての洞察・分析の能力は秀でたものがあり、テキストの読解や記憶にかけては時計塔でも便利な見習い司書として扱われていたほど。
 一流魔術師ケイネス・エルメロイ・アーチボルトの教え子であるため、専門ではないが錬金術の心得もそれなりにある。

【人物背景】
 名門魔術師に対してコンプレックスを持つ、元時計塔の学生。
 師ケイネスに手渡される筈だった聖遺物を掠め取り、征服王イスカンダルを召喚。
 彼との出会いを通じ、大きく成長していく――それが本来の歴史における彼。
 今回は聖遺物を持ち逃げする前の時間軸から参戦しており、蹂躙の英雄は召喚できなかった。

【方針】
 聖杯戦争を勝ち抜く。……煩い煩い、勝つったら勝つんだよッ!!


102 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/13(月) 20:43:34 2NnbvF/k0
投下終了です


103 : ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!! ◆drTLmjqyUw :2017/03/13(月) 22:10:33 xF3iN8rI0
箱庭聖杯に投下したものですが投下します


104 : ♯しゃーぷ :2017/03/13(月) 22:15:31 xF3iN8rI0
1944年 ベルリンの地で、一人の男の野望が潰えた。
男の名はアドルフ・ヒトラー。
彼は人の進化を歴史的大変動に求め、第二次世界大戦を引き起こしたという。
その最後の成就に、ベルリン陥落の際に、市民が避難した下水道への注水を命じた。

また一説によれば、大量に人間を死へと追いやるという人に為し得ぬ行為を行い、世の人々の憎悪を一身に浴びることで、人を超越した存在になろうとしたともいう。
その最後の仕上げが、己にとって大切な、守るべき対象で有るベルリン市民を殺戮する事だったとも。







運命の女と無数の異形が見守る中、二つの影が激しくぶつかり合っていた。
銀の鎧武者と紅い魔人との死闘は、魔人の剣を鎧武者が折り、奪い取った切っ先で魔人の胸を貫くことで終わった。


無数の人と妖物の骸が地を埋める街並の上空で、二つの美が最後の相剋を繰り広げていた。
蒼穹が人の形をした夜に切り取られたかの様に黒く、地に落ちる影の形ですらが美の極致にある、黒の魔人と黒の魔人との死闘は、初めて出遭った日に首に巻かれていた運命の糸を以って決着がついた。


斃れた者の名と姿を知り世界は安堵した、滅ぼされずに済んだから。
生き残った者は、一人は『蛇』に祝福され星の外へと去り。
一人はそれまでと変わらぬ─────波乱に満ち、無数の魔戦を戦う生を送った。

そして蛇は、新たな地に赴き─────姿を消した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


105 : ♯しゃーぷ :2017/03/13(月) 22:16:39 xF3iN8rI0
鳥が違う?投下を破棄します


106 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/13(月) 22:24:04 xF3iN8rI0
すいません。前に使っていたトリップが判ったので、改めて投下せさてください


107 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/13(月) 22:25:20 xF3iN8rI0
1944年 ベルリンの地で、一人の男の野望が潰えた。
男の名はアドルフ・ヒトラー。
彼は人の進化を歴史的大変動に求め、第二次世界大戦を引き起こしたという。
その最後の成就に、ベルリン陥落の際に、市民が避難した下水道への注水を命じた。

また一説によれば、大量に人間を死へと追いやるという人に為し得ぬ行為を行い、世の人々の憎悪を一身に浴びることで、人を超越した存在になろうとしたともいう。
その最後の仕上げが、己にとって大切な、守るべき対象で有るベルリン市民を殺戮する事だったとも。







運命の女と無数の異形が見守る中、二つの影が激しくぶつかり合っていた。
銀の鎧武者と紅い魔人との死闘は、魔人の剣を鎧武者が折り、奪い取った切っ先で魔人の胸を貫くことで終わった。


無数の人と妖物の骸が地を埋める街並の上空で、二つの美が最後の相剋を繰り広げていた。
蒼穹が人の形をした夜に切り取られたかの様に黒く、地に落ちる影の形ですらが美の極致にある、黒の魔人と黒の魔人との死闘は、初めて出遭った日に首に巻かれていた運命の糸を以って決着がついた。


斃れた者の名と姿を知り世界は安堵した、滅ぼされずに済んだから。
生き残った者は、一人は『蛇』に祝福され星の外へと去り。
一人はそれまでと変わらぬ─────波乱に満ち、無数の魔戦を戦う生を送った。

そして蛇は、新たな地に赴き─────姿を消した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


108 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/13(月) 22:25:52 xF3iN8rI0
「落とす首が一つ増えた」

樹々が鬱蒼と茂る山中に召喚されるなり、此の地に住まう全ての命ごと、マスターとサーヴァントを殺し尽くそうとしたアーチャーは、マスターの話を聞き終えると、そう呟いた。
年若い男の声だ。只の人間の声だ。それなのにアーチャーの声が響いたと同時、全ての生き物が─────否。そよいでいた風ですらが止まったのだ。
まるで天上の音楽神が魂を傾けて爪弾いた竪琴の調べを思わせる男の美声を聞いた瞬間に。
声の主たるアーチャーは一言で形容出来る─────万言を費やしても形容出来ぬ男だった。
アーチャーを語るには只の一言。『美しい』と語ればそれで済む─────その美しさは時が終わるまで語り続けても語り尽くせまい。人には所詮天上の美を語ることなど出来ぬのだから。

己のマスターが語った事柄は、アーチャーの気を引くに充分な内容だった。
進化を齎す為に、周囲とは異なる─────異界とも呼ぶべき環境を創り出し、その中で果て無き闘争を行わせる。
その環境に順応し、繰り返される闘争に勝ち残った者は、もはやそれまでの種とは異なる存在となる。
その存在同士で覇を競い、勝ち残ったものが次のステージへと進み、旧き種を滅ぼして、新しい種の時代を齎す。
アーチャーが生き、戦い、果てた『街』と、それは同種と言える存在だった。

共に肩を並べて戦い、共に同じ理想を追い、そして遂に道を同じくすること無く、何方かが消えるしか無かった二人の男。
勝ち残った一人に『進化』への果実を齎す女
アーチャーの生涯をなぞったかの様な、マスターの語る二人の男の物語。
進化を求めて止まないアーチャーにとって、到底無関心ではいられない、そんな話をマスターである男は語ったのだった。

「アイツをどうするつもりだ?」

話終えた後、アーチャーの言葉を聞いたマスターが訊ねる。
本当に解らないのか、それとも見透かした上で聞いているのか、アーチャーには判別出来なかったが、興味深い話を聞かせてくれた礼として、答えてやることにした。

「殺す。僕が新たなステージに進む為に」

短い言葉に凄まじい質量の殺意を込めて、アーチャーは宣言した。
屍を積む程に、死を撒く程に、死の具現として恐れられる程に。
その屍が世の人々から愛され、慕われ、その死を嘆くものが多い程に。
その屍が己にとって大切な、掛け替えのない存在である程に。
その屍が己にとって死力を尽くさねばならぬ強敵である程に。
アーチャーの進化の階梯としての価値は高まる。
アーチャーが生前に求めたものを得て、更なる進化のステージへと進み、神とも呼べる存在になった者なら、アーチャーの進化の為の贄としては、それこそアーチャーの幼馴染を越えるかもしれない程の最上のもの。
此れを見逃すなどという選択肢をアーチャーは持たぬ。


109 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/13(月) 22:26:16 xF3iN8rI0
「出来るかな」

面白そうなマスターの問いに対するアーチャーの答えは、短く奇怪なものだった。

「勝てないな、今のままでは」

「今のままでは…ねえ」

アーチャーは何処か遠くを見る眼差しをマスターに向けた。

「生前果たせなかった進化の為の行為。それを行えば勝てる様になるかもしれない」

そう言った自身のサーヴァントに、蛇は薄ら寒いものを感じた。
蛇がアーチャーに二人の男と一人の女の物語を語ったのは、アーチャーが現れた際に、その記憶を繋がったパスより読み取った結果だ。
その物語がアーチャーの気を引き、アーチャーが行う殺戮を止めることができると踏んだ為だ。
蛇には聖杯戦争に対する展望は無い。
精々が自分が過去無数に行い、そして未来に無数に行う行為。唯一無二の資格を巡っての殺し合い。
それとシステムを同じくする闘いの結果を見届けたいだけだ。
ひょっとすれば、勝者は新たな進化のステージへと至るかも知れないのだから。
そう思う蛇の元に、鳥が飛ぶ様に、魚が泳ぐ様に、進化を求め、その為の破壊も厭わぬ精神の持ち主が現れたのは当然と言えるだろう。
しかし、このアーチャーの精神は蛇が今まで関わってきた者達の中でも群を抜いて凄烈だった。

“全ての生命に課せられた絶対的運命。進化による淘汰。破滅と再生”
だが、このアーチャーが淘汰するのは自分以外の全てだ。
“破壊無くして創造はない。古い世界を生贄にすることでしかお前たちに未来はないんだぞ”
だが、このアーチャーは己以外の全てを生贄にして、自分だけが未来を掴むだろう。

アーチャーは嘗ては人間だった。一つの世界の中で生きる、限り有る命の存在だった。
しかし今アーチャーは複数の世界へ赴く術と、朽ちぬ肉体を得る術を知る魔人だった。
アーチャーが聖杯を手にすれば、尽きぬ命を以って数多の世界の生物を殺し尽くし、己という種だけの未来を掴むだろう。
蛇は無限ともいうべき屍が積み重なって出来た山の頂きに立つアーチャーを幻視した。

星の全てを鋼と変えた者達とも。
激変した環境に適応できぬ者達を切り捨てる決断をした王とも。
理想とする世界の為に既存の世界を破壊しようとした男とも。
既存の世界を傷つけることを厭い、苦難の道を選んだ男女とも。
その全てと異なる心を持ち、蛇の存在と所業を肯定し、進化による新しい種の誕生と、その為の破壊を最悪の形で行うのがアーチャーという存在だった。

アーチャーが聖杯を手に入れれば全ての世界の生有るものは死に絶え、アーチャーが唯一人の超越生命体(オーヴァーロード)として君臨するのだろう。
それは蛇にとって好ましく無い事態だった。進化を促す生物が居なくなれば、蛇の存在意義が潰えるのだから。
だが、それとは別なところで、蛇はこのアーチャーを忌避する感情があった。
蛇の試練によって滅びの途を辿った種族を悼み、蛇の試練よりも過酷な途を選んだ男を祝福した記憶が、蛇にアーチャーを忌避させるのだ。
しかし蛇はアーチャーを拒めない。進化を目指し、その為に破壊を行うことは、蛇が過去無数に行わせてきたことなのだから。
蛇は聖杯戦争に関わるつもりは無い。アーチャーを掣肘する意思も無い。アーチャーには自由に振舞わせよう、そう思った。


110 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/13(月) 22:26:49 xF3iN8rI0
「詰まら無い相手だ」

薄暗い街角で、アーチャーは誰かに話し掛けた。

「英霊などというからどれ程のものかと思えば、僕が生きた街に居たサイボーグや妖物の方が遥かに面倒な相手だった。こんな者達が相手では聖杯とやらは容易く手に入りそうだ」

そう言ったアーチャーと、全身から夥しい血を流して膝を付く、左腕の無い壮年の男との目線が合った。
男はサーヴァントだった。志有るマスターに従い、殺戮を旨とする者達と、この聖杯戦争の主催者を討つべく行動していた処。
この路地裏で凄まじい殺気を垂れ流して居る存在に気付き、聖杯戦争に乗った者として討とうとし、主従共々返り討ちにされたのだった。
そして主は宙で、サーヴァントは地で動きを封じられ、アーチャーに命運を握られている。

「筋力、耐久、敏捷、嗤わせる。僕の居た街には、30分もあればビルを素手で解体するサイボーグが居た。極音速で動く強化人間が居た。街中で戦術核が使われることも有った。
そんな街に君臨したのが僕の幼馴染さ。条理を逸した業を持つが故に“魔人”。ステータスなぞに何の意味がある」

静かな。それでいて痛烈な罵倒。

「痛みで止まる。失血で止まる。肉体が損壊すれば止まる。実に下らない、僕が生きた街では胴を両断されても牙を剥く犬が、斬り落とされた腕が尚も爪を立てる屍喰鬼(グール)が、
内蔵全てを失っても止まらぬ薬物中毒者(ジャンキー)が、両手足を切り離されても空を飛び、胴体に内蔵された火器で戦うサイボーグが居た」

そう、アーチャーが呟くと、宙の男の右腕がズレ、鈍い音を立てて路面に落ちた。
激痛に叫ぶ男にアーチャーは微笑んだ。

「上を見たまえ、君の主の命は今から散る」

信じ難いことが起きた。両腕を失った激痛に苛まれるサーヴァントがアーチャーの微笑を見て、痛みを忘れて恍惚となったのだ。
無理もない。アーチャーの持つ、中天に座す太陽ですら霞む自ら輝くが如き美貌、
美を司る神が、己が権能の全てを費やし、己が不滅の命を投げ打って創造したかの様なその美しさ。
サーヴァントの眼には、薄暗い路地裏がアーチャーが存在しているというだけで輝きに包まれている様に見えた。
陶然と蕩けたその顔は、サーヴァント目の前に鈍い音と共に肉塊が落ちるまで続いた。
愕然と頭上を見上げるサーヴァントの視界に映ったのは、10mの高みで、何も無い虚空に逆さ磔にされて、右の胸部から夥しい血を流す二十過ぎの女の姿。右の乳房を切り離された己がマスターの姿だった。

「貴様…」

火を吹く様な視線をアーチャーに向け、憎悪と共に絞り出した声に硬い音が重なった。
路面に白いものが転がっていた。慄然と見上げた視線の先には限界以上に口を開けたマスターの顔。口から赤い線が、目元から透明な滴がサーヴァントの顔に滴り落ちる。
如何なる手段を用いたのか、アーチャーは地に両足を着けたまま、上空の女の歯を引き抜いたのだった。

歯が全て引き抜かれ─────止めろ。
舌を切り刻まれ─────止めろ。
耳と鼻が無くなり─────止めろ。
四肢を寸刻みにされ─────止めろ。
体内で細切れにされた内臓が肛門と口から溢れ出た─────止めろ。

マスターが四肢と両目以外の全ての顔のパーツを失った頃、叫び続けたサーヴァントの喉は潰れていた。
アーチャーが敗者の哀願など、踏み潰した虫の鳴き声よりも意に介さぬことは判っていたが、それでも叫ばずにはいられなかった。

「許さん……許さんぞ貴様」

血涙すら流して憎悪を口にするサーヴァントを見て、アーチャーは満足気に頷いた。

「力が高まっている。やはりこの地に現れた者共は僕の糧か」

生涯最後の日に行った大殺戮。それにより得る事が出来ただろう結果を此の地で得る事が出来る。それが判っただけでも充分過ぎる。
最早如何なる関心も無くしたのアーチャーが踵を返すと、サーヴァントとそのマスターの女の首が同時に胴から離れて地に落ちた。

「待っているが良い。せつら、葛葉紘汰。僕は此の地でお前達を越え、お前達の前に立つ」

魔天の頂を目指し、叶うこと無く地に堕ちた魔王は、今ここに再び階梯を昇り出す。


111 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/13(月) 22:28:08 xF3iN8rI0
【クラス】
アーチャー

【真名】
浪蘭幻十@魔界都市ブルース 魔王伝

【ステータス】
筋力:D 耐久:C+ 敏捷:B+ 幸運:D 魔力:C 宝具:EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。


【保有スキル】
魔人:A
人界に出現した異界とも言うべき“魔界都市”で、畏怖された者達。
アーチャーは“魔界都市”でも最上位に君臨する魔人と覇を競った為に最高ランク。
ランク相応の反骨の相と精神異常と心眼(偽)の効果を発揮する。

美の化身:A+++
美しいという概念そのものを体現したかのような美。凡そ知能有るものならば確実に効果を表し魅了する。美貌というだけで無く存在そのものが、地に落ちる影すらが“美しい”。
肉体の美に関するスキル全ての効果を内包する複合スキル。
Aランク未満の精神耐性の持ち主は忘我の態となる。Aランク以上でも判定次第では効果を表し、アーチャーが微笑みかける等の働きかけを行うことで効果を増す。
このスキルで魅了されたモノに対しアーチャーはA+ランクのカリスマ(偽)を発揮できる。死ねと言えば死ぬし、殺せと言われれば殺す。最早呪いの域に達した美貌。
再現不能な美しさの為アーチャーの姿を模倣したり複製を作ることはことは不可能。作成した場合は大きく劣化し、時間経過と共に崩壊する。

頑健:B
体力の豊富さ、疲れにくさ、丈夫な身体を持っている事などを表すスキル。
通常より少ない魔力での行動を可能とする。

戦闘続行:C+++
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際まで戦うことを止めない。
胴体に右腕が着いているだけ、という状態でも最後の一糸を放つことが出来る。
アーチャーの執念と併せれば、絶命していても一度だけ攻撃可能。


112 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/13(月) 22:30:17 xF3iN8rI0
【宝具】

我が殺意は静寂(しじま)満ちて(ホロコースト)
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:1-∽ 最大補足:∞

1m程の長さの妖糸を大量に散布。風に乗せて飛ばすだけのもの。妖糸は風に乗ってどこまでも飛び、あらゆる隙間から侵入し、あらゆる守りを貫いて、触れた生き物全てを斬断しながら飛ぶ。
“生物”に対して特攻の効果を持つ。
生涯最後の日に行った殺戮の再現であり、後述の宝具と併せる事で真価を発揮する。


魔天の頂へと至る鮮血と屍の超越階梯(再演・ベルリンの狂気)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:自分自身

嘗てアドルフ・ヒトラーが試した狂気の行為。大量殺戮を行い、人を超越し超人へと至る行為を己が身で再演する。
屍を積み上げ、世の人々の憎悪を哀しみをその身に受ける程に、アーチャーの霊基は強固になり、霊格は上がってゆく。
殺害対象が世の人々に惜しまれ、愛される者程。己にとって大切な者程。殺害する、若しくはアーチャーを憎悪する者の“格”が高ければ高い程、向上率は上がる。
もし此の地に顕現した英霊全てを倒せば、アーチャーの霊格は神域に到達するだろう。

【weapon】
妖糸:
1000分の1ミクロン。一nmという極細のチタン鋼。その細さの為視認は不可能。高ランクの視覚に干渉する妨害を無効化するスキルや第六感に類するスキルが無ければ存在事態に気付けない。

切断や拘束といったものから、身の回りに張り巡らせての防御。足場にしての空中浮遊。広範囲に張り巡らせて行う探知。糸を以って生者を操る人形使い。死者を操る死人使い。
糸を一度付けた相手は身体の状態や感情に至るまで具に知る事ができ、糸を以ってすれば空間の歪みや空気成分、果てはキャッシュカードのデータまで読み取れる。
気流に乗せて飛ばすことはおろか、気流の流れに逆らって飛ばす事も、糸を捩り、元に戻る反動を利用して飛ばす設置系トラップとして使用することが可能。
アーチャーの由来は此処に有る。
妖糸は魔力に依り幾らでも生成可能。生前は小指の先に地球を一周する分を載せられる事が出来たという逸話から、精製に必要な魔力量は極めて微量。




【人物背景】
人類を進化させる為の実験場とも言われる魔界都市〈新宿〉に於いて進化の鍵と〈新宿〉の覇権を賭けて戦った魔人の片割れ。

【方針】
サーヴァントと戦った上で惨殺し、魔天の頂へと至る超越の階梯(再演・ベルリンの狂気)の糧とする。
最終的には主催者とNPCも全て殺害する。


【聖杯にかける願い】
受肉と異なる世界への移動。


113 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/13(月) 22:33:52 xF3iN8rI0
【把握資料】
魔界都市ブルース“魔王田”全三巻。青春鬼シリーズも参考にはなります



【マスター】
サガラ@仮面ライダー鎧武

【能力・技能】
瞬間移動…というより完全な神出鬼没。何処にでも出てくるしいきなり居なくなる。但し現在は使用不能。

ロックシード精製…別段シグルドの中の人を岩で挟み潰す訳では無い。掌の中でオレンジを多面体の物質に変換し、ロックシードに加工している。

【weapon】
無し

【ロール】
無し

【人物背景】
異世界より根を伸ばし、やがて星一つを覆い尽くし、その過程で根を伸ばした先の知的生命体に進化を促す存在“ヘルヘイムの森”のアヴァター的存在。
此の地ではヘルヘイムから切り離されている為、瞬間移動は使えない。

【令呪の形・位置】
浪蘭家の紋章の形状。
黄金の山羊の頭の紋章(クレスト)と、 その角に、顎髭の下で結ばれたマンドラゴラの蔓が纏わっていると言う意匠。

【聖杯にかける願い】
無い。

【方針】
聖杯戦争を傍観する。やる気の無い奴には発破をかけてやっても良い。要するに何時も通りにやるだけ。
アーチャーの要請があれば令呪を使うが、それ以外の事はしないし、干渉も掣肘もしない。

【参戦時期】
本編終了後

【把握資料】

仮面ライダー鎧武全話


【運用】
魔天の頂へと至る鮮血と屍の超越階梯(再演・ベルリンの狂気)による強化を手っ取り早く行う為にはNPCを殺しまくるのが最短だが、運営にばれて粛清されては元も子もないのでルールに則って戦う。
強敵は後に回して自己強化を行えば優勝も夢では無い。
不意打ちで仕留めるのが最も楽だが、それをやっても糧には出来ないというジレンマ。
索敵に関しては、存在そのものを消しでもしない限りは妖糸の監視からは逃れられないので、誰に対してもイニシアチブを取れる。
美貌と妖糸を併せて用いれば、相手は殺された事に気づくこと無く死ぬが、惨殺しなければ良質な糧にはならないという罠。


114 : ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/13(月) 22:34:36 xF3iN8rI0
投下を終了します
お騒がせしました


115 : ◆NIKUcB1AGw :2017/03/13(月) 23:56:12 lDtLlx4I0
皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます


116 : 御成&ライダー ◆NIKUcB1AGw :2017/03/13(月) 23:57:04 lDtLlx4I0
冬木市における「宗教」の中心地、柳洞寺。
その境内に、鍛錬に励む一人の仏僧の姿があった。
彼の名は御成。本来ならば、この冬木市に存在しえない男。
すなわち、この度の聖杯戦争のためにマスターとして選ばれた青年である。

「精が出ることだねえ」

突如、御成の背後に人影が出現する。
ざんばら髪に目元の赤い隈取り。忍装束にも似た、独特な和服。
明らかに、一般人ではない。
彼こそが御成が従えるサーヴァント、ゴエモンである。
石川五右衛門を敬愛する御成が彼を引き当てたのは、まさに必然と言えよう。
もっとも彼はあくまで異世界の英霊「ゴエモン」であり、石川五右衛門とは別人なのだが。

「こういった非常事態だからこそ、日課を欠かしてはなりませぬ。
 いつも通りに過ごしてこそ、平常心で物事に当たれるというものです」
「なるほどなあ。けど、そんな悠長に構えてていいのかい?
 もう聖杯戦争は始まってるんだ。ぼやぼやしてると、寝首をかかれちまうぜ?」
「むろん、そちらもおろそかにするつもりはありません。
 たいした願いも持たぬ拙僧がこの場に呼ばれたのも、何かの導きでしょう。
 ならば拙僧は不可思議現象の専門家として、この事態の収拾を目指します」

御成に、聖杯を狙うつもりはなかった。
友が窮地に立たされていた頃ならいざ知らず、今の御成に他者を傷つけてまで叶えたい願いはなかった。
それに友と戦い抜いた1年の中で、彼は超常の力の恐ろしさをいやというほど思い知っていた。

「真に切実な願いを持つ御仁がいれば、聖杯を譲ることも選択肢の一つとして考えますが……。
 かような生け贄の儀式めいた戦いを強いる代物が、真っ当に願いを叶えてくれるとは限りませぬ。
 優先すべきは、戦いの停止。そして巻き込まれた人々を、元の世界に帰すこと。
 拙僧はそう考えております」

真剣な面持ちで、御成は語り続ける。

「ああ、ご立派な思想だ。文句はねえ。
 だが世の中、そんなに甘くねえ。
 何人もの英霊が関わる聖杯戦争を転覆させるってのは、口で言うほど簡単じゃねえぜ?」
「わかっておるつもりです。複数の異世界から易々と人を連れて来られる力、抗うのは並大抵の苦労ではないでしょう。
 ましてや拙僧は、日々鍛錬に励んでいてもまだまだ未熟。力不足は明白です。
 されどゴエモン殿が力を貸してくださるなら……不可能ではないと考えております」
「おいおい、ずるいぜ、その言い方は」

御成の言葉を受け、ゴエモンは笑う。

「そう言われちゃ、協力しないわけはいかなくなっちまうじゃねえか。
 まあいいさ。どうしておいらにも、たいした願いがあったわけじゃねえ。
 おまえさんの無茶な挑戦、付き合ってやろうじゃねえか」
「感謝いたしますぞ!」

御成の顔には、満面の笑みが浮かんだ。
そのまま今にも踊り出しそうな彼を見ながら、ゴエモンは言う。

「まあ、おいらに任せておきな。天下の大盗賊ゴエモンの力、とくと見せてやるぜ。
 おまえさんは後ろで応援してな。がんばれゴエモン、ってなあ!」


117 : 御成&ライダー ◆NIKUcB1AGw :2017/03/13(月) 23:57:47 lDtLlx4I0

【クラス】ライダー
【真名】ゴエモン
【出典】がんばれゴエモンシリーズ
【性別】男
【属性】混沌・善

【パラメーター】筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:C 幸運:B 宝具:B

【クラススキル】
騎乗:A
乗り物を乗りこなす能力。
Aランクでは幻獣・神獣ランクを除くすべての獣、乗り物を乗りこなせる。

対魔力:E
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

【保有スキル】
投擲(小判):B
小判を弾丸として投擲するスキル。
小判はマスターの所持金と引き替えに生み出せる。

魔力放出(怒):B
怒りの感情を魔力に変換し、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
彼が生前使用していた「怒り爆発の術」や「一触即発の術」がスキルとして変化したもの。

黄金律:C
人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。
彼の場合、金を手に入れる機会には恵まれるものの、すぐに使ってしまうためあまり手元には残らない。


【宝具】
『天を衝く大盗賊(ゴエモンインパクト)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1-70 最大捕捉:100人

ゴエモンとうり二つ……と言うには微妙な姿をした巨大ロボット。
格闘戦をこなし、内蔵された武装で遠距離戦にも対応している。
神秘性が低いため巨体の割に消費する魔力は大きくないが、とにかく目立ってしょうがないため使用できる場面は限られる。

【weapon】
「キセル」
本来はタバコを吸うための道具だが、ゴエモンは打撃武器として使用する。

【人物背景】
江戸にその名をとどろかす義賊。
相棒のエビス丸、からくりニンジャのサスケ、くノ一のヤエちゃんと行った仲間たちと共に、
日本の平和を脅かす数々の悪を退治してきた。

【サーヴァントとしての願い】
とりあえずは、マスターの目的に協力する。


118 : 御成&ライダー ◆NIKUcB1AGw :2017/03/13(月) 23:58:37 lDtLlx4I0

【マスター】御成
【出典】仮面ライダーゴースト
【性別】男

【マスターとしての願い】
聖杯戦争の停止、ないし参加者たちの帰還

【weapon】
特になし

【能力・技能】
日々鍛練を積んでいるため、一般人よりは戦闘力が高いが超人に太刀打ちできるレベルではない。
なお、僧侶だが霊感は皆無。

【ロール】
柳洞寺の僧侶

【人物背景】
大天空寺の住職代理。フルネームは「山ノ内御成」。
僧侶にしては騒々しく陽気だが、心優しく献身的な青年。
年の離れた友人である天空寺タケルの仮面ライダーとしての活動を助けるため、
大天空寺を拠点に「不可思議現象研究所」を設立し、ちまたの怪奇現象の情報を集めていた。
戦いの場においても敵の弱点を見破ったり、一般人の避難を誘導したりとできる範囲でタケルをサポートしている。

今回は本編終了後からの参戦。

【方針】
対聖杯


119 : ◆NIKUcB1AGw :2017/03/13(月) 23:59:14 lDtLlx4I0
投下終了です


120 : ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:46:41 66PSYqS60
投下します


121 : ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:46:55 66PSYqS60





   ――これは、過去を引きずる男と、彼を良い人だと思う少女の話




.


122 : 透明Girl、透明Boy ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:47:34 66PSYqS60
――

 仁奈、その時はとっても怖くて、心配で、泣きそうだったでごぜーます……。
なにからなにまで、そこは仁奈の知ってる、自分の家そのものでした。
お部屋の数も、何階建てなのかももちろん……、お部屋のどこになにがあるのか。全部全部、仁奈の知ってるお家。
普段はあまり食べ物が入ってない冷蔵庫の位置も、ママが書置きとお金をよく置いてくれてるテーブルも、家族揃って番組を見る事がそんなにないテレビも。
全部、仁奈は知っています。そう、ここは間違いなく、私、『市原仁奈』が住んでいる家でごぜーます。

 ……でも、違う。ここはただ、仁奈の知っているお家であるというだけ。
玄関から一歩外に出ると、そこはもう、仁奈の知らない世界。仁奈の知ってる世界は、仁奈のお家だけ。
ご近所さんが違う。住んでる町が違う。……住んでる世界が、違う。そう、この街は――この世界は、仁奈の知っている世界じゃない。冬木市なんて所、仁奈、聞いたこともない。

 だけどそれ以上に怖いのが、『せーはいせんそう』、という聞いたこともないイベントです。
まるで学校の授業の予習と復習を済ませた後みたいに、仁奈の頭の中に、その言葉と言葉の意味が、シッカリと刻み込まれていました。
せーはい、がなんなのかは仁奈にはわからないけど、『せんそう』がなにか分からないほど、仁奈は勉強が苦手な訳ではないでごぜーます。
仁奈は、仁奈は……その『せーはい』というものの為に、戦争をしなければならねーのです。見ず知らずの誰かを、傷つけなきゃいけねーのです。
そんなの、嫌。仁奈は、誰も傷つけたくないし、傷付けられたくもない!!

 パパ、ママと叫びながら、仁奈は家中を走り回った。
だけど、変な所で、仁奈の身の回りの事情も、この世界は再現していやがりました。パパもママも、相変わらず仕事で家を空けていました。
パパは海外、ママは仁奈より忙しい仕事。世界が違っても、仁奈の知るお家は、仁奈一人が住むには、とても広くて寂しい部屋。
結局、この世界でも仁奈の家には私一人だけしかいませんでした。途方に暮れて、仁奈は独りでメソメソ泣いていました。
誰かに相談したくても、誰に相談していいのか分からない。ううん、そもそも、こんなことを誰かに相談して、信じて貰えるの? 
誰かに相談して、相談した人が傷付けられたら、どうするの? この世界でも、仁奈はアイドルとしての仕事がある。
346プロの仲間が傷付けられて、死んじゃったりしたら……。そんなことを思うと、相談したくても出来る訳がありません。
ベッドに枕に顔を埋めて泣いていて、仁奈を助けてくれる人がいないかと思ってたそんなときに――あの人は、仁奈のところにやってきたのです。

「泣いてちゃだめだよ、マスター」


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123 : 透明Girl、透明Boy ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:48:01 66PSYqS60
――

「何を描いてるんでやがりますか?」

 仁奈は、『ともだち』が何かをクレヨンで描いているのが気になって、ともだちの所に近付きました。
ともだちが「貸してほしい」と頼んできたので、仁奈は、まだ買ったばかりの自由帳と、幼稚園を卒業した時から使っていなかったクレヨンを貸したのがついさっき。
仁奈よりもずっと背の大きい男の人が、何を描いているのか気になって気になって、しょうがねーのでごぜーます。

「『よげんのしょ』」

 顔を仁奈の方に向けて、ともだちは言いました。
仁奈のともだちは、とっても恥ずかしがり屋だって言ってました。だからいつも、覆面を被っているのです。
とっても不思議な覆面です。真っ白な布に、大きな目、そして、その目の真ん中に、人差し指を立てた手が指を上向きにして配置された、不思議なデザイン。
初めて見たときは、不思議というよりは不気味でごぜーましたが、仁奈の不安を感じ取ったともだちは、この覆面を、
『子どもの頃に通ってた小学校の生徒がデザインしたシンボルなんだ』といっていました。そういわれるとこの覆面に対するイメージが、
不気味なそれから、不思議で親しみやすいと思うようになったのです。それに、覆面を被ってると恥かしくなくなる、といったともだちに、
仁奈は、私と似たような物をおぼえたのでごぜーます。だってなんだか、着ぐるみを着てるとその着ぐるみのモデルと同じ気持ちになれる、仁奈みたいなんですもん。ともだち。

「よげんのしょ……? なんでごぜーますか、それ?」

「僕が子供の頃はね、僕達が大人になれば、きっと凄い世界が来ると子供の誰もが思ってたのさ。丁度、仁奈ちゃんと同じぐらいの年齢の頃だ」

「どんな世界だったんですか?」

「車が空を飛んだり、当たり前のように宇宙に旅行出来たり……あと、巨大ロボットなんかも実用されるんだ、と思ってたよ。まぁ、何一つとして叶ってなかったけどね」

「仁奈が大人になる頃には、そうなってるといいなぁ」

「僕達も、そう思いながらよげんのしょを昔描いたのさ。いつか世界はこうなるんだ、こんな事が起こるんだ。そう思いながらね」

「どんなことを描いてるんですか?」

「見たい?」

「はい!!」

「なら、見せてあげよう。本当は、僕の大事な仲間にしか見せちゃいけないんだけど、仁奈ちゃんは特別だ」

 特別、って言われると、なんだか仁奈も嬉しくなってきます。一気に仲良くなれたような……友達に、なれたような。
ともだちが持っている自由帳に目を向ける。黒いクレヨンで、文字が描かれていました。絵の方は、描いてなかったです。
仁奈にも読みやすいようにと思ってかどうかは分からないけど、全部ひらがなで書かれていました。だけど……結構崩した文字で、読みにくい。

「『きゅうせいしゅがあらわれて、まよい……さま……よえる? おおくのひとをみちびくだろう?』」

 いじわるで、汚く書かれているのかは分からないけど、全部読むのも一苦労……。

「おっと、ここまでだよ」

 そう言ってパタン、と、ともだちは自由帳を閉じてしまった。

「えー!! 仁奈、なにが書いてあるのかもっと見たいでごぜーます!! みせやがれー!!」

「これは大事な大事な『よげんのしょ』なんだ。いつでも見れる様な事にしちゃ、面白くないだろう?」

「む〜!! ……でも、そのよげんのしょ、本当に当たるんでごぜーますか? 未来の事なんて、誰にも分かりやがりませんよ?」

「よげんの内容を実現させられるよう、努力する事が重要なんだよ。仁奈ちゃん」

 そう口にするともだちの言葉は、とても優しかったです。何年も前、まだママの仕事が今みたいに忙しくなかった頃、ママが仁奈にいって聞かせたときのような声。


124 : 透明Girl、透明Boy ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:48:20 66PSYqS60
 三日前、初めてともだちの姿を見たとき、怖くなかったといえば、嘘になります。
仁奈がどうすればいいのか分からなくて、メソメソと泣いていたそんな時に、ともだちは現れました。
今みたいに優しい声で、仁奈を慰めようとしてくれたのだ、ということは仁奈にも分かりましたが、初めてともだちを見たときは今よりずっと警戒していました。
今だったらともだちは優しいってことは分かりますが、初めて会ったときはそうもいきません。いきなり現れた覆面の大人の人。驚いて、距離を取ろうとするのは、当たり前じゃないですか。

 「あなたは誰?」、「なんでここにいるの?」
仁奈よりも子供、それこそ園児がするような、なんでなんでの質問を何度も投げ掛けても、ともだちは嫌がることもせず答えてくれました。
そして、ともだちとお話する内に、仁奈も理解しました。ああ、この人が、『せーはいせんそう』に巻き込まれた仁奈と一緒に戦う、サーヴァントって存在なんだと。
また泣きそうになった仁奈の肩に、ともだちは優しく手を乗せて、あのときこういいました。

「心配しないで。君を戦いから遠ざける為に僕がいるんだから。戦う事は得意じゃないけど、仁奈ちゃんを戦いに巻き込ませない事だけは、僕も約束しよう」

 その言葉を聞いたとき仁奈は、とても頼もしい人だなぁ、と心から思った。
それに、言葉には頼もしさだけじゃなくて、仁奈を……人を安心させてくれるような、不思議な心地よさもありました。
まるでそれは、信頼できる『友達』と一緒にいるみたいな。とにかくそのときから仁奈は、ともだちの事を信じる事にしたのでごぜーます。

「……さて、仁奈ちゃん。僕は今日も仕事だけど……君も一緒に来てくれるかな?」

 と、ともだちが訊ねてきました。

「いいですよー」

「分かった。それじゃ、一緒に行こうか」

 其処でともだちはスッと立ち上がり、仁奈もそれを見て立ち上がった。
私の引き当てたサーヴァント――サーヴァントやクラス名で言われるとそがいかんがあるからダメらしいので、『ともだち』と呼ぶようにいわれています――である、
このともだちは、私にせーはいせんそうの影響を受けないように、色々な仕事をしているらしいのです。
その内の一つが、せーはいせんそうとは関係のない人たちに、平和の素晴らしさを教えてあげる、というものなのです。
ともだちは、あるときいってました。「皆と友達になりたいんだから、これ位するさ」って。仁奈はその言葉を聞いて、ああ、ともだちはとってもいい人なんだなと、思いました。


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125 : 透明Girl、透明Boy ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:48:48 66PSYqS60
――

「今日も素晴らしい講演だったわね、“ともだち”のアレ」

 カチャリ、と、食器と食器が静かに音を奏でた。
ティーカップとソーサーが、テーブルの上に置かれた事で生じた音であった。
カップには澄んだ琥珀色の紅茶が満たされており、格調高い香気でテーブル中を満たした。
ソーサーを運んできた女性は紅茶の茶葉には詳しくないが、これは、付き合う前から紅茶に凝っていた彼女の夫が購入して来たグレードの高いものらしい。
彼女がたまに飲む、市販品の、ペットボトルに入っている紅茶に比べて、香りの良さと言うものが明白に違う。夫の淹れてくれた紅茶の方が、香りが柔らかで、クッキリとしていた。

「ああ、最初はよくある胡散臭い新興宗教の類かと思ったが……とんでもない。聞いているだけで、心が安らぐ。その上あの親近感だ。ただものではないよ」

 まるで自分の事を褒められたかのように、男は饒舌に語り始めた。言葉の端々から感じ取れる、“ともだち”と名乗る人物への信頼感。

 “ともだち”が何時頃、この冬木の街に現れ始めたのか、転居を伴う転勤で東京から此処に越して来たこの夫婦にはよく解らない。
ひょっとしたら昔から冬木の街で活動をしていた人物なのかも知れないと、初めの内は同じ講演に姿を見せていた、自分達より古くからこの街に住んでいた住民に、
“ともだち”の事を聞いてみたが、彼がこの街に現れたのは本当につい最近である事は間違いないとの事。
つまりその男は、一週間にも満たない本当に短い期間の間に、此処までの勢力を広める事が出来たのだ。どれ程高いカリスマ性を持った新興宗教の開祖でも、“ともだち”が友達を作る早さには、勝てるべくもないだろう。

 俗世と社会の煩わしい慣習、負荷されるストレス・苦しみ。
これらから人々を解放させてくれる謎の人物が存在すると、冬木の街の住民が噂をし始めるようになったのは何時の頃だろうか。
人の一番苦しい時、辛い時、悩んでいる時。心に生じた僅かな捻じれ、亀裂、間隙から、その人物の中へと入り込み、手練手管でその道に誘い込むのは、
新興宗教に限らず洋の東西のあらゆる宗教に共通するテクニックだ。“ともだち”もマクロ的に見れば、そのような方法を用いて人に近付く。
違うのは、ミクロ的に見た場合だ。“ともだち”が“ともだち”と呼ばれる所以は、其処からの付き合い方にある。
彼は、非常に深い見識の持ち主の上、人の心に精通している。人の抱える悩みがなんなのか、それを“ともだち”は、掌の上のボールを矯めつ眇めつするかの如く、
解析してしまうのだ。そして“ともだち”は、その悩みを抱える人間に近付き、その人物にも出来そうな第一歩を教えてくれるのだ。

 此処が、重要なポイントなのである。
“ともだち”は、あらゆる宗教の開祖の如く、己を神とも、超越的存在とも自称しない。あくまで、自分の事をただの“ともだち”としている。
此処に、皆は親しみやすさを憶える。その人物に事態を解決させる万能の特効薬を処方する訳でもなければ、啓示やお告げを告げる訳でもない。
ただ誰にでも出来る、しかし確実な第一歩を踏める方法を、穏やかかつ落ち着いた心持ちになって人物に、教えてくれる。
そう、何十年来の『親友』が、そうするかの如く。故に、彼が開いたセミナーや講演に集まった人物は皆、“ともだち”の事を『友達』と認識している。
そしてきっと“ともだち”も、皆の事を友達と思っているだろう。それは、間違いなく。


126 : 透明Girl、透明Boy ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:49:25 66PSYqS60
 “ともだち”の講演は通常一時間、長引いても二時間程度で終わる。
其処で話される事は、“ともだち”がどのように世界を、社会を認識しているのかと言う持論の説明。其処での人の付き合い方。
そして全てが終わり次第、個々人が抱える、どのように形振りを決めて良いのか分からない悩みや苦しみを、“ともだち”にぶつける、質問の時間。
この夫婦は、その質問の時間に救われた。彼らの抱えた悩みとは、大なり小なり多くの人物が抱えるそれと何ら逸脱していない。
大企業のエリートコースに男が乗った事による、全国の様々な営業所への転勤。そしてそれに伴い、住み慣れた場所を移動しなければならない彼の妻。
住み慣れた場所から住み慣れぬ場所に移動せざるを得ない事は、その人物にとってストレスの元になる。何度目かの転勤に、夫も妻も疲弊していた。
そんな時に、会社の同僚が“ともだち”を紹介してくれ、彼の講演に招待してくれた。
厄介なネットワークビジネス――今はマルチとかネズミ講と言わないらしい――にハマったんじゃないかと当初は彼らも思ったが、しかしそうではない。
だったら俺達の悩みを変えて見ろと思い、件の質問の時間に抱える悩みをぶつけた時、“ともだち”は焦る事も慌てる事もなく、自分の解決法を示した。
そして其処で、夫婦は思い知ったのだ。“ともだち”と名乗る男の深い見識、人の心への理解。
そして――友力と自称する力を持っていると言う、“ともだち”の底知れなさを。彼の言った通りの生き方をした瞬間、己の胸のつかえが、
ストンと降りたのを夫婦は感じた。息苦しさがなくなった。其処から後は、トントン拍子。ともだちのセミナーに毎日参加するようになった。
“ともだち”が新興宗教などと違うと語ったのは先述の通りだが、彼らのような胡散臭い所と違い信頼出来るのは、“ともだち”はお布施などの金をとらない。
「親友に金の無心をするのは、友達ではないだろう?」。“ともだち”は、そんな事を語っていた。彼は、無償の愛をモットーとする男であるらしかった。

 “ともだち”の講演を終えた夫婦は、冬木での住居である賃貸マンションへと戻り、彼の話で盛り上がった。
ここの所はずっとそうだ。夫婦の共通の話題は“ともだち”のそれであった。自分達の悩みを楽にしてくれた男に対する、尊崇の念。
二人の交わす言葉からは、“ともだち”へのリスペクトが溢れている。希代の傑物、と言う言葉があるが、大抵の場合それは肩透かしである事が多い。
だが間違いなく、あの男は本物であろう。そんじょそこらの山師とは次元が違う、住んでる所も見ているものも違う。彼は、正しく本物であった。

「なぁ、お前」

 カチャリ、と、紅茶を飲み終えた男が、ソーサーにカップを音を立てて置いてみせた。

「なぁに?」

「“ともだち”が、ちっちゃい女の子と何か話しているのを、見たんだってな」

「“ともだち”が? ……あぁ、思い出した。セミナー会場に高い傘を忘れた事があって、その時に戻った事があったじゃない? 誰もいないセミナー会場で、見たのよ」

 其処で、蔑むような表情を彼女は浮かべた。

「言っちゃなんだけど、こ汚い娘だったわ。今日日まともな母親なら、あんなの着せないって位ダサい恰好。あの歳から服を、子どもの意思で選ばせないとやっぱダメよね」

「彼女は、“ともだち”の大事な友達らしいんだ」

 其処で男は、席から立ち上がった。

「実の娘?」

「娘は娘だろう。娘を友達とは言わないよ。兎に角、彼女は“ともだち”の友達だ」


127 : 透明Girl、透明Boy ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:49:56 66PSYqS60
 スタスタと歩く男。彼は、妻の後ろに回った。チク、と軽く何かがうなじに突き刺さる感触。
安物のセーターは駄目ね、と彼女は思った。肌に痒い程度ならまだしも、チクチクするのは駄目である。

「……友達の友達を他人扱いしてはいけない。友達の友達と仲良くしてこそ、幸せの第一歩。“ともだち”も言ってただろ?」

「それはまぁ、そうだけど」

 とは言え、それも難しいだろう。自分の友人は確かに友達だが、友人の友達は明白な他人なのだから。

「実は俺、頼まれごとをされててな。お前についてだ」

「私に?」

 何時、されたのだろうか。

「“ともだち”の大事な友達について、どう思ってるのか訊ねろってね。良い事を言っていたら、素晴らしい妻だと誇って良いと言われたよ」

「悪い事を言っていたら?」

 チク、と先程刺された所が妙に濡れている、其処に右手を彼女は当てた。

「――『絶交』だ、って」

 うなじに当てた手を、離し、自分の目の前に持って来る。ベッタリと、紅色の血で彼女の掌が濡れていた。
その瞬間、彼女は両目と鼻、口腔から、身体の中の全てのものを吐き出したかのように大量の血液が噴出、そのままテーブルの上に突っ伏すかのように倒れた。
感情の波を感じさせぬ瞳で、男は自分の妻の亡骸を見下ろしていた。縫い針のような物を指で挟んでいた男は、それを懐にしまい込みながら、こう言った。

「友達を悪く言うような人は妻じゃないよ」


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128 : 透明Girl、透明Boy ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:50:13 66PSYqS60
――

 世界大統領にもなった自分が講演を行うには、随分と小ぢんまりした所だと男は思った。
……いや、初めはそんなものじゃないかと男は思い直す。何時だって最初はこんなもの。自分達も最初の講演をする時は、収容人数が数十人のブースだった。
其処からどんどん、市民会館、武道館、そして、国会議事堂へとステップを踏襲していったではないか。
『人間にとっては小さな一歩だが人類にとっては偉大な一歩』、子供の頃に幾許の憧れを抱いていた、アポロ11号の船長、アームストロングも同じ事を言っていた事を、彼は思いだす。

 人でいっぱいになると、この市民会館の演説ホールも物足りない気持ちになるのだが、誰もいなくなると、途端に広く感じるのが不思議である。
誰も座っていない座席が、ステージに立つ男の視界に広がる。薄明りに照らされた微かな闇が、観客席の帳を落としている。
人もいない、日の光もない。この空間の時は、停止し、死んでいた。人もなく、光もない空間の脈動は止まり、死に至る。世の倣いだ。
今のこのホールは正しく、彼と、彼だった男の幼少期を象徴していた。友達付きあいの垣根もない小さい子供からも、必要とされなかったあの頃の自分に。

 目玉の前に人差し指を立てた手を持って来たシンボルマークがプリントされた覆面を被ったスーツの男は、
自分が先程まで『友達』に講演を行っていたその場所を無言で眺めていた。既に此処には友達は一人もいない。自分には、一人も友達はいない。

 ――だが、今は、違う。

「僕にも友達が出来たんだ。仁奈ちゃん、って言ってね。僕達の子供の頃でも珍しかった、純粋で、いい子だ」

 誰もいない空間に、男は講演を始めた。この場にいないたった一人の、NPCとして呼ばれているかも分からない幻影に向って。

「君達の遊びには女の子が少なかったからなぁ。僕達は女の子と遊んでいると、恥ずかしいと思う生き物だったね。でもやっぱり、女の子とも一緒にいると、楽しいよ」

 其処で、一呼吸を置く。

「聖杯……あぁ、それじゃ伝わり難いね。キラキラした綺麗な缶々を手に入れたら、僕も君の所に、仁奈ちゃんと一緒に行くよ。次もまた、遊ぼうよ」

 闇は返事を返さない。男の――“ともだち”の言葉を跳ね返すだけ。

「ケーンヂくーん、あーそーびーまーしょ」

 男はのびのびとした声で言った。自分の事を無視した……或いは、自分の事を貶めた、或いは――自分に生きる希望を与えてくれた、憎い/遊びたかった男の名を。
嘗て『ともだち』の名で世界を支配して見せた男は、未練がましく、ケンヂと言う名の男の名前を口にし続けた。


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129 : 透明Girl、透明Boy ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:50:33 66PSYqS60
――





   ――これは、昔々、21世紀の未来を焼却しようとした、20世紀の亡霊が、恐怖の大王のように復活する話


   ――これは、『20th Century Boy(20世紀少年)』の復讐と、未練を描いた話





【クラス】

キャスター

【真名】

ともだち@20世紀少年

【ステータス】

筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運A+ 宝具E

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

道具作成:D
魔術的な道具の一切が作成不可能だが、魔力を用いる事で生前自らの組織が産み出していた科学的な道具を作成する事が出来る。
空飛ぶ円盤や極めて破壊力の高い爆弾、そして致死性の出血熱のウィルス等を主として創造する。

陣地作成:EX(E-)
日本と言う一国を支配したどころか、世界全土を統べる世界大統領として君臨していたキャスター。
キャスターは最高条件が重なりに重なれば、『ともだち府』と呼ばれる帝国を作成する事が可能。
この陣地作成スキルのランクEXはAランクの上と言う意味のEXではなく、評価不能と言う意味でのEXである。彼の本来の陣地作成スキルのランクはカッコ内のそれでしかない。

【保有スキル】

扇動:A+
数多の大衆・市民を導く言葉や身振りの習得。特に個人に対して使用した場合には、ある種の精神攻撃として働く。
ランクA+は、一個人が習得する中では最高峰のそれ。歴史上の偉人が習得していた扇動能力と全くの差異はない。

無力の殻:A
キャスターはサーヴァントとして認識されない。ただし、道具作成スキルを発動している最中、そして、後述の宝具を発動した場合のみ、このスキルは意味を成さなくなる。

カリスマ:D+++++
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。
キャスターのカリスマ性は己を大きく見せる演出を込みでの値であり、キャスター自身は、国のトップの器ではない。

【宝具】

『血の大みそか(ウィルス)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:-
生前にキャスターが2度、世界にバラ撒いたとされる致死性のウィルスが宝具となったもの。キャスターはこれを道具作成スキルで製作可能。
このウィルスには2つのタイプがあり、そのどちらもが、出血熱系の生物兵器である。
潜伏期間がなく、発症して間もなく全身から血を吐き出すタイプのものと、風によく似た初期症状の後全身から血を噴出させて死ぬタイプのものがある。
また感染させる方法も2つで、一つが直接埋め込むか、そしてもう一つが空気感染させるかである。治療法は、このウィルスの為に作られたワクチンか、極めて高度な魔術的医療技術が必要となり、事実上、これらがなければ罹患した瞬間死が確約する。

『果てありき夢への地図(しんよげんのしょ)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
生前キャスターが行動の指針としていた、幼稚な予言の落書きが宝具となったもの。
キャスターは聖杯戦争に呼び出されて間もなく、これを作成する事が出来、この宝具に書かれた事に沿って行動する事で、
幸運ステータスと行動の達成値に上方修正を掛ける事が出来る。この宝具を作成出来るのは最初の一回のみで、これ以降別の『よげんのしょ』を作成する事は無条件で不可。
よげんのしょを失ったとしても、キャスターがその内容を憶えており、その覚えた内容に従い行動しても、上記の補正効果は得る事が可能である。


130 : 透明Girl、透明Boy ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:50:54 66PSYqS60
『反陽子爆弾』
ランク:E 種別:対軍〜対城宝具 レンジ:99 最大補足:1000
生前キャスターが作成していた……とされる、核爆弾よりも遥かに強力な、世界を一時に滅ぼす威力の反陽子爆弾が宝具となったもの。
但し、聖杯戦争の制限上そう言った、星を滅ぼし得る宝具は再現不可能であるし、そもそも生前この爆弾が炸裂した機会はなかった為、
本当にこれが地球上の文明全てを滅ぼせるのか、そもそも、これが本当に現代技術では再現不可能な反陽子爆弾であったのか不明である。
前述のようにこの宝具には地球を滅ぼす程の威力などない。この宝具は、原子爆弾にも等しい威力の爆発を発生させる、恐るべき爆弾であるに過ぎない。
宝具ランクこそEだが、この宝具ランクは神秘性の低さを表した値であり、この宝具を発動した場合、Eランクの宝具を発動させたとは思えない程の魔力消費が行われる。

『再誕せよ、神へと至る為(20th Century Boy)』
ランク:EX 種別:奇跡演出宝具 レンジ:- 最大補足:-
生前キャスターが行った中でも最も有名な逸話、数十万〜数百、数千万、数億人もの人間が見守る中、劇的な演出で死体の状態から生き返り、
身を挺して凶弾からローマ法王を身を守った、と言うエピソードが宝具となったもの。キャスターは霊核にすら影響のある致命傷を負い、消滅しようとしていても、
極めて少ない魔力消費で幾度も復活する事が出来る。その際復活前に負っていたダメージは完全に回復、元の状態に戻ってしまう。

この宝具の本質は、本当に蘇生しているのではなく、『蘇生しているように見せかける』と思わせる事に本質がある。
キャスターは消滅しようとしているのではなく、その時『本当に消滅』しているのであり、復活したと思われているのは、キャスターが産み出した幻影である。
もしもこのキャスターが演出した幻影を見て、キャスターが復活したと誰かが思った場合、因果の逆転が発生。
生き返ったと思われている、キャスターが産み出したその幻影が、正真正銘の本物のキャスターとして再誕、行動が可能になるのである。
逆に言えばこの宝具は、誰かがキャスターの事を生き返ったと思いこむ事が条件なのであり、消滅時に誰も『キャスターが蘇生していない』と思った場合、
そもそも『蘇生したと思い込む人物がいない状況』で消滅した場合、他のサーヴァント同様キャスターは聖杯戦争の舞台から脱落する。
――だがこの宝具の最悪辣な点は、自分が生き返ったと思い込む人物はNPCだろうがサーヴァントだろうがマスターだろうが『誰でも良く』、
しかもその上『蘇生したと思い込む人物の数は一人でも良い』と言う点である。つまりこの宝具は、キャスターが『生き返った』と思い込むマスターがたった一人、
キャスターの消滅している現場に居合わせるだけで、事実上このサーヴァントはマスターの魔力が続く限り、無限に復活出来るのである。
友達の認識によって何度でも復活し、神の子を演出出来る、20世紀の亡霊に相応しい歪んだ醜い宝具。

【weapon】

【人物背景】
 
人類史上最も多くの国の、最も多くの人類を殺害した史上最悪の虐殺者。そして、それを隠し通したまま、世界の頂点に君臨していた男。
過ぎ去った20世紀が産んだ亡霊。世界から、社会から必要とされなかった少年が、自分の事を貶めたある少年に励まされ、生きる望みを抱き、成長してしまった姿。

【サーヴァントとしての願い】

もう一度、ケンヂくんと遊ぶ



【マスター】

市原仁奈@アイドルマスター シンデレラガールズ

【マスターとしての願い】

お家に帰りたい。今は、“ともだち”を頼る

【weapon】

【能力・技能】

アイドルとしての歌唱力

【人物背景】

346プロに所属するアイドルの卵。家庭環境に、やや難があるフシが見受けられる。

【方針】

“ともだち”に助けて貰う


131 : ◆zzpohGTsas :2017/03/14(火) 01:51:09 66PSYqS60
投下を終了します


132 : ◆mMD5.Rtdqs :2017/03/14(火) 03:34:38 DFfMEpfU0
投下します。


133 : ◆mMD5.Rtdqs :2017/03/14(火) 03:36:13 DFfMEpfU0

 ……はい、私は無能であります。先日、麾下の艦隊において、特別好意を抱いていた艦娘に対し、私的な関係を要求いたしました。
某日某時刻に、海軍将官がこぞって利用しているホテルにて、彼女を呼び足した挙句に婚礼衣装に着替えることを強要したのです。
あくまでも私的な関係であると主張しつつ、自らの立場を盾に関係を迫りました。
彼女は立場上これを受け入れざるを得ず、上司による性的な嫌がらせにより多大なる心理的ストレスを蓄積、
結果ソロモン海域における戦闘において判断ミスが偶発され、彼女……駆逐艦吹雪は轟沈しました。

 この件に置きまして私の過失は明らかであります。どうか適切な処分をお願い致します。


134 : 提督&アーチャー ◆mMD5.Rtdqs :2017/03/14(火) 03:37:17 DFfMEpfU0

 なるほど、日常とはこうであった――。背の高い建物を騒々しい看板が彩り、行きかう人に気を使って道を歩く。
何の気もなしにに覗いたファーストフード店で、青少年たちがくだらない話で盛り上がり、女子が声を潜めて後、揃えて笑った。
人々はどこかに浅い空白を抱え、そこらに軽い異常を探し、路地近くの空を眺める男性を、浸っているよとバカにする。

 そんな光景はおおげさ、とっても大袈裟に言ってしまえば人類の築き上げた幸福の基準点だ。空を見ていた男は思う。
少し気恥しくなってしまうような表現で、浸っているのは間違いないのだろう。ただそんな気取ったものも使いたくなる。

 男は視線を動かす、路地の先の大通り、これまた繁栄の象徴のようにせわしなく車が行きかう交差点、その中心に同じく空を見つめる男がいた。
彼は、(間違いなく轢き飛ばされるだろう位置で――) 交通の妨げになっていること甚だしい位置で、一身に空を、ビルによって切り取られた空を見る。
黒い眼には何の感情を映していないように見せながら、奥に込みげてくるものを押しつぶして。交差点の男――アーチャーは空を見ているのだった。

 霊体化しているアーチャーの格好は近未来の兵士のようだ。おおよそこんな現代の街頭には似合わない姿。
それは路地の男からみたとしても、どうにも拭い切れない違和感の存在する光景だ。日常に馴染まない異物、アーチャーもこの風景の一員だったのに。

 ……自分はどうだろう? 路地の男は自分の身なりを確かめた。一般的な成人男性の格好だ、奇怪な行動をしなければ溶け込めるだろう。
少なくとも変には思われないはずだ、自分はずれていない。ずれていない、ずれていない。そのはず……。

 ――しれいかーん

 ああ、だめだ。此方の認識はもう浸食されてしまっている。何の変哲もない街の風景のほうにこそ違和感を拭うことができない。
無意識に、容姿端麗で、特徴的な性格を持ち人に好かれる雰囲気を纏ったセーラー服の少女たちを探してしまう。
人懐こくって、何をしても許してくれて、人類のために尽くしてくれる、……そのように造られた――新生物たちの姿を。

 アーチャーは空を見ている。彼は日常のために戦った兵士だ。不意に襲来した悪い異星人との闘いにおいて、超人的な働きを示した兵士。
異星人たちはアーチャーの過ごしてきた世界をめちゃくちゃに叩き潰した。完膚無きにまで破壊される町々、風景は戻せたとしても人命は戻せない。
街頭にこうやって、騒々しい声を取り戻すことが、彼の原動力だったのかもしれない。決して元通りにはならないと知っていながらも。

 あの交差点の光景はきっと、アーチャーの、ストーム1の、戻りたかった世界とどうしようもなくずれてしまった世界なのだ。

 ……それでも彼は最後まで戦いきった。戦友たちを次々と亡くして人類種自体がギリギリまで追い込まれてしまうような状態になりながら、
彼は戦い抜いて、彼という希望の下、EDFという希望は形を保ち続けた。そして、最終決戦においては何の区分もなく人類自体がEDFの名の下で一つとなって戦ったのだ。

 路地の男は思う。アーチャーの偉業はどうしようもなく胸を熱くさせ、燃え上がるような感動を覚える。しかしそれと同時にひどい羨望も湧き上がってくるのだ。
どうしてそんなに単純な世界だったのか? こちらの世界ではもうどうやってもそんなことはできない。

 ――我らの人類は頭の奥まで艦娘に冒されきってしまった。

 路地の男、ある鎮守府の提督は視線を切り一瞬空を見た後に、歯を食いしばりながら歩き出した。
この世界の空には、妖精さんの軍用機なんて、きっと浮かばない、噂にもならない戯言なのだろうな、と……。


135 : 提督&アーチャー ◆mMD5.Rtdqs :2017/03/14(火) 03:38:07 DFfMEpfU0
 深海棲艦と呼称される敵対生物に追いやられつつある世界、立ち上がったのは過去の艦船の記憶を持った少女たち、通称艦娘。
可憐な容姿に重厚な装備を持った彼女たちは、人類の守護者として今日も深海棲艦と戦うのだ。

 そして、彼女たちを率いるのは――優しくてカッコいい提督たち。先天的素質によって艦娘たちへの命令権を得た彼らは、
旧来の軍隊出身者、口うるさい上に彼女たちをないがしろにする参謀たちに悩まされながらも積極果敢に支持を出す。
艦娘と提督の絆は、参謀たちの頑迷な脳よりももっと硬い。それに感化された理解力のある参謀だけが今の海軍には残っていない。
そしてその素質は彼らの血族だけに脈々と受け継がれる、気高さの象徴なのだ。

 民間もみんな艦娘たちのことが大好きだ。たどたどしく買い物に来る彼女たちを皆が笑顔で迎える。
食料燃料問わずついつい食べ過ぎてしまうという欠点さえも民間人は愛しているのだ。
本土の女性たちよりもかわいらしいものだから、最近では結婚する男性が減っているともっぱらの噂だ。
その程度といったらついつい自分たちの分まで差し出してしまうほど。もっと食べてほしいと最近本土では畑が増えた。
そして、艦娘と提督たちのためとして、摩天楼を次々利用するのだから、商魂たくましい人々ときたら……。
そんな善良な人々を艦娘たちは責任感と義務感を持って守るのだ。

 忘れてはならない――むしろ彼女たちの最大の美点として、艦娘たちの性格の良さが挙げられる。
まるで彼女たちが生まれてきたような海のように広い心を持ち、一部悪態をつく艦娘もいるけれど、献身的に提督を支える。
彼女たち自身戦場に出ることが不安でたまらないはずなのに、たとえ提督がどんな醜態をさらしたとしても彼女たちは受け入れてくれる。
だから、提督はこんな健気な艦娘たちを自分の仲間、親友、家族と思い、彼女たちが伸び伸びと過ごせるように環境を整えなければならない。

 だが、我々がやっているのは戦争だ。もしかしたら――彼女たちが昏い海の底へと沈んでしまうことがあるかもしれない。
艦娘たちが冷たい感情に捕らわれ、姿を変えてしまうこともあるかもしれない。けれども、我々は彼女たちを信じ続けなければならない。
信じていれば、その絆は、きっと冷たい水の底に行ったとしても途切れることはないのだ。

 そうだ。我々人類は艦娘がために、深海棲艦と戦わなくてはならない。過去の会いに来てくれた艦船の化身と、過去の艦船の名前を持つ彼女たちと、
過去の記憶を持つと語る艦娘と名付けられた者たちと。減り続けるか弱き人類は、絶対数の減らない強い新生物たちと、生存競争に勝たなければならないのだ!


136 : 提督&アーチャー ◆mMD5.Rtdqs :2017/03/14(火) 03:39:54 DFfMEpfU0

 「私が彼女たちに選ばれたのは……いや、そもそも提督たちの選出自体が、ある遺伝子的形質の有無で行われています」

 彼女たちは群体に共有能力を持ち、一個の生命体として機能しています。人類の次の支配者となるために、そして人類の社会構造について恐ろしく熟知しています。
その遺伝子を彼女たちが受け入れることで、新生物たちにとっての致命的なリスクを回避できる……。そのために我々は子芝居まで打って生かされています。

 提督はうつむきがちに、アーチャーに語った。彼があてはめられたのは、そこそこのアパートに住む、中小企業の社員。
良くも悪くも、深海棲艦が現れなければこの程度の能力しか持たない、平凡な男性だった。

 「私たちが日常が切り替わる前の最後の世代です。私の後の人々は守護者無き世界のことを知らなくなる……」

 私も盲目的に親愛をささげてくれる彼女たちに、幾度となく心を揺らされました。彼女たちと共に生きていたいと、そのために彼女たちを守らなければ……と。
上層部はすでに彼女たちの虜、突飛な行動で彼女たちの不気味の谷をあらわにさせなければ、使命を天秤にかけてしまっていたかもしれません。
しかし、それも限界です。そして私自身、彼女たちから排除されつつあります。

 提督と、その名称がどれだけ滑稽なことか分かっている男は、拳を強く握り、震えながら、あえぐように声を出す。それが、一層等身大の彼を露にした。

 「私は……ッ! じ、人類のために、そのために抵抗して死にたいのです」

 男は旧来の常識を未だに引きづり続けていた。現状の提督というものがどれだけかけ離れているか、彼女たちが彼を甘やかすたびに、軸ががくがくと揺れる。

 「もしかしたら、私は、強い自己愛の下にこのようなことを、言っているのかもしれません」

 強いこだわりがために、新生物たちを未だに彼女たちと呼んでいるのはその表れかもしれません。ただ、ただ。
提督が憧れていた軍人だったら、人類を尊厳の下に生かそうとしたはずだ。提督は、その男は強く信じていた。

 「わかっています。あなたは異星人との闘いにおける英雄。人類全体にとっての英雄です。……人類を撃つことがタブーであるということも」

 アーチャーが提督の目をじっと見た。深い目だった。

 あなたという英雄にそのようなことはできません。それでも、途中で敗れたとしてもいい。それでも、人類のために死にたい。

 つっかえつっかえになりながら、艦娘たちにはきっと見せなかった狼狽しきった態度。それでも、彼はやっと心の底を明らかにできたのだった。
アーチャーはそんな彼にゆっくりと、ゆっくりと近づいた。そして、彼に強くビンタを張った。提督は鼻血を吹き、けれども倒れこまない。
それは修正の一撃、提督にとって初めての――能動的に道を示してくれたビンタだった。

提督はしばらく震えた後、ありがとうございますと、絞り出すように呟いた。大きな声が出せない。それほどまで響いた修正。

再びあえぐような礼を言って、男泣きに泣きつづける。アーチャーの手が彼の肩に落ちた。


137 : ◆mMD5.Rtdqs :2017/03/14(火) 03:41:02 DFfMEpfU0

【クラス】
アーチャー
【真名】
ストーム1@地球防衛軍3
【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力E 幸運A+ 宝具EX
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:E
 魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。


【保有スキル】
心眼(偽):B
 直感・第六感による危険回避。
 異星人の侵略に当たって、彼が生き残ってこれたのは敵の攻撃を体で感知できたからだろう。
勇猛:B
 威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
 EDFは敵を恐れない。防衛軍の精神を彼は体現している。
射撃:B
 銃器を扱う才能を示すスキル。
 あらゆる武器であらゆる戦況に対応しあらゆる敵に対応しなければ、生き残ることはできなかった。

【宝具】
『我ら、地球防衛軍(Earth Defense Force)』
ランク:E〜A+++ 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
 地球防衛軍の兵士、その象徴としての宝具。
 使用してきた武器を魔力を消費することで出現させ、使いこなすことができる。
 ただし、一度に呼び出せる武器は二つまでであり、弾は魔力によって補充され、リロードを行う必要がある。
 性能が高ければ高いほど消費魔力は上がり、最強のジェノサイド砲に至っては令呪三つの補助を必要とする。

『希望の一と無銘兵士たち』
 ランク:EX 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
 ストーム1。一人で地球を偽りもなく救った彼は紛れもない地球の希望である。
 侵略者たる異形、ロボット、昆虫相手は与えるダメージ量が増大し、希望である彼を信じる者たちは精神汚染を無効化。
 さらに、彼がストーム1である限り、幸運 敏捷、筋力、その他スキルが上昇する。
 彼がストーム1である限りは。

 ストーム1は、英雄なき近未来においてあまりにも超絶した戦果を残しすぎた。
 結果、アーチャーの存在を人々は疑いだしてしまった。ストーム1は非常に脆い幻想となってしまった。
 アーチャーがストーム1らしからぬ行動、つまり人類に対する攻撃やそのような風評が立ったとき、
 アーチャーはどんどん無銘の兵士に近づき、全スキル全ステータスが下降、最後には消滅する。
 
 ストーム1は異星人から地球を救った英雄。決して人類間の戦争の英雄ではないのだ。

【weapon】
 宝具で呼び出した銃器

【聖杯への望み】
マスターの世界の人類のために戦う。そのためには禁忌も踏む。


138 : 提督&アーチャー ◆mMD5.Rtdqs :2017/03/14(火) 03:42:01 DFfMEpfU0

【マスター名】提督
【出典】艦隊これくしょん〜艦これ〜(アニメ)
【性別】男性


【能力・技能】
ほぼ一般人と同等。

【人物背景】
ほとんど不明。アニメの描写においては無能のように思われるが、その行動の裏にはこういう理由があったんだよ!
色々ガバガバに解釈できるのがアレのいい所だと思いました。

【聖杯にかける願い】
『新生物(艦娘および深海棲艦)』の消滅

【方針】
今はただがむしゃらに聖杯を目指したい。


139 : 名無しさん :2017/03/14(火) 03:42:15 DFfMEpfU0
投下終了です


140 : ◆As6lpa2ikE :2017/03/14(火) 07:33:23 cjOJS9oM0
投下します


141 : 英雄と魔法少女! 友達百人出来るかな :2017/03/14(火) 07:34:15 cjOJS9oM0
0

あまりに高度な科学は、魔法と区別が付かない。
では、あまりに高度な魔法は……?


142 : 名無しさん :2017/03/14(火) 07:36:30 cjOJS9oM0
1

「魔法少女、と聞くと、夢と希望に満ちた、華々しい存在だとイメージするかもしれません。実際、私もそんな空想を抱いていた一人でした。魔法少女ってすごい、魔法少女って憧れる――という風に」

だから。
本物の魔法少女になれた時はとても嬉しかったですね――と、学生服風の着衣物を身に纏い、椅子に腰掛けている少女は、口元を緩め、微笑むような顔で言った。
豪奢な木製の机を隔てて、少女の向かいの椅子に座っている少年――『地球撲滅軍』の新設部署、空挺部隊の隊長にして、十四歳の若き英雄、空々空は、会話に出てきた魔法少女というあまりにも非現実的な言葉に対して――驚かなかった。
何もこのノーリアクションは、空々が感情を持たず、驚く感性が無いからということだけが原因ではない。
単に彼は魔法少女という存在に、既に慣れているのだ。
というのも、空々は一度、魔法少女になってすらいる。
正確には魔法少女の魔法のコスチュームを着ただけだけれども、それでも、魔法の力を体験し、使用した事はあるのだ。

(むしろ、驚く所は、あんなフリフリのコスチュームを着ていなくても魔法少女って所かな……)

そう考えつつ、ふと、四国で出会った魔法少女達を順に思い出す――が、黒髪シニョンの華奢な馬鹿が脳裏に浮かんだ途端、それを打ち切った。
ともあれ、あんな着る事自体が罰ゲームみたいなドギツい衣装を着なくとも、目の前の少女が着ているような学生服風の衣装(あくまで学生服『風』であり、それに施されたアレンジは多少目立つけれども)で魔法少女になれるというのは、空々にとって初耳であった。
いや、たしか、この少女の場合、魔法少女になるにあたって重要なのは、衣装では無いのか?

「魔法少女になったばかりの私は、夢が叶った喜びのままに、しかし得た力を私利私欲で使いはせず、色んな人の役に立つべく活動しました。側溝に落ちた車を戻したり、無くした鍵を探してあげたり、あとは……」

まあ、要するに、彼女はその魔法の力を『困っている人を助ける』ために使ったのだろう。
まさに、漫画やアニメに出てくる、清く正しく優しい魔法少女だ。
四国では魔法の力を自分が生き残るために使い、人を助けるどころか殺しすらした空々にとっては、耳が痛くなる話である――いくら心が無い英雄でも、痛くなる耳ぐらいならある。

「けれど、そんな風に魔法少女の活動を楽しめたのも、ほんの短い間の――あの恐ろしいゲームが開催されるまでの話だったんです」

と。
そう言って、少女は、少し表情を暗くし、僅かに俯いた。
空々のように心に欠陥を負った人でなしではなく、きちんと感情の備わっている人間がその顔を見れば、『なんて悲しい顔をしているんだろう』と、少女への哀れみを禁じ得なかっただろう。
心が無く、それ故に、他人の心を察する能力が決定的に欠けている空々は気付くまい。彼が四国で体験した『四国ゲーム』に負けず劣らぬ程に血と死に満ちたゲームを、目の前の少女がかつて体験していたことになど。

「その催しで沢山の人が死んでいった後で、無事生き残った私の心にあったのは、後悔だけでした。私は何も出来なかった。自分で何も選ばず、どんな決断もしなかったままに、終わってしまった。それを、後悔しました」

だから――と、少女は表情を変えないまま、言葉を続ける。


143 : 名無しさん :2017/03/14(火) 07:37:46 cjOJS9oM0
「決めたんです。次は……選ばなかったことを後悔するんじゃない。後悔する前に自分で選ぶ――と。」

その考えには、空々も同じであった。
何事も、他人に何かをしてもらうのを待っていては遅く、間に合わない。
伝説上では、何かと他人頼りな印象を受けられやすい空々だが、もしも彼が本当に何もかもを他人に任せていた場合、彼の英雄譚はとっくの昔に幕を閉じていたであろう。
結局、自分の事は自分でやり、自分で決める他ないのだ。

「それから私は、懸命に働き、戦いました。あの地獄のようなデス・ゲームを繰り返させないために、そのような事を企む魔法少女を次々に倒していきました。そうしていった末、いつの間にか、私は『魔法少女狩り』という異名で呼ばれるようになっていたんです」

少女の腕は美しくて細く、柔らかそうである。
健康的ではあるものの決して強力そうではないその腕では、悪者どころか少し重めの図鑑一冊すら倒せなさそうな気もするが、しかし、彼女は魔法少女――この世の法(ルール)ではなく、魔の法(ルール)の元にいる存在だ。
ならば、悪者の一人や二人、余裕で倒せるだろう。

「だけど、私が働けば働くほど、世の中が良くなったか――と言えば、そうではありませんでした。この話の最初に、私は『魔法少女、と聞くと、夢と希望に満ちた、華々しい存在だとイメージするかもしれません』と言いましたけど、実際はそんなイメージ通りではなく、魔法少女の社会にも、人間社会と同じくらい生々しい闇だったり、面倒臭い慣習だったりがあったわけです。だって、魔法少女も、元々は普通の人間だったんですから」

それもやはり、空々と同じである。
人類を救う為の若き英雄になり、『地球撲滅軍』に入れられた空々であったが、彼を待ち受けていたのは、絵に描いたようなヒーローストーリーではなく、ただひたすらに汚く、醜い、人間同士の争いであった。
自分の出世の為に、上を引き摺り下ろし、他人を陥れ、弱い者を危険に晒す――そんな組織は何処にだっている。
結局、人類を救う正義の組織であろうと、この世の法則から外れた魔法少女の集まりであろうと、平凡な社会であろうと、其処に居るのが人間であれば、出来る社会構造はそう変わらないのだ。

「そんな中で生活していたから、次第に私の心はプレッシャーや責任、遣る瀬無さで擦り切れていったのかもしれませんね。だからこそ、決定的な崩壊を迎えてしまった『あの時』以来、私は魔法少女であるのが嫌になったんでしょう――全てが嫌になったんでしょう」

少女の顔に掛かった影が、言葉を紡ぐ度に段々と暗くなってゆく。
しかし、次の瞬間。
『だけど』――と。
力強い発音でそう言って、少女は俯いていた顔を上げた。
空々の方を見据える少女の表情には、先程までの暗さが微塵も無く、月のような輝きを纏った笑顔があった。

(こういう表情を何処かで見たような……いや、表情というよりも、感情かな?)

目の前に現れた表情――感情に対する既視感を疑問に思う空々。
彼が、それへの決定的な答えを出すのを待たずに、少女は言葉を続けた。

「――だけどその後、私は、プク様のおかげで救われました。彼女の友達の一人になることが出来ました。それまでの悩みなんて気にもせず、プク様に仕え、プク様のお役に立てる事を、生きる目的として定められたんです。それが、どれほど幸せなことだったか、分かりますか?」


144 : 名無しさん :2017/03/14(火) 07:38:21 cjOJS9oM0
2

あぁ、そうか――と、空々は納得した。
目の前の少女が放つ感情への既視感が何だったかを、思い出したからだ。
その感情は、空々の世話係にして空挺部隊副隊長、氷上竝生が時折見せていた、『献身する事への喜び』だった。
もっとも、氷上女史が見せていたこの感情は、目の前の少女ほどに甚大ではない、細やかなものだったけれども。
少女のその感情に、空々は押されることもなければ引くこともなく、ただ受け流し、

(成る程。これが『彼女』の魔法なのか)

と、今ここには居ない、自分が召喚したサーヴァント――少女が言うところの『プク様』の魔法を分析していた。
その時、それまでうっとりと酔いしれるような表情をしていた少女が、ふと、何かに気付いたような表情を見せ、台詞を中断した。

「そろそろプク様がいらっしゃるようです。こんな短時間で着替えを終わらせなさるとは……プク様は余程、あなたとの会話を楽しみにしているのでしょうね」

背後をちらりと振り返り、そこにあるドアを見て、少女はドアの向こう側の様子が見えているかのように――否、聞こえているかのように、そう呟いた。
その口調は先程までとは違い、恍惚に満ちた物ではなく、何処か不満げで、憎々しげな様子である。
その不満と憎悪は、これからやってくるプク様に対して――ではなく、『プク様』との会話を予定している空々に対して向けられたものであった。
要するに、彼女は空々が羨ましく、妬ましいのである。『プク様』と会話が出来ることは勿論、『プク様』が着替えの時間を短縮するほどに、空々との会話を楽しみにしてくれていることも。
しかし、そう恨んでも羨んでもばかりいられない。
『プク様』の来訪を予見した少女は、空々との会話を唐突に打ち切り、席を立った。
そのまま、ドアの真横まで移動し、使用人が主人を迎えるような、恭しいポーズを取って待機する。
その数秒後、ドアが開き、部屋の外から一人の魔法少女を先頭に、何人もの魔法少女たちがぞろぞろと室内に入って来た。
彼女たちは、まるで魔法に掛けられているかのように美しい少女たちであったが、その中でも先頭を飾っていた少女は一際美しかった。
アフタヌーンドレスを更に豪華にしたような着衣物に加え、背中に孔雀の羽のような装飾品を何枚も付けている彼女は、そのまま先程まで学生服風の少女が座っていた椅子の真横に到着。
すると、後ろに控えていた何人もの少女の内、五人がそれぞれ、布やらクッションやらを持ち出し、椅子を飾って行く。
やがて見る見るうちに、五秒と経たず、椅子は女王(クイーン)の玉座さながらの豪華絢爛さを醸し出すようになっていた。
それを見て、豪華アフタヌーンドレスの少女は満足げに頷き、椅子の装飾を担当した魔法少女たちの頭を順番に撫でていった。
頭を撫でられた彼女たちは皆、頰を赤らめ、今にも昇天しそうなほどに気持ち良さげな表情を浮かべていた。
その後、豪華アフタヌーンドレスの少女は、ぴょんっとバックジャンプするような動作で着席。クッションに腰を沈めた。

「改めましてこんにちわ、空々お兄ちゃん。スノーお姉ちゃんとのおしゃべりは楽しめた?」

空々が召喚したサーヴァント――豪華アフタヌーンドレスの少女こと、キャスター『プク・プック』は、太陽のように明るい微笑みと共にそう言った。


145 : 名無しさん :2017/03/14(火) 07:39:38 cjOJS9oM0
3

空々空が、聖杯戦争の一参加者として選ばれ、冬木市へと連れてこられたのは、ほんの数時間前のことである。

(聖杯を巡る戦争なんかより、まずは地球との戦争をどうにかしなくちゃいけないんだけどな……)

そんなことを考えるも、現実への適応性において右に出る者がいない空々は、召喚されつつあるサーヴァントの姿を見ながら、これからどう聖杯戦争を生き抜こうかと策を練っていた。
かくして、召喚されたのは『誰とでも仲良くなれる』魔法少女、プク・プックだった。
それどころか、彼女に加えて、何十人もの魔法少女たちが一緒に出現した。
プク曰く、『硬い友情で結ばれている友達は、いつでもどこでも――サーヴァントになった後でも、一緒に居るものなんだよ』だとか。
その台詞を聞き、その場に居た他の魔法少女達は、『プク様の戦いに同行出来て、私たちは幸せです』と、滂沱の涙を流していた。
まあ、タネを明かせば、彼女たちは単にプクの宝具で召喚されているだけなのだが、それを知った所で大した変化は生じないだろう。
ともあれ、空々は一騎のサーヴァントだけでない、何十人もの戦力を一気に有するようになったわけである。空挺部隊のおよそ五、六倍近くの人数が居るのではないだろうか?
だからと言って、そこで諸手を上げて喜ぶほど、空々は愚かではない。
たしかに戦争において重要視されるのが兵隊の人数であり、空々の(正確にはプク・プックの)有するそれは文句無しに充分だと言える。
しかし、それを上手く使わねば、戦争に勝てる訳がない。
ただの数のごり押しで戦争に勝てるならば、四十七億人の人類は地球との戦争にとっくに勝利を収めていただろう。
というわけで、空々はプクと今後の戦略について、ミーティングを行おうとした――のだが。

「それならちょっと、おしゃべり用のファッションに着替えてくるね。これは召喚される時用のファッションだったから」

召喚された当時の彼女のファッションは白いトーガであった。しかし、それでも十分に豪華極まった衣装である。

「プクが着替えている間は暇でしょ? だったら、スノーお姉ちゃんとおしゃべりしてみてね。スノーお姉ちゃんは、これまで悪い子たちをたっくさん倒してきたすごい子なんだよ。だから、面白い話をいっぱい聞かせてもらえると思うな」

と言って、プク・プックは学生服風の少女と空々を部屋に残し、屋敷――これは、空々がスノーフィールドに居た当初から、彼の住居として設定されて居た場所だ――の別の部屋へと、魔法少女たちを連れて行ってしまったのだ。
そして、暫く気まずい沈黙が室内に流れた後、学生服風の少女と空々は着席、会話を始め、冒頭に至る、というわけである――。


146 : 名無しさん :2017/03/14(火) 07:40:38 cjOJS9oM0
4

「プクは聖杯が欲しいな」

会話を始めるやいなや、プクはそう言った。

「だって、聖杯に願えば、どんな願いでも叶えられるんでしょ? そんな事、あの『魔法の装置』でも出来なかった筈だよ。だから、プクは聖杯が欲しいな」
「ちなみに聞きたいんですけれど、聖杯を手に入れたら、キャスターさんは何を――」
「プクは『キャスター』じゃなくって、『プク』って呼んで欲しいな」
「…………」

サーヴァントを真名ではなく、クラス名で呼ぶべきだということを、聖杯戦争のルールを知った時に勘付いていた空々であったが、まさかそれをサーヴァント自らが否定してくるとは思っていなかった。
目の前に居るプクは、名前で呼んでもらえなかったことに、少し哀しげな表情を浮かべて居る。
その瞬間、空々とプクの周りを囲っていた何十人もの魔法少女たちが一斉に、空々へ殺意と敵意を向けた。
ある者は睨み付け、またある者は悲しんでいるプクの姿に悲しみ、またまたある者は『それ以上プク様を悲しませたら殺す』と言わんばかりに腰に下げた剣に手を掛けている。
そんな中でなお、自分の意見を頑固に貫こうとするほど、空々は命知らずではない。

「……聖杯を手に入れたら、プクさんは何を願うんですか?」

と、改めて言い直す。

「ええとね、『世界中のみんなと友達になりたい』って願うかな」
「…………」

世界中のみんなと友達になりたい。
その文面だけ見れば、なんとも微笑ましい、子供が思う様な願いである。
是非叶って欲しいものだ。
だがしかし。
プク・プックが――『誰とでも仲良くなれる』魔法を持ち、友達になった者全員から狂信者の如き服従を受けている彼女が、その願いを口にした場合、それが含む意味はだいぶ違った物になるだろう。
それは、『世界を支配したい』と言っているのと、ほぼ同じだ。
子供ではなく、悪の魔王が思う様な願いである。

(なんて事を此処で言った所で、意味は無いんだろうけどね……)

プクの意見への否定を、プクの友達達の前で言えばどうなるか。
まあ、プクを現世に繫ぎ止める楔の役割でもあるマスターの空々をそうあっさりと殺す事はないにしても、半殺し程度にはしてきたっておかしくない。
彼女達にとってみれば、空々は『最悪生きてさえいれいれば、大丈夫なもの』なのだから。
異常なまでの友情から発する、異常なまでの狂信。
けれども、そんな彼女達よりもずっと異常だったのは、空々空そのものであった。
何せ、彼はプクを召喚してから現在に至るまで、一度たりとも、彼女に対して友情を感じていないのだから。
プクの美しく愛らしい姿に、ほんの少しも心が動いていないのだから。
それもその筈――何せ彼には美しいものを美しいと思い、感動する心がないのだ。
友情以前に情がないのである。
人道ならぬ外道を歩み、情ならぬ非情を持って敵を倒す――それが、空々空という、心の死んだ英雄のあり方であった。
そんな彼にも、かつては友人が居たには居たが……その人物との友情は、プク・プックの求めるそれとは異なっていると言えるだろう。
少なくとも、彼女が友達に求める友情は『友達は友達だけど、必要とあればビルの屋上から蹴落とす』なんてものではないはずだ。
というわけで、空々はプク・プックの友達――シンパにならずに済んでいるのである。

(まあ、それは、僕が周りから外れた、どうしようもない人でなしだという証明でもあるんだけどね)

今まで何回も確認し証明して来た事実を再認識し、空々は溜息を吐きたくなった。が、ここでそんな動作をして、あらぬ誤解を受けるわけにもいかないので、自制する。


147 : 名無しさん :2017/03/14(火) 07:41:17 cjOJS9oM0
一方、プクの方もプクの方で、マスターがいつまで経っても自分の『誰とでも仲良くなれる』魔法で友達にならない事に、疑問を抱いていた。
どういう理由か分からないけど、空々ちゃんが友達になってくれない。
その事を悲しく思うプクであったが、しかし、同時に、然程危険視するほどの事ではないとも思っていた。
何せ、空々はその精神に多大なる欠落を持っていて、英雄と呼ばれていても、所詮はただの人間であり、それも十四歳の少年だ。
非力な存在である。
その上、空々とプクはマスターとサーヴァントの関係――謂わば、仲間であり、運命共同体なのだ。
空々が聖杯戦争を生き残りたいと思っている限り、プクに頼らざるを得ないだろう。依らざるを得ないだろう。
つまるところ、空々はプクの『誰とでも仲良くなれる』魔法が効かない異例の存在であるものの、無力な仲間である彼がこちらに危害を与えて来る可能性はゼロであり、危険は全くないのだ。
尤も、空々は人類の味方の英雄でありながら、味方である人類を倒した回数の方が多いという、仲間殺しの英雄なのだけれども……。
ともかく、

(だけど…………)

空々が無害である事を理解した(つもりになった)後でもなお、プクは思う。

(それでも、いつかは空々お兄ちゃんとも友達になりたいな)

そんな優しい願いを胸に秘めつつ、偉大なるプク様は、空々との会話を進めていくのであった。

(終)


148 : 名無しさん :2017/03/14(火) 07:42:27 cjOJS9oM0
【クラス】
キャスター

【真名】
プク・プック@魔法少女育成計画シリーズ

【属性】
秩序・善

【ステータス】
筋力A+ 敏捷A+ 耐久A+ 魔力A+ 幸運A− 宝具EX

【クラススキル】
道具作成(偽):B
魔力を帯びた器具を作成する。
道具作成の逸話を持たないプク・プックはこのスキルを持ち得ないが、宝具によって呼び出される魔法少女達の存在によってこのスキルと同等の能力を得ている。
召喚される魔法少女たちは、バラエティ豊かであり、彼女たちが持つ道具の種類も多岐にわたる。
プクの友達である彼女たちは、自分が持つ道具の全てをプクに捧げるだろう。

陣地作成:B−
自らに有利な陣地を作成するスキル。
プク・プックは生前、自らの邸宅を持っており、また、ある遺跡に篭って他派閥の魔法少女たちと戦ったこともあった。
しかし、彼女の最期は陣地内に予めあった物により齎された物なので、スキルランクにマイナスがかかっている。

【保有スキル】
魅了:EX
下記の宝具で得たスキル。
例え敵対関係にあろうとも、プクを一目でも見た者は彼女に魅了され、自らの命を以って尽くそうと決意する。

カリスマ:EX
下記の宝具の魔法で完全に魅了した者に対しては、最早神に等しい規格外のカリスマを発揮する。

魔法少女:A+
三賢人の一人の現身であるプクのこのスキルのランクは著しく高く、肉体の強度は従来の魔法少女のそれ以上となっている。
このスキルによって、プクはキャスターらしからぬ高ステータスを獲得した。

【宝具】
『誰とでも仲良くなれるよ』
ランク:A 種別:対人・対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

プクが所持する固有の魔法。
文字通りどんな相手とも仲良くなれ、プクと友達になった相手は彼女の役に立つ為に己が身を犠牲にしてでも働こうとする。
魔法の力の強弱によって、友達になる深度は変わる。最大出力で力を発揮すれば、相手は一瞬の内に洗脳され、プクの配下に落ちるだろう。
ある程度距離を取れば、魔法の力を弱める事が出来る。
また、この魔法はプクの姿を直接見ずとも、テレビ画面のモニター越しで彼女の映像と音声を見聞きしただけでも効果を発揮する。
生前は殆ど常にこの魔法を大人数に使っていたこともあり、この魔法、もとい宝具の使用に際して消費される魔力量はランクに見合わず少ないものとなっている。

『全てはプク様のために』
ランク:EX 種別:対人・対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-

プクが生前友達になった者たちを召喚する。
召喚される友達の殆どは高い戦闘能力を有した魔法少女であり、中には歴戦の猛者もいる。
プクと魔法少女たちの間に並々ならぬ友情が存在した為、この宝具が生まれる事となり、魔法少女たちの召喚・現界に費やされる魔力は従来の召喚・現界よりも著しく少なくなっている。
身の回りの世話をしてもらうべく数十人の魔法少女を常に召喚しているが、この宝具が最大展開された時、何百人もの友達が召喚される。

【weapon】
なし。強いて言うなら友達との友情だよ。

【サーヴァントとしての願い】
世界中のみんなと友達になる。
いつかは空々ちゃんとも友達になりたいな。


149 : 名無しさん :2017/03/14(火) 07:44:17 cjOJS9oM0
【マスター】
空々空@伝説シリーズ

【能力・技能】
・元野球部で現軍人である為、身体能力はそこそこ高い。

・感情が無く、心が死んでいるので、精神干渉を受け流す。

【weapon】
・ヒーロースーツ『グロテスク』
空々専用のヒーロースーツだ!
着るだけで透明になれるぞ!
だが、着るのに手間と時間が掛かったり、透明になれる時間に制限があったりと、短所もある!
必殺技はグロテスクキック! 正義の蹴りで悪を踏み潰せ!

・破壊丸
かつて空々と共に居た剣道少女の形見!
持っているだけで敵をオートで斬りまくるぞ!
持ち主を文字通りの殺人マシーンにしてくれるわけだ!

――という、地球撲滅軍の科学の叡智を尽くした武器をかつて持っていたが、人工衛星『悲衛』に乗り込む直前の時期では、いずれの武器も持って居ない。丸腰の徒手空拳である。

【人物背景】
人類の三分の一を絶命させた『大いなる悲鳴』――それを発した地球を打倒すべく『地球撲滅軍』によって英雄に選ばれた少年が空々空である。
感情が死んでいる彼はショッキングな出来事も大抵ならば受け流し、必要とあれば人殺しもアッサリとやってのける。
参戦時期は悲衛伝直前。

【参戦経緯】
人工衛星『悲衛』の材料に『鉄片』が混ざっていた。

【マスターとしての願い】
現在人類と地球の間に起きている戦争をなんとかする。ともかく、まずは生き残る事を目標に。


150 : ◆As6lpa2ikE :2017/03/14(火) 07:45:53 cjOJS9oM0
投下終了です。『冬木市』が『スノーフィールド』になってる変な箇所があったので、wiki編集の際は直しておきます


151 : ◆7PJBZrstcc :2017/03/14(火) 10:06:34 TZ2eQMUk0
聖杯四柱黙示録様に以前投下したものの流用ですが、投下します


152 : 1匹と1人の王子 ◆7PJBZrstcc :2017/03/14(火) 10:07:20 TZ2eQMUk0
 町の路地裏に一匹の犬が居る。
 真っ白な毛をした、どことなく上品さを感じる犬だ。
 そしてどこか、賢さと意志の強さを感じさせる目をしている。

 それもそのはず、この犬はただの犬ではない。
 アフリカのコンゴ盆地の奥、ヘビー・スモーカーズ・フォレストと呼ばれる地域からやってきた犬だ。
 そこは、盆地の一部が陥没し深い谷に囲まれて外界から隔絶されてしまった。
 それ以後、この閉ざされた世界では犬が進化し文明を作り上げ1つの王国が5000年間続いている。
 この犬は、その国の王子様だ。名前はバウワンコ108世の息子クンタック王子。
 そして、聖杯戦争の参加者でもある。

「ワゥ」

 クンタックはマスターであることを隠すため鉄片を咥えながら悩んでいた。
 自分は一体いつの間にこの鉄片を手に入れたのか。
 そして聖杯戦争に対して自分はどんなスタンスで居るべきなのかを。
 普段ならば、こんな人を無理やり呼び寄せ殺し合いを強いるものなど悪だと断じ打破するために動くだろう。
 だが今は、故郷の事を考えるとそれ以外の選択肢も浮かび上がってしまう。

 クンタックの国には今、恐るべき敵が居る。
 名はダブランダー、元は国の大臣だった悪知恵の働く男。
 彼は古代の兵器を復活させ、外の世界を自分の領土にしてしまおうと考えていた。
 その為に邪魔だったクンタックの父を殺し、クンタックを捕えた。
 そして国民には病死と発表し、生きながら埋めようとする。
 しかしクンタックは棺桶ごと湖に落ち、そのまま外の世界へ流されたのだった。

 そんな幸運があってクンタックはここにいる。
 だからこそ思う、ここで聖杯を勝ち取りその力で国を救うべきではないかと。
 聖杯は万能の願望器だと聞いている。
 ならば、自分の国を救うくらいは簡単だろう。

 だが同時にやはりこう思ってしまう。
 殺し合いに勝ち残るのは正しいのかと。
 僕のように知らない間に連れてこられた存在を蹴落とすのは正しいのかと。
 そして何より、僕は誇れるのだろうかと。
 誇り高きバウワンコの血に、そして愛している婚約者のスピアナ姫に。

「スピアナ姫……」

 普通の犬を装う事も忘れ、婚約者の名を呟くクンタック。
 だがこの自分でも意識していない呟きで、彼は決意をした。


153 : 1匹と1人の王子 ◆7PJBZrstcc :2017/03/14(火) 10:07:48 TZ2eQMUk0

「セイバー、出てきてください」

 今度は周りに人が居ない事を確認してから声を出すクンタック。
 そして、その声に応じて現れたのは青い服に青い帽子、そして青いゴーグルをつけた青一色の青年だった。
 クンタックはセイバーに言う。

「セイバー、僕はこの聖杯戦争に乗ります」
「……」

 クンタックの宣言にセイバーは何も答えない。
 思えば最初からそうだった。
 最低限の会話はしてくれるものの、基本的には無言を貫いていた。
 単にもともと無口なのか、それとも僕と喋りたくないのかは分からない。
 だが僕は彼に告げなければならない。僕の決意を宣言しなければならない。

「僕は僕の国を救わなければならない。否、救いたい。
 例えダブランダーとは何の関係もない、ただの人間を危機に追い込むことになったとしても。
 それでもあなたは、僕についてきてくれますか」

 クンタックの懇願するかのような言葉に、無言を貫きながらも頷くセイバー。
 そんな態度の彼に思わず笑顔になるクンタック。
 彼は言葉を続ける。

「それと身勝手なのですが、一つお願いがあります」
「……」
「出来るだけで構いません。倒すのはサーヴァントだけにして下さい。
 例え偽善と言われようとも、僕はなるべく無辜の民を犠牲にはしたくありません」
「……」

 クンタックの言葉にまたも無言で頷くセイバー。
 そして彼は聖杯戦争へ向けて歩き出す。
 5000年間平和が続いたバウワンコの国の王子が、戦争をすることになるなんてと思いながら。

 こうして彼の運命は本来の歴史とは違う方向に廻り始める。
 もし本来の歴史通りであれば、彼の国は救われていた。
 バウワンコ1世の予言にあった、10人の外国人の内5人と出会い故郷の為に共に戦う事になる。
 そして幾多の苦難の末、国と姫を救う事が出来たのだ。
 だがそんな未来はもう存在しない。
 それが良いか悪いかを知る術は、彼らは持っていない。


154 : 1匹と1人の王子 ◆7PJBZrstcc :2017/03/14(火) 10:08:14 TZ2eQMUk0
クラス】
セイバー

【真名】
ローレシアの王子@ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々(SFC版)

【パラメーター】
筋力A++ 耐久A 敏捷C 魔力E 幸運C 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:A
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。

騎乗:A
乗り物を乗りこなす能力。
Aランクで幻獣・神獣ランク以外を乗りこなすことができる。

【保有スキル】
戦闘続行:A
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。

破壊神を破壊した男:A
魔法に頼らず己の腕力のみで破壊神を倒したものに贈られるスキル。
神性スキル持ちに与えるダメージが増加し、筋力のステータスに無条件で+が二つ付く。

ロトの末裔:A
偉大なる勇者ロトの血を引くもの。
混沌もしくは悪属性を持つサーヴァントに対して与えるダメージが大きくなる。

【宝具】
『ルビスのまもり』
ランク:A 種別:対幻宝具 レンジ:1-300 最大補足:???
ハーゴンの作り出した幻を解除した精霊ルビスが与えたまもり。
本聖杯戦争ではあらゆる幻術・幻がこの宝具を使用することで解除できる。
ただし、使用は自動ではなく任意なので自身やマスターが幻を知覚していない、またはこの宝具が何らかの方法で使用不可能の場合は解除不可となる。

『ロトの血筋を引く者たち』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:2
ハーゴン討伐の旅を共にした二人の仲間を呼び出す宝具。
サマルトリアの王子は物理と呪文を双方使いこなす万能型。
ムーンブルクの王女は強力な呪文を使いこなす後衛型。
ただし、呼び出そうとする場合は令呪1つを使わなければならない。
そして、この宝具は一定ターンが経過すると消滅する。再び使用する場合は同じだけ時間を置かなければならない。
ちなみに、この宝具も本体と同じく出展はSFC版なのでサマルトリアの王子の装備がてつのやりなんてことは無い。

【weapon】
いなずまのけん
ロトのよろい
ロトのたて
ロトのかぶと
まよけのすず

【人物背景】
悪の大神官の野望を阻止した王子。

【サーヴァントとしての願い】
マスターに従う。


155 : 1匹と1人の王子 ◆7PJBZrstcc :2017/03/14(火) 10:08:37 TZ2eQMUk0
【マスター】
クンタック王子@ドラえもん のび太の大魔境

【マスターとしての願い】
王国を大臣から取り戻したい

【weapon】
・宝石
バウワンコ一世の像のホログラムのようなものを出すことができ、自在に動かせる。
大きさは数メートル程度。
空気中に高圧電気を発生させることもできる。
普段は首にかけている。

【能力・技能】
・剣技
剣の名手。
一般兵程度では相手にならない。

・日本語が話せる
彼は日本から遠く離れた犬の王国の王子だが、短時間で日本語を覚えた。

・二足歩行
彼は進化した犬の為、二足歩行が可能。
普段は普通の犬を装うため、あえて四足歩行をしている。

【人物背景】
悪しき大臣に国を追われた王子。

【方針】
聖杯を手に入れる。
極力マスターは殺したくない。

【備考】
与えられた役割は街に居る野良犬です。
参戦時期は日本語を覚えた後〜のび太に出会う前です。


156 : ◆7PJBZrstcc :2017/03/14(火) 10:09:01 TZ2eQMUk0
投下終了です


157 : 怪物達(フリークス) ◆gQzkrK6H2s :2017/03/14(火) 10:32:47 DJ0bj.zo0
以前箱庭聖杯に投下したものです


158 : 怪物達(フリークス) ◆gQzkrK6H2s :2017/03/14(火) 10:34:00 DJ0bj.zo0
キーンコーンカーンコーン

終業のチャイムが鳴った。
僕は全く意識しないで、他愛の無い会話をクラスメートとしながら、今日行く場所に思いを馳せる。
最近事件が多い為、僕の観光も何処に行くのか迷いがちだ。
考えながら目を閉じ、瞼の裏に森野夜の手首を思い描く。
僕に“ある衝動”を抱かせた美しい赤い線のある、彼女の手首を思うようになったのは、“彼”の所為だろう。



1時間後、僕は小さな公園に居た。
大質量で叩き潰された少女の死体が見つかった交差点。ここ数日晴れが続いていたのに、落雷で感電死したとしか思えない男の死体が見つかった駐車場。
それらを巡ってから最後に、バラバラになった男と、心臓を人間の手で抉り取られたと思しき女性が見つかった公園へやってきたのだ。
最近立て続けに起きている行方不明や奇怪な殺人事件。マスコミやオカルトマニアの間では議論百出しているがそんばものに対する関心は僕には無い。
血溜まりの中、女性が倒れていたという場所に足を揃えて立つ。
命の失われた場所に立ち、感触を靴底に感じる……。
目を閉じて佇んでいると、不意に話しかけられた。

【一体…なんの目的でこんな事をしているんだい】

音では無い声。空気を震わさない声。数日前、ナイフの乾く音が聞こえると同時に僕の元を訪れた『彼』の声。
離れた場所で、好みの女性を物色している『彼』に僕も言葉にせずに答えを返す。

【ただの趣味ですよ。まあひょっとしたら犯人と出逢えるかも知れませんが】

無表情に、声に抑揚をつけないまま言葉を返す。不機嫌なのでは無く、これが僕の自然体だった。

【やれやれ、ワザワザ揉め事に巻き込まれたいのかい】

声の主は僕の行為に呆れている様だった。
僕は人を生き埋めにしたいという衝動に駆られて、子供を殺してしまった警官と話をしたことを思い出しながら『彼』に答えた。

【何の為に殺人をするのか、という事を訊いてみたいんですよ】

そう言って僕は『彼』の居る方を見る。最初に質問をした相手。平凡な人間の顔をした漆黒の意思の持ち主を、平凡な人たちに埋没する怪物を。
✳︎✳︎を⚫️したあの夜以来、聞こえなかった、ナイフの涸渇する音が聞こえてきた。

【平穏がモットーなのに殺し合いに呼ばれるとはね。まあ聖杯とやらを手に入れるまでの我慢だ】

『彼』は植物の様に平穏な人生を望むつもりらしい。結構なことだと思う。僕なんて何を願うか未だ判らないというのに。

【そろそろ行かないかい?あの喫茶店のサンドイッチは『サンジェルマン』にも負けないものだ。雰囲気も良い】

ナンパに成功した『彼』が『彼女』を連れてやってくるのを見て、僕は観光を切り上げることにした。

【そうですね。観光も一通り終わりましたし】

あの喫茶店のマスターは、僕が知る通りの人物なら、既に三人の人間を解体している殺人者なのだが、今の所はNPCと認識しておいて良いのだろう。

【ああ…それと】

僕は『彼』の連れてきた『彼女』について訊いてみた。

「何処でナンパしてきたんですか」

「さっきそこで知り合ったばかりさ。中々綺麗だったんで『彼女』になってもらった」

女性の左手首を手にして、事も無げにいうその在り方は、常人なら嫌悪の対象になるのだろうが、僕は何もかんじない。
僕も彼と同じ普通からは逸脱した存在で、殺人者なのだから。
『彼女』とイチャつく『彼』を見ていると、森野夜の手首を欲しいと思った時の衝動を思い出した。



曇りがちな 空の下、僕等は『彼』のお気に入りの喫茶店に向かうことにした。
僕らが去った後の公園には、僕ら以外に人間が居た痕跡など一切無かった。


159 : ◆gQzkrK6H2s :2017/03/14(火) 10:36:09 DJ0bj.zo0
【クラス】
アーチャー

【真名】
吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 PART4 ダイヤモンドは砕けない

【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 幸運:B 魔力:D 宝具:B

【属性】
秩序・悪

【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。


【保有スキル】

擬態:A
周囲に自分の才能や性質を隠蔽し、平凡な人間を演じ続けた続けた、街に潜み続けた生涯。
実体化している時でもサーヴァントとして感知されなくなる。
彼の素性を知るものや、高ランクの探知スキルの持ち主でも無い限りは面と向かって話しかけられても認識出来ない。
宝具、キラークィーン使用時には効果は消滅し、キラークィーンを使用したところを見た者には永続的に効果を失う。


あざなえる縄:C+
ピンチの時程ツキ(チャンス)が巡ってくる。ただし、冷静に事態に対処し、チャンスを正確に掴まなければならない。出来なければチャンスはその手から零れ落ちる。


精神異常:D+++
他者の感情を気にしない。また、目の前で残忍な行為が行われても平然としている。
ただし、アーチャーは他者の感情を察して行動することは可能。


殺人鬼:A
殺人という行為に対して大幅に成功率を上げる。具体的には戦闘時で無い殺人行為には殺気が無い為に不意打ちが悟られにくくなり、逃亡が成功しやすくなる。
アーチャーは爪が異常に伸びる時期が有り、この時の殺人の体調は『絶好調』となる。
サーヴァントとして最盛期の状態で呼ばれている為に、体調はこの状態で固定される。
欠点は殺人に対する衝動が高まり過ぎて抑えられないこと。


160 : ◆gQzkrK6H2s :2017/03/14(火) 10:37:00 DJ0bj.zo0
【宝具】
キラークィーン
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ :1~5 最大補足:1人

吉良吉影の精神が具象化した人型の像(スタンド)
触れたものを爆弾に変える能力を持つ。
爆弾は『変えられたものが爆発する』タイプと『爆弾に触れたものが爆発する』二つのタイプがあり。起爆方法も『爆弾に触れると爆発する』タイプと『キラークィーンがスイッチを押して起爆する』の二通りがある。
爆弾の作動には空気が必要で、真空状態では起爆出来ない。
腹部に物体を収納できる。
本来スタンドはスタンド使い以外には認識も干渉も出来ないが、サーヴァントと化したことによりその特典は失われている。
ただし、機械の類では認識出来ない。
キラークィーンは筋力:A 耐久:C 敏捷:B 幸運:ー 魔力:B 宝具:ー 対魔力:C
のサーヴァントに相応するパラメータを持つ。


シアーハートアタック
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ :冬木市全域 最大補足:1人

キラークィーンの左手から射出される自動追尾型の爆弾。
熱源を探知して何処までも追尾する。
誰かを爆殺してもシアーハートアタックは消えず、次の標的に襲いかかる。
シアーハートアタックはA+の筋力やAランクの魔術で連撃を加えられても殆どダメージを受けないほど頑丈。
対象を殲滅すればアーチャー元に戻ってくる。
欠点は熱源探知である為に火でも使われるとそちらの方に突っ込んで行く事と、行動不能になった場合アーチャーが直接回収に赴かねばならない事。
ダメージフィードバックはアーチャーの左手のみに現れる。


奪いしもう一つの顔(ダブル・フェイス)
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ :1 最大補足:自分自身

追い詰められた時に川尻浩作の顔と指紋を奪い、川尻浩作の存在を奪った逸話から得た宝具。
吉良吉影の姿から川尻浩作の姿に変わることができる。
この姿でキラークィーンを使用したところを見られても、吉良吉影の姿に戻れば擬態スキルの効果を変わらず発揮できる。逆もまた然り。


バイツァ・ダスト(負けて死ね)
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ :1 最大補足:

時間を巻き戻し、『運命』を固定する宝具だが、時間操作及び運命固定という要素が聖杯の上限を超えている為に使用不能。



【weapon】
スタンド『キラークィーン』

【人物背景】
S市杜王町出身のサラリーマン。平凡で仕事は真面目にそつ無くこなす。
実際には非常に優れた才能の持ち主だが、『植物の様な平穏』を得る為、注目されるて平穏が乱されることを避けている。
その本質は人を殺さずにはいられない殺人鬼。18歳の時から女性ばかり48人も殺害してきた。男も含めれば優に三桁は殺害していると思われる。
長らく杜王町で平凡な人間を装い殺人を繰り返してきたが、東方仗助達にその存在が発覚し、顔を変えて逃亡するも最後は追い詰められ、死亡した。


【方針】
出来るだけ闘ったりせずに確実に殺していく

【聖杯にかける願い】
復活して『植物の様に平穏』な人生を送る。


【マスター】
神山樹@GOTH

【能力・技能】
高い洞察力と、他人とはかけ離れた人間性からくる冷静さ。
自身の異質さを覆い隠せる演技力。

【weapon】
ある連続殺人事件の犯人から譲り受けたナイフ

【ロール】
高校生

【人物背景】
勉強は出来ないが周囲を明るくする雰囲気を持った。人懐っこい子犬の様と評される事もある男子高校生。
実際には人に暗黒面に強く惹かれる性質を持ち、興味本位で周囲に起こる殺人事件の犯人を突き止めるが、その目的は“好奇心を満たす為”。若しくは執着している森野夜を他人に殺させない為。
作中で事も無げに人を二人殺している。(一人は自殺幇助だが)
自身の性質を周囲に悟らせない演技力を持つが、意識して行なっているものでは無く、極自然に仮面を被っている。
一人称は『俺』と『僕』を使い分けている。
趣味は人の死んだ場所に立ち、感触を靴底に感じることで、これを『観光』と呼んでいる。

【令呪の形・位置】
左手の甲に髑髏の形

【聖杯にかける願い】
無い。今の所は

【方針】
アーチャーに任せる。他のマスターに心情を聞いてみたい。

【運用】
アーチャーと言いつつ実質的には単独行動持ちのアサシンである。
主従揃って真っ向勝負には向いていないが、殺人に対する禁忌のなさと、殺す際も気配が全く変わらないのは驚異の一言。
彼等らしく『殺し』に徹していれば、優勝も夢では無いだろう。


161 : ◆gQzkrK6H2s :2017/03/14(火) 10:37:37 DJ0bj.zo0
投下を終了します


162 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/14(火) 20:47:56 h5ri/.FM0
投下します。


163 : 美国織莉子&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/14(火) 20:48:18 h5ri/.FM0





「さあ、我々は主のもとに帰ろう。主は我々を引き裂かれたが、いやし、我々を打たれたが、傷を包んでくださる。
二日の後、主は我々を生かし/三日目に、立ち上がらせてくださる。我々は御前に生きる。
我々は主を知ろう。主を知ることを追い求めよう。主は曙の光のように必ず現れ、降り注ぐ雨のように、大地を潤す春雨のように、我々を訪れてくださる。」


                                                    ―ホセア書―第6章―






だだっ広いガーデンを赤く染める程の薔薇がそこら中に咲き誇る、真っ白な邸宅の庭。
真っ白なテーブルで、葡萄のムースを塗ったケーキをお供に紅茶を飲む一人の少女が、其処に一人座っていた。
銀砂の髪を結わえ、高貴な雰囲気を辺りに放つ整った容姿には、何処か儚さが染みていた。
左手にあるソーサーにコトリと、右手に持つティーカップを置いた美国織莉子は、向かい側にある空っぽのもう一つの席に眼を配る。

何時もなら、其処には眼帯を付けた彼女の明るい笑顔が、其処から見えるはずだった。
焦がさないようにオーブンから取り出したケーキを、美味しそうに齧って。
楽しそうに庭を回りながらお喋りをしてくれている。
美国の娘としてしか、生きる意味が分からなかった自分にとって、彼女は掛け替えのない、大切な友達だった。
しかし、彼女は此処にはいない。
織莉子は今、そんな彼女……呉キリカのいない場所に来てしまったのだから。

―Chaos.Cell。
英霊と呼ばれる存在を使役して殺し合う、聖杯戦争と呼ばれる催しが行われんとする舞台。
そんな場所に、織莉子は巻き込まれてしまったのだ。

あの時の織莉子は、こんな出来事が起こるなど全く予想していなかった。
彼女の最後の記憶は、元の世界で、この様に茶を飲んでいた時だった。
切っ掛けはよりによって、偶には別のケーキフォークを使おうとした時のこと。
それを掴んだ瞬間に、織莉子はこの世界に弾き飛ばされてしまったのだ。
今でも、考えるだけで顔が真っ赤になってしまう。

「ねぇライダー、貴方もお茶は如何?」

織莉子はふと、眼の前にいる青年に声を掛ける。
紺色のコートを身にまとったヨーロッパ風の青年は停めているオートバイに寄りかかり、果物ナイフで木を彫っている。
何かしらの像の様な物らしいが、未だ形は見えていない。
だが、手付きはまるで手慣れたように器用だ。
像をナイフで彫っている、この青年がライダー。
織莉子が、この聖杯戦争において召喚した、自身のサーヴァントである。

木彫りをやめて、ライダーは自身のマスターに顔を向ける。
何処か儚げな表情を織莉子に向けたライダーは暫く黙り込み、口を開く。

「いや、遠慮しておくよ。」

織莉子はそれを聞いて、ふぅんと眼を瞑り、紅茶を啜る。
それを一瞥したライダーも瞬きをした後、またナイフを持った手を動かす。

「……一体のサーヴァントの外見が見えたわ、先程ね。」
「また映ったのか、未来が。」

再び木を彫るのをやめ、顔を向けてきたライダーに、ええ、と織莉子は答える。
その身と願いを呪い、奇跡と魔法を手にするのが、魔法少女。
魔法少女の魔法の力は、願いによって左右される。
自身の先を知りたいとキュウべぇに願った織莉子の魔法は「予知」。
その先の未来が、ランダムにフラッシュバックされる形で、彼女の脳内に映り込むというのだ。

「……白い剣士の様な外見で、マスターは私と同じくらいの子ね。
ライダー、偵察をお願いできる?」
「……。」

その言葉にライダーは、うん、と頷く程度の事しか出来なかった。



◆  ◆  ◆


164 : 美国織莉子&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/14(火) 20:48:44 h5ri/.FM0


Chaos.Cellに再現された街、冬木。
此処と見滝原と比較してみて、質素と言うか、味っけ無い、と言う言葉が浮かぶ。
それが織莉子の記憶を取り戻す切っ掛けとなった出来事であるのだが、此処はどうにも落ち着く。

この世界で、自身が通うこととなっている、穂群原学園中等部。
―とても素っ気ない空間だ。
見滝原中学校が豪華に見える程度には。

「あ、見て、美国さんだ〜!」
「この街の名士の娘の……」
「よせよせ、お前には高嶺の花だ。」

学校の廊下を通り掛かれば、必ずひそひそ話が聞こえてくる。
きっと自分の事を言っているのだろう、そう確信できる程度には、このことも経験済みである。
……評価している、と言う事を除けば。

織莉子の父、久臣は政治家にして、この街の名士。
人柄も良く能力も高く、周囲からの厚い人望の持ち主であった。
父は織莉子の誇りであり、彼女の憧れの人間である。
彼女自身も、この様にして皆から慕われ続けてきた。
素晴らしい父親の娘だと。
将来有望な人間であると。

しかし―父親は死んだ。
汚職の疑いが出て、ショックで父親は自らの首を絶ったのだ。
それ以来、自分の周りの世界は一変した。
皆は自身を避け、貶めるようになった。
教室の机には必ず悪口が掛けられ、周囲の人間からも冷たい眼差しを向けられる様になった。
尊敬する父親の娘らしく―それが、自分のこれまで生きてきた理由だった。
それが喪われれば、自分はどうしたら良いのか―

このロールにおいては、父親は汚職もしていないし生きている。
毎日の様に国のため、人のために勤しんでいる、今日もきっと帰りは遅くなるだろう。
その為織莉子の周りからの評価も、以前と全く同じだった。

(……偽物ね)

しかし、織莉子にとってこの環境は、彼女の心を満たすには至らなかった。
確かに、自分は周りからの評価を喪って、己のアイデンティティを見失い、キュウべぇと契約してしまった。
でも、例えそれを取り繕って、それで自分の願いが叶った―とでも?

そんなはずはない。
もう自分は、あの頃には戻れないのだから。
それに―

―美国さん!―
―美国さぁ〜ん!―

―織莉子!―

(……早く帰らないと、キリカを泣かしてしまうものね……)

その為にも勝つ。


必ず聖杯は手に入れる。


私の生きる意味を知るために。


「貴方」と「私」の世界を護るために。




◆  ◆  ◆


165 : 美国織莉子&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/14(火) 20:49:23 h5ri/.FM0




「やはりいたか。」

辺りが見回せる裏山。
其処の道路に自身のバイク…ガルムを停めたライダーは、双眼鏡越しから遠距離にいるサーヴァントを視認する。
クラスは分からない、後程マスターに聞いてみよう。

『見つかったのかしら?』

バイクのライトから立体映像が浮かび上がる。
映像に映る、悪魔のような少女、エレアは、興味深そうな表情でライダーを見つめる。

「ああ。」
「戦うのかしら?」
「ああ、戦うさ。」
「貴方らしくもないわね、聖杯戦争に乗り込むだなんて。」
「……。」

ライダーのサーヴァント、ジョセフ・ジョブスンは、織莉子の過去を夢で見た。
見たのはこの間の偵察中、習慣で廃工場に寝ていた時の事だった。
見えたのは人生を塗り替えられ、虐げ続けられてきた彼女の姿。
そんな彼女が願ったのは、「己の生きる意味を知る事」だった。
嘗ては白き翼として持て囃されてきたゲルト・フレンツェンも、あのような心境に置かれていたのだろうか。

(ザーギンに似ている……)

袂を分かった、嘗ての親友の姿を、彼女は思い起こさせてくれる。
どんな時にも美しく、優雅に振る舞っている彼女。
そんな彼女の心は今、ジョセフがこれまで出会ってきたブラスレイター達と同じように、辛い苦しみに苛まれ続けている。
聖者の如く輝かしいオーラを身に纏いながらも、サーシャを躙った世界への理不尽さを嘆いた、ザーギンの様に。

(だが……だがな、マスター)




―どんなに過酷な世界にも、生きる意味はある、きっと、必ずある。




虐げられる事に嘆いた自分を説いた、あのミュラー神父の言葉が胸に響く。
そうだ。
確かに、この世界は差別と理不尽に包まれている。
神の説くように人は平等ではなく、人は神の名を曲解し、冒涜していく。
だが、答えは必ず見つかるはずだ。

(その為にも、マスターが答えを見つけるまで、俺は戦う)

ジョセフに、聖杯にかける望みと言えるものは無い。
しかし、戦う理由は今此処に存在する。
例え絶望しかなくても、諦めずに胸を張って生きていけばいい。
その時、お前にしか出来ないことが、必ず見つかるはずだから。
目をそらさず、明日のために、行こう。

ジョセフはガルムに跨り、エンジンを掛ける。
テンプル騎士団の科学の粋が詰め込まれた機狼が唸る。
それと同時に、ジョセフが青い光を発す。

出現したのは、ブルーの異形の戦士だった。
「アンドロマリウス」。
正義を司る悪魔の名を冠した人類の進化体「ブラスレイター」。
ジョセフがアンドロマリウスに変化したことに反応し、ガルムも形を変える。
カウルが伸び、タイヤが横になり、飛行形態へと変形。
ジェット噴出で、ガルムは大空へと飛び上がっていく。

ライダーのサーヴァント、ジョセフ・ジョブスンは走り出す。
彼女の生きる意味を探し出すために、今日も速度を上げていく。


166 : 美国織莉子&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/14(火) 20:49:50 h5ri/.FM0





誰もいない、薔薇だけが彩る庭。
中心に置かれているテーブルの中心では、マリア像がニコリと微笑んでいた。
彼女の微笑みが、何を指し示すかは誰にも分からない―今は。






【マスター名】美国織莉子
【出典】魔法少女おりこ☆マギカ
【性別】女

【参戦経緯】

普段使っていた食器の中に、鉄片が使われている物があった。

【Weapon】

「ソウルジェム」
魔法少女の変身アイテムにして、魂が物質化したもの。
擬似的な魔力炉としても機能し、これを使うことでゆまは魔法少女に変身できる。
ただし、魔力は無限という訳ではなく、魔法を使えば使うほどソウルジェムの濁りという物は溜まっていき、魔力は減っていく。
完全に濁りきった瞬間ソウルジェムは魔女という怪物を吐き出した後魂なき抜け殻になってしまう。

「水晶玉」
彼女の魔法少女としての装備。
遠距離射撃が可能で、オールレンジ攻撃による連射も可能。


【能力・技能】

・魔法少女
願いと引き換えに、己の身を呪ったもの。
ソウルジェムを使って魔法少女に変身できる。
彼女の魔法少女としての能力は「予知」で、その先の未来を予知することが可能。

・マインドコントロール
魔術的な物には頼らない、Cランクの威圧とDランクの話術。
歴戦の魔法少女である巴マミをヘタレこませたり、千歳ゆまの恐怖を焚き付けたりしている。


【人物背景】

美国久臣総理の令嬢で、彼女自身も周囲から慕われていた。
しかし不正の疑いが出た影響で父親は自殺、自身も汚職政治家の娘として周囲から軽蔑されることとなる。
自身の存在意義に疑問を持ったその時、インキュベーターに目をつけられ、「自身の生きる意味を知りたい」と願い魔法少女となる。
予知能力を手にした彼女は、救済の魔女によって世界が消滅してしまう未来を読み、その魔女の元となる鹿目まどかを殺害しようと―学校を占拠する前からの参戦。

優雅かつ落ち着いた雰囲気の持ち主。
しかし、子供の頃に父親の様な政治家を志した、と言う想いは未だに残っている。
美国の娘として見られている事に孤独感を感じ、只の人として見てくれることを何処かで望んでいる。

【聖杯にかける願い】

自分の生きる意味を知り、(キリカのいる)元の世界に帰る。


167 : 美国織莉子&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/14(火) 20:50:07 h5ri/.FM0



【クラス名】ライダー
【出典】BLASSREITER
【性別】男
【真名】ジョセフ・ジョブスン
【属性】秩序・善
【パラメータ】筋力B 耐久C 敏捷B+ 魔力C 幸運D 宝具E(アンドロマリウス変身時)

【クラス別スキル】

騎乗:C+
乗り物を乗りこなす才能。
バイクを乗りこなせる他、融合化により機械や金属と融合できる。
時限爆弾を停止したり、コンピュータにハッキングすることが可能。

対魔力:E
魔力に対する耐性。
無効化はせず、多少ダメージを軽減する程度。

【保有スキル】

心眼(真):C
長い戦いで培った洞察力。
窮地において、逆転の可能性が数%でもあるなら、それを実行に移すチャンスを手繰り寄せる戦闘論理。

単独行動:B
マスター無しでも現界を保つ能力。
Bランクなら、マスターが死んでも2日は現界していられる。

仕切り直し:C
不利な戦闘から離脱する能力。
戦闘から離脱し、敵の眼を晦ます。

融合進化体:B(A+)
金属に近い肉体を手にした「人類の進化系」に当たる存在。
Bランクなら、低級のデモニアックを制御しきれる程の力を持つが、ライダーは強靭な意志力でその力を封じ込めている。
しかし、第三の宝具を起動した瞬間、()内に修正され、ライダーは真のブラスレイターへと覚醒する。


168 : 美国織莉子&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/14(火) 20:50:39 h5ri/.FM0


【宝具】

「人魔呼び覚ます蒼き馬(ペイルホース)」
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
ライダーが生前、姉に生み出され、嘗ての友に埋め込まれたナノマシン。
人類の進化を促す力に成り得た可能性を持った、化物の中核。
血液を介して感染し、血管内の蛋白質に分解されてしまう。
ナノマシンはそのまま人体の活性化を促し、人間を幻覚症状や高熱に苦しめた末に「デモニアック」と呼ばれる存在に変質させる。
デモニアックは理性を消失し、本能の赴くままに人間を襲う。
しかし、72の感染パターンに当てはまった人間は「ブラスレイター」と呼ばれるより高位の存在へと変化する。
ライダーが変異したブラスレイターは「アントロマリウス」。
最も新しく発見された形態で、その能力は未知数。

「死馬喰らう黒き機狼(ガルム)」
ランク:E 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:3〜50
ライダーがツヴェルフから受け取ったスーパーマシン。
世界一ィィィの科学力を誇るツヴェルフが作っただけあって、その性能は並大抵のバイクを凌駕する。
ライダーはこれに跨り、融合化させることにより飛行モードに変形させ、空を飛ぶことが可能。
バイクにはツヴェルフが遣わしたAI「エレア」が搭載されており、有事の際にはエレアが自動走行させることも出来る。
また、PCをハッキングしてライダーに連絡することも余裕余裕。
高飛車で気まぐれな性格だが、ライダーの事は気に入っており信頼関係も築けているので裏切ることは無いだろう。
余談だが、車検の際には「四菱ジャパンカスタム」で普通に通っちゃう。

「融けて凌駕する最後の蒼馬(アンドロマリウス・グランドスティール)」
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
蛇の悪魔、アンドロマリウスは物を盗み、悪を挫く正義の悪魔である。
ブラックボックスの塊であった第七十二型ブラスレイター、アンドロマリウスの真の力。
ライダーは、血を吸ったブラスレイター達の力をインストールする力を有している。
これにより、ライダーはそのブラスレイターの分身を召喚できる他、英霊の座にいる本体に自身の身体を貸すことが出来る。
ただし、憑依は向こうにいる本体からの了承が必要となり、場合によっては向こうから取り憑いて来る事もある。
因みに生前、ライダーに力を貸してくれたブラスレイターは「フェニックス」「ウァラク」「マルコシアス」の三体。
基本的に使えるのは上述の三体だが、状況次第では他の座にいるブラスレイターも力を貸してくれるのかもしれない。

「病呪殺す豊穣の灰馬(アンドロマリウス・イシス)」
ランク:E 種別:対病宝具 レンジ:100 最大捕捉:1000
アンチナノマシン「イシス」によって、ライダーが真のブラスレイターへと覚醒した力。
「融合進化体」のランクが()に修正され、幸運を除く全パラメータが2ランク上昇する。
Dランク以下の「融合進化体」スキルを持つブラスレイターの意志を完全に制御しきり、
更には殆どのデモニアックを滅ぼした逸話から「病殺し」の概念を持ち、ライダーの血を浴びたデモニアックは死滅する。
ただし、この宝具が発動するのは解放してから1時間後。
その上時間が経てば立つほどライダーの霊核も徐々に蝕まれていくため、安易に発動は出来ない。

【Weapon】

「湾曲刀」
ライダーが融合体の能力により、右手の紋章部分から発生させる剣。
刃は光になって鞭のようにしなやかに曲がる他、伸縮自在でございます。
融合体はイメージから装備を生み出すので、熱やバリアを発生させることも可能。
ワイヤーの様に光の糸として発生させることも可能。

「果物ナイフ」
神秘も何の変哲も無い、市販のナイフ。
これを使ってジョセフはマリア像を彫っている。

「特殊ジャケット」
ライダーを象徴する、特注製(恐らくツヴェルフ謹製)の紫色のジャケット。
バイク操縦時に項の部分からヘルメットが伸びて装着される。


169 : 美国織莉子&ライダー ◆lkOcs49yLc :2017/03/14(火) 20:50:56 h5ri/.FM0
【人物背景】

ドイツにやって来た移民の息子。
吹雪の中でゆりかごを抱いて守り抜こうとした両親のお陰で辛うじて助かり、両親が向かおうとしていた教会の神父に助けられる。
神父に育てられ、孤児達の心優しいリーダー的存在になったジョセフは、ある日神父から「どんなに過酷な世界にも、生きる意味はある」という言葉を貰い教会に残る。
しかし、ジョセフが15歳の時、神父は大洪水から避難してきた人を救おうとし続けた結果老体が耐えきれず過労死。
その時ジョセフは入れ替わるように、救援にやって来た医師団の若き医者、マドワルド・ザーギンと出会う。
ザーギンと通じ、自らの素性を知り、姉であるサーシャと再会したジョセフは、ザーギンや姉と共に、病に苦しむ移民達に薬を送り届ける日々を送る。
だが、移民達を救うことは叶わず、その上サーシャは現地人にリンチを受け昏睡状態に。
そしてジョセフは、すっかり変わり果ててしまったザーギンによってナノマシンの血を貰い、ブラスレイターへと覚醒する。
―10の年月がすぎ、ジョセフは青年に成長する。
多くの仲間と出会い触れ合ってきたジョセフは、遂にザーギンとの決着に臨み―

長い戦いで疲れ果てているのか、陽気な少年時代とは真逆に寡黙な性格へと変わり果てている。
だが、根っこの部分での優しさは変わってはおらず、今を生きる多くの人々達に影響を与えている。
神父の見様見真似で覚えたマリア像を彫る事が癖であり趣味。

【聖杯にかける願い】

マスターを元の世界に帰し、生きる意味を見つけ出させる。

【基本戦術・方針・運用方法】

ジョセフは10年もの長き戦いにより、力を押さえ込んでいながらもその卓越した剣技によりかなりの実力を誇る。
ガルムに騎乗しながらの剣術が主となるだろう。
ただし、些か火力には劣るため、その時には「仕切り直し」で離脱することを勧める。
また、第三の宝具を使うことで三体のブラスレイターを召喚、或いは憑依させる事で戦いの幅を広げることも可能。
ただし、真のブラスレイターとしての力を顕現させれば、燃費は通常の倍以上になるので、油断はせずに。
ライダーは織莉子にザーギンを重ねている節があり、彼女を危うく感じている。


170 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/14(火) 20:51:22 h5ri/.FM0
投下終了です。
追記、修正はWiki収録後。


171 : 『希望』 ◆8YPze9cKXg :2017/03/14(火) 21:35:00 F9KNXpYQ0
投下させていただきます。箱庭聖杯に投下したものの流用です


172 : 『希望』 ◆8YPze9cKXg :2017/03/14(火) 21:35:21 F9KNXpYQ0

「何、故――」

 豆を炒る音を何倍か暴力的にしたような、気味が悪いほど軽い破裂音が三秒間ほど連続した。
 大理石の床に俯せに倒れ伏し、ヒューヒューと荒い息を漏らしながら悶える男を、一人の老人が見下ろしている。
 その傍らには赤いフードを纏った、中東系のそれを彷彿とさせる浅黒い肌を衣の隙間から覗かせる、冷たい雰囲気を漂わした男が立っていた。
 彼の右腕に握られている武器はキャレコM950――英霊が使う武器としては、相対的に貧弱すぎるとの評価を下さざるを得ないであろうそれ。
 しかしサーヴァントの武装として具現しているかの近代兵器は、今やサーヴァントですら容易に傷付けることの出来る神秘性を内包している。
 言うまでもなく、そんな代物で人間が撃たれたらどうなるかは明白だ。
 そもそもわざわざ神秘など宿さずとも、人の一人二人は数秒で鏖殺できる代物なのだから。

「……何故、……です。貴方は、私と、共に……聖杯戦争を打ち砕くと、言ってくれたでは――ありませんかッ」
「ああ、言ったとも」
「ならば……ならば、何故ッ! 何故、その貴方が私を撃つのです……!! あの日聖杯に否を唱えた貴方の瞳は、嘘を吐いているそれではなかったのに……ッ」

 弾丸の雨を浴びたことにより胸に幾つもの鉛弾が残留し、生き地獄も同然の苦痛であろうに、男は尚も対話を求める。
 男は――正義感の強い、立派な青年だった。
 時に理不尽とも言える戦いを強要する聖杯戦争を否定し、それを打ち砕こうと輝く瞳で老人に持ち掛けた。
 老人はそれに笑顔で肯き、彼らは共に聖杯戦争へ反旗を翻す……確かにその筈だった。にも関わらず、現実はこうだ。
 正義は裏切られ、英雄譚は始まることもなく銃声の前に朽ち果てる。
 ものの数分と保たずに、哀れな若人は天に召されるだろう。
 彼のサーヴァントは騙して令呪を使わせ、遠方に追いやっている。
 令呪の刻まれた腕は切り落とされて地面を転がっており、彼を助ける術はもう何処にもない。

「答えて下さい――天願さん……ッ!!」

 老人、天願和夫は血涙を流す勢いで吼えるかつての同盟者に、柔和な笑みを浮かべたまま応える。
 天国と地獄か、はたまた富裕層と貧困層の格差問題を題材にした風刺画のように、両者は対照的であった。

「君は実に素晴らしい若者だった。いつだとて希望を捨てず、その両目には若き正義の炎が如何なる時でも燃えていた。
 わしはそんな君と一時でも共に歩めたことを、心の底から誇りに思っておるよ。今でも、だ」
「なら……どうして……!!」
「単純な話だ。君の希望はな、あまりに眩しすぎた」

 天願の青年を評する言葉に、一切の偽りはない。
 まるで教え子を賞賛する教師が如き温かみが、確かに彼の言葉にはあった。
 ――天願和夫は『絶望』を知る人間だ。
 人の意志や営みなど容易く飲み込んで消し去ってしまう、絶望の恐ろしさを誰よりもよく知っている。
 そんな天願からしても青年は、間違いなく『希望』と呼ぶに相応しいものを秘めた熱い男だった。
 自己の利益を度外視し、多数の為に行動できる人間。一歩間違えれば狂人と呼ばれても致し方ない希望的行動を躊躇なく実行する。
 彼ならば本当に聖杯戦争をどうにかしていたかもしれないと、冗談ではなく本気でそう思わせる程に。
 彼は素晴らしい、希望だった。だがだからこそ、天願は彼を切らねばならないと思った。

「わしはな、世界を救いたいのだよ」

 聖杯戦争に巻き込まれた非業の者達を、ではない。
 自分が生まれ育った故郷の世界を救うことを、彼は望んでいる。
 無論、これを青年に対して話したのはこれが初めてだ。
 これまでずっと天願は、聖杯戦争は間違っている、皆で解決に向けて動くべきだと、そう語ってきた。


173 : 『希望』 ◆8YPze9cKXg :2017/03/14(火) 21:35:42 F9KNXpYQ0

「君の希望を利用し、聖杯戦争をコントロールしようと考えたのだったが……失敗だった。
 君はあまりにも眩しい希望の持ち主で、あまりに優秀過ぎた。君をこのまま生かし続ければ、本当に聖杯戦争をどうにかしてしまいかねなかった」
「俺を……利用、したと……!?」
「うむ、そうなるな。君という囮役を立てながら邪魔者を退け、勝利に向けて着々と駒を進めていく……そういう考えだったぞ、当初は。だが結果はご覧の通りだ。――君には済まないことをした、恨んでくれて構わんぞ」

 恨んでくれて構わない。天願は、そう言った。
 ――恨んで、どうなるというのだ。
 自分は此処で死ぬ。もうじき、恨むも何もなくなってしまう。
 何も成せないまま、この冬木市を去る。
 そして自分が死んだことなど誰も知らずに、聖杯戦争は続いていくのだろう。
 この天願という老人は、かつて自分に見せたような笑顔で、また誰かに近付いていくのだろう。
 
「そん、な……」

 これでは、あんまりだ。 
 顔色を失血で蒼白にさせ、ゴポゴポと血泡を噴きながら、縋るように天願を見つめる瞳。
 その目に、天願和夫は覚えがあった。
 何度も見てきた――何度も戦ってきた人間の目だ。
 痛ましそうに目を伏せ、天願は死に行く命に黙祷を捧げる。

「理解したようだな。君が今抱いている感情、込み上げてくる遣る瀬無さ――それが、わしがこの世から消し去ろうと思ったものだ」

 天願は彼の死を、心の底から痛ましいと思っている。
 より正しくは、死に貧して希望を失い、暗く淀んだ瞳で血を吐く様を。
 彼が今感じているだろう、人類が普遍に持つとある感情を、心から嘆かわしく感じていた。

「それが『絶望』だ。感情に溺れて死ぬのは苦しかろう、早く逝き、楽になるといい」

 天願の袖口から飛び出した暗器の矢が青年の眉間を撃ち抜き、哀れな希望を絶命させる。
 人を殺すということに新鮮な罪悪感を覚えられる程、天願の人生は安穏としたものではなかった。
 常に彼の傍には『死』があり、『絶望』があった。
 それを排除する為に戦い、人を殺したことなど幾度もある。
 それに――今更この程度のことで感情を揺るがせているようでは、世界を救う大義など成せはすまい。

 その様子を黙して見つめていた暗殺者のサーヴァントは、天願の行動を非難するでもなく、静かに口を開く。

「……甘い考えは捨てるのが身の為だと、アンタは何度言わせるつもりだ」
「君がそう言い続けるというのであれば、何度言ってくれても構わんよ。
 わしは世界を救う。あの絶望に満ちた世界を希望で満たす為ならば、わしはいかなる非道にでも手を染めるぞ」

 アサシンは、天願和夫が世界を救うと言い出すに至った経緯を知っている。
 召喚してすぐに天願はアサシンへ自分の願いを話し、それと同時に、ある昔話を聞かせたのだ。

 ――それは、ひとつの世界が滅んだ話。

 希望の学園と、そう呼ばれる教育機関があった。
 そこにはありとあらゆる才能の持ち主が結集しており、そこを卒業した生徒は必ず成功を収めると、常にメディアは学園とその生徒を持て囃し続けた。
 そんな学園にある時、一人の女が足を踏み入れた。
 女は人間だったが、その頭の中に、人間では考えられないほど膨大な、とある感情を秘めていた。


174 : 『希望』 ◆8YPze9cKXg :2017/03/14(火) 21:36:03 F9KNXpYQ0

 それこそが――『絶望』。
 女は絶望を愛し、世界に絶望を広める為に行動した。
 女は天才だった。女の打つ手はその全てが的確に世界を狂わせ、遂には人間社会を壊滅させた。
 やがて女は希望を抱く者達に敗れて死んだが、それでも世界を覆う絶望の暗雲が晴れることはなかった。
 世界に未来を齎すために、絶望の汚染を逃れた者達は徒党を組み、日夜絶望の残党と戦った。
 戦いに終わりは見えず、犠牲と不和だけがどこまでも積み重なっていく。
 そんなある時だ。『未来』を目指す者達を統率する男が、一欠片の『鉄片』を手に入れた。

 男は再現された地方都市冬木へと迷い込み、その最果てにある一つの宝を手にし、己の願望を叶える事を誓った。
 ……言うまでもなく、これは天願和夫の経験してきた過去だ。
 一人の悪意で世界が滅び、その大元が消えても尚、世界が救われることはなかった。
 望み通りの未来はいつまで経っても訪れない。――このまま緩やかに世界は自死すると、天願は危惧したのだ。

「それにだ、アサシン。甘い考え等と侮られるのは、少しばかり心外だぞ」

 天願の願いは、言うまでもなく――自身の住まう世界から絶望を根絶することだ。
 その為に彼は聖杯を手に入れると豪語し、アサシンを召喚して聖杯戦争に挑む姿勢を固めた。
 だがその一方で彼は、聖杯が手に入らなかった場合、はたまた聖杯が風評通りの願望器ではなかった場合に備えて、元の世界にある保険を残してもいるのだ。

「仮に聖杯が手に入らずとも、わしには自力で世界を救う策がある。流石に聖杯の力に比べれば不格好なものではあるが、な。
 ――アサシンよ、わしは本気だ。君がこれまで何を見てきたかは知らないが、わしは己の大義を必ず遂げるとも。
 絶望なき世界という理想を求め、いかなる苦境をも踏破してみせるとも。……無駄に長生きしているのだから、汚れ役の一つくらいは買わねばなるまいて」

 断言し、最後は自虐を口にしてからからと笑うマスターに、アサシンはやはり表情を変えない。
 最後には溜息を一つ溢して踵を返し、その身体を実体から霊体へと変化させた。

『マスターはアンタだ。やりたいのなら好きにすればいい。……だが、忘れるな。僕は確かにアンタのサーヴァントだが、凡百の英霊と同じではない事を』
「無論、承知しておるよ。君の眼鏡に適わなければ、聖杯は君の手によって破壊される。そうじゃな?」
『……そうなったらアンタは、自力で世界を救うのか』
「そう言っただろう。最早後戻りする気など、端から毛頭ない。老い先短い命、全てをこの大義の為に使うつもりよ」

 普通のマスターがこの会話を聞いたなら、何を可笑しなことを言っているのだ、このサーヴァントは――と、そんな疑念に眉を顰めたに違いない。
 アサシンは聖杯を巡る戦いに呼ばれておきながら、最悪の場合、聖杯を自ら破壊すると豪語しているのだ。
 マスターである天願もそれを諫めるどころか、それで構わないと合意しているのだから殊更異様な光景だった。
 そう――彼らは普通ではなかった。
 聖杯戦争という、命も含めたありとあらゆる要素を賭けて挑む大勝負。
 冬木の地の中でも一際浮いた、奇特なスタンスを双方共に貫いている、そんな主従であった。


 ――第一に。そもそもこのアサシンは、聖杯戦争に呼ばれるような存在ではない。
 彼は人類側の抑止力。人類の『人類は存続すべきだ』という集合無意識が生み出した防衛装置。
 名もない人々が生み出した、顔のない正義の代行者たる男。
 安息と救いを得ることなく人理の守護者に堕ちた彼は、本来人類史そのものを根底から破壊せんとする脅威――俗に言うところの『グランドオーダー案件』以外ではまず現界することのないサーヴァントだ。
 何故なら英霊の座にも、それどころか人類史の中にすら、彼という存在は刻まれていないのだから。
 冬木市に願い抱きし者達を呼び寄せた、無骨な『鉄片』。
 ありとあらゆる世界の存在が入り交じったことにより、彼を世に遣わす人類史(オーナー)の方が、此度の事態を緊急時であると誤認した。
 アサシンが現界しているのは、そうした偶然の産物だ。
 言ってしまえばバグのような存在であり、猛烈に低い確率の偶然が彼を呼び寄せた。
 尤も――アサシンを召喚したのは聖杯を砕く正義の使者ではなく、世界の救済を祈る嗄れた老君であったが。


175 : 『希望』 ◆8YPze9cKXg :2017/03/14(火) 21:36:27 F9KNXpYQ0

(聖杯戦争、か)

 本来己が呼ばれる筈のない、純然たる聖杯戦争。
 其処に走狗として招かれたアサシンは、自らを呼び出した男のサーヴァントとして行動している。
 この地に待つ聖杯が己の砕くべき代物であったなら、その時は使命を全うする。
 仮に、万が一聖杯が正しいものであったなら、サーヴァントらしく、マスターに奇跡を譲渡する。
 そういう契約で、抑止力が遣わす守護者は冬木を駆ける猟犬を演じていた。

(……だが、愚問だ。
 聖杯なんて絶対に碌なものじゃない――十中八九僕は、この地の最奥で待つ願望器に銃口を向けることになるだろうな)

 アサシンは聖杯に対して、何一つ希望的観測をしていない。
 首尾よく聖杯に辿り着けたとして、自分が其処で何を成すかは現時点でも見えていると、そう高を括っている。
 彼は――かつて『■■■■』と呼ばれた男は、かつて正義の味方を目指した虐殺者は、そのことを知っている。

 ――その一方で。天願和夫というマスターが何を考えているのかを、アサシンは正確に把握してはいなかった。
 仮に聖杯が手に入らなくとも、世界を救う手段は既に手中に収めている。
 そう断言する彼が『どのようにして』世界を救うつもりなのかをアサシンは聞かされていないし、聞こうともしなかった。
 天願の掲げる絶望の根絶は、世界を希望の光で照らす、という形で実行される訳ではない。
 彼の言う救済が実行された世界には、文字通り絶望という概念が存在できない希望一色の世界が待っている。
 親しい人物が死のうが、どんな大きな挫折をしようが、決して絶望できない――永遠に希望だけを抱かされながら歩まされ、それを可笑しいと感じることさえない……そんな世界。全人類が希望の光に洗脳された、強引に絶望という概念を取り払った世界。
 それが、天願和夫の掲げる理想であった。

(さあ……君には上手くやってもらうぞ、アサシンよ)

 天願は、どちらでもいいと思っている。
 聖杯を手に入れて、それで世界を救えるのならば確かに最善。
 だが聖杯をアサシンが破壊すると言い出したり、風評通りの願望器でなかった場合には、一切の未練なく立場を冬木からの脱出派に切り替える準備がある。どちらに転んだとしても、生きて帰ることさえ出来れば、彼の世界は希望の光に包まれるのだ。
 聖杯によっての洗脳か、『希望のビデオ』によっての洗脳かは違えど、結果は何も変わらない。

 穂群原学園理事長の座に君臨し、老獪なる策を巡らせるは未来を望む歪んだ希望の担い手。
 世界を救う為、二度と悲劇が繰り返されぬ為――老いたる希望は盲目の世界を目指す。


【出展】Fate/Grand Order
【CLASS】アサシン
【真名】エミヤ
【属性】混沌・悪
【ステータス】
 筋力D 耐久C 敏捷A+ 魔力C 幸運E 宝具B++


【クラス別スキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。


176 : 『希望』 ◆8YPze9cKXg :2017/03/14(火) 21:36:57 F9KNXpYQ0


【保有スキル】
魔術:B
魔術を習得している。
翻って、魔術を知るが故に魔術師を殺す術に長けている。
本スキルのランクは、本来であればキャスターとの戦闘時には各種判定のボーナスとして働く。

聖杯の寵愛:A+
何処かの時代の大聖杯に、彼は深く愛されている。
その愛は世界最高の呪いにも等しい。
本スキルの存在によって、彼の幸運ランクは跳ね上げられている。特定の条件なくしては突破できない敵サーヴァントの能力さえ突破可能。
ただしこの幸運は、他者の幸福を無慈悲に奪う。
彼自身は本スキルの存在に気付いていないし、時折聖杯から囁きかけられる「声」も耳にしてはいない。

スケープゴート:C
戦場を生き抜く狡猾なテクニックの集合。
他者の幸福を無慈悲に奪い取る聖杯の寵愛スキルと彼のやり方は、残酷なまでに噛み合っている。

【宝具】

『時のある間に薔薇を摘め(クロノス・ローズ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1人 
 時は流れ、今日には微笑む花も明日には枯れ果てる。
 自身の時間流を操作する能力。
 生前の彼が有していた能力『固有時制御』を基礎としている。
 時間流の加速によって高速攻撃や移動を行い、減速によってバイオリズムを停滞させて隠行を行うのが「固有時制御」の運用方法。
 宝具として昇華されたこの力により、彼は対人戦において無敵とも呼べる超連続攻撃を可能とする。
 『固有時制御』を用い、文字通り目にも止まらぬスピードで連続攻撃を加え、トドメはトンプソンコンテンダーで背後からヘッドショットを見舞う。
 また『Zero』の彼が苦しんでいた使用後の『世界からの修正』を受けている様子もない(『守護者』となったためか)。

『神秘轢断(ファンタズム・パニッシュメント)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:0〜2 最大補足:1人
 自身の起源である『切断』『結合』の二重属性が込められたナイフ。
 魔術回路ないし魔術刻印、或いはそれに似たモノを体内に有する相手に対して致命的なダメージを与える。
 通常時攻撃に使われているナイフと同一。簡単に言ってしまえば生前彼が使用していた魔弾、起源弾のナイフ版。
 一撃一撃に起源弾と同様の効果が内包されているうえ、弾切れもないナイフによる攻撃が『固有時制御』による超速度で襲ってくるというる恐るべき宝具。それ故に初見で見破るには、相当な領域の研鑽が必要となるだろう。

【weapon】
 キャレコM950やトンプソン・コンテンダーといった近代兵器に始まり、ナイフによる白兵戦も得意とする。
 生前の彼を見るに、爆弾などを始めとした破壊工作もお手の物だろう。


【人物背景】

 人類の『人類は存続すべきだ』という集合無意識が生み出した防衛装置のような存在。人類側の抑止力とも。
 名もない人々が選出した、顔のない正義の代行者たる男。

 容姿は赤いフードを纏った、浅黒い肌に白髪の男性。
 性格にはまだ青年期の名残が多分に残っているが、何処の戦場に呼ばれようと常に人智を超えた理由と目的で血を流し、最短で世界滅亡の原因を解決する為には手段を選ばない。
 故に甘ったれた、人倫の枠に囚われた者とは相容れない。
 とはいえこの彼は是も非もないと観念し、選択の余地などないという諦観的な思考の元で動いており、人間性を失ったわけではない。


177 : 『希望』 ◆8YPze9cKXg :2017/03/14(火) 21:38:22 F9KNXpYQ0

 ――彼は何かを切り捨てることでしか使命を果たせない、そういう星の元に生まれてしまった。
 それでも、自ら望んだ運命の果てに守護者となった。誰に強いられたわけでも、屈したわけでもなく。
 どこかで折れて砕けなかったばかりに、最後まで『正義の味方』を辞められなかったばかりに、死んだ後まで安息と救いを得ることなく、抑止力の一部へと成り果ててしまった。
 生前の名前は『衛宮切嗣』。生前は暗殺者として多数の人間を殺めた反英雄で、無論英霊などではなく、守護者と呼ばれる英霊もどきである。
 同名の守護者である錬鉄の英雄とは異なり、彼は英霊の座はおろか、正しい人類史にも存在しない。
 その為召喚される状況が極めて限定的で、人類史そのものを根底から破壊せんとする脅威――『グランドオーダー案件』と呼ばれる事態に際してのみ呼び出される。

 そういった理由から本来聖杯戦争には召喚されない存在だが、数多の世界線が交差することで人類史側にバグのような現象が生じ、殆ど事故のような形で今回の冬木の聖杯戦争へと招かれるに至った。

【サーヴァントとしての願い】
 聖杯は碌でもないものであると確信している。それを見極め、場合によっては破壊する。
 ――が、現状は天願のサーヴァントの立場に甘んじている。
 理由は単純に、彼は人倫の枠に囚われず、エミヤの用いるあらゆる手段を肯定出来る人物であるため。つまりは相性がいい。
 確たる意志と現実的な手段で世界の救済を求めている天願和夫でなければ、確実に主従関係は決裂していただろう。

【基本戦術、方針、運用法】

 敏捷以外のステータスは低めだが、聖杯の寵愛スキルによって多少思い切った行動に出ても命を繋ぐことが出来る。
 更に宝具『時のある間に薔薇を摘め』によっての高速戦闘も可能であるため、状況と戦力差さえ見誤らなければ白兵戦を得意とするサーヴァントとも十分に戦えるスペックの持ち主。とはいえ筋力も耐久も高くはないため、極力はアサシンらしく、また彼らしく、奇襲や策謀で立ち回るのが無難だろう。
 天願は魔術師ではないが人間、それも老人にしては非常に高い戦闘技術を持つ他、齢を重ねているが故の知略と話術を兼ね備えている為、交渉面・戦術面においては隙が無い。弱点としてはやはりサーヴァントのスペック差が余りにも巨大な場合、決め手に欠けてしまうことなどが挙げられる。


【出展】
 ダンガンロンパ3-The END of 希望ヶ峰学園 未来編-

【マスター】
 天願 和夫

【参戦方法】
 絶望の残党から回収した『鉄片』により、参戦。


178 : 『希望』 ◆8YPze9cKXg :2017/03/14(火) 21:38:44 F9KNXpYQ0

【人物背景】
 
 ありとあらゆる才能の持ち主を集め、育成する『希望の学園』こと希望ヶ峰学園の学園長を務めていた老人。
 一見すると気のいい好々爺だが、素体となる人物の自我を破壊して『全能の天才』を作り出す計画に加担、素体に選ばれた少年に助言をして唆す等、時に手段を選ばない冷徹な一面の持ち主でもある。
 件の計画――『カムクラプロジェクト』は無事に成功するが、学園に生徒として侵入を果たした『超高校級の絶望』江ノ島盾子により学園が崩壊、果てには彼の住む世界そのものが江ノ島に洗脳された、或いは絶望させられた者達によって滅亡と言って差し支えない程破壊され、以後は絶望へ対抗する為に結成された復興組織『未来機関』の会長を務める。
 
 かつては絶望の殲滅に賛成していたが、現在は行き過ぎた殲滅を嘆き、これ以上争いのない平和な世界を目指している。
 
 ――その正体は、後に未来機関のメンバーを孤島の基地に隔離し、殺し合いを行わせる事になる黒幕。
 彼の目的は、『超高校級のアニメーター』が製作した『希望のビデオ』を全世界に流し、世界から絶望を根絶すること。
 こう言えば聞こえはいいが、その実情は殆ど洗脳のようなものであり、映像を見た人間は親しい人物を失っても決して絶望することが出来ず、強制的に希望だけを抱いて生きさせられる。
 殺し合いを主催することで『超高校級のアニメーター』へ強いショックを与え、彼の手で『希望のビデオ』を世界に発信させるのが目的であった。

 今回は殺し合いを決行に移すよりも以前からの参戦。
 聖杯が手に入ればそれを用いて絶望を根絶し、手に入らずとも生きて帰り、殺し合いを決行して世界を救うつもりでいる。つまりアサシンが敗れた瞬間、立場を脱出派にシフトする考え。

【weapon】
・袖箭
 所謂暗器の一種。袖の中に仕込んでおり、バネ仕掛けで相手に矢を射ることが出来る。

【能力・技能】

・体術
 拳が封じられているとはいえ、"超高校級のボクサー"の鍛え抜かれた肉体を一撃で沈める程の実力者。
 一見すると腰の曲がった老人だが、いざという時はコートの袖に仕込んだ袖箭と卓越した体術を駆使して戦う古強者。その戦闘能力は超一流のレスラーや高度な戦闘機能を持つアンドロイドと互角に戦える人物と切った張った出来るレベルであり、並の強者では太刀打ち出来ない。

【マスターとしての願い】
 聖杯を入手し、それを以って"絶望"を根絶し、世界を救う。


【方針】
 アサシンを暗躍させつつ、利用できる組に対しては積極的に同盟や交渉を持ち掛ける。
 脱出派の参加者達ともコンタクトを取り、いざという場面に備えたい。


【把握手段】
アサシン(エミヤ):原作ゲーム。セリフ集が調べれば出てくるのと、彼が登場したイベントのプレイ動画もある為、把握は比較的容易。

天願和夫: 
ダンガンロンパシリーズ第三作の登場人物だが、彼を把握する上ではアニメ作品である「ダンガンロンパ3」のみで把握可能。
未来編(全12話)のみを見ればキャラクターを把握することは可能で、絶望編(全12話だが天願の出番はそう多くない)を見ればより深く把握することが可能だが、未来編のみでも書く上で支障はない。


179 : ◆8YPze9cKXg :2017/03/14(火) 21:38:58 F9KNXpYQ0
投下終了します


180 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/15(水) 15:25:55 4BljT4WA0
ひとまず感想だけ。

>ゆんゆん&キャスター
 このすばからゆんゆんと、純潔のマリアよりマリアですね。
 非常に読みやすく、また楽しい雰囲気のSSだったように思います。
 これから聖杯戦争に身を投じるとは思えない牧歌的な雰囲気はやはり、このすば出典のキャラならではと言ったところでしょうか。
 そして二人が目指すのは対聖杯、聖杯戦争に反発する方針を選び取ったようですね。
 マリアもゆんゆんもスペックが飛び抜けて高いわけではないので他の主従と関係性を結んでいくことが肝要に思えますが、果たしてどうなることやら。
 ご投下、ありがとうございました!


>ここが地獄の森!魔天使は舞い降りた!!
 魔界都市シリーズの魔王伝より浪蘭幻十と、仮面ライダー鎧武よりサガラですね。
 アーチャーこと幻十の圧倒的な強さと異様さがとても良く表現されたお話だったと思います。
 その言葉にする事も難しいような美貌に加え、妖糸を用いた人体解体の悍ましい描写もまた見事。
 何より彼の生きていた魔界都市の住人達に比べれば凡百の英霊など劣っている、と言う辺りが実に彼らしいなあと感じました。
 一方でそんな彼を使役するのは悪辣なる蛇、サガラ。あくまで傍観者の立場に徹する考えのようですが、不穏なものは否めませんね。
 殺戮を是とする彼はきっと多くの屍を生み出すでしょうが、その果てに望む未来を手に入れられるのか見物です。
 ご投下、ありがとうございました!


>御成&ライダー
 仮面ライダーゴーストより御成と、がんばれゴエモンシリーズよりゴエモンですね。
 御成が僧侶らしい平常心で日課を維持し、平静を保っていると言う辺りが面白いなと感じました。
 一方で彼は聖杯を狙って戦うわけではなく、そもそも聖杯を信用せずに戦いの停止を優先するようですね。
 邪教の儀式めいた戦いを強いる聖杯が真っ当な物とは限らないと言う推測も実に鋭い物だったように思います。
 それに対し義賊として名を馳せたゴエモンは否定せずにその挑戦に付き合う、実に彼によく合ったサーヴァントです。
 彼ら二人が無事聖杯戦争を打ち砕けるかどうか、その行く末に注目してしまいますね。
 ご投下、ありがとうございました!


>透明Girl、透明Boy
 アイドルマスターシンデレラガールズより市原仁奈と、20世紀少年よりともだちですね。
 一言で言うと、ともだちと言うキャラクターの異様さと魅力が最大限に描き出された話だと思いました。
 仁奈の孤独を紛らわしながらも自分の侵攻を推し進める、どちらにおいても一分の隙も見せない彼はやはり凄まじい。
 ともだちや仁奈が直接絡んだ場面ではありませんが、仁奈の事を悪く言った女が実の夫から"絶好"されるシーンが彼の異様さを最も強く感じさせてくれたように思います。
 とはいえ彼は決して聖人などではなく、とある人物と遊びたいと言う未練と憎悪を抱えた元人間。
 そんなサーヴァントを召喚してしまった仁奈の未来が如何なる物か、とても心配です。
 ご投下、ありがとうございました!


>提督&アーチャー
 艦隊これくしょんより提督と、地球防衛軍3よりストーム1ですね。
 艦娘と言う存在の無い世界で、そもそも艦娘が存在する世界の異様さを感じ取る描写は大変良いなあと思いました。
 彼の出身世界と電脳の世界の違いをひしひしと感じながら、自分の決意を述べる辺りはクロスオーバーならでは。
 自分の想いと決意を語る男に対し、静かに、然し確かに道を示すストーム1。
 果たして彼らは、この聖杯戦争で護るべき人類の為に奇跡を勝ち取る事が出来るのでしょうか。
 ストーム1は常に強力でいられるサーヴァントではないようなので、マスターである提督の采配が重要そうですね。
 ご投下、ありがとうございました!


>英雄と魔法少女! 友達百人出来るかな
 魔法少女育成計画シリーズよりプク・プックですね。
 冒頭の語らいの最後に描写されたプクの異常性は、非常に恐ろしい物だと思いました。
 自分を愛させる、強引に友人としてしまう魔法。成程確かに、強力極まる物と言えます。
 何より当のプクがとても明るく、邪性を感じさせない性格をしているのがまた異様。
 その願いは全人類と友誼を結ぶこと。言葉にすれば綺麗ですが、彼女の魔法の性質を鑑みると悍ましい願いですね。
 そんな魅了の少女と向かい合いながら平常を保つ空々。彼は、自分の強大すぎるサーヴァントを扱いこなして無事願いを叶える事が出来るのでしょうか。
 ご投下、ありがとうございました!


181 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/15(水) 15:26:19 4BljT4WA0
>1匹と1人の王子
 のび太の大魔境よりクンタック王子と、ドラゴンクエストⅡよりローレシアの王子ですね。
 クンタックは端から見れば普通の犬ですが、一つの国の王子だった身。それだけに聖杯を求めて祖国を救済しようと考えるのは無理もない事でしょう。
 ただ、戦う決意を固めたとはいえ無辜の民に危害を加える気にはなれない辺りも彼らしい。
 NPCだからと殺戮して回るような人物ならば原作のような結末は得られなかったでしょうし、そういう所が彼の魅力ですね。
 また、無言ながらもクンタックに誠実な態度で応じるローレシアの王子も裏切りや奸計とは無縁の存在。
 高潔な王子同士の主従は聖杯を求めていますが、彼らの戦いはきっと正々堂々とした爽やかな物になりそうです。
 ご投下、ありがとうございました!


>怪物達(フリークス)
 GOTHより神山樹と、ジョジョの奇妙な冒険より吉良吉影ですね。
 共に異常な性を抱えた殺人鬼同士の主従なだけはあり、主従間に漂う雰囲気は血腥い物でした。
 既に犠牲を積み上げながら咎められることもなく生きている殺人鬼達。
 罪悪感など抱くはずもない彼らの聖杯戦争は、さぞかし凄惨で陰惨な物になるでしょうね。
 何より吉良がしれっと既に"彼女"を手に入れており、それを平然と指摘する神山の描写が自分は好きです。
 ご投下、ありがとうございました!


>美国織莉子&ライダー
 魔法少女おりこ☆マギカより美国織莉子と、BLASSREITERよりジョセフ・ジョブスンですね。
 未来を幻視し救済を目指す白い魔法少女の傍らに、従者たる黒い魔法少女の姿はなし。
 代わりに有るのは、彼女が生きる意味を見つけることを望む善性のライダー。
 織莉子の方もただ帰還したいと言うだけではなく自分の生きる意味を見つけることが目標に入っている辺り、二人の主従としての相性は良さそうです。
 彼女の未来予知が強力なのは言わずもがなですが、多くの宝具を持つジョセフも戦力としては相当大きいと思われるので、強力な主従と言えるでしょうね。
 ご投下、ありがとうございました!


>『希望』
 ダンガンロンパ3より天願和夫と、FGOよりエミヤ(アサシン)ですね。
 希望を奉ずるが故に天願が希望の危険性を最も強く知っていると言うのは成程なあと思いました。
 切り捨てられた彼はきっと本当に優秀だったのでしょうが、不運だったのは同盟相手を間違えたと言うことでしょうか。
 エミヤの策を全て受け入れ、順応できる彼と英霊の座に存在しない守護者の主従は大変良いバランスで成り立っていますが、一方でエミヤの方は天願の真の狙いを把握していないというのが若干不穏。天願は願いが叶わないと見るや潔く帰還して別な手段で世界を救う気というのが質が悪い。
 非常に柔軟に動くことが出来、尚且つ主従としての戦力も極めて高い。そんな二人であるように感じました。
 ご投下、ありがとうございました!


182 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/15(水) 17:04:14 JV61SeCo0
ご感想ありがとうございます。
拙作「鷲尾須美&ライダー」で指摘された部分と、
宣言通り「美国織莉子&ライダー」をそれぞれ訂正させていただきました。


183 : 虎と狛 :2017/03/15(水) 19:25:04 Y3wSaodw0
投下します。


184 : 虎と狛 :2017/03/15(水) 19:25:59 Y3wSaodw0


────武道の本質は〝人殺しの業〈わざ〉〟である。


   ▲   ▲   ▲   ▲


自分の愛する人のいないこんな世界になんて要らない。

これからは血腥い殺し合いが始まる。それは構わない腹もくくって覚悟も出来ている。
だが、どうせならせめてもう一度会いたかった。
脳裏によぎる彼女の顔。会えない。話せない。

園子さんに会いたい。 園子さんに会いたい。 園子さんに会いたい。 園子さんに会いたい。 園子さんに会いたい。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。 園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。
園子さん。
園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。園子さん。

一時を忘れ、フラストレーションを発散されることが出来るのは彼には空手しかなかった。
だが、自分より強いやつも拮抗しうる者もここには誰もいない。
今、彼の頭の中で考えられるサンドバッグは自らのサーヴァントだけ。
千年不敗?面白い。
ここなら人の目も気にしないで済む。彼ほど空手に入れ込む空手莫迦もいない。事実、皆辞めていった。

ここ穂群原学園・空手部はこの男、京極真〈きょうごく まこと〉の個人稽古場と化していた!


185 : 虎と狛 :2017/03/15(水) 19:30:09 Y3wSaodw0
「ッてぇえぇぁぁぁぁッ!!」

風切り音と共に引き締まった唇から吠える。
少年のその浅黒い肌から流れる汗。叫ぶ間にも廻り続ける蹴撃は宙を疾っていた。
その前方にいたのは左袖だけがない奇妙な着物を纏う先ほどの青年よりも身長はふた周りも小さな男。
男は青年を見たまま、冷笑を浮かべ軽業を続ける。
しかし、少年は如何な動きを停めなかった。
そして、フルスロットルのまま回し続け、五分以上経過した。
膝から先の視えない少年の放った蹴撃は只の一度も当たりもかすりもしない。
吹き荒ぶ右回し蹴り。続けざまに跳ね上がり、後ろ回し蹴り。
ただ空気を斬り刻む音が駆け抜ける。
砂塵を巻き上げて荒ぶるその少年の姿はまるで抜き身の真剣を振るう侍そのものだった。

次に放った前蹴りが垂直に脚を振り上げて顎を当てにいく。が、そのまま男は反り返り、後方一回転して着地した。

「はぁぁあぁぁぁぁッ!!」

間髪いれずに顔面へ右正拳突きからの腕を返しての肘打ち、全部見切っている。
一つも入っていない……。
暴風になびく男の髪の毛一本も持っていけない……。
全て1センチ以下の見切り。瞬き一つせず、その眼前を通り過ぎる蹴撃と拳。そしてこちらを視る。
まるで急流に浮いた木の葉が岩にぶつかる寸前に流れのままに紙一重ですり抜けるようなその様は───とても美しかった。
 

半歩下がると突如、真の脚がまるで発条の化し、弾けた。
一瞬、遅れて男も飛翔する。

空に舞う二つの残像が螺旋を描きつつ絡み合う。
──自分の方が疾い。
真はそう確信した。
────だか、
風鳴りをあげて右から飛び込んできた蒼い旋風を捉えることはできなかった。
……何だと!?
後から飛んだのにあちらの方が数倍疾かったのだ。
条線が激突した瞬間、朱く染まった。
小さな塊が真をはたき落とし、その身体を吹き飛ばした。
三メートルほど向こうに落ちて転がる。すぐさま立ち上がった。
二人の踊り狂う狂乱が終わると小さい男は静かに言葉を紡ぐ。

「どうした息が切れたか?」

まだ肌に残る血を拭うと、

「……くっ!まだまだぁあぁッ!」

小さい男に組みにいった。
真の肉が震えるが、男のその身体と脚は根が生えているかのようにびくともしない。

「……くっ!」

「もう終わりだ───いくぞ」


186 : 虎と狛 :2017/03/15(水) 19:33:15 Y3wSaodw0
瞬間、真の膚〈はだ〉が粟立〈あわだ〉ち恐怖を感じた。身構える。
来る…え?──疾……
突如、彼の視界が反転する。
直前に鳩尾に肘が入り、身体を二つに折って、遅れて来る甲高い嗚咽。
小さい男は続けざまに青年を投げた。
その様は洗濯機の中で回転する洗濯物に似ていた。
頭頂部から垂直に地面へと落下する。
───だが、

今、一体何が起きた!?

頭が地面に衝突する前に、首筋に異様な感覚が襲ったのだ。
最初は感覚の正体もよく解らなかったが、気づいたら畳の上に背中から倒れこんでいた。
まるで腰が抜けたようにみえる。
しかし、それを以て彼の醜態を笑える者はそうは多く無い筈だ。むしろ顔面は蒼白になって、身体は凍りつく。
なんと!?脳天が地面に衝突する前に、彼の頭をその脚で刈ったのだ。
苛烈、凄絶としか言いようのない打極投の完全一体。
さっきは脚で自分の頭を刈ったが、今ので本当にやるべき事は……。
この少年・京極 真の脳裏に雷鳴が轟く。寒気がする。こんな業〈わざ〉が本当に可能なのか!?
嘘もヘチマもない……。無手で不敗なんて……。作り話だと……。
自分は日本一になって、もっと強い奴を探して国を出た。なのにこんな方が実際に生きていたなんて……しかも、この日本に……!灯台下暗しとは正にこの事だ。
これがあの……。

──陸奥圓明流。それは武術界に伏在する伝説。
その無手の業〈わざ〉を以て、宮本武蔵に勝っただの、新撰組の土方を倒しただの、千年不敗を誇るというが真実かどうかは定かではない。
だがもし…それが真実なら、武術の祖に相違ない。
そして日本最強のこの男を完膚なきまでに組み伏せたのだ。
恐怖と驚愕に気死せんばかりの主人〈あるじ〉を見下ろしたまま、男は小首を傾げると笑った。

「気が済んだか、真?終わりだ。飯にするぞ」

地べたに額をこすりつけたまま動かない。

「何だ?それは?」

無表情に訊ねた。

「お願い申す!この男、京極 真に!自分に……稽古を!……いや、せめてあなたのその鬼の力をもっと見せてほしい!頼む!」

血痰が喉に絡んでいるのか、聞き取りにくい声だ。
しかし、サーヴァント・アサシンの答えは否。

「労は別に多くは無い。だが、そんな刻〈とき〉も無い。 オレ達は聖杯の約定〈やくじょう〉に従い、必ずお前を守〈も〉りする。生きて帰りたいなら、黙って観ているだけで十分だろう?」

「そこを何とか!」

アサシンは苛立たしげに舌打ちした。
訝しさ半分、不快感半分で問い返す。

「──なら訊く。何故だ、真?今の平和な日本で何故その身を剣〈つるぎ〉と鍛える?人を斬らない剣に一体何の価値がある ?そんなに人を殺したいなら銃を使えばいいだろう?俺たちは死人だ、死んだ後もくだらねぇ事に執念を燃やして動きまわってる亡霊だ。死に損ないの死人なんだ。お前もオレ達の戦場〈いくさば〉に付き合う必要も本当はない」

慌てたように目を上げた「お願いします。そこを……」 耳元で低い声が、静かに囁いた。「もう二度は言わぬぞ。真」

ふり向いた。誰もいない。
だが、右手がとられ、重みが肩の付け根に集中した、と思った刹那、肩の肉がねじれ小気味よく骨が鳴った。
喚き出したい衝動を抑えてガックリと首を折って呻く。

「この戦いが終わるまで布団で寝ていろ。邪魔立てするなら貴様から殺す」

アサシンの言葉に偽りはない。きっと令呪の発動する間もなく、彼を絶命させられるだろう。


187 : 虎と狛 :2017/03/15(水) 19:36:34 Y3wSaodw0
「頼む」

些かの躊躇いもなく訴える。

「───このうつけが、どうやら見せ方が足らないらしいな……次は折るぞ。その脚も…その頸〈くび〉も…」

疲労と心労で目をしょぼつかせて、ボロ布のような風体でも、真のその眼は力を放つ。
再び、小気味いい音とともに、真は肩を自分ではめ直し、立ちあがる。
やがて、思い切ったように口火を切る。

「何故……剣と鍛えるかと訊いたな?」

声を出す力があったと我ながら不思議だったが、ほとばしり始めた言葉は止まらない。

「自分は───空手家だからだッ!!その業を自分の血と肉にする」


「きっと、あの世で後悔するぞ」

「それだけは決してしない」

その時、真は笑っていた。 彼は産まれて初めて化物〈けもの〉の血をたぎらせたのだ。
暫く思考を巡らせていたがやがて、虎彦はぼそりと唇を開く。

「解った」

「虎!」

慌ただしい声でマスターとサーヴァントに割って入ったのは、アサシンと瓜二つのもう一人のサーヴァントだった。もう一人のアサシン・狛彦は目を瞠ることとなった。

「どうせ暫くは物見だ。暇潰しに付き合ってやるよ」

「ありがとうございます!」

しかし、虎彦は指を三本立てて

「──但し、オレの飯は三倍」

「……押忍!!」

次の瞬間、糸の切れて落ちたような人形のように真は気を失った。

「あらま」

二人の長いため息の音が聞こえる。二人は全く同時に頭を掻いた。

狛彦は真を背負う。
内出血や生傷だらけの真のその顔はとても安らかだった。

「本当にそれでいいんだな?虎?」

振り返って、軽く肩をすくめる。

「ああ。狛……」

鏡像の暗殺者は困っていたが、同時に楽しみでもあった。
彼等一族に仇なすかもしれない存在に……。
そして天はそれが運命〈さだめ〉であってかのように、賽を振る。
はたして、この男たちはここ冬木に如何なる疾風〈かぜ〉を吹かすのか。

続く……!!


188 : 虎と狛 :2017/03/15(水) 19:40:21 Y3wSaodw0
【出典】修羅の刻 
【SAESS】アサシン
【真名】虎彦と狛彦
【属性】中立・悪(虎彦)中立・中庸(狛彦)
【身長】167㎝【体重】65㌔※二人とも
【性別】男性
【ステータス】※二人とも同じ
筋力C+ 耐久C+ 敏捷A+
魔力E 幸運B 宝具EX

【クラス別スキル】
気配遮断:B(-)
自身の気配を消す能力。
だが、彼らの場合、修羅に入るとたちまち闘気が放出して他のサーヴァントにも存在を察知される。要するに彼らの戦い方は悪目立ちするのだ。

単独行動:A
彼ら一族は基本的に単身で行動する事に由来する。エミヤ〈アサシン〉などが例だ。
マスター不在・魔力供給無しで一週間現界していられる能力。魔力消費量に応じて多少上下する。

【保有スキル】
・心眼(真):A+
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場に残された活路を導きだす戦闘論理。

・戦闘続行:A
最期まで闘う意地。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

・殺戮技巧(無手):A
アサシンの特殊スキルで、彼等の宝具の一端でもある。
使用する『武器』の対人ダメージ値にプラス補正をかける。

・鬼神(修羅):B
アサシンの本気。発動すると幸運以外のステータスを2ランク上昇させ、精神耐性状態付与。この状態に戦闘中移行すると、誰の言うことも聞き入れないため、彼らとの意思の疎通はほぼ不可能。相手か自身どちらかが手折れるまで戦い続ける。

縮地:B
瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武術、武道が追い求める歩法の極み。単純な素早さではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合って完成する。
最上級であるAランクともなると、もはや次元跳躍であり、技術を超え仙術の範疇となる。

・天下布武:B
相手が『神性』『神秘』のランクが高い者、体制の守護者たる英霊などであればあるほど有利な補正が与えられる。
織田信長だけが持つ特殊スキルだが、近親者であり共に生きた彼等もランクが落ちるが持つ。

【宝具】
『陸奥圓明流』
ランク:無し    種別:対人魔業
レンジ:時と場合  最大補足:1〜1000人
正確には宝具ではない。一子相伝・門外不出。人の身とは思えぬその絶技の数々。それは多対一や対剣術のみならず、対銃器の状況をも想定されている謎の活人。宮本武蔵、柳生十兵衛、土方歳三、ワイアット・アープ……数多の英傑を破る、その千年不敗の伝説。

『■■』
ランク:EX 種別:? レンジ:?最大補足 :?
それは神を凌駕しようとする試みに他ならない。
その門を通〈くぐ〉る時──……

【 weapon 】
・無し。彼等はこの身ひとつで闘う。

【人物背景】
双子の暗殺者。
歴史の狭間に生き、血にまみれて時代を駆け抜けた影の一族。
──時は、混沌とした戦国時代。
梟雄・織田信長は腹違いの妹・琥珀を『鬼』との血縁を求めて、当時の継承者に嫁がせた。その子供が彼等だ。
武田信玄を葬り、雑賀孫一と合間みえ、本能寺の変の後、歴史の闇に飲み込まれて消えた正真正銘の英雄殺したちだ。
アサシンとして彼らが現界したのも頷ける。
年齢は物語後半の二十代前半から後半。

【サーヴァントとしての願い】
聖杯に興味 ──自分の方が疾い。 。
真の兵〈つわもの〉たちと戦う為だけに参戦した。
そして──名を継ぐのは…


189 : 虎と狛 :2017/03/15(水) 19:42:06 Y3wSaodw0
【出展】名探偵コナン
【マスター】京極 真
【人物背景】
杯戸高校出身。空手部主将。実家は静岡県で旅館を経営している。
十八歳。身長184㎝ 体重79㎏
空手公式戦四百戦無敗の『蹴撃の貴公子』またの名を『孤高の拳聖』と人は呼ぶ、日本最強の男。
普段はメガネをかけ、『空手』をする時のみ、眼鏡を外す。
丁寧な言葉遣いと古風な価値観をもち、恋人の園子を大事にしている大変真面目で硬派な男。だが、少し天然気味。いや、かなりか。

【 weapon 】
・なし

【能力・技能】 
・身体能力
至近距離から発射された銃弾をかわす眼と動き。
腕をナイフで刺さったままの状態で犯人を倒し、それを
傷と思わない強靱さ。

・観察力
恋人・園子に化けた怪盗キッドの変装を彼女とは指の長さが違うという理由で見破るほどの観察力。しかしこれは空手の試合での延長線のようだ。

・格闘術
主に空手。
彼の空手に先手なし、後の先だ。ノーモーション・ノーガードから放つカウンタースタイル。
だが、劇中一般的な空手ルールで禁じ手とされる技を多様することに加え、格闘技の造詣に深いことから、時と場合によってはその限りではないようだ。
また、武器を持った五十人以上のヤクザを毛利蘭と共に、園子やコナンを守りながら10分で葬ったことから見ても、一人対多数戦でもその業前は何ら問題ないと思われる。
彼の苦もなく建造物を破壊できる正拳突きと刃物を逆に切断するほどの蹴り。
それと同じの毛利蘭とは数段実力差がある描写が多いことから見ても彼の戦闘能力がいかに凄まじいことがわかるだろう。
それに加え、並々ならぬ闘争心を秘めている。


【マスターとしての願い】
園子さんにまた会う為に、生きて帰る。
そして、空手家の血が騒ぎ……。



箱庭聖杯に投稿したやつをもっと型月寄りにすり寄せました。本能寺イベント復刻を見てノリと勢いで書いたんで元々のとは完全に別物ですが、宜しくお願いします。

『把握資料』
京極真については登場回数が非常に少ないので動画などを観た方が手っ取り早いですね。
あとYAIBAとかが多分しっくりくると思います。多分。

圓明流は業の解説は数が多いのでかなり省きました。劇中出来るだけ多く書きたいですが……
修羅の刻 十一〜十三巻 是非『裏』の方から読んでください。
彼等一族の気質とかふくめるとホントは本編の修羅の門も出来れば……嬉しいなぁ。

投下終了


190 : 名無しさん :2017/03/15(水) 21:37:13 7iwmscOg0
人類最強候補の京極さんでもフルボッコか


191 : 名無しさん :2017/03/15(水) 21:57:16 Y3wSaodw0
京極さん組技とか関節技からっきしでしょ?


192 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:28:03 r24iTHsc0
>虎と狛
 名探偵コナンより京極真と、修羅の刻より虎彦と狛彦ですね。
 まず凄まじい情念と熱さが文面からひしひしと感じられる戦闘描写に圧倒されました。
 京極も人間としては規格外級の強さを持っているものの、彼のサーヴァントはそれ以上。
 敗北から更なる強さを希求する京極と虎彦の問答がとても良い雰囲気だったように思います。
 主従としてはかなり異質な関係性ですが、彼らがどのように闘っていくか大変楽しみです。
 ご投下、ありがとうございました!

 それと、なりすまし等が横行しない為にもトリップを付けて戴きたく思うので、トリップを付けた上でその旨を此方に書き込んで頂けますでしょうか。面倒とは思いますが、後々のトラブルを避ける為の措置ですので、ご理解をお願いします。

 投下します


193 : 丈槍由紀&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:28:45 r24iTHsc0

 穂群原学園、三年C組。其処で一人の教師と生徒が向かい合い、机の上にノートと教科書を広げて補習授業を行っていた。
 時計の針はもうじき五時を回る。一日の授業はもうとっくに終わり、部活動や委員会と言った特殊な事情がない生徒達は自宅に帰り着いている頃だ。現に遠くの方から運動部の走り込みの音や吹奏楽部の演奏が聞こえてくる以外は、人の声も物音もない。教室の中には、暖かな夕陽が射し込んでいた。

「それで、此処の文法はこう考えてみると解けると思うわ。大事なのは目先の部分だけじゃなくて、ちょっと先の文章も見てみることよ」
「なるほど……よし、やってみるね!」

 国語教諭らしい女教師は、ペケの付いた設問に赤マーカーを這わせ、女生徒が理解しかねているらしい文法問題についてアドバイスを与えてやる。答案用紙に記されている点数はお世辞にも良い物ではなかったが、既に間違った問題は半分以上解き直されて、青マーカーで丸が付けられていた。この事から察するに、補習の進みはなかなか順調なようである。
 然し――少し前までは、こうではなかった。その事を、女教師は知っている。
 今目の前で四苦八苦しながらも一生懸命解き直しを行っている彼女は、言ってしまえば、余り出来の良い生徒ではなかった。だからと言って女教師が彼女を差別した事は一度も無かったが、苦労させられていたのは事実だ。単純に成績が悪い、覚えが悪いだけなら極論時間次第でどうにでもなるが、彼女にはそもそもやる気と言う物が欠けていた。いつもつまらなそうに時間を過ごしている、そんな生徒だった。少なくとも数日前に会った時は、そうだった筈だ。
 だが、今の彼女はどうだろうか。自分から積極的に失点した箇所に挑み、自分の説明やアドバイスを真剣に聞き、迷走しながらも自分の力で答えを導き出している。其処には数日前までの彼女には見られなかった、前向きなやる気と明るさがあった。それを見て思わず口元に笑みを浮かべ、女教師は口を開く。

「ねえ、ゆきちゃん」
「ん? なあに、めぐねえ?」
「……最近、なんだか変わったわね」

 "ゆき"……丈槍由紀と言う少女は、まるで別人のように変わった。
 そう思っているのは何も、こうして補習を行っている国語教諭の彼女……"めぐねえ"こと、佐倉慈だけではない。
 他の教科を担当する教師陣や彼女の担任教諭、果てには以前まで陰口を叩いていた少女のクラスメイト達まで、等しく彼女の変化を認識していた。只、面と向かってその変化を指摘した人間は、正真正銘この佐倉慈が初めてだ。由紀にとって慈は間違いなく一番身近な教師だったが、慈にとっても由紀は全生徒の中でも一際身近な生徒だった。


194 : 丈槍由紀&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:29:22 r24iTHsc0
「えへへ……そうかな?」

 変わったわね、と言われた由紀は一瞬ぽかんとしたような顔をして、それから気恥ずかしそうに苦笑してみせた。
 その笑顔が既に、以前の彼女には見られなかった要素だ。以前までの丈槍由紀と言う少女は、とてもじゃないが学校生活を楽しんでいる風には見えなかった。特に目立って友達が居る訳でもなく、いつも無気力で退屈そうにしていたのをよく覚えている。そんな彼女を揶揄したり、見下したりする者も決して少なくなかった。
 とはいえ、そういった声は日に日に少なくなっている。と言うのも、由紀は此処何日かで驚く程明るくなった。
 つまらなそうに過ごしている時間は減り、自分から今までそれ程仲良くなかった人物にも積極的に話しかけていくようになった。明るく愛嬌を振りまく彼女は、早くもクラスのムードメーカー的存在となり始めていると、慈は彼女の担任からそう聞いていた。
 それは紛れもなく良い事だ。生徒が、限られた青春の時間を思う存分満喫出来るようになった。その事を喜ばしく思わない人間等、まず居ない。が、それはそれとして。何が彼女を此処まで変えてくれたのか、気にならないと言えば嘘になる。余程良い事が有ったのか、それとも何か大きな転機となる出来事が有ったのか。
 無論、後者ならば下手をすると彼女のプライベートに大きく関わるデリケートな話になってくる。慈も気になるとはいえ、好奇心のままにずけずけと質問する気にはなれない。だが慈が何か質問する前に、彼女は自ら話し始めてくれた。学校を楽しめるようになった、少し不思議なきっかけを。

「あのね……夢を見たの」
「夢?」
「そう、夢。とっても――とっても怖い夢だったんだ」

 由紀は何処か遠くを見るような目で、教室の窓の向こうに見える、夕焼け色に染まった空を見据える。
 物凄く多くの大変な事を乗り越えてきた、或いはそういう物に挑んできた、そんな人物がする目だった。
 
「当たり前の事が当たり前じゃなくなっちゃって、毎日が危ない事と怖い事だらけ。本当に安全な場所なんて何処にもない。そんな町の中で……友達と一緒に学校で暮らす夢」
「それは……確かに怖い夢ね」
「本当だよ〜。でもね、怖かったし不安だったけど、私――」

 ――今でも、昨日の事のように思い出せる。

「楽しかったんだ。辛いことは沢山有ったけど、皆が居たから楽しかった」

 見慣れた街並みのあちこちに彷徨く"かれら"。嘗ては確かに自分と同じ人間だった筈なのに、自我を失った怪物に成り果ててしまった者達。それから逃げ、隠れながら、必死に毎日を過ごしていた。目を背けてばかりの自分を皆が助けてくれて、可愛い後輩も出来た。大変な事は山のように有って、悲しい事も数え切れないくらい有ったけど、それでも皆で過ごした時間はかけがえのない物だったと、丈槍由紀は信じている。
 覚めれば段々忘れてしまうのが常で有る筈の、夢。にも関わらず、由紀の語り口には妙な熱が有った。然し慈は、それは本当に夢の話? とは訊かなかった。良かったわねと微笑んで、教え子の成長を喜ぶだけ。そんな彼女を見る由紀の目は、一転して何処か寂しそうな物であった。


195 : 丈槍由紀&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:29:42 r24iTHsc0

「……夢には、めぐねえも出てきたよ」

 私も? と言う慈の問いに、由紀はこくんと頷きを一つ返す。
 その瞳はやはり寂しげな色を湛えていたが、それを目の前の彼女に悟らせまいと笑顔を浮かべて誤魔化してみせる。
 気を抜くと涙で瞳が潤みそうで、気が気ではなかった。

「夢の中のめぐねえも、ずっと私を助けてくれたよ。めぐねえが居なかったら、きっとダメになっちゃってたかも」
「へえ……何だか嬉しいな。先生、ゆきちゃんを助けてあげられたのね」
「うん、いっぱい助けてくれたよ! それでね、夢の中の学校で――」
「こらこら、手が止まってるわよ。後で聞いてあげるから、まずはこのテストを解き直しましょ?」

 そう窘められると、痛い所を突かれた、と言うような顔を浮かべて呻く由紀。
 数日前までは想像も出来なかったコミカルな動作に、慈は思わずぷっと吹き出してしまう。
 幸せな光景だった。教師と教え子の理想的な関係が、黄昏の教室に存在していた。
 夢の話を打ち切ってペンを持ち、再び答案用紙に向かっていく由紀と、それを優しく見守る慈。
 さあもう一頑張り、と言った所で。不意に由紀が、慈の事を呼んだ。

「ねえ、めぐねえ」
「ん、なあに? 何処か解らない所でも有ったかしら?」

 由紀は顔は上げず、ペケの付いた文法問題をじっと睨み付けている。赤マーカーが引かれ、添削された部分に答えを書いては消してを繰り返しながら、彼女は愛しい"恩師"に向けて、その言葉を口にした。それはずっとずっと言いたかった言葉。本当にずっと前から、もう一度で良いからこうして直接顔を合わせて言ってあげたかった言葉だった。

「――ありがとう」


196 : 丈槍由紀&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:30:18 r24iTHsc0



 ――丈槍由紀と言うマスターは、とっくに全てを思い出している。
 自分の世界で何が起きて、誰が居なくなったのか。不良だとか何だとかで誤魔化してきた"かれら"が一体どういう存在なのか。此処は何処で、何をする為に自分はこの見慣れない街で学生をやっているのかも、全部知っている。全てを思い出したからこそ、いつかの日のように無気力な学生として日々を過ごしていた彼女は、"変わる"事が出来たのだ。もとい、"元の自分に戻る"事が出来たのだ。
 そしてそれは当然、この幸せで穏やかな日常が偽りだと認識している事に直結する。そう、由紀は知っている。冬木市に暮らす自分の家族も、学校で出来た友達も、……目の前の大好きな"めぐねえ"も。全員、自分の記憶を元に作り出された偽物でしかない。それらは皆、全てが終われば消えてなくなる泡沫の幻影であるのだと。
 
 丈槍由紀の生きる現実は、既に滅びたあの街だ。恐るべき"かれら"が跋扈し、どれだけの人が生き残っているのかも定かではない、あの悪夢みたいな街こそが真実である。
 その事を思い出した時、由紀は酷く動揺し、狼狽した。トイレに駆け込んで胃の中の物を全部便器に吐き出したし、その日の晩は一睡も出来ずに布団の中で丸まっていた。自分がこれまで退屈だ退屈だと思って過ごしていた世界が、本当の世界よりもずっと幸せで穏やかな物だと言う事を理解したダメージは尋常じゃなく大きかった。

 家族は居ない。生きているのかどうかも解らない。
 クラスメイトは居ない。同じく、生死すら解らない。
 大好きな"めぐねえ"は――死んでいる。最期まで生徒に尽くし、導いて、その末に"かれら"の一体になった。

 現実を受け入れるのは容易ではなかった。
 それでも由紀は、これを受け入れねばならなかった。
 何故なら、この世界で何もかも忘れて学生生活を送り続けた所で、その末に待っているのは無慈悲な消滅でしかないからだ。そう言う意味では、由紀に選択肢など端から与えられてすらいない。全てを受け止めた上で踏み出す勇気が無ければ、この虚構では生きている事すら許されないのだから。
 では、そうしなければ死んでしまうからと言う消極的な理由で、由紀は現実を受け止めたのか? 答えは、否である。彼女にはもう一つ、現実を受け入れる理由が有った。どんな辛い記憶も真実も直視して、心を傷付けながらでも頑張らなければいけないと気付いてしまった。
 
 あの世界で生きていたのは、自分だけではない。もしそうだったなら、自分はとっくに死んでいる筈だ。
 いつも自分の周りには仲間が居た。どんな時でも支え、助けてくれる、最高の友達が居てくれた。
 由紀は願う。皆を、助けたい。皆で、幸せに生きたい。正しい日常を、元通りの暮らしを取り戻したい。
 その願いを自覚した時には、既にやるべきことは決まっていた。当たり前の事をするだけだ。……とても辛く気の重い、だけどやらねばならない当たり前の事を。


197 : 丈槍由紀&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:30:35 r24iTHsc0


(りーさん、くるみちゃん、みーくん、元気でやってる? ――私は今、ここにいます)

 
 由紀の右腕に巻かれた包帯。
 周りには火傷をしたと誤魔化しているその下には、三画の刺青みたいな刻印が有る。
 見る者が見たなら一瞬で由紀をどうすべきか理解するだろう、とても重大な意味を持つ刻印が。


(……待ってて。必ず――皆のしあわせを、持って帰ってみせるから)


 ここは冬木市、穂群原学園。
 ここには夢がちゃんとある。
 でも、もう夢を見ちゃいられない。

 ――だからこそ、最後にとびっきりの夢を叶えよう。皆で笑い合って当たり前の時間を過ごす、とても幸せな眩しい夢を。


198 : 丈槍由紀&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:31:14 r24iTHsc0
  ◇  ◇


「――下らぬな。汝、本当に己の立場が解っているのか?」

 月光の射し込む室内に、尊大不遜な女の声が響いた。
 その声は幼い少女のようであり、然し老獪な魔獣めいた重みも帯びている。
 時計の針は、既に午前零時を回っている。宵と闇の支配した深夜帯は、遥か昔よりまつろわぬ妖かし共の蔓延る時間と相場が決まっている物だ。そして今辛辣な言葉を吐き出したこの少女もまた、そう言う存在に他ならぬ。それも、末端の小妖怪等とは比べ物にならない鬼の中の鬼。欲するが儘に奪い喰らう、人倫の通じない怪物。それこそが、彼女だ。
 それに対して暢気に今日学校で有った出来事を報告して微笑んでいると言うのだから、丈槍由紀は実に命知らずな娘と言える。当然、人間やその営みを蔑視する鬼種からはこの通り、冷たく鋭い言葉で切って捨てられる。加え、その声には憚りもなく苛立ちの色が滲んでいた。

「業腹だが、汝は此度の戦に際して吾を呼び出した召喚者よ。大江山の首魁たる吾がどれ程敵を屠った所で、汝が野良犬に咬まれでもすれば全てが水泡に帰すのだ。それとも汝、この吾に無様な敗残者の烙印を刻むつもりか? もしそうならば、吾は汝をこの場で八つに引き裂いてくれようぞ」
「もう、そんなに怒らないでったら。ちょっとお話するくらいいいじゃん。むー」
「……つくづく癪に障る女よな、汝は! 吾が言っているのは、偽りの日常なぞにいつまでも未練たらしくしがみ付くなと言う話だ!!」

 結局あの後、補習を終えて由紀が家路に就いたのは午後七時を過ぎていた。言うまでもなく日は既に落ち、街並みは夜の闇に包まれていた。神秘の露出を良しとしない聖杯戦争と言う儀式の主戦場は、基本的に夜となる。此度の聖杯戦争に純粋な意味での民間人は存在しないものの、過度の情報漏洩はルーラーからの処罰の対象となり得るし、風聞で手の内が割れてしまう可能性も有る。故に混沌月海においても、主に戦いは夜行われると言う事に変わりはなかった。
 そうなれば必然、夜道を歩く危険性は別な意味で倍増する。魂食い目的のサーヴァントや、マスターである事を見抜いたアサシンの襲撃。そうでなくとも、純粋にサーヴァント同士の戦いに巻き込まれて落命、なんて展開すらザラに有り得るのが聖杯戦争だ。鬼女が由紀に言っているのは其処だった。
 鬼は人を理解せず、尊ばない。その命を果実のように喰らい、害虫のように踏み潰す。その例に漏れず、この鬼女も由紀が無惨に死のうが心底どうでもいいと考えている。だが、彼女が死ねば当然、連動して自分も消えてしまう。そうなるとどうなる? 簡単だ。自分は聖杯戦争の敗残者として、他のマスターやサーヴァントの踏み台になる。
 それだけでなく、マスターをあっさり殺されて呆けた面を浮かべたまま何も成せず消えた落伍者、と言う烙印まで押されてしまうだろう。嘗て数多の鬼達を従え、首魁として君臨した彼女には耐え難い屈辱だ。にも関わらず、由紀は頑なに普段通りの日常を過ごそうとする。毎朝無意味な学び舎に通い、規範に従って過ごし、暗くなってから帰ってくる。総じて無意味だ、自覚が足りん――鬼女がそう憤るのも、詮無きことと言えよう。


199 : 丈槍由紀&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:31:52 r24iTHsc0

「でも学校を休むのはやっぱり駄目だよ。だって普通、いきなり来なくなった子が居たらそれこそ怪しまない?」

 一方で、由紀の言い分も尤もだ。
 記憶を取り戻す前までは無気力でつまらなそうに毎日を過ごしていた彼女が不登校になったとしても皆納得かも知れないが、それはあくまで一般生徒の立場での話。由紀のように生徒として学校に通っているマスターが居たとしたら、まず間違いなくいきなり不登校になった由紀に疑いの目を向ける筈。つまりこんな状況だからこそ日常を過ごすべきだと、彼女は思っているのだった。
 これに関しては平行線を辿るのも無理はない。そも、現代に生まれた人間の少女である由紀と、真性の鬼の価値観はかけ離れている。人間の日常や規範等総じて下らない自縛でしかないと思っている彼女が、学校に通うと言う当たり前の日常を軽視するのは当然の事なのだ。

「……汝は、吾の事を如何なる者と視ているのだ?」
「そのくらい知ってるよう。サーヴァントの女の子でしょ?」
「違うわ、戯けが。――吾は、鬼だ」

 大江山に纏わり名を馳せた鬼種と言えば、高名な民俗学者でなくとも、少し学がある人物ならば名前が浮かぶ筈だ。
 大江山に棲まう酒呑童子の部下であるとされ、源頼光率いる四天王の奇襲の際には渡辺綱と刃を交えたと言う悪逆の鬼。
 鬼として最高峰の気質を持つ酒呑すら討たれる中で唯一生き残ったとされるその鬼の名は――茨木童子。

「吾は鬼、汝は人。その道理を履き違えるようであれば、吾は汝の喉笛を掻き切る事に一握の躊躇いもないと覚えておけ。……クク、何しろ吾は大江の鬼達を率いておった首魁でなぁ、従う立場には慣れておらんのよ。敗残者として無様に消えたとなればお笑い種だが、愚かな主を引き裂いて凱旋したと来れば吾の矜持も損なわれぬ。
 丈槍由紀。阿呆で愚鈍な現代の童よ。吾が汝に従っているのは、奇跡のような幸運と心得るがいい」

 実際の所、彼女は酒呑童子の部下などではない。寧ろ大江山の鬼の首魁として、彼女が存在していたのが真実だ。
 彼女こそが大江山に荘厳の御殿を建て、酒呑童子を義兄弟として愛おしみ、一騎当千の魔軍を統率して京で暴虐を振るい、人々を恐怖に陥れていた"荒ぶる鬼"。
 丈槍由紀と言うか弱い少女が呼び出してしまったのは、人類の敵――厄災の権化に他ならなかった。

「……バーサーカー、怒っちゃったの?」

 だが由紀は、自身のサーヴァントである彼女に親しみを感じた事はあれど、恐れを抱いた事は只の一度もなかった。
 誰もが恐怖し震え上がり、小水を漏らしても可笑しくない脅迫めいた威圧をぶつけられても、機嫌を損ねてしまったのかと心配はすれど、茨木童子と言う鬼に対して怯えた様子はまるで見せない。茨木童子は、彼女のそう言う所が気に入らなかった。鬼女の知る女子供と、目の前の由紀の様子が結び付かない。彼女は本当に、友達に接するように自分に話し掛けてくる。非礼と咎めた事も、最早一度や二度ではなかった。
 引き裂くのは容易い。然し、聖杯と言う至高の宝物を逃すのは余りに惜しい。それに――今回の聖杯戦争が"異常"である事を、既に茨木童子は認識していた。何かがおかしい。言語化するのは難しいが、此度の儀式は何かが致命的にズレている。其処に不信を抱くよりも、好奇と欲を向けるのが鬼種だ。興味深い、面白い。必ずや黄金の塔なる建造物の頂上に出現する願望器を、この手で掴まねば。


200 : 丈槍由紀&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:32:35 r24iTHsc0

「機嫌悪くしちゃったなら、ごめんね?」
「……汝、吾を煽っているのだな? そうなのだな?」
「そ、そんなつもりはないよぉ! ――あっ、そうだ! ちょっと、ちょっとだけ待ってて!」

 言った傍から馴れ馴れしいにも程の有る態度が飛んできて、茨木童子は思わず彼女をぎろりと睨み付けた。
 それに慌てた様子を見せながら、何を思ったか鞄の中身を漁り始める由紀。やがて彼女が取り出したのは――綺羅びやかな紙に包まれた、球状の物体だった。
 ほう、と茨木は驚く。あれが何か、正確な所は自分には解らない。それでもこの無礼且つ馴れ馴れしい召喚者が、貢物をして自分の機嫌を取ろうとしているらしい事は解った。この娘にも流石にその程度の考えは出来るか、面白い。下らぬ者ならその顔に叩き付けてやるわと、茨木はその口を笑みに歪めた。

「その面妖な煌めき……さては宝石か?」
「え? 違うよ? あのね、これはねえ……」

 首を傾げた後、由紀は鮮やかな緑色に煌く包装紙を剥がしてみせる。その下から出てきたのは、茶色い球体だった。
 くん、と。茨木童子の鼻が動く。

「――チョコレートって言うの! えへへ、バーサーカーの生まれた大昔には、きっとこんなのなかったでしょー?」

 チョコレート。今でこそ知らない者の存在しない菓子の最大手だが、当然、茨木童子が名を馳せた時代にはそんな小洒落た甘味はない。あらゆる物を奪い、喰らってきた彼女も、流石に目の前のこれを食した試しはなかった。興味深げに球体を受け取ると、茨木はひょいと口内に放り込み、咀嚼する。次の瞬間、彼女の目が見開かれた。

「これは……」

 美味い。
 旨いと言うよりは、美味い。
 と言うか、甘い。 

「……おい、汝」
 
 こんな物で――こんな物で、吾の機嫌を取ろうとしたのか、この童は。
 もう我慢ならぬ。茨木童子は憤りに肩を上下させながら、再び由紀の方を睨み付けた。
 あれ、チョコレート嫌いだった? ごめんねえ、と謝る声など、最早耳には入らない。
 数秒の間を置いて、茨木は言った。

「これをありったけ寄越せ」

 ――斯くして丈槍由紀は、茨木童子に引き裂かれる未来を免れたのだった。ちゃんちゃん。


201 : 丈槍由紀&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:33:00 r24iTHsc0




(待っててね――みんな)

 由紀は、茨木童子を怖いとは思わない。
 寧ろ由紀は、この鬼に感謝すらしている。
 彼女の事をありがたいと感じた事は有っても、怖いだとか厭だとか、そういう風に思った事は一度としてなかった。
 ……何故なら、彼女は自分のサーヴァントとして召喚されてくれた。彼女が居なければ、自分は皆を助けたいと願う事すら許されなかったのだから。
 
「ねえ、バーサーカー」
「何だ。吾は今忙しい。手短に済ませよ」
「……勝たせてね。お願い」
「阿呆が、誰に物を言っている。この吾が、大江山の茨木童子が、そこな雑兵に蹴散らされる様な三下とでも思ったか」

 いつも自信と尊大さに溢れた彼女の言葉は、由紀に勇気をくれる。

「よーし! 頑張ろうね、ばらきー!!」
「ええい、少しは黙――"ばらきー"!?」

 夢見る時間は終わった。これからは――正しい現実を取り戻す、戦いの時間だ。


【クラス】
バーサーカー

【真名】
茨木童子@Fate/Grand Order

【ステータス】
筋力B 耐久A+ 敏捷C 魔力C 幸運B 宝具C

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
狂化:B
 理性を代償としてパラメータを上昇させる。
 ……が、少なくとも彼女に理性を失っている様子は見られない。
 会話や念話による意思疎通が問題なく可能で、その点が普通のバーサーカーとは少々異なる。
 尤も彼女は鬼であり、人間の倫理や常識が通用しない存在――制御出来る保証は、ない。


202 : 丈槍由紀&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:33:36 r24iTHsc0

【保有スキル】
鬼種の魔:A
 鬼の異能および魔性を表す、天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキル。
 魔力放出の形態は"熱"にまつわる例が多い。バーサーカーの場合は"炎"。

仕切り直し:A
 戦闘から離脱するスキル。
 また、不利になった戦闘を戦闘開始ターンに戻し、技の条件を初期値に戻す。

変化:A
 文字通り"変身"する。
 作中では、少女の姿に変身する場面が存在した。

【宝具】
『羅生門大怨起(らしょうもんだいえんぎ)』
 ランク:B 種別:対軍宝具
 頼光四天王の一人である渡辺綱に腕を斬られたという逸話を、宝具へと昇華した物。
 自身の腕を切り離し、叢原火を纏わせた上で巨大化させ、猛スピードで相手に放ってそれを握り潰す。
 見た目は坂田金時曰くロケットなパンチ。あまりにもそのままだが、実際そういう宝具ムービーである。

『大江山大炎起(おおえやまだいえんぎ)』
 詳細不明の宝具。
 作中の描写を見る限りでは、炎を飛ばす攻撃宝具であると見られる。
 魔力消費は其処まで激しくないらしく、十連発するような芸当も可能。

【weapon】
 無し

【人物背景】
 平安時代に京の都で暴れ回り、人々を恐怖のどん底に突き落とした鬼。
 一般的には大江山を拠点とする強大な鬼・酒呑童子を首領とする酒呑童子一派の副首領として有名である。
 ある説では絶世の美少年、ある説では生まれてすぐ歩き出した鬼子、ある説では酒呑童子の息子。
 ある説では酒呑童子の恋人である女の鬼というように日本各地で様々な伝承が伝えられている。
 酒呑童子や他の鬼たちと共に暴虐の限りを尽くしたが、激怒した帝が平安時代最強の神秘殺しである源頼光と坂田金時ら頼光四天王を討伐のため派遣することに。
 毒入りの酒を使った騙し討により一派は壊滅。
 茨木も渡辺綱と交戦したが酒呑の首が刎ねられるや否や敵わないと判断し、唯一逃げ延びる事に成功したという。


203 : 丈槍由紀&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:34:02 r24iTHsc0

 大江山の鬼の首魁を自称している通り、Fate世界における茨木童子は酒呑童子の配下ではなく、トップはあくまで彼女。酒呑童子は食客となっている。
 が、それはあくまで表向きの姿。
 実際の彼女は生真面目で小心者、そして負けず嫌いな子どものような性格をしている。
 鬼らしく振る舞っているのも、母親からの"鬼が傲慢に振る舞わなくして、誰が傲慢に振る舞うのか"という教えを律義に守っているに過ぎない。
 "生き延びる"ということに関しては特に秀でており、逃走の際にした大跳躍は見た瞬間主人公が"追いつけない"と思い至るほどである。
 他に鍵開けや音消しの特技も"鬼の中で右に出るものは居ない"と豪語するほど得意であり、変化スキルを持っているので伝承通り人に化けることも可能。
 また相手の表情の変化を見逃さない洞察力と、即席のパーティーで作戦を立案出来る頭の回転の速さを持ち合わせている。

【サーヴァントとしての願い】
 願いは持たないが、鬼とは宝を奪うもの。故に、すべき事は決まっている


【マスター】
 丈槍由紀@がっこうぐらし!

【マスターとしての願い】
 自分達の暮らしを、元に戻す

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 子供っぽい性格の持ち主だが、意外にも高いリーダーシップの持ち主。
 変わらぬ優しさから来る着回し、状況に適した判断と機転、地図の読み取りや優れた聴覚――現実を認識した彼女は、それらを意識的に発揮出来る。

【人物背景】
 私立巡ヶ丘学院高等学校3年C組、学園生活部部員。みんなからは"ゆき"と呼ばれている。
 容姿に違わず子供っぽい性格で、よく笑い、よく走り、よく抱きつく。
 学校行事にも誰よりも積極的で、その明るい笑顔は部のムードメーカーとなっている。

 ――その視界に、もう"彼女"はいない。少女は今、現実を生きている。

【方針】
 戦いたくはないが、自分がやらなければいけない事は理解している。


204 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 00:34:50 r24iTHsc0
投下終了です。
また、拙作「ウェイバー・ベルベット&アーチャー」におけるアーチャーのステータスを一部wikiにて修正しました。


205 : ◆WqjPzMBpm6 :2017/03/16(木) 01:25:08 fWckgiZc0
>>192
これでいいですか?


206 : ◆zzpohGTsas :2017/03/16(木) 14:21:13 9YF77iBY0
投下します


207 : 武器よさらば ◆zzpohGTsas :2017/03/16(木) 14:21:42 9YF77iBY0





   きみはその右脚が左脚と違うほどにも私と異なるわけではないが、

   私たちを結び合わせるのは、怪物を産み出す――理性の睡りなのである。

                                  ――ジョルジュ・バタイユ、宗教の理論




.


208 : 武器よさらば ◆zzpohGTsas :2017/03/16(木) 14:22:01 9YF77iBY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 白い髪の、男であった。
日本人の骨格ではないと、誰もが思うだろう。
鼻が高く、顔立ちも立体的で、顎のエラもシッカリとしている。そしてただ、アジア人離れした顔をしているだけない。
顔立ちの方も、非常に整っていた。一目見て、彼を日本人であると認識出来る者は、同じ国の人物は勿論、海の向こうの西欧人ですら少ないであろう。
優れた顔立ちを持った人物の血を引いた、ハーフか、クォーターである。そうと言われても、納得しよう。

 顔付きだけでなく、身体つきの方も、完成されていた。 
アメフトの花形選手のような、岩の塊を思わせるような大きくて、重圧的で、厚みのある身体、と言う訳ではない。
余分な脂肪や贅肉を削ぎ落し、鍛える事が可能な部位を負荷と言う名の紙やすりをかけて苛め抜き、磨き上げて来た、完璧に近いレベルで無駄のない均整のとれた身体。
およそ男性が理想とするべき肉体のプロポーション、その完成形と言っても言い過ぎではなかった。顔立ちの観点から見ても、肉体の黄金比を見ても。芸術家であれば彫像のモデルに、この男を選ぶであろう。

 それにもかかわらず、その男の姿は、例えようもない違和感を見る者に与えて来るのである。
その白髪が原因であろう事は、論を俟たないだろう。十代の男女がブリーチによって髪を白くしたのとは、全く違うやり方で白くなってしまっている事を、
見る者が見ればすぐに看破する事だろう。ややブロンドの面影が残る白さではなく、齢を重ねた事で白くなって行ったような。
そう、男の髪は、染めた白なのではなく、老化からくる白なのである。それでいて、顔立ちも身体つきも、どう贔屓目に見ても二十代前半から後半までの、働き盛りの若さを保っている。その不均衡さが、余りにも無気味であった。

「見事な動きだった。戦いの最中もそちらに気を向けていたが、あらゆる動作が機敏で、無駄がなかった」

 白髪の男を呼び止める男の声が聞こえて来た。
落ち着き払った空気を感じさせる、その男の声音は、二十代後半ぐらいの年齢のもの。
冬木の町の夜の空を見上げ、空に瞬く光の点を眺めていた白髪の男が、自分を呼ばわる声の方に顔を向けた。
見事なブロンドの髪の男だった。此方の方もまた、白髪に勝るとも劣らぬ、優れた体格と長身の持ち主だ。無論、その顔つきでさえも整っている。
その上、上流階級(エリート)のみが発散する事を許された、インテリ風のオーラで溢れていた。ただ此方の方は、一目で西欧出身の白人男性だと見て取れる。
髪の色と顔・人種の違いを除けば、体格も身長も発散される空気も、何から何まで相似に近い。しかも、身に纏う衣服ですら、同じブラックスーツだった。

 ――唯一にして最大の違いを上げるとすれば、白髪の男の方は、正真正銘の生身の人間であり。
金髪の男の方は、厳密に言えば人間ではなく、この冬木の町の聖杯戦争において、サーヴァントと呼ばれる特別な存在であると言う事か。

「……浮かない顔をしている」

 金髪の方が口にした。星空を見上げて黄昏ていた己のマスターの些細な感情の機微。それを、サーヴァントであるこの男は見て取ったのである。

「奪ってしまった」

 向こうに転がっている石についての所感を述べるような、抑揚も感情もない声に聞こえるだろう。
だがその声には、自己に対する深い嫌悪のような物が隠顕している事を、金髪の男は見て取った。


209 : 武器よさらば ◆zzpohGTsas :2017/03/16(木) 14:22:35 9YF77iBY0
「命を、かな?」

 白髪の男は答えない。だが無言なのが、金髪のセイバーに図星を突かれた良い証拠である。
マスターに相当する白髪の男――『有馬貴将』は、その右手に、刃渡り一m程にも達する、柄(グリップ)のない刃状の武器を手にしていた。
戦闘になるからと言って、己のセイバーが有馬に手渡した宝具の残骸である。残骸とは言うが、その性能は、有馬が今まで振ったどのクインケの遥か上を行く。
セイバーに手渡されたこの武器は、剣身の部分が単分子で構成された、この世で最も鋭い斬れ味を誇る剣であると言う。成程、強い筈だった。
クインケを全て失った状態で、冬木の街に飛ばされた有馬にとって、セイバーの産んだ残骸とは言え、この武器は有り難い代物であった。

「だが、人から何かを奪おうとする者は、往々にして奪われる側に回るものだ。君の正当防衛(セルフディフェンス)は私が確認している。気に病む事はない」

「そんな事を言っているのではない」

 有馬は、己が呼んだ――と言うらしい――セイバーに向かって反論した。
有馬の握る、ケルト神話にその名が語られる神剣・フラガラッハと同じ名を冠した剣の刀身には、その部分だけ刷毛で一振りしたかのように、血で濡れていた。
そして、彼の足元には、首から上を消失した死体が俯せに転がっており、死体から数m離れた地点に、驚愕の表情を浮かべたままの、胴体から分離した頭が転がっている。
刎ねられた頭が、件の死体の物である事について、論議の必要性はない。勿論、これを行った当の人物が、有馬貴将であると言う事も。

「どうあれ……奪ったと言う事実が、俺は、気に喰わないだけだ」

 死体の胴体と、自身が刎ねた頭を交互に見やりながら、有馬は口にした。そして、それをセイバーは眺める。

「私が与えたフラガラッハを用いて、魔術師……と呼ばれる者の相手をしていた君の姿は、実に堂に入っていた。だからこそ、私は驚いているよ。敵のマスターを相手に一歩も引かず、傷一つ負わず。まるで死神のように無慈悲に敵を排除した君が、命についての哲学を持っていたとはね」

 CCGも何も存在しないが故に、特等捜査官と言う地位ではなく、警察官僚の一人と言うロールに割り振られていた有馬が、冬木の郊外の自宅へと帰宅する。
そんな折に両名は、自分達に襲撃を仕掛けてきた、聖杯戦争の参加主従に出くわした。
セイバーは、敵ライダーを迎え撃ち、有馬は、セイバーが渡したフラガラッハでマスターを迎え撃つ。
有馬が戦わねばならない相手は、魔術師と言う、常人の及びもつかぬ技を駆使する人物であり、有馬はそのような技を持たない。
そのハンディキャップが問題にならない程、彼は魔術師を圧倒していた。無論、宝具の残骸が強かったと言う事もあろう。
それを差し引いて、素手で戦っても、なお圧倒出来たのではないかと思わせる程に、有馬の身体能力は卓越したそれを誇っていたのである。それこそ、三騎士の筆頭、最優のクラスと言われるセイバーから見ても、見事な物と思わせる程に。

「死神、か」

 セイバーが何気なく口にしたその言葉に、有馬は思う所があった。

「そんな事を昔、言われた事がある」

 CCGの死神。最初にそれを言い出したのは、誰だったか。
扱いの難しいクインケを難なく操り、時にはクインケを持たずして喰種を圧倒し、殺して見せるその様子から名付けられたのだろうかと、有馬は思う。
言い得て妙だと思った。その名は、彼の事を端的によく表していた。何故なら死神は、死を与える事しか出来ない存在。
当初は余り深く考えられず、直感的につけられた名前が、そのまま定着してしまったのだろう。皮肉な事に、その即興で名付けられた名前は、何処までも、有馬貴将と言う男を表すのに相応しいものであったのだが。

「言われるがままに、命を奪い続ける自分が嫌だった。戦う事以外に、取り立てたものもない自分が憎かった」


210 : 武器よさらば ◆zzpohGTsas :2017/03/16(木) 14:23:06 9YF77iBY0
 その性質上喰種との戦闘が不可避の為、身体能力、つまりは身体が資本となる捜査官にあって、有馬貴将は出色の存在だった。
CCGの創設の歴史以降類を見ない程の高い身体能力で、苦も無く喰種を処理をし続けるその様は、階級の上・下を問わぬ、多くの捜査官から憧れと畏敬の対象にされた事だろう。
そして同時に、そのトントン拍子の出世ぶりに、嫉妬を抱いた者もいた事だろう。梟の名を冠する、超高レートの喰種を相手に一歩も引かぬ戦いを演じてみせたどころか、
腕の一本を奪って退けさせた功績から二階級特進を果たした逸話は、CCGにおいて知らぬ者はいない程の有名な事実であった。
CCGにも、権力闘争のような物はある。そしてそう言う物がある組織では往々にして、異例の出世を果たす若者は嫌われる傾向にある。
有馬も、一部の捜査官からは嫌われただろう。しかし、どちらにしても言える事は一つ。彼は組織の中にあって間違いなく、最も大きな憧れの対象であったと言う事。
捜査官の中には、喰種に己の家族や身内を殺された者も多く、当然、喰種を強く憎んでいる者も珍しくない。そんな彼らにとって、有馬貴将と言う男は組織の中の大いなる希望、輝ける一つの太陽であった事は想像に難くない。

 そんな、周囲から向けられる羨望や期待とは裏腹に、有馬の心は暗く淀んでいた。
上から言われるがままに、喰種を殺し、未来と赫子を奪い、Vの策略によって殺される多くの人間についても、見殺しにして来た。
奪い、殺すだけの半生だったと有馬は思う。死神と恐れられ、CCGの中でも一際の憧憬を抱かれていた男が常に抱いていた感情は、己への嫌悪だった。
喰種の対策を主な仕事とするCCGの中で、最も優れた捜査官である有馬貴将と言う男はその実、戦い、殺し、奪う事だけに極限にまで特化した男なのだった。

「そんな自分に腹が立ったから、未来に何かを残せないかと色々足掻いたが……そこで、初めて知った。何かを殺し、奪う事に比べて、何かを活かし、残す事の、何と難しい事なのか、をな」

 有馬貴将は、よく燃える紙のような男である。彼の人生は余りにも短く終わる事が確約されている。
外見は二十代後半から三十代前半の男性のそれであるのに、彼は既に、六十を超え、七十に届かん老齢の人間にしか発症しない病に侵されている。
見た目は正に、脂の乗った働き盛りにしか見えないと言うのに、医学的に彼の身体は、完全に老人のそれであった。
有馬貴将の人生はよく燃え、よく輝いていたと言えるだろう。そしてそれ故に、早く燃え尽き、死に至る。彼には、太く短い人生が生れ落ちた瞬間に運命づけられていた。
だからこそ、有馬は躍起になった。この世を覆う理不尽と言う名の鳥籠を砕いて見せる強い人物を、青い空に向かって羽ばたき飛んで行く蝶のように綺麗ななにかを、残して見せると言う事に。

 そして遂に、有馬貴将は、その短い人生の中で『何か』を残せた。
金木研――嘗て佐々木琲世と言う名前で共に生活していた有馬の友人は、老衰で死ぬ運命に在った有馬を打ち倒し、
二羽の梟が温めていた高御座へと到達し、ビレイグへと至った。常人の半分もないだろう短い時間しか生きる事が許されないの人生の中で、見事、有馬貴将は死神から人間に戻れたのだ。

「俺は、『何か』を残した。それでもう、十分だった。……だが」

 そして、有馬は冬木にいた。此処にいる理由のタネを明かせば、何て事はない。
金木が破壊したクインケであるフクロウに、この冬木へと至る為の鉄片が、部分的に用いられていたと言うだけの事。
たったそれだけの理由で、元居た世界での満足と充足を、有馬は踏み躙られた。怒りを覚えていないと言えば、嘘になる。
この上まだ、自分に何かを奪って見せろと言うのだろうか。CCGもなく、喰種もない。こんな世界でですら、有馬貴将は、戦い続ける運命に在ると言うのだろうか。

「……俺はもう、都合の良い武器になりたくない。奪い、殺すだけの人間にはなりたくない」

「生前の経験から言えば、人は、武器にはなり得ないぞ。マスター」

 黙って話を聞いていたセイバーが、口を開いた。

「生前、我が父に当たる男が持論のように口にしていた事を、今でも私は忘れない」

「それは何だ」

「マスター、エノク書、と言う旧約聖書の系譜に連なる書物の中に登場する、エグリゴリと言う天使の集団を知っているかね?」

「……いや」

「そうか。彼らは、神が独占していた禁断の知識をヒトに与えた責任を追及され、地上に堕天せざるを得なくなった天使達だ」

 セイバーは、今まで有馬が握っていたフラガラッハの剣身を摘まみ、引っ張る。
有馬はそれを、返して欲しいと言うジェスチャーだと考えたか。今まで握っていたそれから、手を離した。


211 : 武器よさらば ◆zzpohGTsas :2017/03/16(木) 14:23:40 9YF77iBY0
「彼らは人に多くを伝えた。魔術、化粧、天文学、薬学、修辞学……何れもが、人類の進歩にかかずらう重要な技だ。その中でも特に、人類の進歩を促した知識は、何だと思う」

「……解らんな」

「彼らの教えた知識、その中で最も人類を進歩させ、そして最も人類を殺した技術。それは、『武器の作り方』さ。エグリゴリの首魁である堕天使、アザゼルはこれを人類に教えてしまったのさ」

 武器、か。有馬は考える。捜査官の振う武器であるクインケは、喰種が操る赫子と言う器官が元となって成立する。
クインケのそんな特徴の故に、殺される喰種の数も、決して少なくはなかっただろう。武器で人を殺すだけでなく、武器を得る為に武器で人を殺す。
そしてそれは喰種についても同様で、己の器官である赫子で、捜査官のみならず市井の一般人を殺して捕食する。アザゼルとやらが、神に天上から追放される筈だった。人に武器を伝えたその天使は、余りにも地上に血と罪を振り撒き過ぎていた。

「だがな……私は知っている。武器は所詮武器なのだと。人が武器を操り、時に操られる事はあれど、人が武器になるなど、あり得ないのだと」

 それを、セイバーは経験から知っていた。
何処へでも行けるが故に迷い、何者にもなれるが故に見失う。ヒトとは、そんな生命である。
一つの使い方しか出来ぬ、一つの存在意義しかない武器単体では、そんな多様性はありえない。
武器を握った人間は、時に驕った風に気取り、時に狂ったような行為に出、時にその重みに臆する。それもまた、人の多様性である
だが、セイバーが見て来た者達は、必ずしも、そんな愚者ばかりでなかった。
己の人生を容易く栄華の頂点にまで上り詰めさせ、他者の人生を容易く奪え、地球ですらをもひっくり返す力を分け与えられた少年少女が、
その力に時に振り回されつつも、その力で人を救い、そしてついにその力と訣別した事を、この男は知っている。
剣である事を捨てられる剣はない。銃である事を捨てられる銃もない。だが、剣や銃を、人を殺傷せしめるアイテムとしてでなく、何かを守り、未来を切り開くアイテムとして活用出来るのは、人間だけなのだ。人間だけが、何かを殺せる道具を、何かを守る為の道具として活用させられるのである。

「君は己を武器と言った。そして、その在り方について悩んでもいる。君の葛藤は、既に破綻しているのさ」

 「そう――何故ならば」

「自分が死神(ぶき)である事を悩む死神など、存在しないのだから。君は何処にでもいる、人並の悩みを抱えた、人より年を取りやすい、ただの一人の人間だ」

 其処でセイバーは言葉を結んだ。
ややあって有馬は、己の右手を顔の前まで持って行った。辛うじて視力が残っている左目が、彼の手の像を結んだ。数え切れぬ程の生を奪い、死を与えた手である。

「俺も……出来損ないを脱却出来るだろうか」

「得てして落ちこぼれの方が逞しくなる事もある。私のようにな」

 拳を作りながら、有馬は口を開いた。

「……初めての感覚だ。俺にも、欲が出て来た」

「ほう」

「やはり俺は、己を武器だと思っている。だが意思を持った武器だ。サーヴァントと言う武器を従える武器だ」

 地面に放っていたアタッシュケースの方に近付く有馬。その中身を空け、あるものを取り出した。
手袋である。それを手に嵌めた後、葬ったマスターの死体の方へと近付いて行く。

「ならば俺は自分自身の意思で、サーヴァントと言う名の武器を破壊し、彼らを従え悪を成すマスターを倒し、生きたいと願う人間を生かす武器になろう。それが、老い先短い人間の出来る、最良だと信じているからだ」

「……成程。それがマスター、君の選択か」

 今まで握っていた、単分子の剣を放り投げた。
その瞬間、フラガラッハの名を冠するそれは灰色から、土塊のような色に変貌して行き、風化。風に吹かれて散り散りに霧散してしまう。

「それが君の選択ならば私も、君に従う意思ある武器となろう。聖なる杯に仇を成す、金属の暴力となってやる」

 有馬は顔をセイバーに向けた。左目が映す彼の姿は、誰がどう見ても、映画や小説の中で描かれる、白人風のエリートのステロタイプである。
だが何度見ても、彼の纏うその雰囲気は、卓越した戦士のそれにしか見えない。そのアンバランスさが、酷く奇妙で、捻じれた印象を見る者に与える。


212 : 武器よさらば ◆zzpohGTsas :2017/03/16(木) 14:23:55 9YF77iBY0

「良い目になった。それが本来の有馬貴将か。自分のなすべき事をみつけ、微塵の迷いも振り払った『戦士』の目。緑(グリーン)の名を与えた、我が弟を思い出す」

「緑……か、確かお前は……」

「父から黒(ブラック)の名前を与えられている。尤も、もうその名前は何の意味も成さないのだがね」

 サミュエルと言う男から、憂いと艱難辛苦、希望を象徴する青の名を与えられた兄は、黒の名前を渇望していた事もあったが、セイバーはそうではない。
黒と言う名前ですら通過点でなく、そして最終的には、同じ遺伝情報、同じ身長、同じ顔に同じ声をした、エドワウと言う名をした兄弟と昔決めあった名前に戻って来た。

「我が真名を呼ばれる事があるとすれば、せめて『セロ』と呼ばれたいものだな」

 父である白(ホワイト)から与えられた名前である『キース・ブラック』、その呪縛からセイバーは既に解き放たれている。
父、キース・ホワイトが築いた、人の命を積み上げて作り上げたバベルはとうの昔に、彼がドン・キホーテとタカをくくっていた仁愛の騎士に破壊された。
ブラックの名前は既に意味を亡くした。ならばせめて、マスターである有馬から呼ばれる時も、敵からその名も叫ばれる時も、キース・ブラックと言う型番ではなく、セロとして呼ばれたいものだと、ブラックは思っているのであった。

「死体を、埋める……いや、埋葬するのだろう? 手伝おう」

「助かる」

 マスターの死体を放置したままでは、問題も残る。そしてせめて、人間として葬ってやりたいと、有馬は思ったのである。
冬木の田園地帯に近い場所で、なおかつ、魔術師が戦闘前に人払いの術を張り巡らせていた事が幸いし、この辺りには人一人存在しない。
今ならば怪しまれる危険性もない。有馬は、自分が刎ね飛ばしたマスターの頭の下へと近付いて行き、驚愕の表情を浮かべたままの頭を手に取った。

「やろう、セイバー」

「ああ」

 夜も遅い、日を跨いだ深夜の一時の出来事であった。


.


213 : 武器よさらば ◆zzpohGTsas :2017/03/16(木) 14:24:10 9YF77iBY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





   これは、嘗て組織と個人に振り回される武器(ARMS)に過ぎなかった男達が、己の腕(ARMS)で何かを残そうと決意した物語








【クラス】

セイバー

【真名】

キース・ブラック(セロ)@ARMS

【ステータス】

筋力C 耐久A 敏捷A+ 魔力D 幸運D 宝具A+

【属性】

秩序・悪

【クラススキル】

対魔力:C(A+)
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
宝具を展開した場合には、括弧の中のランクに修正。A+以下の魔術を全てキャンセルする。

騎乗:E
セイバーには乗り物を乗り回したという騎乗の逸話は存在しない為、最低ランクである。

【保有スキル】

カリスマ(偽):A
大軍団を指揮する天性の才能。セイバー自身のカリスマ性は決して偽物ではなく、寧ろ魅力的とも言えるのだが、生前の彼の魅力の殆どは、
軍産複合体の秘密結社であるエグリゴリのトップと言う地位と、アドバンストARMSを埋め込まれた怪物と言うあり方を拠所としていた。
必ずしも完璧なカリスマではなく、生前は自らが生み出した、『緑』の名を冠した自らの懐刀に造反されている。

再生:A+(A++)
ARMSコアが破壊されない限り、いかなる傷を受けようとナノマシンによって修復される。
その再生速度は凄まじく、左胸に大きく穴を開けられても次の瞬間には塞がっているほどである。
ただしこの世で唯一、ARMSのナノマシンを停止させるウイルスプログラム『ARMS殺し』によって刻まれた傷だけは治癒することができない。
が、セイバーに埋め込まれたアドバンストARMSである『神の卵』は、自らが展開可能な特殊な力場を発動させる事で、そのARMS殺しすらも無効化する。

進化:A
一度攻撃を受けると、セイバーに埋め込まれたARMSコア『神の卵』が自動的に耐性を作り出す。
また『神の卵』は戦闘用ARMSであり、戦えば戦うほど、痛みを受ければ受けるほど、より強大に進化していく。
この進化には際限など存在せず、適正者の意思で封じ込まねば無限に進化しようとする。

計略:B
物事を思い通りに運ぶための才能。状況操作能力。戦闘のイニシアティブ判定において常に有利な修正を得る。


214 : 武器よさらば ◆zzpohGTsas :2017/03/16(木) 14:24:35 9YF77iBY0
【宝具】

『神の卵(パンプティ・ダンプティ)』
ランク:A+ 種別:対人(自身)/対人/対軍宝具 レンジ:-/2〜3/30 最大補足:-/2/50
セイバーの体内に埋め込まれているアドバンストARMSコア。――これは、種別するのが非常に難しい宝具である。
ARMSとは、炭素生命体とケイ素生物のハイブリッドであり、ナノマシンの集合体である。
殆どの人間には適応せず、短時間で全身を侵食されてしまうが、極稀に適応する遺伝子の持ち主が存在する。
適正者は、ARMSによって人間の域を超えた身体能力と特殊能力を得ることが出来る。
また、身体の一部をケイ素で覆ってARMS化させることができ、その際にはARMS化した部位の耐久力や身体能力は格段に上昇する。
適応力が高くなれば、全身のARMS化が可能となる。 ただし一度適正者となったものは、コアを砕かれてしまうと身体を保つことができなくなり、
鉱物のように砕け散ってしまう。 ――この点において、自身に作用する『対人宝具』と言えるだろう。

四種の『オリジナルARMS』のランクはEXであるが、『神の卵』はARMSを制御するべく人工的に作られた『アドバンストARMS』であるのでランクは落ちる。
オリジナルより希少価値こそやや劣るものの、『神の卵』は嘗て生み出されたアドバンストARMSの中では最強の力を持ち、実際の能力はオリジナルと全く大差がない。
『神の卵』の能力は、ARMS達の元となったアザゼルの、金属生命体としての始原的な特性に最も特化したそれ。
その細胞はあらゆるエネルギーを吸収し、進化の糧にする為破壊は出来ず、手で触れた『ARMS』の力を自分の物とする。
真名解放と同時に、『最終形態』と呼ばれる形態に変化し、こうなると全身が靄のような黒いエネルギーの力場によって覆われ、
輪郭が判然としないぼんやりした人型のシルエットとなる。この力場を展開している限り通常兵器や勿論の事、A+ランク以下の魔術及び筋力A以下の攻撃を無効化する。
無論最終形態時の魔力消費量は決して馬鹿に出来ず、維持するのにも相当量の魔力が必要になる。――この点においても、自身に作用する『対人宝具』と言えるだろう。

セイバーは、生前『神の卵』が取り込んだ力を自らの能力として完璧な精度で扱う事が出来る。
このクラスで操る事が出来る能力は、この世で最も鋭利な切れ味を誇る単分子ブレードに腕を変化させる『神剣フラガラッハ』。
『チェシャ猫』のアドバンストARMSが行使する事の出来た、空間断裂及び空間振動の引き起こし、及び空間の断裂を応用して行う瞬間移動と、
自らを中心とした360度全域、射程100フィートに、超高密度空間断裂を驟雨の如く引き起こさせる全方位無死角攻撃、『魔剣アンサラー』。
『グリフォン』のアドバンストARMSが使った、ブレードを高出力の振動子にし、凄まじい超振動と超音波を発生させ、相手を粉砕、斬り裂いたるする技。
そして、『魔獣』のオリジナルARMSから奪い取った、超高ランクの不死殺しスキルと事象破壊スキルを保有する『ジャバウォックの爪』。
以上4つの能力を行使可能。――この点において、相手に対して斬りかかれる対人宝具、無数の相手を空間断裂で切断、超音波と超振動で粉砕出来る対軍宝具と言えるだろう。

ランサークラスであれば『帽子屋』と、生前に『白』のキースがセイバーの身体を乗っ取った時に『神の卵』で取り込んだ『騎士』の能力を。
アーチャークラスであれば『三月兎』と『眠り鼠』の能力を、『神の卵』で行使する事が出来る。なおジャバウォックの爪は、これらのクラスで呼び出されても使用可能。


215 : 武器よさらば ◆zzpohGTsas :2017/03/16(木) 14:25:02 9YF77iBY0
【weapon】

【人物背景】

エグリゴリと言う軍産複合体を統率する最高幹部、その筆頭であり、キースシリーズの長兄だった男。
ある少女の絶望がプログラムされており、その少女の意思に従い、多くの人物に不幸を振り撒いて来た。
幻想(プログラム)に翻弄され続け、そして遂に、嘗て自らの手で右腕を斬り落とし、父を殺された少年によって引導を渡された黒いキース。
 
【サーヴァントとしての願い】

別世界の人類の可能性を見極める。今は有馬貴将を通じて、それを行う。



【マスター】

有馬貴将@東京喰種トーキョーグールシリーズ

【マスターとしての願い】

此度の聖杯戦争に呼び出されたサーヴァントを全て抹殺し、最後に顕現するであろう聖杯をも砕く

【weapon】

元の世界では様々なクインケを振っていたが、この世界にはそれらを持ちこめていない。
なので、戦闘の際はキース・ブラックが神剣フラガラッハを、己の腕を斬って分離させる事で有馬に与え、それを振って活動する。

【能力・技能】

半人間:
喰種を片親に持つ交雑種であるが。だが、人間の食物を全く受け付けず、人間を食べる事で栄養を摂取する喰種と違い、人が食べられる物を食す事が可能。
人間に近い性質を有している一方、雑種強勢の影響により常人を遥かに凌駕する身体能力を持っている。
だがその反動か、通常の人間よりも肉体の老化速度が著しく速く、非常に短命。その証拠に今の有馬の髪の色は全て真っ白の上、本来年齢的には発症する確率が低い緑内障を患っており、この影響で右眼は完全に失明している。

【人物背景】

喰種対策局(CCG)に所属していた特等捜査官にして、CCGの死神とすら謳われた程別次元の戦闘能力を有していた人間。
その正体は前述の通り、喰種と人間の間に生まれた半人間。その優れ過ぎた能力の故に、常に組織から誰かを殺し、奪い続ける事を強いられてきた。
が、その人生の最後で、ある人物との約束の果てに生まれた一人の王を世界に残す事に成功。満足のまま、この世を去った、32歳の老人。

東京喰種トーキョーグール:reの8巻終了後の時間軸から参戦。

【方針】

日常を過ごし、敵が現れたら対応する。


216 : 武器よさらば ◆zzpohGTsas :2017/03/16(木) 14:26:31 9YF77iBY0
投下を終了いたします。
またステータスシート作成の際に、二次キャラ聖杯戦争のアレックスを参考にした事を明記いたします


217 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/16(木) 16:21:15 r24iTHsc0
>>205
 はい、大丈夫です。お手数おかけしました。


そして、投下ありがとうございます。感想は次の投下の際に書かせていただきます


218 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/16(木) 19:07:22 PyMjLPGw0
拙作「美国織莉子&ライダー」を再修正したことを明記しておきます。

投下します。


219 : 阿伏兎&バーサーカー ◆lkOcs49yLc :2017/03/16(木) 19:08:22 PyMjLPGw0
何かが光で照らされている限り、影は必ず現れる様に。
ヤクザがどしんと座り込んでいる事を除けば基本的に平和そうなこの冬木市にも、裏の世界と言う物は存在する。
此処は、その裏の世界の人間が入り浸る、夜間営業のバーである。

見てみれば、其処には沢山の人達で溢れ返っている。
多種多様な入れ墨に、物騒な傷跡。
如何にも、と言ったような雰囲気を構えた裏社会の人間が、このバーに集まると言う。
例えば彼処の席では、複数のグループがトランプやボードゲームに勤しんでいる。
恐らく金でも賭けているのだろう、幾らかは分からないが。

そして―あちらの席では―

「はぁ、全くどうしたもんかねぇ。」

ボロボロのコートを身に纏った中国人のオッサンが一人、グラスに注ぎ込まれたビールをグビリと口にする。
男の名は阿伏兎。
偽られた混沌の演算装置の中に巻き込まれたマスターの一人である。

「オイオイ、どうした?」

隣りで酒を飲む、「同業者」と「設定された」男性が、気軽そうに声を掛けてくる。
阿伏兎がこの聖杯戦争にて与えられたロールは、「中国マフィアの一人」だそうだ。
因みにこの夜兎族専用義手は「戦いで腕を負傷したことが付ける理由」になっているそうだ、全く台本の書き方が上手な物だ。

「いや、別に。」

素っ気なく誤魔化すように、ジト目で阿伏兎は誤魔化すように言う。
そうか、と言って同業者は口を閉じる。

「しっかし、きつかったな、今日の姉さん。」
「幾ら御見舞が失敗したからと言ってな。」

酒を飲んだ勢いからか、つい口から愚痴が溢れる。
同業者の話は、自分達が雇われている組織のリーダーのことだ。
美人なのだが、しかし御見舞がしょっちゅう失敗してしまい、その度にヤケクソになって自分達部下に八つ当たりをけしかけてくると言う。
今回被害にあった同僚の数は相当だ、飲む機会が無かった事に感謝。

(面倒くせぇ上司、ねぇ……)

ふと、元の世界での上司の姿が目に浮かぶ。
神威。
宇宙にその名を轟かし、数多の星を飛び回る夜兎族の中でも、特に夜兎らしいとされた人物。
年下で有りながら春雨の幹部に就いた程の実力を持ち、えいりあんはんたーの血を引くだけあって相当に強いのだが―

(彼奴、ぜってぇ何かやらかしているだろ、こりゃ)

―心配だ。
彼はべらぼうに強いしそこからなるカリスマ性に自身も惹かれている。
だが彼は―問題児だ。それも立派な。
例えて言うならいきなり転校してきた学校で「殺しちゃうぞ☆」と言って喧嘩を売ってくるような奴だ。
正にB-BOP神威くんだ、不良だ、超の付くほどのクソガキだ。

そして、そんな彼を補佐するのが、この自分の役割なのである。
しかし一週間前、仕事で訳の分からない鉄屑を手にしたこの阿伏兎は、今補佐の役割から切り離されてしまったのである。
これじゃぁ、あの脳筋ウサギは確実に何かをやらかしてしまう。
いや、仕事から切り離されて、自由だ、とは実際感じているが。
例えて言うなら学校を休むのと引き換えにインフルエンザの疲れと吐き気に苦しむ感覚、これに似ている。

(つーか、こんな俺に願い……ねぇ……)

阿伏兎に願いといえる願いは無い。
強いて言うのなら、この聖杯戦争からの脱出。
今の自分に叶えたい願いは無い。
ならばこの世界からとっととトンズラしてやる。
それが阿伏兎の、この聖杯戦争における方針だ。

「おーい、餃子食うかい?其処のチャイナ二人組。」

気のいい店主の声が聞こえてくる。
結果、阿伏兎はニンニクとビールと男臭の混じった臭いを撒き散らし、このバーから出るのであった。


◆  ◆  ◆


220 : 阿伏兎&バーサーカー ◆lkOcs49yLc :2017/03/16(木) 19:09:05 PyMjLPGw0


「あ―……イテテテ……。」

フラフラと頭を抱えながら、阿伏兎は公園の入口に入り込む。
さっきから飲んだ勢いで頭にズキンズキンと来る。
天下の夜兎族もお酒には弱いのか、鳳仙様は良く飲めたモンだ、と考えながらも、阿伏兎は倒れかけるようにベンチに腰掛ける。

「よいしょっと。」

ベンチに体重を掛け、背もたれに背中を任せる。
ふぅと落ち着いた所で、阿伏兎の直感に何かが干渉してきた。

「!?」

この感覚を阿伏兎は、既にChaos.Cellに来て何度かは経験している。
それは威圧。
それは恐怖。
それはオーラ。
あのアホ団長とも、キレた団長の妹さん、果ては鳳仙にまで匹敵するほどの、この気迫。
それは最強の戦闘種族たる己にしてみても、酔い覚ましとしては丁度良いぐらいの寒気だ。
覚めた顔を引き締め、口を開く。

「出てきなよ、バサカちゃん。」

阿伏兎のその言葉に呼応し、眼の前で光の粒子が収束する。
出現したのは、この夜に溶け込みそうな程に真っ暗な色をした―異形の怪人だった。
しかし異形の怪人は、しゅるしゅると形を変え、人間の姿を形作る。
西洋風の軍服を身に纏っているが、阿伏兎を圧倒するその気迫は、未だに衰えていない。
彼に与えられたクラスは「狂戦士(バーサーカー)」。
この聖杯戦争にて、阿伏兎とお供することとなる「サーヴァント」だ。

「で、成功したのか?2時間で300人、って云うのは。」

バーサーカーの真名、ゴ・ガドル・バ。
殺した人間の数を競い合う戦闘民族「グロンギ」の頂に立たんとした戦士。
彼が所属するグロンギは、一定時間内に決められた人数分だけ人を殺す「ゲーム」にて頂点を極めんとした種族だ。
その逸話から、このバーサーカーの様にグロンギ族のサーヴァントは、ゲームを成立させることにより能力を向上させることが可能、だそうだ。
勿論、殺した時間が短ければ短いほど、殺した数が多ければ多い程、報酬は上がっていく。

「……いや、失敗だ。」
「!?」

阿伏兎の目が見開く。
有り得ない、と言いたげな表情と共に。
気迫からして、バーサーカーの実力は本物だと言って差し支えないだろう。
そのバーサーカーが、ゲームに失敗したと言う事実に、阿伏兎は驚きを見せる。

「ゲゲルは確かに順調ではあった。
だが、残り数人と言う所で襲撃してきた一人のサーヴァントによって時間が遅れ、ゲゲルは失敗した。」
「んで、そのサーヴァントはどうした?」
「倒した。」
「へぇ。」

当然だと言い切るように仏頂面を崩さぬバーサーカーに、やはりか、と驚きの表情を見せる阿伏兎。
しかしバーサーカーは、何処か思うように、言葉を続ける。

「倒したセイバーは、見事な英雄であった。
嘗てのリントの様に争いを拒む事は無かった。
が、きゃつの実力は、あのクウガにも劣らぬ物であった。」

……と、バーサーカーは強い者と戦う、と言う事が至高の喜びだそうだ。
強者と鎬を削り合い、死闘の果てに掴んだ勝利に酔う。
それがゴ・ガドル・バの生き様だと、阿伏兎の目にはそう映った。

(はぁ……団長と言い此奴と言い、何で俺はこんな奴に縁があるのかねぇ……)

今後も面倒な付き合いになりそうだ、と考え、阿伏兎は布団干しのようにベンチの背もたれに胴体を引っ掛ける。


221 : 阿伏兎&バーサーカー ◆lkOcs49yLc :2017/03/16(木) 19:09:24 PyMjLPGw0



【クラス名】バーサーカー
【出典】仮面ライダークウガ
【性別】男
【真名】ゴ・ガドル・バ
【属性】混沌・悪
【パラメータ】筋力A 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具C+(格闘体)

【クラス別スキル】

狂化:E
理性と引き換えに自身のパラメータを向上させる能力―
のはずだが、グロンギ族の精神は最早狂っていると言って差し支えないので、基本的に狂化の恩恵は受けない。
後述のスキル「殺戯の功」によってゲゲルを成功させる事で、闘争本能とパラメータを向上させることは可能であるが。

【保有スキル】

勇猛:B
威圧、混乱、幻惑などの精神攻撃を無効化する。
また、格闘ダメージを増強させる効果もある。

戦闘続行:A+
グロンギは戦う生物。
その体が朽ちるまで戦い続ける。
金のクウガの封印パワーや神経断裂弾を耐えられる程度の実力。

破壊のカリスマ:A
ゴ集団最強の戦士としての風格。
対象にBランクの威圧を与える。

殺戯の功:B
ゲゲル・グゴガ。
ゲームで殺した人間の数を誇りとするグロンギ族の「ゲーム」の再現。
殺す時間と人数を指定することでこのスキルは発動し、その間「人」属性の英雄に対し補正が掛かる。
もしゲームに成功すればパラメータは一定期間上昇するが代わりに失敗すればパラメータは一時減少する。
ゲームは宝具が埋め込まれているバックルを起動することが掟となっており、本来ならラ・バルバ・デの指輪が鍵となっていたが、
サーヴァント化したお陰で自由に押せる。


【宝具】

「強さ求める甲王の霊石(ゲブロン)」
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1
バーサーカーのベルトのバックルに埋め込まれている霊石。
グロンギ族にとって最も特徴的な物質で、これがなければグロンギは只の人間である。
バーサーカーの全身の神経に接続されており、バーサーカーの肉体を構成する一部と化している。
魔力源としての役割も果たしており、これにより消費する魔力は其処まで多くはない。
この他、魔力以外にもバーサーカーに様々なパワーを与えている。
「モーフィングパワー」と呼ばれる物質変換能力を与え、剣や弓、槍等を生成する力を有している。
また、バーサーカーの身体を変化させる能力、電撃を吸収する能力なども保有しており、バーサーカーはこの影響で「電撃体」に変化する能力を手にした。
ただし、スキルでこの宝具がゲーム開始時にセットされた状態で魔力がこの霊石に引火した瞬間、バーサーカーは爆裂四散する。

【Weapon】

「勾玉」
バーサーカーの肉体に付いている装飾品。
これをネックレスから千切り取る事で、モーフィングパワーで武器を生成できる。
バーサーカーは各フォームに併せて、槍、弓銃、剣の三つの武器を使いこなす。

【人物背景】

人間を殺戮する「ゲーム」によって地位を確立する戦闘民族「グロンギ」。
その最強の座を手にする「ファイナルゲーム」に最も近い「ゴ」の位を持つ者の中でも最強の存在を確立させている男。
自他ともに認める「破壊のカリスマ」で、その姿には多くのグロンギがひれ伏す。
クウガとの戦闘においてもそのクウガに似た力で翻弄するが、「究極の闇」の一歩手前となったクウガに倒される。

寡黙だがプライドが高く好戦的な性格。警察官を「リントの戦士」として見ている。
人間態では軍服姿、カッコいい。

【聖杯にかける願い】

リントの英霊と戦う。
もし聖杯が手に入ったなら、ザギバスゲゲルを再開するのも悪くはないのかもしれない。


222 : 阿伏兎&バーサーカー ◆lkOcs49yLc :2017/03/16(木) 19:09:46 PyMjLPGw0



【マスター名】阿伏兎
【出典】銀魂
【性別】男

【参戦経緯】

春雨での仕事で偶々鉄片を手にした。

【Weapon】

「日傘」
夜兎族が所持する特殊な日傘。
日光に弱い夜兎族が日中でも行動出来るようにするために作られた代物だが、しかしこれは只の日傘ではない。
傘の素材が異常に硬く、殴棒や盾として優れた役割を果たす。
因みに先端はマシンガンとなる。弾切れは起こるようだが、何処から充填しているかは不明。

「義手」
夜兎族はその性質上、身体の一部が千切れる者も少なくはない。
四肢はその治癒能力でも治せない為、義体の技術が発達している。
彼の左腕に付いている。


【能力・技能】

・夜兎族
傭兵三大部族の一つに数えられる戦闘種族。
異常な程の戦闘力を誇り、数多の星を潰していったと伝えられている。
しかし日光に弱い事が祟り、今では闇ルートで売れるレベルで希少になっている。
日光に弱いため、日傘と透き通ったような白い肌が特徴となる。

【人物背景】

宇宙シンジケータ「春雨」の第七師団副団長にして、夜兎族の生き残り。
団長にして同胞の神威に振り回される苦労人だが、一方で神威の持つ特別な魅力に惹かれつつある。
神威の実力には一目置いており、神楽が暴走した際には神威の面影を垣間見た。
鳳仙が放った一撃で隻腕となっており、夜兎族専用の義手を付けている。
飄々としているが、意外と夜兎族にしては常識人(と言うより神威が異常すぎるからか)で、一族同士の闘いを好まない。
でもやっぱり夜兎族は夜兎族、彼も彼で好戦的な性格ではある。
吉原炎上篇後からの参戦。

【聖杯にかける願い】

帰る、向かってくる敵は倒す。

【把握資料】

バーサーカー(ゴ・ガドル・バ):
彼自身は2クール目(ズ集団が減少し、ゲリザギバスゲゲルが近づくことが示唆される所)から姿を表していますが、
戦闘シーン及び基本的な性格は最低限37〜38、44〜47話のみで把握可能。

阿伏兎:
吉原炎上篇(原作25〜26巻)のみで把握自体は可能。
只、ちょっとしたエピソードで彼の苦労ぶりが見られるので、良ければそちらも。


223 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/16(木) 19:10:03 PyMjLPGw0
投下を終了します。


224 : ◆z710QqxI4Y :2017/03/16(木) 19:58:51 Ze0sMX9k0
皆様、投下乙です
以前、聖杯四柱黙示録様に投下した作品を加筆修正したものを投下させていただきます


225 : Holocaust ◆z710QqxI4Y :2017/03/16(木) 20:00:48 Ze0sMX9k0
月が高く昇り、街を光で照らす深夜。

辺り一面は焦土と化した地獄から体を引きずって、この場から離れようとする男。這々の体で逃げる様は無様というほかなかったが、そんなことは今の男にとってはどうでもいいことだった。

男は優秀だった。一流に迫るほどの魔術の才能を持ち、短時間で質の良い陣地を作る手際。
呼び出したサーヴァントは大技を持たないまでも小回りの効くランサー、関係もビジネスライクとしてそれなりに良好なものであった。
自分であれば必ず勝ち残り、聖杯を手に入れるのだと確信していた。決して単なる自惚れではなかったはずだった。

そんな彼にとって不幸なことだったのは二つ。
一つはこれが聖杯戦争であったこと、魔術師として優秀であっても、戦闘に関する経験がなかった。

もう一つは襲撃者が生粋の戦士であったこと。そして、それがとてつもない暴力の化身ということが彼を破滅に導いたのである。


226 : Holocaust ◆z710QqxI4Y :2017/03/16(木) 20:02:16 Ze0sMX9k0
◆     ◆     ◆


山小屋を中心に作られた陣地で二人のサーヴァントが槍を交える。
自身の宝具の効果により強化されていた男のサーヴァントである鎧武者のランサーは地力だけの襲撃者のサーヴァントに叩き潰された。
白髪のマスターはこちらの攻撃を全て躱し、動きに反応できない男は相手に翻弄され、深手を負った。
絶望的な状況であり、このままいれば確実に殺されると思った彼は這い蹲りながら彼らから少しでも離れようとする。
どこに逃げればいいかは分からない、ただ彼らから離れなければいけないという意思だけで動いていた。

だが――

「逃がすわけねえだろうが、クソが」

逃げようとした男の身体が相手のマスターに蹴り上げられる。蹴り上げられた男は叫び声をあげる体力すら無くなり、痛みをただ感じるぐらいしかできなくなっていた。

「無駄な手間かけさせんじゃねえよ。こちとらテメエみてえなカス、こんな状態じゃなきゃ喰いたかねえんだよ。とっととすませ「ま、待て」--あ?」

「わ、わざわざ私を殺す必要はないのではないか? 私はサーヴァントを失った、令呪もここで放棄しよう。
これ以上、この聖杯戦争には関わらない。そうすれば君が私を殺す理由は無くなるだろう? だ、だから命だけは「うるせえ」--ぎっ、ああああああああ!?」

「テメエを殺す理由? さっき言っただろうが、テメエを喰うためだ」

「ひっ――」

「そんな訳だ、これ以上の御託を聞く気はねえ。とっとと死ね」

「や、やめ――」

そう言って白髪鬼は何の躊躇いもなく、男の頭を無造作に踏み潰した。
最期の命乞いは徒労に終わり、栄光を掴むはずだった男の命はあっけなく終わったのである。
そして、そんな男の最期を見て、少しばかり鬱憤が晴れた白髪鬼――ヴィルヘルムは自身のサーヴァントであるバーサーカーの方を見た。

「終わったか?」

「ああ、ちょうどな。ただどうやら喰える魂ってのはマスターだけみてえだな、NPCつったか? ありゃ、単なるカスだ。腹の足しにもなりゃしねえ」

エイヴィヒカイト――カール・クラフトが開発した聖遺物と霊的に融合し、超人的な力を揮うことが可能となる魔術。
人を殺せば殺すほどに魂が聖遺物に回収され、その回収した魂の量に比例して術者は強化される。
その強化の度合いは凄まじいもので、百人殺して百の魂を得たものは常人の百倍に相当する生命力を有した異種生物になるのである。
しかし今のヴィルヘルムは完全に枯渇し、自前の魂しか残っていない。この状態で無理に使おうとすれば、自前を削り己が欠けてしまう。
そんな愚行を彼はこの聖杯戦争において、やるつもりはない。とはいえこのままの状態で戦い続ければ、途中で力尽きるのは目に見えている。
そうなることを避けるために、この戦争で彼に必要なことは燃料補給、つまり魂の回収である。
この冬木市においてはマスターの魂だけが燃料となり得る。NPCの魂は生きた人間の魂とは比較にならないほど質が悪く、エイヴィヒカイトの燃料にはならないため、街一帯の住民を皆殺しにしても意味がない。
またマスターの魂を集めたとしても、数人程度では初期段階の活動位階までなら何とか使えるかもしれないが、その上にある形成と創造は聖杯で魂を補充するまでは使えない。
バーサーカーへの魔力供給に力を割いている状態でそれらを使えば、大した威力も出ずにすぐ魂が枯渇し、魔力供給に支障が出る。今の彼は身に宿す魔業は全てを実質封じられている。
ゆえに今、彼にあるのは持ち前の高い身体能力と膨大な実戦で培われた経験と勘である。

「本当ならこんなクズを喰う気はねえんだが、贅沢は言ってられねえ。こんな所で死ぬ気はねえんだからよ」

ルートヴィヒが最期に落とした『鉄片』はクラウディアが拾い、それをヴィルヘルムに渡した。本当ならあの男のものなどすぐに捨ててしまいたかったが、力を出し尽したせいで投げ捨てる力すら残っていなかった。そしてクラウディアの創造が発動し、彼女を喰らうことを強く願ったとき、彼はこの冬木市に呼び出された。
そのことに対し、ヴィルヘルムは苛立ちを募らせていた。殺し合いで願いを叶えるのは構わないが、極上の獲物を喰らう直前で自分を呼び出した存在にはかつてないほどの怒りが湧いていた。
あのままの状態で創造を発動すれば確かに自分は死んでいたかもしれない。聖遺物に魂を吸い尽くされるか、光に焼き殺されるかの違いだけで結果が変わらなかったかもしれない。
それでもあの場から連れ出されたのは我慢ならない。この状況こそがあの水銀に言い放たれた呪いを表しているとでも言うように、望んだ相手を取り逃がすのがお前の運命であると。


227 : Holocaust ◆z710QqxI4Y :2017/03/16(木) 20:04:20 Ze0sMX9k0
「クソが、どこの誰だか知らねえが舐めた真似しやがって。聖杯戦争なんて大層な名前つけてるみてえだが、どうせロクでもねえ代物だ。
殺し合いで貰える願望機ってのが真っ当なはずがねえし、そもそもそんな願望機を素直に渡すような奴がいるとは思えねえ。まあ、そんなもんでも腹の足しぐらいにはなるだろうよ」

ならば自分がやるべきことはこの戦争を勝ち抜き、あの腐れ魔術師の呪いから脱却するまで。
マスターの皆殺しを目的として戦い抜き、勝者となってあの場所に戻り、あの馬鹿女を喰らう。
そのためには少しでも多くの魂を喰っておく必要があり、その一環として早くからマスター狩りを行なっていた。
最も今の彼が狩れるのは人目のつかない場所で事前準備を始めているごく少数のマスターだけなのだが。

「本当ならマスターよりもサーヴァントの魂を喰った方が効率は良いんだろうが、生憎と今の俺は出し尽くした後でな、サーヴァントとやり合えるような状態じゃねえ。
だからサーヴァントのことはテメエに任せる。異論はねえな、バーサーカー?」

ヴィルヘルムが問いかけるのは、自身が呼び出したサーヴァント。
黒身がかった褐色の屈強な肉体、生気を宿さない虚ろで殺意に満ちた瞳、全身を彩る赤黒い魔術的な紋様の刺青、腕と下半身を覆う魔獣じみた甲冑、至る所から無数の棘を生やして変質した魔の朱槍。
平常時のヴィルヘルムであれば、正規のランサークラスとして呼び出されたであろうアイルランドの光の御子はマスターの精神に引き寄せされた影響なのか、それとも『闇』が残した残滓の影響か、伝承にある異形の狂戦士とも異なる反転した狂王がこの冬木市に現界した。

「元よりそのつもりだ。ただサーヴァントとして敵を殺し続けるだけ、それ以外に興味はない」

快男児と言い得た壮健な人格は、ただひたすら戦場を血に染める戦闘機械のように無感動になっている。
今の彼に愉悦はない。己の夢など何もなく、強者との戦いでさえ彼の心は奮わない。ただ淡々と敵を殺すのみ。ここにいるバーサーカーは戦争がもたらす“虚無”と“荒廃”の化身である。

「そうかい。ま、テメエとの関係はこの戦争の間だけで、別に馴れ馴れしくするつもりはねえ。まあそれとは別に俺個人としちゃ気に入ってるんだぜ。
いちいち文句つけてくるような奴じゃねえし、殺すことに何の躊躇いもねえ。俺にとっちゃテメエは大当たりだ」

「世辞を言っている暇があるなら、さっさと次の獲物を探しに行け」

「おお、ワリィワリィ。英雄とやり合えることなんてよ、貴重な経験だからな。こんな時でもなけりゃ、思う存分楽しんでいたのによ。
今の俺がやれるのは全部喰らって前に進む、それしかねえ」

ゆえに彼らが齎すものは死闘ではなく殺戮、一切の愉悦(あそび)を捨てて最後まで戦い抜く。
すべてを呑み込み、喰らって膨れ上がることこそが己が覇道。この戦争は自身の願いを叶えるための単なる通過点に過ぎない。

「待ってろよ、クラウディア」

我が初恋(はじまり)よ 枯れ落ちろ――。
ただそれだけ――彼女の全てを奪うために彼はこの戦争の全てを喰らう。


228 : Holocaust ◆z710QqxI4Y :2017/03/16(木) 20:06:00 Ze0sMX9k0

◆     ◆     ◆

大地は血を飽食し、空は炎に焦がされる。

人は皆、剣を持って滅ぼし尽くし、息ある者は一人たりとも残さない。
男を殺せ。女を殺せ。老婆を殺せ。赤子を殺せ。
犬を殺し、牛馬を殺し、驢馬を殺し、山羊を殺せ。
――大虐殺(ホロコースト)を。
目に映るもの諸々残さず、生贄の祭壇に捧げて火を放て。

この永劫に続くゲットーを。

超えるためなら、総て焼き尽くしても構わない。


【クラス】
バーサーカー

【真名】
クー・フーリン[オルタ]

【パラメーター】
筋力:A 耐久:B+ 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:D 宝具:A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
狂化:EX(C相当)
聖杯への願望によって誕生したバーサーカークラスのため、Cランク相当でありながら、論理的な会話は可能。しかし如何なる詭弁を弄しても効果がなく、目的に向かって邁進する以外の選択を行わないため、実質的に敵対者との会話は不可能であるといえる。

【保有スキル】
精霊の狂騒:A
クー・フーリンの唸り声は、地に眠る精霊たちを目覚めさせ、敵軍の兵士たちの精神を砕く、精神系の干渉。敵陣全員の筋力と敏捷のパラメーターが一時的にランクダウンする。

矢避けの加護:C
飛び道具に対する対応力。
魔術に依らない飛び道具は、目で見て回避する。
狂化されているため、通常より大幅にランクダウンしている。

ルーン魔術:B
北欧の魔術刻印ルーンの所持。
この状態で現界するにあたって、クー・フーリンは「対魔力」スキルに相当する魔術を自動発動させている。

戦闘続行:A
往生際がとことんまで悪い。獣の執念。戦闘を続行する能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の重傷を負っても戦闘が可能。

神性:C
神霊適性。太陽神ルーの子であるクー・フーリンは、高い神性適性を有する。
オルタ化しているため、神性が通常よりランクダウンしている。

【宝具】
『抉り穿つ鏖殺の槍|(ゲイ・ボルク)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:5〜50 最大捕捉:100人
ホーミング魔槍ミサイル。クー・フーリン本来の宝具。
自動追尾する魔槍の投擲により、範囲内の敵を掃討する。オルタの場合は自らの肉体の崩壊も辞さないほどの全力投擲であるため、通常の召喚時よりも威力と有効範囲が上昇している。敵陣全体に対する即死効果があり、即死にならない場合でも大ダメージを与える。
ルーン魔術によって「崩壊する肉体を再生させながら」投擲しているため、クー・フーリンがダメージを受けることはないが、途方もない苦痛は防げない。ただクー・フーリンは単純にその痛みを堪えることで受け流している。

『噛み砕く死牙の獣|(クリード・コインヘン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:─ 最大捕捉:1人
荒れ狂うクー・フーリンの怒りが、魔槍ゲイ・ボルクの元となった紅海の怪物・海獣クリードの外骨格を一時的に具象化させ、鎧のようにして身に纏う。攻撃型骨アーマー。
着用することで耐久がランクアップし、筋力パラメーターはEXとなる。この宝具を発動している最中は『抉り穿つ鏖殺の槍』は使用できない。

【weapon】
宝具であるゲイ・ボルク

【人物背景】
ケルト・アルスター伝説の勇士。赤枝騎士団の一員にしてアルスター最強の戦士であり、異界「影の国」の盟主スカサハから授かった無敵の魔槍術を駆使して勇名を馳せた。
通常とは異なりバーサーカーとして現界している。何らかの要因によって全身の装備が変化し、性格も反転。北欧の魔術刻印であるルーン魔術は己の肉体の補強のみに使用している。
表情は冷酷、宝具である魔槍も黒混じりの赤となっており、禍々しい気配を湛えている。

【サーヴァントとしての願い】
興味なし、ただひたすら敵を殺すのみ。


229 : Holocaust ◆z710QqxI4Y :2017/03/16(木) 20:07:24 Ze0sMX9k0
【マスター】
ヴィルヘルム・エーレンブルグ@Dies irae 〜Interview with Kaziklu Bey〜

【マスターとしての願い】
燃料となる魂を補給して、呼び出されたあの瞬間に戻る

【weapon】
『闇の賜物』
ヴィルヘルム・エーレンブルグがその身に宿す聖遺物。
エイヴィヒカイトを習得して人外の力を得た正真正銘の超人にして魔人なのだが、今回の聖杯戦争では燃料である魂が空になっていることとバーサーカーへの魔力供給に力を割いていることにより、身に宿す魔業は全てを実質封じられている。
マスターの魂を取り込むたびに魔力供給量の増加と身体能力の強化の恩恵が得られる。ある程度まで魂を取り込めば、肉体の損傷・欠損の再生と活動位階を発動することが可能となる。
活動位階を発動すると不可視の杭を飛ばすことができるようになる。不可視の杭はそれだけで常人には致命的だが、サーヴァントから見ればさほど威力はないものである。
NPCはエイヴィヒカイトの燃料となるほどの質を持っていないため、どれだけ殺しても一人分すら溜まらない。またサーヴァントの魂は今のヴィルヘルムの容量を超えているため、取り込むことはできない。

【能力・技能】
生身の身体と同然になっているとはいえ、エイヴィヒカイト習得前から持つ半ば人間をやめている身体能力は今も健在。
体術は完全な我流で、その暴力に彩られた出自故の類稀な戦闘センスと膨大な実戦のみをもって培われたもの。
実の父親と姉のヘルガ・エーレンブルグとの近親相姦で生まれたアルビノであるため、日光を始めとする光を嫌うが、夜になると感覚が研ぎ澄まされる特異体質でもある。

【人物背景】
聖槍十三騎士団・黒円卓第四位『串刺し公(カズィクル・ベイ)』。
かつては凶悪犯罪者上がりの軍人でかなり気性の荒い、殺人・戦闘狂の危険人物。日本人を「猿」と呼んで憚らない筋金入りの人種差別主義者だが、強者であれば人種や男女の区別なく、彼なりの敬意を払う。
同胞である騎士団員にも遠慮なく殺意を振りまく狂人であるが、同時に騎士団員達を「戦友であり、家族である」と称するなど彼なりの仲間意識を抱いている。

今回はクラウディアの創造が発動したところで呼び出されており、聖杯戦争をクラウディアを喰らうための燃料補給としか思っていない。そのため、戦闘を楽しむ気は一切なく、敵はただ殺すだけと考えている。

【ロール】
路地裏をうろつく根無し草のチンピラ

【方針】
願いを最優先、魂の補給のために目についたマスターは全員殺す。聖杯そのものに関しては補給を効率よく行う道具としか見なしていない。最悪、帰還と自分の魂喰いができれば聖杯がなくても構わないと考えている。
昼間は屋内に篭り、夜を主な活動時間としている。面倒事を避けるため、ルールにはある程度従う。ただし必要であればNPCの魂喰いは躊躇いなくやるし、ルールを無視した行動もする。


230 : ◆z710QqxI4Y :2017/03/16(木) 20:08:17 Ze0sMX9k0
投下を終了します


231 : ◆nY83NDm51E :2017/03/16(木) 22:37:29 tsOqTAY60
投下します。


232 : この世全ての悪 ◆nY83NDm51E :2017/03/16(木) 22:39:06 tsOqTAY60

宵闇の空に暗雲が垂れ込め、ぽつぽつと雨が降り出す。
雨は、地上に漂う瘴気に触れ、音もなく蒸発した。

立ち上る瘴気は暗雲を飲み込み、降り注ぐ雨を有毒の酸性雨に変えていく。
轟音とともに黒い稲妻が走り、落雷を受けた樹木が焼き尽くされる。
そこから得体の知れぬ蟲たちが生じ、這いずりながら闇の中へ消える。

路上に立つ少女は―――瘴気の源は―――肩を震わせ、嗤っている。

「ふふ……ふふふふ…………」

少女。そう、少女だ。外見上は。
小柄で黒髪、赤い瞳に褐色の肌。胸は豊か。露出度の高い服装。
誰もが美少女と言うであろう恵まれた容姿と、謎めいた魅力を兼備する。

「ククク……ハハハ……………!!」

愉しげに、高らかに嗤う少女は、黒く禍々しい、ねばつく瘴気を放っている。
体の弱い者や小動物が近寄れば、それだけで悍ましい疫病に罹り、命を落とすだろう。

「ハハハ!ハハハ!ハハァーーハハハハ!!」

彼女を知らぬ者はいない。少なくとも、魔術師や聖職者、悪魔の類であれば。
否、「悪」を行う全ての者は、彼女を知っており―――その「子」であるとさえ、言えよう。
彼女は、それほどの存在なのだ。

「愚か!愚か!愚かなり!余をこのような場に招くなど……!」

暗雲に向けて両手を広げ、喜悦の表情で哄笑する彼女。
本来、聖杯の力では、彼女を召喚することなど叶わぬはず。叶わぬはずなのだ。
噫、しかし何ゆえか、彼女は今ここにいる。全てを滅ぼす悪しき力を備えたまま。

「万能の願望器『聖杯』……それさえあれば……!」

そう、彼女は、全ての悪の根源。サタンの原型。悪の創造主。創世以前より存在せし究極の悪魔。

「余はリア充になれるのだな!?」

ゾロアスター教における最凶の悪神アンラ・マンユ(破壊の霊)――――もとい、アンリ・マユである。


233 : この世全ての悪 ◆nY83NDm51E :2017/03/16(木) 22:40:44 tsOqTAY60



彼女のマイルーム、いつもの深淵に、それが堕ちてきたのはつい先程。
ベッドに寝転んで駄菓子を貪りつつ雑誌を読んでいたアンリ・マユは、物音に気づいて起き上がった。

「……のう、アカ。今なんぞ音がせなんだか」
「しましたね、アンリ様。何か金属製のものが落ちてきて、そのベッドの下に転がり込んだようでしたが」

『アカ』と呼ばれた、顔の付いたベレー帽のようなものが、ベッドの傍から返事をする。
こんななりだが、彼女はアンリが創造した六大悪魔の一つ、「悪の思考」アカ=マナフだ。

「ここは深淵、世界の底の底ですからねぇ。誰かが落としたものが、転げて転げ、回り回ってたどり着いたんでしょう」
「落とし物か、廃棄物か。いらんのならば、余が貰ってやってもよいな」

アンリは雑誌と駄菓子袋をベッドの上に置き、うつ伏せになってベッドの下を覗き込む。
深淵の奥の暗闇だが、アンリには見透せる。見たところ、何かの金属片のようだ。
折れ釘や画鋲や撒き菱なら、足に刺さって痛い目を見るかもしれないが、まあベッドの下だし大丈夫だろう。
だが、興味はある。猫やカラスが見知らぬものを触りたがる程度には。その好奇心は、猫を殺すか否か。

ぐっ、とベッドから身を乗り出し、手を伸ばし、その金属片に触れた瞬間―――アンリは深淵から姿を消した。



次の瞬間、いたのがここだ。冬木市という人間の町、を模した電脳世界。
勝手に脳内に植え付けられた記憶情報によれば、魔術師たちを聖杯という万能の願望器を巡って争わせる戦場。
そして魔術師は半神の英霊を使い魔として授けられ、そいつらを戦わせるのだという。

……が、ナチュラルボーンぼっちのアンリに使い魔、サーヴァントはいない。彼女はマスターであり、かつサーヴァントだ。
何の因果か応報か、深淵に迷い込んだ『鉄片』を自ら拾ったアンリは、そのような存在としてこの場に呼ばれてしまった。
聖杯戦争を破壊しかねないイレギュラー。バグ。トラブルメイカー。カオスの種。ある意味、これ以上彼女にふさわしい役割はない。
仮にサーヴァントのクラスを当てはめるならば、人類悪―――『ビースト』として。

「ハハハハハ……――――む?」

高笑い中だったアンリの、目の前の空中にモニター画面が開き、文字列が浮かび上がる。
聖杯戦争を円滑に運営するための監督役、ルーラーからの通信、とある。

『警告します。アンリ・マユさん。貴女はイレギュラー。ここにいてはいけないもの。速やかに帰還するよう強く命令します』

「……!?」

『貴女の存在は不都合です。帰還を選択しない場合、討伐令を他のマスターに送り、強制的に退去させます』


234 : この世全ての悪 ◆nY83NDm51E :2017/03/16(木) 22:43:16 tsOqTAY60

アンリは眉根を寄せ、モニター画面へ叫ぶ。

「はァ!? なんぞそれ!? よっ、余を勝手に呼び寄せておいて、なんという言い草だ! 滅ぼすぞ貴様ら!」
『我々のミスではありません。生まれつきのトラブルメイカーである、貴女が勝手に紛れ込んでしまったのです』

淡々と「責任はない」と述べるルーラーの通信。だが、確かにその通りなのだ。
アンリ本人に悪意がなくても、彼女の本質がそうなっているのだから。

『状況次第では、令呪を使用して貴女を拘束します。それなしで討伐隊に敗れるようなら、それに越したことはありませんが』
「……ほーう、言うではないか。くっ、くっくっ」

アンリは、腰に手を当て、虚空を睨む。怒りを通り越して笑いがこぼれ、ぎりっ、ビキッ、とこめかみに血管が膨れ上がる。
瘴気が周囲に渦を巻き、空間が歪み、足元のアスファルトに亀裂が走る。

ナメられている。アンリ・マユを、この悪神を、このルーラーはナメきっている。要は、喧嘩を売られている。
ならば、すべきことは一つだ。この場の全員をブチ殺して、望むものを手に入れる。いつも通りだ。

「よかろう。討伐隊を呼び集めて、余に向かわせよ。皆殺しにしてやろう。そこらの魔術師や英霊程度、余には肩慣らしにもならんぞ」
『……了承しました。令呪での拘束は……』
「いらぬ。生き残りをさっさと減らした方が、貴様らも助かるのだろうが。手っ取り早く片付けてくれよう」
『……過度の魂喰いや、聖杯戦争の存続を不可能にする行為は禁じられていますが、正規の手段で勝ち残るならば……』
「御託はいい。早くせい!」

苛立つアンリの周囲の空間が歪み、悪魔(ダエーワ)たちが姿を現す。彼女が己の被造物を召喚したのだ。
六大魔の筆頭、アカ=マナフ。
旱魃の悪魔、アパオシャ。
惰眠の女魔、ブーシュヤンスタ。
流星の女魔、パリカー。

「…………なんだ、これだけか?」
『貴女の宝具として、限定的にこれらの悪魔の召喚・使役を認めます。あとは貴女の能力で勝ち残って下さい』

一方的に通信は切断された。
アンリは凄まじい怒りの表情と悔し涙を浮かべたまま、ペッと唾を吐く。唾が当たった地面は爆発した。

「……………………貴様ら、戦争の時間だ。雑魚どもを皆殺しにし、聖杯を手に入れるぞ」

『『『『ぎ、御意』』』でヤンス』
呼びかけられた四体の悪魔たちは、創造主の剣幕に震え上がった。

立ち10る瘴気は暗雲を飲01込み、降り注ぐ雨を有毒の酸0101雨に変えていく。
轟音とともに黒い稲1101が走り、落雷を受けた樹01010が焼き尽くされる。
そこから得体の知れぬ110010たちが生じ、這いずり00101010闇の中へ消え010101110010…

◆最終戦争(アーマゲドン)――――勃発!!!!


235 : この世全ての悪 ◆nY83NDm51E :2017/03/16(木) 22:45:12 tsOqTAY60

【クラス】
ビースト(マスター兼任)

【真名】
アンリ・マユ@左門くんはサモナー

【パラメーター】
筋力A+ 耐久A 敏捷A+ 魔力EX 幸運E 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
獣の権能:A
対人類、とも呼ばれるスキル。英霊、神霊、なんであろうと特効性能を発揮する。
彼女は「死」という概念の創造主で、善神が創造した世界に侵入し、最初の死をもたらした。

単独顕現:EX
単独で現世に現れるスキル。このスキルは“既にどの時空にも存在する”在り方を示しているため、
時間旅行を用いたタイムパラドクス等の攻撃を無効にするばかりか、あらゆる即死系攻撃をキャンセルする。
本来英霊は呼ばれていなければ召喚されることは無く、自身の意思で無理やり自身を召喚しようものなら霊基が高速で崩壊していき、
やがて自然消滅してしまうが、この権能(スキル)を持つビーストはこの制限を無視することができる。

彼女は創世以前より世界の破壊をさだめとして存在していた究極の「ぼっち」であり、召喚されてもいないのに深淵と現世を自在に往来する。
ただし好意的な他者と交わりすぎて「ぼっキャパ(ぼっちキャパシティ)」が満杯になると、勝手に深淵に帰って引きこもり、休養する。
自力で帰ろうと思えば帰れるし、ルーラーも帰ることを推奨しているが、扱いにムカついているので帰る気は今のところない。

自己改造:A
自身の肉体に別の肉体を付属・融合させる。このスキルのランクが高くなればなるほど、正純の英雄からは遠ざかる。
電脳空間では、アバターの下半身から多数の大蛇を生やしたラスボスっぽい姿に変身したことがある。

【保有スキル】
この世全ての悪(真):EX
正真正銘、悪の根源そのものである「権能」。善神の被造物を妬み、歪んで真似た結果、あらゆる悪しきものを創造した。
死、冬、闇、夜、毒、海水、暑熱、旱魃、惰眠、煙などの概念・現象や、悪魔(ダエーワ)、狼や獅子など野生の猛獣、猫、蝙蝠、
爬虫類、両生類、昆虫、節足動物、軟体動物などの害獣・害虫は、彼女の命令に逆らえない。冬に命令すれば猛吹雪が起こり、「止めろ」と一喝すればたちまち止む。
他にも考えつく限りのありとあらゆる災いを引き起こすことが可能だが、近年はやる気が無いので新型インフルエンザを流行させている程度である。
彼女の周囲には常に病原体が漂っており、抵抗力の弱い者は近づいただけで病気に罹るし、怒れば猛烈な疫病が周囲に荒れ狂う。
オンラインゲーム世界ではコンピュータウイルスを撒き散らして世界をバグで滅ぼすところであったし、スマホを連続爆破させたりもした。
聖杯の泥ぐらいはコーヒーのように飲み干せそうというか、破滅的メシマズ属性があるので多分自力で創造できる。

ただし、天使や善人、光、火、水、生命、よき植物、牛・馬・驢馬・駱駝・犬などの家畜、鹿、猪、ビーバー、川獺、鼠、針鼠、イタチ、
鳥、魚などを従わせることはできない(殺す・穢すことは可能)。これらは彼女ではなく、敵対する善神アフラ・マズダーの被造物だからである。
ユダヤ・キリスト教系など他宗教の悪魔・魔神にも実力と年季ででかい顔ができるが、一応彼女の被造物ではないので、この権能だけで従わせることはできない。

神性:A++++++(EX)
彼女は堕天使や被造物ではなく、れっきとした神である。しかもそんじょそこらの神ではなく、二柱の世界創造神の一柱である。
「創世以前に生を受けた」と自称するので、神話どおり時の神ズルワーンから生じたのだろう。年齢ン十億歳超のアラワー(アラウンド世界)世代。
流石にランクダウンされてはいるが、いつ大破壊を引き起こすか知れたものではない。


236 : この世全ての悪 ◆nY83NDm51E :2017/03/16(木) 22:46:42 tsOqTAY60

【宝具】
『悪しき思考(アカ=マナフ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:100

彼女の被造物の一つである大悪魔。顔の付いたベレー帽か、DQのスライムのような姿。愛称は「アカ」。
他者の頭部に取り憑き、相手の思考・選択を常に「誤らせる」能力を持つ。相手を洗脳して誤った情報を信じ込ませることも可能。

『旱魃の黒馬(アパオシャ)』
ランク:C 種別:対城宝具 レンジ:10-500 最大捕捉:1000

旱魃を司る悪魔。天を駆ける黒馬の姿をしており、日本の梅雨空をも雲ひとつない快晴に変えることができる。
もたらすのはあくまで「災害」なので、空気や大地から水分を激しく奪い、地下水を蒸発させて激しい地盤沈下を引き起こす。
これにより学校全体を地下に沈ませたこともある。能力を解除すれば旱魃はおさまる。

『長い手の睡魔(ブーシュヤンスタ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:100

惰眠を司る女悪魔。相手に魔力を放って眠気を誘い、惰眠を貪らせる。それなりの精神力があれば耐えられる。
外見はネグリジェを着た金髪ロングの女性だが、肌は紫色で瞳は赤く、ギザ歯で常に口を開けた顔。愛称は「ブーやん」。
普段は現世でとある人物に取り憑いているが、宝具として呼べるのは分霊(ないし本体)であろうから、そちらに影響はないものとする。

『迷惑な流星(パリカー)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1

流星を司る女悪魔。超小型の隕石に乗った小さな魔女の姿をしており、召喚されるやミサイルのように射出され相手を吹き飛ばす。
机を大気圏外まで吹き飛ばす威力があり、大悪魔でも直撃すればかなりのダメージを受けるが、頑張れば止めることも可能。

【Weapon】
なし。
素手でも戦闘力は高く、軽いパンチで岩壁にクレーターを作り、本気のパンチ一発で山が吹き飛ぶ。グッと気合を入れただけで祭りの屋台が吹っ飛ぶ。


237 : この世全ての悪 ◆nY83NDm51E :2017/03/16(木) 22:48:04 tsOqTAY60

【人物背景】
週刊少年ジャンプ連載中の漫画『左門くんはサモナー』に登場する、ゾロアスター教悪魔のトップである最強最古の悪神。
世のあらゆる災いを生んだ絶対悪で、本家本元の諸悪の根源。愛称は「アンリ」。口調は古風。
好きなものはネガティブなもの、嫌いなものは声のでかいヤツ。特技は大概のものに嫉妬できること。
外見は黒髪ツインテール・褐色肌・赤い瞳・ロリ巨乳の美少女。身長154cm。袖が丸めの露出度が高い服を纏い、ツインテのシュシュは蛇。

幽界では「あいつに近寄るとインフルが伝染る」「インフルババア」と忌み嫌われ、常に独りぼっちであり、深淵の奥底でやさぐれた生活を送っていた。
性格はB(ぼっち)コンをこじらせており、かまってちゃんのチョロイン。めんどくさくて人見知りで泣き虫で沸点が低く暴走しやすい。
人間相手には尻込みすることが多い一方で、同類の悪魔相手には遠慮会釈なく、上から目線で使い倒してくる。
作品世界の設定上、神話上の悪神そのものであるが、人間の祓魔師の札であっさりはじかれるなど、弱点も山盛り存在する。
チョロくてアホで騙されやすいので、ちょっと好意を示せば舌先三寸であっさり味方につけることもできる。

【ロール】
引きこもり気味の少女。

【聖杯にかける願い】
リア充になる。ただしぼっち歴が長すぎるため、そのイメージは非常に貧困である。

【方針】
全てを滅ぼして聖杯をゲットする。売られた喧嘩は全部買う。

【把握手段】
原作単行本(既刊8巻)。アンリの登場は2巻から。

【参戦時期】
原作8巻、深淵でぼっちを満喫している頃。


238 : ◆nY83NDm51E :2017/03/16(木) 22:49:18 tsOqTAY60
投下終了です。


239 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:46:48 ZqZangJ20
>武器よさらば
 東京喰種より有馬貴将と、ARMSよりキース・ブラックですね。
 元々スペックの非常に高い有馬がサーヴァントであるキースから武器を受け取って戦うのは単純ながら非常に恐ろしい。
 三騎士の筆頭にして最優のクラスであるセイバーの彼をしても見事と思わせるそれは、他のマスターにとってはかなりの脅威となる事でしょう。
 一方で何かを奪う事、殺す事について語らう二人の描写がとても良い。
 エノク書の内容を持ち出した問答等も非常に良い雰囲気が有って、全体的に二人の会話に凄い説得力が感じられました。
 最後の一文にもあるように、嘗て振り回される武器に過ぎなかった男達が、今度は己の腕で何かを残そうと決意する。こういうの個人的にも凄く好みなので、大満足のお話でした。
 投下ありがとうございました!!

>阿伏兎&バーサーカー
 銀魂より阿伏兎と、仮面ライダークウガよりゴ・ガドル・バですね。
 どちらも戦闘力が非常に高い主従であり、それだけで組んでもおかしくないなと言う説得力を感じさせられました。
 やはり飄々とした阿伏兎に願いらしい物はなく、彼はゴ・ガドル・バに振り回される事になりそうです。
 とはいえ作中でも描写されているように阿伏兎は強者に振り回されるのは神威で慣れていますし、苦労はするでしょうが案外上手くやってみせるのかもしれません。彼の立ち回りぶりとそのサーヴァントの暴れぶりに期待したい所ですね。
 投下ありがとうございました!!

>Holocaust
 Dies iraeよりベイ中尉と、FGOよりクー・フーリン・オルタですね。
 マスターを虐殺している辺りはまさしくいつもの中尉と言う感じで実家のような安心感さえありました。
 然し彼はイカベイ終盤のとんでもないタイミングから呼ばれており、なりふり構わないのも当然と言った感じですね。
 我が初恋よ、枯れ落ちろ。彼の戦う理由はきっと、それだけで充分なのでしょう。
 また、そんなベイが召喚したサーヴァントはバーサーカー、殺戮の王クー・フーリン。
 主従の双方が非常に高い戦闘能力を有している上に好戦的なので、これまた途轍もない暴れぶりを見せてくれそうです。
 投下ありがとうございました!!

>この世全ての悪
 左門くんはサモナーよりアンリさんですね。
 まずいきなりのビーストクラスに大変驚かされました。でもアンリさんの設定を鑑みると納得です。
 スペック自体はとんでもない物がありますが、やはり内面はどこまでもいつも通りの彼女なのが微笑ましいですね。
 とはいえ周辺の面々からすると堪ったものではないですし、脅威である事には変わりなさそうですが。
 また条件が整うと休養に帰るとかとんでもない(いい意味で)スキルも見られるので、そのあたりにも期待です。
 投下ありがとうございました!!


240 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:47:07 ZqZangJ20
そして投下します。


241 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:47:56 ZqZangJ20

 
 表と裏。光と闇。陽だまりと暗がり。この世界は、様々な二面性で満ちている。
 尤も、主に悪として弾劾されるのは後者の方だ。人が光から遠ざけられ、闇に潜むのには相応の理由が有る。著しい反社会性を持つ者、過去に犯した罪業から逃げ続ける者、社会と折り合いを付けられない何かしらの要因を持つ者……それ故に表舞台に立つ事が出来ず、ひっそりと社会の賑わいの陰で生きる現代の化外達。其処に老若男女は関係ない。年端も行かない童女でも、環境次第では闇の住人として成立し得る。
 親の影響。周囲の影響。本人の意思……或いはそれとは無関係な理不尽極まりない理由で、間はほんの一瞬にして魔道に堕ちてしまう。これまでの人生や性格、そういった諸々の要素全てを無視して。深い深い奈落の大穴は、憐れな子供を地の底まで引き摺り込むのだ。

 彼女も、つい最近までは何処にでも居るような普通の少女だった。
 性格は温厚で一度懐いた相手にはべったりな、少し夢見がちなだけの女の子。
 ――アンヌ・ポートマンと言う少女が"裏側"に堕ちるまでは、あっという間の事であった。
 友達を追い掛けて暗闇の世界に近付いたのが運の尽き。決して人間が出会ってはならないモノと出会い、人外の洗礼を受け、社会から弾かれた化外と成り果てた。
 縛血者(ブラインド)。出来損ないの超越者。永遠を生きる、血に縛られたまやかしのノスフェラトゥ。
 現に今、アンヌの身体は死人めいた冷たさを湛えていた。耳を澄ましてみれば、呼吸の音も聞こえてこない。その心臓は微細な鼓動すら打っておらず、まるで死人が服を着て歩いているかのような有様だけが其処にある。彼女は最早、人間ではない。未だ完全にそう成った訳ではないにしろ、今の彼女が人の領分を逸脱した生命体で有る事には違いなかった。

 それでも彼女は、環境には恵まれていた筈だった。面倒を見てくれる先人に恵まれた事で、出過ぎた真似さえしなければ一定の安全は保障されている筈だった。にも関わらずアンヌは今、安全と言う二文字から限りなく遠い……あのフォギィボトムをも数段上回る危険地帯の只中に、一人きりで放り出されている。アンヌが密かに慕う探偵も、その相棒も此処には居ない。どうしてこんな事になってしまったのだと、少女は膝を抱えながら、右手に握り締めた小さな冷たい『鉄片』に意識を向ける。この『鉄片』がどういう意味を持つのかも知らない程、彼女は無知ではなかった。
 これこそが自分をこの世界に招き入れた原因であると、アンヌ・ポートマンは理解している。きっかけはひょんな事だ。ふと視界に見慣れない物体が有ったから、興味本位で手に取ってみた、それだけ。たったそれだけの事で、アンヌは最後の心の拠り所さえも失う羽目になってしまった。
 その結果が、この状況だ。見慣れない街並み、聞き慣れない言語。なのに頭の中にはそれらに対する正しい知識が有り、異国の地だと言うのに言葉にすら全く不自由しない。この世界を統括する大いなる叡智によって無理矢理得させられた常識と知識、それがこの街に彼女を適合させていた。


242 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:49:06 ZqZangJ20

 此処は極東・日本の地方都市――冬木市。言わずもがな、フォギィボトムとの物理的距離はかなりの物が有る。
 この街には、縛血者等と言う荒唐無稽な存在は跋扈していない。だがその代わりに、現在この辺鄙な都市は危険と言う言葉が生温く思えてしまう程の恐るべき火薬庫と化している。銃弾でも砲弾でもなく、そしてそのどちらよりも恐ろしい暴虐の神秘が蠢く剣ヶ峰。それが、表向き平和に見える冬木の街の真実だ。

「ケイティ……」

 嘗て自ら望んで人間の身体を捨て、縛血者となった親友の愛称を呟くが、当然声は返ってこない。
 目先のスリルと刹那の快楽を何より愛する彼女ならば、この状況を喜んで受け入れてみせるかもしれない。そんな彼女がこうして震えているアンヌの姿を見たなら、きっとケラケラと嘲笑を叩き付けてくるのだろう。それでも、構わなかった。今はとにかく、見知った誰かの声が聞きたかった。人間でも縛血者でも、何でもいい。"ちゃんと自我を持って生きている"誰かと、言葉を交わしたかった。
 
「シェリルさん……」

 『鉄片』を手にして、冬木市に迷い込んで。それから今日までの間、アンヌは自分の身に起こった全ての出来事を忘却して、この街の住民として日常生活を送っていた。海外からの留学生として市内の学園に通う、国籍が違う以外は別に目立った所のない人物。そんな彼女が全てを思い出したのは、ふとした瞬間の事だった。
 彼女は、気付いたのだ。自分の心臓が、鼓動していない事に。戦慄と共に口元に手を当てると、自分の顔は氷か何かのように冷たかった。現状に理解が追い付かず呆然とする中、自分の耳に、呼吸の音は聞こえてこない。其処まで認識した所でアンヌは自分がこの世界の人間ではない事、そもそも今は人間と言う枠の生物ですら無い事を漸く思い出した。
 その時の恐怖は、筆舌に尽くし難い物があった。昨日まで当たり前のように笑い合っていたクラスメイトや教師は勿論、愛すべき家族まで、誰も彼もが"生きていない"。縛血者のように、形を変えた生命と言う訳でもない。彼らは皆、精巧にプログラムされた仮想なのだ。ゲームの登場キャラクターと何ら変わらない、まやかしなのだ。

 アンヌは家を飛び出して、走った。あてもなく、何も考えずに、足だけを動かした。
 縛血者の身体は、人間だった頃とは比べ物にならない程の高い身体能力を持つ。
 まともに鍛えた試しのないアンヌでも、長い距離を一度も止まらずに走り切れる程に。

「…………」

 走って、走って、走って、走って走って走って走って――気付けば、人気のない暗がりで膝を抱えていた。
 頭の中には今も、つい先刻思い出したばかりの単語が踊っている。聖杯戦争。儀式。サーヴァント。マスター。令呪。ルーラー。月。黄金の塔。その頂点に君臨する、万能の願望器。願いを叶えてくれるとだけ聞けば素敵で夢の有る話だが、内情は度を逸した血腥さに溢れていた。サーヴァントと呼ばれる存在同士を潰し合わせ、勝ち残れなければ最終的にはこの世から消滅する。勝者となる以外に、生き残る道はないと来た。
 アンヌは基本、臆病な少女だ。人並みの良識も備えている。生きる為なら仕方がないと早々に割り切って、他主従を殺戮出来るような神経は持ち合わせていない。かと言って殺すくらいなら黙って消滅を受け入れるとか、そんな大口を叩く度胸もない。謂わばアンヌは、生きて帰れさえすればそれで構わないのだ。願いなんて叶えられなくてもいい、只あのフォギィボトムに帰れればそれでいい。然し聖杯戦争と言う儀式は、途中下車を許してはくれない。
 どうすればいいのだろうか、自分は。そんな思いに涙を浮かべながら、アンヌは最後の名前を呟いた。


243 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:49:42 ZqZangJ20

「……トシロー、さん……」

 トシロー・カシマ――アンヌにとって最も身近な縛血者であり、何かと自分を援助してくれる頼れる彼。その面影を思い出すと、胸が熱くなる。その名前を口にしただけで、言いようのない浮遊感に囚われる。アンヌが今最も会いたい人物は親友のケイトリンでもなく、自分を可愛がってくれるシェリルでもなく、縛血者社会の刑吏たる彼に他ならなかった。
 無論、それは叶わぬ願いだ。如何にかの絶戒闇手が強くとも、この場に都合よく駆け付けてくれる筈がない。何故ならこの冬木市は現実からかけ離れた、一と零の満たす電脳の街。アンヌが失踪したとあっては彼やその周囲の人物も調査に乗り出しては居るだろうが、彼らがアンヌを追って此処まで辿り着くと言うのは余りに現実味のない希望的観測だ。
 アンヌ自身そう解っているからこそ、余計に彼の存在を渇望してしまう。どうか、どうかと。頭の中に焼き付いて離れないあの黒影が、いつものように自分の前に現れてくれる事を祈ってしまう。その浅ましさに自己嫌悪の念すら抱きながら、アンヌはゆっくりと顔を上げた。

「……帰らなきゃ」

 家を飛び出して、他に行く宛が有る訳でもない。
 こうやって外を無防備に彷徨いていては、それこそ他のマスター達の思う壺だ。
 気は進まないが、今は一旦帰らなくては。あてもなく走っては来たが、道は朧気ながら覚えている。後はそれを辿って進んでいけば、自宅まではそう掛からない筈だ。……尤も、アンヌの脳内に有る最大の懸念は、帰った後――偽物と解ってしまった母や弟へ、果たして今まで通りに接する事が出来るのかどうか、だったのだが。
 やけに重く感じる身体を持ち上げて、二本の足で歩き出す。前へ。少女の膝に風穴が空いたのは、どんよりとした不安を抱えながら家路に就こうとしたその矢先の事だった。

「あうッ……!?」

 足が、熱い。向こう側が覗ける程綺麗な孔を穿たれたのだから当然だが、傷口に残留する熱は凄まじい物が有った。
 耐え切れず、バランスを崩して前のめりに転倒したアンヌの脇腹に、またしても先程のと全く同じ孔が空く。
 激痛を訴える傷口を押さえながら、痛みに顔を歪めて周囲を見渡せば――下手人らしき、銃を構えた男の姿が視認出来た。その少し後ろでのた打つアンヌを無感動に見つめている、女の姿も。"マスター""サーヴァント"の二単語が、立て続けにアンヌの脳裏を過る。軽弾みな行動のツケは、こんなにも早くやって来た。


244 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:50:22 ZqZangJ20


 激痛を訴える傷口を押さえながら、痛みに顔を歪めて周囲を見渡せば――下手人らしき、銃を構えた男の姿が視認出来た。その少し後ろでのた打つアンヌを無感動に見つめている、女の姿も。"マスター""サーヴァント"の二単語が、立て続けにアンヌの脳裏を過る。軽弾みな行動のツケは、こんなにも早くやって来た。
 
「マスターか」
「ああ。サーヴァントは未だ召喚出来ていないようだが、見た所記憶は既に取り戻しているらしい。
 このまま放置しておけば遠くない未来、サーヴァントを召喚して我らの敵となるだろう」
「面倒だな。始末しろ、アーチャー」

 サーヴァント――アーチャーの銃口が、再びアンヌに向けられる。底冷えするような、冷たい動作だった。世界がスローモーションに見え始めたのは、自分が今殺されかけていると言う事の証か。縛血者の肉体は常人とはかけ離れた域の生命力を持つが、それでも不死ではない。血液を失い過ぎれば活動を停止するし、有る条件を満たした負傷を受ければ瞬間的に傷を癒やす事が出来ず、最悪呆気なく殺される。
 その例としては主に、火炎に灼かれた傷、自身の忌呪による傷、そして縛血者の爪牙に依る物が挙げられるが、此処に一つ新たな例が追加される事をアンヌは身を以て知らされた。それは、サーヴァントの宝具による傷だ。神秘を帯びた武装で与えられた負傷は、少なくとも瞬間的には治癒出来ない。現にアーチャーの銃で撃ち抜かれたアンヌの足と腹は、未だに治癒しないまま血を垂れ流している。
 このままでは、殺される。アンヌは瞬時にそう悟り、痛む身体を強引に起き上がらせてその場を飛び退いた。アーチャーの銃弾が的を外れ、その顔に僅かな驚きが浮かぶのが見て取れた。彼女に、サーヴァントと切った張ったが出来るスペックは無い。だが、無抵抗に殺されるだけかと言えばそれは違う。


「夜魔の森を駆け抜ける霊獣よ。我が血に宿りて、猛り狂える爪牙となれ――」


 紡がれた詠唱をコマンドワードに、アンヌの身体が瞬く間に変貌していく。
 少女の小さな爪は狼の蹄のように大型化し、肌は熊のそれを思わせる獣毛に覆われた。
 ――縛血者は洗礼を受けて新生する際に、その忌呪一つに付き一つ、超常の異能を発現する。
 それこそ、夜の使徒の最大の武器。狩りと闘争を円滑化する優れたる力の名を、賜力(ギフト)と呼ぶ。


「幻獣顕身(フィーヴァー・ドリーム)!!」


 そしてこれが、アンヌ・ポートマンがその血に宿す賜力。
 獣化能力――非力な彼女を恐るべき魔徒に変貌させる肉体強化。
 強化された脚力を以って、アンヌは弾丸めいた勢いでその場からの離脱を図る。それを追うようにして飛来する弾丸が肌を数箇所程掠めたが、賜力を解放したアンヌにその程度の攻撃は意味を成さない。なるだけ縦横無尽に移動しながら、それでいて可能な限り距離を離して逃げ切る。それが、彼女の狙いだった。


245 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:51:11 ZqZangJ20





「驚いたな。魔術師……いや、死徒の類か? 見た所理屈は多少異なるようだが、近い物は有りそうだ」

 然し、その程度の芸当で撒ける程サーヴァントと言う存在は甘くない。僅かに賞賛の色が混ざった声は、アンヌの真横から聞こえた。驚きに目を見開きかけた矢先に、彼女の顔面を銃身が勢いよく殴り付け、その矮躯を竹蜻蛉のように吹き飛ばす。それと同時に殺到する銃撃が、一瞬で少女の四肢を撃ち抜いた。
 
(そ――そん、な……!)

 泥に塗れながら倒れ伏すアンヌは既に虫の息だが、対するアーチャーの方は息一つ上がっていない。強化系の賜力である幻獣顕身を使用して尚、歯牙にも掛けずに追い付かれた。そして一瞬、反応すら追い付かない程の速度で打ちのめされ、無力化された。自分の強さに自信が有った訳では決してないが、それでもこの結果はアンヌに並々ならぬ絶望を突き付けた。これまで知識としてしか知らなかったサーヴァントの凄まじさ。それは、あらゆる希望を奪い去る域に達していた。
 足音が聞こえてくる。アーチャーのそれだ。動かなくてはと負傷した足に力を込めた所で、今度は脛の部分に孔を穿たれた。血がどんどん失われていくのが解る。自分の命運が尽きていくのを感じる。底知れない恐怖が痛む身体の奥底から湧き上がってきて、それが余計に身体を動かそうと言う命令を脳に下させる。
 
「悪いな。サーヴァントが居れば君も少しは違ったんだろうが、生憎こっちもお人好しではないんでね」

 身を捩らせてどうにか体勢を立て直そうとするアンヌの顔面を、再び銃身が殴打した。と言うより、刺突された形に近い。鼻の潰れる異音と共に上顎がひび割れ、前歯が一気にへし折れる。常人ならばこの時点で意識を失って然るべき傷だが、縛血者である彼女はそうはならない。かと言って一発逆転を狙おうにも、余りにも彼我のスペック差が絶望的過ぎる。アンヌ・ポートマンは、誰がどう見ても詰んでいた。
 銃口が、その額に向けられる。人型生物の身体をあれだけ綺麗に穿てる武器なのだ、頭蓋骨くらいは何の障害にもなるまい。このまま失血が限界に達するまで撃ち抜かれて終わりだ。相手が加虐に喜びを感じるような変態ならばまだしも、堅実に敵を討つ狩人(イェーガー)めいたこの弓兵に手心の類は一切期待出来まい。
 血と失血で霞む視界に涙が浮かんでくる。最早、どうにもならない。どんなに手を凝らした所で眼前の処刑人にはきっと傷一つ付けられないし、それ以前に次の一射を防ぐ手段すら自分は碌に持っていない。ありとあらゆる要素が、アンヌの未来を否定する。此処までだと、残酷に告げてくる。

(いや……死に、たく、ない――)

 死にたくない。まだ、消えたくない。
 帰りたい。まだ、やり残した事が無数に有るのに。
 走馬灯のように脳裏を過る誰かの顔、縛血者となってからの記憶。
 アンヌを囲む血腥い、けれど失いたくないと何処かで思う日常の思い出が、彼女に生きる事を諦めさせない。


246 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:51:48 ZqZangJ20

(そうよ、まだ、死ねない、んだから……っ)

 撃たれても構わない。
 まだ命は保てているのだから、血はもう少しなら流せる。
 詰んでいる、打開策はない、そんな事で諦めが付く程、アンヌは物分かりの良い少女ではなかった。死にたくない、生きたい、まだ死ねない。その想いだけで身体を動かせば、アーチャーの足が動かそうとした部位を踏み付けて拘束してくる。一つ一つ丁寧に潰されていく可能性。痛みは既に耐え難い域に達していて、頭の中は色々な感情でパンクしそうだ。
 激痛と失血の中で、アンヌは心から願う。ああ神様、どうか今一度だけ、自分に生きるチャンスを下さいと。
 少女は忘れてはいなかった、『鉄片』の存在を。記憶を取り戻してから数十分、未だに自分の手元で形を保っている全ての元凶を。皮肉な事に、アンヌ・ポートマンを冬木の悪夢に引き摺り込んだこの『鉄片』こそが、あらゆる可能性を摘み取られた彼女に残された最後の希望であった。
 
(……お願い)

 この状況を切り抜けるには、最早一つしかない。
 それは、アンヌの意思ではどうにも出来ない事柄。
 この街に居るからには遠からぬ内に手に入るのだろうが、少なくとも今のアンヌは持っていない存在。

(助けて――助けてください、わたしの――)

 即ち――サーヴァントの召喚。この土壇場でそれを行う以外に、縛血者の少女が生き延びる可能性は皆無だ。
 右手に握り込んだままの『鉄片』を砕けんばかりに強く握り締め、また新たに身体が破壊された感触に震えながら、遂には瞼さえ閉じて願う。その様を彼女の返り血に塗れながら見つめていたアーチャーは、フッと失笑に近い笑い声を零した。

「無様だな」

 そうして屈み込み、ぐり、とアンヌの眉間に銃口を押し当てて。

「これなら外しはしない。君が死ぬまで、銃弾を撃ち込み続ける。それで終わりだ、全てな」

 死刑宣告の声が、冷たく響き渡り――





「子女を嬲ってご機嫌な所悪いが、終わるのはあんたの方だぜ狩人(イェーガー)殿」




 
 引き金に掛けられた指がそれを引く前に、アーチャーの身体が真横から飛び込んだ鉄塊めいた巨体に跳ね飛ばされた。


247 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:52:37 ZqZangJ20



「がッ――!?」


 アンヌがどれ程猛攻しても聞く事の叶わなかった、苦悶の声。大型トラックに撥ねられた人間のように呆気なく吹き飛んだ彼の身体は、然し只衝突されただけでは有り得ない程の負傷で染められていた。端的に言えば、身体が崩壊している。現界は確かに維持されているにも関わらず、身体の所々がその形を失ってしまっている。
 一見殺意と激情に満ちているアーチャーの瞳には、確かな動揺の色が見て取れた。冷静で優れたガンマンである彼をしても予測不能の事態が起きているらしい。つい数秒前まで完全に勝利を確信していただろう狩人の無様な姿に、アンヌを救った鉄の巨体は嘲りの笑い声をあげてみせた。

「あ……」
「聞こえたぜ、マスター。オレを呼ぶ声が――生きたいと願う声が。
 だがまぁ、細かい話は後だ。その有様じゃあ身体を動かすだけでも苦痛だろう、此処はオレに任せて休んでおけ」
「あな、たは?」
 
 それは、人間の形をしていなかった。
 鋼鉄の身体、禍々しくも雄々しい赫色。その爪は賜力を使ったアンヌのそれですらとても敵わない程強固であり、これに掛かれば自動車でさえ紙切れのように切り裂かれてしまうだろうとアンヌは思った。そして彼の顔は、鋼鉄で出来た面で覆われている。人間らしさと言う物が何処にも存在しない彼の外見から、アンヌが連想したのはとある伝説上の存在だった。
 冬木に来て与えられた留学生のロール。それに付随していた日本に纏わる知識の一つ。
 様々な昔話の中に登場し、悪逆の限りを尽くす存在――鬼。この怪物は、それに酷似していた。
 只一つ物語の中の鬼と違うのは、彼は今、自分を助けてくれたと言う事。自分の生きたいと願う声に呼応してやって来てくれた、正しい存在であると言う事。

「バーサーカー。あんたの声を聞き、あんたを助ける為に現界した――あんただけのサーヴァントだ」

 その言葉を聞いた途端、気が抜けたようにアンヌは脱力した。
 ああ、自分の願いは通じたんだと、心からの安堵が込み上げてくる。
 既に失血は危険域に突入している。安堵は意識の糸が切れるのを招き、アンヌはあっさりと意識を手放した。
 そして、少女が消えれば残されるのはアーチャーと、今現界したバーサーカーの両者のみ。
 一撃にして重篤な傷を負わされたアーチャーは、マスターの指示を仰ぐべくそちらの方角を見る。

「マスター! 悪いが傷が酷い、指示を――……え?」
「マスター? 其奴は"これ"の事かい、狩人殿」

 然し視線の先に、彼のマスターたる魔術師は居なかった。狐につままれたように周囲を見回すアーチャーに、バーサーカーはその手に"握り締めていた"赤い水の滴る物体を投げ渡す。地面にべちゃりと音を立てて落ちたそれは殆ど真っ赤だったが、所々に白やら灰やらの色が滲んでおり、よく見れば黒い糸のような物も混じっていた。
 バーサーカーが嗤っている。ケタケタと、悪戯を仕掛けた子供のように嗤っている。その笑い声から、アーチャーは全てを理解した。これが何なのか。この、ありとあらゆる方向から力を加えて破壊し尽くされたような肉の塊は、元々何で有ったのか。その全てを理解してしまったから――


「――バーサーカァァァァァァッ!!!!」


 アーチャーの感情が爆裂した。宝具を展開し、銃口を無数に増やし、憎き眼前の鬼を滅ぼすべく咆哮する。
 聖杯戦争を今後どうするかなど、後で考えればいい。今は兎に角此奴だ、この悍ましき狂戦士を殺す!
 荒れ狂う大海原を思わせる激情を真正面から浴びせ掛けられながらも、バーサーカーに動揺した様子はまるでない。
 只呆れたように、軽蔑したように、或いは失望したように――彼は一言、口にするのみであった。

「あんたに黄金の杯は似合わんよ、サーヴァント・アーチャー。
 もしもあんたが最果ての奇跡に見合うだけの漢だったなら、オレがあんたと道を共にする事も有ったかもしれんが――」

 銃弾が、バーサーカーに何十発という勢いで着弾する。
 されどたったの一発とて、彼の身体に傷を付ける事は叶わない。
 全ての銃弾が、ある一定の間合いまで進んだ所で塵のように崩壊して消滅した。
 驚愕するアーチャーに、その巨体からは想像も出来ない、亜音速に達する速度でバーサーカーが迫り――

「全ては夢だ。大和(カミ)の御許に還るがいい」


248 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:53:17 ZqZangJ20
  ◇  ◇


「――よう。目が覚めたかい、マスター」

 アンヌが目を覚ました時、其処にはアーチャーの姿も、そのマスターの姿もなかった。
 月の見えない夜空の下で、鬼面のバーサーカーが佇んでいる。……自分がこうして無事で、敵の姿が消えていると言う事は、どうやら彼がアンヌの代わりに勝利を掴み取ってくれたらしい。息を吸い込めば、周囲の大気は血の匂いを含んでいた。流石にあれだけ血を流せば、こんな有様にもなるだろう。

「アーチャー達は葬ったぜ。あんたのように若いお嬢ちゃんは、奪った命に呵責を覚える事も有るだろうが、不必要な殺戮と生きる為の殺戮ってのは似て非なるもんだ。オレが言えた義理じゃあねえが、死んだ人間の事はさっさと忘れた方が良い。先人からの助言だよ」

 アンヌは、自分の心中を言い当てられた事に目を見張って驚く。
 バーサーカーが戦い、自分を生き残らせてくれた事には本当に心から感謝している。だが、あの二人はどうなった? 自分を殺そうとした相手とはいえ、死んだのなら自分が間接的に殺した事になる。その事に何も思う所がないと言う程、アンヌの心は人外の方へ傾いてはいなかった。
 それをこの鬼面は、一目で見抜いてみせたのだ。その上で自分が抱え込み、奪った命の重さに押し潰されてしまわないようにアフターケアの言葉も掛けてくれた。見た目こそ恐ろしいが、彼のそんな心意気が今のアンヌ・ポートマンにはとても有り難かった。
 ありがとうございますと礼を言って、頭を下げる。するとバーサーカーは、マスターはあんただ、サーヴァントはマスターに従い、それを尊重する物さと笑いながらそう言った。狂化を帯びたサーヴァントは普通、スペックが強化される代わりに大きくその理性を損なう物だと聞いている。にも関わらず、目の前で饒舌に喋る彼にそういう様子は真実欠片も見受けられなかった。其処が少し気になったものの、そういう例外も有るのかもしれないと、それ以上深く考える事はしない。

「それより、マスター。サーヴァントとして召喚されたからには、オレはあんたに聞かなくちゃならねえ」

 その真剣な声色に、思わず身体が強張る。凄く偉大な者と会話しているような緊張感が、アンヌの全身を覆っていた。

「あんたは――どうしたい? オレと言う英霊を使って、どういう風にこの聖杯戦争を勝ち抜きたいと考えてる?」

 先程までのバーサーカーの声には確かな友好の情が有ったが、今は違う。敵意こそないものの、其処には嘘や誤魔化しを許さない確固たる圧力が存在した。もしも下手にはぐらかそうとしたり、嘘を言ったりしたなら、このサーヴァントはきっと躊躇なく自分を見限ってしまうだろう。そんな確信が、アンヌの中には有った。だが、それに対して返すべき答えはもうとっくに決まっている。

「……たい、です」
「何?」
「帰りたい、です。わたしは――帰りたい。ただ、それだけなんです」

 聖杯に願う気は、ない。
 人を殺して喜ぶ趣味も、勿論ない。
 願いは一つ、帰りたい。
 あのフォギィボトムに帰り、自分の物語を取り戻したい。だから――

「……お願いします。どうか――どうか力を貸してください、バーサーカーさん」

 アンヌ・ポートマンには、バーサーカーの力が必要だ。
 帰る為に、死なない為に、……生きる為に。
 立ち塞ぐ外敵を薙ぎ払って先に進む為の、大きな大きな力が必要だ。
 唇を噛み締めながら己のマスターにそう請われたバーサーカーは、フッ、と小さく一度だけ笑って――頷く。

「良いだろう、あんたのその想いには確かに嘘も虚飾も有りはしない。
 只生きたいと願うのは浅ましいと吼える奴は居るだろうが、生への渇望も極めれば一つの揺るぎなき信念だろう。
 受け売りだが、そもそも生きると言う事に嘘も真もありゃしねえ。生きたいと想うなら、それが全てさ。
 オレはあんたの願いを尊重しよう、マスター。――そしてオレは、必ずあんたを元の日常へ帰してみせると誓う。
 あんたを害する全てを薙ぎ払おう、蹴散らそう。生憎オレは狂戦士でね、そういう分かり易いのは実に有り難い」

 その頼もしい言葉に、アンヌは良かった、と声を漏らしてしまう。
 きっとこれから先、大変な事は山のようにあるだろう。
 激しい戦いもあるだろうし、さっきみたいに死に掛ける事だってあるかもしれない。
 それでも――どんな目に遭っても、自分は帰りたい。いや、生きて帰らなければならない。
 家族の為に、そして自分の為に。アンヌ・ポートマンの本来の物語を失わない為に。

「わたしは――アンヌ・ポートマンと言います。その……これから、よろしくお願いします!」

 斯くして、若き縛血者の聖杯戦争は、"生きる為"にその幕を開けた。


249 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:53:42 ZqZangJ20
  ◇  ◇


 時に。
 アンヌ・ポートマンは、ある事を見落としている。
 縛血者ですら瞬間的には治癒出来ない大傷の殆どが既に治癒している事。
 まだ痛みは有るし傷口も残っているが、それでも縛血者基準で見ても異常の一言に尽きる回復速度だった。
 それと同時に、アンヌの中から抜け落ちていた筈の血が、大部分補填されている事。
 言わずもがな、彼女は吸血行為に及んでいない。だと言うのに、今のアンヌの身体には戦闘を行う前よりやや少ないとはいえ、行動を充分に続行出来る程の血液が流れていた。彼女はあの後意識を手放して、只じっとしていただけにも関わらず、だ。

 アンヌがその事に気付かなかった理由は一つ。
 それは、サーヴァントの召喚と言う状況の特異性だ。
 英霊の召喚に成功した事で、何らかの本人への良影響が働いたのかもしれないと、彼女は勝手にそう納得してしまった。
 彼女らしからぬ早合点。それは偏に、彼女のバーサーカーに対する印象による所が大きかった。
 不可解な回復。血液の補填。一度疑い始めれば、"その可能性"に行き着く事は容易く思える。
 されど――アンヌにとってバーサーカーは救世主であり、自分を目指す結末に導いてくれる最後の希望であったから。
 そんな事は有り得ないと、彼女は一瞬思い浮かんだ"その可能性"を切り捨ててしまった。
 一度は掴みかけた真実を投げ捨てて、朧気で的外れな仮説を信じ込むに至ってしまった。



 バーサーカーはアーチャーを撃滅した後、肉塊となって残った彼のマスターを徐に掴み上げた。
 そして、倒れ伏した自分のマスターを仰向けにし、打撃で歪んだ口を無理矢理開かせて。
 腕力の加減を強めて肉塊に大きな負荷を掛け、まるで雑巾のようにその血を――――


250 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:54:14 ZqZangJ20
  ◇  ◇



 その昔、とある国に恐るべき殺人鬼が存在した。

 殺人鬼は知謀を尽くした追跡劇の末に捕縛され、当然のように死刑台へ送られたが、鬼はそれでは死ななかった。

 蘇った鬼は、麗しの姫君と共に、都を舞台に殺戮の限りを尽くした。

 虐殺、虐殺、虐殺、虐殺――七万を超える犠牲者を出した未曾有の大惨事。

 その渦中に居た悪鬼は常に、言葉を口にしていた。

 それらしく、尤もらしく。


 ある時は、無機質な破滅の使徒。

 ある時は、闘争の美学を有する硬骨漢。

 ある時は、運命に対する忠実な使徒。

 ある時は、大いなる聖戦の試金石。


 彼は、余りにも多くの信念を口にしてきた。

 然しそのどれ一つとして、彼の真実ではない。

 全ては虚飾。人は、どうしようもなく暴力に虚飾を乗せる事が大好きな生き物であるから。


 強くて、格好良くて、信念があれば、人を殺しても許される。

 彼が欲したのは、そういう概念。殺人行為の許可証。

 人は大義有る殺戮が大好きだから、彼は虚飾で大義を騙る事にした。

 そして人はそれを信じる。彼の狂言を真実だと思って向き合い、勝手に描いて妄想する。

 
 強さ、格好良さ、不幸な過去、切実な理由、揺るがぬ不動の信念――そんな物、この殺塵鬼の何処にも有りはしないというのに。


【クラス】
バーサーカー

【真名】
マルス-No.ε@シルヴァリオ ヴェンデッタ

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A+ 魔力D 幸運A 宝具B+

【属性】
混沌・悪


251 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:54:50 ZqZangJ20

【クラススキル】
狂化:E
 狂化の影響が薄い。
 バーサーカークラスでありながら理性的に他者と会話し、意志疎通を行う事が出来る。

単独行動:C
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【保有スキル】
魔星:B
 正式名称、人造惑星。星の異能者・星辰奏者(エスペラント)の完全上位種。
 星辰奏者とは隔絶した性能差、実力差を誇り、このスキルを持つサーヴァントは総じて高い水準のステータスを持つ。
 出力の自在な操作が可能という特性から反則的な燃費の良さを誇るが、欠点としてバーサーカーは、その本領を発揮していくごとに本来の精神状態に近付いていく。本気を出せば出すほど、超人の鍍金は剥がれ落ちる。
 また魔星は人間の死体を素体に創造されたいわばリビングデッドとでも呼ぶべき存在であり、死者殺しの能力や宝具の影響をモロに受ける。

貧者の見識(偽):C
 相手の性格・属性を見抜く眼力。言葉による弁明、欺瞞に騙され難い。
 しかしバーサーカーのそれは、後述のスキルに由来する所の大きい偽の見識である。

精神汚染:A+
 精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
 彼は本来狂った価値観に裏打ちされた殺人鬼であり、当然意思疎通などまともに出来る筈もないが、後述のスキルによってさも正気の人間のようにやり取りを行う事が可能。

殺人許可証:EX
 彼の象徴たるスキル。
 結局最後は殺すにも関わらず、意味や理由付けを行うことで殺人行為の許可証が得られると言う思想。
 彼は、嘘と偽りで獲物を嬉々と揺さぶり尽くす言葉のトリックスターである。
 バーサーカーと対話を行った存在は皆彼の口調や物腰によって、その本質を理解出来ないように騙される。
 純正な英雄であればあるほどこのスキルは通じにくくなり、逆に遠ざかれば遠ざかるほど通じ易くなる。
 彼はこのスキルによって狂化、精神汚染のデメリットを無効化しており、バーサーカーというクラスであるにも関わらず他者と自由に意思の疎通が可能。
 また、軍事帝国アドラーに消えない傷痕を刻んだ"大虐殺"の実行者の片割れということも手伝って、彼は人間と人属性の英霊に対して特攻効果を発揮できる。

【宝具】
『義なく仁なく偽りなく、死虐に殉じる戦神(Disaster Carnage)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:50
 分子間結合分解能力。物質を跡形もなく消滅させる、漆黒の波動を生み出す星辰光。
 その正体は物体の結合力そのものを崩壊させる物質分解能力で、無機物有機物の違いなく、接触した物体を消滅したと錯覚するほどの速度で分解する。
 彼の纏う漆黒の瘴気全てがその特性を帯びているため、バーサーカーは常にこの宝具を纏わせて戦う攻防一体の戦闘スタイルを得意としている。
 亜音速に迫る高速移動から繰り出される攻撃に、瘴気による絶対防御。完成された攻防速をバーサーカーは揃えているため、生半可なサーヴァントでは太刀打ち出来ない。常に全身へ展開しているため、破るには一定以上の出力と優れた収束性を持った攻撃を用いるか、もしくは宝具の効果を余り受けない気体や非物質による攻撃で攻め立てるのが効果的。


252 : アンヌ・ポートマン&バーサーカー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:55:21 ZqZangJ20

【weapon】
 鋼鉄の爪を始めとした魔星としての肉体

【人物背景】

 軍事帝国アドラーを襲撃し、後に蛇遣い座の大虐殺と呼ばれ語り継がれる大虐殺を生んだ張本人。
 アドラー独自の技術と思われた強化兵、星辰奏者を遥かに上回る出力と技量を持った鋼鉄の運用兵器で、その姿は千年前に滅んだ日本の昔話にある"鬼"を連想させる。
 口調は姿に似合わず、基本的に冷静、かつ理知的。
 時に相手の事情を慮るなど高い教養が伺える──かと思えば一転して享楽的な振る舞いを演じるなど、真意を読み取るのが非常に困難。

 その正体は人造惑星の一体、殺塵鬼(カーネイジ)。
 カンタベリー聖教皇国出身の男で、凶行の末死刑台へと送られた真性の殺人鬼。
 彼は様々な表層を持ち、それは時に無機質な破壊者であり、時に美学を解す戦闘狂であり、時に筋の通った硬骨漢であるが、そのどれもが彼の真実からかけ離れている。

 ――バーサーカーは単に虚飾に塗れ、嘘っぱちの表層を演じ、殺人許可証を渇望する狂人に過ぎない。

【サーヴァントとしての願い】
 殺して、殺して、殺す。


【マスター】
 アンヌ・ポートマン@Vermilion-Bind of blood-

【マスターとしての願い】
 生きて、元の世界に帰る

【Weapon】

【能力・技能】

縛血者(ブラインド)
 所謂、吸血鬼。
 永遠の寿命と高い身体能力、そして不死性を持ち、忌呪と言う弱点と超常能力を所有する。
 心臓は脈動せず、体温はなく、呼吸もしない。睡眠を取る必要は有り、睡眠中は完全な無防備状態となってしまう。
 生命活動の全てを体内に蓄えた血の消費で賄えるが、縛血者自身は血を生成出来ない為、吸血行為によって血液量を維持する必要がある。
 また人間を魅了する効果を持つ、特殊な視線を放つ事も可能。

忌呪(カース)
 縛血者の弱点。彼女の場合は、満月を視る事による精神の狂乱。
 暴走を引き起こした彼女のパワーは平常時より格段に上昇するが、その反面消耗も非常に激しくなる。

幻獣顕身(フィーヴァー・ドリーム)
 夜の住人としての洗礼を受けた際に、忌呪一つにつき一つ備わる"賜力(ギフト)"と呼ばれる超常能力。
 発動すると爪が大型化、熊じみた獣毛が全身を覆い、身体能力が大幅に引き上がる。
 変身部位のパーセンテージが上がる毎に身体能力や戦闘力は上昇するが、理性での制御が困難になっていく。
 効果は単純明快ながら増強されたパワーは相当な物があり、当たりさえすれば通常の攻撃を殆ど受け付けない強固な生命体でさえボロ布のように引き裂いてしまう。
 回復能力の増強もかなりのものが有り、暴走時には軍用ヘリに搭載された機関砲の直撃でさえ意に介さない凄まじい生命力を発揮可能。

【人物背景】
 "洗礼"により、人間を逸脱した少女。
 気まぐれで明るい、信用した相手にはとことんなつく子犬属性。年頃の少女らしく、どこか夢見がちな部分を持つ。
 平和主義者であり温厚だが、その反動か窮地に立つと芯の強さを覗かせる。
 
【方針】
 バーサーカーに助けて貰いつつ、生きて帰る


253 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/17(金) 23:55:49 ZqZangJ20
投下終了です


254 : ◆NIKUcB1AGw :2017/03/18(土) 21:34:46 Fupv9LNw0
皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます


255 : 赤司征十郎&アサシン ◆NIKUcB1AGw :2017/03/18(土) 21:35:46 Fupv9LNw0
赤司征十郎は、穂群原学園バスケ部の帝王である。
その圧倒的な実力により1年生にして主将に指名され、先輩たちもそれについて一切文句を言わなかった。
だが本人にとって、現在の状況は何ら価値を見いだせないものであった。


赤司は、早々に違和感を覚えていた。
なぜ自分が、こんな弱小校のバスケ部に籍を置いているのか。
あえて劣悪な環境に身を置くことで、おのれを奮い立たせる人種もいるだろう。
だが赤司は、そういうタイプの人間ではない。
迷うことなく、強豪校を選ぶ人間だ。
つまり今の状況は、自分自身で選択した結果ではない。
その考えに至ったとき、彼は記憶を取り戻した。


◇ ◇ ◇


時刻は夕刻。赤司は高級マンションの一室で、紅茶を飲みつつリラックスしていた。
このマンションに一人暮らしをしているというのが、赤司のロールである。

赤司の態度に、生死をかけた戦いに放り込まれたという恐怖や絶望はまったく見られない。
なぜなら、彼にとって勝利は呼吸と同じくらい当然のことだからだ。
たとえ不本意に参加させられた戦いであっても、それは変わらない。
自分が聖杯戦争を勝ち残り、元の世界に帰る。それは赤司にとって、確定した未来である。
そのためには何人もの人間を犠牲にすることになるだろうが、それは仕方の無いことだ。
悪いのは、自分と争うことになってしまった彼らの運である。

(さて、いつも通りならそろそろアサシンが戻ってくる頃だが……)

赤司は時計に視線をやり、そんなことを考える。
するとそれにタイミングを合わせたかのように、一人の青年が部屋の中に姿を現した。
彼のサーヴァント・アサシンである。


256 : 赤司征十郎&アサシン ◆NIKUcB1AGw :2017/03/18(土) 21:36:27 Fupv9LNw0

「ただいま、マスター」
「どうだった、今日の結果は」
「いやあ、さすがに毎日毎日上手くはいかないね。今日は収穫ゼロだったよ」

人なつっこい笑顔でそう報告するアサシンは、一見人畜無害な好青年である。
だが、人は見かけによらぬもの。
彼の正体はある世界で最強最悪の盗賊団として恐れられた、「幻影旅団」の一員である。
とはいえその中で飛び抜けた実力者というわけではなかったらしく、本人に言わせれば

「旅団のネームバリューのおかげで、ギリギリ英霊の枠に引っかかった」

というところらしい。
実際、彼のサーヴァントとしてのステータスはさほど高くない。
だがそれでも、赤司は彼のことを高く評価していた。
一つは「念能力」という、ステータスに反映されない能力を持つこと。
もう一つは、賢いこと。
おそらくは年下であろう自分を仮初めの主とすることをすぐに受け入れ、命令に忠実に動いてくれる。
一方で彼に判断を任せても、的確な行動を取ってくれる。
実に優秀な手駒である。
実際、今日は空振りだったとはいえ、アサシンはすでに複数の参加者を仕留めることに成功している。

「そうか。残念だが、そういう日もあるだろう。
 ご苦労だったね。今日はもう休んでくれ。
 また明日頼むよ」
「了解」

赤司の言葉に短く返答すると、アサシンは霊体化して姿を消した。
残された赤司は、何事もなかったかのようにまたくつろぎ始める。

赤司は、聖杯に興味は無い。
彼が望むのは元の世界に一刻も早く帰り、かつての仲間たちと戦うことだけだ。
ゆえに彼は、万能の願望機をかけた命がけの戦いを淡々と進めていく。
ただ、息をするように。


257 : 赤司征十郎&アサシン ◆NIKUcB1AGw :2017/03/18(土) 21:37:24 Fupv9LNw0

【クラス】アサシン
【真名】シャルナーク
【出典】HUNTER×HUNTER
【性別】男
【属性】混沌・悪

【パラメーター】筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:B 幸運:C 宝具:C

【クラススキル】
気配遮断:B+
自身の気配を消すスキル。隠密行動に適している。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。

【保有スキル】
念能力:B
人間の体内で作られるオーラを、自在にコントロールする技術。
オーラを増幅すれば身体能力が向上し、遮断すれば気配を断てる。
鍛練を積めば、独自の能力を生み出すことが可能。
彼の宝具である「携帯する他人の運命」も、念能力の一種である。

情報抹消:D
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、能力、真名、外見特徴などの情報が消失する。
例え戦闘が白昼堂々でも効果は変わらない。
これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。
彼が無法地帯で生まれ育った、戸籍上存在しない人間であることに由来するスキル。


【宝具】
『携帯する他人の運命(ブラックボイス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:2人
操作系の念能力。
他者にアンテナを突き立てることにより、携帯電話をリモコンとして相手を操ることができる。
アンテナが破壊されると、効果は解除される。
また自分にアンテナを刺すことで、「自動操作モード」の発動が可能。
この状態では戦闘力が大きく上昇するが、自我が消失し機械的に戦う戦闘マシーンと化す。
使用中の記憶が失われることと肉体への負担が大きいことから、シャルナークはこの技をあまり使いたがらない。

『蜘蛛の足は一本にあらず(ヘッドレス・スパイダー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
幻影旅団の団員を召喚する宝具。
しかしシャルナークは旅団のリーダーではないため、召喚できるのは一人だけ。
一度使用すると、他の団員を召喚することはできなくなる。
また、団長であるクロロは召喚不可。
召喚の対象となるのはノブナガ、カルト、シズク、マチ、フィンクス、フェイタン、
フランクリン、コルトピ、ボノレノフ、ウボォーギン、パクノダの11名。

【weapon】
「携帯電話」
宝具の媒介として使用するアイテム。
彼自身によってカスタマイズされている。

【人物背景】
世界中で恐れられる盗賊集団「幻影旅団」の創設メンバー。団員ナンバーは6番。
優れた頭脳と豊富な知識を持ち、団長不在時には団員たちに指示を出すこともある参謀的存在。
しかし頭脳労働専門というわけではなく、戦いになれば他の団員に劣らぬ戦闘力を発揮する。

【サーヴァントとしての願い】
盗賊はただ奪うのみ。ゆえに、聖杯を奪う。


258 : 赤司征十郎&アサシン ◆NIKUcB1AGw :2017/03/18(土) 21:38:22 Fupv9LNw0

【マスター】赤司征十郎
【出典】黒子のバスケ
【性別】男

【マスターとしての願い】
聖杯に興味は無いが、自分が勝つのは当然のこと。ゆえに、勝つ。

【weapon】
特になし

【能力・技能】
「天帝の目(エンペラーアイ)」
「未来を見通す」と言われる眼力。
その正体は他者のわずかな筋肉の動きや呼吸から、次の動きを完璧に予測する人間離れした洞察力。

「カリスマ」
1年生から主将を務め、先輩を格下として扱ってもまったく不満の声が出ないほどのカリスマ性を持つ。

【ロール】
穂群原学園の1年生

【人物背景】
かつて帝光中学バスケ部にて、「キセキの世代」と呼ばれる天才たちを率いた司令塔。
良家の跡継ぎとして厳しい教育を受けており、亡き母から教わったバスケを唯一の心の安らぎとしていた。
しかし爆発的な成長を見せるチームメイトたちを前にして、「いつかついていけなくなるのでは」という焦りと恐怖に支配されていく。
やがて紫原との1on1で追い詰められたことがとどめとなり、二重人格者に。
以降は新たに生まれた人格が、常に表に出た状態となる。
卒業後は京都の洛山高校に進学し、1年生でありながら主将となりインターハイを制覇する。

今回はウィンターカップ開始直前からの参戦。

【方針】
優勝狙い


259 : ◆NIKUcB1AGw :2017/03/18(土) 21:39:14 Fupv9LNw0
投下終了です


260 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/19(日) 21:14:38 wP1/U4t60
投下します。


261 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/19(日) 21:15:32 wP1/U4t60
周囲の人間からして、神那ニコは、何処か暗い雰囲気を漂わせていたそうだ。
いや、別段何か問題があった訳じゃない。
不自然な傷跡を遺した事も無いし、学業にも日常にも、特に問題を抱えている訳じゃない。
あまり、人と関わることを避ける性質があることを、除いては。


しかし変わったことにニコ自身にも、自分が何故他人を避けたがっているのかは分からない。
只、無意識の内に、と言うか、潜在的な感情が、人との友情を作ることに拒絶反応を起こしている事が原因なのかもしれないと、彼女は薄々感じ取っている。
例えば、クラスメートに遊びに行こう、と誘われた時。
そんな時、無意識に舌が動いて言い訳を発し始め、そして自分はクラスメートから避けてしまう。
別に自分は、誰かを避けたがっている訳じゃないのに。

皆が寄り道をしようとグループを作って下校する中で、自分はポツンと只一人帰り道を歩く。
此処にもまた違和感。
こんな時自分は何時も感じ取る。
「一人なのは久し振りだな」と。
禄に友達も出来やしないこんな自分に、だ。
それが何故か不思議に思う。
しかしそんな疑問を頭にこっそり閉まった自分は、結局家に到着。

日が沈み、電球が照らすこの食卓を囲むのは、自分と、その周りにいる家族達。
しかしまたベロが開き、今夜は自分が作ると言い出すのである。
何故なのかは分からない。
自分に、料理を作るという習慣は無かった「はず」なのに。

手が動き出す。
まるで誰かに動かされているかのように。
無意識に脳内に描かれるレシピのままに、食材を取り出す。
―今日は親子丼―と見せかけて、中にミートソースを仕込んでおこう。
等という、素人にしては巧妙過ぎる献立が浮かび上がる。
自分は、あまり料理に縁のない人間だったのに。

台所の向こうでは、両親が映画を観ている。
今回放送されているのは、クラス30人で殺し合いという、とても金●ロードショーにしては相応しくない内容だった。
テレビに映る映像が遠くから見える。
其処に映っていたのは、一人の少年が銃を乱射するシーン。

しかし、そのシーンを覗いた瞬間、ニコの脳内にビジョンが映し出される。
映っているのは、ピストルを取り合う幼いころの自分と、同年代の少女達。
次の瞬間に映っていたのは―血の海で泣く自分と、倒れる少女の亡骸。

(ああ、そうか。)

今までの出来事がフラッシュバックする。
これまで自分が友達を避けたがっていたのは、魔法少女に成る前の自分の性質の名残だった。

何故料理を作りたがっていたのか。
それは、料理が大好きだったミチルの影響で―

―それに、つい最近まで私の側にいたのは―

神那ニコは、聖杯戦争の記憶を取り戻した。


●  ●  ●


262 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/19(日) 21:16:05 wP1/U4t60


「うっっ……。」

記憶を取り戻したニコは、吐き気を抑えながらも、部屋へと一歩ずつ足を進める。
確か昨夜食ったのは、鮭のグリルだったような。

―食べ物を粗末にする奴は悪党、か。
ミチルの言葉が、脳裏に浮かび上がる。
それが、口内を抑える口の強さをより一層強めていく。

家のドアを開き、ベッドに寄っかかる様に倒れ込む。
そして懐から無意識に宝石……ソウルジェムを取り出す。

(お帰り〜我が魂―マイソウル―)

記憶を失っていた時にはなかったソウルジェムを口に近づけ、魔力を込める。
宝石の光が増し、次第に吐き気が薄れていく。
そしてニコは―元通りの仏頂面を取り戻し、ベッドに横になる。

(最低な目覚めじゃの、此奴は)

まさか、銃で記憶を取り戻す事になるとは。
よりにもよって、自分が捨て去った過去が切っ掛けになって、それがフラッシュバックの切っ掛けだとは。
それはまるで、自身に対する皮肉にすら思えてきた。
元の世界にいるかずみが記憶を取り戻したのだとしたら、こんな心境になってしまうのだろうか。

(しかし、聖杯戦争、ねぇ……)

いつの間にやら、頭の中に埋められた記憶に付いて整理していく。
聖杯戦争。
新約聖書に出てきた、願いを叶える聖なる杯の所有権を、英霊(サーヴァント)を以って奪い合う、殺し合い。
マスターは記憶を引っこ抜かれた状態でこの偽物の世界を徘徊し、自我を持った者は予選を突破、マスターの資格を得る。
そのそもそもの参加権とは―鉄片と呼ばれる素材で出来た、謎の物質。

(鉄、か)

魔法を使うためのスマートフォンか?
いや、それともアクセサリー……?

身に付けている代物について回想していく内に、ポケットから光と熱が発せられていく。
熱さを感じ取ったニコはベッドから跳ね起き、直ぐ様ポケットから物を取り出す。
光を発するそれは、彼女にとって最も身近なアイテムであった。

(グリーフシード……?)

グリーフシード。
ニコ達魔法少女が、その腐りきった身体を生かしていく為に重要なアイテム。
しかし、グリーフシードの素材は、魂が魔女となって抜けきったソウルジェムのはず―。
それが何故……?

と思考していく内に、ニコはある一つの出来事を思い返す。
以前、いつもの様にプレイアデスの仲間とともに魔女狩りをしていた時。
その時魔女が落としたグリーフシードが、何と二つもあったのだという。

「ま・さ・か」

グリーフシードを睨みつけながら、そう言葉を発したと同時に、グリーフシードの発する光が増していく。
此処でニコはもう一つ、聖杯戦争に関するルールを思い出す。

―鉄片は、記憶を取り戻した後はサーヴァントの核となる。

「狩る対象たる魔女の種が、相棒の英霊の核とは、何とも皮肉な出来事でござんすなぁー!」

無表情でグリーフシードを床に投げつける。
グリーンのカーペットにトンと音を立てて落ちたグリーフシードは更に光を増し、やがてこの部屋全体を包んでいき―


263 : 神那ニコ&アサシン ◆lkOcs49yLc :2017/03/19(日) 21:17:30 wP1/U4t60


●  ●  ●


光が止んだ。
視界を右腕で抑えていたニコは―やはり無表情で―眼を開く。
眼の前にいたのは、ボロボロのフードに身を包み、骸骨の如きマスクで顔を隠しているという、中々に趣味の悪い格好をした者だった。
視界に、幾つかの数値と、「Assassin」と言う文字が浮かび上がる。

「チャオ、イ・ミオ・アミーコ、アサシン。」

イタリア語で、ニコは自分のサーヴァントに挨拶を交わす。
それに応え、アサシンのマスクからシュコーとした息が漏れる。

「御機嫌よう、我が、マスター。」

漏れ出た声は、まるで病人の様に乾いている。
しかし、口調自体は抑揚が付いている。
まるで、何かを悦んでいるかのように。

アサシンの右手に、光の粒子が収束し始める。
粒子が形作ったのは、一丁の黒いハンドガン。
黒いハンドガンを構えたアサシンはマスクからまたシュコーと息を漏らし、声を発する。

「良く聞けマスターよ。俺のとこの銃の真名(な)は―死銃(デス・ガン)だ。」

(っく……また拳銃かよ……)

最悪だ。
魔法少女になって、銃に対するトラウマも克服出来たかと思えば、またこれ。
一度目の映画で気分を悪くし、二度目はよりにもよって自分の新しい相棒だ。

―おのれ運営、貴様は絶対に許さぬぞ。
心の中で漏らした言葉は何時もよりも、苛立ちが更に籠っていた。
また吐き気がしてくる。
もしかしたらさっきのよりもキツいな奴かもしれん。


●  ●  ●


「っ!クソッ!馬鹿な!何故、何故我が剣の腕が……暗殺者風情に!」

辺りにコンテナが積まれている、夜の廃工場。
アサシンのサーヴァント、死銃(デス・ガン)は、一人の剣士…セイバーと、剣を交えて戦っていた。
戦況はセイバーの方が優勢ではあった。
しかしアサシンの目にも留まらぬ斬撃により、セイバーは仰け反り、暫くその場に留まってしまう。
経緯はこの様な事だった。
まず、剣に関してはほぼ互角だった。
しかし、すかさずアサシンが取り出したライフル―
其処から放たれたスタン弾が当たり、セイバーの身体が梗塞されてしまったのである。
それが不味かった。

アサシンは剣を捨て、代わりに黒いハンドガンを手に取り、カチャリとリロードする。
銃を持っていない方の左手を掲げ、大きく十字を描く。

「うっ……くっ……。」
「座への、土産に、この名を刻みつけろ、セイバー。」

骸骨の仮面から息が漏れる。
照準がセイバーに定められる。

「俺とこの銃の名は―死銃(デス・ガン)!」

小さな銃口から、黒い弾丸が放たれる。
放たれた弾丸はセイバーの鎧の中央部に当たる。

「うっ!。」

スタンされて動くことの出来ないセイバーは数m先に弾き飛ばされ、仰け反る。
しかし、ダメージの量は然程でも無かった。
それどころか、宝具である鎧によってダメージは掠った程度の物となっている。

(今の感覚、は……)

今の気迫と魔力量、奇妙な仕草、そして真名の開帳。
これらは全て、宝具の発動の前ぶり、と言っても良い。
何かがある、とセイバーは察知した。
この程度で疑わっていなければ、己が武功を上げる事も無かったろう。
嘗てあった経験が、胸騒ぎを起こしている。

(奴は、一体何を……)

―予感は的中した、それも、最悪の方向に。

「ぐああああああああああああああああああああああああああ!!」
「マスター!」

コンテナに隠れていたマスターの叫び声が聞こえる。
動こうとするが、スタンがまだ効いていて動こうにも動けない。

「貴様らの、敗北、だ。」


264 : 神那ニコ&アサシン ◆lkOcs49yLc :2017/03/19(日) 21:18:31 wP1/U4t60
それと同時に、セイバーの感覚に、異常が起こる。
位置を知らせていた魔力供給バイパスが、動きを停めた。

「マス、ター?」

まさか。
死んだ、のか?

「っ…アサシン、貴様ァァァ!!」

セイバーは、アサシンに向けて怒号を発す。
廃工場全体にこだます声が、虚しさを強くしていく。
予感は当っていた。
やはりアサシンは宝具を開帳していた。
それに気づいた時には、もう遅かった。
身体が粒子化を始めていく。

「デス……ガン、か。」

己の相棒を殺した暗殺者の名を吐く。
その名を覚えておいてやろうと。
この胸に刻みつけてやろうと。
そんな想いを込めて発した名を遺して、セイバーはこの聖杯戦争から消滅した。


●  ●  ●


265 : 神那ニコ&アサシン ◆lkOcs49yLc :2017/03/19(日) 21:21:20 wP1/U4t60
「お疲れアサシン。」

廃工場の中から、女の子の軽く、しかし冷たい声が響く。
現れたのは、―パイロットの様な格好の―魔法少女の姿をしたニコだった。
ニコとアサシンの獲物は、これで一組目。
初戦にしては、中々出来た方だとは思う。

躊躇と言える感情は無い。
もう既に、戦うことは決めているのだから。

(なぁ、ミチル、あの世で見ているか?
今のアタシを、お前さんは、どんな顔で見ているんだ?)

きっと、彼女は泣いているのだろう。
自分がこれ以上、誰かを殺めてしまうことを。
既に捨て去られた、自分の命のために。
イチゴリゾットの作り方を知り、祖母との最期の一時を過ごすためだけに魔法少女の願いを使った彼女の事だから、きっと。

(でも、な、これ以上、寂しいのはウンザリなんでさぁ。
海香もカオルもサキも皆、お前を待ち続けているんだ。)

幼い頃のトラウマに縛り付けられ、神那ニコと言う偶像に縋るしか無かった自分を助け、プレイアデス星団と言う居場所まで与えてくれたのは、紛れもなく彼女だった。
その恩を―等という綺麗事は言わない。
只、只、キミとは別れたくない。

(私ゃその為に殺させてもらうよ、ミチル。躊躇いは無い、もう人を殺すのは慣れっこさね。)

かずみと言う魔女の肉詰め(マレフィカファルス)には申し訳が付かんと言う気持ちもある。
しかしそれも、ミチルを生き返らせるための事。
最早躊躇いは無い。

(……しかし、随分酷い逝き方をしたもんさねぇ、奴さんも)

ニコは、アサシンの宝具で撃たれ倒れた男の死体を、冷たい顔で見つめていた。
スーツを着た男には、傷が一つ付いていない。
アサシンの宝具によって魔力供給バイパスを通じて「死」の概念を放たれ、命を落としたのだ。
手元には―護身用の拳銃。

「はぁ、先週の映画に、今宵のアサシン、そして初敵。
昨日と今日は拳銃キャンペーンかなんかかい、っと。」
「―昨日、君の夢を見させてもらったよ。」
「!?」

背後から声が聴こえる。
優しそうな、少年の声が。
しかしニコが振り向いた、声のする方向は、後ろにいるアサシンからだった。


266 : 神那ニコ&アサシン ◆lkOcs49yLc :2017/03/19(日) 21:21:38 wP1/U4t60

「……どちら様で?」

苦笑いを浮かべるニコに応え、アサシンのマスクからシュコーと息が漏れ、それと丁度いいタイミングで声がまた聞こえる。

「子供の頃、拳銃を使って同年代の子供を殺した、かぁ。」
「……チィッ!」

いざ耳を凝らして良く聞いてみる。
声が聴こえる方向は同じだった。
しかし、声の主は―アサシンからだった。

アサシンの声は、病人の様な枯れた声だったはず。
しかし今の声帯は、どっからどう聞いても大人しげな普通の少年のそれ。
ニコは訝しむ。
何かがあると、この暗殺者は何かが可笑しいと。
―後に二重人格の魔法少女と戦う事になると言う事をニコは、知る由もない。
そんな風にして怪しむニコを尻目に―眼はスカル仮面で隠されているが―アサシンは言葉を続ける。

「勿体無いなぁ、君は選択肢を間違えちゃったんだ。
まだ君には、あの銃の使い道が他にもあったのに。
例えばほら、悪いヤツを殺すとか―」

その言葉に、ニコは言葉を詰まらせ、仏頂面を作る。
言い返さない。
言い返せないし、言い返したくもない。
もう、現実から眼を背けるのはゴメンだ。
銃を暴発させたことは、今でも心の中に銃創を作っている。

「多重人格、正に二枚顔(トゥーフェイス)かね。
前々から考えてはいたけど、本当に変わった暗殺者だ。」

本当なら、なんちゃらガンとか名乗っちゃっている暗殺者に言われたくないよとでも言っている頃だろうが、
心の中に未だ残るカンナが、口を塞ぐ。

「……どうか、したのか?」

声が何時もの、疲れたような声に戻る。
それにニコは、取り繕った様に口で弧を描き、口を開く。

「こりゃ驚いた物だ、君にゃ自覚が無かったのかい?」
「自覚……か……。」

アサシンに自覚があるのかは分からない。
しかし……二つの顔、二つの心。
それらの要素に、ニコはまた一つ、イヤな事を思い返す。

(カンナ、か……)

そう。
ニコは、自分が作り出した偶像。
本当はカンナと言う名前で、この身は、自分の願望の様な存在。
この身に宿る二つの心。

(それが、私とこのアサシンを引き合わせたとでも……?)

最悪だ。
最低最悪のシナリオだ。
トラウマで記憶を取り戻し、願望が引き合ってアサシンを呼び寄せる。
こんなバカげたお話があるのだろうか。
ある意味、インキュベーターよりも質が悪いかもしれないな、聖杯とやらは。
そんな事を、ニコは脳裏に浮かべながらも変身を解き、自宅へ帰ろうと歩きだす。


267 : 神那ニコ&アサシン ◆lkOcs49yLc :2017/03/19(日) 21:22:17 wP1/U4t60


【マスター名】神那ニコ
【出典】魔法少女かずみ☆マギカ
【性別】女

【参戦経緯】

回収したグリーフシードの内の一つがどういう訳か鉄片で出来ていた。
ジュウべぇ、帰り次第貴様は極刑に処す。

【Weapon】

「ソウルジェム」
魔法少女が持つ宝石型アイテムで、インキュベーターによって自身の魂を変換された物。
擬似的な魔力炉としても機能し、これを使うことでニコは魔法少女に変身できる。
ただし、魔力は無限という訳ではなく、魔法を使えば使うほどソウルジェムの濁りという物は溜まっていき、魔力は減っていく。
完全に濁りきった瞬間ソウルジェムは魔女という怪物を吐き出した後魂なき抜け殻になってしまう。

「パール」
何の変哲も無い杖。
彼女の魔法で生み出した物。

「グリーフシード×3」
ソウルジェムの成れの果て。
ソウルジェムの濁りを二回まで移す事が可能。

【能力・技能】

・魔法少女
願いと引き換えに、己の身を呪ったもの。
ソウルジェムを使って魔法少女に変身できる。
彼女の魔法は「再生成」で、物質を再構築することが可能。
ミサイルに分身、ビーム、更には魔法のスマホアプリだって作れちゃう。
ハッキングに近い事も可能で、これでインキュベーターの死骸を改造している。

【人物背景】

和紗ミチルが結成した魔法少女チーム「プレイアデス聖団」のメンバーの一人。
しかし、ミチルが死んだ事を切っ掛けに、仲間達とともにミチルをかずみに変えてしまう。
幼い頃はアメリカに住んでいたが、その時お遊びで使っていた拳銃で友達を殺害してしまった経歴を持つ。
その時のトラウマからインキュベーターと契約し、「違う自分になりたい」と願い魔法少女になった。
クールだが掴みどころのない性格で、チームでは分析を担当している。

【聖杯にかける願い】

和紗ミチルを生き返らせる。


268 : 神那ニコ&アサシン ◆lkOcs49yLc :2017/03/19(日) 21:22:36 wP1/U4t60


【クラス名】アサシン
【出典】ソードアート・オンライン
【性別】男
【真名】死銃
【属性】混沌・悪
【パラメータ】筋力C 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運C 宝具C

【クラス別スキル】

気配遮断:B+
自身の気配を絶つ能力。
己を知らぬものに気づかれずに射殺することが可能で、メタマテリアル光歪曲迷彩を施したマントを被ればランクは向上する。

【保有スキル】

弾風の狩術:C+
GGOアバターがポイント消費によって入手できる多種多様なスキル。
銃撃の腕前も兼ねるため、実質的には「射撃」と同等の効果も兼ねる。
因みにアサシンは「刺剣」と「銃剣作成」を選択している。

心眼(真):B
SAO時代に閉じ込められた牢獄で培った洞察力。
窮地に陥った際、逆転の可能性が数%でもあるのなら、それを手繰り寄せる戦闘論理。
放たれた銃弾を回避しながら暗殺を成立させることも可能。

笑う橙棺:B-
SAOで暴れていた殺人ギルド「ラフィン・コフィン」に所属していた逸話から。
属性が「善」ないし「中庸」の英雄への補正が掛かる。
幹部クラスに所属していた彼のランクはBランク程だが、GGOでのアバターで召喚された影響から、スキルが上手く機能していない。

【宝具】

「死銃(デス・ガン)」
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1
アサシンの逸話その物。
彼がハンドガンで放った銃弾を食らったサーヴァントの、魔力供給バイパスを繋いだマスターを殺害する。
魔力供給を受けなければサーヴァントは生きていられないため、必然的にサーヴァントも消滅するだろう。
ただし、この宝具を振るうには幾つかの条件をクリアしなければならない。
1.対象が「単独行動」等のスキルで供給をカットしていないこと。
2.撃つ前に十字架を切る事。
3.撃つ時には必ず「五四式」を使うこと。
4.撃つ時には、必ず真名を開放する。
5.撃つ時には、必ず姿を見せる。
これらの条件が全て成立すれば、アサシンの銃弾は死の魔弾となるだろう。

「我らは共犯者(Sterben)」
ランク:E 種別:対人格宝具 レンジ:― 最大捕捉:2(3)
アサシンのアバターを振るう三人の人格。
ただし、その内一人は罪を免れているため人格は生まれていない。
代わりに、実行犯であるアサシンの弟がもう一つの人格として形成されている。
何時人格が変わるかは不明、変わるのは弟の意思によるが、かと言って兄に権限が無いわけでもない。

【Weapon】

「トカレフTT-33」
中国では「五四式・黒星(ヘイシン)」と言う通称で呼ばれているハンドガン。
安全装置が付いていないプロ向きの銃で、暴発事件も幾つか確認されている。
アサシンはそんな滅法危険な銃を愛用しており、しかも歪んだ愛情付き、お前一体何があった。

「沈黙の暗殺者(サイレント・アサシン)」
GGOでのレアアイテムたるライフル。
扱いが難しく、これを扱えるアサシンの狙撃能力の高さが窺い知れる程。

「刺剣(エストック)」
アサシンが「銃剣作成」で作り出した装備。
GGOにおいては死に武器となっている剣だが、しかしSAOでの牢獄で鍛え上げた剣術は並大抵の者では相手にならない。

「メタマテリアル光歪曲迷彩マント」
皆も欲しがる透明マント。
これで姿を覆い隠してアサシンは戦う。
回避、及び気配遮断に補正が掛かるが、これで姿を隠している間は宝具が使用できない。

「電磁スタン弾」
これを食らったものは痺れちゃう、キャー!

【人物背景】

リアルマネートレードを実用化しているVRMMOFPS「GGO(ガンゲイル・オンライン)」にて突如出現した謎のアバター。
彼に撃たれた者は、現実世界で原因不明の突然死を迎えてしまう。
その正体はVRMMORPG「SAO(ソードアート・オンライン)」にてプレイヤーの殺戮を繰り返していた殺人ギルド「ラフィン・コフィン」の幹部メンバー「Sterben」。
SAO生還者であるキリトに執着しており、事実彼と交戦を繰り広げている光景が大会で確認されている。
寡黙で有りながらラフコフらしい快楽殺人者の気質を持つが、時折声と口調が変わる場面が見受けられる。

と言う逸話が、仮構世界であるChaos.Cellにて再現されたサーヴァント。
元の世界で少年院に入れられた時の記憶は所持しておらず(「ホロウ・フラグメント」のPoHに近い存在)、
死の魔弾を振りかざしていた頃の兄弟の人格がそのまま再現された状態にある。


【聖杯にかける願い】

Kiritoを殺す(殺人を愉しむ/朝田詩乃の心を取り戻す)。


269 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/19(日) 21:27:34 wP1/U4t60
投下を終了します。
尚、拙作のステータス作成の際に、「枢姫聖杯譚/Holy Embryo」の◆7PJBZrstcc氏による
「六星竜一&アーチャー」を参考にさせて頂いた事を、此処に追記させていただきます。


270 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/19(日) 21:43:01 wP1/U4t60
↑すみません、人物背景にミスが。
幹部メンバー「Sterben」。
→幹部メンバー「XaXa」のアバターを操った者。


271 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:47:37 20jdQTpc0
>赤司征十郎&アサシン
 黒子のバスケより赤司征十郎と、HUNTER×HUNTERよりシャルナークですね。
 まず赤司が記憶を取り戻すまでの経緯が、冷酷な側面を持つタイプの天才である彼らしいなあと思いました。
 そんな彼の下に召喚されたのが賢く、巧く立ち回ることに慣れた幻影旅団のメンバーだったのはまさにお誂え向きと言うかなんと言うか。
 あくまで日常の傍らで淡々と聖杯戦争を進める辺りも彼らしいやり方のように感じます。
 作中でも触れられているようにシャルナークのスペックは正面戦闘向きではないので、マスターである赤司の策略がどれだけ冴え渡るかに期待したい所ですね。
 投下ありがとうございました!


>神那ニコ&アサシン
 魔法少女かずみ☆マギカより神那ニコと、ソードアート・オンラインより死銃ですね。
 どこか淡々と書き進められる聖杯戦争に際して失った記憶を取り戻すまでの描写が大変雰囲気が有って良いと思いました。
 グリーフシードが本企画への参戦条件である鉄片だったと言うのも巧く設定を使っているなあと感じ、感心させられました。
 一方でオンラインゲームを舞台に連続殺人を繰り広げた死銃がサーヴァントとして他の英霊と闘っているのは電脳世界ならではだなあとも。
 彼の中には死銃事件の共犯者の人格も有るようですが、その辺りが今後どのように作用していくかが非常に楽しみな候補作でした。
 投下ありがとうございました!


 自分も投下します


272 : 間桐雁夜&アサシン ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:48:24 20jdQTpc0
 
「さて、こんな所か」

 男は安物のノートパソコンに自身が打ち込んだ文章の推敲を一頻り終えて、疲れ混じりの溜息を吐き出し全体重を椅子の背凭れに委ねた。長い時間キーを叩き続けた指の根元の部分は全てじんじんと言う痛みを発しており、言葉はなくとも男に休息を要求しているのが一発で解る。無論、彼にも休む事に異存はない。何しろ文章を執筆する事で生計を立てている身なのだ、もし腱鞘炎に等なろう物ならそれだけで飯を食いっぱぐれてしまう。
 またそれ以前に今回の分の仕事は今打ち込んだ分で全てだった。普通文を書く仕事と言えば、決まった事を只書き写して終わりではなく、見やすさやレイアウト、読み手がストレスなく読解出来るか等にも気を配る必要がある。だが、あくまで現地の報告と記録を行うのが役目の彼には、そういう方向に気を配る事は要求されない。重要なのは可能な限り客観的に、詳細に、生々しくレポートする事。それさえ貫けていれば、然程記事を通すのに苦労はしないのだ。
 後は念の為、明日の提出前にでももう一度見直しと微修正を加えてやれば完璧だろう。作業のお供にちびちび啜っていたエナジードリンクの余りを一気に飲み干して、男は厄介な仕事を終わらせた達成感に浸り、一人笑みを浮かべる。そのデスクの隅には、日焼けした写真立てが置かれていた。写真の中には彼と淑やかそうな美女、そして無邪気な笑みを浮かべる二人の幼い少女の姿があった。仲睦まじい親子のように見える写真の中の女三人と彼は、然し赤の他人だ。

「……元気にやってるかな、葵さん達は」

 男は日本各地を飛び回り、様々な事件や事故の報告、レポートを執筆して生計を立てているフリーのルポライターだ。名前を、間桐雁夜。今でこそ平々凡々とした暮らしを送る何処にでも居そうな青年だが、"間桐"と言う苗字を耳にしたなら、一部の人間は驚きの表情を浮かべる筈だ。表の世界では少し変わった苗字程度の扱いでも、裏――"魔術師"の世界では、"間桐(マキリ)"の名は大きな意味を持つ。
 遠坂、マキリ、アインツベルン。始まりの御三家と総称される魔道の名門、その一角。雁夜は実質の現当主、臓硯の次男坊であった。尤も息子と言うのはあくまで表向きの話であるのだが、其処の深い事情については此処では割愛する。彼と言う人間の事情を理解する上では、彼が嘗て間桐の家の人間だった、それだけで十分だ。
 されど、今となっては雁夜と間桐家の間に繋がりは皆無だ。彼が不出来で父に見捨てられた訳ではない。寧ろ真実は逆、彼の方が間桐と言う家の魔術を嫌い、臓硯の下を出奔したのである。それが、今から十一年前の事。かの日から今日に至るまで、雁夜は一度として自分の実家に戻った試しはない。
 が、冬木にはこうして定期的に戻って来ている。その度に彼が土産片手に顔を見せているのが、写真の三人だった。


273 : 間桐雁夜&アサシン ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:49:19 20jdQTpc0


 禅定改め、遠坂葵。そしてその娘の凛と桜。
 葵と雁夜は古くからの付き合い、言ってしまえば幼馴染の間柄に有った。雁夜はずっと葵に異性として想いを寄せていたが、彼女が他の男の手に渡ってしまっても、それを逆恨みするような真似はしなかった。彼女が幸せならば、その隣に居る人間は自分でなくても構わない。彼女の為を思えば、身を引く事に躊躇いはなかった。
 
“そう言えば、もう三ヶ月は逢ってないか――”

 ルポライターと言う職業柄、一つの場所に留まっていられる時間は長くない。必然的に彼女達母娘と会える機会は一ヶ月に一度有るかどうかだ。それでも、葵は雁夜をいつも暖かく迎えてくれた。桜や凛は彼が姿を見せると駆け寄ってきて、子供らしい笑顔できゃあきゃあとはしゃぐ姿を見せてくれる。
 所詮は他人、そんな事は誰よりも雁夜自身が強く理解している。手が届く事はもう絶対に有り得ないと解っていながら、潔く彼女達の前から姿を消さず、定期的に会いに行っているのは只の未練だ。そう解っていても、雁夜とて人間だ。日々の傍らにあの母娘の笑顔を見る事は、彼にとって何より大きな楽しみだった。
 
「仕事とはいえ、久々に戻ってきたんだ。明日は桜ちゃん達の顔でも見てくるか」

 時に――雁夜は今、出張を終えて故郷の街に戻ってきている訳ではない。たまたまこの冬木市での仕事が舞い込み、それを遂行する為に帰郷していた。その仕事と言うのが、先程まで彼が作成していた文書だ。雁夜は全く知らなかったが、近頃の冬木は随分と物騒な街に変貌してしまっているようだった。
 原因不明の爆発事故、失踪事件。路傍で見付かった死体の数は今月だけで既に五体になる。東京のような大都心ならいざ知らず、こんな辺鄙な地方都市でこの数字は明らかに異様だ。其処でこの異変に目を付けた某出版社が、冬木出身のフリーライターである雁夜の下に依頼を持ち込み、雁夜はそれを引き受けた。それが、彼の今日までの経緯である。
 素人目から見ても、今の冬木は不気味の一言に尽きた。空気が違う。雰囲気が違う。街のそこかしこから、何やら異様なものを感じる。これだけならまだ他人事で済むが、此処には葵やその娘達も暮らしているのだ。彼女達の無事を確認する為にも、雁夜は明日、あの愛らしい母娘に会いに行こうと決めた。
 そうと決まればお土産を見繕っていかねばならない。幼い凛達は、自分のお土産を毎回楽しみにしてくれている。
 お菓子が良いか、小物が良いか。どうしたものかと嬉しい悩みに口許を緩めたその時――

「……ッ」

 雁夜の頭に、まるで亀裂が走ったみたいな鋭く厭な痛みが走った。


274 : 間桐雁夜&アサシン ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:50:02 20jdQTpc0

「が、ぅ、ッ……!?」

 何か目立った病気をした記憶はない。雁夜を今襲っているのは、正しく原因不明の痛みだった。その激しさたるや脳味噌をフォークでズタズタに引き裂かれているようなそれであり、雁夜は堪らず体勢を崩して椅子から転げ落ちてしまう。藁をも掴む思いで伸ばした手が、デスクの上の写真立てを弾き飛ばし床へと落とした。
 地を這うような格好になりながら悶絶する彼の視界に、写真の中の愛すべき笑顔達が写る。どんな時でも彼の疲れを忘れさせてきた日溜まりの一シーンは然し、この時ばかりは間桐雁夜を支えてはくれなかった。寧ろ、その逆。写真を見た途端、彼を苛む頭痛の激しさは倍程にも膨れ上がった。
 古今東西あらゆる病気の中でも最大級の痛みを齎すと言う群発頭痛もかくやの勢いで、激痛は雁夜を苦しめる。痛みで失神する事すら出来ず、気を抜けば舌を噛み千切りたい程の衝動に駆られる生き地獄。その中で再び視界に入る、写真。それをきっかけにまた強まる痛みの中、雁夜の脳裏に声が響いた。

 ――――違う
 
 それは他でもない、間桐雁夜の声。これまでの人生で散々耳にしてきた、自分自身の声。
 何が違うんだと自問する前に、視界が灰色に染まってテレビの砂嵐を思わせるノイズに覆われる。
 そして、途切れ途切れに挿入される見た事のない映像、風景。可能なら一生見たくなかったと断言出来るような光景が、意識を沸騰させる激痛の中に次々流れていく。
 見るからに窶れた想い人の顔。疲れ切った声。
 人形のような空洞の表情で何かを言う凛。快活な彼女らしからぬ、硬く虚ろな眼差し。


 そして暗い――昏い、もう二度と見る事はないと思っていた"蔵"の中、無数の淫蟲に群がられている、桜。


 間桐雁夜と言う男が、嘗て守りたいと願った日溜まりの欠片が、他ならぬ彼の生家の手によって穢され、踏み躙られている光景。それを目にした途端、雁夜は全てを思い出した。記憶の復活と同時に込み上げてくる感情は、自分自身への絶大な憎悪。何故、何故俺は忘れていたのか。全て忘れ去って、白痴のように張りぼての日常を謳歌する無様を冒していたのか。俺がこうしている間にも彼女の心は壊され続けていると言うのに、一体俺は何をしている?


275 : 間桐雁夜&アサシン ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:50:45 20jdQTpc0

 衝動に身を任せて、雁夜は自分の顔面に爪を立てる。ぎぎ、と裂けていく皮膚は正常な人間のそれでは考えられない程脆く、萎びていた。先刻までは確かに健康な成人男性の姿を保っていた筈の雁夜の全身は今や、彼自身でさえ気付かない内に二目と見られない有様へと変化を遂げていた。――否、あるべき姿へと戻っていた。
 頭髪は一本残らず白髪に変わり、肌には至る所に醜い瘢痕が浮かび上がっている。それ以外の場所はすっかり血の気を失って土気色を湛え、宛ら幽鬼か何かのようだ。肉体にとっては最早毒素でしかない魔力の循環する静脈は破裂しそうな程膨張して、全身に赤黒い罅割れが走っている風にも見える。
 見えない部分もずたずただ。特に左半身は酷い物で、いちいち手足を動かして確認しなくても麻痺しているのが解る程である。喉の粘膜も凄まじいまでに破壊され、固形物は金輪際喉を通りそうにない。一言、これで生きていられる事自体が異常。現に雁夜は今、その体内に巣食うある忌まわしい生物に援助され、どうにか生きていられる状態だ。この死に行く病人にしか見えない醜い姿こそが、間桐雁夜と言う人間の真実に他ならない。

「済まない――桜ちゃん、葵さん。でも、俺……漸く、全部思い出したよ」

 自分が辿ってきた道。救うと決めた少女。そして、殺すと決めた外道。
 全てを思い出す代償は決して安くなかった。聖杯によりこの世界の住人として溶け込めるよう施されていた身体機能の再生は記憶の復活と同時に解除され、今や雁夜は元の死に体同然の襤褸雑巾に逆戻りしている。されど、嘗て抱いた想いも末期の身体を動かす原動力も、これでやっと取り戻せた。

 ――思い出す。自分が歩んできたこれまでの道。間桐臓硯の手に落ちた遠坂桜を救う為に、自分は十年以上も離れていた間桐の家に戻り、刻印虫を自らに寄生させて魔術回路を擬似的に拡張した。まさしく地獄と呼ぶべき苦痛と肉体が崩壊していく恐怖を耐え抜いた甲斐あって、魔術師として戦闘が行えるまでの領域に登り詰める事が出来た。

 ――思い出す。変わり果てた、桜の姿を。実の父親に見捨てられ、非道の調教を受け続けていた彼女。一年と少しの時間を経て、彼女はすっかり変わってしまった。その人形のように無機質な昏い眼差しは、今目の前にある写真の中の彼女とは似ても似つかない悲愴さに満ちていた。

 ――思い出す。自分が何を置いても殺し、報いを受けさせるべき外道の名を。その名は、遠坂時臣。葵の伴侶にして、凛と桜の父親である男。そんな立場に居ながら、自分の娘を進んで地獄に突き落とした、殺しても殺し足りない全ての元凶。あれが今ものうのうと息をしていると考えるだけで、雁夜は頭の血管が千切れそうになる。

 そして、思い出す。自分が今此処に居る理由。これは、雁夜が参加していた物とはまた別種の聖杯戦争だと言う事を。
 文句の付けようがない強さを誇る代わりに、爆発的な消耗で自分の余力を貪っていったバーサーカーの姿は此処にはない。だが、雁夜は理解していた。自分がこうして記憶を無事取り戻せたと言う事は、つまり"この"冬木の聖杯戦争に参加する権利を得た事に等しいのだ。
 バーサーカーの強力無比な力が借りられないのは痛いが、考えようによっては令呪で戦いを中断させなければ自滅するような瀬戸際の戦いを強いられる事が無くなるとも取れる。サーヴァントが呼べないかもしれないとは、雁夜は毛頭思っていなかった。何故なら、自分はこうして聖杯に選ばれ、その試練を越えたのだから。自分を勝利に導いてくれる英霊は、直にその姿を見せるだろうと踏んでいた。
 それでも――間桐雁夜には時間がない。舞台が変わり、手駒も変わるとはいえ、常時満身創痍の彼にしてみれば寿命が僅かに伸びたくらいの違いでしかないのだ。一刻も早く勝ち、聖杯に願わなければ。桜を救い、葵と凛に笑顔を取り戻し、憎き時臣を二度と母娘の前に現れられないように断罪しなければ、自分のこれまでは全て無駄になる。そうなっては、死んでも死にきれない。


276 : 間桐雁夜&アサシン ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:51:28 20jdQTpc0


「……来い」

 雁夜は、未だ現れない自分のサーヴァントへと命ずる。今すぐにその姿を現せ、と。
 それに呼応するように、無味乾燥とした室内を照らす白熱灯が、停電の前兆のように点滅を始めた。
 最初は明かりが消えている時間の方が短かったのが、どんどん暗闇の時間が長くなっていく。バーサーカーを呼び出した時に比べれば肉体に掛かっている負担は微々たる物だが、それでも体内の疑似魔術回路に負荷が掛かっているのが解った。雁夜は、確信する。サーヴァントの召喚は、既に成っていると。

 やがて明かりが完全に消え、部屋を照らすのは窓越しに差し込む月の光のみとなった。現代に生きる人間にしてみれば余りにも心許ない自然の明かり。その中で、間桐雁夜は霧のように虚空から姿を現した、一人の女を見た。月明かりに照らし出されたその女の顔は――激痛も忘れて息を呑む程、美しかった。


「――なんだ。辛気臭い部屋だな」

 烏の濡羽めいた美しい漆黒の髪。肌は絹のようにきめ細やかで、染みや出来物の一つも見られない。
 東洋出身の英霊なのか、衣服は青みがかった着物を纏っている。……のだが、その上から赤いジャンパーを羽織ってもおり、服装はなかなかどうして奇矯なそれであった。凡そまともな美意識を持つ人間ならば、誰もが美人と認識する。雁夜の召喚した彼女は、それ程までに整った容姿を持つ英霊だった。

「それで? おまえかよ、オレを呼んだ奇特なヤツは」
「……オマエ、が……」
「一々説明する必要有るか? ……まあ良いや。サーヴァントだよ、おまえの。クラスはアサシンだ」

 アサシン――暗殺者か。雁夜は内心、外れを引いたなと思ったが、此処でそれを表情や態度に出す程彼は阿呆ではない。前の理性なき狂戦士ならばまだしも、今回の英霊はちゃんとした自我と理性を持っている。彼女の癇に障って瞬時にお陀仏なんて事態に陥れば、笑い話にもなりはしない。
 それに、正面戦闘で劣るからと言って使えないと看做すのはそれこそ早合点が過ぎると言う物だろう。極論、聖杯戦争なんて物は敵を殺せればそれで良いのだ。今更手段の卑劣さどうこうについて躊躇いを抱ける程、雁夜に余裕らしい物は残されていなかった。
 楽観も悲観も不要だ。大事なのは、サーヴァントを召喚出来たと言う事実のみ。聖杯戦争を戦い抜くに当たって、英霊の存在は言わずもがな大前提である。近代兵器や急ごしらえの魔術師の浅知恵でどうこう出来る程、サーヴァントと人間の間の戦力差は小さくない。後は彼女を使役し、戦うだけだ。全てのサーヴァントを斃し、黄金の塔とやらが出現する条件を満たすだけだ。先を見据え、決意を一層強める雁夜に対し、呼び出された暗殺者は気怠げな声を掛けた。


277 : 間桐雁夜&アサシン ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:52:08 20jdQTpc0

「ところで、おまえはどうする気なんだ」

 その質問に、雁夜は思わず眉を顰める。
 どうするか等、決まっている。聖杯戦争は願いを争奪する戦いだ。ならば、他の主従を蹴落とす以外に一体何が有ると言うのか。微かな苛立ちを押し殺しながら、雁夜は身体を部屋の壁に凭れさせ、喘鳴混じりの返事を発する。

「殺す。……全員だ。そして、聖杯を獲る」

 誰であろうと、敵は敵だ。今回の聖杯戦争の性質上、ほぼ事故のような形で巻き込まれた者も居るかもしれない。その事は、雁夜とて承知の上。それでも、最早形振り構っていられる状況ではないのだ。この聖杯戦争が駄目だったから元の世界に帰って再びあの聖杯戦争を続行する、なんて日和った姿勢は通らない。勝てなければ、永遠に桜が救われる事はない。だからこそ雁夜は、立ち塞ぐ全ての敵を鏖殺する事に毛程の躊躇いもなかった。
 鬼気迫ってさえいる雁夜の言葉に、返ってきたのは同意でも反発でもなく――溜息。心底呆れたような、雁夜の正気を疑っているかのような嘆息の音だった。

「聖杯ね。……あのさ、おまえ。本気で願いが叶うなんて与太話を信じてるのか?」
「……何、だと?」

 その言葉は、凡そサーヴァントが口にするようなそれではなかった。
 何せ、彼女が今口にしたのは聖杯を信用していないと言う旨だ。普通、サーヴァントは聖杯に託したい願いを抱えて召喚される物と雁夜は聞いている。中には願いを持たない例外も居るのかもしれないが、そもそも聖杯の権能自体を疑っているサーヴァント等、異例どころの騒ぎではないだろう。
 
「潰し合った末に最後まで残った二組にはどんな願いでも叶えて差し上げますよーって、其処らのセールス販売の方がまだ幾らか信用出来る文句使うぜ。百歩譲って聖杯のチカラとやらが本物だったとしても、今回の――」
「黙れ……ッ! お前は、俺のサーヴァントだろうが! なら意見なんかせず、俺を勝たせる為だけに戦えッ!!」

 アサシンの台詞を遮って、雁夜が口角泡を飛ばして怒鳴り声をあげた。只でさえ瀕死の病人もかくやと言った顔は、怒りで血管が普段以上に浮き出て怨霊か何かとしか思えない有様と化している。大声を出しただけで心臓の鼓動が短距離走でもした後のように早まっている自身の肉体の朽ち果てぶりに嫌気を覚えながら、雁夜はアサシンの言葉に惑わされるなと自身を諭す。己には聖杯しかないのだから、それを疑えば全てが終わってしまう。
 そんな雁夜の様子に肩を竦めれば、好きにしろよ、とだけ言い残してアサシンはあっさりと踵を返した。待て、とその背中を引き止めようとするが、もう遅い。声が部屋の壁で反響する頃には、彼女の美しい姿はもう何処にも見えず、霊体化が完了した事を不気味な程の静寂が暗に告げていた。


278 : 間桐雁夜&アサシン ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:52:51 20jdQTpc0

“そうだ……俺は、勝つ。勝って何もかも、全部終わらせるんだ”

 桜が、これ以上苦しまなくて良いように。
 葵や凛が、また桜と一緒に笑えるように。
 彼女達を不幸の底に突き落とした遠坂時臣が、桜の味わった何倍もの苦しみの中で報いを受けるように。
 間桐雁夜には聖杯が必要だった。間桐臓硯の奸計も及ばないこの地でそれを掴み、運命を変えなければならなかった。
 そんな彼の脳裏には――いつまでも、アサシンが最後に言い掛けた"何か"の事が引っ掛かっていた。

 あの時、彼女は何かを言おうとしていた。それが解ったから、雁夜は自分の耳に入れない為に大声をあげて遮ったのだ。きっとその言葉を聞いてしまったなら、自分の中の何かが揺らいでしまうと言う確信が有った。だから雁夜は、迷わない為に彼女の親切心から目を背けた。全ては、聖杯を手にする為に。魔術師なんて生き物のせいで狂ってしまった何もかもを元通りの形に直す為に。
 憐れな落伍者は、約束された破滅の道を突き進む。振り返る事なく、突き進む――


  ◆  ◆


「やれやれ。面倒な男に召喚されちまったもんだな、オレも」

 アサシンのサーヴァントとして召喚された和服に赤ジャンパーの彼女は、雁夜の自室を出て冬木の夜風に当たっていた。空には月こそ出ているものの不吉な分厚い雲が所々立ち込めていて、風も良からぬ物が滲んでお世辞にも居心地は良くない。聖杯戦争になんて呼ばれるもんじゃないと、既にアサシンは心からそう思っていた。
 間桐雁夜は知らない事だが、本来、この彼女は聖杯戦争に呼ばれる存在ではない。英霊の座に登録された英雄等ではなく、サーヴァントとしての在り方も擬似サーヴァントのそれに近い変わり種だ。言ってしまえば彼女の存在は、此度の聖杯戦争が正規の聖杯戦争とは一線を画した異常なモノで有ると言う事の証左である。
 アサシンが先程雁夜に言った内容は、違わず彼女の本心だ。願いを叶える聖杯だなんて、これ以上胡散臭い響きもそうそう無いと心の底からそう思っている。……とはいえ、現実にこれ程の規模の戦いが行われようとしているのだ。売り文句通りの代物かどうかは置いておくとしても、聖杯なる存在に途方もない力が有る事はほぼほぼ間違いないだろう。やはり疑わしい話では有るが、ひょっとすると、本当に聖杯は願いを叶える万能の願望器として勝者の手元に渡る算段となっているのかもしれない。だがそれでも、アサシンはこの聖杯戦争に対して懐疑的だった。


279 : 間桐雁夜&アサシン ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:53:30 20jdQTpc0

「……どうも、厭な臭いがする。あの死に体には酷だが、こりゃ確実に裏に何か有るぞ」

 そも、聖杯戦争と言う機構そのものが何より疑わしい。この偽りの冬木市からは、不穏な陰謀の香りがする。 
 何者かの悪意ある計略が根付いていると、アサシンの本能と長年の経験がそう告げていた。なればこそ、聖杯戦争なんて面倒な催しには混ざらず、早急に事態を終息させて帰る方向で戦おうと思っていたのだが――然しマスターが悪い。あの場で少し話しただけでも解った。彼は、どんなに粘り強く話しても絶対に聞かないだろう。勝利へ懸ける情熱が妄執だとか狂気だとか、そう言う次元に達してしまっている。あれは碌な終わりを迎えないなと、アサシンはそう思った。

「ま、サーヴァントとして呼ばれたんだ。期待には応えてやるよ」

 戦えと望むのなら、是非もない。サーヴァントとしての役目を果たして、さっさとこのけったいな場所を後にするとしよう。もしも裏で糸を引く何者かの存在を突き止められたなら、その時はその時だ。深く考えた所で、こんなイレギュラーだらけの状況ではプランなんてまるで当てにならないのだから無意味と言う物である。
 アサシンの眼にはこの世界でも変わることなく、物体に走る朱い線が映っていた。それは、死の線だ。可視化された死。嘗てアサシンが死の淵で開眼した、最上級の魔眼による視界。――彼女の両眼窩に収まった魔眼の名を、直死と言った。真っ当な精神構造では発狂しても可笑しくない終末の世界を常に覗き込みながら、この少女はこれまで生きてきた。

 彼女の真名を、両儀式。万物に共通する終わりを司る、「 」への可能性を秘めたる魔眼の烏――


【クラス】
アサシン

【真名】
両儀式@空の境界

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷A 魔力C 幸運A+ 宝具EX

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
気配遮断:C
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。

単独行動:A
 マスターからの魔力供給を断っても暫くの間は自立出来る能力。
 もしかしたらマスターとか居なくても何とかなるのでは? と思わせる程の単独行動っぷり。
 然し、魔力が足りていようといなかろうと、寂しくなったら消えるのでマスターは必要らしい。


280 : 間桐雁夜&アサシン ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:53:54 20jdQTpc0

【保有スキル】
直死の魔眼:A
 魔眼と呼称される異能の中でも最上級の物。
 異能の中の異能、希少品の中の希少品。無機・有機問わず、"生きている"物の死の要因を読み取り、干渉可能な現象として視認する。直死の魔眼から見た世界は"死の線"で満ちた終末の風景であり、真っ当な精神構造ではこれと向き合っての日常生活は難しい。
 アサシンは普段、焦点をズラして物事を俯瞰する事でこの異様な視界と折り合いを付けている。

陰陽魚:B
 陰陽螺旋。痛覚残留。
 ――是を生かしたくば即ち是を殺し、是を叶えたくば即ち是を損なう。
 恩恵と損失は表裏一体。宛ら男女の関係のように。

心眼(偽):A
 第六感による危険回避。
 技術と研鑽を用いて避けるのではなく、天性の才能による危険予知回避。

【宝具】
『唯識・直死の魔眼』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
 直死の魔眼を最大限に解放し、死の線を両断する。
 その個体における死の概念を切断するので数百の命のストック、数億の寿命をも無効化する。
 死は決して避けられない現象、終わりは万物に共通する。

『■■■■』
ランク:EX 種別:対?宝具 レンジ:1 最大補足:1
 陰陽ならぬ両儀。
 其れは「 」から生じ、「 」を辿る者。
 両儀に別れ、四象と廻し、八卦を束ね、世界の理を敷き詰める者。
 この宝具は普段封鎖されている。アサシンがこれの存在を知覚する事も、ない。

【weapon】
 基本的にはナイフ。
 然し本来得手とするのは日本刀による剣術で、日本刀で戦う場合、自己暗示によって自身の身体を戦闘用に作り変え限定的ながらも超人じみた身体活用や未来予知等の潜在能力が扱えるようになる為、平常時とは段違いの戦闘力を発揮する。


281 : 間桐雁夜&アサシン ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:54:22 20jdQTpc0

【人物背景】
 対丈に単衣の着物の上に革のジャンパーを羽織った少女。
 一見して冷たく、排他的。男口調かつ男性のように振る舞うが、根はどうしようもなく女性的。
 サーヴァントとしては極めてイレギュラーな存在で、ざっくり言ってしまえば疑似サーヴァントとして現界している。
 元々の彼女はサーヴァントに及ばず、ある条件を満たした状態でやっと戦闘になると称されていたが、現在は疑似とはいえサーヴァントとして現界している事から素でサーヴァント達と互角に立ち回る事が出来る。
 本来彼女が召喚に応じた場合、もう一つ別な存在が呼び出される事になるのだが――……

【サーヴァントとしての願い】
 特になし


【マスター】
 間桐雁夜@Fate/Zero

【マスターとしての願い】
 聖杯を手に入れ、桜ちゃんを救う

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 優れた才能があったがこれまで魔術鍛錬を全くしていなかった為、寄生させた刻印虫による擬似的な魔術回路を用いる。
 使い魔として与えられた"視蟲"などを用い、切り札は牛骨すら噛み砕く肉食虫"翅刃虫"の大群使役。
 身体に宿した刻印虫が宿主の身体を蝕む為、頭髪は残さず白髪になり、肌は死人のような土気色に変色し、左半身は一度麻痺して感覚が遅れ、顔の左半分は硬直して左目は視力を失い、不整脈も日常茶飯事、固形物が喉を通らないためブドウ糖の点滴で賄う等、近代医学の見解からすれば既に生体として機能するのがおかしい有様を魔力で延命している状態。
 魔術使用や魔力精製は蟲の活性化による肉体への負荷と破壊を意味し、魔術行使の際の肉体への負担は他の魔術師の比ではない。戦いの決着が着く前に体内の刻印虫に食い潰される可能性も充分にある、真の意味で"死の危険と隣り合わせ"の魔術師。

【人物背景】
 魔術師の家に生まれながら、魔術を嫌って家を出奔した過去を持つ男。
 然し自身が間桐の継承を拒んだ事により最愛の幼馴染の娘、桜が犠牲になった事を知り、彼女を救い出す為に自分の肉体を破壊する無茶をして聖杯戦争に名乗りを上げた。が、そもそも彼を魔術師に仕立てた臓硯にはまるで期待されておらず、その破滅は初めから決定的な物であった。

【方針】
 全ての敵を殺す。


282 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/19(日) 23:54:37 20jdQTpc0
投下終了です


283 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2017/03/20(月) 20:06:40 Cpi9.GEU0
投下します


284 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2017/03/20(月) 20:07:34 Cpi9.GEU0
〜一週間前〜


「これはどういうことかな〜」

黄昏時の高校の屋上で一人呟く少女。己が異常な事態に巻き込まれたのは直に判った。
腰に巻かれた数珠。其処に差し込んである“もの”が無い。
クマを連れて校内のし歩く三年も、地獄耳の中学生も居ない。
自分と同じ顔をした─────名前も立場も奪った─────片割れが何処にも居ない。
どうやら自分が半端無く面倒な事態に巻き込まれた事を少女は認識した。

「ノムラちゃんも捨てがたいけど〜。こっちも面白そ〜」

虚ろな眼で空を見上げる。仮想現実とは思えない、茜色の空。
視線を戻し、キョロキョロと周囲を見回す。

「それで〜〜サーヴァントは何処なのかな」

くるりとその場で一回転。次いで上を見上げて、下を見る。
校庭も見たが何も居ない。
その時、スマホがけたたましい音を立てた。携帯電話の電子音が世を席巻する前、電話といえば誰もが思い浮かべた音。通称『黒電話』の着信音。
番号も名前も表示されない『非通知』。この状況下でこの怪異、普通なら竦み上がるところだが、少女は至極当然の様に電話に出た。

「もしもし〜」

「もしもし、私、メリーさん。今、貴女の後ろにいるの」

澄んだ幼い少女の声。感情の起伏を感じさせない声だった。

「ん〜〜〜」

全く動じず、少女は振り返る。死魚の如き眼には、何の感情の揺らぎも感じられない。
振り向いた先には誰も居ない。となる筈なのだが、少女の視界はしっかりと己がサーヴァントを捉えていた。

「随分と小さい子だね〜〜」

背後に居た幼女に話し掛ける。視線を下に向けなければ普通は気付かないだろう。それ程に低い位置に幼女の頭は有った。

「怖がってくれないの?」

小首を傾げて尋ねる幼女に、少女も小首を傾げて返す。

「さとりは〜そういうの良く判らないんだ〜〜」

幼女の虚ろな瞳に驚きの色が宿る。

「お姉ちゃんと同じ名前だね」

「ん〜?キミのお姉ちゃんも〜さとりっていうんだ」

「そうだよ」

元気良く返ってくる幼女の返事に、頭を撫で撫でする。

「それで〜キミのお名前は〜〜?」

「私は古明地こいし。マスターのお名前は?」

「さとりは眠目(たまば)さとり。キミはボクのサーヴァントなんだね」

「そうでーす。私はマスターのサーヴァント。クラスはアサシン」

アサシン─────諜報と暗殺に長けたサーヴァント。此れは当たりだとさとりは思う。このクラスは自分のやり方に有っている。
相手の事を知らなければ、さとりの『眼』は役に立たないのだから。

そんな事を考えていると、こいしの姿が視界から消えていた。

「ウソ〜〜」

流石に驚く。こいしの姿は確かに視界に収めていたのだ。それが僅かに意識を逸らした瞬間に消えていた。

「うんうん。やっぱり持ってるね。携帯電話」

ポケットの中に手を突っ込んで、こいしはさとりのスマホを取り出していた。

「興味有るの〜〜?」

「幻想郷じゃ誰も持ってなかったし」

「幻想郷〜〜?」

「私が居た処だよ。現実から消えた幻想の楽園」

さとりは茫洋と考える。つまりこの子は幻想。現実には存在しない存在なのだろうか?

「わたしは覚(さとり)。目を閉じたからお姉ちゃんみたいな事は出来ないけどね」

覚─────飛騨地方に伝わる妖怪。人の心を読み、怯んだ処を喰らうという。

「それってつまり君のお姉ちゃんは心が読めるってこと〜」

「そうだよー」

「へ〜。聞いてみたいな〜〜。ボクの事を何て言うんだろうね〜」


285 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2017/03/20(月) 20:08:49 Cpi9.GEU0
冬木市で語られ出した都市伝説。

『消える女の子』
曰く、何気無く目をやった日本庭園の庭で見知らぬ幼い少女を見た。目を凝らした時には消えていた。

曰く、黄昏時の高校の校庭で、残っていた生徒が明らかに生徒では無い幼い少女を校舎の中に見た。直後に少女の居た場所を通った教員は誰とも遇っていないと語った。

曰く、巡回中の警官が、深夜の公園を歩いていたら、幼い少女とすれ違った。注意しようと振り返ったら消えていた。

『座敷童』
曰く、庭で子供が一人遊びをして居た。けれども明らかに『誰か』と遊んでいる様だった。気になった親が見に行くと子供が一人で遊んでいた。しかしその場には子供二人分の足跡が有った。

曰く、小学生達が野球をやろうとしたら、急に一人来れなくなった。其処へ最後にやってきた子供が同い年位の少女を連れてきた。
日が暮れるまで野球をやって、親が迎えに来た時にはその少女は消えていた。
誰も少女の名を知らず、顔も覚えておらず、只『其処にいた』事しか覚えていなかった。

『メリーさん』
曰く、唐突にスマホが黒電話の着信音を発した。番号は非通知。出ると幼い澄んだ少女の声でメリーさんと名乗り、今何処に居るのかを告げてきた。
何度も何度も同じ電話が掛かってきて、告げる場所は段々近づいてきている。
怖くなって壁に背を着けていると、いつの間にか壁から上半身を生やした幼い少女が顔を覗き込んでいた。



全て異なる都市伝説。然し、その全ての根が一つのものだとしたら………?



「マスター。言われた通り外で遊んできたよ」

新都の住宅街の一室に、幼い澄んだ少女の声が響く。
薄く緑の掛かった灰色の髪、緑の襟の黄色い服を身に付けた、小学校高学年程の少女。顔に屈託無い笑みを浮かべた少女のその目は、奇妙な輝きを湛え、しかし虚ろに開かれていた。
この少女こそサーヴァント、アサシンのクラスとして聖杯戦争に召喚された超常の存在。

「お疲れ〜」

ふにゃふにゃと返ってくる少女の声。ふらふらと泳ぐ視線、ふわふわと彷徨う両手。死魚の様に虚ろな眼。
腰まで伸びる緑の長髪を揺らめかせ、マスターである少女は自身のサーヴァントと視線を合わせる。

「これで〜他のマスターは君を追うだろうね其処を暗殺していこ〜」

冬木市で語られ出した都市伝説の源はこの少女。通常は存在を秘匿するだろう自身のサーヴァントに、好きな様に振舞わせて怪異と為し、調査を始めた他のマスター及びサーヴァントを狩る為の布石。
出逢った時に、このアサシンの能力を知って考案した策だった。
“無意識を操る程度の能力”、視界に入らない限り存在感が無く、視界に入っても誰もいない様に思われ、認識されても、視界から消えれば即座に忘れ去られる。まるで路傍の小石の様に。
そんなアサシンを外で自由に振舞わせれば、即座に噂となって流布するだろう。通常ならば誰も気に掛けない─────アサシンの存在の様に。
然し、今は別だ。聖杯戦争に参加した者達なら、これがサーヴァント絡みの異変だと気付き、調査を開始し出すだろう。虎口に踏み入る行為と気付かずに。

「ねえマスター」

「なに〜」

此方の眼をアサシンが覗き込んで来る。見る者を不安にさせるアサシンの瞳の輝きを、マスターの少女は真正面から見返す。

「マスターは本当に、私のお姉ちゃんに会いたいの?」

「そりゃね〜。さとりの疑問に答えてくれるかも知れないんだよ」

眠目さとりの願い。“自分は何者なのかを知る”。さとりを知るもの全て、両親からも『化け物』呼ばわりされた自分は一体何者なのか?
それを知ることが出来るのなら、聖杯だろうが覚だろうが構わない。

「こいしちゃんは〜メリーさんを広めたいんだったね〜〜」

「うん。折角皆が電話を持ってるんだから、たくさんの人を怖がらせたいな」

「それじゃ、二人の目的に向かってガンバロー」

さとりが握り拳を天に突き上げる。

「ガンバロー」

こいしも拳を天に突き上げる。
緑の髪、虚ろな瞳。感情を感じさせない容貌と雰囲気。こうして見ると二人はまるで仲の良い姉妹の様だった。


286 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2017/03/20(月) 20:09:59 Cpi9.GEU0
【クラス】
アサシン

【真名】
古明地こいし@東方Project

【ステータス】
筋力:E 耐久:D 敏捷:C 幸運:B 魔力:B 宝具:B

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
気配遮断:EX
宝具により気配遮断を行う。『無意識を操る』事で、他者に認識されなくなる。
攻撃行動に移っても気配遮断の効果が落ちない。
視界に入らなければ存在感が無く、視界に映っていても路傍の石の様に視界から消えれば忘れ去られる。
対峙しても気配を感じ取れない。

【保有スキル】

命名決闘方:A
アサシンの故郷、幻想郷で行われていた決闘方。
弾幕の美しさを競うもの。EXボスなんで避けにくさもまあそれなり
同ランクの射撃と矢避けの加護の効果を発揮する。


閉じた恋の瞳:A+
心を閉ざし、無意識で行動している。無意識レベルでの超反応も行える。何も考えていないのでは無く仏教で言う『空』の境地に近いらしい。
ランク相応の透化スキルと同じ効果を発揮する。
読心能力を完全に無効化する。


覚ー(A)
現在は使用不能だが、閉じた瞳が再び開けば読心能力及び、読み取った心象風景を呼び起こす事が可能。


287 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2017/03/20(月) 20:10:28 Cpi9.GEU0
【宝具】

無意識を操る程度の能力
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ1~30 最大補足:レンジ内の全員

他者の無意識を操る。無意識下の記憶を呼び覚ましたり、無意識の抑圧やスーパーエゴを表象化化させる。
対魔力や精神耐性に依り、軽減或いは無効化される


本怖!貴方の後ろにいるよ
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ冬木市全域 最大補足:1人

深秘録で触れた都市伝説『メリーさん』が宝具化したもの。
冬木市の何処にいても、任意の対象に電話をかけ、対象が電話に出たならば、その背後に瞬時に現れることが出来る。
対象を知っていて、且つ対象が携帯電話を所持。もしくは電話が側に無いと使用不能。


胎児の夢
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ1~3 最大補足:1人

人が母の子宮で見ていた夢を再度見せる宝具。人は子宮の中で遺伝子に刻まれた先祖代々の記憶を見るという。
微生物から始まり、進化の過程を経て、先祖代々の人生を送る。それに加えて、最後に己の人生を寸毫狂わず再演される。
秒瞬の間に繰り返される無数の誕生と死。秒瞬の間に経験する無数の人生。
最後に決してやり直すことなど出来ぬ、何処で過ちを犯し、何処に悔いが有るかを最初から鮮明に意識している己の生の再演に、人の意識は消耗し尽くし、精神的な死を迎える。
ここから更に、安穏と眠り続けられる場所から、過酷な現世に引き摺り出された原初の恐怖と悲痛が最後に呼び醒まされる。
相手の精神を念入りに砕く精神攻撃。精神耐性やそれに類する効果を持つ宝具やスキルでしか対抗出来ない。



【weapon】
ナイフ:
深秘録怪ラストワードで使ってたアレ。
後は茨とか弾幕とか。

【人物背景】
姉と同じく『覚』然しただし己の心を閉ざし、他人の心も読めなくなっている。
心を閉ざした為に性格は空っぽで、コミニュケーションを取る事が難しい。
能力の為に他者に認識されないが、複雑な人間関係を構築していない子供には話が合う。
子供の頃一緒に遊んだのに大人になると忘れてしまう空想上の友達(イマジナリーコンパニオン)
固く閉じた恋の瞳も霊夢達との接触で緩み出した。


【方針】
聖杯戦争を楽しむ。
『メリーさん』の都市伝説を広める

【聖杯にかける願い】
無い


288 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2017/03/20(月) 20:11:04 Cpi9.GEU0
【マスター】
眠目さとり@武装少女マキャヴェリズム

【能力・技能】
観の目:
常に焦点が合っていない、何処を見ているのか判らない瞳。視界が常人よりも広く、対峙している相手の全身を均等に見ることが出来る。
視線や目付きが変化しない為に、攻撃してくる場所やタイミングを読むことが出来ない。

感情鈍磨:
感情の働きが極めて鈍い。この為攻撃時に気配が変わることが無い。笑顔で談笑しながら人を刺す事が出来る。
但し、精神の内面を露わにされる、若しくは精神に強い衝撃を受けるとと感情が表出し、この特性は失われる。

天通眼:
極めて高い観察能力と分析能力を持ち、他者の言動を予知レベルで『推測』することが出来る。但し当人の性質上感情に基づいた行動は読むのが苦手。

警視流:
明治時代に十種の剣術を統合して編まれた流派。十種類の異なる剣技を繰り出してくるさとりは、上記の性質も有って手筋が非常に読み辛く、縦横無尽じゃ。

文字鎖:
異なる流派の共通する文字を持つ術技を連続技や派生技としてとして繋げて繰り出す。



【weapon】
長脇差

【ロール】
穂群原学園に通う女子高生

【人物背景】
元々は女子校の愛地共生学園、共学になった際に男子生徒を恐れた女子生徒のための風紀組織『天下五剣』が活躍するに伴い、各学校の問題児を招き入れては矯正させる更生施設のような側面を持つに到った。
その『天下五剣』の一人。
本来『眠目さとり』とは彼女の姉の名前であるが、子供の時ジャングルジムから突き落としたのを切っ掛けに、姉の様に振る舞いだし、最終的に名前も立場もも奪った。
本名は眠目ミソギ

生来他者と比べて余りにも異質すぎた為、子供の様に他者を怒らせ、泣かせ、嫌われることを行い、自分と他者との違いを確認し共通項を見出そうとするも遂に見出せず。
他者を観察し、真似をする事で他者に溶け込もうとするも、余りにも異質すぎた為にそれも出来ず。最終的に人の上に立ち、周囲を自分の色に染めることで自分の居場所を確保した。
が…指摘された時の反応からするに当人は意識して行った訳では無いらしい。

その有様は『上に立つ為に敵を求め、打ち破り続けるだけの空虚な亡霊』と評される。
若しくは『人間以外のものが人の振りをしているだけ』とも。

行動が全て計算尽くに見えるが、時折リスク度外視のとんでも無い行動に出ることがあり、行動を酷く読み辛い。
これはさとりが『人間とは利己的で打算的なもの』と解釈している為らしい。
然し根本的に理解していない為、とんでも無い粗が出、それが行動を読めなくしている。



【令呪の形・位置】
ハート型の模様の周囲に遺伝子配列を思わせる二重螺旋。

【聖杯にかける願い】
自分が何者なのかを知る。
こいしの姉のさとりに会ってみたい。

【方針】
こいしを『都市伝説』として振舞わせ、釣られた連中を暗殺して行く

【参戦時期】
原作二巻終了後。

【運用】
主従共に戦闘もこなせるが、特性をフルに活かした暗殺を行うのがベストだろう。


289 : 『さとり』と『こいし』 ◆/sv130J1Ck :2017/03/20(月) 20:14:33 Cpi9.GEU0
投下を終了します
尚、ステータス作成に際し【魔界都市〈新宿〉ー聖杯血譚ー】の◆zzpohGTsas氏の『暗殺犯』を参考にさせていただきました


290 : ◆lkOcs49yLc :2017/03/21(火) 06:39:26 aueto/120
拙作「鷲尾須美&ライダー」の宝具の追記、修正を行ったことを報告いたします。


291 : ◆GO82qGZUNE :2017/03/21(火) 20:15:02 Egz.t5iI0
皆さん投下お疲れ様です。私も投下させていただきます。


292 : アルケミストのパンセ ◆GO82qGZUNE :2017/03/21(火) 20:15:48 Egz.t5iI0





   我々は皆、形を母の胎で借ると同時に、魂を里の境の淋しい石原から得たのである。

                                       ───柳田國男『遠野物語』





   ▼  ▼  ▼


293 : アルケミストのパンセ ◆GO82qGZUNE :2017/03/21(火) 20:16:17 Egz.t5iI0





 むっと雨の匂いが鼻についた。
 五限が終わって少女が渡り廊下に出ると、予報の通りに外は雨になっていた。
 空は朝からどんよりと曇っていたので、銀糸がしたしたと降り注ぐ様を見てもそう驚くには値しない。
 時折どこかで「うわー」などと悲鳴のような声も聞こえるが、それはうっかり傘を忘れたか、さもなくば余程雨が嫌いな生徒に違いない。
 少女―――アーシア・ヴェルレーヌは幸い、そのどちらでもなかった。
 雨そのものは、アーシアはそう嫌いではない。予期せぬ天候の変化は、旅人にとっては貴重な娯楽でもあるからだ。
 とはいえ、今の自分には関係ないことか、と。アーシアは一つ息を吐く。

「この分だと、帰りは少し遅れそうね……」

 独り言を呟く。
 雨はすっかり本降りで、うっすら地面を覆った水に敷石が浮いているような状態だ。
 人間の都合などお構いなしに、雨はひたすら気持ち良さそうに、したした、したした、地上のあらゆるものを濡らしながら降り注いでいた。



 その日の学校図書館は、数人を除いてはほとんど利用者がいない状態だった。
 常に空調の音が聞こえるほど、そこは静かな場所だった。
 広い書架にも、閲覧室にも、人影らしい人影はない。木の匂いがしみた空気を、空調が僅かに揺らしている。
 アーシアにとって、その静寂は心地いいものであった。
 特段人嫌いというわけではない。旅も、人との触れ合いも、アーシアは好きだ。だがそれと同じくらい、彼女は読書というものが好きだった。
 孤独ばかりを好むつもりはないが、本を読む時というのは、やはり一人静かなところで、というのが理想である。
 図書館というのも、またいい。
 本の匂いが、アーシアは好きだった。
 図書館や書店に特有の、読書人には馴染んだ紙の匂いは、アーシアにとっては精神安定剤にも近いものだ。
 図書館や書店に入ると、アーシアは、ふと安心する。


294 : アルケミストのパンセ ◆GO82qGZUNE :2017/03/21(火) 20:16:51 Egz.t5iI0

「ん……」

 そんなことを思いながら、肩の力を抜いて息を一つ。
 図書館の一角。四人掛けの席を占領して、アーシアは大量の本をそこに広げていた。
 アーシアが自分の楽しみのために来ていたら、もっとこの状態を楽しんでいただろう。だが、今は調べもののために、彼女はここにやってきているのだ。
 調べものの内容は、他でもない。
 『伝説』『神話』『都市伝説』───それらの専門書や研究書、単なる読み物までもがその席には積み上げられ、広げられていた。

 ───Chaos.Cellのデータと、大した齟齬はないみたいね。

 独りごちて、開いていた専門書を閉じる。実に数時間ぶりの休憩であった。
 アーシアがやっていたのは、Chaos.Cellのデータベースに記載された情報と、この地にある書物の情報との比較考察であった。
 アーシアはこの世界の住民ではない。それはChaos.Cellに由来する人間ではないということと同時に、再現された『冬木市』があったであろう世界の住民でもないということだ。
 当然ながら、前提となる知識自体がない故に、まず基準となる判断材料が必要であった。聖杯戦争のマスターにはChaos.Cellのデータベースへのアクセス権が与えられるが、それとてどこまでアテにしていいものか。
 結論を言えば、基準点となる知識を、アーシアは得ることに成功した。冬木市の存在した国『日本』とその周辺国についての表層的なものに限定されるが、データベースと書物を照らし合わせて、そこに齟齬が少ないことを確認できた。
 得られた知識が本物の『日本』にあるものと同じかどうかは知らないが、少なくともChaos.Cellにおいては正当なものと扱われるのだろう。データベースそれ自体の信用性については、彼女が知る「ロフト」や「ジェイゾ」といった英雄を調べることで、その正確性を確認済みである。
 そういうわけで、収穫はそれなりにあった。
 とはいえ流石に目が疲れた。
 今日は、そろそろ帰ったほうがいいだろう。


295 : アルケミストのパンセ ◆GO82qGZUNE :2017/03/21(火) 20:17:27 Egz.t5iI0



「……どうかな、調べものは進んだかい?」



 アーシアは目を押さえていると、突然声をかけられた。
 顔を上げると、そこには貴族然とした優男が、無駄に爽やかな笑みを浮かべて立っていた。

「……あんまり、かな?」

 苦笑して答える。実際、収穫が皆無というわけではないが、できたのは現状の再確認程度だ。進展したとは口が裂けても言えまい。

「そう。まあ僕としては、こうして安穏と過ごすのも嫌いじゃないから別にいいんだけどね」

 椅子を引いて腰かける。彼は存外に背丈が高く、こうして向かい合うと自然とアーシアが彼を見上げる形となる。
 穏やかに笑う彼は、人間ではない。
 サーヴァント・キャスター。アーシアに与えられた一角の英霊であり、聖杯戦争に参加するための相棒のような存在であった。
 とはいえ。

「ねえ、キャスター。それで他のサーヴァントは見つかった?」
「ああ見つかったよ。それはもう強そうなでっかい鎧武者と、如何にも蛮族ですって感じのむさ苦しい巨漢が筋肉モリモリで殴り合ってた!
 あー嫌だねぇ、思い出しただけで背筋が寒くなる。これだから殺したがりの英雄は嫌いなんだ、ほんと馬っ鹿じゃないか?」

 目の前で「あーやってらんねえ」とでも言いたげにいじけているこの優男が、本当にサーヴァントなのか?と聞かれたら、アーシアでも若干言葉に詰まってしまうだろう。
 尚も子供みたいにうじうじと文句を言っているキャスターに、アーシアは更に問いかける。

「それで、そのサーヴァントたちは?」
「やだやだ全く英雄(ばか)はこれだから……え、ああうん。景気よく殴り合って最後には相討ちで消滅したよ。蘇生タイプの宝具でもなければ完璧に退場したね、あれは」
「じゃあ、そのマスターたちは……」
「鉄片拾って逃げ出してたよ。ああ、聖鉄っていうんだっけ?
 まああの分じゃ、聖鉄をダシに他のサーヴァントとの契約目指して頑張るんだろうけど」

 普通に考えて無理ゲーだよねぇ、とカラカラ笑うキャスターに、アーシアは恐る恐るといった具合に尋ねる。


296 : アルケミストのパンセ ◆GO82qGZUNE :2017/03/21(火) 20:18:04 Egz.t5iI0

「じゃあ、その人たちはまだ死んでない、のね」
「ああ、"殺してない"よ。君の要望通りにね」

 あっけらかんと、キャスターは答えた。
 凡人のように不平不満を言うその態度のままに、彼は誰も殺さなかったとアーシアに告げる。

「けど、君も随分と変わったマスターだよね。聖杯は要らないし戦いたくないし、極力人を殺したくないなんて。
 別に闘争と無縁な人生を送ってきたわけじゃないだろう?」
「だから、よ。それがどういうものか少しでも知ってるから、好き好んで誰かを傷つけたいなんて思うわけがないもの。それに……」

 そこでアーシアは、ほんの少し俯いて。

「単純に、怖いっていうのもあるから」
「……そう」
「失望した?」
「まさか。むしろ共感しかないよ、その感情は」

 キャスターは自嘲したように笑いながら。

「正直な話、絶対に聖杯を獲るぞとか、絶対みんなを助けるぞとか、そういうこと言われたら発狂してた自信があるね。
 強く気高く雄々しく、光へ向かって一直線……そんなの、二度とごめんだし」

 譲れない願いのために聖杯を求める。失われる人命を憂いそれを救おうとひた走る。
 そのことについての正しさと清さを、キャスターは理解できる。彼は英雄らしからぬ凡人めいた価値観の持ち主だから、それらが所謂「尊いもの」であることは知っている。
 だが、それに自分が巻き込まれるとなれば話は別だ。
 聖杯のために、見知らぬ他人のために……そうした指針は、言い換えればサーヴァントたるキャスターに「死力を尽くして戦え」と言っているようなものである。
 冗談ではない。なんでそんなことを強要されなければならないのか。苦難と苦痛に塗れ死が支配する戦場を、どうして自分のような凡夫が歩めるという。
 正しいことは痛いのだ。力を持っていることと、だから戦えることは全く別の概念だから。

「けど、君のその方針なら……うん、まだ付き合えるかなって思う」
「そんなに戦うのが嫌なら、自分から舞台を降りるって選択肢もあったと思うけど」
「冗談。自殺なんて怖すぎてできるわけないし」

 キャスターは変わらず鬱屈した苦笑いを浮かべたままで。
 けれどアーシアは、そんな彼の嫌悪感の一つでも抱きそうな態度を、何故か嫌いになれないでいるのだった。





   ▼  ▼  ▼


297 : アルケミストのパンセ ◆GO82qGZUNE :2017/03/21(火) 20:18:43 Egz.t5iI0





 日が傾いた今になっても、雨はしとしと降り続いていた。
 雨のけぶる中、学校を出たアーシアは住宅街の灰色の小道を歩いていた。
 しっとりと濡れた、くすんだ緋色の傘をさし、鮮やかに濡れた緑を横にして、白髪の彼女は静かに歩く。
 麗姿。
 その姿はあまりに自然で、完全に景色に溶け込み、これほど目を引く姿でありながら、それでも尚注視しなければ見逃してしまいそうになる。

「……止まないわね、雨」
【そうだね。結局ずっと降りっぱなしだ。これなら別に雨宿りする必要もなかったんじゃない?】
「読書は好きだから、別に嫌じゃなかったけどね」

 雨は降り続く。
 暗くなりつつある曇天に、雨粒の弾ける音が反響する。
 それを傘の裾から見上げ、ぽつりと呟く。

「巷に雨の降るごとく、か」
【それは?】
「詩。ポート・ヴェルレーヌっていう人の」

 調べもののついでに読んだ本。詩集。そこに載っていた一節だ。
 通り過ぎた後に芳香を残すような、情緒のある詩人だった。アーシアはその詩人を気に入っていた。

【雨、雨か……。
 マスター。いつか時が来たら、僕なんか捨てて違うサーヴァントと契約したほうがいい】
「……突然、何?」
【忠告さ。君だってこんな、冷たい死人の負け犬なんてまっぴらだろう?】


298 : アルケミストのパンセ ◆GO82qGZUNE :2017/03/21(火) 20:19:27 Egz.t5iI0

 それは自嘲ではあったが、アーシアの行く末を気遣うものでもあるのかもしれなかった。
 雨。身体を打つ冷たい雫。肌の熱を奪い死人の肌にしてしまう。
 アーシアは答えず、無言のまま歩みを再開する。キャスターもまた、何も言わなかった。

 いつの間にか、アーシアの居住地とされている場所まで来ていた。
 母は死に、父はとうの昔にいなくなった。待つ者など誰もいないアーシアの家。
 無機的な静けさを湛える、小さな家。

「……早く入りましょう、キャスター。これじゃあなたまで冷えるだろうし」
【マスター、それは】
「大丈夫」

 アーシアは振り返り、ほんの少しだけ微笑む。
 差し伸べた手は、彼の手を掴むように。

「あなたは今でも、暖かいままよ」

 決して生者とは触れあえない、霊体化したままの己の手。
 その指が何故か、彼女の宿す熱を感じ取れたように、キャスターは思えてならなかった。


【クラス】
キャスター

【真名】
ルシード・グランセニック@シルヴァリオ ヴェンデッタ

【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A+ 幸運A 宝具A

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
陣地作成:E+++
最低限のランク保障。生前のキャスターは陣地を作る側でなく使う側の人間だった。
宝具発動時においては周囲の空間を強制的に支配するためランクが著しく上昇する。

道具作成:E
最低限のランク保障。生前のキャスターは道具を作る側でなく使う側の人間だった。


299 : アルケミストのパンセ ◆GO82qGZUNE :2017/03/21(火) 20:19:54 Egz.t5iI0

【保有スキル】
魔星:A
正式名称、人造惑星。星の異能者・星辰奏者(エスペラント)の完全上位種。
星辰奏者とは隔絶した性能差、実力差を誇り、このスキルを持つサーヴァントは総じて高い水準のステータスを持つ。
キャスターはそうした魔星の中でも最も優れた個体とされており、全方位隙のない資質を兼ね備える。
また魔星は人間の死体を素体に創造されたいわばリビングデッドとでも呼ぶべき存在であり、死者殺しの能力や宝具の影響をモロに受ける。

話術:C
言論にて人を動かせる才。
国政から詐略・口論まで幅広く有利な補正が与えられる。

黄金律:C
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
富豪でもやっていける金ピカぶりだが、自分自身の努力も必要。

無力の殻:C
魔星としての隠蔽特性、及び本人の精神性から派生したスキル。
宝具である星辰光を発動していない時に限り、サーヴァントとしての気配を消失させる。
戦いを好まず、苦難を好まず、ただ無様に怯え過ごしていたキャスターの在り方がスキルとなってまで具現化したもの。
───ただし、彼が自らの意思で星を揮わんとした時は話が別である。

【宝具】
『雄弁なる伝令神よ。汝、魂の導者たれ(Miserable Alchemist)』
ランク:A 種別:対軍宝具・侵食固有結界 レンジ:1〜99 最大捕捉:500
ルシード・グランセニックが保有する星辰光。星辰光とは自身を最小単位の天体と定義することで異星法則を地上に具現する能力であり、すなわち等身大の超新星そのもの。
彼の星辰光とは磁界生成。周囲の時空が歪むレベルの出力を誇り、不可視の支配領域を広げるアルケミストに輝く星。
斥力・引力の発生、対象内の鉄分干渉による捕縛、鉱物操作、磁力付加による高速移動、S極とN極の付与といった磁力によるほぼ全ての機能を行使し、ほとんどの物質に影響を及ぼす磁力を操作するという特性上、高すぎる汎用性を持つ。

【weapon】
なし

【人物背景】
商国に根を下ろす豪商一族、グランセニック商会の御曹司。一見すると爽やかな好青年だが、その内実には鬱屈した精神性を併せ持っている。
その正体は魔星の一人、ヘルメス-δ アルケミスト。どうしようもない負け犬であり、ある日突然授かった力を持てあます臆病者であり、ただ震えて縮こまるしか能のなかった落伍者であり。
そして愛する者のためならば何度でも立ち上がれる、そんなどこにでもいるただの凡人。

【サーヴァントとしての願い】
戦いは嫌いだ。痛いのなんてごめんだし命の獲り合いなど死んでもしたくない。傷つけるのも傷つけられるのも、どうして喜んで受け入れられるというのか。
だからこれは、殺すためじゃなく生かすための道程である。
顔も知らない誰かではなく、自分を呼んだ一人のために。戦わずとも生かして帰すまでの手伝いをしてみたい。


300 : アルケミストのパンセ ◆GO82qGZUNE :2017/03/21(火) 20:20:19 Egz.t5iI0


【マスター】
アーシア・ヴェルレーヌ@引き裂かれたバダール

【マスターとしての願い】
元の世界への帰還。

【weapon】
樫木の杖、旅人のマント:旅人ご用達のアイテム。それ以上でもそれ以下でもない。

【能力・技能】
先天的に優れた魔術回路を有する。使用魔術は凍結の攻性魔術に特化している他、肉体治癒も多少はこなせる。

【人物背景】
旅好きの読書家な少女。表象の世界において塔を昇り、外の世界へ続く門を解放した者の一人。
元々はマドルーエという地にルーツを持つ人間であり、その地の逸話に曰く「マドルーエの血をひく白髪の娘、悲惨な死を遂げ死してなお安らぐことなし」とのことだが……
ちなみに17歳なのでルシードのストライクゾーンからは完全に外れている。

【方針】
できるだけ戦わず、事を荒げず、聖杯戦争から脱出する手段を探したい。


301 : 名無しさん :2017/03/21(火) 20:20:35 Egz.t5iI0
投下を終了します


302 : 名無しさん :2017/03/22(水) 02:48:09 lf0vROFg0
質問ですが、フリー化された候補作からの採用はありますでしょうか?


303 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/24(金) 16:11:59 nj5Lq9AE0
>『さとり』と『こいし』
 武装少女マキャヴェリズムより眠目さとりと、東方Projectより古明地こいしですね。
 会話文が中心となった非常に読みやすいSSだったように思います。
 さとりとこいしの名前繋がりの会話や、双方のどことなく不思議な雰囲気がとても巧く表現されていました。
 都市伝説を広げながら聖杯戦争を推し進めていくスタイルはこいしの性能を万全に活かした恐ろしい物ですね。
 暗殺に徹したならこれ程恐ろしい能力もそうない、そのことがよく分かる作品でした。
 投下ありがとうございました!


>アルケミストのパンセ
 引き裂かれたバダールよりアーシア・ヴェルレーヌと、シルヴァリオ ヴェンデッタよりルシード・グランセニックですね。
 全体的にとても穏やかで、それぞれのキャラが持つ独特の雰囲気がとてもよく表せているなあと感じました。
 聖杯戦争と言う殺し合いを御免だと否定し、殺す事を極力避けたいと願うアーシアに共感を示すルシードを見ると、良いマスターに恵まれてよかったなあと思います。
 個人的に一番好きな場面は、最後の雨の中での会話ですね。
 最初に言ったようにとても穏やかな雰囲気と味のあるやり取りが、二人の主従の空気感を読む側である此方に明確に伝えてくれました。
 投下ありがとうございました!


304 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/24(金) 16:12:17 nj5Lq9AE0

>>302
 現時点では考えていませんが、場合によってはそういう事もあるかもしれません。


投下します


305 : ケイトリン・ワインハウス&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/24(金) 16:13:05 nj5Lq9AE0





 ――月が、背筋の凍る程鮮烈な紅を湛えた銀盤の満月が、まるで何かの瞳のように空へと浮かんでいる。

 その凄絶なる君臨に合わせるように、世界は一面の夜闇へと染め上げられていた。死体の臓物を思わせる、精神さえ蝕むような悪臭の立ち込めた此処は正しく死骸の森。夜の魔物だけが生きる事を許された世界だからこそ、この夜で人間が生存する事は不可能だ。領域に入った者は総て、夜を統べる主によって吸い尽くされるしかない。
 屍鬼のように這い回るゼリー状の粘塊は、人体から搾り出し、その上で何百年も放置したような血と臓物。脳味噌が溶けそうな程の凄まじい臭気を放つそれが、当たり前のように其処ら中に存在している。この腐り果てた血の海で、神秘を持たない者が真っ当に呼吸していたなら、ほんの数秒で精神崩壊を引き起こしている事だろう。

 ――死の荊棘が割れ開き、中から白貌の鬼が現れる。

 それと共に戦場の上、下、左右、あらゆる地点から一気に出現した杭、杭、杭。触れた者全てを吸い殺す血色の杭は、夜を支配する魔徒の牙であり、爪だ。
 此処は彼の胃、腹の中。何処からでも無尽蔵に出現する杭の数を数えるのは、どんなに優れた数学者でも不可能に違いない。数え切る前に命が尽きるのだから、誰にも薔薇の総数を推し量る事は出来ない。十本、百本、千本、否々まだだ。万を超えて尚衰える事なく生い茂る、悪夢の荊棘――嘗て人はこの地獄を、薔薇の夜と呼んだ。

 まさに、悪い夢だ。それ以外、どう形容すればいいのか全く解らない。
 絶望の中で全身を穿たれながら、哀れな騎士は磔刑に処された罪人宛ら、絶望に満ちた瞳で白き鬼を見た。
 全身から大小様々の杭が突き出して輪郭は歪み、その有様は槍衾にも等しい。攻防一体、あらゆる敵を寄せ付けない鎧。
 白が黒に、黒が赤に置き換わった瞳は正当な英雄のそれでは有り得ず、また、彼が身に付けている腕章に刻まれた鉤十字の紋章が、彼の出自が何処で有るかを物語っていた。
 そうだ。己は、この反英雄を知っている。人類の負の歴史・第三帝国の象徴を纏った魔人達の名を知っている。

 彼らは魂を喰らって生きる最新の神秘。
 総数十三にして、世界を相手取って尚余る戦力を保有する人類の敵。
 超常の理を知らぬ人間や兵器では到底太刀打ち出来ない、黒円卓の加護を帯びたる者達。

 ――聖槍十三騎士団。

 その名を譫言のように呟いたのが、騎士のサーヴァントの最期だった。精微な顔面を押し潰して薔薇の杭が脳髄までも一息に貫通、血の一滴から魔力の一片まで余す所なく吸い上げられていく。捧げた誓いも、輝かしい誉れも、夢に見た未来も、彼女には何一つ許されない。一つ残さず、魂を喰らう魔人によって吸い尽くされる。
 最期に彼女が見たのは、口許を引き裂くように歪めて嗤う、白貌の鬼の威容であった。
 串刺し公(カズィクル・ベイ)――そんな言葉を連想させる悍ましい景色を最期に、全ての希望は魔人の腹へと収まった。





  ◆  ◆


306 : ケイトリン・ワインハウス&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/24(金) 16:13:44 nj5Lq9AE0



「――うえ、まっず」

 白目を剥いてガクガクと痙攣する、敵サーヴァントのマスター"だった"少年の首筋に突き刺した牙を抜いて、渋い顔でそう毒づいたのは金髪の少女だった。髪型はツインテールで顔立ちも気は強そうだが愛らしい。少女期の長所と言う物をとにかく軒並み持ち合わせた、そんな娘だ。服装はとにかく薄く、またこの年頃にしては露出が多い。誰が見ても一目で、余り素行の良くない人物だと言う事が解るだろう。
 だが、そんな事はこの状況を前にしては瑣末以下だ。人の首に牙を突き立て、血を吸い上げる。誰もが吸血鬼の伝承を連想する酸鼻極まる光景を作り上げた張本人の少女は、然しほんの一欠片の呵責も抱いていない様子で血の味に文句を言っている有様だ。血を吸い尽くされた少年はすっかり見る影もない無惨な姿と成り果て、未だ痙攣を繰り返している。
 
「聖杯に選ばれたマスターなんて言うから少し期待したんだけど、NPCよりよっぽどまっずい血してんじゃない」

 ペッ、と変わり果てた少年の頭に彼の血が混じった朱い唾を吐き捨て、少女は空を見上げた。正しくは、其処に爛々と輝く銀盤の満月を見据えた。此処での戦いが始まる前に時刻を確認したが、その時はまだ昼の三時すら過ぎていない真っ昼間だった筈だ。にも関わらず、今はこうして深く、悍ましい薔薇の夜が世界を満たしている。
 これがサーヴァントの宝具によって創り出された景色である事は、聖杯戦争に関する知識を持つ人物であれば一目で理解出来よう。厳密には固有結界とは異なるが、性質としては限りなくそれに近い。違う所が有るとすれば外部からの侵入が可能な事程度。本来は欠陥である筈のそれは、されどこの暗夜を前にしては大した弱みとは成り得ない。薔薇の夜は、踏み入った者の総てを平等に冒す呪いの暗黒であり――たった一人の超越者を無敵の不死鳥に変える為に創造された異界であるのだから。
 踏み入る者が有ったならば、それも含めて亡ぶのみ。弱者ならば何もせずとも吸い殺され、強者とて夜を支配する白貌の鬼に喰らわれるのみだ。持つ者と持たざる者の違いが、これでもかと浮き彫りになる異界。故にケイトリン・ワインハウスは、この薔薇の夜を好んでいた。
 
 踏み入る者、全てを吸い殺す薔薇の夜。
 その吸精に射程距離の概念は存在せず、"彼"の匙加減で特定の誰かに吸精を集中させる事も出来る。
 そして、其処に例外はない。踏み入った者を襲うのは圧倒的な虚脱感。まともな人間なら立つ事はおろか、呼吸する事さえ碌に出来なくなる程だ。だと言うのに、ケイトリンには特に弱った様子は見られない。では、それは何故か。答えは、先程彼女が敢行した吸血行為。それが全ての回答として機能する。


307 : ケイトリン・ワインハウス&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/24(金) 16:14:23 nj5Lq9AE0

 ――ケイトリン・ワインハウスは吸血鬼(ヴァンパイア)だ。
 彼女の同属達は自らの事を縛血者(ブラインド)と称するが、ケイトリンはその呼び名を嫌っている。さる高名な藍血貴から洗礼を受け吸血鬼と成った彼女は今、人間の物とは全く別種の域に強化された肉体を得ていた。心の鼓動はなく、体温もなく、呼吸さえしない。身体能力も、総じて人外の領域まで高められている。
 無論、スペックが向上したから吸精に耐えられていると言うのも有る。だが最も重要なのは、ケイトリンが吸血鬼だと言う事だ。逸話や因果と言う概念は、時に聖杯戦争では単なる符号以上の意味を持つ。そう、この夜は吸血鬼の世界。夜に無敵になる吸血鬼が支配する、鮮血の創造なのだ。

「相変わらず悪食だなァオイ。こんなカス共吸って、一体何の足しになるってんだよ」
「私だって、出来たらもっと上等なのを吸いたいけどね。それはそうと、もう片付けてきたの? ランサー」

 ケイトリンに吸血され、無惨な姿になって地を転がっていた元・マスターの少年の頭蓋が、熟れた西瓜のように鮮烈な赤を撒き散らしながら砕け散った。敵であり、魔術師であったとはいえ、まだ年端も行かない子供の頭を踏み潰しておきながら、現れた魔人――ランサーのサーヴァントたるその白貌鬼には何の感慨も見られない。
 只、路傍に邪魔な塵が転がっていたから蹴飛ばした。彼にとっては真実、その程度の意味しか持たない行動だった。そもそも、人を殺す事に躊躇いを感じられる程まともだったなら、彼はそもそもサーヴァントにすら成っていなかったろう。
 彼は殺戮者であり虐殺者だ。捻れ、狂った思想を基に人の魂を貪り喰らって生きる魔徒。正真の英雄では有り得ない、"反英雄"に部類されるサーヴァント。

「ハ、見りゃ分かんだろうが。誉れも高き女騎士様の魂は、今やめでたく俺の腹ン中だ」
「きゃはははっ、そりゃまた傑作ね。あれだけ誓いが何だ未来が何だ吠えてた癖して、蓋を開ければこの程度って。私だったら恥ずかしくて、もう二度と英雄なんか名乗れないわ」
 
 彼の宝具、『死森の薔薇騎士(ローゼンカヴァリエ・シュヴァルツヴァルド)』は、自身をとある存在に変容させる効力を持つ。それが――吸血鬼だ。ケイトリンのそれとはまたタイプの違う、夜の支配者。だがその力とその規模は、ケイトリンが知るどの同属よりも強い。世界が強引に夜で塗り替えられていく光景を初めて見た時の衝撃は、今もはっきりと覚えている。聖杯は随分自分好みの超越者を宛てがってくれたものだと、感心すらした程だ。
 薔薇の夜は吸血鬼の世界。陽の光を不要と断じた串刺し公が統べる血塗れの領土。
 それだけに同じ吸血鬼であり、おまけに彼のマスターでもあるケイトリンは、この薔薇の夜から受ける影響が極めて少ないのだった。どちらか一つでも欠けていたなら、サーヴァントではない彼女がこの異界を快適に思う事はなかったろう。種族の一致と巡り合わせの良さが、ケイトリンに至福を齎したのだ。


308 : ケイトリン・ワインハウス&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/24(金) 16:15:04 nj5Lq9AE0

「にしてもこれで五組目か、殺した主従。後どのくらいなのかしら、本戦まで」

 五組。それだけの主従を、これまでにケイトリン達は屠っている。
 これだけでも結構な数だが、まだ本戦とやらが開幕する気配はない。
 流石に開幕は目の前まで迫っているか、それともまだその時が来るには遠いのか。
 ケイトリンは、それ程気の長い方ではない。出来ることなら早く本戦が始まって欲しいと、常々そう思っていた。
 彼女に、聖杯戦争を止めるなんて考えはほんの僅かたりとも存在しない。此処までの戦いの中で、そういう事を宣う連中も何人か見てきた。彼らは皆一様に耳触りの良いご立派な言葉を並べて、ケイトリンに戦いをやめるよう訴えかけた。その後其奴らがどうなったのかは、御察しの通りだ。確かな希望を胸に差し伸べた手は吸血鬼達に引き千切られ、マスター共々身も心も蹂躙され尽くして力なき理想主義者共は朽ちていった。
 今しがた、彼女達が殺した騎士と少年も、そういう手合いだった。聖杯で叶える願いに価値はないだとか何とか言っていたが、結果はこの様である。何とも滑稽な幕切れだと、ケイトリンは心底そう思う。その手の妄言には聞く度うんざりさせられるだけに、彼らの末路は皆一様に気分爽快の一言に尽きた。

「本当下らないわよねこいつら。聖杯で願い叶えるのは間違いだー、とか聖杯戦争はおかしいー、とか、口開けば似たような台詞ばっかり。知らないっての」

 ――聖杯に頼って願いを叶えるのは、その願いの価値を下げる。
 ――無用な犠牲を出す聖杯戦争は間違っているから、止めるべきだ。
 ――どちらも、下らない。正しかろうが正しくなかろうが、それで聖杯を諦める理由にはならないだろうに。

 ケイトリン・ワインハウスは聖杯を求めている。別に、聖杯でなければ叶えられないような大層な悲願を持っている訳ではない。それどころか、聖杯を手に入れてからどういう風に使うかさえ未だ結論が出ていない有様。それでもケイトリンは、聖杯を狙うと言う自身のスタンスを改めるつもりは微塵もなかった。
 ケイトリンに言わせれば、願い事がないだの何だのと言って聖杯を狙わない連中など総じて腑抜けだ。聖杯等と言う桁違いの強大な力を秘めた財宝を手に入れられさえすれば、全てが思うがままなのに。願いの叶え方なんて幾らでもある。上手く使えば、一つの願いで幾つもの欲望を満たす事も出来る。聖杯には、まさに無限の可能性が待っているのだ。これを狙わないなんて、知的生命体として不能も良いところだろうとケイトリンは思う。

「劣等の囀りなんぞに一々耳を貸す程馬鹿らしい事もねえ。どんな阿呆だろうが、殺しちまえば一緒だ」
「言えてる。それじゃ行きましょっか、ランサー」

 殺せば一緒、実に分かり易い響きだ。
 マスターだとかサーヴァントだとか、そんな事は関係ない。
 重要なのは、この冬木――もとい混沌の月において、プログラムではない確たる自我を持つ存在は全て敵だと言う事。
 それなら話は簡単だ。蹴落とし、潰し、吸い殺し、黄金の塔とやらが出現するまでそれを続けよう。命を懸けた殺し合いの最中だと言うのに、ケイトリンの心は"洗礼"を受けた当初のように舞い上がって止まらない。彼女は、心からこの戦いを楽しんでいた。聖杯を手に入れると言う結末まで含めて、誰よりも聖杯戦争を満喫していた。


309 : ケイトリン・ワインハウス&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/24(金) 16:15:35 nj5Lq9AE0

“そういえば、こいつは――”

 ケイトリンにとって、ランサーはまさしく理想のサーヴァントだった。強く、悍ましく、どこまでも強大な超越者。
 だが一つだけ、気に入らない事が有った。あれは召喚に成功してすぐ、最初の獲物を屠った直後の事だったろうか。ケイトリンが聖杯に託す願いを訊いた時、彼は一瞬とて迷わずに即答した。聖杯は献上する、と。
 ランサーは、ケイトリンの知らない"誰か"に忠を誓っているという。故に、己の手で願望器を使用するつもりは皆無。舞い降りた聖杯を持ち帰り、その"誰か"に献上する事こそが、彼の最終的な目的なのだ。それを聞いた時にケイトリンが抱いたのは、確かな失望と落胆、そして微かな興味。思うがままに殺し、君臨する超越者――そんなこいつでも、何かに従属してしまうのか。それは一体、どれ程の恐るべき存在だと言うのか。

 とはいえ、ランサーが自分の性に合ったサーヴァントな事は変わらない。今後もケイトリンはこれまで通り、聖杯を目指して立ち塞ぐ敵を蹴散らし続ける事だろう。刹那の快楽とスリルを何処までも希求する少女にとって、聖杯戦争と言う儀式は、己の欲求を心行くまで満たせる遊戯場に他ならなかった。


  ◆  ◆


 聖槍十三騎士団黒円卓第四位――ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイ。
 それが、血染の薔薇を司る白貌の魔人の真名であった。彼は串刺し公。黄金の爪牙にして、水銀に呪われた戦闘狂。
 
“典型的な調子に乗った餓鬼だが、筋自体は悪くねえ”

 百年に近い年月を生きる正真の魔人であり、これまで数千もの命を喰らってきた超越者である彼に言わせれば、ケイトリン等は若造も良い所だ。人間を少し逸脱しただけで舞い上がり、自分は特別な存在だと過信している半端者。この手の輩は、はっきり言って見飽きている。
 だがそれでも、ケイトリンには"素養"が有った。力も精神も未だ弱小も良い所だが、彼女は凡百の有象無象共とは一線を画す輝きを持っていた。ヴィルヘルムは、こういう女は嫌いではない。もう少し脂が乗らなければ食い甲斐は無いが、これから血の道を敷く仮初の相方としては及第点だ。
 尤も、彼はケイトリンの事を只の一度として主と思った試しはない。そしてそんな日はこれから聖杯戦争がどれだけ続くにしろ、永遠に来ないと断言出来る。
 ヴィルヘルム・エーレンブルグ。貧民街より生まれ落ちた白貌の殺人鬼。人の子として生まれ落ちておきながら、人の身のまま人間の枠組みから外れた魔人。その彼が平伏した存在は、彼の長い生涯の中でたった一人だけだ。――黄金の獣。聖槍十三騎士団黒円卓第一位。愛すべからざる光。破壊の君。ラインハルト・ハイドリヒと言う至高の存在以外に、ヴィルヘルムは決して忠誠等捧げない。

 彼は殺すだろう、全ての命を。
 彼は潰すだろう、全ての願いを。
 命が終わり、世界が切り替わっても、生き続けるだろう。

 その霊基に、僅かな空白の空間を抱えながら。
 恐るべきカズィクル・ベイは――聖杯戦争を蹂躙する。


【クラス】
ランサー

【真名】
ヴィルヘルム・エーレンブルグ@Dies irae、Dies irae-Interview with Kaziklu Bey-

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力C+ 幸運E 宝具B+

【属性】
混沌・悪


310 : ケイトリン・ワインハウス&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/24(金) 16:16:01 nj5Lq9AE0

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
エイヴィヒカイト:A
 永劫破壊。人知を超えた聖遺物を人の手で取り扱う為の魔術。
 聖槍十三騎士団第十三位・副首領、カール・エルンスト・クラフトが編み出した術理。
 聖遺物を核とし、其処へ殺した人間の魂を注ぐ事で、ランサーの各種能力は魔人の領域に到達している。
 これまで回収してきた数千の魂により、ランサーは常時強固な霊的装甲を纏っており、最大効率で使用しても一撃一殺が限度である対人武器では彼に傷を与えられない。サーヴァントの宝具による攻撃以外、全ての攻撃を彼は自動的にシャットアウトする。
 また仮に肉体が損傷・欠損しても、溜め込んだ魂を糧に瞬時に再生する事が可能である。

心眼(偽):B
 直感・第六感による危険回避。
 獣の如き嗅覚と鋭さを以って、敵手の攻撃を回避する。

水銀の呪い:A
 "串刺し公"の魔名と共に授けられた、"望んだ相手を必ず取り逃がす"と言う呪いの言葉。
 彼が執着すればする程、その相手は様々な要因によって彼の下から遠ざかっていく。

欠落の白:-
 このスキルにランクは存在しない。
 これは彼に何も齎さず、当のランサーをして認識すらしていないその魂の空白。
 彼が自ら自身の空白に、欠落に気付く事は決してない。
 嘗て光の中に召された天使への愛は、完全に彼の中から消滅している。

【宝具】

『闇の賜物(クリフォト・バチカル)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1
 聖遺物。"串刺公(カズィクル・ベイ)"の異名を持つワラキア領主、ヴラド三世の結晶化した血液を素体としている。
 活動位階時には不可視の杭を、形成時には血液にも似た赤黒い色の杭をその全身から発生させて敵手を鏖殺する。
 この杭は突き刺した対象の魂と血を吸収し、聖遺物の所有者であるランサーに還元する効力を持つ。
 形成時の杭による攻撃は因果の域にまで影響を及ぼしており、極限域の幸運でもない限り、一発として回避する事は叶わない。故に彼の死杭から生き延びる為には、同じ超常の理を纏う存在でなければならない。
 応用の幅は広く、単純に近接武器としたり攻防一体の槍衾として活用したり、更には移動力の強化など、様々な用途で使用する事が可能。

『死森の薔薇騎士(ローゼンカヴァリエ・シュヴァルツヴァルド)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具・疑似固有結界 レンジ:1〜99 最大補足:1000
 "夜に無敵となる吸血鬼になりたい"と言う、彼の抱いた渇望を基に発現した創造位階が宝具化した物。
 解放と同時に周囲の空間を夜に染め上げ、彼が支配する覇道領域――"薔薇の夜"と称される世界で塗り潰す。
 昼夜の概念は関係ないものの、夜時間帯に重ねがけした方が宝具の威力は格段に上昇する。
 彼以外の内部に居る人間・サーヴァントは例外なく生命力を始めとしたあらゆる力を吸い取られ、その分だけ空間の主であるランサーの能力が強化される。『闇の賜物』による死杭の出現も結界内の任意の地点から自在に行う事が出来、強化・敵の弱化・攻撃範囲と全ての面を完全にカバーした凄まじい性能の結界で、その性質上、結界内での戦いが長引けば長引く程ランサーは有利になっていく。
 但し、宝具の解放と同時にランサーは吸血鬼の弱点をそのまま背負い込んでしまう。この為彼が結界を展開している間は、神秘を持たない一般人でも彼を殺害出来る可能性が生じてくる。また夜に取り込める容量には限りがあり、一般人程度ならいざ知らず、神秘存在であるサーヴァントを何体も取り込むと許容量の限界を迎え、彼自身に負荷が掛かる。


311 : ケイトリン・ワインハウス&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/24(金) 16:16:25 nj5Lq9AE0

『始まりの禍津花(キッス・イン・ザ・ダーク)』
 ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1(自身のみ)
 第一宝具『闇の賜物』の化身。彼の内界の最深部に存在する禍々しき少女。
 真名、ヘルガ・エーレンブルグ。歪んだ愛情に狂乱した、忌まわしき始まりの女。
 彼女との同調率が強まれば強まる程、前述の二宝具の性能と威力は天井知らずに上昇していく。
 もし仮に全開の性能でそれを解放する事が出来たなら、『死森の薔薇騎士』の威力はA++ランクの宝具にも匹敵する。
 尤も、その為には――

【weapon】

【人物背景】
 聖槍十三騎士団第四位、ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイ。白髪白面のアルビノの男。
 夜の間には感覚が鋭敏になるという吸血鬼じみた体質を持ち、それを自らのアイデンティティとしている。
 戦闘と殺戮に目が無い戦闘狂にして殺人狂であるが、本人は一方的な戦いより歯応えの有る相手との戦いを好み、強者であれば人種や男女の別なく彼なりの敬意を払う。
 元は貧民街出身。父とその娘にして実の姉であるヘルガ・エーレンブルグの間の近親相姦で生まれた子。
 この出自が"畜生腹"として純血主義など彼の人格に大きな影響を与えており、"自分の血が汚れているなら取り替えればいい"と言う考えから自傷癖とも言えるほどに自分の血を流すことを躊躇わない。軈て成長した彼は"始まりを終わらせなければ新しい自分になれない"として父母を殺害し自宅に火をつけ、それ以後は暴力で夜の街を生き抜いていく。
 本作の彼は香澄ルート後の彼を想定している。

 ヴィルヘルム・エーレンブルグはその生涯に二つの光を見た。
 一つは、愛すべからざる光。悪魔の如き男。絶対の覇者――黄金の獣。
 そして、眩しく暖かな聖光の女――白夜の中で微笑む■■を、見た。

【サーヴァントとしての願い】
 ハイドリヒ卿に聖杯を捧げる。


【マスター】
 ケイトリン・ワインハウス@Vermilion-Bind of Blood-

【マスターとしての願い】
 聖杯入手。使い道は考え中だが、手に入れる事は変わらない。

【Weapon】

【能力・技能】

縛血者(ブラインド)
 所謂、吸血鬼。
 永遠の寿命と高い身体能力、そして不死性を持ち、忌呪と言う弱点と後述の超常能力を所有する。
 心臓は脈動せず、体温はなく、呼吸もしない。睡眠を取る必要は有り、睡眠中は完全な無防備状態となってしまう。
 生命活動の全てを体内に蓄えた血の消費で賄えるが、縛血者自身は血を生成出来ない為、吸血行為によって血液量を維持する必要がある。
 また人間を魅了する効果を持つ、特殊な視線を放つ事も可能。

蝙翔狂舞(ライヴ・ガールズ)
 夜の住人としての洗礼を受けた際に、忌呪一つにつき一つ備わる"賜力(ギフト)"と呼ばれる超常能力。
 肉体を群生化し、吸血蝙蝠の一団へ化ける賜力。触れば吸われ、噛み千切られては餌へと変わる暴食の森。肉体の一部だけを蝙蝠に変化させる事も可能。
 物理攻撃を避ける事には特に優れているが、殺傷能力自体は然程高くない。

【人物背景】
 "洗礼"により、人間を逸脱した少女。
 性格は非常に活発で享楽的。目先のスリルや刹那的快楽をひたすらに探求する。
 戦闘経験は浅く縛血者となってからも日が浅いが、ある種カリスマ性のような物を持ち、それは特に反社会的な人物や荒くれ者に対して良く作用する。 

【方針】
 聖杯狙い


312 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/24(金) 16:16:47 nj5Lq9AE0
投下終了です


313 : ◆NIKUcB1AGw :2017/03/24(金) 21:24:06 eNcu.lwg0
投下乙です
自分も投下させていただきます


314 : ルパン三世?&アーチャー ◆NIKUcB1AGw :2017/03/24(金) 21:25:29 eNcu.lwg0
深夜の冬木市に、けたたましいサイレンの音が響く。
数台が縦に連なって走行するパトカーが追いかけているのは、色あせた塗装の乗用車。
それを運転するのは、緑のジャケットを羽織った面長の男だ。
その容貌を見れば、誰もがこう言うだろう。あれは大泥棒ルパン三世だ、と。

「やれやれ、この世界の警察もなかなか優秀じゃねえの。
 ちょいと油断しすぎたぜ」

うっすらと汗を浮かべながら、「ルパン」は呟いた。
だがその語調には、まだ余裕がうかがえる。
今の状況も、彼にとっては想定の範囲内だったのだから。

「頼むぜ、相棒」

「ルパン」が、道路脇の空きビルに視線をやる。
その直後、ビルから爆音が響いた。
「ルパン」の通過した道路に、がれきと化したビルの壁が降り注ぐ。
先頭を走っていたパトカーは、ブレーキが間に合わずガレキに激突。
後続のパトカーも、次々と玉突き事故を起こした。

「イエーイ! タイミングばっちり!」

追っ手がなくなったことを確認すると、「ルパン」は子供のようにはしゃいでみせた。


315 : ルパン三世?&アーチャー ◆NIKUcB1AGw :2017/03/24(金) 21:26:15 eNcu.lwg0


◇ ◇ ◇


約一時間後、アジトに帰還した「ルパン」は今回盗んできた宝石をじっくり眺めていた。

「わからんねえ」

そこに入ってきたのは、緑のマントを纏った美男子。
「ルパン」の召喚したサーヴァントである。

「おお、戻ったか、アーチャー! いい仕事だったぜ!」
「そりゃどうも。マスターの命令はきっちりこなすのがサーヴァントの使命なんでね」

ハイテンションの「ルパン」に対し、アーチャーと呼ばれたサーヴァントは仏頂面で返す。

「で、宝石なんて盗んでどうするんで? どうせここは、仮想世界っすよ?
 手に入れたところで、元の世界には持ち帰れない。
 そもそも聖杯に比べれば、その程度の宝石……」
「まあ、そう言うなって。何も盗まないルパン三世なんて、ルパンじゃねえんだよ。
 それに現実的な問題として、聖杯戦争を戦うにも軍資金は必要だろ?」

アーチャーの非難めいた言い方にも、「ルパン」は陽気な態度を崩さない。

「心配しなくても、聖杯戦争はきっちりやるさ。
 俺がルパンになるためにな」

そう、この男は本物のルパン三世ではない。
本物のルパン三世になるという野心を抱き、ルパン三世として振る舞っているだけの男だ。
それだけ聞けば、ただの狂人に思えるかもしれない。
だが、彼はそのばかげた妄想を貫いた。
結果として彼は、本物にすら一目置かれる男となっていた。

「やっぱりあんたの考えは、ピンと来ませんわ。
 そんなに有名な誰かになりたいもんかねえ」
「そりゃわからんだろうよ。
 歴史に名を刻んでる英霊様にはよ」
「俺の場合、そういうわけでもないんだけど……」
「は?」

アーチャーの意味深な言葉に、「ルパン」は怪訝な表情を浮かべる。
だがアーチャーは、それ以上語ることはなかった。


アーチャーの真名は、「ロビンフッド」。
だがそれは、彼の本当の名前ではない。
生前の彼は孤独に領主と戦った、無名の弓使いに過ぎなかった。
だが彼の功績はロビンフッド伝説の一部となり、彼は「英霊ロビンフッド」として座に登録されたのだ。

「英雄の名を欲する男」と、「英雄の名を与えられていた男」。
噛み合わない二人の聖杯戦争は、まだ始まったばかり。


316 : ルパン三世?&アーチャー ◆NIKUcB1AGw :2017/03/24(金) 21:27:08 eNcu.lwg0

【クラス】アーチャー
【真名】ロビンフッド
【出典】Fate/EXTRA
【性別】男
【属性】中立・善

【パラメーター】筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:B 宝具:D

【クラススキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Dランクでは、一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:A
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Aランクなら1週間現界可能。

【保有スキル】
破壊工作:A
戦闘の準備段階で相手の戦力を削ぎ落とす才能。トラップの達人。
ランクAの場合、進軍前の敵軍に六割近い損害を与えることが可能。
ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格が低下する。


【宝具】
『祈りの弓(イー・バウ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:4-10 最大捕捉:―
アーチャーが使用する緑色の弓。彼が生前に拠点とした森にあるイチイの樹から作ったものであり、射程距離より近場での暗殺に特化した形状をしている。
イチイはケルトや北欧における聖なる樹木の一種であり、イチイの弓を作るという行為は、「森と一体である」という儀式を意味する。
また、イチイは冥界に通じる樹ともされる。
標的が腹に溜め込んでいる不浄(毒や病)を瞬間的に増幅・流出させる力を持ち、
対象が毒を帯びていると、その毒を火薬のように爆発させる効果がある。

『顔のない王(ノーフェイス・メイキング)』
ランク:不明 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
彼の着ている緑の外套による能力。完全なる透明化、背景との同化ができる。
伝承防御と呼ばれる魔術品でもあり、光学ステルスと熱ステルスの能力をもって気配遮断スキル並の力を有するが、
電子ステルスは有していない為、触ってしまえば位置の特定は可能。
外套の切れ端であるものを使い指定したものを複数同時に透明化させたり、他人に貸し与えても効果は発動する。
これを解除させるには、対軍クラスの攻撃をさせることが有効。


【weapon】
「短剣」
接近戦用の武器として、まれに使用することがある。
また、狩猟に使う道具ならたいてい使いこなせるらしい。

【人物背景】
「ロビンフッド」として語り継がれる、幾人かの英雄の一人。
領主の圧政に立ち向かうため手段を選ばずに戦い続け、若くして死んだ一人の弓使い。

【サーヴァントとしての願い】
英雄にふさわしい戦い。


317 : ルパン三世?&アーチャー ◆NIKUcB1AGw :2017/03/24(金) 21:27:55 eNcu.lwg0

【マスター】ヤスオ
【出典】ルパン三世GREEN vs RED
【性別】男

【マスターとしての願い】
本物の「ルパン三世」になる

【weapon】
「ワルサーP38」
本物のルパン三世が愛用するのと、同型の拳銃。
偶然これを手に入れたことで、彼の人生は大きく変化した。

【能力・技能】
やや詰めの甘い部分はあるが、潜入能力などは少し前まで一般人だったとは思えないレベル。

【ロール】
「ルパン三世」

【人物背景】
いつまでも定職に就かず、ラーメン屋でバイトしながら目的もなく毎日を過ごしていた青年。
だがある日、スリルを求めて行ったスリでワルサーP38を入手してしまったのがきっかけで、
「緑ジャケットのルパン」として活動するようになる。
同時期に大量出現した偽ルパンの中でも異彩を放つ存在で、次元ですら「本物になり得る」として行動を共にしていたほど。
また五ェ門や銭形も、本物に近い何かを感じ取っていた。
自らが本物のルパンになることに固執し、「赤ジャケットのルパン」に対抗心を燃やすが……。

今回はナイトホークス社に潜入する直前からの参戦。

【方針】
聖杯狙い。


318 : ◆NIKUcB1AGw :2017/03/24(金) 21:28:54 eNcu.lwg0
投下終了です


319 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/26(日) 21:38:19 gLFBb3fU0
投下します


320 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/26(日) 21:39:03 gLFBb3fU0
「暦……」

壁も天井も床もコンクリートで出来た部屋に男の声が響く。
壮年の男の声、無限の疲労と激しい怒りとを感じさせる声。
男は聖杯戦争に召喚されたマスターだった。
己が役割(ロール)としてあてがわれた『実直な宝石商』などに甘んじていた時間は極小、如何なる犠牲を払っても叶えなければならない願いが、即座に男の記憶を呼び覚ますまでの間だった。

「暦……」

この世の全ての人間を骸と変えて積み上げたならば願いに届くというならば、躊躇わずに積み上げる。
その思いが男を死ぬまで、そして死んでからも突き動かしていた。
あの時、己の作り出した亡霊(ファントム)に斬られた時、転がっていた鉄片を握り締めた。
その鉄片が導いた此の地、死後の敗者復活戦の片道チケット。もうこの機を逃せば暦に未来は無い。この機を逃す訳にはいかない。
男…笛木奏は不退転の意思を以って己がサーヴァントを召喚する。

「来い…!!」

短く絞り出した一言に込められた無限の意志。
英霊なぞ所詮亡霊(ファントム)。必ず御してみせるとの決意も顕にサーヴァントを召喚する。
逆らう様なら撃ち倒して屈服させると、その姿は白いフードのついたローブを羽織った、仮面の魔法使いのそれに変わっている。
吹きすさぶ魔力の風、男は何時の間にか地下室が、石造りの部屋に変貌していることに気が付いた。
床に魔法陣が描かれ、奥に両開きの巨大な扉が有る。
目の前に現れる人影、齢の頃は暦と同じ位の全裸の美少女。長い黒髪を血の気の無い裸身に妖しく絡みつかせ、瞳を閉じて佇んでいる。
その圧力、その魔力。笛木が今迄作り出したファントムの比では無い。

「汝、我を召喚せし者か」

笛木が言葉を発せないでいると、唐突に少女が語りかけてきた。

「そうだ。聖杯と令呪に依り、私に従え、サーヴァント」

少女の瞼が開かれる。現れた瞳の色は、鮮血で染め上げたかの様な真紅。
そのまま、自分より高い位置に有る笛木の顔を見つめる。

「汝との繋がりを感じる。汝を召喚者と認めよう」

笛木は短く息を吐いた。現れたのが暦と同い年位の少女、というだけなら兎も角、このサーヴァントが放つ気配は余りにも異常だった。
過去の英雄などでは無く、怪物の類を喚んだのかと思う程に。
尤も、そのステータスは充分に怪物と呼べるが。デーモンというクラス名に相応し過ぎる程に。

「それで、お前の能力は?」

笛木は訊く。真名などどうでも良い。重要なのはこのサーヴァントの宝具とスキルだ。所詮ファントムと同じく道具、暦の為に使い潰すだけの存在なのだから、重要なのは性能のみ。
少女は思考も感情も窺い知れない瞳で笛木眺めていたが、やがてその姿を変え始めた。


321 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/26(日) 21:39:39 gLFBb3fU0
「ハロー」

少女の姿と声が青年の其れに変わる。笛木を殺し、そして恐らくは暦も殺したであろうファントムの人間隊の姿に。
仮面の複眼が烈しく燦めく、思わず右手が腰のドライバーに伸びる。

エクスプロージョン、ナーウ。

右手を真っ直ぐ己がサーヴァントに伸ばすと、激しい爆発が連続して青年を包む─────筈が何も起こらず、逆に青年から放たれた四本の雷の矢が笛木の四肢を貫く。
短く呻いて、再度ドライバーに右手をかざし、今度は眩い稲妻を放った。
青年目掛けて迸る光が霧散したと同時、飛んできた火球を避け、一気に間合いを詰めて渾身の右拳を胸に打ち込む。鈍い音を立てて、青年の背中から拳が突き出た。

「此れが我の能力だ。主よ」

耳朶に響く女の声。妖艶と微笑むその顔は─────。

「メデューサ………」

呆然と呟いた笛木は蹴り飛ばされた。無様に転がり、起き上がって、サーヴァントを睨む、その眼に映ったサーヴァントの姿に、真性の憎悪の叫びを上げる。

「貴様アアアアアッッ!!!」

猛然と地を蹴り顔を目掛けて渾身の拳を繰り出す。最愛の娘と同じ姿になった怪物(サーヴァント)に。

「そうよ、お父さん」

微笑んで語るその口調、その仕草、正しく笛木の記憶に有る暦のそれと変わらない。

最早絶叫としか形容出来無い叫び声と共に、怪物(サーヴァント)の─────己が最愛の娘の─────顔面を撃ち砕く。
繰り出した右手が掴まれ圧搾される。苦痛に呻く笛木の身体が振り回され、壁に投げつけられる。
凄まじい轟音と共に石の壁が砕け、変身が解けて床に伏した笛木を瓦礫が埋めた。

「指輪を用いる、仮面の魔法戦士か」

暦の姿をしたサーヴァントは、生前に戦った者達を思い出して呟きながら、瓦礫に歩み寄ると、笛木を引き摺り出した。その胸に空いた穴は当に塞がって痕跡も無い。
憎悪そのものと言って良い視線を向けて来る笛木に、暦の声と口調で教えてやることにする。

「令呪を使う?良いわ、私抜きで聖杯が取れるなら」

獣じみた唸り声。此処まで娘の存在を穢されても、何も出来無い己の無力さ。笛木には単独で聖杯を取れず、サーヴァントに制裁を加えることも出来無い。
それを理解しているからこその怒りだった。

「私を滅ぼした英雄達は六人居たの。判る?破格の英雄が六人居無いと私は滅せなかった。私に一対一で勝てる英雄は居ないのよ。お父さん」

笛木は叫喚して床に拳を振り下ろす。石の床が砕け、10mに渡って床が陥没した。
己の引き当てたサーヴァントは聖杯を取れる強さ、しかしこのサーヴァントは暦を穢す、己の中に在る暦の姿を血と臓物で穢し尽くすまで。
其れを理解しても、笛木奏には何も出来無い。聖杯を取るまでは。


─────子の未来の為か。

未知の言葉で詠唱しながら、悔しさと怒りに震える己がマスター見下ろし、サーヴァントは生前に思いを馳せる。
“呪われた島”ロードスの歴史に名高い伝説、“魔神戦争”。
その始まりは、己が息子に輝かしい未来を与えようとした小国スカードの王ブルークが、魔神王を解放したのが始まりだった。
魔神の軍勢を解放。その力を以ってロードスを征服し、魔王として子に討たれる事で、才能溢れる王子、ナシェルをロードス初の統一王とする、その為に魔神の軍勢を率いようとしたのだった。
魔神の軍勢を率いる魔神王は“器”となる生贄と召喚者との間にある血の繋がりを以って制御される。
その為に娘であるリィーナを生贄として魔神王を召喚し、支配下におこうとしたのだが、母親が密通した結果産まれた不義の子であるリィーナに血の繋がりが無かった為に結局その目論見は失敗。
結局ブルークは全てに絶望して、解放した魔神王に殺され、ロードスに巨大な災禍を齎すだけに終わったのだ。


子に未来を齎す為に、過ぎた力を求め、世に災厄を齎す。嗚呼、人の親とは─────。

奥の扉が開くのを見ながら少女は嗤う。己がマスターを、己を生前に解放した愚かな王を。

─────なんと愚劣か!!

開いた扉から溢れ出た無数の異形に囲まれ、笛木暦の姿をした魔神達の王は艶然と微笑んだ。

「ああ、主よ。こういう時はこう言うのだな」

笛木の襟首を掴んで持ち上げ、思い出した様に呟く。
呻きながら憎悪に満ちた眼差しを向けて来る笛木に怪物(サーヴァント)は告げる。

「我がお前の最後の希望だ」


322 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/26(日) 21:40:16 gLFBb3fU0
【クラス】
デーモン

【真名】
魔神王@ロードス島伝説

【ステータス】
筋力:A+ 耐久:EX 敏捷:C 幸運:D 魔力:A 宝具:A++

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】

対魔力:A++
A+以下の魔術は全てキャンセル。魔術ではデーモンに傷を与えられない。
生前にいかなる魔術師も魔術を以って傷つけることが出来なかった。
魔神達の王であり、長い歳月を生きた魔神王の神秘は破格である。
神の権能に対しても精神力を奮い起こすことで対抗可能。


対人捕食:A
人間を食うことによる体力及び魔力の吸収&回復。ランクが上がるほど、吸収力が上昇する。



【保有スキル】

魔神:A++
異界の住人である魔神としての格を示すスキル。
ランク相応の精神異常、精神耐性、怪力、天性の魔の効果を発揮する複合スキル。
魔神達の王であるデーモンのランクは最高峰であり、魔神達に対しAランクのカリスマを発揮する。


不死身:A+++
通常の武具では斬るとほぼ同時に傷が塞がり傷つける事が出来ず、高い聖性や神性を帯びた武具で漸く傷つけられる。
それでも傷付いた部位は極短期間で再生する為に、ダメージを与えることが極めて困難。
四肢を切り離しても短期間で生えてくる。
少女の身体は仮初めのものでしか無い為、肉体を消し去っても斃す事は出来ない。


変化:A
姿を変え別人の姿になることが可能。
自身の肉体を変化させる事で、ステータスを変化させることが可能。
記憶解析スキルと併せる事で、完全に別人に成りすます事が可能となる。
NPCとなった状態では、Bランク相当の気配遮断スキルを発揮する。
別人になった際は、ランク以上の真名看破スキルが無いと正体を見破れない。


記憶解析:A
対象の脳を食べる。若しくはある程度の時間観察することで記憶を読み取ることが可能。
真名看破と同じ効能を持つが、サーヴァントと他マスターに関しては機能しない。例外としてパスの繋がった己がマスターには有効。
脳を食べることにより、対象の技能や知識や記憶を獲得できる。此れはサーヴァントや他マスターにも有効。
デメリットとして捕食した対象の精神の影響を受ける。高ランクの精神異常や精神汚染持ちが相手の場合、逆に意識を乗っ取られることもある。


魔術:A
多種多様な魔術を自在に使いこなす。
威力こそ低いが、デーモンの放つ魔術は、Aランク以下の対魔力を貫通する。
Aランク以下の対魔力では防ぐことはできないが、軽減することは出来る。


323 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/26(日) 21:42:46 gLFBb3fU0
【宝具】
魂砕き(ソウルクラッシュ)
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1-3 最大補足:1人

デーモンの持つ漆黒の大剣。この剣で傷つけられた者は、精神と魂を打ち砕かれる。
この剣で斬られて死ねば霊核を確実に破壊され、不死の存在や蘇生効果を持つスキルや宝具を有しているサーヴァントでも効果を発揮せず消滅する。
掠っただけでも気力を大きく消耗し、行動することが困難になるほど。
上位精霊や神に匹敵する魂を持つ古竜ですらこの剣の魔力を無効化する事は出来ない。
破格の精神力や精神耐性を以ってしても無效化は出来ず、効果に耐えることが出来るというだけ。
また、精神異常、精神汚染、狂化といったスキルのランクを3つ下げる。
持ち主の老化を遅らせ、斬った者の精神力を奪うという能力を持ち、聖杯戦争では所有者の魔術行使以外の魔力の消費を十分の1に抑え、斬った相手に対し判定を行い、判定結果に応じた分の魔力を徴収する。

不死の身体と不滅の魂を持つデーモンを滅ぼした剣で有る為、、魔や不死の属性を持つものに即死効果を持つ。
デーモンの死後、この剣を所有した暗黒皇帝ベルドを狂わせたと言われ、英雄戦争において嘗ての盟友である聖騎士王ファーンを斬った逸話及び、
ベルドの死後にこの剣を所有した漂流王アシュラムが竜殺しを成し遂げた逸話により
騎士の英雄や竜の因子を持つ英雄に特攻の効果を持ち、デーモン以外の者が所有した場合、Dランクの狂化を付加する。
『魔神王の剣』と、所有者が変わっても言われ続けた事から、デーモンの手から離れた後の逸話による効果でも発揮する事ができる。



蹂躙殺戮す魔神の軍勢(デモンズ・ウォー)
ランク:B+++ 種別:対人宝具 レンジ:冬木市全域 最大補足:冬木市全域

生前にデーモンが率いたロードスに恐怖と戦乱を撒き散らした魔神の軍勢を召喚する。
魔神の軍勢を使役する為には魔神王を召喚し、契約しなければならない為宝具として扱われることとなった。
魔神将、上級魔神、下級魔神という階級があり、下位のもの程召喚に魔力を必要としない。
魔神将ともなれば、本来ならサーヴァントにも引けを取らないが、聖杯戦争の枠組み上、召喚される際には使い魔と堕しており、大幅に劣化する。



最も深き迷宮(ディープ・ラビリントス)
ランク:A++ 種別:迷宮宝具 レンジ:0 最大補足:500人

魔神王が封じられていた場所。最も深き迷宮を再現する。
固有結界に近い大魔術であり、地下に構築される。
全十層からなる迷宮は致死性のトラップと凶悪な魔物や魔神がひしめいている。
死後に英霊として座に登録される英雄を多数含む500人の精鋭を投入しても、そのほぼ全てが死に絶えた程の堅牢強固な守りを突破することは困難を極める。
デーモンが解除するか、デーモンを斃すかしない限りこの迷宮は消滅しない。
地脈を汲み上げられる位置に設置すれば維持に必要な魔力を減らすことが出来る。


始まりと終焉の場所(魔神王の間)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1人

デーモン召喚の際に自動的に展開され、デーモンが消滅しない限り残り続ける宝具。
嘗て魔神王が召喚された場所であり、六英雄に滅ぼされた場所である広大な石造りの広間で、床には魔法陣が、奥には両開きの巨大な扉が有る。
この宝具の使い途は、デーモンが斃された時、十分以内にこの広間の魔法陣に“器”となる者を横たえ、魔神王を召喚する呪文を唱えて“器”を殺害する事でデーモンを復活させることが可能となる。
“器”はNPCであろうがマスターであろうが“人間”であれば問題無い。
この宝具有る限り、デーモンは不滅の様に思えるが、デーモンが滅ぼされた場所でもある為、この場でデーモンが斃された場合、そのままデーモンは消滅する。
また、場所を問わず、魂を打ち砕く様な攻撃で斃された場合も復活は不可能。
ロードスの歴史に名高い“魔神戦争”の始まりと終焉の場所。
最も深き迷宮(ディープ・ラビリントス)を展開した時には最下層にこの広間が配置される。
魔神戦争(デモンズ・ウォー)で召喚される魔神達はこの広間の奥の扉から出現する。


324 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/26(日) 21:43:15 gLFBb3fU0
【weapon】
魂砕き、口から吐き出す瘴気。毒を帯び、瘴気に変わる血液。無尽蔵の再生能力。

【人物背景】
古代魔法王国の時代に、ロードスの地に召喚され、古の魔術師達に従僕として扱き使われた者達の王。
元居た魔界と、召喚された先の物質界の狭間に長い期間幽閉されるが、スカード王ブルークの手により復活。ブルークの血の繋がらぬ娘リィーナの身体を器として復活。
ドワーフの“石の王国”を攻め滅ぼし、スカードの全住民をゾンビに変える。
その後もロードス各地に手を伸ばし、 後に“魔神戦争”と呼ばれる戦いを起こす。
人間達を分断し団結させない奸策と魔神達の戦力とで、ロードスを席巻するかに見えたが、スカードの王子ナシェルを中心とする、ロードス中から集った勇者達や、各国に連合軍に敗れ、封じられていた“最も深き迷宮”に押し込まれる。
そして勇者達が身を呈して道を開き、魔神王の元へと送り届けた七人の英雄達との戦闘となる。
そして七人のうちの一人に己の剣を奪われ、その剣に依り滅ぼされた。
魔神王と戦い、勝った者達は“六英雄”と讃えられた。


【方針】
皆殺しにして聖杯を手に入れる。

【聖杯にかける願い】
復活。ナシェルと一つになる。



【マスター】
笛木奏@仮面ライダーウィザード

【能力・技能】
魔法:複数の強力な魔法を使いこなす。
ワイズドライバーや、科学と魔法の混合物である人造ファントム“カーバンクル”を作り出すなど、高い技術力を持つ。
格闘戦でも非常に高い戦闘能力を発揮する
体内に埋め込んだ人造ファントムのおかげで膨大な魔力を持つ。

【weapon】
ワイズドライバー:
白い魔法使いの姿に変わる為の変身ベルト。変身した姿は仮面ライダーウィザードインフィニティースタイルと互角に戦うことができる能力を有する

カーバンクル:
笛木が魔力を得る為に精製した人造ファントム。体内に埋め込むことで笛木に魔力を齎している。期間は分から無いが量産することも可能。
体内で魔宝石を精製し、胸から排出する。
魔力を吸収する能力を持つ。

【ロール】
新都に自宅兼店舗を持つ宝石商

【人物背景】
娘を失い、再度の生を娘に与える為に魔法を求めた父親。
その為に多くの人を絶望させ、更に多くの人を犠牲にした。
あと一歩というところまで届くも、結局彼はアーキタイプと見下して居た男により計画を潰され、己が創り出した絶望の産物に娘共々殺されて終わった。


【令呪の形・位置】
右手の人差し指、中指、薬指に指輪状の形

【聖杯にかける願い】
暦に幸せな生を

【方針】
皆殺しにして聖杯を手に入れる。デーモンは必ず殺す

【参戦時期】
グレムリンに殺された後

【運用】
直接戦闘に強く、召喚系宝具持ちの為に数押しも可能。
最大の特徴はスキルの都合上異常に死ににくい上に、始まりと終焉の場所(魔神王の間)とテレポートリングを併用することで、最悪何度倒しても死なない処。


325 : 最後の希望 ◆v1W2ZBJUFE :2017/03/26(日) 21:44:42 gLFBb3fU0
投下を終了します
尚これは箱庭聖杯に投下したものをマスターを変えたものです


326 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/29(水) 19:09:51 9.MoBpHc0
>ルパン三世?&アーチャー
 ルパン三世GREEN vs REDよりヤスオと、Fate/EXTRAよりロビンフッドですね。
 作中でも触れられていましたが、彼らは英雄の名を欲する男と、英雄の名を与えられていた男の主従。
 彼らの相互理解度はまだ低そうなのが懸念に思われますが、緑茶は仕事は文字通りちゃんとこなすサーヴァントなのでその辺は心配なさそうです。
 聖杯戦争において財宝を盗むのはまさに無意味な行為としか言いようがありませんが、それをわざわざ行う辺りにヤスオというキャラの深い妄執を感じましたね。
 その思想や意地が聖杯戦争の中でどう機能していくのか、或いは破滅の理由になってしまうのか。そこも含めて非常に楽しみな登場話でした。
 投下、ありがとうございました!


>最後の希望
 仮面ライダーウィザードより笛木奏と、ロードス島戦記より魔神王ですね。
 笛木が無限の疲労と怒りとまで称される強い願いを基に召喚したサーヴァントは、非常に悪辣な存在でしたね。
 彼が取り戻そうとした娘の姿を象って嘲弄する姿はまさしく外道と言うべきものだったように思います。
 それでいて魔神王の強さは非常に強大と言うのが何ともまた皮肉。
 主従仲や連携のようなものは殆ど期待できなそうですが、娘の幸福を願う父親が聖杯を無事手に出来る日は来るのでしょうか。
 投下、ありがとうございました!


 最近余り執筆の時間が取れず顔を出せていませんので、生存報告的な感想のみのレスになりますが、近々また候補作を投下しようと思います。


327 : ◆NIKUcB1AGw :2017/03/29(水) 21:25:27 qPcUqmc20
感想ありがとうございます
投下します


328 : 蔵馬&キャスター ◆NIKUcB1AGw :2017/03/29(水) 21:26:19 qPcUqmc20
冬木市内の、とある学校。
南野秀一は、その教室で帰り支度をしていた。

「じゃあな、南野」
「ああ、また明日」

クラスメイトと軽く挨拶を交わし、秀一は帰路についた。


◆ ◆ ◆


夕暮れ時の路地を歩く秀一の顔は、目に見えて冴えなかった。
どうも最近、心が晴れない。
何かとても大事なことを、忘れてしまっている気がする。
だがいくら考えてもそれが何かわからず、もどかしさだけが募る。
学校や母親の前ではなんとか平静を装っているが、一人になるとどうしても表に出てしまう。
おまけに今日は、空気まで重く感じる。

(あまり帰りが遅くなっても、母さんを心配させてしまうが……。
 今の顔を見せても心配されるだろうな。
 少しだけ気晴らしをしていくか)

家までの道筋から逸れ、秀一は郊外へ向かおうとする。
その時、強い風が吹いた。

「!」

その瞬間、秀一の顔つきが険しさを増した。
気づいてしまったのだ。風がほんのわずかに、血のにおいを運んできたことに。
反射的に、秀一は走り出していた。
なぜ自分はこんなかすかな血のにおいに反応できるのか、疑問を抱いたまま。


329 : 蔵馬&キャスター ◆NIKUcB1AGw :2017/03/29(水) 21:27:06 qPcUqmc20


◆ ◆ ◆


「…………」

秀一は、たまらず絶句していた。
たどり着いた路地裏で見たのは、自分の通う学校の制服を着た少女。
その目には光がなく、すでに絶命しているのが一目でわかった。
そしてその首に噛みつき、血をすすっているのは自然のものではあり得ない、巨大なコウモリ。
何者かの支配下にある使い魔だろうが、今の秀一にはそれを知るよしもない。
秀一の存在に気づいたコウモリは、彼からも血を奪おうと飛翔する。
高速で迫る、死をもたらす存在。だがそれを目の当たりにしても、秀一は驚くほど冷静だった。

「ローズウィップ!」

次の瞬間、コウモリは全身をいくつもの肉片に分割され、血をぶちまけながらコンクリートの上に転がっていた。

「なんだ、これは……。俺はいったい今、何をした……!」

自らの手にいつの間にか出現した緑色の鞭を呆然と眺めながら、秀一は呟く。
直後、激しい頭痛が彼を襲った。


◆ ◆ ◆


そうだ、俺はただの人間じゃない……。
もう一つの名前は妖狐・蔵馬……。
現実世界の俺の母は、病で死の淵にいる。
彼女を救うために、俺は他の妖怪と共謀して霊界の秘宝を盗み出そうとした。
だが目当ての宝を手にしようとしたとき、横にあった金属片に手が触れて……。
そこで、記憶が飛んだ。


◆ ◆ ◆


「記憶が戻りましたか」

「蔵馬」の意識が過去から現在へと戻ってきたとき、目の前には一人の青年が立っていた。
ネイティブアメリカンを思わせる服装を纏った、温厚そうな若者である。

「ああ、すっかりね。同時に、自分が今置かれている状況も理解できた。
 あなたが、俺のサーヴァントということでいいのかな?」
「ええ、僕があなたのサーヴァントです。クラスはキャスターです。
 よろしくお願いします」

微笑を浮かべるキャスターに対し、蔵馬も笑みを返す。
だが、それはすぐに消えた。

「さっそくだが、俺は聖杯が必要だ。
 どうしても救いたい人がいる。その人を救うためなら、俺は手段を選ばないつもりだ。
 できるだけ犠牲は避けたいが、それでも非情な行いをしなければならないときもあるだろう。
 それでも君は、俺についてきてくれるか?」
「ためらいがある分だけ、容赦なく殲滅に走るような輩よりはマシでしょう。
 二流サーヴァントの僕にどこまでできるかわかりませんが、全力は尽くしますよ」
「ありがとう」

蔵馬が、キャスターに軽く頭を下げる。

「さて、まずはこの世界の自宅に戻ろうか。できるだけ急ぎたいところだが、まずは地盤を固めないといけない。
 落ち着ける場所で策を練らないとな。
 それに、いつまでも死体のそばにいるわけにもいかない」
「わかりました。では今のところは、霊体化して同行しますね」

キャスターの姿が消えたのを確認すると、蔵馬はきびすを返して歩き出す。
同時に、一輪の薔薇を放り投げた。
バラは吸い込まれるかのように、亡骸と化した少女の胸に落ちる。

「君が人だったのか、まがい物だったのか、今となっては知る術はないが……。
 どちらにせよ、安らかに眠れることを祈るよ」


330 : 蔵馬&キャスター ◆NIKUcB1AGw :2017/03/29(水) 21:28:17 qPcUqmc20

【クラス】キャスター
【真名】タリム
【出典】シャーマンキング
【性別】男
【属性】秩序・善

【パラメーター】筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:A 幸運:D 宝具:C

【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として自らに有利な陣地な陣地「プラント」を作成可能。

道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成可能。

【保有スキル】
パッチソング:C
「自己暗示」の派生スキル。
歌による自己暗示で、耐久と魔力を大きく上昇させることができる。
ただしタリムは実際に使用したかどうかが不鮮明であるため、ランクはあまり高くない。


【宝具】
『最弱の守護者たち(グリンシーズ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:20人
種を媒介に具現化させた、植物の霊。
一つ一つの力は弱いが、それ故に魔力の消費も小さいため一度に大量の具現化が可能である。
それぞれの植物の特性を活かすことにより、多種多様な攻撃を行うことができる。

【weapon】
特になし。

【人物背景】
シャーマンファイトの運営をになうパッチ族の精鋭、「十祭司」の一人。
コーヒー豆にこだわりを持ち、カフェ「豆」を経営している。
当初は臆病で卑屈な男として振る舞っていたが、プラントでの戦いでは一転して悠然とした態度で葉たちの前に立ちはだかる。
多彩な植物を的確に使い分ける戦術で蓮、リゼルグ、ホロホロを封殺するも、
風を操る戦法を身につけたチョコラブに全ての植物を風化させられ敗れた。

【サーヴァントとしての願い】
パッチ族の繁栄


331 : 蔵馬&キャスター ◆NIKUcB1AGw :2017/03/29(水) 21:29:32 qPcUqmc20

【マスター】蔵馬/南野秀一
【出典】幽遊白書
【性別】男

【マスターとしての願い】
病に冒された母親を救う

【weapon】
下記の能力により作成した武器

【能力・技能】
「植物操作」
その名の通り、植物を自在に操る能力。
髪の中に植物の種を仕込んでおり、それに妖力を送り込むことによって成長させ、使用する。
特にバラを変形させた鞭「ローズウィップ」を多用する。

【ロール】
高校生(穂群原学園の生徒ではない)

【人物背景】
名門校に通う高校生。学年トップの成績を維持し続ける、明晰な頭脳を持つ。
その正体はかつて魔界を震撼させた大妖怪、妖狐・蔵馬。
霊界のハンターに重症を負わされ人間界に逃げ込んだ際、一時避難としてある女性が身ごもっていた胎児に憑依。
しかしそのことによって魂が混じり合い、人間でもあり妖怪でもある存在として転生することになる。
人間として生きる中で妖狐だった頃の残虐性は薄れ、情け深い性格となっていく。
しかしあるとき、慕っている母が病に倒れ、死の危機に陥る。
彼女を救うため、使用者の命と引き替えにどんな願いも叶えてくれるという「暗黒鏡」を求め、飛影らと共に霊界の宝を強奪した。
今回はその途中からの参戦。

【方針】
聖杯狙い。しかし、犠牲は最小限にとどめたい。


332 : ◆NIKUcB1AGw :2017/03/29(水) 21:30:22 qPcUqmc20
投下終了です


333 : ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:30:48 MMwhiHoQ0
投下します。


334 : 合縁奇縁一期一会 ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:32:11 MMwhiHoQ0

「参ったなあ、こりゃあ…」

逢魔が時。彼の背後、闇の中から奇襲してきたのは、まさしく魔。
とっさに身を翻し、体術で攻撃をかわした。攻撃の瞬間まで、一切気配は感じなかった。
連撃。被っていた笠が飛び、髪の毛が数本切断され、魔の影は再び闇の中へ身を潜めた。そして気配を消す。

彼の視力は、襲撃者の姿を捉えていた。
全身漆黒。眼球までも黒い、小柄で細身の影。手に持つ短刀には、おそらく毒。絵に描いたような暗殺者。
これからもっと暗くなる。ならば、心眼を研ぎ澄ませるまで。彼は構えを取って目を細め、呼吸を整える。
それと同時に、手に提げていたコンビニ袋を、ゆっくりと地面に下ろす。

「買い出しの帰りなんだ。邪魔しないでくれよ」

彼のいでたちは、日本であれば――少々目立つが――それほど珍しいわけでもない。
墨染めの法衣に袈裟。白足袋に草鞋。飛ばされたのは網代笠。手には錫杖。
仏教の僧侶だ。まだ若く、剃髪もせず黒髪を伸ばしている。

「坊さん、悪いが死んでもらうぜ」

もう一人、物陰から姿をあらわし、ゆっくりと近づいてくる男がいる。
パンチパーマで髭面の悪相、スーツと革靴、金ピカの装身具。誰がどう見てもヤクザだ。
身のこなしから、さっきの襲撃者ほどではないが、それなりの使い手とわかる。襲撃者の仲間と見て間違いない。
一定の距離を保っているのは、こちらの注意を分散させ、襲撃者を援護しようという腹だろう。

「……知らんのか? 僧侶を殺せば地獄に堕ちるぞ。殺生の罪の中でも……」
「はっ! ここが地獄だろ。欲ボケのアホどもが殺し合う、ありふれた日常だ」

イカれたヤクザが懐から拳銃を抜く。刹那、足元から短刀。連携が取れている。
若い僧侶は奇襲を見切り、跳躍して回避。襲撃者は地面から……否、影から襲って来る。人間ではなかろう。

「俺のサーヴァント、アサシンだ。さっきもだが、よく避けたな。ただ者じゃねえことは確かだ。へ、へへ」

拳銃を弄びながら、ヤクザが笑う。周囲に人影はないが、街中の路上で撃つ気はないか。

「サーヴァント?アサシン? 何のことだ? なぜ俺を狙う?」
「まだ思い出してねえのか、聖杯のことをよ。ま、どうでもいい。早めに消しとくに限る。へへへへ」

ヤクザは意味不明なことを呟きながら、拳銃を手にして笑い続ける。薬物中毒者の譫言か、あるいは。
いずれにせよ、このままむざむざと殺されるわけにはいかない。降り掛かる火の粉は払うべし。
この場を逃げて人混みの中に入っても、こいつらはお構いなしに殺しに来るだろう。


335 : 合縁奇縁一期一会 ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:33:39 MMwhiHoQ0

突然、背後の足元からアサシンの襲撃! 同時にヤクザが拳銃を発射!
銃弾は逸れたが、動揺した僧侶は短刀をかわしきれず、左足首を負傷!

「あづッ!?」
まずい。毒だ。左足首から先の感覚が麻痺し、徐々に上へと毒が這い登る。ヤクザが嘲笑う。

「へへへは、ようやく一撃かァ。あんたもすげえが、手間取らせやがって。先が思いやられるぜ。
 正直、俺のサーヴァントは外れっぽくてよォ。あんまり強くねえんだ。
 だからこうして、俺が援護してやらなきゃならねえ。美しい主従関係だろう?」

「知るか! ここは平和な日本の一地方都市だろォが! いつからこんなに治安が悪く……」

動きの鈍った僧侶を、アサシンの連撃が襲う。速い。両手に短刀。急激に手数が増した。
防ぎきれず、短刀が僧侶の腕、脇腹、耳、肩、頬を掠める。そこから毒が回る。
毒。即座に解毒せねば、死ぬ。解毒。どうやって。薬は。こんな毒……。

「……ああ、そうだった、そうだった」

何故、今まで忘れていたのか。こんな毒など。我が守護神には。
僧侶は錫杖を回してアサシンの腕に絡め、一瞬動きを封じる。そして。

「オン・マユラ・キランデイ・ソバカ」

すみやかに両手で印を結び、真言を唱える。『孔雀明王呪』。僧侶の体内から、毒が瞬時に消え去る。
体の動きが戻り、大きく跳躍してアサシンの攻撃範囲から脱する。アサシンはまたも影に身を沈める。

「そうそう、おかげで思い出したよ。俺は……」

記憶が蘇る。膨大な、膨大な記憶。父のこと、母のこと、姉のこと。
師との出会い。修行と読経。退魔行。無数の死。敵。仲間。妖魔。聖杯。聖槍。無数の死。
人間界。天国。地獄。光。闇。無数の死。―――――聖杯戦争。

「俺は『孔雀』だ」

膨大で壮絶な記憶が、彼の判断力を鈍らせ、動きを止める。
影から現れ、死角から首元へ迫るアサシンの刃を、回避できない。回避しようともしない。錫杖も手放している。

しゃりん、と音を立てて、錫杖から金輪が一つ外れ落ちた。


336 : 合縁奇縁一期一会 ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:35:19 MMwhiHoQ0


 ず
   し
     ん


何かが一閃し、地震と共に道路に大穴を開ける。
アサシンは途方もない質量に上から押し潰され、声もなく消滅した。

「成仏しやがれ」

直後、破れ鐘のような大音声。
アサシンを消滅させた存在―――男が、右手を胸の前に出して拝んでいる。
その胸元には、巨大な数珠が巻かれている。アサシンを押し潰した、彼が振り下ろしたであろうはずの武器は、どこにもない。
彼はそのまま腕を組み、唖然とするヤクザ……敵マスターを憤然と睨み、告げた。

「不思議だろうが、てめえの命(たま)は取らねえ。消えな」

敵マスターは、男を見た瞬間、敗北を悟った。こいつに勝てるわけがない。
顔から一気に血の気が引き、無様に失禁しながら、従僕を失った敵マスターは悲鳴を上げて逃げ去った。
心を折られた彼は、もはや聖杯戦争に参加することを選ばず、一市民として生涯を全うするだろう。

若い僧侶―――孔雀は、彼を……自分のサーヴァントとして呼ばれた男を見た。なるほど、まさしく英雄だ。

「待たせたな」

筋骨隆々、堂々たる体躯。満身に漲る魔力と覇気。爛々と輝く黄金の瞳、真っ赤な髪の毛。
入れ墨肌に赤い行者の服をまとい、額に金輪、手に手甲。ああ、こいつは、誰が見ても。


「悟 空 だ」


「悟空ねえ。『ドラゴンボール』の主人公……じゃあ、なさそうだ」

東洋人なら、知らない人はまずいない。岩から生まれたスーパーモンキー、斉天大聖・悟空サマである。


337 : 合縁奇縁一期一会 ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:36:45 MMwhiHoQ0



僧侶は頭をかきかき、悟空に深々と礼をする。

「いやはや、助かったよ悟空さん。しかし、敵マスターを逃がすとはねえ」
「俺は殺生(ころ)さねえ。英霊には引導を渡してやる。そのいでたち、てめえも仏弟子(ぼうず)だろう。名乗りな」
「ああ失礼、俺は孔雀っていうんだ。よろしくな、大先輩。……あっちで座って、メシでも食べるかい?」
「おう。その前に、怪我の処置をしとくか」

孔雀は笠と錫杖とコンビニ袋を急いで拾い、悟空と共に近くの公園へ向かう。
ベンチに座ろうとしたが、悟空が地べたにあぐらをかいたので、自分もそうした。応急処置をした後、食料を出し、食べながら語らう。
悟空のステータスを確認したところ、彼はランサー(槍兵)ということになっているが―――
正直、東洋人なら誰が見たって彼の真名はわかるだろう。普段は悟空と呼ぶことにした。

「悟空さん、確かあんたは天竺へ無事たどり着いて、『闘戦勝仏』に成った……んじゃ、なかったっけ」
「違う。俺は釈迦に寿命をもらい、衆生済度(ひとだすけ)の旅を続けて、寿命で死んだ。来世も三蔵のお供がしたかったからだ」
「三蔵法師のお供、ね。俺が三蔵でなくて悪かったが……それが聖杯に託す、あんたの願いか?」

孔雀の問いに、悟空は頭を振る。
「いや。俺の願いを叶えるのに、聖杯なんて必要(いら)ねえ」

孔雀は頷く。この男なら、そう言うに決まっている。

「三蔵は立派な仏弟子だった。きっと、極楽浄土(ほとけのところ)に往生してるさ。俺もそこへ行けば済む話だ。
 衆生済度のためにどこかへ転生してるかもしれねえし、英霊ってのになってるかもしれねえがな」

悟空は西の空を眺める。筋斗雲なら一飛び十万八千里、極楽浄土までは十万億土。そう遠いことはない。
悟浄、八戒、千里馬。あいつらも、どうしているか。

「てめえの欲しいもんは、てめえで獲る。いらねえもんは獲らねえ。昔からそうしてきた。
 ましてや、俺は仏弟子だ。他の奴を殺生(ころ)して奪うことは、したくねえ」

「ご立派、ご立派……。じゃあさ、もし俺が聖杯を欲しくて、他の奴を殺そうとしたら?」
「てめえもぶっとばす。外道にゃあ容赦しねえ」
「聞いてみただけだって。俺もあんたと同じさ、いらねえもんは獲らねえ。特に『聖杯』なんてな」

聖杯。ナチスの残党「終末の軍団(ラストバタリオン)」……六道衆が求めていた、キリストの髑髏杯。
否が応でもそれを思い出すが、この『聖杯戦争』とかいう悪趣味なゲームで争われるのは、別物らしい。
いや、似たようなものか。参加者を世界中から無差別に呼び集め、使い魔を与えて殺し合いをさせ、聖杯を作る。
まさしく「蠱毒」だ。反吐を吐くような外道の諸行だ。孔雀の心身に怒りが満ちる。


338 : 合縁奇縁一期一会 ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:38:16 MMwhiHoQ0

黙ってうつむいたままの孔雀を、悟空がじっ、と見つめる。
この若い仏弟子は、ただ者ではない。人間よりも妖魔のにおいがする。潜在能力は大聖級、あるいは……。

「……てめえの中に、なんか凄えもんがいやがるな。力はどれほどだ」
「以前は、結構なもんだったんだがね……。いろんな事情により、今はほとんど忘れっちまった。あんたが頼りだ」
「俺の魔力(まりき)も、だいぶ制限(おさえ)られていやがる。なに、できることをやりゃあいい」

あの壮絶な最終決戦は、孔雀から法力を失わせた。だが、いくつかは思い出しつつある。
聖杯戦争には乗りたくないが、邪悪なサーヴァントだけを倒していけば、いずれ全てを思い出すだろうか。
しかし、あまり思い出し過ぎても、よくないことになるだろう。自分に秘められた力は、あまりにも強大だ。力に呑まれてはならない。
それに、このサーヴァントだけでも充分だ。いてくれるだけで、勇気と力がふつふつと湧いてくる。それでよしとしよう。

「で、孔雀。てめえはどうする。殺生もしねえ、死にたくもねえ、聖杯もいらねえってんなら、もとの世界に帰るか」
「そうしたいのはやまやまだが――――」

どうする。怒りのままに力を振るい、聖杯戦争をぶち壊すか。できるだろう、俺とこいつなら。

「悟空さんよ、あんたと俺がここにいるのも、仏縁ってやつだろうぜ」
「仏縁か」

孔雀は顔を上げ、錫杖を突いて立ち上がる。

だが、それでは解決にならない。聖杯戦争が二度と起きないように、根本から救わねば。
そうだ、救わねばならない。参加者も、主催者も、くだらぬ争いから解き放たれるように。

「そう。欲ボケどもが醜く争い殺し合う、無明の世界。
 この世で苦しむ衆生をあまねく救うために、御仏が俺たちを導いたのさ!」

悟空は笑い、孔雀の掌に拳を合わせた。

地獄に堕ちた大魔王、三蔵求める大魔猿。
二人の凄腕仏弟子が、ここに結ぶは『仏契(ぶっちぎり)』!!


 三界狂人不知狂
 四生盲者不識盲
 生生生生暗生始
 死死死死冥死終

       ――弘法大師空海『秘蔵宝鑰』より


339 : 合縁奇縁一期一会 ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:39:52 MMwhiHoQ0

【クラス】
ランサー

【真名】
悟空@悟空道

【パラメーター】
筋力A++ 耐久A++ 敏捷A+ 魔力A 幸運C 宝具A

【属性】
混沌・善

【クラス別スキル】
対魔力:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。事実上、魔術ではランサーに傷をつけられない。

【保有スキル】
銅頭鉄額:A+
生物として異常な肉体を持つ。岩から生まれ、仙桃・仙丹を喰らい、ほぼ不死身の頑丈さを誇った逸話がスキル化したもの。
筋力と耐久力が常時ランクアップしており、石化を完全に無効化する。ほとんどの毒も効かない。血液はマグマのように熱くて岩をも融かし、発火・爆発する。
並みの武器なら無傷で跳ね返すし、怪我の回復も早い。気合を入れると超硬質化し、致命的攻撃を防いだり(真王首)、髪の毛を射出したり(穿闘髪)できる。
首を切り落せば死ぬし、釈迦如来に寿命を授かって死んだので完全な不死身ではないが、往生際はとことん悪い。

カリスマ:A+
大軍団を指揮する天性の才能。妖魔ひしめく獄界七大国を統一した「真王」たる器量。ここまで来ると人望ではなく魔力、呪いの類である。

単独行動:A+
マスター不在でも行動できる能力。大地に足をつけていれば、マスターからの魔力提供を必要としない。

動物会話:A
言葉を持たない動物との意思疎通が可能。知能差と種族差を乗り越えて、互いに心を通じ合わせられる。馬や恐竜とも会話して情報を引き出せる。

法天象地:A(EX)
自分の周囲に膨大な土砂・岩石・金属・溶岩等を纏い付かせて擬似的に受肉し、黒鉄色で巨大な「人外大魔猿」の姿に変身する術。
憤怒を耐え殺生を犯さぬとの仏との契約に逆らうため「逆仏契(ぎゃくぶっちぎり)」と叫ぶが、理性や判断力は一応もとのまま。
筋力と耐久力が大幅に向上する。本来は身長40mほどまで巨大化するが、あまりにも強大なのである程度は抑えられている。
変身そのもの(建造物や地形の破壊・吸収を伴う)や大魔猿の姿が極めて目立つため、よほどの巨大な強敵相手でなければ使わない。


340 : 合縁奇縁一期一会 ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:41:19 MMwhiHoQ0

【宝具】
『如意棒(にょいぼう)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:1000

如意金箍棒とも。ランサーの「相棒」で、ランサーたる所以の宝具。神珍鉄製。重さは一万三千五百斤(約8トン)。
持ち主の意に従って自在に伸縮・飛行し、ビルを貫くほど太く大きくもなるし、大きな数珠状(紐はない)にして首や腕にかけることもできる。

『筋斗雲(きんとうん)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:10

宝珠を持ち豊満な体型をした雲の精霊。ランサーが呼べば雲の中から現れる。背中に数人を乗せて自在に高速飛行できる。
実体があり、攻撃を受けると血も流す。本字は「[角力]斗雲」だが、ここでは筋斗雲と表記。

『緊箍児(きんこじ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:自分 最大捕捉:自分

如来によってランサーの額に嵌められた拘束宝具(法具)。「緊箍呪(定心真言)」を唱えると頭を猛烈に締め付けて苦しめ、行動不能にさせる。
原作の原典『西遊記』では天竺到着後に外されたが、『悟空道』では付けられたままである。
緊箍呪を知っている者が敵であればランサー最大の弱点。孔雀明王ほどの神仏なら、一時的にしろ外すこともできそうである。

『色即是空(しきそくぜくう)』
ランク:-(EX) 種別:対己宝具 レンジ:自分 最大捕捉:自分

ランサーが「空」を悟った状態が宝具化したもの。全身を入れ墨状の模様が覆った巨人の姿となり、
闘魂も憤怒も恐怖もなく、何ものにも惑わされずに闘うことができる。破壊されても多数に分身し、影もなく虚空から出現するなど変幻自在。
ただしこの状態になるには、緊箍呪によって闘魂を失い「空」を悟らねばならない。現在は封印されている。


341 : 合縁奇縁一期一会 ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:42:47 MMwhiHoQ0

【Weapon】
四肢五体
文字通り全身が武器。素手であっても凄まじい膂力と体術で縦横無尽に戦う。

如意棒
宝具と同じ。数珠状にしていても振り回したり絞め付けたりして攻撃できる。大概の飛び道具は回転させて弾き返す。

穿闘髪(せんとうはつ)
自分の髪の毛を刀剣のように鋭く尖らせ、投擲・射出して攻撃する。切れ味国宝級(ばつぐん)でさびたりしない天下一品の光物。

悟空剣(ごくうけん)
手甲やブーツから大斧のような刃を伸ばし、手足を振り回して斬撃を加える。柱や壁をたやすく切断し、殺生せぬよう武器を破壊する。

【人物背景】
山口貴由『悟空道』の主人公。獄界は傲来国果花山の巨岩から生まれた岩猿(いしざる)。「斉天大聖」を称する最強無敵の大妖魔。
暴れに暴れて獄界七大国を統一する真王となり、果ては天界の神々に挑んで十万の天兵を向こうに回したが、釈迦如来の法力で五行山に封印。
五百年後に三蔵法師玄奘に出会って出獄、生き方を改めるため仏弟子となってこれに仕え、天竺までの長い旅路に立ちふさがる妖魔を掃除した。
容貌は猿というよりほぼ人間。しっぽは昔ノコギリで切り落とした。両掌には強制合掌法具で貫かれた傷跡があり、右太腿の内側には「三蔵命」と彫ってある。
難しいことを考えるのは苦手な野生児で、読み書きもできないが、曲がったことは大嫌い。硬派・熱血・純情で女には弱い(尻に敷かれる)。
なおバーサーカーの適性もあるため、仏道に背き怒りと暴力に頼って殺生を重ねすぎると狂化する恐れがある。

【方針】
聖杯は不要。保護すべき者は守り、悪党はぶっ飛ばす。
基本的に殺生はせず、サーヴァントだけを破壊して英霊の座に戻し、残ったマスターには脅しをかけて戦いを放棄させる。
マスターがあまりにも腐れ外道で、生かしておくと危険すぎるなら、やむを得ず殺してから供養する。

【把握手段】
単行本全13巻、ないし愛蔵版全6巻。


342 : 合縁奇縁一期一会 ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:44:09 MMwhiHoQ0

【マスター】
孔雀@孔雀王

【weapon】
錫杖、金剛杵など。体術・拳法の腕前も相当なものである。

【能力・技能】
発勁
構えた両手に「気」を集中させ、気弾を放つ術。接近して拳打・掌打で叩き込むことや、複数の気弾を飛ばすこともできる。

法力
印契を結び真言を唱え、身口意をもって仏神の力を呼び出す真言密教の秘術。発動には言葉が話せ、両手が自由に動かせる必要がある。
本来は多数の高度な法力を行使できるが、最終決戦の影響と能力制限によりほとんどの使い方を忘却している(真言等の知識はある)。
現在使用可能なのは、以下の法力のみである。戦闘を重ねていけば、次第に思い出して行くであろう。

『孔雀明王呪』
毒蛇、毒虫を好んで食らう己の守護神・孔雀明王の力を借りて、その身から毒を消し、逆に魔を食い尽くす呪法。
翼を借りて空を飛ぶこともできる。真言は「オン・マユラ・キランデイ・ソバカ」。

『九字神刀』
早九字護身法。「臨兵闘者開陳烈在前」の九字を唱えて両手の指先に力を集中し、刀のようにして攻撃する。

『摩利支天隠行印』
太陽神にして武神である摩利支天の力を借り、自らの姿を魔物から隠し、攻撃を回避する。「オン・マリシエイ・ソバカ」

『不動明王火炎呪』
一切の不浄を焼き払う不動明王の力を借り、炎を起こす術。火界呪とも。印を結んだ両手から炎を放つ。「ナウマリサンマンダ・バサラダン・カン」

『風天神斬裂渦』
風を司る風天神の力を借り、周囲の者を切り裂く強い旋風を巻き起こす。「オン・バサラ・ニーラ・サーガ」

『雷帝杵』
雷神帝釈天の加護により、雷を操る術。印を結んだ両手から稲妻を放つ。雲から稲妻を降らせることもできる。「インドラヤ・ソバカ」


343 : 合縁奇縁一期一会 ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:45:35 MMwhiHoQ0

【人物背景】
荻野真『孔雀王』シリーズの主人公。「裏高野」に属する真言宗の僧侶。ぼさぼさの黒髪太眉でそこそこ美形な青年。推定20代前半。
孔雀明王を守護神とし、様々な法力や拳法を自在に使いこなす凄腕の退魔師にして、大魔王「孔雀王(ルシフェル=メレクタウス)」の転生体。
凄惨な過去と宿命を持つが、普段は食い意地が汚く、酒とパチンコをやり、美女に鼻の下を伸ばし、エロ本やAV鑑賞に耽る生臭坊主。
車やバイクや飛行機で移動する時は、乗り物酔いに苦しめられる。機械にも弱い。

【ロール】
旅の修行僧。資金はぼちぼち持っているが、基本的に野宿・托鉢。

【方針】
聖杯は不要。主催者をも救うことで聖杯戦争を根本的に終わらせる。無理なら帰還の道を探る。保護すべき者は守り、悪党はぶっ飛ばす。

【把握手段】
『孔雀王』無印。単行本全17巻、ないし文庫本全11巻。各最終巻は本編以外の未収録短編集。『退魔聖伝』以後やOVA版等は参考資料としてもよい。

【参戦時期】
『孔雀王』無印本編終了後。最終決戦の影響により、多くの密教法術を忘れ去ってしまっている。


344 : ◆nY83NDm51E :2017/03/30(木) 00:47:08 MMwhiHoQ0
投下終了です。


345 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/31(金) 15:10:02 up6WTV6w0
>蔵馬&キャスター
 幽遊白書より蔵馬と、シャーマンキングよりタリムですね。
 蔵馬が日常から非日常へと足を踏み入れるまでの描写が非常に簡潔かつ自然で、よくまとまっていると想いました。 
 一方でサーヴァントを召喚してからは円滑にやり取りが進み、主従としての滑り出しは好調そうですね。
 亡骸と化した少女に薔薇を投げて手向けの言葉を言う辺りも実に雰囲気がある。
 タリムは自身で二流を自称する通りあまり強力なサーヴァントではないようですが、どのように連携を取っていくか期待したいところです。
 投下ありがとうございました!


>合縁奇縁一期一会
 孔雀王より孔雀と、悟空道より悟空ですね。
 悟空の圧倒的な強さが、非常によく描写された作品だと言う風に感じました。
 独自の価値観と聖杯を不要と断ずる威風堂々っぷりから、悟空と言うキャラクターの強さがよく伝わってきました。
 作中に散りばめられた様々な特殊な考え方、この世界を無明と断ずる価値観等、かなりいい意味で独特な雰囲気のある作品だったように思います。
 マスターもサーヴァントもかなり強力なようなので、対聖杯派の筆頭として活躍してくれそうですね。
 投下ありがとうございました!


 投下します。


346 : 鋼の焔 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/31(金) 15:10:55 up6WTV6w0






 
 私は道を見つけるか、さもなければ道を作るであろう

                                  ――ハンニバル・バルカ






.


347 : 鋼の焔 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/31(金) 15:11:45 up6WTV6w0
  ◆  ◆


「なあマスター。人間が生きる為に、もっとも大事な事は何だと思う?」

 其処は、寂れた廃工場だった。持ち主が手放して久しいのか場内の至る所に劣化が見られ、壁や天井からは時折明らかに人体にとって有害だろう粉塵がパラパラと溢れてくる。肝試しの場所としては面白味がなく、一般人が立ち寄るなんて事はまずないような場所。となると必然、寄り付くのは溜まり場に飢えた非行少年達になってくる訳だが――哀れ、そうした人物達は一人残らず喰い散らかされた。肉体を、ではない。魂を、だ。
 嘗て吐き気を催す程充満していた黴臭さは今や皆無だ。より濃密且つ醜悪な悪臭によって上塗りされ、その断片すら感じ取れない有様に変わっている。悪臭の元は、言わずもがな床に散らばった腑分けされた死体。文字通り八つ裂きにされたそれらが、血と臓物の臭気を惜しみなく垂れ流して蝿やら死出虫やらを呼び寄せている。そしてその下手人は、酸鼻極まる六人分の惨殺死体には目もくれず、己のマスターたる黒髪の少女へ問いを投げ掛けていた。
 まだ中学生くらいであろう、聡明そうな顔立ちの少女だった。その右腕には、歳と雰囲気に似合わない鮮やかな真紅の刻印が確認出来る。それこそ、少女がこの世界の正式な住人ではない事の証。それと同時に、彼女が確たる自我を持った人間である事の証左でも有った。

 少女は、狂人の問いには答えない。
 煤けた壁に背を預け、嫌悪感を隠そうともせず露わにしながら、彼に視線を合わせている。
 彼女と彼の仲が如何なる物なのか、この絵面を見れば誰でも解るだろう。
 数秒の沈黙の後、サーヴァントは主の回答を待たずして語り始めた。
 自分が嫌われている事を承知した上で、そんな事は知った事ではないとあくまで己を貫くその姿勢は、彼がどういう性分をしているのかを暗に示している。

「答えはな、"本気"で生きる事だ」

 そのサーヴァントは一見すると、狂気を宿している風には全く見えない。人間の血液を思わせる色素の濃い赤髪が一際目を引く、口許に神をも畏れぬ不敵な笑みを浮かべた偉丈夫。だがその両手に装着された篭手剣(ジャマダハル)は雨垂れのように血の雫を滴らせ、手が何か動く度にギチギチと剣が犇めくような奇音を奏でている。何処の誰が見ても、彼を善玉の存在とは思うまい。そしてその通り、この男は悪性に満ちた邪竜に他ならぬ。
 人間を殺す事に毛程の躊躇いも抱かず、民間人を爆弾代わりに使用したり、巻き込んだりする事すら彼には呼吸と同じ。百人が見れば百人が許し難い邪悪と評する、そんな男。正当な英霊として召喚される等決して有り得ない、見本のような反英霊。それこそが、少女の召喚した――もとい召喚"してしまった"サーヴァントであった。

「堕落し、現状に不平を溢すばかりで何も行動しない。誰かへの憧れを口にしながら、只見ているだけ。俺に言わせれば、そんな連中は総じて只の塵屑だ。生きてる気になってるだけ、祈って願って言い訳こいてダラダラ息してるだけの糞袋。あれこれと都合の良い理屈を捏ねる事だけ上手くなって、真面目に生きる事を忘れたカスだと断言出来る」


348 : 鋼の焔 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/31(金) 15:12:37 up6WTV6w0


 彼は、女を犯して優越感に浸りはしない。
 子供を虐待して快楽を覚える質でもない。
 それどころか、何かを痛め付ける事で気持ち良くなると言う概念すら持ち合わせていない。
 
「本音を殺すな、不本意を甘受するな、憧れを憧れのままに止めるなんてもったいねえ真似がどうして出来る?
 人間誰しも本気でやればどんな不可能でも捻じ伏せられる、俺達はそういう可能性を秘めた生き物だってのによッ。
 ……その点、この世界は"最悪"としか言い様がねえ。これが大破壊(カタストロフ)の起きなかった世界だってんなら、成程確かに吹き飛んだ方がよっぽどマシってもんだろう。文明に、身の上に、温室じみた平和に甘えた屑の群れがウジャウジャと――輝く英雄が生まれねえ訳だ。天下無敵に腐ってやがる」

 それもその筈、彼は富や名誉を愛する小悪党ではない。
 彼は宝を貪り、輝ける者の背中に魔剣を突き立てる呪われた強欲竜。
 光の輝きに取り憑かれた亡者でありながら、光の撃滅を何より強く渇望する異常者だ。
 意志の力、本気の真髄を信奉する光の奴隷。それこそが、サーヴァント・バーサーカーの真実である。

「此奴らにも聞いてみたが、返ってきたのは悪い意味で予想通りな答えばっかりだ。
 やれ大人は解ってくれない、今の社会が許せない、支配されるのは退屈だと不平不満をぶち撒けておきながら、結局仲間同士で傷を慰め合うだけ。今までそうやって無為に潰してきた時間が有れば社会に爪痕を残すのも、支配の殻をぶち破るのも朝飯前だったろうに、此奴らにはそもそもそういう発想自体がないようだった」

 ……散らばった少年少女の死体に呆れたような視線を送り、彼らの血で濡れた篭手剣を軋ませる。

「その点、おまえにはなかなか好感が持てるよ我がマスター。諦めなければ何事もいつかは成る、悲願に向けて旅する事は最高だよなァ。俺にも解るぜ、その感覚。何せ俺も――」
「……黙りなさい、バーサーカー。貴方のような狂人と一緒にされるのは虫酸が走るわ」

 台詞を遮って、マスターの少女は唇を噛む。狂人と、虫酸が走ると言った事には何の嘘もない。この男に共感を示す等、凡そまともな倫理観を持つ人間では不可能だとすら彼女は思っていた。事実、少女は彼の言う事に欠片の理解も抱けない。仮に此奴の望む通りの世界になったなら、人類は三日と保たずに全滅するだろうと言う確信さえ有る。
 狂戦士のサーヴァントを望んだ以上、苦労するのは承知の上だった。理性を失った獣めいた従僕と共に戦う事はきっと困難だろうと覚悟していたし、それを踏まえて戦略も練っていた。だが、まさか話が通じる、意志疎通が出来る事が胃痛の種として働いてくるのは流石に予想出来なかった。


349 : 鋼の焔 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/31(金) 15:13:33 up6WTV6w0

 少女――暁美ほむらはこの世界で記憶を取り戻し、聖杯戦争についての知識を得た瞬間から、自分の下に召喚されるサーヴァントはバーサーカーが最も都合がいいと判断していた。勿論多少の不便は有るが、狂化によって得られる戦力面での莫大なアドバンテージに彼女は着目したのだ。
 ほむらはインキュベーターと契約し、願いを叶える事と引き換えに戦う力を得た"魔法少女"だ。然し、彼女の戦力自体はそう高い物ではない。寧ろ魔法少女全体で見たなら低い方。無論戦略と立ち回り次第では幾らでも優位を取れはするが、それでも聖杯戦争と言う魔境に於いて戦力の不足は死活問題だ。
 其処で、ほむらはバーサーカーを呼び、兎に角優れた戦闘能力を手にする事を望んだ。不都合、リスク、委細承知だ。仮にそれで辛く過酷な思いをする事になろうが、最後に勝てればそれで良い。……結果、本気で勝利を望み、傷付きながらでも求めた結末を実現させると胸に誓った少女の下には、その想いに相応しいサーヴァントが召喚された。どんな逆境にも雄々しく嗤い、意思の力と光への執念で暴虐を尽くす"異常者(バーサーカー)"が。

「私が貴方に求めるのはたった一つ。勝者の条件を満たし、"黄金の塔"に登る資格を手に入れる事。それ以外で貴方と語らったり、関わったりするつもりは微塵もないわ」
「クハハハハッ、悲しいなあオイ。俺も嫌われたもんだ」

 呵々大笑するバーサーカーとは裏腹に、ほむらの顔には僅かな微笑みもない。
 今口にしたのが偽りのない彼女の本心だ。ほむらは"勝利する為"以外の事で、この邪竜と言葉を交わしたり、関わったりする気は真実絶無だった。魔法少女ではない一人の人間として、その暴虐に嫌悪を覚えてしまうと言うのがまず一つ。もう一つの理由は、生物の根幹、本能の領分から来るどうしても拭い去る事の出来ない"恐怖"であった。
 ほむらはこれまで、時間遡行者として数々の時間軸を渡り歩いてきた。凄惨な死が有った。信じられない絶望が有った。思わず慟哭をあげてしまうような、やり切れない幕切れが有った。そんな過酷過ぎる旅路を歩んできた彼女だから、今更ちょっとやそっとの事では動じない。サーヴァントの脅威に晒されようが怯える事はないし、仮に万が一死の淵に立たされようと、無様に泣き叫んで許しを請うような真似はしないだろう。
 そしてほむらがバーサーカーに抱く恐怖は、そういった直接的な物ではない。もっと深遠な――月並みな言葉で言うのなら、理解不能な相手に対して抱く"恐れ/畏れ"だ。ほむらには、この狂人が解らない。これが本当に人間として生まれ、生を送っていたのかと疑問すら覚えてしまう程、ほむらにとって彼は異様な存在(モノ)に見えた。

「心配無用だ、仕事は果たすさ。それに……ああ、この戦争は実に俺らしい。
 万能の願望器、至高の聖遺物、黄金塔の頂点に舞い降りる奇跡の財宝。頂くさ、邪竜らしく喰い散らかしてやるッ。
 宝を寄こせ、すべて寄こせ――誰にも渡さぬ己のものだ、ってなァ! クァハハハハヒヒヒ!!」

 そして彼女の抱いたそんな感想は、全て的を射ている。
 この男は異常者だ。狂っている、煌めく狂気(つよさ)に満ちている。
 堕落した只人が、放射線のように眩しく心を焦がす閃光に出会い、人生の何たるかを見出した最果ての姿。
 彼こそは英雄殺し(シグルズベイン)――光を貫く滅亡剣(ダインスレイフ)。


 ……たった一人の友達を護りたいが為に時を繰り返し、こんな場所にまでやって来た魔法少女。少女の想いは確かに聖杯へと届き、そして、眠れる邪竜を呼び覚ましたのだった。


350 : 鋼の焔 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/31(金) 15:14:08 up6WTV6w0
  ◆  ◆


 ――暁美ほむらの願いは、先程述べた通りの物だ。

 彼女は只、護りたい。救いたい。何度世界を繰り返し、何度失敗しても諦め切れない、たった一人の最高の友達。
 鹿目まどか。少女の身には余る過酷な運命を押し付けられ、破滅の道へと転がり落ちていく非業の魔法少女。
 まどかを救う為だけにほむらは泥に塗れ、何度も何度も世界を繰り返した。暁美ほむらに与えられた魔法は、時間の操作。これを用いる事でほむらは、自分の望む所でない結末に背を向け、見滝原市の物語をやり直してきた。ゴミのように死んでいく見知った顔を視界の端に置き、ひたすらに果ての見えない旅を続けてきた。
 ほむらが『鉄片』を手に入れたのは、そんなある時の事だった。討伐した魔女が落とした正体不明の金属片。怪訝な顔をしてそれを手に取るや否や、猛烈な浮遊感に襲われ、気付けば見知らぬ土地で平穏な暮らしを送らされていた。記憶を取り戻した時、何もかも白痴のように忘れ果てていた自分に激しい赫怒の念を抱いた事は言うまでもない。

“聖杯が、私の願いを本当に叶えてくれるかどうかは定かじゃない。インキュベーターがしたように、何らかの裏が有る可能性はとても高い。……それでも。その輝きがあの子を――まどかを救ってくれる可能性がほんの僅かでもあるのなら”

 ほむらに、聖杯戦争に乗らないと言う選択肢はなかった。
 迷う事すらなく淡々と、彼女は戦って勝ち残る選択を選び取った。
 ――暁美ほむらは、インキュベーターと契約を交わして力を得た魔法少女だ。故に当然、願いを叶えると謳うモノの陰にどんな裏が有るか、其処に思考を向けない事がどれ程愚かであるかは誰よりも深く理解している。もっと言えば、ほむらは聖杯を信用していない。大きな力を持っているのは確かだろうが、本当に願いが叶うのか、仮に叶ったとしても果たしてそれで終わりなのか、そういう部分には非常に多くの疑念が残る。
 なのに、ほむらは聖杯を目指すのだ。聖杯がどんな物かを見極めるかは、実際にそれを呼び出した後でも構わない。信用出来ないから、疑わしいからと目の前の甘い話を一蹴できる程、時間遡行者に余裕は残されていなかった。

“あの子を救う為なら……私は何にだって手を染める。どんな悪鬼の手だって、借りてやるわ”

 全ては鹿目まどかの救済――運命を望む通りの形に改変する為に。
 その為だけに、ほむらは滅亡剣の柄を握る。光と言う狂気に満ちた邪竜を駆り、混沌の戦場を生き抜いてやるとそう決めた。決めたからには、もう迷わない。後は止まる事なく歩み続け、寄せ来る敵と立ち塞ぐ壁を一つ残さず斃し、壊していくだけだ。……"勝利"をこの手に掴むまでは。暁美ほむらは、絶対にその足を止めはしない。

“勝って貰うわよ、バーサーカー。貴方はその為だけに、この世界に存在するのだから”


351 : 鋼の焔 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/31(金) 15:14:47 up6WTV6w0
  ◆  ◆


“応とも、役目は果たすさ時間遡行者(タイムリーパー)。俺もまた、勝って奪う為だけに遠路遥々やって来たんだからよ”

 主たる少女の心境を想像しながら、バーサーカーは心中でそう呟いた。
 彼は狂戦士であり、故に異常者だ。只人には理解出来ない狂った精神論を心の底から信奉し、口先だけではなく行動でそれを実演してみせるベルセルク。然し彼の動作や物言いに、高ランク狂化の代償として背負わされる理性の喪失は全く見られない。思想こそ狂っているものの、彼の言動には確かな知性が存在している。間違いなく最高ランクの狂化が施されていると言うのに、これは余りにも異常な有様であった。
 無論、彼とて一騎の英霊。聖杯戦争のシステムに縛られた、戦闘人形の一体でしかない。
 狂化によるステータス強化の対価は、確実に彼の精神を蝕んでいた。現にこうしている今も絶え間なく脳裏には爆発するような感情の波が押し寄せ、ほんの一瞬でも気を抜けば自我を軒並み吹き飛ばされそうな崖っぷちに彼は立たされている。だと言うのに、何故邪竜のバーサーカーは正気を保っていられるのか。その解答は至極単純、それでいて史上最悪の狂気に満ちている。――彼はただ、耐えているのだ。まだだ、負けるか勝つのは俺だと、押し寄せる狂気の波に打ち勝ち続けている。
 
“勝利を本気で目指すなら、このくらいはしなきゃならんだろう。
 何、初めて脳に電極をぶち込んだ時に比べりゃ幾らかマシだ――これで滅ぶ邪竜(おれ)じゃねえ。奴なら耐える、なら俺も全霊で耐えるのみ。喜べよマスター、おまえのサーヴァントは強いぞ? おまえが望む奇跡の財宝を、必ずこの手で掴んでみせるとも”
 
 ほむらの下に召喚される際に、彼は自ら狂化のランクを最大まで引き上げて現界した。そう、全ては確実な勝利の為。凡そ目的を遂げる為に、バーサーカーは尽くせる限りのあらゆる手を尽くして戦う。誰よりも英雄と言う生き物の恐ろしさ、素晴らしさを心得ているから彼は決して見誤らない。
 そして彼は、暁美ほむらの願いの為に全霊を以って奉仕する程、殊勝で善良なサーヴァントではなかった。彼もまた、聖杯に託す願いを持っている。万能の願望器、願いを叶える魔法のランプ。ああ、何処かで聞いたような響きだが、この身が一度滅んだとなれば託す願望も変わってくる。彼の願いは只一つ。暁美ほむらが少女の救済を願うのと同じ位真摯に、彼はある男との"再会"を夢見ている。

“そして、全てが終わった最果てに――”


 ――嘗て。強欲竜と呼ばれる前まで、彼は怠惰な生を謳歌する有象無象の一人だった。
 楽に生きたい、苦労をしたくない。そんな在り来りな考えの下、毒にも薬にもならない日々を生きていた。
 楽に生きられる道があるなら苦労する事に意味はなく、他人の人生などその為の踏み台でしかない。
 危険や責任を被るなんて御免だから出世は望まず、小物故の謙虚さすら忘れた無能な半端者。
 努力を嘲笑い、真面目な生など見もせず、惰性で毎日を生きていた。
 
 そんな彼は、一人の男と出会った事で英霊の座に登録される程の"大悪人"にまで変貌する。
 その男と出会った時、彼の価値観は木端微塵に打ち砕かれた。息が詰まり、心臓の鼓動数が倍以上にも跳ね上がり、上下の顎は震えて声すらまともに発せない。
 彼に、男は見向きもしなかった。だから彼は、その背中を視ている事しか出来なかった。
 前へ前へ、勝利へ勝利へと、馬鹿正直に限界を飛び越えながら本気で目の前の袋小路に挑み掛かる英雄譚の体現者。
 剣閃が煌めく度に魂が揺さぶられ、今まで自分は何をしていたのかと、昨日までの自分に燃え上がる怒りが止まらない。


352 : 鋼の焔 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/31(金) 15:15:27 up6WTV6w0

 努力が報われるという保証はない? 意志の力で何とかなるなど夢物語?
 ――なんて馬鹿な勘違いだったのだろう。目の前にこれ以上ないほどの実例がこうして存在しているというのに。
 人間は不断の努力でどこまでも限界を超えられる。
 人間は意志の力で不可能を可能に出来る。
 間違いに気づいた以上、最早怠けるつもりは一切なかった。
 其処からの彼は今までのことが嘘のように驚異的な戦功を重ね続け、その名を諸国に轟かせていく。


 そう、全ては英雄を殺す魔剣になる為に。
 その為だけに彼は、もっともっとと強さを希って生きた。
 誰にも渡さぬ己のものだ、綺羅びやかなその輝き以外は最早瞳に映りもしない。


“俺は今度こそおまえに挑もう。我が愛しの英雄――クリストファー・ヴァルゼライドッ!”


 邪竜戦記、此処に再演。
 ファヴニル・ダインスレイフと言う狂気の光が、冬木の大地に雄々しく眩しく君臨した。


【クラス】
 バーサーカー

【真名】
 ファヴニル・ダインスレイフ@シルヴァリオ トリニティ

【ステータス】
 筋力A 耐久A 敏捷C 魔力B+ 幸運C 宝具B++

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
狂化:EX
 狂化の実数値自体はA相当。
 本来狂化のスキルはステータスを強化する代償に理性を捧げる事で成り立つ物だが、彼の場合、理性を殆どそのまま残した状態で恩恵のみを受ける事に成功している。
 然し何の悪影響もない訳では勿論なく、バーサーカーは常に狂乱の衝動を頭の中に抱えながら活動しており、それを本気の気合で押し殺しているに過ぎない。
 自身が枯れ果てる覚悟で強靭な狂戦士を求めたマスターの"本気"に、彼も自我が崩壊しかける程の狂気を抱いて現界する事で応えた。
 それでも、彼が狂気に呑まれる事はないだろう。彼は元より、常軌を逸した意思の怪物であるのだから。


353 : 鋼の焔 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/31(金) 15:16:08 up6WTV6w0

【保有スキル】
光の奴隷:A++
 大いなる輝きに焦がれ、その在り方を大きく破綻させた者だけが持ち得るスキル。輝ける狂気の象徴。
 このスキルを持つ者は、他のあらゆる精神に作用するスキルや宝具の効果を受け付けない。バーサーカー程のランクにもなれば、比べ合いすら行わずにシャットアウトする。
 性質としてはバーサーカーのクラススキル『狂化』に似通っている。
 更に バーサーカーが一定以上の強さを持つ敵と戦闘する場合、自身のステータスを立ちはだかる敵の強さに応じてランクアップ・「勇猛」を始めとした各種戦闘スキルをその場で獲得することが出来る。諦めなければ世の道理など紙屑同然。それを突き詰めた宿敵(えいゆう)に焦がれたバーサーカーもまた、最終的には彼と同じ結論に至るのだ。

     ・・・・・・・・・・・・・・・・
 そう――本気になれば人類に不可能などない。意志の力を前に、あらゆる道理はねじ伏せられる。

英雄への敵対者:A
 対英雄と軍略の複合スキル。
 バーサーカー本人を除く、その戦闘に参加しているサーヴァントの筋力、耐久、敏捷をそれぞれ1ランクダウンさせる。
 その上で自らの対軍宝具・対城宝具の行使、逆に相手の対軍宝具、対城宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。

戦闘続行:A+
 意志の怪物、光の亡者。
 彼の中に戦意がある限り、致命傷を負っても知ったことかと爪を振るい続ける。
 霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。

無窮の武練:A
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
 心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

鋼の竜殻:EX
 彼の骨格は、その七割方が機械骨格に置き換えられている。
 至高の英雄に追い縋る為に一度毎に生死を彷徨う改造手術を、彼は三十七回もの回数自らに施している。
 人体汚染や毒素を自動でシャットアウトし、また、活動の為の魔力をマスターに依存しない為異常な燃費の良さを誇る。
 無論、これだけでは規格外と呼べる程の要素はない。問題は、彼の霊核――心臓部。
 其処で脈打っている金属の名は――

【宝具】
『邪竜戦記、英雄殺しの滅亡剣(Sigurdbane Dainsleif)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜70 最大捕捉:100
 物質再整形能力。
 形在るものへ訴えかけ、己が意のままに作り変える星辰光(アステリズム)。欲深き竜が宿した英雄殺しの滅亡剣。
 物質を自由自在に変形させる星光であり、道も、壁も、天井も、彼の支配を受けた物はまるで竜の鱗が如く剣の群れに転じていく。
 干渉性を筆頭に性質面でも優秀だが、何より特筆すべきなのはやはり圧倒的な出力。
 人間の規格を超えた精神から繰り出される星は、あらゆる無機を爪牙としながら有象無象を滅ぼし尽くす。
 まさに物質文明の覇者というべき侵略の超新星。輝く星を喰らう為ならバーサーカーは容赦しない。


354 : 鋼の焔 ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/31(金) 15:17:02 up6WTV6w0

『鋼魔恒星・人造機竜(Planetes Dainsleif)』
ランク:B++ 種別:再誕宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 人造物に置き換えた骨格、内蔵されたとある金属、そして特殊な才能を備えた素体。
 生前彼は、これらの条件を満たす事で死の向こう側から蘇り、魔の恒星として再臨した。
 これはその逸話が宝具に昇華された第二宝具。一度だけ自らを人造惑星として蘇生させる、再誕宝具である。
 自身が消滅する際にそれまでに負った全てのダメージ、悪影響を完全に無効化し、全てのステータスを1ランクアップさせた状態で再誕する。魔星として蘇ったバーサーカーは身体欠損から即死級の傷まで、全ての負傷を自身の星辰光で瞬時に再生させる事が出来る。"光の奴隷"の特性と精神性も相俟って、生まれ出た人造機竜を止める事は非常に困難。
 然し再誕は確実に成功する訳ではなく、発動の際には幸運判定を行い、微小な成功確率を掴み取らなくてはならない。
 尤も――彼が"仕損じる"事等、絶対に有りはしないだろうが。

【weapon】
 篭手剣(ジャマダハル)

【人物背景】
 光の英雄、クリストファー・ヴァルゼライドに魅せられた光の亡者。
 嘗ては怠惰な生を送る、彼が言う所の塵屑のような人間だったが、英雄との出会いを経て本気で生きる事の素晴らしさを見出した。
 今回の彼はミステルルートの出身。

【サーヴァントとしての願い】
 英雄との再戦。


【マスター】
 暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ

【マスターとしての願い】
 まどかを救う為に、運命を改変する

【Weapon】
 本来は銃器類を使うが、この世界ではまだ入手できていない

【能力・技能】

魔法:
 魔法少女としての固有魔法。
 円形の盾に内蔵された砂時計を用い、時間の流れを操作する。
 本来は一ヶ月もの時間を逆行する事も可能だったが、聖杯戦争の中では不可能。
 今の彼女は、砂の流れを遮断する時間停止しか使用出来ない。

【人物背景】
 友を救う為、幾度となく時空を旅した少女。
 
【方針】
 聖杯を狙う。……が、バーサーカーの性格には嫌悪すら感じている。


355 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/03/31(金) 15:17:20 up6WTV6w0
投下終了です


356 : ◆zzpohGTsas :2017/03/31(金) 19:12:59 HJijGXTE0
投下します


357 : けだものサーカス ◆zzpohGTsas :2017/03/31(金) 19:13:36 HJijGXTE0

 さあさあ、思い出作るにゃ今の内、話題を作るにゃ今の内!!
友人と一緒に見てもよし、恋人と睦まじく見るのもよし、家族と一緒に見てもよし!! 
会社のイヤな上司とだって、反りの合わない先輩とだって、無愛想な後輩とも、これを見りゃ打ち解けること間違いなし!!
日本中を沸かせたあの凄いエンターテイナー達が、この冬木の町にやって来た。タチミサーカスの奴らが、この冬木にやって来た!!

 あの今世紀最大のイリュージョニスト、マキシミリアン・ギャラクティカの大魔術が見れる!!
猛獣使いのエリカによる、インドゾウのアジゾウの玉乗り、ライオンのレオンとトラのラトーの白熱としたショーが楽しめる!!
アクロとバットの兄弟演じる、ハラハラドキドキ、見てる側に極限のスリルを提供するアクロバットに息を呑める!!
ピエロのトミーの……、いや、まぁこれは忘れていいぞ!!

 そして今回新たに加わった仲間のデビューが見れるのは、この冬木でだけ!!
エキゾチックな踊り子が、この冬木の地で舞う!! その女ダンサーの名は、マルガレータ!! こんな美人のダンスを見逃すなんて、こりゃもう損だ!!

 こんな奴らが集まったコンサートがこの街で見れるのは一週間だけ!!
指定のコンビニで、大人は2900円、子どもは1500円を持って前売り券を買うんだ!! 当日券はこれにプラス500円だから、買うのなら前売り券の方がお得だぞ!!
更にこれらの値段にプラスすれば、席も指定できるが、ままそれは、詳しくは後で調べてくんな!! それじゃあ、ショー当日は冬木の新都で待ってるぜ!!


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358 : けだものサーカス ◆zzpohGTsas :2017/03/31(金) 19:14:00 HJijGXTE0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ゴオオオォォォジャス、ゴージャス!! デビューだって言うのに随分サマになってたじゃないかマーガレット!!」 

 この冬木での初公演が終わった後の、サーカスの団員達のミーティングの事だった。
今日の公園でパフォーマンスを披露したミリカやトミー、アクロとバットの兄弟や、腹話術師のリロが、ミーティングルームに集まっていた。
そして感極まった様に、タチミサーカスの顔であり花形エンターテイナー、魔術師マキシミリアン・ギャラクティカことマックスが叫んだ。
嬉しいような、褒めるような。そんな声音だ。恐らくは両方だろう。そして、マーガレットと呼ばれた女性に入れ込んでいると言う事もあろう。
――それ程までに、マックスがマーガレットと呼んだ女性は、美しかったからである。

「あら、そうかしら? 私としては、ちょっと動きが固いかなぁ、って思っていたのだけれど。初めての舞台は緊張するわ」

 マックスの言葉に反応するように、件のマーガレットと言う女性が反応した。
月並みな言葉と解っても、美女である。見事なまでの髪質を誇る、後ろ髪を長く伸ばした茶髪。ハイビスカスの様な赤色をした、雛菊の如き髪飾りが良く似合う。
女性の嫉妬がさぞ凄い事が窺えるだろう、豊満な胸に、見事な曲線を描く腰回り、すらっと伸びた抜身の刀のように細い手足。
身体つきが女性として完成されているのも勿論の事、その顔つきも、実に優美で、母性と知性を感じさせる不思議な何かで満ち溢れていた。
女性――マックスに曰くマーガレット、今回の公演ではマルガレータと言う名前でダンスを披露していた、このオレンジ色のハーレムパンツを履いた女性は、今回の公演でパフォーマンスを演じていた皆々に囲まれ、それぞれの言葉に答えていた。

「あ、あれで初めてぇ? オイオイ冗談だろ、オレっちもこの業界にいて長いけどさ、あーんなスゲーダンスを披露出来る奴なんて、ピッツァちゃんが初めてだぜ?」

「ピッツァ? マルゲリータピザと掛けているのかしら?」

「おっ、わかっちゃう? 教養があって助かるぜ、アヒャ、アヒャヒャヒャヒャ!!」

 自分で自分のギャグが面白かったのか、ニンジンを針金でぶら下げた帽子を被った、ピエロメイクの中年男性。
タチミサーカスにおいて、トミーと言う名前で通っているピエロが、勝手に笑い出した。
本人としてはとても面白かったらしいが、マルガレータを取り囲む皆は全く面白くなかったらしい。白けた様子を露にしていた。なおマルガレータ当人は、未だに笑い所が解らず、キョトン、とした表情を隠せていない。

 だがトミーの言う通り、マルガレータの踊りは実に、堂に入っていると言うか、サマになり過ぎていた。
目鼻立ちからも解る通り、彼女は日本人ではなく西洋系の女性である。団長の立見七百人(たちみなおと)に、ある人物が紹介し、
そのままタチミサーカスに所属する芸人の一人となった。今から三日ほど前の事だ。
一端の芸人になるにはもっと時間のかかるプロセスが必要なものかと思うが、流石にサーカスと言う数多の芸人達の集まりを統括する、一座の団長。
即ちプロフェッショナルである。このマルガレータと言う名の女性が秘める『才能』を見抜いたらしく、直に団員として受け入れ、それだけでなく、
そのまま今日の公演にねじ込んだのだ。凡そ芸人の世界では考えられない程の、スピード出世である。
下積み等の日の当たらない期間を全てすっ飛ばして、いきなりデビューなど正気の沙汰ではない。誰もがそう思った。

 しかし、その心配は杞憂も杞憂に終わった。
マルガレータの踊りは、タチミサーカスが有するダンサーどころか、日本のトップダンサー顔負けの練度を誇っていたのだ。
マックスは、本場アメリカでもトップを張れるレベルだと褒めちぎっていたが、これは恐らく彼特有の、美人に対するリップサービスではない。
本心からそう言っている事が、言葉の端々からも伝わるレベルだった。明らかに、今日初めてダンスを踊る人間の踊りではない。
それこそ、今日のタチミサーカスの様な大観客を前に何回も何回も踊って、技や胆力を鍛えていなければ、到底出来ない踊りの冴え。それをマルガレータは、今回の公演で完璧に見せつけたのである。


359 : けだものサーカス ◆zzpohGTsas :2017/03/31(金) 19:14:24 HJijGXTE0

「でもすごいよね、マルガちゃん。踊りも上手いけど、緊張しないって所が。ミリカなんて初めて舞台に出た時は、もうガチガチだったのに」

「うふふ、あぁ言うのにはね、コツがあるのよミリカ。今度二人きりの時間になったら教えてあげるわ」

「本当!? 嬉しいなぁ、約束だよマルガちゃん!!」

 鞭の代わりに彼女、ミリカと呼ばれる猛獣使いが調教に使うステッキを握り締めながら、ピョンピョンと飛び跳ねていた。
喜びの表現らしい。実に解りやすい。そしてその表情の方も、自分は喜んでいる、と言う事を如実に表すキャンバスの様なものだった。とても明るく、ヒマワリの様な笑みだった。

「とは言え、こんなに頼もしい仲間が増えるのは、我々としても喜ばざるを得ないな。タチミサーカスはまだまだ成長し続ける。マルガレータ、一緒に頑張ろう」

「えぇ、そのつもりよ、アクロさん。あなた達のアクロバット、とっても素敵だったわ」

「え、そ、そうかな……そうだよな!!」

 と言って、アクロよりもやや線が細いが、それでも、アクロバットを生業にしていると言う説得力に溢れた身体つきをした青年。
バットこと、木下一平が、恥ずかしそうに頭を掻いた。マルガレータが浮かべた笑みに、ドキッとしたらしい。顔にやや朱が差していた。
「オイオイ、ミリカが妬くぞ」、とふざけて、彼の兄にあたるアクロこと、木下大作がバットの事を小突いた。「お、オイ兄貴!!」、と恥かしそうにバットが叫ぶ。
それを見て、一座の全員がドッと笑った。平和で、和気藹々とした、一芸を飯の種にする集団の日常風景。
時に数千人にも上る大勢の客が見ていると言うある種の非日常的な空間が産み出すプレッシャーの中で、パフォーマンスを行う人間達が見せる、日常の一幕。それが、この部屋では繰り広げられていた。

「ハハハ、やはり君を採用した私の眼には狂いはなかったようだな、ミス?」

 と、マルガレータに向かって、トミーのものとは違う年配の男性の声が聞こえて来た。
彼女を取り囲む団員達がササッと横に別れる。彼女の向ける目線の先に、特徴的な髭を生やした、恰幅と愛想の良さそうな四十、五十代程の男性がいた。
立見七百人。このタチミサーカスの団長であり、マルガレータを団員として採用、今日異例のスピードデビューさせると言う英断を下したキレ者である。

「素晴らしい舞台を用意していただいて、感謝していますわ。ミスター・ナオト。次の舞台でも精一杯、全力で尽くさせて頂きます」

「ほう、頼もしい言葉だ。私としても期待しているよ、マルガレータ」

 其処で七百人は、パンパンと柏手を打ち、皆の注目を集める。
所属している芸人から、照明、大道具、マネージャー、動物の飼育係などが一斉に、彼の方に目線を向け始めた。

「さて、初日の公演、先ずはご苦労だった皆。初めて芸を披露する場所ではあったが、我々タチミサーカスの底力を、この冬木の市民達は理解してくれたのではないかと私は思っている」

 団長が今日のサーカスを見に来てくれた観客の、退場の様子を見ての言葉だった。
誰も彼もが、満足したような笑みを浮かべ、サーカスを後にしてくれた。手応えがあった、団長はそう判断していた。

「とは言え、冬木での公演は一週間もある。早く寝て、枕で今日の成功を噛みしめつつ、ゆっくりと英気を養って貰いたい。以上、解散!!」

 再び、パンッ、と柏手を叩く。「おやすみなさい」、と皆が団長に対して挨拶をする。「うんうん」、と満足そうに彼が頷く。

「っと、そうだ。おい、草太くん!!」

「あ、はい。何でしょう、団長」

 七百人の言葉に反応し、芸人達が固まって集まっている所から、やや離れた所で雑務をこなしていた男が返事をした。
赤い髪をした男で、前髪を二つに結わき、ピエロのようなダボついた服を纏った気弱そうな男だ。彼は小道具をあっちこっちに運ぶと言う作業を今終えたばかりであった。

「片づけを終えた所すまんが、最後にもう一回、動物達の檻の様子を見回りしてくれんか? まさかとは思うが鍵をかけ忘れていた、何てのがあったらコトだからな」

「良いですよ。それじゃ、早速行ってまいります」

「頼んだよ」

 そう言って、軽く伸びをしてから、草太と呼ばれた男が外に出ようとする。

「あぁ、待って下さる? ミスター草太」

「? 何でしょう、マルガレータさん」

「私も一緒に行っても宜しいかしら?」

「えぇ!?」


360 : けだものサーカス ◆zzpohGTsas :2017/03/31(金) 19:14:52 HJijGXTE0

 と、マルガレータの予想だにしていない要求に、草太は勿論、他の団員達も大いに驚いた。
まさかそんな事を口にするとは思っても見ていなかったからだ。てっきり、もう疲れて眠ってしまうものかと、皆は思っていた。

「いやいやミス、君も疲れただろう。今日はもう寝ておきなさい」

 七百人の言葉に、彼女は反応した。

「あら、でもこう言う最後の見回りって、入団して間もない人のお仕事でしょう? なら、私も一緒に手伝って上げた方が、ミスター草太の負担も少なくなるのでは?」

「むぅ……まぁそれはそうなんだが、こう言う雑務は芸をする側より裏方のだね……」

「もう、パパ。マルガちゃんが行きたいって言うんだったら行かせてあげなよ。二人ならすぐ終わるよ」

「ミリカまで……まぁ、よかろう。それじゃ、二人で行ってきなさい」

 七百人は、娘である立見里香には非常に弱い。
団員や部下には非常に優しく、それもあって非常に慕われるが、この親バカが玉にキズと言われるぐらいの親バカだ。
ミリカにこう言われると、団長は弱い。当初は行かせないと言う心持ちであったらしいが、すっかり折れてしまったらしい。「これだよ……」、と、七百人がサーカスを発足する以前からの古株であるトミーが頭を抱えた。

「それじゃ頑張ってね、ソウタくん。変な事しちゃダメだし、女の子は退屈させちゃダメだよ?」

「む、ムリムリムリ!! こんな綺麗な人と一緒なんて……、ぼ、ボク一人が良いです!!」

「ハハ、ハニー、要らない心配だったようだ。ソータくんのような小心者が、内緒でヘンな事が出来る筈がないからね!!」

 と、マックスは軽く茶化すと、ドッと笑いの波がその場に波及した。
それがちょっと耐え切れなくなった、と言う様子で、草太はそそくさとその場を後にし、七百人に言われたように、動物達の檻の様子を視察しに行った。
「あ、待って!!」と、先に行った彼の背中を追うように、マルガレータも小走りに移動し始める。その様子を、ミーティングルームにいる全員が見送った。

「ソウタくん、あれでもうちょっと気が大きければ、もっといい猛獣使いになれるんだけどなぁ」

 二人がいなくなってから、ミリカが残念そうに口にする。

「いや、全くだな。彼には感謝しているのだから、もうちょっと胸を張った態度でもバチはあたらんのだがなぁ」

 これに関しては七百人も、特有の親バカと言う訳ではなく、本心からそう言っていた。
草太は少々気が弱すぎる。裏方作業に従事する事が多いとは言え、彼はこのタチミサーカスの立派な仲間の一人である。
それに、七百人やミリカから、トミーやマックスがアクロとバットに至る全員が、胸を張って欲しいと思うのには訳があった。

 そう、あのマルガレータをタチミサーカスに紹介したのは、他ならぬ彼なのだ。
タチミサーカスの諸々の雑務をこなす、猛獣課の見習い猛獣使い、『猿代草太』なのだった。



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361 : けだものサーカス ◆zzpohGTsas :2017/03/31(金) 19:15:25 HJijGXTE0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「あなたはそんな変な髪形をするより、髪を下ろした方がかっこいいわよ、ミスター」

 二人で、猛獣達が待機している檻の接地された、タチミサーカスの移動式業務用テントの前まで赴き、二人きりになるや、
マルガレータと呼ばれる女性は草太に密着し、結わいた彼の前髪を器用に下ろしてやった。
髪を下ろすと途端に、印象が変わる男だった。――否。髪を下ろしただけじゃない。普段は眠たげに閉じられている瞳は完璧に見開かれ、その瞳には例えようもない、鋭く剣呑な光が揺らめいているのだ。

 果たして今の猿代草太を見て誰が、普段タチミサーカスで雑務にひいこら弱音を吐き、上司であるミリカにコキ使われている男と同一人物だと見ようか。
まるで彼とは違う、何か別の幽霊のような物が憑依したとしか思えない程、発散される空気も雰囲気も違っていたし、そのせいか見た目すら違う印象を見る者に与えるのである。

「何でオレに着いて来た、『アサシン』」

 声も、普段の気弱そうなそれとは全く違う。ドスの効いた、低い声である。

「あら、サーヴァントがマスターの近くにいつもいると言うのは、何もおかしい事じゃないでしょう? 私、決めた男には尽くすタイプよ?」

「よく言いやがる。勝手にわがまま言って、自分もサーカスに出たい何て抜かした酔狂な女がな。何が尽くすタイプだ」

 吐き捨てるように草太が言う。
マルガレータと呼ばれた女は、反抗期の子供を手を焼き、しかしどこか愛情を隠せない母親の様な顔で、悪態を吐く草太の事を眺めていた。

 ――草太の言う通りである。彼女、アサシンのクラスで呼び出された、このマルガレータと言う名の女性は、彼のサーヴァントなのである。
彼女は非常に特殊なサーヴァントだ。アサシンクラスのクラススキルである気配遮断を持たない限り、誰にも敵だと認識されない特殊なスキルを持つ。
そのスキルを利用して、自分が親しい間柄の存在だと誰かに誤認させ、情報を集めに集めて暗殺に徹する。それが、彼女と言うサーヴァント。
その特殊なスキルはこの街の、聖杯戦争などと言うは露も知らぬ一般人にも有効だ。そう、彼女はこのスキルを利用して、タチミサーカスの全員を欺いた。
彼女は、草太がどんな所に勤めているのか訊ねるや、自分もそれに出たいと口にし、嘗て将官達を巻いた手練手管の話術と、何よりも己の美貌で七百人にアピール。
そうして見事、タチミサーカス新進気鋭の女ダンサーとしての地位を勝ち取った、と言う訳だ。勿論草太は、彼女を自分の職場に紹介する事は反対だった。
しかし、この冬木の町に於いてこのアサシンは、弱いのは事実だが自分の唯一の味方なのである。無碍にする訳には行かず、結局折れて紹介する羽目になった。勿論、草太はその事を根に持っているし、その事をマルガレータは気付いている。

「それは、確かにわがまま言った私が悪かったわ。でもね、私、昔からこう言う生活に憧れてたの。私からのわがままはこれを最後にするから、許して欲しいわ」

「ハッ。定まった所もなく、全国津々浦々を移動して、芸を披露して金をせびる仕事が生前からの夢か。ハードルの低い事だな、生前のアサシンの稼ぎの方が遥かにオレには魅力的だぜ」

「……興味のない男にキスしたり、股を開いて稼いだお金には、何の価値もないのよ? マスター」

 マルガレータの言葉に、途端に冷たく、突き放すような物が孕まされたと、草太は気付いた。瞳の輝きも、何処となく淀んでいる。

「男のあなたに理解して、と言う方が難しいかも知れないけど、お金や宝石の為に、好きでもない男に媚や身体を売るのは、とっても嫌な事なのよ。皆がお金の為を思っている訳じゃないのよ?」

「それは、それは」

 興味がなさそうに、草太は檻の様子を点検する。特に、ライオンや虎、象にゴリラなどの、特に危険度の高い動物の収容されている檻は重点的にチェックしている。

「此処はとっても良い所よ。男達の劣情を引く為の、小さくて、透けてて、恥かしい所も隠せない衣装を纏った下品な踊りをする必要がない。踊りたいような踊りを踊れて、それに善良な観客達が喜んでくれて、団員の皆が良かったねって褒めてくれる。私、それで幸せよ。お金や宝石では、絶対に買えない本当の幸福が、此処にはあるの」

 其処で、言葉を区切る。

「あなたも、そんな生活がしたかったから、このサーカスを自分の場所にしたんでしょう? 皆、良い人だもの。間違ってなんかいないわ」

「違うね」

 其処で草太は、マルガレータの方に向き直り、反論した。瞳は、強い反駁の念が輝いていた。


362 : けだものサーカス ◆zzpohGTsas :2017/03/31(金) 19:15:47 HJijGXTE0

「オレは権力者が嫌いなんだ。まるで神になったように振る舞って、大人も子供も関係なく人生を滅茶苦茶にしやがる。刃向おうにも、同じ権力者仲間で繋がっててそれを許さない。そして、何処までも腐敗する。そんな奴らから逃れる一番いい所が、サーカス団だった。それだけだ」

「まぁ、マスター。今言った事が本心からでた言葉なら、あなたはとっても正しいわ。だって……私もきっと、同じ事をしていた筈だもの」

 「それにね――」

「私も、権力を盾にして威張る人間が嫌いなの。ふふ、何だか似た者どうしね、私達」

「それは、アンタの生前の境遇からか? 『マタ・ハリ』さんよ」

 その名で言われた瞬間、浮かべていた柔和な笑みを、彼女は崩した。石のような、仮面のような、無表情であった。

「その名前は、嫌いだわ。私から幸せを奪う名前。聖杯戦争に勝って、何処にでもいる普通のマルガレータとして、あなたと過ごしたいわ。そう、思うでしょう?」

「生前の行いのせいで、本心から言ってるとは思えないね。尤も、聖杯戦争に勝ちたいって気持ちは解るけどさ」

 そう。猿代草太は、聖杯戦争に勝たねばならないのだ。
男は何時だって、権力と言う名の雲の上の力によって踊らされる、猿回しの猿であり、道化であった。
猿代草太は、人でありながら、本来彼を庇護してくれる筈の法律の庇護を全く受けられない男だった。彼は、人の姿をした猿だった。
国も、警察も、司法も、全てが彼の敵だった。自分を信じてくれる友達すら、この男には存在しない。ただ何処までも、運命の悪戯に翻弄され続ける男。
それがこの、猿代草太だ。いつまでも強者に、権力に喰われるだけの餌でしかない自分が嫌だからこそ、彼は生きる力を付けて来た。
自由を得る為の聖戦、それが聖杯戦争であると言うのなら、猿代草太は、今度こそ、遥かな昔自分が失う事になった自由を取り返すのだ。

 聖杯の為に、絶対に生き残って見せる。
そして、復讐をするのだ。小心者の影武者大統領、王帝君を。薄汚い検事局長・一柳万斉を。この身に拷問のトラウマを刻みつけた刑務所々長・美和マリーを。
――嘗て自分を縛り付け、凍死寸前にまで追い込んだ、自分を親友だと思って今も友達づきあいしている間抜け、内藤馬乃介を。
聖杯の力で殺して見せる。その時になって、自分は自由を得るのだ。一人の人間、タチミサーカス専属のサラリーマン、猿代草太として、新しい一歩を遂に踏み出せるのだ。

「思いつめちゃダメ」

 マルガレータ、いや、マタ・ハリに背を向け、檻の様子を見ていた草太の頬を、暖かな手が触れた。
白磁の表面のように滑らかで、いつまでも触われていたいと男に思わせる、白魚のような指であった。

「男の子は、たまにはリラックスしていいの。私に任せて、マスター。あなたが私を裏切らないでくれれば……私は、マルガレータじゃない。アサシンのサーヴァント、女スパイのマタ・ハリとして頑張るわ。……だから、そんな怖くて、寂しい背中を見せ付けないで」

「……母親面するな」

 手を払い除け、檻の鍵が締まっているかどうかを確認する草太。それを言って、草太は気付いた。オレには、母親の記憶がないと言う事を。
反抗期の子供を見るような、優しげな、しかし困った瞳で、マタ・ハリが草太の事を眺めている事に、彼は気付かない。
檻の中には、ショーに疲れた一匹のトラが、スヤスヤと寝息を立てていた。檻の錠は、やはり閉まっていた。
しかし、猿代草太の心の中に閉じ込められていた虎は、既に野に放たれ、聖杯を喰らわんと暴れ狂っているのであった。




【クラス】

アサシン

【真名】

マタ・ハリ@Fate/Grand Order

【ステータス】

筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運D 宝具A+

【属性】

混沌・中庸

【クラススキル】

気配遮断:-
『諜報』スキルにより、気配遮断は失われている。

【保有スキル】

諜報:A++
このスキルは気配を遮断するのではなく、気配そのものを敵対者だと感じさせない。親しい隣人、無害な石ころ、最愛の人間などと勘違いさせる。
A++ともなれば味方陣営からの告発がない限り、敵対していることに気付くのは不可能である。ただし直接的な攻撃に出た瞬間、このスキルは効果を失う

フェロモン:B
フェロモンとは動物の体内から分泌・放出され、同種の他個体の行動や生理状態に影響を与える物質の総称。
傾国の美女とまではいかずとも、男女の区別なく警戒心を溶かし、会話のアプローチさえ間違えなければ最深部の情報まで手に入られるだろう。


363 : けだものサーカス ◆zzpohGTsas :2017/03/31(金) 19:16:10 HJijGXTE0

【宝具】

『陽の眼を持つ女(マタ・ハリ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1 最大補足:100人
マタ・ハリという伝説の具現化。洗脳宝具。妖艶な舞踊により、思考回路を強制的に麻痺させる。
一般人、マスターは勿論の事、精神耐性スキルのないサーヴァント、狂化していないサーヴァントも男女問わず該当する。
判定に失敗した者は基本的にアサシンの操り人形である。効果は朝日が昇るまで。ただし、宝具を使用したと言う形跡は残らない為、同一人物に繰り返し使用可能。
また一度でも判定に失敗した場合、次回以降の判定にハンデを負う。

【weapon】

【人物背景】

マルガレータ・ヘールトロイダ・ツェレ。第1次世界大戦時にスパイとして活躍し、女スパイの代名詞的存在となった女性。十九〜二十世紀の人物。
真名である「マタ・ハリ」は踊り子としての芸名である。本業は扇情的な姿で踊るダンサーであり、位の高い男性とベッドを共にする高級娼婦でもあり、
その魅力を利用して敵国の関係者や軍関係者を篭絡し、情報を引き出していたという。
1917年、彼女はフランスとドイツの二重スパイ容疑で逮捕され、有罪判決を受けて銃殺刑に処された。
なぜ彼女はスパイとなったのか、それは、人生の始まりにおいてどうにもならないところで躓いていた。
生まれこそ裕福だったが、父は経営していた会社を倒産させた挙句に浮気を繰り返し、母は心労で病んでマタ・ハリが十四歳の頃に死別。
そうして一家が離散した後、彼女は後見人の下で幼稚園の教諭になるべく勉学を励んだが、学舎の学長が彼女に露骨な干渉を行ったため、後見人によって追放され、
結婚生活すら夫の暴力と酒、浮気癖で失敗してしまう。そして彼女はパリでダンサー「マタ・ハリ」としてデビューした。
青春時代の大半を、男たちの身勝手な欲望によって翻弄された彼女にとって、男たちを翻弄するスパイは恐ろしいほど性に合い、時には高価な財を貢がれた事も。
だが、彼女が本当に求めたのは、「価値なき財」ではなく「愛した者と幸福な家庭を築く」ことだったが、結局のところ彼女は処刑される時までソレを手にする事はなかった。
しかし処刑したフランス側も、ドイツ側もさして重要な情報をもたらすスパイだとは思わず、精々が密告屋程度の扱いだったではないか、とも言われている。
いずれにせよ、フランスはこれ幸いとばかりに軍事面での失敗を全てマタ・ハリに押しつけた。彼らの拙い作戦により出た犠牲も、彼女がスパイとして情報を漏洩したため、と弾劾したのだ。運命に翻弄された美貌の女は歴史に刻まれる存在となった。本来の名を忘れ去られ、ただ芸名だけが伝説となっている―――

【サーヴァントとしての願い】

愛した者と幸福な家庭を築く事



.


364 : けだものサーカス ◆zzpohGTsas :2017/03/31(金) 19:16:32 HJijGXTE0
【マスター】

猿代草太@逆転検事2

【マスターとしての願い】

王帝君、一柳万斉、美和マリー、内藤馬乃介を抹殺し、自由と幸福を得る

【weapon】

【能力・技能】

非常に頭がキレ、洞察力、観察力、計算力、記憶力、心理術、弁論術どれを取っても非常に優れている。
本人は動物を操れない気弱な猛獣使いと言うキャラクターで通っているが、実際には鳥や猿、ネズミに兎に猫に豚、果ては虎や象すら操る事が出来る。
また専用の免許がいるであろう大型トラックの運転や気球の操作、施設管理、聞き分け不可能なレベルの声真似、点字翻訳など、多方面の才能に優れる。
長年逃亡生活を行っていた事によって培われた危機察知能力も恐ろしく高く、大抵のピンチを、ピンチになる前に潜り抜けられる。

【人物背景】

サーカス団、タチミサーカスに所属する猛獣使い。自分の身に余る事が起きたらすぐに、ムリムリムリと口にする臆病な青年。
猛獣使いとは言えその力量は浅く、いつも同サーカスで飼われている猿のルーサーに逆に猿回しにされている。

その正体は同作における全ての黒幕。
18年前に唯一の肉親であった父親に捨てられ、ある事情によって親友の内藤馬乃介に縛り上げられ、車の中で凍死寸前になっていた。
そこを偶然通りかかった、殺し屋である鳳院坊了賢により内藤馬乃介と共に救出され九死に一生を得る。
親も身寄りもない為、児童養護施設で生活する事になるが、それから6年後、ある国の大統領がその施設で育てられていた隠し子に会う為にひっそりと、
その施設を訪れる事になっていたのだが、それを利用して大統領になろうと画策した彼の影武者が、当時検事局長だった一柳万斉と養護施設の園長美和マリー、
殺し屋・鳳院坊了賢に協力を要請し暗殺計画を実行する。草太は偶然施設の庭の鎌倉内でその暗殺を目撃。
それと同時に6年前自身の命を救ってくれた了賢も口封じの為に殺される事を耳にし、とっさの機転で庭に火を放ち了賢を逃がす。
その後美和マリーに、了賢を逃亡させた疑いがある事により、後年トラウマとして残る程の厳しい尋問を受け命を危機を感じ養護施設から逃げる。
美和マリーはその後、上記の一件から検事局長・一柳万斉に目を掛けられ刑務所々長の地位に就く。
大統領・王帝君、検事局長・一柳万斉、刑務所々長・美和マリーと三人もの大権力者から命を狙われ、厳しい追撃を受けた草太の生活は当然安定せず、
各地を転々としながら命懸けのギリギリの生活を送っていた。タチミサーカスに入団したのも、サーカス自体が各地を転々としながら行う職業であった為。
そんな中で唯一親友の関係を保っていた内藤馬乃介の父親が自分の父親を殺したという事実を知り、昔縛られた恨みも相まって内藤馬乃介への殺意も芽生え、了賢以外の関わった人間全てに裏切られた人生により、人格は歪み何もかもを信頼出来なくなってしまった。

本編開始前の時間軸から参戦

【方針】

聖杯狙い


365 : けだものサーカス ◆zzpohGTsas :2017/03/31(金) 19:16:44 HJijGXTE0
投下を終了します


366 : ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:05:45 qonvFWK20
投下します


367 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:06:17 qonvFWK20


締め切った窓。
閉ざされたカーテン。
ジジジと虫の羽音みたいな音を奏でる蛍光灯は明らかに寿命が間近に迫っていて、明かりの役割を本来の半分程度しか果たせていない。

そのため、その部屋は陰気な薄暗さを湛えていた。
こんなところで暮らしていれば誰でも気が滅入ると断言出来てしまうほど、陰鬱な空気に満ちた正方形の空間だった。
曲がりなりにも年頃の女の子の部屋だというのに、可愛らしい雑貨や流行りのアイドルのポスターなんかはどこにもない。
不動産屋から借り受けたばかりのアパートの一室でももうちょっと洒落っ気がある。

部屋の主は少女だ。
歳は中学二年生、背丈は百四十を少し回っているくらい。
片目が隠れるほど長い前髪に頼りない薄着、体中には痛々しい青痣が所々見られる辺りから、彼女が日頃どんな扱いを受けているのか察することが出来るだろう。

少女は、被虐待児だった。
逃げ場のない家庭という名の地獄に閉じ込められた、哀れな壊れかけの人形。
壁に背中を預けて足を伸ばし、力なく座り込んでぼんやりと虚空を見つめている。
そこには生気はまだ辛うじて感じられたが、精気は全く感じられない。

少女の傍らには鳥籠が落ちている。
入り口は開け放たれ、中から萎びた鳥餌が溢れている。
そして少女の手の中で、籠の中の鳥は死んでいた。
片翼が千切れ、首があらぬ方向を向いて、死骸になっていた。
死んでからもう結構経っているのか、毛並みもバサバサに荒れてしまっている。

何が楽しくて、この子は生きているんだろう。
空虚な瞳と痛め付けられきった有様を見たなら、どんな熱心な人権活動家でもそう思ってしまうに違いない。
救いのない、壊れるところまで壊れきってしまった少女。
彼女を言い表すとすれば、そんな言葉が適切に思える。

そんな時、部屋の外から荒々しい足音が響き始める。
その瞬間、びくりと少女の肩が跳ねた。
今まで無機的だった顔色は青くなり、身体は小刻みに震え出す。
やめて、来ないで、そんな彼女の懇願も虚しく、部屋の扉は乱暴に蹴り開けられた。

入ってきたのは、いかにも善悪の区別が付いていなさそうな少年。少女にとっては従弟だ。
その顔は不機嫌に歪み、明らかな怒気を湛えている。
鋭く尖った眼差しは、力なく座り込んでいる少女に容赦なく向けられていた。
親の敵でも見るような目つきで、少年は口角泡を飛ばして叫ぶ。

「このクソブス女! お前、また俺のおやつ食っただろ!!」

それは、少女には覚えのない話だった。
きっと彼の兄か母が食べたのだろうと、少女は必死に訴える。
だが、サンドバッグの言い分を聞き入れてくれるほど、この家の人間は優しくない。

「言い訳すんじゃねえ! 死ね! さっさと死ね!!」

そもそも、彼の分のお菓子を食べたのが少女なのかどうかなど、端からどうでもいいのだ。
仮に母や兄が犯人だったとしても、きっと少年はこの部屋に訪れ、怒鳴り散らしていた筈である。
先程少女のことをサンドバッグと評したが、それは実に的を射ている。
少年にとって、この弱々しい少女は――自分の鬱憤を好きなだけぶつけることの出来る、『弱い者』なのだ。

ガンガンと、素足でもって蹴飛ばされる。
頭を抱え、鳥の死骸を腹の下に隠して守りながら、必死に暴力の波が過ぎ去るのを待つ。
年下の子供が癇癪のままに振るう暴力とはいえ、少女の矮躯にとっては大きな打撃だ。

相手もそのことは分かっている筈なのに、そこには一切の容赦というものがない。
こんな女どうなってもいいと心の底からそう思っているから、手心を加える理由がないのだ。
極論死ななきゃいい。見えるところに傷を付けなきゃ、煩く言われることもない。
鬼畜の理屈だが、それはこの家では平然と横行している不文律だった。

少年が暴力に飽きるまで、五分ほどかかった。
いつもより二分は短かったなと、少女は切れた唇を噛みながら思う。
そして彼の足音が遠ざかったのを確認してから、ぐったりと床に身体を投げ出した。


368 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:06:47 qonvFWK20



ハンプティ・ダンプティが塀に座った
ハンプティ・ダンプティが落っこちた
王様の馬と家来の全部がかかっても
ハンプティを元に戻せなかった





369 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:07:03 qonvFWK20


「おい、またあいつを怒らせたのか」

それから何分かして、また扉が開いた。
先の少年に比べれば大人しそうに、悪く言えば陰険そうに見える青年だった。少女にとっては従兄だ。
その顔には直情的な怒りの色こそ見られないが、少女はこの男のことをよく知っている。
こいつもさっきの彼と殆ど同種、それどころかもっと質の悪い下種であることを知っている。

「俺、前に言ったよな? 煩いと勉強に集中できないってよぉ」

首を横から蹴り飛ばされた。
ごろごろと床を転がるが、その背中を今度は踏み潰される。
見上げた先には、青年のニヤニヤとした笑顔があった。
楽しんでいる。怒りのままに暴力を振るうのではなく、こいつは暴力を振るうこと自体を楽しんでいる。

「なんとか言えよ、おい。お前の汚え部屋にまでわざわざ説教しに来てやったんだぞ?」

体格が大きくなれば、当然拳や蹴りの威力も上がる。
少女は今、息をすることすら辛い状態であった。
至るところから加えられる衝撃のせいで呼吸がうまく出来ない。
身体は酸素を急いで取り入れようとするあまり、過呼吸になりかけてヒューヒュー乾いた音を出している。

そしてもちろん、そんなサンドバッグの事情など斟酌されるわけがない。
そこもさっきの彼と同じだ。
全部把握した上で、知ったことじゃないと痛め付けてくる。
抵抗が無駄なことはとっくの昔に学習した。抵抗すれば、した分だけもっと大きい痛みになって返ってくるだけだ。

「謝れって言ってんだよ。口もないのか?」
「……、ご、ぇん、なさ……」
「煩い、喋るな」

今度は腹を爪先で蹴り上げられる。
胃の奥から嘔吐物が込み上げてきて、げえげえとそれを吐き出した。
堪えなきゃ、と自分を制御する余裕はとてもなかった。
胃液とほんのわずかな内容物を吐き出して小さく痙攣する哀れな姿を、軽蔑したような眼差しで見下す青年。

「部屋を汚すなよ、また母さんに怒られるぞ。
 告げ口はしないでおいてやるが、自分でちゃんと片付けておけよ」

自分がそうさせた癖に、よくもぬけぬけと。
そんなことが言えるくらいの人権があったなら、どれほど幸せだったろうか。
少女はそれに従うことしか出来ない。
黙って、理不尽に甘んじることしか出来ない。

青年が去り、暴力がやんだのを確認し、部屋の隅のちり紙を取って吐き出したものを拭き取る。
少し休んでからにしようとも思ったが、万一彼の言うところの『母さん』にバレたら面倒だ。
面倒事を避けるためには、自分の身体に無理をさせなければならないことも、少女は知っていた。
東雲あづまという少女を取り囲む日常は――生き地獄に等しかった。


370 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:07:19 qonvFWK20



トゥイードルダムとトゥイードルディー
決闘をすることになった
トゥイードルダムが言うことには、トゥイードルディーが彼の素敵な新品のがらがらを壊した

ちょうどそのとき、巨大な鴉が飛んできた
その大きさときたら まるでタールの樽のようだった

二人の英雄はおそれをなして
決闘のことはまったく忘れてしまった





371 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:07:39 qonvFWK20


味噌汁の中に虫が浮いていた。
具材が絡んで何の虫かはよく分からないが、大きさからしてゴキブリだろう。
もちろん、死骸を食べるなんてことは流石のあづまにも出来ない。

ただ、これでも食事があるだけマシなのもまた事実だった。
何せこんな有様の献立だが、一週間ぶりに米がある。
食べられる時に食べなければ、この家では生きられない。少なくとも、あづまは。

ちなみに誰がこんな陰湿な真似をしたのかは分かりきっている。
この家の母親だ。あづまにとっては叔母に当たる、枯れた印象を受ける女。
彼女は面と向かっての暴力こそ少ないが、暴言や躾にかこつけた体罰、こうした陰険な嫌がらせをよくしてくる。
ちらりと視線を向けると目が合って、思わず慌てて食事を摂ることに意識を戻す。

「そういえば、最近学校に行っていないそうじゃないか」

そんなあづまに、今度は叔父に当たる男から声がかかった。
その声色は従兄弟二人や叔母に比べて、あまりにも優しく穏やかだ。
食卓では誰もあづまにちょっかいを出して来ないことも相俟って、ともすれば味方と錯覚してしまいそうになる。
それでもあづまは、この男がどんな人物かを文字通り身をもって知っていた。

「ダメだろう、子供は学校へ行かないと。
 仕方ないから、今晩"また"叔父さんが勉強を教えてやろう。
 後で部屋に行くから、ちゃんと待っているように」

言っていることは至極まっとうだ、そのことはあづまも理解している。
しかしその両目に宿る光は、子供を思いやる慈愛に満ちたそれではない。
あづまの親権者として面倒を見てやるという、使命感に満ちたそれでもない。
もっとどろついた、一家の中でも一番質の悪い感情だけがそこにある。

「手取り足取り教えてあげるからなあ――あづまたん……♪」

情欲に歪んだ顔を見て、あづまは顔を伏せた。
この家は腐っている。終わっている。改めてそう思う。
――どいつもこいつも死ねばいい。
心の中で燃える黒い炎は、疑いようもなく彼女の本心だった。


372 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:08:00 qonvFWK20



夕火あぶりの刻、粘滑なるトーヴ
遥場にありて回儀い錐穿つ。
総て弱ぼらしきはボロゴーヴ、
かくて郷遠ラースのうずめき叫ばん。


『我が息子よ、ジャバウォックに用心あれ!
 喰らいつくあぎと、引き掴む鈎爪!
 ジャブジャブ鳥にも心配るべし、そして努、燻り狂えるバンダースナッチの傍に寄るべからず!』





373 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:08:30 qonvFWK20


「さあ、あづま……始めようか」

部屋に入るなり、鼻息を荒げて叔父が言う。
寝間着越しにも分かる下半身の怒張は、つまりそういうことだ。
この男は、東雲あづまという姪を性欲の発散先として見ている。
この家に渦巻く暴力は、何も心身を痛め付けるのみではない。
尊厳を弄び、辱める。これもまた、あづまを取り囲む地獄の一風景だった。

「い、いやっ、嫌です! やめて、ください!!」

あづまも、ただされるがままになっているわけではない。
女として、それ以前に一人の人間として当然その歪んだ情愛を拒む。
だが哀しきかな、その小さな身体では目の前の暴漢をどうすることも出来やしない。
両手を押さえ付けられ、股間のそれを服越しに押し付けられる。不快極まる感触に鳥肌が立つ。

「駄目じゃないか、あづま。いい加減慣れなくちゃ。いつもやってるだろぉ」

生臭い息は吐き気すら催す。
ヤニ臭い唾液の味も、口に突っ込まれた一物の味も、あづまの記憶に焼き付いて離れない。
殺したい。いや、殺す。絶対に、こいつらだけは殺す。
憎悪の炎を内に秘めながら、少女は今まさに犯されんとしていた。
もっとも――少女の純潔など、とっくの昔に散華しているのだったが。

「さあ、行くぞあづまたん! たっぷり、たっぷり楽しませてやるからなぁぁっ」

ぎゅっと、あづまは目を瞑る。
だが、いつまで経っても、叔父が自分の下着を引き剥がすことはなかった。
抱き締められることも、唇を重ねられることも、上を剥がれて胸を弄ばれることもない。
恐る恐るあづまが目を開ければ、そこでは憎き叔父が、白目を剥いて倒れ伏していた。
 
その傍らに、この少なくとも見かけだけは普通の家庭に見える東雲家には似合わない、奇矯な装いの男が佇んでいる。
顔立ちは東洋人のそれだが、筋骨逞しい肉体はあづまより二回り以上も大きく、日本人離れしたものがある。
そして端正といっていいだろうその顔面には、苦々しげな表情が浮いていた。
それを見ただけでも、彼が少なくとも下種の類ではない――まともな価値観の持ち主であることが分かるだろう。

「すまんな、マスター。これ以上は見逃せなかった」

マスターと、美丈夫はあづまのことをそう呼んだ。
一方のあづまも、彼の登場に何ら驚いた様子はない。
自分を窮地から救い出してくれたことに感謝するでもなく、その表情は淡白だった。
先程まで悲愴な抵抗を見せていた少女と同一人物とは、とても思えないくらいに。

「いい。私もこれは嫌だったから」

昏倒した叔父を冷めた瞳で見下ろしながら、あづまは乱れた衣服を整える。
今日は吐き気のするキスも、怖気の立つ愛撫も受けていない。
それに、偽物とはいえ忌まわしい男がのされる瞬間も見られた。
――これだけのことで。これくらいのことで、東雲あづまは今日はなかなかいい日だったと感じてしまう。

その姿を見る美丈夫の目は、どこまでも苦々しげだった。
哀れみではない。自分ではどうにも出来ないことに対する歯痒さがそこには滲んでいる。
彼はかつて、あづまのような無辜の人民が理不尽な暴力や悲運に晒されないために戦った。
数多くの窮地、数多くの死線があった。結果救えなかったものは山のようにあるし、むしろ救えなかった数の方が多いとすら思っている。


374 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:08:57 qonvFWK20
「マスター。前にも言ったが、この世界に生きる民間人は全て単なる舞台装置だ」
「ぶたいそーち?」
「……分かりやすく言えば偽物だ。こいつらは普通の人間と変わらないように見えるが、実際のところ生きてはいない。
 たとえ死んだとしても、聖杯が用意した人形がたかだか四つ壊れただけと思えばいい」
「何が言いたいの」
「俺に命じろ、マスター。この家の人間を殺せと。それだけで、お前は苦痛から解放される」
「やだ」

しかし東雲あづまを取り囲む理不尽は、彼になら簡単に壊せてしまう程度の代物だ。
あづまが望みさえすれば、彼女を虐げてきた四人を殺し終えるまで一分とかかるまい。
サーヴァント――バーサーカーには、あづまを助けることが出来る。救うことが出来る。
にも関わらず彼は、自分の主が好き勝手痛め付けられ、虐げられる一部始終を指を咥えて見ていなければならなかった。

あづま自身が、望んだのだ。
自分を虐待する叔父一家を排除しないことを、この胡乱げな娘が確かに望んだ。
令呪を使ったわけでこそないが、その時の彼女にはそうしかねないほどの気迫があった。

「……憎くないのか、お前は」
「んなわけないじゃん」

歪んだ関係とはいえ、一緒に暮らしている仮初の家族を殺すことは出来ない。
あづまがそんな善性に満ちた台詞を吐いてくれたなら、まだいくらか幸いだった。
あづまは善側の人間ではない。かと言って、悪側の人間でもない。
彼女はひたすらに――

「殺すよ。全員殺す。
 そのためにまずセカイオニを殺す。
 セカイオニを殺すために、セーハイを手に入れる」

ひたすらに、歪だった。
ただ壊れているというわけでもない。
そんな単純な言葉では片付けられないくらい、東雲あづまの内面は複雑に怪奇している。

「それなら、こいつらの命に執着する理由はどこにある。
 それほど深く憎む相手だ。……俺にはむしろ、お前が殺意を堪える理由が思い付かない」
「人形だから」
「何?」

あづまは言った。
剥き出しになった叔父の白目を、楽しそうに指でつんつん突きながら。
歳相応の微笑みを浮かべて、歪んだ思想を己のサーヴァントに語って聞かせる。

「人形壊しても意味ないでしょ。
 こいつらが死ぬ分には構わないけど、そうしたら私、もっかい同じことしなきゃなんない」
「………」
「本物を殺った時にこれ前に見たなあとか思ったら嫌だもん」

あづまが偽りの叔父一家を殺さない理由はたったひとつ。飽きたくないからだ。
偽物ごときを殺したことで、本物が死んだ時の喜びが減ってしまうのが嫌だ。
彼女は大真面目にそう思って、被虐の立場に甘んじている。
殺意を燃やし、歯を軋らせ、身体を痛め付けながら、それすらも『いつか』のための楽しみとして。

「だから、バーサーカーは殺しちゃダメ。『それ』、元いたとこに戻しといてね」

げし、と未だ意識を取り戻す気配もない叔父を蹴飛ばして、あづまはころんとその場に寝転んだ。
布団で寝ることが許されるほど、世界は彼女に甘くない。
そしてあづまがこうなってしまうと、もう声は届かないことをバーサーカーは知っていた。
黙って昏倒した叔父を担ぎ、部屋の出口へ向けて歩き出す。あづまはそれを、背中で見送った。


375 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:09:25 qonvFWK20
(文鳥ちゃんほどじゃないけど、バーサーカーには助かるなあ)

自分だけでは、聖杯戦争には勝てない。
あづまはそれを知っているから、バーサーカーを受け入れた。

これでも、召喚当初に比べればあづまとバーサーカーの距離は縮まっている。
最初の頃は癇癪を起こしたみたいにバーサーカーを拒み、自分だけでサーヴァントを殺そうとしていたくらいなのだ。
今回のように度々あづまをバーサーカーが助け、それでようやく、あづまの中でのバーサーカー像がいい方に傾いてくれた。

盲信はしない、依存もしない。だが信用はしている。味方だとは、ちゃんと認識されている。
東雲あづまという少女の性格を思えば、それだけでも快挙といっていい。
その点、バーサーカーはサーヴァントとして最善を尽くしていた。

(絶対勝とうね、文鳥ちゃん。それにバーサーカー。
 あと三人、あと三人だよ。早く帰って、またあの世界に行きたいなっ)

死骸となった文鳥――もといセキセイインコは、何も語らない。
これはただの鳥だ。彼女の周りの人間と同じ、生きている風に見えるだけのがらんどう。
この月面に、東雲あづまを導いてくれる本物の『文鳥ちゃん』はいない。
そう、誰も。誰も、東雲あづまを救えない。



「俺では不足か」

叔父を階段の真下辺りに転がして、バーサーカーは一人呟く。
自分では、彼女の心を浄化してやることは出来ない。
そのことはこれまで共に過ごした日々の中で、痛いほど理解していた。
力不足だ。人間由来の英霊ではないバーサーカーには、あづまの心に響く言葉は紡げない。

「……ままならんものだ。ナイトレイドとしての活動を終えたかと思えば、今度はこんな事態とはな」

バーサーカーは、生まれながらの兵器だ。
かつてある世界、ある国に、始皇帝と呼ばれる偉大な存在があった。
始皇帝は自国の万年の安泰を願い、あらゆる素材を尽くして、四十八個の超兵器を作り出した。
後に『帝具』と呼ばれるその兵器の中には、人間や獣のように自律して行動し、戦う……『生物帝具』と呼ばれる種類があった。

バーサーカーは、それである。
生物帝具が一つにして、悪しき秩序の破壊を望んだ殺し屋集団の一人。
その真名を――電光石火・スサノオという。
最期の一瞬まで仲間のために死力を尽くしたとして伝えられる、ナイトレイドの益荒男。

「ならば後は、お前の世界に託すまで。
 この混沌でお前の命が尽き果てることのないよう、全霊で戦うとする」

帝具は主を選ぶ。
適合しない主が使えば、強大な力は一転、主を滅ぼす毒になる。
だがそれも、サーヴァントとなった今は関係ない。
サーヴァントは、道具は主を選ばない。
そうあることを望まれたなら、是非もなし。
尽くせる限りの全力をもって、東雲あづまという少女を聖杯へと導こう。

「お前に顔向けできるかは定かではないがな……ナジェンダ」

生前の最期の主の名を、らしくもない苦笑と共に呟いて、バーサーカーは霊体となり姿を消した。


376 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:09:54 qonvFWK20



床の死体
鼻から顎に蛆虫が這っている

女は聞いた
私も死んだらこうなるの?
 
ああ! 牧師は言った
お前も死ねば腐るのさ!






【クラス】
バーサーカー

【真名】
スサノオ@アカメが斬る!

【ステータス】
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力D 幸運B 宝具A

【属性】
混沌・善

【クラススキル】

狂化:E
通常時は狂化の恩恵を受けない。
その代わり、正常な思考力を保つ。

対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
アサシンのクラスで現界していないため、ランクが一段階ダウンしている。


377 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:10:19 qonvFWK20
【保有スキル】

生物帝具:A
とある偉大な皇帝が国の不動の安寧のために作り出した四十八の超兵器、その一つ。
彼は生物型の帝具で、自律行動や意志疎通を行うことが可能という特徴を持つ。
多少の傷ならばすぐに復元してしまうほどの再生能力、Aランクの『頑健』に相当する耐久力と対毒性を保有するが、その体内に存在する帝具の『核』を破壊されてしまった場合に限り再生が不可能となり、消滅が確定する。

怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。
魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性だが、帝具である彼は例外的にこのスキルを所持している。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は『怪力』のランクによる。

観察眼:C
几帳面な性格に由来する、物事の変化や綻びを見落とさない目ざとさ。
変装やそれに準ずる能力を持つ相手に対してはかなり有効に機能する。

死出の戦:A
帝具使い同士が戦えば、そのあまりの性能に必ずどちらかが死ぬ……そんな言い伝えがスキルに昇華されたもの。
彼が戦闘を行う場合、戦場の全ての人物は幸運判定の達成値にマイナス補正を受ける。
このスキルの効果はその場の人数が少なければ少ないほど大きくなるが、悲運を被るのは当の彼も例外ではない。

【宝具】

『禍魂顕現』
ランク:A 種別:対人(自身) レンジ:- 最大補足:-
バーサーカーの『奥の手』、言ってしまえば切り札となる宝具。
その場で自身に超高ランクの狂化スキルを付与し、全てのパラメータを大幅に強化する。バーサーカーは狂化しても理性を失わず、正常な思考力を持ったまま戦うことが出来るため、狂化といっても特にデメリットは存在しない。
宝具発動中は相手の飛び道具や遠距離攻撃を反射する『八咫鏡』、非常に高い破壊力を誇る『天叢雲剣』、筋力・耐久・敏捷を更に向上させる『八尺瓊勾玉』などの特殊能力を使用することが出来るようになる。これらは宝具『禍魂顕現』の一部として扱われるので、実質彼の第二、第三、第四宝具と考えていい。
また『禍魂顕現』中に核を破壊された場合、その場でもう一度宝具を解放することで擬似的な戦闘続行スキルを獲得、サーヴァントとしての行動を継続することが可能。
この通り極めて強力な宝具だが、真名解放時に燃料としてマスターの生命力を用いることから、マスターへの負担が非常に大きいという致命的な欠点を持つ。即座に死に至らしめるほどのものでこそないが、バーサーカーが『禍魂顕現』を三度行った場合、マスターは甚大な負担によって死亡してしまう。

【weapon】


378 : 聖杯鬼 ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:10:36 qonvFWK20

【人物背景】
帝具としての正式名称は電光石火スサノオ。
要人警護を目的として製造された帝具であるため、戦闘以外にも家事や建物の建築など様々な分野で才覚を発揮出来る。
生前には殺し屋集団『ナイトレイド』のボス・ナジェンダに反応して再起動し、反帝国勢力である彼らの仲間として行動する。
その戦闘力と各種サポートスキルで大きくナイトレイドに貢献したが、最期は氷の帝具を持つ女将軍に敗れ、仲間を逃がすために奮戦した末破壊された。

【サーヴァントとしての願い】
願いはない。帝具として、マスターを守る


【マスター】
東雲あづま@世界鬼

【マスターとしての願い】
世界鬼を滅ぼす更なる力を得るため、聖杯を手に入れる

【weapon】
メインは手斧

【能力・技能】
鏡の国のアリス症候群という奇病に羅患しており、鏡面上に幻覚が見え、それの声を聞いたり会話したり出来る。
あづまの場合は怪物、他人の悪意のシンボル化、幻聴。

また本聖杯戦争のあづまは、『ワンダーランド』での戦いで使用していた生命エネルギーを物質に変換する能力も弱体化しているが引き継いでいる。とはいえ反陽子爆弾のような大規模な創造は出来ず、精々斧やらトマホークを作り出せる程度。Chaos.Cellに神秘とみなされているのか、サーヴァントに傷を付けることも可能。

そして、彼女が患う『鏡の国のアリス症候群』の正体は―――…………

【人物背景】
鏡の国のアリス。中学二年生。内外面ともに幼く陰気で不登校な、幼児体型の少女。
両親が居らず、引き取られた先の叔父夫婦の家で、家族全員から陰湿な虐待を受けていた。
が、ひょんなことから左右反転の世界『ワンダーランド』に迷い込み、『世界鬼』と呼ばれる怪物を滅ぼさねばならない状況に立たされる。最初は消極的だったあづまだが、『アリスが世界鬼を殺すと、現実世界でそのアリスと日常的に接している人間が死ぬ』事実を知ってからは態度が一変。
憎き叔父夫婦を合法的に殺害し、復讐するために喜々として世界鬼を殺戮し始める。

【方針】
マスター全員殺す。
帰れなきゃ死ぬなら、マスター達は世界鬼と変わらない。
とっとと聖杯ぶんどって帰る。


379 : ◆JN79cqD59g :2017/04/01(土) 23:10:57 qonvFWK20
投下終了します


380 : ◆hBqmt1dJ2k :2017/04/03(月) 17:46:56 mWIUA1Ws0
投下させていただきます


381 : アルミリア・ボードウィン&セイバー ◆hBqmt1dJ2k :2017/04/03(月) 17:47:52 mWIUA1Ws0
 悪夢だ。
 まるで悪い冗談だ。
 そう思わずにはいられない。
 自分のサーヴァントが放った剣が、矢が、炎が、水が、風が、光が、全て一刀のもとに切り伏せられていく。
 そこに、何ら奇を衒ったものはない。
 何か大層な術式を使っているだとか、実は切り伏せているのではなく当たりを逸らしているだけだとか。
 そんな都合のいい解釈に逃げることさえ、目の前の騎士は許してくれない。
 彼はただ馬鹿正直に、自分に向けて飛んできた攻撃を剣で捌いているだけだ。
 自分が呼んだサーヴァントだって何も木偶じゃない。
 それどころか、そこらの中級サーヴァント程度なら文字通り一蹴出来るレベルの強者だ。
 その彼が、傷一つ付けられない。
 ずっと攻める側に立っているにも関わらず、血の一滴すら流させられない。
 あの雄々しく清らかな煌めきを放つ刀身を、どう頑張っても越えられない。

「アーチャー! 何をしてる、早くそいつを殺せ!!」

「無茶苦茶言うな、これが精一杯だ!!」

 苛立ちと焦りを隠そうともせず叫ぶアーチャーに、マスターである魔術師もまた同種の感情を覚えた。
 まず苛立ち。護りに徹してばかりの剣士一体も倒せないのかお前はと、腹の底から込み上げてくる理不尽な激情。
 次に焦り。あれほど優秀な戦いぶりをこれまで見せてくれたアーチャーが、精一杯を尽くしても手傷一つ負わせられない。一体この英霊は何者なのかという、恐れ。
 利口なマスターならば即座に深追いするのは危険と悟り、令呪を切ってでも撤退することを選んだろう。
 だがこの魔術師は、そうすることが出来なかった。
 常勝しなければならないこの自分が、手も足も出ずに尻尾を巻いて逃げ出すという事実が許せなかった。


 魔術師なんて生き物は、人間的な欠陥を抱えていない方が珍しい。
 その例に漏れずアーチャーのマスターである彼も、とある悪癖を抱えていた。
 彼の場合は、高すぎるプライド。
 敗北することが許せない、勝ち以外の結末を認められない行き過ぎた完璧主義。
 痛み分けのような形でこの場を退くのなら、まだ我慢は出来る。
 しかし一方的に消耗させられた挙句歯牙にもかけられず、恐れをなして背を向けた、なんて有様は我慢出来ない。
 せめて一撃。あのいけ好かない澄まし顔を驚愕と苦痛で歪めてやらなければ気が済まない。
 

 それに、手はまだある。
 ここまでアーチャーの攻撃は一切敵に通じていないが、宝具を使用したなら少しは状況も変わるだろう。
 無論、ただ使うだけではない。真名を解放し、最高火力で一気に突き破ってやるのだ。
 その手に出るには魔力が足りない? 足りないのなら補えばいい。
 この手に煌めく令呪の用途は、何も手綱を引っ張るだけじゃない。

「仕留めるぞ、アーチャー」

「……分かった。俺に出来る全力を、このブリテン野郎にぶちかましてやる!」

 令呪による宝具の強制解放。
 これまでとは段違いの威力が飛んでくることが明らかになっても、なお騎士は不動のままだった。
 白銀の聖剣を構え、黙して敵の総力を待つ。
 その舐めきった姿勢が余計に魔術師を逆撫でし、彼はとうとうその一線を踏み越えてしまう。


「令呪をもって命ずる。――アーチャー、第二宝具を解放し、セイバーを屠り去れ!」


382 : アルミリア・ボードウィン&セイバー ◆hBqmt1dJ2k :2017/04/03(月) 17:48:30 mWIUA1Ws0
 アーチャーの担う武器が結合し、一つの弓を作り出す。
 これぞ、彼のアーチャーが持つ第二宝具。ワイルドカードだ。
 今まで、この宝具を放って倒れなかった敵はいない。
 絶対の信頼と揺るぎない自信に基づいて放たれた矢は、虹色の光を帯びてまっすぐ憎きセイバーに殺到する。
 その光は、日輪の照らす白昼の冬木においても、一際眩しく美しく見えた。
 それは一寸の狂いもなくセイバーの眉間へと迫っていき、遂に回避不可能の間合いまで侵入を果たす。
 ――そして。


「微温い」


 またしても、一刀のもとに切り伏せられた。

「な」

 絶句するアーチャーと、そのマスター。
 それを交互に一瞥して、セイバーはようやく一歩を踏み出した。
 精神はともかく、頭脳は類稀なものを持っていた魔術師は、セイバーの意図を事ここに至ってとうとう理解する。
 この騎士は、ずっと見極めていたのだ。こちらの底を。こちらが出せる全力がどの程度のものであるかを。
 その上で、彼は判断した。実際に自分の剣でそれを受けてみて、結論を下した。
 この戦いは、一瞬で終わらせることの出来るものだ……と。

「ぜ……全力で防げアーチャー! 今度はあっちも攻めてくるぞ!!」

 言われるまでもない。
 やたらと器用なアーチャーは、今度は盾を自分の周囲に展開して防御の体勢に入る。
 生半可な攻撃ではびくともせず、宝具の真名解放を受けても完全には壊れないほどの鉄壁だ。
 これを使えば当分の間は凌ぎきれるはず。アーチャーは、そう考えていた。
 そして彼は、これから思い知る。その考えが如何に甘いものであったかを、身をもって。
 聖杯戦争からの脱落という痛みをもって、知ることになる。


「穴熊を決め込むおつもりか。ですが、それもいいでしょう」


 騎士は踏み込むのではなく、その場で立ち止まった。
 それからゆっくりと、ここまでのべ百数十発もの攻撃を捌いてきた白銀の聖剣を振り上げる。
 

「盾で凌ぐというのなら、諸共に吹き飛ばしてやるだけのこと」


 刀身に収束していく熱。 
 それは可視化して、赤い炎となって刀身を這う。
 あまりの熱量に時期外れの陽炎さえ生み出しながら、煌々と燃え盛る。
 ある種の荘厳ささえ秘めた眩い光が、高慢な魔術師に決定的な挫折を刻み込んだ。
 

「――この剣は太陽の映し身。もう一振りの星の聖剣。あらゆる不浄を清める焔の陽炎」


 直感で悟る。
 これには勝てない。
 どれほどのサーヴァントを引けば対抗できたのか、それさえ思い付かない。
 暴漢を前にした子女のようにその場に情けなく座り込み、茫然と口を開けて見ていることしか出来ない。
 戦意など、矜持など、この光が生み出す結果を見るまでもなく砕かれてしまった。
 それと同時に彼は目の前の騎士の、その真名を理解する。

 白銀の鎧に身を包んだ騎士。
 どこの誰が見ても一瞬で業物と悟るほどの、美しく堅牢な聖剣。
 そして午前の陽光に照らされている時、かの騎士王すら凌駕する無双の力を手に入れるという特性。
 聖者の数字に愛された、太陽の騎士。如何なる状況にあろうと、騎士王の右腕であり続けた男。


「転輪する――」


 その名を――円卓の騎士・ガウェイン。


383 : アルミリア・ボードウィン&セイバー ◆hBqmt1dJ2k :2017/04/03(月) 17:49:15 mWIUA1Ws0


「――勝利の剣」


 そしてその剣の名を、ガラティーン。
 剣閃が振り抜かれると共に、地面に焔の刻印が刻まれる。
 それから一秒の間も置かずに、そこから灼熱の焔が噴き上がった。
 誉れ高き聖剣の焔は小癪な防御諸共、ただの一瞬で盾の内に籠もったアーチャーを呑み込んだ。
 彼の魔力反応が消えていく。自分の右腕から消えていく令呪を見て、かつてマスターだった魔術師は理解した。
 自分のサーヴァントが負けたことを。自分は、この騎士に完膚なきまでに敗北したことを。


 恨み言の一つも言えずに茫然と焔の残滓を見送る魔術師のもとに、小さな足音が近付いた。
 セイバーのものにしては軽すぎる。顔を上げれば視線の先にあったのは、あまりにも幼い少女の姿だった。
 だがそこに弱々しさは全く感じられない。確かな気高さとある種の気迫を、魔術師は彼女から感じ取る。
 少女は魔術師の前に立ち、言った。

「去りなさい。命まで奪うつもりはありません」

 セイバーもそのマスターらしき少女も、敗者である彼らを侮辱も慰めもしない。
 彼らはただ毅然と、聖杯戦争に臨んでいる。
 魔術師はそこに、自分など及びも付かないほどの強い意思と、譲れない願いの姿を見た。
 最初から勝てるわけがなかったのだと否応なしに悟らせる、勇ましさと力強さがあった。


「ですが、謝るつもりもありません。――聖杯を手に入れるまで、もう私は止まれないのです」


 なのに、どうしてだろう。
 その言葉はどこか、自分に強く言い聞かせるようなものだった。
 力強さと勇ましさ、誇り高さ。
 その背後に、どこか危うげなものが見え隠れしている。
 こんな有様まで落ちぶれたからだろうか、魔術師には少女が無理をしていることが手に取るように分かった。
 何があったのか。何のために、この娘は戦っているのだろうか。
 敗者に、それを問う資格はない。
 サーヴァントも戦意も失った彼に出来るのは、この場を黙ってふらふらと後にすることだけであった。


◇◇


384 : アルミリア・ボードウィン&セイバー ◆hBqmt1dJ2k :2017/04/03(月) 17:49:36 mWIUA1Ws0


「怪我はしてない、セイバー?」
「問題ありません。天に午前の光ある限り、我が剣は決して綻ばない」

 敗走したマスターを見送り、セイバーのマスターたる少女は不安げに問う。
 それに対しセイバーはいつも通り、毅然とした頼もしさで答えた。
 問題ないと。自分は依然、貴方の最強の剣のままだと。
 その声を耳にすると、少女は安堵したように顔を綻ばせた。

「そろそろお昼よ。お屋敷に戻りましょう、きっと食事が出来ているわ」
「本来、サーヴァントに食事を摂る必要はないのですが……せっかく作っていただいたものを無駄には出来ませんね。恐れながら、ご一緒させていただくとしましょう」

 傍から見れば、それは仲睦まじい兄妹のようでもあった。
 いや、それどころか親子にすら見える。
 二桁の年月も生きていないだろう少女と、それに付き従う絶世の美男子。
 この光景を見て主従という言葉を連想する人間など、そうはいないのではないだろうか。
 だが実際のところはそれが正しい。
 騎士たる彼は少女の忠実な剣であり、しもべであり、少女はこの誉れ高き騎士を従える幼君だった。

「時に、マスター」
「どうしたの、セイバー?」

 不意に、少女の隣を進んでいた騎士が口を開く。
 その声色から少女はすぐに、彼が真剣な話をしようとしていることを察した。
 足を止め、彼の方へと向き直る。彼女はその身なりや振る舞いからも想像出来る通り、さる名家の令嬢だ。
 ただ向き直るだけの動作にも、思わず感心してしまうような気品があった。
 
「どうか、あまりご無理はなさらぬよう。聖杯戦争は長いのです、そう急く必要はありません」

 その言葉に、少女は固まってしまう。
 見透かされていた――隠していたつもりだったのに。

「やっぱり、分かる?」
「ええ。私に分かるほどなのです、家人の方々も既にお気付きになっているでしょう」
「……そう」

 少女は力なく笑い、そっと俯く。
 そこには、凛々しく堂々としたマスターの姿はなかった。
 あるのはメッキが剥がれて露わになった、弱々しく背伸びをした幼女の姿。
 
「子供だったわ、私。戦うってことの辛さを、全然わかってなかった」

 セイバーが倒したサーヴァントは、さっきのアーチャーのみではない。
 彼はこれまでただの一度も傷を負うことなく、五体ものサーヴァントを退けていた。
 天に午前の光ある限り――太陽の騎士に負けはない。
 その言葉通り、彼は少女が望むままに敵を蹴散らした。
 もちろん、マスターは殺していない。
 少女は願いを持つ者ではあったが、魂喰いという外道に憤りを覚える真っ当さの持ち主でもあった。
 しかし、少しの猶予を与えたところで、敗れた彼らの結末が変わるわけではないことも少女は理解している。
 単に、ほんのわずかな余生を与えられただけだ。
 勝者以外は世界から消える。それが聖杯戦争のルールであるゆえに。


385 : アルミリア・ボードウィン&セイバー ◆hBqmt1dJ2k :2017/04/03(月) 17:50:01 mWIUA1Ws0

「敗者の重みを感じるのは自然なことです。何も恥じることではありません」
「でも、現にこうしてあなたに心配をかけちゃってるでしょ?」

 彼女は、敗者の重みを背負って毅然と前に進めるほど大人ではなかった。
 サーヴァントを失って自分の運命を悟った者達の顔が頭の中にこびり付いて離れない。
 
「……あの人や兄さんも、こんな気持ちで戦っていたのかしら」

 少女には兄がいて、夫がいた。
 政略結婚など、貴族の世界では珍しいことではない。
 親同士の利害が一致したなら、彼女のような子供でも十分誰かの伴侶として提出され得る。
 それでも彼女は、少なくとも大人の都合に翻弄されて人生を台無しにされた被害者ではなかった。
 何故なら少女は、自分の夫を愛していた。心の底から――本当に心の底から、彼を愛していたのだ。
 しかし彼女の夫は、善人ではなかった。
 大いなる野望を胸に秘めた、社会にとっての逆賊だった。
 彼女の小さな手がとても届かない場所で、兄と夫は決着を付け――少女は、彼と共に罪を償うことすら出来なくなった。


「間違ってるのは分かってるわ。いけないことをしてるのも、ちゃんと知ってる」
「……アルミリア」
「でも、思ってしまうの。もしも……もしもあの人達の結果を変えることが出来たなら、って」


 アルミリア・ボードウィンという少女が『鉄片』を拾ったのは、彼女が未亡人になってすぐのことだった。
 ほんの一分ほどの間も置かず、彼女は願いを叶える戦いへの切符を手に入れた。
 そうして今に至る。そうして、アルミリアはここにいる。
 彼女の召喚に応じたのは太陽の騎士ガウェイン。
 聖杯を狙う上で申し分のない、聖者の数字に愛された忠義の陽光。


「ねえ、セイバー。やっぱり私は、悪い子かしら」
「私は主君の善悪を決められるほど、驕った男ではありません」

 しかし、とセイバーは続ける。


「貴方がその罪を背負いながらも願いを追い求めるというのなら、私は貴方の剣となり、盾となりましょう。
 一人の騎士として、貴方の戦いを、貴方の罪を、価値なきものには決してしない。
 それだけは、我が騎士道にかけて誓います」
「……ありがとう、セイバー。そう言ってもらえると、少し心が楽になるわ」
「では行きましょう、アルミリア。せっかくの食事が冷めてしまいますよ」
「もう、引き止めたのは貴方の方じゃない」

 
 円卓の騎士、ガウェイン。
 彼は決して裏切らず、主を守る忠剣だ。
 彼らは気高く、誇り高く勝利へと突き進むだろう。
 奇跡で願いを叶えるため。
 仮初の主君を導くため。
 彼らの聖杯戦争は――まだ始まったばかりだ。


386 : アルミリア・ボードウィン&セイバー ◆hBqmt1dJ2k :2017/04/03(月) 17:50:39 mWIUA1Ws0
【クラス】

セイバー

【真名】

ガウェイン@Fate/EXTRA

【パラメーター】

筋力:B+ 耐力:B+ 敏捷:B 魔力:A 幸運:A 宝具:A+

【属性】

秩序・善

【クラススキル】

対魔力:B
セイバーのクラスとしては標準レベル。このランクだと大魔術・儀礼呪法等でも、傷付けるのは難しい。

騎乗:B
上に同じ。幻想種以外の、通常の乗り物なら難なく乗りこなす。

【保有スキル】

カリスマ:E
軍団を指揮する天性の才能。
このスキルは稀に持ち主の人格形成に影響を及ぼす事があり、彼の場合その裏表のない物言いから、天然扱いされる原因になった。

聖者の数字:EX
彼の異名『太陽の騎士』に由来する彼の特異体質。
太陽が出ている午前9時と午後3時からの3時間、通常の3倍近い能力を発揮する。
午前9時から正午の3時間、午後3時から日没の3時間だけ力が3倍になるというもの。
これはケルトの聖なる数である3を示したものである。
スキル発動時の彼の強さは、最優のセイバーと称されるアーサー王すら上回るという。

べルシラックの帯:EX
セイバーの武勇伝である『緑の騎士』伝承にて、『緑の騎士』ことベルシラックからその武勇を称えられて授かったもの。
この帯は彼が騎士として品行方正であることの証であり、武勇と誠実さが備わった完璧な騎士であることを示している。


【宝具】

『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:20〜40 最大補足:300人
ガウェインの愛剣・ガラティーン。柄に擬似太陽が納められた日輪の剣。
アーサー王の持つ『約束された勝利の剣』と同じく、妖精『湖の乙女』によってもたらされた姉妹剣。伝承では多くを語られる事のない聖剣だった。王とその剣が月の加護を受けるのに対し、彼とその剣は太陽の恩恵を受ける。『約束された勝利の剣』が星の光で両断するならば、『転輪する勝利の剣』は太陽の灼熱で焼き尽くす。
なお、『約束された勝利の剣』は一点集中型だが、此方は押し寄せる敵兵をなぎ払うために真横への放射型となっている。
さらに抜刀し、魔力をこめることで内部の疑似太陽が運動し、剣の刀身を可視できる範囲まで伸ばすことが可能だという。

【weapon】

『転輪する勝利の剣』

【人物背景】

白銀の甲冑を身に付けた白騎士。
『太陽の騎士』と謳われ、生真面目な性格だが重苦しく構えたところがなく、その態度はまさに清廉潔白を思わせる。
忠節の騎士であり、王への鉄の忠誠心と揺るぎない信頼により、ただ王のための一振りの剣であることを望んでいる。


【マスター】

アルミリア・ボードウィン@機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ

【マスターとしての願い】

聖杯を手に入れ、夫と兄の結末を変えたい

【Weapon】

【能力・技能】

【人物背景】

ギャラルホルンを束ねる七つの名家『セブンスターズ』の内の一つであるボードウィン家出身の令嬢。
ギャラルホルン特務三佐ガエリオ・ボードウィンの実妹。
後に大罪人となる男、マクギリス・ファリドと政略結婚で結ばれた。
婚約自体は政略的なものであるが、マクギリスもアルミリアも、互いのことを心から大切に思っていた。
 
【方針】

聖杯を手に入れるため、セイバーと共に戦う。しかし、外道の行いはしない。


387 : ◆hBqmt1dJ2k :2017/04/03(月) 17:51:01 mWIUA1Ws0
投下終了です。


388 : ◆NIKUcB1AGw :2017/04/03(月) 21:56:05 OAzxNh4s0
皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます


389 : 間桐少佐&バーサーカー ◆NIKUcB1AGw :2017/04/03(月) 21:57:14 OAzxNh4s0
聖杯戦争が三つの魔術師一族によって生み出されたのは、その界隈では有名な話だ。
すなわちアインツベルン、遠坂、そして間桐である。
そしてつい先ほど記憶を取り戻し、聖杯戦争のマスターとなった男も間桐の血を引く魔術師であった。
とはいえ、今回の舞台となる冬木市が本来存在した時代ではなく、昭和の時代の人間なのだが。


「冗談じゃないぞ……!」

間桐邸の一室で、彼は苦渋に満ちた顔つきで呟いた。

「何が悲しくて、また聖杯戦争なんかに参加しなくちゃいけないんだ!
 他にいるだろ! 喜んで参加するようなやつらが!」

彼は一度、聖杯戦争に参加していた。だがその結果は、散々たるものだった。
召喚したバーサーカーをまったく制御できずに腕を切断され、その暴走に無理やり付き合わされた。
よく生きていられたものだと、自分でも思う。
とにもかくにも聖杯戦争は終結し、義手の手配をしようとしていたところでこの有様だ。

「前回生き延びただけでも奇跡なんだぞ……!
 それをもう1回なんて……。死ぬわ! 確実に死ぬわ!」

顔を真っ青にし、狼狽する間桐。
だが、希望が完全に潰えたわけではない。

「せめて、強いサーヴァントさえ来れば……。
 頼む、セイバーあたりで強力なのが来てくれ……」

その言葉に合わせるかのように、彼が所持していた鉄片が光を放ち始める。
サーヴァントの召喚が始まったのだ。

「バーサーカーだけは勘弁してくれよ……。もうこりごりだ……」


390 : 間桐少佐&バーサーカー ◆NIKUcB1AGw :2017/04/03(月) 21:58:08 OAzxNh4s0

やがて、召喚が終わる。
間桐の前に現れたのは、簡素な仮面で顔を覆った痩身の男だった。
その目は危険な光を宿し、首には血でどす黒く染まったマフラーが巻かれている。
そして全身各所に、ホルダーに入ったナイフが装備されていた。
誰がどう見ても、危険人物である。

「ま、まさか……。いや、アサシンとかの可能性も……」

わずかな希望にすがりつつ、間桐はステータスを確認する。


【バーサーカー】


「終わった……」


◆ ◆ ◆


絶望のあまり倒れ伏すマスターを気にも留めず、バーサーカーはおのれの内で目的を確認していた。
狂化により理性が失われてもなお、彼の信念は陰りを見せていない。

(聖杯を……手に……。聖杯の力で、真の英雄だけが秩序を守る世界を……)

バーサーカーの真名は、ステイン。
おのれの理想とする社会のために、資格なしと判断したヒーローを幾人も殺害してきた大犯罪者。
人呼んで、「ヒーロー殺し」。

「ALL……MIGHT……!」

バーサーカーの口から漏れた、言葉の意味。
異なる世界の出身であるマスターが、それを理解することはできなかった。


391 : 間桐少佐&バーサーカー ◆NIKUcB1AGw :2017/04/03(月) 21:58:58 OAzxNh4s0

【クラス】バーサーカー
【真名】ステイン
【出典】僕のヒーローアカデミア
【性別】男
【属性】秩序・悪

【パラメーター】筋力:B 耐久:C 敏捷:A 魔力:E 幸運:D 宝具:D

【クラススキル】
狂化:C
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。
また、現界のための魔力を大量に消費するようになる。

【保有スキル】
戦闘続行:B
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

凝血:A
ステインが持つ「個性」。
他者の血を経口摂取することにより、相手を一定時間行動不能にすることができる。
効果時間は、相手の血液型によって変化。
O型が最も短く、A型、AB型、B型の順で長くなっていく。


【宝具】
『ヒーロー殺し』
ランク:D 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
彼は、高潔でないヒーローを認めない。
ステインの信念と、彼に対する民衆のイメージが複合して生み出された、常時発動型宝具。
属性が「中立・善」「混沌・善」のサーヴァントに対して与えるダメージが大きく上昇する。
また「ヒーロー」を自称する、もしくは不特定多数にそう認識されている相手に対しては、属性に関係なく同様の効果が発動する。

『ヴィランの夜明け』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:上限なし
彼の言葉は、本人の意志に関係なく悪の世界に激動をもたらす。
ステインが敗北したときに自動発動する宝具。
彼が敗北した瞬間を目撃した悪属性のサーヴァントはランダムでステータスが上昇し、
Cランクの「精神汚染」スキルを得る。
本人がこの変化を望まなければ、抵抗が可能。
また必ずしも肉眼で見る必要はなく、映像として見ても効果は発動する。


【weapon】
ナイフ数本、日本刀など

【人物背景】
本名・赤黒血染。
元はナンバー1ヒーロー・オールマイトに憧れ、高校のヒーロー科に進んだ純粋な青年だった。
しかし志の低いヒーローがまかり通るヒーロー社会に失望し、自主退学。
しばらくの間啓蒙活動を行うが言葉による改革に限界を感じ、
自分が資格なしと判断したヒーローを次々と殺害する凶悪犯と化した。

【サーヴァントとしての願い】
自分が理想とするヒーロー社会の実現


392 : 間桐少佐&バーサーカー ◆NIKUcB1AGw :2017/04/03(月) 22:00:11 OAzxNh4s0

【マスター】間桐少佐
【出典】Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚
【性別】男

【マスターとしての願い】
脱出でも優勝でもいいので、生きて帰る

【weapon】
特になし

【能力・技能】
間桐が衰える前の血縁者なので、魔術師としての能力はけっこう高い。
また信長には「無能な働き者」呼ばわりされていたが、仮にも少佐なので実務能力もそれなりにあったと思われる。

【ロール】
負傷により退職した元自衛隊員で、間桐の遠縁。
療養のため冬木市に来ているという設定。

【人物背景】
帝国陸軍の少佐で、間桐の分家出身の魔術師。
顔つきは間桐慎二にうり二つ(というか、スターシステムなので同じ顔)。
陸軍を掌握した信長に反発し、独断でバーサーカーを召喚。
ところがバーサーカー制御用に開発した拘束具がまったく効果を発揮せず、召喚直後に令呪ごと右腕を切断される。
さらにバーサーカーの暴走に付き合わされる羽目になるが、セイバーとランサーの活躍によりバーサーカーは敗退。
自身はランサーのマスターである花蓮に捕縛されるという形で、聖杯戦争から退場した。

今回は本編終了後から参戦。

【方針】
生存優先


393 : ◆NIKUcB1AGw :2017/04/03(月) 22:01:02 OAzxNh4s0
投下終了です


394 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/04/04(火) 21:22:29 3CfP4UhA0
>けだものサーカス
 逆転検事2より猿代草太と、FGOよりマタ・ハリですね。
 陽の眼を持つ女、世界最高峰のスパイである彼女がサーカスの団員として活躍するというのはとても新鮮な発想に感じました。
 しかしそんな慣れない仕事もあっさりこなしてのける辺りは、流石のマタ・ハリというべきか。
 草太と彼女のやり取りも友好的でこそないものの独特な味があり、双方のキャラクターの魅力が惜しみなく表現されているなあと思いました。
 こうしてみるとマタ・ハリさんはやはりすごくよく出来た人ですね。彼女の力が聖杯戦争で猛威を振るうのが楽しみです。
 投下ありがとうございました!


>聖杯鬼
 世界鬼より東雲あづまと、アカメが斬るよりスサノオですね。
 凄惨な虐待のパートから一転して少女の異常性が露わになる流れは実に見事だったように思います。
 単に可哀想な女の子なのではなく、致命的にどこかが破綻している、というあづまのキャラクターがよく伝わりました。
 スサノオは間違いなく性能的にも性格的にも当たりのサーヴァントですが、やはり彼女の扱いには難儀している様子。
 あづまの方も戦えるマスターなようですが、これをどうスサノオがサポートしていくかがキモでしょうね。
 投下ありがとうございました!


>アルミリア・ボードウィン&セイバー
 鉄血のオルフェンズよりアルミリア・ボードウィンと、Fate/EXTRAよりガウェインですね。
 聖者の数字発動中のガウェインの凄まじい強さが、無名の魔術師の視点を通すことで改めて伝わってきました。
 ガラティーンを解放せずに敵の宝具を切り伏せる辺りが特に、原作やFGOでものすごい強さを見せた彼を思い出させてくれました。
 マスターのアルミリアは罪悪感を抱きながらそれでも前に進むタイプのマスターのようなので、そういう意味でもガウェインはとても当たりのサーヴァントだったと言えそうです。
 誇りと気高さを持って勝利へ進む二人の紡ぐ戦いがどんなものか、非常に楽しみです。
 投下ありがとうございました!


>間桐少佐&バーサーカー
 コハエースより間桐少佐、僕のヒーローアカデミアよりステインですね。
 一度ならず二度までもバーサーカーを呼んでしまった少佐はまさに憐れ。
 おまけに今回もとびきり厄の強い人格をしたバーサーカーですし、本当に彼は運がない。
 ステインは原作同様自分の理想に向けて行動するようですが、それに少佐が付いてこられるかと言うとお察し。
 第二宝具の存在もあって、聖杯戦争全体に大きな影響を及ぼしてくれそうなサーヴァントだと思いました。
 投下ありがとうございました!


 投下します。


395 : 緋衣南天&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/04/04(火) 21:22:56 3CfP4UhA0


 この世に生を受け、産声をあげたその時から、少女の世界は苦悶に満ちていた。

 庭に茂る雑草よりもなお根深く、宿り木のように若き肉体へと絡み付いて無くならない無数の病巣。
 本来見目麗しいはずの外見は崩壊し、体を動かすことはおろか、呼吸するだけで地獄の激痛が襲い来る。
 常人であれば百度は狂死しているだろう苦痛に、然し少女は耐え続ける。
 血筋か、それとも境遇が齎したものか――度を越した自尊心を武器に、彼女は地獄を踏破せんとしていた。

「聖杯の叡智ぃ? 馬ッ鹿じゃないの。そんなもの、涎垂らした路傍の犬にでも食わせときなさいよ」

 少女は強い。人間として、間違いなく破格の強さをその内に宿している。
 それは、女ならではの強さであった。
 彼女は力に、奇跡に、過ぎたる幻想を抱かない。
 あくまでも使い勝手のいい道具として、自分に足りないただ一つを埋められればいいのだと心から信じている。
 
 たとえ根源への到達という大望を叶える力が自らの手中に収まったとしても、彼女は興味がないと吐き捨てることだろう。彼女に言わせればそんなものは、つくづく馬鹿馬鹿しい幻影でしかないのだから。

 愛は分かる。情も分かる。されどだからどうしたと、笑って踏み潰すのがこの少女だ。
 全身を隈なく病に冒され、狂的なほどの自尊心で寿命を繋ぎ止めている所は先代の外道達と変わらない。
 然し彼女は女だ。男である先代と違い、一切の物理的な強さを彼女は求めていない。
 道具がどれだけ優れていようが、自身が至高なことに変わりはないのだから、それ以上を望む意味がないという結論で自己完結している。

「結局のところ、大袈裟な力なんて要らないのよ。そんなものがなくたって、何も困りゃしないんだから」

 夢を踏み躙られ、それでも無様に足掻く足下の敵の背を踏み付ける。
 怯えるその頭に銃口を向けると、逆さ十字の少女は凄絶な笑みを以って引き金を引いた。
 軽い音、飛び散る脳漿。魔術師の体ががくりと脱力して朽ちる。それを見送り、少女は唄うように呟くのだ。

「私に足りないものはただ一つ――そう、寿命(それ)だけなのよ」


396 : 緋衣南天&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/04/04(火) 21:23:35 3CfP4UhA0
   ◆  ◆


「お帰りなさいませ、我が主よ」

 寂れて誰も寄り付かない、埃と煤に塗れた廃マンションの中で、その男の出で立ちは一際浮いていた。
 清潔感に溢れた白基調の衣服に優雅さをすら感じさせる黒のきめ細やかな長髪。
 顔立ちは実際に言葉を交わさずとも温厚な人柄の持ち主と分かる、ごく整ったものだ。
 外での戦いから帰投したマスターへ慇懃に一礼する姿は、誰が見ても忠臣の動作と認識することだろう。

「完成度はどのくらい?」

 それに会釈するどころか鬱陶しげな態度を示して、少女は藪から棒に問いを投げた。
 何と感じの悪い人間だと通常ならば驚きさえする場面だが、男――キャスターのサーヴァントは静かに微笑む。
 此処は誰からも忘れ去られた一軒の廃マンションだ。
 いつか取り壊しが決まるその日まで再び陽の目を浴びることはなく、静かに朽ちていくのみであった建物。
 然し現在、この場所はキャスターの秘術によって一個の巨大な"神殿"に高められていた。

「七割といったところでしょうか」
「遅いわ。もう聖杯戦争は始まってるんだから、もっとペースを上げなさいよ」
「申し訳ありません。では出来る限り急いで、続きに取り掛からせていただきます」

 傍若無人の一言に尽きる少女の物言いに対して文句も言わず、微笑すら浮かべて受け止めるキャスター。
 彼は優秀な男だ。緋衣南天という少女に使える道具との評を下させるだけの、優れた手際を持っている。
 このように時間さえ与えられれば、彼は霊地でも何でもない廃れた廃墟を立派な神殿に改造できるのだ。
 それだけではない。錬金術の一環として作り出す賢者の石。
 場面に応じて偵察にも攻撃にも転換できる人工霊体、エレメンタル。
 果てには複数体の同時思考さえ可能とする人造人間すら、彼はクラススキルの応用で精製してのける。

 この冬木の地に一体何体のキャスターが召喚されているのかは知らないが、その中でもヴァン・ホーエンハイム・パラケルススという男は間違いなく上位に食い込む、有能な男だ。
 そして南天もまた、口先だけで行動の伴わない愚図とは一線を画している。
 そのことは彼女がこれまでに、既にサーヴァントさえ殺傷しているという事実からも容易に窺い知れるだろう。

 部屋の奥へと消えていくマスターを見送り、パラケルススは悩ましげな溜息を零す。
 それはどこか哀れみにも似た感情を秘めた、良くも悪くも彼らしいものだった。
 ヴァン・ホーエンハイム・パラケルススは善の英霊だ。
 人を教え導くことに喜びを感じ、魔術師にあるまじき清廉ささえも内包する。
 その彼の目に、緋衣南天という少女はひどく哀れで、悲しい存在に写っていた。尤もそんな胸の内を彼女に看破された日には、下手をすれば険悪では済まないだろうと察しているからこそ、口に出す無粋はしなかったが。
 
「病み、悶え、苦しみの中で外道へと至った娘――嗚呼。マスターよ、貴女は何と悲しいのでしょう」

 緋衣南天の体に巣食う病巣を全て癒やすことは、医術に長けた彼をしても不可能と言わざるを得なかった。
 パラケルススがこれまで診てきた患者の中には、当然奇病、難病を患った重篤患者も居た。
 彼らは皆ひどく苦しんでいたし、しばしば自分の境遇を地獄と形容してみせたが、現在自分を従えている彼女に比べれば皆風邪にも満たない軽症だ。
 彼女の体は一言、異常――それすら通り越した異様なものだった。
 直接問診をした訳ではない。
 彼女は常に迷彩のような術を使い、自分の外見を隠蔽しているため、本来の姿を見た訳でもない。
 だが、傍目からでも分かった。何をどうすれば人体がああなるのかと、疑問符すら浮かべたくなる有様が。

「されど、我らの目的は競合している。私は大いなる悲願を、貴女は切なる望みを。
 叶えるために、我々は聖杯を手にしなければなりません」

 痛ましそうに、パラケルススは目を伏せる。
 人を慈しむ彼にとって、それはひどく心の痛む選択であった。
 だが、忘れるなかれ。彼は善人であるが、決して正義ではない。


397 : 緋衣南天&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/04/04(火) 21:23:54 3CfP4UhA0

「―――たとえ、いかなる手段を使おうとも」

 ヴァン・ホーエンハイム・パラケルススは魔術師なのだ。
 結局のところ、一般的価値観から乖離した彼らの倫理観と何も変わらないものを、この男は持っている。
 もしも無辜の市民を殺さねばならない状況に陥ったなら、彼はきっと、今のような顔をしながら殺すだろう。
 痛ましそうな顔で謝罪を述べながら、必ず殺すだろう。

 この男は、そういう魔術師なのだ。


   ◆  ◆


 夢が弱体化している。
 南天は先程の戦いを思い返して、苛立ち混じりの唾を吐いた。
 
 邯鄲法という術理が存在する。
 魔術とも錬金術とも異なる、極東の地にて密やかに確立された異能体系だ。
 緋衣南天はその使い手である。
 それも、一部の突出した例外を除けば最強と言っていい程の夢を彼女は使うことが出来た。
 
 羨ましいという感情を微塵も持たないが故に、初代とも二代目とも全く別の形を取った悪夢。急段・顕象。
 名を、『雲笈七籤・墜落の逆さ磔』。
 希望を抱いた者を現実に墜落させ、更に希望に対する不安をもトリガーとして起動する落魂の陣。
 一度嵌まれば逃れることはほぼ困難な陣の中へと落とし込まれ、抱いた希望の大きさに比例した墜落の衝撃を物理的に与えられ、抜け出すことも出来ずに敵は肉塊となる。
 これを扱える以上、サーヴァントであろうと緋衣南天の敵ではない。
 戦闘の土俵で南天は文字通り無敵の強さを誇っていた。然しその力が、この異界では発動すら覚束ないと来た。
 
「余計な真似を……」

 大方、この聖杯戦争を仕組んだ輩が施した枷のようなものだろうと南天は考える。
 マスターとして舞台に上がるのだから、それ相応の立場に矮化せよ――そういうことなのだろう。
 だが、それならそれでやりようはある。
 幸いにも、自分のコンディションが大なり小なり変動するという状況にはある程度慣れているのだ。
 サーヴァント相手であれ蜂の巣に出来る創形の銃に細やかな夢、キャスターの神殿が万全に整っていれば、それを差し引いても十分勝利を狙うことは可能だろう。

 後はどのように立ち回るかだが――暗躍は元より、この少女が最も得意とする所業だ。

「―――どいつもこいつも、ちゃあんと私の役に立って頂戴ね。あなた達は皆、そのために存在してるんだから」

 百年を超えて受け継いだ外道の血筋。
 腐った汚泥のような血液を体中に循環させながら、朔の担い手は密やかに嗤う。
 その笑顔はひどく可憐で、愛らしく、だからこそ、羽虫を誘い殺す靫葛のような深みを帯びていた。


398 : 緋衣南天&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/04/04(火) 21:24:14 3CfP4UhA0
【クラス】
 キャスター

【真名】
 ヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス@Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ

【ステータス】
 筋力D 耐久E 敏捷C 魔力A 幸運B 宝具A+

【属性】
 混沌・善

【クラススキル】

陣地作成:A
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。“工房”を上回る“神殿”を形成することが可能。

道具作成:EX
 魔力を帯びた器具を作成する。伝説の錬金術師として数多の逸話を有した彼は、このスキルをEXランクで習得している。
 賢者の石と呼ばれる特殊な結晶を初めにエレメンタルと呼ばれる五属性に対応した人工霊、高度な判断能力と複数体での同期思考能力を有する人造人間(ホムンクルス)といった多彩な道具を作成する。宝石魔術に用いられる宝石の大量生産も、陣地に接続した霊脈を利用することで可能となる。

【保有スキル】

高速詠唱:A
 魔術の詠唱を高速化するスキル。大魔術の詠唱を一工程で成し遂げる。彼の場合、これに加えて宝石魔術(具体的には賢者の石)を組み合わせて効率化を図っている。

エレメンタル:A+
 五属性に対応した人工霊を使役する能力。この人工霊をパラケルススはエレメンタル、または元素塊と呼称する。
 それぞれの属性元素を超高密度に凝縮させた結晶をベースにして作り上げられた魔術存在。火の元素塊は炎を凝縮させたモノであり、超高熱を操る。土の元素塊であれば超質量及び金剛(ダイアモンド)に等しい硬度を有する。なお、空=エーテルの元素塊は「エーテル塊」とは異なるもの。作成に掛ける手間次第ではあるが、サーヴァントの戦闘にもある程度まで対応可能な使い魔として操ることが出来る。

賢者の石:A
 自ら精製した強力な魔力集積結晶、フォトニック結晶を操る技術。
 ランクは精製の度合いで大きく変動する。
 ランク次第で様々な効果を発揮するが、Aランクともなれば擬似的な不死を任意の対象にもたらすことも可能。

【宝具】
『元素使いの魔剣(ソード・オブ・パラケルスス)』
ランク:A++ 種別:対軍宝具
 刀身の全てを超々高密度の"賢者の石"で構成された魔術礼装。パラケルススの魔剣であり、アゾット剣の原典。
 宝具本来の効果は魔術の増幅・補助・強化だが、この剣を用いて直接対象を攻撃するのではなく、刀身の魔力によって瞬時に儀式魔術を行使し、五つの元素を触媒に用いることで、一時的に神代の真エーテルを擬似構成し、放出する。
 実体化する擬似的な真エーテル(偽)はほんの僅かな一欠けらではあるものの、恐るべき威力で周囲を砕く。威力には自負があるものの、サーヴァント2騎以上をまとめて相手取って使用すべきと考えている。
 更に、単純な破壊とは異なる真の機能を有している。この剣を構成している賢者の石はフォトニック結晶、霊子演算器としての能力であり、星の聖剣の斬撃すら取り込むという。


399 : 緋衣南天&キャスター ◆srQ6oTQXS2 :2017/04/04(火) 21:24:34 3CfP4UhA0

【weapon】
 エレメンタルを始めとした宝石の数々。

【人物背景】
 パラケルススの名で広く知られる錬金術師。三原質と四元素の再発見を始めとして、数多の功績と書物を残した。
 生前は「遍く人々を、愛し子を救うために成すべきことを成す」として、魔術師でありながらその研究成果を世間に広め、医療の発展に貢献した。
 彼は人類史と魔術史の双方に名を残した希少な人間だが、それを疎んだ他の魔術師の手で謀殺されてしまう。
 
 生粋の魔術師であるが人を教え導くことに喜びを感じる人物で、どんな相手にも真摯に接する人格者。
 効果や効率を重んじすぎる魔術師の中では稀有な、魔術に風情や情感を覚える人柄の持ち主でもある。立ち振舞は理知的で気性は穏和、戦闘を好まず、人の情愛は何より尊いものであると説く。
 然し彼は清廉ではあるが、結局は「正しい魔術師」の一人であり、根源への到達という願望を果たすためならば誰でも裏切り、どんな手段でも取る人物でもある。

【サーヴァントとしての願い】
 根源への到達。


【マスター】
 緋衣南天@相州戦神館學園 万仙陣

【マスターとしての願い】
 聖杯を獲得し、自分の身に巣食う業病を癒やす。

【weapon】
 創法の形によって創形した拳銃。装弾数が無限であり、連射能力は機関銃を遥か凌駕した域にある。
 弾丸の一発一発には強力な解法が乗せられ、貫通力と概念的な破壊力を持ち、敵が練る異能を片っ端から崩壊させる。それが優れた咒法の誘導を受けることで自在に空を飛翔しながら対象へと着弾する。

【能力・技能】
 邯鄲の夢の使用が可能。延命のために他にも数多の魔道に精通している。
 本聖杯戦争では最弱とまではいかずとも弱体化しており、一対一の戦闘では無敵とまで称された急段『雲笈七籤・墜落の逆さ磔』は使用することが不可能。
 
 弱点として常人ならばあまりの苦痛に狂死するほどの死病を先天的に患っており、普段は病によって崩壊した外見を迷彩のように夢を使うことで偽装している。これは先祖である緋衣征志郎から受け継いだもので、死病をなくし健康体になるための生きる活力、精神力も彼と同じ域にある。


【人物背景】
 今代の逆さ十字にして、ただ生きたいと切に願い外道を働く少女。

 死病を癒すために暗躍し、世良信明へ恋人として取り入ることで自分の悲願を達成しようとした。
 その方法とは自身の盧生であり、かつて第二盧生・柊四四八に敗北して歴史から抹消された四人目の盧生候補者の復活である。
 柊四四八が盧生になるための試練を完全にクリアしていなかったその『穴』を突き、故に消滅を免れていた第四盧生を復活させ、四四八に勝利するという八層試練を再開させることを彼女は望んでいた。

 南天の体を冒している死病は第二盧生の資格を奪うために押し付けられたものであるため、死病を癒すには彼女の盧生を復活させる以外に方法はない。
 その方法として南天は初代逆十字、柊聖十郎の廃神化を目論見、現代に顕現していた夢なき彼を殺害。百年前にべんぼうの核であった世良信明を道具として入手する。
 そして第四盧生との接続を確かにするために鎌倉中の住民を邯鄲に接続、歴史を追体験させることで力を増し、現実で邯鄲の夢を使用するという領域にまで到達した。

 逆十字とは人を人と思わず、自分を至高と信じ疑わない自尊心の塊たる外道のことを指す。
 だが彼女は初代逆十字の柊聖十郎、二代目逆十字の緋衣征志郎とも違い、他人のことを羨ましいなどとは毛ほども思っていない。女である南天は先代と違い、物理的な強さを欲していない。どれだけ自分の道具が優れていようと、自身が至高なことに何の変わりもないだろうと彼らを嘲ってすらいる。
 彼女が聖杯戦争に足を運び、首尾よく聖杯を入手したならば、彼女はそれ以上のことを望むことはないだろう。彼女にとって先代が目指し、失敗してきた盧生の力など無用の長物であり、彼女にとって足りないものはただ一つ、自分の寿命だけなのだから。

【方針】
 聖杯を手に入れるために暗躍する。
 キャスターの神殿を拠点とし、手段は選ばず敵を殺す。


400 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/04/04(火) 21:25:08 3CfP4UhA0
投下終了です。
本作は柩姫聖杯様に投下させていただいた作品の流用になります


401 : ◆JN79cqD59g :2017/04/06(木) 16:49:25 1TUwUzMw0
投下させていただきます。
また当作は「悪性隔絶魔境 新宿」のネタバレを含みますので閲覧の際にはご注意ください。


402 : 「ケモノ」と「ケダモノ」 ◆JN79cqD59g :2017/04/06(木) 16:50:10 1TUwUzMw0



そこは心地よいまどろみの国。
夢は半ばとじた眼の前に揺れ、
きらめく楼閣は流れる雲間にうかび、
雲はたえず夏空に照り映えていた。





403 : 「ケモノ」と「ケダモノ」 ◆JN79cqD59g :2017/04/06(木) 16:50:30 1TUwUzMw0


これから戦場に変わる街、冬木の郊外にぽつりと佇む廃ホテル。
元は人目に付かないラブホテルとして使われていたそこは、廃墟特有の静寂に包まれていた。
しかし無人というわけではない。我が物顔で持ち主の消えた情欲の城を走り回っていた鼠や虫たちは今、じっと息を潜めて新たな城の主を見つめている。

右腕に赤いタトゥーのある、整った顔立ちの青年だった。
繁華街を歩きでもすれば遊び盛りの女どもが引っ切りなしに寄ってくるような恵まれた外見を持っていながら、その両目は鋭く尖り、冷たい色合いを湛えている。
こんな場所を寝床にしている上に、普通に生きてきただけではまず身に付けられないだろうその眼光。
たとえ素人が見ても只者ではないと瞬時に悟る、ある種の凄味とでもいうべき気迫が彼にはあった。

彼は思う。此処は、嫌な街だ。
誰もが生きているようで、生きていない。
儀式の円滑な運営のためだけに用意された機械じかけの箱庭。

此処には粘ついた欲望も、爛れた闇の臭いもない。
正確には"それしかない"のだが、そうした嗅ぎ慣れた悪臭はむせ返りそうなほどのプラスチック臭さで隠されている。
こんな街には一秒だって長居したくないと、青年は心底そう思った。
気が滅入りそうだし、何よりこんな場所で油を売っている暇自体そもそもないのだ。

瀬木ひじりという青年には、守らなければならない存在がいる。
年下の子どもよりもずっと弱く、脆く、それでいて計り知れないほど深い闇を小さな体に秘めた少女。
――東雲あづま。彼にとって世界とは彼女で、彼女とは世界だ。
瀬木ひじりは世界を守るためだけに生きている。存在することを許されている。少なくとも彼は、そう思っていた。

「ヒトを憎んだおまえには分からん境地だろうがな、アヴェンジャー」

アヴェンジャー。それは、復讐者を意味する言葉だ。
正当な聖杯戦争のクラスには存在しない、エクストラクラス。
この世全ての悪であることを押し付けられた青年や、シャトー・ディフの巌窟王。
そうした復讐の英霊どもと同じクラスを冠するヒトならざる獣こそが、瀬木ひじりの呼び出したサーヴァントであった。

「……俺の願いはあいつの願いだ。俺は聖杯を手に入れるが、聖杯の力を受け取るのは俺じゃない。
 大きな光は、大きな闇のところにこそあるべきだろう。だから俺は――すべての奇跡をあいつに"返す"」

瀬木は本来、生きて此処にいられる存在ではない。
彼は一度、確かに死んだ。汚れた男の野蛮な手で絞め殺された。
それでも今、瀬木ひじりは確かに生きている。
心臓は脈打ち、呼吸も正常。肌を切り付けようものなら、サラサラの血液が流れてくるはずだ。

曰く、一度死んでよみがえったものはこの世の条理から外れ、神域の存在になるという。
しかし瀬木は、自分を神に等しい超存在だなどとは微塵も思わない。
彼はあくまで、少女が起こした奇跡に拾い上げられただけの獣。
ゆえに彼が神託を受けた預言者が如く、東雲あづまという救世主に尽くすのはある種当然の話だった。

「気に入らないか? 奇遇だな、俺もそう思ってる。
 お前みたいな傍迷惑な狂犬があいつのそばにいなくてよかったと、お前を見る度安堵してるよ」

それに対してアヴェンジャーと呼ばれた獣は、明らかな怒りと苛立ちの滲んだ唸り声で応えた。
昼間でも薄暗い廃ホテルの一室、その暗がりの中に二つの獰猛な輝きが浮かんでいる。
相互理解という観念を真っ向から否定する、殺意と敵意に満ち満ちた魔獣の眼光だった。
瀬木もこのサーヴァントの性質はよく理解していた。理解した上で、彼はこれと支え合う選択肢を放り投げたのだが。


404 : 「ケモノ」と「ケダモノ」 ◆JN79cqD59g :2017/04/06(木) 16:51:08 1TUwUzMw0

"それ"は、妖しい銀色の毛並みを持つ巨狼であった。
獅子くらいなら前足の一振りで八つ裂きにしてしまうだろう、鋭く大きな爪と牙。
そしてそんな狼を駆る、首から上の存在しない騎士。
あらゆる命を刈り取る首狩り鎌を携えて、騎士は狼の背に跨って亡霊のような威容を示している。

「■■■■■■■……」
「……そんなにも人間が憎いか、アヴェンジャー」
「■■■■■■■――!!」

本来。このアヴェンジャーは、こうして聖杯戦争に召喚できる存在ではない。
Chaos.Cellという土壌、いくつもの並行世界が並列接続されたこの状況だからこそ召喚が成立した極めてイレギュラーなサーヴァント。
それが彼らだ。そして彼らを召喚することがもし出来たとしても、それを使役することがこれまた難題だ。
何故なら騎士に駆られる狼は、人間という生物全てを憎悪している。
たとえマスターだろうが構わず咬み殺してしまうほどに、その憎悪は深く重い。

「まあ、気持ちは分からなくもない。
 俺も奴らの醜さはよく知ってるよ。この目で嫌ってほど見たし、何ならこの身で味わった」

語る瀬木の瞳に、アヴェンジャーのそれと同種の憎悪が一瞬宿った。
紛れもない獣としての憎悪、人間が灯すことの出来ない種類の闇の感情。
そう――瀬木ひじりは人間ではない。
それこそが、彼が狼王と首なし騎士を従えられている唯一にして最大の理由である。

「それでも……俺にはそこに例外があった。お前には、なかった。俺たちの違いはきっとそれだけなんだ」

それでも、やはり相互理解は成り立たない。
復讐者はヒトを食らうことを望むが、信奉者はヒトを守ることを望む。
彼らは元を辿れば同じ獣だが、その一点において確実に交わらない。
救われなかったケダモノと、救われたケモノの違いだ。
どんな聖人でも、こればかりは覆せない。

「そうだ。俺とお前が分かり合うことはない」

瀬木は、いざという時には人間のように狼王に首輪を繋ぐだろう。
狩りに出る漁師のように、自分のためだけにその復讐心を利用するだろう。
場合によっては、彼を卑劣に切り捨てることだってあるかもしれない。

「なら、互いに精々利用し合おうじゃないか。
 俺はお前の牙が、爪が要る。お前は恨みのままに人間どもを食らい尽くしたい。
 利害は一致してるんだ。気に入らないからといって、わざわざ利益を殺しながら潰し合う必要もないだろ」

狼はそれに、一度唸り声を返すだけだった。
首なし騎士は何も語らず、ただ黙ってそこにいる。
瀬木もこれ以上の意思疎通は無意味と断じ、再び視線を窓の外へとやった。

狼と騎士。
二つは、全く別な存在だ。
融合して英霊化するなどありえない赤の他人同士。
いくらこれが何から何まで異常づくめの聖杯戦争とはいえ、"彼ら"が成立することがどれほどの低確率なのか瀬木には想像もつかない。


405 : 「ケモノ」と「ケダモノ」 ◆JN79cqD59g :2017/04/06(木) 16:51:54 1TUwUzMw0

瀬木ひじりは、復讐に飢えた狼王が気に入らない。
それでも、何も思うところがないわけではなかった。
遂に救われることなく、無念のまま生涯を閉じた一匹の獣。
語らいたいことも、掛けたい言葉も、実のところはゼロじゃない。

にも関わらずそうしないのは、瀬木なりの狼王に対する敬意だった。
救われた自分が何を言ったところで、それは彼に対する侮辱にしかならない。
だからこそ理解を投げ捨て、嫌悪をぶつけて目を逸らす。
人間を愛した結果、最後に救われた幸せな獣の話など――狼王(かれ)は聞きたくもないだろうから。





「■■■■■■……」

彼は過去、ただの狼だった頃から魔物と恐れられていた。
自分の倍以上もある体重の牛を引きずり倒し、悪魔のようと称される高い知性をも持った灰色狼。
彼はあらゆる罠を看破し、何百頭もの家畜や猟犬を食い殺した。
数えきれない同胞を殺めてきた人間たちを嘲るように、彼は狼の王として君臨し続けた。

そして遂に万策尽きた人間たちは、あるひとりの博物学者に白羽の矢を立てる。
学者はとても聡明で、腕の立つハンターだった。
しかし彼はそんな博物学者の罠や策もことごとく打ち破り、依然変わりなく猛威を振るい続けた。
それでも彼の打倒に燃える人間は諦めなかった。ある時とうとう、その最大の策が狼王を襲った。

「■■■■■■……」

彼ではなく、彼の妻を使った卑劣な策。
妻を殺されて怒りに燃える彼は、罠を破る知性さえ忘れ去って突進した。
結果彼は怨敵の罠に捕らわれ、最期の一瞬まで餌も水も口にせず飢え死にしたと伝えられている。
その気高き野生を目の当たりにした博物学者は彼に敬服し、同時に自らの卑劣を恥じたという。

「■■■■■■……!」

彼は、ヒトの卑劣に散ったケモノの成れの果て。
海より深い、底の見えない憎悪で人類を食らうケダモノ。

「■■■■■■■――!!」

聖杯の恩寵、奇跡の実現、そんなことは眼中にない。
彼はただ、本能のままに人類に復讐の爪牙を振るうだけだ。
たとえ己を呼び出したモノが、ヒトを愛するケモノだったとしても。
彼は止まらない。彼が彼である限り、絶対に。


【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
ヘシアン・ロボ@Fate/Grand Order


406 : 「ケモノ」と「ケダモノ」 ◆JN79cqD59g :2017/04/06(木) 16:52:22 1TUwUzMw0

【ステータス】
筋力A+ 耐久B+ 敏捷A+ 魔力E 幸運D 宝具B+

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】

復讐者:A
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情はただちにアヴェンジャーの力へと変わる。

忘却補正:B
人は多くを忘れる生き物だが、虐げられし獣は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、あらゆる人類種の喉元へ襲いかかる。

自己回復(魔力):B
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。魔力を微量ながら毎ターン回復する。

【保有スキル】

堕天の魔:A+
彼は堕ち、穢れ、復讐のみを求める魔獣である。
その猛烈な憎悪によって肉体の耐久力はアップし、高度の精神効果耐性も併せ持つ。

怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。
魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性で、使用する事で筋力をワンランク向上させる。
持続時間は『怪力』のランクによる。

死を纏う者:A
憎悪に任せて人を喰らい、自らの行く手を阻むすべてを断罪する。
彼の攻撃は一定確率で即死効果を発生させ、相手が人間に近ければ近いほど発生率は高まっていく。

【宝具】

『遥かなる者への断罪(フリーレン・シャルフリヒター)』
ランク:C 種別:対人 レンジ:1〜5 最大補足:1
二人の復讐心を形にした憤怒の断罪。
一撃で首を刈る、絶殺宝具。
因果を逆転するほどの力は持たないものの、宝具のレンジ内で微妙に世界への偏差を加える事によって『首を刈りやすくする』状況を形作る。

【weapon】
首狩り鎌

【人物背景】
3メートルを超す巨大な狼とそれに跨った首無しの騎士。
バーサーカーのように言語能力を失ったのではなく、最初から人語を話せない。乗り手が主ではなく、狼の方が主。
生前の出来事がきっかけで人間を憎んでおり、その憎悪は海より深く、人を喰らうのも空腹を満たすためではなく直接的な憎しみからである。

その真名は『スリーピー・ホロウ』の逸話で知られるドイツ軍人『ヘシアン』と、シートン動物記で有名な『狼王ロボ』の複合型サーヴァント。
しかし虚構である彼らに召喚が成立する理由はなく、本来英霊にも到れず、サーヴァントとして召喚されることはない。
そもそも生前全く縁のなかった者同士がパートナーとして結合することはありえないが、聖杯により『可能性の一つ』として抽出され、召喚が成立した。
状態としては『悪性隔絶魔境 新宿』で暴れ回っていた時とほぼ同じだが霊基は最初からアヴェンジャーとなっており、三人目の幻霊を繋いでいないため透明化はできない。


407 : 「ケモノ」と「ケダモノ」 ◆JN79cqD59g :2017/04/06(木) 16:52:42 1TUwUzMw0


マスターの瀬木についてはその正体を感じ取っており、敵意を向けることこそしないが、快くは思っていない

【サーヴァントとしての願い】
■■■■■■■■■■■■■■■■


【マスター】
瀬木ひじり@世界鬼

【マスターとしての願い】
あづまのために聖杯を手に入れ、使う

【weapon】
主に銃

【能力・技能】
生命エネルギーを物質に変換し、武器や道具を作り出すことができる。
喉の奥から銃を出現させ、舌で引き金を引いて発砲するという芸当も可能。

【人物背景】

――彼はある少女のためだけに、奇跡のような運命のもとに生きている

【方針】
アヴェンジャーを『使い』、他の願いある主従を潰す


408 : ◆JN79cqD59g :2017/04/06(木) 16:53:07 1TUwUzMw0
投下終了します


409 : 『想い』にかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/07(金) 20:11:41 VAJN2V0Q0
投下します
箱庭聖杯様に投下したものの流用です


410 : 『想い』にかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/07(金) 20:12:14 VAJN2V0Q0
「聖杯戦争に於いて、キャスターは最弱のクラス。特に優れた対魔力を持つセイバーには及ばない」

確かな気品と知性を感じさせ、自信に溢れた声が夜の空気を震わせる。

「けれど、如何なるものにも例外はあります。例えばこの私の様な」

月が照らす深夜のビルの屋上に二つの影。
一つは月に向かって傲然と胸を張る、黒衣を纏った、万人の目を惹きつける銀髪の美少女。
一つは屋上に倒れ伏した、輝く鎧を纏った剣士。
二人は共に聖杯戦争に招かれたサーヴァント。敗れて斃れ伏す剣士はセイバー、勝利して佇立する少女はキャスター。
黒衣の少女、キャスターは血でコンクリートを染めて倒れ伏すセイバーを悠然と見下ろした。

「クラスなどに捉われて、本質を見抜くことも出来ない愚者が勝利するなどあり得ませんわ」


二人の戦いは、短く一方的なものだった。
最初にキャスターは拳銃を取り出して銃撃、頼りの魔術も己の対魔力には通じぬと知って、無益と知りつつ銃なぞを用いる。
そう考えて、キャスターを侮ったセイバーが、一気に間合いを詰めて振り下ろした剣を、キャスターは魔力で作り出した剣で防ぎ、鋭い斬撃を立て続けに繰り出してきた。
キャスターとは思えぬ経験と身体能力に裏打ちされた剣舞に、セイバーが後退した間隙を狙って、キャスターが放った魔力の閃光。
ただ魔力をそのままに撃ち出す魔力放出は、宝具である堅牢な鎧を薄紙の様に貫いた。
たったそれだけで、セイバーは死命を制され、地に伏したのだった。



身体を光の粒子と変えながら、苦痛と悔恨に満ちた視線を送ってくるセイバーに冷たく告げる。

「貴方のマスター。ええ、あの魔術師ですけれど、あの方が私のマスターを倒して一発逆転………なんて事を考えていらっしゃるのでしたら…無駄だと申し上げておきますわ」

チラ…と、視線をビルの内部へと通じる扉に向ける。

「私のマスターは、私が魔術を施しておきました。もっとも私の魔術無しでも、ただ魔術を修めたというだけでは、決して撃ち倒せぬ手練れです」

金属が僅かに軋む音とともに、金髪碧眼の、男ならば誰もが見惚れ、女ならば誰もが羨望するであろうプロポーションの美少女が現れた。
腰に帯びたレイピアは、たった今修羅場を潜ってきた事を感じさせぬまま、鞘に収まっている。

「どうでした?始めて魔道の徒と交えた感想は?」

「明らかに場慣れしていませんでしたわね。貴方の魔力が籠った剣でバリヤーを貫いたら、案山子の様に棒立ちでしたわ」

僅かな疲労も感じさせずに、事もなげに語る金髪の少女。

「敵のマスターは?」

「痛みに耐えかねて気絶したので、拘束しておきましたわ。明日になれば誰かが見つけるでしょう」

二人の美少女の会話を聞きながら、セイバーは聖杯戦争から脱落した


411 : 『想い』にかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/07(金) 20:12:53 VAJN2V0Q0
〜3日前〜



豪奢な調度品が、部屋の主の優れた美的感覚に則り配列されている広い部屋。
その中に置かれたテーブルを挟んで座るのは、この部屋の中で最も美しい存在だと断言できる二人の美少女。
金の髪に翠がかかった碧眼の美少女と、銀の髪に紫水晶(アメジスト)の色の瞳の美少女は、ティーセットを配したテーブルを間に互いの顔を瞳に写していた。

「伺いますが、貴女はこの件にどう臨むおつもりですの」

最初に口を開いたのは銀髪の少女。嘘や誤魔化しを決して許さぬという意思を込めて、真っ直ぐに金髪の少女を見つめる。
外見上は自分とそう変わらぬ年の頃に見える銀髪の少女の目線に、何故か自分よりも遥かに永い時を生きたかの様な凄みを感じ、僅かに気圧されるも、怒りも露わに告げる。

「イキナリ人を拉致しておいて殺しあえだなんて、死ぬほど気に入らなくてよ。相応の報いを受けさせなければ気が済みませんわ」

銀髪の少女の眼差しが鋭さを増した。男でも目を逸らしそうな視線を向けて、金髪の少女に再度の問い。

「それでは、聖杯を破壊すると?」

「ウィ(ええ)」

間髪入れずに、眦を決して宣言する金髪の少女に、銀髪の少女は口元を吊り上げた。
その右手が霞むと、少女の白く美しい繊手には酷く不釣り合いな無骨な拳銃が握られていた。
驚愕に目を見開く金髪の少女の眉間に、銃口は不動の直線を引いている。

「超越存在である英霊が、只人の使い魔などに身をやつす訳をご存知かしら」

怒気も殺気も見せぬ問いかけ、然し答えを誤れば確実に死を与える。そんな確信を抱かせる問いかけ。

「生前に果たせなかった願いを果たし、残した未練を晴らす為……」

眼前に形として突きつけられた、明確な『死』を見ても、金髪の少女は怯まない。

「私が乗り気だったら、貴女は此処で生き残る為の命綱を、自ら手放すに─────どころか自らの死を望むに等しい発言ですわね」

艶やかに言ってのける銀髪の少女に、金髪の少女は怒りの籠った視線を向ける。

「けれどその率直さは気に入りましてよ。私は貴女のサーヴァントとして力を貸しましょう」

いきなりの宣言に、金髪の少女─────マスターはキョトンとした顔になった。


412 : 『想い』にかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/07(金) 20:13:20 VAJN2V0Q0
「アナタには…叶えたい願いは有りませんの?」

「そうですわね……無い、と言えば…嘘になりますわ」

銀髪のサーヴァントの願いが有るならば其れは唯一つ。『人としての生』。
少女が超越の存在となるに至った始まりの一歩。その時に力を得る代償として受けた呪いにより奪われた“人としての限り有る生”。
願いとしては至極真っ当なものだろうとは思う。決して願う事は無いが。
“人としての限り有る生”を失い、老いる事も死ぬことも無いまま、妖の様な存在として妖達に恐れられ続けた時間。
親しい人間全てを見送り、その子や孫までも見送って尚、不変のまま在り続けた自分。
妖と妖に関わる者達に、畏怖と共にその名を語られながら在り続けた時間。
悔いが無かったわけでもない。終わりたいと思ったことも有る。
だが、それでも、奇跡を願って自分の得たものを無くしてしまおうとは思わない。
力を得なければ、呪いを受けなければ、少女は人としての生どころか、人として過ごす時間すら得られなかったのだから。
古の世より黄泉帰った鬼と戦うことすら出来ぬ。古の世より黄泉帰った鬼に殺されて死んで終わる。そんな結末は人でなくなって永劫を過ごすよりも嫌だった。
それに、人で無くなる以前から人としては外れていた自分を受け入れてくれた者達もいた。
身も心も人で無くなった自分の思いを受け止めてくれた少年も居た。
『人としての生』を失ったが、『人としての時間』を満足しすぎるほどに少女は過ごしたのだ。
そこには何の未練も無い。想いを寄せた少年が大切にした日常を護れた力を得た事に悔いなど抱き様が無い。
それに─────。

「私は私……ですわ」

妖となって砕けそうな己を引き止めてくれた少年の言葉を思い出す。彼は『万能の願望機』なんてモノを餌にした殺し合いなんて絶対に許さない。
ならば己もそうするだけ、彼に胸を張って、“私は道を外さずに生きている”と言い切る為に。

遠くを見て呟く己がサーヴァントに、金髪の少女は訝しげな目線を向ける。

「願いなどというものは、自分の力で叶えるものでしてよ……それで、マスターに願い事は有りませんの?」

「フン!あたくしの願いはあたくしの力で叶えてみせますわ!それに……」

─────願いを餌に殺し合わせるなんて、あの人が知ったら絶対に止めようとするでしょうし。

そう、少女が想いを寄せる少年は、己の願いや信念の為に戦う事を否定はしないだろうが、その為に他者を踏み躙る事は許容するまい。
ましてや餌をぶら下げて殺し合わせるなどということには、ハッキリと否を唱えるだろう。
自分だってそんな事は気に入らない。だから反旗を翻す。少年への想いと己への自負に賭けて。

「さっきも言いましたわ!イキナリ人を拉致しておいて殺しあえだなんて、死ぬほど気に入らなくてよ。相応の報いを受けさせなければ気が済みませんわ」

キャスターは大きく被りを振って、答えに満足した事を示した

「では短い間ですが、手を携えて戦う者同士、ここで名乗っておきましょう」

言って、サーヴァントは胸を反らす。豊かな双丘が勢い良く揺れる。

「私の名は神宮寺くえす。キャスタークラスのサーヴァントとしてアナタと共に戦う者ですわ。私に万事任せておけば何も心配はいりませんわ。
どんなサーヴァントでもサッサとDETHって差し上げますわ」

マスターもまた胸を反らす。キャスターのそれより大きな年齢不相応なものが派手に揺れる。

「あたくしは亀鶴城メアリ。短い間ですが宜しくオネガイしますね。あたくしがいれば何も問題有りませんわ。マスターをサッサと撃破して差し上げましてよ」

そして二人は反っくり返って笑い出す。
ともに気位が高く、己が優れていると自負して止まない美少女二人は、共に同じ目的の為に魔戦に臨む。
胸に抱く自負にかけて勝利を目指し、胸に秘めた想いにかけて聖杯戦争の打破を目指す、二人の行く手に待ち受けるものとは─────。


413 : 『想い』にかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/07(金) 20:13:47 VAJN2V0Q0
【クラス】
キャスター

【真名】
神宮寺くえす@おまもりひまり

【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:C 幸運:C 魔力:A++ 宝具:EX

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】

陣地作成:A+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
街一つを異界とすることも可能。

道具作成:D
魔術的な道具を作成する技能。


【保有スキル】


対魔性:A
魔に属するものと戦い、撃ち倒し続けた。
魔族、魔性といったものと戦う際、戦闘判定が大幅に有利になる。


加虐体質:C
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
プラススキルのように思われがちだが、キャスターは戦闘が長引けば長引くほど戦いを喜び、冷静さを欠いていく。


千里眼:B
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。また、透視を可能とする。
さらに高いランクでは、未来視さえ可能とする。


無窮の叡智:A
キャスターが生前読み解いた『真実の書』より獲得した知識。
Aランクの魔術。高速詠唱。A+ランクの蔵知の司書の効果を発揮する。
また、英雄が独自に所有するものを除いた大抵のスキルを、C〜Bランクの習熟度で発揮可能。
このスキルを得る為には、耐える事など到底出来ぬ真実の書の膨大な情報量を受け止め、己が物とすることが必要な為、最高ランクの精神耐性の効果を常時発揮する。


魔力放出:A+++
武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、
瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。
……が、キャスターのものは、単に魔力を熱線として射出する、というものである。
質量共に破格の魔力を有するキャスターの魔力放出はそれだけで凡百の宝具に匹敵する。


414 : 『想い』にかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/07(金) 20:14:22 VAJN2V0Q0
【宝具】
第二の真実の書(神宮寺くえす)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

キャスターの存在そのもの。
キャスター生前読み解いた『真実の書』に秘められた呪い。
並の魔術師ならその片鱗に触れただけで絶命する膨大な情報量を持つ魔書を記した狂った賢者が、己の存在した証を永遠に残す為に、書に施した呪いそのもの。
膨大な情報量が齎す負荷に耐え、書を読み解く者は、己と同じ領域に立つ己の存在証明となる第二の己そのもの。
書を読み解く事が出来る、賢者と同じ領域に立つ者を、第二の『真実の書』として永遠に保全する為に、書を読み解いた者を不老不死とする。
この呪いによりキャスターは、限界に魔力を必要としない。
例え総身を消滅させられても、マスターから膨大な魔力を徴収して復活する。魔力が無かった場合は消滅する。





魔剣再現(ソード・ゴースト・リプロダクション)
ランク:B~A++ 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人

古の魔剣を魔力を用いて再現する。
ムーンセルが観測した再現魔剣は二つ。


閃雷魔剣(カラドボルグ)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:2~3 最大補足:1人

アルスターの英雄フェルグス・マック・ロイの剣を再現する。
オリジナルの様に剣身が伸びることは無いが、強度自体はオリジナルと遜色無い。


害為す裏切りの魔杖(レーヴァテイン)
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人


北欧神話に語られる炎の魔剣を再現する。膨大な熱量を帯びた閃光は呑み込んだ物総てを焼き尽くす。



【weapon】
スチェッキン:
ロシア製の大型自動拳銃。装弾数20発。少女の手には余るサイズだが、キャスターは簡単に使いこなす。
弾丸は魔力で幾らでも精製可能。あらかじめ術式を施した弾を用意しておくことも出来る。

スタンガン:
改造されていて、常人なら一撃で気絶する。

【人物背景】
鬼斬り役十二家の末席神宮寺家の跡取り娘。
ロンドンに留学して魔術を学んだ際、無窮の叡智と力を持つ『真実の書』を読み解き、強大な力を得る。
帰国後、復活した酒呑童子と戦い相討ちとなる。その時に『真実の書』の呪いが発動し、以後は不老不死の存在として永い時を生きる事となる。
許嫁という関係を越えて思いを寄せた少年との幸福な時間を得ることができたのは幸いだった。



【方針】
聖杯戦争の打破。

【聖杯にかける願い】
無い。


415 : 『想い』にかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/07(金) 20:14:42 VAJN2V0Q0
【マスター】
亀鶴城メアリ@武装少女マキャヴェリズム

【能力・技能】
フェンシングの達者で、しなるレイピアを用いて戦う。刺突主体のスタイルで狭い場所においては無類の強さを誇る。

【weapon】
レイピア

【ロール】
女子高生

【人物背景】
剣の遣い手で構成される愛知共生学園“天下五剣”の一人。五剣の中で最もスタイルが良い。フランス出身の日仏ハーフ。
フェンシングの達者で、狭い場所では無類の強さを誇る。
五剣一のぶりっ子と呼ばれているが、その実態は逆さ吊りにした対象者を回しながら竹棒で「ぶーりぶり!」と掛け声をかけつつ殴打する拷問を好むことから着いた呼び名。
寮の地下に専用の拷問部屋を有している。
日本語が不自由で常に辞書を持ち歩く。興奮すると日本語が飛ぶ。
フェンシングのルールに忠実で、戦闘時には常に左手を空けて辞書を持っているが、それでも充分に強い。
モチーフは天下五剣の一つ、『大典太光世』

【令呪の形・位置】
左手の甲に三角。

【聖杯にかける願い】
無い。

【方針】
聖杯戦争の打破

【参戦時期】
眠目さとり戦の後。ウーチョカのウィッグを探している時に『鉄片』を拾った。

【運用】
一応キャスターは、魔術による身体強化と魔剣再現で近接戦闘も下手なセイバー並みに熟せる。油断して近寄って来た相手をカモることが出来るだろう。
キャスターの魔術を施されたメアリも、サーヴァント相手に早々やられない程度には強い。
マスターに魔力が残っている限り死ぬことは無いので強気に攻めていける。
しかしマスターは魔力を持っていないので、慢心は禁物。


416 : 『想い』にかけて ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/07(金) 20:15:17 VAJN2V0Q0
投下を終了します


417 : ◆NIKUcB1AGw :2017/04/08(土) 22:11:54 PUDLaXIc0
皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます


418 : 入江正一&セイバー ◆NIKUcB1AGw :2017/04/08(土) 22:12:43 PUDLaXIc0
きっかけは、指輪だった。
まるでそれが当たり前のように、いつもはめていた美しい指輪。
しかし、いつどのように手に入れたかまったく思い出せない。
それは、あまりに不自然なことだ。
それについて考え続けた結果、彼は記憶を取り戻した。
自分は、世界の命運をかけた戦いの真っ最中だったことを。


◆ ◆ ◆


「基本世界から枝分かれた世界じゃなく、根本から異なるパラレルワールドか……。
 そういうのもあるんだな……」

時刻は深夜。入江正一は机に突っ伏し、聖杯から与えられた情報を反復していた。

「どんな願いでも叶える、ねえ……。たしかにその力があれば、白蘭さんに対抗できるかもしれないけど……。
 なんでよりによって、こんな切羽詰まったときに呼ぶんだよ!」

入江は世界を支配しつつある組織・ミルフィオーレファミリーの幹部であった。
だがその目的は、ボスである白蘭を内部から討つことにあった。
白蘭が異能に目覚め世界の独裁者になったのは、少年時代の彼の行動が原因だった。
その罪を精算するために、彼は打倒白蘭に全てをかけてきた。
だがその計画が重要な段階にさしかかっているタイミングで、入江は聖杯戦争に巻き込まれてしまったのだ。

あらゆる願いを叶えるという聖杯は、彼にとって紛れもなく魅力的な代物だ。
その力を使えば、人知を超えた力を持つ白蘭も労せず倒せるだろう。
だが、それを手に入れるための戦いで自分が死んでしまえば本末転倒だ。
すでに計画は動き始めているとはいえ、自分というピースが欠ければどう転ぶかわからない。
白蘭を倒すチャンスが、永遠に失われるかもしれないのだ。

「どうすればいいんだ……。ああ、またおなか痛くなってきた……」

腹部を押さえながら、入江は苦しそうに呟く。
その時、机の上に乗っていた鉄片が光を放ち始めた。

(ああ、サーヴァントとやらの召喚が始まるのか……。
 思えば研究室に落ちていたこれをうっかり拾い上げなければ、こんなことには……。
 今さら言ってもしょうがないけどさ)

後ろ向きな考えを抱きながら、入江は鉄片を見つめ続ける。
やがて、鉄片は軍服を着た青年の姿となった。

「あんたがマスターか。俺は正義超人……おっと、名前は伏せておいた方がいいんだったか?
 セイバーのサーヴァントだ。よろしくな」


419 : 入江正一&セイバー ◆NIKUcB1AGw :2017/04/08(土) 22:13:33 PUDLaXIc0


◆ ◆ ◆


「なるほどなあ。そりゃまた、複雑だなあ」

しばらく後、入江から事情を聞かされたセイバーは、そう呟いた。

「聖杯は手に入れば確実に楽になるが、なくても何とかできる。
 そして自分が死んだら、世界はおしまいになる可能性がある。
 そりゃ誰だって困るぜ」
「セイバーはどう思う?」
「ん? 俺か?」

入江に意見を求められたセイバーは、顎に手をやって考え込む。

「そう言われても、俺はあまり頭のいい方じゃねえからな……。
 ただ、俺はいちおう正義の味方だ。
 マスターが聖杯を手に入れるために罪のない人間を傷つけようって言うなら、俺はあんたに逆らわざるを得ないぜ」
「そうか……」

そこから数秒の沈黙を挟み、入江は再び口を開く。

「ありがとう、セイバー。おかげで覚悟が決まったよ。
 僕は、優勝は狙わない。生きて元の世界に帰ることを最優先にする。
 まあ、向こうから襲ってくる連中には手加減するつもりはないけどね」
「そうか、俺としてもそう言ってくれると嬉しいぜ。
 マスターの安全に関しては、安心しろ。俺が絶対に守ってやるからな」

満足できる回答が得られたことに、セイバーは快活な笑みを漏らす。

「さて、方針が決まったところで……。さっきから気になってたことを聞いていいかな?」
「なんだ?」
「君はセイバー、つまり剣士のサーヴァントなんだろう?」
「ああ、そうだ」
「だが見た感じ、君は刀剣の類を持っていない。
 どういうことだい? 必要なときだけ出てくるとか?」
「いや、そうじゃねえ。まあ俺がセイバーってのも、こじつけみたいなもんだからな。
 いいぜ、見せておいてやる。俺の宝具をな」

そう言うと、セイバーはすっと立ち上がった。
そして入江に背を向けると、右手を突き出し力を込め始める。
程なくして、その手から炎が吹き出した。

(これは……死ぬ気の炎!? いや、それとはまた違う力なのか?)

驚く入江の前で、セイバーは壁に向かって右手を振るう。

「ベルリンの赤い雨ーっ!」

次の瞬間、壁には大きく切り裂かれた跡が刻まれていた。

「これが俺の剣、ってわけだ」
「なるほど、生身でこれほどの破壊力とは……。君の戦闘力、身に染みて理解できたよ。
 ところで……」

咳払いを一つ挟んで、入江は言う。

「どうするのさ、壁壊しちゃって」
「あっ」


420 : 入江正一&セイバー ◆NIKUcB1AGw :2017/04/08(土) 22:14:29 PUDLaXIc0

【クラス】セイバー
【真名】ブロッケンJr.
【出典】キン肉マン
【性別】男
【属性】中立・善

【パラメーター】筋力:B+ 耐久:C 敏捷:B 魔力:D 幸運:C 宝具:C

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:E
乗り物を乗りこなす能力。
特に乗り物に関する逸話を持たないため、申し訳程度の効果しかない。

【保有スキル】
超人レスリング:A
超人として生まれ持った才覚に加え、たゆまぬ鍛練と実践経験を重ねたリング上で闘う格闘技能。
Aランクでようやく一人前と言えるスキル。

戦闘続行:B
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。


【宝具】
『ベルリンの赤い雨』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-2 最大捕捉:1人

ブロッケン一族に伝わる、伝統の必殺技。
見た目は単なる大振りのチョップだが、強靱な超人の肉体をも切り裂くその威力はまさしく「手刀」である。
この技を受けた敵から噴き出した血が、まるで雨のようにリングへ降り注ぐことからこの名がつけられた。
特に力を込めた一撃の際は、手が炎に包まれたり刃そのものに変化するといった現象が見られることもある。

【weapon】
「リモコンハット」
ブロッケンが普段からかぶっている帽子。「リモコンキャップ」と呼ばれることもある。
持ち主の意志によって自在に宙を舞い、かく乱のために使われたりする。

「ドクロの徽章」
ブロッケン一族は生まれたときは人間であり、厳しい鍛錬に耐えた者だけがこの徽章を与えられ超人となる。
これを捨てることは、超人の肉体を捨て人間に戻ることを意味する。
ステータス的には、幸運以外の全ステータスが大幅に低下し、宝具が使用不能となる。

【人物背景】
ドイツの名門、ブロッケン一族出身の超人。
超人オリンピックでラーメンマンに殺害された父・ブロッケンマンの後を継いで超人レスラーとしてデビュー。
後に正義超人の主力メンバーである「アイドル超人軍団」の一人として、数々の敵対勢力と死闘を繰り広げる。
若さゆえの荒々しい戦闘スタイルが特徴的だが、同時に自分の使命は命に替えても果たす使命感を持つ。

【サーヴァントとしての願い】
マスターと弱者を守る。


421 : 入江正一&セイバー ◆NIKUcB1AGw :2017/04/08(土) 22:15:43 PUDLaXIc0

【マスター】入江正一
【出典】家庭教師ヒットマンREBORN!
【性別】男

【マスターとしての願い】
元の世界への帰還

【weapon】
「晴のマーレリング(偽)」
世界の均衡を守る3種×7個の秘宝「トリニセッテ」の一種である「マーレリング」の一つ。
……と現時点での入江は思っているが、実際には白蘭が用意したレプリカ。
ただしレプリカといってもAランク相当のリングなので、秘められた神秘はかなりのもの。

【能力・技能】
「晴の炎」
筺(ボックス)兵器の使用に必要な生命エネルギーの一種。
晴の炎は「活性」の効果を持つ。
入江は筺兵器を持ち込んでいないため十全に効果を発揮することはできないが、
サーヴァントに注ぎ込めば効率的な回復ができる可能性がある。

「機械工学」
世界でトップクラスのエンジニア。
現在の常識を超越した機械の製作が可能。
ただし、冬木市で資材が充分に調達できればの話であるが。

【ロール】
大学院生

【人物背景】
10年後の世界を牛耳るミルフィオーレファミリーの幹部で、日本攻撃の責任者。
元は沢田綱吉の近所に住むごく一般的な少年だったが、
わずかな間10年後の自分と入れ替わる「10年バズーカ」の弾を偶然手に入れ暴発させてしまったことで、タイムスリップを経験。
自分の未来を理想通りに改変しようと企むが、その過程で偶然出会った青年・白蘭に「平行世界の自分と記憶を共有する」異能に目覚めるきっかけを与えてしまう。
能力を使い白蘭が独裁者と化したことに責任を感じ、幾度も歴史改変を試みるも失敗。
最後の希望として綱吉と結託し、唯一白蘭を倒せる可能性のある10年前(現在)の綱吉たちを召喚。
自らは敵として彼らの前に立ちはだかり、成長を促す。
組織内では冷静な司令官として振る舞っていたが、本来は温厚で気の弱い青年。
神経性の腹痛が持病のようで、トラブルが起こる度に「おなか痛い」と呟いている。

今回は、綱吉たちがメローネ基地に突入する直前からの参戦。

【方針】
聖杯に魅力は感じるが、脱出を優先


422 : ◆NIKUcB1AGw :2017/04/08(土) 22:16:31 PUDLaXIc0
投下終了です


423 : ◆zzpohGTsas :2017/04/08(土) 22:48:09 i39ZvVK20
投下します


424 : コギト・エルゴ・スム ◆zzpohGTsas :2017/04/08(土) 22:48:40 i39ZvVK20
 男は、その女にサーヴァントとして呼び出された瞬間に、気付いた。
自身のマスターに当たるその女が、生身の人間では断じてない、と言う事を。

「知性って奴が、お前にはあるか? アサシン」

 その女は、これから自らと一蓮托生、運命共同体になるアサシンが召喚されるなり、そんな事を訊ねて来た。酷く、礼節を欠いた言葉であった。

「……呵々。風貌の悪さってぇのは損だねぇ。一目で、チンピラとしか思われないでやんの」

 いきなり、無礼と言う次元の問題ではない程の言葉を投げ掛けられても、そのアサシンはさして不満げな様子を見せなかった。 
目の前のマスターにそんな事を言われるのも、むべなるかな、と言うような姿を彼はしていたからである。
方々に広がったままにした紫色の髪、鋭くつり上がり、凶悪そうなオーラを隠しもしない顔付き。そして、身に纏うパンクファッション風の衣服。
男は、誰がどんな角度から眺めても、不良、或いは、チンピラとしか思えないような出で立ちをしていた。知性と呼ばれるものの、欠片すら見当たらなかった。

「ご覧の通りの見てくれでね。およそ、教育と呼べるような高等な物は全然受けてないな」

「いや、言い方が悪かった。あたしの言う知性って言うのはさ、『思い出』を尊いと思える感性って言うのかな……それの事なんだ」

 アサシンに知性の有無を問うて来た女の風貌もまた、知性があるのかと言われれば、首を傾げるものだった。
割った卵の殻の半分を下向きにした様な緑色の髪に、オーバーオール。その下に、下着は着ていない。明らかに、着込むべき服の数が足りていない。
それがファッションの一つと言うのなら否定はしないが、何れにしても、知性云々を話すには、目の前の女性は不適切な恰好であった。

「煙に巻く言い方はよせや。何か意図する事があって訊ねたんだろ? 本質を語れ」

「あたしは、今の境遇が許せない」

 水飲み台の蛇口を捻り、勢いよく水を噴出させ、それを手で掬って女は飲む。
零れた水が、頬や首筋を伝い、オーバーオールの内側に落ちて行く。二人は、夜も更けて来た公園で話をしていた。

「こんな物を刻み込まれてるけどさ、あたしは人間じゃない。ま、アンタも気付いてるだろ?」

 そう言って女は、自分の左手に刻まれた、淡く赤色に発光するトライバル・タトゥーに目線を向けた。
無数の小さい円が無秩序に寄り集まった意匠のこらされた、独特の刺青。令呪、と呼ばれるものらしい。
聖杯戦争に於いて自分がマスターである事を証明する証であり、目の前のアサシンに対する絶対命令権の役割も果たすと言う。

「まぁ、な。身体の構成が肉と言うか……液体の比率が異様に多い。アンタ、一体何者なんだ?」

「沼とか池とか湖に行けば、目に見えないけど無数に見られる、アレだよアレ」

「俺には学がないと、さっき言った筈だぜマスター」

「つまり、アレだよ。『プランクトン』」

 あっけらかんと、女は言った。

「クッハハハ……!! 普通なら嘘吐けや、と言いたい所だが……本気でそんな事を言ってるんだから笑えてくるな!! こんなにデカくて、ここまで饒舌なプランクトンがいるかよ!!」

「知ってる。あたしは自分が、人間の世界でどれ程異端な存在なのか、よく理解してる」


425 : コギト・エルゴ・スム ◆zzpohGTsas :2017/04/08(土) 22:48:54 i39ZvVK20
 そう、彼女――エートロと言う女囚の肉体を借りて活動している、F・F(フー・ファイターズ)は、真実無数のプランクトンが集合して出来た存在であり、
それが人間社会で生活すると、どれほど異質な物になるなのかも知っていた。それはきっと、彼女が生涯の半数近くを過ごしていたあの湿地で、
プッチ神父に命ぜられるがままに、倉庫に隠されていたDISCを守っていたままでは、知る事もなかった事柄なのであろう。

 徐倫達と出会ってからの思い出(きおく)は、F・Fにとっては、どれもかけがえのないものであった。
F・Fは、何でも覚えていた。G.D.st刑務所の至る所に刻まれた落書き。その中でも、公衆電話に刻まれた意図も意味も解らない落書きは、F・Fの記憶に良く残っている。
エートロの好みに反して呑んだ紅茶の味も、ライスの味も、シャケの味も、舌が覚えていた。
牢の中のゴミの臭いや毛布の臭い。いつも水の出が悪いトイレの音や、ギギギと軋む音がうるさいドアの開閉の音も。
そして何よりも、徐倫達との何気ない世間話やおふざけの事も、F・Fは全て覚えていた。水族館と揶揄されていたあの刑務所での、短いながらも、大変充実した毎日は、F・Fにとって大切な思い出になっていた。

「ただのプランクトンに過ぎなかったあたしが、大事な思い出に縋る事が出来る。だからあたしは、知性って奴が大事なんだと思う。思い出を思い出と認識出来る感性が、素晴らしいんだって思える」

 水族館での毎日は、本当に短い時間だったが、毎日が楽しさと充足感に満ち溢れ、今のF・Fにとっても大切な記憶になっている。
だが翻って、それ以前、農場の倉庫に隠されたDISCを、命令に従うがまま、その意味を考える事もなく守っていた毎日は、どうだ。
プッチ神父のスタンドであるホワイトスネイクのDISCを守るひたすら守るだけだった毎日は、虚無のようなそれだった。
毎日が、機械のようだった。夏も冬も、時間は均質に流れ、一日が始まり一日が終わる。何年も、あの場所で過ごした筈なのに。
其処での日常が齎す思い出は、F・Fにとってはゼロだった。水族館での毎日に比べたら、余りにも無味乾燥とした、刑務所の給食よりも遥かに味気のない記憶。

 湿地帯での機械的な日常に戻る事も怖かったが、それ以上に、己の知性を失う事がF・Fには怖かった。
知性の喪失とは即ち、徐倫達と紡いだ思い出も認識出来なくなり、それが消滅してしまうと言う事である。
思い出が、細胞に、プランクトンに、勇気を与えてくれる。その感覚の何と尊く、素晴らしい事なのか。その感覚の為に、F・Fはその命を差し出し、徐倫やアナスィ達にチャンスのリレーを行って見せた。

「生きる事は、思い出を作る事何だって、あたしは今でも思ってる。いつか来る死に際に、こんな事があったんだって思い出す時、思い出し切れない程の思い出を作る事が、意義なんじゃないかってさ」

 そしてF・Fは、徐倫達の為にその身を殉じさせた。
アナスィを救い、徐倫の父親である承太郎のDISCも回収し、嘗て敵であった自分の命を救ってくれた徐倫に、さよならを言う事が出来た。
それで、F・Fは満足だった。徐倫達との思い出を認識した知性をそのままに、遠い世界へと旅立つ事が出来る。それで、良かった、筈なのだ。

「あたしの最期は満足だったよ。大切な友達に、別れの挨拶も言えて、プランクトンにしては万々歳の生涯だったんじゃないかな。それなのに、さ――あたしは、此処にいる」

 タネを明かせば、呆気なさ過ぎる事柄だ。
たまたまF・Fが事切れていた場所に、聖杯戦争の舞台となるこの冬木に呼び出される為の鉄片があった、と言うだけに過ぎない。
そんな下らない偶然の為に、彼女の最期は汚された。自分が本当に、あのまま徐倫にさよならを言ったフー・ファイターズなのかと言う確証を持てなくなった。
徐倫は別れ際、神父から自分のDISCを取り戻し、自分を絶対に蘇らせると叫んでいた事を思い出す。だが、その行為は違うのだ。
それによって自分を復活させても、蘇るのは自分とは違うフー・ファイターズ。徐倫達と思い出を紡いだ彼女ではなくなるのだ。
それと同じだ。鉄片によってこの世界に呼び出された自分は本当に、『あの』F・Fなのか? それとも、あのF・Fの記憶だけを引き継いだコピーなのか?
悩ましい事だった。そして、怒りを覚える事だった。徐倫達とのかけがえのない記憶と、それを認識する知性に、変な水を差されたような感覚だった。

「あたしは自分の知性と思い出を踏みにじる奴は許せないから、さ――」

「許せない、から?」

「……どうすっかな〜〜〜〜〜」

 頭をガシガシ掻いて、バツが悪そうにF・Fは言った。其処から先は、何も考えていないようだった。


426 : コギト・エルゴ・スム ◆zzpohGTsas :2017/04/08(土) 22:49:24 i39ZvVK20
「エートロの記憶も役に立たない所だし、日本何てあたしにとっちゃ遠く離れた場所だし、どうしようもね〜な〜」

「だったら、此処でも思い出を作ってけばいいじゃねぇか」

 ピクッ、とF・Fが反応した。

「いつまでも袋小路(デッドエンド)にいるのは、もう俺はやめる事にしたんだ。お前は、いつまでも悩むような案山子にでもなるのか?」

 このアサシンのやる事は何時だって変わらない。
己に宿る戦闘に対する渇望の赴くままに、強者と戦い、屠るだけ。この男は、何処までも戦闘と言う物を愛する戦闘狂であった。
そんな男が、F・Fに対してある程度親身になっているのは、彼女の言っている事をアサシンは彼なりに理解しているからだった。

 男もまた、F・Fと同じく、自分の生涯の殆どを過ごして来たスラムでの記憶が希薄だった。
上から命ぜられるままに、帝国の要所の一つであるスラム街の監視を任された彼は、其処で生活を送り、時には喧嘩を行い燻るを心を無聊する、
と言う荒んだ毎日を送っていた。それでも彼が自己を保てたのは、そんな生活も悪くないと思っていたのと同時に、やがて来る『聖戦』の為であった。
そして遂に――その聖戦の日が訪れ、アサシンは、帝国の英雄と謳われ、最強の星辰奏者(エスペラント)の称号を欲しいままにする、あの閃剣の男。
クリストファー・ヴァルゼライドとの戦いの一番槍を引き受けたのだ。そして、完膚なきまでに敗北。一度は殺されそうになった、その時に、あの男が現れた。
ジン・ヘイゼル。精緻な技術で生活する技術者にとって何よりも大切にするべき自分の左腕と引きかえに、アサシンを産み出した男。
アサシンにとって父親に当たる、老いぼれた拳闘士。嘗てアサシンが、こいつを倒せば胸に空いたムカつく風穴が埋まるのだと、狂信していた男。
小娘一人を守る為に、牽制程度の拳に膝を付いた老骨。そんな男が、英雄に殺されそうになったその時に姿を見せ、『自分の失敗作(むすこ)を英雄に勝たせる』とのたまったのだ。

 そして、ジンと一緒にヴァルゼライドと戦った時の記憶は、サーヴァントの身の上となった今でも鮮明に覚えていた。
魂と記憶が共に摩耗してもなお、忘れる事など出来はしまいと言う程輝かしく、身を焦がし燃え上がる程熱いあの出来事を、どうやって脳裏から除去出来ると言うのか。
糞親父の得意面した説教と、奴の鼻を明かさんと戦いの中で急速に成長して行く自分。そして、親父の老練の技術を、若い身空で直に吸収して驚かせる喜び。
そして、時間が進む毎に、嘗て己を苦しめていた、胸に大きく開いていた虚し過ぎる風穴が満たされ、どれだけ夢想しても見えもしなかった未来が見える。
嘗てジンが追い求めた拳の極致、完成系。それに至る。自分が不完全であったと認め、新しい一歩を歩む。それは、男が愛した女で童貞を捨てる様子に似ていた。
その完成体に至る為に、これ以上と無い階梯、クリストファー・ヴァルゼライド。英雄を、己の究極、ジンの究極の為にしようと決めてからの戦いは、アサシンの生涯で最高の一時だった。

 男は嘗て、一人の男の左腕に過ぎなかった。当時最強の拳士であった事は間違いない、ジン・ヘイゼルが、命よりも大事な左腕を犠牲にして生まれた失敗作だった。
全方位に優れた存在であれ、と言うジンの理想に反して生まれたのは、一点特化の怪物。若い頃のジンの、戦闘に対する希求のみで形作られた、不出来な粘土細工。
心の何処かでそうであると認識していたから、頭が薄らと自分が未熟児だからと理解していたから。アサシンは――『アスラ・ザ・デッドエンド』は。
満たされなかった。求められなかった。虚しかった。アスラもまたF・Fと同じで、過去の記憶の殆どが、如何でも良い、憶えていようがいるまいが、差支えのない記憶。
アスラの充実していた時間など、F・Fよりもずっと短い、線香花火のような一瞬の事である。だが、その刹那が、アスラにとっては永遠だった。
その刹那/永遠がある限り、アスラはもう自分を見失わない。己を磨き続ける、高め続ける、戦い続けるのだ。あの身勝手な父親の影を踏み、そして、追い越す為に。


427 : コギト・エルゴ・スム ◆zzpohGTsas :2017/04/08(土) 22:49:38 i39ZvVK20
「さぁて、どうするよプランクトン。お前の心は、もう決まったのか?」

「……そうだな。アサシン。お前の言う通りだ。どうあれ、あたしはあたしだ。此処でも、徐倫のそれに負けない位の思い出を作ってやるさ。そしてあわよくば――」

「あわよくば?」

「聖杯を手に入れて、友達の手助けでも、してやるか」

「呵々!! そいつぁ良い。優勝記念のトロフィーはお前にでも譲ってやる!! 俺は、それを手に入れられたって事実だけで――もう、満足よ」

 一先ず、F・Fが袋小路から脱した事を理解し、アスラはニヤリと口角を吊り上げた。それでこそ、己のマスターだった。
自分をプランクトンに過ぎなかったと言う女、自分を未熟児・左腕に過ぎないと認めていた男。案外、性根も在り方も似ているんだな、とアスラは思った。

「さぁてマスターよ。そうとなりゃ、とっとと出向きますか。俺は、早く自分の限界の先を往きたくて、しょうがねぇ」

 戦闘狂としての側面を見せ始めたアスラに対し、F・Fが苦笑いを浮かべた。自分の性分が浮いている事はアスラも理解している。
理解していても、早くに超えたかった。そして、地獄にいる筈のジンに、自慢してやりたかった。俺はアンタを、超えたんだと。アンタの先を見たのだと。
『英雄』が集まる聖杯戦争なら、糞爺も認めてくれるだろうと、アスラは淡い期待を胸に秘めたのであった。何処までも彼は、悪童なのだった。




【クラス】

アサシン

【真名】

アスラ・ザ・デッドエンド@シルヴァリオ ヴェンデッタ

【ステータス】

筋力B 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運E 宝具C++

【属性】

中立・悪

【クラススキル】

気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。

【保有スキル】

魔星:B+
正式名称、人造惑星。星の異能者・星辰奏者(エスペラント)の完全上位種。
星辰奏者とは隔絶した性能差、実力差を誇り、このスキルを持つサーヴァントは総じて高い水準のステータスを持つ。
出力の自在な操作が可能という特性から反則的な燃費の良さを誇るが、欠点として、その本領を発揮していくごとに本来の精神状態に近付いていく。
本気を出せば出すほど、超人の鍍金は剥がれ落ちる。……が、アサシンはその出自が他の人造惑星と異なる為、そのデメリットは存在しない。
また通常、魔星と呼ばれる存在はモデルとなった人物の死体が必要なリビングデッドと呼ぶべき存在であり、死者殺しの能力や宝具の影響を完璧に受ける存在だが、これもアサシンには効き目が極端に薄い。

勇猛:A+
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

透化:B(A)
精神面への干渉を無効化する精神防御。暗殺者ではないので、アサシン能力『気配遮断』を使えないが、武芸者の無想の域としての気配遮断を行う事が出来る。
後述の宝具を封印する事で、透過のスキルランクはカッコ内の値へと修正される。

拳法:A++(A+++)
体系化された、拳足を用いた格闘術、その総称。属に言う喧嘩殺法とは一線を画した、素人には対応不可の高度な技術体系。
ランクA++は達人中の達人。1対1の喧嘩は元より、1対他の喧嘩だけでなく、銃を操り戦車を駆る人物とすら戦え、一方的に叩き伏せられる。
後述の宝具を封印する事で、スキルランクはカッコ内の値へと修正。ある英雄との戦いで至った、拳の境地に到達する事が出来る。


428 : コギト・エルゴ・スム ◆zzpohGTsas :2017/04/08(土) 22:49:53 i39ZvVK20
【宝具】

『色即絶空空即絶色、撃滅するは血縁鎖(Dead end Strayed)』
ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大補足:1〜3
アサシンが保有する、旧時代の拳法、その体系が宝具となったもの、とアサシン自体は説明している。
人体を内部破壊させる特殊な拳法であり、殴った相手が内側から破裂したりするだけでなく、指先が掠めるだけで敵の頭が破裂し、
ほんの僅か突いただけで肉はそのまま骨だけがひしゃげる、殴られたのは眼前の相手な筈なのに何故か隣の人間が破裂する、殴っただけでビルが跡形もなく崩壊し、
大地を揺らしながら土中を進み、大地はまるごと粉砕される。 アサシンに曰く人間の究極、努力の延長。修練を積めば誰にでもできる事らしい。

勿論ただの拳法では断じてなく、その正体はアサシン、もといクロノスNO.η・色即絶空(ストレイド)が保有する星辰光と呼ばれる特殊能力。
その本質はある種の衝撃の操作であり、アサシンの操るこの能力は、極めてその操縦性が高い。
通常は波紋のように対象へ伝達される衝撃を、自由自在に操縦すると言う宝具だが、その応用力は極めて高い。
衝撃を一点に集中させて威力を爆発的に高めるだけでなく、逆に相手から貰った殴打の衝撃を任意に逸らして威力の大幅な低減どころか、ノーダメージにまでする事も可能。
攻撃が衣服に掠っただけで、肉体が弾け飛び、急所が破裂する為に、文字通りの一撃必殺の魔拳。言ってしまえば相手の全身が、致死の秘孔となる。
欠点は、衝撃を逃がす場所がなければ衝撃を逃せない事。 物体に接触しているアサシン倒す事は不可能だが、空中などで攻撃を受ければダメージはそのまま通る。
無論、アサシン自身はその弱点を熟知している上滅多な事ではそんな愚挙を起こさないが。

この宝具でしか倒せない相手には勿論、アサシンはこの宝具をフルに活用するが、その真価はこの宝具が封印するか、使えなくなった時。
アサシンはこの宝具を自らの意思で使わないか、敵から封印された時、透化スキルと拳法スキルのランクがカッコ内のそれに修正。
生前、光の英雄とすら言われた男をして死を覚悟させた、拳の極致とも言うべき境地に到達し、爆発的に技の冴えが鋭くなる。

【weapon】

【人物背景】

アドラー帝国に存在する、貧民窟を実力で束ねているスラムの若き支配者。絵に描いたような戦闘狂として、血沸き肉踊る闘争をいかなる時でも渇望している。
星辰体アストラルと感応するための強化措置を受けていないはずながら、驚異的な戦闘力を誇り、その力は並の星辰奏者エスペラントを軽く凌駕する。本人曰く拳の極み。
正体はジン・ヘイゼルの左腕を素体として製造された人造惑星、クロノス-No.η(イータ)・色即絶空(ストレイド)。
腕を素体に作られたために他の人造惑星のような生前から引き継いだ衝動を持たず、非常に刹那的かつ享楽的。
嘗てはその衝動を持たない、と言う事がコンプレックスになっていたらしく、満たされぬ毎日を送っていた。
そして、聖戦と言う、己を含めた人造惑星の存在意義を果たす為の戦いで、彼は英雄に一度敗れ、そして、己の在り方を見つめ直し、
研ぎ澄まされた技を以って英雄と戦い、そして、満足げに、自分の父親に当たる男と共に散った。

【サーヴァントとしての願い】

聖杯に掛ける願いそのものはない。聖杯戦争で勝ち星を上げ、拳の極致に至り、ジンが理想とした視点に至る事が、アサシンの目的である。


429 : コギト・エルゴ・スム ◆zzpohGTsas :2017/04/08(土) 22:50:11 i39ZvVK20
.



【マスター】

F・F(フー・ファイターズ)@ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン

【マスターとしての願い】

特にはないが、聖杯が手に入ったら、徐倫達の手助けをしたい。具体的には、プッチ神父を抹殺する

【weapon】

【能力・技能】

フー・ファイターズ:
【破壊力:B /スピード:A / 射程距離:C / 持続力:A / 精密動作性:C / 成長性:B】のステータスを持ったスタンド。
このステータスは、サーヴァントのものと同一のそれであるとは限らない。
プッチ神父のスタンドである、『ホワイトスネイク』のDISCが、プランクトンに知能を与え、そのプランクトンが多数集まった生物。
つまりは、『スタンド=本体』という、ジョジョと言う作品の中でも特に珍しい存在。
基本的に決まった姿を持たず、本人の意志でどのような姿にも変身できるため、『スタンド』と言うよりは新生物。
但し今回は、エートロの姿で固定化された状態の為、生前のように自由自在の変身能力は持たない。身体の一部を変化させる程度の変身能力しか持たない。
指を銃の形にしてプランクトンの一部を弾丸として打ち出す他、傷口にプランクトンを埋め込んで治療(応急処置)に利用したり出来る。
本来は急所や核となる部分がDISCのみであったのだが、今回は全身にプランクトンとしての性質が適用されている為、生前の時以上に死ににくくなっている。
人間の心臓や頭などにあたる位置を攻撃しても致命傷にならず、物理的な攻撃に滅法強い。ただし、何度も繰り返し受ければその分、体を形成・維持するのに必要な水分が失われるため、無敵とまではならない。また、高圧電流や熱湯など、プランクトンの性質では到底耐えられない現象や攻撃にも、滅法弱い。

【人物背景】

プッチ神父がプランクトンにスタンドのディスクを与えた事で生まれたミュータントの生物。
普段は無数の黒く小さいミジンコのような姿をとっているが、それらがすべて合体する事で人型の近距離パワー型スタンドのような姿となる。
プッチ神父の命令でG.D.st刑務所敷地内の湿原にてスタンドや不要となった記憶のディスクを守っていたが、徐倫らとの戦いに敗北し、
自分の行動理念を理解した事であえて止めを刺さなかった徐倫に対して守りたいという思いに目覚め、戦いの前に爆死したエートロと言う女囚の体を利用。
G.D.st刑務所で徐倫らと共に生活することになる。自分を産み出した父であるプッチに反旗を翻し、そして彼との決戦で敗れた。
しかし彼女の死は、大切な仲間であるアナスィの死を救い、そして、徐倫が求めた彼女の父・空条承太郎のDISCを奪還すると言う快挙に至った。
嘗て自分を助けた徐倫に別れを告げた事に満足しながら、この世からの消滅を選んだ、地上で最も知性を尊び、思い出に縋ったプランクトン。

原作74巻(6部換算だと11巻)の時間軸から参戦

【方針】

特になし、ぶらぶら気ままにフリーター生活


430 : コギト・エルゴ・スム ◆zzpohGTsas :2017/04/08(土) 22:50:23 i39ZvVK20
投下を終了します


431 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/04/11(火) 15:16:15 RO0X21Kk0
>「ケモノ」と「ケダモノ」
 世界鬼より瀬木ひじりと、FGOよりヘシアン・ロボですね。
 姿形や辿った道こそ違えど、元を辿れば同じ獣……その共通点が独特の雰囲気でよく表現されているなと思いました。
 アヴェンジャーは憎むしかなかったのに対して、瀬木はろくでもないと思いながらもそれを愛することが出来た。
 その違いは傍から見ればごくごく微小なものであれど、本人たちの間ではきっとどうやっても覆せないほど大きな差なのでしょうね。
 上手く折り合いを付けて互いに利用し合うのか、それとも何らかの形で理解を深めていくのか。ケモノとケダモノの主従のこれからに期待したいところです。
 投下、ありがとうございました!


>『想い』にかけて
 武装少女マキャヴェリズムより亀鶴城メアリと、おまもりひまりより神宮寺くえすですね。
 一般的に最弱と言われているキャスタークラスでありながら、最優のセイバークラスを歯牙にも掛けず一蹴する描写から、くえすの強さがとてもすんなり伝わってきました。
 聖杯戦争の在り方を正しく理解しながらも毅然とそれを否定する様には、作中でも言われていたように確かな気位の高さを感じましたね。
 願いがありながらも聖杯戦争を否定し、立ち向かう方を選ぶ。そう珍しい考えではありませんが、やはり強い誇りが感じられてとても素晴らしいと思います。
 心身ともに気高く強い二人が無事、聖杯戦争打破という目的を果たせるのかがとても楽しみです。
 投下、ありがとうございました!


> 入江正一&セイバー
 家庭教師ヒットマンREBORN!より入江正一と、キン肉マンよりブロッケンJr.ですね。
 まさにうっかりとしか言えないような偶然で呼ばれてしまった入江の慌てぶりが面白かったです。
 元世界の強敵を倒すために聖杯を使うことも考えたようですが、最終的には反聖杯に落ち着きましたね。
 セイバーは入江個人の性格ともよく噛み合ったサーヴァントのようなので、主従としての相性はかなりよさそうです。
 入江の機械工学の才能を活かせる場面があれば電脳世界という舞台の都合、かなり大きな活躍が見込めそうなのでその辺りにも期待したいところ。
 投下、ありがとうございました!


432 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/04/11(火) 15:16:42 RO0X21Kk0


>コギト・エルゴ・スム
 ジョジョの奇妙な冒険よりF・Fと、シルヴァリオ ヴェンデッタよりアスラ・ザ・デッドエンドですね。
 F・Fの『知性』に対する考え方や姿勢が非常に原作の彼女らしく、丁寧に描写されていて思わず感服致しました。
 復活させられたことに対して死の瞬間も含めた自分のかけがえのない記憶を冒涜されたような心境になるという辺りも、またとても彼女らしい。
 また、それに対してアスラの反応や対応はごくごくいつも通りのものでしたね。時間にしてみればとても短いものの、彼もまたかけがえのない思い出を持つサーヴァント。そういう意味では、F・Fの下に彼が召喚されたのも頷ける気がします。
 ある人物の左腕だったアスラとプランクトンのF・F、人成らざる二人がこの冬木でどんな結末に辿り着くのかとても楽しみです。
 投下、ありがとうございました!


 さて、少し時期尚早な気もしますが、当企画の募集期限をここで正式に決めさせていただきます。
 5/14(日曜日)の午前0時をもって候補作募集を締め切り、その後出来れば一週間、遅くとも二週間以内にはオープニングを投下して企画をスタートしようと思っています。あと一ヶ月ほどになりますが、引き続き当企画をよろしくお願いします。


433 : ◆WqjPzMBpm6 :2017/04/12(水) 22:29:16 aFJ2j7IQ0
投下します。


434 : 死者は蘇らない ◆WqjPzMBpm6 :2017/04/12(水) 22:31:29 aFJ2j7IQ0
冬木市新都玄木坂四番地。蝉菜マンションの一室が、ランサーのマスターの生活圏だった。
つい先日までは、

ここでの喪心の期間は解らない。
それまで、聖杯戦争〈ころしあい〉とは無縁だった彼女の生活は、川の流れが血に変わるように豹変する。

曖昧に生きていた輸入系貿易会社に勤める、斎藤珠樹という独りの寂しいOL〈ロール〉を演じていた自分の存在は死んでしまった。
これは比喩ではなく文字通りの語。
殺されたのだ。断片が浮き上がっただけで絶叫したくなるような経験だった。
───そう昔なら……。今は違う。
その日、その時、ようやく彼女は自分が何者だということを思い出した。




以後、それまでの繋がりを全て断ち、
今は彼女のサーヴァントの提案で、このペントハウスに移り住んでいる。

金銭面での問題は皮肉な話だが将来の為に、と貯金が貯まっていたので問題はなかった。









がらんどうとした室内。
部屋の電灯は点いていない。
行灯が薄闇に放つ朧気な光。その一点のみが灯だった。カーペット一枚にソファ。一人で寝るには大きすぎるダブルベッド。晩酌するためだけのテーブル。氷とワインや洋酒の酒瓶やら、缶ビールをしこたま詰め籠めた冷蔵庫。
部屋にあるのはそれだけ。

どこかで異妖の気配が揺予〈たゆた〉う夜であった。
今宵、何処かでサーヴァントがまた一騎と、この冬木に顕現したのであろう。

それでもランサーは表情を変えず、クッションを一人独占したソファにもたれ、ふんぞり返る。

垂れ下がる赤黒い華麗な色彩の長い髪。
身長は一七○前後。 凹凸の豊かな輪郭を誇らしげに示している。
だが、安物の白い丸首セーターという、あまりにも平凡な服装がかえって目立ったのではない。
発散する雰囲気が他人〈ひと〉とは違うのだ。

大きなガラス張りの向こうに立ち並ぶビルは墓標と化して闇と同化する。
その眼は何も考えず一点に据え、この巨大な長方形からの新都の夜景をただ眺めていた。
澄みきった星なき空。闇の中に静かに沈む光点。
赤。青。白。
煌めくネオンの像を異様に毒々しく赤いその網膜に映している。
ガラスに滲む人影がそれを断ち切り、ランサーは振り返った。

そのサーヴァントのマスターは両腕で髪をかき上げ、脇の下をさらした。
豊満なベル型乳房はダレた無地のタンクトップを四方へ膨張させる。ラインのくっきりと浮び上がらせた尻の肉。肌はとろけそうに白く、四肢と胴の作りは生々しい。
風呂上がりの無造作に背中に下ろされた長い髪。
見た目の年齢〈とし〉は二十代半ば。が、本当はいくつだろう?それは当の本人しか知らない。
不思議な光が溢ちる碧眼。銀縁眼鏡の下の顔は化粧一つで、超一流の娼婦にも、氷のような貴婦人にも変身させる色香を放つ。
この場を視た男の目にも必ず灼きつく姿だろう。


435 : 死者は蘇らない ◆WqjPzMBpm6 :2017/04/12(水) 22:32:40 aFJ2j7IQ0
『気分は少し良くなったか、燐?』

「痛痛痛〈つつつ〉……いっぺんに全部思い出したから、頭がパンクしそうよ……」

『まさかな……お互いに老いず、死ねぬ身とは……あれだけの肉体〈からだ〉、何をされた?』

「さぁ──一番最初に死んで……気づいたらこう。それからも色んな事があったし、あなたは?」

しかし、サーヴァントの頭上から降る声はその姿形とは裏腹に、枯淡の響きさえある。
想像よりもずっと強い意志がこもっていた。

『────遠の昔に忘れた。ん?』

ダンッ!と、テーブルに叩きつける音。

「じゃあ、暗い話はここまでー!」

ウォッカのボトルと二つのショットグラスを指に挟んで持ってきたのだ。

「これからを考える前に、先ずは飲も!それともお酒は嫌い?」

『貰う』

ランサーの左手が上がった。

「そういえば、ちゃんとした自己紹介もまだだったし」

腰を下ろし、ショットグラスにウォッカを注ぎいれる。

「 わたしは、燐。麻生祇 燐(あそうぎ りん)って言います。これからよろしく!」
『影の国の王────スカサハ』

「じゃあ、本物の女王様?」

『今は楽隠居の身だがな……』

「じゃ、二人の運命の出会いを祝して────」

『────乾杯、か……』

カッチ──ン、とショットグラス合わせて二人はウォッカを一息に呑み干すと、燐は口火を切る。

「ほっ────あいつら普通あそこまでする!?これじゃ、おちおち死んだフリも出来ないわ!!」

再び、ウォッカを注ぎ、あおる。

「戦場の処世術が通じない相手なんて……本ッ当に最悪……」

『いや。単にツイてないだけだな、あれは。気にするな、燐』

そして頭を抱えはじめた主にそっけない態度で応じる。
呑む。グラスを空にすると再び、ウォッカを注ぐ。

彼女のあそこでの、ソレは正しい判断だった。
いくら不死身でも、力は人のそれ、サーヴァントには手も足も出ないし、文字通り相手にくれてやるしかない。
マスターにとって、サーヴァント戦はやはり鬼門。
サーヴァントにとっては不死の者も只のひ弱な骨格とボロ布のような肉を纏った矮小な存在としか写らないのであった。

「じゃあ、本題を──」

『なんじゃ?』

「────コレ、ちょっと手伝ってくれない?」

部屋中にChaos.Cellの データベースを表れる。

スカサハが辺りを一瞥する。

『ふむ、こりゃ無理じゃのぅ。読み終わる前に聖杯戦争が終わる』

スカサハはぼそりと言って席を立つ。氷を取りに冷蔵庫へと迎う。ついでに戻ってきた手にはシングルモルトウイスキーが握られていた。

燐は眼鏡のブリッジを上げた。

「これがChaos.Cell───想像以上よ」

魔境の賢人と地球〈ほし〉の監視者〈ウォッチャー〉二人が匙を投げる。
彼女の元の居た世界の地球のデータベース・ユグドラシルと比べても比較にならない集積値。
過去から未来まで、幾千幾億もの平行世界〈パラレルワールド〉を観測、蓄積して細菌から人間に至るまで、何兆、何京もの生命の記憶が保存されている表層世界。
いわば電脳世界だが、スーパーコンピュータや有機ネットワークなどのものとはそれこそ桁が違う。

事実、常人の百倍ある彼女の記憶と、彼女が持ちえていたであろう記憶。そして、元居た地球の記録をも、寸分違わず転写し、よもや彼女の『絶対に死ねない』その不死性までもを、完璧に再現させた。

恐るべしChaos.Cell……。この場所に不可能なことは何一つないだろう。

表れたモニター達が消える。


436 : 死者は蘇らない ◆WqjPzMBpm6 :2017/04/12(水) 22:33:32 aFJ2j7IQ0
「さぁて、どうやって持って帰ろうかな……コレ」

『なんじゃ!?お主、コレ全部を持って、元の世界へ帰えるつもりか?』

ソファの上で胡座をかいて座るスカサハが使っているのは、タンブラーではなく、なんとアイスペールだ。
なみなみと琥珀色の液体を注ぎ込むと、それを造作もなく片手で鷲掴みして豪快にゴクゴクと呑んでいく。一瞬で飲み干してしまった。

「……そうだけど」

一瞬、しかめた燐の顔。
侮蔑の色も隠さず見やり、スカサハからクリスタル・ボトルを取り上げた。
直ぐにスカサハは盗りかえした。

『がめついにもほどがあるぞ。解らん……そもそもどうやって儂を呼んだのじゃ?』

「知るワケないでしょ」

飲む。

『お主のような奴を呼び寄せて、聖杯は一体何を考えているのかのぅ』

飲む。

「ソーソー、気にしない。気にしない。解らないから楽しいことって一杯あるわよ」

飲む。

『でも、何でも願いが叶う?突然沸いて出たベッタベッタの怪しい情報《ネタ》じゃない?まあ、別に本当でも驚かないけど……』

飲む。

「────でもね……。本当にあるとして、私に〝あんなことする連中〟に聖杯なんて渡ったらどうなるの?」

飲む。

『あんなのよりタチの悪い奴らなら、あの世にもこの世に沢山いるぞ。知ってる』

飲む。

「────だからよ、ランサー」

飲む。

『好きにしろ。スカサハと呼べばいい』

……時間〈とき〉が過ぎ、、夜は更けていく。
その後、麻生祇 燐と云う人類史が過去に受けた人生の流れ弾を酒のツマミに二人はどれだけ飲めるか?と言わんばかりに酒を空にしていく。
マスターとサーヴァント、二人の酒へと伸ばす手は停まらない。
酒の飲めない奴が見たら気分を悪くなるなどの次元〈レベル〉ではない嫌悪感が部屋中を充満させている。
臭いも凄いし、酷すぎる。
酒の味なんて関係ない。 二人は酔えない酒を酌み交わす。
あくまでもシラフ。でも、気分は明るかった。

「……いやいやいや、あくまでも私の主観よ!?」

『駄目じゃぞ、奴は……』

くい、と熱燗をやっているスカサハ。
上目づかいで、くつくつと笑う。

余裕げに微笑む。

「じゃあ、ところでスカサハ。あなたの聖杯は?どう折半する?」

質問する。

『いい、好きにしろ。私は常世に未練など、もう無くしてな……いや、なにな。最初、お主も────』

「────死にたい?」

と燐が訊ね、ピタリ、と時間が止まった。
微かに瞳孔を開いた。 が、それもほんの一秒ほど。

『────あぁ』

スカサハの瞼が緩慢に落ちていった。感慨深げに言ってそれだけだ。

「……やっぱり」

二本目のウォッカボトルは空になったので燐はすぐさま三本目のボトルの封を切った。
大して気にもせず、二人の時間は続く……。

「私が言うのも何だけど、命は粗末にしないで……」

『ふん。死ぬまで城で腐っていても、仕方がない。絶対に死ねぬがな────絶対に』

『こうなる前に死んでおけばよかったかのう。燐?』


437 : 死者は蘇らない ◆WqjPzMBpm6 :2017/04/12(水) 22:37:49 aFJ2j7IQ0

「………………」

答えはない。無言。黙り込んでいる。

『偽るな、そんなものは誤魔化しだ。安心しろ、お前はいつか必ず死ねるぞ?それまでに『後継人』を探しておけ』

穏やかな声で、影の国の女王は微笑んだ。

「……簡単に言ってくれちゃって」

「ええ、どうしようもない……。分からなくもない……。自分の内側〈心〉が干からびていくのは……」

スカサハは答えない。
燐の顔は苦悩に歪んでいた。
燐は自分の手で、自分の腕を引っ掻いていた。
その理解し難い状況をお互いが一番知悉していたのだ。

「でもね、そんな悲しいこと……言わないで」

一度伏せた目を、燐は再び上げた。その精神はどうやらこの魔女ほど枯れ切っていないらしい。

「黴臭い城からやっと娑婆〈シャバ〉に出られたんでしょ!?だったら羽を伸ばして楽しまなきゃ!ぱぁーとね!明日、デートしよ!」

ヤケクソ気味にそうまくしたてた後、燐は真顔で向き直って、テーブルを廻った。

『……あぁ、そうじゃな。考えて────』

眉を寄せた難しい顔のその頬に燐の手がかかった────
声をかけそびれているうちに────

『??燐──』

────と。
────スカサハは何か言おうとした。
────その前に燐の唇がそれを塞いだ。

スカサハは訝しげに顔を歪める。薄い血の気のない唇から離れた。

『あきれた。お主、そうゆう趣味が……』

燐は今度はウォッカをボトルであおった。
舌で唇を舐め、子供みたいな邪気のない笑顔で呟く。

「別にいいじゃない……私、今日はヤなことあったんだもーん」
ソファの軋み音の聞こえて、スカサハの上に座る。
「だから、ね、一度だけ────マスターからの命令」

生々しい腿が膝上からのぞいた。
妖しい誘いの言葉をかけられて、スカサハは小さく溜息をついた後、

『この好き女〈もの〉めが……。ふふふ、ははははははは────────』

身の毛もよだつ大音響で宙に振り撒いて笑い、更に上乗せで大笑いしはじめた。
それは人間の声ではなかった。


438 : 死者は蘇らない ◆WqjPzMBpm6 :2017/04/12(水) 22:38:50 aFJ2j7IQ0

『面白い』

スカサハは、あっ!と言う燐の声とともに、ウォッカのボトルを引ったくって一息に飲み干し空にした。
スカサハの口から湿っぽい吐息を火焔のように吹き出し、ボトルを投げ捨てた。
すう、と行灯が色を失って、完全な闇が周囲に広がったとき────


『────乗った』


と、声と同時に、燐の身体が浮き、スカサハも共に軽々と飛翔する。
空中で身をひねると二人はダブルベッドの上に沈む。
スカサハは前駆姿勢を取って、上になる。
重ねた指。 スカサハのか細い豪腕は吸着した黒い蜘蛛のごとく手首を掴んで、乗って押さえつける。
必死にもがきながく燐を強烈な力で縛りつけた。
凄まじい握力に燐の顔は緊張した。
彼女はまた、心臓が停まるかと思った。本気になれば砕かれる……。
ベッドに押さえつけて二人の長髪が羽衣のように音も無く床に広げられ、淫猥な白い肌がシーツを押しつぶす。
その夜目にも見える眼光が暗闇の中で凶々〈まがまが〉しく真紅に燃える。

『どうした?よかろう?それともこうゆうのは嫌か?』

スカサハは訊いた。組み伏せられ身じろぎする燐の顔を、乱れた呼吸を、じっと見下ろしながら。
その笑みは、邪悪そのものなり、徐々に顔が近づいてくる。
既にスカサハは、自ら進んで脱ぎはじめていた。待つほどでもなく、わだかまりが生まれ、淫靡な上半身が現われた。
常闇に生育する毒の華のように映える裸体。
ニヤリと笑う、眼と顔に好色の色が浮いている。頬を紅く染め、不死身の身体を蛇のように這って、強姦しているような錯覚に陥る。彼女自身も犯しつつあった。
燐も彼女の双眸だけを見つめていた。

「のぞむところ」

直ぐに燐は声を上げ、答えた。
熱い息が鼻から洩れた。
折り重なるように倒れ、あお向けに横たわった燐に唇を重ねた。
首筋から腹の上まで上下に流れる。やがて、三角形の間に片手を差し込んでいた。
責めは残る腔〈あな〉にも迫る。
妖しい手つきで、弄〈いじ〉る白い指。音は濡れている。
赤い舌が半ば開いた口の中へ潜って、顎から喉へ唾液が光る。
部屋中に甘い香が漂いはじめた。

「…んっ………ぁっ……あぁっっ!」

耐えきれなくなったのか、燐は声は悩ましげな呼吸と化して、白い喉が震え、上体と下半身をくねらせる。堪らず喘ぎを洩らし、そればかりが細々とつづく。
どこか悦楽を貪る翳が濃い。
互いの透き通ってさえ見える白い肌が欲情に色づき、女の部分が性欲の炎に灼け爛れれていく。淫らさを増しつづけるそれはまさしく闇の魔性そのもの。眩惑されずにはいられぬその光景。

────いかなる心境の変化か。

────それが娯楽の為とはいえ、あの女が女を抱く気になるとは。

────やはりそのマスターも魔人か。

────時に置き去りにされた人間〈ひと〉ならぬもの同士抱かれ、閨房で女同士営みの声をあげた────

────どのようなセックス戦が繰り広げられているか……果たして、

そして物語は────……

───序〈はじまり〉の結〈おわり〉から、終着〈おわり〉への出発〈はじまり〉へ────


439 : 死者は蘇らない ◆WqjPzMBpm6 :2017/04/12(水) 22:42:29 aFJ2j7IQ0
▲   ▲   ▲   ▲

【出典】 Fate/Grand Order
【SAESS】ランサー
【真名】スカサハ
【属性】 中立・善
【性別】女性
【身長】168cm 【体重】55kg
【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷A
魔力C 幸運D 宝具A+

【クラス別スキル】
対魔力:A
魔術に対する抵抗力。
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。

【保有スキル】
・魔境の智慧:A+
人を超え、神を殺し、世界の外側に身を置くが故に得た深淵の知恵。英雄が独自に所有するものを除いたほぼ全てのスキルを、B〜Aランクの習熟度で発揮可能。
戦闘時によく使う彼女が使用するスキルは『千里眼』による戦闘状況の予知。
また、彼女が認めた相手にのみ、スキルを授けることもできる。

・原初のルーン
北欧の魔術刻印。 神代の威力を有し、北欧の大神によってもたらされた十八のルーン。

・神殺し:B
異境・魔境である「影の国」の門番として、数多くの神霊を屠り続けた彼女の生き様。
『神性』『霊体』に対してダメージにプラス補正をくわえる。


【宝具】
『貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)』
ランク:B+
種別:対人宝具
レンジ:5〜40
最大捕捉:50人
因果逆転の呪いを持つ朱槍。
真名開放時には、 ランサー・クー・フーリンの宝具『刺し穿つ死棘の槍』と『突き穿つ死翔の槍』の二つの技を合わせたような、二本の魔槍による刺突と投擲の同時攻撃。
一本目の魔槍で敵を拘束、更には二本目の魔槍を全力投擲して止めを刺す。
投擲された魔槍は軌道上の敵はことごとく命を奪う事ができる。

『死溢るる魔境への門(ゲート・オブ・スカイ)』
ランク:A+
種別:対軍宝具
レンジ:2〜50
最大捕捉:200人
世界とは断絶された魔境にして異境、世界の外側に在る「影の国」へと通じる巨大な「門」を一時的に召喚する送還宝具。
効果範囲内に存在するあらゆる生物を問答無用で吸い込み、自らの支配領域である「影の国」へと送還させて、奥底へ相手を引きずり込ませる。影の国の奥底は殆どあの世に等しく、生き物はたちまち死に果てる。
魔力と幸運の判定に失敗すると「門」に吸い込まれて即死。抵抗に成功しても、魔力を急激に吸収されるため大きなダメージを受ける。スカサハが認めないものは「影の国」へと命を有したまま立ち入る事ができない。

※なお、基本的に彼女が私闘でこれを使用することはまずありません。


【 weapon 】
・ゲイ・ボルク複製品
呪いの魔槍。時には二槍流を振るう
二本だけではなく複数本所持しており、空間に展開、射出するなども可。

・ルーン魔術
原初のルーンを用いての魔術。
他にも衣類の製縫から、武器の錬成まで行える。
冗談抜きでどこまで出来るか正直分からない応用力。

【人物背景】
異境・魔境「影の国」の門番であり、 ケルト・アルスター伝説の戦士にして女王。 人と神と亡霊を斬り過ぎた事で、神の領域に近づいてしまい、完全に人間から外れて神霊と化してしまった存在。

【サーヴァントとしての願い】
この戦いで願わくば死ぬこと────
聖杯をもってして、自分を殺せる者を呼び出すこと────


440 : 死者は蘇らない ◆WqjPzMBpm6 :2017/04/12(水) 22:43:31 aFJ2j7IQ0
【出展】 Mnemosyne─ムネモシュネの娘たち─
【マスター】 麻生祇 燐(あそうぎ りん)
【ロール】OL
【人物背景】
少なくとも千年以上生きている不死者。 実年齢は不明。
上下をスーツに深緑色の長髪に眼鏡。シングルマザー。

(いろんな意味で)体を張って事件に立ち向かう西新宿の古びたビルにある「麻生祇コンサルティング」の経営者で探偵紛いの何でも屋を営んでいた。
本編ラストで代継をしたこの世ならざる地・ユグドラシルの「守人」となった後。
本気になれば、背中から羽とかも生やせるようだが、
詳細は不明。
ガサツに見えて意外と繊細。
煙草は吸わない。お酒大好き。
ややレズよりのバイセクシャル。

【 weapon 】
・隠剣多数
・ワイヤー付き飛びナイフ
・散弾を仕込んだガントレットグローブ

【能力・技能】 
・格闘術
身体を鍛えることも出来ないので力は人並みだが、ある程度は心得があり、チンピラぐらいならフルボッコにできる。軍人は無理。

・不老不死
非時香果を与えられた彼女の持つ永遠に変わる事の出来ない不老不死の力。その再生力は底知れず、反応炉の爆発。ジェットエンジンに巻き込まれて原形を留めなくなっても、常に状態を維持する。これは再生ではなく、時間を巻き戻して常に状態を維持・固定する能力だ。記憶も非時香果にセーブされるので短期間の記憶喪失のみ。

・非時香果(ときじくのみ)
ユグドラシルから飛ばされる胞子の内、何千万分の一の確率で発生する果実で、大きさはビー玉ほど。不死者は実なしでは生きられず、抜き取られると灰と化して崩れ落ちる。が、肉体と同化した実を取り出すことは同族以外不可能だ。

非時香果を与えられた男性は背中に赤い6枚の翼を持ち、超人的な力を持つようになるが2,3週間しか生きられない。こちらも実を抜き取られると灰と化して死ぬ。

尚、「男か女」であれば人間以外も取り込む可能。

・知識
伊達に長生きしていないので、知識と経験が違う。銃の扱いからコンピューターと多彩だ。

【令呪】
お腹の臍の辺り。

【マスターとしての願い】
Chaos.Cellの情報回収と人類の未来を守りたい。

【把握作品】
Mnemosyne─ムネモシュネの娘たち─ 
エロス。グロ。90年代アクション。ニッチな内容をしこたまぶちこんだAT-X・R指定アニメ。
1話観れば好き嫌いがハッキリする作品ではありますが、能登麻美子好きは墓まで持っていける名作だと自分は思います!釘宮もエロい!石田も脱いだら凄い!

どうぞ死なない彼女を好き放題してやってください。


投下終了。なんか怖くなってきた。


441 : ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 00:45:34 5/dOSD.U0
投下します。


442 : NIMROD ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 00:47:12 5/dOSD.U0

主は降って来て、人の子らが建てた、塔のあるこれらの町を見て、言われた。
「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない。
 我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉が聞き分けられぬようにしてしまおう」
主は彼らをそこから全地に散らされたので、彼らはこの町の建設をやめた。
こういうわけで、この町の名はバベルと呼ばれた。
主がそこで全地の言葉を混乱(バラル)させ、また、主がそこから彼らを全地に散らされたからである。

                                       ――――旧約聖書『創世記』11章


これで何匹狩ったか。
つまらねえ戦いだ。多少能力を制限されていても、一方的すぎる。狙った相手が迂闊なカスばかりだってのもあるが。
オレがやりてえのは、もっと違った……そう、オレが手を下さずとも、バカどもが互いに殺し合うような戦争だ。
蛇が互いの尾を喰らい合うように、気づかずに掌の上で踊るように、しむけりゃいい。効率的に数が減る。
とはいえ、あんまり早く戦争が終わっちまっても、それはそれでつまらねえか。

聖杯戦争? こっちが仕掛け役になりたいもんだ。殺し合いを安全地帯から眺めつつ介入するのは、そりゃ愉しかろうさ。
あの偽善者野郎は、涙を流して悲しむだろうか。いや、愉しむか。
まあいい。情報はざっと集めた。ヤバそうな奴もいる。もう数匹殺してから、提案してみるか。



深夜。廃ビルの一室。
そのサーヴァントは、すでに消滅しかけていた。罠にハマったのだ。巧妙な罠に。

まず、マスターとサーヴァントの両者が急に疲労を覚え、魔力が減衰していった。サーヴァントはなんとか持ちこたえたが、マスターの衰弱は激しかった。
他の主従の攻撃であることは断言できるが、攻撃の正体が掴めない。激しい脂汗を流しながら、マスターの魔力と生命力が奪われていく。
為す術無く消滅を待つばかりのサーヴァントの眼前に、それは突然出現した。

モニター画面。の、ように見えた。
空中に浮かび、厚みはなく、半透明の画面だけが見える。聖杯戦争の管理者からの通達か。この異常を報告すべきか。
だが、暗い画面の向こうに見えたのは、異様な姿。


443 : NIMROD ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 00:49:12 5/dOSD.U0

小柄で細身の、おそらく少年。黒一色の服装。黒い帽子。黒い髪。異様に青黒い肌。目の下に漆黒の隈。
奇妙に細長い耳と黒い唇には、多数のピアス。体中にシルバーアクセサリーをじゃらじゃらとつけている。
彼はこちらを蔑みの目で見ながら、にやにやと嗤っている。

何者かのサーヴァントだ。そいつが目の前に現れ、自分たちを観察し、挑発しているのだ。
この衰弱の原因も、こいつだ。だが、もう。

画面が消え、目の前の空中に少年が現れた。少年は手招きした。いや、片方の手首を上に向けた。
もう片方の手に持ったナイフで、その手首に傷をつけた。傷口から赤黒い血液が、煙となって吹き出した。
手首からの血煙が、霧か雲のように、部屋いっぱいに広がっていく。

雨が降りはじめた。室内に、血の雨が。少年が撒いた血煙から、血が雨となって部屋中に降り注いだ。
血煙や雨が当たったマスターの皮膚は焼け、肉があらわになり、骨がむき出しになる。
マスターをかばうサーヴァントの体も、たやすく蝕まれていく。雨が激しくなる。
瀕死のサーヴァントは、狂ったように叫びながら目の前の少年に襲いかかったが、その攻撃は少年をすり抜けた。幻影だ。
力尽きたサーヴァントは、血の海に倒れ伏し、消滅した。

しばらくすると、雨はやんだ。血煙も、血の海も、消えていた。
マスターも、サーヴァントも、黒ずくめの少年も、どこにもいなかった。初めからいなかったように。



「悲しいわ……。人は何故、争うのかしら……」

深い憂いをたたえた瞳。涙が一筋こぼれ、頬を伝った。

暗い部屋に点いたテレビでは、世界各地の内戦・紛争地帯での、犠牲者たちの痛ましい映像が流れている。
降り注ぐ爆弾。飛び交う銃弾、ロケット弾、ミサイル。次々に破壊される町並み、崩れ落ちる病院。毒ガス、飢渇、疫病、流血。暴行と掠奪。おびただしい死。
シリア、パレスチナ、イラク、イエメン、ダルフール、南スーダン、アフガニスタン、チェチェン、ウクライナ…。
そればかりではない。世界各地で相次ぐテロ。報復。軍事的緊張。経済制裁。欧州には難民・移民が押し寄せ、排斥運動が激化している。
差別。宗教、思想、民族、人種、政治、国家、経済の対立。世界は一体いつになったら、混乱から、憎しみと殺し合いの連鎖から、抜け出せるのだろうか。


444 : NIMROD ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 00:51:09 5/dOSD.U0

「人間が人間である限り、続くのでしょうね……。そういうものなの……。
 理性やモラルという薄い殻の中は、邪念と利己主義のかたまり。呪われた生き物……」

顔を両手で覆い、深くため息をつく。いつの時代もそうだ。これこそが人間の、ありのままの姿。

「救いの神はもういない。いいえ、はじめからそんなの幻想。いるのは人間という殺人機械、悪魔だけよ。
 あの妬み深い神が、人間にしてくれたことといったら、果てしない混乱の種を蒔いただけ……」

救いはない。希望もない。いや……ひとつだけ、ここに希望がある。
聖杯。万能の願望器。願いをなんでも叶えてくれる、夢のアイテム。

「『世界中から人々の争いがなくなりますように』……ふふ、なんて夢見がちな願いごとかしら」

涙を流しながら呟いているのは、深窓の令嬢でもなければ、妙齢の美女でもない。
初老の紳士だ。白シャツにベストに蝶ネクタイ、スラックス。執事かバーテンダーのような服装。
銀髪を綺麗に後ろへ撫でつけ、広い額を出す。眉毛がなく、目つきは鋭く、面長で彫りの深いコーカソイドの顔。

彼は考える。
聖杯。それは個人的な欲望ではなく、もっと大きな理想、地球上の全人類の救済のために使われるべきだ。
獲得のために殺し合いをする必要があるとしても、少数の敗者の命よりは、救われる何十億の命の方が絶対に多い。
理想実現のための、やむを得ない犠牲だ。『あれ』と仕組みは同じだが、捧げる犠牲はより少なくて済む。
この「聖杯戦争」は、人類同士の争いをなくすための、最終最後の戦争とならねばならない。

彼は考える。
世界から争いをなくすには、具体的にどうすればいい。人間が人間であるまま、救われるには。
歴史上誰も成し得なかったこと、世界征服、全人類社会の政治的統一。否、それだけでは、まるで足りない。
人間が各々エゴを持つ以上、倫理観は人それぞれだ。思想、価値観の対立。愚かな人間には、それが解決できない。

「全人類の、思想と価値観を、統一しなければいけないわ」

ユダヤ、キリスト、イスラム、ヒンドゥー、様々な宗教や主義、理想。神に背き、神にすがり、神の名のもとに争う、愚かな人類。
彼らのエゴを縛り付け、永遠に平和を保たせるには、真の救世主……真の神が必要だ。
唯一絶対の神がいないのならば、創り出すしかない。全人類の心の中に。地上に平和をもたらすために。
彼は涙を拭い、異様に尖った歯列をむき出して笑った。

「そう、この私、『ヘウンリー・バレス』が、本当の救世主、絶対神となってね……」


445 : NIMROD ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 00:53:14 5/dOSD.U0



不意に、部屋の中にモニター画面状の窓が現れ、瞬時に小柄な黒ずくめの少年が降り立つ。

「よう、戻ったぜ。相変わらず気色悪いな」
「あら、お帰りなさい。お仕事、お疲れ様」
「ああ。情報を集めるついでに、何匹か狩って来た」

バレスは、少年……自分のサーヴァントからの、念話による報告に、目を細める。

「……上出来よ。いい子ね」
「それと、提案だがよ」
「ほほほ、分かってるわよ、言いたいことは。うまく強敵同士を潰し合わせて、数を減らしてちょうだい」
「ああ。そっちもせいぜい、ヘマをしねえことだな」

少年はため息をつき、部屋の隅、黒い大きなクッションの上に腰を下ろした。ここはバレスの住居、高級マンションの一室。
部屋の中には多数の蔵書と電子機器、いくつかの気配。2つの水槽の中に、水とかげ(イモリ)が一匹と、蠍が一匹、各々入っている。
バレスの使い魔の、触媒だ。彼はサーヴァントを持つ以前から、いくつもの使い魔を操る大魔術師だった。

彼のサーヴァント……キャスター(魔術師)、真名『王天君』は、卑怯なほどに強い。卑怯で強い。
離れた空間を監視しつつ瞬時に移動する、縮地の術。
人知れず相手に寄生して、魔力と生命力を減衰させるダニ型の宝具『寄生宝貝生物』。
強力な酸性雨を降らせて敵を溶かす、固有結界宝具『紅水陣』。
そして、倫理道徳にとらわれないからこそ可能な、柔軟で狡猾、無慈悲な策略を考え実行する優秀な頭脳。
格闘能力には乏しく、宝具の効果範囲や威力は制限されているが、聖杯戦争で勝ち残るには充分だ。

バレスのもともとの使い魔たちも、なかなかに強力だ。
触れた相手から水分を吸収し、干からびさせる水魔(アクア)。
硬質の砂を操作して、相手を破壊する砂魔(ディザード)。
相手を闇の精神空間に引きずり込み、怨念で殺す影魔(シャドウ)。
そして、もう一体。
サーヴァントがいるため能力は制限されており、同時に操れるのは三体まで。
それでも、無差別な破壊殺戮者に突然襲われても、対処はある程度なら可能だ。

油断はならないが、少なくともスタート地点で、比較的有利な立場にいることは確か。
知られてはならない。我々の存在を、計画を。全ては静かに、安全に進めるべきだろう。
バレスはテレビを消して立ち上がり、コーヒーを淹れにキッチンへ向かう。


446 : NIMROD ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 00:55:11 5/dOSD.U0

「ねえ、キャスター。あなたには、本当に望みはないのね?」
「ああ。オレは存在するのもめんどくせえほど、精神が疲れてんだ。お前のクソくだらねえ望みだって、反吐が出るほど嫌いだ。
 お前を消すことなんざ、赤子の手をひねるよりたやすいが……あえて今やるまでもねえ、ってだけだ」
「まあ怖い。でも、それもそうね。あなたはとっても強いんだもの」

バレスもキャスターも、互いにそれは確信している。
ダニを寄生させて弱らせ、紅水陣で溶かせば、大抵の人間は殺せる。弱点はあるが、黙っていれば分からない。
ましてや、バレスには明確な弱点が存在する。キャスターが殺そうと思えば、いつでも殺せる。

では、なぜキャスターは、バレスをあえて殺さないのか。
令呪を使用されているわけではない。悪人同士だが、気が合う相手でもない。目的も異なる。
キャスターの目的は、この殺し合いが続くこと。可能なら月の管理権を得てルーラーとなり、聖杯戦争を飽きるまで観察すること。
バレスの目的は、自らが全人類に崇められる唯一の神となり、世界中の争いを終わらせること。まったく逆だ。

キャスターにとってバレスを生かしておく理由は、ただ勝ち残るのに有利だからだ。
人間にしては異常な魔力、複数の優れた使い魔を操る魔術、膨大な知識、冷徹な判断力、無慈悲さ、邪悪さ、勝ち残るための強い意志。
なにより、強力な能力の代償として、キャスターにはマスターからの魔力供給が不可欠だ。
魂喰いをしようにも、直接的な攻撃手段は二種類の宝具しかなく、ダニの方は相手の魔力と生命力を弱めてしまう。要は、燃費が悪い。
バレスが生贄を集めてキャスターに捧げることも可能だが、あまり派手にやればルーラーに目をつけられる。

バレスが勝ち残った瞬間、キャスターは彼を殺し、自分の願望を聖杯に託す。
それで終わりだ。途中で裏切って乗り換えてもいい。

もちろん、バレスはキャスターの目論みを見抜いている。互いにそれは分かっている。
人間は―――キャスターは人間ではないが―――そういうものだからだ。弱く愚かで哀れな、ゆえに救われるべき存在だ。

当然、バレスも人間である。己の弱さ、愚かさ、哀れさも承知している。
しかし、素晴らしいチャンスが、今再び自分には到来しているのだ。万人の上に神として君臨し、神の国を築き上げる機会が。
バレス本人が、神のように完全な存在になる必要はない。そのように崇められれば、それでいい。
聖杯によって全人類の意識を統一し、争いのない平和な世界を作る。崇高な目的だ。それ以上の欲はない。
人類以外の存在からの介入に対しても、全人類が一致団結すれば、叡智を結集して対抗できることだろう。

それを完成させるため、自分を殺す気のキャスターには適当なところで退場してもらう。令呪があるのだから、自害させれば済む。
暗躍や戦闘は、それまでキャスターに任せればいい。彼が敗れて消滅しても、代わりの従順なサーヴァントを調達すればいい話だ。
計画はシンプル。あとは、実際に勝ち残るだけ。争いたい者たちには争ってもらい、高みの見物といこう。


447 : NIMROD ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 00:57:16 5/dOSD.U0

「ん、いい香り。はい、あなたの分のお夜食よ。どうぞ」
「………」

コーヒーを淹れたバレスが微笑みながら、錠剤が入ったボウルをキャスターに差し出す。
キャスターは舌打ちして受け取り、ボウルから錠剤を一掴みすると、ボリボリと貪る。魔力の多少の足しを兼ねた、嗜好品だ。
錠剤と自分の爪をかじりながら、彼はうんざりした表情で考える。

けっ、いけすかねえ奴だ。もう少し壊れりゃ、オレのようになれるのに。
何の義理もねえ人間を、てめえのエゴでゴミみてえに殺しときながら、「全人類のため」とかつまらねえ自己正当化をしやがる。
だいぶ方向は違うが、聞仲の野郎と似たタイプだ。無力な連中を箱庭に押し込めて管理して、それが善や慈悲だと信じたがってる奴だ。
そんなクソみてえな世界、作られてたまるかよ。争いのねえ平和な世界なんか、息が詰まってくたばっちまうぜ。
できたところで、どうせなんかの力が働いて、そんな世界は崩壊するに決まってる。もとに戻るだけだ。俺が何かする必要すらねえ。



―――部屋の奥、ドアの向こうの寝室で、ベッドに横たわる男がいる。目を閉じたその顔は、やや年老いているが、バレスそっくりだ。
彼こそが、ヘウンリー・バレス本人。今起きて活動しているのは、彼の使い魔である「影武者」。
正確には、彼の意識の大部分が今「影武者」の中に入り、動かしていると言うべきか。

バレス本体は健康で、意識を戻せば動け、優れた黒魔術を操るが、その肉体はただの老人。見つかって保護なく襲われれば、ひとたまりもない。
キャスターは当然、この秘密を知っている。令呪は影武者にはなく、この本体に刻まれていることも。
いつでも殺せる。そのタイミングを窺うだけ。主従が互いのこめかみに銃口を突きつけ、引き金に指をかけた緊張状態。

否。いかに凄腕の魔術師とはいえ、バレスはしょせん、たかが人間。英霊・半神たるキャスターよりは、反応速度は確実に遅い。
バレスの使い魔も、サーヴァントに比べれば大した強さではない。バレス本人が令呪を使うには、影武者から本体に意識を戻す必要がある。
令呪で自害を命じられても、拒絶することは可能。本体を破壊して令呪を消すことも可能。
キャスターが手ずから殺さなくても、誰かにこの秘密を伝えて、本体を殺させれば片付く。キャスターは別のマスターと契約すればいい。
どう転んだところで、このキャスターが殺そうと思えば、バレスに勝ち目などないのだ。この狂った老いぼれには、そんなことも分からないのだろうか?

否。バレスもキャスターも、互いにそれは分かる。分かるからこそ、キャスターは今のところ、彼を殺す気がしない。
感傷か、憐れみか、打算か。聖杯による干渉か。それとも、ゲームの難易度を上げて楽しむためのハンディキャップか。
あるいは、「この哀れな老いぼれを生かしてやっている」という、暗い優越感ゆえか。おそらくは、その全て。
生きる目的を失っているキャスターにとって、己が存在するために、何らかの「生き甲斐」は必要なのだろう。殺戮の快楽だけでなく、自嘲と怒りが。
バレスには、そうした彼の思惑が分かる。キャスターにも己と相手の思惑が分かる。ゆえにキャスターは苛立ち、バレスは安心していられる。

眠るバレスは、幸福そうに笑う。真の神が治める楽園を夢見て。


448 : NIMROD ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 00:59:12 5/dOSD.U0

【クラス】
キャスター

【真名】
王天君@封神演義

【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具B

【属性】
中立・悪

【クラス別スキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。空間を操る術を持ち、亜空間系宝貝(パオペエ)「紅水陣」の展開が可能。
各々スキル化・宝具化しているため、このスキル自体は特に重要ではない。心理的な罠を張ることにも長けている。

道具作成:E
魔術的な道具を作成する技能。シルバーアクセサリー程度は作れるかも知れない。
かつては「寄生宝貝生物」を作ったと思われるが、宝具として展開できるので不必要。

【保有スキル】
軍略:A
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具や対城宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具、対城宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
軍師の代名詞・太公望に匹敵する知略の持ち主。人の心を読んで脆さを突く、外道卑劣な手段を好んで用いる。

縮地:A
武術ではなく、仙術としての縮地(空間を短縮する術)。遠隔地の空中にモニター画面状の「窓」を展開させ、これを通って瞬間移動する。
他者を引き込んで共に移動でき、窓を通して付近を視認し、画像や音声を送受信して通信に使うこともできる。窓は複数展開でき、破壊できない。
標的を亜空間に封印・隠匿することも出来るが、長時間維持することは出来ない。

神性:A-
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
彼の魂魄はとある古代神の分霊であり、かつ戦死して「封神」されているため、立派に神である。
ただし生前より悪に傾きすぎていた彼は、人に崇められることを好まず、悪神として行動する。

復活(偽):EX
かつて「二度死んで生き返った」逸話がスキル化したもの。二度までは破壊されても復活できる。
実際は魂魄を分裂させて別の体に収めてあるだけであり、記憶と人格は保存されているが別人である。
このスキルを発動するには、復活一回につきスペアとなる『鉄片』が一つ必要。三度目はない。


449 : NIMROD ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 01:01:24 5/dOSD.U0

【宝具】
『紅水陣(こうすいじん)』
ランク:B(A) 種別:結界宝具 レンジ:2-50 最大捕捉:100

亜空間系宝貝が固有結界化したもの。キャスターたる所以の宝具。周囲に立方体型の結界空間を形成し、自分の血液から紅い霧を発生させてその中に満たす。
霧は強酸性で、陣の内側に猛烈な酸性雨を降らせる。核融合を弾き返すレベルの霊獣の甲殻すら溶解させ、中にいる者は骨や霊体まで溶け崩れて死ぬ。
展開中の陣は半透明で視線が通り、床や壁は溶かす対象から外せる。外から入ることはできないが、中から外に出ることは容易い。
陣の中にいるキャスターは幻影で、陣の中自体がキャスターの体内。陣を内側から粉々に破壊すればキャスターも死ぬ(多少の破壊は大丈夫)。
そのため、陣に引き込む前にダニで充分に衰弱させたり、人質をとったりしておく必要がある。本来は大都市を覆うほど広範囲に展開できるが、制限により展開範囲は狭められている。

『寄生宝貝生物(ダニ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:500

ダニの型をした宝貝生物。無数におり、人知れず相手の体に表皮から潜り込み、令呪めいた紋様を肌に浮かび上がらせる。
寄生された相手は徐々に体力・魔力が吸い取られて消耗・疲労し、やがては思うように体を動かすこともできなくなってしまう。
直径15km程度の範囲に常時展開できる。ただ、これを使ってキャスターが体力や魔力を吸収することはできない。
敏感な者なら刺される前にはたいて潰せる。極めて魔力が強大な者、常に周囲に結界を張っている者、霊体化したサーヴァントには効き目が薄い。
本来は「常時宝貝を使うほどの疲労」を与えるため、常人が喰らえばミイラ化して死ぬが、制限によりこれで殺すことはできず、昏倒させるだけである。
また、本来はキャスターを殺すしか解除する方法はないが、これまた制限により、何らかの解呪の手段があれば解除できる。
逆探知されて居場所を突き止められる可能性も考慮して、しばらくは無差別にバラ撒かず、狙った相手に集中して寄生させてもよい。

【Weapon】
なし。
不健康な頭脳派で、格闘が得意なタイプでもない。自傷用のナイフはあるが、直接の攻撃手段は二種類の宝具だけ。
上位の仙人であるため、敏捷性など身体能力自体はそれなりに高い。

【人物背景】
藤崎竜版『封神演義』の登場人物。古代中国の仙人界の一つ・金鰲島の幹部「十天君」の首領。外見は小柄なダークエルフの少年っぽい姿。
冷血で狡猾な毒舌家であり、ペテン師。元々は王奕という人間だったが、事情により独房に幽閉され、心を壊された。さらに魂魄を妖怪の体に入れられ、妖怪仙人となった。
味方をも捨て駒として利用し、心の隙を突いて追い詰め、卑劣な策略を用いて相手を破滅させることを好む。アサシン、アヴェンジャー、フェイカーの適性も持つ。

【サーヴァントとしての願い】
月の管理権を得てルーラーとなり、聖杯戦争を開催して飽きるまで観察する。飽きたら消える。
やるべきことは終えており、霊体として存在することにすら精神的に疲れているので、さほど強く望んでいるわけではない。暇潰しである。

【方針】
奸計を用いて暗躍。術で情報を集め、魔力を温存し、なるべく自分では戦わない。強そうな奴は殺し合わせ、弱い奴は生かしておいて餌や駒にする。
混乱を助長し、争いが長引いて被害が拡大するように仕向け、こちらに火の粉が飛ばないよう配慮する。
魔力供給源のバレス本体が殺されると困るので、いつでも亜空間等に匿えるように準備はしておく。

【把握手段】
藤崎竜『封神演義』単行本全23巻(王天君の出番は13巻から)。完全版・文庫版もある。


450 : NIMROD ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 01:03:30 5/dOSD.U0

【マスター】
ヘウンリー・バレス@スプリガン

【weapon】
強力な使い魔を複数使役する。サーヴァントを得ているため、制限として自前の使い魔は「影武者」を含めて三体までしか同時に操作できない。
「影武者」を除く三体は、身長2mはある動く全身鎧で、ボロ布のマントを纏い、片手で大剣を振るって攻撃する。
俊敏な動きとパワー、独自の技を持ち、命令を忠実に(ある程度は自律的に)実行するが、言葉は話せない。
なんらかの物質と死者の怨念を鎧に込めて触媒で繋いだものであり、触媒を鎧の中から抜き取れば活動を停止する。
破壊されても魔術による再創造は可能と思われるが、材料の調達や儀式にはけっこう手間暇かかりそうである。
また「影武者」以外は極めて目立つ上、強烈な妖気と殺気を漂わせているので、カンの良い相手には存在を気づかれてしまう。
サーヴァントではないので霊体化できないし、実力的にも強めのサーヴァントには劣る。銃で武装したエージェント数十人を苦もなく皆殺しにできる程度である。
いつでも起動できるよう準備はしてあるが、魔力節約と正体隠匿のため、普段は「影武者」だけを起動させている。

・水魔(アクア)
 十字軍風の大兜の上にフードをかぶった頭部。鎧には鱗のようなデザイン。鎧の内側は水。触媒は水とかげ(イモリ)。剣で突き刺した相手から水分を吸収して干からびさせる。
 鎧を切り裂くと中から水が漏れ出す。使い魔の中では一番弱いが、材料は調達しやすく、砂魔とコンビを組めばかなり活躍できる。水場では強いかもしれない。

・砂魔(ディザード)
 ネジが何本も突き出したガスマスクのような頭部を持つ。鎧の内側は砂。触媒は蠍。硬質の砂を操作し、剣から高速で射出して対象を破壊する。
 砂の射出は、10mは離れた人間の半身を吹き飛ばし、石壁を砕くほどの威力がある。地面が砂地なら、剣を突き刺して砂を円形に吹き飛ばし、広範囲の敵を一掃する大技も持つ。
 材料が調達しやすく、近距離・中距離での立ち回りもできる使い勝手のいい使い魔。水魔とコンビを組めばかなり活躍できる。
 「ディザート(desert:砂漠)」ではなく「ディザード」とルビを振られているが、ヘビーメタルではない。

・影魔(シャドウ)
 髪の毛の生えた髑髏のような頭部を持つ。鎧の内側は闇。触媒は人間の生命力。剣で影を刺して相手を闇の世界に引きずり込み、その中に渦巻く怨念で魂を喰らい殺害する。
 術が強力な分、燃費は悪く、大量の人間の怨念を必要とする。気配を消すこともできるため、水魔か砂魔の代わりに不意打ちで出現させ、マスターを闇に飲み込むのが最善手。
 ただしサーヴァントやマスターによっては、闇の世界を克服して自力で出て来る可能性もあるため、運用には注意が必要である。

・影武者
 バレス本人に似せた使い魔。ギザ歯。本人より若々しく、流暢に会話でき、本人の意志や思考のまま動く完全な替え玉として自然に振る舞える。
 他の使い魔と異なり血の流れる肉体を持つが、操り人形に過ぎないため、頭に銃弾を撃ち込まれようが首を折られようが、相当に破壊されない限りは行動可能。痛みも感じない。
 また肉体の潜在能力を引き出す術によるものか、並大抵の使い手では到底太刀打ちできないほどの格闘能力を誇る。
 中国拳法めいた技を振るい、その打撃は相手の内側から破壊するため、鎧の類では防げない。ただし、影武者は魔術は使えないし、令呪も刻まれない(他の三体への命令は可能)。
 「氣」の流れを読む最高峰の達人でさえ、彼が影武者だとわかるには長時間の同行・観察を必要としたため、たぶん運用中の本体は「氣」を失った抜け殻なのだろう
 (袋に入れた本体らしきものを使い魔が担いで運んでいるシーンがある)。本体に思いがけずダメージが行くと、意識が本体に引き戻されてしまい、影武者は動きを止めて倒れ伏す。


451 : NIMROD ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 01:05:36 5/dOSD.U0

【能力・技能】
黒魔術
極めて優れた黒魔術の使い手。「命の灯」を触媒にして操る術を用い、強力な使い魔を複数使役できる。
また相手と視線を合わせることで精神を支配し、潜在能力を引き出して、己の奴隷たる殺人機械とすることもできる。
ただし最大の弱点であるバレス本体が姿を相手の前に晒す必要があるため、よほど安全か必死な状況でなければやろうとはしない。
影武者や他の使い魔が機能停止した場合も、これによってある程度は手勢を補える。強い精神力があれば抵抗は可能。サーヴァントには効かない。

【人物背景】
漫画『スプリガン』に登場した魔術師。「今世紀(20世紀)最悪の黒魔術師」の異名をとる。国籍不詳。女言葉でしゃべるがたぶん男。
ユダヤ人であり、第二次世界大戦中にアウシュヴィッツでの地獄を経験した事で神と人間に絶望、信仰を捨てて黒魔術を極める。
そして「世界平和」のため、イラクに存在した超古代文明の遺跡「リバースバベル」の力を用いて、自らが絶対神の座に就こうとした。
アウシュヴィッツを体験して半世紀後、20世紀末(湾岸戦争後、ボスニア紛争頃)に死んでいるので、推定年齢は60歳以上か、70代か。
「卿」と呼ばれているので、魔術師としての「ロード」の称号でなければ、爵位か勲功爵を持っているのかもしれない。

人間そのものに絶望しつつ救おうともしている、一種の狂人。どこぞの魔術師殺しに似ていなくもない。
正義や善悪を決めるのは、自分が成るべき真の神であり、目的のためならわざと戦争を起こすことも厭わない(悲しむことは悲しむ)。
というより死者の怨念が主なパワーソースであるため、犠牲が多い方が好都合。生き残った者が救われればよい。

【ロール】
退職した裕福な老人。普段の活動は影武者に任せ、本体は寝たきりになって引きこもっている。
本体はわりと健康であり、影武者の操作を解除すれば普通に行動できる。床ずれにならないよう時々動いた方が良さそうではある。
令呪は本体に刻まれているが、ルーラーからの通達は、影武者を起動していればそちらへ来る。

【マスターとしての願い】
自らを絶対神とする価値観と思想で全人類を洗脳し、世界中から争いをなくす。別に彼を信仰させる必要はないと思うのだが、たぶん彼のエゴである。
それでも争いがなくならなかったり、聖杯が叶えてくれなかったりすれば、リバースバベルを復活させるなど別の方法を考えるだろう。

【方針】
「本体」を隠し通し、素知らぬ顔で日常生活を送り、暗躍や戦闘はキャスターに任せる。最終的に生き残れば勝ち。
影武者が襲撃されれば、無関係な弱者を装うか逃げる。最悪、自前の使い魔を「サーヴァント」とするマスター本体だと思わせる。
一応、影武者の右手にも令呪っぽい紋様を刻印し、それっぽく手袋をしている。多少の魔力はこもっているので、ごまかし程度にはなるだろう。
街中で殺し合いが起きて民間人が犠牲になれば、その怨念を利用してもよい(積極的にはやらない)。キャスターの動きは念話や感覚共有である程度監視する。

【把握手段】
たかしげ宙&皆川亮二『スプリガン』単行本5巻「混乱の塔」編。

【参戦時期】
「混乱の塔」編終了後。リバースバベルの崩壊時、瓦礫に混じっていた『鉄片』に触れたものと思われる。


452 : ◆nY83NDm51E :2017/04/13(木) 01:07:30 5/dOSD.U0
投下終了です。


453 : ◆pGE1YUCCvI :2017/04/14(金) 17:33:04 ugX/by7g0
投下します


454 : 僕らは今のなかで ◆pGE1YUCCvI :2017/04/14(金) 17:33:51 ugX/by7g0
広い市営ホールの中に、耳を劈くような激しい歓声が絶えず響いている。
色とりどりのサイリウムが振られる客席。そこに座る人々は皆、ステージの上できらびやかに舞う少女達の姿に熱狂し、魅了されていた。

――それぞれが好きなことで 頑張れるなら――

明るい歌詞は悩みを癒やし、吹き飛ばしてくれる。
観客達にも皆一人ひとりの人生があり、物語がある。
中には考えただけで気分が暗澹とするような問題を抱えた者や、思い出したくもない辛い過去を持つ人間もいるだろう。
それでも彼らは、今この瞬間だけは現実を忘れていた。
心の重荷を脇に下ろして、踊り、歌い、跳ね回る若き可憐な偶像(アイドル)達。
彼女達の歌と踊りにはまだまだ粗があったが、しかしそんなことが気にならないくらいの力強いパワーがあった。

――新しい場所が ゴールだね――

彼女達は誰かを、何かを否定しない。
明るい歌詞と歌声で、皆の生き様を肯定してくれる。
純粋に外見が優れているというのももちろんあるが、彼女達アイドルが人の心を惹き付けるのにはそういった理由もある。

ここには光だけがある。
未来に歩いていくという強い希望の光だけがある。
それ以外は何もない。歌う側にも、それを盛り上げる側にも。
ただ光だけがあるのだ。こう聞けばいいことに聞こえるが、徹底的に貫けば異質な空間が出来上がる。
そう、このライブはあまりにも眩しかった。不自然なくらいに、誰かが仕組んだみたいに。

――それぞれの好きなことを 信じていれば――

それもその筈。
この世界は、現実ではないのだから。
さる巨大な、余人には想像も付かないような儀式のために作り上げられた一つの巨大な舞台。
世界にとって重要な存在は、あくまでもそこに招かれた外の世界の住人達だけ。
それ以外の全ては、儀式を不自然なく進行させるためのエキストラに過ぎない。

明るく可愛く、人々に夢と希望を与えるスクールアイドル。
そして、そんな彼女達に勇気付けられるのが役目の観客達。
彼女達は皆、聖杯にプログラムされた通りの役割を遂行し続けていた。
輝くものはどこまでも眩しく。
それに魅せられた者達は、明日を生きる勇気を与えられて自らも輝き始める。
教科書通りの、あまりにも都合の良すぎる理想像。
しかし作られた存在である彼女達は、誰もそのことに気付かない。
違和感を覚えることさえ出来ずに、目の前の歓声に精一杯応えようと声を張り上げる。


455 : 僕らは今のなかで ◆pGE1YUCCvI :2017/04/14(金) 17:34:21 ugX/by7g0
――ときめきを 抱いて 進めるだろう――

最後の曲が終わりに近付くにつれて、建物が揺れそうなほどに歓声は強まっていく。
サイリウムが振り子のように左右に動くペースは早まり、照明器具の類は更に会場を盛り上げるために明滅を繰り返す。
皆が一丸となって作り上げるライブとは、よく言ったものだ。
今日のライブに、不必要な人間は誰一人としていない。
主役たる少女達の晴れやかな笑顔が、舞う爽やかな汗の粒が、それを証明している。
やがて全ての歌詞が終わり、とうとう最後の曲が終わりを迎える。
混じり気のない賞賛の拍手に手を振り返しながら、少女達が一人また一人と消えていく。
夢の時間はこれにて終わり。アイドル達の晴れ舞台は、大成功の内に幕を閉じる。

「今日も凄かったなあ、μ'sのライブ」
「ホントだよ。俺達が学生だった頃にもバンドだの何だのやってる奴らはいたけど、レベルが違うよなあ」
「俺、明日も仕事頑張れそうだぜ」

観客達は席を立ち、各々が友人や家族と今日のライブの感想を興奮した様子で語らいながらホールを去っていく。
今日も今日とて、冬木のスクールアイドル達は絶好調だった。ただ――皆が皆そうだったわけではどうやらない。

「でも今日、かよちんは調子悪いみたいだったなー」
「あ、お前も思った? なんか表情もぎこちなかったし、ダンスの最中も何回も躓いてたよな」

件の「かよちん」なるスクールアイドルは彼らの一推しメンバーなのか、彼らが持っている団扇には彼女の優しそうな笑顔がプリントされている。
国立音ノ木坂学院に所属するスクールアイドルグループ、「μ's」。そのメンバーの一人、小泉花陽。
ファンの彼ら曰く調子が悪いようだったという彼女の今日のパフォーマンスは、確かに素人目に見ても分かるほどぎこちなく、粗が目立っていた。
周りがあまりにも完璧にライブをこなしているからこそ、結果として彼女の不調が一際目立ってしまった……というのもある。
だが、それだけではなかった。今日の小泉花陽にはもう一つ、目に見えて明らかな異常があった。

「あと手に包帯もしてたよな?」
「してたしてた。火傷でもしたのかねえ」
「分かんねーけど、心配だよなー」

その色白な左手に巻かれた、痛々しい包帯。
アイドルにあるまじき、ファンに不安を与えてしまうような要素。
それを見て「何かを隠しているみたいだ」と感じる者がいなかったのは、彼女にとって間違いなく幸いだった。


◆◆◆◆◆◆


456 : 僕らは今のなかで ◆pGE1YUCCvI :2017/04/14(金) 17:35:01 ugX/by7g0


ライブを終え、友人達と別れて帰途に着いたスクールアイドル・小泉花陽。
その目の前で、突如不可思議な現象が起こった。
花陽の傍らの空間が突然波紋みたいに歪み、そこから精微な風貌をした黒髪の青年が姿を現したのだ。

「やあ花陽ちゃん。いいライブだったね、見ていたよ」

何もない虚空から突然現れた男が、馴れ馴れしく自分の名前を呼び、話しかけてくる。
普通なら絶叫をあげて逃げ出してもおかしくない事態に、しかし花陽は驚きも怯えもしなかった。
むしろそれらの逆だ。花陽が浮かべた表情は、安堵したような笑顔であった。

「アサシンさん! えへへ、ありがとうございますっ」

アサシンと、花陽は青年のことをそう呼んだ。
暗殺者だなんて、間違っても人に対して使う呼称ではない。
青年の方はそれを咎めるでもなく、いかにも女性受けしそうな甘いマスクに爽やかな笑みを浮かべる。
歳は二十代前半くらいだろうか。女子高生の花陽と並んでいると、傍からはまるで兄妹のようにも見える。

「でも、あまりうまく踊れませんでした……みんなからも心配されちゃって」
「無理もないよ。この状況で普通通り過ごせる方がおかしいんだから」

花陽が青年――アサシンと初めて顔を合わせたのは、今から一週間ほど前のことだ。
冬木市に暮らす女学生。アイドル活動をしている以外は、ごくごく普通の女の子。
だが、小泉花陽はある時突然思い出した。自分が暮らしていた本当の世界の記憶を。

花陽は激しく取り乱し、膝を抱えて震え、泣いた。
自分が今いる世界が本当の世界ではないこと、このままでは自分は偽物の世界と一緒に消えてしまうこと。
無遠慮に頭の中に突き入れられた真実は、まだ高校生の少女が受け入れるにはあまりにも重すぎた。

「けど、あまり重く考えすぎるのはよくないな。
 周りに不審がられてしまうかもしれないし、何よりそれじゃあ君の心が磨り減ってしまうだろう」
「……アサシンさん」
「大丈夫。花陽ちゃんは何も心配しなくていい。君はただ、いつも通りにアイドルとして皆を楽しませていればいいんだ」

危ないこと、面倒なこと。そういうのは全部、この僕が引き受けるから。
そう言って柔和に笑う彼の存在は、一人ぼっちの花陽にとってすごくありがたかった。
アサシンの笑顔は心を安らげてくれる。彼の言葉は、不安に押し潰されそうな脆い心を楽にしてくれる。
もしも彼以外のサーヴァントを召喚していたらと思うと、花陽はゾッとする思いでさえあった。

「でも、それだと、アサシンさんが危ない目に遭っちゃいませんか……?」
「アハハハ、僕はいいんだよ。なんてったって僕は生きてる人間じゃない、君に召喚されたサーヴァントなんだ。
 サーヴァントがマスターを守るのは道理だし、死や怪我を恐れるサーヴァントなんてそれこそ英霊の恥さらしもいいところだろう」

青年は自分の真名を、来栖シュウと名乗った。
彼こそが小泉花陽のサーヴァント。彼は召喚されてすぐ、花陽に問いを投げかけた。
君はどうしたい、と。聖杯でどんな願いを叶えたいんだ、と。
それに対し、花陽は答えた。願いなんてない。自分の暮らしていた本物の世界に帰りたい。
冷静に考えれば、我ながら危険な言動だったと少しばかり背筋が寒くなる。
願いを抱いて現界しているのがほとんどであるサーヴァントに、願いはない、帰りたいだけだなどと言えば、その時点で見限られても何らおかしくはない。
ただ、アサシンは花陽の思いを理解してくれた。理解した上で、彼はそれに頷いてくれたのだ。
そして、彼は花陽に約束した。君を必ず元の世界に帰してみせると――毅然とした声で言い切ってみせた。


457 : 僕らは今のなかで ◆pGE1YUCCvI :2017/04/14(金) 17:35:26 ugX/by7g0
「言ったろ、花陽ちゃんは何も心配しなくていいんだ」

アサシンは花陽の頭に自分の手を置いて、ゆっくりと左右に動かす。
頭を撫でる彼の顔は逆光でよく見えないが、伝わってくる手の温もりはまるで本当の兄のよう。

「君は君らしく、いつも通りの小泉花陽であればいい。
 僕はそっちの分野に特別詳しいわけじゃないが……アイドルは笑顔を見せてなんぼ、なんだろう?」
「!」

アイドルは、笑顔を見せてなんぼ。
その言葉は先刻のライブが終わってから、不調を心配した仲間の一人がかけてくれた激励の言葉だった。

「どんなことをしてでも、君を元の世界に帰してみせよう。
 だから、どうか笑ってくれ。僕も花陽ちゃんの浮かない顔は見たくない」

元は縁もゆかりも何にもない赤の他人である自分のために、彼は全力を尽くしてくれる。
願いを叶える奇跡の力を投げ捨ててでも、自分の望みを叶えようと奮闘してくれる。
そのことが本当にありがたくて、花陽は何度も何度も彼に感謝した。
彼がいつも通りの自分を望むなら、何もできない自分はせめてその願いにだけは応えよう。
強くそう思うと、自然と花陽の顔には光り輝くスクールアイドルとしての天真爛漫な笑顔が浮かんだ。
記憶を取り戻してから初めて浮かべる、心の底からの笑顔だった。

(戦争なんてしたくないし、正直、今でも怖い)

けれど、それでも。
彼を心配させないように、精一杯前を向いて毎日を生きよう。
小泉花陽は強くそう決意した。恐怖を乗り越えるなんて大層なことはできないが、行動することが一番大事なのだ。

(……そうですよね、アサシンさん)

花陽の力強い眼差しに、アサシンは笑顔で頷いた。
……一瞬、その笑顔が恐ろしい形に歪んでいるような気がしたが、疲れのせいだろうと花陽はすぐにそのことを頭の片隅に追いやり、記憶から消してしまった。
小泉花陽はアサシンのサーヴァント、来栖シュウを心の底から信頼している。

だから気付けない。自分が契約してしまったサーヴァントのおぞましい本性に、辿り着くことができない。


458 : 僕らは今のなかで ◆pGE1YUCCvI :2017/04/14(金) 17:35:52 ugX/by7g0




「どうせならもう少しマシなマスターを引きたかったもんだね。
 歌って踊って誰かを元気に? 笑わせるなよ、包丁持った通り魔相手にアイドルなんてクソの役にも立たないぜ」

小泉花陽が帰宅してから、数時間後。
繁華街に聳えるビルの屋上に立ち、花陽のアサシンは彼女と話していた時の彼では考えられないような邪悪な嘲笑を撒き散らしていた。
彼は善のサーヴァントなどではない。恐ろしい儀式に迷い込んでしまった少女をハッピーエンドに導く白馬の王子様などでは、断じてない。

「まあでも、騙しやすいところだけはそれなりかな。
 あともう少し甘い言葉をかけてやれば、もっと都合のいい手駒として使えそうだ」

とはいえ、小泉花陽が彼に誑かされてしまったことを迂闊と責めることは誰にもできないだろう。
何故ならアサシンは天性の詐欺師だ。こと人を騙すことにおいて、彼の右に出る者はそういない。
ほとんど事故のような形で命を奪い合う戦いに巻き込まれてしまい、精神の均衡を大きく欠いた少女。
彼女にとってアサシンは、さぞかし素敵な救世主に見えたに違いない。
いつの時代も詐欺師という生き物は、弱者の心の隙間に入り込んで甘い汁を吸うのが常だ。
今回もそうだった。なればこそ、小泉花陽がアサシンに騙されたのは必然のことであった。

「さあ、今回のゲームはどうやって遊ぼうか。
 最後に勝つのは当然として、勝ち方にも色々種類がある。
 せっかくのド派手なサバイバルゲームだ、目いっぱい楽しまなきゃ損だろう」

これがアサシンの本性だ。
生前からずっと変わらない、悪魔のような性分。

彼は悪名高い詐欺師だった。そしてそれだけでなく、人を喰う異形の力をその脳に秘めていた。
彼は悪逆の限りを尽くしたが、ある時一人の少年によって大きな屈辱を味わう羽目になった。
怒りのままに件の少年を追い求めた末、彼はとある少女が作り出した偽りの世界に足を踏み入れる。
そこでも彼は非道を尽くした。殺し、騙し、嘲笑い、暗躍をし続けた。

「必ず会いに行くよ、アキラ。そして中村陽太。
 ―――僕は、やられっぱなしで終わるのが大ッ嫌いなもんでネ!」

最期、悪辣なるカメレオンは狼の顎に食い千切れられた。
それでも、彼はこうして復讐の機会を得た。生涯二度の屈辱、それを払拭する最後のチャンスが舞い降りたのだ。
眩しく優しいアイドルに寄生して、人食いの怪物は夜闇に嗤う。
最後に勝つのは自分以外ありえないと、どこまでも傲慢に。


459 : 僕らは今のなかで ◆pGE1YUCCvI :2017/04/14(金) 17:36:54 ugX/by7g0
【クラス】
アサシン

【真名】
来栖シュウ(チャン=リー)@ヒト喰イ、ヒトクイ-origin-

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力D 幸運A 宝具D(通常時)
筋力C 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運A 宝具C(ヒト喰イ時)

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。

【保有スキル】
ヒト喰イ:C
アサシンは、ある特殊な薬品を投与されたことで脳が変異した新人類である。
彼らは普段は人の姿で日常生活を送り、自分の巣を展開してその中で人を狩り、食らう。
『巣』が発動されていない状態ではステータスが表示されず、サーヴァントとしても認識されない。
ただし彼が自ら正体を明かした、看破された相手に対してはこのスキルは機能しない。

話術:B
言論によって他者の思考を誘導し、自在に操る技術。
彼は稀代の天才詐欺師であり、巧みな話術により相手の心を弄ぶことに長ける。
特にアサシンの場合は誰かに不安や悪感情を抱かせるのを得意としている。

擬態:A
『変幻自在の透明蜥蜴』に由来するスキル。
任意の他人に姿や服装を変化させ、擬態することができる。
見た目だけでなく匂いや声、相手がサーヴァントであればマスターから認識されるステータスの数値までコピー可能。
『巣』を展開せずともこのスキルは自由に使用できるため、マスター相手の暗殺や諜報に非常に優れている。ただし、記憶をコピーすることだけはできない。

【宝具】
『巣』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:1〜1000 最大捕捉:10人
ヒト喰イが発生させる特殊な精神世界で、展開と同時に半径数キロメートル範囲の人間を複数人引きずり込む。
巣の中では脳以外の部位の疾患や怪我は完治し、中で負った傷も脱出さえできれば完治する。
巣での記憶は外に基本持ち越せないが、「鉄片」に選ばれて冬木にやってきたマスターのみ記憶を引き継ぐことが可能。
この宝具の内部では、アサシンは第二宝具『変幻自在の透明蜥蜴』を真の形で発動、ヒト喰イとしての肉体と能力を最大限に発揮することができる。巣の中の出来事は外部からは完全に感知不能なため、一度発動してしまえば安全に魂食いやマスター狩りを行える非常に優れた暗殺宝具。
しかし巣に取り込める人間を正確に選ぶことは不可能(体に触れた状態で発動するなど、やり方によっては確実に望んだ相手を捕らえることが可能)で、運が悪ければサーヴァントを取り込んでしまう可能性も小さくない諸刃の剣。少なくとも、サーヴァントと行動を共にしているマスターを引き込んでしまったならそういう事態が勃発する可能性は非常に高いだろう。


460 : 僕らは今のなかで ◆pGE1YUCCvI :2017/04/14(金) 17:37:24 ugX/by7g0
『変幻自在の透明蜥蜴(カメレオン)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜1000 最大捕捉:10人
『巣』を張っている状態でのみ使用可能。
アサシンのヒト喰イとしての姿。巨大なカメレオンに自らの姿を変化させ、長い舌や尾を使って戦えるようになる。
カメレオンらしく360度の視野と先述の擬態能力を持ち、彼自身の頭脳も相俟って厄介さの度合いはかなり高い。
が、ヒト喰イとしては体格も小さく戦闘力も下の方。状況が状況だったとはいえ腕っ節に優れたただの人間に押し負けたこともあり、一定以上の強さを持つサーヴァントには真っ向勝負ではまず勝てない。

『人喰絶対防衛圏(バリアルール)』
ランク:E 種別:対人宝具(自身) レンジ:1
過去、ただの人間に頭脳戦と戦闘の両方で敗北を喫した屈辱から学び、彼が手に入れた「格上狩り」への対策。
『巣』の内外を問わず、アサシンに対する攻撃はたとえ神秘を宿していようと黒い膜によって自動的に阻まれる。
これにより、彼は基本マスターに傷付けられることがない。しかし自分と同じヒト喰イやサーヴァントの攻撃は防御できず、あくまでも格下を寄せ付けないための宝具。

【weapon】
なし

【人物背景】
とあるヒト喰イの少女が展開した巨大な巣の内側で暗躍を繰り返していた、カメレオンのヒト喰イ。
一人称は「僕」と「俺」を状況に応じて使い分ける。
来栖シュウを名乗っているが、その真名はチャン=リー。極めて高い頭脳を持った詐欺師である。
虚構の世界で辣腕を振るったサーヴァントということもあり、真名の特定難易度はかなり高い。

【サーヴァントとしての願い】
受肉し、佐々木アキラと中村陽太に復讐する


【マスター】
小泉花陽@ラブライブ!

【マスターとしての願い】
元の世界に帰りたい

【能力・技能】
スクールアイドルとしての歌唱力やダンスのスキル。
もちろん聖杯戦争の舞台で役に立つかは怪しい。

【人物背景】
音ノ木坂学院の二年生で、学院の廃校を阻止するために結成されたスクールアイドルグループ「μ's」のメンバー。
自分から人に話しかけるのが苦手と引っ込み思案な一面を持つが、その一方で結構な努力家。
アサシンのことを全面的に信用している。

【方針】
怖い戦いをするつもりはない。
アサシンさんと一緒に、ここから抜け出す手段を探す。


461 : ◆pGE1YUCCvI :2017/04/14(金) 17:37:49 ugX/by7g0
以上になります


462 : ◆NIKUcB1AGw :2017/04/15(土) 21:35:34 8POvpKUQ0
投下します


463 : ああ、かるい人々 ◆NIKUcB1AGw :2017/04/15(土) 21:36:36 8POvpKUQ0
冬木市の外れにある、一軒の小屋。
ここにとあるキャスターが目をつけ、その地下に広大な「工房」を築いた。
そこには数々のトラップと様々な使い魔が配置され、侵入者を迎え撃つ準備がしっかりと整えられていた。
だが現在、その全てが無に帰そうとしていた。


◆ ◆ ◆


「なんなんだ……。なんなんだあいつは!」

水晶玉を通して工房内の様子を見ながら、キャスターはヒステリックに叫んだ。
彼が見ていた光景は、まさに悪夢。
工房に乗り込んできた敵対サーヴァントにより、自慢のトラップも使い魔も片っ端から粉砕されていく様子だった。

「どういうことだ、キャスター! 貴様、この工房に籠もっている限り我々に怖い物はないと大口を叩いていたではないか!」

キャスターの傍らにいた壮年のマスターが、顔面を蒼白にしながらキャスターをなじる。

「黙れ、こんなことあってはならないのだ! 私が丹精込めて築いた工房が、あんな力任せのバカに……」
「黙るのは貴様だ! この役立たずが!
 こんな所にいられるか! 私は脱出させてもらう!」
「待て、もう手遅れ……」

キャスターの忠告も、すでに意味をなさなかった。
マスターがドアノブに手をかけた直後、向こう側からドアを貫いてきた槍がマスターを串刺しにしたのだから。

「が……は……」
「マスター!」

慌ててマスターに駆け寄るキャスターだったが、すでに助からない傷なのは火を見るより明らかだ。
キャスターに流れ込む魔力が急速に減少しているのも、マスターの死が近づいているのを裏付けている。

「おいおい、マジか。まさかマスターの方が、前にいたとはなあ。
 やっちまったぜ」

そこに響く、新たな声。
ドアの向こうから現れた、敵対サーヴァントだ。
槍と鎧で武装した、それなりに目鼻立ちの整った男だ。
だが、そんなことはキャスターにとってどうでもよかった。
彼の意識は、爛々と狂気を宿したおぞましい目に集中していた。

「マスターの方が先に死んだら、サーヴァントが勝手に消えちまうじゃねえか。
 悪いが、消える前に死んでもらうぜ!」

そう言い放つと、サーヴァントは槍を振るう。
次の瞬間、キャスターの首は宙を舞っていた。

「この私が……バーサーカーごときに……」

最後の力を振り絞って呟いた、キャスターの言葉。
それを聞いたサーヴァントは、憮然とした表情で言う。

「俺はバーサーカーじゃねえよ。ランサーだ」


464 : ああ、かるい人々 ◆NIKUcB1AGw :2017/04/15(土) 21:37:16 8POvpKUQ0


◆ ◆ ◆


「終わったようだね」

キャスターが完全に消滅した後、その場にスーツ姿の中年男性が姿を見せた。
彼こそが、ランサーのマスター。名を「内海」という。
もっとも、本名かどうかは疑わしいが。

「おう、マスター。ちゃんと数えててくれたか?」
「ああ、サーヴァントが一体に、マスターが一人。使い魔が13体だ」

内海が告げたのは、この度の戦いでランサーが倒した敵の数だ。

「マスターは強そうじゃなかったし……5点くらいでいいか。
 じゃあ、今回は235点だな。使い魔が多いせいで、だいぶ高得点になったぜ」
「あのさ、倒した敵数えるためだけに僕を最前線に連れてくるのやめてくれない?
 僕、自衛手段何もないし。それに、死体とかすごく苦手なんだよね。
 サーヴァントとか使い魔は消えてくれるからまだマシなんだけどさ」

足下に転がる敵マスターの死体を視界に入れないようにしながら、内海が言う。

「まあ、別に数えるくらいは戦いながらでもできるんだがな。
 でも、他に数えてくれるやつがいるならそっちの方が楽じゃねえか」
「本当に自分の都合ばっかりだよね、君……」

ランサーからの返答に、内海はたまらず溜息を漏らした。


◆ ◆ ◆


聖杯戦争というイベント自体は、なかなか面白い。
歴史上の英雄と組み、最強を目指す。何とも心躍るではないか。
だが今のところ、自分がまったく勝敗に関与できないというのは大きな不満だ。
キャラクターがプレイヤーの操作を無視して暴れ回るゲームなど、誰が楽しいと思うのか。
そういう意味では、自分の引き当てたサーヴァントはハズレだ。
こちらの言うことなど、聞きやしない。
だが、彼が召喚されたことには納得するしかない。
自分が楽しむことだけを考え、他人の迷惑を考えない。
その点だけ見れば、自分とランサーは同じなのだから。

「まあ、だからといって現状に甘んじるつもりはないけどね」
「ん? なんか言ったか、マスター」
「いやいや、こっちの話だよ」

顔に笑みを貼り付け、内海は悪びれずに言った。


465 : ああ、かるい人々 ◆NIKUcB1AGw :2017/04/15(土) 21:38:13 8POvpKUQ0

【クラス】ランサー
【真名】森長可
【出典】Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚
【性別】男
【属性】混沌・悪

【パラメーター】筋力:B- 耐久:C 敏捷:D 魔力:E 幸運:D 宝具:C

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
Eランクでは、魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

【保有スキル】
精神汚染:B
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
このスキルを所有している人物は、目の前で残虐な行為が行われていても平然としている、もしくは猟奇殺人などの残虐行為を率先して行う。

血塗れの蛮勇:A
攻撃を続けるごとに攻撃力が上昇するが、防御力が低下するスキル。

【宝具】
『人間無骨』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
身の丈ほどある巨大な槍。
穂先には展開ギミックが仕込まれており、真名解放と同時に攻撃力を強化した解放形態となる。
通常時は直槍だが、解放形態では槍先が開いてチェーンソー状の刃が出現し、ちょうど十字槍の形状を取る。
本来の用途は、相手に突き刺した状態で強制的に槍を開き、相手を内部から破壊することだとか。
「どんなヨロイも紙クズ同然」と豪語する通り、防御無視の効果を持っており、人間の肉体を容易に輪切りにできる。
消費魔力も少なく、単純ながら実戦においては極めて強力な宝具。

『百段』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
ランサー、ライダーで召喚されると所有する合体騎乗宝具。
史実での長可の愛馬であり、長可の居城である金山城の石段100段を駆け上るほどの名馬というのが名前の由来。

【weapon】
『人間無骨』

【人物背景】
日本の戦国時代の武将で織田信長の尾張統一前からの功臣であった森可成の次男で、信長の寵童として有名な蘭丸の兄。
父譲りの槍の名手で、父の死後は森家の当主となり、信長の息子である織田信忠旗下で多くの武功を立て、『鬼武蔵』の異名を取った猛将。
信長没後も羽柴秀吉に属して美濃を席巻したが、小牧長久手の戦いの際に銃弾を受けて若くして命を落とした。
生前から非常に旺盛な闘争心の持ち主で、初陣で自ら27の首級を挙げたのを皮切りに前線での戦いを好み、
高遠城の戦いでは腰から下が満遍なく血塗れになるまで敵兵を殺し回ったとされる。
一方で平時でも異常なまでに気性の激しい人物で、気に入らぬことがあればすぐに手討ちに及んだり、
織田軍の関所であっても放火して押し通ったりととにかく暴力的な逸話が多く残されている。

【サーヴァントとしての願い】
存分に戦う


466 : ああ、かるい人々 ◆NIKUcB1AGw :2017/04/15(土) 21:39:22 8POvpKUQ0

【マスター】内海
【出典】機動警察パトレイバー
【性別】男

【マスターとしての願い】
聖杯戦争を楽しむ

【weapon】
特になし

【能力・技能】
優れた頭脳を持つ策略家。
リーダーとしてのカリスマはそこそこあるが、その性格ゆえ外部には敵を作りやすい。

【ロール】
重機会社の社員

【人物背景】
レイバー制作会社「シャフト・エンタープライズ・ジャパン」の企画7課課長。
外見はいつもヘラヘラとした笑みを浮かべている、うさんくさい中年男性。
内面は享楽主義者で自己中心的、裏社会に精通した危険人物。
香港支社時代は「リチャード・王」を名乗っており、「内海」という名前も偽名である可能性が高い。
殺人や暴力は好まないが、単に自分の目で見たくないだけであり、自分の目の前でなければ自分の行動でどれだけの人間が死のうが気にしない。

【方針】
聖杯にあまり興味は無いが、死にたくないのでいちおう優勝狙い


467 : ◆NIKUcB1AGw :2017/04/15(土) 21:40:14 8POvpKUQ0
投下終了です


468 : ◆XksB4AwhxU :2017/04/16(日) 13:29:33 mMhIcw4M0
皆さん投下乙です。

投下します


469 : 清光&セイバー ◆XksB4AwhxU :2017/04/16(日) 13:30:34 mMhIcw4M0
穂群原学園はごく普通の私立高校である。初等部から高等部まで存在する学校は都心でもない地方都市にあるものでは大きな方であるが、
男女共学であり、それなりの数のクラスに別れ、生徒は別段特殊でもない科目を習うことになる。もしも記憶を操作されずに放り込まれたとしても多少の苦労はあるだろうが順応することは不可能ではないだろう場所である。
『外』から連れてこられたマスター候補達もしばらくの間は元居た場所のように普段通りの学生生活を送る。加州清光がこの学校の生徒ということになっているのは、他人が見た時その外見から想像する年齢を基準にしているのだろう。


――――だが、その見立てが妥当なのは彼が普通の人間であった場合だ。清光にとってこの状況は、自分が過ごしていた掛け替えない日常とはあまりにもかけ離れていた。違和感どころの話ではなかったのである。
いつの間にか脳に刻まれている知識を活用してなんとか周囲に不審がられないように授業をやり過ごし、放課後親しげに遊びに誘ってくる、知識はあるけれど身に覚えのない友人たちにちょっとした用があるからとやんわり断りを入れてから、清光は家路を急いだ。どうしても探さなければならないものがあるからだ。


470 : 清光&セイバー ◆XksB4AwhxU :2017/04/16(日) 13:31:41 mMhIcw4M0
◆  ◆


「あーもう、一体どこだよ!」

清光は力任せに部屋に備え付けのクローゼットを引っ張りあけながら何度目か分からない悪態をついた。
彼は一般的な男子高校生――いや、その辺の下手なOLより遥かに身だしなみに気を付ける性質である。服はかっちりと着込まれ、両手両足の爪には深い赤色の爪紅(つまべに)がムラなく塗られており、眉の手入れまで完璧にされている。そんな彼なので、アパートに一人暮らしであっても整理整頓はかなり行き届いていた。
だが、今の彼の自室もとい自宅はかろうじて散らかっているということはないが、まるで犯行を隠蔽する気が欠片もない空き巣が侵入した後のような状態になっていた。ありとあらゆる収納のドアは全開のままで、引き出しは引き抜かれ床に置かれている。
しかし、この部屋に空き巣が侵入したことはない。この異様な状態は、何のことはない家主の少年が探し物をしているというだけである。それはもう必死で。


クローゼットを開けた彼はそのまま家探しを続行する。ハンガーに吊られた衣装を難儀しながらかき分けて数十秒

「――あった!」

奥深くにある衣装ケースの上にそれはあった。まるでそのまま放り捨てたように無造作に置かれた清光には馴染みの木瓜の花を模した紋が描かれている黒いコートやら籠手、ブーツ。赤と黒を基調としたそんな明治初期の洋装を思わせる戦装束である。
その様を見て彼は思わず顔を顰めた。変な折り目がついたらどうしてくれるんだ。聖杯戦争の主催者とやらに対しての苛つきを感じながらも、それはともかくとして一番の目的に目をやった。
それは一振りの日本刀であった。鞘は彼の瞳や爪紅を思わせる深い赤色であり、ハート型の猪目が鍔に彫られている。
それを見つけた清光はほんの少し安堵の溜息を吐いた。なにしろこの刀は自分自身――――『本体』なのである。普段ならば部屋に置いたまま、畑仕事や馬の世話をしに出かけることは多々あるが、部隊の仲間と引き離され、唐突に巻き込まれたこの戦場で自らの命そのものであるこれを所在不明にしておくほど彼は不用心ではなかった。


加州清光は人間ではない。刀剣に宿った付喪神が人型で現世に顕現し、歴史を改変しようとする時間遡行軍と戦う『刀剣男士』なのだ。


清光は本体を鞘から抜いて刀身をざっと見て確認し、また納刀する。どうやら異常はないようだ。持ち運ぶときは学校の体育の授業で使った竹刀袋にでも入れておこうかと考える。そのまま他の装備を確認しようとコートを手に取った時だった。
「なに?」
なにやら握りこぶしほどの大きさの物体が床に転がり落ち、彼は咄嗟に後ろに下がった。そのまま警戒を解かずに物体を確認する。
ゴツゴツとした黒に近い灰色の岩石。とても見覚えがある――そういえば資源として拾ったような。その後どうしたっけ?

「これ、玉鋼じゃん・・・ん?『鉄片』って、もしかしなくても――――――」

突如言葉を遮るように岩石改め玉鋼が眩い光を発し始めた。

サーヴァント――頼んだ覚えもないのに巻き込まれたこの蠱毒めいた戦場における、現状での唯一の仲間がこの仮初めの現世に降りてこようとしている。まさか、今生の主である審神者のように何者かを顕現させる立場になるなんて誰が思おうか。頼むから話が通じるようなやつが来てくれよと思いながらさらに大きくなる光を見守っていた清光ははたと気づく。

「な――この感じって・・・!?」


――――――知っている


なぜ、そう思ったのかは分からない。だが、分かるのだ。
言葉を交わすことはなく、向こうも付喪神としての意識の存在など知らないだろう。だがかつて確かに共にあり、振るわれ共に戦った。自身を形作る逸話をくれた人物。ここにはいない安定のように堂々と宣言するようなことはいささか照れがあってできないが、人間の姿を持ったからにはあんな風に強くなりたいという目標でもある『あの人』であると


「沖田く―――――――えっ?」


強い確信を持って呼びかけた声は、しかし顕わになったその姿を見た途端に驚愕と困惑の声に変わることになったのだった。


471 : 清光&セイバー ◆XksB4AwhxU :2017/04/16(日) 13:34:53 mMhIcw4M0
◆  ◆


「いやー、別の側面での召喚とかなんかでバージョン違いの自分が増えることがあるとは知ってましたけど、まさか刀の方が増えるとはこの沖田さんの心眼を持ってしても予想できませんでしたよ」

「へぇ。英霊にもなるとそういうことあるんだ」

未だに家探しの痕跡が残るアパートの一室にて、興味深そうに召喚者を眺める和装の少女――セイバーに自分が所有している中で選りすぐりのかわいらしいデザインのカップに淹れた緑茶と菓子を勧めながら清光は相槌を打った。


今は落ち着くことができたが、召喚当初の自身のテンパりぶりはひどかったなと彼は心中で苦笑する。なにしろ、史実の――自分の知っている『沖田君』は黒髪の男性であったのでその人が来ると思ったら、自分よりも少し身長の低い、桃色がかった白髪の女の子が居たのだ。
だがしかし、その腰には自分自身――加州清光が差してある。
とてつもなく奇妙な状況に、自分では気づかないうちに目か脳が錆びるか刃こぼれでもてしまっているのではと一瞬、本気で考えた。

セイバーと名乗った少女は、召喚者が口をぽかんと開けて硬直しているのを見て怪訝な表情をしながら、どうしてまだ明かしていないのに真名を知っているのかと問うてきた。そこでようやく我に返った清光は己の事情を全て打ち明け、彼女からの答えを聴き、自分の予感が的中したことを知った。
彼女は頭に『平行世界の』という言葉が付くが、間違いなく沖田総司その人であるのだと。

それが10分ほど前のことである。


「――――歴史を好きなように変えようとする輩、ですか。さすが22世紀、SFしてますねえ」


清光の正体やらその使命の説明は中々突飛な話になる。普通の人間には御伽話のようであり、とても信じられないだろうが、聖杯によって様々な平行世界の知識を得た英霊であるセイバーにとってはそうでもないらしい。ふむふむと時々相槌を打つその顔には呆れや疑念などの表情はない。

「まーね。で、そいつらと戦うのが今の主と主に喚ばれた俺たちの使命ってわけ。マスターとサーヴァントってやつにちょっと似てるかもね。
そんで、こっから特に大事な話なんだけど」

大体の事情を話し終えた清光は少し言葉を切って宣言する。

「俺、本丸に帰りたい。聖杯はいらないけど・・できることなら俺達の敵みたいに歴史を改変したい奴に渡らないようにしたいって思ってる。」

「ふーむ・・・聖杯にその遡行軍の殲滅を願わないんですか?」

セイバーは少し首を傾げて当然の質問を返してきた。清光は頷く。

「うん、歴史とか・・時間のことはとても複雑みたいだから下手に手を出すともしかしたら変なことが起こるかもしれないからね。ま、歴史修正主義者の連中がここに居たならそんなこと気にせず欲しがるだろうけど。
――――それに歴史遡行軍は俺達の敵だから、俺達の手で倒さないと」

清光達刀剣男士は、神である前に武器で道具だ。主の審神者を始めとする人間達は、迫りくる未曽有の危機に銃や巨大な兵器ではなく、他でもない自分達刀剣を使い、必要としてくれている。人間に使われる道具の付喪神として戦う理由としては充分だ。
だからこそ彼らは強敵にも立ち向かい、何度も死線を潜るのだ。聖杯というよくわからない代物に役目を丸投げする気などなかった。
むしろ、もしかすると歴史修正主義者が自分のようにこの場に来ていて聖杯を目指しているかもしれないということが目下一番の心配なのだった。

「だから、ごめん。沖田くん・・いや、セイバーには何の関係もない俺の勝手な都合に巻き込んで・・・だけど、どうか俺と一緒に戦ってほしい。
俺、こんなところで折れたくない。俺達の戦場で、必要としてくれる主のために最後の時まで戦いたいんだ!」


472 : 清光&セイバー ◆XksB4AwhxU :2017/04/16(日) 13:35:38 mMhIcw4M0
頭を下げ頼み込む彼を、セイバーは目を丸くして見つめた。
セイバー――――沖田総司の望みは「最後まで戦い抜くこと」だ。生前、病気のため彼女は戦場に出ることができなくなり、床に伏したまま死亡した。彼女はそれを悔いている。自分は新撰組の隊士として不甲斐なく、失格であると考えていた。
平行世界であるためか性別を始め多少の違いはあるものの、この英霊になってからの腐れ縁である某第六天魔王と同じ色合いの少年の話では向こうの沖田もだいたい同じ道を辿った様であった。
世界や性別が違っても病気は変わらないのかと多少がっかりしつつも、生前は刀の意思だとか心とか全く意識していなかったが、こんな不甲斐ない自分に割と雑に使われてましてやこの刀は池田屋でポッキリ折られたりしているので、さぞや鬱憤がたまっているだろうなと思っていた。

だがそんな予想とは裏腹に、この少年からはそんな気配など微塵も感じられない。
出会ってほんの少ししか経ってしていないのに、彼からは裏の無い深い敬意や親愛の感情が自分に対して向けられていると、決して他人の心の機微に敏い方ではない彼女にも分かる程度には会話の中で伝わってきていた。
そんな彼が口にした願いは偶然にもセイバーにも通じるものであった。しかし、生前の後悔である彼女のそれとは違い清光にとっては現在直面している危機だ。実物の刀は現存していないが、刀剣男士として彼は今も生きているのだ。
異世界のとはいえ、同じ新撰組の一員だったともいえる彼に「一緒にいたい仲間と戦いたい戦場から引き離され、望まない場所で死ぬ」という自身と同じ後悔を味わわせたくはない。深く思い悩むこともなく、彼女はこんな自分を慕ってくれているこの真っ直ぐな心を持つ神様が在るべき戦場に帰る手伝いをしてやろうと決めたのだった。

「―――わかりました。共に戦いましょう、清光」

思いもしない出会いだった。きっと偶然ではなく、彼が新撰組の刀だから自分が呼ばれたのだろうとセイバーは考える。

「ありがと・・よろしくね、セイバー」

かつての主従であり戦友は、その在りかたを多少変えながらも、あらゆる時空と因果を越えていま再び手を取り合うのだった。


473 : 清光&セイバー ◆XksB4AwhxU :2017/04/16(日) 13:36:58 mMhIcw4M0
◆  ◆



【クラス】セイバー
【真名】沖田総司@Fate/GrandOrder
【属性】中立・中庸

【パラメーター】
筋力:C 耐久:E 敏捷:A+ 魔力:E 幸運:D 宝具:C


【クラススキル】
対魔力:E
  魔術への耐性。無効化はできず、ダメージを軽減するのみ。『神秘』が薄い時代の英霊のためセイバークラスにあるまじき最低ランク。…と思われていたが、マテリアルの詳細によると『病弱』の影響も受けている様な一文もある。


騎乗:E
乗り物を乗りこなせる能力。新撰組が騎馬を駆って活躍したという逸話は無く、彼女のものは申し訳程度のクラス別補正である。

【保有スキル】
心眼(偽):A
直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。


病弱:A
天性の打たれ弱さ、虚弱体質。桜セイバーの場合、生前の病に加えて後世の民衆が抱いた心象を塗り込まれたことで、「無辜の怪物」に近い呪いを受けている。
保有者は、あらゆる行動時に急激なステータス低下のリスクを伴うようになる、デメリットスキル。
発生確率はそれほど高くないが、戦闘時に発動した場合のリスクは計り知れない。


縮地:B
瞬時に相手との間合いを詰める技術。多くの武術、武道が追い求める歩法の極み。単純な素早さではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合って完成する。最上級であるAランクともなると、もはや次元跳躍であり、技術を超え仙術の範疇との事。その為、恐らくは人間が技術でやれる範疇としての最高峰に相当するのがBランクと思われる。


無明参段突き
種別:対人魔剣 最大捕捉:1人
稀代の天才剣士、沖田総司が誇る必殺の魔剣。「壱の突き」に「弐の突き」「参の突き」を内包する。
平晴眼の構えから“ほぼ同時”ではなく、“全く同時”に放たれる平突き。超絶的な技巧と速さが生み出す、防御不能の秘剣。
三段突きの瞬間は壱の突き、弐の突き、参の突きが”同じ位置”に”同時に存在”する。
壱の突きを防いでも、同じ位置を弐の突き、参の突きが貫いているという矛盾のため、剣先は局所的に事象飽和を起こす。
そのため三段突きは事実上防御不能の剣戟となる。
応用というか結果から来る事象飽和を利用しての対物破壊にも優れる。

【宝具】
『誓いの羽織』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
幕末に京を震撼させた人斬り集団「新撰組」の隊服として有名な、袖口にダンダラ模様を白く染め抜いた浅葱色の羽織。
サーヴァントとして行動する際の戦闘服と呼べるもので、装備する事によりパラメータを向上させる。
また通常時のセイバーの武装は『乞食清光』だが、この宝具を装備している間、後年に「沖田総司の愛刀」とされた『菊一文字則宗』へと位階を上げる。
一目で素性がバレかねないあまりにも目立つ装束のため、普段はハイカラな和装を着用している。


『誠の旗』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50
最大捕捉:1〜200人
セイバーの最終宝具。
新撰組隊士の生きた証であり、彼らが心に刻み込んだ『誠』の字を表す一振りの旗。
かつてこの旗の元に集い共に時代を駆け抜けた近藤勇を始めとする新撰組隊士達が一定範囲内の空間に召喚される。
各隊士は全員が独立したサーヴァントで、宝具は持たないが全員がE-相当の「単独行動」スキルを有しており、短時間であればマスター不在でも活動が可能。
ちなみにこの宝具は新撰組の隊長格は全員保有しており、
効果は変わらないが発動者の心象によって召喚される隊士の面子や性格が多少変化するという非常に特殊な性質を持つ。
例として挙げると、土方歳三が使用すると拷問などの汚れ仕事を行ってきた悪い新撰組、
近藤勇が使用すると規律に五月蝿いお堅い新撰組として召喚される。また召喚者との仲が悪いとそもそも召喚に応じない者もいる。
セイバーが召喚するのは、世間的に良く知られたメンバーで構成されたポピュラーな新撰組である。


【weapon】
『乞食清光』
日本刀『加州清光』の愛称。諸説あるが、史実通り沖田総司の愛刀。


【人物背景】
幕末、京都にその名を轟かせた新撰組一番隊隊長・沖田総司その人(女性)。
普段はお調子者の様に明るくも物腰柔らかく、子供好きであり、時には謙虚で礼儀正しいが、こと斬り合いになると人斬り集団の隊長らしく冷酷かつシビアな面を覗かせる。
史実通りちょっと体が弱く、ショックな事があると血を吐く。また、仲間達と最後まで戦えなかったことを気に病んでおり、昔の事を考えると申し訳ない気持ちと自分の不甲斐なさから落ち込んでしまい、情が厚いだけにメンタルが弱い所がある。


【サーヴァントとしての願い】
清光と共に戦う

【マスター】
加州清光@刀剣乱舞


474 : 清光&セイバー ◆XksB4AwhxU :2017/04/16(日) 13:37:55 mMhIcw4M0
【マスターとしての願い】
本丸への帰還。できるならば聖杯が歴史修正主義者の手に渡らないようにしたい。

【weapon・装備】
『加州清光』
彼自身でもある日本刀。別名乞食清光。これを修復不可能なまでに破壊されると連動して彼も消滅する。

『刀装』
刀剣男士の装備。ある程度ダメージを肩代わりし、ステータスを上げてくれたり、遠距離攻撃をしてくれたりする。宝珠とデフォルメされた兵士の姿の二種類の姿が存在する。
清光は現在『投石兵・特上』(遠距離攻撃)、『盾兵・特上』(防御全振り)の二つを装備している。

『お守り』
刀剣男士の装備。装備した者が死亡した(破壊された)時に一度だけHP1の状態で復活させる。効果が発動するとお守りは消滅するが、その戦闘中に限り装備していた者は戦闘不能の状態ではあるものの、敵の攻撃対象から外れる(狙われなくなる)。
違う人物に譲渡することもできる。サーヴァントに効くかは不明。

【能力・技能】
審神者(さにわ)の持つ『物の心を励起する技』=「眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる」という能力によって人の姿を与えられた刀剣の神。少なくとも生身の人間よりは強くて体も頑丈。高い神秘と相応の霊力(魔力)を持つと思われる。
沖田総司および新撰組から剣術と戦法を受け継いでいる。

『真剣必殺』
攻撃され中傷、あるいは重傷になる。または、中傷、重傷の時に攻撃を受けると発動することがある状態。これ以降攻撃が全て会心の一撃となり、攻撃してきた相手に対してカウンター攻撃を返すことができる。怪我が回復するまたは戦闘が終了すると元のステータスに戻る。

『手入れ』
資材を消費することで刀剣の手入れを行い、数分〜数時間で怪我を治すことができる。

【人物背景】
ゲームで最初に貰える刀剣男士の一人で、かつて沖田総司が愛用していた刀の付喪神の片割れ。
貧しい環境の生まれからか身なりにとても気を使っている。一見すると軽そうな人柄に思えてしまうが、戦闘では勇ましく戦い、達観していたり、芯の強い内面を見せる。面倒見もいい。

【ロール】
穂群原学園2年生

【令呪】
左手首に桜の花の形をしたマークがある

【方針】
脱出優先寄りの対聖杯

【把握手段】
原作ゲーム「刀剣乱舞」。動画サイトやwikiで台詞集や回想(他の刀剣との会話)が見れる。
現時点では「刀剣乱舞‐花丸‐」という名前でアニメ化されている(全12話)。主人公の相棒的存在なのでほぼ毎回出演している。


475 : ◆XksB4AwhxU :2017/04/16(日) 13:38:51 mMhIcw4M0
投下を終了します


476 : 悪鬼羅刹 ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/16(日) 16:08:04 9pBqd25w0
投下します


477 : 悪鬼羅刹 ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/16(日) 16:08:44 9pBqd25w0
眼下の街をいとおしみ、手を差し伸べて抱え上げたい想いに駆けられな
がら。
武田赤音は最後に階段を登った。



「は………………?」



初めに感じたのは、憤怒。
最後の一段を登ったら山門でした。
至高の仕合せ?刹那の刃鳴?
そんなものは無い、現実は非常である。

「は………あ……………っっ」

短く、切れ切れに息を吐く。

「ふ………ざ…………け………んなあああああああああああッッッ!!!!!」

赤音は肺の中の空気を全て怒声として吐き出す。雷の轟の如き声が夜の空気を激しく震わせた。
少年の様な少女の様な中世的な顔立ちを、悪鬼のごとく歪ませて咆哮する。
黄金の塔?おれが登るのはあの廃塔だ。何でも願いが叶う杯?おれの願いはあの階(きざはし)の上にある。
おれはおれの世界で得られる最後のものを得る寸前だったんだ。杯なんざいらねえ、一剣を以って全て奪い、喰らい尽くす。その筈だったんだ。

「人の願いが叶う直前に邪魔しやがって何でも願い叶えてやるから殺しあえ!?」

いらねえよクソが。
ああクソが、あの雑魚が妙なもの弄んでたから拾った結果がコレだよ!!
どこまでも邪魔しやがって雑魚が。
吠える。吼える。咆える。怒号は何処までも何時までも響き続けた。

燃え盛った闘志も、
引裂かれた誠心も、
荒れ狂った凶意も、
心震わせた歓喜も、
煮え滾った執念も、
身魂を捧げた剣も、
そして、たったひとつのものを求め続けた至情も、

全ての赤音が報われる。全ての赤音が結果を得る。その寸前に報いを結果を奪われ、行き場を失った武田赤音の全てが狂乱する。

「ク…ククク」

ひとしきり吠えた後、赤音は笑い出した。

「クハハハハハ………ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

楽し気に、愉し気に、男は嗤う。顔は変わらず悪鬼のまま。

「良いぜ…殺してやるよ、皆殺しだ。手前ぇも込みでな」

紡がれる言葉に込められた極大の殺意。ルーラーを含む全てを殺すと赤音は此処に殲言する。
ああ…おれには待たせている相手が居るんだ。あいつがおれを待っているんだから。
そしておれと伊烏の復讐(ヴェンデッタ)が遂げられる時。彼女が救済を得る時があの階の先に有る筈なのだから。
四年前に得られる筈だった決着を奪われた事への復讐(ヴェンデッタ)と、四年前に奪われた愛する者へ捧げる復讐(ヴェンデッタ)と、四年前に勝負を穢した事への贖罪と。
その全てがあの階の先に有る筈なのだから。

「もう四年も待たせたんだ。彼奴の剣と交える剣も出来たんだ。これ以上待たせたら悪いからな……だからさっさと死ね塵(ゴミ)共」

腰の刀に手を掛ける。
こんな処で遊んでいる暇は無い。
尽く殺して滅相してやるよ。サッサと死ね、死に絶えろ塵(ゴミ)共。おれと、彼奴の間に入って来る奴は全員死ね。


478 : 悪鬼羅刹 ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/16(日) 16:09:31 9pBqd25w0
「それで……おれのチリ取りは何処に有るんだ?」

「私のことか」

後ろから不意に掛けられた声に、殺意を漲らせた赤音の身体が意識を余所に過剰に反応する。
腰の刀を抜きながら、身体を回転させ、声の主に斬りつける。
切先が声の主の服との間に髪一筋分の隙間を残して空を裂く、赤音の身体は止まることなく動き、刀を右肩に担ぐ。左足を前に、右足を後ろに。鼻から息を吐いて全身の力を抜く。
右足を前に出し、左足を急停止させて全身を撃ち出す。腕の力を用いず、脱力により足腰で刀を振るい、突進の推力と全体重を刀に載せる。

─────刈流、強。

轟、と唸りを上げて振り降ろされる刀身は神速にして剛猛。
その速度は回避を許さず、その威力は防御を許さず。
しかし、それは人が相手であった時。
剣を振るう赤音の眼は、艶やかな繭袖(けんちゅう)の布地に龍の刺繍をあしらった長衫を纏った男の姿を捉えていた。そして己の刃が僅かに男に届かぬことも。

─────悟ると同時、赤音の身体は意識と関わりなく動いた。

地に残した軸足を大きく伸ばし、更に爪先で地を蹴って跳躍する様に踏み込み、一気に男との間合いを詰める。

─────刈流、飢虎。

確かに男の身体を捉えた刃は、肉を裂く感触も、骨を断つ手応えも感じさせなかった。
赤音は大きく後ろに跳んで、男と向かい合う。

「チ……サーヴァントは斬れねぇか」

刀を鞘に納める。
眼前の男に害意は無い、あれば己は殺されていただろう…。そういう確信が赤音には有った。

「驚いたな。意を感じなかった。無想の境地、いや違う……特異な才能か?」

「ああ、似て非なるモンさ、剣聖の至る境地なんて御大層なモンじゃ無い。おれには無想の境地なんて終ぞ縁が無いモノさ……しかしその辺分かるとはお前もご同輩か?」

男の唇の端が吊り上がった。

「そうだ、お前の流派は何だ?見たところ大陸の剣技には見え無いが」

「へぇ…大陸の剣士か、俺は日本人だよ。これ見れば判るだろ」

赤音は鞘に納めた“かぜ”を見せつける様に掲げる。
美丈夫と呼んで良い男の顔が僅かに歪む。赤音はその歪みを憎悪によるものと見て取った。

「生憎と生前に倭刀を使う相手と戦ったものでな、得物を見せられただけでは判らん」

「其奴がお前の相手か?」

男が湛えていた涼しげな気配が刹那の間に変わる。
凄まじい憎悪。必ず殺すという意志。其処に居るのは正しく悪鬼。

「ああ…俺は奴を必ずこの手で殺す。戦って殺さねばならぬ」

赤音の唇の端が吊り上がる。獣の様に、悪鬼の様に。人が知性を持つ前より持っていたもの。原始的で、それだけに純粋なモノを湛えた笑み。

「おれと似ているな。少し違うが」

違う?と、男が呟いたのに応えて話す。

「おれは彼奴と戦う、戦わなきゃならない。戦って結果を得る。生も死も勝敗も知ったことじゃねえ」

徹底的に純化された意志。只、戦う。それのみで構成された意志。
生死勝敗を度外視した─────否、最初から思考に入れていないその在り方は、人では無く、只々純粋に“斬る”為だけに在る刃を思わせて、男にどうしようも無く、自身を破った宿敵たる義兄を想起させた。

「おれはサッサとあの場に戻って、彼奴と戦って、そして人生で得られるモノを全て得る。聖杯なんざ犬の餌にでもすれば良い」

男は疑問に思っていたことをふと─────訊いてみた。


479 : 悪鬼羅刹 ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/16(日) 16:10:01 9pBqd25w0
「先刻、“彼奴の剣と交える剣も出来た”と言っていたな。どうやって作った」

いきなりの質問に、赤音は己がサーヴァントの意図が読めずに面食らったが、声に含まれた真摯な響きに応じて応えてやることにした。

「ちょっとばかし殺されかかったら出来たんだよ。けどな、アレは日頃の工夫と稽古と積み重ねられた剣理の結果だからな。“俺にだって出来る”何て思うなよ」

思う様な愚物なら洒落になっていない。こんな巫山戯た状況で、あの雑魚と同類の輩と組まなきゃならないとかやってられない。

「ふむ…やはり必要なものは死線か。運が良い……と言うべきか」

「お前……此処で剣を作る気か?」

赤音の問いに、男は薄く笑った。

「何しろ生前は俺に死線を感じさせるどころか、苦戦させる者さえ居なかったのだからな。此処には英雄とまで呼ばれる強者が数多集う。好都合というものだ」

ああ、そうだとも。奴が十の死線を潜って絶技に開眼したというなら、俺は百の死線を超えて奴の剣を凌駕して見せる。
我が想いに掛けて、必ず奴を屠ってみせる。
奴に敗れた理由は唯一つ。己もまた侮蔑していたサイバネ拳士共と同じで、足りない功を機械の身体によって引き上げていたからだ。
ならば功において同等となれば良い。己も絶技に開眼すれば、最早奴に破れる道理無し。
その為にも強者が要る。己を死線に叩き込めるだけの強者が。

「大した自信じゃねえか」

赤音は言葉を返す。赤音の目に写るサーヴァントのステータスは驚異的な低さだが、赤音はさして気にしていない。
赤音自身、身体能力そのものは其処まで高くはない。それでも巨躯を誇り、長大重厚な武器を操る者共を歯牙にも掛けずに屠り去ってきた。
闘争に於いて身体能力は確かに重要だが、絶対のものでは無いということを、赤音は自身の経験と身につけた理合いによって知っている。

「そうとも、この地に顕れた英霊共は、皆我が剣の糧に過ぎん」

そして其れはサーヴァントも同じ。彼は身につけた深遠なる理合いを以って、肌で刃を弾き、拳で鋼鉄を砕き、亜音速で機動する足腰を持った、人を超越した肉体を持つ輩共を屠り去れるのだから。

「まあ、やる気ならどうでも良いさ。こんな処で愚図愚図している気はねえ。サッサと塵(ゴミ)を皆殺しにしないとな。伊烏が待っているんだ」

「大した自信だな」

サーヴァントが言う。先程の赤音の言葉をそのまま返してくる。

「おれと伊烏は必ず出逢って戦う。そうなっている。伊烏がこの糞っ垂れな場所に来ていなけりゃ、勝ち残ってあの場所に戻るのはおれさ」

赤音が嗤う。その獰猛な笑みは人では無く悪鬼の其れ。

「宿命というものか……。だとすれば俺は随分と幸運な出逢いをしたという事か」

サーヴァントが嗤う。人間味を感じさせぬ笑みは人では無く化生の其れ。

「違う。おれと伊烏が出逢ったのは運命だが、其処からはおれと彼奴の意志だ。彼奴が己のみの剣を持とうとしたのも、
おれが彼奴の剣に恋(こ)がれたのも、全てはおれ達の意志だ。運命だの宿命だの、しゃらくさいものじゃねえ」

「済まない。謝罪しよう」

サーヴァントは誠心を込めて謝罪する。確かにそうだ赤音の言う通りだ。俺の奴に対する憎悪も、その源となった彼女に対する愛も、俺だけのものだ。俺の彼女への愛が運命だの宿命だのの結果などと言われれば、俺は言ったものを必ず殺す。


あの剣に捧げる唯一つの恋(こ)がれと、一人の女への復讐と。

彼女に捧げる唯一つの愛と、一人の男への復讐と。

奉じる想いの元に行う戦は、聖戦と呼ぶには厭わしく。
振るわれる刃を復讐劇(ヴェンデッタ)と呼ぶには自儘に過ぎて。
されども二人が抱く想いの強さ烈しさは、人類が過去現在未来で行ってきた、聖戦や復讐劇と呼ばれるものの際に抱いていた其れを凌駕する。

そんな激情を抱けるのモノは最早人に非ず。
悪鬼羅刹、人外化生と呼ばれるに相応しい代物だった。


嘗て人だった人でない二人は、此の地の主従全てを葬るべく並んで歩き出した。


480 : 悪鬼羅刹 ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/16(日) 16:10:44 9pBqd25w0
【クラス】
セイバー

【真名】
劉豪軍(リュウ・ホージュン)@鬼哭街

【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 幸運:E- 魔力:E 宝具:E(通常時)

筋力:B 耐久:C 敏捷:B 幸運:E- 魔力:E 宝具:E(内功使用時)



【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:D
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み程度に乗りこなせる。

【保有スキル】

内功:A+
呼吸法により丹田に気(サーヴァントとしては魔力)を練り、全身に巡らせて、森羅万象の気運の流れに身を委ねる技法。
このスキルが低下すれば、後述の戴天流、縮地スキルも低下し、使用不能ともなれば、戴天流、縮地スキルも使用不能となる。
呼吸法により魔力を幾らでも精製することができる為、実質的にセイバーは無尽蔵の魔力を持っているに等しい。
修得の難易度が非常に高く、Aランクで漸く『修得した』と言えるレベル。
使うと内傷を負い、内臓や経絡に損傷を齎す……が、セイバーは宝具により内傷を負う事が無い。


戴天流:A+(A++++)
中国武術の二つの大系のうちの一つ、『内家』に属する武術大系。
型や技法の修練に重きを置き、筋肉や皮膚など人体外部の諸要素を鍛え抜く武術大系である『外功』と対になる武術大系。
外功の“剛”に対する“柔”であり、力に対する心気の技である。体内の氣が生み出すエネルギー“内勁”を駆使することにより、軽く触れただけで相手を跳ね飛ばしたり、武器の鋭利さを増したり、五感を極限まで研ぎ澄ましたりといった超人的な技を発揮するほか、掌法と呼ばれる手技により、掌から発散する内勁によって敵にダメージを与えたり治癒能力を発揮したりもする。
内家功夫は外家功夫より修得が難しく、その深奥に触れうるのはごく一握りの者しかいない。
修得の難易度が非常に高く、A+ランクで漸く『修得した』と言えるレベル。
敵手の“意”を読んで、“意”より遅れて放たれる攻撃を払う事で、“軽きを以って重きを凌ぎ、遅きを以って速きを制す”事が可能となる。
ランク相応の魔力放出、矢避けの加護、Cランクの千里眼の効果を発揮する複合スキル。
効果を引き出すには、其れに見合った内功スキルが必要になる。
セイバーは絶技に開眼してはいないが、練達の武人であり、修得した戴天流の武功は、宝具の効果により、極めた者の其れを遥かに凌駕する。
内勁の込められた刃が齎すは因果律の破断。凡そ形在るもの全てを斬断する。
内功を充分に練らなければ使用不能だが、練る事さえ出来れば、同等の功の持ち主か、特殊な概念でも帯びていない限り防げない。


一刀如意:A
意と同時に刃を繰り出す剣の境地。通常は意に遅れて刃が放たれる為に事前に察知する事が可能となるが、この境地に至れば事前に知ることは不可能となる。
心眼(偽)とBランク以下の直感を無効化し、Aランク以上の直感の効果を半減させる。


心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、
その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、
その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。


精神異常:A+
精神を病んでいる。一人の女に己の全てを捧げた結果、周囲の事がな全く気にならなくなっている。精神的なスーパーアーマー。


軽身功:B+++
飛翔及び移動の為の技術。多くの武術、武道が追い求める運体の極み。単純な素早さではなく、歩法、体捌き、呼吸、死角など幾多の現象が絡み合って完成する。
セイバーの縮地は宝具との組み合わせにより、技法の域を超えている。
その速度は複数の残像を伴いながら間合いを詰め、複数人数から同時に攻撃されたと誤認させる程。
セイバーにとって、間合いとは存在しないに等しいものである。


481 : 悪鬼羅刹 ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/16(日) 16:12:27 9pBqd25w0
【宝具】
電磁発勁
ランク:なし 種別:対人宝具 レンジ:なし 最大補足:自分自身

対サイボーグ気功術である。体内の氣の運行によって瞬間的に電磁パルス(EMP)を発生させ、それを掌力として解き放つ……ものだが、
セイバーとしての現界の為に、殺戮の絶技(アーツ・オブ・ウォー)たる“紫電掌”は使えない。
拳脚や武器に電撃を纏わせられる程度である。
Aランク以上の内功スキルがなければ使用不能。


黒手裂震破
ランク:なし 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人

内家掌法の絶技。胸への掌打を以って五臓六腑を四散させる。
受けた者の胸に黒い手形が付くのが特徴。
Bランク以上の対魔力が無ければ防ぐことは出来ない。


内勁駆動型義体
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:なし 最大補足:自分自身

生前に己の肉体を寸分たがわず再現させた、史上初の内剄駆動型義体の試作品が宝具化したもの。
セイバーの肉体をを完全に再現した義体であり、経穴まで存在する。
この為内功を駆使できるが、義体そのものの性能は、生身より多少丈夫というだけである。
人造器官の強度とパワーで駆使する内功は尽きること無く、内傷を負うことも肉体の限界に縛られることも無い、全ての流派を過去の遺物とセイバーが豪語する程。
この宝具により戴天流スキルは()内の値となる。
この身体で軽功を繰れば、敏捷の値がA+++にまで引き上げられ、後述の宝具が使用可能となる。
絶縁体で構成されている為に電撃系の攻撃を無効化する。
しかし、首筋だけは接続端子がある為に電撃が通る。
痛みを感じず、出血も無い為に、継戦能力はかなり高い。


六塵散魂無縫剣(偽)
ランク:なし 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:10人
戴天流剣法絶技。
十の刺突を神速で繰り出すその剣閃は同時に放たれたように見えるどころか、緻密な残像が重なって一薙ぎの斬撃としてしか捉えられないほど。
弾雨を悉く撃ち落とす事さえ可能な剣技。
本来この剣技は、最高ランクの透化、無窮の武練、圏境スキルの効果を発揮し、
如何なる精神、地形、肉体的状況にも左右されず。無念無想、剣我一如の境地に達して、刃圏に在るもの悉くを捉えて斬る絶技だが、
セイバーの技は、自身の武功と宝具の効能を併せて、速度のみを発揮している為に(偽)が付く。
もしセイバーがこの剣技を真に会得すれば、この宝具のランクと戴天流スキルのランクがEXとなる。


【weapon】
レイピア

【人物背景】

「花は彼女の為だけに咲けばいい。鳥は彼女の為だけに鳴けばいい」


鬼哭街のラスボス。主人公の妹の夫であり兄弟子。青雲幇のトップ。
妻の持つ“兄への思慕”という道ならぬ想いに気付き、己が最愛の女の眼中に無いことを知り発狂。
主人公をマカオで死なない程度に重傷負わせて海に沈め、妻を輪姦させて五分割。尤も、道ならぬ想いに苦しんでいた妻にとっては救いだったわけだが。
そうして一年後、戻ってきた主人公に五分割された妻を回収・統合させて、その工程のさなかに妻の裸の心の触れさせて、妻の主人公に対する想いを気付かせようとする。
この時ついでとばかりに自分の束ねる幇会や、その構成員を妻への生贄として主人公に潰させる。
これで最後の戦いが終わったら端麗が微笑んでくれるかもしれないと夢想。
最後は、嘗ての面影など欠片もない程に荒れ果てた、自分と妻と主人公の思い出の桃園で主人公と決戦。
言葉責めとチート武功を駆使して主人公を責め苛むも、主人公ふぁ幾多の死線の中で開眼した絶技に敗れ去る。
それでも最後の最後、死ぬ瞬間まで「お前が俺達を狂わした」と言い放った。


【方針】
死線を感じさせる相手と戦い、絶技に開眼する。

【聖杯にかける願い】
復活と再戦


482 : 悪鬼羅刹 ◆v1W2ZBJUFE :2017/04/16(日) 16:16:57 9pBqd25w0
【マスター】
武田赤音@刃鳴散らす
身長161cm 体重54kg
年齢22歳

【能力・技能】
兵法綾瀬刈流中伝
脱力を旨とする古流剣術。その斬撃は神速しして、剣尖に全体重を乗せて繰り出される為に防ぐことは不可能。
組太刀と居合いの技を以って、幕末の京都にも勝る刀剣乱舞する廃帝都東京で無類の剣腕を発揮した。
相手にイニシアチブを渡さず、先手を打っての必勝を赤音は好む。
隙を見出して先の先を衝く。攻撃を釣り出して先の機を衝く。
後の先はあまり好まないが、必要な際は後の先を取る柔軟性も有している。


即応能力
緊急事態に対して、思考や感情とその肉体の行動を脳で完全に切り離し、
一旦はその反射神経のみで最適の行動を最速で為す異才である。
「考える前に行動する」「己が無のまま勝利する」を地で行く訳である。
尤も「剣聖紛い」でしかなく、その攻撃的すぎる性質から、剣聖の境地に至ることは決して無い。

鍔眼返し
一歩の踏み込み、一太刀分の時間で振り下ろしと斬り上げの二度の必殺の斬撃を繰り出す妖技。
形を真似るだけならば誰にでも出来る。
しかし、実践するには敵が一の太刀を無力化した瞬間を毛筋のずれさえなく確ととらえ二撃目に繋げねばならない。
実戦の場において誰がそのようなな事を成し得ようか?

最良の運動効率を最高の反応速度で貪り尽くしてこその剣。
武田赤音はこれを成す。
彼の即応能力の極限、

無想の境地とは酷似しながらも対極。
宿敵の所作を寸毫たりとも見逃さぬ、愛のような執念だけがこの妖技を現実のものとする。

【weapon】
藤原一輪光秋「かぜ」

【ロール】
どっかの金以ってる女のヒモ

【人物背景】
嘗て穢された伊烏義阿との決着のみを求める剣鬼。
その障害となるものは全て死地へと蹴り込んできた。
性格は徹頭徹尾自己中に見えるが、実際には伊烏との決着以外には自分自身ぬすら関心がなく、伊烏と決着つけるまでは死ねないので結果として自己中に見えるだけである。

【令呪の形・位置】
剣を象ったものが右手の甲に

【聖杯にかける願い】
無い。精々が帰還

【方針】
皆殺し

【参戦時期】
伊烏との決戦にに臨む直前。雑魚が弄んでいた『鉄片』を何の気なしに拾った。

【運用】
セイバーが広範囲攻撃以外では先ず斃されない上に、魔力を自己精製出来るので、強気にガン攻めが可能。
ただし回避に幸運判定要る攻撃には対処する術が無いのが難点。

把握資料
両方ともかなり前にニトロプラスから発売されたR18ゲームだが、鬼哭街の方は角川スニーカー文庫から全二冊で書籍化されているので把握は楽。
刃鳴散らすの方は、プレイ動画みるのが手っ取り早いかなあ


483 : 悪鬼羅刹 ◆/sv130J1Ck :2017/04/16(日) 16:18:50 9pBqd25w0
投下を終了します

あとトリップ間違えてました。正確にはこっちです


484 : 泣きっ面にスズメバチの群 ◆/sv130J1Ck :2017/04/18(火) 21:59:44 .y8EEIHM0
投下します


485 : 泣きっ面にスズメバチの群 ◆/sv130J1Ck :2017/04/18(火) 22:00:35 .y8EEIHM0
一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままにとどまる。だが、もし死ねば、多くの実を結ぶ。


ヨハネ福音書。


486 : 泣きっ面にスズメバチの群 ◆/sv130J1Ck :2017/04/18(火) 22:00:58 .y8EEIHM0
「マスター。此処は僕に任せて退いてくれないか」

犬吠埼風に白い体毛と赤い目が特徴的な、小動物が語りかけてくる。
自身のサーヴァントと、戦場になる街の地理の把握を行っていた矢先の遭遇戦。
戦闘能力には自信があったが、サーヴァントの戦力を前にしては、善戦がやっとだった。
相手はマスターもそのサーヴァントであるセイバーも、明らかに殺し合いに乗っていて、かつ“殺しを愉しんでいる”輩だった。
なまじ勇者システムのおかげで、人を超えた能力を持っている風は、格好の玩具に思えたのだろう。セイバーは完全に手を抜いた戦い方で風の心と肉体を傷付けていった。
蹴り飛ばされて転がった風に、敵のサーヴァントから吹き荒れる魔力の暴風で、風の長い髪が靡く。
風は自身のサーヴァントの進言を聞き入れるかどうか少しだけ逡巡した。
このウオッチャーは、戦えるような能力を持っていない。そんなウオッチャーに後を任せて逃げられる程、犬吠埼風は冷淡ではなかった。

「僕のクラスはウオッチャー。サーヴァントから君を護るのは不可能だ」

勇者としての能力と戦闘経験は、聖杯戦争に於いて極めて有用な戦力だろうが、風のサーヴァントはウオッチャー。
戦闘能力など期待出来ようはずも無い。ただし、ウオッチャーが言うには「僕を聖杯戦争から退場させるのは不可能と言っていい」そうだから、きっと何かしらの切り札が有るのだろう。
敵サーヴァントの眼前で、マスターが行動不能になれば、其れは即座に敗退に繋がるだろう。其れだけは避けねばならなかった。

「此処は任せたわ、ウオッチャー!!」

告げて、風は跳躍する。勇者システムの恩恵は風の身体を生い茂る樹よりも高く宙に舞わせ、風は常人どころか、乗り物を使用しても追いつけぬ速度で戦場を離脱した。


487 : 泣きっ面にスズメバチの群 ◆/sv130J1Ck :2017/04/18(火) 22:01:46 .y8EEIHM0
〜一日前〜



いつものうどん屋でうどんを啜りながら考える。


一、挨拶はきちんと
一、なるべく諦めない
一、よく寝て、よく食べる
一、悩んだら相談!
一、なせば大抵なんとかなる


自分が大切にしている心掛けだがどうにも引っ掛かる。
これを決めた時、私は一人で決めたのだろうか?
周囲に誰か居た気がする。
しかめっ面して考える。女子力が急激に減少して行く気がするが、女子力よりも大切な事だという確信が何処かに有った。
うーんうーんと唸りながら思考するも、皆目見当がつかない。
結局思い出せずお代を払って店を出た。

夕暮れの道をテクテク歩いてお家へ帰る。静けさに寂寥を覚えるがどうしてだか分からない。
私の登下校はもっと賑やかで………。
いやそれよりも私はこんなに穏やかな日々を送ってて良かったっけ?
何かやらないといけないことが有る筈………。
真剣に考える。茜色の空を見上げて思考する。
結局分からずじまいのまま家に着いた。
そんな日々が続き、“その時”は唐突にやってきた。
通っている学舎での一日が終わり、変わらず釈然としないものを抱えて帰る最中、通りかかった公園で小学生がジャングルジムの上に仁王立ちして居た。
注意しようと思って近づく耳に聞こえる、下から見上げる小学生達の「凄ェ!!」だの「そこにシビれる!憧れるぅ!」だのに混じって聞こえた一言。

「勇者だ!!」

この一言が頭蓋の内側に大鐘音と響き渡り、取り戻す己の過ちと抱いた激情。
叫び出したくなる衝動を抱えて、私はその場を立ち去った。
円蔵山の中に駆け入り、周囲に誰も居ない場所まで走り抜けて、私は思いを解き放つ。

「うわあああああああ!!!!」

手近な樹の幹を殴りつける。皆を巻き込んで!樹の夢を潰して!!何であんなのうのうとしていられたのか!!!
何でこんな大切な事を忘れていたのか!!何で自分で思い出せなかったのか!!!
幹を殴りつける。何度も何度も。本当なら骨が折れるまで続けたかったが、頭の中で囁く酷く冷静な声が止めさせた。

─────これは好機(チャンス)だ。

巻き込んだ勇者部の皆の運命を、私が奪った樹の夢を、取り戻す好機(チャンス)。
この好機は絶対に逃さない。“何でも願いが叶う”というならこれ位は叶えられる筈。
“大赦”と違って、最初から代償は説明している。信じても良いだろう……一応は。


488 : 泣きっ面にスズメバチの群 ◆/sv130J1Ck :2017/04/18(火) 22:02:07 .y8EEIHM0
「皆……ゴメン」

勇者なんてものに巻き込んでしまった事を改めて、そしてこれから私がやる事を予め謝っておく。
これから私がやる事は、人の願いを踏み躙って、皆の未来を掴むという事。
きっと皆は哀しんで…怒るだろうなあ…………けれど…こうでもしなければ私は皆に顔向け出来ない。

「私は聖杯を手に入れる。そして皆を必ず救う……だから…私を許してね………」

呟いた私の耳に、声が後ろから聞こえた。

「気は済んだかい」

白い毛並みに赤い目の小動物は、記憶と共に得た知識に照らし合わせれば、私のサーヴァントなのだろう……けれど…。

「ウオッチャー……?」

現れたサーヴァントのクラスはウオッチャー。明らかに戦闘向きとは思えない。しかも見た目小動物だし。

「どうして、あんなことをしていたんだい」

身体が震えた。

「………私は」

正直言って迷う…が、これは話さなければならないだろう。

「私は……私達は……………神樹への供物だった」

途切れ途切れに語る。神樹の事、勇者部の事、満開とその代償の事、そして全てを知りながら伝えずに自分達を供物とした大赦の事。

「だから…私は……許せなくて………」

涙が溢れる。それでも目を逸らさずウオッチャーを正面から見る。

「それで、君は大赦を─────」

「その前に…此処に……」

ウオッチャーが感情を全く感じさせない目線を向けてくる。

「其れで、君はどうしたいんだい?僕は戦うことは出来ないけれど、力を貸すことは出来るよ」

「私は……皆を……救いたい!!」

心の底からの叫び。絞り出すような声を聞いてウオッチャーは。

「それが君の得る報酬かい?それなら……此処に契約は結ばれた。君の願いを叶える為に僕も力を尽くそう」


489 : 泣きっ面にスズメバチの群 ◆/sv130J1Ck :2017/04/18(火) 22:02:30 .y8EEIHM0
「此処で君たちを死なせると、風は怒るだろからね……。全く、君たち人類の価値基準は、僕らは理解に苦しむなあ………。
今現在で69億人、しかも、4秒に10人づつ増え続けている君たちが、どうして単一個体の生き死ににそこまで大騒ぎするんだろうね。」

風が去ったのを確認したのだろう。残されたウオッチャーは唐突に語り出した。

「わからないといえば風の願いだよ。決して死ぬことが無い。生命体にとって絶対に避けたい存在である、生命活動の終わり……『死』から保護されているのに、何が不満なんだろうね」

感情の全く籠らぬ平坦な声は、決して解けぬ疑問を唯々語る。敵の主従に答えを求めるわけでもなく、

「僕達は願いを叶える。神樹は『死』から護る。その代わりに世界の為に戦って、代償を払う。公平な等価交換だろう?死なない分、魔法少女よりマシだろう」

敵主従は襲ってこない。無力なサーヴァントを捻り潰す機会を、何故か指を加えて見ているだけ……否。ウオッチャーに構っている暇が無いのだ。

長剣を持った少女の影法師が、マントを翻してセイバーに迫る。
長槍を持った少女の影法師が、槍の形状を自在に変えながら、剣の届かない距離からセイバーを襲う。

「君達を最初に風が戦う相手にしたのは正解だったよ。聖杯戦争に乗っていて、尚且つ容赦が無い。此れで風に聖杯戦争というものに対する甘い考えを捨てさせられる」

長い爪を振りかざした少女の影法師が、セイバーのマスターを執拗に付け狙い、セイバーの意識を分散させる。
マスケットを銃を持った少女と、盾を持った少女の影法師が、マスター目掛けて銃弾を放ち、セイバーの動きを拘束する。

「僕たちは君たちとは遭遇戦になったわけじゃない。君たちとは最初からこのつもりで逢ったのさ」

次々と現れては、波状攻撃を仕掛ける影法師達をなんとか振り切り、マスターを連れて逃げ出したセイバーの眼前に現れる異形の影。

ハット帽を被り女体を三つ組み合わせたかのような異形の影法師が、鉤爪を振るい。
巨大な人魚のような異形の影法師が、無数の車輪を撃ち出してくる。
地に伏したセイバーが顔を上げた時、何時の間にか眼前に立っていた幼女が、頭目掛けて巨大なメイスを振り下ろしていた。

「やっぱりわからないね。君たち人間が家畜にやっている事を真似してみたけれど、一体なんの意味が有るんだい?」

頭を叩き潰されたセイバーを見て、必死に命乞いをするセイバーのマスターを、ウオッチャーは変わらず感情の籠らぬ目で見つめる。

「マスターもキッチリ殺すのがセオリーなんだろう?安心してよ君の死は無駄じゃない。宇宙の為に死ねるんだ。喜んで良いことだと思うよ」

無意味な言葉を連ねるセイバーのマスターの眉間を、弓を持った少女の影法師の放った矢が貫いた。


490 : 泣きっ面にスズメバチの群 ◆/sv130J1Ck :2017/04/18(火) 22:03:07 .y8EEIHM0
「まあ勇者システムは非常に興味深い観察対象ではあるけどね。円環の理やほむらの様に、僕が宇宙の理となった時に活かせるかもしれない。
僕の知識に照らし合わせれば…聖杯を手に入れれば風は死ぬつもりだろうね……。
実験やデータ採取に風を使えないのは残念だけど、彼女の居た世界にサンプルはまだ居るしね」

蛇の様な異形が、セイバーのマスターの死体を貪り食っているのを余所目にウオッチャーは一人語る。
風の慟哭と嘆きを聞きながら、ウオッチャーが考えていたのは、自分達が構築したシステムに、“勇者システムというものを、どう組み込むか”というものだった。

「“満開”は実に効率的なシステムだ。厄介な魔女の処理と、効率良く魔法少女を絶望させられる」


犬吠埼風の語った真実は、ウオッチャーの関心を引いた。それは魅了と言っていいかもしれない。
しかし、それは犬吠埼風にとってはさらに過酷な現実を招いただけ。
祈りと希望を種子とし、呪いと絶望を実らせる苗床の候補として見込まれたというだけ。


ああ、真実ほど人を魅了するものはないけど。
ああ、真実ほど人に残酷なものもないのだろう。




【クラス】
ウオッチャー

【真名】
キュウべぇ(インキュベーター)@魔法少女まどか★マギカ

【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 幸運:B 魔力:C 宝具:EX

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
戦場把握:C+
戦場となる土地の状況を監視、把握することが出来る。Cランクでは大雑把なマスターとサーヴァントの位置しか掴め無いが。宝具と併用することで精度を高めることが可能。

【保有スキル】

話術:D+
素質がある人間を魔法少女に勧誘する営業トーク。
技術としては並以下だが、断れないタイミングを狙ってセールスを行うので成功率は高い。


蔵知の司書:EX
インキュベーターの性質によるによる記憶の分散処理。
LUC判定に成功すると、過去現在未来に知覚した知識、情報を、
たとえ認識していなかった場合でも明確に記憶に再現できる。


戦闘続行:EX
死なない。
魔力が自身に残っている限り、総身が消し飛んでも何処からとも無く沸いてくる。
自身に魔力が無くとも、マスターに魔力が残っていれば沸いてくる。


諜報:C
このスキルは気配を遮断するのではなく、
気配そのものを敵対者だと感じさせない。


単独行動:A+
マスター不在でも行動できる能力。


491 : 泣きっ面にスズメバチの群 ◆/sv130J1Ck :2017/04/18(火) 22:03:41 .y8EEIHM0
【宝具】
希望の土壌に、祈りの種子よ芽吹いて育て(魔法少女)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

ウオッチャーが過去現在未来において観測した魔法少女を影法師として使役する。
魔法少女達はウオッチャーの指令を遂行する意識は有るが、自分で何かをする意思は無い。
ウオッチャーは必ず魔法少女の誕生に立ち会っている為、観測出来ていない魔法少女は存在しない。


絶望を糧に、満開と咲き誇れ呪いの花(魔女)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

ウオッチャーが過去現在未来に於いて観測した魔女を影法師として使役する。
魔女達はウオッチャーの指令を遂行する意識は有るが、自分で何かをする意思は無い。
大抵の魔女は観測しているが、ホムリリィの様に観測出来ていない魔女も居る。


僕らは種を蒔き実を収穫するもの(インキュベーター)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

インキュベーターという存在そのもの。宇宙にどれだけ居るかもわからぬ群体で、意識と情報を共有しているインキュベーターの性質が反映されている。
英霊の座に登録された後も、現世のインキュベーターの観測した情報は座のインキュベーターに供給され続ける。
“インキュベーター”という英霊の正体は個では無く群れで有る。斃されても湧いてくるのは復活しているわけでは無く、群体で召喚されたインキュベーターから、新たな個体が湧いて来ている為で有る
マスターの側に侍っている個体以外はルーラーにすら観測出来ない。そして何らの影響も現世に及ぼせない。

【weapon】
無し

【人物背景】
宇宙のエントロピーを減少させる為に日夜営業に励む淫獣

【方針】
優勝狙い。後腐れ無い様にマスターもきっちり殺す

【聖杯にかける願い】
宇宙の理になって効率良いエネルギー採取を行う。
勇者システムを研究したい。


492 : 泣きっ面にスズメバチの群 ◆/sv130J1Ck :2017/04/18(火) 22:05:20 .y8EEIHM0
【マスター】
犬吠埼風@結城友奈は勇者である

【能力・技能】
「勇者システム」
神樹から力を授かって変身する。「勇者スマホ」のボタンが変身キー
「満開」は使用不可能。

【weapon】
大きさを自在に変えられる大剣。

【ロール】
女子中学生

【人物背景】
『大赦』から派遣された勇者候補であり、勇者の資質がある生徒を集めて『勇者部』を作る。
バーテックスや勇者についてある程度の知識は有ったが、『満開』の代償については知らされておらず、妹の夢を結果として潰してしまった。

【令呪の形・位置】
オキザリスを象ったものが喉の部分に。

【聖杯にかける願い】
勇者を満開の後遺症から救う。

【方針】
優勝狙い。マスターは殺さない。

【参戦時期】
9話で大赦潰しに行く直前。泣いてる時に偶然転がっていた『鉄片』を握ってしまった


493 : 泣きっ面にスズメバチの群 ◆/sv130J1Ck :2017/04/18(火) 22:06:01 .y8EEIHM0
投下を終了します


494 : ◆DpgFZhamPE :2017/04/18(火) 23:22:16 x3z9mwPY0
投下します


495 : 間桐の仮面 ◆DpgFZhamPE :2017/04/18(火) 23:23:52 x3z9mwPY0
其処は、月だった。
管理の怪物。かつてその異名を持った、世界を記録し続ける月。
月。
つき。
ツキ。
そう、月。
空を見上げれば日常的に浮かんでいるであろう月は、今君たちの足の下なのだ。
奇想天外。
サイバーゴーストですら未知なる領域。
だが、しかし。
このような未知の場所でも常識はある。
太陽は一つ。
月は一つ。
星は沢山。
ああ、だが、何かがおかしい。
中空に浮かんでいるもの。
それが、一つ多い。
白くておおきな、"それ"。
よく見ると、不気味な顔がある。
誰かが言った。
「近づいている」、と。
誰もが笑った。
酒でも飲みすぎたんじゃないか、と背中を叩いている人もいた。
だが。

「KE HA HA HA HA HA」

―――地上に迫る、人面月。
月に迫る、人面月。
闇夜の中で仮面は笑う。
かたかたかたかた。
首を鳴らしながら、骨餓鬼は笑う。

ほらほら、あそぼう。
ほらほら、何がいい?
かくれんぼ?おにごっこ?
何でもいいよ―――楽しませて。

三度月が昇るまで。
いっしょに遊んで―――いっしょに死のう。

壊れた少女と魔人の仮面。
壊れた道具はただのゴミ。
世界もいっしょにくしゃっと丸めて、ゴミ箱に棄てましょう?



○ ●


496 : 間桐の仮面 ◆DpgFZhamPE :2017/04/18(火) 23:24:34 x3z9mwPY0
広い暗い、蟲倉の中。
地を這うどころか、床を満たす蟲の上を這う蟲たちが蠢く場所。
キシキシと牙をならし、てらてらと体液で光るその大勢の蟲たちは、少女の身体を蹂躙する。
だが、その少女は嫌がる素振りすら見せない。
瞳には既に光はなく、閉ざされた口は苦痛に歪むこともない。
少女の許容量を超えた"鍛錬"と名のついた拷問は、既に少女の心を堅く閉ざしていた。
…そうでもしなければ、身体より心が先に壊れてしまっていたのだろう。
自衛手段として、少女は己の心に鍵を閉め、その奥底に沈めていった。
毎日。毎日。毎日。
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日―――繰り返されるその凌辱が。
ふと、止んだのだ。

「……?」

嬉しい、とは思わない。
そのように感じる人間の心など、とうの昔に手放した。
ただ、疑問が残った。
何故蟲がいないのだろう。
何故お爺様がいないのだろう。
大きく不気味な間桐の名を冠するこの屋敷には、もはや少女一人しか残されていなかった。
蟲倉を出て数歩歩き、椅子を引き出し座る。
ここで、じっとお爺様を待つのだ。
……実を言えば、月に蓋をされた記憶などとうの昔に戻っている。
聖杯戦争。
サーヴァント。
マスター。
それらの単語も正確に理解している。
だが、しかし。
だからと言って、行動するかどうかは別問題だ。
心を深く閉ざした彼女には、もはや己の活力というものがない。
人間を動かず炉(肉体)はあっても燃料(心)がないのだ。
だから。
全てを知った後も、何も行動せずその場で待ち続けた。
そうして暫く待った後。
ぽこんっ、と。
軽い破裂音と共に白と黒の妖精が現れた。
羽蟲みたいだな、と。
そんな検討違いの感想を抱いている内に、今度は人形が現れた。
木造の人形―――木偶の小僧。
木材で荒々しく作られたその木偶の小僧の顔面に、仮面がついている。
紫の仮面に、不気味な紋様。

「―――a ha ha ha ha ha」

仮面を左右にけたけたと揺らしながら、木偶の小僧は嗤う。
手の甲を見ると、令呪が刻まれていた。
この子供が、己のサーヴァントなのだろうか。
使い魔の類いにも見えるが、魔術には疎い少女の知識では正解を導き出せない。
少女―――間桐桜の家は魔術の家系ではあるが、魔術一族として衰退し才能も途絶えた間桐家にとって必要なのは『有能な後継ぎ』ではなく『優秀な母胎』だった。
故に魔術の知識は豊富ではないどころか、むしろ皆無と言っても過言ではないほどだった。
だからこそ、か。
曖昧な思考で、曖昧に問うた。

『あなたがわたしのサーヴァント?』

すると。
木偶の小僧の嗤いが、止んだ。

「うん」
「オイラがサーヴァント―――キャスター」


497 : 間桐の仮面 ◆DpgFZhamPE :2017/04/18(火) 23:25:21 x3z9mwPY0
キャスター。
魔術師のサーヴァント。
それを意味する記号すら理解できぬままに、桜はキャスターの言葉を聞く。

「ほら、遊ぼうよ」

「鬼ごっこでもかくれんぼでもいいぜ」

差し伸べられた手をじっと見つめる。
カタカタと揺れる仮面と木の身体はまるで、操り人形のよう。
身体中に纏った糸が伸びるとしたら、それは天高く、月まで伸びているのかもしれない。

「駄目よ。お爺様が帰ってくるもの」
「帰ってこないよ みんな みんな 帰ってこない」

上を見てごらん、とキャスターが天を指す。
頭上には『月』がある。
シミュラクラ現象、というやつだろうか。
そこにあるはずがないのに―――月の表面に、『顔』が見える。

「みんな みんな 食われておしまい」

「『お爺様』も」
「『サーヴァント』も」
「『マスター』も」

「みんな」

ケタケタ。
カタカタ。
くすくす。
不気味に仮面を揺らす。
差し伸べられた手が桜の手をとり、妖精が周囲を舞い、身体はふわりと空を飛ぶ。
蟲蔵を飛び出て空を廻り、更に高く。
更に、高く。

「ほら、もう『お爺様』なんて関係ない。オイラといっしょに、遊ぼう」

―――三日目の月が昇る、その日まで。
月が墜ちる、その日まで。
壊れた少女は拒絶すら諦めた。
幼き精神を守るため、壁を作った。
こんなことしても無駄なのに―――そう思うことすら、放棄した。

壊れた少女と悪魔の仮面。
諦めた少女と魔人の仮面。
間桐の少女とムジュラの仮面。

今日も夜が、訪れる。

月に潰される、時が来る。


498 : 間桐の仮面 ◆DpgFZhamPE :2017/04/18(火) 23:25:49 x3z9mwPY0
【クラス】
キャスター

【真名】
ムジュラの仮面@ゼルダの伝説 ムジュラの仮面

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷A 魔力B 幸運c 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:―
魔術師として自らに有利な陣地「工房」を作成可能。
しかし、魔術師ではないため陣地作成は不可。
だが立派な彼の陣地は、いつも我らの頭上に存在している。

道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成可能。
彼の場合、呪いを帯びた呪具(仮面)を作る。

【保有スキル】
妖精の奏宴:A
 妖精を使役する術。
 彼の場合『生前』―――と呼んでいいのかは不明だが、二匹の精霊を使役する。
 素早い攻撃が可能(ゼルダ無双を参照)だが、『ムジュラの仮面』が召喚された際に、妖精たちが武具として再現されただけの為かつてあった意思は存在しない。

精神汚染(感染):A
 仮面を見ていると、沸き起こる恐怖。
主に感染していく恐怖であり、この仮面を直視していると相手に徐々にスタン判定を与える。

オカリナの狂音:A
 オカリナから奏でられる、魔の響き

 音波攻撃でもあり精神攻撃でもあり、耳にしたものを恐慌状態に陥らせる。

【宝具】
『呪術紡ぐ悪仮面―ムジュラ―』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:― 最大補足:―

 かつて呪術に使われたという、莫大な力を持つ仮面。
世界に蔓延る呪術を基盤としておりこの姿でも他人の姿を変化させる強力な呪術を操る他、周囲の恐怖が彼の力になる。
生前―――と言っていいかは謎であるが、かつて使っていた肉体であるスタルキッドを再現し使役しているが本体は仮面であり、肉体が傷つこうとも仮面の霊核には何ら影響もない。
故に肉体を失っても仮面が無事ならば新たな肉体を生成でき―――スタルキッドを失ったとき、新たな手足を獲得し、筋力と俊敏がワンランク上昇する。
膨大な魔力を秘めており、存在そのものが宝具でありサーヴァントであり魔力炉なので、魔力供給を必要としない。

『呪術纏う闇仮面―魔人―』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:― 最大補足:―
 仮面としての能力を解き放った形態。
 幻想種としての悪魔、魔人としての特性を付与し筋力と俊敏が更に上昇し、身体中の触手を操る。
 呪術の力を纏っているため、並大抵の力ではダメージを与えることすらままならない。
 戦うならば、まず彼の足を止める必要がある。

『其は人類を放棄する物、三度月が昇るまで』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜
? 最大捕捉:?人

あなたはまだ、月のこわさを知らない。
徐々に堕ちてくる、人面の月。
タイムリミットは三日間。
期限が近づくにつれ月が接近し、三日間を超えた瞬間地表に激突しその大質量で全てを葬る。
時を巻き戻す偉業でもタイムリミットを先延ばしにすることしかできない、人類消滅の偉業。
宝具であるため、彼が消滅すると共に消える。
運命の道は二つだけ。
ムジュラが死ぬか。
みんなが死ぬか。


499 : 間桐の仮面 ◆DpgFZhamPE :2017/04/18(火) 23:28:21 x3z9mwPY0
宝具は聖杯戦争の開始と同時に発動し、三日目の終了と同時に世界を喰らう。
その月の中には果てなき草原が拡がっているとされているが―――さて。

【weapon】
オカリナ
妖精

【人物背景】
 仮面。
呪術に使用される、呪いの籠った仮面。
遊ぼ。遊ぼ。遊ぼ。
かくれんぼ。おにごっこ。
負けたらみんなで罰ゲーム。
世界を喰らう、星が堕ちる。

ああ、今宵も、月が迫る―――

【サーヴァントとしての願い】
―――(不明)


【マスター】
 間桐桜@Fate/Zero

【能力・技能】
 とくになし。

【人物背景】
遠坂凛の実妹。
遠坂家の次女として生まれたが、間桐の家に養子に出された。
 間桐家に入って以後は、遠坂との接触は原則的に禁じられる。
しかしながら「間桐の後継者」の実態は間桐臓硯の手駒であり、桜の素質に合わない魔術修行や体質改変を目的とした精神的・肉体的苦痛を伴う調整を受けている。

【マスターとしての願い】
 望むものは、何もない。
少女の心は精神的・肉体的苦痛から自己の精神を守るため、既に閉ざされている。


500 : ◆DpgFZhamPE :2017/04/18(火) 23:28:58 x3z9mwPY0
投下終了です


501 : ◆/sv130J1Ck :2017/04/19(水) 09:00:09 whsqyxXg0
wikiにて拙作、泣きっ面にスズメバチの群を修正しました


502 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/04/20(木) 16:26:11 BvOKE6SY0
皆様、投下ありがとうございます!
生存報告がてらにこれまでの感想を投下します。


>死者は蘇らない
 Mnemosyne─ムネモシュネの娘たち─より麻生祇燐と、FGOよりスカサハですね。
 全体的にエロティックで、ダーティーな雰囲気のあるお話だと感じました。
 やはりいちばん好きだったのは死ねない者同士の対話でしょうか。
 スカサハというキャラと燐というキャラ、双方の価値観や人生が端的に、しかしとても深みのある描写で表されていたと思います。
 色んな意味で他の候補作とは少し違った雰囲気のあるお話、大変読み応えが有りました。
 投下、ありがとうございました!


>NIMROD
 スプリガンよりヘウンリー・バレスと、封神演義より王天君ですね。
 マスターとサーヴァントの間で早速勃発している腹の探り合いが印象的でした。
 バレスは独善的な世界救済を夢見、王天君はそれをいけ好かないと嫌悪している。
 決して噛み合わない二人はしかし持っている戦力は互いにとても高いのがなんとも皮肉に思います。
 どう転んでも一筋縄では行かなそうなこの主従、最終的に勝つのがどちらなのか非常に気になりますね。
 投下、ありがとうございました!


>僕らは今のなかで
 ラブライブ!より小泉花陽と、ヒト喰イより来栖シュウ(チャン・リー)ですね。
 総じて、来栖シュウというサーヴァントの立ち回りの巧さと悪辣さが大変よく表現されていると思いました。
 アイドルをやっている以外はごく普通の女子高生である花陽が、詐欺師である彼の本性を見抜けないのも詮無きこと。
 ただこのまま盲信し続けていたなら、彼女を待っている結末は確実に悲劇的なものになるでしょうね。
 独特なスキルや宝具を持つ来栖が聖杯戦争でどう暴れるかに期待です。
 投下、ありがとうございました!


> ああ、かるい人々
 機動警察パトレイバーより内海と、Fate/KOHA-ACE 帝都聖杯奇譚より森長可ですね。
 一読してみて、森の強さと独特な価値観がとても印象に残りました。
 それでいて現実的に高い戦闘力も保有しているというのがなんとも厄介な。
 マスターの内海は言動こそ常識的に見えますが、内心はこれまた厄介な人物のようです。
 サーヴァント同様聖杯戦争を楽しもうと考えている彼がどう活躍するか楽しみです。
 投下、ありがとうございました!


503 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/04/20(木) 16:26:31 BvOKE6SY0

>清光&セイバー
 刀剣乱舞より加州清光と、FGOより沖田総司ですね。
 かつて沖田の刀だった人物が、英霊の座に登録された持ち主を召喚するという発想は大変面白かったです。
 形はどうあれ縁ある者同士の会話は、偶然召喚した、された主従とは違った趣がありますね。
 いつもはいわゆるぐだぐだな側面がクローズアップされている沖田ですが、シリアスもいざとなればちゃんとやれる辺りが彼女のいいところだと思います。
 まさに奇縁と呼ぶしかない剣士と刀の主従の今後に期待せずにはいられません。
 投下、ありがとうございました!


>悪鬼羅刹
 刃鳴散らすより武田赤音と、鬼哭街より劉豪軍ですね。
 まさに鬼気迫ると言うのが正しいであろう剣技の描写が非常に素晴らしかったと思います。
 武田赤音というキャラが抱える狂気や執念の凄まじさが文章からひしひしと伝わってきました。
 それに対し、劉豪軍の描写は対称的に静か。しかしながら、その強さは同じく強く感じられました。
 激しい殺気に満ちた彼らの行く末はきっと、むせ返るような血生臭さで満ちていることでしょう。
 投下、ありがとうございました!


>泣きっ面にスズメバチの群
 結城友奈は勇者であるより犬吠埼風と、魔法少女まどか☆マギカよりインキュベーターですね。
 神樹と大赦に怒りを覚え行動しようとしていた風が、よりによってインキュベーターを呼び出してしまうというのはもう不運としか言いようがないですね。
 何より、風は現状インキュベーターに不信感を抱いていないというのが何ともまた。
 彼の内面は相変わらず人間のそれとはかけ離れており、この先の波乱を予感させるには十分過ぎます。
 勇者たる彼女が真実を知り、どうなるのか。非常に楽しみです。
 投下、ありがとうございました!


>間桐の仮面
 Fate/Zeroより間桐桜と、ゼルダの伝説よりムジュラの仮面ですね。
 まず、ムジュラの不気味で異様な描写の数々がとても見事だと感じました。
 ケタケタと気味悪く嗤う仮面を従えるのが、心の壊れた桜というのも実におぞましい。
 度重なる拷問のような調教で壊れた彼女を取り囲む運命は、今度は悲劇ですらない異形のそれ。
 滅びの時を約束する月光は、果たして聖杯戦争の舞台すらも圧し潰してしまうのでしょうか。
 投下、ありがとうございました!


504 : 猫とロック ◆/sv130J1Ck :2017/04/26(水) 21:23:39 ZEBGdwCo0
投下します


505 : 猫とロック ◆/sv130J1Ck :2017/04/26(水) 21:24:06 ZEBGdwCo0
コトコトと鍋の中身が煮える音。辺りに漂う良い匂い。鍋の中を見るともうじき出来る塩梅だった。
喜ぶかどうか少し考えるが、まあ問題は無いだろう。キャラじゃなくて本物の猫だし。
此処は冬木市深山町に有る一軒家。此処はこの聖杯戦争に巻き込まれたマスターとそのサーヴァントの拠点である。

「よ〜し、もうじき出来るね」

帰ってくるまでに出来そうだ─────多田李衣菜がそう思った矢先に、“ニャー”と聞こえた。
入って来たのは一匹の猫。純白の毛並みの猫は、真っ直ぐ李衣菜を見つめている。

「お帰り〜。どうだった」

猫に向かって話し掛ける。

「見つからなかった。夜光院でも無い身故に断言は出来ぬが、まあこの家の周囲にはさぁゔぁんとはおらんようじゃ」

返ってくる返答。猫が人語を話すなど有り得ないが、李衣菜は驚かない。
この猫こそ李衣菜のサーヴァント。クラスはセイバー、此の地で李衣菜の身を護り、敵を討つ刃。

「お疲れ〜。ご飯もうじきできるよ」

「なんじゃ?」

目線を向けてくる白猫に答える。

「カレイの煮付け」

「おお、礼を言うぞ主。」

嬉しそうに言う猫に、李衣菜の頬が緩む。

「良かった〜。魚嫌いじゃなくて」

やっぱりキャラじゃないと魚好きなんだな〜、と思う。
白猫がカレイの方に目を向けたまま、言葉を続ける。

「油断はするなよ。この程度の街、優れた魔術師にとっては、端から端まで指呼の間じゃ」

「ホント!?」

「私の知っている魔術師は、東京から東北までものの五分で飛んで来たぞ」

ゲッと李衣菜は仰け反る。まさか最弱のサーヴァントに該当する魔術師がそんな高性能だとは。

「まあ彼奴程の魔術師は、長い間生きた私も、他に見なかったからの。そう気に病む必要もないと思うが」

そう言った白猫の体が霞むと、その姿が徐々に変わり出した。
長い黒髪、紫紺の瞳、李衣菜が今までに見て来たトップアイドル達に匹敵する美貌。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる、女である李衣菜ですら目を奪われる、流麗なラインで構成された白い裸体。
年の頃は李衣菜と同じくらいに見えるが、その所作は李衣菜より遥かに長い歳月を経たかの様なアンバランスさを感じさせる。

「……服毎変われないわけ?」

「無理じゃな」

すげ無く返ってくる返事。
何しろ元々が猫なのだ。服を着用していないのが自然なのだろう。
「文」とセイバーが言うと、セイバーと同年代に見える、和装の少女が姿を表した。

「エレエレエレエレ」

和装の少女の口から吐き出される衣服。腹の中に服と武器をしまっているらしいが、見るたびに引く。濡れている様に見えるのだが、毎度不快じゃ無いのかと疑問に思う。
セイバーが吐き出された衣服を着ると、“凛々しい”という言葉の見本の様な和装の美少女の姿が完成した。

「食事の時間じゃ」

開口一番に言うのが、食べることであったが。


506 : 猫とロック ◆/sv130J1Ck :2017/04/26(水) 21:24:35 ZEBGdwCo0
〜夜〜


此の地に来る前から続けていたギターの練習を、李衣菜は欠かさず行っている。
李衣菜の目的は帰還である。元の世界に戻って、“ロックなアイドル”として輝く夢が李衣菜にはあるのだ。
尤も、こんな所にいるのはその夢の所為である。
まさか偶々買ったピックが『鉄片』だったとは。

「日々励んでおるのう、李衣菜」

「まあね、ほら、私は“ロックなアイドル”だからね。ギターが弾けないっていうのはね」

「しかしその楽器、音が出んようじゃが」

「…………き、近所迷惑だしね」

「そういう事にしておこう」

ニヤリと笑うセイバー。その笑みに李衣菜は僅かに怯む。このネコはどうも苦手だ。相方と違って。

「こういう事をやっている場合じゃ無いのはわかっているけど、けど私は、殺し合いなんてやりたく無い」

「勝利すればなんでも願いが叶うというぞ。とっぷあいどるとやらに成る事も容易であろう」

「……それも考えたんだけどね。自分の力で高みへ登って行くんじゃ無いと、ロックじゃないし。自分で自分を裏切るみたいで嫌だし。
うん、私はロックに行く。誰も殺さないで、巻き込まれた人達を元の世界に返して、聖杯を壊す。それが私のロック。そして私は私のステージに戻る。
私は“ロックなアイドル”を目指しているの。殺しあえと言われて『はいわかりました』って従うんじゃロックじゃない。
それにアイドルが後ろめたい気持ちでファンの前に立つわけにはいかないし」

「そうか。それが李衣菜の方針なら、私はそれに従うだけじゃ。主(ぬし)に襲い来る敵を討ち、李衣菜を立つべきステージに戻そう」

静かに、しかし強い意志を込めて語るセイバーに、李衣菜は問い掛ける。今まで聞きそびれていたが、この気に聞いておこう。

「セイバーに叶えたい願いは無いの?」

「無い。私の生に未練など無い。私は自分の成すべき事を成し、望外のものも得ることが出来た。私は自分の生で、本来得られる以上のものを得た。もう望むことは無い」

「なのに私の為に戦ってくれるの?」

「私は戦うことしか出来ぬ。この様な場には私の方が相応しい。じゃから私は戦う、そして李衣菜を相応しい世界に返す。生前やっていたことと変わらぬ。
じゃから気にするな。私が行うのは生前から変わらぬ私の役目じゃ」

「…ありがとう」

最初出逢った時は猫との腐れ縁に絶句したが、今にして思えば本当に良い相棒だと思う。元の世界の相方と同じ位に。

「それじゃあ“ロック”に行こう!」

セイバーの言葉に勇気を奮い起こす。私は“ロックなアイドル”目指すのだから、何処までもロックに行こう。そう決めた。




─────そうであろう、若殿。


声に出さず、胸中で呟く。それは遥か遠い過去に見送った男への誓約。
李衣菜を護り、元の世界に返すという聖約。
血風吹き荒び、骸が積み上げられる舞台に李衣菜は相応しくない。
李衣菜にはもっと相応しい、立つべき舞台が存在する。
そこに李衣菜を返す事を、きっと彼なら望むだろう。

─────若殿。私はこの仮初めの生を、李衣菜を禍から救う為に使う。若殿の護り刀は、幾星霜を経ても錆ぬ事を見届けてくれ


507 : 猫とロック ◆/sv130J1Ck :2017/04/26(水) 21:25:26 ZEBGdwCo0
【クラス】
セイバー

【真名】
緋鞠@おまもりひまり
身長 157cm
バスト 88cm
ウェスト 56cm
ヒップ 85cm
胸のサイズ Fカップ
血液型 猫型


【ステータス】
筋力:D~B 耐久:D~C 敏捷:B~A+ 幸運:B 魔力:B 宝具:B

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:E
騎乗の才能。大抵の乗り物なら何とか乗りこなせる。
乗り物に乗った逸話が無い為、クラス補正で辛うじて乗れるというだけである。



【保有スキル】
神性:E
神霊適正を持つかどうか。
ある地域で“猫神”と呼ばれた事から獲得したスキル。


妖猫:ー(E~A)
心眼(偽)・精神汚染・加虐体質・吸血を併せ持つ複合スキル。
セイバーは強力な猫の妖である。通常時は妖としての面を抑えている為に、獣としての本能である心眼(偽)をBランクで発揮する以外機能していないが、宝具を発動する事により、段階的にランクが増して行く。
Cランク以上から、精神汚染と加虐体質の複合効果で、ステータスアップを伴わない『狂化』スキルと同じ効果を発揮し出し、思考が混濁していく、本来は最終的に完全に妖となり、無差別に襲い、殺し、喰らう存在となるが、ある宝具の効果によりその状態になる事は無い。
ランクが高まる程に『獣』に対して効果の有る宝具やスキルに対し脆弱になる。


魔力放出:C(A)
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
いわば魔力によるジェット噴射。


仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
妖猫スキルがBランク以上になると消滅する。


怪力:ー(D~B)
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
通常時は発揮されない。宝具を発動した際、段階的に上がって行く。
使う程に妖猫化が進んでしまう。


508 : 猫とロック ◆/sv130J1Ck :2017/04/26(水) 21:25:49 ZEBGdwCo0
【宝具】
童子切安綱
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1-2 最大補足:一人

平安時代に源頼光が酒呑童子を討ったさいに用いた刀。
鬼斬り役十二家の一つ、天河家に伝わり、妖怪退治に用いられて来た。
その為、魔に属するものに対して特攻効果を持ち、ランク以下の魔術や魔力放出に対し、貫通及び抵抗の効果を発揮する。
また、『童子切り』の由来ともなった最も有名な逸話から、鬼種に対しては特攻効果が倍になり、相手の防御力を無視して発揮する



発現せよ、我が獣性(妖力解放)
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:自分自身

日頃抑えている妖力を解き放ち、妖猫本来の能力を発揮する。
魔力放出スキルが()内のものになり、衝撃波として離れた敵を攻撃することも出来る。
ステータスやスキルランクが段階的に上昇、Bランク相当の戦闘続行スキルを獲得する。
反面魔力消費が大きくなる。



文車妖妃(文)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:ー

生前からセイバーに仕えていた妖怪文庫妖妃、水色の髪と浴衣が特徴の少女。本来の姿は封書。
腹の中に大量に物を入れて運ぶことが出来る。刀剣類や長柄武器が大量に収まっている。
出す時は口から吐き出すが、封書の姿の時は空中に出現させる。
火や湿気が苦手。


我が胸に宿る光(光渡し)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大補足:自分自身

生前、セイバーが取り込んだ邪妖と、セイバーの獣の本性が混じり合ったモノに精神を侵された時に、セイバーの主であり心を通じた少年がセイバーに刻んだ光。
この光有る限り、セイバーの心は如何なる侵食にも、影響を受けこそすれ決して呑まれる事は無い。


【weapon】
童子切安綱:
宝具欄参照

文が腹に飲んでいる武器


【人物背景】
鬼斬り役十二家の一つ、天河家の先祖と先祖が盟約を結び、代替わりしつつ天河家に仕え続けてきた妖猫。
主人公の天河優人が十六になった時に、天河家が代々住んでいた野井原の地から、優人を護る“護り刀”としてやって来た。
本来の姿は白猫で、この姿でも会話は可能。
戦闘では主に刀を用い、速度を活かした戦い方をする。
本気で戦う時には猫耳と尻尾が生える。

【方針】
李衣菜を元の世界に返す

【聖杯にかける願い】
無い


509 : 猫とロック ◆/sv130J1Ck :2017/04/26(水) 21:27:23 ZEBGdwCo0
【マスター】
多田李衣菜@アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ版)
【能力・技能】
歌って踊れるアイドル体力は人並み以上。
ギターは練習中

【weapon】
無い

【ロール】
女子高生

【人物背景】
ロックなアイドルを目指すアイドルだが、ロックの知識はそれ程無い。
性格は明るく、仕事に対しても真面目に取り組む。

【令呪の形・位置】
右手の甲に✳︎の形

【聖杯にかける願い】
帰還

【方針】
誰も殺さない。巻き込まれた人達を元の世界に返す。聖杯を壊す。

【参戦時期】
11話終了後からの参戦


510 : 猫とロック ◆/sv130J1Ck :2017/04/26(水) 21:27:50 ZEBGdwCo0
投下を終了します


511 : ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:20:18 1nTuJAMA0
投下します。


512 : Open Invitation ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:22:17 1nTuJAMA0

夕刻。
彼女が自分と世界の不自然さに気づき、記憶を取り戻したのは、薄暗い廃工場の倉庫だった。
悪夢のような辛い記憶だ。取り戻さなかった方が、幸福だったに違いない。憂いに満ちた瞳から、はらはらと涙がこぼれ落ちる。

すらりとした美女。長い黒髪、白い肌、長い睫毛。妖艶で、儚げで、不穏な雰囲気を漂わせる。
乱れた制服を整え、埃をはたく。赤い唇をかすかに歪め、彼女は呟く。

「ふふ。聖杯戦争。おのれの望みを叶えるために、殺し合え、やて」

聖杯。それを手にすれば、なんでも望みが叶う。他人を殺して奪い合うには、充分すぎるほどな宝物だ。

「殺せ、言うんか。うちに、まだ」

付近の闇から、無数の赤黒い影が湧き出す。大きな蛭のようで、ぼんやりした輪郭。きちきち、ちいちい、と声を上げる。
幼い頃から彼女に取り憑いていた「魔」、悪霊たちだ。死んだ母は「餓鬼」だとも言っていた。
彼らは、床に転がる与太者たち数人の死骸に群がった。さっき彼女に暴行しようとしたが、恐ろしい握力で絞め殺された連中だ。
ポリポリ、ポリポリと音を立てて、「魔」は死骸を貪っていく。

彼女の名は、梓(あずさ)。志賀梓。

梓は、幼い頃から殺人の経験がある。何人も殺した。「魔」に気づき、娘を恐れて絞め殺そうとした、実の母さえも。
証拠は残さなかった。この「魔」が、すぐに死体を食い尽くしてくれるからだ。残したのは、母の惨殺死体だけ。
悲しいことは悲しいが、彼女が死んだという証拠がなければ、梓は自由になれなかった。娘が母を、あのように殺すなど、警察も親戚も、考えはしなかった。
だが、梓が頼った唯一の拠り所……従兄弟で許婚の譲(ゆずる)には、恋人がいた。里美、とか言ったか。梓は彼女を殺そうとした。そして譲は……。

梓は、指先で『鉄片』を弄ぶ。いびつに捻れているが、これが何か、梓は覚えている。
譲は弓道部の部長だった。里美を殺そうとした梓に、譲は弓を引き絞り、矢を射た。一の矢は右腕に、二の矢は胸に。
この『鉄片』は、譲が自分の胸を射た矢の、鏃だ。譲のものだ。形見だ。譲が唯一自分にくれたもの、譲と自分を結ぶものだ。
これが「招待状」となって、梓は聖杯戦争に招かれた。ならば、今ここに梓がいるのは、譲のおかげだ。彼のために、自分は戦う。

静かに涙を流しながら、梓は『鉄片』に口づけし、ゆっくりと床に置いた。
この『鉄片』を核として、聖杯戦争で戦わせるための使い魔……『サーヴァント』が呼び出される。
植え付けられた記憶は、そう伝えている。勝ち残れば、望みが叶う。負ければ死ぬ。それだけだ。
使い魔というなら、梓はすでに持っているのだが、彼らだけでは勝ち残ることはできまい。より強力な霊が、魔が、必要だ。

「おいで」

梓は呟いた。たちまち鉄片の周囲に魔力が集まり、じわじわと人のような形を取っていく。
鏃が核となったからとて、アーチャー(弓兵)が呼ばれるとは限るまいが、覚悟はしておこう。なるべく従順で強い奴がいい。

――――だが、梓の目の前に顕現したサーヴァントの姿は、意外なものだった。


513 : Open Invitation ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:24:19 1nTuJAMA0

痩せっぽちで気弱そうな、冴えない男だ。見たところ30代前半。
黒髪に高鼻、瓶底眼鏡。白シャツにネクタイを締めて白衣を羽織り、下はスラックス。
頭はそれなりに良さそうだが、全く英霊というイメージにはそぐわない。
どこかの学校の理系の教師か大学の助手、研究所の所員といったところ。

「……うちの名は、志賀梓や。あんたが、うちのサーヴァント?」

戸惑いながらも、梓は名を名乗り、尋ねる。
男はにっこりと笑い、眼鏡を指で直すと、丁寧にお辞儀した。

「はい。はじめまして、マスター。私が貴女のサーヴァント、『アヴェンジャー(復讐者)』です。よろしくお願いします」

アヴェンジャー。七騎以外のエクストラクラスのひとつ、理不尽な仇に報いる者、正当なる報復者。
目の前の、この男が? 無害そうで、復讐心などなさそうだが。
梓は訝しむ。もし本当なら、随分と物騒なサーヴァントを引き当ててしまったものだ。

「ああ、うん、よろしゅう。えと、ほな、あんたの、真名は……?」

梓の問いを聞くや、アヴェンジャーはビクンと身震いし、顔を伏せる。妙な様子だ。何か、気に障ることを言っただろうか。
彼は両の拳を握りしめ、肩を震わせている。怒りか、悲しみか、歓喜か、それとも。

「し、真名は……」

アヴェンジャーが口を開く。その声は震えている。

「真名は……くひっ、くひひひ」

アヴェンジャーが、笑い始めた。怒りでも、悲しみでも、歓喜でもなく。
ああ、これは。彼は、狂っているのだ。

「オレの、名は!!」

アヴェンジャーは叫んだ。眼鏡越しに、大量の涙が零れ落ちた。


514 : Open Invitation ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:26:23 1nTuJAMA0

彼の側頭部に、突如二本の角が生えた。先端に球体があり、金属製のアンテナのようだ。
彼が顔を上げた。酷い表情だ。分厚い眼鏡の向こうの目はうかがい知れないが、きっと見てはいけない。
彼の額には、大きな文字で「2」と書いてあった。

「『安川2号』だ!!『安川2号』だ!!
 あは、ははは ハは は はハッハ ハはは は !!
 オレの名だ!オレの名だぞ!オレだけの名だ!ははははははははははは!!ははははははははははは!!!!」

アヴェンジャーは大量の涙を、さらには血涙を流しながら、のけぞって笑う。
両手を高く掲げ、頭部をグルグルと異常に回転させ、誇らしげに、忌々しげに、その名を叫ぶ。
見る間に彼の姿が変わっていく。髪の毛が消え去り、アンテナが細くなり、首が蛇のように伸びる。
のけぞりからブリッジ姿勢になり、そのまま胴体と首が反転して四つん這いになるや、四肢は細い六本の脚に変わった。
機械の体に、狂った心。彼は英雄ではない。倒されることで人々を救う、反英雄のような存在でもない。ただの悪鬼、化物。

なんというサーヴァントを引き当ててしまったのか。自分に、彼が制御できるのか。
梓は、困惑し、怯えた。今まで、こんな恐怖を感じたことはなかった。子供の頃、近所の男子に強姦されかけた時も。
彼を石で殺した時も。『あいつら』が初めて、自分の前に現れた時も。母を殺した時も。譲に殺された時も。
根源的な恐怖。見てはいけない。闇に飲まれる。恐怖のあまり、梓はぎゅっと目をつぶり、顔を伏せる。

ひとしきり笑った後、異形のアヴェンジャーは眼鏡を……いや、眼窩に嵌ったレンズを取って、涙と血涙を拭った。
そして、静かな声で言った。


「見ろ」


震える梓は、そのまま首を振った。見てはならぬ。見てはならぬ。

「……まあいい。見ない方がよかろう。……顔を上げていいぞ」

梓が恐る恐る目を開け、ゆっくり顔を上げると、彼は真顔でこちらを見ている。
元の、冴えない中年男の姿だ。二本の角も、額の数字もない。だが、今は酷く恐ろしい。彼は、淡々と話し始めた。


515 : Open Invitation ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:28:21 1nTuJAMA0

「マスター。梓さん。オレの目的は復讐だ。オレを創造して勝手に棄てた、神への、悪魔への、復讐だ。親殺しだ。
 それ以外はどうでもいい。あんたの目的も、生命も。あんたがオレを邪魔するなら、今ここで殺す」

「……そんな」

親殺し。その言葉を聞いて、梓はさらに怯える。アヴェンジャーは、つかつかと歩いて近づく。梓は後ずさりする。
彼はしゃがみ込み、梓の足元から「魔」を一匹掴んで立ち上がる。それは、ぴくぴくと蠢いている。

「見たところ、何かの悪霊……魔か。魔に取り憑かれているな。オレには分かる。似たようなものだからな。
 幼い感情のままに、これを操って来た……あるいは、操られて来た、ってとこだろう。
 魔力はそれなりにありそうだが、オレを使役するには、少ォし足りないか。そう、闇が、少し、足りない」

不意にアヴェンジャーは顔を上に向け、大きく口を開けると、「魔」を口の上に掲げて、握りつぶした。
舌を伸ばし、滴る赤黒い雫を、ごくり、ごくりと飲み下す。残った死骸も、そのままつるりと飲み込んでしまう。
無表情に舌なめずりするアヴェンジャー。梓は膝が震え、尻餅をつきそうになる。

「やめて!! 分かった!うち、あんたの邪魔はせえへん!勝手にしい!」

とうとう梓は絶叫した。こいつには、「魔」の力が通用しない。

「あんたは、闇や。鬼や、悪魔や。うちの手に負えへん」

涙をこぼしながら呟く梓に、アヴェンジャーは上機嫌で答える。

「安心しろ。あんたを殺せば、オレも長くは存在できないし、聖杯も手に入るまい。生命だけは守ってやるよ。
 一蓮托生。仲間じゃないか、助け合おうぜ。くくく、くくくくくひひひ」

もちろん、アヴェンジャーの狂った行動は計算ずくだ。彼は狂人だが、理性と知性は曇ってはいない。
『アヴェンジャー』というクラスで呼び出されたサーヴァントは、他者からの負の感情を己の力とするスキルを持つ。
たとえば、恐怖。それがマスターからの感情ならば、なおさらだ。憎悪や敵意なら、なおいいが。

怯えるだけ怯えさせた後、アヴェンジャーは彼女から主導権を完全に奪うべく、わざとらしい猫撫で声で話し始めた。

「さあ、キミの願いを言ってごらん。オレが勝ち残ることで、ついでにキミの願いも叶うんだろ? 無い、ってことはあるまい」


516 : Open Invitation ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:30:40 1nTuJAMA0

「う、うちの、願い、は」

梓はへたり込み、恐怖で混乱した頭の中を整理し始める。聖杯戦争。願いを叶えるための殺し合い。
殺し、殺し、殺して、願いを棄てなければ、それは叶う。単純だ。梓の願いは、あの時からただひとつ。

「許婚の、譲ちゃんの、お嫁さんになりたい」

あまりにもロマンチックな、殺し合いをしてまで望む願いとしては、奇妙なほどに子供のような願い。
アヴェンジャーは、やや面食らった。だが黙って話を聞いていくと、彼は納得した。

「許婚になったんは、10年も前や。すぐに譲ちゃんは都会へ出ていって、うちはこの力を手に入れた。
 お母ちゃんが死んだ後、譲ちゃんの家を頼って行ったら、うちのこと忘れて、恋人作ってた。
 うちの、この力で、そいつを殺そうとした。そしたら、譲ちゃんが、うちを殺した」

「おやおや、悲劇だ」

なるほど、そういう女か。世間知らずのお嬢様で、愛に狂った悲劇の主人公というわけだ。

「うちは、譲ちゃんが好きや。誰にも渡さへん。うちを殺したからって、譲ちゃんに復讐なんてせえへん。
 するんやったら、あの女や。あの女がおらんかったら、うちは、譲ちゃんと幸せになれてたんや。
 あいつを消したい。はじめっから、おらんかったことにしてやりたい。そしたら、うちはもう一度、譲ちゃんと……」

頭を抱え、目を血走らせ、早口で呟く梓。彼女を宥めるように、アヴェンジャーがわざとらしく拍手した。

「ははは、愛か、憎悪か。何かに執着するのはいい。心の闇はキミの力になり、オレに力をくれる。
 ただまあ、願い事は一つにしておきたまえ。恋敵を消すより、恋人と結ばれることを一番に願うべきだろうよ」

「……せやね。うち、頭に血が上ると、どうも歯止めが効かへん」

梓は顔を振って深呼吸してから立ち上がり、恐ろしい目つきでアヴェンジャーを睨む。

「あんたには、どうしてもこの戦争に勝って貰わなあかん。お互い、他人をなんぼ殺しても叶えたい願いがあるんやろ。
 うちの魔力は、あんたが好きに使ってええ。足りんのやったら、他人の魂を喰らったらええ。
 ここは地獄で、うちは鬼や。あんたは悪魔や。同じ地獄に暮らす仲間や。助け合わなあかん!」

棄てられ、狂い、殺された姫君。鬼の形相。なかなか悪くない。アヴェンジャー、安川2号は、大きく両の口角を上げてニタリと笑った。

「よかろう。キミをオレの仲間と認めよう、梓さん。存分に殺し、共に願いを叶えよう」


517 : Open Invitation ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:32:26 1nTuJAMA0



こきこきと首を鳴らし、アヴェンジャーは周囲を見回す。「魔」はいない。与太者たちの死体は、とうに食い尽くされている。

「……さて、この廃工場で呼ばれたのは良かった。オレは機械工学が得意でね、いろんな武器が作れる。部品を集めてこよう」

なるほど、彼は科学者であり、機械でもある。サーヴァントという魔術的な存在が、アンドロイドのマッドサイエンティストというのもおかしいが。
わきわきと指を動かしながら、アヴェンジャーは廃工場を調べ回り、使えそうな機材を調達していく。電気は点かないが、夜目はきくのだろう。
魔術にも機械にも疎い梓にとっては、なかなか頼もしい。戦闘や暗躍は、彼に任せても問題なかろう。梓は一息つき、座って休む。
家で待つ母――NPCだが――に怪しまれるから、あまり遅くならない方が良いのだが。そう告げる暇もなく、梓は疲労のあまり目を閉じた。

数十分後、倉庫の中央に積み上げられた様々な機材を前に、アヴェンジャーは顎に手をやり、作業計画を練る。

「それなりに使えそうなものはあったが……んーでも、ちょーーっと物足りないかなァ。
 じゃあ、素敵な場所にご案内しよう、マスター。スカートを押さえたまえ!」

急に言われて、まどろんでいた梓はハッと目を覚まし、言われる通りにスカートを押さえる。
アヴェンジャーは機材の山から突き出した、何らかのスイッチレバーを押し下げる。

「ゲート・オープン!」

ガコン、という音と共に、床全体が水面のようにゆらめき、二人の足元に大きな、真っ黒い穴が空いた!

「へ」

二人は少し空中に浮いた後、機材の山もろとも、穴の中へ!

「…………きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

スカートを押さえたまま、梓は絶叫!失神!
アヴェンジャーは再び蜘蛛のような姿を取り、彼女を背負って共に落下していく!



「……ここは」

意識を取り戻した梓は、怪我がないことを確認した後、周囲を見渡す。薄暗く、ほの明るい。
機材の山は、先程の何千、何万倍にもなり、広大な空間を埋め尽くしている。見渡す限り、ガラクタと瓦礫の山。
落ちてきた穴の出口は、巨大な生物の臓腑のよう。天井は岩で、遥か彼方にぼんやり見える地面も岩肌だ。
大気は蒸し暑く、金属と硫黄臭い。轟音と騒音と、奇妙な静寂が同居する。まるで、まるで。
蜘蛛の姿をしたアヴェンジャーは、傍らの梓を振り返り、にこやかに告げた。

「ようこそ、マスター。ここは地獄さ。もう少し部品を調達して行こう。奥に工房もあるから、組み立てもできる」


518 : Open Invitation ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:34:29 1nTuJAMA0

【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
安川2号@岸和田博士の科学的愛情

【パラメーター】
筋力D 耐久C+ 敏捷B 魔力A 幸運E 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
復讐者:A
棄て虐げる者への復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。被攻撃時に魔力を回復させる。
また「天才」と定義される者(人類史を塗り替え、気軽に災害を引き起こす類の狂天才)、手下や被造物を無碍に扱う者に対しては憎悪を募らせ、攻撃力が上昇する。
彼の創造主を共に恐れ恨んでいた「地獄」の存在からすれば「神殺しの英雄」。一種の「アンチヒーロー/ダークヒーロー」ではある。

忘却補正:A
復讐者は英雄にあらず、忌まわしきものとして埋もれていく存在である。人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。
忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃は、正規の英雄に対するクリティカル効果を強化させる。
己の創造主や人々に存在を忘れられかけながらも、闇の底で復讐の牙を研いでいた彼にはふさわしいスキル。

自己回復(魔力):B
復讐が果たされるまでその魔力は延々と湧き続ける。微量ながらも魔力が毎ターン回復し、魔力に乏しいマスターでも現界を維持できる。往生際も悪い。

【保有スキル】
自己改造:A
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。このランクが上がれば上がる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
もとが機械なので自由にカスタマイズでき、蜘蛛のような異形(六本脚だが)をとることもある。

道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成できる。本来は魔術師ではなく科学者であるため魔術的素養には乏しいが、狂ったオカルト的思考の持ち主。
彼の創造主には及ばぬものの知力は非常に高く、異様な機械・生物を多数作成・改造することができる。

破壊工作:A
戦闘を行う前、準備段階で相手の戦力をそぎ落とす才能。トラップの達人。ランクAならば、相手が進軍してくる前に六割近い兵力を戦闘不能に追いこむ事も可能。
ただし、このスキルが高ければ高いほど、英雄としての霊格は低下していく。高度なハッキング技術、機械・生物の改造技術を有する。
しかるべき施設があれば、巨大寄生植物を暴走させ、富士山を噴火させ、ICBM数発を目標に発射し、謎の巨大隕石を目標にぶつけるなど途方もないことも同時にしでかす。


519 : Open Invitation ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:36:54 1nTuJAMA0

精神汚染:B
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。
彼の場合、意思疎通は可能だが精神が狂っており、長く会話すると精神に悪影響を及ぼす。最後の戦いでは彼の創造主の精神攻撃を跳ね返した。

気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。完全に気配を断てば発見する事は難しい。
アンテナや額の文字を消した「チャーリー安川」としての姿をとれば、影の薄い一般市民として違和感なく行動できる。

【宝具】
『打ち棄てられし幻夢郷(ウェイステッド・ドリームランド)』
ランク:? 種別:結界宝具 レンジ:? 最大捕捉:?

彼が堕ち、今は破壊され失われた地獄、「岸和田研究所の地下ゴミ処理場」を固有結界(のようなもの?)として展開する。発動には相当量の廃棄物が必要。
種々雑多な機械や人造生物の失敗作が打ち棄てられた、悪夢のような地下世界で、心身共に歪み狂った「住民」たちが生活している。
大気は金属を腐蝕させ、深部にはマグマが煮えくり返っており、停止したゴミ処理施設を再起動させるための「魔神」が眠っている。
ここはアヴェンジャーの心象世界であると共に、彼の創造主の深層意識でもあるため、常人が長居すれば精神を汚染され、やがては発狂する。
アヴェンジャーはこの世界で様々な「ゴミ」を資源として集め、武器・兵器や自己改造の部品とすることができる。彼の工房もこの中に存在する。

『今ぞ目覚めよ大魔神(ヤマノダ・ザ・グレート)』
ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:? 最大捕捉:?

彼が目覚めさせ、彼を殺した巨人「山野田・ザ・グレート(のひとつ)」を目覚めさせ、召喚する。
山野田は成人男性そっくりの姿をした巨大ロボット(身長45mほど)であり、スキンヘッドでブリーフ一丁、その下の男性器も完全再現。
命令どおりに人工頭脳で動くが言葉は話さない。武装として指鉄砲、鼻くそボンバー、傷口レーザーなどを持つが、ただ暴れるだけでも甚大な被害をもたらす。
ただしあまりにも強大なため(また彼の創造物ではないため)、単体で顕現させることは不可能で、通常宝具として呼べるのは彼の『手』や『足』や『頭』だけである。

完全顕現させるには、アヴェンジャーがバネで山野田の手と結合し、自己改造した自らの『部品』として山野田を運用する以外にない。
この時の山野田は「安川キック」「安川ニードロップ」「安川パンチ」「安川ラリアット」「安川ヘッドバット」「安川バックドロップ」「安川イヤー」
「安川エルボー」「安川延髄斬り」「安川チョップ」「安川ストンピングストーム」など多数の技を使いこなす。
ただしあくまで「安川が」やっているていにするため、山野田がアヴェンジャーを手に持って投げるかぶん殴る等の形になり、アヴェンジャーはおおよそ衝撃で死ぬ。
アヴェンジャーが自らを極めて強固な体に改造しておけば、大ダメージは免れないにしても、ある程度はもつかもしれない。

『脳を蝕む毒電波(ブレイン・ウイルス)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:?

脳ウイルス。相手の脳に直接打ち込まれる謎めいた病原体。脳の回路を書き換えて記憶や人格を作り変え、洗脳する。
最終手段として、自分の記憶・人格・自我を「脳ウイルス」によって相手に打ち込み、脳を乗っ取って自分のバックアップを作ることも可能。
この「安川2号の自我」は、もはやサーヴァントでも機械でもなく、生身の人間の肉体を獲得した存在となる。脳を持たぬ存在やサーヴァントには無効。
ある種の毒や免疫で洗脳を不完全にすることは可能であり、解呪・解毒の手段があれば洗脳を解くことを試みることもできる。
魔術ではなく物理的に回路を書き換えるため、根本的解決には医学的治療が必要かもしれない。


520 : Open Invitation ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:38:23 1nTuJAMA0

【Weapon】
上腕部にスーパーミサイル、膝に南部14式ピストル発射装置、足に靴型携帯電話を装備(2巻口絵)。
蜘蛛めいた「改」の姿になると胴体からミサイルを発射する。また長い舌の先にはコンセントがあり、突き刺した相手に「脳ウイルス」を送り込む。
さらに宝具とスキルにより、様々な科学兵器・生物兵器を作成して使用する。神秘性は薄いがマスターを殺すには充分。
頭のアンテナは「安川君探知機」によりオリジナルであるチャーリー安川を探索可能だが、安川がいないここでは無意味。別の機能を持たせられるかも知れない。

【人物背景】
トニーたけざき『岸和田博士の科学的愛情』に登場するアンドロイド。天才科学者・岸和田博士の助手である「チャーリー安川」が誘拐された時、その代役として創造された。
かつて博士が安川の肉体を寝ぼけてサイボーグ化し、人間に戻した後も保存しておいたそのボディに、人工金属脳「ぷるぷるB」を搭載して誕生させられた。
外見はグルグル渦巻きの瓶底眼鏡をかけた冴えないおっさん(身長169cm)。安川本人との区別のため、頭部に金色の2本のアンテナが付けられ、額に大きく「2」と書かれている。
誘拐されていた本人が救出されたため存在意義が消失し、次第に安川を憎むようになり、彼と入れ替わろうとするが失敗。
これを契機として博士に反乱、コンピュータウイルスを用いて岸和田研究所を乗っ取り、巨大ロボ軍団を率いて大暴れするが、敗北してゴミ処理施設へ叩き落された。
辛くも命を取り留め、自己改造によって地下生活に適応、岸和田研究所を再度危機に追い込む。ついには安川本人の肉体を乗っ取ることに成功、博士を殺害する寸前まで追い詰めたが…。

ドラマCDでは安川のCVが千葉繁であり、安川2号もたぶん同じ声。安川のIQは195で、天才ではないにせよ優秀な科学者。安川2号も同等の頭脳を持つが、すでに狂気に侵されている。
発狂しつつも自己の消滅(死と闇)を恐れていたが、最後の戦いで「闇を恐れず受け入れる」ことを学んだ。アサシン、キャスター、フェイカーの適性もある。
機械であり知名度もないため、本来はサーヴァントとして呼べるような存在ではないが、彼の創造主の所業により、微妙に神秘を帯びている。

【サーヴァントとしての願い】
創造主である岸和田博士への復讐。彼を殺害して彼を超えることを自らの使命だと信じている。

【方針】
聖杯狙い。邪魔者は全て排除する。正面切って戦うタイプではないため、マスターを確実に始末することを優先する。
廃工場の地下を拠点として、各種兵器やロボット軍団を準備すると共に、市内の電子ネットワークをハッキングし、監視カメラ等の電子機器を掌握する。
下水道等からじわじわと市内全域に兵力を広げ、孤立したマスターを発見次第引きずり込んで殺害する。あるいは捕獲して洗脳し、奴隷やスパイや魔力炉にする。
サーヴァントが追ってくればトラップで足止めし、他のサーヴァントにぶつける。マスターはこのまま拠点に据えて守ってもいいし、早めに家に帰らせてもいい。

【把握手段】
単行本(全12巻)。安川2号は1巻で誕生し、2巻で反乱。6巻で再登場し、8巻で消滅。


521 : Open Invitation ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:40:21 1nTuJAMA0

【マスター】
志賀梓@笑う標的

【Weapon】
「魔」
正体・名称不明の魔性の存在。両目がついた大きな蛭のような姿で無数におり、生物や死体に群がって喰らい尽くす。
梓の母は「死肉に群がる餓鬼」と表現していた。おそらく犬神や人狐、トウビョウといった「憑き物」の類であろう。
普段は霊体化していて不可視だが、宿主に呼び出される時は実体化しており、物理的に引き剥がすことも可能。宿主が殺されればどこかへ消え去る。
高校生に振り払われる程度には弱いので、戦闘での活躍はあまり期待できない。撹乱や足止め、マスター狙いや証拠湮滅が関の山。

「魔」の力によるものか、宿主も鬼のような身体能力を多少は宿し、男の首を喉輪で吊り上げて絞め殺すこともできる。
またガラスを念力で割ったり(単行本版)、かまいたちのような力で衣服を切り刻んだりもできる(雑誌掲載版)。

【人物背景】
高橋留美子の短編ホラー漫画『笑う標的』のヒロイン。黒髪ロングの妖艶な美少女。関西地方(京都?)の田舎の旧家の出身で、品の良い関西弁で話す。OVA版でのCVは鶴ひろみ。
6歳の時、母により分家の子である従兄弟の志賀譲を許婚とするよう決められる。譲の父は乗り気ではなく、譲も梓と離れて暮らすうちに約束を忘れ、彼女もできていた。
一方、幼い梓は「魔」を操る術に目覚め、自分を襲う者を殺して食わせていた。ついに母をも殺した彼女は、譲の家に引き取られ…。
己の情念のためなら殺人も厭わず、ついには己の身の破滅を招いた、るーみっくわーるど屈指のヤンデレヒロイン。ラムの暗黒面、右京や桔梗の原型ではないかともいう。
厳格な母親に育てられた箱入り娘で、同年代の男子と話をしたこともない。そのため譲以外の男に触られることを激しく嫌悪する。

【マスターとしての願い】
譲ちゃんと結ばれる。

【ロール】
母子家庭の女子高生。

【方針】
必ず聖杯を獲得する。邪魔者は全て殺す。戦いはアヴェンジャーに任せる。

【把握手段】
現在入手しやすいものとしては『高橋留美子傑作短編集2』収録「笑う標的」。OVA版もあるが、この梓は漫画版から。大筋は一緒なので参考資料としてもよい。
また雑誌掲載版と単行本収録版でも結構違うが、ここでは単行本版で。


522 : ◆nY83NDm51E :2017/04/27(木) 00:42:10 1nTuJAMA0
投下終了です。


523 : ◆ZjW0Ah9nuU :2017/04/30(日) 01:05:19 CqD5m5jk0
投下します


524 : ようこそChaos.Cellへ ◆ZjW0Ah9nuU :2017/04/30(日) 01:05:58 CqD5m5jk0
冬木は、元々自然豊かな土地だ。
新都のように発展した都市部を持ちながらも、古くからある景観を忘れてはおらず、未だ人の開発の手が及んでいない側面も持っている。
そのオリジナルと同じく再現された「冬木」にも、人ひとり立ち入らない緑に溢れる場所があった。
鬱蒼と木々が生い茂る冬木の森の中に、根が浮き出ている土を踏みしめる音が立つ。
音源にあたる地点にいたのは、人間の男。
見た感じでは丸腰で、水色のTシャツにブルージーンズを履いているどこにでもいるような壮年に見える男性だった。
何故この地に足を踏み入れたのかは分からないが、男は殆どが幹と葉で埋め尽くされた周囲を見回すと、その場で黙々と作業にあたった。

手始めに、男は近くの木を素手で殴り始めた。
男は木を切るための斧すらも持っていないので、頼れるのは己の拳のみである。
特におかしいところはない。これは男が開拓する際に真っ先にやるべきことなのだ。
しばらく木の幹を殴っていると、やがてポン、という小気味いい音と共に、木の幹の一部が小さな立方体となって傍らに弾きだされる。
男はそれを拾ったのを皮切りに、周辺の木の幹を自らの拳で数本、立方体にして自身の懐に収める。
幹を取られた木の葉は何故か据え置かれていて宙を舞っていたが、時間が立つと次第にその姿を忽然と消していた。
おかしいところは何もない。

それなりの数の木を拾った男は、今度は立方体に変えた木の幹をさらに4つの木材へと変えた。
いや、厳密には原木を手作業で木材に加工した、と言った方がいいのかもしれない。
しかし、実際には魔法のように「変えた」としか形容のしようがないほどの手慣れた手つきだった。
男は次に、生まれた4つの木材を合成して作業台を製作した。
男がひょいと軽い手つきで腕を振ると、ポンという音と共に立方体の作業台が設置される。
上面には3×3マスの格子模様が、側面には作業用の道具などが取り付けられており、これでより複雑な道具を作成可能になるだろう。

そんな折、森に二人目の来訪者が現れる。背後からは長い間隔で土を踏む音が男の耳に入ってきた。
しかし、土を踏む音はか細く何かを恐れているようで、男とは違ってこれといった目的を持って踏み入った者ではなかった。

「わぁぁぁっ!?」

男に寄ってきた誰かは、男を見て驚きのあまりその場に尻餅をついてしまう。
この場所に人がいることに驚いたかは定かではないが、悲鳴にこっちがびっくりしそうだと男は思った。
男が来訪者の方へ向くと、羽が二つ着いている穴の開いた帽子を被り、リュックサックを背負った中性的な外見をした子供がいた。
子供は、怯えた上目遣いで男を見上げる。

「た、食べないでください!」
「食べねえよ!ゾンビじゃあるまいし。いくら何でもビビり過ぎじゃないか?人をそんな目で見るんじゃない」

男はやれやれという形で肩をすくめながら言う。
誰しも過度に怖がられると不愉快な思いが多少は湧くものだ。
男は子供を相手に少しだけ陽気な成分を含んだ口調で話すも、子供は態度を変えない。
それどころか、子供の目は明らかに人間ではないモノを見る目を宿していた。


525 : ようこそChaos.Cellへ ◆ZjW0Ah9nuU :2017/04/30(日) 01:06:40 CqD5m5jk0

「ヒト…?ヒトって、そんな形をしているんですか!?」

子供は男の姿を見た上で言った。
子供がそう言うのも尤もで、男の身体構造はヒトというにはあまりにもかけ離れていた。
作業台や収集した木の幹と同じく立方体の頭部に、関節のない四角柱の形をした手足、そして幾何学的な直方体の胴体。
男の体は、全て角ばった四角でできていた。

「いや、俺は元々こんなだから人間が全員そうってわけじゃないさ。ここは辺境の森だから俺達以外誰もいないが、街の方へ行けばきっとアンタと似た外見のヒトもいるだろうよ」
「ヒトがいるって…じゃあ、ここはジャパリパークじゃないんですか!?」
「ジャパリパークってのはどこだか知らねえが、そういういことになるな」

子供は考え込むように俯き、混乱が抜けきっていないようだった。

「低い声…髭も生えてますけど、もしかしてオス…じゃなくて男のヒトですよね?」
「オスって、随分とませた言い方だな…見りゃわかるだろ?」

男は立方体の頭部にある無精髭を関節のない手で指しながら言う。
子供も考える力はあるようで、努めて冷静になろうとしている。

「…ということは、あなたはフレンズさん、じゃないんですよね?」
「ふれんず?いいや、俺は確かにヒトだが、サーヴァントだ。“クラフター”のサーヴァント。そのくらいは知っといてくれよ、マスター。
真名は…特に名はなかったが、民間伝承じゃあ『スティーブ』なんて呼ばれてたらしい。何はともあれ、よろしくな」

スティーブは子供――かばんに、しっかりしてほしいという意味合いも込めて答える。
マスターから少し離れた場所で鉄片からサーヴァントに成ったからか、少しばかり見つけるのに手間取ってしまったが、
あの様子からしてこの子供が記憶を取り戻した自身のマスターで間違いないだろう。
こんな森の中にNPCがのこのこと顔を出すとも思えない。

「僕は…かばんっていいます。でも、クラフターさんがサーヴァントってことは…聖杯戦争…やっぱり、ボクはあの後――」
「何かあったのか?サーヴァントなんだから、話はいくらでも聞いてやるぜ?」









――ありがとう、元気で。




かばんが最後に見たのは、巨大化した黒いセルリアンが自身に覆いかぶさってくる光景だった。
決死の思いでセルリアンに飲み込まれたサーバルを救出し、どこまでも付き添ってくれた親友を守らんがために囮になり、かばんはそのままセルリアンに捕食された…筈だった。

泥とも取れぬドス黒い流体に飲み込まれ、意識が無くなったかと思うと、気が付けば木々の生い茂る森の中。
付近にはフレンズどころか、動物のいる気配すらなかった。
そして脳裏に浮き出ているのは『聖杯戦争』という単語とそれに関する情報。
「ヒト」のフレンズとして生まれてからというものの、ヒトの社会に溶け込んだことがないかばんには、聖杯戦争というものを理解するには少々レベルが高すぎた。
そしてわけもわからずに森を彷徨っていると、離れたところで鉄片からサーヴァントになっていたスティーブと出会った、というのが事の次第である。
フレンズという稀有な背景を持つヒトであり、貴重な標本となる彼女を『Chaos.Cell』が招き入れたのは必然なのかもしれない。


526 : ようこそChaos.Cellへ ◆ZjW0Ah9nuU :2017/04/30(日) 01:07:16 CqD5m5jk0

「へえ、マスターにもいろいろあったってワケか」
「いきなり冬木ってところに飛ばされたのはびっくりしましたけど、確かに僕以外のヒトに会えると思うと嬉しい気持ちはあります」
「マスターなりに、頑張ってきたんだな」
「い、いえ、そんな…」

自身の覚えていることをできる限りスティーブに伝えたかばんは、帽子を深く被る。
眼前にいる四角形でできている自身のサーヴァントは、話してみると悪い人柄でもなさそうだった。
ジャパリパークで出会ったたくさんのフレンズには見られない「男」ではあるが、それは同時にフレンズの枠に入らない生粋のヒトでもあるということだ。
外見こそ驚いたが、そこはヒトもフレンズも同じ、十人十色、博士の言っていたように多様であることを表しているのかもしれない。

「だが、ヒトに会ってそれからどうするんだ?マスターはもうここに来ちまった。もう後には引き返せない。
既に知ってるだろうが、聖杯戦争は有体に言えば殺し合いだ。もしかしたら、かばんちゃんが本当に食われるなんてこともあり得るかもしれない」

ここはジャパリパークではなく、聖杯戦争のために再現された冬木市という場所で、街にはかばんと同じヒトが住んでいる。
それはかばんの探し求めていたヒトの住むちほーがあることを意味していたのだが、それをかばんは素直に喜ぶことはできなかった。

「それはもう、わかっています。正直に言うと、セルリアンに襲われた時よりも怖いです。でも、あんな別れ方でよかったのかなって…」

かばんはジャパリパークでの旅の中で出会ってきたフレンズを思い返す。
思えば、サーバルにも、ラッキービーストにも、フレンズの皆にも別れの一言も言えずにここに来てしまった。
そして、気付けばまた独りぼっち。
傍にはスティーブがいるものの、かばんのジャパリパークでの思い出は切り離せないものになっていた。

「だから、もし叶うのなら、もう一度ジャパリパークに帰ってみんなに会いたいんです。あのままだときっと、サーバルちゃんも、パークの皆さんも悲しませてしまいます」
「けどな、マスター。ここは電脳空間だ。もう一度言うが、一旦聖杯戦争に首を突っ込めばもう終わるまでは抜け出せねえ。
正直、俺の力だけじゃかなり厳しいものがある。それでもやるのか?」

スティーブは立方体に浮き出た顔を険しいものに変えてかばんに忠告する。
スティーブのクラフターとしての能力は、即ちモノづくりに特化した能力だ。
道具作成や拠点づくり、地形変動には長けるが、三騎士ほど直接的な戦闘に秀でているとは言い難く、パラメータも並のサーヴァントよりも劣る。
聖杯大戦のようなチーム戦ならまだしも、この聖杯戦争はあくまで個人戦だ。
そうなればスティーブのようなサーヴァントは同盟なりを駆使して泥臭く勝利を勝ち取っていくしかない。

「僕が願うとするなら、『フレンズの皆さんにまた会うこと』です。これから色んな人に出会うと思いますから」
「…そうか」

かばんに対して、スティーブは何も言わずに小さく頷きながら、淡々と答える。

「これまでの旅の中で、フレンズの皆さんは力のない僕を何度も助けてくれました。
だから、ジャパリパークのフレンズさん達のように力になってくれるマスターさんやサーヴァントさんもきっといると思うんです。クラフターさんだって――」

かばんはスティーブをじっと見据える。
純真ながらも力強い視線に、スティーブは恥ずかしげに目を逸らし、作業台へと向かっていった。

「…よし!まずはしっかりとした拠点作りだな!『来客』のためにも広めに、武器も多めに作っておこうか。マスターも手伝ってくれるか?」

数拍子置いて、スティーブの意図を汲み取ったかばんは元気よく「はい!」と返事し、スティーブの方へ向かっていった。


527 : ようこそChaos.Cellへ ◆ZjW0Ah9nuU :2017/04/30(日) 01:08:03 CqD5m5jk0
【クラス】
クラフター

【真名】
スティーブ@Minecraft

【パラメーター】
筋力C 耐久C 敏捷E 魔力C 幸運B 宝具B+

【属性】
中立・善

【クラススキル】
道具作成:C(EX)
ツルハシに剣、鎧、果てには加工素材からポーションまで、スティーブのいた世界に存在したあらゆるモノを製作することができる。
作成には相応の素材が必要になるが、『匠の境地』を発動している間はその限りでなく、ランクも()内のものに修正される。
なお、スティーブの場合は作成とは逆に解体も可能。

【保有スキル】
専科百般:A
スティーブが元いた世界を開拓するにあたって、多方面に発揮されていた才能。
武術、馬術、農業、牧畜、鍛冶、狩猟術、交渉、破壊工作、その他様々な専業スキルについて、Cクラス以上の習熟度を発揮できる。

陣地建築:E〜A+
自らに有利な陣地を作り上げる、というより建築する。
ほんの小さな家から神殿クラスの城まで、スティーブの腕次第で自由自在に展開することができる。
ただし、基本的に陣地のランクに比例して作成に時間がかかる。


528 : ようこそChaos.Cellへ ◆ZjW0Ah9nuU :2017/04/30(日) 01:08:39 CqD5m5jk0

【宝具】
『匠の境地(クリエイティブ・モード)』
ランク:C+ 種別:創造宝具 レンジ:自分 最大捕捉:-
あらゆるモノを投入して荘厳な建造物を創り上げたスティーブが至った高みであり、クラフターたる所以。
この宝具を発動すると、あらゆる攻撃に対して無敵かつ飛行が可能になり、無から有を創り出すことまでもが可能になる。
本来は素材を集める必要があるものもこの状態ではその場で自由に創造でき、基本的にスティーブのいた世界にあったモノは全て取り出すことができる。
なお、この状態のスティーブはマスターが死なない限り不死身だが、この宝具は文字通り創造するための宝具であるため、
敵を倒す目的には使えず、敵を攻撃した場合は自動的に宝具の効果が解けてしまう。
敵の一切の干渉を寄せ付けないため、陣地を作成したり、地形を変えたり、道具素材を用意するなどあらゆる方面で有用だが、同時に穴も多い。

『付呪の台座(エンチャント・テーブル)』
ランク:B+ 種別:付呪宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
本、ダイヤモンド、黒曜石から作成できる、アイテムをエンチャントするための宝具。
スティーブはこれを多用していたため、あらかじめ宝具として所持している。
その名の通り、武器などのアイテムを強化することができる。
本を介して様々な概念が付与されるが、どんなものが付くかは運次第。
付与された概念にもよるが、エンチャントしたダイヤモンドの剣ともなれば、高ランクの宝具とも遜色ない出来になるだろう。
付近に本棚があれば、より高レベルのエンチャントが可能になる。
なお、『ドロップ増加』のついた武器でサーヴァントを倒すと鉄片を複数落とすことがある。

『立方舟の箱庭(ワールド・イズ・マインクラフト)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:-
任意の範囲のモノを立方体のブロックで構成された世界のモノに置き換える宝具。
この宝具の範囲内にあるものは、すべてスティーブの見てきた立方体のブロックで構成された物に置き換わってしまう。
それは生物やサーヴァントも例外でなく、スティーブのように立方体の頭に直方体の胴体と関節のない手足で構成された身体に状態変化してしまう。
NPCやマスター、サーヴァントなどは約30ターンで元の姿に戻れるが、慣れていないと行動に著しい制限を食らうことになるだろう。
性質としては空想具現化に近いが、人工物や生物にも影響を与えるという点では固有結界の性質も併せ持っている。

【weapon】
・製作した剣や斧など。威力は使った素材によって変化する。

【サーヴァントとしての願い】
マスターの力になる。

【人物背景】
Minecraftでのプレイヤーの使用する標準スキン。一般的にスティーブと呼ばれているため、それが真名として定着している。
原作でもこれといって台詞はなく、口調は書き手各々の想像に委ねられている。
把握の際には、Minecraftのシステムへの理解に重点を置くといい。


529 : ようこそChaos.Cellへ ◆ZjW0Ah9nuU :2017/04/30(日) 01:10:39 CqD5m5jk0
【マスター】
かばん@けものフレンズ

【マスターとしての願い】
ジャパリパークへ帰る。

【参戦方法】
黒いセルリアンの内部に、鉄片があった。

【weapon】
特になし

【能力・技能】
身体能力は他に比べて劣るが、他のフレンズに比べて一線を画した知能と観察力、発想力を持つ。
一応、身体能力も木登りをできる程度までには成長している。

【人物背景】
けものフレンズの主人公。
名前や出自を含むこれまでの記憶が一切なく、気が付いた頃にはさばんなちほーを宛てもなくさまよい歩いていた。
「本名がわかるまでの間の名前」として、背中に背負っていた鞄(かばん)に因み「かばん」という仮称を与えられ、以降は彼女自身も周囲に対してこの名前で自己紹介している。
性格は温厚で心優しく控えめ、若干気弱なところもある。言葉遣いは丁寧で、打ち解けた関係になった後のサーバルを除き、ですます口調で話しさん付けで名前を呼ぶ。
身体能力は他のフレンズに比べ著しく劣り、「潜水」や「飛行」といった能力も持たない。
一方で、他のフレンズたちとは一線を画した知能と観察力、発想力を持ち、旅の間、行く先々で出会ったフレンズの抱える問題ごとを次々と解決している。

参戦時系列は11話のラストから。
此度の聖杯戦争では、さばんなちほーを宛てもなく彷徨い、どのフレンズにも属さなかった背景を反映してか役割が設定されていない。
要するに、浮浪児である。

【方針】
積極的に同盟を組み、冬木でできたフレンズもとい主従達と脱出を目指していく。


530 : ◆ZjW0Ah9nuU :2017/04/30(日) 01:11:07 CqD5m5jk0
以上で投下を終了します


531 : ◆GO82qGZUNE :2017/05/01(月) 00:10:28 xljpcr620
以前他の企画に投下した候補作のリファインとなりますが、投下させていただきます。


532 : 操真晴人&アヴェンジャー ◆GO82qGZUNE :2017/05/01(月) 00:12:26 xljpcr620





 託したいものがあった。それは彼女の腕を掴めなかった手に握られた、掛け替えのない小さな希望。





「俺は、希望の魔法使いだ」

 失ったものがあった。守れなかったものがあった。
 全ての始まりとなったあの日、あの時。たった一人生き残ったとばかり思っていた俺に残された最後の希望。それがコヨミだった。
 大切な人だったと、今ならば臆面もなく断言できる。彼女と過ごした時間は瞬きのように短く過ぎ去っていったけど、彼女を思い出させるものは数えきれないくらいあった。

 ……この手は無限に届きはせず、掬える砂も一握が限界。運命という言葉は、そうした人の無力の限界点を可視化する測量値と言えるのかもしれない。
 俺は負けた。失った。伸ばした腕は届かず、無様に地を這わされた。そこが俺の限界だった。
 そうして彼女を失って、残された願いに縋りつき、心のどこかに迷いを抱いていた。

 それは事実だ。けれど。

「俺の希望が溢れる世界で、俺が負けるはずないんだよ」

 それがどうした。俺は負けたが負け犬じゃない。コヨミを想うこの気持ちは、コヨミと過ごした思い出は、今もこの胸に変わらず刻み込まれている。
 たとえ何があっても、どんな悲劇が訪れようと、忘れない。忘れない。何も見えず聞こえなくなっても、それだけは忘れない。

 剣を握る指に力を込める。全ての気力を振り絞り、燃え盛る炎として魔力を放出する。
 今この時に、この場所で、俺を倒せる者など誰一人として存在しない!

「さあ───フィナーレだ」

 振り抜かれた炎の刃が、最後の亡霊(ファントム)を打ち砕いた。

 ………。

 ……。

 …。






 晴人は目を開いた。
 モノクロに染まったいつかの記憶。
 騒がしくも輝かしい、みんなのいるいつもの面影堂がそこにはあった。

 ゆっくりと、噛みしめるように。晴人は奥に向かって歩き出す。
 そして、彼女の前で立ち止まり。

「……コヨミ」
「晴人?」

 最早聞くことなどありえなかったはずの懐かしい声が、晴人の鼓膜を震わせた。
 記憶の中にある彼女の姿そのままに、コヨミは視線を投げかける。その光景に、切なさとも愛しさともつかない何かが胸の中でぐるぐると渦巻き、感情が涙となって溢れ出そうになるのをぐっと堪えて言葉を続けた。

「これ、預かってて」

 撫ぜるようにコヨミの手を取り、持っていた指輪をはめる。コヨミは困ったような、驚いたような、けれど決して不快ではない感情と共に、晴人を見遣った。

「いいけど……何?」
「俺の希望」

 たった一言。それだけの言葉に、晴人が抱いた全てが込められていた。
 それ以上の言葉は必要なかった。全ては、コヨミにこのリングを託された瞬間に結実していたのだから。

「分かった……大事に持ってる」

 言ってコヨミはたおやかな笑みを浮かべ、その指に填められた"希望"を見遣った。
 それを見た晴人は静かに踵を返し、何かと決別するかのように背を向けて歩き出す。
 二度と触れ合うことのない手のひらから、それでも暖かなものが伝わってくるような感触と共に。
 晴人は、笑った。

 コヨミ。
 俺は、戦うよ。





   ▼  ▼  ▼


533 : 操真晴人&アヴェンジャー ◆GO82qGZUNE :2017/05/01(月) 00:14:01 xljpcr620






 願ったものがあった。それは失われた陽だまりで託された、取るに足らない小さな祈り。




「許さない、認めない、消えてなるものか───時よ止まれ」

 俺には為さなければならない使命があった。全てを失い、奪い尽くされ、残照と知りながらも光(せつな)の残骸をかき集めてでも遂げなければならないことが。
 このまま放っておけば波旬の理が宇宙を覆い尽くす。滅尽滅相───あらゆる生命が死に絶える唯我の理。俺はどうしても、それを完成させるわけにはいかなかった。
 それが覇道の太極に至った者の果たすべき責任というもの。己の意志で、人を世界を、宇宙ごと塗り潰せる力の意味とその重さ、軽いはずがないだろう。
 だから俺は座を握らないし、波旬にも握らせない。ただそれだけを誓い、ひたすらに生き延びてきた。

 別に人類の恒久的世界平和などという、出鱈目なことまで言いはしない。
 ただ、生まれては消えていく命の連続性を絶やさぬこと。次があるという最低限の、希望と可能性を残すこと。
 俺の太極はそれが甚だしく極小で、波旬に至っては完全皆無だ。総ての理とその歴史が、そこで断絶してしまう。
 だから、俺は―――

「真実はたった一つ。亡くしてはならない光(せつな)があるから」

 俺は次代を選ばないといけなくて。
 それが生まれる余地を維持しないといけなくて。
 波旬の座を完成させるわけにはどうしてもいかなかったから。

「ここに生き恥晒してんだよ。もう誰もいなくなってしまったこの宇宙でな!」

 それこそが───

「俺の女神に捧ぐ愛だ!」

 俺に遺された、たった一つの譲れない思い。

「もう何も見えない。聞こえない。ただ忘れないだけだ。俺は彼女を愛している!」

 たとえ何があっても、どんな悲劇が訪れようと、忘れない。忘れない。何も見えず聞こえなくなっても、それだけは忘れない。
 拳を握り、地を踏みしめる。全ては今、この時のために。

「息絶えろ、薄汚い波旬の細胞! この地は絶対に渡さない!」


534 : 操真晴人&アヴェンジャー ◆GO82qGZUNE :2017/05/01(月) 00:14:19 xljpcr620

 いや、もういい。もう無間神無月は必要ない。

 だから見せてくれ。お前の為したい夢の形というものを。奴に打ち勝てるのだという証明を。
 俺達の黄昏に負けないほどの、輝く命の可能性というものを。

「仲間の魂に懸け、俺は負けない」
「はッ……それなら俺も負けてねえよ!」

 それを目の前の男―――新鋭は烈しく言い返す。振るわれる億の剣閃、星を裁断する時空の断裂すら押し返し、秒間毎に臓腑を抉られながらも咆哮した。

「何考えてんのか分かんねえ、どうしようもないあんちくしょうども。そして我らが総大将久雅竜胆に―――ぶっちぎりで格好良いこの俺様、坂上覇吐!」

 致命傷を無限に食らいながらも死にはせず、どころか太刀を振りかざし猛る様はこの男をよく表している。
 生きると誓っているのだ。万象滅ぼす波旬の宇宙と繋がりながら。それでも、未来を形作る可能性を身に宿している。

「てめえらを討つという目的の下、一つに集まった益荒男共で」

 ああ、それは───
 なんて眩しい、求め焦れたもので───

「俺の仲間だ! 全員いなきゃつまんねえ!」



「───」



 その時生じた感情を、口では上手く説明できそうになかったから。

「それがお前の答えか」

 千の言葉の代わりに、天から巨神の腕を打ち下ろした。
 押し潰して視界を覆ってしまわねば、きっとこの男に自分の表情が見えてしまうと思ったから。

「───行くぞ、坂上覇吐! 久雅竜胆!
 これこそ俺の全身全霊、至大至高の一閃だ!」

 巨大神が歓喜の咆哮をあげる。
 溢れんばかりの哄笑が轟く。

 よく言ってくれた、それでいい。
 見たか波旬、第六天。これこそ貴様を討ち滅ぼす新たな光に他ならない。
 だから。

「これがどういうものなのか、忘れることは許さない。
 全てこの刹那に焼き付けろ、覇道の本質を理解しろ。
 お前たちが後の創世を望むなら、胸裏に刻み込んでおけ!」

 ───俺達の戦いは無駄じゃなかった。
 今は素直に、それを信じることができた。

「魂の輝きを謳った言葉、今こそ此処に証明しろ!」

 そして、全てを消滅させんとする爆光が、天空と共に墜落して。

 ………。

 ……。

 …。



「……そうだ、それでいい」
「お前の、勝ちだよ」

 全ての足掻きが此処に結実したのだと、万感の思いと共に確信して。
 天魔と呼ばれた一人の男の生涯に幕が下ろされたのだった。





   ▼  ▼  ▼


535 : 操真晴人&アヴェンジャー ◆GO82qGZUNE :2017/05/01(月) 00:14:54 xljpcr620







「晴人、か。お前はそう言うのか」

 その名を、異形の姿をしたサーヴァントが反芻する。何かを得心したかのような態度だ。それを、晴人は釈然としない表情で答えた。

「なんだ。何か気にかかることでもあったのか?」
「名は体を表すとはよく言ったものだと思ってな。察するに、お前の渇望も"そういうもの"なのだろう」

 そう口にするサーヴァント、夜刀と名乗った異形の男は、晴人に鋭い視線を向けた。
 朱い───彼を一言で評すれば、そのようなものになるだろうか。文字通り血のように朱い髪の下、鮮血が如き赤眼が覗いている。黒い肌は憎悪が如き濁った感情を思わせて、纏った白い衣に付き従う双蛇が人と然程変わらない姿を邪神めいたものに歪めていた。
 人間の定義に当て嵌めることはできないが、それでもかつては端整であったことを窺い知れる様相はしている。しかしその威容は一見すれば悪鬼羅刹と見紛うほどで、なるほど確かに、復讐者(アヴェンジャー)というクラス名にも頷けるというものであった。

「ご明察、ってところかな。それはやっぱり夢の中で?」
「ああ。双方向に流れ込むものだ、お前のほうも多かれ少なかれ知り得ているとは思うが」
「まあね」

 聖杯戦争において、マスターとサーヴァントにはある種の共鳴夢とも言える現象が発生する場合がある。魔力を供給するパスを繋いでいる関係か、時に全く別のものまでもが流れ込んでしまうのだ。
 とはいえ、晴人も夜刀も、特に気にするようなことではなかった。やましいことなど何もなく、この期に及んで隠し立てするようなことでもなかった。

「それにしても、聖杯ね……」

 言って、晴人は夜明け前の薄らいだ靄のかかる空を見上げた。反芻するのは数日前の記憶だ。
 笛木奏とファントムに纏わる一連の騒動が解決した後、晴人はとある目的のために世界中を旅してまわっていた。各国の様々な場所に首を突っ込み、必然としてそれなりの頻度で厄介事に遭遇した晴人は、その信条から事態の解決に乗りだし"魔法"の力を行使することも少なくなかった。
 "聖鉄"を手に入れたのも、それが原因である。
 残存する神秘の欠片、騒動を巻き起こす何某かとして在ったそれを、事態解決に際して触れた瞬間、晴人の意識は空間を飛び越えこの街にあった。

 とある地方都市「冬木」、それを再現したという電脳空間「Chaos.Cell」
 聞いたことのない街だったし、聞いたことのない代物だった。自分の中にある知識と照らし合わせても、そんな存在があるということは初耳だった。

「何でも願いが叶うなんて眉唾だけど、やっぱりアヴェンジャーは欲しいわけ?」

 聖杯についての知識は、最も新しい記憶となって晴人の脳内に叩き込まれている。
 これも聖杯とやらの恩恵なのか、それとも何かしらの調整なのか。分からないが、何とも親切なことだと思う。そんなところに気を配るくらいなら、そもそも参加者の選定に気を配れという話ではあるが。

 だから、とりあえずとして晴人はそんな疑問をぶつけたのだった。サーヴァントとは聖杯に願いを託す存在だという概論めいた知識もまた、晴人の脳内にあったからだ。
 しかし。


536 : 操真晴人&アヴェンジャー ◆GO82qGZUNE :2017/05/01(月) 00:15:25 xljpcr620

「いや」

 対するアヴェンジャーの答えは至極短い、そして知識にあるサーヴァント像とはかけ離れたものだった。

「おっとこれは予想外。訳を聞いても?」
「別に大したことじゃない。俺の願いは既に俺以外の奴に託している。そしてそれは、こうして俺が召喚されたという時点で"果たされた"と確信できた」

 そう口にする夜刀の顔と声音には決然としたものがあったが、同時に何かをやり遂げたような誇らしげな感情も含まれていた。

「お前はどうだ、マスター。お前はこの聖杯戦争で一体何を求め、何を為す」

 逆に夜刀が問うてきた。
 その口調には厳粛な響きがあったが、慮るような響きもまた聞こえてくる。なんとも不器用な性格なんだなと、晴人は口には出さず内心のみで思った。

「……なあ、アヴェンジャー。一つ聞いてもいいかな」

 ぽつり、と。
 晴人が呟いた。それは質問の答えではなかったが、その疑問符には彼の持つ"答え"が関わっているのだということが言外に分かった。
 故に夜刀は言葉なく疑問の続きを待って、晴人は静かに言葉を繋げた。

「仮に神さまとやらが人の願いを叶える存在だとして。けど俺達人間はそんなもの必要ないって言ったとして。
 それでも人の願いを叶えようとする聖杯(かみさま)は一体なんなんだろうな」
「決まっている」

 夜刀は間髪入れることなく、苦々しささえ交えた口調で答えた。

「人はそれを悪魔と呼ぶんだ」
「……そっか」

 そこで晴人は吹っ切れたような、そうだよなとでも言わんばかりに薄く笑みを浮かべ。

「俺さ、ずっと迷ってたんだ。コヨミの指輪を手放したくないって、心のどっかで思ってた。
 立ち止まっても何にもならないって、知ってたはずなのにな」


537 : 操真晴人&アヴェンジャー ◆GO82qGZUNE :2017/05/01(月) 00:16:02 xljpcr620

 思い出は大事だ。それは前に進むための力となる。けれど、それにばかり縋っていては重しとなって人の足を止めてしまう。
 あの時の自分がそうだった。思い出ばかりを背負って、未練がましく後ろを振り返るしか能がない。
 仮にあの時の自分がここに呼ばれていたならば、あるいはコヨミのためと取り繕って聖杯を目指した可能性も、一概には否定できなかっただろう。
 それほどまでに、晴人の内に降り積もった思い出は、重かった。

「……忘れられないもんだよな、過去ってのは」

 忘れられないから苦しむ。いつまでも。あるいはそれが、人の持つ弱さというやつなのかもしれない。
 けれど、いいやだからこそ。

「だから決めた。俺はもう迷わない。コヨミのことも背負っていく。けど……
 もう二度と、俺は立ち止まったりしない」

 過ぎた過去は戻らない。失ってしまったものは帰らない。だから人は、思い出を手のひらに包むように抱えて生きていく。
 それを教えてくれた恩人らの想いと選択を抱きしめて、怒りも悲しみも超越した彼に迷いなどない。他ならぬ自分自身のアンダーワールドへと潜り、そこにホープリングを託した時の想いも、在りし日の形で胸にある。

「聖杯には何も望まない。そんなものを目指すなんてのは、あの指輪のことで迷っていた時の俺と何も変わらない」
「それが、お前の選択か」
「ああ。それに早いとこ帰らないと、うるさいのが待ってるしな」

 言って、晴人は不意に手を翳した。
 眩い光が飛び込んできたのだ。空を見上げれば、いつの間にか朝日が昇っていた。
 それはいつかの黄昏にも劣らぬほどの輝きに満ちた、夜明けの姿であった。

「……何度でも言ってやるさ」

 ───操真晴人が自らの迷いを断ち切るに至った出来事。自身のアンダーワールドへ"希望"を託したという行為に、果たしてどのような意味があったのか。
 それは決して現実ではなく、既に失われた彼女の影に想いを馳せたに過ぎない。
 自己満足と言われたならば、完璧な反論などできるはずもない。

 しかし。

 それでも、操真晴人がやったことに意味はある。
 ゆっくりと、そして駆け足で。
 確かに歩んだ道がある。
 ささやかな、けれど決して消えない意味がある。
 例え在りし日の残影であろうとも、そこに感じた想いは現実に他ならない。
 ───だから。

「俺が、最後の希望だ」

 大見得で切った啖呵が、偽りの空を震わせた。絶望の渦巻くこの世界を吹き払う祝いの神風であるかのように、ただ真っ直ぐに。

 ───伸ばした手はきっと、あの青空へ届くだろう。


538 : 操真晴人&アヴェンジャー ◆GO82qGZUNE :2017/05/01(月) 00:16:28 xljpcr620


【クラス】
アヴェンジャー

【真名】
天魔・夜刀@神咒神威神楽

【ステータス】
筋力A 耐久A++ 敏捷A 魔力EX 幸運- 宝具-

【属性】
混沌・善

【クラススキル】
復讐者:A
復讐者として、人の恨みと怨念を一身に集める在り方がスキルとなったもの。
周囲からの敵意を向けられやすくなるが、向けられた負の感情は直ちにアヴェンジャーの力へと変化する。

忘却補正:EX
忘れ去られたまつろわぬ旧世界の異物。忘却の彼方より襲い来るアヴェンジャーの攻撃はクリティカル効果を強化させる。
人は多くを忘れる生き物だが、復讐者は決して忘れない。例え全てを奪い尽くされ、永劫にも等しい時間が過ぎ去ろうとも、決して。

魔力回復(自己):-
復讐が果たされるまでその魔力は尽きることなく湧き続ける。そう、全ては大欲界に支配された座が塗り替えられるその日まで。

【保有スキル】
鋼鉄の決意:EX
鋼に例えられる、アヴェンジャーの不撓不屈の精神。
全宇宙を覆い尽くす滅尽滅相の理に真っ向から立ち向かい、拮抗など到底不可能であった大欲界天狗道の流出を数千年に渡りたった一人で堰き止め続けたという事実、
そして次代を担う者たちへ希望を託すため、決して世界を終わらせないという意思を摩耗させることなく悠久の時を戦い抜いたアヴェンジャーのスキルランクは規格外のそれを誇る。
本来ならば同ランクの精神耐性・勇猛等を複合する特殊スキルとなるが、アヴェンジャーの場合はこれに加えてその強固な精神性を己の攻撃にも反映させることが可能。
直接的な攻撃の威力に大幅な補正を与える他、彼の放つ攻撃はあらゆるスキル・宝具の耐性を貫通しダメージを与えることができる。
その効果は奇しくも、彼が遥か昔に失ってしまった黄昏の女神の恩寵にも酷似している。

神性:EX
神霊適性を持つかどうか。
サーヴァントとして矮化し、尚且つ極限まで疲弊しようとも規格外となる神性の高さによる超越性の他、セファールの白い巨人や物理法則の具象化たる神霊とは異なる在り方から来る特異性によりスキルランクは測定外のそれとなる。

無窮の武練:A+++
ひとつの座の歴史において無双を誇るまでに到達した武芸の手練。心技体の完全な合一により、いかなる制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
精神的な影響下は当然の事、地形的な影響、固有結界に代表される異界法則の内部においてすらその戦闘力が劣化する事はない。
超高次元空間である座の深奥や、大欲界天狗道に犯された滅尽滅相の宇宙ですら、彼の武勇が損なわれることはなかった。

反存在:-
かつての戦いで疲弊し消耗した存在であると同時に、既に消え去った旧世界の残滓であるために現世界から存在を拒絶される異物であることを指す。
召喚時の基礎能力に大幅な低下補正がかかり、僅かな残滓程度の力しか揮うことができない。また単独行動時の魔力消費が増大し、幸運判定におけるファンブル率を極限まで増大させる。


539 : 操真晴人&アヴェンジャー ◆GO82qGZUNE :2017/05/01(月) 00:16:44 xljpcr620

【宝具】
『刹那残影・無間大紅蓮地獄』
ランク:■■■ 種別:■■■■ レンジ:■ 最大捕捉:■
新世界へと捧げた超越の物語。時間と空間を凍結させ星天の運行すら静止させる極大域の神威。彼の悔恨、罪業、喪失の象徴にして愛しきものを守護するための理である。
現状、この神威は渇望の残滓を辛うじて残すのみに留まり、在りし日の力を流れださせることはできない。この舞台が聖杯戦争という形を取る限り、幾画の令呪を使おうと、例え聖杯の恩寵そのものを用いたとしても決して完全な形で発動することは不可能だろう。

【weapon】
ない。かつて手にした女神の刃を、彼が再び身に宿すことはない。

【人物背景】
神州において不可侵の領域と化した穢土に君臨する大天魔「夜都賀波岐」の一柱にしてその主柱。
自身の力の一端により、現世界から一年のうち黄昏の季節である秋の盛りを概念ごと奪い取り、穢土を常に黄昏で満ちた異世界へと変化させている張本人。
無間衆合により新生した姿ではなく、かつての戦いにより極限まで疲弊した姿での現界。

その正体は、旧世界において黄昏の女神を守護せし者の残骸。
全ての宇宙を終わらせる正真正銘の邪神を前に奮起し、たった一人悠久の時間をかけて邪神の理に浸食された世界と戦い続けた、全ての生きとし生ける者たちの恩人にして世界最後の希望だった者。
永劫に失われた想い人への祈りのため、そして彼女が愛した世界を守るために憎悪の泥を纏ってまで生き恥を晒し、仲間たちと笑いあったかつての情景を胸に抱きながら、次代を担う新鋭に全てを託し散っていった一人の男。

【サーヴァントとしての願い】
全ての決着はあの新鋭が成し遂げた。ならば自身に為すべきことは何もなく、ただマスターの「希望」に付き合うのみである。




【マスター】
操真晴人@仮面ライダーウィザード

【マスターとしての願い】
ない。喪失の過去は既に自分の中で決着がついている。
だが、強いて彼の願いを述べるならば───誰かにとっての最後の希望となる。その指針だけは、決して揺らぐことはない。

【weapon】
ウィザードライバー
晴人がウィザードへの変身やエレメント変化、各種の魔法を使用するカギとなるアイテム。
ベルト中央の手のひら状のパーツ「ハンドオーサー」に、ウィザードリングをはめた手をかざして使用するシステムとなっている。
従来の魔法使いに当てはめるなら『魔法の杖』といったところか。
右手用の指輪は必殺技の発動や巨大化に分身、専用武器の《ウィザーソードガン》や《ウィザードラゴン》の召喚等の魔法発動に使い、左手用の指輪は変身やスタイルチェンジに用いる。

ウィザーソードガン
銃と剣が一体化したウィザードの基本武器。銃としても剣としても使える他、変身前でも使用可能。

ウィザードリング
各スタイルへと変身するため、あるいは各種魔法を行使するために必要な魔法使いの指輪。
基本的なものは大抵揃っているが、ただ一つ「インフィニティウィザードリング」だけは彼の手に存在しない。

【能力・技能】
指輪の魔法使いであり、身に宿す魔力は極めて潤沢。ただし魔法使いと称されてはいるが意味合いとしてはあくまで魔術師の域を出るものではない。
ウィザードライバー及びウィザードリングを使用することで各種スタイルへの変身及び魔法(魔術)の行使が可能。
戦闘能力や特質は変身するスタイルによって大きく左右されるが、オールドラゴンを初めとした極めて強力なスタイルになることも可能である。
しかしそれら能力の行使には当然だが相応の魔力消費が必要となり、サーヴァントを使役しながらの変身には細心の注意が必要となる。

【人物背景】
サバトと呼ばれる生贄の儀式の生き残りとなった青年。
過去に両親を交通事故で失っており、その間際に両親が遺した「晴人は私達の最後の希望」という言葉を胸に刻みつけている。
表面的には飄々とした余裕のある態度を崩さない好青年だが、実際には負の面を人に見せないよう取り繕っているに過ぎない。超人でも狂人でもない、ほんの少しだけ心が強かっただけの青年。
自分にとって大事なものを見出し、それを失うまいと足掻き、それでも手を掴むことのできなかった少女が遺した最期の願いを聞き入れ、全てに決着をつけるため戦い続けた男。
本編終了後、「約束の場所」終盤においてアンダーワールドから帰還する直前からの参戦。

【方針】
この聖杯戦争が一体何を意味し、何を目的としているのかは知らない。だが、例えどのような場所であろうとも自分がすべきことは変わらない。
───最後の希望となる。それだけは、決して譲らない。


540 : 名無しさん :2017/05/01(月) 00:17:05 xljpcr620
投下を終了します


541 : ◆lkOcs49yLc :2017/05/03(水) 05:47:12 O4UWDSdI0
拙作「鷲尾須美&ライダー」を加筆、修正させていただきました。


542 : ◆3SNKkWKBjc :2017/05/04(木) 13:24:31 OtOpkAbE0
投下させていただきます


543 : アンジェラ・ラングレー&バーサーカー ◆3SNKkWKBjc :2017/05/04(木) 13:25:30 OtOpkAbE0




――――生きた心地がしない。




そのような感情・ストレスは、彼女/アンジェラ・ラングレーにとって初めての経験ではない。
アンジェラの立ち場は複雑である。
異常現象、現実改変者、その他、あらゆる奇妙な産物。
『SCP』と称されるそれらを確保し、収容し、保護を行う組織『財団』に所属する博士。
摩訶不思議なアイテムを鍵かけたロッカーに保管する程度ではない。

収容が万全ではない。
未だに収容手順か完全ではない。
そもそも収容が不可能。

故に、アンジェラ自身生命の危機に晒される機会は幾度もあったとも。
むしろ、安全である財団関係者も少ない。
既に財団に所属している時点で、いつ収容違反により被害に巻き込まれる確率が数%でもあるのだ。


現在。アンジェラはまさしく異常事態の渦中に居る。
『聖杯戦争』と呼ばれる殺し合い。
『Chaos.Cell』なるもので再現された場所。
ここが電脳世界であり、何故か身に覚えないアンジェラが巻き込まれた訳だ。
財団に所属する彼女も『聖杯戦争』『Chaos.Cell』『サーヴァント』etc
……を聞き覚えある単語として記憶には皆無であったのだから。

そして、彼女は『夢』を見るまでは記憶を失い。
『Chaos.Cell』にある学校の教師を営んでいたとは、俄かに信じがたい事実である。



―――最悪だわ。



覚醒も全てが最悪だった。
博士の地位にある分際ながら、初歩的なミーム汚染の影響下に置かれて、滑稽にも道化を演じてた事。
それもそうだが。
記憶を取り戻したのは、あるSCPの収容違反……もとい、暴走の惨劇を夢で再現された為だろう。
切っ掛けなんて些細なものでいいのに。
一体どうして『あの時』を。

嗚呼。
悲劇は始まっていたのか。神は我を見捨てたのだと、アンジェラが(内心で)嘆くのは。
彼女が、いよいよマスターとして召喚したサーヴァントと対面した時。

アンジェラは、自らが呼び寄せたサーヴァントに恐怖した。
赤黒の禍々しい気配を纏った『狂戦士』は、魔術師でないアンジェラが扱うには手にあまる。
否。
会話が成立するか怪しい『狂戦士』なのが欠点じゃなく。
『あの時』の。夢で見た暴力の化身を彷彿とさせる。残虐性を醸しだす男と似たりよった雰囲気なのだ。


544 : アンジェラ・ラングレー&バーサーカー ◆3SNKkWKBjc :2017/05/04(木) 13:26:10 OtOpkAbE0



―――きっといつか殺される!



アンジェラは心底恐怖で凍てついた。
ガタガタ震える小動物のように、バーサーカーを眺めながらも恐る恐る喋る。
相手を怒らせぬ為、慎重な丁寧口調で。

一方で、バーサーカーとは対話が成立できた。
謙遜なアンジェラとは裏腹で、バーサーカーはアッサリするほど淡白だ。
格別アンジェラに殺意を向ける様子は(現時点で)なく。
ただ。


「お前は俺の敵を指示せ」


と言う。
逆を返せば、それだけだった。酷く無頓着で、機械ほど感情がない訳ではないが……
面倒なことにバーサーカーもあの『SCP』同じく『戦士』であるから、やるべきことはやると宣言してきた。

『戦士』。
結局、あの『SCP』の精神構造も理解不可能だった。
彼の言う『戦士』も理念も、何ら共感すら抱けないもの。
財団は結論した。
二度と彼の『SCP』に干渉を試みる事はしない、と。

だったらバーサーカーに関しても同じだ。
彼に必要以上な命令も干渉もしなければ危険度クラスで例えれば『Safe』に分類する。
いや、早計に判断してはならない。暫定基準『Euclid』が安牌か。

アンジェラは『聖杯戦争』と称される異常現象に対し、可能な限り記録を残す事にした。
一先ず、現時点で己のバーサーカーと対話を文面で……
録音媒体でインタビューを残すべきだろうが、バーサーカーのようなタイプで、
かつ安全性が確立されていない状況下でハメをはずした行為は、推奨されなかった。
異常現象や異常性体に対して、仮初のSCP番号を割り当て呼称するべきなのだろうが。
インタビューを除けば、そのままの用語を使用すればいいとアンジェラは判断する。

報告書としてあげるなら、後でも改竄は容易だし。
周囲に合わせる為に、ここでは『普通の』マスターとして振舞った方が適切だ。
そのような決断を表明した文面を記録媒体に完成させ、アンジェラは休息を取った。



相も変わらず生きた心地がしない。
いつ、敵対対象のマスターとサーヴァントに命を狙われるかより。
自らのサーヴァントに寝首を刈られる不安が圧倒していた。








バーサーカー……クー・フーリンからすれば、マスターであるアンジェラの方が奇妙な人物であった。
彼女は、まるでマスターではなかった。
魔力の繋がりや令呪が刻まれている等、証拠がなければ酷い話――ただの一般人だ。

否、魔術師ではない怪奇と縁も所縁もない人間がマスターだったとしても。
アンジェラがした対応は『ありえない』。
彼女はまるで馴れている風に、バーサーカーと対話し、当たり障りもない質疑応答をして。
「……では本日はここまでにしましょう」と講義を終えた教授っぽい締めくくりをする。

確かにバーサーカーへ不快感を与えないよう配慮をする。賢明な態度だろう。
しかし、それをマスターである彼女が行うかは別だ。
アンジェラは、どこか客観的で、聖杯戦争と無関係な第三者のような様子である。

何より、アンジェラは恐怖していた。
生命の危機ではない。バーサーカーへ畏怖の感情があるにしろ、単純な恐怖ではないと
バーサーカーにも理解しうる。

アレがマスターなのか。
そう、バーサーカーは僅かに疑念を覚えるほどだったが。
直ぐ様、疑念はかき消した。マスターの人格は大した問題ではないから。


己はただの戦闘機械に過ぎない。


545 : アンジェラ・ラングレー&バーサーカー ◆3SNKkWKBjc :2017/05/04(木) 13:26:35 OtOpkAbE0

【クラス】バーサーカー
【真名】クー・フーリン〔オルタ〕@Fate/Grand Order


【ステータス】
筋力:A 耐久:B+ 敏捷:A+ 魔力:C 幸運:D 宝具:A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
狂化:EX(C相当)
 聖杯への願望によって誕生したバーサーカークラスなため、Cランク相当でありながら、論理的な会話は可能。
 しかし如何なる詭弁を弄しても効果がなく、目的に向かって邁進する以外の選択を行わないため、
 実質的に敵対者との会話は不可能であるといえる。


【保有スキル】
戦闘続行:A
 往生際がとことんまで悪い。獣の執念。戦闘を続行する能力。
 決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の重傷を負っても戦闘が可能。

精霊の狂騒:A
 クー・フーリンの唸り声は、地に眠る精霊たちを目覚めさせ、敵軍の兵士たちの精神を砕く。
 精神系の干渉。敵陣全員の筋力と敏捷とパラメーターが一時的にランクダウンする。

ルーン魔術:B
 北欧の魔術刻印ルーンの所持。
 この状態で現界するに当たって、クー・フーリンは「対魔力」スキルに相当する魔術を自動発動させている。

矢避けの加護:C
 飛び道具に対する防御効果。魔術に依らない飛び道具は、目で見て回避する。
 狂化されているため、大幅にランクダウンしている。

神性:C
 神霊適性。太陽神ルーの子であるクー・フーリンは、高い神性適性を有する。
 オルタ化しているため、神性が通常よりランクダウンしている。


【宝具】
『抉り穿つ鏖殺の槍(ゲイ・ボルク)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:5〜50 最大捕捉:100人
 ホーミング魔槍ミサイル。自らの肉体の崩壊も辞さないほどの全力投擲。
 敵陣全体に対する即死効果があり、即死にならない場合でも大ダメージを与える。


『噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身)レンジ:- 最大捕捉:1人
 荒れ狂うクーフーリンの怒りが、魔槍ゲイ・ボルクの元となった紅海の怪物・海獣クリードの外骨格を一時的
 に具象化させ、鎧のようにして身に纏う。攻撃型骨アーマー。
 着用することで耐久がランクアップし、筋力パラメーターはEXとなる。
 この宝具を発動している最中は『抉り穿つ鏖殺の槍』は使用できない。



【人物背景】
ケルト・アルスター伝説の勇士。
赤枝騎士団の一員にしてアルスター最強の戦士であり、
異界「影の国」の盟主スカサハから授かった無敵の魔槍術を駆使して勇名を馳せた。
通常とは異なりバーサーカーとして現界している。





【マスター】
アンジェラ・ラングレー@SCP Foundation


【マスターとしての願い】
なし。
しいて挙げるなら聖杯戦争を『SCP』として報告する為、生存する。


【人物背景】
SCP財団所属の20代半の女性。
良くも悪くも、正しき財団の博士。
彼女は狂戦士を殺戮者と影を重ねて恐怖している。
狂戦士を理解してはならない戒めを抱いて。


【捕捉】
クリエイティブ・コモンズ 表示-継承 3.0に従い、
SCP FoundationにおいてKain Pathos Crow氏が創作されたTaleに関連するキャラクターを二次使用させて頂きました。

ttp://ja.scp-wiki.net/of-able


546 : ◆3SNKkWKBjc :2017/05/04(木) 13:27:27 OtOpkAbE0
投下終了します。


547 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/08(月) 23:36:25 qk7QIPI60
>猫とロック
 アイドルマスターシンデレラガールズより多田李衣菜と、おまもりひまりより緋鞠ですね。
 二人の軽快で、それでいてお互いの性格を端的に現した会話パートが魅力的だと感じました。
 聖杯戦争という状況においても"ロック"を忘れない李衣菜、それを守らんと誓う緋鞠。
 もちろん多難ではあるでしょうが、主従の先行きは非常に明るいのだということがよく伝わったように思います。
 李衣菜の令呪が*(アスタリスク)を模している辺りにも、非常に深い原作愛が感じられました。
 投下、ありがとうございました!


>Open Invitation
 笑う標的より志賀梓と、岸和田博士の科学的愛情より安川2号ですね。
 最も印象的だったのは、やはり何と言ってもアヴェンジャーこと安川2号の狂気描写でした。
 原作を知らない身からしても、一筋縄ではいかない狂気の持ち主なのだな、とよく理解することが出来ました。
 そんなサーヴァントを呼んでしまった梓の方は不運としか言いようがありませんが、それでも戦う意思は消えていない様子。
 アヴェンジャーは強力なサーヴァントではありますが、彼女の聖杯戦争が苦難に囲まれていることは間違いないでしょう。
 投下、ありがとうございました!


>ようこそChaos.Cellへ
 けものフレンズよりかばんちゃんと、Minecraftよりスティーブですね。
 けものフレンズはともかく、Minecraftからの出典という意外性にまず驚かされました。
 とはいえ彼はサーヴァントとしては非常に頼れる男のようで、そんなスティーブを引き当てられたかばんちゃんは幸運だったと言えるでしょう。
 クラフターという特異なエクストラクラスも含め、非常に今後が楽しみなサーヴァントだという印象です。
 また、かばんちゃんの純真ながらも力強い意志が聖杯戦争においてどう実を結ぶのかも楽しみですね。
 投下、ありがとうございました!


>操真晴人&アヴェンジャー
 仮面ライダーウィザードより操真晴人と、神咒神威神楽より天魔・夜刀ですね。
 サーヴァント夜刀という発想にまず度肝を抜かれましたが、やはりサーヴァントとして相当に矮化されている様子。
 とはいえ、彼の真価は極限まで研ぎ上げたその武技。宝具が事実上使用不可能という弱体化を受けてなお、トップサーヴァントの一角であることは疑いようがないと感じます。
 しかし何より、希望なき世界で最後の最後に希望を見出した益荒男を召喚したのが最後の希望を謳う男であるというのがすごく素敵だと思いました。
 果たして晴人はこの舞台においても希望を成し続けられるのか、期待です。
 投下、ありがとうございました!


>アンジェラ・ラングレー&バーサーカー
 SCP Foundationよりアンジェラ・ラングレーと、FGOよりクー・フーリン・オルタですね。
 恐るべきSCPに恐怖を抱いた末に呼び出してしまったのが、それと同格以上の怪物とはなんとも凄まじい不運。 
 戦力としては紛れもなく最高クラスのサーヴァントでも、信用できないという辺りが実に人間臭い。
 主従の齟齬は非常に大きく、聖杯戦争をまともに行えるかも怪しそうです。
 とはいえ先程も述べたようにかの狂王は無双の戦鬼、これをうまく活かせるかどうかにアンジェラの未来はかかっていると言っていいでしょう。
 投下、ありがとうございました!


548 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/08(月) 23:37:26 qk7QIPI60
――と、感想が遅れて非常に申し訳ありません。
が、この通り生存しておりますのでご心配なく。
コンペ期限もあと僅かとなりましたが、ぜひこれからも当企画をよろしくお願いします。
(自分もあと一作、欲を言えば二作は候補作を投下したいところ……)


549 : ◆45MxoM2216 :2017/05/12(金) 21:08:01 .x9fXMFw0
投下させて頂きます


550 : 小鳥遊六花&ライダー ◆45MxoM2216 :2017/05/12(金) 21:09:14 .x9fXMFw0
――――分岐、特殊ルート。

志半ばで倒れた特異点『ゼロ』は、聖杯によるウタウタイ殲滅を願い、英霊となった。
これまでのどの分岐とも異なるケースであり、多世界化現象を発生させる彼女が他の世界の人物と行動を共にすることによって起こる事象は推測不能。基本的には介入禁止の我々アンドロイドだが、場合によっては介入も視野に入れるべきであろう。

――――記録、開始。

0⃣0⃣0⃣

「……なぁ、キミ本当に状況分かってるのか?」
「ふ、ゾフィエルの化身たる鉄片に導かれしサーヴァントであろう?」
「そうそう、ゾフィエルの化身……ってちげーよ!いやゾフィエル云々以外は合ってるんだけどさ……」

ここはとある団地の一室。学校の制服に右目に眼帯、左腕に包帯という色んな意味で痛々しい格好をした少女……小鳥遊 六花のフワフワした謎めいた発言に、ライダーのサーヴァント……ゼロは頭を抱えたくなる。

「訂正、鉄片だけではない。この邪王真眼と紋章を刻まれし左腕にも導かれた……その右目の花と左腕の義手こそ、我らを結ぶ縁」
「あ、なんか鏡を見てるようだと思ったらそれか」

ゼロの右目には花が咲いており、左腕は義手だ。六花の右目の眼帯と左腕の包帯とは、まぁ似てるっちゃ似てる。

(まさか、それだけで縁召喚されたわけじゃないよな……?コイツのはどう見てもファッションだぞ……?)
「まぁいいや、キミはどうせ戦えそうにないから、適当にこの団地にでも隠れてろ。私は私で勝手に戦ってるから」
「六花と呼べ」
「は?」
「キミではなく、六花と」
「糞ドラゴンみたいなこと言う奴だな……」

ゼロは今度こそ本格的に頭を抱える。
サーヴァントである以上、他人と一蓮托生の主従になってしまうのは仕方ないが、このガキは些か問題だらけに思える。
スリィのような不思議ちゃん染みた言動はまだいいが、こいつの場合非現実に酔って状況を正しく認識していない。戦闘能力があるようにも見えない。魔力が飛びぬけているわけではない。女だからヤれない。

他のマスターに鞍替えすることも考えたが、めんどくさい。向こうから話があったならともかく、自分から売り込みに行くようなことは性に合わない。

(まぁ、状況を認識していないのは『殺し合いなんていけない!』みたいなこと言われないと思えばそれはそれでいいか。戦力にならなそうなのは、私が全員殺せばすむ話だ。ヤれないのはちょっと色々と溜まるが……)

生前と違い、今は最終的に自分が死ぬことも考える必要はない。とりあえず敵を殺しておけば聖杯は手に入るのだから。面倒なことは後で考えればいい。

(それにしても、なんだここは?教会都市……いや、旧世界にそっくりじゃないか)

冬木市の―――否、現代の建築物は、『大災厄』の際に現れた謎の建築物群――――旧世界と呼ばれたそれらにそっくりであった。しかも今は西暦2000年代らしい。何故856年にイベリア半島に現れた建築物と似たものが2000年代にある?
旧世界と呼ばれていたが実際は逆で、『大災厄』は未来の出来事が関係しているのか……?
アコールのようなアンドロイドは旧世界の人形ではなく、未来のオートマタなのか……?

(アコールなら何か知ってそうだが……ま、今はそんなことどうでもいいか)

自分が生んでしまった、世界を滅ぼすウタウタイと『花』。その後始末は付けなければならない。
別に世界の秘密なんぞに興味はない。殺さなきゃならない奴を殺す。それだけだ。


「まぁ、ワンみたいにそういうのが気になる性質の奴は、本でも読めばある程度分かるだろうしな。こないだ発売されたアレとか」
「急にどうした?我がサーヴァントよ」
「なんでもないです。そういえば、私たちの声……」
「……?」
「いやほら、ここはお約束的にさ、声が似てるーみたいなこと言った方がいいんじゃないのかなーって」
「ゼロ?」
「……なんでもないです」

急にガチトーンで心配され、バツの悪そうな顔をするゼロであった。


551 : 小鳥遊六花&ライダー ◆45MxoM2216 :2017/05/12(金) 21:09:55 .x9fXMFw0
【クラス】
ライダー

【真名】
ゼロ@ドラッグオンドラグーン3

【ステータス】
筋力B 耐久EX 敏捷C 魔力C 幸運E 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。


騎乗:EX
竜種を乗りこなす程の騎乗。
ただし、竜種以外の騎乗に関しては特別得意でもない模様。

【保有スキル】
戦闘続行:EX
『花』の呪いにより、ライダーは死にたくても死ねない。たとえ首を切り落とされようと、『花』から復活する。
竜種及び竜種を素材とした武器でなければライダーを殺すことは不可能。

魔力放出:B
血を浴びて感情が昂ぶった際に、武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、 瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。
この時にはワープにしか見えない程一瞬で相手に肉薄することも可能。ウタウタイモードとも呼ばれる。

【宝具】
『その剣は 現世の竜(ドラッグオンドラグーン)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
ライダーが生前共に戦った、ミハイルという名の竜種を呼び出す召喚宝具。
ミハイルは戦闘力は高いが世間知らずで、考え方や性格も幼く、どんな相手とも話し合えば理解し合えると信じている平和主義者。同じことを二回繰り返して話す癖がある。ついでにとても獣臭い。

【weapon】
剣、槍、格闘装具、戦輪

【人物背景】
世界を破滅させる『花』に寄生された少女。『花』には自己防衛機能があり、彼女が自分ごと『花』を殺そうとした際、『花』は力を分散させてゼロの分身……五人の妹を生み出した。『花』の力を持つ姉妹たちはウタウタイと呼ばれる。
『花』はウタウタイの中で成長し、完全に咲ききった時には世界を滅ぼす。ゼロの目的はウタウタイを自分も含めて皆殺しにして『花』による世界の破滅を防ぐことである。
あくまで自分の不始末を自分で片付けることが動機であり、彼女自身は決して善人とは言い難いが、身内には甘い一面もある。
性的なことに開放的な性分であり、複数の男性と肉体的関係を持つことをなんとも思わない。面倒くさがり屋で乱暴である。

【サーヴァントとしての願い】
『花』及びウタウタイの殲滅

【マスター】
小鳥遊六花@中二病でも恋がしたい!(アニメ版)

【weapon】
なし

【能力・技能】
特になし

【人物背景】
中二病の高校生。右目に眼帯をしていてカッコつける時は痛々しい台詞と共に眼帯を外すが特に意味はない。カラーコンタクトもしてるが特に意味はない。左手に包帯を巻いているが別に怪我をしているわけでもない。
参戦時期は勇太と恋人になる前。

【マスターとしての願い】
なし……否、不可視境界線を見つけなければ……

【備考】
非現実に酔って状況を正しく認識していません。


552 : ◆45MxoM2216 :2017/05/12(金) 21:10:11 .x9fXMFw0
投下終了です


553 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/13(土) 14:55:38 EKeoiEC.0
投下お疲れ様です。
感想については申し訳ありませんが後日。

自分も久々に投下させていただきます。また、投下の後に一つ重大なお知らせがございますので、そちらにも目を通していただければと思います


554 : ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/13(土) 14:56:08 EKeoiEC.0



 遠い世界、終わった世界。


 そこで、少女は知った。


 自分の傍に居た義妹、彼女の抱える事情を。


 自分の想像を遥かに飛び越した、重すぎる曰くを。


 並行世界の人間とはいえ、自分の想い人である青年が駆け抜けてきた過酷極まりない旅路を。


 全てを知った魔術師に、聖杯は静かに微笑んだ。


 ――「どうするね」とでも言うように、運命の岐路を目の前に出現させて。


555 : ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/13(土) 14:56:41 EKeoiEC.0
  ◆  ◆


「どうするもこうするもありませんわ。怪しすぎですわよ、こんなの」

 金髪を縦ロールに纏めた、一目見ただけで高貴な身分であると分かる少女だった。
 その顔は天工が魂を注ぎ込んだとしか思えない、常人には得難い美質を湛えているが、何処となく傲慢で激しく、優雅とは言い難い性根が滲んでいるのはご愛嬌である。
 少女の名前は、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。彼女は偶然『鉄片』を手にして巻き込まれただけの素人マスターとは違い――とはいえ、彼女も偶然資格を得たという点だけ見れば同じなのだが――、聖杯戦争、ひいてはサーヴァントに対しても正当な知識を持つれっきとした魔術師だ。魔術行使の為に必要となる宝石も、元世界で持っていたものに加えて幾らか周到に買い足してある。
 現実をきちんと理解しているからこそ、ルヴィアはすぐにこれから始まるであろう戦いに備えることが出来た。長いこと魔術師らしからぬ日常を送ってきたとはいえ、彼女とてれっきとした魔術の世界の人間なのだ。その時点で、他のマスターより数歩は進んだ優位を獲得出来ていると言っても過言ではなかった。
 されど、それは聖杯戦争に乗り、聖杯を手に入れようとすることとイコールではない。寧ろ、その逆だ。ルヴィアは自分が招かれたこの聖杯戦争に、強い疑念を覚えていた。

「第一、殆ど無差別同然に呼び寄せてはい戦って下さい、って時点で信憑性も何もないって話ですわ。
 確かにこれでも形振り構わない連中は動くでしょうけど、私に言わせれば正気の沙汰ではありませんね。もしそれが魔術師だったなら、指差して笑ってやるところでしてよ」

 そも、聖杯戦争とは魔術師同士の戦いだ。
 間違っても、『鉄片』などという媒体を使って事実上無差別に参加者を集め、バトルロワイアルよろしく殺し合わせる催しなどではない。端的に言って、この偽りの冬木市の聖杯戦争には、黒幕の存在が透けて見えていた。聖杯戦争を用いて美味い汁を啜ろうとする"誰か"が居る事が丸分かりなのであった。
 とはいえ、これが支配者気取りの思い上がった三下の蛮行などでは断じてない事は、ルヴィアも勿論分かっている。並行世界中に『鉄片』をばら撒き、マスターを招集する混沌月、それを自在に操る何者か。脅威と言う他ないのは明らかであるし、だからこそ厄介な事をしてくれたものだとルヴィアは頭を抱えたい気分だった。
 そう、問題は聖杯戦争がシロかクロか、ではない。
 どうやって、此処から抜け出るべきか、という一点である。

 都合よく外の世界への帰還口なんてものが空いているとは思えないし、マスターの資格を放棄すれば帰還出来るなんてセオリー通りの立ち回りが通用するとも思えない。つまり、必然的に出口は実質存在しないようなものだ。巻き込まれたが最期、優勝者が決まるまで聖杯戦争は永遠に続く。何処かで明言された訳でこそないが、ルヴィアを取り囲むあらゆる状況が、暗に逃げ道はないのだと告げていた。
 本当に、溜息が出る。何故よりによって自分が、こんな厄ネタに放り込まれる羽目になってしまったのか。
 何故、よりによって――今なのか。あの状況で、『鉄片』など見つけてしまったのか。それを拾い上げてしまったのか。今更悔やんだところでどうにもならないと分かっていても尚、後悔の念は尽きない。

「こういう役回りは私ではなく、あの雌狐がやるべきでしょうに。ああ、もう! 本当にままなりませんわね!!」

 記憶の中にある宿敵の高笑い顔を思い浮かべ、キー!とセットされた頭を掻き乱すルヴィア。

 優秀な魔術師と言うにはあまりにもコミカルすぎる主の様子を傍らで見せられている彼女のサーヴァントは、然しその醜態を見ても笑みの一つも零さない。
 能面じみた無表情のまま、じっと主を見つめている。やがてその口がゆっくりと開き……一つの問いが投げ掛けられた。

「――じゃあ」

 一言、人間味のない表情をしたサーヴァントだった。
 薄紫がかって見えるピンク色のロングヘアに、同じ色の瞳と睫毛。
 蒼チェックの上着に、下の衣服に至っては長いバルーンスカート。身も蓋もない事を言えば、コスプレイヤーじみた服装である。その他にも奇抜な点は沢山あったが、何より目を引くのは彼女の周りに浮いている楕円状の物体――お面だろう。トリックも何もない物体浮遊現象。それが、彼女が人ならざる者である事を如実に物語っていた。


556 : ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/13(土) 14:57:12 EKeoiEC.0

「マスターは、聖杯は要らないのか」

 少女の紡いだその言葉に、ルヴィアの動きが止まる。
 表情も、唇を噛み、痛いところを突かれた、とでも言うようなものに変わる。
 その様子こそ、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトが儀式を信用しているかどうかは兎も角、聖杯自体を求めていない訳ではないという事の証明であった。

「なんだ、やっぱり要るのか?」
「う……」
「顔を白黒させて、どっちなんだマスター。ちなみに私はちょっと欲しいと思っている。実際に見たことはないけど、話に聞く限りじゃそれなりの良薬として使えそうだからな」
「…………ほ、――ほ!」
「ほ?」

 「急かすんじゃありませんわ!」と自分のサーヴァントを一喝し、壁に体重を預けてもう一度嘆息するルヴィア。だが、今度の溜め息は先程のものとは意味が若干異なっていた。先程のものが、理不尽な現状に対する呆れであったのに対し、今零したのは"本当にこれでいいのか"という、深い迷いの籠もった物だ。言わずもがな、両者の意味合いは全く異なる。
 やがてルヴィアは、ポツリと答えとなる言葉を呟いた。彼女らしからぬ、頼りない声で。

「………保留、ですわ。少なくとも現時点では、脱出を狙う方が利口だと思っています」

 それは嘘偽りない、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトの本心だ。
 聖杯戦争は怪しすぎる。少なくとも、これに手放しで乗る気には全くなれない。
 然しかと言って、聖杯という二文字の誘惑を知らぬ存ぜぬと跳ね除けられる程、今の彼女は平凡な状況にはなかった。
 より正しく言うならば、平凡な状況にないのは彼女ではなく……"彼女の周りの人間"なのだが。
 

 ルヴィアの生まれた世界は、多少の荒事こそあれど、概ね平和と呼んでいい世界だった。
 されど壁一枚隔てた並行世界は、そうではなかった。
 ひょんな事からその世界に飛び、紆余曲折を経て自分の義妹、そして自分の想い人が辿ってきた歴史を理解した時、ルヴィアの受けた衝撃は並大抵の物ではない。
 何より――あの世界での一連の問題は、まだ解決していないのだ。
 解決出来るか自体冷静に考えれば解らない、そのくらい、"あちら"の事情は根深く複雑に怪奇している。
 ――それこそ……"奇跡"の力に頼りでもしなければ、と思ってしまうくらいに。


 勿論ルヴィアも、そうしたところで彼女達が喜ばない事などは承知している。
 だから聖杯を手に入れて有耶無耶にしようなんて言う欲望は胸の底に沈め、見ないようにしているのだ。
 幸いにも、この聖杯戦争は現状信用に値する要素が少ない。最安牌は脱出、"今は"ルヴィアの中ではそうなっている。
 

「そうか。まあ、手に入らないなら入らないでも構わないが」

 一方のサーヴァント……クラス・ランサーの彼女は、ルヴィアの煮え切らない返答にも表情一つ変える事なく、仏頂面のままで応じてみせた。
 常に鉄面皮、無表情であるにも関わらず、彼女の言動は少なくとも無愛想なそれではない。
 まるで表情だけが完全に凍り付いた、人形か何かのようだとルヴィアは最初思った。
 尤もそれは、彼女がどういうサーヴァントであるのかを理解するにつれて自然とどうでもよくなっていったのだが。
 一言で言えば――ランサーは"付喪神"である。より正確に言うなら、六十六種の古能面の面霊気。本来なら付喪神など、余程高名でもない限りサーヴァントとして召喚する事は困難な筈だが……その辺の理屈は、ルヴィアにはよく解らない。並行世界まで巻き込んだイレギュラーな聖杯戦争なのだからそういうこともあるかもしれないと、適当に納得する事にしていた。決してヤケになった訳ではなく、考えても無駄だろうと早い段階で悟り、思考を切り上げた為だ。

「ただ、身の振り方は早めに決めておいた方がいいと思うぞ。中途半端が一番よくない」
「――っ、分かっていますわ! 貴女に言われるまでもない!!」

 幻想郷。人成らざる者、妖の類から神霊までが集う、とある並行世界の異境。ランサーは、其処を出身地とする英霊だった。無論、正当な英霊などではない。こうしたイレギュラーな戦いでなければ、その世界における聖杯戦争ですら召喚される事はなかったろう。
 何故よりによってピンポイントでそんな英霊を引いてしまうのかと、自分の幸運なのか不運なのか解らない引きにも若干頭を抱えながら、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは参加を望みもしなかった聖杯戦争……彼女の世界では既に過去のものとなっていた筈の魔術儀式に、身を投じていくのだった。


557 : ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/13(土) 14:57:50 EKeoiEC.0

【クラス】
ランサー

【真名】
秦こころ@東方Project

【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具B

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
神性:D
 ランサーは六十六枚の古い能面の面霊気、所謂付喪神である。
 付喪神は神と呼ばれこそするが、神ではなく精霊や霊魂が長い年月を経た道具に宿っただけの場合もある為に位が低く、神性のランクは然程高くない。

六十六の面:A
 ランサーが周囲に常に滞空させている面。これを操作して攻撃することも可能。
 これらは彼女の感情を司り、被った面によってその性格は様々に変化する。が、ランサー自身の表情は変わらない。
 全部で面は六十六種あるが、使われるのは主に喜怒哀楽に纏わる物が多い。
 常に性格を変化させ続ける彼女はBランク相当の精神耐性と同ランクの真名秘匿効果を常に受け、特殊なスキルや宝具を使われでもしない限り容易には自身のスペックを読み取らせない。
 但しランサーの真名が割れてしまった場合、このスキルはその対象には一切機能しなくなる。

弾幕操作:B
 光球状の弾幕攻撃を自在に行うことが出来る。
 ランサーが居た幻想郷ではこのスキルを持つ者はさして珍しくもなかったが、彼女の腕前はその中でも相当に高い方。

武術:A
 弾幕攻撃のみならず、扇子や薙刀などの武器を駆使した戦闘にも長ける。
 武器を用いた近接戦と弾幕や霊気の放出を用いた遠距離戦を高度に両立させ、敵を翻弄する戦闘スタイルの持ち主。
 余談だが扇子と薙刀は霊力で作り出されたものである為、破壊されても少ない消費ですぐに復元できる。


558 : ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/13(土) 14:58:18 EKeoiEC.0

【宝具】
『感情を操る程度の能力』
 ランク:C 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1〜300 最大補足:1000
 他人の感情へ干渉し、それを自在に操ることが出来る。
 感情の波動を相手に浴びせかけ情緒不安定にしたり、逆に他人の感情を押さえ付けて混乱や動揺を最小限まで減退させたりと応用の幅は多岐に渡るが、この手の宝具の宿命として高い対魔力スキルを持つサーヴァントには効き目が弱い。
 それでも聖杯戦争という舞台においてはマスター狙いで遠距離から感情を操作する、他主従との交渉の際に使用して此方の要求を通しやすくするなど、使い方次第で大きな効果を生むことが出来るだろう。
 但し、感情の面を一つでも失うとランサー自身にも能力を制御できなくなり、結果能力が暴走してしまう。
 暴走すると他者にまで失った面の影響が出てしまい、原作では彼女が『希望の面』を失ったことで人間の里の住人たちが希望を失ってしまうなど大きな被害を生み出した。
 リーチに優れる為気配遮断のスキルを持たずとも、マスター狙いなら安全に感情操作を決めることが可能。勿論あまり多くの対象に同時に感情操作を発動すれば、マスターである昴への負担は甚大なものになる為、その辺りについてはよく考えて使用する必要がある。

『仮面喪心舞・暗黒能楽(かめんそうしんぶ・あんこくのうがく)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:10 最大補足:1
 ラストワードと呼ばれる、ランサーにとっての最大攻撃。切り札と呼ぶに相応しい連撃、それが宝具に昇華されたモノ。
 拍子木の活音と共に、舞い踊るように流麗な動作で敵に高速の連撃を打ち込んでいく。攻撃の種類に合わせて装備する面を切り替えていき、拍子木の勢いが最高潮に達した時、最大威力の一閃を加えて暗黒能楽は終幕となる。
 また連撃の最初に相手へひょっとこの面を取り付けようと試みることが出来、この動作に成功した場合、相手はランサーの連撃に対して一切の抵抗動作を行うことが出来なくなる。
 彼女の代名詞であるラストワードなだけあって威力は高く、特に最後の一閃はAランク宝具級の威力を持つ。
 これを最初から最後まで全て命中させることが出来たなら、格上狩りとて夢ではないだろう。

【weapon】
 霊力で創形した薙刀や扇子などの武器。

【人物背景】
 ひょんなことから『希望の面』を失い、能力を暴走させ、一大騒動を起こしてしまった付喪神の少女。
 騒動以降は様々な幻想郷の住人にサポートしてもらいながら、作って貰った新たな希望の面を使いこなし、自我を手に入れることを目指して奮闘の日々を送った。

【サーヴァントとしての願い】
 マスターの方針には従うつもりだが、それはそれとして聖杯はちょっと欲しい。
 ルヴィアに聖杯を使うつもりがないのなら、自分が確たる自我を手に入れる為の良薬として使うのも有りかもしれない。


【マスター】
 ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【マスターとしての願い】
 現時点では帰還優先。ただ、聖杯の信憑性によっては……

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 卓越した戦闘経験と魔術の腕前を持つ。
 宝石魔術を得意とするが、厳密に言えば原典の宝石魔術とは異なり"魔力そのものの流動に宝石という媒体を使った、特殊なルーン魔術"を用いて戦うのが特徴。

【人物背景】
 フィンランドに居を構える宝石魔術の大家、エーデルフェルト家の現当主。
 宝石翁の弟子になるための候補者争いの際、遠坂凛とトラブルを引き起こして捕縛される。その際の処罰として、ゼルレッチの命により、凛と共にクラスカードの回収任務を帯びて日本に派遣された。その際、カレイドサファイアと呼ばれる、人工精霊が宿った魔術礼装を貸し与えられたが、またもトラブルを引き起こしてサファイアに見捨てられる。
 その後はサファイアの新たな主、美遊・エーデルフェルトを保護。彼女をバックアップしながら、クラスカードをめぐる事件に関わっていく。
 当企画の彼女は『ドライ』、美遊達の過去を知った以降からの参戦。

【方針】
 現状、この聖杯戦争はきな臭い。よって脱出を狙う。


559 : ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト&ランサー ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/13(土) 14:58:49 EKeoiEC.0



 以上で投下を終了します。
 
 そして此処で、皆様にお詫びしなければならないことがございます。
 当企画の期限は明日の午前0時までと定めていたのですが、急遽仕事の兼ね合いで、四日間程家を留守にしなければならなくなってしまいました。
 予定通りの期限で進めても良いのですが、執筆も出来ず無駄に日数を浪費し、OP投下をお待たせしてしまうよりかは、もう暫く候補作投下の時間を設けた方が建設的であると判断し、5/18(金曜)の午前0時を正式な期限とさせて頂きます。もう少し前に告知しろと言われれば返す言葉もございませんが、どうぞご理解いただければ幸いです。


560 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/13(土) 16:50:09 EKeoiEC.0
訂正
 5/18(木曜)の誤りでした。重ね重ね申し訳ございません


561 : ◆hBqmt1dJ2k :2017/05/16(火) 18:15:01 tKkNPCyQ0
投下します


562 : F■te ◆hBqmt1dJ2k :2017/05/16(火) 18:15:52 tKkNPCyQ0
◇◇


 ――――その日、運命が狂う。


◇◇


 軽い音だった。
 誰かの命が失われるにしては、あまりにも軽い音。
 しかし、忘れるなかれ。
 本来人間の命というのはこうして誰にでも簡単に、気軽な気持ちで奪い取れるものなのだ。
 何しろヒトとて元は獣。
 生きるために殺す、目的のために殺す。
 文明を築き、同族と手を取り合い、規範らしいものが敷かれているからそうした側面が見えなくなっているだけで、それらが乱れた途端に世界は血腥く変わり果てる。
 そう、このように。引き金一つと弾丸一つで、人は死ぬ。
 男はそれをよく知っていた。飽きるほど繰り返し、魂に焼き付けてきた。
 今となっては、こうして幼子を撃ち殺すことにすら何の呵責も覚えない。
 それほどに――この男は腐っていた。

「楽な仕事だ」

 ひび割れたアスファルトの上に横たわる少年が一人。
 その眉間には穴が空き、中身が後頭部を通して外に漏れ出してしまっている。
 誰が見ても分かる即死だ。
 願いを抱いて聖杯戦争に身を投じた哀れな少年は、痛みさえ感じることなく一瞬で天に召されたことだろう。
 
「終わったぞ、マスター。サーヴァント及びマスターは完全に沈黙。オレ達の勝利だ」

「…………」

「なんだ、不満があるのか? 我ながら、完璧な仕事だったと思うがね」

 立ちはだかった敵の末路に、しかし銃手(アーチャー)のマスターである少女は苦い表情を浮かべていた。
 不服というわけではない。
 彼の手腕は完璧だった。
 文句のつけようがないくらいに。
 それでも、少女はどうしても後味のよくないものを覚えてしまう。
 哀願する幼い少年を、言葉を遮るように無情に射殺した自分のサーヴァント。
 目の前で繰り広げられた光景を当然のものと涼しい顔で受け入れられるほど、彼女は冷血な人間ではなかった。

「別にケチ付ける気はないわよ。あんたはよくやってくれたわ、アーチャー」

「……ああ、さてはアレか。餓鬼の最期に気を病んでいるのか、あんたは」

 言ってアーチャーは、小さな失笑を溢した。
 その所作は、少女の中に否応なく苛立ちの情を呼び起こす。


563 : F■te ◆hBqmt1dJ2k :2017/05/16(火) 18:16:39 tKkNPCyQ0
「初いことだ。羨ましいよ、素直にそう思う。
 だがその感傷は果てしなく無為だ。通常の聖杯戦争ならばいざ知らず、機械細工に管理されたこの聖杯戦争で敗れた者が元の日常に回帰できる可能性など存在しない。真綿で首を絞めるように、迫る消滅の恐怖を胸に抱きながら終局の時を待たせる……さて、残酷なのはどちらだろうな」

「……もう、いちいち口喧しいのよあんたは! そんなこと、あんたに言われるまでもなく解ってるっての!!」

 少女……遠坂凛は優秀な魔術師である。
 それは決して驕りや過信ではなく、頑然とした事実だ。
 大元の冬木市に名高き始まりの御三家が一、遠坂家の六代目。
 魔術の研鑽を怠った試しはなく、隠し持っている秘蔵の宝石の中にはサーヴァントさえ殺傷できるような頭抜けた威力を秘めたものすらある。
 そんな彼女の目から見ても、自分が召喚したサーヴァントは優秀の一言に尽きた。
 ステータスこそ中級どまりだが、その身に宿す戦闘経験と技巧は間違いなく達人のそれ。
 立ち回り方さえミスらなければ、優勝を真剣に狙えるサーヴァント。
 それが、凛のアーチャーに対する評価だった。
 ……だが遠坂凛という一人の人間としてこのアーチャーを評するのなら、『気に入らない』という思いが先行する。

 神経を逆撫でするような言い回し。
 皮肉屋を何倍も腐らせたような台詞の数々。
 無能を咎めたくても、悔しいことに彼は驚くほど有能だ。
 結果として凛は、なんとも言い難いムカムカを抱えたまま聖杯戦争に身を投じる羽目になっているのだった。

「フン。だといいがな――何にせよ、忠告だ。
 敗者に肩入れする癖があるなら直しておけ。華々しい勝利を望むなら尚更だ」

「あのねえ、だからあんたは――」

 まだ言うかと、怒鳴り付けるべく口を開こうとする凛。
 だがその時にはもう、アーチャーは踵を返していた。
 背に刻まれたⅣの文字が、やけに爛々として見える。

「――それは、心の贅肉というものだ」

 彼が霊体になって姿を消す直前、最後に発したその言葉。
 それは午前二時を過ぎた宵闇の中で、一際はっきりと耳に残った。

「……はあ。何なのよ、アイツは」

 さっぱり分からない。
 真名も、宝具も、過去も、人となりも。
 あのサーヴァントは、分からないことだらけだ。
 自分からそれを語るでもなく、ただ黙々と敵を殺しては悟ったようなことを言う。
 ムカつくヤツ、と凛は唇を尖らせてぼやく。
 ――それから、もう一度だけ地面に転がった死体へと目をやった。


564 : F■te ◆hBqmt1dJ2k :2017/05/16(火) 18:17:08 tKkNPCyQ0

「…………」

 謝罪を口にするつもりはない。
 相手が子供であろうと、敵は敵。
 アーチャーの言うことは、その理屈だけ見れば極めて正しいのだ。
 負ければ終わり、消滅を待つしかない世界。
 おまけに生きていれば再契約をされ、また立ち塞がられる可能性もある。
 だから、これは必然の至り。
 聖杯戦争では、ごくごく当たり前のこと。

 遠坂凛は、聖杯戦争での勝利を目指している。
 より正確にいえば、その先の聖杯獲得を。
 全ての魔術師の悲願、それを自らの手で遂げるために。
 呼び出した掃除人の名前も、その腹に抱えるものも知らないまま――盲目に勝利へ突き進む。


◇◇


「さて。如何にしたものかね、これは」

 時は流れ、夜明け前。
 遠坂邸の屋根上から遠くに昇る朝日を見据え、白い髪に褐色の肌を持つアーチャーは辟易した様子で独りごちた。
 
「何から何までイレギュラーづくめの聖杯戦争。オレのような男が派遣されるのは必然といったところだが――」

 このアーチャーは正当なサーヴァントではない。
 本来なら、聖杯戦争に呼ばれるべきですらない存在。
 記憶も過去も喪った反英雄。自ら名を捨て失墜した無心の執行者。
 
「まあいい。オレはいつも通り、オレのやり方で殺らせて貰うだけだ」

 それだけに必然、彼はマスターに聖杯をもたらす存在ではない。
 明確な願いを持たず、揺るがない忠心も持たず、独自の目線で目的を叶えるべく原野を駆ける血塗れた猟犬。
 遠坂凛はいずれ、自分の不運を思い知ることになるだろう。
 なんだってこんな男を引いてしまったのかと、悔いることもあるかもしれない。

 しかし、結ばれた縁は変わらない。
 運命は意図したようにいつかの運命(Fate)を繋ぎ合わせ、継ぎ接ぎの物語を演出する。
 
 ――女は、男の名を知らない。何故なら彼女は、件の運命を経験していないから。
 ――男は、女の名を知らない。何故なら彼は、自ら昨日を捨て去り後は腐敗するだけの喪失者であるから。


565 : F■te ◆hBqmt1dJ2k :2017/05/16(火) 18:17:36 tKkNPCyQ0

「……凛、か」

 らしくもない、無意味な呟き。
 どこかで聞いた覚えのある、名前。
 その残響はどういうわけだか心地よく、麻痺した耳に残り……

「――優秀な魔術師、いいじゃないか。精々最大限、時が来るまで寄生させて貰うとしよう」


【クラス】

アーチャー

【真名】

エミヤ[オルタ]@Fate/Grand Order

【ステータス】

筋力:C 耐力:B 敏捷:D 魔力:B 幸運:E 宝具:?

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

対魔力:D
シングルアクションによる魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
但し宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。

【保有スキル】

防弾加工:A
対射撃スキル。
自らの防御力を上昇させ、特に射撃攻撃に対しては上昇値にプラス補正を行う。

投影魔術:C
オーソドックスな魔術を習得している。
その中でも、彼は特に投影・強化の魔術を得意とする。
反転していない彼は投影魔術に限ればAランク超えの才能を持つと明言されていたが、反転した彼のランクはC。
これについての詳細は、明らかになっていない。

嗤う鉄心:A
反転の際に付与された、精神汚染スキル。
精神汚染と異なり、固定された概念を押しつけられる、一種の洗脳に近い。
与えられた思考は人理守護を優先事項とし、それ以外の全てを見捨てる守護者本来の在り方をよしとするもの。
Aランクの付与がなければ、この男は反転した状態での力を充分に発揮できない。


566 : F■te ◆hBqmt1dJ2k :2017/05/16(火) 18:18:06 tKkNPCyQ0

【宝具】

『無■の剣製(アンリミテッド・ロストワークス)』
ランク:E〜A++ 種別:対人宝具 レンジ:30〜60 最大補足:?
本来、『無限の剣製』は剣を鍛える事に特化した魔術師が生涯をかけて辿り着いたひとつの極地である。
この固有結界には彼が見た「剣」の概念を持つ兵器、そのすべてが蓄積されている。
……が、この男の『無限の剣製』は何と相手の体内に生じる。極小の固有結界は、体内で凄まじい威力となって相手を破裂させる。炸裂の瞬間に生じる固有結界の心象風景は衛宮士郎とも英霊エミヤとも異なり、黒い荒野と血のように赤く染まった空、そしてひしめく巨大な歯車の動きを鎖が縛っている、というものになっている。
また、本来の宝具名称は「限」の字に削り取ったような傷が刻まれている。

【weapon】

『干将・莫耶』
陰陽二振りの短剣。
根底から改造し刃のついた二丁の拳銃として銃撃・斬撃に使用している他、双剣に戻し柄の部分を連結させて使用することもある。

【人物背景】

社会が生み出した無銘でなく、自ら名を捨て失墜した無心の執行者。
記憶も過去も喪った反英雄は道徳を見切り、親愛を蔑み、生きる屍となった己を嗤い続ける。
無論、一人の人間の人生がこうまで変貌するには理由がある。
剣の如き強靭な男の魂を失墜させたのは、聖母の如き慈愛を持つ一人の女だったと言われている。
様々な国の権力者、科学者などは、あるいは心に傷を負っており、あるいはその異才から世間に交ざれなかったという心の闇を抱えていた。
ある世界のある国に起きた新興宗教は、教主の女がそんな彼らを救うために――――否、単に気まぐれで創立させたにすぎない。
世界を変えるだけの知識と技術を持った才人が集まったために多くの先進国が危険視したが、その組織には悪の理念もなく、教主の女を除いてただの一人も悪人はいなかった。
世界でただ一人、その女の末路と人類悪になりうる素質に気が付いた男は、自分の信念を曲げてでも必ず殺すことを決意した。
男はこの魔性を追い詰めるために、その過程で多くの信者たちを手にかけたが、その女は自らビルの屋上から飛び降りてしまう。
悪逆の報いを受けさせることも叶わず、ただ『無辜の民を殺した』男は、彼らの命に殉じるように魔道に落ちた。

【サーヴァントとしての願い】

??????


【マスター】

遠坂凛@Fate/stay night

【マスターとしての願い】

聖杯戦争に勝利し、聖杯を持ち帰る

【weapon】

宝石

【能力・技能】

魔術師として、若さに見合わない非常に優れた才能を持つ。
ガンドや宝石魔術に始まり、その他にも様々な属性の魔術を行使できる。
中でも宝石魔術の威力は入念な準備もあって凄まじく、直撃すればサーヴァントさえ殺傷し得るほど。
ただ問題点として、非常にコストがかさむ。

【人物背景】

「始まりの御三家」が一、遠坂家の六代目。
正義の味方を志す少年と出会う前の彼女。
だがその出会いは、悲しいほどに腐り果てていた。

【方針】

聖杯戦争に勝つ。アーチャーには若干の不信感。


567 : ◆hBqmt1dJ2k :2017/05/16(火) 18:18:26 tKkNPCyQ0
投下終了です


568 : ◆nY83NDm51E :2017/05/17(水) 00:21:07 GDkrNtBM0
投下します。


569 : Walk Like an Egyptian ◆nY83NDm51E :2017/05/17(水) 00:23:22 GDkrNtBM0

嘆くな、兄弟、我が片割れよ。
私と共にいることを望め。来世のことは後回しにせよ。
お前が葬られる時に、来世への願いは初めて叶うのだ。
その時には、私も降りていき、一つの家に共に住もう。

                             ―――『ある男とその魂との対話』



夜。空には、満月。
その少年は、森の中へ一人分け入って行く。

制服から、この冬木市に存在する「穂群原学園」の男子生徒と分かる。
ただ、上着の前を開け、中のシャツもボタンをいくつか開け、だらしなく着崩している。首元にはアクセサリー。
耳を隠す程度の長さの黒髪。髪型はセンター分け。額は黄色いバンダナで覆われ、ピースマークが大きく描かれている。
不良、と言って差し支えない格好と雰囲気だ。目つきは精悍。筋肉や身のこなしは、戦いで鍛えられたことを物語る。

「ここは……魔界じゃねえが、それに近いか……」

少年は歴戦の経験から、この世界の違和感に気づいていた。記憶にあるのに、記憶にない。偽りの世界だ。
街のあちこちで、異様な魔力の高まりを感じる。はっきりとした場所は分からないが、今の自分のように、元の世界の記憶に目覚めた者たちだろう。
すなわち、聖杯戦争の参加者。そして彼らが呼び出した英霊、サーヴァント。

万能の願望器・聖杯を巡る殺し合い。参加者は様々な世界からランダムに選ばれ、この戦場に招かれる。
魔力によって再現された英霊を使い魔とし、彼らを戦わせて勝ち残る。それがルールだという。
要するに、自分の知識で言えば悪魔……『仲魔』だ。あるいは、自分で戦ってくれる『ガーディアン』だ。
COMPはないが、月がスーパーコンピューターで、この世界や住民は全て月が再現しているらしい。
突拍子もない話ではあるが、異常な事態には随分慣れてしまっている。彼はこの事態を、目の前の現実として受け入れた。

「聖杯ねえ。まあ、貰えるもんは貰っとくか。オレの望みは……」

少年は再び黙り込み、思案する。それを望んでいいものか。殺し合いに乗ってまで、望むほどのものか。
どうするにせよ、サーヴァントを呼び出すしかない。今の自分の状態では、強いサーヴァントに襲われれば死ぬ。
森の中、山の中へ入ったのは、召喚されるサーヴァントが騒ぎを起こすと目立つからだ。

森と藪を抜け、少し開けたところへ出た。周囲に気配はない。ここらでよかろう。
少年、宮本明―――『アキラ』は、ポケットから『鉄片』を取り出し、地面へ投げた。


570 : Walk Like an Egyptian ◆nY83NDm51E :2017/05/17(水) 00:25:22 GDkrNtBM0

現れたのは、堂々たる覇気を放つ大柄な男。黄金の長髪と胸元の毛皮は、百獣の王たる獅子のタテガミを彷彿とさせる。
牙をむき出した、目つきの鋭い顔つきも、どことなく獅子。そればかりか、足はまさしく獅子のものだ。しっぽまで生やしている。獣人だ。
彼の背には、大きな翼。天使というよりは獣、それも魔獣。あたかもスフィンクスを思わせる威風だが、神獣というには邪悪すぎる。
獣人は……サーヴァントは、傲然と腕を組み、少年を睨み据えて言った。

「フン!お前がオレのマスターか?」

「そうだ。オレは宮本明。アキラでいい。あんたは……」

「そうか。では、死ねい!」

獣人は腕組みを解くや、右手に大鎌を出現させ、アキラの首をめがけ横薙ぎに振るった。咄嗟に後方へ飛び……いや、伏せる。
大鎌はそのまま投擲され、風切り音を立て、アキラのいた空間を回転しながら飛んだ。
獣人はアキラが地に伏せたのを見ると、すかさず足を上げて踏み潰しにかかる。アキラは横に転がってこれを回避。ストンプは地面を揺るがし、亀裂を走らせた。
大鎌は背後の樹木を何本か切り倒した後、獣人の手元に戻る。怒り狂う獣人は月に向かって咆哮した。

「このオレが!この『獣王グノン』が!人間ごときに使役される『使い魔』になるなど!耐え難い屈辱!!
 聖杯戦争など知るか!お前を殺し、参加者も主催者も皆殺しにしてくれるわ!!」

ダメだ、話にならない。やはりアレだ、満月だからか。もう少し待つべきだったか。
アキラは冷静に、この獣人……獣王グノンをどう説得したものか思考する。なるべく令呪を消費したくはない。

「待てよ、オレは」

グノンは、背中の翼を羽ばたかせて飛翔した。満月を背にしてアキラを見下ろすと、大きく息を吸い込む。アキラは身を起こし、備える。
刹那、グノンは大きく口を開いて、火炎を吐いた。ファイアブレスだ。アキラは前へ駆け、グノンの真下へ潜り込み、これを回避。
否、グノンはこれを見越して、空中で倒立。身を翻しながら真下へ、後方へと火炎を吐き出す。さらに大鎌を再び投擲し、別方向からアキラを狙う。
凄まじい攻撃。手加減できる相手ではない。アキラは転がりながら距離を取り、両手を各々火炎と大鎌へ突き出す。

「メギドラ!」

蒼い炎の球が両掌から発射され、爆発する。火炎は吹き飛ばされ、大鎌は弾き返され、グノンの手に戻る。

「チッ……少しはやるようだな、人間め」


571 : Walk Like an Egyptian ◆nY83NDm51E :2017/05/17(水) 00:27:18 GDkrNtBM0

どうする。メギドラは今出せる最強の力。相手は、獣王グノンとやらは、かなり強い悪魔だ。単体では対処できまい。
人間を見下し、力を誇示する、悪魔にはよくいるタイプ。力を示せたのは良かったが、オレを人間だと見下すことは変わらないだろう。
ならば、こうだ。

「うおおおお……頭の中が 燃える……!」

アキラは、頭を抱えて蹲る。制服が破れては面倒だ。加減が難しい。
ざわざわと頭髪が逆立ち、黄色いバンダナがフクロウの顔のように変わり、アキラの顔の半ばまでが異様な体毛に覆われていく。
体格が一回り大きくなり、手の指は鉤爪に変わる。ギリギリだ。これぐらいでいい。

『待つのだ、獣の王よ…………』

アキラは、空中で様子をうかがうグノンに呼びかける。別人のような声と口調、雰囲気だ。
グノンはアキラの変貌に眉根を寄せ、攻撃態勢をやめて、ふわりと地上に降りた。

「…………? どういうことだ? お前、人間ではないのか?」

食いついてきた。アキラは自分の意識をギリギリで保ちながら、もうひとりの自分に喋らせる。

『私は、魔神アモン……。この人間……アキラに、取り憑いている……』

嘘ではない。グノンにも、それが分かる。アモンは喋りづらそうに、異様な声で続ける。

『この人間は魔界に堕ちて一度死に、私の魂が取り憑くことで蘇った者……。私はアモンにしてアキラ、不可分となった。
 私の肉体を敵から取り戻した後も……その肉体は、この人間と融合してしまったのだ。
 また……別の魔神ラーも、この者に……私に力を貸している。先程放った魔法は、ラーの力なのだ……。
 協力してくれぬか、獣王グノンよ。人間にではなく、この私に』

「…………ふむ」

グノンは再び腕を組み、思案する。嘘ではないが、さっきの人間にとって都合のいい話だ。
何か隠している。おそらく、さっきの人間が言わせている。とは言え、魔神アモンにとっても、自分と手を組むのは悪い話ではないわけだ。
人間に従うなど論外だが、さりとて魔神に仕えるのも考えものだ。異魔神ほどの者ならともかく、力なき者に膝を屈するほどの恥辱はない。

しかし、冷静になったグノンには、己の置かれた立場がようやく見えてもきた。
単独行動のスキルを持たず、魔力消費量も激しい自分は、マスターからの魔力供給がなければ長くは現界できない。
不本意ながら、アキラを、アモンを、殺すわけにはいかない。魔力量も相当にあるようだ。ならば、こうだ。


572 : Walk Like an Egyptian ◆nY83NDm51E :2017/05/17(水) 00:29:21 GDkrNtBM0

「オレに、『仕えよ』と言うのか? そのような、惰弱な人間の体に囚われている、ひ弱な魔神に」

尊大な態度を変えず、グノンは答える。交渉はするが、あくまで己を上位とし、下位や対等な立場には立たない。
いかにサーヴァントとして召喚されたとて、誇り高き己が、無条件で従うわけにはいかない。協力する義理も、メリットもない。

アキラもアモンも、グノンの言い分は分かる。かつてアモンがアキラを救ったのは、慈悲心や同情ではなく打算、利害の一致に過ぎない。
ハザマによって魂と肉体を分断されたアモンにとって、ハザマに殺されたアキラを利用して復讐を遂げるのは、ごく自然なことだった。
しかしながら、この状況でグノンに協力させるのは無理だ。アキラとアモンは作戦を変更する。

『そうよな、獣王グノンよ……。私は貴殿を使役はせぬ……主君と呼ばずともよい……好きに振る舞われるがよい』

ステータスを確認したところ、グノンのクラスはバーサーカー(狂戦士)だ。理性と知性を失ってはいないが、危険な存在には違いない。
こういう手合いは、手元に置いてはいけない。うまくプライドと利欲をくすぐって独自行動させ、こちらの利益になるよう誘導するのが最善。
相手の利益とは、すなわち聖杯。こちらを殺すことの不利益は、言わずとも分かる。

『だが……聖杯に、興味はないのか……? 考えてもみよ……僅かな参加者を皆殺しにするだけで、なんでも望みが叶うのだぞ……』

グノンにも、アキラとアモンの目論見は分かる。彼らの立場ならば、当然そう言うであろう。
目を細め、鼻を鳴らし、グノンは喉を鳴らして笑う。小賢しい誘いに乗ってやっても、悪くはない。

「フン……月並みだが、無いと言えば嘘になるか。オレは勇者に滅ぼされ、死んだ身。ゆえに、かような屈辱にも耐えねばならぬ。
 受肉。復活だ。さすれば聖杯戦争なんぞにも召喚されずに済む。オレが聖杯にかける望みは、それでよい。
 お前は、オレの魔力供給源として生かしておいてやる。感謝するがいい」

上出来だ。協力関係は結べずとも、無益な殺し合いをすることは避けられた。互いに賢明であれば、打算と利害の一致ほど強固な絆もない。
理性と知性では分かるが、グノンの感情としては、相手の思い通りになるのは気に障る。大型肉食獣めいて、グノンは牙をむき出す。

「オレは自由に振る舞い、参加者どもを殺して、聖杯を勝ち取る。幸運なお前らの望みも、ついでに叶うというわけだ。虫のいい話だがな!」

『私も戦い、参加者を殺していこう……。共に勝ち残り、望みを叶えようではないか……』

グノン一人で参加者を皆殺しに出来るかは未知数にしても、こちらが何もしないで相手に任せるのは、相手も自分も気に食わない。
己の身は己で守り、欲するものは己で勝ち取る。それが魔界の、自然界の掟だ。アキラにもよく分かる。グノンもそう言うだろう。

「物分りが良いな。では聞くが、お前の望みとはなんだ? 魔神アモンよ」


573 : Walk Like an Egyptian ◆nY83NDm51E :2017/05/17(水) 00:31:23 GDkrNtBM0

望み。そう、望みがあるからこそ、彼らはここに招かれた。

『私の望みは……』
「オレの望みは、ある」

グノンに問われ、アモンは……アキラは答える。

「お前には聞いておらんぞ、人間」
「オレはアキラで、アモンだ。あいつの望みは、オレの望みと同じだ」
「では、言ってみよ」

一つの口が、両者の言葉を同時に発する。異なる声音、異なる口調、しかして同じ望み。

「オレとアモンが、再び分離することだ」
『私とアキラが、再び分離することだ』

両者の共通の仇、魔神皇ハザマこと狭間偉出夫は、倒された。自分と、悪魔召喚師となった協力者と、何体もの仲魔によって。
戦いの後、アキラは協力者を人間界へ戻し、自分は魔界に残る道を選んだ。
霊肉ともに悪魔と合体した自分は、もはや悪魔。人間界で暮らせるわけがない。
人間には人間の、悪魔には悪魔の、帰る場所がある。そう思っていた。互いに忘れれば、それでいいと。だが――――

「オレは人間界へ戻る。人間の肉体を取り戻して」
『私は魔界へ戻る。悪魔の肉体を取り戻して』

聖杯ならば、望みが叶う。人間としての平穏な人生を取り戻し、ささやかな夢を叶えられる。あいつとも会える。
実のところ、アモンには比較的どうでもよいことだが、アキラにとっては重大事だ。そのためならば、戦える。

アモンの言葉を聞いて、グノンは歓喜の表情を浮かべた。
やはり魔神たる者、人間などと合体している状態は不本意なのだ。彼はそう解釈した。

「よかろう、よかろう! 魔神アモンよ、約束してくれるわ!
 貴殿が惰弱な人間の肉体から解放されることを、オレも願おう!そして……」

グノンがハーケンを振りかざすと、地面が盛り上がる。現れたのは、ただならぬ闘気を放つ四体の獣人。
彼らはグノンの前に片膝をつき、拳と掌を胸の前で合わせ、命令を待つ。
さらに、森の中から熊、イノシシ、鹿、野犬、野良猫、フクロウなどが次々と姿を現し、平伏する。

「魔界に帰れば、この獣王グノンに仕えよ! オレは魔界を統一し、大魔王、魔神とならん!」


574 : Walk Like an Egyptian ◆nY83NDm51E :2017/05/17(水) 00:33:20 GDkrNtBM0

【クラス】
バーサーカー

【真名】
獣王グノン@ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章

【パラメーター】
筋力A 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運D 宝具A

【属性】
混沌・悪

【クラス別スキル】
狂化:E
通常時は狂化の恩恵を受けない。その代わり、正常な思考力を保つ。
一定のダメージを負って両膝を突くと激昂し、真の姿を現して暴走する。そこまで追い込むのには凄まじい猛攻が必要であるが。

【保有スキル】
怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。使用する事で筋力をワンランク向上させる。Aランクならば戦闘中はほぼ常時発動している。

天性の肉体:A
生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。このスキルの所有者は、常に筋力と耐久がランクアップしているものとして扱われる。

飛翔:A
自前の翼による飛行能力。飛行中の判定におけるAGI(敏捷)はこのスキルのランクを参照する。

獣王:B+
カリスマと動物会話の複合スキル。カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
10万頭の獣兵団を率いる歴戦の「魔王」としての威厳。人間からは恐れられるのみだが、「動物」に対しては効果が跳ね上がる。

【宝具】
『獣兵団四天王(ビースト・ジェネラルズ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1-99 最大捕捉:100

彼に仕えた四体の鳥獣系モンスターを召喚し、使役する。サーヴァントではないがそれなりに強く、各々自我と特技を持つ。
宝具として召喚されているため、魔力が続く限り倒されても復活する。バーサーカーが彼らと一時的に融合し、その技や武器を振るうこともできる。

獣魔将軍リカンタス:リカント属。狼男。身の丈ほどの大剣を軽々と振るう剣術使い。必殺技は大岩をもサイコロステーキのように斬り刻む「獣魔百烈断」。
魔猿将軍エイプス:マンドリル属。ヒヒ男。巨大な数珠のような武具「竜節棍」を携帯。触れたものを腐らせる邪拳「瘻瘡邪骸拳」の使い手。必殺技は邪気を発射する「瘻瘡潰燼波」。
怪鳥将軍バークート:魔鳥属。鳥人。空中を自在に飛行し、呪文の力をこめられる弓矢(マジックアロー)と槍(マジックスピア)を用いる。
 作中で使用した呪文はイオラ、メラミ、ヒャダイン、バギマ。羽根を矢のように飛ばす技「フェザースラッシュ」も使うが、牽制程度で威力は大したことはない。
金羊将軍ミナトン:大角属。羊版ケンタウロス。武器は長柄の斧槍(ハルベルト)。筋骨隆々で武人肌の性格。
 黄金の体毛に呪文などのエネルギーを吸収し、蓄えることができる。必殺技は全身にエネルギーを溜めて突撃する「灼煌猛撃衝(エナジー・ダッシャ)」。


575 : Walk Like an Egyptian ◆nY83NDm51E :2017/05/17(水) 00:35:31 GDkrNtBM0

『真獣王(アンドロ・スフィンクス)』
ランク:A 種別:対己宝具 レンジ:自分 最大捕捉:-

グノンの真の姿。スフィンクスのような姿で、しっぽは毒蛇。体高は人間の身長の倍以上はあり、額には紋様が浮かぶ。
その力は凄まじく、前足を大地に叩きつければ地割れを引き起こし、はばたきはベギラマ等の呪文すら撥ね返す。
体毛は鋼以上の強度で、剣王の幻魔剣や拳王の波動拳も全く通じない。ただ毒蛇部分は比較的強度は低く、切り落とすことが出来る。
また翼を用いて空高く飛翔でき、呼吸で気圧を操って嵐を呼び寄せ、圧縮した空気を吐き出して敵陣を吹き飛ばす。
本来はこの姿になっても判断力を保っているが、バーサーカーとして呼ばれたため「狂化」スキルと同時に発動し、暴走してしまう。

【Weapon】
大鎌(ハーケン)
戦斧のような刃と長柄を持つ巨大な鎌。投擲すれば回転しながら敵を切り裂いて手元に戻る。
怪力の「サイおとこ」が二人がかりで運んでも取り落とすほど重いが、バーサーカーはこれを片手で軽々と振り回す。

炎のブレス
口から火炎を吐いて攻撃できる。

【人物背景】
藤原カムイ『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』に登場するモンスター。「異魔神」に仕える四大魔王の一人。
主に獣型モンスターで構成された獣(ビースト)兵団を率い、「獣王」と呼ばれる。もと人間でも神でもない、生粋の魔族。真の姿はスフィンクスに似た四足の魔獣。
普段は大柄な人型の姿をとり、全身は分厚い体毛に覆われ、タテガミのような長い金髪と胸毛、眉毛がなく鋭い目を持つ人のような顔、
鷲のような大きな翼、獅子のような牙・鼻・尾・足を持つ。ハーケンと厚手の戦衣を装備し、ベルトには菱形の中に聖眼(ウジャト)を配したマークがある。
気性は荒々しく傲慢・尊大、冷酷にして残忍。自分に逆らう者や気に障る振る舞いをした者は、部下であろうと容赦なく殺す。
一方で異魔神の方針に疑問を抱くなど理性的でもあり、敵を確実に仕留めるために策略を巡らすなど、慎重で狡猾な一面も見せる。

10万頭の獣兵団でアリアハン王国に侵攻、虐殺を行った後「勇者アルスを差し出せば国民の命を助ける」と告げ、アルスを孤立させることに成功。
勇者1人に対し圧倒的な物量で押し潰しにかかるが、アルスの仲間たちの活躍で押し返され、果てはメガンテを使われて己を除く獣兵団が全滅。
勇者・剣王・拳王・賢王の総攻撃で重傷を負い、真の姿に戻って暴れ回るも、アリアハン全住民の力を集めたアルスのミナデイン&剣を額に食らい、絶命する。
案外あっさり倒されたようだが、相手はモンスターの大軍相手に単騎で立ち向かって数千以上を殺す化物揃いであり、彼が弱いとは決して言えない。

【サーヴァントとしての願い】
受肉して復活。魔界の統一を願ってもよいが、なるべく自力で行いたい。

【方針】
皆殺しにして聖杯を獲得する。手強い敵には策略を駆使して対応。街中の動物を従わせて使役し、情報収集も行う。
マスターとは基本的に別行動を取るが、必要なら協力もする。

【把握手段】
原作。単行本(全21巻)と完全版(全15巻)があり、単行本では7-9巻、完全版では5-6巻が対グノン編。グノン編だけでコンビニコミック化もしている。
最近続編で復活したが、参戦時期は『ロト紋』で死んで間もなく。


576 : Walk Like an Egyptian ◆nY83NDm51E :2017/05/17(水) 00:37:32 GDkrNtBM0

【マスター】
宮本明@真・女神転生if…

【weapon】
なし。魔界で幾多の死闘を経てきたため、戦闘能力はそれなりに高い。
数々の武器や銃器を使いこなす他、ガーディアンの力を借りて魔界魔法(魔界のパワーを源とするメガテン世界の魔術体系)を操る。

【能力・技能】
『悪魔人間』
魔界において魔神アモンと融合した彼は、アモンとしての意識と力、アキラとしての意識を兼ね備える。
普段は人間アキラの姿を取れるが、アモンの力を解放すれば、半身を体毛に覆われた異形の姿に変身、戦闘力が上昇する。

『ガーディアン』
守護霊。魔界に漂う実体化できない悪魔の霊が取り憑いたもの。憑依者のパラメータを上昇させ、魔界魔法を操る力を与える。
本来はガーディアンを代えても魔法はある程度引き継がれるが、強大なサーヴァントがいるためと能力制限により、
現在憑依している「魔神ラー」の使える魔法しか使えない。またここは魔界ではないため、死ねばそのままで、ガーディアンを代えて復活することは出来ない。

・サマリカーム:瀕死状態の者を、HP半分の状態で復活させる。
・マハラギダイン:敵全体に火炎属性の攻撃。
・メギド:敵単体に万能属性の攻撃。
・メギドラ:敵全体に万能属性の攻撃。
・マハンマ:敵全体に破魔属性の攻撃。聖なる力で悪魔を消滅させる。

【人物背景】
軽子坂高校2年C組の不良少年。作中ではもっぱら「アキラ」と呼ばれる。
名前の由来は、『デビルマン』の主人公で悪魔アモンと合体した不動明と、演出家の宮本亜門。『彼岸島』の宮本明とは多分無関係。
性格は硬派な一匹狼。ボクシング選手になるよう薦められており、腕っぷしも強い。
EDでは、自らを元の世界では生きられぬ悪魔として魔界に留まり、主人公を人間の世界へ送り返した。

【ロール】
高校生。

【マスターとしての願い】
アモンと分離し、人間界に戻る。

【方針】
聖杯を狙う。人間性を失ってはいないので、無力・無抵抗な者はなるべく殺したくはないが、殺さねばならないなら割り切る。
サーヴァントとは基本的に別行動を取るが、必要なら協力もする。

【参戦時期】
本編終了後。魔界で『鉄片』に触れた。


577 : ◆nY83NDm51E :2017/05/17(水) 00:39:10 GDkrNtBM0
投下終了です。


578 : ◆hBqmt1dJ2k :2017/05/17(水) 22:56:29 gmcJLyWE0
拙作「F■te」において、エミヤ・オルタの解釈に少々ミスがありましたので収録の際に修正させていただきました。


579 : ◆jpyJgxV.6A :2017/05/17(水) 23:37:48 pnZqQKnM0
投下します


580 : その執事、G線上にて ◆jpyJgxV.6A :2017/05/17(水) 23:41:29 pnZqQKnM0

 彼女にとってChaos.Cellでの目覚めは、かつてないほどに最低で最悪だった。
 どうしても脳に焼きついて離れない、あまりにも惨たらしく悍ましいあの情景。
 焼け焦げた臭い。人々の呻き声。記憶を奪われようとも忘れられるはずがなく。
 ああ、またそこであの男が嘲笑っている。最期に母が触れたあの線の上で――。



「紅茶をお淹れ致しましたよ、お嬢様」

 男に声をかけられてようやく、宇佐美ハルは我に返った。どうやら少し呆けていたようだ。
 いつの間にかテーブルにはティーカップが置かれていた。澄んだ紅色からは仄かに湯気が立ち上り、まさに淹れたてであることを主張していた。

「ご気分がすぐれないようでしたら、お休みになられては?」

「ああいえ、少しぼうっとしていただけなんで。問題ないです、はい」

 ティーカップに口をつける。華やかな香り鼻腔をくすぐって、ハルの頭を少しずつ活性化させていく。
 男はまだ傍に立っていた。真っ黒で物腰だけは柔らかいサーヴァント。いまだにこの存在には慣れない、とハルは思う。長く一人で生活していたから誰かと暮らすなど、ましてそれが完璧すぎる執事であれば尚更落ち着かなかった。
 とはいえ彼――アサシンのおかげでハルの生活レベルが格段に上がっているのはまぎれもない事実だった。母親は演奏会のために海外を飛び回っているという『設定』であり、本来家族で住むべき家はハル一人で暮らすには広すぎたのだ。
 ほうと息を吐いてモニターを見やる。虚空に浮かぶそれには、電脳世界ではない現実の冬木市についての膨大な情報が羅列されていた。
 なにをするにもまず情報がなくては始まらない。記憶を取り戻してからそう考えたハルは、Chaos.Cellのデータベースを流し読みしていたところだった。

「なにか分かったことでも?」

「正直なところ、分からないことの方が多いんですよね。これで、謎は全て解けたっ!とか言えたらかっこいいんでしょうけど」

 そもそもハルは生い立ちが少々奇特なことを除いて、なんの変哲もない一般人だ。いきなり魔術だなんだと言われても、その道を知る人間に比べたら圧倒的に知識がたりない。
 だからまずは聖杯戦争とその成り立ちについて調べる必要があるとハルは判断していた。そうして検索を重ねてたどり着いたのが、ここではない別の冬木市で行われた聖杯戦争であった。

「まず聖杯戦争ですけど、現実でも何回か行われたことがあるみたいですね。今回ほど規模は大きくなかったみたいです」

 ハルが最初に疑ったのは、この聖杯戦争の正当性だ。なんでも願いが叶うなど、いきなり告げられて信じろと言う方が難しい。
 しかし前例があるのならば話は別だ。その実態がどれだけ穢れた物だったとしても、勝てば聖杯を得られるということは間違いではないらしい。
 とはいえこの聖杯戦争でもそれが当てはまるとは限らないから、あくまで最低限の保証といったところか。

「ただ気になるのは枠の数です。過去の例を見ても、勝者が二組というのはありません」

「確かにこのような戦いでは、最後の一人までというのが定番ではありますね。なにかそうしなければいけない理由があるということでしょうか」

「おそらくそうでしょう。さすがにその理由まではまだ分かりませんから、今のところは保留ですね」

 ふむ、と顎に手を当ててアサシンが唸る。その仕草を見て、この男も自分からすれば十分に謎なのだがとハルは思った。
 19世紀のロンドン。女王の番犬。そして悪魔という存在。
 もちろんアサシン――セバスチャン・ミカエリスについてもリサーチ済みだ。データベースの正確性を確かめるために、彼の話とデータベース上の情報を照らし合わせていた。
 そのあまりにファンタジーじみた内容に目眩さえしたのだが、そのおかげで聖杯戦争という幻想も容易に飲み込めたと言える。


581 : その執事、G線上にて ◆jpyJgxV.6A :2017/05/17(水) 23:45:00 pnZqQKnM0

「それでは、これからどうするおつもりで?」

「積極的に優勝を狙うっていうのは得策ではないでしょう。参加人数も分かっていないし、ルーラーとやらがどの程度干渉してくるのかも読めません。とにかく、敵を増やすような行動は避けたいと思っています」

「そうですね。まだ序盤ですし、焦って事を起こす必要はないかと。そうすると、しばらくは様子見でしょうか」

 頷いて肯定を示す。表立って動き出すのは周りが活発になり始めてからで十分だ。それまでは他の主従を探りつつ、情報収集に努める程度で問題ないだろう。
 なんなら同盟相手を探してもいい。本当に勝者が二組だというならば、相手がどんな立ち位置でも手を組むだけなら難しくはないはずだ。

「もし聖杯が信用に足ると分かれば、本気で狙いに行くつもりです。もしそうでなければ……そのときにもよりますけど、なんとしてでも元の世界に帰ります」

 どちらにせよこの聖杯戦争、胡散臭いことに変わりはないとハルは考えていた。叶えたい願いはある。しかしその願望器が信頼に足るかどうか、まだ決め打つには早計だろうと。
 とにかく圧倒的に情報がたりないのだ。遮二無二優勝を目指してもいいのだろうが、それを簡単に選べるほどハルは愚直でも短絡的でもない。この戦いの全容とは言わずとも、ある程度の形くらいは掴んでおきたかった。
 対するアサシンはというと、その言葉を聞くとからかうようにくすりと嗤った。見るものを惹きつける蠱惑的な、けれど奥底に嗜虐性を潜ませるような。

「なるほど。それは願いを諦めても構わない、ということでしょうか」

「ふざけるな」

 間髪入れず、鋭い声。ハルの目が初めて眼前の悪魔の双眸を捉えた。
 決意、覚悟、そして純然たる怒りを孕んだハルの眼差しを受けてなお、その表情は涼しげで変わらない。
 むしろまるでその顔が見たかったとばかりに、一層深い笑みを浮かべた。

「あいつはこの手で殺す。絶対にだ。聖杯があってもなくても関係ない」

 吐き捨てるように、噛みしめるように、自分に言い聞かせるように。ハルは紡ぐ。

「聖杯で叶えられないなら自分で叶えるだけだ。その前にこんなところで死ぬわけにはいかない、それだけの話だ」

 そう、全てあの男のせいだ。目の前で母を奪われ、大好きだったバイオリンさえも奪われた。
 だからハルは、なんとしてでも成し遂げなければならなかった。『魔王』を殺して、あのG線をもう一度奏でるのだ。
 例えそのために、悪魔の手を借りようとも。

「――これは失礼を。わざわざ私が申し上げるほどでもありませんでしたね」

 やがて、黙って聞いていたアサシンが頭を下げた。とはいえ人を食ったような笑みはいまだ絶やさずいたのだが。
 元来の主人である少年のものとはまた違う、しかし確かな意思からなる復讐心に興味がないと言えば嘘になる。
 だから彼は改めて、誓いの言葉を口にするのだ。

「仮初の契約なれどこのセバスチャン、全霊を以てお嬢様にお仕えさせていただきましょう」

 その復讐がどこへ向かうのか、この目で確かめるために。


582 : その執事、G線上にて ◆jpyJgxV.6A :2017/05/17(水) 23:46:54 pnZqQKnM0
【クラス】
アサシン

【真名】
セバスチャン・ミカエリス@黒執事

【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具A

【属性】
混沌・中庸

【クラス別スキル】
気配遮断:A
 サーヴァントとしての気配を絶つ。
 完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
 ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

【保有スキル】
加虐体質:C
 戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。

変化:B
 本来の姿は本人いわく無様で醜悪でえげつないが、人の姿をとることができる。
 今回はファントムハイヴ家の執事として現界しているため、人間としての姿形は固定されている。

執事百般:A
 専科百般と同等のスキル。良き執事として、マスターに求められたならばあらゆる専門スキルをこなす事が可能。
 武術・謀術・隠密術・詐術・話術などの専業スキルについて、Cクラス以上の習熟度を発揮できる。さらに料理・洗濯・裁縫・知恵・教育など、100種類以上に及ぶ家業スキルについて、Bクラス以上の習熟度を発揮できる。

【宝具】
『御意、ご主人様(イエス、マイロード)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 アサシンの執事としての在り方が宝具として昇華されたもの。マスターの命令に対して一時的な魔力ブーストを得ることができる。
 ただし命令を遂行できなかったとき、すべてのステータスが一定時間大幅に低下してしまう。
 遂行難易度が高いほど効果も大きくなるが、転移など令呪の恩恵が必要な命令の場合は発動不可。また自身の回復のために必要な魔力を供給することもできない。

『あくまで、執事ですから』
ランク:C(A) 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 アサシンの悪魔としての在り方が宝具として昇華されたもの。現界において人間の執事という概念に縛られているためランクダウンしている。
 人間からかけ離れた身体能力を持ち、Bランク相当の怪力・戦闘続行を発揮することができる。
 悪魔の餌は人間の魂であり、Chaos.Cellにおいてはデータリソースに等しい。このため魔力を使用した回復において量・速度ともに通常のサーヴァントを大きく上回る。
 魂食いについても同様で回復する魔力量が大幅に上昇する他、すべてのステータスに一定時間ボーナスが得られる。

【Weapon】
 なし

【人物背景】
 容姿・教養・武術などなんでもそつなくこなし、すべてにおいて完璧なファントムハイヴ家の執事。
 その正体は悪魔であり、とある少年の魂と引き換えに、その復讐を遂げるまで彼の手足となって守り抜く契約を結んだ。
 今回の聖杯戦争においても、マスターに対してそれなりの忠誠心はある模様。


583 : その執事、G線上にて ◆jpyJgxV.6A :2017/05/17(水) 23:47:41 pnZqQKnM0
【マスター】
 宇佐美ハル@G線上の魔王

【マスターとしての願い】
 『魔王』を自らの手で殺す。

【人物背景】
 『魔王』を追う自称『勇者』。ぼさぼさのロングヘアーが特徴的。
 出身は北極と言い張るなどマイペースな性格だが、僅かな矛盾や嘘を即座に指摘できる怜悧な頭脳と、年齢に見合わない大胆さを持ち合わせる。
 幼少の頃、プロのバイオリン奏者だった母の演奏会に付き添っていたところを『魔王』によるテロに巻き込まれる。
 その際に目の前で母親を殺されたことが強烈なトラウマとなり、以来仇である『魔王』を追い続けている。
 バイオリンは母の教えもありCDデビューを果たしたこともあるほどの腕前だが、過去のトラウマより現在は封じている。

【参戦時期】
 本編開始前、舞台となる学園に転校する直前。

【方針】
 聖杯は気になるが聖杯戦争には懐疑的。今のところは様子見・情報収集。


584 : ◆jpyJgxV.6A :2017/05/17(水) 23:48:33 pnZqQKnM0
投下終了です


585 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/18(木) 00:05:19 7ahW3/Kk0

 皆様、多数の力作のご投下、本当にありがとうございました!
 多少私の不手際で遅れてしまいましたが、これにて本企画の登場話コンペを終了致します。
 OPの投下につきましては、5/28の午前0時を予定しています。もし執筆が遅れる、また前回のようなアクシデントが起こって投下が遅れそうな場合、今度は遅くとも数日前までには連絡させていただきます。
 それでは改めて、たくさんのご投下ありがとうございました!

(※また、書かれていない分の感想についてはOP投下までの間に必ず投稿致しますのでもう暫くお待ちを……)


586 : ◆ZjW0Ah9nuU :2017/05/18(木) 01:27:58 chN/lphk0
お疲れ様です。
OP投下をお待ちしております。
また、コンペが終わってからで恐縮ですが、
拙作『大往生したなどと誰が決めたのか』について、把握媒体に原作の陽蜂以外のボス及び道中敵の把握情報を追記しておきました。


587 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/27(土) 14:38:44 Pb3.HSp.0
>小鳥遊六花&ライダー
 中二病でも恋がしたい!より小鳥遊六花と、ドラッグオンドラグーン3よりゼロですね。
 読みやすく、また、軽快な掛け合いが魅力的なSSだったと思います。
 聖杯戦争に身を投じるとは思えない呑気な六花の雰囲気は、まさに彼女らしくて面白かったです。
 とはいえゼロの方は、実に災難と呼ぶ他ありませんが……。
 実際に聖杯戦争が激化すれば六花も今のままではいられないでしょうし、それも含めて今後が楽しみなお話でした。
 ご投下、ありがとうございました!

>F■te
 Fate/SNより遠坂凛と、FGOよりエミヤ・オルタですね。
 原作凛とFGOのエミヤ・オルタを組ませるという発想に、思わずやられた、と感じました。
 反転していないエミヤとのやり取りを知っているからこそ、二人の掛け合いは実に新鮮です。
 主従の性格面の相性は決して良くはないようですが、エミヤ・オルタの優秀さがその辺りをカバーしてくれるのか否か。
 どう転ぶにせよ、どんな物語を辿るのか、どんな結末を迎えるのか。非常に気になるお話だったように思います。
 ご投下、ありがとうございました!

>Walk Like an Egyptian
 真・女神転生if…より宮本明と、ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章より獣王グノンですね。
 召喚が成立するや否やの波乱に、グノンの一筋縄では行かなさがよく表れていると思いました。
 明ではサーヴァントには到底敵わず終わるかと思われた矢先、現れる魔神の側面。
 サーヴァントにも劣らないアモンの威厳ある口調が、実に重々しい雰囲気が有ってよかったと思います。
 一先ずは共闘関係の成立した魔神と獣王の主従の行く末がとても楽しみです。
 ご投下、ありがとうございました!

>その執事、G線上にて
 G線上の魔王より宇佐美ハルと、黒執事よりセバスチャン・ミカエリスですね。
 サーヴァントというよりはセバスチャンの言動はまさに執事のそれで、その為主従の雰囲気も聖杯戦争ではなく、本来の意味での主従関係のように感じられました。
 聖杯戦争のシステムの疑問点などについて考察する辺りも、企画主としては読んでいてなかなか面白かったです。
 そしてお話の後半、ハルが見せた硬く、強い覚悟。
 彼女の復讐が果たして成るのか否か、それは今後次第、といったところでしょうか。
 ご投下、ありがとうございました!


588 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/27(土) 14:38:57 Pb3.HSp.0


 感想が大変遅れて申し訳ありません。
 また、OPが完成致しましたので、予告通り今晩午前0時より当企画のOP(当選発表)を行わせていただきます。


589 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:00:08 QExpRb6o0
OP投下を開始します。


590 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:01:42 QExpRb6o0
■00:極楽浄土


 ――或る世界、或る国に、一人の優秀な男が居た。家柄に恵まれ、顔に恵まれ、才能が有りながらも努力の必要性を理解していた彼は、当然のように非の打ち所のない人格者として大成した。優秀であると同時に謙虚。勝って驕らず負けて恥じない、社会の誰もが模範として見習うべき男。彼に反感を抱く者は少なからず居ただろうが、その動機は殆ど全てが嫉妬だ。その証拠に、彼に向かっておまえの此処が気に入らないと吐ける人物は皆無だった。

 彼とて、何も生まれながらにそのような人物だった訳ではない。人間誰しも産声を上げた時は白紙だ。其処から経験という名の着色が重なっていき、一つの人格が出来上がるのだ。彼がこのように理想的な人格を形成するに至ったその源泉は生まれでも育ちでもなく、歳を重ねる中で次第に固定されていった、その視線の方向性にあった。
 この世は大きく分けて光と闇に大別される。光は進歩、善、勝利。闇は腐敗、悪、敗北。完全な中庸という物も中には有るのだろうが、それはあくまでごく一部の悟りを開いた超越者か、精神構造の破綻した欠落者であるから此処では見ない。
 悪は言わずもがな大概の場合に於いて糾弾される。一方で光に由来する概念は、万人に喜々として推奨される。
 光は素晴らしいという論理に異議を唱える者はまず居ないのだから、必然、どういう風に生きれば成功出来るかはある程度決められている。万人が進む方向が、あらかじめ確定されているのだ。これに気付いた時、男は心から感心した。何と分かり易く、素晴らしい世界だろう。どんな人間でも、人生の方向性を迷わず理解することが出来るのだから。

 とはいえ、それはあくまでも希望的観測だ。理論上の話であって、現実をまるで解っていない理想論である。
 この世は様々な事情が複雑に絡み合い、怪奇して成り立っている。金や権力その他諸々の事情は無能者や悪の台頭を容易く許し、光を推奨していながら誰もがそれらに目を瞑っている矛盾が深く根付いていることも、男はきちんと理解していた。それも現実なのだから仕方ないと、そう割り切って納得することが出来た。
 仮に自分がそういった概念を良しとする人間を質したところで、全てに於いて恵まれているおまえに言っても理解できないと返されればそれまでだ。個人としてどれだけそれらの要素を忌み嫌おうが、個人の意思で社会は変えられない。それらは最早、外すことの出来ないこの世の一部となってしまっているのだから。

 それを是正したいと思うならば……それこそ世界そのものを一度叩き壊し、悪の決して蔓延しない世界法則で上書きするくらいの荒唐無稽な所業が必要になる。当然、そんなことは人間には不可能だ。無論、世界法則の改変なんて胡乱げなものを追い求める程、男は暇な馬鹿ではなかった。
 結論から言えば、彼は妥協することにした。世の中に幾らでもありふれている、極めて利口な選択だ。


591 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:02:48 QExpRb6o0


 綺麗なもの、理路整然としたもの。どれだけそれらを愛していても、全てがそうはいかない。それが現実なのだ。
 そう悟り、せめて社会の上に立った際には、今より間違いの少ない公正な評価を人に与えるシステムを構築しようと、考えの幅を狭めた。士官学校を首席で卒業し、彼の生まれた国では最も手早く現実的に莫大な権力を手に入れられる軍人としての出世を目指して進むことにした。
 彼は純粋だったが、しかし知性に溢れるが故に常識的な人物でも有った。人間の、世界の限界をきちんと理解し、出来ないことは出来ないと認めた上で最善を目指してみようという紛れもない善性が有った。
 彼は間違いなく傑物だった。その思想を保ちつつ、より深い部分の現実を知りながら進んでいき、社会の頂点に君臨することがあったなら、世界は確実に幾らか良い方向へと進んでいただろう。だが結論から言えばそうはならなかった。男はあろうことか嘗て描いた荒唐無稽な理想を拾い上げ、それを実現させるべく悠々と歩み始めてしまったのだ。
 ――全ては、答えを見てしまったから。物事にはどうしようもない限界が存在するというその考え自体がまず愚かだったのだと、思い知ってしまったから。根拠を得、希望を見た男は止まらなかった。男らしく大義を抱いて突き進み、心を痛めながら非道に手を染め、最期は雄々しく煌めく白騎翔(ペルセウス)の前に敗れ去った。

 この世は全て上か下か。
 あるべき秩序の下に敗れたのなら、是非もなし。
 だが――その敗走に"先"が有ったのなら?

「生憎、私は欲深な人間でな。物事を妥協しないなどと、耳触りのいい言葉で取り繕う真似はしないとも」

 彼は、喜々としてそれを選び取るだろう。
 事実、そうなったからこそこの審判者は此処に居るのだ。
 抱いた夢を実現する為。
 望んだ世界を創る為。
 全ては、光が報われる秩序の為に。

「――では、これにて役者は出揃った。始めようか、我らの聖杯戦争を」


592 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:03:43 QExpRb6o0
■01:覇を吐く益荒男――藤丸立香&セイバー


 カルデアのマスターこと藤丸立香にとって、街中を自由に歩き回るというのは随分と久し振りの経験だった。何せきっかり一年ぶりだ。日々の暮らしの中で飽きるほど見てきた筈の街並みは一周回って新鮮なものに感じられ、NPCとはいえ同じ時代を生きる人間がショッピングを楽しんでいる光景にさえ感じ入るものがある。
 そんな遠境の仙人めいた感覚を覚えている彼は、あろうことかまだ酒も飲めない齢の少年だ。ひょんなことから世界の命運を懸けた戦いに身を投じる羽目になってしまった彼も、一年前まではごく普通の民間人だった。それが数多の英霊と絆を結び、特異点を踏破し、遂には魔神王の大偉業を阻止する功績を挙げたというのだから人生は解らない。そして今立香は、その疲れも抜け切らぬ身で新たな騒動に巻き込まれていた。
 混沌月、Chaos.Cellの聖杯戦争。レイシフトを経由しない突然の転移に加え、カルデアとの通信は未だ不通のまま。数々の危機的状況を乗り越えてきた立香をして、これまでで有数の"不味い"状況であると断言出来る。それでも彼は、割合呑気に冬木での暮らしを満喫していた。

『……改めて思うがおまえさん、本気で胆の据わった男だと思うぜ』

 穂群原学園の制服に身を包み、鞄を片手に帰途に着く己のマスターを見て、呆れ混じりにセイバーのサーヴァント、坂上覇吐は呟いた。立香も弱小とはいえ魔術師だ。本来の聖杯戦争がどんなものであるのかは認識しているだろうし、今回の事態がそれに輪を掛けて悪辣なものであることも承知している筈。

 通常、聖杯戦争の参加者には自主退場……マスターの権利を放棄して戦争から抜ける選択肢が与えられている。降りたからと言って全く危険がなくなるのかと言うとそういう訳ではないのだが、それでも参加し続けているよりはずっと確実な安全性を確保することが出来る。そして今回の聖杯戦争には、そういった救済ルールがない。一度舞台に上がってしまったなら強制的に最後まで踊らされ、やがて来る結末を待つしかない。
 勝って帰るか、負けて死ぬか。その癖して聖杯戦争への参加は個人の意思に由来しない等、兎に角質が悪すぎる。この趣向を考えた奴は余程性根が腐ってると、セイバーは思う。無論、巻き込まれた側は堪ったものではない。震え、怯え、泣き喚いて、自分の不運を嘆いたとしても無理のないことだ。
 その点、立香は毅然としていた。今や民間人ではないにしろ、死ぬ確率の方が高いような蠱毒の宴に連れ込まれて尚嘆かない。無双の益荒男であるセイバーの目から見ても、驚くべき度胸であった。
 そんなセイバーの声に、立香は苦笑しながら答える。

> 別に、怖くないわけじゃないよ

 立香は至って普通の人間だ。特異点巡りの旅の中で成長は重ねているものの、恐怖心や緊張と言った感情を完全に切り離すことの出来る超人ではない。弱音を吐いたところで何かが変わる訳ではないと知っているからそれらの言葉は吐かないだけで、内心は恐怖と緊張、その他当たり前の感情が渦巻いている。
 忘れてはならない、彼は凡人なのだ。出来ることと出来ないこと、やりたいこととやれないことの分別が付いている、ごく普通の只人。

『そうかい。それなら尚更立派ってもんだ』

 只人が勇気を振り絞って、大いなる運命に立ち向かう。セイバーにとってそれは、十分賞賛に値する事柄だった。そういう男だからこそ、共に往く価値がある。この剣で守る意味がある。
 セイバーの気配を隣に感じながら、立香はまだ寒さの残る春の空を見上げる。この街を訪れて、何度となく繰り返してきた動作。視界の先に光帯はない。されどこの空は再現された偽物であると言うことを、皮肉にも傍らの相棒の気配が告げてくれる。

 ――マシュには、また心配をかけちゃうな。

 自分は大義だけで行動できる人間じゃない。聖杯戦争をどうにかしなきゃいけないと口では言っても、心の奥には"カルデアに帰りたい"という月並みな願望が鎮座している。そしてそれを悪いことだと、立香は思わない。何故ならあの場所には、自分を待ってくれている人達が沢山居るからだ。だから、帰らねばならない。こんな場所では、死ねない。

> もう少し待ってて。必ず、帰るから

 一年を共にした盾の少女に想いを馳せながら、人類最新最終のマスターは令呪の刻まれた右手を硬く、硬く握り締めた。第七天のセイバーは紛うことなき豪傑、益荒男であるが、彼とて負けてはいない。益荒男とは、強き力のある者に非ず。揺るがぬ意志、輝ける魂をその身に宿し、抱いた大志へ突き進む男児の事を示すのだ。
 握った拳、燃やした決意は潰えない。彼らが彼らである限り、絶対に。


593 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:04:37 QExpRb6o0
■02:再構築(Re:Birth)――天願和夫&アサシン


「もうじきか」

 穂群原学園最上階、理事長室にて、感慨深げに呟く老人の姿が有った。温和そうな顔立ちは確かな知性と年季を湛えており、同時に鋼の如き強い意思の光を窺わせる。人生の酸いも甘いも噛み分け、老いはしても枯れてはいない。そんな老爺だった。彼の袖下から覗く皺だらけの手首には、鮮烈な三画の令呪。

「長かった……とは、思わんな。寧ろ短かった。わしとしてはもう少し、念入りに準備をする時間が有っても良かったぞ」

 穂群原学園理事長の肩書きなど所詮偽り。右手の令呪がその証左だ。この天願和夫という老爺は譲れない願いを秘めてこの世界を訪れ、暗躍を重ね、幾人もの願いある敵を蹴落としてきた曲者である。弄する策と話術で立ち回り、静かなる勝利を重ねてきた彼は今、晴れて本戦出場の資格を勝ち取ることに成功していた。
 厳密には、まだその通知が行われた訳ではない。だが新聞やらゴシップ誌、学生の噂に上る怪奇現象や事故事件の件数が明らかに目減りしてきている事から、ルーラーが言うところの予選段階は直に幕を閉じるのだろうと天願は推察した。事実それは当たっている。昨晩のある主従の脱落によって、聖杯戦争開始に向けた剪定は終わりを告げた。
 後はルーラーより正式なアナウンスが掛かればいよいよ聖杯戦争、その本戦が幕開ける。各々が己の希望を求めて潰し合う姿は想像するだけで悍ましく嘆かわしい。されど、自分もまた同じ穴の狢だ。大いなる目的の為とはいえ汚れた物だと、天願は小さく苦笑する。
 
 だが、感慨に浸るにはまだ早い。
 まだ、所詮予選を突破しただけだ。
 自分と同じく入念な備えと策謀で生き残った者、サーヴァントの性能に任せて勝ち残った者、只の幸運で難を逃れることが出来ただけの者。一口に生存者と言ってもこの通り千差万別だ。そしてその全てが、形はどうあれ、何十という主従による熾烈な予選を勝ち抜いた油断ならない強敵であると天願は評価していた。運も実力の内という言葉は、あながち戯言でもない。現に彼が理事長を努めていた希望ヶ峰学園には、冗談としか思えないような"幸運"を持つ生徒も在籍していた。
 たとえ直接的な力がなくとも、運の良さなどという胡乱な概念で此方の計画を狂わせてくるというのなら、それは十分脅威と呼ぶに値しよう。少なくとも天願はそう思っている。

「その辺り、君はどう思う? アサシンよ」
「白々しいな。そもそもアンタは、僕の意見なんて求めちゃいないだろうに」

 天願の問いに答えるのは、赤いフードと甲冑に身を包んだ青年だった。
 人相は巻き付けられた白帯で隠され解らないが、声と体格から男性であると判別が付く。
 彼こそ、この老獪なる善人に召喚されたアサシンのサーヴァント。厳密には英霊と呼ぶべきですらない、此度の戦争の異常性を象徴する、抑止力の代行者である。吐き捨てるような声色にマスターへの忠誠や信頼なんて概念は毛ほども見受けられず、このほんの僅かなやり取りだけでも彼らの主従仲がどんなものであるかを窺い知ることが出来よう。

「勘違いだけはしないことだ。僕の目的はアンタを戦争に勝たせることじゃないし、アンタに聖杯をくれてやることでもない」
「勿論解っておるよ。君は聖杯を見極める、わしは君の判断に従い、この戦いにどう臨むかを決める」

 アサシンは、聖杯に夢を見ない。寧ろその逆、深い嫌悪の念を抱いている。
 普通こんなことをサーヴァントがマスターに言おうものなら、その場で疑念の楔を打ち込んでしまうのは間違いない。世の中には、サーヴァントが願いを持たないと言っただけで不信感を抱くマスターすら居るほどなのだ。聖杯なんて碌なものじゃないと、聖杯戦争に呼ばれておきながら宣うサーヴァントなど、一体誰が信用するのか。
 そして彼は、それならそれでいいと思っていた。元より聖杯戦争などしたくもない。マスターが敵意を示してくれるなら、此方も心置きなく切れるというものだ。その点、この老人は厄介だ。アサシンに譲歩しつつも聖杯獲得の野心はぎらついており、老いたが故の策謀で此処まで生き残ってみせた。

「仮にどちらに転ぼうと、わしのやるべきことは変わらん。過程が多少異なるだけであって、結果は同じ形になる」
「……、世界を救う――か。愚かな理想だな。反吐が出るほどに」
「理想ではないさ。わしはそれを実現させる手段を、現実に所持しているのだからな」

 ――天願の救済とは、希望を名乗る地獄の具現化だ。
 絶望することの許されない、作られた希望の楽園。
 それを知った時、この赤い暗殺者は何を思うのだろうか。
 この――かつて正義の味方を目指し、零落した愚かな男は。


594 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:05:28 QExpRb6o0
■03:彼岸――夏目吾郎&ライダー


 休憩中なのをいいことに屋上に上がり、外のコンビニで調達した煙草を吹かしている、一人の医者が居た。
 それだけ見ればなんて勤務態度の劣悪な藪医者なのだと憤りさえ抱かれても可笑しくはないが、その外面に反して、彼は超の付く腕前を持つ若き天才外科医として知られていた。病院の古参医師達は嫉妬し、生意気だと酒の席で陰口を叩き、後輩や研修医達は羨望の目を向ける。助けてきた命の数は十や二十では利かないし、その中には真っ当な医者なら絶対に受けたがらないような難手術を行わなければならないケースも数多く含まれていた。
 それを、日本はおろか世界で見ても極めて高い腕前で成功させてきたこの男の名は、夏目吾郎と言った。
 フェンスに体重を預けながら煙草を咥え、空の向こうを見つめる二枚目。絵画に直せば絵になる光景だろうが、夏目は今、そんな冗談で笑える気分ではなかった。尤も、彼が今陰鬱な気分にあることを見抜ける者は、この冬木市では今のところ一人しか居ないのだったが。

「今日は随分とおセンチじゃないか。何かあったのかい」
「……ライダーか。まだ昼間だぞ、実体化には気を遣えよ」
「見られたなら、その時は存分に喧嘩するだけだよ」

 実体化して、夏目の隣でフェンスに凭れ掛かるは白髪白磁のライダー。
 浮世離れした服装は、彼女が人ならざる身、人里ならざる地から来た存在であることを象徴している。
 後天的不死者、永遠の時を生きる不死鳥。未だ死を知らぬ身で聖杯戦争に召喚された、イレギュラーな英霊もどき。
 彼女に雰囲気の暗さを指摘された夏目は煙草を口から離し、苦笑しながら「そう見えるか」と呟いた。それに対しライダーは、「ああ」と短く答えて頷く。

「昨日の真夜中に急患があってな。女子高生だ。運ばれてきた時にはもうひどく失血してるわ内臓は潰れてるわで、どんな医療設備を使っても助からないような有様だった」
「死んだのか」
「言ったろ、どう頑張っても助からない有様だったって。処置に立ち会った連中は、皆内心諦めてたよ」

 夏目吾郎は間違いなく名医だ。彼を藪と謗れば、世界中の大多数の医者はままごと遊びに興じる子供も同然である。
 医者は万能ではない。どうしても医療には限界がある。夏目が昨夜立ち会ったのは、詰まるところそれだ。
 
「一応、オレはやれるだけのことはやった。けど、集中出来てたかと言われると自信がない」
「へえ。珍しいじゃないか」
「そいつの右手にな、有ったんだよ」

 皆まで言わずとも、ライダーは夏目の言わんとすることを理解出来た。
 此処が聖杯戦争の舞台となっていることを鑑みれば、答えなど考えるまでもなくただ一つ。
 不幸な死を遂げた少女の手には、有ったのだ。サーヴァントを従える絶対命令権、黄金の杯に至る為の鍵――令呪が。

「"そういうこと"だろうな。サーヴァントを連れてるマスターが間抜けに事故死なんて、まず有り得ない」
 
 夏目吾郎は聖杯戦争に乗る気でいる。他の主従を蹴落として、自分の願いを押し通すつもりでいる。その結果仮想世界から出られずに消滅する者が出ようが、場合によっては自分のライダーによる攻撃で命を落とす者が出ようが、止まることなく駆け抜けるつもりでいる。そのことについては、今も変わっていない。そして、これからも変わることはないだろう。

「成程ね、そういうことか」

 しかし夏目にとって、目の前で繰り広げられた光景は、予想を超える衝撃だった。
 何故なら彼は医者だから。命を救い続け、救えない度に拳を握り締めてきた、そういう人間であるから。
 自分の加担している戦いで命ある誰かが命を落とした――あれほど覚悟していた筈で、これまでも視界に入らなかっただけでずっと繰り広げられていた現実。願いを叶えると宣言しておきながら今更そのことにショックを受けるなど屑もいいところだと、夏目自身そう思う。だが現実に、その光景は彼を激しく揺さぶった。

「で? やめるのか、聖杯戦争」
「やめねえよ。第一やめたくてやめられるもんでもないしな」
「それもそうだな」
「ただ、まあ……あれは結構堪えた。笑い種だよ、お前も、どの口で覚悟だとかほざいてんだと思ったろ?」

 結局のところ、夏目はただの一般人なのだ。願いを叶える戦いに参戦する権利を得ただけで、得てしまっただけで、血風の乱れ舞う戦場を潜り抜けた戦士でもなければ目的の為に心を殺して非道を働ける魔術師でもない。愛しながらも失うしかなかった女を取り戻したいと願う、一般人。

「別に」

 主の弱音に対し、ライダーはつまらなそうに答えた。

「そんなもんだろ、人間なんて」

 果てのある青空が、果てしなく広がっている。
 そこに――半分の月は、ない。


595 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:06:24 QExpRb6o0
■04:新世紀――市原仁奈&キャスター


「"ともだち"は異常だ」

 ある居酒屋でそう口にしたのは、かれこれ四十年程敏腕を奮ってきた五十嵐という老年の刑事であった。グラスに注がれた琥珀色の上等なウイスキー、氷の三つほど浮かんだそれを啜る表情は芳しくない。伝説と、時には捜査の神とまで称されてきた上司がそんな顔をしているのだから、一緒に酒を呑んでいる部下の態度も自然と引き締まる。
 "ともだち"というのは、此処数週間で急激に勢力を伸ばしたある新興宗教の名だ。教祖の名でもある。奇怪な覆面を被った、変声器にかけたような声で喋る不気味な人物。にも関わらず、人を惹き付ける話術とカリスマ、人心掌握術を高い域で持ち合わせる怪人。
 
「"ともだち"が活動を始めてから、セミナー用に借りたスペースを埋めるだけの信者を集めるまで僅か一週間。当然今は更に信者を増やしてる。胡散臭い新興宗教はごまんと有るし、対応したことも有るが、これほど手が早いのは初めてだ。ありゃ、絶対にまともな人間じゃない。今に何かしでかすぞ」

 この二十一世紀で刑事の勘などと豪語すれば失笑されること請け合いだが、五十嵐は何も、当てずっぽうや偏見でそう言っている訳ではない。
 
「……既に手遅れかもしれんが、な」

 そう言って五十嵐が懐から取り出したのは、折り畳まれた一枚のチラシだった。それを受け取って開いた部下は、驚きに目を見開く。事の真偽を確かめるように五十嵐の方へと目線を向ける彼に、五十嵐は重く深刻な顔で頷きを返した。
 
「主婦失踪事件があったろう。夫はシラを切ってるが、あれは十中八九クロだ。
 証言の矛盾は多いわ、少しでも突っ込むとすぐしどろもどろになるわ。引っ張られるのも時間の問題だろう。勿論引っ張るなら早い方がいい。そう思って個人的に例の夫婦の事件前の動向を探ってみた……これは、その過程で入手した物だ」
「これ……"ともだち"の」
「ああ、連中の講演会のチラシだ。夫婦の自宅裏の茂みに丸めて捨ててあった。他にも多くの人間から、夫婦共々"ともだち"にお熱だったという話が聞けたよ」

 生唾を飲み込む音がした。五十嵐の話を聞いている部下が緊張のあまりに発した音だった。
 一方の五十嵐は粛々としているが、いつもより酒を呑むペースが早い。酒が尽きたのを察し、部下が二杯目を注ぐ。
 注がれた二杯目が一気に飲み干されたので、部下はすかさず次を注ぐ。少し手間取っている様子に、張り詰めた心が和らぐのを感じた。

「警察は馬鹿じゃない。死体はすぐあがるだろうし、そうなれば夫もじき捕まる。問題は動機だ。何故妻を殺したのか、"殺さなきゃならなかったのか"。転勤族の疲弊と言われちゃそれまでだが、俺はそうじゃないと睨んでる。この失踪……もとい殺人には、あの宗教が一枚噛んでる筈だ」

 五十嵐の眼は、目の前の事件だけを見据えてはいなかった。彼は更に先……今後の展開をも見ている。"ともだち"が引き起こす事件、犯罪。それを抑止する為にも何とか今回の一件を通じてその素性を探りたい腹が、部下の男には手に取るように理解出来た。
 流石は伝説と呼ばれた刑事。男は深く感心し、其処に尊敬の念を抱く。まさしく彼は刑事の理想だ。

「……ぐっ!?」

 だからこそ、とても残念だった。
 彼が、"ともだちの正体を突き止める"なんて馬鹿な目的を抱いてしまったことが。
 
「ぐ………こ、れは……ナ、ん……ッ」

 グラスを傾けるペースで、彼が興奮していると解った。
 二杯目を一気に飲み干したところで、警戒心が完全に解けていると解った。
 三杯目を注ぐふりをして、グラスの飲み口に毒薬の粉末を付着させた。一舐めでも確実に死に至る凶悪な劇薬だ。
 尊敬している上司にこんな真似はしたくなかった。でも、しなければならなかった。

 何故なら、"ともだち"の為だから。それに、皆が見ている。

「あんた、やり過ぎだよ」

 店内の全員が、能面のような無表情で、息絶えた五十嵐を見ていた。
 其処に目の前の状況への恐怖は微塵もない。何故、恐れる必要があろうか。
 
 これは、"ともだち"の為にやったことなのに。


  ◆  ◆

 
「さあ、始まるよ」
「なにがでごぜーますか?」
「全部さ。僕達の全部が、これから漸く始まるんだ」

 "ともだち"が笑っている。
 それがなんだか楽しくて、仁奈も釣られて笑う。
 平和な時間であり、無邪気な時間だった。

「そうだ。特別に、"よげんのしょ"の続きを一ページだけ見せてあげよう」
「! ほんとでごぜーますか!?」
「ああ。今日は特別な日だからね」

 目の前で、自由帳のページが捲られていく。
 冬木に大いなる厄災を呼ぶ、予言の聖書が捲られていく。
 
 そして、開かれたページには――


596 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:07:11 QExpRb6o0
■05:蜂示録――キャスター


 ヒトを救う、更なる高みへ導く。歴史上、そういった言葉を口にした人間は数え切れない程居る。然しその中で実際に大勢の人間を救えた者が一体どの程度居るかと言えば、実際のところの数はごくごく微小である。精々救えて、身の回りの誰かを幸せにしてやれる程度。中にはそれすら全うできずにあらぬ方向へと迷走し、狂人扱いをされながら生涯を閉じた者まで居る。もしくは、静かに掲げた理想(ユメ)を諦め、現実を受け入れて人並みの人生へ戻るかだ。
 ヒトではヒトを救えない。人間は兎角罪深いと性悪説を回す必要すらなく、そのことは明らかなのだ。二十一世紀の科学をしても完全には解き明かせないほど複雑な構造をした脳を持つ人間を、ヒトの身で完全に救済するなど不可能。幾つかの例外が有るのは確かだが、概ねそうした結論になることは歴史が証明している。
 では、人類を救い、且つ高みへ導ける例外とは一体どんな人物なのか。それもまた、歴史を見れば解る。キリスト然り、仏陀然り。ヒトならざる領域の要素を生まれながらに持った超越者達だ。彼らは時に奇跡を見せ、教えを授け、高潔な者達を作り出した。そこな敗者のまま潰れて終わるだけの命が、彼らのお陰でどれほど偉大に昇華されてきたことか。

 そして今、冬木の地にもまた、そうしたヒトならざる救済者が降り立っていた。水色の頭髪は作り物めいて美しく、顔立ちは愛らしく、華美さと気品を兼ね備えた衣服は幻想的の一言に尽きる。彼女が神に遣わされた天使だと説明されたなら、思わず納得してしまいかねないような――そんな、見目麗しい少女であった。

「はー、今日も働いたなあ」

 されど、忘れるなかれ。
 彼女は確かに救済者だが、その救済は人間が想像するところの救済とはかけ離れている。どんなに救いに飢えた人間でも、彼女の救済手段を聞いたなら顔色を青褪めさせて脱兎の如く逃げ出すだろう。慈愛でもなく、残酷でもなく、悪辣な訳でもなく、そのどれよりも質が悪いと言って差し支えない。
 ただただ、奇怪なのだ。彼女の言う所の"救い"は。ヒトの身体を失い、機械化して異形に……戦車に成り果てる。可憐な少女の周りに元・人間の戦車――機械化惑星人が集っている絵面はまるで趣味の悪いカリカチュアだ。これで救いは成っていると言うのだから、陽蜂というサーヴァントがどれだけ狂っているか、外れているか解る。
 彼女こそは異端のサーヴァント。自分のマスターすら機械化させるという所業を働きながら、機械化惑星人の特性により悠々と生き延びている理想郷の住人。彼女には罪悪感も不安も焦りも、何もない。精神異常に近い底抜けの明るさが心理的影響を跳ね除けて、彼女を救いの者たらしめる。

「でも、まだまだだよねっ。だってこの街には、まだたくさん救われない人達がいっぱいいるんだもん」

 エレメントドールならぬエレメントドーター。
 人類からその形を奪い、可能な限りの救いを振り撒く最低最悪の毒蜂。
 
「―――そうでしょ、マスター?」

 同意を求められたマスターは既に、彼女に"救われて"いる。
 物言わぬ戦車に変わり果て、永遠不変の自立型兵器となった。
 こんな姿になっても彼はまだ、陽蜂の魔力炉として使われ続けている。
 死ぬ選択肢を選ぶことさえ許されない。そもそもそんな機能は残されちゃいない。
 彼の不運は全て、このサーヴァントを呼んでしまったことに集約される。

 彼女だけは、喚んではならなかった。
 彼女さえ喚ばなければ――引きと運次第では聖杯戦争を勝ち抜き、夢見た願いを叶えられる可能性だってあったろうに。

 救われた機械達に囲まれて、蜂は嗤う。羽音の代わりに、少女特有の甲高い声を響かせて。

 光の皮を被った闇の聖女は、終末思想と比較して尚おぞましい理想を胸に、楽園という名の地獄を振り撒いていく。


597 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:08:11 QExpRb6o0
■06:魔人行軍――ケイトリン・ワインハウス&ランサー


「ランサー、はあっ、開戦までは、あと、どれくらいなの?」
「知るかよ、ルーラーに聞けや。だが、まあ……間違いなく遠くはねえだろ。分かんねえかよ、空気が違うぜ」

 其処は、クラブハウスの地下に備え付けられたBARだった。冬木は都心に比べればやや辺鄙な地方都市だが、それでも繁華街に近付けばこうした若者向きの店の一軒や二軒は平気で転がっている。その中でも特級に治安の悪い、非行と犯罪の温床となっている店。それが、ケイトリン・ワインハウスの主従が居る場所だ。
 人間の愚かしさ、浅ましさというものが此処には噎せ返るほど溢れている。淫行目的のナンパや暴力沙汰、カツアゲや悪徳商売。だがそれは、あくまで上のフロアに限った話。そんな"若気の至り"で済まされないほど堕落した者達が集うのが、この知る人ぞ知る地下フロアだ。此処には若者だけでなく本職のヤクザもやって来るし、違法薬物の取引も当たり前のように行われている。

「オイ、何だよこの糞不味い酒は。もっとマシな店なかったのか、ええ?」
「んっ、しょうが……ないでしょっ……!」
「…………」

 いや、"行われていた"とするべきだろう。
 ケイトリン達が訪れるようになってから、この店は大きく変わった。勿論、良い方にではない。底の底、そのまた底。蠱惑と破滅が満ちる、一度踏み入れば死ぬまで弄ばれる伏魔殿(パンデモニウム)。人生の足場を踏み外した高校生も、泣く子も黙る闇金業者も、ヤクザの名の知れた大幹部も、薬物中毒でほぼ廃人と化している者達も、誰もが彼女に触れて破滅した。まだ生きてはいるが、後はどれだけ長く保つかの違いでしかない。
 薬への欲望も裏社会でのし上がる野望も全て快楽に蕩かし、揃いも揃って自分より年下の外人少女に腰を振り、物を咥えさせている、悪質な乱交じみた光景がこうしている今も繰り広げられている。其処に悲惨さが全く無いのは、慰み者にされている側の少女が愉しそうに笑っているからだ。彼女はこの状況を満喫している。壊れている訳でも無理をしている訳でもなく、真実素面で。

「――コラアバズレ。盛るのは構わねえがよ、せめて場所変えろ莫迦。只でさえ不味い酒が余計腐るだろうが」
「何、あんたも混ざりたい? 別にそれでも良いわよ、あんたこいつらより巧そうだし」
「この有様じゃ勃たねえよ、小汚え」

 ケイトリン・ワインハウスは人外だ。
 元は市井に生まれ落ちた、向上心が妙な方向に高いだけの高飛車娘だったが、ある高名な吸血鬼との邂逅により、とうとう人間の枠から逸脱した。ケイトリンは縛血者などと自らを卑下しない。自分こそ超越者であると信じているから、このように破滅の快楽を振り撒くことを躊躇わない。黒円卓の魔徒も認める悪の資質を、ケイトリンは有している。
 彼女は吸血鬼としての力を用い、社会からドロップアウトした者、それを我が物顔で食い物にしている者、その両方を自分の部下に変えた。戦闘能力は屑も良い所だが、知能の残っている奴は情報収集に使えるし、完全に飛んでしまっている奴は自爆テロの真似事でもさせれば盤面を掻き乱せる。その筋に繋がりのある奴は最高だ、銃器の入手が困難な日本に於いては非常に貴重な武器を大量に得られる。
 
 いずれ上回りたいと思ってはいるが、今のケイトリンでは逆立ちしてもサーヴァントには勝てない。だがマスター相手ならば話は別だ。こうやって外堀を埋めたり、最悪拉致して適当に心でも折ってやれば、間接的にサーヴァントを殺害することも十分に可能だとケイトリンは考えている。
 仮にそれが不可能でも、揺さぶりさえ掛けられれば後はランサーに任せればいい。この、凄まじき先人に。

"羨ましいわね、本当――"

 ヒトの規格を外れただけでは飽き足らず更なる力を希求し続ける少女にとって、ランサーは信頼出来る相棒であり、同時に羨望と嫉妬の的だった。厳密には自分と彼は同属ではないが、ケイトリンにとってそんなものは慰めにもならない。仕組みや理屈が違おうが、根幹から別種だろうが、吸血鬼と言う枠組みで自分が彼に劣っている事は明白なのだから、細かい事情がどうあれ羨まずにはいられない。
 今も脳裏に焼き付いて離れない、あの鮮烈な夜の世界。息が止まり、思わず見惚れた。元々聖杯を狙う腹積もりでは有ったが、それを後押ししたのは間違いなくランサーだ。魔性の女として人を魅了してきたケイトリンが、ものの見事に魅了された。彼の、暴力に。

"見てなさい。絶対――あんたを超えてやるんだから"

 悪童は不敵に笑う。自身が吸血鬼さえも超越した、真の魔に成り上がる未来を夢見て。


598 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:09:40 QExpRb6o0
■07:硝子の靴――ウェイバー・ベルベット&アーチャー


 ウェイバー・ベルベットの抱く鬱屈とした感情は、あの夜以来只の一度とて晴れた事がなかった。
 そも、何故こんなことになってしまったのか。其処からして、ウェイバーには不満だらけだった。
 全ては上手く行く筈だった。そう、行く筈だったのだ。冬木に渡って憎きケイネス師から盗んだ聖遺物を用いてかの征服王を召喚し、聖杯戦争を勝ち抜いて自分は脚光を浴びる。自分を家柄に託けて見下していた連中は考えを改め、腐敗した時計塔、ひいては魔術協会の仕組みすら大きく動く。そうした未来の為にウェイバーは行動していたのに、何故自分は今、仮想世界の聖杯戦争などに参加させられているのか。
 そして、その上で――こんな劣等感に苛まれ続けなくちゃならないのか。

「クソッ……」

 何もかも、何もかもが狂ってしまった。 
 突然おかしな聖杯戦争に巻き込まれたのも相当に面食らったが、それでもウェイバーは戦争に勝利してやる気満々でいた。冬木で正規の手順を踏んでいないという辺りにケチが付きそうでは有るものの、それでも聖杯を手にしたという実績は間違いなく今後の箔になる。おまけに、勝たなければ此処から出る事すら敵わないのだ。釈然としない思いを抱えながらでは有ったが、彼は彼なりに現実と向き合う準備が出来ていた。
 それを全部台無しにしたのが、あのアーチャーだ。傲岸不遜、傍若無人、貴族の悪癖を全部抱えたような忌まわしい女。
 奴はたったの一度も、自分に敬意を払った事はない。百歩譲って対等の付き合いを求めて来るのならまだ解る。然しウェイバーのアーチャーには、マスターを尊重しようと言う態度は皆無である。ウェイバーは彼女と会話する度、魔力炉にしか使えない塵めと嘲笑われている気がしてならなかった。そして事実、その通りなのだろう。あれは自分に限らず、己以外の何もかもを等しく嘲笑し、見下しているのだから。

 ウェイバーとて、そんな事に一々気を病んでいる自分が愚かなのだと言う事は理解している。どんな狼藉を働かれようが所詮はサーヴァント。適当に受け流しつつ持ち上げて利用するのが正しい魔術師の在り方だ。それは間違いない。されど頭で解っている事を百パーセント実現出来る人間の方が、この世の中では少数なのだ。そしてウェイバーは例の如く、それが出来ない人間だった。アーチャーの侮辱一つ一つに、馬鹿正直に向き合ってしまう手の人間であった。

「――はあ……何でこうなるんだよ。僕が何か悪いコトしたってのか……?」

 彼の中では、聖遺物を掠め取った事は悪行ですらない。正義は己に有り、あの行動は必要悪だったと信じている。
 何故なら自分はあのケイネスなどという愚か者とは違い、名声のみならず環境そのものを変えたいと願っているからだ。
 ……よく考えなくても破綻しているのが一発で解る馬鹿げた理屈だが、限界に近い精神状態のウェイバーには、考えを改める余裕すら有りはしない。彼はこの時まで勝ち残っておきながら、酷く追い詰められていた。サーヴァントと相性の悪さが此処まで響いてくるとは、彼自身思いもしなかったが。

 正しい出会いを経られなかった青い魔術師は苦悩し、疲弊し、それでも生き残った。
 予選、参加者の剪定を乗り切ったのだ。以前までの彼なら、やはり自分には才能が有ったのだと喜び、聖杯獲得への想いを一層強めていただろうが、今のウェイバーにはそこまでの気力は残っていなかった。プライドの高い人間にとって、自尊心を踏み躙られ続ける事がどれほどの屈辱であり、苦痛であるか。彼の姿を見れば、それがよく理解出来るに違いない。

 そしてそんな無様を晒すマスターを嘲笑って悦に浸るは、氷河姫の魔星。
 サーヴァント・アーチャー……真名をウラヌス-No.ζと言う、美しき花園の主である。

"嗚呼、なんて醜く見苦しいのかしら――矜持と実力を履き違えた愚物は"

 彼女はウェイバーとは対照的に、自信に溢れた様子だった。聖杯戦争を制するのは自分であると、微塵の疑いもなく信じている。霊体化している為表情は確認出来ないが、彼女がもし今実体化していたなら、冷徹な美しさを湛えた顔貌を悦びと憐れみの笑みに歪めていた筈だ。
 勝つのは私、論ずるまでもない。
 聖杯は我が花園に下り、奇跡は道理を捻じ曲げて、忌まわしき怨敵を必滅の裁きで以って抹殺するだろう。その時に英雄が発する断末魔を想像するだけで胸が躍る。戦いの原動力となる。

"我が復讐は、奇跡の降臨によって果たされる。それまで精々、切り捨てられないよう尽くす事ね"

 大虐殺の星、未だ健在。復讐の徒花は、咲き乱れる時を今か今かと待っている。


599 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:10:36 QExpRb6o0
■08:少女鬼譚――東雲あづま&バーサーカー


 スサノオと言う暗殺者はその職業柄、様々な"狂った"人間を目にしてきた。
 血で血を洗う凄惨な戦いを心から愛し、拷問と虐殺を繰り返す女将軍。
 躯を使役し、永遠に共に過ごす事を望んだ少女。
 自分の中の正義を妄信し、それにそぐわない者を悪と断じて殺戮する真性の狂人。
 そんな彼だから、断言できる。自分を召喚したマスターは、間違いなく狂人寄りの人間であると。

 冬木大橋の縁に腰掛けて、足をぶらつかせている灰がかった髪の少女。彼女こそが、スサノオ……サーヴァント・バーサーカーのマスターだった。東雲あづま。痛ましい虐待に日々曝されている、小さく華奢な幼子。年齢自体は見た目より幾らか重なっているのだろうが、その矮躯と性格の幼さから、実年齢を言っても信じる者は稀有だろう。
 その右手には、鳥の死骸が握られていた。死んでからもう結構な時間が経っている筈だが、それを持ち歩いている事に、少女は何の躊躇いも抱いていない。スサノオは其処まで踏み込んだ訳ではないものの、あの鳥は彼女の友人だったのだという。――否、彼女の中ではそれは過去形ではないのだ。現在進行形で、無惨な姿に成っても尚、あれはあづまの心を支え続けている。
 虐待に心を病み、唯一の拠り所である友人さえ奪われ、その結果心が壊れてしまった哀れな娘。それが真実ならばどれほど救いようが有ったろうか。だが生憎と、それは真実ではない。この東雲あづまと言う少女は、人間的な要素が幾つも欠落している破綻者だ。そのことをスサノオは、これまでの戦いの中でずっと目にしてきた。

 人の首を刎ね、死体を足蹴にして顔色一つ変えない。
 まるで人形を破壊するように淡々と、感慨も何もなく、彼女は敵を殺す。
 
「ねえ、バーサーカー」
「――どうした」
「あとどれくらい? 何人くらい?」

 あとどれだけ殺せばいいのかと、あづまはスサノオに問う。
 当然これは、一人も殺していない人間の台詞ではない。
 あづまは基本、戦略を立てない稚拙な考えの持ち主だ。当然其処をスサノオがカバーするのだが、それに付随する彼女の戦闘能力はマスターの域にはない。生半可な魔術師であれば一刀の下に両断してしまえる程の強さと無慈悲さを、あづまは高い水準で兼ね備えている。
 スサノオは知らない事だが、何も東雲あづまという少女は、常に異能者であったわけではない。
 ある異世界に於いてのみ使える筈だった異能を、仮想世界での聖杯戦争という土俵故、例外的に持ち込めているだけのこと。逆に言えばスサノオをして高い評価を下す戦闘能力を持つ現状でも、東雲あづまの全霊ではないという事なのだが。

「何とも言えんな。だが、前哨戦の終幕は時間の問題だろう」
「ぜんしょーせん?」
「……つまり、もうじき本番に入ると言う事だ」

 「そっか」と、あづまは喜ぶでも驚くでもなく蛋白に頷く。
 それから手元の死骸に向けて、愛おしそうに語りかけるのだった。

「もう少しだってさ、文鳥ちゃん。楽しみだね、わくわくするっ」

 参加者の剪定が終わり、聖杯戦争が本戦に入れば必然戦いの苛烈さはグレードアップする。これまでは苦戦する事なく勝ち残れていたとしても、此処からはそうは行かない。当たり前だが、自分が逆に滅ぼされる可能性も出て来るのだ。最早本戦が始まった時、冬木に残っているのは何十という主従の中から生き残った選りすぐりの猛者達のみであるのだから。
 だというのに少女は高揚と期待でもって、その時を迎えようとしていた。彼女は自己を過信してはいない。ただ勝利すると強く渇望しているから、岩のように不動でいられるだけ。そして言うまでもなくそれは、十代半ばにも届かない齢の少女が到れる境地では断じてない。
 ――東雲あづまは狂っている。改めて、とんでもないマスターに召喚された物だとスサノオは改めてそう思った。

 だとしても、スサノオは少女のサーヴァントとして戦い抜くだろう。
 何故なら彼はナイトレイド……虐げられる者達の為の刃であるのだから。


600 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:11:15 QExpRb6o0
■09:煌めく陽光――アルミリア・ボードウィン&セイバー


 聖者の数字――午前の加護を賜りし騎士は、立ち塞ぐ敵の悉くを輝く刃で蹴散らした。
 まさしく無双、圧倒的な戦い。限られた時間のみの特権とはいえ、彼の強さは驚くべき領域のそれであった。
 剣の一閃はあらゆる豪剣に打ち勝ち、白銀の鎧は如何なる魔術も跳ね除ける。
 陽光の祝福に護られたセイバーを相手取った者達は皆、驚嘆と絶望にその顔を歪めた。それを情けないと責める事は、出来ないだろう。三倍の力を得るとだけ書けば陳腐に聞こえるが、実現さえすれば最早暴力の領域である。策を捻じ伏せ、力をへし折り、尊き幻想と謳われる神秘をそれ以上の火力で打ち破る絶対の力。
 太陽の騎士……真名をガウェインと言うその騎士は順当に勝利を重ね、彼を召喚したマスター、アルミリア・ボードウィンも当然の流れとして、剪定期間を抜ける事に成功した。通達が為されていない以上彼女達はまだその事を知らないが、それもあと僅かな時間の間だけの話だ。

「怪我はない、セイバー?」
「ええ。誓って傷は負っておりません、どうぞご安心を」

 では、この高潔なる騎士の召喚に成功した幸運なマスターは果たしてどんな人物なのか。
 誰もが興味を抱く事項であろうが、その答えを知った者は皆、驚きを顔に浮かべる事だろう。何故ならガウェインを従えるマスターは、まだ十歳にもなっていないような幼い子女であったのだから。まるで嘘のような話だが、アルミリアの右手に刻まれている童女には似合わない朱い刻印が、それが偽りなき真実である事を物語っている。
 
「そちらこそ、お疲れではありませんか? 私も配慮しているつもりですが、そもそも貴女は魔術師ですらないのです。どうか、ご無理だけはなさらぬよう」

 混じり気のない善意からセイバーが口にした言葉は、アルミリアの胸にチクリと小さな痛みを与えた。
 そう、自分は彼を十全の形で扱えている訳ではない。努力ではどうにもならない魔力量の少なさという問題が、彼の強さに一抹の陰りを生んでいるのは疑いようのない事実だ。此処までの戦いでは幸い危なげなく勝利を重ねて来られたが、果たして本戦、本当の聖杯戦争でもそう上手く事が運んでくれるだろうか。
 魂喰いのような外道に手を染めれば、その辺りの問題は上手く解決出来るやもしれないが――アルミリアにはそれは出来ない。そしてセイバーも、決して承服しないだろう。だからこそアルミリアは、セイバーに縛りの有る戦いを強いてしまう。現状では、どう頑張ってもそれを変えられない。
 其処に忸怩たる思いを抱かずにはいられないアルミリアだったが、彼女はどうも、感情を隠すのが下手のようだった。
 
「勘違いをしないで戴きたい、アルミリア。私は何も、貴女のマスターとしての素養に不満が有る訳ではありません」
「え――」

 妹を窘めるように穏やかな声色で、セイバーは言った。
 それにアルミリアは、一度は伏せた顔をおずおずと上げる。
 
「我が剣は必ずや、貴女に勝利を齎すでしょう。ですが、その前に貴女が壊れてしまっては意味がない」

 重ねて言うが、セイバーは高潔な男だ。敵手を軽んじず侮辱せず、たとえ相手が自分に比べ圧倒的に劣っていても礼節をもって相対する。号令さえ下れば颯爽と戦場に赴き、涼やかな笑顔で勝利する理想の騎士。そんな彼は只の一度として自己を過信し、驕る醜態は晒さない。然し"驕る"事と、"勝利を信ずる"事とでは全く意味が異なる。
 セイバーは己の剣に誇りと確かな自信を持っている。その誇りと自信は、彼に自らの勝利を信じさせる。
 決して遅れなど取らない――勝利を此度の主へ献上してみせると、揺るがない鋼の決意を齎す。

「ご自愛を、アルミリア。貴女が命と心を削らずとも、私は必ずや、貴女の為に勝利の栄冠を勝ち取ってみせましょう」
「セイバー……」

 その姿、その魂、まさに太陽の如し。
 一度は弱気に駆られかけた自分の胸に、熱が戻ってくるのが解った。
 そう――自分は勝たなければならないのだ。そしてこの騎士となら、それを実現する事が出来る。

「――ありがとう」

 少女の礼に、セイバーは例の如く、涼やかな笑顔で応じるのであった。


601 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:12:03 QExpRb6o0
■10:終の空――アンヌ・ポートマン&バーサーカー


「嵐が来るな」

 預言者めいた呟きを漏らしたのは、赫色の装甲を纏った、鬼神が如き威容のサーヴァントだった。日本の伝承に伝わる鬼を近代の素材で作り上げたような無機的な容姿は、見る者の殆どに本能的な危機感を懐かせるだろうそれだ。だが彼を従えるマスター、アンヌ・ポートマンはそうではなかった。実際にこの鬼――バーサーカーに助けられた彼女は、彼に心からの信頼を寄せている。人外になって尚無力な自分を、此処まで導いてくれた彼を恐れる理由が何処にあろうか。

「――それは、どういう……?」
「言葉のままの意味さ。此処までの戦いは所詮余興、聖戦の舞台に立つ勇者だけを選び出す剪定に過ぎねえ」

 アンヌには、バーサーカーが見据えているらしい光景の全貌は解らない。何故なら彼女は深い知識も大きな力も持たない、只の凡人であるからだ。英霊の座に登録されるような獅子奮迅の大活躍など、まず無縁。サーヴァントと戦えばどうなるかは、バーサーカーを召喚した日の出来事が雄弁に物語っている。
 然しそんな彼女にも、"此処までは余興"と言うのは何となく実感出来た。そしてこれから始まろうとしているのが、本当の聖杯戦争とでも呼ぶべき第二段階。バーサーカーが言う所の、"嵐"。これまでの戦いを勝ち抜いてきた猛者達が一斉に潰し合うのだから、過激な展開にならない筈がない。アンヌという少女の人生で間違いなく最大であろう剣ヶ峰が、もうすぐ其処にまで迫っている。その事実に、少女は背筋が粟立つのを堪えられなかった。

「あんたが気付いてるかは定かじゃないが、この聖杯戦争は何処かおかしい。少なくとも、正しい形はしちゃいない。
 オレには解る――聖杯戦争など所詮表層。その裏には、底知れねえもんが眠ってるんだ。目覚めの時を待っている」

 彼の話に、根拠や証拠なんてものは全くない。
 バーサーカーが超越的な視点を持つ事はアンヌも散々解っているが、彼がそれを自分に詳しく語って聞かせようとした事は只の一度もない。それが自分を想っての事だというのは、何となく察しが付いた。其処に歯痒さを覚えないと言えば嘘になるが、自分に何かが出来る訳でもなし。彼の視線の先を追う事はせず、努めて静かに日常に溶け込むよう努力してきた。
 だがそれもこの先どうなるか。いつの時代も、過熱化した戦争は容易く日常を押し潰してきた。聖杯戦争でも、同じ事が言える。積み上げた物が壊れるのは、本当に一瞬の事なのだ――アンヌ・ポートマンは、それをよく知っている。彼女もまた、愛する平穏な日々とささやかな幸せを、一瞬にして失った者であるから。

「気張れよマスター。あんたが日溜まりに帰りたいと願うなら、この先が正念場だ。
 末路は二つ、生きるか死ぬか。それ以外はありゃしねえ。オレもサーヴァントとしてあんたの敵は打ち払うが、結局のところ、最後はあんた次第だ、アンヌ・ポートマン」
「わたし、次第……」
「オレはあくまで見極め、動くだけだ。聖杯戦争を――そしてオレ達自身をも、な」

 その言葉は、アンヌには余りにも重かった。
 全てをバーサーカーに任せて、彼の強さに依存してきた。
 その彼が、最後はおまえ次第だと、そう言っている。
 
 ――どうすればいいんだろう。
 ――わたしは、どうすれば。

 悩める少女を、魔星の眼光がただ黙って見つめていた。その視線に悦楽の色が浮いている事に、アンヌは気付けない。
 そも、アンヌが呼び出したサーヴァントはバーサーカーだ。其処には何かしらの狂気が有って然るべきであり、話が通じ、やたらと饒舌に物を喋る彼の全てをアンヌはまず疑うべきであった。聖杯戦争の深層、眠れる何かの存在、最後はアンヌ次第と焚き付けた事さえ。全て、その場で思い付いた創作であり、戯言に過ぎないのに。

 魔星の名は殺塵鬼(カーネイジ)。嘘と虚飾に塗れた、どうしようもない人殺し。
 
 彼は、悲運の少女を勝利に導く救世主などでは断じてなく――少女を破滅へ引きずり込む、悪魔が如き兵器である。


602 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:13:01 QExpRb6o0
■11:価値なき宝――猿代草太&アサシン


 アサシンのサーヴァント――マタ・ハリ。所属しているタチミサーカスではマルガレータを名乗っている彼女は、生前に培った諜報能力と様々なテクニックを駆使し、只の一度も痛い目を見る事なく、予選期間を終えた。サーヴァントを斃してこそいないが、マスターならば二人ほど、自らの虜にした上で手に掛けている。サーヴァントと正面から戦えるスペックはしていない彼女なのだ、その戦果は完璧な立ち回りの結果であると言っていいだろう。
 彼女のマスターである猿代草太が冬木に入ってから、凡そ三週間前後。その間、特に何か大きな問題が彼らの周りに浮上することはなかった。まさに順風満帆。公演の為に冬木を訪れたサーカス団の猛獣使いと言うロールの便利さも相俟って、拍子抜けする程あっさりと此処まで生き残れてしまった。その事実に草太が会心の手応えを覚えなかったと言えば、嘘になる。二人目のマスターを殺めた時草太は、確かに自分の足が聖杯へと近付いたのを感じた。

"だが、まだだ……"

 然し、有頂天になって今まで築き上げてきた足場を台無しにしてしまう愚は犯さない。
 上手く行ったとはいえまだ序盤も序盤。言ってしまえば、スタートラインに立てただけだ。草太には、直に予選が終わり、ルーラーからの本戦以降通達が来ると言う確信があった。根拠は、単純に時間だ。自分が迷い込んでからでさえ三週間近い時間が経っているのに、これ以上前哨戦を長引かせるとは思えない。
 明日か、明後日か、――或いは今日にも、聖杯戦争は次の段階へと移行するだろう。其処からが本番だ。それを勝ち抜く事が出来て初めて、万能の願望器に手が届く。
 
 草太は、他の主従と同盟を結ぶ事は出来るだけ、余程必要な状況にでもならない限りは避けたいと考えていた。
 その理由は極めて単純で、それだけに俗なものだ。彼は、他人を一切信用していない。裏切られ続けた人生は彼の人格を著しく歪め、重度の人間不信を植え付けた。まして聖杯戦争は人間同士の戦いではなく、サーヴァントと言う、恐るべき超常の存在がメインとなって行われる儀式である。言ってしまえばこれは、誰もがミサイルの発射スイッチを握っているようなものだ。たとえそれが一時の同盟であろうが、誰かに背中を預けたいなどとは微塵も思えない。
 皮肉にも、自分のサーヴァントが余りにもあっさりと敵を仕留めてきた事もまた、彼にそうした考えを植え付ける一因となった。

「――どうしたの? 浮かない顔ね」

 唐突に自分の傍らから聞こえる、女の声。
 それを耳にするや否や、草太は隠そうともせず露骨な舌打ちの音を響かせる。
 言わずもがな、女とは己のサーヴァントだ。二組の主従を破滅させる手腕を見せた、近代史に名高き伝説の女スパイ。アサシンのサーヴァントとしては申し分のない腕と能力を兼ね備え、実際に成果も挙げてくれた彼女の事が、草太はどうにも苦手だった。端的に言って癪に障る。一体彼女を召喚してから何度『余計なお世話だ』と発言した事か解らない程に。

「別に、何もない」
「嘘。不安なことが有ったら、ちゃんと話さなきゃダメよ? 私は、貴方のサーヴァントなんだから」
「……相変わらずだな、アンタは」

 露骨な嫌悪感を滲ませながら、草太は吐き捨てるように呟いた。アサシンに対する態度は、彼女の召喚に成功してから今に至るまで一度として変えたことはない。にも関わらず、こうして何度も無駄に話し掛けてくるのが、草太の喚んだマタ・ハリというサーヴァントの面倒で忌まわしい点だった。
 誰かを信じられない哀れな彼には、それこそ信じられないのだろう。
 伝説の女スパイ、太陽の眼を持つ女。そう称された彼女が、心の底からこういった言動をしていると言う事が。彼女は確かに伝説と呼ばれるに値する活躍を収めたが、その実求めていたのはなんてことのない、幸福な家庭を手にする事だったなどと――そんな話は、とても信じられないのだ。其処が、猿代草太と言う男の哀しさ。波瀾万丈なんて月並みな言葉では語り尽くせない程の過酷な人生が、彼に齎した歪み。傷。

"哀しい人。だけど、私は――私だけは、貴方を裏切らないわ"

 慈愛に満ちた母のように優しく、陽の眼を持つ女は微笑んだ。


603 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:14:16 QExpRb6o0
■12:小さな星の夢――アーシア・ヴェルレーヌ&キャスター


 ――その男は、只人だった。英雄、超越者、そういった単語とは最も無縁と言っていい人種。どこまでも常人の域を出ない精神性で、泥臭く情けなく地を這うばかりの負け犬。共有された視界を通じて流れ来る鬱屈とした感情が、彼の抱えている闇の深さを否応なく理解させる。
 一度の死は、然し生の終わりに非ず。屍から成る禍つ星へと、哀れな青年はその姿を変えた。
 それでも、彼の中身が変わった訳ではない。身に余る力を授けられ、混ざりたくもない運命へと放り込まれただけ。己を圧倒的な力で以って殺害した英雄に挑まねばならないと言う、余りに身勝手で過酷すぎる運命に。
 輝く聖戦に列席出来る喜びなど有る筈がない。手に入れた力で好きに暴れたいなんてイカれた衝動もない。
 生きるも死ぬも勝手にする。迷惑だから関わってくるな。明日だの何だの、眩しく輝ける奴らだけで楽しくやっていればいいだろう。其処に自分を巻き込むな……何処までも人間らしい怒りを胸に、最誕した錬金術師(アルケミスト)は時を待っていた。待ちたくもない、忌まわしい運命がやって来る刻限を。

 されど結論から言えば――彼が端役のまま、何も成すことなく生涯を閉じる結末にはならなかった。

 場面が飛ぶ。
 錬金術師が相対しているのは、語り尽くせない程恐ろしい敵(ヒカリ)だった。
 言葉に漲る自信と鋼鉄の意思力。死に体同然の負傷を負っているのに、まるで弱々しさを感じない。直視するだけで身体が震え、息が詰まる。その有様が、同じ人間として恥じ入りたくなる程眩しくて……だからこそ、この男が敵であると言う事実は絶望的過ぎた。それは言わずもがな、この追憶の主役である彼も同じ。平時の彼なら一も二もなく逃げ出している所だが、然し彼はこの時、踵を返しはしなかった。
 その理由は、あくまで覗き見ているだけの少女には定かではない。だが、一つだけ解る事がある。

 ルシード・グランセニックと言う男は紛うことなき負け犬だったが、愛する"誰か"の為に立ち上がれる男であったという事。たとえその先に待つ結末が死と言う断絶であろうとも、彼は煌めく星光を消しはしなかった。らしくもない雄々しさで光の化身に向かっていき……それでも勝利を掴む事はなく。
 哀しき錬金術師は敗北し、一人朽ち果てる。然し、その胸に後悔はなかった。
 何故ならこの奮戦は、逆襲を呼び寄せるさきがけとなれたのだから。満ち足りた想いの中、視界は暗転し――


  ◆  ◆


「――ん」

 見慣れた自室、ソファの上でアーシア・ヴェルレーヌは目を覚ます。
 今しがたまで見ていた夢の内容は、今も瞼の裏に焼き付いていた。
 聖杯戦争のマスターは、稀に自分の使役するサーヴァントの生前の記憶を夢で見る事が有る。Chaos.Cellによりインプットされた知識が、件の夢が自分の想像力に由来する出鱈目ではないのだと理解させてくれる。
 あれが、キャスターの記憶。彼が二個目の命を失い、英霊の座に召し上げられるに至った戦い。
 彼の勇気が愛した者の為になったのかどうかは、アーシアには解らない。ただ、彼は彼なりに精一杯生き抜いたと言う事だけは痛い程理解できた。たとえそれが、偽りの生で有ったとしても。

「やあ、お目覚めかい? 随分よく眠っていたみたいだけど」
「……キャスター」

 普段通りの様子で話し掛けてきたキャスターが、アーシアの顔を見て僅かに驚いたような顔をした。
 何せ、あんな夢を見たばかりなのだ。意識した訳ではないが、彼を見つめる視線にいつもと違うものが混ざってしまった事をアーシアは悟る。そんな彼女と同じように、キャスターの方も己のマスターに何が有ったのか、何を見たのか察したようで。

「……やれやれ、どうやら格好悪い姿を見せてしまったらしいね」

 彼は、自分の辿った結末に後悔はないが、誇りはしない。
 その前の鬱屈した足取りやら何やらまで知られてしまったとなれば、ばつの悪さにも似た羞恥心の方が勝るのだろう。

「君が見た通りさ。いや――わざわざ見るまでもなく知ってただろうけど。
 僕は結局負け犬で、どうしようもない男なんだ。サーヴァントにさせられた事すら、釈然としないくらいの」

 わざとらしく両手を広げ、キャスターは室内を歩き回る。
 やや早口気味に前置きじみた台詞を口にして、それから、彼は改めて自分のマスターへと向き直り、言った。

「それでも、君が望む限り役目は果たしてみせるさ。
 何せ星の数程居る英霊の中から僕なんかを掴まされたアンラッキーガールだ。個人的なシンパシーもある」

 これは――悲恋に散った錬金術師の、あるべきでない第三幕である。


604 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:14:56 QExpRb6o0
■13:心――ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト&ランサー


 Chaos.Cellにより創造された、聖杯戦争の為の仮想世界。
 ルヴィアのよく知る街と見た目的には同一でありながら、然し明確に異なった"冬木市"。
 其処に彼女が、聖杯戦争の参加者として迷い込んでから早数週間――得られた成果はどの程度かと言うと、それは決して芳しいものではなかった。と言うより、事実上皆無と言ってもいい。サーヴァントとの交戦は何度か有ったが倒した訳ではなく、世界に綻びらしいものが存在しないか調べて回る行いも悉く無駄に終わってしまった。薄々予想はしていた展開だが、流石に此処まで上手く事が運ばないとさしものルヴィアもげんなりしてくる。
 
「やっぱりとんだ厄ネタですわ……」

 果たして、本当に脱出口、ひいては脱出手段なんてものが存在するのだろうか。
 彼女らしくもない弱気に駆られてしまうのも、致し方ない事であると言えよう。
 つくづく、とんでもない厄ネタを押し付けられたものだと思わずにはいられない。あの時『鉄片』さえ拾わなければと、ルヴィアは心の底から自分の過失を悔やみつつ、同時に、やるならせめてもうちょっと分かり易い参加条件を付けろと顔も知らないルーラーのサーヴァントに怒りの炎を燃やすのであった。
 
 ……とはいえ、過ぎた事をいつまでもあれこれ悔やんでいても何も進まない事はルヴィア自身よく解っている。
 手掛かりがなくとも、手段が思い付かなくとも。こんな所で死んだり、何者かの思惑でいいように操られたりしたくなければ、先の見えない調査をとにかく重ねて前進していくしかないのだ。その途方もなさに思わず辟易してしまうが、此処まで来たら気合と根性、道理を無理で通すが如き勢いを見せてやる、という思いも一周回って生まれ始めていた。
 と、其処でふと、ルヴィアはある事に思い当たり、自分のサーヴァントへと問いを投げ掛けた。

「ランサー、そういえば貴女、妙な事を言っていましたわね」
「妙な事?」
「聖杯が手に入らないなら入らないでも構わない、だとか何とか。それはつまり、ちょっとは聖杯が欲しいって事じゃありませんの?」
「? 普通に欲しいけど」

 ランサーは、少々特殊なサーヴァントだ。
 六十六枚の古い能面の面霊気――平たく言えば付喪神。
 彼女の能面にはその全てに感情が割り当てられており、面によっては口調がまるで別人のように変化する。
 今日は普通の、見た目相応の少女らしい口調のようだった。
 それはともかく、ランサーはルヴィアの問い掛けに対し、「何を当たり前の事を聞くんだ」と言わんばかりに小首を傾げながら答えた。

「普通に欲しいけどって……貴女はそれでよろしいんですの? 私の目的が遂げられたなら、貴女は間違いなく聖杯を手に入れられずに終わるんですのよ?」
「別に、それならそれで」
「ああ、もう! はっきりしない女ですわね、貴女は!!」

 暖簾を腕で押すように掴み所のないランサーの言動に、段々とルヴィアの方が白熱していく。
 そんな様子を見かねてか、ランサーは努めてはっきりと意図が伝わるように、気を付けながら話し始めた。

「まず、聖杯が欲しくないサーヴァントなんて殆どいないと思う。手に入れたなら何でも願いが叶うって言うんだから、そりゃ欲しい。欲しくないわけがない。
 でも――願いの強い弱いはある。私の願いごとは別に、意地でも聖杯で叶えなきゃって程じゃない。だから、別に手に入らないなら入らないでも、いい」
「……そういうものなんですの?」
「そういうもの」

 こくりと頷くランサーの姿に、ルヴィアは脱力して溜め息を吐き出した。つくづくやりにくい相手だと、何度目かの実感を余儀なくされる。
 要するに、手に入れるチャンスが有れば聖杯は欲しい。でも、わざわざマスターと対立してまで欲しい訳ではない。ランサー……秦こころというサーヴァントにとって聖杯はその程度の物であり、それ以上でも以下でもないのだ。
 その奔放とも言える在り方に大分(半ば勝手に)振り回されているルヴィアだったが、然し冷静に考えれば、彼女のようなサーヴァントを引けた事は脱出を目論む身からすれば僥倖だったとも言える。何故なら少なくとも、身内で揉める必要は全くないからだ。切羽詰まった状況では、余計な懸念は兎に角減らしておきたい。
 
"……冗談じゃない。こんな張りぼての街なんかに骨を埋めるなんて絶対に御免ですわ"

 何としてでも、この街を――この世界を――聖杯戦争を抜け出してやる。
 不運な魔術師、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトは、拳を硬く握り締めながら改めてそう誓った。


605 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:15:59 QExpRb6o0
■14:鬼道――丈槍由紀&バーサーカー


 大江山の首魁、『茨木童子』を召喚した少女、丈槍由紀。
 彼女もまた、数十という主従の潰し合いを生き延び、無事本戦開幕の時を迎えようとしていた。
 自分の部屋――何週間過ごしても久し振りに感じてしまう、生活感の染み付いた部屋。ベッドの上に腰掛けて夕焼け色に染まる冬木市を眺める瞳は、いつも明るく天真爛漫な彼女らしくもない真剣なそれだ。此処まで、生き残れた。決して生半可な気持ちで聖杯戦争に臨んだ訳ではないが、それでもやはり、なかなか実感が沸かない。
 否、現実を直視したくない自分が居るのだ。無事に生き延びられていると言えば聞こえはいいが、由紀の足下には今、敗れた数多の願いが積み重なっている。資格を失い、後は消えるのを待つだけの……或いは、既に命を散らしてしまった者達の。その上に、自分は居る。そうを思うと、暗澹たる想いになるのを禁じ得ないのが正直な所だった。
 丈槍由紀は決して超人ではない。少々経歴が特殊なだけで、中身は所詮二十年も生きていないような小娘だ。沢山の願い、想い、生命を足場にして顔色一つ変えない程の非情さを、彼女は持ち合わせていなかった。少なくとも、今はまだ。

"……ごめんね"

 謝る事自体敗者への侮辱だと、頭では解っている。
 だからこれは、自分の気持ちを楽にするだけの身勝手な自己満足だ。
 それでも――由紀に諦めるつもりは毛頭なかった。勝たなければ出られない、袋小路の世界。自分が生きる為に他を蹴落とせと言われたなら、きっと由紀は叛いていただろう。だが、由紀には聖杯で叶えなければならない願いが有る。変わり果ててしまった皆の日常を、元の形に戻したいと言う願いが。
 
 その為に、由紀は戦うと決めた。
 戦う事の意味をきちんと理解した上で、それでも諦められず、昏い勝利を目指す事に決めたのだ。
 無論、由紀は魔術師ではない。聖杯戦争が次なる節目に進もうとしている事なんて解らないし、事実今この時も、次なるステージの開幕が間近に迫っているとは知らずにいる。一方、彼女のサーヴァントである鬼種の娘は、敏感にそれを察知していた。

「――何を呆けている。貴様さては、まだ気付いておらぬのか」

 響く声、実体化する鬼。
 それは嘗て京の都を震え上がらせた大鬼と同一人物とは思えない、可憐な童女の姿をしていた。愛らしく、菓子を頬張る姿の似合う矮躯。――が、もしもそれを笑うような事があれば、その者の五体は瞬時に引き千切られ、肉叢は喰らい尽くされるに違いない。どれだけ見た目が可憐だろうが、人の形をしていようが、鬼は鬼。その認識を誤った者はこれまで例外なく、哀れな犠牲者として歴史の闇に消えてきた。
 茨木童子……バーサーカーは間違いなく鬼の中の鬼である。そんな彼女だから、由紀では到底気付けない、確かな空気の乱れを鋭敏に感じ取る事が出来た。冬木のそこかしこに満ちていた殺気や闘志が薄れ、それとは全く別種の奇妙な波長が満ち始めている。明らかに数日前とは違う異界に、冬木は変じようとしていた。これが聖杯戦争と無関係の事象であると、バーサーカーには思えない。

「有象無象を狩って無聊の慰めとする時間は終わりだ。此処からが、真の聖杯戦争よ」
「……それって」
「ふん。思い上がるなよ、娘。汝の采配が優れているのではない、真に優れているのは吾を喚ぶ事が出来たその幸運だ」

 ……肩の荷が一つ、下りるのを感じた。
 
 バーサーカーにとっては退屈な時間だったかもしれないが、由紀にとっては気の休まる暇のない日々だった。
 とはいえ、戦う力のない由紀に出来た事は、精々彼女の足を引っ張らない事くらいのもの。

「……ありがとっ、ばらきー!!」
「ぬっ――!?」

 感謝の言葉をありったけ伝えたかった。けれどいきなりではどうしても思い付かなくて、あれこれ悩む内、つい反射的に由紀はバーサーカーへと抱き着いていた。其処に機嫌を取る意図や、彼女を今後も上手く使ってやろうと言う邪な感情は誓って一切ない。丈槍由紀にとってバーサーカーは部下でも道具でもなく、自分の願いを叶えてくれる大切な相棒だ。彼女は下心を抱くことなく、一人の友人にそうするように、この鬼女と付き合っているのだ。

「ええい、離れろ! それとその呼び名は止めろと何度言えば解るのだ、汝は!!」


 ――それでも。バーサーカーの全てを、由紀は知っている訳ではない。
 陵辱を愛し、暴虐の限りを尽くす鬼種、その本領を見た事はないのだ。
 いずれ、彼女はそれを知る事になるだろう。鬼と言う存在の、恐ろしさを。

 彼女の本当の聖杯戦争は――ある意味では其処から、なのかもしれない。


606 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:16:36 QExpRb6o0
■15:優しい道化――チェルシー&キャスター


 少女の世界はごく小さかった。殆ど隔離同然に与えられた部屋の中で一日を過ごす。常人ならすぐに退屈でおかしくなってしまうか、何とかして逃げ出そうと画策して然るべき所だが、チェルシーはそういう考えを起こしはしなかった。絵本は頼めば貰えるし、ご飯もおやつも美味しい。たまに様子を見に来てくれる職員の人達や院長先生はとても優しく、厭な事は何もない。いつも一緒のぬいぐるみも、ちゃんと傍に居る。
 そして何より、チェルシーには心強い味方が居た。チェルシー以外は誰も知らない、小さな少年。アヒルによく似た口と玉ねぎの先端のように尖った髪型で、いつも飴を舐めているコミカルな見た目の彼。何も知らない者が見たならサーカス団の人間か何かだと認識しかねないような風貌、出で立ちとは裏腹に、彼は凄く頼れる人物だ。
 チェルシーが泣いていたら笑わせてくれる。喜んでいたら一緒に笑ってくれる。不安な時は、勇気付けてくれる。
 誰にでも出来るような簡単な事だが、それを当たり前にこなせる者となると、サーヴァントと言えどもなかなか居ない。然しチェルシーのキャスターには、それが出来た。もし彼がそうする事の出来ないサーヴァントだったなら、チェルシー共々、予選期間の内に脱落を喫していた事だろう。

 傷付き、壊れかけた哀れな赤ずきん。彼女の心の傷と綻びを癒やしつつ、それを守る優しい魔物(キャスター)。
 斯くして少女と少年もまた、聖杯戦争の主従剪定期間を生き抜き、今日の日まで辿り着いた。そしてキャスターは他のサーヴァント達同様、ほんの僅かな空気の変化を察知して、その事を感知していた。

"はあ〜〜……運が良かったなあ、本当……"

 生き抜いた、と言っても。
 チェルシー達は決して激戦を経て今日を迎えた訳ではなかった。それどころか、彼女達はこれまで只の一度もサーヴァントと対峙していない。お目に掛かった試しさえない。本当に普通に日常を過ごしながら、予選期間を過ごし……何か危ない目に遭うでもなく、まさに運良く無傷のまま此処までやって来られたのである。
 キャスタークラスは元々正面戦闘向きのクラスではないが、その例に漏れず、彼も真っ向勝負を挑み挑まれして優位に立ち回れるようなスペックはしていない。戦える手段こそ有るものの、戦闘は可能ならば避けていきたいのが本音だ。そもそもチェルシーを脱出させる事を狙うのならば、進んで戦いに興じる意味は無いのだし。

 ……等とあれこれ考えていたのだが、結論から言えば、それらは全て杞憂に終わった。
 勿論偶には霊体化しながら院の周囲を巡回したりもした。それでも、チェルシーの周りにサーヴァントの魔の手が伸びる事はなかった。彼女はどうやら、余程運に恵まれていたらしい。或いは、これまであんな小さな少女に過酷ばかりを押し付けてきた神様が漸く慈悲の顔を見せてくれたのか。
 いずれにせよ、キャスターとしても助かった。だが、問題はこれからだ。主従の数が減り、佳境に向かって戦争が激化していくだろう今後も、これまでのように平穏無事なまま過ごせるとは流石に思えない。それに――日常に甘んじているだけでは、ただ足を止めているのと同じだ。チェルシーを元の世界に帰したいと願うなら、踏み出す必要がある。帰る手段を自ら模索していく必要がある。チェルシー自身が頑張らなければならない場面も、きっと来よう。

「……でも大丈夫だよ、チェルシー。僕が絶対、お前をお母さんのとこに帰してやるからさ」

 ぬいぐるみを抱き締めて壁に寄りかかり、窓から射し込む斜陽に照らされながら寝息を立てるマスターの少女を起こさない程度の声音で、キャスターは改めてそう誓った。
 必ず帰してみせる。泣き虫で、逃げて、泣いてばかりだった"弱虫キャンチョメ"はもう居ない。人間界でのあの戦いでキャスター……キャンチョメは色々な事を学んだ。その結果が、今の自分だ。誰もが早々に脱落すると思っていた弱虫な魔物の子は様々な出会いを別れを通じて大きく成長し、サーヴァントとして召喚されるまでに大成したのだ。
 そうして自分を召喚した少女は、嘗ての自分のような泣き虫マスター。何となく因果なものを感じてしまうのも、詮無きことであろう。

 ぽふ、と彼女の茶髪の上に手を置いて。
 キャスターは腕組みをし、考え始めた。チェルシーが起きたなら、一体何をして驚かせてやろうかと。笑顔を振り撒く優しい道化は、一人静かに頭を捻るのだった。


607 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:18:03 QExpRb6o0
■16:白黒――有馬貴将&セイバー


 異様な姿の男だった。
 現実離れしていると言っていい、幻想的ですらある白髪の美丈夫。顔立ちが端正な事は言うに及ばず、体格も殆ど完全な域に鍛え抜かれている。無駄に筋肉の鎧をゴテゴテと盛るのではなく、鍛錬の成果を体の内にこれでもかと押し込んで閉じ込めた、引き締まった肉体。下手なサーヴァントより余程超常の存在らしいと、誰もが頷く事だろう。そしてそんな彼の片腕には、英霊を従える三画の刻印がありありと刻まれていた。其れこそ、彼もまた、この世界では一人の舞台役者でしか無いと言う事実の証左であった。
 男の名を、有馬貴将。嘗て"CCGの死神"の名を恣にし、味方からは羨望と尊敬、敵からは畏怖と憎悪を集め、屍ばかりを積み重ね――その末にとある青年に敗れ、彼を一介の生命から唯一の"王"に変え、満足のままに生涯を終えた老人である。
 そう、彼は死んだ筈だった。終わりを悟り、自ら首を切り裂いて。されど確かな満足を抱えながら、悔いなき結末を迎えられた筈だった。にも関わらず、有馬貴将の物語は其処で打ち止めとはならなかった。蛇足と言ってもいい"その後"の話が、無造作に付け足されたのだ。
 クインケを失った代わりに人外の相棒と神剣を得、有馬は新たな戦いへと身を投じた。聖杯が謳う願いを叶えると言う売り文句など、有馬は眼中にすら置いていない。彼は自らの意志で、誰かの為の武器として戦う事を決めた。生きたいという想いを尊重し、明日へと生かす武器になる。"黒"の真名を持つセイバーとの語らいで、死神と呼ばれた男は再起した。そして……幾騎かの英霊と幾人かの悪しきマスターを滅ぼしながら、彼は真の聖戦、その開幕の時へと歩を進めていった。

 様々な願いを見た。
 様々な意思を見た。
 邪な物も有れば、切実な物も有った。
 その全てを越えて、有馬は今此処に居る。
 散り行く者に、倒した者に、感傷を抱く事はない――過去、あの"喰種"が居る世界で、そうだったように。
 有馬貴将は一振りの武器として、悉く勝利を重ねていった。言うまでもない事だが、此処までの戦いで、有馬達は只の一度も遅れを取った試しはない。どんな優れた魔術師も、サーヴァントも、有馬とそのセイバーの前には無力だった。彼らはまさしく、願望器を追う全ての主従にとっての恐るべき武器であり、死神に他ならなかった。

「――良い夜だな」
「……俺は、そうは思わないがな」

 新都のあるビルの屋上から、見かけだけは平穏無事な街並みを見据え、主従は言葉を交わす。
 街に戦いの気配はない。かと言って、聖杯戦争も落ち着いてきた等と戯けた事を口にすれば知性の程が知れる。
 嵐の前の静けさと言う諺が有るが、目の前に広がる平穏はまさにそれだった。こんなもの、所詮は仮初め。いずれ時が来れば薄氷を踏み抜くようにあっさりと崩れ去り、濁流の如き勢いで混沌が溢れ出すのが見えている。……早ければ、明日にもその時が来るだろう。有馬達は、そう踏んでいた。
 大方、何処の主従も察知しているのだ。確信を得ているか本能的に感じ取っているかの差異はあれど、戦いが次のステージに進む事を悟っている。だからこそ、皆息を潜めて待っているのだろう。開戦の号砲が鳴り響き、本当の――此処までの戦い全てが前座に思えるような、英霊達の最終戦争(ラグナロク)が幕開ける瞬間を。

「思い出しているのか、元の世界を」

 有馬は、小さくセイバーの問い掛けに頷いた。
 有馬貴将の暮らしていた元の世界は、ある一点に於いてだけこの世界とは明確に異なっている。
 それは言うまでもなく、"喰種"の存在だ。有馬が殺す事を宿命付けられ、最期に暖め続けた玉座を託した人類の近縁種。
 彼らの姿が、この街にはない。故に当然、CCGも存在しない。聖杯戦争さえなければ、少なくとも現代日本の市井で暮らしている分には、さぞかし平穏な世界だった事だろう。――所詮、時が来れば消えてなくなる泡沫の幻想だとしても。

「俺だって人間だ。過去を思い出す事くらい、あるさ」
「では、悔いが有るのか」
「まさか」

 そんなもの、誓ってある筈もない。
 有馬貴将の人生は終わった。これは延長戦。二本目のゴールテープに向けて走る捻れた時間。有馬の死が覆されたとしても、彼の肉体が常人の数倍の老いを抱えている事は何も変わっていないのだ。何があろうと、やはりその老い先は短い。そして何があろうと、有馬が悔いを抱く事はないだろう。

 あくまで彼を記した物語の頁は――既に閉じられているのだから。


608 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:18:58 QExpRb6o0
■17:名前のない■■――遠坂凛&アーチャー


 結論から言えば、遠坂凛の聖杯戦争は順風満帆だった。
 特に目立った問題が浮上するでもなく、それどころか全てが上手く行っていると言っても過言ではない。
 凛は自身の魔術の腕前に確かな自信を持っているが、その彼女をしても驚く程だ。窮地に追い込まれた事は一度としてなく、危険を感じた事さえ碌にない。聖杯戦争に上手く適合出来ず四苦八苦している者や、或いはその末に散ってしまった者達が見たなら、嫉妬で胸を焦がす事請け合いの道筋。
 然し、凛が勝利を重ねて続けている現状に満足しているかと言えば、否だ。
 
「三週間、か」

 呟いて、聖杯戦争が始まってからもうそれだけ経ったと言う事実に少なくない驚きを覚える。
 当たり前の事だが、聖杯戦争の最中は基本的に気の休まる暇がない。
 不利な局面に立たされている者は勿論、仮に有利側に居たとしても、驕り散らかすのは禁物だ。常に細心の注意を払って行動し、アサシンやキャスターの計略で敗北と言う底なし沼に落ちる事がないように構えなければならない。そんな風に気を配りながら日常生活を送っていると、日々が過ぎるのは本当にあっという間である。
 最初、この世界に飛ばされた時の事が今となっては懐かしい。第五次聖杯戦争――"本当の"冬木の聖杯戦争が始まろうと言うまさにその時、偶然手にした『鉄片』。いきなり仮想世界に放り込まれ、此方の聖杯戦争に参加しろと言われた時に凛が激怒したのは言うまでもない。そんな話が有るかと、自分を襲った理不尽な運命を散々こき下ろした。……そんな時の事だ。あのいけ好かない、黒いアーチャーが現れたのは。

「本当、何なのよ、あいつは……」

 黒いアーチャー。遠坂凛の、サーヴァント。
 彼は優秀だが、些か以上に人格に問題が有る――少なくとも、凛にしてみれば――サーヴァントだった。
 口を開けば皮肉かよく解らない思わせぶりな台詞を吐くかで、いっそ令呪でも使って謝らせてやろうかと思った回数は一度や二度では利かない。その度青筋を立てながらも必死に抑えてきた自分の努力を誰かに褒めて欲しい物だと、凛は心底そう思う。もし機会が有れば今までの分も含めてたっぷり嫌味を言ってやると心に決めているが、然し生憎、凛が彼を正当に叱責出来る場面は今日に至るまで只の一度も有りはしなかった。
 ……そのくらい優秀な男なのだから、もう少し協調性と言う物を身に着けてくれれば文句はないのだが。

 因みに、彼が凛の傍に居る事は殆どない。夜は特にそうだ。いつも索敵に向かうと言って外へ出ていき、いつの間にか戻ってきている。凛の知らない所で彼がサーヴァントを仕留めた事も、これまでに何度か有った。騎士道だの何だの、そういった概念とは全く無縁のやり方で、あのアーチャーは敵を屠る。女だろうが子供だろうが関係なく、歪な形の銃剣で撃ち、斬り、舞台から退場させるのだ。

"――いや。別に、気にする必要はないわ……私は、私のやるべき事をやればいい"

 遠坂凛には、自分のサーヴァントが解らない。あれが一体どういう男で、何を考えているのか。何一つ、解らない。
 だが、解らないなら解らないままでも構わない。凛の目的は、サーヴァントと絆を育む事に非ず。聖杯を手に入れて持ち帰り、全ての魔術師の悲願である、根源への到達と言う果たす事。それが果たせるなら、大概の事は怒りで歯を軋らせる程度で我慢出来る。
 ……そう頭では解っていても、やはり心の奥の疑問までは消えてくれない。結果、凛の中には疲労とも緊張とも違う、悶々とした物が人知れず溜まっていくのであった。


  ◆  ◆


 ――そして。銃剣の弓兵は、帳の下りた空を見上げて能面のような表情を湛えていた。

 彼は英雄ではない。名を捨て失墜した無心の執行者……記憶も過去も等しく失くした"反英雄"。
 この聖杯戦争に於いて彼は、実のところ誰の味方でも有りはしない。遠坂凛の味方ですら、ないのだ。
 
「漸く開幕か、審判者。貴様らしい迂遠なやり方にはとことん辟易するが、オレのような不純物を紛れ込ませるとは貴様らしくもない失策だ――いや」

 彼は、己の目的の為に動く猟犬だ。あらゆる手段を善しとし、効率良く敵を殺す。
 されど此処で、その表情に色が宿る。苦虫を噛み潰したかのような、嫌悪の色が。心底忌まわしいとでも言いたげな表情をして、今も何処かで嗤っているのだろう"元凶"に向けてその先を紡ぐ。彼のような人種にしてみればあまりに悍ましい、然しきっと的中している、その予測を口にする。

「それも含め、読み通りか? 炯眼の審判者よ」

 最早腐り果てた鉄心を秘める男は――孤独の中、己の戦いを続けていく。


609 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:20:06 QExpRb6o0
■18:調律の物語――操真晴人&アヴェンジャー


「近いな」
「……アヴェンジャー?」

 既に闇が覆った冬木市にて、短く呟いたサーヴァントは、嘗て一つの宇宙をすら支配出来る程の力を持つ大神格だった。過去形なのは勿論、今の彼にそれだけの力はないと言う意味だ。
 神霊の類は原則、聖杯戦争には召喚出来ない。然しながら、抜け道がない訳ではない。そも、そのままの力で召喚しようとするからいけないのだ。サーヴァントとして使役可能なレベルにまで格を落とし、矮化させる事が出来れば、神話の神々を使役する事も不可能とは言えない。特に、こうしたイレギュラーな舞台では尚更だ。
 操真晴人の手により召喚されたアヴェンジャーもまた、その部類である。いや――矮化の一言では片付け切れまい。負傷、疲弊、摩耗……そういった概念を極限まで与えたとしてもランクの定めようがない程の神性スキルを持つ彼は、本来どんな手段を尽くしても聖杯戦争に呼び出す事は出来ない存在だ。奇跡のような偶然と符号の上に、小数点を遥か下回る確率で縁が紡がれた。斯くして舞い降りた復讐の大天魔。

 その真名は、遥か昔に喪われている。
 だが、一つの天が滅んだ後、天狗の宇宙の人々は彼をこう名付けた。『夜刀』、と。
 天魔・夜刀。――それが、希望を謳う魔法使いの声に応えたサーヴァントの銘。
 
「波を感じる。混沌だ。大方、そういう事なのだろうよ」

 混沌の月、Chaos.Cell。恐らくはそれが齎しているのだろう変生の波長は、出鱈目に絵具を混ぜ合わせた末に生まれる、濁った色合いによく似ていた。ほんの僅か霊基(カラダ)に触れただけで、大元の月が完全に破綻してしまっている事が理解出来る。なかなかに悍ましい感覚だが、それ以上の物に常時、気の遠くなる時間曝されてきたアヴェンジャーには微風にも等しい。零落したとはいえ規格外の神性を持つ彼は、それを誰より鋭敏に感じ取っていた。
 静厳としたアヴェンジャーの声に、晴人ははっきりと頷く。彼の言葉の意味が理解出来ない程、晴人は阿呆ではない。要するに、"その時"が来たのだ。誰かの希望になると豪語する男にとっての正念場が、とうとうやって来た。

「不安か?」
「いや……そういう訳じゃないよ。寧ろ、逆だ」

 自分の想いを確認するように握り拳を作って、晴人は毅然と、アヴェンジャーの方を見る。
 視界に映るのは、とてもではないが善の存在とは思えないような、悍ましい姿だ。
 血のように朱い髪、強い情念と憎悪の顕れた双眸。肌は人の色をしておらず、濁り、血も通わぬ屍の色をしている。これを見て彼を善神と評する者など、まず居まい。居るとすれば、同じ神霊達か。それか全てを見通す神域の眼を持っていなければ、アヴェンジャーの真実は見抜けない。
 それを真正面から見据え、希望の魔法使いは続けた。

「だって、そうだろ。誰かの希望になるって吼えた奴が、真っ先に震えてちゃ笑い話にもならない。
 ――不安も怖いって気持ちも、俺にはないよ。なんたって、俺は……」

「最後の希望なんだから――か?」

「……ああ!」

 ニッと笑うその顔には、確かに一縷の不安も、一縷の絶望も有りはしない。
 希望を名乗るに相応しい面構えだ。杞憂だったかと、アヴェンジャーは表情を変えぬまま、心の中で静かに微笑する。
 アヴェンジャー……天魔・夜刀と言う男は、決して絶望の中で生涯を終えた訳ではない。永い永い絶望と悲憤の日々の果て、彼は確かに明日へと繋ぐ光を――最後の希望を見たのだ。だからこそ、心安らかに旅を終えた。そして夜刀の見た希望は、彼が嘗て潰された闇を払い除け、曙光の勝利を手にしてみせた。

"――主役を気取りたいのなら、精々魅せてみろ"

 操真晴人は、誰かを救うだろう。誰かの最後の希望として、この絶望に満ちた月海に光明を生むだろう。
 一人、それを確信しながら……救いを見たアヴェンジャーは、いつかのように呟くのだった。


610 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:21:21 QExpRb6o0
■19:巡礼の果て――F・F&アサシン


 F・Fにとって日本と言う国は、空条徐倫の故郷である事以外にはさして印象も興味もない国だった。あのプッチ神父との戦いに勝利していたなら、ひょっとすると後々徐倫達と観光に訪れるなんて事も有ったのかもしれないが、少なくとも彼女の人生に於いて重要なファクターとはならなかった、そんな国。
 にも関わらずそのF・Fは今、日本の地方都市でまたいつかの女囚の身体を借りて日常生活を送っているというのだから、人生という物は解らない。正確には彼女は人間ではなくプランクトンであるし、人生と呼ぶべき物語は既に終わっているのだが……彼女の意思に関わらず、尊厳の内に閉じたプランクトンの生涯には続きが与えられる事になった。それが、聖杯戦争。サーヴァントとそれを従えるマスター達による、万能の願望器を巡った戦いの儀式。
 はっきり言ってしまえば、傍迷惑な話だった。だからと言って自殺するだとか、そういう選択肢を取るつもりは流石にない。あの最期と、自らの得た"知性"。それをこんな形で侮辱されて腹の立たないF・Fではなかったが、それでも自ら命を断つのは論外だ。逃げるようで気に入らないし、徐倫達が見たなら絶対に止める。それどころか、殴られてもおかしくない。

 ――そして、自分の召喚に応じたサーヴァントと言葉を交わした事で、もっと確たる生きようと言う意思が生まれた。此処で新たな思い出を作ってやると言う、目的が出来た。
 それが、今から二週間と少し前の事。先述の通り日本なんて国には知識もなければ意欲もなかったF・Fだ。新しい暮らしに慣れるには相応の時間を要したし、結構な苦労があった。慣れない日本文化に戸惑い、時には苛立ち、たまに感激などもしながら、F・Fは比較的ゆるりと今日までの時間を過ごしてきた。

「こっちでの暮らしには大分慣れたみてえだな、マスターよ」

 ロールの一環で与えられたアパートの一室でテレビ番組を見ながら寛いでいたF・Fの耳に、少なくとも数日間は聞いていなかった男の声が入り、思わず反射的に身体が跳ねる。驚いて玄関の方に目線を向けると、其処には案の定、彼女のサーヴァント・アサシン……真名をアスラ・ザ・デッドエンドと言う彼の姿が有った。
 
「びっくりしたあ〜ッ……お前、今まで何処ほっつき歩いてたんだよ?」
「呵々、ご想像の通りさ」

 その返事に、F・Fは思わずアホかお前は、と呆れてしまう。
 ある日突然姿が見えなくなったかと思えば、何とこの男、単独でサーヴァントとの遭遇戦を繰り返していたらしい。目立った消耗・負傷は見られない辺り、其処まで派手な戦いはなかったようだが……それにしても呆れた物である。多分莫迦なんだろうなと、改めてプランクトンの女はそう思った。
 そんな彼女に、アサシンは笑みを浮かべながら問いを投げる。

「マスター。お前、楽しいか?」
「いきなり何だよ、藪から棒に」
「――俺は、楽しいぜ」

 ぐっと拳を握りながら、彼は獣のような笑みを浮かべていた。
 其処には喜びの感情だけが有る。嫌味も含みも、勿論悪意も邪悪さもない、純粋な喜び。
 戦闘狂の浮かべる笑みと言うよりは、ある種スポーツマンか何かのそれを思わせる表情。

「何せ、俺が胸を張って"人生"と呼べた時間は滅茶苦茶に短かったからな。
 受肉なんざするまでもなく、俺にとっちゃ二度目の生も同然だ。おまけにしち面倒臭いしがらみもねえ。呵々、これを最高と言わずして何と言うのか、俺には解らねえ」

 心底満ち足りている、と言う風な彼の言葉を聞いて、F・Fは少し考える。
 十秒程だろうか。腕組みをしながら冬木で過ごした記憶を掘り返し――うん、と一度頷いてから、彼女は口を開いた。

「微妙だな」

 はっきり言えば、今の日々は惰性だ。
 日本での暮らしも悪くはないが、自分にはアサシンのように何か明確な目的が有る訳ではない。思い出を作ると言う事は決めているし、聖杯を手に入れる機会があるなら狙ってみたいとも思っている。それでもF・Fはやはり、闘争をこよなく愛するだとか、そういう質ではないのだ。
 少なくとも現状、有意義な思い出らしい物は得られていない。だから、微妙。そう答えるしかなかった。
 それを咎めるでもなく、アサシンはまた呵々と笑う。

「お前もきっと、今に解るさ」

 ――そんなもんかねえ。

 机の上に広げたコンビニのおつまみを口に運びながら、F・Fはもごもごとそう呟いた。


611 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:22:07 QExpRb6o0
■20:釁れの剣――暁美ほむら&バーサーカー


 暁美ほむらは、九時を少し過ぎた時計の針を眺めながら、此処までの戦いに思いを馳せる。
 ほむらはこの通りきちんと生存していて、何か重篤な負傷を負っている訳でもない。左手を見れば、令呪の存在も確認できる。これらは皆、彼女が聖杯戦争を今も尚戦っている事の証左だ。立ち塞ぐ敵の全てを蹴散らしながら、ほむらは此処まで勝ち上がってきた。
 哀願の声を遮り殺した。驕った魔術師を呆け面の死体に変えた。サーヴァントが不在でも、自分自身の判断と工作で他の主従を潰し合わせた。勝つ為だけに魔法を使い、その度返り血に染まってきた。呵責がないと言えば嘘になるが、だからこそ足を止めはしなかった。悔やみ、嘆き、省みて足の向かう先を変えた所で、自分が奪った者達は戻らないのだ。ならば最後まで貫くのが、殺戮者の責務と言う物だろう。
 
 暁美ほむらは願望器を手にする為ならば犠牲を厭わない戦士だが、それでも倫理観が消し飛んでいる訳ではない。
 人並みの常識、善悪観念、価値観が有る。その中には当然、今述べた倫理観も入っている。
 だからほむらは暴走しない。只淡々と、自分の目的に向けて動くだけだ。然し、彼女の喚んだ――いや、喚んでしまったサーヴァントの方は違う。あれは、真性の狂人だ。倫理観を理解不能の思想で消し飛ばし、曲がりなりにも人間だった頃が有るなら持っていて然るべき常識を悉く自ら望んで捨てている。
 故に暴走もするし、それを悪いとすら思っていない。彼はほむらにとって間違いなく唯一最大の味方だったが、同時に最大の嫌悪対象でもあった。

「――よう、マスター」

 思考を見透かしたように、響く声。邪竜の、聲。
 
 ――血液を思わせる、赤髪の偉丈夫だ。顔立ちは端正と言っていいそれだが、全身から隈なく発されている暴力の匂いが否応なく本能的な危機感を抱かせる。これに近付いてはならないと悟らせる。それは至極生物として真っ当な警鐘だ。何故なら彼は欲望竜……人の手には余る超常の怪物であるが故に。

「……何の用かしら。貴方と語らうつもりはないと、前に伝えた筈よ」
「そう嫌うなよ。俺はこれでもおまえのことを買ってるんだぜ?
 一人の為に延々時間を繰り返し、運命の断崖に挑み続けた時間遡行者(タイムリーパー)! 餓鬼に此処まで本気を見せられちゃ、あれこれ理由付けて鬱屈してる塵屑共はさぞかし立つ瀬がねえだろうよ、ヒハハハハッ」
「――バーサーカー」

 これに賞賛されると言う事自体、虫酸が走る。ほむらは露骨な不快感と苛立ちを滲ませて、バーサーカーに鋭い目を向けた。それ以上無駄な言葉を叩くなと、少女らしからぬ眼光が告げている。それで揺さぶられるバーサーカーではないが、彼も、何もマスターを弄る為に姿を現したのではない。一瞬の静寂の後、今度は本来の用件について語るべく、再度口を開いた。

「もうじきだ」

 たったそれだけの台詞で、然しほむらはバーサーカーの言わんとする事が理解出来た。
 要するに、彼はこう言いたいのだ。――聖杯戦争が始まる、と。これまでのように数ばかり揃えた潰し合いではなく、その中で生き残った者達による、正真正銘の聖杯戦争。その開幕がすぐ其処にまで迫っていると言う意味で、彼は先の台詞を口にした。
 ほむらは何故解るのかと問う事はしなかったが、バーサーカーは生前、ある傭兵団を使役していた。団の目的は只一つ、バーサーカーの愛した英雄が居る国の撃滅。その為に彼は全てを賭し、その過程の中で、情報収集や都市・国家全体の様子の変化等を機敏に察知する力を身に着けた。それを応用し、今こそが聖杯戦争の節目となる時期だと結論付けたのである。

「そう。やっと、なのね」
「ああ。待ち侘びたぜ、漸く本番って訳だ」
「……今回ばかりは貴方と同意見よ」

 やっと、願望器の姿が……その輝きが見えてきたと言う所か。
 これまでは暗中を黙々と進んでいるような物だったが、その甲斐有って、確実に足は聖杯へと近付いた。
 あと少しで、願望器に手が届く。道理では成らぬ救いを、奇跡の力で実現する事が出来る。
 鹿目まどか――ほむらの大事な少女を、過酷な運命の鎖から解き放ってやる事が出来る。

"さあて、手前が何を企んでるかは知らねえが――"

 そんなほむらを傍目に、バーサーカー……ファヴニル・ダインスレイフは全てを糸引いているのであろう、ルーラーの皮を被った英霊へと思考を向ける。
 裁定者? 笑わせるな審判者よ。本気で言っているなら頭の病院にでも行くといい。

"勝つのは俺だ、ってなァ"

 そう、勝つのは自分だ。その為に、あらゆる限界の枷をぶち破ろう。全ては、いつかの光へ挑む為。


612 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:22:48 QExpRb6o0
■21:冒涜の玉座――黒桐鮮花&ランサー


 黒桐鮮花と言う少女が聖杯戦争に参加させられたのも、全くの偶然だった。
 日常の中でひょんな事から掴んでしまった『鉄片』。
 それに引き摺られるようにして、参加したくもない魔術儀式、聖杯戦争へと身を投じる羽目になってしまった。
 鮮花の最大の不幸は言わずもがな其処だったが、然し、それだけではない。
 現在進行形で彼女の頭を悩ます、頭痛の種がある。いや――"居る"と、言うべきだろうか。

「……貴女ね。本当、一体何があったのよ」

 フードを被った少女。見た目だけなら、鮮花よりも一回りは幼く見える紫髪の娘。彼女こそが、黒桐鮮花と言う不運なマスターのサーヴァントとして選ばれた、ランサークラスの英霊である。……あるのだが、彼女は少なくとも真っ当な英霊では決してない。その事を鮮花はこれまで、嫌という程思い知らされてきた。
 
「…………」
「はあ。この期に及んで、まだだんまりって訳」

 彼女は――聖杯戦争を。そして、ルーラーのサーヴァントを憎んでいるのだ。
 強い憎悪、なんて次元ではない。殺意と形容するのも生易しいような執念で、ルーラー抹殺を志している。
 鮮花でなくとも、それを知ったなら頭を抱える事だろう。聖杯戦争を潰したいと言うのなら、百歩譲って解らない訳ではない。だがルーラーを殺したいと言うのは意味不明だ。儀式の打倒を志す上で戦わねばならなくなる、なんて消極的な理由ではない。ランサーは寧ろ、そちらの方が主目的であるかのようだった。
 当然、それは困難どころの話じゃない。ルーラーはサーヴァントの生殺与奪権を、事実上握っている。生かすも殺すも自由自在、その気になればいつだって令呪を用いて自害させる事が出来るのだ。そんな相手を好んで狙うなんて、まさしく百害あって一利なし、無益極まりない考えだと言える。それが解らない訳でもなかろうに、ランサーは鮮花が何度言っても考えを改めようとはしなかった。

 只、不幸中の幸いか。
 ランサーは、少なくとも今はまだ、ルーラーに挑むつもりはないらしい。
 彼女が何を知っているのかは定かではないが、現状では勝てない、と言う事なのか。
 ――はあ、と。もう一度、鮮花は深い溜息を吐いた。これと一緒に行動していたら、いつか胃に穴が空く。心の底からそう思うが、別なサーヴァントのアテもない。生きて帰る目標が有る以上サーヴァントの存在は必要不可欠な為、必然、このランサーに付き合わなければならなくなる。ままならないにも程が有ると、誰かに思い切り愚痴りたい気分だった。

"幹也――"

 禁忌の恋。
 愛する実兄へ、鮮花は思いを馳せた。
 そう、死ぬ訳にはいかない。よりにもよってこんな場所で果てるなど、論外だ。
 何としてでも生きる。生きて、帰ってやる。半ば自棄気味に、鮮花は決意を新たにするのであった。


 ――ランサー。復讐の徒と化した彼女は、嘗て女神と呼ばれた存在だった。
 行く末の決まっている、神話体系上最も有名な三姉妹、その末妹。
 何が彼女をこうまで変えたのか。時を遡る事は、今は出来ない。彼女の視た地獄は、今はまだ、彼女の中にしかない。
 
「――審判者」

 ギリ、と歯を軋ませて。
 忌まわしきルーラー……審判者(ラダマンテュス)への殺意を発声する。
 彼女の真名は、聖杯戦争の舞台においては有り得ざる姿で現界した、呪われる前のとある反英雄。
 女神としての姉二柱に近しい姿を持つ彼女は、されど戦う力を持たない永遠の少女とは違い、戦う力、数多の命を奪い去る魔の萌芽を幾らか備えている。
 
 その銘は――メドゥーサ。
 今は静かに眠る玉座の真実を知る、唯一の例外。
 悪辣にして知略冴え渡るルーラーが敢えて舞台に混ぜ込んだ、小さな、されど意味の有る砂粒である。


613 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:23:21 QExpRb6o0
【クラス】
ランサー

【真名】
メドゥーサ@Fate/Grand Order

【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷A 魔力E 幸運C 宝具A+

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:B
 魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
 大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】
女神の神核:A
 生まれながらに完成した女神であることを現す固有スキル。
 神性スキルを含む複合スキル。あらゆる精神系の干渉を弾き、肉体成長もなく、どれだけカロリー摂取しても体型が変化しない。
 彼女は後に怪物となる宿命を帯びている為か、姉達よりランクが低い。

魅惑の美声:B
 人を惹き付ける魅了系スキル。
 女神による、力の行使の宣言でもある。

怪力:C
 一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

彼方への思い:-
 いつの日にか在ったかもしれない彼方――

鋼鉄の決意:A+
 鋼の精神と行動力。
 痛覚の完全遮断、並びに永続的な呪詛にも耐えうる超人的な心身を有している。
 本来のメドゥーサはこのスキルを持たないが、今回の彼女はある理由から保有。
 その決意は全て、憎悪すべき一人の男を討つ為に。

【宝具】
『女神の抱擁(カレス・オブ・ザ・メドゥーサ)』
ランク:B 種別:対人宝具
 従来のメドゥーサ(ライダー)のスキルとして所有している能力、すなわち現在の状態のメドゥーサが『未来』に取得するモノを宝具として得ている。
 手にした不死殺しの刃を見舞ったあと、視界に捉えた相手を瞬時に石化させる、最高レベルの魔眼「キュベレイ」による効果。
 これを軸として、彼女は猛攻撃を行う。


614 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:23:41 QExpRb6o0

【weapon】
 不死殺しの刃

【人物背景】
 メドゥーサ。ギリシャ神話に登場するゴルゴン三姉妹の末妹。
 本来であれば召喚されるはずのない、神霊系サーヴァントの一柱。
 彼女が此処に居るその訳は――。

【サーヴァントとしての願い】
 審判者(ルーラー)を殺し、聖杯戦争を滅ぼす


【マスター】
 黒桐鮮花@空の境界

【マスターとしての願い】
 元の世界に帰るのが最優先。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 「発火」の魔術が唯一にして最大の得意技。炎で対象を焼くのではなく、対象自体に発火して貰う、という攻撃方法。
 彼女は魔術回路を持たないが、先天的な属性として発火現象を持っていた為、その発動・制御のために火付けの魔術を習っている。まだ魔術の組み立てが未熟な為、戦闘時には師の蒼崎橙子からもらった火蜥蜴の皮手袋を填め。発動用の詠唱には音楽記号を用いる。これは鮮花が魔術と戦闘を楽曲だと捉えている為。
 当然、その一芸に特化して汎用性がない。"魔術師見習い"ではなく"魔術使い見習い"。

【人物背景】
 起源が「禁忌」であることから、実の兄を一人の男性として愛する少女。

【方針】
 ランサーに辟易気味。生きて帰れれば、聖杯は手に入らずとも構わない


615 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:24:30 QExpRb6o0
■EX:開戦――ルーラー


 五月一日、午前零時――
 
 聖杯戦争に参加する権利を残したまま、この日を迎えられた主従の数は、二十二組。
 激戦の果てに、或いは運良く、若しくはそれ以外の理由で、数週間にも及ぶ剪定期間を生き抜いた者達。
 彼らのみが、生きてこの時を迎える事が出来た。開幕の日、創世神話の一頁目。輝ける英雄譚の舞台役者として、真に星となる権利を得る事が出来た。――男は、それを心の底から祝福していた。素晴らしい、よくやった。君達の奮闘を心から賞賛し、尊ぼう。栄光まではあと少し、今後も精進したまえと、教鞭を振るう教師のように柏手を叩きながら。
 
『――こんばんは、諸君』

 虚空に映し出される、『鉄片』に選ばれ、尚且つサーヴァントが現存している者のみが視認出来る投射映像。
 其処に映っていたのは、蒼眼に硝子眼鏡の美丈夫だった。纏っている衣服は、軍服。一目見ただけで教養と地位の高さが窺える、威厳に溢れた男。彼こそが此度の聖杯戦争を取り仕切る、サーヴァント・ルーラーである。冬木教会を拠点とし、座し構え続けていた彼が、こうした形でマスター達へ通達を行い始めたその理由は、一つしか考えられない。
 
『先ずはおめでとう。君達は過酷な予選段階を勝ち抜き、本戦に参加する権利を勝ち取った。
 今この時を以って、聖杯戦争は第二段階に移行する。総数二十二の主従に依る、第二の聖杯戦争……無論、より熾烈な戦いになるのは間違いないだろうが、それを乗り越えた二組は――"黄金の塔"、ひいてはその頂点に降臨する願望器を手にする権利を得る事が出来る訳だ』

 まだ二十二も居るのかと思うか、あとたった二十二と思うかは、人によって分かれる所だろう。
 尤も、大半は前者だ。ルーラーはそれを理解した上で、存分に戦うがいいとマスター達を鼓舞している。
 
『何、恐れる事はない。
 君達も既に知識として知っているだろうが、この聖杯戦争にはある特殊なルールを実装してある。
 勝利を重ねれば重ねる程、聖なる鉄は君達のサーヴァントを強化するだろう』

 『鉄片』……聖鉄を用いた霊基強化。これこそ、間違いなく此度の聖杯戦争の最大の特色だ。
 だが然し、これは決して弱者に機会を与える物ではない。無論、覚悟を決めて刺し違える覚悟で勝利をもぎ取るなり、謀略で鉄を奪う事が出来れば、そうした手合いにも転輪の恩恵を受ける機会は有るだろうが――それでも、圧倒的な武力で弱者を蹂躙出来る強者の方が受けられる恩恵が大きいのは間違いない。要は、強者に甘いのだ。
 ルーラーとて、それは承知の上で有る。その上で、彼は其処に何の問題も感じていない。
 確かに強者は余計に強くなる。そして、その何が問題なのだと。強き者が強く有るのは当たり前の事ではないかと。裁定者らしからぬ思想に基づいた絶対の精神性で、それを全肯定していた。
 弱者は弱者で本気を出し、限界を超えれば追い付ける。弱者の立場に甘んじるな、強者の喉笛に喰らい付くべく吠えるがいい。さすれば道は開けよう。誰にでも等しく輝く権利は与えられているのだから、死力を尽くして挑めば平等。あるべき秩序は、如何なる時でもおまえ達の中に輝いている。

『そして、もう一つ伝えておかねばならない事が有る。聖杯戦争の"制限時間"についてだ』


616 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:25:06 QExpRb6o0




 その話は、唐突に切り出された。
 制限時間の存在。それはつまり、敵との戦い以外に、時間との戦いを強いられると言う事。
 
『空を見たまえ。視えるかな、あの"月"が』

 ――マスター達は、サーヴァント達は、空を見る。
 
 雲はなく、
 星が見え、
 大きな大きな月が見える。

『視えるかな、あの醜悪な貌が』

 それは月であって、皆の知る月では決して無い異形だった。
 人面の月。酷く醜悪な表情を浮かべた、冬木に破滅を齎す滅びの天体。
 あれがサーヴァントの宝具であるなどと、一体誰に信じられようか。
 然しそれが真実だ。これなるは聖杯戦争に仕掛けられた時限爆弾、約束された大災害。
 天体規模の大破壊を受ければ、たとえ神霊であろうと霊基の粉砕は免れない。
 人類は間違いなく消滅し、仮想世界は崩壊しよう。一つの例外もなく、滅却は執行される。

『今から三日後……五月四日の午前零時に、かの月は地表に激突する。それが聖杯戦争の終幕条件の一つ、"時間切れ"だ。この結末を迎えたなら、誰の願いも叶う事はない。君達の願望は、月の墜落と共に聖杯共々露と消える。とはいえ、私としてもそんな幕切れは極めて不本意なのでな。そうならないよう、諸君らが全力を尽くしてくれる事を願っている』

 聖杯戦争の破綻を避ける為か、あの月はNPCには視認出来ない。破滅を知る事が出来るのは真に命有る者、魂有る者だけだ。機械を廃棄する際に、一々当の機械に許可を取らないように。プログラムされた者達には死を知る必要すら、ないのだ。所詮彼らは舞台装置。戦争の終了、奇跡の降臨と共に泡と消える泡沫の夢なのだから。

『では、これにて通達を終了しよう。――願わくば、君達の未来に幸福が有る事を祈っているよ』

 白々しく、そんな台詞を吐いて。蒼眼のルーラー、審判者のサーヴァントはマスター達の前から姿を消した。


617 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:26:05 QExpRb6o0
■22:滅びの月――間桐桜&キャスター


 月。
 滅びの月が空に有る。
 全てを押し潰し、葬り去る死の月光。
 それを見上げる少女が居た。
 彼女の存在をルーラーが明かさなかったのは、慈悲なのか、計略なのか。
 解らないが、確かな事が一つ有る。それは――聖杯戦争の終末の一つ、滅びの大災害。あのルールは、絶対ではないと言う事。少女の存在が、そのか細い手に刻まれている令呪がその証だ。従える者が居る以上は、仮面の齎す災禍も絶対ではない。少女、或いは元凶のサーヴァントを抹殺する事で、終末を覆す事が出来る。

「――きれい」

 美しさとは無縁の、醜悪な貌を持った月。それを見上げて少女が漏らした感想がこれで有る事から、聖杯戦争最後のマスター・間桐桜と言う娘がどんな精神状態に有るのかが解るだろう。彼女は壊れている。幼い身には苛酷過ぎる調教と言う名の仕打ちを受けた事で、その心は今や、強固な拒絶の壁に囲われている。
 彼女をそんな風に変えた元凶の魔術師は、この世界には居ない。正確には、同じ名を持つ男は居た。だがマスターですらない彼は、少女の従えるキャスターに魂を喰われて既に死んでいる。彼女は、ひとりきりだ。一緒に居るのはキャスターだけ。滅びの元凶、嗤う仮面。間桐桜の、唯一の味方。
 いや、そう呼ぶには語弊があるだろう。何故ならこれを従える限り、桜に勝利はない。

 仮面――ムジュラが死ぬか、みんなが死ぬか。彼女の終わりは、そのどちらかと決まっている。

「――a ha ha ha a ha ha ha」

 ケタケタと、子供のような笑い声。
 まともな話が通じない、意思疎通が出来たとしても相互理解は不可能と一瞬で解る、呪われた小僧。
 誰も居なくなり、廃墟同然と化した間桐邸の庭で、彼は何がそんなに楽しいのか、笑いながら跳ね回っている。
 桜はと言えば、膝を抱えて月を見つめているだけだ。彼女は終わりを知覚していながら、恐怖している風には見えない。そんな機能さえ、自閉の内に閉じ込めてしまった。みんな終わる、すべて終わる。月が落ちて、さようなら。

「a ha ha ha a ha ha ha」

 ふと、桜はキャスターの方を見る。
 彼は、何でこんなに楽しそうなのだろうか。
 桜には、解らない。そして、誰にも理解出来ないだろう。
 
 桜はぼんやりと、思い出す。
 薄ぼけた記憶。もう何年も前の事に思える、いつかの日々。
 母が居て、父が居て、たまにおじさんが居て、姉が居た。
 あの頃は、桜も隣の彼のように――此処までではなくとも、楽しそうに公園を駆け回っていた。
 戻りたいとは、思わない。思えない。そういう風になっている。
 されど、仮面のキャスターを見ていると、どうしても記憶の中の風景が甦ってくるのだ。
 優しくて、辛くなくて、永遠に続くと思っていた、優しい日溜まりの景色が。

「でも」

 そう、でも。
 そのことに、意味はない。
 間桐桜はそれを知っている。
 だって――

「ぜんぶ、おしまい」

 全ては、三日目の月と一緒に終わるのだから。

 静かな夜に、けたたましい笑い声だけが響いていた。
 遊ぼう、遊ぼう。何して遊ぼう。
 かくれんぼ。おにごっこ。
 負けたら皆で罰ゲーム。
 お月さまが落っこちて、みんなで喰われてゲームオーバー。

「遊ぼう、楽しもう」

 最後の時まで、皆で楽しく。
 楽しそうに、可笑しそうに――仮面の小僧が嗤っている。


618 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:27:11 QExpRb6o0
■EX:神階――美遊・エーデルフェルト&セイバー


「終わったの、"セイバー"」
「ああ。滞りなく」

 審判者を呼んだのは、黒髪の少女だった。
 子供らしい小柄な体躯と愛らしい顔立ち、だからこそ、この場所でこの男と言葉を交わしている事実が不穏であった。
 そして、今、少女はルーラーである筈の彼を"セイバー"と呼んだ。
 他のマスターが見ても、彼の霊基はルーラーとしか映らない。ならば、少女が呼び名を間違えたのか。否だ。何故なら彼女こそ、この審判者を英霊の座から呼び出したマスター。彼女は、自分のサーヴァントのクラスも覚えていないような間抜けではない。認識を誤っているのは、彼女と彼以外の全てである。

「尻に火が点かないと動けないと言う人種は、存外多い物だ。無論、状況の如何に関わらず本気で戦える者が理想だが……何、そうした者達にとっても、月(あれ)の存在は良いカンフル剤になるだろう」

 審判者が言っているのは、通達にて初めて存在を明かした時間制限のルール……ひいてはそれを齎す災厄のサーヴァント、ムジュラの仮面についてだ。彼は最初からそれの存在を把握していたが、敢えて秘匿し続けていた。本来なら討伐令を出してでも真っ先に排除すべき手合いであると言うのに、彼はクエストを発令するどころか、聖杯戦争を効率的に進めるルールの一つとして利用してのけたのだ。
 ルーラー適正を持つサーヴァントが見たなら、首を傾げるか怒気を露わにするか、そのどちらかであろう。彼のやっている事とその意図は、公平なるルーラーにあるまじき物。裁定者のクラスの務めである聖杯戦争の恙なく、正しい形での進行。それを彼は、自ら進んで破っている。
 一方で、マスターである少女。サーヴァント共々、彼女は見てくれを偽装している。正しくは、相手の知覚に作用する迷彩を施している。聖杯戦争に際して遣わされた管理NPC、誰の目にもそう映る筈だ。そして、それも嘘。彼女はれっきとした生きている人間であり、従えるサーヴァントはルーラーなどではない。

「この聖戦は劇的でなければならない」

 口許が、笑みの形を取る。
 蒼眼には野望の光が宿り、マスター……美遊・エーデルフェルトと言う名を持つ少女も、それに頷いた。

「君と私の願いを叶えるには、その熱が不可欠だ」

 サーヴァント達よ、光を抱いて天昇しろ。
 
 全て、全て、霊基も宝具も、戦意の内に蝋と溶かしたその果てに……

「勝つのは私であり、君だ。その為の共犯関係なのだから、当然だろう」

 美遊・エーデルフェルトが、この男を相棒だなどと思った事は誓って只の一度もない。
 その狂った思想や言い分には吐き気さえ覚えるし、此奴は討たれて滅ぶのが似合いの外道だとも理解している。
 然しその上で、彼女は彼の共犯者だった。望むのは白紙、あるべき世界の形。
 既に罪に穢れた身だ。後はもう、走り切るしかない。暗闇の中でもう一度、今度は自分に言い聞かせるように、美遊はゆっくりと頷いた。


 そして――審判者、ギルベルト・ハーヴェスと言う英霊は、そんな少女の想いさえ己の策に含めながら、微笑する。
 最後に勝つのは自分だと、微塵も疑わない表情だった。自力で世界を捻じ伏せられる人種特有の、光に満ちた瞳だった。

 断言しよう。聖杯戦争は茶番である。聖杯の恩寵が誰かの手に渡る事はない。――この男が、居る限りは。


619 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:28:05 QExpRb6o0


【クラス】
 ルーラー(セイバー)

【真名】
 ギルベルト・ハーヴェス@シルヴァリオ トリニティ

【ステータス】
 筋力B 耐久B 敏捷B 魔力B 幸運A 宝具B+

【属性】
 混沌・善

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

真名看破:EX
 全てのサーヴァントの真名及びステータス情報を"把握している"。
 真名隠蔽能力を持つサーヴァントであろうと、例外ではない。

神明裁決:A
 ルーラーとしての最高特権。
 聖杯戦争に参加した全サーヴァントに対し、二回令呪を行使できる。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】

光の奴隷:A++
 大いなる輝きに焦がれ、その在り方を大きく破綻させた者だけが持ち得るスキル。輝ける狂気の象徴。
 このスキルを持つ者は、他のあらゆる精神に作用するスキルや宝具の効果を受け付けない。セイバー程のランクにもなれば、比べ合いすら行わずにシャットアウトする。
 性質としてはバーサーカーのクラススキル『狂化』に似通っており、現にセイバーはバーサーカーの適性も持つ。
 更にセイバーが一定以上のダメージを負い敗北の淵へ追い込まれた場合、自身のステータスを立ちはだかる敵の強さに応じてランクアップ・「勇猛」を始めとした各種戦闘スキルをその場で獲得することが出来る。諦めなければ世の道理など紙屑同然、それを突き詰めた男に焦がれたセイバーもまた、最終的には彼と同じ結論に至るのだ。

     ・・・・・・・・
 そう――全ては心一つなり。意志の力を前に、あらゆる道理はねじ伏せられる。

審判者の炯眼:A++
 軍略スキルの上位互換。
 幾十もの可能性を事前に想定して物事を進めることで、未来予知に等しい事態の予測を行うことが出来る。
 戦闘に限らずあらゆる物事に対してこのスキルは発動可能。
 彼を味方に付けた者はその炯眼の恩恵を存分に受けることが出来るが、然し驕るなかれ。
 審判者は傑物だ。他人を手の平で踊らせるということにおいて、彼の右に出る者はない。

戦闘続行:A+
 意志の怪物、光の亡者。
 彼の中に戦意がある限り、致命傷を負っても悪夢のように立ち上がる。
 霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。


620 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:29:17 QExpRb6o0

無窮の武練:A
 ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
 心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
 セイバーの場合単純な武技もさることながら、彼自身の炯眼も相俟って恐るべき域に達している。

■■特権:EX
 ■■正■■■ーヴァン■■■■い。
 召■■れ■■同時■聖■■■■■、■■■■テ■■改■■た舞■■■配■であ■。
 ■に、彼が■■戦■の■■ル■■■れる■■■な■。
 彼のステータスはこのスキルにより、常時ランクアップ補正を受けている。

【宝具】
『楽園を照らす光輝よ、正義たれ(St.stigma Elysium)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1
 衝撃の固定と多重化を自在に行う。
 一度切れば十の斬撃が、二度殴れば二十の打撃が、というように、与えた衝撃を多重層化させたうえで相手自身の体や獲物、あるいは周辺構造物に付属させるという異能。
 一合でも打ち合った瞬間、ギルベルトの意思に応じて起爆する見えない爆弾をいくつもつけられているようなものであり、術中に嵌ってしまえば当然回避は不能。
 さながらそれは、彼の未来予知じみた先見と相俟った死の詰将棋。必罰の聖印。
 本質を見破るのは言わずもがな至難の業な上に、ギルベルトという英霊が凡そ不得手な素養を持たないことも、能力の不透明さと異質さに拍車をかけている。
 よしんば見破ったとしても彼自身の卓越した武芸と知慧、宝具自体の単純な強力さが審判者の心臓を幾重にも護る。
 ――この星光を攻略しない限り、審判者を打ち破るのは未来永劫、不可能である。

【weapon】
 長剣

【人物背景】
 光の英雄、クリストファー・ヴァルゼライドに魅せられた光の亡者。

【サーヴァントとしての願い】
 ???


【マスター】
 美遊・エーデルフェルト@Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ

【マスターとしての願い】
 ???

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 この世界の彼女はカレイドステッキを所持していない為、基本的に戦う事は不可能。
 彼女は生まれながらに完成された聖杯であり、その性能はオリジナルに極めて近い。

【人物背景】
 世界を救う鍵。
 世界を滅ぼす鍵。
 神話を創る、鍵。

【方針】
 ???


621 : 月の街、光の宴、闇の未来 ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:29:38 QExpRb6o0
■EX:創世神話――


 これは、新たな神話を創る為の茶番劇。

 ジャンルは当然、英雄譚(サーガ)以外に有り得ない。

 されど、忘れるなかれ。
 
 全ては前座。茶番なのだ。英霊と言う薪を、総て燃やしたその先に――創世の神話は、必ずや君臨するだろう。


622 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:30:22 QExpRb6o0



 以上でOP投下を終了します。長々お付き合い頂きありがとうございました。
 続いて書き手向けのルールについてになります。

 
■書き手ルール
 
◇予約について
 5/29(月)0:00分を以って、当企画の予約を解禁します。
 期限は二週間、延長をすれば其処から更に一週間の期限延長が可能です。
 
◇時間帯について
 当企画の主な時間区分は以下のようになります。

 深夜(0〜4)
 早朝(4〜8)
 午前(8〜12)
 午後(12〜16)
 夕方(16〜20)
 夜(20〜24)

 また、本編開始時の時間は「午前」とします。

◇状態表について
 基本的には、以下のテンプレートに則った形でお願いします。

【エリア/場所/日数・時間帯】

【名前@作品】
[状態]:
[令呪・聖鉄]:残りX画、X個
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本:
1:
2:
[備考]

【クラス(真名)@作品】
[状態]
[令呪・聖鉄]:残りX画、X個
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本:
1:
2:
[備考]


623 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:30:54 QExpRb6o0
以下、自作主従の把握方法等になります。

■藤丸立香&セイバー(坂上覇吐)
 藤丸立香:
  スマホゲーム『Fate/Grand Order』メインストーリー全七章で把握出来ます。
  ただ、大まかなキャラクターを掴むだけなら六章、七章辺りだけでも把握出来るかと思われます。
  動画サイトにプレイ動画も上がっておりますので、そちらも利用可能です
 坂上覇吐:
  PC用ゲーム『神咒神威神楽』並びにCS版の『神咒神威神楽 曙之光』で把握出来ます。
  当該キャラを把握するだけなら前者がお薦めですが、個人的にはCS版をお薦めします

■ウェイバー・ベルベット&アーチャー(ウラヌス)
 ウェイバー:
  小説『Fate/Zero』全六巻。アニメは全二十六話で、此方で把握しても基本的には大丈夫です。
 ウラヌス:
  PC用ゲーム『シルヴァリオ ヴェンデッタ』並びにCS版の『シルヴァリオ ヴェンデッタ-Verce of Orpheus-』で把握出来ます。
  前者は誤字や脱字がやたらと目立つ問題が有る為、CS版がお薦めです。

■黒桐鮮花&ランサー(メドゥーサ)
 黒桐鮮花:
  小説『空の境界』。主な出番としては『忘却録音』になります。アニメ版も有るので、此方で把握しても基本的には大丈夫です。
 メドゥーサ:
  スマホゲーム『Fate/Grand Order』メインストーリー第七章で把握出来ます。
  動画サイトにプレイ動画も上がっておりますので、そちらも利用可能です

■ケイトリン・ワインハウス&ランサー(ヴィルヘルム)
 ケイトリン:
  PCゲーム『Vermilion-Bind of Blood-』で把握出来ます。
  キャラを掴むだけなら1ルートやれば大丈夫と思われますが、グランドルートもプレイしておくと尚良いです
 ヴィルヘルム:
  PC・PSPゲーム『Dies irae-Amantes Amentes-』で把握出来ます。
  最大の見せ場がグランドルートの為、其処までプレイする必要があります。
  またファンディスクに彼が主役の外伝『interview with Kaziklu Bey』がありますが、此方は絶対に必要という訳ではありません。
  07年版こと『Also sprach Zarathustra』は、把握目的なら絶対に買ってはいけません(戒め)

■ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト&ランサー(秦こころ)
 ルヴィア:
  原作漫画『プリズマ☆イリヤ』シリーズで把握出来ます。
  参戦時期的に、第三シリーズの『ドライ!』まで読んでおくのがお薦めです
 秦こころ:
  『東方心綺楼』で把握出来ます。
  少し探せば台詞集が転がっていますので、それとSTGパートのプレイ動画を少し見れば把握出来るかと思います


624 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:31:45 QExpRb6o0

■夏目吾郎&ライダー(藤原妹紅)
 夏目吾郎:
  原作小説『半分の月がのぼる空』全七巻で把握出来ます。
  アニメ版も有るには有るのですが、小説版での把握が望ましいです。実写での把握は少々きついです。
 藤原妹紅:
  『東方永夜抄』で把握できます。
  少し探せば台詞集が転がっていますので、それとSTGパートのプレイ動画を少し見れば把握出来るかと思います

■チェルシー&キャスター(キャンチョメ)
 チェルシー:
  原作フリーゲーム『Alice mare』で把握出来ます。フリーゲーム且つ難易度も低めなので、把握難度は低いです。
  またニコニコ動画の方にプレイ動画が多数上がっていますので、そちらでも把握出来ます。
 キャンチョメ:
  原作漫画『金色のガッシュ!!』で把握出来ます。登場範囲はほぼ全巻です。

■丈槍由紀&バーサーカー(茨木童子)
 丈槍由紀:
  原作漫画『がっこうぐらし!』で把握出来ます。六巻くらいまでは読んでおくのが望ましいです。
 茨木童子:
  原作ゲームのイベント『鬼哭酔夢魔京 羅生門』『天魔御伽草子 鬼ヶ島』で把握出来ます。
  どちらも現在プレイできないイベントになるため、プレイ動画での把握がお薦めです。
  また、同作のキャラ"坂田金時"の幕間の物語にも大きく関わるので、此方の方もぜひ。

■アンヌ・ポートマン&バーサーカー(マルス)
 アンヌ:
  PCゲーム『Vermilion-Bind of Blood-』で把握出来ます。グランドルートまでプレイしておくと尚良いです
 マルス:
  PC用ゲーム『シルヴァリオ ヴェンデッタ』並びにCS版の『シルヴァリオ ヴェンデッタ-Verce of Orpheus-』で把握出来ます。
  前者は誤字や脱字がやたらと目立つ問題が有る為、CS版がお薦めです。

■暁美ほむら&バーサーカー(ダインスレイフ)
 暁美ほむら:
  原作アニメ全十二話で把握出来ます。
 ダインスレイフ:
  PC用ゲーム『シルヴァリオ トリニティ』で把握出来ます。プレイするのはミステルルートのみで大丈夫です

■美遊・エーデルフェルト&ルーラー/セイバー(ギルベルト)
 美遊:
  原作漫画『プリズマ☆イリヤ』シリーズで把握出来ます。第三シリーズ『ドライ!』までの把握が必須です
 ギルベルト:
  PC用ゲーム『シルヴァリオ トリニティ』で把握出来ます。
  アヤルートをプレイすれば大まかなキャラと戦闘スタイルは掴めるかと思いますが、彼の場合、グランドルートまでプレイしておくのが最もベターです


625 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/28(日) 00:32:48 QExpRb6o0
以上で一連の投下を全て終了します。
wiki整備は明日、遅くとも明後日の内には終わらせますので、もう少しお待ち下さい。
今後も当企画をよろしくお願いします。
また、改めて、皆様沢山の力作ご投下、本当にありがとうございました!


626 : ◆ZjW0Ah9nuU :2017/05/28(日) 04:03:20 F/Jjn0eQ0
投下お疲れ様です!
どの主従も魅力的な面子が集まり、中には舞台にも大きく影響を与えそうな参加者もいますね
今後このキャラクターたちがどう絡み合って聖杯戦争を進めていくのか、期待です!
そして3日後に月が落ちてくるというまさかのムジュラの仮面状態。
なるほど、これがChaos.cell…

また、拙作『大往生したなどと誰が決めたのか』を採用してくださりありがとうございます。
ただ、OPに指摘するのも出鼻をくじくようで恐縮ですが、陽蜂の部分において機械化された者が全て戦車になっているような描写が少しだけ気になりました。
陽蜂の「機械化惑星人作成」は要はヒトを原作の雑魚的に変えるっていうスキルですので、戦車以外にも戦闘機や固定砲台も出てくるという感覚で書いてました。
拙作の把握情報に書いてある通り、下のURLから外見が確認できますので、ご一考ください。
個人的には原作に拘らずに原作には無かった兵器が出てきてもいいと感じていますが、戦車しか出ないというのもバラエティに乏しいと思いますので…

ttp://www.cave.co.jp/gameonline/saidaioujou/stage/

戦車しか出ない理由があればそのままで大丈夫です。場合によってはステータス表の修正にも応じられます。


627 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/29(月) 00:00:06 rVBgKiQ20
>>626 
対応しました


それでは、只今を持ちまして予約の方を解禁させていただきます。
マップについては既にwikiに掲載しておりますので、そちらをご確認くださいませ。

夏目吾郎&ライダー(藤原妹紅)
丈槍由紀&バーサーカー(茨木童子)
以上を予約します。


628 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/05/29(月) 22:53:12 rVBgKiQ20
今更ですが状態表テンプレにミスがあったので修正します。
些細な修正ですが、こちらが正しいです

◇状態表について
 基本的には、以下のテンプレートに則った形でお願いします。

【エリア/場所/日数・時間帯】

【名前@作品】
[状態]:
[令呪・聖鉄]:残りX画、X個
[装備]:
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本:
1:
2:
[備考]

【クラス(真名)@作品】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本:
1:
2:
[備考]


629 : ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:37:08 s/IwlMeo0
自作の採用ありがとうございます。

東雲あづま、バーサーカー(スサノオ)、美遊・エーデルフェルト、ルーラー(ギルベルト・ハーヴェス)で予約します


630 : ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:37:28 s/IwlMeo0
投下します。


631 : 朝日が見下ろすハルバード ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:38:39 s/IwlMeo0
月が見ている。
世界を、星を終わらせる死の満月。
昼間だというのに空に浮き、こちらを見ているそれ。
鏡の中のバケモノに似ていると、東雲あづまは思った。

鏡の国のアリス症候群という奇病が存在する。
鏡、あるいはガラス、水面。
鏡面ならば何でもいい。
あべこべの世界が映るのなら、彼らはどこにでも鏡の国を見出してしまう。

鏡の中の自分が、現実とは違う風に動く。
映るはずのない、そこにないものが映り込む。
幻覚の怪物が手招きし、語りかけ、患者の心を侵していく。
東雲あづまもまた、そうした症状に日常的に苛まれてきた。
 
発症要因、メカニズム、一切不明。
患者の脳を調べても医学的な異常は一切なし。
そのあまりの奇怪さに、患者達は鏡の向こうに実在する何かを本当に知覚しているのではないかと唱えた医者もいる。

そして、これがただの精神病ではないというその推測は的を射ていた。
鏡面認識異常を抱えた患者達は、文字通り"アリス"なのだ。
ワンダーランドに入り込み、世界を滅ぼす鬼と戦うことの出来る戦士。
いわば、世界の希望。そう称されるべき存在こそ、あづまを始めとしたアリス達なのである。

しかし、あづまにとっては世界の命運などよりよっぽど優先すべき目的があった。
自分を殴り、叩き、犯し、唯一の友人すら奪い取った家族。
家族といっても、正式なものではない。
今はどこにいるとも分からないお母さんとはまるで似つかない、心底醜くて許し難い四人。

彼らを殺すことだけが、東雲あづまの目的だった。
ワンダーランドのある仕組みを利用することで、家族全員を殺す。
聖杯戦争に巻き込まれてしまうというアクシデントがあっても、大元の目的は何も変わっていない。
それだけ追い求めて此処まで来た彼女は、一般的な感性の持ち主から見れば、まさしく異常者に映ることだろう。

「ふあ」

欠伸を一つ、する。
朝の陽射しが眩しい。
いつも通りの飾り気のない服装で、あづまはある場所へと向かっていた。
学校、ではない。あづまはもう随分と長いこと、ほぼ不登校といっていい状態にある。

そもそも彼女は幼稚なのだ。
実年齢よりも、その精神年齢は幾つか下。
小柄なことも相俟って、ある意味では見た目通りの性格ともいえる。

そんなあづまだから、学校のような集団生活を余儀なくされる場所とはそもそも相性が合わない。
よく言えばマイペース、悪く言えば自己中心的で社会性がない。
すれ違う人々は彼女に驚いたり、哀れんだりと様々な顔を見せたが、あづまにとって周りなど腐った南瓜に等しい。
自分と、文鳥ちゃんと、あとまあバーサーカー。あづまの世界はそれだけで、それ以上がほしいとも思わない。


632 : 朝日が見下ろすハルバード ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:39:17 s/IwlMeo0
『……どこへ行くのだ、マスター』
「きょーかい」 

行き先は、冬木教会。
言わずもがなその場所にいる人物は、昨夜初めて顔を見せた軍服のルーラーだ。
てっきりまたどこかへ散歩、ないしは索敵と言うものだとばかり思っていたバーサーカーはわずかな驚きの感情を抱く。
この猪突猛進な少女が、自ら進んでルーラーの下に向かおうとするなど考えもしなかったからだ。

『何をしに行くつもりだ?』
「しらべもの。ルーラーってすごいやつなんでしょ?」

鳥の死骸などという冒涜的な品物を懐に忍ばせながら、教会に向かおうとする姿のなんと異様なことだろう。
その足で悪魔崇拝のカルト教団に駆け込もうとしていると言われた方が、まだいくらか信憑性がある。
あづまは、何やらルーラーに訊きたいことがあるという。
もちろん聖杯戦争絡みの案件ではあるだろうが、ルーラーの言葉を仰がねばならないほどのこととなると限られてくる。

「セカイオニ殺しのちから。どのくらいまで使えるのか、わかんないから」

アリス。
ワンダーランドで戦う力を持つ者。
本来その"力"は現実世界には持ち出せないはずだったのだが、この世界ではそもそも現実ではないからか、その制約が存在しない。
これまでにも何度かマスター殺しに使ってきたし、それをバーサーカーも実際に見ている。

サーヴァントであるバーサーカーの目から見ても、異様な力だった。
武器を作り出して小さな体で跳ね回り、一刀両断していく姿は驚嘆に値した。
そして、あづまが力の使い方に難儀した様子を見せていたのも事実だ。
確かに聖杯戦争を取り仕切るルーラーなら、その辺りについても知恵を授けてくれるかもしれない。

自分の力がどれだけ出せるのか。
それを把握しておくことは極めて重要だ。
全力と流す部分の区別がつかない兵士など、戦場では真っ先に死んでいく。
戦う力を持ち、自分自身戦うことを望んでいるあづまだからこそ、その辺りは確かに重要なファクターといえた。

とはいえ、それを指摘するなら自分からだろうとバーサーカーは思っていた。
重ねて言うが、東雲あづまという少女は幼く、稚拙なのだ。
しかし今回のように、変なところであづまは利口なところを見せる。
自分の確と見据えた概念以外は見えない、そういう性質なのか。

「じゃま入るとだるい。バーサーカーはそのへんうろついてて」
『了解した。何かあれば、すぐに念話で呼べ』

バーサーカーは未だ、自分のマスターの人となりが分からない。
薄っすらと感じ取れてはいるものの、それだけだ。
善ではなく、悪でもない中庸の灰色。
かつての仲間達……アカメなら、タツミなら、ナジェンダなら、彼女にどう接したろうか。バーサーカーは、考える。

答えはそれぞれの性格によって変わってくるだろうが、共通しているのは一つだ。
彼らなら、決して虐げられる少女を見捨てはしない。
そしてバーサーカーも、この哀しいマスターに見切りを付けるつもりはさらさらなかった。
どれだけ救いようがなくとも、それを決めるのはたかがサーヴァントであるこの身ではない。


633 : 朝日が見下ろすハルバード ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:39:40 s/IwlMeo0
「(……俺は戦うだけだ。帝具として、サーヴァントとして)」

小さな足取りを後ろから追いながら、バーサーカーは己の指針を再確認する。
あくまでも此処は聖杯戦争。
通過点でしかなく、大事なのはこの先だ。
なら、自分が腐心すべきは生かすことである。

帝具として、サーヴァントとして、主を生かすために全力を尽くす。
人型帝具であるバーサーカー……スサノオにとっては慣れた趣向だ。
ならば、後はそれをなぞるのみ。
黙して守り、まっすぐに倒し、あづまを未来まで案内する。

教会の扉の向こうに消えていくマスターの姿を見届け、スサノオは霊体のまま移動、近場のマンションの屋上まで跳んだ。
此処ならば近付く気配の察知も、隠形の手段を持たないマスターの接近も瞬時に見抜くことが出来る。
正直、制裁を恐れずルーラーに攻撃を行うような馬鹿が居るとは思えないが――何も危険は物理的なものだけではない。
例えば使う力の情報がちょっと漏れただけでも、戦場では致命的である。

聖杯戦争は単純な武力のぶつけ合いに非ず。
その実情は相手の情報をかき集めて分析し、敵の弱みを洗い出して叩き潰す情報戦だ。
生前ナイトレイドの暗殺者として行動した経験のあるスサノオは、情報の大切さをよく知っている。
だからこそ彼は一切気を抜くことなく、いかなる形での危害も許さぬとばかりに神経を集中させるのだ。

何か来るのなら、看過はしない。
何も来ないなら、それでよし。
のどかな朝の空気の中、一人佇む見えざる狂戦士。
だが――彼を待っていた展開は、予想していたどれとも異なるものであった。

『――何』

体を翻す勢いで、教会の方へと視線を向ける。
次の瞬間、スサノオは凄まじい速度で教会へと駆け出していた。
彼が今感じ取ったのは戦闘の気配。
だが真に驚くべきなのは、それが発せられている場所だ。

スサノオのマスター、あづまが入っていった建造物。
ルーラーが待機している、この冬木市で最も安全な筈の施設。
即ち――冬木教会。他ならぬそこで、今まさに剣呑な戦いが始まったようなのである。
何が起きている。焦燥のスサノオの心を一言で表すならば、妥当な言葉は"理解不能"以外にない。

教会に近付く反応が感じ取れなかったということは、気配遮断スキルを持つアサシンでも潜り込んだのか?
そもそもルーラーは何をしている、よもやあの男は襲撃の一つも察知できない愚物だったのか?
契約のパスは生きている。つまり、あづまは死んでいない。では、こんな状況だというのにあづまは何故念話を送らない?
疑問の尽きないまま、スサノオは一刻も早くあづまを救い出すべく教会への道を急ぐ。

結論からいえば、教会で繰り広げられている事態は、スサノオが思い描いたどんな可能性とも異なっている。
サーヴァントはいないし、不届き者のマスターもいない。
どこかの誰かが向かわせた使い魔や宝具による召喚物が暴れているなんて話もない。
そもそも教会には――東雲あづまとルーラーと、管理NPCとされる少女以外には誰もいない。


634 : 朝日が見下ろすハルバード ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:40:26 s/IwlMeo0



「おや。何の――」

用か、とルーラーが言う前に扉が閉まり、東雲あづまは床面を蹴った。
何も握っていなかった小さな右の手のひらに、お手頃サイズの手斧が出現する。
そのままルーラーへと踏み込んで、その顔面を叩き割らんとあづまはそれを振り下ろした。
しかし手応えはない。あづまの斧はものの見事に空を切っていたからだ。

"すかっ"なんて間抜けな擬音が似合う空振り方だった。
ルーラーがあづまの暴挙に対し取った行動は、ただその場を一歩後ろに退いただけ。
彼の表情は実に涼しいもので、何の焦りも怒りも抱いてはいないように見える。
とはいえ流石に、少しは驚いたようだったが。

「ちっ」

舌打ち一つ。
斧を投げ捨て、また作り直す。
今度は身長ほどもあるハルバードを。
ぶおんと空を切る快音を立てながら、ルーラーの首へ。

「ふむ」

またしてもステップ一つで避けるルーラーに、あづまはなおも追い縋る。
その身のこなしは間違いなく、平和な日本に生まれた少女のものではなかった。
武道の達人顔負けの速度から振るわれる、乱暴だが馬鹿げた威力を秘めた一閃。
あづまの生み出す武器が神秘を宿している以上、当たればサーヴァントすら殺傷出来るだろう。

「投影魔術……とは似て非なるものらしいな。
 魔力を消費して神秘に変換し、自分の心象を特定の型に当て嵌めているのか」

珍しいものを見た、と感心したように漏らすルーラー。
その間もあづまは一瞬も手を休めることなく執拗な攻撃を続けている。
薙いで払って突いて切り伏せて切り上げて縦に横に右に左に斜めに、手を変え品を変え。
猛烈な勢いだが、その表情を見るに彼女的にはご不満な展開のようだ。

確かにあづまは、マスターとしては破格の力を持っている。
要は強い思いがあればそれに応えてくれる力なのだ、弱いわけがない。
おまけに武器だけでなくそれを扱うあづま自身の能力も、同様に強くなっている。
ただ積み重ねてきた技量だけは、アリスの力では誤魔化しが効かない。

世界鬼が相手なら、技量の強さはそこまで重要視されないのだ。
的が大きければ振れば当たるし、小さくても粘り強く食い付いていけばどうにかなる。
が、世界鬼より上等な頭脳とスペックを持つサーヴァント相手ではそうはいかない。
現にあづまは、ルーラーの圧倒的な技量を前に彼を傷つけるどころか、武器すら抜かせられずにいる。


635 : 朝日が見下ろすハルバード ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:41:03 s/IwlMeo0
「(こいつきらい! うざい!!)」

笑みを浮かべながら攻撃をかわすルーラーに、あづまは神経を逆撫でされたような気分になった。
今まで、あづまの周囲にはいなかったタイプの相手だ。
眉間に皺を寄せるあづまは攻撃の手は緩めないまま、更に攻めるべく戦斧を片手持ちにする。
そうして手空きになった左の手のひらに生み出すのは、右と全く同じ巨大戦斧だ。

数が倍になればそれだけ強い。
同じ動きを倍の武器でやれば敵は死ぬ。
簡単な理屈を大真面目に実行するのが、東雲あづまだ。
大きな力を持った子どもは一番怖いというが、まさに彼女はその"大きな力を持った子ども"だった。

それでもルーラーを捉えられない。
けれど、あづまは何も闇雲に攻撃しているわけではなかった。
ルーラーの動きは達人のものだが、時間さえかければまだ慣れられる。
慣れることが出来たなら、後は強引にぶち破ればいい。

150を少し超える回数斧をぶん回したところで、あづまは一旦後ろに下がる。
気は済んだのかな、とルーラーが言い終えるのも待たずに、新しく出した武器をぶん投げた。
もちろん当たらなかったが、避けた隙を突いてまた疾走、細切れにしてやる勢いで斧を振るう。
ルーラーは相変わらずだ。しかし変わらないままならいける。あづまは、叫んだ。


「とまほぉぉぉ――――――――っく!!!!」


トマホーク――元は北アメリカのインディアンが使っていたとされる斧。
手に持って使うことももちろん出来るが、本領は斧のイメージとは結び付かない投擲にある。
要は俗に言うところの投げ斧。
遠くにいる獲物も仕留められ、ものによってはブーメランのように使うことも出来る変わり種だ。

あづまがさっき投げたのはそれだった。
ルーラーに呆気なく避けられた二本の手斧はぐるぐる回転しながら、背後からその背中に飛んでいく。
それも知っているとばかりに避けてみせるルーラーだが、あくまで飛んできたトマホークが外れただけだ。
あづまの手元にある二本の斧は、依然振るわれない状態のままで残されている!

「ほう。悪くない手だ」

左右から豪速で襲ってくる斧は、流石のルーラーでも避けきれない。
此処で初めて、彼はその得物である剣の柄に手をかける。
火花が散るほどの速度で、ルーラーが抜き放った。
すると、どうだ。あづまの両刃を、抜刀動作だけで相殺してみせたではないか。

攻撃動作を終えたばかりということもあり、あづまの小さな体が押し返される。
力強く床を踏みしめることで踏み止まったあづまは両手の斧を捨て、今度は一振りの"馬鹿でかい"戦斧を出現させる。
防いでくるなら防御ごとかち割ってやる、と言わんばかりの強引な武器チョイス。
が、あづまがその威力を試す前に勝負は決しようとしていた。

「だが、これ以上は看過出来ないな。静粛にしたまえ」

パチン――ルーラーの指が鳴る。
それと同時に、あづまの体を見えない何かが真上から襲った。
すっかり攻撃に取りかかっていたあづまは、為す術もなく地面に叩き伏せられる。
かふっと肺の息を吐き出す音が教会の中に響いた。


636 : 朝日が見下ろすハルバード ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:41:37 s/IwlMeo0
「な、んだ、これっ。――はな、せ! この、くそメガネっ!!」
「そう暴れるものではない。それにどうやら迎えも来ているようだ」

暴れるあづまと、それを制するルーラー。
教会の鉄扉が開け放たれたのはまさにその時だった。
扉の向こうから現れる、サーヴァント。
東雲あづまのバーサーカー。真名、スサノオ。

彼は一も二もなくあづまに駆け寄ると、ルーラーを鋭く睥睨した。
それに対しルーラーは咎めるでもなく抜いた剣を収める。
彼はただ、応戦しただけだ。
あづま達がこれ以上続けようとしてでもこない限り、戦闘を続ける理由はない。

「……どういうことだ、これは。何故ルーラーの貴様が、俺のマスターと戦闘していた」
「誤解しないでもらいたいな。仕掛けてきたのはあくまで君のマスターだ、バーサーカー」
「なんだと?」

あづまの顔を思わず見るスサノオだが、彼女がそれを否定することはなかった。
沈黙は時に肯定を意味する。
ルーラーの言い分、あづまの様子、そして教会の中に何も外部からの仕掛けがない事実。
全ての要素が、加害者は東雲あづまであると語っている。

「何故だマスター。何故、ルーラーを攻撃した?」
「……さっきゆった」
「……まさか、お前は」

あづまは、調べものをしに教会に行くと言った。
しかし、ルーラーに話を聞きに行くとは言っていない。
此処でスサノオにもようやく事の真相が見えてくる。
なんということだと、唇を噛む他ない真実だったが。

あづまは嘘をついていない。
最初から彼女はルーラーと戦うつもりだった。
いや、正しくはそうではない。
あづまは元よりルーラーという手頃な"最強"を使って、此処での自分の限界を調べようとしていたのだ。

それを予想出来なかったスサノオを誰が責められるだろう。
どんなサーヴァントでも、まさか自分のマスターがそんな暴挙に出るなどとは思わない。
人間がサーヴァントに挑む時点でおかしいのに、あろうことかルーラー相手にそれをやるなんて。
聖杯戦争のなんたるかを理解している者の行動とは到底思えない、とんでもない自殺行為だ。

「目的はどうあれ、ルーラーへの反逆行為はペナルティの対象だ。
 この場合なら令呪一画の没収あたりが妥当だろうが……」

そう、ルーラーを攻撃しないのは単に強いからではない。
多くの場合、彼らはサーヴァントやそのマスターにペナルティを下す力を持っている。
反逆が成功したならともかく、失敗すれば後の聖杯戦争で大きなハンデを負うことになりかねない。
そして今回などは、もはや言い逃れのしようもなかった。

「まあ、魂胆は理解出来る。
 主従間で企てた襲撃でもなかったらしいのでな……今回は不問としておこう」

その言葉を聞き終えるのと、バーサーカーが動いたのは同時だった。
座り込んだままのあづまを抱き上げ、床面が陥没するほどの勢いで地面を蹴り、まさに脱兎のごとく逃走。
数秒とかからない一瞬の内に、荒々しすぎる訪問者達は教会を去っていった。
それを見届け、ルーラーは感心したような顔をしているからおかしなものだ。


637 : 朝日が見下ろすハルバード ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:42:23 s/IwlMeo0
彼にとって東雲あづまの暴挙は、怒りを覚えるたぐいのものではなかったらしい。
いや――むしろその逆のようですらある。
そんな彼を怪訝な目で見つめるのは、裏に隠れていた美遊・エーデルフェルト。
ルーラーですらない偽りの監督役を従える、表向きは管理用のNPCとなっている少女だ。

「……どうして処罰しなかったの?」
「何も情けをかけたわけではないさ。
 サーヴァントが手を出してくるようなら、容赦なくペナルティを与えていた」

そして、理由はそれだけではない。
そのことが美遊には分かっていたから、視線には少なからず責めるような色が混ざっている。
自分の力の底を試すため、一番分かりやすい実力者と見てルーラーである自分を実験台にする。
まさしく、光と意志の力を愛するこの男が好きそうな手合いだ。

共犯者からの揶揄するような視線とまともに相撲を取るでもなく、ルーラーは二人が出ていった扉を見つめる。
とんだ暴れ馬のマスターを掴まされたバーサーカーには同情するが、あの少女は"悪くない"。
魂が闇の方に偏っているのが残念でならないというほど、多くの資質と可能性を秘めた少女だった。
穴熊を決め込んでたまたま生き残れたわけではないのだと、あの戦いぶりを見れば一発でわかる。

「まずは一日目。存分に見せてくれたまえ、君達の輝きを」

時刻は午前8時を少し過ぎた頃だった。
聖杯戦争最後の三日間はまだ始まったばかり。
波乱と激闘で溢れ返るべき戦いのスタートとしては、上々の波乱だろう。
ギルベルトと美遊、二人の黒幕は緩やかな嵐の予兆を既に感じ取っていた。


【D-10/冬木教会/一日目 午前】

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[令呪・聖鉄]:三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:管理NPC扱いのためそもそも必要ない
[思考・状況]
基本:聖杯戦争を見守る
1:この男は……

【ルーラー/セイバー(ギルベルト・ハーヴェス)@シルヴァリオトリニティ】
[状態]:健康
[装備]:長剣
[道具]:なし
[所持金]:ルーラー扱いのためそもそも必要ない
[思考・状況]
基本:聖杯戦争の運営を行う
1:バーサーカー主従(東雲あづま&スサノオ)に期待
[備考]
※真名看破のスキルにより、バーサーカー(スサノオ)の真名を把握しました。


638 : 朝日が見下ろすハルバード ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:42:55 s/IwlMeo0



「危ないところだったんだ。理解しているのか、マスター」

スサノオは、あづまを抱えながら人通りのない道を疾走していた。
理由は当然、教会から少しでも離れるためだ。
ルーラーは自分達を不問に付すと言っていたが、戦いを嗅ぎ付けたハイエナがやって来ないとも限らない。
状況を立て直す意味でも一度退くべきだと、スサノオは判断した。

春になったとはいえまだ肌寒さの残る朝の空気。
それを切り裂きながら駆け抜けるバーサーカーとそのマスター。
曲がりなりにも狂戦士を名乗る者とは思えない冷静な口調で主を叱責する彼だったが、正直なところ暖簾に腕押しだった。

「だいじょうぶ、なんとなくわかったから」
「……そういう問題ではない。
 相手がルーラーだったことを抜きにしても、今後は二度とサーヴァントに挑むような真似はするな」

ルーラーとの一戦で、あづまは此処での自分の限界がある程度分かったようだった。
しかしスサノオにしてみればまるで安心は出来ない。
彼女が、必要とあらばサーヴァントだろうが殺そうとする思考の持ち主だと判明したからだ。

東雲あづまは殺意の塊だ。
聖杯という目的のためなら、あづまはいくらでも殺すだろう。
マスターでもサーヴァントでも関係なく、さっきのように殺しにかかる。
出来る出来ないではなく――やってしまう。それに取り組んでしまう。

「……あいつはやだ」
「? ルーラーのことか」

こく、とあづまは頷く。
あづまが他人を嫌いだということ自体まず珍しい。
彼女にとって他人とは無価値で、見るに値しないものであることがほとんどだからだ。
そのあづまが明確に好き嫌いを表明するということは、それすなわちよっぽどのことを意味している。


639 : 朝日が見下ろすハルバード ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:44:33 s/IwlMeo0
「……あいつ、ちょっとこわかった」

それが強さを指して言っているわけではないことに、スサノオは気付かない。
あづまは被虐待児として、他人の人格や抱える歪みに人より敏感だ。
戦っている間中、あづまは攻撃が当たらないことへの苛立ちに加えて、ルーラーへの微かな恐怖も感じていたのだ。
あの公明正大に見える、裁定者のサーヴァントに。

ルーラーの笑みにあづまは闇を見た。
どす黒く、痛くて苦しい暗さを見た。
自分が、ではない。
他人をそんな風にしてしまう気配を、あの男からは確かに感じたのだ。

――東雲あづまは復讐鬼だ。
自分を痛め付けた大嫌いな家族を殺すためなら、全ての敵を殺すまで止まらない。
しかしあづまは怪物(フリークス)ではあっても、無敵ではなかった。
彼女はただ人より負の思いが強いだけの、弱々しい少女に過ぎないのである。


【C-10/路地/一日目 午前】

【東雲あづま@世界鬼】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
[令呪・聖鉄]:三画
[装備]:なし
[道具]:文鳥ちゃん(偽)
[所持金]:小銭が少しある程度
[思考・状況]
基本:マスター全員殺す
1:さっさと殺して帰りたい
2:ルーラーちょっとこわい
[備考]
※アリスとしての能力には以下の制限がかかっています
・複雑な機能を持つ武器、道具の製作は不可能。
・生命エネルギーの代わりに魔力が消費される。

【バーサーカー(スサノオ)@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本:願いはないが、サーヴァントとしてマスターを守る
1:あづまをサーヴァントとは戦わせないつもりだが……


640 : ◆JN79cqD59g :2017/05/30(火) 00:45:02 s/IwlMeo0
投下を終わります。

自作主従の把握方法ですが、両方とも原作漫画を読むのが一番ベターかと思います。
また世界鬼の方はスマホの「マンガワン」というアプリで定期的に無料で全巻公開されるため、それで把握する手もあります(今後も公開があるかはわかりません)


641 : 名無しさん :2017/05/31(水) 18:47:16 3GLsS2p60
投下乙です

力を持った子どもは、何をするかわからない


642 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 17:55:01 O0EI8AQk0

投下ありがとうございます!

ルーラーにいきなり、しかもマスターの方が喧嘩を売るという驚愕の展開にまず度肝を抜かれました。
理由が有ったとはいえ、自分の力を確かめる為に確実に、いつまでも会えるルーラーを狙うとは、やはりあづまはいい意味でも悪い意味でも思考のかっ飛んだマスターですね。
何より恐ろしいのが、歯牙にも掛けられなかったとはいえ、サーヴァントすら殺傷可能なその異能でしょう。彼女の恐るべき殺意から繰り出されるそれは、紛れもなく生命を持つ存在にとって等しく脅威。当企画のマスターの中でも、最強クラスと言って良いかもしれません。
そんなあづまをカバーするスサノオは本当に胃が痛そうで可哀想(小並感)。彼のサポートは今はどうにか追い付いている状態ですが、いつか綻びが起きそうで冷や冷やします。
余談ですが、いきなりトリニティのキャラが予約されるとは思っていませんでした。
力作のご投下、本当にありがとうございました!!


初投下に延長していないとはいえ期限を丸々使う書き手が居るらしい。というわけで遅れて申し訳ありませんが、投下します。


643 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 17:55:58 O0EI8AQk0

 五月一日、街は月曜日。時は、朝。
 人々が慌ただしく通学、出勤の準備をしていたり、或いは既にそれを終えたりしている時間。住宅街の一角に聳える一軒家の屋根上に、歌膝の体勢で座す、見目麗しい少女の姿が有る。もうお察しの事だろうが、この少女は人間ではない。熾烈な剪定を生き延び、今日の日を迎えた二十二騎の内の一体。

「フン。やはり腹に一物抱えていたか、食えぬ男め」

 空の彼方に浮かぶ人面の月――錯覚などでは断じてない、正真正銘、風貌を持った天体。それを地上から見据える彼女こそは、バーサーカーのサーヴァント。真名を茨木童子と言う、真性の鬼女に他ならない。彼女は約束された滅びの運命を知って尚、面白いと言わんばかりの笑みを浮かべていた。
 ルーラーの魂胆は読める。要はあの美丈夫は、戦いに期限を設けようと言うのだ。冗長で怠惰な儀式にするつもりなど毛頭ない、無価値な死を迎えたくなければ必死に戦って三日以内に聖杯戦争を終わらせろ。間違いなく裁定者のサーヴァントが取るべき方針ではないが、茨木個人としては、そういう趣向は嫌いではない。寧ろ、歓迎だ。
 良いではないか、分かり易いことこの上ない。穴熊を決め込んで持久戦に走るような下らない輩が憔悴した顔で立ちたくもない前線に立ち、自分のような強者に蹂躙される絵を想像しただけで上等な酒でも呷ったような気分になる。故に茨木童子は"面白くなってきた"とさえ思っていた。

「どだい、吾のやることは変わらぬ。鬼とは人を喰らい、侵し、財を奪う悪逆の徒。場所がどうであれ、趣向が如何であれ、その通りに悪を尽くすまでよ」

 いつだとて鬼たる彼女はあるがまま。
 人道、倫理、そんな下らぬ概念に基づいた戦いなど糞喰らえ。
 鬼が地上に降りたからには、其処にあるのは血と虐に塗れた地獄絵図のみだ。
 手始めに一体、或いは一人、血祭りにあげて他への見せしめとしてやろうか。
 生かしたまま武力で脅して支配し、体のいい部下を作り上げるのも悪くない。
 そんなことを考えながら口許を歪める鬼の背中に、鬼と関わるには似つかわしくない、まだ幼さの残った少女の声が掛かった。彼女こそ、茨木童子という鬼種をこの冬木に降ろした張本人。願いを抱いて『鉄片』に選ばれ、熾烈な前哨戦を見事生き抜いた聖杯戦争のマスターである。

「ばらきー、何してるのー?」
「……阿呆。外で無闇にその名で呼ぶな、いや中でも呼ぶな」

 では人目に付きにくい場所とはいえ、実体化して己の姿を晒していた自分はどうなのだと、そういう細かい所は視界に入れない辺りが何とも傍若無人な鬼らしい。
 二階の窓から顔を覗かせて屋根上の茨木童子に声を掛けた少女の名を、丈槍由紀といった。
 今は穂群原学園・高等部の制服に身を包み、片手には女の子らしいキーホルダーのぶら下がった手提げ鞄を持っている。由紀は聖杯戦争の渦中にありながら、学校への通学を疎かにしない。他の学生ロールを持つマスターに不審がられない為という表向きの理由も一応有るが、本当の理由はそれとは少々違う。
 由紀は、日常の大切さというものを誰よりも知っている。当たり前だと思っていた光景が、ある日突然崩れ去ることの恐ろしさを知っている。だからこそ、彼女は日常を大事にしているのだ。たとえそれが仮初の――いずれなくなってしまうことが確定している陽炎だとしても。


644 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 17:56:24 O0EI8AQk0

「えへへ、ごめんごめん。そんなところに一人でいるなんて、何か嫌なことでもあったのかと思ったよお」
「ハ。汝のような腑抜けに喚ばれてしまったことが、嫌で仕方なくてなあ」
「そんな、照れるよ〜」
「…………」

 やはりこの小娘は好かん。苦虫を噛み潰した、という表現が最も似合うだろう顔で、茨木は心中そう零した。
 悪意を持って口にした皮肉をこうやって受け流されてしまえば、言った自分の立つ瀬がない。
 そんな茨木の心情など露知らず、由紀は自分の用件を相棒に伝えるべく口を開く。

「"バーサーカー"、私学校行ってくるからね! 今日は補習もないし、いつも通り夕方頃には帰れると思う」
「この期に及んでまだそれか、汝は」
 
 あの月が――顔の有る破滅が、見えぬ訳でもなかろうに。

 茨木童子は鬼であり、丈槍由紀は人間である。
 故に二人の価値観は決して交わらず、完全な相互理解が成り立つ事は決してない。
 日常という概念がそもそも破綻している茨木には、由紀が壊れると解っている偽りの日々に真面目な顔で向き合っている事が理解出来ないのだ。そんな些細な、けれど決定的なズレを抱えたまま、二人の聖杯戦争はこれより幕を開ける。三日間の聖杯戦争、その序幕の出来事だった。


  ◆  ◆


 ――目を覚ます。仮眠室の硬いベッドと粗悪な毛布が齎してくれる寝覚めは決して良いものではなかったが、寝心地なんてものは些細な問題だ。極論、睡眠が確保できればそれでいい。職業柄、短時間の睡眠で長時間活動するのには慣れている。大事なのは僅かでも眠ったということ。零と一の間には無限の差があるように、それがたったの一時間弱だとしても、眠りに落ちていた時間は確実に人間の一日を助けてくれる。

「…………くそ。体が休まった気がしねえ」

 夢を見ていた。
 あの日の夢だ。
 馬鹿で未熟な餓鬼が、初めて現実という壁にぶち当たった日の夢。
 苦い記憶を何度も思い返して自分を戒めるなんて苦行めいた真似をしたいと思うほど、夏目吾郎は毅い人間ではない。彼は脆く、弱く、傷だらけだ。メスを執り、人の命を救い、涙ながらに感謝の言葉を告げられる度、目の前で誰かが息絶える度、過去の自分の醜態が脳裏を過る。
 
 医者という職業は兎角疲労と隣り合わせだ。患者の命を握っているという事に対する気疲れも勿論有るが、それ以上に肉体的な疲弊が大きい。それに加えて夏目は、ある大きな懸念事項を胸に抱きながら眠らねばならなかった。ルーラーからの通達。突如として浮き彫りになった、三日というあまりに短い制限時間。月の墜落による聖杯戦争そのものの自壊。全てが台無しになる、最悪の結末。
 あんな事を聞かされて平静で居られる人間など、狂人か白痴のどちらかだ。
 背筋が粟立ち、息が詰まった。瞳を閉じれば瞼の裏にあの悍ましい月が落ちてくる幻が浮いて、眠りに就くまでに何時間も掛かった。幸いだったのは、昨夜は夏目が出張らなければならないような仕事がなく、時間だけはいつもより余分にあった事だ。それでも眠れたのが一時間と数分という辺りに、夏目の動揺の激しさが窺える。


645 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 17:56:46 O0EI8AQk0

「だから、あんな夢を見たってか」

 自嘲するように、夏目は笑った。
 お笑い種だ。これでは、あの少年のことを笑えない。
 いつまで若者気分なんだと、自罰せずにはいられない。

「――小夜子」

 嘗て妻だった、帰りを待っていてくれる筈だった、最愛の女。
 才能にも顔にも恵まれた夏目吾郎という男の、人生最大の後悔。
 夏目が聖杯戦争に乗る事を決めた理由でもある彼女は、夢の中でいつものように微笑んでいた。

 ――夏目小夜子という人間は、とにかく不思議な女だった。
 おっとりとしているのに胸の奥には確かな芯の部分があり、誰より弱いのに誰より強い。
 羽毛みたいな奴だったと夏目は思う。抱き留めている間は非常に心地よく自分を暖めてくれるのに、ふとした風に吹かれて手の届かないところまで行ってしまい、やがては見えなくなる。小夜子は風に吹かれて消えてしまった。夏目は、それを掴む事が出来なかった。伸ばした手は、虚しく空を切った。
 それから何年も経って、色んな出会いをした末に、愚かな男はこんなところで他人の命を奪おうとしている。
 他人の希望を踏み台にして、自分の後悔を消し去ろうとしている。
 
 小夜子は喜ばないだろう。
 全てを知ったなら、悲しい顔をするだろう。
 それでいて、絶対にオレを糾弾しないだろう。
 それを全て承知した上で進む道を決めたのだから、これはもう、夏目吾郎のエゴ以外の何物でもない。

“……解ってんだよ、そんなことは”

 解っていても、足掻いてしまうのが人間だ。罪深くとも、愚かしくとも、輝く願いを追ってしまうのが人間だ。その点、夏目は紛れもなく人間だった。超人にも狂人にもなれない、正気のまま魔道に手を伸ばした悪人。――いつか相応の報いを受けるだろうな。医者はそう独りごちて、煙草を咥えながら、うははと笑った。枯れ木みたいな笑顔だった。
 禁煙の仮眠室に、有害物質をうんと詰め込んだ紫煙が伸びる。その朧気な軌道は、まるで自分の人生を表しているようだと、夏目は思った。


646 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 17:57:15 O0EI8AQk0
  ◆  ◆


「にしても質の悪い真似するんだな、聖杯ってのは」

 空の彼方に浮かぶ破滅の月を呆れたように見つめながら、溜息を吐いたのは白髪のライダーだった。聖杯戦争の長期化を避けたい理由でもあるのか、それとも単にそういう趣向が好きなだけなのか。真偽の程は彼女には解らないが、どちらにしろ悪辣なことには変わりあるまい。戦いの膠着そのものが全滅に繋がるなんて、まさしく悪夢もいいところである。
 最初から勝利する目的で戦っているならまだしも、聖杯戦争を破壊するだとか、脱出するだとか考えている者達は特に堪ったものではなさそうだ。何しろ彼らにしてみれば、志を同じくする者が増える程滅びの危険が高まっていくようなものなのだから。ライダーは心の中で、そうした者達に同情の念を示した。

「さて――然し、どうしたもんかな。あんまり無策に突っ込んでバトル三昧ってのも、些か気が引けるんだけど」

 ライダーはその特性上、死という概念を恐れる必要がない。
 そも、彼女は本来、聖杯戦争に召喚される事のない存在だ。何故なら彼女は、まず英霊となるに至っていない。死を迎えたならば英霊の資格を満たすのは確実だろうが、それ以前に前提条件である"死"を迎えていないのだから。
 "不死者"。それが、ライダーの持つ最大の特性である。生前、ある事情により不死の霊薬を口にした彼女は、Chaos.Cellが聖杯戦争を起動させたその時ですらまだ存命だった。幻想郷という、人ならざる者や八百万の神が暮らす異郷で――平穏と言えるかは怪しいが――地に足の着いた暮らしを送っていた。
 そんな彼女が何故サーヴァントとして召喚されるに至ったのかについての考察は割愛するが、兎角ライダーはこの聖杯戦争においても変わらず不死者……"蓬莱人"の性質を有している。首を刎ねられようが、全身の血を抜かれようが、圧倒的な重量で体を圧潰されようが、正攻法では絶対に殺せない。ならば肉体を行動不能段階まで破壊すればいいかと言えば、それも無駄だ。
 『死なない程度の能力(リザレクション)』。ライダーが持つ唯一の宝具であるそれの効果は、簡単に言えば復活能力である。自身の肉体の死を引き金とし、まだ生きている自分の魂を核に肉体を再構築。これにより、ライダーは全てのダメージ及び損傷をリセットした状態で蘇る事が出来るのだ。勿論魔力の消費による実質の回数制限は存在するものの、それも然程大きなコストを要求する訳ではない。

 とはいえ、塵も積もれば何とやらだ。
 魔術師ではない夏目に何度も何度も魔力消費を要求すれば彼はいずれ潰れてしまうだろうし、そうでなくても、余り力を晒しすぎれば真名特定の重大な手掛かりになる。不死なんて解りやすい性質を持った英霊ともなれば、調べるのは難しくないだろう。そして、ライダーが積極的な交戦を渋る理由はもう一つある。
 真名が割れていなくとも、不死のサーヴァントなんて存在を認識したなら、相手は当然突破手段を模索してくる筈だ。そうなれば、辿り着く結論には予想が付く。仮にライダーと夏目がその立場に置かれたとしても、同じ手に打って出ると断言出来るくらい、単純明快で基本的な攻略法だ。要は、不死身なんてインチキには構わなきゃいい。


647 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 17:57:49 O0EI8AQk0

「上手く出来てるもんだね、全く。いい迷惑だ」
 
 サーヴァントの心臓は二つ有る。自分自身のそれと、契約を結んだマスターの生命だ。
 どんな凶悪で理不尽な性能をしたサーヴァントでも、マスターを殺してしまえば途端に窮地に立たされる。現界が維持出来ないからだ。単独行動やそれに準ずるスキルを所持していない限り、マスター不在の消滅からは逃れられない。蓬莱人であるライダーですら、その例外ではなかった。それをされれば、彼女は十八番の復活も出来ずに幻想郷へ逆戻りの末路を辿ることだろう。
 そういった事態を避ける為にも、リザレクションを行わねばならない状況に陥るのはなるだけ避けるべきだとライダーは思っている。然しこればかりは、相手の戦力に拠るところが大きいのが困り物だった。戦わずに他の主従頼りで生き延びるのも有りと言えば有りだが、それこそ何処も考えそうな事だ。極端な話だが、全員が停滞していたなら三日後の滅びは避けられない。丁度いい塩梅の立ち回りで最悪の結末を回避していく事こそ、肝要なのである。

 しち面倒臭い事になってるなと、辟易の溜息を吐くライダー。
 そして、そんな彼女を見つめる視線が有った。電信柱でも足場にしているのか、遥か上方より注がれているその視線に、勿論ライダーも気付いている。仕掛けてくるなら応戦してやるつもりでいたが、気付けば数分間、相手は特に行動を起こすでもなく不動のままだ。
 此方が既にその気配を察知している事にまだ気付いていないのか、気付いた上で此方の出方を窺っているのか。多分後者だろうなと、ライダーは思う。何故なら自分の体を這い回る視線には、確かな好奇の色が宿っていたからだ。面白いモノを見つけたとでも言いたげな、敵手の心情が伝わってくる。
 どうしたものか――見ないふりで適当に姿を消して逃れるか、それとも牽制でもしてみるか、悩んだ末にライダーは溜息を一つ吐き、それから口を開いた。

「お前、アサシンじゃないだろ。気配が駄々漏れだぞ、サーヴァント」
「然もありなん。生憎と、忍ぶつもりなど端からないのでな」

 返ってきたのは少女期特有の甲高さを多分に残した、幼い娘の声だった。
 同時に、上空から砲弾の如く迫ってくる高速の一撃。完全な不意討ちならいざ知らず、予見出来るなら躱す事自体は容易い。現にライダーは軽く地面を蹴って後退するだけでそれを回避した。にも関わらず、彼女の表情は芳しいものではない。今の一撃を見ただけで、敵が上位の実力を持つサーヴァントであると解ってしまったからだ。
 それこそ砲弾でも着弾したのかと言うほど見事に抉れ、砕けたアスファルト。サーヴァントの膂力が人外のそれである事は改めて語るまでもない常識だが、それにしても異常な威力である。何らかのスキル……固有の攻撃特性によって強化された一打なのは明白だった。不死の肉体を持つ身では有るが、それでももし直撃していたらと考えると気が滅入ってしまう。

「避けるか。小癪な事よ」

 質の良い金髪に、二本の角を生やした和装の少女。襲撃者は、そんな姿をしていた。
 可憐と言っていい顔立ちと小柄な背丈に反して、気を許してはならぬと本能的な警鐘を鳴らさせる、恐るべき蹂躙者の気配が其処には有る。反英雄である事は間違いないとして、人間由来の英霊ではまずないだろう。発する雰囲気はどちらかと言えば獣のそれに近いし、極めつけが額の角だ。あれを見れば誰でも、彼女が何であるか察する事が出来るに違いない。

「こんな朝っぱらから随分とお盛んな事で。『飛んで火に入る夏の虫』って言葉は知ってるかい、鬼のお嬢ちゃん」
「虫? くくく、吾が虫に見えると言うなら実におめでたいな。
 然り、吾は鬼よ。なればこそ、火に飛び入るのは当然であろう? 人間の営みを踏み躙り、陵辱し、略奪の限りを尽くす。それが鬼と言う生き物だ。そして吾には見えるぞ、汝が跪き、泣き喚いて許しを乞う様が。非礼を詫び、吾の足先に舌を這わせる醜態が」


648 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 17:58:16 O0EI8AQk0

 辛辣な挑発が、交差する。
 二体の間に、友好的な雰囲気など一切有りはしない。
 二体のサーヴァントはどちらも、不敵な笑みを浮かべている。
 相手に歩み寄るだとか、親愛だとか、そういう意味合いとは全く無縁の笑み。
 こっちはお前を骨の髄まで焼き尽くしてやってもいいんだぞと、そういう剣呑な殺気を込めた笑みであった。

「……で。結局、闘り合いたいってことでいいのか?」

 人差し指の先に、威嚇の意味も込めて炎を灯しながら、ライダーは言う。彼女としては、どちらでも良かった。戦っても、戦わなくても。戦おうと言うのなら負けるつもりはさらさらないし、不死の利点を活かさずとも片を付けてやる自信もある。戦わないと言うのなら、それでも構わない。鬼種のサーヴァント。分類が割れている以上、こんな断片的な情報だけでも真名をかなり絞り込む事が出来るからだ。実質、邂逅した時点でライダーには一定の戦果が約束されている。

「英霊同士が相対したのだ。それ以外に何が有る」
「だよな。言うと思ったよ、野蛮人」
「だが、その前に一つ訊いておこう。――汝、そもそも"何"だ?」

 鬼種のバーサーカー……茨木童子は、藤原妹紅と言うライダーに対し、この時初めて露骨に怪訝な顔を見せた。
 
「只のサーヴァントだよ。お前みたいに反英雄って訳じゃないけどね」
「抜かせ。それが英霊の醸す臭いか、笑わせる。大元は人間のようだが、何やらけったいな代物を取り込んでいるらしいな」

 人を喰らい続け、多くの鬼、化物に触れてきた茨木は、どうやら鼻が利くらしい。
 不死者であり、本来なら今も存命している筈のイレギュラーなサーヴァント。そういった妹紅の特徴を、茨木は自身の嗅覚のみであっさりと看破してのけた。彼女にしてみれば、さぞかし珍妙な気分であった事だろう。何せ、自身が喰らうべき生きた人間の臭いを持ちながら、サーヴァントとしての霊基を有していると言う謎の存在だ。未知の敵を推し測る意味でも、接敵に打って出た彼女の判断はまっとうに正しい。
 ……無論、妹紅としては傍迷惑極まりない話であったが。

「余りに妙な臭いなのでな――ひとつ、暴いてみとうなった」

 その台詞を口にした時、茨木童子の顔から既に怪訝な色合いは消え失せていた。代わりに浮かんでいるのは、金銀財宝の詰まった宝物庫を前にした盗賊のようなぎらぎらとした笑み。そう来ると思った、と言わんばかりに妹紅は肩を竦める。とことん厄介なのに目を付けられたもんだと嘆かずにはいられない。
 茨木童子は真性の鬼種だ。混ざり物でも、何かに平伏して生きる小鬼でもない。大江山の鬼達を只一体だけを除いて統べ、人里に恐怖を振り撒いた恐るべき化外。見た目は愛らしく、言動にも所々子供を相手にしているような可愛らしさが有るが、その深奥に有るのは鬼としての残虐性と非道の魂だ。
 暴く、と言うのも、言わずもがな物理的な意味である。彼女が妹紅を倒したなら、その腹を引き裂き、喜々として臓物や骨を検めて狂笑するだろう。その程度で死ぬ妹紅ではないが、話の通じない鬼などに自分の中身を検分されて喜ぶようなマゾヒストでは生憎ない。それに――

「それはいいんだがな。出来れば、表で騒ぎでも起こしてから来てくれないか」
「ほう、どういう意味だ?」
「討伐令を出されたお尋ね者を倒した方が、私としても得られる物が大きいんでね。お前みたいな"子鬼"をただ虐めて楽しむよりかは、そっちの方が有意義だ」
「―――」

 まず妹紅は、茨木に自分が遅れを取ると思っていない。
 この品性下劣な鬼を焼き払い、悠々と帰途に着くイメージが、既に頭の中に有る程だ。だからこそ、嘲りの言葉は淀みなくすらすらと紡ぎ出された。それに対し、茨木童子の表情が凍る。先程までとは段違いに、纏う殺気の濃度が上昇していくのが解る。どうやら、怒らせてしまったらしい。されど上等、折角煽ったのだから、このくらいは反応してくれないとつまらない。

「吠えたな、薄汚いなり損ないが。その報い、高く付くぞ」


649 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 17:58:32 O0EI8AQk0

 
 先に動いたのは妹紅だった。
 ルールの有る決闘ではないのだ、先手を取った方が強いに決まっている。右掌から鉄砲水のように炎を噴出させ、茨木童子を炭も残さず焼き尽くさんとする。火炎の操作に長ける魔術師が瞠目する程の威力だが、これは彼女の宝具ですらない。妖怪退治を生業としていた頃に身に着けた妖術を行使しているだけだ。妹紅はこの他にも陰陽術を始めとした、様々な対妖の術理を会得している。
 この間合い、この出力。流石に一撃とまでは行かないだろうが、はてさてどの程度効いたか。楽観的に事を見守っていた妹紅だが、煌々と燃え盛る火炎が八つに引き裂かれたのを目にした瞬間の行動は速かった。足裏から炎をジェット噴射の要領で放ち、敵の間合いから高速離脱。その傍らで小振りなサイズの炎弾を二十ほど発射する事で、茨木の反撃を完全に封殺しに掛かる。妖怪との戦いに慣れているだけの事はあり、妹紅の攻勢は傍目にも凄まじい物が有った。

「きゃっははははは! 小癪小癪、微温いぞ陰陽師ッ!!」

 だが、それを真っ向から打ち砕きながら前進するのは茨木童子だ。
 彼女は最初の妹紅の炎を内側から、無銘の大骨刀で切り破った。その後片足で地面を蹴り、身の程知らずにも己を侮辱した敵をもう片方の脚で蹴り穿たんとした。結論から言えば躱されたが、然し茨木は妹紅を逃がさない。撤退に魔力放出を用いた妹紅とは反対に、追撃の為に魔力を放出、加速して一気に追い込みに掛かった。
 飛来する炎など、何の脅威でもない。大振りながらも精密な精度で繰り出される斬撃が一つ残らずそれを霧散させ、刀を収めて距離を更に詰める。敏捷では茨木童子は藤原妹紅に劣っているものの、各種スキルと地の利を活かす知略を合わせれば、十分埋められる範疇の格差だ。

 接近戦では否応なしに不利を強いられる。茨木の接近を嫌った妹紅は、地を這うような軌道で炎を操作。波のように茨木の足を絡め取らんとするが、それでも大江山の頭領たる彼女を止めるには足りなすぎる。茨木は今度は対処すらせず、灼熱の波を踏み抜き、まるで何もないかのように踏破し始めた。これには、さしもの妹紅も面食らう。それと同時に、どうやら此奴は自分と相性が悪いようだと漸く思い至った。

「……炎に強いのか。とことん面倒だな」

 茨木童子と言う鬼は、炎に対して耐性を持つ。
 見れば妹紅を猛追する彼女の手や足、その周囲には、所々に妹紅の放ったものではない炎が確認出来る。彼女もまた、妹紅と同じ。炎を駆使して戦闘を行う手合いなのだ。英霊ですら苦しむ熱気の渦に叩き込まれようが、茨木は平然と行動を継続しよう。断じて彼女は、大口を叩いているだけの小物ではないのである。


650 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 17:58:55 O0EI8AQk0

「ハッ、今更怖気付いたか!?」
「まさか」

 とはいえ、あくまで効きが弱いだけ。全く通らない訳ではないのなら、立ち回りとタイミング、後は単純な威力次第で十分手傷を負わせられる。それに、妖怪退治の経験上、こうした直情的で基本に忠実な輩はやり易い部類だ。つまり妹紅は、茨木に対し有利な面と不利な面を同時に持ち合わせている。後は、如何に有利で不利をカバーし、不利を有利で打ち破るか。それさえ上手くこなせれば、勝利を収めるのはそう難しい事ではない筈だ。
 至近に踏み込んで来た茨木童子の拳を、妹紅は精密な炎の操作でいなしつつ、魔力噴射によってその場で急加速。体重と加速エネルギーがたんまりと乗った鉄拳を鬼の腹腔に炸裂させる。茨木の体がくの字に折れ曲がり、苦悶の声が漏れるのを確かに聞いた。手応えを感じるや否や、手空きの片手から炎を出現させ、最初の焼き直しをしに掛かる妹紅。だが、次の瞬間、不死の妖術使いは猛烈な勢いで真横に跳ね飛ばされていた。
 空中に浮き上がった無理な態勢である事など物ともせずに放たれた回し蹴りを、脇腹に喰らった為である。コンクリート塀に打ち付けられ、壁に亀裂を生みながら立ち上がる妹紅。怪力を乗せた一撃は実に重く、何処かの内臓がイカれた感覚が有った。ペッと吐き捨てた唾には血が混じっており、茨木の攻撃が確かに効いている事を物語っている。

 再び骨刀の柄に手を掛け、茨木は獰猛な笑みを浮かべた。
 自分を嘲笑し、思い上がった口を利いた報いは死の激痛で以って贖って貰うより他にない。頭から股の間まで刃を通し、唐竹割りにしてやろう。そうすれば肉叢も検め易い――負傷した妹紅を一気に詰めるべく踏み込む茨木だったが、かの不死鳥にとって、肉体の損傷など有ってないような物である。その証拠に、妹紅は何ら堪えた様子もなく、茨木と自らの間を隔てる空間を埋め尽くす勢いの、無数の指向性を持った炎弾を生み出してみせた。
 これには、茨木も素直に驚きの念を禁じ得ない。妹紅が健在な事に、ではない。彼女が一瞬にして生み出してみせた、自身の鬼術も顔負けの炎に対してだ。陰陽師の類は数ほど見てきたが、此処までの実力者は果たしてどれほど居たか。
 また正面突破に出てもいいが、わざわざ視界を埋めるように広く炎を配置してあるのが気掛かりだ。茨木には、これがある種の目眩ましに思えてならない。勢い任せにぶち抜いた先で、超威力の炎を構えている妹紅の姿が目に浮かぶようだった。ならばと、茨木童子は此処で自身の宝具を開帳する決断を下す。

「ええい、道を開けい!!」

 茨木は妹紅のそれに数でこそ劣るものの、部分的な穴を穿つには十分な火力の炎を連射した。
 これぞ彼女の宝具の一つ、『大江山大炎起(おおえやまだいえんぎ)』。威力は小さいが、その代わり、このように低コストで連射する事が可能な炎の弾丸だ。自身が宝具を用いて行う芸当を、目の前の敵がスキルで行ってくる事が腹立たしくないと言えば嘘になるが、その辺りの鬱憤は終わってからたっぷり晴らせばいいだけの事。
 まずは、この小癪な陰陽師を撃滅する。再度、今度は刀を抜いたままで地を蹴り、炎の壁を突き抜けた。
 壁を抜ける前に、『大江山大炎起』にて空けた穴から妹紅の様子を確認していた事が幸いし、間髪入れずに放ってきた炎を一薙ぎに切り裂く事に成功する。チッと舌打ちを一つし、後方へ逃れようとする妹紅だが、逃しはしない。再び炎を七度ほど連射し、逃げ場を塞ぎながら骨刀を刺突の形に構え、全力で加速する。
 そして――……ずぶり、と。肉を切り裂く手応えが、茨木の右腕に伝わった。


651 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 17:59:33 O0EI8AQk0
「どうした? 口ほどにもないではないか、ええ?」
「――ぐ、うッ」

 刀身は妹紅の腹の真ん中から斜めに入って、背中まで貫通していた。ごぼごぼと吐血する妹紅の姿は茨木の溜飲を大変に下げるもので、やはり戦とはこうでなくてはと、改めてそう実感させてくれる。肉に突き刺した刃から伝わる微細な振動、水っぽい音、全てが懐かしい。京の都を気紛れに訪れては部下と共に蹂躙し、酒呑と共に心から略奪を楽しんだ、愛おしい日々の記憶が矢継ぎ早に蘇ってくる。

「は、は。なかなか効くな、いや、悪くない」

 感慨に耽る茨木を尻目に、妹紅はそんな事を呟いて笑みを浮かべてみせる。
 そして、その白磁の手を、未だ胴に突き刺さったままの骨刀へと掛けた。手の皮が切れるのも顧みず、力強く骨の刀身を握り締める。抵抗と呼ぶにも涙ぐましい妹紅の姿に、茨木は呵々と声を上げて大笑した。何かの間違いで引き抜かれないよう、とうに体を貫通している刃を一層深く押し込んでいくのも忘れない。
 何と無様な事だろう、鬼を怒らせた愚者の末路は。だが当然の報いだ。此奴は自分を虫と、どこぞの頭の螺子が数個外れた女武者のように呼んだ。小柄と嗤い、侮り、嘲った。鬼の怒りを買うと言う事は即ち、地獄を見る事と同義だ。鬼は侮辱の対価に生の全てを蹂躙し、苦痛のままに黄泉へと送る。

「無様よなあ。そら、もっと哭いてみせよ」

 ぐり、と刃を回す。

「哭け、と言っている」

 その言葉に対し、妹紅は行動で以って返答した。

「お前がね」

 ――握った刀身から骨刀に紅炎を伝わせ、瞬きの内に茨木童子の全身を燃やしに掛かるという"行動"で。
 茨木がぎょっと目を見開いた。慌てて決して抜くまいとしていた刃を抜き、炎から後退していく彼女に、崩れ落ちかけて片膝を突きながらも追撃を加えに掛かる。すっと妹紅が手を掲げた途端、先の壁状弾幕の残滓として地面の所々に残留していた極小の火種が、粉塵爆発のそれを彷彿とさせる複数の大爆発を引き起こした。
 鬼女は、骨刀を盾にしつつ変化スキルで自身の耐久性を瞬間的に向上させ、持ち前の耐性と組み合わせて相当な量のダメージを削ぎ落とす事に成功するも、流石にあれほどの爆発を爆心地で受けて無傷とは行かなかった。肌には所々焦げが見え、額からは一筋の血が伝っている。そしてその表情は、言わずもがな赫怒の念に染まっていた。

「貴様――!」
「悪いけど、まともに勝負してやるのは此処までだ」

 吠える茨木だが、妹紅はそれを涼しい顔で受け流し、自身の背部に炎の翼を顕現させた。妖術の応用から成る魔力放出スキルにより、彼女は茨木が先程から何度も見せている加速と同じ芸当を用いる事が出来る。それどころか、純粋な速度と汎用性では、恐らく妹紅の方が勝っているだろう。魔力放出によるジェット噴射を恒常的に背中に発現させての飛行。放出で得られる恩恵は一瞬の物だと言う原則にすら喧嘩を売った、驚くべき不死鳥の妙技である。
 こればかりは、さしもの茨木にも真似出来ない。その上、妹紅が空を戦場にし始めた事で、急激に茨木の旗色が悪くなってくる。茨木は比較的、頭の切れる部類の鬼だ。戦いにも戦術を用い、強気な口調とは裏腹に慎重な立ち回りも必要ならばしてのける。そんな彼女なら、空の敵を打ち落として葬る事も可能では有る。『大江山大炎起』も有るし、最悪骨刀を投擲でもしてやればいい。それが決まれば、確実に勝てるだろう。
 ただそれは――逆に言えば、決められなければ勝ち目がかなり薄いと言う事を示している。あちらは攻撃を避けつつ自由自在に撃ち続けられるのに、此方は攻撃を避けつつ、その上で限られた手札のみを使って攻めていかなければならない。攻撃を当てられる機会の数が端的に言って違いすぎている。
 ギリ、と歯噛みする茨木に、妹紅は口許の血を拭き取りながら、不敵な顔をした。

「此処からは、鬼退治と行かせて貰う」


652 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 18:00:00 O0EI8AQk0

 刹那、空から降り注ぐ、炎弾幕による空爆。
 空爆と言う表現は一切間違っていない。何故なら妹紅の放った炎は全て、ランダムなタイミングで周囲を巻き込みながら爆ぜるからだ。爆発の規模自体は小さいが、その数がべらぼうに多いのだから対処は困難極まりない。おまけに、茨木が迎撃している間にも、妹紅は次々と後続の弾を放てるのがインチキじみている。
 例えるなら、かの織田軍が行ったという三段撃ち戦法を単騎で実現しているようなものだ。地上で戦うしかない茨木にしてみれば、堪ったものではない。捌いても捌いても途切れる事がない、物理的破壊力を持った爆ぜる炎。茨木が数十、数百と剣を振るい、それどころか身体変化で生み出した魔腕まで回しても、一向に妹紅の攻撃が止むことはなかった。

「ぬうううぅ……!」

 さしずめ、火矢の流星群。神話に語られる神罰の火を彷彿とさせる絨毯爆撃。
 一撃一撃から受けるダメージは小さいが、蓄積すればそれも山となる。鬼神もかくやの勢いで猛攻を凌ぎ続ける茨木だが、ジリ貧なのは誰の目から見ても明らかだ。他ならぬ、茨木童子自身の目からしても然り。苛立ちに身を焦がしながら、彼女はこの状況を打破する為にある一つの決断を下す。
 宝具の開帳。第二宝具である『大江山大炎起』よりも遥かに高い威力と貫通力、そして空を舞う鳥であろうが粉砕出来る射程を併せ持つ、茨木の代名詞とも呼ぶべき一撃。渡辺綱との死闘に於いて腕を切り落とされた逸話が具現化したそれは、必ずやあの目障りな小蝿を焼き払える物だと彼女は確信していた。

「……戯けが、限度を超えたな」

 少女の外見からは想像も出来ない、背筋が凍るようなドスの利いた声。
 小柄な体躯から発散される戦意は噴火寸前の火山を思わせ――否、既に噴火は始まっている。藤原妹紅は、茨木童子という鬼の逆鱗に触れてしまった。彼女は鬼としては稀有な、常識的な思考の持ち主である。然し、それでも鬼は鬼。一度怒り狂った鬼種は、手が付けられない怪物と化す。
 天へと伸ばした片腕が、怒りの炎を纏って茨木の身体を離れる。まさしくそれは、切断された鬼の腕が、尚も生きたまま怨敵を撃滅しに動き出したかのような光景。御伽草子の一幕めいた絵が、この現代日本に白昼堂々顕現していた。

「――走れ、叢原火!」

 本来叢原火とは、仏罰降りて地獄に堕ちた僧侶の顔を象り夜な夜な彷徨う、鬼とはまた別種の怪異の事を示す。だが茨木童子の肩から離れ、空に坐す火の鳥を撃ち落とさんと迸ったそれは、まさしく叢原火のそれにそっくりの威容を放っていた。魔力放出によるブーストなど目ではない魔速に達した巨腕が、妹紅の放った弾幕に真っ向から押し迫っていく。


653 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 18:00:19 O0EI8AQk0

「『羅生門大怨起』……!!」

 拮抗するどころか、巨大化した鬼腕は一瞬の迫り合いで以って妹紅の弾幕を粉砕した。
 安全地帯からの爆撃に徹していた彼女も、これには思わず舌を巻く。不味いな、と素直にそう思った。流石にサーヴァントの象徴たる宝具、凄まじいの一言に尽きる威力を有している。物量で押し潰す算段で繰り出した火矢の雨を打ち破っておきながら、全く勢いの衰える気配がない辺りがその証拠だ。
 ――破れるか? 妹紅は、思案する。難しいだろうなと、答えが出るのに一秒と掛からなかった。
 妹紅は自分の力がどの程度有って、どれだけの事が可能かをきちんと把握している。伊達に気の遠くなるような時間を生きている訳ではない、と言う事だ。その点から見ても、あの火力と切った張ったしようとするなら、それなりの消耗が必要になるのは明白だった。結論を言えば、打ち勝つだけなら一応出来る。ただ、やりたくはない。こんな序盤も序盤から、夏目の魔力を盛大に食い潰してしまうのはなるべく避けたい事態だ。

「散華せよ、火雀」

 笑みと共に、茨木が告げる。
 そのすぐ直後に、上空で凄まじい炎熱の大爆発が発生した。
 茨木童子の第一宝具『羅生門大怨起』は、単なる加速を伴った巨大な腕で敵軍を押し潰す攻撃に非ず。勿論そうやって対軍攻撃として使用する事も可能だが、今回のような単体戦では、ある動作を加える事でよりその破壊力を引き上げる事が出来る。要は、腕と言う特性を活かし、敵を掴んで握り潰し、焼き砕くのだ。鋼すら粉砕する握力と地獄の業火にも等しい熱量、どちらか一つでも致死級のそれが、全く同時に押し寄せるのだから無事で済む訳がない。

 ……煙が晴れた時、其処に忌々しい女の姿はなかった。然しながら、茨木の表情は芳しくない。暫し熱が生んだ蜃気楼や舞い落ちてくる燃え滓を見つめた後、鬼女は苛立ちの滲んだ声色で、「つまらん」と短く吐き捨てた。

「奴め、逃げおったか。だがな、此度の屈辱は忘れぬぞ」

 妹紅は死んでいない。
 霊核を粉砕した手応えはなかったし、何より未だ、彼女の独特な残り香が漂っている。今回の戦闘では妹紅が向かわなかった方向に、だ。これを辿れば追跡する事も不可能ではないだろうが、奴も馬鹿ではない。茨木に優秀な嗅覚が有る事を踏まえた上で、上手く撒けるように動いている事だろう。誠に腹立たしいが、追跡は徒労に終わる可能性が高いと言う訳だ。
 茨木童子は、直情的な性格をしていない。鬼らしく傲慢に振る舞ってはいるものの、根っこの部分には真面目で慎重な一面が隠れている。故に、妹紅の追跡は今回は潔く断念した。失敗する事がほぼ明らかな追跡に時間と手間を掛ける等、余りにも阿呆らしいからだ。――だがそれはそれ、これはこれ。茨木が、炎を駆使する鳥の姿を、声を、顔を、臭いを忘れる事は決してない。鬼を侮り、愚弄したなり損ないの英霊もどき。看過出来る道理は、断じてない。

「次は殺す。汝も、汝のマスターもだ。それまで、精々束の間の平和を噛み締めているのだな」

 ……遠くの方から、騒ぎを聞き付けた野次馬の声がする。
 彼らが不死鳥と鬼の戦いの跡を目にする頃には、茨木童子の姿は影も形も残ってはいなかった。されど、電脳の人々は残された爪痕に恐怖する。事故なのか、人為的な物なのか、或いは怪異による物なのか。無知な彼らはいつだとて、真実に辿り着く事はない。ただ、その怯えだけは本物だ。茨木童子や酒呑童子が暴れ回り、人心に恐怖を振り撒き続けていた頃と何ら変わらない、理解の及ばないモノへの本能的な恐怖。
 街は、やがて気付くだろう。此処が、底知れない大きな恐怖の舞台となっている事に。

 この午前の小競り合いなど、所詮はこれから始まる三日間の戦いの、そのプロローグに過ぎない。


654 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 18:00:51 O0EI8AQk0
  ◆  ◆


「"その報い、高く付くぞ"だったか。いやあ、本当に高く付いたな」

 初戦からこれかよ、と愚痴る藤原妹紅の姿は、余人が見たなら誰もが息を呑む事請け合いの惨状だった。
 腹の真ん中から斜め方向に大きな刺突痕が貫通しており、肉が抉れた傷痕が痛々しく覗いている。出血自体は傷口ごとの焼却で塞いだようだが、胴に穴が空いている事は何も変わらない。おまけに、彼女の左腕の肘から先は失われている。此方も止血は済んでいるものの、明らかに行動に支障を来す重傷だった。
 
「吾郎の為に体張ってやったはいいが、これならいっそ景気よく死んどいた方が良かったまであるかな」

 あの時――妹紅は茨木童子の宝具に対し、敢えて己の左腕を差し出した。
 『羅生門大怨起』が白磁の細腕を掴むや否や、炎を纏わせた手刀でそれを切断。後は簡単、魔力放出を全開で使ってかっ飛ばし、一瞬で戦場を離脱するだけだ。追撃が有ったとしても、最高ランクの敏捷ステータスは伊達じゃない。その時はその時で逃げ切れていただろう。あくまで問題は、彼女の宝具だけだったのだ。
 結果、狙い通りに妹紅は生き延びた。無駄な魔力消費は抑え、無意味な生を勝ち取れた事になる。
 
「まだ怒ってるだろうなあ、あいつ。くわばらくわばら」

 ああいう手合いに敵対視される事の面倒臭さは、よく承知している。
 次に顔を合わせる機会が有ったなら、彼女は喜々として今度こそ自分を殺そうとするだろう。相性的に、お互い気持ちよく戦える相手ではないのだ。大人しく忘れ去ってくれるか、或いは適当な所で脱落してくれると非常にありがたい。……こう考えた時点で、そう上手く事は運んじゃくれないだろうが。
 はてさて、これからどうしたものか。まだ一日は長い。暫くは野次馬に徹しつつ、狩れそうな奴を狩っていく事になるだろうか。
 腹の傷が訴えてくる凄まじい痛みに若干顔を顰めつつも、それだけ。呻き声すら漏らすことなく平然と、妹紅は活動を再開するのだった。


【C-3/路上/一日目 午前】

【丈槍由紀@がっこうぐらし!】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[令呪・聖鉄]:残り三画
[装備]:学生鞄
[道具]:勉強道具
[所持金]:一万以上はある
[思考・状況]
基本:聖杯戦争に勝って、"わたしたち"の日常を元に戻す
1:学校に行く。
[備考]
※自分のサーヴァントが戦闘を行った事を察知しました。反応は次の話に準拠します。


655 : 鬼々灰々 ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 18:01:07 O0EI8AQk0

【C-6/団地/一日目 午前】

【バーサーカー(茨木童子)@Fate/Grand Order】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(中)、ライダー(藤原妹紅)への苛立ち
[装備]:骨刀(無銘)@Fate/Grand Order
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本:勝利する。
1:敵を倒し、蹂躙する
2:火の鳥(藤原妹紅)は次に会ったなら必ず殺す。


【C-8/冬木病院/一日目 午前】

【夏目吾郎@半分の月がのぼる空】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[令呪・聖鉄]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:手持ちは十万円ほど。自宅や口座も含めればかなり裕福
[思考・状況]
基本:聖杯で、夏目小夜子を蘇生する
1:日常を過ごす。
2:月の存在は、なるべく考えないようにしたい
[備考]
※自分のサーヴァントが戦闘を行った事を察知しました。反応は次の話に準拠します。

【C-6/団地/一日目 午前】

【ライダー(藤原妹紅)@東方Project】
[状態]:疲労(中)、失血(大)、腹部に刺傷(貫通/止血済)、左腕欠損(止血済)
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円は持たされている
[思考・状況]
基本:吾郎の戦いに付き合う。聖杯はどうでもいい。
1:どうするかな。
2:バーサーカー(茨木童子)は相性も悪いし、余り関わりたくない。出来れば勝手に脱落してくれ


656 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 18:02:38 O0EI8AQk0
投下を終了します。

また、本話の執筆に当たり、茨木童子及び藤原妹紅のステータスを一部修正しました。
茨木童子はマテリアルの内容に基づいた各所修正、妹紅は耐久をA+からEX(規格外)へと書き換えさせていただきました。
今後もこういった修正は多く有るかと思いますが、その都度報告させていただきますのでご安心ください。


657 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/11(日) 21:31:00 O0EI8AQk0
ケイトリン・ワインハウス&ランサー(ヴィルヘルム・エーレンブルグ)
市原仁奈&キャスター(ともだち)

予約します


658 : 名無しさん :2017/06/21(水) 09:51:09 ozj7PvIE0
さようなら ともだち


659 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/22(木) 17:50:48 8GLZdqzE0
延長します


660 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/26(月) 00:02:37 6J2uvB020
投下します。


661 : コンプレックス・イマージュ ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/26(月) 00:03:29 6J2uvB020

「最近は、悲しい事件が多いね」

 変声機でも使っているのだろう。低くくぐもった声で、漆黒のスーツを纏った男が痛ましそうに言った。
 異様な、まさに怪人と言うべき風体の男だった。サラリーマンか何かを思わせる皺一つないスーツは生真面目そうな印象を見る者に与えるが、一方でその顔面は覆面に覆われ、整っているのか崩れているのかさえ窺えない。
 その覆面が、彼の不気味さの最たる所である。目玉の前に人差し指を立てた手をあてがった、何かの暗示とも、何の意味もない前衛的なそれとも取れるシンボルマーク。彼のシンボルであり、彼を慕って集まった"彼ら"のシンボルでもある、始まりのマーク。面の下の表情を誰にも悟らせず、教祖たる男は語る。

「痛ましい事件、事故が、このほんの一ヶ月間で一体どれほど起きただろう。
 そして君達の中にも、それに巻き込まれた子が居るんじゃないかな」

 壇上で滔々と語る男と、整然と並んでそれを傾聴している信者達。その内の何名かが、堪え切れない様子で目頭を押さえ、顔を俯かせた。彼らこそ、今男が触れた、冬木市内で突如急増し始めた事件・事故で肉親や友人、恋人を失った者達に他ならない。たとえ直接実害を被っていなくとも、周りの誰かを害された時点で、既に彼らは"巻き込まれている"。冬木市の影に蠢く深い"闇"の戦いに、意図せずして。
 今回のセミナーの主役――"ともだち"と名乗るこの男に信心を抱く者は数居るが、事の本質を理解している者はまだ居ない。その中で、"ともだち"だけが例外だった。彼は冬木という街の闇の側面、日常の裏側で着々と進行している"何か"の存在と正体を見抜いているかのように、超越者めいた口振りで舌を廻す。

「此処は、いい街だ。東京や大阪に比べればずっと小さくて辺鄙だけど、趣、というのかな。落ち着いて毎日を過ごせる、心地のいい静寂で満ちている。でも、君達も感じ取っている通り、街は既に変わり始めてるんだ。恐ろしい、人に似た顔をした悪魔の使いが入り込んで、皆の平和を脅かしてるんだ」

 それなのに台詞の端々に子供っぽい言葉遣いが交じるのが、信者達に安らぎと親近感を与えていた。
 宗教を統率する者は、畏敬の念を集められる人間でなければならない。人の心を掴むのは簡単だが、人間の中に渦巻く欲望、野心といった感情をコントロールするのは至難の業だからだ。この人には逆らえないと本能的に直感させる、他人とは違う超常性が必要なのである。そうでなければ、教えの力なんてものはすぐに衰退する。それならまだ良い。最悪、自分の築いた教義と組織、その全てを横から掻っ攫われる幕切れにもなりかねない。
 そんな理由から、宗教で儲けようと考える不届き者はあの手この手で超越を演出する。然し、どんな妙手も繰り返せば飽きられる。市井の中にはとっくの昔に、そうした存在への警戒心というものが植え付けられている。過去の事件や偏見(ミーム)から、誰もが自然と耐性を獲得している。
 だが"ともだち"は、過酷な戒律を作らない。禁忌で縛ったり、お布施を強要する浅ましい真似もしない。ただ、優しく語るだけだ。それこそ、まるで友人のように――彼は容易く人の心に近付き、相手から自分の中へ入ってこさせる。気付けばこの通り、誰もが彼の虜になっているという寸法だ。
 実情は殆ど同じだというのに、"ともだち"は新興宗教なんて胡散臭げなものとは違うと此処に集まっている全員がそう信じている。その辺りからも、彼の手腕の巧みさが窺えよう。彼はいつもとても賢く、神を愛するように人に愛される。


662 : コンプレックス・イマージュ ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/26(月) 00:04:02 6J2uvB020

「でも大丈夫。恐れることは何もないよ。君達は、少なくとも無価値に死ぬ羊やヤギでは終わらないだろう」

 少なくとも、という言葉に人々の顔色が不安の色を帯びる。
 文面通りに受け取るなら、価値こそ有るものの、結局は死んでしまうんじゃないか。
 確かに、これだけではそう受け取れる。然し、壇上の彼は穏やかに首を横に振り、皆の不安を否定した。

「言っただろう? 恐れることは、何もないんだ。君達はこれから、大いなる運命の目撃者になる」

 "ともだち"は緩慢な動作で、三本の指を立ててみせた。

「三日だよ。三日間の内に、街には必ず平和が戻り、皆が笑顔で外を出歩ける毎日が帰ってくる」

 根拠は何だ、などと無粋な事を口にした者がもし居たなら、周りの全員から冷たく敵視され、顔を覚えられていたことだろう。その証拠に、今日このセミナーにやって来た者達の中に"ともだち"へ疑いを感じている人間は誰一人として居ない。彼らはもう全員、"ともだち"に揺るがぬ信心を抱いている。
 "ともだち"を馬鹿にされたなら心の底から憤り、たとえ家族に諭されようと"ともだち"を慕うことをやめはしない。それどころか、"ともだち"が命じたなら社会に許されないような行為だって平然と働くだろう。昨日、"ともだち"を嗅ぎ回って消された哀れな刑事が居たが、彼の言う刑事の勘とやらは極めて正しかったといえる。

「それまでの間、僕が皆を導こう。赤信号も大縄跳びも、皆で一緒に挑めば怖いものじゃないんだから」

 "ともだち"は決して善人などではない。
 運命を語り、弱き民を導けるような器の持ち主でもない。
 寧ろ真実はその逆。彼はどうしようもなく小さくて、下らない性根の持ち主だ。
 複雑という言葉では足りない程屈折した歪みを抱えながら大人になってしまった、過ぎ去った20世紀の亡霊。
 それでも――彼は紛れもなく稀代の才人であり、人心掌握の天才だ。慣れたやり口で人の心を掴み、まともな人間が聞いたなら鼻で笑うような突拍子もない話(しんじつ)を大真面目に語り、それを全員に苦もなく信じさせた。人として当然の恐怖を別な感情に転換させて、逆に一蓮托生の連帯感と勇気を植え付けてやった。

「忘れないで。僕は、君達皆の"ともだち"だ」

 そう言って、立てた三本指の内二本を折り曲げ、人差し指だけを真っ直ぐ立てた状態へ変える。
 彼が"運命の目撃者"と称した人々は皆歓声をあげながら、自分達も同じように指を立て、アイドルのライブにコールを送るみたいに力強く掲げた。ともだち、ともだちと、熱に浮かされた声が空間を満たす。
 ――既に"ともだち"のセミナーは、辺鄙な一室では収まらない規模になっていた。今日はそれこそ歌手や著名人の講演会が行われるような市民ホールで、ほぼ満員と言っていいだけの人を集めている。"ともだち"が出現してからの時間を鑑みると、明らかに異常な速度での勢力拡大であった。

 "ともだち"の一挙一動全てに熱狂する信者達。然し彼らは、未だ知らない。
 "ともだち"は、自分達を導く救世主などではないということも、冬木に平和が戻ってくる日は決して来ないということも。何も知らぬまま、腕っ節の強いガキ大将を持て囃す子供のように盲信する。だが、それも詮無きことであろう。
 一と零の数列で成り立っているような木偶人形に――ある人類史にて最悪と称された程の虐殺者の囁きを跳ね除ける強靭な理性や気概など、ある訳がないのだから。


663 : コンプレックス・イマージュ ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/26(月) 00:04:33 6J2uvB020
  ◆  ◆


「新興宗教だァ?」
「そ。何か、きな臭い奴らが居るみたいでね」

 非行と犯罪の温床であるダンスクラブのその地下、社会的な一線を越えてしまった者達だけが集まるバーに、ケイトリン・ワインハウスとそのサーヴァント・ランサーの姿は有った。此処は、事実上の彼らの拠点だ。留学生というロールを持つケイトリンには当然、Chaos.Cellにより住居が用意されているのだったが、何分彼女はアウトロー。与えられた部屋に黙って住み、ロールに甘んじる程行儀の良い性格はしていない。
 それに、いざという時の避難場所として残している、という側面もある。此処が割れたらあちらに逃れるし、あちらが何らかの理由で割れる分には何の問題もない。塒は複数用意しておいた方が確実というのは、裏社会の常識だ。
 このバーのオーナーは狡賢く、力の何たるかをよく理解している人間だった。場合によっては体に上下関係を教育してやる事も吝かではなかったが、ケイトリン達を一目見た瞬間"敵わない"と認識したのか、すんなりと彼女の要求に従ってくれた。作り物のNPCにしちゃ上等な奴だと機嫌を良くしたのをケイトリンは覚えている。

「厳密には宗教とは違うみたいなんだけど――"ともだち"って名乗ってる奴らよ。聞き覚え……ないわよねえ」
「ねえな。有ったとしてもこんなド田舎でイキってるだけの劣等集団なんざ、秒で頭ん中から消し飛ばしてるだろうよ。
 第一何だ、その巫山戯た名前は? 神サマと手ェ取り合って酒でも飲むのかよ、下らねえ」

 ピジョンブラッドルビーを思わせる真紅の酒を喉奥に流し込みながら、心底つまらなそうにランサーは言った。
 彼は生粋の戦闘者であり、虐殺者であり、百年に近い年月を生きる魔人である。生前から人の枠組みを逸脱した超越者として現世を歩いてきたランサーには、あくまで"人"にとっての脅威でしかない宗教団体など、ちっとも恐ろしいと思えない。基督だのイスラムだの、そうした大御所を連れて来るのならばまだしも、極東の地方都市で講釈を垂れているだけの連中をどうやって脅威と看做せばいいのか。
 とはいえ、ケイトリンもそれについては解っている筈だ。彼女は"成って"日が浅い幼童だが、間違いなく人間を超えた存在なのである。本当に只の宗教であったなら、端から問題にもしていない。黙って無視するか、力で付け込んで資金源にでもしてやるか。そのどちらかだ。
 にも関わらずケイトリンがわざわざランサーに話して聞かせたということは即ち、聖杯戦争……ひいてはサーヴァントの存在が其処に見え隠れしているからに他ならない。白貌のランサーは既にそのことを察していたし、ケイトリンもそのつもりで話している。

「これは現地のヤツから聞いた話だけど、日本人(ジャップ)ってのは怪しげな宗教への警戒心がとっても強いそうよ。
 だからどんなに説得力の有る教えを携えてセミナーを開いても、大体は鳴かず飛ばず、よしんば成功しても後は細々とゲットした信者を囲って金を集めるやり口にシフトしていくんだって。まあ要するに、繁盛しないって事ね。決まったメンバーをとことん絞って、一人二人たまに信者が増える程度」
「で? そのともだちだか何だかってのは、それとどう違うんだよ」
「文字通り爆発的なのよ、その増え方が。頭角を現し出してからほんの一ヶ月程度で、市営の大ホールを埋めるくらいの人数を集めてるって話。……どう思う?」

 試すようなケイトリンの問いかけに、ランサーはまた酒を一口呷って答えた。
 ただ、その顔は、相変わらず至極退屈そうなものであったが。


664 : コンプレックス・イマージュ ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/26(月) 00:05:03 6J2uvB020

「確かに、きな臭えモンはあるが――」
「それに、"ともだち"の信者と近い間柄に有ったり、"ともだち"を勘繰ったりした連中が妙な死に方をしてるってのもあるわ。怪しい教団の十八番じゃない? 都合の悪いヤツの暗殺やら、信仰心の暴走やら。それを一ヶ月そこらで引き起こせるって時点で、大分まともじゃないと思うけど?」

 それにね、と、ケイトリンは衣服の内ポケットから一枚の写真を取り出してみせた。
 カウンターの上に置かれたそれを、グラスを拭いていたオーナーが何の気なしに一瞥し、すぐに目を背けた。喧嘩に麻薬中毒、性病、場合によっては凄惨な殺し。そうした社会の裏側の悲惨さを数え切れない程目にしてきた彼をしても、正視に堪えないような有様が、其処には収められていた。
 ランサーは流石にこれ以上の光景も見慣れているからか表情を変えないが、先程までのつまらなそうな顔に比べると、少しは興味の色が出てきた風に見えないこともない。

「覚えてない? 此処によく出入りしてた、ジャパニーズマフィアの幹部なんだけど。
 名前は――ええと、何だったかしら。イトーだったかイゴーだったか覚えてないけど、とにかくそんな名前の奴」
「いちいち小汚え親父の顔なんて覚えてるかよ」
「何だ、冷たいわね。銃やら何やら色々斡旋してくれたの、確かこいつだったのに」

 正確には、男の名前は佐藤、である。
 彼はこのバーに出入りしている常連だったが、ケイトリンと出会い、その人生を狂わされた。組の銃器をケイトリンに横流しし、それは彼女の個人的な武装と、その部下達の同じく武装として与えられる事になった。地位が地位なだけに、金も道具もよく回してくれる利用価値の大きい男だった。
 だが、その彼はもうこの世には居ない。ケイトリンの持って来た写真に写っている、この光景が全てだ。

「暇潰しにその辺彷徨いてる時に偶然見つけたのよ、この死体。凄いでしょ、全身から血噴き出してるのよ? いつから日本は、エボラウイルスが平然と生息してる魔境になったんだって話じゃない?」

 確かに、まともな死に方ではない。人の手によって加えられた外傷の痕跡が全くないにも関わらず、全身の穴という穴から血を噴き出して事切れている、見るも無惨な惨死体。他殺でこんな死体を作り上げるとなれば、とんでもなく大掛かりな手段が必要になってくる筈だ。
 十中八九、病死。未知のウイルスに羅患して死んだものだと、誰もがそう断定しよう。ケイトリンも例に漏れずそうだった。

「ま、普通のウイルスだったら、私にはまず効かないんだけど――これは多分別。直接打ち込まれたなら、私どころかあんたでもひとたまりもないかもしれないわ」
「あぁ?」

 その台詞に、ランサーの眉が不快そうに顰められる。
 たかが細菌如きで、黒円卓の魔徒である自分が滅ぶかもしれないと、ケイトリンは今そう言ったのだ。マスターとはいえ、涼しい顔で聞き流せる台詞ではない。不快感を露わにするランサーに、然し彼女は怯んだ様子を見せはしなかった。当然の事を言っているのだから仕方ないと、実に堂々とした態度だった。

「死体の血を少し嗅いでみたら、有り得ないくらい臭いの。刺激臭ってやつ? 人間には解んないだろうけど、私やあんたみたく嗅ぎ慣れてる奴ならすぐ解ると思うわ。根拠としてはちょっと弱いけど、あれは間違いなく人の手で創られたウイルスじゃないわね。――人の手で創られて、其処から何かもう一プロセス置かないと、ああはならないと思う」
「……幻想への昇華。サーヴァントの宝具だって言いたい訳か」
「ご明察」

 話が早くて助かるわと、ケイトリンはにんまり笑う。


665 : コンプレックス・イマージュ ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/26(月) 00:05:24 6J2uvB020

「で、死体のポケットに入ってたスマホをちょろまかして中身を見たら、メモ帳のアプリの中に"ともだち"のワードがあったわ。ビンゴ、って感じよね」

 哀れな犠牲者となった佐藤の部下が、"ともだち"にお熱だった。
 仮にも暴力団組織に所属している人間が怪しいセミナーにハマり、重要な情報やら機密を吹聴されては困る。所謂懺悔ですら、組織にとって致命的な痛手となり兼ねない。それを憂いて、佐藤はメモ帳に記述を残していたのだ。正しくは、何処かで時間を見付けて件の部下にヤキを入れる予定を。
 ……此処まで来ると、どのような経緯でこの死体が出来上がったのかにも想像が付く。
 怒り心頭で部下を呼び付けた佐藤は、"ともだち"を侮辱されて逆上した部下に殺された。それも普通の手段ではなく、未知のウイルスというとびきり凄惨な代物で。

「あれを自由に作って散布出来るんなら、相当厄介なサーヴァントだと思うわ。ダークホースって奴……とは、ちょっと違うかもだけど。――まあ、また何か解ったら教えるわよ。いざとなったら私達でぶっ叩いて、力の差ってのを教えてあげましょ?」

 こうして――偽りの救世主の名は、聖杯戦争関係者達の間にも広まっていく。
 最初は、二人の吸血鬼だった。彼らは強大な力を持つ虐殺の徒であるが、然し、"ともだち"について得た知識はあくまで上辺だけのものだ。かのサーヴァントの真に恐るべき点はチープな虐殺ウイルス等にはないことを、この時彼らはまだ知らない。否、彼らだけでなく、全ての者がそうなのだ。
 人間の、子供の情念の深さを恐れてはならない。人の妄執は、時に神の座へすら届くのだから。


【B-9/繁華街(ダンスクラブ・地下)/一日目 午前】

【ケイトリン・ワインハウス@Vermilion-Bind of Blood-】
[状態]:健康
[令呪・聖鉄]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:暴力団員の死体写真、暴力団員のスマートフォン、拳銃
[所持金]:数十万円。子供の手には余る額。
[思考・状況]
基本:優勝し、更なる高みへ行く
1:部下を使いつつ、上手く立ち回る
2:"ともだち"について調べる。
3:ランサーへの嫉妬。
[備考]
※"ともだち"が聖杯戦争の関係者、或いはサーヴァントそのものであると考察しています。
※縛血者の嗅覚により、殺人ウィルスの危険性についてかなり正確に認識しました。

【ランサー(ヴィルヘルム・エーレンブルグ)@Dies irae】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数十万円
[思考・状況]
基本:優勝し、聖杯をハイドリヒ卿に献上する
1:"ともだち"には然程興味はないが、いざとなれば躊躇なく潰す。


666 : コンプレックス・イマージュ ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/26(月) 00:05:47 6J2uvB020
  ◆  ◆


 時は遡って、開幕前日。
 "ともだち"は、純真そうな少女に"それ"を見せていた。
 彼女こそ、この最悪の虐殺者を召喚し、彼に再び偽りの救世主としての君臨を許してしまった悲運のマスター。今はそのことに気付いておらず、これから気付くかどうかも定かではない生贄羊の名を、市原仁奈という。
 凡そ正攻法では滅ぼせない"ともだち"の心臓は、言うなれば彼女の心臓だ。其処には紛れもなく太い繋がりがあり、他ならぬ"ともだち"自身もまた、仁奈のことをいい子だと気に入っていた。一方の仁奈の方も、彼の事を厚く慕っている。あってはならない歪な繋がりが、確かに主従の間には存在した。
 主従関係というよりも、それこそ友情に近い――けれど決定的に違った何かが。

「そうだ。特別に、"よげんのしょ"の続きを一ページだけ見せてあげよう」
「! ほんとでごぜーますか!?」

 見せてと頼んでも、絶対に見せてくれなかった運命の書。
 自由帳に記されるには余りにも剣呑過ぎる未来予想図……もとい未来予言図が、ゆっくりと捲られていく。

「ああ。今日は特別な日だからね。運命が動き出す、終わりの始まりだ。頁を捲るには丁度いい」

 第二宝具『果てありき夢への地図(しんよげんのしょ)』。それが、"ともだち"のいう"よげんのしょ"の真実だ。断っておくが、これは断じて、未来を確定させる宝具などではない。その証拠に、ランクは最低のE。宝具としての分類も、対人宝具として定義されている。然しこの陳腐で安っぽいノートは、只の虚仮では終わらない。この本もまた、"ともだち"というサーヴァントを凶悪たらしめるパーツの一つ。殺傷力に優れたウイルスなど目じゃない、問題にもならない大きな大きな混沌を招く――騙った未来の実現をバックアップする行動補助宝具。

「"カンカンとたいようのてらすごご、新とにあくまのつかいが四人現れて、何百人もの人がしぬ。
  しかし、きゅうせいしゅがあらわれて、みごと人々をすくってみせるだろう"」

 ――カンカンと太陽の照らす午後、新都に悪魔の遣いが四人現れて、何百人もの人が死ぬ。
   然し、救世主が現れて、見事人々を救ってみせるだろう。

 それはまさしく、最悪に近い予言だった。聞いた仁奈の顔も、あまりの物騒さに思わず曇る。
 彼女は"ともだち"を信頼しているが、誰かの死を良しとできるような精神構造は持っていない。あくまでも市原仁奈は只の、普通より少し個性的なだけの子どもに過ぎないのだ。その点で、彼女は彼の信者達とは一線を画している。不安げに見つめる仁奈に不信を生ませないのは、流石の"ともだち"と言えた。

「大丈夫。ほら、よく読んでごらん。救世主が現れて、人々を救ってみせるだろう。そう書いてあるだろう」
「きゅーせーしゅ……うう、難しい言葉はよくわかんねーでごぜーますが……誰か、助けてくれるんでやがりますか?」
「そうだね。ヒーローがやって来て、悪魔の遣いをやっつけてくれるんだ」

 仁奈を安心させるように優しい口調でそう言って、"ともだち"は覆面の下の顔を、不自然な笑顔に歪めた。その表情は覆面のおかげで仁奈には伝わらないが、仮に彼女が見たなら、思わずその場で硬直してしまったに違いない。それは、市原仁奈の知る"ともだち"のイメージとはかけ離れた、別人のような笑顔だった。醜く、幼稚な、とある社会から弾き出された少年の成れの果てが、其処にはあった。
 予言は紡がれ、宝具は静かに力を発揮する。後は、予言の成就を引き寄せるだけだ。まるで、神のごとく。


【C-6/市民ホール・控え室/一日目 午前】

【市原仁奈@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]:健康
[令呪・聖鉄]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:子供のお小遣い程度
[思考・状況]
基本:お家に帰りたい。
1:"ともだち"の"よげん"が怖い。
[備考]
※『果てありき夢への地図(しんよげんのしょ)』を一頁見ました。

【キャスター(ともだち)@20世紀少年】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:『果てありき夢への地図(しんよげんのしょ)』
[所持金]:手持ちで百万前後、総資産は数千万円に達する
[思考・状況]
基本:もう一度、ケンヂくんと遊ぶ
1:"よげん"を成就させるために行動する。
[備考]
※宝具『果てありき夢への地図(しんよげんのしょ)』の予言は現在以下です。
 1:"カンカンとたいようのてらすごご、新とにあくまのつかいが四人現れて、何百人もの人がしぬ。
    しかし、きゅうせいしゅがあらわれて、みごと人々をすくってみせるだろう"


667 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/06/26(月) 00:06:15 6J2uvB020
投下終了です。


668 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/07/07(金) 11:14:41 MvrJaGtg0
アンヌ・ポートマン&バーサーカー(マルス)
天願和夫&アサシン(エミヤ)
予約します


669 : 名無しさん :2017/07/07(金) 20:23:03 f35MqAYI0
投下乙です
宝具の20世紀少年が、どうしても衆目に姿を晒さなければ勝負にならないという“ともだち”の欠点はを補ってますからね
最弱でありながら最悪。此奴を一体誰が止めるのか


670 : 名無しさん :2017/07/07(金) 20:26:57 f35MqAYI0
宝具名は『再誕せよ、神へと至る為』でしたね。すいません


671 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/07/20(木) 22:33:24 KAwR2XWc0
予約を延長します


672 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/07/26(水) 18:19:26 qDjSAnyI0
申し訳ありません、予約を破棄します。


673 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/04(金) 23:19:47 MwFjzV6Y0
ちょっとコンペで遊んでました(白状)
それはそうと再予約します


674 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/06(日) 03:28:18 GrKkrtVk0
投下します


675 : 神色合わせ ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/06(日) 03:28:57 GrKkrtVk0
 澄んだ風が鼻孔を通じて肺まで突き抜けていく感覚は、人間だった頃のものと何ら変わらない。
 だが、それもあくまで記憶という不確かな情報を頼りにして下している不鮮明な薄靄だ。
 ……人は、忘れる生き物である。人は、毎日何十、何百という思い出を、生きた証を忘却しながら生きている。
 仮に自分では覚えているつもりだったとしても、その脳細胞に打ち立てた標識が、元通りの形をしているとは限らない。
 そんな哲学者めいた思考に浸りながら聖杯戦争初日の朝を過ごす少女の名を、アンヌ・ポートマンといった。
 アンヌが人間という生物の枠を外れ、血に縛られた吸血種の一体となったのはこの冬木市に召喚されるよりも前の事だ。
 自分の頭の中にある思い出は、果たして本当に正しい形をしているのか。
 人間だった頃に吸った空気は、本当にこんな味や匂いをしていたろうか。
 解らない。確かな事など何一つ、アンヌには解らなかった。彼女にあるのは――ただ、生きたい。生きてあの街に戻りたい、そんな願いだけ。

 幸福な一日を予感させる爽やかな朝であったが、正直なところ気分は極めて暗澹としている。
 何もそれは、彼女が人並み外れて臆病だからではない。寧ろ平常通りに過ごせる方が異常なのだと断言出来る。
 アンヌの心を曇らせているのは、ひとえに昨夜の"通達"だった。蒼眼のルーラーが初めて明かした聖杯戦争の新たなルール、それが返しの付いた針みたいに心に食い付いて離れない。
 
 曰く、この聖杯戦争は三日間の刻限を持って強制終了する。
 空から墜ちてくる人面の月。それが、身も蓋もない物理的な破壊力で冬木の全てを破壊し尽くすというのだ。
 舞台も、マスターも、サーヴァントも。一つの例外もなく押し潰して、此処までの戦いを一から十まで無為にする。
 なんでそんな大事なことをもっと早く言ってくれなかったのかと問い質したくなったアンヌを、誰も責められまい。……問い質せたとして、どうするのか、という話ではあるが。
 兎角、聖杯戦争はこれで絶対に長引かない事が確約された。誰もが早期決着に向けて努力を見せるだろうし、仮にそうならずとも強制的に早期決着させられるのだから意味がない。
 アンヌのような、戦いに比較的消極的なマスターにとってはまさに最悪の展開と言って良かった。
 彼女がどれだけ優しく常識的な娘で、聖杯戦争に抵抗を抱いていたとしても、世界は彼女に合わせてはくれない。大いなるルールと誰かの都合の下、いつだって世界は機械的だ。
 アンヌ・ポートマンという人間が生まれ育ち、縛血者(ブラインド)へと生まれ変わったフォギィボトムという鎖輪(ディアスポラ)も、結局は背後で大きな力によって糸引かれていた。それと本質は同じだ。アンヌという少女の存在など、聖杯戦争の全体像で見ればごくごくちっぽけなもの。予選を勝ち抜き生き残った二十弱のマスターの内の一人という役でしかない。

 自分は、褒められたマスターではない。間違いなくその逆、落第点の駄目マスターだ。
 アンヌには、その確信があった。何故ならこれまで、アンヌは一度も戦場に立っていない。
 身を守る戦いも全てバーサーカーの好意に甘え、まるで普通の学生のように安穏とした日常を過ごしてきた。
 仮にこの聖杯戦争に観客のような存在が居たなら、無能の謗りを免れ得まい。救いようがあるとすれば、アンヌ自身、自分の落ち度をきちんと自覚している事だろうか。
 
“このままじゃ、ダメだよね……”

 無人の校庭で樹に凭れ掛かりながら、吸血種の少女は唇を噛む。
 自分は確かに、自分自身の意思で生きたいと願った。なのに此処まで、何も出来ていない。そう、何も。
 前線に出ても足手まといになるだけなんて言い訳はもちろん通じない。戦えなくたって、出来る事はある筈なのだ。
 自分などの召喚に応じ、滅ぼされかけていたところを救ってくれた優しい鬼面――彼の役に立てる、何かが。

 遠くの方で朝練に勤しむ運動部の掛け声が聞こえる。
 不意に、その声が唐突に遠のくのをアンヌは感じた。
 それを追って体から、一瞬ながら確かに平衡感覚が抜け落ちる。


676 : 神色合わせ ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/06(日) 03:29:17 GrKkrtVk0

「っ……!」

 たたらを踏んで樹の幹に手を付きバランスを保つアンヌだったが、その顔には焦燥の色が浮いていた。
 これはそもそも、聖杯戦争以前の問題だ。アンヌが"成った"種族に永遠に付き纏い、誰もが折り合いを付けていく習慣。
 生命活動を続行する上で必要不可欠なとある活動を意図的に避けてきた――これは、そのツケとして齎された不調だ。
 
 水を飲まず、食べ物を食べなければ、生物は当然弱る。飢えているだけならまだ良いが、いずれは生命を保つ余力すら尽き果てて、痩せ細った屍を晒そう。
 吸血鬼……縛血者もそれは同じ。食べ物と水が、人間の血液という代替物に置き換わっただけに過ぎない。
 縛血者は生命活動の全てを、体内に蓄えた血の残量に依存している。十分な血液さえあれば手の施しようがないような重傷もすぐに癒せるし、権能である賜力(ギフト)の力も増幅される。だが逆に、血が欠乏していれば縛血者は目に見えて弱体化する。今のアンヌは、その弱体状態にあった。
 血を吸う手段は知っている。だが、それを行う度胸がない。人間から化物への一歩を踏み出す勇気が、アンヌにはない。
 その優しさと常識的な価値観こそが、今の現状を招いていた。どれだけ先延ばしにしたところで、いつかは直面しなければならない問題である。そう割り切って縛血者の通例に倣えない辺りがアンヌという少女の美点であり、弱さだった。聖杯戦争の舞台では確実に足を引っ張る事になるだろう、重大な欠陥といってもいい。

 ……あの聡明なバーサーカーの事だ。彼は既に、自分が日を増す毎に弱ってきているのを感知しているに違いない。アンヌは、そう思っていた。
 解っているのに何も言ってこないのは、多分自分を真に慮ってくれているからなのだろう。
 アンヌのバーサーカーは、実に"人類史に名高き英傑らしい"男である。
 揺るがぬ鉄の意思に鋼の武力、人の視点に留まる者では窺い知れない何処かを見通す慧眼。アンヌはこれまで、彼と言葉を交わす度に思わされてきた――"ああ、この人と自分とは、根本からして別な生き物なのだ"、と。
 強く、頼もしい人。アンヌの事をこれまで散々助けてくれた、フォギィボトムの寡黙な縛血者を思わせる安心感。だが、彼に対し憧れの感情を抱いた事は真実一度もない。うまく言えないが、バーサーカーはアンヌにとってそういう存在ではなかった。例えるなら、本の中のキャラクターがそのまま抜け出てきたような……とにかく、現実感に欠けた救世主なのである、バーサーカーは。こんな表現は彼に失礼だと思うので、余りしたくはないのだったが。

 自分が指示したのでは意味がない。
 己で選び、乗り越える。それでこそ、あんたの人生を築く礎になるのさ。
 そんな言葉が脳内で再生された。何とも、あのバーサーカーが言いそうな台詞だ。
 思わず、胸が詰まる。わたしなんかには過ぎたサーヴァントだと、つくづくそう思う。


677 : 神色合わせ ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/06(日) 03:29:35 GrKkrtVk0

 生きたい。帰りたい。その思いに誓って偽りはなく、どうしようもなく切に切に、アンヌは帰還を望んでいる。
 おかしなものだった。人間に戻りたいと願うどころか、夜の化物達が変わらず蠢く街に戻りたいだなんて。
 自分でもそう思うが、心は変わらない。そしてその訳は、単に聖杯を巡って殺し合う気になれないからという、月並みなものだけでもないのだ。
 もっと複雑で、余人には理解し難いもの。淡い想いと心の深い部分に今も根付いたままの歪みめいた憧憬が、楔となってアンヌをあの霧都に縛り付けている。
 縛血者のいない平穏な街。洗礼を受けなかった自分という当然の理想を、抱かせないほどに。

「……帰ろうかな」

 穂群原学園高等部、その校舎を見上げて、ぽつりと少女はそう零した。
 まだ授業どころかHRも始まっていない時間であるにも関わらず、だ。
 アンヌは日本などという国とは縁もゆかりもない生まれだが、この世界では留学生のロールを与えられている。
 とてもじゃないが、今は授業なんて受けていられる気分ではなかった。
 明確になった死の刻限、山積みの問題、そして無力で無価値な己への自己嫌悪。
 積もり積もった何もかもが、ついこの間まで日だまりの住人だった只人を攻め立てていた。

 足元に置いた鞄を拾い上げ、そのまま踵を返す。
 ――と、その時だった。アンヌを呼び止める、老いた男の声が響いたのは。

「いかんなあ」

 自分の現状を咎められたような気がして、思わずアンヌはびくりと体を反応させる。
 慌てて声の方向に視線を向けると、そこに立っていたのはいかにも人の良さそうな、腰の曲がった老爺であった。
 髪も髭も老いて真っ白。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた事が一目で窺える。
 その顔に、アンヌは覚えがあった。目を白黒させる彼女の姿を見て、老爺はおかしそうに笑う。

「いかんぞ、ポートマンくん。こんな朝っぱらから早くも学生の本分を放棄するようでは」
「理事長先生――」

 ポートマンと、老爺……穂群原学園の理事長を務めるその男は、アンヌをそう呼んだ。
 驚くべき事にこの男は、一度も面と向かって話した事のない生徒の名を記憶していたらしい。
 アンヌが留学生という学園にとって特殊な身の上である事を鑑みればそう不思議な話でもないが、やはり驚きは少なからずある。
 
「ご、ごめんなさい」

 アンヌはぺこりと頭を下げながら、記憶の中の"穂群原学園理事長"のデータを掘り起こす。
 名前は、確か――天願。天願、和夫。聖杯によって最低限生活に必要な知識が与えられているとはいえ、まだ日本人の名前を覚えるのは難しいアンヌだったが、テンガン、という響きが独特だったから偶然彼の名については記憶していた。
 問題なのは、彼が近くに居た事に話しかけられるまで全く気付かなかったという事である。
 前後不覚もいいところ。相手が理事長ではなく聖杯戦争の参加者だったならと考えると、背筋が冷える思いだった。
 そんなアンヌをよそに、天願は相変わらず人の良さそうな微笑みを浮かべている。学校を今まさにサボろうとしていた生徒に対し声を荒げもしない辺り、かなり温厚で、お硬い思考とは無縁の人物であるようだ。


678 : 神色合わせ ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/06(日) 03:29:55 GrKkrtVk0

「しかし、君のような模範生が珍しい。明日は雨が降るやもしれんな」
「わ、わたしの話……そんなに先生方の間でされてるんですか?」
「ある程度は、な。ポートマン君は気恥ずかしいじゃろうが、学校にとって留学生とは希少な存在よ。
 生徒も教師も等しく、君のような留学生には注目しておる。ふ、そんな顔をせんでもよい。此処で見た事は、ちゃんと内密にしておくとも」
「あはは……ありがとうございます」

 言われてみれば確かにそうだ。海外からわざわざ地方の、聞こえは悪いが、余り有名ではない地方の学校に転入してきた留学生なんて存在が、周囲の注目を浴びない筈がない。
 そう考えると急に不安になってくる。今まで自分は、何か迂闊な真似をしてこなかったろうか? ……考え始めると何もかもが迂闊だったように思えてきて、陰鬱さが余計加速した。
 
 そこでふと、アンヌは気付いた。
 目の前の老人が、じっと自分の眼を見つめている事に。
 年長者独特の気迫に、思わず少女は気圧され一歩後退りをする。
 そんなアンヌに対し、天願は全てを見透かしたように、ゆっくりと口を開いた。

「――悩んでいるな、ポートマン君」
「……え?」
「一線を退いたとはいえ、これでも教職者じゃ。思い詰めている生徒はな、目を見れば解る」

 蛇に睨まれた蛙のよう、という比喩がこれほどよく合致した状況はそうあるまい。
 アンヌは顔を強張らせて、動揺を取り繕う事も出来ずに立ち尽くすしかなかった。
 そんな彼女の様子は言うまでもなく無言の肯定に他ならず、天願の"教師の勘"が正解であると暗に示してしまう。

 ――どうしよう。アンヌがこの状況で抱いた感情は、焦りであった。
 適当な事を言ってやり過ごそうとも思ったが、目の前の老人は、とても嘘や誤魔化しが通じる相手とは思えない。
 かと言って自分の抱えている"問題"は、人に話していいものではないのだ。一度話せば最後、その人の平穏を完膚なきまでに破壊してしまう事請け合いの爆弾。
 尤も……どうせ遅かれ早かれ無に帰るまやかしといってしまえば、それまでではあるのだが。

「そう怯えた顔をするな。似合わんぞ、君のような娘には」
「……、……」
「話したくないのであれば、それでも構わんさ。無理には問わぬよ、わしも」

 だが、と天願は続ける。

「先程君を見つけた時、わしはこう思ったのじゃ。"このままでは危険だ"、と」

 そう語る彼の瞳は、アンヌではなく――どこか遠く、もう戻る事のない何かを見つめているようだった。
 天願の正確な年齢は定かではないが、恐らく七十は過ぎているように見える。
 七十年。それは超越者の目線にすればごく短い時間だが、人間にとっては殆ど一生分といってもいい時間だ。
 人間の一生は、山と谷のみでは言い表せない。小さな段差があり、時に穴があり、足を貫く棘がある。
 まして天願は教職者。自分のみならず他人の人生までもを背負い、導いてきた身だ。
 小娘一人の心の翳りも見透かせぬほど、天願は耄碌してはいなかった。

「わしは――道を踏み外す子供、というのを嫌になるほど見てきた。
 ……そう、本当に嫌になる程な。そして、多くのものを失ってきた。
 さっきの君は、彼らと同じような目をしておったよ。取り返しの付かない道へと外れる、その直前の目をしていた」


679 : 神色合わせ ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/06(日) 03:30:23 GrKkrtVk0

 アンヌは、何も言えない。
 彼の言葉を、否定出来なかった。
 何故なら彼女はもう、とっくに道を外れている。
 人の体を失い、忌むべき夜の住人の一人と成り果てた。
 そして今は眼前の天願が知らない、命を懸けた戦いに巻き込まれて――
 何か、自分に出来ることを必死になって探していた。探そうとしていた。
 その矢先にこんな言葉を投げ掛けられたのだ、どうして平静を保っていられようか。

「くれぐれも早まらない事だよ、ポートマン君。
 人生というのは、君が思っている以上に広く開けているものだ」
「……わたし――」 

 聖杯戦争の事は、当然ながら話せない。
 話せば彼だけでなく、自分の為に戦ってくれるバーサーカーにも迷惑がかかる。
 そもそも、この場におけるアンヌ・ポートマンが取るべき最適解は天願をやり過ごし、強引にでも彼から離れる事の筈。
 それが出来ない辺り、彼女はやはりマスターとして不適格の未熟者であるのだろう。
 気付けばアンヌは口を開いて、つい数分前まで話した事もなかった老人へ、自分の思いの丈を絞り出していた。

「わたし……何も、出来ていないんです」

 ――無力。アンヌの聖杯戦争は、その一言に尽きる。

「わたしの為に頑張ってくれる人がいて、わたしはその人に縋るしかできなくて――
 ……本当にただ、見てるだけ。わたしが願った事なのに、肝心のわたしは何も出来ないままで」
「難儀な話、じゃな」

 天願は、アンヌがどんな問題に直面しているのか深く問い質そうとはしなかった。
 その辺りはやはり、教育者としてのキャリアが長いだけはある。
 藪をつついて蛇を出し、石橋を叩いて地雷を作動させるのではなく、あくまでも理解し、背中を押すのが教師の務め。
 真に助けの手を伸ばすのは、実際に助けを求められてからでも遅くはない。
 要は、そんな状況になる前に助けられれば良いのだ。放置されたままの火種を見たなら、誰だって靴底で揉み消すだろう。やや乱暴だが、理屈はそれと同じだ。

「わしは君の抱える事情や、見据える未来がどんなものなのかは全く知らんがの。君のその感情がどんな風に成長していくかは、解るぞ」
「……それは?」
「"絶望"だ」

 絶望。月並みな単語である筈なのに、その二文字がアンヌの心に重く、重く沈み込んだ。
 それと同時に、深く納得させられる。ああ――この消えない不快感は、そういうものであったのかと。

「絶望という感情は恐ろしいぞ、ポートマン君」

 天願の声に、これまでと違う感情が介在している事に、アンヌはついぞ気付かなかった。
 この場に彼女のサーヴァントや人心に精通した者が立ち会っていたなら、その事を目敏く見抜いてみせたろう。 
 其処には0と1から成る無機質なプログラムでは有り得ない、本物の情念が籠もっていた。
 天願は知識として知っている事を語り聞かせているのではなく、その目で見、その手で触れてきたモノについて語っている。
 その意味する所に、悩める少女は辿り着けない。老獪な希望の使徒が見せた極小の隙を、まんまと見過ごしてしまう。

「決して希望を捨てぬ事だ。心に光を抱いて歩めば、いずれ道はきっと開けるとも」

 アンヌの肩に、そっと天願の手が置かれた。
 服越しにも解る皺の感触が、歩んで来た年月の違いを窺わせる。

「君は若い。まだ何にでもなれて、何でも出来る――そうした可能性、希望に満ちているのだからな」
「本当に……本当に、そうでしょうか。わたしでも何か、出来るでしょうか」
「出来るとも。わしが言うのだ、信じてみたまえ」


680 : 神色合わせ ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/06(日) 03:30:41 GrKkrtVk0

 呵々と笑う穂群原学園理事長の瞳には眩い意志の光が宿っており、それは英気に溢れた若者のものにも決して劣っていない。
 アンヌの抱える不安や鬱屈としたものは、たった数分の対話で霧散するほど小さなものではなかったが……然し、確かに得たものはあった。
 希望を、捨てない。心に光を抱いて歩めば、いずれ道はきっと開ける。
 言ってしまえば根拠のない精神論。にも関わらず、天願が掛けてくれた言葉を反芻すると心を覆い隠していた雲の天蓋に一筋の亀裂が入るのを感じる。
 或いはこれこそが、彼の言うところの希望というものなのか。思わず顔を上げた時には、天願理事長は既に踵を返して歩き始めていた。後は君次第だと、そう言わんばかりに。

「あ……あの――理事長先生!」

 その背中に、思わず声を張り上げる。
 
 老人の足が止まったのを確認してから、アンヌは勢いよく頭を下げた。

「ありがとう、ございました。わたし……頑張ってみますね」
「うむ。事情は解らんが、わしも陰ながら応援しておるよ。もし何か困った事があれば、いつでも訪ねてきなさい」

 天願はそう返したが、彼は一度としてアンヌの方を振り向かなかった。
 故に縛血者の少女は、気付けない。
 自分を激励してくれた筈の好々爺の口許に、歪んだ笑みが浮かんでいる事に。
 服の袖口から覗く右手に、形状こそ違えど見覚えのある、血のように紅い三画の刻印が存在する事に。

 何も知らぬまま、何も気付けぬまま、アンヌ・ポートマンは植え付けられた希望の灯りを寄る辺に少しだけ前を向く。
 自分が早くも狡猾な蜘蛛の糸を結ばれてしまったとは露知らず、彼女は彼女の聖杯戦争に向かって、生きてゆく。

 
  ◆  ◆


 穂群原学園、その近辺にて。
 
 憚ることもなく姿を露出させ、一人佇む鬼面のサーヴァントの姿があった。
 昔話の鬼をより無機的に歪めたような容姿は剣呑の一言に尽き、誰が見ても警戒心を抱く事請け合いである。
 彼こそはバーサーカー。アンヌ・ポートマンというマスターに召喚され、命と未来を託された硬骨漢。
 ……少なくとも、アンヌからはそう思われている存在。彼は今、自身の気配を敢えて四方に放出し、敵の到来を待つ構えを取っていた。
 聖杯戦争では珍しくない釣りじみた戦法だが、言わずもがなこれは、英霊としての実力に自信のある者でなければ単なる自殺行為に終わる危険な策だ。
 にも関わらず、バーサーカーにまるで臆した様子はない。民間人の目に付く可能性にすら、頓着していないようだった。

 当然だろう。彼はそもそもからしてそういう類の英霊だ。
 武人として名を馳せた訳ではない。只一つ、与えられた異能の力のみで数多の人命を奪った虐殺の反英霊。
 数多の兵器と星を退け、殺戮の限りを尽くして歴史に名を残した、もとい爪痕を刻んだ死の魔星こそが、このバーサーカーなのだから。
 毅然と構え、堂々と敵の襲来を待つ姿は真実超然としたそれであり、その実力の高さを否応なく理解させる。理解させられてしまう。あたかも、それが真実であるかのように。 

「――場所が悪いか、此処らにはシケた連中しか居ないのか。現状では今一つ測りかねるが、何ともつまらねえ展開だ」

 現状、当たりらしいものは皆無。
 サーヴァントの気配は愚か、使い魔の姿すら目に入らない。
 人の体を持っていたなら欠伸の一つも零している所だと、バーサーカーは退屈そうに呟いた。
 
 そして不意に、その声は虚空へと向く。

「あんたもそう思うだろう。なあ、"アサシン"」


 ――返事はない。だが、バーサーカーを観測している者の姿は確かに彼の近くに存在していた。


681 : 神色合わせ ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/06(日) 03:31:07 GrKkrtVk0

“……馬鹿な。あの間合いで、僕を感知したというのか”

 サーヴァント・アサシン。真名を、エミヤ。
 中東系のそれを思わせる露出の少ない褐色肌の彼は、急ぎ鬼面のバーサーカーから距離を取る。
 神秘の秘匿になど欠片程の興味もなさそうなかの狂戦士の存在を最初に嗅ぎ付けたのは、他でもないこの男であった。
 アサシンクラスの特性である気配遮断スキルを発動させつつ偵察に向かい、観測し始め十分前後。
 不意にバーサーカーが、此方に声を掛けてきたのだ。これには、さしものエミヤも驚愕した。無理もないだろう――彼の気配遮断のランクはA+、事実上の最高値であるのだから。

“気配感知、或いはそれに類するスキル――その手の代物が有るのなら、厄介だが……”

 距離を更に開けた上でバーサーカーの様子を確認するものの、彼に移動した様子は見られない。
 自分を追うことはせずに、相変わらず待ちの構えを取って他のサーヴァントがやって来るのを待っている。
 ……交戦を望まない敵手に用はないという事なのか、それとも、何か別な策があるのか。
 思案するエミヤの脳裏に主たる男からの念話が響いたのは、まさにそんな時の事だった。

“アサシン、何か変わった事はあるか?”
“……さっきから監視していた、鬼面のサーヴァントに捕捉された可能性がある。
 今のところ仕掛けてくる様子は見えないが、いざとなれば交戦に発展するかもな。
 それで、わざわざ連絡してきたんだ。あんたの方も、何かあったんだろう”
“サーヴァントのマスターと思しき少女と接触した”

 念話越しに飛び込んできたその報告に、エミヤは「そうか」と、想定していたとばかりの淡白な返答で応じる。
 喜びも驚きも滲ませぬ返しに、念話相手のくつくつという苦笑が聞こえてきた。

“少しは驚くものと思ったが、わしもまだまだ甘いか”
“予想はしていた。"穂群原学園の理事長"というあんたのロールは、学生のマスターを感知するのに非常に長けている。
 重要なのは寧ろこれからだろう。あんたは、そのマスターをどうするつもりだ。消すのか、それとも”
“無論、暫く泳がせておくつもりじゃよ”
“らしくもないオブラートに包むなよ、爺。"利用する"だけだろう、あんたは”

 穂群原学園理事長――天願和夫。アンヌ・ポートマンを激励し、希望の素晴らしさを説いた彼こそが、この赤い暗殺者の主である。
 彼もまた、熾烈な予選を勝ち抜いて今日の日を迎えた猛者。アンヌとは違い、自らの手で敵を蹴落としてきた希望の使徒。
 彼がアンヌに遭遇したのは偶然だが、彼女の抱える物に触れたのは策略だ。疑念を確信に変える為の、いわば詰めの段階。
 前々から天願は、彼女をマスターの可能性が高い内の一人としてマークしていたのだ。

 彼は前以って、自分の手足同然に動かせる私兵を調達していた。
 何も物珍しい手段を使った訳ではない。金を握らせて雇った、ありきたりな即席の諜報員。 
 彼らを学園付近、学園内部に配置して、挙動の不審な生徒や学園関係者をリストアップ。
 天願自身も直々にそれを確認し、その中から更に怪しい人物を絞り込んできた。
 アンヌ以外にも複数名、マスターである可能性の高い生徒は存在する。
 今日は偶々アンヌの姿を見かけたから声を掛けて、疑念を確信に変えただけ。
 ――間違いなく、アンヌ・ポートマンはマスターだ。あれは只のNPCにはない、リアルな感情の揺れ動きを秘めていた。

“……まあ、いい。僕はもう少し、あの鬼面の監視をする”
“解った。ではわしは、暫く理事長室で待機しているとしよう。念の為、交戦する前には念話で一報寄越すようにな”


682 : 神色合わせ ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/06(日) 03:31:24 GrKkrtVk0

 
 アサシンからの念話は返ってこない。つくづく無愛想で、付き合いの悪い男だ。
 天願は苦笑しつつ、今しがた別れたばかりのアンヌの顔を思い浮かべる。
 
“すまんな、ポートマン君。心の底から、君には申し訳ない事をしたと思っている”

 天願和夫は悪人ではない。少なくとも、無辜の少女を欺いて何も感じない程"絶望"に沈んだ人間ではなかった。
 だがそれは、裏を返せば悪いと思いながら非道を働ける、そうした精神性の持ち主である事の証左でもある。
 彼はアンヌの心を弄んだ事に対するすまないという気持ちを確と懐きながら、同時に、彼女という駒を利用する算段を企てていた。
 
“だが――わしも止まれんのだ。君には、わしの"希望"の踏み台となって貰うぞ”

 その犠牲は無駄にしない。
 とことんまで傍迷惑な希望の光を胸に、老人は聖杯戦争を操作する。
 巣を張っては蝶を誘き寄せ、死ぬまで藻掻かせた末吸い殺す、鬼蜘蛛か何かのように。


【C-2/穂群原学園・校外/一日目 午前】

【天願和夫@ダンガンロンパ3-The End of 希望ヶ峰学園-未来編】
[状態]:健康
[令呪・聖鉄]:残り三画
[装備]:袖箭
[道具]:なし
[所持金]:潤沢。数千万円単位。
[思考・状況]
基本:聖杯を入手し、"絶望"を根絶する
1:当分は情報収集に徹する
2:アンヌ・ポートマンをマスターであると確信。利用したい。

【アンヌ・ポートマン@Vermilion-Bind of blood-】
[状態]:非吸血による不調、精神疲労(中)、僅かな"希望"
[令呪・聖鉄]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:高校生のお小遣い程度。
[思考・状況]
基本:生きて、元の世界に帰りたい
1:わたしも、何かしたい。


【B-2/マンション・屋上近辺/一日目 午前】

【アサシン(エミヤ)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康
[装備]:キャレコM950、『神秘轢断(ファンタズム・パニッシュメント)』
[道具]:トンプソン・コンテンダー、
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本:聖杯を見極め、己の取るべき行動をする
1:バーサーカーの監視を続行。場合によっては交戦、撤退もやむ無し
2:天願の発見したというマスターについても、追々監視を行いたい


【B-2/マンション・屋上近辺/一日目 午前】

【バーサーカー(マルス-No.ε)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本:享楽のままに、聖杯戦争を楽しむ。
[備考]
※特にアサシン(エミヤ)を感知した訳ではありません。いつもの狂言回しの一環です。


683 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/06(日) 03:31:42 GrKkrtVk0
投下を終了します


684 : 名無しさん :2017/08/06(日) 07:04:44 kdn2jEXU0
投下乙
>ちょっとコンペで遊んでました(白状)
同じトリはなかった様な………(棒)
採用されると良いですね

何もしてないのにいきなり窮地のアンヌさんに未来はあるのか


685 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/06(日) 12:46:20 GrKkrtVk0
アルミリア・ボードウィン&セイバー(ガウェイン)
キャスター(陽蜂)
猿代草太&アサシン(マタ・ハリ)

予約します


686 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/17(木) 16:18:34 9ObMT1K20
延長しておきます


687 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/08/27(日) 18:15:41 KDrgUeDo0
今週中には投下します


688 : ◆srQ6oTQXS2 :2017/09/02(土) 18:22:30 7POhbvCQ0
すみません、少々話の出来に納得が行かないので一度練り直します。
泣きの延長までしておいて恐縮ですが、破棄ということでお願いします


689 : ◆JN79cqD59g :2017/09/04(月) 21:08:21 44SgsVmc0
遠坂凛、エミヤ・オルタ予約します


690 : ◆JN79cqD59g :2017/09/15(金) 18:00:46 SDOTFwAs0
申し訳ありません、破棄します


691 : ◆OOIgfPXGdU :2018/01/17(水) 09:38:50 dQAuWjiA0
ウェイバー・ベルベット&アーチャー
遠坂凛&アーチャー
予約します


692 : ◆As6lpa2ikE :2018/02/12(月) 18:27:41 5ooF.ZXI0
予約にFF&アサシンを加えます。
投下します。


693 : Dust to Dust ◆As6lpa2ikE :2018/02/12(月) 18:30:33 5ooF.ZXI0
気がつくと、ウェイバー・ベルベットの意識は遠い景色の中にいた。

(──夢、なのか?)

視界が普段よりも少し高い事に気付き、続いて、身体の自由が利かない事に気付く。
誰かと同じ視点を共有するタイプの夢でも見ているのだろうか──そのような推測をするウェイバー。
そして何よりも彼に目の前の景色が夢であると確信させるに至った要因は、あまりに現実離れした景色そのものであった。
地獄──そうとしか形容出来ない。
世界を赤く染め上げる火と血。
積み上げられた瓦礫と死体の山。
元は戦車であった事が辛うじて窺える鉄塊の群れ。
何故かあちこちで生えている樹氷は、氷河期の如き空間を形成している。
まともに原型を留めている建造物は、一つもない。
同じく、死体もそのどれもが最早人と呼べるかどうか疑わしい程に破壊され尽くされていた。
ある者は骨と内臓を壊滅的に潰されゴムまりのようになり。
ある者は全身に火傷を負った状態で氷漬けになっており。
またある者は何処かから飛んできた鉄棒によって頭を壁に縫い付けられている。
如何なる力を用いれば、ここまで酷い惨劇を生み出せるのかと不思議に思うくらいの光景が、そこにあった。
加えて、場には赫黒の瘴気を身に纏った巨大な異形がいる始末。
その姿は、日本の伝承で言うところの『鬼』に酷似していた。
炎。血。破壊。氷。鬼。死。死。死。死──。
こんな現実離れした光景が、夢で無ければ──悪夢で無ければ何だと言うのか。
まさか、これが現実に起きた事だとでも?
もしウェイバーがこのインフェルノとコキュートスを混ぜ合わせたかのような現場に実際に立っていれば、恐怖のあまり膝が震え、地面にへたり込んでいただろう。
しかしながら、誰かと意識を共有している今の彼は違った。
その脚に微塵も震えはなく、呼吸に乱れは一切ない。
まるでこの悲劇の中心こそが、自分が立つべき場所なのだ、と言わんばかりのその態度。大舞台に立つベテランの俳優であっても、これほどまでに自信に満ちた佇まいは出来まい。
そして──ああ、ウェイバーは分かるのだ。
自分が視点を共有している何者かが、この惨状を目にして、ほんの少しも恐怖や悲哀を抱かず、どころか優越感を抱いている事を。
死骸を晒している彼らを嘲笑い、見下している事を。
視界から滲み出る雰囲気から、そのような心理がありありと窺えるのである。
この悲劇的な場にて、そんな感情でいられる者は、最早人ではない。
人を超越した魔人だ。
魔人と鬼に蹂躙されし地獄にあるのは、無慈悲な絶望のみ。
そこに希望の光はない。ただの無力な人間では、一筋たりとも差し込ませる事は出来ないだろう。


694 : Dust to Dust ◆As6lpa2ikE :2018/02/12(月) 18:31:22 5ooF.ZXI0
そう、ただの人間ならば。
では、魔人と同じく人を超越した人間ならば──英雄ならばどうか?

「──そこまでだ」

鋼鉄の如き軍靴の音が鳴り響くと同時に、視界がぐるりと移動する。
その先に立っていたのは、太陽よりもなお眩しい金色の髪をした、軍服の偉丈夫であった。
その瞳。その顔。その体。そのオーラ。
正義という概念が擬人化されれば、このようになるのだろう──そう余人に確信させんばかりの輝きを、この男は纏っている。
魔人へ対峙し、光り輝けるその姿。それはまさしく昔話に描かれる英雄のようであった──いや。
金髪の男は、まさに英雄だ。寧ろ、彼が英雄でなければ、歴史上・物語上で英雄と称される者は皆無となるだろう。
ぱちぱちと、周囲で燃え盛る炎の音が、彼が登場した途端、正義を讃える拍手へと転じたかのような錯覚を、ウェイバーは感じていた。
先程まで魔人共に支配されていた空間が、瞬時に英雄譚の舞台へと変化する。
そして、それと同時に、ウェイバーの視界はひどく歪んだ。
憎悪。嫌悪。憤怒。殺意──それらが、視界を塗りつぶして行く。
ウェイバーが視点を共有している何者かが、金髪の男に対し、強いマイナスの感情を抱いているのは、推察するまでもなく明らかであった。

「おおォ、初めまして大佐殿。お噂はかねがね。会えて光栄だよ」

英雄の登場を目にした鬼は、飄々とした口調で、そのような台詞を吐いた。
大佐殿、とは目の前に立つ偉丈夫の事を指すのだろう。

「そしてなるほど、確かに確かに……これはまた凄まじい。相方(ウラヌス)が滾るというのも納得だ。」

ウラヌス。
鬼が口にしたその名前に、ウェイバーは困惑する。

(──まさか、この夢で……)

ウェイバーの考察が終わるのを待たずに、鬼は此方の方へと顔を向け、

「なあ、そうだろう? これで今度こそ、おまえの望み通りじゃないか」

と問うた。

「ええ、待ち焦がれたわ──この時を」

ウェイバーは何も口にしていないのだが、己の口から言葉が滑り出す奇妙な感覚を味わった。
氷のように冷たく、凛とした、聞き覚えのある声。
それは、冬木市にてウェイバーが毎日のように聞いている──鉄姫のアーチャー、ウラヌスのそれに他ならない。

(──この夢で、ボクはあのアーチャーになっているのか?)

この世の物とは思えない光景。氷。聞き慣れた声。
それらをヒントに、今更ながら、その考えに至るウェイバー。
気付いた途端、周囲の炎が轟と一層強く燃え上がり、彼の視界を覆った。
世界は一瞬で赤一色に塗り潰され、だんだんと暗くなる。
そして、ウェイバーは──




695 : Dust to Dust ◆As6lpa2ikE :2018/02/12(月) 18:31:51 5ooF.ZXI0
目を覚ました。
何回か見た覚えがある天井が、目に映る。冬木市にてウェイバーが仮宿に選んだ老夫婦の家の一室であった。
夢とは朧げなものである。たとえ目覚めた直後であっても、それを正確に記憶している事などあり得ない。思い出そうとしても、靄がかかったように曖昧になるのが当然だ。
だが、ウェイバーは今しがた見ていた夢をハッキリと記憶していた。転がっていた死体の一つ一つに至るまで詳細に思い出す事が出来る。
あれは本当にただの夢だったのだろうか?
そのような問いが湧き上がる。そして同時にそれが否である事を、ウェイバーの本能は告げていた。
ともあれ、この不可思議な体験をアーチャーに相談しないわけにはいくまい。夢の中の出来事や登場人物の事を知っているかどうか、尋ねてみるべきだろう。
そこまで考えて、ウェイバーはベッドから上半身を起こし、部屋の中を見回した。
アーチャーの姿は見られない。
マスターとサーヴァントの間に繋がれたパスに意識を集中させてみても、あの氷の弓兵が付近にいる気配は感じられなかった。ウェイバーが寝ている間に、何処かへと出かけたのだろうか?
まったく、勝手な行動をしやがって──溜息を吐くウェイバー。
まあ、そもそも、マスターどころか全人類を見下しているかの如き傲岸不遜な態度であるウラヌスは、勝手でない行動なんて、一度もした事がないのだが。気を使った行動など言わずもがなである。
時刻は朝の8時。まだ日が昇ったばかりである。昨夜は遅くまで監督役(ルーラー)からの通達に頭を悩ませていたので、睡眠はまだ足りてない。
というわけで、このままアーチャーが戻るまでもう一眠りしようかとウェイバーは考えた。だが、またあんな夢を見てしまったら……と考えると、二度寝する気は失せてしまう。
ならばどうしようか、と考えを巡らせたその時、彼はふと思い出した。この聖杯戦争においてマスターに与えられた特権の一つ──データベースへのアクセス権を。
主催の言葉を信じるならば、『Chaos.Cell』のデータベースには平行世界も含めたありとあらゆる英霊に纏わる情報が貯蔵されているらしい。
それでウラヌスについての情報を調べてみるのはどうだろうか。
上手くいけば、そこから彼女を従えられる情報を見つけられるかもしれない。そう考えると、それが妙案に思えてならなかった。今の今まで思いつかなかったのが不思議なくらいである。
期待を胸に、ウェイバーは『Chaos.Cell』のデータベースへとアクセスしたのであった。




696 : Dust to Dust ◆As6lpa2ikE :2018/02/12(月) 18:32:38 5ooF.ZXI0
未熟な魔術師の少年が地獄の悪夢に魘されていた頃。
反転した無銘の執行者──鉄心のアーチャー、エミヤ・オルタは、深山町の一角を訪れていた。
彼の側に、マスターである遠坂凛の姿は見られない。何も言わずに置いてきたのだ。
それは『英霊同士の戦いである聖杯戦争において、マスターを戦場に立たせるのは危険だ』という心遣いから来た行動ではない。
ただ単に、戦闘の邪魔になりかねない荷物を携えなかっただけである。これから起こる事を考えれば、当然だ。
彼がこの場を訪れたのは、ただの偵察が目的ではない──サーヴァントとの戦闘である。
ここ数日、この付近にて戦闘の痕跡が何箇所か見られていた──いや、それは果たして戦闘の痕跡と言えるのだろうか?
凍った地面。あちこちから生えた樹氷──まるで局所的に氷河期が訪れたかのような光景は、戦闘と言うよりも一種の災害の爪痕みたいであった。
そんな非現実的な光景を生み出せるのは、超常の存在たるサーヴァントしかあり得まい。
だから、銃剣の弓兵は、付近に氷を扱うサーヴァントがいるとアタリを付け、この場を訪れたのだ。
そしてその予測は見事に当たった。

「ふっ──」

遠方から、女の声が響いた。
顔を上げ、視界の先にある倉庫へと目を向ける──そこには一騎のサーヴァントが居た。
天王星のアーチャー、ウラヌスである。
倉庫の屋根の上に立つ彼女が、如何なる表情をしているかは伺えない。バイザーのようなもので目元を覆っているからだ。
しかし、目元が隠されていても、彼女が一般的に言って美人のカテゴリーに入れられるべき人物であるのは明らかであった。
ゴテゴテとした鋼鉄製の装飾を身に纏っている為分かりづらいが、ボディのプロポーションはそこらの人間では並べない程に整ったものであり、嘲るように歪められた口元は、妖艶な魅力を有している。紺色の髪は、夜空に似たスケールの神秘を思わせた。
覆い隠された顔も、寧ろそうする事でミロのヴィーナス宛らの見えざる空想の美を演出している。
そんな美しき存在が、昇り上がる太陽を背に現れたのだ。余人が見れば、天の国から神の一柱が降臨したと錯覚するに違いない。
エミヤ・オルタが腐りきった鉄心ではなく、美を尊ぶ心を有していれば、ウラヌスの美しくも神々しい姿に魅せられてしまっていただろう。

「驚いた──まさか、本戦の段階になって尚、このような劣等が残っていたとはな」

嘲笑が混ざった声でウラヌスは呟く。
確かに、エミヤ・オルタの装備は、二丁の銃剣という、およそ神秘を感じさせられないものである。
付近にサーヴァントの気配を察知したウラヌスが、わざわざ出向いてきてみれば、そこにいたのがそのような格の低いサーヴァントだったのだ──嘲笑を零してしまうのも仕方あるまい。
…………まあ、それにしても彼女の態度は些か慢心が過ぎるのだが。

「これまで己より劣るサーヴァントと戦ってきたか、そもそも戦闘の機会が無かったのか。どちらにせよ、運がいい事ね──だが、その運もここで尽きる」

いや──と言葉を続けるウラヌス。

「寧ろ最後まで幸運だったと言うべきか」

そう告げた途端、彼女は冷たい殺意を放出した。それは気迫的な意味であると同時に、文字通り、物理的な冷たさでもある。
寒い──生前からの精神と肉体の消耗により、感覚が鈍くなっている鉄心の執行者でもそう感じられるほどに、場の空気は冷気に支配されていた。

「喜べ下等生物(にんげん)。この戦争において間違いなく最強のサーヴァントである私から、直々に殺して貰えるのだから──その栄誉に絶頂しながら」

凍て付くがいい──と。
そう続けようとしたウラヌスの台詞は、一発の銃声に遮られた。エミヤ・オルタが握る銃剣から放たれたものであった。
放たれた鉛の弾丸は、星を撃ち墜とさんとばかりに空へと駆けて行く。

「弾丸を扱うという事は、クラスはアーチャーか? ふっ、同じクラスである事が恥ずかしく思える程に、貧弱すぎる一撃ね」

迫り来る凶弾を前に、ウラヌスは余裕綽々と言った態度を崩さず、つい、と片手を翳す。

「本物の射撃というものを見せてやろう」

ピアノを奏でるかのように、ウラヌスは指先を滑らかに踊らせた。
瞬間、彼女の周囲の空間は、絶対零度の領域へと墜落する。
温度の低下と共に凝結した空気中の水分は、何十もの氷杭へと変化した。氷河姫が持つ異なる星の力があるからこそ、可能な芸当である。
一斉に放たれた氷杭の大量射撃を前に、弾丸は為すすべなく飲み込まれた。
氷の奔流はそこで止まらず、魔星に弓を引いた射手を罰するべく、地上目掛けて降り注ぐ。
それは地上に落ちるや否や、耳を聾さんばかりに騒々しい破壊音を響かせ、そしてその一瞬後には、着弾地点から樹氷を芽吹かせる。
その光景は、氷と炎の違いこそあれ、かの背徳の市を滅ぼした天の裁きに似ていた。


697 : Dust to Dust ◆As6lpa2ikE :2018/02/12(月) 18:33:47 5ooF.ZXI0
戦闘跡の様子から、氷使いのサーヴァントがどのような攻撃手段を取るかを前々からある程度予想出来ていたエミヤ・オルタは、氷杭の雨を避けるのに間一髪で成功する。
しかし、雨は一粒だけで終わらない。
何発何十発も連続して襲ってくるのだ。
今は回避に成功しているエミヤ・オルタも、一瞬後、そのまた一瞬後、更に一瞬後にはどうなっているかは分からないのである。

「見るに耐えん程に無様だな。そうまでして寿命を数秒だけでも伸ばしたいか?」
「チィッ!」

苛立たしげに舌打ちをするエミヤ・オルタ。挑発じみたウラヌスの言葉に対して、ではない。彼女が扱う異能に対してだ。
この余りにもデタラメが過ぎる攻撃は、煩わしい事この上なかった。
二丁拳銃であるが故に手元から同時に出せる攻撃が二発しかないエミヤ・オルタと違い、ウラヌスは大気中のどこにでも氷杭の発射点を、好きなだけ作成できるのだ。
言うならば、無限の氷製である。
その点からして、両者の攻撃の物量は隔絶していた。
他のアーチャーとの戦闘において有利を取りやすい対射撃スキル『防弾加工』も、この氷のアーチャー相手にはあってないようなものである。どれだけ射撃攻撃への防御力を高めたとしても、着弾するやいなや凍結されては意味がないからだ。
ここは思い切って接近し、銃に取り付けた短剣で攻撃するか?
──否。それは出来ない。
空気中の水分を凍らせられる事から、ウラヌスの周囲の空間は、地球上の何処よりも寒い異界の如き領域となっていると見て然るべきだろう──そこで生存を許される生命は存在しない。
ウラヌスに近づく行為そのものが、自殺のようなものなのである──まあ、氷杭が降り注ぐ状況下で『思い切って接近』というアクションはそもそもからして不可能なのだが。
忌々しげに蒼の魔星を睨みつける黒の弓兵。
氷杭の豪雨は止む様子が見られない。
今だってあんなに大量に──

「──!」

何かを思いついた様子のエミヤ・オルタ。
彼は何度目かの回避を終えた直後、再び銃を構えた。
照準完了──引き金を握る指に力を込める。

「シッ!」

そう叫んだ瞬間、またも発砲音が鳴り響く。
放たれた弾丸は、蒼の魔星の扱う弾丸に比べれば、量も大きさもちっぽけなものであった。象の大群に挑む蟻のようである。
先程のリプレイのような行動を目にし、ウラヌスはいっそ憐れむような声で嘆いた。

「無駄な足掻きもここまで来ると呆れたものね。所詮、それが人間の限界か。銃剣の弓兵、おまえの矢は星(わたし)を射落とせな──」

その瞬間だった、凄まじい衝撃がウラヌスの顔面を襲ったのは。
がくん、と上半身が仰け反り、頭が揺れ、衝撃が鼓膜を叩く。
右半分が赤く潰れた視界の中に、砕けて飛んでいくバイザーが映った。
鉄心の執行者の弾丸は、蒼の魔星の元まで届いたのだ。
ウラヌスの使う氷杭の物量は圧倒的だ。それを前にすれば大抵の攻撃は飲み込まれ、無効化されてしまうほどに。
しかし、だからといってそれが全く隙のない弾幕射撃である事とはイコールで繋がらない。
寧ろ、隙はある。
ウラヌスは言うならば、神の如き力を手に入れただけの、何処にでもいる凡人だ。
殺しに向いた力を有していても、殺しの技能は有していない。
振るう力が如何に強大であろうと、使い手自身は未熟なのである。
加えて、その性格は慢心に満ちていると来た──そこに油断が生じないわけがない。
あくまで殺戮者であり、戦士ではなかった彼女の隙は、氷杭の空間的な隙として現れた。
それは針の穴のような、鼠一匹通る事すら出来ない程に小さな隙かもしれない。
しかし、生前から正義の味方(じゃあくなるもの)として戦闘技能を磨いていたエミヤ・オルタは、それを発見──見事銃弾を潜らせる事に成功したのだ。
つまる所、英霊としての格でもなければ、扱う異能の力量でもなく、単純な技量の差によって、この一撃は為されたのである。

「ぐぅう──あぁ……!」

背中を曲げて顔を伏せ、片手で片目を覆うウラヌス。指の隙間からは血が垂れていた。
弾丸は、バイザーとぶつかった事で方向が微妙に逸れ、頭を打ち抜けずに、片目を抉り飛ばすまでしか至らなかったようである。
しかしながら、片目だけとはいえ、戦闘に於いて視力を失うのは死んだも同然だ。

「おのれ──」

ウラヌスは顔を起こした。
抉られた片目は、彼女の星の力で凍結され、止血されている──赤黒い血が刺々しく固まったその形は、憤怒の形相を象った仮面のようにも見えた。

「おのれおのれおのれおのれおのれ──おのれッ!」

魔星狂乱。
惨痛に狂い、憤怒に乱れるその姿──宛ら叙事詩において人々に畏れられた怪物の如し。


698 : Dust to Dust ◆As6lpa2ikE :2018/02/12(月) 18:34:55 5ooF.ZXI0
「下賎な駄英霊如きが、よくもやってくれたなッ!」
「ほう──」

吼える魔星を目にし、執行者はここで始めて笑顔を見せた。
その笑顔は──嘲笑。
先程ウラヌスが見せていたものと同じ──己より劣る塵屑を見下ろす際に浮かべる表情である。
否──彼の場合は『己と同等の塵屑を見る』なのか。

「悪くない。まるで神か天上人かのような風格で薄っぺらく着飾っていた先程よりも、随分『らしく』なったじゃないか、氷のアーチャー──さてはおまえ、そっちが素だな?」

エミヤ・オルタがそう告げた瞬間、ウラヌスの体から発散される魔力は、暴風の如き荒々しさを増した。燃え上がる憤怒の激情の昂りが、そのまま魔力へと反映されているのである。
魔星の殺意が、たった一人の敵対者へと注がれる。
先程のような、戯れじみた片手間のものではない──常人が身に浴びれば、それだけで狂死しかねない全力全集中の殺意だ。

「大人しく磨り潰されていれば良いものの──曲芸じみた射撃一つで粋がるなよ、人間風情が」

ウラヌスは告げる、底冷えするような声音で。
そして、空気が、地面が、世界が──凍る。凍る。凍りつく。
樹氷が生え、白銀が大地を覆う。
己の力の凄まじさを誇るように──再確認するように、氷河姫は己が星辰光を以って、世界を侵食していた。
その光景は、まるで地球が全く異なる星へと変貌し始めているかのようであった。

「最早貴様にくれてやる慈悲は微塵もない。天津の高貴な血を流させた──その罰を与え、惨たらしく殺してやる」

「だが」とウラヌスは言葉を続ける。

「一つだけ褒めてやろう、銃剣の弓兵。退屈な戦闘ばかりで腑抜けかけていた私に、この場は英霊が集う、至高の戦いだと思い出させてくれた事を。──故に此処からは本気を出そう。獅子が兎を捕らえるのに全力を尽くすように」

それはまるで『これまで本気を出してなかったのだから、先程銃撃を受けてしまったのも仕方がない』と己に言い聞かせているかのようでもあった。

「天昇せよ、我が守護星──鋼の恒星を掲げるがため」

ウラヌスは紡ぎ始める。人間に対するありったけの憎悪を込めた詠唱(ランゲージ)を。
美しきその声で奏でられる詠唱は、一種の歌のようである。だが努努忘れる事なかれ。それは聴く者を冥界へと誘う死の歌である事を。

「散りばめられた星々は銀河を彩る天の河。巨躯へ煌めく威光を纏い、無謬の宇宙を従えよう」

元々多量であった彼女の魔力量が更に爆発的に増加したのを、エミヤ・オルタは感知した。
どうやら相手は宣告通り、これから全力の一撃を放つつもりらしい──ならば、己もそれに値するものを引っ張り出す必要がある。
そう考えた彼は、

「やれやれ」

と、ぼやいた後、剃刀のように鋭い殺意を込めた瞳で、ウラヌスを睨め付けた。

「これで終わらせてやる」

そして、エミヤ・オルタもまた、紡ぐ──無限を刻み、無へと至る詠唱(ランゲージ)を。

「I am the bone of my sword.」
「ならばこそ、大地の穢れが目に余るのだ。醜怪なるかな国津の民よ。賎陋たるその姿、生きているのも苦痛であろう」

殺戮の宣告と終末の宣告が、共に奏でられる。
銃剣の弓兵も詠唱を開始したのを目にするも、ウラヌスに焦る様子は見られない。
これから天王星が放つ全力(ドライブ)の一撃に敵うはずなどないのだから。

「燦爛な我が身と比べ、憐れでならぬ。直視に耐えん ゆえに奈落へ追放しよう――雨の恵みは凍てついた。
巡れ、昼光の女神。巡れ、闇夜の女王。爛漫と、咲き誇れよ結晶華」

余裕を取り戻したウラヌスは、微笑みを浮かべながら詠唱の最後の一節を刻む。

「これぞ天上楽土なり」
「───So as I pray, 」

詠唱は同時に終わった。
ウラヌスは腕を包むように形成された砲身を。
エミヤ・オルタは二丁の銃剣を。
弓兵共は己が獲物を相手に向け──

Metalnova Glacial Period
「『超新星──美醜の憂鬱、気紛れなるは天空神』ッ!」
Unlimited Lost Works
「『無█の剣製』!」

発砲。
氷河姫から放たれた超低温の氷弾と、執行者から放たれた鉛の弾丸は空中にて衝突する。

「ふっ──ふはははははは! 気でも狂ったか銃剣の弓兵!」

ウラヌスは思わず笑ってしまった。
己が撃ち放った氷山の如き大きさの氷弾に対し、相手が出したのが先程と代わり映えのないただの弾丸だったからだ。
落下する巨大隕石に対し小石を投げつけて抵抗するかのようなその行為は滑稽である。


699 : 名無しさん :2018/02/12(月) 18:35:58 5ooF.ZXI0
だが彼女の嘲笑は、次の瞬間には消えた。
何故なら氷弾が木っ端微塵に砕け散ったからである──内側から突如として噴出した、何本もの剣によって。
パラパラと、細かく砕かれた氷が降り落ちる向こうには、執行者が五体満足の姿で立っていた。
バイザーの下で目を見開く。
今目の前で起こった信じがたい現象は何だ? まさか、これがあの銃剣の弓兵の宝具なのか?
驚愕するウラヌスに対し、エミヤ・オルタは肩を竦め、

「氷のアーチャー。おまえが言った『駄英霊』──アレは中々的を射たものだったよ。流石は弓兵だ」

そして続けて、

「性根が腐って、魂は堕ち、そして何より──おまえなんかを相手に宝具を『二発』も撃ってしまったこのオレには、その名称が似合っているだろうさ」

と告げた。
宝具を『二発』──二発?
ウラヌスがその言葉を疑問に思ったのと、彼女の腹部からドッと一本の剣が突き出たのは、全く同じタイミングであった。
エミヤ・オルタの宝具── 『無█の剣製(アンリミテッド・ロストワークス)』 は、弾丸を撃ち込んだ相手の内部から無限の剣を内包した固有結界を展開し、炸裂させるものである。
彼は先程それを氷弾目掛けて撃ち──そして、氷弾という障害物が無くなった直後に、驚愕で意識に空隙が生じていたウラヌス目掛けて、二発目のロストワークスを撃ち込んでいたのだ。
二丁拳銃だからこそできる技である。
二本、三本、四本、と魔星の体から次々と飛び出す剣。
スプラッタ映画宛らの状況を目にし、ウラヌスはあと数秒もすれば自分もあの氷弾と同じ運命を辿る事を理解した。如何に耐久に優れた肉体を持つ人造惑星(プラネテス)であろうとも、肉体そのものが破裂すれば、絶命は免れまい。

「あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ──ッ!」

迫り来る死を理解した瞬間、彼女は断末魔めいた声で叫びながら、ロストワークスを撃ち込まれた箇所に手を当てていた。
それは何の策略もない、思わずやった、本能的で無意識の行動であった。
痛む傷口を押さえようとしたのかもしれないし、あるいは噴出する剣を押し戻そうとしたのかもしれない。
──しかしながら、その行動は終わりかけていた彼女の命を繋ぐ事に繋がった。
確かに彼女はロストワークスを撃ち込まれた箇所に手を当てただけだ。ただし、その『手』という言葉の前には『氷河姫の超低温の魔力を纏った』という修飾語句がつく。
エミヤ・オルタの『無█の剣製(アンリミテッド・ロストワークス)』が相手の体内で生じる固有結界である事は先程説明したが、では、ウラヌスの『美醜の憂鬱、気紛れなるは天空神(Glacial Period)』はどのようなものなのか。
一見無尽蔵に氷の兵器を生み出す対軍宝具のように見えるが、その本質は『異なる星の法則で現実を塗り替える』というものである。
その在り方は固有結界の『己の心象風景で現実を塗り替える』という性質に限りなく近い。
つまり、展開しかけている『無█の剣製(アンリミテッド・ロストワークス)』に『美醜の憂鬱、気紛れなるは天空神(Glacial Period)』の凍結能力がぶつかったこの状況は、世界の奪い合いに等しいのだ。
そしてその勝者は決まりきっていた──ウラヌスである。
人間では到達し得ない出力を持つ魔星である彼女が、たかだか一英霊相手に力負けするはずがないのだ。其処だけが唯一、彼女がエミヤ・オルタよりも戦士として優っている部分であった。
世界を塗り替えんとする剣の荒野を、氷河姫の花園が更に塗り替える。
展開しかけていたロストワークスは、数本の剣を噴出した所で停止した。
こうして、ウラヌスは固有結界『そのもの』を凍結させる事に成功したのである。
胸から生えた何本かの剣が氷漬けになっている、という奇妙なオブジェじみた格好になったウラヌス。並外れた耐久性が無ければ、この時点で絶命していてもおかしくあるまい。
咄嗟の行動により絶命を免れた彼女は、荒い息を吐きつつも、口角が吊り上がるのを抑えきれずにいた。
死を確信した段階から生還出来たとは、やはり自分は大和(カミ)に選ばれたかの如き幸運を持っているのだ──今の彼女の胸中にあるのは、そのような自尊心であった。
一方、エミヤ・オルタは絶対の自信を持って放った二発目のロストワークスを封じられたにも関わらず、全く焦っていなかった。
何故なら、今現在の状況はウラヌスが危機一髪助かっただけであり、彼女が有利になったわけではないからだ。
寧ろ片目を失い、致命寸前の傷を負っている彼女は、絶体絶命の窮地に立たされていると言っても良いだろう。
ここで逃さずに仕留めるべく、エミヤ・オルタは投影魔術を用いて銃剣をリロードした──その時であった。


700 : Dust to Dust ◆As6lpa2ikE :2018/02/12(月) 18:36:53 5ooF.ZXI0
ズズンッ! 、と地面が大きく揺れたのは。
それはまるで地下深くで土竜か何かが暴れまわっているかのような──いや。
事実、地下で何かが蠢いているのを、エミヤ・オルタは察知していた。
何故なら、己の足元から気配を感じたからである──それも、サーヴァントの気配だ。
時間が経つごとに揺れは大きくなる。
やがて、揺れが最高潮に達した瞬間、

「ハッハァーッ!」

という威勢の良い叫びと共に、エミヤ・オルタとウラヌスの間の地面が噴火したかのように爆ぜた。
そしてエミヤ・オルタはしかと目にしていた──十メートル以上の高さまで上がった土煙と一緒に、何者かが飛び出て来た事を。
水を加えた色水のように段々と薄くなって行く土煙。その中には、半分に割った卵の殻のような髪型の女を抱き抱えた状態で、握りしめた右拳を高く掲げている男がいた。
ナイフで切り裂いたかのような細く鋭い目に、全体的に尖った髪型。愉快げに口端を釣り上げた口からは、魔獣を思わせる凶暴な歯が覗いている。
二人の弓兵の戦場に突如として現れた、その男の名は──

「見覚えのあるモンが降ってると思って来てみれば、こりゃあ随分と懐かしい顔がいるじゃねぇか──ええ? 氷河姫(ピリオド)よォ」

アスラ・ザ・デッドエンド。
またの名をクロノスNO.η・色即絶空(ストレイド)。
アサシンであり、殺人拳の使い手であり、超人であり、魔星であり──そして、悪童である。


701 : Dust to Dust ◆As6lpa2ikE :2018/02/12(月) 18:37:18 5ooF.ZXI0
【C-3/マッケンジー宅/一日目 午前】

【ウェイバー・ベルベット@Fate/zero】
[状態]:健康
[令呪・聖鉄]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:そこそこ。
[思考・状況]
基本:聖杯を元の世界に持ち帰り、周囲に自分の優秀さを認めさせる。
1:聖杯戦争を勝ち抜く。……煩い煩い、勝つったら勝つんだよッ!!
2:データベースでアーチャーについての情報を調べる。

【A-3/深山街/一日目 午前】

【アーチャー(エミヤ[オルタ])@Fate/Grand Order】
[状態]:魔力消費(中)、冷気によるダメージ(中)
[装備]:『干将・莫耶』
[道具]:ワイヤー、銃弾、諸々
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本:???

【アーチャー(ウラヌス-No.ζ)@シルヴァリオ・ヴェンデッタ】
[状態]:魔力消費(中)、右目失明、ダメージ(大)、胸部凍結
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れ、クリストファー・ヴァルゼライドに復讐する。

【アサシン(アスラ・ザ・デッドエンド)@シルヴァリオ・ヴェンデッタ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本:聖杯に掛ける願いそのものはない。聖杯戦争で勝ち星を上げ、拳の極致に至り、ジンが理想とした視点に至る事が、アサシンの目的である。

【F・F(フー・ファイターズ)@ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン】
[状態]:健康
[令呪・聖鉄]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:そこそこ。
[思考・状況]
基本:特になし、ぶらぶら気ままにフリーター生活。


702 : ◆As6lpa2ikE :2018/02/12(月) 18:37:42 5ooF.ZXI0
投下終了です


703 : 名無しさん :2018/02/12(月) 18:46:19 YcA7obAg0
予約と投下のトリップ違うけど同じ人でいいの?


704 : ◆As6lpa2ikE :2018/02/12(月) 19:23:01 5ooF.ZXI0
同じ人です。なんか予約の時はトリップ間違ってたみたいッスね……


705 : 名無しさん :2018/02/12(月) 22:38:23 78Mej3fI0
本人かどうか証明できないか……でも誰も気にしてないしそもそも人がいないから大丈夫でしょう
次から気を付けてくださいね


706 : 名無しさん :2018/02/17(土) 13:18:51 0Z3mXDdM0
何はともあれ乙

ウラヌスさん噛ませの匂いが染み付いてむせるぐらいだけど、
原作でもこんな扱い?


707 : 名無しさん :2018/02/21(水) 18:07:01 wCm/qHA60
1番強い筈なのに何故か死兆星落ちてきそうなウラヌスさんがこの先生きのこるには……


708 : 名無しさん :2018/02/22(木) 00:29:58 QpExGLYs0
>>706
昏式高濱wikiのウラヌスの項目も見てきたら理解できると思う


709 : 名無しさん :2018/02/24(土) 06:23:45 QGphvagA0
>>708
見てきた

・・・うん。10人中10人が噛ませ扱いしてもおかしくない
むしろしない方が失礼。


710 : 名無しさん :2018/02/28(水) 18:16:04 oeCyBT4k0
ゆ虐スレのゆっくりに例えられててワロタ


711 : ◆gQhDJocOUI :2018/04/15(日) 01:39:47 sDTQFv8.0
ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト&ランサー(秦こころ)、暁美ほむら&バーサーカー(ファヴニル・ダインスレイフ)で予約します


712 : 名無しさん :2018/04/15(日) 08:26:05 liLZ262Q0
血の雨の予感


713 : ◆gQhDJocOUI :2018/04/28(土) 23:36:22 1YrVqqdk0
すみません、間に合わなそうなので破棄します。


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