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正常/異常バトルロワイアル
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正常/異常バトルロワイアル
参加者名簿
【ガールズ&パンツァー】5/5
〇西住みほ/○秋山優花里/○角谷杏/○澤梓/○西住まほ
【機動戦士ガンダムSEED DESTINY】4/4
〇キラ・ヤマト/○アスラン・ザラ/○シン・アスカ/○ラウ・ル・クルーゼ
【嘘喰い】3/3
〇斑目貘/○梶隆臣/○マルコ
【ガンダムビルドファイターズ】2/2
〇イオリ・セイ/○レイジ
【機動戦士ガンダム 逆襲のシャア】2/2
〇アムロ・レイ/○シャア・アズナブル
【機動戦士クロスボーンガンダム】2/2
〇トビア・アロナクス/○キンケドゥ・ナウ
【バットマン(ノーラン版)】2/2
〇ブルース・ウェイン/○ジョーカー
【ウォッチメン】1/1
〇ロールシャッハ
【フラッシュポイント】1/1
〇トーマス・ウェイン
22/22
※当ロワは非リレー形式となります。
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オープニング投下します。
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始まりは一つの輝きだった。
全てが台無しとなった世界で、私が出会ったのその宝玉。
かのものは与えてくれた。私に次元を越える力を。
私は研究に没頭し、宝玉を使いこなすことに成功した。
そして、私は見た。
次元の壁を越えた先にあった、多種多様な人類の有様を。
平穏な世界などただの一つとしてなく、規模は違えど争いはそこにあった。
…………。
………。
……。
まだだ、まだ。
私は彼等を信じてみたい。
人間という種は、そんなにも愚かではない筈だ。
だから。
だから、証明するのだ。
この実験でもって、人間の可能性を。
◇
「皆、着いたようだな」
暗闇の中で、声が響いた。
同時に痛いまでの光量が、人々の目を焼いた。
天井に備えられた電灯が、唐突に灯ったのだ。
思わず光から目を背けるものもいれば、微動だにせず声の主をみるものもいる。
だが、少しの時間が経てば人々は全員彼の姿を見ることになった。
光の中心に立つ、男の姿を。
「私はオジマンディアス。今回の催し物の主催者となる者だ。以後よろしく頼む」
オジマンディアスと名乗った男は、そこで言葉をきると、一人一人の顔を見回していった。
参加者全員が、彼の表情を正面から見た。
凛々しく、自信に満ちた男の顔だ。
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「さて……今から君達には、ある一つのゲームに参加してもらおうと思う」
柔和な笑みをたたえて、男は口を開いていく。
突然の状況に困惑を覚える人々だったが、不思議と危機感を感じてはいなかった。
それほどに男の態度は紳士然としたものだったし、何となく信用できそうな雰囲気を有していたからだ。
だが、その印象も、男が放った次の言葉で粉々に崩れ去る。
「ゲームの名は『バトル・ロワイアル』。端的に言うならば、殺し合いだ」
シン、と場が静まり返る。
空気が凍り付いていく様を、人々は感じた。
「この殺し合いから生還できるのは、原則的に1人のみだ。最後に生き残った1人を、元の生活に返すことを約束しよう」
殺し合い。
最後に生き残った1人を生還させる。
異常な言葉を、オジマンディアスは変わらぬ柔和な笑みで紡いでいく。
「勿論、褒賞はある。どんな願い事でも良い、一つだけ願いを叶えよう。どんな突飛なものでも構わないよ。本当に、どんな願いでも叶える」
人々は何も語らなかった。
ふざけるなと、反逆の翼を翻すものもいない。
虎を思わせる巨大な獣が、彼の側に着き従っていたからだ。
加えてオジマンディアス自身の振る舞いもまた、とても素人のそれではない。
隙は一欠片として見つからず、そこにはやはり尊大なまでの自信に溢れていた。
「ルールも、時間制限もない。食料は無尽蔵に供給するので飢餓の心配もしなくていい。
力に自信が無い参加者には武器も与えよう。
それと一つ忠告をしておくならば、脱出を試みるのは止めておいた方が良い。会場の端にでも行けば否が応でも理解できると思うが。
ともかく環境は与えよう。後は己の考えに任せて、行動をしてくれ」
言い切り、オジマンディアスは再び人々を見た。
一人、一人とその表情を、その裏にある感情を見つめる。
「ヴェイト」
ふと、声が掛かった。
異名ではなく、彼を本名で呼ぶ人物。
もちろんオジマンディアスには、その人物が誰なのか分かっていた。
「なんだ、ロールシャッハ」
視線の先に、怪物がいた。
いや、怪物のようなマスクを付けた人間がいる。
白色の布の上で、黒い染みが蠢いている。
それは綺麗な花のようにも、ぱっくりと頭を割った犬の死骸のようにも見える。
「貴様は殺す。四肢が砕けようと、腹に穴が開こうと、俺がお前を殺してやる」
「そうか―――それは楽しみだ」
しわがれた男の声に、オジマンディアスはそれだけ答えた。
蠢く染みが、眼に入る。
果たしてそれがオジマンディアスにどのように見えたのか、それは終ぞ誰にも分らぬことだった。
「さぁ、始めようか。ゲームを、殺し合いを、『バトルロワイアル』を―――」
言葉と共に、人々の身体が光に包まれる。
そうして次の瞬間には、人々の姿は消えていた。
一人残されたオジマンディアスが、沈黙のままに立ち尽くし続けた。
【正常/異常バトルロワイアル 開幕】
【主催者:オジマンディアス@ウォッチメン】
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投下終了です。
タイトルは『オープニング』となります。
更新は遅々となるでしょうが、よろしければよろしくお願いします。
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なお、次話で書いて欲しいキャラなどがいたら教えてください。
できるだけそのキャラを参加させた話を書きたいと思います。
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スレ立て乙です。
トーマス・ウェインをお願いします
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レスありがとうございます。
では、トーマス・ウェイン、西住みほ、レイジで投下します。
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あの光速の男は言っていた。
別の次元、別の世界で、息子は生きている、と。
◇
トーマス・ウェインは闇夜の中で身動ぎもせずに、息を潜めていた。
己の為すべき事は既に決まっている。
だからこそ、もう無駄に動く必要はない。
ただ黙して待つ。
獲物が、眼の前を通り過ぎる瞬間を。
研ぎ澄まされた聴覚に音が届く。
衣擦れ、息遣い、足音。
彼の耳は、彼のマスクに隠された機能は、それだけで対象がどのような人間なのかを知らしめる。
十代の女性。焦った様子で走っている。
真っ直ぐに、こちらへ。
トーマスの存在に気付く事もなく、ゆっくりと。
そして、眼の前に少女は来た。
びくびくと周囲を見回しているが、直ぐ傍にいる筈のトーマス・ウェインに気が付く事はない。
当然だ。
闇とは、彼の武器の一つなのだから。
闇に紛れ、闇に潜み、音も姿もなく敵を打倒する―――それがトーマス・ウェイン、それが『バットマン』だ。
それからは一瞬だった。
トーマスは後ろから少女へと襲い掛かった。
声が漏れないように少女の口元を抑え、暗闇の中へと引きずり込む。
丸太のように太い腕を少女の細い首元に通し、ほんの少し息ができるように緩める。
「ブルース・ウェインを知っているか?」
トーマスは低い声で、それだけを聞いた。
事態についていけない少女はただ正直に首を横に振った。
その答えこそが、彼女の命運を分けるのだとも知らずに。
彼女は首を横に振ってしまった。
この瞬間、トーマスにとって手中の少女は無価値なものとなった。
腕に渾身の力を籠めようとして―――不意に、その現象は起こった。
少女の上着の中から、光が溢れだしたのだ。
トーマスにも見覚えのある光であった。
つい数瞬前、この世界に飛ばされた時に発生したものと同じ光。
「おいおい、なんだよ一体」
光が落ち着いた後、そこに立っていたのは1人の少年であった。
赤髪の少年。
少年は困惑した表情で場を見渡し、トーマスと少女の姿を視界に捉えた。
同時に、その表情が変わっていく。
誰の目にも分かる。
怒りが、少年の顔を染めていった。
「そいつから、手を、離しな」
女性に暴力を振るわんとする卑劣漢。
彼の『高貴なる精神』はそれを見逃す事などできない。
突然に現れた少年に驚愕する二人を尻目に、少年の行動は迅速だった。
「離せって、言ってんだよぉ!!」
ダンと、地面を蹴り抜き、トーマスへと襲い掛かる。
少年の動きは鋭い。
何らかの武道の経験があるのだろう。路端の不良程度なら難なく倒せる程には実力を有している。
トーマスの反応は遅れた。
予想外の事態に付いていけなかったことに加えて、年齢を重ねた身体だ。
後10才も若ければ、容易く少年を返り討ちにしていただろうが、今はそうもいかなかった。
少女を突き飛ばし、突っ込んでくる少年へとぶつける。
二人で揉みくちゃになりながら地面に転がる二人の脇を通り過ぎ、トーマスは闇の中へと姿を消した。
最大でも20名の命を奪わなければならないのだ。
ガタがきている身体に、装備は最低限のものしかない。
今はまだ無理をする場面ではなかった。
(それに思わぬアイテムも入手できた)
トーマスの手中にはネックレスが握られていた。
少女が首にかけていた宝石だ。
おそらくは先の発光現象の原因となった物体だろう。
そして、おそらくはワープ現象とも繋がっている筈。
思わぬ戦果を手に握りながら、トーマス・ウェインは闇夜を進んでいく。
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◇
「おい、大丈夫か?」
心臓の鼓動が、うるさかった。
余りに突然すぎた事態に、身体も心もついていかなかった。
殺し合い。
襲撃。
声が響く。
男の冷たい声が。
身体は万力で固定されたようにビクリとも動かすことができなかった。
怖い。
怖かった。
殺される、と本気で感じた。
抵抗もできない。
死が、すぐそばにあった。
戦車道の模擬的な暴力とは違う。
純然な暴力が、あった。
怖い。
怖い。
怖い。
「―――おい!」
不意に身体が揺らされる。
目の前に、見知らぬ少年がいた。
燃えるような赤髪に、力強い瞳。
「落ち着け。大丈夫だ、奴はどっかに行っちまった」
ぶっきらぼうに、少年は言った。
肩には手が置かれている。
温かい、温かい、手が。
「お前が願ったんだろう。助けてくれって。
何でか知らねえがラッキーだったな、アリスタ持っててよ」
そう言って、少年は微笑んだ。
この瞬間、私はようやく実感できたのだ。
助かったのだと。
実感して、私は。
「ふ……」
「ふ?」
「……ふぇぇぇぇえ〜〜〜〜〜〜ん」
「なっ!? 泣っ!?」
思わず涙を零していた。
多分私よりもずっと年下の少年に抱き着きながら。
まるで子どものように泣き続ける。
安堵に、涙はいつまでもいつまでも止まらなかった。
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◇
レイジは困惑していた。
抱き着いたままに涙を流し続ける少女。
肩まで伸びた茶色の髪。
セイやチナと似たような服を着ているから、多分『ガクセー』とかいうものなのだろうが……。
事の顛末はこうだろう。
何故だかアリスタを有していた少女が、身の危険に助けを願い、俺を呼んだのだ。
目の前にいたのは変なマントと変な仮面に身を包んだ変態野郎だ。
奴は逃げてしまったが、まともに戦って勝てたかどうかは怪しい。
女を突き飛ばした反応も、逃げ足も凄まじいものだった。
逃げてくれて命拾いしたのは、むしろ自分の方かも知れなかった。
「おい、落ち着いたか?」
「うん……ひぐっ……うん、ごめんね……」
まだ涙を流しているが、会話はできるようになった。
さっきよりは大分マシだ。
「おれはレイジだ。お前は?」
「私は……みほ。西住みほ、です……」
みほ。聞いたことのない名前だった。
改めて見ると、自分よりは年上なのだろう。
だが、先程の出来事を思い出すとどちらが年上か分からない。
「ごめんね、レイジ君……助けてくれて、しかも泣きついちゃって……」
「別にいいよ。あんな目に合ったんだ、仕方ねえだろ。歩けそうか?」
「うん……ありがとう」
手を貸してやり、立たせる。
早くセイと合流したいところだが、今のみほを放って置く事はできなかった。
それに、こんなふざけたゲームの中で出会ったのも何かの縁なのだろう。
「とにかくここを離れるぞ。またあいつが来るかもしれねえ」
「う、うん……分かった」
みほの手を引き、レイジは進んでいく。
彼等のバトルロワイアルは始まったばかりであった。
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投下終了です。
タイトルは『闇夜の戦い』となります。
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次、もし良かったらラウ・ル・クルーゼで
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レスありがとうございます。
ラウ・ル・クルーゼで投下します。
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ラウ・ル・クルーゼは気付けば暗闇の森林に立っていた。
仮面に阻まれ、その表情を窺い知ることはできない。
だが、顎に手を当てて、じっと何かを考え込んでいた。
右手に握られた端末には、参加者の名の数々が並んでいる。
時折、そちらに視線を投げながら、更に思考を続けていく。
この殺し合いに連れてこられる直前の記憶は、闘争であった。
最強のコーディネーターである存在との一騎打ち。
四肢の殆どをもがれ、頭部すら失って尚も猛然と迫りくるモビルスーツ。
桃色の閃光がカメラアイを、視界を埋め尽くす。
終焉の扉が開き、そして―――気付けば、この世界にいた。
オジマンディアスを名乗る男に、殺し合いを強要されている。
「くっ……くく……!」
閉じた口の端から、思わ声が漏れた。
やはり人類は変わらない。
核を使用し、ジェネシスに撃たれ、それでも尚、このような狂気を起こそうとする。
己が業を通すためならば、如何なる所業にだろうと手を染める。
変わらない。変わる筈がないのだ。
「私を生かしたのも、貴様の業なのだろう。オジマンディアスよ」
死すらも、冒涜された。
何もかもから解放されると思った直後にあったのは、この狂気だ。
「良いだろう、貴様の業に乗ってやる」
クルーゼは知っている。
この狭い狭い世界であろうと、人間は手を取り合うことなどできやしない。
ならば、終焉の扉を開くのを少し手助けしてやれば良い。
それだけで、人々は独りでに破滅へと向かっていく。
「さぁ、止められるかな、君は」
名簿の中にある一つの名前を見詰めながら、クルーゼは零す。
キラ・ヤマト。
最高のコーディネーターとして人為的に生み出された、人類の頂点に立つもの。
自分を殺した、殺すはずだったもの。
彼はこの狭い世界でも足掻くのだろう。
救いたい、守りたいと。
苦悩し、懊悩し、それでも尚進むのだろう。
君に、私を、人類の業を、止められるか。
禍々しい笑みを口元に携えながら、ラウ・ル・クルーゼは殺し合いの会場を歩き始めた。
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投下終了です。
タイトルは『業』でお願いします。
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角谷杏、アスラン・ザラで投下します。
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目の前に、あれはいた。
黄金の装飾を身に纏い、柔和な……だが、どこか冷えた微笑みを浮かべる男。
男は派手な椅子に腰かけながら、足を組みこちらを見詰めていた。
正直、唐突すぎる事態に頭がついていかなかった。
自宅で床に就いた筈なのに、眼が覚めれば見知らぬ場所に座らされていた。
そして、眼前には見知らぬ男。
誰であれ、身の危険を覚えるのは当たり前だろう。
泣き叫んでしまいたいところだが、それは必死に堪えた。
泣いてしまえば、弱みを見せる事になる。
演技でも良い。今は気丈に振舞い、相手を見極めなくては。
これから何が起きるにせよ、それが重要なことに思えた。
「……えっとさ。ここ、どこかな?」
声が震えなかったのは僥倖でしかなかった。
いつもと同じように飄々とした風に振舞えているだろうか。
問い掛けに返答はなく、男は一度満足げに頷いただけだった。
立ち上がると、ゆっくりと近付いてきて、両肩に手を置かれた。
そして、先程よりも近くで見詰められる。
咄嗟に身構えたくなるが、我慢する。
弱みを、見せるな。
耐えろ。
こういう時こそ、不敵に笑うんだ。
「―――強いな。そして、頭も回る」
相も変わらず柔和な微笑みで、だが瞳は冷え切っている。
まるで実験のモルモットを見詰める研究者のようだ。
「学園艦という独自な環境で育ったからだろうか。君達は年齢に不相応な程に自主性に富んでいる。
中々面白いシステムだ。様々なものを見たが、学園艦というシステムはどこにも存在しない。興味深いな」
学園艦は割と普及されたシステムだが、何を言っているのか。
違和感はあるが、それを突っ込むことはできなかった。
「さて、角谷杏。君にはこれからあるゲームに参加してもらう」
次いで、男は語りだす。
『バトルロワイアル』。
最後の一人を決めるまで続けられる殺し合い。
狂ってる。そう断ずるに余りあるほどの催し物だった。
喉が痛いほどに渇いていた。
唾を飲み込むこともできなかった。
男の語ったゲームに、男の狂気に、身体は動き方を忘れていた。
このゲームに参加させようというのか。
まるで悪夢だった。夢なら直ぐにでも覚めて欲しい。
お願いだ。
「それで、君には今回の殺し合いで特別な役回りを演じて欲しいんだ」
「特、別……?」
「君にもメリットのある役さ。君にはね―――」
だが、数分後、私は嫌という程に思い知らされることになるのだ。
「―――『ジョーカー』をして欲しい」
本当の悪夢はまだ―――始まってすらいなかったということを。
「なに、ゲームの中では行うことは他の参加者とは変わらない。他人を殺していけば良いだけだ。
ただ『ジョーカー』は、ある特別な権利を得ることができる。君を含めて、5人までの生存を認めよう。
もちろん、それは君が最後の5人に生き延びた時に限るがね。
さしずめ主催者側からの尖兵と言ったところさ。殺し合いの停滞は避けたいところだしね」
5人までの生存を認める代わりに、必ず殺し合いに乗れ。
簡単に言うとこうだ。
ふざけるな。何で顔も知らぬ者のために、そんな役回りをしなければ―――、
「ちなみに、今回の『バトルロワイアル』の参加者の内、君の知人は4人いる。
おや、偶然だ。『ジョーカー』の報酬とぴたりと数が合うようだ」
まるで、時間が止まったようだった。
今度こそ、何も考えられなくなる。
何を。
一体、この男はなにを言っているのか。
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「名を言おうか。西住みほ、秋山優花里、澤梓、西住まほ」
やめて。やめ、て。
何で、こんなことをするのだ。
ようやく守れたと思ったのに。
学園艦を、学園を、日常を―――皆を。
なのに、なのに、なんで。
「そうだ、私が彼女達を選出した理由を知りたいか。
そうだな、第一条件に比較的平穏な日常を送っていた者達であったから。
第二に常人でありながら、彼女達はやってのけたからだ。
不条理を己が力で打ち破り、日常を勝ち取った―――『戦車道』という遊戯を通して」
あ、と思った。
戦車道という一言に、頭をがつんと殴られたようであった。
「感服したよ。私でも不利を、理不尽を感じる状況で、君は、彼女達はやってのけた。
国の役人を動かし、圧倒的不利な戦況で仲間が力を貸し、そして勝利した。
素晴らしいと、正直に感じた。だからこそ、相応しいと思ったのさ。この殺し合いに、彼女達は」
あの試合を見て、皆をこの殺し合いに参加させようとしたのなら。
それは、それは、つまり。
『戦車道』をしていなかれば、私が『戦車道』を立ち上げなければ、
こ ん な こ と に 巻 き 込 ま れ は し な か っ た の で は ?
「顔色が優れないようだね。それもそうだろう。
だが、あの絶望を打開した立役者である君ならば、できると信じているよ」
もう、何も考えられなかった。
考えたくはなかった。
全てが染まっていく。
暗く、暗く。
染まって、いく。
◇
「そうか、アンズ。君は4人も知人が巻き込まれて……」
今、私の目の前には1人の青年がいる。
日本がは達者だが、外人さんだろうか?
殺し合いの中で出会って、こんな狂った最中だというのに、私を守ると言ってくれた。
話も聞いてくれて、今も他人の話だというのに沈痛な表情を浮かべている。
「ザラさんは、何人の知人が巻き込まれているんですか?」
「俺は3人だ。だが、1人は……いや、何でもない」
少し難しそうな表情をしていたが、ザラさんは知人の名前を教えてくれた。
キラ・ヤマト。普段はどこか抜けていて、危なっかしくて、でもいざという時は誰よりも頼りになる青年。
話を聞いていると、まるで西住ちゃんのようだった。彼女みたいに良い人なのだろう。
シン・アスカ。直情的で、感情に振り回されることはあるが、誰よりも友を想い、行動することができる青年。
こっちは河嶋みたいな人なのだろうか。でも、良い奴なのだろう。
ラウ・ル・クルーゼ。人類に恨みを持つ危険な男。
険しい顔で、警戒はして置いた方が良いだろうと、ザラさんは言っていた。
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「まずはキラかシンとの合流を急ごう。奴等なら、力になってくれる筈だ」
そう言って、ザラさんは先導をきって歩き出す。
その手には拳銃が一丁握られている。
良い人だ。本当にそう思う。
見ず知らずの自分を気にかけ、今も自分を守るかのように、引っ張るかのように進んでくれる。
だからこそ、本当に心苦しかった。
「ごめんね、ザラさん」
今、ここで彼を殺さなくちゃいけないことが、本当に辛く感じた。
言って、その背中に銃口を向け、引き金を引き絞る。
拳銃は最初から支給されたものだった。これもあいつが言う『力に自信が無い参加者に与えられる武器』なのだろう。
パン、と何かが弾ける音が聞こえた。
拳銃を握る右手にも凄まじい衝撃が走る。
でも、戦車のそれと比べれば些細なものだ。
もう一度引き金を引く。ザラさんが倒れる。
もう一度、もう一度、もう一度……。
倒れたザラさんに鉛玉を撃ち込んだ。
「ゴホっ……な、ぜ……」
「ごめんね、ごめんね、ザラさん。本当にごめん」
まだ息がある。
見た目に反して頑丈な人なのかもしれない。
だが、もう助かることはないだろう。
地面を染める鮮血が、嫌でも生命の終わりを知らしめていた。
彼が装備していた拳銃を回収し、デイバックからも役立ちそうなアイテムを奪っていく。
ものによってはのっぺりと血に染まっているが、泣き言をいう暇はなかった。
「キラ……シン、すまな………お前………ら、かなら、……」
ザラさんは譫言のように、何かを呟いていた。
顔の側には、今呟いた名が記された端末が光り輝いていた。
「……ああ、カガ、リ………」
最後に知らない名を呟いて、ザラさんは動かなくなった。
それきり、ぴくりとも。
死んだ、死んだのだ。
違う。
私が、殺した。
「あ、あぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁああ………」
堪え切れぬ感情が爆発した。
涙が次から次に溢れだして、止まらない。
あんなに優しくしてくれたのに、
なのに、なのに、殺した。
殺した。殺した。殺した。
「ごめんなさい……ごめんなさぃぃぃぃぃ……」
子どものように泣きながら、私はその場から離れていく。
罪悪感から逃げるように、暗闇を求めて、進んでいった。
【アスラン・ザラ@機動戦士ガンダムSEED DESTINY 死亡】
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投下終了です。タイトルは『悪夢』です。
もし書いて欲しいキャラがいれば>>13さんのように、適当に書いておいてもらえれば大丈夫です。
都合によってはそのキャラがでない事もありますが、その時は申し訳ありません。
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投下乙です
超人や人外無しのパロロワは結構新鮮なので期待してます
ロールシャッハ、お願いします
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レスありがとうございます。
参加者に『ベルナデット・ブリティエ@クロスボーンガンダム』を追加します。
ロールシャッハ、トビア・アロナクス投下します。
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ロールシャッハは銃声を聞いた。
銃声は一度だけでなく、何度も何度も繰り返される。
彼の成す事に変わりはなかった。
いや、変わる筈がない。
彼はウォルター・ジョセフ・コバックスではなく、『ロールシャッハ』なのだから。
だからこそ、彼は殺し合いの場を変わらぬ様相で歩いていく。
断罪の死者が、道なき道を進む。
◇
「Hmm……」
十分ほど歩いただろうか、彼はあるものを発見した。
胴体に数か所の穴が空いていて、そこから溢れだした真紅の液体が地面を染めている。
死体に触れる。
まだ熱があった。温かい。
殺されてそう時間は経っていない。
側の地面には空薬莢が数個転がっていた。
拾い上げ、ボロボロのコートのポケットへ入れる。
苦悶に満ちた顔。両目は閉じられている。
死。
目の前にあるのは死だ。
誰かが、こいつを殺した。
殺したのだ。
変わらない。何も。
肥溜めのような街であろうと、この狂った殺し合いの中でも。
変わらない。変わらない。
ガサリと、音が鳴った。
音がした方へと顔を向ける。
同時に息を呑む音。
そこには少年が立っていた。
茶髪の少年が。
少年は動きを止めていた。
鮮血に塗れる凄惨な死体を見つけてか。
違う。
彼の視線は一点に向けられていた。
ロールシャッハの顔、その一点に。
白地に、黒色の染みが蠢く。
まるで蝶々が羽搏くかのように、ゆっくりと、ゆっくりと。
ロールシャッハは動いた。
変わらない。何も。
変わらない。変わらない。
少年の左腕を捻じりあげ、その小指を握る。
ミシリと、嫌な音が響いた。
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「ここで、何が起きたか、知っているか」
底冷えするような声だった。
少年は驚愕と恐怖に目を見開いていた。
そして、唾を飲み込み、口を開く。
「……し、知らな―――」
少年の言葉は、絶叫で染め変えられた。
ロールシャッハが少年の小指をへし折ったのだ。
「ここで、何が起きたか、知っているか」
同じ質問が飛んだ。
激痛に身体を震わせる少年は、必死に叫ぶ。
「知らない! 知らないんだ、おれはただ銃声が聞こえて……!!」
ふむ、と少年の腕を捻じりあげたまま、ロールシャッハは空いた方の手で顎をさすった。
少年の瞳をじっと見つめた後に、彼は少年を解放した。
「何か情報を得たら教えろ。6時間後にC-3の『ガンプラバトル会場』とやらに来い」
それきり、彼は少年に背中を見せて歩き出す。
「俺はロールシャッハ。もし逃げ出しなどすれば、容赦はしない」
振り向きもせずに、言葉を残す。
痛みに蹲る少年に気を掛ける様子もなく、彼は闇へと姿を消した。
◇
「くそぉ……なんなんだよ、あいつは一体……!」
残された少年―――トビア・アロナクスは激痛に痺れる左手を引きずるように、森林を進む。
銃声に引き寄せられたかと思えば、これだ。
薄気味悪いマスクを纏った男に、腕を捻じられ、指を折られた。
まるで躊躇いの無い動きだった。
その足元には死体が一つあった。
あいつがやった……訳ではなさそうだった。
マスクの男は死体に関する情報を欲していた。
あいつの知り合いだったのだろうか。
(そういえば、あいつ……)
激痛を押し殺しながら進んでいく内に、思い出す。
最初の場所にて、オジマンディアスに宣戦布告をしていたマスクの男。
まさに先程の人物と同一人物だ。
あいつは知っているのだろうか。
あのオジマンディアスとやらが何者で、何故こんな狂ったゲームを始めたのか。
後ろを振り返る。
マスク男の姿は、既に闇に消えている。
追いかけ、オジマンディアスに関する情報を問いただすか。
(……無理、だよなぁ〜〜〜……)
あのマスク姿を思い描くと、折られた小指が暴れ出す。
まるであいつの元に向かう事を拒絶しているかのようだった。
(いずれにせよ……6時間後、会わなくちゃいけないんだ)
6時間後、ガンプラバトル会場で。
その時、奴と再会する時がくる。
それまでに。
「待ってろよ、ベルナデット……おれが、君を守る」
指をへし折られ、既に満身創痍といっても良いが気持ちは揺らがない。
あの戦いを生き延びた彼の胆力は、強靭なものだ。
指を折られ、恐怖を植え付けられようと、真なる意味で心が折れる事はない。
世界を救った宇宙海賊の1人が、鋼の心で進んでいく。
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投下終了です。
タイトルは『鋼の心』でお願いします。
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乙です
トビアは運が悪かった…。
シャッハさんはブレねぇなw他の対主催勢と険悪になりそう
もしよろしければ斑目獏をお願いします
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レスありがとうございます。
西住まほ、斑目貘投下します。
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西住まほは、表情に出さねどど困惑していた。
突然に拉致され、見知らぬ男に殺し合いを強要される。
あまりに突飛な展開に現実味を感じられなかった。
今も暗闇の森林を歩いているが、まるで夢のようにも感じられる。
とびきりの悪夢ではあるが、できるものなら今すぐにでも目を覚ましたいところだ。
(みほ……それにみほの仲間達も……)
バックに入っていた携帯端末には、この殺し合いとやらの参加者の名があった。
中には見知った名前もある。
西住みほ。彼女の実の妹である。
そして、彼女の仲間であるものの名も数名見受けられる。
(……何とかしなければ……)
これが夢でなのかどうかは分からない。
だが、例え悪夢の中であろうと、こんな殺し合いは止めなければと思った。
端末の電源を切り、暗闇へと視線を向ける。
手中には、これまたデイバックに入っていた武器がある。
拳銃。
物語の中でしか見た事のないそれを、まほは慣れない手付きで強く握る。
(守るんだ、みほを、みほの仲間を……)
力強い瞳を向けて、歩き出すまほ。
その直後に、彼女は炸裂音を聞いた。
銃声だ。びくりと肩を震わせて、目を見開く。
音は何発も何発も続いて、響いた。
誰かが、銃を撃っているのだ。
何発も何発も。
その行為が示すこととは何か。
深く考えずとも、答えは自ずと浮かんできた。
(まさか……既に誰かが……)
喉が干上がっていく。
頭がぐらぐらと揺れる。
夢ではない。
本当に誰かが誰かを殺そうとしているのだ。
戦車道で、日々の過酷な訓練で身につけた強靱な精神がなければ、悲鳴をあげていただろう。
まほは己を落ち着かせるように、言い聞かせた。
冷静に、冷静に。
いつ如何なる時も冷静に思考し、次なる一手を選択する。
戦車道と同じだ。
まして今や本当に命が懸っているのだ。
己を見失えば、どんな結末になるかは火を見るよりも明らかだ。
まほは強い精神力でもって、前を見た。
そして、一歩を踏み出そうとしたその時―――出会ったのだ。
「「あ、」」
闇夜の中から現れた、一人の男と。
あらゆる嘘を喰らうものと、彼女は遭遇した。
-
◇
「へぇー、西住まほちゃんね。俺は斑目貘、よろしく」
「はぁ……」
数分後、二人は巨木の陰に隠れて互いの自己紹介をした。
名前と年齢、簡単な情報交換を実施する。
斑目貘と名乗った男は、存外慌てた様子もなく、口元に微かな笑みをたたえて話を聞いていた。
まほは僅かに困惑していた。
こんな状況だというのに、目の前の男からはまるで恐怖という感情が見て取れない。
それどころか、口元の笑みを見ていると、楽しんいるようにすら見える。
「まほちゃんの知り合いは4人、ね。妹さんと妹さんの友達と」
「……ええ。斑目さんの知り合いは2人ですね」
「うんうん。梶ちゃんとマルコね。二人とも頼りになるんだ、これが」
名簿を見ると、確かにそれらの名前があった。
仲間がこんな事件に巻き込まれているというのに、やはり斑目は取り乱す様子もない。
二人に対する信頼の現れなのか、それとも……。
「それで、何だっけ? まほちゃん達は、えーっと……『戦車道』っていう武道に励んでるんだっけ?」
「はい。私は黒森峰女学園で、妹達は大洗で『戦車道』をしています」
「ふーん……『戦車道』、ね。俺さ、そういうのに疎くてさ。どんなものなのか教えて貰っても良い?」
戦車道とは、古来から続く女子の嗜みである。
男子が行う事はないとはいえ、世界的にも有名な武道である『戦車道』を知らないとは思えないが……。
まぁ、中にはそういう人間もいるのだろう。
まほは、簡単に『戦車道』の概要を話した。
「あぁーはいはい、あれね、あれ! 思い出したよ! 何だかど忘れしてたみたいだ。そうそう、『戦車道』ね、『戦車道』」
まほの話を聞いた後、貘は合点がいったかのようにしきりに頷いていた。
何となくわざとらしい雰囲気もあるが……。
「いやあ、すっきりしたよ。何て言うの? 思い出せそうで、思い出せない感覚? あんな感じがしちゃってさ。いやー、スッキリスッキリ」
言いながら、貘は立ち上がる。
「さ、スッキリしたところで、早速動こうか」
「はぁ……」
まほの不審の瞳にも動じる様子はなかった。
ズボンについた埃を払いながら、口を開く。
-
「さて、どう行動するかだけど……この端末に入ってる『MAP』によると、この殺し合いの会場に施設が一つだけある」
「『ガンプラバトル会場』、ですか」
「ちなみにまほちゃん、『ガンプラ』って何だか分かる?」
「いえ、聞いたこともありません……」
「俺も聞いたことがない。ま、唯一の施設として設置してある以上、何か重要な意味を持つんだろう」
『ガンプラバトル会場』。
まほには、さっぱり聞いたことのない単語であった。
その施設以外は、森林という事になっている。
『MAP』によると広さは5キロ四方の正方形とのことだ。
「それか、もしくはさっきの銃声のした方に向かうか」
「っ、それは危険では……」
「危険だけど、『誰か』は確実にいるよ。それが『襲撃者』なのか、『襲撃者からからがら逃げ出した参加者』か、『銃声に引き寄せられた参加者』なのかは分からないけど」
貘の言う事は最もであった。
銃声がした以上、何者かはいるのだろう。
だが、それは争乱があった危険な場所に赴くということ。
二つ返事で了承をすることはできなかった。
「あとは、そうだね。会場の端も見ておきたいかな。オジマンディアスによると脱出を諦めさせる何かがあるみたいだし」
選択肢は3つ。
果たして何を選ぶのが、正解なのか。
貘は選択肢を提示したのみで、それ以上は語らなかった。
選択をまほに任せるようだ。
「私は―――」
十数秒の思考の後、まほはゆっくりと口を開く。
彼女が提示した回答は―――、
-
投下終了です。
タイトルは『噓喰いの3つの選択肢』です。
-
次はシン・アスカ、もしくはキラ・ヤマトでお願いします
-
レスありがとうございます。
澤梓、ジョーカー、シン・アスカ投下します。
-
澤梓は暗闇の中で膝を抱え、考えていた。
自分はこれからどうなるんだろうと。
彼女の心中にあるのは恐怖心だけだった。
身体は意思とは無関係に震えて止まらない。
両腕で自身を強く抱き留めても、一向に収まる気配もない。
怖い。ただひたすらに怖かった。
端末を操作し、参加者名簿を開く。
そこには見知った名前が何人かいた。
西住まほ。西住隊長の姉で、戦車道の強豪・黒森峰を率いる女性だ。
角谷杏。生徒会長として暗躍し、大洗を廃校から救った立役者。
秋山優花里。あんこうチームの砲手にて、膨大な戦車の知識を有した先輩。
そして、西住みほ。
戦車道の素人集団でしかなかった自分達を率い、導き、遂には全国優勝を果たし、大学選抜チームすら打ち破った女性。
憧れの隊長で、少しでも彼女に近付きたいと思う女性であった。
(西住隊長は、どうしてるんだろう……)
ふと、思う。
こんな殺し合いなんて狂った状況で、あの人はどう行動するのか。
戦車から降りた西住みほは、ぽやっとしていて天然で、どうにも放って置けない雰囲気の女性だ。
でも、いざ戦車に乗れば、神がかり的な閃きと策謀で戦場を圧巻する、軍神の如き存在と化す。
今この状況で、彼女はどちらの西住みほであるのだろう。
(ううん、決まってるよ……)
考えなくても、分かっている。
彼女は動く筈だ。
仲間のため、友人のため、姉のため、己が危険を省みず。
去年、川へ落ちた戦車から仲間たちを救った時のように。
全国大会決勝の時、川の中腹で停車してしまった戦車から私達を救ってくれた時のように。
彼女は動く。
怖くない訳がない。それでも、西住みほという女性ならば。
(そうだよ、西住隊長なら……)
脳裏に浮かぶは、暗闇の中を断固とした瞳で進む西住みほの姿。
梓の表情が、変わる。
そうだ、と。
隊長だって動いているんだ、と。
自分に言い聞かせる。
恐怖を押し殺して、まだ身体は震えているけど、それでも。
彼女は立ち上がる。
そして、
「おやおや、足の痛みは引いたかな。お嬢ちゃん」
彼女は見た。
ほんの直ぐ側に立つ男の姿を。
白色の肌に、血のような口紅。
むりやりの笑顔を張り付かせた道化師。
いつからそれはそこにいたのか。
分からないが、確かに怪物はそこにいる。
「さぁ、パーティーの始まりだ」
道化師は、笑って、そう言った。
◇
-
◇
「くそっ……何なんだよ、一体!」
シン・アスカは怒りに満ちた言葉を吐き捨てた。
突然始まった殺し合い。
シンには到底理解できなかった。
あの戦争を経て尚も、このような悪魔じみた催しを開催しようという人間の考え方が。
何故ようやく得られた平穏の中で、こんな事をしようとするのか。
あれだけの命が散っていった戦争を終えて、それでも何故血を流そうとするのか。
「何で……何でなんだよ、ちくしょう!」
シンはがむしゃらに走り続けた。
どうにかして殺し合いを止めなければならない。
止めなければならないのだが、方法は浮かばない。
凄腕のエースパイロットであるシンも、モビルスーツがなければ一介の軍人でしかない。
今現状で出来ることは限られている。
それでも彼は止まる事はできなかった。
命を失う恐怖を誰よりも知っている彼には、立ち止る事など出来やしなかった。
「ッ……!」
ふと、声が聞こえた。
コーディネーターの優れた聴覚だからこそ聞き取れたくらいの小さな声。
だが、確かに声がした。
少女の叫ぶ声が。
「くそっ!」
シンは迷わずに叫び声のした方角へ走っていく。
声が段々とはっきりとなっていった。
走る、走る、走る。
そうして彼は見つけた。
少女が一人と紫色のスーツに身を包んだ男が一人。
男の手には小さなナイフが握られている。
「いったい何してるんだよ、あんたはっ!」
その光景を視界に認めたシンは躊躇いもせず、迷いもせずに、声を張り上げた。
いや、そんな余裕などなかったと言って良いだろう。
少女に向けられたナイフを見た瞬間に、思考は既に停止していた。
湧き上がる憤怒のそのままに、彼は二人の前へと躍り出た。
「んん? おぉ、ナイトの登場か。良いタイミングだ、後は蝙蝠の仮装をしていると満点だったな」
振り返った男の姿を見て、シンは息を呑んだ。
サーカスのピエロのようなメイクをした男。
ナイフをぴたりと少女の口元に突きつけ、楽しげに笑っている。
-
「ふざけるな、その子を離せ!」
「OKだ、離してやるよ」
言いながら、ピエロはナイフを走らせた。
まるで躊躇のない行動だった。
息をするかのように、さもそれが当たり前のように、男はナイフで少女の顔を傷付けた。
悲鳴が響く。
カッと、シンの中で何かが弾けた気がした。
「お前ぇぇぇぇ!!」
叫び声をあげ、猛然とピエロへと迫るシン。
シンはコーディネーターとして遺伝子操作をされた人間である。
普通の人間であるナチュラルとは根本的な身体能力も違っている。
加えて軍属として訓練を詰み、相応の技術と肉体を有していた。
だが、それらの事情を考慮して尚も、シンの踏み込みは鋭いものだった。
一瞬でピエロへと肉薄し、その顔面へ拳を振るう。
避けられもせずに吹き飛ぶピエロ。
しかし、殴られながらもピエロは少女をシンの方へと投げ飛ばしていた。
「くっ!」
負傷している少女をシンは優しく抱き留める。
その隙にピエロは暗闇の奥へと消えて行ってしまった。
後に残されたのは頬から鮮血を流しながら、痛みに蹲る少女と、無力感と苛立ちに身を滾らせるシンだけであった。
-
投下終了です。
タイトルは『恐怖の種』でお願いします。
-
シャア・アズナブルで投下します。
-
「これは………」
宿敵との全てを賭けた戦い。
趨勢は決し、それでも尚と足掻く宿敵と交えた言葉。
一瞬後、目を開けていられない程の閃光が世界を染め上げた。
何も見えず、何も感じない。
そんな空間の中に自分は確かに存在し―――そして、気付けばあの男の前にいた。
オジマンディアスと自らを称した男。
男は狂気を語った。
微笑みを張り付けながら、流れるように。
そうして気付けば、また場所が変わっていた。
この謎の空間。
重力の掛かり方、空の見え方からするに地球の何処かだろう。
会場は、殺し合いが行われているということを覗けば平穏そのものだった。
つまりは、そういうことなのだろう。
アクシズは軌道を逸らされ、地球に落下する事はなかったのだ。
「……私の負け、か……」
戦いは、終わった。
おそらくは、自分の敗北で。
「だが、これは……」
人々は見た筈だ。人の心の光を。
人々は見た筈だ。人間の可能性を。
あの男によって―――アムロ・レイによって。
「それでも尚……変わりはしない」
結局はそうだった。
あの光を見た直後でさえ、人間は変わらず、こんな狂ったような事をしでかす。
変わらない、変わらないのだ。
「……これが人間だよ、アムロ」
消え入りそうな声でそう呟き、シャア・アズナブルは歩き出す。
その表情は、まるで痛みに耐えるかのようにきつく歪んでいた。
◇
歩き始めて、どれ程の時間が経っただろうか。
シャア・アズナブルはある建物の前に辿り着いていた。
そこは、この『バトルロワイアル』に於ける唯一の施設なのだが、シャアに知る由はなかった。
彼はMAPも参加者名簿も見る事無く、ただふらふらと幽鬼のように歩いていただけだった。
施設の扉を潜り、先へ進む。
一直線の廊下を進むと、開けた場所にでた。
中央に大きなテーブルのようなものが置いてある。
「お待ちしておりました。あなたは……シャア・アズナブル様でいらっしゃいますね」
ふと、声が掛かった。
視線を向けると、そこには黒いスーツに身を包んだ老齢な男がいた。
丁寧に整えられた白髪に、白の混じったちょび髭。
相応な高齢であろうが、その立ち居振る舞いは毅然としている。
シャアから見ても、とても隙など見受けられなかった。
-
「ご老人……あなたは、参加者ではないようだが」
「……ご明察でございます。流石は『ニュータイプ』と呼ばれる人間でしょうか」
シャアは察知する。
眼前の老人が、この殺し合いの参加者とは違う立ち位置にいることを。
『ニュータイプ』としての感覚が、老人の心中を垣間見たのだ。
「私、この施設に於ける『ガンプラバトル』を取り仕切らせていただきます、『立会人』・夜行妃古壱と申します。以後お見知り置きを」
夜行と名乗った老人は、仰々しく腰を折った。
ふむ、とシャアは顎に手を当てて、僅かに思考する。
「2、3聞いてもいいかな」
「どうぞ。私に答えられる範囲でよろしければ」
「その『ガンプラバトル』、というのは一体なんだろうか」
夜行の言葉の中で、分からないものが幾つかあった。
その中の一つを質問するシャア・アズナブル。
答えは流暢に返ってきた。
「『ガンプラバトル』とは、『ガンプラ』を用いて行われる対戦型のバーチャルゲームでございます。
ルールは簡単。対戦相手の『ガンプラ』を戦闘不能にすれば良いだけです」
「『ガンプラ』……?」
「貴方がたも良く知る『モビルスーツ』の模型の名称でございます。おそらくシャア様も支給されている筈です」
デイバックを漁ってみると、確かに小さな模型が出てきた。
赤色の身体にモノアイ。それはシャアがこの殺し合いに呼ばれる直前まで搭乗していた機体―――『サザビー』の模型であった。
「その『ガンプラ』を操作し、相手の『ガンプラ』を破壊する……以上が『ガンプラバトル』の説明でございます。
コクピットはそれぞれが一番慣れ親しんだものにさせていただきますので、操作に関してはご心配なさらず。
戦闘は参加者同士で行われます。また『ガンプラバトル』に勝利した暁には、勝者は敗者に一つだけ、どんなことでも命令する権利を持ちます」
「命令? それは例えば生死に関わる内容も含まれるのか?」
「勿論です。飽くまで命令を聞く者が実行できる範疇でとなりますが。例えば自殺をしろ、などといった命令は十分に実行可能と判断します」
「そんな命令を素直に聞くとは思えんが」
「当然でしょう。ゲームに負けたから死ね、などと言われて応じる者などいはしません。
だからこそ、その為に―――私がいるのです」
直後、老人の雰囲気ががらりと変化した。
冷たい殺意であった。
「例え敗者が泣こうが喚こうが暴れようが、私が……『立会人』が責任を持って取り立てを遂行します。誰であれ、必ず」
脅し、だという事は分かっていた。
だが、ニュータイプであるシャアには感じ取れた。
そのような時が来れば、老人は躊躇いもせずに『それ』を成し遂げるのだろうということを。
「……説明を続けましょう。『ガンプラバトル』が開始するには対戦者同士での同意が必要となります。
対戦人数に規定はありません。2VS1、3VS2でも構いませんが、これは少数側となるチームが合意した上で可能となります。
勿論、勝利すれば敗者全員に一つずつ『命令』を与えられます。また、『ガンプラバトル』の最中は暴力行為は禁止とさせていただきます。
暴力行為を行えば、その時点で反則負け。ペナルティとして制裁を加えます」
要するに、モビルスーツでの模擬戦闘で勝利すれば何でも命令を下すことができるということだ。
命令は強制力を有し、どんな内容であろうと遵守せねばならない。
「『ガンプラバトル』、か」
モビルスーツ乗りとして名を馳せ、数多の戦場を駆けた。
そして、生身の殺し合いの場に於いても、真っ先にこのような施設に辿り着いた。
何か因果的なものを感じた。
「……良いだろう」
自分は敗者である。
アクシズ落としを失敗し、宿敵にも無惨に負けた。
時代の敗者となった自分に、今更なにかをする権利はない。
既に未来は、次なるものに任されたのだ。
「おや、そこに座るので」
「ああ、そうさせてもらう」
『ガンプラバトルシステム』に入り、光が形成したコクピットに座り込む。
後は座して待つだけだ。
己がエゴを通さんとするものが自分に立ち向かうのならば、それも良いだろう。
シャア・アズナブルを利用せんと挑む者がいるのならば、それも良いだろう。
(ここが、私の最後の戦場か)
老人と二人。
シャア・アズナブルは固く口を結んで、淡い光を見詰め続ける。
-
投下終了です。
タイトルは『立ち尽くす/立ち塞がる者』でお願いします。
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投下乙です。
夜行さんも会場にいるのか。ガンプラバトルが今後にどう関わっていくのか気になります。
次話、キラ・ヤマトでお願いします。
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本スレッドは作品投下が長期間途絶えているため、一時削除対象とさせていただきます。
尚、この措置は企画再開に伴う新スレッドの設立を妨げるものではありません。
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