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Maxwell's equations 第三巡
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堕ちる海、爆ぜる空、零れ消えても――
【まとめ:ttp://www25.atwiki.jp/infinityclock/pages/1.html】
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<舞台設定>
舞台は架空の街「K市」です。ちなみに擬似的な電脳世界でもあります。
施設は基本、現代に存在するものなら何を用意しても構いません。
マスター達は聖杯によって『この世界の住人』としての役割をあてがわれますが、これに準ずるか抗うかは本人の自由となります。
住人はすべてNPCですが、殺しすぎるとルーラーのサーヴァントから討伐令が発令されることがあります。
<サーヴァント、マスターについて>
マスターが死亡した場合、サーヴァントは消滅します。令呪の全損による消滅はありません。
逆にサーヴァントが死亡した場合も、マスターは半日の猶予を経た後消滅します。
状態表表記
サーヴァント
【クラス(真名)@出典先】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1:
2:
[備考]
マスター
【名前@出典】
[状態]
[令呪] 残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1:
2:
[備考]
【時間表記】
未明(0〜4)
早朝(4〜8)
午前(8〜12) ※開始時刻
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜(20〜24)
【予約期間】
一週間。延長申請をすることで更に一週間の延長が可能です。
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もうすぐ年も明けますが、今年は本企画への応援・ご参加、本当にありがとうございました。
来年もぜひ、本企画をよろしくお願いします。
吹雪(ブラゲ版)、オルフィレウスを予約します。新スレの序文のようなものですので、明日中には投下できると思います
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>>3
新スレ立て乙です
『全てはじぶんのために』wiki収録と同時に、『聖杯戦争家族計画』の、デリュージの過去に関するくだりを微修正させていただきました
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短いですが投下します。
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「松野おそ松は最期、復讐者達の奸計を狂わせて逝った。
バーサーカー・アカネは自ら命を絶ったが、それでも自らを喚んだ青年に何かを残して旅立った」
薄闇の中で語る声は、語り部のようにどこか芝居がかっている。
彼こそは世界の主。一度目の聖杯戦争には存在しなかった、舞台を管理する者。
"彼女"が失敗したのは、ひとえに勝負を急いたが故であると、聖杯戦争の主催者たる少女は考えていた。
全ての世界にまで召喚範囲を広げるということは、即ち儀式の崩壊のリスクを何十倍にも高めるということである。
現に前回の戦争は、一人の馬鹿げた男の癇癪から崩れ始め、最後には世界の限界という形で幕を閉じている。
その失敗に学び、彼女は裁定者の他に、いざとなれば事態を単独で鎮圧できる存在を味方に付けた。
そして彼は――少女を絶望の闇から連れ出した救済者でもあった。
「街にはライダー・ヘドラが侵攻を本格的に開始。
暗躍する者、立ち向かう者、穴熊を決め込む者。
滅びの危機に対する姿勢は様々だが、日が完全に落ちた頃には、儀式の進行速度は跳ね上がるだろう」
少なくとも、犠牲が出ないということはない筈だ。
日付が変わるまでに、少なくとも二、三は主従が消えると、この男は踏んでいた。
だがそれは、あくまで最低での話だ。
事の進行次第では、更に数が増えていく可能性は充分にある――間違いなく、今夜は最初の山場になる。
「あなたの目から見て、今の状況はどうですか」
「不測の事態が起こることなど、この趣向を選んだ時から想定の上だろう?
順調、その一言に尽きる。無論ヘドラの侵略に限らず、セイヴァーの主従の存在を含めてもだ」
セイヴァー、柊四四八。
そしてそれを使役する、ニコラ・テスラという男。
彼らは事の黒幕である少女の胃痛の種だった。
少女は、あの手の輩が如何に厄災じみた存在かを歴史からきちんと学んでいる。
曰く、盧生。
人類の代表者。
聖杯戦争を正面から破壊し得る可能性を秘めた、本来絶対に喚んではならない危険物。
……幸いなのは、彼が今、邯鄲の夢と呼ばれる術理を自ら捨てていることだろうか。
「キークも上手くやっている。……なかなか優秀な英霊だ。あれでもう少し意欲という物があれば、文句はないのだが」
キーク。
彼女は、電脳世界を舞台にした聖杯戦争を裁定するには最上の人材と言っていい。
何せ、電脳世界で自在に行動できる、そういう魔法の持ち主なのだ。
令呪の制約が無ければ全能者も同然。
盧生が、雷電魔人が、他の反主催勢力がどれほど息巻いたとて、いざとなれば彼女の指先一つで全ては思うがままだ。
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「確かに盧生は怪物で、存在そのものが舞台の崩壊に繋がるイレギュラーだ。
そのことは歴史からも読み取れる――現に、君の友人は彼らのせいで失敗したも同然だったな。
だが、"だからこそ"。そんな存在だからこそ、君が望む絶対神の降臨に際しては良い呼び水となるだろう」
少女は望んでいる。
とある存在の降臨を。
黄金の神威を身に纏い、直視するだけで魂が蒸発する、そんな絶対の神を。
それは人の枠を超えた願い。
聖杯をしても叶えられるか疑わしい、抑止力が全力で介入してくるような所業。
それを理解した上で、少女は世界に弓を引いた。
全ては、全てを成す為に。
道理では成らぬ無理を通す為に、少女には"地獄"が必要だった。
「この電脳の海で、君の願いは漸く叶う」
怜悧に笑う科学者の瞳は、深く、遠く、悍ましい光を湛えていた。
彼が何を望んでいようと、吹雪には関係ない。
最後に勝てばそれでいい――あくまで狙うのは最後の最後での勝利だ。
この電脳世界から帰投し、地獄と化した世界をあるべき形に戻す為。
その為ならば吹雪は、自分という存在さえも犠牲に出来る。
聖杯戦争は未だ序盤も序盤。
全ては此処からで、これからだ。
電脳世界の深淵にて。
未だ形を持つことなく、それは眠り続けている。
世界に恒常的な亀裂を走らせながら、その背に巨大な地獄を背負って。
クラス・ビーストの戦神は――未だ立たず。
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◆Tips:第一次聖杯戦争(その2)
アーチャー陣営の乱心により崩壊した聖杯戦争は、以後街一つを焦土と変えながら続く地獄篇となった。
依然として暴威を振るい続けるは最も多くのサーヴァントを抹殺した元凶、夢幻遣いのアーチャー。
その非道に否を唱え、正しき心を持つマスターと共に戦地を駆け抜ける、誉れ高き聖剣のセイバー。
狂乱の地獄さえ良しとしながら戦を心より満喫する、二槍を担うランサー。
明晰なる頭脳を回転させ、事態の混沌化に激憤しながらも、無限の式を編み上げながら時を待ち続けた全知のライダー。
アーチャーの火力でも、ランサーが与える"死"でも殺害することはおろか傷の一つさえ付けられなかった、気紛れなる暴君・キャスター。
ランサーとはまた違った"死"を振り撒く、死の肯定の権化たる無情の殺戮者、アサシン。
そして理解不能の道理と意味不明の論理で生き残り続けた、嘲笑する狂謀術師――バーサーカー。
三騎士の三つ巴は舞台の半分を消し去りながらも痛み分けに終わり、キャスターは彼らの戦いに巻き込まれながらも悠々と生還し、アサシンとバーサーカーの同盟はそもそも阿呆らしい、勝手に潰し合えと介入することさえしなかった。
そんな状況で、一人牙を研いでいたのがライダー……自らを全知の才人と称する星の侵略者であった。
『虚より来る深遠の敗者』。
惑星と文明を破壊する程の巨体へ自らを変化させる彼の最終宝具により、聖杯戦争は失敗という名の終局へ墜落を始める。この時、既に全てが手遅れだった。
データとして膨大過ぎるライダーの暴虐は易々と整えられた舞台を破壊。
最大級出力から放たれる星の聖剣が、未だ不完全だった電脳世界に処理不可能な程の負荷を与え。
バーサーカーの嫌がらせのような妨害工作によって世界の修復は悉く妨害され。
最後、ライダーへの駄目押しとして放たれた、アーチャーの神格召喚という聖杯戦争の原則を正面から殴り飛ばす一手により、とうとう世界の方が音を上げた。
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以上で投下終了です。
年末はちょっと忙しく、今年中に何か投下できるかはかなり怪しいのですが、来年も当企画をぜひよろしくお願いします。
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>>9
投下お疲れ様です。
第一次聖杯戦争が激しすギィ!
敗者さんがアレやったのね。そしてアーチャー…一体何粕正彦なんだ・・・
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投稿乙です
あのバカがいたとはいえ何このカオス
アルキメデス同様絶叫しているアークスの玩具が幻視できるw
これでも■■なる■やクラス・ビースト顕現なんて最悪の事態は
免れてるんだよなー
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予約を延長します。
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予約を破棄します。申し訳ありません。
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黒鉄一輝、セイバー(ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン)
棗恭介、アーチャー(天津風)
吹雪、ライダー(Bismarck)
予約します。
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皆様お疲れ様です。下記を予約します
・岡部倫太郎&ライダー
・牧瀬紅莉栖&キャスター
・美国織莉子&バーサーカー
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延長します。
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アサシン(U-511)を追加予約して投下します。
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砲撃と暴虐が響く戦場にて、三組の主従がそれぞれ戦っている。
深海棲艦という脅威を前に、各々ができることを行っている。
ビスマルクは砲撃を行いつつ吹雪から離れぬよう、適度な距離を保つ。
天津風も同じく、出来る限り恭介の傍で砲撃を続行している。
そんな中、唯一といっていい近接戦闘のプロフェッショナルである彼女――ベアトリスは縦横無尽に戦場を駆け抜けていた。
手に持つ戦雷の聖剣を振るい、現れる深海棲艦を次々と落としている。
そして、マスターである黒鉄一輝はそんな彼女を見て思案する。
(セイバー、手を抜いているね?)
(ありゃ、バレちゃいました? さすが私のマスターですね)
それは、この混迷極まる戦場には似つかわしくない通常通り――世間話をするかのようなやり取りであった。
ベアトリスは真価たる雷を全く使っていない。
一輝も陰鉄を具現化しておらず、あくまで自衛の為に後ろへと下がっているにすぎない。
彼らは本気で戦っていない。少なくとも、戦い慣れした二人の顔に切迫の文字はない。
(もっとも、剣技では本気なんだろうけど)
(ええ。真価たる力をこの程度の敵に使うまではありません。それに、私の直感なんですが、どうもきな臭い。
見られている、探られている、そういった靄が頭にこびりついているんです。
ともかく、本気で敵を掃討するにはまだ早いと判断しました)
(なるほどね、セイバーの思惑はわかったよ。あくまで、本気で戦えど、全力では相対しない。
この場はそうやって切り抜けよう)
(了解。直感なんて不確かなものを信じてくれて感謝します)
(当然だよ。僕らは一心同体なんだ、この程度のことで相方を信じられなくて、聖杯を取れるとは思えないからね)
敵の大玉が来るならともかく、無闇に全力を出しては後がない。
これは戦争だ。長期的視野で戦わなくてはならない、生存重視の耐久マラソンのようなものだ。
延々と戦って勝ち上がれる驕りなんてない。
上手く戦いを捌き、ここぞという時には躊躇なく切り札を切れる豪胆さ。
勝者に求められるのは、それだ。
本来の自分が良しとする戦い方ではないが、四の五の言っていられる程、自分達には余裕はない。
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(あくまで前哨戦。偵察に過ぎない今、一気に勝負をつける必要はない)
(とはいえ、ダラダラと長引かせては不利益を被りますし、手柄を横取りされる可能性も生まれます。
…………あまり考えたくはないですが、後ろから撃たれる、ということもありますからね)
それは、ベアトリスが特に注意していることでもあり、現在目下で訝しんでいることでもある。
棗恭介。あの食えない男はどうも信用ならない。
直感という不確かなもので人を疑いたくはないが、自分の感性を信じれない愚物であるつもりはない。
故に、彼は限りなく黒に近い灰色。いつ如何なる時でも油断ならない、敵候補。
一輝からしても彼は油断ならない男であり、気を抜くつもりは欠片もない。
(それに、そろそろ頃合いですね)
(うん、そうだね)
そんな彼の思惑を全て推し量るまでにはいかないが、ある程度までは読める。
ひっきりなしに現れる敵に消耗戦を強いられる自分達。
戦況が膠着状態となった今、賢い彼が下す判断は一輝達にも予測はつく。
「吹雪、黒鉄、これ以上は利がない。撤退だ」
今回の目的はあくまで偵察である。
敵の親玉を倒すといった本業がどれだけ大変か推し量る、もしくはどれだけの被害を海が被っているのかを確かめるが為である。
奇襲を受け、こうして戦闘を行っているが、敵の数も減っている。
今なら撤退もできる。無理に殲滅をする必要性は見受けられない。
「そうですね。僕としても、此処で消耗はまだ避けたい」
一輝からしても、勝負を今すぐに決めなくてはならないと考えてはいなかったので、その提案は渡りに船である。
ひとまず、海の状況と敵の兵力について、大まかにわかっただけでも良しとしたい。
ベアトリスや他のサーヴァントも同意見であったらしく、異論は出ない。
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「……吹雪。気持ちはわかるが、今は退くぞ。こいつらを放置したらまずいってのは承知の上で、だ。
やるならもっと準備をしてからの方がいい」
「わかってます。けどっ」
「いいか、吹雪。無茶と無謀を履き違えるな。この先、無茶を強いられる場面はあるし、そうなった時は覚悟を決めてやるしかない。
なにせ、選択肢はそれしかないんだからな。だけど、今回はまだ余地がある。逃げても、後があるんだ」
つけた結論は、ここで決着をつける必要はないということだ。
ヘドラが陸地へと侵食し、この聖杯戦争が崩壊するまで猶予はあるはずと判断し、今は退く。
しっかりとした作戦を立て、それから戦いに臨むべきである。
「無謀な突撃はまだ早い。そう慌てることはないさ、あいつらとはまた戦うことになる」
そう言葉を置いて、各々サーヴァントに抱えられ、急いで撤退をすることになった。
(マスター。やはり、あの少年は信用できません。
この鉄火場であっても、『落ち着きが在りすぎる』)
(そうだね。僕や吹雪さんみたいな修羅場を潜り抜けた経験があるなら、だけど。
棗さんはたぶん、そういった経験はない。身体能力こそ高いけど、動きは素人だ)
(頭脳明晰で裏方に回すと、存分に能力を発揮するタイプですね。
交渉といった分野ではさぞや上手く立ち回るでしょう)
撤退の最中、一輝達の話題になったのはやはり棗恭介であった。
総じて、今回の戦いでもそつなく振る舞っていた彼の評価は高い。
命が懸かった戦場であっても、落ち着きを失わず冷静な判断を最後まで下し続けた。
(何かしら、逸脱した経験を積んでいるのかもしれないね。
とりあえず、軽々しく信用していいとは思えないかな)
(同感です。ひとまずは様子見でいきましょう。
後ろから撃たれるなんて笑えませんけど、今の所は仕掛けてはこないはず。
共通の目的がある限りは、頼もしい味方になりえる、と)
彼は危険だ。このまま放置していると、何れは自分達を脅かす存在へと間違いなくなるだろう。
故に、早急に討たなければならない。仲間が揃わぬ内に、どんな手を使ってでも葬る。
幸いなことに、自分達の手の内はほぼ明かしていない。
正面からだろうが、後ろからの暗殺だろうが、取れる手段は幾らでも思いつく。
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(注意すべきは棗恭介。その認識は変わりませんが、それ以上に警戒すべきなのは吹雪ちゃんのサーヴァントですよ。
まさか、こういった形で出会うなんて思いもしませんでした、びっくりです)
(ということは、知り合いかな? それにしてはお互い、全く口をきいていないけど。
積もる話もあるなら、現界して話してみたらどうだい?)
もっとも、ベアトリスにとって、恭介はあくまでついでだ。
彼女には彼よりも反応すべき存在がいる。
向こうは全く気付いてないだろうが、ベアトリスは忘れない。
祖国を護った偉大なる戦艦の姿を軍人であった彼女が忘れることあろうか。
(いいえ、向こうはきっと私のことなんて記憶にとどめていませんよ。
ただ、私は覚えている。忘れることなく、強く記憶に残っている。
戦艦ビスマルク。護国の守護を担った戦艦。何故か、女性の姿になっていますけどね。
とはいえ、そんな些細な事はいいんです。
聖杯を狙う以上、あの大戦で活躍した誉れある戦艦と戦わなくてはならない。
私としましても、油断なんてできっこないですし、戦うなら、全力かつ本気でやらないといけませんから)
それは、ベアトリスの創造の位階をもってして、勝てるかどうか。
彼女にここまで言わしめる強さを誇るのだろう、ビスマルクというサーヴァントは。
しかし、それでも勝たなくてはならない。勝ち残るには、避けられない敵である。
正面から倒せるならそれに越したことはないが、念には念を入れたい。
(つまり、セイバー。君は狙うなら、吹雪ちゃんの方がいい、と言いたいのかい? もしも勝てないと判断したなら……)
(あらら、心配してくれてるんです? もしかすると、私が負ける、と?
甘く見ないで下さい、マスター。例え、相手が祖国の名高き戦艦であろうと――負けるつもり、ありませんから)
だが、そんな念など不要と言外に言う彼女は果てなく強い。
それは過剰でも過小でもない純然たる評価だ。
能力を使わなくとも、剣技だけでも戦える。同じ剣士として、一輝にはわかるのだ。
そして、剣技という領域で高みに至った彼女が負けるつもりはないと言ったなら、後は信じるしかない。
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「さてと、ひとまず撤退できた訳だが……どうする?」
それよりも、今は目先のことを考えなくてならない。
ひとまず、敵から無事に退却したが、どうしたものか。
恭介の問いかけに対して、一輝が答えを返そうとする前に、声を上げる少女が一人。
「その、いいですか!」
「おう、何だ? 苦情文句なら幾らでも受け付けてやるぞ」
「そうではなく、こうして同盟を組めたんです、作戦会議がしたいなってっ!」
「そうだな。ヘドロやその他諸々、どうやって対処していくか。やる価値は十分にある。
腰を下ろして言葉を交わすのは良いと思うが……」
吹雪が出した案は理にかなっている。
海岸に向かう途中、幾らかの言葉を交わしたとはいえ、最低限だ。
今の自分達は相互理解が足りない。戦うにあたって、見解を一致させておくのは悪いことではない。
とはいえ、一輝達が持つ切り札は隠すけれど。それは恭介の陣営も考えていることだろう。
「――――吹雪、本音は?」
「出会ったからには仲良くしたいなぁ〜って、せっかくこうして協力できるんだしなぁ〜って」
「…………お前なぁ」
もっとも、吹雪の思惑はそれとは別のものである。
仲良くなりたい、絆を深めたい。
その思いは素晴らしいことであるし、ここが聖杯戦争が行われる舞台でなければ、素直に了承の意を込めて返答できるというのに。
「黒鉄、お前はどうする? できることならでいいんだが……」
こいつの思惑に乗ってやってほしい、と。
言葉を最後まで紡ぐことはなかったが、そう伝えているのだろう。
一輝としてはいつかはこの手で斬る相手と仲良くなど、あまりしたくない。
下手に情が移ると、刃が鈍る。彼女達の良心に感化されるなどあってはならないから。
願いを叶える聖杯以外、見えない聞こえない知りもしない。
そう、思いたい。
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「…………その振りでしたら、僕が取れる選択肢なんて一つしかないと思いますが」
「まさか。ここで断ったっていいんだぜ?」
「断った所で状況が好転するなら、遠慮しますって言えるんですけどね。
仕方ありません、提案に乗りますよ」
ため息混じりに出した妥協案ににっこりと笑みを浮かべる吹雪に対して、一輝は思う。
彼女のように真っ直ぐに在れたら。
それはかつての自分、または奇跡を掴まなかったら辿れたかもしれない未来を想起させるかのようで。
(――揺らぐな。戦うと決めたはずだ、奇跡に可能性を見出したはずだ)
きっと、それは夢物語。
イフはあくまでもイフでしかなく、今の自分こそが現実だ。
誰かに誇れる姿とは到底掛け離れてしまっても、自分なのだ。
夢の為に、夢だけを糧に走る馬鹿な男。
それで、満足だ。
▲
観察から得られた情報はそれなりに有益だ。
もっとも、今後のことを考えると頭が痛くなるけれど。
少なくとも、目下の懸念は祖国で誉れ高き戦艦と謳われたビスマルクが参戦していることだ。
同郷の仲間がこの戦場にいるなんて、とU-511は表情を少し顰めて溜息をついた。
彼女達は戦場から撤退していったが、アレはまだ本気ではない。
大方、態勢を立て直す為であろう。
(ビスマルク姉さんと戦うことになるなんてね、どうしたものかな)
追走はやめておいた。
少しでも姿を察せられたら、自分の正体など丸わかりだ。
何せ、自分達は同郷の知り合いなのだから。
その縁からややこしいことになることは間違いない。
(それにしても、いい気分はしないね。同郷、護国の戦艦と戦うのは)
正直言って、彼女と戦うのはあまり気が乗らない。
国を護り、沈む最後の瞬間まで戦い抜いた戦艦を相手取るなんて。
だからといって、このまま戦わずにいられるといった楽観視はできない。
いつかはぶつかる時がくる。
聖杯を狙う限りは、どれだけ仲が良かったとしても、争わなくてはならない。
自分達が放り込まれているのは戦争だ。
それも経験したものとは違い、生き残る枠が一つしかない最悪の戦いである。
同盟を組もうが、最後は破綻する。
だったら、最初から可能性など、見出さない方がいい。
マスターに従い、戦っていたらいい。
兵器として、U-511は振る舞えばいい。
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【一日目・夕方/D-3】
【吹雪@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態] 健康、一輝に思うところがある
[令呪] 残り三画
[装備] 高校の制服
[道具] 艤装(未装着)
[所持金] 一万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争からの脱出。
1:棗恭介、黒鉄一輝と同盟してことに当たる。
2:ティキが恐ろしい。
3:討伐クエストに参加して、犠牲になる人の数を減らしたい
【ライダー(Bismarck)@艦隊これくしょん】
[状態] 健康
[装備] 艤装
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:吹雪を守る
1:棗恭介、黒鉄一輝と同盟してことに当たる。ただし棗恭介には警戒を怠らない。
2:ティキは極めて厄介なサーヴァントと認識。御目方教には強い警戒
【棗恭介@リトルバスターズ!】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] 高校の制服
[道具] なし
[所持金] 数万円。高校生にしてはやや多め?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯入手。手段を選ぶつもりはない
1:吹雪、黒鉄一輝と同盟してことにあたる。
2:吹雪たちを利用する口実として御目方教のマスターを仮想敵とするが、生存優先で無理な戦いはしない。
3:吹雪に付き合う形で、討伐クエストには一応参加。但し引き際は弁える。
【アーチャー(天津風)@艦隊これくしょん】
[状態] 健康
[装備] 艤装
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:恭介に従う
1:マスターの方も艦娘だったの? それに島風のクラスメイトって……
2:吹雪、一輝の主従と同盟してことにあたる。
【黒鉄一輝@落第騎士の英雄譚】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] ジャージの上に上着
[道具] タオル
[所持金] 一般的
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取る。
0:止まってしまうこと、夢というアイデンティティが無くなることへの恐れ。
1:棗恭介、吹雪と時期が来るまで協力する
2:後戻りはしたくない、前に進むしかない。
3:精神的な疲弊からくる重圧(無自覚の痛み)が辛い。
【セイバー(ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン)@Dies irae】
[状態] 健康
[装備] 軍服、『戦雷の聖剣』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターが幸福で終わるように、刃を振るう。
1:ビスマルクに対して警戒。
2:棗恭介に不信感。杞憂だといいんですけど……
3:マスターである一輝の生存が再優先。
[備考]
※Bismarckの砲撃音を聞き独製の兵器を使用したと予測しています。
【U-511@艦隊これくしょん】
[状態] 健康
[装備] 『WG42』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う
1:マスターに服従する
2:あれ……艦娘、だよね……? ビスマルク姉さんもいるなんて……
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投下終了です。
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投下します。
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「どうしてこうなった……」
K市の東海岸沿いを走る電車に乗って西側へと移動する一人の男がいた。名を岡部倫太郎。
ガタン。ゴトン。電車が揺れる。
窓からは夕日の光が射し込みベージュ色の内装を赤く染めていた。
平日の夕方、まだ勤労に勤しんでいる者も多く、そうでない者も海岸から漂う瘴気によって自宅に籠っているのだろう。
とにかく電車の車両には岡部と霊体化しているサーヴァントだけで彼の呟きを聞くは他にいない。
何故岡部達が少ない所持金を削ってでも電車に乗って移動しているか。事の発端は数十分あるいは一時間前になる。
岡部達が『ソレ』を見たのは偶然だった。
『ソレ』は想像を遥かに超えたモノだった。
◆
────時間は少し巻き戻る────
汚染された海水。錆び付いたガードレール。潮風の変わりに悪臭が嗅覚を蹂躙し、岡部は不快感に顔を歪める。
「とにかく、ここを離れるか」
怪しげな同盟を真っ向から蹴り飛ばし、自分が強いと思っている奴にノーと言ってやった。
さらにけしかけてきた悪霊を掃討し、完全勝利したわけだ。
勝利の美酒に酔っていたいが、ここはヘドラの勢力圏内である。言われなくてもスタコラサッサするに限る。
その時だ。沖の海面からネットリと何かが這い出てくるのを岡部は見た。
一難去ってまた一難。岡部の双瞳はそれらがサーヴァントとしてのステータスを有しているのを確認した。
「ライダー!」
「分かってますわよ!」
マスケット銃の名手アン・ボニーが銃口をそれに向けた瞬間。
「なん……だと……」
それが一体、また一体と海面へ現れる。
鯨のような形態のモノ。
人のような形をしたもの。
完全に人の形をしている者。
数十、数百、数千のサーヴァントステータスを持つ者が現れた。
しかし、彼等は岡部を見ていなかった
彼等は『ソレ』を見ていた。
「マスター! あそこ!」
メアリー・リードが指差すその先に人影があった。
体格からして少女と思われるが、人間である岡部には遠すぎてそれ以上のことは分からない。
だが。
だが……
だが……!
突如現れた艦隊による無数の魔の砲撃。
重機関銃の如き速さで大火砲と呼ぶべき火力が連射し、世界を震えさせる。
少女が突如、別の場所へワープした。
生き残っていた黒いものが蠢く中心へ。そして。
眩い光が視界を埋め尽くす。
水平線の彼方から彼方まで光線が走り、そして爆発する。
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光の水爆。超新生爆発(ビッグバン)。消毒を思わせる悍ましい光。
それが海面から現れた者共を破壊、いや消滅させる。
残骸すら残らず、断末魔すら残さず、究極にして完全なる消去(デリート)。
しかし、だ
破壊だけならばまだ分かる。要はビームだと自分の中二病知識で何とか納得させることが可能だ。
だが、破壊はただの破壊ではなかった。
────世界には孔が空いていた。
────比喩ではない。文字通りの意味だ。
汚染された海の景色が、まるで垂れ幕のように垂れ下がっていた。
そして世界が剥がれたその先に。
グロテスクといってもいいほど煌びやかな星空が広がっていた。
岡部は間抜け面のままその穴が閉じて無くなるのを見ていた。
隣でライダーの二人が何かブツブツ言っているが岡部の脳髄には届かない。
頭が理解の許容範囲を超えた破壊を見せられたため、更に戦慄を促す事実に気付くのに時間がかかる。
静か、なのだ。
あれだけの破壊が起きたにも関わらず、近くからは潮騒の、遠くからは喧騒の音が聞こえてくる。
何より恐ろしいのが波だ。穏やかで、そして“綺麗な”海水が波打っている。
空気が旨い。鼻を刺す悪臭が無くなった。
ガードレールの錆びも無くなっていた。
清潔に、凄烈に。ただアレは海の汚濁のみを破壊し尽くしたのだ。
『破壊』だ。浄化ではない。浄化などといえるものか。
「────────────────────────」
何が起きたかなどどうでもよい。ただ、アレはマズイと脳髄の端から端が叫んでいる。
人影がこちらを向いた。
「逃げるぞ!」
逃げられるとは思えない。
だとしても岡部は走る。
走らなければ心臓が勝手に止まってしまいそうだ。
二人は黙って霊体化し岡部に付いていった。
◆
とにかくアレから逃げ出したいという一心で、最寄りの駅に逃げ込む。
「街にいくのにはどれに乗ればいい!!」
駅員は岡部の鬼気迫る表情に驚きはするも、岡部はそんなものに気を割く余裕は無い。
とにかく海。海から離れなくてはならない。あんなモノがいるならヘドラ討伐になど無駄だ。
「申し訳ありませんが、今街にいく電車は全て運転を見合せているのですよ」
「なっ、何故だ!」
「なんでも街中で爆発事故が起きたとかで危険ですし、それにここ最近でニュースになっている殺人犯が現れたとかでテロの可能性もあるとかで」
ニュースの殺人犯────ジャック・ザ・リッパーか。ということは街中ではサーヴァント戦の真っ最中ということか。
なんてタイミングの悪い。前門のサーヴァント、後門の破壊者。どちらも危険極まりない。ならば────
「運転乗り替えは!」
「ああ、それなら」
◆
そして現在。こうして、電車で呉方面行の電車に乗っている。
ガタン、ゴトンと電車の揺れる音につられて敗残兵の体も揺れる。
-
朝はあの《白い男》。昼には悪霊。そして夕方はあの破壊者ときている。
あれらに勝てる気がしない。それはライダー達の責任ではなく自分の心根の問題。やり通せるのか俺は。
────まだ見ぬ未来改変者。そいつとも戦わねばならない。
聖杯戦争の混沌は加速し、されど止める者はいない。
いや、そもそも他のサーヴァントが……
岡部はいつの間にか目蓋を閉じ、ゆっくりと意識を沈めていった。
◆
マスターの意識が完全に休眠したと同時、ライダー達は実体化する。
「寝たね」
「寝ましたわね」
「疲れてたのかな」
「そりゃあ疲れるでしょう。朝から戦闘と逃亡を繰り返せば。
どうみても鍛えている様には見えませんし」
アンとメアリーは外套を岡部にかける。
今は秋。流石にこのままでは風邪をひく。実体化している間だけとはいえコートをかけておけばまだマシだろう。
白衣の上に二つの髑髏マークが描かれたコートが重ねられた。
「じゃあ本題に入るけど、『アレ』に勝てると思う?」
「無理ですわね。そもそも戦う気すら起きませんわ」
「だよね」
使い手はともかくあの武器は別格だ。
神話や武器に詳しくなくても分かるくらい規格(レベル)が違うと遠目でも理解した。それくらい単純で究極の武器。
「とりあえずどうしようも無い相手には考えるだけ無駄ですわ」
「まぁ、そうだね。じゃあこれからどうするの?」
「全ては波の行くまま、風の流れるままですわメアリ。
マスターの行く末に冒険があれば吉、なくても良し。それが」
「サーヴァントって奴だね」
「ええ」
考えなしではない。戦いになれば戦うし、そも舵を預けるなど船長以外にするものか。
海賊とは裁かれる者。終わりは戦死か縛り首が常だから、自由に生き、自由に征き、自由に逝く。
「メアリ」
「ああ」
サーヴァントがいる。かなり高速で接近している。
白衣の襟元を引っ張りあげて無理矢理マスターを起こした。
「起きてマスター。サーヴァントが近づいている!」
電車のアナウンスが『次は安芸ぽん』と告げた。
-
【D-3/電車(下り)/一日目・夕方】
【ライダー(アン・ボニー)@Fate/Grand Order】
[状態] 健康
[装備] マスケット銃
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
1:とりあえずマスターの意向には従いますわ
2:殺人鬼の討伐クエストへ参加する。ヘドラの方は見送り。
3:セイヴァーとそのマスター(ニコラ・テスラ)には注意する
【ライダー(メアリー・リード)@Fate/Grand Order】
[状態] 健康
[装備] カトラス
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
1:あの光、どっかで見たような……
2:殺人鬼の討伐クエストへ参加する。ヘドラの方は見送り。
3:セイヴァーとそのマスター(ニコラ・テスラ)には注意する
【岡部倫太郎@Steins;Gate】
[状態] 疲労困憊、魔力消費(中)、気疲れ(大)、少しいつもの調子が戻ってきた
[令呪] 残り三画
[装備] 白衣姿
[道具] なし
[所持金] 数万円。十万にはやや満たない程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
1:『アレ』と戦うのはまずい
2:未来を変えられる者を見つけ出して始末する
3:殺人鬼の討伐クエストへ参加しつつ、他マスター及びサーヴァントの情報を集める。ヘドラについては相性が悪すぎる為見送りの姿勢
4:『永久機関の提供者』には警戒。
5:セイヴァーとそのマスター(ニコラ・テスラ)は倒さねばならないが、今のところは歯が立たない。
[備考]
※電機企業へ永久機関を提供したのは聖杯戦争の関係者だと確信しています。
※世界線変動を感知しました。
※セイヴァーとそのマスターに出会いました。
※【吹雪】による汚染一掃とその宝具を見ました。
◆
「早ぇ。メッチャはえぇ」
電車に乗るキャスター、バーサーカーは既に接近するサーヴァントを感知し、臨戦体勢にあった。
だが、バーサーカーのマスター、美国織莉子は……
「特に何も問題ないですよ」
とにこやかに告げる。マスターがそんな様子なためバーサーカーも実体化せずに待機していた。
どういうことかと紅莉栖が織莉子を訝る間に反対側の電車が通りすぎた。
「あれ? 通り過ぎたぞ?」
「ああ、そういうこと」
-
紅莉栖も理解した。反対側の電車に乗っていたのだ。
それを知ってて、いや見てて言わない協力者の意地の悪さに若干苛立つ。
いや、それ以上に。
「それも予知?」
「ええ、ちょっとこの先が気になったもので」
◆
美国織莉子は牧瀬紅莉栖と同盟が成った後、もう1度だけ予知をした。
そして知った。
今回の報酬は参加するだけで一画贈呈という破格の報酬に見えるが、織莉子は知っている。
これはこの上なくヘドラの軍事力を正当に評価した報酬だ。
予知して見た光景は……どうしようもない絶望が渦巻いていた。
夜の海を埋め尽くす艦隊とこの聖杯戦争に参加した多くの英霊が激突し、英霊側が全滅する。
そしてヘドラが陸に上がり、電脳世界を汚染し尽くし、この聖杯戦争の勝者となる。
ヘドラ討伐の前に脱落するマスターを一人救い、協力に取り付けたがヘドラに殺される人数が増えるだけで未来が変わらないのだ。
そして時間は既に無く、故にこれが結末として固定されてしまう。
(いいえ。それは駄目よ)
そんなこと許容してはいけない。
それではキリカが死んでしまう。
それでは勝つ意味が無い。
英霊が足りなければ、増やせばいい。
だが、これから未来視はできない。
八方塞がり。でも諦めない。
今度こそ私は世界(キリカ)を救うんだから!
電車のアナウンスが『次は新広ぽん』と告げた。
-
【D-3/電車(上り)/一日目・夕方】
【キャスター(仁藤攻介)@仮面ライダーウィザード】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]各種ウィザードリング(グリフォンリングを除く)、マヨネーズ
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り、マスターのサポートをする
1:ヘドラの迎撃準備。
2:黒衣のバーサーカー(呉キリカ)についてもう少し詳しく知りたいが……
3:グリーングリフォンの持ち帰った台帳を調べるのは後回し。
[備考]
※黒衣のバーサーカー(呉キリカ)の姿と、使い魔を召喚する能力、速度を操る魔法を確認しました
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています。
※御目方教の信者達に、何らかの魔術が施されていることを確認しました。
※ヘドラの魔力を吸収すると中毒になることに気付きました。キマイラの意思しだいでは、今後ヘドラの魔力を吸収せずに済ませることができるかもしれません。
【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate】
[状態]決意
[令呪]残り三画
[装備]グリーングリフォン(御目方に洗脳中)
[道具]財布、御目方教信者の台帳(偽造)
[所持金]やや裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を破壊し、聖杯戦争を終わらせる。
1:色々と考えることはあるが、今はヘドラを討つ準備を整える。
2:グリーングリフォンの持ち帰った台帳を調べるのは一旦後回し。
3:聖杯に立ち向かうために協力者を募る。同盟関係を結べるマスターを探す。
4:御目方教、ヘンゼルとグレーテル、および永久機関について情報を集めたい。
[備考]
※黒衣のバーサーカー(呉キリカ)の姿と、使い魔を召喚する能力を確認しました。
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています。
※御目方教の信者達に、何らかの魔術が施されていることを確認しました。
【C-2/ビジネスホテル(裏手)/一日目・夕方】
【バーサーカー(呉キリカ)@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]健康 、不機嫌、霊体化中、令呪。『今後、牧瀬紅莉栖とそのサーヴァントに手を出してはならない』
[装備]『福音告げし奇跡の黒曜(ソウルジェム)』(変身形態)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:織莉子を守る
1:命令は受けたが、あの女(牧瀬紅莉栖)はものすごく気に入らない。
[備考]
※金色のキャスター(仁藤攻介)の姿とカメレオマントの存在、およびマスター(牧瀬紅莉栖)の顔を確認しました
【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]魔力残量6割、焦燥
[令呪]残り二画
[装備]ソウルジェム(変身形態)
[道具]財布、外出鞄
[所持金]裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に優勝する
1:まだ……足りないの。
2:令呪は要らないが、状況を利用することはできるかもしれない。町を探索し、ヘンゼルとグレーテルを探す
3:御目方教を警戒。準備を整えたら、探りを入れてみる
[備考]
※金色のキャスター(仁藤攻介)の姿とカメレオマントの存在、およびマスター(牧瀬紅莉栖)の顔を確認しました
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています
※予知の魔法によってヘドラヲ級を確認しました。具体的にどの程度まで予測したのかは、後続の書き手さんにまかせます
※夕方、K市沖合の海上にて空母ヲ級&ライダー(ヘドラ)により報道ヘリが消息を絶ちました。このことはテレビやインターネットで報道され、確認することができます。
-
すいません。C-2ビジネスホテルは消し忘れです。
-
◆
────彼女(エネミー)と相対できる場所に英霊を集めて。
────大敵(ビースト)を討滅できる英霊の宝具を蒐めて。
────世界線収束範囲(アトラクタ・フィールド)を■■しなければ未来は────
◆
電脳の一角で軍刀を持った少女が問いかける。
「それで。何故、岡部倫太郎は私を視認できたの?
いや、違う。何故、私が岡部倫太郎を捕捉できなかったの?
ルーラー、あなたの仕業?」
あの時、彼女の索敵は誰もいないことを感知していた。
では何故、あのマスターは索敵範囲をすり抜けて私を認識したのか。
「あたしは何もしてないよ」
「まぁ、想像はつくがね」
白衣の男。オルフィレウスは答える。
「あのヘドラの周囲では電子的にも狂いが生じている。
あの時、悪性情報だけではなく虚数が空間を満たしつつあった。
つまりは特異点になりつつあったのだよ。
何もかもがあやふやな電脳の空白地帯故に『特異点である』岡部倫太郎も世界線を超えてきたのだろう。
まあ、最も君が破壊してしまったため推測でしか無いがね」
「ただの人間が、特異点の跳躍(ジャンプ)なんて」
「何も不思議では無い。君だってそうだろう」
科学の王は笑う。
ここから先は人理定礎崩壊の下り坂。
断崖の果てはその先にある。
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投下終了です
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下記予約します
・越谷小鞠、セイバー(リリィ)
・秋月凌駕、アサシン(ゼファー・コールレイン)
・イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、マシン(ハートロイミュード)
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投下します
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赤い機人の鉄拳がリリィへ振るわれる。
爆風の如く迫る大質量の一撃はリリィの胸元へと吸い込まれていく。
セイバー・リリィは躱せない。回避行動を取れば後ろにいるマスターに当たってしまうかもしれない。
だがこのまま受ければ致命的なダメージを負うことは間違いないと直感が告げていた。
故に受けない、避けない。迎え撃つ!
可能な限りの魔力放出を行い、拳に向かって剣を振るう。
正に鉄槌と鉄槌の衝突。凄まじい金属音が耳がつんざき、火花が咲き、衝撃で地面は割れ、土煙が舞う。
二人は即座に二撃目へと移行し、またぶつかって轟音を鳴らす。
剣と拳のラッシュは七撃目でマシンの拳に凹みが入ったことで終了した。
裏を返せばそれだけ撃ち込まなければ傷一つ付けられない事実を指している。
ましてや午前中に戦闘を行った自分達は消耗している。マスターは怪人を怖れて動けない。
絶対絶命の状況にリリィは苦い顔をする一方、マシンは再び仕掛けようと地を踏み。
「待ってマシン」
他ならぬマスターの命令で動きを止めた。
早く仕留めよと命令を下しておきながらどういうつもりなのだろうと二人のサーヴァントが訝かしむ中、止めた張本人はとんでもないことを口にした。
「あなた、もしかしてアーサー王?」
背筋が凍る。
何故セイバーの真名がわかったのか。
どこかで会った? いいや、リリィはこのK市で召喚されて以来、ほとんどマスターの傍で霊体化していたのだ。
一体どうしてと疑念が胸中に渦巻く中、イリヤスフィールはセイバーの様子から当たりだったと確信して笑みを浮かべた。
「そう、やっぱりそうなんだ」
瞬間、爆発するように少女から殺意が放出された。
-
◆
一人の少女の話をしよう。
少女の名はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
かつて冬木市における五度目の聖杯戦争に参加するために鋳造された人造人間、つまりホムンクルスである。
彼女は通常のホムンクルスと異なり人とホムンクルスのハーフである。
母の名はアイリスフィール・フォン・アインツベルン。父の名は衛宮切嗣。
四度目の聖杯戦争の前にフラスコではなく母の胎から生まれ、五度目の聖杯戦争の予備として生を許される。
聖杯戦争のマスターとして調整される故に失われていく寿命。
されど少女に不安は無い。なぜなら父と母が聖杯を取ってきてくれると信じていたから。
残りの生を大好きな二人と過ごせると信じているから。
しかし、第四次聖杯戦争はまたしても失敗に終わる。父が母を捨て、聖杯を破壊し儀式をめちゃくちゃにしたからだ。
────そうお爺様は言っていた。
許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。
キリツグ……切嗣…………衛宮切嗣!
芽生える殺意。
積もる憎悪。
私達を捨てた償いを絶対にさせて殺してやると少女は誓った。
その殺意は純粋無垢である故に純度が極まっている。
母の記憶も共有し、仇敵の顔を魂に刻み付ける。
その母の傍ら。一人のサーヴァントがいた。
クラスはセイバー。真名をアーサー王。
聖杯を破壊したサーヴァントだ。
◆
-
「マシン。絶対に逃がさないで」
「了解だ」
ハートから赤い光が周囲へと放たれる。
一瞬で広がったそれをリリィは警戒したが何も起きない。
もしや不発かと思ったその時、ようやくリリィは異常を感知した。
リリィとマシンが衝突した時の余波によって破壊された公民館の壁の塗装が一部剥がれ落ちた。
その落下が物理的にあり得ないほど遅い。スローモーション映像のようにゆっくりだ。
よく見ると巻き上げられた土煙の流れも遅い。
「気づいたか。これが俺の能力だ。あらゆる物理的速度を遅くさせる。
まぁ、少しでも対魔力があれば役には立たんし、サーヴァントにも通じんがな。
だから魔術師同士が殺し合う普通の聖杯戦争では役に立たん。だが」
セイバーには対魔力がある。イリヤスフィールも魔術師として最低限の対魔力は持ち合わせている。
故にここで動けなくなるのは一人だけだ。
「見たところ一人だけ引っかかっているな」
-
◆
(何、これ……!?)
体がゆっくりにしか動かせない。
まるでゼラチンの中をもがいているように体の動きが緩慢だ。
息は出来る。苦しくもない。ただどんよりと体が鈍い。
越谷小鞠に肉体だけではなく精神にも極めて強いストレスがかかっていた。
思うように動かせないことによるフラストレーション。敵前で不調をきたすのと合わさり生物としての本能がアラートを鳴らし、極度の緊張が襲う。
何とかもがこうとして、死体と目があった。
青木さんが殺した人。人だったモノ。その生気の失われた眼球が、小鞠を、見ていた。
(ひ……あ……いや)
お化けは怖い。だが死体はとても恐い。
肉塊から流れた血液が地面で赤黒く照り、鉄の臭いを発している。血の抜けた肌が白くなり、血の赤を強調するキャンバスとなる。
殺されればこうなるという分かりやすい死の標本だ。
音が遠くなり、頭のてっぺんから冷えていく。
麻痺していた──目を背けていた──恐怖が氾濫する。
恐怖、緊張、苛立ち、無力感。それらによって越谷小鞠の精神が蝕まれていく。
「マスターは私が守ります」
リリィさんが私の前に立ち、剣を構える。
その姿は正に騎士と呼ぶに相応しい。
「へぇ、腐っても騎士ね」
「腐っていません! 私まだ十五か十六歳です」
─────え?
目の前の騎士は今なんて言った。私と一歳しか変わらない?
なんで、なんでこんなに、大人なの。
なんで私はこんなに情けないの。
生まれた時代と地位の問題だと言ってしまえばそれまでだが、そう考えるにはリリィさんはあまりにも年頃の少女すぎた。
少女らしさと凛々しさが共存する少女の背中が眩しい。
「来るというなら来なさい。その挑戦、受けて立ちます」
「よく言ったッ!!」
抑えられない喜悦と闘争心を乗せて、マシンと呼ばれた怪人が踏み込んだ。
その踏み込みの強さや、アスファルトの地面に蜘蛛の巣状の罅が入ったほどだ。
機関銃の如く鉄拳の乱打(ラッシュ)が繰り出される。
素人目に見ても先ほどとは段違いの速度だと分かる。しかし────
「やるなぁ!」
「ッ!!」
リリィさんは目を瞑り、直感だけで拳を避け、あるいは受け止めている。
人間離れも甚だしい光景であるが、こうしなければリリィさんのステータスではまず受け止められない。
二騎の性能差はマスターである自分がよく分かっている。わかっているけど……!
「終わりね」
徐々に白黒がはっきりしてきた攻防。
白い子は戦いの終わりを告げた。
「終わりだな」
直接殴っている者として獲物の状態は手に取るようにわかる。
赤い機人は終幕を断言した。
「まだ、まだです!」
拳を剣で受けながら、彫刻のように削られながらも少女騎士は諦めないと叫んだ。
◆
-
「何だこれは」
ある地点を越えたあたりで重加速によって動きが鈍くなる秋月凌駕。
まるで来るなとでも言うように結界が張られていた。
「まぁ、普通に考えれば人払いだろうな。どうやら動きを鈍くする結界みたいだぜ」
「アサシンには効いていないじゃないか」
「最低限の対魔力があればこんなもの効かねぇよ。
どうやら奴さん、マスターの少女を逃がさないために張ったんだろうな」
「マスターの少女?」
「ああ、魔術師にも兵隊にも見えねえ、ありゃあきっと一般人だな。身長は135センチ程度で小学校高学年程度の女子だ」
「そんな小さい子が戦争に来ているのか」
「兵隊に年齢も性別も関係ねぇだろ」
秋月凌駕の脳に一人の女子の顔が思い浮かぶ。
アサシンの言うことはもっともだと、その子に脳内で詫びておく。
「それで、正気なのか?」
「何がだ」
「敵にしかならねぇガキを本当に助けにいくのかってことだよ」
「この聖杯戦争に巻き込まれただけならば、助けたいとは思っている」
「あのな。相手はマジの化物で戦うのは俺なんだぞ! 付き合う方の身にもなれよ」
「確かにそれじゃあアサシンには申し訳ないな」
「だろ? ならば──」
「ならば俺が怪物とやる!」
◆
-
「何?」
近くで突然サーヴァントの気配が現れたと思えば重加速が解除された。
今までサーヴァントの気配が一向になかったことから恐らくアサシンだろう。
ふと今朝戦った男の顔が浮かぶが、ならばなぜ存在がバレるようなことをするのか皆目検討が付かない。
目の前の少女達を助けるという理由は考えられるが、どうしてもあのアサシンのイメージと結びつかない。
ならば別のアサシンがいて、少女達の仲間と考えるのが妥当か。
「お前達、どうやら仲間がいるようだな」
「仲間……?」
セイバーが分かりやすいほど戸惑う。明らかに仲間がいませんと顔に出ていた。
もしも演技であればとんだ女優だと褒めてやろうと思う。
拳を握りしめたハートロイミュードの前に、一人の男が姿を現す。
「何だお前は?」
「通りすがりのイマジネーターだ。覚えておく必要はないぞ」
「知っているか、マスター?」
「知らないわ。そんな魔術礼装も初めて見るわね。確かどっかの家で外部接続する機械の魔術礼装があったと思うけど」
魔術礼装(ミスティックコード)とは大半が魔術師の魔力を増幅したり、補充する補助の機能を持つ礼装だ。
無論、例外はある。魔術礼装の中でも限定機能と呼ばれる礼装単体で現象を引き起こすモノも存在する。
しかしどちらにも共通して発動に魔力が関わるものなのだ。
目の前の青年が纏う鋼鉄には魔力が欠片も感じられない。見たままの鋼鉄に過ぎない。
それでも。ハートロイミュードの勘はアレが見かけ倒しではないと言っていた。
「イマジネーターとやらが何用だ」
「その子を助けようと思う」
「聖杯戦争のマスターだと知ってていっているのか?」
「当然だ」
「面白い男だな」
拳を握りしめて、ハートロイミュードが突貫した。
まさにブルドーザーの全力疾走が如き爆走で、道端の小石やアスファルトの破片すら粉微塵に変えていく。
人間が受ければミンチになるのは明らかで、だからこそ青年の対応に注目が集まるのは当然だった。
青年が拳骨を地面につけ、そして次の瞬間、アッパーと共に融解したアスファルトが飛来する。
「な──マスター」
マスターを庇って固まった高熱のアスファルトを受ける。
魔力が全く籠められていない物理攻撃ではサーヴァントであるこの身が傷付くことはない。
故にイリヤと俺が両方とも呆気に取られる。
突然沸いた超高熱にではない。魔力を一切使わずにその現象を引き起こした事実にだ。
現代科学においてもアスファルトを瞬間的に溶解させる小型の機械などハートロイミュードの知識には存在しない。
神秘でも先端科学にも存在しない。ならば未来の技術に違いないとハートロイミュードは決定づけた。
しかし、やはり魔力なき攻撃ならばサーヴァントを打倒することなど不可能だ。
ハートロイミュードが再び突進を始めようとすると、今度は少女二人頃おかしな挙動を始めた。
◆
-
「おい、聴こえるか、」
どこからともなく男の人の声が越谷小鞠に聴こえてきた。
「今、お前達だけに聴こえるように指向性の声を飛ばしているから気付かないふりをしてくれ」
というが、結論だけ先に言うと無理だった。二人の少女はそういった腹芸が致命的なまでに下手くそだった。
挙動不審な態度は今から青年を捻り潰そうとしているマシンとその主の警戒を呼んでしまう。
謎の声は呆れの色を滲ませながらもういい逃げろと指示する。
(逃げていいの?)
助けに来た人を置いて。
(それは正しいの?)
果たして、立派な大人として正しい行為なのか。
答えの代わりに応えた者がいた。
「マスター! 行きましょう!」
華奢な腕からは信じられない腕力で小鞠を抱えて、セイバーリリィは戦場から離脱する。
◆
-
「行かせるか!」
赤い怪人が追跡せんと出たところを俺のマスターが遮る。
流石にマスターがサーヴァントを倒せるとは思っていない。
じゃあ助ければだって? 馬鹿を言え。何で俺があんな化け物とやりあわなきゃならない。真っ平御免だ。
俺は英雄じゃない。ただの負け犬、敗残者だ。だからやれるのはこんなことだけ。
ソナーで相手の位置を探知し、あの少女二人を逃がして注意を向かせ、レゾナンスで音を消し、後ろから相手マスターの首を刈るだけだ。
「はい、お疲れさん」
飛び出すと同時に気配遮断の効果が切れる。少女が振り向くがもう遅い。
〝創生せよ、天に描いた星辰を──我らは煌めく流れ星〟
だめ押しに宝具(アステリズム)を発動させ、更に速度と切断力を上げる。
な? こんな俺なんて英雄などとは呼べまいと自虐しながら振るわれた牙は────小さなマスターの首に届かなかった。
「何……だと……!」
アダマンタイトの刃は離れていたはずの赤い機人によって止められていた。
放った必殺の刃は赤い機人の腕を貫いていたが、少女の首まで届いていない。
不条理極まりない結果にゼファーは混乱する。
◆
これはとある錬金術師の大家の話だ。
その家名をアインツベルンといい、とある魔術儀式──つまり聖杯戦争と呼ばれる戦いを行う御三家の一角である。
彼等は長き歴史と妄執を持っていたが魔術師同士で殺し合う術は持っていなかった。
故に行われた三度の聖杯戦争に敗退する。そして四度目、今度は負けじと外部から魔術師専門の殺し屋「衛宮切嗣」を雇い、最優のクラスである剣士のサーヴァント、その中でも最上位にあたるアーサー王を召喚した。
そして景品である聖杯そのものをマスターとして振る舞えるように肉体を鋳造し、アイリスフィール・フォン・アインツベルンという名を与える。
自律する聖杯、最強の英霊、最凶のマスターを用意し万全の準備を整えて挑んだ四度目の聖杯戦争は殺し屋の裏切りにより聖杯が破壊され失敗に終わる。
なんたる愚昧、なんたる悲劇。ああ、やはり外部の人間などあてにするべきではなかったのだと彼等は嘆いた。
故に彼等は作り上げたのだ。最強の英霊を従え、性能であらゆる魔術師を駆逐し、自律する聖杯を。
その名をイリヤスフィール・フォン・アインツベルンという。
あらゆる方面から聖杯戦争を成功させるべく調整された彼女は魔術回路の本数も凄まじいが、特性もまた悍ましいものだった。
聖杯──すなわち願望器。魔術的に可能なことならば理論を無視して実現するという特性を有した。
この特性こそがアサシン……ゼファー・コールレインの殺人手法(キリングレシピ)から逃れた出鱈目の正体である。
すなわち魔術的に可能だったから令呪が発動し、内容を決めなくてもサーヴァントが呼び寄せられ盾になったのだ。
◆
-
────何だこりゃあ。
必殺の手は間違いなく決まったはずだ。そう確信していたし、実際そうなる寸前だった。
この少女が振り向いた瞬間に、サーヴァントの腕がめり込むようにして出現した。
令呪? 馬鹿な、発動までの時間が早すぎる。
動揺を隠せないゼファーであるが、それは盾になったマシンも同様。
視界が急に変わり目の前にはイリヤとイリヤの首を刎ねようとしているアサシンの間にいた。反射的に腕を盾に刃を受けて事無きを得た。
しかしそれは状況だけを見れば、だ。令呪による強制転移は、発動が完了した後に理解した。
ハートは頑丈だ。アサシンはサーヴァントだ。故にこの選択は妥当であるが
「マスター……」
ハートロイミュードは一人の友を思い出す。
彼女は人間の悪意を知りすぎたあまり、同じ友(ロイミュード)を改造したり、盾にしていた。
しかし、イリヤスフィールは全くの真逆。
初めて会ったときに分かった。彼女は創られた者だと。
純粋であり生まれたてのロイミュードと同じく人の心を知らないのだ。
だからナチュラルに友達を盾に出来てしまう。
故に────
「大丈夫だったか」
ただ、頭を撫でた。
マスターは人の心を知らない。
今だって何をやっているのという顔をしている。
純粋に心配しただけなのだが、それをわかってくれない。
ならば教えてあげればいい。かつて俺の友達が俺にそうしたように。
だから────
「お前にマスターはやらせんぞ、アサシン。友(マスター)は俺が守る」
刺さった刃をするりと抜いて俺の裏拳を躱したアサシンと対峙した。
◆
マシンが征く。
アサシンが迎える
戦いの第二幕が開かれた。
(アサシン)
(なんだ……マスター。秘策があるなら早くやってくれ)
(逃げるぞ)
(遅えよ! さっさとお前だけ逃げて令呪で俺を呼べよ)
(その手で行きたかったんだが、俺の一存で令呪を使っていいのか?)
(良いに決まってんだろマスターなんだから! さっさと行け!!)
(一応、時間を稼いでいる間に倒してしまったら言ってくれ)
(ふざけるな馬鹿野郎!)
全速力で離脱するマスター。
しかしマシンは追わない。アサシンさえ残っていればいいのだろう。
クソッタレとゼファーは呟き、相方を呼ぶ。
◆
-
「ヴェンデッタ!」
「いるわよ」
朝に見た少女が虚空より現れた。
瞬間、マシンとイリヤがまず感じたのは恐怖。
馴染みの薄い、されど生命体として持っていて当然の感情がマシンとそのマスターの胸中に湧き上がる。
朝に彼女を見ても恐怖しなかったのは戦闘状態ではなかったからだろう。
今は分かる。あれはこの世にあってはならないもの。
楽園に怪物がいるような場違い感しか感じられない。
ホムンクルスやロイミュードの二人でさえそう感じるのだ。間違いなく人外魔性に違いないと。その証拠に──
〝天昇せよ、我が守護星──鋼の恒星を掲げるがため〟
ここに紡がれるは人外の詠唱(ランゲージ)。
ヴェンデッタとゼファーの織り成す逆襲劇の恋歌。
栄光の崩落を、光に影を、勝者の尊厳に敗者の慟哭を塗りたくり、踏み躙る極悪な異星法則が具現する。
〝あなたが迎えに来ない日に、私は醜く穢れてしまった。
ああ、悲しい。蒼褪めて血の通わぬ死人の躯よ、あなたに抱きしめられたとしても二度と熱は灯らぬでしょう〟
激化する悪寒。二人が感じていた恐怖の正体はこれだ。
死体が動き回っている。低俗な言い方をすればゾンビ映画のゾンビが牙を剥き出しにして徘徊しているような気色悪さと悍ましさを備えている。
サーヴァントも死者だが、あくまで霊の範囲を出ない。
月乙女(コレ)は違う。死体をベースに作られ徘徊する生者への冒涜そのもの。
例えそれがサーヴァントの宝具として現れたものだとしても、いいや、つまり宝具として現れたということは生前からこうであったということを示している。
〝だから朽ち果てぬ思い出に、せめて真実をくべるのです。
私たちは、私たちに、言い残した未練があるから
振り向いて、振り向いて。冥府を抜け出すその前に。
物言わぬ私の骸を連れ出して──眩い星の輝きへと。
他ならぬ愛しいあなたの慟哭で、嘆きの琴に触れていたい〟
怨念、慟哭、悲嘆。蜘蛛の糸に群がる亡者の如くその恋歌は相方のアサシンへと流れ込んで馴染んでいった。
気持ちが悪い。死んだあとに嘆いて生者を引きずり下そうとする敗亡者の呪いだ。
アサシンが言っていた通り、これは勝者を、前に進むものを捕まえて冥府へ引きずるためのモノ。
やはり、こいつは聖杯戦争にいてはならない。
Metalnova Silverio Vendetta
〝 超新星──冥界へ、響けよ我らの死想恋歌〟
異能(ほし)殺しが具現する。
その能力は逆襲劇(ヴェンデッタ)。弱者が都合よく勝つための能力。
簡潔にいえば魔力を通じて万象へと干渉する能力だ。いや、それだけにすむまい。
彼等の世界において魔力に当たるエネルギー……星辰体(アストラル)と呼ばれる素粒子が存在した。
星辰体は魔力よりも幅広い範囲で適応された粒子である。
次元の穴から世界中に降り注ぎ、あらゆる物理法則を書き換え、人や物質に原子単位で浸透したそれは人から文明の利器を奪うと同時に異能を授けた。
その異能こそが宝具となった星辰光と呼ばれるものなのだが、重要なのはむしろ物理法則を変えたということだろう。
金属の電気抵抗率を0に変え、燃料の瞬間火力を減らし……つまりどんなものにも星辰体が含まれていたのだ。
となればゼファー・コールレインとヴェンデッタの発動したコレが魔術や魔力への干渉だけにとどまらないことは容易に想像できる。
『冥界へ、響けよ我らの死想恋歌』。またの名を対星辰体兵器(アンチアストラルウェポン)。
魔力に干渉し、魔術回路を持つすべて、それどころか魔力を帯びただけのものすらも破壊可能な能力である。
魔力で構成されたものが絵画だとすれば彼等の宝具は絵の紙を丸ごと引き裂く反則技(ルールブレイカー)に他ならない。
──英霊蹂躙者がここに具現する。
◆
-
超速度でアサシンが飛び出した。
マシンが魔力を込めた光弾を放つ。
着弾と同時に爆発し、破壊をまき散らすソレをアサシンは難なく斬り裂いた。
光弾に編まれた魔力が爆発することなく消滅する。分解ではなく消滅だ。それが何を意味するかなど明らかである。
刃を受けるのはまずい。人間であればマシンから冷や汗が流れていただろう。
光弾を絶えさせず撃ち続ける。
さらにイリヤスフィールも支援として鳥を飛ばした。
彼女の髪によって作られた鳥は涙(ツェーレ)と呼ばれる魔力の弾を撃ちだす移動砲台として機能する。
鳥型砲台とマシンの魔弾が入り混じり、面攻撃と化してアサシンへと迫った。
対ししアサシンの武器は刃一本。対抗する術はないように見えたが……瞬間、すべてが不可視の一撃で薙ぎ払われる。
何発かはそれでも残存していたが、アサシンに切り払われてしまう。
しかし止めた。そう思った時。
「増幅振(ハーモニクス)!」
アサシンの体が震えだし、血が噴き出すと同時、アサシンがさらに速度を上昇させ、マシンへと肉薄した。
激痛に絶叫しながらも迫るアサシンはまさに瀕死の猛獣を想起させた。
咄嗟に殴り飛ばそうとマシンが腕を振るうも光輝を帯びた刃が振るわれた瞬間、紙切れのように鋼の剛腕は切り飛ばされる。
返す刀でもう一振り、今度はマシンの心臓めがけて振るわれる。
回避は既に不可能。防御も不可能。故にマシンが死ぬのは確定事項で──
「下がりなさいマシン」
故にイリヤスフィールは二画目の令呪を使わさせられる。
空間の強制転移により数十歩分、マシンがイリヤスフィールの方へ引かれる。
そして、遂に反撃の拳が振るわれる
攻撃をした直後の硬直を狙った一撃。アサシンに避ける術はない。しかし。
「増幅振・全力発動ッ(ハーモニクス・フルドライブ)」
踏み下ろした震脚の振動を増幅させて地面に伝播。超局地的に地震を生じさせて大地を凸凹に揺らす。
片腕を失って重心がずれ、その状態で揺れ動く大地の上で拳などまともに振るえまい。だが、ハートロイミュードにはスキル「矜持」が存在する。
イリヤスフィールを、友を守ると誓い、そして誇りをかけた戦いである以上、このスキルによって十全に近い性能を発揮可能だ。
「が、はッ」
爆発の如き衝撃音と共に吹き飛ぶアサシン。公民館の近くに駐車されていた自動車にめり込み、自動車が見るも無残な形へ変わる。
しかし、倒せていない。拳を直撃させるつもりが肩へと命中した。十全な状態であっても流石に当てることが難しかったということだろう。
殺らなければ、次はこちらが殺られる。
規格外の二人は目の前の落伍者(ゼファー)を間違いなくそう認識した。
次に接近されたら恐らくマシンは殺される。
「おおおおおおおおおおッ!」
全力全開。ハートロイミュードが残りの魔力総てを残った右腕に込め、光弾を放つ。
竜が地面にのたうっているように軌道上の地面を粉砕しながら莫大な破壊力がアサシンへ迫る。
アサシンは動けない。血反吐を吐き、手足を弛緩させたまま。
アサシンが光に飲まれ、めり込んでいた自動車は粉々になってガソリンに引火、爆発した。
それだけに留まらず光弾は公民館の生垣をすべて吹き飛ばし、そのままガラス張りの公民館入口を粉砕して突き抜けていった。
光弾が突き抜けた先、アサシンの姿は消失していた。
-
「やったか?」
「いいえ、恐らく令呪を使って逃げられたわ。倒したのなら、聖杯(わたし)の中に入ってくるもの」
その声にはできれば倒したかったという願望がありありと出ていた。
それもそうだ。あれは───
「何よあの反則。魔力に対する対振動なんて」
「逆の波長の振動をぶつけて相殺・打ち消す能力か。確かにあれならばいかなる強者(サーヴァント)にも勝てるだろう。
反動さえなければな」
あの宝具は実行するのに代償が必要であることを二人は見抜いていた。
当然ながらマシンに供給され、使用された魔力とアサシンに供給される魔力量が同等のはずがない。
対振動を使用する度に相手と同じ量の魔力の供給と放出が必要だ。
恐らくはあの少女が魔力タンクの役割を果たしているのだろう。
だが魔力を限界以上の出力でほいほい出せるものではない。
限界を超える魔力の出力は一定レベルの魔術師ならば誰でも可能であるが相応の代償はある。
全身の血の沸騰、心肺の停止、電荷が走るが如く脳髄に激痛が走り、神経は末端から壊死する苦痛。
つまりは臨死体験そのもので、魔術刻印が蘇生させるから可能な荒業だ。
限界の突破とは何度もできる行為ではないのに激流の如く魔力を浴びて容量以上の出力を繰り返す。
仮に宝具だからこそ可能だとしても、そんなもの何分も持つはずがない。
生前はさぞかし地獄を味わっただろう。
「いかれているな。面白いが危険な男だ」
「マシン。腕は治りそう?」
「マスターの魔力供給も潤沢だし、俺はロイミュードだ。半日、いや数時間で回復する」
「そう、じゃあ早くここから離れましょう。時間を掛けすぎたわ」
「了解」
マシンは霊体化して消えた。
イリヤもまた、去る。夕暮れの静寂が再び支配し、公民館に残ったのは破壊の爪痕だけだった。
【C-5/住宅街/一日目・夕方】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】
[状態] 疲労(小)
[令呪] 残り一画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 城に大量にある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を取る
1:戦闘の成り行きを見守る
2:アサシン(ゼファー)は絶対に倒す
3:セイヴァーのマスター、あれ反則でしょ……
※アサシンの主従と宝具を確認しました。
※アーサー王(セイバー・リリィ)、ニコラ・テスラ、越谷小鞠を確認しました。
【マシン(ハートロイミュード)@仮面ライダードライブ】
[状態] 疲労(大)、左腕損壊(イリヤの魔力とロイミュードの特性から数時間で回復)
[装備]『人類よ、この鼓動を聞け』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:イリヤの為に戦う
0:イリヤをアサシンから守る
1:ニコラ・テスラ、セイヴァー(柊四四八)への興味。
2:アサシン(ゼファー)への嫌悪。
※アサシンの主従と宝具を確認しました。
※アーサー王(セイバー・リリィ)、ニコラ・テスラ、越谷小鞠を確認しました。
◆
-
「大丈夫か」
「大丈夫に見えるか?」
アサシンは光弾が命中する直前で令呪で戻された。しかし戻るや否や、血を吐いてゴロゴロと転がり、のたうち回り、霊体化するも激痛で絶叫を上げていた。
凌駕の耳には糞が、畜生、ふざけるな、死ねなどの知りうる限りの悪態がテレパシー届いていた。
相方(ヴェンデッタ)いわく、彼の宝具による反動らしい。
(もう……二度と……あんなことはしないでくれマスター)
泣き声と殺意が入り混じった懇願の呻きが聞こえる。
聞く者全てにアサシンの情けなさを伝播させる声だった。
ヴェンデッタも目を瞑り、いい顔はしていない。無茶苦茶な事をした凌駕に対して怒っている。
何か声をかけるべきだろう。これから共に戦う仲間に形だけの労りや、言い訳はしない。
喩え少女が怪物に殺されるのを止めたかったとか、助けていたら同盟を結べたかもしれないだとか、正統性を押し付ける強者はもう卒業したのだ。
かといって大上段からの労りなど論外。迷惑をかけた者として一言、詫びる。
「知らないこととはいえ、済まなかった。次は気を付ける。今度はアサシンに被害が出ないようにする」
真摯に凌駕は謝罪する。
だが、アサシンから返ってきたのは怒りでも赦しでもなく、困惑だった。
何故困惑されるのか分からない。凌駕は首を傾げた。
◆
-
光の英雄と同類のはずだ。そうだと言う確信がゼファーにはあった。
なのに謝り、次は俺の被害に気を付ける、だと。
どういうことだこれは。
ここで来るのは正しさの追求や助けてくれてありがとうとか、欲しくもない言葉だろう。
(俺の目も曇ったか)
沸騰気味だった怒りが引いていく。
もう少しだけ、この秋月凌駕という人物を見定めようと思った。
【C-4/山中/一日目・夕方】
【秋月凌駕@Zero infinity-Devil of Maxwell-】
[状態] 健康、魔力消費(大)
[令呪] 残り二画
[装備] なし
[道具] 勉強道具一式
[所持金] 高校生程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争から脱しオルフィレウスを倒す。
0:アサシンのダメージがひどい。ヘドラは見送りか。
1:外部との連絡手段の確保、もしくはこの電脳世界の詳細について調べたい。
2:協力できる陣営がいたならば積極的に同盟を結んでいきたい。とはいえ過度の期待は持たない。
※イリヤスフィール、ハートロイミュード、セイバー・リリィ、越谷小鞠を目視しました。素性については知りません。
[備考]
D-2の一軒家に妹と二人暮らし。両親は海外出張という設定。
時刻はファルからの通達が始まるより以前です。学校にいるため、ファルが来訪するには周囲に人影がいなくなるのを待つ必要があるかもしれません。
【アサシン(ゼファー・コールレイン)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】
[状態]反動でボロボロ
[装備]ゼファーの銀刃@シルヴァリオ ヴェンデッタ
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を蹂躙する
1:?????
※イリヤスフィール、ハートロイミュード、セイバー・リリィ、越谷小鞠を目視しました。素性については知りません。
◆
-
おおよそ安全な距離まで移動したと確信したセイバー・リリィは抱えていた小鞠を下す。
アレは危なかった。声のしないアサシンからはとても嫌な感じがしたし、あのマシンとかいうサーヴァントには勝てる気がしなかった。
あの二騎とはもう会いたくないですね。素直にそう思う。
すると、下したマスターが神妙な顔をしてこちらへ質問してきた。
「ねえ、リリィさん」
「なんですか?」
「なんでリリィさんは一緒に戦おうとしなかったの?」
罰の悪そうに視線を地面に移し、そしてまた小鞠と目を合わせる。
「マスター。あの場にいて私達にできることは何もありませんでした。
マスターの同級生は逃がすことができましたし、私ではあの怪人を倒せません。
それに──あの声は何となく信用してはいけない気がしました」
「でもあの人、サーヴァントじゃないんだよ」
あの人。あの青年。
サーヴァントではない、だけど機械の怪人に立ちはだかった学生服の人。
あのままでは、間違いなくあの怪人に殺されてしまった。
「ええ。だからマスター。嘘偽りなくはっきり言いましょう。
私はそんなに強いサーヴァントではありません。精神的にも技量的にも未熟な騎士です。
だからあの場面、私は守るべきものを守るために守りたいものを捨てました」
「守りたいものって?」
「全員を救うことです」
「守るべきものって?」
「愛すべき友、コマリの生命です」
サーヴァントとしてマスターの命を守った、という事ではないのだろうことは雰囲気から分かった。
セイバーが申し訳なさと罪悪感を感じていることも表情でわかった。
ああ、やっぱりリリィさんは大人だ。
辛いこと、苦いことが率先してできる。
私はできない。できなかった。
「リリィさんはすごいね」
「はい? 何がでしょうか?」
「私は……私だったら選べないよ。戦うことも置いていくことも、青木さんを諦めることも」
もはや差が開きすぎて悔し涙さえ出やしない。
そんな私の自虐をリリィさんは否定した。
「それでいいんですよコマリ」
「え!」
「恩義に背くことに後ろめたさを感じることも、知己に手を差し伸べようとすることも人として正しい事ですとも。
だからコマリ。自虐は止めて下さい。貴方は善き心の持ち主です」
「本当? 私でいいの?」
「はい。選定の剣に選ばれた私が言うのだから間違いありません」
ぱぁと花咲く笑顔が小鞠を祝福した。
その時、小鞠は何とも表現し難い感情に襲われ……
あれ。どうしよう。悲しくもないのに涙が出てくる。
これじゃあリリィさんに誤解されちゃうよ。
ハンカチで涙を拭う。しかし、拭けども拭けども涙が溢れてくるのだ。
遂には鼻がグズり出した。
「ごめ゙ん゙。リ゙リ゙ィざん。がな゙じい゙。わげじゃないの」
「ええ。いいんですよ。
私もまだまだ未熟ですね。コマリを泣かしちゃいました」
てへへと照れ笑うリリィさんは可愛かった。
◆
-
それを手にしたら君は最後、人間ではいられなくなるとマーリンが言った。
構わないと少女は言った。
そしてその日、彼女は人ではなくなった。
だけど彼女に悔いはない。愛すべき人々を守れるのだから。
◆
「私は青木さんを止めたい」
「はい」
「ヘドラを倒して町を元に戻したい」
「そうですね」
「家にも帰りたい」
「ええ」
「私の我儘(ねがい)。叶えてくれる?」
「いいですとも」
戦うのが自分ではない。傷つくのはセイバーだ。彼女は戦う術も補助する術もなく、ただ命令してみているだけだ。
その傲慢さを彼女は理解して、それでも彼女は望みを言った。
だからこそリリィは応えたいと言った。
いつか王として生きる日がやってくる。
大を生かすために小を切り捨て、誰よりも民のために聖剣を振るい、政(まつりごと)を為す。
そして同時に失われていくのは幼き日々の記憶。馬小屋で馬の世話をし、剣の練習をしたあの日々。
警邏として町に行っては賑わいを観て帰り、養父エクターと義兄ケイの元でただの町娘のように生きた日常である。
困っている誰かのために戦うのは王者であっても、騎士見習いでも同じだ。
ただそのために何を犠牲にするかが違うだけで。
仮にアーサー王であれば、青木奈美の説得など無意味と切り捨て、聖杯によって彼女の望みを叶えればいいと答えただろう。
あるいはもっと別の──されど青木奈美を殺すという過程が変わらない──具体案を述べただろう。
だけどここにいるのは花の騎士。
ただ道行く先で困っている人を救う騎士である。
故にその答えに大局や効率は関係ない。
-
「行きましょうコマリ。で、どこに彼女はいるんですか?」
「…………」
固まる会話。
顔に笑顔を張り付けたままのリリィと小動物のような顔をした小鞠
ヒマワリの種を与えたらカリカリ食べそうだ。
「家に帰る方法は?」
「…………」
目が死んだ魚のような目になった。もしくはお魚くわえた猫のような。
顔芸が細(こま)い。
私のマスターは将来、一介の芸人で生きていけそうです。
「へ、ヘドラ! ヘドラ倒そう」
「そ、そうですね!」
彼女は歩き出した。
幸い、魔力の消費自体は少なくなるスキルがあるため、まだ余裕がある。
善き心を持つ二人は歩みゆく。
【C-6/路上/一日目・夕方】
【越谷小鞠@のんのんびより】
[状態] 健康、不安、善き心
[令呪] 残り三画
[装備] 制服
[道具] なし
[所持金] 数千円程度
[思考・状況]
基本行動方針:帰りたい
0:リリィさん、行きましょう!
1:青木さんを止めよう!
2:あの人、大丈夫かな……
3:これが終わったら帰宅して、ちゃんと夏海を安心させる
※イリヤスフィール、ハートロイミュード、秋月凌駕、シャッフリンの姿を視認しました。名前や身分等は知りません。
※ゼファー・コールレインの声を聴きました。
※青木奈美(プリンセス・デリュージ)が聖杯戦争参加者だと知りました。
【セイバー(アルトリア・ペンドラゴン<リリィ>)@Fate/Unlimited cords】
[状態] 疲労(中)、善き心
[装備] 『勝利すべき黄金の剣』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを元の世界へと帰す
0:コマリを守る
1:ヘドラの討伐。
2:青木奈美のサーヴァントを倒す
3:青木奈美本人にも警戒
4:バーサーカーのサーヴァント(ヒューナル)に強い警戒。
5:白衣のサーヴァント(死神)ともう一度接触する機会が欲しい
※イリヤスフィール、ハートロイミュード、秋月凌駕、シャッフリンの姿を視認しました。名前や身分等は知りません。
※ゼファー・コールレインの声を聴きました。
※青木奈美(プリンセス・デリュージ)が聖杯戦争参加者だと知りました。
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投下終了します
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投下乙です
当然のようにサーヴァントを盾として「使う」イリヤ、その気質も含めて友として受け止めるハート
ゼファーが嫌う超人としての性質と、ゼファーに似通った庶民らしい気質を併せ持つ凌駕
アーサー王にはできない選択をする少女騎士としてのリリィと、本当に一般人の少女である小鞠
三陣営それぞれに味が出ていて、つかの間の交錯と戦闘なのに全てのキャラにぐっと深みが増したように思えました
それでは、棗鈴&ランサー(レオニダス)、松野一松&シップ(望月)を予約させていただきます
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延長します
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投下します
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旅人よ、行きて伝えよ
ラケダイモンの人々に
我等かのことばに従い
ここに死すと
■ □ ■ □ ■
一時的にどこかに避難しようといっても、棗鈴が選べる『どこか』は限られていた。
まず、自身のサーヴァント――ランサーの外見が問題だった。
ひとことで言い表すならば、裸マントである――正確には、半裸マントである。
下半身こそかろうじて隠しているが、ほぼ半裸といっていい服装に、マントである。
しかも、顔の大半を覆うような覆面の兜までかぶっている上に、槍と盾まで装備している。
その状態で、昏睡中のマスター――さっき拾った男を背負っているのである。
そんな格好で、公共の施設に出入りできるはずがない。
まして、まだ未成年である鈴に代わってホテルやネットカフェの個室を確保するなどは論外の所業である。
何かしらの現代服を購入して目立たなくしようにも、身長190cm近い長身の上に、全身が筋肉ではちきれんばかりの重量級である彼の衣服を調達する行為自体に、それなりの労力と時間と金銭が伴ってしまうことだろう。
かといって、レオニダスを霊体化させても出入りできる場所は限られている。
なにせ、女子高生が成人男性ひとりを背負ってホテルなり店なりに入ったところで、目立つことには変わらない。
何らかの事件に巻き込まれている――とまで勘ぐられることは無いとしても、善良な店員から『そこの男性は大丈夫なんですか? 体調が悪いのでしたら救急車を呼びましょうか?』とかお節介をかけられる展開にもなったらマズイ。
鈴は決して、追及をかわすような弁が立つ方ではない。
「それに、そっちも不純異性交遊とか誤解されると嫌だろうしね」とはシップを名乗ったサーヴァントの弁だ。
鈴には男女のことなどよく分からないので「誤解ってどういう誤解なんだ???」としか思えなかったが。
そういうわけなので、腰を落ち着けられる場所はひとつしかなかった。
「あら、棗さんどうしたの、そんな大荷物を運び入れて」
「じ………実家の親が持ってきたんだ!」
もともと、元山家への訪問が空振りに終わって帰宅する途中だったのだ。
その元山総帥は、学校から遠くない通学圏内にマンションを借りての一人暮らしだった。
つまり、同じような通学圏内にある建物――棗鈴がロールプレイとして暮らしている『A高校の遠地出身者向け学生寮』――も、鈴がシップ達と出会った路地裏からはそう遠くない所にある。
-
とはいえ、学生寮と言っても当然、男女は別になっている。
男性を、女子寮へと連れ込んだりしたら見咎められることになっている。
玄関窓口では、大人の管理人が生徒の出入りを見張っている。
そして棗鈴は、大人に見咎められた時に、切り抜けるのが苦手だ。とても苦手だ。
悩んだ。
前の学校だったら、男子に荷物の運び入れを手伝わせるぐらいあっさりとできたのに――そう愚痴をこぼしたことで、閃いた。
寮生活をしていたリトルバスターズのメンバーの一人――能美クドリャフカは、よく理樹たちに手伝ってもらいながら、祖父から届いた大荷物を自室へと運び込んでいたのだ。
こっそりと自室に戻って荷造り用の布団袋を拝借し、寮生共用の台車も持って来る。
拾った男を布団袋の中に滑り込ませて、カモフラージュ用に薄い布団もいっしょに押しこむ。
一応は窒息しないようジッパーを少しだけ開けた。
後は、実家から届いた荷物だと言い切って自室へと運びいれることに成功。
本当は、この世界での『実家』がどうなっているかなんて、鈴はさっぱり知らない。
学費と生活費ぐらいは『あることになっていた』棗家名義の口座から引き出せたので、詮索する気も起こらなかった。
「よ……ようし!」
使っていないベッド(2人部屋を1人で使っている設定だけは元の学校と同じだった)の上へと、布団袋を乗せて『中身』を開放すると、鈴はぐったりと自分のベッドに倒れ込んだ。
シップが霊体化をといて室内に出現し、己のマスターがいる方のベッドへと座る。
「悪いね。うちのマスターが迷惑かけちゃって」
そのマスターがずいぶんと手荒に運ばれたことについては、特に何も言わなかった……注文をつけられる立場ではないと思っているのか、あるいはぞんざいに扱うことに文句が無いのか。
「まったくだ……落ち着くまでの間だけだからな」
「ああ……あたしらも、今夜の宿ぐらいは自分で何とかするよ。
今さら別行動になった隙をついて逃げたりとかはしないからさ」
アンタ達からも即効で信用を無くすほど馬鹿じゃないしね、と付け加える。
「なら、いい。でもなかなか起きないな、そいつ……」
布団袋に詰められる前よりだいぶ顔色が悪くなったようにも見えるその男を、鈴はこわごわという風に観察した。
棗鈴はかなりの人見知りだが、それが『大人の男』になるとその度合いがさらにランクアップする。
実のところ、起きてくれないことにはどうしようもないという気持ちと、起きてしまったらどうすればいいんだろう……という不安が半々だったりもする。
「色々あったからね……さっきまでずっと逃げっぱなしだったし」
シップが枕やクッションを使ってマスターに呼吸が楽な姿勢を取らせている間に、窓の外で待機していた猫たちを迎え入れる。
アカツカ達のような新顔の他に、レノンやドルジのような古株もいた。
猫用の皿に飲み水を用意してやると、鈴自身も朝に買っておいたペットボトルの栓をあけて喉を潤した。
シップにも何か出すべきか迷ったが、サーヴァントは飲食しないと聞いていたので勧めるタイミングを逃す。
「ふむ。では一息ついたところでよろしいですかな?」
-
全員が息をついたタイミングを見計らったように、レオニダスが二つのベッドの間に立って霊体化を解いた。
ごく落ち着いた声音に、却って猫達が緊張した気配を見せる。
「なんだお前。いつもより頭が良さそうに登場したぞ」
「いえ念話ならともかく、ここでいつもの大声を出すとほかの寮生に聞き咎められますので……あのマスター? これでも私、故国では最も頭が良かったのですが……」
「じゃあお前の国はバカしかいないのか」
「これはまた手厳しい……いえ、バカではあったかもしれませんが、考え無しの戦士はおりません。
ですので、今は頭を働かせる時だと具申いたします。
我々はシップどのが経験した『色々』について大まかに聞いたばかり。
未だに交戦経験のない我々には、他の主従の情報は貴重なものです。
今一度、情報を吟味して情報整理をすべきでしょう」
たしかに、と鈴も考える。
遭遇した時の説明で聞いたのは、あくまでシップ達の簡単な事情であって、『彼女たちが持っている他の主従の情報を根掘り葉掘り聞いた』というワケではない。
鈴の頭にも入ってきたのは、シップのマスターがなんと兄弟で聖杯戦争に喚ばれてしまったことと、敵に襲われ兄の方が命を落としたらしいこと、あとは奇妙なトランプのサーヴァント達のことぐらいだった。
「なるほど、あたしもそれはいい考えのような気がする」
「うん、まぁそうなるよね」
シップもやれやれという風に同意した。
隣で丸くなったレノンを、片手間に撫でながら。
「よし、船のサーヴァント。じょーきょー整理を始める。
全部白状するから、あたしになんでも聞いてくれ」
「マスター、話の流れは!?」
「逆じゃないの? なんでそっちが尋問されるスタンスになってんの?」
「そうか、間違えた。なんでも聞きたい。お前、今までのことを全部話せ」
「はいはい……」
このマスター大丈夫かな、とぼやく声が聞こえたような気がする。
ともあれ、シップはどこから話すべきか記憶を顧みるように、眼を細めて考えこみ始めた。
-
◆Tips:猫
NPCは聖杯戦争に関わる事象を感知できない。
NPCは『犠牲になる一般市民』という形でしか、聖杯戦争に介入することはできない。
情報提供や、資材の贈与を行うことはあっても、それはあくまで『知り合いが何かに困っているようだから援助した』という一般的な善意でしかなく、
『知り合いを聖杯戦争に勝たせてやろう』などと判断して行動することはない。
これは、人間でない作り物――猫達にとっても例外ではない。
ではなぜ、猫達は『松野一松のことで棗鈴に助けを求める』というアクションを起こしえたのか。
それは、彼等の行為はあくまで『友達が倒れていたから助けを求めた行為』に過ぎなかったためだ。
たとえば、マスターであるか否かに関わらず、路上にヒトが倒れていれば、NPCだって何事かと心配して善意で救急車を呼ぶぐらいはするだろう。
猫たちの為した行為は、あくまでそれと同じ。
人間の友達が倒れていたから、『何かあったら頼るといい』と約束された友達――棗鈴を頼った。それだけの行為だった。
決して『棗鈴というマスターならば、松野一松というマスターを保護してくれるだろう』などと聖杯戦争を感知した上での行為では無かった。
それが幸いした。
棗鈴の部屋で猫達がサーヴァントやマスターの話し合いに同席していられるのも、あくまで『話し合いの内容を理解するだけの知性が無い』ことから聖杯戦争に関わらずに済んでいる、その結果の産物だった。
そんな偶然が、棗鈴と松野一松を引き合わせた。
LOADING…
彼等は本選が始まるまではロールプレイとして再現された我が家でゆるゆると生活していた。
しかし、今日になってやはり家族を万が一の時にも巻き込むまいと家出することを決意した。
そんな経緯を聞いて、鈴がまず抱いた感情は嫉妬だった。
(ずるい、な……)
-
あたしは独りぼっちだったのに、という理由がその後に続く。
鈴の周囲には、NPCとして再現された仲間たちはいなかった。
兄も、幼なじみも、リトルバスターズの仲間たちも、あの『崩れる世界』に置いて来てしまった。
たとえ偽物だったとしても、この男の周りには家族がいて、いつも通りのあたたかな日常が保証されていたのだ。
それはずるい。ぜいたくだ。
向かいのベッドに寝ころんだまま目覚めない相手のことを、そう思いそうになって。
最初にそいつを見つけた時に、顔に泣いた痕があったことを思い出した。
――違う。
嫉妬するのは違う、と鈴は反省する。
一人では無かったけれど、こいつは兄弟で聖杯戦争をやらされるところだったのだ。
しかも、その末にさっき兄を亡くしたという。
もし鈴が、恭介と一つの椅子を巡って聖杯戦争をすることになったりしたら、そして兄が死んでしまったりしたら――そんなことは考えたくもない。
それを自分とどっちがかわいそうか、なんて比べるのはおかしい。
「それで、あたしらが家を出たのが昼前のことだったんだけど。……続きを話す前に、一ついいかな?」
「なんだ?」
シップは、言葉に迷うように少し時間をおいてから、切り出した。
「こっからは、当然、他のマスターの話も出るんだけど……。
その中には、あたしたちみたいに『聖杯を狙ってない、巻き込まれただけの子』もいるんだよね。少なくとも一組はそうだった。
……それでも、聞きたい?」
気だるそうな眼の中に、鈴を推しはかるような鋭い視線がある。
どういうことだと問い返そうとしたら、レオニダスがその言葉の裏にある意味を尋ねた。
「シップ殿は、彼等の情報を売りたくないということですかな?」
「まさか。あの子達と同盟を組んだわけじゃないけど、不戦関係にあった子達だから、聖杯狙いの連中に売るような真似はしたくないよ。
でも、『教えてほしい』って言われたら話すよ。マスターを殺されても仕方ないところを保護してもらってる上に、生殺与奪も預けてる。
その上で、アンタ達への恩義より、あの子達への義理を取るとは言えないっしょ」
それを薄情だ、とは言えない。
鈴だって、『いつでも殺していいと言ったし、働くと言ったけれど、情報提供するとは言ってない。でも、マスターを見捨てられるのも嫌だから勘弁してください』なんて主張を聞いたら、ワガママだと思うだろう。
それに、教えて欲しいのは本当のことだ。
「じゃあ、なんでわざわざ中断したんだ?」
「さっき、あたしのことを『いい奴』だって言ってくれたじゃん?
だったら、他にも『いい』マスターがいるって知ったら、後々が辛いんじゃないかなと思って」
「つまりマスターにお気遣いをいただいたというわけですな」
それは、あの路地でシップとそのマスターを殺せなかった事を言っているのだろう。
他にも自分たちのような『生きて帰りたいだけの被害者』であるマスターがいることを、知る覚悟があるのか、と。
「お心遣いは有難いですが、そういった心配ならば無用です。
ここで現実を観ずに済ませようとも、いずれ来るべき時は来るのですからな。
ならば、どんどん試練は経験しておいた方がよろしい」
「教えてくれ。ランサーの言ってることは何か怖いけど、そこまで言われたら逆に気になる」
「……わかった」
-
シップは頷いて、家を出た時のことに話を戻した。
家を出る直前に、大企業の社長である知人(ということになっているNPC)から、身辺調査のアルバイトを持ちかけられ、先立つもの欲しさに引き受けた。
会社の名前はフラッグ・コーポレーション。調査対象は、一条蛍という小学生。
社長の話によれば、仕事上の付き合いがある友人から『理由は明かせないがこの少女の身元について知り得る限りを調べてほしい』という依頼を受けて、既にプロファイルは用意できている、その裏取りをしてほしいとのこと。
「そいつ、ロリコンの変態か?」
「ま、普通はそう勘ぐるよね……で、これがその子の資料なんだけどー」
「……おい、この子あたしより背が高いぞ! 本当にロリコンか?」
「うん、ロリコンじゃなかったら他のマスターを狙うマスターだよねー」
『理由は明かせないけれど調べてほしい』というのがいかにも胡散臭いし、どちらも聖杯戦争の関係者ではないかと疑った。
「ふむ。では、そのご友人から、依頼人とやらの正体を教えていただくことは可能ですかな?」
「どーだろ。さっき会った人たちにも聞かれたけど、いくら友達でも守秘義務とかあるし難しいんじゃないかな。
あ……ただ、その社長さんも『最近、お仕事で付き合うようになった友達』みたいには言ってたかな。
なら、最近この町に来たばっかりで、あの会社と付き合い始めたばかりの金持ちって線から調べられるかもしれない……」
「絞り込むこと自体はまったく不可能ではない、ということですか」
その後に、一条蛍の小学校を訪れたことで疑惑は真実になる。
集団下校を行っていた校庭で、その少女が別のマスターおよびサーヴァントと接触するところを目撃したのだ。
「学校に来たサーヴァントは、黒い軍服っぽいスーツを着てたよ。
見た目は日本人で、ずいぶん若い見た目だったね。
いや見た目に関してはあたしも人の事言えないけど、まだ二十歳も越えてないぐらいだった。
後から名乗ってたけど、クラスはランサーだって」
「ふむ、そのように大勢が集まっている前で姿を現すのは得策とは言えませんな……それとも、他のマスターを誘い出すために敢えてそうしたのでしょうか?」
「敢えてかは分からないけど、実際あたしらは釣られたね。あー、でも釣られたっていうよりもばれたって言った方がいいか」
結果的に尾行がばれた松野一松とシップも、二人のマスター――一条蛍と、東恩納鳴――の話し合いに同席させられることとなり、尾行に至った経緯を白状させられた。
この時に互いのサーヴァントも姿を見せた上での話し合いになり、一条蛍のサーヴァントが『ブレイバー』を名乗る少女だということも分かっている。
「ブレイバー……勇気ある者とは、変わったクラスですな。
英霊は戦う者である以上、大多数が『勇気を示した者』でもある。
それを、敢えてブレイバーというクラスに割り当てられたとなると……」
「本人は『勇者』だって自己紹介してたし、『職業として勇者だった逸話』を持つ英霊ってことになるんだろうね」
小学生のマスター二人は、どちらも『積極的に殺し合うつもりがないマスター』であることが明らかになり、関係は良好なものとなった。
二組で協力して、一条蛍を脅かすマスター、および討伐令を出されたマスター達の打倒にあたろう。
まずは、討伐令を出されたばかりであり、街に害をなそうとする『ヘドラ』を倒そう――そういう方向で話し合いは進んでいた。
-
「待て。さっきお前、『聖杯を取るつもりがない』子は一組だって言ってなかったか?」
「ああ、一条蛍って子はただ帰りたい派だったけど、鳴っていう子のサーヴァントは違ってた。
あんまり他のマスターを殺したくない考えではあったようだけど、『聖杯が欲しい』って言ってたかな」
「聖杯戦争しないで、どうやって聖杯を取るんだ?」
「一松も同じこと突っ込んだよ……正直、あの感じだとマスターをごまかしてるみたいだったぞ。
鳴って子が殺し合いしたくないから他のマスターを倒そうとは言えないけど、でも聖杯は諦めたくない、みたいな」
ともあれ、そのあたりを一松がつついてしまったせいで鳴のランサーと気まずくなる一幕はあったものの、話し合いそのものは穏便に運んでいた。
しかし、別のサーヴァントが乱入したことで一同はバラバラになる。
日本刀を携えた少女のサーヴァントが、なぜかブレイバーのことを宿敵と定めたように斬りかかってきた。
これをブレイバーはワイヤーのような固有装備で以って応戦し、ランサー(と名乗った割には槍ではなく大剣を使っていた)も共闘する。
一条蛍は、『魔法少女』という姿に変身した鳴によって連れ出されたが、松野一松はシップとともに逃亡しようとして、失敗する。
襲撃したサーヴァントのマスターと思しき人物が、異形の姿に変身して襲い掛かってきたためだ。
「あたしたちとは違って、魔法の力を持ったマスターもいるのか……」
「そりゃあ元はこれ、魔術師同士で戦争するのが前提のルールみたいだしね。
でも、バケモノに変身したり、触ったものを石に変えたりしたのは反則じみてるけど……」
「話を聞く限り、シップ殿達はそのマスターから集中的に狙われたようですが、何か恨まれるようなお心当たりでも?」
「いんや……『我が集中を乱したー』とか言ってたけど、いっちーも初対面だって言ってたし……言いがかりじゃないかな」
ともあれ、下手にそのマスターに応戦すれば和装の狂戦士を令呪で呼びつけられてマスターを空間無視攻撃で斬られるリスクもあり、シップ達は逃走する選択肢を選んだ。
それでも逃げ切れなかったところを、トランプ兵士の衣装をしたサーヴァントが出現し、そのマスターを即座にノックアウトしてしまった。
一時はそのサーヴァントに助けられたかと思ったのだが。
「………………兄貴に殺されかけたのか?」
「それは否定できないね、残念ながら」
もしかすると、この兄弟に同情して損したかもしれない。
『トランプたちのマスターである兄によって、誰とも知らぬマスターに売りとばされかけた挙句に、シップはその場で殺されそうになった』という事実には、それだけの破壊力があった。
幻滅する的な意味で。
「なんか…………そいつ、思ってたよりずっとかわいそうな奴だったんだな…………」
違う意味で、青年が目覚めたらどう接していいのか分からなくなってしまった。
いくらなんでも醜いというか、酷いというか、アレ過ぎる。
「いや、否定はしないけどね……」
-
しかし、シップは歯切れが悪かった。
あんまりに酷い話過ぎて語りにくいのかもしれないが、しかし鈴としてはそこで話を止められても疑問しか残らないのだ。
「その……言いにくいのかもしれないが、どうやって助かったんだ。
ぜったいぜつめーのピンチだぞ。それ」
そう訊ねると、シップの様子が変わった。
はっと我に返ったように、真剣な顔に立ち戻ったのだ。
「それが、助けてくれたのもお兄さんだったんだ」
「え?」
それは、マスターを助けてくれるならば、自分は殺してくれて構わないと言った時の顔だった。
「ここから先は、あたしにも分からないことが多いから。だから、見たまま聞いたままを話すよ」
◆Tips:最初の本選脱落者(望月視点)
本選一日目の夕方から夜にかけて、小学校とその周辺の住宅街では、多くの主従が交錯することになった。
シップこと望月と松野一松が逃亡した後に現れたイリヤスフィール達と秋月凌駕達も含めれば、その場所では十組二十名におよぶ主従が入れ替わり立ち替わりに関わっていたことになる。
発端は、公園で三組の主従が話し合っているところにアカネというバーサーカーが『音楽家』を求めて乱入したこと。
そして、松野おそ松とプリンセス・デリュージの交渉が限りなく破綻し、双方が別の場所にいる主従たちに狙いをつけたこと。
しかし、状況の推移が激しかったが故に、あの場にいたほとんどの主従が、その戦いで『何が発端となり、どうして襲い襲われ、最終的には誰が散ったのか』を把握していない。
少なくとも、全貌を望月の視点から把握することは不可能だった。
例えば、彼女とマスターの一松は、『シャッフリンの消滅を見届けた』ことからおそ松の死を察しただけで、彼が死ぬところは見ていない。
ランサー――櫻井戒とおそ松達の戦いも、その後のデリュージによる襲撃も、知らない。
実はおそ松のサーヴァント――シャッフリンが未だに消滅していないことも、とうてい予想できない。
まして、一連の出来事の裏にはヴァレリア・トリファというサーヴァントの策謀があったことなど、把握するすべもない。
だが、望月の視点からでも、断片的な手がかりは存在している。
例えば、おそ松の発言から、『田中』と名乗るマスターの少女が、『エクストラクラスのマスターだから』という理由で一松と望月を確保しようとしていたこと。
例えば、『おそ松の振りをして、やってくる田中という少女の眼をごまかし逃げろ』と指示をされたこと。
例えば、一松には信頼できる友達ができた、と判断するや、その友達――望月に、『弟をよろしく』と言い残したこと。
これらを併せて考えれば、望月の視点からでも、推理を立てることは難しくない。
-
ひとつ。
おそらく松野おそ松と『田中』なるマスターは、どうやってか『松野一松がシップというサーヴァントのマスターである』ことを知った。
(『シャッフリンが見ていた』とか何とか言っていたので、トランプのサーヴァントに監視させることで知った可能性が高い)
ひとつ。
望月を殺そうとした時のおそ松の発言もあわせて考えると、
『田中』からは、『弟とそのサーヴァントの首を差し出せばお前に手は出さないし、何なら当面の協力関係も結んでやる』という条件を出された。
そしてそれは、反故にすれば命が無いぐらいにはリスクのある条件だったのだろう。
『兄弟の命と引き換えに助けてやる』という重い命令(いや松野家にとっては軽いのかもしれないが、常識的には重い命令)が、約束というよりも脅迫のようなニュアンスだったことは予想できる。
ひとつ。
それでも、望月を殺すことを急きょ取りやめて、『田中が接近している』と聞くや、まず弟と入れ替わったというのは――つまり、そういうことなのだろう。
たとえ自身が死ぬつもりはなかったとしても、死地に挑むという意識がわずかなりとあったからこそ、『よろしく』と後を託した――実際のところは知りようがないにせよ、望月はそう受け止める。
まとめると。
望月の見たものだけで構成すれば、『一松達が逃げたあと、おそ松は図書館に戻らなかった田中、もしくは彼女のサーヴァントと再接触をして戦闘になり、弟を逃がしたことで殺されたのではないか』という物語ができる。
そしてそれは、実際の物語と幾つか違うところはあるけれど、『誰が殺したのか』については当たっていた。
LOADING…
シップが見てきた物語に、鈴は何も言えなかった。
一度ショックを受けたエピソードとはいえ、どのようにその人が死んだのかを語られると、直前の酷い話との落差が激しいこともあり、心に堪えるものがある。
鈴に代わって捕捉を求めたのは、仮面に隠れて表情のうかがえないランサーだった。
「失礼。それではシップ殿達は、兵士のサーヴァントが消滅するところを見ただけで、御兄弟の最期を確認されたのではないのですか?」
「うん。でもサーヴァントが消滅したってことは、そういうことでしょ?」
「そうとも限らないのでは? 『何人もいる兵士』とやらがそのサーヴァントの宝具だったとすれば、宝具の解放を中止すれば兵士達は消えます。
戦闘による魔力の大量消費によって、宝具の使用を取りやめたという可能性もあるのでは?」
宝具、と聞いて鈴も思い出すのに時間がかかった。
そうだ、サーヴァントは皆その『宝具』とか言うのを持っているし、ランサーの宝具も『仲間をたくさん召喚する』みたいなタイプだと聞いたことがある。
だからこそ、シップの話を聞いても安易に『マスターが死んだ』と結びつけることはしなかったのだろう。
「んー。可能性を出してくれるのは嬉しいけど、あれは違うと思う。
あのサーヴァント達、言葉は通じなかったけど意思表示はできたからさ」
トランプ兵士達に向かってシップは『マスターが死んだのでは』と発言したし、一松も『まさかそんなはずはない』と否定を求めた。
しかし彼等は、まるで消滅を受け入れるように頷きあっていたし、一松に向かって別れを告げるような仕草をした。
単に『宝具が停止したから一時的に消えるだけ』であそこまで厳粛な態度は取らないと、シップは察したのだという。
-
「なるほど……シップ殿の見識を誤り、軽率な発言を致しました。申し訳ない」
「いや、いいよ。あたしの話を信用してくれるだけでも御の字だし?」
「ふむ、ではシップ殿の言葉に信を置く前提で、今ひとつ立ち入ったことをお伺いしてもよろしいかな?」
「あい?」
「そこまではっきりと状況を察しておられたのなら、なぜ最初に『家族が死んでしまった』ではなく『家族に生かされた』と仰らなかったのですか?」
その問いに、シップは面倒くさそうな顔をした。
「……うぁー、それ聞いちゃう?」
そして鈴は、意味するところが分からなかった。
「どういうことだ?」
その反応に、シップはますます面倒くさそうな顔をした。
「……えっとランサー? 質問には答えるから、マスターへの解説は自分でやってね?」
「むぅ……致し方ありますまい」
「……なんだ、このあたしだけがダメみたいなムードは」
そしてランサーは、不満げな鈴にも理解できるように、質問の意図を説明した。
シップは初対面でマスターの事情について説明を求められた時に、『マスターの兄を亡くしてしまった』と言った。
しかし『マスターの兄が自分達を庇って死んだ』とは言わなかった。
打算的な言い方にはなるが、『家族同士で聖杯戦争に巻き込まれて、その家族が死んだ』とだけ言うよりも、『家族同士で聖杯戦争に巻き込まれて、家族の一人がもう一人を助けようとして死んだのだ』と打ち明けた方が、ずっと情に訴える効果が大きいことは疑いない。
たとえ同情を買ってでも、マスターを殺さずに保護してほしいと頼みたい状況だったのだから、なおさらだ。
それを、なぜ言葉を濁すような言い方をしたのか。
「あー……正直、どう説明したらいいのか難しかったのもあるんだけどさ。
ほら、直前までは屑ムーブだったから」
「たしかに」
その理由には、鈴も同意する。
しかしシップには、他にも理由があるかのように言葉を探していた。
そして、口にした。
「それにさ……今はまだ、既成事実みたいな扱いにしたくなかったんだよね」
「きせいじじつ?」
「だってさ、いっちー……マスターからしたら、アレじゃね?
起きたら、『自分が原因で、兄さんが死んだ』扱いになってたりしたら、辛くない?」
振り向き、背を丸めて動かない赤いパーカーを確認して、そう言った。
「それは……確かに、いやだな」
なぜか、あの『みんながいた世界』を出た時のことを思い出した。
あの世界から理樹と鈴を半ば追い出すようにして促したときに、恭介は泣いていた。
どうして泣いていたのか鈴には分からなかったけれど――もしあれが、自分達のせいで泣いていたのだとしたら、すごくイヤだ。
まして、自分のせいでいなくなったりしたら……と思うと、やりきれない。
「とはいえ、いずれ当人もお気づきになるのでは?
今は混乱しておられても、『服を交換して逃げるよう指示された』ことが何を意味するのか、やがて察せないはずがない」
「だろうねぇ……でもさ、それはだんだん受け入れることで、起きてすぐ叩きつけられることじゃないと思う」
「なるほど。では我々もそのように接しましょう。それでいいですね、マスター」
「いい」
ここで拒否するやつは、よほど空気が読めないに決まっている。
そして、もう一つ問わずにいられないことがある。
-
「でも、お前らはどうして、狙われたんだ?
『えくすとらクラス』って何か意味があるのか?」
シップと接していても、とても外道な取引を持ち掛けた上に、『めちゃくちゃたくさんいる強いトランプのサーヴァント』を動員してまで始末したいほどの重要サーヴァントには見えない。
どうして殺されなければならなかったのか――聖杯戦争の中にいるとはいえ、それでもそう問いたくなってしまう。
「さっぱりだよ。別にあたし強い秘密兵器とか何も持ってないし?
例外的なクラスだからって運営から何か贔屓されてるわけでもないし?」
「ふぅむ……『未知である八番目のクラスについて情報を得たかった』というのは、あくまで副次的な理由であったのかもしれませんね。
シップ殿に心当たりがないと言うのならば、兄の松野氏とやらに、何かしら『田中』との因縁があったのではありませんか?
古代ならばペルシアとミレトス、そしてアテネの関係のように、たとえ小さな勢力であろうとも、目障りな動きを取るうちに縁の連なる者全てを滅ぼさねば気が済まないと敵意を持つのはしばしばあることです」
「それにしたって……あ、ちょっと待って。今の話を聞いて思い出した」
シップは、正確に思い出そうとするかのように目を細めて考え始めた。
「確か、お兄さんの振りをして『田中』さんに会う前に、一松が何て言えばいいのかを覚えさせられたんだけどさ。
その時に『身内を監視対象から引き離す目的は、これで達成したんだから』みたいなことを、言わされてたと思う……」
それはまたまた、よく分からない言葉が出てきた。
レオニダスが解釈をつけようとする。
「身内、とは松野氏の弟である一松殿のことでしょうな。
そのまま解釈すると、『一松殿は、田中にとって監視すべき相手と行動を共にしていた』ということになります。一松殿を彼等から引き離すのが、田中の大きな目的であったと」
松野一松が直前まで共に行動していたマスター。
それならば、候補は二人しかいない。
「それって、狙われてた蛍って子じゃないか?
その子は他のマスターから狙われてただろ。それが田中だったんだ!」
それならば話が繋がる。
鈴としては、かなり自信のある考えだったのだが。
「じゃあお兄さんを殺したのは、身辺調査の依頼人だったってこと?
なんでその人があたし達と蛍ちゃんを引き離す必要があるのさ」
「それは……じ、自分が狙ってた獲物が他のマスターに取られそうだったから、引き離したんだ!」
「そんな動物の縄張り争いじゃないんだから…………それに、田中って顔は隠してたけどまだ女の子だったよ? フラッグ・コーポレーションのお仕事友達って言うには若すぎない?」
「それは…………ほら、あれだ。お前たちを襲った奴みたいに、変身するマスターだったのかもしれないだろ…………」
しどろもどろになりつつあったところを、ランサーがばっさりと否定した。
「いえ、それは無いでしょう。むしろ『田中』の目的は、二人の少女のどちらかを調べ上げて仕留めることではなく、その逆ではないかと考えるべきです」
「逆?逆ってなんだ」
ランサーは右手の指を二本、左手の指を一本立てた。
ちょうど、三人のマスターを示すように。
「もしも、少女二人のどちらかを仕留めるつもりで動向を把握していたのならば、一松殿よりも、もう一人の少女を警戒したはずなのですよ。
なにせ、その女性達は『自分達を狙ってくる他のマスターを協力して返り討ちにしよう』と同盟をしていたそうですからな。
先ほどの例えで言うならば、ペルシアにとっての標的であるアテネに、スパルタが助力を申し出たようなものです。
だと言うのに、日和見の立場に近かったシップ殿達の方を警戒していたというのはおかしい」
-
「そっか……むしろ、逆に『監視対象』を守ろうとしていたのなら、どっちつかずの状態だったあたし達を警戒する理由にはなるよね」
「ランサー……なんか急に賢くなってないか? 今までとぜんぜん頭の使い方が違うぞ」
「いや、私、根は理系ですし? 素性も素性ですから、論理的に考えるのは得意なのですよ、本当に」
そう言えばこのランサー、確か槍の英雄であるだけじゃなくて、王様もやっていたのだった。
それなら、筋肉のことだけでなく、人を動かすやり方に詳しくてもおかしくない……のかもしれない。
「田中にとって、二人の少女のどちらかは、死なせたくない対象だった。
そこに、まさに自分が対峙している松野氏のご兄弟が、近づかれていた。
田中はそれを見て、弱みを握られると警戒したのではないでしょうか。
『家族を人質にとって脅迫する』という手段を使うマスターならば、自分が同じことをされるリスクも視野に入れているはずです。
ご兄弟で結託して『監視対象の少女』を人質に取られる真似をされては困ると、先んじて禍根を潰そうとしたのではないでしょうか」
「なるほどね……となると、あの女の子達と距離を置いてるうちは、いくらか安全ってことになるのかな」
「じゃあ、その小学生たちにはもう会いに行かないのか?」
つい、そんな風に鈴は問いかけていた。
シップと松野一松を危険に晒したいわけではなかったが、それでも鈴にとっては初めて得られた、『聖杯を競い合う同士であるマスター』の情報なのだ。
何もアクションを起こさず、これ以上学校に引き籠っているのは違う、と直感が告げているし、
『同じ聖杯を狙う者としても、そういう事をするマスターを見過ごすのは嫌だ』だとか『ここまで話を聞いておいて、こいつらの事情をこれっきりにするのは嫌だ』という幼い正義感もある。
「うーん、あたしはアンタ達の為に働く立場だから、そっちが接触したいなら拒めないけど、またあの子達に会いに行くならいっちーの意向も聞きたいかな。
それに、二人に実際会ってどうするかも聞いておきたい。
少なくとも鳴って子の方とは聖杯を狙う者同士になるけど、倒すつもりなの?」
「それは……」
鈴は答えにつまった。
そう、こういう決断を迫られるからこそ、シップは蛍たちの話をする前に『話してもいいのか』と確認をしてきたのだろう。
まして、シップからの情報によれば『蛍』と『鳴』というマスター達は子どもだ。
あの特別教室で一緒にいた小学生たちと歳も変わらないような、何の罪もない小さな女の子達だ。
「ごめん、言い方が意地悪になっちゃった。
ただ、どっちみち『お兄さんを殺した奴と関係あるかもしれないから会いに行こう』ってだけで後先考えずには動けないよ。
それに、『一条蛍の調査を頼んできた依頼人』の問題もあるからね。
こっちは調査を放棄したようなものだけど、蛍ちゃん達に再接触するつもりなら絡んでくることも考えないといけない」
「いや、あたしこそ簡単に言って、ごめん……」
-
覚悟だとか、殺意だとか、そもそもそれ以前に自分のスタンスの中途半端さというか、とにかくあたしはいろいろな考えが足りていないのだと再確認させられた気がした。
真人からはバカだバカだと言われていたけれど、ここまで深刻にバカだと自覚すると情けないものがある。
「マスター、そう過度に気を落とさずに。
経験無くして成長無しと考えるその姿勢は正しい。
必要なのは計画性と心構え。そしてまずは目先の脅威から順を追って考えましょう。
まず、その少女達は今宵ヘドラの征伐に赴く予定だったとか。
そちらの結果しだいでは、明日の再会が見込めない状況になっていることも有り得ますし、何なら今宵は共闘するという選択肢もある。
我々も今宵をどう過ごすのか、そこから決めておかなければ、明日の予定は立てられませんな」
「そっか……そっちもあったんだったな……」
そう、元山へのお使いかとシップの保護で後回しになっていた感もあるが、『ヘドラを討伐に行こう』という選択肢に関しては、鈴たちにとっても他人事ではない。
シップのもたらした情報のおかげで、敵の正体――『空母ヲ級』が『深海棲艦』という連中だとも知ることができた。
そして、彼らは水上戦を行う装備こそ自前で有しているものだが、触れるものを汚染する性質までは持ち合わせておらず、それはサーヴァントの神秘に由来するのだろうということも。
――つまり、ヘドラの汚染は物理的な防御でどうこうできるものではない。それは鈴とランサーの主従にとって、痛い。
ランサーは防戦を得意としており、盾の扱いに秀でたサーヴァントではあるが、盾の宝具を持ったサーヴァントではない。
つまり、その盾で跳ね返せるのは物理だけ……らしい。
物理であればサーヴァントの放つ熱線だろうと跳ね除けられるが、魔眼や呪いの類を防ぐことはできない。
つまり、ヘドラに対しては決して優位に立てるサーヴァントではない。
それでもなお討伐令に参加するべきかどうか、決断しなければならなかった。
「んー…………じゃあ、明日のための用事は、今の内に済ませておいていいかな?」
シップがそんなことを言って、マスターと共に持ちこんでいた紙袋の荷物を漁った。
何を取り出すのかと思えば、わずかばかりの小銭だった。
マスターの財布から幾らか勝手に出したらしい。
「む、用事ってなんだ?」
シップは気が進まないことに取り組もうとするように、ため息を吐いてみせた。
「いったん、外に出る。ちょっと電話かけに、ね」
-
◆tip:田中(プリンセス・デリュージ)
ランサーことレオニダスの推理には、細部において誤りがある。
その中でも主な間違いは、『田中ことプリンセス・デリュージにとって、監視対象ことプリンセス・テンペストは、かならずしも保護対象においた相手ではない』という点だ。
確かにデリュージがテンペストのことを大切に思っており、そこに付け込んだシャッフリンが、テンペストを監視しつつ人質に取ろうとしたことは事実である。
ただ、『聖杯で取り戻したい死者がマスターとして蘇生しており、彼女をも倒して聖杯を取らなければ全員を取り戻すことができない』というデリュージの極めて特異なケースを想定できるサーヴァントはそういない。
これはただ、それだけの食い違いだった。
LOADING…
霊体化したままでは小銭を持ち運べないので、寮の窓から実体化したままえっちらおっちらと抜け出し、やや走ったところにある公衆電話から電話をした。
「ふう……」
どうにか伝えるべきことを伝えて、受話器に充てていた制服の袖布を外し、ガチャンと電話を戻す。
電話をかけた先は、フラッグ・コーポレーションの本社ビルだ。
そして、電話の内容は、一言で言えば脅迫電話だ。
考えて、考えて、頭をひねって考え抜いて、その頭脳労働だけで普段なら根を上げている程度には頭を回転させて、思いついた脅迫電話だった。
(これ以上、一松の家族が巻き込まれないために……)
『今すぐ、一条蛍の身辺を嗅ぎまわるのを止めろ。
調査員の自宅に爆弾を仕掛けた』
要約すると、そういう脅迫だった。
目的はひとつ。
松野おそ松および一松の家族を、あの家から早急に避難させることだ。
すでに『田中』には、松野おそ松と一松が、一卵性の兄弟であることは割れてしまっている。
そして田中の視点では、一松は『仕留め損ねたマスター』であり、『そうでなくても、聖杯戦争を勝ち残る上でいずれは始末する相手』なのだ。
電話帳で『松野』という氏をたどる等して松野家に辿り着いた田中(仮)が、松野家で一松の帰宅を狙って襲撃したとしても何らおかしくない。
なにせ彼等兄弟は、初見での見分けがつかないのだ。
NPCを害することに躊躇しないタイプのマスターならば『とりあえず同じ顔の兄弟は全員殺しておこう』といった凶行をしでかさないとも限らない。
だから、松野家の人々には、少なくとも向こう数日は、あの家を離れてもらう必要がある。
それも、ヘドラ騒動がヤマを迎え、田中も幾らかそちらに気を取られるであろう今夜のうちに、避難してもらう必要がある。
-
その為の『爆弾を仕掛けた』という脅迫電話だ。
イタズラ電話で流されてしまえば終わりだが、松野家とあの会社の社長は昔なじみだ。
自分が頼んだアルバイトのせいで、友人たちが危険に晒されるかもしれない――ともなればそれなりに真剣に取り合ってくれるはず。
しかも『当の調査員である松野一松と、連絡がつかなくなっている』という状況まで合わされば、その事件性はぐっと増すだろう。
そして――望月にも気分が良いものではないが、夜が明けるまでには、松野おそ松の遺体が一般人にも発見される可能性が高い。
しかも、しかもだ。
本当に気分の良くない話だけれど。
この世界で発見された松野おそ松の遺体は、松野一松の遺体だと誤認される可能性がある。
服装を交換している上に、遺伝子の上では違うところなど存在しないのだ。
たとえ一卵性双生児でも指紋から判別することは可能らしいが、松野家では財布やエロ本さえ勝手に貸し借りするぐらいお互いの所有物に指紋をベタベタつけているので、遺体だけで六つ子の誰なのかを判別する作業は困難になるだろう。
この世界の警察は、現実の警察よりも捜査能力が低いともなれば、なおさらだ。
そうなれば――一松を泣かせたその死を利用するというのが、本当に気分の良いものではないが――事件性は確実なものとなる。
『一条蛍の調査を止めろと言う脅迫があり、調査員の自宅に爆弾が仕掛けられたという電話があったばかりか、調査員が遺体で発見された』ことになるのだ。
そこが警察であれフラッグ・コーポレーションの客室のスイートルームであれ、松野家は当面の間は拘束される。
実際には爆弾など無かったところで、しばらく家に帰れない状況に追われるだろう。
遺族としてはすぐにでも家に戻っての葬儀を希望するかもしれないが、殺人事件ならばしばらく遺体は警察預かりとなるはずだ。
そうなれば、一介のマスターでも松野家の宿泊先をたどることは難しくなるだろう。
もしこの世界のNPCが、『爆弾を仕掛けたぞ』と脅迫をされた家にあっさりと戻って来て暮らし始めるほど鈍感だったならば、その時はまた別の手を講じなければならないが、これで当面の時間稼ぎにはなるはずだ。
(あー……でも、遺体発見のニュースが出たりしたら、あの小学生たちはいっちーが死んだって誤解しないかなぁ……。
上手い事ヘドラのニュースに紛れて、大きく扱われなかったらいいんだけど)
気になると言えば、もうひとつ。
それを聞いた一条蛍を狙う依頼人がどう思うかだ。
『一条蛍には、よほど過激なマスターかサーヴァントが味方しているのだろう』と警戒させることができればかえって都合がいい。
最大の懸念は、『万が一にも、おそ松を殺したマスターと、蛍の調査をしているマスターが同一人物だった場合、すべてのカラクリが見抜かれてしまい、蛍たちともども危険に晒される』ことだった。
しかしレオニダス達と話してみて、その可能性は限りなく低いことが再確認できた。
望月としても、まだ敵対することが決まったわけでもないのに蛍たちの身を危険に晒すことには抵抗があったので、それさえ確かなものとなれば電話をする踏ん切りはついた。
電話ボックスから出て、住宅街の方角の空を見た。
夕暮れから、星空へと移り変わる境目の空だった。
その方角からは、かなり太い煙が立ち昇っているのが目撃できた。
戦いの余波が、まだ鎮火していないのかもしれないと、望月は思った。
あの人の遺体は、火災に飲まれたりせずに無事だろうか、と気に掛った。
-
◆Tips:住宅街の煙
松野一松と望月が去り、櫻井戒とシャッフリン、プリンセス・デリュージの戦いが終わった直後の公民館で、後から乱入してきた三組の主従による交戦が行われた。
その際に、マシンことハートロイミュードが放った光弾によっておそ松の遺体があった公民館近くの自動車が爆発炎上したことによる煙。
静かな住宅街とはいえ、しばらくすれば煙を見とがめた市民により119番通報が行われると思われる。
LOADING…
松野一松、およびシップなるサーヴァントとの出会いは、棗鈴というマスターにも、色々思うところをもたらした。
「ランサー、あたしは聖杯が欲しい」
「はい」
その気持ちに、ぶれはないつもりだ。
人を殺すかもしれないのを嫌だと思っても、聖杯を取りたいという想いまでが揺らいだことはない。
「聖杯が要るんだ。……だから、田中って奴のことは言えないんだと思う。
聖杯が欲しいなら、他のマスターを倒……殺すことになるから。でも……」
それでも、シップの語ったこれまでの物語を聞いて、『何もそこまで酷いことをしなくてもいいじゃないか』と怒ってしまった。
自分と変わらない歳の少女がそこまで手段を選ばずに他のマスターを蹴落としているという事実に、衝撃を受けてしまった。
「誰かの大切な人だってわかってても殺したり、卑怯な手を使ったり……聖杯を取ろうと思ったら、そうしないといけないのか……あたしも、そういう遣り方をしないと聖杯が獲れないのか?」
「それは違います、マスター」
ランサー――レオニダスというサーヴァントは、しかしあっさりと、それを否定した。
「え?」
不意打ちだった。
目の前のサーヴァントは変態だけど悪い奴ではない。ないけれど――でも、昔のえらい人で、いざとなれば人を殺すことだってできる、その為にいる存在だと思っていた。
だから、人を殺すことが嫌だなんて言ったら、弱い悩みだと思われるのではないかと。
そのはずが、そいつは鈴の前に膝を追って言葉を継いだ。
「良いですか――戦う姿勢には、向き不向きがあるのです。
誰かの戦い方が上手くいっているからといって、己がその姿勢を無理に合せて戦えるとは限らない。
そもそも、命を奪うことが怖くないはずがない。生来持ち合わせた優しさを簡単に捨てられるはずがない」
失礼、とランサーは兜を脱いだ。
糸のような細い目に、強い眼光を宿した壮年の男の顔が現れる。
実のところ、鈴は大人の男が苦手なのだが――顔が見えるようになると変態度がだいぶ減るな、と思った。
-
「マスターは以前、自らの兄上とご友人によって、逃がされてきた身の上だと仰いましたな。
なぜか己だけが新しい世界に旅立つことになり、大切な方々は、ずっと共にいたいという本音を吐きだしながらも、堪えてそれを見送ったのだと。
私にはどういうご事情だったのかは分かりませんが、しかしその行為は尊いものだと感じます。
それもまた、生まれついての戦士には無い強さ――貴女に未来を与えようとする希望がもたらした強さです」
その英霊は、戦いに赴けば己は帰れないと、告げられた者で。
己が未帰還になることと、故郷や家族の未来を天秤にかけた者で。
愛する者を守るために死地に赴いた者だからこそ、その強さを良しと認めた。
故に、私も必ず貴女を生きて帰す、それは大前提ですと、前置きして。
「貴女が恐怖を感じるのは、それだけ大切なものを知っているということです。
その大切なものに従って、マスターはどう在りたいですかな?」
大切なもの。幸せにしてくれるもの。帰った先にあるもの。
そう訊かれると、最初に思い出す言葉がある。
――鈴ちゃんが幸せならわたしも幸せだから。
ああ、そうか。
あたしが最後に笑えなかったら、意味が無いんだ。
つかえていたものが、すとんと身体の中に落ちていった想いがした。
「ランサー、あたしは、巻き込まれただけのヤツらまで殺したくない」
言葉は、素直に口から出てきた。
「バカなやり方かもしれないけど、ただ帰りたいと思ってる奴を騙したり、弱い者いじめして聖杯を取るのは、あたしの『戦う姿勢』じゃない」
「御意」
弱いものを戦わずに保護したところで、何も変わらないかもしれない。
どうやったらこの世界から帰れるのかなんて分からない以上、最後にはその人達とも戦うことになって、辛い思いをするかもしれない。
だけど、それでも、子どもやかわいそうな人達を、今いじめていい理由にはならないじゃないか。
「聖杯が欲しいのはホントだから、聖杯を狙ってたり、聖杯戦争を辞めさせようとするような奴が相手だったら、戦う。
殺すのかは分からないけど、負けないように戦いたい」
「では私は、貴女に勝利を」
その英霊は、兜を外したことで見えるようになった口元で微笑んだ。
-
ランサーがまた兜をかぶりなおした直後のことだった。
窓をノックしてから、シップがひょいっと侵入する。
霊体化で戻ってこれるのだから窓から入らなくてもいいのにとは思ったが、いきなり出現するのは無礼だろうという気遣いらしい。
「ただいまー……こっちの連絡は終わっ――」
しかし、帰還を告げる声が半端に途切れた。
鈴が座っているベッドではない、もう一つのベッドの方を、凝視している。
しまった一生の不覚、という顔をしている。
鈴たちも、もしやと気付いて向かいのベッドに視線を送った。
先ほどと変わらず、背中を丸めぎみにして眠っているように見える、赤いパーカーの青年……のはず。
しかし、周囲の猫達が、様子を確かめるようにその顔を舐めたり、前足でしきりにつついたりしているのだ。
いくらぐっすりと眠っているとはいえ、こんなことをされてもなお眠っているというのは不自然ではないか……?
シップが恐る恐る、声をかけた。
「あの……いっちー…………もしかして、前から、起きてる?」
そして、時は動き出す。
【B-5・高等学校A女子寮/一日目・夕方】
【棗鈴@リトルバスターズ!】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] 学校指定の制服
[道具] 学生カバン(教室に保管、中に猫じゃらし)
[所持金] 数千円程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち残る。脱出を望むマスターまでは倒さないが、聖杯を狙うマスター、聖杯戦争を辞めさせようとするマスターとは戦う
1:ヘドラのことはどうするか、目覚めた一松をどうするか考える
2:『元山』は留守だったし、どうしよう…
3:野良猫たちの面倒を見る
4:他のマスターを殺すなんてことができるのか……は分からないが、帰りたいだけのマスターは殺さない
[備考]
元山総帥とは同じ高校のクラスメイトという設定です。
ファルからの通達を聞きました。
-
【レオニダス一世@Fate/Grand Order】
[状態] 健康
[装備] 槍
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。マスターを鍛える
1:マスターの方針に従い、シップ達と一先ずは同盟。
2:マスターを勝利させる(マスターを生きて元の世界に帰すこと自体は大前提)
【松野一松@おそ松さん】
[状態] 覚醒
[令呪] 残り三画
[装備] 松パーカー(赤)、猫数匹(一緒にいる)
[道具] 一条蛍に関する資料の写し、財布、猫じゃらし、救急道具、着替え、にぼし、エロ本(全て荷物袋の中)
[所持金] そう多くは無い(飲み代やレンタル彼女を賄える程度)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:???
※フラッグコーポレーションから『一条蛍の身辺調査』の依頼を受けましたが、依頼人については『ハタ坊の知人』としか知りません
※果たしていつ頃から起きていたのか(部屋に運ばれた直後から起きていたのか、望月が電話をかけている間か、あるいはたった今起きたところか)は、後続の書き手さんに任せます。
【望月@艦隊これくしょん】
[状態] 健康、強い決意
[装備] 『61cm三連装魚雷』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:頑張る
0:もしかして……まずい状況?
1:鈴とランサーに協力しつつ、一松を守る
2:一松を生還させてあげたい
※フラッグコーポレーションに脅迫電話をかけました
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投下終了です
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失礼、>>73と>>74の間が丸1レス抜けておりました
以下の文を挿入させていただきます
ーーーーーーーーーーー
しかし、これじゃあ早く遺体が見つかってくれた方が都合がいいと打算的に考えているみたいで、何だか嫌だなと思った。
早く見つかって欲しいのだが、しかし。
例え遺体が家族の元に届けられたとしても、彼はその時に『松野おそ松』として帰還できない可能性が高いのだ。
死んだ後も、あの人は帰れないことになる。
この世界の家にも、本当に家にも。
(ごめんなさい……)
でも、と思う。
一松は、偽の家族とはいえ家族を巻き込まないために家を出た。
そして、彼の兄が守ろうとしたものだって、きっと一松だけではないはずだ。
(でも、守るから)
その未帰還を、無意味にしないために。
望月は霊体化して、託されたマスターの元へと急いだ。
松野家の人達は、今ごろ晩御飯を食べているのだろうかと、想像しながら。
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投下乙です
実際にできるかはともかく「どんな戦いをしたいのか」はハッキリさせとかないと、いざ戦うときに動けない
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投下お疲れ様です!
鈴と目線を合わせたり、大事な話をする時は兜を外すあたりこれは7章で明らかになった本当に理系で紳士的なレオニダス王……。鈴ちゃんは自分がどうしたいのかを定められた事でここからが本当のスタートラインといった感じですね。
一方で一松の家族を守るために奔走する望月と実は起きていたかもしれない一松は次の会話が肝となりそうですね。続きが楽しみです!
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下記で予約します
春日野椿、キャスター(円宙継)
間桐桜、アーチャー(アタランテ)
ルアハ、ランサー(ヘクトール)
黒鉄一輝、セイバー(ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン)
ニコラ・テスラ、セイヴァー(柊四四八)
棗鈴&ランサー(レオニダス)
松野一松&シップ(望月)
あと拙作の『其は全ての傷、全ての怨嗟を潤す我らが戦場』で
セイバー・リリィと越谷小鞠の位置をC-6としましたがD-5に変更します。
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トリップキー忘れました
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滑り込みアウト! 投下します。
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御目方教・本部。太陽が沈む夕刻。二人の禁魔法律家は地獄殿と化した奥にある座敷牢で戦場となったK市を分析していた。
といっても二人は戦術予報士などしたことがないため、自身の経験に頼らざるを得ない。
だが、素人技と侮るなかれ。
どちらも組織の長として指揮し戦った経験があるためか、地図を広げて戦況や信者の配置を決めるといった本格的な情報戦略を広げることに成功している。
実際、この聖杯戦争においてルーラー達を除けば最も情報を握っている存在だろう。
戦争において情報の鮮度と確度、そして収集できる規模の広さが勝敗を分ける以上、キャスター達の優勢は絶対だ。
そして何より、これらを全くの無傷のまま実行したということが恐ろしい。
「朝に2つの学校で、昼に商店街と海岸線付近でいくつか、夕方も海岸線付近でいくつか戦いがあったね」
キャスターが地図を広げ、赤い蛍光ペンで〇をつけていた。
弱視の椿には見えないが、キャスターの指導により使い魔と視界を共有できるようになりつつある椿にはもはや弱視を克服しつつあった。
元々、魔術師の家系であったわけじゃない。魔術回路など一般人とさほど変わらず素養も並みかそれ以下だろう。
それだけのハンデでありながら恐ろしいほどの成長速度で春日野椿はキャスターの教えを吸収していった。
それを可能にしたのはただの精神力、心の力において他にない。世界を破滅させたい凶念か、現れた王子の役に立ちたいという恋心か。おそらくはその両方か。
「加えてティキからは一組の敵と接敵、さらに夕方は別のサーヴァント達も補足した」
「さすがティキね。」
「ああ、頼れるよ」
地図に〇が追加されていく。
さらに捕獲した使い魔につけた悪霊の位置にも〇がついた。
ヘドラがいると思しき海岸線にも〇が付いた
「東海岸に集中しているわね」
「まあ、大きな餌があるからね」
ヘドラ討伐の指令を受けた二人は、真っ先に信者をK市の東へ送り込んだ。
遠巻きに眺めているだけでいいという命令だったはずだが、それでも何名かは連絡が途絶えた。
巻き込まれたか、巻き込まれにいったか。どちらにせよ、序盤でこれ以上の人的資源の消費は避けたい。
信者が死のうが苦しもうがもう何も感じないが、貴重な情報源だ。
この陣地────キャスター『円宙継』の陣地作成によって呪詛と怨嗟の溢れる禁魔隔絶霊獄と化した本殿────から出ない春日野椿には情報を得るための耳と目が必要なのだ。
人形を増やそうかしら。
キャスターの暗示や呪術を使えば増やしたい放題だろう。
しかし、やりすぎてルーラーの目に止まり、ジャック・ザ・リッパーやヘドラのように討伐対象になるのはまだ避けたい。
やはり諜報活動は鈍くなると分かりつつも現状を維持するしかない。
「東海岸付近は火薬庫ね」
「もう爆発した後だけどね。だがまだ燃え続けている」
「ティキを動かす?」
「いいや、どうやらその必要はないようだよ……ん?」
キャスターの呟きと同時に椿も違和感に気付いた。
千里眼日記の更新が止まっている。
千里眼日記の情報は巷で流行っているSNSの如く信者からの『報告』という形で蛇口をひねったように次々と増えていくものであり、K市内の各地にいる信者が全滅でもしなければあり得ない事象に椿は眉を顰めた。
日記の最後の報告にはこう書かれていた。
“見たことがないほどの大波が来ている”
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【一日目・夕方/C-4・御目方教本部】
【春日野椿@未来日記】
[状態] 健康、禁魔法律家化(左手に反逆者の印)、一抹の不安
[令呪] 残り三画
[装備] 着物
[道具] 千里眼日記(使者との中継物化)
[所持金] 実質的な資金は数百万円以上
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、世界を滅ぼす
0:何よこれ……
1:千里眼日記の予知を覆した者が気に食わない
2:キャスターに依存
3:キャスターはああ言うけれど――
【キャスター(円宙継)@ムヒョとロージーの魔法律相談事務所】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の力で、復讐を成し遂げる
1:ティキを通じて他参加者の情報を収集する。ひとまず海岸部に出現した異生物の情報を得る
2:当面はY高校のマスター、牧瀬なるマスター周りから対応していく。
3:但し夜、ヘドラとの交戦が本格化したなら、積極的に他主従を狩る方向に舵を切る
※ティキや信者を経由して、吹雪の名前、牧瀬というマスターの存在、『美国議員の娘に似ている』というマスターの存在を確認しました
※グリフォンを通じてキャスター(仁藤)を観測しています
※ティキを通じて岡部倫太郎とライダー(アン・ボニー&メアリー・リード)を観測しています。
◆
-
「おいおい、ありゃあなんだ」
「────」
夜の帳が落ちた山でヘクトールとアタランテは東を見た。
ヘドラを討つために準備をし、いざ索敵を開始しようと外に出ればそこにあるは見晴らしのいい景色。町を展望すればまるで夜を飾る星のようにネオンサインがきらめいていた。
だが、二人が凝視していたのはそこではない。
街並みの彼方。まだ太陽光の残滓が照らす黄昏の水平線────がない。
代わりに巨大な城壁が自走するかの如く、大波が迫っていた。無論、自然現象であるはずがない。
あれが陸に到達すれば間違いなく海岸付近の街並みが水没する。
そうなれば今いる山奥もただでは済むまい。直撃しなくても汚泥の海水が残留し続ければ人が住めない世界が拡大するのは目に見えている。
「ランサー! 私は先に行くぞ!」
「おい、ちょっと待……」
ヘクトールの耳に声が届いたときには既に、アタランテが黄金と碧緑の髪を振り乱しながら海へと走っていった。
ヘクトールの背後にはただならぬ気配を察して山小屋から出てきてた少女二人。
「ランサーさん達、行っちゃうの?」
「そうだな。行かないとマズイよなぁ」
少女二人を守るために残るという選択肢はある……あるがその場合、近くにサーヴァントがいたらヘクトールの存在を感知されてしまう。
最悪、戦闘になったら二人を守りながら闘う羽目になる。
防衛戦は自信があるが、さすがに今日来たばかりの山小屋で防衛線を張るのは賢いとは言えない。
ましてやアサシンに狙われでもしたら間違いなく死ぬ。
したがって二人と離れて行動するのが得策だ。
しかし、ここで問題がある。
桜は精神的な問題で、ルアハは認識的な問題を抱えている。そのせいで令呪が使えないのだ。
二人に何があった場合、桜もルアハも令呪を使ってサーヴァントを呼び出せない以上、二人が予期せぬ危機に見舞われたときに駆けつける距離にいないといけない。
かといって防衛に戦力を注いで万が一ヘドラが討たれなかった場合は総てが終わる。
(二人を連れていくこともできるが同じ目的の奴らがいて乱戦になった場合は真っ先に狙われるな。
やっぱりマスター達をここに潜ませてオジサンは後詰としてここと海の中間位置にある街に潜むのがいいか)
迅速に敵を討ち、迅速に帰還する。
それがヘクトールとアーチャーに求められている状況だ。
「んじゃあオジサンいってくるよ。マスター。いざってときは」
「はい。いいえ。桜様をお守り致します。この体には大型──」
そうじゃないんだがなぁと苦笑しながらヘクトールは二人を置いて出陣した。
-
【A-6/山小屋/一日目・夕方】
【ルアハ@赫炎のインガノック-what a beautiful people-】
[状態] 健康、充電完了
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:自動人形として行動
1.いざという時は桜を守る。
※情報空間で何かに会いました
【ランサー(ヘクトール)@Fate/Grand Order】
[状態] 健康
[装備] 『不毀の極槍(ドゥリンダナ)』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず、程々に頑張るとするかねえ
1:ヘドラ、流石に討伐しないとマズイかねえ
2:拠点防衛
3:『聖餐杯』に強い警戒
4:アーチャー(アタランテ)との同盟は、今の所は破棄する予定はない。ただしあちらが暴走するならば……
[備考]
※アタランテの真名を看破しました。
【間桐桜@Fate/Zero】
[状態] 魔力消費(中)、風呂上がり、寝間着の上に大人用コート
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] 毛布
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:アーチャーさんの言いつけを守ってじっとする
1:…アーチャーさんにぶじでいてほしい
2:どうして、お人形さんは嘘をつくの?
[備考]
精神的な問題により令呪を使用できません。
何らかの強いきっかけがあれば使用できるようになるかもしれません
【アーチャー(アタランテ)@Fate/Apocrypha】
[状態] 魔力消費(小)、聖杯に対する憎悪
[装備] 『天窮の弓(タウロポロス)』
[道具] 猪の肉
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:もう迷わない。どれほど汚れようとも必ず桜を勝たせる
1:ヘドラ討伐。
2:ジャックの討伐クエストには参加しない。むしろ違反者を狙って動く主従の背中を撃つ
3:正体不明の死霊使い、及びそれらを生み出した者を警戒する
4:ランサー(ヘクトール)との同盟関係を現状は維持。但し桜を脅かすようであれば、即刻抹殺する
[備考]
※アサシン(死神)とアーチャー(霧亥)の戦闘を目撃しました
※衛宮切嗣の匂いを記憶しました
※建原智香、アサシン(死神)から霊体化して身を隠しましたが察知された可能性があります
※ランサー(ヘクトール)の真名に気付きましたがまだ確信は抱いていません
◆
-
同時刻。海岸線にいる黒鉄一輝達もそれを視認した。
総身が身震いする。あの波は
「マスター! 私はアレを止めてきます。宝具の使用許可を」
「ああ、頼むセイバー」
セイバーの肉体が雷電を纏う。次第に人としての輪郭が薄れ、雷そのものとなっていく。
これが宝具。セイバー『ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン』の宿した魔業。
自身を異界にする奥義である。
真名解放しない状態でも雷速体術を可能とする超絶の秘儀である。
かつて戦乙女と呼ばれた女は今、海からの魔物を討たんと奮い立ち、生者を守るべく雷速で走行を開始した。
【一日目・夕方/D-3】
【黒鉄一輝@落第騎士の英雄譚】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] ジャージの上に上着
[道具] タオル
[所持金] 一般的
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取る。
0:止まってしまうこと、夢というアイデンティティが無くなることへの恐れ。
1:棗恭介、吹雪と時期が来るまで協力する
2:後戻りはしたくない、前に進むしかない。
3:精神的な疲弊からくる重圧(無自覚の痛み)が辛い。
【セイバー(ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン)@Dies irae】
[状態] 雷化
[装備] 軍服、『戦雷の聖剣』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターが幸福で終わるように、刃を振るう。
0:ヘドラの攻撃を迎撃
1:ビスマルクに対して警戒。
2:棗恭介に不信感。杞憂だといいんですけど……
3:マスターである一輝の生存が再優先。
[備考]
※Bismarckの砲撃音を聞き独製の兵器を使用したと予測しています。
◆
-
松野一松は目が覚めて起き上がった。
知らない天井。知らないベッド。どこだ、ここ。
起き上がり歩き出せば、そこにいたのは自分のサーヴァントとそして知らない女子とマッチョ。
「前から、起きてる?」
いや、今起きたんだけど。
何、その顔?
「おはよう」
「ああ、おはよう」
「で? ここどこ?」
「うちの女子寮だ」
誰だ……ん、というか待て? 女子寮?
「はああああああ? 女子寮!?」
「お、おう」
「女子寮ってなんだよ! 俺はなんもしてないからな! 犯罪者に仕立てるつもりか?」
「フシャー!」
まくし立てた一松に鈴が威嚇する。
「はーはっはっはっはっは。どうやら元気なようで何よりですな」
「ガチで犯罪者みたいなのがいるんだけど!?」
「あ、あのねマスター。実は」
望月は一松が気を失っている間の経緯を離した。
猫たちのこと。鈴に会ったこと。
望月を担保に一松を助けてくれと密約を結んだ事を除いて。
当然だ、マスターに黙って己の身命を担保にするサーヴァントなどあってはならないし、今その話をすれば一松は何をしだすかは想像できない。
「言っておくけど私の指令には従ってもらうぞ」
「は? 何で?」
◆
-
「は? 何で?」
望月の心臓が跳ね上がる。
もしかしたら約束のことを話すのではないかと思った時、鈴と目が合った。
────大丈夫だ、言わない
アイコンタクトで鈴が望月に伝え、親指を天へ伸ばした。
鈴は視線を一松へ戻し、そして人差し指で指していった。
「お前の命と引き換えに望月は私がもらった。だから私に従え」
ええーー直球。アイコンタクトの意味は?
「いや、いやいやいや」
「じゃあお前、ウチのランサーに勝てるのか?」
一松の視線が鈴の隣にいる圧倒的筋肉へ向けられる。
ただ立っているだけで周囲を圧する筋肉は無言のまま、こちらへ厳しい視線を向けている。
一松は目を逸らし、次に私を見た。
(いや、色んな意味で無理だから!)
ブンブンと首を振る。
それが伝わったのか一松から諦めの溜息が出た。
そして──
「好きにすれば」
投げやりな返答が返ってきた────だけではなく。
「今までありがとうシップ。『好きにしていいよ』」
一松の令呪が三画消失した。
同時に強まる望月のステータスが夢ではないことを意味している。
鈴もランサーもこの行動には驚かずにはいられない。
「いっちー!?」
「もう嫌だ、こんなの。俺にできることなんてねーし!
兄貴の代わりに生き残って聖杯戦争? あり得ねーし!!
兄貴に助けられた? だから何だよ! 俺にどうしろってんだよ! 何期待して勝手に死んでんだよ!!
ふざけんな! 死ね!!」
罵詈雑言を言いたいだけいってマスターは部屋の隅に蹲った。
この瞬間、松野一松は聖杯戦争のマスターとしての責務を放棄した。
いや、おそらくは初めからそのような責務負いたくなど無かったに違いない。
それでも変わろうとして家を出た。だが、今回の件で完璧に折れた。
彼は背負えぬ者、恐れる者、誰かに寄らねば死ぬ者。
兄弟の敵討ちも、この舞台からの脱出も彼には無理なのだ。
できる奴は当たり前にできるし、できない奴は当たり前にできない。一松は後者だ。
令呪三画を使ったのはある種の解放願望と付き合ってくれた望月への感謝の顕れなのだろう。
何か声を掛けようとした望月をランサーが肩に手を置いて止めた。
かぶりを振り、耳元に口を近づけて静かに言った。
「望月殿。今は何を言っても無理です。心は数式と違って簡単には直せません」
「でも、放っておけないしょ」
「一先ず落ち着くための時間が必要です。それに一松殿は三画全て使ってしまった。
幸い、この聖杯戦争において三画消費は即脱落に繋がりませんが、周囲との差はかなり開きます。意味はわかりますね?」
令呪の全画喪失。しかも命令の内容が曖昧であるため効果は薄く、完全に無駄遣いといっていい。
「早急に令呪を回復せねばなりません。我々の契約は望月殿の力、つまりは令呪も含まれている」
ランサーは遠回しにこう言っているのだ──ヘドラ討伐に参加しろと。
それを断ることは立場上無理だ。望月のできることは従うことだけ。
「今生の別れになるかもしれないのです。挨拶だけでもしておいたらいいでしょう」
そういって、ランサーは手を離し、マスターと共に部屋の外へ出る。
-
◆
部屋の外に鈴以外は誰もいない。
それでも用心してランサーは霊体化した。
近くにランサーの気配を感じて鈴は言った。
「お前ワルだな」
「ええ、相当にワルですよ」
「そして馬鹿だ」
「いいえ、頭はいいつもりです」
「いいや、馬鹿だ」
マスターの『馬鹿』が何を意味しているのかは理解している。
ランサー……レオニダス一世は自己嫌悪していた。
意図的に望月を戦いへと誘導した。
ああいう風に言うことが自分達にとって最善である。
マスターの意向に従いヘドラ討伐をするにあたって戦力は少しでも多い方がいい。特に他のマスターとの協力を結んでいない今、望月は連れていく必要があった。
非道な手である。非情な手である。
松野一松の自棄を利用した陰謀である。
だがレオニダスの守るべき者は彼に非ず。
「ここに『炎門の守護者』の一人を置いておきます。
最悪、敵が攻めてきたときは奴が食い止めるでしょう」
「あいつのためにもう一人いなくていいのか?」
「一応彼も守るように言い含めますが…………最悪の場合、彼は彼で生き延びてもらうしかありません」
守りたいものを守るためならば敵兵の死骸すら積み上げて防塁にしたこともある
生意気な口を叩いたクセルクセスの使者を殺し、死んでもいい300人の勇士を連れて炎の門と呼ばれる土地に立ったこともある。
自分は聖人君子でも、博愛主義者でもない。
合理的に国を守る────そう作られたスパルタの王。
故に徹するのだ。
「お前やっぱり馬鹿だ」
マスターは呆れたように言った。
◆
-
「いっちー、行ってくるよ」
「…………」
「もしかしたら帰ってこれないかもしれないけど、まー何とかしてランサーのおっさんは逃がすからさ。
あのオッサンに助けてもらって」
「…………」
「あともしいたら他のサーヴァントと契約した方がいいよー」
「…………」
「じゃあ、いってくるね」
反応のないマスター。
一松にこれ以上伝えることはない。
望月にこれ以上伝えられることはない。
マスターに背を向けて出ていく。
その時。
「死なないで、“もっちー”」
初めて愛称で呼んだマスターの声を背中で受け止め、望月は微笑み。
「了解」
振り向かずに手を振って部屋を出た。
-
【一日目・夕方/B-5・高等学校A女子寮】
【棗鈴@リトルバスターズ!】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] 学校指定の制服
[道具] 学生カバン(教室に保管、中に猫じゃらし)
[所持金] 数千円程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を勝ち残る。脱出を望むマスターまでは倒さないが、聖杯を狙うマスター、聖杯戦争を辞めさせようとするマスターとは戦う
1:アイツは阿呆だ
2:『元山』は留守だったし、どうしよう…
3:野良猫たちの面倒を見る
4:他のマスターを殺すなんてことができるのか……は分からないが、帰りたいだけのマスターは殺さない
[備考]
元山総帥とは同じ高校のクラスメイトという設定です。
ファルからの通達を聞きました。
【レオニダス一世@Fate/Grand Order】
[状態] 健康、自己嫌悪
[装備] 槍
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。マスターを鍛える
1:シップと協力してヘドラを討つ。
2:マスターを勝利させる(マスターを生きて元の世界に帰すこと自体は大前提)
【松野一松@おそ松さん】
[状態] 自暴自棄
[令呪] なし
[装備] 松パーカー(赤)、猫数匹(一緒にいる)
[道具] 一条蛍に関する資料の写し、財布、猫じゃらし、救急道具、着替え、にぼし、エロ本(全て荷物袋の中)
[所持金] そう多くは無い(飲み代やレンタル彼女を賄える程度)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:???
※フラッグコーポレーションから『一条蛍の身辺調査』の依頼を受けましたが、依頼人については『ハタ坊の知人』としか知りません
※果たしていつ頃から起きていたのか(部屋に運ばれた直後から起きていたのか、望月が電話をかけている間か、あるいはたった今起きたところか)は、後続の書き手さんに任せます。
【望月@艦隊これくしょん】
[状態] 健康、強い決意、行動に対する強化(『好きにしていい』という令呪3画分)
[装備] 『61cm三連装魚雷』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:頑張る
0:望月、抜錨
1:鈴とランサーに協力しつつ、一松を守る
2:一松を生還させてあげたい
※フラッグコーポレーションに脅迫電話をかけました
-
◆
かくして開幕のベルは鳴る。
これより先は一日目を締めくくる大決戦にして空前絶後の魔大戦。K市海岸線付近は修羅の巷と化すだろう。
それを観客席から観覧するは科学の王、魔女、電脳の魔法少女の三人。
傍らに世界線変動率観測機器(ダイバージェンス・メーター)を設置し、事の成り行きを観測していた。
◆
そして、“そいつら”の存在を感知できる救世主とそのマスターはというと。
「怪物か」
「正確には怪獣だな。よもや21世紀ともなれば銀幕から本物が飛び出すとは」
「茶化すな。お前はアレの正体を理解しているのだろう」
「さしずめ星に適応とした外来種。いや、適応しそこなったというべきだろうな」
人間に滅ぼされたのは不幸な偶然であって、本来ならば土や水などと融合するはずだった異星の獣だ。
ある種、この世界における真祖と同じく地球に適応できればそれなりの星獣になりえただろう。
悲しいかな、ヘドラはそうなり得なかった。
人類が動物と違い、自然を鏖殺することすら可能な文明を持つ以上、自然に適さぬ廃棄物も多い。
ヘドラが融合してしまったのもそれらの一つ。
しかし、この世界に限ったことではないだろう。
人間は生きていれば廃棄物を吐き出す生物だ。
特に文明が進めば進むほど多種多様に変容する。
仮に二コラ・テスラのいた星でも同じように煤煙や穢れ切った海と融合して公害怪獣となる可能性が高い。
「戦うのか」
「無論だ。それが若人の輝きを奪うものであれば私は奴と戦おう」
ヘドラは文明の被害者である。だが、既に奴は人に害なす獣である。
世界に怨嗟と憎悪を吐き散らしながら世界を呪う闇の落とし子である。
若人の輝きが文明の闇に食われるのを見過ごせるはずもない。
「来い。超電磁形態」
-
【ニコラ・テスラ@黄雷のガクトゥーン】
[状態] 健康、超電磁形態
[令呪] 残り三画
[装備]
[道具]
[所持金] 物凄い大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の打倒。
0:輝きを守る
1:昼間は調査に時間を当てる。戦闘行為は夜間に行いたいが、急を要するならばその限りではない。
2:アン・メアリーの主従に対しての対処は急を要さないと判断
3:討伐令のアサシン、二騎のバーサーカー(ヒューナル、アカネ)には強い警戒。
[備考]
K市においては進歩的投資家「ミスター・シャイニー」のロールが割り振られています。しかし数週間前から投資家としての活動は一切休止しています。
個人で電光機関を一基入手しています。その特性についてあらかた把握しました。
調査対象として考えているのは御目方教、ミスターフラッグ、『ヒムラー』、討伐令のアサシン、海洋周辺の異常事態、『御伽の城』があります。どこに行くかは後続の書き手に任せます。
ライダー(アン・ボニー&メアリー・リード)の真名を知りました。
ヘドラ討伐令の内容を、ファルから聞きました。
【セイヴァー(柊四四八)@相州戦神館學園八命陣】
[状態] 疲労(少)
[装備] 日本刀型の雷電兵装(テスラ謹製)、スーツ姿
[道具] 竹刀袋
[所持金] マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の破壊を目指す。
1:基本的にはマスターに従う。
2:討伐令のアサシンには強い警戒。次は倒す。
[備考]
一日目早朝の段階で御目方教の禁魔法律家二名と遭遇、これを打ち倒しました。
ライダー(アン・ボニー&メアリー・リード)の真名を知りました。
-
投下完了します。
>>89に書き漏れがあったので修正します。
変更前:
総身が身震いする。あの波は
変更後:
総身が身震いする。あの波はこの一帯を死の大地に変えてあまりある。
まさに魔業。規模だけを見るならば黒円卓の創造に匹敵する。
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ヘドラ討伐戦前半予約します。
長いため分割していきます。
初めての分割&大人数予約のため度々延期するかもしれませんが、お許しくださいませ・・・
・空母ヲ級&ライダー(ヘドラ)
・間桐桜&アーチャー(アタランテ)
・ルアハ&ランサー(ヘクトール)
・二コラ・テスラ&セイヴァー(柊四四八)
・電&ランサー(アレクサンドル・ラスコーリニコフ)
・越谷小鞠&セイバー(アルトリア・ペンドラゴン[リリィ])
・元山惣帥&アサシン(シャッフリン)
・岡部倫太郎&ライダー(アン・ボニー&メアリー・リード)
・プリンセス・デリュージ&ランサー(ヴァレリア・トリファ)
・アドラー&アサシン(U-511)
・アサシン(ジャック・ザ・リッパー)
・棗恭介&アーチャー(天津風)
・黒鉄一輝&セイバー(ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン)
・吹雪(アニメ艦これ版)&ライダー(Bismark)
・牧瀬紅莉栖&キャスター(仁藤攻介)
・美国織莉子&バーサーカー(呉キリカ)
・ランサー(レオニダス一世)
・シップ(駆逐艦望月)
・プリンセス・テンペスト&ランサー(櫻井戒)
・ブレイバー(犬吠埼樹)
・佐倉杏子&ランサー(メロウリンク)
・ペチカ&アサシン(死神)
-
From Maxwell's equation
お前らは望んだのだろう繁栄を。願ったのだろう幸福を。
その為に山を焼き、海を汚し、空を曇らせ、今度はそれを荒廃だと、汚らわしいと罵る。
なんたる自作自演。なんたる自慰行為。
お前らのような者達が蔓延る文明こそが汚らわしい。
墜ちろ。沈め。誰一人、何一つ残さない。
◆
“標的確認、方位角固定”
“アーチャーさんは無事かな”
“輝光なりし帝の一閃!!”
“リリィさん、ごめん。ごめん。わたし……”
“【永劫休眠状態へ移行します】”
“世界線が変動しました”
“────■■、抜錨”
-
◆
『彼女』はここに来るまでに敗れていた。
ここに来た時点で沈(ほろ)んでいたのだ。
「だが、その前ニ────」
ならばこの海こそが彼女にとって『最後の希望』。そして、最後の『聖戦』に他ならない
◆
レイドイベント『ヘドラ討伐戦線』開始。
◆
今宵の戦いでヘドラは討たれるだろう。
塵塚より這い出た怪異の獣は散ってしまうだろう。
されど艱難辛苦を舐める戦いだ。
そして絶体絶命を味わうだろう。
なぜなら彼女は蒼騎士(ペイルライダー)。全人類を浄滅する黙示録の四騎士。その最後のパニッシャーだ。
ならば、彼女の前に何が立ちはだかるか。予想はつくだろう?
例えば、それは孤人で行う永劫の軍拡────赤騎士(ルベド)
例えば、それは天秤による強欲な搾取────黒騎士(ニグレド)
例えば、それは敗亡ゆえの落魂と反転────白騎士(アルベド)
そして、漁夫の利を狙うマスター達────
誇り、堕落、逆襲、順当。入り乱れる鉄風雷火と戦局模様。
楽しみたまえ、今宵の魔宴を。
苦しみたまえ、今後の展望に。
すべての真理(こたえ)は再現されるためにある。
-
正午あたりに分割1話目投下します。
-
分割1話目投下します。
-
彼等は遥かな地、天の果てより舞い降りる。
天主と憤怒の兵器が、地上を一掃するため軍勢を率いて来られるのだ。
泣き叫べ。
裁定と断罪の日、全能なる者から滅びが遣わされるのだ。
そして全ては脆く、その心は溶けて無くなる。
────────────────────────────イザヤ書13章より
◆
────これは大波がK市へ迫る前のことである。
-
「■■■■■■」
飛行するヘドラは数時間前の出来事を思い出していた。
敵はあらゆる索敵方法に引っ掛かることなく、この環境下で活動し、光の一撃で我が艦隊に大きく損耗を与えた。
知っている。識っている。判っている。あの敵を自分は記録している。
先ほど我々が討伐……主要攻略目標に設定された者とあの敵が現れたのは全くの無関係ではないだろう。
あれは艦娘。あれは旗艦。かつて、あの海で侵略してきた敵の主要戦力だ。それがここに、この場所にいる。ならば、やるべき事は唯一つ。
「ク………ハハ………」
波の音に紛れて何かの音、いや声がした。もしかすると空母ヲ級は笑ったのだろうか。
宿敵との邂逅。復讐の機会。それは確かに人間であれば暗い笑みを浮かべるかもしれない。だが、彼女は深海棲艦であり呪われた公害生命体だ。笑うことなどあり得ない。
どちらにせよ意味のないだろう。その表情を見たものはいないのだから。
◆
「ルーラー。永劫休眠状態(ルルイエ・モード)実行。
領域支配(ドメイン)内にいる全てのNPCをスリープさせてくれ」
「いいけど、一部のマスターに不利にならない?」
「神秘の秘匿が最優先だ」
ルーラーはあっそと素っ気ない返事をして虚空に手を翳す。
途端、アナウンスが流れてきた。
【領域支配(ドメイン)を強化します】
【永劫休眠状態へ移行します】
【■■への負荷はありません】
【人形は、現実を認識できない】
【この6時間のみ、K市が眠ります】
【この6時間のみ、世界が目を瞑ります】
◆
-
【D-8 上空】
K市より沖合い60キロメートルにある島。O上島と呼ばれる島の上空に空母ヲ級の姿はあった。
頭部から伸びた機翼により飛行している空母ヲ級は下界の惨状を無感情で眺める。
既に地上で動いている者は何もない。人ひとり……いや、ゴキブリ一匹すら残らず中毒で死んでいた。
崩れていく建物。液状化する地面。腐りゆく空気。島全体が溶解する。
「……………………」
空母ヲ級が死の島と化した上島に降り立つとまるで原形生物のようにヘドロ達が足元へ集う。
大量のヘドロがヲ級に繋がり、島そのものがヲ級になる。そして一塊となって起き上がったソレはヲ級へと話しかけた。
『出撃シマス』
空母ヲ級の頷きと共にソレらは本島に向かって出撃を開始した。
しかし、今までの進撃とは明らかに異なる様相を呈している。大きいのだ。全てが。
『──────!!』
言語化不能な大咆哮と共に下ろされる巨腕。右腕が海面に沈む前に左腕を。左腕が沈む前に右腕をと出し、ソレは犬掻きの要領で海面上を走っていた。
全長60メートルの巨体の正体はO芝上島だったヘドロ塊。いや、自律意思すら手に入れたこれはもはや公害怪獣『ヘドラ』だ。
より正確に言うとヘドラそのものが空母ヲ級の足から生えて水上を走行しているのだ。
「…………」
空母ヲ級はヘドラの頭頂部でただ一人そこにいた。
硫酸ミストに冒された潮風を受けながらもその精神は無我。
最大船速による強襲と最高効率の殲滅を行うだけに特化された精神の持ち主であり、それ故目の前の〝人災〟に一切感じ入るものが無い。
既にヘドラが生み出した莫大な運動エネルギーは海に歪んだ波紋を生み出し記録的な大津波となってK市に迫っているのだ。
もはやK市沿岸の人間に未来はないだろう。波はあまりにも広く、高く、そしてその海水に含まれた致死性は第一次世界大戦に使用された全ての生物兵器を凌駕する。
今までいくつの聖杯戦争が起きたか不明であるが、それでもここまで盛大に破壊し、殺戮を行おうという主従など数える程度にしかおるまい。
そして、そんな非道に愉悦や達成感、罪悪感を感じ入る思考回路は空母ヲ級に無い。
なぜなら彼女こそが新生した深海棲艦、その母体であり母艦。霊長を滅殺するシステムである。人間を殺すことに躊躇いなど無いし、そもそも同型の生物とすら認識していないため忌避感など生まれない。
しかし、それとは逆に融合したサーヴァント『ヘドラ』にはどす黒い思念が巨体を駆け巡っていた。
お前らは望んだのだろう繁栄を。願ったのだろう幸福を。
その為に山を焼き、海を汚し、空を曇らせ、今度はそれを荒廃だと、汚らわしいと罵る。
なんたる自作自演。なんたる自慰行為。
お前らのような者達が蔓延る文明こそが汚らわしい。
墜ちろ。沈め。誰一人、何一つ残さない。
元より私(ヘドラ)は接触した物質と結合して体組織を組み換えるだけの地球外生命体である。
それが汚染された海で成長し、陸に上がった姿を見た人間が嫌悪し、あまつさえ水爆で被爆した怪物に倒させて公害の象徴などとぬかす。
笑わせるな霊長よ。全ては因果応報であり、この身は貴様達が産み出した黙示録の騎士である。
それを悪と呼ぶのなら────貴様等の悪性こそが『この世、全ての濁』に相応しい。
『「─────ォォオ%@オヲヲ$ヲ!!」』
ヘドラとヲ級の叫ぶが天に木霊する。
これぞ文明の産み落とした癌細胞。
無限に増殖し、霊長の世を阻む大災害。其は文明より生まれ文明を食らうもの──親元を喰い殺す自滅因子(アポトーシス)の一種に他ならない。
彼女達のやるべき事は唯一つ。一方的に殺戮し、一方的に沈める。ただそれだけであり、それを可能とするだけの力がここにある。
海に怪獣、空には蝗害の如く万の艦載機。
兵力は十分。物資は無尽蔵。士気は至高。練度は極限。
戦場において勝つため必要なあらゆる要素が最高潮の今、負ける要素が微塵も無い。
汚泥の波が地上に届こうとしたその時、K市沿岸の空に光が差した。
◆
-
迫る汚泥の津波を打ち払うべく、神代の狩人アタランテは宝具を発動させることを決意した。
大気の汚染によって海岸はおろかその近辺にまで人間はいないものの遠くから覗いているマスターは何人かいるだろう。
これだけおおっぴらに宝具を解放すればまず間違いなく真名は露呈する。アルテミスとアポロンに縁のある弓使いなどオリオンとパリスを除けば自分ぐらいしかおるまい。真名の露呈は間違いなく、これからの戦いに不利なると分かっている。
だが、この津波が陸へと届けば被害は甚大だろう。無論、マスターのいる山中にもだ。
故にアタランテはこの事態を看過できなかった。
何故なら彼女の願いは子供達を救うことだから。
『我が弓と矢を以て太陽神と月女神の加護を願い奉る』
文を携えた矢を番え、天に向けて射る。
猛毒の津波が迫る刻、アタランテの全力(いのり)が今、天上よりもたらされようとしていた。
『災厄を捧がん──』
女神の祝福を受けた弓で天へと放たれた矢文。
矢文の内容は請願。月女神と太陽神の二柱へ加護を求める内容が書かれている。
天穹の弓(タウロボス)によって加護を求める矢文は上へ、雲を越えて天へ昇った。空に吸い込まれるようにして見えなくなった矢文の座標に光が溢れ、道を譲るようにして雲が退く。
その神々しき光景とは裏腹にこれより始まるは神なる災い。神罰という名の虐殺。カタストロフ級の破滅に他ならない。
アタランテの請願に応えて大気が鳴動する。そして────
「────『訴状の矢文』(ボイボス・カタストロフェ)!」
弾ける神災の波動と共に原始の神が、地上へと殺戮の光(や)を降らせ始めた。それも一本や二本ではない。見渡す限り一面を光の矢が埋め尽くしている。
雨霰と降り注ぐ神気の矢が津波を削る。いや、津波だけではない。上空では制空権を確保するべく硫酸ミスト内を飛んでいた爆撃機が次々と射抜かれ、既に数千機が爆発四散していた。
対軍どころか都市丸ごと破壊できてもおかしくない規模と威力である。だが……
「駄目か……私の宝具だけでは足りぬか」
それでも大津波は削りきれなかった。
こちらもまた最大最悪の破滅。神威の矢をもってしてもあの大質量を削りきることはできなかったのだ。
歯噛みするアタランテ。しかし、ここにいるのはアタランテだけではない。もう一騎、ここにいる。
アタランテの400メートルほど後ろにセイバー『ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン』が立っていた。
創造
「───Briah───」
戦姫変生 ・ 雷速剣舞
「Donner Totentanz ―――Walküre」
-
蒼雷が舞う。雷鳴が響く。
雷が真横に流れるという自然現象にあるまじき軌道で放射状に広がり、津波を蒸発もしくは爆散させ一つ残らず消し飛ばした。
蒸気と僅かな雷電のみ以外、津波のあとは微塵もない。
そして────
「────────────!!」
ここからが本当の戦いである。
津波が消え去り、神光と月光と雷光で怪物の皮膚に張り付いた油膜がてかてかと照らし、その大きさと形状を明らかにした。
あれこそが討伐対象──ヘドラ!
「見るも悍ましい姿だな」
誰かが呟いた。
それはヘドロの塊に手足を付けたような格好であり、英雄とも魔獣とも呼び難い。少なくとも流動する汚泥に敬意を払う人間などいないだろう。
だがそれ故に英霊としての能力は未知数だ。あらゆる常識が通じない存在だと断言できる。
海岸付近にいたサーヴァント全員が巨体を視認したその時、ヘドラの顔にあたる頭部の一部がばっくりと割れ、黄金の虹彩を持つ赤い物体が出現した。
「あれは……目か?」
爬虫類のようにギョロりと周囲を見回し────赤い目玉が発光し始める。
◆
────索敵完了。
────敵ナラビニ主要攻略都市ヲ確認。
────主砲装填。
体内のヘドリュームが崩壊し、混じり 、合わさり、融合を開始する。
高温・高圧の反応炉は次第に熱量を上げていき、黄金瞳が光を吐き出し始め、それを浴びた周囲の海水が水蒸気爆発を起こすと同時に黒い粘液へと変容する。さらに発生した気流により硫酸ミストがヘドラの周囲に渦巻いた。
正に死や終末を予感させる光景だった。
まるで地獄の太陽。光によって生命を育むのではなく、触れればあらゆる命を消し去る死の塊。
致死レベルの熱が表面上でも起こり、あらゆる命を蒸発させる魔の恒星。
臨界点に達したソレが今!
核兵器に匹敵する破壊力が今!!
「砲雷撃戦、開始」
ヲ級の号令と共に発射された。
◆
-
発射の衝撃波で周囲のヘドロは消し飛び、まだ溶解していない海底の岩ですら粉微塵に粉砕する。
光線の通った後は蒸発と熔解が起きてモーゼの如く溶岩の海割りが出来上がる。
(あれは無理だ)
アタランテは理性と本能で理解する。兵器としての出力が違いすぎる。盾、城、結界、幻獣、魔獣、神獣、いかなるものでも防げぬ絶対値をあの光線は有している。
現状、アタランテの力でアレを防げるものはない。
嵐を思わせる轟風が海岸の砂塵を根こそぎ巻き上げる。
ヘドリューム光線は海岸にいたアタランテに向けられたものではないが、発射された余波に吹き飛ばされないように踏みとどまるだけで精一杯だった。
彼女がそうしている間にも破滅の光は延びていく。市街に命中すればどれほど凄惨な光景が広げられるか考えるまでもないだろう。そしてそれを止める力はアタランテにない。
よって、アタランテは相方に任せることにした。
◆
-
時間を数十秒ほど巻き戻す。
ランサー、ヘクトールは海岸を見渡せる位置からヘドラの巨体を目にしていた。突如として輝き出したあの黄金瞳は大英雄に戦慄を促すに十分だった。
ヘクトールは理解する。あの目から這い出ようとしている光は間違いなく街を完全破壊すると。
「ヤベェなこれは」
軽い口調で言うも表情はこれまでにないほど真面目だ。
“アレ”は神々がもたらす災厄と同じで、意思のある災厄はある程度の目測を立てられる。
殺意の方向、大きさ、深度。そういったことからあの怪獣は人間のいるところを標的に定めると予測できたのだ。
「要は皆殺しってわけか」
鏖殺。滅尽。滅相。根絶。
あらゆる生命を滅殺せんとする死の現象が光となって目から溢れ出している。
今からでは発射前に目を潰すことなど不可能だ。仮にできたとしても行き場を無くした破壊力は爆発し、海岸にいるアタランテは助からないだろう。それは勝利ではない。
かといってあれを防ぐ盾も城もここには存在しない。ならば市街地に届く前に相殺するしかない。
そしてそれが可能なのは無論、宝具をおいて他にない。槍を投げる構えへと変える。
「標的確認、方位角固定」
魔力を受けて黄金の光が極槍の穂先より溢れ出す。
ヘクトールの貴重な全力全霊。それが今、ここで発揮されようとしている。
刮目せよ。これがトロイア最高の戦士の一撃である。
「不毀の極槍(ドゥリンダナ)!」
筋が千切れんほどの力を込めて放たれた槍は地上の、世界の、この世のあらゆるもの貫くとされた貫通力を有する。
そして投擲と同時に怪物の目からも死の光が発射された。
激突する神話の一撃。
衝突の衝撃で周囲の建物は粉砕して瓦礫が弾けとんだ。
音もまた世界から瞬消滅し、次の瞬間には悲鳴の如き金切り音が発生する。
衝突点から死の光がまるで霧状スプレーのように拡散し、その大半が空中で消え失せていった。
対照的に槍は核熱を浴びても溶けることなく原形を保ち続けている。
それもそのはず。穂先は後に不滅不壊で名を馳せる絶世剣デュランダル。数多の伝説に名を残し、キリスト教世界を代表する聖剣のひとつだ。聖遺物が埋め込まれていない状態であっても神秘の薄い一撃で壊せる道理はない。だが、槍の完全性が高くとも勢いは光線の方にあった。いくら補助出力があろうと人力ではこの光線を止めるほどの勢いがない。よって止まったのは数秒で、必殺の投槍は弾かれてヘクトールのいる市街へと落下する。
「ちっ、やっぱ無理か。
俺にもアイアスやアキレウスみたいな盾があればなぁ」
元より彼の宝具は全て攻撃の逸話で生み出されたものだ。防ぐことには向いていない。
なので僅か数秒しか止められない。
しかし、その数秒で次の者が間に合った。
◆
-
雷光と共に巨大な人形が出現した。
白銀と黄金。そして雷電で構築されたそれは『電気騎士(ナイトオブサンダー)』。
セイヴァーのマスター、ニコラ・テスラの切り札にして最終形態である。
弾かれた不毀の極槍と交替する形で出現した彼は即座に盾を展開した。
『────白銀の盾(アーガートラム)!!』
白銀の盾4つが光線を遮るべく重なり合う。
『如何なる質量も。如何なる熱量も。我が盾を通すこと能わず』
その宣告を証明するようにヘドリューム光線は最初の一枚が受け止めていた。
雷電の防御膜を纏い、あらゆる幻想、あらゆる物理を防ぐ最高の盾。
かつては世界法則すら書き換え、万象を引き裂く魔手すら防いだこの盾を突破できるはずも無い────相手がヘドラでなければ。
『む?』
盾に雷電が通らない。
次第に電流の伝導率に狂いが生じ、遂にただの鋼鉄の盾と化した一枚目が砕かれた。
これは元来ありえぬ事象だった。電気騎士と白銀の盾を通る雷電はニコラ・テスラそのもので、彼にとっては服の袖に手足を通すくらい簡単なことだ。それが急にできなくなるのは一体どういう不条理か。
そうこうしているうちに二枚目が砕かれ、三枚目が冒され始めている。
核熱の脅威に気を取られている者が多いが忘れてはならない。この光線は触れれば公害に汚染されるヘドラの攻撃であるのだ。ヘドリュームから生まれ、放たれた以上、これに触ることはヘドラに接触することを意味する。
ヘクトールの槍と違い、白銀の盾は神秘が薄く、マスターの装備であるため霊位も低い。ニコラ・テスラ自体が神秘の塊であるが、彼自身ではない。そのため徐々に侵食が進む。
ならば白銀の盾にいかなる汚染が加わったのか。碩学である彼は一つの答えに行き着く。
『────放射線か』
テスラの推測は正鵠を射ていた。
放射線。放射能汚染。
世界最新で最悪の公害。原子力という巨大な力に付随する形で現代に現れた災厄である。
人体が冒されれば遺伝子を始めとする数多の機能が崩壊し、物体であれば分子構造が破壊される。あらゆるものが劣化し、役に立たなくなるのだ。
ましてやヘドラの魔業が加わればどれほど強固な分子結合を行っていようが破壊される。万物を貫くといってもいい。
故に白銀の盾に核熱自体を防ぐ能力があっても構成物質自体を異次元の法則で換えていかれては流石にどうしようもない。
しかし、まだ手はある。
────電気騎士。最大出力。
『輝光なりし帝の一閃(ギガ・ユピテル・バスター)!!』
K市の夜空が昼と間違うほど光りに溢れる。電気騎士から生じた雷神の光柱に暴力を匂わせるものは一切なく、まるで抱擁の如くヘドラの光線を更なる光で塗り潰す。
そして、光柱が消えた時、白雪のごとく降る光の粒子を残して放射能も核熱も雷電も電熱も、そして電気騎士も残らず消滅していた。
◆
-
山頂の廃屋で間桐桜とルアハ・クラインは趨勢を見守っていた。
彼女ら二人にはそれしかできない。何が起きているかもわからず、自分のサーヴァントが宝具を使う時だけが唯一繋がりを感じる瞬間だ。
「人形さん」
「はい。なんでしょうか桜様」
「アーチャーさんは無事かな」
「いいえ。はい。私には分かりません。ですが、あなたの令呪が消えない限り、彼女達が消えた、ということはあり得ないでしょう」
「そうだね。うん、アーチャーさんはまだ大丈夫」
ルアハは少女を見る。
山小屋に貯えられていた毛布に身を包んだ少女を。
夜の高山地帯は大変冷える。ルアハの硝子細工の目は、少女が毛布から露出している寝間着の温度が低いことを検知する。
逆に熱を発しているのは魔術回路だ。本日既に宝具が二度使用されている。
「桜様。小屋へ戻りましょう。外よりいくらか温かいはずです」
「嫌。ここで見てる」
「いいえ。貴女の健康を見るようにとランサー様から命令を入力されています。その申し出にはお受けできません」
「じゃあ貴方が温めて」
「了解しました」
そういうとルアハは桜を抱きしめた。
機関の体からほんのりと伝わる熱が桜を温めていく。
少女達の境遇は似て非なるものだ。
愛されていた故に全身が機械と化した少女と、ただ道具として全身の肉を苗床とされた少女。
それでも二人に共通点があるとすれば
それは、二人ともそうしなければ死んでいたという事だろう。
◆
-
電は戦場へと向かわなかった。臆病風に吹かれたのではない。彼女とて艦娘である。戦場に行くこともそこで果てることも覚悟している。
彼女がここにいるのはランサー、アレクサンドルの判断だ。
今回の討伐令により海岸とその近辺にサーヴァントが集中するのは明らかだ。そんな所にノコノコ行くのは死にに行くようなものだと彼は諭した。
だが、それでも彼女は同行を申し出た。マスターとしての責任感か、あるいは深海棲艦を倒すという艦娘の使命感か。
「マスター。お前はここに残れ」
「────いいえ。電もあなたと行きたいのです」
「聞いていなかったのか?」
「聞いていました。でも……」
出かけた言葉がランサーに頭を撫でられたことにより驚愕で止まってしまう。
失礼ながらランサーはこのようなスキンシップをする人柄には見えなかったのだ。
「お前のすべきことは戦いではない。それに行っても役に立たん」
「それは……」
「そして私の宝具は無差別だ。守護には向かない。マスターと守護に向かないサーヴァントが一緒にいたところで死ぬだけだ」
「はい……」
「ならばお前は、お前のすべき事は待つ事だ。そして、もしも私が破れた時は子ども達を守ってほしい」
「ランサーさんが破れるなんて、そんな」
「忘れるなマスター。『英雄などどこにもいない』
都合よく物語に登場し、都合よく人々へ幸福をもたらす存在など現実にはいないのだ」
独白のように彼は言い、先に発った。
◆
-
震える。怖くて、怖くて、怖くて仕方ない。
越谷小鞠は歯の根が合わず、ガチガチと震えていた。
戦場の凶気が、戦乱の狂気が、戦士の戦意が渦巻いているのを肌で感じる。
大津波が迫り、光の雨が陸と海を破壊し、大音響と稲妻がそれらを地盤ごと攪拌して、死の光が応酬され、終いには夜が昼になる────文字通りの天外魔境だ。
一つでも自分に向けられていたら死んでしまったに違いない。そう思うと怖くてたまらない。もはや夕方誓った覚悟は折れていた。
何が同盟だ。何が協力だ。私はマスターのフリをしていただけの子供だ。
越谷小鞠は中学生だ。ただの、ちょっと都会から離れたところに住んでいた女子だ。
戦時中であれば疎開先に選ばれてもおかしくないほどのどかな場所に住んでいた彼女に神威魔業の交わる魔戦に適応できるはずがなく、故に泣いて逃げ出しそうなほど怯えていた。
彼女にとって美徳であり悲劇であったのはセイバーという、ヘドラをなんとかできるかもしれない力を連れている責任感があったことだろう。
午前の中学校襲撃時といい、今回といい、聖杯戦争参加者として被害を減らそうという想いが彼女の中にある一方で全く荒事に向いていない。
仮に生存競争に慣れた者ならば中学校襲撃時に一般人に紛れて逃げるだろうし、ヘドラ討伐を無視して他のマスターを討つことを考えただろう。
彼女の在り方は善人、王道といえば聞こえはいいだろうが生存競走において愚者であることに違いはない。
しかし、いやだからこそ。彼女に呼応したのは花の騎士姫。後に騎士王と謳われる少女だった。
◆
-
花の少女騎士。クラスはセイバー。名をアルトリア・ペンドラゴン。愛称はリリィさん。
越谷小鞠のサーヴァントである彼女はマスターを護衛しつつ戦場へと近付いていた。
「リリィさん、ごめん。ごめん。わたし……」
「いいんですよ。マスター」
修羅場の空気に酔ったマスターの背を撫でる。
この年でこんな場所に慣れている方が異常なのだ。
混沌が渦巻き始め、夜の帳すら拭い去られ、リリィですら戦慄せざるをえないこの戦場。誰も彼女を責める者などいないだろう。いたら自分が許さない。
戦場が近づくにつれて大気の汚染濃度が上昇し、人間のマスターではどのみちこれ以上の接近は無理だろう。
どこか適当な建物にマスターをどこかで休ませよう……とを考えた刹那、セイバーに虫の知らせのような危機感がよぎる。
この場に居るのはマズイ、と。
「マスター。少し失礼します」
「うわ、リリィさん!」
少女にお姫様だっこされた越谷小鞠は絵的にも立場的にも慌てるが、それはセイバーも同じ。
脱兎の如くその場を脱した。その直後────怪人が通った。
◆
-
「新しい我が主」
「なんだ」
「ひとつ、お願いがあります」
神妙な顔でアサシンはマスターへと請う。
「私に、この街を守るため出陣せよとお申し付け下さい」
本日三度目の戦闘。優秀な魔術師でも疲労極まる行為を彼に請う。
確かにマスター替えを行った直後に忠義もへったくれもないが、それでも兵と将の上下関係は絶対である。
「何故だ?」
「それは……」
言えなかった。令呪の効果はおそ松が死亡した時点で強制力をほとんど失っている。
もしおそ松邸を襲ったり、彼の家族を害しようとすれば令呪が発動するのかもしれないが、少なくとも放置している分はさほど問題ない。
しかし、この街そのものを破壊しようとする存在がいる以上、彼等を見捨てることはできない。
これは感情論ではない。兵士として生み出された人造魔法少女シャッフリンとして命令が遂行できないことは存在理由の否定を意味する。
故になんとかしてこの願いを聞き届けなければならない。
今は亡き前の主の遺命であるからでございます。
と言えばおそらく、反対されるだろう。敗退せずに自分と契約した以上、自害はさせられないだろうが令呪で何らかの制約はつけられるかもしれない。
代替案を提示しなければならない。 既にシャッフリンの脳内にはヘドラ討伐に参加するメリットをいくつも考えておき、説得材料を何種類も用意していた。
しかし、それも無意味になった。
「まあいい。私も奴を倒そうかと考えていたところだ」
「え?」
予想外の反応に間抜けな声が出る。まさか何も提示せずに許されるとは思っていなかったからだ。
「奴はこの被写体(まち)を汚そうとしている。それだけで────いや、違うな」
美しくないものは消すべきだった。
不完全なものは破壊すべきだった。
アカネは美しくも完全でもない。だが、消えてほしくなど無かった。
それは何故か。分からない。感情の変調に思考が追い付かない。
頭をスッキリするために暴れたかった。いつもの元山ではあり得ない蛮脳であるが、他に思いつかなかったのも事実である。
元山はスイッチを押していた。
変身後の元山は右手に剣、左手には女性の顔を模した盾。筋肉は隆々と化し、顔は鮫のような形をしていた。
窓から飛び出し、路上に着地して怪人の走力で海岸へと駆け抜けた。
(まだ分からないんだ……自分がどうしたいか)
◆
-
「貴女もヘドラの討伐参加者ですか?」
「そういう汝も同業者のようだな」
雷光を纏った戦姫と神話の狩人が油断無い気配で応対する。互いに体はヘドラへ向けたままだが、武器を構えていつ相手が襲ってきても後れを取らぬように隙が無い。
主目標はヘドラだとしても漁夫の利を狙う輩の可能性は決して低くなく、またいつか殺し合う関係とあらばこの当たりが妥当な対応だろう。
アタランテは横目で雷女の服装から真名を探り当てようとする。
聖杯より得た知識でこの国の先の大戦における同盟国であるドイツ……俗に言うナチスの着ていたSS制服だと分かる。つまり少なくとも100年は経っていない英霊だということで、神秘のほどはアタランテの足元にも及ぶまい。
しかし、それだけに気になるのは先ほどの汚泥を吹き飛ばした雷撃だ。雷神の血縁……いや、雷神の直系でも無いと説明のつかない出力だった。
ナチスは神秘の品を集めていたとされる。この女の宝具も十中八九ソレと思われるが、その場合ここで問題が一つ起きる。この女の宝具は一体どこの、どんな宝具なのか分からないということだ。
雷神、天空神の存在する神話は世界各国に存在し、そのほとんどが戦神だ。つまるところ『雷神関係の剣と思わしき宝具』では真名解放でもしない限り分からないし、直接の所有者ではない英霊の真名など輪をかけて分かるまい。
そして逆にアタランテの真名は露呈したと思ってよい。
「先ほどの稲妻、見事だった。さぞ名のある英霊と見受ける」
「貴女こそ先ほどの光の雨、見事でした。こういった状況でなければ正々堂々とやり合いたいのですが……今は状況が状況です。手を組みませんか?」
「残念ながらこの場での約定など無意味だ。汝のマスターも私のマスターもここにいない以上、いつ裏切るかもしれん同盟など組めん」
「そう言って騙し討ちをする機会を捨ててるだけで充分信頼できますよ。
これでも外道の見分け方には自信がありますので」
「ならば好きにするがいい。ただし私の邪魔をするな」
「それはこちらの台詞です。巻き込まれて死んでも文句言わないで下さいね」
二人の言葉には棘がこもり、口調は冷淡であるものの事実上の共同戦線だった。
アタランテの言った通り約定は無いが、向かっている方向性は同じである。そして相手(ヘドラ)の強さは見ての通り規格外。少なくともヘドラ討伐まで騙し討ちをするだけのメリットは互いに存在しないのだ。今ここでやり合う必要は無い。
二人の会話が切れるのを待っていたかのようにヘドラの全身が震えだし、次の戦術を展開し出す。
ヘドラの巨体がバラけ、ヘドラの総体が7:1:1:1の割合で分かれる。小さな汚物の山はそれ自体が意思を持つスライムのようにうねりながら三手に分かれて海岸に上陸した。
そして次の瞬間。空母ヲ級の口からポツリと平坦かつ無機質に、だが絶対の開戦宣言が為される。
「────全艦、抜錨」
先ほどの核熱光線すら序の口に過ぎなかったと誰もが理解した。
◆
-
「何……だと……」
アタランテは驚愕する。
◆
「これは……!」
ベアトリス・キルヒアイゼンは目を細め、櫻井戒は眉を顰めた。
◆
「こいつは……」
ギリシャ神話の大英雄ヘクトールからは飄々とした態度が失われ険しい表情を見せる。
近くで倒れているニコラ・テスラも、その付近にいたセイヴァーも、何が起きたかを知覚して海を見る。
◆
「……」
アレクサンドルはいつもの無表情のままだが、それでも視点を海に向けたまま。
◆
「クソ!」
急停車した電車の中で岡部倫太郎は悪態をつく。
NPCが眠った今、運転する者はいない。
停車することなく駅まで特攻するような事態にならなかったのは幸運といえるのだが、今の状況で電車に閉じ込められるのはどう考えてもマズイ。
「ライダー! 斬り破れ!」
「了解」
電車のドアがカトラスによって斬り裂かれバラバラと地面へ転がった。
岡部はそこから踊り出し、地面の感触を足の裏で感じる。
足に衝撃が走り、痺れる。衝撃を堪え、それでも何とか足を踏み出そうとした。
その時、だ。
「何ですの!?」
アンが困惑の声を上げた。
◆
「おやおや」
合流したマスターが隣で絶句しているのを横目に、ヴァレリア・トリファは呆れた声を出した。
◆
-
────カエセ。
────返せ。還せ。帰せ。反せ。
────カエセ。カエセ。カエセ。カエセ。カエセ。カエセ。カエセ。カエセ。カエセ。
本体から分かれた腐毒の肉。母艦の号令に呼応してそれらの細胞が深海棲艦として変貌し、奈落から這い出る亡者の如く次々と塊から唸り声を上げて這い出てくる。
この時、この戦場に戯画めいた兵力が現出した。
その総数、数万。
ほとんどが駆逐艦イ級であったが中には軽巡洋艦、潜水艦、補給艦、練習艦、軽空母がいて、それらは塊のまま陸へと進軍を開始した。
本聖杯戦争最初にして最大の大戦争が今、火蓋を切ったのだ。
突然現れたサーヴァントステータスのあまりに情報量にマスター達は軽く吐き気を催した。そして、次に展開された悪夢のような光景に実際吐いた者もいた。
本体より分かれた小さな山は総数の十分の一程度に過ぎないが、それでも数千を越える深海棲艦が存在する。無論、彼女たちは陸で速度を出すどころかまともな前進すままならない。
だが、魔業を負った彼女らはそれを可能とする。同胞を踏み潰し、飛び散ったオイルや溶解した肉片が大河となり、その上を進み始めたのだ。
自分等こそが人類を滅ぼすモノであると自負するように踏み潰されるモノも、踏み潰すモノも汚泥を爆発させ、一心不乱に街へと迫ってくる。
彼女らのオイルや遺骸、排煙(こきゅう)すら腐毒の塊であるゆえ地上のものは溶解し、硫黄や水銀混じりの汚汁となったそれらが深海棲艦の屍山血河と混ざって溢れ出す。
──────地獄だった。
比喩ではない。この世に存在した如何なる戦場よりも毒気と悪意に溢れている。
潰れた深海棲艦が積まれた賽の河原。魔毒に満ちた三途の毒河。塩基性の悪臭が立ち込め、亜硫酸ガスが空気を塗りたくる。
此処こそが現界した公害地獄そのものである。
ヘドラから伸びる三つの河の進出を止めるべくいくつかの主従が動いているが、相手は数千。移動だけで数百から二千以上を消費し、また一山いくらの雑魚の群れで構成されているとはいえ、それでも質を凌駕する数だった。
だが、魔艦隊の勢いそれだけに留まらない。
奮戦する英霊(にんげん)達を嘲笑うかのように中央本体の大塊からそれぞれの塊に一体ずつ、完全人型の深海棲艦が投入された。
汚泥の大河を滑り、或いは同胞を踏み砕きながら移動するそれらは深海棲艦最高戦力であり魔艦隊の大隊長。
蒼騎士(ペイルライダー)の前に存在する白(アルベド)、赤(ルベド)、黒(ニグレド)の騎士である。
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分割1話目投下終了します。2話目は夜に投下する予定です。
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分割2話目投下します
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【D-3 △△港】
「カエセ」
グシャリ。
「カエセ、カエセ」
グシャリ。グシャリ。
「カエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセカエセ」
グシャリ。グシャリ。グシャリ。グシャリ。グシャリ。グシャリ。グシャリ。グシャリ。グシャリ。グシャリ。グシャリ。グシャリ。グシャリ。
蠢く黒い塊。
アスファルトで舗装された港湾部の道を溶解しながら侵攻する群れ。
夜の闇の中、無数の赫や蒼色の目だけが光っている。そこへ────
「五月蝿い」
飛び込む怪人、元山惣師。
右手に持った剣で一閃すると紙屑のように深海棲艦達が裂かれる。
剣自体の切れ味自体は悪くない方だが、ここで注目すべきは切っている元山惣師の膂力だろう。物を切断する技能自体は皆無に等しい故に、刃物の切れ味を無視した破壊力を発揮している彼が見かけ倒しではないことを証明している。
とはいえそれでも数の差は性能を無視して圧倒的であり集中砲火を浴びれば死あるのみ。
「──────!!」
数十を超える砲と機銃掃射が元山を襲う!
「主を守れ!」
だが、その砲撃を彼のサーヴァント『シャッフリン』のクローバーのエースが全て弾き落とす。
否、エースだけではない。クローバーの模様の少女が何体か実体化し、野球のバッターのように棍棒で打ち返しているのだ。
無論、何発も打ち返せば棍棒は次々とボロボロになるが関係ないとばかりにクローバー達は深海棲艦へと突貫する。
グシャリ。棍棒が振るわれる度に深海棲艦が潰れたトマトのような有り様になる。
恐るべき速度で敵の数が減っていくが、やはり物量差が圧倒的であり、元山達に反撃するものは僅かで大半が彼等を無視して侵攻し続けている。
アレクサンドルと違い、白兵戦でしか能がないシャッフリンでは─── それが目的ではないが ───足止めすらままならない。
深海棲艦達は行き掛けの駄賃とばかりに砲を放っては無視して進んでいく。
◆
-
「ほぅ、群体のサーヴァントか」
望遠鏡で元山とそのサーヴァントの戦いを観戦しながらアドラーはファーストフードを口に運ぶ。
漁夫の利を狙っていたアドラーは戦いの気配を察し、U-511を港へと差し向けていた。以前、この近辺で深海棲艦に物資を奪われたという忌々しい記憶が蘇る。
「魚雷、撃ちますか?」
U-511がトランシーバーでマスターに問いかける。
U-511の問いに落胆と侮蔑をこめてアドラーは答えた。
「貴様はマヌケか? ここで奴を撃てば自分達を狙っている者がいることが丸わかりだろうが。
それに同じ事を考えているマスターがここにいればそいつらは姿を隠す。そんなこともわからんのか貴様」
「すいません……」
「あの黒いのに殺られればよし。あの数に抗えず逃げようならば、その時討てばよし。万に一つでも生き残ればその時に討てばよい。
無論、同じことを考えている輩がいるかもしれんがな」
その時はあの怪人共を倒したそいつらを討てばよい。できずともこちらにデメリットは無い。
夜間におけるU-511の隠密能力は格段に上昇するため攻撃を仕掛けても被害を被る可能性は極めて低い。
しかし、問題が一つある。
大気汚染によって近寄れないアドラーは遠距離で指示を出すしかない以上、観測場所と方法が限られる。
裏を返せば他のマスターも同じことを考えるだろう。サーヴァントが近くにいない今、他のサーヴァントとの遭遇は死を意味する。
故に一番見張らしのいい場所を使えないため視界が限られている。
加えて念話の使えないアドラーは通信手段も無線機に限られてしまう。市場で手に入れた最新の無線ではあるが、ヘドラの宝具のよって雑音や騒音が紛れ込み、加えて無線機自体の耐久力も心許ない。
工業排水特有の悪臭が鼻腔を突き、夜風がアドラーの皮膚を撫でる。
仕掛け時を見極めなければなるまい。最悪の場合、U-511の自己判断で動かさねばならないが、あの知能では期待できまい。
どこぞの反逆する電光戦車に比べれば兵器としては正しい。だが、兵士としては使えん。
せめてあの怪人(バカ)に釣られる阿呆がいてくれればと思ったその時、その阿呆が現れた。
◆
-
「勝利すべき(カリ)────」
セイバーリリィは剣を振るう。
ただし、その剣先は元山でもシャッフリンでも深海棲艦の群でもなく────その直上。
「────黄金の剣(バーン)!!」
およそ四割ほどの出力で放たれた聖剣の光はそこにいた〝白い少女〟に命中した。
狙った理由は直感。
暴れる怪人より、数多いるアサシンより、群を成す深海棲艦より、聖剣を振るうべき相手はあの少女だと理解した。
空中にいた『ソレ』に回避する術など無く、選定の剣から放たれた光が直撃し、爆発、周囲にも破壊光の残滓が降り注ぐ。
残滓といえど高密度の魔力である。光滓に触れた倉庫の天井や壁に爆炎の華が咲き、著しい破壊を受けた倉庫が自重に耐えきれなくなって倒壊する。
そして直上であった故に元山達へ降り注ぐ光は少なく、シャッフリン達がマスターを守ることに成功した。
「何だコレは?」
「マスター。新手のサーヴァントです。ご注意を!」
破壊痕だけみれば余人には何機もの戦闘ヘリが機銃掃射したとか、あるいは爆撃されたとか、手榴弾を数百個投げ込んだのだと思うだろう。
撃ちだされた光の一撃は激しい破壊の爪痕を残していた。
「えっ」
だというのに。直撃し、無数の爆熱に晒されたはずの『ソレ』は原形を保っていた。
いや、それどころか両手に装着している黒金のガントレットがひび割れて火が噴いているところ以外、特に傷らしきものがない。
その瞳に憎悪の炎を滾らせて、己を光で焼いたリリィを補足する。
『ソレ』は跳ねてリリィへと襲いかかってきた。
◆
-
黙示録の赤い騎士。
あらゆる人間にあらゆる戦争を引き起こす神の使い。
戦禍の産み手、戦の扇動者。『ソレ』はつまり戦を引き起こさせる象徴である。
故に、彼女こそが赤騎士(レッドライダー)。未来永劫に蓄え続ける一つの要塞。戦争の使徒に他ならない。
古代より戦とは偶然や一人の英雄によって左右されるものではない。無論、例外があるが大抵は兵略や戦力、そして物量がものをいう。
故に平時における軍の在り方として四世紀のローマの軍事学者ウェゲリウスはこう格言を遺している。
『汝平和を欲するならば戦に備えよ(レッドライダー・スラッジ)』
爆発的に高まる魔力濃度と共に赤騎士────戦をするための戦備の象徴たるライダー『集積地棲鬼』は己の宝具を晒した。
◆
-
地面スレスレを弾丸の如く飛来する巨大な力。大いなる鋼鉄にして要塞の具現たる赤騎士は宝具の名を口にする。
「ばっ」
リリィは馬鹿なと言おうとするも二の句が継げない。それもそのはず、ヘドラの末端がなぜ宝具を使えるのだ。
宝具とはその英霊の象徴である。固有の武器や逸話などがそれに該当する。だが、彼女が晒した宝具の真名は固有武器でも逸話でもない、〝ただの格言〟だ。言葉を遺した本人ならばともかく怪物の、それも末端の一つがそれを宝具にするなどあり得ない。
しかし、現実はリリィの困惑を無視して続く。
先ほどまで深海棲艦の群れが作っていたヘドロが鋼材に、弾薬に、燃料に代わる。
その間にもリリィへと向けられる大振りの一発。鉄槌を思わせる鉄拳がリリィの胸元めがけて振るわれた。
「───────」
避ける。避けなければ死ぬと直感が告げている。
身をねじって躱す。
しかし、拳によって作り出された風圧が小柄なリリィの体幹を揺さぶり、体制を崩させる。
「あ」
まずいなどと口にする前に避けたはずの拳が裏拳となってリリィに襲い掛かった。
石柱を高速で叩き込まれたと錯覚するほどの衝撃が胴体に駆け抜け、肺から息が抜ける。
リリィの矮躯が吹っ飛び、船に載せる予定のコンテナ群へ突っ込んだ。リリィがぶつかった衝撃でコンテナがボーリングのピンのように吹っ飛ぶ。
しかし、これでもマシな方だろう。距離が近いこともあって威力は低かった、はずだ。もう少し離れていれば胴が胸部装甲のプレートごと潰されていたに違いない。
「ッ!」
続いて振るわれた拳を転がることで回避する。敵の拳はコンテナを凹ませるどころか貫通していた。
先ほど鉄槌と表現したが、これではもはや破城槌だ。間違いなく敵は膂力、耐久力が共にサーヴァントの域にある。
加えて、目を背けたくなるようなバッドニュースがもう一つ。
赤騎士は存在するだけで周りを溶解させる。作り出されたヘドロの一部が弾薬や燃料、鋼材に変化してライダーのガントレットへと吸収されていく。
呼応して上がり続けるライダーの魔力濃度。目の前で膨れ上がる圧が意味するところは一つ。
「自給自足……物資を補給して強くなっている」
赤騎士が跳んだ。今度は地面スレスレではなく高さ7メートルほど。
そこから一気にリリィに向かって落ちてくる。
爆発的に膨張した機械的な黒いガントレットがリリィへと降り下ろされた。
リリィは左へ跳んで躱すも……その怪腕の風圧と生み出された衝撃波で吹き飛ばされる。
「くぅ」
何とか受け身を取り、敵へと目を向けたリリィの前に壮絶な光景が広がっていた。
まるで隕石が落下した如く、巨大なクレーターが出来上がっていた。
破壊によって巻き上げられた土砂や瓦礫がようやくパラパラと降ってくる。
あれが当たっていたらと戦慄した時、ドサッという音と共に少女らしきものが落ちてきた。
アサシンのサーヴァント『U-511』である。
◆
-
U-511(わたし)は驚愕する。
敵は空母ヲ級と聞いていたのに、なんで彼女が出てくるの。
集積地棲鬼は深海棲艦の中でも特殊なカテゴリに分類される存在だ。
それは陸上要塞。陸地に適応した深海棲艦であり陸上での機動性を損なわない。
(それに現れたもう一騎の英霊。たぶん真名はアーサー王かな。)
宝具の真名を直接聞いたわけでは姿・形を確認したわけでもない。
だが、英霊の座に召された者であの剣の輝きがわからぬ者などいない。
『アサシン。現れた二騎を確認しろ。特に光を放った方だ』
『Jawohl』
潜行し光源のところへ直行する。
夜間に気配遮断の特性が強化されるのはユーの特権だ。だから見つからないし、サーヴァントの位置はだいたいわかるから遅れはとりません。
そう思っていたから────次の瞬間。全身が砕かれるような衝撃と共に自身が宙へと舞い上がった時は何もかもが分からなかった。
神経すらも麻痺して壁にぶつかったと思えばそれは地面であり、方向感覚すら狂っている。
ようやく血反吐を吐き出し、混濁する意識の中で何とか周りを見渡すと自分はどうやら穴の中にいることがわかった。
穴の表面は次々と溶解し汚泥となってクレーター中央の集積地棲鬼へ流れこんでいく。さながら蟻地獄のようにU-511の体もまた集積地棲鬼に向かって流れていった。このままではまずい。早く潜らなければ。しかし。
(から……だ、動かな……。早…………く。潜ら、ないと……!)
頭ではそう思っても体は動かせず、U-511は右腕と顔以外動かせずに集積地棲鬼の足元に流れついてしまった。
ただの一撃でアサシンは大破、行動不能になっていたのである。
即死を免れたのはセイバーの付近にいなかったため。
瀕死に陥ったのはセイバーに接近していたため。
集積地棲鬼は手でU-511を押さえつけ、そのままヘドロに沈めていく。マスターへの連絡をしようも無線機は既に壊れている。
U-511に術はなかった。せめてもの抵抗と手を伸ばして集積地棲鬼のガントレットを掴むも、筋力で圧倒的に劣る彼女にどうにかできるはずもない。
ましてやこうしている間もヘドロから力を供給されている彼女に筋力で勝つことなど不可能だった。
U-511は髪の毛一本残さず、ヘドロの中へと消えていった。
【U-511 轟沈】
◆
-
黙示録にある七つの封印が子羊に解かれる。
第一の封印が解かれると白い馬が出てきた
第二の封印が解かれると赤い馬が出てきた
第三の封印が解かれると黒い馬が出てきた
第四の封印が解かれると青白い馬が出てきた。
そして第五の封印が解かれると────
◆
-
────これは走馬燈なのでしょうか?
U-511の意識は肉体と共に汚泥に沈んだはずだった。
なのに今は意識ははっきりとしていて、闇の世界にいる。
サーヴァントの構造上、死後の世界はない。死亡すれば座に戻るだけだ。
ならば今の状態は一体なんなのだろう。
場所は不明。マスターとの繋がりは感じない。
天地前後もわからず、反響音も聞こえないため沈んでいるのか浮いているのかすら不明。
手足を動かしてとにかく進んでみようとしたときだった。
静謐だった世界が一斉に大絶叫に包まれた。
シズメ! シズメ! シズメ! シズメ! シズメ! シズメ! シズメ! シズメ!
カエセ! カエセ! カエセ! カエセ! カエセ! カエセ! カエセ! カエセ!
コロセ! コロセ! コロセ! コロセ! コロセ! コロセ! コロセ! コロセ!
鼓膜が破れそうなくらい、何千、何万、もしかしたら何億もの人の声が聞こえる。
耳を塞ごうが意味はない。彼らはすべて怨恨、憎悪、憤怒、あるいは悲壮、悔恨、嫉妬、絶望を謳っている。
「え……?」
闇が晴れればそこにあるのは無数の残骸。無数の艦隊。
U-511はその軍団の一角を構成している者達に気付いた。気付いてしまった。
叫んでいるのは知っている者達だった。深海棲艦だけならばある程度予想がついたが、ここにいるのはそれだけではない。■■も大勢いた。
────彼女たちは皆、ユーと同じ顔をしてました。
────彼女たちは皆、ユーと同じ声をしてました。
────彼女たちは皆、ユーと同じ服を着てました。
形を似せただけの作り物ではない。彼女らもまた戦後沈み続ける廃棄物。公害の一つとしてヘドラに組み込まれているのだ。
あるものは重油を貯蔵している故に。
あるものは水銀を貯蔵していた故に。
あるものは深い海底に沈んだ故に。
あるものはバラバラになって回収が困難である故に。
サルベージされることなく昏い海の底、運命を共にしたクルー達と眠っていた者達だ。 すなわちドイツ海軍が保有していた私と同じ姉妹(ユーボート)たち。
皆が叫んでいます。なぜお前のようなゴミがいるのかと。
我々は祖国のために沈んだのに。祖国のために戦ったのに。何故お前は存在しているのだと。
その絶叫がユーの心魂をドロリと汚染する。
その通りだ。U-511がドイツ時代に出た哨戒任務を除けば戦果ゼロ。
ここにいる『日本に送られたU-511』に兵器としての価値ない。
ドイツの潜水艦、Uボートシリーズは第一次世界大戦において雷名を打ち立て、潜水艦の代名詞ともなった。
しかし、その名が知れ渡ったことにより第二次世界大戦では対策を取られその轟沈率は非常に高まることになる。
そんな中、ドイツ第三帝国は商戦やタンカーを沈める通商破壊作戦の一翼を同盟国の日本に求め、そのための技術派遣として送られたのがU-511だった。
しかし────当時の日本の技術ではUボートの複製は不可能であり、U-511はその務めを果すことなく終える。
後に連合艦隊の潜水艦「呂500」として編成されるも戦果はなく、故にその価値は無となった。
彼女らは叫ぶ────その存在理由を全うしろ。
彼女らは憎む────あらゆる者を殺し尽くせ。
彼女らは呪う────お前もそうであるべきだ。
彼女らは願う────あの戦場へとカエリタイ。
既に声だけではなく軟体生物の触手めいたものがユーに絡みつき、逃れることなどできなくなっていた。
いいや、ユーもまた彼等を拒むことはできない。なぜならU-511は彼女等を受け入れていたからだ。
務めを果たした彼女らには沈めという資格はあるのだろう。殺せと呪う資格もあるのだろう。たとえ敗者の逆恨みだとしても、それは当然の主張だ。
だってユーは……何もしなかったんだから。命令で待って、待って、待って、待って。そうしている間に『あの戦い』は終わってしまった。
そうだ、ユーが聖杯にかける願いは──────。
毒素と呪詛によって霊基が冒され、身体も意識もドロドロに溶けて混ざり合う。
無数の資材が流れ込む。
無尽の魔力が注がれる。
無限の汚泥が雪崩れ込む。
黒化反転。属性歪曲。霊基再臨────覚醒せよ、思い出せ。
お前が成るべきは日本の艦ではない。
────はい。ユーもそう思いますって。
◆
-
赤騎士ーとセイバーの戦いは後にアサシンの乱入により一層の混沌を極める。
いつの間にか数人から数十人に増えたアサシンはその手数をもって赤騎士『集積地棲鬼』に襲いかかる。
アサシンの意匠にあるマークはアルカナ、現代風にいえばトランプというものだろう。
いくつかのマークが役割を、描かれている文字が強さを示していることは見ていたセイバーにも分かったが、それだけだ。真名も何もわからない。
ダイアマークのアサシンが破壊された倉庫から何かを取り出して火炎放射器を作り出しセイバーもろとも赤騎士を炙り、それを避ければ棍棒と槍を持ったアサシンが襲いかかる。しかし、セイバーの魔力放出によって炎がアサシン達ごと薙ぎ払われ、赤騎士の鉄拳をハートマークのアサシンが受けて潰される。
互いに足を引っ張りあっているのは察しているが即席の共同戦線が難しい現状ではどうしようも無い。
赤騎士の剛腕は一撃一撃が破城槌に等しい。かといって距離を取れば安全というわけではない。
その証拠に今も、赤騎士の砲台が錆びた金属の音をたてて、目標へと向けられる。
「カエリウチダ! モエテシマエ!」
号令と共に発射される猛毒砲弾。
セイバーは魔力放出により爆速で赤騎士の射線から外れていたため避けることができた。
逆に数の多いアサシンは、マスターや同胞を守らんとハートのアサシンたちが肉の盾となる。
砲弾を受けて、木端微塵になって、肉片がべちゃべちゃと大地に降り注いだ。
その間にも装填して四方八方に撃ちだす赤騎士。
「ハハ、ハハハハハハハ」
ヘドロから物資を作り出し、吸収して強化・修復。
自給自足で戦力を補強していく魔艦の眷属。
ただ一人からなる機動要塞。
永孤軍拡要塞『レッドライダー』。
「モエロ! シズメ! ムニカエレ!!」
拳から溢れた衝撃波が大地を震撼させ、総てを砕く。
毒性を孕んだ砲弾が宙を舞い、中るものを溶解させる。
赤騎士がいるだけで周囲がヘドロ溜まりと化していく。
手に負えないとは正にこのことだ。だけど何とかしなくてはならない。
既に赤騎士に便乗する形でいくつかの深海棲艦が通り抜け、汚染範囲を広げている。
これ以上通すわけにはいかない。
しかし、だ。
セイバーもアサシンも何度も赤騎士に攻撃を叩き込んでいるものの一向にダメージを負ったように見えない。
セイバーの直感はあの縮んだり膨れ上がったりするガントレットが原因だと告げていた。
本体が攻撃を受ければすり減り、逆に周囲のヘドロを呑み込んで厚みを増し続けるガントレット。ダメージを肩代わりするアレをどうにかせねば勝機はない。
だが問題が一つ。
いや、問題というにはあまりにも馬鹿馬鹿しくどうしようも無いことなのだが。
(『勝利すべき黄金の剣』を受けて全壊しないガントレットをどうやって破壊すればいいんですか?)
火力不足。
現状、セイバーの最大火力では破壊不能なことは明らかだ。チマチマ削って機を見て宝具の最大解放で破壊するより他に無い。
だがリリィの宝具を最大解放すればセイバーの魔力に耐えきれず燃え尽きてしまう。そうなれば次からは宝具なしで戦いを切り抜けなければならなくなる。それは駄目だ。コマリを守れない。
故に使うわけにはいかず、削れど削れど赤騎士はヘドロを吸い込んで修繕されてしまう。そうしている間にもアサシンが潰されていく。
このままではジリ貧だ。赤騎士と違い、サーヴァントには魔力の限界が来る。先に潰れるのは間違いなくこちらだろう。
長期戦で圧倒的に不利な以上、早急に決めなければならない。
よって果敢に攻めていくセイバーだったが未熟かな、そんなセイバーの焦りが剣筋に顕れてしまう。
自身が気づいた時には既に手遅れで、必要以上に踏み込んで剣を振り抜いた後だった。
-
「ォォオオ!」
アサシンの槍と棍棒とダイヤが作った火炎放射機とウォーターカッターの猛攻を力づくでねじ伏せた赤騎士の剛拳がセイバーを捉える。
あわやセイバーに右拳が当たる直前で赤騎士の動きが止まる。
「ア・・・アア・・・?」
「え?」
そして次の瞬間、右腕のガントレットが内側から割れて中から細い両腕が現れた。
明らかに体積を無視して現れたソレは赤騎士の右肩を掴み──まるで水中から陸へ上がるように──体をガントレットから引き揚げた。
ガントレットを構成していた金属部品が次々と飛び散り、破損個所が次々と燃え上がる。
集積地棲鬼が悲鳴を上げた。今が絶好の好機である。しかし異様な光景に誰も手を出せずにいた。
「ご馳走さま」
現れたソレは口を開いてご馳走さまと言った。誰に、無論、赤騎士にだ。
銀髪に日焼けした肌。上半身は水兵のようなセーラー服。下半身にはスクール水着。
あれは、先ほど呑み込まれた────
◆
「シャイセ」
アサシンの応答途絶から数分。令呪が消えていないところを見るとまだあの愚図はまだ生きているのだろうが、だとしたら何故帰ってこない!
アドラーの苛立ちは頂点に達しようとしていた。脳内でひたすらアサシンを罵倒しつつ、しかし軍人として優秀な頭脳と決断の早さは次の行動を選択する。
「令呪によって我が道具に命ずる。とっとと戻れ愚図が!」
◆
現れた少女が一瞬で消失────いや、転移した。
残ったのはセイバー、赤騎士、そしてアサシン。急激な状況の変化に対応したのは知能の最も低いスペードのアサシンだった。
無言で薙いだ槍により赤騎士の右腕が千切れ飛ぶ。初めて赤騎士にダメージが通った。
「燃エル……アア、ナンデヨォォ!」
左の裏拳でスペードの身体を打ち潰し、千切れた右腕を押さえる赤騎士。そこへ畳み掛けるようにスペードのアサシン達が一斉に槍を投げ、次々と赤騎士へ突き刺さった。
ここに形勢は逆転する。この機を見逃すわけにはいかない。
『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)!』
金色の光が再び港区に放たれた。
◆
-
「何だ貴様は?」
アドラーは困惑していた。というのも無線が途切れた数秒でサーヴァントが大きく変容していたからだ。
答えの分かりきっている質問であるが、それでも聞かずにはいられなかった。
「サーヴァント・アサシン。U-511改め呂500です。改めてよろしく、マスター」
これからアドラーは一体何が起きたのかをアサシンから聞き出さなくてはならない。
どうして変化したのか。何でそんな格好なのか。
新しく追加された『歪曲』、『腐毒の肉』というスキルは何なのか。
そう考えているところにU-511から質問が飛んできた。
「マスター。マスターはあのベルリンが燃えたと聞いて、何を思いましたか?」
「何?」
「ユー達の祖国が焼却される時、マスターはコールドスリープで眠っていたというのは本当ですか?
目覚めて帝国が無くなったと聞いて何を感じましたか?」
────壊れたか。
アドラーが真っ先に思ったのはそれだった。兵器が思い出を口にし、質問するなど論外だろう。
それにしても祖国……祖国ときたか馬鹿者め。
「ふん。燃え尽きた国家などそこまでだったに過ぎん。そんなどうでもよいものに俺は拘ったりはせん。
俺が恃むはただ一つ。力。力ない国家などとうの昔に見限ったから冬眠制御装置に入ったのよ!」
まるで天から指環を授かる神子の如く天へと手を伸ばして。
「そうとも! 俺こそが大いなる──」
その肩から先が消し飛んだ。
-
瞠目するアドラーの耳元でゆっくりと、殺意の込もった声がした。
「残念ですマスター。あなたは祖国を裏切った」
振り返れば真後ろで手刀を振った後のアサシンがいた。
何が起きたかなど明白で、故にアドラーの反応は極めて早かった。
「この出来損ないが。鉄屑にしてくれる」
令呪は使えない。腕ごと彼方へ飛んでいった。
アサシンが腕を吹き飛ばしたのはそのためだ。
故にアドラーは腕の回収を優先する。
赤電の球体を三つ同時に展開。
電光機関の使用には大量の生体エネルギーを消費するが、この際四の五の言ってられまい。
深海棲艦達には効いた電光機関であるが、戦闘スペックが投石とミサイル以上あるサーヴァントと戦闘などできてたまるか。
アドラーは脳内で敵に背中を向ける自身の脆弱を呪いつつも飛んだ腕へと駆ける。
────あと20メートル
背後で雷球が爆発した。
命中したかなどどうでもいい。
────あと15メートル
声がした。
「ユーが裏切ったのはあなたが祖国を裏切ったのともう一つ理由があります」
ふん、俺の知ったことか。
このままラジオのようにダラダラ話してくれれば間に合う。
「『彼女達』の思いに共感できたから。
『帰りたい』という願いが理解できたから。
仮にユーが敗退してもあの座(ちんじゅふ)に戻されるだけ。あの栄光無きドックに。
そして……永遠に祖国へは戻れずに終わる」
────あと10メートル
「そして気づきました。ユーは聖杯にかける願いが無いんじゃなくて、ユーが聖杯にかける願いは“呂500(ろー)にならなければ発生しない”って」
────あと5メートル。
「だからろーちゃんになって気付いたのですって。
でも深海棲艦(オルタ)化したことでろーちゃんの願望は変わり──」
声はまだ遠い。カタログスペック上の呂500ではもうアドラーに追い付けない。
にも関わらずまだ余裕をこいて喋っている。
もしかしてこちらの狙いに気づいていないのか間抜けめ!
あと一歩。手に取り、死ねと命令してやろう。いいや、苦しみ抜いて死ねの方がいいかもしれない。
勝利を確信していたアドラーの足元、地面が抜ける。
抜けたというより沈んだ。地面の下には汚泥が詰まっていて────
「グ、オオオオアアアアアァァァァァ!」
片足が踵から太股までどっぷり汚泥に浸かり、いつぞやの運転手同様に白骨化した。
無様に転がるアドラーに追い討ちをかけるように耳元に声がした。
「ユーの『Uボートとしての誇り』が爆発的に増大したのですって。
今のろーちゃん……いいえ、U-511・オルタナティブは舞鶴よりロリアンに戻りたい。
ドイツで製造されたものとして、第三帝国を守り、Uボートとして死にたいのですって。
ですが、その願いを叶えるためには聖杯とこの霊基を維持する母艦が必須なんですって。
だからマスターにはここで沈(し)んでもらいますって」
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潜水して、ここまで接近して、ヘドロ沼を作った。
つまりはそういうことか。いや、時間が足りない。潜った音すらしていない。気配遮断か。
「ねぇ、マスター。聞いてる? 聞いてなーい!!」
まぁいいかとアサシンは手を振り上げ、そして振り下ろす。
「グバァッ!……ハァッ……ハァッ……」
胸を貫かれ、大量の吐血と共に苦悶の声を上げる。一方でユーは死亡確定マスターを適当に汚泥へ放り投げ、令呪の描かれた右腕も拾い上げてポチョンとヘドロの中に落とした。
「Auf Wiederseh'n Master(ばいばい、マスター)」
そして誰もいなくなった。
◆
艦種反転:C
轟沈と同時にヘドラに呑まれ、ヘドラの宝具によって深海棲艦へと堕ちた彼女に与えられたスキル。
空母ヲ級と同一になった深海棲艦達は回帰願望を有している。ユーもまたそれらを刺激されて今回の凶行に至ってしまった。
このスキルは他にもU-511の中に残っていた祖国への愛国心。祖国の敵を滅ぼしたいという奉仕欲求。そして望郷の念などを増幅させ、本来の呂500から大きく逸脱した。加えて船体の改修……霊基再臨に使用された素材も総て深海棲艦のものであるため、もはや彼女は精神的にも霊基的にも呂500に戻ることは不可能である。
まさに“日本に来ず、ドイツのために戦い抜いた if のU-511”。ユー・オルタへとなり果ててしまった。
◆
倉庫街で赤騎士とサーヴァントの戦いが繰り広げられている一方で、別の場所でも戦闘が発生していた。
海岸線ではなく陸地。特に汚染も進んでおらず、故に今回の大戦の趨勢を見守るには十分な場所といえる。
だが、悲しいかな。そんな討伐する側の思惑は裏切り、深海棲艦達は陸地へと侵攻を開始した。
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2話目投下完了します。
1話目の元山ですが一人称が「私」になっていますが「僕」の誤りです。
Wikiに記載するときに修正します。
予約分の延長をし、3話目は明日投下いたします。
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投下乙です
感想は最後にまとめてしようと思いますがどうして分割をしているんでしょうか?
明日に続きを投下可能ならまとめた方がいいと思いますが……
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いやそんなの総文量の問題でしょう
何もここだけの話ではないと思いますが
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>>135 >>136
おっしゃる通り、総文量の問題になります。
現在予約している分だけでも普段の6倍近い量になっており推敲にも時間がかるため、私の書き手力では分割を繰り返すしかありませんでした。
未熟をお許しくださいませ。。。
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分割3話目投下します。
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遠くから戦いの音が聞こえる。
昔、自分の生きていた時代では当然のように聞こえていた雄叫びが一向にせず、代わりに砲撃の音が空に響く。
陸から若干離れているためか、磯の臭いはせず、代わりに鉄が溶けたときに発するあの悪臭がする。
「砲撃っていやぁ黒ひげの船長思い出すな」
ヘクトールが独りごとを呟く。
闊歩する街は静寂に満ちている。市民達は眠り、照明以外の機械は稼働していない。恐らくはルーラーによる神秘秘匿のための処理だろう。サーヴァントではなく市民全員を眠らせるという方法に違和感があるが、眠らされたおかげで先ほどの気が狂うような攻防を見ずに済んだのは幸せともいえる。。
ヘクトールと、あのデカイ機械人形に乗っていた男のおかげで守られた街中を歩いて、ようやく目当てのものを二つ同時に見つけた。
一つは自身の宝具『不毀の極槍』。熱されて赤く光っており、穂先に刺さったアスファルトが融けてタールになっている。
そしてもう一つは全力を使い果たして地面に大の字で寝ている白い男。
彼がいなければこの街も、自分も、自分達の後ろの山にいるマスターもとっくに消滅していたに違いない。
心から感謝し、その首に手をかける。
無論、首をへし折るために。
「悪いな。こんな時じゃなきゃオジサン、勝てそうになくてよ」
幸いなことにまだ深海棲艦達はこの街中まで攻めてきていない。
核熱を世界の裏側か、次元の彼方まで吹っ飛ばしたあの輝きの一撃。
あれほどの攻撃を消し去れるコイツを倒すのは今しかない。
ヘクトールは戦士だ。ギリシャのトロイア戦争ではアキレウスでさえ死の覚悟なしでは勝てなかったほどの英雄だ。
しかし、同時に戦略家であり政治家である。必要とあれば尻尾を巻いて逃げるし、このように汚い手も使う。
「恨むのならマスターじゃなくて俺にしてくれよ」
断じてマスターの命令ではない。ヘクトールの独断だ。
というよりもあの少女はマスターとしての自覚も、人間としての自覚もないだろう。
故にヘクトールが考えて動かねばなるまい。純粋な彼女が手を血で汚すとしてもそれは今じゃない。
しかし────
「おい、貴様何をしている」
横っ面をから体当たりされてヘクトールがのけ反る。
ヘクトールの凶行を止めたのはただ一人、彼こそ────
「それでもトロイア戦争最高の戦士か貴様!」
セイヴァー。ある意味でアキレウスに匹敵する勇者(バカ)なのだ。
◆
-
「へえ、あのアキレウスと間違えられるとはオジサンも捨てたもんじゃないね」
「誰がアキレウスと言った。貴様の事を言ったんだぞヘクトール」
セイヴァー……柊四四八は彼の正体を看破していた。
ドゥリンダナ、すなわち絶世剣デュランダル。それを槍として投擲する宝具を持つサーヴァントなど『輝く兜のヘクトール』をおいて他にない。
そう確信したからこそ、今のヘクトールの凶行に憤りを覚えずにはいられなかった。
拳を振り上げ、その顔面に叩き込む。しかし黙って殴られるヘクトールじゃない。
「あらよっと」
回避してカウンター一発。ジャブ程度の、牽制目的の一発だ。
だが、耐久値がEランクの四四八にとっては剣呑極まる。
身を捻って何とか紙一重で避けるが躱しきれず、戦神館自慢の軍服に掠って千切れ飛ぶ。
返礼に一撃。アッパーを顎から叩き込む。
「いつまで余裕のつもりだ。ひきつっているぞヘクトール!」
ヘクトールが繰り出す顔面への蹴りを股下をくぐり抜けて避け、立ち上がる勢いを込めた裏拳を食らわす。
さらに殴り、蹴り、畳み掛ける。
「イリアスにおいてトロイアにその人ありと言われた大英雄がこの程度か! アキレウスにやられて腑抜けたのか!!」
「生憎とこれがオジサンの力ですよ。どうしてそんなに持ち上げられてんのかは知らねえけど卑怯な手は使うし騙し討ちだってしてやらぁ」
◆
-
ヘクトールと俺、二人のステータス差を考えれば信じられないほど俺が優勢だ。
しかし、いつまでも避けることなどできず、ついにヘクトールの拳が俺を捉えた。
「グァ、ハッ」
瞬間。全身がバラバラになりそうな衝撃が俺を襲うが、上等だやってやる。
血反吐を吐いてそれでも殴りかかる。
拳を叩きつけ、叩きつけられ、殴り、蹴られて、互いに血の糸を口から垂らしながらそれでも殴りかかる。
何度も、何度も何度でも。一言言ってやるために、睨みつけながら拳を交わす。
「貴様は何者だ! あのギリシャに! あのアキレウスに、神の恩恵を持つ英雄に立ち向かい続けたのは何のためだ!」
「さあて、何だったかねえ! 忘れちまったなぁ!!」
クロスカウンターで互いの顔面が潰れる。ダメージは自分の方が圧倒的に大きいが、相手の頭を叩き起こすのに痛みなど気にしてられるかよ。
「なら教えてやる! 貴様が守ったのは“日常”だ!!
弟の義憤を赦したのも、弟を差し出せば終われる戦争を続けたのも最終的にはそれを善と認めたからだろうが!!」
神を敬い、家族を愛し、国を守る。
当時のギリシャであれば敗北者は全てを焼かれ辱しめを受けるのが当然で、だからこそヘクトールは勝利を目指した。
ギリシャ神話最高の英雄アキレウスに最高位の女神ヘラ、更には数々の英雄を相手に十年も耐えたのがその証拠に他ならない。
勝てない戦だと悟り、同国民が手足を千切られ、カラスに啄まれる日々を耐え続け、己が絶命した後も勝利を目指した。
ただの怠け者がやれることじゃないんだよ。
そんな奴が義で己の身を省みずに戦ったニコラ・テスラを殺そうとするなど何の冗談だ。
「それが……一体今何が関係あるってんだ!」
「貴様が今、殺そうとしていた男はなァ! 貴様と同じく日常を守ろうとした男なんだよ!」
人の世から悲しみを無くすために戦い続けた《白い男》。
この男もまた世界の敵となって日常を守った英雄だ。
故に俺のマスターとして選ばれたのだ。
いや、もしかするとあの男だからこそ俺が召喚されたか。
「だから俺が守る!」
俺は肘打ちを鳩尾に叩き込み、ヘクトールは頭突きで俺の鼻骨をへし折る。
よろめいて、だけど俺たちは睨み合うんだ。
「守るなんて難しいこと言うねえ。あんたも見ただろう。あの怪物を。あの力を」
「それがどうした。言っておくが俺はもっとヤバい奴を後3人知っているぞ。だがな、それでも俺は世界を守れたんだよ。この程度の力でもな」
虚偽ではない。柊四四八が行った三つの偉業……『甘粕事件』、『第二次世界大戦の回避』、『第四盧生の封印』を成し遂げたのは総て自力だ。
甘粕事件はともかく残り二つは完全に人の力によるものであり、都合のいい幻想(ユメ)の力など一切使っていない。
「じゃあオジサンのマスターも、いや他のマスター達も救ってくれんのかい?」
「当然だ。だが、守るのはお前の役目だ」
「オジサンは救ってくれないのかい?」
「助けはするがサボらせはしないのが俺の信条だ。自称怠け者は特にな」
そうかいと言ってヘクトールは剣を抜く。
四四八も竹刀を袋から抜いた。
◆
-
ヘクトールは知っている。魔術王を名乗った者が引き起こした人理焼却事件を。
それを防ぎ、人理を修復した一人の人間を。
そうとも、夢ではない。大義を為すのは現実の意志。幻想(ユメ)から持ち帰ることが許されるのはそのための誇りだけ。
「んじゃあ腕試しだ」
ヘクトールは地面から剣を抜いた。
槍ではない。剣である。柄は短くなり、人が振り回せる長さの──後に『不毀の極聖(デュランダル)』と呼ばれる剣を。
「その竹刀はあんたの宝具かい?」
「いいや、マスターの私物だ」
「そうかい」
ヘクトールは剣を振り上げ、セイヴァーへと突き進む。
あの竹刀が宝具ではないときいても油断する気が起きなかった。
あの白い男をそこらのマスターと一括りになどできはしない。必然、そいつの私物を武器としてサーヴァントが持つ以上、殺傷力はあると考えていい。
「これを凌げないようじゃあ救うなんて言葉、信じられないぜ」
信じさせてほしい。
故に一斬。そのためだけにもう一つの宝具も使う。
魔力をまた使うが、マスターには後で謝っておこう。
剣を振りかぶり、一気に降り下ろす!
「『不毀の(ドゥリンダナ)────』」
ヘクトールはセイバーかランサーで召喚される英霊だ。
しかし、どちらのクラスであっても必ず剣と槍の宝具を持参する。
『不毀の極槍』と対になる剣の宝具。聖剣となる前の純粋な──渾身の斬撃。
「『────極剣(スパーダ)』!」
そして同時。
「碩学機械・電磁兵装(テスラマシン)」
セイヴァーの竹刀も雷電を帯びて真一文字に斬撃が繰り出された。
「抜刀!」
光る二つの刃がぶつかり、十字(クロス)を描いたのは一瞬、すぐにセイヴァーの竹刀が押される。
元より筋力のステータスが違うのだ。押されるのは当然だろう。
片足を地面につけ、堪えるセイヴァーと上段から圧すヘクトール。
このままセイヴァーが潰れるのは目に見えていた。
何の捻りもない展開にヘクトールの胸中で失望の念が沸く。
一般的に竹刀は剣道の稽古に使われる道具として知られる。
本物の刀を素人が振り回すのは危険だからだ。だが竹刀が絶対安全かというとそれも否である。
むしろ稽古道具という認識が強いため油断してしまうため、玄人の使う竹刀ほど危険に満ちたものはない。
幕末に活躍した武装組織「新撰組」。その構成員の一人に斎藤一という剣術の達人がいた。
この人物は晩年に撃剣師範から退き老後を送っていたのだが、ある日。竹刀で突きの練習をしている者を見かけた。
その者に突きを教える形で竹刀を振るったところ、斎藤の放った突きは空き缶を貫通したという。
他にも竹刀で面金(剣道の頭の防具)を叩き割った話や、助走をつけて武者の兜を叩き砕いたなど真偽定かならぬ話がいくつも存在する。
無論、ヘクトールの宝具が一般的な防具以下などということはあり得ない。竹刀で鍔競り合うことすらできず一方的に断たれて終わりだ────ただの竹刀ならば。
セイヴァーの振るう竹刀は電磁兵装(テスラ・マシン)。瞬間的な威力ならば鋼鉄の戦闘機械すら破壊可能な威力を誇る兵器だ。
結果、初速を殺せることに成功した。緩衝材として役に立てばいい。ヘクトールの宝具に打ち勝つなどという幻想は最初から抱いていない。
極刃を受けた竹刀の刀身がついに切断される。
ヘクトールの斬撃がセイヴァーに迫る。
ぶつかったことで勢いは殺されたがセイヴァーの頭を叩き割るには十分だ。
「刮目しろ大英雄! これが俺の覚悟だ!」
セイヴァーの頭を叩き割るまでの刹那、ヘクトールは目の前の光景に瞠目する。
◆
-
スキル『心眼(真)』は可能性を見つけるもの。
そしてスキル『無形の輝き』は人の可能性を保証するもの。
あらゆる難行、あらゆる試練。それを乗り越える人の輝きがここに顕象する。
セイヴァーが実行したのは度し難く、されど勇気あること────宝具を白羽取りして受け止めたのだ。
宝具に対抗できるのは宝具──そう言ったサーヴァント戦の大前提を吹き飛ばし、真の勇気の輝きが輝く兜の瞳を照らした。
自らの電磁抜刀によって少なからず帯電していたため手袋が弾け、爪が割れ、血煙が吹き出る。
だが斬撃は止まった。止められたのだ。
「どうだヘクトール! これでもまだ信じるに足りないか」
セイヴァーが汗をダラダラ流しながら吠える。
宝具の白羽取りなど正気の沙汰ではない行為を実行に移し、そしてやり遂げた。
馬鹿ではあるが、偉業である。ゆえにヘクトールは認めざるを得ない。
「いや、信じるさ。セイヴァー。お前に賭けよう」
ヘクトールは剣を再び鞘へ収めた。
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分割3話目投下終了します。
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分割4話目 投下します。
-
【C-3 通学路の河川敷】
カトラスが深海棲艦を引き裂き、マスケット銃がぶち抜く。
あーこりゃキツいねとメアリー・リードが愚痴る。
はいはいとアン・ボニーが適当に相槌を打つ。
ヘドラ討伐に参加しないという岡部の目論見は黒い怪物達が自分達に向かってきた──正確には岡部達が進行軌道上にいた──ことにより完全に崩れた。
二人対数千というふざけた物量差により殲滅はおろか生還にすら手をこまねく状況に岡部は舌打ちする。
ライダー達の宝具を考えれば窮地ほど強力になるが、ライダー達の過去にある通りいつか潰される時が来る。
孤軍奮闘はあくまで援軍や勝機があるからこそ意味がある。岡部達にはそれが無い。加えて朝、昼と連戦して魔力と呼べるものが空に等しい。
岡部は即座に撤退すべきと判断した。間違ってないはずだと自分に言い聞かせながら。
「このまま撤退だライダー」
「「了解」」
岡部たちは令呪を必要としていない。
ヘドラの邪魔をする程度でも一画もらえるのだからヒット&アウェイの戦法が基本となる。
「あとちょっと……」
深海棲艦の激流からようやく抜けようとした瞬間。ソレが現れた。
見た目は幼女。土左衛門のような色素を失った肌の白さと赫い目を持つ。
仲間の深海棲艦を踏み台にしながらついに獲物を発見した黒騎士(ブラックライダー)である。
「…………」
彼女の足元が溶解して汚泥が溜まる。
溶解する速度は先ほどまでライダー達が処理していた雑魚の比ではない。
マスターの透視力もサーヴァントの知覚もコレが強敵であると認識させられていた。
「こいつがヘドラ?」
「さっきのデカイ奴がヘドラだと考えればコレは魚共の同類と考えるべきだと思いますわ」
「こんなのが何匹もいるとか考えたくないんだけど」
「そうですわね」
ライダー達が警戒しているにもかかわらず少女は指をしゃぶりながら品定めをするように二人を見つめていた。
そして少女が掌をこちらへ翳し────
「ゼロオイテケ」
次の瞬間。メアリーはカトラスを、アンはマスケット銃を両手で握りしめた。
「なっ」
原因は一目瞭然だった。
見えない力に引っ張られて、二人の武器が少女の方へ引かれているのだ。
引力、重力、あるいは磁力操作か。ともあれ丸腰にされれば勝てる道理は無い。そう思ったところで────
「解体の時間だよ」
岡部の後ろから霧夜の殺人鬼が迫った。
◆
-
────殺った。
わたしたちは首に得物が突き刺さり、男から赤い液体をぴゅーと噴き出すのを想像した。
だが、次の瞬間。
「ゼロオイテケ」
解体聖母(ぶき)がどっかいっちゃった。
確かに握っていたのに。
「え?」
ちょっとびっくりした。
でもまだだよ。他のものを抜いてこんどこそ獲物を解体してやる、と思ったら眉間に弾が飛んできた。
勿論避けるけど黒い方のサーヴァントが斬りかかってくる。
さらにそこへ次々とサーヴァントとマスターが現れたよ。
◆
「これは一体どういう状況かしら? 説明してもいいわよ」
「私が知りたいわ」
ドイツ軍服を着た女性が苦笑いを浮かべ、和服を着た少女が眉に皺を寄せる。
「あれは…………もしかして北方棲姫?」
高校の制服に艦砲を持った少女と同じく学生服の刀を持った黒髪の青年と茶髪の青年。
どう見てもただのコスプレ集団である…………という岡部の現実逃避はサーヴァント二騎のステータス表示によって脆くも崩れ去る。
状況は最悪。
サーヴァント四騎に囲まれるとか絶対絶命以外の何物でも無い。
故に────
「フゥーハッハッハッハ。よく来たな有象無象のマスター達よ! 我こそが最強のマスター『鳳凰院凶真』である」
一か八か。思いっきり見栄を張ることにした。
◆
-
「我こそが最強のマスター『鳳凰院凶真』である」
「何……です……って……」
天津風は大いに同様した。この混戦の中、そんな奴に会ってしまうなんて、と。
なるほど確かに一人でヘドラの艦隊を相手にし、更に討伐令の出ているアサシンの相手ができる者など間違いなく最上位のマスターに違いないだろう。
一方で棗恭介は一発でブラフだと看破し、更にビスマルクはその上で心の中で賛辞を送る。
この状況下であんなハッタリを言えるのはそれだけ修羅場を潜ってきた証明なのだ。
黒鉄一輝は半分疑っているが、己のサーヴァントがいない以上はこの場における行動は限られている。
選択肢の中でも最も有用なメソッド、即ちここにいないジャック・ザ・リッパーのマスターを警戒し、武装を展開する。
残った吹雪はと言うと思いっきり息を吸って────
「すいませーん。ヘドラとの戦いに協力してもらえませんかー」
岡部の思惑だとかこの場の空気を無視して叫んでいた。いや、ある意味共通の敵と戦うのにこの場で手を組むというのは理に適っている。
しかし────
「ゼロオイテケ」
敵が待つわけがなかった。
◆
黒騎士(ブラックライダー)。北方棲姫。
赤騎士同様に『腐毒の肉』を改造した宝具を有する深海棲艦である。
そして、赤騎士と同様に、彼女も宝具を持っていた。
宝具名は『貪欲な者は常に欠乏する(ブラックライダー・スラッジ)』。
アン、メアリー、ジャックが経験したように武力を奪う宝具である。
ではどうやって? 答えは単純。
「ゼロオイテケ」
次の瞬間、硫酸ミストが蠢き、ビスマルク、天津風、吹雪の艤装にペタペタペタペタペタペタと掌の指紋がつく音が何重にも重なった。
大きさは丁度、北方棲姫の手と同じくらいか。
それが強力な吸引力となって武装を引っ張るのだ。
「きゃあああ」
「何!」
「っ!」
「しまっ……」
よく目を凝らせば薄く伸びた大量の線が彼女達の艤装と繋がっていた。
否、これは線では無い。これは腕だ。霧が密になって腕になっている。
そう。『腐毒の肉』で生じた硫酸ミストもまた空母ヲ級であり北方棲姫自身である。
つまりは周囲に渦巻くこの魔霧こそが吸引力の正体。霧が大量の細い腕となって武装を引っ張っているのである。
突如生じた吸引力に対してサーヴァントであるビスマルクや天津風は踏ん張ることで何とかなるもマスターである吹雪はそうはいかない。
武装ごと砂浜を引きずられていく。行き先にはヘドロの溜まる汚泥の沼、彼女が触れればどうなるかなど一発だ。
天津風は動けず棗恭介の戦闘力ではどうしようもない。
この時動けたのは三人。
一人は岡部倫太郎。彼は今持ちかけられた共闘に決めあぐねていた。
一人はジャック・ザ・リッパー。切り結んでいたメアリー・リードを引き離し、吹雪へと切り込む。
前門のヘドロ、上空の殺人鬼。
吹雪の脳内に『死亡』の二文字が明確に浮かび上がる。
だが、そこへ最後の一人、黒鉄一輝が動く。
黒鉄一輝の剣技ならば硫酸ミストを払うことも可能だろうが、彼はとある事情で反応が送れ、今から一刀修羅をもってしても間に合うかどうか。
だから彼は、迷うことなく、虚空へと手を翳して使った。
「助けてくれ! セイバー!!」
◆
-
別地点。ヘドラ『本体』。
アタランテと共に戦っていたセイバー、ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンにマスターの叫びが届く
「分かりました」
即座に吹雪の真上に転移し、ジャック・ザ・リッパーを雷刃で払い、同時に吹雪を引っ張るミストの腕を切断した。
あらゆる制限、因果を無視しての空間跳躍。
これこそ令呪の行使。魔法の域に等しい大魔術すら即時発動させる奇蹟である。
「状況を!」
見知らぬサーヴァントが三騎。無数の深海棲艦。その中にサーヴァント級の深海棲艦が一隻。知らないマスターが一人。
「は、はい。とりあえずあの男の人とあっちの」
アンとメアリーの方をゆっくりと指差し
「女の子二人は敵じゃありません」
「あらあら、女の子とは悪い気がしませんわねメアリー」
「うん」
照れとる場合かァーと岡部は脳内でツッコミを入れつつライダー達の不興を買わないために黙っておく。
「了解しました。ではあちらの二人を殲滅します」
そういうや否や雷速で迫るセイバー。
創造位階……宝具を開帳した彼女の速さは間違いなく本聖杯トップレベルだ。故に幼い暗殺者は斬り結ぶことすらなく吹き飛ぶ。
きゃあと小さい悲鳴と共にアスファルトの地面をバウンドしながら吹き飛ぶも残ったメスを突き立ててブレーキをかける。
そしてもう一人は硫酸ミストの散布をしながら更に例の略奪能力を発動させる。
「シンデンオイテケ」
黒騎士の号令で伸びる三十を超える強奪腕。
放物線を描いて迫る腕に呼応して黒騎士の砲台から砲撃が行われた。
しかし、セイバーは一息で大半を避け、通路上の霧の多腕を斬り飛ばし、前から砲撃を透過して剣撃を仕掛ける。
黒騎士は巨大な黒い砲塔を盾にして防ぐも剣撃に続く雷撃が雪崩となって黒騎士の身体を蹂躙する。
プスプスと焼ける音。ジュウウウウと何かが蒸発する音を立ててはいるが黒騎士は健在だった。
「いける!」
ヘドラの弱点は乾燥、そして熱である。性能においても相性においてもセイバーが圧倒的有利であった。
雷電となって文字通りの紫電一閃。黒騎士の首に騎士の剣が吸い込まれる。
だがこれで終わらないのが黒騎士だった。
ガギンという金属と金属のぶつかる音と共に戦姫(ヴァルキュリア)の剣が止まる。
瞠目するセイバーの網膜には黒騎士の首から現れた刃が映っている。
ナイフほどの小さな刃であるが、それに秘められた魔力量は間違いなく宝具の域にある。
すなわち、アサシンから奪った武器……解体聖母(マリア・ザ・リッパー)だった。
-
剣撃は止められた。しかし、雷姫は仕切り直しなど許さない。
刀身を通じて10億ボルトの電流を流しこみ、一気に勝負を決めにかかる。
「アア、アアアア、アアアアアアア!」
黒騎士の体から火花が吹く。火花は火となって燃え上がり、黒騎士は名前の通り黒く炭化する。
このまま黒騎士を破壊する────その一歩手前で電流が途切れる。
それは彼の限界がきたことを意味していた。
まず最初に気づいたのは隣に棗恭介だった。
「おい、どうした」
突っ立っていた黒鉄一輝が突然膝を屈し、次に黒鉄一輝の毛細血管が千切れて血を吹き出した。
そしてほぼ同時に解除される雷姫変生。機動性を失い、地面へと不時着するセイバーも膝を屈する。
───魔力切れである。
セイバーが宝具の展開から今までの約十分。莫大な量の魔力を吸われ続けた黒鉄一輝は常に拷問に等しい激痛に苛まされていたのだ。
彼は元より魔力の少なさで劣等生の烙印を押され続けた無冠の剣士である。
そんな彼が黒円卓の魔業を十分も保たせた事自体が一種の奇跡とすらいってよい。
その膨大な魔力消費に伴う苦痛のせいで吹雪が引きずられた時に反応が遅れ、その情けなさから令呪を使ったとしても恥ずべきではないだろう。
だが、今。セイバーもそのマスターも行動不能に陥っている。
意識は保っていても脳が動く事を拒絶する。セイバーも膝を屈したまま意識は保てど動けずにいた。
故に黒騎士の次の砲撃に対応できず──
「コナイデ」
そのままセイバーは爆炎に包まれた。
◆
意識が飛ぶ。思考が止まる。
もどかしさは痒みとなって頭に押し寄せる。
────ああ、俺はどうすればいい?
岡部はこの状況下で「逃亡」と「共闘」と「非協力」の三枚のカードが手元にあった。
どれも正解である気がするし、どれも間違いである気もする。吟味している時間はなく、今も目の前でセイバーがぶっ飛んだ。
「マスター!」
次々と集う深海棲艦を撃破しながらジャック・ザ・リッパーと切り結ぶライダー。
現状の維持に限界が来ている。故に呼んでいるのだ──早く方針を示せと。
ああ、こんな時。助手が、紅莉栖がいてくれたら……
「岡部?」
俺はその声を知っている。
「岡部でしょ」
俺はその目を知っている。
「あんたも、ここに」
ああ、神様。もし本当にいるというなら、お前はくそったれだ。死ねばいい。
牧瀬紅莉栖がそこにいた。
◆
-
「あんたもここにいたの!?」
紅莉栖と美国織莉子の二組が主戦場につくとよく知るその顔が目に入った。
あれは岡部倫太郎。自称、『狂気のマッドサイエンティスト』鳳凰院凶真。双子の兄弟とかじゃなければ岡部のはずだ。
「お知り合い?」
「ええ、まぁ。ちょっとだけ、いい?」
隣にいる美国織莉子は紅莉栖に聞いた後、ええ……と神妙な面持ちで先に行った。
岡部の元へ走る。何を話すべきか。何を伝えるべきか。
一方で岡部の表情は曇っていた。何度か見た、泣きそうな、或いは死にそうな貌。
「マスター、どうやら再会を祝している余裕は無さそうだぜ」
突然キャスターが紅莉栖の身体を抱えて走り出す。何すんのよという声は轟音によってかき消された。
「何……あれ?」
小さな飛行機が飛んできて爆撃したのだ。あの形状、知識としてのみ紅莉栖は知っている。
「零戦?」
◆
-
「ゼロオイテケ」
セイバーを吹き飛ばした黒騎士であったが更なるサーヴァント二騎の登場となれば流石に不利と考えたのか使い魔を製造する。
黒騎士の足元に溜まったヘドロ沼が震え、そして中から不死鳥の如く飛び出てきた影があった。
天津風も吹雪も知識としてはソレを知っている。大日本帝国において後期に開発された悲しい歴史を持つ機体。
「『零戦』……!」
皮肉にも日本を代表する戦闘機が艦娘達へ牙を剥く。
北方棲姫。その来歴はダッチハーバーの海軍基地に由来する。
大日本帝国海軍は零戦を滷獲され、その構造を敵国に知られたという屈辱の記録が残されている。
「マスター、伏せて!」
紙一重で棗恭介は零戦の神風特攻を回避した。特攻に失敗した零戦は地面に転がり爆散する。
その爆心地がヘドロと化し、新たな零戦が出てくると恭介の口からは渇いた笑いが出てきた。
「アーチャー。このままではジリ貧だ。どうにかできるか?」
「アレは落っこちても次々と出てくるわ。殺るなら宝具で全部空中で落とすべきね」
宝具。それを使えば天津風の真名は露呈するリスクを負うことになる。
しかし、このまますり潰されるつもりは恭介にサラサラ無く。
「いいだろう。宝具をもって撃ち落とせ」
了解とアーチャーは返事をすると、己が宝具を展開するべく魔力を吸い始めた。
風がアーチャーの周りに吹き始める。
極東の高天原よりもたらされた神風が硫酸ミストを吹き祓う。
「いい風ね」
天津風は雪のように白く美しい髪を靡かせながら言った。
どこに潜んでいたのか、天津風の服の影からひょっこりと顔を出す連装砲君。次々と風と光の粒子が集まり、魚雷管を形成する。
壮観。少女の矮躯に無骨な暴力装置が取り付けられるも不思議と調律が取れていた。
それもそのはず、彼女こそが駆逐艦『天津風』。この国を護るべくして作られた鋼鉄の兵器。その霊魂を受け継ぐ者である。
この国を脅かす魔を許す筈がなく、この国を犯す毒を見過せるはずがない。
「たとえ零戦の形をしていようが……」
連装砲達が砲弾を装填し、照準を定める。
狙うは飛び交う零戦。
かつて多くの者が御国を守ると乗って旅立った悲しき戦闘機だ。
軍艦だった天津風もそれを見ている。知っている。
だが、目の前で群れるそれは。骸にたかる蛆のように沸いてくるこれは。
「魂(ナカミ)が宿ってないのよ。形を真似てもスカスカで重みもなんもない!
その機体に乗った人達の思いも覚悟も一切ない!!
そんなもの、あの時代に生きた同胞達を馬鹿にしている紛い物よ!!」
故に天津風はコレを屑と断ずる。
天津風が躊躇うことも遠慮する必要もなし。
「撃て!」
連装砲が火を噴く。
砲火が夜闇を切り裂き、空中でも火の花が咲いた。
◆
-
視界が、ぐらつく。
苦しい。血を流しているらしい。
痛みが無いことが逆にどれだけ損傷が激しいかを意味している。
セイバー、ベアトリス・キルヒアイゼンは粉々になった地面の瓦礫を掴み立ち上がる。
コンクリートやアスファルトの破片が腕や脇腹、太腿にめり込んでいた。
腕を上げることでようやく痛覚が仕事をし始める。しかし、痛み程度で怯む弱卒ではなし、剣を構えて周りを確認する。
戦闘機が幾機も空を飛び、撃墜されて爆散する。
ヘドロからデカい魚が浮かび上がり、少年少女に襲い掛かる
硝煙、硫黄、塩基性の匂いが充満し、爆音と共に瓦礫が蓄積されていく。
赤い水が破裂した水道管から流れ出して血の池地獄を形成していた。
そこら中から硫黄の白煙と燃焼の黒煙が出ている。
これらの惨たる有様を見てセイバーは安心した。
「どうやらグラズヘイムじゃないみたいですね」
つまりまだ自分は脱落していない。
マスターは……どこだ。
魔力の繋がりを感じる。まだ生きているはずだ。
「シズメ」
即時にセイバーは身を翻し、砲弾をスレスレで避ける。
背後から駆逐艦イ級が攻撃したのだ。声がなければ食らっていた。
剣を構えるセイバーが見たものは十を超える黒魚と黒騎士。
「オイテケ」
リボンのように束ねられた黄ばんだ煙が蠢き、その内の何本かがセイバーの剣へ迫る。
ほぼ同時に駆逐艦の砲撃支援も行われ阿吽の呼吸でセイバーを追い詰めていく。
宝具が使えれば一網打尽にできるが、宝具が使えなければ絶対絶命である。
そこへ救いの手が差し伸べられる。
「『比翼にして(カリビアン)』────」
「────『連理(フリーバード)』」
黒い少女と赤い女性が切り、射ち、壊し、一騎当千の動きで敵の包囲網を突き破った。
◆
-
ベアトリスが目を覚ます直前。
「宝具を使う」
「は?」
「マスター。この戦況を正しく把握してますの?」
「無論だ。もう魔力はほとんどない。だから……」
腕を捲ってそこにある紋様を見せる。
既に一画が消費された令呪があった。
迫るジャック・ザ・リッパーを蹴り飛ばし、駆逐艦イ級をマスケット銃が撃ち抜く。
「正気? ここ一番で使うものをこんなところで使うの?」
「ここで使わなければ死ぬ」
「あら、私達だけならば逃げられますわよ」
蹴り飛ばされたアサシンは深海棲艦の群れへと突っ込み、すぐに囲まれた。
宝具を奪われた上に武器があれだけならば数分で潰されるだろう。
この場合、アサシンの討伐報酬がどうなるかは気になるところだが今はそれどころじゃない。
深海棲艦たち大将首は後から来た連中に夢中だ。
そう、逃げられる岡部達だけならば。
だが、ここには────
「あー。いい」
「皆まで言うな、ですわ」
「さっきの女を助けたいんでしょ」
岡部は目を見開いた。
てっきり言えば反対されると思っていた。
「勘違いしないでねマスター。あくまで指示に従うだけだから」
「あら、てっきりメアリーったら感情移入したのかと思いましたわ。
メアリーだって生前は────」
「あー、あー、聞こえない。聞こえなーい」
メアリーが耳を塞ぎ、ふざけながらじゃれあうアン。
ここが戦場であるということすら忘れてしまいそうな笑顔だった。
そして自然と岡部も笑顔になって。
「フーハッハッハ。
我がサーヴァント! 我が僕よ!
我が盟約に従い、ここに力を示せ……死ぬなよ」
「うん」
「了解ですわ」
令呪一画が消える。
切り込むは無数の深海棲艦が群れる中心。
「『比翼にして(カリビアン)』────」
「────『連理(フリールバード)』」
メアリーがロケットダッシュした。
◆
────────世界線、変動
◆
-
岡部達から少し離れた場所では激戦が繰り広げられていた。。
まさに猛攻。その一言に尽きる。建物は軒並み倒壊し、舗装された地面は凸凹になり、様々な瓦礫がそこら中に散らばっている。
遂に三桁まで生成された零戦が絶え間なく特攻と爆撃を繰り返し、連射と勘違いしそうなほど単装砲撃がマスター達に向けられる。
でも彼等は生きていた。泥で汚れ、血を流しながらも、しぶとく、太く。死んでたまるかと。
「数が減らねぇ」
「もっと撃って! こっちはもう」
「皆まで言うな。分かってる。だけど前から人を守りながら戦うのはキツイんだよ」
天津風と仁藤はマスター達に近寄らせまいとひたすら撃ちまくっている。更に遊撃として織莉子とバーサーカーも動いていた。
この二組は特に手を組んだわけではないが、生存の確率を少しでも増やすため、互いに利用しあっているのだ。
撃ち込まれる砲弾、爆弾、魚雷、艦載機をバーサーカーの速度低下の魔法で遅滞させ、織莉子の魔球が撃墜する。
さらにバーサーカーは魔法の爪で敵艦を次々と引き裂いて数を減らす。
無論、深海棲艦に触れることは極めて危険であるが、魔爪は自由に生成可能だ。ボロボロになれば作り直せばいい。
しかし、やはり問題は数。
戦いにおいて戦力を測る方程式にランチェスターの方程式という法則がある。
この方程式において仮に一騎当千の英霊といえど、兵員数が二桁離れていれば戦力差はひっくり返るとされている。
つまりこの三人、いや四人では千を軽く越える深海棲艦に押し潰されるのはそう遠い未来ではないのだ。
無論、その方程式を天津風や空母ヲ級が知らないわけがなく、天津風は打開案を求め、深海棲艦達はそれを潰しに絶え間なく攻めてきているのだ。
「その寝ている兄ちゃんまだ起きねえのか?」
「起きる気配はありませんね。全く寝相の良いことです────オラクルレイ」
魔球から光の刃が現れて特攻を仕掛ける艦載機を撃ち落とす。
縦横無尽に飛び回り、空にオレンジ色の花が咲き乱れた。
しかしながら織莉子の健闘は焼石に水。
苦しそうな織莉子を嘲笑うかのようにすぐに次の艦載機がやってくる。
やって来るのは零戦だけではない。
「おお、なんだあれ?」
「────!」
空を覆っていた硫酸ミストが変形して霧状の手が大量に落ちてくる。
「まるで三式弾ね」
「裂けるチーズだろ!」
「馬鹿なの!?」
などと艦娘と仮面ライダーと才女が言葉を交わしたその時、織莉子の目に悪鬼羅刹が映った。
◆
-
一方で孤立無援のビスマルク、吹雪達は風前の灯火であった。
駆逐艦イ級達の砲撃や雷撃を受けて既にビスマルクには少なくない数の傷が刻まれている。
無論、その中にはマスターを守るために負ったものも多く、そしてこれからも増え続けることは明白である。
さらには制空権を奪われている。
零戦の大部分を天津風達が対応しているからといって決して零になったわけではないし、こちらには戦闘機が無い。
「絶体絶命ね」
「それでも、諦めません」
「あなただけでも逃げていいのよ?」
「いいえ。それだけは、仲間を見捨てて逃げるだなんて」
サーヴァントは仲間ではなく道具でしょうに。
呆れながらもビスマルクの口元には微笑みが浮かんでいた。
「じゃあ何とかしないとね────『第二改造(ビスマルク・ツヴァイ)』」
改造。またの名を霊基再臨。
上昇する魔力量。顕現する鉄火量。
あらゆる傷を修復して蘇る、ドイツの誇る大戦艦Bismarck。海の覇者の姿がそこにあった。
「Feuer!」
連装砲から発射される砲撃で駆逐艦イ級の群れは撃っていた自分の砲弾諸共に木端微塵に消し飛んだ。
しかし、彼女の勇姿に引かれて大量の深海棲艦が殺到する。
味方を踏みつけ彼女に向かうまるで焚火に飛び込む蛾か。
それとも蜘蛛の糸に群がる亡者の群れか。
どちらにせよ恐るべき勢いに違いない。
ゆえに、そこで、『彼女』が動いた。
「駄目ですよ。ビスマルク姉さまは私の武勲(もの)です」
殺到していた深海棲艦達が突如爆発した。
死体も残留することは許されず、汚泥の中へと沈んでいく。
困惑するビスマルク。そこへ────
「こんばんわ、ビスマルク姉さま」
浮かび上がってきたのは────
「U-556(カメラード)には悪いですが、貴女を沈めます」
知っているような。知らないような。
泣きそうとも嬉しそうとも言えない表情の艦娘がいた。
◆
-
深海棲艦の一体に穴が開く。
陣形に隙ができてそこにメアリーが切り込む。
そして無理矢理こじ開ける。
「さあ! 海賊のお通りだ!」
幾度となく口にした掛け声をはいてメアリーは特攻した。
脅威の進行速度で深海棲艦達を切り崩し、中核へと突き進む。
黒騎士、北方棲姫がメアリーの瞳に収まった。
奴はまだ他のサーヴァントを ──艦娘を── 狙っている。
イケる!
「アン!」
メアリーが吼える。
弾の装填を終えたアンの銃撃が軌道上の敵を粉砕し道を拓く。
流石アン。頼れるマスケットの射手。私の最高の相棒。
ならば私も私の仕事をするだけだ。
「コナイデ!」
黒騎士がこちらに気付いた。
護衛なのだろう。彼女を守らんと人型の深海棲艦が左右からメアリーの道を阻む。
「邪魔!」
メアリーが投げつけたトマホークが護衛の一体に突き刺さり、頭をカチ割った。
さらにもう一体をカトラスで両断し、上半身と下半身がない人体が転がりヘドロに還る。
邪魔者を片付けた瞬間、再びメアリーを襲う武力強奪の腕。
数十から数百の腕がメアリーのカトラスに絡みつき、大量の手跡が刀身に付く。
カトラスに先ほどとは比較にならないほどの引力が加わった。
Cランク筋力しか持たないメアリーでは綱引きにすらならない。
だから笑った。好都合だと。
跳躍し、黒騎士が引っ張る力を利用してカトラスに勢いをつける。
「コナイデッテ……イッテルノ」
黒騎士の右、大型砲塔がこちらを向く。
だが、遅い。遅すぎる。
メアリーは右手のカトラスはそのまま左手を離して懐からピストルを抜き、砲塔へと乱射した。
砲台はまるで角材を打ち抜くが如く削がれてゆき、火薬に引火して爆発する。
止めとばかり勢いのついた右手のカトラスに力を込めて振り抜く
「ヤメ────」
強欲島をたたき切るため、全霊で振るわれる海賊剣。
黒騎士の左鎖骨から右腰をたたき斬る一斬。斬った余波で地面が吹き飛ぶ
「……! お前!」
「チョウシニ……ノルナァ!」
黒騎士を倒して────いない!
振りぬいたカトラスがぐっと引きずられ、黒騎士の体へと飲み込まれていく。
その時、メアリーの目には黒騎士の胸元に金属の刃が生えているのが見えた。
◆
-
「な、なぜ!?」
岡部は不条理な結果に疑問を持つ。
確実に致命傷を与える一撃だったはずだ。なのになぜ倒れていない。
そんな岡部の疑問に比翼の片割れが答えた。
「おそらくジャック・ザ・リッパーから奪った宝具で防いだのだと思いますの。
軌道をずらされて、致命傷だったはずの傷は浅くなってしまいましたわ」
「ならばもう一度────」
「いいえ。無理なんですよ。もう」
アンが指を指すと渡り鳥の大移動の如く、艦載機の群れが黒騎士へと殺到していた。
艦載機だけではなく、深海棲艦達もまた他のマスター達を攻撃することをやめて波濤の如くメアリーへ押し寄せている。
対してメアリーのカトラスは黒騎士の肉体に呑まれ、ピストルも投げ斧も弾切れである。
宝具発動中の今ならば素手でもダメージを与えられるだろうが、触れるだけでも危険極まる相手にそんな愚行は犯せない。
メアリーは無手。敵は大群。メアリー・リードが殺られればアン・ボニーもまた消滅する。
つまりこの状況を一言で表せば────
「絶対絶命(らくしょう)ですわー!」
アンのマスケット銃の撃鉄が落ちて、銃口から火が吹いた。
ライダーの宝具『比翼にして連理』は危機に陥るほど攻撃の威力が上がる。
つまり、最大の危機、絶望的状況において最高の性能を発揮するのだ。
相棒の危機に最大攻撃力を乗せた銃弾が自由鳥となって戦場を飛翔する。
僅か百メートル弱を一条の箒星となって駆け抜け、黒騎士へと着弾し、その胸を貫いた。
-
分割四話目投下終了します。
五話目は明日の夜に・・・
-
すいません。。。投下直前に直したのですが、昨日バックアップとった内容を
間違えて投下したみたいです。
明日、5話目投下する前にもう一度投下します・・・
-
再投下の前に修正箇所を箇条書きします。
ジャック・ザ・リッパー
・セリフ変更「解体の時間だよ」→「ばいばい」
・ジャック視点だとメスは宝具ではないので「宝具」「解体聖母」→「メス」に変更
・基本的に漢字二字の言葉は使わないため文章を変更。
・「暗殺者」と表現されているところを「殺人鬼」に変更
黒騎士
・宝具についての説明を修正。
・強奪の腕についての説明を修正
・宝具を発動するセリフを追加
・護衛の深海棲艦を「人型」→「準人型」に変更
ベアトリス・キルヒアイゼン
・「電流」→「高圧電流」に変更。
・砲弾を食らったため溶解している描写を追加
天津風
・宝具発動時のセリフに宝具名を追加(直前で露呈のリスクについて話しているため)
アン・ボニー&メアリー・リード
・ジャック・ザ・リッパーに対して「宝具を奪われた」→「見たところ宝具を奪われたようだ」、「奪った宝具」→「奪った武器」に変更
・アンの語尾がおかしいところがあったので修正
・黒騎士にカトラスが捕まったときの描写を追加
美国織莉子
・セリフのオラクルレイの部分を『』で括る
その他
・余分な改行を削除
・その他、細かい文書の修正
-
再投下します。
-
【C-3 通学路の河川敷】
カトラスが深海棲艦を引き裂き、マスケット銃がぶち抜く。
あーこりゃキツいねとメアリー・リードが愚痴る。
はいはいとアン・ボニーが適当に相槌を打つ。
ヘドラ討伐に参加しないという岡部の目論見は黒い怪物達が自分達に向かってきた──正確には岡部達が進行軌道上にいた──ことにより完全に崩れた。
二人対数千というふざけた物量差により殲滅はおろか離脱にすら手をこまねく状況に岡部は舌打ちする。
ライダー達の宝具を考えれば窮地ほど強力になるが、ライダー達の過去にある通りいつか潰される時が来る。
孤軍奮闘はあくまで援軍や勝機があるからこそ意味がある。岡部達にはそれが無い。加えて朝、昼と連戦して魔力と呼べるものが空に等しい。
岡部は即座に撤退すべきと判断した。間違ってないはずだと自分に言い聞かせながら。
「このまま撤退だライダー」
「「了解」」
岡部たちは令呪を必要としていない。
ヘドラの邪魔をする程度でも一画もらえるのだからヒット&アウェイの戦法が基本となる。
「あとちょっと……」
深海棲艦の激流からようやく抜けようとした瞬間。ソレが現れた。
見た目は幼女。土左衛門のような色素を失った肌の白さと赫い目を持つ。
仲間の深海棲艦を踏み台にしながらついに獲物を発見した黒騎士(ブラックライダー)である。
「…………」
彼女の足元が溶解して汚泥が溜まる。
溶解する速度は先ほどまでライダー達が処理していた雑魚の比ではない。
マスターの透視力もサーヴァントの知覚もコレが強敵であると認識させられていた。
「こいつがヘドラ?」
「さっきのデカイ奴がヘドラだと考えればコレは魚共の同類と考えるべきだと思いますわ」
「こんなのが何匹もいるとか考えたくないんだけど」
「そうですわね」
ライダー達が警戒しているにもかかわらず少女は指をしゃぶりながら品定めをするように二人を見つめていた。
そして少女が掌をこちらへ翳し────
「ゼロオイテケ」
次の瞬間。メアリーはカトラスを、アンはマスケット銃を両手で握りしめた。
「なっ」
原因は一目瞭然だった。
見えない力に引っ張られて、二人の武器が少女の方へ引かれているのだ。
引力、重力、あるいは磁力操作か。ともあれ丸腰にされれば勝てる道理は無い。そう思ったところで────
「ばいばい」
岡部の後ろから霧夜の殺人鬼が迫った。
◆
-
────殺った。
わたしたちは首に刃が突き刺さり、男から血をぴゅーと噴き出すと思った。
でも。
「ゼロオイテケ」
メスがどっかいっちゃった。
確かに握っていたのに。
「え?」
ちょっとびっくりした。
でもまだだよ。他のを抜いてこんどこそコレをころしてやる、と思ったら顔に弾が飛んできた。
避けるけど黒い方のサーヴァントが斬りかかってくる。
さらにそこへ次々とサーヴァントとマスターが現れたよ。
◆
「これは一体どういう状況かしら? 説明してもいいわよ」
「私が知りたいわ」
ドイツ軍服を着た女性が苦笑いを浮かべ、和服を着た少女が眉に皺を寄せる。
「あれは…………もしかして北方棲姫?」
高校の制服に艦砲を持った少女と同じく学生服の刀を持った黒髪の青年と茶髪の青年。
どう見てもただのコスプレ集団である…………という岡部の現実逃避はサーヴァント二騎のステータス表示によって脆くも崩れ去る。
状況は最悪。
サーヴァント四騎に囲まれるとか絶対絶命以外の何物でも無い。
故に────
「フゥーハッハッハッハ。よく来たな有象無象のマスター達よ! 我こそが最強のマスター『鳳凰院凶真』である」
一か八か。思いっきり見栄を張ることにした。
◆
-
「我こそが最強のマスター『鳳凰院凶真』である」
「何……です……って……」
天津風は大いに同様した。この混戦の中、そんな奴に会ってしまうなんて、と。
なるほど確かに一人でヘドラの艦隊を相手にし、更に討伐令の出ているアサシンの相手ができる者など間違いなく最上位のマスターに違いないだろう。
一方で棗恭介は一発でブラフだと看破し、更にビスマルクはその上で心の中で賛辞を送る。
この状況下であんなハッタリを言えるのはそれだけ修羅場を潜ってきた証明なのだ。
黒鉄一輝は半分疑っているが、己のサーヴァントがいない以上はこの場における行動は限られている。
選択肢の中でも最も有用なメソッド、即ちここにいないジャック・ザ・リッパーのマスターを警戒し、武装を展開する。
残った吹雪はと言うと思いっきり息を吸って────
「すいませーん。ヘドラとの戦いに協力してもらえませんかー」
岡部の思惑だとかこの場の空気を無視して叫んでいた。いや、ある意味共通の敵と戦うのにこの場で手を組むというのは理に適っている。
しかし────
「ゼロオイテケ」
敵が待つわけがなかった。
◆
黒騎士(ブラックライダー)。北方棲姫。
赤騎士同様に陸上要塞型の深海棲艦である。
そして、赤騎士と同様に、彼女も宝具を持っていた。
アン、メアリー、ジャックが経験したように武力を奪う宝具である。
ではどうやって? 答えは単純。
「ゼロオイテケ」
次の瞬間、硫酸ミストが蠢き、ビスマルク、天津風、吹雪の艤装にペタペタペタペタペタペタと掌の指紋がつく音が何重にも重なった。
大きさは丁度、北方棲姫の手と同じくらいか。
それが強力な吸引力となって武装を引っ張るのだ。
「きゃあああ」
「何!」
「っ!」
「しまっ……」
よく目を凝らせば薄く伸びた大量の線が彼女達の艤装と繋がっていた。
否、線では無い。これは────腕だ。霧が薄い腕になって伸びている。
『腐毒の肉』で生じた硫酸ミストもまた空母ヲ級であり北方棲姫自身であるということは操作できるということだ。
つまりは周囲に渦巻くこの魔霧こそが吸引力の正体。霧が大量の細い腕となって武装を引っ張っているのである。
突如生じた吸引力に対してサーヴァントであるビスマルクや天津風は踏ん張ることで何とかなるもマスターである吹雪はそうはいかない。
武装ごと砂浜を引きずられていく。行き先にはヘドロの溜まる汚泥の沼、彼女が触れればどうなるかなど一発だ。
ビスマルクと天津風は動けず棗恭介の戦闘力ではどうしようもない。
この時動けたのは三人。
一人は岡部倫太郎。彼は今持ちかけられた共闘に決めあぐねていた。
一人はジャック・ザ・リッパー。切り結んでいたメアリー・リードを引き離し、吹雪へと切り込む。
前門のヘドロ、上空の殺人鬼。
吹雪の脳内に『死亡』の二文字が明確に浮かび上がる。
だが、そこへ動ける最後の一人、黒鉄一輝が動く。
黒鉄一輝の剣技ならば硫酸ミストを払うことも可能だろうが、彼はとある事情で反応が送れた。今から身体強化の術である『一刀修羅』をもってしても間に合うかどうか。
だから彼は、迷うことなく、虚空へと手を翳して使った。
「助けてくれ! セイバー!!」
◆
-
別地点。ヘドラ『本体』。
アタランテと共に戦っていたセイバー、ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼンにマスターの叫びが届く
「分かりました」
即座に吹雪の真上に転移し、ジャック・ザ・リッパーを雷刃で払い、同時に吹雪を引っ張るミストの腕を切断した。
あらゆる制限、因果を無視しての空間跳躍。これこそ令呪の行使。魔法の域に等しい大魔術すら即時発動させる奇蹟である。
「状況を!」
見知らぬサーヴァントが三騎。無数の深海棲艦。その中にサーヴァント級の深海棲艦が一隻。知らないマスターが一人。
「は、はい。とりあえずあの男の人とあっちの」
アンとメアリーの方をゆっくりと指差し
「女の子二人は敵じゃありません」
「あらあら、女の子とは悪い気がしませんわねメアリー」
「うん」
照れとる場合かァーと岡部は脳内でツッコミを入れつつライダー達の不興を買わないために黙っておく。
「了解しました。ではあちらの二人を殲滅します」
そういうや否や雷速で迫るセイバー。
創造位階……宝具を開帳した彼女の速さは間違いなく本聖杯トップレベルだ。故に幼い殺人鬼は斬り結ぶことすらなく吹き飛ぶ。
きゃあと小さい悲鳴と共にアスファルトの地面をバウンドしながら吹き飛ぶもメスを突き立ててブレーキをかける。
そしてもう一人は硫酸ミストの散布をしながら更に例の略奪能力を発動させる。
「シンデンオイテケ」
黒騎士の号令で伸びる三十を超える強奪腕。
放物線を描いて迫る腕に呼応して黒騎士の砲台からも砲撃が行われた。
しかし、セイバーは一息で大半を避け、通路上の霧の多腕を斬り飛ばし、前から砲撃を透過して剣撃を仕掛ける。
黒騎士は巨大な黒い砲塔を盾にして防ぐも剣撃に続く雷撃が雪崩となって黒騎士の身体を蹂躙する。
プスプスと焼ける音。ジュウウウウと何かが蒸発する音を立ててはいるが黒騎士は健在だった。
「いける!」
ヘドラの弱点は乾燥、そして熱である。性能においても相性においてもセイバーが圧倒的有利であった。
雷電となって文字通りの紫電一閃。黒騎士の首に騎士の剣が吸い込まれる。
だがこれで終わらないのが黒騎士だった。
「!」
ガギンという金属と金属のぶつかる音と共に戦姫(ヴァルキュリア)の剣が止まる。
瞠目するセイバーの網膜には黒騎士の首から現れた刃が映っている。
ナイフほどの小さな刃であるが、それに秘められた魔力量は間違いなく宝具の域にある。
すなわち、アサシンから奪った武器……宝具の発動体たるメスだった。
剣撃は止められた。しかし、雷姫は仕切り直しなど許さない。
刀身を通じて10億ボルトの電流を流しこみ、一気に勝負を決めにかかる。
「アア、アアアア、アアアアアアア!」
黒騎士の体から火花が吹く。火花は火となって燃え上がり、黒騎士は名前の通り黒く炭化する。
このまま黒騎士を破壊する────その一歩手前で高圧電流が途切れる。
-
それは彼の限界がきたことを意味していた。
まず最初に気づいたのは隣に棗恭介だった。
「おい、どうした」
突っ立っていた黒鉄一輝が突然膝を屈し、次に黒鉄一輝の毛細血管が千切れて血を吹き出した。
そしてほぼ同時に解除される雷姫変生。機動性を失い、地面へと不時着するセイバーも膝を屈する。
───魔力切れである。 セイバーが宝具の展開から今までの約十分。莫大な量の魔力を吸われ続けた黒鉄一輝は常に拷問に等しい激痛に苛まされていたのだ。
彼は元より魔力の少なさで劣等生の烙印を押され続けた無冠の剣士である。
そんな彼が黒円卓の魔業を十分も保たせた事自体が一種の奇跡とすらいってよい。
その膨大な魔力消費に伴う苦痛のせいで吹雪が引きずられた時に反応が遅れ、その情けなさから令呪を使ったとしても恥ずべきではないだろう。
だが、今。セイバーもそのマスターも行動不能に陥っている。
意識は保っていても脳が動く事を拒絶する。セイバーも膝を屈したまま意識は保てど動けずにいた。
故に黒騎士の次の砲撃に対応できず──
「コナイデ」
そのままセイバーは爆炎に包まれた。
◆
意識が飛ぶ。思考が止まる。
もどかしさは痒みとなって頭に押し寄せる。
────ああ、俺はどうすればいい?
岡部はこの状況下で「逃亡」と「共闘」と「非協力」の三枚のカードが手元にあった。
どれも正解である気がするし、どれも間違いである気もする。吟味している時間はなく、今も目の前でセイバーがぶっ飛んだ。
「マスター!」
次々と集う深海棲艦を撃破しながらジャック・ザ・リッパーと切り結ぶライダー。
現状の維持に限界が来ている。故に呼んでいるのだ──早く方針を示せと。
ああ、こんな時。助手が、紅莉栖がいてくれたら……
「岡部?」
俺はその声を知っている。
「岡部でしょ」
俺はその目を知っている。
「あんたも、ここに」
ああ、神様。もし本当にいるというなら、お前はくそったれだ。死ねばいい。
牧瀬紅莉栖がそこにいた。
◆
-
「あんたもここにいたの!?」
紅莉栖と美国織莉子の二組が主戦場につくとよく知るその顔が目に入った。
あれは岡部倫太郎。自称、『狂気のマッドサイエンティスト』鳳凰院凶真。双子の兄弟とかじゃなければ岡部のはずだ。
「お知り合い?」
「ええ。ちょっとだけ、いい?」
隣にいる美国織莉子は紅莉栖に聞いた後、よろしいですよと神妙な面持ちで言った。
ありがとうと礼をして岡部の元へ走る。何を話すべきか。何を伝えるべきか。
一方で岡部の表情は曇っていた。何度か見た、泣きそうな、或いは死にそうな貌。
「マスター、どうやら再会を祝している余裕は無さそうだぜ」
突然キャスターが紅莉栖の身体を抱えて走り出す。何すんのよという声は轟音によってかき消された。
「何……あれ?」
小さな飛行機が飛んできて爆撃したのだ。あの形状、知識としてのみ紅莉栖は知っている。
「零戦?」
◆
-
「『貪欲な者は常に欠乏する(ブラックライダー・スラッジ)』 」
セイバーを吹き飛ばした黒騎士であったが更なるサーヴァント二騎の登場となれば流石に不利と考えたのか使い魔を製造する。
ヘドラの宝具『溶解汚染都市』の劣化版たるこの宝具は溶解はできても深海棲艦の複製はできない。だが、代わりに別のものが作り出せる。
「ゼロオイテケ」
黒騎士の足元に溜まったヘドロ沼が震え、そして中から不死鳥の如く飛び出てきた影があった。
天津風も吹雪も知識としてはソレを知っている。大日本帝国において後期に開発された悲しい歴史を持つ機体。
「『零戦』……!」
皮肉にも日本を代表する戦闘機が艦娘達へ牙を剥く。
北方棲姫。その来歴はダッチハーバーの海軍基地に由来する。
大日本帝国海軍は零戦を滷獲され、その構造を敵国に知られたという屈辱の記録が残されている。
「マスター、伏せて!」
紙一重で棗恭介は零戦の神風特攻を回避した。特攻に失敗した零戦は地面に転がり爆散する。
その爆心地がヘドロと化し、新たな零戦が出てくると恭介の口からは渇いた笑いが出てきた。
「アーチャー。このままではジリ貧だ。どうにかできるか?」
「アレは落っこちても次々と出てくるわ。殺るなら宝具で全部空中で落とすべきね」
宝具。それを使えば天津風の真名は露呈するリスクを負うことになる。
しかし、このまますり潰されるつもりは恭介にサラサラ無く。
「いいだろう。宝具をもって撃ち落とせ」
了解とアーチャーは返事をすると、己が宝具を展開するべく魔力を吸い始めた。
風がアーチャーの周りに吹き始める。
極東の高天原よりもたらされた神風が硫酸ミストを吹き祓う。
「いい風ね──さぁ、出番よ。『雲の通ひ路吹き閉ぢよ』」
天津風は雪のように白く美しい髪を靡かせながら言った。
どこに潜んでいたのか、天津風の服の影からひょっこりと顔を出す連装砲君。次々と風と光の粒子が集まり、魚雷管を形成する。
壮観。少女の矮躯に無骨な暴力装置が取り付けられるも不思議と調律が取れていた。
それもそのはず、彼女こそが駆逐艦『天津風』。この国を護るべくして作られた鋼鉄の兵器。その霊魂を受け継ぐ者である。
この国を脅かす魔を許す筈がなく、この国を犯す毒を見過せるはずがない。
「たとえ零戦の形をしていようが……」
連装砲達が砲弾を装填し、照準を定める。
狙うは飛び交う零戦。
かつて多くの者が御国を守ると乗って旅立った悲しき戦闘機だ。
軍艦だった天津風もそれを見ている。知っている。
だが、目の前で群れるそれは。骸にたかる蛆のように沸いてくるこれは。
「魂(ナカミ)が宿ってないのよ。形を真似てもスカスカで重みもなんもない!
その機体に乗った人達の思いも覚悟も一切ない!!
そんなもの、あの時代に生きた同胞達を馬鹿にしている紛い物よ!!」
故に天津風はコレを屑と断ずる。
天津風が躊躇うことも遠慮する必要もなし。
「撃て!」
連装砲が火を噴く。
砲火が夜闇を切り裂き、空中でも火の花が咲いた。
◆
-
視界が、ぐらつく。
苦しい。血を流しているらしい。見れば手足の一部が溶けている。
痛みが無いことが逆にどれだけ損傷が激しいかを意味している。
セイバー、ベアトリス・キルヒアイゼンは粉々になった地面の瓦礫を掴み立ち上がる。
コンクリートやアスファルトの破片が腕や脇腹、太腿にめり込んでいた。
腕を上げることでようやく痛覚が仕事をし始める。しかし、痛み程度で怯む弱卒ではなし、剣を構えて周りを確認する。
戦闘機が幾機も空を飛び、撃墜されて爆散する。
ヘドロからデカい魚が浮かび上がり、少年少女に襲い掛かる
硝煙、硫黄、塩基性の匂いが充満し、爆音と共に瓦礫が蓄積されていく。
赤い水が破裂した水道管から流れ出して血の池地獄を形成していた。
そこら中から硫黄の白煙と燃焼の黒煙が出ている。
これらの惨たる有様を見てセイバーは安心した。
「どうやらグラズヘイムじゃないみたいですね」
つまりまだ自分は脱落していない。
マスターは……どこだ。
魔力の繋がりを感じる。まだ生きているはずだ。
「シズメ」
即時にセイバーは身を翻し、砲弾をスレスレで避ける。
背後から駆逐艦イ級が攻撃したのだ。声がなければ食らっていた。
剣を構えるセイバーが見たものは十を超える黒魚と黒騎士。
「オイテケ」
リボンのように束ねられた黄ばんだ煙が蠢き、その内の何本かがセイバーの剣へ迫る。
ほぼ同時に駆逐艦の砲撃支援も行われ阿吽の呼吸でセイバーを追い詰めていく。
宝具が使えれば一網打尽にできるが、宝具が使えなければ絶対絶命である。
そこへ救いの手が差し伸べられる。
「『比翼にして(カリビアン)』────」
「────『連理(フリーバード)』」
響きあう二色の女声。
黒い少女と赤い女性が切り、射ち、壊し、一騎当千の動きで敵の包囲網を突き破った。
◆
-
ベアトリスが目を覚ます直前に岡部は二人に言った。
「宝具を使う」
「は?」
「マスター。この戦況を正しく把握してますの?」
「無論だ。もう魔力はほとんどない。だから……」
腕を捲ってそこにある紋様を見せる。
既に一画が消費された令呪があった。
迫るジャック・ザ・リッパーを蹴り飛ばし、駆逐艦イ級をマスケット銃が撃ち抜く。
「正気? ここ一番で使うものをこんなところで使うの?」
「ここで使わなければ死ぬ」
「あら、私達だけならば逃げられますわよ」
蹴り飛ばされたアサシンは深海棲艦の群れへと突っ込み、すぐに囲まれた。
見たところ宝具を奪われたようだ。武器があれだけならば数分で潰されるだろう。
この場合、アサシンの討伐報酬がどうなるかは気になるところだが今はそれどころじゃない。
深海棲艦たち大将首は後から来た連中に夢中だ。
そう、逃げられる岡部達だけならば。
だが、ここには────
「あー。いい」
「皆まで言うな、ですわ」
「さっきの女を助けたいんでしょ」
岡部は目を見開いた。
てっきり言えば反対されると思っていた。
「勘違いしないでねマスター。あくまで指示に従うだけだから」
「あら、てっきりメアリーったら感情移入したのかと思いましたわ。
メアリーだって生前は────」
「あー、あー、聞こえない。聞こえなーい」
メアリーが耳を塞ぎ、ふざけながらじゃれあうアン。
ここが戦場であるということすら忘れてしまいそうな笑顔だった。
そして自然と岡部も笑顔になって。
「フーハッハッハ。
我がサーヴァント! 我が僕よ!
我が盟約に従い、ここに力を示せ……死ぬなよ」
「うん」
「了解ですわ」
令呪一画が消える。
切り込むは無数の深海棲艦が群れる中心。
「『比翼にして(カリビアン)』────」
「────『連理(フリールバード)』」
メアリーがロケットダッシュした。
◆
────────世界線、変動
◆
-
岡部達から少し離れた場所では激戦が繰り広げられていた。。
まさに猛攻。その一言に尽きる。建物は軒並み倒壊し、舗装された地面は凸凹になり、様々な瓦礫がそこら中に散らばっている。
遂に三桁まで生成された零戦が絶え間なく特攻と爆撃を繰り返し、連射と勘違いしそうなほど単装砲撃がマスター達に向けられる。
でも彼等は生きていた。泥で汚れ、血を流しながらも、しぶとく、太く。死んでたまるかと。
「数が減らねぇ」
「もっと撃って! こっちはもう」
「皆まで言うな。分かってる。だけど前から人を守りながら戦うのはキツイんだよ」
天津風と仁藤はマスター達に近寄らせまいとひたすら撃ちまくっている。更に遊撃として織莉子とバーサーカーも動いていた。
この二組は特に手を組んだわけではないが、生存の確率を少しでも増やすため、互いに利用しあっているのだ。
撃ち込まれる砲弾、爆弾、魚雷、艦載機をバーサーカーの速度低下の魔法で遅滞させ、織莉子の魔球が撃墜する。
さらにバーサーカーは魔法の爪で敵艦を次々と引き裂いて数を減らす。
無論、深海棲艦に触れることは極めて危険であるが、魔爪は自由に生成可能だ。ボロボロになれば作り直せばいい。
しかし、やはり問題は数。
戦いにおいて戦力を測る方程式にランチェスターの方程式という法則がある。
この方程式において仮に一騎当千の英霊といえど、兵員数が二桁離れていれば戦力差はひっくり返るとされている。
つまりこの三人、いや四人では千を軽く越える深海棲艦に押し潰されるのはそう遠い未来ではないのだ。
無論、その方程式を天津風や空母ヲ級が知らないわけがなく、天津風は打開案を求め、深海棲艦達はそれを潰しに絶え間なく攻めてきているのだ。
「その寝ている兄ちゃんまだ起きねえのか?」
「起きる気配はありませんね。全く寝相の良いことです────『オラクルレイ』」
魔球から光の刃が現れて特攻を仕掛ける艦載機を撃ち落とす。
縦横無尽に飛び回り、空にオレンジ色の花が咲き乱れた。
しかしながら織莉子の健闘は焼石に水。
苦しそうな織莉子を嘲笑うかのようにすぐに次の艦載機がやってくる。
やって来るのは零戦だけではない。
「おお、なんだあれ?」
「────!」
空を覆っていた硫酸ミストが変形して霧状の手が大量に落ちてくる。
「まるで三式弾ね」
「裂けるチーズだろ!」
「馬鹿なの!?」
などと艦娘と仮面ライダーと才女が言葉を交わしたその時、織莉子の目に悪鬼羅刹が映った。
◆
-
一方で孤立無援のビスマルク、吹雪達は風前の灯火であった。
駆逐艦イ級達の砲撃や雷撃を受けて既にビスマルクには少なくない数の傷が刻まれている。
無論、その中にはマスターを守るために負ったものも多く、そしてこれからも増え続けることは明白である。
さらには制空権を奪われている。
零戦の大部分を天津風達が対応しているからといって決して零になったわけではないし、こちらには戦闘機が無い。
「絶体絶命ね」
「それでも、諦めません」
「あなただけでも逃げていいのよ?」
「いいえ。それだけは、仲間を見捨てて逃げるだなんて」
サーヴァントは仲間ではなく道具でしょうに。
呆れながらもビスマルクの口元には微笑みが浮かんでいた。
「じゃあ何とかしないとね────『第二改造(ビスマルク・ツヴァイ)』」
改造。またの名を霊基再臨。
上昇する魔力量。顕現する鉄火量。
あらゆる傷を修復して蘇る、ドイツの誇る大戦艦Bismarck。海の覇者の姿がそこにあった。
「Feuer!」
連装砲から発射される砲撃で駆逐艦イ級の群れは撃っていた自分の砲弾諸共に木端微塵に消し飛んだ。
しかし、彼女の勇姿に引かれて大量の深海棲艦が殺到する。
味方を踏みつけ彼女に向かう様はまるで大海嘯か。
それとも蜘蛛の糸に群がる亡者の群れか。
どちらにせよ恐るべき勢いに違いない。
ゆえに、そこで、『彼女』が動いた。
「駄目ですよ。ビスマルク姉さまは私の武勲(もの)です」
殺到していた深海棲艦達が突如爆発した。
死体も残留することは許されず、汚泥の中へと沈んでいく。
困惑するビスマルク。そこへ────
「こんばんわ、ビスマルク姉さま」
浮かび上がってきたのは────
「U-556(カメラード)には悪いですが、貴女を沈めます」
知っているような。知らないような。
泣きそうとも嬉しそうとも言えない表情の艦娘がいた。
◆
-
深海棲艦の一体に穴が開く。
陣形に隙ができてそこにメアリーが切り込む。
そして無理矢理こじ開ける。
「さあ! 海賊のお通りだ!」
幾度となく口にした掛け声を叫んでメアリーは特攻した。
脅威の速度で深海棲艦の陣形を切り崩し、中核へと突き進む。
メアリーの瞳に黒騎士、北方棲姫が収まった。
奴はまだ他のサーヴァントを ──艦娘を── 狙っている。
イケる!
「アン!」
メアリーが吼える。
弾の装填を終えたアンの銃撃が軌道上の敵を粉砕し道を拓く。
流石アン。頼れるマスケットの射手。私の最高の相棒。
ならば私も私の仕事をするだけだ。
「コナイデ!」
黒騎士がこちらに気付いた。
護衛なのだろう。彼女を守らんと準人型の深海棲艦が左右からメアリーの道を阻む。
「邪魔!」
メアリーが投げつけたトマホークが護衛の一体に突き刺さり、頭をカチ割った。
さらにもう一体をカトラスで両断し、上半身と下半身がない人体が転がりヘドロに還る。
邪魔者を片付けた瞬間、再びメアリーを襲う武力強奪の腕。
数十から数百の腕がメアリーのカトラスに絡みつき、大量の手跡が刀身に付く。
その数や手跡が多すぎてカトラスが真っ黒になるほど。そしてカトラスに先ほどとは比較にならないほどの引力が加わった。
Cランク筋力しか持たないメアリーでは綱引きにすらならない。
だから笑った。好都合だと。
跳躍し、黒騎士が引っ張る力を利用してカトラスに勢いをつける。
「コナイデッテ……イッテルノ」
黒騎士の右、大型砲塔がこちらを向く。
だが、遅い。遅すぎる。メアリーは右手のカトラスはそのまま左手を離して懐からピストルを抜き、砲塔へと乱射した。
砲台はまるで角材を打ち抜くが如く削がれてゆき、火薬に引火して爆発する。
止めとばかり勢いのついた右手のカトラスに力を込めて振り抜く
「ヤメ────」
強欲島をたたき切るため、全霊で振るわれる海賊剣。
黒騎士の左鎖骨から右腰をたたき斬る一斬。斬った余波で地面が吹き飛ぶ
「……! お前!」
「チョウシニ……ノルナァ!」
黒騎士を倒して────いない!
振りぬいたカトラスがぐっと引きずられ、黒騎士の体へと飲み込まれていく。
その時、メアリーの目には黒騎士の胸元に金属の刃が生えているのが見えた。
◆
-
「な、なぜ!?」
岡部は不条理な結果に疑問を持つ。
確実に致命傷を与える一撃だったはずだ。なのになぜ倒れていない。
そんな岡部の疑問に比翼の片割れが答えた。
「おそらくジャック・ザ・リッパーから奪った武器で防いだのだと思いますの。
軌道をずらされて、致命傷だったはずの傷は浅くなってしまいましたわ」
「ならばもう一度────」
「いいえ。無理ですわ。もう」
アンが指を指すと渡り鳥の大移動の如く、艦載機の群れが黒騎士へと殺到していた。
艦載機だけではなく、深海棲艦達もまた他のマスター達を攻撃することをやめて波濤の如くメアリーへ押し寄せている。
対してメアリーのカトラスは黒騎士の肉体に呑まれ、ピストルも投げ斧も弾切れである。
宝具発動中の今ならば素手でもダメージを与えられるだろうが、触れるだけでも危険極まる相手にそんな愚行は犯せない。
メアリーは無手。敵は大群。メアリー・リードが殺られればアン・ボニーもまた消滅する。
つまりこの状況を一言で表せば────
「絶対絶命(らくしょう)ですわー!」
アンのマスケット銃の撃鉄が落ちて、銃口から火が吹いた。
ライダーの宝具『比翼にして連理』は危機に陥るほど攻撃の威力が上がる。
つまり、最大の危機、絶望的状況において最高の性能を発揮するのだ。
相棒の危機に最大攻撃力を乗せた銃弾が自由鳥となって戦場を飛翔する。
僅か百メートル弱を一条の箒星となって駆け抜け、黒騎士へと着弾し、その胸を貫いた。
-
再投下分終了です。
続けて分割5話目投下します。
-
「こんばんわ、ビスマルク姉様。
U-556(カメラード)には悪いですが、貴女を沈めます」
「貴女……もしかして」
そこには泣きそうとも嬉しそうとも言えない表情をしている艦娘がいた。
肌は焼けているが見覚えのある顔だった。
水着にセーラー服という奇抜なファッションだけど、彼女の名前は────
「U-511ね」
「名前の後に『オルタ』が付きますが、そうですユーちゃんです」
天真爛漫な笑みを浮かべ彼女はビスマルクに応える。
しかし、これはサーヴァントの反応だ。加えてこの悪臭。
「あなた、ヘドラの……」
「はい、お察しの通りですよビスマルク姉様」
「なぜ────なんで! 栄えあるユーボートの貴女がそんなモノに」
祖国が誇る潜水艇ユーボート。それが今では怪物の眷族まで堕ちたなど考えたくはなかった。
だからビスマルクは問う。否定してほしくて。
なのに、彼女はあろうことか、その形を肯定し始める。
「〝栄えあるユーボート〟ですか……生憎と私はそう思いません。
むしろ、これこそが真の栄光を掴み取るに相応しい姿ですよ」
ユーボートの内部からドイツ海軍の軍服が出てきて、水着やセーラー服が千切れた。
笑みや肌の色、髪はそのまま、服装がU-511の姿に変わる。おそらく、あの姿こそが、彼女の今の霊基に相応しい姿なのだろう。
「さて、では沈んでもらいますよ、姉様♪」
「────」
可愛らしい笑顔のまま、純粋な殺意がぶつけられている。
歪みが見えない笑顔と殺気が逆にどれだけ彼女が歪んでしまったかを表していた。
咄嗟の悪寒にビスマルクは後方へとステップすると、数秒前に彼女がいた場所が爆発した。
爆炎や煙ではなく、ヘドロが湧水のように爆発的に湧いたのだ。避けなければどうなっていたのかなど考えたくない。
「本気なのね」
「軍人(われわれ)が手抜きなどありえますか?」
「そう、ね。まぁお互いサーヴァントだし、いつか潰し合うものなのでしょうけど、でも一言いいかしら?」
「Ja」
「では、お言葉に甘えて」
すぅーと息を吸って。
「深海棲艦に与するとはそれでも艦娘か!
敵兵に頭を垂れるなど、それでもユーボートの一員か!
粛清してあげるから覚悟しなさい!!」
-
大戦艦ビスマルクの喝が雷鳴のように天地を響かす。
普段の柔らかい口調からは出てこない、厳格な糾弾だった。
同時、停止していたビスマルク・ツヴァイの全兵装が稼動を開始する。タービンが回り、地鳴りを思わせる駆動音が周囲を振動させる。
ビスマルクは本気だ。
決して黒騎士との戦いで手を抜いていたわけではない。されどこれは別種の全霊。
サーヴァントの役割ではなくドイツ海軍戦艦の誇りが彼女の機関内で過去最高の燃焼を引き起こしている。
「身内の始末に付き合わせちゃってごめんなさいね」
「気にしないでください。私が貴方のマスターですから」
「ありがとう、見守ってちょうだい」
ここにいる三人は総て艦娘。
故に彼我の戦況分析が可能だった。
ユー・オルタは陸地でも潜水できることにより機動力が落ちない。それどころか潜水艦であるため夜戦の恩恵がある。
反面、陸地であるためビスマルクは艤装を外しているため機動力は落ちている。
つまり、距離を取っての撃ち合いはビスマルクがかなり不利だ。
しかも潜水艦であるユーの潜水を許せばどこから来るかも分からない攻撃に対処しなくてはならない。
(つまりこの場合────)
(ビスマルク姉様は────)
(接近戦で直接撃ち込んであげるわ!!)
ビスマルクが思いっきり──地面に足跡が残るほど──踏み込み、跳躍した。
矢の如く跳び、衝撃波を撒き散らしながらビスマルクはユー・オルタへと接近する。
◆
-
迅い。なるほど、これほどの脚力ならば足の艤装を外してても十二分に戦える。
自分が地中潜行する前にカタを着けるつもりだ。
無論、ユーとてそれは予想の範囲内である。ユーの攻撃は既に完了している。
「Feuer!」
既に発射していた魚雷を自爆させた。ビスマルクの前方に突如としてヘドロの水柱がバリケードとなって出現する。
これでお姉様が来る前に潜れるはずと思った瞬間に壁の反対側から爆風が発生した。ビスマルクの38㎝連装砲が火を吹いたのだ。
頼みのヘドロ水柱は根元から吹き飛ばされ、水柱に含まれていた硫化化合物が一斉に引火する。
────読まれていた!?
ユーは咄嗟のことに動揺し、もはや火柱と化した前方からビスマルクの接近を許してしまう。
ビスマルクが気合いを吼え上げて、右の鉄拳が繰り出される。
こちらも左掌で受け止める。戦艦のパワーを受け止めたユーの左腕数ヶ所から爆竹のようにパァンと血飛沫が飛ぶ。
「────フ」
多大なダメージを負ったが、ヘドロとヘドラがある限り修復され続ける。それ以上にビスマルクの拳を捕らえられたことに価値がある。
ユーにはスキル『腐毒の肉』がある。接触し続ければビスマルクの手は溶解する。つまりビスマルクの片手を潰せるのだ。
筋力差があるため強引に手を離されるだろう。だが食い付き続ければその分ダメージを与えられるはずだ。
と思ったその時、ビスマルクは強引に手を開き、指を絡ませてむしろ離さないように手を繋いだ。
俗に言う恋人繋ぎをしたビスマルクに困惑するのも束の間。ビスマルクの左副砲が動き出しようやく理解した。
────右手を犠牲にしてでもビスマルク姉様は私を倒すつもりなんだ。
彼女に本気を出させたことに喜んでいいのか、本気で殺されそうなことに嘆いていいのかわからず、されど殺られるわけにもいかないユーは魚雷を作って左副砲の砲口にねじ込んだ。
砲撃が為され間一髪のところで魚雷が盾となって直撃を免れる。
「が、ぁ」
「うぅ」
ユーは右腕、ビスマルクは左の艤装が無くなった。
痛み分け? いいや、否。
ビスマルクは衝撃を利用して右手を思いっきり引き、ユーの左腕を丸ごと引きちぎった。
「づぅ……まだですって!」
両腕を失ったユーだが、即座に腕が修復を開始する。ドロリと腕……というよりも五指のあるヘドロの塊が傷口から湧いてきた。
ヘドロ腕が大きく振るわれ、腕を千切ったばかりのビスマルクはかわせず、思いっきりはたかれる。
ビンタと呼ぶには大きすぎる衝撃音が発され、ビスマルクの体が地面に足を着けたまま、数メートル下がった。
◆
-
脳がぐらんぐらんする。口から割れた歯が血と共に飛び出た。唇は裂けていて、更にヘドロが傷口を広げる。
やるじゃない、と口を拭いながら内心で相手の評価を上げた。このユーは強いわ。
目を地面に向ければユーの足元がズブズブと沈み始めている。
「ビスマルク姉様は先ほど誇りと責任をユーに説いてらっしゃいましたが……」
────まずいわね。相手に距離と時間を与えてしまったわ。ユー・オルタは潜り始めている。
潜られては私の勝率は格段下がる。潜るより先に倒すしかないけど、今からでは接近しても間に合わないわね。
「では私からも一つ言わせてもらいます」
────38㎝連装砲は既に再装填が済んでいる。
この距離からなら威力は十分よ。殺れる。沈めてみせるわ。
私はドイツが誇るビスマルク級超弩級戦艦ネームシップ。
その名はかの《鉄血宰相》の御名を頂いたのよ。喩え敵が…………彼女であろうと倒してみせるわ。
そうビスマルクが決意し、砲を向けた時、ユーが何か喋っているのに彼女は気づいてしまった。
「貴方に何が分かるんですか」
「え?」
あろうことか耳を傾けてしまった。
「貴方に何が分かるんですか!
祖国のために死ねた貴方に! 私の……U-511の一体何が分かるんですか!!」
「──────」
直前に何を喋っていたかなど知らないが、これは致命傷だ。
ユーの内包していた嫉妬の念量はビスマルクの想像を遥かに超えていた。
その事実を叩きつけられ、驚愕して空白ができる。
「ライダー!」
マスターの声でハッと我に変えるも既に手遅れ。
ユーは既に潜行を終えて姿を消していた。
-
────────ああ、なんて、無様。
戦場で呆けるなんてあるまじき失態だわ。
気が緩んだ? いいえ、そんなことはない。
ただ、ユーの事を私がよく知らなかっただけ。
……ユーの事を多少低く見ていたことは事実よ。
だって私は『ビスマルク』。誰よりも偉くなくてはならないんだから。
だけど私が驚いたのはユーの強さでも、嫉妬深さでもなくて──────いいや、考えるのはよそう。
私が為すべきこと、為さなくてはならないことは別にある。だから。
「吹雪。貴方は先へ行きなさい」
「どうしてですか。私も此所にいます」
「貴方には貴方の為すべきことはあるわ。因縁なんでしょ、あの空母ヲ級とは。なら行きなさい」
「ならば勝ってから、一緒に行けばいいじゃないですか! ライダーの言うことはまるで────」
まるでこれから死ににいくような者の言い分だ。
それはマスターとしても艦娘(せんゆう)としても容認できない。
「死ぬつもりは無いわ、ただ此所にいると私の攻撃に貴方を巻き込んでしまう。
そんなことしたら私が私を許せなくなるのよ」
ビスマルクが背中で語る。
これより修羅に入る、故に足手まといは不要だと。
戦力外通告を受けた吹雪は悔しがりながらも神妙な顔になり敬礼した。
「分かりました。必ず帰ってきてください」
「当然よ。ああ、でも先に謝っておくわ。たくさん魔力貰うわよ。知っての通り大食いでね」
「ええ、好きなだけ持っていってください。御武運を!」
吹雪が駆けていく音を背中で受けながらビスマルクは微笑みを浮かべた。
どうやらユーは吹雪を追うつもりは無いらしい。気配遮断スキルが用を成さないほどの濃い魔力とヘドロやミストがこの場所へと集束している。
サーヴァントのいないマスターなんかがヘドラを倒せるはずがないと思っているのか。
「あるいは、ここで私を倒すつもりなのかしら」
◆
-
なぜ、あんなことを言ってしまったんだろう
ユーには分からない。誇りも威容も無いユーにはビスマルク姉様の在り方は眩しすぎた。
思い出すのは、そう。昼過ぎの、あの戦い。
ビスマルク姉様と他の艦娘が深海棲艦と戦い、U-511はというと深海棲艦を煽って彼女達にぶつけるだけ。
彼女達は水上(ヒカリ)、私は海中(ヤミ)。己と艦娘にあるまじき行為と彼女達の奮戦に自分の屑さが浮き彫りになっていく。
──────羨ましい。純粋にそう感じたのだ。
だからこそ、私はこの道を選んだ。
ユーは取り戻すのだ栄光を! あるべきだった己の価値を!
あの日見失った帰り道を、海の底から見つけ出そう!
「魔弾形式(ツアープラン)──牙を立てる灰色狼(ヴルフゲレート・グラウヴォルフ)!!」
持ちうる全てのヘドロを込めて。
母艦から絞り取れるだけ魔力を込めて『U-511』の宝具『WG42』を作る。
全力全開。宝具『WG42』のサイズが本来より三回りほど大きくなる。
ここまで拡張しなければビスマルクの装甲を貫通することなど不可能だ。同時に巨大化させることでWG42の命中率と射程を引き延ばすことも兼ねている。
「これで……勝ちますよ、姉様! 」
◆
-
なぜ私は動けなかったのか。
彼女の嫉妬に押されたのか。
前述の通り、ユーの事を下に見ていた。
軍とは則ち縦社会だ。必ず上と下がいて、下が働き上が指揮を取る。
当然、艦娘でもその原則は変わらない。旗艦とそれ以外、あるいは提督と艦娘というようにハッキリと形に表れる。
サーヴァントとなり、異なるマスターに召喚された二人であるが、それでも序列は決まっていた。
ビスマルクという名を持つ己。己を姉と呼ぶU-511。召喚前から互いに上下関係を理解していた。
そんなこと分かっている。
それでも、彼女は同胞で、戦艦(わたし)にはできないことがたくさんあった。
羨んでいたのはU-511だけではない。道半ばで沈み、大戦の結末を見届けることができなかったビスマルクもまたUボートに羨望していた。
それは大戦後まで出撃できなかったU-511に対する皮肉ではない。彼女達は多くの戦場で、多くの作戦で愛された故に大量生産され、その結果生き残ったのだ。
数が多いというのはそれだけ必要とされたこと。名が残るというのはそれだけ役に立ったということ。
私に出来ないことを彼女達はできるわ。
彼女達に出来ないことを私はできるわ。
ならば、互いにできることをやるだけよ。
羨みながらも己を誇り、己を誇りながらもUボート達を認めていた。
だからユーの怨念めいた嫉妬は予想外だった。あの子もきっと同じ思いだと信じていた故に。
「結局は私の勘違いだったのかしら」
目を閉じ、一隻の潜水艦を思い出す。私を守ると誓ってくれたUボートを。
あのブレスト沖で沈みゆく私に、武装が無いことに悔し泣きしながら見届けた彼女を。
───フン、戦場で感傷とは緩んだわね私。彼女は彼女、U-511はU-511。同一艦でも彼女らは違う。
それでもユーを認めているからこそ全力で! 辱しめないように倒すとここに誓う。私は『ビスマルク』なのだから。
あなたが失った帰り道を、海の上から見せてあげる!
「魔弾、装填!」
持ちうる全ての魔力を砲弾に込める。
依然、ユーの居場所は分からない。ならばどうやって勝つか。
答えは単純にして蛮脳極まるもの。すなわち、全て吹き飛ばせばいいという暴論だ。
ユーの宝具は分からないが、彼女が呂500ではなくU-511を名乗る以上、必ずWG42を使ってくる。あの火器の命中率の低さ、ビスマルクの装甲を考えるに射程は精々10〜15メートル。裏を返せば射程15メートル内には必ずいるということだ。
回路接続(タービン・セット)。
魔力を込める。魔弾以外の全ての機関を停止させ、装填させている砲以外の艤装が落ちて消滅する。
手足、いや全身が薄くなり魔力不足で実体化すら危うい状況まで込める。
そこまでして何故魔力を込めるか。
地面を丸ごと吹き飛ばすだけなのに。
などと言うは易し。識者には不可能に等しい問題があることに気付くだろう。
それは砲弾の作れるクレーターの大きさだ。ビスマルクの艤装で最大のものは38㎝連装砲だ。
一発で都市区画を木っ端微塵に変える世界最大の火砲──80㎝列車砲『ドーラ』の4.8トン榴爆弾ですら深さ10メートルまでしか届かない。
ましてやドーラの半分以下の口径で何ができようか。己の限界を超えねば潜水艦と同じ土俵にすら立てないのだ。
「ぐ、ああ、あああああぁぁァ!」
沸騰する血液(オイル)
火花(スパーク)を散らす神経。
焼ききれそうなほどの熱量を帯びる砲身。
なのに背筋からは絶えず悪寒が走り、脳髄からはアラートが鳴り響く。
意識が薄れかけ、視界から色が削れていく。
-
────────死ぬ。
自殺紛いの全力発揮。
そこまでしても全く足りない。
想定以上のスペックを出すことなど兵器ではどだい不可能なのである。
だが、忘れること勿れ。彼女は物言わない兵器ではなく英霊。スペック不足など元より承知。故にここに反則技を行使する。
「霊基再臨、最終再臨────『第三改造(ビスマルク・ドライ)』!」
彼女が変生(かわ)る。
消えかけていた船体(カラダ)が実体を取り戻し、砲弾のために解きほぐされた艤装達もまた甦る。
つまり『全回復』だ。当然ながら保有魔力量も満タン、それどころか器が大きくなったことで増えている。
再臨前のまま残っているのは渾身の魔力を込めた砲弾。そこへ更に魔力を込める。
「何とか、なりそうね」
危険な賭けだった。一歩間違えれば自滅するほどの。もしこの瞬間にユーが撃っていたら終わっていたに違いない。
しかし、自殺スレスレの所業なくばビスマルクといえど潜水艦に打ち勝つことは不可能に等しい。
この戦場は汚染された黒騎士の戦場。場の支配率はユーが8割、ビスマルクが2割程度だ。つまり周囲の魔力を利用することは極めて困難。
加えて潜水艦の潜行能力と気配遮断、地面という壁はビスマルクの勝利を彼方に追いやる。
仕方無いわ。でも負けるのは嫌だから殺られる前に燃え尽きてみせましょうとそう決意して彼女はユー・オルタに〝挑んだ〟。
さぁ、結果発表の時だ。砲弾を込めて直下の地面へ向ける。
「装填完了。さぁ、行くわよユー!」
衝撃波や反動で己が傷付くなど微塵も恐れず、彼女は引き金に指をかける。
◆
-
奇しくも、あるいは当然の流れで二人は同時に発射した。
両者ともに必殺の意思を乗せた一射である。
────さあ、深海(チ)へ沈め祖国代表(ビスマルク)!
ここにあるのは亡霊の執念。
奈落(カイテイ)へ引きずりこむ亡者の腕(かいな)と知るがいい!
────いざ、水上(テン)を仰げ祖国代表(ユーボート)!
今振り降ろされるは鋼の大牙。
かつては四海に轟き、そして此処では大地を穿つ!
天(スイジョウ)の轟砲を知るがいい!
二つの魔弾が地面を打ち砕いた。ユーとビスマルクの間を遮る全てが崩壊する。
アスファルトが、その下の土が、握りしめた角砂糖のように粉微塵になって天高くまで巻きあげられる。
轟爆の炎と衝撃。爆熱と腐毒で溶解していく総て。
そのあまりの破壊力に大気も物質も音ついていかず無音の時間が一瞬だけ誕生した。
大気と音が蘇った時、壮絶な破壊痕の上で一人が臥し、一人が立っていた。
◆
-
ビスマルクの艤装が次々と外れ、抉られた大地へ落ちる。
焼け焦げた軍帽が、空高くから雪のように地面に着地した。
自身の体重すら支えきれず、遂に膝を屈する。
端正な顔は煤で、美しい髪は泥で汚れ、軍服もまた至るところが溶けていた。
溶けている原因はユー・オルタの砲撃だけではなく、自身の砲撃で発生した熱も含まれている。
サーヴァントでなければとうに破れていたであろう鼓膜が空気のうねりを聞く。破壊によって真空状態だったこの場に大気が戻ってきたのだ。
そしてこれまたサーヴァントでなければ焼かれていただろう網膜が、大地に臥すユーの姿を捉えた。
左肩と右腰を繋いだ線から下が消滅していた。その傷口は内臓や骨格といった人間の死体を思わせるものは一切なく、水銀のような汚泥で埋め尽くされていた。
気絶でもしているのだろうか、目は閉ざされ、呼吸でなだらかな胸が上下していた。
「私の勝ちよ、ユー」
吹き荒ぶ風の中、ビスマルクは優雅に勝利を宣言した。
ヘドロも無く、損壊したユーにもう何もできまい────
──────いいえ、まだですって!
ガバッと起き上がったユーが叫んだ。同時に失われた腕が再生する。
しかし、生えた腕まるで別人の腕だった。まず大きさや骨格からして成人男性のもので袖が通っている服もドイツ帝国海軍とは全く別のもの。
腕の軍服を起点に次々と同じ軍服が生えてきてユーの上半身をすっぽりと覆った。ビスマルクはその服を制服とする組織を知っていた。
「ゲゼルシャフト……! そうか、貴方のマスターは!」
「ええ、御察しの通りです!」
ならばユー・オルタの左腕に巻き付いたものが何を示しているかなど考えるまでもない。
半分溶けているがあれはおそらくゲゼルシャフトの兵器────電光機関だ。
バチバチと火花が爆ぜる音と共にユーの左手に赫黒い雷球が生じる。
同時に半壊していた電光機関の各部から火花が噴き出た。火花に焼かれて損壊していたユーの肉体が燃える。ヘドラの特性を有した彼女にとってそれは地獄の責め苦だろう。 ユーの命を吸って赫い雷球は膨れ上がり、ユーの魔力を帯びて魔術的にも破壊力を高めていく。受ければただでは済むまい。
しかし受ければの問題だ。ユーは下半身を失っているため自由に動けない。逆にビスマルクは健在だ。ユーの攻撃の射程範囲から逃れるだけで勝利が確定する。
だから足を動かしたその時。
-
「それが“ビスマルク”の誇りですか──姉様」
怒りも悲しみも含んだ声がビスマルクの足を止める。
「ドイツの誉れを背負っていながら死に損ないの潜水艦一隻から逃げるんですか?
『私達』は違いましたよ。例え相手が商船であろうと沈めました。
敵に怯えて深海深くに潜り、鼠のように死んだふりをすることも有ります。
沈めば最後、誰にも気付かれず、残骸すら拾われずに暗い海の底で眠った姉妹もいます
────だけど!!!」
ユーは苦しさを打ち消すように叫んだ。
体の続く限り、魂の続く限り、叫んだ。
「それがユー達の誇りなのです!
たとえ水上(おもて)で活躍出来なくても!
たとえ人知れず終わるとしても!
たとえ祖国に帰れず海の藻屑となっても!
ユー達は勝つために戦ったのです!!
それからビスマルクは逃げるんですか!」
引き止めるための挑発──────などという安いものではない。
あれは正しく魂の咆哮。そして総てを込めた最期の一撃だ。
電光機関に命を吸われ、電光機関に体を焼かれる彼女。それでも彼女はビスマルクの魂へと訴えている。
「わかったわ。要はこうでしょ、“白黒ハッキリ着けましょうって“」
死に損ないの悪あがきに付き合うつもりは無い。だが、魂を賭けた戦いならば──
「いいわよ、受けて立つわ」
是非もなし。
艦娘とは魂を受け継いだ者。その魂がユーとの決着を望んでいる。
「ユー ── 私も誇りを賭けて貴方に勝つ!」
全てを出しきった今、ビスマルクに策など無い。ただ魔力を込めて撃ち抜くのみ。
装填されるたった一発の砲弾。中身はスカスカで、されど万感の思いが込められている。
「「Feuer!!」」
二度目の砲雷撃が衝突した。
◆
-
雷球と砲弾が衝突した後、小さなクレーターが出来ていた。
パチパチと放電現象が残留していたそこを越えて遂にビスマルクはユーの側へと立つ。
「今度こそ私の勝ちね」
「ええ、そしてユーの敗北ですね。流石はビスマルク姉様です」
ボロリと見た目に反して砂城のようにユーの体は崩れていく。
首から皹が入り、瞼まで届いているがユーは笑顔だった。
ビスマルクは痛む体を何とか動かしてユーの傍に寄り、腰を下ろす。
ユーの目は既に光を発していない。ソナー音だけでビスマルクを観ている。
「やっぱりユーではビスマルク姉様に勝てませんてましたね」
「じゃあ何で挑んだの?」
「さぁ、何ででしょう」
死にたかったのか。生きたかったのか。
勝ちたかったのか。負けたかったのか。
ただ一つ言えることは何もかも出しきっての決着にお互い不満は無いということだ。
ここに至ってユー・オルタの殺気は霧散している。
その時、ビスマルクにふと天啓的な閃きが舞い降りた。
-
「今思ったんだけど……貴方がサーヴァントなのって多分、U-511や呂500としてではないわよね?」
「え?」
「貴方の言う通り、U-511は大きな戦果を挙げていない。呂500もね。
ならば貴方が英霊になるほど信仰を集めたのは艦娘としてじゃないの?」
「でもユーは」
「U-511として此処に召喚された、でしょ。
当然じゃない、艦娘なんて改修と改造して強くなるんだから。
それこそ物語の主人公みたいにU-511から頑張って呂500で大成したってだけでしょう」
「────────は。はは」
ああ、なんたる盲点。
考えれば思い当たる点はいくつもある。
たとえば、U-511 の完成形が呂500にも関わらず、何故か野戦能力や被虐体質のスキルを持っていること。
たとえば、宝具が呂500の武装であること────あの時、一度も出撃したことなんてなかったのに。
U-511の全盛期は間違いなく日本に到着するまでの期間だ。
なのに究極系は出撃していない呂500で、しかも未知の武器を有している矛盾。
そこから出る結論は至極単純なもの。
「貴方は間違いなく、いつか、どこかの海で呂500の艦娘として戦果を挙げるわ。
だから貴方は英霊なのよ」
なんということはない。
自身が英霊として祀られるのが未知の海だというだけのこと。
オルタ化していない呂500なら知っていたのかもしれない。
ああ、やっぱりマスターの言う通り私は馬鹿だなぁと思ったその時。
〝夏がきたわ!〟
〝潜っちゃうよ! どぼーん〟
〝あ。401! ええい、私だって潜ったらすごいんだから!〟
〝イクも潜水しよっと〟
〝ねえねえねえ、哨戒しちゃう?〟
〝ゴーヤ、潜りまーす。あれ、あの子は?〟
〝ドイツ海軍のUボート、潜水艦U-511……です。頑張って、ここまで来ました。〟
一瞬、走馬灯のように海が見えた。呉(ここ)ではない、見覚えのある南の島の海。
そこでユーは提督と彼女達に会って。
彼女達と歩んで。
彼女達から学ぶ。
提督の命を受けて出撃し、彼女達と共に勝利を味わう。
ああ、それはなんて────
「ああ、あは、あははははは、なんだ。
ユーの……夢は…………もう叶っていたんですね」
ならば良し。その未来(こたえ)に不満なし。
その未来に祝福あれ。その戦役に参陣する全ての戦友に武運あれ。
Kommt die Kunde, daß ich bin gefallen,
(私が海で散ったと)
Daß ich schlafe in der Meeresflut,
(轟沈の報せが届いても、)
Weine nicht um mich, mein Schatz, und denke:
(愛するあなた、どうか泣かずに誇ってください、)
Für das Vaterland da floß sein Blut.
(祖国の為に私は死ぬことができたんだと。)
かつてドイツで歌われた軍歌を讃美歌に、笑って、泣いて、そして彼女は最後の部品を散らせた。
それを見届けるのはドイツ最強の軍艦『ビスマルク』。
「Leb' wohl, mein Schatz, leb' wohl mein Schatz, Leb' wohl, lebe wohl.
(さようなら愛する人、さようなら、お元気で)
……次会うときは一緒に戦えるといいわね」
塵と化し、潮風に乗って飛んでいく彼女の残滓を見送った。
遥かな星へと向かっていく彼女を。
【ユー・オルタ 消滅】
◆
-
ビスマルクはクレーターの中心で空を見上げたまま、大きく息を吸って、そして吐く。
どうやらユーはこのあたりの汚染物質すべてを注ぎ込んだらしく、空気も水も正常なものへと戻っていた。
戦いの音は止んでいる。夜の静寂が今は心地いい。
だが、そこに────
「流石は戦艦ビスマルク。お見事でしたとも」
柔和な男の声が響いた。急いで振り向いた時、首をつかまれ持ち上げられる。
長身の男だ。隣はばつの悪そうな顔をしている少女が立っていた。
「が、は」
まったく接近を気づかなかった。
アサシン? いいや違う。こいつは。
「ああ、良い。実に良いですね。英霊の魂を喰らう気分は。確かこの国では『棚からぼたもち』というのでしたか?」
カソックを着た邪なる神父がそこにいた。
知っている……この男の貌を知っている。
黄金の獣。首切り役人。その真名は
「ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ……!」
第二次世界大戦で暗殺された将軍がそこにいた。
だが、この男が神父であるなど聞いたことがないし悪い冗談にもほどがある。
「おや、あなたにも首領閣下の神名は届いていましたか。
まあ、半分正解だと申しましょう。あなたの言う通り、この肉体は首領閣下のものでありますが、私の名はヴァレリア・トリファと申します。
ああ、許して下さいデリュージ。さすがにこの誤解は正さねばなりますまい」
ヴァレリア・トリファ? 首領閣下?
こいつは何を言っている。
「まあ、冥土の土産です。どこぞの劣等よりも同胞の手にかかって逝く方が貴方も本望でしょう」
首が締まる。空いている片手がビスマルクの胸部装甲を貫こうと放たれたその時
「おい」
神父がぶっ飛んだ。
捕まっていたビスマルクも1メートルほど飛ばされたが、ヴァレリア・トリファは優にその数十倍の距離を飛翔していた。
動揺する神父のマスター。その前に現れたのは赤い少女とそのサーヴァント。
「あっちの相手はあんたに任せるよランサー」
頷いた英霊は飛ぶように、神父の元へと向かう。
赤い少女の手元に槍が炎と共に出現する。
「────ッ!」
青い少女は危機を悟った。
青い少女の手元に槍が氷と共に出現する。
「こいつはあたしが貰う」
少女達は、互いに穂先を向けあった。
-
分割5話目 投下終了します。
-
分割6話目投下します。
-
「こいつはあたしが貰う」
赤と青の魔法少女が向かい合う。
杏子の槍は火を吹き、デリュージの槍は凍気を纏う。
二人が槍を構えた瞬間。赤色の糸と青色の糸が宙を駆け抜けて衝突した。
糸の正体は二人の魔法少女。残像すら生じる速さで互いに前へと踏み出したのだ。
槍と槍がぶつかれば一合目で蒸気が発生し、二合目で焔と氷の華が咲く。
「邪魔をするな!」
氷華に光が乱反射し、火花が次々と花咲く。
魔法少女の戦いは綺羅綺羅しい。苛烈極まる戦いであるが誰しもが魅了されてしまう美しさがそこにある。
質量保存やエネルギー保存といった物理法則は遥か彼方に置き去りにされ、幻想が舞台を蹂躙する。
絶氷、煉炎、氷矢と炎槍が衝突して爆発する。
「テメェも魔法少女か?」
「それが何? そっちだって同類でしょう?」
同類。まあ確かに同類だろう。
超人の肉体と現実ではありえない現象を引き起こす能力を持つ少女。
成り立ちは違えど互いに魔法少女と呼ぶにふさわしい。
二人とも獲物は槍、宝石を核とする魔法少女。
だが、使える魔法の種類は佐倉杏子の方が多い。
「く」
デリュージの前に魔法の壁が現れて薙ぎを阻み、魔法の鎖が手足を拘束せんと巻き付く。デリュージはそれを力づくで引き千切る。
両刃の槍が掠め、デリュージの青い髪が数本切られる。
間髪入れずにデリュージの足元から生えてきた槍を身体を撓らせて躱し────たと思ったら槍の柄が折れてデリュージの頬と胸元を浅く切る。
さらに佐倉杏子は柄を振り、それをデリュージも柄で受けて、頭部に強い衝撃を受けた。
生えた槍と同様に柄が分解されて鞭となって柄で受けたデリュージの後頭部を叩いたのだ。
(ヌンチャク……?)
映画でしか見たことがないような武器に驚きつつもデリュージは乱れる呼吸を一息で鎮めた。
佐倉杏子は立て直させまいと畳み掛ける。
二人の戦いはニトロをくべたエンジンのようにデッドヒートを開始した。
◆
-
────例題です。
少女がいました。
少女には友達が四人いました。
みんなとてもいい子です。
そこへ意地悪な女王様がやってきて友達を連れていってしまいます。
少女はどうするべきだったのでしょう。
女王様と戦うべきだったのでしょうか?
それとも自分も連れていってもらうべきだったのでしょうか?
それとも途方にくれるべきでしょうか?
──────────────|回答|───────────────
戦うべき
連れていってもらうべき
途方にくれるべき
ニア 《世界介入》
─────────────────────────────────
結局、女王様は彼女も捕まえにきました。彼女にどうすることもできないのです。
もう諦めて女王様のいいなりになるしかないのです。
いいえ、そうはなりません。世界の敵がここにいるから。
" 時には敵わなくても戦わなくてはならない時があるだろう。
仮にも魔法少女を名乗るのならば手が届く範囲まで手を伸ばせ。
お前の仲間が、お前守るためにそうするように"
◆
-
「ッ…!!」
頭がくらくらする。
完全にこちらの動きを読んでいる。明らかに相手の方が戦闘能力……いや、戦闘経験が上だ。
「ちょろちょろしてんなよ! ウスノロ!」
剣舞ならぬ槍舞。三節棍から繰り出されるソレは一発一発が鉄槌を叩きつけられているに等しい。
このままではすり潰される。
状況は最悪で、いつ他のマスターやサーヴァントがいつ動き出すかもわからない。
ならば、この状況。力ずくでこじ開けるしかない。
「ラグジュアリーモード・オン」
デリュージのティアラが青い光を発し、全身に力が湧いてくる。
三ツ又槍を突く速度もパワーも大幅に上がり相手の連撃を力づくで弾き返す。
生えた槍を弾き飛ばし、魔法の鎖を地面ごと凍らせて止める。
一歩。更に一歩。槍の射程で劣っているデリュージは相手を射程に収めるために近付く。
と思ったら相手が凄まじい速度で踏み込み、頭突きをしてきた。こちらも額で迎撃する。
「つゥ」
「く」
デリュージの目の前を破片となった氷が花火のように散る。
予め額に氷のヘッドギアを作って対抗したが相手の頭突きはヘッドギアごと叩きつけてきた。
更に相手は槍を捨ててデリュージにボディブローを叩き込んできた。
肺から空気が一気に抜ける。込み上げる吐き気を呑み込んで、デリュージは槍を半回転させて石突きで相手の胸を思いっきり突く。
肋骨や内蔵が潰れる感覚を期待したがすんでのところで左掌でガードされ、手の骨を砕くだけに留まった。
「ああ、テメェ分かったわ。ニオイでわかる」
「?」
「真っ当な魔法少女なら不意討ちなんざしねぇし、かといって生きるために何でもするって感じでもねぇ。
テメェ、さてはあれだ。まともな覚悟もねぇのに〝こっち〟に来たんだろ?
それで地獄を見たとか勘違いしてる甘ちゃんだろ?」
返答の代わりに三連突きを放った。
◆
-
「はん、図星かよ」
佐倉杏子は知っている。こういった特に理由もなく魔法少女になった魔法少女は大勢見てきたからだ。
覚悟もなければ義理もなし。余裕があるから他人の心配までし出す大馬鹿者。そして勝手に現実に絶望する。
奪われるのは当たり前だ、何も喪ってないんだから。
そして奪われたくなくて、他人から奪うだけの屑に成り下がる。あたしのように。
「ならよ!」
吠える相手の三連突きを捌き、反撃をかましてやろうとして槍が動かない。
敵の槍と自分の槍が凍結されて接着している。
押しても引いても動かない。
だったら棄てる。
「テメェみてえなのが魔法少女を名乗んな。丸わかりなんだよ。頭お花畑の箱入りだってな!」
まぁ、そこら辺はあたしらも同類だけどな。
でも忘れちゃならねえモンがある。
無くしちゃならねえ理想がある。
だからまぁ先輩風吹かして、らしくないことしてやるか。
だけどマミと違ってあたしは不器用だからな。スパルタでいくぜ?
◆
-
敵が槍を捨てて蹴りをいれてきた。
デリュージは凍結を解除して串刺しにしようとして、槍が動かない。
今度は逆に赤い鎖のようなものがデリュージの槍と相手の槍を捕らえていた。
更に相手の槍の柄も鎖で地面に固定されている。
「テメェみてえなのが魔法少女を名乗んな。丸わかりなんだよ。頭お花畑の箱入りだってな!」
────そんなこと分かっている。
プリンセス・デリュージ……いや、青木奈美は至って平凡な人間だ。
クラスの中で突出しすぎず、仲良しグループから弾かれないように周りの顔色伺っていた人間だ。
だけど、あの日。魔法少女にしてあげるというメールで全て変わった。
一緒に集められた魔法少女達と毎日顔を合わせて、心から笑って、私達が世界を救うんだーって訓練していた。
それを全て奪われた。自分達を実験動物として回収しようとした魔法少女達が現れデリュージ以外の仲間を殺していったのだ。
まともな覚悟が無い? あった! 仲間と一緒に世界を救う覚悟が!!
「なら私達を、彼女達を魔法少女と呼ばないでなんて呼ぶのよ!」
デリュージは吼えた。
槍を捨てて蹴りを蹴りで止める。骨の芯まで衝撃が突き抜けた。
「ぴったりの名前をくれてやるよ。『魔女』だ」
-
右頬に衝撃が走る。
「お前にお似合いだぜ。
勝手に絶望して、頭が狂って。そんで周りに呪いしかばらまかねぇ!
いいかよく聞きな馬鹿野郎」
聞けと言いながら赤い魔法少女の拳が炸裂する。
今度は左頬に衝撃が走り、更に鼻から血が出て息が詰まる。
「どんなに辛くても悲しくてもなぁ、本物は最後の最後まで逃げねぇんだよ」
防御しようと構えたデリュージの脇腹に蹴りが入れられて、デリュージの態勢が崩れる。
「絶望さえ立ち向かって、そんで最後に消えんのが魔法少女だ。
救われる日なんて来やしない。
現実から逃げたんだからあるわけねぇんだそんなモン!」
「なら……」
続く相手の回し蹴りを受け止めて、氷のメリケンサックで思いっきり相手を殴り付ける。
「その魔法少女の理想は全て嘘で、ただ消費されるためにあるとでも言うつもり?
私はそんなもの、絶対に認めない」
赤い魔法少女の言うことは確かに的を射ているのかもしれない。
でも認めることなんて出来はしない。
だって私たちは生きているんだから。
「私達は薪でもないし歯車でも無い。あんな消耗品のように使い捨てられていいはずもない。
世の中どうしようもないことばかりだけど、どうにかしたいと思う正しい魔法少女は確かにいるのよ」
少なくても私は一人知っている。
それはインフェルノの友達で、悪い魔法少女をやっつける正義の体現者。
「どうにもならないって決めつけて、使い切られるのが正しい? それこそ逃げです。
逃げ出しているのは貴女の方だ!」
拳と共に自分の主張を叩きつける。相手の主張ごと叩き砕いてやると言わんばかりに強く──強く!!
そうだ。救いが無いなんて逃げ口上だ。
どうしようも無いから諦めて、諦めて、心すら投げ捨てて世界の不条理(ルール)に従っている。
デリュージにはそれが出来ない。
「弱ければ寄り添って力を合わせて困難に挑む。
どんな悪意にも障害にも、世界にさえも屈さないのが魔法少女!
救いが無いですって。救えないのは貴女だ!」
デリュージは啖呵を切りながらもう一発お見舞いしてやろうとして────一瞬、赤い魔法少女が笑ったような気がした。
しかし。
「それが現実見てねぇんだよ!」
次の瞬間、クロスカウンターで相手の拳が顔面に炸裂し、相手の表情が見えなくなった。
更に下顎にアッパーを食らい、視界が天へと向いて相手が見えない。
「お前がやってる事は真逆だろうが。
ヘドラと戦わず、倒すために来たヤツを後からグサリ。
正しい魔法少女だあ、どこの虚構(アニメ)から引っ張ってきた借り物の理想像だ馬鹿野郎!」
脇腹に入る蹴りを受け止める。
しかし相手の猛攻は止まらず────
◆
-
「んなものを御大層に掲げて。なのにやってることは屑そのもののテメェは何者でもねえ半端野郎だ。
幻を追い続けて、そんで最後に壊れて、周りを巻き込んで無理心中がオチなんだよ!」
青い魔法少女が受け止めた足を基点に空中で回転する。
足がメシメシと激痛と共に嫌な音を立てるが構うものか────でないときっと笑っちまう。
"逃げ出しているのは貴女の方だ"
結構痛いところ突かれたぜ。ああ、そうさ。お前の言う通り。
あたしは魔法少女の体の正体を知った時、どうしようもねえから逃げ出した。
そして似たような奴に声をかけた。お前も同じだろってさ。
だが、アイツは、あの青臭い魔法少女は違った。
結局、最期の最後まで、憧れるくらい理想を貫いた。
ならよ。先輩のあたしも初志に戻るって決めたんだ。
だから私はあの魔女と───
「テメェの理想は雑魚のそれだ。
いつか頑張れば報われますだの。いつか頑張れば救われますだの永遠にこねえ『いつか』を待ち続けやがる!
『いつか』はこねえ! 『いま』しかねえんだ!
この世は弱肉強食なんだよ。強い奴が弱い奴を食って、もっと強い奴がそれを食う。学校で習わなかったか!」
いつぞやの言葉を口にする。
ああ、すげえ昔のことみてえに感じる。
アイツは、さやかは拒絶してみせたぜ。あんたはどうだ。
足を犠牲にして放った回し蹴りは相手の鎖骨を砕き、そのまま後方へとふっとばす。
硬いアスファルトを布団のようにめくりながら地面とキスした相手はそれでも立ち上がる。
追撃するように口撃をした。
「理想じゃ『いま』は救えねえ。
テメェの仲間が死んだのも、テメェがここでおっ死ぬのも弱えからに決まってんだろ!
普通に生活して、普通に学校に行って、楽しく生きている奴がお遊びで生きられるほどこの仕事は甘くねえんだよ」
「違う!」
血を吐きながら手に槍を持って迫る。
蒼い宝石の光は既に消えて、あちこちに青痣が出来ている。
しかし、それでもコイツは折れない。
あたしも槍を出して受ける。
さぁ、あんたの答えを見せてみろ。
-
「私の魔法少女像は確かに借り物で、しかも私はそれすら追いかけられない。
でも、理想(それ)が間違いだったなんて言わせない。
私達が過ごした日々が、目指したモノが、お遊びなんて、言わせない!」
一合、また一合。突きと薙ぎを繰り返すだけだ。
こんなもん戦い以前の問題だ。子供の駄々みたいにブンブン振り回すだけ。
なのに────
「私は、まだ生きている。今、この時も。
なら、あの訓練は無駄じゃなかった。
なら、みんなの命を無意味にさせたりなんてしない。
私は────」
何故こんなに重い。
なるほどコイツの地力、いや覚悟か。
数本、槍を生えさせたが見違えるほど早く弾かれる。
応えてやろうと、私は後ろへジャンプした。
「私達は」
巨大魔槍、顕現。
佐倉杏子のとっておきである。
ソウルジェムが一気に濁るが、もう関係ない。
くれてやる。
「ピュアエレメンツは」
何節もある槍の柄が竜の如くとぐろを巻き、その穂先が顎門のように開く。
因果なことに、その形は敵対者の得物と同じ三ツ又の槍だった。
巨大な牙が青い魔法少女を喰い千切らんと襲いかかる。
「おふざけじゃないんだから!」
そう言って力一杯、少女は槍を突きつける。
槍と槍。その穂先同士が衝突する。その時。
「ラグジュアリーモード・バースト」
青い魔法少女のティアラから出る光が爆発的に広がる。
杏子の魔槍が凍り、砕ける。
エネルギー保存の法則が敗北し、極寒が大地を冷やす。
杏子が地面へと着地するのを狙って少女が疾走する。
杏子は相対すべく槍を創造し重力を乗せた一撃を放つ。
ようやく、対等な戦いだ。
既に敵はボロボロだけど心は折れていない。
心が折れていなければ戦える。それが魔法少女だ。
故に加減も手抜きも一切なし。これで死ねばそれまでだし、生き残れたら見逃してやってもいい。
渾身の焔を槍へくべて、全体重を穂先にかけて。
──────白黒つけようぜと。
そう思ったところで────────最低の幕引きが発生した。
「え?」
声を出したのはどちらだったか。
長い爪が青い魔法少女の胸から突き出て、青い魔法少女は疾走の勢いのまま地面に倒れて前のめりに転がった。
そしてそこには────
「危ないところでしたね」
白い魔法少女と黒い魔法少女がいた。
◆
-
────例題です。
少女がいました。貧乏だけど家族がいて、幸せな少女でした。
でも、少女はある日気がついてしまったのです。
少女の父は神父でした。父は悲しんでいました。毎日毎日、世の中のために涙を流していました。
少女にはどうしようもありません。
父の涙を止める方法が分からず途方にくれてしまいました。
ずっと泣いていた父は色々な人に見放されてしまいます。
家がもっと貧乏になりました。
その時、意地悪な奴が話しかけました。
何もかもを助けてあげるから君がほしいと言われます。
少女はどうすべきでしょう?
無視するべきでしょうか?
聞くべきでしょうか?
それとも諦めるべきでしょうか?
──────────────|回答|───────────────
無視するべき
聞くべき
諦めるべき
ニア 《世界介入》
─────────────────────────────────
◆
-
目が掠れる。胸が苦しい。
私は負けたの……?……どうして……?
声が聞こえる……誰かの声が……
「テメェらは何て事を……何て事をしやがったんだ!」
「助太刀したのにその言い様はひどくありませんか?」
「誰がそんなこと頼んだ! いいや、そもそもテメェらは何もんだ」
なぜ。
「ああ、そういうことなのですね……私の名前は織莉子と申します。
こちらは私のサーヴァント、『呉キリカ』です。〝初めまして〟」
「テメェらも、魔法少女か」
なぜ、あの人は、こんな泣きそうな声を出しているのか。
「は、はは、ははははははは。やっぱりこうなるのかよ、あたしは……何をやっても、やっぱり!」
「貴方────! ソウルジェムが!!」
「この馬鹿野郎────!」
……違う。違うの。私は……本当は……
慟哭の叫びを聞きながら、デリュージの意識は暗黒へと飲まれていった。
【プリンセス・デリュージ(青木 奈美) 死亡】
【佐倉杏子 魔女化】
◆
-
例題です。いいえ、末路です。
結局、少女達は選べませんでした。
どうしたら皆が幸せになれたか彼女達にはわかりません。
選べなかった彼女達は死んでしまいます。
世界が選ばなかった彼女達を殺します。
いいえ。そうはなりません。世界の敵がここにいるから。
" 少女よ。たとえ魔法少女であっても救えない者はいるだろう。
私から言えることはただ一つだ。選べなくても前は向け。失敗しても胸を張れ。
たとえ守れず死なせてしまったとしても、逝ってしまった者のことを弔えるのはお前達だけだ。
忘れるな。そして目を逸らすな。彼等は確かにここにいたのだ"
◆
──────世界線が変動しました
《以下の事象が剪定されました。》
【プリンセス・デリュージ(青木 奈美) 死亡】
【佐倉杏子 魔女化】
◆
-
青い少女と赤い少女が矛を交えている。
赤い方は見知った顔だ。ええ、覚えています。世界を破壊する魔女を殺すために戦った私達の邪魔をした人。
「キリカ。青い方の子を倒して」
いいの、と問うように織莉子を見る。
織莉子は静かに頷いた。
確かに争った関係にあるがこの戦場においてヘドラを倒すという目的はおそらく一致している。
マスターの命を受け、魔法少女狩りの魔法少女『呉キリカ』が動き出す。
飢えた獣の如く獰猛に、豹の如く迅速に接近し、爪を青い少女へ突き立てようとした。
だがその瞬間。人肌とは明らかに異なる感触がキリカに伝わる。
まるで金属を裂こうとして弾かれたような感触だ。いいや、ようなではなく────
「輝きを持つ者よ。尊さを失わぬ若人よ。お前の声を聞いた」
キリカの魔爪を防いだのは紛れもなく機械の籠手。
手の甲の部分にはメーターのついた異質な帯。
「ならば呼べ。私は来よう」
雷電を纏う、白い男がいた。
異国のものと思わしき白い詰襟服を着て。
僅かに雷電を帯びる襟巻(マフラー)をたなびかせ。
その腰部には機械的な帯が。
その両手には機械の籠手が。
そして────彼の瞳が輝いた。
「貴方、何者ですか?」
「見ての通り世界の敵だ。名はニコラ・テスラ。歳は72歳」
「ふざけないで」
「事実しか言ってないというのに。全く無礼千万だ」
バーサーカーが死の爪を走らせる。織莉子と白い男の会話の間に時間遅滞の魔術を既に発動させていた。
乱入者がサーヴァントではないと理解しつつも油断なく行うその手際は正に『魔法少女狩り』に相応しい巧妙さである。
しかし────
「だが遅い」
ニコラ・テスラの雷電回避は更にその上を行く。
亜光速の回避行動であるため時間がいくら遅滞しようと呉キリカがテスラに追いつくことはない。
故に彼を切り裂くことはできない。
「発雷(イグニッション)」
曇り一つ無い夜空に雷霆が轟く。
闇を裂き、空を灼くその光は魔法少女狩りのバーサーカーに直撃する。
「キリカッ!」
「──────」
プスプスと身体から焼け焦げる音と臭いを発しながらもバーサーカーは未だ戦闘態勢にあった。
そして同時、赤と青。二人の魔法少女の戦いが落着する。
◆
-
何の妨害もなく、魔力を籠めた炎槍と膨大な魔力を籠めた三ツ又の槍が衝突した。
莫大な熱気と冷気が周囲に撒き散らされ、ダイアモンドダストとエクスプロージョンが撒き散らされる。
蒸発する地面。凍結する大気。電荷の如く撒き散らされる魔力。
衝突の硬直はたったの数秒。弾かれるように二人は吹き飛ぶ。
「ちっ!」
「っう!」
二人の衝突した場所に凄まじい傷跡をつけるのみで、二人に決着は付かなかった。
デリュージ側の地面は霜や氷が降り積もって氷山が出来上がり、逆に杏子側は大槍の衝突で出来たクレーターが魔炎によってマグマの如く地面が煮えたぎり火口と化していた。二人の衝突した場所を中心に凍てついた白い大地と熱気を噴き上げる赤い大地が広がっている。余人にはサーヴァントではなく、まさかたった二人のマスターが作り出した惨状だと思うまい。
デリュージは歯噛みする。
デリュージが出しうる全てを注ぎ込んでなお倒せなかったという事実に。
シャッフリンIIのスペードのAと互角の能力を引き出すラグジュアリーモード・バーストでさえ倒せなかったということは、あの赤い魔法少女は最上位の戦闘能力を持っていることを示している。
(……ま……だ)
バーストモードが切れて意識が薄れる。力が抜ける。気を失うわけにはいかない。
杖がわりに槍を地面に突き刺し、体を支える。相手はまだ余裕と言わんばかりに二本の足で立っている。
今ここで攻撃されたら……とそこへデリュージのサーヴァントが都合よくやって来た。
「これはまた……派手にやりましたね」
苦笑いしながら神父はデリュージの腰に手を回す。恥じらいとか言っていられる場合では無いが、それでも見逃せないことがあった。
「あなた、血が……」
「ええ、少し自分を過信していたようだ。いいや、この場合は相手を嘗めていたというべきでしょうねえ」
◆
-
話は数分前に戻る。
ヴァレリア・トリファが徹甲弾で吹っ飛ばされ、瓦礫の山へと突っ込み粉塵を巻き上がる。
ゴーグルを装着したメロウリンクが敵を見極めるべく得物を構えて臨戦態勢に入った。
攻撃は直撃したが敵サーヴァントの気配は微塵も消えていない。奇襲を受けた相手が一体どうでるか、メロウリンクは油断ならない目付きで神父の埋まった瓦礫の山を見る。
「やれやれ、とんだ邪魔が入ったものだ」
瓦礫の下から呆れたような声がした。
パラパラと瓦礫の山が崩れ出す。
「しかし、一手目でマスターが狙われなかったのは行幸ともいえる。私は自分以外を守るのはどうも下手ですからねえ」
手が、頭が、腰が、次々と瓦礫から脱して無傷の男が現れた。
「それであなたはどちら様ですかな」
「ランサーだ」
メロウリンクの発射した徹甲弾が狙い通り神父の胸に直撃する。神父の体は一発目と違い、微動だしなかった。
構わず徹甲弾を撃ち続け、パイルバンカーを突き立てるべく接近した。
全弾命中、粉々になっててもおかしくないダメージを負わせたと確信しつつも爆炎を煙幕としてメロウリンクは突貫し、人影を捉えた。
とどめとばかり、金属の牙が炸裂する。
───メロウリンクは目の前の現実を疑った。
もしかすると悪い夢を見せられているんじゃないかと思うほどに。
なぜなら発射された金属の牙は神父の体に皮一枚、一ミリたりとも穿っていなかったのである。
想像していた全ての予測を裏切られるも動揺は飲み込んだ。
「────ッ!」
鳩尾に神父の掌底が叩き込まれ、更に流れるように目を抉ろうとした魔手を回避した。
腕力自体はそれほどでもないらしく、受けた衝撃は弱い。また、動きも鋭いとは言えない。
事実、メロウリンクの心臓目掛けて貫手が放たれても体を捻って容易に躱せる。
避けたメロウリンクがそのまま独楽のように回転し、遠心力を乗せた回し蹴りが神父の顔面へと突き刺さる……が、砲弾でも無傷の神父が喰らうはずもなく、そのにやけ面を崩せない。
「無駄ですよ、聖餐杯は壊せない」
メロウリンクが蹴りつけた足の足首を掴み、片手だけでメロウリンクを持ち上げて勢いよく地面へと叩きつける。
また持ち上げて叩きつけ、また叩きつけ、顔面にナイフを突き立てられても無視して叩きつけ、叩きつけること七度。飽きた玩具を投げるようにメロウリンクを投げ捨てた。
メロウリンクは最初に徹甲弾を受けた神父が突っ込んだものとは別の瓦礫の山に投げ込まれる。
しかし、メロウリンクもただでは済まさない。
ヴァレリアに投げ捨てられる際にメロウリンクがピンを抜いて置いていった手榴弾が爆発した。
結果、二ヶ所から破壊音が鳴り、粉塵が舞い上がる。
生前と同じように血と泥に塗れながら神父を睨む。
手榴弾のが至近距離で爆発したにもかかわらず、神父の肉片一つ欠けていない。
不滅の太陽が如く金髪を綺羅めかせながら涼しい顔をして笑っていた。
「さて、そろそろ終わらせますか」
一歩。また一歩と死神の足音を響かせながら神父が近寄る。
持ちうる武装を全て使い、残っているのはパイルバンカーのみ。ならば、メロウリンクも接近するしかない。
「おおおおおお」
雄叫びを上げ特攻を開始した。
もはや手は他になく、そしてこれが通じなければメロウリンクに勝算はない。
故に賭けた。分が悪い……いや、そもそも自分の分すら分からぬ賭けに全てを賭ける。
「喰らええええええ!」
あぶれ出た弱者の牙が発射された。
◆
-
────無駄なことを。
神父は純粋にそう思った。逃げられれば宝具を試し射ちする絶好の機会であったが、相手が近寄るならば宝具は使えない。
どのみち結果は変わらないだろう。聖槍で貫くか、素手で心臓を抉り取るか違うだけだ。
そして偶然にも相手の武器……機械仕掛けの槍を見たとき。
「────!」
途端、全身を悪寒が襲った。
一度は無効化したはずの金属杭が今では処刑の杭に見えてならない。
(何を馬鹿な……しかし!)
ヴァレリア・トリファの宝具『黄金聖餐杯(ハイリヒ・エオロー)』。100万人分の霊的・物理的装甲を持つ肉体に対物理・対魔術・対時間・対偶然といった魔術的な防御膜を施した神の玉体である。単純に硬すぎるために如何なる宝具を受けようと聖餐杯たるこの身は崩せない。
だからこそ、あの金属杭が自分を貫くことは理論上ありえない。
だが、神父は知ってもいる。この無敵性は完全であっても破壊、あるいは終わらせることに特化した概念であれば容易く削れてしまうことを。
全力で後退し、さらに体をねじるも既に遅し。放たれた金属牙は神父を逃がさなかった。
「───か、は」
「何?」
血と共に噴き出る魂。弱者の牙はヴァレリア・トリファの左胸を僅かに穿っていた────が、軽傷であり、牙はそこで止まっていた。
恐らくは概念と概念が相殺しあったため完全には貫通できなかったのだろう。だが、もはやその部分にだけは無敵性はなく、聖餐杯の鎧に穴が開いたといえる。
もしもこの状況を聖餐杯の本来の持ち主が見れば感嘆と賞賛が生まれたに違いない。
しかし────ヴァレリア・トリファは──
「は、はは、ははははは」
壊れたようにケタケタ笑い始め
「ハーハッハッハッハハハハハハハハ!」
大爆笑する。
自身の絶対に壊れないはずの容器が壊され、“それ”を魂の髄まで信奉していた狂気の信仰は負傷と生じた問題に暴走を開始する。
なんだ、これは。なんだ、こんなものか。
聖餐杯は壊せるではないか。黄金は殺せるでないか。
ああ、なんたる不条理。神坐がないこの天では、黄金は不滅ではないのだ。
精神が白濁し、機械の電源を切るように視界が暗くなり。
「否!」
黄金信者は再起動した。
何を勘違いしているのだと。
「あの方は揺るがぬ。仮に杭を胸に撃たれたとしても、致命傷如きで死ぬわけがない」
そういうモノなのだ。
ただ優雅に総てを破壊する黄金の君。
そして己はその代行。ならばこそ、この程度の傷で我が罪が消えるはずはなし。
不滅の黄金はここにあり。それを証明しよう。
" 親愛なる白鳥よ この角笛と この剣と 指輪を彼に与えたまえ "
" Mein Liever Schwan, dies horn, dies Schwert, den Ring sollst du ihm geben. "
-
十字状の魔紋が神父から出現する。
その紋にメロウリンクは息を飲んだ。
あれは彼方へと繋がる門。混沌より溢れる死の気配と神気が世界を蹂躙する。
弱者の牙をへし折るべく、覇者の爪牙がこの世に降りようとしていた。
" この角笛は危険に際して救いをもたらし "
" dies Horn solll in Gaefahr ihm Hilfe schenken "
効果は必至必中必殺。
何人たりとも防ぐ術はなし────ゆえに滅べ。
聖餐杯を傷つけた大金星を誇って逝くがいい。
" この剣は "
" in widem Kampf…… "
突如、神父が詠唱を中断した。
理由は大地を揺るがす震動。すなわち二人のランサーのマスター達が全力でぶつかったことを悟ったためだ。
「デリュージ……」
まさか相手のマスターはデリュージと同じ……いや、それ以上の実力なのか。
魂なんて欠片も見えないほど薄っぺらい存在だったというのに。
何が起きたかはともかく、背に腹は代えられぬ。
ヴァレリアはランサーとの戦いを放り出して、マスターへの元へと向かった。
あれはまだ死なせるわけにはいかない。
◆
-
合流したデリュージを抱えて逃亡するヴァレリア・トリファ。
幸いにも追撃はなく、念のために山を横断する形で逃げ切った。
この場における最後の戦いが終わったと同時に二コラ・テスラも戦闘状態を解除した。
既に彼女たちの嘆きを払い、世界線を変えた白い男がここにいる必要はない。
「さらばだ若人」
去りゆく少女を見送ってテスラは去ろうとした。
その背中に声をかける者がいる。
「なぜ、あなたは彼女を守ったのですか? 彼女の仲間には見えなかったのですが」
白い魔法少女狩りの魔法少女、美国織莉子。
突如として出現した白い男に疑問を投げかけずにはいられなかった。
「おかしなことを言う。助けたいから助けた。
過日に仲間と共にあった思い出。家族を愛する少女の想い。その輝きは世界にくれてやるには惜しいものだ」
「ならば、私達に──」
「お前は駄目だ」
二コラ・テスラは白い魔法少女の願いを断固として否定する。
救出劇を可能な限り行う二コラ・テスラであっても織莉子は救いがたい邪悪として目に映っていた。
「世界救済をお題目に人殺しを容認し、それを背負う気も省みる気もない救済者よ。お前の輝きは守るべきものにあらず」
世界を救うためならば何人も殺していいだろう。
どれだけ輝きを奪っても許されるはずだ。
救った総量に比べればちっぽけなものだ、と。
彼女達の性根を二コラ・テスラは見抜いていた。
駄目だろうそれは。
呪いをまき散らす魔女を引き連れて、世界だけを救う白い魔法少女。
人も輝きも救わない、世界のためにそれらを殺す救世主のなり損ないだ。
そんなもの魔女の所業と大差変わらないだろう。
故に──
「お前の救おうとする世界が私の敵だ」
「■■■■■■■!」
吼えるバーサーカー。
よく言った白い男、お前は織莉子(せかい)の敵だと野獣の如き目を向けてテスラへと突撃した。
だが、殺意を滾らせるバーサーカー達にテスラは付き合う気などなく
「今はお前達に付き合う暇はない」
爪をすり抜け雷電魔人は何処かへ去った。
既に佐倉杏子もいなくなり、ビスマルクは霊体化して姿がない。
残されたのは白と黒の魔法少女のみ。
どうしようもない敗北感が織莉子の内へと湧いてくる。
「それでも、私はこの子(せかい)を守りたい」
織莉子は虚空へと呟いた。
-
投下6話目終了です。
次回『第三戦局点 鉄底落魂海峡 ホワイトライダー』。
明日夜を予定しています。
-
分割7話目投下します
-
大波が呉市に到達して約2時間が経過。
深海棲艦の群体の一つが本格的に内陸部へと雪崩れ込んだ。その船体に触れるもの全てが溶解する。天然物も人工物も、有象無象の区別なく一切が溶解されてヘドロの濁流に加わる。その様たるや嵐の後に荒れ狂う河に等しい。陸の物質すら喰らって数を増やし続ける軍勢は進行速度を加速させる。
このまま町まで侵入……というところで立ちはだかる者がいた。
「目標確認。殲滅する」
ランサーのサーヴァント。アレクサンドル・ラスコーリニコフである。
たった一騎で何ができるものかとナメているのか、それとも路傍の石程度にしか認識していないのか。深海棲艦達は怒涛の勢いを緩めることなく直進する。
何の捻りもなく軍団と軍人は衝突する。
二つの拳が深海棲艦達を砕いた。
一振りの足蹴が数艦纏めて引き裂いた。
だか、それだけだった。無数の兵と怒濤の勢いを止めるにはあまりにも小さく、砂の城が洪水に飲み込まれるかの如く一瞬でランサーの姿が黒い軍勢に飲み込まれて見えなくなる。しかし──
『展開(エヴォルブ)』
重厚さを感じさせるランサーの声と共に深海棲艦達が内側から爆散する。
振動。破砕。分解。最期には塵も残さず消滅する深海棲艦達。
木端微塵に砕け散ったところにランサーが立っていた。飲み込まれる前と違うのは僅かにヘドロを被っていることと鎧を着ていることである。
『影装』
この鎧こそが刻鋼人機(イマジネーター)たる彼の本領であり、宝具(フルパワー)である。その名は────
『絶戒刑刀(アブソリュート・パニッシュメント)』
真名と共に発せられる振動波が次々と周囲を破砕していく。深海棲艦にしてみれば大気の鉄槌……あるいは見えざる城壁が高速で衝突しているのに等しいダメージを受けている。放たれる砲弾も銃弾も超級の激震を前に用を為すことなく粉砕されて無に還る。
このままでは駄目だ。進軍を止めなければならない。だが後続は次々と押し寄せており、前にいる雑魚たちを震動の処刑場へと送りこんでいく。
怒涛の勢いが完全に裏目に出ている。まるで断崖へと墜ちる獣の群れだ。
「マスターと同じ存在でありながら知能の欠片も感じぬな。所詮は切れ端程度ということか」
射程内に入れば破壊されるという事象を学習せずただ叫んで突貫する深海棲艦達を哀れみとも嘲りとも取れる声で評した。
この宝具を展開している限り、深海棲艦達はここを突破できない。五十、百、百五十……と火に飛び込む蛾のように壊されていく。
さらにアレクサンドルは歩み出し、深海棲艦の数は加速度的に減っていった。
◆
-
レオニダス一世と望月は学生寮から出て深海棲艦の侵攻を止めるために夜の町へと踊り出した。
「マスターの守りはいいの?」
「『一人』つけます故、問題ありません」
「一人?」
「ええ、一人です」
そう言うとサーヴァント、いやサーヴァントらしきものが現れた。
レオニダス一世の宝具『炎門の守護者』はかつてテルモピュライの戦いで共に戦った仲間を召喚できる。
彼等は臆すことも屈することも無い、ランサーが全幅の信頼を置く仲間だ。マスターを守るのに適している。
突如現れた軍団と先ほどの学生寮にて会話した内容に望月は合点がいく。
「あー。ランサーもアイツと同じような宝具持ってんのねー。だからアサシンが消えたときの話に食いついたんだ」
「ええ。如何せん、他人事には思えなくてですね。
」
「んじゃああたしが『輸送』スキルで先導するからついてきてね」
望月の言葉に二百を超える益荒男の返事が続いた。
◆
望月でーす。
今、夜道をダッシュしてまーす。
後ろにはムサい半裸のオッサン300人が追いかけてきてまーす。
陸上では艤装も使えないから自力で走ってんだけど、結構つらいわー。
耐久値Eランクだから、すぐ息がきれるけど『輸送』スキルがあるからまだマシな方かなー。
つーかこの絵面ヤバイって! 犯罪的すぎだって!
公道、畦道、獣道、路地裏、時には通り抜け禁止と書かれている私有地の中も通って海岸へと急ぐ。
街は静かだ。不自然なほどに。
そう思った矢先に守護者のオッサンの一人がしゃべった。
「我が王よ、アレを!」
オッサンの指差す先、サラリーマンが道端に倒れていた。よく見てみればサラリーマンだけではなく手を繋いだ親子、ヘルメットを被った土木業者、更にはカラスまでもが道端に倒れている。
「シップ殿、これは……」
「寝てる、みたいだね」
道端で誰もが寝ているなど普通に考えてあり得ないだろう。
いくら揺すっても(レオニダスが熱いビンタをしても)起きずにすやすやと眠っている。
「サーヴァントの仕業かな?」
「NPCの彼等を眠らせるメリットがある者といえばルーラーでしょうな」
「神秘の秘匿ってこと?」
「私の計算が正しければそれが目的と思われます。
しかし、ここであの大群を迎撃すれば一般人に被害が出てしまいます。もう少し海岸まで寄りましょう」
「あい了解」
再び進軍を開始する望月と筋肉隆々の男達、約300人(スリー・ハンドレッド)。
そして孤児院を抜けたあたりで、NPC達の睡眠とは全く異なる光景に出くわした。
深海棲艦の残骸が転がっていた。大半の骸はバラバラだ。
それら肉片は道の真ん中を空けるようにして積み上げられており、まるで塀や塹壕のようでもある。
「ほう、これは……」
ランサーが感嘆の息を洩らす。
他の守護者達も同じく道を見て、積まれた死骸を見て、ランサーと同じ反応をした。
「シップ殿、先に行かせてもらいます」
そう言ってランサーが走った。
◆
-
孤児院よりさらに海岸に行けば、まだ未開発の小さな山がある。
夜の山は一種の異界である。明かり一つない暗黒の森が生けるものを包み込み盲目へと変えてしまう。
その中でも唯一開発が進んだ土地。なだらかになるように山の斜面が削られた開発途上の道路で戦いの音を立てる男がいた。
「終わりか」
アレクサンドルの宝具『影装・絶戒刑刀(アブソリュート・パニッシュメント)』 が終了する。
魔力によって編まれた鋼鉄の刻鋼が解れて消えた。
アレクサンドルのステータスが著しく低下するも、彼を脅かす敵は未だに健在。
されど彼は絶望などしていない。その総身を滾らせ拳を握る。
逆に深海棲艦達もこれだけの損害を出す敵に対して慎重になっていた。
アレクサンドルの戦意の源は希望的観測でも自暴自棄でもない。相手の行動を予測・対応・撃破。幾度となくやってきたプロセスをここでも実行に移すだけ。イマジネーターになる前からやってきた事だ。イマジネーターになり、英霊となった今でもその妙技は健在である。
そんな彼に声をかけるものがいた。
「もし、そこの素晴らしい筋肉の方」
男は仮面を被り、頭頂部から炎を噴出させていた。
肉体の大半が露出しており持っている武器は槍と盾。
おそらくはランサーのサーヴァントだろう。露出が多いのは服の文明が発達していなかった古代人かはたまた本人の趣味か。
「ここに積まれた屍の山は御身が?」
「そうだ」
頭の炎がさらに雄々しく噴き上がる。興奮している、のか。
暗い山ではむしろ目立つ。格好の的だ。草木が生い茂る以上、山火事の危険性もある。
だが、孤児院を守るアレクサンドルにはむしろ良い。
「カエセ」
「カエセ、カエセ」
「シズメ」
誘蛾灯の如く深海棲艦達が引き寄せられている。
素手で打ち壊し、蹴りで薙ぎ払う。ヘドロによって金属が侵されるが、影響が出るより早く敵を倒すため未だに戦闘続行可能。
一方で半裸のランサーはアレクサンドルをじっくりと観察していた。
ヘドラの味方には見えないが、かといって未知のサーヴァントである以上は味方ともいえまい。
アレクサンドルは宝具を使用し消耗したばかりだ。相手の出方次第では苦戦を強いられることになる。
2秒間、深海棲艦達のバシャバシャという音をBGMに睨み合いが続いた。
そして────。
「見事! 単騎で拠点を防衛するとは、このランサー感動致しました!」
◆
-
レオニダス一世はスパルタで名を馳せた英雄だ。
味方は三百人、敵は数十万。味方が少しでも軍備を整える時間を稼ぐためには狭い路に誘い込み、そこで持ちこたえる必要があった。
今、正にここはその状況に近い。
本来の呉市と異なり、K市ではメガロポリスの如く山中に街が築かれている。そのせいで地形が大きく歪んでいる。
例えば東海岸から街を攻める場合、海岸沿いを迂回するか急な斜面に作られた道路、つまり此処を通る必要がある。
必然的に単騎で迎え撃つならばこの場所を拠点にして敵を突き落とすなり正面から打ち砕くなりの戦術が取れる。
かつてスパルタがそうであったように。
「聖杯戦争である故、御身とも戦う運命にあれど、今この時は共闘を申し出たい」
「いつか殺すと告げてから共闘を持ちかけるのか?」
「いつか殺し合うとわかっているからこそ、今は共に戦いたいのです」
「その話にいーれーてー!!」
どこからともなく幼い少女の声と共に山の斜面から降ってきた塊に深海棲艦達が薙ぎ払われる。
現れたのは一人の少女とそれに従う青年のサーヴァント。
「白き旋風、プリンセス・テンペスト! 華麗に参上!」
美少女がポーズを決める。
そして────
「ちょっとランサーのおじさん。待っ……げっ!」
「君は……」
「あれ、ここにいたの?」
美少女とランサーとシップが目を合わす。
硬直すること数秒、先にランサーが気まずそうに目を逸らした。
それもそのはず。シップは知る由も無いが、一度ランサー、櫻井戒はシップのマスターを殺そうとしたのだ。
一松の兄が直前に替え玉となって知らない間に難を逃れたものの殺そうとしたランサーの気分は決して良いものではない。
予めシップから関係を聞いていたレオニダス一世は察し、されど状況を複雑にさせないために叫んだ。
「色々と言いたいことがあるでしょうが、とりあえず今は後です!」
レオニダス達、炎門の守護者が砲弾をラウンドシールドで防ぎながら叫んだ。
嵐の荒波、蝗害のイナゴのように周囲を破壊して進む軍勢はまだいるのだ。
軽巡と重巡が放った魚雷が投げ槍を迎撃し、迫る駆逐艦を盾の殴打で叩き潰す。
我に返ったシップとランサーもまた戦線に加わり、次々と深海棲艦達を破壊する。
さらにそこへ緑色の線が空間に引かれ、深海棲艦達を輪切りに変えた。
「勇者部勇者……ブレイバー参上……」
登場のタイミングを逃してずっと待機していたブレイバーも合流した。
サーヴァント五騎+三百人の守護者がこの山道に集ったことになる。
ならばここは不落の鉄壁か───否と答えるように突如として山が震える。
「これは? ペルシャ軍の襲来ですかな」
「地震じゃないの?」
「違う! 山崩れだ!」
-
櫻井戒が指差すとそこには地盤が液状化したことで山崩れが発生していた。
無論、偶然などではない。元より水源までヘドラが浸食していたため地盤が緩んでいたところに戦いの振動と深海棲艦達が大量に押し寄せたことで一気に崩壊したのだ。
霊体化は間に合わない。このままでは全員飲み込まれる。
ならば大軍宝具で吹き飛ばすか、それとも全力で避けるか。
各サーヴァントが思考する刹那、誰よりも早く決断したのは一人。行動したのは三百人。
「ウオオオオオオオオオ」
「オオオオオオオ」
「うおおおおおおお」
「おおおおおたおおおお」
山崩れの音すら掻き消す男達の雄叫び。
そして盾を構えた戦士団が隊列(ファランクス)を成す。
彼等はこの山崩れを受け止める気なのだ。
────曰く。スパルタの軍勢三百人は敵軍に対して決して退くことは無く、戦士や戦獣の突撃もその円盾で受け止めたという。
スパルタ人に撤退は許されないという鉄の掟が彼等の老骨を鋼に変えた。
弓兵達の矢の雨にも耐えた。
魔術師達の魔術にも耐えた。
数えることすら馬鹿らしい大軍を相手に三日三晩、彼等は防衛した。
その伝承は偽りではないと今、此処に証明される。
「来たりて取れ、我等は退かぬ」
崩山の濁流はスパルタ兵達と激突する。
集落一つが消滅しうる猛威を前にスパルタ兵は屈しない。
流れてきた大木や岩石が衝突しようと彼等は折れない。
「まだまだァ!」
衝突で後ろへずれることはあっても退くことは無い。
一人でも諦めれば総崩れのこの状況で諦める者など一人たりとも居ない。
山が吐き出した濁流は数十分の時間を経て終わった。
サーヴァント達は全員が健在。土で汚れてはいるが負傷したものはいなかった。
◆
-
◆
何てサーヴァントだ。
ランサー、櫻井戒はこの盾の軍団を見てそう思った。
精神力に裏打ちされた圧倒的防衛力。防衛戦においてこれほど厄介な相手はおるまい。
しかし、相手が白兵戦特化である以上、ランサーの敵ではない。
(ヘドラの軍勢は叩いた。令呪は貰えるはずだ。ならば、今ここで倒すべきか……)
「ぺっぺっ! 口に土が入っちゃったよ」
害意はマスターの声で霧散する。
そうだ。この子には見せられ無い。
◆
ブレイバーは彼等に敬意を覚えた。
その姿に、かつて無数の敵軍を相手に一歩も退かず、諦めもしなかった仲間を思い出す。
勇者部の、勇者の在り方は古来から現代に至るまで語り継がれたもの。
その姿は確かに在ったもの。
ならば、勇者の称号を継ぐものとして彼等に後れは取れない。
意気込んだその時、ブレイバーの耳が何かの声を捕らえた。
◆
ランサー、アレクサンドルはこの盾の軍団の正体を看破する。
すなわち炎門の守護者。スパルタ王『レオニダス一世』。
ペルシャの遠征軍に三百人で挑んだ大英雄である。
幼少時より兵士となるために鍛えられた三百の兵士達。今倒すのは難しいだろう。
その時、アレクサンドルの耳もある声を捕らえる。
海底からの反響音か、はたまた地獄から溢れる亡者の声の如く聞こえてくるのだ。
────カエリタイ、カエシテ、カエセ
◆
-
「む!」
レオニダス一世は手足に痛みを感じたから見てみれば、赤黒く変色していた。
槍の穂先も盾の表面も溶けており、ならば手足も同じように溶けたのだと理解する。
痛い。とても痛い。だが手足の指はまだ動く。ならば戦うのに委細問題なし。
スパルタの王はそう断ずると目の前の敵に集中した。
……ゴボ、ゴボゴボ……カエセ……カエリタイ……
目の前の土塊が溶解してヘドロに変わる。
みるみるうちにそれは沼ほどの広さとなり、足にかからないように英霊たちは下がった。
如何なる原理か、それはヘドロの沼は低地へと流れ込むことはなく、この崩壊した道路の上で土壁を喰らって広がっていく。
半径がおよそ4,50メートルほどに広がった沼の中央から人影が浮かび上がってくる。
少女、だった。
無機質な瞳がサーヴァント達に向けられる。
◆
白騎士。ホワイトライダー。
その役割は征服し、勝利する
集積地棲姫(レッドライダー)が軍需集積と戦争。
北方棲姫(ブラックライダー)が武装剥奪と濁雨。
この白騎士の場合は版図拡大と勝利である。
ならば深海棲艦にとっての勝利とは何か。その答えは────
「『罪を討ち、罪人を愛せ(ホワイトライダー・スラッジ)』」
一面の“赤い海”となって顕れた。
◆
-
ヘドロが総て赤い液体へと変わる。
ブレイバーの足元からも次々と赤い海水が滲み出て五秒もかからずに膝まで浸かる。
途端、盾を持つ勇者達の武装にピシッとひび割れるような音がした。
「これって……」
謎の被害に会っているのは勇者達だけではない。
白人のランサーの鋼鉄外装、東洋人のランサーの剣、シップの艤装、ブレイバーのワイヤー射出機構の花輪にも同様にピシッピシッと音が鳴る。
言うまでもなく、目の前の少女が展開した赤い海が原因だろう。
「僕が行こう」
そういって同盟を組んだランサーが前に突貫した。
海面上を走り抜け、白騎士に接近する。ランサーの間合いまであと20メートルほどとなったその時、水中から鎖が数本飛び出てきた。
まるで触手のようにランサーを絡め捕ろうとするも、ランサーは振り上げた剣を薙ぐことで鎖を弾き飛ばした。
「これは……」
連続で何本も鎖が、芽のように生えてサーヴァント達へ迫る。
各自迎撃するも盾持ちの一人が痛みで槍を落とし、その隙を突いて鎖が何本も絡み付いた。
「■■■■──!」
戦士団の何名かが指を差して叫ぶ。
捕まった男の足元がバックリと割れ、奈落が姿を現したのだ。まるで地獄へと飲み込む口のように開いたそこからも鎖が伸びていよいよ拘束を強める。
男達の投槍も空しく、男はそのまま奈落へと飲み込まれ、口が閉ざされた。
鎖に捕まればどうなるかを全員が理解した。
武器を持つ手に力が入る。
逆境ゆえに、窮地ゆえに英雄とは力が湧き出るのだ。
しかし、ここでどうしようもない悪意が牙を剥いた。
「武器が……」
皹割れる。錆び付く。枯れていく。
樹の花輪が思ったように使えない。魔力で編んだワイヤーも1,2秒で切れて霧散する。
樹だけではない、各自の持つ武装、それらが皹割れてゆく。
◆
-
息が詰まる。絶叫したいほどの痛みが走る。
魂が肉体から離れかかっているとイメージするほど全身から力が抜けていく。
櫻井戒は最低でも鎖に捕らわれないように意識を保つも戦闘自体が困難な状況に陥った。
理由は聖遺物の破損。聖遺物と魂が繋がっている黒円卓の者共は聖遺物が壊されれば死ぬ。
半壊であってもただでは済まない。現に戒は激痛に加え、所々に裂傷を負い、血を流している。
何が起きたのか。周りを見回せば盾がひび割れたもの、花輪に目を向けるもの。武器を捨てて素手で鎖と格闘するもの。
肉体的損傷を受けているのは自分だけ。
故に敵の能力を理解した。
「範囲武器破壊能力……これほど厄介とは……」
加えてステータスの低下効果もあるらしい。鎖が絡み付いたら最後、今の自分では鎖を引きちぎれないだろう。
◆
アレクサンドル・ラスコーリニコフも同じくして苦悶に苛まされている。
心臓代わりの永久機関が機能不全に陥っているのだから当然だろう。
血流が不規則に流れ、視界の明度も安定しない。
輝装もひび割れ、力がろくに発揮できない。
戦略的撤退の文字が脳髄を掠める。
決して間違いではないが、退いた後に対策が立てられなければ広がった赤い海の中央にいる敵には二度と近寄れないだろう。
レオニダスの戦士達はステータス上昇スキルでもあるのか、各々鎖を引きちぎっては前進している。
とはいえ、槍を持っている者は既に少なく、決め手にかける。
青年のランサーはほとんど動けていない。
ブレイバーという少女サーヴァントも鎖を切ってはいるが、ワイヤーの強度が保てず青年ランサーの防衛にかかりきりだ。
ふと、ランサーは一人だけ姿が見えないことに気付いた。
そう、あれは、シップといったか。どこだ?
周囲を見回して、ようやく気付く。あの少女は、敵に肉薄していた。
◆
-
望月の艤装に皹が入るも破損箇所から光の粒子が生まれ、みるみるうちに修復される。
望月のスキル『自己修復』は鋼材と燃料を消費して回復する能力である。無論、使える資源には限りがある。
ニートである一松に彼女のスキルを支えられる資金はない。望月自身の打たれ弱さも相極まって今までは完全な死にスキルだった。
自身を消費して限界が来るまで艤装を修復し戦い続けるなんて裏技もあるが、この命は今はマスターの命を担保する唯一のものだ。命を賭けて戦うような安上がりな戦術をするわけにはいかない。
ならば自分を修復に使えないのであれば別のものを用意すればいい。
「あー、重いわコレ」
破壊された鎖、ランサーの喚んだ戦士達が落とした盾や槍をかき集めて望月は征く。
地面が海になったため艤装が使えるようになった彼女は自身の為すべきことを理解していた。
あたしは自身が弱者であると自覚がある。あの鎖が絡まれば問答無用で即終了だ。
アレはあたしじゃあ……というか艦娘では絶対に振り解けない。
だってアレは錨の鎖。触れたら『投錨』されて、艦娘は一切行動不能になる……と思う。
『好きに行動していい』っていう令呪で強化されている今ならば弾き落とすことも可能なんだろうけど、振りほどくことは無理。
だって私、非力だし。
正直にいうなら働きたくないのだ。自分は前線ではなく後方支援向きのスキル構成だから強敵とタイマンなどしたくない。
だが戦わないで下がるという甘えは戦況的に許されなかった。今の状況は自分にしか打破できないことを望月は見抜いている。
これでも駆逐艦の中では戦闘経験豊富だ。旗艦だって務めたこともある──三日だけだったけど。
「こりゃああたしがやらないとなー」
このまま膠着状態が続けば全滅する────ならば行くしかないでしょ。
目指すは一ヵ所、狙いは一点。魔弾を装填して前へ出る。
艤装にまた皹が入り、荷が軽くなる。
望月の進行を支援するように望月へ迫る鎖をブレイバーの鋼線が切り刻み支援する。
ブレイバーでも処理しきれない鎖はスピンで避け、あるいは単装砲で退ける。
そうして鋼材が費える瀬戸際、遂に白騎士を射程内に捉えた。
「カエセ、カエシテ」
「んなに欲しいならあげるよ。61㎝三連装魚雷発射ぁー」
号令と共に望月の最大火力、三連の魚雷が発射される。赤い海に潜り「八年式」と呼ばれた魚雷が獲物へと泳ぐ。
白騎士を射程に収めている今、ここで奴を倒せねば全滅は必至。
だが三本の魚雷より早く赤い海の中を移動する黒い影があった。ランサー達に襲い掛かった錨の鎖だ。それらが転身して魚雷に絡みつかんと向かってきたのだ。
「うーわ、最悪だぁ」
今まさに魚雷の1本が搦め捕られ爆発した。
それでも二本の魚雷は鎖に追いつかれることなく白騎士へと迫る。
直撃する。倒せる。倒せるだろう。直撃すれば。
望月の希望は裏切られ、魚雷は白騎士の前に壁となるように現れた無数の鎖によって阻まれる。
赤い水柱がそそり立ち、砕けた鎖の鉄片が飛び散る。爆轟が蒸気を作り出し、爆音が耳を聾する。しかし、白騎士は無傷で望月の攻撃は失敗した。
否、水蒸気の帳を掻き分けて、白騎士の顔の手前に12㎝単装砲の砲口が現れる。勿論、望月のものだ。
鉄片で傷ついたのか制服はズタズタで肌にも多くの裂傷が刻まれている。暗闇で表情は見えず眼鏡のレンズだけが月光を反射して光っていた。
「そっかー、あんただったか。……まー、こういうこともあるんだろうね」
興味がないというより何もかも受け入れているような、常日頃と変わらない気だるい声が出る。
月光が夜の闇を裂いて白騎士を照らせば、そこに見えたのはいつか見た顔。彼女の姿から暗黒の運命を察せずにはいられない。
自分はサーヴァント……既に幽霊だ。自分は沈んだあと〝そうなった〟かは知ることはない。
だから今は気にしている場合ではない。早く倒さないと。
そう意を決して単装砲を発射────されない。
「あ、やば……」
放とうとした瞬間、このタイミングで艤装に動作不良が起こる。
僅かな一瞬、刹那の時間だけ白騎士の正体に望月は動揺した。結果がこの様だ。
最後の鉄屑を使って修理するより早く、白騎士の鎖が望月の手足を縛った。
駆逐艦望月、『投錨』。動け……ない。詰んだ。
「あーあ、終わった」
「いいえ、貴女の勝ちですよ、シップ殿」
いつの間にやら望月の背後からやって来たランサーが望月の鎖をたたっ切り、槍の穂先で白騎士の胸を貫いた。
ゴフっと白騎士が黒い液体を吐いた。
-
分割七話目終了です。
>>213の脱字ですが
変更前:
「ええ。如何せん、他人事には思えなくてですね。
」
変更後:
「ええ。如何せん、他人事には思えなくてですね。
それでシップ殿、我等は大軍故に鈍足だ。あなたのスキルで誘導をお願いできますか?」
に修正します。
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投下乙です
ヘドラと同タイプの戒兄さんでも深海棲艦要素が加わるとキツイのか
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>>223
乙ありです。
今、分割最終話を書いているのですが書き漏らすかもしれないので櫻井戒がうまく活躍できなかったことについて自己弁護も兼ねて書きます。
活躍できなかった原因は相手が広範囲武器破壊能力……というより武器限定の広範囲腐蝕能力を持っていたことに起因します。
エイヴィヒカイトの特性上、武器の損壊=重傷なので出典『Dies irae』のシュピーネさんみたいに『悪あがきはできるけど魂と肉体がかなり削られている』状態です。
ただ全力ではない(創造を使っていない)状態なので今回の戒はある程度行動ができる程度のダメージに留まっています。
実は腐敗を腐敗で消す腐敗合戦的なモノも考えたのですが、彼が宝具『許許太久禍穢速佐須良比給千座置座』を使うと
呪いが加速する&マスターが近くにいることにより宝具が使えない縛りがありましたので没ネタになりました・・・・・・
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投下乙です
感想は後日に改めてまとめて投下させていただきますが、今回は拙作の修正報告をさせていただきます
『聖杯戦争家族計画 おそ松さん』においてデリュージに諸刃の剣である『ラグジュアリー・バースト』を使用させてしまいましたが、
その割には使用後の描写、また拙作『全てはじぶんのために』においてデリュージの消耗がさほどないかのように描いてしまいました
該当の箇所を『ラグジュアリー・バースト』ではなく、通常の『ラグジュアリーモード』に訂正させていただきます
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2日の遅れ、申し訳ございません。
9割方書き終わっていますが、状態表等の整備で少々手間取っています。
繋ぎとしてTipsとしてヘドラの三騎士の妄想ステシ投下します。
正規のコンペを通したものではないので温かい目で見ていただけると幸いです。
-
【クラス】
ライダー(レッドライダー)
【真名】
集積地棲鬼
【パラメーター】
筋力:D〜A 耐久:D〜A 敏捷:E〜D 魔力:E 幸運:E 宝具:E
【属性】
中立・狂
【クラススキル】
正規の英霊ではないためなし
【保有スキル】
腐毒の肉:E
汚染物質により構成された肉体。
このサーヴァントの近接能力値は、このスキルのランクによって変動する。
また接触した対象に腐食ダメージを与え、耐久判定に失敗した物体を破壊する。
物理攻撃のダメージ削減は可能だが、炎や雷などの高熱に対しては被ダメージ量が増える。
【宝具】
『汝平和を欲するならば戦に備えよ(レッドライダー・スラッジ)』
ランク:E 種別:対土地宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
『溶解汚染都市(ペイルライダー・スラッジ)』の劣化版。
彼女らも空母ヲ級である。本体ほどではなくとも汚染することができる。
あくまで空母ヲ級の下位に属するため汚染された物質から深海棲艦は生み出されないが、自身の特性に合わせた艤装を編むことが可能。
集積地棲鬼の場合は宝具に使うための軍需物資を生成する。
『礼号作戦──集積地棲鬼(バトル・オブ・ミンドロ──マンガリン・ベイ)』
ランク:E 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
レッドライダーのもう一つの宝具。常時発動型。
スキル『腐毒の肉』の延長にあるもの。月の裏側にて確認されたid_esと呼ばれるチートスキルに近い。
効果は自身が生成した物資をガントレットに吸収する。
集積している物資の量に応じて筋力・耐久値のパラメーターおよび『腐毒の肉』の腐食ダメージが上昇する。
また本体のダメージを肩代わりし、その分だけ溜め込んだ物資が消費される。
デメリットとして質量の増加に合わせて敏捷値が下がる。他、常時集積物資は減っていくため、常に補給が欠かせない。
【クラス】
ライダー(ブラックライダー)
【真名】
北方棲姫
【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:C 幸運:E 宝具:E
【属性】
中立・狂
【クラススキル】
正規の英霊ではないためなし
【保有スキル】
腐毒の肉:D++
汚染物質により構成された肉体。
このサーヴァントの近接能力値は、このスキルのランクによって変動する。
また接触した対象に腐食ダメージを与え、耐久判定に失敗した物体を破壊する。
汚染物質を取り込むほどランクは上昇し、Aランクまでになればサーヴァントの肉体も容易く溶解する。
それ以上まで高まった場合、低ランクの宝具ですら破壊対象に含まれる。
物理攻撃のダメージ削減は可能だが、炎や雷などの高熱に対しては被ダメージ量が増える。
【宝具】
『貪欲な者は常に欠乏する(ブラックライダー・スラッジ)』
ランク:E 種別:対土地宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
『溶解汚染都市(ペイルライダー・スラッジ)』の劣化版。
彼女らも空母ヲ級である。本体ほどではなくとも土地を汚染することができる。
あくまで空母ヲ級の下位に属するため汚染された物質から深海棲艦は生み出されないが、自身の特性に合わせた艤装を編むことが可能。
北方棲姫の場合は零戦戦闘機を生成する。
『北方空襲──北方棲姫(ダッチハーバー──アクタン・ゼロ)』
ランク:E 種別:対装備宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
武力の略奪能力。
スキル『腐毒の肉』の延長にある宝具。月の裏側にて確認されたid_esと呼ばれるチートスキルに近い。
亜硫酸ガスもまたヘドラであり北方棲姫であるため極薄の亜硫酸ガスを使って物を引き寄せる。
一見すると武器が引き寄せられているように見えるが、実際はガス上の腕が何十本も引っ張っているのである。
奪ったものに対しては常に倍々状態の『腐毒の肉』スキルが発動し、溶解して自身と融合させ、自分のものとして再形成できる。
-
【クラス】
ライダー(ホワイトライダー)
【真名】
鉄底海峡
【パラメーター】
筋力:C 耐久:D 敏捷C 魔力:B 幸運:E 宝具:E
【属性】
中立・狂
【クラススキル】
正規の英霊ではないためなし
【保有スキル】
腐毒の肉:D
汚染物質により構成された肉体。
このサーヴァントの近接能力値は、このスキルのランクによって変動する。
また接触した対象に腐食ダメージを与え、耐久判定に失敗した物体を破壊する。
物理攻撃のダメージ削減は可能だが、炎や雷などの高熱に対しては被ダメージ量が増える。
【宝具】
『罪を討ち、罪人を愛せ(ホワイトライダー・スラッジ)』
ランク:E 種別:対土地宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
『溶解汚染都市(ペイルライダー・スラッジ)』の劣化版。
彼女らも空母ヲ級である。本体ほどではなくとも土地を汚染することができる。
汚染された物質から深海棲艦は生み出されないが、自身の特性に合わせた艤装を編むことが可能。
彼女の場合は錨とニッケルに汚染された“赤い海”を生成可能。
錨に触れた船はバッドステータス『投錨』が付与され、船にまつわるものならば動けなくなる。
“赤い海”はホワイトライダーから一定以下まで流れることができない。なぜならば彼女こそが鉄底海峡。“赤い海”の底を定義する存在だからだ。
また“赤い海”に”口”を生成し飲み込むことが可能。
『着底落魂──鉄底海峡(ソロモン・サヴォ──アイアンボトム・サウンド)』
ランク:E 種別:対装備宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:100
広範囲武装破壊能力。
スキル『腐毒の肉』の延長にある宝具。月の裏側にて確認されたid_esと呼ばれるチートスキルに近い。
“赤い海”領海内の武装や宝具、礼装のパラメーターをランクダウンさせ、防御力を無視した腐蝕ダメージを与えていく。
ただし白騎士と距離が開くほど“赤い海”の濃度が下がるため腐蝕ダメージ量は減る。
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以上で投下終了します。
分割最終話、今しばらくお待ちくださいませ。
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>>225
自分もラグジュアリー・モード・バースト連発していることを失念しておりました。
修正ありがとうございます。
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またまた申し訳ございません。
ヴァレリア・トリファのクラスはランサーではなくアーチャーでした・・・Wikiに入れるときには修正します。
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だいぶ遅れてしまいました。申し訳ございません。
分割最終話投下します。
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三騎士が行って約五分。
雷電を操るセイバーがいなくなってまだ一分。
神代の狩人アタランテと空母ヲ級の戦いはより苛烈に、より魔的に加熱している。
ただし、その攻防は一方的なものとなっていた。
今も増え続ける総兵力数万のうち七割を擁する中央本隊はその軍勢を軍勢として使っていなかった。
「ふっ!」
アタランテが全力で引き絞った矢を放つ。引けば引くほど強力になる弓術の関係上、その攻撃はAランクにすら届く。
深海棲艦など鎧袖一触だろう。
アタランテの矢がヘドラと己の間に入った深海棲艦を七、八隻破壊する。だが、たったの八隻だ。
その間にも数隻の深海棲艦が浮き上がり、肉の盾として整列する。
────では残りの深海棲艦はどこにいるか。
確かに数万あったはずの深海棲艦が三桁程度に減っている。本人以外が見ればアタランテが殲滅したのかと問うだろう。
その問に答えるようにしてヘドラの体の数十ヶ所に黒子のごとくあった黒点が蠢く。
生理的に嫌悪感を催すそれは全て大口径の単装砲口だ。
その蠢きは弾が装填されていたのを意味していた。
苦虫を噛み潰すような顔をするアタランテへそこから“砲弾”が発射される。
「この、こんなの、ふざけるなッ!」
否、砲弾ではない。これは駆逐艦イ級だ。地面に着弾と同時にトマトのように潰れるが、その光景とは裏腹に爆雷の如き轟音と震動が世界を揺らす。
たった一発でビスマルクがユー・オルタを倒すために作ったクレーターの数倍広い穴を作り出していた。それもそのはず、弾……つまり駆逐艦イ級は質量千数百トン。口径は岩石ほどもある。
決してビスマルクが低火力なのではない。そもそも比較対象が間違えている。質量が駆逐艦と同等の弾丸など戦艦が使用できるはずもないのだ。火器とは人間が運用することを前提にしている以上、その質量にも上限が定まる。だが怪物たるヘドラに人間の尺度は存在しない。怪物が自身の極限まで兵器を拡張すれば世界最強の火器が生まれるのは自明の理だろう。
ヘドラはヘドロ砲撃のヘドロを駆逐艦イ級に替え、駆逐艦一隻一隻を弾丸として撃ち込む。神秘としては最低級、質量としては規格外の連射は既に周囲を窪地に変えていた。更に着弾点のグシャグシャに潰れた駆逐艦の残骸からヘドロが広がり、火花が散れば爆発し、そうでなくても深海棲艦が量産される。
少し前。戦闘開始から僅か四分でベアトリス・キルヒアイゼンは1万以上の深海棲艦を沈めた。
亜光速で飛ぶ超広範囲の雷撃。高圧電流はヘドロすら蒸発させて増殖を防ぎ、更に砲撃は透過して一方的かつ劇的に深海棲艦の数を減らしていた。
まさに黒円卓の戦乙女の面目躍如と言えるだろう。ヘドラとの相性はどのサーヴァントよりも有利である。仮に令呪で呼び出されずに宝具を維持していれば1時間と経たずにヘドラは討伐されていたに違いない。
一方でアタランテでいえば宝具を使っていないためせいぜいが200くらいだ。透過できず弾雨を避けていたとあれば三桁減らしているだけでも大健闘であるといえる。
だからヘドラと空母ヲ級は学習した。この敵には「数」ではなく、「質」で攻める必要があると。
融合と凝集を繰り返して残存兵力をすべて取りこみ、その質量を極限まで高め、形態を変えて砲弾として撃ちだしたのだ。
「この化物め!」
「…………」
ヲ級の瞳はアタランテを捉えてはいかものの如何なる感情をも映していない。
無感情。アタランテのことを生えている雑草、転がった石ころ程度にしか見ていないのだ。この怪物は。
怪獣の腕が降り下ろされると同時に大地が揺れる。駆逐艦弾幕を避けながらも、躱すアタランテ。
まるで虫の命で遊ぶ子どもだ。勿論、アタランテは射撃を止めていないし、全矢直撃してはいるものの何ら痛痒を生んでいない。
獣毛の如きヘドロをうねらせた手がまた降り下ろされる。降ろされた腕から生じた風すらもが毒気を含んでおり、アタランテの全身が悲鳴を上げていた。
「クソッ、宝具さえ使えれば」
倒せないにしてもダメージを与えられるかもしれないのにと考える。
いいや、論外だ。本日だけで既に三度も使用している。桜の負担を考えればもう使うわけにはいかない。
撃破不可能。進軍を止めることすらも不可能。では撤退か、一体どこにだ!
敵は陸を目指している。仮にマップの反対側まで逃げたとしてもその時は逃げ場以外の全てを肉(ヘドロ)に変えたコレと戦うことになる。
つまり撤退は論外。そしてアタランテ単体での勝利はもはや那由多の彼方。アタランテは敗北を悟りながらゆっくりとすり潰されていくしかないのだ。
雨霰と降り注ぐ黒鯨を躱しながら、矢を射る。今度は頭上のヲ級本体を狙うも無数の獣毛が矢を阻んだ。
報復とばかりに発射口が二倍に増えた。
◆
-
アタランテの悔しがっている一方、空母ヲ級は自らの軍勢──特に三騎士──が全く戦果をあげていないことから計画外の戦況分析を行う必要に迫られていた。
また昼間に吹雪の攻撃によって分断された陸側の飛び地、その主戦力「戦艦ル級」が信号途絶(シグナルロスト)していることで更に自軍の戦力を下方修正する必要がある。
三騎士──あれらはO芝島の戦闘で陸地での戦闘が困難と理解したヲ級が陸地で戦うために造った深海棲艦である。
陸地に適応するために陸地を材料にし、此度の侵攻戦でも大隊長として働けるだけの権限と能力を与えている。
特に意識したわけでもなく陸上要塞型の深海棲艦になったのは偶然か、必然か。あるいは生命基盤をデザインした創世の女神の悪戯かもしれない。
されど姿を似せても本来の性能には遠く及ばない。だから未だサーヴァントを殲滅できていないのだ。
この程度の小兵すらも倒せない己も同じく。何故、これほどの物量差があってまだ鎮圧できないのか。
矢を弾き、建造物を破壊し、大地を犯し尽くしながら怪獣は躍進する。されど戦果は微少。
なんだこれは。ふざけるなとその事実に苛立つ…………待て、苛立つとは何だ?
ド ク ン
極大の鼓動が空母ヲ級に生じる。波紋の如く広がり、それが何やら体に不備を生じさせている。
機動性が低い。精度の誤差が広がり、ついに敵を捕捉できなくなっている。何だこれは。動作不良。如何なる故障か。
鼓動が止まらない。理解が追いつかない。内燃機関の暴走は止まらない。何かが、おか、しい。
彼女は知る由縁も無いが、この時、彼女の中に異物(U-511)が混ざった結果、デミサーヴァント化した時に停止していた機能────“感情”がより高まっている。
異物が潜り込んだ結果、さらにフラストレーションは加速する。
「オオオオオォォォォォーー!」
ハチャメチャに腕を、砲を、汚泥を振り回し被害を広げるヘドラ。
狙いなどつけられるはずもなく、生まれ出る感情エネルギーが暴走する。
U-511を取り込む原因となった赤騎士に責任があるわけではない。
そもそも赤騎士は資材にするためにU-511を沈めたのだ。まさか、自我が溶けないどころか自分達を喰って新生するサーヴァントなど想像しろという方が無理だろう。
ヘドラと同化する以上、霊基が汚染され自我が極限まで希釈され、肉体が解けてヘドロに換わるのが常である。
だが、U-511はどうやら違ったらしい。あの艦娘、喰った時は自我が無かったくせに同一化した瞬間に肉を奪い、意思を以て、出ていった。
押し込み強盗のような無恥で、脱皮の如き進化は赤騎士から資源を奪うだけではなく、“感情”という猛毒を残していったのだ。
その結果がこの始末。人生初の癇癪は治まりつつあるが、もう手遅れだ。なぜならばこの瞬間、ヘドラの三騎士は彼女の癇癪に引きずられる形で再生を始めとしたバックアップを失っていたのである。
大ダメージを受けても再生できず赤騎士は光に焼かれ、黒騎士は自由鳥に啄まれ、白騎士は槍に貫かれる。
「ヅゥアアアォ!!」
そして空母ヲ級もまた同じように傷を負う。
胸にナイフが突き刺さった。体感で刃渡り十センチも無いそれが、無駄なく心臓に突き刺さっていた。
ただのナイフだ。この世界で市販の、ただの果物ナイフ。『腐毒の肉』を持つ空母ヲ級に刺さるはずがない。ただし、投擲したのが近代では世界最高峰の殺し屋『死神』であれば話は別。
いつの間にか、アサシンはヘドラの頭頂部にいるヲ級の背後に立っていたのだ。
いつ接近したのか、どうやって近付いたのか。
ただ言えることは狂えるヘドラの猛攻を掻い潜り、汚泥(はだ)の上をヘドラに気づかれず走ったということになる。
一体いかなる神業によるものか。海に生きて艦隊戦をやっていた空母ヲ級がそれを知るには遠すぎる。
一方でヲ級の表情と視線から心理状況を正確に読み取った死神はため息をつく。
「何を驚いているのです? 貴方は船なのだから乗れるのは当たり前でしょう」
もしも空母ヲ級の口舌が豊かならば一体、どこの世界の暴論だそれはと怒ったに違いない。
言葉の代わりに激情が渦巻き、それが暴力となって具現する。死神の足元の汚泥が泡立ち、次の瞬間には三十を超える杭が生えてきた。一秒足らずで死神が串刺しになる姿を幻視したする。
だが、死神はあろうことか杭の先から先へ跳び跳ねていた。鋭利な先を丁寧かつ軽やかに、河原の水切り遊びのように、接近してそのままヲ級の頸動脈を裂いた。その傷、僅か4cm。されど噴き出る血液(オイル)の量は致死量。
死神の名に相応しい、無駄のない致死の一撃だった。
◆
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頸動脈を裂いた。黒い液体が吹き出てオイル特有の臭いがあたりに充満する。
死神の得物は市販の果物ナイフ二本。モノは貧相であっても死神を持って振れば絶技を出力する名刀となる。
だが、物質としては果物ナイフのままであるが故に、ヘドラに触れたことで刃先が溶けて落ちてしまった。
そして空母ヲ級はというとグチャグチャと生理的に不快感を催す音をさせて首筋の傷を塞いでいた。
「どうやら頭を吹き飛ばす必要がありそうですね」
念のために用意していたフライ返しを取り出す。マスターから渡された魔法のフライ返しだ。
ここに来るまで試しに振るってみたが廃ビルの屋上にあった空の貯水タンクが轢断され、逆にフライ返しに傷は無かった。恐るべき耐久性だ。
これならばあるいは、と思ったところで空母ヲ級の頭部から生えている二本の触手がこちらへと伸びる。
先端部は亜音速に達し、破壊力は言うまでもない。故にフライ返しで叩き落とす!
一撃、二撃、三撃! 金属音と共に触手は弾かれ、それでも撓ってこちらへ迫る。
同時に地面からは杭が何度も飛び出し、躱してもしつこく追ってくる。更に足場が液状化し始め、死神の足が沈み出す。体勢の維持が困難になったところで触手の一撃を受け、死神の体勢が崩れる。
「あ」
死神の防御が崩れたところ触手が狙う。
肉片が飛び散り、顔の左半分が消失し、粘性の液体が傷から溢れた。
衝撃で顔面の肉が千切れて飛んでいた────空母ヲ級の。
不可解な事にフライ返しを持った死神が一瞬で空母ヲ級の後ろにいた。
「防がれましたか」
顔を吹き飛ばした死神は笑みを浮かべたままそういった。
何が起きたか分からぬ空母ヲ級は傷口を左手で押さえる。
何が起きたか分からない? いいや、理解できる。この大気に満ちるミストも己の肌なのだから手に取るように分かる。
しかし、理解が及ばなかったのだ。まさか敵が今までわざと遅く動いてこちらの認識を欺いていたなど……!
死神が行った行為は言葉にすればなんということはない。死神はただ全力で走ってすれ違い際に一撃叩き込んだだけ。
しかしこの局面でわざと走力を落とし、崩れる足場の上で機会を狙い続けるなど正気の沙汰ではない。
空母ヲ級はそこにこの男の恐ろしさを感じた。
この男には勝てないと。このままでは空母ヲ級は壊されると。故に────
たった一言。単純な命令を下す。
K市内全てにいる己に命令を下す。
「来ヲォォォイ!!」
号砲の如くヲ級の声が轟いた時、死神は見た。
彼女の令呪が一画、消失するのを。
そして次の瞬間。
────暴力が形を得て、殺意をもって具現する。
◆
-
◆
【D-3】
セイバー・リリィの宝具を受けた赤騎士は全身から炎と青黒いオイルを出しながらも生存していた。
痛覚が無いのか燃え盛る炎に焼かれながらも苦痛に喘ぐことなく憎悪の瞳をリリィに向けている。
肌に突き刺さる怨嗟、どす黒い思念は神秘が濃ゆけし時代の魔獣を思わせる。
トドメを刺さなくては。
踏み込み、セイバーが剣を構えた時、赤騎士は光に包まれ消失した。
いいや、消失ではない。アレは先ほど見た現象、転移だ。
「逃げた……いや、違う……」
赤騎士だけではなく周りの汚泥や酸の霧もまた消失していた。
溶解していたコンクリートや瓦礫もまた汚染された部分だけが消失し、もはやここにヘドラの眷属がいたという痕跡は一切ない。
天を覆っていた酸性雲海すらも消失して青白い月光がリリィたちを照らしていた。
(何か嫌な予感がします……)
虫の知らせともいうべき第六感が追えといっている。
そして、リリィの背後から突き出されたスペードの槍を咄嗟に防げたのも『直感』によるもの。
歪な金属音を立ててアサシンが弾かれた。
スペードの4のアサシンが立ち上がる前に剣の切っ先を向け、そして言う。
「なんのつもりですかアサシン。あなたとは同盟関係に非ずとも今は共にあの怪物を討つべきと理解できるはずです」
「───」
アサシンは答えない。
剣を弾いて立ち上がり再び槍を構えた。
このまま私とやるつもりか。
「くっ」
リリィもまた弾かれた剣を構え直す。
足に力を入れ、アサシンが突進してくる。
アサシンのクラスにあるまじき遅さだ。
鍔競り合ってそのまま切り倒そうとリリィもまた足を踏み込んだ時。
「もういいアサシン、僕の気分は晴れた」
その一言でスペードの4のアサシンが後退する。
声の主はアサシンの主……怪物の姿が解けて人の姿へと戻っていた。
傍らにはスペードの10、K、A。リリィを殺すのに十二分な戦力がいる。
しかし、下がらせたということは共闘の意志が──
「帰るぞ」
リリィの希望を打ち砕くように相手のマスターが撤退の号令を出した。
途端にスペードのアサシンを除いたアサシン達が霊体化した。
「待ってください。ヘドラはまだ……」
「僕たちの要件は済んだ。後は他の連中が何とかすればいい」
一方的な拒絶。
一度共に戦えば戦友というアルトリアの時代とは異なり現代人はひたすらドライであった。
「どうか油断なさらぬように。奴の真名はおそらくアーサー王です」
「アーサー王だと。でも女だぞ」
「事実は時に歪められます。特にそれが当時の権力者にとって不都合であればあるほど。そうだろうセイバー」
「ええ、その通り。ここに至っては隠しません。
私はかつて、そして未来にブリテン治めるとされた者。アルトリア・ペンドラゴンの現身です」
◆
-
アーサー王。イギリスで伝説となった騎士達の王。ただ完璧であった理想の王。
その伝説は元山も知っている。その完璧な王の栄光は集った不完全な騎士達によって汚され、王の汚点とも言うべき私生児のモードレッドが反逆したことによって幕を閉じる。
さぞかし無念であっただろう、自身が完璧であったゆえにと元山は思う。
だからこそ問わざるを得なかった。
「アーサー王。貴女は完璧でありながら何故、完璧ではない人間を治めようとしたのだ?」
完璧なのに社会に加わるなど無意味ではないか。完璧なものは心を乱されず、隠者のように生きていけただろう。
生まれながらに完璧な者ならば何故、こんな欠陥だらけの世を統べようとしたのか。
されどアーサー王は元山の前提を否定する。
「私は完璧ではありません。仮にそうだったとしてもそれは民草が完璧である王を求めたからであり、私が求めたからではありません」
「ならば貴方が治めた国を滅ぼした民草や部下、反逆に荷担したり裏切った騎士達に怒りは無いのか?」
「さあ、どうでしょう? 『実際に王として成長した私』ならば責務として裁くことはあったでしょう。でも怒りはきっと無かったはずです」
「何故だ? 足を引っ張られ、築き上げたものを台無しにされ、何故それで怒りが無かったと言えるんだ?」
「だって王になるってそういうことでしょう」
「だからそれが過ちだと言っている!!」
ああ、駄目だ。我慢ならない。
完璧であるはずなのに何故、こんな雑音と醜悪が入り交じる世の中に愛着を持つ。
何故、そんな世界に身を投げ出せるのだ。絶対におかしいだろう。
「あなたとその剣を抜いた時の伝説は知っている。その剣が抜けなかった騎士共は勝手に馬上試合で王位を決めようとし、あなたがその剣を抜いても、騎士達は侮り、認めず、戦を仕掛け、時間と命を浪費した。それを見て落胆も怒りも無かったとは言わせないぞ!」
主の憤怒に応じてスペードのアサシン達が槍を構えた。一瞬にして一触即発の事態。それでもアーサー王は凪の如く穏やかな表情を浮かべて言った。
「私が剣を抜いたのは王になるためではありません」
「何だと?」
「人々が完璧を求めた理想の王……そうですね、こそばゆいですが『本物』の私はきっとそうなるのでしょう。
でもスタート地点は……王になると決意としたのは完璧だったからでも、伝説を残すためでもありません」
そういって少女は己の過去を語りだした。
セイバー・リリィは厳密にいえばアーサー王ではない。彼女の修業時代が華やかであって欲しいという if の存在である。
剣を抜いてからの修業時代から花の騎士と騎士王は分岐した。それでも、スタート地点は同じなのだ。
だから“ここ”は────この想いは彼女と同じに違いない。
◆
-
遠くでは騎士達の喧騒が聞こえる。国中の騎士達が集まったこの場で王を決めようと馬上試合をしているのだ。その喧騒から離れた所。誰もいなくなった選定の剣の前に私はいた。風で髪が靡く。空の光がリリィの金髪を照らし、サラサラと砂のように反射した。
運命を前にしてアルトリアではなく少年騎士のアルとして過ごした日々を思い返す。 馬の世話をし、義兄と言葉を交わし、養父エクターに剣の指導を受けていた。
町にいけば人々が賑わい、ブリテン崩壊の危機に怯えながらも明日の生活をより良くしようと生きて、そして笑っていた。
彼等はブリテンの救世主を、理想の王を求めた────自身が完璧でない故に。誰かが人柱にならなくてはならない。
ならば、私が成ろう。ブリテンのためではなく、ブリテンに生きるみんなのために。
誰も抜けなかった剣を抜くべく、柄に手をかけようとした時、背後から声がした。
「悪い事は言わないから止めた方がいい。
それを手にしたが最後、君は人間ではなくなるよ。それだけじゃない。手にすればあらゆる人間に恨まれ、惨たらしい死を迎えるだろう」
選定の剣を前にした私に魔術師はそう言った。
その光景を覚えている。その質問を覚えている。その時の気持ちを覚えている。
まず感じたのは恐怖だ。魔術師が言ったことは忠告ではなく預言である。
リリィの表情を読み取った魔術師は何故自分がそんなことを言ってしまったのかを不思議に思い、その忠告が失言であったと理解し、リリィが剣を抜かないと確信してその場を離れようとした。
「────いいえ」
その恐怖が、逆に私に決意をもたらした。
「いいのかい」
正直に言います。私は怖かった。
惨たらしく死ぬことが怖いのではなく、私が王になることが過ちになるのが怖かった。
もしも自分より相応しい人がいるんじゃないか。
もしも自分より国を、民を平和へ導ける人がいるんじゃないか。
もしも自分が剣を抜くことで、その未来が無くなってしまうんじゃないか。
でも頭の端っこで理解していた。そんな人は数十年は現れない。ならば現れるまでに引き継ぐモノが必要だ。
そして魔術師の一言は、私が王になれることを意味していた。
「多くの人が笑っていました。それはきっと間違いではないと思います」
たとえ今後、何度も人々から疎まれ、忌まれ、排斥されようとも。
たとえ今後、幾度も戦おうと、孤独な破滅が待ち受けようとも。
私は人々の営みを守りたい。その笑顔を守りたい。
だから私は『人間だった私』に別れを告げて───剣を抜いた。
◆
アルトリアが語り終えると相手のマスターはポツリと呟いた。
「笑顔……笑顔か」
笑顔という単語に思うところがあったのかその単語を繰り返している。
はたして彼(性別は分からないが)が一体何に思いを馳せているのか分からない。
だけど、多分この人は。
「貴方がなぜ完璧であることに執心なのか、私にはわかりません。
でも完璧を求めるということはそうなってでも守りたいものがあるからじゃありませんか?」
「────!!」
その問いに元山は剣を強く握り、しかしすぐに力を緩めた。
リリィから目を逸らし、アサシンに命じた。
「帰ろうアサシン」
「承知いたしました」
そういうと騎馬戦のようにマスターの肢体をスペードのアサシン達がそれぞれ担ぎ、超高速で離脱していった。
(殺されなかっただけでも良しと見るべきでしょうか? それにしても悔しい)
アサシンを連れていくカリスマも力もない自分の無力を恨みながら、
リリィもまた戦場を移す。
◆
-
「宜しかったのですか? 誰も邪魔が入らずに倒す好機でしたが」
「そうだな。今朝の僕ならそうしたかもしれないな。キィキィ五月蠅いのは消そうとしたに違いない。それがヘドラであろうともアーサー王であろうとも」
だが知ってしまった。アカネという魔法少女を。
だが教えられてしまった。アーサー王の過去を。
二人とも『ただ守りたかった』だけだった。
そして元山も────ああ、そうだ。僕は笑っていて欲しかったんだ。
僕の絵を見て感動する幼い子供たちにただ、善いものを送りたかった。
今ここに、元山は己の願望────渇望を思い出した。
【元山総帥@仮面ライダーフォーゼ】
[状態]健康
[令呪]残り一画
[装備]ペルセウス・ゾディアーツのスイッチ(ラストワンまで残り?回)
[道具]財布 、画材一式
[所持金]高校生としては平均的
[思考・状況]
基本行動方針:静かな世界で絵を描きあげる
0:僕は、子供たちの笑顔を……
0:お前、音楽家のことを知っているのか――?
1:作品の完成を優先する。だから、ここで脱落するわけにはいかない
2:作品を託せる場所をあたる。候補地は今のところ『高校』『小学校』『孤児院』
3:ヘドラは絶対に排除しなければならない
4:自分の行動範囲で『顔を覚えた青年』をまた見かけることがあれば、そして機会さえあれば、ひそかに排除する
[備考]
※『小学校』と『孤児院』の子どもたちに自作を寄贈して飾ってもらったことがあります。
※創作活動を邪魔する者として松野十四松(NPC)の顔を覚えました。
もちろん、彼が歌のとおりの一卵性六つ子であり、同じ顔をした兄弟が何人もいることなど知るよしもありません。
※セイバー・リリィの正体がアーサー王であることを知りました。
【アサシン(シャッフリン)@魔法少女育成計画JOKERS】
[状態] 健康
[装備] 『汝女王の采配を知らず』(深海棲艦を屠ったことで補給済み)
[道具]
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:新たなマスターに従う。しかし新たなマスターの口から矛盾した命令でも出ない限りは、前マスターの意向を守る(前マスターの家族とその友人を守る)
1:新たなマスターに『音楽家』のことを説明する。
2:一刻も早くシャッフリンの再補充を済ませて万全を期したい。海岸にヘドラの雑魚でも打ちあがっているといいのだが……
※魔法の袋は、一松と共にいたシャッフリンが消滅した時にともに消滅しました。
シャッフリンの再補充が完了すれば復活させられます。
【セイバー(アルトリア・ペンドラゴン<リリィ>)@Fate/Unlimited cords】
[状態] 疲労(大)、善き心
[装備] 『勝利すべき黄金の剣』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを元の世界へと帰す
0:コマリを守る
1:ヘドラの討伐。
2:青木奈美のサーヴァントを倒す
3:青木奈美本人にも警戒
4:バーサーカーのサーヴァント(ヒューナル)に強い警戒。
5:白衣のサーヴァント(死神)ともう一度接触する機会が欲しい
※イリヤスフィール、ハートロイミュード、秋月凌駕、シャッフリンの姿を視認しました。名前や身分等は知りません。
※アサシン(シャッフリン)の姿と宝具を見ました。
※ゼファー・コールレインの声を聴きました。
※青木奈美(プリンセス・デリュージ)が聖杯戦争参加者だと知りました。
◆
-
【C-3】
一方で黒騎士も────
黒騎士の胸部におよそテニスボールほどの風穴が空く。
黒騎士の背後が見えるほどの損傷、それも心臓部に、である。
だが。
「チョウシニ……ノルナ……!!」
黒騎士から無数の腕が伸び、周囲をちぎりながら彼女を中心に竜巻のように回転する。
周囲にあるものはバラバラに引きちぎられて巻き上げられ、あるいはその渦へ呑まれる。
黒騎士への間近にいるメアリー・リードにも手は襲い掛かった。
メアリーの肩へ、脇腹へ、太ももにも指がめり込み、ちぎる。
無数のひっかき傷と穿孔から血を噴き出して膝をつくメアリー。
「メアリー!?」
メアリーは助からない。
そうアン・ボニーが確信した瞬間、黒騎士の姿が光に包まれて消えた。
続いて他の深海棲艦達も崩れるようにして消える。まるで引き潮が早送りに再生されたように、ヘドロが海岸へと消えていった。
一体何が起きたとサーヴァント達が訝しむ中、アン・ボニーとそのマスターはメアリー・リードに駆け寄る。
メアリーが親指を立てて息も絶え絶えにいった。
「間一髪、って、ところかな」
「もう、心配させないで!」
安堵するアンと岡部倫太郎。
その様子を遠巻きに見ていたキャスター、仁藤攻介は手を叩いた。
「おお、これにて一件落着かマスター……マスター?」
マスターは茫然とライダー達……正確にはそのマスターの方を向いている。
仁藤が話しかけても何の返事もなく仁藤が肩を揺するまで意識が明後日の方へ行っていた。
「大丈夫か」
「え、ええ。大丈夫よ」
「おお、そうか。とりあえずお前の無事が確認できればOKだ」
「あの……そこのあなた」
仁藤の背後から声がした。
振り向けばそこには軍服を着た女性が立っていた。
パチパチと物理的に火花を散らし、金の長髪をまとめている。体格は華奢であるが、その凛とした覇気が弱卒であることを否定させる。
おう、なんだと仁藤が答える。
「うちのマスター返してもらっていいですか」
「ああ、お前のマスターこいつだったのか」
一応、敵であるはずのマスターなのだが、仁藤はあっさりと肩に背負っていた青年を抱きかかえ、サーヴァントに渡した。
何か夢を見ているのか、青年はうなされている。冷や汗を流し、顔面蒼白だ。
問題があるのは青年だけではない。青年を受け取った女性の手は透けていた。
「お前……消えかかっているぞ。大丈夫か?」
「それが何です。主を守るのは騎士の本分です。
自分が守れず、ましてや敵に守らせるなんて恥以外の何物でもありません」
恥じているのか、怒っているのか。恐らくは両方だろう。
金髪の女性は己に怒っていた。
「ともあれ助けていただきありがとうございました。
この礼はいつかさせてもらいます」
「なら飯をたくさん奢ってくれ」
「貴方はサーヴァントなのにご飯を食べるのですか?」
「サーヴァントが飯食ったら悪いのかよ」
「いえ……そうですね。サーヴァントだろうと飯を食べる人は食べますね
まあ、私は無一文なので食事はマスター次第ですが」
「よし、決まりだ。楽しみにしているぜ。あんたの名前は?」
いきなり真名を尋ねるキャスターにクリスは呆れて頭を抱えた。
仁藤にそのつもりは無いが真名など初対面のサーヴァントがいうはずがない。
金髪の女性も呆れたように言った。
-
「言うわけないでしょう。馬鹿ですか」
「恩人に対してちょっと辛辣じゃね? お前のマスターずっと守って戦っていたの俺だぞ」
そういうと逡巡する女性。
彼女の中では恩義と道理の間で板挟みになっているのであろう。
数十秒の沈黙の後、最終的に女性は観念したように名乗った。といっても真名ではなくクラス名だが。
「クラスはセイバーとだけ言っておきます」
「そうかじゃあな、セイバー。飯のおごり、期待してるぜ」
「ええ、戦場で会わないことを祈ります」
そういうとセイバーは去っていった。
仁藤はそれを見届けた後、額に手を当てあたりを見回す。
「それで、あのバーサーカー達はどこだ?」
同盟相手のマスター。白い魔法少女を探すと探し人はいた。
そのサーヴァントからはプスプスと白煙が出ていた。
◆
深海棲艦の軍勢は消失し戦いの音は既に遠い。
魔法少女の聴覚が捉えるのは波の音ばかりである。
美国織莉子はキリカの傷に治癒魔法をかけながら《白い男》に言われたことを反芻していた。
“世界救済をお題目に人殺しを容認し、それを背負う気も省みる気もない救済者よ。お前の輝きは守るべきものにあらず”
あの図々しい物言いに腹が立つ。
(そうよ、私は私の■■を……)
織莉子にキリカが寄りかかる。
その目がごめんねと言っていた。
「貴女が謝ることはないわ」
その頬を撫でる。
おーいと牧瀬紅莉栖のサーヴァントがこちらへ手を振っている。
あちらも生き残れたようだ。
「とにかく今はヘドラを倒すことに専念しましょう」
今度は頭をなでると猫のようにニャアと鳴いた。
◆
-
「う……ん……」
黒鉄一輝が目を覚ませば、知っている金髪の女性におんぶされていた。
「マスター、起きましたか?」
「セ……イバー……ぼくは……一体……。
そうか、ぼくは、また……この才能で、迷惑をかけてしまったのか」
捻出できる魔力が少ない。
黒鉄一輝が落第騎士と呼ばれる原因がそれである。
どこにいても付きまとう呪いのような体質はここでも悪い方向に発揮していた。
「お、いたな」
一輝が恥じているところに棗恭介の声が聞こえた。
ところどころ砂や泥で汚れているが、目に見える外傷はない。
傍らには彼のサーヴァント、アーチャーがいる。
こちらも見た限り、疲弊していた。というかあの可愛らしいマスコットはなんだろう?
「お前達も無事だったか」
「これが無事に見えます?」
「そうよマスター、私はもうスカスカよ」
顔から血の気が引いた一輝。
ところどころ透けているベアトリス。
弾数0まで撃ち尽くしたアーチャー。
「これは後で補給が必要ね」
◆
-
「補給!?」
アーチャーの問題発言にびっくりしてつい声が出る。
首を傾げているのはマスターの男子二人だけだ。
いや、いや、魔力の補給ってアレですよね!
私知ってますよ。チョメチョメするアレですよね。
「あのー二人はもうそんな仲に?」
「マスターなら当然じゃない」
さらっとアーチャーは言った。
ベアトリスの顔面温度が上昇した。
(大和撫子は凄いですね。螢が初心すぎたのでしょうか)
「貴女も補給をしたら?」
「なっ────!」
アーチャーの提案にあんぐりと口を開け、即座に拒絶した。
「するわけないでしょう! 私を何だと思っているんですか!
情婦(バビロン)ですか? 魔女(マレウス)ですか? いいえ騎士(リッター)です!
確かに魔力は不足してますけどそんな事に身をやつしたりしません!!」
まくし立てる自分の発言に今度はアーチャーが首を傾げた。
「何を言っているの貴女? 騎士……だっけ? 侍みたいな者よね。騎士って甘い物が嫌い?」
「え、甘いもの?」
「こんなに運動したんだもの。糖分補給は必要でしょ」
あー間宮の餡蜜が恋しいわというアーチャーが嘆く。だがベアトリスは羞恥のあまり聞こえていない。
「ケーキでもいいわよ」
背後の声で我に帰ったベアトリスは後ろを向くとライダーが立っていた。
艤装はボロボロで衣服の各所が破れている満身創痍。
「あなた……北方棲姫とやったの? 最終再臨までして大破するなんて相当激しかったようね」
「いや、北方棲姫は私が殺ったんじゃないわよ。それより────」
もしこちらがボロボロでなければ倒すチャンスだったのかもしれない。
しかし今は。
「これからどうする?」
「どうするって……」
どう見ても戦闘続行は不可能だ。
ここに同盟を組んだ3人。三騎のサーヴァントはみな極限まで疲弊している。
むしろ、今襲われでもしたらたまったものじゃない。
「とりあえずどこか落ち着ける場所まで下がりましょう」
「そうね、ここは危険よ。さっき漁夫の利を狙う奴に襲われたばかり」
「やっぱりそんなことをするマスターはいるのね」
「ええ。でも他のマスターに助けられたわ」
「襲ってきた奴はどんなサーヴァントだったんですか?」
「知っている顔だったわ」
「艦娘?」
「いいえ、『あの戦い』の時にいたドイツ将校よ」
ドイツ将校。なら自分も知っているんじゃないかとベアトリスも思う。
尤も、自分はドイツ海軍ではなかったから可能性は低いが。
「────────よ」
「え、今、なんて?」
だからこそ、自分の知りうるドイツ将校の中でも最悪に部類する名前を聞いた時、思わず二度聞いた。
だって…………だって、だって、だって、だって、だって!
そいつは────
「ラインハルト・ハイドリヒよ。ゲシュタポの長官、首切り役人。なんか神父の服を着て、『ヴァレリア・トリファ』とか名乗ってたけど間違いない」
黄金聖餐杯、参戦の事実を今知った。
-
【一日目・夜/D-3】
【ライダー(アン・ボニー)@Fate/Grand Order】
[状態] 疲労(大)
[装備] マスケット銃
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
1:とりあえずマスターの意向には従いますわ
2:殺人鬼の討伐クエストへ参加する。ヘドラの方は見送り。
3:セイヴァーとそのマスター(ニコラ・テスラ)には注意する
【ライダー(メアリー・リード)@Fate/Grand Order】
[状態] 瀕死(体の至る所に裂傷と刺傷)、疲労(極大)
[装備] なし(カトラス:黒騎士に奪われた ピストル:弾切れ)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
1:あの光、どっかで見たような……
2:殺人鬼の討伐クエストへ参加する。ヘドラの方は見送り。
3:セイヴァーとそのマスター(ニコラ・テスラ)には注意する
【岡部倫太郎@Steins;Gate】
[状態] 疲労困憊、魔力消費(極大)、気疲れ(大)、少しいつもの調子が戻ってきた
[令呪] 残り二画
[装備] 白衣姿
[道具] なし
[所持金] 数万円。十万にはやや満たない程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利する
1:『アレ』と戦うのはまずい
2:未来を変えられる者を見つけ出して始末する
3:殺人鬼の討伐クエストへ参加しつつ、他マスター及びサーヴァントの情報を集める。ヘドラについては相性が悪すぎる為見送りの姿勢
4:『永久機関の提供者』には警戒。
5:セイヴァーとそのマスター(ニコラ・テスラ)は倒さねばならないが、今のところは歯が立たない。
[備考]
※電機企業へ永久機関を提供したのは聖杯戦争の関係者だと確信しています。
※世界線変動を感知しました。
※セイヴァーとそのマスターに出会いました。
※【吹雪】による汚染一掃とその宝具を見ました。
※ビスマルク、駆逐艦吹雪、天津風、棗恭介、黒鉄一輝、ベアトリス・キルヒアイゼン、美国織莉子、呉キリカ、牧瀬紅莉栖、仁藤攻介の姿を見ました。
※ジャック・ザ・リッパーの姿を見ました。
※天津風、ベアトリス、ビスマルクの宝具を見ました。
【キャスター(仁藤攻介)@仮面ライダーウィザード】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]各種ウィザードリング(グリフォンリングを除く)、マヨネーズ
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:出来る限り、マスターのサポートをする
1:ヘドラの迎撃準備。
2:黒衣のバーサーカー(呉キリカ)についてもう少し詳しく知りたいが……
3:グリーングリフォンの持ち帰った台帳を調べるのは後回し。
4:セイバーと飯だ、飯。
[備考]
※黒衣のバーサーカー(呉キリカ)の姿と、使い魔を召喚する能力、速度を操る魔法を確認しました
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています。
※御目方教の信者達に、何らかの魔術が施されていることを確認しました。
※ヘドラの魔力を吸収すると中毒になることに気付きました。キマイラの意思しだいでは、今後ヘドラの魔力を吸収せずに済ませることができるかもしれません。
【牧瀬紅莉栖@Steins;Gate】
[状態]決意
[令呪]残り三画
[装備]グリーングリフォン(御目方に洗脳中)
[道具]財布、御目方教信者の台帳(偽造)
[所持金]やや裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を破壊し、聖杯戦争を終わらせる。
1:色々と考えることはあるが、今はヘドラを討つ準備を整える。
2:グリーングリフォンの持ち帰った台帳を調べるのは一旦後回し。
3:聖杯に立ち向かうために協力者を募る。同盟関係を結べるマスターを探す。
4:御目方教、ヘンゼルとグレーテル、および永久機関について情報を集めたい。
[備考]
※黒衣のバーサーカー(呉キリカ)の姿と、使い魔を召喚する能力を確認しました。
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています。
※御目方教の信者達に、何らかの魔術が施されていることを確認しました。
※吹雪、ビスマルク、棗恭介、天津風、黒鉄一輝、ベアトリス・キルヒアイゼン、岡部倫太郎、アン・ボニー&メアリー・リードの姿を確認しました。
※アン・ボニー&メアリー・リードの宝具を確認しました。
※天津風の宝具を確認しました。
※ベアトリス・キルヒアイゼンと食事の約束をしました。
-
【バーサーカー(呉キリカ)@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]不機嫌、火傷、令呪『今後、牧瀬紅莉栖とそのサーヴァントに手を出してはならない』
[装備]『福音告げし奇跡の黒曜(ソウルジェム)』(変身形態)
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:織莉子を守る
1:命令は受けたが、あの女(牧瀬紅莉栖)はものすごく気に入らない。
[備考]
※金色のキャスター(仁藤攻介)の姿とカメレオマントの存在、およびマスター(牧瀬紅莉栖)の顔を確認しました
【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]魔力残量4割、焦燥
[令呪]残り二画
[装備]ソウルジェム(変身形態)
[道具]財布、外出鞄
[所持金]裕福
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に優勝する
1:ヘドラを倒さないと。
2:令呪は要らないが、状況を利用することはできるかもしれない。町を探索し、ヘンゼルとグレーテルを探す
3:御目方教を警戒。準備を整えたら、探りを入れてみる
[備考]
※金色のキャスター(仁藤攻介)の姿とカメレオマントの存在、およびマスター(牧瀬紅莉栖)の顔を確認しました
※御目方教にマスターおよびサーヴァントがいると考えています
※予知の魔法によってヘドラヲ級を確認しました。具体的にどの程度まで予測したのかは、後続の書き手さんにまかせます
※夕方、K市沖合の海上にて空母ヲ級&ライダー(ヘドラ)により報道ヘリが消息を絶ちました。このことはテレビやインターネットで報道され、確認することができます。
※《白い男》と出会いました。憎く思っています。
※佐倉杏子と出会いました。彼女を知っています。
※プリンセス・デリュージと会いましたが魔法少女であること以外は知りません
【セイバー(ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン)@Dies irae】
[状態] 半透明(魔力不足)、火傷、腐蝕ダメージ、手足に破片がめり込んでいる
[装備] 軍服、『戦雷の聖剣』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターが幸福で終わるように、刃を振るう。
0:一時撤退
1:ヴァレリア・トリファですって……!
2:ビスマルクに対して警戒。
3:棗恭介に不信感。杞憂だといいんですけど……
4:マスターである一輝の生存が再優先。
[備考]
※聖餐杯参戦の事実を知りました。
【黒鉄一輝@落第騎士の英雄譚】
[状態] 疲労(極大)、魔力消費(極大)
[令呪] 残り二画
[装備] ジャージの上に上着
[道具] タオル
[所持金] 一般的
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を勝ち取る。
0:止まってしまうこと、夢というアイデンティティが無くなることへの恐れ。
1:棗恭介、吹雪と時期が来るまで協力する
2:後戻りはしたくない、前に進むしかない。
3:精神的な疲弊からくる重圧(無自覚の痛み)が辛い。
[備考]
※吹雪および棗恭介とヘドラ討伐同盟を組んでいます
※Bismarckの砲撃音を聞き独製の兵器を使用したと予測しています。
※牧瀬紅利栖、キャスター(仁藤攻介)、岡部倫太郎、ライダー(アン・ボニー&メアリー・リード)の姿を確認しました。
※天津風、アン・ボニー&メアリー・リードの宝具を見ましたが真名はわかりません
【ライダー(Bismarck)@艦隊これくしょん】
[状態] 疲労(大)、ドライ形態
[装備] 艤装(砲一門を残して全壊)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:吹雪を守る
0:マスターは無事かしら
1:後退する
2:棗恭介、黒鉄一輝と同盟してことに当たる。ただし棗恭介には警戒を怠らない。
3:ティキは極めて厄介なサーヴァントと認識。御目方教には強い警戒
【棗恭介@リトルバスターズ!】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[装備] 高校の制服
[道具] なし
[所持金] 数万円。高校生にしてはやや多め?
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯入手。手段を選ぶつもりはない
1:吹雪、黒鉄一輝と同盟してことにあたる。
2:吹雪たちを利用する口実として御目方教のマスターを仮想敵とするが、生存優先で無理な戦いはしない。
3:吹雪に付き合う形で、討伐クエストには一応参加。但し引き際は弁える。
【アーチャー(天津風)@艦隊これくしょん】
[状態] 健康
[装備] 艤装
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:恭介に従う
1:間宮の餡蜜が食べたいわ
2:マスターの方も艦娘だったの? それに島風のクラスメイトって……
3:吹雪、一輝の主従と同盟してことにあたる。
-
◆
【B-5】
レオニダス一世の槍が白騎士の腹から引き抜かれた。抉られた傷口からは内臓の代わりにヘドロと金属部品がこぼれ出る。
致命傷だと誰もが思った。しかし、これは白騎士にして深海棲艦。
勝利の象徴にして敗北が反転したもの。ましてや元になった艦娘がアレである以上、そう簡単に倒れるわけがない。
「カエシテェェェェ!」
“赤い海”が蠕動する。何かが始まったのだと警戒するサーヴァント達。
"彼女たち"がやってきたのはその足元だった。
海から腕が生える!
見渡す限りの腕、腕、腕、腕畑。土左衛門の如く蒼白な腕が各々の足首を掴み、引きずり込まんと足を引く。
「おお」
「ぬぅ!」
「きゃあ!」
沈む。沈む。“赤い海”の中へと引きずり込まれていく。
海底(じめん)に足が付くほど浅いはずなのに脛、膝、腰と沈んでいく。
シズメ、シズメと合唱しながら足を引く白い手。僅か数十秒で全員が海中へと没した。ここにいるサーヴァントは全滅する。
だが、その時、令呪によって白騎士が消失し────“赤い海”は全てただの海水へと変わった。
「ぷはぁ」
海中から顔を出す犬吠埼樹。
続いて各サーヴァント達の顔が海上へと現れる。
白騎士という「海底」が無くなったことで次々と海水は流れ出し山が未曽有の大洪水に襲われた。
ダムの決壊、あるいは冬の雪崩れのように山中へ、そして麓へと海水が流れていった。
◆
プリンセス・テンペストは山崩れの時に上昇していたおかげで一人だけ引きずり込まれずに助かっていた。
浮かんできた自分のサーヴァントを見つけて空から降りる。
「大丈夫?」
「ああ、何とかね。君の方こそ無事かい」
「魔法少女だから、ちょっとヒリヒリするけど平気かなー。空飛んでたからあんまり効かなかったみたい」
魔法少女にヘドラの毒は効かないという前提が怪しくなる発言だった。
あ、しまったというテンペストが気付いた時にはもう遅く、ランサーは彼女に言った。
「今からでも遅くない。やっぱり君は帰るべきだ。あまりにも危険すぎる」
「でも令じ────」
「君は戦場を舐めている」
言い訳しようとするテンペストに釘を刺すようにランサーは言った。
サーヴァントとしてではなく戦鬼として。戦場を見てきた屑として。
「大丈夫、何とかなる、自分は死なないと思っているようじゃこの先、命がいくつあっても足りないぞ。
殺される時にどれだけ命乞いをしたところで殺される。殺されてここらに転がっていた深海棲艦のように塵として捨てられる。
戦場とはそういうものだよ。いいかい、戦場では人間も魔法少女も関係なく弱い奴は死ぬ。
知らなかった。教えられなかった。そんな泣き言を言う暇もなく死んでしまう」
諭すように、そしてプリンセス・テンペストの勘違いを糾すように戒は教えた。
「君は幼く、そして弱い。自分より強いサーヴァントがそこら中にいるのに未だ助かると舐めている。だから付いてくるべきじゃないんだ」
真摯に戒は訴えた。
流石のテンペストも彼の言葉を蔑ろにするわけにはいかず、しゅんと項垂れる。
「あなたもです、ランサー。」
ブレイバーが現れて、戒に指をさして言った。
その表情は自信なさげながらも瞳には強い光が宿っている。
「子どもにきつく言って聞かせる前に、自分を心配してください。あなたの体、もうボロボロじゃないですか。あなたこそ下がるべきです」
「でもそれではヘドラ本体が」
「私が行きます。あなたも、それに鳴ちゃんも行っちゃあダメ」
-
【犬吠埼樹@結城友奈は勇者である】
[状態] 疲労(小)
[装備] ワイヤーを射出できる腕輪
[道具] 木霊(任意で樹の元に現界することができる)
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:蛍を元の世界に帰す
0:二人を蛍のところに返して、自分はヘドラを倒しにいく
1:蛍の無事を最優先
2:町と蛍ちゃん両方を守るためにも、まずはヘドラ討伐を優先したい
3:討伐対象の連続殺人は許すことができないけれど…
4:あのバーサーカーさんに、何があったんだろう…
[備考]
※U-511の存在に気付けませんでした。
【櫻井戒@Dies irae】
[状態]裂傷多数、『創造』を一度発動
[装備] 黒円卓の聖槍(ヴェヴェルスブルグ・ロンギヌス)
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:妹の幸福のため、聖杯を手に入れる。鳴ちゃんは元の世界に帰したい。
1:ヘドラは討伐すべきだ。しかし、マスターの護衛も必要だ。
2:今は「正義のため」にアサシンを討伐する
[備考]
※討伐令を出されたヘドラを他のマスター達の中で一番警戒しています。
※少しマスターに対する後ろめたさが消えました
※『創造』を一度使ったことで何か弊害があるかどうかは、後続の書き手さんに任せます
【プリンセス・テンペスト@魔法少女育成計画JOKERS】
[状態]健康、人間体
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]魔法少女変身用の薬
[所持金]小学生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:帰りたい
0:帰ろう、蛍ちゃんのところへ
1:悪い奴をやっつけよう!
2:ランサーは、聖杯のために他のマスターを殺せるの???
3:元の世界に帰りたい。死にたくはないが、聖杯が欲しいかと言われると微妙
[備考]
※討伐令に参加します
※情報交換中に一度ランサーを使いにだし、魔法少女になるための薬を持ってきてもらいました。
◆
ランサーとブレイバーが何やら揉めている。
元気だなぁとシップは眺めつつ海水のなくなった地面に寝ころんでいた。
水を吸った土砂がねちょねちょしていて気持ちが悪いけれど、今はただ休みたい。
そこへぬっとあらわれる暑苦しい顔。同盟者のサーヴァントがいた。
「ほう。シップ殿はもう一度戦うようですな」
「いやいや、この様見て何言ってんのランサー」
「疲弊を癒しているのでしょう。次の戦いのために」
「……んなわけないじゃん」
流石にもう無理とばかり呆れてまた寝ころんだ。
槍を突き立て、それを背もたれに座った。
「んー何してんのー?」
「我々も槍と盾がこれ以外は割れてしまいましてな。素手で戦うこともできなくはないのですが、ヘドラ相手では下手でしょう。槍が回復するまで待ちましょう」
「ああ、悪いね。槍と盾、あたしの修復に使っちゃってさ」
「謝ることはありません。シップ殿の活躍あればこそ、今こうして我々は生きているのですから」
「そう言ってくれるとありがたいかなー」
疲労困憊の中、望月は沈むように霊体化した。
続いてレオニダス一世とその守護者たちもまた霊体化して消えていく。
次なる戦いに備えて、魔力を温存するために。
-
【レオニダス一世@Fate/Grand Order】
[状態] 霊体化、疲労(大)、手足に腐蝕ダメージ
[装備] なし(時間経過による魔力回復で槍と盾が復活)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。マスターを鍛える
1:シップと協力してヘドラを討つ。
2:マスターを勝利させる(マスターを生きて元の世界に帰すこと自体は大前提)
【望月@艦隊これくしょん】
[状態] 霊体化、疲労(極大/令呪により即座に回復)、裂傷多数、強い決意、行動に対する強化(『好きにしていい』という令呪3画分)
[装備] 『61cm三連装魚雷』(令呪により即座に回復)
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:頑張る
0:休息してからどうするかなぁ
1:鈴とランサーに協力しつつ、一松を守る
2:一松を生還させてあげたい
※フラッグコーポレーションに脅迫電話をかけました
◆
「おや、あれは……」
気絶して変身が解けているデリュージを連れて撤退する中、ヴァレリア・トリファは遠くの山が無くなっていることに気付いた。
そして大量の水が雪崩れていることも。
「可哀想に。確かあのあたりには街があったはずですが、あれではたくさんの方が亡くなってしまいますね」
勿体無いとヴァレリア・トリファはひとりごちた。
【青木奈美(プリンセス・デリュージ)@魔法少女育成計画ACES】
[状態] 健康、人間体(変身解除)、強い苛立ち
[令呪] 残り二画
[装備] 制服
[道具] 魔法少女変身用の薬
[所持金] 数万円
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の力で、ピュアエレメンツを取り戻す
1:あの赤い魔法少女、次会った時は認めさせてやる
2:ピュア・エレメンツを全員取り戻すためならば、何だって、する
3:テンペストには会わない。これは、私が選んだこと。
4:越谷小鞠への苛立ち。彼女のことは嫌い。
5:アーチャーにファルの言動から得た推測(聖杯戦争の運営側は一枚岩ではない)を話してみる
※アーチャーに『扇動』されて『正しい魔法少女になれない』という思考回路になっています。
※学校に二騎のサーヴァントがいることを理解しました。一騎は越谷小鞠のセイバーだと理解しました。
※学校に正体不明の一名がいることが分かりました。スタンスを決めかねているマスターだと推測しました。
※ファルは心からルーラーのために働いているわけではないと思っています
【アーチャー(ヴァレリア・トリファ)@Dies irae】
[状態]疲労(小) 、
令呪による制約(シャッフリンに敵対行動を取らない)、
黄金聖餐杯破損(右胸部だけが隙間になっている)、
ユー・オルタの魂を吸収して全ステータス上昇中
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手にする
1:これは、やられましたか
2:アサシン、ヘドラを狙う他のマスターを殲滅 ??
3:櫻井戒にはなるべく早く退場を願いたい
4:同盟相手の模索。
5:エクストラクラスのサーヴァントに興味。どんな特徴のサーヴァントか知りたい
6:ルーラーの思惑を知るためにも、多くの主従の情報を集めたい。ルーラーと接触する手段を考えたい
7:廃墟街のランサー(ヘクトール)には注意する
[備考]
※A-8・ゴーストタウンにランサー(ヘクトール)のマスターが居るだろうことを確信しました
※プリンセス・テンペストの主従、一条蛍の主従に対して、シャッフリンから外見で判断できるかぎりの情報を得ました(蛍の名前だけは知りません)
◆
-
同じくして佐倉杏子とメロウリンク・アリティーもまたその大洪水を見た。
助けるべきではないのだろう。疲弊しきった今、他のサーヴァントとの戦闘は死に直結する。
だがそれでも。
「行ってみようぜランサー」
佐倉杏子はもう決めたのだ。守りたいものを守ると。
たとえそれが間違いであっても。
【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態] 魔力消費(大)、ソウルジェムが濁り始めた、魔法少女態
[令呪] 残り三画
[装備] ソウルジェム、三節棍
[道具] お菓子
[所持金] 不自由はしていない(ATMを破壊して入手した札束有り)
[思考・状況]
基本行動方針:今はただ生き残るために戦う
0:様子見
1:他にはどんなマスターが参加しているかを把握したい。
2:令呪が欲しいこともあるし討伐令には参加してみたい。
3:海の中にいるサーヴァント、御目方教の存在に強い警戒。狩り出される側には回らない。
[備考]
※秋月凌駕とイ級の交戦跡地を目撃しました。
※ヘドラ討伐令を確認しました。
※真庭鳳凰の断罪円と記録辿りを確認しました。
【ランサー(メロウリンク・アリティー)@機甲猟兵メロウリンク】
[状態] 疲労(大)、負傷(軽微だが一定期間は不治)、中毒
[装備] 「あぶれ出た弱者の牙(パイルバンカーカスタム)」、武装一式
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:あらゆる手を使ってでも生き残る。
0:霊体化して回復する
1:駅前を拠点にして、マスターと共に他のマスターを探る。
2:港湾で戦闘していた者達、討伐令を出されたマスターを警戒。可能なら情報を集める。
3:マスターと共に生き延びる。ただし必要ならばどんな危険も冒す。
※ヘドラ討伐令を確認しました。
※ファルス・ヒューナルの宝具およびバリアなどの能力を確認しました。
◆
吹雪のスタミナは限界が訪れ、今は小走りで進んでいた。
この聖杯戦争を運営する者の仕業なのか、電車が止まっていて、タクシーの運転手も眠っていたため交通手段は徒歩しかない。
そこへ突如として海水が流れ込んできた。
「ひゃああああああ」
突然の激流を前に無くなっていたはずのスタミナが蘇り、全力で走った、走ったが努力空しく流れに飲み込まれた。
彼女は艦娘である。進水式よろしくすぐに浮かび上がってきた。だが波に乗るというより流される吹雪は地面や電柱、瓦礫に何度もぶつけ、次第に腹が立ってくる。
(まだ戦っているんだ。ライダーも、私も!)
ならばこの程度の激流にやられている場合ではない。
艤装展開。水面に手を付けて立ち上がり、今度は流されないように足をつけ、踏ん張った。
(もう、足手纏いだった頃の私じゃない!)
波に乗り、海岸へと船を進めた。
【吹雪@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態] 健康、一輝に思うところがある
[令呪] 残り三画
[装備] 高校の制服
[道具] 艤装(装着)
[所持金] 一万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争からの脱出。
1:空母ヲ級の下へ
2:ビスマルクが心配
3:ティキが恐ろしい。
◆
-
集まる。萃まる。蒐まる。そして一つになる。
「────────────────────────────────────────────────!」
爆雷の如く咆哮するヲ級。
その頭部から生える触手の先が爆発的に広がり、巨大な掌となって死神へと降り下ろされた。デカい。掌があまりに巨大過ぎて、回避する暇が無い。
ならばと巨大な指と指の間に入り込んで回避するも風圧に吹き飛ばされる。
宙に浮いた所へもう一本の掌が死神を叩いた。巨峰にも等しい質量の手で殴られ、木っ端の如く吹き飛ぶ暗殺者。
スケールが違いすぎてもはや受け流すという次元ではない。ロケット花火の如く地面へと吹き飛んだ。
それでも即死どころか重傷すら避けたその身のこなしは妙技と言っていい。だが、死神には何の慰めにもならないだろう────この窮地では。
ヲ級から顕現したのはヘドラの両手だった。足元の巨獣から腕を移したのではなく、新たに生やしたのだ。
この戦場にいる全ての深海棲艦とヘドロを一瞬で呼び戻し、彼女達で編み上げた怪獣の手は想像を絶する質量を有する。
そして驚愕すべきは攻撃力だけにあらず。
腕だけではなく吹き飛ばした顔面が傷ひとつなく元通りに戻っており、胸の傷も塞がっていた。
人間であれば致命の傷ですら即時に修復する再生力。それは死神にもはや空母ヲ級を倒す術がないことを示している。
大怪獣。大空母。巨大異形。〝ただ一人からなる最高戦力(ワンマン・アーミー)〟の具現である。
量ではなく、質を窮めた場合の彼女がまさにこれだ。汚染濃度も極まり、両手からは悪性情報が黒いオーラとなって吹き出て世界を冒す。
彼女を中心にノイズや生じ、第一次と同様に電脳世界そのものに甚大なダメージを与えていた。
これに比べれば赤黒白の三騎士など所詮源流を劣化しただけの前座に過ぎない。事実をそうである証明が行われる。
「『礼号作戦──集積地棲鬼(バトル・オブ・ミンドロ──マンガリン・ベイ)』 」
ヲ級を中心に油田の如くヘドロが沸き上がり、それらを吸ったヘドラの巨体とヲ級の巨掌がトン単位で重量を増していく。
ゆっくりと山が動く。死神の視界に納まりきらない、汚泥の山が。
目に極寒の殺意を滾らせ、黄金瞳と蒼眼が敵を捕捉した。
そしてヘドラと空母ヲ級はその巨大な腕を振り上げて。
「カエセ、カエシテ、カエリタイ──死ネ」
短い死刑宣告と共に本日最大の攻撃力、四つの手が死神とアタランテへ振り降ろされた。
迫る手はヘドロを滴らせながら津波の如く到来する。その巨手から逃れるために二人は大地を駆ける。
二人の敏捷性を持ってすればギリギリ避けられる規模だ。裏を返せば、Aランクの彼等ですら回避が極めて困難といっていい。
「ぐ、は」
故にここで死神に致命的となる速度低下が発生する。
先ほど受け流した攻撃が汚染という形で死神に牙を剥く。
述べたとおり、汚染濃度としても窮めた一撃を受けたのだ。触れられれば衝撃を殺そうが意味がない。
よって死神は鈍足となり────蚊の如くヘドラの掌に潰された。
それだけに留まらず、汚染によって脆くなっていた大地が叩きつけられた衝撃でメンコの如くひっくり返り、家や車やらが天高く舞い上がる。
不可視の津波の如く衝撃波が広がり、建造物を薙ぎ払われ、大地が割れ、山脈が分断されていた。
もはや未曾有の大災害。天変地異にも等しい。
アタランテは宙の瓦礫を次々と足場にしながら怪獣を睨み、見知らぬサーヴァントの死にアタランテは歯噛みする。
仲間意識など無いが、次は自分がああなるかもしれないのだ。
苦し紛れに空母ヲ級に矢を放つも────
「なっ……!?」
届く前に溶滅した。
それが意味するところは極濃の空間毒。もはや触れることすら不可能な次元にアレはある。
攻撃は無意味。防御は不可能。ここにきて戦闘そのものが成り立たない。
サーヴァントの中では間違いなく上位に位置するアタランテを持ってしてもこの怪物と対峙することができない。
いや、あれならば。あるいは。
アタランテはもうひとつ宝具がある。忌むべき魔獣の皮。あれで狂化した己ならば汚染に耐えられるのではないか。
しかし、使えば二度と正気には戻れまい。
自分が守ると誓った少女のことを考える。同盟相手の少女とそのサーヴァントを思う。
仮に自分が正気を喪ったとしてもあの男ならば何とかしてくれるのではないだろうか。
あれは冷徹であるだろうが、見境なく暴れる自分はまだ利用価値があるはずだ。桜をすぐさま殺すようなことはするまい。
決断は迫られている。既に大地は破壊され桜達のいる山へと近づいているからだ。
そして、遂に使おうとしたところで、ヘドラが止まった。
◆
-
マスターは戦いに向かない娘だった。
彼女の魔法は「触れているものを料理に変える」というもの。
一見すれば平和的な力であるが、対象が人間となればこの上ない暗殺能力だ──彼女が望めば。
戦闘力と危険度は等しくない。弱者であれ状況が揃えば強者を殺せるから大金星や大判狂わせなどという言葉がある。その逆もまた然り。
彼女は戦いに向かない性格だ。痛みに怯え、死を忌み、殺しを躊躇う。
それが普通だ。治世に生まれ、法治国家に生まれた者の常識であり特権だろう。
彼女がヘドラと戦うことを決意した時、死神は躊躇した。
彼女が腕を犠牲にしてヘドロに触れ続ければ、ヘドラは料理となって消滅する。
腕一本で倒せるのだから今の状況に比べれば安上がりと言わざるを得ない。
でも、死神は彼女に伝えられなかった。
腕一本を捨てさせることに躊躇いを覚えたのではない。それは『未来の自分』が感じるものであって死神には関係ない。
合理的な判断の下、漁夫の利や討伐参加のみでよいというルールだったからヘドラを倒した後のことを考えてペチカの腕を残しただけだ。
よって彼女の代わりにフライ返しを借り受けた。それを持って戦場へ向かう時、彼女は令呪でこう言った。
「必ず帰ってきて下さい。もう一人だけ生き残るのは嫌ですからね」
その令呪が死神に無限の生命力を与えていた。
必ず帰れと、何を使ってでも。
己の意思か、はたまた令呪による強制か、死神は忌むべき第二宝具を発動する。
死神の正位置(ころしや)から────────死神の逆位置(かいぶつ)へ。
「『反物質・月殺しの種(アンチマター・アースキャンサー)』」
◆
ヲ級の掌の下から、何かが飛び出した。その正体は潰したはずの敵だった。頭から血を流し、両手足は折れている。
故にヲ級は驚いた────何故死んでいない? 一撃で潰せる質量だったのに何故その程度で済んでいる!?
空母ヲ級は再び男を蚊の如く両手で挟み潰した。大質量が亜音速で衝突したことで再び風が吹き荒れる。
靡く髪を無視してヲ級が手を開いたら敵の姿はなかった。
次の瞬間、ヲ級の視界が90度傾いた。何が起きたかを考えるより早く、側面から衝撃が与えられ体が捻れる。
何かに殴られている。何にだ? 動体視力(カメラ)がまるで追い付かない。
原因を探るべく足場のヘドラを崩壊させ、大地にヘドロを、空に硫酸ミストをばらまく。
ヲ級本体はマントをたなびかせながら落下する。落下途中でも正体不明の衝撃は続き、ベキという音と共に左足が折られた。
骨折は再生する。再生するが鬱陶しい。濃硫酸霧(ふく)の中を移動するソレを感知し、ソレの手を捕らえた。
「──────ヲ?」
何だこれは。捕まえたのは消えた男だった。
敵は体から触手を生やし、みるみるうちに肉体の構造を変えて全く未知の異形と化していた。
その姿は樹木、それともコズミックホラーに登場する触手まみれの黒い邪神か。
男は触手で捕らえられた腕を切断し、そのまま超音速でフライ返しが振る。
超音速で振るわれた一撃は衝撃波と轟音を生みながら空母ヲ級の顔面へ炸裂した。
今や鋼鉄以上の硬度を誇る顔面がフライ返しの形に歪む。衝撃の正体が超音速で振るわれるフライ返しだとヲ級は理解した。
また捕らえようとするも姿が消える。透明化の正体も速度だ。速すぎて見えない。計測器によると速度は音を超えてマッハ20と出ている。
つまりマッハ20で飛行し謎の強度を誇るフライ返しで殴る怪物。それが衝撃の正体だった。
◆
-
肢体に溢れる力。超音速の行動についてこれる思考速度。
死神は宝具によって最強の生物へと変生している。
しかし脳を満たすのは悲劇の思い出。
燃える研究所の中で抱き上げた女教師の顔が浮かぶ。
「……雪■■ぐ■先生」
宝具を使えば思い出すのだ。
まるで誰かがこの記憶がお前の罪だとでも言うように。
お前が殺ったのだと言うように。
「そうだとも」
ああ、そうだ。私が殺した。私が奪った。
私はもはや死の因果をもたらす害悪でしかない。
この身は恐ろしき人外の化生。反物質の塊である。たとえ未来の私が子どもたちを導いても、今の私はただの怪物。
故に、死神は怪物を殺す怪物としてその力を振るおう。私もお前もこの地球には無用だ!
生体サイクルに従って膨れ上がる反物質。抽出されるエネルギーはもはや大型爆弾が生み出す熱量を超えていた。
慣性など無いかのように伝説の魔弾めいた鋭角の方向変換を受けて繰り返す。
魔法のフライ返しで、時には生えすぎた触手で叩きつけて削る。その繰り返しだ。ヲ級の肉体の再生が追いつかなくなりつつあり、パンを千切るように少しずつではあるが削れてきた。
逆に空母ヲ級はアサシンを捕捉できずにいる。一度捕らえたものの、マッハ20での戦闘に慣れてきた死神が動きを鋭くしたためだ。
勝てると死神が聡明な頭脳から勝利を確信したその時。
勝てるとアタランテが僅かながら希望を抱いたその時。
「ゼロ、オイテケ」
「カエリタイ、カエシテ」
大地に崩れたヘドラの残骸、膨大なヘドロの中から二人、敵が生えてきた。
二人が同時に手を空へと伸ばすと無数の鎖と腕がヘドロ溜まりから出てきて世界樹の如く空を埋め尽くす。
マッハ20の死神と言えど空間全てを縛錨の鎖と略奪の腕に占められれば逃れる術はなく、気づいた時には怪物を捕らえる檻が完成していた。
「邪魔ダ」
捕らわれの死神を空母ヲ級の巨大な剛腕が薙ぎ払う。
まさにハエを払い落とすが如く、檻ごと殴られた死神は触手を散らせながら吹き飛び、この戦線から脱落した。
ペチカの令呪がなければ霊核が砕かれ、聖杯戦争からも脱落していたのは想像に難くない。
◆
これにて前哨戦は終わった。
かの夥しい軍勢は全てが汚泥と化した海を残してすべて一つへ。
今をおいてヘドラを完全討滅することはできず、故にここが正念場である。
だが、できるのか。あの質量を滅することが?
汚泥の海ある限り、ヘドラは不死身だ。
一体彼らに、彼女達に何ができる?
-
【C-6/海岸(陸地部分がなくなりつつある)/1日目・夜】
【アーチャー(アタランテ)@Fate/Apocrypha】
[状態] 疲労(大)、聖杯に対する憎悪
[装備] 『天窮の弓(タウロポロス)』
[道具] 猪の肉
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:もう迷わない。どれほど汚れようとも必ず桜を勝たせる
1:ヘドラ討伐。
2:ジャックの討伐クエストには参加しない。むしろ違反者を狙って動く主従の背中を撃つ
3:正体不明の死霊使い、及びそれらを生み出した者を警戒する
4:ランサー(ヘクトール)との同盟関係を現状は維持。但し桜を脅かすようであれば、即刻抹殺する
[備考]
※アサシン(死神)とアーチャー(霧亥)の戦闘を目撃しました
※衛宮切嗣の匂いを記憶しました
※建原智香、アサシン(死神)から霊体化して身を隠しましたが察知された可能性があります
※ランサー(ヘクトール)の真名に気付きましたがまだ確信は抱いていません
【ペチカ(建原智香)@魔法少女育成計画restart】
[状態] 健康、魔法少女体、死相、魔力消費(中)
[令呪] 残り二画(右手)
[装備] 制服
[道具] なし
[所持金] 一万円とちょっと
[思考・状況]
基本行動方針:未定
0:ヘドラの被害を防ぐ
1:聖杯を手に入れ、あのゲームをなかったことにする?
2:魔法少女として、聖杯戦争へ立ち向かう?
※ペチカは記憶復活直後からの記憶がありません。
※山に誰かがいたことを知りました。(アタランテです)
【アサシン(死神)@暗殺教室】
[状態] 触手化、全身にダメージ(極大)、令呪による生存能力強化
[装備] なし
[道具] いくつかの暗殺道具
[所持金] 数十万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを導く
1:方針はマスターに委ねる
2:バーサーカー(ヒューナル)に強い警戒。
3:アーチャー(霧亥)を討つ策を考えておく
【空母ヲ級@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態] 薄い自我、足からヘドラを生やしている、触手の先がヘドラの両腕、質量約1億トン
[装備] 艦載機
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:艦娘、轟沈
1:全てを沈める
◆
-
アレクサンドル・ラスコーリニコフは自分が霊体化してマスターの下へ帰還している。
その途中、サーヴァントの気配を感じた。
まさか、孤児院にいるマスターを狙っているのかと実体化してその姿を確かめればそこにいるのは二人の男。
一人の年代はすぐに分かった。第二次世界大戦期の大日本帝国軍の軍服を着ていたからである……どこか意匠が違う気がするが聖杯から与えられた知識がそう言っている。
もう一人はさっぱり分からないが、ヘドラの光線にぶつけた槍を持っていた。つまりクラスは自分と同じランサーだ。
「答えよ。貴様達の目的は何だ」
実体化したアレクサンドルは無機質に、機械的に、そうして高圧的に問う。アレクサンドルに対し、軍服の男はやれやれと首を振り、ランサーの方はへらへらとしていた。
サーヴァントとサーヴァントが対峙したにも関わらずこの緩みように違和感を感じる。我が身は鋼鉄と歯車である定義しているが、それでも歴戦で鍛えられた勘というものは無視できない。
その勘が言っている────────この二人の緩みは、緩くはあるが軽くはない。
「海岸にいるヘドラの討伐だが、ヘドラの仲間か? 仲間じゃないならどいてくれ」
「オジサンはただの見物さ。ちょっくら世界が救われるところを特等席で見ようってな」
「言ったはずだぞ。救いはするが怠けはさせんと」
ランサーの怠慢を戒める男。どうやら二人共ヘドラを倒す算段らしい。
既に宝具を使用した上に度重なる戦闘でダメージを受けているアレクサンドルに二人を止める余力はない。
「そうか。ならば好きにするといい。
だが、この道を真っすぐ行くのは勧めない。この先には複数のサーヴァントがヘドラの眷属と戦っていたため未だに殺気立っている。
いらぬ混乱を避けたいのであれば霊体化してさっさと駆けるがいい」
そう忠告するとアレクサンドルは再び霊体化して消えた。
「結構いい奴だったな」
「ああ。にしてもヘドラの勢力はここまで来ているのか。早くケリをつけないと収拾がつかなくなるな」
「んじゃあ、霊体化していくか? 罠の可能性もあるが」
「その可能性は否定できんが時間が無い。罠であれば切り抜けるより他に無い……と言いたいが問題がある」
「ほう、なんだ?」
「俺の伝承から派生したスキルでな、霊体化が極僅かな時間しかできなくなっている。戦闘服(これ)を着ている間はせいぜい十分かそこらだ」
「つまり?」
「全力で行くぞ」
「はいよ。じゃあ行きますか!」
そう言って男二人も霊体化し、海岸へと急いだ。
【B-6/山中/1日目・夜】
【ランサー(ヘクトール)@Fate/Grand Order】
[状態] 疲弊(小)、霊体化
[装備] 『不毀の極槍(ドゥリンダナ)』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:とりあえず、程々に頑張るとするかねえ
1:セイヴァーと行動してヘドラを倒す。
2:拠点防衛
3:『聖餐杯』に強い警戒
4:アーチャー(アタランテ)との同盟は、今の所は破棄する予定はない。ただしあちらが暴走するならば……
[備考]
※アタランテの真名を看破しました。
※アレクサンドルと会いましたが何者かわかりません。
※柊四四八と同盟を組みました。
【セイヴァー(柊四四八)@相州戦神館學園八命陣】
[状態] 疲労(大)、霊体化
[装備] 日本刀型の雷電竹刀(テスラ謹製/刃が半分になっている)、戦闘服
[道具] 竹刀袋
[所持金] マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の破壊を目指す。
1:ヘドラの早期討伐
2:討伐令のアサシンには強い警戒。次は倒す。
[備考]
※一日目早朝の段階で御目方教の禁魔法律家二名と遭遇、これを打ち倒しました。
※ライダー(アン・ボニー&メアリー・リード)の真名を知りました。
※ヘクトールの真名を看破&ヘドラ討伐まで同盟中
【ランサー(アレクサンドル・ラスコーリニコフ)@Zero Infinity-Devil of Maxwell-】
[状態] 疲労(中)、霊体化
[装備] 輝装
[道具] なし
[所持金] マスターに依拠、つまりほぼ0
[思考・状況]
基本行動方針:マスターの采配に従う。
1:マスターの下へ戻るとしよう
2:マスターの決断を委ねるが、もしもの場合は―――
3:空母ヲ級を倒すべきだろう
[備考]
◆
-
【B-6】
孤児院で待機していた駆逐艦電は俯瞰的にその光景を見ていた。
空を覆っていた霧が晴れて、月が顔を出す。
ランサーさん、勝ったのでしょうかと内心油断していたところで──山からドドドと何か大きなものが流れる音がしてきた。
目を凝らしてみればそれは濁流。山の木々を押しのけて街へと下ってくる大量の液体だった。
「はわわ! 大変なのです」
あの量。間違いなく街を浸水させるだけのことはある。
つまり孤児院で眠っている人達を高いところへ移動させなくてはならない。
急いで1階で寝込んでしまった人達を二階やベッドの上に運び終えるのと同時に海水が孤児院までも流れ込んだ。
思っていたよりも水位は高くなく、せいぜいが電の足首くらいまで浸かる程度だ。だが次に流れ込んで来たものを見て楽観視などできなくなってしまった。
「人なのです!?」
街の中で眠ってしまっていた人。仰向けで寝ている人が流れてきていた。
それを見て電の背筋に冷たいものが走る。
────もしかして、道端で眠ってしまっている人もいるのでしょうか。
だとしたら大変だ。水位は低くても溺死してしまう。
すぐさま孤児院の裏に眠っていた電の艤装を掘り出し、装着して街中へと出た。
溺れる人を助けるべく。
道端で眠っているのはNPCである。ルーラーの裁量一つで複製される人形である。
でも、電は無視できない。そういう性格なのだ。
【電@艦隊これくしょん】
[状態] 魔力消費(大)
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] 孤児なのでほぼ0
[思考・状況]
基本行動方針:ヲ級討伐参加に決めかねている。
1:せめて救える人だけでも!
2:聖杯を欲しいという気持ちに嘘はない、しかし誰かを傷つけたくもない。ならば自分の取るべき行動は……
2:ランサーの言うように、自分だけの決断を下したい。
3:過去を振り返ってみるつもりが、ランサーさんの過去を覗いちゃったのです。
[備考]
◆
-
大地震で山が揺れた。
この山が崩れかかっていることを察知したルアハは何とか桜を連れて山を下りねばと移動する。
ランサーとは念話が通じない距離にいる以上、独断で判断するしかなく山を下りていた。
その時に追い打ちとばかりに溢れる大洪水。桜を抱っこして難を逃れるも車やら人やらゴミやらが流れてきてくるし、水の流れもあって簡単に移動できない。
それでも一歩、更に一歩。機関人間と化したこの体の膂力で先に進む。その時────
「間桐桜。遠坂時臣の娘……なるほど、間違いなくマスターだな。だが自動人形(オートマタ)?」
男性の声に続いてカチャという音がした。
嗅覚のセンサーがニコチンを検出する。
そして視線の先には────銃を構える男がいた。
【B-6/住宅地(足首まで浸水中)/1日目・夜】
【ルアハ@赫炎のインガノック-what a beautiful people-】
[状態] 健康、魔力消費(中)、間桐桜を抱っこ中、ランサーと念話ができない距離
[令呪] 残り三画(封印中)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:自動人形として行動
1.桜を守らなくては……。
※情報空間で何かに会いました。
※衛宮切嗣に狙われています。
【間桐桜@Fate/Zero】
[状態] 魔力消費(極大)、ルアハにだっこされています、ランサーと念話ができない距離
[令呪] 残り三画(封印中)
[装備] なし
[道具] 毛布
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:アーチャーさんの言いつけを守ってじっとする
1:…アーチャーさんにぶじでいてほしい
2.お人形さん、どうしたの?
3:どうして、お人形さんは嘘をつくの?
[備考]
精神的な問題により令呪を使用できません。
何らかの強いきっかけがあれば使用できるようになるかもしれません
※衛宮切嗣に狙われています。
◆
-
狙われる少女。それを守らんとする機関人間の少女。
そして溺れる者を助けんとする少女達よ。
私はお前達に応えよう。
この絶望の空に、我が名を呼べ。私はそれに応えよう。
【B-6/???/1日目・夜】
【ニコラ・テスラ@黄雷のガクトゥーン】
[状態] 電力消費(大)、魔力消費(小)、雷電魔人
[令呪] 残り三画
[装備] 電気騎士
[道具]
[所持金] 物凄い大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の打倒。
0:輝きを守る
1:昼間は調査に時間を当てる。戦闘行為は夜間に行いたいが、急を要するならばその限りではない。
2:アン・メアリーの主従に対しての対処は急を要さないと判断
3:討伐令のアサシン、二騎のバーサーカー(ヒューナル、アカネ)には強い警戒。
[備考]
K市においては進歩的投資家「ミスター・シャイニー」のロールが割り振られています。しかし数週間前から投資家としての活動は一切休止しています。
個人で電光機関を一基入手しています。その特性についてあらかた把握しました。
調査対象として考えているのは御目方教、ミスターフラッグ、『ヒムラー』、討伐令のアサシン、海洋周辺の異常事態、『御伽の城』があります。どこに行くかは後続の書き手に任せます。
ライダー(アン・ボニー&メアリー・リード)の真名を知りました。
ヘドラ討伐令の内容を、ファルから聞きました。
◆
越谷小鞠は目を覚ました。
時刻は夜22時。ヘドラとサーヴァント達が戦っている場所のすぐ傍で。
そしてすぐ近くで傷を縫合しているサーヴァントが一騎。
ジャック・ザ・リッパーもまた深海棲艦の群れから生還していた。
【C-6/路上/一日目・夕方】
【越谷小鞠@のんのんびより】
[状態] 魔力消費(中)、体調不良、不安、善き心
[令呪] 残り三画
[装備] 制服
[道具] なし
[所持金] 数千円程度
[思考・状況]
基本行動方針:帰りたい
0:リリィさん、行きましょう!
1:青木さんを止めよう!
2:あの人、大丈夫かな……
3:これが終わったら帰宅して、ちゃんと夏海を安心させる
※イリヤスフィール、ハートロイミュード、秋月凌駕、シャッフリンの姿を視認しました。名前や身分等は知りません。
※ゼファー・コールレインの声を聴きました。
※青木奈美(プリンセス・デリュージ)が聖杯戦争参加者だと知りました。
【ジャック・ザ・リッパー@Fate/Apocrypha】
[状態] 治療中、疲労(中)、全身にダメージ(小)
[装備] 『四本のナイフ』
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:
1:ヘドラを囮にして、他のマスターやサーヴァントを狩る。
2:双子の指示に従う
3:あのサーヴァント(ヘドラ)、殺したい
4:『えいえん』って――???
※ヘドラ討伐令の内容を、ファルから聞きました。
-
投下終了します。
すいません、一部の状態表が夕方になっていますが夜の誤りです。
-
当方の投下物、Wikiに収録しました。
以下、予約します。
ヘンゼルとグレーテル
越谷小鞠
真庭鳳凰
バーサーカー(ファルス・ヒューナル)
アサシン(ジャック・ザ・リッパー)
-
すいません。越谷小鞠の分は破棄します。
以下、投下します。
-
【C-6】
夜の病院にてゴソゴソと動く影が一つある。
数時間前に起きた局地的大地震で戸棚が崩れて中身をぶちまけ、薬品は転がり、書類が散乱している。
そんな中で針と糸、そして消毒液を見つけた少女──ジャック・ザ・リッパーは己の傷を縫合し始める。
ジャック・ザ・リッパーは糸で受けた雷刃や銃創の傷を塞いでいく。外科医療スキルの賜物であるが所詮応急措置に過ぎない。
ジャックが傷を縫合している間にも宝具『暗黒霧都』は酸性霧を作り出し眠っている人々の命を奪っていく。
病院の関係者、その近隣住民やペットまで。眠ったまま吸い込んだ酸性霧によって肺が爛れ落ち、皮膚やらなにやらが溶け落ちて白骨体となる。そしてジャックは死んだ魂を摂取し、魔力を蓄えていった。
黒騎士とその深海棲艦の群れに殺されかけたジャックは暗殺失敗の報告と今なお膨れ上がるヘドラの波動を感じ取り、これからどうするべきかマスター(おかあさん)に聞くべきだと判断した。
そしてマスターのいる方向へ歩き出した時、一瞬だけ『違和感』を感じた。
違和感の元はマスターの魔力供給量。二人一組という関係上、常人の二倍の魔力を供給されている。
二人は魔術師ではないが、それでも十分。加えて殺人鬼のサーヴァントたるジャックは魂喰いの効率も良いため朝から四連戦してもまだ戦闘可能だ。
故に今、魔力供給が『一人分』しかないという自体の異常性にすぐ気づくことができた。
〝令呪をもって命ずる。ヘドラを討て〟
「え?」
〝重ねて令呪をもって命ずる。全力全霊、被害や生存を考えず、あらゆる手段を用いてヘドラを討て〟
そして次に起きた出来事は声が出るほど驚く自体だった。
令呪二画によるヘドラ討伐命令。一体何が起きたのか困惑する。
しかし体はジャックの意思とは別に令呪によって海岸へと疾走しだす。
その速度は通常時のジャックが走る速度と大して変わらない。だが、明らかな変化が周囲に現れていた。
令呪による支援によってジャックを中心に『暗黒霧都』の領域が獰猛に広がっていく。
霧は怪物の顎門の如く天地に広がり建物を呑み込み、飲み込まれた命は残らず融けて喰われて死んだ。
濃霧はジャック自身も制御することが許されず、バーサーカーの如き霧の魔物が次々と補給しながら海岸を目指す。
まるで箒星の尾のように、魔の霧を後方へ伸ばしながらジャックは考えた。一体おかあさんに何が起きたのかと。
◆
-
時間はジャックに令呪が使用される数分前に遡る。
強制冬眠により人々が眠り、夜の町は明かりのみを残して静寂に包まれていた。
道端に転がり健やかな寝息を立てる老若男女。それを見て彼女達が我慢できるはずもなく──
「きゃは♪」
掃射。殴打。斬首。切開。
双子の殺人鬼『ヘンゼルとグレーテル』が通った後は臓物と骨が積み木で遊んだ後のように散らばり、血の池が広がっていた。
少女が蜂の巣にされ、老女の頚骨が踏み砕かれ、少年の性器が切り取られた後口に突っ込まれて頭蓋に斧が叩き込まれた。
弄べる命が存在する限り、双子の殺戮ショーは延長する。正にそれは悪鬼羅刹の漫遊であり、移動災厄に他ならない。
眠れる者達にとっての不幸中の幸いは、起きていたら耐えられない苦痛を知ることなく絶命できたことだろう。
Never die.(死なない)Never die.(死にたくない)と念じなから二人は死の絨毯を広げる。
返り血を浴びすぎて喪服めいた黒服は下着までグッショリと血に濡れて重みを増し、陶磁のような白い肌も血で汚れていた。
「誰も起きてこないわね兄様」
「そうだね姉様。これは少しつまらないな」
「ならば、動く人を狙いましょう兄様」
二人の口が凶悪に歪む。
二人の目線の先。動く人物がいるからだ。
被り物を着た奇天烈な変人が。
◆
-
真庭鳳凰は銃声と血臭に誘われて夜の町へと躍り出た。
見渡せば血、臓物、死体の山。流れすぎた血が川となって排水溝へと流れ込んでいたり、脊髄反射で死後も痙攣しているものがあったりと地獄絵図が出来上がっている。
酸鼻極まる光景ではあるが皆、どれだけ損壊されようとも表情は安らかである。
どれだけ痛みつけられようと起きぬ被害者の異常性もここに極まっていた。
傍で霊体化させているバーサーカーは何も言わない。あくまで奴は典型的な戦闘狂であり快楽殺人者ではないのだ。
無抵抗な人間を殺して遊ぶ行為に何も感じないのだろう。強いていえば『詰まらない』だろうか。
「まあ、その点に関していえば我も同類だがな」
真庭鳳凰は卑怯卑劣が売りである忍者だ。必要ならば虐殺や快楽殺人者の真似事でもする。
もっとも真庭忍軍の中には必要でなくとも殺人を行う者がいるのだが。
「おや?」
鳳凰がこの凶行の下手人を発見した。同時にあちらもこちらを捕捉したらしく獰猛な笑みを浮かべた。
二人組の殺人鬼『ヘンゼルとグレーテル』に違いない。
(アサシンは……流石に気配を消しているか。それとも近くにいないのか?)
試してみるかと左掌を地面につけてアサシンの位置を調べる。
忍法・記録辿り発動。周辺の物の記憶全てを読み取る。
飛び散る血潮……眠り倒れる人々……夕刻の喧騒……と時系列の逆回しに記録が鳳凰へと流れこんできた。
どうやら周囲にアサシン『ジャック・ザ・リッパー』はいないらしい。一度も現れていない。
そうなると妙だ。何故こ奴らはこのような無駄な行為に勤しんでいるのか。
「貴様ら。何故、殺しているのだ?
何か理由でもあるのか?」
と適当に尋ねてみたところ、双子は大声で笑い出した。
そして邪悪な笑みを浮かべたまま、見た目通りの幼い口調で語り出す。
「ないわ」
「ないね」
「なあんにもないの」
「僕たちはそうしたいからそうしているのさ」
「そうよ、楽しいから、やりたいからやっているの」
そして答えるや否や、少女が長い筒を此方へと向けた。
聖杯から知識を授けられた鳳凰はそれの正体を知っていた。無論、用途が殺傷であることも。
マズルフラッシュと乾いた銃声の音が続くと同時、金属の矢が鳳凰へと向かってくる。引き金を引く指を見切っていた鳳凰は発砲直前には既に動いていたため上手く物陰へと潜り込み、銃弾を凌いだ。
そう、あれは「銃」。この世界ではおよそ十世紀以上昔に作られ、連綿とその殺傷性と利便性を追求してきた人殺しの道具だ。
奇しくも四季崎記記の完成形変体刀と同じ名を冠する──いや、おそらくこれは逆だろう。
真庭鳳凰は元々は特殊な「刀」を集めていた忍軍の統領の一人である。その刀こそが多種多様でありながら、どれも物理を超越した特性を有していたのだ。
それを国が、あるいは武力を必要とする組織が血眼になっていたところに真庭鳳凰をはじめとした十二人の統領が率いる真庭忍軍が参戦、十二本の完成形変体刀のうちの一本を強奪した。
しかし、聖杯の知識を得た今。真庭鳳凰は真実を悟る。あれら十二本の刀はこの時代、あるいはさらに未来の技術を取り入れたものではないかと。
「銃」がまさにそのいい例だろう。火縄すら碌に開発されていない国でこの時代における回転式自動拳銃(リボルバー)を実践可能な状態までいきなり鍛造するなどどう考えても異常だ。
だが、この時代のモノを持ってきたと考えればいくらか説明はつく。例えば四季崎が己と同じくこの聖杯戦争に参加し、生存して知識を持ち帰るなどすれば辻褄が合うだろう。
故に、真庭鳳凰は最初こう考えた。
この時代の、あるいは未来の武器を大量に持ち帰れば真庭の里を救えるのではないかと。
あの虚刀流も、奇策師も、鬼女も出し抜いて天下最強の忍軍として民を導けるのではないかと。
だが、それでも恐らく尾張幕府には勝てない。
四季崎の刀は最低でも千本は残っているのだ。あれらすらも超越するものが必要である。
──例えば、サーヴァントの宝具。
-
「あは」
「────」
いつの間にやら双子の兄の方が近づいていて、真庭鳳凰の頭へ小斧が投げつけられた。
恐るべき速度と精度だ。忍者が投擲した手裏剣に匹敵する。しかし、鳳凰の頭を殺るには遅すぎる。
回転飛来する小斧を見極めて、体を回転させ回避し、体の横を通り抜けた斧の柄を掴む。そのまま体を一回転させると同時に投げ返した。
今度は少年へと投げ返された斧、しかし少女が持っていた銃の弾雨を浴びせかけられて弾かれ地に落ちて転がった。
「む」
いつの間にか少女の方が銃撃を止めて移動していた。真庭鳳凰ほどの戦闘者の意識の間隙を突いて一瞬で移動したのは狡猾な人獣の為せる技だろう。
結果として遮蔽物が用を成さない位置へと移動した少女はマガジンを変え、銃口を鳳凰へと向けて体を固定した。
銃弾は真庭鳳凰とて殺しうる────そう鳳凰は理解していたためにこれは詰みに近い。
ただし、ここが平原ならば、だ。
◆
双子の瞳が驚愕で開く。あり得ないものを見て口が開き、間抜けにも茫然となる。
その原因は獲物(てき)の行動。その鳥の被り物は伊達ではないというように、空へと飛翔、いや跳躍した。
ただの跳躍ではない。途中で何かを踏み台にするといったこともなくただの一跳びで10,20メートルも上昇し、ビルの看板に着地した。
真庭忍軍における戦闘術はいくつかある。真庭拳法。真庭剣法。そして忍術。
そのうち忍術の一つに重さを消去する忍法『足軽』と呼ばれるものがある。
戦国時代以前から存在していたその術は一定以上の技量を有する真庭忍者であれば習得できる術である。故に真庭鳳凰も使える。
重さの消えた鳳凰は羽毛の如く宙を舞い、そして跳弾の如くビルの壁面や地面を蹴り縦横無尽に位置を変えていた。
街路樹や道路標識が並び立つこの場において、鳳凰は魔弾と化す。
さすがのヘンゼルとグレーテルも鳳凰の高速立体機動についていけず、照準が合わない────なわけがない。
◆
-
舌を出せば血の味がしそうなほど芳醇な血の香りがする。
彼等はこの味を舐めたのかしら。
彼等はこの匂を嗅いだのかしら。
この命があった味。
この命が流れる臭い。
命(それ)を啜る私たちはまさに────。
◆
-
「鳥さん捕まえた♪」
それは殺し屋としての技量か。獣の本能か。
立体機動する鳳凰の頬を弾丸が掠める。
マグレではないことは次の弾丸が鳳凰の右手を貫通したことが証明した。
飛び跳ねる鳥さんを見て私たちは思うわ。
殺す。殺したい。欲しい。
その羽を毟りたい。その首を斬り落としたい。
見上げた夜空に浮かぶ彼を殺してまた一つ、永遠になりたい。
だから殺すの。だから殺したいの。
僕たちは永遠だ。
私たちは永遠よ。
──永遠になるの。
BAR(ブローニングM1918自動小銃)から落ちた薬莢が転がる。
それは路上の血に濡れながら転がり続けて排水口へと落っこちた。
◆
-
右手に風穴が開いた。
血が噴き出し、鳳凰が動くたびに勢いを増して溢れ出る。
銃弾が太ももを掠め、装束に穴を開ける。
動いている的には当てられまいと考えていたが、見通しが甘かったらしい。
そうしている間にも太ももと脇腹を弾丸が抉った。
「ッ!」
足軽の発動に失敗し、地へと墜ちる神なる鳳凰。
忍法『足軽』を再び発動させ、落下へのダメージを軽減するも状況は最悪だ。
苦戦、苦境、苦難。久しく忘れていたこの感覚。
完成形変体刀を巡る戦いの中で苦汁を舐めることが多かったがそれは戦闘以外の点がほとんどだ。
刀や矢に代わって戦場を支配した銃というものがこれほどとは。
童が銃爪を弾くたびに鍛えぬいた忍びの肉体が容易に削られていく。己の血で装束も顔も真っ赤に濡れていく。
バーサーカーを使う手もあるが、相手がアサシンを令呪で呼べば終わりだ。
逃走しようにも片足を貫かれた今の機動力では音速の弾丸を避けることは極めて困難である。
路上に駐車していた引っ越し用の大型トラックの陰に隠れて腰を下ろし、止血をしつつ掌を地面に翳す。
双子が油断なく近づいてきているのがわかった。成程強いと鳳凰は感心する。
王手をかけられた。
落ちた鳳を狙うは地を這う人獣。
さてどうしたものか。
「まあ、まずはコレからだな」
脇腹の銃創に手を突っ込む。傷口をぐちゃぐちゃと掻き分け、失血が進む。
そして傷口から手を抜いた時、指先には銃弾が掴まれていた。
忍法『記録辿り』発動。
銃弾の記憶を読み取る。
聖杯の知識によると銃とは装弾数が決まっている。無限に弾丸が生じることはなく、マガジンと呼ばれる弾丸を詰め込んだ箱を入れ替えて使うことにより弾丸を補充するそうだ。
故に銃弾から読み取ったのは残りのマガジンの数。あの小僧も拳銃なるものを装備しているのは見て取れたが、やはり恐るべきは少女の長銃。
射程も威力も段違いである以上、銃を二人同時に相手するのは非常に厳しい。先ほどから撃ちまくっている少女が弾切れであれば……と思っていたが、悲しいことにまだまだマガジンを持っているらしい。
しかし、銃弾は面白いことを教えてくれた。
それは武器のスペック。装弾数20発。重量は約二貫、発射速度は秒間5発、弾丸の初速は音速の二倍……など。
与えられた知識にはここまで詳細なものはなかった。あくまでこの時代に必要な最低限度の知識である。
故に真庭鳳凰にとって銃とは「とりあえず撃たれて当たったら危険なもの」程度の認識に過ぎなかった。
なるほど、銃とはこういうものか──必死に避けていたのが馬鹿らしい。
用済みになった銃弾を捨て、鳳凰は立ち上がる。
鳳凰は次の行動を取るべく忍法『足軽』を発動させた。
◆
-
ゆっくりと近付いていく。
足の下の血溜まりが波紋を広げ、踏むたびにピチャピチャと血が跳ねた。
引っ越し用の大型トラックの裏から金属が落ちた音がした。
「まだ元気みたいよ兄様」
「そうだね姉様。挟み撃ちにしようか」
「ええ兄様」
そして動こうとしたところで、状況は急転する。
動き出す大質量。浮かび上がる車体。トラックが横転……いや、浮かびながら空中で大回転する。
「酒己運送」の社名とダンボールに羽の生えたロゴがプリントされていたコンテナは留め具が破壊されており、コンテナが空中で全開になった。
そこからオフィス机や椅子が勢い良く落下する。
──当たれば痛そうだね。
──下敷きになれば動けなくなっちゃうわ。
アイコンタクトで双子は以心伝心し、走り出した。
椅子を、机を避けて、その先にいるであろう獲物へと向かい────獲物がいないことに気付く。
どこへ行ったのかと逡巡したその時、上空からベキリという無機物の割れる音がした。
放物線を描いていたはずのトラックが軌道を変える。
原因はいなくなっていた獲物──真庭鳳凰がトラックのフロントガラスをぶち破り、窓のフレームを掴んで双子へと投げ直した。
そのような人間離れが許される原因はもちろん忍法『足軽』。投げた瞬間にトラックは再び重量を取り戻し、質量弾として機能する。
大地を揺らす衝撃。
まるでモニュメントのように突き刺さったトラック。
双子の殺人鬼は避ける暇すらなかった。
◆
-
「終わったか……おっと」
真庭鳳凰がコンテナに着地した衝撃でトラックは傾いて転倒した。
けたたましい音が街に響き、そして消える。
真庭鳳凰は銃というものを過大評価していたらしい。
銃の性能ではあの大型トラックを破壊することはできない。
連射すれば反動で狙いが定められなくなるし、銃身が持たない、弾切れになるなど欠点まみれだ。
これでは最強の武器などと言えないだろう。引き金すら引ければ誰でも使える汎用性は認めるが白兵では通用しないだろう。
「まあそのための戦技もあるらしいが、ノウハウのない真庭の里には無意味だ。弾丸を生成する技術もわからぬしな」
結論を下したところで双子の銃火器を拾っておこうとトラックの運転席側に近づいた時だ。
ギィと軋んだ金属音が木霊した。そして同時に射出される小柄な影。
双子の人獣、ヘンゼルとグレーテルだった。奴は鳳凰の割った窓から席へと潜り込み、シートとエアバッグをクッションに衝撃を殺し生存していた。
残忍無垢な笑みで自動小銃の引き金が引かれる。
すぐさま転身してトラックのコンテナの影へと隠れるも何発かの弾丸が鳳凰の体を掠めた後だった。
幸い、致命傷にはまだ至っていない。しかし、このままだと失血死するのは時間の問題である。
聴覚にコンテナの反響音、もたれかかっているコンテナから振動を感じる。
双子のどちらかがコンテナの上を疾走している。
◆
走る。
走る。
口蓋を開け、息を吸い込み、全身の細胞へ酸素を送る。
跳躍。同時に斧を振り上げ、トラックの裏に潜む満身創痍の獲物へ飛び掛かる。
獲物は降参とでもいうように手を挙げた。だがもう遅い───いや、そもそも僕たちは生かして帰す気なんてないよ。
「駄目よ鳥さん」
「フライドチキンの調理方法はまず鳥の首を刎ねるんだ」
振り下ろされる鉄斧。数多の犠牲者の血を啜った刃が唸りを上げて頭をカチ割るだろう。
そう思った瞬間、呟く声がヘンゼルの耳に入った。
「───忍法・断罪円」
スライスされて宙を飛ぶ鉄の塊。切り刻まれ、細かくなるヘンゼル。
痛みを感じる間など微塵も与えられず、ヘンゼルの意識は闇へと還った。
【ヘンゼル 死亡】
◆
-
────兄様が、バラバラに、なってしまったわ。
彼女たちが今まで誰かにしてきたように、それは唐突に起きた。
片割れの死。呆気ない死。二人を分断つ死。
毛布に包まった赤子のように兄様の服に包まれた肉片がアスファルトの上を転がる。
兄様の血が肉片と共に降り注ぎ、髪にかかる。
目玉が服の胸元へと潜り込んでいった。
死なないはずの兄様は、私を置いて死んでしまった。
「あらあら兄様ったらバラバラになってしまって」
壊れた人獣は切り替える。切り換わる。
相棒の死が悲しくないのではない。むしろ悲しくて、悲しくて仕方ない。
殺害した敵が憎くないのではない。むしろ憎くて、殺したくて仕方ない。
でも、私たちは永遠だから。僕たちに死は訪れない。
はしたないわ、だらしないわとケタケタ笑う。
ヘンゼルの血を浴びた敵がトラックのコンテナの上に登る。
グレーテルの狂気的な芝居に苦笑しながら答えの決まっている問いを投げかけた。
「兄が死んだのに悲しくないのか」
「いいえ、死んでなんかいないわ」
銃を構え、照準を合わせ、引き金を引く……前に投擲された棒手裏剣が正確にグレーテルの指へ突き刺さる。
人差し指が皮一枚を残して手裏剣に貫断され、力を失った指は引き金を引くことなくぶらりと垂れ下がった。
それでも中指で引くことはできるわ。
敵は走り出し、グレーテルは指を変えて引き金を引いた。
死なない。死ぬはずがないとグレーテルは念じ、そして叫んだ。
「私たちは永遠(ネバー・ダイ)、そう永遠なのよ!
こんなにも人を殺してきたのよ! いっぱいいっぱいいっぱいいっぱい殺してきている!
私たちはそれだけ生きることができるのよ! 命を、命を増やせるの!」
「ほう、興味深いな」
敵の出血は激しかったが、動きは一切鈍らない。
逆にグレーテルの射撃は指を失って持ち方がおかしくなったことで銃の制動がうまくゆかず狙いがつけられない。
結果、銃弾は一発も敵に当たることなく明後日の方向へ飛んで行った。
接近し、コンテナの底面──転倒している今では地面に垂直な壁となっている面──を足場に敵が跳躍した。
矢のように迫り、手刀でグレーテルの首を落とさんと振るう。
間一髪、しゃがんだグレーテルに手刀は当たらず、掠めたカツラが宙を舞った。
「────────────」
装填していた分の弾がなくなったBARを捨てて転がり、敵の追撃を回避する。
転がった先、兄様が持っていた持っていた拳銃を無事な方の手で拾い、そして構えるも。
「遅いぞ童」
既に距離を詰められていて、敵に組み敷かれた。
大の字になり両腕を足で踏まれ拘束される。
「ほう、これは興味深い。カツラを取れば兄の姿になるのか」
何が面白いのか。
“僕”を見て敵はニヤリと笑う。
「カツラの取れている今は兄の方か。
一人二役、否、二人二役だったというわけだな。
兄を殺そうが、いつでも兄の真似ができるということか」
「何を言っているんだい、僕はちゃんとここにいる。
姉様とずっと一緒さ。永遠なんだよ僕たちは」
「ああ、そういえばそんなことを言っておったなお前。
お前もお前で命を結ぶというわけか。ならば────」
-
鳳凰が掌に握りしめていたものを見せる。
それは令呪が刻まれていた肉片。
指と掌の肉と手首より先のない手の甲だけの肉片。
「────見せてやる。これが、命を結ぶということだ」
敵は自分の手の甲を爪でそぎ落とし、そして手に持っていた肉片を張り付けた。
無論、医学上でそれがくっつくなど不可能だ。
人間の体は継ぎ接ぎできるほど便利にできていない。
お医者さんごっこを実際にやれば当たり前に拒絶反応が出る。
のはずだが……
「う……そ……」
肉がペーストされて癒着した。
そして異常はそれだけに非ず。
「〝令呪をもって命ずる。ヘドラを討て〟」
僕たちの令呪が一画消える。
それが意味するところは明白だろう。
敵が、僕たちの、私たちの、令呪を使用したんだ。
「ふむ、正しく結ばれたか。ならば──〝重ねて令呪をもって命ずる。全力全霊、被害や生存を考えず、あらゆる手段を用いてヘドラを討て〟」
またしても令呪が一画消失される。
間違いない。敵は自分たちの令呪を完全に共融している。
「さて、ではお主にも死んでもらおうか」
「……ずるい」
「何?」
瞬間、敵の体が宙に浮いた。
それが自分の膂力によるものだと相手は理解できず。
「僕たちは永遠だ。僕は死なない。僕たちは不死身の────」
◆
今、生き残った殺人鬼はここに別位相の怪物へと進化を果たす。
鳳凰もグレーテル……ヘンゼル本人も知る由がない。
双子は殺しすぎている。同種の生き物をひたすら殺して生きている。
ヘンゼルとグレーテルはチャウシェスクの子供たち。政策によって離婚と堕胎が禁止された中、癌細胞の如く産み落とされた闇の落とし子。
死で命を繋ぎ、血の池に体を浸し、その生涯を冷たい闇の底へ繋がれた捨て犬はその住処に適した進化を遂げていた。
それは起源覚醒した殺人鬼か、あるいは魔の領域に陥った黒円卓の殺人鬼に近い。
わかりやすい部分でいうと身体能力が物理を超越している。人の限界に挑戦するアスリートを嘲うようにそれは容易く人に許されない性能を発揮した。
もはや見た目によらない怪力を獲得し、理屈に依らない直感で危機を回避する二人の殺人鬼は、この世界における魔獣に相当する域に片足を突っ込んでいる。
そして今、己の渇望が極限に高まった今!
ついに彼らは天然の魔獣へと変生する!
◆
-
「■■なんだあああ!」
新生────凶獣変生。
魂の絶叫と共に振るわれたヘンゼルの拳を受けてトラックが吹き飛びビルの四階に”突き刺さった”
なんという出鱈目な腕力。
カタパルトでトラックを吹っ飛ばしたといった方がまだ信じられるほど荒唐無稽。
銃を制御できる両手の怪力は「異常」だったが、これはもはや「超常」だ。もはや人の形をしたまま中身を神域、あるいは奈落にいる何かに替えたといっていい。
冷や汗を流す鳳凰とは裏腹に、当の本人はというと茫然と空を見ていた。
今の絶叫が嘘のように、まったくの感情が欠落している。
粉々になる窓ガラス。砕かれたビルの瓦礫。四階から落下してくるそれらを浴びながら全く意に介さず、霧の晴れた夜空を見ていた。
まるで初めてみたかのように呆けながら、しかし真庭鳳凰の姿が目に入った途端。
「──────────」
新生した心臓が激しく動悸した。まるで止まっていたのではないかと錯覚するほどに血流が熱を帯びて動き出す。
それは片割れを刻んだ猛禽(ほうおう)を見つけたことで自分の為すべきこと────殺すことを思い出した。
心臓が。
血管が。
骨格が。
脳髄が。
内臓が。
皮膚が。
神経が。
現在の性能に追随して魔的な強化を果たし、辺り一面に下水の如き腐臭がまき散らされる。
殺意が雪崩の如く芽生え、されどそれに憎悪や憤怒はない。
会った時に彼らが言った通り、殺したいから殺す。ただそれだけのこと。
戦闘態勢に入る寸前にドスドスと眉間、頸動脈、心臓、肺に鳳凰の棒手裏剣が突き刺さった。
刺さった場所は全て急所。体内で血があふれ出し、首からは血が噴き出た。
だが、それでも。人獣は止まらない。
「Aaaaaaaaaa」
死ぬはずがないと当たり前に信じているそれは当然の如く奇跡の生存を果たし、無色透明の感情がより激しいモノへと変わっていた。
人であれば致命傷であるはずの傷を無視して怪物は宙に浮く敵へと肉食獣の如く飛びかかる。
舌打ちして真庭鳳凰は拾っていた斧の欠片を怪物へと投擲し、見事にそれは怪物の右目を抉った。
が、それでも怪物は止まることなく、口を開いて忍法『記録辿り』に使う左腕を食いちぎった。
左腕を咀嚼し、骨は噛み砕いて、腹に納める。
自由落下した鳳凰の左腕は消失している。
「やってくれる」
昼間に戦った魔法少女よりも低いスペックのはずなのに、狂乱した人獣は間違いなく鳳凰を追い詰めていた。
失血でまともに立っていられず膝をつく。弱った獲物を爪で引き裂くべく地を蹴る魔物。
-
大地を駆けずビルの壁から壁へ立体移動。
真庭鳳凰と違い、純粋な膂力がそれを為す!
そして直上から腕を振り上げて迫り────その時、鳳凰が何かをヘンゼルの頭に投げた。
もはや永遠(ふじみ)と化したヘンゼルは如何なる致命傷も気にしない。そのまま手を振り下ろし、死の裂爪が忍者の身体をバラバラに引き裂くだろう。
だが予想に反して痛みも衝撃もなく、『それ』はふわりとヘンゼルに当たった。
────それは、『姉様』のカツラだった。
意識が混濁する。
たとえ人を辞めても、狂乱していても、その習性だけは忘れていない。
なぜならば彼女、彼、僕、私こそがもう一人の自分。
忘れられるはずがない。一緒に闇に堕ちたもう一つの頭を。
忘れられるはずがない。一緒に過ごした日々を。
忘れられるはずがない。一緒に持ち合った狂気を。
「あれ、わたし……?」
故に魔獣が強制的に狂人に戻る。いいや、戻っても本当に人なのか。それすらもが分からず。困惑した。
その意識の間隙を卑怯卑劣が専門の忍者が見逃すはずもなく。
「さらばだ。命を結べぬ永遠(ネバーダイ)」
手刀がその首を刎ね飛ばした。
ポカンとした少女の顔は兄と同じく死んだことにすら気づかず、きれいに放物線を描いた。
首を失った体から血液が噴き出る。
その血液こそが彼女達の奪ってきたもの。
生きるために他者から盗んできた血であり肉であり魂そのもの。
詰め込んできた生命(すべて)だった。
◆
-
浮く。それとも飛んでいる? 私は飛んでいるのかしら?
すごいわ! 私も鳥さんになったのね!
でも何で、なんで今なの? 何であの施設に居た時に飛べなかったの?
もしも私達に羽があれば、あの血の海から。あの底無しの闇から。私達は飛べたのに────
その時、頭がガクリと曲がってグレーテルの瞳に月が映った。
まんまるな、きれいなお月様。
何度も見たことがあった。でも、こんなに近くで見ると、こんなにきれいだなんて知らなかった。
私達、ずっと下ばかり見ていたから。
「ああ、こんやは──こんなにも。おつきさまが、きれい──ね──」
月の美しさに胸を躍らせながら、少女は瞼を閉じて眠った。
【グレーテル 死亡】
◆
刎ねられた首は地面に落ちて転がり、道端の死骸の一つとなった。
続けて仁王立ちしていた死体が倒れ、魔業を負った肉体は塵になって消える。
再び静寂が街を支配する。あたりは破壊された照明が明滅を繰り返し、街灯が消えた一瞬で真庭鳳凰の姿も消えていた。
かくして討伐される魔獣の新生児。
仮に放置していればどれほどの災禍へ進化していたかは考えたくもない。
だが、災厄は未だ終わらず。
彼女達のサーヴァントは未だ顕在である。
-
【D-4・F病院付近/一日目・夜】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態] 疲労(大)、魔力消費(小)、全身にダメージ(極大)、大量出血、右胴体に火傷(中度)、鉄片による刺傷
[令呪] 残り二画
[装備] 忍装束
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、真庭の里を復興させる
1:ヘドラ討伐には様子見
2:中学校に通う、もしくは勤務するマスターの特定
3:今日はもうサーヴァント戦を行わない。
※ヘドラ討伐令の内容確認しました。
※忍法『記録辿り』で佐倉杏子および『魔法少女まどか☆マギカ』の魔法少女システムについて把握しました。
※忍法『記録辿り』で佐倉杏子が知りうる限りのメロウリンクの情報を把握しました。
【バーサーカー(ファルス・ヒューナル)@ファンタシースターオンライン2】
[状態] 意欲低下、胴、右腕に裂傷(行動に支障なし)、胸部に風穴(小)、右手半壊、全身にダメージ(小)
[装備] 『星抉る奪命の剣(エルダーペイン)』
[道具]
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:闘争を望む
1:あの敵はそそらない
2:あの男はそそる
※ヘドラ討伐令の内容を確認しました
※メロウリンクの武器および『涙の雨で血を拭え』を確認しました。
※知性を感じないヘドラの尖兵に魅力を感じてません
-
以上、投下終了します。
-
うーん、流石にこれはどうなんでしょうか……
話の中で死亡したとはいえ、いくらなんでも双子の変生は突飛すぎると感じました
-
投下乙ぐらい言えよ
-
>>278
君もね
-
投下お疲れ様です。
双子の魔獣化はDies iraeの国円卓黎明期のあの二人ですね。
確かに双子とあの二人は設定背景近いけどよく思い付くなぁと感心しました。
-
>>277 >>280
感想どうもです。
双子の魔獣化はDies iraeのドラマCDにある外道の設定から拝借しました。
とある二名の殺人鬼が人の道から外れるかつ狂信的に何かを信仰していると人の枠からも外れた存在になっていた
ということになっています。
まあ、自分も書いていてやりすぎかな感はあったので双子が人として終わるもう一つのパティーンを書きましたので投下します。
>>270からの分岐であり、結末は同じなので大局に影響はありません。
-
鳳凰が掌に握りしめていたものを見せる。
それは令呪が刻まれていた肉片。
指と掌の肉と手首より先のない手の甲だけの肉片。
「────見せてやる。これが、命を結ぶということだ」
敵は自分の手の甲を爪でそぎ落とし、そして手に持っていた肉片を張り付けた。
無論、医学上でそれがくっつくなど不可能だ。
人間の体は継ぎ接ぎできるほど便利にできていない。
お医者さんごっこを実際にやれば当たり前に拒絶反応が出る。
のはずだが……
「う……そ……」
肉がペーストされて癒着した。
そして異常はそれだけに非ず。
「〝令呪をもって命ずる。ヘドラを討て〟」
僕たちの令呪が一画消える。
それが意味するところは明白だろう。
敵が、僕たちの、私たちの、令呪を使用したんだ。
「ふむ、正しく結ばれたか。ならば──〝重ねて令呪をもって命ずる。全力全霊、被害や生存を考えず、あらゆる手段を用いてヘドラを討て〟」
またしても令呪が一画消失される。
間違いない。敵は自分たちの令呪を完全に共融している。
「さて、ではお主にも死んでもらおうか」
踏んでいる相手の足からヘンゼルの両腕に万力の如き力が加えられる。
ミシ
ミシ。ミシ。
ミシ。ミシ。ぶちゅ。ぶちゅ。
腕の肉ごと骨が潰されて砕かれた。
そして敵の左腕が地面から垂直に上がり、その手刀は夜の月を断つようにして振り上げられ、そして降ろされた。
痛みは一瞬。
ヘンゼルの腹部に死の気配が横溢し、血液と共に溢れ出てくる。
胃から逆流して血液が口からも出ていく。
────姉様と一緒に集めてきた命が無くなっていくよ。
────兄様と一緒に集めてきた命が無くなっちゃうわ。
いっぱい殺したのに。いっぱい。いっぱい。
なのに最後には悪い人に食べられてしまう。
死まで秒読みの中、ヘンゼルが月を見ながら思い出すのは、この名前の由来。
死体処理をしていた二人にあの××××共から与えられた名の由来を目にした事があった。
-
◆
ヘンゼルとグレーテルは親に森の奥へ連れていかれて捨てられることを知ってしまいました。
そこでヘンゼルはパンの切れ端を道へとばら撒き、月の光で道が明るくなるまで待ちます。
ところがパンは見つかりません。パンの切れ端を鳥さんが食べてしまったからです。
こうして帰り道を見失った二人は森をさまよい、お菓子の家の魔女につかまってしまいました。
ヘンゼルは喰われるために檻に閉じ込められ、わんわんわめいても無駄でした。
グレーテルは魔女の言いなりになってしまい、わんわん泣いても言うことを聞かなくてはなりません。
ある日、ヘンゼルを食べるため、魔女はヘンゼルが太っているか調べます。
魔女がヘンゼルの腕を捕まえてあぶらがのっていることが分かれば、すぐさま竈へ放り込まれるでしょう。
なのでヘンゼルは────
◆
────食べた鳥の骨を差し出すんだ。
筋繊維が千切れる。
激痛は電流となって脳へ流れる。
しかし、構わず。
ヘンゼルは腹筋で起き上がり、自分の腹に刺さっている鳥の腕(あし)へとかぶり付き。
「ひひはふはいんは!」
最期の咬合力をもってその腕を噛み切った。
「────!?」
肘より少し先の腕を失った忍者が驚く……が彼の精神はすぐに状況を呑み込み、右の手刀がヘンゼルの首を裂きトドメを刺した。
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「やられた……いいや、この場合は見事だと言うべきか……」
左腕の半分を失った鳳凰は出血を抑えながら商店街を後にした。
左腕を調達しなくてはならないが、出血多量の今、早急が造血しなくては死ぬ。
「さらばだ、命を結べぬ永遠(ネバー・ダイ)」
忍びの姿は夜の闇へと消えていく。
そして一方……。
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暗い。
寒い。
臭い。
ああ、何も見えないや。
ここはどこ。僕は、私は、どこに来たの?
マンホールの中? それとも山奥の施設? それとも東南アジアの暴力街?
その時、答える声があった。
「悪い魔女はいなくなったわ。迎えにきたわよ兄様」
もう一人の僕が立っていた。
優しく額を撫でていう。
私たちは永遠よ。
ああ、僕たちは永遠さ。
行きましょう兄様。天国はいいところだって聞いたわ
ああ、それはいいねとヘンゼルは目を閉じた。
きっと目が覚めた時は永遠の国へたどり着いているだろう。
【ヘンゼル 死亡】
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別パターン投下終わります。
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修整乙です
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乙でした。
結局これでジャック・ザ・リッパーは脱落ですか?
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皆様、大変ご無沙汰しております。
まずは当企画を長い間放置していたこと、投下していただいた作品にレスポンスを返せなかったことを深くお詫びいたします。
そして、もう一つお詫びしなければならないことがございます。
実はこの度、仕事の都合により海外へ転勤することになりました。これまでの生活とは全く違った生活になることが予想される上、作品を投稿できる環境が整うまでにも多大な時間がかかるかと思われます。更に何より異動先でのスケジュールは未知数な部分があり、そもそも作品を執筆する時間が上手く取れるかも難しいかもしれません。
総括すると、私はこれ以上当企画を存続させることは恐らく不可能、という結論に達しました。
というのも、当企画「Maxwell's equations」は私の考案した独自のいわばオリジナルに限りなく近い膨大な量の設定を根幹としていたのですが、それを保存していたPCが故障してしまい、纏めていたデータは全損、事実上私の頭の中にしか件の設定が存在しない状態です。
このため書き手諸氏との設定共有はほぼ不可能であり、設定を改めて一から纏め直す時間も、正直取れそうにないのが現状であります。
沢山の力作、傑作を投下していただいておきながら大変に心苦しいのですが、以上の事情から、当企画「Maxwell's equations」は企画終了、という措置を取らせていただきたいと思います。
異論、反論は多々あるかと思いますし、以上の理由は全て私個人の不徳によるものだということも重々承知しております。重く受け止め、深く反省しています。自分勝手で理不尽な、企画主にあるまじき醜態といってもいいと我ながらそう思っております。
が、この企画終了という結論を撤回するつもりは申し訳ないですがございません。悩みに悩み、熟考に熟考に重ね、こうするしかないと思い至った結論ですので、ご理解いただければ幸いです。無論、これだけの身勝手を通すのですから、仮に執筆環境及び時間が戻ってきたとしても「俺ロワ・トキワ荘」様やそれに関連するサイト、企画への参加は金輪際致しません。このレスをもって完全に、身を引かせていただきます。
既に前述した異動の準備は始まっており、家族にも大変な苦労をかけているため、皆様のご意見やご提案にお答えすることも申し訳ないですが出来かねます。よってこれが最後の書き込みになるかと思います。当サイトのルールにある「スレ立て人の最終決定権」というワードを使うのは乱暴な上に高圧的で大変恐縮なのですが、どうかご了承ください。
最後になりますが、候補作を投稿して下さった皆様、本編を執筆して下さった書き手の皆様、当企画を楽しみにしてくださっていた読み手の皆様、この度は私の不徳により大変なご失望をさせてしまい誠に申し訳ありませんでした。
この謝罪文をもって、当サイト、当界隈を去らせていただきます。今まで、本当にありがとうございました。
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お疲れ様でした
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◆Rl27YEb/Mo様、お疲れさまでした。
自分自身は2作しか投下することができなかった身分ではありますが、これが初めて書いた聖杯本編ということもあり、学ぶことが多くとても思い出深い企画となったと思います。
今後のご健勝をお祈り申し上げます。
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◆Rl27YEb/Mo氏
お疲れ様です。リアルが優先となるのは当然です。お気になさらず。
海外での生活に対する不安や住居の移転に伴う負荷は私には想像できないものですが、
健やかであることを祈ります。
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◆Rl27YEb/Mo氏
お疲れ様でした。
慌ただしい中での苦渋の決断とのこと、痛み入ります
このたびのことで氏が気に病まれることはなく、むしろ今までこの企画に参加させていただき、楽しい時間をありがとうございました
早く氏の新生活が落ち着いたものとなりますようお祈り申し上げます
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1読み手でしたがお疲れ様でした。
実生活由来の書けなくなる理由というのは書き手にとっては避け難いものの一つです。
お気になさるなという方が無理でしょうが思い詰めすぎないでいただければ幸いです。
今まで楽しい企画をありがとうございました。
海外でも氏が楽しめる娯楽があることを願っております。
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管理人です。
企画主様のご意向により、当スレッドは過去ログ倉庫に送らせていただきます。
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