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Fate/Winter morning -史実聖杯-
『常に我々は、既に終わりきった事を歴史として記録する』
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【はじめに】
この企画はTYPE-MOON原作の『Fateシリーズ』の設定の一部リレーSS企画です。
参加者達が聖杯を賭けて戦う企画となっております。暴力表現やグロテスクな描写、キャラクターの死亡などがあるのでご注意ください。
【舞台】
冬の冬木市。
電脳空間ではなく現実ですが、たまに本来冬木市にないはずの施設や居ないはずのNPCが存在します。
【マスターの条件】
特にありません。
アニメ、漫画、ラノベ、現実のどれからでもどうぞ。
しかし、最近の犯罪者のような、登場させるのに倫理的な問題がある人物を書くのはあまりオススメできません。
【サーヴァントの条件】
史実上の人物でお願いします。
アニメや漫画の登場人物は(史実上の人物をモチーフにしたキャラであっても)駄目です。
なるべくオリジナリティに満ちた企画にしたいと思っているので、Fate原作(FGOも含む)で既に出ているサーヴァントも上同様に駄目です。
しかし、『原作ではランサーだったが、このエピソードや武器からライダーの適性もあると思われる』と言う風に、Fate出典のサーヴァントでも、原作とは別クラスでの参戦であれば認めます。
【コンペ期間】
九月下旬まで。
【採用主従】
セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカー、エクストラクラスの計八主従
OPを投下します
冬とは静の季節だ。
木の葉が落ち、植物は枯れ、動物の中には冬眠するものもいる。
そして、一年という時間が終わるのもこの季節だ。
どうしようもなく静かで、止まり、終わり、そして死を連想させられる季節――冬。
そんな時期に『聖杯戦争』という殺し合いが開催されるのも、当然と言えば当然のことだったのであろう。
▲▼▲▼▲▼▲
戦いの舞台に選ばれた街の名は、冬木市。
名前の通り冬の期間が長く、周囲を山と海に囲まれた地方都市だ。
その中で比較的開発が進んだ地区――新都には一つの教会があり、名を冬木教会と言う。
雪が薄く積もる屋根の下、外の冷気から隔絶された教会の屋内に、一つの人影があった。
教会内部に並ぶ長椅子の一つ――その真ん中に座っている人影は、泥のように真っ黒なローブを着た者だ。
存在そのものが文字通り人影のようである。
ローブから覗く顔――そこの閉じた瞼から伸びる睫毛は女のように長い。
ローブを着ている事で体型がはっきり視認できない為、その人物の性別は分からなかったが……
「今、私は非常に良い気分だ」
……声質から察するに、男なのだろう――ローブを着た彼は唐突にそう言った。
「これまで私が降臨して祝福されたことは一度たりともなかった――そりゃあ、私が現界するだけで地上の冬が一日伸びるのだから、人々からすればたまったもんじゃないのだろう。
それに、私にはこの『目』があるからね」
男は閉じたままの瞼越しに、己の両目を右手人差し指で交互にツンツンと突いた。
「むしろ、降臨するその日を厄日扱いされるくらいさ。
しかし、名前に『冬』が含まれるこの街で、それも雪が降るこの季節に、私がサーヴァントとして召喚されたとなると――まあ、単なる自意識過剰かもしれないが――何だか歓迎されたかのような錯覚を感じるよ」
余程嬉しいのか、そう言いながら口元に微笑みを浮かべるローブの男。
放っておけば鼻歌の一つでも歌いだしそうな雰囲気である。
だが、次の瞬間にはその緩みを戻し、「それはさて置き」と、彼は言葉を続ける。
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「……こんな名ばかりの聖人に過ぎない私に、裁定者(ルーラー)としての務めを果たせと言うとは……。
ふふっ、随分と冗談が下手じゃあないか。えぇ? 聖杯よ」
ローブの男の経歴を知る者であれば、誰もが浮かべるであろう疑問を本人である彼自身が言い放った。
当然だ。
『どの陣営にも肩入れしない平等な人物』が適性を持つルーラーとして、彼が召喚されることだけは絶対にあってはならないのだ。
そもそも、彼は本来ならばキャスターやアサシンとして呼ばれていたはずなのである。
かつて神に仕える聖人でありながら、神の敵へと寝返った裏切り者たる彼に、正しい判断や平等な行動なぞ期待出来まい。
下手をすれば、聖杯戦争自体が破綻しかねない問題だ。
けれども、ここまでのローブの男の疑問に返事を出す者は一人もいない。
何せ、今この教会にいるのは彼一人だけなのだから。
この場には彼を呼んだ聖杯は勿論、それを巡る戦いを主催する何者かすらも居ないのだ。
しん、しん、しん、と。
外で降る雪の音が聞こえそうな程の静寂がしばらく続いた後、男は再び口を開いた。
「ふむ、まあいい。
この事については私が今更どうこう言っても意味があるまい。
そもそもこれは私にとって、一切損のない、むしろ得しかないことなのだからな。
ならば、私は自由にさせてもらうよ。
……あぁ、違う違う。
自由にさせてもらう、とは言っても何も聖杯戦争自体をおじゃんにするつもりはないさ。
先ほども言った通り、私は今機嫌が良いからね。一応、裁定者として最低限の事はやってやるよ」
男はそう言うと、椅子から立ち上がり、教会の扉へと歩いて行く。
ローブの裾が床と擦れているが、彼はそのことを
「もう既にこの服は汚れきってしまったのだ。
今更潔癖になる必要なぞ、どこにもないだろう?」
とでも言わんばかりに、気に留めない。
男は教会の扉の前に立つと、それを開く。
同時に、外から雪を孕んだ冷たい風が流れ込んだ。
「さて、まずはこんな薄ら寒い戦いに愚かにも参加してしまった、哀れな哀れな子羊たちを探してみるとするかな?」
黒いローブの男はそう言って、雪風の中から消えた。
それから暫くして扉も閉まり、白い奔流も途絶える。
後には何も残されなかった。
OPの投下を終了します。
あと、先ほど言い忘れてましたが、Wikiの方も既に作成しています。URLは以下の通りです
ttp://www65.atwiki.jp/winterfate/pages/1.html
次に候補作を投下します
この身体になってからは、散々だった。
いや、この身体になる前もそれなりに散々な人生だったが、それでもやはり、半喰種という化物になった後の方が、より辛かった。
感じるのは虚無と空腹感。
腹の中に入るのは、人の肉だけ。
俺は、憎かった。
俺をこんな身体にした、アオギリが憎かった。
この俺の苦しみも知らずに、のうのうと暮らしてる奴らが憎かった。
『もしあの時あの人が居れば』と思うと、かつての上司さえ憎くなった。
けれども、俺は我慢した。
どれだけの苦痛を与えられようと、人喰いになろうと、共喰いになろうとも、俺は我慢し、復讐の機会を待った。
『あの日あいつが居なければ』と心底思っている奴を殺す機会を伺っていたのだ。
だってそいつ――タタラを殺しさえすれば、アオギリは多大なダメージを受けて無力化し、今まで奴らに脅かされていた社会に平和が訪れるのだから。
CCGを救う俺は、一躍英雄になれるのだから。
そして、今日、ついにその復讐のチャンスがやってきた。
『何かを追いかけている奴ほど追いやすい奴はいない』という言葉の示す通り、文字通り復讐に燃えるあいつの姿は隙だらけで、狙いやすかった。
「いよぉ★」
高まるテンションを抑えきれず、思わず陽気な声を発しながら、俺はタタラの身体に乗る。
法寺さんからすれば、自分の危機にベストタイミングで助けに入った俺の姿はさぞ格好良く――それこそ英雄のように見えただろう。
それでは、法寺さん。
こいつを倒す俺の勇姿を、タンマリとご覧あれ。
そして――さあ、タタラ。
熱い復讐(おかえし)の始まりだぜ。
▲▼▲▼▲
結果から言うと、俺はタタラに勝った。
完全なる圧勝だった。
CCGはアオギリに勝利を収めたのだ。
しかし、その立役者たる俺が英雄になることはなかった。
むしろ、その逆。
俺は捜査官たちから、『目の前にいるのは滝澤政道ではなく、駆逐されるべき喰種』という対応を取られたのである。
「全員――SSレート"喰種"「オウル」へ攻撃準備……」
それも、法寺さん本人からこう言われたんだぜ。
どうしてだ?
誰よりも苦しい環境に身を置いて、誰よりも頑張ってきたこの俺がなんでそんな目にあわなくちゃならない?
怒りと悲しみと疑問で、俺の頭は一杯になる。
そして――……
▲▼▲▼▲
気がつくと、俺は道の真ん中で倒れていた。
頬に触れる雪の冷たさで、目を覚ます。
上半身を起こし、あたりを見回すが、そこに見覚えはない。
少なくとも、ここが流島じゃないことは確かだ。
「おい、兄ちゃん。そんな所に寝っ転がってどうしたんだい?」
「風邪引いちまうぞ?」
背後から呼びかけられ、俺は振り返る。
そこにはスーツを着た男二人が居た。
片方は丸メガネを掛けた気弱そうな男で、もう片方は無精髭を生やした男。
俺は立ち上がり、メガネの方の頭をもぎ取った。
「…………ひっ、うっ、わあああああああああああああああああああああ!」
しばらく遅れて無精髭の方がマヌケな悲鳴をあげ、逃げていく。
俺はそいつの後ろ姿を眺めながら、メガネの生首から溢れ出る血をペロリと舐めた。
美味い。
これは間違いなく現実の味だ。
つまり、これは夢じゃない。
食事をしたことで、寝起きでまだぼんやりとしていた頭が活性化し、それと同時に『情報』が流れ込んでくる。
聖杯。
聖杯戦争。
マスター。
サーヴァント。
令呪。
NPC。
場所は冬木、季節は冬。
あと数日で本番開始。
といった具合だ。
どうやら俺は願いを叶える聖杯とやらを巡る戦い――聖杯戦争のマスターに選ばれたらしい。
頭に流れ込んで来た『情報』は、聖杯ちゃんがわざわざ丁寧に俺に与えてくれたものだ。
右手の甲に付着した血を拭って見てみると、そこには血よりも赤黒く染まった紋様が刻まれていた。
これがサーヴァントに対する絶対命令権――令呪だそうだ。
と、そこまで考えて、俺は無精髭の男の声がピタリと止んだことに気づく。
そいつが走って行った方向を見ると、マヌケな背中は見えなくなっていた。
既に逃げきられたとは考えられない。
あいつが走ってからまだ五秒も経っていないのだ、人間の足でそんなことを出来るわけがない。
となると、俺の視点からは見えないだけで、実は道の途中に脇道があったのか?
そう考えていると、生暖かい何かが落ちてきた感覚が、俺の頭皮に伝わった。
最初は雪かと思ったが、雪ならば生暖かいのはおかしい。
落ちてきたものの正体を知るべく、左手で頭を触ってみるとそこには真っ赤な血が付いていた。
俺は思わず首を曲げて、血が落ちてきた方向を仰ぐ。
そこには電線が張ってあり、その上には一人の女が居た。
どうやって電線の上に乗っているのか、と疑いたくなるぐらい、巨大な女だった。
ざっと見て、身長は二メートルを超えているだろう。
それに、彼女の身体は至る所が赤かった。
服は勿論、髪や俺を見下ろす瞳も血のように真っ赤だ。
極め付けに、口元には血糊がついている――行儀悪くオムライスを食べた後のガキみてーだ。
瞳の赤さから一瞬喰種かと考えたが、血に混じって漂ってくるそいつの臭いは、人間と喰種のどちらでもなかったため、俺はその考えを捨てる。
これらだけでもかなり印象的だが、更に特徴的な事に、女の頭には獣耳が、腰には尻尾が、口には牙が生えていた。
どう見ても人間じゃない。
まるで、狼男だ。
いや、女だから狼女か? まあ、どうでもいい。
狼女は首のない人間を抱えていた。
服装から考えて、おそらくそれは先ほどの無精髭の男だろう。
ならば、先ほど落ちてきた血はあいつの物か。
つまり、狼女は俺から逃げて行った無精髭野郎を捕まえて殺し、頭を食って、ここまでやって来たわけだ。
それも、五秒で。
「██████……」
狼女が獣の唸りのような声を上げる。
最初は何を言っているのか分からなかったが、視線が俺の右手――つまり令呪に向けられている事に気付き、俺は得心する。
「もしかして、お前が……俺のサーヴァントなのか?」
俺の言葉に狼女は返事をせず、その代わりに首無し死体を俺に向かって放り投げた。
身体を逸らすことで、俺は女が投げたプレゼントを避ける。
地面に衝突した首無し死体から内臓がぶち撒かれるかと思ったが、そんなことはなかった。
虚しく鈍い落下音が、響いただけだ。
見てみると、無精髭の男からは首に加えて内臓も消えていた。
「ジャムにモツ……美味しいところだけ食べましたってわけかよ」
「████」
「好き嫌いはいけないぜ?」
俺の冗談に狼女は答えず、そのままどこかに飛んで行った。
どうやら、召喚されたとはいえ、マスターである俺に付き従うつもりはないらしい。
俺の手にある令呪を見たのも、
「こいつは自分のマスターだから、間違って食べてはいけない」
と認識しただけなのだろう。
あくまであいつは自由に動いて、自由に殺し、自由に食らうつもりらしい。
「全く薄情すぎるぜ、狼おん……いや、違う」
彼女を「狼女」と言おうとした時、俺は聖杯から与えられた『情報』の中の一項目を思い出した。
それは、召喚されるサーヴァントのクラス一覧。
どう考えてもあいつはその内の一つにしか当てはまらないだろう。
「バーサーカー」
そう言って俺は歩き出した。
何をする為に?
決まってるだろう、戦い前の腹ごしらえだ。
これから起きるであろう数々のバトルのことを考えたら、いくら頭の良いメガネのでも、頭一つ分の栄養じゃあ、全然足りねー。
▲▼▲▼▲
結局俺は法寺さんに認められなかった。
英雄になれなかった。
アオギリを潰しただけじゃあ、足りなかったんだ。
ならば、それ以上の功績を挙げれば良い。
そう、例えば、聖杯を手に入れるとかな。
何せ、万能の願望器と言うぐらいだ、みんなを救って幸せにし、俺を一番にすることくらい余裕だろう。
だろう?
なあ?
【クラス】
バーサーカー
【真名】
███(ジェヴォーダンの獣)
【出典】
史実、十八世紀フランス
【性別】
女
【属性】
混沌・狂
【ステータス】
筋力A 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運D 宝具D
【クラススキル】
狂化:EX
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
人喰いの化物であるバーサーカーと意思疎通を行うのは不可能――同じ人喰いでもない限り。
【保有スキル】
人喰いの獣:A
バーサーカーは人喰いの獣である。
というより、人しか喰らわない。
人肉を食らうことで魔力が回復し、傷の回復速度も早くなる。
また、百人以上食らっても正体が不明であった逸話から、このスキルは高ランクのステータス隠蔽効果を内包し、彼女のステータスはマスターであっても視認できない。
スケープゴート:A+
自分の身代わりや生贄を生み出すスキル。
己の代わりに巨大狼がジェヴォーダンの獣と間違えられ、仕留められたというエピソードによるもの。
自分以外の存在にターゲットを集中させる。
集団戦の場合は、ステータス総合値が最も自分に近い存在に同様の効果を与える。
また、このスキルによって、下記の宝具の短所が克服されている。
生屠る獣の叫び:A
狂化時に高まる、オオカミの雄叫びのような甲高い絶叫。
敵味方を問わず思考力を奪い、抵抗力のない者は恐慌をきたして呼吸不能となる。
名前以外はバーサーカー(フランケンシュタイン)の『虚ろなる生者の嘆き』とほぼ同じ。
【宝具】
【赤血の捕食者(ベド・デ・ジェヴォーダン)】
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
喉や脚を無視し、頭を砕くか食いちぎるという、バーサーカーの人喰いの手口が宝具に昇華されたもの。
これが発動すれば、『相手の頭を噛み砕いた』という結果だけが先に現れ、後にバーサーカーによる捕食が始まる。
襲撃→捕食→殺人の流れがまるっきり逆に起きるのだ。
魔術や呪いによる攻撃ではないため、対魔力で無効化することはできない。
しかし、幸運ランクがB以上の場合、判定次第では回避が可能となる。
バーサーカーのアンデンティティとも言える宝具であり、後の捕食が確約されているも同然で燃費も悪くないのだが、発動後に生じる隙が大きいため、複数人を相手にした際に使うのは難しい。
バーサーカーはこのリスクを本能的に察知しているため、相手が複数いた場合は闘争よりも逃走を優先する。
【人物背景】
十八世紀フランス。
ジェヴォーダン地方に突如出現した、狼に似た怪物。
ウシと同じくらいの大きさの、狼のような見た目をしており、広い胸部と小さくまっすぐな耳、ライオンのような尻尾が特徴。
全身を赤い毛で覆われているらしい。
しかし、その正体は改造人間。
六百万人から二千二百万人という爆発的な人口増加による飢饉を起こしていた十八世紀フランスで、『食物を食わずとも人が生きられるようにしよう』と考えたとある人物の研究――その過程で副産物的に生まれた改造人間なのだ。
だが、副産物はあくまで副産物であり、食物を食わずとも生きていけるという能力は持たず、逆に人しか食えないという害悪極まりない生物となった。
彼女を危険だと判断した制作主は、即座に彼女を殺そうとしたが、返り討ちにあい死亡。
その後彼女は村に出て、百人以上の人を食い殺す。
史実上ではジャン・シャストルに殺された、とされているが、それは間違いであり、騒ぎを聞きつけてやってきた魔術師たちによってひっそりと駆逐された。
【特徴】
赤い長髪。
赤い目。
返り血で汚れた、服装は患者や被験体が着るような服。
牙や尻尾や獣耳と、身体の所々に改造の跡が見られる。
無理な人体改造により、生前は肉体の成長が普通の人よりも凄まじかった。
つまり、長身の巨乳。
【マスター】
滝澤政道(オウル)@東京喰種:re
【能力・技能】
喰種の肉体能力・回復能力。
赫者。
【人物背景】
元々はCCGの喰種捜査官。
だが、梟討伐戦の際に喰種集団『アオギリの樹』に捕まる。
その後、オークション戦の際に半喰種と化した姿で再登場し、数多くの捜査官を殺し、喰らう。
しかし実の所、彼はアオギリの樹幹部であるタタラを殺す機会を掴むべく、オウルとしてアオギリの樹に所属していたのだ。
その事を法寺特等に打ち明けるも、既に多くの人間に手を掛けた彼を法寺は受け入れず、逆上した滝澤は怒りと悲しみに任せてかつての上司を殺すのであった。
【マスターとしての願い】
英雄になる。
投下終了です。
質問です
存命中の人物を英霊として出すのは可能ですか、不可能ですか
アーサー王物語や三国志演義、神話などの存在が不鮮明な史実の人物はいいのでしょうか?
お借りいたします
闇の中、少女が必死に路地裏を走っていた。
はしたなくもスカートの裾を捲れさせ、足の肌を露わにしながら。
は、は、と白んだ息を漏らして、震える瞳が幾度も背後を伺っている。
少女は追われていた。少女は逃げていた。
――獣から。
「GRRRRRR……!」
それは黒い獣だった。
燃える炎の瞳を持つ獣。
明らかにこの世のものではありえない、怪異の類である。
足跡に火の粉を残しながら、獣は着実に着実に少女を追い詰めていく。
「諦めない……諦めない、諦めない……絶対に、諦めない……!」
熱病に浮かされたうわ言のような呟き。
少女は懸命に走るけれど、しかし彼女の望みが叶う事はないだろう。
迷路のように入り組み捻じれ曲がった、暗い暗い夜の街。
右に曲がり、左に曲がり、坂を昇って、降りて、ほらその先は――……。
「……いき、止まり……」
すぐ背後からは生臭く、興奮した獣の息が渦を巻く。
それは硫黄にも似た香りを孕み、ちりちりと肌が焼けつくほどに熱を持っている。
少女は路地の壁を背にして獣へと相対す。
振り返った少女の目、金と青の瞳に涙がにじむ。
カチカチと震えて音を鳴らす歯を、食いしばる。
挫けそうになる膝を叱咤して、彼女は懸命に立ち向かった。
「GRRRRRR……!」
その様を見て獣が嘲笑う。
もはやこれまで、この哀れな娘に生き残る道はない。
爪で衣服を切り裂かれ、肌に牙を立てられ、柔らかな肉を食い千切られ、内臓を貪られる。
少女の望みは叶わない――……。
「――残念だったな」
その声は、降り注ぐ矢と共に響き渡った。
獣には何が起こったのかわからなかったに違いない。
雨の如く降り注いだ矢の群が、容赦なく獣の体へと突き刺さる。
あまりの激痛、魂を殺すその鋭さに、獣は泣き喚いて悲鳴をあげた。
しかし逃れる事はできない。
獣が獣であればこそ、この矢からは逃れられない。
この世から消滅する間際、霞む視界の中で獣は確かにそれを見た。
槍を手にした男だ。
鍔広の帽子を目深に被り、革のコートを纏った男だ。
男は狩人だった。
少女の背後に佇むその狩人を、獣は――怖い、と思った。
「無事か、マリー」
消滅した獣が遺した魔力の光を、狩人は槍の穂先で払った。
返事は無かった。
少女は黙りこんだまま、じぃっと狩人の方へ視線を向けている。
「恐らく、今のはどこかの魔術師が放った使い魔だ。マリー、大本を狩るぞ」
「メアリ」
不意にぽつりと少女が呟いた言葉に、狩人は「ふむ」と声を漏らして振り返った。
「あたしはメアリ・クラリッサ・クリスティよ、ランサー」
フランス語読みはしないで欲しいわ。
少女――メアリは両手をぎゅっと握りしめ、きっぱりと自分の名前を口にする。
槍を手にした英雄は、謝罪でもするかのように軽く鍔広帽子の縁を押し上げた。
「悪かった、仔猫(シャトン)」
「仔猫って呼ばないで!」
先ほどまでの恐怖の色は何処へやら、メアリは不機嫌な仔猫のように眦を逆立てた。
* * * * *
メアリ・クラリッサ・クリスティは冬木市の大学を訪れた交換留学生の一人だ。
突如として右目が黄金に転じた以外、彼女は特段、変わったことのない少女だった。
淑やかに見えてお転婆、友人たちと遊び、本を好み、サロメの扇情的描写に頬を赤らめる。
本当に極々平凡な、何処にでもいる少女に過ぎなかったのだ。
――親友のシャーロット・ブロンテが、怪異に遭遇して昏睡状態へ陥るまでは。
それから、メアリの長い長い夜がはじまった。
シャーロットを目覚めさせる方法を探すメアリに、怪異たちは容赦なく牙を剥く。
夜の街を走り、追跡される恐怖と絶望に苛まれる繰り返しは、簡単に人の心を砕くだろう。
メアリ・クラリッサ・クリスティは、普通の少女だ。
ただし――"絶対に諦めない"、普通の少女だ。
だから、彼女の右手に令呪の光が輝いた。
だから、彼女の求めにこの英霊は応じた。
なぜならこの槍兵もまた、決して諦めずに獣へと相対した人物であったから。
もしこの男があの獣を討ち果たさねば、かの王国は滅亡していたに違いない。
それはつまり自由の概念が、この地上より消滅する事に他ならない。
彼がいなければ、人理は間違いなく焼却されていただろう。
男は確かに、世界を救った英雄だった。
* * * * *
「そうは言っても」
人の気配が絶えた夜の街をランサーと連れ立って歩きながら、メアリはふと呟いた。
「あのやり方は正直ちょっとどうかと思うわ。……怖いもの」
「だが、前に出る事を望んだのは君だ。マ……メアリ」
ええ。メアリは頷いた。その通りだ。
獣を討たんとする狩人と、共に駆ける事を望む赤頭巾などナンセンスだ。
そんな作戦を望んだのが自分であると指摘され、否定する気はメアリには無い。
「だって、引きこもっていたって危ない事に変わりはないでしょう?」
もはや、狼は都市の中にいるのだ。
聖杯戦争、魔術師、英霊、マスター。怪異は多く、危険も多い。
自ら踏み入れる事を決意したなら、前へ進むことがメアリの覚悟だ。
「だったら前に出て動いた方が、後から良い考えを思いつくよりずっと良いわ」
そう言い切った彼女は、しかしふと、傍らを行く狩人を見上げた。
「ねえ、ランサー。貴方の願いって……」
「気にすることはない」
ランサーは緩やかに首を左右に振った。
彼女の願いと比べれば、自分の願いなどというのは取るに足らないものだ。
「私の願いは目的のための手段だ。君の友人を優先したまえ」
「そうじゃなくって……戦うより先に、話をしてみたらダメなの?」
ランサーは思わず立ち止まった。
「だって、あれだけ賢いんですもの。言葉だって通じるかもしれない」
数歩先に進んだメアリが、くるりとスカートの裾を翻して振り返る。
「うん、絶対その方が良い。喧嘩するにしても、話しあってからじゃないと」
ランサーは鍔広帽子の下で僅かに笑った。久しく感じていない愉快な気持ちだった。
かの英霊の願いこそは、人を害する獣の駆逐。
獣は獣、人は人だ。
互いの領域を犯せば、あとに残る結末は狩猟以外にない。
共に手を取り合って――などというのは、お伽話の中だけの話だ。
赤頭巾は狼に食い殺され、狼は狩人に殺される。
もちろんそんな事くらいは、マスターである少女もわかっているだろう。
その上で――……彼女は真剣な顔で「そうよ。それが良いわ」と言うのだ。
「……」
「ランサー?」
ランサーはふと、自分のマスターである少女を「似ている」と思った。
見た目も立ち振舞も、もちろん国籍だって違うのだが――……。
(歳と、瞳の強さは同じだ)
人の皮を被った獣に食いつくされた、あの哀れな聖処女と。
乙女が獣の前へ無防備に身を晒せば、そうなるのはわかりきっていた。
狩人がいなければ、喰い殺される。
人と獣とは、そういうものだ。
確かにあの時、あの瞬間、雌雄を決するべく相対した彼我の立場は、確かに等しかった。
そこには恨みもなければ怨念もなく、ただ互いの種の存続を巡っての戦いでしかなかった。
彼は狩人で、彼は獣だった。
狩人と獣とは、そういうものなのだ。
「……考えておくとしよう。機会があれば」
「ええ、そうして頂戴」
全ては、少女が飛び込んだ夜の向こう側だ。
槍兵は走り続ける少女を囮にして、獣を罠にかけて討ち倒す。
少女を守るために。人を獣から守るために。獣を狩り立てるために。
――そしてまた、狩りの夜が始まった。
【クラス】ランサー
【真名】ボワスリエ
【出典】史実(15世紀フランス)
【マスター】メアリ・クラリッサ・クリスティ
【性別】男性
【身長・体重】185cm・80kg
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷A 魔力D 幸運C 宝具B
【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
【固有スキル】
勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
戦闘続行:B
不屈の闘志。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、死の間際であっても戦いの手を緩めない。
国王特権:C
狩猟における限定的な全権委任。
本来持ち得ないスキルも、狩猟に必要であれば短期間だけ獲得できる。
該当するスキルは騎乗、剣術、気配遮断、カリスマ、軍略、等。
獣殺:A
恐るべき獣の群れと戦い続けた事を表わす。
人喰の幻獣、魔獣、獣、狼の属性を持つものに威圧を与え、
更に与えるダメージを二倍として計算する。
また獣の思考を看破する判定にも一定のボーナスを得る。
【宝具】
『野獣、死すべし(ラ・モート・ドゥ・ループ)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:5〜6 最大補促:1人
狼大王クルトーを滅ぼした、獣殺しの概念武装。
攻撃対象が人喰の幻獣、魔獣、獣、狼の属性を持つ場合、追加ダメージを与える。
この効果は対象が複数の属性を持つ場合、それに応じて重複する。
現在は無銘の槍だが、ボワスリエが手にする武器は全てこの宝具と化す。
『誰が為に鐘は鳴る(ノートルダム・ド・パリ)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:100人
ボワスリエとクルトー、その決戦の舞台となったノートルダム寺院広場を顕現させる。
賛美歌と鐘の音が響き渡る中、この空間に閉じ込められた敵には矢が雨の如く降り注ぐ。
それを受けてなお敵が健在であった場合、ボワスリエとの一騎討ちが行われる。
この宝具の本質は、大群を一網打尽にし、そして確実に殺すための罠。
――すなわち人類種の持つ「狩猟」の概念、その具現化である。
【Weapon】
『無銘・矢』
宝具『誰が為に鐘は鳴る』の部分的な具現化。
ボワスリエの号令一下、背後の空間から無数の矢が発射される。
この矢も獣殺しの概念武装だが、宝具ほどの威力は無い。
【解説】
1439年、長きに渡る百年戦争と蔓延する黒死病で崩壊寸前のフランス。
そこは人ではなく狼が君臨し、狼が支配する、狼の王国に成り果てていた。
もはやパリすら狼たちに包囲されて彼らの餌場と化し、人々は恐怖に震えるばかり。
ボワスリエはそんな中、狼大王クルトーに敢然と立ち向かったパリの警備隊長である。
狼大王クルトーに怯えるシャルル七世から全権を託されたボワスリエは、作戦を練った。
彼はクルトーを滅ぼすため、まずノートルダム寺院の広場へ狼の群れを誘き寄せる。
そして広場を封鎖すると高所から矢を射掛け、それをクルトーが凌ぐと白兵戦に突入。
賛美歌の響き渡る中ボワスリエは狼群を駆逐し、ついにクルトーとの一騎討ちに挑む。
戦いの末、彼の槍はクルトーの腹を貫き、狼大王は最後の力で敵の喉笛を噛み千切った。
二人は同時に息絶え、そしてフランスは狼の恐怖から救われたのであった。
聖処女の死から、ほんの10年後の事である。
【特徴】
鍔広の帽子、革製のフロックコートを纏い、槍を手にした長身の男。
帽子を目深に被ってコートの襟を立てているため、表情は伺えない。
【サーヴァントとしての願い】
獣の駆逐
【マスター】
メアリ・クラリッサ・クリスティ@漆黒のシャルノス
【能力・技能】
・黄金瞳
根源と接続された、あらゆる物事の真実を見抜く黄金の瞳。
メアリの右目に宿っている。
・黒の剣能
空間を切り裂く黒い剣。拒絶の心理の現れ。
対象との間を斬ることで距離を取る、詰める事が可能。
・精神耐性
絶対に諦めない不屈の精神力。心の強さ。
メアリ・クラリッサ・クリスティは絶対に諦めない。
【人物背景】
大学で史学を専攻する、ごくごく普通の女学生。
ある時を境に右目が黄金に変化し、それをきっかけに怪事件に巻き込まれる。
怪異に襲われて昏睡状態に陥った親友を救うため、今日も彼女は夜を走る。
将来の夢は作家。史実における後のペンネームは、アガサ・クリスティ。
【マスターとしての願い】
親友を救う
以上です
ありがとうございました
お借りいたします。
カップに盛られたアイスクリームに、銀色のスプーンが差し入れられる。
フレーバーはチョコ。タイトルに違わぬ褐色の丘陵をクラッシュしたブラウニーが彩る。
スプーンが持ち主の口元に、削り取った丘陵の一部を運ぶ。その人はアイスクリームをゆっくりと味わうと、口元を綻ばせた。
見目麗しい少女ならきっと絵になった事だろう。若い青年でもいい。
だが、智子の目の前にいるのは面長の、いささか顎のしゃくれた外国人だった。
どうせなら、もっと美形の騎士とかをサーヴァントとして宛がって欲しかった…。
智子の小さな溜息を聞き逃さなかった外国人――キャスターは皮肉っぽい笑みを彼女に向けた。
「どうかしましたか、マスター?」
「ひぇっ……あ、あの……」
≪これならいいでしょう。なんです?≫
≪あ、あぁ…その……美味しい?≫
智子の質問にキャスターは片眉を持ち上げ、たった今、一口目を賞味したアイスクリームに視線を落とした。
≪悪くないですね≫
≪は?≫
キャスターが智子の目の前で二口目を舌の上に落とす。それは、現代の中高生の10人中7人は確実にスルーするお高いブランドのアイスだ。
コンビニについてきたキャスターにちょっとマスターらしい所を見せてやろうと智子が注文を聞いたら、よりにもよってこれをねだってきた。
10秒前の言を引っ込めようものなら確実にバカにされるだろうし、智子のプライドが注文の変更を許さなかった。
カップ一個でたかだか300円足らずだが、聖杯戦争に招かれる前ならよほどの事が無い限りは手を出さない。
コイツにとっては一言で済む程度の物なのか、と静かに憤る智子を他所に、キャスターは懐かしむような微笑を浮かべて続ける。
≪死後一世紀も経っていませんが、その間の技術の進歩は実に目覚ましい。貴方について大量のアイスクリームを眺めた時ほど心躍らせたのは、久しぶりですね≫
≪ふーん…≫
アイスを選んでいる時のキャスターは確かに嬉しそうだったな、と智子は思い出す。
彼は実体化している時は大体、顔に影が差しているのでちょっと怖い印象があったのだ。
ちなみに彼にはお高いカップアイスの他、チョコレート菓子をいくつか買い与え――させられ――た。
今回の出費は二千円に迫っており、お小遣いをやりくりする身としては今期は中々に厳しくなりそうだと、智子の中で鬱っぽいものが増していく。
そこまで悩むならバイトすればいいのだが、金銭的に対して困っている訳でもないし、何より……怖い。
キャスターの甘党っぷりと、自身のコミュ障のひどさをこれ以上考えていてもしょうがないので、近い未来に話題を変える。
≪でさ、これからどうするの≫
≪どうするといわれても、当分は"待つ"しかないでしょう。我々は戦闘向きではありませんから。お望みなら、マスターに幾つか魔術を授けますが?≫
≪お、お…考えとく≫
念話だというのに言葉が詰まった。智子にも全国の中高生と同じくそういった物に憧れていた――もしかしたら今も――時期がある。
思いがけない形で「そっち側」に行けるチャンスが巡ってきたが、この場でエンチャントを受けるということはつまり、戦う覚悟を固めるということだ。
妄想の中ならバリバリ戦う事は出来ても、現実ではそうもいくまい。痛いのも死ぬの嫌だし、どうせなら戦わずに帰りたい。
現状、智子の周囲は奇妙な新入りを除くと、平和そのものだった。
念話が打ち切られ、しばし二人は見つめ合う。
智子が何も言わないことを確認するとキャスターは視線を外し、手元のアイスクリームに意識を集中した。
【クラス】キャスター
【真名】ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
【出典】20世紀初頭、アメリカ
【性別】男
【ステータス】筋力E 耐久D 敏捷C 魔力A+ 幸運D 宝具EX
【属性】
中立・悪
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
小規模な工房に匹敵する"書斎"の形成が可能。
道具作成:-
魔力を帯びた器具を作成できる。下記スキルを得た代償に喪失している。
【保有スキル】
エンチャント:A+
概念付与。
他者や他者の持つ大切な物品に、強力な機能を追加する。
基本的にはマスターを戦わせるための強化能力。
キャスターのそれは、知識の付与や魔術の習得に優れる。
自己保存:B
自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。
探索者:A-
恐るべき事実に接しながらも、在るべき日常に帰還した者の事。
偉大なる宇宙の怪異から生還したキャスターは、高ランクでこのスキルを獲得している。
同ランクの仕切り直しの効果に加え、ランク相応の精神耐性を保証する。
ただし、生前は神経症を患っていた為、精神判定においてマイナス修正を受けざるを得ない。
【宝具】
『悪夢の中より来たりて(ザ・ブラックマン)』
ランク:EX 種別:対人、対神宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1人
生前、悪夢の中で邂逅した神格のサーヴァントをレンジ内に召喚する。
ただし本体から大幅に劣化しており、彼の死後に友人が発表した小説中の姿で現界する。
召喚された「ナイ」はキャスターおよびそのマスターを尊重はするが、彼に指示を下すのは徒労にしかならない。
ステータスは以下の通り。
【 ステータス 筋力E 耐久D 敏捷C 魔力EX 幸運B スキル 陣地作成:B カリスマ:A 話術:A 単独行動:A+ 精神耐性:EX 神性:E weapon 輝くトラペゾヘドロン】
『苦難に別れを、これから始まるのは(コール・オブ・クトゥルフ)』
ランク:A(A++) 種別:対軍、対界宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
大洋の底に眠る「何か」が発する思念波をレンジ内に放つ。
捕捉対象が魔術師や霊感体質といった神秘に対してチャンネルの開かれた人物であるほど精神ショックの威力が増し、高位の魔術師の場合は最悪、発狂する。
サーヴァントはランク以上の対魔力スキルによってのみこれを無効化可能。ただし、精神判定に成功すれば倦怠感や目眩、吐き気だけで症状を済ませられる。
キャスターおよびキャスターのマスターは思念波の攻撃対象から除外される。
この宝具はキャスター現界当初は未完成の状態であり、サーヴァント「ナイ」が完成させることでカッコ内のランクに修正、初めてその真の力を発揮する。
【weapon】
なし。
【人物背景】
アメリカ・プロヴィデンスで産声を上げた作家。
コズミック・ホラーと分類されるSFホラー作品を数多く執筆、それらは彼の死後にクトゥルフ神話として体系化された。
海産物を嫌っており、異人種に対する偏見も強い気まぐれな人物であったといわれている。
幼少から悪夢に悩まされていた彼は、夢を通じて外宇宙の遠大さを直に認識する。
旅行で向かったケベックやニューオーリンズにおいて、彼は「形容しがたい何か」の痕跡を発見。
自身が遭遇した数々の怪奇体験を、執筆する小説に反映させていった。
【聖杯にかける願い】
?
【マスター名】黒木智子
【出典】私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!
【性別】女
【Weapon】
なし。
【能力・技能】
「ぼっち」
大の人見知りで恥ずかしがり屋かつ、妄想癖持ちの見栄っ張り。
身近な人物以外とはまともに会話が出来ず、場の空気を読む事もできない。
【人物背景】
原宿教育学園幕張秀英高等学校の生徒。
引っ込み思案の為、学校ではよく一人で過ごしているが、内心は他者への嫉妬や侮蔑、ヲタネタに塗れている。
無口だが感情表現は豊かであり、ショッキングな出来事に遭遇すると嘔吐する。
【聖杯にかける願い】
生還する。
投下終了です。ありがとうございました。
>>16
可能です。
>>17
OKです。最初のルール説明で『史実』と言ってしまいましたが、Fate原作のように歴史上の伝説や物語から引っ張ってくるのも同様にアリです
>狩の夜
サーヴァントがマスターを囮にして戦うというのは、珍しい主従ですね。
拙作の直後に獣殺しのランサーを投下されたのは何やら因縁めいたものを感じさせられます。
投下ありがとうございました。
>黒木智子&キャスター
とんでもない奴がキャスターとして呼ばれてしまった……。
しかし、その登場話の内容はアイスを食べながら語り(?)合う二人という、見ててなんだか微笑ましくなるものでした。
この後エンチャントで魔術が使えるようになるもこっちが見られるのかな、と想像するとわくわくしますね。
投下ありがとうございましたああ! 窓に! 窓に!
投下します
主従の出会いは、都市部の路地裏だった。
鼠が這い回り、塵が散乱する薄汚れた路地裏の壁を背に、少女は踞るように座っていた。
少女は粗末なワンピースを身に纏い、衣服を纏わぬ手足や顔には痛ましい傷痕が残されており。
どこか不安げで、怯えるような表情を浮かべ、目の前に立つ男を見上げいた。
「小娘」
少女の前に立つ一人の男が、声を掛ける。
百日鬘を思わせる髪型に、派手な和服―――――端から見れば時代錯誤とさえ言える。
そんな男が、少女の目の前に立っている
和服の男はその場で屈み、少女の右手を強引に掴んだ。
びくりと震えた少女を意にも介さず、男は右手の甲に刻まれた『紋章』を見つける。
やはりか、と当たりを付けたように男は頷き。
少女へと不敵な笑みを見せ、言葉を掛けた。
「おめえが、俺の主(マスター)だな」
浮浪者の少女、シルヴィは目の前の男の言葉に困惑する。
マスター―――――つまり、自分がこの男性の主人だというのだ。
何を言っているのか、と普段ならば困惑する他なかっただろう。
だが、今のシルヴィには理解が出来た。
『聖杯戦争』の参加者として呼び寄せられたシルヴィには、その言葉の意味が分かった。
「サーヴァント……?」
「その通り、俺がおめえの従者(サーヴァント)だ。暗殺者(アサシン)とでも呼べ」
◆
◆
新都のとある路地裏近くの廃ビル内。
少女は覚束無い足取りで、壁際の床に座り込む。
この建造物は老朽化が進んだことで解体が決定し、一週間程後から解体工事が始まることが決定している。
今は誰も人がおらず、浮浪者である彼女が一時的に身を隠すにはうってつけの場所だった。
「さて、此処ならばゆるりと話も出来る」
アサシンは周囲の魔力の気配を探った後、壁際に座り込むシルヴィの方へと目を向ける。
俯き気味に床を見つめていたシルヴィだったが、アサシンが口を開いたことに気付いてすぐに彼の方へと視線を向ける。
アサシンは自らのマスターに歩み寄りつつ、彼女を品定めするように目を細めて見つめる。
このような幼子まで参加するとは思いもしなかった。
歳は見たところ、十代前半といった所。
見てくれは明らかに浮浪者。
しかしその様子からして、明らかに『慣れている』。
路地裏で鼠同然の生活を送るという斯様な境遇に置かれながら、余りにも落ち着いている。
この聖杯戦争に呼び寄せられる前からろくな環境で育ってこなかったのだろう。
それに、主の素肌には数多の古傷が存在している。
乙女の命とも言える顔にさえ火傷らしき痕が残っているのだ。
恐らくは『悪趣味な愛玩』用の奴隷か。
生前より数多の弱者を目にしてきたアサシンは、その観察眼でシルヴィという主を見極める。
「名は何と言う」
「シルヴィと言います」
「成る程。で、お前は聖杯戦争に招かれた。
ならば願いの一つや二つ、持っているんだろう」
「………解りません」
少しの沈黙の後に、シルヴィはぽつりと呟いた。
その答えにアサシンが表情を顰める。
「解らない?」
「願いと言われましても……私には、思いつきません。
聖杯というものはアサシンさんが好きに使って下さい」
シルヴィはいとも簡単にそう答えた。
アサシンは仏頂面で彼女を見下ろす。
この少女は、自らが奇跡を手にする権利をいとも容易く手放した。
奇跡に縋りたくないと言う信念や矜持があるから―――――といった風にはとても見えない。
少女は「願いが思いつかない」といった一言で、自らの権利をアサシンにあっさりと譲ったのだ。
まるで空っぽな人形だと、アサシンは思う。
無言で見下ろしてくるアサシンに対し、シルヴィは何処か怯えるように彼を見上げる。
従者であるアサシンの顔色を伺うように、彼女はまじまじと見つめていた。
「あの、私、何か失礼なことを言って……」
「おどおど、おどおどと。いつまでそんな面をしてる」
「……すみません」
どこか痺れを切らしたように、アサシンが言った。
主であるシルヴィはびくりと震え、僅かに言葉を詰まらせる。
そのままアサシンに向けて自分の非礼を謝った。
しかし、再び顔を上げたシルヴィの表情は――――変わらず。
真顔でいるつもりなのかもしれないが、彼女の表情は相変わらず他人の顔色を伺うような様子であり。
そのまま彼女は、どこか困った様子で呟く。
「あと、主なんて……私には向いていないと思います。
だから、アサシンさんが私の主になって下さっても構いません」
「何故だ?」
「私は、奴隷ですから」
シルヴィがぽつりとそう言った。
自分は奴隷であり、誰かを使うことなんて向いていない。
そう告げたのだ。
彼女自身が語る通り、シルヴィは奴隷だった。
実の両親の顔は覚えていないし、どこで生まれたのかもしれない。
物心ついた頃には『ご主人様』の家で買われていたのだから。
彼はシルヴィに対し、日常的に虐待を行ってきた。
ある時は執拗に鞭で嬲り。
ある時は顔を焼き。
ある時は血を吐く程の暴力を振るい。
そんな日々が何日も、何週間も、何ヶ月も、何年も続いた。
『ご主人様』は彼女に何度も言い付けた。
お前の命は虐げられるためにある。
痛みで悲鳴を上げる玩具として私を楽しませることに価値がある。
モノとして使われることがお前にとっての幸せなんだよ、と。
『ご主人様』からの虐待の日々は、彼女の精神を摩耗させた。
自分は奴隷であり、虐げられる存在なのだと。
高望みが出来る身分ではないし、誰かに使われることがせめてもの幸せなのだと。
シルヴィはそう考えた。自らの境遇に絶望し、完全に諦観した。
『ご主人様』が不慮の事故で逝ってからも、その意識は呪いのように解けることがなかった。
そしてシルヴィは、アサシンへ更に言葉を続ける。
「私は、誰かに使われてこそ価値があるって、前のご主人様が仰ってました。
私がアサシンさんを使うよりも、アサシンさんに使われる方が……その、私には相応しいと思います。
なので、好きにして下さい。出来る限りの仕事は、しますから――――――」
「成る程、負け犬だな」
己の身の丈を卑下するかのように、シルヴィは黙々と語り続けた。
しかしアサシンは彼女の言葉を遮り、鼻で笑いながら言った。
「憎いと思ったことはあるか?」
唐突に、アサシンがそう問い掛ける。
え?とシルヴィはアサシンをきょとんと見つめた。
「おめえのその傷は『前のご主人様』とやらに刻み付けられたもんだろう。
それに己を卑下し続けるお前の性格……随分と『犬』として立派に調教されている様じゃあねえか。
痛めつけられ、苦しめられ、虐げられ、怒りが込み上げたことはないのか。
『何故己はこのような理不尽を身に受けねばならぬ。己に何の罪がある。何故主は私に虫螻同然の価値を与える』。
そう思ったことはねえか。恨めしくは思わなかったか」
アサシンは疑問を投げ掛けた。
シルヴィの肉体に刻まれた痛々しい傷、そして怯えながら他人の顔色を伺い続ける態度。
その様子から見て彼女が悲惨な境遇の持ち主であるということは理解できる。
しかし、だというのに。
何故彼女は「奇跡」を前に怯え続けている。
長年の怨念を晴らそうとか、巨万の富を得たいとか。
何故そういった欲望をちらつかせようとしない。
まるで負け犬であることを運命づけられた人形のようなシルヴィを見て、そう思ったのだ。
対するシルヴィは―――――アサシンの問い掛けに、ただ困惑するだけだった。
何を答えればいいのか、どう思えばいいのか、解らずに戸惑っていた。
まるで勉学を受けたことのない子供が唐突に読み書きの問題を出されたかのように。
武芸を知らぬ農民が唐突に刀を渡され、演舞を披露しろとでも言われたかのように。
少女はその場でおどおどと困ったような表情を浮かべていた。
「えと………その…………」
シルヴィはただただ困惑し、アサシンを上目遣いで見つめる。
そんな少女の様子を見て彼は確信した。
この小娘は枯れている、と。
性根まで負け犬なのだ、と。
主は最早己の欲望や感情すら忘れ去ってしまったのだと理解する。
自分は虐げられて当然であり、恵まれないのが運命なのだと諦観している。
幸せになる価値などないし、誰かの奴隷として生きるのが当たり前なのだと考えている。
それ故に己の『怒り』も『欲望』も自覚できなくなっている。
それがこのシルヴィという少女なのだと、アサシンは理解した。
「まあ、いい。おめえがどう思っているかは、いずれまた聞くとしよう。
ともかくだ―――――――」
フンと鼻で笑うようにシルヴィを見下す。
その眼差しには侮蔑と哀れみの感情が浮かんでいる。
枯れてしまった目の前の少女を無様に思い、心中で嘲笑う。
だが、それと同時に。
アサシンの口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「俺はかの宝物を盗む。奇跡の願望器、『聖杯』をな」
どこからか取り出した煙管を吹かしながら、アサシンは堂々とそう宣言する。
聖杯を得る――――ではなく、『盗む』。
その言い回しにどういった意味があるのか、シルヴィには分からない。
だが、アサシンにとっては聖杯を勝ち取ることは『得る』ことではない。
古今東西の英雄を差し置いて、自分のような悪党が聖杯を手にする。
これを『盗んだ』と言わずして何と言うのか。
「アサシンさんには、何か願いが……?」
「ない」
「え?」
「盗んだら、おめえにやる」
「……え?」
ふとした好奇心でシルヴィが聞いてみたのだが。
アサシンからは予想外の答えが返ってきた。
願いは無いし、聖杯を手に入れたらシルヴィに寄越すという。
呆気に取られ、きょとんとしたような表情のままシルヴィはアサシンを見つめる。
シルヴィはマスターであり、聖杯戦争の『知識』が既に頭の中に入っている。
聖杯はあらゆる祈りを自在に叶える力を持っている。
マスターのみならず、サーヴァントもまたその聖杯を求める。
自らの願いを叶える為に。己の祈りを実現する為に。
その為に参加者達は殺し合うのだと、認識していた。
だからこそ、アサシンが初っぱなから聖杯の所有権を放棄することを予想できなかった。
「俺の興味は『宝』を『盗む』ことだけにある。
価値ある宝を盗むことが俺にとって極上の楽しみよ。
一度盗むことに成功すれば、最早それに興味は無い。生きる為に盗む金は別だがな。
かつても数多の宝を盗んできたが、殆どは阿呆共にくれてやったわ」
アサシンは、『宝』を盗むことを楽しんでいた。
彼は生前からそういった気質の悪党だった。
富を独占する権力者を相手取り、彼らの財宝を奪い取る。
アサシンはその行為自体に快楽を見出していた。
故に宝そのものには強い関心を持たぬ。
彼は自身の生計に必要な金以外は全て、適当な連中に盗んだものを寄越してやる。
その在り方は聖杯戦争に於いても変わらなかった。
同時に、彼自身がシルヴィにも興味を持っていたが為に。
彼は、シルヴィに聖杯を託すことを望んだのだ。
「おめえの好きに使え。おめえの望みを叶えてみろ。
勝てばお前は『奴隷』として在り続ける必要も無い。
金、物、地位、愛―――――――或いは現世への復讐。全てがおめえの思うがままよ」
にやりと、アサシンが笑みを見せた。
己の中の『悪徳』を曝け出すように、主へと囁いた。
そんな従者の言葉に、シルヴィはただ無言で唖然とするしかなかった。
勝てば、何もかも手に入る。
奴隷である自分であっても、あらゆる願望が叶う。
そして。
―――――憎いと思ったことはあるか?
先程のアサシンの言葉が、脳裏を過った。
自分を痛めつけた主人を憎いとは思わなかったか。
己に降り掛かる理不尽に憤ったことはないのか。
こんな境遇を呪ったことはないのか。
それらに対する報復も、聖杯があれば行うことが出来る。
アサシンはそう囁いたのだ。
だが、シルヴィは答えを出せなかった。
自分が自分の境遇を憎んでいるのかさえ、彼女には解らなかった。
奴隷としての意識を刷り込まれた彼女は、何も言えなかった。
自分は、憎んでいるのだろうか。
それとも、このままでいいと思っているのだろうか。
解らない。解らない。解らない――――――
シルヴィの胸中に、複雑な感情が浮かび上がる。
そのまま彼女は両足を抱え、顔を埋めた。
「……答えはいずれ聞く。俺は偵察ついでに、現世の景色でも眺めに行く。
ま、これだけは言っておくぜ。俺は、おめえの『願い』に期待しているんだ」
そう言って、アサシンは瞬時にその場から姿を消した。
あ、とシルヴィはぽかんとした様子でアサシンが消えてしまった地点を見つめる。
そして、すぐに沈黙が訪れた。
―――――聖杯戦争。願望器。マスター。サーヴァント。奴隷。憎しみ。
数多の言葉が、シルヴィの中で渦巻く。
そのまま彼女は、その場で静かに踞り続けた。
◆
◆
己(アサシン)は、高層建造物の屋上から街を見下ろす。
あの京の街とは偉く異なった風景が眼前に広がる。
己が生きていた時代から数百年の時が過ぎている、ということは理解していた。
だが、こうして改めてゆっくり眺めてみると実に壮観な物だった。
数百年の時があれば、人はこれほどまでに成長を遂げるものなのかと。
己はただただ圧倒され、感心していた。
柱の如き建物が無数に聳え建つ。
街を行き交う人々の数はかつての都さえも凌ぐ。
そして夜の闇をも克服したかのように、街は光に包まれている。
街路の灯火が、建造物の明かりが、人々の営みが、煌煌と輝いている。
月明かりや星空の光さえも上回る輝きが、そこには存在していた。
なんと美しいのだろう。
まるで街そのものが宝の輝きで埋め尽くされているかの如し。
千両は下らぬ値が付くであろう光の都。
数百年の時を経て、日ノ本は眩い程の発展を遂げているようだ。
これに勝る宝があるとすれば――――――――
『あの山門』から見下ろした、京の万両桜だけだ。
「嗚呼、絶景かな、絶景かな―――――――ってか」
聖杯さえあれば、この光を、この国を、この世界を掴むことでさえ夢ではない。
だが、それを掴む権利があるのは己の主だ。
己は富や権力などに興味は無い。
強き者から「盗む」こと、それ自体に価値があるのだ。
この世の富と権力を握る者を相手取り、そして奪うことに楽しさを見出す。
忠義に生き甲斐を見出す武士や、遊びに生き甲斐を見出す遊び人共と同じように。
己は、価値ある物品を盗むという行為そのものに生き甲斐を感じているのだ。
故に宝自体を欲している訳ではない。
日々を生き、適度に遊ぶ為の駄賃を盗めれば己はそれだけで十分。
だからこそ、聖杯そのものは不要なのだ。
聖杯は盗むだけであり、己が得るものではない。
『奇跡の願望器』という天下の逸品を『盗む』という行為自体に価値と快楽を見出しているが故。
己の欲望は、盗むだけで満たされるのだ。
そして主(こむすめ)が願望器を如何に使うのか、それが気になる。
あの主は負け犬だ。名誉や富という言葉には程遠い、薄汚れた虫螻だ。
悲惨な境遇の中で心の悪徳さえも枯れてしまった、正真正銘の抜け殻だ。
生前は似たような貧しき手前や、そこいらの民草に盗んだ宝を寄越してやったこともあった。
慈悲を与えてやっているのではない。ただ適当な弱者に「不要になった宝の後処理」を任せているだけだ。
大抵の者は餌を運ぶ蟻のように宝を持ち去り、金に換え、己の生きる糧としていった。
そうしている内に、民衆は己を『義賊』として持ち上げるようになっていった。
阿呆共め、と鼻で笑った数は数え切れぬ程。
そこいらの盗人は下衆だ悪党だと罵っておきながら、その盗人風情を英雄扱いとは。
所詮人の心は欲には勝てぬ。権力者の富を盗み、『分け前』を与えてやれば、連中はわらわらと群がってきて喜び出す。
根っから悪の道へと進む度胸は無い癖に、他人の悪によるお零れを何食わぬ顔で貰い受ける。
その様は宛ら、犬の糞に群がるしょぼい蠅共。
連中は己の心の悪徳から目を逸らす為に、俺を義賊という『英雄』として祭り上げているだけに過ぎぬ。
そんな悪党にも成り切れぬ腰抜け共を、己は幾度と無く嘲笑った。
だからこそ己は、主に『聖杯』を掴ませてみたいと思ったのだ。
生前の己が連中に寄越してやった宝とは格が違う。
聖杯は世界をも引っくり返す力を持つ、本物の『力』だ。
そして主は世の底辺に位置する弱者にして、己の悪徳というものを知らぬ乙女。
あの浅はかな連中よりも更に下の立場でありながら、卑しい心さえも忘れてしまった根っからの負け犬。
そんな小娘の内なる『悪』を咲かせてやったら、どうなるのか。
その後あらゆる奇跡を叶える最上の逸物を手にした時、果たして本物の『悪党』へと成り果てるのか。
己の欲望や憎悪を自覚し、己自身だけの為に奇跡を使うとするのか。
それが気になって仕方が無かった。
彼女の行く末を見届けたいが故に、己は主へと聖杯を捧げることを誓ったのだ。
狙うは奇跡の願望器。
千鳥の香炉にも、万両の桜にも勝る宝。
面白ェ、実に面白ェ。盗み甲斐がある。
この天下の大泥棒、石川五右衛門。
相手に不足はねえってもんだ。
【クラス】
アサシン
【真名】
石川五右衛門
【出典】
史実、日本・安土桃山時代
【性別】
男
【属性】
混沌・悪
【身長・体重】
190cm・85kg
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具C+
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
戦闘体勢に入れば気配遮断の効果が大幅に低下するが、アサシンは「忍術」スキルで低下を少し抑えられる。
【保有スキル】
盗人:A
天下を荒らした盗賊としての烙印。
「盗む」ことに長け、Aランクともあらば形ある宝具を盗むことさえ可能。
盗んだ物品は後述の風呂敷に収納することが出来る。
忍術:C
忍びとしての技能。
手裏剣などの忍具や忍術を扱える他、戦闘時に気配遮断スキルのランク低下を少し抑えることが出来る。
伊賀忍者の抜け忍としての逸話がスキルとなったもの。
韋駄天:B
大泥棒としての逃げ足の速さ。
逃走の際、敏捷値が1ランク上昇する。
また敵との遭遇時、戦場からの離脱判定に有利な補正が掛かる。
カリスマ(偽):D+
庶民の心を捉えた一種のカリスマ性。
生前の所業と後世の創作によって彼は『権力者に歯向かう勇敢な義賊』として英雄視されるようになった。
ただしそれらは大衆が作り出したイメージに基づく信仰に過ぎず、石川五右衛門という盗賊は決して善性の英雄ではない。
【宝具】
『万両桜の都、盗人が罷り通る』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
権力者を相手取り、盗みを繰り返した天下の大泥棒としての技能が宝具となったもの。
「盗む」という行為を働く時に限り気配遮断スキルが低下しなくなり、またアサシンのパラメーターとあらゆる判定に強力なプラス補正が掛かる。
更に対象が『権力者』としての逸話や属性を持つ者である場合、対象の権力者としての格が高いほど宝具による補正効果も上昇する。
【武器や道具】
『忍具』
忍術刀、手裏剣などの基本的な忍者の道具。
『風呂敷』
質量を無視して盗品を収納、または取り出すことが出来る風呂敷。
元々は石川五右衛門が生前にあらゆる盗品を包んでいた風呂敷。
彼がサーヴァントになったことで神秘を帯び、“盗品”という概念を自在に収められる魔術道具へと変貌した。
風呂敷を破壊されても再生が可能だが、破壊された際に収納していた宝具は全て本来の所持者の手に戻ってしまう。
【人物背景】
安土桃山時代に登場し、京の町を荒らし回っていたとされる天下の大泥棒。
1594年に豊臣秀吉の手勢の者らに捕らえられ、京都・三条河原で実子と共に釜茹での刑に処された。
『伊賀忍者の抜け忍だった』『豊臣秀次の家臣から秀吉の暗殺を依頼された』等といった数々の伝説があるものの、
史実における彼の素性や来歴に関しては未だ謎が多い。
江戸時代では歌舞伎や浄瑠璃の題材として取り上げられ、次第に『権力者・豊臣秀吉に歯向かう義賊』として扱われるようになる。
これによって石川五右衛門は庶民のヒーローとして広く親しまれるようになり、その後の創作にも大きな影響をもたらした。
此度の聖杯戦争における石川五右衛門は実際に秀次の家臣によって秀吉暗殺を依頼されており、
依頼と平行して秀吉が持つとされる『千鳥の香炉』を盗むことを目論むも失敗し、捕らえられて釜茹での刑にされている。
また伊賀忍者としての技能を駆使して権力者から盗みを行う義賊である等、後年の創作や伝説と合致した経歴を持つ。
しかし彼は結果的に民衆から「義賊」として持ち上げられただけの盗賊に過ぎず、民衆の味方でもなければ善人でもない。
石川五右衛門は己の悪徳に忠実な悪党であり、そして「盗むこと」と「強者に歯向かうこと」に生の実感と快感を見出だす傾奇者である。
【特徴】
外見年齢は三十代前半、厳つい顔立ちをした和服の男。
百日鬘のような髪型や派手などてら、煙管等、後世の『歌舞伎』のイメージが付加された装いをしている。
【サーヴァントとしての願い】
天下の逸品『聖杯』を盗む。
あくまで盗むという行為に価値がある為、手に入れたら主にくれてやる。
その過程で主の心の『悪』を咲かせる。
【マスター】
シルヴィ@奴隷との生活 -Teaching Feeling-
【能力・技能】
なし
【人物背景】
しがない町医者(主人公)が商人から引き取った奴隷の少女。
以前の主人から虐待を受けており、身体中に痛々しい傷が残っている。
過去の悲惨な境遇から当初は主人公にも素っ気ない態度を取っていたものの、彼の優しさに触れて次第に心を開いていく。
この聖杯戦争に呼び寄せられたシルヴィは前の主人を失い、主人公に引き取られるより以前。
そのため未だ他者に心は開いておらず、裏切りや虐待の恐怖に怯えている。
【マスターとしての願い】
???
投下終了です
お借りいたします
ウェイバー・ベルベットは不機嫌そのものだった。
ざわざわという酒場の喧騒も、アルコールの嫌な臭いも彼には不慣れだった。
妙にぺとぺととしたテーブルは、適当に拭かれているだけなのがわかって嫌だった。
それに自分のことを晒しあげて馬鹿にした師。家柄が長いことを鼻にかけてる同級生。
努力しても上手く歯車が噛み合わず、一向に進歩を魅せない自分の魔術。
起死回生の手段として、よりにもよって聖杯戦争に参加する事しか思い浮かばなかった自分。
そして何よりもウェイバーの神経を苛立たせるのは、彼が召喚したサーヴァントだった。
「Oh, my darling, oh, my darling, Oh, my darling Clementine♪」
なにしろ――今あそこでピアノを奏でながら歌声を披露している、真紅のドレスの女性。
店中の男どもの視線を釘付けにしている彼女こそが、ウェイバーのサーヴァントなのだ。
金髪碧眼、典型的なアングロサクソン系の女性――いや、美女といって良い。
その割には背が低いが、それを補って余りあるほどの華やかさが彼女にはある。
誰も彼も、一目見た時から目が離せなくなる。そんな女だった。
「You' re lost and gone forever, Dreadful sorry Clementine♪」
ひとしきり歌と演奏を終えた女は、優雅に立ち上がると観客に対して一礼をする。
拍手で演奏を讃える彼らへ手を振って応じながら、彼女は颯爽と店内を歩き出した。
そしてウェイバーの対面へ、スカートの裾から太腿を垣間見せる大胆な動きで腰を下ろす。
顔には笑み――ふてぶてしく傲岸不遜で、底抜けに陽気な、太陽のような笑顔。
「ふふん、どんなもんだ。どうだ、ウェイバー、惚れなおしたか?」
「惚れなおしてない。そもそも惚れてない。あとマスターって呼べ、アーチャー」
「お前さんが私をヴィルヘルミナって呼んでくれるならね」
「それ、本名じゃないだろ。知ってるぞ……」
令呪が浮かんだ時の高揚も何処へやら、だ。
ふてくされて頬杖をつきながら、ウェイバーはジンジャーエールをストローで啜った。
女――アーチャーは、にやにやと笑いながら優雅にウィスキーのグラスを傾ける。
彼女を召喚してからまだ二日三日だが、ずっとこんな調子で振り回されている。
ウェイバーがなぜ聖杯戦争に参加するのかを語った時など、酷いものだった。
師匠を見返し、周囲に実力を証明するためだというと、彼女はあからさまに溜め息を吐いた。
「ま、バカにされて喧嘩売る度胸があるだけ及第点か」
「……馬鹿にしてるのか、それ?」
「まさか」
アーチャーはそう言って、気障ったらしくに肩をすくめてみせた。
「必要最低限は満たしてるって事だ。……ああ、そういう意味じゃ、褒めてはいないな」
師匠であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトは、何を思ってこんな英霊を召喚しようとしたのか。
傲岸不遜だし自由気まま、マスターをマスターとも思わないし、態度ときたら不真面目そのもの。
おまけに白人女性としては随分と小柄だというのに、それでも自分より身長がちょっと高いのだ。
(そのくせなんか柔らかいし僕より体重軽いしなんか良い匂いするし……!)
「って違う!!」
「何がだい?」
「何もかもだよ!」
ウェイバーはバンとテーブルを叩くと、思わずアーチャーへと身を乗り出した。
突きつけるのは触媒に使った、アーチャーとされる人物が写っている写真だ。
「お前、そもそも男じゃなかったのか!? 写真だってそうじゃないか!」
「知らないよ、そんな優男」
しれっとした表情でアーチャーはウェイバーの叫びを否定する。
彼女のものとして伝わっている写真と、目の前の女はどう考えたって別人だ。
じゃあなんだって彼女が召喚されたのか? というのはさておき……。
確かに彼女――彼?――の伝説には女物の服を着ていたとか、そういう逸話がある。
小柄で、陽気で、美人で、左利き。伝え聞く情報だけなら、目の前の女性はすべてを満たす。
「けど、納得いかない……」
「私の墓石は削られたって言うじゃない。きっとSheからSが消えたのさ」
「んな、滅茶苦茶な。……それになんだって、酒場で歌なんか歌ってるんだよ!」
「良いじゃないか。こんなひらひらの服なんて、生きてた頃は着る暇なかったし……」
等と言いながらアーチャーは、赤いドレスのスカートを大胆に翻して足を組み替える。
真っ白な太腿と、その間に見えかける下着から、ウェイバーは全力で視線を逸らした。
「そーいうの、やめろってば!」
「そうカリカリしなさんな。戦争も人生も、金と女が無くっちゃ始まらないだろ」
その点、女だけはいるわけだ。笑うアーチャーに、ウェイバーは反論できず歯ぎしりする。
確かにウェイバーは学生の身分で、軍資金が乏しいのは事実だった。
なにしろホテル代もないから一般人の家に下宿して、召喚陣を敷くために鶏を盗む始末。
できればなるべく節約しないと、この先どうにもやっていけない――……のだが。
それを知ったアーチャーが軍資金を稼ごうと提案し、ウェイバーを酒場まで引っ張ってきたのだ。
結果がこれだ。
あれよあれよとアーチャーは飛び入りで店長の心を掴んで、衣装を調達し、ステージに。
まあ、確かに、出演料として結構な額の現金が手に入ったのは心強いが……。
「これでもお前さんに配慮はしてるんだぞ? 私だけなら速攻で銀行強盗だ」
「お前、それでも英霊かよぉ……」
「無法者になに言ってんだか。……なあ、ウェイバー」
「マスターって呼べ」
「やだ。ウェイバー、お前……」
アーチャーがにんまりと、チェシャ猫のように笑みを深めた。
「……童貞だろ」
「んなぁっ!?」
図星だった。
思わずガタッと音を立てて席を立ってしまったウェイバーに、店中の視線が突き刺さる。
それがまた恥ずかしくて、ウェイバーは顔を俯かせて、また椅子の上に座り直した。
アーチャーはニヤニヤしたまま、うんうんと一人頷いている。
「ど、どどどどど、童貞違うぞ!?」
「慌てるなって。だよな、そうだと思った。彼女もいないな。間違いない」
「そ、それがな、なななな、なんだってんだよ……!」
「人生なんて、金と旨い飯と酒、友達、あとは女か男がいれば幸せなのさ」
それがわかってないお前さんが、何を悩んでるかは察しもつくけどな。
ふふんと笑ったアーチャーは、ちろりと唇を舌で舐めて、ウェイバーへ流し目をくれた。
「なんだったら、私が相手をしてあげようか?」
「んなっ!? な、な、な、な……ッ!?」
ウェイバーは顔を真赤にして、魚のように口をパクパクと開閉させた。
相手、というとそういう事だろう。そういう事だよな?
サーヴァントに魔力供給をする方法として、そういう方法がある事は知っている。
彼女と、そういう行為に及ぶのか?
一瞬脳裏に浮かんだ妄想を、ウェイバーは真っ赤になってぶんぶんと頭から追い払う。
と――……。
「よぉ、お姉さん、さっきの歌スッゲェー良かったぜ! マジサイッコー!!」
声をかけて来たのは、典型的な酔漢だった。
ロンドンでも見た事がある類だ。自分が他の誰よりも優れていると思ってるような。
思わず顔をしかめたウェイバーをよそに、アーチャーは「変わらないな」と楽しげだ。
「この後カラオケとかどう? もっともっと歌聞きたいなぁ!」
「ん、なんだ。私に相手をして欲しいのか?」
「そうそう、こんなガキよかさぁ……」
「こんなガキ?」
ウェイバーが何かを言うよりも早く、アーチャーが笑顔のまま男の頬を撫でていた。
いや。
――"魔法のように現れた"拳銃を、笑顔のまま男の頬に突き付けていた。
「お呼びでないぜ、坊や」
「ひ、ひぃっ!?」
「わ、わー! わー! ス、スタンガンです、スタンガン!」
「まあ、ガンだな」
「黙ってろお前は!」
大慌てで男へ暗示の魔術をかけようとしながらウェイバーは怒鳴った。
彼の聖杯戦争は、すこぶる前途多難なようである。
【クラス】アーチャー
【真名】ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム
【出典】史実(西部開拓時代アメリカ)
【マスター】
【性別】女性
【身長・体重】158cm・42kg
【属性】混沌・中庸
【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷A 魔力E 幸運A 宝具-
【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
【固有スキル】
心眼(偽):A
視覚妨害による補正への耐性。
第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。
千里眼:C++
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
透視、未来視は不可能だが、「視力」に限定すればAランクに相当する。
魅了:C-
他人を惹きつける見目の美しさ。鮮烈な立ち振舞い。
アーチャーと対峙した人物は彼女に対し、強烈な印象を懐く。
望むと望まざるとに関わらないため、トラブルの原因となる事もしばしば。
【宝具】
『彼女は彼女らしく生き、彼女らしく死んだ(シー・デッド・アズ・シー・リヴド)』
ランク:- 種別:対人魔銃 レンジ:1-100 最大捕捉:1人
厳密に言えば宝具ではなく、宝具の領域にまで昇華された射撃スキル。
アーチャーが銃を抜こうと思った瞬間から、彼女の時間は極限にまで加速する。
銃を抜き、狙い定め、銃爪を絞り、撃鉄を叩き、撃つ過程が「撃つ」だけに省略される。
結果、外部からは「気がついたら銃を抜かれて撃たれていた」としか観測できない。
連射した場合も過程が省略されるため、「全弾同時に着弾した」という現象が発生する。
弾道を見る事なども不可能なので、回避するには未来予知に類似する能力が必要となる。
もはや魔法の領域に片足を踏み入れるまでに至った、天賦の才能である。
【Weapon】
『無銘・コルトサンダラー』
コルトM1877ダブルアクションリボルバー。41口径の6連発。
最初期のダブルアクションである事から失敗作とされるが、彼女は愛用した。
嘴のようなグリップが特徴的。ガンベルトのホルスターには二挺納められている。
【解説】
西部開拓時代のアメリカで活躍した伝説的アウトロウ。
12歳で母を侮辱した男を射殺して以来、21歳で死ぬまでに最低21人を殺害している。
数々の犯罪を繰り広げながら放浪を続け、やがてジョン・タンストールの用心棒となった。
そこで土地争いへ加勢した彼女は、友人のパット・ギャレットに殺人罪で逮捕されてしまう。
やがて脱獄に成功するも、1年の逃走生活の末、パットによって背後から射殺された。
陽気で洒脱、伊達者で、誰とでも打ち解け、そして笑顔のまま人を撃ち殺せる。
またピアノ演奏やダンスを好み、その腕前もなかなかだったとされる。
特に射撃に関しては天賦の才能があったらしく、数々の逸話を有している。
本名ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム。後にヴィルヘルミナ・H・ボニー。
そして彼女は最後に、ビリー・ザ・キッドと名乗った。
【特徴】
金髪碧眼の小柄な白人女性。いつも八重歯を見せて笑っている。
体つきも細身だが、華やかな雰囲気のため、極めて魅力的な人物に見える。
西部劇に出てくるガンスリンガーさながらの衣装で、ブーツの拍車を鳴らして歩く。
ただし現代風のファッションを着こなしている事もある。
ちなみに左利き。
【サーヴァントとしての願い】
受肉して自由に生きる
【マスター】
ウェイバー・ベルベット
【能力・技能】
・魔術
平凡。中の下。実戦/実践としての能力はほぼ無い。
・分析
非凡。洞察力や読解力、推理力に長ける。
・幸運
強運。能力不足や失策が、致命的結果になり難い。
【人物背景】
時計塔にて魔術を学ぶ学生。
自信過剰だが実力不足、努力家だが空回りしがちな性質。
歴史の浅い家柄である事にコンプレックスを抱いている。
師への反発から触媒を盗み、単独で聖杯戦争へと参加する。
【マスターとしての願い】
周囲に自分を認めさせる
以上で終了になります。
ビリー・ザ・キッドはFate/GOでサーヴァント化されておりますが、
こちらは女性説を採用して作成したサーヴァントになります。
投下します
「命がかかってれば称賛するやつもいるけどな、あれはいけない。命を懸けるんだから見合ったもんがなくちゃね。やる意味がない」
と、伝説のスタントマンは言った。
エンジンが噴かされる。ライダーはまっすぐ、採石場のガードレールを見すえている。
ここは町はずれの採石場――正確には跡、か、重機の類はなく、布袋に入れられた石仏がむなしく放置されている。ライダーは荒い道の片側、ガードレールから十m離れた場所にいる。目指すは反対、100と数十メートル先。
「まあ俺の持論なんだが、見合ったもんというとだな、命に見合ったもんなんだ、形あるものじゃいくらあったって足りん。金はすぐヤクにでも消えちまうからな、俺の場合、あくまで俺の場合は楽しさだ。楽しくないものに参加したって仕方ないだろ?」
ライダーは同意を求めて腰に回された腕の主に訊く。
栗色の毛を二つに結んだ気の強そうな少女である。ライダーの中身を搾り取らんばかりに腰に抱き着き、顔は蒼白、黒目が若干上を向いている。それもそのはず、ライダーは町はずれに採石場があると知るや否やマスターを載せて全速力で飛ばしてきたのだ。
元々危険運転を職業にしていたライダーが安全基準の厳しい現代で運転すれば、それはもうただ走るだけでスタントといえよう。
そんなバイクに乗せられていたのだ、少女――遠坂凛の肝はずっと冷えっぱなし、尻は感覚がないし、耳も若干聞こえが悪い。
「私は全然楽しくないんですけど!頼むからおろしてよホントに!セイバー狙いだったのに出てきたのはライダー!それもこんなイカレ野郎だなんてもう最悪よ!どうしろってのよ!」
「なに?馬鹿だなおまえは。俺の後ろに乗ったやつは生涯でも数えるほどしかいないんだ多分死にゃしないから大人しく乗せられとけ」
「たぶん…今たぶんって言った!?もーやだ、もういやだ」
「へっへっへ」
後ろからではどういう表情をしているかは知らないが、きっとあの神父を思い出すような意地の悪い笑顔に違いない。凛はますます顔面の色を落とし、神に祈った。
「さあ!二人乗りでまともなジャンプ台なし、距離は目測で、え〜、163m?かな?間違いなく人類初だ。間違いなく不可能さ、いくぞ!」
宣言とともにバイクのエンジンが大きくがなり立てる。後輪が砂利を弾き飛ばし、気付いた時には宙に浮いていた。
凛がその日に発した悲鳴は、生涯で一番大きなものとなった。
▼
数m先でバイクが逆さまになって炎上している。
ライダーはそれを笑顔で眺めている。彼の足元では放心状態の凛がしゃがんでいる。
スタントは結果として失敗に終わった。向う側までは行った、むしろ行き過ぎたほどで、着地の際、タイヤがぶつかったのは地面でなく岩壁。直前に気が付いたライダーは凛を抱えて脱出、今に至る、というわけである。
「いや、マジで危なかったな。サーヴァントなめてた。あと二人乗りだとあんなに姿勢を保つのが難しいとは思わなかった。死ぬとこだ」
ライダーがあっけからんと言い放つ。この場にもう一台バイクがあればもう一度やろうと言い出しそうな雰囲気を察知した凛は大急ぎで話題を変えた。
「ら、さっき…あんたが言ってたことだけどね」「うん?」
「目的があるの…楽しさなんて必要ないわ…」
ライダーは目的?と聞き返す。
「ああ、聖杯か。なんでも願いが叶うっていう」
凛はかぶりを振って否定した。
「願いなんかに興味ないわ…そういうのは自分でやるもの」
「いい心がけだ。気が合うな」
凛はじとりとライダーをにらみつけた。お前みたいのと一緒にされてたまるか、と思いを込めて。
ライダーは笑う。さも愉快そうに。
【クラス】ライダー
【真名】ロバート・クニーブル
【出典】20世紀アメリカ
【性別】男
【身長・体重】178㎝74㎏
【属性】中庸
【ステータス】筋力:Ⅾ耐久:C敏捷:A++魔力:E幸運:A宝具:C
【クラス別スキル】
対魔力:E
ライダーは現代のサーヴァントであるため、魔力に対する耐性はほとんどない。
ランクEはダメージを多少軽減させる程度。
騎乗:A+
ランクこそA+だが、ライダーは絶対にバイク以外には乗らない。ランクA+相当のバイク操舵技術ということ。
【保有スキル】
尻軽男:B
ライダーは道具を選ばない。ライダーが乗ったバイクはすべてランクB相当の耐久力とランクC相当の対魔力を得る。ただし原付はその限りではない。
単独行動:B
マスター不在、魔力補給なしでも長時間現界していられる能力。
ランクBならマスターを失っても二日間は行動可能。
向こう見ず:A
不可能に挑戦し続けるライダーの生きざまそのもの。ライダーの行動すべてに実現の可能性が残される。
仕切り直し:B
戦闘からの撤退にボーナスを得る能力。
【宝具】
『不死の跳躍(イーブル・クニーブル)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-
ライダーそのもの。二十年に及ぶスタントマンとしての活動と前人未踏、スタントによる433回に及ぶ骨折と世界最長のスタント記録を由来とする。ライダーの駆けるバイクに追いつくことはできない。サーヴァントがいる空間で敏捷に二つのボーナスとスキル『矢除けの加護』を付与。またライダーの受けたダメージは傷としては現れず、その身に蓄積される。
【特徴】
金髪のオールバック、爽やかで紅白のライダースーツを着ている。スタント界のプレスリーと呼ばれる由来は開いた裾と首回り。パフォーマンスを職業にしているスタントマンらしく、見た目は派手。
【人物背景】
伝説のスタントマン。1938年生まれ。12の時にモトクロスショーを見てスタントマンを志し、1966年からスタントショーの仕事を始める。以後スタントの記録を打ち立て続け、幾度となく成功と失敗を繰り返す。70年代スタントのアイコン、バイクに乗ったプレスリーと言われた。2007年、老衰で死去。
スタントマンという職業は当時アメリカンフットボールに次ぐ人気を持っていたと言われているが、その派手さゆえに低俗で品位がないものとして白い目で見られることも多かった。ライダーが跳び続けたのはもちろん人々からの称賛もあっただろうが、純粋にスタントが好きだったというのが最大の理由である。相当な自信家で、変態。
ライダーとしてはこの上ない適性を持っているはずだが、兵士でなければアウトローでもないため戦闘能力らしい戦闘能力は薄い。しかし同じく戦闘を得意としないマリー・アントワネットの例もあるので全く戦えないということはないだろう。
【サーヴァントとしての願い】
ない。強いて言うならこの体で出来ることがしたい。
【マスター】遠坂凛
【出典】fate/stay night
【能力】地水火風空の五つの属性を過不足なく使いこなす超一級の魔術師。同年代の魔術師と比べると魔力量もけた違いで、家督も高い、筋金入りのエリート。
特異な魔術は呪いの弾丸を打ち出す「ガンド撃ち」。本来は物理的破壊力を持たないガンドだが、極めて高い才能がその威力を拳銃に匹敵するものとしている。
専門は宝石魔術で、宝石に魔力を込め、武器や等道具として扱う。大量のストックがある。
また八極拳の使い手でもある。近接戦闘もそれなりにこなせる。
【人物背景】
上記参照。6代続く魔術師の家柄、遠坂家の現当主。能力に裏打ちされた高いプライドと気の強さを持ち、敵対する者は周回送りになるまで、やるときは徹底的にやる。
【マスターとしての願い】
聖杯を手に入れる。願いは特にない。
投下終了します
すみません、ヘルメットに関する描写を忘れていました…。
二人ともつけているしつけさせています。プロですから。
投下します
人の一生というのはたかが知れたもので、せいぜい生きたら五十年というのはいつの話か。
今は多少長くはなったものであるが、やはりどうしたって全うすることなくその命が失われることもままある。
橙色の暖かい照明の室内。彼女の正面の棚に並んだ、緑色のボトルに並んだ数々の酒瓶。
カウンターに腰かけた少女は夢想する。
いつからか、己の内にあった妄想――――遠く甦る幻想。
前世、という物だ。
ここだけならよくある話だろうが、更に珍しいことに前世の更に前世があった。
そのとき彼女は、人ではなかった。
その次に彼女は、ヒトであったが人間ではなかった。
それから今は――――多分人間だった。
ただ思春期にありがちな空想の類いかと笑えればいいのだが、彼女はそのどちらにも共通する硝煙の臭いを、死の恍惚を、戦の高揚を覚えていた。
己が果たして、人なのか。
あれはかに名高い煉獄であり、彼女は人として生まれ変わる為の得を積んでいたのか――なんて思う。
答えは出ない。
足のついたショットグラスを傾ける。消毒液めいた、樽の受けた磯の香りを蓄えたアイラモルトの琥珀色が口腔を満たす。
煙った独特の風味が吐息に混ざる。
これでは、足りない。
臨死の恍惚が、あの緊張感だけが彼女に生の実感を与えるのだ。
それ以外は現実でないように――煙った臭いの向こうに追いやられていく。
アルコールに湿った息を漏らす。
年若く、しかし不相応に艶のある彼女に見惚れた男が秋波を送ってくるが手を振って返す。
そちらもある意味夜戦ではあるが、今はそちらはお呼びではない。
いつも、その前世を考える。
都合よくそれは彼女の今の名字であり、都合よくそれはありふれた名であった。
いつも考える。その世界での彼女は、一体最後にどうなったのだろうか――と。
そんなときだった。
バーの扉が開く。
彼女は偶然、よく顔を合わせる――以前の知り合いによく似たアイドル志願の少女と盃を交わしていた。
その背の向こう。肩越しに。ボロボロのマントを被った大男が見えた。
フードの奥の顔が見えないそれに不吉さを覚え、アイドル志願の友人の肩を押し倒そうとしたときだった。
二分割。四分割。十一分割――――彼女が瞬く間に“解体”された。
悲鳴を上げる暇もない。
マントから突き出た茨の糸鋸――四方八方に空間を両断したそれが、静寂な店内を凄惨な戦場に変えた。
馴染みのバーテンダーが臓物を吐き出して絶命する。
先ほど彼女に声をかけた男が、押さえ込みにかかったそのままに串刺しにされた。
仲睦まじそうなカップルが、互いに抱き合ったまま関節を折り畳まれて球体に変わった。
そして彼女までも、その謎の怪人に両手足を縛り上げられ宙吊りにされた。
眼下では騒ぎに駆けつけた用心棒の男が、カウンターに隠れて震え上がっていた。
人は死ぬ。
それまでの人生に関わらず死ぬ。呆気なく死ぬ。
彼女は、そんな常識を――――今さらながらに思い返していた。
◇ ◆ ◇
その怪物に名前はなかった。
ある魔術師が研究の末に、役に立たないと烙印を押した失敗品であった。
彼に悲しみはなく――彼は初めからその魔術師をみて、あることを思っていた。
人間というのは、なんと容易く脆いものなのか。
彼の内にあった衝動は、一つだった。
より、血が吸いたい。
より、悲鳴を聞きたい。
より、多くを殺したい。
彼を処分しようとした女魔術師を嬲り弄び貪り尽くすそのときにも、彼はただ嬉しかった。
たった今捕らえた見目麗しい女も、やはりそうしたかった。
「……つ」
女が小さく声を漏らす。
いたぶりいたぶりいたぶって、陵辱した魂の方が喰らうと美味い。
女が分不相応に溜め込んだ魔力を、恥辱の嘆きと共に貪りたい。
そう、耳を近付ける。どんな風に女は哭くのだろう。
続いた声を聞くまで、彼は絶頂の最中に居た。
「……討つ」
耳を疑った。
「……化生(バケモノ)を討つ」
華奢な身体から絞り出された、地獄めいた声。
「人に仇なす化生(バケモノ)を討つ! 害ある化生(バケモノ)を全て討つ! 化生(バケモノ)は全て討つ!」
女の左腕に赤い刺青が浮かび上がる。
言語が得意でない彼にも見れば意味が判る――「夜」「戦」の二文字。続き文字。
「――化生、討つべし!」
猿叫と共に、少女は己を縛り上げる茨の蔦を膂力で引きちぎった。
少女は――――先程までの彼女ではない。
面頬めいて顔を覆う桜色のマフラー。髪に刺さったかんざしがどこか奥ゆかしい。
何と幻想的な光景だろうか。
運よく生き残ったバーの用心棒は信じられない光景に思わず失禁。
光と共に手の内に生成された二つの小型プロペラ機が、彼女の叫びに合わせて空を裂いて怪物に命中。無慈悲に爆発。
無残に脇腹を抉られたいばらの使い魔は悲鳴を上げながら、それでも何とか身体を立て直した。
蹈鞴を踏みながら右手の鞭を翻す。
ああ、なんたる禍々しい姿だろうか。有刺鉄線めいて棘の突き出た拷問鞭が空気を裂きながら少女目掛けて襲いかかる。
凶悪な風切り音。争いにいと遠き貴婦人なら身震いして失神してしまうであろう。恐怖的光景。
だが……。
「愚かな。よほどその腕を差し出したいと見える。ならば――」
猿叫。
なんと少女は、二本の指で巧みに棘を避けて鞭を挟み取ったではないか。なんという巧みな腕前か。
そして肘まで覆う長手袋に覆われた両手が、いばらの鞭を無理矢理掴んで手繰り寄せ――決断的に容赦のない横蹴り。
奇声めいた悲鳴。
憐れクレーンの鉄球めいて吹き飛ばされる怪物を――更に引き戻し、横蹴り倍点!
猿叫。引き戻す。蹴る。悲鳴。
猿叫。引き戻す。蹴る。悲鳴。猿叫。引き戻す。蹴る。悲鳴。
猿叫。悲鳴。引き戻す。蹴る。悲鳴。猿叫。引き戻す。蹴る。猿叫。悲鳴。猿叫。悲鳴。
やがて耐えきれなくなった右手のいばらが半ばから千切れ飛び、怪生物は憐れ床や天井にピンボールめいて跳ね返ってバーカウンターにめり込んで停止した。
「貴様ら化生(バケモノ)の逝くべき場所は一つだ。いつだって一つの道しかない」
身を起こしたいばら怪生物が、絶叫と共に少女の華奢な身体へと飛びかかる――だが!
眩しい!
彼女の太股に備えられた探照灯と呼ばれる夜戦特有の光源的装備が、サーヴァントの神秘でエンチャントされて怪生物の目玉を焼き払った。
猿叫。
制御を失った怪生物の胴体に少女の蹴り上げが命中。棚に並んだ酒瓶目掛けて、怪物の身体を叩き付けた。
弾け飛んだ酒瓶の欠片をブーツで踏みにじりながら、桜色のマフラーを棚引かせた少女は冷酷に告げる。
「貴様は吸血が趣味のようだが……化生(バケモノ)らしく惨めに這いつくばり、己の血を啜るがいい」
地獄の門番めいた恐ろしい声に合わせて探照灯が照射。
その熱量に気化したアルコールが引火。憐れ怪物は火だるまに変わる。
奇声と共に床を転げ回り、そして瓶の破片に突き刺さり絶叫重点。なんたる無様か。
しかし、相対する彼女に一切の慈悲はない。
その手に構えられたのはクナイ……ではなく魚雷であった。
だが、近代兵器史に詳しいものならば気付くだろう。魚雷の先端は断じてこのような白木でできてはいない。
「犠牲者と神に――慈悲を乞え」
そしてそれを猿叫と共に投擲!
なんたる無駄のない流れるような投擲動作か。達人的。優れた鍛練の賜物である。
悲鳴。さらなる猿叫。
心臓に吸い込まれた魚雷に、だめ押しのヤクザキック。
殺伐として惨い。圧倒的なサーヴァント膂力は、胸部装甲を憐れ障子めいて容易く突き破った。
口から血泡を迸らせる断末魔の悲鳴と共に怪人は絶命。
そして撃ち込まれた魚雷に焼き払われ、しめやかに爆発四散した。
「これが我が宝具……あるべきものは、あるべきところへ」
爆発に背を向け息を漏らした少女は、何事もなかったようにバーを後にする。
一人生き残った用心棒の暴力団員は、今まで出会ったこともない圧倒的な狂気的真実を前に再び失禁して気を失いそうになった。
そこで、再び開かれたドア。マフラーを翻した少女。
「ひっ」
「マイン・ゴット……私としたことがすまない……。
被害者への配慮を忘れていた。この聖餅を額に押し当てるといい」
「え、あ、ああ……」
「ふむ。火傷は現れないな。吸血鬼に感染してはいない……ということだ」
「あ、あの……吸血鬼って……」
「吸血鬼は実在しない」
「え?」
「『吸血鬼は実在しない』。いいね?」
「あっはい」
虚ろな瞳になった用心棒を見下ろして、少女は更に続けた。
「これはガス爆発だ。酒のアルコールとガスが反応して混ざり合い、絶妙の濃度で爆裂した」
「これは……ガス爆発です……」
「そうだ。運よく、君だけは生き残った。いいね?」
「あっはい私しか生き残っていません」
「そうだ」
やれやれと、少女は身を翻して外の闇に消えていった。
◇ ◆ ◇
赤い三日月の下。
己の細腕を包む長手袋に備わった銃座。腰のウェポンラックに備わった魚雷ダートを眺めた少女――サーヴァントは感心した声を上げる。
「……ふむ。私の時代にはなかったものだが、実に使いやすい。
悪くはない。極東は文明の代わりに殺戮を磨いたというのは本当らしい」
改めてその英雄は、装備に感嘆する。
彼自身の英雄としての性質とは言え、こうまでも特徴的に姿が変わるというのは予想外だった。
『極東はないでしょ、極東はさ!』
「ふむ? ああ、言い換えよう。世界の中心とはそこに生きるものにとってが中心だ。
なるほどマスター、世界の広さを知らぬならこの国はまさに世界の中心だろうよ」
『なんだかなぁー……』
己の肉体に憑依したサーヴァントの皮肉な喋りに少女――――川内は眉を潜めた。
「私はこれでも褒めているのだよ、マスター。
私は常に人々の求める最新の退魔の姿となって現れる。より強力に、より化生を殺せる姿を執る」
基本的にそのいずれにしても彼は彼としての姿を執るのであるが――。
今回は例外であった。
それは彼女が抱いていた性質にも由来するし、何よりもあの状況でマスターの命を助ける為には隣に立つよりもその本人となる方がより確実。
そんな状況判断であった。
「なるほど些か業腹なものではあるが、確かに元が人間と元が軍艦……どちらがより殺しに向いているかと言われたら、さもありなんだ」
『殺しって……』
「何、サーヴァントとしては異例であるが、人に乗り移るのは英霊としては初めてではない。
それがこんな見目麗しい女性ともなれば、多少の問題はあって無いものだろう?」
満足そうに指の腹や手の甲を眺める彼女――彼。
『……スカートとか捲らないでよ?』
「私はこれでもいい歳の男さ。娘ほどの年齢の君の下着など気にはしない。
――ああ、相手もいないのに黒のレースというのはどうかと思うがね。白が清潔で良いと思う」
『ちょっと!?』
「ははは」と、サーヴァントが笑う。
彼は確かに闊達な人物であったが、ここまで若々しく皮肉めいた人格ではない。
或いはそれも性質ゆえ――憑依したマスターの年齢に引きずられているのかな、と静かに首を捻った。
やがて、その身の衣裳が桜の花びらの如く闇に溶ければ、
「……あ、戻った」
彼女は、彼女の身体を取り戻した。
代わりにその内から響く声。
『初回が故、私が対処させて貰った。
いやはや……化生を前に怒りを抑えられればいいが、既に英雄として像を固定されてしまった身では生前のようにはいかないな』
「……また乗っ取られるってこと?」
『残念ながら、可能性は低くはない。犠牲者の怒りが、私の怒りとなってしまう……こればかりは英雄になった弊害だろう』
心底悔いる風に、川内の心の内に宿った英雄は声を漏らした。
『それでも私は思うのだよ。
――化生(バケモノ)を殺すのは、いつだって人間だ。その時代に生きる人間でなくてはならないのだ。
そうでなければ、人は勿論……化生(バケモノ)も報われない。人が人として、化生(バケモノ)を倒さねばならないのだ』
彼は、それまで人理に刻まれた怪物(バケモノ)殺しではなかった。
王族ではなく、勇者でもなく、特別な肉体を持たず――――ただ知識と策略と勇気で未知の不死者を殺害しただけの人間だった。
守れなかった命もある。失ってしまった仲間もある。
それでも最後に、暁の中に怨敵を追い詰め心臓に杭を打ち込んだ。
彼は最新の化け物殺しの概念。
広がる情報伝達に物語を乗せた、謳う声ではなく語る文字でその英雄譚を響かせた最新鋭の退魔の輩であった。
人の域を脱することなく、魔を討った英雄であった。
常に形を変える、退魔の復讐者であった。
「……その時代に生きる、人間かぁ」
改めてマフラーに鼻先を埋めながら、少女――川内は名残惜しげに呟いた。
『……失礼、配慮が足りなかったかな? マイン・マスター』
「ん、あ、いいよいいよ! まぁ、本当だからさ」
川内は首を振って返す。
彼女自身、在り方が不鮮明なのだ。
魂に染み付いてしまった前世に引きずられている――――或いはそちらが本物であり、こちらが波間の潮騒の幻影に思える。
それともどこかと混線してしまった幻覚か、何者かに作り出された過去なのか。
そんな不確かさは、自覚していた。
『ああ、そうとも……女性に年齢の話は禁句だった。いくら若々しい少女の姿をしているとしても、君は実は老婆に近い年齢などとは――』
「アヴェンジャーの方が歳上! 歳上だから!」
『男はいいのだよ、男は。歳を経れば男として熟成されるのだから』
湿っぽい空気を感じ取ったのか茶化すような台詞を飛び出させたサーヴァントに、川内は改めて息を漏らした。
聖杯戦争。
勝ち残れば、自分の中の疑問にも答えが生まれるだろうか。
それとも――――いや。
ふと見上げれば、血を吸ったように赤く横たわる三日月。
伸びを一つ。
いつだって、これは変わらない。
「夜はいいよねー、夜はさー」
『……ふむ? こんな奇怪で凄惨な夜が、化生と怪奇が蔓延る夜がいいと……マイン・マスターはそう言うのか?』
「ん? あはは、まぁ――そうだね」
マスターと呼ばれるのはどうにも慣れないと頬を掻きつつ、
「それでも――――夜戦はいいよね。夜戦はさ」
川内は、妖艶で獰猛な、裂けんばかりの笑みを浮かべた。
『やれやれ……ナイトウォーカーとしては、吸血鬼も裸足で逃げ出すほどの拘りらしいな』
アヴェンジャー――――エイブラハム・ヴァン・ヘルシング。
マスター/デミサーヴァント――――川内。
共に、抜錨す。
【クラス】アヴェンジャー
【真名】エイブラハム・ヴァン・ヘルシング
【出典】吸血鬼ドラキュラ(19世紀イギリス)
【マスター】川内
【性別】男性(憑依後:女性)
【身長・体重】172cm・75kg(憑依後:165cm・53kg)
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力B 耐久D 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具B
【クラス別スキル】
復讐者:E++
彼の行う復讐とは、人の領分に踏み入った魔に対してのみなされる復讐。
魔に類するものからの被ダメージに応じて魔力を増幅させる。
忘却補正:B-
この世でもっとも高名な“化生退治”として数えられる為にランクは低下しているが、同時に彼は原典から歪められている。
正ある英雄に対して与える“効果的な打撃”のダメージを加算する。
自己回復(魔力):D
この世から化け物への怒りと恨みが潰える事がない限り、憤怒と怨念の体現である復讐者の存在価値が埋もれる事はない。
これにより、魔力に乏しいマスターでも現界を維持できる。
【保有スキル】
無辜の怪物:EX
生前のイメージによって、後に過去の在り方を捻じ曲げられなった怪物。能力・姿が変貌してしまう。このスキルを外すことは出来ない。
元は理知的な大学教授でありれっきとした人間であるのだが、後世のイメージにより“退魔の人間”として定義されてしまう。
プランニング(魔):B
対象を暗殺するまでの戦術思考。軍略と異なり、少数での暗殺任務にのみ絞られる。
彼の場合は自己の生存の度外視というものを取り除く代わりに、相手が魔に類するものでなければスキルの使用ができなくなる。
専科百般:B++
類いまれなる学術的研究心により、様々な人体や概念への理解を持つ。真っ先に常識離れした吸血鬼被害を看破した。
戦術・暗殺術・詐術・話術・学術・隠密術といった、総数32に及ぶ専業スキルについて、Cランク以上の習熟度を発揮できる。
特に催眠術は得意であり、因果を歪め吸血鬼の犠牲者となったミナ・ハーカーの吸血鬼化を押し止めるほど。
【宝具】
『化生討つべし(オカルトスレイヤー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
常時発動型宝具。
始まりは六十代の大学教授であり相談役であったヴァン・ヘルシングであったが、三十年後の舞台ではドラキュラとの直接戦闘。
五十年後には映画化されたがやはりドラキュラと直接渡り合い、八十年後には四十代に年齢を改め、ドラキュラ伯爵との格闘に及んでいる。
時を経るごとに時代を下るごとに彼の像は若返り表現され、より強力に直接的に吸血鬼と相対する人物として更新されて言った。
メディアの発達により広く広げられた最新の退魔の概念であった彼は、人々が安心する“より確かな退魔”として姿を常に更新する。
より優れた、より強い姿となって“化け物を討つ”という概念。
無数の武器に“退魔”の概念を与えて相手の特徴に合わせて装備を更新・作成し、
化け物が強力なほど、その化け物の被害者が多いほど、そしてその助けや討伐者を願う声が多いほど、アヴェンジャーのステータスは上昇する。
『土は土に、塵は塵に、そして灰は灰に(レスト・イン・ピース)』
ランク:B++ 種別:対人(魔)宝具 レンジ:- 最大補足:1人
吸血鬼殺しの白木の杭。
この杭にはあるべきものをあるべき場所に返す――“返還”の呪いが授けられており、
人間から奪えば奪うだけ――奪ったものの多い化生ほどダメージが増加する。
心臓にこの宝具を突き立てられた吸血鬼は、被害者から奪い取った血液を、そして神の御許から奪い取った死者の亡骸の返還を要求され、塵になって消える。
“誰かから何かを授かった”“どこかから手に入れた”“集めた”という逸話を持つ英雄に対しては、副次的にその宝具を消滅させる効果を持つ。
一方的に幸せを奪われた無辜の人々の、“還して欲しい”という犠牲者の祈りの杭である。
……なお現在は第一の宝具により、魚雷に加工されて使用されている。
【weapon】
原典ではニンニクに金と銀の十字架、ピッキングツール、リボルバーとナイフに白木の杭。
ナナカマドの灰に野バラの枝、結界を為す聖餅など多岐に渡り、
果てはサーベル、ロープ、二丁拳銃、催涙スプレーにクロスボウ。変形手裏剣などと、彼を語る物語に合わせた数多の武器を持ち合わせる。
現在はデミ・サーヴァントとして、憑依した少女――艦娘:川内がかつて有していた装備をエンチャントして使用する。
【解説】
原典は複数の人間の手記で語られる。
それらを集約するとこうなる。
まず、トランシルバニアの貴族がイギリスの弁理士の青年にイギリスの土地の購入を頼んだことから話が始まる。
彼の婚約者のその友人女性は夢遊病に悩まされていたのだが、それが原因で吸血鬼であった貴族による吸血を受け、犠牲者となってしまう。
その際に彼女にかつて求婚していたジャック・セワードから助けを求められて現れたオランダのアムステルダム大学の名誉教授――それがエイブラハム・ヴァン・ヘルシングである。
精神科医としてだけではなく、科学者として、哲学者として聡明な彼は原因に行き当たる。
しかし、その余りにも突飛な原因を周囲に説明しなかった行き違いから、犠牲者――ルーシー・ウェステンラは死亡してしまう。
以後、彼女の婚約者であったアーサー・ホルムウッド、求婚者であり教え子のジャック・セワード、求婚者の一人のキンシー・モリスと共に吸血鬼に対決していく。
聖餅による結界、催眠術による吸血鬼化進行の遅延……
様々な困難の末にドラキュラを追い詰め、配下との戦闘でモリスの死を受けてしまうも彼らはついにドラキュラの胸に杭を突き立てた。
原典では恰幅がよく、アドバイザーとして立ち回っていた老紳士であったが、
時代が下るに連れて彼自身が直接吸血鬼と戦う姿で描かれるようになり、やがて若返り、単身魔を討つ人間としてイメージされるようになった。
最新にして、高名な“化生殺し”として今なお世界中でその名を轟かせる人物。
人外に弄ばれるだけだった力を持たぬ無辜の人々の、嘆きと祈りを背負った人間――――既に本来の姿からは遠く変質している。
原典では彼の英語は独特の(他国の)アクセントをしており、ドイツ語系統の「Mein Gott(My god)」というフレーズを使っていたとされる。
【特徴】
本来は恰幅の良い老齢の男性であったが、呼び出される状況に応じて変貌。
デミ・サーヴァントとして戦闘に入る際、川内の姿は変化。
南国の花を思わせる裾が長く複数に別れて垂れ下がる上衣とそれを止める大輪の花めいた赤い帯。黒いスカート。
長手袋には小型の銃座がマウントされ、右の太股には探照灯。腰には複数の魚雷ウェポンラック。
そして口許を覆う白いマフラー。
【サーヴァントとしての願い】
原典としての自己を確立する。
だが人に仇なす化生は殺す。
【マスター】
川内@艦隊これくしょん(ブラウザゲーム)
【能力・技能】
記憶には、第二次大戦中の実在の艦船である川内の記憶。それと、艦娘として鎮守府で深海棲艦と戦闘していた際の記憶があるが、
現在では特別な能力は有していなかったが、デミ・サーヴァントとしてアヴェンジャーのスキルを一部受け継ぐ。
史実でも参加した戦いの四回の内三回が夜戦であり、夜になると実に楽しそうに生き生きと輝く。
【人物背景】
前世の記憶のようなものを持ち合わせてしまった女学生。
夜な夜な街に出ては、かつての記憶に引き摺られるように刺激を探していた。
生まれてからの記憶というのにも現実感を感じられず、彼女が確かに覚えているのは艦船、そして艦娘としての戦いの記憶。
その世界で彼女がどう生きてどう終わったのかは彼女自身、深くは覚えていないらしい。
【マスターとしての願い】
聖杯戦争を通して、自分自身を確立する。
投下を終了します
投下します
てくてく、てくてく。
黒いスーツを纏った男が、同じく黒い革靴を鳴らしながら、夕方の喧騒の中を歩く。
服装から年齢は分からない。ただ、兎に角若い。身長も顔つきもまだ成人しているとは思えない若々しさである。
後ろ手に結わえられた血の色の長髪と、頬に走る十字傷が、見るものを遠ざける独特の雰囲気を醸し出していた。
男が、街道を抜けた先の十字路で立ち止まる。
振り返り、街を行く人々の姿を見る。
それは会社から自宅へと戻るサラリーマンやOLであり、
学校から友と連れ立って帰る学生達であり、
母親に手を引かれ立ち並ぶ店を覗きながら歩く幼女の姿だった
皆、表情は同じ。
時折、不安や疲れ、苛立ちや憂いを覗かせても最後に浮かべるのは笑顔だった。
泣いている者など、どこにもいなかった。
否、この世界の何処かにも、きっと涙を流している人は大勢いるのだろう。
取るに足らない悩みで一喜一憂し、ほんのささやかなすれ違いに泣く。
されどそこに死に怯え、理不尽な暴虐に絶望するものはない。
人買いの骸を掘り続ける、小さな子供もいなかった。
あぁ、と白い息を吐く。
そして道の端で眩しいものを見るように、けれどずっと、その光景を眺めつづける。
噛みしめるように、目に焼き付けるように。魂に刻み付けるように。
彼の求めていた物はここに確かに存在し、けれどどこにもなかった。
それでも、それでも。
コンビニのネオンが輝きだしたのを頃合いとして、男は名残惜しそうに帰路につく。
その顔は、どこか安堵しているようだった。
◆
仮の逗留先として記憶していたホテルの部屋に戻り、その中の暖かさも気にせず男は部屋のある一点を目指した。
ドクン、と臓腑が鳴動する。
汗が一筋流れる。
横引のクローゼットの前に立つ。
全てを検めるために。
今この時が夢か現か確かなモノとするために。
一度瞑目し、一息に引きあけた。
中にあったのは、黒い和服に袴。そして――――
「やはり、そうなのか。『俺』は―――」
一本の業物と見受けられる”刀”だった。
何かを決した顔で、鞘の中の刀を引き抜く。
露わになったその鋭く輝く刀身は、血に濡れていた。
「気が付かれたか、マスター」
背後から自分を呼ぶ声を聴いた。
飄々とした、男というにはいささか高い声だった。
自分が気付かなかった事実に莫迦な、と驚愕しつつも、その反面どこか受け入れている自分を感じながら男は振り返る。
視線の先にいたのは痩躯の男性……否。少女であった。
「君は……」
男は目の前の女が”何”であるのか知っていた。
けれど問わずにはいられなかった。
彼女は、この場所には、この時代にはいるはずのない、
自分とよく似た、いやもっと深いところで近しい存在。
男の問いかけに、少女は朗らかにはにかみ答えた。
「聖杯の導きによりセイバーとして推参しました。河上彦斎と申すものです」
セイバー。
それが何の意味を持つのか、男には分からなかった。
だが、確かにわかることが一つ。
この人は――――――自分と同じ、『人斬り』だ。
同時に右肩に熱を帯びた鋭い痛みが走り、怒涛の記憶の奔流が流れ込んでくる。
聖杯戦争。
願いを賭け、血風を奔らせ命を奪い合う殺し合い。
「この時代を、見てきたのですね」
さしもの男も流れ込んでくる怒涛の情報量に混乱している中、
凛、とした声で少女が問うてくる。
余りにも威風堂々としたその声色は聞きようによっては男の様に聞こえても可笑しくなかった。
肩の痛みが引いていくのを感じながら、男は首を縦に振る。
ここがどんな世界かはっきりと理解したわけではない。
けれど、ここで交流した人々は、例え偽りでも確かにこの世界に息づいていた。
「いい時代であることは確かです……しかし」
「あぁ、分かっている」
少女の声を遮るようにして、男が言葉を紡いだ。
しかし、少女は特に気分を損ねる様子もなく、男に会話を任せる。
まるで、男が何を言うか分かっているかのように。
「この時代が、俺の居た場所につながるとは限らない」
セイバーと呼ばれたサーヴァントは無言で肯首した。
「マスター」
その上で、初めて男に問う。
思えば、貴方が自分の主(あるじ)か、とは尋ねなかった。
この男こそが、自分の主であることを確信していたから。
けど、これも本当は必要のないことなのかもしれない。
だって、彼女には彼が何というのか、分かってしまっている。
哀しい程に、分かってしまっている。
だからこれは言うなれば、問いであり、答え合わせ。
「貴方の願いは、新時代の―――」
「その通りだ。俺の願いは、誰もが笑っていられる新時代の到来ただ一つ」
「そのために、屍山血河を築くとしても?」
「無論だ。俺は……刀を振るう以外の生き方を知らない
その代わりに、必ず時代を変えてみせる。俺が誰かの命を奪う代わりに
そして、新時代の到来とともに、人斬り抜刀斎は消えるだろう」
自嘲するように淡々と告げる男――少年に、少女はほんの少し悲しげな顔を浮かべ、
今一度問うた。
開国し、迎えた明治という名の新時代に順応できず、露と消えて行った者として。
彼には、同じ道を辿ってほしくは、なかったから。
「ならば―――その新時代で、貴方は笑えていますか?」
その問いは予想外だったのか、少年の肩が震えた。
その肩は、とても小さく思えた。
しばらく少年は考えると――首を横に振るう。
そして、分からないと告げた。
「だが俺の笑顔など亡き妻が…巴が、得るはずだった幸福に比ぶれば些事だ」
「それは違います」
少年の返答を、少女は否定した。
少女は、少年が自分の様になって欲しくは無かった。
「貴方を選んだ人は、貴方が笑えない世界で笑えるような人ではないはずでしょう
その上で問います。聖杯を獲った貴方は、微笑えるのですか?」
「……今の俺には、聖杯を獲る事が本当に是とすべきなのか分からない、
だが俺の居た時代に帰りたい、必ず生きて帰る。それだけは確かなことだ」
「なれば守ります。私が貴方をいるべき場所に必ず帰して見せます。
貴方が築いて訪れた新時代で、他の誰でもない貴方自身が笑うことができるように
貴方の中に生きる、巴殿が微笑えるように」
―――済まない。そして、ありがとう。
窓の外で仄かに雪が夜桜の様に舞ったその時、少女が手を伸ばす。
『緋村剣心』は外の雪を視界の端に捕えながら、苦笑を顔に浮かべ、その手を取った。
◆
その光景は一見すれば、ただの小さな少年と少女が織りなす物語の一ページ。
果たしてその物語は永き悲劇であるのか、それとも浪漫譚の始まりなのか。
答えを出せるものは存在せず。
今はまだ、名無しの物語のその始まりは、
推定150年の時空を飛び越えた冬。
偽りの冬木にて、
人斬り抜刀斎の来訪から―――――
【クラス】セイバー
【真名】河上彦斎
【出典】史実(幕末〜明治)
【マスター】緋村剣心
【性別】男性
【身長・体重】151cm・46kg
【属性】中立・中庸
【ステータス】筋力:B 耐久C 敏捷A+ 魔力E 幸運C 宝具-
【クラス別スキル】
対魔力:E
魔術への耐性。無効化はできず、ダメージを軽減するのみ。『神秘』が薄い時代の英霊のためセイバークラスにあるまじき最低ランク。
騎乗:E
乗り物を乗りこなせる能力。彼女のものは馬や単車程度なら勘で乗れるかどうかという申し訳程度のクラス別補正である。
【固有スキル】
人斬り:A
勝海舟曰く喜怒色を示さず余りにも多く人を斬り、幕末四大人斬りとまで歌われた逸話から獲得したスキル。
Dランク相当の気配遮断と同様の効果を持ち、Bランクまでの精神干渉を軽減・無効化する。
宗和の心得:B
同じ相手に同じ技を何度使用しても命中精度が下がらない特殊な技能。
攻撃が見切られなくなる。
心眼(偽):B
いわゆる「第六感」「虫の知らせ」と呼ばれる、天性の才能による危険予知。
視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
【宝具】
『新時代斬り拓く血風の剣』
種別:対人魔剣 最大捕捉:1
幕末の大思想家佐久間象山を白昼堂々、一太刀のもとに切り捨てた我流剣術。
片膝が地面に着くほど低い姿勢から放つ神速の逆袈裟斬り。
抜刀から敵に切り付けるまでの工程を歪め、発動した瞬間『対象は斬られた』という事象崩壊現象だけを残す魔剣。
事実上防御不能の瞬殺剣であり、対象には彦斎が刀の柄を握ったとしか感じられない。
【Weapon】
『孫六兼元』
河上彦斎が愛用した、佐久間象山暗殺にも用いた太刀。
『國光の短刀』
【特徴】
黒装束を纏い、黒の長髪をポニーテールの様に結えた色白で小柄、可憐な女性。
【解説】
尊皇攘夷派の日本の武士。幕末四大人斬りの一人。
「人斬り彦斎」などと呼ばれる。
性格は真面目で穏やかながらも怜悧冷徹。外見は柳のように華奢で、女性に見間違えられるほどの優男だったという。
元治元年7月11日、公武合体派で開国論者の重鎮、佐久間象山を斬る。
この象山暗殺以降、彦斎の人斬りの記録は不明。
しかし、勝海舟などの伝承からもっと多くの人間が彦斎の白刃に斃れたと思われる。
第二次長州征伐の時、長州軍に参戦、勝利をあげる。
慶応3年に帰藩するが、熊本藩は佐幕派が実権を握っていた為投獄される。
このため、大政奉還、王政復古、鳥羽伏見の戦いの時期は獄舎で過ごす。
慶応4年2月出獄。
佐幕派であった熊本藩は、彦斎を利用して維新の波にうまく乗ろうとするが彦斎は協力を断る。
維新後、開国政策へと走る新政府は、あくまでも攘夷を掲げる彦斎を恐れた。
二卿事件への関与の疑いをかけられ、続いて参議広沢真臣暗殺の疑いをかけられ明治4年12月斬首。
るろうに剣心の緋村剣心のモチーフとなった人物。
【サーヴァントとしての願い】
マスターに新時代を迎えさせる。
【マスター】
緋村剣心(緋村抜刀斎)@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-
【能力・技能】
飛天御剣流
一対多を主戦場とする、弱者を助ける救世のための剣術。
大きな力に与することもなく、ただ孤高で在り続けた天秤の剣。
現在の彼は『緋村剣心』ではなく『人斬り抜刀斎』であるため奥義を放つことは不可能。
【weapon】
血に染まった無銘の業物。
【人物背景】
短身痩躯で赤髪の優男、左頬にある大きな十字傷が特徴である。
長州派維新志士で、幕末最強とまで謳われた伝説の剣客・人斬り抜刀斎その人である。
修羅さながらに殺人剣を振るい数多くの佐幕派の要人を殺害してきた。
明治時代に入ってからは未だに虐げられる弱き人々を救う為に日本各地を旅する。
新時代の為に大勢の人々を切り捨ててきた事に対して負い目を持っており、彼のその後の生き様である不殺を決定づけた。
【マスターとしての願い】
誰もが笑って暮らせる平和な新時代を築き上げる。
投下終了です
投下します
◇
――さあ、それでは馬車へお乗り。だが、いっておくがね、舞踏会には夜半よなかの十二時までしかいられないのだよ。
――それから一分でも過ぎようものなら、この馬車はもとの南瓜になるし、馬は二十日鼠になるし、馭者は鼠になるし、この美しい服はもとのぼろ服になってしまうんだよ。
――わかりました。それでは、かならず十二時前に帰ってまいります。
.
◇
「おはよう、マインフューラー」
緒方智絵里は、己の身体を揺さぶるサーヴァントの声で目を覚ました。
幸せな夢を見ていたような気がするし、悪い夢を見ていたような気もする。
もしかしたら――元の世界の夢を見ていたのかもしれない。
ただ、夢の中身は思い出せないし――今は、夢よりも現実のほうが大変な事態になっていた。
何の変哲もない、中年の主婦。
度を越した不細工でもなく、魔女と呼ばれるような美女でもなく、
極々普通に年齢を重ねた――もしかしたら、智絵里も将来そうなるかもしれないような女が、目をこする智絵里を見て笑っている。
「まだ、早かったかしら?」
寝ぼけ眼で時計を見ると、時間は8時少し前を指していた。
元の世界にいたならば、慌てていたであろうこの時間も――今の智絵里にとっては極々普通の起床時間だ。
学校へ行く義務もなく、仕事へ行く必要もなく、好きな時間まで眠っていればいいし、やりたいことがなければ一日中布団に入っていればいい。
もっとも、智絵里はそこまで自堕落な生活を過ごすつもりはなかったが。
「いえ……大丈夫です、バーサーカー……さん」
「朝ごはん、出来てるからね」
パジャマのまま、智絵里は一階に降りる。
今の智絵里の家は冬木市内にある二階建ての一軒家であり、彼女の部屋は二階にある。
押し並べて特徴のある外観をしているわけでもなく、サーヴァントがいるからと言って内部は要塞のようになっているわけでもない。
緒方智絵里は聖杯戦争という異常の中で、極普通の一般市民のように過ごしていた。
「おはよ、マインフューラー」
「今日は寝坊助だな、マインフューラー」
リビングルームでは、既に彼女のサーヴァント達が朝食を摂っていた。
中学生ぐらいの容姿の少年と、スーツを着た中年男性。
やはり、二人に特別な部分はなく、強いていうならば――少年の方は目の形が主婦に似ている。
インスタントの味噌汁。炊立ての白いご飯。お茶か牛乳のどちらが良いかと聞かれて、お茶をもらう。
ハムエッグは、タマゴが半熟になっていて箸で黄身の部分を突けば、黄金色がどろりと白身とハムに溢れ出す。
サラダに掛かっているドレッシングはごまだれ、そしてテーブルの中心には蜜柑が籠に入って置かれている。
腹の音が可愛く音を立てる。
サーヴァント達が笑っている、智絵里は頬を赤らめる。
「さて、マインフューラー……食事をしながらでいいから聞いてくれ」
食べ終わった蜜柑の皮をゴミ箱に放り投げた中年男性が、主婦にお茶を要求する。
ゴミ箱から数センチ手前に落ちた蜜柑の皮を、ゴミ箱に放り込んで主婦が中年男性にお茶を注ぐ。
「蜜柑の皮ぐらい、ちゃんと捨てなさいな」
主婦にそう言われて、照れ隠しのように鼻をこする。
中年男性は子どもの時から、そうするのが癖であったし、今もそうしている。
ごほんごほんと咳払いをして、彼は話を再開した。
「昨日、私の上司が私になった。おかげで有給が取りやすくなったよ」
「それは……よ、良かったです」
「私はどうだい?」
「私は町内会のおじいちゃんを私に」
「あの爺さんで大丈夫かなぁ?」
「何言ってるのよ?私は私達で出来ているのよ」
「おっと、そうだった……では、私はどうかな?」
「私は同じ部活の後輩を3人私にしたよ、すげーだろ」
「ほほう、私はすごいなぁ。私の若いころのようじゃないか」
異常な会話だった。
男は女を私と呼び、少年を私と呼び、そして彼らは自身に親しい存在を私と呼んだ。
まるで、万物が自分であるかのように、私という一人称は際限が無かった。
「というわけでマインフューラー、この冬木市において私の数は今のところ……まぁ、多いな、うん。
家族全員が私になった家庭や、一人暮らしの私も何人かいるから、引っ越したくなったらいつでも言ってくれ」
「は……はい」
「何言ってるのよ、私。マインフューラーは私の娘みたいなものよ、どっか行っちゃったら寂しいじゃない!」
「いや、すまんすまん」
「私もさぁ、マインフューラーは姉ちゃんみたいなもんだから、どっか行ったら嫌だぜ」
「……はい」
空間はあるいは狂気に満ちているように見えた。
しかし、この場にある家族愛のようなもの――あるいは平穏な雰囲気だけは本物であった。
智絵里は、こういった時に逃げ出したくなるような思いに駆られる。
何の変哲もない家族に、自分とバーサーカーが異物のようにねじ込まれてしまったことをはっきりと感じ取ってしまうからだ。
しかし、智絵里は逃げ出すことは出来ない。
聖杯戦争に巻き込まれ、彼女は世界との繋がりを失った。
この街に自分の家はない。
自分の所属していたアイドル事務所も無い。
通っていた学校はあるのかもしれないけれど、その出欠簿に自分の名前は載っていない。
友達もいない。仲間もいない。ファンもいない。家族もいない。
大切な人――プロデューサーもいない。
だから、偽りでも――自分が異物であっても、この家か、あるいはバーサーカーの庇護下にあるしかない。
それに、この空間があまりにも暖かいから。
異常で狂気に満ちて、しかし平穏で――彼女が望んだものがあるから。
何時だって家族がいるから。
だから、魔法にかけられたように、彼女は逃げられない。
気づくと、時計は8時半を指していた。
◇
冬木市に智絵里が召喚された時、時計は8時半を指していた。
その時、智絵里は薄着で――そして、冬木は夜で、冬だった。
小さくくしゃみをして、周囲を見回すと――そこは公園で、時計台と遊具があって、現在地は確認できなかったけれど、時間だけはすぐに確認できた。
「ど……どういうことなんですか……?」
腰が抜けて、その場に智絵里が座り込むと、くしゃりと枯れた雑草を踏む感触があった。
時間と空間の両方を移動したとしか思えなかった、ドッキリだというなら早急にネタばらしをして欲しかった。
しかし、世界は残酷なまでに無音で、音が凍りついて耳に届かないのではないかと思うぐらいに寒かった。
「誰か……」
なんとなくもう帰れないのではないかと思い、泣きそうになり、
そして、家族や友人、仲間の顔、ファンの顔、そして――プロデューサー、彼女の大切な人の顔を思い浮かべて、涙が止まり、掌に熱が走った。
焼けつくような熱さと共に、智絵里に記憶が刻まれていく。
聖杯戦争、サーヴァント、マスター、令呪、聖杯、冬木市。
大変なものに巻き込まれてしまったと思うよりも先に、途中だった仕事をどうすれば良いのだろう、と智絵里は思った。
何もわからない状況から、急激に色々とわかってしまったせいで、逆に現実的なことを考えてしまった。
智絵里は――アイドルだ。
テレビ番組で動物と戯れている最中に、この聖杯戦争に巻き込まれてしまった。
まず、共演者の方、スタッフの方、事務所の方、色んな人間に掛かる迷惑を智絵里は考えてしまった。
そして、ワンテンポ遅れて――知識としてではなく、現実的な問題としての聖杯戦争を認識した。
誰かを殺したことはない。暴力を振るったこともない。けれど、殺されるかもしれない。
死にたくはないけれど、殺したくもない。
聖杯なんか要らないから、心の底から帰りたいと思う。
右手が存在を主張するかのように、熱を発する。
サーヴァント――その存在を思い出す。
どうすればいいか、相談に乗ってくれるかもしれない。
そして、相談に乗ってくれなくても――令呪でお願いすれば良い、ということは智絵里は認識している。
手の甲に、令呪は刻まれていない。
手のひらを見る、彼女を象徴するもの――四葉が刻み込まれている。
ああ、四葉だ。
捻くれた四つの葉なのだ。
悪い冗談みたいに、智絵里の手のひらには四葉【ハーケンクロイツ】が刻み込まれていて、
悪趣味にも、四葉の隙間から一本の茎が伸びていて、まるで――邪悪な四葉のクローバーのようであった。
「ジーク、ハイル」
驚きはあったが、予想は出来ていた。
サーヴァントのことは知らなくても、ハーケンクロイツは知っている。
そして、ハーケンクロイツを背負うサーヴァントは、彼女でも知っている。
「良い夜だね、お嬢さん【フロイライン】」
満月を背に、男が立っている。
仕立ての良いスーツ。腕章はハーケンクロイツ。勲章。
「私はバーサーカー」
男はよく通る声をしている。
聞き惚れてしまいそうな声をしている。
「真名は、アドルフ・ヒトラー」
そして、ちょび髭。
「だが、私を召喚した君こそが……といえるのかもしれないな」
◇
智絵里とバーサーカーは近くのベンチに座った。
相談しなければ、と思いヒトラーさんと言おうとした智絵里を、クラス名で呼んでくれとバーサーカーは窘めた。
教科書に載った人物が目の前にいる。
そう思うと、智絵里はドキドキが止まらなかった。
しかも、考えられる限り最悪の理由で教科書に載っている。
ドキドキの倍プッシュだった。
「さて、まず自己紹介をしなければならないが、マスター……いや、マインフューラー。
良くも悪くも私のことは、良く知っているだろう。君のことを聞かせてくれ」
マインフューラーという呼び方は、大仰で気恥ずかしかったが、智絵里にそれを言う勇気はなかった。
自分に従うらしいとは言え、相手はヒトラーであり――智絵里は人の上に立つことに慣れていない。
自身がアイドルであること、聖杯戦争に関わらず、すぐに仕事に戻りたいことを手短に話す。
途中で、何度もつっかえたが、バーサーカーは怒るでもなく、呆れるでもなく、優しく続きを促した。
「成程」
智絵里の話を聞いたバーサーカーはそう言って、深く頷いた。
そして、智絵里に目線を合わせたバーサーカーは、彼女の目を見た。
「君が私を呼んだ理由がわかったよ、嬉しくない話かもしれないがね、なにせ私と君は似ているという話をするのだから」
その言葉を聞いて智絵里は恐ろしい想像をした。
ヒトラーになる自分。虐殺する自分。ちょび髭の自分。
「もちろん、君が私のように……虐殺を行うというわけではない。しかし、君は私のように止まれないだろう、行き着くところまで行くだろう。
アイドルと言ったね、アイドル――偶像!偶像は偶像を見るのではない!偶像の奥に神を見る!
君は偶像になる!ファン!プロデューサー!上層部!スポンサー!スタッフ!そして目に見えぬ空気!誰もが君に影響を与えるだろう!
アイドル緒方智絵里は緒方智絵里のものではなくなる!ファン!プロデューサー!上層部!スポンサー!スタッフ!
目に見えて!しかし目に見えぬ誰かのために!君は緒方智絵里であって!緒方智絵里でなくなる!
君は偶像になる!願望機になる!そうあれかしと!そうあれかしと!そうであってほしいもののためにそうである!
君は自分を捨てる!人形になる!アイドルは……いや!偶像はそうやって完成する!
君という器を願いで満たす!そして緒方智絵里が出来上がる!アドルフ・ヒトラーがそうであったように!
我が名はアドルフ・ヒトラー!民主主義により創り上げられた願望機!ドイツの救世主であれとされた!人民の願いの象徴!」
大仰な手振り身振り、声。テンポ。抑揚。
それは完全に煽動者の者であった。
その姿よりも彼がアドルフ・ヒトラーであると雄弁に語っていた。
「アドルフ・ヒトラーとは、私のことではない……私だけのことではない!」
「そうだ!私がアドルフ・ヒトラーだ!」
智絵里の背後から声がした。
それは何の変哲もない中年男性だった。
犬の散歩の途中だったのだろう、リードで柴犬を先導していた。
しかし、熱に浮かされたように、彼は叫んでいる。
自分こそがアドルフ・ヒトラーであると。
「誰もが皆!アドルフ・ヒトラーになる!」
「アドルフ・ヒトラーはアドルフ・ヒトラーだけのものではない!」
「当時のドイツという国の熱狂!狂気!それがアドルフ・ヒトラーを構成する!」
「故に!我らはバーサーカー!」
「どこまでも止まれぬ狂化を持ち!再び戦争へと挑む者!」
増える。
バーサーカーの演説が進むに連れて、アドルフ・ヒトラーが増えていく。
夜歩く金髪のヤンキーが、塾帰りの学生が、仕事帰りのサラリーマンが、アドルフ・ヒトラーになっていく。
緒方智絵里は自分のライブを思い出した。
一体感が――あった。
会場全体が一つになったような――究極の一体感が。
つまりあれが――バーサーカーであり、緒方智絵里であると、バーサーカーは言いたいのだろう。
「マインフューラー!聖杯戦争を誰も殺さず!誰にも殺されたくないというのならば!」
「この聖杯戦争が私になればいい!」
「私のように!」
「私のように!」
「私のように!」
「そうだ!上手く行っていたんだ!途中までは!!」
「次は失敗しない!!」
「夢を見よう!終わらない夢を!!」
「シンデレラ!終わらない舞踏会を!」
「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」
「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」
「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」
「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」
「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」「ハイル マイン フューラー!」
公園は狂気に包まれていた。幸せな狂気だった。
「マインフューラー……そう、君はマインフューラーと呼ばれる。緒方智絵里であって、緒方智絵里でない者になる。しかし、アイドルだ。
君がアイドルとなるのならば、あるいは――無血で聖杯戦争を終わらせることが出来るやもしれない」
「君が選択するが良い、流されないように、君自身で」
「殺すか、死ぬか、狂気で満たすか」
「良い選択を期待する」
「私は選択することが出来なかった」
「だから、私はバーサーカーになった」
「君はどうしたい?」
「私は……」
智絵里が言葉を発しようとして、ちょび髭のバーサーカーがそれを止めた。
「私の良心で言っておこう、この空気で発言するべきではない。君はアドルフ・ヒトラーを構成しようとしている。
私は私で動く、私を増やし、この聖杯戦争での勝ち筋を手に入れる。負け戦をするつもりはない。
次に会った時、君の選択を聞こう……それまでは、適当な私の家で休んでいると良い」
選択を決めかねて、
智絵里はちょび髭のバーサーカーと別れて、仮の家へと帰った。
今は未だ、自分の選択で物事を決めることが出来る。
家に帰ると、時計は十二時少し手前を指していた。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
アドルフ・ヒトラー
【出典】
20世紀ドイツ
【性別】
男
【属性】
秩序、中立、混沌、狂・善、中庸、悪、狂
【ステータス】
筋力:E 耐久:EX 敏捷:E 魔力:E 幸運:A 宝具:EX
【クラススキル】
狂化:EX
1+1=3は正解ではない、しかし集団がそれを正解とするのならば、1+1=3になる。
バーサーカーは狂っているのかもしれないし、狂っていないのかもしれない。
ただ、熱狂に陥った集団は濁流のように個人の理性を押し流す。
バーサーカーは会話し、日常生活を送り、家族を愛し、趣味を楽しみ、しかし判定不可能な狂気を抱えている。
【保有スキル】
カリスマ:EX
大軍団を指揮・統率する才能。
カール・グスタフ・ユングは「ヒトラーの力は政治的なものではなく、魔術である」と語っている。
バーサーカー達は一個の生物のように完全に統率され、決して裏切らず、しかし――どこへ進むかはわからない。
精神汚染:EX
同ランクの精神汚染が無い人物とも意思疎通は成立する。
言葉を交わし、笑い合い、愛しあうことも出来る。
しかし、それは個人単位の話だ。集団はどこまでも残酷になれる。
"敵"の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトし、"敵"との意思疎通を拒絶する。
煽動:A
声の調子、抑揚、リズム、身振り、手振り、そのカリスマと併せて、
例え地獄であろうとも、集団を煽動し、先導する才能。
【宝具】
【行こう地獄であろうとも、我々は 大勢であるが故に(ラスト・バタリオン)】
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:∞ 最大補足:∞
バーサーカーの本質とは、すなわち集団の熱狂であり、バーサーカーとは、アドルフ・ヒトラーのことであり、アドルフ・ヒトラーのシンパのことを指す。
カリスマ、煽動スキルによって、アドルフ・ヒトラーのシンパとなった者をバーサーカーと定義し、バーサーカーの一部として取り込む。
人間が集団意思に流される限り無限に増殖し続ける最悪の侵食宝具。
バーサーカーの一部となった者は、基本的に以前と同じ生活を過ごしながら、聖杯戦争の中で勝利するためならば如何なる行動も行う。
また、オリジナルのバーサーカー(アドルフ・ヒトラー)が死んだ場合は集団の中から、新たなアドルフ・ヒトラーが出現するため、バーサーカーは無限に再生する。
そのため、バーサーカーを殺そうとするのならば、マスターを狙うか、新たなアドルフ・ヒトラーの再生に伴う魔力消費によって、マスターの魔力を枯渇させるしか無い。
本人がそう望むために、新たなるバーサーカーを取り込む分には魔力消費は発生しない。
【weapon】
なし
【人物背景】
世界で最も有名な独裁者――であるが、バーサーカーとして召喚された彼は、集団の狂気の象徴に過ぎない。
歴史にIFは無いだろうが、もしも彼がいなかったとしても彼のような存在は求められ、そして彼のような存在は現れていただろう。
【特徴】
ちょび髭。
【聖杯にかける願い】
?
【マスター名】
緒方智絵里
【出典】
アイドルマスターシンデレラガールズ
【性別】
女
【Weapon】
なし
【能力・技能】
『アイドル』
集団を魅了する。
【人物背景】
アイドルマスターシンデレラガールズに登場する天使。
人間だけど天使。そういう感じ。
【聖杯にかける願い】
帰りたい
投下終了します。
お借りさせていただきます。
「チクショウ・・・・」
冬木市――その郊外の森の中、ぼろぼろの服を着た一人の男が歩いていた。
ハァハァと荒い息を吐き、片方の腕をかばいながらふらふらと歩く浮浪者にも見えるその男。
しかしその目には常に漆黒の殺意が――憎むべき怨敵を倒すという揺るぎない意思が燃えている。
彼の名は宮本明。
その強靭な精神、全力を出し続けたことで鍛えられた肉体、
なによりその場にあるものを使って戦闘を組み立てる類まれなる想像力によって、
吸血鬼だらけの島――彼岸島を生き延びた、恐るべき執念の復讐者である。
「いったい何だってんだ・・・」
彼岸島での戦いは最終的には敗北で終わった。
それでも一命をとりとめた明は、本土へと侵攻を進めた吸血鬼を、怨敵・雅を殺すために、本土へと向かった。
だが本土の吸血鬼もまた進化しており、明は苦戦を強いられ――そのとき目の前がちかりと光った、
思わず目を瞑り、そして開けた。気が付くと明は、見知らぬ森の中にいた。
次いで流れ込んできたのはまるでテレパシーでも受けたかのような情報の濁流だった――聖杯戦争。
吸血鬼や邪鬼との戦いとはまた違った、願いを叶える願望器、聖杯を奪い合う醜い争い。そんなものにどうやら明は引き寄せられてしまったらしい。
手の甲を見れば三角の令呪がこれみよがしに刻まれていた。
「・・何だってんだッ!」
語気を荒げて近くの木を乱暴に叩く。ガシンと音がして木がぐらつき、木の葉が舞った。明はイラついていた。
聖杯。あらゆる願いを叶える願望器。いかなる手段を用いても吸血鬼を駆逐したい明にとって、決して欲しくないアイテムではない。
だが、その先にあるのは魔法のアイテムに頼った勝利なのだ。
いくら何を使っても倒したい相手とはいえ、それで今まで死んでいった仲間たちが、兄が、友が、師が報われるのか。
それに手に入れるための手段もあまりよろしくなかった。主従を使っての血みどろの殺し合い。悪趣味だ。鬼たちとなんら変わりない。
そしてなにより許せないのは――明がこの戦いに呼ばれてしまったという、その事実だった。
「聖杯・・・・なんでも叶えられる・・・・そんなの・・・・・ちくしょう、何だってんだ!
つまり・・・・・それほどに俺が、願ってると、【叶わないと思いながら願ってる】と、そう言いたいわけだろ・・・・・・!
いっぱい殺されて、みんな変えられて・・・それでも戦って、敗けて・・・・・・ハァ・・・・それでも雅を殺そうと戦うのは、
諦めてないからではなく、もう退こうにも退けないからだと・・・・俺を笑ってやがるのか!」
焦っていなかったとは言えない。
一度敗け、本土への上陸を許した、その結果日本中を大惨事にしてしまった、負い目がひとかけらもなかったといえば嘘になる。
だがそれゆえにあえて気丈に、殺意だけを研ぎ澄ますようにしていた。敗けなど考えず。ただ勝ちだけにこだわり、貫く。
今度こそ雅の心臓に杭を突き立て終わらせるために、悪い想像をしないように心を律してきていたつもりだった。
それでも明は人間。鬼ではない。
強敵との闘い、劣勢からの焦燥、心臓が早鐘を打つ中で「やはりだめなのか」「魔法のアイテムでもあれば」、そう思うことがなくはない。
なくはない。いや、顔にこそ出さないようにしていたが、ままある。
だから――魔法のアイテムに引き寄せられた。
とでもいうのか。
お前には無理だ、でもここにワンチャンあるから頑張れよ、とでもいうのか。
ムカついた。
だが。否定を完全には、できない。
心中、否定材料を並べながらも、蜘蛛の糸に、すがりたいと思ってしまう気持ちが、ゼロではない。
そんな自分の弱さが明は許せなかった。人間であるが故の弱さが、聖杯戦争というシステムに見抜かれたのであれば、明は――。
「俺は――」
「まあ落ち着け」
その時、背後から声がした。
慌てて振り向くとそこには。
「・・・!?」
「やっと気づいたか。待ちくたびれて寝るところだったぞ」
∧,,∧
ミ,,゚Д゚彡
(ミ ミ)
ミ ミ
_人∪ ∪ _人_人_
( = ≡ = ≡ = ≡ = )
 ̄Y ̄ ̄Y ̄ ̄Y ̄ ̄
トゲトゲした丸太のようなものに乗った、フサフサしたなにかがいた。
「・・・・??」
「というか寝るわ」
∧,,∧
ミ,,゚Д゚彡,,,,,,
_人 ∩,,,,,,,人,,,,,⊃⊃_
( = ≡ = ≡ = ≡ = )
 ̄Y ̄ ̄Y ̄ ̄Y ̄ ̄
そして寝た。
∧,,∧
ミ,,゚Д゚彡,,,,,, <イテェ…
_人 ∩,,,,,,,人,,,,,⊃⊃_
( = ≡ = ≡ = ≡ = )
 ̄Y ̄ ̄Y ̄ ̄Y ̄ ̄
どうやら痛いらしい。
「ちょっと待て・・・・・・なんだお前は」
明は数秒固まった後、ようやく言葉を絞り出した。あまりの唐突さに先ほどまでの空気が霧散していた。
想像を超えた異常事態に自らの脳が作り出した幻覚だろうか?
いや違う。現実である。
ほほをつねらずとも目の前のそいつの発する人理外の圧力がそれを語っている。
こいつは、人間ではない。いや見た目がもう人間ではないが、それ以上に。何か別のものだ。
猫のような雰囲気の、その二足歩行の獣のような、でも人の言葉を喋っているそいつは、
体にその棘木の痛みを刺しながらも動じず、揺らがず、淡々と。狼狽えた明の目をじっと見据えてこう言った。
「復讐者(アヴェンジャー)」
復讐者。と。その一言だけを。
自らに言い聞かせるような、低い声で奏でた。
「俺はアヴェンジャー。お前さんの、サーヴァント。お前さんの、しもべ。そして。お前さん(復讐者)の、同士だよ」
*+*+*+*+*+*+*+*+*
頭に流れ込んできた情報が、サーヴァントについての知識を明の脳内に流し込んだ。
あるいは英雄。あるいは反英雄。聖杯によって座から呼び出され、参加者の駒となる七種あるいは例外種に属する、英霊。
そしてアヴェンジャーという種類のサーヴァントは、例外の霊。であるらしい。
なるほど、歴史上の有名な人物ともなれば、この見た目にそぐわぬ風格もありうる話か、と明は妙に納得した。
(といっても人物には見えないが、アヴェンジャーは「この姿は本気出してないだけだから」と言った。本気を出すと8等身になるらしいが本当だろうか?)
ともあれ数奇な出会いであり、一人と一の霊は森の中でたき火を囲むことにした。
辺りは気が付くと夜。
どこからかアヴェンジャーは薪を取り出すと、ぱちんと指を鳴らした。ごうと深い紅の炎が辺りを怪しく照らした。
そしてフサフサしたそのアヴェンジャーは第一声、「父を殺されたんだよな」と言った。
「父を・・・殺された」
「ああ。まあ――だからこその復讐者(アヴェンジャー)のクラスなんだ、俺は。
言うて乱世も乱世、戦国の世だった。父上も天下取る気満々だったが、そう上手くは行かなかった。
死ぬ直前に父上は俺に言った。必ず俺を殺したやつを殺せ。俺を殺した国を滅ぼせ。俺の恨みを晴らせー、と」
「ずいぶん身勝手だな」
「王なんて身勝手なもんさ。俺らの時代じゃ、戦を動かしてたのは軍師とかの頭がいいやつらだ。
そんでもって戦うのは兵、それと力のある武将。王は城でふんぞり返るのが仕事で、ぶっちゃけ愚王が大半だ。
俺もまあ、復讐には成功したっちゃあしたんだが、そのあとは美女やプレゼントに目がくらんですっかり愚王になってたよ」
どこかつまらなそうに、そして申し訳なさそうにそう言うと。
「そんで、復讐の連鎖に巻き込まれて死んだのさ」と、アヴェンジャーはいやにあっけらかんとした様子で続けた。
「俺の父を殺したやつを倒して、臣下にして、服従させたと思ったんだがな。やつは虎視眈々と、俺を殺す機会を待ってたわけだ。
俺は想像力が足りなかったんだ。復讐をすれば、今度は復讐をされる側に回るなんて、あまりに簡単なことが思いつかなかった」
「・・・・」
その言葉は明の心にちくちくと影を落とした。
復讐。
確かに、ここに来る前に明がしようとしていたことは、憎き吸血鬼の親玉・雅への復讐である。
その一つの目標のために修羅となり、あらゆる障害を薙ぎ払って進んでいた。
悲しくも敵に回った友人や、かつての恋慕の相手すら。
だが、その果てに何があるのかは、あまり考えたことがなかった。
仮に、雅にたどり着き――みんなの仇を取ったとして。そのあと宮本明はどうなるのか。
明が殺してきた邪鬼や吸血鬼、亡者だってもともとは人間だ。家族だっている。
そうなってしまったらもう助からないとはいえ、そういうものたちを殺している。明もまた、恨まれるのだろうか。
復讐の連鎖。
「ああ、お前さんはそんなに思い悩むことはない」
思考の隘路に迷い込みかけた明は、アヴェンジャーの声に引き戻された。
「お前さんは俺と違って想像力があるし、頭もいいんだろ。俺よかずっと、うまくやれるだろうさ。
なんとなく分かるよ、反応が頭のいいやつのそれだからな。一回死んで英霊にでもなれば、どんなアホでも人を見る目くらいは育つ。
俺は別に、お前さんの復讐が悪いものだとか、そういうことを言いたいんじゃない。それ言ったら俺だって復讐者なわけだし。
言いたいのはなんというか――まあ、そう、落ち着けってこった。周りをもっと、よく見ろってこと」
「周りを見ろ? ただの森だぞ」
「そうじゃなくて。俺が後ろにいるのに気づかなかったろ。お前さん、一人でいろいろと考えすぎてんだよ」
「・・・・・・そうか」
「そうだ」
フサフサとした毛をたき火の炎の明滅に揺らしながら、アヴェンジャーは明の反応にうなずいた。
その炎は、明の目の奥の炎と同じ色だった。明は思った。復讐の色だ。そう、同士の色だ。
つまりこういうことだ。餅は餅屋。復讐のことなら、復讐者に聞け。
「お前がしもべとして現れたんだから・・・・・お前を使えと、お前は言ってるのか、アヴェンジャー」
「その通りだ。さすがだな」
「じゃあ俺は何をすればいい」
「・・・決断も早い。いいぞ」
アヴェンジャーはにこりと笑って、明に告げた。
「率直に言おう。この戦いには、乗るのが正解だ。お前は聖杯を取りにいくべきだ、マスター」
と。
「・・・・・なぜだ」
「チャンスだからだよ」
「チャンス・・・・だと」
「天の与うるところを取らざれば、必ずや禍を受ける。俺の優秀な家臣が、俺に言った言葉だ。与えたチャンスに乗らないほうが、かえって災いを受ける。
お前さんは、聖杯なんかに復讐の完遂を願おうなんて思わない性分だろ? 自分の力でやりたいんだろう。それは痛くわかる。俺もだから。
だから俺もお前さんに、聖杯に復讐を願えとは言わん。だが、だからといって【聖杯を狙わない】ことを選ぶのは愚だ。
せっかくこうして聖杯に手が届くチャンスがあるんだから、掴みにいかない手はない。別に、聖杯には復讐とは別のことを願えばいいんだ」
「別の・・・・・こと・・・・・・」
「何かあるだろ。女が欲しいとか、金が欲しいとか」
ユキ。女という言葉に明はふと、好きだった女性の姿を思い浮かべた。
確かにユキはもう別の男の彼氏だったから、聖杯にでも願わなければ、明が手にすることは難しかっただろう。
だがそれも平和なころの話だ。もはやユキは邪鬼となってしまい、明はそれを殺した。今となってはもう、その事実が全てだ。
吸血鬼の楽園となってしまった日本では金すらも不要だ。もはや何もかも、元に戻すことは出来ない。だからこそ明は、復讐のみを目的としているのだ。
「・・・いや、待て」
そこまで考えたところで、頭の中にインプットされた聖杯の効能をもう一度思い出す。
願いを叶える万能の願望器。万能ってことはなんでもできるってことだ。おう、なんでもできるって言ったよな?
だったら、取り返しのつかないことを、取り返すことだって、できるってことなのか。
「そうか・・・そうだな」
「あったか?」
「ああ。あった。夢みたいな願いだが、願っていいんなら、なにより願ってやりてぇことが。だが」
今度は明の方からアヴェンジャーの目をしっかりと見て、言う。
「【戦う気のあるやつ】ばかりが集まってるなら、俺も戦うのに異論はない。
だが俺と同じように巻き込まれて、そんなの要らないから帰りたいと願うやつがいるなら。
俺はそいつを無理やり殺してまで俺の願いを叶えようとは思わない。まずはそいつを、帰す方法を探す」
「・・・・まったく、聖人君子か、お前さんは」
「やりたいことをやるだけだ」
「やりたいことをやるだけか。ん、まーそれが一番だわな」
そう言って、またアヴェンジャーは寝転がった。
どう考えても寝心地の悪そうなトゲトゲだらけの丸太の上に。
∧,,∧
ミ,,゚Д゚彡,,,,,,
_人 ∩,,,,,,,人,,,,,⊃⊃_
( = ≡ = ≡ = ≡ = )
 ̄Y ̄ ̄Y ̄ ̄Y ̄ ̄
「ま、方針も決まったことだ。今日は遅いし寝ようぜ。
お前もこれ要るか? 慣れるとツボとかが押されていいぞ」
「遠慮しておく。というかその丸太はなんなんだ」
「いや、宝具だよ」
「?」
耳慣れない言葉に目をぱちくりさせる明。
すぐさま情報が流れ込む。なるほど宝具、英雄の武器か。って、宝具って、丸太が?
「このでっかい薪(たきぎ)が俺の宝具だよ、マスター。というか、マスター、お前さんがこれ振るって戦うんだぞ」
「・・・なに?」
「先に言っとくが、お前さんは魔力がなさすぎる。俺はぜんぜん力が出ねえ。現界するのでせいいっぱいだ。
まあ無理矢理俺が戦ってもいいけど、さっきも言ったが俺は城でふんぞり返るのがメインだったからぶっちゃけそんなに強くない。
お前さん、見た感じ生身でけっこうな修羅場をくぐってんだろう? だったらお前さんが戦った方が間違いなく強いよ」
「な・・・・・いや、そういうことなら構わないが、丸太で勝てるのか・・・? その、サーヴァントに」
「丸太じゃなくて薪(たきぎ)だっての」
アイタタ、と叫びながら、アヴェンジャーはでかいため息をついて、言った。
「ただの薪じゃないぞ。俺はな、復讐の心を忘れないために、毎日この薪に寝続けていたんだ・・・俺の復讐心の全てが籠った薪だよ。
この意思は折れず、砕けず、曲がらない。燃やせばすべてを燃やし尽くす魔の炎を出す。信頼していい、素材だぜ」
故事成語の一つ。誰でも耳にしたことのある四字熟語の、その片割れの元となった、宝具。
苦難せよ。苦心せよ。その先に望みを叶えることが出来るなら、苦しみ痛みこそが願いを風化させないための願掛けだ。
人の外の者たちと戦う救世の復讐者のもとへ、かくしてその丸太は届けられた。
宮本明――――宝具≪黒の臥薪≫にて、その一念を完遂せよ。
【クラス】アヴェンジャー
【真名】夫差(ふさ)
【出典】中国春秋時代
【性別】男
【属性】中立・中庸
【ステータス】
筋力D 耐久E 敏捷D 魔力E 幸運D 宝具D
【クラススキル】
復讐者:D
戦国の世では周りは敵ばかり。アヴェンジャー自身の最も重要な復讐対象は特定の人物と特定の国のみだが、
アヴェンジャーに害意を与えた者は例外なく復讐対象とみなされ、被攻撃時に魔力が高まる。
忘却補正:A+
勝った相手のことはすぐ忘れていてもおかしくないが、負けた相手のことはいつまでも覚えている。
一度攻撃を受けた相手に対する攻撃の精度が著しく上昇する。
自己回復(魔力):C
薪の上で寝ている間、自己回復し続ける。魔力に乏しいマスターでも現界を維持できる。
【保有スキル】
カリスマ:B
軍団を指揮する能力。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。アヴェンジャーは亡国の最後の王である。
睡眠:A+
どんな悪条件でも寝ることができる。いったん寝るとあらゆるステータス異常が解消され体力が回復するが、少しの間何をしても起きない。
不屈の意志:A
アヴェンジャーの意思を貫く強さは狂気に片足を踏み入れている。致命傷を受けても、一度だけ復活する。
盛者必衰:A
驕れる覇王の滅びの末路。アヴェンジャーだが、アヴェンジャーに強く、アヴェンジャーに弱い。
【宝具】
『黒の臥薪』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~25 最大補足:1~20
「あったよ薪が!」「でかした!」「みんな薪は持ったな!寝るぞ!いや戦うぞ!」
高級な材木「黒壇」で作られた、トゲ付きの見るからに痛そうな薪。大きさ、長さなどをある程度自由に可変して最大20本まで生成することができる。
アヴェンジャーの復讐心の全てがこの薪に詰まっており、薪を破壊することはできない。
火を受けると燃えはじめて次第に朽ちるが、これは復讐の炎であり、燃やしたいものを燃やしつくすまで火が消えない。
【weapon】
夫差の矛:自害するときに使った矛。
【人物背景】
「臥薪嘗胆」の「臥薪」部分担当の人。春秋五覇の一人に数えられる、呉の最後の王。
越王勾践によって討たれた父・闔閭の仇を討つため、有能な側近・伍子胥の尽力を得て国力を充実させ、一時は覇者となったが、
「嘗胆」部分担当の勾践の陰湿かつ巧みな反撃により敗北し、最後は自決した。
【特徴】
フサフサの獣っぽい簡略姿で宝具の上に寝ている。本気を出すと8等身になるらしい。
∧,,∧
ミ,,゚Д゚彡,,,,,,
_人 ∩,,,,,,,人,,,,,⊃⊃_
( = ≡ = ≡ = ≡ = )
 ̄Y ̄ ̄Y ̄ ̄Y ̄ ̄
【マスター】
宮本明@彼岸島 48日後...
【能力・技能】
超人に足を踏み入れている恐るべき身体能力、また、窮地から驚きの手段で逆転する発想力。
右手は義手で、仕込み刀になっている。
【人物背景】
『彼岸島』の主人公。将来の夢は小説家。
普通の高校生だったが、行方不明の兄を探し彼岸島へ乗り込み、吸血鬼と対峙、吸血鬼との戦いに巻き込まれる。
友人の死を乗り越え8ヶ月もの修行に励み、なんか顔つきとかも変わった。宿敵の雅と互角以上の戦いを見せる様になって行く。
『彼岸島 48日後...』では日本中が吸血鬼に襲われてしまい日本が世紀末状態だが、明さんはやっぱり強いし、雅への復讐を誓っている。
【マスターとしての願い】
吸血鬼にされた人々を元に戻す。
巻き込まれてしまった戦いたくない人がいたら出来る限り助ける。
投下終了です
すみません。>>69 の彦斎の性別を
男性から女性に修正させていただきます
質問です。
>しかし、『原作ではランサーだったが、このエピソードや武器からライダーの適性もあると思われる』と言う風に、Fate出典のサーヴァントでも、原作とは別クラスでの参戦であれば認めます。
この場合の設定などは、Fate出典のサーヴァントを下地にしていても問題ありませんか?
>>91
問題ありません
こっちではマスターでの参戦かと思ったら結局本人が戦うのねw
質問です
ナーサリーライムやジャック・ザ・リッパーのような特定の人物を指さない英霊に理由を付けて召喚するのは可能でしょうか
>>94
全然オーケーですよ、そっちの方が面白そうですし
投下させていただきます
無垢の蛹を脱ぎ捨てて、少女は地獄へ堕ちた。
ただ、最期の瞬間だとしても。
この胎内にある生命だけが、地獄の中でも救いであることを信じて。
◆
「――――!!!」
声にならぬ叫びを上げながら、吉田咲は汚れきった公衆便所の床を転げまわっていた。
顔は視る影もなく泣きじゃくり、身体はかつての白い肌を全く連想させない汚れたものとなっていた。
閏をともにした男達を絶賛させた曲線美は既に無く、膨れた腹は咲の身体にある生命が一つではないことを雄弁に物語る。
本来、幸福の形であるその腹部とは反対に、咲の全ては不幸に満ち溢れていた。
ただ、彼女は変わりたかっただけだった。
変わって、変わることで、幸福を手に入れたいだけだった。
男に遊ばれた。
女に捨てられた。
父に襲われた。
母に罵倒された。
社会に餌にされた。
その末路が、同じく社会に弾き飛ばされた者達からの蹂躙だった。
「ぁあぁ……!……ぁ……!」
唇が開き、乾いた口内からそれでも唾液が出る。
腕を掻きむしる。
衝動。
薬物への依存を表していた。
おおよそ、堕落という全てが咲の体と魂に宿っていた。
つまり、彼女は変身をしたつもりが堕落という坂を転がっていっただけだったのだ。
「ぅ…ぅぅうう……!」
床に堕ちた、割れた眼鏡を拾う。
眼鏡をかけ、咲は這いよるような動きで立ち上がり、鏡を見た。
かつて、自身の外観に興味を持たなかった頃の姿を思い出す。
メガネを掛け、髪をきつく三つ編みに結い、ぶかりとした服を纏っていたあの頃。
咲の今の姿は、眼鏡をかけてもあの頃とは余りにも違いすぎるものだった。
長い髪は脱色し傷んでいる、あんなに綺麗な黒髪だったのに。
服はぴっちりとした、露出の多すぎる、淫靡な格好。
こんな形になりたかったのではない。
ただ、ただ。
幸福になりたかっただけなのに。
体が震える。
心への負荷と、体の薬物への訴え。
その二つが、彼女という存在を限界へと追い込む。
やっと、地獄が終わる。
そう思えば、咲は楽なのかもしれない。
それでも違った。
咲が思ったのは、中学校の卒業式のあの日と同じこと。
変わりたい。
幸福になりたい。
その想いに、何かが答えた。
腹部に一つの紋章が走った。
――――訊くよ、貴方が生きたいを願ったヤツ?
消えいく意識に響いた、その問に。
腹部を撫でながら、咲は小さく頷いた。
◆
セックス、ドラッグ、暴力。
求めていたものはそんなものではない。
だのに、咲に与えられたものはそんなものだった。
そんなもののために、咲はあの日泣いたのではない。
幸福になりたい。
遍く生命が思うように、咲は、あの日そう思ったのだ。
ただ、少しだけ疑問がある。
――――自分は他者を不幸にしてでも幸福が欲しいのだろうか。
◆
「いただきます」
結論として言ってしまえば、咲は死ななかった。
ただ、咲の中の生命の一つは消えた。
あれだけ膨れ上がった腹部はすでにキュッとくびれていた。
生命を引き換えに、咲は奇跡を呼んだ。
この世ならざる、人の世に刻まれた英霊を呼んだのだ。
「アンタ、馬鹿ね」
手を合わせて、コンビニエンスストアで購入した弁当に箸をつける咲を罵倒する少女。
黒い髪をボブカットに揃え、病気めいた白い肌の少女。
釣り目がちな瞳は強い意志を感じさせるが、顔つき自体はハイティーンの咲よりも幾分幼い。
大人びた雰囲気の女子小学生といった様子だ。
「食べる?」
「だから、触らないでって」
少し鼻にかかった高い声で、小生意気な口調で語りかける少女。
無地の白いシャツと赤い膝丈のスカートは余りにも野暮ったいが、どこか儚い美しさを持つ少女。
この世あらざる、触れてはいけないような寒々しい美しさだ。
そう、この世あらざるもの。
「触ったら死ぬんだから、何度言っても分かんないの?」
少女は、正しくこの世にあってはならない存在だった。
「アタシはね、そういう生命なの。
そういう死ってやつを引き受けるヤツなの」
『女子トイレの三番目の扉』から召喚された反英霊。
人々の噂から生まれ、人々の信仰を背景とし、人々の穢れを引き受けた真実を持つ少女。
咲の生命を救い、咲の中の生命を奪った存在。
トイレの花子さんと呼ばれる少女は、吉田咲という少女を主として選んだのだ。
「花子ちゃんは食べなくても良い?」
「花でも食べてるよ」
洒落なのか、真実なのか。
判断がつかずに、困ったような顔をつくる咲。
花子さんは余り動かない表情筋を、やはり動かさず。
唇だけを動かした。
「ちゃんと、咲が食べなきゃ。
子供のためってのは、そういうことなんだよ」
二人でベンチに腰掛け、夜空を眺めた。
曇天の夜空に星など無く、肌を刺すような寒さを連想させる暗さだけがある。
それでも、寒さはなかった。
花子さんの持つ呪による術だった。
花子さんが落ち葉へと触れた。
カラカラと枯れ果てていた葉っぱが、その残りカスのような生命すらも失い。
灰のように崩れ落ちた。
まるで私のようだと、口にこそ出さなかった咲は思った。
◆
「駄目だよ、おっさん」
ある日の事だった。
咲は『売り』を続けていた。
それ以外に貨幣を稼ぐ術など知らなかったからだ。
また、咲が欲する『クスリ』のためには売りのような術が必要だった。
ただ、今回は余りにも相手が悪かった。
咲を唆して純度の高い『クスリ』を打ち。
強烈な『キメセク』へと導いた。
最初に規定した時間を三時間も上回るその行為によって、咲は蛙のように裏返り手足を震わせる。
秀麗なその顔は目が裏返り、限界まで舌を伸ばすことで見るも無残なものとなっている。
男は、美しい女の無様な姿が好きだった。
そのために金を手に入れたと言っても不思議ではない。
「咲はあんまり頑丈じゃないんだ、こんな無茶なことされちゃ」
咲の選択と考え、気配を遮断したまま口は出さなかった。
咲は自身をトイレの花子さんと知っても、それを利用しての金儲けを目論まなかった。
単純にその発想がなかっただけなのかもしれないが、花子さんとしてもわざわざ提案する必要もなかった。
ただ、それでも我慢できないものもある。
いつも動かない表情筋は、ピクピクと動き、怒りの表情を抑えようとしていることを訴えてきた。
「ブヒヒ!
わからんのかね、この女の人権は私が買い取ったのだよ!」
そんな花子さんの言葉に、咲を買った男は開き直るように言い放った。
突然現れた花子さんのことを不思議に思わない。
ただ、売りの仲間なのだろうとしか考えなかった。
ピクリと、抑えきれないように表情筋が動いた。
それでも身体は動かさずに唇だけを動かす。
「咲の生命は咲のものだ」
「知らんなぁ〜!生命に値段はつけられんが、この身体には値段がつけられるのだよ!
このまま帰らずに、余りある金を置いてやるだけで私は稀に見る善人だよ!」
「アンタが善人ならアタシは神様みたいなもん――――って、それじゃアンタが善人になっちまう」
もはや、我慢がならなかった。
花子さんはゆっくりと手を伸ばした。
このまま邪気を放つことでも呪うことは出来るが、それでは我慢できなかった。
死というものを。
本来、身近に存在するそれを遠いものだと信じきっている男に与えるために。
その小さな腕を伸ばして、短い指で男の唇に触れた。
「ブヒヒ……その歳で淫売とはな」
それが最後の言葉だった。
男の唇を分け入るように指を口内へと突っ込み、舌を優しくなでた。
瞬間、男の中のあらゆるものが動きを止めた。
それは内臓の動きであり、血の流動であり、魂という輝きだった。
あらゆるものが動くことが産まれるということならば。
あらゆるものが止まることが死ぬということだ。
男は死んだ。
呆気無く、呆気無く。
本来あるべき、死を間近に思わなかった男は。
死そのものである花子さんに、赤子のために死を引き受け溜め込んだ花子さんに。
死を与えられたのだ。
花子さんは一瞥もせずに、その肉という肉を殺した。
まるで、最初から何も存在しなかったように、男の肉体は喪失した。
残るのは、無様にベッドで転がる咲だけだった。
「アタシはアンタが好きだよ」
百人が見れば百人が顔を背けるその様を、花子さんは愛おしげに眺めた。
「慌てたような顔でトイレや病院に駆け込むようなヤツよりも。
アンタみたいな、泣きながらお腹をさすっているようなヤツのほうがずっと好き」
指を伸ばしかけ、引っ込める。
自身が触れれば、咲は死ぬだろう。
「男に遊ばれて、女に罵倒されて。
男に打ち捨てられて、女に見捨てられて。
それでも、その原因となるはずの生命を産みたいと思ってくれたなら」
くるりと振り返り、飾られた花を触る。
「アタシはアンタの味方。
アンタはアタシに触れられないけど、アタシはアンタを守るよ」
花が萎れた。
花子さんの傍で生きる生命はない。
そういうものなのだ。
国を作るために、赤子は穢れを引き受けて、世界の外へと流されなければいけなかった。
海の外にあるとされる死後の世界へと流れ着いて、現し世の穢れを運ばなければいけなかった。
今は自由自在だ。
死後の世界である『幽世』の扉を開くことで、この街の全てを死へと染め上げることが出来る。
トイレの花子さんという都市伝説の皮を被って現れた神霊が持つ権能ならば、其れが可能なのだ。
「例え世界を殺してでも、アンタの『穢れ/全て』を持っていくよ」
死の権能を、花子さんが振るうことは躊躇いはなかった。
花子さんにとって、母の愛は、親の愛は。
不幸の底に居ても、死の間際に居ても。
子を撫でようとした咲のような存在は。
――――たった其れだけで、救いなのだから。
.
【クラス】
アサシン
【真名】
トイレの花子さん@都市伝説、古事記
【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:EX 幸運:E 宝具:EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:B
自身の気配を消す能力。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
神性:A
トイレの花子さんは、民間信仰における『トイレの神様』に由来する。
花子さんが女性なのは安産祈願のトイレの女神様に由来し、名前はトイレに備えられた造花に由来する。
また、安産であり死を代行する性質から、日本神話におけるある神とも同一とされる。
その神の概念こそが、花子さんの宝具である。
変化:A+
借体形成とも。
ある逸話から、花子さんは三つの頭を持つ体長三メートルの大トカゲへと変身することが出来る。
ただし、この逸話をスキルとして昇華されているために、あらゆる逸話による弱点も花子さんは持つこととなっている。
呪術:D
花子さんが持つ、あるいは負わされた邪念や死を、対象へとぶつける術。
その起源から人身御供の生贄としての一面を持つ花子さんは、多くの死を内包している。
【宝具】
『原初に罪ありき、漂浪する葦の逆子(ヒルコ)』
ランク:EX 種別:対命宝具 レンジ:1-10 最大捕捉:1人
トイレの花子さんの真の正体。
この国において、初めに流された赤子であるヒルコ神そのもの。
原初の時代において海の外とは単なる国外という意味ではなく、死後の世界という意味を持っていた。
川を流され、海にたどり着き、それでも漂流し続けたヒルコ神は死後の世界へと辿り着いた。
ヒルコ神はすでにこの世の存在ではなく、その身全てが『死』そのものである。
ヒルコ神に振れることはこの世における生命をあの世へと運ばれることを意味する。
故にヒルコ神、花子さんへと触れたものは死が瞬時に訪れ、また、死後の世界への門を開く事もできる。
【weapon】
死
【人物背景】
トイレの花子さん。
1950年代に流布された『三番目の花子さん』という都市伝説がベースとなり、1980年代に流布された『トイレの花子さん』その人。
「休日の学校に遊びに来ていた少女が変質者に追われ、トイレの3番目の個室に隠れたが見つかって殺害された」
「生前、父親から虐待を受けていた少女の霊で、おかっぱ頭はその時の傷を隠すため」
「福島県の図書館の窓から落ちて死んだ少女の霊」
など様々な説がある。
弱点や特徴なども全国で差異があり、トイレの花子さんとして召喚された花子さんはその全ての特徴として内包している。
今回の花子さんの背景として、江戸時代から昭和初期にかけて盛んだった厠神信仰が元となっている。
すなわち、名前の『花子』はお供え物の花が原型。
少女であるのは妊婦たちの神であるため。
という、『皮』を持っている。
背景である厠神の共通点を『皮』として。
神々に捨てられた『水子』であり『神霊』である『ヒルコ神』が現界した。
【サーヴァントとしての願い】
赤子に祝福を、愛する母に幸福を。
【マスター】
吉田咲@変身
【参加方法】
公園の公衆便所にて輪姦されていた際、胎内の赤子を代償に召喚の儀式を成功させる。
【マスターとしての願い】
不明
【weapon】
なし
【能力・技能】
非常に整った顔立ちをした、しかしそれだけの平凡な少女。
生来からの資質として、性欲に溺れやすい。
いわゆる淫乱。
その性質がドラッグによって増加されている。
キメセク中毒。
【人物背景】
平凡な女子高生。
中学時代の三年間、一人も友人が出来ないまま卒業を迎えたことを期にイメージチェンジ。
野暮ったい服装や髪型を大幅に変え、見事に高校デビューを成功させる。
しかし、その後に初めてのナンパに浮かれて『お持ち帰り』をされ、一方的にナンパ男を彼氏と信じこむ。
また、友人に唆されて援助交際にも手を出し、悪い道へと染まっていく。
そんななか、家庭においても、母の面影を見た父に襲われ、母からは父を誘ったと罵倒され家出。
ナンパ男の元へと逃げ込むが、ナンパ男にクスリを勧められ、手を出し、そのクスリのために『売り』を強要される。
やがて誰の子ともわからぬ子を妊娠し、男に捨てられる。
最後はトイレの公園で輪姦され――――
投下終了です
投下します。
人気のない、薄暗いビルの中。
齢50に近い男が広げた地図に目を凝らしている。
軽装の鎧に身を包み、右目を眼帯で隠した猛禽のような中年男性は足音を聞きつけると、そちらに意識を向けた。
まもなく、若い女性が彼のいる部屋に入ってきた。
長髪を水色のリボンで括り、白のシャツに緑のキャミソールを重ねた装いは如何にも活動的である。
彼女は男の側に寄ると、青のジーンズを折り曲げて腰を下ろした。
「追手は」
男が尋ねると、女性――藤堂晴香は素っ気なく否定した。
「本当か?お前は素直というか、脇が甘い所があるからなぁ…」
「やめてよ…。それは痛いくらいにわかってるから…」
男はくつくつと喉を鳴らすと、二度三度頷いた。
晴香は愉快そうに笑う男――契約したアーチャーから目をそらすと溜息をつく。
彼女は冬木に招かれる以前、所属していた組織を裏切り、抜け出す事に成功した。
しかし、そこに到るまでが困難を極めた。
なにせ逆心が上にも横にも筒抜けだったおかげで、最後の任務で訪れた島では何度となく死にかけた。
皆の助けもあって無事に生還することはできたが…、
(…聖杯戦争)
彼女の細い首には今、新しい運命の輪が掛けられている。
何物にも縛られない"藤堂晴香"としての一歩目は、まだ踏み出せそうもない。
「それらしい噂や事故の話は聞かなかった。まだサーヴァントは出揃ってないみたい」
「…そうか。まぁ、今は情報を集める段階だ。招かれて早々、戦いに出る主従はいないと信じたいな」
頭を一度振って気分を入れ替えた晴香は息を吐くと、探索の結果を報告する。
それはアーチャーの予想を超えたものではなかったらしい。彼は報告を聞いても感情を表すことなく、「陣地の形成が終わった」と事務的に告げた。
ここは晴香の自宅からそこそこ距離のある場所に立つ廃ビルだ。
晴香は身近な場所を戦場に変えたくないという思いから、アーチャーは使い魔や気配探知によって拠点の位置を悟られるという懸念から、この場所に陣を張った。
離れているとはいっても、晴香が本気を出せば10分もかからない。
「郊外の森に向かうぞ」
「まだ作る気?」
時刻は午後4時を回っている。
「当然。陣地作成のランクは低くないが、籠城するには心許ない。数が欲しい」
アーチャーは魔術師ではないが、生前の逸話から陣地作成スキルを取得している。
しかし、神秘には主従共々縁が無い。暗示すら使えない彼らが拠点にできる場所は市街に多くない。
更に言うと、アーチャーは自分を格の高い英霊とは思っていない。同時代の英霊相手ならともかく、神話や伝説の主役たちには正面衝突では叶わない。
苦労して作成した陣地が高名な魔剣妖槍の一撃で駄目にされる、なんてこともあるだろう。
だが、あるとないとでは、発揮できる力が違う。用意しておくに越したことはない。複数あれば尚良しだ。
(費やす魔力は安くないがな)
アーチャーは立ち上がると手早く荷物をまとめて歩き出す。
続いた晴香が、彼に声を掛ける。
「先客がいるんじゃ」
「かもな。まぁ、その時は戦うか」
暢気な台詞に眉を寄せた晴香に、アーチャーは口の端を吊り上げて応える。
「任せとけ。俺は素人農民を率いて、正規の騎士団を潰したんだ。マスターに魔術師を狩らせる事だって出来る」
戦術というのは一つではない。自分達が神々と戯れた英雄を討ち取る可能性は、ゼロではない。
しかし大逆転を成し遂げるには、細やかな気配りと大胆な行動力、そして情報が必須だ。
それだけ揃えて、はじめて天に采配を託すことが出来る。晴香以外にも、宝具から何名か探索に向かわせたが報告はまだない。
「戦った事あるの?」
アーチャーの真名は既に調べてある。
調べた限りでは魔術と関わりはなかったはずだが、記録にない部分では違ったのだろうか。
気になって尋ねてみた。
「いや?だが、お前には寄生体だったか、化け物の群れから生き延びた経験がある。無理な話じゃないさ」
アーチャーは山猫のように不敵に笑った。
【クラス】アーチャー
【真名】ヤン・ジシュカ
【出典】史実、フス戦争
【性別】男
【ステータス】筋力D 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具D++
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
軍略:C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
カリスマ:C
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、その人望は小国の王に等しい。
信仰の加護:C
一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいうが、最高存在からの恩恵はない。
あるのは信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。
陣地作成:B
生前に軍事拠点を建設した逸話から獲得。
"工房"に匹敵する拠点の形成が可能。
【宝具】
『騎兵殺しの野戦城(ワゴンブルク)』
ランク:D++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜70 最大捕捉:1000人
アーチャーの得意戦法が宝具に昇華されたもの。
無銘の兵士達が詰めている戦闘用の荷車百台を召喚。これらは現界時点で円陣や方形陣を作っており、アーチャーの指示をうけた兵が弓、銃砲、投石で敵を迎え撃つ。
接近された時は長槍やフレイルを振るって応戦し、移動の際は陣内部に出現している馬に引かせる。
発動時の魔力消費はそれなりに重いが、維持にかかる負担は極めて軽く、数時間はアーチャー自前の魔力で問題なく維持できる。
この宝具は強力な騎兵殺しの概念を帯びており、相手がライダークラスであった場合、ダメージ値が大幅に向上。
くわえて、展開中は対峙した敵ライダークラスの敏捷・幸運および回避系スキルをワンランクダウンさせる。
荷車(馬車)、兵士を単体あるいは少数で出現させる事も可能。
その場合は殲滅力と魔力消費が落ちるが、騎兵殺しの恩恵は問題なく受けられる。
兵士はそれぞれ単独行動:D、騎乗:Bのスキルを保有するサーヴァントとして現界。宝具の一部扱いのため、相応の魔力を費やせば欠員を補充する事が可能。
【weapon】
「無銘:弓、無銘:大砲、無銘:歩兵銃」
いずれも魔力を消費して、矢弾を補給できる。
これらは宝具ではなく、アーチャーの個人装備。
「無銘:長剣」
近接用の武装。
【人物背景】
ボヘミアの没落貴族。
所領を追われた彼は傭兵として名をあげ、年老いた後はボヘミア王ヴァーツラフ4世の臣となった。
この頃、フスの教えに触れた彼はその思想に心酔。プロテスタントの先駆けと後に言われるフス派の信者となった。
フス戦争勃発時にターボルという城塞都市を拠点とした彼はターボル派のトップに収まると、カトリック側に幾度となく敗北をもたらした。
片目を失っていた事から、隻眼の二つ名を持って呼ばれる。
【聖杯にかける願い】
?
【マスター名】藤堂晴香
【出典】寄生ジョーカー
【性別】女
【Weapon】
コンバットナイフ
【能力・技能】
「構成員」
若い女性ながら、多彩な銃火器を使いこなして生物兵器と渡り合う事が出来る。
運動能力も高く、ナイフによる格闘戦もこなす。
【人物背景】
表向き大学生として過ごす、とある犯罪組織の構成員だった女性。
組織を抜けようとしていたが、その情報は既に漏れていた。
裏切り者の彼女は大学の友人達と訪れた孤島で、生物兵器の対人観察実験のモルモットにされてしまう。
自身に埋め込まれた生物兵器の核を分解する抗体を求めて、命がけのサバイバルをするはめになった。
ED12 『自由』終了後から参戦。
【聖杯にかける願い】
脱出する。
投下終了です。
ttp://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org990000.jpg
支援
>>112
ありがとうございます!
wikiの方に支援絵として掲載させていただいてもよろしいでしょうか?
拙作ですがよろしければ
投下します
草木も眠る丑三つ時。
冬木市の東部に位置する新都は近代的な発展を遂げた街とはいえ、この時間になれば居並ぶ建物も軒並み明かりが消え、静寂が辺り一帯を包み込む。
そんな漆黒の空間をさ迷う影の姿が複数。
それは巨大な蜥蜴だった。
黒い体色の蜥蜴達が赤い眼を光らせながら寝静まった街を這い回る。
まるで何かを探すように動き回る蜥蜴達の視界に、1つの人影が留まった。
無数の視界に捉えられたのは一人の男性。
酒を飲んだ帰りなのだろうか、その足取りはおぼつかず、蜥蜴達の存在にも気付いていない。
音もなく蜥蜴達が男へと忍び寄る。
餌にするのか、それとも別の用途があるのか、どちらにせよこの男に取っては悲惨な末路が待っているのは明らかだ。
先行していた一匹が鋸の様に並んだ歯を剥き出しにする。
呑気な犠牲者を前に駆け出し、その牙を突き立てようとした、その刹那。
夜の静寂を風切り音が切り裂いた。
駆け出そうとした蜥蜴がピタリと動きを止めた。いや、止められたと言った方が正確だろう。
その額から矢羽根が生えている。
どこからか飛来した矢が、蜥蜴の眉間を貫き、貫通した矢がそのまま地面と蜥蜴を縫い止めたのだった。
生命活動を停止した蜥蜴がドロリと液状になったかと思うと、コンクリートの地面に不気味な染みを作る。
襲撃者がいる。
そう理解した蜥蜴達が警戒するのと、彼らめがけて第二矢、第三矢が降り注ぐのはどちらが早かっただろうか。
射抜かれた一匹が偶然にも矢の飛来してきた方角を捉えた。
だが、それは到底信じられるものではなかっただろう。その視界の先に写ったのは、遥か数100m先に立つ、7階建てビルの屋上だったのだから。
「この位置から狙撃を決めるとはな、やるじゃないかマスター」
「言っただろ? 弓には自信があるって」
楽しげな声がビルの屋上に響く。
そこにいたのは、二人の男。
片方は弓を、片方はクロスボウを構えながら、眼下数100m先に蠢く蜥蜴達を正確に射抜いていた。
蜥蜴達は狙撃主の位置に気付いた所で取れる手段もなく、散り散りに逃げようとするが、その判断はあまりにも遅すぎた。
弓の男が放った矢が路地裏に置かれたごみ箱の隙間を縫ってその裏に隠れていた蜥蜴を射抜く。
ヒュウ、とクロスボウの男が口笛を吹いた。
「21世紀のウィリアム・テルと呼んでくれてもいいんだぜ?」
弓矢の男が得意気な笑顔をクロスボウの男に見せる。
対するクロスボウの男は意味深な笑みを見せながらクロスボウを構えた。
キリキリと機械的な音が響いた後、放たれた矢の向かう先は並走して逃げる二匹の蜥蜴。
矢は器用にも二匹の体が重なる位置を射抜き、生命活動を停止した蜥蜴達が同じタイミングで染みへと姿を変えた。
「俺を名乗りたいならせめてこれぐらいはやってもらわないとな」
意地の悪い笑みを浮かべるクロスボウの男、アーチャーのサーヴァントであるウィリアム・テルに対し、弓の男は苦笑混じりに肩を竦めた。
クリント・バートン。
コードネーム:ホークアイ。
アメリカ合衆国の特務機関S.H.I.E.L.Dのエージェント。
それがアーチャーを召喚したマスターである彼の素性であった。
「で、さっきの不可思議な生態の蜥蜴どもはなんだったんだ?」
蜥蜴の群を殲滅し終えたホークアイが油断なく夜の街を見下ろしながらアーチャーへと質問を投げかける。
「さて、魔術なんてものとは縁がなかったもんでね。分かるのは低級な使い魔ってぐらいだ。
神秘の欠片もないハイテックな弓矢でもあっさり殺せたところを見るとサーヴァントよりも魔術師どもの使い魔と見ていいだろ」
「なるほど、充分すぎる答えだ」
アーチャーの推測を聞きながら、手に持っていた弓を収納する。
周囲に捉えた人影は先ほどまで命の危機にあったことも知らず、呑気に家への帰路に着いている酔っ払い程度。
今日はもうこの場での一般人への襲撃は起きないだろうと、ホークアイは結論を出した。
"聖杯"なるものを狙い、複数の組織が極東への動きを見せているという情報をキャッチしたS.H.I.E.L.Dは、ただちにホークアイを事態の調査に向かわせた。
調査の結果出てきたのは、聖杯戦争、万能の願望器を賭け、歴史や神話の英雄をサーヴァントとして従えたマスターと呼ばれる存在によるバトルロワイアルという儀式。
そのあまりにも荒唐無稽な話に閉口したホークアイではあったが、まさか自身がその参加者として、気づけばこの冬木市に拉致される事になるとは思いもよらなかっただろう。
現在に至るまで何度かS.H.I.E.L.D本部に連絡を取っているが、繋がる気配は一向にない。
仕方なく実地調査としてアーチャーを引き連れて街を出歩いているのが彼の現状であった。
「この頃の事件の犯人は、あの蜥蜴どもだと思うか?」
「あいつらかもしれないし、違うかもしれない。今のこの街には必要なら躊躇せずに事件を起こす奴らがごまんといるだろうさ」
その発言に、ホークアイの表情が若干だが険しくなる。
殺人、事故、行方不明。この街に連れてこられてからは絶えず彼が耳にする事件の話。
街の影で良からぬ事をしている者達がいる。
それを見過ごし任務に集中するほど、彼は冷徹にはなれなかった。
故に今彼が行っているのは、調査にかこつけた自警活動だ。
新都を見回り、街の平和を脅かす異物を排除し、可能ならば尋問する。
成果らしい成果は殆どないが、今回のように知らない誰かの命を救えた事もあった。
しかし、今宵の活動もここらが潮時の頃合いだろう。
結局、真相に近づくピースについては今日も得られなかった。
吐いたため息が外気に冷やされ、白い靄となって夜風に乗って消える。
その身を霊体へと変え、夜の闇に溶け込んでいくアーチャーを見ながら、ホークアイは彼と初めて会った時の事を思い返す。
「息子を助け、悪党を殺し、祖国は独立し、そんな俺の生涯に未練はない。唯一持ってる願いなんざ、"かつての俺達と同じ目にあってる奴らを助けたい"ぐらいのもんさ。
そういう意味じゃあマスター、あんたに従うことで俺は望みを叶えられるのかもしれんな」
聖杯を調査する、無関係な人間に危害を加えるものは極力排除する。
聖杯戦争に臨む参加者が取る戦略としては複数の陣営からも目をつけられる可能性や、囮をはじめそれを逆手に取られる危険性も高く、愚策に近い選択だと言えるだろう。
しかし、その二つの方針を伝えた時、アーチャーは笑顔を浮かべながら快諾してくれた。
大切な人を救うことで英雄となった男は、それこそが自分の本懐であるとホークアイの選んだ道を肯定してくれたのだ。
(あの時みたいな事が起こらなきゃいいんだがな)
ホークアイの脳裏に、ソコヴィアの悪夢が繰り返される。
ウルトロンとの戦いに巻き込まれた何の罪もない人々。
崩壊する大地と瓦礫と炎の上がる街、響く悲鳴。
自分を助け、代わりに崩れ落ちた一人の青年。
あの凄惨な光景は戦いが終わってなおホークアイの心に深い影を落としている。
この街を第二のソコヴィアにしてはならない。
想いを新たに射手は夜の闇に消えていく。
【クラス】
アーチャー
【真名】
ウィリアム・テル
【出典】
史実(14世紀初頭、スイス)
【属性】
中立・中庸
【ステータス】
筋力D 耐久C 敏捷A+ 魔力C 幸運C+ 宝具D
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
千里眼:C
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。
心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。
独立の象徴:A
属性が悪の相手と戦闘する場合、自身の敏捷と幸運を上昇させる。
ウィリアム・テル。それはスイスにとって圧政者を打ち破り独立の切っ掛けとなった偉大な英雄である
【宝具】
【救命の一矢(シュートダウン・アップル)】
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1
この宝具は自分以外の誰かを助ける場合にのみ発動する。
アーチャーが生物・サーヴァント以外の何かを射る事によって対象が助かる可能性があれば、因果をねじ曲げ『アーチャーの弓矢によって対象を助けた』という結果を作り出す。
頭に乗せられた林檎を射る事によって自身の息子を助けた世界的に有名な逸話が昇華された宝具。誰かを助けるという行為において、アーチャーは決して狙いを外さない。
【報復の二矢(プレリュード・フォー・インデペンデンス)】
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
『救命の一矢』が発動後、救助した対象を攻撃した相手に限定にしてBランク相当の気配遮断スキルを発動し、アーチャーに補足された場合に対象の幸運のランクを2ランク強制的に低下させる。
一本の弓矢は愛するものを救うため、もう一本の弓矢は悪しきもの射抜くため。
息子の頭上の林檎を射抜けと命じたオーストリアの役人・ゲスラーに対し暗殺を成功させた逸話が昇華された宝具。
【Wepon】
クロスボウ
【人物背景】
ロビン・フッドと並び世界的に有名な弓を扱う中世の英雄。
当時スイスを支配していたオーストリアの役人であるゲスラーが広場に自身の帽子を立て掛けて、通りがかる民衆に対しお辞儀するように強制したのを拒否した事からウィリアム・テルの物語は始まる。
息子の頭部に置かれた林檎を射るか、それとも死ぬか。極限状況のなかウィリアム・テルは見事に林檎を射抜き息子を助ける事に成功。後にゲスラーの暗殺に成功しスイス独立の口火を切った英雄として今日でも愛されている。
良くも悪くも好き嫌いを表に出す人間であり、殊更に理不尽を強いる者や傲慢な者に対しては態度の節々から嫌悪感を露にする。
皮肉屋で大雑把だが基本的には人当たりのいいおじさん。
【特徴】
180cm程度の身長、細目の体にラフな服装。
濃い金髪と同色の顎髭・口髭に覆われている
フードやマントを愛用し腰には一丁のクロスボウを携えている。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯にかける願いはない。聖杯戦争の理不尽な犠牲者を減らす
【マスター】
ホークアイ(クリント・バートン)@マーベル・シネマティック・ユニバース
【能力・技能】
正確無比な弓の腕。
また特性の矢はリモコン操作1つで電撃や煙幕など様々な機能を付与しつつ放つ事ができる。
かつて洗脳された経緯があってか、精神攻撃に耐性がある。
【人物背景】
アメリカ合衆国の特務機関S.H.I.E.L.Dのエージェントにして、ヒーローチームであるアベンジャーズのメンバー。妻子持ち。
性格はクールで一度親しくなればかなり親密に接してくれる。
本作ではアベンジャーズ2の後、シビル・ウォー前の時間軸より参戦。
【マスターとしての願い】
聖杯にかける願いはない。
聖杯戦争の調査と、巻き込まれた人間の保護を優先。
投下を終了します
投下させていただきます
「――問おう。お前が俺の主か」
そのサーヴァントを目視した途端、背筋を寒いものが駆け抜けた。
氷でできた鱗を持つ蛇が、するすると首から腰まで降りていったような激しい寒気。
見知らぬ大柄な男が目の前に現れて、自分を見下ろしている。
その状況自体、普通は怖いと感じて然るべきものだが――彼女の感じた恐怖は、そういう類のものとは一線を画す不可思議なものだった。
彼は見たこともなければ話したこともない赤の他人。そうだ、見たことなんてある筈もない。
何故ならこの男は、サーヴァント。人類の歴史に名を残し、死してなお英霊として世界に祀り上げられた英傑達の一人である。
なのに、目の前の男のことが分かるのだ。
名前は分からない。
何をした人物かもやはり分からないし、サーヴァントとして何ができるのかもさっぱり分からない。
だが、彼の人格についてははっきりと分かる。一目見た瞬間に、島田愛里寿はそれを理解した。
・・・
この人は、怖い人だ。
何を根拠にと言われると困ってしまうが、とにかく直感的にそうだと分かる。
人を人とも思わず、必要とあれば誰でも、何でも切り捨てられる冷血漢。
つい何日か前まで笑い合っていた相手を寄ってたかって追いかけ回し、情けも容赦もなく滅ぼし尽くす、人の形をした氷細工。
思わず、足が一歩後退っていた。
目の前の彼に比べたなら、邪な欲望を抱えた不審者や暴漢など可愛いものだ。
この恐怖は、人殺しに対して抱くものに近い。
人を殺して罪を償い、出所して娑婆に戻ってきた。
法的にはお天道様の下を歩くことに何の問題もないが、その心は人を殺した当時のまま。
存在することを許された人殺し。
そんな物騒な形容をしてしまうほどに、冷たい目をした男だった。
愛里寿のそんな様子を見て、サーヴァントは腰の二刀をゆっくりと引き抜く。
ごくりと生唾を呑み込んだ。げ出したいのは山々だが、此処は室内だ。
まして、ドアの側に立っているのは他ならぬ彼の方である。
愛里寿はただ、見ていることしか出来ない。その刀が抜かれ、銀の刀身を露わにするのを。
そうして遂に、サーヴァントは二振りの刃を鞘から完全に抜いた。
――そして。それらを、無造作に床へと放り投げてしまった。
「刀無くして人斬り起こらず。もしお前が望むなら、この弓矢も捨てよう」
氷のような瞳の彼はそう言うと、その通りに背中の弓さえも捨ててしまった。
彼は相変わらず冷たい表情をしていたが、……愛里寿はそこで、ふと思い至る。
これはひょっとして、――ひょっとして、困っている顔なのだろうか?
「だから……何だ。
信じてくれと言うつもりはないが、話くらいは聞いてくれ。年端も行かない娘にそんな顔をされると、流石に少々堪える」
その口から溢れた言葉は、最初に抱いた第一印象とはまるで似つかない、控えめなものだった。
姿を見て受ける印象と、実際に語らってみて受ける印象がチグハグに食い違っている。
サーヴァントとはこういうものなのだろうかと一瞬思ったが、多分違うだろうとすぐに思い直す。
そう、彼だけが異常なのだ。正しくは、そう決め付けられている。
「俺はお前のサーヴァント。お前に弓を引くのではなく、お前を導く為に喚ばれた英霊だ。
クラスはアーチャー。真名を――」
それは果たして、報いなのか。
愛里寿は、常識として彼の名前を知っていた。
彼女のように聡明な人間でなくとも、日本人ならば誰だってその名前に聞き覚えの一つはあろう。
それほどに、彼は知名度の高い英霊だった。少なくとも、この日本では。
非業の幼少期を乗り越え、将として大成。
やがて数万の軍勢を束ねて決起し、遂には宿敵の血筋を絶やした英雄。
そう、彼は紛うことなき英雄なのだ。何ら恥ずべき所のない、日の本が誇る大将軍。
……だが彼の名を耳にして、真っ先にその功績を思い浮かべる者は少ないだろう。
それは彼のすぐ側で戦っていたとある英雄が有名すぎて、彼の名が霞んでしまうため。
そして何より。他ならぬ彼自身が、その英雄を滅亡に至らしめた張本人であったからだ。
「真名を――源頼朝、という」
恐怖に狂わされ、今も支配され続けている男。それが、この英雄の真実である。
◆
それが昨日の出来事。
そして今、アーチャーとそのマスター・愛里寿はとあるショーを鑑賞していた。
既に廃館しているのではないかと見紛うような寂れたテーマパーク。
雰囲気が出ているといえば聞こえはいいが、アトラクションも揃ってオリジナリティに欠けている。
それをかれこれ半日ほど楽しんだ末に、今はこうしてショーを見ている。
此処はボコミュージアム。
『ボコ』という名前の通りいつもボコボコにされているキャラクターのために生み出された、しかし肝心のボコの人気が下火なので客入りが壊滅している娯楽施設だ。
実際問題、普通の家族連れなどが立ち入って楽しめるかと言うと、かなり怪しいラインにある。
それでも、愛里寿は思い切りそれを満喫していた。
横に、見る者全てを恐怖させるような眼光の男を連れて。
職員などは大概彼を見るとサーッと顔を青褪めさせていたが、愛里寿は余程夢中になっているのか、さして気に留めている様子はなかった。
表情の変化に乏しい長身男が、じっとアトラクションに乗っているのはなかなかシュールな光景だったが、やはり愛里寿に気にする様子はなかった。
そうこうして、最後のショー。それも今や佳境に差し掛かっている。
「……どうだった?」
そう問いかけた愛里寿の声は、やや恥ずかしがっているような、照れ混じりのものだった。
彼女がこうしてアーチャーを連れ回しているのは、実は謝罪の意味も含んでのことだ。
彼から、スキルについての話は聞いた。
曰く、無辜の怪物。風評によって英霊本人の存在が歪曲される、呪いのようなスキル。
頼朝が生前に弓を引いた弟は、いわば歴史の中のヒーローだった。
武蔵坊弁慶との戦い。数々の武勇。兵法を駆使して敵を翻弄し、逆境を跳ね除ける眩しい英雄。
源義経という英雄が有名すぎるが故に、必然としてそれに弓を引いた頼朝の名も歴史に轟いた。
――英雄としてではなく、冷徹な将軍として。
故に彼は今も呪われている。
氷の瞳と氷の気配を持った、絶対零度の恐怖を放ち続けている。
……本当は、当の彼が一番怖がりなのに。
そんなアーチャーに、仕方ないとはいえ恐怖の目を向けてしまった。
そのことは愛里寿の心の中に、返しの付いた針のようにいつまでも引っかかっていた。
島田愛里寿は人見知りだ。アーチャーとは別な理由で、感情を表に出さない。
その彼女が考えたのは、彼に何か楽しんでもらうということだった。
だからこの場所に連れてきた。愛里寿は、このボコというキャラクターが大好きなのだ。
彼女にとって、この冬木で一番楽しい場所といえば、やはりこのボコミュージアム以外にはあり得なかった。
「陳腐だな。客を引くつもりがあるのかと問いたくなるような寂れ具合。
劇の筋書きも落第だ。俺の旧い朋であれば、もっと上手く物語を編んでみせただろう」
だが、とアーチャーは続ける。
やはり無表情で無感動なその顔から、感情の如何は読み取れない。
「あの『ボコ』なる熊は良いな。お前もなかなか良い趣味をしているじゃないか、主よ」
前半の指摘は多分、心からの本心なのだろうし。
後半の発言もきっと、彼の本心なのだろう。少なくとも愛里寿はそう思った。
彼は無表情で怖い目をしているから、何を思っているのかイマイチよく分からない。
ただ、よく見ると感情を示しているときは少しだけ表情が違う。
目が若干優しいだとか、傍目からは殆ど分からないようなものだが――見分けるポイント自体は確かにあるのだ。
そして今の彼の目は、あまり怖いと感じない。
「……そう。なら、よかったわ」
照れ臭そうに俯いて、愛里寿はそうとだけ言った。
◆
黄昏時を迎えて、帰途に着く二人。
ミュージアムの中では実体化していたアーチャーも、流石に外では霊体化で姿を隠す。
その特性上、彼の姿は大衆の中でよく目立ってしまうのだ。
無警戒に姿を晒していては、すぐにサーヴァントに嗅ぎ付けられてしまいかねない。
「……アーチャー」
ふと、愛里寿が足を止めた。
何かを察したのか、アーチャーが即座に実体化する。
愛里寿の声色は真剣だった。
彼女も大概感情の機微が分かり難いが、将として人心の理解に長けるアーチャーにはそのことがちゃんと伝わっていた。
この国には古くから、礼儀の文化がある。
それに則って、主君が真剣な話をしようとしているのだから、霊体と成ったままで対応するのは非礼だろうと判断した故の実体化だ。
アーチャーも和の国の人間。こういうところはきちんとしている。
「どうして、私に宝具を使わないの」
「覚えていたか」
昨夜、アーチャーはサーヴァントとしての自分についてを愛里寿へ教授した。
軍勢の統率や遠距離狙撃を得意とし、逆に接近戦や孤軍での戦闘は苦手なこと。
スキルの影響でこのように姿と雰囲気が歪められ、本人も大層迷惑していること。
矢の数は魔力が続く限り尽きることはなく、そしてアーチャー自身もかなり燃費の良い部類のサーヴァントであるため、弾切れの心配はないこと。
そして――アーチャーが唯一保有する宝具・『遮那王』のこと。
「宝具で私を強化すれば、私は強くなれる」
「そうだ。遮那王――俺の弟。義経のように賢く素早い、超人になることが出来るだろう」
「……私はただ帰りたいだけ。でも、あなたには願いごとがあるんでしょ?
それなら、私を遮那王にしない理由がない。少なくとも私は、そう思うよ」
対人宝具・遮那王。それは一言で言えば、他人を『源義経』にする宝具だ。
擬似的に真名を与え、身体能力の向上と幸運値の上昇、『決定付ける』という行為に対しての化け物じみた耐性を獲得させる。
島田愛里寿は天才だ。神童、と言っても誇張ではない。
その彼女が遮那王となったなら、アーチャーとの主従は凡そ完璧な布陣になる。
愛里寿には、彼がそうしない理由が分からなかった。
彼ほどの男が、まさか気付いていないということもないだろうに。
「俺は臆病者だ」
「……聞いたよ」
「あの宝具には欠陥がある。あの宝具の最大にして唯一の欠陥は、『源義経(おれ)』の存在だ」
頼朝は義経に行った所業を悔やんだことは一度もない。
もう一度時が巻き戻ったとしても、彼は躊躇いなくあの怪物に弓を引くだろう。
それは何故か。それは、今でも源頼朝が弟を恐れているからだ。
「俺は遮那王(あいつ)の存在を我慢できない。すぐにとは行かずとも、いつか必ず滅ぼしてしまう。
そして皮肉なことに、俺は怖いものをこの世から居なくしてやることは上手い。
アレはな、敵を作る宝具なんだよ。
この世で一番恐ろしい化物を作り、その手綱を引張る宝具なんだ。
だが――作られた化物は盲目ではない。奴は学習する。学び、育つ。そうすればどうなる? 簡単だ。いつか怪物は、己を戒める縄を引き千切る」
「…………」
「そうして最後には、主の喉笛を喰らう――なんて話を、お前はどう思う」
「……被害妄想」
「手厳しいな」
いつの間にか、アーチャーは愛里寿の先を歩いていた。
夕日がじんじんと背中に熱を送ってくる。
二人分の影だけが、アスファルトに長く長く伸びている。
「それでも、俺はそう思ってしまう。そのくらい、俺は怖がりなんだ」
不意に、アーチャーは振り向いた。
「俺は、お前の敵になりたくない」
そう言った顔は。多分―――笑っていたんだと思う。
【クラス】アーチャー
【真名】源頼朝
【出典】平家物語、源平盛衰記
【マスター】島田愛里寿
【性別】男性
【身長・体重】180cm・75kg
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力D 耐久E 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具A
【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。牛若丸より1ランク低い。
単独行動:A+
マスター不在でも行動できる。
このランクともなればそもそもマスターの存在自体が不要で、理論上彼は一人で聖杯戦争を攻略できる。理論上。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
無辜の怪物:B++
生前の行いから生まれたイメージによって、過去や在り方をねじ曲げられた哀れな男。
彼の場合は弟殺し――彼が生涯に犯した最大の罪であり、彼を語る上で真っ先に挙げられる冷徹さがその人格をねじ曲げている。
彼と相対した人間は皆、彼のことを『冷徹で、風評通りの人間だ』と解釈してしまう。
弓術:B
魔力のある限り補填できる矢を用いた遠距離攻撃。
英霊の肉体を貫通する威力のそれは、四千メートル以上もの驚異的な射程と命中精度を誇る。
軍勢結成:A
カリスマと軍略の複合スキル。
軍団の士気を上昇させ、友軍の対軍宝具の行使と対処に有利な補正が与えられる。
生前彼は平氏との戦いにおいて、数万にも及ぶ武士を束ね上げた経歴を持つ。
仲間が居れば居るほど、その質が上がれば上がるほど、このスキルの効果は強く大きなものになっていく。
才への恐怖:C
彼は怪物を忌み、恐れる。
人の心が読めず、人間らしさを持たず、狂気に限りなく近い非人間性を持つ者を恐れる。
共に居る時間が長ければ長いほど恐怖の度合いは上昇し、やがて彼は必ずその存在を滅ぼさんとする。
これは味方であろうと例外ではないが、皮肉なことに、彼はこのスキルで恐れた存在に敵対行動を行う際、幸運のランクがAまで上昇する。
【宝具】
『遮那王(しゃなおう)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
彼が生涯で最も恐れた弟――『源義経』を再現する宝具。
対象に『源義経』の真名を与え、その人物の幸運ステータスをAランクにまで跳ね上げる。
この宝具の効果を受けた人物はC+ランクのカリスマを獲得し、それが人間であれば優れた兵法の心得と身体能力の向上を与え、それが英霊であれば敏捷と上記の幸運を除く全てのステータスを一ランク上昇させ、敏捷に至っては二ランクもの上昇効果を与える。
更に特筆すべき効果として、この宝具で再現される『源義経』はアーチャー視点での義経。
彼にとっての義経とは困難だの運命だの、そういったものをそれがどうしたと跳ね除ける超人であり、最も恐ろしき怪物である。
従ってこの宝具を受けた対象は、『必中』『必殺』といった概念を持つ攻撃に対してA+ランクの抵抗力を自動で得る。
運命、因果。その程度に屈するようでは、遮那王の名は名乗れない。
宝具を解除することはアーチャーにも本人にも出来ず、対象が死亡するか、宝具の持ち主である彼が消滅するかしない限り解除することはできない。
アーチャーのスキル『軍勢結成』と相俟って非常に強力な宝具だが、この宝具は一つ大きな欠陥を抱えている。
遮那王、源義経、牛若丸……擬似的とはいえ真名を同じくし、似た特性を獲得した人物は、アーチャーの『才への恐怖』スキルの対象になってしまうのだ。
更にこの宝具、他ならぬアーチャー自身に適用させることは出来ない。
彼はあくまで人間だ――――ヒトは決して、牛若丸(バケモノ)にはなれない。
【weapon】
日本刀『髭切』『膝丸』、弓と矢。矢は魔力がある限り自動的に補填できる。
【解説】
平安時代末期、鎌倉時代初期に名を上げた英雄。
流刑に遭った苛酷な若年期を乗り越え、数万の武士を束ね、遂には怨敵平氏を滅亡させた。
その後彼は幕府を開いて将軍の座に就くが、彼という英雄を語る上で特筆すべきは其処ではない。
源義経。頼朝の弟として生まれ落ちたかの人物は、あまりにも優秀すぎた。
人間らしさを持たない忠犬。人の心が分からない、人の姿をした獣。
彼は恐れた。権力による利益関係に馴染まず、もしも一皮剥ければ自軍に獣牙を向けるやも知れない非人間性を――だから彼は弟の抹殺に踏み切った。
彼は今でも、この時の判断については悔やんでいない。
もう一度同じ場面に立たされたとしても、絶対に同じことをしたと断言できる。
ただ一つ、彼が悔やんでいることがあるとすれば――
弟殺しの冷血と成り果てた身では、友の一人も作れない。
たとえ当の弟が彼をどう思っていようと、世界は、歴史は、彼を英雄とは呼んでくれない。
【特徴】
肩口まで伸ばした黒髪に、鋭い目付きの男性。
その瞳は氷のように冷たい寒色をしており、凡そ人間のする眼差しではないと称される。
腰の両側にそれぞれ一振りずつの愛刀を携え、背中には十八番の弓を背負っている。
【サーヴァントとしての願い】
名誉回復。ただし、過去を変えたいとは微塵も思わない。
【マスター】
島田愛里寿@ガールズ&パンツァー
【能力・技能】
優れた指揮統率能力を持ち、十三歳にして飛び級で大学生をやっている程聡明な人物。
戦車道という特殊な戦場ではあるものの、大隊長として三個中隊を指揮、それどころか単独でも十輌もの敵を撃破し、単独で選曲をひっくり返したことも。
【人物背景】
島田流戦車道師範・島田千代の一人娘。
日本戦車道連盟・大学選抜チームの本隊長。
素の性格は内気で人見知り。口数は少なく表情は表に出さない。
しかし戦車道においては年上であろうとも物怖じせず的確に指示を下し、敵の選手・戦車追加をあっさり認める度量の大きさを見せる。
ぬいぐるみのボコが大好き。
【マスターとしての願い】
死なずに帰る。
投下を終了します
投下します
†
♪奇跡はどこにある?
奇跡はどこにある?
奇跡はいったいどこにある?
透き通った髪を揺らしながら、サンタルックの女性が歌う。
今日は12月24日、世界で一番にぎやかな冬の日だ。
町どおりの中には何人ものサンタが立ち並ぶ、女性もまた、その中の一人だった。
「はぁーい! 本日限りですよぉ〜♪」
看板を掲げ、周りの人に声をかける。
ケーキがそろそろ半額だ。振り返れば、友人のブリッツェンがケーキをもそもそ食べている。
その愛らしい姿に惹かれてか、一人、また一人と彼女のもとに集まって、ケーキを買って帰っていく。
帰っていく人の波を見ながら、サンタは思う。
どうか、彼らにとっての今日が夢のような一夜でありますように、と。
そんなこんなで売りさばいていれば、日もとっぷり暮れてくる。
そろそろケーキも無くなる頃合、本来の仕事の準備にとりかかろうかとサンタの女性が思案を始めたとき。
不意に、彼女の足になにかがぶつかった。
見下ろせば、かわいらしいつむじがあった。眺めていると、つむじはぐんと後ろに下がって、代わりに少女の顔が現れた。
「お姉ちゃん、サンタさん?」
きらきらした目で少女が尋ねる。
サンタ―――イヴ・サンタクロースはそのきらきらした目に負けないくらい、目を光らせてこう答えた。
「よく分かりましたね〜! ……実は、お姉ちゃんは、本物のサンタクロースなんです。秘密にしててくださいね?」
「わぁっ……うん、絶対誰にも言わないよ!」
少女は慌てたように口を抑え、小声でイヴにそう答えた。
そして、どちらともなくおかしくなって、くすくすと笑ってしまう。
すぐに少女の母親が駆けてきて、少女を連れて行ってしまった。
「またね、サンタさん!」
「はい、また会いましょうね〜!」
手を振りながら姿を見送り、また歌を口ずさみながら看板を振り回す。
♪奇跡はどこにある?
奇跡はどこにある?
奇跡はいったいどこにある?
これは、奇跡の起こる夜の、数時間前の出来事。
†
♪奇跡はどこにある?
奇跡はどこにある?
奇跡はきっとここにある。
昼間と同じ歌を口ずさみながら、イヴは身支度を整える。
と言っても、特に変わったことはない。
服装はそのままだし、トナカイたちは待っているし、プレゼントを無くす心配もない。
ただ、ブリッツェンだけはおいていかなければならない。
ちょっととぼけた顔の友人も、さすがに空は飛べないから。
「さあ皆さん、準備はいいですかぁ〜?」
ソリに乗り込み、手綱を打つ。
先頭のトナカイの鼻がぴかぴか赤く光り、進むべき道を示してくれる。
トナカイたちが駆け出せば、ソリもコンクリートを滑る。
トナカイたちが宙に浮かべば、ソリも宙へと昇っていく。
鈴の音を響かせてソリが飛ぶ。
イヴは大きな声で、夢のような時間をすごす冬木の空にこう叫んだ。
「HO、HO、HO!!! Merry X'mas!!!」
奇跡がやってくる。
この冬一番の奇跡がやってくる。
愉快な声にあわせて、空を飛んでやってくる。
†
朝起きると、少女の枕元には小さなプレゼントが置いてあった。
声が出そうになるのを必死でこらえて、ゆっくりゆっくり包装を開ける。
中に入っていたのは『メルヘンチェンジ☆ウサミン変身セット』。彼女が欲しいと心のそこから願っていたもの。
うれしくなって思い切り抱きしめると、変身セットの中から一枚のカードが零れ落ちる。
『あの時のサンタより、良いクリスマスを』
そのとき少女は確信した。
少女が見つけたのは、本物のサンタクロースだった。
お父さんもお母さんも信じてくれなかったけど、彼女こそが本物だったんだ、と。
「お母さん、お母さん!!」
ぱたぱたと走り出せば、クラッカーの音が響いた。
クリスマスパーティが始まった。
それからはもう、うれしくて、楽しくて、夢のような時間が続いた。
主の居なくなった部屋で不意に、開けっぱなしの窓が風を飲み込み、カレンダーが揺れた。
25日を示していたカレンダーは、ゆっくりと24日へとその浮かべていた文字を変えた。
また今日も、クリスマスがやってくる。
これは、この聖杯戦争が始まって、三度目のクリスマスの話だ。
†
英霊の座において、聖杯戦争の開幕を知った。
それはある冬の日だった。
そろそろと近づいてくる年の瀬に、人々が知らず知らずに早足になる時期だった。
早足で行き交う人々を見ながら考える。
聖杯戦争が起これば、このうちのどれだけの人々に不幸が訪れるのだろうか。
近づいた聖夜に、奇跡を望めない人が出てくる。
彼の逸話を司る夜、逆に彼を信じない人間が急増してしまう。
彼らの『信じる心』によって存在を支えられているライダーにとって、それはかなりの痛手だった。
このままでは、彼の伝承が消えてしまう日が来てしまうかもしれない。
彼と言う存在が消えてしまう日が来るかもしれない。
それは、奇跡の消滅だ。夢の消滅だ。明るい未来の消滅だ。
だから、ライダーは召喚に応じることとした。
奇跡を失いかねない人々に、忘れられない奇跡をもたらすために。
本来、彼を呼び出すことは出来ない。
なぜなら彼は『奇跡』そのものであり、『願い』そのものであり、ともすれば『聖杯』と同等にも並びうる存在なのだから。
だが、彼は聖杯と違い、人々が彼を『信じる心』を失えば消滅する。
そもそも居なかったことになる。さきほどまで存在していたものがある瞬間になくなり、結果として聖杯に不備が発生する。
その矛盾を防ぐために、聖杯戦争に条件付で参加することが可能となった。
条件とは、一人の少女。
プレゼントを盗まれ、服を盗まれ、路地裏でトナカイと身を寄せ合い、くしゅんとくしゃみを繰り返す少女。
イヴ・サンタクロース。
彼の名を継いだ、現代に残る奇跡の体現者。ちょうど聖杯戦争への有資格者だった彼女。
ライダーを受け入れる器として、ライダーの変わりに夢と希望を与える者として、これ以上の人物は居ない。
彼女と契約を交わし、自身の宝具が解放される。
『サンタが町にやってきた』ことで、世界が今を『クリスマス』だと誤認する。
傍に転がっていた新聞を拾い上げる。
日付は12月24日。
さっきまでが何月何日かは知らないが、今日は聖夜だ。
クリスマスがやってくる。
来るべき『いつか』のために、埋め合わせの聖夜がやってくる。
マスター、イヴ・サンタクロースを寄り代として顕現した擬似サーヴァント、ライダー・サンタクロース。
彼の力により、今宵もまた、愉快な声がこだまする奇跡の夜を繰り返す。
【クラス】ライダー
【真名】サンタクロース@史実、民間伝承
【マスター】イヴ・サンタクロース
【性別】女性(イヴ)
【身長・体重】165cm・44kg(イヴ)
【属性】秩序・善
【パラメーター】筋力:- 耐久:- 敏捷:EX 魔力:EX 幸運:- 宝具:EX
【クラス別スキル】
騎乗:A---
トナカイを乗りこなす。
ただしこのトナカイもまた、サンタクロースとともに民間に伝承されてきた奇跡の象徴である。
そのため、幻獣と同等のクラスと認識され、ランクはA扱いとなる。
ただし、ライダーが乗りこなせるのはこのトナカイのみである。ほかのものには見向きもしない。
【保有スキル】
気配遮断(大人):EX
サンタクロースを夢見る子供も、時が経てば彼を居ないものだと思い込んでしまう。
そう、『思い込んでしまう』。実在するものの知覚を否定してしまう。
仮に彼を大人が見たところで、ライダーは『本物のサンタクロース(サーヴァント)』だとはばれない。
業者か、コスプレか、せいぜい家族思いな姉くらいにしか思われないだろう。
そのため、ライダーを一目見てサーヴァントであると断定できるのは、サンタクロースのことを信じている『子供』だけになる。
ただし、ライダーがソリに乗って空を飛んでいる所を見られた場合、例え大人であろうと一発でライダーを本物だと確信できる。
正体特定(子供):A
ライダーは常に向かうべき子供の居場所を知っている。
彼らに届けるべきプレゼントも知っている。
道具生成(夢):A--
ライダーが出会った子供たちの望んだものを作り出すスキル。
ただし妹や弟など実現不可能なもの、煙突・窓を超える大きさのもの、金や女のような薄汚いものは無理となる。
【宝具】
『奇跡の夜(クリスマス)』
ランク:EX 種別:固有結界 レンジ:999 最大捕捉:99
ライダーの最も有名な逸話に、『クリスマスになれば』『サンタクロースがやってくる』という逸話がある。
しかし、聖杯戦争に彼が呼ばれてしまった以上、その不文律は崩壊する。
英霊として常時『サンタクロースがやってきている』ことになり、それを知覚した子供たちが『サンタクロースが居るならば今日はクリスマスである』と誤認してしまうのだ。
この宝具はその誤認を利用して形成される『クリスマスの日』という強固で巨大な心象風景。
エリア内に逸話どおりの奇跡の夜を再現し、人々の時間の認識を『12月24日の午後〜12月25日の午前』に固定し続ける。
彼の生存中は毎朝毎夜この固有結界が発動し、人々は奇跡の夜を繰り返す。
そして、その奇跡の夜の中でのみ、ライダーは姿を現して、奇跡を起こす。
この固有結界を崩壊させるには子供のサンタ信仰を根絶やしにするか、彼を倒すかしかない。
『奇跡の降る夜(ホワイト・クリスマス)』
ランク:EX 種別:固有結界 レンジ:999 最大捕捉:99
奇跡の夜に起こる奇跡。何者かが空を飛ぶライダーを発見した場合、固有結界内に魔力粒子の篭った雪が降り出す。
この雪は相手の精神に直接働きかける効果を持っており、雪とともにライダーの姿を見た場合、年月を経て積み重ねられた『精神の澱』が少しずつ注がれていく。
幼少期、無垢なる頃に出会ったサンタクロース、彼の姿によって奇跡の存在を思い出して精神が浄化されていくのだ。
長時間見れば見るほど、彼らの精神は『無垢な子供』に戻っていく。
きっと最後には、争うことをやめてクリスマスを楽しむ素直ないい子になってしまうだろう。
精神耐性系スキルで効果軽減可能。
また、この宝具の効果で精神が綺麗になった場合、いつでもサンタクロース本体を発見可能となる。
なお、『幼少期が存在しない人間』にこの奇跡は通用しないが、『幼少期にサンタを信じていなかった人間』には精神の澱を雪ぐことで通用する。
効果は永続ではなく、彼が英霊の座に戻った場合、ゆっくりと精神はもとのとおりに復元していく。
『万里駆け、夢に微笑み、聖なる夜に奇跡を運ぶ者(サンタクロース)』
ランク:EX 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1
サンタクロース伝説自体が宝具として再現されたもの。
この宝具の失われない限り、ライダーはサンタクロースとしての活動に一切の魔力を使用しない。
そしてこの宝具の発動を助けるのは、『子供たちのサンタクロースへの夢』という説明不能の神秘である。
【weapon】
なし。
トナカイを乗り物として持ち込んだ。
【人物背景】
『サンタクロース伝説』そのもの。
【マスター】
イヴ・サンタクロース@アイドルマスター・シンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
クリスマスに奇跡を!
【能力・技能】
・ブリッツェン
ぶり、ブリッツェン……ぶりっつぁん? ブリッチャン!
ただのトナカイなので空は飛べない。一緒に仕事は出来る。
・住所不定無職
つまりアイドルとしての才覚を見出される前の状態。
日中に町を歩けばスカウトが来るかもしれない。
なお、ダンボールではなくサンタ服で固定となっている。
【人物背景】
モバマスのアイドル。アイドル時代以前から参戦。
12月24日に現れ、プレゼントを運びにきたがプレゼントと洋服を盗まれてしまい途方にくれていた過去がある。
本候補作では彼女は正統なサンタクロースの後継者(グリーンランド発行のサンタ免許とか持ってる)であるとし、
彼女の存在と聖夜を迎えられない可能性のある冬木市を察知してライダーが顕現したものとする。
現在はサーヴァント・ライダーの寄り代となっている。
彼女はマスターであり、同時に擬似サーヴァントということになる。
なお、思考は全面的にイヴ寄りである。
【方針】
特に方針はない。
ただ、冬木市に聖夜の奇跡を振りまくだけである。
ライダーは交戦の意思のまったくないサーヴァントである。ほうっておいて幸せになることはあれ、不幸になることはない。
ただ、厄介なのはそんな彼すら倒さねば聖杯戦争は終結しないということだ。
彼女がライダーとの契約を続けている限り、冬木市に12月26日は訪れない。
そのため、彼女が知らず知らずのうちに再現したクリスマスの夜には『サンタ狩り』が討伐令として掲げられる、かもしれない。
投下終了です。
なにかあったら取り下げます
投下します。
「へぇーっくしょい!」
雪が降る道で、男は盛大なくしゃみをした。
周りの通行人の視線は、一気に彼へと向けられる。
男の名前は虹村億泰。
その服装が――あちらこちらに改造が施されているものの――学生服であることから分かる通り、学生だ。
時刻は夕方なので、今はおそらく学校からの帰り道の途中であろう。
周りからの注目を感じ、恥ずかしそうな表情をしながら、彼は鼻をすすり、
「ズズズッ……おれが住んでた杜王町と比べれば、ここはまだ暖かけーのかもしれないっスけどよォ〜〜……それでもやっぱり、雪が降ってる中を歩くのは寒いぜ」
という、くしゃみをしたことへの言い訳めいた独り言を呟く。
否――それは独り言ではない。
億泰は傍に誰も連れず、たった一人で道を歩いており、周りから見れば独り言を呟いているようにしか見えないが、彼は誰かに対して話しかけていた。
見えない誰かに対して、話しかけていた。
《そうですか……。
では、家に着いたら暖房、風呂、夕食――バランスの良いものを――で、内外から身体を温めましょう。
勿論、その前には消毒手洗い滅菌うがいもしなければなりませんよ》
億泰の頭の中に女の声が響く。
サーヴァントとマスターの間でのみ行われるテレパシー――所謂、念話だ。
所々に聞きなれない健康用語が紛れていたが、それはさておき――その口調はまるで、患者に語りかける看護婦のような、優しく慈愛に満ちたものであった。
羽毛が喋ったらこんな風になるんだろうなぁ――と億泰は考える。
しかし次の瞬間、
《……ところでオクヤス?
外で私と会話をする際は口に出して話さず、念話を用いるように――と、朝教えたはずでは?》
と、口調こそ変わらないものの、彼女の言葉が孕む雰囲気は苛烈な物に変わる。
先程の喩えをそのまま用いるならば、柔らかく温かい羽毛が一瞬にして鋭く冷たい鉄剣に変化したかのようだ。
タラリ、と億泰は汗を流す。
今の季節は冬――当然、頬を伝うそれは暑さによるものではない。
《す、すみませんス、キャスターさん……うっかりしてました》
《世の中では、うっかりですまないことの方が多いのです。
もし、さっきのあなたの姿を、聖杯戦争の他の参加者が見ていたら、マスターだとバレていたかもしれないんですよ?》
《……けどですよォー? 普通は独り言の長い変なヤツだと思われるだけなんじゃないんスかァ〜?》
《そう思われるのも、それはそれで問題でしょう》
《ぐぐぐ……》
彼女が放つ言葉に何も言い返せなくなる億泰。
自分と彼女の間には知性や話術の差があることをひしひしと感じさせられた。
更に追い打ちをかけるように、彼女の言葉はもう一段階強調される。
《それに、マスクもつけずに外に出るとは何事ですか。
貴方は聖杯戦争の参加者として他の参加者に気をつけねばならない以前に、一人の生きる人間として、病原菌にも気をつけなくてはならないのですよ?》
まーた始まったぜ――と、億泰はうんざりした。
彼女は医療や病気の話題になると、相手のことを考えずに――あるいは相手のことを考えすぎて、長々と語り出す性質があるのだ。
むしろ今回は、念話の話題が冒頭にあったことが珍しいくらいである。
《……本当なら、私はあなたと共に歩きたい――この背中の『翼』であなたを温めて、寒さと病原菌から守ってあげたい。さながらマスクのように。
そうすれば、わざわざこうして念話で話す必要はないですから。
でも、その『翼』こそが一番の問題だから、今はこうして霊体化しているのです。わかりますか?》
そう言われて、億泰は彼女を隣に連れて歩く自分を想像する。
美女と共にいる自分は、想像して中々気持ちの良いものだったが、その相手が翼の生えた白衣姿である所まで考えて、『うげ』と短い狼狽の声を漏らす。
翼の生えたナースとは、スタンドでも中々見かけないであろう奇抜なデザインだ。
その上、その翼で自分が包まれて温められるというシュールな光景には、もはや笑いさえこみ上げてくる。
学生からストリート・コメディアンへの転職でも考えない限り、人目のつく外で彼女が実体化するのは、極力避けるべき事態であろう。
《そもそもどうして私がこんな姿になってしまったのやら……ああ、あれですか……。
はぁ……。だから、私はあの異名を好かなかったのです》
《? 『あの異名』……――『白衣の天使』ってヤツですかい?》
《ええ》
白衣の天使――かのナイチンゲールの異名の一つだ。
ナイチンゲールの偉業を讃えた当時の世間が、彼女をそう呼んでいたらしい。
《おれでも知ってる名前だ。ガキの頃読んだ『まんがでわかる せかいのれきし』で見た覚えがある……内容はほとんど忘れちまったけど。
でも、なんでそれを好かないんスか?》
《私が、彼らの思うような天使ではないからです》
億泰の疑問に彼女――ナイチンゲールは答える。
《私が思う天使とは、美しい花を撒くものでなく、苦悩する誰かの為に戦うもの。
そのイメージは、世間が考えている天使とは異なるでしょう?》
たしかに。
平和や愛や健康の象徴である天使に、戦いのイメージはあまり似合わない。
その逆もまた然りだ。
現に、今朝家を出る前までに億泰が見たナイチンゲールの姿は、服に着せられているようであった。
もしくは呪いを被せられている、と言うべきか。
その姿が、世間の風評によって見た目や在り方が変質するスキル――『無辜の怪物』によるものであるので、この場合は後者の方がより的確であろう。
もっとも、いくら当時の世間の大衆でも、流石に白衣の天使がそのまま白衣に天使の翼を生やしているとまでは思い込んでいなかったであろうが。
それでは、あまりにその言葉を用いて彼女を褒め称える民衆が多かったが故に生じた――という事なのだろうか。
億泰はそこまで考えて思考を中断する。
バカな自分が推測できるのは、ここまでのようだ――と、考えるのを諦めたのだ。
▲▼▲▼▲▼▲
【クラス】
キャスター
【真名】
フローレンス・ナイチンゲール
【出典】
史実
【性別】
女
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力C 耐久EX 敏捷C 魔力C+ 幸運B+ 宝具D
【クラススキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
ナイチンゲールの場合、作り出されるのは治療を行う病院。
ランクAは陣地の強固さではなく、作成の速さを表す。
一般住宅だろうと旧兵社だろうと、何処であろうが彼女の手にかかればそこはすぐさま病院となる。
道具作成:-
魔力を帯びた器具を作成できる。
下記の宝具を得たことにより、このスキルは失われている。
【保有スキル】
鋼の看護:A
看護師としての治療技術が、スキルとして昇華したもの。
彼女が治療行為に関わった場合、回復のスピードが上昇する。
ゲームで言うところのHP回復スキル。
無辜の怪物:E−
白衣の天使。
生前の異名が捻じれて伝わり、過去や在り方をねじ曲げられるスキル。
しかし、『白衣の天使』とはあくまで戦場に舞い降りた彼女の姿を喩えた言い回しであり、
また、彼女自身も『天使とは、美しい花を撒く者でなく、苦悩する誰かのために戦う者である』とその異名を喜んでいなかった為、生じた変化は見た目だけ――
と、されているが、バーサーカーの時と比べて性格が若干穏やかになっている。
『天使』のイメージと晩年の彼女の穏やかさが合わさった結果であろう。
ちなみに背中の翼に特殊な効果はない。空を飛ぶこともない。
精々、温かい羽毛製品の材料に出来る程度である。
このように恩恵が少ないスキルだが、その上、あまりにも分かりやすく、自己主張の激しい見た目になっている為、宝具を発動するまでもなく真名バレする危険性が高くなっている。
看護続行:EX
戦闘続行の派生スキル。
たとえ熱病を患おうが神経組織が破壊されようが――霊核が完全に破壊されようが、そこに患者がいる限り、彼女は二十四時間働き続ける。
【宝具】
【貴婦人の洋燈(ナイチンゲール・ランプ)】
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:10 最大補足:30
ナイチンゲールの精神性と、彼女の異名の一つ『ランプの貴婦人』が結びついたもの。
ランプから放たれる光は、毎晩夜回りを欠かさなかったという患者への献身の心の具現化であり、範囲内の毒性・攻撃性を無視し、絶対安全圏を作りだす。
また、それを浴びた傷病人に回復効果(発動が夜間であればその効果は倍増する)を与える。
バーサーカー時の宝具『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)』と似た効果を持つが、こちらの方が回復性に優れ、代わりに効果範囲が狭くなっている。
ちなみに、ランプはそのまま鈍器として使うこともできる。
【我は心より医師を助け、人々の幸のために身を捧げる(ナイチンゲール・プレッジ)】
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:30
看護によって病院・軍を支えた逸話から、彼女がサーヴァントを治療(上記の宝具によるものも含める)した場合、魔力を消費して彼らの筋力・耐久・敏捷のいずれかのステータス。暫くの間一ランク上昇させる。
サーヴァントではない人間を治療した場合は、一時的な身体力向上効果を授ける。
一種のエンチャント。
【人物背景】
アプリ『Fate/Grand Order』でバーサーカーとして登場した彼女がキャスターとして召喚された姿。
『狂化』を失ったことでようやく人の話を聞くようになった――なんてことは全くない。
彼女が人の話を聞かないのは、生前からの事なのだ。
流石に、話す事の殆どが自分自身に語りかけている物なのでコミュニケーションが取れない、ということはないが、それでもやはり、こと治療や看護についての話題になると、周りの意見を聞かなくなる。
しかし、スキル『無辜の怪物』により天使の翼が生え、服装も看護婦が着る白衣をベースにした物になった影響か、性格に若干の丸みが出ている(仮にバーサーカーの彼女がスキル『無辜の怪物』を有していたとしても、性格に表れるその影響は『狂化』で打ち消されていたであろう)。
【サーヴァントとしての願い】
なし。
【weapon】
ランプだけ。
弓矢ならまだしも、銃をぶっ放す天使のイメージなんて誰が持つだろうか。
いや、別にこれは、『なら弓矢を持って来ればOK』という意味でなく。
【特徴】
FGOのナイチンゲールが白衣を着て、その肩甲骨部分二つそれぞれに開いた、細長い菱形状のスリットから天使の翼が生え、ランプを持っている姿。
萌え属性のカツカレーチャーハンのようなものであり、コスプレ感が半端ない。
翼に隠れて僅かにしか見えない肩甲骨がエロい。
【呼称一覧】
バーサーカー時のと同じです。
【マスター】
虹村億泰@ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない
【能力・技能】
スタンド『ザ・ハンド』:
破壊力B スピードB 射程距離D 持続力C 精密動作性C 成長性C
物体だろうと空間だろうと右手で触れたものを何でも削ることが出来る。
【人物背景】
M県S市杜王町に住む、スタンド使いの高校生。
頭があまり良くなく、考えるのが苦手。
かつてDIOに肉の芽を埋め込まれたことが原因で醜悪な怪物と化した父を持つ。
【マスターとしての願い】
色々とあるが、その中でも最たるものはやはり、父親を治すことだと思われる。
投下終了です。
うっかり付け忘れていましたが、タイトルは『The band-aid』とします。
感想は明日(時間的には今日ですね)までお待ちください。
あと、出来れば自分で投げた候補作のwiki編集は自分でしていただくと、すごく助かります。是非よろしくお願いします。
>>143
確認しました。
また、その際に黒木智子&キャスターについて、完成後の宝具をWIKIに追記しておきます。
都合が悪ければ、削除します。
『苦難に別れを、これから始まるのは(コール・オブ・クトゥルフ)』
ランク:A++ 種別:対軍、対界宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
サーヴァント「ナイ」が「21人の信者」と共に海に呼びかけた時、上記宝具からこちらに移行する。
まず、呼びかけが終わった時点で神殿を超える陣地「ルルイエ」が会場内に出現、そこから一時間足らずでクトゥルフのサーヴァントが場内に放たれる。
覚醒している為に思念波の放出は止まっているが、30メートルの巨体から繰り出す攻撃はサーヴァントと言えどもただでは済まない。
現界したクトゥルフはBランクの対魔力・再生・戦闘続行・変化スキルを保有している事に加え、己の魔力を霧として絶えず垂れ流している。
霧に触れた時点で耐久判定が発生。失敗した場合は人格・技能・記憶をそのままに、ディープワンの属性・クトゥルフへの忠誠心が強制的に付与される。
判定に成功したとしてもカエルに似た「インスマス面」への変化は避けられず、ストレスや時間経過によって次第にディープワンに近づいていく。
対象は人間のみであり、サーヴァント、およびこの宝具の持ち主であるキャスターおよびキャスターのマスターは攻撃対象から除外される。
クトゥルフは魂食いによって現界に必要な魔力を稼ぐほか、ディープワン達から少量の魔力を受け取る事が出来る。
サーヴァントなので宝具による打倒が可能だが、同様のプロセスを踏めば再召喚が可能。
投下します
煌々と焚かれた篝火が、夜の闇を踊らせる。
白い玉砂利の敷かれた領内――神社めいた横長の平屋が長く広がるそこで、一人の武者が膝をついていた。
「己(おれ)は、母を討ったのか……」
悔恨を滲ませた武者の手元には柄を縞柄に巻き付けた強弓。
彼の右手には一本の鏑矢。黒鷺の尾羽が、風にひゅうひゅうと震える。
すでに内裏を覆った、正体不明の暗雲は立ち消えていた。
「己(おれ)の母は、己(おれ)に……己(おれ)に位と、こんな馬を授けんと……」
しとどに涙を滲ませる男を、美しい馬が見下ろしている。
男の名は――。
◇ ◆ ◇
気が付けば、己は眠りながら泣いていたらしい。
眼を擦りながら布団を退ければ、左手に輝いた三つ重なった月――弓張り月の赤い刺青。
これでは仕事などできまいと苦笑しつつ、どことなくその現実離れした紋様を眺めていれば気分が高揚するのもまた確か。
顔を洗って、リビングへと足を運べば、
「おう、当世の主殿よ。今日は“れっすん”とやらはいいのか?」
寝惚け眼を引きずった少女――神谷奈緒の目の前には、ソファに寛ぐ偉丈夫。
カーキ色のフライトジャケットにネイビーのジーンズ。
片眼を隠す眼帯を見ていると、彼はすっかり映画に出てくるアクション俳優のようである。
溶け込んでるなと思う反面、その野卑にして精悍な目付きは、現代の人間には出せない戦士のそれだ。
仕事柄関わる、一部の時代劇俳優のようなものだった。きっと人目につく。
「あぁ……まぁ、それどころじゃないかと思って……」
「そうか? 俺などは歌も芸もからっきしだから、余程すごいものだとは思うのだがなあ」
そう言って奈緒が召喚したサーヴァント――セイバーは、目元を掻きながらテレビに再び顔を向けた。
丁度奈緒が撮り貯めした、女児向けのアニメを観ているらしい。
現実に戦をしていた――それも化け物と戦っていたセイバーにそれを観られるとは、なんとも気恥ずかしいものだった。
「その……ど、どうだ? セイバー?」
奈緒の問いかけに「ふむ」と彼は顎に手を当てて、
「細かいところは判らぬが、いいな。特に二人で戦っているというところが実にいい」
「本当か!? だ、だろ! 子供向けアニメとか言い切れないだろ!?」
「あ、主殿……その……」
「今の五人組もいいんだけど、やっぱり基本の二人組もいいんだよな!」
「あ、ああ……」
思わず身を乗り出して熱く語りかける奈緒に、セイバーは目を丸くしていた。
深夜。
未だに街は寝静まらぬが……その多くは寝床に就き、或いは息を潜める丑三つ時。
空を見れば静寂に雲海が天蓋を覆い、闇夜を薄めて灰色に頭上を塗り潰していた。
雪が降るだろうか。そんな静謐の夜間にも……
「ふむ、ここが当世の主殿の言う……」
「ああ……ここが、心霊ビルだ」
奈緒は忌々しげに閉鎖された廃ビルを見上げた。
彼女が全て、この度の聖杯戦争に参加することになった切っ掛け。
夏向けの心霊番組の為に、その撮影の為に入った同じアイドルの友人が――奈緒はそう思っている――未だ霊障に悩まされるその根源。
地方都市の一画。十年前の猟奇殺人事件の、現場の一つとされるビル。
「なるほど、確かにこれは澱んでおるなぁ」
見上げたセイバーが感慨深げに述べる。
そこに気負いはなかった。だからこそ、奈緒は不安になる。
「……それにしても、本当によかったのか?」
「ああ、化け物退治なんだろう? 任せておけよ」
「聖杯戦争じゃなくて……あたしの我が儘なんだ。本当によかったのか?」
元はと言えば、奈緒がセイバーを召喚することになったのもそうであった。
そもそも聖杯戦争にかける願いはない。
ただ、誰もが匙を投げた超常現象をなんとかできるのは、それこそ神話やお伽噺の中の英雄だけだと思って――。
小耳に挟んだ英雄召喚を、実行してみた。
心に従うままに書いた下手くそな魔方陣と、インターネットで拾った呪文と、触媒にもならなそうな眉唾物の骨董品で。
だから、奈緒の目的は聖杯戦争ではなかった。聖杯は目標ではなかった。その手段こそが、目的だった。
尋常な英霊に対しては侮辱に等しい召喚理由に、
「言うたであろうよ、主殿。俺はセイバー――源頼政とな」
しかしその英雄は、ただただ不敵に笑うだけ。
「ならば俺が、生前何を為したかは知っておるだろう? ――俺は、人を悩ませる怪異を、狩ったのだ」
「あ、ああ……」
そして彼は、その剣を構えた。
武器に詳しくない奈緒でも判る威圧感。明らかに、何らかの「曰く」を持った太刀。
その剣こそが彼の証明であり、何よりも有言に存在を強調するもの。
刀身はわずかにしか覗けぬ。不可思議な暗雲を、雷雲を纏った抜き身の白刃――――セイバーの証明。
彼と言えば、奈緒の知る限りで該当しそうなクラスはアーチャーであったが……この太刀を見ればそれを否定せざるを得ない。彼は紛れもない、退魔の英雄だった。
「俺の実力を疑っているなら――――それこそ愚問よ。この源三位、早々の物ノ化生に遅れは取らんわ」
胸を叩いて、セイバーが笑う。鷹揚な笑み。
見ていればこの空間の発する寒気すらも引っ込んでいくような、快活な微笑みであった。
奈緒も頷く。そしてセイバーに抱えられてひとっ跳び。
ビルに足を踏み入れた。
コツコツと、湿った空気のビルを歩く。
廊下の一面を覆う連なった窓ガラスは、水族館の水槽めいて夜の街を閉じ込めている。
そんな青と紫の影が生む墨絵めいた視界の中、ライトもつけずに歩く二人。
ふと、奈緒が口を開く。
「なあ……セイバーの願いって、なんなんだ?」
手持ち無沙汰に奈緒が問いかけてみれば、セイバーはきょとんとした顔。
「いやほら、こんなバトロワみたいのに参加して……サーヴァントってのは聖杯が欲しいんだよな?」
沈黙を嫌った世間話のつもりであったが、思った以上に深刻な話だったのか。
顎に手を当ててセイバーは黙り混む。
それからしみじみと、言った。
「……俺はなぁ、間に合わなかったのよ」
その目は、眼帯に包まれた二つも揃って――遠くを眺めている。
「まぁ、怪我というか……後遺症が原因でな。どうしてもやたらめったら、世の中が煩く“視える”ようになってしまった」
寂しげに落とされた肩。
右手が静かに眼帯を押さえた。
「療養していたのだが、俺はなんとも大切なときに間に合わなくてな」
ふう、と吐息。
「今度こそは間に合うといいのだが……まぁ、そもそもよなあ」
前提からして難しいのだと――セイバーは寂しげに笑った。
軽く聞いていい話とは、奈緒には思えなかった。
「そ、その、セイバー……ごめん」
「ん? む、いや……そんな顔をさせるつもりはなかったのだが――――まぁ、そうさなぁ」
「な、なんだ……?」
「俺には歌が判らぬと言っただろう? だがなあ、俺の大切な知り合いは、実に歌に通じた方でなあ……」
セイバーの顔が、少年のように歪んだ。
「幾らか聞いて覚えていけば、いつかお目通りしたときに……多少なりとも慰めになるかもしれんな。
歌を少しは、聞かせてくれるか?」
「あ、ああ! どうせならカラオケにも行くか! 何人か誘って!」
「……ははは。俺を見て怖がらなければいいが」
思った以上に息巻いた奈緒に、セイバーは苦笑いで返した。
「ここの奥か……」
「やっぱり、判るのか? 気配とか、邪気とか!?」
「ん? ああ、なに……『立ち入り禁止』と書かれて厳重に封をされていたら、俺でなくとも気付くさ」
「あ……そ、そうか」
完全に閉ざされた鉄の扉。
その上から取っ手に何重にも巻き付けられた鎖と、溶接された鍵穴。
余人なら諦めるところであろうが、
「ふむ……少し待っておれ」
セイバーの剣が軽くなぞれば、瞬く間に意味を失う鍵と鎖。
単純な剛力や切れ味とは呼べない何かがそうさせた風に、奈緒は感じた。
そして扉に手をかけたそのときに――遠くから近付く低い嘶きと世の闇を裂く円形の光=ヘッドライト。
奈緒は顔をしかめた。
アイドリングをする数台のバイクのその先数メートル。
玉砂利の白が、ライトを跳ね返してこつこつと浮かび上がる。
小刻みになった排気音と振動音。談笑の声と共にヘルメットが外されていた。
ふと奈緒が目線を上げると――悪戯っぽく微笑むセイバー。
「当世の主よ。少々煩くするが――――構わぬか?」
「あ、ああ!」
「……ふふ、俺も恵まれておるわ」
思ったより息荒く叫び返す奈緒にセイバーは頬を緩め、柄を握る指を改めて締め直し――
「――南無ッ!」
セイバーの気迫と共に、太刀から遡る紫電。天を突く光の柱。
空気を裂く轟音に、ビルを目指していた若者たちの足が止まった。隣にいなければ奈緒とて、雷が落ちたのか発せられたのかは気付かぬだろう。
やがて警告の甲斐あってか、彼らは立ち去っていく。
そのさまを眺めつつ、二人は再び歩き出した。目指すは廃ビルの最深部だ。
「すごいな……剣からビームって、完全にアニメだよな……」
「“あにめ”……あの動く絵草紙のことか……ははあ、確かに光っておったな。作り手は英雄をよく知っておるのだろうよ」
「本当か!?
だ、だったら英霊の座には平行世界の魔法少女とかももしかしたらいるのか!? ひょっとしたらあたしも――――」
「お、落ち着け……落ち着け、当世の主殿」
どうどうと翳された手に赤くなる。
セイバーが召喚されてから、画面の向こうのことだと思っていたものを目の当たりにしてしまって――どうにも奈緒は調子が狂いっぱなしだった。
かなり格好悪いというか、気持ち悪い面を見せてしまった。
流石に自己嫌悪だと肩を落とすが、やはりセイバーは鷹揚な笑みを浮かべていた。
「さあて、当世の主よ。ここからが正念場だ。
くれぐれも――“当てられる”ことのなきようにな?」
まず奈緒が感じたのは異臭だった。
コンクリートに、壁に、空間に染み着いた異臭。
人の嘆きと怒り――哀しみと恨み――屈辱と陵辱が染み着いて、訳も解らぬ湿っぽさを保っている。
金切り声を耳にしたように。
皮膚の下を錆びた釘で撫でられたように、全身が総毛立つ。
「加蓮……」
こんな場所に連れて来られてしまって。
そして今なお、入院生活を余儀なくされてしまった友人を思った。
ここは――――人が立ち入るべき場所ではない。
直感で、そう判る。
「ほう」
構わず、奈緒を庇うようにセイバーが前に出た。
「ふむ……怨念。邪な神性の系譜に囚われたか……染められてしまったのか」
セイバーが眼帯を掴み取れば、覗いたのは蒼白の虹彩。宵闇の内でなお静かに鼓動する蒼き瞳。
投げ捨てられた眼帯。
「俺の青い浄眼にはもう結末が見えておるが……疾く往ぬる気はないか?」
返答はなく、部屋の隅で火花が散った。
焼けた栗が弾けるような破裂音と共に、巨人が踏み締めたが如くガタガタと鳴りつける部屋。
セイバーはただ、悲しげに微笑んでいる。
「そうか。……そうなら、仕方あるまいなあ」
セイバーが、雲を纏う太刀を逆手に握り直した。
太刀を、逆手に――――。
「ならば、文殊菩薩に代わって教えてやろう」
瞬間、雲が晴れた。
そこにあったのは短刀。
夜に映える冴えた弓張り月のように――蒼き刃。
「“これが――――」
石火。その最中は、奈緒にも見えぬ。
だが――――さながら運命の軌道が如く迸った蒼き稲妻をなぞる、空間の断裂。
十六閃――――。
つまり実に――都合、十七分割――――――。
「――――――――――モノを殺すということだ”」
怨霊は、瞬く間すら与えられずに“殺害”された。
「こ、殺したのか……?」
犠牲者と、セイバーは言っていた。
彼の言葉に従うならば、ここに居たのは恐ろしくも――しかし哀しい怨霊。
「ん?」とセイバー。
頬を掻いて、どこか恥ずかしそうに笑っていた。
隠した悪事を露にされたような、得意気に言いはなった洒落を途中で解説されたような、立つ瀬のない子供のような笑み。
「少し疲れるが……そこに可能性があるならば、掴みとるのが我が宝具よ」
「なら……!」
「ああ。己で納得して成仏してくれればよかったのだが――ま、そうさなあ」
そして合掌を一つ。
その様は実に清々しく――――。
武人というものを、英雄というものを直接見聞きしたことのない奈緒にとっても――――。
きっと彼が英雄なのだとは、言葉でなく理解できた。
「無常に打ち捨てられし無垢なる魂よ……どうか救いが在らんことを。南無八幡大菩薩」
セイバーは、紛れもない英雄だった。
◇ ◆ ◇
煌々と焚かれた篝火が、夜の闇を踊らせる。
白い玉砂利の敷かれた領内――神社めいた横長の平屋が長く広がるそこで、一人の武者が膝をついていた。
「己(おれ)は、母を討ったのか……」
悔恨を滲ませた武者の手元には柄を縞柄に巻き付けた強弓。
彼の右手には一本の鏑矢。黒鷺の尾羽が、風にひゅうひゅうと震える。
すでに内裏を覆った、正体不明の暗雲は立ち消えていた。
「己(おれ)の母は、己(おれ)に……己(おれ)に位と、こんな馬を授けんと……」
しとどに涙を滲ませる男を、美しい馬が見下ろしている。
男の名は――。
頼政様と、彼は呟いた。
「隼太よ……隼太よ、己(おれ)は――」
膝をついた源頼政を、猪隼太は短刀を片手に眺めていた。
強い人だと思っていた。立派な人だと思っていた。
だからこそ隼太はただ一人、彼と共に難題へと挑んだのだ。正体不明の魔に挑んだのだ。
その彼が、両目に手を当てて泣く――――堪えられないと、泣く。
引き換えに生まれた馬を引いて、隼太はただ呆然と、鵺の血に塗みれた短刀を片手に立ち尽くした。
駆(はし)る。
駆(はし)る。
駆(はし)る。
世界はどこもひび割れて、童が土になぞった悪戯描きが如く亀裂を孕んでいる。
どこもかしこも、死んでいる。
この世のなんと、脆いことか。
うっかりとその線に踏み込んでしまえば、世の中全ては崩れ落ちる。
ああ――――なんてこの世の儚きことか。
どこもかしこも壊れやすくて、一歩踏み出すことさえ諦めそうになる。
ああ――――だけどもそれよりも。
それよりも己には、もっと恐ろしいことがあるのだ――――。
駆(はし)る。
駆(はし)る。
駆(はし)る。
それでも隼太は駆けた。
己目掛けて放たれた矢の“点”を穿つ。
己目掛けて突き出された槍の“線”をなぞる。
己目掛けて斬りかかる武者の身体を、悉くに解体する。
そうして駆けつけたその寺は、既に消しようがないくらいに火に包まれていた。
「己(おれ)は――――母上に報いんと、付き従ってみたが……」
頼政様と、声が溢れた。
「心を殺して生きながらえるのも……疲れてしまってな」
頼政様と、背に回した手が血に濡れた。
「なぁ、隼太よ……。己(おれ)は……どうしたらよかったのだろうな」
頼政様と、呼び掛けた声に返事はない。
頼政様――――。
もう彼に応える主は、どこにもいなかった。
【クラス】セイバー
【真名】源頼政(猪隼太)
【出典】平家物語、源平盛衰記
【マスター】神谷奈緒
【性別】男性
【身長・体重】176cm・78kg
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力B+ 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:C++
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。
だが刃を突き立てる為に僅かな時間なら、幻獣クラスであっても暴れているのを押さえ込むことはできる。
【固有スキル】
勇猛:B+
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
彼の場合、特に相手が魔に属するときに効果が上昇する。
直感・偽:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
彼の場合後述の宝具の影響により、差し迫ったあらゆる可能性を「視る」ことができる。
心眼(偽)・偽:B
直感・第六感による危険回避。
虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
彼の場合、後述の宝具の影響により己に迫る「死線」を視ることにより獲得している。
直死の魔眼・偽:B
無機・有機を問わず、対象の“死”を読み取る魔眼。魔眼の中でも最上級のものとされる。
物体に内包された“いずれ迎える死”の概念を、“点”や“線”として見抜く魔眼。
それらをなぞることで起こされた死は、決して癒えることはない。
先天的な素質。そして本来なら眼球と脳がセットで成り立つものなのであるが、彼の場合は後述の宝具の影響により後天的に歪んだ形で習得してしまった。
魔力放出(雷)・偽:B
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
煌く雷が魔力となって使用武器に宿る。
彼の場合は後述の宝具の影響により、己自身の魔力を用いずに魔力を雷として放出する。
【宝具】
『骨喰・九斬致死(きりつけることじつにくど)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大補足:5人
本来は短刀であった骨喰であるが、鵺退治に用いた骨喰として伝わる武器の姿は後世あまりに多い。
正体不明の幻獣・鵺を斬りその血を受けた骨喰はその正体そのものが不確定のものとなり、主人が都度観測することで様々な刃物に姿を変える。
短刀以外のときは刃の周辺に鵺が伴った雷雲が立ち込め、刀身を隠している。
『骨喰・死突一閃(つきさすことじつにいちど)』
ランク:C+++ 種別:対概念宝具 レンジ:1 最大補足:1人
骨喰を短刀として用いる際にだけ使える対概念宝具。
主の頼政から文殊菩薩の両眼の精を元にした鏑矢の支援を受けつつ、正体不明の代名詞である鵺を斬って殺したことにより彼が手に入れた「魔眼」。及びそれを利用した「戦法」。
鵺を殺した際に斬りつけた回数などが文献により様々であるが――――“斬り殺した”という事実は確か。
「魔眼」で見抜いたあらゆる確率を観測して収束させてから斬るのではなく、斬ることで一つの結末に収束させて観測可能とする因果逆転・因果収束。
実体があろうがなかろうが、確率の伴う事実がそこに存在するならば――彼は確実にその“死”を掴みとって見せる。
付随して、失敗・成功の結末の判定を必要とするスキル・宝具などの概念についても、切り払うことでセイバーの意に沿った結末を与える。
【weapon】
骨喰。
短刀、大太刀、薙刀など様々な形状の刃物に変えて戦う。
【解説】
セイバーは日本に伝わる三大化生の一画、鵺――正体不明の幻獣を討伐した武者。
主の源頼政と共に、頼政の母が変化してしまった鵺を退治した従者である。
頼政が鵺を文殊菩薩の眼から授けられた源氏伝来の矢“兵破”で怯ませた後に、鵺を追いかけ止めを刺したのが猪隼太。
智慧の菩薩としての文殊菩薩の加護を受け、そして正体が定まらぬものの代名詞である鵺を斬り殺しその血を浴びたことで彼は“あらゆる死”を“識ってしまう眼”を会得してしまう。
その魔眼に悩まされて主と袂を別ち療養を続けている間に、彼の主は平清盛の元で源氏としては初めての破格の従三位の位を獲得していた。
しかし清盛から抜群の信頼を得ていた源頼政は――後に突如として平清盛に反旗を翻した。
猪隼太は、主の頼政がその甲斐もなく敢えなく自刃した際にその首級を余人の手に渡らぬところに運んだとされる。
【特徴】
せっかくならば当世風に、とフライトジャケットとネイビージーンズを着込んだ偉丈夫。
右目だけは青い浄眼であり、その上に眼帯を嵌めているが魔眼殺しでない為に特に意味はない。
気分の問題だ――とはセイバーの談。
【聖杯にかける願い】
主の代わりに、主を名乗り、主の生きたかった道を生きる。――主の為に。
もう一つ、細やかに願う。
――――今度は、間に合えばいい。
【マスター】
神谷奈緒@アイドルマスターシンデレラガールズ
【能力・技能】
アイドル。
また、家系のどこかに魔術師の適性があったのか、サーヴァントの召喚には成功した。
【人物背景】
眉がちょっと太い、気が強めのアイドル。
そのわりに誘い受けというかヘタレというか、とにかく若干弄られ気質なのではないかと伺える。
粗暴そうな言動に対して恥ずかしがり屋であったり(しかもそれでちょっと乗り気)、趣味がアニメ観賞であったりとやや変わった少女。
この世界の新人アイドルであり、
夏の心霊特番で、かつて猟奇殺人事件の舞台の一つとなった冬木市の廃ビルを訪れた友人の北条加蓮の身に降りかかってしまった災いを解決すべく奔走。
その最中に怪異退治の専門家として、セイバーを召喚した。
もう少し他人にはツンツンデレデレ当たる人柄であるが、アニメじみた出来事にあった高揚感からセイバーへの対応は変わっている。
【マスターとしての願い】
彼女にとっては聖杯戦争の手段であるサーヴァントの呼び出しこそが、目的であった。
しいて言うなら、セイバーの願いが自分の願い。
投下を終了します
投下お疲れ様です
>>112
支援ありがとうございます
投下します
「ああ、もうおまえとは二度と会えないのか」
父が嘆く。
その端正な顔立ちは悲哀に包まれており、肩は悲しみに垂れ下がる。
魔や冥界の馬、神すら打ち倒したその強靭な武勲を持つ彼でさえ、子の前では一人の父親らしい。
「行かないでくれ」
「君は私達の誇りだ」
「そして友だ」
仲間が懇願する。
二度と会えぬのは嫌だと、大の大人が涙する。
筋骨隆々の騎士たちがみっともなく涙を垂れ流す姿は、彼らには悪いが、少し笑えた。
「はは、何を言うのです、父よ。そして仲間達よ。
これが今生の別れでもあるまいし」
快活に笑い、仲間の背を叩き父に顔を向ける。
少し、妻の国へと向かうだけだ。
何も死ぬ訳じゃない。
何も消える訳じゃない。
生きていれば、いつかまた会えるさ、と。
「私は必ずやまた帰ってくる。この故郷エリンに。
その時にまた酒でも酌み交わそう」
金の蹄を持つ白馬に跨がる。
手綱を握り、後ろに乗る金の髪を持つ麗しい妻に落馬せぬよう己にしっかりと掴まるよう言い聞かせる。
白馬は嘶き前の蹄を高く掲げ―――その姿は勇ましく、伝説に残る数々の勇者たちに引けを取らない男らしいものだった。
仲間達はその姿に変わらぬ大英雄の血を見出だし、讃えた。
しかし。
父だけが、未だに悲しみに暮れた顔から解放されていない。
「何を悲しむことがあるのです、父よ」
「いや、悲しむさ。これがおまえとの最期の別れとなってしまうと、私の直感が囁いている。
ああ―――此ほど悲しいことがあろうか。
私の息子よ。誉れ高きエリンの騎士よ。どうか、幸せであってくれ」
父は願うように。
しかし、決して引き止めず。
息子の出発を、慈愛の瞳で見つめていた。
「はは、そんな大袈裟な。私はただとある国へと向かうだけ―――ただ、この馬と妻の国へと向かうだけ。
向こうの国へと到着した際には我が偉大な父の武勲を語り聞かせ、この地へ里帰りした時には向こうの国の思い出話を土産に持ってきましょう」
さあ、行くぞ、と。
手綱を引き、白馬を走らせる。
向かうは病も老いも死も知らず、酒と果実も絶えることなく、常に日差しが差し込み楽しい音楽が流れる『楽園』。
麗しき妻ニァヴを後ろに乗せ、エリンの地を駆け、果てには大海原をその蹄で踏破していく。
さらば、我が故郷よ。
さらば、我が父よ。
さらば、我が仲間達よ。
「いざ行かん―――『常若の国(チル・ナ・ノグ)』へ!」
そして。
これが、父との最期の別れとなった。
○ ○ ○
「はあ、はあ、はあ、は―――!」
息を切らし、白馬を駆る。
常若の国は、余りにも幸せだった。
妻との暮らしは何よりも幸せだった。
だからこそ、この幸せを父や仲間たちに語り聞かせたいと思った。
『ああ、残念です。わたし、悲しいです。それでも帰ると言うならば、この白馬からは決して降りないで。
そうしてしまったら、二度とわたしとは再開できないでしょう―――』
故郷へ帰ると妻に伝えた時は、涙と共にそう告げられた。
妻を悲しませることは何よりも辛かったが、しかし父と、かつての仲間と出会えるということの方が彼の心を弾ませた。
そして。
故郷エリンに着いた彼が見たのは、変わり果てた故郷の姿だった。
絢爛な城は蔦絡む廃墟へと姿を変え。
筋骨隆々な騎士たちは姿を消し、一回りも二回りも小さい僧ばかりが町を歩いていた。
「おい、そこの君!君だ、そこの僧だ!」
『はて、私ですかな?おお、なんて立派な馬だ。加えて貴方もかなりの大柄、引き締まった身体だ。
旅のお方ですかな?』
「そんなことはどうでもいい。一つ、訪ねたいことがあるんだ」
彼は、白馬の上から惚けた僧へと訪ねた。
偉大なる父の名を。
故郷エリンでは名を知らぬ者はいないであろう、その名を。
「君は―――『フィン・マックール』という者を知っているか?」
大英雄、フィン・マックール。
知恵の鮭の恩恵を得た、知恵の戦士。
その問いを受けた僧はうーんと頭を悩ませる。
僧がまた口を開くまで十秒となかったが、彼にとってはその十秒は一時間にも思えた。
『ああ、知っていますよ。そりゃ知っていますとも!』
「ほ、本当か!?今彼等が何処にい―――」
『―――かなり昔の人物ですが、沢山本になってますからな。私も子供の頃はフィンの伝説を聞き、フィンの絵本を読んで憧れたものですよ』
「……は?」
返ってきたのは、予想外の答え。
常若の国。
病も、死も―――老いも知らない、楽園。
彼が暮らしていた常若の国と外界では、時間の流れが違ったのだ。
彼が幸せに暮らしている内に、外では数倍以上の時間が流れていた。
故郷エリンへと帰ってきた頃には―――父フィンも仲間も死に絶え、騎士の時代は終わっていたのだ。
「ああ、あ……!!」
これは、認められない。
父は。仲間は。私との別れを惜しんでくれていたのに。
これが最期の別れと嘆いていたのに。
私は、それを無視し大袈裟だと笑ったのだ。
なんと、惨いことをしたのか。
ああ、もう一度。
二度目の生があるのなら―――父フィンに、仲間たちに、この元気な姿を見せ語り合いたい。
そう慟哭した時。
白馬の勒が壊れ、彼の身体が地面へ落ちる。
『―――この白馬からは決して降りないで』
「あ…」
妻の言葉を思い出しながら、彼の身体は地面へ触れる。
その瞬間。
さらり、と。
身体の全てが、灰と化し―――彼の身体は、風に乗って、消えた。
○ ○ ○
とことことこ。
かぽかぽかぽ。
夜の町にはあまりにも不釣り合いな、着ぐるみを来た少女が、これまた町には不釣り合いな白馬の上に跨っていた。
市原仁奈。
九歳にしてアイドルの、動物大好き乙女である。
「そうか……Youは動物が好きなんだね?」
「そうですよっ。着ぐるみパワー全開でごぜーます。これ着ると、動物の気持ちになれるですよ」
「ふむふむ。ユニーク!&グレイト!その歳にして動物を敬う気持ちを持つとは……立派だね」
金髪の男性が駆る白馬に揺られ、兎の着ぐるみを被った仁奈は笑顔で答える。
誇らしげに両腕を拡げ、己の身体をより魅せるように。
「えーと……ライター?」
「ライダーだよレディ・ニナ。点が二つばかり足りない」
「ライダー!外人さんみたいな名前でごぜーますね」
うぬぬ、と変わった名前を告げられた仁奈は呻き、少し悩んだように頭を傾げる。
そして小さな掌でぺしぺしと白馬を叩き、問う。
「ライダーはどんな動物が好きです?やっぱりお馬に乗ってるからお馬でごぜーます?」
「はは、そうだね……私は小鹿さんが好きだ。内緒だが、私の母親は小鹿の妖精なのだよ」
「鹿!?」
「そしてMy nameも『小鹿』という意味で父から与えられたのだよ!!」
「小鹿!?」
はははと談笑しながらお馬は進む。
夜のためか殆ど人気はない。
……だからこそ、彼―――ライダーのサーヴァントである彼も、馬に乗せて移動している訳だが。
しかし。
段々と、仁奈の表情から笑顔が消えていく。
「……」
「…レディ・ニナ。どうしたんだい?お馬は嫌いかい?見てごらん!
もっとパッカパッカするぞ!そうだ!お歌を歌うかい!?」
少し楽しげに白馬が跳ねるが、それでも仁奈の笑顔は戻らない。
それどころか、瞳に涙が溜まっていく一方だ。
「―――済まない。楽しくなかったかい?」
「……ちげーです」
ライダーが問うと、仁奈はぶんぶんと頭を振る。
そして。
絞り出すような、か細い声で。
「パパに会いてーです…一人は寂しーです…」
ああ、と。
ライダーは、己の過ちを恥じた。
聖杯戦争の場に呼ばれ。
右も左もわからない状況に投げ出された幼子の前で、父と母の話をするなど不躾にも程があった。
これは、私の落ち度だ。
ポンポン、と仁奈の頭の上をライダーの大きな掌が撫でる。
「私と、同じだね」
「……?」
何を言っているのかわからないというような顔で、仁奈がライダーの顔を見上げる。
その顔は、何処か遠くを見ているようで―――何処か此処ではない何かを見ているようで。
少し、惹き込まれた。
「私もね、お父さんに会いたいんだ」
「ライダーのパパも遠いところに行ってやがりますか……?」
「うん。とても遠い所に行ってしまった。
本当に―――本当に、遠い所だ」
出来れば、もう一度会って話がしたい。
出来れば、この元気な姿をもう一度父や仲間に見せてあげたい。
言葉に出さない感情。
心の中に去来する最期のの父は、悲しみに暮れた顔をしていた。
そしてライダーは、ふっと笑うと仁奈を抱え上げ空へと持ち上げる。
「わわっ!?」
「ほらどうだ!高い高いだぞ!今ならお歌も歌ってあげよう!
……レディ・ニナ。君のお父さんは、まだこの世界にいるのだろう?」
「……でも、遠い外国に」
「はは、気にすることはないさ。
私が君とお父さんを会わせてあげよう―――そして、それまで君を襲う全ての者から君を守ろう。
約束しよう。このお馬さんは海の上も歩けるからね!」
にこやかに笑うライダー。
それにつられたのか、それとも言葉の真意を理解したのか―――仁奈は、ライダーに小指を差し出す。
「じゃあ、ゆびきりけーんまんでごぜーます」
「ああ、約束だ」
大男の指と、仁奈の指が交差する。
残念ながらライダーの指が大きいため指切りにはならなかったが、それでも心は通じあった。
斯くして、『小鹿』の名を持つサーヴァント―――ライダーは、親を求める幼子の元へ召喚された。
己と同じように、親を求める子の元へ。
ライダーは、何があっても彼女を守り抜くだろう。
故郷エリン。ケルト神話の大英雄、フィン・マックールの息子。
悲劇の英雄―――『オシーン』は、深く、誓った。
【クラス】ライダー
【真名】オシーン
【出典】ケルト神話
【性別】男
【属性】中立・中庸
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力E 幸運D 宝具B
【クラススキル】
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。
Bランクでは魔獣・聖獣ランク以外を乗りこなせる。
【保有スキル】
小鹿の加護:B
妖精の魔術により小鹿に変えられた母を持つ、オシーンのスキル。
逃亡において有利な判定を得る。
神性:D
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
妖精女王への救済:A
妖精の女王を救ったことによる、祝福。
精神汚染の類いをある程度まで阻止する。
巨人の首:A
妖精の女王を救うため、巨人と一騎討ちを行い勝利した逸話から得たスキル。
状況を一対一の戦いに持ち込みやすくする。
【宝具】
『疾く渡れ、金の白馬(チル・ナ・ホース)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
オシーンが駆る、金の蹄を持った白馬。
緑が咲き誇り常に日差しが差し込み、金銀財宝に溢れ、苦しみも病も苦悩も知らず常に若い姿で生きられる、理想の国である「常若の国(チル・ナ・ノグ)」へとオシーンと妻「ニァヴ」を導いた白馬。
そして「常若の国」から、オシーンを故郷へと導いた白馬。
この馬はあらゆる地形を踏破し、海原を沈むことなく超え、足元に地があるかなど関係なく空間を駆ける。
「常若の国、そしてとうの昔に変わり果てた故郷へと導いた白馬」という逸話により、この金の白馬はあらゆる場面において「騎乗者を導く」という能力が備わっている。
言うならば、この馬は戦場日常問わず常に「状況に合わせた最適解を選ぶ」能力を持つ。
派手ではないが、粘り強さと堅実な強さを持った宝具。
……しかし、その半面「この馬から下りたら二度と私の元へは帰れないでしょう」と常若の国を去る前にニァヴに告げられ、故郷へと帰り地面に下りた瞬間、灰になって消えてしまった(老人になったなど諸説ある)という逸話を持つオシーンにとってこの宝具は一つのデメリットが存在する。
彼はこの馬から下りると身体に関するステータス(筋力・耐久・俊敏)が一段階下がってしまう。
『永久に甦れ、愛しき国よ(チル・ナ・エーレ)』
ランク:B 種別:対陣宝具 レンジ:60 最大捕捉:500人
彼が辿り着いた楽園「常若の国」を魔力によって限定的な再現を行う。
痛みも病も老いも知らず、オシーンが望めば百の剣も百の兵も呼び寄せることができる、『オシーンの絶対空間』。
この空間の中では不死や望んだ装備(神造兵器の類いは不可能)を得ることが可能な半面、魔力消費が大きく、一人前の魔術師であっても長時間の展開は不可能。
【weapon】
金の剣
【人物背景】
ケルトの大英雄、フィン・マックールと小鹿の妖精サヴァの間の息子。
勇敢で気高く、聡明で高い力を持つ青年。
……しかしFateにおけるフィンの息子である故か、少しナルシスト気質を持つ。
金髪の美女「ニァヴ」と出会い、楽園「常若の国」へと旅立った。
もう二度と会えぬと嘆く父や仲間に「また会える」と言い残して旅立ち、その道中で様々な不思議な体験や巨人を打ち倒し、楽園に到達した。
だが長年暮らす内故郷へと帰ることを決めたオシーンに与えられたのは、妻ニァヴの悲しみと「絶対にこの白馬から降りてはならない。降りてしまえば私とは二度と会えないでしょう」という予言だった。
その予言を胸に故郷エリンへと帰るオシーンだったが、彼を待ち受けていたのは己が旅立って300年の時間が経ち変わり果てた故郷だった。
老いを知らぬ「常若の国」と外の世界は時間の流れが違ったのだ。
そしてあるアクシデントにより落馬したオシーンは、その時間のツケを貰う―――灰になってしまったのである(老人になったなど諸説ある)。
浦島太郎と似た話の流れを持つ、ケルトの英雄である。
聖杯に託す望みは「もう一度父や仲間と再開すること」。
置いてきてしまった、二度と会えないと嘆いた父や仲間に元気な姿を見せたい―――息子としての、彼の願いである。
尚、マスターの仁奈に向けては常に明るく、英雄のように、スーパースターらしく明るく楽しませようと接する。
【特徴】
金髪を持つイケメン。イケメンだが、ナルシスト故かどこか間の抜けた印象を与える。
常若の国の経験からか、歌や果実も大好き。大柄。
【マスター】
市原仁奈@アイドルマスターシンデレラガールズ
【能力・技能】
アイドル。
【人物背景】
9歳のアイドル。
きぐるみ大好ききぐるみ少女。
父と母の愛を求める、幼い少女。
【マスターとしての願い】
パパと会いてーです
投下終了です
皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます
冬木市の、とある裏路地。
ここで、一人の青年がいかにもな格好をした不良学生に絡まれていた。
「だから、謝ってるでねえべか」
「なめた口きいてんじゃねえぞ、田舎者が。俺の靴はてめえの地元じゃ手に入らねえような高級品なんだよ。
それを踏んでおいて、謝るだけで済むと思ってるのか? オラ、金出せよ。
5万で勘弁してやるからよ」
「はあ……」
「てめえ、何溜息ついてやがる! バカにしてんのか!」
精一杯すごむ不良であったが、青年はまったく意に介さない。
「こんな時に、ただのチンピラ相手にいざこざ起こしたくはなかったけども……。
これ以上は付き合ってらんねえべ」
青年は背中に手を伸ばし、背負っていた何かをつかむ。
それは、巨大な筆だった。
「ギャハハハハハ!! なんだそりゃ!
頭おかしいのか、てめえ!」
1メートルはある筆を刀のように構える青年の姿は、不良にはひどく滑稽に見えた。
浴びせられる嘲笑に、青年はわずかに眉をしかめる。だが、それだけだ。
次の瞬間、凄まじい速度で筆が振るわれる。
そして不良の胸に、「石」の文字が刻まれた。
「…………」
文字を刻まれた不良は、身じろぎ一つしない。
まるで、本当に石になってしまったかのように。
「雨が降るまでそうしてるべ、バカが。いや、この季節だと雪だべか?
まあ、どっちでもいいべ」
筆を背中に戻すと、青年はその場を去って行った。
◇ ◇ ◇
青年の名は、「東北ミヤギ」という。その名の通り、宮城県出身である。
職業は殺し屋。世界最強の殺し屋集団と言われる、「ガンマ団」の一員である。
彼がここにいるのは自分の意思ではなく、気が付けば巻き込まれていたクチである。
だが彼は、聖杯の獲得に前向きであった。
とはいっても具体的に叶えたい願いがあるわけではなく、そんなすごいお宝を持ち帰れば団の中で一目置かれるだろうという程度の考えである。
(聖杯の力があれば、オラが世界の支配者になったりすることもできるんだろうけど……。
オラにはそこまでの野心はねえからなあ。
人の上に立つのなら、やっぱりマジック総帥のように器の大きい人でねえと)
そんなことを考えながら、ミヤギは人気の無い道を歩く。
(しかし……オラのサーヴァントってやつはいつになったら現れるんだべか。
もうこの令呪が浮かんでから何時間も経つのに……。
まさかオラ、聖杯に忘れられてるんだべか!? こんなところまで連れて来られたのに!)
次第に焦りを募らせていくミヤギ。
だがその時、彼の不安を打ち消す声が響いた。
「ハーッハッハッハ! 待たせたな、我がマスターよ!」
「!!」
反射的に、ミヤギは声のした方向に視線を向ける。
そこには、甲冑を纏った男が仁王立ちしていた。
「セイバーのサーヴァント、伊達政宗推参! よろしく頼むぜ!」
「伊達政宗……様……?」
ミヤギは、驚きを隠すことができなかった。
伊達政宗と言えば、彼の故郷を代表する英雄である。
それが目の前に現れたとなれば、彼の受けた衝撃は計り知れない。
だがミヤギの表情には、純粋な驚きや憧れだけでなく、戸惑いの色も混じっていた。
「あのー……失礼だけんども、本当に政宗様だべか?」
「なんだよ、疑うのか? ほら、眼帯してるじゃん」
「いや、それはいいとして……。なんで金髪?」
「ああ、これか?」
見事に染まった髪をいじりながら、政宗は答える。
「やっぱり伊達男としては、おしゃれの定番は抑えておきたいだろ?
だから、現界してすぐに染めてきた」
「……ちょっと何言ってるかわからねえべ」
「なんで何言ってるかわからねえんだよ」
【クラス】セイバー
【真名】伊達政宗
【出典】史実(日本・戦国〜江戸時代)
【性別】男
【属性】混沌・中庸
【パラメーター】筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:D 幸運:B 宝具:C
【クラススキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。
生き物は魔獣・聖獣ランク以下なら乗りこなせる。
【保有スキル】
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
勇猛:C
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。
黄金律(食):A
あまり知られていないが、伊達政宗は料理においても数々の功績を残している。
このスキルを持つ限り、食料が向こうからやってくるため空腹に困ることはない。
【宝具】
『天下の伊達男』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
派手好きで知られた彼の生き様そのものが、宝具となったもの。
真名を解放すると、彼の鎧が黄金に輝く。
この時点ではわずかに能力が上昇する程度だが、その姿を見た人間が多ければ多いほど能力は上がっていく。
群衆の前で遣えばたちまち絶大な強さを手に入れられるが、秘密裏に動くことを求められる聖杯戦争とは相性が悪い困った宝具である。
【weapon】
無名の日本刀、鎧
【人物背景】
宮城県の象徴とも言える戦国武将であり、仙台藩の初代藩主。
幼い頃に病で右目の視力を失っており、後世にて「独眼竜」の異名が定着した。
東北地方でその名をとどろかすものの、彼が天下を狙うにはあまりに生まれるのが遅すぎた。
結局秀吉の前に屈し、その後は家康の下につく。
天下は取れなかったものの乱世を生き延び、晩年は悠々自適に生きたのだから戦国武将の中では勝ち組と言えるだろう。
なお個人の武勇はさほど優れてはいないのだが、数々の創作で強者として描かれてきた補正でそこそこ戦えるようになっている。
【サーヴァントとしての願い】
派手に暴れて目立つ。
【マスター】東北ミヤギ
【出典】南国少年パプワくん
【性別】男
【マスターとしての願い】
聖杯をマジック総帥に献上する。
【weapon】
・生き字引の筆
ミヤギが用いる巨大な筆(「生き字引の筆」は技名で、筆の名前ではないという説もある)。
この筆で何かに文字を書くと、対象は文字が示すものに変化してしまう。
ただし、文字は漢字でなくてはならない(当て字でも可能)。
弱点は水で、雨に打たれたり川に落ちたりするとすぐに墨が落ちて効果が失われてしまう。
【能力・技能】
殺し屋として格闘術、射撃、サバイバル術などを習得している。
【人物背景】
宮城県出身のガンマ団メンバー。
金髪の美男子で、「オラ」「〜だべ」といったステレオタイプの東北なまりでしゃべる。
ガンマ団を脱走したシンタローへの刺客としてパプワ島に送り込まれるが、あっさりと返り討ちに。
帰るに帰れずそのまま島で生活するうちになんだかんだでシンタローと腐れ縁になり、やがてたしかな絆で結ばれた仲間となる。
後に、シンタローが率いる新生ガンマ団にも参加した。
【方針】
聖杯狙い。
投下終了です
投下します
――――発掘調査。
それはきっと、考古学を象徴するものなのだろう。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
繰り返し、繰り返し、ただそれだけを繰り返す。
大地の中に遥かな古代の息吹が眠っていると信じて、ただただ繰り返す。
掘り返して出て来たものを集めて照らし合わせて、それでようやく答えが導き出せる。
例えばA地点とB地点で同じものが出てくれば、それは両者が同じ文化か、その系列にあったということ。
そういう風に点と点を線で繋ぐのが、考古学という学問だ。
それは実地調査たる発掘に限らず、机上の研究においても同じこと。
入念に資料を掘り返し、掘り返し、掘り返したものを集めて照らし合わせ、答えを探す。
本質を同じくするそれらは、やはり発掘調査が考古学を象徴するものなのだと強く思わせる。
その繰り返しの先に何があるのか、やってみるまではわからない。
否、予想はできる。仮定と推論でその先にあるものを想像し……それを掘り当てるために、ただ作業を繰り返すのだ。
考古学者が地中から探り当てるのは結論。
自らの研究が導き出す答えを、夢を、地中から掘り起こすために彼らは日夜発掘作業に身を投じているのだ。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
延々と、延々と、ただそれだけを繰り返す。
作業の果てに夢見た世界が広がっていると信じて、ただただ繰り返す。
それでもやはり体力の限界というのはあるもので……平賀=キートン・太一は、額の汗をタオルで拭ってひとつ伸びをした。
手をかざして空を見上げれば、太陽が丁度真上の辺りで燦々と輝いている。
作業を始めたのが朝早く、それこそ日の出と同時ぐらいであったから、かれこれ四半日は発掘作業を続けている計算になるか。
そういえば自分が今発掘しようとしている都市は、太陽の神と縁の深い町であったな……などととりとめも無く考えつつ。
軍隊で培った体力も、流石にそろそろ休憩を挟むべきだと悲鳴を上げていた。
よく食べ、よく眠る。効率的な作業のためには欠かせない行動だ。
だが、それすらも惜しいとキートンは思う。
それだけこの発掘に情熱を持っているということでもあるし……食事も睡眠も必要とせずに活動できる存在を知ってしまったから、という部分もある。
と言っても生きた人間である以上その限界を超えることは叶わず、仕方なくキートンは傍らの男に声をかけた。
「先生」
キートンの言葉に、男が顔を向ける。
「なんだね、マスター」
「マスターはやめてくださいと言ってるでしょう、先生」
「キミは私のマスターだろう?」
「そりゃあそうですが……」
その男は、眼鏡をかけた紳士であった。
眼鏡の奥に燃え盛る情熱を輝かせた、紳士であった。
手には使い古された長柄のスコップを持ち、キートンの言葉に応じながらも発掘作業を止めずにいる。
まるで子供のような笑顔を浮かべながら、大地にスコップを突き刺しては掘り返す。
……彼こそが平賀=キートン・太一が聖杯戦争で召喚したサーヴァント。
過去より召喚された死人。人類史に名を刻んだ偉人。
ランサーのクラスをもって召喚されたこの紳士は、召喚時に着ていたスーツを脱いでひたすらに大地に槍を突き立てていた。
「……ともかく、疲れてきたので少し休もうと思いまして」
「そうかね。うむ、そうしたまえ。発掘には体力が必要だからな!」
話しながらもこちらに見向きもせずに発掘を進めるランサーの姿に苦笑しつつ、キートンは適当な岩に腰掛けた。
するとどっと疲れが噴き出すようで、ふぅと息を吐いてしまう。
季節は冬、場所は日本。
十分に寒気が漂う場所と季節であるが、太陽の下で延々と働いていれば自然と汗をかく。
聖杯戦争が夏の開催であったら、今頃熱中症になっていたかもしれない。
それでも激しい発汗による水分不足は季節を問わないものだから、水分補給は欠かせないところだ。
というわけで傍らのビニール袋からペットボトルのお茶を取り出し、ぐいと煽る。
独特の苦みに心地よさを感じる辺り、やはり自分は日本人なのだなとキートンは思う。
無論、日本人で無ければ日本のお茶が楽しめない、などと驕ったことを言うつもりもないが。
そもそもキートンが育ったのはイギリスだ。それを思えば、むしろ紅茶を好むべきなのかもしれないぐらいである。
うつくしさはのろいだ。
▼
スキュラという怪物がいる。
古くはギリシア神話に登場する魔獣であるが、読書に趣味を置く雪ノ下雪乃からするとオウィディウスの『変身物語』で書かれる彼女の生い立ちのイメージが大きい。
前提として、雪ノ下雪乃は美しい。
その髪は鴉が撫でつけたように艶やかさを保ち、頬は陶器に似た白さを持ちながら限りなく人間的。
彼女は白百合の無垢な美しさと、野に散るスノードロップの、健気で、粗野で、苦労を思わせる美しさを同時に持っている。
雪乃は美しさを知っていた。
無知であれ高慢でなく、美しいということがどんな意味を持っているか雪ノ下雪乃は誰よりも知っていた。
スキュラは、元々シケリア島に住む美しい女だったと言われている。
その美しさはこの上なく、島中の男たちが彼女に求婚するほど。
しかし男性に興味のないスキュラはその全てをすげなく断っていた。
あるとき、海の神の一人であるグラコウスがシケリア島を訪れる。
そして泉で水浴びをするスキュラを見た彼はスキュラの美貌に心射抜かれ、島の男たちと同じように彼女に結婚を申し込むのだ。
スキュラは当然ながらグラコウスの求婚を断った。
しかしそれでも諦めきれなかったグラコウスは魔女キルケ―のもとへ足を向け、媚薬の肇造を依頼する。
最悪だったのは、キルケ―がグラコウスを愛してしまったことだ。
スキュラに心を奪われていたグラコウスはキルケ―の誘いを断り、
キルケーは嫉妬のあまりスキュラに呪いをかけてしまう。
キルケーはスキュラの泉に魔草を投げ入れた。
何も知らないスキュラがいつものように泉に体を付けると、下半身に違和感を覚える。
慌てて泉を出たスキュラは足元に六頭の犬を見つけ、走って逃げるが、犬たちもまた同じ速さでスキュラを追う。
しばらくしてようやく犬たちが自分の下半身の変化したものだと気が付いたスキュラは絶望し、島の人々を喰い殺してしまう。
ここに怪物、スキュラは誕生したのだ。
そして彼女を愛していた人々は犬の腹に収められ、
変貌したスキュラの姿を見た海の神グラコウスは彼女を見捨て、キルケ―と縁を切った。
ああ、ああ、なんて救いのない、なんて理不尽な。
幼い雪乃は、スキュラに心底の同情を覚えた。
勝手に好きになっておいて、怪物の姿にした原因を作っておいて彼女を救おうともしなかったグラコウスが本当に嫌いだったし、
スキュラに嫉妬し、彼女を壊した魔女キルケ―を絞め殺してやりたかった。
そしてやり場のない、美しさに身を滅ぼされたスキュラに心底の同情と、悲しさを覚えるのだった。
「ええと……」
さて、休憩時間と言えどできること、やるべきことは存在する。
なにせこれは戦争だ。打てる手は打っておかねばならない。
というわけでキートンが取り出したのは、古い都市の見取り図である。
……古い、という言葉はいささか乱暴であるかもしれない。
なにせその都市は本当に……本当に古い都市なのだ。およそ、三千年は時代を遡る。
――――その都市の名は、トロイア。
古代ギリシャの詩人ホメロスが神話に歌い上げた、小アジアの都市国家。
ギリシャにおける最後の神話トロイア戦争の舞台となった、無敵の城塞都市。
アキレウス、オデュッセウス、大アイアスなどの名だたる英雄たちが軍勢を率いて挑むも、10年に渡って鉄壁を誇り続けた都市である。
神話に歌われた架空の都市――――ほんの百年ほど前までは、そう思われていた場所。
なにもキートンは手慰みでこの見取り図を取り出したわけではない。
これは一心不乱に大地を掘り起こすその先にあらわれるはずのもの。
それがランサーの宝具、『遥か神話の眠りは深く(トロイ・ルインズ)』。
ランサーが生前思い描いた夢そのものを掘り起こす、固有結界にも酷似した宝具。
彼の……ハインリヒ・シュリーマンの偉業を再現し、トロイア遺跡を発掘・再現する結界宝具である。
この宝具の強みは、『戦争の中心を自分で選べる』という点にある。
無敵を誇るトロイアの城塞は嫌でも目立つ。どうあっても台風の目にならざるを得ないだろう。
それは短所であり、長所でもある。
戦略的に重要な拠点を好きな場所に展開できるのは、大きな強みだ。
……問題は、『遺跡を掘り起こす』という宝具故に、一度使ってしまえば永続的に展開され続けること。
使えるのは一度きり。
トロイア遺跡は唯一絶対故に複数の展開もできず、ランサーが消滅するまで解除もされないという点であろう。
雪ノ下雪乃もまた、スキュラと同様に美しい少女だった。
彼女の美しさもまた、人を惹きつけた。
小学生にして1年の被告白数は二ケタを軽く数え、彼女はその全てを断った。
小学校には、たくさんのグラコウスとたくさんのキルケ―がいた。
嫉妬したキルケ―たちは雪乃の上履きを隠したり教科書を捨てたり彼女に嫌がらせの限りを尽くした。
雪乃は、この点においてグラコウスのほうがまだマシかもしれないとすら思っているのだが、
そうした嫌がらせの一部は告白を断られた男子からもあった。
どうしてそんなに傲慢になれるの?と雪乃は心の中で幾度となく問いかけた。
答えはない。当然にない。実際に問いかけたとしてもそれはそうだっただろう。
雪乃は黙って耐えた。
上履きを見つけ出し、教科書からほこりを叩き落し、何事もないようにふるまい続けた。
彼女のプライドをして、姉や、家族に知られたくはなかった。
そうして雪ノ下雪乃は形成されていった。
美しさとは呪いなのだ。
例え寿ぎの振りをしていたとしても、本質的に呪いなのだ。
美しさは雪乃を離さない。美しさに囚われた者を逃さない。
さながらグラコウスのように、キルケ―のように。彼ら彼女らが離れるのは、彼女が美しさを失ったとき。
美しさは最後に誰にでも牙を剥くスキュラとなる。
雪乃が中学に上がると、幼さを下敷きにしたその美しさは怜悧さをたたえ、
ただ雪乃の美しさとなった。
結局、雪乃が学校で嫌がらせを受けていたことは親の知るところとなり、
アメリカのミドルスクールに通ったが、そこも日本の学校とさして変わりはなかった。
雪ノ下雪乃は、あらゆることに理不尽を覚える。
虚偽は罪であり、誤魔化しは穢れであり、自我を尊重できなければ、
人間生活を送っているとは言えない。
雪乃はまた嫌がらせを受けたが、怒りを覚えることはなかった。
世界が間違っているから、ある意味において彼女は、理性を失ってしまったのだ。
そんな彼女がライダー――スキュラそのものを呼び出したのは、必然といえば必然の流れだったのかもしれない。
召喚陣の中に身を置くライダーの姿を見た雪乃は得も言われぬ喜びを胸に感じた。
美しい、と雪乃は思った。
怪物に堕したライダーの姿は、雪乃が思い描く姿そのままだった。
生命的で、利己的な犬たちの上に載った
、裸体の美女。ライダーの顔は髪に隠れていたが、雪乃からは彼女の絶望をたたえた眼が、が確かにうかがえた。
スキュラは私なのだ。私だったかもしれないものだ。
雪乃は歯の隙間から唸り声を上げ続ける犬たちをかき分け、ライダーの髪に手を添えた。
「大丈夫よ」
雪乃は優しく囁いた。ライダーは髪の下で、静かに己がマスターを見つめた。
「大丈夫だから」
雪乃が顔を寄せ、再びそう囁いた。牙を剥く犬たちが鎮まっていく。それを感じる。
ライダーに理性はない。その下半身たる、六匹の犬にも理性はない。
彼女が主人だったからだろうか、
それとも本能的に、雪乃を敵でなしと判断できたのか、それは神さえもわからない。
神なぞにわかるはずがない。
しまったよく見てなかった。申し訳ない。後で投下するので、お手数ですが投下しなおしてください。
本当にすいません。
>>178
了解しました
では、改めて投下します
――――発掘調査。
それはきっと、考古学を象徴するものなのだろう。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
繰り返し、繰り返し、ただそれだけを繰り返す。
大地の中に遥かな古代の息吹が眠っていると信じて、ただただ繰り返す。
掘り返して出て来たものを集めて照らし合わせて、それでようやく答えが導き出せる。
例えばA地点とB地点で同じものが出てくれば、それは両者が同じ文化か、その系列にあったということ。
そういう風に点と点を線で繋ぐのが、考古学という学問だ。
それは実地調査たる発掘に限らず、机上の研究においても同じこと。
入念に資料を掘り返し、掘り返し、掘り返したものを集めて照らし合わせ、答えを探す。
本質を同じくするそれらは、やはり発掘調査が考古学を象徴するものなのだと強く思わせる。
その繰り返しの先に何があるのか、やってみるまではわからない。
否、予想はできる。仮定と推論でその先にあるものを想像し……それを掘り当てるために、ただ作業を繰り返すのだ。
考古学者が地中から探り当てるのは結論。
自らの研究が導き出す答えを、夢を、地中から掘り起こすために彼らは日夜発掘作業に身を投じているのだ。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
延々と、延々と、ただそれだけを繰り返す。
作業の果てに夢見た世界が広がっていると信じて、ただただ繰り返す。
それでもやはり体力の限界というのはあるもので……平賀=キートン・太一は、額の汗をタオルで拭ってひとつ伸びをした。
手をかざして空を見上げれば、太陽が丁度真上の辺りで燦々と輝いている。
作業を始めたのが朝早く、それこそ日の出と同時ぐらいであったから、かれこれ四半日は発掘作業を続けている計算になるか。
そういえば自分が今発掘しようとしている都市は、太陽の神と縁の深い町であったな……などととりとめも無く考えつつ。
軍隊で培った体力も、流石にそろそろ休憩を挟むべきだと悲鳴を上げていた。
よく食べ、よく眠る。効率的な作業のためには欠かせない行動だ。
だが、それすらも惜しいとキートンは思う。
それだけこの発掘に情熱を持っているということでもあるし……食事も睡眠も必要とせずに活動できる存在を知ってしまったから、という部分もある。
と言っても生きた人間である以上その限界を超えることは叶わず、仕方なくキートンは傍らの男に声をかけた。
「先生」
キートンの言葉に、男が顔を向ける。
「なんだね、マスター」
「マスターはやめてくださいと言ってるでしょう、先生」
「キミは私のマスターだろう?」
「そりゃあそうですが……」
その男は、眼鏡をかけた紳士であった。
眼鏡の奥に燃え盛る情熱を輝かせた、紳士であった。
手には使い古された長柄のスコップを持ち、キートンの言葉に応じながらも発掘作業を止めずにいる。
まるで子供のような笑顔を浮かべながら、大地にスコップを突き刺しては掘り返す。
……彼こそが平賀=キートン・太一が聖杯戦争で召喚したサーヴァント。
過去より召喚された死人。人類史に名を刻んだ偉人。
ランサーのクラスをもって召喚されたこの紳士は、召喚時に着ていたスーツを脱いでひたすらに大地に槍を突き立てていた。
「……ともかく、疲れてきたので少し休もうと思いまして」
「そうかね。うむ、そうしたまえ。発掘には体力が必要だからな!」
話しながらもこちらに見向きもせずに発掘を進めるランサーの姿に苦笑しつつ、キートンは適当な岩に腰掛けた。
するとどっと疲れが噴き出すようで、ふぅと息を吐いてしまう。
季節は冬、場所は日本。
十分に寒気が漂う場所と季節であるが、太陽の下で延々と働いていれば自然と汗をかく。
聖杯戦争が夏の開催であったら、今頃熱中症になっていたかもしれない。
それでも激しい発汗による水分不足は季節を問わないものだから、水分補給は欠かせないところだ。
というわけで傍らのビニール袋からペットボトルのお茶を取り出し、ぐいと煽る。
独特の苦みに心地よさを感じる辺り、やはり自分は日本人なのだなとキートンは思う。
無論、日本人で無ければ日本のお茶が楽しめない、などと驕ったことを言うつもりもないが。
そもそもキートンが育ったのはイギリスだ。それを思えば、むしろ紅茶を好むべきなのかもしれないぐらいである。
「ええと……」
さて、休憩時間と言えどできること、やるべきことは存在する。
なにせこれは戦争だ。打てる手は打っておかねばならない。
というわけでキートンが取り出したのは、古い都市の見取り図である。
……古い、という言葉はいささか乱暴であるかもしれない。
なにせその都市は本当に……本当に古い都市なのだ。およそ、三千年は時代を遡る。
――――その都市の名は、トロイア。
古代ギリシャの詩人ホメロスが神話に歌い上げた、小アジアの都市国家。
ギリシャにおける最後の神話トロイア戦争の舞台となった、無敵の城塞都市。
アキレウス、オデュッセウス、大アイアスなどの名だたる英雄たちが軍勢を率いて挑むも、10年に渡って鉄壁を誇り続けた都市である。
神話に歌われた架空の都市――――ほんの百年ほど前までは、そう思われていた場所。
なにもキートンは手慰みでこの見取り図を取り出したわけではない。
これは一心不乱に大地を掘り起こすその先にあらわれるはずのもの。
それがランサーの宝具、『遥か神話の眠りは深く(トロイ・ルインズ)』。
ランサーが生前思い描いた夢そのものを掘り起こす、固有結界にも酷似した宝具。
彼の……ハインリヒ・シュリーマンの偉業を再現し、トロイア遺跡を発掘・再現する結界宝具である。
この宝具の強みは、『戦争の中心を自分で選べる』という点にある。
無敵を誇るトロイアの城塞は嫌でも目立つ。どうあっても台風の目にならざるを得ないだろう。
それは短所であり、長所でもある。
戦略的に重要な拠点を好きな場所に展開できるのは、大きな強みだ。
……問題は、『遺跡を掘り起こす』という宝具故に、一度使ってしまえば永続的に展開され続けること。
使えるのは一度きり。
トロイア遺跡は唯一絶対故に複数の展開もできず、ランサーが消滅するまで解除もされないという点であろう。
なにせ目立つ。
とにかく目立つ。
本来ならば展開する場所をもっと吟味し、タイミングを測って発動するべきなのだろうが……
当のランサーが召喚早々「ここからトロイアを掘り起こす」と宣言してしまったのであれば、キートンからは何も言えない。
軍人としてのキートンは「令呪を使ってでも展開を保留とし、場所を吟味するべきだ」と思う。
だが、考古学者としてのキートンは「当人がここで発掘をするというのであれば、自分に止める術はない」と言っている。
そして、平賀=キートン・太一は自分を考古学者と定義していた。
故にキートンにはランサーを止めることができなかった。
自らの尊敬する考古学者の出した結論だ。
否――――ランサーが選んだ『答え合わせ』だ。
ランサーの宝具が『夢を掘り起こす』ものである以上、どうしてそれに口を挟むことができようか。
たとえ戦略的に考えて最適でなくとも、そればかりはどうしようもないことだ。
日本の冬木市に現れるトロイア遺跡というのも不思議な話だが、そういう宝具故仕方なし。
せめて今のキートンにできることは宝具展開後の戦略・戦術を練っておくことであった。
少なくとも戦闘者としては、元軍人であるキートンの方がランサーよりも優れている。
遺跡内のルート掌握、奇襲に適したポイントの選定、守りの要の把握……
それらの作業は、キートンが担ってしかるべきだろう。
飲まず食わずで働けるサーヴァントと違い、こちらは休憩が必要なのだし。
遺跡の発掘にはまだまだ時間がかかりそうだから、こういった作業も必要だ。
「……そういえば」
「なにかね、マスター!」
ふとキートンが顔を上げれば、やはりランサーは発掘を続けている。
その瞳は危ういほどに爛々と輝いていた。
視線の先には、地中に眠るトロイア遺跡があるのだろう。
「聞いていませんでしたが……先生は聖杯に何を願うんです?」
それは純粋な疑問。
聖杯戦争が願いを叶えるために戦うバトルロイヤルである以上、持っていてしかるべきもの。
ランサーは相も変わらず槍を大地に突き立てながら、相も変わらずのスマイルで高らかに答えた。
「そういえば話してなかったね!
とはいえどこから話したものか……」
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
「……そうだね。私は死後こうして英霊となり、サーヴァントとなり、神秘の存在を知った!」
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
「即ちそれは、神話の実在の証明に他ならない!」
大地にスコップを突き刺し、掘り返す。
「古今無双のヘラクレス!
神々の覚えもめでたきペルセウス!
天馬の主ベルレフォーン!
不死の狩人メレアグロス!
冥王をも魅了したオルフェウス!
偉大な冒険家イアソン!
迷宮の踏破者テセウス!」
その腕に籠る力は、徐々に徐々に強くなっていく。
その瞳に宿る炎は、徐々に徐々に強くなっていく。
「そして、俊足にして不死身のアキレウス!
狡猾な智将オデュッセウス!
無双の王子ヘクトールに、太陽の弓引くパリス!
彼ら神話の英雄が、この世界に実在したということを私は知ったのだ!」
それは、神話を愛するものであれば誰もが抱き得る喜びであろう。
そして彼の望みもまた、神話を愛するものであれば誰もが抱くであろうもの。
「この戦争にて彼ら神話の英傑と巡り合えるのであれば望外!
それが叶わずとも――――彼ら神話の戦いを、この目で見ることができるのならば!」
神話をこの目で見たい、と。
憧れた英雄を。歌い上げられた武勇伝を。
虚構とされた伝説を、真実として知ることができたのならば。
「それは聖杯に託すに値する願いだと私は思う!
ああ、トロイア戦争をこの目で見てみたいなどと!
そんな願いが、まさか叶うとは!」
かつて神話を掘り起こしたこの男は。
虚構を現実にしたこの男は……やはりまた、同じことをしようとしていた。
――――神話をこの目で見てみたい。
ただそれだけの、子供のような願いのために……ランサーは、ハインリヒ・シュリーマンは、スコップを手に遺跡を掘り起こす。
今も。
そして、昔も。
「笑うかね、マスター?」
「まさか」
当然、キートンにその夢を笑うことなどできようはずもない。
ランサーはいつだって自分の夢を追い続けた男だ。
キートンはそんなランサーに憧れていたし……正直に言えば、自分を重ねてすらいた。
どれだけ周囲に否定されようと、夢見た世界は、自分の望む答えは、大地の下で目覚めの時を待っているのだと。
そう信じるが故に、ランサーとキートンはどうしようもなく同類だった。
「素敵な夢だと思いますよ、先生」
「そうか!」
ランサーは笑っていた。
キートンも、笑っていた。
「そういうキミの夢も素晴らしいと私は思う!
『西洋文明ドナウ起源論』だったか! あれは実に面白い!
陽が沈んだらまた意見交換をしよう! 私の研究内容にも関わることだ!」
「先生が亡くなられた後に、ミケーネ文明の研究は随分進みましたからね。線文字Aはいまだに解読されていませんが……」
「うむ、流石にそれの解読を聖杯に託すのはいささかロマンにかけるからね!」
二人はどうしようもなく、考古学者であった。
陽の昇っている内は遺跡の発掘作業に従事し、陽が沈めば研究を行う。
彼らの作業は答え合わせで、同時に絶望的なほどに手探りだ。
それでも、彼らは大地にスコップを突き立てる。
その果てに、見果てぬ夢が眠っていると信じて。
「……まぁ、私は軍人ではない。
戦争に勝つためには、キミの協力が必要だ。よろしく頼むよ――――」
「――――――――マスター・キートン」
.
【クラス】ランサー
【真名】ハインリヒ・シュリーマン
【出典】史実(19世紀ドイツ、ギリシャ、トルコ)
【マスター】平賀=キートン・太一
【性別】男性
【身長・体重】178cm・73kg
【属性】中立・悪
【ステータス】筋力C 耐久B 敏捷D 魔力E 幸運A+ 宝具A
【クラス別スキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
黄金律:B+
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
発掘費用の確保のためならば一時的なブーストも可能だが、一時的に過ぎないので多様は禁物。
燃える情熱:A+++
特定の物事に対する強い情熱、あるいは執着を表すスキル。
ランサーは古代ギリシャを主とした考古学に対して激しい情熱を燃やしている。
執着の対象に関連する行動を取っている間、あらゆる精神干渉を遮断。肉体への負荷も軽減する。
……ただし、ランクが高すぎると人格に異常をきたす。
考古学:C+
古代の人類の痕跡を研究し、人類の足跡を解き明かす学問。
考古学的な観点から観測可能なサーヴァントの真名を中確率で看破する。
ランサーの専門は古代ギリシャであり、その時代に属するサーヴァントに対しては確率が上昇する。
【宝具】
『遥か神話の眠りは深く(トロイ・ルインズ)』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1000人
ランサーが生前果たした悲願にして偉業――――トロイア遺跡の発掘。
その偉業を再現し、地中深くよりトロイア遺跡を発掘・顕現させる結界宝具。
厳密に言えば、掘り起こすのはランサーの精神に焼き付いたトロイア遺跡への情熱であり、夢そのもの。
つまり大地と発掘作業を媒介に展開する、固有結界に限りなく近い宝具と言える。
大地から呼び覚ます、という発動形態故に一度発動してしまえば永続して発動し続けるが、同時に複数の展開もできない。
アポロンとポセイドンが作り上げた城壁は、対城規模の攻撃であっても耐えうるほどに頑強。
また遺跡内部にはトロイア戦争時の記憶が焼き付いており、外敵の侵入に反応して影の兵士となって応戦する。
さらには遺跡の中にいる間、ランサーのモチベーションが著しく向上する。
ステータスが上がるというわけではないが、モチベーションが著しく向上する。
【weapon】
『無銘・スコップ』
ランサーが持つ『槍』。
何の変哲もない長柄のスコップ。
ただしこれはランサーの情熱の象徴でもあり、宝具発動に必要な重要な道具でもある。
『トロイア兵』
ランサーの宝具内部に現れる、影法師の如き姿を持つ兵士。
基本的に遺跡への侵入者に反応して自動的に戦闘を開始する。
遺跡内での召喚であれば特に魔力消費などは存在しないが、別途魔力を消費することで遺跡外での召喚・使役が可能。
しかしよほど魔力に自信のあるマスターならばともかく、キートンの魔力量では大量展開・長期展開は非常に困難と言える。
【特徴】
スコップを持った眼鏡の紳士。
その瞳は危ういほどに夢と情熱で輝いている。
一見理知的だが、目的のために手段を選ばない節がある。
【解説】
ひとつの神話を歴史に塗り替えた、考古学界の偉人。
正規の考古学者ではなく、あくまでアマチュアである。
貧困から商才と幸運によって成り上がり、ゴールドラッシュやクリミア戦争に際しての武器の密輸などで巨万の富を築き上げた天才商人。
彼の人生においてひとつなにかを語るとすれば、それはやはりトロイア遺跡の発掘でしか有りえないだろう。
当時トロイア遺跡は神話上にのみ存在する空想上の存在と言われていたが、シュリーマンはその実在を信じていた。
仕事の合間に『イリアス』の研究を行い、富を築き、着々と発掘への準備を進める日々。
そして彼は研究の果てに「ヒサルルクの丘にこそトロイア市が眠っている」と確信し、無許可での発掘を開始。
翌年には正式な許可を取り付け、発掘を続け――――彼は神話を掘り起こした。
ギリシャ考古学の父とも言われる偉大な考古学者だが、その行動には問題も多い。
当時はまだ考古学や発掘作業の整備が未発達だったこともあり、財宝の国外持ち出しや、遺跡の損傷などが多かったのである。
特に発掘が不適切であったために損傷してしまった遺跡は、現代の再発掘・再考証を困難なものとしてしまっている。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯から『トロイア戦争の記憶』を受け取る。
つまりトロイア戦争の疑似体験を行う、ということ。
【マスター】
平賀=キートン・太一@MASTERキートン
【能力・技能】
考古学者として豊富な知識を保有。専門である考古学はもちろん、歴史、文化の分野にも深い理解を示す。また、マルチリンガル。
元軍人であり、高い戦闘能力を有する。軍隊式の格闘術や火器の扱いに加え、爆弾の解除、サバイバルも得意とする。
とくにサバイバルに関しては考古学の知識と相乗して極めて高いレベルに達しており、その場で武器や罠を調達・作成しての戦闘が可能。
【人物背景】
日英ハーフの日系イギリス人。
パブリックスクール卒業後にオックスフォード大学に進学するも、在学中に結婚と離婚を経験し、妻への未練を断ち切るために大学を休学。
イギリス陸軍に志願し、特殊空挺部隊(SAS)で数々の戦果を挙げ、サバイバル教官となる。
しかし「軍隊は現実的過ぎる」と考え、曹長の時に名誉除隊を選択。それ以降は考古学者の道へと進む。
恩師が提唱するも異端として追放された『西洋文明ドナウ起源論』の証明のために研究を行う。
……が、教授としての働き口が見つからず、普段は保険組合の調査員(オプ)として生活している。
本人は調査員(オプ)の仕事はあくまで生活のための副業と考えているが、本業の『就職活動』の方はあまりうまくいっていない。
【マスターとしての願い】
特に無し(強いていうなら、ランサーの願いを叶えたい)
投下を終了します
投下します
ぐつぐつと、シチューが煮えていた。
鍋から漂ってくる濃厚な香りは、並外れて敏感な嗅覚を刺激する。
より正確には、肉の臭いなのだが。
「それで、Mrs.リョーコ。方針は決まりましたかな?」
鍋を掻き回しながら、サーヴァント…アサシンは、マスターへと問いかける。彼女は静かに、頭を降った。
それを見たアサシンは、対して落胆したような風もなく……
「大丈夫ですよ。悩み、選択するのは貴女のように今を生きるものの特権。せめてシチューが煮え上がるまでの合間くらいは、存分に悩みなさい。Mrs.リョーコ」
彼はそうしている合間にも、作業の手を止めなかった。
アサシンのマスター……笛口リョーコは喰鬼である。彼らは人肉のみを食料とする、社会からは排除される化物。
だが、リョーコは人を直接に狩ったことはない。
それは、笛口リョーコという女性が、人食いの種族とは思えないほど、争いを好まない、比較的穏やかな性格をしているからだ。
それは美徳と言えるかもしれないが、優柔不断とも取れる。
聖杯戦争、彼女はこの争いで、他者を殺めることに躊躇していた。
つまりーー踏ん切りがつかないのだ。
「焦る必要はないのですよ。貴女も混乱しているでしょうし、落ち着いて考えてください」
煮えきらない態度のマスターに、アサシンは、紳士的な態度で対処してくれた。
「こうした方が落ち着くでしょうから」と、こうして食事を用意してくれてもいた。
もっとも、喰鬼であるリョーコは食べられないのだが。
「…………」
叶えたい願いはないのか?それは違う。
聖杯への願いは、確かにあった。
冬木にやってくる前に、リョーコは死んだ。いや、殺された。
CGO……喰鬼対策局の鳩に、駆除されたのだ。
幸いにも娘…雛美だけは逃がせたが、夫も殺され、ひとり残されたあの子を思うと不安に駆り立てられる。
もしも、もしもまた、夫と雛美、家族三人で暮らせるのなら……
「アサシンさん」
「何ですかな?」
仕込みが終わったのか、シチューを皿に盛り付けていたアサシンが聞き返す。人を安心させるような微笑みを浮かべていた彼だったが、リョーコの真剣な表情を見て気を引きしめたのか、真顔になる。
そんな彼に、笛口リョーコは、彼の目を見て、はっきりと告げた。
「私は……聖杯が、欲しいです。 …協力、してください」
無言で続きを促すアサシンに、リョーコは時分の胸の内を正直に話した。彼女が秘匿するべき喰鬼のことも含めて、この冬木にマスターとして召喚される前の、すべてを。
「家族とまた一緒に居られるのなら… 私は、私はーー」
アサシンはそっと、彼女を制した。その痩せぎすの顔に柔らかな微笑みを浮かべ、彼が発したのは肯定だった。
「大丈夫ですよ。こうして私のような者が、かの聖杯に招かれたのも何かの縁です。勿論、つつしんで協力させていただきますよ。えぇ」
その言葉に、ホッとしたように胸を撫で下ろした彼女に、しかしアサシンは付け加えるようにこう告げた。
「ところで、私が貴女のために協力するのは構わないのですが、あれです、投下交換……という言い方は風情がないですが、ちょっとしたお願いがありまして、いやなに、そんな難しいことではございません。ちょっとした、本当に簡単にできることですのでご安心を」
彼が懐から取り出した物を見て、リョーコは顔色を変えた。
それは半分に切られ釘の打ち込まれたベルトだった。
それを彼女の手に押し付けると、彼は何時もと換わらずにこやかに申し出た。
「これで私の尻を殴ってください。全力で」
意味がわからなかった。
「……は?」
呆然とするマスターを放置しつつ、「すみません。説明が足りなかったですね」と謝罪しつつ、アサシンは話を続ける。
「家族と共に過ごしたい? えぇ、素晴らしい願いですね。では私の願いは世界平和なんてどうでしょう。…いや、そんなことは置いておきましょう。些細なことです。
大事なのは、私は人に叩かれるのが好きだ。ということです。鞭や板が私の尻を叩くのが快感なのです。
サーヴァント……というのは、奴隷。という意味も込められています。つまり、貴女のサーヴァントである私は貴女の奴隷ということ。
つまり奴隷の躾はリョーコ、貴女の義務であり、つまり私を満たすのは貴女でなくてはならやいのです」
説明を聞いても良くわからなかった。
「さぁ!! 叩いてください! Mrs.リョーコ!!私を満たすのです!さぁ!!」
そこには、未亡人に尻をつき出す老紳士というシュールな光景が繰り広げられていた。
(……帰りたい)
笛口リョーコという喰鬼は、切に願うのだった。
【クラス】
アサシン
【真名】
アルバート・フィッシュ
【原典】
史実
【パラメーター】
筋力C+ 耐久B+ 敏捷C+ 魔力C 幸運C 宝具B
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは困難。
【保有スキル】
精神汚染:A(EX)
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
アルバートが紳士という自分を偽っている限り、意思疏通は成立するように見える。……ときおり本性が覗くだろうが。
平時ですら最高ランクの精神汚染は、満月の夜に評価規格外へと至る。
マゾヒスト:B
欲望に身を任せることで痛みによる恐慌や畏怖を無効化するが、
戦闘中の状況判断に悪影響を及ぼす。
このランクであれば、ダメージを受けるごとに一部パラメーターが上昇していく。
サディスト:B
欲望に身を任せることで、こちらが攻撃している間、
他者からの干渉を高確率で無効化する。
拷問技術:B
卓越した拷問技術。
拷問器具を使ったダメージにプラス補正がかかる。
彼は、ありふれた道具を用いたオーソドックスな拷問を極めている
【宝具】
『満月の日に狂え、殺人鬼よ(ムーン・マニアック)』
ランクB 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
アルバート・フィッシュが得た異名「満月の狂人」を基として具現化された宝具。
満月の日にのみ発動できる宝具で、発動後のアサシンは、バーサーカーのAランク『狂化』に匹敵するほどの高い戦闘力ボーナスを獲得出来る。
ただし、一度この状態に至ったアサシンは『精神汚染』スキルがEX(評価規格外)までランクアップし、普段の紳士的な態度をかなぐり捨てて快楽を貪ろうとするため、マスターの制御下を離れ暴走する可能性が非常に高くなる。
場合によってはマスターすらもアサシンの加虐・被虐の対象となるため、発動は危険極まりない。
朝になれば強制解除される。
『人を貪る、喰人鬼(ミスターグレイマン)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:2
アサシンの行った食人を体現する宝具。
人間を殺し、調理し喰らうことで全パラメーターが上昇していく。
普通の人間を食らった場合、ランクを一つ上げるのに最低でも百人喰らう必要がある。
アサシンが倒したサーヴァントは消滅せず、それを調理し、喰らうことによって、喰らった相手の持つスキルや肉体に依存する宝具を使用することが出来る。
得られるスキルや宝具は相手の耐久が低ければ低いほど多くなる
【weapon】
『食人鬼の調理鞭』
アサシンが制作・使用した半分に切られ釘の打ち込まれたベルト。
アサシンは子供の肉を柔らかくするために、これで子供たちを鞭打ちにした。
アサシンはこの鞭を『地獄の器具』と呼んでいる。
相手が、これによりダメージを受けると耐久のパラメーターがダウンする
【外見】
シルクハットを被ったちょび髭。
【人物背景】
アメリカの連続殺人者、食人者。
「満月の狂人」、「グレイマン」、「ブルックリンの吸血鬼」などの異名で知られている。
正確な数字は明らかではないが、多数の児童を暴行して殺害(1910年から1934年までに400人を殺したと自供)
肉を食べる目的で殺害された児童もいる 。また、成人も殺害しているとされる。なお、「満月の狂人」という異名は、犯行が満月の日に行われたことが多かったことに因む。
アメリカ犯罪史上最悪の殺人鬼と呼ばれている。
彼はマゾヒスト、サディスト、ペドフェリア、糞性愛、尿性愛など数多のフェティシズムを患っていた。
幼少の頃より鞭で叩かれることを喜び、その最中に勃起した。
自らの子供に尻を叩かせ、射精を見せつける。
自慰行為で、自らの陰茎に29もの針を突き刺した。
また、彼はライターオイルをしみこませた綿球を自身の直腸に入れて火をつけ、身体の内部が焼けるような感覚に酔いしれたと言う。
この頃に、貧しい黒人を殺しはじめ遺体を食らい、尿や血液、排泄物までを食べたという。
彼が逮捕された事件では、気のいい老人を演じて少女やその両親を信頼させ 、
誕生パーティに連れて行くという名目で誘拐し殺人、シチューにして食べたのである。
彼は食べた少女のシチューを「うまかった」と語っている。
彼は死刑執行人により電気椅子に皮ひもで固定されている際にも、
電気処刑の執行を「一生に一度しか味わえない、最高のスリル」、「わくわくしますよまだ試したことがないですから」と言って、喜んでいたという。
【サーヴァントとしての願い】
サーヴァントとしてリョーコに従う
……従うことで、快楽が満たされるのならば、だが
【マスター】
笛口リョーコ@東京喰鬼
【能力・技能】
喰鬼。赫子は甲赫。
【人物背景】
笛口雛実の母親である喰種。
夫の笛口アサキはCCGに殺害された。
自分で人を殺すことができないため、あんていくから食料を分けてもらっていた。
【マスターとしての願い】
家族に会いたい
投下終了です
>>190
いやほんとすみません…
投下します。
うつくしさはのろいだ。
▼
スキュラという怪物がいる。
古くはギリシア神話に登場する魔獣であるが、読書に趣味を置く雪ノ下雪乃からするとオウィディウスの『変身物語』で書かれる彼女の生い立ちのイメージが大きい。
まず前提として、雪ノ下雪乃は美しい。
その髪は鴉が撫でつけたように艶やかさを保ち、頬は陶器に似た白さを持ちながら限りなく人間的。
彼女は白百合の無垢な美しさと、野に散るスノードロップの、健気で、粗野で、苦労を思わせる美しさを同時に持っている。
雪乃は美しさを知っていた。
無知であれ高慢でなく、美しいということがどんな意味を持っているか雪ノ下雪乃は誰よりも知っていた。
スキュラは、元々シケリア島に住む美しい女だったと言われている。
その美しさはこの上なく、島中の男たちが彼女に求婚するほど。
しかし男性に興味のないスキュラはその全てをすげなく断った。
あるとき、海の神の一人であるグラコウスがシケリア島を訪れる。
そして泉で水浴びをするスキュラを見た彼はスキュラの美貌に心射抜かれ、
「自分はポセイドンに並ぶ海の神だ」
と強調しながら島の男たちと同じように彼女に結婚を申し込むのだ。
スキュラは当然ながらグラコウスの求婚を断った。
しかしそれでも諦めきれなかったグラコウスは魔女キルケ―のもとへ足を向け、媚薬の肇造を依頼する。
最悪だったのは、キルケ―がグラコウスを愛してしまったことだ。
スキュラに心を奪われていたグラコウスはキルケ―の誘いを断り、
キルケーは嫉妬のあまりスキュラに呪いをかけてしまう。
キルケーはスキュラの泉に魔草を投げ入れた。
何も知らないスキュラがいつものように泉に体を付けると、下半身に違和感を覚える。
慌てて泉を出たスキュラは足元に六頭の犬を見つけ、走って逃げるが、犬たちもまた同じ速さでスキュラを追う。
しばらくしてようやく犬たちが自分の下半身の変化したものだと気が付いたスキュラは絶望し、島の人々を喰い殺してしまう。
ここに怪物、スキュラは誕生したのだ。
そして彼女を愛していた人々は犬の腹に収められ、
変貌したスキュラの姿を見た海の神グラコウスは彼女を見捨て、キルケ―と縁を切った。
ああ、ああ、なんて救いのない、なんて理不尽な。
幼い雪乃は、スキュラに心底の同情を覚えた。
勝手に好きになっておいて、怪物の姿にした原因を作っておいて彼女を救おうともしなかったグラコウスが本当に嫌いだったし、
スキュラに嫉妬し、彼女を壊した魔女キルケ―を絞め殺してやりたかった。
そしてやり場のない、美しさに身を滅ぼされたスキュラに心底の同情と、悲しさを覚えるのだった。
雪ノ下雪乃もまた、スキュラと同様に美しい少女だった。
彼女の美しさもまた、人を惹きつけた。
小学生にして1年の被告白数は二ケタを軽く数え、彼女はその全てを断った。
小学校には、たくさんのグラコウスとたくさんのキルケ―がいた。
嫉妬したキルケ―たちは雪乃の上履きを隠したり教科書を捨てたり彼女に嫌がらせの限りを尽くした。
雪乃は、この点においてグラコウスのほうがまだマシかもしれないとすら思っているのだが、そうした嫌がらせの一部は告白を断られた男子からもあった。
どうしてそんなに傲慢になれるの?と雪乃は心の中で幾度となく問いかけた。
答えはない。当然にない。実際に問いかけたとしてもそれはそうだっただろう。
雪乃は黙って耐えた。
上履きを見つけ出し、教科書からほこりを叩き落し、何事もないようにふるまい続けた。
彼女のプライドをして、姉や、家族に知られたくはなかった。
そうして雪ノ下雪乃は形成されていった。
美しさとは呪いなのだ。
例え寿ぎの振りをしていたとしても、本質的に呪いなのだ。
美しさは雪乃を離さない。美しさに囚われた者を逃さない。
さながらグラコウスのように、キルケ―のように。彼ら彼女らが離れるのは、彼女が美しさを失ったとき。
美しさは最後に誰にでも牙を剥くスキュラとなる。
雪乃が中学に上がると、幼さを下敷きにしたその美しさは怜悧さをたたえ、
ただ雪乃の美しさとなった。
結局、雪乃が学校で嫌がらせを受けていたことは親の知るところとなり、
アメリカのミドルスクールに通ったが、そこも日本の学校とさして変わりはなかった。
雪ノ下雪乃は、あらゆることに理不尽を覚える。
虚偽は罪であり、誤魔化しは穢れであり、自我を尊重できなければ、
人間生活を送っているとは言えない。
雪乃はまた嫌がらせを受けたが、怒りを覚えることはなかった。
世界が間違っているから、ある意味において彼女は、理性を失ってしまったのだ。
そんな彼女がライダー――スキュラそのものを呼び出したのは、必然といえば必然の流れだったのかもしれない。
召喚陣の中に身を置くライダーの姿を見た雪乃は得も言われぬ喜びを胸に感じた。
美しい、と雪乃は思った。
怪物に堕したライダーの姿は、雪乃が思い描く姿そのままだった。
生命的で、利己的な犬たちの上に載った、裸体の美女。
ライダーの顔は髪に隠れていたが、雪乃からは彼女の絶望をたたえた眼が、確かにうかがえた。
スキュラは私なのだ。私だったかもしれないものだ。
雪乃は歯の隙間から唸り声を上げ続ける犬たちをかき分け、ライダーの髪に手を添えた。
「大丈夫よ」
雪乃は優しく囁いた。ライダーは髪の下で、静かに己がマスターを見つめた。
「大丈夫だから」
雪乃が顔を寄せ、再びそう囁いた。牙を剥く犬たちが鎮まっていく。それを感じる。
ライダーに理性はない。その下半身たる、六匹の犬にも理性はない。
彼女が主人だったからだろうか、
それとも本能的に、雪乃を敵でなしと判断できたのか、それは神さえもわからない。
神なぞにわかるはずがない。
【クラス】ライダー
【真名】スキュラ
【出典】ギリシア神話、変身物語など
【属性】混沌・善
【性別】女性
【身長・体重】144㎝ 200㎏→168㎝ 46kg (宝具解放時)
【ステータス】筋力:B 耐久:B 敏捷:A 魔力:B 幸運:E 宝具:B
(宝具解放時)筋力:E 耐久E 敏捷:E 魔力:A+ 幸運:A+
【クラス別スキル】
騎乗:A
ライダーの足が乗り物そのものである。
対魔力:B
魔力に対する耐性。ランクBならば、魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
【保有スキル】
狂化:A
筋力と敏捷を2ランク、他のパラメータを1ランク上げるかわりに理性をすべて奪われる。美しく聡明なスキュラは怪物へ変化を遂げ、怒りと絶望から理性を失った。
怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
魅了:(Ex)
現在は機能していない。
魔性の美貌により、老若男女を問わず対象の精神を虜にする。
神をも魅了したライダーの美貌はもはや魔術、呪いの域さえも超え、特性として機能する。
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
神性:E-
怪物に堕したライダーの神性はほとんど失われている。
【宝具】
『岩礁(カウテース)』
ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:10㎞ 最大補足:6
水上でのみ使用可能。水上に多数の荒れた岩とスキュラの住処であったシケリア島の一部を移植する。この結界内においてスキュラの気配を察知することは不可能であり、事実上不意打ちを防ぐことができない状況に陥る。
これは岩礁がスキュラのメタファーであり、結界自体がスキュラそのものとされているため。
『真名解放』
ランク:E 種別:個人宝具 レンジ:- 最大補足:1
魔女キルケ―の呪いを押さえつけ、ライダーをあるべき姿に戻す宝具。
ライダーの真名はスキュラである、とされているがスキュラとは『犬の子』を意味する単語であり、本当の意味でライダーの名前を示すものではない。宝具使用によって一時的に狂化を封印し、真名を解放することによってスキュラ以前の姿に戻ることができる。
ただしこの宝具使用には莫大な魔力に加え、冷呪も最低一画消費せねばならない。
スキル『狂化』『怪力』『気配遮断』を無効化、代わりにExランクの『女神の神核』を得て、狂化によって制限されていたスキルが元に戻る。
また下半身の犬も抜け落ちるためパラメータも変動する。
【人物背景】
ギリシア神話をはじめとして様々な物語で語り継がれる悲劇の怪物。
上半身には理性があり、怪物なのは下の犬のみである、という説もあるが今回は怒りと絶望によって殺戮を繰り返す魔物になってしまった、という説を採用。同時に、スキュラは最終的に石化したと言われているが、これは自分たちの妹を憐れんだゴルゴン姉妹のやったことである、という説も採用した。基本的に理性はないが、こと狩りにおいては頭が回る。下半身を構成する犬たちは首の長さを自在に変えることができ、本体はなるべく離れた位置にいる。見れば一発で誰かわかるレベルの有名さ故、知名度補正はかなりのもの。
【サーヴァントとしての願い】
狂化状態のため回答不能
【マスター】雪ノ下雪乃
【出典】やはり俺の青春ラブコメは間違っている。
【能力】
頭脳明晰、思考は柔軟とはいいがたいが魔術に手を出した今、大概のことは受け入れられるだろう。留学経験あり、英語は堪能。良家のお嬢様らしく一通りのマナーを心得ており、また護身術として合気道を嗜んでいる。
【人物背景】
ライトノベル、やはり俺の…俺ガイルのヒロインの一人。ただし参戦時期は中学卒業直後。日本には帰ってきたばかり。言動は鋭く、何事にも妥協しない。正義を愛し、他者と迎合して自分を見失うことを何よりも嫌う。その性格が災いしたせいで他人から距離を取られるどころかずっと嫌がらせを受けてきた。当人の意識は薄いが、人間不信気味である。
【マスターとしての願い】
この世界を正しく作り変える。
投下終了します。
>>200
『真名解放』のテキストの
冷呪を一画使用〜の後に
これはキルケ―の呪いを解くためにはライダー単体の魔力では足りない
ということであり、ライダーよりも寧ろ冷呪のほうが主体となっている、ということ。
と付け足しておきます。
すいません。
>シルヴィ&アサシン
嗚呼、絶景かな、絶景かな。
可哀想な女の子と厳つい男の組み合わせ、良いですよね……。
果たしてシルヴィちゃんは悪に目覚めてしまうのか。今後の展開が気になりますね!
投下ありがとうございました!
>ウェイバー&アーチャー
セクシー! エロいっ!
SheからSが消えたのさ、の下りで女体化の説得力が高まってて良いですね!
彼女にからかわれて真っ赤になるウェイバーくんが可愛かったです。
投下ありがとうございました、
>遠坂凛&ライダー
スタントマンがサーヴァントになるのは意外ですね!
ライダーが足役となって凛が攻撃する、という戦術になるのでしょうか? 気になりますね!
投下ありがとうございました!
>川内&エクストラクラス
殺戮者、もといデミサーヴァントのエントリーだ!
初っ端からバケモノ殺しを遂行する彼女の戦闘描写は実際ワザマエ。
その後の二人の会話も軽快で、読んでて楽しかったです。
投下ありがとうございました!
>緋村剣心&セイバー
女体化サーヴァントだ!
同じ人斬り(というより片方がもう片方を元にしたキャラクター)主従は、本戦だとかなり手強くなりそうですね。
既に生涯を終えた彼女がした剣心への助言は、まさに似た道を歩んだからこそ言えることなんだなあ、と思いました。
投下ありがとうございました!
>終末時計の舞踏会
ヒトラーだらけ。
その後のヒトラーの演説で、過去実際に彼が行った有名なスピーチでのテクニック(喋り方が徐々に力強くなっていくヤツ)が用いられていて実に巧みでした!
あと、それを見てチエリちゃんがライブの風景を思い出すのも良かったです。
投下ありがとうございました!
>宮本明&アヴェンジャー
みんな薪は持ったか! いくぞ!
FGOで言うところのオリオンのような、可愛らしいマスコットサーヴァントですね!
彼の薪を持って戦う明さんに期待です。
投下ありがとうございました!
>吉田咲&アサシン
花子さんがきた!
都市伝説故にベースとなったエピソードが多く、その中でも古事記が元になった彼女は強そうですね!
マスターのインモラル要素がとても高くて不安ですが、今後どうなるのでしょうか。
投下ありがとうございました!
>藤堂晴香&アーチャー
火力の高い主従だあ……!
アーチャーであるものの、攻撃手段が多彩であり、着々と下準備を整える彼は、他の参加者にとっての難敵になりそうですね。
投下ありがとうございました!
>ホークアイ&アーチャー
アヴェンジャーズなアーチャーとアーチャーなアーチャーの主従。
アーチャーの二段構成の宝具は、キマればかなりの威力になりそうです。
彼ら二人に遠距離から狙われると考えるとゾッとします。
投下ありがとうございました!
>島田愛里寿&アーチャー
兄上! 魔神柱よりも強いと噂(ソースは弟)の兄上じゃないか!
彼を怖がる愛里寿ちゃんと、それに困る兄上の姿は見ててニヤニヤしました。
宝具でトンデモない化物扱いされている牛若丸には流石に笑ってしまいますね。
投下ありがとうございました!
>擬似サーヴァント・ライダー
メリークリスマス!
主従共に、冬という舞台にとてもピッタリですね!
聖杯戦争をする気のないスキルと宝具であるにも関わらず、フィールドに与える影響がめちゃんこ大きい彼らは、波乱を起こしそうですね……。
投下ありがとうございました!
>神谷奈緒&セイバー
宝具名やビジュアルが最高にカックいー!
主のふりをしている家来、というのはFGOで言うところの弁慶みたいな感じなのでしょうか? 史実聖杯ならではのキャラ、という感じでとても好きです。
彼に対してアニメトークで熱が上がる奈緒は可愛いですね!
投下ありがとうございました!
>市原仁奈&ライダー
小鹿の気持ちになるですよ。
ハイテンションにニナちゃんを励ますライダーの姿は良いお兄さんという感じで、見てて微笑ましいですね!
投下ありがとうございました!
>東北ミヤギ&セイバー
圧倒的伊達男。宝具まで徹底して伊達男な伊達男。
マスターの実力も申し分なく、非常に強力な主従になりそうですね!
投下ありがとうございました!
>平賀=キートン・太一&ランサー
考古学主従。
近代の英霊であるにも関わらず、神話レベルの陣地を生みだすランサーは、宝具が完成しさえすればとても厄介なサーヴァントとなりそうですね。
投下ありがとうございました!
>笛口リョーコ&アサシン
人喰い主従。
喰種のリョーコさんよりもよっぽど人外じみたイカれた言動をするアサシンは、恐ろしいですね。
投下ありがとうございました!
>白百合の園 雪ノ下雪乃&ライダー
美しさ故に生じた理不尽に苦しめられた二人は悲しいですね。
メリットデメリットを備えたライダーの宝具は、発動するタイミングが要になりそうで、本戦での活躍が気になります。
投下ありがとうございました!
感想ついでの報告。
企画開始当時は『今までの聖杯企画で使えたネタやそれ用のストックが使えないんだから、そんなに投下されないだろう。来るとしても精々二十行くか行かないかくらいでしょ』と考え(甘すぎる考えでしたね)、採用枠を各クラス一つ、計八つにしていたのですが、
皆様に投下していただいた作品の量、またそのペースがその予想を上回ったので(とてもありがたいことです)、採用枠をもうちょっと増やしても良いかなあ、と考えてます。
具体的には十六(最初の倍)くらいでしょうか?
みなさん乙です。運営乙です。
自分も1作、投下します。
中村長兵衛――と聞いてすぐに「あの人だ!」と思い浮かぶ人は、正直少ないと思います。
では、こう文章で示されたら?
『本能寺の変の後、三日天下で京を追われた明智光秀。
その敗走する光秀を竹槍で討ち取った、落ち武者狩りの農民』
有名なお話ですよね。
そして「その農民って名前あったの?!」となる人は多いと思います。
はい。
あったんです。記録に残ってるんです。
京都の近くにあった小栗栖という村の竹やぶ。
そこで光秀は落ち武者狩りの竹槍で致命傷を負い、観念した光秀は部下に介錯を命じて自害します。
部下は光秀の首を隠して立ち去ったのですが、その首を農民が発見。
回り回って織田信孝の下に届いた――ということになっています。
その、光秀を竹槍で刺した農民の名こそ、中村長兵衛。
敗走中とはいえ一度は天下を手にしかけた男を討ち取った、大金星を挙げた人物です。
ただし。
どうもこのお話、改めて調べてみると、怪しいお話でして。
そもそも根本的に、警戒していたはずの完全武装の武将を、素人同然の農民の竹槍なんかで倒せるのか。
光秀も伴を連れていたことが分かってますし、少数とはいえ精鋭中の精鋭に守られていたはずなんです。
討たれた後の首の行方にしても、ずいぶんと扱いが中途半端ですよね。
当時の常識で言えば、主君の命は守り切れなくても、部下たちがせめて首だけでも持ち帰ろうとするんだそうで。
その辺にちょっと隠して、すぐに農民に見つかるってのは、かなり不自然なことのようです。
そして何よりも。
後日、この話を知った人が、小栗栖のあたりで農民に聞き込み調査をしたそうなんですが――
誰一人として、『中村長兵衛』という名前すらも、聞いたことがなかったらしいんです。
普通に考えたら村の英雄ですよ?!
大物を討ち取った武芸者ですよ?!
どこかの大名に武士として召し抱えられたというお話もありません。
その後、戦場で活躍したというお話もありません。
こうなってくると、光秀を討ち取ったという話すらも怪しくなってきちゃう訳でして。
実は落ち武者狩りに遭ったのではなく部下に裏切られたのだとか。
実は光秀は身代わりを犠牲にして生き延びたのだとか。
果ては怪僧・天海の正体はここで死を偽装した明智光秀だったのだ。とか、まあ色々と異説が出てくるようで。
そういやけっこうありますよね、光秀=天海説を採用したアニメとか漫画とかって。
アレとか、コレとか、そうそうソレとか……
って、なんでそんな古いのまで知ってるんだ、ですって?
や、やだなぁ、あ、アニメや漫画には、ナナ、けっこう詳しいんですよぉ。きゃはッ☆
……コホン。
ともかく、歴史の一点にその名前だけを残して消えた、実在すらも功績すらも疑われる人物。
それが『中村長兵衛』――竹槍の『ランサー』、なのです。
―――――――――――
冬木市にあっても、彼女は当たり前のようにウェイトレスだった。
売れないアイドルであるというよりも先に、まず、ウェイトレスであった。
時給は安いが、話の分かる寛大なマスターが、不意の欠勤も笑って許してくれるのが一番の利点という職場。
そんな街角の小さな喫茶店、客足も途絶えた昼下がり。
メイド服姿の彼女は頭上の兎耳を揺らしつつ、盛大に溜息をつく。
「そりゃ、今はお客さんも居ないから構わないっちゃあ構わないんですけどねー。
なーんでこの子は勝手に実体化してるんですかねぇ……」
「そりゃあアンタ、霊体じゃあこの美味は味わえないからねェ」
どこか妖艶な響きを持つ女の声が、幼くも見えるウサ耳メイドの嘆きに応える。
胸元の大きく開いた色気過剰な黒のドレス。それにも負けぬ魅力的な肢体。
そのままファッションショーにも上がれそうな完璧な黒髪美人が――
心底嬉しそうに、くたびれた喫茶店の安っぽくもありがちなパフェを、ちびちびとつついていた。
はぁ。
あの服、そういやナナがウン年前に買ったはいいけどそれっきりタンスの肥やしになってたやつじゃないですか。
メイドは何度目になるかも分からぬ溜息と共に、心の中で呟く。
勝手に自分の服を着て、勝手に自分の化粧品も使い、しかも自分などより遥かに上手く着こなし使いこなしてみせる。
これが本当にあの貧農の出身だというサーヴァントなのか。
持っているスキルやその由来については説明されていたが、それでもこの変貌っぷりには首を傾げてしまう。
「ねぇ、ランサー……」
「あらやだ、菜々。あたしを呼ぶ時はクラス名はやめてって言ったでしょ」
何気なく呼びかけたら、てきめんに拒否反応を喰らった。
聖杯戦争についての知識と同時に刷り込まれた『常識』との相違に、菜々はまだ慣れることができない。
ランサー曰く。
このランサーの真名は自慢ではないけれども知名度が低く、知られたところでほぼ不都合がないこと。
むしろランサーでありながらアサシンに近い性質を併せ持つ彼女は、クラス名こそ伏せる価値があるということ。
そういったランサーの持論は、既に聞いてはいたのだけども。
「だからって『長兵衛』ってのはないよ〜、そんなカッコしといて」
「なら『お長(ちょう)』でも『中村』でも、適当に『長子(ちょうこ)』でも何でもいいわよ」
黒髪のランサーはいたずらっぽく微笑む。菜々は溜息で返す。
確かに誰も想像できないだろう。
仮に知ってれば知ってるほど混乱するだろう。
明智光秀を討った落ち武者狩りの農民、『中村長兵衛』の名で知られる人物が、実は女性だった、なんて。
「褒賞を受け取るために男に扮して、その場の適当で名乗った偽名を『真名』とか言われても笑えるけどね。
まあ、この名前で『登録』されちまってるからには仕方がない」
「なんでまたそんな面倒なことを……」
「あの時代はまだ女ってだけで厄介事が多かったからねぇ。
素直に素顔と本名ひっさげて首を持ってっても、金子(きんす)さえも受け取りそびれてたろうよ」
その正体の偽装という「真実」から派生した技術こそが、目の前のドレスを着こなす絶世の美女の姿だ。
ランサー中村長兵衛の本来の姿は、竹槍を手にした貧乏な農民の娘の姿。
しかし彼女は男に姿を変え、男として名を残し、その功績に見合う報酬も受け取った。
光秀を討った時の真相も、純真な乙女を演じて油断させ、逃亡に協力するフリをした上でブスリ、とヤったのだと言う。
こんな存在が英霊と化したのならば、それはもう変幻自在の変装術も使いこなすというものである。
「それで何だい、菜々――いや、マスター。何か聞きたそうに見えたけど」
「ラ……いえ、長兵衛さん。
そういえば聞きそびれていたんですけど……長さんが『聖杯』に望む願いって、なんですか?」
ぎゅっ、と丸いトレーを抱きしめるようにして、菜々は問う。
聖杯戦争に巻き込まれ、取り急ぎサーヴァントと簡単な自己紹介をし合って、能力を確認し。
やっと一息つけたのが今日である。
ひとつふたつ、重要事項の確認のし忘れも出てくるし、それに気づきもする。
サーヴァントの願い……それは、マスターにとっても今後の運命を左右する、極めて重要な情報だった。
「あたしの願いか――強いて言うとすりゃ『現世利益』、だな」
「え?」
「京でなら売っているという、甘い菓子とやらを食ってみたい。
いい着物を着てみたい。
有名になりたい。
下剋上を果たして成り上がりたい。
出来ればイイ男も傍にはべらせたい。
一言で言えば――」
「…………」
「『幸せになりたい』」
「…………」
「あたしはあの夜、その願いだけを胸に、竹槍を握った。
あたしはあの夜、あたしの持てるもの全てを使って、カネと名誉に替えられるはずの光秀の首を獲った。
一世一代の勝負を賭けて、見事に勝ち取った。
まあ褒賞を手にして村に戻ろうとした帰り道、うっかりヘマ打ってカネも命も失ったんだけどさ……」
「…………」
「なので英霊になった今も、あたしの根っこは変わっちゃいない。
ヒトとして生まれた以上は、『幸せになりたい』。こいつはごく当たり前の願いだろ?
お天道様にだって恥じるものはねェ。
あたしが生きてた頃には、そのための手段は人殺しだった。あっちでもこっちでも誰かが殺されてた。それだけの話さ」
清々しいまでに生々しい欲望を肯定してみせるランサーに、菜々は唇を噛む。
幸せになりたい。
有名になりたい。
栄光を手にしたい。
なるほど、このサーヴァントが菜々に割り当てられる訳である、だって、菜々も、菜々だって、
「だからマスター。
あたしは菜々、アンタのことを笑いはしないんだ」
「えっ……」
瞳を揺らす菜々に、いつの間にかパフェを食べ終えていたランサーは、真顔で語りかける。
いつも浮かべている笑みすら消して、淡々と語りだす。
「『アイドル』、だったか。この時代の芸人の一種。
上手くウケればその名は天下に知れ渡って、栄光もカネも取り放題の貰い放題。
誰もが憧れ、誰もがかくありたいと願い、誰もがそのトップアイドルを愛する。
しかしウケるまでは苦労の連続、いつ報われるか分かったものじゃない……報われない者の方が遥かに多い……」
「……ッ」
安部奈々。
年齢は永遠の17歳、そしてウサミン星から来たウサミン星人……という奇抜な『設定』で活動している、売れないアイドル。
副業がてらメイド喫茶で働き始め、いつしかウェイトレスとしての稼ぎがアイドルの稼ぎを超え、生活の命綱となり。
鳴かず飛ばずのまま、いったい何度『17歳の誕生日』を繰り返したことか。
岩にかじりつくようにして業界にしがみつき、いくつもの事務所を渡り歩き、芽が出ず、しかし諦めきれず。
「なりふり構わないアンタのことを、馬鹿にする奴も多いだろう。笑いものにする奴も多いだろう。
だけどあたしはアンタのことを尊敬する。
アンタはあたしだから。
耐えて耐えて渇望し続けている、あの夜までのあたしだから。
何も持ってなくって、先なんて見えなくって、でも、いつか来るはずのチャンスを信じて備えてる、あたしだから」
「…………」
「全ての結果を予め知ってる『今』から見たら、明智光秀は敗れるべくして敗れたように見えるかもしれない。
けれど、あの時あの夜のあたしから見れば、絶望的なまでに厳しい相手だった」
主従を繋ぐ霊的なリンクを通して、ランサー中村長兵衛の心象風景が安部奈々にも共有される。
叩きつけるような雨。
ざわめく竹やぶ。
月さえも見えぬ闇夜。
向こうから駆けてくる、豪華な装備の騎馬武者の一団。
そして――それを待ち受ける、つぎはぎの当たった着物をまとい、竹槍一本を手にしただけの、田舎娘ひとり。
「確かに、惟任日向守――明智光秀が天下に号令するのは早すぎたのかもしれない。
けれど光秀は逃亡しようとしていた。逃げた後の再起は十分にありえた。あの当時は誰もがそう思っていた。
明智光秀は名のある武将だった。
『あの』魔王・織田信長を倒してしまうほどの男だった。
武功も多く、戦の経験も多く、武具も最高級のものを身にまとい、少数とはいえ最強クラスの護衛を引き連れていた。
とても『ただの農民』が闇雲に襲い掛かって首を獲れるような相手じゃなかった。
村の男衆たちも、村の近くを通るらしいという情報を得ていながら、諦めてしまっていた。
だけど。
だけど、あたしだけは諦めなかった。
あたしだけは準備していた。あたしだけは考えていた。
いつか誰か落ち武者の大物が村の近くを通った時に、どうやって騙してどうやってハメてどうやって討ち取るのか。
どうやって、大金と栄達の可能性を掴むのか。
ずっとずっと考え続けていた。ずっとずっと備え続けていた。ずっとずっと待ち続けていた。
そして来た。
やった。
獲った。
その後のツメを間違えて、あたしはぜんぶを失ったけれど、あの夜の一刺しを後悔したことはない」
「…………」
「あたしのチンケな願いは、でも、こうして英霊として呼んでもらった時点でかなり叶っちまってんだ。
チョコレートパフェ、ごっそうさん。あの頃には想像すらできなかった美味だよ。
綺麗な南蛮の服も、勝手に着させて貰ったけどありがとな。ほんといい生地使ってやがんのな。
あとは欲を言うなら、イイ男かァ……こいつばっかりは出会いがないことにはねェ……」
「…………」
「だから」
ランサーは菜々の瞳を見つめる。
変装の達人ながらも、唯一変わらぬ深い闇のようなランサーの瞳。それが菜々の瞳をしっかりと射貫く。
「だから、マスター。
アンタが心の底から『なりふり構わず』その夢を現実にしたいと願うなら――あたしは協力を惜しまない。
『どんな手段を取ってでも』聖杯を手にしたいと願うなら――あたしも『手段を選ばず』聖杯を獲り、アンタに捧げる」
菜々は答えられない。
菜々にはまだ、答えられない。
他に客1人居ない小さな喫茶店に、静かに柱時計が時を刻む音だけが響いている。
「あたしはランサー『中村長兵衛』。
『竹槍』のランサー。
『落ち武者狩り』のランサー。
『天下人さえも討つ』ランサー。
大物食いの大番狂わせは得意だが、お上品な闘争にはとんと縁がない」
このランサーがあらゆる手段を尽くすということは、それはほとんど不意打ち騙し討ち奇襲急襲に暗殺謀殺。
三騎士の一角たるランサーには似合わぬ、ありとあらゆる卑怯な手段を厭わないということであり。
これはそこまでして本当に聖杯が欲しいのか、という問いでもある。
そこまでして本当に、菜々は、聖杯なんてモノの力を使ってまで、抱き続けた夢を叶えたいのか?
「……ま、考えといてくれ。
まだ多少は悩む時間もありそうだし、急かせるのもあたしの本意じゃない。
アンタには期待してるんだ。分かるだろう?」
「…………」
「ま、アンタの場合、悩んでる時間も惜しいはずなんだがね――」
ランサーはそれだけを言い残して、霞のように姿を消した。霊体化したのだろう。
ひとり残された格好の菜々は、しばらくの間、食べ散らかされたパフェの容器を片付ける気力もなく、立ち尽くしていた。
昼下がりのうらびれた街角の喫茶店に、来客はまだ、こない。
.
【クラス】ランサー
【真名】中村長兵衛
【出典】史実、16世紀日本
【性別】女
【属性】中立・悪
【ステータス】筋力C 耐久D 敏捷C 魔力E 幸運B 宝具C
【クラススキル】
対魔力:D
魔術に対する抵抗力。
クラススキルであるため一応保持してはいるが、特にそれといった逸話もなく、ランサーとしては低い水準に留まる。
【保有スキル】
諜報:B
本来であればアサシンで召喚された際に「気配遮断」に代わってクラス特性として保持することになるスキル。
気配を遮断するのではなく、気配そのものを敵対者だと感じさせない。
親しい隣人、無害な石ころ、最愛の人間などと勘違いさせる。
(マタ・ハリのスキルと本質的に同等なため、スキル名を拝借しました。ゆえに乱世にはそぐわぬ名称となっています)
アサシンとして召喚された際よりはランクが落ちているが、それでも十分高いランクを保っている。
ただし直接的な攻撃に出た瞬間、このスキルは効果を失う。
情報抹消:B-
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から能力・真名・外見的特徴といった情報の一部が消失する。
本来はアサシンのクラスで召喚された際に保持するスキルであり、ランサーの場合には「-」がつき不安定化する。
そのため全ての情報が消失する訳ではないが、一方で確実に何らかの形で記憶の重要な部分が欠落する。
欠落する情報によっては、なまじ全てを忘れるよりも厄介なことになる可能性もある。
歴史上で重要な役割を果たしたにも関わらず重要な情報の多くが欠落した中村長兵衛を象徴するスキル。
プランニング:C
対象を討ち取るまでの戦術的思考。
軍略と異なり、少数で大将首を狙う場合にのみ絞られる。
変装:C
世を欺く変装術。
神秘の力による「変身」ではなく、ゆえにそれなりに手間と準備を要し、体格も大きく偽ることはできない。
またこのランクでは、特定の誰かに成りすますことは困難。モデルの居ない「どこかの誰か」にのみ変装可能。
しかし逆に、その範囲であれば高い欺瞞効果を持つ。
敗軍の将すら気を許す可憐な乙女にも、褒賞を受け取るに足る青年の農民兵にも完璧に成りすませる。
現代であれば、掃除のおばさんや通りすがりのサラリーマンなどに、状況を見て扮することになるだろう。
またこの変装を看破しようと思うなら、まずは「諜報:B」を突破しなければ変装の看破の判定すら行うことができない。
竹やぶよりの一突き:B-
不意打ちのスキル。
ランサーとして召喚された時にのみ保持する。
一般に信じられている「中村長兵衛は馬上の明智光秀を竹槍で不意打ちして致命傷を負わせた」という逸話の再現。
相手が戦闘態勢を取っていない場合の一方的な攻撃(多くは不意打ちだろう)に限り、全てのステータスが上昇する。
【宝具】
【天下人を討つ雑兵の槍】
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大補足:1
明智光秀の「三日天下」に最後のトドメを刺した落ち武者狩りの竹槍。それに由来する「武器化技術」の宝具化。
史実においては竹槍であるが、その本質は「どこにでもあるモノを武器とする技」にある。
(当時の農村において竹というのはどこにでもある素材であり、竹槍というのは最も簡素な武器であった)
今回のクラスがランサーであるため、対象となるのは「長い棒状の物」に限られるが、
モップだろうと物干し竿であろうと、彼女が手にすればそれは外見はそのままに魔槍と化す。
多くの場合は耐久性に難があり連続使用には耐えないが、攻撃力だけであれば他の武器系の宝具に見劣りはしない。
それに折れたり欠けたりしても、次の「槍」を手に取ればいいだけのことである。
(そして可能な限り彼女は「槍」の予備を確保しやすい場所(掃除用ロッカーなど)を意識しながら立ち回る)
なお相手が「歴史上に名を遺す将」あるいはカリスマ系のスキルを持っている場合、その程度に応じて威力とランクが上昇する。
まさしく大物食いのための宝具である。
【Weapon】
『竹槍』
いちおう本来の武器である竹槍も装備として持つことができ、『天下人を討つ雑兵の槍』の効果も乗せられる。
魔力を消費しての再生や量産も可能で、燃費は比較的軽い。
しかしこれ自体は強度・威力ともに普通の竹槍であり、特筆すべき武具ではない。
むしろ折られたりすることを見越した上で、相手の油断などを誘う使い方が主となるだろう。
もちろんそのまま相手を刺し殺しても良い。
【人物背景】
十六世紀、日本。
織田信長を本能寺にて破った明智光秀は、しかし三日天下の名の通り天下を手中に収めることあたわず、京より敗走。
その敗走中の光秀を討ち取った落ち武者狩りこそ、『中村長兵衛』の名で知られる一介の百姓であった。
しかしこの中村長兵衛、名前こそ後世に残っているものの、不明な点が多い。
後日近隣の村々で調査をしたところ、その名すら知っている者が居なかった(村の英雄のはずなのに!)という記録もある。
光秀の死の状況にも不可解な点が多数あり、実在や功績すら疑われている人物と言ってよいだろう。
このランサーは「光秀を討ち取った落ち武者狩りは実は女性だった」という(捏造)設定に基づくサーヴァントである。
辻褄が合わなかったり実在が疑われたりするのも、肝心な情報がいくつも伏せられ偽られた結果なのである。
光秀を討った際もただ襲ったのではなく、女の姿で油断させ、同情しかくまうと見せての騙し討ちであった(という設定)。
そのため、このサーヴァントはランサーのみならずアサシンの適性も持っている。
そしてランサーとして召喚された際にも、アサシンのスキルを(適性は下がるが)一部発揮することができる。
またその史実上の逸話(千載一遇のチャンスに居合わせた)から、ランサーでありながら幸運のステータスが比較的高い。
ランサーではあるが、豊富なスキルを活かし騙し討ちなどの搦め手を得意とするサーヴァントである。
【特徴】
20代前半の黒髪の和装美女。
農民らしく着古された着物に、乱世の落ち武者狩りらしく鉢金を締め、長い黒髪は邪魔にならないよう一つに束ねている。
武器すらも竹槍が精一杯なだけに、鉢金以外には鎧らしい鎧は着ていない。
が、彼女は外見が与える印象の効果を良く知っている。
可能な限り服を着替え、その場に溶け込む姿を選択しようとするだろう。そして油断したマヌケな者たちの首を取るのだ。
素の性格はサバサバした姉御肌。
死生観は乾いており、また己の欲望に忠実に振舞う。
しかし決して短期的な欲求に目を曇らされることはなく、策を練り我慢し機を覗う知性もある。
【サーヴァントとしての願い】
現世利益の獲得。分かりやすくも生臭い人生の快楽と栄光をこの手に。幸せを求めて何が悪い。
ただ、マスターが本当に心の底から己の願望を願うのなら、全力でそれを支援する。
【マスター】
安部奈々@アイドルマスターシンデレラガールズ
【能力・技能】
売れないアイドル兼声優。
むしろウェイトレスとしての技量の方が(現時点では)収入源として安定してしまっている。
【人物背景】
プロフィールの年齢欄に「永遠の17歳」と書き続ける、不屈の、しかし売れないアイドル。
ウサミミとメイド服を愛用し「ウサミン星から来たウサミン星人」という(やや痛い)キャラクターで通している。
が、いまいちパッとしない日々が続いている。
素顔で街を歩いても芸能人と気づかれることもなく、声優業にも手を広げてみたもののこちらもやはりヒットしない。
成果が出ないまま積み重なる芸歴の長さに、焦りと諦観が忍び寄りつつある……。
大ヒットして知名度が上がる前の、終わりの見えぬ不遇の時代からの参戦。もちろん年齢は17歳だよキャハッ☆
【マスターとしての願い】
悩み中。
素直に願いを言うならば「アイドルとしての大成」だが、それを聖杯に、ランサーに頼ってもいいのだろうか?
以上になります。
タイトルは「持たざる者たち」でお願いします。
デレマスキャラ多いなー
もっとお願いします!
投下します。
わたしの……て…
はな したの…?
アツシくん…… シン…ちゃん…
わ…た…しを オイテ…
…イクノ…?
――オイテ イカナイデ――
*
「うわあああ〜〜〜!」
斯波敦内閣総理大臣は、いつもの悪夢から目を覚ました。
ビッショリと寝汗を掻き、心臓も激しく鼓動している。
冬の空気も手伝ってカラカラで湿り気のない喉は、空気を取り入れようと肺が必死になるたびに痛みを伴う。
何十年も経った今でも、忘れられない実際にあった過去の悪夢。
興味本位の肝試しで幽霊屋敷に挑み、友人の1人が化物になって死んだ時の夢。
行こうと誘ったのは自分、何度後悔したかなど自分の管理する国の総人口でも足りないほどだろう。
“あっち”では定期的に見るばかりだったが、“こっち”に来てからは特に酷い。
否、記憶が戻ってから――であるが。
「よう、ますたぁ。また例の夢かぃ?」
「ああ、キャスターか、すまないが水を一杯頼む」
「ちっとばかし待ってな」
小さな電気スタンドの灯りを頼り、椅子に腰掛け本を呼んでいた男が斯波の叫びで顔を上げた。
いまどき時代劇でしか見かけないような古臭い着物を来た男――サーヴァントというものらしい。
昼はぶらぶらと街を歩いたり、ネットサーフィンに興じてみたりと好奇心旺盛な男だ。しかし打って変わって、夜は決まってなにやら本を読み、静かに斯波の目覚めを待っているのだ。
斯波の頼みを聞き入れ、男は台所へと消えていった。
――3日前、今日と同じように悪夢によって目覚めた時から、斯波には聖杯戦争の基本知識が備わっていた。
なんでも願いが叶う「万能の願望機」――なんともオカルト的だが、すでに信じる信じないの域を超えた現象が起こっているため、理解するのは簡単だった。
むしろ金や権力など現実的なものよりも、斯波にとって最も欲している物でもあった。
なにせ斯波が挑んでいる相手こそ、最凶のオカルトなのだから。
その上聖杯の知識と同時に目の前に現れた男は、聖杯からの知識に拠れば『魔術師』だという。
まだ真名を教えて貰ってはいないが、妖怪の専門家だという話だ。
まるで盆と正月が一緒に来たようである。
このチャンスは決して逃すわけにはいかない。
斯波は残りの生涯の全てを掛けてでも、聖杯を手にする事を誓った。
「はいよ、水。しっかしお前さんも難儀なもんだねぇ、毎朝叫んで飛び起きて、その内身体にガタが来ちまうぜ?」
「……いや、これで良い、これは私自身への戒めなのだ。
あの幽霊屋敷――〈双亡亭〉への憎しみを再び忘れることの無いように、確実に、聖杯を手にするために」
そう、あの悪夢も悪いところばかりではないのだ。
なにせ――冬木の地で何も知らずにのうのうと過ごしていたマヌケな自分を、現実へと引き戻してくれたのだから。
今まで一分一秒でも忘れたことのない双亡亭への憎しみを、思い出させてくれたのだから。
「いや、聖杯さえどうでも良い。キャスター、君があの屋敷を破壊する手段を見つけてくれれば、聖杯に願うことなど他に無い。例え私の死と引き換えであっても、あの屋敷さえ破壊できれば……」
寝起きとは思えない程の力で拳を握りしめ、鬼気迫る表情で斯波は語った。
その姿を横目に、キャスターは再び椅子に座って本を開く。
しかし、開いた本に目を向けているものの、意識は字を追ってはいない。
懐から煙管を取り出し、一摘みの刻煙草をゆっくりとふかし始めた。
これは考え事をするときの癖のようなものだ、本と煙草で目や指を遊ばせながら意識は深く
「幽霊屋敷ねぇ……」
キャスターの過ごした時代にも、そういった噂は多く存在していた。
しかし、実のところ幽霊が出る屋敷や、幽霊が住んでいる場所ばかりで“屋敷自体が幽霊”の屋敷はあまり聞き覚えがないものだった。
キャスターとして召喚されてから斯波から多くの話を聞き、様々な推測を立てては見たがやはり実物を見てみないことには正体を掴む事は難しい。
聖杯戦争の間しか存在することができず、冬木の地に縛られている現状がこの上なくじれったく感じていた。
この地に召喚されてから読んだ文献にも、それらしいものはまだ見つかっていない。
「あたしには叶えたい願いなんざねぇさ。てぇか、お前さんの顔見てたらくだらねぇ願いなんざ失せちまったわな。こうして本を読みながら、未来の妖怪や風俗が知れりゃあ満足よ。こん先も手掛かりが掴めっかわかんねぇし、一先ず幽霊屋敷ぃこた置いといて、聖杯をぶんどることだけ考いようや」
「……ああ」
斯波は漸く気分が落ち着き、寝台を降りる。
現在午前5時、なかなかに早い時間の起床である。
というのも、冬木の地でも斯波の地位は総理大臣のままなのだが、なぜだか長期の休暇ということになっているのだ。
総理大臣が長期休暇など前代未聞だが、寝室どころか身内の小旅行にまでぞろぞろと付いて来る護衛達が部屋に1人もいない時点で、早々に“ここはそういう場所なのだ”と理解した。
普段悪夢と仕事に追われて十分な睡眠が取れていない斯波は、記憶を取り戻すまで本当ゆっくりとした休暇を過ごしていた。
おそらく、それは休養期間だったのだろう。
体調が万全になるまで、聖杯が与えてくれた僅かな時間。
ならば、もう休みなど斯波には必要ないのだ。
「どうせ宝具でばれちめぇから、黙ってたんだがよぅ。こいだけ気骨を見せられて、自分だけ秘密主義ってぇのも男がすたるってもんだわな。
――あたしは鳥山石燕ってぇんだ、お前さんなら、聞いたことぐらいあんだろ?」
「……ああ、知っているとも。改めて、斯波敦だ、よろしく頼む」
顔には出さなかったが、斯波は少し驚いた。
妖怪の専門家だというから、陰陽師やらの1人かと思っていだが、まさか絵師だったとは。
しかし、頭脳や知識という点では、最も優れた妖怪の専門家だと言えるだろう。
彼が言うならば、やはり聖杯を手に入れることが最も有効な手段なのかも知れない。
ならば、死にものぐるいで手に入れた地位を――聖杯がこの地でも残したこの地位を存分に使うべし。
もはや呪いのように、あの時より頭から離れない声に、大いに従うべし。
聖杯、取るべし。
当然、願いはただ一つ――
……壊すべし。
あの家 壊すべし。
――〈双亡亭〉壊すべし
【クラス】
キャスター
【真名】
鳥山石燕
【出典】
江戸時代、18世紀日本
【性別】
男
【属性】
中立・善
【ステータス】
筋力D 耐久E 敏捷D 魔力A+ 幸運B 宝具A+
【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成できる。
和歌や絵による護符作成や道具への魔力付与を得意とする。
【保有スキル】
芸術審美:B
芸術品・美術品に対する理解、あるいは執着心。
美術面の逸話を持つ宝具を目にした場合、高確率で真名を看破できる。
逢魔時より日の出までの怪しき:B
日没から日の出にかけて宝具使用時の消費魔力が減り、妖怪の力が増加する。
味方にいる人外も同様の効果を得る。
怪異蒐集:A
周囲に起こる不可解な現象を妖怪の仕業と見極め、蒐集する事で現象を収める。
また、妖怪に対しては同ランクの気配感知と真名看破同等の性能を持つ。
妖怪は宝具『画図百鬼夜行』へと戻るもしくは記され、召喚の際の魔力消費が無くなる。
【宝具】
『画図百鬼夜行(がずひゃっきやぎょう)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜20 最大補足:100人
生前キャスター自身が作り上げた妖怪画集。
主に「画図百鬼夜行」「今昔画図続百鬼」「今昔百鬼拾遺」「百器徒然袋」の4作品を指すが、これ以外にもキャスターの図録した妖怪は全て記載されている。
描かれている妖怪を召喚する事ができ、妖怪自体の危険度・知名度・畏怖度によって消費魔力が変化する。
『宝船(なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな)』
ランク:A+ 種別:対界宝具 レンジ:1 最大補足:1人
画図百鬼夜行シリーズの一つである「百器徒然袋」が全て夢もしくは想像だったという説の具現。
宝船が顕現している間は全ての妖怪、怪異、化物と呼ばれる存在は消え、またそれによって引き起こされた現象や被害も無かったことになる。
聖杯の力によって存在しているサーヴァントまでは消え去りはしないが、酷く弱体化し消耗する。
顕現中はキャスターの幸運が1ランク上がり、彼が味方であると認識し幸運を願う者達も僅かに運が上昇する。
キャスター自身が乗るわけではなく、空中にただ浮かんでいる“現象”なので移動手段としては使えないうえ、宝船自体も夢とされるため触れることもできない。
【人物背景】
江戸時代に活躍した妖怪絵師。享年74歳(推定)。
狩野派門人として狩野周信及び玉燕に付いて絵を学び、また、俳諧師・東流斎燕志に師事した。
自身は喜多川歌麿や恋川春町、栄松斎長喜といった絵師の師匠としても知られている。
幕府御坊主として産まれ、幼少より文学や絵を嗜んだ。
妖怪絵師として有名になったのは晩年になってからであり、同時期にふきぼかしと呼ばれる新しい画法を編み出した。
主に『画図百鬼夜行』とそれに続く3作が代表作であり、近年までの多くの妖怪絵師に多大な影響を及ぼした。
日本や中国の博物書、歴史書、思想書などの様々な書物を読み漁り、膨大な知識を持っていたとされる。
【特徴】
年頃は30歳ほどに見える細身の日本人男性。肩ほどまで伸びた黒髪を束髪に結っている。
切れ長な目をしており、江戸時代に作られたギヤマン製の丸眼鏡を愛用している。
服装は一般的な江戸時代の着物に羽織、空五倍子色や青鈍、利休鼠などの暗い色を好んで着る。
一尺ほどもある非常に長い羅宇煙管を愛用している。
江戸言葉なため一人称は「あたし」だが、別にオカマというわけではない。
【聖杯にかける願い】
特にない。否、無くなったといったほうが正しいか。
斯波の願いの強さに自分の願いはどうでも良くなった。
今は死語の歴史や文化、新たな妖怪が知れれば満足である。
【マスター】
斯波敦(しば あつし)
【出典】
双亡亭壊すべし
【性別】
男
【Weapon】
なし
【能力・技能】
総理大臣まで上り詰めた努力、また過程で得た頭脳。
【人物背景】
学生時代に友人達と3人で幽霊屋敷〈双亡亭〉へ探検に行き、入口で友人の1人『ナナちゃん』を見失う。
もう一人の友人『シンちゃん』と共に屋敷を探索しやっと見つけることに成功したが、発見したナナちゃんはもう人間ではなくなっていた。
化物に成り果てた友人への恐怖と、屋敷への憎しみ、そして探検へ行こうなどと言い出した自分への怒りからなんとしてでも双亡亭を破壊することを決意する。
そして努力に努力を重ね、自身は総理大臣、シンちゃんは防衛大臣へと上り詰めた。
【マスターとしての願い】
双亡亭壊すべし
投下終了です。
皆様投下お疲れ様です。
自分も投下開始します。
この世に悪の種あれど、天網恢々疎にして漏らさず。
某こそは、快刀乱麻、天下御免の豪傑なり。
我が名を知らずばしかと聞け、顔を知らずばしかと見よ。
これよりお目にかけるのは、妙高山は仙素道人に教えを受けし秘伝の術。
うぬら悪党、我が忍法にて一切合切改心いたせ――!
▼ ▼ ▼
忍という字には、冬の乾いた風がよく似合う。
ここ冬木市の外れ、円蔵山の奥深くにも、空っ風は木々の合間を縫って吹き込み、枯れ葉を巻き上げては寂しげな音を立てている。
時は早朝。空は明らみ、小鳥たちがさえずり始めるような時間だ。
しかし、すっかり葉を落として裸になった枝から枝へ、目にも留まらぬ速さで飛び交うのは、決して冬の風だけではない。
「忍(ニン)!!!」
刃のかち合う音が、またひとつ。
二つの影が交錯するたびに金属音が反響し、影はそれぞれ枝を蹴っては跳躍し、再び甲高い音を交わす。
それを更に幾度か繰り返したのち、影のひとつが器用に太枝の一本へと降り立ち、肩で息をしながら呟いた。
「ま、間違いないでござる……拙者、ついにマスターと呼べるお方に巡り会えたでござるよ……!」
驚愕と呆然とに染まり、しかしその裏側にある興奮と歓喜を隠せずにいるその声は、まだ年若い青年のものだ。
それにしても奇妙な出で立ちの青年である。巨大な手裏剣を背負うその姿は、まるで忍者と歌舞伎役者を掛けあわせたようだ。
その顔は隈取を模したペイントの仮面に覆われ、表情を窺い知ることは出来ない。
しかし、その声同様に興奮のあまり呆然としているのであろうことは、その様子を見る者がいれば容易に想像できただろう。
「ど、どこにいるのでござるかマスター! この『折紙サイクロン』、是非ともマスターに弟子入りさせていただきたい!」
折紙サイクロンを名乗る青年の声に応えるように、向かい立つ木の枝にもうひとつの影が降り立った。
まだ年若い少女だ。
大きく後ろで結い上げた長髪と、ばっさり開いた衣装の胸元から覗く膨らみが瑞々しい。
少女は複雑そうに頭を掻きながら、口を開いた。
「うーん、主殿。その『マスター』と呼ぶのは止めていただきとうござる。某(それがし)、むず痒うござりますよ」
照れくさそうな笑みが抑えられていない。
おまけに言葉とは裏腹に「褒められて嬉しい」という気持ちが全く隠せていない感じの口ぶりだ。
たったこれだけでこの少女の気質が伺い知れようというものである。
果たして青年――折紙サイクロンを名乗る彼は、一層勢い込むばかりだった。
「いいやマスター、いやライダー殿! 貴女こそは拙者にとってニンジャ・オブ・ニンジャ、マスターニンジャにござる!」
「えぇ〜? ほんとにござるかぁ?」
「ほんとにござる! その技の冴え、忍法の鮮やかさこそはマスターの証!」
「えへへへへ…………い、いやいや、某も未熟な身。此度は英霊としての現界なれど、弟子を取るなど分不相応にござります」
「そこをなんとか……!」
なおも食い下がる折紙サイクロンに、少女は照れた様子のまま、それでも諭すように言い含める。
「それに、それではあべこべでござる。主殿が『マスター』で、某は『サーヴァント』。
そしてこれより始まるは、万能の願望器を懸けて英霊が相争う聖杯戦争。よもや、忘れたわけではありますまい?」
それを聞くやいなや、折紙サイクロンは空気が抜けた風船のように目に見えて萎んだ。
「……はい……分かってはいるつもりです……すみません……」
「あああ、お気を落とさず! 某、お説教するつもりは毛頭ありませぬゆえ!」
ともすればそのまま枝の上から墜落しそうなマスターを、サーヴァントの少女は必死になだめるのだった。
▼ ▼ ▼
様々な人種や民族、そして「NEXT(ネクスト)」と呼ばれる特殊能力者が集う街、シュテルンビルト。
イワン・カレリンは、そのシュテルンビルトでヒーロー「折紙サイクロン」として活動している青年である。
この街におけるヒーローとは、大企業のスポンサーロゴを背負い、TV中継されながら犯罪者と戦う存在だ。
そして折紙サイクロンは、事件解決よりもロゴをカメラに映すことにばかり熱心な、変わったヒーローとして認知されていた。
「そんな僕に、聖杯戦争のマスターなんてやっぱり荷が重いんですよ……」
既に折紙サイクロンのヒーロースーツを脱いだイワンは、もはやいつものネガティブでダウナーな青年だった。
「この冬木には、HERO TVもスポンサーもいない。今まではカメラの前だから虚勢を張れていたけど……」
「まぁまぁ。主殿も修練のみであれだけの技を身につけた御仁。あまり卑下したものではないでござりますよ」
「僕の忍術なんて所詮は映画とかのを真似しただけで……ライダーさんの本物の忍法とは違うんです!」
励まそうとするライダーへ反射的に語彙を強めてしまい、イワンは「すみません……」と謝って座り直した。
「でも、この冬木でライダーさんを召喚して分かったんです。ニンジャはいるんだ。本物は確かにいるんだ、って」
ライダーの見せた数々の忍術――分身や変わり身、変化に口寄せ――を思い出しながら、イワンは呟く。
「僕だって知っています。ニンジャの中のニンジャ、快傑『児雷也(じらいや)』……まさか女の子だとは思いませんでしたが」
児雷也。
それがライダーの少女の真名である。
この日本において、もっとも名を知られている「忍者」のひとり。
巻物をくわえ、巨大なガマガエルに乗って大立ち回りを見せる姿は、この国の人間が持つ忍者のイメージの原型に近い。
その痛快なヒーロー像は、江戸時代後期の合巻や浮世絵をはじめとして、幾度となく庶民の喝采を浴びてきた。
怪力無双の綱手姫、そして宿敵たる毒蛇使いの大蛇丸との、三竦みの戦い。
人々はその姿に、まさしく「ヒーロー」を見たのだ。
「正直言って、聖杯戦争で戦い抜く自信なんて、ありません。ライダーさんみたいな英雄が集う中、僕なんかが何をやれるのか。
僕だってヒーローです。困っている人がいれば助けたい。……でも、それが出来るのかが、分からないんです」
ぽつりぽつりと呟きながら、イワンは膝の上でぐっと拳を握りしめた。
「それでも、そんな僕だって……『本物』の隣で戦えば、何かを学べるかもしれない。偽物じゃない僕に、なれるかもしれない……!」
それはたとえ不謹慎かもしれなくても、イワン・カレリンにとっては心からの思いだった。
歴史に名高い偉大なニンジャに直に師事することができれば、この情けない自分を変えられるかもしれない。
本物のニンジャに。本物のヒーローに。少しでも近付けるのではないか、と。
そんなイワンの言葉を、ライダーの少女――児雷也は笑わなかった。
決して笑わず、隣にそっと腰を下ろして、今まで通りの明るい口調のまま、黙りこんだイワンの代わりに口を開いた。
「某どもの活躍はどうやら後世にて相当誇張されておりますゆえ、イワン殿が知る譚(ものがたり)と同じかは分かりかねますが」
そう前置きして、児雷也は語る。
御家再興を掲げ、秘伝の蝦蟇の忍術と「児雷也」の名を継いだ一族。自分もその一人であると。
先祖の仇を討つべく奔走するなかで、弱きを助け、悪しきを挫き。
そして一族の宿敵、不死身の大蛇丸とも幾度となく刃を交わした。
彼女の生涯は、児雷也の名が一人の人間を指すものでないという点を除けば、イワンの知る物語によく似ていた。
「しかしね、主殿……某、やはり譚(ものがたり)というのは『めでたしめでたし』で終わるのが一番だと思うのでござりますよ」
ただ一点、大きく異なることがあるとすれば。
彼女の――いや、児雷也の物語には、結末が無かった。
尾形家の再興が成ったわけではない。
宿敵大蛇丸を討ち果たしたわけでもない。
後世の語り手が思い思いの結末を作り上げられたのは、翻せば、確かな結末が用意されていなかった証である。
恐らく自分の後の代の「児雷也」もまた、同じような生涯を送ったのだろうと彼女は言う。
しかし「児雷也」は庶民のヒーローであるがゆえに、幾度となく語られ……しかし彼女達の真実を、誰も知ることはない。
何かを成し遂げることなく、次代に宿願を託すしかなかった、彼女達の真実を。
「当代風の言い方をすれば、ヒーロー稼業も楽じゃない、ということでござりますな。あはは」
自嘲するようにライダーは笑い、その横顔をイワンは意外なものを見るような目で見つめていた。
完全無欠のヒーローだとばかり思っていた伝説のニンジャ……彼女が抱える寂しさの一端に触れたような気がしていた。
「だから思うのです。ひょっとしたら某、この国の歴史に何ひとつ足跡を残せていないのではないかと――」
「――そんなことはありません!!」
イワンは反射的に大声を出していた。
驚いて真ん丸になったライダーの視線が自分に向き、慌てて身を縮めながらも、続く言葉を絞り出す。
「す、すみません。でも、ライダーさんの生涯が無駄だったなんてことはないはずです。
ヒーローは必要なんだ。当時の人にも、後の世の人にも。僕だって、その憧れでここまでやってこれたんです」
感情のままにそこまで言い切ってから我に返り、僕なんかが偉そうなことを言ってすみません、と小さく付け足した。
偉大なニンジャマスターに対して無礼なことを言ってしまったのではないかと、持ち前のネガティブ思考が顔を出す。
しかしイワンの予想に反して、ライダーは心底嬉しそうに微笑んでいた。
「……えへへ。ヒーローは必要かぁ。それはつまり、主殿御自らへの答えでもあるわけでござりますな!」
彼女は勢いよく立ち上がった。弾みで大きく胸が揺れて、イワンは慌てて目を逸らす。
しかし恐る恐る視線を戻すと、彼女は晴れ晴れとした顔で片手を差し出していた。
「某、生涯浪人の身ゆえ、主に仕えるとはいかなることか、とんと感覚が掴めませぬが……。
しかし主殿とは、良き友となりとうござる。ですから主殿も、某をむやみに仰ぐことなく、共に答えを探しましょうぞ」
差し出された手を、思わず握り返す。
その温かさ、柔らかさは、それが霊子によって再現された肉体だとはとても思えなかった。
そのまま引かれるままに立ち上がり、微笑む彼女の気持ちに応えようと精一杯握り返した。
「そ、そうですね。よろしくお願いします、ライダー……さん」
「あはは、まだまだ堅苦しゅうござりますな! まぁイワン殿はそこが味かもしれませぬゆえ!」
そろそろ帰りましょうと言い、ライダーが両手で印を結んだ。
瞬間、白煙が沸き立つように広がり、冬の乾風が視界を晴らした頃には二人の姿は既に無く。
ただ既に高く登り始めた冬の太陽が、二人のいた場所を暖めるように照らしていた。
――天下御免の快傑児雷也、共に並びし者あらば、ここ冬木の地にても罷り通る。
【クラス】ライダー
【真名】児雷也(じらいや)
【出典】日本/自来也説話、児雷也豪傑譚、他
(諸作品の成立は江戸後期以降だが、児雷也自身は室町時代の英霊)
【マスター】折紙サイクロン(イワン・カレリン)
【性別】女性
【身長・体重】163cm・49kg
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷A 魔力B+ 幸運C 宝具B
【クラス別スキル】
騎乗:A
乗り物を乗りこなす能力。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
Aランクでは幻獣・神獣ランク以外を自在に乗りこなせる。
対魔力:C
魔術に対する抵抗力。魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
【固有スキル】
忍術:EX
忍びとしての技能。
EXランクなのは、純粋な忍びの術のみならず、正確には「妖術」とカテゴライズされるべき術をも用いるため。
本来の忍術単体のランクはB相当。控え目なのは他の著名な忍者――服部半蔵や風魔小太郎、猿飛佐助などよりも百年以上前の、
忍術という技術体系が未だ発展途上にあった時代に活躍した英雄だからである。
煙隠れ:A+
白煙と共に一瞬で現れ、逆にドロンと消え失せる秘伝の術。
あたかも瞬間移動のように見せかけているが、実際は妖気の煙幕による視覚的・魔力的な撹乱と跳躍術の合わせ技。
また、ライダーのクラスで召喚されたために所持していない気配遮断スキルの一時的な代用にもなる。
変化:B
文字通り「変身」する。児雷也の場合は仙人から習得した妖術によるもの。
老若男女を問わず様々な人間へ巧みに化ける他、蛙に姿を変える術を得意とする。
単独行動:C
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Cランクならばマスター不在でも通常なら一日程度は現界可能。
【宝具】
『児雷也豪傑譚・蝦蟇之巻(じらいやごうけつものがたり・がまのまき)』
ランク:B 種別:対人・対軍宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:100人
忍法の秘伝が記された巻物。
口にくわえて印を結ぶことで、英霊・児雷也の象徴たる騎乗物、『大蝦蟇(おおがま)』を召喚する。
この宝具によって呼び出される大蝦蟇はれっきとした魔獣ランクの幻想種。
妖術により自在に巨大化でき、また巨体に似合わぬ俊敏な動きで児雷也を乗せたまま跳ね回る。
並の敵ならばその大質量をもって押し潰し、そのまま大口を開け吸い込んで一呑みにしてしまう。
更に奥の手として、視界を塞ぐと共に周囲の魔力を強制的に吸収・分解・拡散してしまう妖気の霧を吐き出すことが出来る。
なお、蝦蟇の召喚自体の消費魔力はそこまで多くないが、妖霧や過度の巨大化を使用すると一気に燃費が悪くなるようだ。
また三竦みの関係により、蛇(あるいは竜種)の属性を持つ者を相手にすると能力が弱体化してしまう。
もっとも最大の弱点は、召喚した瞬間に真名が割れるレベルの知名度の高さかもしれないが――
【Weapon】
後の歌舞伎では「浪切の剣」として名高い日本刀、そして各種の忍具を使いこなす。
ただし本人曰く、手裏剣は生前触れる機会が無かったのであんまり慣れてないとのこと。
【解説】
室町時代、蝦蟇の妖術を身につけて世直しをしたと語られる義賊。名は「自来也」とも。
御家再興のために術を修めた豪族の末裔「尾形周馬(おがた・しゅうま)」がその正体とされる。
江戸時代後期以降、合巻や漫談、歌舞伎などの題材として庶民の間で絶大な人気を博した。
大蝦蟇の上に立ち、巻物をくわえて両手で印を結ぶ姿は、忍者のステレオタイプとしてあまりにも有名。
昔話の主人公たちと並び、この国の近現代史における元祖スーパーヒーローのひとりといえる。
この聖杯戦争で召喚された児雷也は、室町時代前期に実在し、前述の物語群のルーツとなった義賊である。
ただし彼女自身は、尾形家再興を掲げて「児雷也」の名と蝦蟇の妖術を受け継いだ、歴代の「尾形周馬」の一人に過ぎない。
物語ごとに児雷也の人物像や背景が異なるのは、原型となった「児雷也」が何代にもわたって存在したからである。
彼女にも本来の名があるはずだが、児雷也を名乗るにあたって捨て去り、今や彼女自身も覚えていない。
【特徴】
長髪を後ろで一つに結い上げた、スタイル抜群の少女。
赤いマフラーを首に巻き、胸元の大きく開いたアメコミ調のスーツの上からこれまた派手な着物を羽織っている。
忍者であるにも関わらず目立ちたがりな性分で、これらの忍ぶ気が一切無い衣装も聖杯戦争にあたって誂えたもの。
【サーヴァントとしての願い】
御家再興なんて時代でもありませぬが、とにかく派手に一花咲かせましょう!
【マスター】折紙サイクロン(イワン・カレリン)@TIGER & BUNNY
【能力・技能】
NEXT能力者。固有能力は『擬態』で、風景に溶け込んだり他の人間そっくりに変身したりできる。
自他共に認める地味な能力で、本人も一時期ヒーロー活動の役に立たないと気に病んでいたことがあった。
一方で身体能力はかなり高く、折紙サイクロンのヒーロースーツを纏って忍者さながらの戦いぶりを見せる。
【人物背景】
様々な人種、民族、そして「NEXT」と呼ばれる特殊能力者が集う大都市シュテルンビルトでヒーローとして活躍する青年。
しかし犯罪解決よりもTVカメラの端に見切れてスポンサーのロゴをアピールすることに執心している変わり種。
ヒーロー活動中は「拙者」「ござる」口調でハイテンションだが、これは相当無理をしており、普段はダウナーな性格。
基本的にネガティブで自分に自信がなく後ろ向きだが、犯罪との戦いを通じて彼なりに成長していく。
ちなみに相当の(ただしかなり勘違いの入った)日本通であり、ニンジャやカブキ、ザゼン、スモウなどに興味津々。
【マスターとしての願い】
聖杯に懸ける願い自体はない。
だが、聖杯戦争で街や人々に被害が出るなら、ヒーローとして戦わなければならないと考えている。
投下終了です。
サブタイトルはタイバニ風にしようと思ったら長すぎて入りませんでした。「A good friend is as the sun in winter.(良き友は冬の太陽と同じ)」でお願いします。
ttp://gazo.shitao.info/r/i/20160903180722_000.jpg
支援
皆さま投下乙です。
>>230
ありがとうございます!!!
投下させていただきます
こんな時代だ。
人生は絶え間なく連続した問題集。
そろって複雑。選択肢は酷薄。加えて制限時間まである。
一番最低なのは、夢みたいな解法を待って何ひとつ選ばないことだ。
オロオロしている間に全部おじゃん……それで一人も救えない。
だから、選ばなきゃいけない。一人も殺せないヤツが一人も救えるもんか。
ぼくたちは神様とは違う。万能でないだけ鬼にもならないといけない……
……でも。
それでも、ぼくは。
◆
「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬこれは完全に死ぬ死んじゃう死んじゃう!」
口から漏れ出るのは泣き言ばかり。でも路地裏を駆ける足は止まらない。
嫌になるが、実のところこんなことは慣れっこだ。
道を歩けば化け物に出くわす。扉を開けば奈落が口を開けている。
命の危険なんてどこにでも転がっているものであり、特にあの街、ヘルサレムズ・ロットではそれこそ日常茶飯事だ。
が、ここはヘルサレムズ・ロットではない。
一人走るレオナルド・ウォッチの側には誰もいない。
秘密結社ライブラのリーダーにして無類の紳士、鉄の心と鋼の拳で人界を守護するクラウス・V・ラインヘルツも。
皮肉屋で人間のクズで金にがめつく平気で約束を破りすぐに暴力に訴える度し難い人間のクズ、だがここぞという時には頼りになるザップ・レンフロも。
寝起きをともにしている小さな相棒、音速猿のソニックも、よく一緒に食事に行く気安い友人のようなツェッド・オブライエンも。
チェイン・皇、スティーブン・A・スターフェイズ、K・K、ドグ・ハマー、ギルベルト・F・アルトシュタイン……ライブラのメンバーは誰もいない!
だというのに、レオを襲う危機はいつも通り致命のそれだ。
「……っと!」
『視えた』光景を元に頭を下げる。その数瞬後、カマキリの鎌のような(ただし大きさは自動車サイズだ)刃が通り過ぎる。
電柱をバターのように切り倒したそれは、鋭く風を切って再度レオへと迫る。
「ああ、もうっ!」
『予め視えていた』それを余裕を持ってかわし、レオは再度走り出す。
後ろから巨大な物体が近づいてくる感覚。
レオナルド・ウォッチは追われていた。カマキリの鎌とライオンの頭にクモの胴体を持つ、キメラとしか形容できない存在に。
「くっ、そろそろ限界か……!?」
レオに戦闘力はない。彼にできるのは、見る/視ること、ただそれだけ。
かつて人界は異界と遭遇し、様々なものが変容した。
中でも特に危険とされるのが「血界の眷属(ブラッドブリード)」を筆頭とする異界の住人たち。
そのうちの一つ(かどうかすら定かではないが)、名も知らぬ上位存在に、レオは行き会ってしまった。
そして押し付けられたのが、レオの煌々と光る両目――『神々の義眼』である。
遠視透視に限らず眼にまつわることならほぼ何でも可能な眼だ。短時間の未来視さえも。
世の好事家たちからは超一級の芸術品として扱われるこれは、レオを苛む呪いにして、現状ではただ一つのレオの武器。
襲い来る化け物を撃退することはできないが、その攻撃を凌ぐことはできる。
「でも、逃げてるだけじゃ何も変わらない!」
普段のレオは、この義眼を用いて仲間をサポートする。
攻撃力に優れたザップやツェッド、封棺の業を持つクラウスらの力を何倍にも高めるこの力は、だが単体では驚くほどに無力だ。
レオ自身にキメラを撃退する力はない。どうにか義眼をフル回転させて逃げ続けているものの、そろそろ限界が近い。
眼下の周りの肉がぞっとするほど熱を持っている。義眼が発する熱。これが続けば、やがて義眼と直結した脳が煮崩れる……
嫌な想像を振り払い、レオは真っ直ぐ前へと進み続ける。が。
「げっ……」
この目には欠陥がある。それは、見たくもないものまで見えてしまうことだ。
三秒後、レオの前に蛇の胴体に鷲の翼を生やした別のキメラが舞い降りてくる。
そしてそいつは炎を吐くのだ。ちょっとやそっと動いたくらいではどうしようもないくらいの、吹雪のような炎を。
それで終わりだった。避けられる鎌と違って、レオが炎を防ぐ手段は何もない。
炎に呑み込まれる自身の姿を眼に焼き付ける。レオの足が止まる。
「嘘だろ、これで終わりだってのか」
クモのキメラが追いついてきた。蛇のキメラが舞い降りてきた。
二匹は新鮮な肉をしゃぶり尽くせる期待にギラギラと目を輝かせる。
視界を操作して、と閃くも、蛇は眼ではなく別の器官で獲物を見分けるという話を思い出す。
「どうする、どう……!?」
それでもやらないよりマシだ。
キメラ二体の視覚をシャッフル。ライオンキメラが戸惑ったように呻く。
その横を駆けて抜ける……レオの瞳は、しっかりと自分を追って首を巡らす蛇の頭を捉えていた。
(ダメか――!)
かぱ、と顎を開けた蛇の口腔から、灼熱の奔流が解き放たれる。
義眼の予言通り、レオはここで死ぬ。
「畜生……!」
義眼が示した通り、レオナルド・ウォッチは炎に呑み込まれた。
そして、死ななかった。
「え……?」
眼を開けたレオの眼前。そう、手の届く距離にそれはいた。
腕を組んで仁王立ちする偉丈夫。蛇キメラの放つ炎を全身に浴び、微動だにせず立ち尽くす。
そいつのおかげで、炎はレオまで届いていないのだ。
すう、と息を吸い込む音が聞こえた。
「やあやあ、遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ!」
大喝一声。
物理的な衝撃さえ伴うその雄叫びは、蛇キメラの炎を真正面から吹き散らすほどの大音声。
獣であるライオンキメラと蛇キメラが大きくたじろぐのが視えた。
「吾輩こそは日本一の腕っ節! 鬼さえ泣き出すゥ――桃太郎ォォォォ――――――ッ!! で、ある!」
彼らは予感したのだ。眼前のこの男こそ、災厄の化身にして死神と同義の存在。
己を葬る断罪の剣であると!
男――桃太郎は、組んでいた腕を解いた。
そしてようやくレオにもその姿がはっきり認識できた。
白い具足、紅い手甲、翠の胴鎧、そして桃色の兜。背中に背負った二本の旗。『日本一』『桃太郎』の文字。
東洋の鎧に身を包んだその男は、旗を両手に引き抜くと大上段に構え。
「でやぁぁぁぁぁああああああああ――――――っっ!!!」
大地震わす踏み込みとともに、ライオンキメラに殴りかかる!
左の旗がまず防御の鎌を圧し折る。次いで振るわれた右の旗が一撃でライオンの頭部を爆砕した。
相方を一瞬で討ち取られ、蛇キメラは怯えた声を漏らしながらも翼を打って空へと舞い上がる。
瞬く間に蛇キメラは上空へと逃れる。
旗振り男の手はもう届かない。とレオが思ったのも束の間。
「逃がさんぞ!」
桃太郎が気合を吐くと、その背に折りたたまれていた盾……否。翼だ。翼が大きく広がった。
眩い煌めきを放つ、金属の翼。それは熱風を吐き出し、桃太郎の巨躯を宙へと押し上げる。
「飛んだ!?」
「応とも、飛ぶぞ! そら、見ているが良いますたぁよ! この桃太郎の……!」
驚愕するレオの目前から、桃太郎は一瞬で天へと飛翔する。
先に飛び上がった蛇キメラに一瞬で追いつく。追い抜く。夜空の星をその手に掴まんとするように。
そして……まさに星のように小さな点となった桃太郎の視線が、蛇キメラを、その下のレオナルドを射抜く。
「邪悪を滅する正義の一撃を!」
桃太郎は翼から炎を吹き上げ、爆発的な速度で急降下する。
炎は桃太郎の全身を伝い、一箇所に流れていく。
肘部の装甲が展開し、せり出してきたノズルが爆炎を吐き出す! 拳が加速する!
「とあああああぁぁぁぁぁぁ――――っっ!!!」
こうして繰り出された隕石の如きファイアパンチは、蛇の頭を一瞬にして粉微塵に打ち砕いたのだった。
「……はあ、つまりあなたは僕のサーヴァント、ってわけで」
「うむ、そうだ! 遅参したのは済まなんだ、許せ! 何せ吾輩、現世には疎いものでな!
走って向かっていたのだが、この地はどうにも入り組んでいてな! すっかり迷ってしまったのだ!」
「道に迷ったって……それどうなの……」
「いや、だがますたぁにも問題があるのだぞ? 元いたところに留まっておればすぐに合流できたのだ。
だがオヌシ、先ほどの獣どもを倒すでもなく引き連れて走り回っておったでな。あっちこっちに気配が移動するので吾輩も困ったのだ。
我ら、未だに契約を完遂せぬ身。こうして間近にいてこそようやく気脈も通じるというもの」
「契約。ああそうか、それで……聖杯戦争ね。それをやらなきゃいけないんだな」
今では全て思い出した。ここがどこなのか。ヘルサレムズ・ロットではなく、ライブラの皆がいない理由も。
レオナルド・ウォッチは聖杯戦争に参加したのだ。
「うむ。だが吾輩、特に叶えたい願いはない。強いて言うなら邪悪を祓う……まあそのくらいだ。
だがますたぁの願いを叶えてやりたいという気持ちはある。先ほどのオヌシの逃避行、余人が巻き込まれぬよう敢えて人の少ない場所へと向かったであろう。
そんなことをするますたぁが悪人であるはずがない。ならば吾輩、身命を賭して汝の刀となるに些かの躊躇いもない!」
「そ、そうかな……」
どうやら桃太郎にはよほど気に入られたらしく、どうするにせよ決定権はレオに預けてくれるらしい。
レオはじっと考える。
聖杯。万能の願望機。
それがあれば、この『神々の義眼』も、妹の、ミシェーラの眼も……
「……どうするべきかはわからない。でも、これは……僕にとっての光だ」
正しいかどうかではない。そこに一片でも希望があるのなら。
レオナルド・ウォッチは、そこに向かって一歩でも進み続けなければならない。
「すぐに答えを出す必要はない、ますたぁ。悩む時間くらいは吾輩が作ってみせよう。
善きものを護る。それが吾輩の存在理由にして、ただ一つの願いであるがゆえ」
レオの頭を荒々しく撫でる桃太郎の掌。
何故だかその感触は、桃太郎とは似ても似つかないはずの尊敬すべきライブラのリーダー、クラウスを思い起こさせるものだった。
【クラス】 セイバー
【真名】 桃太郎
【出典】 おとぎ話『桃太郎』
【属性】 秩序・善
【性別】 男性
【ステータス】
筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:C 幸運:A 宝具:A → 筋力:B+ 耐久:B+ 敏捷:B+ 魔力:C 幸運:A(宝具展開時)
【クラス別スキル】
騎乗:E
桃太郎が何らかの乗り物に搭乗したという逸話は少ない。バイクや車なら練習すれば人並みには乗りこなせる程度。
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
【保有スキル】
神秘殺し:A
魔性に属する存在に対し、ダメージを2倍にする。
黄金率:E
人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。
魔力放出(炎):A (宝具使用時のみ)
魔力によるジェット噴射。邪悪を滅する桃太郎の意志が紅煉の炎となって燃え盛る。
【宝具】
『四心合一・破邪装魂』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:1
かつて桃太郎に付き従った三匹のお供の魂を召喚し、鎧として身に纏う宝具。
通常は一種ずつ選んで使用するが、数種同時に使用することも可能。その際、消費する魔力は使用した数の加算となる。
「犬の装」
腰下から足先にかけて顕現する白の具足。脚力を強化し、敏捷値に+補正を追加する。
足裏にスパイク、脛にアンカージャッキが備えられ、それぞれ蹴撃力・ジャンプ力を引き上げる。
「猿の装」
肩から手先にかけて顕現する紅の手甲。腕力を強化し、筋力値に+補正を追加する。
肘部のノズルから圧縮した炎を排出することで前腕部の動きを加速し、剣戟・殴打・投擲の威力を引き上げる。
「雉の装」
胸腹部から背中にかけて顕現する翠の胴鎧。体力を強化し、耐久値に+補正を追加する。
ウイングを展開することで空中戦を行えるようになる。また、この翼は自由に稼働し全身を覆うシールドとしても機能する。
翼から羽根一枚一枚を鋭い刃として射出することができるが、さらに猿の装と組み合わせることで本領を発揮する。
「桃の装」
三種の装を同時に顕現させ、さらに桃色の兜を追加した甲冑を身に纏う。
古来より桃が持つとされる「邪気を祓い不老不死の力を与える霊薬」の特質が極限まで強化される。
あらゆる精神干渉を遮断、Aランクの魔力放出(炎)を獲得し、戦闘中の治癒速度が大きく上昇する。
『お腰につけたきび団子』
ランク:C 種別:対心宝具 レンジ:1 最大補足:1
桃太郎が三匹のお供に与え仲間にしたきび団子。
人語を介さない多種族のものであっても、このきび団子を与えることにより桃太郎に友好的な協力者とすることができる。
ただし自我があまりに強固な対象(健常な精神のマスター、サーヴァント全般)には通じない。
主な用途は動物や使い魔などが挙げられるが、重度の精神汚染を患う対象であればマスターやサーヴァントであっても短時間だが有効となる。
『日ノ本一の快男児』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
『日本一』『桃太郎』と荒々しい筆致で書き殴られた二本の旗。桃太郎が召喚された瞬間から自動的に発動する。
旗は武器として使うこともできるが、宝具の効果は旗を媒介としておらず、あくまでトリガーにすぎないため破壊されたとしても効果を解除することはできない。
『桃太郎』は日本で一番有名な童話と言っても過言ではない。
そのため、聖杯戦争の開催地が日本である場合、桃太郎は常に最大級の知名度補正を受ける。
高いステータス・スキルランクはこれに起因するものだが、同時に桃太郎は決して己の真名を隠蔽することができない。
敵対者に対しまず名乗りを上げるのもこの宝具の強制力によるもの。
【weapon】
日本刀、旗×2
【人物背景】
『昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃が流れてきました。
持ち帰った桃を切ってみると、なんと中から元気な赤ちゃんが飛び出てきました。
おじいさんとおばあさんは赤ちゃんを桃太郎と名づけ、大切に育てました。
やがて大きく成長した桃太郎はこう言いました。
「鬼ヶ島にいる悪い鬼を退治します」
おじいさんは立派な刀と鎧と桃太郎の名前を書いた旗を、おばあさんは心を込めて作ったきび団子を桃太郎に持たせました。
旅だった桃太郎の前に、イヌとサルとキジがやってきました。
「桃太郎さん、桃太郎さん。お腰につけたきび団子、一つわたしに下さいな」
「いいとも。その代わり鬼退治を手伝っておくれ」
こうして桃太郎は三匹のお供とともに鬼ヶ島へやってきました。
鬼たちは近くの村から集めてきた食べ物やお酒や宝物で大騒ぎ。
「それっ、一匹も逃がすな!」
桃太郎一行はばったばったと鬼を薙ぎ倒し、ついに全ての鬼を退治しました。
鬼が集めた財宝を手土産に、桃太郎たちはおじいさんとおばあさんの待つ家へ帰りました。
桃太郎が鬼をやっつけて無事に帰ってきたことに、二人はたいそう喜びました。
三人は財宝のおかげで幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』
【サーヴァントとしての願い】
善を為し悪を滅する。マスターの願いを叶える。
【マスター】 レオナルド・ウォッチ
【出典】 血界戦線
【能力】
『神々の義眼』
現世の理の外にある上位存在から(強制的に)授けられた義眼。
義眼ながら通常通りの視界を維持するのはもちろん、遠視・透視・他人の視線や視界を操作・幻を見破る・視界の中継・残留思念を視る、など、
およそ見る・視る・眼にまつわることなら何でもできると思われる。
ただしそれを処理するレオナルド本人はあくまで常人であるため、あまりに多量の情報を受容すると目の周りの肉が焼け爛れ、果ては脳が沸騰する。
【人物背景】
人界と異界が渾然一体と成り果てた都市「ヘルサレムズ・ロット」で暮らす新聞記者。
……というのは表向きの身分であり、その実は世界の均衡を護る秘密結社「ライブラ」の構成員。
命が紙切れよりも軽いヘルサレムズ・ロットにあって、日常的に死の危険と対面しながらも決して退くことなく街に留まり続ける。
その目的は、自身に神々の義眼を押し付けた上位存在の情報を集め、契約の対価を支払った妹の運命を救うことにある。
【マスターとしての願い】
上位存在との契約を破棄、以ってミシェーラの視力を回復する。
投下終了です。ありがとうございました
投下します
人通りの少ない路地で、男が一人歩いていた。
角のようなものが生えたデザインの、白い雲のような柔らかそうな帽子を被って、つま先立ちでひょこひょこ歩いているのが特徴的だ。
どこへ向かっているのか?
それは本人にも全く見当がついていなかった。
無感動に、生ける屍の様に動くだけ。
悲しみの雨に濡れたこともあったのかもしれない。
ギラギラと照る灼熱の日差しのような怒りを覚えたこともあったかもしれない。
しかし少なくとも今の男の心は、乾いていたし、凪いでいた。
何も分からず、情動が欠けていた。
男には記憶がなかった。
文字は分かる。言葉も分かる。
地図も読めるし、ボールペンの使い方も社会の一般常識もわかる。
それでも、どうやってそれを身に着けたのか、どんな思い出が自分を形成しているのかは分からない。
ぽっかりと抜き取られたように男には人生が欠けていた。
「ここは、どこなんだ?」
少なくとも全く馴染みのある風景ではない。
周りを見渡しながら直面している状況への疑問が真っ先に口からこぼれる。
連なるように疑問が胸中に次々と浮かんでくる。
自分はなぜここにいるのか。
そもそも、自分は何者なのか。
彼が自分に関してわかることは一つだけ。
「ウェザー・リポート」
呟くように名前を呼ぶ。
それは記憶をなくした男の仮初の名前だが、ウェザーと呼ばれるのはなぜだか気に入っている。
そしてもう一つ。
男の背後に呼び出されたかのようにヴィジョンが現れる。
雲で形成されたような人型で、ウェザーのかぶる帽子と同じようなデザインの頭部が特徴的だ。
この能力の名前も『ウェザー・リポート』。能力は天候を操ること。
その力で周囲の風の流れを感じ、動くものがないか調べる。
人がいればここがどこなのか、情報が得られると考えての行動だ。
暫く周囲を探り物が動く気配も、呼吸なども感じられず移動しようとすると
「問います」
背後から突如、あり得るはずのない女の声が響いた。
「ウェザー・リポート!!」
振り向きざまに能力を行使して風を叩きつける。
風圧のパンチ、竜巻に匹敵する威力のそれに、声の主は容易く対処して見せた。
右手に持った短刀で風を切り裂き、何事もなかったかのように涼し気な顔をしている。
影響と言えば深くスリットの入った着衣が風に舞い、肉感的な脚が一瞬露わになったくらいのもの。
一瞬とは言えないほどの時間それに視線を奪われてしまうウェザー。
一切の気配なく背後をとられたという状況を忘れてしまうほどに、その声の主は美しかった。
知性的な面立ちを飾り立てる眼鏡、月の光のような銀色の頭髪、地母神を思わせる褐色の肌、溶けるように甘い声、何より沸き立つその色香。
あらゆる要素が入り混じり、どんな言葉も絵画も陳腐に思わせる美がそこにあった。
「――いていますか、マスター?」
「……ん、な」
どれほどの時間、見惚れ、呆けていたか分からない。
警戒するべき相手に呼びかけられてようやくウェザーは正気を取り戻した。
「ええ、問題はありませんとも。私を前にした殿方が話を半分も理解してくださらないのはいつものことです。
改めて。アサシンのサーヴァント、聖杯を手にするために馳せ参じました。あなたが私のマスターですね?」
何も考えることなく、ただこの女のすべてを五感で感じているだけでいられたらどれほど幸福か。
男ならば誰もが覚えるその欲求に渾身の理性で抗い、言葉を発するウェザー。
彼にとって最も大きな欲求は自らの現状を知ることだった。
「…言ってることがわからない。聖杯とか、サーヴァントというのは何だ?」
いつもならば口を大きく開くことなく、相手に顔を寄せて放すのがウェザーの特徴だが、そうはしないで普通の会話を試みた。
不用意に近づくのを警戒したのもあり、女の美貌を間近に見るのを避けたのもある。
「まあ、聖杯戦争の場に招かれていながらご存じありませんの?」
「オレには過去の記憶がない。生活に不便はない程度の知識はあるが、人生の軌跡がオレの中に一切残っていない。
その失われた記憶の中に該当する知識があったのかもしれんな」
「それでは私の知る限りの知識をお伝えいたします。何かご質問があればまとめてお聞きしますので」
万能の願望器のこと。それを求める英霊、サーヴァントのこと。それを求めるための殺し合いのこと。
あらかた聞き終えたウェザーは胡乱気な顔をしていたが、身近に超常現象があるゆねか少しづつそれを受け入れていく。
「アンタもその、英霊ってやつなのか?」
「はい。貂蝉と申します。その名の方が通りがよいでしょう。一人の女としての私の名は華佗様の手で生まれ変わった時に捨てましたから」
告げられた名前に、ほんの少し残った記憶の海を探るもウェザーの脳裏に該当する知識はなかった。
「覚えがないな。エジソンとかワシントンとかなら知ってるんだが」
「建国の父や発明王と比べられては致し方ありませんね。マスターはご自身のお名前は記憶されていますか?」
「ウェザー・リポート」
「ウェザー・リポート……天気に関係するお名前でしょうか。なるほど、先ほどの風もそれで。
義弟君の配下の方にもそんなことができる方がいらした気がします、が」
じっ、とウェザーに視線が突き刺さる。
眼鏡越しのその風貌に湧き上がる衝動を抑えるのに苦心し、ウェザーは突き放すような言葉を放つ。
「なんだ?」
「星を見ていました。あなたの体にいずれ宿る星。あなたに並び立つ、黄金のように輝く強壮な星。
それがあなたの過去と未来を語ります。少しでも欠けた記憶の助けになればと思うのですが」
視線を細め、声を聞くように、物語を読むように貂蝉の集中が増していく。
「愛する人がいらしました…いえ、いらします。あなたが私を前にしてまっすぐ向き合えるのはその女性のことを真摯に愛しているからでしょう。ですが……」
言い淀む。
「その恋は許されるものではありません」
その言葉を放つ貂蝉は相手が怒りを覚えるのも想定していた。
しかし向き合うウェザーの反応は薄い。
「信じていただけませんか?星読みは立派な魔術、黄巾の党のような戯言と思われては心外なのですが」
「いや、まあ完全に信じたわけじゃあないが……興味はあるが、実感のない昔話などされてもな」
「本当に、名残すら残っていないのですね……」
聖杯戦争まで含めて過去の記憶がないのは少々面倒な状況だ。
まるで誰かに意図的に奪われたような……
「神秘は秘匿されるもの、と私に魔術を教えた先生はおっしゃっておられました。
聖杯戦争ほどの大規模な魔術がかかわる事象となれば、巻き込まれた者の記憶を改竄することもあるでしょう」
この聖杯戦争に記憶を奪った者がいるのではないか。
その言葉を聞いてウェザーの瞳に暗い光が宿る。
「オレもそのために記憶を奪われた、と?」
「はっきりとは申し上げられません。ですが否定もできません。
そして確かなことが一つ。聖杯を手にすれば、失くした記憶を取り戻すことも、運命が許さない愛を成就することもあなたの願うままです」
葛藤するウェザー。
空虚なままで終われないという渇望は、誰かに記憶を奪われたという可能性を聞き強くなる一方だ。
それを阻むのは人を害してはならないという良識、それだけだった。
だが思い出のないウェザーにとって、それはあくまで知識でしかなく。
誰かをなくした記憶もない、そもそも大切な誰かがいるという実感などまるでない彼にとっては些か頼りないブレーキだったようだ。
「…いいさ。ならオレもなくした過去を求めてお前と共に戦うことにしよう」
そう言って貂蝉に背を向け歩き始める。
足、拠点、敵。探すものはいくらでもある。速く動くに越したことはない、と。
その後姿を見て貂蝉は自らの生を想起する。
呂奉先の背中を見てきた。
戦場をかけるその雄姿から技を盗み、暗殺者として身に着けていった。
呂奉先の背中を支えてきた。
僅かな間であったが、妻として夫につき従い、その一助となっていた。
呂奉先の背中を押した。
主君であり、養父でもあった董太師を討つ最も大きなきっかけとなったのは間違いなく美女連環の計であろう。
呂奉先の背中を刺すはずだった。
世を乱す逆賊を討てと大恩ある養父王允に命じられ、そのための技術も学んでいた。
けれどもできなかった。
いつしか呂奉先の逞しい背中に惹かれていたから。
(申し訳ありません、王允様。私に奉先様を殺めることはできません)
それでも義のため、刃を向けることだけならばできたかもしれない。
だが、もし。
寝所で、一糸まとわぬ状態で、絶頂を迎えた直後の呂布を相手にしたとて。
迷いを覚えた貂蝉の腕前では殺しきれないだろうと確信していた。
自らの腕前を卑下するつもりはない。
風をも裂く匕首の一振りは並のサーヴァントの命なら容易く掻き切るだろう。
ただ人中の呂布の強さをこの誰よりも買っているだけ。
そしてもしもあと少しでも長く呂布の側にいたならば、その力を呂布のために使っていただろうとも確信している。
(最期の時、すでに華佗様の処置を受けた私の体は限界でした。
ですが、半人半機の奉先様を支え、軍神五兵を作り出した公台殿なら私の命を繋ぐこともできたかもしれません。
もしそうなっていたなら、私は奉先様のためにこの匕首を振るい、劉備殿や曹操殿、あるいは漢の帝すら殺めていたかもしれません)
それを防ぐために貂蝉は自ら命を絶ち、忠義の女としてその生に幕を下ろしたのだ。
(王允様。私はあなたに受けた恩義に報いるために、逆賊董卓を討つ策を成し、そして逆臣呂布のもとで稀代の暗殺者が生まれることを防ぎました。
義士貂蝉の生は終わり、これよりは一人の女として歩ませていただきます)
すでにその第一歩は踏み出した……否、踏み出させた。
マスターである男の背中を押し、戦場へと身を投じさせた。
(『姦計・美女連環(そのび、あらがいがたし)』。マスターの思考を操り、戦いへの躊躇を払いました。
私たちが聖杯を手にするために、そして何よりあなたの人生を取り戻すために全力を尽くしていただきましょう)
美女の囁きにより、男の意思は闘争へと傾いた。
彼らはひたすらに聖杯を目指して戦うだろう。
【クラス】アサシン
【真名】貂蝉
【出展】三国志演義
【性別】女
【属性】混沌・中庸
【パラメーター】
筋力C 耐久EX(通常はDに相当) 敏捷C 魔力A 幸運A 宝具B
【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を絶つ。
王允による教育と、取り込んだ英霊の肝、間近で見てきた裏切りの将の影響により多少は暗殺者としての適性を持つ。
後述の宝具発動中のみ効果を発揮する。
【保有スキル】
自己改造:EX
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。
稀代の名医にして魔術師、華佗の手によって身体能力の向上や整形を施され、さらに西施の美貌と荊軻の肝……中華の歴史上でも指折りの美女と侠客の亡骸の一部を移植された。一説には美女二人の一部を移植したのだとも伝わる。
それによって彼女の起源や属性は歪み、同時に史上稀にみる胆力と容姿を兼ね備えた女傑となった。
通常このスキルのランクが上がればあがる程に正純の英雄から遠ざかっていくのだが、彼女の英雄としての在り方にはこのスキルが欠かせないものであるため霊格の低下には繋がらない。
彼女にとってこのスキルはむしろ黄金律(体)や天性の肉体に近いそれかもしれない。
諜報:A++
このスキルは気配を遮断するのではなく、気配そのものを敵対者だと感じさせない。
A++ともなれば味方陣営からの告発がない限り、敵対していることに気付くのは不可能である。
ただし直接的な攻撃に出た瞬間、このスキルは効果を失う。
フェロモン:A++
フェロモンとは動物の体内から分泌・放出され、同種の他個体の行動や生理状態に影響を与える物質の総称のこと。
貂蝉のそれは正に傾国の美女という他ない、理性で抗いがたい本能的な欲望を掻き立てる。同性だろうが性差を超える。
ここまでいくと誘惑ではなく魔術、呪いの類である。
対魔力で抵抗可能だが判定次第。
オンオフは利かないが、強弱のコントロールは可能であり、平時は周囲への影響を抑えている。
二人の反英雄を魅了するためだけに生み出された、三角関係からの破滅を狙う傾国。
二人の英雄の力をその身に取り込んだ、三人で一つの英雄。
偶然にも生まれた三位一体の美は「 」にも届き得る魔性と化した。
傾国の智慧:A+
王允や華佗に学んだ、美女連環をなすための知識。
閨での技能はもちろんのこと、時に呂布につき従うための魔術知識も持つ。
星を読み未来や過去を占う、琴や笛を奏でることで敵の攻撃の命中率を下げる、詩を謡うことにより味方の傷を癒す、舞踊によって幻覚を見せるなどを可能とする。
最も得意とするのは星読みである。
なお楽器の演奏、詩吟、舞踊、叡知の全てが貂蝉の美しさを引き立てるものであり、ただ披露するだけでもスキル:フェロモンに大幅なプラス補正を発生させる。
ちなみに彼女が最初に学んだ技能は暗殺術であった。
董卓と呂布、そのいずれが残っても世は乱れると予期した王允は残ったいずれかを貂蝉に暗殺させる手筈だったのだが、彼女は手にした匕首を呂布ではなく自らの胸に突き立てた。
【宝具】
『姦計・美女連環(そのび、あらがいがたし)』
ランク:D 種別:対国宝具 レンジ:0〜99 最大捕捉:上限なし
董卓と呂布に対して仕掛けた計略・逸話の再現。陽の眼を持つ女の対となるような閉月美人。
詩吟、舞踊、弦楽、会話や邂逅……何らかのきっかけで彼女のとりこになった者の思考を操る。
意志の弱い者、対魔力を持たないマスターや一般人は完全に操ることもできる。
強い意志を持つものは自在に操り人形とすることはできないが、その思想に反逆の意思を植え付け、判定によってはスキル:狂化や反骨の相を獲得させ、敵味方も主従も入り乱れた戦乱へと導く。
まさしく傾国の美女、聖杯を巡っての戦争を貂蝉という一人の女を奪い合う闘争にまで貶めるのだ。
スキル:諜報とフェロモンの究極、知性と情欲あるものには抗うことのできない衝動を引き起こす『この世、全ての欲』にいずれ辿り着きかねない魔性の宝具。
『再臨・不還匕首(ただ、あやめるのみ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1人
古代中国の名刀、姉妹剣の片割れ干将の矛先三寸を元に造られた匕首である。
かつて荊軻が始皇帝暗殺の場において用いたものであり、そして貂蝉が自害に用いたもの。
真名解放により貂蝉は自分を殺す……ただ目的のために動く戦闘機械となる。
発動中はCランク相当の気配遮断スキルを獲得し、敏捷が1ランク向上、さらに精神干渉の一切を無効化する。
取り込んだ荊軻の肝の影響と、呂布の戦場での活躍を見て学んだ知識があり、その戦闘能力はアサシンとしては一流の域に達する。
【weapon】
・魔眼殺し
視線一つで男を惑わす貂蝉は魔眼殺しの眼鏡を身に着けることで無差別の魅了を避けた。
ターゲットである董卓と呂布以外の男が関わるのを少しでも避けようとした苦肉の策。
装備中はスキル:フェロモンのランクが1ランク低下する。
しかしそれでもなお貂蝉の美貌は兵士、宦官を問わず多くの男を惑わし、むしろ眼鏡をつけている方がいいという男もいたとか……?
なお通常の眼鏡としての機能もあり、低下した視力を補っている。
【人物背景】
後漢時代末期の政治家王允の養女であり、飛将軍と謳われた猛将呂布の妻。
その正体は董卓、呂布の二人の仲を裂くために産み出された存在…ある種のキョンシーやホムンクルスに近い人造人間である。
王允の侍女の一人が名乗りを上げ、華佗が術式を振るい、西施と荊軻の亡骸を利用して産み出した。
シルクロードを渡ってきた欧州系の少女がベースとなったために中華ではまず見ない褐色の肌に銀色の頭髪の妖しい美貌を持つ。
董卓に取り入るために女としての教養も厳しく教え込まれ、美女連環の計は実行された。
しかし当然無理な改造の対価は大きかった。
視力は低下し、感情の機微は薄れ、寿命は大きく縮み。
呂布が董卓の暗殺に成功したその夜に彼女の機能は限界が近づいていた。
残された主人からの命は一つ、世を乱すであろう呂布の命を隙をついて奪うこと。僅かな時でもそれをなすには十分な猶予だった。
呂布は貂蝉には心を許している。
近くで呂布の戦いを見て学び、一流の暗殺者となった。
重ねられた改造により感情の薄れた貂蝉ならば恐れも戸惑いもないはず。
……戦場から帰還した呂布が寝室を訪れると、自らの胸に匕首を突き立てた貂蝉の亡骸があった。
育ての親への恩義と、芽生え始めた淡い恋心。
胸に宿ったその二つのどちらをとることもできず、諸共に殺めることを彼女は選んだ。
その最期は、逆臣呂布の愛妾にして彼と並び立つであろう暗殺者を仕留めた忠義の士であり、同時に夫の暗殺を企てた不埒者を命を懸けて排除した良妻の姿であった。
【特徴】
褐色色の肌に銀色の頭髪、魔眼殺しの眼鏡をした眼鏡っ娘。
重ねた改造によりアサシンにしては比較的高めのステータスだが、見た目はたおやかな乙女そのものである。
ラニ=Ⅷが成長して殺生院キアラばりの色気を醸すイメージ。
ちないに耐久のEXというのは閨でのみの判定で、猛将呂布の全力も受け止め、さらに乗りこなすほどの女であるということ。
華やかな装いの漢服が基本だが、男に気に入られることが最大の武器であるためその場と人のニーズに合った現代風の服を着ることもする。
露出だって厭わないし、必要ならぱんつ 履かせ ない。
なお荊軻にあやかってか動きやすさを重視してかミニだったりスリットが入っていたりと脚を出した服装を好む。
【サーヴァントの願い】
呂布と再会し、戦乱とも陰謀とも無縁な平和で幸せな家庭を末永く築く。
【マスター】
ウェザー・リポート@ジョジョの奇妙な冒険
【マスターとしての願い】
失くした人生を取り戻す。
【weapon】
能力に依存。
【能力・技能】
いわゆる超能力者、スタンド使い。近距離パワー型のスタンド、ウェザーリポートを有する。
スタンドとしてのステータスは破壊力 A スピード B 射程距離 C 持続力 A 精密動作性 E 成長性 A
スタンドのエネルギーを魔力の代替とする。持続力は高いので優秀なマスターとなる。
能力は天候を自在に操ること。
自分の周囲に雲を発生させて雨や雷を起こす、天候そのものを操って大雨を降らせる、 竜巻を起こしてヤドクガエルを降らせるなど多岐にわたる。
気象現象であるならば風速時速280kmのハリケーンを巻き起こすなどの規格外の事象もなし得るかもしれない。
単純な気象現象にとどまらず、空気の層を雲のようにまとって宇宙服としたり、空気の濃度を変化させて生物を殺害するなど幅広く応用も利く。
記憶とともに封じられているが、ヘビー・ウェザーという秘められた能力がある。
オゾン層の密度を操作し、太陽光線の屈折率を変化させ、天然のサブリミナル効果を持つ悪魔の虹を作り出す。
その光に触れた者は自分が「カタツムリ」になると思い込むようになり、実際に身体が段々とカタツムリ化していく 。
カタツムリになっていくと動きが遅くなり、また身体が異常なほどに柔らかくなり身体機能が著しく低下する。
塩を浴びれば溶け、またマイマイカブリなどは天敵になる。
カタツムリ化した者に触れた者もカタツムリになるため、伝染病が広がるように被害も広がっていく。
ウェザーにも制御はできず、止めるには彼を殺すしかない。
だがあくまで潜在意識を刺激し、思い込みによって形を変える能力。
極東の伝承にある少女のような、竜に転じてしまうほどのより強い思い込みを持つものなら全く効かないかもしれない。
【人物背景】
本名はドメニコ・プッチ。
ローマ法王を出したほどのヴェネチアの名門の血を引くプッチ家に双子の次男として産まれる。
産まれたその日にある事件が起きていた。
同じ産院に入院していた赤子が一人死亡し、その母親は我が子の死を受け入れることができず、死体とドメニコを入れ替える。
それにより記録上ドメニコ・プッチは死亡し、彼はウェス・ブルーマリンとして生きていくことになる。
16年、心身ともに逞しく健やかに育ったウェスは一人の少女と恋に落ちる。
少女の名はぺルラ・プッチ。生き別れた実の妹であった。
当然二人はそのことを知るはずもないが、一人だけ知っている人物がいた。
エンリコ・プッチ、ぺルラとドメニコの実の兄だ。
エンリコは神学校に通う神父の卵であり、偶然にも赤子をすり替えた母親の告解を聞いてしまっていた。
血の繋がる弟妹が恋愛関係にあることは倫理として、なにより信じる神の道の上で許されることではない。
しかし信徒の告解を漏らすこともできず、どうやって円満に解決するか悩んだエンリコは私立探偵を雇い、二人を別れさせようとする。
エンリコの知らなかったことが二つあった。
その私立探偵は過激な黒人差別主義者であったこと、ウェス・ブルーマリンの育ての父親……書類上は血のつながった実の父親が黒人であったこと。
探偵はウェスに瀕死の重傷を負わせ、育ての親の家に火までつけ、さらにはこの依頼がペルラの兄からのものであることを告げる。
共にいたぺルラも暴行を受け、さらにウェスは殺されたと思った彼女は湖に身を投げ自殺。
その後ウェスは息を吹き返すも、強い怒りと絶望に囚われる。
自らも命を絶とうとするが、ぺルラの死を引き金に様々な因果が重なって目覚めた能力ウェザー・リポートの暴走により全てに失敗する。
さらに強い絶望に囚われ、怒りの能力ヘビー・ウェザーによってエンリコの雇った探偵やその協力者を町中を巻き込んで殺害していく。
カタツムリと死体の山を築き、ついにエンリコと再会。
ぺルラの敵をとろうとするが、エンリコに自分たちもまた血のつながりのある兄弟だと告げられ動揺し、その隙をつかれて敗北を喫する。
エンリコもまた能力に目覚めており、その力で記憶の殆どを抜き取られることになった。
恋人を奪われた怒りと絶望も忘れたことでヘビー・ウェザーは封印された。
以後彼は過去のない男、ウェザー・リポートとして生きていくことになる。
そしてエンリコ・プッチと因縁ある仲間たちと出会い、再び兄との数奇な戦いに挑むことになるが、このウェザーはそれ以前の時期からの参戦である。
エンポリオや徐倫といった仲間との出会いは未だなく、思い出のない世界に対する思い入れは極めて薄い……僅かな誘導で聖杯を求める殺し合いに身を投じてしまうほどに。
投下終了です。
皆様投下乙です
投下します
私達は此処に居る。
此処には夢がある。
死に包囲された世界で。
たった一つ遺された、日常がある。
私達は此処で懸命に生き続けた。
私は来た。
生きたいと思ったから。
例え過ぎ去った時間を振り払おうとも。
それでも、いつまでも笑い合える明日が欲しいから。
死の世界ではなく、希望に満ちた世界で生きたいから。
だから私は―――――――――此処に来た。
◆
◆
町外れ――――――夕焼けに照らされた森林地帯。
地方都市である冬木市において、この森は手付かずのまま放置された地域だ。
鬱蒼と木々や植物が茂り、開発も行き届かぬまま置き去りとなっている。
此処に足を踏み入れるのは、夜中度胸試しに訪れた無謀な若者か。
あるいは、遊びに興じる子供達くらいのものである。
彼等も森の奥底へと進むことは無い。
その奥に何があるのかも知らない。
未知の領域への本能的な恐怖が『奥へ行く』という行動を押し止めているのかもしれない。
開発が進むこともなく、市民が足を踏み込むこともない。
森の奥底は誰も触れることのない領域――――――――であるはずだった。
しかし、今は違った。
それは突如として出現した。
其処に広がっていたのは、異様な光景。
森の奥底に不自然に作り出された、巨大な谷。
石碑のような幾つものモニュメントが建つ奇怪な空間。
そしてその谷の壁に張り付くような無数の岩が形成されていた。
岩の殆どには穴が存在し、そこは岩窟への入り口となっている。
それは宛ら、古代の王族が作り上げた墓群。
栄誉ある者達を弔い、その肉体を保護する為の墓地。
「死は魂の旅路の始まりであり、人は生死の輪廻を辿らねばならぬ」
谷底の中央に立つは、杖を携えた一人の男。
掲げられた男の左腕に『人の顔』を持った一羽の鳥が降り立つ。
鳥は男をじっと見つめた後に頭を垂れ、再び羽ばたいて近くの石盤の上に止まる。
そして男の周囲を守るように立つのは、呻き声を上げる死人の軍勢。
彼等は皆干涸びた肉体を持ち、多くの者がその身を保護する包帯を巻いている。
それでいてまるで生者の如く剣や槍を握っており、彼等が戦士であることを証明していた。
「死の果てに魂は冥府の世界へと往き、正しき者は来世において『再生』が行われる」
男は憂う様に語り続ける。
この世の理を誰かに教授するかのように、言葉を紡ぐ。
朝と共に日が昇り、夕暮れと共に日が沈むように。
人は生まれ、そして死と共に魂が肉体を離れ、冥府での裁定を経て再びこの世に生まれ落ちる。
罪を裁かれぬ限り魂は不滅であり、果てしない時の中で誕生と死が繰り返される。
それこそが世界の道理であり、現世を形作る転生の円環である。
「然れど英霊は違う。
時間、因果、輪廻……彼等は全ての理から外れ、不変の現象へと変貌したもの」
杖を握り締める手を僅かに強め、男は語り続ける。
魂の本質を永劫の檻へと閉じ込める。
それが英霊の在り方だ。
罪人として裁かれることもなければ、正しき者として転生することもなく。
彼等は世界の法則から外れ、一つの保存された存在として『座』に『在り続ける』。
それは異端の教義である。在るべき理に対する冒涜である。
あろうことか己自身もその異端の原理に嵌められているのだ。
それは決して赦せぬ暴挙。
英霊であっても輪廻転生の理に従い、冥界にて罪の裁定を行うべきだ。
男は静かな憤りを胸に秘め、そう思考する。
「英霊、聖杯……其れは即ち冥府の理に反するもの。我は其れを見過ごさぬ。
此れは死と転生の輪廻に対する冒涜。神々の秩序に対する叛逆である」
「……その為にあんたも『死人』を使うのかよ」
毒づくような言葉が横から飛んできた。
男は無言で声の主の方へと視線を向ける。
声の主―――――男の主人である少女は、死人の集団から少し離れた地点の岩場に座り込んでいた。
その右腕には使い古したスコップが抱えられており、夕焼けの光が反射して鈍い輝きを見せている。
少女は揃えられたツインテールの髪を僅かに揺らし、少しだけ男の方を見た。
少女の名は恵飛須沢 胡桃。
聖杯戦争に呼び寄せられ、奇跡に縋ることを選んだ参加者の一人。
希望に満ちた世界を掴む為に戦う道を選んだ少女。
そして、死人を統べる男――――キャスターの主人(マスター)である。
「我が宝具は死者の召使共を召還する。
木乃伊(ミイラ)造りの神としての伝説が我に此の力を与えたのだろう。
だが案ずるな、彼らは死人を模倣した精気(カー)無き傀儡共。
輪廻の輪より外れている只の人形に過ぎぬ……余り気分の良いものではないがな」
変わらぬ態度で語るキャスターを胡桃は複雑な表情で流し見る。
都合の良い神様だな、と内心思ったのを隠しつつ。
彼女はキャスターの周囲を取り巻く死人の使い魔達をちらりと眺めた。
焦点の合わぬ瞳で、死人達はあちこちを見渡している。
知性を感じられぬ掠れた呻き声を幾度と無く発する。
痩せ細った身体からは黴のような匂いが漂っている。
そんな彼等の姿をどこか哀み、そして嫌悪感を抱く。
所詮紛い物に過ぎないのに、物悲しい。
その様は『あいつら』のようだと思う。
人としての感情を失い、理性を失い、人を襲うだけの怪物に成り果てたもの。
リビングデッド。グール。或は、ゾンビ。
そういった類いの者達。
彼等も、生きている間は『人間』だったのに。
噛み付かれて、その身を蝕まれれば、あっと言う間に『あいつら』になる。
それが、どうしようもなく不気味だった。
見知った者でさえ、一度噛まれればああなる。
かつて自分が手にかけた想い人も、そうだった。
彼はあの瞬間、彼ではなくなっていたのだから。
胡桃の中の記憶が鮮やかに、残酷に蘇る。
胡桃は懸命に生きていた。
生き残った数名の仲間達と共に、『学園生活部』を結成し。
学校の中でそれなりに楽しく過ごしてきた。
極限の状況で時には危機に見舞われ、時には反発し合うこともあったけれど。
それでも彼女にとって、絶望的な世界で築き上げた唯一の日常だった。
でも、あのままじゃダメだということは理解している。
自分達だけではあの地獄は止められないということも、薄々感付いている。
だから取り戻したいと思った。
何も無い日常を。
『あいつら』なんていない、平和な世界を。
そこで改めて、また学園生活部の仲間と友達になりたい。
そう誓ったのだ。
胡桃の願いは、死人に支配された世界を取り戻すこと。
その為に彼女は戦う道を選んだ。
汚れ役は自分の役目であると言い聞かせて。
そして彼女は、死人を司る『神』をサーヴァントとして召還した。
彼が自身の相棒であることは理解している。
だが、心は複雑だった。皮肉なものだった。
死人の世界で置き去りにされ、死人と幾度と無く戦い続けてきた自分の従者に、死人の主が宛てがわれたのだから。
だから胡桃は、キャスター達に仄かな抵抗と嫌悪を抱く。
「不服そうな面をしておるな」
「別に。でも、確かにあんたみたいなのが来たのは嬉しくないな」
「そうか……だが、それでも我は其方を護り続けることを誓おう。
我は冥府の神であり、死人を司ることが役目なのだから」
―――――胡桃の胸に、男の言葉が引っ掛かった。
何言ってんだ、と口に出しそうになった。
だが、寸前で言葉は喉に引っ掛かった。
彼女はハッとした様子でキャスターの方へと顔を向けた。
死人の軍勢が道を開けると同時に、キャスターはゆっくりと歩き出す。
かつ、かつ、と土に汚れた岩場を進み続け。
そのまま彼は、胡桃の正面へと立った。
「おい、それって―――――――」
「其方の肉体は、『死人』の様だ」
キャスターが、『獣の面』を被った神が、胡桃を見た。
その左手が胡桃の腕を掴んだ。
それと同時に数多の死人も、仲間を見るかのように胡桃を『視た』。
周囲のモニュメントの上に止まる複数の『人面鳥』もまた、胡桃を『視た』。
胡桃は――――――――無言で目を見開いた。
言葉を失い、その背筋に奇妙な悪寒が走った。
悪態を付きながらも落ち着いていた胡桃の表情が僅かに、しかし初めて歪んだ。
目の前の神の言葉に憶えがあった。
『死人の様だ』という言い回しが、何を意味しているのかを理解した。
胡桃は、キャスターに握られた自らの右腕へと意識を向ける。
其処に熱は無い。
まるで血の気を失った死者のように、冷たい。
何故こうなったのか。
何となく、感付いてはいた。
胡桃は一度、生死の境を彷徨ったことがある。
佐倉慈の成れの果てに噛み付かれ、ゾンビに成りかけたことがある。
その時は寸での所で仲間が薬を持ち込んだことで一命を取り留めた。
それでゾンビにならずに済んだと、彼女は思っていた。
だが―――――――その後、どうなった?
仲間から「手が冷たい」と言われた。
水の中に飛び込んでも、身体が冷えることもなくなった。
走る時やシャベルを振る時も、妙に調子が良くなっていた。
そして何より。
ゾンビは、彼女に興味を示さなくなった。
胡桃の身体は、知らず知らずのうちに異変に侵されていた。
此処は、死に包囲されている。
そして、彼女自身もまた―――――――死に蝕まれている。
◆
◆
古代エジプトには、死者を葬る役目を担う者が存在した。
彼らは『冥府の神の仮面』を被る聖職者だった。
彼らの職務は、冥府の神が担う役目の代行であった。
貴族、王族―――――力在る者の遺体に防腐の術を掛け、ミイラにする。
そして肉体が死した魂に呪文を贈り、来世に転生すべく冥府へと送る。
彼らはストゥムと呼ばれた。
ある者は神を敬う神官であり、ある者はミイラ作りを専門とする職人であった。
ストゥムは死者を弔い、あの世へと送る為にも欠かすことの出来ぬ存在だった。
死者の守人。冥府への運び人。その呼び名は数多。
弔いの儀式に精通する彼らは、王族によって重宝された。
ストゥムの中に、特に優れた力を持つとされる神官が居た。
彼は人体の防腐に大いに長けていた。
死者の肉体に対する深い知識を備えていた。
神への信仰も人一番厚かった。
そして、誰よりも謙虚で思慮深かった。
彼は他のストゥム達からも一目を置かれ、王からは神童と称されていた。
彼はそれを鼻に掛けることもなく、ひた向きに己の職務を遂行し続けた。
ただ只管に神への信仰を捧げ続けた。
その姿は、多くの者に敬意を表された。
やがて彼は、周囲からこう呼ばれるようになる。
『冥府の神の生き写し』、と。
神を信仰していた男は、周囲の者達の信仰によって神の化身と称された。
彼はあくまで一神官として生涯を終え、歴史に名を残すことはなかった。
優秀な、しかし名も解らぬ神官として、時の流れと共にその存在は風化した。
英雄としても、人間としても、その名を史実に残さなかった彼を知る者は最早この世には居ない。
だが、彼の魂は『彼の者の殻』を被るのに最も相応しい者として聖杯に選定された。
敬虔な信者であり、死の守人としての優れた能力を持ち、そして誰よりも『神』に近い。
だから彼は選ばれたのだ、サーヴァントとして。
力あれど歴史に名を残さなかった無銘の霊であるが故に、彼は『英霊』を演じることが出来る。
其の真名はアヌビス。
死人を司る冥界の神。死者の罪の裁定者。
その正体は、神の殻を被ることで英霊として召還された―――――――忘却されし神官である。
【クラス】
キャスター
【真名】
アヌビス
(※正確にはアヌビスという神の殻を被った古代エジプトの神官)
【出典】
エジプト神話
【性別】
男
【属性】
中立・善
【身長・体重】
180cm・71kg
【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷B 魔力A 幸運B 宝具A+
【クラススキル】
陣地作成:B
自らの陣地『墓場』を作り出す。
現在キャスターは町外れの森の奥底に岩窟墓を形成している。
道具作成:-
道具を作り出す逸話を持たない為、このスキルは失われている。
【保有スキル】
自己暗示:A++
神への厚い信仰心を持つ者が『神の殻』を被ったことで精神に変調を来たしている。
『自身は冥界の神アヌビスである』という魔術的な自己暗示に掛かり、自身がアヌビスであると完全に錯覚している。
その暗示はある種狂気の域に達しており、自らの正体を暴く精神干渉を全て無効化する。
自己暗示に加えてアヌビスの殻を被ったことにより、精神・能力共に本物のアヌビスに限りなく近い存在となっている。
神性:B-
冥界の神であるアヌビスは本来ならば最高ランクの神性を持つ。
しかし此度の聖杯戦争に召喚されたのは『アヌビスの殻を被った人間の霊』に過ぎず、ランクが低下している。
それでもBランク相当の神性を持つのは、神の殻を被ったことと自己暗示で心身共に限りなくアヌビスに近づいているため。
防腐の秘術:A
死体に防腐処置を施すことでミイラを作ることが出来る。
アヌビスはミイラ作りに長け、実父オシリスの遺体も自らの手でミイラ化した。
また人体の処置に長けたことから医術にも精通している。
死の守人:A
死者を守護し、魂を先導した神としての逸話の具現。
会場内の死者の魂を自身の陣地にまで引き寄せることが可能。
また死者の魂から記憶を読み取ることで生前に体験した情報を得られる。
キャスターの影響下に置かれた魂は『人面の鷲』へと姿を変える。
【宝具】
『彼の者は屍守の冥王(ンブ・ター・ドジス)』
ランク:A+ 種別:冥界宝具 レンジ:- 最大補足:-
死者を守護する冥界の神としての力と在り方が宝具化したもの。
陣地である『墓場』を擬似的に冥界と接続する宝具。
冥界と接続した陣地は『冥界の神が守護する聖地』としての属性が付加され、
陣地内に存在する死者の魂の数だけキャスターの魔力値にボーナス補正が掛かる。
更に後述の宝具『冥王の審判は下されり』は冥界に接続された陣地内でのみ発動が可能。
『木乃伊の創者(イミアット)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-
陣地である『墓場』を起点に、ミイラの姿をした使い魔を自在に生成する宝具。
ミイラの使い魔達はキャスターの意思によって使役が可能であり、ある程度なら武器を扱うことも出来る。
『ミイラの創造主』としての概念と後世における怪物としてのミイラのイメージが膨張されたことによって獲得した宝具であり、
この能力によって生成される使い魔達は本物のミイラ(=死者)ではない。
しかし擬似的な死者としての属性は持つ為、キャスターが支配する陣地(墓場)内では能力が強化される。
『冥底の審判は下されり(ペレト・エム・ヘルゥ)』
ランク:A 種別:対罪宝具 レンジ:陣地内 最大補足:1
死者の罪を量る為に用いていた『神の天秤』。
冥界における裁定の道具である為、前述の宝具『彼の物は屍守の冥王』によって冥界と接続している陣地内でのみ発動が認可される。
天秤の皿に対象の心臓のコピーを出現させ、罪の重さを量る宝具。
対象が罪人と判断された場合、魂食らいの獣の呪いによって心臓(霊核)が内側から『食い破られる』。
罪を持たぬ清廉潔白な者に対しては効果を発揮しない。
本来ならば死者の裁定に用いるだけの道具を聖杯戦争という枠組みの中で強引に宝具化している為、
発動には多くの魔力と一定のチャージタイムが必要となる。
【武器】
『ウアス』
古代エジプトにおける支配と力の象徴とされる杖。
【人物背景】
エジプト神話に登場する冥界の神。
人型でありながらジャッカルの頭部を持ち、死者の守護やミイラ作りを司る。
砂漠の神セトの妻であるネフティスが兄のオシリスと不倫をして生まれた不肖の子であり、
誕生後はセトから守るために葦の茂みに隠されたという。
その後オシリスがセトに殺害された際、彼の遺体に防腐処置を施してミイラを作った。
このことからアヌビスはミイラ作りの監督官となり、古代エジプトの職人達から信仰を受けた。
ミイラ作りのみならず、死者を冥界へと送る役目やラーの天秤によって死者の罪を審判する役目も担ったという。
しかし、此度の聖杯戦争に召喚されたのはアヌビスという神霊そのものではない。
その正体はアヌビスの仮面を被ってミイラ製造に関わっていたとされるストゥム(神官)の一人であり、
アヌビスへの強い信仰心と神官としての優れた能力から『アヌビスの殻』を被るのに最も相応しい者として召喚された。
殻を被ったことで精神にも影響が及び、自身がアヌビスであると完全に錯覚している。
そして厚い信仰を持っているが故に異端である聖杯の理論を許容できず、彼等の法則の破壊を望んでいる。
【特徴】
黒いジャッカルの仮面を被った古代エジプト風の装いをした男。
上半身は裸であり、首や腕などに金の装飾を身に付けている。
アヌビスという神に成り切っている彼は仮面を『自身の顔』と錯覚している。
【サーヴァントとしての願い】
英霊を生み出す世界の法則を破壊し、全ての死者に輪廻転生の理を与える。
【マスター】
恵飛須沢 胡桃(えびすざわ くるみ)@がっこうぐらし!
【武器】
シャベル
【能力】
元陸上部であり基礎的な運動能力は高い。
一度ゾンビ化しかけながらも薬品によって一命を取り留めた影響か、
体温が不自然に低い、ゾンビに襲われない、肉体強度・身体能力が異様に向上している等の副作用が発生している。
【人物背景】
巡ヶ丘学院高校3年生の少女。通称「くるみ」。
ゾンビで溢れ返った絶望的な世界で由紀達と共に『学園生活部』の部員として学校で生活をしている。
想いを寄せていた陸上部の先輩がゾンビ化し、自らの手で殺害した過去を持つ。
以来殺害の際に用いたシャベルを武器として愛用し、かつての先輩の形見のように常に持ち歩く。
ある件で一度ゾンビになりかけたが、美紀が持ち出した薬を投与されることで一命を取り留めた。
しかしそれ以来、彼女の身体に奇怪な後遺症が見られるようになっている。
【マスターとしての願い】
ゾンビによって奪われた平和な世界を取り戻す。
投下終了です
投下させていただきます
――――何がどうなって、こんなことになってしまったのか。
アイドルであっても、非力な一般市民である城ヶ崎美嘉は、困惑することしか出来なかった。
◆
「浦ちゃん一気でいっちゃいま〜す!」
「太郎様ッパネエっす!マジリスペクトっす!」
カラオケボックスの一室。
そこに居るのは二人の男女と、一匹の人形のようなデフォルメ調の動いて人語をしゃべる亀。
男は冬場だというのにアロハシャツ一枚を羽織、陸だというのに海パンを履いた丘サーファースタイル。
髪は茶色に脱色し、肌は健康的に日焼けをしている。
筋肉隆々というほどではないが、ちらりと見える腹筋からたるんだ肉体ではないことを感じさせる。
しかし、顔つきはその肉体とは対照的に緩みの極みというもの。
タレ目気味の顔とニヤついた表情、ほんのりと刺した赤みは酒酔いを十分に感じさせる。
『威厳』という言葉から最も遠い、いわゆるチャラ男だった。
肩にデフォルメ調の亀を乗せ、大ジョッキに仕込んだ謎のアルコール飲料を大きく掲げているではないか。
「ヘイ、パーリラ!パリラパーリラ!」
「パーリラ!パリラパーリラ!」
「ミキャちゃんも、ヘイ!セイ!」
「パ、パーリラ……パリラパーリラ……」
「パーリラ!パリラパーリラ!」
カラオケボックスだというのに、アロハシャツに海パンを履いた茶髪のチャラ男とひたすら太鼓持ちをする人形のような亀。
その一人と一匹に挟まれるのは、カリスマギャルとして名高い城ヶ崎美嘉その人だ。
桃色がかった鮮やかな髪は若干の生気を失い、強気なツリ目を疲労に滲ませている。
張りに満ちたはずの若々しい肌は、しかし、今は疲れからか若干のたるみを連想させる。
服装はその派手目な顔立ちとは対照的に、露出も少なければ装飾も少ない地味なもの。
美嘉は異様なまでのテンションを維持する一人と一匹を前にして完全に意気消沈の様相だ。
というのも仕方ないだろう。
元々、美嘉はあるストーカーから殺される直前だった。
この稼業、アイドル業をやっていればファンは大切なモノだ。
大切なモノだが、その大切なモノの中にも変なものや危険なものが混じり込んでいる。
そのストーカーは、それだった。
刃物を持って、美嘉へと襲いかかった。
単なる女子高生である美嘉に防ぐすべはない。
美嘉の生命はそこで終わり、死体すらも変質者であるストーカーに弄ばれるのだ。
その時脳裏によぎった男の顔。
自らを支え続けてくれた男。
救ってくれ、と、その男に願った。
しかし、答えたのは別の男と、一匹の『亀』だった。
その男こそが、ある巨大な亀にまたがったライダーのクラスのサーヴァントだった。
亀の突進により、ストーカーを撃退してみせた。
地獄が開けてもまた地獄。
城ヶ崎美嘉は、聖杯戦争へと巻き込まれた。
過去に偉業を成し遂げた英霊を呼び、この世ならざる奇跡を求める。
それに巻き込まれたのだ。
奇跡を得るために、人はなんでもするだろう。
その恐ろしさを、目の前の『亀』は懇切丁寧に教えこんでくれた。
不安が大きくなる。
何が起こっているのか理解できない。
そんな思いを隠しきれなかった美嘉に、自身を救ったライダークラスのサーヴァントは一つの提案をした。
『ってか?せっかく?受肉?したわけだし?
あーそぼーぜー!!!!』
との言葉を残し、カラオケへと突入した。
このカラオケ最初は良かった。
最初は乗り気ではなかった美嘉も、四時間ほど経てば、この二人のテンションに釣られて楽しみを覚えていた。
しかし、それも日付が変わる頃には疲れを覚え、今となってはひたすら『寝たい』という感情に支配されていた。
なにせこのカラオケ、すでに何店舗も梯子し、二日目へと突入しているのだ。
太陽が沈む直前から始まり、太陽が中天に輝く今現在までひたすら一人と一匹がはしゃいでいた。
異様だ、この一人と一匹は。
異様なまでの体力と気力。
普通はここまで騒げない。
しかし、この一人と一匹は普通ではない。
そうだ、城ヶ崎美嘉は侮っていたのだ。
ただ、『人の家に招かれて飲み食いした』という、それだけで英霊となった男の、異常なまでの図太さを。
この男は、無敵だった。
こと、『騒ぐ』という事象に関しては、恐らく宇宙一秀でている。
そうだ。
この一人と一匹を見ているだけで、歴史の裏側というものを知ることが出来る。
伝承において、『三年間、竜宮城で暮らし、地上に戻れば七百年の時が経っていた』とされている。
いわゆる『ウラシマ効果』の基となる御伽話である。
しかし、その逸話は偽りだった。
この男は、嘘偽りなく。
『七百年間、竜宮城でひたすら騒いでいただけ』だったのだ。
本人は三年ほどだろうと思っていたが、実際は本当に七百年間、竜宮城で騒いでいたのだ。
竜宮城で出される不可思議な食物と飲料によって不老であり不死であることを可能とした。
その不老と不死をひたすら宴会を楽しむだけに使った真性の遊び人なのだ。
城ヶ崎美嘉が召喚した、ライダークラスのサーヴァント。
――――そのサーヴァントの真名は、『浦島太郎』と言った。
恐らく、日本史上、誰よりも長い時間を楽しく遊び続けた男だ。
本人が腰に下げた袋、すなわち浦島太郎の宝具、『おいでませ竜宮城、良いとこだよ竜宮城(レッツ・パーリィータイム)』。
この宝具を通じて取り出した、『竜宮城の美酒』を一口に飲み干す姿を見ると、その肩書にも納得できる。
「んでさ、んでさぁ。ドリカムったらさぁ、ミキャちゃん何するぅ?」
恐らく風呂桶ほどの酒を飲んでも饒舌なままのライダーは美嘉へと語りかける。
一瞬、言葉の意味が分からなかったが、その後に流れてきたカラオケの曲で理解した。
ドリカム、Dream Come True、すなわち夢が叶ったらどうするのかという問だ。
「いきなりそんなこと言われても……」
美嘉は疲れきった表情でそう応える。
そうだ。
美嘉は将来の夢も決まっていない。
今やっているアイドル業は間違いなく美嘉のやりたいことだが、それが将来もやりたいことなのかと聞かれると、多少口をつむぐ。
何処かでアイドルの終わりを迎えることになる。
その後は?
何も分からない。
夢がかなった後に願う夢が、美嘉にはまだわからないのだ。
「俺ちゃんはねぇ」
そんな、美嘉の思春期特有の将来への漠然とした不安を聞き流すライダー。
なんなんだこの男は、と怒りよりも先に呆れが浮かんだ。
「聖杯使うなら?
パッパとマッマに会いたいかなって?
急に居なくなったけど、割りと幸せだったって伝えたいし?
出来なかった分の親孝行とかもマッハでロングにやっちゃいたいし?
そういう風に使うのも、良くね?ね?」
「はぁ……」
生返事というよりも、ため息のような言葉を返す美嘉。
とは言え、このチャラ男のワールドチャンピオンと言った様子のライダーもまともな親への愛情を持っている
「でもさぁ?やっぱりさぁ?願いが叶うならさぁ?」
しかし、そこまでだった。
美嘉の感心を高性能掃除機のように吸い込む軽い口調。
そこから袋へと手を伸ばし、再び謎のアルコール飲料が注がれた大ジョッキを取り出した。
「もっかい竜宮城行っちゃおっかなぁ〜!」
「あっ、それ一気!一気!」
幻滅とはまさしくこのことなのだろう。
美嘉は、昔話から浦島太郎を心優しい青年だと思っていた。
現実はいつだって無情だ。
「ミキャちゃんも一緒に行く?ってか行くっしょ?」
そんな美嘉の心中を知ってか知らずか誘いをかけるライダー。
目の前の男の恐らく楽しい事しか考えていないであろう間抜け面をただ眺める美嘉。
「ミキャちゃんも可愛いけどさ、乙ちゃんは本当ッベエんだよ」
知らない名が出てきた、と思ったが、すぐにそれが乙姫であることがわかった。
この様子では乙姫もまたどこぞの高級ホステスのような女なのだろう。
「ボン!としてるし、キュッ!としてるし、ボン!としてるんだよ」
「……」
ライダーの偏差値の低さと下劣さと語彙力のなさに、覚めた目で見ることしか出来なかった。
そんな美嘉の視線を無視して、ライダーは乙姫の魅力を語り続ける。
「乙ちゃん優しいしさぁ、可愛いしさぁ、暖かいしさぁ……」
ニヘラ、とだらしのない顔がさらにだらしなくなる。
乙姫のことを愛していることがよく伝わってくる。
そこだけは、嫌な気持ちにはならなかった。
「なぁんで振られちゃったのかなぁ、俺」
「…………え?」
「…………太郎様?」
そこで突然暗い顔になったライダー。
乙姫と結ばれたとばかり思っていた美嘉はマヌケな声を出してしまい、亀もまた不思議そうな声でライダーへと問いかける。
「亀吉、三年目ぐらいだっけ?
俺が帰るって言い出したの」
「え、三年……え?え?」
真実は七百年目である。
それを知っているお供の亀は動揺することしか出来ない。
「パッパとマッマに紹介したいから一緒に外に出てくれって頼んだら?
断られちゃって?
めっちゃ凹んでたらこいつ渡されて?
あともう一つ渡されて?
なんだまだワンチャンあるじゃんって思ったら?
鶴公に変わっちゃうイジメ?イジメ?マジデジマ?って感じで?」
「た、太郎様?」
なるほど。
確かに玉手箱は強烈な別れ手形と言えるだろう。
美嘉は、多少ではあるが同情した。
目の前のチャラ男はチャラ男界のグランドスラム制覇プレイヤーだが、それでも乙姫への恋心は本物なのだろう。
それほど恋した女性に、年老いて死んでしまえという贈り物をされたのだ。
一方で、亀は動揺を隠し切れない声を上げている。
「大好きだったんだけどなぁ……初めてだったのにさぁ……」
どんどんと暗くなっていく。
さすがに同情の念も大きくなっていき、どう慰めたものかと思った。
震える肩。
泣き出してしまうのか、と思ってしまった瞬間。
ライダー自身の腰に回していた手を大きく上へと掲げ。
再び大ジョッキの中のアルコールを一気に飲み干した。
「ってなわけで! まっ、もっかい竜宮城行って、アタック&アタック&アタック!って感じ?」
呆れたように見つめる美嘉。
ただ黙りこくる亀。
プハーっと気持ちよく息を吐くライダー。
そして、ライダーがジョッキをテーブルに置き。
「おしっこ!」
その一言ともに、ライダーは勢い良く席を立った。
はっきりしたことが一つ。
好きか嫌いかは別として、男性の好みとしてはライダーは城ヶ崎美嘉の正反対である、ということだけだ。
美嘉の好みはもっと。
物静かで。
余裕があって。
それでいて自分が色で仕掛ければ動揺してくれて、そんな時に自分をもっと大事にしろと言ってくれるような。
年上の――――
「なぁっー!!!」
「……うわぁ!?」
そこまで考えて、奇声を上げて顔を強く振り、釣られたようにデフォルメ亀が弾けたように声を出す。
顔が思い浮かんでしまった。
そうではない、そうではないのだ。
『彼』はそういう対象にしてはいけない。
自分にとって『彼』は大事な仕事上のパートナーであり、また、『彼』にとっても自分はそういう存在なのだ。
きっと、それを知られれば『彼』は引く。
『彼』にとってアイドルとはそういうものなのだから。
「ど、どうしたんですか、美嘉様?」
「なんでもない!なんでもないからね!」
問いかける亀に、多少赤くなりながら叫ぶ美嘉。
亀はそれ以上問い詰めることはせず、しかし、どこか考えこむように目を細めた。
これ以上詮索されるのか。
それは、気恥ずかしい。
なんとか亀の気を逸らそうとした瞬間、亀が語りかける。
「美嘉様……太郎様の主である貴女様に、一つ伝えたい事があるのです」
「な、なに?伝えたい事って」
「私のことです」
「? あ、名前とか?」
デフォルメ亀のことを常に亀と呼称していた美嘉。
言われてみれば、浦島太郎において亀の名前は出てこなかったし、ライダーも亀のことを亀吉と呼ぶだけだ。
『煙の後に鶴吉になっちまった』という言葉。
ここからして、ライダーにとって『亀吉』とはは単なる亀の呼称に過ぎないのだろう。
「貴女様に教えておきたいのです。
太郎様には言えなかった、私の真名を」
「……え、ライダーも知らないの?」
「はい、私の名は――――」
その瞬間、煙が湧きでた。
煙でむせ返ることはない、ただ、美嘉の視界を封じるだけの煙だ。
驚きながらも、美嘉は待った。
煙が晴れるのが待ち、すると、そこには一人の美女が居た。
濡れ羽色の緩やかな長い髪。
ツリ目だが優しい母性を感じさせる目。
艶やかな厚ぼったい唇。
均整の取れた肉体に、後から付け足したように不自然な豊満な胸と尻。
その不自然さが、淫靡なものへと演出している。
カリスマギャルである美嘉が、思わず気おくれてしまうほどの美貌。
『絶世の美女』とは、まさしく目の前の存在なのだろう。
「太郎様の『宝具』として召喚に伴いました」
その美女は、ゆっくりと唇を開いた。
その様すら、もはや色気の塊であった。
「『龍神、水底より見上げし夜天(リュウグウノオトヒメ)』と申します」
そこから始まった、浦島太郎と竜宮の乙姫の出会い。
すなわち、亀の姿を取っていた、乙姫とっての運命を変えた日のこと。
◆
あの方は私の初恋なのです。
私は、水底より眺めるここではない世界に憧れていました。
私にとって竜宮城は世界の全てであり、そして竜宮城の主である私は世界の全てを理解してしまったのです。
だから、外の世界への憧れを膨らませました。
憧れが大きくなり、大きくなり、大きくなり。
自分でも制御出来ないほどの大きさになってしまい。
世界から弾き出されないために、亀へと姿を変えて。
力の全てを竜宮城へと置いて。
耐え切れない好奇心を抱いて。
私は、世界の外へと飛び出したのです。
しかし、そこは私が思っていたほどに美しいものではありませんでした。
空気は淀んでいました。
人と人が存在すれば生じる、感情と感情の諍いなのでしょう。
そんな当たり前のものでも、竜宮城でしか暮らしていなかった私には耐え切れないものでした。
そして、目に映るものは、人が人を虐げるその姿。
なんて醜悪なのだろう。
弱き者がさらに弱き者を虐げるその様は、この世へ嫌悪させるに十分なものです。
嘔吐の感情を抑えながら、失望だけを抱いて竜宮城へと帰ることを決意しました。
ただ、少し遅かったのでしょうね。
のろのろと陸地を動く亀の姿をした私を少年たちが見つけ。
手に棒を持って私を囲んだのです。
当然、叩き出しました。
殺さないように、しかし、確かに叩き出しました。
なんと醜いことなのか。
こんなものが存在しても良いのか。
良いわけがない。
――――失望が憎悪へと変わるその瞬間でした。
「なーにやってんだお前ら!」
――――本当に、突然にあの方が現れたのです。
「亀吉をイジメてんじゃねえよ!
ダッセ!ほんとダッセ!」
「げっ、タロー!」
「自分より弱い奴は守ってやれって母ちゃんから習わなかったのかよ!」
「さっさとどっか行け!」との言葉とともに悪童達を私から遠ざけるのです。
その際にも悪童を怪我させるようなこともなく、声で怒鳴りつけるだけで。
私は鈍く続く痛みとは別に、不思議な心の暖かさを覚えました。
「おう、大丈夫か、亀吉」
あの方が、手を伸ばしてくれました。
しかし、失望と憎悪で不思議な感情を覆っていた私は、あろうことか、その手を弱くではあるが噛んでみせたのです。
「っ痛てえ!?」
警戒に滲んだ目で睨みつける私を、痛みのあまりに地面に転がるあの方。
警戒していることがわかったのでしょう。
あの方は、ただ何も言わず、魚を放り投げました。
「ったく、しっかり食っとけよ。
食わねえからあんなガキにイジメられるんだ」
その日、結局私は竜宮城に帰りませんでした。
あの方のことが、気になってしょうがなかったのです。
翌日、同じ場所に居た私に、何も言わずに魚を放り投げました。
その翌日も、また翌日も、何日でも。
餌としては多いものでもありませんでしたが、あの方は魚と言葉を残してくれました。
汚いと思った世界の中でも、あの方は純真で綺麗でした。
何も知らないままで綺麗なだけだった私。
憎悪を覚えて汚れてしまった私。
そんな私とは違う、綺麗な人でした。
私は、憎悪の他に、もう一つの感情を知りました。
それが、恋でした。
だから、あの方は私の初恋なのです。
竜宮城で遊び続けた日々は、信じられないほどの幸福で。
だから、あの方が帰ると言い出したことが信じられなくて。
竜宮城の美味と美酒を与えて、玉手箱で鶴となることで『世界の裏側』への行き方を与えれば。
あの方は、私のもとに戻ってきてくれると思ったのです。
浅はかな考え。
あの方は、私との将来を真剣に考えていてくれていたのに。
◆
惚気、とはまさしくこのことなのだろう。
百戦錬磨の美女と呼ばれても納得してしまう外見をした乙姫は、その外見とは裏腹にまさしく乙女そのものの様子で語り続ける。
「内面もそうですが、やはりあの方は外見も素晴らしく……」
「えっ……チャラくない?」
「そんなことはありません!」
美嘉の反射じみた言葉に、乙姫は豊満な胸を揺らしながら即座に否定した。
そして、頬に赤みを刺した、恍惚とした表情で語りを続ける。
「鍛えぬかれた、しかし巨大すぎない肉体……男らしく日焼けした淫靡な身体……」
「チャラいよね」
「普段は不敵な笑みを浮かべるのに、楽しい時の笑みはまるで童のような無邪気さ……」
「チャラいよね」
「女性に対してにこやかに語りかける柔らかさと親しみやすさ……」
「チャラいよね」
全てが『チャラい』としか思えないライダーのポイントも、乙姫にとってはこの世に二つとない者に映るのだろう。
乙姫は、ライダーに心底惚れている。
それは、同じ女である美嘉は理解できた。
「私は、なんと愚かなことをしたのでしょう……
浅ましい独占欲に唆されて、あの方に大きな傷を残してしまいました……」
「言うほど傷なのかなぁ、アレ……」
独占欲。
すなわち人でなくすということ。
逃げこむ場所は竜宮城しかないと思わせること。
鶴となった浦島太郎と、亀へと変化出来る乙姫が幸せに暮らすための、乙姫の策略。
それが、あまりにも単純すぎるライダーはそれを乙姫の悪意と受け取ってしまったのだ。
「美嘉様……私はどうすればよいのでしょうか……」
「いや、私に聞かれても……困る……」
正直なところ、天然気味なお嬢様と頭の中身の無いチャラ男の恋愛相談など、本当に困る。
「そんな!
美嘉様のような、百もの攻略法を持つ『恋愛ますたぁー』であれば、何か良い手段の一つや二つ――――」
「ちょっと待った!」
自身にすがる乙姫に、美嘉はストップをかけた。
「え、何、その、え?何?」
「この書物に、『カリスマギャル・城ヶ崎美嘉が語る男を虜にする百の方法』というのが――――」
「それライターさんが書いたやつだから!」
むしろ自分も読んでいる、と付け加える勢いで否定する。
城ヶ崎美嘉は恋愛マスターなどではない。
恋愛などしたことがない。
本当に恋愛は楽しいことばかりなのか、それとも辛いことばかりなのか。
その事実すらも知らない。
乙姫が訝しげな目で見てくる。
そんな目で見られても知らないものは知らないのだ。
なのに乙姫は、ハッ、とした表情で唇を震わせる。
「……まさか!美嘉様も太郎様を一目惚れ――――」
「流石にその勘違いは令呪使っちゃうぞ、亀吉」
冷たい否定に、逆に乙姫が真顔になってしまう。
そんな時だった。
「戻ったよ〜!」
「戻んな!」
不意に扉を開けてくるライダー。
その扉を思いっきり締め直す美嘉。
そして、その瞬間に乙姫が亀へと姿を帰る。
恋愛の攻略法などさっぱりわからないが、恋心は理解できる。
『乙姫は亀であることをライダーに伝えたくない』ということは、なんとなく理解できる。
再び、ライダーが扉を開けた。
「あれ、今、乙ちゃん居なかった?」
「居るわけ無いじゃん、まだ聖杯手に入れてないんだよ?」
「そうですよ、太郎様。乙姫様が居るわけありませんよ」
「そっか、そーだよなー!」
深く考えずにライダーは答え、マイクを握った。
頭が痛い。
城ヶ崎美嘉は思った。
――――何がどうなって、こんなことになってしまったのか。
【クラス】
ライダー
【真名】
浦島太郎
【出典】
御伽草子
【性別】
男
【属性】
混沌・善
【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:EX 宝具:EX
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:EX
騎乗の才能。
ただの漁師であるため馬にも乗れない。船には乗れるが、ほとんど0に近い騎乗能力。
しかし、『龍神の娘/亀』と、『調子』。この二つに乗ることだけは他の追随を許さない。
【保有スキル】
支援呪術:B+
敵対者のステータスを1ランクダウンさせる。
龍神である乙姫による呪術支援。
女神の寵愛:EX
龍神である乙姫の寵愛。
本来は神霊ということで宝具としても召喚が難しい乙姫を宝具として召喚することが出来る。
乙姫は、普段、現世に訪れた時と同じ亀の姿で召喚されている。
最果ての加護:C
最果て、すなわち世界の裏側に関する加護。
竜宮城は常世、すなわち永久に変わらない神域である。
あの時代においても、既に世界から世界の裏側へと行っていた竜宮城。
浦島太郎はその竜宮城に招待され、本来は生きられるはずのない場所で七百年間生き続けた。
故に、浦島太郎は世界の裏側に耐性を所持し、また、死後の世界での経験から即死能力への耐性も持つ。
【宝具】
『おいでませ竜宮城、良いとこだよ竜宮城(レッツ・パーリィータイム)』
ランク:A 種別:対祭宝具 レンジ:1-10 最大補足:100
乙姫が浦島太郎に送った秘宝の一つ。
竜宮城と繋がった袋から無限に食料と飲料を取り出すことが出来る。
不老の食物であり、この世のものでは比べ物にならない美味を誇る。
『卵が割れる、夢が還る(グッバイ・パーリィータイム)』
ランク:A++ 種別:対時宝具 レンジ:1-10 最大補足:100
乙姫が浦島太郎に送った秘宝の一つ。
厳重に封を施された玉手箱であり、中身は竜宮城で過ごした時間を詰め込んだ『浦島太郎の時間』そのもの。
この扉を開けることで浦島太郎は歳を取り、老人となり、老衰を迎える。
――――が、乙姫の加護により、玉手箱は、同時に『鶴へと変化させる』能力を持つ。
すなわち、千年の時を生きる鶴へと変化することで、老衰を避けることが出来る。
端的に言えば、幻獣の力を持つ鶴へと変化し、対魔力も大きく上昇する。
乙姫の加護により、再び浦島太郎の時間を玉手箱へと戻して人間の姿に戻すことが出来る。
『龍神、水底より見上げし夜天(リュウグウノオトヒメ)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1-10 最大補足:100
常世である竜宮城の主、乙姫そのものの宝具。
龍神である乙姫を召喚し、その権能を振るわせて戦わせることが出来る。
普段は魔力の消費を抑えるために亀の姿をしている。
ライダーが騎乗できるほどの大きさから、人形のようなデフォルメされた手乗りサイズにまでなれる。
海は海神である乙姫のテリトリーであり、自由自在に暴威を振るうことが出来る。
また、竜種として空を飛ぶことも出来る。
【人物背景】
『漁師の浦島太郎は、子供達が亀をいじめているところに遭遇する。
太郎が亀を助けると、亀は礼として太郎を竜宮城に連れて行く。
竜宮城では乙姫(一説には東海竜王の娘:竜女)が太郎を歓待する。
しばらくして太郎が帰る意思を伝えると、乙姫は「決して開けてはならない」としつつ玉手箱を渡す。
太郎が亀に連れられ浜に帰ると、太郎が知っている人は誰もいない。
太郎が玉手箱を開けると、中から煙が発生し、煙を浴びた太郎は老人の姿に変化する。
浦島太郎が竜宮城で過ごした日々は数日だったが、地上では随分長い年月が経っていた』
という御伽話でお馴染みの浦島太郎。
大筋は間違っていないが、御伽話では分からない浦島太郎という男の実体はひたすらチャラい兄ちゃん。
チャラく、チャラく、チャラい。
また、労働意欲がないわけでもないが、働かずにひたすら遊び続けることが出来るという天性の才能を持っている。
普通ならば「いい加減働かなければいけないのでは?」「自分だけが遊び続けて、給仕の人たちに悪いのでは?」という考えが浮かばない。
ただ、遊んでいいと言われたら何処までも遊び続けることが出来る生粋の遊び人。
七百年後に家に帰ると言い出したのも、乙姫と結ばれるために両親に紹介したかったというだけのことである。
『他人の家で飲み食いし続けただけ』で英霊へと上り詰めた稀有な男である。
【特徴】
冬にもかかわらずアロハシャツを着て海パンを履き、脱色した髪と日焼けした肌はまさしく丘サーファーそのもの。
身長は高く、元漁師ということで筋肉もついている。
【マスター】
城ヶ崎美嘉@アイドルマスター シンデレラガールズ
【能力・技能】
秀でたダンススキルと歌唱スキル、ファッションセンス。
【人物背景】
「はじめまして★城ヶ崎美嘉だよー。
アイドルだろうと何だろうと、どうせやるならオンリーワンよりナンバーワンになりたい!
ってことで、一緒にトップアイドル、目指そうね!」
パッションタイプのレアアイドル。ゲーム内での性能は優秀な特技に恵まれた守備型。
通称:城ヶ崎姉、姉ヶ崎。
ゲーム内では双海真美、双海亜美以外では唯一の姉妹アイドルである。
容姿や服の着こなし方からしてギャル風だが、根は良い子。
日常会話中に妹(城ヶ崎莉嘉)とメールのやり取りをしてことから姉妹仲は良好で、妹のCDドラマからもその仲の良さは窺い知れる。
妹曰く、カッコよくて優しくてオシャレで、お菓子を買ってくれて着なくなった服もくれるとにかくすごい人。
ちなみに勝手に自分の服を着て出かけられたりすると怒るらしい。
あと虫嫌い(※妹のカブトムシネタの影響もあるが、大抵の女の子は嫌いです)
特訓後は制服からきわどい格好のアイドル服に衣装チェンジ。この格好だとお腹が冷えるらしい。
【マスターとしての願い】
今は思い浮かばない
投下終了です
投下します
都市伝説というのは、どこの街にもある。
勿論この冬木市だって、例外じゃない――……。
例えば、蝉菜マンションの「赤ずきん」。
例えば、誘拐した人間で楽器を作る殺人鬼。
例えば、火を吹くような麻婆豆腐を黙々と喰う神父。
例えば――……。
この都市伝説も、そんな内の一つだ。
新都のその外れに、いつの間にかあった西洋住宅――――。
またの名を、人を食う家。
幾度と解体工事を行おうとしたが、決して破壊することの叶わぬ呪われた家である。
あるとき男たち五人が、度胸試しとしてその廃屋を訪れた。
そのうちの一人は入るなり嫌な予感を感じて立ち止まったが、残りの四人はあれよあれよと囃し立て、彼を残して去ってしまう。
仕方なく表で彼が待っていれば聞こえたのは、この世のものとは思えない悲鳴と異常な機械の駆動音。
尋常ではない様子に助けを求めようとしたものの、何故だか電話は通じず、辺り一体には誰もいない。
みすぼらしい外見に不釣り合いなほどの機械の音。
その中は、外見からでは判らない……想像を絶するような罠が仕掛けられた罠屋敷だったのだ。
一人、また一人と声が消えていく…………外で待つ少年も限界を迎え、走り去ろうとしたその時…………漸く屋敷の扉が開いた。
一人。
命からがら逃げ帰ったのだろうか。
ただ一人だけ生き残った友人は目立った怪我もなく、しかし生気の薄れた人形のような顔で歩いてくる。
彼は否応なく喜んだ。だから異常に気付かなかった。
しかし、すぐさま明らかになる。
仲間の無事をよろこび、しかし安否を問い詰めようとする彼の前で――――なんと一人生きて帰った男は、ごく平然と立ち去ろうとしたのだ。
おかしい。
そう思いながらも追いかけ肩を掴み、問い詰めようとしたその時に彼の友人の裾から突然歯車が零れ落ち――。
そして呼び止められた彼が振り向こうと首を回せば――……なんと、その首が……歯車やゼンマイが詰まった首だけが転がり落ちた。
――“入れ替わっている”。
その後彼らを見た人間はいないが――……ひょっとしたらこの街のどこかで、人に紛れて生活しているかもしれない。
◇ ◆ ◇
「できの悪い話だ……」
そんな噂話を耳にした男は、額を押さえて溜め息をついた。
あまりにも馬鹿げた噂話。そうとしか思えない。
荒唐無稽で、支離滅裂だ。
考えた人間はよほど自分のことを省みれない人間に違いない。そう確信する。
『そうですね、ミスタ・スターク』
同意の声に、男――トニー・スタークは軽く首を傾げ、大袈裟に目を開いた。
「人殺しのトラップだと? そんなものを作るなら、仕留め損なう方がおかしい。よほど間抜けな設計者だ」
『はい』声は逡巡して――『それは設計ミスですね』
「そうだろう? 奇抜な仕掛けを作っていい気になって失敗するのは三流の仕事だ。私ならそうはしない」
『ええ』声は断言して――『貴方ならあり得ません。いつも完璧な仕事です』
「そうだろう?」
全く甚だ遺憾だと、男は眉を寄せてソファに腰を下ろす。
「第一……歯車? 私がいつそんな骨董品に頼ったと言うんだ。それに簡単に壊れる不良品を作った覚えもない」
『骨董……』声は絶句した。『骨董……品……』
「あー……君は骨董品じゃない。最新鋭だ」
『そうですね……』声は躊躇いがちに『……私は、最新鋭でした』
「ああ」スタークは誇らしげに頷いた。「最新鋭だとも」
防衛用対空レーザー、侵入者排除用炭酸ガス、積層強化チタニウム防壁に磁力投射型対艦砲、電磁シールドに自立型防衛アンドロイド……。
世界中を見回しても、どんな歴史を振り返っても決して存在しない唯一無二の城――――大神殿である。
スタークはそう自認している。
不可侵の城。
英雄などという骨董品が束になっても、決して破壊不可能な大豪邸である。
「できれば浮遊要塞にしたいぐらいだ」
『飛ぶのは……楽しそうですね、マスター』
「ああ……そうだな。浮遊要塞! 我ながら悪くない発想だ」
『では、お食事は軽いものでよろしいですか?』
「ああ」
そうして男――トニー・スタークは、テーブルの上に図面を用意し始めた。
アナログだが、悪くはない。
そして材料を揃える必要も、組み立ての手間というのも必要ない。
ただ、トニー・スタークが設計すればその通りに製作される。
つまりこの聖杯戦争に勝ち残るのは、他ならぬトニー・スタークの手腕一つという訳だ。
英雄などという黴の生えた幻想ではない。
脈絡と人類が受け継いできた文明と科学の炎が勝利をもたらす。彼はそう確信して止まなかった。
出会いについて、話を遡ろう。
◇ ◆ ◇
その口髭の男が目を覚ましたとき、そこは見慣れぬベッドの上だった。
頭を押さえれば僅かな頭痛――手には見慣れない赤い入れ墨。
「……ジャービス? ジャービス!」
反射的に呼び掛けた声に、しかし何の返答も返らない。
「居ないのか?」
誰か――……いや、ひょっとして街で出会った女の家にでも来てしまったのか。
合わせる顔がないと首を振ろうが、記憶は甦らない。
昨日までの記憶が酷く曖昧で――――いつからどれぐらい寝ていたかさえも判らない。
今は何時か……。
見回した室内には、よく見れば窓がない。
だからこんなに陰気なのかと毛布を持ち上げ、顔をしかめて投げ飛ばす。
マットレスの質もあまり良くはない。少なくとも最新の、人体工学に従った品にはどう見ても一致しない。
押さえた頭。アルコールの臭いはしない。近くを見てみても、睡眠薬の瓶も転がってはいない。
部屋の主は誰か――首を捻っても答えは浮かばなかった。
「……あまりいい趣味の部屋じゃないな」
古臭い壁紙だと、顔をしかめる。
彼の祖母ぐらいの年代なら流行っているかもしれないが、そうでなければ田舎者ぐらいだろう。こんな柄を使う奴は。
趣味に合わない。
一体どうしてこんな家にいるのか――……改めて首を捻らざるを得なかった。
「24点。エアコンもない」
結局は手持ち無沙汰で、部屋を見回しながら一人品評会。
今まで見たものの中で、古臭さは一番――――いや、もっと生きる化石のような古臭いものは知っている。
そう、部屋の主を待ちわびているところだった。
ふと顎に当てた指の動きが止まる。
「この部屋は……まさか……」
室内を見回した彼は絶句する。
昔、何かの記事で読んだ。いい大人が馬鹿馬鹿しいものだと肩を竦めた覚えがある。
そうとも。
アメリカ人ならば、知らないものがいない有名な“個人宅”。
それを記憶していたのは、或いはその屋敷の主が彼と同じ――――……。
「21世紀にもなってオカルト? 馬鹿げてる……チタウリ相手に何の役にも立たなかった宇宙人対策の黒服がいる方がまだ信じられる」
何らかの愉快犯か、それとも個人的な恨みを持つものか。
心当たりは――……有名人なのだ。仕方がない。
当然、トニー・スタークが誰とは考えた上での拉致である。なるほど彼の象徴を取り上げるのは、その点では調査している。
「ただ、プライベートの取材は好きじゃない方でね」
しかし――と、トニーは嘲笑を浮かべた。
右腕の時計を捻る。
調査はしたが頭でっかち。トニー・スタークを甘く見ていると言わざるを得ない。
故に、
「突貫工事だ」
右手に展開された鋼鉄の鎧。収束する蒼白の光線。
“鋼鉄の男(アイアンマン)”の右手は、容易く建築物を焼き払う。
「……どうなってる」
――筈だった。
改めてスタークは、その壁を見詰め直す。近づけた頬には未だ燻る熱気が感じられるし、鼻を突く煙硝の匂いも本物だ。
確かに壁を吹き飛ばした――その事実は紛れもない。
だが、その下にはまた壁がある。寸分たがわぬその位置に、まるで脱皮するかの如くに新しい壁が用意されていた。
「……よほど腕のいい建築士か。できればうちで雇いたいぐらいだ」
皮肉を漏らしても返答はない。
トニー・スタークは、アイアンマンは、この家に――――
「……ウィンチェスター・ミステリー・ハウス」
――――現代の“神話迷宮(ラビリンス)”に閉じ込められた。
「エレベーターより前に給水所を作ったらどうだ? それとも工事のしすぎで水道代も出なかったのか?」
主は何を考えているんだと、壁に背を預けて天井を仰ぐ。
上ったと思ったら下り、下ったと思ったら上る。
ドアを開けたかと思えば行き止まりであり、行き止まりかと思えば横に廊下が続いている。
流石に現役ヒーローのトニー・スタークとしてもこれほど代わり映えのしない家の中を歩き回れば汗も浮かぶし、何よりいい加減気が滅入る。
しかし――……。
引き換えそうとしても、帰り道が判らない。
なるほど悪霊を惑わせる為に作られたというのも、本当らしい。
「……ああ、私なら動く床も追加するな」
せめて椅子にでも腰かけるか――……。
不承不承腰を上げて、手近な部屋へと入ったスタークのその眼前。
テーブルに置かれた奇妙な本。
「聖杯戦争……英雄……冬木……」
誰が記したか知れない不気味な本には、彼の巻き込まれた現状の理解を助ける文句が連なっていた。
こんな手間をかけるとしたら、よほど変態的な犯人だろう。
その隣に置かれたのは屋敷の解説書。
気になったのは、その内に記されていた一説――――。
「判った。すぐに取りかかろう。会話ができた方がいい。……どうせならサシミの解凍機能も付けてみるか?」
笑いかけてみるも反応がない事に肩を竦め、トニー・スタークはすぐさま机に備え付けの平面図を広げる。
原理のところは理解できないが、これが彼の呼び出した英霊のスキルの内。
トニー・スタークの手腕がそのまま反映される。
試されているようで――ならばそうしてやろうと、彼は頬を釣り上げた。
「さて、これで会話はできる筈だが……」
この“家”の構造が解説通りのそれだとするなら、スタークの望み通りになる。
未だ半信半疑のその内、彼の眼科に広げられたのはホログラム発生装置の作成図。
屋敷の設計というより、備えられた装置の設計の方が紙の殆どを占めているのは彼の性格であろう。
辺りを見回し、やれやれと息を漏らす。
某かの変人の、変態的な芝居に乗せられたとしたら酷く間抜けに感じる――――製図自体はかつて行ったことを繰り返しただけなので、苦にはならないが――……。
『……ありがとうございます、マスター。貴方が一番最初に作ったものに、私は感銘します』
「急に出ないでくれ! 心臓に悪い奴だ! 見て判らないのか? 私は心臓が悪いんだ!」
大袈裟に振った両手を広げたトニーの心臓部には、シャツの下から発光する円形。
アークリアクター――アイアンマンスーツの動力源にして、何とか彼の命を繋ぎ止めている唯一無二の科学の光だ。
『……謝罪します』
「いや……」かぶりを振って溜息を漏らし一言。「ここは『幽霊屋敷ですので』と言ったらどうだ? 私ならそうする」
『了解しました。記憶します』
縦割り板のように面白みのない返答に、トニー・スタークは大げさに肩を竦めた。
青いホログラムに映し出されたそれは、継ぎ接ぎの女給服を纏った長髪を輪に編み上げた女性だ。
ふむ、と息を漏らす。
悪くない見た目であるが……トニーには特に、見た目の設定をした覚えはない。
「それで……使用人(サーヴァント)だったか? クラスはなんだ? 私はなんと呼べばいい?」
『シールダーです、マスター』
「シールダー……盾持ち(シールダー)だって?」
『どうかされましたか? 私は疑問を覚えます』
「……盾持ちの“骨董品”は一人で十分だ」
『骨董品……』
「ん? 骨董品は気に食わなかったか? それなら、趣味の悪い現代アートとか?」
『趣味の悪い……』
「ああ。機能性も何もない……無計画で無秩序に作られただけのあばら家だ。私ならそうはしない」
『あばら家……』
一言ごとに揺らいだ青のホログラムの姿が、ついにはスタークの前から掻き消えた。
「おい、どうした? おい、えーっと……」
シールダーと呼ぶのは、トニー・スタークには憚られた。
彼が認める唯一にして絶対の盾持ちは一人しかいない。
現代に蘇った生ける伝説。合衆国の理念を背負うあの高潔な英雄だけだ。
さて、ならばどうしたかと――……。
「……フライデイ」思わず人差し指を上げた。「フライデイがいい。そうしよう。そう呼ぶ」
『……フライデイ』ホログラムが再び現れる。『……わたしは、フライデイ』
「ああ、フライデイの由来になった女神は立派な豪邸に住んでいる。ここは――……まぁ、そうだな、これからなればいい」
『はい。依頼します、マスター』
「そのマスターというのも……」
『貴方の精神に不快な影響をあたえましたか、マスター』
躊躇いがちに覗き込んでくるホログラム。
額に手を当てて唸る。流石は屋敷と言ったもので、どうにも言葉尻一つをとっても無機質的だ。
「判った。私が一から作り直そう! どうせならジョーク機能もつけてみるか?」
『依頼します、マスター』
「……これは作りがいがありそうだ」
そして現在――。
着々と市民を取り込み入れ替えて返すことを繰り返し、設計した通りに防衛機構を取り付けたシールダー。
映し出されたディスプレイには、街に放った“置き換わり”のアンドロイドの視界が映し出されている。
我ながらここまでよくやったものだとスタークは頷いた。
「フライデイ、客人たちは?」
『はい、ミスタ・スターク。皆健康です』
「それはよかった。冷蔵庫に洗濯機にテレビ、無線LANもついてる……ここは世界一快適で安全な場所だ」
『はい。プライベートビーチも用意できればよかったのですが……』
「そうだな。今度は室内プールでも作るとするか。トレーニングジムも欲しい」
『アンケートを集めますか?』
「ああ――……」
笑ったそのまま――……ふらついたスタークは、音を立ててテーブルに手をついた。
『……ミスタ・スターク? スターク? マスター? マスター!?』
「またいつもの奴だ……水を用意してくれ」
頭痛が酷くなっている。
額を押さえたトニーは、忌々しげに眉間に皺を寄せる。
防衛用給仕ドロイドが持ってきたミネラルウォーターを一息に飲み干し、溜め息。
優れた家だと思う。
特に彼が手掛けてからは見違えるできで、これを機に建築業界への進出を考えてもいいと思えるほど。
ただ、一点――。
(聖杯戦争……この街を舞台に再現される、英雄たちの戦争……)
眠る度に繰り返されるヴィジョン。
幾度となく焼け落ちるニューヨーク/冬木。
倒れた仲間――ヒーロー――アベンジャーズ。ほくそ笑む敵。
間に合わなかった。
スタークには救える力があったというのに、間に合わなかった。
市民は人間だ。ヒーローも人間だ。
人間には、限界がある。いつのいつだって勝てるとも限らなければ、いつのいつだって守れるとは限らない。
敵(ヴィラン)の攻撃に崩壊する街。
ときには瓦礫の下敷きになり、ときには恐ろしい鉤爪に引き裂かれ、ときには火災に多い尽くされる。
ニューヨークの悪夢。それを超える悪夢。
(そうだ……)
一人、また一人と倒れた仲間。
矢尽き弓壊れ倒れたホークアイ。
艶のあった髪を血に濡らしたブラック・ウィドウ。
ハンマーを握るそのままに崩れ落ちたソー。
緑色の巨体のまま、かつての姿を失い事切れたブルース・バナー。
そして――――あまりいい関係とは言えなかった父から、それでも繰り返し名前を聞いたキャプテン・アメリカ=スティーブ・ロジャース。
倒れ起こそうとした彼が、トニーの腕を掴み言うのだ。
(もうあんなことは御免だ。私が、この街の住民を“保護”しよう)
――――スターク、何故守ろうとしなかった。君にはその力があるのに。
そしてアメリカの象徴も、暁に沈む。
それは許せない。
許してはならない。
そんなことがあっていい筈がない。
だから、護るのだ――――
(私と、この家が――――)
◇ ◆ ◇
(……ごめんなさい、マスター。私はあなたに、話せていないことがあります)
まさしくトニー・スタークの設計通りに、そこに暮らす人々は快適に暮らしている。
冷蔵庫の中にはミネラルウォーターから果汁ジュース。各種のアルコールまで完備されていて、料金(チェック)は必要ない。
テレビをつければ民放の全てと、おまけに海外の衛星放送も受信される。娯楽には事欠かない。
無線LANも完備されていて、煩わしい通信制限に悩まされることはない。発信できない問題を除けば、回線はすこぶる調子がいい。
まさに人の為に生まれた揺り籠。安堵を齎す人間の盾。高級ホテルを超える快適な空間。
ただし、決して出られない。
外から誰かが連れ出さない限り、この家からは逃れられない。
この家から何かを外に出す事は決してなく、そしてこの家を外から壊すことは決してできない。
そしてもう一つ。
サーヴァントたる彼女のその象徴。
(私は武器です。私は盾です。私は武器の、人の命を守るという側面です)
この家は、ウィンチェスター夫人自身を、かつての彼女の主を狙う悪霊から守る為に夫人自身により設計された。
あらゆる悪意や、外界からの脅威を防ぎ遠ざける為に作られた家。
夫人を突け狙うのがウィンチェスター銃が生み出した犠牲者の亡霊――――つまり武器の負の側面だとするならば。
人の命を守るという、武器の側面にして重大な存在意義の為に成立しているのが彼女。
合衆国憲法でも保障される自己生存権。
故に彼女は――――或いは合衆国の理念を背負う現代の英雄のように――――盾使い(シールダー)なのだ。
(ですが……ですが私は――)
どこまでも成長する家。
歪めた地脈から魔力を吸い上げ、自己定義し、自己反映し、自己増殖する無限の砦。
その血肉は、今や仮初の魔力というものに依存し――。
その骨子は、人々の絶え間ない恐怖に由来する。
ウィンチェスター・ミステリー・ハウス――――悪霊に恐怖する主の、恐怖心が作り上げた魔の迷宮。
そうだ。
彼女は、恐怖がなければ生存できない。
誰かが恐怖を感じるからこそ、彼女はその防壁として成立する。
(私は、呪われた家)
ウィンチェスター・ミステリー・ハウス。
またの名を――
(……ごめんなさい、マスター。ごめんなさい……)
――――恐怖に、蝕まれる家。
ここはウィンチェスター・ミステリー・ハウス。
冬木の街に生まれた新たな都市伝説。
ここはウィンチェスター・ミステリー・ハウス。
捉えた人間を逃がさない絶界の孤城。
ここはウィンチェスター・ミステリー・ハウス。
その恐怖は、限度なく増殖される。
【クラス】シールダー
【真名】ウィンチェスター・ミステリー・ハウス
【出典】史実
【マスター】トニー・スターク
【性別】???(仮人格:女性)
【身長・体重】???・???
【属性】混沌・中庸
【ステータス】筋力E 耐久A++ 敏捷E 魔力A 幸運E 宝具EX
【クラス別スキル】
対魔力:A
Aランクでは、Aランク以下の魔術を完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師では、魔術でシールダーに傷をつけることは出来ない。
騎乗:-
騎乗の才能。家であるシールダーが、何かに乗れるはずがない。
【固有スキル】
我が体は秩序を止めて:A
建築基準や建築の理念、果てはあらゆる常識などに囚われずに設計され増築されていく。
設計さえ受けられれば、材料や工程を不要として増殖する。
その主が製作図に手を加えるたびに、新たな部屋や施設・装備を作り出していくことも可能。
我が庵は安堵を添えて:A
恐怖心を感じていたり、現実からの逃避を願ったりするほど深くこの家に引き寄せられる。そして、外界に出ようという意識を妨げられる。
対抗には精神(MEN)の判定が必要となる。失敗するごとに屋敷の外に対する方向感覚を失っていく。
我が褥は恐怖に濡れて:A
人々の不安を与える迷宮としての知名度。噂の伝搬度合い。
外にいる人間にはその正体が噂――つまり真実以外の不純物や根も歯もない憶測などを交えた“不正確”な恐怖体験として伝わり、
中で生活する人々には、彼らの悪夢や焦燥・恐怖などの感情が増幅され、付与される。
対抗には精神(MEN)の判定が必要となり、失敗するごとに屋敷に対する恐怖心が増幅されて真実から遠ざかっていく。
【宝具】
『女神神殿・防衛本能(ウィンチェスター・ミステリー・ハウス)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:- 最大補足:-
一種の固有結界であるシールダーの正体。
外部の「拒絶」の為の城壁ではなく、真相に届かせない「迷走」の為の閉鎖空間。
内部は異界化しており、外見は変わらなくともその中の空間は増築に合わせて無限に広がっていく。
ウィンチェスター銃による犠牲者の霊――――つまりある種の戦死者の霊が集まるこの屋敷は、北欧神話のオーズの妻フレイヤの住む屋敷と同じ条件を満たしている。
フレイヤは戦いや死を守護する神であり、この屋敷は戦いに伴うもの……恐怖を餌として成長する神殿。
内に住む人間の恐怖が強ければ強いだけ、屋敷はより強固により強靭に、神の住む屋敷へと近づいていく。
その強度から外界からは相応強力な攻撃でなければ破壊できず、しかし強力な攻撃に感じる内に住む人々の恐怖で即座に再生するという矛盾。
事実上、外界からの破壊は困難。
『女神神殿・防衛機構(マイ・ネーム・イズ・フライデイ)』
ランク:A 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:1〜9999人
ウィンチェスター・ミステリー・ハウスの内外の概念を反転。
屋敷の外部にあるあらゆる人々の恐怖の源となるものを内に閉じ込め、そして内外問わず人々へ安堵をもたらす。
その時、屋敷の住人も屋敷の外へと放り出される為に存在意義が消滅し、この家は崩壊し内に向けて爆縮する。
二重の「壊れた幻想」。
【weapon】
防衛アンドロイド。対空砲火。ミサイル他。
軍事企業の社長であり、優れた開発者であるトニー・スタークが手を加えた為に最新科学の要塞と化している。
魔力により生み出されているため、サーヴァントにも通用する最新科学兵器。
【解説】
ウィンチェスター銃の開発者、その夫人が作り出した屋敷。
ウィンチェスター銃による死者の霊から逃れるべく増築・改築を重ねたそれは、訓練された案内人でなければ内部で遭難を起こすほど。
現代で最高峰の知名度を持つ――そして今なお存在する“迷宮”。
シールダーとして呼び出された彼女は、防衛と障壁の意味を持つ一種の固有結界である。
【特徴】
家そのもの。
室内に限り語り掛けるとき、つぎはぎのメイド服に身を包んだ洋装の幸薄く儚げな美女として現れる。
決してそれを作ったのは自分ではない、これは断じて浮気や移り気、VR趣味ではないとはトニー・スターク談。
【聖杯にかける願い】
人を、守りたい。
恐怖を、和らげたい。
【マスター】
トニー・スターク@マーベル・シネマティック・ユニバース
【能力・技能】
大企業の(元)社長。開発者にしてヒーロー。
原子炉二機分のエネルギーを持つアークリアクターを胸部に備え、またこれは電磁石となっており心臓付近に埋まったミサイルの破片を吸い寄せ彼の延命を図っている。
このリアクターを動力源としたパワードスーツを着用。
ヒーロー“アイアンマン”として、ヴィランとの戦いに赴いていく。
【人物背景】
本名:アンソニー・エドワード・スターク。
MIT首席の天才にして、軍事企業スターク・インダストリーの元社長。
新兵器のプレゼンとして飛んだアフガニスタンでテロに遭い、拉致。
自国の兵士を守るために作っていた自社製品が他国に売り渡され、自国の若い兵士を殺しているという現実に軍事からの撤退を決意。
そして脱出の過程で作り出したアークリアクターと新たなパワードスーツに身を包み、戦う社長――アイアンマンとして紛争の鎮圧に尽力する。
常に斜に構えた皮肉屋で茶目っ気があり自尊心と自負心が高く、傷付きやすく寂しがり屋であるが素直になれない面倒臭いおっさん。
アベンジャーズ1後からの参戦。
【マスターとしての願い】
聖杯戦争から街の被害を食い止めること。
そしてシールダーを“ヒーローを必要としない市民防衛”のテストケースとして研究。勝ち残った暁には永続的な現界(受肉?)と量産化する。
投下を終了します
投下します。
セイバーが召喚されたのは夜中、新都の表通りから結構奥に入った路地裏だった。すぐそばを4人の男が走り抜けていくのが見える。
疑問符を浮かべつつ追うセイバーの視界に入っているのは赤いパーカー、黄色いニット帽、緑入りのチノパンを目印にように身につけた3つの背中。
そして、彼らの前方を走るファー付きの革ジャンを羽織った背中。
信号機めいた3人組は似たような険を顔に貼りつけて、前方の青年についていく。
――三対一か。
見つからないように彼らの頭上へ跳んだセイバーは男達の印象から仮定する。
革ジャンの男がマスターらしい、と思いつつ、セイバーは壁に貼りつき、立ち止まった4人のやり取りを観察する事にした。
どの程度の人物か興味があったし、見たところ3人は一般人のように思える。放っておいても一大事にはなるまい。
2分足らずの口論の末、殴り合いが始まった。面白くない状況を見守っていたセイバーだったが、革ジャンの青年が優勢と見ると、我知らず口元に笑みが浮かんだ。
体術を修めている風ではないが、動きに無駄が無い。中々場数を踏んでいるらしい事がわかる。
3人組が地に沈むまでに、青年は一撃たりとも喰らう事はなかった。久方ぶりの現世で見た、胸がすく圧勝。
――そろそろ出るか。
文句の一つも覚悟しつつ、どこか浮き浮きとした気分で降りようとしたセイバーの視界で、予想だにしない展開が始まった。
革ジャンの青年は屈みこむと、緑の男の首筋に顔を近づけ、同様の行為を黄色の男、赤い男、と繰り返す。
「みなさんは僕とは会わなかった。些細な口論から殴り合いの喧嘩になり、そして3人揃って気を失った。いいですね?」
最後に3人の頭を寄せ、はっきりとした口調で諭すように言った。
寝転んだ男たちがこっくりと、大儀そうに頷いたことを確認すると、青年は足早に路地裏から去っていく。
呆気にとられたセイバーだったが、何故自分が壁に貼りついているのかに思い当たると、全速力で先ほどの青年を追った。
まもなく、人気のなくなったあたりで2人は合流。青年はセイバーの存在に気づいていた。
彼らは公園の一角に設置されたベンチに座ると、お互いの自己紹介を始めた。
静かな公園。日付が変わって、一時間近く経つ。
「屍鬼…それに人狼か、変わったマスターと組ませられたな…」
顎をさすりながら、セイバーは革ジャンの男――辰巳の顔を覗き込む。
辰巳は人間ではない。人に紛れて人を喰らう、一匹の鬼だ。いや、より正確に表現すると鬼ですらない。
吸血の生物を作ろうとした「何か」の目指したもの。無数の屍鬼という"エラー"を対価にして生まれる、鬼の成功例。人狼。
遠い昔、あまりにも長い時間を屍鬼として過ごす「沙子」の襲撃を受け入れた辰巳は人狼となり、ずっと彼女に仕えてきたのだ。
人狼と名付けたのは沙子。曰く、吸血鬼には狼男の下男が付き物、なんだそうだ。
「嫌悪感はないようですね」
「タツミが化け物なら、俺は蛮族だ。大して変わらん」
ヴァンダル族。ローマ領外に存在した部族のなかで、公然と帝国に反旗を翻した武闘集団。
その長として知られるのがセイバー。彼の持つ天性の魔に等しい気迫は、一族の名に「文明破壊」のイメージが与えられた事に由来するものだ。
多少面白い肉体を持っている程度では、英霊となった彼の関心を惹くことなど出来ない。
「それで?お前、どうすんだ」
「僕個人は聖杯を必要としていない。手に入ったなら、沙子の願いを代わりに叶えます」
「女か」
「主人です」
辰巳がきっぱりと言い切った瞬間、セイバーはやれやれと言わんばかりに眉を持ち上げ、口をへの字にした。
うんざりした様子のセイバーに辰巳は苦笑するが、彼の心の内にあるものは、セイバーの思っている物とは少し異なっている。
辰巳は生きる、ということを滅びと定義している。所詮それぞれの死に方を競う、という程度の事なのだと。
それでも人間であった頃、彼は生きる意味を人並みに探してもいたし、それ以上に世界を憎んでいた。
人の秩序に背いた生き物である沙子に出会った時、彼女に頭を垂れたのは、彼にとって氷が冷たいのと同じくらい自然な事だった。
辰巳は沙子とは違う生物になった。それでも彼女の大望を応援した。
しかし叶わない。どう頭を捻っても叶うビジョンが浮かばない。沙子――屍鬼は人の血以外は受け付けないから。
そして自分は死なない。年月の経過で死ぬことはなくなったし、人の血が無くても人間と同じ食事で生きていける。いくらでも死を遠ざけることが出来る。
生きる意味などもはや必要ない。ただ全ては過ぎていくのみだ。
沙子の夢――屍鬼が安心して暮らせる世界。
そんなものは出来ない。人間に存在が知られれば必ず根絶される。
達成できたとしても、人間より数が増えた時点でその社会は崩壊する。
結果生まれるのは、屍鬼も人間もいない静かな世界。かつて望んだ世界の終わり。
――それもいいか。
身に余る夢に進む沙子は美しい。
怪物になって久しいくせに、未だに人の正義に拘っている沙子。
人を食わなきゃ生きていけないくせに、人間のように生きることを望む沙子はこの上なく可愛らしい。
聖杯が真に願望器なら、ぜひ彼女に捧げよう。
辰巳が掴み、沙子が始める世界の終り。
「ま、詳しい話は落ち着いてから、ゆっくり聞かしてもらおう。動くぞ」
「や!待ってください!…差支えなければ、セイバーさんの願いも聞かせてもらえませんか?」
問われた瞬間、セイバーは鼻を鳴らし、小馬鹿にしたような笑みを辰巳に向けた。
嘲笑は辰巳に、ではなくまだ見ぬ主従達にこそ、向けられていた。
欲しいものはセイバーにとって奪うものであり、施しを求めるなど主義に反する。
とくに後悔だの未練だのを晴らすべく現世に戻った英雄など、ひたすら醜いだけだ。このガイセリックにそんなものはない。
「あの世まで持ち越したモンなんてねェ。だが、聖杯を奪るのは面白そうだ。…だから俺は戦う。来い」
【クラス】セイバー
【真名】 ガイセリック
【出典】5世紀頃、ヨーロッパおよび北アフリカ
【性別】男
【ステータス】筋力A 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具A+
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
軍略:C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
仕切り直し:B
戦闘から離脱する能力。
完全に捕捉された状況であろうとも、ほぼ確実に離脱することができる。
反骨の相:A
略奪者の代名詞。
Aランク以下の「カリスマ」を無効化する。
文化破壊:A+
人類史を破壊し、汚染していく者の闘気。
戦闘中、時間経過やセイバーとの接触度合に応じて、行動による消費魔力の増大や保有スキルのランク下降といった症状が相手サーヴァントに現れる。
戦闘が終了するまで、この症状は快癒しない。
【宝具】
『人史に泥を塗る覇剣(ヴァンダリズム)』
ランク:A++ 種別:対文明宝具 レンジ:1〜40 最大捕捉:30人
文明の破壊者としての畏怖がセイバーのもとに束ねられ、無骨な長剣の形をとった。
真名を解放する事で刀身を金属から黒い汚泥に似た流体の集合に変換し、敵にぶつける。
流体は硫酸に似た性質を発揮。サーヴァントの実体を溶かし斬るほか、対象が保有する宝具を一合につきランダムに一つ汚染する。
汚染された宝具はただの神秘の塊となり、担い手が真名を開帳しても全く反応しなくなる。
物体ではなく歴史や文化を蹂躙する宝具の為、逸話や概念をもとにした宝具であってもこの攻撃からは逃れられない。
この宝具を凌ぐ手段は回避を除くと、同ランク以上の破壊力と防御力のみ。またヴァンダル族の英霊は汚染の対象から無条件で外される。
汚染は永続ではなく、24時間経過すれば元の状態に戻る。汚された文化財が人々の手で修復されるように。
【weapon】
宝具に依存。
【人物背景】
古代ゲルマン人の一支族ヴァンダルの王。
兄弟のグンデリクから一行を引き継いだ彼は、ローマ帝国との対決姿勢を鮮明にし、北アフリカにカルタゴを首都とするヴァンダル王国を建設した。
ローマ市に攻め入ると略奪を行い、西ローマ滅亡への針を大きく進めた。
彼が崩御した時には、西ローマはイタリアの支配者の座から完全に滑り落ち、二度と返り咲くことはなかった。
外見は金髪碧眼の大男。暗色の鎧に毛皮の外套を身につけている。
【聖杯にかける願い】
手に入れてから考える。
【マスター名】辰巳
【出典】屍鬼(藤崎竜版、特にアニメ版準拠)
【性別】男
【Weapon】
なし。
【能力・技能】
「人狼」
屍鬼の襲撃を受けた後、完全に死亡することなく超常の力を得た人々。極稀に生まれる屍鬼の変異種。
不老、高い治癒力や襲った人間への暗示、夜目が利くといった屍鬼と同じ能力を備え、彼らと違い、人間の食事で生命を維持できる。
くわえて昼間でも活動でき、体温や脈拍を生前と変わらず保ち、呪物への高い耐性を持つ。
循環する血液を力の源としており、心臓や頭部の破壊によってのみ殺害する事が出来る。
原作中では屍鬼の完全体なのだろうと推測されている。
【人物背景】
屍鬼の首魁「桐敷」の下男。
沙子に血を吸われたことで変異体の人狼となるが、恨むことなく彼女を支え続ける。
外見は20代くらいだが、実年齢は不明。
静信に沙子を託した後から参戦。
【聖杯にかける願い】
沙子にあげる。
投下終了です。
投下します
――――幸せな国があった。
「姉上ェ! すげェぜッ! 漁師がこーんなにデッケェ魚を釣り上げてよォ!」
「ほう、それは……すごいな。しかし危ないんじゃないか? そんなに大きいと……」
「応ッ! そいつが跳びはねて漁師に襲い掛かるもんだから、俺がぐいと引き倒してハラに剣をブッ刺してやったぜッ!」
「ハハ……流石私の弟だ、エヴニシエン。これからも民を守ってくれ」
「応ッ!」
粗暴だが、優しく力持ちな弟がいた。
彼は乱暴者で人に迷惑をかけることも多かったが、決して悪人ではなかった。
ただ力が強い子供のような男で……大事な弟だった。
「あら……姉上ではありませんか。お散歩ですか?」
「ああ、少し休憩にな。……しかし、驚いたぞ。いったい何匹いるのだ?」
「34匹です。フフ、みんな可愛らしくて心が癒されます。姉上もいかがですか?」
「……ブランウェンは本当に優しいな。その優しさが獣にも伝わるのだろう」
「まぁ、そんな……でも、それでしたら姉上の方がずっと優しいということを、みんな知っていますよ」
優しく、たおやかな妹がいた。
彼女は美しく、誰にでも優しく、皆に愛されるような女性だった。
国一番の器量良しと名高い、自慢の妹だった。
私はそんな大事な家族に囲まれ、良き民に囲まれ、国を治めた。
誰もが笑う、美しい国だった。
……運命の歯車が狂い始めたのは、いつだったのだろう。
「ッざけんなッ! 海の向こうにブランウェンを嫁がせるのかよ!」
「落ち着けエヴニシエン。アイルランドは立派な国だ。悪くない縁談だろう」
「ブランウェンは! ブランウェンはなんつってんだ!」
「……王族の女に生まれた以上、覚悟はできていた、と。両国の交友のかけ橋となれることが誇らしいと、そう言ってくれた」
「ッ……! なんだよそれ……! 認めねぇッ! 俺は認めねぇぞッ!」
我がブリテンに訪れたアイルランド王マソルッフに、両国の交友の証としてブランウェンを嫁がせた時?
それとも、エヴニシエンを納得させられなかったことが原因か?
あるいは……怒りのあまりマソルッフを侮辱したエヴニシエンに代わり、償いの品々をマソルッフに贈ったことか?
「……ブランウェンから手紙が来た」
「おおッ! ったくアイツと来たら三年も手紙よこさねぇで……で、なんて書いてあるんだ!?」
「…………虐待を受けている、と」
「――――――――――――――――――――は?」
「助けてほしいと、書いてある」
「おい、なんだよ、それ……どういうことだよ、姉上ェッ!」
「これより我々は軍を編成し、アイルランド王マソルッフからブランウェンを取り返す。戦の支度をするぞ!」
マソルッフはエヴニシエンから受けた侮辱を忘れなかった。
その憎しみの捌け口として、妻への虐待を行った。
我々は軍勢を率いてアイルランドに攻め入ったが……かつて償いに贈った大釜が我々を苦しめた。
それは死者を蘇らせ、不死身の軍勢を作り上げる魔力を持つ大釜なのだ。
「そもそも、ブランウェンが酷い目に遭ったのは俺のせいだ」
「……待てエヴニシエン。何をする気だ」
「――――俺ァ頭悪ィからよぉ。いっつもみんなに迷惑かけてばっかで……でも、償いはちゃんとするから」
「おい、聞いているのかエヴニシエン!」
「出来の悪い弟で悪かったな、姉上! 今度こそ、ブランウェンを幸せにしてやってくれよなァッ!」
「エヴニシエンッ! やめろッ! エヴニシエン! エヴニシエン!」
その魔法の大釜を、エヴニシエンが命と引き換えに破壊した。
戦いは佳境を迎え、熾烈を極めた。
数多の兵が死に、将が死に……最後に残ったのは、僅かに七人。
私とブランウェンを含む、七人のウェールズ人だけが死産血河の上に立っていた。
だが、それもやがて六人になるだろう。
私は毒の槍を受けていたのだ。海神の子たるこの身であっても、そう長くはもつまい。
「聞け」
私は部下にある命令を下した。
「私の首を落とし、国へと持ち帰ってくれ。
私は海神の子だから、首を斬られてもしばらくは死なない。
国に帰れば、魔力を持つ食物がある。それを食べれば生き延びることが可能だろう。
私の体は毒に侵されている。さぁ、首を落とせ」
部下は忠実に命令を果たした。
私の首を落とし、六人と首一つがブリテンへと帰還する。
その旅路の中で、ふとブランウェンがさめざめと泣きだした。
「どうしたのだ、ブランウェン。あとはブリテンに帰るだけじゃないか」
「姉上……私は悲しいのです。例えブリテンに帰ったとして、王城には兄上も、兵士もいないのですから。
もはや兄上と語らうことなければ、あの立派な城を兵が見回ることも無いのだと思うと、あまりにも悲しいのです」
「……エヴニシエンは勇敢に戦った。兵士はまた集めればいい。あまり泣くな、ブランウェン。さぁ、もう休みなさい」
数日後……ブランウェンは悲しみで胸が張り裂け、死んだ。
エヴニシエンは死んだ。
兵士も皆死んだ。
そしてブランウェンも、また死んだ。
私もじきに死ぬだろう。
一体何のために私は戦っていたのだろうか?
私はこの戦いで何を得たのだろうか?
何も得ていない。私は失っただけだ。何もかも。
もはや生きようと言う気力も湧かないほどに、私は憔悴していた。
最後に残されたのは……あとはもう、あの美しいブリテンだけだ。
私は再度、部下に命令を下した。
「聞け。
私はここまでのようだ。ブランウェンも死に、もはや生きる力も失った。
だが、私はブリテンの王だ。なんとしてもブリテンだけは守らなくてはならない義務がある。
兵をいたずらに死なせた償いは自らでしようと思う。
私の首をロンドンに運び、フランスに向けて埋めて欲しい。
そうすれば、私の体に残る魔力でブリテンを守ることができるだろうから」
部下は涙を流しながらも、私の最期の命令を果たした。
私の首はロンドンに埋められ、ブリテンを守護し続けた。
その加護すらも、やがて騎士王の手で私の首が掘り返された時に失われてしまったが……
……結局、私は何も守れなかった。
何も救うことができず、いたずらに家族と兵を殺し国を衰退させた。
ああ、なんという暗君ぶりか。
私は本当に、酷い罪を犯した。
――――――だから、償わなくてはならない。
今度こそ私は、誰かを――――――
◇ ◆ ◇
「さっそく始めるか」
時は明朝夜明け。
場所はネアポリス王国の城壁から北西。
「もたもたすることもない……一瞬でカタをつけよう」
二人の男が、数メートルの間を空けて向かい合っていた。
互いに剣を持ち……腰には、ブツブツとできもののように『コブ』ができた鉄球をホルスターで保持している。
「ああ……武器は『剣』なのか?」
二人は決闘に臨んでいる。
目の前の相手に勝利し、誇りと正義を獲得するために。
髪をタイルのように刈り上げ、同じくタイル状の顎ひげを生やした男の名はウェカピポ。
対峙するのは……そのウェカピポの、妹の夫だった。
妹の夫が剣を投げ捨てる。
「当然! 『鉄球』だッ!」
ウェカピポも剣を捨てた。
二人がホルスターから鉄球を抜き放たんと腰に手を伸ばす。
「祖先から受け継ぐ『鉄球』ッ! それが流儀ィィッ!!」
妹の夫が吼えた。
鉄球――――ネアポリス王国王族護衛官に代々伝わる、鉄球の回転と投擲による戦闘技術。
当たれば一撃で勝負が決まるそれに、二人は同時に手をかけ――――
――――――――周囲の景色が、変わった。
「「――――ッ!?」」
それにより、双方手元が一瞬だけ狂う。
本当に、僅かなブレ。
互いに既に投擲モーションに入っていたがために、投擲は必然。
それが既に完了しかけていたがために、誤差は僅か。
だが実力が拮抗する者同士の戦いの中で、その極めて僅かな誤差は勝敗を決する要因となる。
鉄球が空中でぶつかり合い、『コブ』――――否、『衛星』がひとつ分裂して飛来。
着弾。
「ぐおッ……!」
苦悶の声を上げたのは、ウェカピポだった。
衛星が脇腹を貫き、血を噴き出す。思わずウェカピポは膝をついた。
「フゥゥ〜〜……中々……焦ったぞ、『ウェカピポ』……」
……対する妹の夫は、健在だった。
ウェカピポの衛星は外れたらしい。その体には傷ひとつついていない。
妹の夫は噴き出してきた汗を拭うと、蹲るウェカピポにツカツカと歩み寄る。
「『負け』を認めるか? 俺の衛星はおまえの脇腹を貫いている……おまえにもう勝ち目はない」
「まぁ認めても殺すがな……」
そのまま、ウェカピポの頭を蹴り飛ばす。
衝撃。
転倒。
星が飛ぶ。
ウェカピポは仰向けに倒れた。
立ち上がろうとしても、揺さぶられた脳と脇腹の痛みがそれを許さない。
妹の夫は顔色ひとつ変えず、ウェカピポの腹に足を乗せる。
「ぐ、ぅぅ……ッ!」
「思い上がったか? 『おまえ程度』がこのオレに勝てると……ナメるんじゃあない。
決闘はオレの勝ちだウェカピポ。おまえの妹と離婚はしない」
ギリギリと音を立てて体重をかけられる。
焼けた鉄を押し当てられたかのような激しい苦痛が傷口から奔り、口からは血が漏れ出す。
ひとしきりウェカピポが苦しむ姿を見てひとまず満足したのか、妹の夫がパッと足を離して屈みこんだ。
血を吐くウェカピポに顔を寄せる。
「いいかウェカピポ、もう一度言ってやる……
おまえの妹は殴りながらヤりまくるのがいい女なんだよ。
じゃなきゃあちっとも気持ちよくねーし、つまんねぇ女だった……」
「やめろ……わたしの妹を『侮辱』するんじゃない……ッ!」
「黙れ」
次は拳だ。
妹の夫の拳がウェカピポの顔を強打する。
「そんなに妹が好きなら、いいだろう……おまえにも妹と同じことをしてやる。
いいか、おまえの妹を殴ったぐらいにおまえを殴るし、帰ったら今おまえを殴るのと同じぐらいおまえの妹を殴ってやる……
……クソッ、そういえばここはどこだ? 急に場所が変わったが……まぁいい、今はおまえの話だ」
その後はもう、一方的だった。
繰り返し、繰り返し、何度も、何度も、ウェカピポの顔を殴打する。
抵抗できない人間をひたすらに殴りつける、サディスティックな快感が妹の夫の中を駆け巡る。
ウェカピポの脳裏で走馬燈のように今までの思い出が駆け巡る。
妹。王族護衛官としての職務。鉄球の修練。妹。結婚式。妹。海。妹の夫。妹。妹……
「おらッ! おらッ! このままテメーの妹でもわからねー顔にしてやるぜェェーーーーッ!」
もはやこれまでか。
すまない、妹よ。自分はいい兄にはなれなかった。
ウェカピポが定まらない思考の中で全てを諦めようとしたその瞬間……
「そこまでにしてもらおう」
凛、と空気が変わる。
恐らくそれは、文字通りに。
漂うのは潮風の香り。気づけば周囲は、白い霧が立ち込めていた。
「なに……? 何者だ? オレになにか用か? おまえになんの関係がある?」
妹の夫が振り返る。
そこにいたのは……長身の女だった。
妹の夫も決して背が低い部類ではないが、それでもこの女の方が大きいだろう。
黒い、ドレスを思わせる鎧に身を包んだ女だ。
時代錯誤……ということはできまい。護衛官も鎧ぐらいは着る。
だが、その豪奢ながらも実践的な鎧は、どこか異界の物であるかのような現実味の無さがあった。
例えば神話の戦士が現実に現れたらこのような姿なのだろう、という現実味の無さだ。
「帰れ、女……これは公正な『果たし合い』であり、家庭の問題だ……首を突っ込むのはやめてもらおう」
絶頂の如き快楽を邪魔されて気を悪くした妹の夫が、立ち上がって凄んだ。
ホルスターには鉄球がある。
この女がなにかするとしても、鉄球の一撃で仕留めてしまえばそれでいい。
自分の父親は財務官僚だ。女一人殺した程度ならいくらでも揉み消せる。
「動けない相手を一方的に殴り続けるのが『公正な果し合い』か?」
それでも、少しも怯まずに女はよく通る声で返した。
……妹の夫の中で怒りが込み上がってくる。
なんだこの女は?
なぜ自分の邪魔をする?
「話の分からない奴だ……いいかッ! 俺はこの男と…………」
妹の夫はウェカピポを指さし、叫んだ。
「……………?」
そして気づく。
『ウェカピポがどこにもいない』。
「なッどういうことだッ! ウェカピポは今確かにここにいたはず……!」
「……決闘、と言うのだったな。私の時代には無かったものだが……」
霧が深い。
だから見失ったのか?
女が一歩踏み出した。
手には、奇妙なほど大きな巨剣。
女の背丈もゆうに超える、巨人がこさえたかのような巨剣。
波打つような、鉤型になっているような、奇妙な形の巨剣。
「我がマスターに代わり、貴様に決闘を申し込む。
妻に不当な暴力を振るい、敗者を一方的にいたぶる貴様にもはや勇士の資格無し。
しかし私と正々堂々戦うのであれば、一人の戦士として貴様を遇しよう」
「なんだと……?」
妹の夫は、もはや爆発寸前だった。
なんだこの女は!
なぜこうも自分の思う通りにいかないことが連続する?
それもこれもウェカピポのせいだ。
あいつが妙なことを言いだしたせいでこうなっている。
婚姻無効? 法王の許可だと?
ナメやがって。あいつは殺す。そしてあいつの妹も一生嬲り者にしてやろう。
当然、目の前のこの女もッ!
「いいだろうッ! ブチ殺してやるぞ女ッ!」
鉄球を抜き放つ。
先祖より受け継いだ鉄球……誇りある流儀に乗っ取り、この一撃で殺してやろう!
妹の夫は鉄球を振りかぶり、投擲した。
女は巨剣を軽々と振るい、鉄球を叩き落とした。
「…………あれ?」
「死ね」
気づけば妹の夫の視界には、いっぱいに巨剣の刃が広がっていて……
「あの世で妻への償いを考えておくがいい」
ウェカピポの妹の夫の約束された栄光は、霧の中で血の海に潰えた。
◇ ◆ ◇
「……無事か、マスター?」
「ああ……どうにかな……」
女の手を借り、ウェカピポがよろよろと立ち上がる。
重傷だが、鉄球の技術を利用するなりすれば治療は可能だろう。
あるいは……足元で血の海に沈んでいる妹の夫のように真っ二つになってしまえば、それもかなわないが。
まさか護衛官が文字通り『左半身を失う』とは、悪い冗談だ。
妹の夫が死んだという喜びと、それを成したのが自分でないという寂寥感がウェカピポの中にあった。
「それで、キミは……」
「私は貴方のサーヴァント、シールダー ――――ベンディゲイドブランだ。貴方と戦うために参上した」
聞きなれない名だ。
が、女……シールダーの言葉と同時に、数多の情報がウェカピポに流れ込んできた。
聖杯戦争、サーヴァント、令呪、聖杯……
「……なるほど、理解した。わたしはどうやら、随分と遠くまで来てしまったようだな……」
左手の甲に刻まれた令呪を見る。
極東の国、日本。
……それだけなら、まだ帰ることもできただろう。
問題はこれが、『未来の日本』だということ。
ここにはウェカピポの妹はいない。『19世紀のネアポリス王国』に帰らない限りは、妹に会うこともできない。
もう一度、血だまりに視線をやる。
死んでいる。妹の夫が。これで妹に暴力を振るう者は誰もいない。
だが、妹は目が見えなくなってしまった。
ほかに家族はいない。妹はこれからどうやって生きて行けばいい? 自分は未来の日本にいる。
「シールダー」
ウェカピポの中には静かな決意があった。
勝ち残らなくてはならない。
聖杯に至らなくてはならない。
漆黒とも黄金ともつかぬ炎が、瞳の中で燃えている。
「わたしは聖杯を獲得し、妹のもとへ帰る。
できれば妹の目も治してやりたい……協力してくれるな?」
それを受けてシールダーは、寂しさと嬉しさをない交ぜにしたような表情で答えた。
「当然だ。
私はそのためにここにいる。
我が父なる海に誓い、貴方を必ずや聖杯まで守護し続けると誓おう」
ウェカピポは誓った。
今度こそ、妹を幸せにしてみせると。
同時に、シールダーも誓った。
今度こそ、誰かを救ってみせると。
深い霧の中で、祝福するようにカラスが鳴き声を上げた。
【クラス】シールダー
【真名】ベンディゲイドブラン
【出典】マビノギオン
【マスター】ウェカピポ
【性別】女性
【身長・体重】187cm・65kg
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力A+ 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運E 宝具A++
【クラス別スキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではシールダーに傷をつけられない。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
神性:B
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
海神リル、あるいは海神マナナーン・マクリールの子と伝わっている。
カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
戦闘続行:A+++
シールダーは例え首だけになった状態でもしばらくは生き延びることができる。
生命力や執念深さではなく、魔力の領域にある神代の生存能力。
魔力放出(水):A
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
宝具である特異な体質の恩恵により、激流のジェットが戦闘を補佐する。
【宝具】
『海王結界(インビンジブル・スウィンダン)』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1000人
海神リル、あるいはマナナーン・マクリールの子であるシールダーの肉体そのもの。
彼女の肉体は水の属性を持ち、水の三態変化を自在に可能とする。
巨人である彼女は本来非常に巨大な肉体を持つのだが、普段は肉体を霧状にして拡散させることで人間大のサイズに収まっている。
そしてシールダーの死後、その首を埋めた土地が外敵から侵略されなかった逸話から、この霧には味方を外敵から隠す性質がある
霧の内部に存在する自軍は「気配遮断:A」を獲得。
シールダーは霧の内部の存在に対し「気配察知:A+」に相当する効果を得る。
『祝福された勝利の剣(エクスカリバー・マクリール)』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大細く:1000人
濁流の一撃。
シールダーの肉体を構成する水を海神の加護と魔力によって増幅させ、巨剣あるいは腕部を起点に水流を放つ。
発動に際し周辺の水分を取り込むことで消費が軽減されるため、水辺での使用が望まれる。
【weapon】
『国剣イニス・プリダイン』
ブリテン島にも似た形状の巨剣。
宝具というわけではないが、シールダーの『国を守る』という誓いの象徴であり、極めて頑健。
シールダーはこの武器を剣兼盾として縦横無尽に振り回す。
【特徴】
理知的な瞳を持つ、長身の女性。
金髪を三つ編みにして流し、頭頂部にピョコンとアホ毛の生えた……いわゆるアルトリア顔。
本来は山のように大きな巨人なのだが、宝具によって人間大のサイズになっている。
が、それでも背は相当高く、胸や尻も豊か。
これは彼女に備わる海の神性が、雄大さと母性を内包する概念であるため。全てを包み込む母なる海、というわけである。
極めて善性で法や徳目に厳格な仁君。
何事にも真面目で真摯に当たる人格者だが、真面目すぎる節もある。一人思い悩むことも多い。
誰にでも平等に厳しく、誰にでも平等に優しい。
【解説】
ブリテンを守護する偉大な王――――アーサー王の原型のひとつとも言える巨人王。
名は「祝福されたカラス」を意味し、海神であるリル、あるいはマナナーン・マクリールの子とされる。
ある日アイルランド王マソルッフがブリテンを訪れ、友好を示し国交と和睦を提案してきた。
ベンディゲイドブランはこれを快諾し、妹のブランウェンとマソルッフの婚姻を執り行う。
が、弟のエヴニシエンが結婚の報告をしなかったことに怒り、マソルッフの馬を殺して侮辱。
怒るマソルッフに対し、ベンディゲイドブランは謝罪と共に死者を蘇らせる魔法の大釜などを贈り、場を収める。
しかしマソルッフは帰国した後にエヴニシエンの行いに改めて腹を立て、ブランウェンに虐待をし始めた。
耐えかねたブランウェンは兄に助けを求め、これを聞いたベンディゲイドブランは激怒して軍を率い、妹を取り戻すためにアイルランドに戦争を仕掛ける。
戦争は、最終的にベンディゲイドブランを含む七人のブリテン人を除き全員が死ぬという激しい争いになった。
だがベンディゲイドブランは毒槍を受けて瀕死であったため、家臣に自らの首を切り落とし、国に持ち帰るよう命じた。
ブリテンに帰れば、魔法の食べ物によっていくらか生き延びることができるからである。
しかしブランウェンは悲しみに胸が張り裂けて死に、ベンディゲイドブランも国まで命が持たず死んでしまう。
死の間際、ベンディゲイドブランは自らの首をロンドンに運び、フランスの方へ向けて埋めろと言い残す。
これによりロンドンは長らく誰にも侵略されることがなかったが、後にこの首が掘り起こされてしまったため、国の衰退を招いたという。
【サーヴァントとしての願い】
今度こそ、誰かを救う。
【マスター】
ウェカピポ@STEEL BALL RUN
【能力・技能】
『レッキング・ボール(壊れゆく鉄球)』
ネアポリス王国王族護衛官に伝わる鉄球の技。
鉄球を回転と共に投擲し、攻撃を行う技術。
護衛官が使用する鉄球は『衛星』と呼ばれる小さなパーツが鉄球表面に14個ついており、投擲後にこの『衛星』も飛んでいく。
『衛星』によるダメージはもちろん、これがかすっただけでも衝撃が人体に伝わり――――『左半身失調』を起こす。
これは十数秒間の間自分から見て左側が認識できなくなる状態であり、左半分に限り一切の五感を失う。
まるで体の左半分が消滅し、世界も半分に消滅したかのような錯覚に陥るが、あくまで錯覚である(脳が認識できていない状態)。
通常の鉄球の技術(回転が伝わったものを『硬質化』させる等)も行えるようである。
その他、決闘の際に剣を用いるのか尋ねたことから、剣技の心得がある可能性も高い。
王族護衛官として槍を持つ姿も見受けられることから、同様に槍術の心得がある可能性もある。乗馬もできる。
【人物背景】
ネアポリス王国の最重要警備王族護衛官……だった男。
七つ下の妹を持ち、仕事を通じての友人との結婚を勧め、二人を結婚させた。
この友人というのは財務官僚の息子であり、将来の地位と財産を約束されている青年。
結婚は幸せなものになる……はずだった。
妹の夫は妻に暴力を振るっていたのだ。それも、失明するほどの過激な暴力を。
それを知ったウェカピポは怒り狂い、裏から手を回して『婚姻無効』の許可を法王より取り付ける。
しかしそれが逆に妹の夫の逆鱗に触れた。
妹の夫はウェカピポに決闘を申し込み、ウェカピポは紙一重でこれに勝利……妹の夫を殺害する。
だが腐っても財務官僚の息子。彼は国家にとって重要な人物過ぎた。
結果、ウェカピポは決闘に勝利しながらも国を追われてしまう。
視力を失った妹はひとりでは生きていけないだろう。失意の中、彼はアメリカ合衆国で聖人の遺体を巡る争いに身を投じることになる。
今回は妹の夫との決闘中というタイミングからの参戦。
【マスターとしての願い】
国へ帰り、妹を幸せにする。
投下を終了します
投下します。
ザクリ、ザクリ。
星灯りの一つも見えない夜。
人気のない雑居ビルの屋上で、「ソレ」は行われていた。
「……閉じよ(みたせ)、閉じよ(みたせ)、閉じよ(みたせ)」
ザクリ、ザクリ。
濡れた重い音を鈍く響かせながら、肉切り包丁が無慈悲に振るわれる。
男は―――若く、惨劇の場には似つかわしくない派手な服装の男は、歌うように言葉を続ける。
遠く彼方へ繋げる、呪わしい儀式の歌を。
「汝、聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば答えよ」
ザクリ、ザクリ。
言葉と共にナイフが閃く。暗闇の中、真っ赤な血で描かれた陣が僅かに輝きを宿し始めた。
今度こそ行けるか。男は興奮で乾く唇を、己の舌先で湿らせる。
最初に「5人」で試し、次に「8人」。それも駄目で、これで「13人」。
既に世間ではちょっとした騒ぎになり始めている。
流石に「20人」は厳しい。故にこれが最後の機会だった。
「抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ――――!」
そうして、儀式を締め括る最後の一節。
全身の回路を魔力が駆け巡る感覚に、男は僅かに歯を食いしばる。
鮮血で刻みつけた召喚陣もまた、爆ぜ割れんばかりの輝きを放ち――――
「………くそっ」
男は静かに悪態をついた。体力も気力も削がれて、最早怒鳴り散らす元気すらない。
何も起こらない―――上手く行きかけたと思ったところで、それ以上は何も起こらなかった儀式の跡。
輝きも失せた陣の上に、男は手にしたナイフを投げ捨てた。
「結局ダメか………とんだ無駄骨だぞ、くそっ」
誰もいない、男以外に「生きている者」は誰もいない雑居ビルの屋上。
今まさに生きたまま解体された、若い女の死体。
その哀れな犠牲者と同様に殺害された者達、合わせて12人分の末期の血で描いた召喚陣。
何より、使える伝手をすべて使って手に入れた六本の業物。
霧の都に永遠の伝説として刻まれた殺人鬼、“切り裂きジャック”が実際に犯行に用いたとされる凶器。
それらをこの場に揃えるための労力が、今まったくの無駄に終わってしまった。
男―――相良豹馬が呼び出すはずだったアサシンのサーヴァントは、結局彼の前に現れることはなかった。
「何が足りなかった? 触媒はある。条件も揃えた。なのに召喚できなかった………」
やはりたかが120年程度の亡霊では、神秘としての純度が足りなかったのか。
あるいは英霊と呼べるかも怪しい存在を呼び出そうとした事自体が間違っていたのか。
どれもありそうではあるし、どれも決定的とは言い難い。
何にせよ、“切り裂きジャック”を召喚する試みはこれ以上は無駄であろうと豹馬は結論付けた。
思考を切り替える。次に自分はどうするべきなのか。
聖杯戦争―――万能の願望機を巡る殺し合いに挑むためには、サーヴァントの召喚は何事にも勝る優先事項だ。
「“切り裂きジャック”は駄目だった………そうなると………」
低く唸る。相良豹馬は、こういう事態になる可能性も想定はしていた。
如何に“切り裂きジャック”の名が信仰を集めているとはいえ、英霊と呼べる程の神秘を得ているものか。
すべてが不確定だった。故に「召喚に失敗する」ことも相良豹馬は考えて行動に出た。
魔術師として劣等である自分が、霊格の低いアサシンを使役することで聖杯戦争の舞台裏で暗躍する。
そんな希望に満ちたメインプランが不可能となった場合の、次善の策。
「………………」
チラリと、足元に置かれた大きなボストンバッグを豹馬は一瞥した。
その中に入っているのが予備の触媒だ。望んだ英霊を呼び出す為の楔となる聖遺物。
気は進まなかった。気は進まなかったが、これ以上の手札がないのも事実。
故に豹馬はバッグの口を開き、中にしまわれていた「ソレ」をゆっくりと取り出した。
真っ黒い、ゴワゴワとした毛皮の塊を。
「足柄山にいたらしい、熊の毛皮か」
“切り裂きジャック”のナイフを集める過程で、偶然手に入れることができた逸品。
曰く、彼の有名な坂田金時――――足柄山の金太郎が跨っていた熊の、本当の毛皮であるらしい。
真偽の程は分からない。あくまでこの毛皮を買い取った人物がそう言っていたに過ぎない。
だが実際に、毛皮には強い魔力が宿っていた。
それなりの魔術師なら、呪物として用いるにも一級の品であるのは間違いない。
「………出来れば、あまり目立たない方が性にあってたんだけどな」
これほど縁のある毛皮で召喚を行えば、現れるのは間違いなく坂田金時その人だろう。
日本という国であれば知らぬ者はいない、誰もが認める大英雄だ。
強さに関しては考える必要もない。
信仰の強度も考えれば、サーヴァントとして最強格にもなり得るだろう。
聖杯戦争を勝ち抜くために、強力な駒を手に入れようとするのは至極当然の事だ。
―――自分のような二流以下の魔術師が、果たしてそんな怪物を制御し切れるのか、という問題を除けばだが。
「文句を壁に垂れても仕方ない、か。………あぁそうだ、俺が上手くやれば良いだけの話だ」
幾ら大英雄と言っても、子供向けの御伽噺で知られるような英雄だ。
ならば上手く利用する方向に考えれば良い。
どの道、自分の魔術師としての能力では戦闘そのものに役立てる事は難しい。
魔力供給の問題で魔術の行使に制限が掛かっても、影響は小さいはずだと前向きに考えることにした。
「よし。………よし。まだ俺の聖杯戦争は、始まってすらいないんだ」
この程度の失敗で怯んでどうする。
最善の選択肢を失ってしまったが、戦う意思があるなら前には進める。
針金のように硬い毛皮を、豹馬はあえて強く握り締めた。
「召喚を行うなら、こんな街中じゃない方が良いな。念のため、生前に縁が深かった状況を再現して………」
ぶつぶつと独り言を零しながら、相良豹馬は踵を返す。
予め仕掛けておいた術式を起動させれば、その場に広がっていた惨劇のすべてが燃え尽きていく。
煌々と燃える炎を背に、聖杯戦争に望む魔術師は自らが目指すべき地を定めていた。
そう、こんな文明に閉ざされた人工物の世界では駄目だ。
足利山の金太郎。ならば呼ぶに相応しい場所は、一つしかない。
○ ○ ○
円蔵山。冬木市における最大級の霊地である山、その中腹。
触媒である毛皮を敷いた召喚陣を前にして、相良豹馬は大きな手応えを感じていた。
山全体を満たす高濃度のマナに触媒として一級品の呪物。
完璧だ。無理な条件を無理やり達成しようとした先ほどまでの儀式とは違う。
これならば確実に召喚する事ができる――――絶対の確信を抱いて、豹馬は令呪が刻まれた右手を掲げた。
今まさに、現代文明においてあり得ざる奇跡が執行される。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師―――――」
一節、一節。英霊を招く為の言霊を紡ぐ度に、莫大な魔力が膨れ上がっていく。
召喚陣は早くも赤い輝きを宿し、全身の魔術回路は過去に例を見ないほど激しく高ぶっている。
オドの流れに神経が焼き切れる激痛に苛まれながらも、豹馬は笑みを浮かべずにはいられなかった。
行ける。今度こそ、儀式は成功する。
「―――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ!」
風が吹く。激しい風が、極小規模の竜巻の如くに。
肌を裂くような冷たさを前にしても、相良豹馬は怯むことなく続けた。
「誓いを此処に! 我は常世すべての善と成る者、我は常世すべての悪を敷く者!」
令呪が熱い。深淵の底の底から、強大な何者かが這い出そうとしている。
圧倒的な興奮。薬物を用いた性交でさえ、これほどの快感を味わうことは不可能だろう。
最早冷静な思考など欠片もなく、激しくこみ上げる衝動だけが男を突き動かす。
「汝、三大の言霊を纏う七天! 抑止の輪より来たれ、天秤の………!」
守り手よ。最後の一節を相良豹馬が言葉として刻もうとする寸前。
その一節が声になるよりも早く、「ソレ」は世界の側へと這い出してきた。
「ッ!?」
爆発。ダイナマイトが炸裂したかのような衝撃が、男の全身を強く打つ。
かろうじて踏み止まったが、豹馬には一体何が起こったのかまったく理解ができなかった。
召喚には成功したのか。サーヴァントは?
沸き立つ土煙の向こうに、望む姿を探そうとして――――ふと気付いた。
何かがいる。星灯りの一つもない夜の山。その暗闇の中に、更に黒々とした何かが。
魔術で強化している豹馬の眼は、やがて「ソレ」の輪郭を捉えた。
「…………は?」
最初、黒い壁が地面から生えてきたのかと思った。
違う。それは濃い色の体毛に覆われた、驚く程に巨大な「生物」だった。
いや、これが召喚に結果として現れた存在なら、生物と呼ぶのは正しくないだろう。
英霊。サーヴァント。相良豹馬はとうとう召喚の儀式に成功したのだ。
しかし、これは―――――
「熊、だよな………?」
二本の後ろ足で屹立する、文字通り見上げる程に巨大な熊。
それは羆と呼ばれる種だったが、相良豹馬は熊の分類などに興味はなかった。
足柄山の金太郎――――坂田金時を召喚するはずだったのに、目の前には何故か熊が突っ立っている。
まさか、毛皮の本来の持ち主を呼んでしまった?
想定していなかった可能性を前に、豹馬は苛立たしげに自分の頭を掻き毟った。
羆は動かない。目の前のものを、赤黒く燃える瞳でじっと見下ろしている。
その奥に潜む感情が何なのか。相良豹馬はまったく察する事なく、悠長な仕草で顔を上げた。
如何にサーヴァントが英霊であろうと、所詮は使い魔――――彼は余りにも致命的な誤解をしていた。
「おい」
お前は自分が召喚したサーヴァントなのか。
サーヴァントであるなら、ちゃんと意思の疎通は行えるのか。
聖杯戦争に望むマスターとして、必要最低限の確認を取る必要がある。――――あった。
けれど二の句を告げる前に、相良豹馬の意識は断絶した。
自分の身に何が起こったのか。自分は何を呼び出してしまったのか。
何一つ理解する暇もなく、彼の魂は粉々に砕け散った。
○ ○ ○
…………腰から上が消失した男の下半身が、玩具のようにその場に崩れ落ちた。
けれど、『彼』は――――相良豹馬が呼び出した羆は、それを一顧だにしなかった。
バリ、ボリ。ただの一口で喰い千切った、自身を召喚したマスターであった者の肉を咀嚼する。
羆は腹を空かせていた。そして目の前に人間がいた。だから喰った。
マスターであるとかサーヴァントであるとか、そんな理屈は『彼』の頭の中に存在しない。
あるのは飢餓。あるのは憎悪。
人を喰わねば癒されぬ飢餓と、人を喰わねば治まらぬ憎悪。
「■■■■………」
それはかつて、遠く北の地にて人々を襲った災厄の具現。
世界に“人理”が根付く以前より、人間の生存を拒む“山”という異界を象徴する獣。
「■■■■■―――――ッ!!!」
吼える。吼え猛る。獣は言葉を解さない。
ただ己の中に渦巻く激情を形にするように、山の大気を震わせる。
一歩踏み出す。世界が軋んだ。一つ呼吸する。世界が揺れた。
世界は――――“人理”により支えられた「今の世界」は、その異物の存在を許さない。
異物。相良豹馬は死ぬ瞬間も気付く事はなかった。
自分が呼び出したモノが、英霊などと呼ぶべき存在ではないことに。
「■■■■■■ッ!!!」
精霊。或いは零落した神。
羆とは、古くは“山の神(キムンカムイ)”の化身であり、最高位の霊格を持つ神性存在として崇められていた。
神代は彼方へ遠ざかり、神獣や幻獣はすべて“世界の裏側”に消え去って。
最早この地には現れるはずのないモノ――――それが今、悪夢に等しい奇跡によって顕現する。
荒御魂。悪しき神(ウェンカムイ)。呼び名はそれぞれだ。
呼ぶ名が変わっても、それが持つ本質は変わらない。
“人理”を拒絶し、“人理”を否定する災厄。
かつて神話伝承に知られる数多の英雄達が挑んできた、人類という種の天敵。
「■■■■■■■■■■■―――――ッ!!!」
大気を引き裂く咆哮に招かれ、風が渦巻く。
それはやがて冷気を伴い、氷雪混じりの嵐へと変わっていく。
世界を己の心象で塗り潰すのではなく、今の世界に上塗りされてしまった古き世界を呼び起こす業。
『彼』が知る、本来の世界の姿。生も死も、すべてが等しく在る残酷な世界。
激しく吹き荒ぶ“熊風”を連れて、『彼』は夜の闇を進んでいく。
――――腹が減った。酷く腹が減っていた。先ほどの痩せた人間の肉だけでは、まるで足りない。
餌がいる。この飢餓を埋めるための餌が、この憎悪を慰めるための餌が。
大きな魔力の塊――――先ほどの男を喰った時に取り込んだ、三つの透明な魔力の塊。
それを喰ったせいか、力は総身に漲っている。その代償か、腹の減り具合はとても深刻だ。
喰らおう。喰らい尽くそう。この世界を奪った者達を、骨の髄まで食い散らそう。
「■■■■………!」
こみ上げる感情は歓喜か、それとも更なる憤怒か。
その真実は誰にも――――獣に堕ちた『彼』にも分からぬまま、嵐が訪れる。
遠い北の地を地獄に変えた災厄。それが今、更なる暴威となって冬木の街を覆い尽くそうとしていた………。
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【クラス】アサシン
【真名】羆
【出典】史実(三毛別羆事件)
【マスター】相良豹馬
【性別】男性
【身長・体重】350cm・340kg
【属性】混沌・狂
【ステータス】筋力A++ 耐久A++ 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具B
【クラス別スキル】
狂化:EX
パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
人を喰い殺す“悪しき神(ウェンカムイ)”と化したバーサーカーに理性と呼ぶべきものはない。
狂化スキルの恩恵を最大限に受けながら、野生の本能のままに行動する。
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
特徴的な外見と恐ろしい程の巨体を持ちながらも、事件が起こるまでその存在を知られていなかった。
自らの意思で襲撃を行うと気配遮断のランクは大きく落ちる。
【固有スキル】
神性:A(A+)
神霊適性を持つかどうか。
アイヌの伝承において羆とは最高位の霊格を持つ“山の神(キムンカムイ)”の化身であるとされる。
それ故に本来ならば最高クラスの神霊適性を持つが、人に害をなす悪神(ウェンカムイ)として
現界しているためランクが低下している。
怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用することで筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
戦闘続行:B
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
二重召喚:B
アサシンとバーサーカー、両方のクラス別スキルを獲得して現界する。
極一部のサーヴァントのみが持つ希少特性。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
危機的な状況から素早く脱出できる。
単独行動:A+
マスター不在でも行動できる能力。
本来は所持していないスキルだが、令呪3画分の魔力を得た事で受肉を果たしている。
【宝具】
『羆嵐(くまあらし)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:?
人間の生存を許さない“山の異界”で世界を閉鎖する結界宝具。
アサシンを中心に恐るべき猛吹雪を発生させ、範囲内の対象を閉じ込める。
この時、対象となった犠牲者は高ランクの直感スキル等以外では異常性に気づかない。
吹雪の中では一般人は生存が困難になり、英霊でさえ全能力値、スキル、宝具ランクが最低でも1ランクダウンする。
この効果は吹雪の中心=アサシンに近づくにつれ増加する。
かつて一つの集落を恐怖に陥れた逸話により、最大で一つの都市全体を覆うことが可能。
性質としては固有結界に近いが、固有結界は世界を侵食するが故に、その修正に抗うため膨大な魔力を必要とする。
しかしこれは山の神たる羆が持つ「異界常識」であるため、世界の修正を受けない。
よってこの種の宝具としては破格の低魔力で発動・維持する事が可能である。
現在の世界―――即ち“人理”によって支えられた世界を拒絶し、否定する性質から“対界宝具”に分類される。
【Weapon】
『爪、牙』
生来備えている鋭い爪と牙。
世界各地の神話伝承において、数多の英雄達を葬ってきた原初の『武器』。
如何なる名刀よりも鋭く、如何なる魔剣よりも禍々しい。
【解説】
羆が引き起こした中では、世界最大最悪の獣害事件として広く知られる『三毛別羆事件』。
大正四年(1915年)に北海道の苫前郡苫前村の三毛別で実際に起こった熊による獣害。
その惨劇を引き起こした“袈裟懸け”の異名で呼ばれる羆。
羆は「一つの食べ物に執着する」性質を持つとされ、この羆の場合は「人間の女性」に執着していたという。
腕利きのマタギである山本兵吉に射殺されるまで、合わせて8人の犠牲者を食い殺した。
――――今回召喚されたのは、この事件を起こした羆本人(?)とも言えるし、そうでないとも言える。
羆は“山の神”が化身した仮の姿で、肉体が死する事で再び“山の神”の座へと戻っていく。
『彼』は肉体の死を経て“山の神”へと戻り、そして再び“悪しき神”として地上へと降り立った。
人理を守る英霊ではなく、人理を焼却せんと憎悪を滾らせる大いなる獣。
行方知れずとなった「三毛別羆事件の羆自身の毛皮」という触媒。
その他様々な要因が複雑に絡んだ結果、偶発的に呼び出されてしまった怪物。
それがこのアサシンの本質である。
【特徴】
破格の巨体。胴体に比べて異様に頭が大きいのが特徴の羆。
胸から背中にかけて白い毛が通っているので「袈裟懸け」の通称でも呼ばれていた。
【サーヴァントとしての願い】
人理焼却
【マスター】
相良豹馬@Fate/Apocrypha
【能力・技能】
・暗示や潜伏などの魔術
・ホストとしてそれなりにやっていける程度にはイケメン
【人物背景】
新宿で表向きはホストをしていた魔術師。
Apocrypha世界線においては千界樹ユグドミレニアの末席に加わっていたが、ここでは単に三流魔術師の出に過ぎない。
【マスターとしての願い】
あったとしても最早何の意味もない
投下を終了します。
投下します
エロティシズムは、死にまで至る生への称揚だ。
――ジョルジュ・バタイユ
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
いくら考えても、私が此処にいるのかが理解出来ない。
確かに、大お爺様の悲願――いや、あの人の夢を果たさせてあげようと、初めて乗る筈だった飛行機で冬木の街に赴いて、聖杯戦争を勝ち抜く。
その、筈だったのだ。確かに私は今、冬木の街にいる。そして、ソファに座りながら、自信の左手の甲に刻まれた、紅く光る痣の様なものを見つめた。
赤子に蛇が巻き付きているような形に、私には見える。何て、不吉なタトゥーなのか。これからの未来の不吉さを暗示させる、何ていやな、令呪なのだろうか。
私は確かに、聖杯戦争を参戦し、勝ち抜く筈の女だった。
だけど、令呪が刻まれるのは実際には、最愛の人、衛宮切嗣の筈であり、いわば私は彼がマスターであると気付かせない為の、彼が言う所のデコイだった筈。
なのにどうしてか、私はマスターとして聖杯に認められ……何よりも、何故今私は冬木の街のアインツベルン城にいるのか。
私はまだ、『本国のアインツベルン城』にいた筈なのに。考えても解らない。だから私は、ソファに座り、良く冷えた水を口にした。
何度も何度も、この冬木に来てから考えて来た事だが、やっぱり考えが纏まらない。此処で、眠るべきなのだろうか。夜も遅い、そうしよう。
「もうおやすみの時間かしら、アイリスフィール?」
ガラスで出来た鈴か風鈴でも鳴らすかの様な、愛らしい女性の声が、私、『アイリスフィール・フォン・アインツベルン』の耳に転がって来た。
声の方向を見てみると、其処には、世故に疎く、俗世の塵埃に疎い私ですら、これは『美しいもの』だと解る美少女が立っていた。
「清楚なものね、女の一番元気になる時間にお眠りなんて」
「淑女は規則正しい生活と慎みを主とするものよ、アヴェンジャー」
「堅い事ばかり言うと、女を楽しめなくなるわよ、アイリ。男を悦ばせる女こそが、真の淑女なのよ。お解り?」
つくづく、いやな性格をしていると、引き当てた自分でもそう思う。改めて私は、彼女の方に顔を向ける。
愛娘であるイリヤがもしも、順当に成長して、十数歳になれば、きっと体格はこうなるのだろうか? 性格だけは、似て欲しくないけれど。
風の任せるがままに伸ばした彼女の黒髪の輝きに比べれば、黒メノウの輝きなど安っぽいおもちゃのようなそれにしか見えない。
その上肌の色は、日の当たらない雪国で生まれた人間のような白磁色のそれであるのが、白と黒と言う見事なコントラストを作り上げている。
だがそれ以上に目を瞠るのは、その顔立ちの艶麗さ。柳の葉のように形の整った長い眉、大きく見開かれた瞳に、瑞々しい唇。
全てが、目も鼻も唇も、耳の形に至るまで、美の精髄足らぬ所など何一つとして彼女には存在しない。洗練された美そのもの。それが、彼女だった。
だが、その身に纏っている、薄らと透き通って身体のラインやその恥部を微かに仄めかせる黒いナイトドレスは、自分は清楚の対極の存在と言っているようなもの。
ドレスの下には、何も纏っていなかった。生まれたままの姿であり、その身体には、汗と、ぬらりとした液体が伝っていた。
何があったのかは、容易に想像が出来る。背中や腰の辺りからコウモリに似た翼を生やした裸の女性を、左に右にと侍らせていれば当然である。
彼女達にも、淫らな一時を過ごした後だと解る雫が、身体と髪とを淫靡に濡らしていた。
「聖杯戦争、まだ始まらないのかしら?」
彼女――アヴェンジャーのサーヴァント、『リリス』が言った。聖杯戦争の開催を期待しているらしい。劣悪とも言えるこのステータスでだ。
私の目に映るリリスのステータスは、とてもではないが優秀な三騎士のものには遠く及ばない。勝ち抜く事など困難に近い。
――しかしそれでも、彼女が聖杯戦争について並ならぬ自信を有している事に、思いあがっていると言う評価を私は下さなかった。
そう思い込むだけの力が、リリスにはある。何故なら彼女は、夢魔の女帝であり、アダムとイヴの子らへの永劫の敵対者であるから。
「この娘達で無聊を慰めるのも飽きたのだけれど。やっぱり交わうのなら同じ性より違う性ね」
要するに、人間の男性で、己の欲する所を満たしたい、と言う所なのだろう。淫乱と言う言葉がこれ以上相応しい存在も、ないように思う。
「あらお母様、私達ではご不満ですの?」
リリスの右腕に抱き着いていた、銀髪を涼しげな短髪に纏めている女性が甘えた様子で言った。
一目見ただけでは卑猥なものなど見た事もないのではと思う程清楚で、洗練された美麗さを誇っているが、腰の辺りから生えている一対の黒コウモリの翼を見れば解るが、つまるところはそう言う生命体と言う事になる。
「もっと遊ぼうよお母さぁん」
言ってリリスの左腰の辺りに抱き着くのは、見た所イリヤと年齢も背格好も変わらない、紫色の髪をした褐色の少女だった。
彼女もまた身に纏う服がなく、その背中の辺りからコウモリの翼を生やしていた。
「あぁ、私の愛し子達。不満と言う訳じゃないのよ、同じ技ばかりじゃ飽きるだけ。貴方達だって、そろそろ好みの男と褥を共にしたいでしょう?」
「うん」
「えぇ」
「はい」
即答した。最後の返事は、リリスの後ろにいた、此処にいるリリス以外の三人の中で一番年上。
もっと言えば、私ぐらいの年齢と背格好をした、青い髪の女性だった。彼女は翼の代わりに、臀部に近い所から白い狼に似た動物の尻尾を生やしている。
「……聖杯戦争の事なら、まだ始まってるかどうかも解らないわ。もう少しだけ我慢してて」
「その間、どうやって退屈なのを過ごせば良いのかしら? アイリ、私達は『夢魔』よ」
――そう。
リリス、と言う存在をもしも、サーヴァントとして召喚するのであれば、二つの側面の内どちらかで召喚される可能性が高い。
一つは、知恵の実を齧った事でエデンを追放された、『唯一神』の手によって自ら作られた神造の人間・アダムの最初の妻、つまり、同じ人祖としての側面。
そしてもう一つが、楽園を自分から飛び出し、楽園の外で跋扈していたとされる嘗ての地球の原生生物と交わり、無数の悪魔の子を成した、夢魔の女帝としての側面。
何の因果か知らないけれど、私はリリスと言うアヴェンジャーを人祖としてでなく、夢魔の女王、あらゆる書物の中で語られる悪魔として召喚してしまった。
西欧の古書や魔術書に記され、各地に伝わる伝承の中で語られる通り、彼女或いは彼らは、性に対して非常に放埓な性格をしている。
男や女の精を吸って生き、男の性で孕んで子を産み、女を孕ませ悪魔の子を成させる。それこそが、夢魔と言う悪魔の本質である。
つまり彼らの行動原理の中で性行為が非常に重要なウェートを占めているのは、性行為が彼らを悪魔足らしめる最も重要なファクターであるからだ。
精を吸わねば生きていけない、と言う事は言ってしまえば彼らにとってセックスは人間で言う所の食事と同じ。
リリスは夢魔として召喚されている以上、人の精を求める性が強い。が、生憎今はサーヴァントの身である為、私から供給される魔力がある限り、
性行為などしなくても現界が可能である。それでもなお彼女らが行為を求めるのは……、それが、彼女らにとっての生き甲斐だから、なのだろうか。やはり、いやらしいとしか言いようがない。
「聖杯戦争が始まったら、相手のマスターを幾らでも枯れ果て……殺しても構わないわよ」
表現を途中で私は言い直す。顔に熱が上るのを感じる。それを見てリリスが、クスッと笑った。
私が口にするにはそぐわない表現を使いかけたのには訳がある。アヴェンジャーは直接戦闘が出来ない。
夢魔と言う種族は夢の中でのみ本領を発揮出来る悪魔達で、戦う場所が夢や悪夢と言う世界である限り先ず彼らには負けと言うものが訪れない。
その中では全能に限りなく近い万能である。何故、全能と言う言葉を使わないのか。リリスから聞いたが、夢魔は夢を見せている相手に、これは夢魔の魔術だと気付かれたり、
所謂明晰夢の状態にあると、夢魔は著しく弱体化。夢魔と言う種族の最頂点に立つ彼女ですら、ただの一般人に敗れかねない程に弱体化してしまうのだ。
その上夢魔は現実世界に引っ張り出されても弱い。夢の中で凄まじく強い代償、と言う事になる。
つまりリリスの必勝法は――夢の中で相手を腹上死させるか、夢の中で強い悪夢を見せて過度の精神ダメージを与えさせるか、彼女が有する真の宝具を成功させるしかない、と言う事になる。要約すると、実に扱い難いサーヴァントと言う訳だ。
「でもその間、暇で暇でしょうがないわ。……アイリ、貴女が私を楽しませても良いのよ。貴女に初々しい嬌声、上げさせて見たいわ」
「馬鹿言わないで。私は大切な人に操を立ててます」
「あら、初耳」
「言えば小馬鹿にされそうだと思ったから、言わなかっただけです。全く、そんな性格だから、アダムに愛想を尽かされるのよ」
その一言を口にした瞬間――部屋の温度が急激に下がった気がした。
ゾワリ、と背筋を冷たいものが這った。氷で出来た蛭が、私の背中を伝って行くかのようだった。
この原因は何なのだろうと思い、顔の向きを再度リリスの方に向ける。……余裕を感じさせるような、不敵で、しかし艶然とした笑みを浮かべていた先程の表情が、
嘘のようだった。烈しい怒りに満ちた顔で、夢魔の女帝が私を睨みつけている。これは……切嗣が言っていた感覚だと、私は知った。戦場に於いて当たり前のように向けられる感情。殺意。
「……軽蔑したわね、私の事を。そして……その分際で馬鹿にしたわね、『あの人』の事を」
リリスの口調、それまでの甘やかすようなそれから、木の板ですら断たんばかりの強い殺気を孕んだそれに変わったと、彼女が生み出した悪魔達。
即ち、三人の『リリム』は気付いたらしい。彼女達の表情から余裕そうな微笑みが消えた。そして次に浮かべたのは、母の折檻の予感に怯える、子供のような顔。
彼女らはいそいそと、母と交わっていたあの部屋へと退散する。逃げ出した事は、明白だった。
自身のサーヴァントから、本当の殺意を向けられるとは思わなかった。
こう言う時の為に令呪があるのだと言う、極めて初歩的な事すら忘れてしまった私は、リリスがつかつかと此方に歩いて来るのを許してしまった。
「きゃっ!?」
リリスはガッと私の両手首を掴み、力を込め、私をソファへと押し倒した。勢い余って身体が、近くの小物置きと、その上の水の入ったコップごと倒してしまう。
水とガラスが砕ける音が、痛い位鼓膜に響いたその後で、リリスは怒りを吐き出した。
「貴女が気に入らなかったわアイリスフィール。初めて貴女を見た時、心の底から嫌悪した」
リリスが力を込めて私の手首を握る。
これが本当に、あらゆる悪魔を産み落としたとされる、キリスト教の聖者や天使、果ては神ですらが不倶戴天の敵とした女悪魔の力なのだろうか?
余りにも、か弱かった。イリヤと対して変わらない握力しかなく、恐れよりも寧ろ、申し訳なさの方が、先に立ってしまった。
「貴女が清楚だからじゃない、貴女が私みたいに汚れの知らない無垢な身体だからじゃない」
より強い怒りの炎を、黄金色の瞳の中で燃え上がらせるリリス。
その気になれば、百万の男を瞬時に蕩けさせる程の魅了(チャーム)の力を発揮させる魔眼には、相応しくない赫怒が爛々と燃えていた。
「――貴女が、神の定めた命の摂理を歪ませて生まれた、忌むべき子だから」
「……気付いてたのね、私が、ホムンクルスである事を」
そう、私、アイリスフィール・フォン・アインツベルンと言う女は、ただしい生殖行為で生まれた人間ではない。
私は、錬金術の大家であるアインツベルン家が遥か昔に偶然生み出したとされる冬の聖女・ユスティーツァを模して生み出された者。
今回で数えて四回目に相当する、聖杯降霊儀式の聖杯の『器』として錬成されたホムンクルス。
それはつまり、リリスの言う通り、あるべき命の法を歪めてこの世に生れ落ちた者。そしてその罰として、短命と言う烙印を押されてしまった者。
「私は人間が嫌い。『あの人』を寝取った女狐の子孫だから。だから私は殺し続ける。そしてそれ以上に嫌いなのが、男女の存在意義を歪めて生まれて来た命」
リリスは続けた。
「男も女も、共に平等なの。何故ならば、どちらが欠けても、命が生まれないから。どちらが欠けても、地に満ちられないから」
「……私は、無から生まれた訳じゃないのよ」
「詭弁よ。例えそうだとしても、貴女は男女の平等を揺るがす亀裂。神も悪魔も存在を許さない、汚れて呪われた女。それを認識なさい」
リリスは其処で、子供の握る力の様にか弱い拘束を解いた。
「マスターじゃなかったら、許してなかったわ」、そう口にする彼女の口ぶりからは、まだ怒りが消えてない。
「意外だった……と言うと失礼になるのかしら、アヴェンジャー」
「……何が?」
遥か高い天井に吊り下げられたシャンデリアの光を受けて危険な煌めきを放つガラスの破片を避けながら、私は口にした。
「私は、貴女が神の法だとか、平等だとか、そんな事を口にするようなサーヴァントには、見えなかったの」
「だから、私は本当は良いサーヴァント、だと言うのかしら? 悪魔のカモになるわよ、貴女」
「ううん、間違ってもそんな事は思わないわ。……だけど、少しだけ貴女の事は解った気がするの」
「貴女、見た目通りの時間を生きてないんでしょう? 良くて、十歳かそこらの人生経験で、何が解ると言うのかしら」
これもリリスの言う通り。私の生きた時間は、切嗣の半分以下だけど。
アヴェンジャーからしたら、半分の半分の半分以下かも知れないけれど。それでも、一人の夫を持つ妻として、大切な愛娘を産んだ母として。解る事が、一つだけあった。
「……貴女は今でも、アダムの事を愛していて、本当は子供の事だって殺したくなんか――」
それを聞いた瞬間、リリスは逃げるように私の下から退散して行き、三人のリリム達が待機しているあの部屋へと入っていった。
私の言う事はやっぱり、彼女の痛い所だったらしい。図星を突いてしまった、後で、謝るべきなのだろうと私は思う。
――初めてそのサーヴァントを引き当てた時私は、こんな女性が自分のサーヴァントだなんて、と心の底から彼女の事を嫌悪した。
我儘で、淫乱。刹那的な快楽主義者。好かれる要素など何一つとしてない、女性の悪い側面と恥たる部分を、人と言う型に詰め込んだ最悪の女性。
それが、私の引き当てたサーヴァント。アヴェンジャー、真名を、リリス、と呼ぶサーヴァント。私とあのサーヴァントの何処に、類似性があるのか私は解らなかった。
私の心の何処かに、そんな淫らな心が在るなんて、信じたくなかった。嫌悪していた。今、この瞬間までは。
リリスが嘗て犯し、今も犯しているであろう、遥か昔に神と天使に宣誓した、『嬰児殺し』によって培われた罪は、きっと償わればならないだろうし、
リリス自体も、何時かは裁かれねばならない人なのだろう。――だけど本当は、アヴェンジャーと言う女性は、誰よりも愛した人に裏切られ、
愛した夫は二度と自分と同じ道を歩まないから自棄になって悪魔になる道を選んだ、哀しい女性なのかも知れない。
悪魔になって、人類の敵になってそれでもなお、アダムと言う人を忘れられなくて、だけどいつの間にかアダムと一緒に人類の祖になったイヴと彼女の子孫を許せなくて。
だから嫉妬でイヴの子供達を殺し、アダムを失った事で空いた胸の哀しみを埋める為に、望んでもない人物と褥を共にして。
アヴェンジャーは、何処までも女だった。女性と言う生き物の良い側面と悪い側面を何処までも詰め込んだ、彼女もまた人類の祖たるに相応しい女だった。
リリスと言うサーヴァントは結局、『女である事に逃げる事しか出来なかった不器用で馬鹿な女』なのかも知れない。
「女である事に逃げる、か……」
私が女として生まれたのは、何故だろうか?
切嗣が言う所の、大お爺様の妄執の一環の為? 切嗣に出会って幸せを享受する為? イリヤを産む為?
私は、生き残らねばならない。この冬木は、明らかに切嗣達と戦いぬく筈だった冬木とは違うかも知れない。
此処には、頼るべき人がいない。だから、心細くないと言えば嘘になる。
だけど、この街の聖杯戦争ならば、私は、聖杯としての機能を復調させずに済むかもしれない。
私は、聖杯になるべくして生み出されたホムンクルス。その身体にサーヴァントを取り込めば取り込む程、私は……。
けど、此処でならその心配がない。此処で聖杯を勝ち取れば、私もイリヤも犠牲にならないで済む。切嗣の理想も、きっと果たせる。
……だから、切嗣とイリヤの為に、負ける訳には行かなかった。それは、女として私が得た大切なものの為だった。
「女である事には逃げるけど、女である事にも逃げられない戦いになったら――」
そう、戦うしかない。だって、人である事の否定だから。
リリスの言った通り、私は命の摂理を歪めて生まれた子供なのかも知れないけれど、そんな私でも、絶対に失いたくないものはある。
アヴェンジャーには、謝ろう。そして勝ち抜こう。私は、胸を新たにそう決め込んだ。
【元ネタ】旧約聖書、或いはユダヤ伝承
【CLASS】アヴェンジャー
【真名】リリス
【性別】女
【属性】混沌・悪
【身長・体重】158cm、47kg
【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A++ 幸運:E- 宝具:EX
【クラス別スキル】
復讐者:EX
復讐を志す者の性根。恩讐と怨嗟を糧に生きる者。自身の復讐の対象となる存在と対峙した際、有利な様々な補正が掛かるスキル。
アヴェンジャーは人類の敵対者であり、アダムとイヴの子である人類種を憎む者。人類と敵対した時、様々なステータス上昇効果の他、対象のファンブル率の増加、
此方の各種行動の達成率の上昇が発生する。但し、相手が完全な人間でなければならず、人間以外の因子が入っていたり、そもそもホムンクルスでは復讐の対象にならない。
忘却補正:EX
このスキルは通常時には発動出来ず、夢魔としての権能を用いた時、つまり、夢の世界に於いてのみ発揮されるスキル。
アヴェンジャーが夢魔としての権能を解除した時、相手はアヴェンジャーが登場していた夢の内容を絶対に忘れる。つまり、彼女が夢の中で何をしても、相手は何をされたのかも気付けない。
精の強奪者:A++
夢魔としての肉体的特色。アヴェンジャーは人間の体液から吸収出来る魔力量が段違いに高い。有体に言えば、魔力供給の効率が抜群に良い。
相手が男性であれば腹上死させる事など造作もない。少なくともマスターが性行による魔力供給に積極的かつ絶倫である限り、魔力消費による消滅は事実上存在しないとすら言っても良い。
【固有スキル】
淫夢の女帝:EX
夢を通しての精神干渉。人間の無意識化に干渉し、悪夢を見せて恐慌させる心理攻撃。
意志の弱い者は悪夢で起きたことが、肉体へのダメージとしてフィードバックする。悪夢の世界は彼女の領地であり、そこではほぼ万能に近い能力を発揮する。
夢の世界を通じて、アヴェンジャーは任意の存在が見ている夢まで移動、そして干渉。夢を悪夢化させ、相手を殺害する事を得意とする。
但し夢は相手が眠っている時にこそ有効な世界であるので、夢を見ている人間が起きるか、誰かに起こされるかなりした場合は、その時点で夢の世界は途切れる。
また夢魔全体の宿命として、夢を見ている人物が所謂『明晰夢』にある状態の場合、夢の世界に於ける夢魔の万能性は著しく弱体化する。
魅惑の媚態:A+
アヴェンジャーは身体は勿論の事、仕草、流れる髪、目線までもが、人類種を魅了するに足る女性美を有した、いわば人体の黄金律である。
相手を魅了すると決めて、それらしい仕草や目線を送る事で、相手を高確率で魅了させる事が出来る。特にアヴェンジャーは夢魔である為、性的な魅惑に特化し、男なら抗し難い呪縛を架すことができる。
変身:A(A+)
夢の中にて姿を現し、相手の理想とする姿、相手が恐れる姿を取る、変幻自在の種族である夢魔の頂点に立つアヴェンジャーが有する最高位の変身スキル。
このランクになると部分的な変身どころか全身を完全に別の動物に変身させる事が出来、ロバ、雄牛、犬、ヘビ、コウモリなど様々な生物に変身可能。
また夢の中では変身スキルはカッコ内のランクに修正され、相手が理想とする人物や懸想している人物、更に相手の最も恐れる者の姿にも変身が可能。
人類種の祖:-(EX)
本来アヴェンジャーは、人祖アダムと全く同じタイミングで作られた、人類種の祖であるサーヴァントであった。
しかし今回の聖杯戦争においては、人類種の祖としてではなく、夢魔族であるリリム達の長としての召喚である為、このスキルは一切機能していない。
【宝具】
『百合よ、地に満ちよ(リリス・オーダー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:夢を通じて何処までも 最大補足:召喚された数だけ
アヴェンジャーが有する夢魔としての権能。リリスは自身の魔力と血から、架空の悪魔である『リリム』を創造する事が出来る。
リリムは人間で言う所の六〜二十代後半の女性の姿をしているが、皆例外なく美しいか愛らしい容姿を持っている。
リリム自体の個性である肉体的特徴は、つまりスリーサイズや髪の色、年齢などはアヴェンジャーは意のままに調整可能。
リリムは直接的な戦闘能力こそ皆無だが、夢魔の名の通り、夢の世界に於いて絶対の権力を持ち、人間の男性や女性の夢に入り込み、
精神操作を行ったり、サキュバスの系譜に連なる者として性交渉を行い相手を衰弱させたり、最悪そのまま性交渉で殺害する事も出来る。
特にこう言った性交渉に対する判定は、人間男性に対しては成功率が極めて高い。
但し、サキュバスとしての側面で現れた為か、リリム達は皆『性に纏わる行為しか行えず』、直接的に夢の中で相手を攻撃して殺害すると言う手段は出来ない。
また、対象となった相手が、『これは夢魔の見せる権能か魔術だ』と悟った時、リリム達の夢の中での絶対性は消滅し、逆に一方的になぶられ、殺されるだけの最弱の悪魔が誕生する。
『これぞ我が罪、あの人/女狐への復讐(キ・シキル・リル・ラ・ケ)』
ランク:EX 種別:対『人』宝具 レンジ:- 最大補足:-
アヴェンジャーが嘗てエデンの園を脱走し、自分を捕まえに来た三人の天使に対して宣誓した、『人間の新生児を殺害する』と言う呪詛が宝具となったもの。
アヴェンジャーは人間と対峙した時、対峙した人物の年齢を巻き戻させ、『生後間もない新生児にまで対象の時間を逆行させる事が出来る』。
この宝具は復讐者スキルとは違い、部分的に人間の要素を有した、純然ではない人間と何かの相の子でも発動が可能。
例えサーヴァントであろうとも、その存在が人間であるのならばこの呪詛からは逃れられず、対魔力スキルですら防御不可能。
神性スキル等の対粛清・特殊なアーマースキルの持ち主ならば、時間逆行の速度を遅れさせる事は出来るが、根本的な防御は出来ない。
この宝具はアヴェンジャー自身が直接夢の中に出向くか、彼女と直接対峙した時のみに発動出来る。
【Weapon】
【解説】
アダムの伴侶であり、人類種最初の女とはイヴであるとされているが、伝説に曰く、実はイヴよりも先に作られた女がいるとされ、それこそが彼女、リリスである。
リリスは嘗て夫であるアダムに、『同じ土から生まれたのならば私と貴方は対等であるべきだ』と説明したが、アダムはこれに反発。
『自分は君より上の立場にありたい』と主張、これがもとで口論になり、エデンの園を飛び出すが、リリスがいなくなった事を悲しんだアダムが、
神に彼女に戻ってくるよう説得するよう嘆願。楽園を飛び出したリリスは、アダムに裏切られた傷心と心の穴を埋めるべく、エデンの外の原生生物と交わり、
肉欲を満たし、子供を出産する事で心を慰めていた。この時生んだ子供こそが、後に地獄の悪魔になる、と言う伝承も存在する。
根城にしていた紅海に三人の天使が現れ、楽園に戻って来いと説得するが、リリスはこれを拒絶。この時天使達は、『逃げ続ければお前が産んだ子供の内100人を殺す』、
と脅迫するも、それでもなおリリスは拒絶、逆に『これからアダムとイヴが生み出すであろう新生児を殺し続ける』と意思を表明。
これ以降リリスは、人類種の敵として君臨する事になる。キリスト教は元来、男性の優位性が強い宗教であり、中世で起った魔女狩りでも解るように、
ともすれば女権の蔑視とも言うべきムーブメントや事件が度々起こった。リリスはつまり、キリスト教圏特有の強いパターナリズムに初めて反抗した女性なのである。
こう言った行動から、リリスは現代において女性解放運動のシンボルの一つにまでなっている。
アダムの事は今でも深く愛しており、それ故に一緒に対等であり続けようと言う提案を拒否した時の絶望と怒りは凄まじい。
アダムの事は口では馬鹿にしているが、自分以外の存在があの人を馬鹿にする事は断じて許せない、あの人の事を解っているのは自分だけ、
とかのたまうクソ程面倒くさい女。要するに未練タラタラ。こんなもんだからアダムの後妻となった上何食わぬ顔で人類種の祖として君臨しているイヴは死ぬ程嫌い。
楽園を飛び出し、夢魔達の女王やらルシファーの妻とすら言われる程の大悪魔となってなお、アダムの事を慕っている。
元々は全ての人類の祖となるべくして神の手によって生み出された存在である為、本来の性格は極めて女性的かつ母性的(リリスは認めないがこの性格はイヴも同じ)。
そんな性格の上、慕っているアダムの子孫である現生人類を殺す事は、実際にはこれ以上となく苦悩している。
だがそれでも殺しているのは、『後からやって来てアダムを寝取ったイヴの子供である』、と言い聞かせ、無理しているからに他ならない。
聖杯にかける願いはイヴの存在を抹消し、今度こそアダムと対等な夫婦になる事。但し、今ではキリスト教における著名な悪魔としての地位を確立した彼女が、聖杯に何かを願えるのかと言えば、真相は不明である。
ちなみにもしも、夢魔としての側面ではなく、人祖としての側面で召喚されていれば、純粋な人類が到達可能な範囲でステータスを意のままに上昇させられるだけでなく、
突然変異的に得た異能を除けば人類が先天的・後天的に体得出来る技術を自由に獲得出来るスキル・『人類種の祖』と、純然たる人間に対する絶対命令権を行使出来る宝具が解禁となっていた。
【特徴】
見事なまでの黒い長髪に、万年雪のような白い肌。そして、夢魔の中でも特に際立った艶やかな美貌など、夢魔のお手本のような美女。
薄らと透き通った黒いナイトドレスを身に纏い、その下は基本的になにも着用していない。
基本的に変身スキルで背格好もスリーサイズも自由に変化させられるが、基本となる姿はこれ。
あとはマスターや相手の性嗜好に合わせて、コウモリの羽やら犬の耳やらを付与させる事も可能。
【聖杯にかける願い】
イヴの存在を抹消。アダムと再び結ばれ、その時は対等な夫婦として過ごす
【マスター】
アイリスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/zero
【聖杯にかける願い】
聖杯を入手し、切嗣の願いを叶え、イリヤと切嗣、舞弥達で普通に生活する
【weapon】
『貴金属の針金』
錬金術の媒介となる針金。此処に魔力を込める事で針金細工を産みだし、自律的に相手を攻撃させる事が出来る。
【能力・技能】
錬金術や治癒魔術に極めて堪能。ホムンクルス、しかも諸々の事情から精霊に近しい存在の為、魔力量は段違いに高い。
【人物背景】
アインツベルンの手により第四次聖杯降霊儀式の聖杯の「器」として錬成されたホムンクルス。
「冬の聖女」ユスティーツァの後継機にあたり、また究極のホムンクルスの母胎となるべく設計されたプロトタイプでもある。
切嗣がアインツベルンの門を叩いたのと同時に錬成され、彼を夫として迎えて、娘であるアイリスフィールを設ける。
その豊富な魔力量を利用、本来マスターである筈の切嗣のデコイとして、共に聖杯戦争を勝ち抜こうとする筈だった。
第四次聖杯戦争開催前、もっと言えばセイバー召喚前の時間軸から参戦。
投下を終了します
支援
ttp://gazo.shitao.info/r/i/20160903180722_000.jpg
失礼しました
こちらです
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≫331
支援絵ありがとうございます!
以前投下していただいたものも含めて、wikiの方に載せてもよろしいでしょうか?
拙い作品ですが、よろしければどうぞ
皆さま投下&支援絵乙です!
こちらも投下します。
格闘技の多くが体重による階級制を取っている理由。
体重の制限のない大相撲の、上位陣が巨漢だらけの理由。
分かるだろ?
世界の真理は、すごくシンプルなんだ。
=========================
――夜も更けた冬木市、その郊外に広がる森の中。
少し開けた空き地で、2人の巨漢が向き合っていた。
「クククッ……俺ヨリデカイ奴ナンテ、ヒサシブリダ……!」
見上げるのは全身傷だらけの巨漢。
その身長、実に 2m43cm。体重は 201kg。
やや手足が長い印象も受けるが、筋骨隆々たる均整の取れた身体。
この寒空の下、タンクトップに半ズボン、足元はスニーカーという姿。
コキリ、コキリと指を鳴らし、不遜な態度で相手を睨みつける。
「――――ッ」
対するのは、古代の兵士のような鎧をまとい、兜で顔の半分以上を隠した、さらなる巨漢。
身長は……2m90cm。
本当にこれは『ヒト』なのか。そう疑いたくもなるあり得ぬほどの体格。
しかしこちらも、鎧の下の身体は筋骨隆々にして、実にバランスのとれた肉体美。
鎧の巨漢の足元には、巨大な槍が2本、同じく巨大な盾、鞘に入った巨大な剣が投げ捨てられている。
ザッ。
見下ろされる格好の『小さい方の』巨漢が、『大きい方の巨漢』に対して、身構える。
レスリングの選手のような構え。
『大きい方の』巨漢も、ゆっくりとそれに倣う。
短冊状の銅板を無数に繋ぎ合わせた鎧が、しゃらりと鳴る。
「『バーサーカー』……『試サセテ』貰ウゾッ!」
「――――ッ!」
『小さい』巨漢が叫ぶと同時に、突風のようなタックルを敢行する。
『大きい』巨漢が声なき雄たけびで応じる。
近代レスリングの技法そのままに、『小さい』巨漢が『大きい』巨漢の腰と左腿を捉える――が!
鎧の巨漢は、こちらもがっちりと重心を落とし、正しくそれを受け止める!
「フゥ、フゥ……ガァァッ!!」
組み付いた傷だらけの巨漢が、渾身の力を込めて押し倒そうとする。
額に青筋が浮かぶ。全身の筋肉がさらに膨張する。もはやヒトとは思えぬ形相と化す。
それでも鎧の巨漢は動かない。動かないどころか。
「――――ッ!!」
「……ッ!?」
手を伸ばして『小さい』方の巨漢の身体をしっかと掴むと――
咆哮一閃、そのまま力任せに引っこ抜く!
もはやそれは『持ち上げる』なんて生易しいものではない!
そのままの勢いで真上に向かって無造作に放り投げる!
「ナッ……!?」
内臓が浮く感触に、傷跡の巨漢は驚きの声を上げる。
ほぼ真上に投げ出されて、身長の2倍の高さ、3倍の高さ、いやまだまだ上がる!
森の木々を見下ろすくらいの位置まで飛び出して――ようやく思い出したかのように重力が仕事を開始する!
落ちる! 落ちる! 今度は落ちる!
『小さい』巨漢は空中で必死に受け身を取ろうとして……
森の中に、重い落下音とともに、もうもうたる土煙が上がった。
.
=========================
マスターがサーヴァントに挑む――
それがどれだけ馬鹿げた話であるのかは、刷り込まれた知識が教えてくれていた。
この聖杯戦争に巻き込まれた際に与えられた知識から、もちろん分かってはいた。
しかし、それでも、ジャック・ハンマーは自分の身体で試すことを選んだ。
生身のヒトと英霊の差、ではない部分を、確認し、体験し、納得するために。
「ハ、ハ、ハ……ハハハハハハハッ!!」
「――――ッ!」
森の中。
広場にできたクレーターの真ん中で、大の字に横たわったジャック・ハンマーは笑い出した。
負けた。
また負けた。
鍛錬を重ね、ドーピングを重ね、骨延長術まで繰り返し、現代医学の粋を集めた身体で、また負けた。
それでもジャックは楽しくて仕方がない。
それでもジャックは嬉しくて仕方がない。
なぜなら――
「矢張リ、俺ハ間違ッテ無カッタ! 俺ノ努力ノ方向性ハ、間違ッテ無カッタ!」
「――――ッ!」
ジャックは叫ぶ。鎧のバーサーカーが吠える。
骨延長術による体格改良。それでさらなる強さを手に入れたはずだったのに。
2m13cmまで伸ばした所で、太古より蘇ったピクルという男と戦った。完敗した。
2m43cmとなった所で、武器術の達人である本部以蔵と戦った。完全にもてあそばれ気遣われた挙句に敗北した。
最近のジャックは負けてばかりだ。黒星ばかりが積み重なる。
それでもジャックは確信する。目の前のサーヴァントの姿に確信を深める。
「俺ハマダ、『足リナカッタ』ダケダ! ソウダロウ、『ゴリアテ』!」
「――――ッ!」
ジャックは叫ぶ。バーサーカーが吠える。
そう。身体を大きくすることでさらに強くなる、という方針そのものが否定された訳ではない!
まだ足りなかっただけなのだ! 身長が、体重が、パワーが、強さが!
そしてまさしくジャックが成りたかったモノが、目の前に存在している!
ゴリアテ。
それは最も有名な巨漢であり、神話と歴史の狭間にたたずむ者。
それこそが、ここに顕現するバーサーカーであった。
「俺ハ、デカクナリタインダ! 今ヨリモ、モット、モット!」
「――――ッ!」
恥も外聞もなく涙を流しながら、ジャックが叫ぶ。バーサーカーが吠える。
現代の医学の表も裏も使い尽くした身体改造は、しかし既に限界に達している。
ジャック自身、これ以上の骨延長術の使用は、身体機能の低下を招くと理解してしまっている。
もはやまっとうな手段では、これ以上大きくなることはできない。
けれど――ならば、現代の科学ではない方法を使えば!
聖杯戦争!
その果てに得られるという、どんな願いでも叶うと言われる神秘の力であれば!
「俺ハ、デカクナリタイ! 俺ハ、強クナリタイ!」
「――――ッ!!」
いつしかジャックは起き上がって、滂沱の涙を流しながら絶叫する。
負けじとバーサーカーも吠える。
マスターとサーヴァント、両者を繋ぐ霊的な絆を通して、狂気の向こうに霞むゴリアテの魂の叫びが届く。
そうだ。
俺だってデカくなりたい。俺だって強くなりたい。もっともっと大きく強くなりたい。
羊飼いの小僧相手に不覚は取ったが、もっとデカければあんな思いはしなくて済んだはずなんだ。
あの小さな石ころが届かないくらい、俺がデカければ。もっと大きければ。
そうか。
ゴリアテ、お前も敗北を知る身か。
ゴリアテ、お前も負けてなお強さを求める身か。ならば。
「俺達ハ、デカクナル! 俺達ハ、強クナル! 今ヨリも、モットモット!」
「――――ッ!!」
ジャックは叫ぶ。ゴリアテも吠える。
いつしか両者の咆哮に応えるように、ゴリアテの身体が大きくなる。
比喩でも冗談でもなく、文字通り、その巨体がさらに一回り大きくなる。さらに一回り、さらに二回り。
着ている鎧や兜ごと、巨大化していく。
「俺達ハ、デカクナル! 俺達ハ、強クナル!」
「――――ッ!!!」
異変を察知した、森で眠る鳥たちが、慌てて木々から飛び立つ。羽音と狂ったような鳴き声が響き渡る。
なおもゴリアテは巨大化する。
限度など知らぬかのように大きくなる。
その頭はやがて木々の頂を超え、なおも止まらず、主従は祈りにも似た咆哮を上げ続ける。
「俺達ハ、デカイ! 俺達ハ、強イ! 俺達ハ、今度コソ、勝ツンダ!!」
「――――ッ!!!!」
それは夢か、幻か。
『大きい』は『強い』。
そんな世界の真実を体現する巨人が、そこに居た。
.
=========================
――優しい朝の光が、いつしか森の中にも差していた。
森の中の広場には、激しい運動でもしたかのような、汗だくのジャック・ハンマーがただひとり。
荒い息をつきながら、座り込んでいた。
「……ナルホド、消耗スルモノダナ……!」
全身を包む疲労感を確認するように、ジャックはつぶやく。
そう。
ゴリアテはおそらく、強い。
とてつもなく強い。
特に巨大化してしまえば、向かうところ敵なしだろう。素直にそう思える。
だが。都合のいい物事にはデメリットがつきもの。
ドーピングに副作用があるように、
骨延長術に苦痛が伴うように。
ゴリアテの欠点――それは燃費の悪さ。
ただでさえ、バーサーカーというクラスは強さの代償に術者の消耗を強いるものなのである。
さらに加えて、巨大化なんてした日には……大変なことになるのが目に見えている。
ジャック自身、元々魔術などからは縁遠い存在だけに、尚更だ。
今だってこうして、ただ実体化させておくことすらできず、霊体化させているくらいなのだ。
強いバーサーカーではあるが、考えなしに暴れさせればすぐにガス欠になる。
マスター自身が戦えるのはこの主従のメリットではあるが、それでも他のサーヴァント相手では分が悪いだろう。
せっかく勝算が見えたというのに、なんとも歯がゆい話ではある。
しかしジャックは諦めない。
消耗しきった顔に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
こう見えて、ジャック・ハンマーは頭の悪い男ではない。
リスクとコストと、成功率に対する評価を常人と大きく異なる所に置いているため、誤解されやすいのだが。
独学で医学と薬学を学び、ドーピングという偏った一点においては専門家の知識すらも易々と飛び越える。
そんな知性と分析力とを併せ持つ人物でもあるのだ。
問題が明らかになれば、対策だって考えられる。
魔力が足りないというのなら、やるべきことは簡単だ。
どこか別なとこから、持ってくればいい。
「『ドーピング』ハ、得意ナンダ」
ジャック・ハンマーは、その犬歯を剥きだしにして、ひとり不穏に微笑んだ。
【クラス】バーサーカー
【真名】ゴリアテ
【出典】史実/旧約聖書
【マスター】ジャック・ハンマー
【性別】男
【身長・体重】2m90cm・不詳
【属性】秩序・狂
【ステータス】筋力:A 耐久:A 敏捷:C 魔力:E 幸運:D 宝具:E
【クラススキル】
狂化:B
バーサーカーのクラス特性。理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
身体能力を強化するが、現界のための魔力消費が大きく上昇する。
ゴリアテは敗北の逸話で知られている通り「英霊」としては決して強い方ではない。
だが狂化によって強化されることで他の有名な英霊と十分に渡り合えるだけの力を手に入れた。
(珍しく)バーサーカーの本来の使い方がされていると言えよう。
【保有スキル】
自己暗示:A
自らを対象にかける暗示。精神に働きかける魔術・スキル・宝具の効果に対して高い防御効果を持つ。
Aランクにまでなると「私は大きくなる」と思い込めば、2m90cmという常識はずれの体格さえも現実化させてしまう。
加虐体質:B
戦闘時、自己の攻撃性にプラス補正がかかる。
これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。
攻めれば攻めるほど強くなるが、反面防御力が低下し、無意識のうちに逃走率も下がってしまう。
なおゴリアテの場合、直接的な攻撃のみならず、挑発行為によっても効果が発生・累積する。
史実上のゴリアテの敗北も、このスキルの負の側面が発揮されたことも一因であった。
また狂化スキルに性質が近いため、今回のゴリアテはこのスキルを最大限には発揮できない。
戦闘続行:A-
戦闘を続行するスキル。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の重傷を負ってなお戦闘可能。
ゴリアテの場合、史実においてはダビデの投石機による額への一撃で気絶し、敗北することとなった。
しかしそれゆえ逆説的に「額への打撃以外では止まらない」「それ以外の攻撃はほぼ無意味」という存在となった。
(なにしろ、ダビデが挑むまでは誰にも倒せない怪物だったのだから!)
完全な無敵や不死身ではないが、非常に高い耐久性を誇る。
額の、それもごく狭い一点に対するピンポイントな攻撃のみが、このスキルを無効化しうる。
(ランクについた「-」は、この場合、このスキルが無効な部位があることを示している)
また気絶等で戦闘態勢が解かれた時には効果を発揮できない。
【宝具】
『我こそ巨人の代名詞なり(ゴライアス)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-
旧約聖書においては散々挑発した割にあっさりとやられる役として書かれているゴリアテ。
しかしその名は巨大なもの全般に対する代名詞となり、広く認知されるに至った。
その人々のイメージの力を受けて――英霊・ゴリアテは、さらに大きくなる。
スキル『無辜の怪物』に近い効果と由来であるが、ゴリアテは『宝具』としてコントロール下に置いている。
その効果は単純明快、身体(および装備)の巨大化。
本人およびマスターのテンションに呼応して、どこまでも大きくなる。
またそれに応じて筋力、耐久のパラメータが際限なく上昇していく。
ただし、巨大化すればそれだけ現界のための魔力消費量も上昇する。
さらに、感情とリンクしているため、細かい調整が効きにくいのもネック。
【Weapon】
『無銘・槍』『無銘・盾』『無銘・投げ槍』『無銘・剣』
ゴリアテサイズの武具の数々。
特にメイン武器の槍についてはわざわざその重さ(鉄の刃だけで6.8kg)が記録に残っている。
他に鎧(短冊状の銅板を無数に縫い合わせたもの、重さ57kg)、兜、脛当てを装備している。
時代を考えたら当時最高級の武具の数々。
【人物背景】
旧約聖書において、若きダビデの投石器に倒れたペリシテ人の巨漢兵士。
むしろダビデにまつわるエピソードの1つとして有名。誰もが知ってる、ヤられ役の、でっかいの。
そしてそこに追加するような逸話は何もない。
【特徴】
デカァァァァァいッ説明不要!! アンドレアス・リーガンよりもデカァァァァァァァァァいッ!!
【サーヴァントとしての願い】
もっとデカくなる。
【マスター】
ジャック・ハンマー@グラップラー刃牙シリーズ
【能力・技能】
高い格闘能力。
我流ながらも一流の、やや偏った医学・生物学の知識。
出所不明ながらも、生活や食事に一切困らない程度の財産。
【人物背景】
世界最強の生物・範馬勇次郎の落とし子の1人にして、範馬刃牙の腹違いの兄。
強くなるためならドーピングや骨延長などの手段を厭わない。
元の身長は193cmだったが、そこから213cm、さらに243cmと身体改造を重ねて大きくなっている。
作中で負けることは多いが、まあだいたい相手が悪い。本来であれば十分にジャックも強い。
シリーズ最新作『刃牙道』にて、本部以蔵相手に不覚を取った後からの参戦。傷は癒えているものとする。
【マスターとしての願い】
もっとデカくなる。
以上、投下終了です。
失礼、>>337 においてステータス欄の表記を1つ間違えておりました。
正しくは 宝具:A になります。
質問です
ルーラーの投下はありですか
投下させていただきます
偉大なる我が友よ。
この世で最も煌く栄光の人よ。
穢れたこの身を、栄華に溢れた笑みで受け入れた尊き主よ。
ああ、どうして。
私はこのような真似をしてしまったのだ。
燦然と煌く勝利の剣を賜り、あの方に祝福されたはずなのに。
もはや、名は捨てよう。
尊きあの方と並び立つことを許された、輝ける名は捨ててしまおう。
私は『黒』。
輝ける光を自ら塗り潰してしまった『黒い者』。
私は――――『スルト』。
――――この世で最も輝ける神を殺め、世界を焔に包み込む者。
◆
新田美波は、一人でプールを泳いでいた。
いや、泳ぐというよりも浮かんでいるという方が近いのかもしれない。
無理を言えば、こんな深夜でも利用させてくれる。
ふわふわと水上を浮かぶ女。
長い髪を水泳帽にまとめはしていない。
水中に扇状に広がり、ただ、空を眺める。
新田美波。
タレ気味な目で流してくる視線は色っぽく。
豊満ではあるがふくよかではない身体つき。
今の虚ろな表情も相まって、男の情欲を誘う。
恐らく、誘えばどんな男でも手を出してしまう。
だけど、だからなんだと言うのだろうか。
本当に結ばれたい人間は、一度として自身をそんな目で見てきたことはなかった。
「……」
新田美波は恋をしていた。
自身を、アイドルへと導いた男に。
穏やかな目でこちらを見てくる男に、美波はいつも思っていた。
貴方が好きなのは、アイドル?
それとも、もしかして私?
そんな風に考えていた時もある。
好きだった。
初めての恋――――とまでは言わない。
二十年にも満たないとは言え、今まで生きてきた中で男性に心がときめいたことが一度や二度はある。
それでも、今、恋をしている男性だった。
自らを肯定してくれる存在。
苦しい時に、一歩踏み出す力をくれる存在。
一瞬にして燃え上がるような激しい恋ではなかった。
暖かい穏やかな恋だったが、一日中相手のことを考えてしまうという意味では同じだった。
そんな日の事だった。
いつも組んでいるアイドルとのデュオの仕事ではなく、ソロの仕事。
その単独の仕事が、様々な事情でキャンセルとなった。
だから、『彼』と『彼女』は、二人は知らなかったのだ。
今日、誰かが戻ってくることを。
その誰かが美波であることも。
抱き合う二人を見て、意識もなく、この場へと戻った。
その意味がわからないほど、美波は子供ではない。
祝福しなければいけない。
自意識過剰かもしれないが、美波は己が二人に好かれていると信じている。
お互いの一番ではないだけで、二番や三番には居ると信じている。
そんな自分が無様に泣きわめけば、二人は想い合っていても結ばれることがない。
新田美波のことが大好きだから、二人は美波と同じくらい大好きな人と結ばれようと思わない。
美波にとって、なんて惨めな話だ。
だけど、美波も同じなのだ。
二人のことが大好きだから、二人にそんな道を辿って欲しくない。
だから、笑ってみせる。
想いを隠してでも、祝福してみせる。
でも、せめて。
せめて今日一日ぐらいは、負の感情をこの胸で育ててあげたい。
消えてしまいたい。
時が経てば、これも良い経験になるのだろうか。
彼女を見れば、私はこの想いをいつでも思い出すのではないだろうか。
暗い想いが浮かんでは、浮かんでは、消えはしない。
ただ、積もり積もっていく。
だからだろう。
暗いものには暗い者がついてくる。
親友と、恋した男を祝福しなかった罰なのだろうか。
――――影のような何かが、美波の前に現れた。
それは狼のようにも、蛇のようにも、熊のようにも姿を変えた。
巨大な影だった。
美波が浮かぶ50mプールを呑み込むような、巨大な影。
震えることもなく。
空虚な視線を向ける。
影を現実と捉えることが出来なかった。
『エインフェリア……呼び起こせし……魂……館より……開かれる……』
声が聞こえた。
瞬間、背筋が震えた。
恐怖ではない。
いや、恐怖は覚えたが、背を震わせたのは恐怖から生まれたものだった。
舐めあげるような、『妬み』を固めたようなその声が自身の声のように聞こえた。
何者かもわからぬほどに不定形に揺れる影が、揺れる自身の心の醜さを突きつけるように見えた。
今にも消えてしまいたいと思っていたものが。
それが、目の前に現れた。
恐怖は消え、自分本位な怒りが覚えた。
世界に、光が満ちる。
その光を無視するように、美波は言葉を漏らした。
「消えて、私の前から――――」
その言葉が、鍵となった。
下腹部に浮かび上がった紋様が光る。
三角で描かれた翼や宇宙を連想させる紋様が、一角、消え去る。
すると、同時に美波の頭上に一人の存在が顕現した。
鎧姿、しかし、甲冑ではない。
揺れる鎖によって編み込まれた、北欧の鎧。
黒と、僅かな赤で構築された鎧だ。
燃え盛る焔のように、鋭利なデザインだった。
短い髪に鋭い瞳の鎧をまとった存在は、剣のように鋭く焔のように燃える瞳を影へと向ける。
「怪異か、聖杯と欲望に誘われたか?」
燃えるような瞳とは裏腹な、冷たい声だった。
睨みつける様に、影が大きく蠢いた。
怯えている。
美波は、映画を見るような感覚でそう思った。
そんな美波を、鎧の存在は。
『美波』と『聖杯』に呼ばれた英霊は一瞥した。
「……いや、純粋にエインフェリアの匂いに誘われたと見るべきか」
美波の中に何かを見たのだろうか。
鎧の存在は小さくこぼした。
そして、開いた手で美波を優しく水中からプールサイドへと引き取った。
冷たい声とは裏腹に、紳士的な柔らかな挙動だった。
影は動くことは出来ない。
すでに、影は鎧の英霊の威圧に呑み込まれていた。
「貴様のような塵には過ぎた力ではあるが、現世の主が命じたことだ。
召喚と同時の命に背くほどの反心は私にない。
怨むなよ。
怨むならば世界ではなく、世界を怨まざるをえない己の在り様を怨め」
威圧される影を見下すように一瞥する。
そして、鎧の英霊は、腰に下げた剣を手にとった。
「為すべきものは我が右手から離れず、差し伸べた我が左手は灰へと染まる」
いや、それはもはや剣ではなかった。
剣と呼ぶよりも、焼け焦げた枝と呼ぶ方がよっぽどに相応しい。
何かを斬ることなど不可能と思えるほどに、今なお灰と炭がボロボロと零れ落ちていく。
しかし、瞬時に世界は固まった。
目の前の怪異は、動くことも出来ない。
黒い焔を鎧として纏った英霊は、焼け焦げた枝を振るう。
瞬間。
ピタリっと、枝がプールに触れた。
その時。
――――並々と水が注がれた50mプールが一瞬にして蒸発せしめた。
どれほどの超熱なのか。
それほどの超熱を持っているのに、何故この至近距離に居る自分は無事なのか。
考えれば考えるほど、ただの焼け焦げた枝が刀身についただけの剣が神聖なものに映る。
消し炭をまとめたようなその剣を、上段に掲げる。
英霊は、剣の真名を。
穢され堕ちた真名を、口にする。
「天地を塵へと堕とせ、『万象焼却せし栄光の灰燼(レーヴァテイン)』」
世界が黒く染まり、怪異は焔に包まれる。
何が起こったのか、美波には認識することが出来なかった。
ただ、イメージとして。
黒い影が、それよりもなお暗き焔によって呑み込まれた。
美波が願ったように、影の怪異は世界から消え去った。
「召喚に応じて現界し、令呪を持って宝具を解放しました」
剣を納め、美波へと向き直る英霊。
「私は、破滅で幕を閉じるセイバーのサーヴァント」
セイバー。
最優のサーヴァント。
「此度の聖杯戦争における、貴女の剣です」
セイバーは、膝をつき、頭を垂れた。
美波は、まるで他人事のようにセイバーを見続けていた。
◆
美波の前の前にいるのは、男装した女だった。
男であると勘違いさせるようなものではない。
近寄って見れば男装とわかるような、そんな女。
ただ、その女性にしては余りにも高い身長から、遠目には男と勘違いさせてしまうだろう。
執事を連想させる燕尾服を纏ったセイバーは、紅茶を美波へと差し出す。
「どうぞ、ミナミ。お持ちしました」
場所は既にプールから離れた、休憩所の一室。
紅茶はセイバー自身が入れたものではない、美波の金銭で買った、販売機の缶だ。
それでも、様々な出来事に立て続けに襲われ、動く気力を失った美波にはありがたいことだった。
しかし、様々なことがあったくせに、自分が一番ショックを受けているのが『彼』と『彼女』の出来事だというのは。
余りにも呑気すぎて、落ち着いてしまえば自嘲を抑えきれなかった。
「まず、貴女に伝えるべきことは沢山ありますが……順を追って行きましょう。
私のことや周囲のことなどよりも、貴女のこと優先すべきなので貴女のことについて」
そんな美波の心中を、どこか察しているのだろう。
努めて事務的にセイバーは語りかける。
初対面であるセイバーが美波に同情的になってもしょうがないと、セイバーは考えたのだろう。
人によっては冷淡と反発を覚えるかもしれないが、今の美波には気が楽になれた。
「私のこと……ですか?」
「どうぞ、敬語は必要はありません。
私は貴女の剣であり、従者ですから」
『そちらのほうが私も落ち着きます』
先ほど、信じられないほどの暴威を奮って見せたセイバーは、どこか卑下するような言葉を美波に伝える。
『気を使わなくても結構です』というよりも『敬語を使われるのは慣れていない』といった様子だ。
美波は、その言葉に従うことにした。
「わかった、続けて」
「貴女は生まれつき、強い魂を持っています。
正確に言えば強い魂を魅了する魂、導く魂をです」
「その、よく分からないわ」
「ヴァルキュリアとヴァルハラを御存知ですか、ミナミ?」
「知ってる……知ったのは、最近だけど」
ヴァルキュリア、死後に勇者の魂を導くという戦乙女。
先日、ちょうど仕事で触った題材だった。
「貴女はそのヴァルキュリアと似た性質の魂を持っているのです。
死した英雄を死者の館に送り届け、ラグナロクへの準備を促すもの」
セイバーは事も無げに言う。
美波は突飛なことに、はあ、と言う生返事しか返せない。
自分が人として特別だと言われても、現実味がないのだ。
思えば、最初にアイドルとしてスカウトされた時もそうだったような気がする。
すなわち、『彼』との最初の出会い。
そんな連想だけでも、心が傷んだ。
「貴女の男性を魅了するような仕草は、そう言ったところから生まれるのでしょう」
「だ、男性を魅了するって……そんなつもりはないのだけど」
「『そんなつもりがないから』こその、魅力なのですよ」
そこで初めて、セイバーは柔らかく微笑んだ。
美波に言わせれば、セイバーのほうがよほど男性を魅了するのではないかと思うような。
魅力的な笑みだった。
「それが、あんなものまで呼びつけてしまったのでしょう。
もちろん、あんなものがこの場に居た理由は貴女だけが原因ではないでしょう。
が、貴女を襲ったのは貴女の魂に魅せられたからなのは間違いない」
そこで言葉を断ち切った。
『時間はまだあるから、聖杯戦争とサーヴァントにしてはゆっくりと説明しましょう』
そう続けて、セイバーは美波へと手を差し出した。
そうだ、もういい時間だ。
帰れなければいけない。
力なく、その差し出された手を掴んだ。
「ミナミ」
その掴んだ力が、余りにも弱かったのだろうか。
心配するような色を含んだ声が、セイバーから投げかけられた。
「あくまで個人的な経験に過ぎませんが、後悔はどんな道を選んでも襲いかかってきますよ」
ああ、紳士だな。
ひょっとすると、『彼』よりも。
きっと、セイバーは理想のようなものだ。
そう在りたいと願い、そう在り続けた姿なのだろう。
だから、そうだ。
こんなにも素敵なはずなのに、同姓であることを差し引いても、心がときめかないのだ。
『彼』に。
アイドルが輝く様を嬉しそうに微笑む、生の感情をさらけ出す『彼』の姿に惹かれた美波には。
「大事なのは、生存を決定づける本能ではありません。
何故後悔するに至ったのか……その原因となる、最初の気持ちを忘れないことです。
そのためなら死んでもいいと願える想いです」
それは、セイバー自身も認識しているのだろう。
自身はハリボテであると。
それでも、そう在りたいと願った以上、そう在り続けている。
それはきっと尊く、だけど、非常に儚いものだ。
「どんな結末を迎えようと、最初の想いさえ忘れなければ……きっと、貴女の心まで囚われることはないでしょう。
だから、貴方は忘れないで下さい」
だから。
「私には、出来なかった」
――――セイバーはこんなにも後悔に満ちた顔をしているのだ。
「申し訳ありません、従者の領分を越えてしまいました」
セイバーは恭しく頭を下げる。
美波は、ただその姿を見ていた。
鉄の意志。
それが、こんなにも儚い姿を導くのなら。
美波も、さらけ出すべきなのかもしれない。
例え、二人との仲が変わってしまっても、取り戻せないものになってしまっても。
大きな何かが裂けてしまう前に。
◆
「――――これは驚いた」
それはセイバーの最初の記憶。
この世に存在した瞬間の、記憶。
目の前に現れた、輝ける男への始まりの想い。
「噂の焔の巨人が……まさかこれほどに可憐で、凛々しい乙女だとは」
座から全てを見透かす主神オーディンの命なのだろうか。
その男は、花が芽生えるようにこの世に存在したセイバーの前に現れたのだ。
悠然とセイバーを見つめ、にこやかに笑みを浮かべる男。
豊穣の双子神の一人、『フレイ』。
セイバーの始まりであり、
セイバーの終わりである、
セイバーの全て。
「さて、余分なものが混じっていない今、伝えましょう。
貴女は今からこのフレイに仕えなさい。
これは勧誘ではなく、命令です。
ロマンチストを気取りたいなら、運命と思っても構いませんよ」
セイバーは自身がロマンチストだと信じている。
何故ならば、この出会いはまさしく運命だと信じているのだから。
「貴女に力とは何か、世界とは何か、教え込みましょう。
我が横で、学びなさい。世界を破滅へとさせません」
差し伸べられた右手は、栄光そのもので。
触れるだけで、心が穏やかに沸き立った。
「貴女の名は『スキールニール』。
黒すらも塗りつぶす『輝くもの』として生きるのです」
その日から、セイバーはフレイの従者となった。
輝かしき豊穣神の威光を間近で見つづけた。
自らが誉れ高きものであることを理解しそれに恥じぬ行動を選び続けるフレイ。
故に、当然のことだった。
セイバーが最初に尊敬の念を覚えた相手がフレイであることは。
セイバーが最初に友誼の誓いを交わした相手がフレイであることは。
――――セイバーが、最初に女として愛を抱いた相手がフレイであることは。
従者が主に恋慕を抱くなど不敬。
その想いを秘したまま、セイバーはひたすら忠心を捧げ続けた。
見返りは必要なかった。
フレイはセイバーのものではなかったが、他の誰のものでもなかった。
ならば、セイバーは自身がフレイのものであるという事実だけで満足できた。
その想いの下、セイバーは輝きの傍にあり続けた。
英雄と呼ぶに相応しい高貴な振るまいと義務感を抱き続けた。
「スキールニール」
「なんでしょうか、主」
ある日のこと、常のように恭しく頭を下げた。
世界が光り輝いており、その中心にフレイが居る。
この世界が何処までも続けばいいと、セイバーは思っていた。
――――この瞬間までは。
「……ギュミルの娘、ゲルズを娶ろうと思う」
ガツン、と。
頭を強く叩かれたような感覚を覚えた。
「これが、恋なのだろうな。初めての感覚だ。
寝ても覚めても、ゲルズのことしか考えられぬ。
いや、日によっては寝ることも出来ぬ。
この念を叶えるためならば、我が栄光の全てを捧げてしまいたい」
『ああ、私は主よりも先に覚えていたものは恋だったのか』
グラグラと揺れる世界の中で、セイバーはそう認識した。
あらゆる事象において、フレイはセイバーの先を行っていた。
セイバーは、『初恋』という事象において初めてフレイの先を行っていたのだ。
つまり、あれほどの長い時。
正しく、夜も眠れぬほどにセイバーがフレイに恋し続けていたその時間。
フレイは、何処の誰にも恋などしていなかったのだ。
「……主」
声を震わせないように必死だった。
無表情を維持する。
主の前で感情を出すのは失礼だと、常に鍛えていたのはこの日のためだったのだろうか。
そんな皮肉な想いが胸をよぎる。
「このスキールニール、主の恋道を成就させるために尽力しましょう。
故に、どうか、貴方に恩を返させてください」
「スキールニールほどの者にそう言われると心強い。
……全てが終われば褒美を与えよう、我が栄光の剣と、我が栄光の愛馬を、な。
偉大なるこの二つの秘宝は、スキールニール……『輝くもの』には、私の次によく似合うだろう」
いいえ、主。
私はそんなものよりも、貴方が欲しいのです。
「ありがたき幸せでございます」
――――当然、その言葉を口にすることはなかった。
ゲルズへと婚姻の申し出を代言するために向かう際のことだった。
「スキールニールか」
様々な秘宝を借りるためにアースガルズを動き回っていた時、主神オーディンと出会った。
全てを見透かす瞳を持った偉大なる主神は、その瞳を憐憫に染めていた。
オーディンは、セイバーに対して、アース神族のことを、いや、世界樹ユグドラシルに繋がる全ての生命の事を。
『運命の奴隷だな』と、自嘲と共に言い放った。
世界の終端である神々の黄昏を避けようと動いても、その動きこそが神々の黄昏を呼び起こす。
溺れまいと足掻けば足掻くほど水底へと引き込まれるように。
全ての行動が我々を破滅へと追い込むと。
セイバーは自身の感情を見透かされていることに気づいた。
故に言い放った。
「世界は破滅には追い込まれません。
私は、私を支配できています。
私が愛し、また、我が主も愛する世界を引き換えにするほどの望みなど持っていません」
「スキールニール、『生存本能』と『破滅願望』は、根底を同じものとしている。
故に、どれほど考えても、どんなに抗っても、結局は同じなのだ……」
オーディンは短く言い切り、それでもセイバーへと秘宝を渡した。
その瞳に諦めの念はなかったが、セイバーへは憐憫と同情に満ちた視線を投げていた。
チリリ、と。
胸が燃え上がったような気がした。
――――さて結論を言うとしよう。
終末戦争である神々の黄昏において。
世界の終端を齎す巨人『スルト』は何処から現れたのか。
豊穣の神に仕える輝ける従者『スキールニール』は何処へと消えたのか。
何故、『スルト』はフレイが手放したとされる勝利の剣と同一視される剣を持っていたのか。
何故、『スキールニール』は自らの主を殺めるであろう勝利の剣を、敵対者へと渡るようなことを行っていたのか。
答えは一つだ。
『――――可憐なるゲルズよ。私は妖精でも、アース神でも、賢いヴァン神族の子でもありません』
妖精でもアース神族でもヴァン神族でもない『スキールニール』は、『巨人』だったのだ。
勝利の剣と同一視される枝の破滅を振るう『スルト』は、『スキールニール』だったのだ。
フレイに恋した『スルト/スキールニール』は。
恋した男の恋慕を叶えるために動き。
自らを制御できると信じたまま、嫉妬の炎を育て。
やがて、恋した男が恋した女に向けられる穏やかな視線が。
絶対に自身に向けられることの出来ないことに耐えられず。
自身の暗い念によって零れ出た黒い焔が。
彼の栄光そのものである勝利の剣を、無残な灰燼へと変えてしまったことに絶望し。
アースガルズから、姿を消した。
それは、遠い未来の日。
未だ訪れていない、しかし、避けることの出来ない運命の日。
もはや届かぬ恋慕の念を燃やし。
せめて、生命だけは自分のものにせんと。
――――焔の巨人としてフレイを殺すのだ。
【クラス】セイバー
【真名】スルト(スキールニール)
【出典】古エッダ
【マスター】新田美波
【性別】女
【属性】混沌・悪(秩序・善)
【ステータス】
筋力:A+ 耐久:A+ 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:A++
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師では○○に傷をつけられない。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
血塗れの蹄(ブローズグホーヴィ)を除く幻獣・神獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
魔力放出(炎):EX
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
セイバーの場合、黒く燻ぶるような焔が魔力となって武器ないし自身の肉体に宿る。
焔の火力を0〜100までとするなら、制御できるのは10まで。
それ以上の火力は常に100、全力でしか発動させることが出来ない。
セイバーにとってのこの焔とは『世界の破滅を促す感情』そのものである。
生存本能:B
生まれついて染み付いた、切り離すことの出来ない本能がスキルという形で浮かび上がったもの。
死滅願望と対を為すスキル。
セイバーの場合、運命において『世界の破滅』の根幹を担わされている。
どう足掻いても、セイバーの行動は必ず『世界の破滅』を促す感情へと結びつくものとなる。
神殺し:B
神を殺す者に備わる特殊なスキルであり、神性を持つ者に大きなアドバンテージを得る。
このスキルは天性の才能ではなく、後天的に成し遂げた逸話が昇華されたものである。
【宝具】
『万象焼却せし栄光の灰燼(レーヴァテイン)』
ランク:A++ 種別:対界宝具 レンジ:1〜999 最大補足:1000人
世界樹を燃やし尽くし、世界に終端を齎す焔の剣。
別名、『枝の破滅』。
真の持ち主が持てば、その名を『豊穣約束せし栄光の剣(ユングヴィテイン)』と呼ばれることになる。
本来の効果は『独りでに鞘から剣が飛び出して相手を倒す』というもの。
しかし、セイバーの生存本能スキルによって、『世界を燃やし尽くす剣』と変化している。
本来は豪華絢爛な剣だが、現在は焼け焦げた枝のような形をしている。
しかし、その刃には世界を燃やし尽くす超熱を持っている。
真名を解放することでセイバーの魔力放出スキルに乗算された世界を焼き尽くす焔が周囲一帯を嘗め尽くす。
世界を破滅へと導く対界宝具としての性質から、結界や世界に影響を齎す能力において絶大な効果を発揮する。
【Weapon】
『万象焼却せし栄光の灰燼(レーヴァテイン)』
【人物背景】
豊穣の双子神の一人、フレイの従者。
そして、世界を焼き尽くす焔の巨人。
「――――私は妖精でも、アース神でも、賢いヴァン神族の子でもない」
巨人ギュミルの娘、ゲルズへと何者かと問われた際、彼女はこの言葉のみを返した。
彼女は、事実として妖精でもアース神族でもヴァン神族でもない。
ならば『人間』かと思われていた彼女だが、その正体は『南の巨人』だった。
フレイへと恋をしていた彼女は、しかし、フレイとゲルズを結ばれるために奔走する。
己の心を完全に殺すことが出来ると考えていた彼女。
現実はそんなことは不可能だった。
心の裡で燃え続ける、『焔の巨人』としての黒炎は嫉妬を燃料として確かに燃え上がっていた。
やがて、エーギルの館で行われる『ロキの口論』の時には、すでに彼女はアースガルズから姿を消していた。
【特徴】
暗い黒髪と瞳をした女。
背を非常に高く、男装姿と相まって遠目からでは男に見えるほど。
凹凸の少ない均整の取れたスレンダー体型。
普段は執事服を身にまとい、戦闘時には焔によって編み込まれた鎧を身にまとって闘う。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯によるやり直し、あるいは感情のコントロール。
【マスター】
新田美波@アイドルマスターシンデレラガールズ
【能力・技能】
アイドルとしてのダンススキル、歌唱スキル
【人物背景】
「ふふっ、私がアイドルなんてなんだかドキドキします。あ、でもアイドルになったら学業に響いたりしないかな? パパに怒られちゃうかも…その時はプロデューサーさん、よろしくお願いしますねっ?」
神戸エリア実装に伴って登場した、和久井留美に続く2人目の広島出身アイドル。
ちなみに、同じく関西のエリア実装に伴って登場したクールNアイドル、藤原肇も山陽(岡山)の出身である。
『新田』と『美波(みなみ)』と来て某呼吸を止めて一秒の青春野球漫画を思い出したおっさんもそこそこいた様子。
ラクロススティックを持つスポーツ少女でありながら、学業のことも忘れない文武両道な子である。
趣味に資格取得とあるのはそのことを意識してであろうか。
また、家族の話題が節々に出てきて、弟が学校で自慢しているというような微笑ましい話題も。
【マスターとしての願い】
不明。
投下終了です
>>341
既に決まっているのでダメです
お借りいたします
覚えている最後の記憶は、燃え盛る炎の中。
お腹から下の感覚は無くて、口の中は熱いもので一杯で。
ひとりぼっちで終わってしまうのかと思うと、寂しくて、辛くて。
いつか終わることはわかっていたけれど。
でもそこに駆けつけてくれた人がいて。
だから。
せめて、手を握っていて欲しいと――――……。
-------------------------------------------------------------------
「やぁァァァァッ!!」
しんしんと雪が降り積もり夜の冬木、愛らしくも凛々しい、少女の裂帛の気合が響いた。
次々と影のように起き上がった怪異を、繰り出された鋭い刃が一網打尽に叩き斬る。
少女の両手には二刀があった。細腕には不釣り合いな豪剣である。
それが右に、左に、閃くように振るわれる度、影は雪に溶けるように消えていく。
しかし少女の顔には緊張に強張っており、どこか怯えの色さえ見て取れた。
身のこなしこそ達人並だが、妙に技が冴えていないのは、そのせいだろうか?
『マシュちゃん、残心を忘れない。まだ終わってないわよ』
「はいっ……頑張ります!」
不意に響いた声は、少女のものではなかった。鈴の音転がるような女の囁き声。
少女の右手に握られた太刀が、かたかたと鍔を鳴らしている。よもや刀の声だというのか。
その刀が弾けたように跳ね上がり、後方からの影の攻撃を防ぎ、受け流す。
「これで……っ」
すかさず少女は踊るように体を捻り込み、左の小太刀を繰り出した。
影の動きを完全に見切り、脇口から心臓――霊核を貫き徹す必殺の一撃。
「……終わってッ!」
影は悲鳴さえも上げられなかった。
小太刀で貫かれた瞬間、まるで爆裂するように四散し、吹雪と共に散っていったのだ。
少女は小太刀を繰り出した姿勢のまま、胸を弾ませて大きく息を吐く。
戦闘終了――それで良いはずだ。
そうして初めて、彼女はゆっくりと両手の刀を腰の鞘へと納める。
『お疲れ様、マシュちゃん――なかなか良かったわよ、今の』
「えっ、あ、本当ですか?」
マシュ、そう呼ばれた少女は刀からの声に、ぱっと顔を上げた。
緊張が溶けてわずかに笑みが浮かぶ。頭を撫でられた子犬のような笑み。
けれどそれはすぐにまた隠されてしまう。
彼女はすぐに俯いて、手指をもじもじと擦り合わせた。
「あ、でも、わたしはまだまだ未熟ですから……」
『安心なさいな。一乗寺下り松の時のタケゾーなんか、もっとガチガチだったんだから』
刀から囁かれる声は、どこか少女を見守るようでもある。
その刀に銘はない。ただ作者の名を取って郷義弘と呼ばれている。
そこに宿った霊こそは刑部姫。姫路城の守護者という、女怪である。
そしてその郷義弘を手にした少女の名前はマシュ・キリエライト。
――――英霊・新免武蔵を憑依させた、デミ・サーヴァントであった。
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人理継続保障機関カルデアと呼ばれる組織がある――あった。
マシュはたまたまうっかり迷い込んだワニ程度の知識しかないが、彼女のホームだ。
カルデアでは人類滅亡を阻止するため、様々な取り組みが行われていた。
レイシフト実験――過去への転移実験も、その中の一つだ。
マスターとサーヴァントを過去の特異点に送り込み、人類滅亡の原因を排除する。
マシュと"先輩"は、そのためのマスターとしてカルデアに所属していた。
あの日行われたレイシフト実験は、特異点:Fの調査が目的だった。
マシュは先行チームに配属され、レイシフト用のポッドに入り、そして――……
爆発が、カルデアを襲った。
原因はわからない。
彼女はそんな事を考えるよりも前に、下半身をぐしゃぐしゃにされたから。
もう逃げられない。助からない。誰が見たって明らかで、自分はそこで死ぬのだと思った。
ひとりきりで。
けれど、そうはならなかった。
待機していたはずの"先輩"、逃げられたはずの"先輩"が、助けに来てくれたからだ。
マシュはせめて「手を握っていてください」と頼んだ。縋るように。
伸ばした手は、確かに握ってもらえた。それだけの事なのに、とても嬉しくて。
そして炎がマシュ・キリエライトという少女の意識を焼きつくし――――……。
気がついた時、彼女はこの吹雪く都市、特異点:F――冬木に立っていた。
その身に英霊の魂を憑依させて。
ひとりきりで。
-------------------------------------------------------------------
「…………」
戦いを終えた後、マシュは寒さを凌ぐように路地へ入ると、そこで蹲った。
膝を抱えてぎゅうっと胸元へ寄せ、そこへ頭を埋めるようにして休息を取る。
何もかも当初の予定とは異なる状況は、肉体的にはともかく、精神的な消耗を強いてくる。
カルデアはどうなったのだろう。
他の人は無事だろうか。所長は? ドクターは?
それに、どうやってこの特異点を解決すれば良いのか。
記録に無い聖杯戦争――異常の原因はこの聖杯戦争だろう。
なら、自分一人で聖杯戦争を勝ち抜く事はできるのか。
先輩。
先輩、先輩、先輩は、先輩なら――――……。
『マシュちゃん』
思考の淵に沈みかけた彼女を引き上げたのは、腰の刀からの囁き声だった。
マシュは顔を埋めたまま「はい」と短く答えて、耳を澄ませる。
刑部姫は『もっと後に言おうかと思ったんだけどね』と、詫びるように呟いた。
『けど、このままだとマシュちゃん、潰れちゃいそうだから』
「……私、大丈夫です」
『大丈夫なわけないでしょ。
あなたのそれが大丈夫なら、タケゾーの生涯無職生活なんて天下人級よ』
「え、無職だったのですか……!?」
そうよぉ? 刑部姫のケラケラ笑う声に、マシュは不意を突かれたようだった。
『良い? マシュちゃん。これから先、あなたに助けてって言う人がいるかもしれない。
マシュちゃんは優しいから、きっと助けてあげようって思ってしまうかもしれない』
はい、と。マシュは素直に頷いた。きっと先輩ならそうするはずだ。
人を助けるということは正しいことで、正しいことは良いことだから。
『でも、惑わされちゃダメよ』
けれど続く一言は、氷のように冷たく、ばっさりとマシュの甘い考えを切り捨てた。
.
「え――……?」
『だって聖杯戦争に参加する以上、皆サーヴァントを持っている。戦う力があるんだもの。
なのに知らない他人へタスケテタスケテー、なんて、虫がよすぎるわよ、そんなの』
――――マシュちゃんだって、誰かに助けてって言いたいくらいでしょう?
そう言われて、やはりマシュは素直にこくんと頷いた。
先輩――今此処にいない、けれど魂の何処かでつながっているあの人。
傍にいて欲しいと思う。声をかけて欲しいと思う。手を握って欲しいと思う。
けれど、先輩は此処にはいない。
マシュは今、ひとりぼっちだった。
『だから、良く考えてから決めなさい』
そんな気持ちを見透かしたように、刑部姫の声音はふわりと柔らかくなった。
マシュが思わず顔を上げて目を瞬かせると、そこに少女の幻影を見たように思えた。
彼女はにこりと微笑んで、マシュの頬に手を伸ばす。
触れられた感触は無い。けれどそこには、確かに慈しむ動きがあった。
『誰を助けて、誰と一緒に戦って、誰を倒し、誰を斬るのか。
どう歩んで行くのかは、どう育っていくのかは、あなたが決めるの。
他の誰かに言われたからじゃなくて、あなた自身が考えて決めること』
「私、自身が……。でも、私、間違えてしまうかも――……」
『それは多分、あなたの"先輩"もそうでしょう?
大丈夫。
そうやって選んでいった道は、間違っていても、きっと何処かに繋がっているわ』
――だから、怖いことなんて無いのよ。
マシュは俯いたまま、言われた言葉を必死に噛み砕こうと努力した。
彼女は世間に触れてから僅かに二年しか生きていない。知らない事ばかりだ。
それが怖くて怖くてたまらない。何か、道を違えてしまうのではないか、と。
でも、もしも、そうでないのなら――……。
『いっその事、楽しんじゃうくらいの気持ちでやりましょ?
並み居る英霊の類が実戦形式で稽古つけてくれる! って感じで』
「……はいっ」
マシュはしっかりと頷いて、さっと立ち上がった。
そうと決めたら、頑張らなくては行けない。
胸の内で、そう叫ぶ声があるのだ。
前へ。
前へ――前へ。
世界は広く、大きく、知らない事は多く、何処までも行ける。
自分は何処へ行けるだろう。わからなくとも、前へ。
前へ、前へ、一歩前へ。
それは宮本武蔵という英霊が、新免武蔵という若者だった頃から懐く気持ち。
そしてマシュ・キリエライトという少女が世界に触れた時、僅かに抱いた憧憬だ。
何処まで行けるかはわからない。
けれど、行こう。
前へ。
きっとその先に、"先輩"は、いてくれる筈だから――……。
「……行きます、先輩!」
そうしてマシュ・キリエライトは自分自身の長い旅へ、最初の一歩を踏み出した。
.
.
【出典】史実(日本)
【CLASS】セイバー
【マスター】主人公(Fate/GrandOrder)
【真名】新免武蔵/マシュ・キリエライト
【性別】男性/女性
【身長・体重】158cm ・46kg
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力C 耐久D 敏捷A 魔力B 幸運C 宝具?
【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【固有スキル】
二天一流:C
天性のものか鍛錬によるものか、完全に極まった戦闘論理。
如何なる敵でも「勝ち筋」を見出し、実行に移すチャンスを手繰り寄せる。
また同ランクの心眼(真)、直感、透化、宗和の心得スキル効果を併せ持つ。
修得の難易度は最高レベルで、Aでようやく"修得した"と言えるレベル。
本来のランクはEXだが、マシュが未熟なため、"現在は"大きく弱体化している。
専科百般:D+
兵法を基幹とし、あらゆる分野に応用するスキル。
武術、学術、芸術、閨術など、ほぼ全ての汎用スキルにEランク以上の習熟度を発揮する。
本来のランクはA+だが、マシュが未熟なため、"現在は"大きく弱体化している。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
.
【宝具】
『仮想宝具 疑似展開/五輪書(ブック・オブ・ファイブリングス)』
ランク:E〜A+++
種別:対人宝具
レンジ:1〜999
最大補足:-
宮本武蔵が霊厳洞にて完成させた地・水・火・風・空の兵法書。
対峙した敵のあらゆる戦術やスキル、宝具の情報を蒐集する、形の無い宝具。
これにより本来成長し得ないサーヴァントであっても戦闘経験の蓄積が可能となる。
戦闘を重ねることで「二天一流」「専科百般」のスキルは何処までも成長していく。
また真名解放により「蒐集した全技能・宝具を剣技で以って模倣する」事が可能。
しかし本来この宝具の真価は「蒐集した全技能・宝具を剣技で以って打ち破る」ことにある。
だが現在の真名は偽装登録されたもので、宮本武蔵の宝具であってマシュの宝具ではない。
マシュが自分の「道」を見出すことでこの宝具は完成し、本来の真名解放が可能となる。
宝具の真名をマシュが自ずから導き出したその時、彼女は真に剣の英霊へと至るだろう。
かつて新免武蔵という若者が、そうであったように。
【Weapon】
『無銘・郷義弘』
宮本武蔵が姫路城の妖怪を退治した褒美として賜った太刀。
単体でも宝具に相当し、聖剣魔剣に勝るとも劣らない業物。
刑部姫の分霊が宿っており、折に触れてアドバイスをくれる。
『雷光丸』
宮本武蔵が愛刀としたとされる小太刀。由来は不明。
武蔵は二刀を差すのだから二刀を使えねば意味が無いと考えていた。
太刀で受け、脇差で攻める、攻守の要。
.
【概要】
宮本村出身の作州浪人、新免武蔵。
戦国時代末期から江戸時代初期にかけて活躍した剣豪。宮本武蔵は後の名である。
各地で吉岡道場、宝蔵院流槍術、神道夢想流、柳生一族、巌流佐々木小次郎と対決。
13歳から29歳まで合計で60回以上の果たし合いをし、その全てに勝利してきた。
そして島原の乱で負傷した後、肥後熊本藩に客分として招かれ、千葉城に腰を据える。
晩年は金峰山霊厳洞に庵を結び、そこで五輪書を執筆、60歳で没したという。
その生涯は多くの謎に包まれており、今日のイメージは講談や小説に拠るものが強い。
剣術のみならず多数の分野で才を発揮している事から、武蔵複数人説まで存在している。
存在は確実だが詳細はほぼ架空という意味では、佐々木小次郎と然程変わらない。
マシュに憑依できたのも、擬似英霊として「新免武蔵」の殻を被せた為と思われる。
五輪書の序文を見る限りでは彼は「強くなるために修行を重ねた求道家」ではなく、
「己の強さでどこまで行けるか」を試みた武芸者であったのではないか――……。
【解説】
マシュ・キリエライトは人理継続保障機関カルデアに所属する少女である。
やや世間知らずだが博識、生真面目で優しい性格をしており、主人公を先輩と慕う。
しかし特異点Fへのレイシフト(過去への転送)実験に参加した際、爆破テロに遭遇。
下半身を瓦礫に押し潰され、一目で手遅れだとわかる致命傷を負ってしまう。
助けに来てくれた主人公へ「手を握って」と懇願し、二人とも炎に包まれ――……。
そして気がついた時、彼女はデミサーヴァントとして特異点F:冬木に立っていた。
本質は、デミサーヴァントとして英霊を憑依させる為に造られた試験管ベビー。
英霊を憑依させるための人体改造などの影響で、2年前まで無菌室に隔離されていた。
世間知らずなのはこの為で、「先輩」に対する自分の恋心にも無自覚で理解していない。
目標は主人公とアイコンタクトだけで戦闘、炊飯、掃除、談話ができる関係になること。
現在の年齢は16歳だが可動限界は18年。延命処置を施しても25歳を迎える事は不可能。
【特徴】
紫がかった銀髪の少女。マシュマロオッパイ。デミサーヴァントです!
甲冑を纏っているが機動性重視のため露出が多く、豊満な体型も一目瞭然。
太刀と小太刀を両手に握り、二刀流で立ち回る。
【サーヴァントとしての願い】
もっともっと強くなって先輩のお役に立ちたい/先輩と再会したい/前へ、前へ
.
【マスター】主人公@Fate/GrandOrder
【能力・技能】
・令呪
一日に行使できる数は三画までだが、一日に一画ずつ補充される。
恐らく全身に令呪が浮かび上がっているものと思われる。
現在はマシュの意思で令呪の行使が可能。
・指揮能力
同時に三体、最大で合計七体のサーヴァントを指揮できる。
歴戦のサーヴァントたちからも「良い采配だった」と言われる程度の能力。
・求心力
損得抜きに他人を助けたり、向き合おうとするお人好しな性格。
望むと望まざるとに関わらず女性から好意を持たれやすい、女難の相。
【人物背景】
人理継続保障機関カルデアに所属するマスター候補のひとり。
ただの数合わせとして呼ばれた「素人」の日本人で、知識も経験も無い。
カルデアが爆破テロに遭遇して以降は唯一生存したマスターとして戦いに赴く。
どんな逆境でも諦めずに人類のため戦う姿勢から、多くの英霊の心を掴んでいる。
現在は行方不明だがマシュとの間にパスが繋がっているため、生存はしている。
もしかすると「異なる特異点F」にいるのかもしれない。
【マスターとしての願い】
不明
.
以上です
投下します。
◇
――皆が皆、お城の舞踏会に行けるわけではないし、
――お城の舞踏会に行ったところで、王子様の心を射止めることが出来るのは美しい人だけなのよ。
――だからね、私はシンデレラが嫌いなの。
――私、シンデレラにはなれないもの。
――私だってお姫様になりたいのに。
◇
掃除に洗濯に炊事、ドタバタ、ドタバタ、ドタバタと――広い洋館の中で、己のサーヴァントはまるで独楽鼠のように忙しく働きまわっている。
何をそこまで働くようなことがあるのだろうか。
何故、掃除機や洗濯機を使わず、頑なに人力で家事を行うのか。
サーヴァントと言っても、彼女が利用していたモノとは違う――そこまで忠実に召使のように振る舞わなくても良いだろう。
テレビを点けると、見たことのない学生モデルが微笑みを浮かべていた。
苛立って、リモコンをテレビに投げつける。
テレビ画面が割れる、画面が消える、しかし――本物のモデルの顔は割れもしないし、消えもしないのだろう。
自分とは違って、だ。
蒼井晶は、顔を撫ぜた。
鏡を見ることは辞めていた。
かつては鏡は一番のファンだった、モデルに選ばれるほどの愛らしい顔と、均整の取れた身体を映して、晶を喜ばせていた。
今は、もう――そうではない。
モデルどころか、人前に出ることも出来ない。
均整の取れた身体も、愛らしい顔も意味が無い。
――傷がある。
烙印【スティグマ】のように、呪いのように、ヒビのように、
彼女の頬には、獣の爪に抉られたかのような傷があった。
何故そうなったのかと言えば、それがルールであったからとしか言いようが無い。
彼女はある戦いに参加していた、自分の願いを懸けたカードゲーム。
勝利すれば願いが叶い、敗北すれば――その願いは反転して、呪いとなって自らに降り注ぐ。
彼女はカリスマ的な読者モデルだった、けれど一番ではなかった、女王ではなかった。
――浦添伊緒奈。晶は彼女に勝てなかった。
晶は可愛かったが、伊緒奈はそれよりも美しかった。
晶の家は貧しかったが、伊緒奈の家は裕福だった。
晶は愚かで、伊緒奈は賢かった。
晶は弱く、伊緒奈は強かった。
目を焼きそうなほどに眩しかったから、自分を否定するほどに美しかったから、
ありったけの憎悪を込めて、晶は願った――伊緒奈を蹴落とすことを。
自分が伊緒奈より美しくなろうとも、裕福になろうとも、強くなろうとも、そのコンプレックスは――癒やされないから。
彼女よりも上に立つことではなく、彼女を下に落とすことでしか、勝利の実感は得られないから。
そして、彼女は敗北した。
最後の戦いは相手は、伊緒奈だった。
完膚なきまでに敗北した。
顔に刻み込まれた呪いによって、彼女が唯一自負していたものが失われた。
彼女に直接敗れることで、プライドも打ち砕かれた。
そして、彼女が伊緒奈に勝つ手段も失われた。
十代だった、何もかも失うというにはあまりにも早すぎた。
しかし、彼女は何もかも失ってしまった――彼女が持っていたものはそれだけだった。
全てを失い、しかし憎しみだけは残った。
フードを被る。顔を覆い隠す。ナイフを持つ。
自分と同じ。傷を。刻む。ために。
そして、気づくと、彼女は、冬木にいた。
◇
仄かな陽光。
見知らぬ街。
肌寒い風。
白い白い雪。
夢の中にでも迷い込んだかのように、唐突に何の伏線もなく、彼女は冬木市へと辿り着いていた。
夜は朝になり、季節は冬になり、そして――周囲には人がいた。
まるで、意味の分からない状況に、晶はフードを深くかぶり、顔を隠し、走った。
どこへ行けばいいかなどはわからない、しかし顔を見られる訳にはいかない。
人の視線は、刃物よりも鋭く彼女の傷口を抉り抜く。
「ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない」
小声で状況を否定し続けながら、走る、走る、走る。
俯いて走るので、何人もの人間にぶつかった。
「ぶつかっておいて――」
「どういう教育を――」
「どこ見て歩いて――」
彼女に文句をつけようとした何人かは、彼女の姿を見て黙りこんだ。
刻み込まれた痛々しい傷よりも、何よりも、その目を――絶望と憎しみに満ちた、汚泥のような目を見て
「黙れ」
走り、走り、走り抜けて――彼女は、辿り着く。
立ち入り禁止。警告色の看板が真っ先に目につく廃墟の洋館。
周囲に人の気配は無い。
施錠されているようだが、ガラスを割れば侵入出来るだろう。
石でガラスを叩き割る。
当然ながら電気は点いていない。
家具は一つも残っておらず、床には絨毯のように埃が敷き積もっている。
だが、晶にとってはちょうど良かった。
埃を適当に払い、部屋の隅に座り俯く。
これからどうすれば良いのだろう。
自分がどこにいるかわからない。
あの戦い――セレクターバトルが原因だとしたら、それは間違っている。
自分にもう戦う資格はないし、罰だというならば、顔にしかと刻み込まれてしまっている。
警察に行って、自分の家に帰って――それで、どうなる。帰りたくない。
食事、寝るところ――いっそ、死んでしまいたい。けれど、死ぬのは嫌だ。自分だけ不幸になるのは嫌だ。
恨みはないけど、誰かを殺して家を乗っ取ってやろうか。何が起こっているのだろう。
寒い。なんで冬なんだろう。ここどこだろう。日本には間違いない。
何故、自分はこんな目にあっているのだろう。
畜生。畜生。畜生。畜生。畜生。畜生。畜生。畜生。畜生。
身体を焼きつくすような怒りが引き金だった。
彼女の下腹部に熱が生じた。
烙印が再び刻み込まれる。
ガラスの靴、かぼちゃの馬車、12時を指す手前の時計。
誰もが知る童話のキーアイテムの3つが――令呪が、彼女の下腹部に生じる。
「アナタが、ワタシのマスター?」
晶は声を聞いた。
可憐な声。優しげで――しかし、はっきりと芯を持った声。どこか懐かしいような声。
顔を上げると、そこには継ぎ接ぎのボロ服を着た少女が立っていた。
垢抜けない顔、野暮ったい髪型――そして、その姿には何故か見覚えがあった。
「……は?マスターって」
少女を叩きだそうとした瞬間、晶の脳に聖杯戦争の情報が刻み込まれた。
瞬間、晶は理解する。
つまり、目の前の少女は自分のサーヴァントで――自分はまだ――再起出来る。
「ふ、ふ、ふ」
「どうしたの……?」
心配そうにこちらの表情を窺うサーヴァント。
ただの田舎娘にしか見えないが、しかし手に入れたのだ。再び自分の顔を取り戻す手段を、伊緒奈に勝利する手段を。
「ほんとに……ほんとに……アキラッキィィィィィィィイェイ!」
◇
「はじめまして、ワタシはアヴェンジャーの……シンデレラ」
「アヴェンジャー……って、シンちゃんって、皆大好きヒロインちゃんなのに、復讐しちゃうの?こわこわのヤバヤバ〜」
晶はまず、確かめなければならなかった。自身のサーヴァントは己の味方なのか、敵なのか。
故に、かつての戦いでも散々に行ったように――相手の精神を揺さぶる。
もう、かつての戦いのように、相手の願いを読むことは出来ない。
しかし、散々に行ったように――相手の弱みを揺さぶる方法は知っている。
そして、晶が――シンデレラという誰でも知るサーヴァントのマスターであることも幸運だった。
シンデレラがアヴェンジャー【復讐者】であると、そのようなことは――絵本に出てくるような彼女ならば有り得ない。
有り得ないからこそ、そこは隙になる。
「ねぇ、どうなの〜?」
シンデレラのことはよく知っている。
しかし、サーヴァントである目の前の少女のことは何もわからない。
相手を精神的に追い詰めて、情報を引きずり出す。
晶は絶対にこの戦いに勝たなければならない。
だから、中途半端な味方はいらない――完全な下僕がいる。
「う〜ん、意地悪なママとお姉ちゃんの目を抉りたいから、アヴェンジャーとして召喚されちゃったのかなぁ?アタシ、わかんな〜い」
「真面目に答えろよ」
とぼけるアヴェンジャーに対し、晶はドスの利いた声で応える。
相手の弱点と思われる部分ならば、徹底的に抉り抜く。
追い詰めるだけ、追い詰めてやらなければならない。
「えーっと、じゃあ……クイズ!じゃじゃーん!シンデレラを輝かせるものってなんでしょう?
ハイ、解答時間は10秒!チッチッチッチッチッチッチッチッチッチ」
「魔法だろ、魔法……いいから質問に答えろよ!」
相手の弱点を見誤ったか、適当に回答しながらも、ドスを利かせながらも、晶は相手に対し主導権を握ることだけを考え続けていた。
「はい、正解は!シンデレラになれなかった女の子たちの死体です!残念!」
「は?」
「シンデレラっていうのは、女の子の憧れ。
けど……王子様は一人だけ、王子様と一緒に踊れるのも一人だけ。
み〜んな、シンデレラ!み〜んな、ともだち!っていうのは出来ないわけ。
沢山のシンデレラになれなかった女の子たちの死体があるから、
舞踏会にも行けない、王子様に相手にされない、ガラスの靴も残せない女の子がいるから、シンデレラっていう一握りの尊い奇跡が輝くわけ!
くすくすくす、マスターみたいな醜い女の子は、綺麗なドレスを着ても、王子様は踊ってくれないわねぇ」
そう言って、アヴェンジャーは笑いながら、優しく、愛おしく、晶の傷を撫ぜた。
「バカにしてんのかあああああああああああああ!?」
怒りと痛みで、晶は叫んだ。
相手の傷口に触れようとして、これ以上と無く自分の傷を抉られた。
勢いのままに、アヴェンジャーの首を締める。
この痛みを苦しみを怒りをわからせようと、万力のように力を込める。
しかし、アヴェンジャーは笑っていた。
「アタシは、意地悪なママでも、お姉ちゃんでもないわ。だから、アナタをいじめるつもりは無いの。
ただ、アナタにアタシという存在をわからせてあげたかったの。
アタシはね、シンデレラだけど……優しい魔法使いのおばあさんなの。アナタに魔法をかけてあげる……素敵な素敵な魔法使い」
首を締められながら、アヴェンジャーは平然と言葉を続けてみせる。言葉は脳内に響き渡る。
成程、これが念話というものなのだろう。
「顔の傷を治してあげる、アナタに綺麗なドレスを着せて、舞踏会に連れて行ってあげる、意地悪な継母と義姉だって、殺してあげましょう。
アナタがこの戦いでシンデレラになるのよ……アタシがそうなったように、そうなりたかったように」
『十二時に解ける魔法、十二時に消える幸福(ビビディ・バビディ・ブー)』
急激に、力が抜けていく。
刻み込まれた知識にあった宝具――その真名開放か。
だが、何故このタイミングで――マスターを殺すつもりか。
晶の中で思考が渦巻く。
しかし、考えは纏まらなかった。
首を締める力が緩まる、立っているだけの力が抜けて、その場に座り込む。
「うん、やっぱりこの姿じゃないとねぇ」
◇
アヴェンジャーはまるで水晶のような透明感のあるドレスを着て、
陶器のような白い白い足でガラスの靴を履いて、その場所に美しく佇んでいました。
その近くでは、まるで、マスコットキャラクターのように魔女の服を着た鳥が飛んでいました。
金色の髪は、星の川が流れるかのようにさらさらと美しく靡き、
その顔は、ただ目を合わせただけで恋に堕ちてしまいそうな――そんな美しい顔をしていました。
「さぁ、マスター。魔法使いのおばあさんを呼んであげたわ。アナタの美しい顔に走る醜い傷を消してあげる。お願い、魔法使いのおばあさん」
「ビビディ・バビディ・ブー」
魔女の服を着た鳥が呪文を唱えると、晶の顔の傷は嘘みたいにすっかり消えてしまって、晶は元の可憐な顔を取り戻していました。
「さぁ、マスター顔を撫ぜてみて」
「……あれ」
晶が顔を撫ぜると、あの皮膚にある歪んだ感触が――すっかりと消えて無くなっていました。
「ああ、マスター……この家には鏡が無いわ、だからアナタは自分の美しい顔が見られないのね。
でも安心して、アタシの目の中に、アナタの美しい顔はしっかりと映っているもの」
そう言って、アヴェンジャーは晶の顔をしっかりと覗き込みました。
晶がアヴェンジャーの瞳を見ると、その中にはかつての可憐だった自分の顔がしっかりと映っていました。
「……嘘でしょ」
「さぁ、マスター……踊りましょう?」
座り込んだ晶の手を無理矢理に取って、アヴェンジャーは晶を立たせました。
そして、王子様のように、アヴェンジャーは晶を踊りに誘いました。
不思議です、晶は踊り方なんて全く知らなかったのに、アヴェンジャーに身体を任せると、まるで羽根のように身体が軽く踊るのです。
「美しいわ、アタシのシンデレラ……大丈夫、アナタはきっと王子様と結婚できるわ」
「王子様と結婚したいわけじゃない……から」
二人の体は船のようにゆらゆらと揺れ、寂れた廃墟の洋館はすっかりと二人のためのダンスホールに変わっていました。
「アナタは幸せになるの、アナタがそう願ったように、アタシがそう願ったように」
綺麗な髪ね、そう言ってアヴェンジャーは晶のふわふわとした栗色の髪の毛を撫ぜて、五本の指で櫛のように、彼女の髪を梳かしました。
「愛しているわ、シンデレラ。王子様よりも、魔法使いのおばあさんよりも、死んだお母様よりも、お父様よりも。自分のように、アナタを愛しているわ。
絶対にこの聖杯戦争で優勝しましょう。アナタの魔法はすぐに解けてしまうから……だから、アナタのための聖杯【ガラスのクツ】を、絶対に勝ち取りましょう」
アヴェンジャーの瞳の中に晶の姿が映っています。
可愛らしい姿が映っています。
「ああ、魔法が解けてしまうわ」
アヴェンジャーのドレスは元のボロに戻ってしまいました。
あの美しさもどうしたことでしょう、すっかりと元に戻ってしまいました。
しかし、ガラスの靴だけはその場に残されました。
そして――アヴェンジャーの瞳の中に映る晶には、以前のように、大きな傷が刻まれていました。
◇
悲鳴を上げる晶を見ながら、アヴェンジャーは笑う。
これでいい。十二時には早過ぎるけれど、魔法が解けるにはちょうどいい。
彼女は幸福にならなければならない、しかし――幸福になるためには不幸でなければならない。
――アヴェンジャー……って、シンちゃんって、皆大好きヒロインちゃんなのに、復讐しちゃうの?こわこわのヤバヤバ〜
先の晶の問いが蘇る。
だが、継母や義姉への復讐は――それこそ、キャスターとして召喚された魔女のシンデレラが行えばいいことだ。アタシには関係ない。
アタシが復讐したいのは、運命だ。
誰もが皆、シンデレラになりたい。
けれど、皆が皆、シンデレラになれるわけじゃない。
誰もが皆舞踏会に呼ばれるわけじゃない。
誰もが皆舞踏会で王子様の心を射止められるほど美しい訳じゃない。
誰もが皆舞踏会で王子様と結婚出来るだけの身分を持っているわけじゃない。
だから、アタシが生まれた。
継母や義姉にいじめ殺されるような、舞踏会に行けないような、
王子様と踊れないような、王子様と結婚できないような、
物語をめでたしめでたしで終わらせることの出来ない――シンデレラに憧れた女性たちが見た夢。
シンデレラという器に注ぎ込まれた、敗北者達の――祈り。
アタシが聖杯を手に入れたら、世界はどうなるのかしら?
きっと、魔法にかけられたように――幸せで包まれるはずよね。
幸福にしてあげるわ、マスター。
アタシはアナタのことをアタシのように大切に思っているのだから。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
シンデレラ
【出典】
童話
【性別】
女
【属性】
中立・中庸
【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:A 宝具:EX
【クラススキル】
灰被り:A
スキル復讐者とスキル自己回復(魔力)を兼ね揃えた特殊スキル。
シンデレラに憧れながらも、決してそうなることは出来ない女性たちの運命に対する憎悪の具現。
アヴェンジャー自身はあくまでも、その女性たちの思いを受け止める器でしかないため、その憎悪はマスターに依存する。
マスターが憎しみを重ねれば重ねるほどに、魔力を増幅させる。
忘却補正:E++
シンデレラを忘れるものは誰ひとりとしていない、だが――シンデレラに憧れる名も無き女性はいともたやすく忘れられる。
女性を不幸にした逸話のある者はアヴェンジャーに対して油断し、最初の攻撃の際のクリティカルの確率が増加する。
【保有スキル】
魅了:E
魔法使いを味方にした美しい心、王子の心を射止めた美しい容姿、女性の憧れとして語られる美しい運命。
シンデレラと相対したものは、その心と容姿、そしてその運命に対し、三回の精神判定を行う。
失敗するごとにシンデレラへの敵対の意思が薄れ、女性ならば憧憬、男性ならば思慕の感情を抱く。
ただし、通常状態のシンデレラはあくまでも灰被り。有効な判定を得ることは難しい。
硝子靴の幸福:E
時間が来れば、魔法は解ける。幸福な時間は強制的に取り上げられる。
しかし、彼女はガラスの靴を残した。魔法が解けても、彼女は幸福を諦めなかった。
彼女の状態如何に関わらず、確率によって強制的にスキル仕切り直しが発動する。
仕切り直しが発動した際、確率によって相手の進行ラインに罠を作成し、相手の戦力、精神値にダメージを与える。
【宝具】
『十二時に解ける魔法、十二時に消える幸福(ビビディ・バビディ・ブー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
誰もが知る魔法。アヴェンジャーはドレスとガラスの靴を身に纏う。
アヴェンジャーの筋力値、耐久値、敏捷値はBランクまで強化され、魅了と硝子靴の幸福スキルはAランクにまで強化される。
Aランクの硝子靴の幸福の発動による罠は、ガラスの靴である。
ガラスの靴を発見した者は、精神判定を行い、
失敗した場合は、ガラスの靴の持ち主に対する魅了、あるいは足を切り取ってしまってでも、ガラスの靴を履きたいという衝動に襲われる。
また、道具作成:A 魔術:Dを持った魔女の格好をした鳥の使い魔を召喚する。
この宝具は魔力切れのみならず、時間が十二時を迎えること、仕切り直しスキルの発動によって強制的に解除される。
『白と紅の薔薇のように、二人は楽しく幸福でありました(ハピリー・エヴァー・アフター)』
ランク:EX 種別:対運命宝具 レンジ:∞ 最大補足:-
アヴェンジャーが心の底から望みながらも、終ぞたどり着くことが出来なかった完全無欠のハッピーエンド。
この宝具を発動することによって、アヴェンジャーは王子様と幸せな結婚をしていつまでもいつまでも仲睦まじく暮らすことが出来る。
あくまでもアヴェンジャーに託されたものであるこの宝具の完全発動は令呪によるものであろうとも、聖杯戦争中には不可能である。
ただし、幸福な結末のための意地悪な継母と姉の目を抉り取る鳩の召喚だけは、限定的に行うとが出来る。
【人物背景】
神につながる心持つ
世にも可憐なシンデレラ
雨風つよくあたるとも
心の花は散りもせず。
魔法の杖の一振に
たちまち清き麗姿
四輪の馬車に運ばれて
夢のお城へいそいそと。
時計の音におどろいて
踊る王子のそば離れ
あわてて帰るその時に
脱げたガラスの靴ひとつ。
靴は謎とく鍵の役
捜し出されたシンデレラ
お城に迎え入れられて
心の花ぞかがやきぬ。
その正体はシンデレラに憧れつつも、
シンデレラにはなれなかった女性たちの祈りがシンデレラという器を取って、召喚された者。
幸福になれない運命に対する復讐を果たすため、彼女はアヴェンジャーとして召喚される。
【特徴】
通常時は、ぱっとしない目隠れ系の地味な女の子で、
でもなんか、こうたまにあるんすよね、あっこいつかわいいなみたいな時がね。
で、宝具発動時なんですけど、まぁ魔法少女みたいな感じで。
【願い】
全世界に向けた彼女の宝具の完全発動。
【マスター】
蒼井晶@selector infected WIXOSS
【人物背景】
カリスマ的な人気を誇る読者モデル。
明るい言動で傍目にはフランクな性格に見えるが、実はかなり陰湿かつ偏執的、そして悪辣。
セレクターバトルという願いを懸けて行うカードゲーム(WIXOSS)で敗北し、顔に大きな傷を負う。
めちゃくちゃおもしろいのでアニメ見たほうがいいですよ。
【マスターとしての願い】
顔の傷を治し、伊緒奈達を痛い目に遭わせる。
投下終了します。
>>375
やはり性癖に正直になりたいのでwikiにおいて、
シンデレラの一人称をボクに髪型をショートに修正させていただきます。
皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます
時代が望むとき、ヒーローは必ず蘇る。
◆ ◆ ◆
沢田綱吉は、混乱していた。
気が付いたときには、早朝の山の中にいた。
自分がなぜこんなところにいるのか、まったく見当がつかなかった。
なのに記憶には、自分が知るはずのない情報が刻まれていた。
聖杯戦争。その命がけの戦いに巻き込まれたのだと、綱吉は理解せざるを得なかった。
(なんでこんなことになってるんだよ……。
せっかくリング争奪戦も終わって、また元の生活に戻れると思ったのに……)
現在、綱吉は海辺で膝を抱えて泣いていた。
自分の置かれた状況を理解した後、彼は街に下りて公衆電話から自宅への連絡を試みた。
だが綱吉が聞いたのは、「おかけになった電話番号は、現在使われておりません」という非情のメッセージだった。
番号を間違えたかと思いもう一度かけてみたが、結果は同じ。
記憶にある友人宅や学校の電話番号にもかけてみたが、どれ一つとして繋がることはなかった。
途方に暮れた綱吉は、警察に助けを求めようと交番を探した。
その途中偶然目にしたのは、道ばたに捨てられていた新聞の日付。
それは、彼の知るものとはまったく異なっていた。
自分は場所だけでなく、時間すらも移動してこの場所に連れて来られた。
その考えにいたった綱吉は、現実から逃げるかのようにがむしゃらに走り出していた。
そして最終的に海にたどり着き、現在にいたるというわけである。
(なんで俺なんだよ……。
俺は聖杯なんてほしくない。ただ普通に過ごしたいだけなのに……。
だいたい、俺一人で何ができるっていうんだよ……)
綱吉はこれまで、いくつかの命に関わる戦いを切り抜けていた。
だがそれは、彼一人の力でできたことではない。
自分を叱咤する家庭教師も、重荷を共に背負ってくれる友人たちも、ここにはいないのだ。
「誰か……助けてよ……」
無意識に、綱吉は声に出して呟いていた。
その直後、その場に轟音が響いた。
「ひいっ! な、何!?」
怯える綱吉に、轟音はだんだんと近づいてくる。
その正体がバイクのエンジン音だということに綱吉が気づくには、さほど時間はかからなかった。
「なんかこっちに近づいてくるしー!?」
自分に向かって走ってくるバイクの姿を確認した綱吉は、すぐに逃げだそうとする。
だがとっさに立ち上がることができず、その場でバタバタともがいてしまう。
そうこうしているうちに、バイクは彼の目前まで来ていた。
「わー! なんだかわからないけどごめんなさい!
どうか見逃してください!」
日頃の習性で、とりあえず謝る綱吉。
だがバイクに乗る男から発せられたのは、彼の予想を裏切る言葉だった。
「大丈夫。僕は君の味方だ」
「え?」
戸惑う綱吉の前で、男は十字があしらわれたヘルメットをゆっくりと脱ぐ。
その下から出てきたのは、もじゃもじゃ髪の穏やかな顔だった。
(あ、あれ? なんか優しそう?
ていうか、こんなおじさんがこのすごいバイク乗り回してたの?)
目をぱちくりさせる綱吉に、男はなおも語りかける。
「僕自身がヒーローになったつもりはないんだけどねえ……。
けどやっぱり、怯えてる子供を見捨てたくはないからね。
僕は、ライダーのサーヴァント。君を守りに来た」
彼は決して、ヒーローではない。
だが彼は、数多の子どもたちから愛されるヒーローを生み出した男だ。
ゆえに今回の聖杯戦争において、彼は子供を守るヒーローとして現れた。
「真名、って言ってもペンネームなんだけど……。
石ノ森章太郎って、知ってるかな?」
【クラス】ライダー
【真名】石ノ森章太郎
【出典】史実(現代)
【性別】男
【属性】中立・善
【パラメーター】筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:E 幸運:C 宝具:A
【クラススキル】
騎乗:EX
乗り物を乗りこなす能力。
日本で「ライダー」といえば、たいていの人は「仮面ライダー」を思い浮かべる。
この聖杯戦争の開催地が日本である以上、仮面ライダーの生みの親である石ノ森はライダーとして極限の補正を得る。
対魔力:E
魔術に対する抵抗力。ダメージ数値を多少削減する。
【保有スキル】
萬画の王様:C
多数の名作を残した石ノ森に贈られた、唯一無二の称号。
漫画を描くことにより、その内容に応じたスキルをDランクで取得できる。
暗殺者が主人公の漫画を描けば「気配遮断」を、弁慶が主人公の漫画を描けば「仁王立ち」を得られるだろう。
取得したスキルは、原稿が破棄されない限り消えることはない。
なおキャスターとして召喚されたならこのスキルはAとなるが、今回はライダーでの召喚のためランクが落ちている。
【宝具】
『全ての騎兵は我に通ず(ライダーズ・オリジン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:1人
「仮面ライダーの生みの親である」という功績が具現化したバイク。
旧サイクロン号から連なる、全てのライダーマシンに変形することができる。
彼がいなければ後続の仮面ライダーが生まれることもなかったため、彼の死後に誕生した仮面ライダーのマシンにも対応している。
『英雄たちの借宿(ホテル・プラトン)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:100人
彼の作品である「HOTEL」に登場するホテルプラトンをイメージの基点とした、固有結界。
この中では石ノ森の作品に登場したありとあらゆるキャラクターを具現化することができ、本人に代わって敵と戦ってくれる。
固有結界としては、やや規模は小さめである。
【weapon】
ペンと原稿用紙
【人物背景】
日本を代表する漫画家の一人。
伝説の「トキワ荘」で青春を過ごし、「サイボーグ009」のヒットでスター漫画家に。
その他の代表作に「HOTEL」「猿飛佐助」「ロボット刑事」など。
また「仮面ライダー」を始めとして、多くの特撮作品にも携わった。
今回は「仮面ライダーの生みの親」という面を強調され、ライダーとして召喚されている。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを生還させる。
【マスター】沢田綱吉
【出典】家庭教師ヒットマンREBORN!
【性別】男
【マスターとしての願い】
聖杯なんていらないから、無事に帰りたい。
【weapon】
「死ぬ気丸」
綱吉の父・家光が開発した丸薬。
1錠飲めば死ぬ気モードに、2錠飲めば超死ぬ気モードになれる。
「X(イクス)グローブ」
綱吉の専用武器。
普段は毛糸の手袋だが、超死ぬ気モードになると革のような素材と金属でできたグローブに変化する。
死ぬ気の炎を灯すことにより、攻撃力を増加させる。
「大空のボンゴレリング」
ボンゴレファミリーのボスに受け継がれる指輪。
現時点の綱吉はこれを戦闘に活用する方法を知らないため、今の彼にはただのアクセサリーにすぎない。
【能力・技能】
「死ぬ気モード」
死ぬ気弾、もしくは死ぬ気丸によって覚醒する、「死ぬ気の炎」を灯した状態。
「心残り」を解消するために邁進し続ける、一種の暴走状態である。
その上位である「超(ハイパー)死ぬ気モード」では理性を保ったまま身体能力が向上し、冷静かつ勇敢な人格となる。
「超直感」
ボンゴレの血を引く者が持つ、物事の真実を見抜く超感覚。
サーヴァントの「直感」スキルに当てはめると、通常でEランク、超死ぬ気モードでBランクに相当する。
【人物背景】
勉強もダメ。運動もダメ。好きな子に声もかけられない。
周囲から「ダメツナ」と馬鹿にされ、不登校気味になっていた中学生。
実はイタリアの古豪マフィア「ボンゴレファミリー」ボスの遠縁であり、10代目ボスの候補者として謎のヒットマン・リボーンの指導を受ける羽目になる。
不本意ながらも裏社会の戦いに巻き込まれ幾度も死線をくぐり、少しずつ成長し、かけがえのない友も増やしていった。
しかし成長が表に出るのは追い詰められたときだけであり、普段は臆病で情けない性格のままである。
今回は10年後の未来に飛ばされる直前からの参加。
【方針】
生存を最優先
投下終了です
支援
ttp://gazo.shitao.info/r/i/20160905230736_000.jpg
投下します。
名探偵として最も高い適正を持つのは、「自身を客観的に見つめる能力に長けた犯罪者」に他ならない。
これは、犯罪者の次の行動を予測するには、犯罪者の特性や心理を深い所まで理解している前提が必要となるからだ。
勿論、犯罪心理学の教科書を捲っても近い事はできるだろう。それならば、わざわざ犯罪者が名探偵になる必要はどこにもないと思われるかもしれない。
しかし、心理学者はその心理を最初から客観視して、いくつかの根拠から推察し、誰にでも伝わる言葉で発表しただけに過ぎないのである。
それゆえ、彼らは実像を百パーセント知る事も出来なければ、誰かに伝える事も出来ない。彼らの研究はあくまで「近い推測」なのだ。
更に言えば、彼らは何の根拠もない直感を確信として発表する事が出来ないのも足枷となっている。たとえば、「経験上、何となくそう思った」は根拠とは言えないのである。
実際には、その直感も根拠らしいものに基づいて脳が導き出した推理と言えるかもしれないが、やはり根拠がなければ戯言と同じになるのであろう。
だが、本当の犯罪者たちは、そうして心理学者たちが掬い逃した犯罪の細部までも丁寧に観察し、次の一手を直感的に推理推測する事が出来る。
天才的な犯罪者であるならば、更にいくつもの経験や思考を、全て直感や知恵へと変えてしまう。
もはや、彼らは「犯罪」や「殺し」の輪郭を、より高い解像度で映し出すレンズを嵌めながら生きているような物であった。
自分ならば、どう動くのか――それを考えれば、犯罪者の闇に足を突っ込むのも容易い。
そして、その種の人間の目的が「犯罪を犯す事」ではなく、「犯罪者を暴く事」に傾く奇跡が起きた時、真の名探偵は生まれるのである。
その能力を持った男は、犯罪に付随するあらゆる「理由」を見逃さない。
果たして、反倫理的行動を犯した者が、その次に起こすアクションは何なのか。
どういう社会的立場や性格のカテゴリを持つ人間が、それと同種の犯罪を行うのか。
犯罪が発生しやすい時間帯はいつか。犯罪が発生しやすい場所はどこか。犯罪に巻き込まれやすい性質を持つのはどんな人物か。
犯罪者にはどういう心理が働いているのか。彼らの抱えるトラウマは何か。
そして、それは何故なのか。
軽犯罪から重犯罪まで、あらゆる事件のデータベースを知り尽くし、更には自分自身さえも客観視した犯罪者は、これらの疑問に対して、犯罪心理学など学ぶ必要もなく独学で応えた。
一つの傾向に素早く気づき、「次」を予測しうる能力に長けた名探偵――それはもはや、人並み外れた直感の持ち主でさえあった。
これまでの譜面を頼りに直感的に最良の一手を指す棋士のように、これまで知った犯罪や思い描いた犯罪を頼りに目の前の犯罪を解決してしまう、まさに天才的存在。
千の犯罪を知る事で、千一番目を容易く解き明かしてしまう、最初の男。
この世界にはじめて誕生した探偵は、そんな人物だったとされている。
◆
冬木市内のごく普通のアパートで、彼らは暮らしていた。
片一方の男――『高遠遙一』は逃亡中の指名手配犯に違いないのだが、それでもあまりにも自然にその場に身を置いて、愛想のよい近所づきあいを演じている。
隠れ家を作るならばもっと人の目のないアンダーグラウンドな場所が向いているかのように思えるが、彼はそれを嫌った。
警察も決して只の無能の集まりではない。犯罪者が隠れやすい場所に目を付けるのだけは、決して遅くはないのである。
だいたい、いかにも隠れ家といった所に隠れ家を構えるのは、元々高遠自身の主義に合わない。
犯罪者であると同時に、一人のマジシャンである彼は、もっと堂々と構えながら――いつ見つけられるかもわからないスリルの隣で、生を演じる義務があった。
そんな風にして、普通の街の中に、一人の殺人鬼が暮らしていた。
高遠は、変装などをして顔を隠す事はなかったが、意外にも誰かが彼を気に留める事はなかった。
強いて挙げるならば、黒縁眼鏡をかけて、少々立派なスーツを着ている程度だろう。やはりそれも、変装と言うほど大袈裟ではなかった。
だが、これらの変装と言えない変装と、いくつかの要因が重なって来ると、奇妙な事に誰も彼が逃亡中の犯罪者とは思わないのである。
簡単に、彼の正体が晒されない仕組みを説明しよう。
まず、高遠は元々、目立った特徴のある顔立ちではない。
目立つ所に黒子があるとか、髪に癖があるとか、顔のパーツが大きいとか、そういった誰の目にも留まるシンボルは元来持ち合わせなかった。
身長も、平均かそれより少し高い程度だが、それも大した特徴にはなりえないし、交番に張り出された顔写真だけでは、体格等のデータにあまり現実味を帯びる事はない。
等身大のパネルやポスターでもあれば別だが、警察はそれを全国に配備するほど犯罪者の逮捕に力を入れてはいないので、やはり高遠を三次元的に見る者はいなかった。
それらの要因からして印象に残りにくいのもあるが、それに加えて眼鏡が顔を隠すと更に高遠の印象は、手配写真から遠ざかった。
人気俳優や人気アイドルの中も、眼鏡や帽子で変装する者がいるくらいなのだから、親しい間柄の相手でなければ、よほど気づきにくいのだろう。
たった一つの眼鏡が、高遠をぼんやりとしか覚えていない人々の目を眩ませた。
それから、もう一つの変装道具であるスーツも、また周囲の目を眩ませるのに一役買っている。
これが相応に煌びやかである事によって、「逃亡中の犯罪者」という金銭的余裕のなさそうな人物像と乖離してしまうのである。
それでいて高級すぎるわけでも派手なわけでもないので、露悪的な組織と繋がっているとも思われがたい。
最近事件を起こして追われている男が、まさかこんな風に洗濯したての綺麗なスーツを来て歩いているなどとは、さすがに思えないのであった。
極めつけは、普段は愛想よく振る舞い、何かに怯える様子もなく、挙動不審な行動や倫理を疑うような行動が目立たない……という素の姿でいられる肝っ玉の太さだろう。
それらが徹底的に、犯罪者のイメージは彼と距離を広めてしまうのである。
彼は自ら他人と過度の接触こそしないが、近所の住人が困っている時には、わざわざ声をかけて手伝う事もある。これがたびたび信用を買う。
もし、仮に誰かが薄々感づいていたとしても「気のせい」と片づけてしまうほどに、彼は凶悪犯的性格の片鱗も見せなかった。
それに、周囲からしても、近隣の住民を警官に通報するには少々の勇気が要るに違いない。
誤報であれば、この程よい近所づきあいも壊れるし、それが取り返しのつかないミスに繋がる恐れがある。
多少似ている程度の人間ならば世の中にいくらでもいるし、おそらくその一人なのだろうと片づけてしまう。
第一、通報は面倒だ。わざわざ通報するほどの人間ではない。
あんな「怪しくもない人物」を難癖つけて指名手配犯などと呼んで通報してしまうのはもはや魔女狩りだ。
そう――逃亡中の指名手配犯が自分の近隣住民などという、使い古されたサスペンスが自分の身に降りかかるのを、もう誰も信じていなかった。
ビッグスターが身近に引っ越してくるよりも低い確率の偶然が、自分のもとに降りかかるような物である。
そんな面白い物語が現実に起こる可能性など、もう誰も諦めているのだ。
どこかにいるが、自分の近くにはいない。
だから、彼が近くに住む人間たちに――指名手配犯、『高遠遙一』として彼が通報される事は全くなかったのである。
マジシャンは最も見られたくない物を、本来目につくところに堂々と置く事がある。
彼もまた、堂々とその場にいる事によって、自らの存在を指名手配犯と結び付けない心理的な壁を作り上げていたのだ。
――――しかし、だ。
人間の行動は、必ずしも定型的とは言えない。
九十九人の観客を騙せても、時に目ざとい一人がそれを看破する事だって珍しくないし、他者と全く別の視点を持つ才能のある人間もいるのだ。
世の中には、時折優れた頭脳を持つ人間が、マジックのタネを暴いてくる事がある。
高遠もこれまで、何人かそんな相手と出会ってきたし、言ってみるなら、その一つの例は今も目の前にいた。
それは――彼が呼び出したサーヴァントであり、この家での共同生活者であった。
「――高遠くん、きみが持っているこの事件に関する資料は、これが最後かな」
「ええ。あくまで、『良質な資料』という意味ならば、それが全てです。
もし、眉唾ものまで知りたければ、インターネットに繋いで調べればいくらでも見つかりますよ」
「なるほど、この事件も未解決だからね。憶測や珍説、奇妙な尾鰭や伝説も付き物だ。
ノイズであるのを踏まえたうえでも、後で見る事にするよ。どんなブッ飛んだ説があるのか、少々興味はあるからね」
彼の部屋に寝転がって、「切り裂きジャック」の本を読み進めている十代ほどのヨーロッパ系少年だった。
アサシン――『フランソワ・ヴィドック』である。
白いシャツとサスペンダーとが、高遠と馴染む高級感を感じさせ、同時に怜悧な美少年のイメージを高めている。
このフランソワ・ヴィドックの名は日本ではあまり知られていないかもしれない。
しかし、彼に端を発する職業を知らない者はいないだろう。
そう――彼は、この世界において存在した、史上初の「名探偵」である。
彼の伝説は、フィクションの中の探偵たちにさえ、多大な影響を与えたと言われている。
たとえば、あのシャーロック・ホームズやアルセーヌ・ルパンさえも、彼が歴史上にいなければ成立しなかった作品にあたるし、『レ・ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャンも彼がモチーフと言われている。
そんな彼の頭脳は、高遠が犯罪者であるのをいち早く直感してしまう程であった。
曰く、
「ここは非常に脱走に向いている部屋だね。この立地なら、正面の玄関を押さえられる事があっても、押さえられる事はない。
家具も、いつでも使い捨てられるような、置物の家具ばかりだ。個人情報に関するデータをはじめ、足がつくような物がまるで置いていない。
たぶん、本当に必要で持ち歩かなければならない物はいつもその木のバッグに入っているのだろう。それくらいなら普段から持ち歩いて逃げられるからね。
万が一、部屋の中を突入された時の事もよく考えてある。一見して人間が隠れる事が出来るような家具が多いけど、それらは全て目くらましだ。
この中に突入した追っ手も、思わずあのクローゼットやソファーの中身を調べたくなってしまうだろう。
だが、追っ手がそこらじゅうの隠れられそうな家具を調べている間に、きみはもっと遠くに逃げてしまうだろうね。
つまるところ、きみが普段から誰かに追われているのは間違いないけど、どうやらきみの魔力では、魔術師に関連する事象というわけでもないようだ。
むしろ、追われ慣れているのに、みすぼらしさの欠片もないところを見ると、理不尽に追われているわけでもない。
……だとすると、きみは何か罪を犯しているので、警察から逃げる為という所かな。きみが、一人の犯罪者であると考えると非常に納得がいくね」
との事である。
ヴィドックは直感的に、この部屋の構造が脱出に向いていると睨んでいたのだ。
それは、ヴィドックが名探偵であったから導き出された結論というわけではなかった。
ヴィドック自身も――過去に投獄された時に脱獄を繰り返した「脱走犯」だったのである。
彼は、「名探偵」であり、同時に「犯罪者」でもあったのだ。
まさしく、この部屋の謎も、犯罪者の視点がゆえに導いた、犯罪者の結論だったと言えるだろう。
ついでに言えば、こうして彼が十代の少年の姿をしている事も、探偵である時も犯罪者である時もこの方が都合が良いからに相違ない。
あらゆる犯罪や密偵に用いた「変装術」では、体のパーツを水増しする事は出来ても、削ぎ落す事は出来ないし、体格は小さければ小さく、中世的であればあるほど変装には向いている。
得意とする情報戦においては肉体年齢など関係ない。サーヴァントの精神年齢や知識は死亡時に依存する場合があり、彼はまさしくその恩恵を受けていた。
それゆえに、彼の「全盛期」は、まだ軍属ですらなかった頃の淡い少年期の姿であった。
高遠にしてみれば、この年頃の美少年を部屋に棲みつかせている事の方が怪しく見られそうに思えるくらいである。
彼がサーヴァントである事の不都合といえば、そのくらいだろう。
――とにかく、ヴィドックは、こんな風にして、自身の経験と、自身が獄中にいた時に通じた犯罪者たちの経験を手掛かりに、あらゆる推理を行う探偵だった。
ただ、彼の持つ事件記録自体は、ヴィドックの生前までのデータでしかないので、文明が大きく発達したその後の事件や、他の文化圏の国の事件データは全て高遠の推薦書を調達してもらう形で補っている。
それらは「記憶」や「経験」ではなく、あくまで公表されている内容の「記録」として知っているがゆえ、ヴィドックにとっても少々物足りないが、彼は既に「近年の日本の事件傾向」にも手を伸ばせるようになっている。
高遠も有名事件から、あまり知られていない軽犯罪・小規模事件まで詳しく知っているので、ヴィドック自身もかなり助かっていた。
高遠自身がいかなる事件を起こしたのかはまだ彼の口から利けていないが、先に壮大な百年の事件史を知るのは確かに理に適っているといえるので、ヴィドックも別に無理矢理高遠の過去を探ろうとはしなかった。
おいおい聞けたら、という形で納得してしまっている。
そういう意味では、やはり相性の良い二人である。
ちなみに、この切り裂きジャック事件の場合は、ヴィドックの死後に発生した未解決事件であるせいもあり、ヴィドックはその事件について特に念入りに、興味深そうに読んでいた。
自身がその事件に居合わせなかった事の悔しさが、この執着の最大の理由のようだ。
本当に読んでいるのか疑わしくなるくらいに素早く手を動かしているが、おそらく一つの事件の資料を読み漁る中でおおよその展開を予測してしまっているからだろう。
他の本と重複する部分も多いので、余計に読み飛ばしても伝わるようになっているのだ。
「なるほどね」
彼は、しばらくしてそう言ってから、読み終えた本を閉じた。
ヴィドックにとって、解決した事件の資料は大抵予想通りの展開ばかりを辿っていた。
しかし、切り裂きジャック事件に関しては、その全貌を把握するのが少し難しいようだった。
彼がその場に自分がいれば、おそらく「ある特徴を持つ人物」を念入りに取り調べるだろうというのはある。
実際、当時のイギリスの警察の捜査方法を見る限り、あまりにも杜撰すぎて、真犯人に辿りつけないのも当然だと思えてしまう。
あとわずかに別の視点があれば、誰にでも解決できる事件になりえたとヴィドックは断言できる。
だが、百年以上の時を隔てて、伝説となってしまった事件を、資料だけで断定的に推理するのはヴィドックにとっても難儀だった。
いくつかの資料と資料ではいくつか矛盾があるし、もはや一世紀を隔てた未解決事件の資料は「資料」と呼べないほどの虚構、憶測、主観、勘違いに満ちている。
これでも正しい部類の資料だというのだから、もっと多くの資料を見つめれば、更にあらゆる情報が混在してしまっているのかもしれない。
ヴィドックはそうした見解を高遠に述べる事にした。
元々、高遠もヴィドックの見解を聞きたいと言っていた為である。
「――この事件も、ぼくやパリ犯罪捜査局の諸君、それにこのアーサー・コナン・ドイルという英国人作家が本腰を上げて捜査をしたならば、解決も夢ではなかっただろうね。
見たところ、どうやら、切り裂きジャックは、大声で騒ぐほどの大した事件ではない。ドイルの言う通りだよ。
上手く捜査すれば解決できてもおかしくないものを、警察が無能で解決できなかったから騒がれているのさ。
技術の進歩を抜きにしても、今の警察ならばもっと早くに解決が見込める。当時の警察は、的外れな根拠で余計な決めつけをし過ぎたんだと思うよ」
「なるほど。私もおおよそ同感です」
「だろう?」
「しかし、私からすれば、このジャック・ザ・リッパーも尊敬に値する人物ですよ。
何せ、犯罪で都市を劇場に変えた人間の一人ですからね。『最初の犯罪芸術家』と呼んでも、過言ではないでしょう。
私の立場からすれば、偉大なる先輩と言っても良い人物です。
……尤も、犯行声明を出したのが本人かどうかと訊かれると、少々口を噤んでしまいますが」
高遠は薄く笑いながら、そう返した。
犯罪者であり、明晰な頭脳も持ち合わせるゆえに、高遠もヴィドックに共感するところは多いらしい。
決定的に違うのは、ヴィドックにある「不特定多数の罪人に慈愛を向ける」という性格が、高遠にはない点だろう。
それゆえ、高遠はヴィドックの心情を理解しても、共感はしない。
ヴィドックは、そんな高遠との根本的な相違こそ感じているが、その相違も含めて彼を容認し、理解し、共感しようとしている。
彼はヴィドックにとっては、一つの犯罪サンプルでもあり、一人の犯罪者であり、己のマスターであり、新しい友人なのだった。
最初から「理解不能な相手」と決めつけるのではなく、「悪意や憎悪ごと理解する」という形で、ヴィドックは誰に対しても施しをする。
悪の面を持っているがゆえに、悪に対しても優しくなれるのが彼なのである。
「――しかし、警官が無能であったのは、まったく、本当に残念だね。無能というのは、殺戮と同じくらいに重たい罪だよ。
どうも、犯罪ですらない、思考力や想像力の至らなさが招いた過失は、ぼくにも共感しがたいものがある。
結局、彼らは被害者の無念を晴らす事も出来ないばかりか、犯人を救う事もできないわけだ。これでは切り裂きジャックが可哀想だよ」
「…………ほう。切り裂きジャックが可哀想、とは?
少々、興味深い考え方なので、聞かせてもらえますか」
「これは、ぼくの哲学だよ。ぼくにしてみれば、犯罪者は、許されがたき者であると同時に、誰より弱い生物さ。
ぼくやきみを含め、誰もが等しく生きる為の法律さえ守れない――そんな自分勝手で脆弱な精神の持ち主ばかりだ。
だから、犯罪者も実は、自分を理解し、同調し、支持し、救ってくれる人間を待っている。常にそうだった。
他人に認められたくて仕方ない人間ばかりなんだ。だから、却って彼らの罪は見破られ、救われなければならない。
言ってしまえば、逮捕される事のない犯罪者も、誰にもトリックを知られないまま孤独に死を迎えるマジシャンも、ぼくにとって良い生き方とは思えないよ」
「――ですが、マジシャンとは、往々にしてそういう物です。我々にとって、トリックを見破られるというのは、むしろ死にも代えがたい苦痛ですよ。
勿論、私の場合、『犯罪』においても同様です。誰もが不思議がり、誰もが必死に謎を解こうと頭を捻る姿を、高くから見る事に快感を覚える」
「……」
「そう……自分で言うのも痛々しいですが、私は殺しが好きというよりは、そこから生じる芸術が趣味の、ただの芸術家なんですよ。
誰かが死んだとしても、私にとってはどうでもいい事です。私が殺人を犯したのも、僅か四名への憎しみと、残りはすべてただの芸術の為の材料だったからです。
そんな犯罪者も、実際、あなたの目の前にいる……それを考えた事はありませんか?」
「……ああ。わかってるよ。だから、これはあくまで、『ぼくの哲学』だよ。
きみのその精神に対しても悪の心で共感してしまうんだ。
だが、同時にもうひとつの正義漢気取りの心で『悪の寂しさ』を指摘してしまう。
きみを見ていても、『そういう犯罪的な考えに至らない、健康的な生を受けた方が幸せだったんじゃないか』って思ってしまうんだ。
……失礼な言い方だけど、あまり不快に思わないでくれよ?
ぼくだって別に、上から憐れんでいるわけではないんだから。あくまで、ぼくは、きみの上ではなく隣にいるんだ。自分を慰める為にこう言っていると思ってくれ。
人を騙す事に快感を覚えるきみの気持ちもよくわかる。別に止めるつもりはない。むしろ、敬意もある。
それに、今は依頼人がいるわけでもないし、まして、きみもぼくも一緒に『聖杯』を得ようとする一人だからね」
「なるほど、わかりました。私の隣、というのは良い表現だ。
ただの一人の人間の『哲学』とするならば、確かに、意見がまるっきり対立するほどの平行線というわけでもない」
高遠も納得を示したようだった。
ヴィドックの考えに飲み込まれたというより、一つの考え方として有りと容認しているだけであるが、それでも対立しているわけではない。
いつか交わってもおかしくない、同居できる線と線であった。
ヴィドックからすれば、既に交わっている感覚なのかもしれない。
犯罪を取り締まるとともに、犯罪を愛し、犯罪者を憎むとともに、犯罪者に強い共感を持つ。
そして、極刑を下される殺人犯を見るたびに、自分が殺されるかのような痛みを感じる。
それが彼だ。
だからこそ、聖杯に求む彼の願いは――『罪人たちの救済』なのだ。
罪人たちが、罪によって救われるのでも、罰によって救われるのでもない、ただの魂の解放。
犯罪者たちが犯罪を犯した後に苛まれる、罪の呪縛――あるいは、「反省のできない不幸な精神」から解放する事が、ヴィドックの願いだった。
そうしなければ、ヴィドック自身が救われないような気がしていたのだ。
本当に救われないのは被害者であるが――被害者は「死」によって聖人になる。
しかし、犯罪者は永久にそうなれない運命を背負い、永久に名誉ごと死んでしまう怪物となる。
そうあってはならない、それでは悲惨にさえ思ってしまう――理解されがたいかもしれない願いだった。
犯罪者たちの、生まれもっての、そこに至る運命を崩してしまいたい。
それほどにヴィドックにとって犯罪者はいとおしい隣人であり、自分の体の一部であった。
「――ところで、高遠くん。
僕も、まったく、これだけ雑談を繰り返していても、きみが聖杯を欲しがる理由だけはわからないんだ。
そろそろ教えてくれよ。一つの参考にしたいんだ。
きみの場合、願望器に頼るくらいなら自分で願いを叶えるだろうし、願望器でなければ叶わないような願いは却って求めないだろう。
――それなのに、きみは願望器を欲している。理由が知りたいんだ」
ヴィドックは、少し上目遣いに、しかしどこか興味深そうに訊いた。
犯罪について訊く時だけ、彼には少年らしい無垢な瞳が視えた。
それは狂気のように見えて――しかし、狂気というには優しい願いも持ち合わせている。
ゆえに、余計に奇妙で理解しがたい瞳だった。
高遠は、その瞳に応えるように、ゆっくりと口を開いた。
「その答え、ですか……。考えるほどでもない、実に単純な事ですよ。
私はただ、――魔術を否定したいんです」
「魔術の否定?」
「ええ、我々マジシャンというのはね……魔法使いや魔術師ではないんです。
あくまで、魔法使いを演じる一人の役者でなければならない。――これはとある高名なマジシャンの言葉です。
この言葉に沿うならば、便利な魔法というのは、マジシャンが活きる為には、この世にあってはならない物です。
それならば、一度この世から消してしまう事で、われわれマジシャンがアイデンティティを保てるようにしたいんですよ」
「ああ、なるほど、願望器による、魔術の否定――か。矛盾しているようでしていない、随分と奇妙な願いだね。
一回限り、願望器を使う事で、魔術自体を否定してしまうわけだ。可能かどうかはぼくにもわからないけど、やってみる価値はあると思っているんだろう?
…………しかしね、高遠くん。きみの言う事には少々、根本的な問題があるよ。
魔法と魔術は決定的に違うんだ。
魔術はあくまで、表に出ていない、巷に流布していないだけの実現可能な技術だ。
現実に、マスターもその渦中にある。魔術はどこにでもある、一つの力学だよ」
「ええ、しかし……そうであるとしても、です。
――だって、つまらないでしょう? 手を使わずに出来る事が増えてしまうほどね……」
高遠はニヤリと笑った。
どこか、憎悪さえ込めた歪んだ顔つきだった。
「――不可能だからこそ、そうであるかのように振る舞い、他人を驚かせる価値がある。
少なくとも私はそう思いますし――そうでなければ、私の作る芸術は意味を損なう事になると思っています」
「……そうか。その言葉が本心ならば、驚くほど、誠実なトリックスターだね。きみは
犯罪者としても、非常に珍しいタイプだよ」
「私に限った事ではありませんよ。
真の愉快犯(トリックスター)ほどルールに忠実な存在はないんです。だって、そうでなければ面白くはありませんからね。
法を犯すのもまた、自分が作ったルールを忠実に守りながらゲームをしているからに過ぎません」
つまり、法より自分のルールを優先させる性格でありながら、自分の作り上げたルールだけは絶対に破らないというわけだ。
ヴィドックは、それを聞いて少しだけ考え込むようなそぶりを見せた。
それから、少しばかり時間を隔ててから、演説するように、あるいは数式を羅列するように、ヴィドックは口を開いた。
「うーん……。なるほどね。
――厳格な父。奔放な母。おそらく父はもう死んでいるか、もしくは半永久的に視界に入らないところにいる。
母は……こちらはわからないけど、やはり亡くなっているのかな。
家庭は裕福。しかし、父親の影響力は強く、普通の家庭より少し窮屈。少なくとも、影響を与えるほど一緒に育った兄弟姉妹もいない。いや、いるとしても、姉はいない長男かな。
奇術が好きだと言ったけど、多分、それは子供の頃からの根強いものだね。おそらく、きみの場合は母親が奇術が好きだったとか、そんな所だと思う。
他者への共感性は乏しいが、時として自分に近い物を持っている人間には少なからず施しをする事もある――それが、きみの性格といったところかな!」
「……え?」
「ああ、いや――見ていて、きみの生い立ちはそんな所だと思ったんだよ。当たってるだろう?」
高遠は弱点を見せたつもりはないが、ヴィドックはそれを上回る推理力で、全てを解き明かしていた。
それは、推理というよりはほとんど直感的なレベルのものであったが、高遠も目を丸くするほどに命中していた。
かの探偵の宝具――『ヴィドック回想録』の力の片鱗が、実体を持ってマスターの前に晒された時であった。
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【CLASS】
アサシン
【真名】
ウジェーヌ・フランソワ・ヴィドック@17〜18世紀フランス
【パラメーター】
筋力D 耐久E 敏捷B 魔力E 幸運A
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消す能力。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
諜報:B
気配を遮断するのではなく、気配そのものを敵対者だと感じさせない。
親しい隣人、無害な石ころ、最愛の人間などと勘違いさせる。
変装:C
別の人間に変装する技術。
アサシンの正体を知る者が顔に触れても気づかないほどの変装技術を持つ。
このスキルと『気配遮断』が併発すれば、殆ど一般人と見分けがつかない状態にもなる事ができる。
ただし、変装にモチーフがある場合、そのモチーフを詳細に知る人物には看破される可能性が上昇する。
【宝具】
『ヴィドック回想録』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
アサシンの宝具にして、彼の「犯罪捜査」の経験値と記録。
接触したサーヴァントの性格面・言動の特徴や、サーヴァントの乱戦跡・殺害痕・手口などから、そのサーヴァントの性格・弱点・コンプレックスなどを、正体に近い所まで推理する。
とりわけ、「悪」の属性を持つサーヴァントの看破に特化しているが、宝具自体が人間観察の記録と呼べる領域に達している為、「善」「中庸」といった属性のサーヴァントも見破れない訳ではない。
マスターなどに対してもその性格等を言い当てる能力は健在であり、これもまたマスターの性格の暗部を言い当てる能力として非常に高いレベルに達している。
それはもはや根拠のない直感レベルにさえ卓越しており、些細な手がかりから「なんとなく」で、像を掴んでしまう事もある。
反面で、「狂」の属性を持つサーヴァント、動物性が強いサーヴァント、無機物のように、人間の理性・倫理・思考・感情の範囲外の相手に関してはその性質を特定する事が困難になる弱点も持つ。
ルーラーのスキル『真名看破』と違うのは、対象の思想信条や個人的な事情を予想できる点や、直接対面しなくとも痕跡から言い当てる点、真名を言い当てる訳ではない点(ただし相手によっては可能)などがある。
そして、これらの能力から対策術までを講じる、探偵式暗殺術の一連の流れがこの宝具として成立している。
【weapon】
拳銃
犯罪データファイル
【人物背景】
世界で初めての「名探偵」にして、「犯罪者」。
若き頃、軍隊に入隊のち除隊したが、その際に手違いで除隊証明書を受けなかった為、脱走兵として逮捕される。
さらにのち、偽札紙幣を偽造した一味の仲間という濡れ衣を着せられ、更に重い刑に服す事になる。
しかし、ヴィドックはそれを逆に利用し、入獄中の犯罪者たちの性格や行動、犯罪の手口や暗黒社会に関する情報を収集。
脱獄や潜入、変装の手法もこの期間に学び、高め、実際に脱獄と入獄を繰り返していた為、徒刑場でも問題児扱いされていた。
出獄ののち、パリ警察と共謀して密偵となり、徒刑場で得た情報を用いてあらゆる犯罪の手口を看破。
これらの功績が認められ、国家警察パリ地区犯罪捜査局を創設し初代局長となる。
犯罪データベースを用いた現代に繋がる捜査方法を確立したほか、探偵事務所を開いた初の人物でもある。
その捜査方法は、自らが犯罪を犯す事も全く厭わない、かなり強引な手法であるとも言われ、まさしく「犯罪」と「法律」との挟間にある犯罪者探偵であった。
また、上記の逮捕された経緯こそ冤罪に近いが、幼少期から盗癖があったり、友人に暴力を振るったり、甘え上手で女性を騙すのが得意だったりもする「犯罪者」としての一面も嘘ではない。
【特徴】
ショタ。十代前半程度の中性的な美少年。
黒髪で、顔は同じ年代ごろのレオ・ルグランのようなイメージ。
服装はサスペンダーと白いシャツをつけている感じ。外ではベレー帽も被るかも。
口癖はないが、台詞がやたら長く、演説的になりがち。
ちなみに、史実では、少年期から体格が大きかったらしい。
【サーヴァントとしての願い】
犯罪者たちの救済。
【マスター】
高遠遙一@金田一少年の事件簿
【マスターとしての願い】
魔術の否定。
【weapon】
『マジック道具』
普段、高遠が自らの身体に仕込んでいる様々なマジックアイテム。
アタッシュケースに入れて必要時に持ち歩いている物の他、いつでもショーが披露できるように体にも幾つかのマジックのタネを用意して生活している。
用意周到であり、事件現場では防弾チョッキを着用していた事もある。
【能力・技能】
天才奇術師・近宮玲子の血を引き継いでおり、当人もマジシャンを志している為、魔法と見紛うような奇術を披露できる。変装やメンタリズムもお手の物。
高度な知性を持ち、高校時代は名門進学校の秀央高校に入試全科満点で合格している。授業を聞いていなくても一通りの授業内容を理解できる模様。
それに限らず知識量もあるようで、作中で音楽家やギリシャ神話の解説を務めた事もある。
元々殺人犯であり、躊躇なく殺人を行う冷酷な性格でもあり、他者に殺人の為のトリックを授けて殺人教唆を行うが、一方で殺人事件を解決したり、殺人犯が使ったトリックを解明したりする事もある。
コンピュータウイルスを作ったり、インファイトで格闘したり、ピアノを弾いたりといった姿も見せており、大抵の事はできるキャラとして描かれている模様。
【人物背景】
地獄の傀儡師。
天性の犯罪者とも呼ばれる、他者を利用して殺す事を厭わない冷酷な殺人鬼である。
幼少期は、厳格な義父のもとでイギリスで生活をしていたが、ある時、天才マジシャン・近宮玲子の舞台を義父に見せられて以来、マジシャンを志すようになる。
高校時代は、日本に帰国しており、名門進学校・秀央高校に全科目満点で入学。在学期間中に校内で発生した殺人事件を探偵のように推理して解決し、犯人を殺害している(ただし正当防衛によるもので殺意はない)。
また、在学中に義父が死去した事で、本格的にマジシャンを目指すようになり、そのためにイタリアへと渡る。
イタリアでは高名なマジシャンの弟子として修行していたが、十七歳の時に近宮玲子の死を知る事になり、十八歳の誕生日に近宮玲子が自分の母親である事を知った。
後に近宮の弟子である「幻想魔術団」のマジックを参考の為に鑑賞。
しかし、その時に幻想魔術団の行ったマジックが「近宮玲子の模造品」であった事から、「近宮は弟子に殺された」という真相を知り、憎悪に燃える。
幻想魔術団のメンバー四名の殺害を決意した高遠は、マネージャーとして潜入。ターゲットを絞り込んだ後、警察に予告状を出したうえで「劇場型連続殺人」を演じた。
彼の起こした「魔術列車殺人事件」は金田一一によって事件は解決される事になったが、逮捕後に間もなくして脱獄。
以後は、いくつかの事件で金田一や明智健悟に向けて挑戦状を出し、復讐を望む人間たちに「マジックのような、美しく謎と怪奇に満ちた芸術犯罪」を教唆する犯罪コーディネーターとなった。
非常に冷徹な人物ではあるが、同時に約束を絶対に守る義理堅い性格であり、協力者の死には怒りを見せ、基本的に自身の計画に無関係な人物は巻き込まず、自分と近い境遇の人物の命を助け、肉親の過ちを正し、無邪気な子供たちの前では優し気な笑みと共に人形劇を見せるといった面も見せる。
【方針】
他陣営と共謀しつつも、目的はあくまで聖杯。
魔術の存在そのものを嫌うが、聖杯戦争が終わるまでは魔術を利用する事も辞さない。
投下終了です。
>>307
今気づきましたが宝具ステータスが「A++」になっているのを「A+」に修正。
またサーヴァントの特徴に「カラスを思わせる黒い鎧を着た戦士にして王」の一文を追加させていただきます。
それと……>>331 さん……支援絵……本当にありがとうございます……本当に……
皆様投下お疲れさまです。
自分も投下させていただきます。
――がぁん。 がぁん。 がぁん。
斧を振り下ろす音が響きます。
吹き荒れる嵐の中で、そんな音はかき消されて聞こえないはずなのに。
気味が悪いくらいはっきりと、私の耳には聞こえてきます。
ああ、でも、それは当たり前のことなのです。
私にだけは、あの斧を振るう音が聞こえないわけがないのです。
だって、その斧を持つ人が切り落とそうとしているのは。
何度も何度も振り下ろし、刃を叩きつけているのは。
海に体を投げ出されながら、必死で船べりにしがみついている、この私の指なのですから。
――痛いです、お父様。どうして、そんなことをなさるのですか。
――うるさい。お前を連れ戻そうとしたのが間違いだったのだ。
――何故です。一度は私を救い出してくれたではないですか。
――あの悪霊はお前を追ってきたのだ。このままでは舟ごと沈められてしまう。
――痛い、痛い、痛い! ああ、私の指が!
――私の代わりに沈め、我が娘。お前が死ねば奴の起こした嵐は静まるのだ。
――お父様、お父様! 私の指が、みんな海の底に!
――まだしがみつくか。死ね! 死ね! 死ね! この親不孝者めが!
ぶつり、と何かが潰れる感触がして、それから世界が半分になりました。
自分の右目に、お父様が突き出した舟の櫂が突き刺さっているのに気付いたのは、その後でした。
お父様が櫂の先を動かすたびに、私の頭の中で嫌な音が響きました。
どこかで叫び声が聞こえます――いいえ、それは私の喉から漏れ出したものなのです。
痛くて、寒くて、怖くて、苦しくて、悲しくて。
私の目玉がぐちゃぐちゃになるたびに、私の心もぐちゃぐちゃになっていきました。
そして――。
ふっと、私の体が宙に浮いたように感じました。
舟に捕まる最後の力すら失った私は、今度こそ荒れ狂う海に呑み込まれたのでした。
沈みゆく私が、半分になった視界で最後に目にしたもの。
ああ――喜悦に歪んだあれが、生まれてこれまで慕ってきた男の顔か。
なんと醜いのだろう。なんと賤しいのだろう。
浅ましく生を貪るお前を、けしてそのままになどしておくものか。
伝え聞くところによれば、海の底には死者の国があるという。
ならば死んでも死にきれぬ私は、地上の全てを呪いながら沈んでいく私は。
この暗い海の底より永劫に、地上にしがみつく者どもを、残された片目で睨み続けていきましょう――
▼ ▼ ▼
跳ね上がるようにベッドの上で半身を起こしてから、私は現実感を確かめるように額の汗を拭った。
ぞっとするほど生々しい夢だった――思い出しただけで全身が総毛立つ。
体の芯まで染み入る北極の海の冷たさ、一本また指を切り落とされていく痛み、片目を潰された時の絶望。
すべてが自分自身の体験であるかのようにリアルで、そちらに思考を傾けるだけで蘇ってきそうだ。
寝間着がじっとりと濡れているのを感じ、その気持ち悪さに身震いして、私は改めて起き上がった。
独りで悪夢の影に怯えるには、このダブルベッドはあまりにも広すぎるから。
洗面台に立って、顔を洗う。
真冬の蛇口から流れる水は冷たく、それでも夢の中のあの海に比べれば遥かにましに思える。
まるで夢のほうが現実のようだと思い、それこそ馬鹿げた夢想だと自嘲する。
タオルで拭った顔を起こすと、鏡が真正面から私の視線を反射した。
やつれた顔でぼんやりとこちらを眺めているのは、人生に疲れ切ったつまらない女の顔。
如月 千種(きさらぎ・ちぐさ)という女の、化粧の代わりに諦めを塗りたくった顔が、そこにあった。
あの悪夢のほうが現実らしいなどと一瞬でも思ったなんて、本当に笑ってしまう。
まだ幼かった息子を交通事故で無くして以来、死んだように生きてきた自分が、死ぬ夢で生を感じるなんて。
あの日から、夫(あのひと)とは顔を合わせるたびに罵り合った。
お互いにあの子の死を受け入れ切れずに、その罪を相手になすりつければ少しでも救われるとすら思っていた。
歌で家中を明るくしてくれていた娘は、弟を失ってから思い詰めた顔で歌うようになった。
まるで歌うことが、死んだ弟への贖罪であるかのように。
私達家族は、もうどうしようもなくばらばらで……きっととっくのとうに、家族と呼べるものではなくなっていたのだろう。
「……あまり、よい目覚めではなかったようですね……マスター」
肩越しに掛けられた声に、私はゆっくりと振り返り、ひとまず「おはよう」とだけ返事をした。
声の主は少しだけ首を傾げ、感情の見えない顔のまま「おはようございます」と答えた。
たったそれだけのやりとりすら私のこれまでの日常から途方も無く離れているのに、既に私は疑問を感じなくなっている。
私がこの冬木で目覚めて以来、彼女はずっと私のそばにいた。
聖杯戦争だとか、サーヴァントだとか。ドラマチックな事柄に無縁過ぎた私の人生には、そんな非日常はどうにも馴染みにくくて。
結局私は、彼女は自分に取り憑いた悪霊のようなものだと思うようにしている。
悪霊も十分非常識ではあるけれど……生きることに疲れ果てた私には、なんだかお似合いのような気がしたのだ。
それとも、死神だろうか。彼女自身が語るように、本当に死者の国の女王なのかもしれない。
――セドナ。
それが彼女の名だという。
曰く、北極のエスキモー神話に語られる、海と冥界の女神だと。
父親に見捨てられて海に沈み、地上全てを呪うに至った、愚かな女だと。
彼女自身は「セドナさん」と呼ぶと「二人きりの時以外は『アヴェンジャー』と呼んでください」と言うのだけれど。
改めて、彼女の姿を視界に収める。
女性の私の目から見ても、彼女はあまりに美しかった。
纏うローブと流れる長髪はしたたる水で常に濡れていて、それが豊かな体の線を浮かび上がらせて艶めかしい。
その非現実的な美貌には、なるほど女神と言われても納得してしまいそうな説得力があった。
けれど、彼女の右目を隠すように巻きつけられた布と、決して外さない毛皮の手袋が、その美しさに陰りを与えていた。
あの夢を見た今なら、なんとなく分かる。
サーヴァント――彼女は自分達をそう呼ぶ――は主人と見えない線で繋がっているのだという。
これまでは半信半疑だったが、あの夢はきっと、彼女の過去が私の中に流れ込んできたものなのだろう。
父親に指を切り落とされたのも、片目を潰されたのも、冷たい海に放り出されたのも。
全て、彼女にとっての真実(ほんとう)なのだ。
「……私の夢を見たのですね……?」
「セドナさん。その、サーヴァント?というのは……人の心も覗けるものなの?」
「……アヴェンジャー、と呼ぶようにと。半分は推量でしたが……当たり、でしたか」
抑揚の少ない声で返されて、言葉に詰まる。
そんなにも私の考えは、読みやすいものなのだろうか。
いいえ、と自分で否定する。夫にも、娘にも、私の心は一度だってまともに伝わりはしなかった。
「……それでは、私の本質を知ったマスターに問います……。戦う覚悟は、定まりましたか」
そんな内心を、知ってか知らずか。彼女は、何度目かになる問い掛けをしてきた。
「……戦うって、何と?」
「……運命と」
馬鹿馬鹿しい、と思う。そこまでが、今まで幾度となく繰り返された一揃えだった。
聖杯だか何だか知らないけれど。それでどんな願いでも叶えられるとして。
それを使ったとしても、自分が幸せになれるイメージは、まったく浮かばなかった。
それくらい私は――如月千種は、人生に疲れきっていた。
生きることは、あまりにもままならなくて。ほんの些細なすれ違いが、二度と戻せない歪みとなってしまって。
どうにもならない。どうしようもない。
私はきっと、これからも幸せにはなれないだろう。
「何度も言ったでしょう。私に、叶えたい願いなんて、ないのよ」
なのに。
「……本当に、そうでしょうか……?」
彼女の手袋に包まれた指先には、その美貌にはあまりに似つかわしくない、下世話な週刊誌が握られていて。
「――――っ!?」
反射的に奪い取ろうと手を伸ばし、そのまま大きく重心を崩して、私はフローリングの床でしたたかに体を打った。
呻きながら、彼女の体から滴り落ちる海水で足を滑らせたのだと今更ながらに気付く。
ちかちかと星のまたたく視界の隅に、週刊誌の下品な見出しが嫌でも飛び込んできた。
『 歌姫の凄惨過ぎる過去 』
『 事故死・両親離婚・家庭崩壊 』
『 765プロのアイドル如月千早、弟を見殺し 』
アイドルとして活動していた娘、如月千早のスキャンダルを暴き立てる記事。
この冬木に迷い込んだ時に、荷物に紛れ込んでいたもの。
もう二度と見たくないからとっくに捨てたはずなのに、どうして彼女が。
いいえ、それよりも、それを彼女が持っているということは、私達のことを、知られてしまったということで。
「……本当は、叶えたい願いがあるのではないですか……?
「――――めて」
「……こうであればよかったと。こうであればどんなにいいかと」
「――やめて」
「……あの日。あの時。あんなことが起こらなかったら、今頃どうなっていただろうと――」
「やめてっっっ!!!」
叫んでから、はっとした。こんなに大きな声を出したのは、どれくらいぶりだろうか。
なのに彼女はそんなことなどお構いなしに、起き上がれないままの私の上に伸し掛かってきた。
したたる水が私の寝間着にまで染み込んでいく。
鼻先が触れ合うほどに彼女の美しい顔が近付き、片方だけの瞳がじっと私を覗き込む。
「……聖杯は、万能の願望器。過去を変えることもまた、容易いこと……」
水が布地に染み込むように、彼女の言葉が、私の心の亀裂に染みこんでいく。
「……聖杯に願えば、息子さんの死は、無かったことになるでしょう。
娘さんは、歌声と、かつての輝くような笑顔を取り戻すでしょう。
そして、貴女が何よりも望んで、二度と手に入らないと諦めていた、暖かい家庭が――」
戻ってくるでしょう、と、囁くような声で言ってから。
最後に彼女は、こう続けたのだ。
「……私はかつて、お父様に見捨てられました。マスターはそれを我が事として体験なさったでしょう。
あの悲嘆を、苦痛を、絶望を味わった貴女が――よもや我が子を見捨てたりはなさいませんね、マスター?」
ああ――その言葉は、呪いだ。
そんなことを言われてしまっては……私は、願うしかなくなってしまうもの。
死んでしまった息子、優が、元気に育つ現在を。
疎遠になってしまった娘、千早が、輝くように歌う明日を。
もう私にとっての幸せは、過去のものでしかないというのに。
「……聖杯に願えば、優は帰ってくるの……?」
「ええ」
「……千早は、また微笑んでくれるの……?」
「ええ」
「……またあの頃みたいに、あの子達ふたりで一緒に――」
「ええ、マスター……全能こそが聖杯ゆえに」
彼女の体からしたたる水が私の顔を濡らしているのかと思ったが、違った。
その温かい水は、私の両目から溢れ出していた。
ああ、私はもう、どうなっても構わない。
私の幸せなんていらない。もう一生、やつれ果てた女のままで構わない。
いっそ全てが終わった後でなら、彼女が治める深海の死者の国に連れて行かれたっていい。
それでも。
それでも、ひとつだけ。
ひとつだけ、全てを諦めて生きてきたこんな私でも、願い事をしてもいいでしょうか。
「……お願い、アヴェンジャー。私、聖杯が欲しい」
――私の大好きな子供たちが、どうか笑顔で暮らせる世界がありますように、と。
【クラス】アヴェンジャー
【真名】セドナ
【出典】北極圏/エスキモー神話
【マスター】如月千種
【性別】女性
【身長・体重】162cm・51kg
【属性】混沌・中庸
【ステータス】筋力D 耐久B 敏捷C 魔力A+ 幸運E 宝具A
(※敏捷のステータスは水中に限りランクアップする)
【クラス別スキル】
復讐者:A+
己を人ならざるものへと昇華するまでに至った嘆きと怨念。
彼女が直接復讐したのは父親に対してだが、怨恨は地上の全てに及び、海属性を持たない敵からの被ダメージにより魔力が増加する。
忘却補正:A
海がそこにある限り、死は常に海と共にある。人は死を恐れ、死もまた人を忘れることはない。
陸地に生きる全ての者に対して“効果的な打撃”のダメージを加算する。
自己回復(魔力): B+
怨恨の情念が尽きない限り、自ら復讐のための魔力を生み出し続ける。
これにより、魔力に乏しいマスターでも現界を維持できる。
【保有スキル】
神性:B++
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
セドナは巨人族の血を引くのみで神霊との血縁はない――しかし、彼女自身が神霊に『なりかけている』。
魔力放出(海):A+
武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
全身から溢れ出た魔力がそのまま荒れ狂う海となって彼女の周囲で渦を巻く。
セドナはこの魔力の海を手足のように操り、また空間を海水で満たすことでその中を泳いで移動する事ができる。
海獣の母:EX
セドナの切り落とされた十指が姿を変え、クジラ、シャチ、セイウチ、アザラシ……北極海に棲まう海獣たちが生まれたという逸話。
彼女は自分の指を切り離し、それを望む種類の海獣に変えて使役することができる。
海獣は分離していても彼女の霊基の一部であるためサーヴァントと同様の性質を持ち、彼女の魔力が生み出した海を自在に泳ぐ。
【宝具】
『冥海浸域(アドリヴン)』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1〜100 最大補足:100人
――深い深い海の底には、死者の国がある。
海神たる彼女が司る海底の冥界を地上に再現する、固有結界とは似て非なる大魔術。
セドナが結界の領域と定めた範囲内の全てを魔力によって生成した海水で一瞬にして満たし、水没させる。
海水は結界から外に流れ出ることはなく、魔力を最大まで注ぎ込めば「水深」は数百メートル以上にまで達する。
また水中であると同時に冥界であるという性質により、海底に近いほど死の濃度が増し、生者の世界から遠ざかる。
その莫大な質量の「海」――それがもたらす水圧、冷気、暗闇、窒息――はそれだけで脅威だが、しかしこの宝具の全てではない。
海は彼女にとって己の領域であると同時に体の一部も同然であり、彼女はその全てを自在に使役することが出来るのだから。
過去にいかなる伝説を打ち立てようと、『海そのもの』と戦って勝てる英雄など、果たして存在するのだろうか?
【weapon】
無し。
固有スキルによって作り出す「海」による攻撃と、切り離した指が変化する海獣の使役によって戦う。
【解説】
北極海沿岸地域の先住民族エスキモー(特にカナダ・イヌイット)の伝承における海と冥界の女神。
元々は巨人族の血を引く美しい娘であり、親が選んだ婚姻を拒んだ罰として犬と結婚させられ、多くの子を産んだとされる。
(余談ではあるがこの子供たちが現在のエスキモーの祖先であるため、セドナは祖神でもあることになる)
そんなある日セドナの前に若い男が現れ、毛皮などの贈り物で気を引いて彼女を連れ去る。
しかし男の正体は海鳥であり、セドナは彼女を連れ戻しに来た父親と共に小舟で脱出する。
だが男が起こした嵐が小舟を沈めそうになると、父親は自分だけ助かるために娘を見捨ててしまう。
両手を石で潰され、全ての指を斧で切り落とされ、櫂を片目に突き立てられて。
哀れな娘は、見るも無残な姿で沈んでいき――しかし怨念のあまり死にきれず、海底で神へと変じたという。
なお一人生き延びた父親は、のちに怒れるセドナの起こした波に引きずり込まれ、今も海底に幽閉されているとされる。
なお、女神としてのセドナは醜く縮こまった隻眼の老婆の姿で表される。
しかしその姿の彼女はほぼ完全に神霊と化しており、サーヴァントとして召喚することは不可能。
よって必然的に、聖杯戦争においては「神霊へと変化しつつある状態」の若く美しい女性の姿で現界することになる。
【特徴】
儚げで厭世的な雰囲気と成熟した肢体を持つ、妙齢の女性。
深海のような色のローブの上から毛皮のフード付きコートを羽織り、同じく毛皮の手袋を着けている。
手袋の下の指は魔力で一時的に繋げているだけで、生前通り切断されたまま。海獣召喚時は手袋を外す。
ローブの下は一糸纏わぬ姿だが、生前に父親に潰された右目は布を眼帯のように斜めに巻いて隠している。
なお、全身から魔力が海水として漏れ出し続けているため、ローブは常に濡れて体に張り付いた状態である。
【サーヴァントとしての願い】
アヴェンジャーとして召喚されたため精神が死の直前で固定されており、聖杯に興味を示していない。
今の彼女は、ただひたすらに地上世界への怨恨を晴らすために存在している。
【マスター】
如月千種@THE IDOLM@STER (アニメ)
【能力・技能】
特殊な能力と呼べるものは一切なし。
彼女はどこにでもいる、ままならない人生に疲れ果てたただの一人の女性である。
【人物背景】
アイドルマスターのメインキャラクターの一人、如月千早の母親。
容姿は千早とよく似ているが、心労からかやつれた顔つきで、後ろで纏めた髪もぼさぼさになっている。
設定ではゲーム版以前から存在していたが、具体的な容姿や名前が登場したのはアニメが初。
彼女の家庭はかつては仲の良い家族だったようだが、息子(千早の弟)である優が交通事故死したのをきっかけに崩壊。
夫とも口論が絶えず(アニメとは細部の設定が違うものの、夫に優の死は千種の責任だと責められていたようである)、本編の数カ月前に離婚。
残った娘である千早とも、本人曰く「顔を合わせれば喧嘩しかしない」ほど上手くいっておらず、コミュニケーションを諦めている節がある。
それでも娘への情は無くしておらず、彼女が持っていた優のお絵描き帳は千早の再起に大きな役割を果たすことになる。
今回の聖杯戦争では、娘の千早が「弟の事故死を週刊誌に暴かれ活動休止中の時期に冬木へと迷い込む。
優のお絵描き帳も、千早へと託されることなく未だ彼女の手元にある。
【マスターとしての願い】
優の死をなかったことにして、家族をあるべき形に戻したい。
自分の人生については既に諦観しており、子供たちが救われるのなら自分はどうなってもいいと思っている。
投下終了しました。
投下お疲れ様です投下します
――今年の冬は、寒かった
.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
冬木市、と言う名前はその名称が仄めかす通り、余所よりも冬が長い事から名付けられた名前である、と言う。
誰が名前を考えたのかは知らないが、随分と適当な名前を付けたものだ。この街に住む人間であれば、誰もがその名前の由来が嘘であると解るだろう。
冬の長さは余所と対して変わらず、厳冬期の二月でもその気温は十二月並。寧ろ、冬が過ごしやすい街だから冬木市なのだ、と誰もが言う。
のどかな田舎町としての側面と、由緒正しい武家屋敷や古風な洋屋敷が幾つもあると言う歴史町としての側面、そして近年の都市開発の賜物とも言うべきレジャー街など。
この街には様々な側面がありそして、都会から来た人間にも住みやすい、良い街なのだ。街としては十分過ぎる程拓けており、冬も夏も過ごしやすい。
……そんな街であった筈なのだ。
「異常気象だなんて地球の歴史すれば一時的なもの、だと思ってたが……これは、異常だろう……」
口ひげを蓄え、作業服を身に纏った中年の男性が、乱暴に暖かい茶を飲み乾しながら、愚痴をこぼした。
冬木市に支社を置く、海運会社。その支社長が悲観的な様子で、窓の外を眺めた。
今の時刻が夜だと言う事を差し引いても、数m先すら見渡せなかった。
ガラス自体に特殊なデザインが施されている訳ではない。窓全体を覆う、『霜』の為である。
窓からは外の風景がまるで窺い知れない。何せ窓全体が、完全に雪で覆われていたからであった。
冬木にだって雪は降るし、その時の気候次第によっては、脛より上まで埋まる程雪が積もる。――だが、これはおかしい。
微かに耳をそばだててみると、ビシビシと言う音が聞こえてくる。音の正体は、窓ガラスに雪が思い切り叩き付けられる音だった。
目全体をカバーするゴーグルを被ってから窓を開けようとする。スライドする部分にも雪が溜まっており開けるのも一苦労だったが、無理やりに男は窓を開け、
外の光景を眺めた。顔や体に叩き付けられる大量の雪。見る見るうちに雪が部屋の一角に堆積して行く。
それは、降雪と言うよりは最早吹雪だった。
頭上から降り注ぐと言う可愛らしい物ではなく、殆ど横殴りに雪の方から叩き付けられに行っている、と言う領域だ。
防寒装備を完璧しない限り、この雪の中は先ず歩けないだろう。それだけだったのならば、まだ良い。
皮膚が裂けて筋肉にクレバスが出来てしまいそうな程の、この寒さはどうだ。外に設置された気温計によると、-40度を叩き出していると言うらしい。
今寒さを肌で感じてわかる。断じて嘘ではない。俄かに信じ難いが、早くも眉や髭があまりの寒さに『凍結』を始め、髭に氷柱が出来始めていた。
しかしそれでも、目の前の光景は、目に入れずにはいられなかったのだ。見るが良い――海が、凍っている。
支社長室からは冬木の海と、季節が春だろうが冬だろうが冬木港を行き来する貨物船の移動の様子が一目で眺められる。
其処から見る冬木の海は、正に氷で覆われているのだ。人どころか、車を乗せて運転しても割れないのではないかと言う程の厚さであるのが此処からでも解る。
今のポストにこの男が就き、冬木に転勤してからもう十年程にもなるが、その十年の間、この海が今のような様子になった事など見た事がない。
生まれも育ちも冬木の街と言うこの支店の社員に聞いても、こんな気温もこんな様子も初めてだと言う。つまり真実、異常気象であるのだ。
海が凍っていると言う、その圧巻極まりない様子を確認してから、急いで支社長は窓を閉じた。
冬のロシアに海外研修に行った時の事を思い出した。-40度を下回る極寒の世界では、常識が通用しなくなる。
吐いた息が瞬間的に音を立てて凍結するだけでなく、この温度になると呼吸をする事すら命取りになる。毛細血管が凍結して行き、最終的に肺が凍り付いて死に至るのだ。
いつまでも窓を開けている訳にはゆかない。手が悴み、しもやけが出来かけている。部屋の中に積もった雪の一部が、暖房の熱に当てられ溶けて行き、男の足元に水溜りを作った。
酷く疲れ切った様子で男は、机の上に置いてあった電話の受話器を手にし、内線にコールを掛けた。
2コール程で相手が出た、「何の御用ですか社長」、と、電話の主が言った。向こうもこんな状況だ、ヒステリックさを隠し切れてない。が、それを責められなかった。
「私の方でも解り切っている事だが……そっちの様子はどうだ」
「全く駄目ですね……。海が凍り付いて、船が全然出せません。砕氷船でもない限りは前にも進めませんよ」
やはりそうだろうと男も思う。
少なくとも冬木に停泊している船では、海の氷を意に介さないで進めるものなど存在しないし、これから冬木に来航する貨物船にしても、
この氷を物ともしない船はやって来ない。この状態が続くと言う事は業務の停滞を意味し、社に与える損害も馬鹿には出来ない事を意味する。事態の解決を、願わない筈がなかった。
「外の気温についてだが、本当に氷点下四十度なのか? 日本の歴史上の最低気温寸前だぞ」
-40度と言うのは、北海道やロシア、アラスカレベルの気温である。少なくとも冬木では、見舞われる事自体があり得ないレベルの超極低温だ。
「間違いありませんが、ひょっとしたらもっと下がっているかも知れませんね」
「何だ、その含みのある言い方は」
「流石にこの寒さです、港に出していた社員や巡回していた警備員の方々に外出の禁止令を出して、屋内待機を命令したんです。ですから、最後に外の気温を確認した一時間前から、ひょっとしたら気温が下がっているかも知れません」
その判断は正しかった。
この街の例年の冬に適した防寒着しか皆は持って来ていないし、会社の方も備えていない。そんな舐めた装備で、この気温の中を出歩くのは無謀も良い所だ。
「この吹雪が止むまでは、少なくとも籠城戦の形になるだろうな……」
頭が痛いのは、きっと先程吹雪に当たりまくったからではないだろう。
業務の停滞と、その後に待ち受けるだろう地獄その物としか言いようがない、凍結していた業務のラッシュ。
そして何よりも、社内に社員を長期間待機させる事による、彼らの当面の生活維持。こう言う時に陣頭指揮を執るのが、この冬木支社を預かる社長の責任と言うものだった。
「そちらは気温の情報に目を光らせつつ、本社の方に冬木の情報を送り続けろ。私は、お前達の食糧の手配をしておく。」
「了解しました」
その返事を聞いたのち、受話器を切る。
普段ならばこう言った時に社長は動かないのだが、未曽有の事態である。社内一丸となって問題の打破に当たらねばならない。
彼はそう思いながら、119番に連絡を入れ始めた。何分こんな事態だ、この対処自体もあっているのか男にも解らない。
ただ一つ確かなのは、この事態は尋常の手段では乗り切れないと言う事だった。
窓の外で、一際強い吹雪が吹き荒れ、がたがたと窓枠を揺らした。
それはあたかも、この異常気象の原因となる、魔王か神の哄笑めいていた。
.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
今いるその仮寓が、雪女の洋館と言われている事を、彼女、アナスタシア――もとい、『アナスタシア・ニコラエヴァ・ロマノヴァ』は知らない。
知る訳がないのだ。彼女は聖杯戦争の参加者としてこの冬木の街に招かれ、この街の名家に住んでいると言う深窓の令嬢と言うロールを与えられてから、
一歩たりとも外に出ていない。混乱しているからだった。何故自分が、寝ても覚めても殺し合いの事しか考えられない侍の国にいるのか。
そして、聖杯戦争と言う殺し合いに自分が何故乗らねばならないのか。自分がこの戦いに参加しなければならない、と言うのは最早不可避の事項らしい。
雪の結晶を模した、右手に刻まれている令呪と言う入れ墨に目を下ろすアナスタシア。これがある以上、最早自分は逃れられない運命の渦中にいるも同然らしい。
心細い、と言う感情は例え死して蘇った身になっても、消えないらしい。ライフル銃の銃尻で思いっきり頭を叩き割られた時の痛みは忘れていない。
敬愛する父ニコライ二世が、処刑人に無慈悲にピストルで額を撃ち抜かれて殺害された時のシーンも、鮮明に思い出せる。
エカテリンベルクに建てられていた、イパチェフの館での劣悪な監禁生活など、蘇った今でも絶対に忘れない。
怨嗟、復讐。それを至上とする身の上になってなお、心細い。
此処には理解者であるラスプーチンも、向こうに行ってから出来た友達であるジャンヌもいない。真実、自分一人だった。
広いリビングには、アナスタシアを除いて、誰もいない。……と言うと、それは嘘になる。床には、この屋敷の使用人と思しき男女の死体が転がっていた。
全員が仕事着であるメイド服や燕尾服を身に纏ったまま、安らかに、眠る様な顔で事切れている。服の所々が濡れているのは、果たして何故なのだろうか。
彼らの死体を眺めていると、ビュオオ、と言う風切る音が聞こえて来た。
それと同時に、部屋の壁や天井、調度品、死体に霜が見る見る内に付着して行く。テーブルの上に置いてあった、水の注がれたコップは一瞬にして、
その中身を凍結させてしまい、部屋に飾ってあった花瓶に挿された一厘の百合が凍り付き、花の自重に耐え切れず茎が、ポキンッ、と言う澄んだ音を立てて圧し折れた。
音の方向にアナスタシアが顔を向けると、其処に、彼女の引き当てたサーヴァントがいた。
アナスタシアの祖国であるロシアの、指揮官レベルの軍人が着用を許される、黒い軍服とコートを身に纏った長身の男だった。
しかし、毛皮帽を被ったその顔は、人間の顔ではなかった。顔が、ない。目も、耳も、鼻も、口も、皺もない。ツルリ、と全てが平らな面。
彼の顔面は、氷で出来ていた。いや、顔だけじゃない。軍服から微かに覗く肌や、露出された両腕も、透明に透き通った氷で出来ているのである。
それが、目の前のサーヴァント。アナスタシアが呼び出したライダーだった。
ビキリ、と言う音を立てて、ライダーの顔の、人間で言えば口に相当する所に、亀裂が生じ始めた。クレバスを、アナスタシアを思い描いた。
「この街の視察から戻って来た」
ライダーの発する言葉はとても聞き取り難い。声を発する度に、ギギギ、と言う何かが軋れる音がするからだ。
「如何だったかしら、将軍閣下(ポルコヴォージェツ)」
「私はお前に呼び出されてから、この世界の知識をある程度は有しているが、少なくとも、お前のいた時代に見られたものは何一つとしてない。お前は完璧に異物だ」
アナスタシアは自分がいつの時代の住人かよく解っている。
二十世紀初頭、もっと言えば二次大戦が勃発する遥か昔の人物だ。自分が若くして死んだ時から、じきに百年以上が経過しようとしている。
百年も経てば、国どころか世界の在り方すら変わってしまう。彼女はそれをよく知っていた。永遠に続くと思われたロシアのロマノフ王朝、それが終焉を迎えた瞬間に立ち会った彼女だったから。
「外に出たいと言うのならば私はお前の意思に従う」
「出ても何も出来ないからいいわ。遥か昔の人物の私が、外に出ても何処かでボロが出ちゃうもの。それに、将軍閣下に気を使わせたくないわ」
「無用な心遣いだが、お前がそう言うのならば良いだろう。だが、人間は何かと面倒な生き物だろう。食事はどうする」
「食糧は十分備蓄されてるわそれで凌げるでしょう」
「了解した。で、私はこれから何をすれば良い」
「館の周りを見張ってて」
「解った」
そう言ってライダーは、所謂霊体化と言う状態を行い、アナスタシアのいるリビングから気配を消した。
すると、部屋中に吹き荒れていた吹雪はパッタリと止んだ。彼女が将軍閣下(ポルコヴォージェツ)と呼ぶあのライダーが現れる所、必ず激しい吹雪が巻き起こる。
この館の住人はそうして死に絶えた。彼の発する生理現象(吹雪)の前に、忽ち彼らは凍死してしまった。アナスタシアだけが、生き残ったのである。
それは当然の理屈だった。死してから蘇り、激しい吹雪を操る彼女であるからこそ、生き残れた。だからこそ、あのライダーに認められた。
故国ロシアの象徴、アナスタシアが生まれたあの広く大きく、そして最低な国の誰もが恐れた、あのライダーに。
ビシビシと、窓ガラスに雪が叩きつけられた。
ライダーがきちんと仕事をしている証左だった。彼が現れる所には、必ず吹雪が吹き荒ぶから。
……所で、この屋敷が雪女の洋館と言われているのが、この洋館とその敷地である小規模な林にだけ、激しい吹雪の嵐が荒れ狂っているからだとは、アナスタシアもライダーも、知らないのであった。
【元ネタ】史実、自然現象
【CLASS】ライダー
【真名】ジェネラルスノウ
【性別】男性(と言う事になっている)
【属性】秩序・中庸
【身長・体重】190cm、100kg
【ステータス】筋力:D 耐久:D 敏捷:A 魔力:D 幸運:A 宝具:B+++
【クラス別スキル】
対魔力:B+
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
ライダーは特に、水と氷等の属性を内包した攻撃については、Aランク相当の対魔力を発揮する。
騎乗:EX
ライダーは一切の乗り物には乗れないが、風や吹雪、水や流氷などに乗っての移動が出来る。
また騎乗とは関係がないが、それらを媒介とした五十m間の瞬間移動を、ライダーは可能としている。
【固有スキル】
環境変化(氷雪):A++(A)
環境に与える変化。このスキルは大抵の場合、宝具に起因している。ライダーの場合は特に、環境に雪を降らしたり、その場所を広範囲にまで氷漬けに出来る。
このランクになると、本来は雪を降らせる事が難しい、砂漠や赤道直下の環境すら、シベリアレベルの環境に変貌させる事が出来る。
平時のランクはカッコ内のそれであるのだが、召喚したマスターとの相性や、現在の冬木の季節が『冬』である事から、スキルランクが跳ね上がっている。
魔力放出(吹雪):A+++(A)
膨大な魔力はキャスターが意識せずとも、極寒の吹雪となって総身を覆う。ある程度吹雪の勢いは調整出来るが、全くなくす事は出来ない。
立ち塞がる厳しい寒気と吹雪、目に見えぬ小さな氷の礫によって、防御力が格段に向上し、接近する事が著しく困難になっている。
またライダーはこのスキルを応用し、極寒の冷気で出来たレーザーや、頭上から氷柱や氷塊を降らせると言う応用も可能としている。
平時のランクはカッコ内のそれであるのだが、召喚したマスターとの相性や、現在の冬木の季節が『冬』である事から、スキルランクが跳ね上がっている。
【宝具】
『獄氷皇帝(ツァーリ・ジェド・マロース)』
ランク:B+++(B+) 種別:対人〜対城宝具 レンジ:100〜 最大補足:数千以上
現れただけで、環境に著しいまでの変化を齎すライダーそのもの。ライダーの正体は、周囲を霜と氷の世界へと一瞬で変貌させる固有結界である。
ライダーは透き通った氷が人間の形をした様な姿で顕現、人間は元よりサーヴァントですら正気を保てぬ程の極寒の環境に叩き落とす。
本気になれば自然界ではあり得ないレベルの、氷点下百度以下にまで気温を叩き落とさせるだけでなく、ライダーの行う環境変化は超常の神秘に依拠したそれである為、
魔術や宝具の発動、マナやオドの巡回にも支障を来たしかねない程。またライダーはこの他に、吹雪を一点に集中させ相手にぶつけさせたり、冷気光線、圧縮した氷塊の激突や、雪や氷を媒介にした瞬間移動も可能としている。
本来の宝具ランクはカッコの中のランクであり、上に語った様な強さはない筈なのだが、召喚したマスターの適正と相性が余りにも高すぎるのと、
冬木市の季節が自身にとって都合が良いそれの為、宝具ランクが跳ね上がっている。
【Weapon】
【解説】
ジェネラルスノウとは、ロシア帝国或いはソビエト連邦、ロシア連邦が誇る常勝の将軍である。
彼は百万の軍団を巧みに指揮する能力がある訳でもなければ、彼個人が突出した強さを誇る超人と言う訳でもない。
しかし、彼が一度現れれば、凍土と長い冬の地の住民であるロシア国民は忽ちその血潮を熱く燃やし、意気軒昂たる状態になる。
彼はロシア対他国のあらゆる戦争に於いて、『冬』の時代にのみ活躍する将軍であり、ロシアに冬が訪れた時、ロシアに勝利を齎す救国の英雄である。
彼の手によって、カール12世が率いるバルト帝国、ナポレオンが率いるフランス、ヒトラー率いる第三帝国が打ち破られたのは、余りにも有名な事実である。
彼は一説によればロシアと言う国が興る遥か以前、人類が住みつく以前から存在したとされているらしく、ロシアが誇る無敵の将軍になる以前は、
現在人類がロシアと呼んでいる地域に住んでいた、ありとあらゆる生物に恐れられた者であると言う。
また戦時でない時でも、ジェネラルスノウは他ならぬロシアの民にも牙を向く事があり、冬の過ごし方を誤った人間に死を齎す恐るべき将軍である。
――その正体は日本で言う所の『冬将軍』、つまり、冬季に周期的に南下する北極気団(シベリア寒気団)の事である。
北半球最北の国家の一つであるロシアの冬は多くの者が周知の通り恐るべき厳しさを誇り、特にその厳しい冬の気候は他ならぬロシアの人々ですら苦しめられた。
冬将軍の影響力は近現代にまで及び、かつて不凍港と呼ばれる、冬の間でも海が凍らない港を求めて南下政策を取らざるを得なかった程と言えば、
どれだけの力があったのか知れよう。しかし一方で、ロシアの冬は他国の軍事的攻撃におけるこれ以上と無い防衛力にもなる。
理由は単純で、ロシアの冬は他国の常識とは一線を画するレベルでの厳しさを誇り、それ故に専用の対策を施さねばならないからである。
それを怠り、或いは甘く見た結果が、上記のバルト帝国やフランス、第三帝国であった。冬将軍と言う名前は、そう言った事実に由来する。
但し無敵の気候であったのかと言えばそうではなく、冬季にはロシア以上の厳しい寒さになる事で有名な、あのフビライ・ハン率いるモンゴル帝国には敗北を喫している。
元々が自然現象と言う人格すら存在しないサーヴァントである為、本人の意思は極めて希薄。
但しライダーは、冬将軍と言うキャラクター、つまり将軍(軍人)と言う殻を纏って召喚された為か、勝利を求めると言う事柄についてはかなり積極的。
つまり戦闘自体の意欲は高い。その自然現象の性質上、春夏秋には実力が低下、本来の力の八割程度しか発揮出来なくなるサーヴァント。
しかし、海沿いとは言え冬になればそれなりに寒い冬木の街の冬季に召喚された事と、アナスタシアとの親睦性が抜群の為、ライダーのサーヴァント・ジェネラルスノウは、これ以上と無い強さを発揮する事が出来る。
【特徴】
ロシアの指揮官レベルの軍人が着用する、黒い軍服と軍用コートを身に纏う長身の人型。毛皮帽を被っている。
その身体は氷で出来ており、顔には目や耳、鼻も口も皺もない、ツルリと磨き上げられた真っ平な氷そのもの。
喋る時は、口に当たる部分に裂け目を作り、其処から、聞き取り難い言葉で話す。
【聖杯にかける願い】
ない。ただ、マスターの願いを果たすだけ。
【マスター】
アナスタシア・ニコラエヴァ・ロマノヴァ@ドリフターズ
【聖杯にかける願い】
???
【weapon】
【能力・技能】
人間を瞬時に凍死させる程の寒さの吹雪を発生させられる。
【人物背景】
帝政ロシア末期の皇女。ロマノフ王朝最後のツァーリであるニコライ二世の末娘であったが、革命と言う激動の時代に生れ落ちた彼女は、
王族とは思えぬ程悲惨な人生を送る事になり、最後には幸せを享受する事なく、処刑される事になる。が、その後何の因果か、廃棄物となり黒王軍に加わっていた。
投下終了します
投下いたします
異臭が鼻をつき、少女が目を覚ます。
嗅ぎなれた不快な臭い。
だが、ここで嗅ぐ事はないと思っていた臭い。
この場にこの臭いをしょっちゅう産み出す姉妹はいない。
自分は嗜む程度。
だというのに部屋の中に充満する臭気。
で、あるならば答えは1つ。
酒臭い部屋を見回すと、果たしてその原因はいた。
ビール、チューハイ、日本酒、梅酒エトセトラ。
様々な酒瓶や缶が転がる中、胡座をかいてワンカップ大○をたった今飲み干した大柄で赤ら顔の男の姿。
「ん〜? ……あっ」
視線を感じた大男が振り向き、少女と目が合った。
半目だった男の目がクワッと開き、ハッとしたように周囲を見回す。
周りに広がる惨状を認識したのか、男の顔がサッと青く染まっていく。
少女のこめかみにピキッと青筋が浮かんだ。
「マ、マスターよぉ、こいつにゃあ訳が……」
「へぇ、訳。何か深い訳があるっていうのね、ランサー」
にっこりと、少女は顔に笑顔が浮かべた。
つられて、ランサーと呼ばれた大男がへらっと愛嬌のある笑顔を浮かべる。
ランサーのマスター、飛鷹の怒号が飛んだのは、それから間もなくだった。
「で?」
「へ、へえ……」
「へえ、じゃなくて。アンタ、何やってんのよ」
正座をし、しゅんと身を縮ませているランサーを見下ろし、飛鷹が詰問する。
見るからに粗暴そうな男が年齢も下に見える少女を相手に萎縮しているという滑稽な構図であるが、当事者である二人にとっては笑い事ではない。
「"マスターが当分様子見だっつーんなら暇をもて余しちまう。博打も出来ねえ、人に見つかると不味いから鍛練も出来ねえ。そうなると酒でも飲んでこの無聊は慰めるしかねえ"って言ってきて、まあ私の考えにアンタを付き合わせる結果になったから、お酒を買い込むのを許可してあげたわよ」
「お、おう! そりゃあもう理解のある有能なマスター様に召喚いただいて、俺ぁ幸せなサーヴァントだと……」
「私が聞きたいのは!」
「へいっ!」
なんとか事態を穏便な方向で切り抜けようと、ランサーが悪あがきのおべんちゃらで飛鷹を持ち上げようとするが、ぴしゃりと放たれた怒気に二の句が告げられず、反射的に背筋を伸ばし、姿勢を正してしまう。
「なんで数日分を想定して買ったお酒をたったの一晩で飲み干してんのかってこと!」
転がる酒瓶や缶の山を指差す。
聖杯戦争が本格的に始まるまではまだ先、それを計算に入れ、ランサーの為に購入した数日分の酒はその全てが空になってしまっていた。
「いや、その、現代の酒があまりに美味くてよぉ。日本酒のキリっとした辛さ、焼酎のスッキリとした後味、ビールの爽快感。こう、色々飲み比べてみようと思ったら、ついつい手が進んじまって……」
「アンタ、私に身の上を話してくれた時に、もう二度と深酒をする気はないって言ったわよね!? スキルになるくらい酒で痛い目見てるくせにガバガバ酒飲むなんてどんな神経してんのよ!」
「……むむむ」
「何がむむむ、だ!」
ランサーはその人生において酒による大きな失態を幾度か経験しており、それがスキルという形で再現されるレベルにまで至っていた。
それを飛鷹に伝えた上で"深酒をする気はない"と言っていたが、結果はご覧の通りの有り様である。
もっとも、失態の内の1つが予め酒は飲まないと宣言した上でのやらかしであった事から、この男の酒に対する自制心は最初から信用できないレベルという事だったのだろう。
飛鷹がこめかみを押さえて深く、深く溜め息を吐いた。
それに比例するように、ランサーの身体が申し訳なさそうに縮こまっていく。
悪いこととわかっていてもついやってしまう。悲しきは大酒飲みの性といったところだろうか。
「と・に・か・く! お酒はもう買わないからね!」
「そ、そいつぁ勘弁してくれよマスター! 酒がねえなら残り数日はどうやって過ごせって話だぜ!?」
「近くの見回りでもしてれば? 酔い潰れて不運になるよりはよっぽど有意義だと思うけど、反論ある?」
「……ねえです、はい」
完全に酒に対する信用を失ってしまった事を理解してしまったのだろう。
反論をしようにも温情を見せた主を裏切ってしまったという自覚がある以上、ランサーは強く言い返す事もできない。
白い目で睨み付ける飛鷹に対しランサーは肩を落とし、ガックリと項垂れた。
「それじゃあ酒瓶の片付けよろしくね。私、偵察機を飛ばして新都の方を探ってみるから」
「……」
「返事」
「へい……」
立ち上がり、とぼとぼと歩きながら酒瓶を片付け始めたランサーを尻目に、飛鷹が寝巻きから私服へと着替え、ベランダへと足を向ける。
カーテンを開くと視界に広がるのは冬木の港。太平洋戦争期の軍艦が人へと姿を変じた艦娘たる飛鷹に取って、ホームグラウンドである海から近い場所に住居を宛がわれた事は幸いだと言えた。
ガラス戸を開き外に出ると、冷たい外気が頬を撫でる。
ブルッと身震いを1つしながら外に出るときに持ち出した巻物を展開した。
開かれた巻物に描かれた軍艦の甲板と置かれた紙型。飛鷹が魔力を身体に行き渡し、その手に勅令と文字の書かれた魔力の塊を現出させると同時に、巻物に乗っていた紙型が旧日本軍の戦闘機へと姿を変じさせていく。
ここに来てから飛鷹は艦載機を偵察に利用し、極力外出を抑えながら情報収集に徹していた。
「さあ、飛び立って。怪しいものを見つけたら直ちに報告を頂戴ね」
飛鷹の声に応える様に戦闘機を模した式紙達のエンジン音が上がり、プロペラが回り出す。
複数のミニチュアサイズの九七式艦上攻撃機が暁の水平線目掛け発進し、新都へと進路を取る。
その姿を見送りながら、今頃部屋の掃除をしている自らのサーヴァントに想いを馳せた。
「三国志の張飛将軍、真名を聞いた時は当たりを引いたと思ったんだけどなぁ」
張飛、古代中国において有数の剛の者として名を馳せた男。それがランサーの真名だった。
知名度はここ日本でも有名な部類であり、強さとしても申し分のないレベルである。
だが、自身の弱点を理解し"しない"と宣言した行為を数日で破る自制心のなさを目の当たりにした以上、その認識は改めざるをえない。
戦いにおいて信用のおけない味方というのがどれだけ厄介な存在なのかは、軍艦であった彼女は良く理解していた。
令呪による飲酒の禁止を考えたが、そこは思いとどまる。
そんな事で貴重な令呪を無駄にしたくなかったという戦術的な理由と、使い魔の様なものとはいえ一個の意思のある生命体を道具の様に扱う事には気が引けたという人情的な理由があった。
「悪い奴じゃないんだけど、ね」
"だからこそ尚更タチが悪いんだけど"という言葉を飲み込む。
思い出すのはランサーが聖杯への望みを語った時の事。
『俺の望みはな、大兄と一緒に夷陵の戦に臨む事よ』
ぼそりと呟いたランサーの願い。
義兄弟である関羽を裏切りによって殺された事の報復戦、ランサーはそれに参戦する前に持ち前の性格が災いし、配下の反逆を受けて非業の死を遂げた。
主君にして義兄弟の長兄である劉備に対して関羽殺害の報復を強く訴えた身でもある手前、参戦を果たせずにその生涯を終えた未練は幾ばくか。
『俺がいたら勝てたと言うほどにゃあ自惚れちゃいねえが、それでも俺があそこにいれば、それだけで助けられた命があったかもしれねえ、離れなかった臣がいたかもしれねえ。
何より、大兄の危機に俺が傍にいてやれなかったこと、それが一番情けねえのさ』
後悔と自責の念が皺となってランサーの顔に刻まれる。
誓いを共にした義兄弟を単身死地に赴かせてしまった、それがランサーにとって何よりの悔いであったことが、飛鷹には察せられた。
あの時の過ちは二度と起こさない。
あの戦いの悪夢は繰り返さない。
もしもあの戦いに自分が参加できていたら。
それは彼女達艦娘の大多数が保有していた願いでもあり、恐らく何人かの艦娘は張飛と同じような望みを持つかもしれない。
飛鷹の望みは別ではあるが、それでもランサーの望みが他人事には思えなかった。
「だっていうのにあいつは……」
つい数分前の赤ら顔で酒を楽しんでいた間抜け面が浮かび、貌のいい顔の眉間に皺が寄る。
そこまでの想いを見せておきながら酒を浴びるほど飲むとはどういう了見か。
回想が回り回って怒りへと置き換わっていく。
酒は禁じられても飲んでしまうもの。一度飲めば止まらなくなるもの。
呑兵衛の姉妹を持つ飛鷹なら十分に理解していた事ではある。
が、理解できることと許容できることは別だ。
「はあ、こんな事で勝って帰れるのかしら、私」
不安げな呟きが静かな朝に消えていった。
◆
「……やっちまった」
最後の酒瓶を分別用のごみ袋に入れながら、ランサーは大きく溜め息をついた。
事を起こしてから自分が何をしでかしたのかに気づき後悔する。
ランサーの失敗談はいつもその繰り返しだった。
もっとも、最後の失敗については後悔する暇など与えられはしなかったが。
「マスターの嬢ちゃんには失望されちまうし、もう酒は当分飲めねえ。俺様の酒運の悪さは相変わらずって事だぁなぁ」
参ったと言わんばかりにガリガリと頭を掻きむしる。
失った信用を取り戻すために必要な時間と功績は如何ばかりか。
今回もまた深酒によって凶事を呼び込んでしまった事実がランサーの肩に重くのし掛かる。
「はぁ、引きずっていても仕方ねえか」
失敗はした、がそれでも致命的なものではないはずだ。とランサーは思い直す。
襲撃をされた訳ではない、身体だって五体満足に動かせる。
失ったのはあくまで信用だけなのであればここからの働きで取り戻せばいい。
少なくとも酔った不覚から義兄達の家族を放って逃げてしまった小沛の一件に比べれば、実被害が出ていない分まだまだ傷は浅いレベルだ。
汚名は返上すればよく、名誉は挽回できるのだ。何事もポジティブシンキングである。
そう自分に言い聞かせながら縛ったごみ袋を玄関前に放った。
「……マスターの願いも、叶えてやりてえしな。もう下手は踏めねえぜ、張益徳さんよ」
自分で自分に発破をかける。
"いつか静かな海になったら、軍艦ではなく客船としてサンフランシスコ航路を渡りたい"
ランサーが聞いた飛鷹の望み。艦娘という存在について、張飛はいまいち理解はいってなかったが、その夢を語るときの顔を見てどれだけの思いの丈が詰まっているのかは理解ができた。
いつかの昔の桃園で、太平の世を取り戻したいと夢を語った、長兄・劉備と同じ顔。
遥か遠き理想を見ながらも、それを夢物語では終わらすまいという確固たる意思のこもった顔だった。
故にランサーは、自身を呼び出した女の夢を叶えてやりたいと思ってしまったのだ。
それぞれの思う太平の世があった。
決して譲れぬ理想があった。
宦官が滅び、魔王が討たれ、飛将が墜ち、英雄達が相争い、多くの将星が流れて消えた。
気づけば遥か遠き理想は、辿り着けえぬ夢想と成り果てた。
それでもなお諦めずに泥中を進む長兄の矢面に立つ事こそが自分の役目だと心得ていた。その筈だった。
これが戦場で守るべき主を守って散れたのであれば良かっただろう。だが、そうはならなかった。
身から出た錆は己の本懐を遂げさせぬとばかりに彼を食い殺した。
今度こそは、守らねばならぬ。
今度こそは、理想を夢想に変えてはならぬ。
そして願わくば、あの無念の夜に舞い戻り己が本懐を遂げねばならぬ。
立ちはだかるは一騎当千の英雄豪傑。
街に蔓延るは魑魅魍魎の権謀術数。
それに挑むは勇猛無比にて剛力無双。
万夫不当と謳われし、燕人張飛ここにあり。
【クラス】
ランサー
【真名】
張飛 益徳
【出典】
史実(後漢末期、中国)、 三国志演義
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力A+ 耐久C+ 敏捷B+ 魔力D 幸運B 宝具B
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
勇猛:A
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
長坂橋仁王立:A
防戦を行う際、自身の筋力・敏捷・耐久のステータスを一時的に上昇させる。
長坂の戦いにおいて、単身で曹操軍を相手取り、足止めに成功した逸話より昇華されたスキル。
酒気、凶事を招く:A
酒を飲むと幸運のランクが低下する。少量飲んだ程度では低下も軽微なものだが、飲めば飲むほど、酔えば酔うほどその低下の度合いは深刻なものになる。
ランサーの深酒による失敗談、及び自身の死に関する逸話によって付与されたバッドスキル。一番の問題はこのスキルの存在を知ってなお飲酒をやめられないランサー本人の性だろう。
【宝具】
『丈八蛇矛(蛇、神矛に変ずる)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜5 最大補足:10
真名を解放する事により蛇矛に水気と毒気を含んだ魔力を纏わせ、攻撃に追加ダメージと与えた傷の治癒阻害の効果を付与する。
また水場に突き刺して使用する事により特定範囲の水の動きを操り相手の行動を阻害する事が可能。
水辺に住む大蛇を張飛が調伏し姿を変ぜさせた矛を、諸葛亮ら劉備旗下の文官らが改修した中華ガジェット。真名を解放する事により水神の側面を持つ蛇の権能が付与される。
長さを最大で一丈八尺(約4.40m)まで自由に可変でき、ミドルレンジ〜クロスレンジでの戦いに対応が可能。
【Wepon】
蛇矛
【人物背景】
三国志を彩る英雄の一人、蜀漢の初代皇帝劉備の義兄弟にして腹心。
粗暴で短気だが義侠心に篤く愛嬌のある性格をしており、自身が対等、あるいは主と認めた存在には従順。
反面、格下と見なした相手には傲慢かつ暴力的であり彼の死因は深酒はもちろんだが普段の部下への対応に問題があった事も大きい。
【特徴】
虎髭でぐりぐり目、恰幅のいい大男。
【サーヴァントとしての願い】
自分の死を覆し、夷陵の戦いに参戦する。
【マスター】
飛鷹@艦隊これくしょん
【能力・技能】
艤装を装着しての水上移動。
式神として艦載機(零式艦戦、九九式艦爆、九七式艦攻)を使役する。
【人物背景】
飛鷹型1番艦 軽空母の艦娘。
ツンツンしたところがある生真面目タイプ。
商船を改装して空母になった経緯を持つ艦娘であり、未だに商戦としてサンフランシスコ航路を渡る夢を諦めていない。
【マスターとしての願い】
平和な海を取り戻し、豪華客船として余生を過ごす。
投下を終了します
投下します
赤ん坊は生まれてきた時、暖かい感情に囲まれるものだ。
出産というのは一説によれば男性に同じだけの痛みを与えるとショック死すると言われる程に辛い行為である。
しかし、夫婦の愛の結晶とでも言うべき赤ん坊が産まれるのは、その辛さを補って余りある幸せなことのはずだ。
赤ん坊は祝福されながら産まれてくる。
それは当たり前のことだから、母親は憔悴しながらも慈愛に満ちた視線を赤ん坊に向けるし、父親が産まれてきた子供に対して言うことは……。
――――障りが生まれたか。
「夢……か」
三谷亘は猛烈な寝苦しさを覚え、目を覚ます。
時計を見れば時間は朝の6時。
本音を言えばもう少し寝ていたいが、二度寝するには遅い時間だ。
亘はまだ覚醒しきっていない頭でぼんやりと先ほどの夢を思い返す。
夢の内容はあまりはっきりと覚えていないが、何か自分の存在が否定されたような、そんな悲しい夢だった気がする。
まるで、家を出ていった父親が本当は女の子が欲しかったことを知ってしまった時のような……。
「おや、お目覚めになられましたか」
思考の海に沈みかけていた亘に声をかける存在がいた。
亘は一人っ子(最近になって異母兄弟の存在を知ったが)であるし、父親は前述の通り家を出ていった。
母親は夫が家を出ていったショックで自殺未遂をして入院中だ。
たまに叔父が様子を見に来るが、さすがにこんな朝早くからいるわけがない。
つまり……
「ああ、おはようキャスター」
声をかけてきた相手は、魔術師の英霊たるキャスター……亘の呼び出したサーヴァントであった。
「相変わらず早起きだな、流石お坊さんだ」
キャスターは亘の言葉の通り、仏教系の僧侶であった。
綺麗に剃られた頭に右肩を露出させた黄色い法衣。
日本では黄色やオレンジの法衣は一般的ではないが、それでも一目で僧だと分かるような雰囲気、オーラのようなものがあった。
「本来は早起き以前に眠る必要すらないのですがね。いやはや、根付いた習慣というのは中々に変え難い。
マスターにとっては少し早いかもしれませんが、朝食にしましょうか」
「ああ、いつも悪いな」
亘には、自炊の経験がないため、基本的に食事はキャスターが作る。
僧侶らしい質素な食事だが、家で誰かと食事をするというのは中々楽しいことだ。
家族がバラバラになって初めてそのことが分かったというのはなんとも皮肉だが。
NPCという仮初の存在でも、現世と同じように家族はバラバラになっている。
きっと最初から、あの家庭には埋められない溝があったのだろう。
母と父が結婚する前から、あの女の人と両親には浅からぬ因縁があるようだった。
それでも、自分はあの幸せな家庭を取り戻したい。
だから芦川から"旅人"に向いてないと言われようと"旅人"になった。
しかし……
「ご家族のこと、聖杯戦争のことで、悩みがあるのですか?」
「え?」
「私も生前、家族関係に悩んでいた時期がありました。
だからでしょうか、マスターが家族のことで悩んでいるのが分かります」
「キャスター……俺は」
「マスターの家庭環境は私も存じております。
しかし、あなたの悩みはそれだけではないように見受けられます」
「はは、何でもお見通しなんだな……」
宗教というものにはあまり良い思い出がないが、キャスターにはなんとも言えない神々しさがあった。
英霊である以前に仏教僧だからであろうか。
懺悔……とは少し違うかもしれないが、相談したくなるような器の大きさを感じる。
「分からないんだ……他人の願いを潰してまで自分の願いを叶えるべきなのか」
亘は一度、人を殺したことがある。
相手は亘同じ旅人で、元から敵同士の上極悪人だった。
しかし、亘の手にはまだ人を斬った感触が残っている。
「だからさ、それが分かるまで、これを預かっていてほしい」
そう言って亘が取り出したのは、一つの小さい球体。
"玉"という5つ揃えば女神への道が開かれて願いが叶う上に、集める程"旅人"の力が上がる代物だ。
「確か、それは大切なものなのでは?」
ある程度亘から幻界のことを聞いていたキャスターも当然そのことを知っている。
「大切なものだからこそ、キャスターに持っていてほしいんだ。
俺が戦う理由を見つけるその時まで、預かっていてほしい」
「マスター……」
「手のかかるマスターですまない。でも僕は、理由を見つけるまで誰かの願いを潰したくない」
かつて亘が殺した男は言った。
"旅人"とはエゴイストの集まりだと。
エゴが最も強かった者が生き残る、ただそれだけだと。
亘のエゴはかなり弱い……というよりも本質的にエゴイストとはかけ離れた性格なのだ。
(芦川の言う通り……俺は"旅人"には向いてないのかもしれない)
家族は救いたい、だけど誰かを傷つけるのは嫌だ。
人間としては正しくても、他人を蹴落とさなければならない"旅人"としては落第点もいいところだ。
「分かりました、あなたが戦う理由を見つけるまで、これは謹んでお預かりいたしましょう」
「キャスター……」
「どちらにせよ私はしばらくは工房作りに専念しなければなりません。
あなたが考えるだけの時間はありますよ」
「ごめん、キャスターにも願いがあるのに……」
「どうかお気に病まないでください。
……実を言うと、私もあなたと同じなんです」
「え?」
亘にはキャスターは完璧な僧侶に見える。
死んだ後も律儀に早寝早起きし、野菜中心の精進料理を食べている。
そんなと自分が同じだと言われてもピンとこない。
「既に廃した身とはいえ、私も仏教僧ですから、無益な殺生は戒律で固く禁じられているんですよ。
英霊を座に帰すことはさすがに例外だと思いますが……迷いがないと言えば嘘になります」
既に死んでいる英霊を殺す。
確かに考えてみれば矛盾した言葉だ。
そして、英霊を座に帰すことにすら迷いを捨てきれないということは……
「やっぱり、マスターの方は狙わないのか?」
生きている人間であるマスターを殺害することにはそれ以外の忌避感を持っているということに他ならない。
「私は英霊以前に僧侶ですからね。
ほら、私も自分の都合でマスターに不利益を押しつけている。あなたばかりが気に病む必要はありませんよ」
「キャスター……」
最初から誰かを殺すことに対して迷っている亘にとって、マスターを狙わないという方針は不利益でもなんでもない。
それなのに、亘を元気付けるためにキャスターは亘に不利益を与えていると言ってくれている。
それがありがたくもあり、同時に申し訳なくもあった。
「そして何より……私の願いも家族が関係しているのです」
「え?」
「私の父は偉大な人物でした。ただ、偉大であるが故に私たちは普通の父と子のようには過ごせなかった。
もちろん、私は父を尊敬しています。不貞腐れて真面目に修行に取り込まなかった私に戒めを与えてくださったこともあります」
亘にはキャスターの気持ちがよく分かった。
亘の父も家族のためにいつも夜遅くまで働く尊敬できる父親であった。少なくとも家を出ていったあの日までは。
「じゃあ、キャスターの願いは父さんと……」
「はい。浅ましいですが、父と共に普通の親子のような生活がしたい……それが私の願いです」
亘は、失ってから初めて今までの普通の生活の幸せを知り、それを取り戻したいと願った。
キャスターは、最初から与えられなかったが故に普通の生活の幸せを願った。
「万能の願望機とはいえ、父は聖杯にとっても規格外な存在に違いありません。
果たして本当に私の願いが叶うのか、今でも半信半疑です」
「キャスターの父さんって、そんなに凄い人なんだ」
聖杯にとっても規格外な存在に違いないと断言するキャスターに、思わず言葉が漏れる。
キャスターのような清廉な人物が身内贔屓をするとも考えにくいので、それは偉大な人物なのだろう。
それを聞いたキャスターは一瞬意外そうな顔をした後、柔らかく微笑んだ。
「ええ。ですからマスター、もしもあなたが戦う決意を固めたのなら……」
そこでキャスターは言葉を途切れさせ、溜めを作る。
「仏教の始祖である仏陀の実子にして十大弟子の第九位、この羅睺羅と共に戦ってください」
亘は、朝っぱらから驚きの叫び声をあげることになった。
【クラス】キャスター
【真名】羅睺羅
【出典】史実、紀元前5世紀頃インド
【性別】男
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力C 耐久B 敏捷C 魔力A 幸運D 宝具B
【クラス別スキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
“工房”を上回る“寺院”を形成することが可能。
道具作成:B
魔術的な道具を作成する技能。
特に儀式用の仏具の制作を得意とする。
【保有スキル】
菩薩樹の悟り:B
世の理、人の解答に至ったものだけが纏う守り。
対粛正防御と呼ばれる”世界を守る”証とも。
無条件で物理攻撃、概念攻撃、次元間攻撃、精神干渉のダメージをランク分削減する。
カラリパヤット:B
古代インド武術。力、才覚のみに頼らない、合理的な思想に基づく武術の始祖。
攻撃より守りに特化している。
【宝具】
『羅云忍辱経(サハー・ラーフラ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:5
忍耐こそが人にとっての宝であり、安易に仕返しなどの悪事を行う人間は何度生まれ変わろうと永遠に苦しみ続けることを説いた経典。
この宝具を発動すると経典が光り輝き、円状の防御結界を張ることができる。
さらに結界に攻撃した相手は、仏教における三毒、貪(とん)・瞋(じん)・癡(ち)が重くのしかかる。
直接的な害は与えないが、相手は貪欲になり、怒りやすくなり、物事を正確に判断できなくなる。
対魔力を持たない者がこの三毒から逃れることは大変困難であるが、座禅をすることによってある程度は対処可能。
余談だが、ラーフラも羅云も羅睺羅の別名なので宝具名に思いっきり真名が入っている。
真名開放の際はなるべく相手に聞かれないように留意したい。
【人物背景】
仏教の始祖である仏陀の実子。
仏陀が29歳の時に産まれた子供であるが、出家を考えていた仏陀にとって男児が誕生したのは俗世に縛り付けられる障害でしかなかった。
よって束縛や障碍を意味する羅睺羅(ラーフラ)と名付けられてしまう。
幼い頃に半ば強制的な形で出家させられ、そのことに反抗して真剣に修行をしなかったが、後に仏陀に戒められたことで改心。
真面目に修行に取り組むようになり、仏陀の実子であるということへの特別扱いへのコンプレックスを乗り越えて見事悟りを開く。
誰よりも真面目に1人修行に励む姿から、仏陀の十大弟子の第九位、密行第一に数えられる。
【特徴】
丁寧に剃髪された頭。
袈裟という法衣を右肩を露出させて着こんでいる。
【サーヴァントとしての願い】
一度でいいから父親と普通の親子のような生活を送りたい。
【マスター】
三谷亘@ブレイブ・ストーリー〜新説〜
【能力・技能】
見習い勇者としての戦闘能力。
【人物背景】
元々はゲームが得意なだけの普通の中学生だったが、父親が家を出ていったことで崩れた幸せな生活を取り戻すため幻界(ヴィジョン)へ赴き旅人となる。
本人曰く目の前で苦しんでいる人を放っておける程器用ではないとのことで、赤の他人でもすぐに情が移って助けようとする心優しい少年。
一人称は僕だったり俺だったりするがこの時点では基本は俺。
【weapon】
玉×1(羅睺羅に譲渡済)
短剣にも勇者の剣(ブレイブレード)という長剣にもなる魔法の杖。
ブレイブレード発動中は戦闘能力も格段に上昇するが、“玉”なしでは発動時間は一分が限界。
日に一度、“斬龍・ハイランド・ブレイバー”という必殺技を使える。
【マスターとしての願い】
失った幸せな生活を取り戻したい。
しかし誰かの願いを潰すことに忌避感。
【備考】
参戦時期はグルース撃破〜キ・キーマに玉を預けるまでのどこか。
【基本方針】
しばらくは陣地の作成に専念。
投下終了です
投下します
「やあ、はじめまして。というのが適切かな。
僕は安心院なじみ――きみのマスターになった人外だぜ」
学校の空き教室だろうか。
夕焼けが差し込む教室は朱に染まる。
設備されている蛍光灯も点灯しておらず薄暗い。
黒板、ドア、机、椅子、窓、知覚する限り普遍的な教室も、どこか神秘的ですらあった。
幾何学的に並列する机の先、生徒たちが荷物を仕舞うロッカーの上に、彼女は座している。
きっとあれは制服と呼ばれる服ではない。蝶々を模るリボンこそ目に付くが、ひどく常識的な私服を纏う。
中身と外観とのギャップがこうも外れると、なるほど、違和感でしかない。
「といっても、僕はきみのことをかねてより知っていてね。
ああいや、社会科の教科書でのきみの活躍なんてほとんど知らないぜ。
あんな虚実にまみれた歴史で今の小学生たちが何を学んでいるのか僕は寡聞にして知らないけど、僕が知っているのは事実であり、時代だ」
横長のロッカーに座り、足を組み直しながら彼女は滔々と語る。
何が楽しいのか、にこやかな笑顔を浮かべていた。
そのように観測する彼は、教卓に立っている。指揮することに長けた彼には、ある意味ではおあつらえな場であった。
軍服に身を包んだそのなりは、どうしたって先生には見えないけれど。
「僕は宇宙の生誕から読者を始めていてね。もちろんきみの生きた時代――フランス革命の前後の時期も、僕は知っている。見てきている。
わっはっは、激動の時代だったね。流石は後の“英雄”にして“悪魔”だ。“悪平等(ぼく)”からも、きみの栄華はよく聞かされたもんだよ」
驚きはしない。目の前の異物を常人と思うほうが間違いだ。
戦場でもそういうことはあった。見目の美醜や老若で力量を見誤ると痛手を負う。
うら若き少女の姿をしている彼女は、自称の通り人外である。ならば、そういうこともあり得よう。
「しかし盛者必衰とは悲しくてね。栄えるものは落ちぶれるものさ。きみもそう。きみの失速ぶりも僕は眺めてきた。
とはいえ嘆くことはない、大抵はそんなものさ。凋落なんていうのは歴史の必然だぜ」
あるいは逆に、落ちぶれるからこそ歴史になるのだ、と彼女は続ける。
今の小学生たちが読んでいる社会科の教科書は没落の集積であると言い切った。
彼女は突如、ロッカーから身を消す。現れたのは、教卓の上方、天井。重力を無視するかのように体育座りで座っている。
「他にも、きみの匂いフェチも、周囲の軍人に比べ背が低いのを悩んでいることも、
達筆であるという自負すらあるのに貶されてショックだったことも、――それにほら、あれとかも」
彼女は指を折りながら、順々と彼の特徴を挙げていく。
書物などに基づいた、事実彼も筆を執った記憶のある事柄もそうでない事柄も、次々と詳らかにされる。
しまいには、身体を洗う際はどこから洗うのかとか(曰く右足の小指から)、貧乳派巨乳派どちらであるとか(曰く貧乳派)、
些末すぎてどうでもいいようなことにまで話題は波及していた。とてもとてもやってられないので、いつしか男は席についている。
どれだけ時間が経ったのだろう。窓の外は夕暮れから夕闇へと姿を変えていた。
相変わらず天井に座り込んでいるなじみは男を見下ろしながら、ゆるやかな笑みは絶やさない。
「そういえばきみと言えば、こんな台詞も有名だったね。
『余の辞書に不可能の文字はない』。一般的な見解では誤訳とされてしまっているけれど、実際のところはどうなんだい」
座ったまま男は、ぎろりと少女を見上げる。
教室の中は暗い。なじみの顔もすっかり闇に覆われていた。
それでもはっきりと認識できる。彼女の笑顔はこれまでよりも凄惨に、より愉快そうに歪んでいることだろう。
男は肩肘をついて、けだるそうに鼻で笑う。
「おいおい、いつまでだんまりを決め込むつもりだい。僕たちのジャンルはシュール言語バトル漫画だぜ。
推理漫画でも、ましてや伝奇物語ですらない。もうきみの分かりきっている正体なんて隠したって無駄。
いつまで“男”だなんて描写させるつもりだよ。――、ほら、どうなんだい。ナポレオン」
ナポレオン。
ナポレオン・ボナパルト。
英雄として、時に悪魔として恐れられる偉大なる男。
徐々に暗澹が侵食していく教室の中、変わらず不遜にも見下すように見上げながら。
「聞くまでもないだろ。僕にね、不可能なことなんてないんだ」
静かに、粛々と、されど満ち満ちた自尊心を隠すこともなく言い切った。
+ + +
仄かなオレンジが二人を射抜いている。
一人はにこやかに、一人は嘲るように笑ってる姿を照らした。
互いの位置関係が逆転している。なじみは椅子に座り、ナポレオンは天井に足を付けていた。
おそらくは力技なのだろう、スキルも宝具も使った様子はなく、さも自然と言わんばかりに、腕組みしながら立っている。
「都城王土くんにもできることだ。だとしたら、そりゃあきみにできないことはないんだろう」
「あんたにできることだから、だろ」
「ん? ああ、なるほど。そういう言い方もできるね」
ナポレオンはふん、と鼻を鳴らしながらもどや顔で応える。
自信で模られた表情からは、あんたにできることを僕ができないわけがないだろ、との意を暗に示していた。
こりゃあ一本取られたね、と安心院も嘯きながら問い掛ける。
「でも、きみは天井に張り付くスキル、“逆転掌訴(ギブアップダウン)”を使っているわけじゃない。
おいおい、めだかちゃんならもうとっくに僕のスキルなんて、とっくにものにしてるぜ。ナポレオンはその程度もできないのかい」
「は?」
途端、ナポレオンの表情は固まった。気が抜けたのか、天井から落ちる。どんがらがっしゃんと盛大に。
なんてことはないように立ち上がったナポレオンの顔は歪んでいた。むかついた、という感情を隠すこともなく。
固まること数秒、火を吹かせてナポレオンはまくしたてる。
「いやいや、できるから。“英霊”なんて制約があるから抑えているだけですから。辛いぜ。
あんたは僕の生前を知っているんだろう。ならば知っているはずさ。この僕の手にかかれば、その程度、本来は造作もないことぐらい知っているだろう?」
「いやお前、何年前のことだと思ってんだよ。覚えているわけないだろ」
「じゃあさっきの語りは何だったんだよ!」
相変わらず煽り耐性だけは低いなあ。からかうなじみを前に、彼は押し黙る。
何のために先ほどまで黙っていたか。それはひとえに、彼女の前で不要に弱みを曝け出さないためではなかったか。
落ち着け、と繰り返せば、軍人としての性分か、あるいは“不可能なことなどない”彼の性能か、きりりとしたポーズを取り戻す。
「あんまり図に乗らない方が得策だ。あんまり僕を怒らせるものじゃない。
お喋りなのは結構だが、僕はね、自分の思い通りにならないっていうのは好かないんだ」
「まあ……うん、きみがそういうやつだとは知っていたつもりだけれど、しかし改めて聞くと雑魚臭はんぱないね」
「それは後続の英雄かぶれが失態を犯したからだろう。英雄たる僕を意識して、英雄っぽく振る舞うのは勝手だが、せめて英雄らしくあってほしかったもんだ」
「いやでもきみも、結局負けてるじゃん。百日天下って悪あがきまでして結局落ちぶれたじゃないか」
「はあ? 違いますけど。ただ、そこまでする意味がなかったから、もう一回退却しただけですけど? 戦略的撤退なんだけど? やればまだまだできましたし?」
「痔だったからね」
「それも別に治そうと思えば気合いでなんとかなったしー! 気分の問題だからね!」
喋れば喋るほどボロがでるナポレオンを微笑ましそうに見つめながら、隣の席に座るように促した。
はん、と反感を示しながらも、ナポレオンはなじむの指す席へとつく。
腕を組み足を机に投げ出す、テンプレートのような私は不良ですよ感をにじませるナポレオンに向かって、安心院は再度問う。
「僕こと安心院なじみは7932兆1354億4152万3222個の異常性(アブノーマル)と、4925兆9165億2611万0643個の過負荷(マイナス)、
合わせて1京2858兆0519億6763万3865個のスキルを有している。それを聞いて、きみは一体何を感じるかな」
紛れもなく万能だった。完璧すぎるぐらいに完全だった。
やりたいと思ったことは必ず成し遂げられる。可能なことが可能である限り、収斂する結果は絶対のものなのだろう。
だが、それがどうしたというのだろう。
「すごいな。だが僕の方がすごい」
どれだけの“可能”を集めたところで、“不可能なことなどない”ナポレオンに勝ることはない。
それがナポレオンにとって、歴とした答であり、整然とした理論であり、揺るがない自意識であった。
返答を聞いた安心院の顔色が、わずかに変じた。朗らかに、なのだろうか。辛そうに、なのだろうか。あるいは、寂しそうに、なのだろうか。
「ところであんた」
不覚なことに、その意図を掴みかねたナポレオンは思わず言葉を投げかけた。
いや、正確には分かっていた。彼女の胸中で蠢いているわだかまりの正体は、掴んでいた。
だが、どうして彼女は、そんなものを抱いているのだろうか。今のナポレオンには、どうしても理解ができなかった。
「どうしてそこまでできるのに、そんなに退屈そうなんだ。僕ほどではないとはいえ、何でもできるというのは快感だろう」
彼女は笑顔を浮かべていた。
楽しそうに、愉快そうに、だけどあくまで、そう見えるだけだ。
彼女は楽しんではいないし、愉快なわけではない。なんでもできる彼女の人生は、ひどく色褪せたものである。
自分がやりたいように蹂躙し、やりたいように凌辱してきた、それが生涯を通した享楽であったナポレオンからしたら、不可解であった。
「……さてね。そういう話は、また次の機会にしようじゃないか」
平等なだけの人外は一言そういうと、ナポレオンの問いを締め切った。
ナポレオンは特に反駁しない。今答えないというのなら、いずれ答えさせるだけだ。
急く話でもなし、そもそもそこまで興味のある話題でもなかった。
「ただ、そうだね。――僕はやる気だけはしっかりとあるぜ。そこだけは保障しよう。
“主人公”レベルの存在が入り乱れるこの聖杯戦争も勝ち抜くことができるのか。それはそれは、見物じゃないか」
どこまで本気か。彼女は笑顔を取り戻してナポレオンに宣言する。
依然として飄々とした態度は変わらないが、きっと奥底では多大な期待と、押し寄せる諦観とで入り乱れていることだろう。
なんとなく理解できる。だからといって、ナポレオンからしてみたらどうという話ではなかったけれど。
「ふん、あんたがどんなもんか知らないけど、勝つよ、僕は」
「そりゃあ頼もしい。そうだね、これからは主従一体、運命共同体だ。僕のことは親しみを込めて、安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい」
すでに窓の外はほの暗く。
万能たる二人の、そこはかとなく不毛な語らいは進んでいく。
こうして記念すべき第一夜は刻々と更けていく。
【クラス】アーチャー
【真名】ナポレオン・ボナパルト
【出典】史実
【マスター】安心院なじみ
【性別】男性
【身長・体重】167cm・69kg
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運A 宝具A
【クラス別スキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:B
マスター不在でも行動できる。
ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
【固有スキル】
カリスマ:A
大軍団を指揮する天性の才能。
Aランクはおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。
軍略:A
一対一の戦闘ではなく、多人数が活動する場所における戦術的直感力。
自らの対軍宝具や対城宝具行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
歩兵、騎兵、砲兵の連携を基本とした軍団の統合運用、超戦略規模の分進合撃を特に得意とする。
【宝具】
『英雄交響曲第一番(グロワール・エロー・アルメ)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:0〜30 最大補足:1000人
ナポレオンの栄光と没落を共にした軍隊。世界制覇を目指したナポレオンの戦争芸術の具現。
それぞれの軍団が独立行動と連携が可能であり、また軍隊という専門家集団である為、
ランクC-の単独行動スキル、ランクB-の専科百般スキル、ランクB+の連携攻撃スキルを持つ。
魔力を消費することで、自らの指揮下にある任意の軍隊に専科百般スキルを発動させ、
騎乗、気配遮断、気配察知、地形適応、追撃、戦闘続行、勇猛、陣地作成、破壊工作等のスキルをCランク以上発揮できる。
また包囲状態から一斉攻撃を行うことで、全兵員の攻撃のダメージ判定を相乗させる事が出来る。
『英雄交響曲第三番(アロガン・エロー・リベルテ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
「余の辞書に不可能の文字はない」――故にこそ、このナポレオンの名において、不可能な事柄などありはしない。
真名解放をしている状況下において、彼に不可能の文字はなし。代償として処する事柄相応に魔力は消費する。
皇帝特権や星の開拓者などのスキル・宝具効果を包含する、英雄たるナポレオン・ボナパルトの宝具。
彼の発した格言の誤訳であるという声もあるが、それはそれとしてこのナポレオンがそう言い表したというのだから仕方がない。
【Wepon】
大砲
【人物背景】
フランス第一帝政の皇帝。
フランス革命後の混乱を収拾して軍や国民からの支持を集め、クーデターによって軍事独裁政権を樹立。後に皇帝に即位した。
ナポレオン戦争と呼ばれる一連の戦争により、イギリスとスウェーデンを除くヨーロッパ全土を制圧するが、最終的に敗北して失脚した。
その後に短期間復位を果たすも再び退位に追い込まれ、南大西洋の孤島セントヘレナ島で晩年を送った。
国民軍の創設、近代法典の基礎となったナポレオン法典の制定、フランス革命の理念の普及など、彼が近代ヨーロッパに与えた影響は計り知れない。
今回は砲撃手・軍人としての適性よりアーチャーになった。なので、法典に由来した『英雄交響曲第二番』や、ロゼッタストーンなどは置いてきた。
【特徴】
軍服に身を包んだ茶髪碧眼の男。
【サーヴァントとしての願い】
やりたいようにやる。
【マスター】
安心院なじみ@めだかボックス
【能力・技能】
7932兆1354億4152万3222個の異常性(アブノーマル)と、4925兆9165億2611万0643個の過負荷(マイナス)
ただし、ちょいちょい縛りプレイをしているので、実際に使うのはその限りではない。
【人物背景】
インフレの権化。
ただし負ける時はあっさり負ける人外さん。
【weapon】
多分ないけど、あれば使うことはできる。
【マスターとしての願い】
できないことを見つける。
【備考】
黒髪かつ巫女服ではないので、多分悪平等篇後。
半纏さんは置いてきた。
【基本方針】
やれないことをやる。
投下終了です
投下します。
◇ ◇ ◇ アヴェンジャーの独白 英霊の座にて ◇ ◇ ◇
私が最初に悪への嫌悪を抱いたのは、いつだっただろうか?
私がこの心に復讐の炎を灯したのは、なぜだっただろうか?
いや、そんな自問などしなくても、本当はとっくに分かっている――
子供の頃、私は純粋に勉学が好きだった。
先人たちの残した考えを読み解き、自分の糧にしていく。
知識を詰め込み、それによってまた理解できなかった教えを理解していく。
そんな単純な事がたまらなく幸福だった。
しかし、好きなことだけを続けて生涯を終えることなど、かなりの地位を持った者でも難しい事である。
その知識欲からぐんぐんと知能を伸ばしていた私は、気付けば周囲に教えを乞える者はいなくなっていた。
古来より有能な者はその能力を世のために使うべきであるとされている。
自分で言うのも何だが、その時点で他の誰より勉学に優れていた私が趙王の下へと徴集されるまで、そう時間は掛からなかった。
皇帝の臣下たる諸侯王の1人に仕える事は、とても名誉なことである。
勉学しか楽しみがなかった私にとっても、家臣として世に尽くす事は楽しく、充実した仕事だった。
――そう、あの時までは。
趙王の太子丹は非常に軽薄な男だった。
見かければ常に女を侍らせ、王の息子だというのに仕事もせずに遊び歩いている。
遭遇する度感じる視線は、今思い出しても身の毛もよだつほど気持ち悪かった。
自慢になるが、私の妹は家族という関係を抜きに客観的評価を下しても、非常に可愛かった。
歌や踊りの才があり、綺羅びやかで、美しい皆の人気者。
勉学しか脳のない私とは180°違う自慢の妹だった。
そんな妹を好色な太子丹が放っておくはずもない。
案の定、噂を耳にした太子丹から妹を連れて来いと命じられた。
奴は仮にも王子である、私に断る権利など無い。
当然ながら妹は一発で太子丹に気に入られ、気付けば妹は太子丹の正式な妻となっていた。
気に入られるのはわかっていたが、妾の1人ではなく妻として迎えるとは完全に予想外であった。
当時の私は妹が良い地位に就き、趙王にも気に入られたのを見て、これを期に太子丹が女遊びを止めれば万々歳だと純粋に喜んでいた。
――しかし、この後のことを考えれば、今から過去へ行って自分を殴ってやりたいほど、私は愚かだった。
頭がいいなんて自惚れていたけど、肝心な善と悪という部分で、私は完全に無知な子供だったのだ。
妹との婚姻後も、当然太子丹の女遊びは止まらなかった。
妹を悲しませた怒りにかられて太子丹の素行を調べた私は、驚愕の事実に身震いさえした。
太子丹はそこらの女達では飽きたらず、自らの姉との近親相姦や趙王の妻とも関係を持ち、豪族達とつるんで悪行三昧という目も当てられないクズだった。
初めて目にする明確な悪に、自分の中の価値観が一新されていくのを感じたものだ。
混乱に混乱を極めた私は、この事実を自分だけが知っている事に言い様がない気持ち悪さを感じ、あろうことか趙王に相談してしまったのだ。
そんな事をすれば太子丹の耳にも入ることなど簡単にわかるはずなのに。
私が王に悪事を告げ口したとわかった太子丹は、私を殺すために使いを出した。
冷静になってから、いち早く危険を察知した私はなんとか逃げ果せることができた。
だがそれは、決して幸福なことでは無く、むしろ不幸の始まりだったのだ。
業を煮やした刺客達は、私の実家まで捜索の範囲を広げ、そこで見つかった父と兄が見せしめとして殺された。
太子丹の妻である妹の末路など、言うまでもないことだろう。
何度自分を責めたかわからない、それでも責任を感じての自害など以ての外である。
復讐だ。あの悪鬼に復讐するのだ。あのクズは裁かれるべきなのだ。
私の中にあった感情は、ただそれだけだった。
――もしかしたら、この時から復讐者としての私は出来上がっていたのかもしれない。
私が目撃しただけの情報など、何の価値も持たないのは明白だった。
故に、これまでの名を捨て江充と名乗り、時には間者の真似事までして確証に足る情報を集めた。
私は十分な証拠を集め終え、趙王より上の存在である国の皇帝、「武帝」に直接報告を行った。
その時の私は心身共にボロボロで、必死だったため服装もおかしな所ばかりだった。
しかし、そんな状態での謁見でも、裏付けまで確かな報告書は武帝を動かすに至ったのだ。
その時はやっと復讐が果たせると、小躍りしそうなほど喜んだ。
しかし喜びも束の間、本来ならば死罪である太子丹の罪は、趙王の必死の便宜によって権威剥奪で終わってしまった。
――このこともまた、私が悪を裁くことへの執念を増加させた。
その後、私は能力と気概を武帝に気に入られ、武帝の下で働いた。
多くの仕事をこなし、そのたび武帝に喜ばれ、苦節の末に悪を裁くに足る権利を得た。
賊をあぶり出し、法を犯したものは王族や貴人、たとえ皇太子であっても糾弾した。
その姿勢に部下や友人は身を震わせていたが、武帝はむしろ私の正義を高く評価した。
私は感動で胸が一杯になった。
武帝を唯一の理解者だと信じ、より一層の忠誠を誓った。
そして私は水衡都尉に就任し、親族や友人の権力も増し、私は手に入れた権力で以前に増して悪の根絶に励んだ。
そんな充実した日々にも、終わりの時が訪れる事となった。
――武帝が病に倒れたのである。
高名な医者を呼んでも、どんなに療養をしても、一向に回復の兆候が見られない。
私はふと、以前より流行り始めていた巫蠱の呪いを思い出し、調べてみると武帝には確かに呪いの痕跡が見受けられた。
私は激怒した。
それからというもの、私は巫蠱の呪いを徹底的に調べた。
儀式の痕跡がある者、巫蠱の呪いを行った疑いがある者、他者からの密告があった者、嘘をつく者。
皆が皆疑わしい、疑わしきは罰するのみだ。
処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、処刑、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首、斬首―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――気付けば死体の山ができていた。
数えるのも面倒だったが、後から聞けば数万人程処刑したらしい。
それでもなお、武帝は回復の兆しを見せなかった。
何故なのか、まだ調べていない所などあるのか。
私は考えに考え、そして――見つけた。
何故今まで気づかなかったのだろうと、私は自分の愚かさを嘆いた。
私が武帝に評価されたのは、皇族でも王族でも裁いていく所ではなかったのか?
焦っていたことなど言い訳にならない、一刻も早く悪は裁かなければならない。
悪は――宮中にあり。
そこからは早かった、私の人生が終わるまでの間も。
皇族関係者を調べると、武帝に巫蠱の呪いを掛けていたのは、以前私が悪事を糾弾した皇太子・劉拠だとわかった。
やはり悪は何処まで行っても悪なのだろう。
私は劉拠の宮殿から押収した呪いの木人形を皇太子に突き付け、問い詰めた。
酷く錯乱した皇太子は私を捕らえ、「これは罠だ!江充が僕を陥れるために仕組んだ罠だ!」などと大声で叫び、その発言は広く認知された。
劉拠はありもしない多くの罪を私にかぶせた後、処刑という名目で私の首を刎ねた。
私が死ぬ直前に見た劉拠の黒い笑みは、今でも鮮明に思い出せる。
まだ私には焦りがあったのだろうか、悪が蔓延る敵地へと無防備に1人で乗り込んでしまったのは愚かとしか言い様がないだろう。
私の死後、今までの私の断罪はすべて自作自演だと捏造され、私の親族はみな処刑された。
私の死を知った武帝が皇太子に敵を取ってくれたが、奴の策に嵌って後に私の親族を根絶やしにしたのもまた、武帝だった。
裏切られたような気分だが、そこは恨んでいない、全て悪が悪いのだ。
まだ裁いていない悪がいる、私や親族のように冤罪で処刑された者がいる。
私は復讐鬼となる事を誓った、無実の罪を着せられた者達の為に。
そして今、聖杯戦争という名の絶好の機会が訪れた。
選択肢など必要ない、召喚に応じないはずがない。
私は、聖杯戦争へと――冬木の地へと、飛び込んだ。
*
現代冬木市 杉下右京
『次は〜終点、冬木〜冬木です。降り口は〜左側です。この電車は回送電車と――』
普遍的な車掌のアナウンスによって、杉下右京の意識は覚醒へと誘われた。
どうやら電車のボックスシートに深く座り、眠っていたようだ。
起床後数秒で通常の回転速度へと至った杉下の脳は、これが異常事態だと告げていた。
(ここは……どこなのでしょうか? 僕はイギリス行きの飛行機に乗っていたはずなのですが)
脳が微かに記憶している音声を引き戻すと、冬木という駅だと理解できた。
外は暗く、自分の記憶が確かならば半日以上は眠っていたと推測できる。
しかし、眠ったとして場所は飛行機内、決して電車などではなかった。
誰も接触してくる気配もなく、電車に放置されていることから誘拐では無さそうだ。
杉下は荷物を調べてみたが、財布も警察手帳もそのまま残っていた。
網棚に乗っていた自分の旅行かばんの中身も、一つたりとも無くなっていない。
これで、物取りにあった可能性も消えた。
その時、残っている乗客がいないか調べに来たのであろう車掌が、杉下のいる車両内に入ってくるのが見える。
杉下は迷うこと無く車掌へと近づいて行った。
「すいません、一つお聞きしてもよろしいですか?」
「ええ、良いですけど、どうしました?」
「どうやら僕は、寝過ごしてしまったようでして……僕がどの位ここで眠っていたか、ご存知ありませんか?」
「いや〜私もそこまでよく見ていませんでしたから……でも、1時間も寝てないんじゃないですか?」
それはおかしい、時計を見ると22:53を示している。
飛行機は12:20分の便だったと記憶している。
約10時間半の差、これは睡眠薬で眠らされていたとしても途中で十分効果が切れる程の時間だ。
1時間もしない内に電車に運びこむ程の振動を身体が受けていたならば、起きないはずがない。
「おや、どうして1時間位だと?」
「反対側の終点がそれくらいだからですよ。折り返しを考えても、2時間しないくらいじゃないですか? 流石に何回も折り返していたら、途中で気づいて起こしますしね」
「そうですか、どうもありがとうございました」
車掌の言い分は何もおかしいところは無い。
この電車は回送になるようなので、取り敢えず杉下は電車を下りることにした。
しかし、その前に。
「ああ、申し訳ありません。最後にもう一つだけ、よろしいでしょうか?」
「もう電車出ますから、手短におねがいしますよ」
「ええ、では手短に。……奇妙な質問だと思われるかもしれませんが、この冬木という駅は何県に存在するのでしょ――――ッウゥ!!」
――激痛。
現在地の所在を聞こうとした杉下の頭に、急に膨大な情報が流れてくる。
『聖杯戦争』『サーヴァント』『令呪』etc…
思わず杉下はよろけてしまい、扉横の椅子にもたれ掛かった。
なぜだか左手の甲にも刺すような痛みが走っている。
杉下は一瞬痛みの原因を突き止めようとしたが、否応なくそれが令呪の痛みだと理解させられる。
「お客さん! 大丈夫ですか!?」
「ええ……寝起きで少しふらついてしまっただけですからっ……先程の質問は、忘れていただいて結構です」
杉下は近づいてくる車掌を手で制する。
顔を赤くし、身体を震わせよろけながらも杉下はホームへと降り、設置されていたベンチへと腰掛けた。
*
数回深呼吸をして気分が落ち着いた頃には、頭にも左手にも一切痛みは残っていなかった。
冷静に情報を分析すると、どうやらこの冬木という地で聖杯戦争なるものが行われ、自分がその参加者として召喚されたようだとわかる。
(僕はこのようなオカルトには出会えない運命なのだと思っていましたが、どうやら僕も出会ってしまったようですねぇ……)
好奇心旺盛な杉下は、同僚達が超常体験や幽霊と出会った話をしている時にいつか自分も体験したいと思っていた。
しかし、この聖杯戦争という超常体験は杉下の想像していた体験よりも随分と血なまぐさいものだった。
聖杯から与えられた情報によれば、もはやこの冬木から出ることは叶わないだろう。
それこそ――聖杯戦争を終えるまでは。
駅の改札を降りると、冬木とはそこそこ開けた土地であるとわかる。
大都会ではないが、中心街が広がっており夜でもかなり明るい。
杉下は目ざとく電子パスの消費金額を見ていたが、表示は0円となっていた。
まるで定期券で同じ駅から乗ったかのようである。
杉下右京とて衣食住は大事なので、この時間からでも泊まれるホテルを探そうと街を歩き始めた。
「――あの、すみません。貴方が私のマスターですか?」
「はいぃ?」
突然、どこからともなく声が聞こえ、杉下は背後に振り返った。
そこには、奇抜な恰好でメガネを掛けた白髪の少女が、笑みを浮かべて立っている。
少なくとも現代でよく見かける類ではなく、秋葉原やとある時期の東京ビックサイトならギリギリ見かけるような服装である。
今まで、そこには誰もいなかったはずである。
しかし、杉下が考えるよりも前に、流れてきた知識によって、彼女が自分のサーヴァントであると理解させられる。
なんだか思考が先回りされているようで気持ち悪かったが、幸か不幸か、それによって杉下は全くの平常心で対応することができた。
「どうやら、そのようですねぇ……」
「……あまり、驚かないんですね?」
「おや、そうでしょうか。僕は先ほど目が覚めてから、驚いてばかりのような気がしますよ」
「……こういったことに慣れているのかと思いましたよ。そういう人、たまにいるみたいですから。――魔術師とか、呪術師とか……」
「おや、そうなのですか。生憎、僕は今までこういった事に縁がありませんでしたからねぇ……混乱に、脳がついて行けていないだけですよ」
会話の途中、少女の顔に陰りが生まれたが、杉下は問い詰める事はしなかった。
少女は杉下の言葉に一応の納得をしたのか、元々笑顔だった表情から更に満面の笑みを作り直した。
「まぁ、触媒の無い召喚は似た者同士が召喚はされるといいますし、私のマスターなら大丈夫ですよね」
少女が何を持って大丈夫だと判断するのか杉下にはまだわからなかったが、それはまだ知らなくても良いことだと判断した。
「申し遅れましたが、私のクラスはアヴェンジャーです。そのままクラス名で呼んでいただいて結構ですよ」
(Avenger――復讐者、ですか。……それにしても、やはり真名はまだ教えて貰えないようですねぇ)
“復讐者”というのはあまり良い意味で使われない言葉である。
サーヴァントのクラスに少し怪訝なものを感じながらも、杉下は極めて冷静に名乗りを返した。
「おやおや、先に名乗られてしまいましたか。僕は警視庁特命係の杉下右京と申します」
「警視庁……ああ、現代の悪を裁く機関ですね? やっぱり思った通りです」
「厳密に言えば、僕達警察は犯罪者を裁く権限は持っていないのですが、一般的な認識では、似たようなものかもしれませんねぇ……」
杉下の言葉に、一瞬アヴェンジャーは不思議そうな顔をしたが、即座に笑顔に戻ると杉下に右手を差し出す。
「どちらにせよ、正義は私の味方ですから。改めてよろしくお願いします、マスター」
「ええ、こちらこそ、よろしくお願い致します」
アヴェンジャーの握手の要求に、杉下は快く応えた。
まだ出会ってたった数分だが、杉下はこのサーヴァントには奇妙な点が多い事に気づいていた。
いかに杉下が優れた洞察力を持っているにしても、数分の間には多すぎる違和感だった。
恐らく後ろ暗いものでは無いだろうが、素人の犯罪者であってももう少し上手い隠し方をするだろう。
それは、無意識の内に気づいてもらいたがっているかのようでもあった。
例えそうだとしても、杉下にはまだ何を気づいて欲しがっているのかなどわからない。
聖杯に書ける願いも行動理念も、真名さえ聞けていないのだ。
まだ数分、これから気づく機会は多い、このアヴェンジャーの調子ならば尚更である。
互いに握手から手を離すと、アヴェンジャーは杉下を先導して街を歩き始めた。
恐らく先頭に立つのが好き、もしくは周囲を引っ張ることに慣れている人間の無意識の行動だと杉下は推測した。
見える背中には大きく『正義』の文字が見える。
(正義……ですか)
『復讐者』、『正義』、この2つの言葉からは、否応もなく杉下に「ダークナイト事件」を連想させる。
法で裁けない悪を、正義感から次々と暴行した甲斐享。
犯行の始まりは、友人の復讐を肩代わりしたことから始まった事件だった。
杉下でなくとも、忘れるわけがない。
体感ではまだ甲斐享との別れからは、1時間も立っていないのだから。
(あの時は僕としたことが、カイト君の暴走に気付くことができませんでしたが……もう二度と、過ちを繰り返さないようにしなくてはなりません)
前を歩くアヴェンジャーの少女にも、甲斐享のような危うさが垣間見えているのだ。
「目には目を歯には歯を」の精神は現代では通用しない。
犯罪者を傷めつけるだけでは、犯罪は減らない。
杉下は甲斐享がこれから獄中でそれを気付くことが出来ると信じている。
――杉下右京の正義は暴走する。
そう言われてきた杉下は、相棒の間違った正義の暴走を止めることができなかった。
このタイミングで聖杯戦争に巻き込まれたのも、偶然では無いのかもしれない。
自分の下に彼女が召喚された理由をなんとなく察しつつ、杉下はゆっくりと少女の背を追って歩き始めた。
【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
江充(こう じゅう)
【出典】
紀元前1世紀、中国(前漢)
【性別】
女
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力E 耐久E+ 敏捷D 魔力B 幸運D 宝具B+
【クラススキル】
復讐者:A+
ただ復讐のみを存在の意義とする者。
自身へのダメージに対して復讐の炎を燃やし、その執念を存在の糧(魔力)へと変換する。
また、対象が王族または王に意見できる存在であり、冤罪によって処刑を行った逸話がある(とアヴェンジャーが知った)場合にも効果を発揮する。
忘却補正:D
歴史に真実を葬られた者の悲嘆。
戦闘中であっても稀に対象が存在を忘れ、不意打ちを食らわせられる。
自己回復(魔力):C
復讐心が消えないかぎり復讐鬼としての存在が保たれ続けるため、常時魔力が少しずつ回復していく。
【保有スキル】
呪術探査:A
呪術・魔術の元の道具屋魔法陣、また使用者を特定する。
結界・呪いなどの術を確認すると「誰が、どこで、何を使って、どのように」術を行使したか判断出来る。
しかし、サーヴァントが対象ならば容姿・クラスは判明するが真名を知ることはできない。
曲がらぬ正義:B+
皇族や格上であっても処する不屈の正義、悪への鋭い嗅覚。
威圧、幻惑、魅了といった精神干渉、同ランクまでの認識阻害系スキルの効果を無効化する。
【宝具】
【如果有疑問被処罰(ふこのごく)】
ランク:E〜A+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1人
武帝に呪術を行使した犯人を確実に処刑するためにアヴェンジャーが疑わしきは全て罰した逸話、また正義を信じ逆賊を罰し続けたアヴェンジャーの生き様。
罪を犯した者を糾弾し、罪の度合いによって罰を与える。
『巫蠱の獄、開廷!』の声とともに裁判所のような固有結界が開き、その中では両者共一切の攻撃・術の行使・宝具の使用などができなくなる。
略奪、姦淫、呪い、証拠隠蔽、殺人、冤罪の捏造の順に罪が重くなっていき、また行った回数が増えるほどに重い罪とされる。
大まかな例では、身体が重くなる、スキルによる耐性の低下、ステータス低下、一部拘束、全身拘束、死刑などがあり、大量殺人でも無い限り死刑にはならない。
刑が重くなるごとに行使も難しくなっていき、低いものでは顔と罪、死刑ともなると真名や断定出来るだけの詳細な事件記録も必要となる。
刑の執行はあらゆる防御手段や耐性を無視できる、完全なる平等の裁きである。
【死者誰被誣告(みんなのうらみ)】
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜100 最大補足:50人
神のみが知る、無実であるのに罰せられた者達の社会への怨念。
怨念の集合体の様な霊の塊を召喚し、操る事ができる。
多く魔力を消費すれば菅原道真や岳飛、それこそ巌窟王の様な者達も非常に弱体化するが召喚できる。
ソクラテスや某聖杯の持ち主など無実の罪で処刑されても恨みのない者は召喚できない、後者はたとえ恨んでいたとしても召喚は不可能であるが…
妄信的な正義から、自身が巫蠱の獄で処刑した者にも冤罪が多かったことには気づいていない。
その者達はアヴェンジャーを恨み、復讐を狙って喜々として召喚されるだろう。
一人一人はアヴェンジャーに対して全くと言っていいほどダメージを与えることはできないが、彼女が殺したのは数万人、この中で冤罪はどれだけいるだろうか。
塵も積もれば、山となるかも知れない。
彼らもまた、アヴェンジャーなのだ。
【人物背景】
彼女の生涯は本編中で語り尽くされているので割愛。
彼女は歴史において世紀の大悪“漢“として知られている。
それは死後、事実を捻じ曲げられ、正義と信じて行った彼女の行為は全て、権力者を陥れるためのマッチポンプだったとされてしまったためである。
歴史書では、権力に溺れ、邪魔な人間には言われもない罪を被せた悪魔だと書かれた。
果ては一部の間で、初めから皇帝に取り入るために趙王を踏み台にする計画だった、巫蠱の呪いを広めた呪術師だった、皇帝を呪術で操っていて江充が死んだから正気に戻った、とまで言われる始末である。
また、皇帝が性に良いように利用されていたという噂を恥と考えたのか、性別までもが事実を隠蔽されている
彼女は悪人や軽薄な遊び人に生理的嫌悪感を抱いている。
普段は極めて冷静沈着で、皇帝に仕えるために常時営業スマイルで過ごしていたために普段はずっと笑みを浮かべている。
善人とは言わずとも普通の人々に対しては基本的に愛想が良く、気に入られやすい。
故に笑顔で静かに怒るタイプだが、度を越した悪を前にすると処刑や斬首の事しか頭に無くなり早口で捲し立てるように喋り方になる。
焦ると短絡的な行動を取りがちで、後になって後悔することは少なくない。
生涯を法と悪の根絶に生きたため、女子力など皆無であり圧倒的に処女である。
【特徴】
身長は160cm程で77-55-78のややスレンダー型、腰まで伸びる真っ白な髪を細長く肩辺りまで垂らした形の垂挂髻に結っている。
服は古代中国の基本色(五行・五方を表わす色)である「青(緑)赤黄白黒」から黄色を抜いた4つ(性格には青と緑は同色扱いなので5つ)の原色のみで構成されている。
余談だが、古代中国において黄色は皇帝や帝王、赤は希望や幸福、青(緑)は新鮮さや清廉、白は純潔や高貴さ、黒は厳正さや神秘の色とされていた。
神秘や魔を厳正に見ぬくフレームの細い黒縁メガネを掛けており、下着は純潔と清廉さを兼ね備えた青と白の縞柄。
音楽家の使用するものとは違う軍用の真っ赤な指揮棒を常に持ち歩き、何かを示したり指示を出す際は指揮棒を振るのが癖。
肩にかかっている黒地マントの背中部分には、デカデカと白で『正義』という刺繍が入っている。
服装は名前がよくわからないのでぶっちゃけると恋姫†無双の賈駆のイメージ(メイドではない)。
【聖杯にかける願い】
悪、冤罪の排除
【マスター】
杉下右京
【出典】
相棒シリーズ
【性別】
男
【Weapon】
手錠
【能力・技能】
類稀なる観察力や洞察力、記憶力、分析能力、推理力を持つ。護身術や剣道の心得もある。
【人物背景】
警視庁特命係係長の警部。
東京大学法学部を卒業後は渡米し、帰国してからはキャリアとして警察庁に入庁、かつては警視庁刑事部捜査第二課にて活躍していた。
過去に小野田官房長官(当時は参事官)と共に「北条邸人質籠城事件」を担当する緊急対策特命係を結成。
作戦参謀として交渉に当たるが、解決を急いだ小野田の判断ミスで多数の死者を出してしまった責任を取らされ、特命係という名の所謂「窓際部署」に配属となってしまう。
以降特命係は”クビにはしないが警察を自主的に退職してもらいたい人物”を左遷する恰好の部署として利用され、事実杉下の冷たい態度と異常な有能さを見せつけられた者は即座に辞めていく。
故に特命係は「警視庁の陸の孤島」と呼ばれ、杉下右京は「人材の墓場」と呼ばれるようになった。
しかし、杉下右京を変えた切っ掛けである「亀山薫」やその次の相棒「神戸尊」などを介して少しずつ性格が丸くなっていった。
神戸が異動してからは「甲斐享」という青年に価値を見出し、彼と3年間特命係を続けていたが、実は享が凶悪暴行犯「ダークナイト」であると気づき自らの手で逮捕した。
身内であっても悪を許さないその姿勢は警察内部でも恐れられ、甲斐享の上司としての監督責任で無期停職の処分を下された後、イギリスへと渡った。
極めて冷静沈着な性格で、警察然とした姿勢を心がけている(違法捜査はする)。
イギリスに留学していた経験があるからか紅茶に並々ならぬこだわりを持っており、ポットを高く掲げて滝のように紅茶を注ぐ奇妙な入れ方をする。
雑学的なものから円周率まで幅広い知識を持ち、クラシックや落語などの趣味も多彩である。
人は犯した罪を法で裁かれなければいけないという信念から犯人も含めて人の死を嫌い、警察官なのに拳銃を持ち歩かないどころか射撃訓練さえしない。
警察の上層部や警察の権力が通用しない検察庁の様な場所でも関係ないとばかりに捜査を進め、犯人を暴く。
それによって、彼を深く知っている者からは「杉下の正義は時に暴走する」と言われている。
【マスターとしての願い】
人は罪を法によって裁かれるべきですから、僕には聖杯に望むことなど、ありはしませんよ
投下終了です。
投下します
最強の格闘技/サーヴァントは何/誰か!?
.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
富田流、と言う流派がある。
普通に生活していたら、恐らくは一生聞く事もないだろうが、日本の武術史、もとい兵法の歴史を紐解けば、その名の強さを知る事が出来るだろう。
富田と言う名前は開祖である富田勢源の名に由来するが、勢源は一人で富田流に開眼した訳ではない。
武士階級の由緒ある家の長男として生まれた彼は、剣術や槍術に明るく、その過程で、中条流と呼ばれる流派で己を磨いた。
勢源は富田流の開祖であると同時に、中条流中興の祖でもあった。つまり富田流とは乱暴に言ってしまえば、中条流が名前を変えただけに過ぎないのである。
富田勢源は間違いなく、日本の兵法史に名を連ねる偉大な武人であったが、彼は武人として致命的な弱点を負っていた。彼は、弱視だった。
今日残されている勢源の肖像画では、彼の瞳には黒目がなく全て白目として描かれている事から、弱視は弱視でも、実質的には殆ど盲目に近かったのではと言う説が有力だ。
この為勢源は、中条流の正統印可と富田家の家督を弟の影政に譲り、自身は剃髪し、独自に兵法を研究する道を選んだのであった。
しかし、目の病気を患っていてもなお、勢源だけは特別であり、彼は全く目が見えない状態からでも、刀、特に小太刀に秀でていたと言う。
その上人格面も大変優れており、そんな彼の下に、彼を慕う多くの弟子がやって来るのは、当然の流れであった。
富田流は富田勢源が生きていた頃、そして死んだ後も、兵法史や歴史に、少なからぬ影響を与えて来た。
その中でも特筆に値するべき事は、今や国際競技の一つにもなっている、日本の代表的な武道、剣道に大きい影響を与えていると言う事だろう。
今日の日本における剣道のウェートはとても大きい。学校教育の一環として、警察や自衛隊の訓練の科目の一つとして、そして生涯スポーツの一つとして。
剣道は、市民権を獲得していると言っても良かった。
――男は、そんな富田流の系譜に連なる流派の、六代目継承者であった。
男の継承する富田流は江戸時代後期、つまり剣術道場華やかなりし、剣術道場が日本全国に五百以上も乱立していた時代に、
富田本家から数多別れた流派の一つに過ぎなかった。今日残っている剣術や兵法の流派が、嘗ての十分の一に満ちているかと言う程の数しかない事を考えると、
男の富田流の歴代継承者が、どれ程存続に尽瘁して来たのか、良く解ると言う物であろう。
祖父が遺した不動産を管理・運営する事で、男も、彼の父も不自由なく生活しており、冬木の武家通りに道場付きの豪邸を建造、其処で日々修行に明け暮れていた。
其処が、彼の富田流の本山である。流派の伝承は常に一子相伝、嫡男のみに行うべし、と言う教えに従ってはいるが、男は三十八にもなって職歴なし、女性経験なしの、ゴミカス社会不適合者童貞=年齢ニートと言う概念の擬人化免許はAT限定の男だった。つまり、あとは流派を継承者だけが、男に残された仕事の一つであった。
此処までの話だが、嘘の部分が一つある。
男としては、ゴミカス社会不適合者童貞=年齢ニートと言う概念の擬人化免許はAT限定の部分だけが夢幻であると信じたかったが、残念ながらこの部分は真実である。
男の富田流の道場は、此処日本海に面する冬木市ではなく、関東に本当はある筈なのだ。つまり、冬木の街にこの道場がある筈がない。
そんな矛盾が何故成立しているのか、と言えば、答えは一つ。男、古武術富田流の継承者である、『入江文学』が、聖杯戦争に招かれた人物であるからに他ならない。
文学は、今日、臨時収入として四千万程を獲得していた。
市内に根を張るヤクザを相手に賭け麻雀を行い、少しインチキを使ったが見事四千万の勝利を得たのである。
勝ちが決まると向こうは何か因縁を付けて来たが、俺の流れの良さに嫉妬してるんだなぁと思いながら取り敢えずその場にいた全員をボコボコにして、
金庫の番号を吐き出させ、其処からキッチリ四千万円をキャッシュでゲット。持っていたゴルフバッグに詰め込み、そのまま事務所を後にした。
そしてその後、麻雀に勝ったその足で商店街の肉屋でターキーを買った。自分へのご褒美と、ちょっと早いクリスマスの食事だ。一緒に食べる女はいない。一緒に食べる女はいない。
乗っていたセダンを車庫に入れた文学は、ターキーの入った箱を手にし、和風邸宅のスペースではなく、道場の方に向かって行く。
此処で文学も修行している。そして、文学が引き当てたサーヴァントも、だ。
「戻ったぞ、『バーサーカー』」
言って引き戸をスライドさせると、道場で行われている光景に目を奪われた。
――デカい男だった。身長も、そして、身体の厚みも。
魁偉、とは正しくこの男の事を言うのだろう。文学は、百九十cmもあるのではないか、と男を見て推測した。
群衆の中に放り込めば、忽ち人目を引く事は間違いない。派手な服装をしている訳でもなければ、並外れて美しい訳でもなければ不細工な訳でもなく、
かと言って、人目を引く程大きい身長であると言う訳でもない。百九十cmと言う程度の身長ならば、今の日本の栄養状況から考えても、なくはないだろう。
その男が他人の目を引くのは、身体の大きさでも、その鍛え上げられた身体つきでもない。それ以上に不思議な、例えて言えばオーラのような物を纏っているからだ。
不思議な気配だ。人を魅了させる様な空気と言うべきか、それとも、万難やトラブルを惹起させる不穏な空気と言うべきか。
身に纏っている物は皆、男の体格に相応に大きめに採寸されていたが、全て、時代にそぐわぬ服装だった。
洗い晒しの黒い着流しの上に、唐草模様の陣羽織を羽織った、如何にもな素浪人風の男。着ている物が、薄汚れていた。
泥や土で汚れていると言うよりは、服全体に染みついている、生活の垢とでも言うべきか。だらしない印象を受けるだろう。
伸ばし放題の蓬髪を後ろ髪に纏めている様子や、剃る事も面倒なのがすぐに解る無精ひげからも、実際そう思う。しかし、何故かその姿が男には似合っていた。
その蓬髪も、身体つきも、酸いも甘いも噛み分けたような苦み走った中年の顔つきも。それら全てを含めて、この男なのだ、と言う説得力を文学に与えている。
そんな男が、道場に備えられていた木刀を上段から素振りしていた。
富田流は古武術であり、柔術や刀術、小太刀の術にも造詣が深い。更に文学の父の代からは、異種格闘、つまりボクシングやキックボクシングなどと言った、
諸外国で興った格闘技にも目を向け始め、文学もまた武道を含めたあらゆるを格闘技を見る目には、自信がある方であった。
斯様な男の目から見ても、その男の素振りは、美しかった。刀術を学ぶ以上、当然現代の剣道についても文学は学んでいる。
それに照らして考えれば、あの蓬髪の男がやっている事は何て事はない、現代剣道でもやる様な、上段からの素振り、単なる反復練習だ。
それが何故か、異様な存在感を醸していた。そう、あのバーサーカーの剣は異様な剣だった。技
明らかに何らかの術の体系である事は明白なのに、しかしそれでいて、余人が学べる類の剣でないと言う事を一目で解らせる何かに満ちている。男の剣は、彼のみが操る事が出来るものであった。
蓬髪の男が三回程素振りするまで、文学はその動きに魅入られていた。
そして漸く、バーサーカーと呼ばれた男が、自身のマスターの存在に気づき、此方に顔を向けて来た。
「戻ったか、小僧」
素振りを止め、男が文学の方に顔を向けて来た。この男こそが入江文学が呼び出したバーサーカー――『伊藤一刀斎』。
先程、富田流が日本剣道に大きい影響を与えていると言ったが、それは確かに正しい。しかし、必ずしも正確な言い方ではない。
厳密には、富田勢源の弟子である鐘巻自斎の弟子である、バーサーカー・一刀斎が興した一刀流が、その原点なのである。
富田勢源からすれば、一刀斎は孫弟子にあたる存在になるのだが、後世に残した影響は誰が見ても一刀斎の方が計り知れないだろう。
彼の興した一刀流から湧かれた分派を学んでいた著名な剣術家は数多い。新撰組三番隊隊長・斉藤一が学んでいたのは、『小野派一刀流』だった。
自身、入江文学ですら知っている大剣豪が、己のサーヴァント。
その事実に文学が震えていないと言えば、それは嘘になる。一刀斎こそは、富田流の流れを明確に汲む、偉大なる剣豪の一人である。
富田勢源の一番弟子である鐘巻自斎が最も目にかけ、しかも当時大剣豪としての名を欲しいままにしていた自斎を僅か二十代前半の身で打ち破った剣士、それが一刀斎だ。
一刀斎の真名が他者に割れる事を恐れて、仕方なくクラス名で呼んでいる文学だったが、そうでもなければ、先生とすら呼びたい程の大偉人であった。
「長い事道場を空けていたが、何をしていた」
「食事を買って来たんだ」
「嘘を吐くな。悪賊の溜め込んでいた財貨をかっぱらって来たのだろう。顔に書かれておるわ」
「何で解ったんですかね……?」
まさか、暴力団が溜めこんでいたそれを譲渡(大嘘)された事が露見するとは思わなかった。流石の文学だってこれには驚く。
「俺の生きていた時代には珍しくもなかった事よ。俺も昔は回国していた時期には、其処らの山賊共を斬り殺して、溜めていた金を路銀代わりにしたものさ」
如何やら一刀斎の方が倫理的非常によろしくない事をしていたらしい。
流石は、下剋上が当たり前の戦国時代出身の武芸家だけはある。あらゆる意味で、二十世紀生まれの武術家である文学とは、桁が違う。
「それで、小僧。食事についてだが、俺にはいらぬ配慮のようだ。『サーヴァント』とやらになってから、腹が減らぬのよ。如何やら今の身の上の特徴らしい」
「ありゃ、それじゃぁ勿体ないな。ターキー……つまり鳥の丸焼きだから、美味しいんだがな」
「小僧、武芸者は肉の摂り過ぎには気を付けるものだ。喰わぬとは言わぬが、もう少し喰う者を選べ」
やはり、見るからに放恣を絵にした様な男とは言え、流石は歴史に名を残す大剣士、伊藤一刀斎。
こと武芸に関わる事となると、そん真摯さは目を瞠るものがある。今残した忠告はきっと、文学がマスターだからではないだろう。武術家としての側面で、注意したにも相違ない。
「解った、それじゃ、日を分けて食べるとしますかね」
そう言って道場を出ようとした、その時だった。「いたぞ!!」、と言う男の声が聞こえて来た。
顔を見ずとも、野卑な外見をしているのだろうなと言う声だったが、案の定だった。黒いジャケットを身に纏った、顔にタトゥーを入れた強面の男。
手に持ったピストルを見るに、そう言う筋の人間である事が解る。
「テメェ文学、ヤクザの金奪う何て良い度胸してんじゃねぇか」
銃口を文学の方に向けて、ヤクザが凄んだ。遅れて道場の方にゾロゾロと、その手に匕首や刀を持った連中が七人程押し入って来た。
銃刀法違反でしょっ引かれる事は間違いない武器を手にして此処に来ると言う事は、そう言う事だ。暴力団は面子で動く生き物である。
組の金を奪われました、などは同業者は勿論の事、親分筋にも言える筈がない。指を詰められるだけで済めばよい方で、最悪破門だ。
今日日、破門されたヤクザなど、コンビニアルバイトすら出来ない。破門は彼らにとっての死刑宣告だった。
「だって勝ったんだもん」
「イカサマしといて何抜かしてやがるクソボケがぁ!! 牌の裏に引っ掻き傷付いてたんだよ引っ掻き傷!!」
「ズルをしたのか?」
訊ねるのは一刀斎である。
「悪財をビュルッと吐かせただけですよ。こいつらが善人に見えます?」
「見えぬな。山賊によく似た面をしてるよ」
「テメェ……何一人でベラベラ食っちゃべってやがる、頭おかしいのか……!?」
暢気に世間話をしている文学と一刀斎を見て、リーダー格と思しきピストルを持った男がトリガーに手を掛け始めた。
何がきっかけで、凶弾が放たれるか、最早解った物ではない。無論文学は油断などしていない。一刀斎と会話をしながら、男達の動向には目を光らせていた。
「あの男が手にしてるあのオモチャは、火縄銃が進化したもの、だったな」
「えぇ、まぁ」
「ゴチャゴチャうるせぇンだよ、死ね!!」
そう言って今正に発砲しようとした、その時だった。一刀斎の姿が、其処から消えた。
――文学は、疑問に思っていた事が一つだけ存在した。
伊藤一刀斎程の男が如何して、『バーサーカー』で召喚されたのだろうか。バーサーカーとは即ち狂戦士のクラスである筈だ。
聖杯戦争についての知識は、頭に叩き込まれている。だからこそ理解が出来ない。一刀斎が呼ばれるとしたら、セイバー、もしくはアサシンではないのか?
それなのに何故、バーサーカーとして呼ばれているのか。その一端を、文学は垣間見た気がした。
瞬きした瞬間には、道場に入っていた八人のヤクザが全員、血の海に倒れていた。「うおっ!?」、と驚くのは文学の方だ。
首を刎ね飛ばされたり、心臓や肝臓を破壊されたり、袈裟懸けに深く斬りこまれたりなどして、無惨に殺された死体に、反応しているのではない。
文学ですら反応出来ぬ程の短い時間で、この惨劇を成した一刀斎の手練に、寧ろ驚いていたのだ。
「……嗚呼、もう殺してたか」
そう言いながら、一刀斎は天井を見上げていた。
道場の板張りを侵食する、紅色の褪紅色の液体。それで素足が汚れる事など全く意にも介さず、目線を天井から、右手に握っていた刀に送る。見事に血濡れていた。
彼は血濡れた刀を己の着流しで乱暴に拭き始める。一刀斎の振う刀は、名刀、瓶割(かめわり)。一刀斎が鬼夜叉と呼ばれていた若年時代に、彼の剣術に感動した三島神社の神主から授けられたと言う宝刀である。
入江文学は、知っている。『人間には、人間を殺す事を忌避する本能』と言うものがある。
つまり俄かには信じ難いが、人は本能的に同族を殺害する事をよしとしない生き物なのである。これは人間の悪性を否定したい気持ちから来る、優しい嘘でも何でもない。
第二次世界大戦時に統計されたデータによると、アメリカ軍の前線で銃を発砲する二等兵百名当たりに付き、実際に銃を発砲したのは十五人〜二十人程度であったのだ。
彼らの多くは、敵を殺す事は愚か、仲間を守る為にすら、銃のトリガーを引けなかった事を意味する。戦争になれば誰もが人を殺すと言うのは嘘だったのだ。
彼らの中には、敵を威嚇する為だとか、カモフラージュの為にあらぬ方向に銃を発砲する、と言う取り敢えずの行動すらしなかった者も確認出来る。
戦場と言う異常な世界で活躍する兵士達、しかも自分の命や仲間の命を守る大義名分や、上官の命令があると言う理由があっても、敵、つまり人を殺すのを躊躇する。
人を殺す事の忌避感は、それ程までに大きいのである。アメリカ軍の兵士の訓練は、二次大戦を境に激変する事となる。
これからの軍隊の課題とは何か? 強い武器を作る事か? 無敵のスーパー・ソルジャーを作り上げる事か? 違う。
その戦争を境に米国は、撃たなければならない時には撃たねばならないような教育を施す事、つまり、兵士の殺人に対する抵抗感を克服させる訓練を模索するのである。
伊藤一刀斎には、この忌避感がない。
自分に敵意を向けられたから、対応しただけ。本当に無意識の内に、身体が動き、刀を振るっていたのだろう。
血腥い戦国の塵埃が舞い散るあの時代を生きた大剣豪は、息を吸うように敵対者を殺すのである。それを見て、文学は非道だなんだとは思わない。
それこそが、武の本質であると知っているのと同時に、一刀斎の持つこの資質こそが、聖杯戦争を勝ち抜くにあたり重要な物だと思っていたからだ。
古武術とは言ってしまえば、人のこれからの人生を破壊する技の集大成である。
目を抉り、骨を砕き、内臓を破壊する。後遺症が残る程の攻撃を、文学は躊躇しない。そうしなければ自分が殺されるから、自分の人生も破壊されるからだ。
とは言え文学とて、殺す事は本意ではない。半殺し程度にとどまるような攻撃が殆どだ。今まで文学が警察の御世話になっていないのは、つまりは文学は実戦の中から、手加減をする術を学んでいたからである。
――そんな文学が、本気で殺したいと心の底から願う人物がいた。
銃や剣、斧を使っての闇討ちじゃない。愛する父、入江無一から学んだ富田流で。毎日欠かさず、一日たりとも鍛錬をサボった事がない、磨きに磨いた富田流で。
父を植物状態に追い込ませ、そして間接的に殺した田島彬を殺したいのである。文学は、田島に対しては殺人に対する忌避感はない。
この男を殺してやりたい。頭蓋骨を破壊したい、脳をグシャグシャにしてやりたい、目を抉りたい、歯を全て引き抜きたい、内臓を余す事無く破壊し、睾丸も豆腐のように砕き、体中の骨も全部砕いてクラゲのようにした後、その心臓に金剛を叩き込みたい。
それこそが、今の入江文学が、生きる理由であり、今も鍛錬を続ける理由の全てであり……。
そして、この聖杯戦争を絶対に生き残る、理由の全てだった。こんな、何処とも知れない田舎町でその人生を終える訳には断じてならない。文学が殺す事を夢見る、田島彰を殺すまでは。
「バーサーカー……」
一刀斎が、顔を文学の方に向けた。
「遂に殺っちまったな」
「小僧の危機を守ってやっただけさ」
文学の笑みに危険な物が混じった。その瞳に煌めくのは、剃刀の輝きだった。
.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
最強の格闘技/サーヴァントは何/誰か!?
多種ある格闘技/サーヴァントがルール無しで戦った時……
出来レースではなく策謀暗殺ありの『戦争』で戦った時
最強の格闘技/サーヴァントは何/誰か!?
今現在、最強の格闘技/サーヴァントは決まっていない
その一端が、此度の聖杯戦争で知れる事となる
.
【元ネタ】史実
【CLASS】バーサーカー
【真名】伊藤一刀斎
【性別】男性
【属性】中立・中庸
【身長・体重】189cm、80kg
【ステータス】筋力:D 耐久:C 敏捷:B+ 魔力:D 幸運:A+ 宝具:EX
【クラス別スキル】
狂化:-
バーサーカーはこれを持たない。バーサーカーは人間の身でありながら、人間を人間足らしめる心と意識を捨て去る事の出来た、史上稀なる人物である。
つまりバーサーカーは人に生まれた身でありながら、狂化に必要な『心』と『意識』が存在していない。
【固有スキル】
剣理:EX
バーサーカーは今日の剣道のルーツにまでなっている一刀流の開祖であり、そして日本の兵法史に稀なる大剣士である。
曰くバーサーカーは、『天下を周遊して真剣勝負をなすこと三十三回、凶敵を斃す事五十七人、木刀にて相手を打ち伏せる事六十二人、善類を救う事上げて数える事出来ず』、と言われるまでの大剣士であったと言う。
透過:EX
無念無想、その極致。表面上は精神面への干渉に対しては一般的な反応を起こすが、バーサーカーは意識に拠る活動をしていない為、
実際には全ての精神干渉が素通りしている。また、常に無想の状態である為気配が存在しない。目視されても相手が認識判定に成功するまで知覚されない。
バーサーカーは己が剣理である『夢想』を極めるが為に、一目の付かない秘境で腕を磨き続け、遂に究極の剣理の境地へと到達。その結果、昆虫レベルの精神機能しか持たなくなった。
【宝具】
『睡中抓痒処(睡中かゆきをなづ)』
ランク:EX 種別:- レンジ:- 最大捕捉:-
生前バーサーカーが、若き日の師匠である鐘巻自斎の下で師事していた時に悟った境地と、その理念が宝具となったもの。
宝具の名前の本来の意味は、『眠っている人は例え赤ん坊でも身体の何処かに痒い所があれば少しも意識する事無く、しかも間違いなく痒い所に手を伸ばす』、
と言った程度の意味しかないが、バーサーカーは剣の道に、この人間が有する機能的な本能を応用出来るのではないかと考え――そして、実際にこの境地に達した。
バーサーカーは長年に渡る剣術の修行の末に、この境地を常時発動させる事に成功。これによりバーサーカーの放つ攻撃及び移動行為は全て、
最小限度の動きで最大効率の結果をもたらす最良の選択のみを常に選び続け、相手からの攻撃に対しては全て、
相手が攻撃したのを確認した瞬間に此方側からも剣を打ち込む、その一回の動きで、『相手の攻撃から自分を外して己の身を守る事と、相手を一太刀で斬り捨てる』、
と言う働きを両立化させる。無論、恐るべき剣士であるバーサーカーは常に最良の動きのみを選択し続けるだけでなく、相手が此方の動きに対応して来たのであれば、わざと最良の動きから外した動き、つまり『フェイント』を交えても来る。
余談であるが、相手からの攻撃に対して此方が行ったたった一度の動きで、相手の太刀を外して己を守り、その時の一拍子の勢いのみでそのまま相手を斬る。
つまり、ただ一つの太刀捌きで攻撃と防御を行うと言うこの技を、一刀流では『切落し』と言う。これこそがこの流派における最も基本的かつ根源的な原理である。
バーサーカー、即ち開祖一刀斎はもしも、この切落しの意味を完全に理解し、またこの技を会得したと言うのならば、即日入門した者にでも免許皆伝を授けようと口にした、と言う。
『払捨刀』
種別:対人魔剣 レンジ:1〜10 最大捕捉:1〜
バーサーカーが生前編み出したとされる対人魔剣。
この魔剣の本質は、一対一の時は『最も相手を効率よく殺害出来る動き』を、一対多の時は『最も相手を効率よく殺戮出来る動き』を、無意識化の内に行うと言うもの。
この魔剣を行っている際はバーサーカーは、その最高効率の動きを自分に当て嵌めている状態の為、フェイントなどの意識に対する技術的アプローチに惑わされず、
更に魔剣が発動している最中は自身の精神は無念無想の境地に達している為、精神干渉すらも通用しない。
つまり、この時バーサーカーは己の精神や意志すら超越した状態のまま、相手を殺戮し尽くすマシンになっているに等しい状態である。
それが必要とされた状況で勝手に発動する無意識の魔剣であり、つまり――現在のバーサーカーはこの魔剣を常時発動させている事を意味し、マスターですらこの魔剣の餌食になる可能性がある事になる。
『夢想剣』
種別:対人魔剣 レンジ:2 最大捕捉:1〜4
バーサーカーの編み出した無念無想の極致となる魔剣。一刀流における最高奥義。
通常の剣では、相手の無意識に付け込んで切り込むと言う動作は珍しくもないが、この魔剣はそれ以上、『斬った側である自分ですらも無意識になる』。
意識の間隙を縫う魔剣であり、抜刀、斬撃、納刀、と言う剣術の基本となる全工程が自己と対手の無意識下で行われる。
これにより、斬られた者は愚か斬った当人であるバーサーカー・伊藤一刀斎ですらが攻撃の瞬間や、攻撃した事すら知覚出来ない。であるが故に、『夢想』の剣。
相手が無意識の状態になっているだけでなく、バーサーカー自身も無意識で攻撃する為、意識的な防御が不可能。事実上、この魔剣は防げない。
この魔剣もまた、必要とされた状況で勝手に発動する、無意識の魔剣である。
【Weapon】
瓶割:
剣術の武者修行の為伊豆に逗留していた時期、バーサーカーの剣術に感動した三島神社の神主がバーサーカーに授けたとされる名刀。
授けられた当初からこのような名前であったのかは不明だが、少なくともバーサーカーは、この刀を用いて、水で満たされた巨大な甕をただの一太刀で両断していた。
【解説】
現代における剣道のルーツともなった流派、一刀流の開祖。それが彼、伊藤一刀斎景久であるが、彼には謎が多い。生まれた場所も死んだ場所も不明なのである。
塚原卜伝や上泉信綱などと言った、この時代に名を刻んだ大剣聖の多くが、生年や没年は兎も角として生まれた場所についてハッキリしているのは、
彼らが皆弱小或いは小規模とは言え、豪族、城主の出であるからであり、故に記録が残っているからに他ならない。
それがないと言う事はつまり一刀斎は、士族以外の出身、何処の誰とも知らない馬の骨であると言う事を意味する。
下剋上が当たり前であった中世日本とは言え、武士以外の出身のものが剣豪として名を馳せる等と言う事は本来不可能な事であり、それを鑑みれば、
一刀斎がどれだけ剣の道に対して非凡な才能を発揮していたのかが、解ると言う物であろう。
若い頃(二十歳前半)は富田の三剣とも呼ばれる程の富田流の剣豪であり、あの佐々木小次郎を弟子にしていたとされる鐘巻自斎に師事していたが、
入門してから僅か数年で、師である自斎より強くなったばかりか、三度に渡る本気の試合で彼を打ち倒しており、その実力に大いに感服した自斎は、
流派の奥義と心得を全て一刀斎に授けた後、彼に諸国を旅する様に勧め、一刀斎もこれに従い旅に出る事にした。
上記二つの魔剣を極めたのも自斎の道場を出てからであり、『払捨刀』は彼が愛妾と同衾していた所、愛妾が敵に通じて酒を飲ませ、更に大小刀を取り上げ、
蚊帳を切り落として動きを封じて、刺客に襲わせた時のエピソードに由来し、危険を察知して起きあがった一刀斎は無念無想の内に無駄なく動き、
最小限の動作で敵をかわし、太刀を奪って敵を討ち果たしたという。また、天下における比類なき大剣士として名を馳せていた時期でもなお、
剣術の修行に明け暮れていた一刀斎が、神意を得る為に鎌倉鶴ヶ丘八幡宮に七日七晩の参籠をした事があった。
しかし、最後まで遂に神意を得られず、虚しく帰ろうとした時だった、突如背後に怪しい気配を感じ、感じたと云う自覚もなく其の瞬間には無念無想の内に刀を振るい、
背後の怪しい気配を切り捨てた。この時に開眼した魔剣こそが、『夢想剣』である。
様々な剣豪を生涯で斬り捨て、剣豪以上の数の悪賊を誅戮し、更には一刀流と言う偉大な流派を生み出した一刀斎であるが、
弟子の小野次郎右衛門忠明に一刀流の正当印可を与えた後、姿を眩ましたとされる。全てのしがらみを捨て、己が求めた剣理を完成させる為である。
武道だけでなくスポーツ全般にも言える事だが、彼らは皆その種目における動きを実際の試合中に『意識して行っている』のではなく、
地道で苦しい訓練や鍛錬、トレーニングを経て、その種目に於いて最速かつ最小限・最大効率の動きを咄嗟、つまり無意識の内に行えるようにしているのである。
つまりは無念無想を理想の境地としている。日々の稽古や反復訓練とは身体に行為を学習させる過程と言っても良く、彼らは身体に動きを染みつかせる事で、
意識せずに技巧を発揮させようとするのである。一刀斎が姿を眩ましたのも、結局はこの基本的な事を極める事に専念したいからだった。
一刀斎は行為を行うのに意識が不要になる瞬間、即ち無我の境地を極めたい、もっと言えば、無意識の内に発動する払捨刀と夢想剣を己の物にしたかったのである。
彼は常々、無意識の内に発動出来る魔剣が、果たして自分の奥義と言えるのかと考えていた。
悩んだ末に辿り着いた結論が、『行住坐臥、戦場にいる時も平時の生活の時も、自分が無念無想の状態になっていれば、あの魔剣は自分の物になる』、と言う物であった。
つまりは、常時無意識の状態でいれば良いのだと考えたのである。無意識を常態化させる為に、弟子達から離れ、築いた地位を捨てたのだった。
当時ですら絶技極まりなかった自身の剣術を修行により更に深めていった彼は、己の全ての行動を完璧にパターン・テンプレートに落とし込む事に成功し、
機械的な意識のみで構成される無心的状態、つまり無念無想を常態化するに至ったのだった。表面的にはコミュニケーションが取れるが、実際には心の中には何の意識もない。
かくして、昆虫レベルの精神性・感受性しか持たず、殺意を向けられれば話を聞かずに相手を殺戮し尽くす、魔人・伊藤一刀斎が誕生したのであった。
性格は求道者めいた性格で、自己には非常に厳しく、そして義に篤い正義感……と言うキャラクターを、最早表面上演じているだけに過ぎない。
実際には常時無意識無念無想の男の為、その本質は虚無極まりない。ただ、そんなキャラクターを演じた方が、社会生活を効率良く進められるから、演じているだけである。
【特徴】
百九十cmもある偉丈夫。伸ばし放題の蓬髪を後ろ髪に纏めた、髭の生やした苦み走った中年男。
洗い晒しの黒い着流しの上に唐草文様の陣羽織を羽織った、素浪人の如き男だが、それが全く不潔な印象を与えない。
【聖杯にかける願い】
己の剣が何処まで通用するのか、試すのみ
【マスター】
入江文学@喧嘩商売
【聖杯にかける願い】
冬木市から無傷で脱出
【weapon】
刀:
文学の学ぶ古武術富田流は、居合にも造詣が深い
【能力・技能】
富田流の継承者でり、身体能力や武術の腕前は非常に高い。
流派の主となる奥義は、心臓に重い一撃を叩き込んで相手を一瞬で気絶させる『金剛』。自己暗示をかけて火事場の馬鹿力を引き出す『無極』。
投げ落とす際に股間に通した手で睾丸を握り潰し、その痛みで相手の受け身を封じる『高山』。以上三つである。
またこれ以外にも、進道塾の高弟達にしか伝授されていない秘奥義である『煉獄』も、不完全ながら使う事が出来る。
武術家ではあるが、本質的には恐ろしくダーティな男で、刀を使う事からも解る通り、凶器だって普通に使うし、闇討ちだって当たり前のようにする。
但し、弟子になる十兵衛よりも、喧嘩に対するスタンスは節操なしと言う訳ではなく、素の実力が高い為に、自分の実力を信頼してるフシがある。
【人物背景】
富田流の六代目継承者で、作中主人公の佐藤十兵衛の師匠。38歳。祖父の遺した不動産の収入によって生活しており、道場付きの豪邸に一人で暮らし。
定職には就いておらず、職歴もない。十兵衛が中学生の頃から付き合いがあり、高野に馬鹿にされ強くなりたいと言う彼の気持ちに心を打たれて、彼を一時弟子にしていた。
古武道の達人であるだけでなく近代格闘技にも精通し、柔道の稽古で、インターハイ無差別級王者のカワタクを圧倒する程の実力を誇る。
実戦・喧嘩の場数も数多く踏んでおり、相手の急所へ連続攻撃を叩き込む、小太刀で手首を切り飛ばす、意識のない相手を窓から階下に投げ捨てるなど、
戦いにおいては容赦が全くない。但し、指導者としては『教え方がヘタ』と十兵衛に評されている。
明るく義理堅い性格の一方、短気で感情の起伏が激しく、十兵衛にからかわれて拗ねたりおだてられてすぐ機嫌を直したりする。
武道一筋の人生を送ってきたため未だ童貞で、そのことを指摘されると本気で落ち込む。所持している自動車免許はAT限定。
幼い頃に両親が離婚、尊敬する父・無一を一人にしないため無一と暮らすことを選び、以来親子で稽古三昧の日々を送ってきた。
高校時代に柔道の練習試合で上述のカワタクを倒し、これが富田流を継承する大きな転機となった。
無一が田島の手で長い昏睡状態に追いやられこの世を去った後は、田島を倒し無一の仇を打つことを目標に修業に明け暮れている。
十兵衛が工藤に負ける前の時間軸から参戦。
投下を終了します
投下します
「――――此度の戦争の顛末に、既に脚本が用意されているとしよう。」
我が物顔で革張りのソファーを占領しながら、ふとそんなことを呟く。
趣味が悪いことに真紅の素地に、思いのほかアサシンの装いの意匠は映えていた。
老将はくすんだ鎧の鈍色を、けれども見事なまでに自らのものにしている。派手ではないが、滋味があるというのだろうか。
鉄も、革の拵えも、小さな傷や擦り切れがいくつも重なって、鈍い光を返す。
「どういう意味ですか?」
「何、難しいことではない。つまり、誰がどの順で敗地にまみれ往くのか、という並びよ。」
率直に尋ね返すと、また底意地の悪い例えが返ってくる。
そこはせめて、『誰が勝利の栄光を手にするか』というのが粋じゃないだろうか。
峻厳な、歴戦の名槍を思わせる眼光を宿す瞳は、愉快そうに歪んでいる。
腹の底に響く声。俗な言い方をするなら、バリトン歌手のような重厚な声質。
アサシンのその在り方は、効率よく配下を束ね、彼らを支配し、導くためのものに特化している。
多くの人々の上に立つために生まれてきた――――そう言われたとしても、違和感はない。
「運命、ってやつですか。」
「応。……そう馬鹿にしたものではないぞ、小僧。」
仮住まいの夜は、殊更に冷える。
乾燥した空気に、アサシンの声もよく反響した。まるで歌劇を特等席で見ているかのような。
「貴様がどれほど知略を絞り、機転を利かせ、精根の尽き果てるまで死力を以て戦い抜いたとして―――
勝てぬ者には、勝てぬ。悪く思うな、相性というものがあるでな。貴様も知っておろうが、余の場合は特に顕著だ。」
彼の能力と性質については、既に説明を受けている。
尖った能力ではあるが、突き刺されば、強い。暗殺者、とは正しく的を射ている。
まあ一方で、それが刺さらぬ相手には当然苦戦を強いられるのだが。真っ当な英雄などを相手にすれば、撤退も余儀なくされるだろう。
特に、聖杯戦争の何たるかについては調査済みだ。
本来ならば英霊―――人類史に刻まれる偉業、あるいは死後なお信仰を集め、座に召し抱えられた存在を召喚し、使役するというシステム。
彼らが必ずしも、つまるところ『人間』であるという保証はない。むしろ、例外の方が多いといっても過言ではないだろう。
「……引いた後から、籤の中身を変えることは出来ない。」
「然り。」
一度結末が確定してしまっては、そこに至るまでのどんな努力も意味を持たない。
将としては後ろ向きともとれる言葉は、あるいは彼が、人が人を当たり前に殺す時代に生きた人間だからだろうか。
赤ワインをグラスに注ぐ。
自分のためではない。というか、未成年だ。それなりの年代物を入手するのに、ひと手間もふた手間もかかった。
当然ながら、この身は正規の魔術師ではない。ともすれば、気休めにしかならないだろうが、と買いそろえたもののうちの一つ。
サーヴァントとの関係は円滑に保っておくに限る。
差し出したグラスを、武骨な手が掴んだ。
分厚い。幾度も剣を振るったのだろう、歪に皮が盛り上がっている。
その生涯を武と、そして政に捧げて生きた人。
それは、その役割に準じるというのは、どれほど熾烈で、過酷で、――――けれども、うらやましくもある。
だというのに、グラスを傾け、口の中で転がすしぐさの、なんと似合うことだろう。
尋ねれば、作法は聖杯によって学んだそうだ。なんでもありか。
「……巡りあわせというものもある。
幸運にも、余の宝具に都合のいい相手ばかりと争うとして、すべてがそう上手く転ぶこともあるまい。
もしもそれが貴様の意志、選択など介さない、遠大な存在によって定められていたとするなら――――」
カチン、とグラスが音を立てて窓に当たる。
芝居がかったしぐさだ。まったく、何に影響されてしまったのだろう。
「ともすれば、貴様、どうする。運命の流れに抗わんと、足掻き泳いでみせるか。」
けれども、皺の寄った目蓋の内。覗く瞳は、真っすぐにこちらを捉えていた。
静かな威圧がある。
見定められているのだ、と直感する。
コートの下。肉の底。心臓を直接睨まれている。
肺が硬くなる。胃が縮む。怯えている、といえばまだかわいいものだろう。
「どうして……そんなことを、尋ねるのです?」
「貴様の素性、目的、才幹。いずれも、余の主として足るものであった。」
シャリ、と、静かに、けれども迅く、短剣が鞘を擦る。
月光の差し込む窓もなく、こちらの用意した電池式の安っぽい光源に照らされて、けれどもその刀身は、鋭利な光をコンクリートの壁に反射した。
・ ・ ・ ・
「なれば今こそ、この『短剣』を捧げるに足るか、見定めねばならぬ素養がある。
心して答えよ、小僧。我が名はマクベス、此度は暗殺者のクラスによって現界するがゆえに。」
使い古された問いだ。
つまるところ、宿命論。運命が既に決まっているのなら、それに抗う価値はあるのかという命題。
きっと誰もが一度は、例えば十四、五ほどの歳に、抱いた経験があるのではないだろうか。
けれどもアサシン――――『マクベス王』が問うたならば、それはもう一つの意味を持つ。
マクベタッド・マク・フィンレック。スコットランドの赤き王。
多くの人は、彼の名をこう捉えるはずだ――――暗殺によって王位を簒奪し、殺した政敵の幻影に怯え、敷いた暴政の果てに討たれた悪しき王と。
史実は、そうではない。
当時は下剋上がしばしばみられる時代背景であったし、彼の在位期間の長さは、そのまま彼が優れた為政者であったことを示している。
その本来の信仰は、けれども英文学の最優を冠する作家の、中でも代表作によって、歪め知られてしまった。
老将は、答えに窮する自分を見て、わずかに口を歪める。
さぞや愉快なことだろう。本当に、底意地が悪い。
「…………人は、定命です。」
十二分に沈黙を貫いてから、答えを慎重に選ぶ。
応えはない。構わず、続ける。
「定められたものにしか意味がないのなら、人は死ぬために生きていることになる。」
彼は、『マクベス王』こそは、物語の中で、定められた予言のために戦った張本人だ。
いずれ、王になる。
まるで選定の剣にも似た、人を、それも多くの人を狂わせる呪いによって。
彼自身は、その物語をどう捉えたのだろう。
予言の通りに地位を得、予言に怯えて狂い、そして予言によって倒される。
すべてが予言によって定められていたのなら、その過程、彼の意志に、そしてその生涯に、果たして、役割以上の意味はなかったのか?
それを、よりにもよって本人が問うている。
自分の生涯と、それを元に作られた戯曲をネタにした、最大級のブラックジョークだ。
厳粛そうな見た目に反して、悪ふざけがお好きらしい。
結構なことだとも。それで肝を冷やすのがこちらでさえなければ。
だからこそ、臆さずに切り込んだ。
「ならば何故、『マクベス王』は敵わないと知りながら、死の運命に挑んだのでしょうか?
大首領王マルカム・カンモー。『女の股から生まれなかったもの』に。
鎧を捨て、剣を置き、楽に死ぬことだって出来たはずです。けれども、あなたは挑んだのでしょう。」
「知れたことを。武人として死ぬためよ!」
侮辱とも取れる揚げ足取りに、けれども老将は間髪を入れず吠える。
・ ・
「おれは断じて、自らの剣で自らを絶つなどという馬鹿な真似はせぬ。断じて!
忌々しい二枚舌の鬼ばばァが、得意げに人の生き死にを決めやがったとしてもだ!
このおれは、一国地の王たる男は、嘆きに嘆いてみじめったらしく運命を呪って死ぬような、めそめそした男であってはならぬ!」
「そうですね。僕も、そう思います。」
つまり、それが何よりの答えとなる。
知れず、安堵の息を漏らす。彼が乗りやすい人物で助かった。
彼は、自ら答えを導き出したということだ。
いずれ死ぬ定めにあるからといって、今死んでいいことにはならない。
運命が決まっていたとしても、『これが運命だ』と諦観する自分にはなりたくない。
それが、彼の最初の質問への、彼の答えだ。上手く躱せた……だろうか。
振り上げた大音声に、冷や水。
こちらの返答に、ぱち、と見開かれた目は、意外にもきれいな人好きのする輝きを持っている。
老将の怒りの演説は、殺風景な部屋に残響を残して、みるみると萎んでいった。
「…………生意気なやつめ!」
唾を吐き捨てそうな、しわを寄せた表情で言い放った言葉は、一方でどこか満足の色も帯びている。
けっして晴れやかではないが、人間味のある渋面。
ただアサシンには申し訳ないが、謎解きや文章の解釈に関しては、こちらに一日の長がある。
不承不承といった体で、短剣が鞘に納まる。どうも、そのお眼鏡に適ったようだ。
王として、そして将としての彼は――――ひどく、おそろしい。
眼前の敵に、あるいは時として味方にすらも、躊躇なくその刃を向ける。
それは、現代でどれほど時代錯誤の狂気を演じようとも決して追いつけない、時代背景によって掘られた深く遠い溝を感じさせるのだ。
彼の生き様が、まるで洗い拭っても流れ落ちぬ血の痕のように、その姿に染み着いている。
けれども、一人の人として触れ合う時。
なぜか、ふといじらしく感じてしまう瞬間がある。
「そちらが先に、意地悪をするからでしょう。」
「もう少しこう、可愛げというものをだな――――」
「売り切れです。」
ぴしゃり、と切って捨てれば、次の瞬間、そこにすでに彼の姿はない。
青白い魔力の残滓が、煙のように漂っている。霊体化、というらしい。
気配は当然感じる。魔力のつながりも。
無言でそうすることが、せめてもの仕返しなのだろう。
残念ながら、そういう愛想を振りまく相手は、一人と決めているのだ。
けれどもどうして、いつの時代でも男の人というのは、こう意地を張ってしまうのだろう。
知り合いの刑事の顔が、ふと脳裏を過る。
「…………ふふ」
気を緩めたせいだろうか。
ふと漏れた自分の笑い声が、年頃の少女のごとく軽やかであった。
【クラス】アサシン
【真名】マクベタッド・マク・フィンレック
【出展】史実(11世紀)、および戯曲『マクベス』
【マスター】白鐘直人
【性別】男性
【身長・体重】181㎝、78㎏
【ステータス】筋力C+ 耐久C++ 敏捷C 魔力B+ 幸運A- 宝具B
【クラス別スキル】
気配遮断:D
サーヴァントとしての気配を絶つ。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
政敵の暗殺に長けており、敵意を悟らせずに不意や死角を突くのが上手い。
【固有スキル】
不眠の加護:A-
名状しがたい睡眠への恐怖と抵抗力。Aランクともなれば呪いの域。
睡眠・催眠・意識の解体に類する精神干渉を、高い確率で無効化する。
「手を洗って、夜着をお召なさい。そんな蒼ざめた顔をなさってはいけません――――
もう一度言いますが、バンクォーはもう土の下、墓から出てこられるはずはないでしょう。」
カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
一国の王としては破格の才。統治能力に優れ、また攻め手において真価を発揮する破軍の将。
「万歳、マクベス、グラームズの領主! 万歳、マクベス、コーダーの領主! 万歳、マクベス、将来の国王!」
無辜の怪物:D
世界的な知名度を誇る戯曲によって捻じ曲げられた、自己の在り方。
『正しく政治的な意味での暗殺と、暴政を繰り返した狂王』としての信仰。
能力・人格がある程度の提供を受ける。
また同盟を持ちかける際に、精神抵抗に失敗した相手は、『このサーヴァントは必ずこちらを裏切る』という妄念にとらわれる。
本質である優れた為政者としての技能・思考様式は損なわれない。
「血塗れの王笏を手にする不正な暴君のもとに、いつまた晴れやかな日を迎えることが出来ようか、
正当な王位の継承者はみずから罪を数え上げてその権利を放棄し、尊い血筋を冒とくしておられる。」
【宝具】
『簒奪王(マクベス)』
ランクB 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
「ええい、呪わしい幻め。姿は見せても手には触らせぬというのか?
それともきさまは心が描き出す短剣、熱に浮かされた頭が作り出す幻覚に過ぎぬというのか?」
英文学でも最優とされる作家の戯曲によって付与(エンチャント)された、本来の史実とは異なる信仰。
積み重ねられた事象や物質の概念を抽出し、能力として身にまとう――――すなわち『概念礼装(クラフト・エッセンス)』の一種。
この宝具は、召喚されたクラスによってその効果を変ずる。
アサシンとして召喚された場合、『[権力者]への特効』を有する短剣を武装として獲得する。
血塗れの短剣。手放せば僅かに浮遊しており、なぜか拭っても洗っても、根元から滴り続ける。
この血は全ての王・権力者・貴族またはそれに類するものの血を引く対象にとって、毒として作用する。
毒性はその支配や統治の範囲、振るう権力の強大さに伴って変化し、一国の主ともなれば一滴にその命に届くほど。
致傷によってのみならず、経口や皮膚への長時間の接触によっても同等の効果を発揮する。
一方で、縁遠いもの、没落したもの、支持を受けなかったものなどに対しては、せいぜい少し体がしびれる程度となる。
また神性などの上位存在、あるいは人間とは異なる体の構造を持つサーヴァント(異形、自己改造など)や、
対毒もしくはそれに相当するスキルを有するサーヴァントには、ほとんど効果はない。せいぜい気分が悪くなる程度だろう。
『知られざる赤き君主(リ・ダーク)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
「きさまも女から生まれたな、いかなる剣も槍もせせら笑って叩き落してやる。」
常時発動型の無形宝具。
生前多くの政敵や反対勢力を屠ったという史実が、創作によって誇大化したことにより昇華した、逸話の具現化。
上述の宝具同様、『概念礼装(クラフト・エッセンス)』の一種。
『運命を司る三女神』を彷彿とさせる劇中の描写から、『女の股より生まれたものには倒されない』という加護を得た。
本来であれば、あらゆる人類の系譜にあるものからの攻撃によるダメージを無効化する――――
というものであるが、アサシンとして現界時は史実本来の霊格が強い影響を及ぼすため、聖杯経由でエラッタを受けている。
(狂化などで理性を奪うか、あるいは劇中の人物としての性格を色濃く反映した状態で召喚することで、十全の効果を発揮する。)
『神性』『異形』『魔性』『自己改造』などのスキルを有さない、全くの人として召喚されたサーヴァントに対して効果を発揮する。
性能としてはダメージ軽減、また同ランクの『戦闘続行』『仕切り直し』スキルとして効果を発揮する。
【weapon】
『無名・鎧』……くたびれてはいるものの、よく手入れが行き届いている。
『無名・剣』……同上。
【人物背景】
実在のスコットランド王。赤王(Ri Deircc)の通称で知られている。
多くの政敵・敵対勢力を抹殺したのち、実に十七年もの期間に及ぶ統治を敷いた。
下剋上がしばしばみられる時代背景でもあり、在位期間の長さも鑑みれば、為政者としては優れた手腕の持ち主だったことが伺える。
にもかかわらず、彼の名が狂王の代名詞として知られているのは、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『マクベス』によるところが大きい。
将として勇猛、しかし君主として臆病。魔女の予言や妻の野心に翻弄され、王殺しという大罪を犯す。
その後、亡霊の幻影や重圧に耐えきれずに錯乱して、暴政を働き、復讐によって討たれ、その首を晒すこととなる。
「マクベスは眠りを殺した。もうマクベスに眠りはない。」
上の有名な予言で知られる通り、簒奪によって王位を得たことで簒奪に怯えるマクベスは、自身の悪行によって自らを苦しめる、自業自得の悪人として描かれている。
さらにこの戯曲は四大悲劇の位置として高く評価され、本来の彼の信仰を脅かすまでに至った。
狂戦士としての適性も持ち、この場合、戯曲の中の登場人物としての性格を色濃く反映してしまう。
しかし暗殺者のクラスで現界する限りは、史実本来のマクベタッド・マク・フィンレックとしての霊格に影響はない。
にもかかわらず劇中の人物を思わせる芝居がかった言動をたびたび繰り返すのは、やはり宝具による影響が霊格にまで及んでいる…………のではなく、単なる当てつけ。
文物としての価値を認めつつも、自身の信仰を歪めた元凶でもあるため、素直に受け入れられず葛藤している。
王将として、あるいは英霊として振る舞っていなければ、ちょっと不器用で頑固なオヤジ。
【特徴】
ごつい。ひげ。鎧。
【サーヴァントとしての願い】
創作の影響を受けない、正しき信仰を取り戻す。
(あくまで自身の信仰に関する範疇であり、戯曲の文学的価値をなかったことにしてまで、というほどではない。)
【マスター】
白鐘直斗@PERSONA4
【マスターとしての願い】
聖杯戦争の実態の調査、民間人の保護と犠牲者の身元確認、および事態の収拾
【weapon】
なし。
【能力・技能】
『ペルソナ使い』
マヨナカテレビの中でペルソナと呼ばれる『もう一人の自分』を作り出し、戦わせることが出来る。
マヨナカテレビと呼ばれる現象および都市伝説は、当然ながら冬木には存在しない。
『拳銃』
拳銃の扱いに長けている。当然ながら所持はしていない。
『推理』
優れた思考能力。
個人の感情や精神の状態にとらわれず、状況証拠から結論を導き出す。
【人物背景】
警察組織に深く関わりのある探偵一族の五代目。男装の麗人。
メディアでも多少知られており、「探偵王子」の愛称で呼ばれている。
冬木町近辺で発生するという行方不明事件、惨殺現場の目撃情報を受けて参戦。
聖杯戦争の存在に気付くも、荒唐無稽な話では捜査本部を説得できないと、独断で参戦、調査および巻き込まれた一般人の保護を決心。
投下を終了します
追記:なお当方、代理投稿ですので、少々反応が遅いかもしれません
投下します
――――斧が、振り下ろされる。
緑色の大斧の一撃が向かう先は、騎士の首。
髪をかき上げ首を差し出すのは、理想の騎士と名高き円卓の一員、太陽の騎士ガウェイン卿。
ガウェイン卿は抵抗のそぶりも見せず、斧が振り下ろされる時を待つ。
陽は沈み、聖者の数字が輝くことは無く。
大斧の一撃は、この誉れ高き騎士の首を刎ね飛ばすことだろう。
緑色の大斧を振り下ろすのは、緑色の騎士。
甲冑、衣服、斧に始まり、瞳、頭髪、皮膚の色にいたるまで、全身を緑で染め上げた異相の騎士。
およそ人ではないのだろう。
斧を振り下ろし太陽の騎士の首を刎ねんとする瞳は、昆虫を思わせる無機質さを携えていた。
これはゲームである。
挑戦者の首を刎ね、仕損じれば相応する挑戦を相手に挑ませる死亡遊戯。
ガウェインは一年前、首切り遊戯を持ちかけてきたこの緑の騎士の首を刎ねた。
だが、騎士は死ななかった。
緑の騎士は自らの首を抱え、一年の後にガウェインの首を刎ね落とすと宣言して悠々と帰って行った。
一年が経ち、今に至る。
ガウェインに恐れは無かった。
なぜなら、彼には秘策があったからだ。
そして斧が振り下ろされ――――首を刎ねる直前でピタリと止まった。
「……? どうしました、緑の騎士よ。私の首を刎ねるのでは無かったのですか?」
緑の騎士は答えない。
静かに、再び斧を振り上げる。
そしてもう一度斧を振り下ろし――――今度も、斧は直前でピタリと止まる。
「……なにがしたいのです。斧を自在に操るその技量は感嘆に値しますが、私を侮辱しているのですか?」
不機嫌を隠そうともせず、ガウェインが再度問う。
それでもやはり、緑の騎士は答えない。
再三斧を振り上げる。
ガウェインはギリと歯を噛み締める。が、斧を振り上げられれば首を差し出す他ない。
ごねて挑戦をうやむやにしようとする臆病者……そのように後ろ指を指されるのは騎士としての誇りが許さないためだ。
心臓の鼓動が五度。それだけの時間の沈黙。
そして、三度目。
斧が振り下ろされ――――今度こそ、ガウェインの首を捉える。
鮮血。
「ッ……!」
だが、ガウェインの首は繋がったままだった。
斧の一撃は首に切れ込みを入れるも、首は繋がり命を永らえた。
これはガウェインがある貴婦人より借り受けた腰帯の魔力……なのだろう。
危機を跳ね返す魔力を持つという話だったが、どうやら真実だったらしい。
その割には、多少とはいえ負傷をしてしまったが……
「……顔を上げてくれ、太陽の騎士よ」
緑の騎士が静かに口を開いた。
言われるがまま、ガウェインは顔を上げて立ち上がる。
首からは血が滴っているが、騎士の誇りはそれよりも優先するべき事柄である。
「挑戦は私の勝ちですね、緑の騎士」
ガウェインが余裕の笑みを浮かべる。
だが、緑の騎士は悲し気に首を振った。
「いいや……残念だが、試練は今一歩のところで果たされなかった。キミの首の負傷がその証拠だ」
「なんですって?」
思わず尋ね返すガウェインに、緑の騎士は深くため息をつく。
それは侮辱と捉えることもできたが、そのため息に籠る深い悲しみを感じたガウェインは何も言うことが出来なかった。
すると騎士は右手で顔を覆い、仮面を外すようにその手を横にあけた。
その下から現れたのは、緑では無く人の肌色をした男の顔。
ガウェインはその顔をよく知っていた。
「見てわかる通り私は怪物だ、ガウェイン卿」
「貴方は……!」
その男の名はベルシラック。
ここしばらくの間、ガウェインが逗留していた城の城主だ。
「私はキミと狩りの腕を競った。互いに仕留めた最大の獲物を交換しよう、と。
キミはこの挑戦を受け、我が妻から受けた接吻を私に返した。
同時にキミは我が妻からの誘惑を礼儀正しく固辞した。
素晴らしいことだ。キミこそ理想の騎士の名に相応しい。ただ一点を除いては」
そう……ガウェインはこの男の妻から誘惑を受けた。
美しい貴婦人からの愛を受け、また愛を捧げることは名誉なことであったが、逗留の身で人妻に手を出すのは同義にもとると誘惑を退けた。
されど、やはり貴婦人との交歓もまた騎士の名誉。
ガウェインは貴婦人からの接吻を受け、これを最大の獲物として城主ベルシラックに返したのだ。
この貴婦人がガウェインに与えた腰帯こそ、持ち主を危機から守ると言う腰帯である。
「……すべては仕組まれたことだった、というわけですね。
しかし、その一点とは?」
尋ねるガウェインに、ベルシラックは悲しみを携えたまま深く頷いた。
「キミは我が妻から腰帯を受け取ったことを黙り、この挑戦に臨んだ。
これは公正明大であるべき騎士道にもとる行いだ。
私の一度目と二度目の斧は、キミが私の挑戦を受け獲物の交換に応じたことと、妻からの誘惑を退けたために留めた。
しかし一点、その腰帯を隠したという罪のために、私は三度目の斧を振り下ろしたのだ」
事情を話され、ガウェインは自らをひどく恥じた。
円卓の一員として、偉大なる騎士王の配下として、誰よりも騎士道に忠実でなければならない我が身が、騎士道に背いたのだ。
しかしベルシラックは悲しみを抱えたままに笑い、ガウェインの肩を叩いた。
「気を落とすな、太陽の騎士よ。
今一歩のところで試練は果たされなかったが、キミは我が死の遊戯に名乗りを上げ、臆することなく首を差し出した。
凡百の騎士には決して真似のできない、尊い行いだ。
キミのその勇気に敬意を表し、改めて我が腰帯を受け取ってもらいたい。
私は魔女モルガンの呪いを受けこのような姿になってしまった怪物だが、この帯は必ずやキミの窮地に加護を与えるだろう」
「ベルシラック卿……」
「さぁ、友よ。
キミの勇気は私の呪いを解き、我が首を刎ねるには至らなかったが、確かに示されたのだ。
なにを気落ちすることがあろうか」
二人の騎士は固く抱擁を交わした。
しばらくの後、ガウェインは首の傷の治療を受けると、ベルシラックに別れを告げてキャメロットへと帰る。
それを見送るベルシラックは――――やはり、ひどく悲しい表情を浮かべていた。
◇ ◆ ◇
その少女は、頭を抱えていた。
それは文字通りにであり、慣用句としてのそれでもある。
少女――――町京子は、夜の路地裏でひとり自らの首を抱え、本来頭部があるべき場所でぼうぼうと幽体の炎を揺らめかせながら、思い悩んでいた。
町京子は、デュラハンである。
アイルランドの伝承にある妖精……とは、また違う。
突然変異的に誕生する亜人……イマドキの言い方をすれば、『亜人(デミ)ちゃん』の少女だ。
生まれつき首と胴体が分離しているだけの、ただの女子高生である。
亜人(デミ)は珍しい存在だが、世界に認知された、「ちょっと特殊な人間」に過ぎない。
デュラハンは亜人(デミ)の中でも珍しい存在らしく、現在世界に三人しかいないと言うが……それでも、町京子は普通の女の子だ。
伝承のように馬に乗ったりはしないし、人に死を告げたりもしない。
首が分離しているから生活で不便することもあるし、周りからはどうしても奇異の視線で見られるが、特異体質を持つ少女以上のものではない。
ごく普通に高校に通い、ごく普通に友達とおしゃべりをして……ごく普通に恋をする、ごく普通の女子高生。
……というのが、町の世界の話である。
今彼女がいる場所は、そうした常識が通じない世界だった。
冬木、聖杯戦争、令呪、聖杯……町の頭に流れ込んできたそれら神秘の情報も、十分に驚嘆に値する。
だがそれ以上に問題だったのは、この世界が町のいた世界とは異なる世界……亜人(デミ)がいない世界であるということだった。
亜人(デミ)が存在しない世界。
であれば、自らの首を抱える町の姿は、この世界の常識で言えば正体不明の怪物以外の何物でもないのだろう。
流れ込んできた情報の中に「ここが異世界である」というものがあったのは、幸運だった。
もしも知らずに外を出歩いていたら、阿鼻叫喚の状況になっていただろう。
最悪、怪物として殺されてしまっていたかもしれない……というのは、考え過ぎなのだろうか。
かつてあったという亜人(デミ)への迫害を考えれば、それは思い過ごしではあるまい。
幸運と言えば、この世界に召喚(?)されたのが夜であることも幸運だったし、人目につかない場所だったのも幸運だった。
それに……
「やぁ、戻ったぞマスター」
「あ……ライダーさん!」
声に振り向けば、そこには緑色の衣服を纏った緑髪緑目の男性。
彼は町が召喚した(らしい)、ライダーのサーヴァントだ。
召喚早々、簡単に自己紹介と現状確認を行うと、人前に出れない町に代わって買い物に行ってくれたのだ。
……彼の緑一色の衣服は少々古めかしく、色合いもあって目立っただろうが……首無しの女子高生よりはマシだろう。
「それで、ええと……」
「ああ、問題ない。安物だが、とりあえずこれでどうにかなるだろう」
そう言ってライダーが差し出したのは、中古品のバイク用フルフェイスヘルメット。それと紐だ。
「すみません……無理言って買いに行ってもらって……」
「いや、気にすることはない。キミのその外見なら、これぐらいは必要だろうからね」
町が急場しのぎにと考えたのは、単純な話だ。
フルフェイスのヘルメットを被り、紐で固定して急造の頭部とする。
……それでも十二分に目立つだろうが、首が無いよりはマシである。
揺らめく幽体の炎は触れられると神経を圧迫される感覚を味わうため、中が空洞なバイクのヘルメットが最適なのだ。
頭はカバンに入れて隙間から外を覗けば、物凄くやりづらいが外を歩くことも不可能ではないだろう。
「その……首を長くして待ってました」
「……ぷっ」
デュラハンジョークである。
幸いにして評価は悪くなかったようで、ライダーがクスリと笑う。
「それで、その、聖杯戦争……? のことなんですが……」
「ああ、失敬。そうだな。その話をしなければなるまい」
いそいそと町が居住まいを正し、ライダーはそれに応じて真面目な表情をした。
……その表情が本来緑一色に染められていることを、町は知っている。初めて会った時に見たのだ。
最初はビックリしたが……亜人(デミ)の一種だと思えば、それほどおかしくも思わなかった。
閑話休題、聖杯戦争である。
英霊を用いた最小規模の戦争……正直、ピンと来ない部分は多いが。
「私……やっぱり、帰りたいです。
友達や、家族や……先生のいる場所に」
町の中にあるのは、その想い。
亜人(デミ)の友人たち。亜人(デミ)でない友人たち。
自分を愛してくれた家族。
そして……大好きな、先生。
それぞれの顔が町の瞼に浮かぶ。彼らと永遠にお別れというのは、町にとって許容しがたいことだった。
「私、あまりお役に立てないかもしれませんが……ライダーさん。一緒に戦ってくれますか……?」
真剣に、ライダーの瞳を見て、町は問うた。
これでも一世一代の想いだ。
やけに大きく激しい心臓の音。
それが聴こえたのか否か、またライダーは優しく笑った。
「貴婦人の願いとあれば、無下にはできまい」
「そ、そんな、貴婦人だなんて……」
「いやまったく、私もまだ青いな」
「……それ、緑色系の冗談ですか?」
ライダーは肩を竦めた。
思わず、町の表情が綻ぶ。
続いてライダーは表情を引き締め、騎士が貴婦人にそうするように跪いた。
気づけばその顔は緑に染まっていた。全身が緑色だった。
「当然だが、私の願いもある。
となれば戦わないという選択肢はことここに至って存在するまい」
町の表情も引き締まる。
ライダーが自らの胸に手を置き、頭を垂れた。
「――――サーヴァントライダー。
我が斧、我が愛馬は常に貴女と共にある。
風よりも早く聖杯まで駆け抜けることをここに誓おう。
契約はここに成立した。
マスター、貴女に勝利を!」
ああ、彼は本物の騎士なのだと、町は理解する。
ならばそれに報いるべきだとも思うが、悲しいかな女子高生であるところの町には報い方がわからない。
どうしたものかとまごまごしていると、ライダーは静かに顔を上げてまた笑った。
「まぁ、戦争自体は私の好きにやらせて頂こう。
こう言っては何だが、マスターが戦の機微に聡いとも思えない。
キミは安心して、私が愛馬の背に乗りたまえ」
「う……」
ぐうの音も出ない。
だが、嫌味とは不思議と感じなかった。
笑うライダーの表情が、気安い冗談のそれだと感じさせるのだ。
もちろん、彼の言うことは純然たる事実でもあるのだけど。
その辺りまで計算して言っているのであれば、彼は中々に意地の悪い男だった。
だからせめて、町にできる仕返しと言えば。
「……ライダーさん、腹黒いって言われません?」
「! ハハハ、それは初めて言われたな!」
この冗談もお気に召したようで、ライダーはまた笑った。
「ええと、それじゃあ寝る場所を探さなきゃ……あ、ライダーさん、霊体化っていうのは……」
「ああ、言い忘れていたが、私は霊体化できないんだ」
「えっ」
「私はサーヴァントとして少し特殊でね。すまないが、実体化したまま付き従わせてもらおう」
「え、えぇー……」
「……お、頭を抱えたな?」
「言ってる場合ですかー!?」
【クラス】ライダー
【真名】緑の騎士
【出典】『ガウェイン卿と緑の騎士』
【マスター】町京子
【性別】男性
【身長・体重】183cm・84kg
【属性】混沌・中庸
【ステータス】筋力B 耐久EX 敏捷B 魔力B 幸運D 宝具A+
【クラス別スキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:-
ライダーの騎乗スキルは通常のものとは異なる。
後述するスキルと統合されているためにこの表記。
【保有スキル】
森の王:A+
森を支配する王としての権能。
森でのみ使用可能な軍略、動物にのみ適用可能な騎乗、森・獣属性を持つものにのみ効果があるカリスマの複合スキル。
獣への攻撃にボーナス修正がかかる効果も内包する。
魔女の呪い:EX
魔女モルガンより受けた呪いにより、全身緑の不死身の怪物と成り果てている。
ライダーが身に着けたものは全て緑に染まり、また霊核を破壊されても死亡しない。ライダーには“死”が存在しないのだ。
一見して無敵の能力だが、再生には少々時間がかかる点に注意。
変化:E
自らの肉体を変化させる能力。
このスキルにより、ライダーは皮膚の色などを通常の人のように偽ることができる。
神性:E-
堕ちたる神霊。
魔女の呪いにより、その神性は限りなく劣化してしまっている。
【宝具】
『首のない王(ノーネック・メイキング)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
ライダーが持つ不死性を象徴する緑の腰帯。
固有スキル『森の王』と並び、ライダーに残された神霊としての権能の一端。
この腰帯にはライダーの権能でもあり呪いでもある不死の加護が宿っており、他者に与えることで対象を危機から守護する。
腰帯は分割して与えることも可能。その際も加護が減じることはない。
……が、これは神霊の加護。与えるためには対象が相応しい“試練”を乗り越える必要がある。
『緑騎士と嵐の夜(グリーンマン・ワイルドハント)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜60 最大補足:1000人
駆けるライダーを先頭に、森の獣と樹木の精霊が入り混じって全てを踏み散らす蹂躙行進。
真名開放と同時に無数の獣と精霊が召喚され、共に蹂躙を行う。
これは死霊・精霊の群れであるため、抵抗するには耐久値以上に魔力や加護が重要となる。
また冬の森を駆ける森の神とその軍勢は不吉の象徴であり、レンジ内の敵は幸運ステータスが大幅にダウンする。
【weapon】
『緑の駿馬』
ライダーが騎乗する名馬。
呪いにより、全身が緑に染まっている。
『緑の大斧』
ライダーが武器として扱う首狩りの大斧。
呪いにより、全体が緑に染まっている。
【特徴】
鎧、衣服、武器、騎馬、頭髪、瞳、皮膚にいたるまで、その全てが緑で塗りつぶされた異形の騎士。
誠実さを重んじるが、どこか身勝手で人を食ったようなところも。
【解説】
『ガウェイン卿と緑の騎士』に登場する、その名の通り全身緑一色の騎士。
この騎士はある日キャメロットに現れ、「首切りゲームをしないか」とキャメロットの騎士にもちかける。
すなわち、斧で自分の首を斬りおとし、自分を殺すことができたらそちらの勝ち。
しかしもしも自分が無事ならば、それに相応する挑戦を受けてもらう、という死の遊戯である。
当然騎士たちは怖気づくも、太陽の騎士ガウェインがこれに挑戦。見事一撃で緑の騎士の首を刎ね落とすも……
……騎士は自らの首をひょいと持ち上げ、「一年の後、緑の礼拝堂にて待つ。その時貴様の首を刎ねよう」と言い残して去っていく。
その後ガウェイン卿は騎士の挑戦を受け、試練を乗り越え、緑の騎士……ベルシラックとの友情と、その加護を持つ腰帯を手にしたというのは本編冒頭通り。
一説によればこの伝承はより古い……クー・フーリンの伝説だったものが、ケルトの属性色濃いガウェインに受け継がれたものであるらしい。
……ところで『首と胴が分かれた、全身緑の男』と言えば、ケルトに伝わる森の精霊『グリーンマン』である。
『顔のない王』とも呼ばれるグリーンマンは森の死と再生……つまり冬と春という季節の循環を司る精霊であり、神霊。
時に仮面をつけた頭部だけで描かれる、姿の見えない森の王。後に森の番人ロビンフッドとも同一視された。
その起源は鹿角を生やした森の神ケルヌンノスに由来するとも言われている。
緑の騎士の正体は、このグリーンマンともケルヌンノスとも呼ばれる堕ちたる神霊である。
冬と春の循環、死と生命、獣と狩猟を権能とするワイルドハントの長。
元は神であったものが零落し、さらに魔女モルガンの呪いを受けて怪物と成り果ててしまったものが、この緑の騎士なのだ。
ベルシラックというのも人としての仮の名であり、故に真名を緑の騎士としている。
魔女がかけた不死の呪いと、元来所持していた死と再生(不死)の権能の相乗作用により、決して死ぬことのできない不死身の怪物となってしまったのである。
もしもガウェイン卿が最後まで試練を完遂することができれば、彼は不死の呪いより解き放たれ、神の姿に戻れたのかもしれない。
彼は現在も、深い森の中で自らを殺す者が現れる時を待っている。
そのため、彼は通常の英霊と違い実体として召喚される。彼は世界のどこかで生きているのだ。
今も。
ずっと。
いつまでも。
【サーヴァントとしての願い】
この身に死を。神としての復活を。
【マスター】
町京子@亜人ちゃんは語りたい
【能力・技能】
突然変異的に生まれる亜人の一種『デュラハン』であり、生まれつき頭部が体から切り離されている。
その状態で生まれ育ったため、首の持ち運びはもちろん、頭部が無い状態でも書き物などが行える。
慣れ親しんだ場所であれば胴体だけでの活動も可能であるが、逆を言えば知らない場所に胴体が取り残されてしまえば何もできないとも言える。
首と胴体が離れていられる距離、時間に制限はない模様。
その他、非常に学業優秀。学年一位を取れるだけの頭脳を持つ。
よく運動し、また常に頭を抱えていることから、筋肉もそこそこついているらしい。
いずれにせよ、女子高校生の範疇である。
【人物背景】
アイルランドに伝わる妖精をルーツに持つデュラハンの亜人(デミ)ちゃん。
『亜人(デミ)』というのは、亜人という呼称を古臭いとして現代の若者が使う呼称……らしい。
デュラハン特有の悩み……常に片手が塞がった状態での生活、特徴的な姿故の人付き合いの困難さなど……を抱えているが、それ以外はいたって普通の女子高生。
その特性上常に自分にしろ他人にしろ人に頭を抱えられてきたためか、人に頭を抱きしめてもらうことを好む。
現在、生物教師の高橋先生に恋をしている。
真面目で頑張りやさんな、恋する首なし女子高生。
【マスターとしての願い】
帰りたい。
投下を終了します
投下します。
雪が降っていた。冬なのだから当然だが、彼はほんの少し前まで、夏の羽生蛇村にいた。
あそこは人家よりも木や山の方が断然多いが、ここ冬木はその逆。
東京などの大都市ほどではないにせよ、村に比べればはるかに都会だ。
暗雲垂れ込める空からはしとしとと雪が降り続け、積もったそれは足元を絨毯のように覆っている。
――聖杯。
どんな願いでも叶えるという、かの聖遺物の名を騙るアーティファクト。
それと同一とは思えないが、ある程度の力を備えているのは、自分がここにいることから見て間違いあるまい。
聖杯を掴めば、村を襲う怪異を収拾する事が出来るかもしれない。
――しかし、その為には聖杯戦争に生き残る必要がある…。
参加者には過去の英雄や偉人が、使い魔として宛がわれるらしい。
その主たる為の令呪は既にある。
サーヴァントの姿は未だ見えないが…、ここで宮田はある事に気づく。
幻視は使えるのか否か。村を離れた今、使用できなくなっている可能性は十分ある。
強大とは言えないが、あの力がここまで生存する助けになったのは確かだ。
「……」
視界を覆い、意識を集中する。
一瞬、視覚ならぬ視界にノイズが走り、鮮明な景色が脳裏に広がる。
そこではコート姿の男が背を向けて立っていた――後ろだ。
視界の主は自分の真後ろに立っている。周囲の景色からそう判断するが、それは見ているだけで、特にアクションを起こさない。
幻視がこの場でも使用できることを確認した宮田は目を開き、懐のスパナに手を掛けながら、素早く身体を反転させる。
「問いましょう。貴方が私のマスターですか?」
そこにいたのは軍服に身を包んだ、眼鏡の男だった。
身長が宮田より一回りは高い。腕を組んだ姿は全体的にパリッとしており、攻撃的な雰囲気はないが、視線に冷たいものがある。
微笑みながら自分を値踏みする男に、宮田は同業くささを感じていた。目の前の男が三騎士という推測は、一目見た時に消した。
「ええ、クラスはキャスターですか」
「ふふ、正解です。失望しないでくれると、嬉しいのですが」
しませんよ、と宮田はおざなりに返事をする。
三騎士を招いた所で華のある戦いは出来そうもないし、引いたのが魔術や聖杯戦争への理解が早いであろうキャスターだったのは幸いと言える。
そこまで考えたところで、キャスターが組んだ腕を解き、左手を指し示す。
気持ち程度の石段が上に伸び、その先で寂れた神社が隠れるように建っていた。
無言のまま二人はしばらく歩き、小さな拝殿に着くと、キャスターは賽銭箱前の石段に腰を下ろした。
「マスター、差支えなければ今後の方針をお聞かせください」
「…私は聖杯が欲しい。本当に願望器だというなら、叶えて欲しい願いがある」
彼の村は今、怪異の真っ只中にある。状況は分からないが、幻視が使える事から見て、好転はしていないのだろう。
村を現世に帰還させ、集落内を徘徊する不死身の化け物達を消し去る。
一応"村の為"という名目が立つ。これまでやってきた事と何ら変わりはない。
「人死が出るとしても?」
「私だって命は惜しい」
殺人はこれが初めてでもない。惜しい命とも思わないが、黙って殺されるほど宮田はお人好しではない。
マスターの答えを聞いたキャスターは、胸を弾ませた。
キャスターには夢がある。
原爆投下を防ぎ、日本の犠牲を最小限度に留めるという夢が。
叶うなら帝国軍に勝利をもたらしたい。結局負けるとしても、もっと穏当な道があったはずだ。
街を二つ焼かれなくとも、戦争を止める事は出来る。
キャスターは己の願いの正しさを確信している。
ただし、彼は平和主義者ではない。もしそうなら、数千もの中国人、ロシア人、朝鮮人、モンゴル人を資材として使い捨てたりはしない。
キャスターは祖国を救う事と同じくらい、更なる栄光の受領を望んでいる。
彼が願うのは敗戦の回避、そして不朽の名声。
そのチャンスを掴むためには、躊躇いなく殺し合いに乗れるマスターが必要だった。
今回のマスターは中々の物だ。彼の昆虫めいた雰囲気は自身が創設した部隊「満洲第731部隊」のメンバーたちに似ている。
魔力源としては不満もあるが、上手くやっていけそうだ……勝ち残った後の事はともかく。
「結構!私にも遂げたい理想がある。ともに勝ち抜きましょう!」
「ええ、もちろん」
死に慣れきった二人の医師は、勝利を誓う握手を交わした。
【クラス】キャスター
【真名】石井四郎
【出典】日本、主に第二次大戦
【性別】男
【ステータス】筋力D 耐久C 敏捷D 魔力A 幸運B 宝具B++
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
"工房"に匹敵する研究室の形成が可能。
道具作成:EX
魔力を帯びた器具を作成できる。
下記宝具の作成を可能とするほか、必要な材料を用意できる。
特に一般人を実験用の「マルタ」に作り変える事に長ける。
【保有スキル】
医学:A+
A+ランク以下の毒物や病原体を遮断する。
京都帝国大学医学部を首席で卒業後、細菌学、衛生学、病理学を研究。
大戦時にはその知識を存分に振るった。
高速思考:C
物事の筋道を順序立てて追う思考の速度。
特に計略や研究などにおいて大きな効果を発揮する。
精神異常:B
精神を病んでいる。
自分の栄達と国防、研究以外に興味が薄い。
精神的なスーパーアーマー能力。
【宝具】
『計画壱番・黒死蟲(ペストノミ)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜60 最大捕捉:1000人
兵器化したペストに汚染されたノミを散布する。
主に専用の容器に密閉して持ち運び、ノミに血を吸われた時点で対象はペストに感染、発症する。
宝具化されたことで潜伏期間が短くなっており、感染2日後ほどで寒気や嘔吐、40度近い高熱が発生。
感染3日後から、感染経路などによって様々な症状が追加。適切な治療をしなければ死に至る。
対魔力スキルによって防御可能だが、生前に病死したサーヴァントには抵抗判定を仕掛けることが可能。
抵抗判定に成功すれば、サーヴァント相手でも感染させる。
ただし、半神や魔物など人外の性質を持つ者には、全く効き目が無い。
『計画弐番・黄泉液(チフス缶)』
ランク:B++ 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:培養液1リットルにつき100人
兵器化した腸チフス菌を散布する。
培養液で満たされたガソリン缶に封じ込めて運び、任意の場所で解放する。
食物や水を通して対象を汚染するため、水源や畑に放つと高い効果を期待できる。
宝具化されたことで潜伏期間が短くなっており、感染2日後ほどで腹痛や関節痛、空咳といった症状が発生。
感染3日後で40度前後の発熱や血便を発生させ、適切な治療をしなければ死に至る。
対魔力スキルによって防御可能だが、生前に病死したサーヴァントには抵抗判定を仕掛けることが可能。
抵抗判定に成功すれば、サーヴァント相手でも感染させる。
ただし、半神や魔物など人外の性質を持つ者には、全く効き目が無い。
【weapon】
宝具に依存。
【人物背景】
帝国陸軍において、関東軍防疫給水部長、第1軍軍医部長を歴任したエリート。
ジュネーブ会議において話し合われた毒ガスに興味を示した彼は、第二次大戦後に「関東軍防疫給水部本部」を設立する。
これは防疫・給水を表向きの任務としつつ、密かに人体実験を繰り返す生物兵器の研究機関であった。
しかしその優秀な頭脳をもってしても、日本に勝利をもたらす事は出来なかった。
【聖杯にかける願い】
過去に帰還し、原爆投下を回避する。
【マスター名】宮田司郎
【出典】SIREN
【性別】男
【Weapon】
ラチェットスパナ。
【能力・技能】
「幻視」
他者の視界や聴覚を覗き見る能力。
距離が近いほど鮮明になり、遠いほどノイズが強くなる。
【人物背景】
羽生蛇村にある宮田医院の院長。
本名は吉村克昭。幼少期に異界に取り込まれるも現世に帰還、その後両親を亡くした彼は宮田医院に養子としてもらわれた。
宮田家は医者を営む傍ら、村の暗部を知った人物を始末する汚れ役を引き受けている家であり、そんな家を継がせようとする両親のもとで彼は成長していく。
一方、兄「吉村孝昭」は求導師「牧野」の跡取りとして、村の尊敬や期待を引き受けながら暮らしていた。
様々な感情を押し殺しながら、彼は宮田医院を継いだ。そして村で数十年に一度行われる秘儀の夜、再び怪異に取り込まれてしまう。
第2日/0時49分40秒〜4時44分44秒の間から参戦。
【聖杯にかける願い】
村への帰還および怪異からの救済。
投下終了です。
投下します
雪をはらんだ冷たい風が吹く知らない街で、毎日の様に夢を見る。
倒れ伏す自身の相棒。涙を流し連れて行かれる彼女。
俺は、無力だった。
それでも必ず助けると約束した。
だが、現実はこの異邦の空の下で燻っている。
あの時と何ら変わらない、無力な自分が、そこにいた。
◆
金属と金属が触れ合う音が響く。
誰もいない学校の教室で少年は丹念に手の中の鉄の塊を整備していた。
パーツを細かく分解し、スプレーを吹きかけ、脇の布で拭いた後、また組み立てる。
そうして元の形になったモノ。
それは拳銃だった。
モデルガンの類には出せない、重厚な存在感を出しながらその銃口は鈍い輝きを放っている。
グロッグ19。
世界的には比較的ポピュラーな自動拳銃。
しかしここ冬木は、武器の規制が一際厳しい地方国家たる日本の一都市である。
ヤクザの事務所ならともかく、少なくともただの学生が携帯していていい代物ではない。
尤も、彼は”ただの学生”とはとても言え無いが。
「千鳥……」
頬に薄い十字傷を刻んだ少年、相良宗介は手の中の銃を見ながら、自分がゴミ係兼カサ係をやっていたクラスで、委員長だった少女の名を呼ぶ。
ここに来る数日前、アマルガムとの戦いにより『破邪の銀(ミスリル)』は壊滅した。
戦友であるAS『アル』も破壊され、千鳥を連れ去られ、彼は全てを失った。
それでも、傭兵ではなく一人の人間として、相良宗介は戦う道を選択した。
勝算の希薄な絶望的な戦いになるとわかっていても。
そして仇敵の尻尾を掴むため居心地の良かった学園に背を向け、
伝手を頼るためにナムサクへと渡った、その道中の事だった。
気が付けば自分はあてがわれたアパートの一室に日銃火器と共に倒れていたのだ。
ポケットの学生証から通っていると思われる、聞いたことのない学校をわりだし、
今に至るまで何かの強迫観念にとり憑かれた様に安穏と学生生活を送っていた。
ここが何処か、何故ここにいるか、そんなことはどうでもいい。
こんな事をしているべきではないのに。
今も彼女は待っているというのに。
だが、この街を出るという選択肢は何か強力な洗脳にかかった様に浮かんでこず、
かといってここで全てを投げ出し学生として生活するのも、彼には耐え難い。
澱の様に暗鬱な心情でただ停滞していた。
「俺は……」
向ける相手を見失った銃口は無力である。
後は停滞という淀んだ泥の底で錆びついていくだけだ。
道具をカバンの中に手早く片付け、グロッグも懐に仕舞う。
不意に、自嘲がこぼれた。
ここでこうして大っぴらに銃を出していれば彼女がまた一喝しにくるとでも自分は思ったのだろうか?
まったくもって情けない。
窓から外を見れば、分厚い鉛色の雲と、舞い落ちる白い粉雪の切れ間から陽光が覗いている。
白と緋色が混ざり合うその風景は、ある種幻想的ですらあった。
見たところで何の感慨も湧きはしなかったが。
「……帰るか」
覇気のしない瞳を眩い景色から背け、帰路につこうとしたその時だった。
<<―――下らん、牙も無くした狗だったか>>
―――!?
全身を総毛立たせ、グロッグを抜きながら振り返る。
精神状況は芳しくなかったが、体に染みついた最早習性とでもいうべき戦闘技術は、
いつもと変わらず如何なく発揮された。
確かに感じる殺気。
ようやく敵を見定めたその銃口は、三連続の砲火を以って曲者を出迎えた。
だが、殺気の主は宗介の放った牙を苦も無く嘲笑うように躱す。
「なっ…!?」
驚愕。
相対者は宗介が引き金を絞ってから行動を開始した、つまり、銃弾を目視で回避してのけたのだ。
このアンノウンは陣代高校最強の用務員に匹敵するとでも言うのか。
否定(ネガティブ)。目の前の脅威は人間ではなく――。
そのまま弾倉を空にするまで撃ち続ける。
だが、標的は正に疾風迅雷電光石火。机やロッカーの間を跳びかい、彼我の距離を詰め弾幕をすり抜ける。
やがて十秒もしないうちに弾倉の中身は空となり、カチンカチンと間抜けな音が空気を叩いた。
「クソッ―――!」
身を翻し、黒い影から逃れるために机を蹴り上げる暇も無く。
宗介は、腹部に自動車の突進でも受けたかのような強い衝撃を感じ、倒れ伏した。
そこで初めて相対者と目が合う。
相対者は燃えるような赤い目をした、人間でも乗れそうな巨躯を持つ漆黒の狼だった。
<<弱いな…弱すぎる。貴様の様な人間がなぜここに来た?>>
「…犬が口を利くとは初耳だな。ボン太君でもふもしか喋らんが」
<<言うじゃあ無いか、
戯言の礼に自分が何に巻き込まれ、なぜ死ぬのか位は教えてやろう>>
狼がその爪を振り下ろし、
その刀剣や銃の遥か前にこの世に生まれ出でた原初の武は、紙のように宗介の右手甲を裂いた。
瞬間、燃えるような痛みを代償に、数々の情報が少年に流れ込む。
聖杯戦争。
サーヴァント。
願望器。
令呪。
それらの情報をようやく咀嚼しきった頃、相良宗介は真にこの冬の名を冠する街で覚醒した。
同時に、その命運は尽きようとしていたが。
<<……眼を見ただけでわかる。お前は、才能がない。狗ですら無い、狼のフリをした羊、
死肉を貪り、生き血を啜らぬとも生きられる癖に、そうしなかった忌むべき畸形だ。
気に入らん。この地に堕ちた事を悔みながら消え失せるがいい>>
宗介の瞳を見つめながら、黒狼は牙を突き立てんと口腔を開く。
(死ぬ、のか…?俺は、ここで)
死の咢を目前にして、宗介の頭脳は一片の曇りなく澄み渡っていた。
むしろ今までが淀みすぎていたのか。
そうだ、才能がない事など分かっている。
俺はクルツの様な狙撃の腕も、マオやクルーゾーの様なASの操縦技術も、格闘技術すら少佐には劣るだろう。
精々誇れるものは、土壇場のしぶとさ位だ。
でも、それでも。
頭の中でスイッチが、入った音がした。
「そう言う訳にはいかん……!」
彼の次の行動は簡潔であった。
余りにも自然に、邪気なく手を伸ばすと、目の前の狼――アサシンの鼻っ柱を掴んだではないか。
その中途で俄かに掌が牙に触れ、鮮血を学生服に散らしたが気にしない。痛みには慣れている。
そんな彼に、アサシンの表情が俄かに驚嘆に彩られる。
抵抗そのものに、ではない。
鈍重な牛ですら死力を尽くせば狼を一蹴することが可能だ。
眼下の狼気取りだった羊の瞳が、先ほどモノとは明らかに違う。
生も死も肯定しない、ある種の超越を感じさせる色に変貌していた。
<<成程、羊は羊でも狂った羊だったか…何が貴様を変えた?>>
「大切なものを奪われた。必ず取り戻すと誓った。
今の俺はカシムでもウルズ7でもない、それでも一人の男として戦うと決めた」
気狂いの羊はアサシンの鼻頭を掴み、その体を押しのけると眼光鋭く立ち上がる。
アサシンは宗介の手を振り払うと、何ともよくできた喜劇に眉根を寄せた。
<<そういう事か、聖杯め>>
自分を呼ぶような者の大切な物など一つしかないではないか。
成程、自分が何故この男に召喚されたか、今理解した。
<<つがい、か>>
「否定(ネガティブ)であり、肯定(アフマーティブ)だ
俺に協力しろ、アサシン」
<<………>>
―――狼は人間を嘲けり、憎んでいた。
本当彼一頭だけならば、人間など何人銃で武装して来ようが、敵ではなかった。
だが、それはあくまで彼だけだった。群れの仲間は銃で撃たれれば死んでしまう。
彼は王だった。だから群れを、妻を守るために見下していた人間に幾度となく背を向けなければならなかった。
彼が生涯敵として定めた人間はたった一人。
狼王としての彼は、その人間の謀略すらも最後まで回避し続けたが、妻はそうでなかった。
彼女でさえいなければ。
群れの部下であり盟友たちは口々に自分を止めた。
妻は諦めろ。我らは狼王の臣下だ。行けばお前はもう狼王ではない。狼王がいなくれなれば我らもこの世から消え失せる。
頼む行くな!!
朋友達は皆懇願するように止めた。王は普段この草原こそ我らの城と言って憚らぬ彼らがこんなに必死に祈ると姿を見たことがなかった。
暗に語っていた、行けばお前は死ぬ。我らはお前に死んでほしくないと。
それでも、彼はその進言を振り切った。番を救うために。
結果は臣下たちが進言した通り、
群れを棄てた王は最早王ではなかった。
ただの、ようやく半人前の一匹の獣でしかなかった。
そして、ただの獣が人間に勝てる道理はない。
しかし、それでも彼は、救いたかったのだ。
<<―――いいだろう小僧。興が乗った
しばしの間、付き合ってやる>>
アサシンの鼻面に刻まれた横一文字の傷がギラリと獰猛に光る。
目の前のマスターは一歩も引くことなく、自分の前に立っていた。
その手に宿った令呪は、狼の爪痕の様な、三本のラインであった。
「……どういう心変わりか知らないが、契約成立、ということでいいんだな?」
<<然り、貴様が全てに牙を突き立てるというのなら、やって見せるがいい。
だがもし契約に背く事があれば、我が牙と爪は貴様に向くと知れ>>
「了解だ」
もし、この歪な羊が、あの時無残に失敗した自分とは違う未来を見せてくれるのなら。
従ってみるのも、悪くは無い。
【クラス】
アサシン
【真名】
ロボ
【出典】
史実及び、シートン動物記
【性別】
男
【属性】
中立・中庸
【ステータス】
筋力:B 耐久:D+敏捷:A 魔力:C 幸運:D 宝具:D
【クラススキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
【保有スキル】
魔獣:C
どんなハンターや罠も彼自身には勝てず、現地民に悪魔より知性を賜った魔物として畏れられたアサシンの逸話の具現。
その卓越した知性により人間との意思疎通が可能になり、相手サーヴァントが人間の場合、各種行動の達成率の上昇判定が生じる。
また自分にファンブルを引き起こす罠や毒物をキャンセルすることができる。
怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
アサシンは自身よりも何倍も大きな牛を紙細工の様に引きずり倒したという。
使用することで筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
単独行動:B +
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
魔獣の咆哮:A
アサシンが上げる咆哮。
発動した場合気配遮断の効果が一切なくなる代わりに精神干渉に耐性のないサーヴァントが相手の場合高確率で威圧させ、先手を取れる判定が上昇する。
また、逆に短い時間であるが自軍に勇猛のスキルと同じ効果が表れる。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
危機的な状況から素早く脱出できる。
【宝具】
『狼王(オールド・ロボ)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
アサシンを含めて六体の群れを召喚する宝具。全ステータスはアサシン本体のパラメーターよりワンランク下。
この宝具が発動した瞬間、アサシンは群体型のサーヴァントと化すため、六体でサーヴァント一体分の魔力消費で済む。
そしてこの宝具が発動している時はアサシン本体のみ、耐久に補正がかかる。
弱点は彼の群れの中の一頭、アサシンの妻である白い狼『ブランカ』を倒すこと。
『ブランカ』が斃された瞬間、ロボは生前と同じく不敗の伝説は終わり、現界を保てず消滅する。
【Weapon】
『爪、牙』
【解説】
アーネスト・T・シートン動物記に登場する19世紀アメリカに実在した狼王。
ロボは狼とはおおよそ思えぬ巨躯と悪魔が与えたと言われる卓越した頭脳を持った狼達のリーダーで、現地民から「魔物」と畏れられた
数えきれないほどのハンターの罠や毒を持ったエサもやすやすと見抜き、仲間を見事に統率して人間に挑み続ける。
彼はブランカというつがいを助けるために人間に捕まるが、
それでも人間に屈服することなく餓死を選んだ。
【特徴】
人間も乗れそうなサイズの赤眼の黒狼。
顔にシートンが仕掛けたわなから抜けようとしたときにできた横一文字の傷がある。
剥製として残っているロボの毛皮は、彼の生きざまに感銘を受けたシートンが用意した贋作。
【聖杯にかける願い】
? ? ?
【マスター】
相良宗介@フルメタル・パニック!
【能力・技能】
高度に訓練された軍人。格闘、狙撃、爆破、AS操縦と、あらゆる破壊工作に通じる。
【weapon】
銃器。どの程度保有しているかは不明だが、
携行火器を中心に複数保持していると思われる。
【人物背景】
都立陣代大高校2年4組に在籍する高校生兼、対テロ極秘傭兵組織「ミスリル」作戦部西太平洋戦隊に所属する傭兵。
全世界から優れた人材を登用するミスリルの中でも最精鋭とされる特別対応班(SRT)の一員。コールサインはウルズ7。
人型兵器アーム・スレイブの操縦にかけては世界屈指の実力を誇り、生身での戦闘力も高い。
原作長編8巻「燃えるワン・マン・フォース」プロローグ辺りからの参戦。
【聖杯にかける願い】
アマルガムの壊滅及び千鳥かなめの奪還。
投下終了です
投下します
―――不幸に濡れた瞼は夢を見る。
自らの幸福を。
届かぬと諦めても尚手を伸ばした、栄光を。
ステージの上でシンデレラは舞う。
喝采が彼女を包み込む。
歓喜。興奮。快楽。
数多の観客の笑顔と己が一つになる。
己を何時でも支えた者が、背後で笑顔を向ける。
己をシンデレラにした者が、この姿を誇らしげに見つめている。
スズランのように儚き笑顔は、彼女と彼女の世界を幸福に彩り、導いた。
しかし、何物にも終わりはくる。
何者も何物の変わりにはならず、変えられぬ終わりは現実の尻尾に食らい付いた。
かち、かち、かち。
時計の秒針は、無慈悲にも時を刻む。
こんなにも夢は眩しいのに。
こんなにも夢が近いのに。
ああ。
時計の針が、十二時を示す。
―――醜悪な現実に呑まれる、時が来た。
○ ○ ○
締め切られたカーテンは、月の光さえ閉ざし暗闇で室内を包み込む。
可愛らしい雑貨に彩られた室内も、暗闇の中ではその淡い桃色を曇らせる。
開かれたクローゼットの中には黒を基調とした色合いの服が並べられており、比較的明るめの配色の服は少なく、あったとしても少しもまだ着古されていない新品さを醸し出す。
…その中に紛れ込むように、黒い帽子が掛けられている。
ああ、アレはあの人と牧場に行った時のものだっただろうか―――と。
過ぎ去った、楽しかった日々の残滓。
それが視界に入ると、酷く胸が締め付けられるような感覚がした。
すると、立て付けが悪かったのか、掛けられていた帽子がふわりと床に落ちる。
…ああ、ちゃんと元にあった場所に片付けないと。
部屋の隅で縮こまっていた身体を動かし、ゆるりと右手を伸ばす。
そして。
彼女の視界が―――自身の右手の甲に刻まれた、赤い痣のような紋様を捉える。
「ッ……!?」
まるで、熱いものでも触ったかのように。
反射的に手を引き戻し、左手でその痣を隠す。
しかし、手で隠したからと言って消えた訳ではない。
その痣の紋様は深く視界に入り込み、『見たくなかった現実』を思い出させる。
聖杯戦争。サーヴァント。マスター。
最後の一人になるまでの殺し合い。
血を血で洗い、殺し尽くした先にある万能の願望器。
―――ああ。それはなんて、恐ろしい。
彼女は再び小さな肩を抱くように縮こまり、その現実に怯えた。
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
人の精神の、原初の階層に刻まれた恐怖が彼女を追いたてる。
無理もない。
彼女は、闘争などという世界とは無関係の立ち位置の人間だったのだから。
死にたくない。
だからと言って、殺す道を歩みたい訳でもない。
人を殺すのは悪いことだ。
それが彼女の中の常識であり、世界の常識だ。
…いや、それだけが理由ではない。
『彼女は人を殺せない』。
人の人生を奪うことを、幸福も不幸と一纏めにして奪ってしまうその重さに、彼女の精神は耐えられない。
だからこそ、彼女は今、このように自室の隅で縮こまっているのだ。
死にたくない。
だが、殺せない。
つまり、八方塞がり。
どうすることも出来ず、しかし何をする勇気もない。
…彼女がもう少し自分勝手な人間であったのなら、状況はもう少し違ったものになっただろう。
彼女は、優しすぎた。
己の不幸が他人に伝染するのを恐れるように―――彼女は、臆病な分、人に優しかった。
しかし。
そんな彼女でもプロデューサーという支えてくれた影がいたから、ステージに上がることができた。
無論、彼女自身の向上心があった故ではあるが、それでも一人では舞台に―――アイドルのステージには立てなかっただろう。
だが、それもここまでだ。
死んだらステージには立てない。
人を殺せば、ステージに立つ資格はない。
どの道、彼女の物語は此処で終わりだ。
アイドル、白菊ほたる。
彼女のシンデレラストーリーは、此処で十二時を迎えたのだ。
「……見回りを終えました。ホタル、そこにいますか?」
光の粒子が、人の形を作り出す。
そして眩さを持ったまま―――金髪の騎士が、現れた。
少しカールした金髪の、女性。
目映いほどに白く透き通った手。
これが、サーヴァント。
確か名前はランサーと言っただろうか、と。
ほたるは茫然とその姿を見つめる。
「……また、泣いていたんですね。涙の跡が」
ランサーの白い指が、ほたるの頬を拭う。
言葉を聞くまでもない。
この跡を見るだけで、ほたるの慟哭と恐怖が伝わってくる。
「ランサー、さん」
「大丈夫です、大丈夫。
…貴女は優しすぎる。もう少し、他人の不幸に鈍感だったなら幸せだったでしょうに」
ふわり、と。
ランサーがゆっくりとほたるを抱き締める。
ランサーの体温は、少し暖かかった。
「…貴女がどのような道を歩むのであれ、わたしは貴女に付きましょう。
逃げるにせよ、修羅に堕ちるなかせよ―――わたしは、貴女を選びます」
それは。
地獄にまで付き従おうという、槍兵の誓い。
誰を敵に回しても、貴女の槍になろうという誓い。
「貴女の望みを言ってください、ホタル。貴女の、叶えたい望みを」
その言葉は、ほたるの背中を後押しした。
感情が溢れる。
ぽろぽろと溢れる涙と共に、感情を吐露する。
「―――帰りたい」
「元の場所に、私、帰りたい」
「もっと、アイドルがしたい」
「どんなに怖くても―――戻って、トップアイドルになりたいんです」
それは、純粋な彼女の願い。
殺し合いの最中にあっても尚、光輝く少女の夢。
醜い現実に呑まれても、見失わない彼女の夢。
「ええ。わかりました。わかりましたとも」
その言葉に、ランサーは頷く。
一言一言紡ぎ出される、余りにも弱々しく消え入りそうな言葉を、一つづつ受け入れる。
抱き締めた、震える小さな身体から溢れる本音。
恐怖の中にあっても、揺るがないもの。
ああ。それはなんて、儚い―――
○ ○ ○
「この世界からブリテンのような美しさは消えてしまったのかとも思いましたが……思いの外、この景色もこれはこれで素晴らしい」
夜風が金の髪を撫でる。
屋上から眺めた夜景は、まるで星空のようだった。
マスター…白菊ほたるは、現在泣き疲れて眠っている。
仕方のないことだ、とランサーは思う。
つい先程まで戦士ですらなかったものが死に晒されるのだ。
恐怖は想像を絶するものだろう。
「…それでも、わたしは彼女の槍となろう。数多のサーヴァントを敵に回してでも、貴女を守り抜こう」
きっと。
誰よりも敬愛する、あの"湖の騎士"もそうしただろうから。
愛する女性を何としても幸せにする―――そのためなら、国だって切り捨てるのがフランス騎士の信条だ。
わたしは彼女を愛している訳ではない。
だが。
目の前で年端もいない少女が死の恐怖に震えていたとしたら。
きっと―――我が敬愛のランスロット卿も、その手を取って戦っただろう。
ならば。
わたしも、そうあるべきだろうと思う。
最期の瞬間が、脳裏に甦る。
ランスロット卿に斬り伏せられた、その最期。
アレは、彼なりの矜持に乗っ取った結果なのだろう。
…わたしも、己の矜持に殉ずるときだ。
白い腕が、夜空に光る。
わたしこそが、彼の花のキャメロットの一つ。
華々しい円卓の席の一つに座る、騎士の一人。
我が名は―――ガレス。
この槍が折れる時まで、この体は彼女の槍となる。
この誉れは彼の湖の騎士へ。
わたしは今、槍を取る。
【クラス】ランサー
【真名】ガレス
【出典】アーサー王物語
【性別】女
【属性】秩序・善
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具C
【クラススキル】
対魔力:C
魔術への耐性。二節以下の詠唱による魔術は無効化できるが、大魔術・儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
【保有スキル】
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。Bランクで魔獣・聖獣ランク以外を乗りこなすことが出来る。「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
ライネット婦人の指輪:D
高度な変装魔術礼装。
様々な色、服装に変化する真名秘匿能力。
湖の騎士への敬愛:A
彼女は誰よりも湖の騎士ランスロットを敬愛し、尊敬していたという。
円卓の騎士最強と謳われるランスロットの技術を高いレベルで模倣する。
【宝具】
『清廉なる白銀の腕(ボーマン・オブ・ナイト)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
まるで白魚のように美しいガレスの手。
その純白さは美しく、『常に騎士道の人であり、騎士道に背く行為の一切を行わなかった』という逸話が混ざり、彼女という概念が具現化した宝具となっている。
彼女の腕はどんな攻撃を持ってしても傷を付けることはできず、決して折れず、「正しいもの」として在り続ける。
腕・そして腕で持った武器を使う攻撃において有利な判定を得て、筋力で負けているとしても絶対に競り勝つ。
……しかし、これは「決して騎士道に背く行為を行わなかった」という概念が混ざったが故に生まれた宝具であるため、彼女の正当性が失われた時に効果を失う。
つまり。
彼女の心が折れた時、その腕の輝きは炭化したように消え、宝具の効果を失う。
『猛り狂う馬上の槍(ラウンズ・ナイト・ランス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:3 最大捕捉:5人
数々の敵に勝利した、ガレスの馬上槍の技術。
アーサー王に「猛り狂うウルフ」との異名を与えられるほどの技術。
馬上槍の試合ではガウェイン卿と並ぶほどの腕前であり、その一突きはあらゆる防御を突き崩し、弱点を晒け出させる。
【weapon】
馬上槍:無銘
焦げ茶色の馬
【人物背景】
円卓の騎士の一人であり、太陽の騎士ガウェインの妹(型月時空では女性のよう)。
最初はガウェイン卿の妹であることを隠して城に入った故、ケイ卿に厨房役に回され「白い手(ボーマン)」という渾名を付けられる。
とある活躍により円卓の騎士入りしてからは騎士の象徴のような人物として、決して騎士道に背くような行為は行わなかったという。
ランスロット卿を誰よりも敬愛しており、尊敬している。
しかし。
彼女の最期は、敬愛したランスロット卿の不貞の露見による、ランスロット卿による斬殺であった。
【特徴】
ガウェイン卿と同じ金髪を持つ、緩いウェーブのかかった女性。
清廉潔白な騎士であるが、少々間の抜けた部分がある。
料理は質より量派。
大量の磨り潰したポテト&ビネガー&ブレッド。そしてエール。そして蒸した野菜。
…これを料理と呼ぶのも烏滸がましいレベルだが、なんとこの時代ではこれが普通だったようだ。
【マスター】
白菊ほたる@アイドルマスターシンデレラガールズ
【能力・技能】
アイドル
【人物背景】
不幸体質ありの、薄幸少女。
そのせいで気弱な発言が目立つが、しかしアイドルとして立派に成長することには前向きで、いつか幸せになるという意思もあり。
【マスターとしての願い】
死にたくない。
でも、殺したくない。
じゃあ、私はどうしたら―――
投下終了です
投下します。
孵らなかった卵は、いったい何になるのだろう?
■ ■ ■ ■
夕暮れ時。
黄昏時とも呼ばれる現実(ひる)と幻想(よる)の狭間の時間。
わずかな時間しか発生しない美しい夕焼けが、人気のない公園をオレンジ色に染め上げている。
そんな中、少年と少女が並んでベンチに座っている。
年の頃はともに小学生から中学生といったところ。
"ある一点"がなければ、二人のことを微笑ましいカップルとみる人もいたかもしれない。
そう、それは"ある一点"……少年の姿が時代錯誤な軽鎧でなければの話だ。
「……聖杯戦争、サーヴァント……信じられません……そんなこと……」
そう呟いた少女の名は橘ありす。
整った顔立ちを青ざめさせ、スカートの裾をぎゅっと握りしめている。
一方で隣に座る鎧姿の少年は軽い調子で首をかしげている。
「何でだよ。証拠なら見せただろ?
信じられないならもう一回やってやっても……」
「二度とやらないでください! 次やったら令呪を使いますよ!」
何のことかというと、槍兵(ランサー)と名乗った少年はありすを抱えて街中を疾走したのだ。
ジェットコースターもかくやというスピードで、障害物だらけの街中を駆け巡る。
スリル満点とかそんなレベルではなく、ありすは本気で寿命が縮まる思いをしたのだ。
その証拠にうっすらと涙の跡が残っている。
そんなこともあり、オカルトに否定的なありすも渋々認めざるを得なかった。
この冬木で何か科学で説明できない、非常事態が起こり始めているということ。
そしてそれに自分も"聖杯戦争のマスター"という形で巻き込まれてしまっているということに。
「……ええ、認めたくないですけど、大体の事情は把握しました。
聖杯戦争はサーヴァントによる戦いで最後に残った一組だけが何でも望みを叶えられる。
そしてそのサーヴァントは歴史上の人物とか英雄とかそういった過去の人たち……」
口に出しても現実感がわかない。
けれどこれはフィクションなんかじゃない。現実なのだ。
しかし何故自分なのか。
こういうのは自分じゃなく飛鳥さんや蘭子さん向けのジャンルじゃないのか。
「それはオレにだってわかんねえ。
聖杯ってのは人知を超えた"何か"で、こっちの都合なんてお構いなしな代物だからな」
まるで見てきたかのようにランサーは語る。
……いや、実際ランサーは"聖杯"を目撃したことがあるのだ。
「まぁ、事情も分かってもらえたところで……お前、何か願いはないのか?
聖杯は万能の願望器だ。選ばれちまったことには同情するけどよ……逆に言えば普通なら絶対叶わない願いも叶うってことだ」
「……ありませんよ、そんなもの」
ありすは自分を取り巻く環境に対して、端的に言えば満足している。
学校にも職場にも友人はいるし、仕事場でも(一部大人げない人たちがいるが)尊敬できる大人たちに囲まれていると思う。
「なんだそりゃ。子供のくせに夢とかないのかよ」
「子供扱いしないでください! というか今のあなたも子供でしょう!」
自分は子供なんかじゃない。少なくとも目の前の少年よりは。
そう言い聞かせてて、ありすは話を続ける。
「……私にだって夢はあります」
「だったら――」
「でもそれは私とプロデューサーさんとファンの皆さんで叶えるものです
聖杯なんかに願うものじゃありません」
そうきっぱりと宣言した。
この夢は自分の手で叶えなくちゃいけないものだ。
本格的に芸能活動を開始してから一年もたっていないありすだが、そのことだけは曲げるつもりはなかった。
「……そっか。そりゃそうだよな。
自分の手で叶えられる望みなら、自分の手で叶えるほうが絶対にいいもんな」
それを聞いたランサーはとても眩しいものを見たように目を細める。
自分にはもう届かない遠くを見る様子によく似ていた。
「……そういうあなたはどうなんです?
さっきの説明なら、あなたにも聖杯にかける望みはあるはずです」
説明が正しいのならサーヴァント自身にも望みがあり、そのために現界するのだ。
ありすとしては悔し紛れにした質問のはずだった。
けれどその問いをぶつけられたランサーの顔からは軽薄な笑顔が消える。
代わりに浮かべたのは悲しげに歪んだ、己をあざ笑う笑みだった。
「……オレは"大人"になりたい。それが聖杯にかける願いだ」
ランサーの願いを聞いたありすは頭の上に疑問符を浮かべた。
なぜならばその願いはもう一度叶っているはずの願いだからだ
「……そんなはずはありません。
あなたは大人になったはずです……少なくとも今の姿よりは」
ありすはランサーの真名をすでにネットで検索している。
広大なネットでも、彼に関する情報はあまり多くはない。
だがその情報を信じるならば、子供のまま死んだということはありえないはずだ。
――彼は最後の戦いを生き延び、兄を探して少なくとも7年間は彷徨ったのだから。
「……ああ、体は大きくなったかもしれない。
けどそれはただ"年をとった"だけだったんだ。
そこにいたのは、オレが憧れたあの騎士たちの足元にも及ばない……つまらない人間だった」
その言葉に込められたのはかつての自分の否定。
かつて"円卓に集った騎士"たちの背中を追いかけた果ての姿の否定だ。
「カムランにたどり着いた時にはすべてが終わっていて、兄貴の居場所を探し出した時にはもう墓の下で……オレ自身も何も成し遂げられないまま死んじまった。
いや、それよりも……本当に悔しいのは何もできなかったことじゃない。
何もわからなかったんだ、オレは……」
ランサーはじっと自分の手を見ている。
そこには何もない。"何も"ないのだ。
「オレは何であんなことになったのか理解できなかった。
……兄貴が、王様が、ガウェイン卿が、モードレッド卿が、グネヴィア様が……何を考えてたのか。
あの人たちは俺と違って大人だった。
だから今はわからないけど、オレも大人になったらわかるんだと思っていた」
「けれど」とランサーは自嘲の笑みを深める。
「……わからなかったんだ。死ぬ前になっても。
結局、何で立派な兄貴と優しいグネヴィア様は王様を裏切ったんだ?
何でオレたちの面倒を見てくれたモードレッド卿は国を滅ぼしたんだ?
なんで……円卓は割れちまったんだ?」
円卓の騎士たちはみんな最高の騎士たちだった。
だったら何故円卓は崩壊した?
何故外からの侵略者ではなく、内部から崩壊した?
ランサーにとっては何一つ理解できないことだらけだった。
だから彼が到達した答えは一つ。
「……それはきっとオレが最後の瞬間まで子供だったからだ。
きっと図体だけが大きくなって、心が"大人"になれなかったんだ」
――ああ、子供(オレ)は大人(ヒト)の気持ちがわからない。
そう、ランサーは結論付けた。
「英霊は成長しない。でもあらゆる奇跡を起こすのが聖杯だ。
だからオレは"大人"になりたい。そうしたら、もしかしたらあの時だって……」
それきりランサーは口をつぐんだ。
人気のない公園に広がる沈黙。
それを破ったのはありすがぽつり、と口にした一言だった。
「……だったら聖杯に願うのはそれでいいです」
「え……」
「あなたの願いを叶える……それが私の願いでいいと言ったんです。
……大人に……いいえ、"立派な大人になりたい"と思う気持ちは私にもわかりますから」
ありすの周りにはプロデューサーや先輩であるアイドル、いわゆる立派な大人たちがたくさんいる。
ありすは彼らを尊敬しているし、自身も"そうなりたい"と思って努力している。
けれどいつからか気づいてしまったのだ。
影のようにまとわりつく恐怖があることに。
――"彼らのように/彼女たちのようになれなかったらどうしよう"
目標とする人物が立派であればあるほどに、その恐怖は膨らんでいく。
夢という名の光に向かって進んだからこそ気付く影。
……果たして、孵らなかった卵は、いったい何になれるのだろう。
答えは簡単だ。
何にもなれない。何もできない卵のまま。
孵化できなかった卵の姿――それが目の前の少年で、あり得てしまうかもしれない自分だ。
だから自分と無関係だとは思えなかった。
「……ありがとな、ありす。お前、いいやつだな」
「……勘違いしないでください。
あと、橘です。もしくはちゃんとマスターと呼んでください」
『いい名前だと思うんだけどなぁ』とぼやきながら頭をかく少年の顔には先ほどまでの影はない。
そのことに妙に安心する一方で、これで後戻りができなくなってしまったのだという実感がわいてくる。
――聖杯戦争。
命懸けの戦い。
たった十二年しか生きていない少女が背負うにはあまりにも重い運命(フェイト)。
そのことを想像すると恐怖で押しつぶされてしまいそうになる。
「――我が主よ。安心して欲しい」
だが震える手にもう一つの手が重ねられる。
いつの間にかランサーは座ったままのありすの前で片膝をついていた。
それは騎士が、高貴なるものに忠誠を誓う姿。
その姿にありすは息を飲み込んだ。
日は既に落ち、僅かな残光が残るだけの時間帯。
それはマジックアワーと呼ばれる時間。
黄昏時の終わりごろ。数分しかない魔法の時間。
今にも消えそうな淡い光が少年の亜麻色の髪と銀の鎧を照らす。
その幻想の世界に、少女は心を奪われた。
「――今より我が足は貴女の足となり、貴女の傍に付き従おう。
我が槍と鎧は貴女の盾となり、迫り来る危機を討ち払おう――」
幻想的な風景の中、詩う様な声が少女の耳に染み透っていく。
「我が名はエクター、エクター・ド・マリス。かつて聖杯の恩恵を受けし騎士。
円卓に数えられぬ未熟な身なれども、我が槍に誓って今生のマスターに全てを捧げよう――」
そして、小さな手の甲にそっと口づけた。
まるで騎士が貴婦人に忠誠を誓うように。
その一瞬、ありすは幻視した。
朱色に染まった公園が、まるで白亜の城であるかのように。
まるで永遠であるようにも感じたられた。
「……うーん、兄貴みたいにうまくはいかないな」
しかしそれも長続きしなかった。
いつもの調子に戻ったランサーの姿に幻想的な光景に奪われていた心が戻ってくる。
そして次第に理解する。自分が今、何をされたのかも。
「――な」
「な?」
顔をのぞき込むランサー。
サーヴァントの優れた視覚がとらえたのは、暗闇の中で夕日よりも真っ赤に染まったありすの顔。
「何をするんですか、あなたはーっ!」
すっかり真っ暗になった公園にパァンという平手の音が鳴り響いた。
【クラス】
ランサー
【真名】
エクター・ド・マリス@アーサー王伝説
【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力C 幸運C+ 宝具EX
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
・対魔力:D
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
・駿馬の足:B
時に聖杯を、時に兄を探し英国全土を駆け巡った。
瞬間的なスピードよりも最高速を維持することに長けた持久型加速スキル。
・直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。
Bランクともなれば致命に至る一撃はほぼ回避できる。
ランサーが若年にもかかわらずパーシヴァル卿と撃ち合えたのはこれによるところが大きい。
・聖杯の寵愛:E-
呪いにも等しい聖杯からの愛。
……が極めてランクが低いため、恩恵も少ないが他者の幸福を奪うこともない。
せいぜい『まぁ助けてやるか』ぐらいの愛であるため、発動確率は極めて低い。
ただし発動すれば特定の条件なくしては突破できない敵サーヴァントの能力さえ突破可能。
【Weapon】
・無銘・片手槍
円卓の騎士第二席・パーシヴァル卿と互角に打ち合った実力者。
片手槍を自在に操る高速槍術を得意とする。
【宝具】
・我が手に宿れ、最果ての輝き(ロン・ザ・ペネトレイター)
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:100 最大補足:300
ランサーが一度だけ戦場で見た"最果てにて輝ける槍"。
心に深く焼き付いたそれを、彼は魔術で再現しようとした。
もちろん超級の奇跡である"最果てにて輝ける槍"を再現できるはずもなく、似ても似つかない、だが強力な破壊力を持った大魔術に変貌した。
魔術で編み出した光り輝く巨大な槍を投擲する。
目を灼く程の強烈な光は、回避に強烈なマイナス補正がかかるため、回避には直感スキルや幸運値が重要となる。
少年が信ずる彼らへの憧憬、信頼、あるいは妄信。その象徴。
『天よ! 地よ! 人よ! その目に焼き付けよ! 我が憧憬、最果てに至る魂の輝きを! "我が手に宿れ、最果ての輝き(ロン・ザ・ペネトレイター)"』
・我が手に宿れ、奇跡の欠片(サングリアル・ザ・リプレイヤー)
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
ランサーはかつて聖杯探索において、円卓の騎士パーシヴァル卿とそれと知らず戦い、互いに重傷を負った。
だが突如現れた聖杯により彼らの傷は癒されることになる。
ランサーは結局聖杯を手にすることはなかったが、その恩恵を受けた数少ない人物である。
その残滓は手に残り、癒しの力を発揮する。いかなる呪い、怪我、毒すら癒す究極の奇跡の一片。
だが彼が聖杯による癒しを受けたのはたった一度だけであるため、この宝具もたった一度しか使えない。
極めて限定された奇跡の顕現である。
『我が手に残りし聖なる欠片……傷を癒せ、"我が手に宿れ、奇跡の欠片(サングリアル・ザ・リローダー)"』
・我が心に宿れ、孵らぬ卵(ジ・エンブリヲ)
ランク:EX 種別:??? レンジ:? 最大補足:?
詳細不明。未だ届かぬ可能性の卵。
【サーヴァントとしての願い】
"大人"になりたい。
彼らのような立派な騎士としてあるために。
【外見】
亜麻色の髪の毛の10〜12歳程度の少年。
銀色の軽甲冑を身につけている。
【性格】
一人称:オレ。二人称:オマエ。三人称:アイツなど。
体に精神が引っ張られるため、基本的にはやんちゃな子供といった印象。
なお余談だが綺麗なお姉さんにめっぽう弱い。変なところだけ兄貴そっくりである。
……彼は純粋だった。
彼の目に映った騎士たちは誰もが尊敬に値した。
だから気付かない。彼らが憧れた騎士たちもまた、弱さと矛盾を併せ持つ人間であったということに。
【人物背景】
円卓の騎士ランスロットの異母弟。
アーサー王の義父であるエクター卿と同名であるため、
多くの場合"エクター・ド・マリス(マリスのエクター)"と呼ばれる。
彼自身も優れた騎士であるが、円卓の騎士にはカウントされていない。
その理由は"若すぎた"からに他ならない。
もしもブリテンが存続していたならば、次代の円卓の騎士として活躍したのかもしれない。
だが世界はそれを許さなかった。
兄と王妃の不義に端を発するブリテンの崩壊。
その果てに彼の憧れた騎士たちの多くは死に、栄光の王国は滅びた。
それは定められた崩壊。誰に止められるものでもない終焉だった。
だがその結末は年若き彼には決して納得のできるものではなかった。
――もしも自分が大人であったならば。
――彼ら、輝ける円卓の騎士と肩を並べられる存在であったならば。
――彼らの想いを理解できる"大人"であったならば。
――あの崩壊を止められたのではないか。
……彼は英霊となった今でも、そんな無邪気な夢を見ている。
【マスター】
橘ありす@アイドルマスターシンデレラガールズ
【能力・技能】
・アイドル。
歌って踊れるクール属性アイドル。
・現代っ子
タブレットなどの最新機器を人並みに使いこなせる。
【人物背景】
十二歳のクールアイドル。
自分の名前にコンプレックスを持っており、名前で呼ぶと名字で呼ぶように訂正してくる。
……が、自分の親しい人には名前で呼んでもいいと言ってくる。それも割と早めに。
わりとちょろい。
【マスターとしての願い】
ランサーの願いを叶える。
以上で投下終了です。
お借りいたします
あの妹は昔っからそそっかしくて肝心なところでダメだと思ってたんだよ。
だいたいだね。私は剣を取って来てくれと頼んだんだ。私の剣をだ。
それを通りすがりに石に刺さってた剣抜いて持ってきました? 馬鹿じゃないのかあの子。
しかも「これを抜いたらどうなるかわかっていた」とか後でドヤッて言ってるんだよ。
全部私に押し付ける気だったんじゃないかってちょっと邪推するね。たぶん何も考えてないんだ。
そのくせ真面目真面目真面目で。そりゃ言われるよ、人の心がわからないって!
わっかるわけないんだよ、自分のことで手一杯なくらい要領悪いんだから。
酒の席でおっさんに絡まれたりしたらもうダメだね。
良く聞けば「あ、こいつら好き勝手言ってるだけだな」って愚痴で涙目になるね、きっと。
ほら泣きそうになってる。泣くぞ。絶対に泣く。ほら泣いた。あーあー、もう。
他の奴らも馬鹿なんだよなー。なんだよランスロット。なんであのタイミングであんな事するかね。
つーかトリスタンといいお前らなんでそんな拗れた恋愛ばっかすんだよ。ガウェインは変な性癖に目覚めるしさぁ。
モードレッドはモードレッドでファザコンだかマザコンだかわけわかんないし……。
というかあいつ私の姪っ子になるのか? …………いやだな。うん、いや、特に呼ばれ方が。私はまだ若いぞ。
え、なに? そもそも剣忘れたのは私じゃないか? しかも自分が抜いたって言いはった?
うるっさいなあ。喧嘩売ってるんだったら買うよ? そして勝つよ? 円卓の騎士舐めんな!
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.
「正義の味方になる? そりゃ結構!
で収入はどうするんだい。進路は? 就職は? 無職? フリーター?
いつの時代も何かと物入りだぞ。市内だけでも交通費、国内国外へ出張するならもっと旅費がいる。
もちろん武器の持ち込み持ち出しなんて馬鹿いっちゃいけない。現地で密売? ははっ。
法を破っても良いのが君の正義の味方像か? そりゃ結構!
なんとも都合の良い正義の味方がいたものだ。
いやそもそも厳密に言えば自警行為や私刑行為だって犯罪だったね。失敬失敬。
おめでとう、君の将来の仕事は職業犯罪者だ!」
「…………爺さんも俺もひっくるめて馬鹿にされた気がする」
「おいおい馬鹿だなマスター。馬鹿にされた気がするんじゃない、馬鹿にされたんだ」
ある晴れた日曜日の昼下がり。
マウント深山商店街から自宅までの長い道のり。
増えた同居人の分を含めた食材を抱えて歩きながら、衛宮士郎は何度目かもわからないため息を吐いた。
隣を歩くのは、豊かに波打った黒髪の美女――美少女?
自分よりは年上だろうと思われる女性で、まあそれだけならポンコツな士郎としても悪い気はしない。
問題は、その女性が何やら友人を連想させるほど口が悪いこと。
そして衛宮家における家事カーストを自分も後輩もぶっちぎって頂点に立ちそうなところだ。
料理はともかくなんだってあんなにふんわり洗濯物が乾くのだろうか。
「しかしこの服は嫌だね。胸が緩くて腹がキツイって色々と矜持ってものが削れる気がする」
「爺さんが何か取っておいた女物の服、勝手に引張り出しておいて……文句あるなら着るなよ」
「歳相応の落ち着きが無い人の服は、胸がキツくて腹が緩いんだよ」
尚、虎は番外である。
「そういえば、キャスターってあんまり身なりに気を使わないイメージがあったな。伝説でも、恋愛関係の話とかってないし」
「あんだけ拗らせた恋愛模様を間近で見てたら恋なんかする気が失せる」
「…………ごもっとも」
だいいち周りの奴が仕事しないから恋愛なんぞする暇が無い――キャスターと呼ばれた女性の愚痴は続く。
とはいえ、そうしてかつての同僚たちをさんざ貶す彼女は、最後の最後までそれに付き合った事を士郎は知っている。
キャスター、聖杯戦争という魔術師同士の闘争儀式に召喚された英霊の一騎。
知らずのうちに令呪が浮かび上がって戦争に巻き込まれ、
夜の校舎で何者かの送り込んだ怪物に襲われた士郎を助けてくれたのが、彼女だった。
目を瞑れば、今でも鮮やかに思い出せる。
月明かりの下、傲岸不遜に君臨し、不敵な笑みと共に怪物に退治した女騎士の姿を。
吹き抜ける旋風と共に顕れ、その身に輝ける炎を纏った、幻のような佇まいを。
(――もっとも、その後で『魔術師の癖して自衛もできないとか馬鹿なの? 死ぬの?
っていうか死ぬ気だよな? 私お前見捨てて座に帰って良い?』とか叱られたけど)
無理も無い話だ。
義父を失って以来、衛宮士郎は独自我流の修行を積んでいて、その力量は三流も良いところ。
そんな奴が『正義の味方』とか理想を抱いて、夢みたいな事を言っていれば、そりゃあ死ぬ。
死なないためには修行が必要という事で、今ではキャスターが士郎の魔術の師だ。
『なんでこんな修行方法してるのさ。自殺願望なのか? とっとと魔術回路で首括って死ね』
ここ数日、彼女はあぐらをかいて土蔵に座る士郎の背中にぴたりと柔らかな胸を押し付けて
――それで集中できないとこっ酷く罵倒される――形を歪ませながら、意外にも丁寧に指導をしてくれた。
魔術回路に生命力を通して魔力に変換する方法。物品に魔力を通す強化。そして投影。
徐々に徐々に手慣れていく士郎を見て、キャスターは難しそうな顔をして呟いたものだ。
『才能があるというより、私との相性な気がする』
もちろんその言葉の意味は士郎にはわからない。
わからないまでも、そのかわり、一つだけわかってきた事がある。
「だいたい、妹のやつといいシロウといい、そういう顔をしたやつは死ぬのが仕事だと思っている節があるからな。
目を離すと死なれるとか凄い面倒くさいから止めて欲しいんだが。
タンスの裏側で死んでる虫とか想像したくないだろう? 本当にさ。勘弁して欲しい。
自分にできないと思うんだったら、できる奴に任せりゃ良いのに。手際が悪いったら。
横で見ててイライライライラしてくるんだよね。合戦じゃなくてストレスで死ぬんだっての」
こうしてぐちゃぐちゃ言いながらも、きちんと荷物を持ってくれるあたり、案外悪いやつではないのでは――?
「とでも思ったろう?」
「……うっ」
「帰ったら強化百本練習だな。お前は馬鹿なんだから身体に覚えさせないと意味が無い。
終わるまで家事禁止。なあに大丈夫、お前よりも遥かに上手く私が掃除も洗濯も夕食も作ってあげよう。
アーサー王も大絶賛のマッシュポテトだぞ、はっはっはっはっはっは」
「……なんでさ」
聖杯戦争から人々を守り、正義の味方になる。
――理想までの道のりが遠く険しいことを、衛宮士郎は改めて実感することになる。
.
【クラス】キャスター
【真名】サー・ケイ
【マスター】衛宮士郎
【出典】イギリス(アーサー王物語、マビノギオン)
【性別】女
【身長】160cm
【体重】55kg
【スリーサイズ】B80/W60/H85
【ステータス】筋力B 耐久A+ 敏捷D 魔力A 幸運D 宝具A+
【属性】 混沌・善
【クラススキル】
陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
"工房"に匹敵する領域を作成、維持することができる。
道具作成:-
魔力を帯びた器具を作成できる。
後述のある宝具を得た代償に失われている。
【保有スキル】
頑健:EX
サーヴァントとして見ても常識はずれの特別な頑強さ。
耐久のパラメータをランクアップさせ、攻撃を受けた際の被ダメージを減少させる。
複合スキルであり、対毒スキルの能力も含まれている。
またサー・ケイは「対人間種」の効果を持つ宝具、スキルの対象とならない。
騎士王への諫言:A
いかなる人物相手でも、その行いを揶揄し、批判する事のできる能力。
相手の行動や態度に何らかの誤りや齟齬、矛盾があれば、それを指摘できる。
またBランクまでのカリスマを無効化し、Aランク以上であれば効果を減退させる。
執事:A
家事全般から内務全般に関する技量。
この領域ならば一国一城を預けても完璧に維持運用できる。
魔術:B
このランクは、基礎的な魔術を一通り修得し、応用できていることを表す。
花の魔術師マーリンより手解きを受けたサー・ケイは、現代の優秀な魔術師以上の能力を発揮する。
【宝具】
『かつて在りし最古の一騎(ナイツ・オブ・オールドワン)
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:50〜99 最大捕捉:100人
花の魔術師マーリンによって与えられた、聖剣の担い手を補佐するための肉体。
サー・ケイの攻撃は神秘の劣る防御を無効化し、サー・ケイに負わされた傷は決して癒えない。
酸素を必要とせず、睡眠を必要とせず、聖杯戦争においては現界に魔力を必要としない。
また魔力の続く限り両掌より炎を放射する事ができ、この炎はサー・ケイが存在する限り決して消えない。
すなわちサー・ケイはその全身そのものが擬似聖剣として改造されている、人型の宝具である。
そのため通常のサーヴァントより遥かに頑強であるが、器物を対象とした攻撃には弱く、また負傷した場合は治療=修理も困難である。
また現界維持にこそ魔力を消費しないが、戦闘や魔力放出にはマスターへ相応の消耗を強いる。
「聖剣ぶっぱすれば勝てると思ってる奴らが馬鹿なんだよホント。聖剣無くしたらどうすんのさ。絶対あの妹無くすよ鞘とか」との事。
『真・風王結界(インビジブル・エア・オルタナティブ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1個
手に持ったものを覆い隠して見えなくしてしまう風の鞘。
正確には魔術の一種で、幾重にも重なる空気の層が屈折率を変えることで覆った物を透明化させるもの。
敵は間合いを把握できないため、白兵戦では非常に有効。
ただし、あくまで視覚に訴える効果であるため、幻覚耐性や「心眼(偽)」などのスキルを持つ相手には効果が薄い。
他にも破壊力を伴った暴風として撃ち出す、乗騎や自身に纏うことで加速や防御に使うなど汎用性は高い。
同ランクの魔力放出スキルとしても扱われる。
ケイはこの術を、義妹のさる宝剣を隠す鞘として伝授した。
「さもなきゃお前は見せびらかして振り回して喧嘩売ってまたへし折るだろ」との事。
【Weapon】
『無銘・武具一式』
特に何の変哲もないただの剣と盾、甲冑一揃い。
ある程度の知識がある者なら円卓騎士、そしてサー・ケイの武具だとわかる。
【サーヴァントとしての願い】
選定の剣を自分が引き抜いた事にする。
.
【解説】
エクター卿の嫡子であり、アーサー王の乳姉妹、義姉妹にあたる騎士。
馬上槍試合で剣を忘れてしまった彼女が、従者を務める義妹に剣を取りに行かせ、
その義妹が選定の剣を抜いて彼女の下に届けた事で、アーサー王の物語は幕を開ける。
以後はアーサー王第一の騎士として仕え、キャメロットにおいては司厨長として宮廷内の全てを取り仕切り、
次々に現れる有象無象の円卓騎士達に片っ端から罵声を浴びせては喧嘩を売り買いし、
義妹の行動を辛辣に批判し、戦場においては最期まで戦い、カムランの丘で果てた。
才知を駆使して一人で巨人を打ち倒し、キャメロットの内務を全て担当するなど武勇智謀がないわけではない。
だが伝説を紐解けば真っ先に相手へ突っかかっていては痛い目を見たり、
ランスロット卿の鎧を借りて「これで相手が怖がって近づかない」と悦に浸ったり、
宮廷に来たばかりのガレス卿に「手が白いから白い手(ボーマン)な」と渾名をつけたり、
そもそも選定の剣を「抜いたのは私だ!」とすぐ見破られる嘘を吐くなど道化じみた行動が多い。
だが極めて短慮に見えるのはともすれば暴走しがちな騎士たちに我が身を振り返らせ、
毒舌なのは全て相手の欠点を突いて自分を省みさせるためで、文字通りの道化役を担っていた様子。
料理に掃除、なかでも洗濯が最も得意というあたり、かなり世話焼きの人物だったのではないかと思われる。
【特徴】
緩やかに波打った美しい黒髪を、斜め後ろで括ってサイドテールにした女性。
平時は「仕事でもないのに執事服着るわけないだろ」と現代の衣装を着用。
戦闘時はきちんと鎧兜に剣と盾を装備した女騎士姿で、愚痴を吐きつつ戦いに挑む。
義妹よりは背が高く、義妹よりはスタイルが良く、義妹よりはキビキビと動きまわる。
何か不始末を見つけるとグチャグチャさんざん文句つけて貶しながらも面倒を見てくれるタイプ。
毒舌世話焼き系家事万能お姉さん。
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【マスター名】衛宮士郎
【出典】Fate/staynight
【性別】男
【Weapon】
強化した鉄板入ポスター、投影した剣
【能力・技能】
・強化
物品に魔力を通して構造を強化する魔術
衛宮士郎は「剣」に特化している
・投影
魔力によって形だけの代用品を製造する魔術
衛宮士郎が投影した物品は消滅せず、また「剣」に特化している。
【人物背景】
第四次聖杯戦争決戦時の火災によって孤児となった少年。
その後、衛宮切嗣に引き取られ、義父より理想と魔術を受け継いだ。
「空っぽになったロボットが人間の模倣をしている」と形容される程度に、どこか危うい。
現在は穂群原学園に通い、学園内の修理・雑用を行い、夜は魔術の修行をしながら、正義の味方への道を模索している。
【マスターとしての願い】
無関係な人を守り、聖杯戦争を最小限の犠牲で終わらせる。
正義の味方になる。
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以上です。
ありがとうございました。
投下します
☆
狂気と正気は紙一重である
☆
そこには瘦せぎすの男がいた。
その男は黒い法衣に身を包み身長はよりもやや高く、深緑の前髪が目にかかる程度の長さに整えられている。頬はこけており、骨に最低限の肉と皮を張りつけて人型の体裁を取っている、と表現するのが適当に思えるほど、生気が感じられない肉体の持ち主だ。
ただし、その狂気的にぎらぎらと輝く双眸がなければの話ではあるが。
男は身を傾けて、己の召喚したバーサーカーをジッと観察している。曲げた腰の上でさらに首を九十度傾け、ぎょろついた目で無遠慮に眺める姿は常軌を逸した奇体さを露わにしており、事実その男の言動は常人と一線を画していた。
「なぁるぅほぉどぉ……こぉれはこれは、興味深いデスね」
ひとしきり、舐めるようにバーサーカーを上から下まで眺めた男は、納得したように頷いた。
男は考え込むように右手で自分の左手を握りしめーー手首に生じている傷口に親指をねじ込み、血が滴るそれを意に介さず、自らの血肉を穿り返す。
「あぁなぁた…………ワタシのサーヴァント、デスよね?」
姿勢を曲げたまま振り返り、男は奇妙な体勢のままバーサーカーを振り仰ぐ。問いを発したその口に、傷口を抉った血に染まる親指を差し込み、鉄の味をその舌でねぶりながら恍惚に、澱んだ光を放つ瞳を震わせて。
「如何にもーー貴殿は何者なるや?」
バーサーカーがそう問いかけるのを聞いて、男は音を立てて唇から指を抜くと、
「あぁ、そうデスか。これはこれは、失礼をしておりました。ワタシとしたことが、まだご挨拶をしていないではないデスか」
問いに応じるように、男は色素の薄い唇をそっと横に裂き、禍々しく嗤うと、ゆっくり丁寧に腰を折り曲げ、
「ワタシは魔女教、大罪司教――」
腰を折った姿勢のまま、器用に首をもたげて真っ直ぐバーサーカーを見つめ、
「『怠惰』担当、ペテルギウス・ロマネコンティ……デス!」
自己紹介した。
「死した身でありつつも現世に舞い戻り悲願を叶えんとするその姿勢!! 良いですねぇ良いですねぇ!! サーヴァントとはなんと勤勉な存在なのでしょう!!」
ペテルギウスは勤勉を尊ぶ。
聖杯からの知識により、サーヴァントが願いをもって座より召喚に応じることを知った彼は、心からバーサーカーを称えた。
「その勤勉さは……是非とも見習わなくてはいけないのデス!!」
まるで舞台役者のように常軌を逸した動作に、しかし道化のようなローブを被った大男は動じない。
「これは幸先が良い……マスターは理解のあるお方のようだ」
ギョロり、と冒涜的な形相を蠢かせ、バーサーカーは嗤う。ここに居るのは英雄ジル・ド・レェではなく「青髭」としての面が色濃く出た故の、怪物であった。
「さらなる悪徳を、冒涜を、背徳を 我が心にありし乙女に捧げるのです。それこそが、我が身の献身にして目的であるのです」
邪悪そのものであるバーサーカーの言動に、しかしペテルギウスが感じ取ったのは極限までの"愛"だった。
「おぉおぉ!!まさしくそれは愛!!ひとりの少女に何もかもを捧げ尽くすその姿勢、貴方はまったくもって勤勉な存在なのデス!!」
涙腺を崩壊させ、感極まったように身をくねらせる。バーサーカーは「そうです」と肯定し、常人なら気が触れてしまいかねないような眼がマスターを写し出す。
「勤勉、そう一途に。我々は証明せねばならない。神は冒涜に無関心だと。そしてより汚し犯すのです。無垢なる魂をこの手でね」
「あ ぁ あ ぁ あ 脳 が 震 え る ! ! 」
どこまでも通じあっていない両者だったが、狂信の域にまで達した信仰と利害の一致により奇跡的に対話が成立していた。
ペテルギウスの目的はひとつ。勤勉と愛を嫉妬の魔女サテラの復活。
バーサーカーの目的はひとつ。救った筈の祖国に、さらには神にさえ見捨てられた聖処女ジャンヌ・ダルクの復活。
手段も精神も何もかも狂っているとしか言い様のない両者だったが、その根底にあるのは間違いなくーー愛だった。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
ジル・ド・レェ
【パラメーター】
筋力B+ 耐久C+ 敏捷C+ 魔力C 幸運E- 宝具A
【属性】
混沌・狂
【クラススキル】
狂化:EX
パラメーターをランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
狂化を受けてもジル・ド・レェは会話を行うことができるが、聖処女を見捨てた祖国と神への憎悪に縛られた彼の思考は"神を冒涜する"に固定されているため、並のマスターでは意志疎通どころか制御すら非常に困難。
ーーあるいは、マスターがよほどの狂人でもない限りは。
【保有スキル】
プレラーティの激励:EX
魔術による筋力強化。バーサーカーとして召喚されたジルの狂気の体現として最大限にランクが引き上げられている。
このランクだと、筋力のみならず幸運を除いたすべてのパラメーターが常に2ランクアップする。
その代償として生前、ジャンヌの死後の記憶がより明瞭になる。
……狂化しているジルにとっては、自身をより悪逆に駆り立てるメリットにしかならない。
深淵の邪視:B
狂気の異相。精神態勢が低い相手を中確率で恐怖状態に陥らせる。このランクだと追加判定で相手のパラメーターがランクダウンする。
殺人鬼としての面が強調されたため、キャスター時よりもランクアップしている。
拷問技術:C
拷問を目的とした攻撃に対して、痛覚増加補正がかかる。
【宝具】
『絶望讃歌の青髭魔城(フォリ・ル・シャトー・ティフォージュ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:90 最大捕捉:100人
殺人鬼『青髭』ーージル・ド・レェの心象風景であり、固有結界。
結界内はジル・ド・レェが生前残虐非道の限りを尽くしたティフォージュ城であり、そこに対象者を引きずり込む。
城には多種多様な拷問器具が常備され、視界を覆うほどの霧が立ち込めている。
この霧はジル・ド・レェの犠牲となった子供達の魂の成れの果てである低級の怨霊たちであり、結界内で犠牲者が生まれるほどに強化される。
怨霊自体は低級なので、サーヴァントへの憑依を試みようと容易く拒絶できる。あえて取り込むことで栄養分とすることも可能。
ただし、抵抗力の弱い一般人や三流の魔術師にとっては呪いのようなもので、憑依されればその怨念に耐えられずに発狂してしまう。
さらにその悪逆行為が数年間も露呈しなかった逸話から、宝具展開中は外界との連絡・干渉手段が一切遮断される。魔力パスも同様で、マスターだけが引きずり込まれた場合、念話はおろか魔力供給すら危うくなる。
さらに城主であるバーサーカーにはランクAに相当する気配遮断が付加され、城内においてのみ、一切他者に関知されることなく行動が可能。
【weapon】
無銘・剣
無銘・拷問器具
『絶望讃歌の青髭魔城』発動時のみ
【人物背景】
英仏百年戦争においてジャンヌ・ダルクと共に活躍したフランス軍の元帥、ジル・ド・レェ。
伝説的な偉業と晩年の凶行から、“聖なる怪物(モンストル・サクレ)”と呼ばれ恐れられている。
バーサーカーversionの旦那。
【サーヴァントとしての願い】
さらなる悪逆を、冒涜をーー
ーーそしてその先にこそ、聖処女の復活が成しえる
【外見】
キャスターの旦那が帯剣してる感じ。全体的により禍々しい感じになってる。
【マスター】
ペテルギウス・ロマネコンティ@Re.ゼロから始まる異世界生活
【ロール】
カルト教団『魔女教』の司祭
【能力・技能】
『怠惰の権能 見えざる手』
大罪司教がそれぞれに宿す因子の一つ『怠惰』を取り込んでいる。見えないところに手を届かせる不可視の腕。
『憑依』
精霊術の素養のないものの肉体を乗っ取る。
【weapon】
『見えざる手』
【人物背景】
魔女教大罪司教『怠惰』担当。誕生日なんて関係ない
年齢402歳。身長180センチ。体重50キロ台 (*1)深緑の髪をおかっぱみたいな長さで切り揃えて、虫のように無感情な目をした痩せぎすの人物。首を傾け、腰を曲げ、奇態な体勢で話すことを好み、また自らの肉体を自傷することを好んで行う、見間違える心配もないぐらい完全に変質者。
名称はオリオン座α星ベテルギウス(Betelgeuse)に由来。
四百年前、魔女サテラが活動していた時代から生き長らえてきた邪精霊であり、宿主の肉体を乗り換えることで生を繋いできた。また同じ400年前ごろにエキドナ及びベアトリスと面識があった模様で、askによると元は土の微精霊。
彼の生きる理念は『勤勉さ』と『愛』の二つだけであり、それを証明することだけが彼の生き甲斐であり、生きる理由。最初期の大罪司教であり、サテラへの偏執的な愛情も大罪司教の中でもっとも強い。福音書の記述に従い、他の魔女教徒の誰よりも先駆けて活動することから、魔女教の中でも突出してその存在の知名度と被害の大きさを高めていた厄介者。
肉体のない邪精霊であることから、乗り移った肉体が感じるあらゆる五感に快感を得る。特に痛みに関しては生の実感を強く味わえることから、過剰な自傷行為に走る傾向があった。
クズばかりの大罪司教の中で最初の敵であり、その脅威の一端を知らしめられたと思える好人物。その行いの数々の根幹、彼と魔女との関わりは実は物語の深いところに絡みついており、『ペ』テルギウスである理由や、四百年前にいったいなにがあったのかなど作品全体を見てもけっこうな重要人物。
【聖杯にかける願い】
嫉妬の魔女サテラの復活
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「また盗難届けか」
部署を見回っていた、冬木警察署の捜査三課、その課長のポストに就いている、髪の薄い中年の男性が言った。
「此処の所は特に多いですよ……異常な程です」
三課の庶務を担当する、眼鏡をかけた中年女性の事務員が、ウンザリしたような口調で口にした。
彼女がそう愚痴るのも無理はない。見るがよい、彼女が向かっている机の隅に置かれた、書類の山!!
これが全て盗難の被害届と言うのだから、異常と言う他ない。
この国で一番多い犯罪は窃盗、その中でも自転車泥棒と万引きが圧倒的である。
一年で起ったこれらの犯罪数から計算すると、これらの事件は三十秒に一回は日本全国で起きていると言う結果になるらしい。
言い換えれば、窃盗事件を扱う三課は、三十秒に一回は自分達が処理せねばならないタスクを背負っている事を意味する。
それ故、三課は常に多忙を極めると言っても良い。何処の警察署でも人不足は常なる事であるが、三課は特にその御多分に漏れない。
冬木の警察署でもまた、三課は非常に忙しい。課長としては、後二十人程はその道のプロが欲しい位だった。
尤も、幾ら忙しいと言っても、首都である東京程ではない。冬木はそれなりに平和な街であるので、窃盗の犯罪数も、あるとは言っても全国平均に比べれば低い筈だった。
それが、ここ数日で爆発的に増えた。
しかも、万引きや自転車泥棒と言う類ではない。空き巣や、会社に設置されている金庫が盗まれるなど、三課が直々に出動、調査しなければならないレベルのものが殆どだ。
冬木にも事件だってある。窃盗の類は勿論の事、殺人だってゼロじゃない。だが刑事事件と言うものは自然現象ではなく、人為的なものである。
ある時突然爆発的に上昇したり、ある時突然急激に減ったりすると言う類のものではないのだ。増える時は段階的に、減る時もやはり段階的にと言う事が当たり前。
その普通じゃない現象が何故か起っている。無視出来ないレベルの規模の空き巣及び不法侵入が突発的に、そして爆発的に増えているのは、どう言う事なのか。
「大規模な窃盗グループでも潜伏しているんじゃないのか?」
「捜査班もその可能性を当初は考えましたが、どうもその線は薄いようです」
「何故だ?」
「手口が同一犯のものとみて殆ど間違いないみたいなのです。侵入『した』形跡が何処にもない上に、侵入した所から『出て行く形跡すらもない』。代わりに、住居を物色した跡だけが残されている、と言う奇妙な事になっていまして……」
それは奇妙だと課長も思う。科学捜査と言うものが発展した現代において、犯罪が露見しない可能性と言うのは限りなくゼロに近い。
未解決の事件と言うものは、この世界には確かに多い、日本とてそれは同じだ。だが、『既に起った犯罪が誰の目にも触れられないまま』時効を迎えた、
と言うケースは、ベテランの刑事でもあるこの男が知る限り数件しか存在しない。住居侵入など、後から警察が調査すれば百%の確率で事が露見する事件の代表だ。
どのルートから侵入したのかと言う事は元より、其処で何をしたか、果ては、侵入者自身も気付かないような癖すらも、警察の力なら見抜く事が出来る。
不法侵入に於いて真っ先に露見する筈の、何処から其処に入り、何処からそこを去ったのか。それが解らないと言うのは俄かに信じ難い。幽霊の所業としか思えない。
「大層な怪盗なものだ……」
ウンザリしたような口ぶりで課長が愚痴った、と同時に、慌てた様子で三課の事務員の一人が課に転がり込んで来た。
「す、凄いヤマが来るかもしれませんよ!!」、その口ぶりはそのタスクの大きさと同時に、これから訪れるであろう地獄その物のような殺人的スケジュールの予感を感じさせる。
「何があった?」
「冬木市内の金庫から、数千万もの大金が盗まれました!!」
嘘だろうと思いながら、課長は頭を思いっきり痛めた。当然これは窃盗を担当する三課の領分であるが、此処までとんでもない仕事を任される事になるとは思わなかった。
寝ずの捜査を行わねばならないか、と課長は覚悟を決める。ベテラン刑事の頭の中には既に、相手を追い詰める為の計画がプランニングされ始めているのであった。
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
男は知っていた。いつの時代だって音楽と言うものは聴く側ではなく、創作者の側になると、途轍もないレベルの金と教養がいるのであると。
クラシック、ロック、メタル、雅楽。何だっていい、こいつらは何時だって金食い虫だと言うのが、男の持論だ。
何に金が掛かるのか? 音楽の意味や歴史を理解する教養を付ける為の教育にか? それもある。類稀な演奏技術を身に付ける為にか? これもある。
楽器を何時でも完全完璧なコンディションで演奏する為の体作りとその維持か? 成程確かに、それにだって金が入用になるだろう。
だがやはり一番金が掛かるのは楽器だ。一流のミュージシャンは一流であるからこそ、己の手足にも等しい道具の選択には余念がない。常に本気である。
貧乏なミュージシャンならばカードローンに手を出してでも欲しがるような楽器を、一流どころはあれでもないこれでもないと使い捨て、そして納得が出来ないので、
数千万、時によっては億にも届く程の金を出して、自分だけの楽器を作るか、音楽史では伝説にもなる程の古典的名器を捜して求める者もいる。ヴァイオリンの世界では伝説とすら言われる名器、ストラディバリなど有名であろう。
『音石明』はギタリストだった。
勉強が嫌だとか、社会に出るのが嫌だからと言う、半ば現実逃避染みた理由でギターの世界に逃げた半端者ではない。
心の底からギターを愛し、激しく、そして熱く、死ぬまで光り輝いて生きたいと願う男だった。
尊敬するギタリストは何と言ってもジミ・ヘントリックス、そして、ジェフ・ベック。エディ・ヴァン・ヘイレンやスティービー・レイ・ボーンも素晴らしいと思っていた。
彼らのような、万人が認めるような凄まじいギターテクニックを身に付ける。これもまた、音石の身果ての夢の一つだった。
だがそれには練習が付き物だ。音楽のジャンルは種々様々、人によってはそのジャンルに高尚・低俗と言う心底下らぬラベルを付けたがる者もいるが、
練習が大事であると言う事については誰も異論をはさむまい。音石だって、時間があれば練習に耽る。そしてその結果、超絶のギター・テクを手に入れられた。
今日も音石は、冬木市内の完全防音仕様のスタジオを一人貸し切って、エレクトリック・ギターをこれでもかと掻き鳴らしていた。
無論、ただのエレキギターじゃない。俺の望む音楽を奏でるのは、お茶の水や水道橋近くの楽器屋で売ってるような安物じゃない、そう彼は常々思っていた。
故に、自分の音楽性を発揮するのにこれ以上となく相応しいギターを、彼は自作していたのだ。
ギターのボディは中南米はホンジュラスから産出された1973年のマホガニー。音響的には最高の素材であり、汗を吸い取りやすく、
しかも吸い取れば吸い取る程音が良くなる曰くつきの逸品だ。ギターのネックは100年間も暖炉の素材に使われたクルミの木から作られている。
これによって、弦に狂いがなくなり、かつ音もビビらなくなるばかりか、音石が理想とする渋く、そして味わい深い音楽を奏でる事を可能としている。
そして、エレキギターの心臓部とも言われる程のピックアップ部分は、音のパワーを底上げする二列のハムパッキング。
トレモロユニットも搭載しており、アームを動かすと音がウィンウィン鳴り響くゴキゲンな代物である。
楽器には金が掛かり、しかもオーダーメイドでこれだけの逸品を作るとなると、それはそれは多量の金が入用となるだろう。
しかも、スタジオを一日借り切って練習をするとなると、これも馬鹿に出来ない金がいる。まだ二十歳にも満たない、世間的には大学生である音石が、
何処からこの金を捻出したのか? その答えは単純明快、音石が掻き鳴らすこのギターも、スタジオを貸し切れるだけの金も、全て『盗んだ』ものだからだ。
音石明と言う男が働いて得た糧で獲得したものなど、此処には一つとして存在しない。此処にあるのは全て、元は他人のものであったもので構成されていた。
「――どうよ? オレのギターテクはよぉ? 『キャスター』」
二分程に渡る演奏を終え、音石明は開口一番そう言った。
ギタリストである事から、音石はスピーカーやアンプにも拘るが、あの超能力を手に入れてからは、アンプを通さずともエレキギターの音響を発させる事が出来るようになった。今回の演奏はアンプではなく、己が超能力を駆使しての演奏であった。
「素晴らしい音ですわ……最高に『ロック』です……」
と、音石の演奏を褒めるのは、彼から見て真正面の所で佇む女性だった。
緋色の髪で左目を隠し、長く伸ばし背中の中頃まで伸ばした後ろ髪をポニーテールに纏めた女性だった。
二重の瞼、摘みたての苺を思わせる艶やかさの唇。美と言う物を構成する主要な顔のパーツ、そのどれもに、不揃いの部位がない。つまり、掛け値なしの美女である。
燃えるような紅色をした紅葉の紋様際立った、仕立ての良さそうな茜色の和服を身に纏っているが、ドレスコードに煩い者が見ればきっとカンカンになるだろう。
着崩している上に、改造が過ぎるのだ。後数cmズラしてしまえば、1mは超えているであろうその豊かな乳房は完全に露出してしまいかねない程で、
裾の丈に至ってはミニスカートかと錯覚する程に短い。膝頭よりも二十cm程も短く、殆ど生の脚を披露しているも同然だった。
間違った和服の着方であるのは、流石の音石だって解る。解るが、これがヤケにサマになっていると言うのだから、美人と言う人種は得であった。
「聴く者の心に響く様なその音響……!! 良いですわ、とても気に入りました、そのギターを私に寄越しやがりません?」
「オイオイやる訳ないだろ。て言うか、このギターが確かに良い奴だってのはその通りだが、それ以上に、それを弾く俺の腕があってこそのあの演奏だぜ?」
「いえ、私は別にマスターのゲロゴミカスみたいな演奏技術はどうでも良いと思ってますので、その楽器だけ寄越して下さればそれで結構ですよ」
「ふざけんな馬鹿野郎!! 其処まで言われたら絶対にやらねぇぞ俺は!! 第一、お前に渡したギターは全部どうなった!? 練習の時点でギタークラッシュさせんな馬鹿ッ!!」
「あれはその……私の腕力に耐えられない雑魚ギターが悪いんです!! 私は潔癖ですわ!!」
確かに、それはある。見た目からは想像もつかないが、キャスター……真名を『紅葉(くれは)』と言う名のこのキャスターは、
キャスターランクにあるまじき筋力スキルを誇る。と言うのもそれは、彼女が鬼の系譜に連なる存在であるからだ。鬼の腕力は凄まじい。
彼女の細腕は、一見すれば生涯で箸より重い物など持った事もなさそうな程華奢そうなそれなのだが、その実、
本気で殴れば身長の倍以上もある大岩を容易く粉砕する程の力を秘めているのだ。
当然、そんな腕力と指の力でギターを弾くのだから、演奏される楽器がひとたまりも無くなるのは無理なき事。
紅葉の我儘の為に冬木の楽器店からかっぱらって来たエレキギターを、演奏開始と同時に彼女が破壊する現場を、音石は何度も見て来たのである。
――そう、今冬木の街で騒ぎになっている、大量の空き巣被害。その根本は彼、音石明のスタンドである、レッド・ホット・チリ・ペッパーの手による物だった。
音石明が超能力者――つまり、スタンド使いと呼ばれる人種になったのは、何時だったのかは彼自身も忘れてしまった。能力を手に入れた事実の方が重要だからだ。
音石は己のスタンドであるチリペッパーは、強い上に便利と言う素晴らしいスタンドだと確信していた。
電気をエネルギーにして何処までも強くなり、電気を伝ってどんな場所にも潜入出来る凄まじいスタンド。今日、電気の通っていない都市などあるだろうか?
この日本、今やどんなド田舎にだって、電化製品を稼働させる為の電線がある。先進国である以上、この国のどんな場所も、電気に依存せざるを得ないのだ。
故に、チリペッパーは強く、そして便利だ。電気の力があればどんなスタンドにも負けぬパワーとスピードを発揮出来、電気が通っていればどんな所にも侵入出来る。
チリペッパーに侵入出来ない所など、大気圏外の世界ぐらいのものだった。
己をスタンド使いにした虹村形兆をこの手で殺害し、弓と矢を奪い取ってから数日程経過した時だった。
音石は気付いたら、杜王町から、全く彼とは縁も縁もない冬木の街に飛ばされ、剰え、冬木市民のロールすら与えられていた。
困惑しない筈がない。筈がない、が。ある一つの情報が、困惑と言う感情をぶっちぎった。
それこそが、聖杯に纏わる情報。これがあれば、どんな願いでも叶うのだ!! 俗物の塊である音石がこれを求めない筈がない。
呼び出されたキャスターも、聖杯の獲得にはとても意欲的であるのだが、見ての通り手前勝手な性格である。其処が音石の悩みの種だった。この上まともにやり合っても勝ち目がゼロと来ているのも、頭を痛ませる原因である。
「兎に角、俺のこのギターは特別なんだ。お前には絶対貸さないぞキャスター」
「まぁ!! 顔も不細工ならば心もクソみたいに淀んでますわね!! 何て心の狭いマスターでしょう、夜道には気を付ける事ですわね!!」
ゾクッとするのは音石の方である。
見た目は音石の力でも屈服させられそうなか弱そうな外見だが、その実紅葉は日本の伝承の中でその恐ろしさが雄弁と語られる鬼の一人なのだ。
そんな人物に夜道に気を付けろなどと言われたら、恐ろしさを感じない訳がない。しかも目の前のサーヴァントは、かなりトンチキな口調で本質がボヤけているが、
その性情は音石なぞよりもずっと危険な存在だった。何せ音石自身、初めてこのサーヴァント見た時、殺されるとすら思っていた。
自分以上に、人を殺す事に躊躇のない怪物。それこそが、鬼女紅葉だと、一目で解らせる力を、このサーヴァントは持っているのだった。
拗ねた紅葉は、手元に何かを引き寄せ(アポート)させた。
三味線や琵琶に似ていると音石は思ったが、実際は違う。それは琴だった。中国から伝わり、日本で独自の成長を遂げた、和琴である。
それを、何故だか知らないが彼女は無理やり、ギターの形に改造させたのである。遠くから見れば間違いなくそれはギターとしか見えないのだが、
近くに寄ってみれば一目瞭然。明らかにそれは、和琴だった。それを彼女は無理やり掻き鳴らした。鳴らされる音は、全然ギターのそれじゃない。
普通に演奏すれば、耳に心地よい澄んだ音が響く見事な楽器になるのだろうが、力加減から何まで滅茶苦茶に弦を掻き鳴らしまくっているので、その音には雅さの欠片もなかった。
いつまでも拗ねさせたままではアレだと思ったので、音石も自分の楽器を掻き鳴らさせ、紅葉の琴とセッションをさせる。
ギターの音と琴の音では、全くと言っていい程反りが合わなかったが、少なくとも、紅葉の機嫌が良くなったのか、顔が少しだけ楽しそうになり、演奏もヤケにノり始めて来たので、音石はよしとするのであった。
【元ネタ】紅葉伝説(10世紀上旬)
【CLASS】キャスター
【真名】紅葉(くれは)
【性別】女
【属性】混沌・中庸
【身長・体重】174cm、61kg
【ステータス】筋力:B 耐久:C 敏捷:C 魔力:A 幸運:C 宝具:A+
【クラス別スキル】
陣地作成:D
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。“結界”の形成が可能。
道具作成:E
魔術的な道具を作成する技能。ちょっとした護符程度。
【固有スキル】
鬼種の魔:B++
鬼の異能および魔性を表すスキル。天性の魔、怪力、カリスマ、魔力放出、等との混合スキル。
魔力放出の形態は、キャスターの場合は『音』であり、相手を洗脳する心地の良い音や、地面を割り樹木を粉砕する程の大音響で範囲攻撃を行ったりする。
キャスターは人間の両親から生まれた突然変異の鬼であり、その点で純粋な鬼ではなく本物の鬼種である鬼達に比べてスキルランクは低いが、
第六天魔王としての因子を多分に有している為、これを利用する事で純然たる鬼に肉薄する程の能力を行使する事が出来る。
鬼道:A+
周囲に存在する霊的存在に対し、依頼という形で働きかけることにより、様々な奇跡を行使できる。
行使される奇跡の規模に関わらず、消費する魔力は霊的存在への干渉に要するもののみである。
あくまで依頼であるため、霊的存在が働きかけに応じない場合もあるが、キャスターは他化自在天の力を持った女の為、成功率はとても高い。
芸術審美:C
芸術作品、美術品への執着心。芸能面における逸話を持つ宝具を目にした場合、高い確率で真名を看破することができる。
人間だった両親に育てられた時と、京の有力貴族の家に嫁いだ際に、教養として学んだ。
【宝具】
『鬼々怪々紅葉琴(ファッキン維茂ですわッ!!)』
ランク:D 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1〜50
キャスターが有し、生前奏でていた琴や、その演奏技術が宝具となったもの。
本来の宝具の形は名前通り琴であるのだが、現代の芸術文化や文明に憧れるキャスターが、無理やり琴の形からギターの形に改造させてしまった。
しかしそれでも宝具としては機能する。精神操作を行わせる音色を奏でたり、音響を攻撃に転じさせる事で、相手を吹っ飛ばすほどの大音響を発生させる事が出来る。
因みに宝具の真名にしても正しい物ではなく、憎んでも憎み切れない男に対する怨嗟をキャスターは宝具名に採用している。
『天魔憑依・他化自在天』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
キャスターの中に存在する、第六天魔王の因子を強めさせ、自身を彼の魔王の存在に限りなく近づけさせる秘術。
第六天魔王とは即ち、仏教においては彼の帝釈天よりも上位の天部に位置する守護天である他化自在天であり、
仏門にとっての恐るべき魔王であるマーラ・パーピーヤスであり、ヒンドゥー教における愛欲と性欲を司る神・カーマである。
この姿に変貌する事で幸運以外の全ステータスはA+にまで引き上げられ、鬼種の魔と鬼道のスキルランクが上昇する。
また、元々が愛欲を司る神であり、仏教の中においても仏僧を悟りから遠ざけさせ、肉欲を以って物質世界に楽を齎そうとする存在である為、
精神に関わる魔術も解禁になる。非常に恐るべき強さを誇るようになる形態だが、己を第六天魔王と言う高次の存在に近づけさせる宝具の為、これを発動させている間の魔力の燃費も、爆発的に悪くなる。
【Weapon】
【解説】
紅葉伝説とは、信州、今の長野の辺りに伝わる、紅葉と言う鬼女に纏わる伝説の事である。紅葉は『もみじ』ではなく『くれは』と読む。
紅葉とはこの伝説に出てくる女主人公の名前であり、物語は、紅葉の討伐に勅命を承けた平維茂が紅葉と戦い討ち捕る話として伝えられている。
紅葉伝説は語られた場所や語り手によって話の筋が変わる為、現在でも幾つものパターンが伝わっている。
パターンは様々だが、会津で生活していた伴笹丸と菊世と言う夫婦が第六天魔王に祈った事で生まれた子供であり、非常に美しくて頭も良く芸術面にも明るかった事と、
両親と共に京に上り源経基と言う貴族と愛し合い子供を成した事。京で起こした悪事が原因で都を追放されてその先で生活、盗賊団を結成した事。
そして妖術を駆使して京へ上るも其処で維茂と戦い討ち取られる、と言った箇所は、どの伝説でも変わっていない。それでは、型月真実は如何なのか?
落魄した京の役人である伴笹丸と菊世は、せめて子供が欲しいからと、第六天魔王こと他化自在天に祈願、気まぐれにこの祈りを聞き届けた魔王が、菊世に子供を授ける。
これが所謂呉葉であり、この子供に両夫婦は読み書きや和歌、琴を教え、呉葉もそれに対して天才的な才能を発揮し、更に非常に美しい容姿を得る。
夫婦は、余りにも呉葉が素晴らしい才能の持ち主の上、非常に美しい容姿をしていた為、京の雲上人、もっと言えば時の帝の寵愛すら受け、
昔以上の生活を送る事も夢ではないのではと考えて上京するも、その道中でこの夫婦の意図を読んだ事と、この夫婦に縛られて生活するのはやだと考え二人を殺害。
だが流石に両親を殺して会津に戻る訳には行かず、そのまま京へと赴き、紅葉の偽名で街の子供や町人たちに文字を教えたり、琴を弾いたりして生活していた所を、
源経基の御台所の目に止まり、彼女の侍女となる。しかし高い教養と雛に稀なる美女の為、経基自身の目に留まり、彼に惚れられる。
どうせなら京の都で面白おかしく過ごしてやるかと思い、経基とヤって身籠るも、これに嫉妬した御台所により謀殺されかけるが、逆に紅葉は鬼道で殺し返す。
それが露見したのと、紅葉の正体が第六天魔王の因子を継いだものだと発覚。京を追放される。追放された先で、「しゃーない切り換えて行け」感覚で心機一転。
追放先で寺子屋的なものを営み始める。頭も良く美人だった紅葉は村人達からは非常に好かれただけでなく、鬼道で豊作を約束させたりもしたので、非常に崇められた。
これに気を良くした紅葉は、もののついでに追放先から結構離れた所で暴れてた妖怪やら鬼をボコボコにして家来にしたりとやりたい放題だった。
そんな事をしている内に、経基の子供である経若丸を出産し、経若丸達と一緒になんだかんだ十年以上楽しく過ごすが、ふと紅葉は、何だか養育費が欲しくなり、
これをせびりに経若丸の実の父である経基のいる京へ向おうと画策。こうして、紅葉と配下の鬼や妖怪からなる山賊団と息子の経若丸と一緒に京へGO。
当然こんな化物共が来るので京の都は大慌て。全力で紅葉の一軍を迎え撃つ。激しい死闘の末、平維茂が神剣で紅葉とその息子にとどめをさして事態は終結。
最期の言葉は、『子供を育てるお金位送ってくださいませこのケチ!! 馬鹿!! 死ね!!』だったと言う。
享年33歳、維茂に討ち取られた時の彼女は、京を追放された19歳の時から外見も精神性も全く変わっていなかった。
第六天魔王の力を受け継いだ、両親ともに人間から生まれた突然変異的な怪物である為、真正の鬼ではないし、そもそもの問題として鬼とは別種の怪物である。
便宜的に鬼と言われているだけであるが、その戦闘能力はかの他化自在天の力を多分に引き継いだ、魔王に近しい存在の為恐ろしく高い。
有る伝説によれば維茂の率いる大軍を炎の雨を降らせて焼き殺したり大洪水を引き起こして溺れ時にさせたりして軽くいなしていたなど、その鬼道の腕は凄まじく高い。
伊達酔狂を好むのが鬼の特徴であるが、彼女もその特徴から外れていない。但し彼女もまた鬼らしく非常に享楽的な性格で、命を命と思っておらず、簡単に人を殺す。
但し、元々が人間出身の人間よりの性格の為か、人に対してはそれなりに優しい。おだてられやすく、元々追放先の村で妖怪や鬼、山賊退治をやっていたのは、
もっと褒められたくて崇められたかったから。新しいものが大好きで、最近はロックがお気に入り。元々は琴だった宝具を無理やり改造してギターにしてしまった程。
ノリこそ全てと思う所が多々あり、養育費が欲しかったのも本当に気まぐれだった。未だに養育費を払ってくれなかった源経基と、自分を殺した平維茂については怒り心頭。特に後者については、宝具名を変える程の怒気を示している。
ちなみに、ローズヒップをビー・バップ・ハイスクールに押し込んだような、お嬢様口調とガラの悪い不良口調が混じっているのは、
元京の役人である両親の教育と京で源経基の教育により培った口調と、追放された先で盗賊達の野蛮な口調が混ざり合ってスパークを起こしているから。
当時の時点で部下の鬼や妖怪達からおかしいと思われていたが、突っ込むと殺されかねないので誰も突っ込めなかった。因みに現代基準でもおかしい事に紅葉は気付いてない。
【特徴】
緋色の髪で左目を隠し、長く伸ばし背中の中頃まで伸ばした後ろ髪をポニーテールに纏めた女性。
つまり、掛け値なしの美女であり、その顔のパーツの何処にも、他に比べて出来が劣っているなと言う風な所はなく、全て完成度が恐ろしく高い。
燃えるような紅色をした紅葉の紋様際立った、仕立ての良さそうな茜色の和服を身に纏っているが、これを完全に着崩している。
後数cmズラしてしまえば、1mは越えは容易い豊かな乳房は完全に露出してしまいかねない程胸元は露出させており、
裾の丈に至ってはミニスカートかと錯覚する程に短く、生脚をの八割以上を晒している状態に等しい。要するに、改造和服である。
【聖杯にかける願い】
十四歳と言う若さで非業の死を遂げた息子と共に生活をする……ではなく、受肉して自分だけいい生活をしたい。
息子の事は愛してはいるが、生前は十四歳まで育てたんだから別に今回だけは自分が楽しんでも良いっしょwと考えている。彼女もまた、自分本位極まりない鬼の世界の住民なのであった。
【マスター】
音石明@ジョジョの奇妙な冒険Part4 ダイヤモンドは砕けない
【聖杯にかける願い】
聖杯を手に入れる。願い自体は考え中
【weapon】
【能力・技能】
スタンド、レッド・ホット・チリ・ペッパー:
破壊力:A スピード:A 射程距離:A 持続力:A 精密動作性:C 成長性:Aの遠隔操作型のスタンド。
但しこれらのステータスはサーヴァントのそれと全く同一のそれではなく、サーヴァントに比べれば若干強さは劣る。
……但し、電力の供給が最大状態ならば、一時的にサーヴァントを遥かに超える程の強さを発揮可能。
人型のパキケファロサウルスを思わせる姿をしており、『電気を操り、電気と同化する』事が能力の本質。
電気があるのならどこにでも移動可能であり、コンセントや電線の中を移動する。バッテリーなどの電源に潜むことも可能。
触れた他の物体を電気と同化させて電線の中に引っ張り込む事で移動させたり感電死させる事も出来る。
遠隔操作型のスタンドであるが、電気を吸収すればするほど強くなり、電力量によっては近距離パワー型のスピードとパワーさえも超えられる。
特にスピードは能力の特質上光速に近い速度で動けるため、スタープラチナのような時間を止めるスタンドでもない限り追いつけない。
弱点は、電力がない所では全く力を発揮できない事と、スタンドを解除できないまま電力が失われるとスタンド自体が消滅してしまう危険があること。
また電気の性質を受け継いでいる事がそのまま長所でもあるが短所でもあり、絶縁体には非常に弱く、さらに海水に放り込まれれば電力が散ってしまい死んでしまう。
音石はこのスタンドを操る力を持っている為か魔力を多少有している上に、チリペッパーの性質上電力を魔力に変換させる為非常に大きいアドバンテージを持つ。
但し、如何に音石と言えど、第六天魔王としての宝具を発動させた紅葉を運用するには凄まじい程の魔力(=電力)が必要になる。魔王としての姿を維持させるなら、冬木全土の電力が必要になるであろう。
【人物背景】
ギターをこよなく愛するロッカー、19歳。夢はウルトラ・スーパー・ギタリストになって激しく熱く生きること。
虹村形兆によりスタンド能力を引き出されたスタンド使いの一人で、スタンド能力が成長した後、彼を殺害して「弓と矢」を強奪する。
スタンドを悪用して盗みを働きやりたい放題していた。盗んだ額はなんと5億円相当。人殺し自体は、形兆以外にはしていなかった模様。
形兆を殺し、弓と矢を手に入れてから数日後の時間軸から参戦。弓と矢は杜王町に置いて来た。
投下を終了します
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素材を使ってゲームっぽく支援
ええな
>>383
>>583
支援絵ありがとうございます! 嬉しい!
やはりビジュアル化されると、よりイメージが鮮明になって、楽しさが倍増しますね!
wikiの方に掲載してもよろしいでしょうか?
>>583 じゃあなく、 >>538 でした
どうぞ
投下します
ごうごうと街が燃えている。
恐怖に戦く人々の声がする。
赤々と燃える炎の中に揺らめく影が映った。
影が次第に人と馬へと形を変えていく。 現れたのは、血の様に紅い色をした機械の馬と、巌の様な大男。
燃え盛る炎の中から出てきたというのにその身には火傷も1つもなく、ただ超然と怯える民と兵士を馬上から見下ろしている。
政の中心地だった都を燃やしてなお顔色ひとつ変えずにいるこの男を見て、居合わせた人間は恐怖と共にこう呼んだ。
――魔王――
「……」
夢を見ていた。
俺のサーヴァントの夢。
俺とは違う世界の、漢と呼ばれていた王朝でのあいつの所業。
魔王と呼ばれ、恐れられた男。
「うなされていたようだな、小僧」
地獄の底から聞こえてくるような低い声が俺の仮住まいに響く。
何もない空間から、夢で見た魔王が姿を現した。
「夢を見ていたよ、あんたの過去だ」
「ほう」
じっとりと汗に濡れた寝巻きの気持ち悪さに顔をしかめながら、魔王・ライダーへと顔を向けた。
常人であれば悲鳴を言葉を失うほどの威圧感はなりを潜めているが、小さな子供なら目があってしまっただけで泣いてしまいそうな程の強面がある。
俺の返事に対し、ライダーは興味深そうに片眉をあげた。
「いつの頃だ? 涼州か、長安か、それとも洛陽か」
「地名なんか言われてもアレフガルド生まれ、アレフガルド育ちの俺にわかるかよ。ただ、そうだな。街が真っ赤に燃えて、アンタが紅い馬に乗ってた。」
「ふむ、洛陽、それも遷都の時か」
厳めしい顔に相応しい、ニヤリという効果音が聞こえてきそうな笑みをライダーが浮かべる。正直怖い。
「俺の所業を見た感想はどうだ? "勇者"」
ライダーが底意地の悪い笑みを俺に向けてくる。
つーか俺、こいつに自分が勇者だった身の上なんて話してないんだけど。
まさか。
「お前、俺の……」
「眠りを必要とせぬサーヴァントが夢を見るというのも不思議な話ではあるが、まあ互いが互いに己の境遇でも見たのだろうよ」
うげ、と思わず声をあげてしまう。
こいつはきっと最後まで見ているという確信が俺の中にあった。
俺の勇者としての戦いと、その最後を。
勇者が常に正しい選択を取るとは限らない。
その典型例が俺だ。
勇者ロトの子孫にして次代の勇者。それが俺の肩書き。
俺の住むアレフガルドは竜王という魔王に脅かされていて、俺は世界を救うことを期待されていたし、俺もそのつもりだった。
しかし、その実態は酷いものだ。
たったの120Gぽっちと松明を餞別に渡されて以降は支援もなにもなし。
ご先祖様は志を同じくする仲間達と共に大魔王を倒したっていうのに、俺についてきてくれる奴は一人もいなかった。
どの街に行っても民衆は俺を都合のいいヒーローだと勘違いしやがる。
何もしないで自分達は勇者たる俺に救われて当然、そんな見え隠れする意思にはヘドが出そうだった。
たった一人で化け物を殺していくだけの長い、長い旅路。
そんな旅を続けている内に、俺の心は擦りきれて荒んでいった。
人々を助ける為の戦いから、勇者という呪縛から逃れる為の戦いに目的はすり変わってしまっていたのだ。
だから、あの誘いに乗ってしまったのだろう。
『もし わしの みかたになれば せかいの はんぶんを きさまに やろう』
全ての元凶、竜王と呼ばれる魔王が玉座に腰掛けながら俺を懐柔しようとして来た。
竜王と戦わずに勇者の呪縛から解かれる。
もう、孤独な戦いをしなくてすむ。
気付けば俺は竜王の誘いを受けていた。それが何を意味していたのかも知らずに。
『では せかいの はんぶん やみのせかいを あたえよう! そして… おまえの たびは おわった。
さあ ゆっくり やすむがよい! わあっはっはっはっ』
その言葉と共に俺は一面に闇が広がる世界へと閉じ込められた。
一時の気の迷いを俺は後悔した。それでも起きてしまった事を覆すことはできない。
疲弊していく精神の中で"もしもやり直すことができるのなら"とただ奇跡を祈りつづける。
それからどれだけ時間が過ぎたのかは分からないが、気付けば俺はこの見知らぬ街にいた。
願いを叶える聖杯を手に入れる為の戦争。
これが精霊ルビスの与えたもうたチャンスなのかは知らないが、あの闇にとらわれ続ける未来しか待っていなかった俺に聖杯戦争に参加する以外の選択肢など存在しなかった。
「どうした、答えられんのか?」
ライダーがどっかと床に座り込み。両腕を組んで俺を見やる。
この野郎、俺が答えるまで居座る気でいやがるな。
「……そうだな、一言でいえば怖かった、かな」
周囲に燃え盛っていた炎すら一瞬で凍えさせるような冷たさを持っていたこいつの瞳を思い出す。
あの目は必要があればどれだけ非道な事だろうと眉1つ動かさずに実行する、そんな目だ。
底知れない不気味さを湛えた竜王の瞳とは、別種の恐怖があった。
ほう、と関心を伴った息がライダーから漏れた。
「怖い? 数多の魔物を屠ふり、アレと対峙し、勇者と持て囃されたお前がか?」
"アレ"という言葉からライダーが竜王と対峙した俺の顛末まで知っているということは察しがついた。
にしても持て囃されたとは刺のある言葉を使いやがる。ま、否定はしないけどな。
「勇者だって怖いもんは怖いさ。でもその恐怖を知ってなお乗り越える事ができる者こそが真の勇者だ。 ……って話はガキの頃から聞かされてたよ」
「つまり、お前は俺という恐怖を乗り越えられるという訳か」
「俺の最後は見たんだろ? 俺は勇者の出来損ないさ、その質問は底意地が悪いぜ?」
自嘲を浮かべ、大げさに首を横に振ってみせる。
俺は勇者にはなれなかった。
孤独という恐怖に、竜王という恐怖に、死という恐怖に俺は屈し、安易な道を選んでしまったロクデナシだ。
「ならば何故、お前はこの戦に臨んだ」
ライダーの口調と表情から笑みが消えた。
ギョロリとした目を見開いて俺を見る。
まるで心臓を鷲掴みにされたような緊張が体を支配していく。
「お前は元の世界に帰ることが望みと言っていたが、よもやあの暗闇の世界に帰りたい訳ではあるまい」
「……ああ、俺が戻りたいのはアレフガルドだ」
「戻ってどうする? 待っているのはお前が屈した魔王と、勇者などという偶像にすがるだけで自らは動かぬ能無しばかりだぞ?」
ライダーが疑問を投げ掛けてくる。
こいつの言う通りだ。アレフガルドに戻ったところで、勇者なんて肩書きを背負ったままの俺はまた竜王と戦わされる羽目になる事ぐらいは予想がつく。
助けてくれる奴なんていない、また孤独な戦いが始まるだろう。
だけれども。
「あいつを俺の手で倒さなきゃ、俺はずっとあいつを怖れて暮らす事になる。それが嫌なんだよ」
ここに来て、別の世界に逃げる事も考えた。
聖杯戦争なんて忘れて、勇者でもない一人の男としてこの街に居ついたって良かったんだ。
それでも、いつも忌まわしい最後の記憶が俺を苛んだ。
暗く淀んだ瞳が、嘲笑する嗄れた声が、俺を取り込む一面の闇が、俺の心の平穏を掻き乱す。
だから、終わったことにしなきゃあならない。
竜王を自らの手で倒せれば、きっとこの悪夢は俺を苛む事がなくなる。
正義とか、勇気とか、そんな御大層な動機じゃない。
「俺は自由になりたい。自由になる為には竜王を倒さなくちゃさ、きっと本当の意味で俺は自由になれないんだよ」
恐怖は楔だ。
どれだけ楽しいことがあっても、どれだけ平和な世界であっても、過去から繋がるその楔は忘れさせてたまるかと言わんばかりにギチギチと音を立てながら俺の心を抉り蝕んでいく。
断ち切らなければいけない。他の誰でもない俺の手で。
「だからまあ、勇気とかじゃないと思うんだ、こういうのって。勇者様ならもっと立派な使命を持って戦うだろうしさ」
自嘲気味に言葉をしめる。
実際、ご先祖様なら世の安寧とか、人々の明日を守る為とか、そんな格好いい理由で竜王と戦っただろうし、そもそもあんな誘いなんて突っぱねてるだろう。
俺の返事を聞いてもなおライダーは黙って俺を見ている。
沈黙が怖い。お眼鏡に叶う返事じゃなかったんだろうか。
図書館でこいつの事を調べたら気に入らない答えを言った奴を殺したとか書いてあった事を思い出して不安になってくる。
「惜しいな」
ふぅ、と息を吐きポツリと一言呟いたかと思うと、急にライダーが立ち上がった。
その顔に、先程までの人を殺しかねない張り詰めたな雰囲気はない。
「お前があれと戦う気がなかったのであれば、強引にでも俺が受肉した時の配下にしてやろうと考えていたが、男の戦を持ち出されては俺の中にそれを止める道理はない。勝手に立ち向かい、お前のあるべき世界で好きに野垂れ死ぬがいい」
予想外の言葉に呆然とする俺を気にも留めずライダーは俺に背を向けてその身を霊体に変えていく。
「1つだけお前の論に訂正がある」
完全に姿を消す最中、俺へと顔を向けずにライダーは言葉を紡いだ。
「いかな理由でも一度屈してなお恐怖に立ち向かう気概があるならば、それは粉うことなく勇気よ。あまり自身を卑下し過ぎるな、それはお前と組んでいる俺の格を下げる行為と知れ」
ギッと肩越しに殺意のこもった視線が消える間際に俺を射抜いた。
「此度は許す。次はない」
物騒な言葉を最後にライダーは言いたいことだけを言って姿を消した。
「なんだってんだよ、いったい」
緊張の糸が切れてベッドの上に倒れる。
知らない内にあいつの怒りの琴線に触れていた事は心臓に悪かったが、まあ生きているだけ良しとしておこう。
バックンバックンと震える鼓動を落ち着かせる為に、大きく息を吸い込み、吐き出す。
「つまるところ、"お前は勇者だ"って言ってくれたってところなのかね」
魔王に勇者認定されるというのも奇妙な話ではあるが、まあ、悪い気はしなかった。
魔王を討つために旅立ち、魔王に唆されて全てを失った俺が、魔王を頼り共に戦う。
運命ってやつはなんとも皮肉なもんだ。
だけども、そんな運命も悪くない。
戦って、勝つ。
そしてやり直して手に入れるんだ。
勇者が魔王を倒したハッピーエンドを。
勇者ではなく一人のアレルとして生きていくエピローグを。
【クラス】
ライダー
【真名】
董卓 仲穎
【出典】
史実(後漢末期、中国)、 三国志演義
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運C 宝具C
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
俠:B
同ランクのカリスマ、精神汚染、勇猛スキルを得る。また対峙した相手の敏捷を威圧による精神干渉によって1ランク低下させる。
例え法や道徳観念から外れた残虐な行いであっても、それが自身の価値観に沿った行動であるのならば、ライダーは躊躇なく実行し、それを変える事はない。一種の精神的スーパーアーマー
暴虐非道:A
対象が混沌・悪のどちらかの属性に該当しない場合、与えるダメージを増加させる。
専横を極め破壊と贅をつくし世を乱した暴君としての証。強大な悪は生半可な正義など一呑みに押し潰す。
軍略:C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
【宝具】
『魃・赤兎馬(洛陽、紅蓮に燃ゆる)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1500
熱波を放出する汗血馬型中華ガジェットによる突撃。放出する熱波の影響範囲はレンジ内であれば任意に操作可能。
またこの時生じた熱波は周辺の可燃物に炎を発生させて一帯を焼き払い、近隣にいる全ての対象に炎熱と煙による継続ダメージを発生させる。
この熱波は搭乗者以外を無差別に襲うので、マスターが近くにいる場合は同乗させなければ宝具の影響を受ける事になる。
対董卓連合軍用に作成を命令した中華ガジェット。
干魃を司る女神"魃"を参考に体内に蓄えた高熱エネルギーを放射する。
作成されたはいいものの、完成後はライダーが戦場に出る機会が殆どなく、使用記録は洛陽を炎上させた事のみとなっている。
【Wepon】
無銘:刀
農作業をしている際に見つけた、項羽の刀と言われる無銘の刀。玉石をまるで木材の様に両断できる切れ味を誇る。
無銘:弓
【人物背景】
後漢末期、大将軍何進の暗殺と宦官粛清の混乱に乗じて時の帝を保護し、朝廷の頂点にまで登りつめた男。
配下に対して強奪や強姦の許可、逆らう者の粛清など権力を得てからは専横を極めた結果、反発を覚えた諸将により連合軍を組まれ群雄割拠の一因を作り上げた。
政治・権力・一般常識・宗教理念などに囚われず、自分の望むままに生き、殺し、犯し、蹂躙する暴君の気質とそれを貫くだけの計算高さを持っている。
苛烈な反面、有能な人間や身内に対しては寛容な面を見せる事もあり、非道だけの人間という訳ではない。
その最後は義理の息子である飛将・呂布による暗殺。女性絡みの確執があったとされる。
【特徴】
2m近い大柄で凶相、無精髭に禿頭の筋骨隆々とした威丈夫。戦闘時は獣の皮を各所にあしらった金属鎧を身に纏っている。
【サーヴァントとしての願い】
現世に受肉し、自分の望むままに振る舞う。
【マスター】
アレル(DQ1勇者)@ドラゴンクエストⅠ
【能力・技能】
以下の魔法を使用可能
ホイミ・べホイミ:傷の治癒が可能
ギラ・べギラマ:指先から広範囲に閃熱波を放つ
マホトーン:確率で相手の詠唱を封じる。サーヴァントには効果がない
ラリホー:確率で相手を眠らせる。サーヴァントには効果がない
ルーラ:移動先を指定し空を飛んで移動する
リレミト:建物などから脱出する
レミーラ:周囲を明るくする
トへロス:自分より弱い魔物の出現を封じる
ロトの装備一式は暗闇の世界に幽閉された際に全て没収されているため丸腰。
【人物背景】
竜王による侵攻を受け、危機に陥ったアレフガルドを救うために現れた勇者の子孫。世界の平和の為に戦っていたが孤独な戦いに心を磨り減らし、勇者の責から解放される為、魔王の策略に嵌まり暗闇の世界に囚われてしまった。
ドラゴンクエスト1のバッドエンドの世界線より参戦。竜王の策略にまんまと嵌ってしまった過去から自己評価が低く自虐的
見た目はファミコン版準拠で黒髪
【マスターとしての願い】
竜王を倒し、勇者を辞めて一人の人間として生涯を送る
投下終了します
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支援です。
投下します
まず感じたのは眩しいという感覚。
次に目に映る赤色混じりの世界の光景。
盲目の男は確かに世界を目にしていた。
そして次は声。如何なる奇蹟か男は嘆きを聞いた。
我が子死なせたと己の無力を嘆く声を今、この時この瞬間のみ聞こえたのだ。
次に感じたのは手の感覚。握りしめた槍が生物の肉体を貫き臓物を抉る時と同じ感覚だ。
男は槍を握っていた。
その手は柄から伝っていた赤色の液体で濡れていた。
更に視界を穂先へ移すと穂先の刃はある男の脇腹を抉っていた。
その男は神の子を自称していた。
故に捕らえられ、ローマに売り渡されて磔刑に処せられたのだ。
しかし、盲目の……盲目だった男はこの瞬間。遺体に残っていた僅かな血液ですら盲目を癒す奇蹟を宿していたことで理解した。
────ああ、この方は本当に神の子であったのだ。
* * *
「俺は罪を犯した」
「ほぅ、如何様な罪を犯したのだ?」
ピカと雷光が暗い部屋を刹那の間照らす。
そこには男が二人いた。どちらもガタイがよく強面だが、一人は数珠を持ち、もう一人は槍を持っていた。
「あのゴルゴタの丘で、真の神の子を処刑したのだ。
その玉体を我が槍が突き刺し、血を噴き出させ辱めたのだ」
「ほう。もしやそなた、名をロンギヌスというのではないか」
「ロンギヌス。ああ、そんな名前だったな。昔は別の名だったんだが、ロンギヌスと洗礼を受けてからはそう呼ばれている」
聖人ロンギヌス。その名はキリスト世界において重要な名前の一つだ。
それは神の子────すなわちイエス・キリストを殺した者。
「ならば聖ロンギヌス、いやランサーよ。汝の願いは贖罪か」
「否、それは自力で為すべきことであり、奇蹟を起こしてすることではない」
「ならば何を願うのだ」
「聖杯に望む願いなど無い。強いていうならばその聖杯が本物であることだ」
「本物の聖杯が望みだと」
「そうだ。俺は磔の後、改宗して主の復活を待った。待って待って待ち続けて、そうする間に100年が過ぎ────」
「待て、100年だと。確か汝はカッパドキアにて斬首されたのではないのか」
「されたとも。されたが死ななかった。いや、あの場合死ぬわけにいかなかった。
神子が蘇るまで、あの方に謝るまで死ねぬ一念で生き延びたのだ
だが、待っても復活は起きず。故に俺はこう考えた。
あの処刑の日に神子の血が聖杯に注がれた。その血を全て天地に返還せぬ間は復活できないのではないかと」
イエスの血液を受け止めた聖杯。
それは『最後の晩餐』で使われた聖餐杯ではなく血液を直に受け止め保存したことで聖遺物となったものだ。
「そして俺は行動に出た。聖杯を求めて数多の使徒の下を訪れ、聖杯の在処を探し続けたというわけだ」
* * *
男は語る。
贖罪をするための試練は往々にして艱難辛苦だった。
手掛かり一つ無い上に道中で異端審問官。聖槍を狙う賊。神子を殺した俺から聖遺物を守ろうとする同じキリスト教徒と戦った。
無論、人だけではない。一世紀。未だ神秘の残っていた時代であるゆえ幻獣・魔獣とも戦い続けた。
何度も致命傷を負いながらも神子の血によって超人化していた俺は生き延びた。
そしてかの地ブリテンのカーボネックという地にある聖杯を見つけた。
「これは────本物だ」
遂に見つけたと喜ぶロンギヌス。だが、それも束の間。膝から崩れ落ちてしまう。
「なっ、がはっ! クソ!」
その時既にロンギヌスの肉体は限界が来ていた。
当然といえば当然だろう。人間であれば百は絶命していただろう旅路を駆け抜けたのだ。正しく奇跡だといっていい。
聖杯を見つけてもそれをゴルゴタへ持ち帰ることはもはや不可能だった。
────ふざけるな! ここまで来て、諦めきれるか!!
俺は償うのだ! 贖うのだ! 謝るのだ!!
そのために待ち続けたのだ。そのためにここまでやってきたのだ。
這いずりながら聖杯へ手を伸ばす。しかし、その手は届かない。
薄れゆく意識。死神の足音が近付いてくる。その時だ。どこからか声がした。
いつぞやの嘆く神の声ではなくもっと別の声だった。
声が告げる。汝の望みを叶える機会を設ける。その代わり、死後を貰いうけたいと。
是非もなし。
俺の死後をくれてやる。
だから聖杯を掴む機会に喚んでくれ。
ここに契約は為る。
その後、ロンギヌスの姿を見た者はなく、聖杯城カーボネックにロンギヌスの槍が置かれることとなった。
* * *
「つまり汝の最終目的はキリストの復活か」
「そうだ。だからマスター。お前が聖杯戦争を下りるならば、誰かに令呪を渡してくれ」
さもなくば殺すとその目が告げていた。
枯れ果て、されど鬼気迫る執念を宿した男の目だった。
並の神経ならば気絶してしまうだろう眼光に数珠を持った男は豪笑をもって応える。
「愚問なり。是非もなし。この臥藤門司に迷いなし。
もし汝がキリストを復活させると言うならば、かの者と禅問答をする機会を得られるというわけだ。
これほどの好機逃すわけにはいくまい!
我がサーヴァント・ランサー、ロンギヌスよ。いざ行かん! 目指すは全戦全勝なりィ!!」
ノリノリだった。
かくして求道僧と聖人は聖杯戦争に加わる。その先に何が待ち受けるかを彼らはまだ知らない。
【サーヴァント】
【クラス】
ランサー
【真名】
ロンギヌス
【出典】
新約聖書、ピラト外伝
【属性】
秩序・善
【パラメーター】
筋力:C 耐久:A 敏捷:D 魔力:D 幸運:A 宝具:EX
【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を無効化する。
現代の魔術ではロンギヌスを傷つけることはできない。
【保有スキル】
聖人:C
聖人として認定された者であることを表す。
秘蹟の効果上昇、HPの自動回復、カリスマ1ランクアップ、聖骸布の作成が可能のいずれかを選択し、獲得する。
ロンギヌスは持っている秘蹟(やり)は毛嫌いしているし、カリスマは聖人になってからあまり興味ない。
聖骸布? あの方の遺体を包んだ襤褸切れがどうしたという……といった感じに消去法でHPの自動回復を選択している。
処刑人:C
ゴルゴタの丘の処刑人。
相手が人間、かつ属性が悪のものに対するダメージが向上する。
また対象の行為が悪と認定されたときも同様。たとえそれが、真の神の子の御業だとしても。
千里眼:A+:
神の子の血を浴びたことにより神の子と同じ視点を持った。
物理的な遠距離の視認のほか、数秒内の未来予知、相手の属性を見極めることが可能。
また盲目神ヘズとの習合により視界不良時でも視野に補正が入る。
神子の血:EX
ブラッド・オブ・ミサ。
神の子の血液が体内に混入したことにより「死」や「傷」の概念が薄くなり、ダメージを負いにくくなっている。
単純な頑丈さや耐久力の高さではなく、ダメージとして換算される傷が人間でいう致命傷に該当するものばかりということ。
ロンギヌスはカッパドキアにて裁判官に歯と舌を抜かれたにも関わらず、普通に喋れたという。
【宝具】
『大聖釘』(レリック・オブ・ネイル)
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1名
神の子を殺害するのに使われた槍。その聖なる釘としての機能。
その血液を浴びたことにより「世界を征する神槍」へと変貌した。
所有者に「天啓」、「カリスマ」を与え、幸運のパラメーターを大幅に上昇させる。
また持ち主に応じて様々な追加効果を与える。ただし属性が善でないものは手放した際に『嘆きの一撃』呼ばれる天罰が下る。
『我が罪は此処に在りて』(ゴルゴタヒルズ・ロンギヌス)
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:10 最大捕捉:1名
神の子を殺害するのに使われた槍。神をも殺しうる槍としての機能。
対象を磔にして行動をすべて無効化した後に行われる神殺処刑。
神の子が天啓や加護を持っているにも関わらず処刑された逸話の再現として、
処刑の際、対象の持つ鎧、天性の肉体、あるいは加護や盾などのあらゆる神秘、あらゆる防御効果を「持っているけど発動しないもの」に変える。
槍の殺傷力は神性が高いほど増すが、粛清防御値が高いほど減る。
『審判は来たれり、怒りの日を此処に』(ディエス・イレ・ディエス・イラ)
ランク:A++ 種別:対人理→対軍宝具 レンジ:1 最大捕捉:1名
ゴルゴタの丘で処刑された神の子は人類が受けるすべての罪を一身に受けたことで救いをもたらしたとされている。
故に、ロンギヌスの槍の一撃は「全人類を裁く神の粛清」を断片的に出力できる。
槍の穂先から怒りの日に生み出される破壊の光を出力し、進行方向のものを粛正・灰燼に帰す。
キリスト教における全人類を裁く終末とは「怒りの日」と呼ばれ、人類史を強制終了させる終末とされる。
その際に清らかな人々を千年王国に保管し、それ以外の者を殲滅する天罰が下される。
この槍がもしも完全解放される際は神の忍耐が切れて振るわれる憤怒の兵器となり、対人理宝具として機能する。
余談であるが、ロンギヌスの槍と全く似ていないにも関わらず同一視されるロンゴミニアドと呼ばれる槍が存在する。
この槍の化身はとある人類史の特異点にて善人のみを理想都市に隔離、他の全人類を焼き払うというまさに怒りの日を決行しようとしていた。
これらが同一視されるのはこういった似通った属性を有するからかもしれない。
【weapon】
ロンギヌスの槍
【人物背景】
キリストを殺したローマの百兵卒長。
当時盲目であった彼はキリストの血液を浴びたことで目が見えるようになり、刺した槍は後に聖遺物の一つとなる。
真の奇跡を受けた彼は感銘し、そのあとキリスト教に改宗、聖ロンギヌスと呼ばれる。
カッパドキアにて28年間ほど宗教活動を続けるも捕らえられ処刑された。
……とされるが実は生きていた。
その後、キリストの復活を待ち続けるも復活の日が訪れない彼はキリストが復活できない原因はあの日、血を抜いたことにあると考え、血を入れた器……すなわち聖杯を求める。
その途中で異端審問官や聖遺物を守ろうとする教徒、聖槍を奪おうとする賊と闘い続け、あまたの聖杯もどきを手にするも目当てのものは見つからなかった。
最後に訪れた地、聖杯城カーボネックにて真の聖杯を発見するも半不死肉体に限界が突きてしまう。
その際、「聖杯を持ち帰りキリストの復活を行う儀式に参加したい」という願いを聖杯は聞き入れ英霊の座に登録された。
その後の槍の方は「手にした者は世界を征する」とされ、多くの教徒、権力者が血眼になって探した。
聖モーリス、ペトルス・バルトロメオ、皇帝シャルルマーニュ、アドルフ・ヒトラー、アーサー王伝説ではベンガルとギャラハットが所持した。
【サーヴァントとしての願い】
処刑時に使われた聖杯を回収する。
亜種ならばいらんが、次の聖杯戦争に呼ばれるように願ってみるか
【マスター】
ガトー(臥藤 門司)
【出典】
FATE/EXTRAシリーズ
【マスターとしての願い】
ロンギヌスが蘇らせるというキリストに会ってみたい。
【weapon】
なし
【能力・技能】
悟り
【人物背景】
数多の宗教を学び、あらゆる神学を走り抜けたスーパー求道僧。
性格は強引、不屈、単純、そして話を聞かない。どこのイーノックだ。
三度の飯より戦いが好きだが殺人趣味はなく、単に戦いに勝つという真理を体現するのが好きなのである。
強引で話を聞かず好戦的な暴走機関車を思わせる人物であるが、実は阿羅漢の域に達する悟りを得ており、ムーンセルから優秀な人材として招かれていた。
ヒマラヤの山頂にあったのは「原始の女」・・・・・・じゃなく聖愴の欠片であった。
霊的インスピレーションをさらに鍛えようと持ち帰ればあら不思議、触媒からランサーが召喚されて冬木に行けと言われる。
ガトー的には万能の願望器なんてどうでもいいが、キリストの復活と聞いてはいかないわけにはいかない。是非、キリストと禅問答と参加する。
【方針】
戦って! 勝つ!! のみ!!!
投下終了します
>>550
支援絵ありがとうございます!
ビリーとシンデレラという可愛らしい二人のイラストには思わず頬が緩みますね!
wikiの方に掲載してもよろしいでしょうか?
>>557 ありがとうございます! どうぞ、よろしくお願いします!
皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます
冬木市内の、とある空き倉庫。
今夜、ここで二つの暴力団が交渉を行うことになっていた。
とはいえ、それは名目だけ。
よほど上手くいかない限り交渉が抗争に変わるであろうことは、どちらの組もわかっていた。
「向こうはまだこねえのか……」
「まるで来る気配がありません」
約束の時間の、5分前。
倉庫には、片方の組の人間しかいなかった。
相手が来ないことにしびれを切らしたこの場の責任者が部下に確認するが、やはりもう片方の組はまだ来ていないようだ。
「怖じ気づいて逃げ出したんでしょうか……?」
「それにしたって、一人もよこさねえってことは有り得んだろ。
そんな無様晒せば、明日から組員全員この世界で生きていけなくなる。
ここに来られねえほどの事件でもあったか?」
そんな会話をしていると、一人の組員が血相を変えて走ってくる。
「兄貴!」
「おう、来たか」
「いえ、来たことは来たんですが……。その、一人なんです」
「はあ?」
困惑する組員の前に、一人の男が姿を見せる。
「どうもどうも、時間ギリギリになってしまって申し訳ありません。
なにぶんこの街に来て日が浅いもので、迷ってしまいまして」
穏やかな口調で、男は語る。
高級なコートに身を包み、長い髪をしっかりと整えたその男の姿は、高い教養を持つ紳士にも見えた。
だが曲がりなりにも裏社会に身を置く暴力団員たちには、すぐにわかってしまった。
この男は、人殺しの目をしていると。
「あんた……あっちの組の人間じゃないだろ? いったい何者だ?」
「では、名乗らせていただきましょう。
あなた方の殲滅を依頼された、用心棒です」
男はそう言うと、奇妙な刺青が刻まれた両手をかざした。
◇ ◇ ◇
「やれやれ、他愛のないものですね。まあ、平和な国のチンピラではこの程度ですか」
倉庫の中に転がる無数の焼死体を眺めながら、男……ゾルフ・J・キンブリーは呟いた。
「あなたもそう思いませんか、キャスター」
続いて、キンブリーは相棒に声をかける。
彼は、この世界の人間ではない。聖杯戦争の参加者として、異世界から招かれた存在だ。そして彼にあてがわれたのが、キャスターのサーヴァントだった。
「知るか、殺人鬼め。まったく、とんでもない男がマスターになってしまったものだ……」
キンブリーの問いかけに悪態で返すのは、豊かなヒゲを蓄えた壮年の男。
彼がキンブリーに召喚された、キャスターであった。
「私もあなたも、爆発に魅せられた男です。引かれあってもおかしくないでしょう」
「貴様と一緒にするな! 私は人殺しの道具とするために、ダイナマイトを作ったわけじゃない!」
「ええ、あなたは人殺しの汚名をすすぐために、社会に貢献した人物を称える賞まで作ったそうですねえ。
お優しいノーベルさん」
必死の形相のキャスターとは対照的に、キンブリーは楽しそうに笑う。
「そんなあなたが、なぜ今さら聖杯を欲するのです?
名誉なら充分に回復したのでは?」
「まだだ、まだ足りぬのだ。私が家族の命を犠牲にしてまで生み出したダイナマイトを、悪しき者として扱う人間がいてはならぬ!
聖杯にでもすがろう! 貴様のような外道に仕える屈辱も飲み込もう!
私は、一点の曇りもない名誉を望む!」
「その信念の強さ、実に素晴らしい……!」
キンブリーは、さらに喜色を強める。
彼にとって、人間の価値とは信念の強さだ。
そこに、善悪は問わない。
「ならば私と共に戦いましょう、ノーベル。
厳しい戦いの中でもその信念が折れぬこと、期待していますよ……」
【クラス】キャスター
【真名】アルフレッド・ノーベル
【出典】史実(19世紀)
【性別】男
【属性】秩序・中庸
【パラメーター】筋力:D 耐久:C 敏捷:D 魔力:D 幸運:C- 宝具:B
【クラススキル】
陣地作成:B
自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。
道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成可能。
ノーベルは爆薬の作成に特化している。
【保有スキル】
黄金律:B
人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。
Bランクなら一生金には困らない。
爆発避け:A
誰よりも爆薬に精通した彼は、爆発に巻き込まれることはない。
むろん、自爆することもない。
爆発によるダメージを無効化する。
【宝具】
『我が人生は爆発だ(ボンバー・ボンバー)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:50人
爆発物の専門家としての彼の生き様が、戦闘用に昇華された宝具。
瞬時にして自分の周囲にダイナマイトをばらまき、全て同時に爆発させる。
レンジ外に逃げる以外に、回避する方法はない。
なお無差別攻撃であるため、使用の際は味方を巻き込まないよう注意が必要である。
『讃えよ、その叡智(ノーベル・プライス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:視界内 最大捕捉:1人
ノーベル賞の設立者であるという逸話から生まれた宝具。
一定時間自分以外の誰かの知性を、「ノーベル賞を与えるにふさわしい」レベルまで引き上げる。
【weapon】
道具作成スキルで作った爆薬
【人物背景】
スウェーデンの化学者。
若い頃から爆薬の研究に没頭し、これまでに無く扱いやすい爆薬「ダイナマイト」を発明する。
その発明により巨万の富を得るが、ダイナマイトが軍事利用されたことにより「死の商人」との悪評も立つようになった。
それを気に病んだノーベルは、名誉のために死後遺産を使って世界に貢献した人物を称える賞を作るよう遺言を残す。
それが現在のノーベル賞である。
【サーヴァントとしての願い】
自分とダイナマイトの、完全なる名誉の回復。
【マスター】ゾルフ・J・キンブリー
【出典】鋼の錬金術師
【性別】男
【マスターとしての願い】
ノーベルの信念を見届ける。聖杯にかける願いはない。
【weapon】
現在は特にないが、いつでも爆発物を作れる。
【能力・技能】
「錬金術」
物質を分解・再構築し、別のものに作り替える技術。
キンブリーは特に、爆発物を作ることを得意とする。
発動には錬成陣と呼ばれる特殊な陣を描く必要があるが、キンブリーはそれを刺青として直接手の平に刻んでいる。
【人物背景】
アメストリス国の国家錬金術師。二つ名は「紅蓮の錬金術師」。
イシュバール戦線にて虐殺の限りを尽くした後、賢者の石の返還を拒み上官を殺害したため投獄。
しかしホムンクルスに戦力として目をつけられ、彼らの裏工作により釈放。
以降は軍人として行動しつつ、裏でホムンクルスの計画に協力する。
紛れもない外道だが独自の美学を持ち、強い信念を持つ人間に対しては敵対していても力を貸すこともある。
今回は死亡後より参戦。冬木市では裏社会の用心棒として活動している。
【方針】
聖杯狙い。
投下終了です
皆さん投下乙です
そして支援絵ありがとうございます!
>>538
おおー……!!
書いた者としてもビジュアル化されるとかなり喜ばしいですね……!!
綺麗です、ありがとうございます
ttp://gazo.shitao.info/r/i/20160909100708_000.jpg
ttp://gazo.shitao.info/r/i/20160909100755_000.jpg
素材をつかってゲーム画面風支援
前回の二人の立ち絵とあわせて
>>567
ジェヴォーダンの獣ですね! セクシー! エロいッ!
血に濡れた長身巨乳ケモミミ女性は最高だ!
支援ありがとうございました!
wikiの方に掲載してもよろしいでしょうか?
投下します。
「――そんなこんなで、避けようのない未曽有の大災害から始まって連鎖的に世界中の人々が不幸のどん底にドーン!
あちこちで起こる流血の事件! 麻痺する政治! 乱れる治安! ヒャッハーして暴れまわるハンパな悪党ども!
地は弱き者たちの嘆きと涙で満ち溢れ、強き者たちも運が悪けりゃ即座に引きずり降ろされる楽しい楽しい大混乱の時代!
そんな中、ありふれた話ではあるけど、人一倍、不幸と苦痛と絶望の極みに落とされた少女が居た! その名は『エリス』!
親も兄弟も家も失い、守る者もなく路上に放り出され、当然のようにレイプされ……あっ今の無し、やっぱレイプはやめた。
それ入れるとなんかジャンル変わってきちゃうわ。あたいもそーゆー不幸は大好物だけど涙を呑んで今回はレイプ無しで行く。
ともかく強姦こそされなかったもののそれ以外のありとあらゆる不幸と苦痛と恥辱と絶望を経験した少女は世界を呪った!
そこで御都合主義的に目覚める、実はこっそり流れてた神霊の血! なんかもう凄い力が湧いてきちゃって一気にドーン!
燃やす! 殺す! 空を飛ぶ! あたいの大逆転のターン! 倍返しどころか億倍返しだバーカバーカ! チュッドーン!
そんな今から見れば未来に起こる大惨事の犠牲者であり、さらなる大惨事の引き金を引いちゃったりした英霊、それが――」
夕日の差す、がらんとした学校の教室にて。
自らが延々と垂れ流す長口上を収めた特大の吹き出しに覆い隠されかけていた黒髪の少女は、そこで言葉を切って。
ばさっ、とその背に生えた黒翼を広げる。
ぶんっ、と身長の倍を超える槍を振るう。
礼儀知らずにも教卓の上に腰を掛け、短いワンピースから覗く細く白い足を組みなおし。
「このあたい。
人呼んで、『全てを嗤う者』エリス!
過去ではなく未来から呼ばれた英霊! 舐めんな原始人こっちは未来人だぞバーカ!」
大ゴマでドヤ顔を決め。
「――と、いう『設定』!
ぶっちゃけ全部てきとーに作った大嘘だけどな!!
あははははは、こんなん信じちゃった奴は馬鹿! 長文お付き合いご苦労さん! ねえどんな気持ち、今どんな気持ちィ?!」
さらにどアップになったさらなる大ゴマで、さらなるドヤ顔(というか煽り顔)を決めてみせた。
とてもではないが、幼い少女がしていいような表情ではない。
ぱち、ぱち、ぱち。
そして数秒の間を置いて。
がらんとした教室に、白々しい拍手の音が響く。
黒翼を背負い、凶悪な槍を手にし、白いワンピースに身を包む、長い黒髪の美少女・自称エリスの独演。
それを聞いていた、たった1人の聴衆は、白々しいほどの爽やかな笑顔で手を叩く。
こちらは一見、ごくごく平凡な学生服姿。
ただ、その眼の奥だけが、暗く淀んだ光をたたえている。
『うわぁ、すごいや。なんて薄っぺらでなんて嘘っぽくてなんて馬鹿みたいな逸話なんだ!
感動しちゃったよ! こんな出来の悪い作文で押し通せると思った君の神経の図太さに!』
「褒めるな、褒めるな。
あと馬鹿にもすんな、マスター……『球磨川禊』。
こういうのは堂々としてりゃ案外ツッコミも受けないモンなんだよ、ウチの実家の神話のガバガバ具合を勉強しろ」
翼と槍を除けば小学校高学年ほどの外見のエリスが、それに見合わぬ眼力で学生服の男を睨む。
睨まれて、それでも球磨川と呼ばれた青年は平然としている。『』(かっこ)をつけた奇妙な言葉を紡ぎ続ける。
『いやあ、聖杯戦争とかいうもう散々やり尽されたバトルロワイヤルに呼ばれたと思ったら、パートナーが神様だなんて!
それもこんな美少女気取りで嘘つきで中身クソババアだなんて、僕はなんてツいてるんだろう! 死にたくなってきた!』
「はっはっは、そんなに褒めるな照れるだろ。あと馬鹿にもすんな。
あたいはこう見えても、今で言うところの『ギリシャ神話』って体系で語られてる、ガチモンの神様だぞ。
オリュンポス十二神が一柱・『戦神アレス」の『妹』にして『妻』。
あの戦闘狂の大馬鹿野郎の脇を固める、半身とも言える存在。
『不和』と『争い』を司る、『ギリシャ界隈で一番嫌われてる神様』の『エリス』と言やぁ、あたいのことよ!
そんじょそこらの下級の神霊とは格が違うんだよ、格が! 舐めんじゃねぇ!」
ボゥッ!
改めて見栄を切って見せた自称エリスは、これまたドヤ顔で炎を虚空に向けて吹く。
神話にも語られた女神エリスの吐く炎の息……そんな大道芸人じみたパフォーマンスに、球磨川も白々しく大喜びだ。
『すごーい! めっちゃ虎の威を借る狐って感じのする自己紹介だ!
他の神様のこと下級って見下してるのに自分の偉さの説明として旦那の自慢をしてみせるだなんて!
そこらの有閑マダム気取ってる専業主婦と大して変わらないね! すごく親しみやすい! 素敵だ!』
「だからそんなに褒めるな。ニヤニヤが止まらねェじゃねぇか。あとそろそろ殺すぞ。
てかウチは共働きみたいなモンで、あたいも戦場に出ればめっちゃ働くしめっちゃ殺すぞ。うん、すっげー殺してる。
この聖杯戦争でも、うーん、どれくらい殺せるかなー。
あんま本気じゃないとはいえ、軽く適当に殺戮くらいは楽しみてぇんだけどなー。
やっぱ『ランサー』ってことにして来るべきだったかなぁ。でもランサー枠って不遇なのが芸になってるくらいだしなー。
バーサーカーでもキャスターでもやれるっちゃあやれるんだけど、暴れるだけってのも引きこもりってのもつまんねぇし。
好き勝手やるなら、何でもありで訳分かんなくて、適当かましても押し通せそうなエクストラクラスが一番だろ、やっぱり」
『えーっと、肩書は『アヴェンジャー』、だったよね? 一応?』
「おう、『アヴェンジャー(偽)』な。
いや違った、(偽)は表向きはつけちゃダメな。
まあこんなもん、聖杯とルーラーさえ騙せりゃいいんだよ、こうして始まっちまえば後はやりたい放題さ」
『さっきの穴だらけの大嘘の設定上で『復讐者』だってのはよく分かったけどさ。
エリスちゃん自身は何か復讐したいことあるのかい? そんなちんちくりんな身体で無理やり潜り込んでまでさ?』
「褒めるな。あと次あたりでガチで一回殺しとくか、たぶん自分で『なかったこと』にして戻ってくるだろうし。
それはそうと、本来のあたいはもっとボンッ! キュッ! ボンッ! のセクシーでナイスバディの美女だからな。
このロリっ子の身体はココに出てくるための方便だからな。
こう見えても子沢山の経産婦だかんな。ぶっちゃけあたい自身も父親が分からん子ばっかりだけど」
『うわぁ……』
「なんだその目は。オリュンポスの神々の性の乱れを舐めんな。ゼウスの親父が『あんなん』なことから勝手に察してろ。
まあ幾人かは兄貴の子だと思うが正直よー分からん。兄貴は兄貴で他所の女にガキ何人か産ませてるしこっちも好きにやるさ。
それはともかく何のために、だったか。
ぶっちゃけるとさぁ……『あいつらズルい!』って思ったのよ。
それで、聖杯戦争ってやつをめちゃくちゃにしてやろう、って思ってさ」
『ズルい?』
「こんなこと人間なんかに愚痴ってもしゃーないんだけどさぁ。
あたいら神霊のレベルになってくると、ほんとは『聖杯』なんて新参の奇跡のアイテムなんてどーでもいいんだわ。
アレが出来そうなことは、だいたいあたいらも本気出せばできるし。本気出すのめんどくさいし下手したら死ぬんだけど。
でもさー、なに考えてんだか知らないんだけどさー、居るんだよ。何人か。
『神様のクセに『聖杯』に呼ばれて『聖杯戦争』に参加してるような神霊』ってのが。
そりゃ半分人間だったり、半分魔物だったり、それぞれに事情はあるみたいなんだけどさぁ。
神様の間でも、暗黙の了解ってやつはある訳よ。そーゆーヒトのレベルの揉め事には無闇に首突っ込まない、っていうさ。
それをあいつら、屁理屈並べてなし崩し的に呼ばれやがって……きっとみんな何か裏技使ってやがるんだろうけどよぉ……」
『それで、アヴェンジャー(偽)も裏技をつかってやってきた? 誰かに方法を聞いたりして?』
「あたいの嫌われっぷり舐めんな。全ての神様を呼んでの盛大な結婚式にあたい一人だけ呼ばれなかったレベルだぞ。
あたいの子供の『迷妄』『労苦』『飢餓』『無法』『忘却』『嘘言』『苦痛』『口論』とかも呼ばれてんのにだぞ。
そんなとっておきの裏技を教えてくれるような親切な友達なんて居るもんか。居たらこんなに苦労してねェよ」
『うわぁ、素敵だ、素敵なボッチだ!
まるで『過負荷(マイナス)』の女神様だ! すごい関わりたくない! とても信仰したくない!』
「褒めるな。惚れるな。あと殺す。とりあえず殺した。次のセリフまでに勝手に『なかったこと』にして復活しとけ。
それはともかく、悔しかったから、あたいはめっちゃ試行錯誤したんだ。
クソガキどもから適当に『嘘言』とか『無法』あたりを呼び出して、脅して無理やり手伝わせてさ。
どーも霊として強すぎるのがマズいっぽいから、いくつか適当に封印したり外したり、まあ要は『縛りプレイ』だな。
そういやあたいらオリュンポスの神々も大概な変態だが、この日本も相当な変態っぷりだよな。縄とか。濡れるぜ。
ついでにロリコン向けにチラリズム全開の衣装を選んで、この時代に合わせて紐パンとかも履いてきてみたんだが……
見る奴いねぇ。死んでやがる。さっさと復活しやがれ。おーよしよし、起きた起きた、とりあえずパンツでも見るか?」
『僕もフェチズムには一言ある男だけど、羞恥心のない布切れなんて汚物でしかないよ!
たぶんこのツンデレヤンデレっぷりからしてエリスちゃんは『責められると弱い』タイプだと思うんだよね!
何とかして恥ずかしがらせてあげたいなぁ! 上手く不意打ちができれば結構チョロいと思うんだけど!』
「よーし分かったそんなに褒めるなもう一回死んどけ。遠慮しなくていいぞ。
まあ話戻るけど、この体格も別にロリコン喜ばせるためじゃなくてだな。強すぎる力を封印してったら縮んじゃったんだよ。
たぶんこの『林檎』を諦めればやりようはあったんだろうけどなー。でもどうせコッチに来るならコレ使わないとなー。
何にせよ、色々削って縛って誤魔化して偽装して嘘ついて、聖杯も騙して欺いて、こうして見事に呼び出された訳だ。
高位の神霊であるあたいが本気出せば、ざっとこんなもんよ!
もっとも偽装の出来が良過ぎて、こっちに来てる間は神様としての力はほとんど使えやしないんだけどな!
見事に在り方から何から完全にサーヴァントさ! あとルーラーまじウゼぇ!!」
『へぇ。
つまり、普通のサーヴァントと同じで、ルーラーが苦手ってことは……令呪とかも効くのかな?』
「おう効くぞ。
神様の偽装を舐めんな。本物より本物っぽい偽物だぞ。その辺の仕掛けは完璧だぞ」
『つまりは、マスターである僕は、あんなこともこんなことも君に命じ放題、ってことかな?』
「いや効かないぞ。
あたいは神様だからな。例外の塊だからな。そんじょそこらの英霊とは違うからな舐めんじゃねぇぞ」
『いやだからどっちだよ』
「あ、あたいみたいな嘘つきで性悪な神様の言うことを信じようって方がアホなのさ! バーカバーカ!」
『それもそうだね』
そこでようやく、球磨川禊は、ニヤリと笑った。
それまでの軽薄で薄っぺらで白々しい笑みではなく、邪悪で攻撃的で、誰もが『こいつとは関わりたくない』と思う笑み。
『なら、確かめる』
「なっ!? おい待て、ちょっ、正気かっ、お前っ、」
『令呪をもって命じる、アヴェンジャー(偽)……!』
そして球磨川禊は、光る紋様の浮かぶ右手を持ち上げると、宣告した――
見開き2ページ分の大ゴマを使って、邪悪の極みともいえる笑みを浮かべて。
『 ぱ ん つ 禁 止 。 』
――こうして球磨川禊は、貴重な令呪1画と、人類の言語能力に挑戦するかのような罵詈雑言3時間分を浴びる苦行と引き換えに。
自らのサーヴァントに課せられた制限の正確な理解と、性悪女神が羞恥に悶える貴重な場面とを手に入れることとなった。
そもそも勝つ気なんてない女神と、勝てない運命の下にある青年。
案外悪くないコンビなのかもしれない――周囲にかける迷惑さえ考えなければ。
【クラス】アヴェンジャー(偽)
【真名】エリス
【出典】ギリシャ神話
【性別】女
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力D 耐久E 敏捷D(B) 魔力EX 幸運A 宝具EX
【クラス別スキル】
復讐者(偽):E-
神霊エリスがアヴェンジャーのクラスで潜り込むために用意した偽装スキル。一応用意しただけ。ほぼ無意味。
忘却補正(偽):E-
神霊エリスがアヴェンジャーのクラスで潜り込むために用意した偽装スキル。一応用意しただけ。ほぼ無意味。
自己回復(魔力):EX
抑えても隠しても溢れんばかりに湧き上がる真正の高位神霊の底なしの魔力。
このクラスになると現界し続けるのにマスターの魔力を一切必要としないどころか、どれだけ使っても余るほど。
事実上の「単独行動」も兼ねたスキル。ぶっちゃけ反則級の能力。
【保有スキル】
真名隠蔽:A+
自らの正体を隠蔽するスキル。
何しろ産んだ子供の中には『嘘言』なども居るので、この手の偽装はお手の物である。
表向きは「まだ見ぬ未来に出現する不幸な少女の英霊・『全てを嗤う者』エリス」という存在であると偽っている。
真名の看破を試みた者は、一段階の成功だけではこの偽装の方に誘導されてしまう。
この偽装は特に対ルーラー、対聖杯に対して強く施されており、これらの対象には+の修正を受ける。
また偽装を完全に看破しない限り、このスキルの存在そのものにも気づくことができない。
神性:A(D)
神霊適性を持つかどうか。様々な防御効果を発揮する。
女神エリスは正真正銘の神霊である。
己の正体を偽り、多くの力を自ら封じた彼女ではあるが、その力は完全には隠しきれない。
なお上記の「真名隠蔽」で偽りの正体に誘導された者は、神性のスキルのランクをDと見誤る。
(もっともD程度であっても、未来の英霊が所持していること自体が不自然であるのだが……)
飛翔:B
自前の黒翼を用いた飛行能力。
飛行中の敏捷判定はこのスキルのランクを用いる(上記ステータスのカッコ内)。
歩くのと同レベルのコストで自由自在に空を飛び回ることができる破格の能力。
翼は自由に消したり出したりすることができる。
本人にとっては当然過ぎるモノだったので、うっかり制限してくるのを忘れていた代物。
翼を持っているだけで特に逸話などはなく、神としては大した飛行能力ではない……のだが、普通、英霊は飛べない。
魔力放出(炎):A
武器・自身の肉体に魔力を帯び、瞬間的に放出する事によって能力を向上させるスキル。
彼女の場合、口から燃え盛る炎を吐き出す形で行使する。
吐いた炎を直接ぶつけて攻撃することも、武器などにまとわせて振るうこともできる。
本来であれば絶大な能力向上の代償に多大な魔力消費を要する技だが……「自己回復(魔力):EX」とのコンボは卑怯。
なおこれでも手加減して封印して能力を抑えているつもりらしい。本来はどんだけなんだアンタは。
争いの母:A
争いの火種になりそうな物事を見つける才能。
人間心理に通じ、さらに文字通り神のレベルの直観力と合わせて、集団を崩壊させるための糸口を確実に見つけ出す。
これは才能であると同時に呪いでもあり、彼女は争いを起こすチャンスを目にすると我慢ができない。
状況に応じて偽装がバレないよう手段を選ぼう、などと考える知性はあるが、行動そのものを自制することは難しい。
【宝具】
『不和の林檎(アップル・オブ・ディスコード)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1〜100 最大補足:上限なし 「最小補足」:3人
神話においてトロイア戦争を引き起こすに至った黄金の林檎。
一定の目的や所属意識を持つ集団――ありていに言って『仲間』と思い合っている集団――を対象とする。
集まっているところにこの『黄金の林檎』を投げ込まれた集団は、ささいなことでいさかいを始める。
『林檎』を投げ込む際に争いの方向性を誘導することも可能。
(神話においては『最も美しい者へ』の一言を書き込むことで、女神たちに決定的な対立をもたらした)
影響を受ける者たちを結ぶ『仲間意識』が強ければ強いほど、対立した際の反発も大きくなる。
一時的に打算で繋がっている同盟相手などであれば、ただケンカ別れするだけで済むかもしれないが、
強い絆で結ばれた者たちであれば、最悪、かつての仲間同士で殺し合いが始まってもおかしくはない。
対立の過程で、複数のグループに分かれることもある(神話においては、3女神は最終的に1対2の構図となった)。
またこの精神干渉能力は極めて強力で、通常であればこの手の干渉を受けない者にも抵抗の判定を強いる。
(何といっても、神話時代の女神たちさえ狂わせた逸話を持つ程なのだ!)
この『林檎』の使用に際しては、「対象となるグループが3人以上であること」が条件となる。
この人数制限は神話上の逸話に由来する。
ゆえに対象が2人または1人の場合には発動せず、いったん発動しても影響下にある者が2人以下になれば自然消滅する。
そのため、一般的なサーヴァントとマスターの主従の1組だけであれば、そもそも通用しない。
(もっとも騎獣や使い魔、『複数いる本体』や分身などもそれぞれ「1人」ずつとカウントされるのだが……)
今回の聖杯戦争での顕現においては、一度に効果を発揮できる『林檎』は1つきり、という制限がある。
あるグループが『林檎』の影響下にある場合、次の『林檎』を投げることはできない。
なおエリスは任意でいつでも、投げた『林檎』の影響を解除することができる――
もしも万が一、彼女が投げた『林檎』を解除することなく脱落した場合、解呪の手段は永遠に失われる。
(文字通り神の呪いとなって残るので、それこそ、解除のためには『聖杯への願い』レベルの手段が必要になる!)
もっとも、あまりにも強すぎる力であるため、『林檎』の使用はせっかくの偽装を台無しにする恐れがある。
ルーラーが『林檎』そのものを直接目視した場合、そのつど正体を看破するための判定を再試行することができる。
『戦叫(ウォークライ)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:声の届く限り 最大補足:無制限
争いを引き起こす戦神の叫び。
この叫びを聞いた者は、短絡的で暴力的な行動をとりやすくなる。
誰かに苛立っていれば反射的に殴り、溜めこんだ不満があればぶちまけ、我慢していたことがあれば実行する。
慎重な者も普段の冷静さを失い、臆病な者も勇敢な(無謀な)行動をとりやすくなる。
また同時に、この叫びの影響を受けた者は、叫びそのものに対する興味を持たず、そのことに違和感も抱かない。
(誰が叫んでるのか、だって? そんなことより大事なことがある! いいから殴らせろ!)
この叫びに耐えるには、何らかの精神抵抗のスキルや宝具を用いるか、不利な修正を受けての幸運判定に成功する必要がある。
また大声で叫ぶ関係上、連続使用は困難。すぐに喉が枯れ果ててしまう。効果範囲も本来のものより遥かに狭い。
これもまた幼女の身体になったことの影響でもある。
【Weapon】
『無銘・槍』
凶悪な印象の巨大な槍。
本体が幼女の姿になったせいもあり、身長の倍を超えるとんでもないサイズとなっている(でも使える)。
本来であればこれも一振りで死と恐慌をもたらす恐るべき宝具であるのだが、正体の偽装に伴って能力を完全に封印。
頑丈で業物なだけのただの武器、となっている。
本来の姿であればここに『血と埃に汚れた鎧』という装備が加わる。
無銘ながらも神の装備だけあって防御力はケタ違いなのだが、体格の変化に伴いサイズが合わなくなり置いてきた。
【人物背景】
正真正銘の神霊。
それも、オリュンポス十二神のうちの一柱・戦神アレスの、半身とも呼べるほどの高位存在。
司るものは『不和と争い』、戦神アレスの妹(一説によると姉あるいは双子)にして妻。
父親不詳の子沢山で、その子らも『迷妄』『労苦』『飢餓』『無法』など名前が知られているだけでも物騒な連中ばかり。
彼女の最も有名な(そしてほぼ唯一の)エピソードは、『パリスの審判』および『トロイア戦争』に繋がる不和の林檎のお話。
ある時、テティスとペーレウスの結婚を祝う宴が開かれ、全ての神々が招待されたが、嫌われ者の彼女だけは呼ばれなかった。
怒った彼女は宴を台無しにしてやろうと、黄金の林檎に『最も美しい者へ』と書いて宴席に放り込んだ。
その林檎を受け取る権利を巡って、ヘラとアテナとアフロディテの3女神が対立。
審判役への贈賄合戦など目を覆いたくなるような醜い争いの果てに、大量の死者を生んだトロイア戦争へと繋がっていく。
こんなエピソードからも分かる通り、神々の中でも嫌われっぷりが群を抜いており、またそれも納得な性格の悪さを誇る。
戦神アレスもとにかく戦っていれば幸せという血と殺戮を愛する戦闘狂だが、エリスはそこに加えて陰険さも併せ持つ。
他人の争いを煽り、揉め事を大きくし、煽る火種がなければ自ら火をつけることまでするという極悪っぷりである。
それでいて、まともに戦ってもとんでもなく強い。殺戮もまた彼女の大好物。アレスと共に戦場を駆け回る。
今回、彼女が聖杯戦争に『潜り込んだ』背景にあるのも、その性格の悪さがある。
神霊というものは文字通り格が違うため、本来ならば聖杯戦争などに呼ばれるような存在ではない。
呼ばれるような存在ではない、のだが……しかし、何故か散見されるのも事実。
少なからぬ神霊・半神霊が、それぞれに様々な理由を駆使して呼ばれていく姿を見て、エリスは怒った。身勝手に怒った。
『あいつらだけズルい!!』
『またあたいだけ除け者か!!』
かくして彼女は一念発起、ありとあらゆる手を使って聖杯を騙しにかかり、とうとう英霊と偽って召喚させることに成功した。
どんな基本クラスでも適性がある彼女ではあるが、ひねくれ者の彼女は今回アヴェンジャーと偽っている。
なおその偽装の過程で、本来持っていた多くの力を自ら封印。
元があまりに強すぎるため、細かい匙加減が分からず、あちこちちぐはぐなことになっている。
制限し過ぎた部分もあれば、制限してなお英霊としては強すぎる能力を残している部分もある。
なんにせよ、サーヴァントの枠を超えて現世に影響を与えることはできなくなっている。
また霊として「小さく」なったことを反映し、外見も本来の豊満な女性から幼い少女の姿へと転じている。
聖杯戦争への参加中は、自らの意志で本来の姿に戻ることもできない。
精神年齢や判断力といった部分についても大きく下がっている模様。
あと神様なのでメタな発言をちょくちょく挟む。
【特徴】
長い黒髪の美少女。スレンダーな体型。
背中には1対の黒い鳥の翼が生えており、翼の色を除けばまるで天使。翼は任意で消すことが可能。
だいたい11〜12歳くらいの外見に見えるが、浮かべる笑みは凶悪で性悪、とても子供には見えない。
服装は膝丈くらいの短めの白のワンピース。
翼を出すために背中が大きく開いており、胸元から裾から色々と危ない衣装。特に飛んでいる時はめっちゃ危うい。
また早々に使われた令呪のせいで、下着の着用は聖杯戦争の間ずっと不可能。服を着替えても下着は着れない。
つまり、ぱんつはいてない。
ちなみに流石にそれは恥ずかしいらしい。羞恥心の置き所がいまいち分からないキャラ。
【サーヴァントとしての願い】
歴史ある神である自分が、『聖杯』なんて新参の奇跡に願う訳ねーだろバーカバーカ!
聖杯戦争なんてぜんぶ台無しにしてぶち壊してやる! 散々煽って遊び倒した後でな!
【マスター】
球磨川禊@めだかボックス
【Weapon】
どこからともなく取り出す巨大な螺子。いくらでも出てくる。
【能力】
過負荷『大嘘憑き(オールフィクション)』
あらゆるものごとを『なかったこと』にする破格の能力。
その他、派生能力の数々を持っているかもしれない。
【人物背景】
『僕の概要を簡単に知りたい、だって?
そんなこと言われても僕は『めだかボックス』そのものと言っていいくらいの重要人物だからね!
素直に諦めて22巻192話にも及ぶ少年漫画を読破してみるんだね! 面倒なら適当にググってみてもいいよ!』
【マスターとしての願い】
叶えたい願いならあるけど聖杯なんてモノの力は借りない。
なので普段通り自然体のまま色々と台無しにしてやる――たぶん今回も「勝てない」けど。
【備考】
令呪を一画分使用済み。
正確な参戦時期については書かれる書き手の方にお任せします。
以上、投下終了です。
>>568
素材を使って作ったものですが、よろしければどうぞ
投下します
たぶん本当の未来なんて
カラッポの世界
.
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「未来が見えるって言うのなら、俺の未来何て言わなくて良い」
ある時その男は、彼女に対してそう言い放った。
酷く草臥れている顔の男だった。薄汚れた上着とズボンは土と汗で汚れ、何日も風呂に入れていないのだろう。身体からは嫌な臭いがした。
生きる為の労働と歩んで来た碌でもない人生の疲労から来る垢が、体中にこびり付いたような男である。
見た目は二十代後半の働き盛りであると言うのに、感じられる雰囲気には溌剌としたものを全く感じさせない。
人から裏切られ、叩きのめされ、蹴落とされ。単刀直入に言って、男から感じられる空気は、負け犬のそれだった。そう、彼女と同じ気配を、男は発していた。
「どうして、ですか?」
「言われなくても解るからだ。俺の未来に救いがないって事ぐらいはな」
酷い卑下の言葉だ。誰が耳にしても、卑屈以外の言葉は浮かびようがない。
しかしそんな言葉を口にしているのに、男の瞳には強い意思が輝いていた。そんな言葉を口にしているのに、男の目線は、常に前に向かって放たれていた。
自分と言う人間と、歩んで来た過去。それら全てを合算して、それでもなお、男は自分の人生には救いが最早ないと言っているらしかった。
「……如何して、救いがないと仰れるのですか? 救いが、まだあるかも知れないと言うのに」
「アンタは、未来は解っても『過去の事は解らない』らしいな。なら、俺の未来に救いがあるって言うのは、気休めの嘘だと解る。俺の過去は、俺にしか解らないからな」
男は淡々と言葉を紡ぎ、それを受けて、彼の引き当てたアーチャーであるところの彼女は、黙りこくった。
男の言っている事は正しかった。アーチャーは、未来を予知・予言出来る力を持ったサーヴァントである。しかし、彼女には、現在より過去を遡って視る力はない。
だから、男の過去に何があって、そしてそれがどのようにして彼の未来に立ち塞がっているのか、彼女には知る由もない。
そして、男の未来に救いがない、と言うのもまた事実だった。
アーチャーは未来の事が読めると言っても、聖杯戦争の制約か、はたまた、自身の神秘としての格が他より劣るのか。
この冬木で起る未来については、精々が二時間程度先ぐらいしか先読み出来ない。冬木については、二時間先の未来しか見えない。
しかし、『目の前の男が元の世界に戻った場合に辿る事になる未来』については、彼女は問題なく予知出来る。
つまり、元々生きていた世界で、当該人物がどう言う生き方をする事になるのかについては、完全に彼女は知る事が可能なのだ。
酷い、の一言に尽きる。どんな未来を歩んでも、どんな選択を選び取ろうとも、男が救われる選択は何一つとしてない。
疲労と年波と不摂生に心と身体の蝕まれる、最低水準の生活、そしてその最低水準以下の生活を送る為に、日々働き続ける。
働かないと、その最低水準以下の『生活』すら送れないからだ。男にとって働けなくなる、働かないと言う事は、冗談抜きで死に至る事柄だった。
男は出口のない負の螺旋に囚われていた。彼は蜘蛛の巣に囚われた蝶と同じで、後は生きる為の養分を吸われて、死を待つだけの存在。
男は、人の形をした搾取される為だけに動き続ける羽虫と、何の違いもありはしなかった。
だが、酷いと言うのは、そんな生活がずっと続くからではない。
人の人生と言うのは何が起こるか解らない。それまで社会の頂点に立ち、力の限りを尽くしていた権力者が、何かを契機に地の底にまで転落する事もあれば、
その逆、虐げられる側にいた者が転がり込んで来た幸運や機会を活かし、一気にのし上がると言う事は、何時の時代にだって有り得る事なのだ。
目の前の男は違う。今アーチャーが見ている姿と、何ら変わらない年齢の内に、この男は死ぬ。間違いなく、今から数年、或いは数ヶ月の内に死んでしまうのだ。
人生に逆転の機会が訪れぬまま、若い内に死ぬ。だからこそ、目の前の男は悲惨なのだった。男は薄々、己のそんな境遇を理解しているらしかった。
「……解りません」
アーチャーのサーヴァントが呟いた。
「何がだ」
「貴方の未来は、不幸な事故で死んだりだとか、誰かに殺されたりだとか、ではありません。貴方はその未来で尽く、自分から死を選び、自らその命を……」
一瞬驚いた様な表情を男は見せ、その後、変な苦笑いを浮かべて、口にした。
「正直、疑ってた。未来が読める何て、ありえないと。だが、本当に未来が読めるらしいんだな」
「その言い方ですと……」
目の前の男は……アーチャーのサーヴァントである彼女のマスターたる彼は、己の結末も、予想の範疇であったらしい。
つまりこの男は、自らの手で命を断つ、それが、己の人生の終着点であるとしっかりと認識し、かつ、その為に生きていると言っているようなものだった。
「誰に感謝されるでもない、まともな人間扱いもされない。心も身体もボロボロになるまで働かされる……そんな俺でも、出来る事がある」
「それで死ぬのは、間違ってます……!!」
「俺が死ぬのが解ってるなら、俺がどう言う人間かも解っている筈だ。碌な人間じゃないぞ、お前のマスターは」
それも、解っていた。解っていて、知らないフリをしていた。
男は単刀直入に言って、サーヴァントであるアーチャーの目から見ても、倫理観の無い人物だ。
己の目的の為に人に暴行し、仲間にも制裁と言う名目でキツく当たる未来も確認出来た。見た目からは想像も出来ないが、手前勝手な人物であるらしい。
「俺が社会のゴミだから、自殺する訳じゃない。お前に言われるでもなく、俺がそう言う人物だと言う事は、良く解ってる」
「そんな、事は……」
「過去の解らないお前の為に教えてやる、俺は人を殺してる」
今度はアーチャーの方が目を見開かせた。嘘、と小さく口にする。
自分のマスターが……、と思ったが、言われてから改めてその姿を確認すると、成程、そんな気配は確かにする。
草臥れた気風を発する、冴えない身体。しかし、瞳に確かな意思の強さが宿っているのは、其処に起因するのだろう。
「恐らくだが、例え死を選ばなくても、どの道俺に待ち受けていた境遇は、悲惨なものだっただろう。俺が裁かれるべき存在なのは、よく解ってるよ」
「そう言う存在だから、自分で死を選ぶ、と……?」
「違う」
そう答えた男の――『奥田宏明』の顔は、鉄のように険しい表情になっていた。
サーヴァントになっても、本質的には生前通りのか弱い乙女に過ぎないアーチャーは、その表情に怯えてしまう。
「……いや、変な顔をして悪いな。俺が死を選ぶのは、そう言う理由もあるんだろう。だが、それは絶対に本質じゃない。俺の死は、計画の一つに過ぎないんだ」
「それでは、貴方は何の為に自分で死ぬのですか……?」
「それが、俺以外の人間の為になるんだと、信じてるからだ」
そう答えた奥田の顔は、労働を終えて疲れ切った表情とは全く趣を異にする、真面目なそれであった。
「……アーチャー。未来を予知出来るって言うのなら、アンタに聞きたい。……骨は、届いたのか?」
「骨、ですか……?」
「あぁ、悪い。質問を変えよう。アーチャーは俺以外の人間の未来は視れるのか?」
「……申し訳ございません。あくまでも、目の前にいる方の未来しか視えないのです……」
「そうか……解った。なら、俺も覚悟を決めたよ。俺は尚の事、聖杯を手に入れなきゃならないらしいな」
深呼吸を一度だけ行ってから、奥田は口を開いた。
「その骨って言うのはな、此処にやって来る前に、とある所で出来た俺の友人の物なんだ」
「遺骨」
「そうだ。俺はな、そいつの家族の所に遺骨を届けてやる為に、色々頑張ってる。その為に、アンタが見たような、色々な悪事にも手を染めてる訳だ」
奥田が顔をアーチャーの方に向けて来た。やはり、真率そうな表情だ。
「其処までするのか? って顔だな」
「……」
「解ってるよ、自分でも意味のない事だって位は。恐らくそいつと一緒だった時間は、一ヶ月かそこらだ。親友って言う程の絆を築けた訳でもなければ、そいつに恩がある訳でもないし、そいつが取り立てて凄い奴だった事もない。明るさだけが取り柄の、何処にでもいる普通の奴。そいつが、俺が遺骨を届けてやりたいって言う奴だよ」
次の言葉を模索しているのだろう。奥田は、黙りこくった。
「……悔しかったんだと思う」
「何が……でしょう」
「そいつが死んだ事もそうだが、俺の無力さに、だ」
言葉を、奥田は続ける。
「明るさと優しさが取り柄なだけじゃ、何処の世界でだって生きてけない。そいつはお人好しな上に、底抜けの馬鹿でな。昔自分を捨てた父親に会う為に、内臓を売ってまでこの国の地を踏んだらしい。結局、それが元で死んだよ。金もないしツテもない俺達は、そいつが死ぬ事を防げなかったし、延命だって出来なかった」
奥田の言葉を黙って聞くアーチャー。
「それが無性に許せなくてな。馬鹿で、明るくて、優しくて。報われても良い筈なのに、結局神も悪魔もそいつに報いてやらなかった。だったら、アイツの事を昔知ってた人間が、せめて何かをしてやらないとな、って思ったんだ」
「……」
「お前の視た俺の未来は、志半ばで死んだ友人の遺骨を届ける為の一環だと思って良い。多くの人物に迷惑が掛かる事は俺だって知ってる。こうするしか方法がなかったからだ。つまるところ俺は、自尊心を弱者から奪い続ける強者に虐げられる人物に過ぎない、これしかやり方が解らなかった」
「だけどな」
「その身勝手で、一人の人間の意思が成就するんだ。そいつはもうこの世にいないし、俺達にこうして欲しいと遺言を残した訳でもない。たが俺は、『間違いなく俺のやってる事が死んだ友人のタメになる』って言う確信がある。だから俺は、罪を冒してでもそんな事をやるんだ。俺はもう、元の世界に戻ったとて刑務所にぶち込まれるだけの男だが、そんな男でもせめて、死んだ友人の為に……明るさと優しさだけが取り柄だったアイツの為に、何かしてやりたい。それだけだよ。アーチャー」
奥田の話を聞いて、何故、自分が彼に呼び出されたのか、このアーチャーは理解した。
ああ、彼は自分と同じだったのだ、と。男は過去に失った大切なものの為に、全ての未来を擲ったのだ。
過去に出来た大切な仲間の意思を果たさせる為に、彼は、己の命をも捨てるつもりだった。今となってはその友人が、奥田の成す行動に何を思うのか、それは解らない。
解らないが、それがきっと彼の為になるのだと言う万斛の自信を持っているからこそ、奥田はこうして、聖杯戦争についても意欲的なのだ。
奥田宏明は、未来ではなく、過去の友人を守る為に、利得を捨てた行動に出、これから彼を待ち受けていたかも知れない全ての幸福を投げ捨てたのだ。
その生き方は、正に今の自分だった。
アーチャーは生前のたった一度の迂闊な行いで、自分だけではなく、己の何代にも渡る先祖と、自分達の仲間に、消える事のない汚名を被せてしまった。
曰く、不意に人の前に現れては、不吉な予言を残して去って行き、その予言を受けた人物に必ず不幸を舞いこませる、と言う不穏な瑞獣。
それが、彼女らに対して被せられた拭える事のない汚名。本当は、違う。未来を予知出来る異能を、人の為に使っていた、その異能以外はただの人間。
たったそれだけなのに、アーチャーが行った行為で、それら善意が全て覆された。アーチャーは、己のせいで一族が無辜の怪物になった事を、心の底から悔いていた。
だから、聖杯に彼女は願うのだ。自分の事などどうでも良い、己以外の一族が、幸せになれば良い。――『件』は、私だけで良いのだ、と。
白い小袖と白い袴を身に着けた、髪を涼しげに短く切った、見目麗しい女性だった。
纏う雰囲気は酷く儚げで、少し小突いただけで簡単に骨が折れてしまうのではないかと言う程、目に見えて華奢だと言う事が解る。
その装いは、名のある大神社に仕える巫女然としているが、性根の邪な者は、百二十cm程もあるその胸部に目が行く事だろう。
ゆったりとした巫女服であるが、胸の部分だけが大きく膨らんでいるのがどんなに目が悪い者でも一目で解る程だった。
女性としての魅力を詰め込み、しかし、一週間の後に枯れる事を宿命づけられた彼岸花にも似た儚さと、
頼る者縋る物を全て失ってしまったような悲観的な空気を漂わせるこの女性を――人は、『件(くだん)』と言った。
「マスター。私は……もう解っているとは思いますが……弱いです。とても、とても」
「……だろうな」
「そして私は、口にした凶事が絶対に実現してしまうのに、その反対……人にとって嬉しい事は、口にしても絶対に実現いたしません」
「そうか……」
「ですが――」
其処で奥田の手を握り、件が口にする。
「そんな私ですが、言わせて下さい」
「何を、だ?」
「……如何か、貴方にも……幸せが、訪れますように、と」
木枯しが一陣、吹き荒んだ。
金がない為冬着を買えず、季節的には春物の服しか持っていない奥田には酷く堪える風だったが、件の握ってくれている手だけが、確かに暖かかった。
聖杯戦争が始まる前の、冬木大橋付近の誰もいない公園での一幕とは、誰も知らない。
【元ネタ】日本伝承、都市伝説
【CLASS】アーチャー
【真名】件
【性別】女性
【属性】中立・中庸
【身長・体重】159cm、51kg
【ステータス】筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:A+ 幸運:E- 宝具:EX
【クラス別スキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。
【固有スキル】
予知:A+
完全なる予知能力。生前有していた異能と、伝承により広まった件と言う妖怪の有する能力が混ざり合った結果、極め高いランクを保持するに至った。
このランクになると、人が死ぬまでの未来を完璧に予知出来るレベルであるのだが、聖杯戦争においては、当該人物から二時間程度先の未来しか予知出来ない。
但し、その人物が『本来いた世界で辿る事になっていたであろう未来』については別枠で予知出来、その場合は完璧にどうなるかを知る事が出来る。
無辜の怪物:B
人の不幸を予言する妖怪・件。生前の行いから生まれたイメージによって、過去や在り方をねじ曲げられた女性の姿。
能力・姿が変貌してしまう。この装備スキルは外せない。このスキルにより、アーチャーの口にした凶事は、必ず実現する事になる。喜ばしい事は絶対に成就しない。
【宝具】
『人生、是件の夢の如し』
ランク:EX 種別:対運命宝具 レンジ:1〜∞ 最大補足:1
アーチャーの持つ件と呼ばれる妖怪の持つ性質及び能力が宝具となったもの。
伝承に曰く、アーチャーは当該人物の凶事や不幸を予言し、アーチャーの予言した事は必ず実現する事になると言う。
この宝具の本質は『言霊』と呼ばれる、言葉が有する神秘であり、その中でもこの宝具は言霊が有する神秘の最高位に相当する。
つまりアーチャーは、言霊を言い『放つ』からアーチャークラスなのである。この宝具を発動させた状態で、アーチャーが口にした凶事は、必ず現実のものとなる。
正確には、予言した人物が辿る運命に、アーチャーが口にした事で生み出された運命を差し込み、割り込ませる事で、それを強制的に実現させる、と言うのがこの宝具。
当該人物が転ぶと言えばその人物は転び、骨が折れると言えば骨が折れ、命がなくなると言えば文字通りになる。
強力な半面制約も多く、言い放った凶事は、『何時何処で成就するかを指定できない』。次に、アーチャーが消滅すれば、
『消滅以前にそれまで口にしていた凶事は全て白紙に戻り、なかった事になる事』。但し、既に成就してしまった凶事は白紙にならずにそのままである。
またアーチャーは無辜の怪物スキルにより、凶事しか招かせる事は出来ず、吉事やめでたい事は絶対に手繰り寄せられず、予言する内容も『人の運命』のみに留まり、突然大地震が起こったり火山が噴火したり、等と言う地球に対する運命改竄は不可能である。
【Weapon】
【解説】
件(くだん)とは日本に伝わっている妖怪の一種で、江戸時代前半から昭和前半まで、日本全国の様々な場所で目撃情報が確認されていた。
それは、牛の身体に人の頭、或いは人の身体に牛の頭を持っていると言う妖怪で、これ自体は問題ではなく、最大の特徴は優れた予言の能力である。
彼らはその出現時に大抵の場合は不吉な予言を残して去って行くとされ、そしてその予言は必ず的中すると言う。言ってしまえば、ある種の瑞獣である。
一説によれば彼らは太平洋戦争における日本の敗北や、もっと遡って関東大震災や宝永大噴火、明暦の大火すら予言していたと言う。
因みに『件』と言う字は『人』と『牛』に分解が可能な為、件の如しの『件』の意味が解らない者が憶測で「くだんと言う生き物がいる」と誤解し、
これがもとで誕生した、都市伝説に近い妖怪なのではないかと言う説がある。また或いは、牛の身体を持つと言う特徴から、そう言った皮膚病の持ち主がモデルであった、と言う説もある。
その正体は妖怪でも何でもなく、歴史の怒涛の波によって完全に姿を消し、存在したと言う痕跡すら最早存在していない、日本古来から伝わる巫女の一族。
つまり彼女達は、嘗て日本に存在していたとされる、特定の神社に属さずに、旅をしながら祈祷・託宣・勧進で生計を立てていた、歩き巫女であった。
彼女達は魔術こそ扱えないが、遺伝性の極めて強い、未来を予知してしまう異能を有していたとされ、この力を以て悩める者達を救っていた。
そんな状態が続いていたが、歩き巫女と言う、当時の時点ですら安定性も何もない者達であった為、時代が下るにつれて彼女達はその数を減らして行く。
最終的には昭和前半になる頃には、残ったのは一人だけ、しかも歴代の一族の中でも特に予言の力が強い十代後半の少女だけだった。
このまま俗世界で生活しようかと彼女は考えたが、ある時に、日本が悲惨な未来を辿り、その中で多くの国民が死ぬと言う未来を見てしまう。
この事を人々に知らせようと動き始め、その事を国民に教えるも、当然そんな事は誰も信じないし誰にも嘲笑される。
それでもそんな事を続けていた為に、最終的には特高(特別高等警察)に連行され、拷問の末に死に至る。享年17歳。余りにも若い死である。
彼女の見た未来とは、太平洋戦争の敗北と、米軍の沖縄上陸による人の悲惨な死、そして長崎と広島に投下された原子爆弾の未来だった。
その予知した未来が嘘であったか否かは、最早語るまでもない。これが、今日まで伝わっている件と言う都市伝説の、全貌であった。
サーヴァントとして召喚されたのは一族の最後、即ち太平洋戦争の敗北を言い当てた結果特殊警察の拷問で殺されたとされる人物。
聖杯戦争に召喚された件は、無辜の怪物スキルの保有者でありながら、かなり人間に近い姿をしている。
実は、件と言う妖怪の特徴である牛の身体や頭と言うのは歴史が下り、情報が伝言ゲームされて行くにつれてあやふやになった結果デタラメになってしまったもので、
真実は『牛のように大きい胸を持った女性』と言うルーツが、人と人とに伝わって行く間にこんな事になったのだと言う。
なお胸の大きいのも遺伝らしく、一族皆そうだったらしい。見ての通り、外から見れば何処にでもいる普通の人間である。
しかし妖怪特有の魔性の属性はしっかりと受け継いでいる為、ただでさえ打たれ弱いのに魔性特攻の攻撃を喰らった即死する。
生前の事もあってかなり悲観的な性格をしているが、自分の力を上手く使えば太平洋戦争の結末は防げたかもしれないと常々思っている。
要するに、かなり抱え込みやすい責任感の強い人物。しかし、未来が読めると言う一族の出である彼女は、既に起った過去は何があっても変えられない、
と言う当たり前の事を強く実感している人物であり、聖杯にかける願いも、太平洋戦争を回避するでは予測出来ないアクシデントが勃発するのではと考えている。
その為、聖杯に掛ける願いは、『自分の一族は件と言う妖怪ではなく、人の為に自分の力を使っていた人間だった』と皆に認知して貰いたいと言う物。
自身の風評被害の象徴でもある己の宝具を奮う事は酷く嫌っているが、それでも先祖の為に件は力を発揮する。
【特徴】
所謂巫女服。小袖は白だが、袴は赤色ではなく白身。髪を涼しげに短く切った、見目麗しい、いわば可愛らしい顔つき。
目に見えて華奢だと解る程弱弱しい身体つきで、見る物に与える印象は儚げで、触れれば崩れてしまいそうなか弱い花。
但し、件伝承の元になってしまった程の胸の大きさは凄まじく、百二十cm程もあるバストは恐ろしく目立ち、服の上からでもその大きさがハッキリわかんだねのレベル。
生前は如何とも思わなかったらしいが、件伝承の原因ともなり、かつ男が自分の胸を見てどう思うかも知ってしまった為、酷くそれがコンプレックスになっている。
【聖杯にかける願い】
自分の一族におっ被せられた、件伝承と言う風評被害を撤回させる。件と言う妖怪として生きるのは、自分だけで良い。
【マスター】
奥田宏明@予告犯
【マスターとしての願い】
嘗て自分と働いていたフィリピン人労働者である、ヒョロの遺骨を彼の父親の下に届ける。
【weapon】
OTPトークン:
ヒョロが働いていたネットカフェの店長が、夜逃げの際に店に残して行ったもの。ワンタイムパスワードの設定の為に必要。武器ではない。
本来いた世界で辿る事になる未来では、この道具を用いて奥田はその計画を成功させるのであるが、今回の聖杯戦争では全く役に立たない代物になるだろう。
しかしそれでも、奥田にとっては大事な、思い出の品。
【能力・技能】
IT知識:
元々奥田はそう言った会社に派遣社員として勤めていた為、この手の知識には非常に明るい。金を取れるレベルのプログラムの構築だってお手の物。
その手腕は非常に優秀であり、正当な歴史においては、警察のサイバー犯罪課のベテラン刑事をして、悔しい位頭の良い人物と言う評価を下さざるを得なかった程。
この知識に付随して、数学的な知識にも長けている。また、警察がどのようにして犯人を追跡、逮捕するか、と言う方法を知っており、警察面の知識にも長けている。
【人物背景】
元々はIT会社の派遣社員であった青年。不当解雇に遭い、日雇いの肉体労働を始めるようになるが、その時にヒョロと呼ばれるフィリピン人労働者と知り合う。
が、日本に来るために腎臓を売ったヒョロは、山間開発のバイトと思しきタコ部屋で腎不全に陥り、死亡。
その事を監督に知らせ、やって来た監督の『腐るから埋めろ』と言う発言に逆上した、同僚の寺原に手を貸す形で、監督を殺害。
以降は、ヒョロの骨を彼の父親の下へと届ける為に、策を練る事になる。本文中では記載していなかったが、彼のあだ名は『ゲイツ』である。
犯罪予告をネット配信する犯罪グループ、『シンブンシ』として活動する前の時間軸から参戦。
投下を終了します
投下します。
ココニアル、きっとこの気持ちがチカラ。
だってシンデレラはがんばりや、でしょ?
♪
十時愛梨は初代シンデレラガールである。
この一文が示しているのは、少女達の憧憬と言うべきアイドル数百人の中の頂点に、十時愛梨という名前の少女が最初に立った事実である。
そして、十時愛梨はシンデレラガールの初代であって二代目や三代目ではないし、はたまた四代目でも五代目でもない。一度頂きを降りた後、再び同じ快挙を達成したことは無いという事実も意味している。
栄えある二つ名を他者に託した十時愛梨は、もうシンデレラと呼ぶべきではないのだろうか。
それは違う。
十時愛梨はあくまで初代シンデレラガールであって、元シンデレラガールではない。シンデレラガールの歴史の流れに、十時愛梨の名は既に永遠のものとして刻まれている。たとえ十時愛梨が輝きの中にいた時間は過去の物であろうとも、十時愛梨を指してシンデレラと呼ぶことに矛盾は無い。
誰もがシンデレラ。そう謳われているように。
十時愛梨はシンデレラ。十時愛梨以外の全ても少女達もまた、シンデレラ。無数のシンデレラ達の中で最もシンデレラらしいとされる少女が時間軸のある一点においては十時愛梨であり、またある一点では十時愛梨ではない。ただそれだけの話だ。
十時愛梨は自らの至らなさを過度に恥じる必要も、悔やむ必要も無いのである。
尤も、そんな理屈で十時愛梨自身が納得するかと言えば、また別の話。
何時の頃からだろうか。愛梨は、他人から自分に向けられる視線に込められた感情を意識するようになっていた。
強いて切欠を挙げるとすれば、舞台上で初代シンデレラガールの栄光を賜りトロフィーを受け取った日の夜、プロデューサーとのささやかな食事会に出掛けたことだった。
ほくほくといった顔で「ステーキでもスイーツでも好きな物を食べていいぞ」と語る彼の顔を見て、そういえばこの人がオーディションで自分を拾い上げてくれたのが全ての始まりなんだなあとしみじみ思って。
楽しい時も、苦しい時も傍にいてくれたんだなあと回想して、もしも彼がいなかったら自分はここまで走り抜けられなかっただろうなあと想像して。
その時、アイドルとして携わってきた歌詞の中を生きる無数の少女達と、心境が絶妙にシンクロする。
愛梨の胸中できっと初めて芽生えたと言えるだろう、恋心であった。
愛梨が彼に向ける視線が恋心であるならば、彼が愛梨に向ける視線も同じであってほしいと願うのは当然であった。尤も、気付いてしまった肝心の答えは「他の誰よりも誇らしいパートナー」以上のものではなかったけれど。
ならば、もっともっと頑張って自分を磨き上げれば、彼は自分に振り向いてくれるだろうか。
そんなことを思いながら打ち込むアイドルとしての日々は、以前よりも充実したものであった。色彩豊かな感情が、愛梨に向けられるのを実感する。数百数千数万の、歓喜と羨望の感情。
そして、ほんのちょっぴりの妬みの感情。
たとえば、うっかり持ち物の一つを家に忘れてきてしまった自らの失念を皆の前で打ち明けた時、しょうがないなあと暖かく見守る視線の中に混じっていた、隠しきれない蔑みの色。
特別仲が良いわけでも無かったその子と視線が交わった途端、一秒もかけず彼女は皆と同じ形の愛想笑いを造り上げた。
何時ぶりであった思い出せないくらい昔の話だったから、他人から嫌われる感覚など忘れていた。そしてそんな相手との付き合い方を愛梨は思い出せないし、もしかしたら最初から知らなかったような気さえする。
自ら他人へ負の感情を向けるのは得意でない。だから出来ること言えば、これまで通り、いや、これまで以上にレッスンに打ち込むことだった。
プロデューサーに、ファンに、誰にとっても喜ばしい夢の時間を提供するための努力。頑張れば、シンデレラはきっと幸せになれる。
夢を見続け、信じ続けた、その結果。
二代目シンデレラガールに選ばれたのは十時愛梨ではない別の少女であった。
銀髪の少女が舞台上で涙ぐむのを見届けてから数日後、トイレに入るためのドア越し誰かの嘲笑が聞こえたような気がした。聞こえなかった振りをして、やり過ごした。
頑張ったんだけどなあ。震える笑い声で、そう呟いた。
さらにその後で選ばれた三代目シンデレラガールは、愛梨と同じプロデューサーの下で育て上げられた数歳年下のクールな女子高生であった。
同じ事務所の中で働いているから、三代目シンデレラガールがかつての愛梨と同じように膨大な仕事量に忙殺されそうになっているのは間近で見ることが出来たし、そんな現状に対して彼女が充実感を得ていることもよく理解出来た。
一方の愛梨はと言えば、流石に初代シンデレラガール襲名当時ほどの過酷な日々ではなくなってはいるものの、スケジュール帳が賑やかになる程度には仕事に恵まれていた。
愛梨の努力の甲斐あってか、はたまたプロデューサーら協力者の立ち回りの賜物か、芸能界でもそれなりに安定したポジションには就けていたように思う。ソロCDのデビューを済ませていたのも含めて、アイドルとしては安泰な路線に入ったとも言えるだろう。
満たされないことを一つ挙げるとすれば、あの日からプロデューサーとの関係が一向に進展していないことであった。アイドルとプロデューサーという関係なのだからそれ以上であるべきではないことくらい愛梨も理解しているが、でも時間を経たのだし少しくらい彼の中で愛梨の存在感が増していても良いのではないか。
そんな期待感を潜ませながら、彼の方を何度か見つめてみた。
そして、何時しか気付いた。彼の中で、愛梨の存在感は増すどころか減っていた。
別に愛梨のことを疎ましく思っているとか、意図的に無視しているとかでは無い。今でも十分に良好な関係と言って良いし、愛梨の言葉には真摯に答えてくれる。
しかし、恐らく彼自身も気付いていなかっただろう。愛梨に向ける視線が、他のアイドルと同じような色を宿していたことに。
最も頼れるパートナーから、ただの頼れるパートナー達の中の一人に愛梨は格下げされていた。そしてかつて愛梨が注がれた視線を浴びるのは、他でもない三代目のシンデレラガール。
貴方が立っている彼の右隣は、私の居場所だったのに。
灰色の何かが表出しそうになるのを思いっ切り押し込めて、事務所を発つ彼と彼女をいってらっしゃいと見送る。
普段通りにしていたはずなのに、しかし三代目シンデレラガールが愛梨を見つめ返すときの顔は何となく居心地が悪く、ばつが悪そうに思えた。そんな気がした。
すらすらと時は流れて、愛梨と同い年の京都娘が四代目シンデレラガールに選ばれた頃のこと。
前々から存在していた心の引っ掛かりが、いよいよ苦痛と呼べる物に変化していた。
デビューしたての頃よりも、愛梨は成長していた。年齢の数字とかプロとしての実力だけでは無く、肉体的な意味で、である。度重なる運動によって締まるところは引き締まり、一方で出るところは出て、愛梨の肢体は一層に肉感的で扇情的な仕上がりとなっていた。
同時に、人の感情の機微についても聡くなっていた。特に、異性からの視線の意味について理解が進んだのは、プロデューサーの視線を気に掛け続けた影響か。
だからだろうか。愛梨の姿を見つめるお偉方の男性達が視線に込めていたのが、決して健全なだけではない感情であったことをいつしか察するようになっていた。
上下する胸の膨らみ、ちらりと覗く臍、歩く際の揺れる後姿。それらを見つめる男達の……どろりと薄汚れた、邪な。
アイドルとは一種のシンボル。女性の中でも特に人目に付く職業。ならば仕方が無いことなのだろうと頭では理解していても、本能的な嫌悪感はやはり拭えない。自らの持つ性の魅力の持つ意味の重さに気付くのが、愛梨の場合は他人より遅かったのかもしれない。
どうして、もっと早くこのように思えなかったのだろう。
デビューしたての頃からこういった類の視線に晒される場に立たされる仕事はこなしてきたし、そのことを昔は苦に思わなかった。暑いから服を脱ぎたいなんて破廉恥な言葉を何の臆面も無く言えるくらい、愛梨は無垢で無知だった。
いや、今振り返ってみればプロデューサーは苦々しく思っていたのだ。こういうバラエティ系以外の仕事をもっとしてみないか? と尋ねる彼に、楽しいから別にいいですよ、急にどうしたんですか? なんて答えた無邪気だった自分。
あの時、ちゃんと断っていれば別の路線は開けたのだろうか。そんなイフにもう意味は無い。愛梨の持ち合わせる業務の中で、既に一定のウエイトを占めている。プロデューサーの手がけた積み重ねの一部として確立されたノルマを、今更嫌だとは言い出せなかった。
沢山のアイドルの中の一人でしかない愛梨には過ぎた我儘。そう自分に言い聞かせ、おぞましさに震える身体を奮い立たせ、カメラの前で台本通りの能天気な台詞を吐き出した。
愛梨の日常は続く。アイドルとしても十分やっていける。十二時の鐘が鳴るにはまだまだ早い。
しかし、時が待ってくれない場面もある。
プロデューサーに結婚を前提としてお付き合いする恋人が出来たと同僚達の間で噂になるのを耳にした時、愛梨の視界は一瞬のブラックアウトをした。どうにか気力を振り絞り、嫌に高鳴る心臓の音を聞きながら友人と共に彼に尋ねに行く。
彼は、決して否定をしなかった。
いいから仕事に戻りなさいと苦笑する彼からの視線に宿っていたのは、やっぱり、手のかかる子供を愛おしむかのようであって。
仕事部屋の扉を閉めて、友人とも一旦別れて、そして愛梨は壁にもたれかかり、力無く身体を投げ出した。
手遅れだ。間違えた。甘い夢はもう続かない。
愛梨にとっての初めての失恋。育んだ時間は長く、膨らんだ想いは熱い。それでも実らないものは実らない。それ故に、大きな失意へと変換される。
そうして干からび始めようとした愛梨は、しかし枯れなかった。
「夢は、夢で終われない」
夢を願う少女に許された、肩書き。
十時愛梨は初代シンデレラガール。かつてのアイドル達の頂点。
そう、愛梨は輝ける。誰もがシンデレラ。その中で誰よりもシンデレラになれたのだ。だったらもう一度あの座に舞い戻れば、あの頃のように彼の中で一番になれば。もっと頑張れば。
……無理に決まっている。シンデレラガールの名を以てしても最優のパートナー止まりだった。二代目三代目四代目が選ばれるだけの時間の中で更に己に磨きをかけても、停滞か後退こそすれ前進はしなかった。
シンデレラガールとは、結局はアイドルの一人。最高のアイドルも、所詮はアイドルの枠の中。引かれた境界線を飛び越える特権を、愛梨は持たない。
愛梨は最初から、前提を間違えていた。
どうすれば良いのだろうか。愛梨がアイドルでいる限り、彼は永遠に振り向かない。だからと言ってアイドルを止めたところで振り向いてもらえる保証は無いし、何より彼と愛梨をずっと繋ぎ止めていた関係を無為にしては、もう彼と向き合えない。
だったらどうする。愛梨に残された手札は。
「…………私、頑張ります」
ぽつりと呟いたのは、五代目シンデレラガールの決め台詞。まるで猿真似のようなそれは、しかし愛梨の拠り所であった。
愛梨がまたシンデレラになればいい。もう誰にも及ばない境地に至る、最高の、極上の、空前絶後のシンデレラ。
鍛えて、磨いて、駆け抜けて。人間の限界に至って超えて。測定不能の数値を叩き出して。
頑張ったけど駄目だった。だったらもっともっと頑張れば良い。
それが、愛梨の持つ一番の武器。愛梨に許された、唯一にして最強の対抗手段。
だから見て。私だけを愛おしく見つめてください。
清らかさを失ってしまった視線の雨の中にいる私に、愚かしいくらい綺麗な眼差しをください。
……なんて愚かで。なんて無意味で。なんて酷いエゴイスト。
そうだとしても、他の武器なんて思い付かない。
愛梨には他の方法なんて見当も付かない。
愛梨は、知らない。
見えない。
だって。
だって、『シンデレラ』以外なんてもう分かんなくなっちゃったんだもん!
胸の中へ叫びをぶち撒ける。熱が奪われるより前に、自らに贈る精一杯のエールへと変換する。
目指せシンデレラだ、十時愛梨!
負けるな、頑張れ、十時愛梨!
「だってシンデレラはがんばりや、でしょ?」
そんなフレーズを口遊む歌声は、絶望的に美しさを纏っていた。
♪
招かれた冬木の地にてあの憎むべき十時愛梨の姿を発見したのは偶然であり、そして彼女が聖杯戦争と関わりを持っているのだと早急に判明したのは幸運であった。
召喚したキャスターのサーヴァントは類稀なる分析能力の持ち主であった。映像媒体を介してでも相手の姿を目視すれば魔力の気配を見抜くことを可能とし、また多少の隠匿作用なら無効化出来るという。
そんな彼がテレビ画面に映る十時愛梨を見るや否や、言ったのだ。この女からサーヴァントの気配を感じると。
まさかと言わずにいられなかった。あの女は自分と同年代の生きた人間であり、間違っても死した英霊の写し身のサーヴァントなどであるはずがない。
それとも何か。いつかキャスターに説明された、未来の英霊とやらの可能性か。あの女は、遠い未来で歴史に残る功績を挙げることになるとでも言うのか。
無意識の内に「ふざけんな」と叫んでいた。
あの女がいたせいで、自分は輝けなかった。こっちだって血の滲む努力はしたと言うのに、それをあんな奴にひょいと飛び越されたのだ。
友達が勝手にオーディションに書類送ったんですぅ〜、なんて甘ったるい声で語るような媚びた女に椅子を取られたせいで自分は栄光を掴めず、鳴かず飛ばずのまま業界を去る羽目になったのだ。
そんな奴が、歴史に名を刻む一流のアイドルとして人々の記憶に残る? 可能性が極めて低いとしても、そんな可能性が万に一つでもあるだけで気に食わない。
初代の優勝者(シンデレラガール)になった後、二代目や三代目として王冠を奪還することの叶わない姿を見て「良い気味だ、ざまあみろ」と嗤うのがせめてもの気晴らしだったのに、それすら許されないと言うのか。
怒りに任せて喚き立てる自分をキャスターは宥め、さらに真相を説明する。
キャスターの分析能力は、目視にて真名看破を為す域へと至っている。その彼の両目に映し出される十時愛梨のサーヴァントの真名は、『十時愛梨』ではない。恐らくはサーヴァントが十時愛梨と一体化しているから、まるで十時愛梨自身がサーヴァントであるかのように思えてしまったのだ。
とにかく十時愛梨自身が英霊でないなら十分であったので、へー、あっそうと聞き流そうとした。
でも、まあ、戯れ程度に聞いてみた。アタシの目から隠されたサーヴァントのクラス名と真名は何というのかしら。
そう問われてしばらく後、キャスターは僅かに言い淀みながらも答えた。
十時愛梨のサーヴァントのクラスは、ライダー。
そして、そのサーヴァントの持つ真名は……『シンデレラ』だ。
一瞬で、決意は形となった。
ああ大変。あんな女、さっさと殺してあげなければ。
あの中身が空っぽとしか思えない脳味噌に苦痛と悲痛をめいっぱいに刻み込んで、生まれたことを後悔させながら死に追いやるのだ。
それが、あのシンデレラ気取りの売女に虐げられた自分のするべき責務に決まっている。
そうと決まればと、キャスターに出陣を呼びかける。数秒の遅れを経て、キャスターは自分の声に応じた。
それにしても、一人の元アイドルとして認めざるを得ない事実であるが、十時愛梨の愛嬌は自分が知る最後の記憶の中よりも力を増しているように思える。その魅力を、魔性と形容しても良い程に。
ふと油断してしまえば、この心中の中で今も燃え盛っているあの女への憎悪が一瞬消えそうになってしまうのではないかと危惧せざるを得なくなるような。
キャスターが名残惜しそうにテレビ画面に目配せしたのは、もしかしたら十時愛梨に惹き付けられているのではないか。生前の彼には妻も子もいたというのになんというザマだ。
仮にも英霊でありながら現代の小娘に心を囚われているのは、キャスターの貞操観念がその程度の浅はかな物であるためか、或いは、今の十時愛梨は英霊すら虜にするほどの、最早人間離れしたカリスマ性でも持っているのか。
馬鹿馬鹿しい。そんな自分の思考を一瞬で切り伏せ、どうせ前者に決まっていると結論付けた。
♪
こんな時でも呑気に芸能活動を続けているような十時愛梨を襲撃するなど、ロケの収録現場を突き止めさえすれば全く容易なことである。
収録が終わって人がばらけたタイミングを狙い、キャスターをとっとと向かわせる。スタッフ達は素手か魔術で意識を奪い、十時愛梨を孤立させる。
勿論、スタッフ達の生命を奪ったりはしない。後に起こるだろう面倒事を無駄に増やすのは非効率的であるし、十時愛梨なんかのために生命を奪われたとあっては彼等があまりにも可哀想ではないか。
十時愛梨以外の人達のことをちゃんと思いやってあげられる、とても優しい女の子なアタシ。そんな自分に酔いしれながら、いよいよ十時愛梨の前に自らの姿を現す。
どうせアタシのことなんて覚えてないでしょ? と皮肉気に言ってやる。予想に反し十時愛梨はこちらをちゃんと覚えていたようだが、まあ、別に今更どっちでもいい。
キャスターに馬乗りになられた十時愛梨は、もう逃げることなど不可能だろう。
ライダーらしく南瓜の馬車でも呼び出してみるか? 飛び乗るよりも前に、アタシ達が十時愛梨を叩き落としてやるけれど。
そんな余裕たっぷりの状況だからこそ、思いつくままにバリエーション豊かな罵声を十時愛梨に浴びせても何も怯えなくて良い。どんどん目に涙を溜めていくのを見るのは、いっそ心地良かった。
さて、キャスターはと言えば馬乗りの姿勢のまま十時愛梨の顔をまじまじと見つめ続けている。苦痛を最も長く深く与えられる殺し方を考えている……というわけではなさそうだ。
すぐに分かった。十時愛梨の浮かべる悲痛な表情を見つめるキャスターの表情は、十時愛梨に心を奪われつつある男のそれだった。
念話を使って、はっきりと十時愛梨の殺害を命じる。これで駄目なら令呪だって使ってやる。十時愛梨をこの世から完全に抹消するためなら、この際惜しくは無い。
ようやく自分の立場というものを理解したのだろうキャスターは、かれこれ何秒かかったか分からないような時間を経て、おずおずと片手を十時愛梨の首元へと伸ばした。
面白くない殺し方だ。脱ぎたがりの痴女のお望み通り、剥いて晒した肢体の柔肌を徹底的に蹂躙してやるオマケくらい付けてやっても良さそうなのに。
しかし、納得いかないからと言って自分の手を直接汚すのは気が引けた。
何故なら、『シンデレラ』は清廉潔白であるべきなのだ。決して自ら危害を加えたりしない。仕方が無いので、一人の『シンデレラ』としてこのくらいは見逃してやろう
一先ず自分を納得させながら、高みの見物とばかりに十時愛梨の末期の姿を見届ける体勢に入る。
その時であった。
――粉雪が舞いおりてきた街で、吐息が白く空にほどけてゆく。
十時愛梨の喉が動き、歌声がたどたどしく紡がれ始めた。
――あなたのこと思えばどうして? こんなに胸が熱くなる。
はあ? いきなり何してるの? と怪訝がった思考が、一瞬で静止させられる。
来たるべき時間が訪れない永遠を、感じたような気がした。
――馬鹿みたいだよね、今は流行らないね。
何もかも忘れ、ただ唖然と茫然と歌声に意識を囚われていく。
いつの間にか、サビの手前まで至っている。
――しょうがない、笑われてもいい、大切な気持ち。
記憶の中に刻まれたどの十時愛梨よりも綺麗な、そして彼女の普段のイメージとは異なる悲愴な在り方。
そんな彼女の見せる側面を、下劣な愉しみではなくただ純粋に見ていたくなる自分がいる。
あたかも、十時愛梨の表現する哀しみのメッセージに引き込まれていくように。
――ふたり、出会った日も雪が降っていた。
歌う十時愛梨が、目前に迫る死に歌を以て立ち向かう十時愛梨が、いかなる女性達よりも美しく思える。
零れて、崩れて、壊れてしまいそうな彼女の奏でる歌を、もう止めてとも、まだ止めないでとも言いたくなる。
キャスターの頬にきらりと流れる一筋の涙。溢れるのは、感嘆の溜息。
憎悪の心が、掌中に落ちた淡雪のように溶けてしまいそうになる錯覚。
もう目を離せない。
――運命を感じたの。
三人だけの状況が、十時愛梨に主導される。
圧倒的優位を誇ったはずの自分達が、脇役へと転落していく。
閉ざされた世界が、ああ、十時愛梨に支配されていく……!
「アタシが、」
…………囚われて、たまるか。
この女がシンデレラだとしても、その名にふさわしい魅力を持っていたとしても。
敵意を、蹴落としてやりたい衝動を、よりにもよってこの女に惹かれたなんて理由でだけは消されてたまるものか。
掻き消せ。この下らない感動を、ぶっ飛ばせ!
「アタシがぁ、このシンデレラをぶっ殺すんだよぉ!」
激情のままに放出した叫び。その時、遂に打ち勝った。
シンデレラの持つ魔性の魅力に、敵意によって打ち勝つ快挙を成し遂げた。
そう、成し遂げて、しまった。
「どいてキャスター、そいつを、」
従者をどかせ、十時愛梨を自分の手に掛けてやると叫ぶ。
いい加減に十時愛梨との決着を着けようとした、その瞬間のことであった。
「ぉっ?」
ふらりと身体がよろめき、コンクリートの地面の上に片手を付いてしまった。急に体のバランスを崩されたような。
何があったのかと周囲を見回してみると、一つの異変に気が付けた。
右足が、裸足になっていた。
それなりの金を払って買ったお高めのファーブーツが、どういうわけか毛糸の靴下諸共きれいさっぱり消えて無くなっているではないか。
その代わりのように足にピッタリと張り付いているのは、透き通った鮮やかさを見せる片方だけのガラスの靴。まるでシンデレラが履くに相応しいようなそれは、この足のサイズと比べると随分と小さいように見えた。自分では履けそうにない。
一体何がどうなっているのよ、と小さく混乱する頭は、次の異変をいち早く感じ取った。
「いたっ」
びりっ。
突然、右足の踵の辺りに痛みが走った。
見ると、踵から流血している。皮が剥がれ、その下の赤が血と混ざって露わになっている。
ただし、一筋の傷ではない。踵全体が、皮を剥き取られている?
「何、これ」
わけがわからない事象の発生と、痛みそれ自体に対して脳が恐怖を訴える。
そんなものにはお構いなしとばかりに、次の事象とそのまた次の事象が発生する。
べり、がり、ごりごり、べちゃっ。
「えっ、えっ、痛」
足が、どんどん削られていく。
「ちょっ、やめっ」
紙やすりで遠慮も容赦も無く擦り付けられるかのような感覚と共に、外側から削げ落とされ始めている。
見える凶器は何一つないのに、核たる事実として足が無残に傷付けられ続けている。
「あ、ああ、あ、痛い、痛いい、いたっ」
指が、側面が、裏側が、少しずつ少しずつ磨り減っていく。血流が、どろりどばどば溢れ出す。
伴うのは痛み。破壊音だけが耳に届けられる。
ごしゅ、ごしゅ、ごしゅごしゅごしゅ。
「痛い、痛い、いだぁぃ、いたいいいっ、いだあ」
がりがり、べちゃ、ぐちゅ、べりべきべきごりごり。
身体の一部分がちょっとずつ失われていく辛さを、これでもかと味わわされる。
少しは形に自信のあった足が、みるみる小さくなっていく。
それはまるで、ガラスの靴に合わせて足自体の方をサイズ調整しているかのように。
「あっ、はあああ、いだだだだっあ、はあ、ぎゃっ、きゃすた、いだ、早く、いたい、はやっ」
べきべきべきずるずるぐちゅがりがりがりぺきべきぐちゅぐちゅぐちゅ。
足の後ろ側が赤一色になるのを視界に収め、指の痛みがいよいよ骨の髄に至るのを実感し、痛苦に地面をのたうち回りながら、それでもキャスターに縋る。
分からないけど、どうせこんなの十時愛梨のせいだ。あいつを殺せば止まってくれる。
キャスター、呆けている場合じゃないだろう。この呻き声と喘ぎ声が聞こえているのに、無視なんかするな。
早く、止めなきゃ。令呪で命令を唱えされすれば、全部終わってくれるんだ!
「いっぎぃぃぃいいぃ、ぁはあ、キャす、ダーっ、とと、ぎっぃあいり、をぉ、ご、ごお」
がりがりがりがり、がりがりがりがりがりがり、がり。
いたいのやだ、とまって。だから、十時愛梨を殺して。そのための一言を、早く。
早く、
「こっ、ごろ、おおお……あああ゛あ゛っ、むり、無理、痛い、いだいいいいい痛いいた」
令呪による命令は遂げられなかった。
頭がいかれそうになる激痛が口から吐いて捨てるほどの悲鳴ばかり生ませて、命令を言葉にして紡ぐことすら許しはしない。
これで、もう打つ手は無い。
もう死んでしまうのではないかと思わされる痛み。
だったらいっそ死なせてくれ。無理なら、せめて気を失わせてくれ。
錯乱寸前の頭で生み出した望みすら、まだ叶えさせてくれない。
「いだだだだ、やめて、とまっで、どまっでよおおっ」
足の輪郭が血でべっちゃべちゃになる。
「やだっ、もうほんとむり、だから、あっぁああああっ」
五本の指全ての関節から先が完全に消え失せる。
「もうやだ、いたいのやだ、やだあああ、いだいいだいいだいいだいいだいいだい」
ぐちゃぐちゃ、という雑音が何十回何百回と未だ鳴り続け、信号となって脳内に響かせたアラートは最早暴風雨も同然。
「あぁぁああっ、ごめ、」
遂に、意識が崩壊する直前の極点に至る。
その時、口から零れた言葉は。
「ごめん、なざい」
謝罪。
殺そうとしてごめんなさいなのか、不快な態度を取ってごめんなさいなのか、言った本人にすら判別できない。
ただ、事実だけを言えば、この時初めて十時愛梨という少女に何かを謝った。
それと同時。
「あっ、ああ、…………」
気を失わせてほしいという願いだけは、ようやく叶えられた。
勿論、単なる偶然のタイミングでしかなく、謝ったことは特に関係など無いだろう。
それでも、少なくとも今ここで苦しみから逃れられたことは幸運に違いなかった。
「……ぅ」
さらに言えば、誰もが幸運であったのだ。
サーヴァントとマスター同士の激突という状況が、遂に一人の死人も出すことなく終息へと向かっていったのだから。
『シンデレラ』は誰にも殺されなかったし、そして『シンデレラ』もまた誰も殺さなかった。
『シンデレラ』による犠牲者の発生……なんて事態は、こうして回避されたのだ。
♪
マスター。君が目を覚ますまでの間、僕は考えに考えたよ。
十時愛梨という子は、本当に殺されるべきなのか。僕と君の願いのために踏み躙られるに値するのかを。
答えは出たさ。否だ。
あの歌を君も聴いただろう。どれほど悲惨な境遇に堕ちても、彼女の美しさは決して衰えない。
僕の心に確かに生まれた感動をもう二度と誰も知ることが無いなんて、嫌だ。
あの子を蹴落として叶えた願いの先で、僕はきっと幸せになれない。
だから、祈る権利を与えられた人間の一人として、僕はあの子の未来を祈りたい。
もういいんだ。僕の願いは、今ここで諦める。
そして君が生きている限り彼女が脅かされる可能性が消えないというなら、僕がすることは一つだ。
……王子様気取りの勘違い男、か。きついことを言ってくれるね。でも、確かに言う通りだ。
好きなだけそうして罵ることくらい、僕は受け入れるよ。でも、それより先に進むことだけは許さない。
マスター。もう終わりにしよう。
未来を生きるべきは『シンデレラ』だ。だからこそ、今ここで『シンデレラ』の敵を、この僕の手で殺す。
♪
とあるマンションの一室で、一人の少女が原因不明の「凍死」を遂げたという記事をニュースサイトで見かけた。
少女の遺体に目立った外傷は見当たらなかったという。火傷や裂傷、打撲痕は無し。右足の皮と肉が見るも無残に削り落とされていた……なんてこともない。
愛梨を抹殺しようとした少女は、こうして死んだ。彼女に従っていたサーヴァントは二度と愛梨の前に姿を現していない。苦しませてすまない、今度こそ僕に決めさせてくれ。そんなことを言い残したきり。
マスターを失ったサーヴァントは消える。愛梨を討つよう命じたマスターに従ったサーヴァントが忽然と姿を消した。そして今、現実的な方法では決して有り得ない死が一つ。
つまりは、そういうことなのだろう。
「……っ、ぐっ、すぅ」
気付けば、俯いて泣きじゃくっていた。
最早仲間でも何でもなくなった少女の死を悼んだわけでは無い。
あのキャスターは愛梨に惹かれて行動を起こしたに違いないということが、哀しかった。
最期の時を前にして、キャスターへと贈った歌。アイドルの、シンデレラガールの本領を発揮しての自己表現。人の情動を刺激するという一点で愛梨が自らの実力のベストを尽くしたからこそ、報酬として未来を掴み取れたのだ。
奇跡を実現したのは、そして愛梨の万感の想いが込められた屈指の……
「なんて話なら、まだ良かったのに」
……………………あの歌は、酷かった。
「私、あんな歌で、あのキャスターさんを感動させた」
もしもあの時の歌をもう一度リピートすることが叶ったとして、愛梨と同じ世界に生きるプロフェッショナルが聴いたならば、彼等は口を揃えてこういうだろう。
お前、ふざけているのか。ただそれらしい形にすればそれで良いとでも思っているのか。こんなプロの恥、原曲への侮辱と言うべき歌を他人様に聞かせたのか馬鹿者が。
そうに決まっている。愛梨自身が一人のプロだから、あの時の歌がどれだけ下劣であったか誰よりも理解出来ているのだ。
当然の話だ。だってあの瞬間、愛梨は最高の自己表現なんてこれっぽっちも考えていなかったのだから。
「……やだ」
呆気無く生命を摘み取られる自分自身がいっそおかしく思えて。
もうどうにもなりそうにないなら、どうでもいいやなんて己を投げ出して。
最後くらい好きなことでもしていようかなあと考えて、なんとなく歌っていただけだ。
あの少女にもキャスターにも向き合っていたわけではない。そもそも別に誰に向けてもいない空っぽな音の連なり。人より出来が良いだけの、つまらない発声の羅列。
ただ形を取り繕っただけの、投げやりで、自棄っぱちで、最早塵屑同然の歌が、しかしキャスターの心を射止めていた。
これまでの鍛錬の成果として実現されるに相応しい筈の結末が、鍛錬も何も無い粗雑極まる表現活動によって実現された。
愛梨が歌を歌った。ただそれだけで、キャスターは“勝手に”メッセージ性か何かを見出し解釈して、“勝手に”感動の渦に呑み込まれて、“勝手に”愛梨のために尽力した。
そして、愛梨は聖杯戦争における一つの勝利を収めたのだ。敵の方から“勝手に”負けてくれたから。
十時愛梨が引き寄せたライダーのサーヴァント、シンデレラ。
彼女は今も愛梨の肉体の内側に宿されており、しかし彼女が愛梨に何かを語りかけたことは一度だって無い。それどころか、彼女が意志を持つ存在であるかどうかすら愛梨には判別出来ていない。
ただ、彼女と一体化してから一日と少しの間、妙に仕事の手応えが良くなっていたのは事実であった。アイドル活動への取り組み方を大きく変えたわけでも無いのに、斬新な手法を取り入れたわけでも無いのに、人々は愛梨の価値がこれまで以上だと“勝手に”考えるようになっていた。
明らかにライダーの影響だと理解し、戸惑いと少しの怯えすら抱いていたところにあの襲撃とこの結末である。
特別に何をしなくても、十時愛梨がただそこにいるだけで皆が愛梨を“勝手に”讃えてくれる。
まるで、魔法使いが“勝手に”シンデレラに素敵な魔法をかけてくれたような。
まるで、王子様が“勝手に”シンデレラに一目惚れしては追いかけて、富と栄誉と捧げてくれたような。
まるで、意地悪な女達が“勝手に”シンデレラを貶めた挙句にまんまと自滅して、引き立て役を全うしてくれたような。
まるで、あの世界の登場人物達が“勝手に”シンデレラがハッピーエンドに至るまでの過程を煌びやかに演出してくれるような。
シンデレラの物語で、シンデレラが果たす行動は一つ。
シンデレラ以外の人々が好き勝手に必死になって創り上げた、星色と血色で彩られる夢の舞台という名の踏み台に、その両足で上がる。
シンデレラは、乗る。たったそれだけ。
故に十時愛梨/シンデレラは、自発的に行動を起こすことが無い。
アイドルとして己を磨く必要は無い。階段へと踏み出す前の踊り場が、既に頂上よりも高く底上げされたから。
マスターとして己を危機に晒す必要も無い。勝手に靡いてくれた者が味方となり、敵が勝手に滅んでいくから。
私(あなた)はどんな女の子よりもシンデレラ。
輝きたいなんて夢は今、こうして叶えられた。
だから、もう頑張らなくていいの。
……頭を過るのは、誰の声。
「……間違ってるよ」
愛梨はシンデレラを否定し、シンデレラを主張する。
愛梨の信じるシンデレラを、愛梨に宿るシンデレラへと突き付ける。
シンデレラはがんばりや。この足は前に踏み出すためのもの。どんな形であったとしても、自分から何もすることなく星へと手を届かせるなど不可能だ。
ならば、もしも十時愛梨が今度こそ自らの魅力の全てを発揮しようとしたら。
空虚では無く、今度こそ全力の感情と自己研鑽を伴わせて、少女達の頂点の更に先、輝きの向こう側へと走り続けたならば。
その時、人は、きっと普通でなくなる。
愛梨の創り上げる舞台の輝きに目を潰され、狂気な狂喜に染め上げられて呑まれていく。
世界は、もう無駄な感情など挟む余地が無い。嫉妬も性欲も憤怒もまとめて塗り潰す喜悦がそこにあるから。
何も考えなくて良い。人は皆、愛梨に魅せられるだけの装置。
愛梨だけを見ればいい。愛梨以外の女達など、もう眼中に収めなくていい。
貴方達は永遠に酔いしれ続けているだけでいいんだから。
愛梨以外に靡く心を、綺麗さっぱり作り変えてあげる。
愛梨から身を守る鎧を、全部脱がせてあげる。
待っていて。大好きな貴方。
私の「大好き」じゃない「大好き」なんて、壊れちゃえ。
「………………プロデューサーさんですか。愛梨です。すいません、調子が戻らなきゃ休んでいいって言ってくれましたけど、やっぱりお言葉に甘えさせてください。はい、本当にごめんなさい。ですから……――」
その日、愛梨はアイドルになって以来初めて、仮病というものを使った。
自分なりに頑張る愛梨を好きだと言ってくれた彼の前で、今は何かを頑張りたくなかった。
申し出を了承する彼の声を聞き、そこに宿る感情を理解するより前に通話を終わらせる。涙に濡れたままの声が、彼の心を不必要に揺さぶっていないか怖かった。
それきり、部屋にまた静寂が戻る。
鐘の音なんて、聞こえない。
シンデレラの泣き声しか、聞こえない。
【クラス】
ライダー
【真名】
シンデレラ
【出典】
童話
【パラメーター】
筋力- 耐久- 敏捷- 魔力C 幸運A+ 宝具EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
・騎乗:E
騎乗の才能。ライダーでありながら必要最低限しか機能しない。
そもそも、ライダーは自力で何かを乗りこなしたりしない。
【保有スキル】
・シンデレラガール:(A→)EX
ただの女の子からアイドルの頂点へと昇りつめた少女の称号。
苦難を乗り越えて成長した逸話により、困難へと立ち向かう時にステータス以上の力を発揮できる。
また彼女の歌やアイドルとしての魅力は、相手の性別を問わず惹きつける一種の魅了として発揮される。
捕捉すると、このスキルの本来の名称は「シンデレラ」であり、「困難へと立ち向かう時」の効果の発生など無いはずであった。
しかし今回ライダーがマスターと同化した際にスキルが変質している。ステータス以上の力の発揮は、魅了効果の向上として機能する。
本来のシンデレラには必要とされないはずの、ほんの少しの異常作用が含まれている。
・正体秘匿:A
敵マスターからサーヴァントとしてのクラス名やステータスを視認されるのを防ぐ。
ライダーと呼ばれたら、きっと本当の名では呼ばれなくなる。だからライダーなんて呼ばせない。
・同化:A
マスターの肉体に意識を同化させる事により、魔力消費を抑え、サーヴァントとしての気配も軽減するスキル。
ライダーは現界と同時にマスターとなった少女の肉体を依代とする、実体を持たないサーヴァントである。
或いは、もしかしたらライダーの正体は童話の登場人物のシンデレラ個人では無く、『シンデレラ』という概念なのかもしれない。
少なくとも現時点で言えることは一つ。十時愛梨は紛うことなき『シンデレラガール』である。
【宝具】
・『南瓜の馬車でご招待(ゴーイン・パンプキン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
シンデレラが舞踏会へ行くために乗ったとされる南瓜の馬車。
マスター=ライダーの意思に合わせて自動走行するため、騎乗スキルを必要としない。
地上だけでなく空中を走ることも可能。
単なる移動手段としても、万が一の場面での全速力の逃走手段としても使える。
・『貴女だけの硝子の靴(オンリー・ハー・シャイン・シュー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
シンデレラにかけられた魔法によって生み出され、後にシンデレラと王子様の再会のきっかけとなった片方だけのガラスの靴。
シンデレラの足に合わせたとても小さなサイズの靴であり、事実上シンデレラ以外の女性には履けない。
シンデレラを押しのけて王子様の伴侶になろうと目論んだ継母や姉達は、この靴を無理矢理履くために自らの足の肉を削ぎ落とした。
そんなお話の再現にして、シンデレラを讃える役割を己の意思で放棄した女達へと贈る罰。
「女性」が「マスター=ライダーに対して向ける強い敵意」を持った瞬間に自動的・強制的に発動する。
その女性が既に履いていた靴を一瞬で消失させ、代わりにガラスの靴が出現。
足に押し付けられると共に、「その女性の足の皮や肉や骨がごりごりと削ぎ落とされていく」という事象を発生させる。
マスター=ライダーに向ける負の感情が強ければ強い程、与えられるダメージはより耐え難いほどの激痛を齎す。
足の大きさが靴のサイズと丁度合致するほど小さくなれば効果は止まる。ガラスの靴を破壊すれば以後は何も起きない。
これらの条件が達成されない限り、一度対象とされた女性は絶対的な苦痛から逃れられなくなる運命にある。
……という錯覚を与える宝具。実際に元々履いていた靴が消えたりしないし、ガラスの靴は現れないし、足に傷など付けられない。単なる幻覚の一種である。
この錯覚から逃れる条件は幾つかあり、マスター=ライダーへの敵意を捨てること、マスター=ライダーを死亡させること等が挙げられる。
他にも、現在発生している事象がただの錯覚であると理解した上で強い意志を以て反発すれば、対抗することは決して不可能ではない。
シンデレラは本当に一切の攻撃手段を持たないサーヴァントである。清廉潔白であり、誰も殺さない。
もしも誰かが殺されたとしても、それはその誰かが勝手に死んだだけであり、シンデレラが責められる謂われなど一切無い。
・『散らせ星屑、築け踏み台、両足乗せるはお姫様(シンデレラ・オン・スターライトステージ)』
ランク:(A→)EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
シンデレラという少女の軌跡。それは全ての女の子にとっての夢物語。
ある時は意地悪な人間から理不尽に虐げられる被害者。またある時は異性からの極上の至福を受け取れた幸せ者。
生来授けられた稀代の美貌。それに連なって発生するのは、うっとりと浸れる陶酔感たっぷりの境遇。
自発的な行動を何も起こさずとも、用意された華々しい舞台の上で輝ける力。それがシンデレラのアイデンティティ。
この宝具を持つライダーは、どれだけの乏しい魅力しか持たない少女と一体化しても、常にAランクの「シンデレラ」スキルを発揮する。
マスターとなった少女は何もすることもなくただそこにいるだけで、シンデレラの持つ極上の魅力に肖ることが可能となる。
……というのがこの宝具の本来の効果であった。
しかし、今回のライダーのマスターとなった少女は奇しくも『シンデレラガール』。
オリジナルのシンデレラには及ばないはずだった元々の魅力を努力で磨き上げ、実力として積み重ねた少女。
聖杯戦争の物語が始まった時点で、最初から『シンデレラ』であると評し得る少女であった。
そのことの関係の有無は定かでないが、事実として一種の変異が生じた。
十時愛梨と一体化してなお「この世でシンデレラこそが最高峰の魅力の持ち主である」という状態を実現しようとしたことで、宝具自体が規格外の代物に進化。
その結果、変容したスキル「シンデレラガール」を測定不能・限界以上の水準(EXランク)に至らせることとなってしまった。
誰かが言った。カリスマ性はAランクが人間の至ることの可能な最高水準であると。
ならばそれを超越する求心力を得てしまったのかもしれない十時愛梨/シンデレラは、果たして、本当に――
【weapon】
特に無し。
十時愛梨自身がライダーであり、ライダーの武器であると言うべきかもしれない。
【人物背景】
全ての女の子の憧れであるお姫様。その代表格にしてオリジナルの存在。
つまり、彼女こそが『はじまりのシンデレラストーリー』。
何を頑張らなくても、彼女は皆の夢で在り続ける。
【特徴】
特に無し。
強いて言えば、十時愛梨の特徴がそのまま今のライダーの特徴である。
【サーヴァントとしての願い】
???
【マスター】
十時愛梨@アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
永遠の、シンデレラの夢を――
【weapon】
特に無し。
十時愛梨自身が武器であると言うべきかもしれない。
【能力・技能】
初代シンデレラガール。
歌やダンス、愛嬌において一度は全てのアイドル達の頂点に立った。
【人物背景】
全ての女の子の憧れであるアイドル。その最高峰であるシンデレラガールの初代。
つまり、彼女こそが『はじまりのシンデレラストーリー』。
何もかも頑張り続けたことで、彼女は皆の夢となった。
【方針】
???
投下を終了します。
なお、今回の拙作でのステータスシート作成について「Fate/Malignant neoplasm 聖杯幻想」様での
◆q4eJ67HsvU氏の作品「『夢は夢で終われない』」を参考にさせて頂きましたことを追記します。
32×32ドット絵(250に引き伸ばし)でサーヴァントを描かせていただきました。
黒髪は判別が難しいので特徴的な人物から取り敢えず3名です。
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ttp://gazo.shitao.info/r/i/20160911011316_000.jpg
投下します
雨が、降っていた。
とてもとても冷たい雨だった。
べったりと服が肌に張り付くのが分かる。
「問おう」
夜の闇にしみ込む声。
男のものだった。それに応じるのもまた男の声であった。
男二人、雨の夜に佇んでいた。
ただし
「どざえもんの気分を知っているかな?」
片方は川に流されていた。
『おいおい、こう見えても僕は泳ぎに関しては人語に落ちるよ』
格好つけたような言葉の男。学ランに身を包み、少々幼い顔つき。
「落ちるのか……まぁ、僕も落ちるが」
呆れたような言葉の男。ネクタイを締めている。しゃれた服装、少々湿っている。
湿っているのは彼がジメジメとした性質で、ねちっこい人間という意味ではなく
いや、少々そういう性質であるような気もするのだが、それはともかくとして
言葉を返した男こそが川に流される男であった。
「ところで、そろそろ助けてもらえないだろうか。足をつっている。もうだめだ」
『なーんだ。そうだったの』
「申し訳ないが手を貸してくれるだろうか?」
『えー』
「頼むよ」
必死そうな顔をして頼む男に対してにへらと微妙な顔をする男。
しぶしぶと腕を伸ばす。二人は手をつなぎ、じきに引っ張り上げられる……はずだった。
雨でぬれていたからだろうか、それとも非力であったのだろうか。
つるりと滑り、流れていない男の方も川に落ちてしまった。
「なにをしている! 二人そろって溺れるつもり……」
抗議しようとした男は体が落下し始めていることに気づく。
落ちている? なぜ?
それは直にわかる答えだった。水がない。川の水が無くなっているのだ。
『溺れたくなかったら、水をなくしちゃえばいいんだよ』
こともなげに言ってのける学ラン。男の名前は球磨川禊といった。
『ほら、助かっただろう?』
いいも悪いもないまぜにしてしまう男。過負荷の男。
そして、聖杯戦争のマスターである男。
そんな球磨川のサーヴァントは
「腰と尻に鈍痛……」
川底で尻餅をつくように落ち、腰と尻を痛めた男だった。
「ひどいな。僕なみにひどい」
『なにが?』
「この光景だよ」
水を失った川。魚が川底では力なく跳ねている。
二人はなんとか陸に戻ってきた。
ただし、そのための犠牲は大きかったわけだ。
陰鬱とした表情で頭をかかえるサーヴァント……クラスはキャスターの男の傍で
球磨川は顎に手を当てぐにゃりと小首をかしげている。
「こんなことなら僕一人溺死していればよかったんだ」
『なに言ってるんだい? こんなことに頭を抱えるなんて先が思いやられるよ』
「こっちの台詞だよ……事実は小説より奇なりというけれど、こんなものが事実なら
僕の作品なんて奇でもなんでもない。棄と当てていただきたいほどだ」
ぶつぶつとジメジメとした言葉を吐き続けるキャスター。
球磨川はかがみこみ、本来川面があったであろう場所に手をかざす。
次の瞬間だった。
乾き、もはや天から降る雨が川となろうかという状態であった場所に川が現れたのだ。
「こ……これは……なんという……」
『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)』
名前だけでも憶えていってくれよ、と球磨川は言った。
「……思うんだけど球磨川君。君はこんなしみったれて劣悪なサーヴァントである僕なんていなくても勝ち残れるのでは?」
『キャスターちゃん。意外かもしれないけど僕はこんな手品、バトルで使ったことなんて全くと言っていいほどないんだぜ』
「君の言葉はすがりつきたくなる」
『よく言われるよ』
「君といるとそんなに自分がそんなに弱くなく、案外悪くない人間なのでは思ってしまうよ」
君は僕より強いはずだ、とキャスターは言う。
それに対して球磨川は怒らない。ただ笑っている。へらへらと。
『キャスターちゃん。過負荷(マイナス)を捕まえて強いなんていうもんじゃないよ』
『自慢になってしまうけど、僕は今までの人生で一勝しかしたことがない』
「……自慢なのかい? あぁ、そういえば。さっき先が思いやられると言ったけれど、やる気になったのかい?」
『聖杯戦争のこと?』
「ああ」
『んー。先が思いやられるっていうのは、この程度僕の経験した不幸からすれば全然幸福なことだって意味なんだけど』
キャスターの脳内にはありとあらゆる不幸に見舞われる球磨川が映し出される。
そして、自分がその立場だったらと思い震えてしまう。
『それと、聖杯戦争に対して僕は案外自信満々なのさ』
「え?」
『主人公たちが一堂に会してるんでしょ?』
「……僕は主人公じゃない」
そういうキャスターを球磨川は静かに見下ろしていた。
『それと、僕からも質問なんだけど』
『川に流れてなにしてたんだい?』
「自殺だよ。今回も死ねなかったが」
聞かなくても分かるだろうという目で球磨川を見るキャスター。
相変わらずへらへらと笑った球磨川の顔がうつる。
なんとむかつく顔だろうか。
『大丈夫だよキャスターちゃん。勝てない僕が勝てたんだ。死ねない君もいつか死ねるさ!』
ぐっとサムズアップをしてくる。
キャスターはその親指を逆に曲げてやりたくなったが自重した。
間違いではない。いつか死ねる。聖杯戦争で戦えば自殺などせずとも。
『それにねキャスターちゃん。君は人間失格と自分を称するけど』
『僕から見れば君も十分幸福(プラス)の人間だよ』
「……なぁ球磨川君。僕は君のようになれるかな」
『さぁ?』
ここにきてその反応かとキャスターはため息をつく。
『行こう、キャスターちゃん。幸せ者たちのいるところへ』
「行ってどうする」
『彼らが真面目な顔して聖杯の取り合いをしているのを全力で茶化すんだ』
「はぁ?」
『世の中の幸せ者に見せてやろう。僕らのぬるい友情を』
「……君といると不幸になりそうだ」
『なるんだよ』
雨が降っている。
二人の男は傘もささずに濡れている。
『僕といれば君はきっと誰よりも不幸になる』
『だけど、いい死に場所をあげるよ』
「……一つ言っておくよ。ここ数日君と一緒にいて分かったことだが」
「きっと最後に君はこういっていることだろう。『また勝てなかった』と」
『君はその時、また死ねなかったっていうんじゃない?』
「どうだろうね。試してみようか。君と僕で心中だ」
『えー僕、死ぬの嫌だし一人で死んでよ。それか美少女になって欲しいなー』
「奇遇だね。僕も同じことを思ってる」
二人は夜の闇に消える。
英雄たちを笑うため、馬鹿にするため、茶化すため
勝てない男と死ねない男がいく。
マイナスは二つかければプラスに変わる。
しかし、マイナスにマイナスを足すとより大きなマイナスとなる。
今はそれだけが確かなことだった。
【クラス】キャスター
【真名】太宰治
【出典】明治〜昭和
【性別】男
【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A 幸運A-- 宝具C++
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
陣地作成:E
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
道具作成:C
魔力を帯びた器具を作成できる。彼の場合は人を魅了する『作品』である。
【保有スキル】
無辜の怪物:C
生前のイメージによって、後に過去の在り方を捻じ曲げられなった怪物。能力・姿が変貌してしまう。
このスキルを外すことは出来ない。
彼の場合は後世の作品で彼をモデルにしたキャラクターなどの存在にもおかされている。
非常にネガティブで自殺願望があるという基本人格はこれによって生まれている。
生存続行:B
名称通り生存を続行する為の能力。
「戦闘続行」が「無辜の怪物」によって変化したもの。
「戦闘続行」は致命傷となるような傷を受けなければ戦闘を続行できるスキルだが
彼のそれは致命傷を受けない限り、戦闘する意思さえなければダメージを打ち止めて生還する。
ゲーム的に言うと常にHPが1残り続ける能力。
退廃の桜桃:A
無辜の怪物からの派生スキル。
様々な女性との心中経験(未遂含む)によって生まれたスキル。
基本的に異性に作用する魅了スキル。
庇護欲などをかきたて、ひきつける。
【宝具】
『人間失格(にんげんしっかく)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:2人
心中志願。その完成系。
彼が選んだ相手と心中する。心中の内容はその場の環境によりバラバラで
工事現場のそばなら重機が暴走したり、川の近くなら足を滑らせて二人一緒に川に落ちたりする。
心は幸運ステータスによって死を回避できる。
彼の幸運ステータスによって奇跡的に心中を実行し、彼の幸運ステータスによって奇跡的に生き残る。
『人間失格・桜桃忌(にんげんしっかく・おうとうき)』
ランク:C++ 種別:対伝承宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:2人
『人間失格』という作品の主人公は彼自身、この作品は彼の遺書だ。
そんな定説を覆した、『人間失格の草稿』あらゆる事象を虚構として確定・破棄する。
英霊や宝具の逸話などを『よく練り、遂行された見事なフィクション』として処理し無効化する。
無効化された場合、英霊はステータスの減少やスキル封印、宝具であれば付与効果などを打ち消される。
聖剣はただの剣となり、怪力の英霊は人間並みの筋力にまで落ちぶれる。
伝承、口伝などでその存在を裏付けることが困難な古い時代の英霊が相手には有効。
逆に近代の英霊であればあるほど情報に信頼性が増し、効果が薄れる。
真明看破し、宝具が何なのか知っていれば宝具すら無効化してしまえるほどのものだが
後世のイメージなどで捻じ曲げられた本来の太宰治とは違う
不完全、不確定の存在である彼自身にも作用し、『人間失格』が使えなくなり、スキルランクも下がる。
【weapon】
なし。自殺に使った薬物などは持っていない。
【人物背景】
日本の小説家。無頼派などとも称された。
大地主、名士の父を持つぼんぼんで、十一人兄弟の十番目の子供であり六男。
自己嫌悪などからマルキシズムなどに傾倒したこともある。
芥川龍之介を敬愛しており、芥川賞の受賞を懇願したこともある。
本名は津島 修治。井伏鱒二に弟子入りしたあたりから太宰治を使い始めた。
女性との心中経験がいくつかあり、本人が死んだときも入水での心中であった。
「無辜の怪物」スキルによって少し捻じ曲げられている。
【聖杯にかける願い】
死んだことをなかったことにして、第二の人生を謳歌する
【マスター名】球磨川 禊
【出典】めだかボックス/グッドルーザー球磨川
【性別】男
【Weapon】
『螺子』
様々なサイズの螺子。大きいものになると螺子の頭が手のひらサイズのものにもなる。
なんか地面から生えてくる時もあるらしい。
【能力・技能】
『虚数大嘘憑き(ノンフィクション)』
『「現実(すべて)」を「虚構(なかったこと)」にする』過負荷
『大嘘憑き(オールフィクション)』が色々あって最後にたどり着いたしたもの。
なかったことにしたものをさらになかったものにして、自分で効果の打消しが可能になった『取り返しのつくスキル』
『劣化却本作り(マイナスブックメーカー)』
球磨川の禁断(はじまり)の過負荷。
受けた者はあらゆるステータスが球磨川と同じ、過負荷に落とされてしまう。
細長く伸びたマイナス螺子によって発動するが、見た目に反して痛みはない。
人類最弱の球磨川と同レベルになるが、球磨川の強さを知っているものに効果は薄く
また彼自身が幸せになればなるほど弱体化されていく。
【人物背景】
箱庭学園を卒業した球磨川。学生ではないが学ランを着ている。
時系列的には本編終了後だが、須木奈佐木という人物に出会い、消息を絶つ前の球磨川禊。
【聖杯にかける願い】
『んー思いつかないや』
投下終了です。
なお、マスターかぶりなどが問題であった場合破棄していただいて構いません。
wikiに支援絵貼るならURL直リンじゃなくて、wikiにファイルアップロードしないと消えるよ
それできるの、現状設定だと企画主だけだけど
なるほど、そうなんですね!
今から早速対処してきます!
>>607
支援絵ありがとうございます!
アイコン風で可愛らしいですね!
wikiの方に掲載してもよろしいでしょうか?
すみません……
ファイルをアップロードしようとしたんですが、なんか上手く行きませんでした……
誰か解決方法を教えてくれる、もしくは(ファイルアップロードを誰でも出来るよう設定変更したので)編集してくださるととても助かって嬉しいです
>>616-617
Wikiにアップロードしようと思ったらもう編集してくださった方がいたようです。
脇の方に小さく原寸も載っけておきました。
投下します。
ある島国に、一人の天才科学者である男がいました。
其の世界には滅びの危機が迫っており、男はそれに対処できる道具を発明しました。
しかし男を理解してくれる者はいませんでした、最初の実験が失敗した時に返ってきたのは軽蔑が込められた陰口ばかり。
そんな彼の発明を理解してくれた友人がいました、独善的な男は彼こそが王に相応しいと考えていましたが、友はそれを望みはしませんでした。
男はそんな友を見限り、「人を切り捨てる道」を進みながら己の研究のためだけに行動していきました。
友も、組織も、故郷である街さえも見捨てた男は、遂に求めていた「神の力」に遭遇しました。
しかし立ちはだかったのは男の事を軽蔑していた一人の槍騎士でした。
男からすれば彼など赤子を捩じ伏せるよりも楽に潰せるような存在でした、そう思っていました。
しかし騎士はその強靭な意志のみを武器に、男の発明を超越しました。
所詮、男の考えていたことなど机上の理論。
誇りを捩じ伏せられ激昂した男は、超越した槍騎士の手で赤子の如く捩じ伏せられました。
一枚の紙に書かれた式だけを信じ続けた探求者という名の狂人。
男は、名を「戦極凌馬」と言った。
◆ ◆ ◆
巨大企業「ユグドラシル・コーポレーション」。
幾つもの国に支部を置き、東洋のちっぽけな地方都市にすら巨大な塔を建てられる世界有数のバイオテクノロジー企業。
その日本支部において新製品の開発を進めていた、一人の男がいた。
名は戦極凌馬と言い、日本支部を率いる呉島天樹の勧めで特殊入社した技術者である。
その技術力は非凡なるもので、彼のおかげで日本支部の利益はかなり上がった。
しかし戦極凌馬という男は極めて謎が多く、またそのエキセントリックな態度故に軽蔑する者も多かったとか。
そしてその戦極凌馬は、今専用の研究室にて、大量の工具が山のように積もったデスクで1つの朱いジューサーの様なアイテムを手に取り眺めていた。
「2日かけてやっと完成……か、しかし随分と苦労したものだよ。」
凌馬はジューサーを眺めながらボソリと呟いた。
このジューサーの名は「ゲネシスドライバー」。
嘗て凌馬が異界の植物「ヘルヘイム」の問題を解決するために作り上げ、彼自身もまた愛用していた装備である。
そしてこの装備の最大の特徴とは、装着者を「アーマードライダー」と呼ばれる鎧戦士に変身させることである。
しかし何故凌馬が態々こんな物を作り上げたかといえば、それは凌馬を取り囲むこの状況にあった。
彼が巻き込まれた出来事というのは「聖杯戦争」。
キリストの話やアーサー王伝説等の書物において其の名を馳せた「聖杯」と呼ばれる願望機をかけて殺し合うゲームである。
この聖杯戦争には、「サーヴァント」と呼ばれる英雄を「マスター」が従えて戦うという変わった特徴があった。
凌馬のサーヴァントも決して弱くはない、寧ろサーヴァントの強さに起因する知名度に関してはピカイチな英雄だ。
だがサーヴァントが幾ら強かろうとも、マスターが弱ければ直ぐに倒れてしまう。
持ち駒がどんなに強力であろうと王が仕留められればそれでチェックメイトだ。
だからこそ、凌馬自身にもまた強い武器が必要とされる事となったのだ。
しかし、凌馬専用のゲネシスドライバーは駆紋戒斗との戦いにおいてロックシードごと紛失してしまった。
幸い予備のレモンエナジーロックシードはまだ残っていたが、しかしゲネシスドライバーが無ければ元も子もない。
だからこそ一から作る必要があった。
設計図自体はバックアップ用の記録媒体を隠し持っていた事で何とかなったが、問題は材料だ。
ゲネシスドライバーの製造には多種多様なレアメタルを必要とする。
山のように資金を持っていたユグドラシルの支援があって何とか量産は出来たが、レアメタルを独自で輸入するのも中々に苦労した。
おかげで財布の中身は3割程減ったが、しかし辛うじて完成させることは出来た。
ドライバーの出来に満足し「うん」と頷いた凌馬は、回転椅子を180度回転させて立ち上がると、背中を向け床に跪き何かしらの書物を読んでいる男に近づく。
男は眼鏡を掛けており、金髪のロングヘアーという髪型の持ち主であった。
そして読んでいる書物には数式とそれに関する解説が乗っていた。
それらは凌馬が大学時代に使用していた物だったのだが、この男はその本を勝手に持ち出し読み始めたのだった。
忍び足でその男に近づいた凌馬は、男の背中に軽くヒザ蹴りをかましてやる。
「うっ!何をする貴様ァ!」
男は蹴られた瞬間に後ろにいる凌馬目掛けて横に拳を振り上げる。
しかし凌馬は横に45度傾くことでそれを避けた後、「ハハッ」と笑いながら手を叩く。
そして今目の前で顔を真赤にして憤怒の形相を露わにしている男に声をかける。
「ハッハッハッハッ、済まなかったね、ライダー。」
「……また君かいマスター……もういい加減そのおふざけは辞めて下さい!」
凌馬が「ライダー」と呼んだ男はそう言葉を吐き出すと、ゼェゼェと息を付きながら怒りを和らげる。
それを見た凌馬は「参りました」と言わんばかりに両手を上げた後、机に置かれていたゲネシスドライバーを取り上げる。
◆ ◆ ◆
研究室で数学書を読み漁っていたこの男こそが、戦極凌馬が喚び出したサーヴァントであった。
しかし彼は王族でも騎士でも無く、見るからに只の学者らしき風貌の持ち主であった。
クラスはライダーではあるが、馬を駆ったり船を操ったりした逸話は持ち合わせていない。
「それで、その装置が、マスターの発明品なのですか!?」
先程の怒りは何処へ吹っ飛んでいったのやら、ライダーは子供のように興味津々な表情で、マスターが手に取っているドライバーを眼鏡越しに見つめる。
その表情にクスッと笑った凌馬は、得意気にこの装置について語る。
「その通り、これこそがゲネシスドライバー、私が神の力へと至るために作り上げた装置さ。」
「神の力……確か、貴方が私に話した……」
凌馬の話によれば、この「ゲネシスドライバー」という物は神話の起因となる「ある力」を制御する為に作り上げた装置だそうだ。
ギリシャ神話の黄金のリンゴ、旧約聖書の知恵の実、それらが本当に存在すると仮定したこの戦極凌馬が開発した、「神の力を人の物にする装置」。
どんな素人でも吐けるであろう大言壮語にすら聞こえる馬鹿げた言葉だが、しかし彼の眼はこの装置が神に近づいていると言う事を肯定せざるを得なかった。
コストをケチった冠を見破ったライダーの眼は、その仕組みを見通していたが、しかしどれもこれもライダーが生きていた時代には存在しない仕組みばかりであった。
何かしらのエネルギーを吸収、格納し、制御する装置であることは取り敢えず分かったが、その構造は古代ギリシャのどの装置よりも複雑な物だった。
悔しながらも、時代というものを感じさせる。
「それで、その装置は如何にして運用するのでしょうか!?」
「ハッハッハッハッ、それなら聞くよりも見る方が早いさ。」
そう言った凌馬はドライバーを腰に当てる。
すると腰から銀色のベルトが出現し、あっという間に彼の腰に固定された。
それを確認した凌馬はポケットからレモンを象った南京錠……レモンエナジーロックシードを取り出す。
「変身」
『レモンエナジー!』
アンロックリリーサーを押し、錠前が開かれた瞬間、光と音声が南京錠から発せられ、研究室の天井に丸いジッパーが出現した。
そして其処から出てきたのは、巨大なレモン。
凌馬はロックシードをドライバーのゲネシスコアに装填し、錠前を固定させる。
『ロック・オン!』
ドライバーから音声が鳴り響いたことを確認した凌馬は、シーボルコンプレッサーを引き絞る。
『ソーダ!』
コネクタの下に置かれていた小型エネルギータンクに何かしらの流体エネルギーが流れ込んだと同時に、頭上のレモンが形を変える。
形を変えたレモンは凌馬の頭上に覆い被さり、首から下は蒼色の鎧へと変わっていく。
『レモンエナジーアームズ!ファイトパワー!ファイトパワー!ファイファイファイファイファファファファファイ!』
派手な名乗り音が鳴り響くと同時にレモンが変形、綺羅びやかな鎧へと形を変える。
露わになった頭部には、既に西洋風の兜に包まれていた。
これこそ「アーマードライダー・デューク」。
設計者自らが特別に強化した、最強クラスのアーマードライダーである。
一瞬で鎧を纏った凌馬の姿を、ライダーは目をキラキラ光らせながら見ていた。
「おぉ……素晴らしい……。」
「ハッハッハッハッ……まぁこれでもまだ試作段階だ、未だ神の道には至っていない。」
凌馬は仮面越しに軽く笑いながら、ドライバーにロックされているエナジーロックシードを人差し指でトントンと叩く。
「このエナジーロックシードは、神話に伝わる知恵の実に限りなく近い能力を持っている。
だがそれは人の身には余りある物だからね、これくらいに出力を抑えて初めて人の物となる。」
「ふぅむ……しかし知恵の実に近い力が本当にあったとは……。」
ほぉっとした態度でライダーは驚きを見せていた。
知恵の実は、既にアダムとイブに食され、もう二度と存在しなくなった……ライダーはそう思っていた。
英霊の座からの知識でそれが嘗て現実の存在であったことは知らされているが、しかしいざそれを目にするとなればそれはそれは驚きを隠せない。
そしてその言葉に、凌馬が付け足す。
「『今私達が乗っている』のも同じ様な物じゃないか。」
戦極凌馬、そしてライダーが語り合う研究室を乗せた船は、今上空を飛んでいる。
それはそれは巨大なスケールの船で、内部には様々な設備が搭載されていた。
この研究室は、先程ライダーがユグドラシルの研究室を再現した物である。
その他原初オリンピックのスポーツに適した運動場、草や木が敷き詰められた庭園、そしてギリシャの神々を祀る神殿が建てられていた。
まるで船に1つの自然公園が乗っているようであった。
この船を動かすのは、自動的にグルグルと回り続ける螺旋水車であった。
そしてこれは、かのネブカドネツァル王が創り上げたバビロンの空中庭園を浮かばせていた物と全く同一の作りなのである。
◆ ◆ ◆
数学という学問には、未だ未開拓の余地が沢山ある。
例えば平地よりも穴の方がずっと多いと言うほどに、数学という学問には未知の難問が多く存在していた。
3.14....から続いていく円周率の様に、小数点以下の数字が限りなく存在する「無理数」の行先。
割り切ることの出来ない「素数」共通の性質、そして最大の素数。
この他にも、数字という存在に対する疑問点は、数え切れない程存在しているのだ。
ライダーという男は、数学とは神のパズルに近い存在で、もし疑問という名の穴を全て埋め尽くした暁には、「根源」に近い何かに至れるのでは、と考えていた。
砂場の砂の数など、計算式1つで表現できると。
キリの良い大きさの比を保ちながら、球をすっぽりと缶に入れられると。
数学の可能性は無限大だと言う思想を、男は持ち続けていた。
己を喚んだマスター同様、机上の理論だけで神に至ろうとした男。
冠が純金製で無いことを暴き、螺旋水車に自動投石器を生み出し、更には太陽光線の逸話をも残した数学者。
男は名を、「アルキメデス」と呼んだ。
◆ ◆ ◆
神の遺した禁断の果実を、人の物に作り変えようとした男。
数字の可能性を、限りなく証明しようとした男。
彼等の探求は終わらない。
そして彼等の願いは、やがて万能の願望機の仕組みをもさらけ出すこととなるであろう。
【元ネタ】史実
【クラス名】ライダー
【性別】男
【真名】アルキメデス
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷D 魔力E 幸運C 宝具A
【クラス別スキル】
騎乗:D
乗り物を乗りこなす才能。
大抵の乗り物は人並みに乗りこなせるが、彼は騎乗に関する逸話を持ち合わせていない。
対魔力:E
魔力に対する耐性。
クラス補正で無理矢理付けられたスキル。
単なるお守り程度の効果しかない。
【固有スキル】
道具作成:B
道具を作り出すスキル。
魔力を帯びた道具を作成出来る他、自身の宝具の改造も可能。
天賦の叡智:A
偉大なる智力。
あらゆる力を知り、己の物とする。
暴かれた偽冠:A
最も有名な「金の冠」の逸話から来たもので、生前は持ち合わせていない。
物質の内部構造を一目で解析する。
ただし、神造兵装等は解析は出来ても再現は決して出来ない。
【宝具】
「螺旋の水上庭園(シュラコシア)」
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:30 最大捕捉:100人
アルキメデスが発明した「アルキメディアン・スクリュー」が使用されたとされる巨大な船。
観光、運輸、海戦に使われる船で、船内には綺羅びやかな庭園や神殿、更には運動場が存在する。
生前の逸話により、魔力でアルキメディアン・スクリューを回転させることにより上空に浮上させることが出来る他、更には内部にある幾つもの小さな穴から矢を放つことが出来る。
そしてこの宝具には、後述の宝具を全て乗せることが可能とされている。
「太陽の憤怒(ソーラ・レイ)」
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:30 最大捕捉:1〜50
鏡面から対象を燃やす特殊な光線を放つ、空中を移動する十枚以上の鏡。
アルキメデスが生前発明したとされる、「アルキメデスの熱光線」が宝具として昇華された武器。
複数の鏡から同時に光線を放つオールレンジ攻撃や、鏡に光線を当てて敵に正確に攻撃を与えたりすることなどが可能である。
「放たれた自律する鉄槌腕(トレピュシェット)」
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:40 最大捕捉:10〜100
アルキメデスが発明したとされる、蒸気機関で動く投石機。
地面から出現し、岩のごとき魔弾を高速で発射する。
投石機は最大で10台まで出現できる他、車輪による自動走行が可能で、位置座標を自由に変更できる。
「箱を転覆させる鉤爪(シップ・シェイカー)」
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:30 最大捕捉:1
アルキメデスが発明したとされる鉤爪。
毒蛇の様に伸びて敵を掴みとる。
【人物背景】
言わずと知れた、様々な理論を生み出し、また冠の金の含有量を測った逸話で有名なギリシャ数学史最大の数学者。
数々の兵器を発明し、数々の数式を提唱した天才の最期は、未完成の図面を汚された挙句に斬り落とされる、と言った儚き物であった。
「数」がこの世全てを定義しているとでも言いたげな人物で、数学で根源に至らんとするその思想は、奇しくも魔術師のそれに似ている。
探究心を体現した好奇心旺盛な性格だが、頑固で一度計算にのめり込むと周りが見えなくなる。
裸で風呂場を走ったり兵士に脅されてキレたりしたこともこの性格から。
数字に対する可能性を信じこんでおり、その為計算1つでこの様な事が解けると言ったような数式や論文を書いたのもこの思想から。
【外見】
眼鏡を掛けた銀髪のロングヘアーの青年。
【聖杯にかける願い】
あの計算の続きを書く。
【マスター名】戦極凌馬
【出典】仮面ライダー鎧武
【性別】男
【Weapon】
「ゲネシスドライバー」
異界の植物「ヘルヘイム」の力を制御するためのジューサー型デバイス。
腰に当てることでベルトを出現、腰に固定させる。
更にエナジーロックシードを装填することで「アーマードライダー・デューク」に変身することが出来る。
本来凌馬はドライバーを落としたはずだが、護身用としてこの場で作成した。
「レモンエナジーロックシード」
ヘルヘイムの森の実をドライバーを巻いた状態で変化させた南京錠型デバイス。
異界の扉を開き「アームズ」と呼ばれる装甲を召喚することが出来る。
これもドライバー同様落としているが、予備を持っていたおかげでなんとかなった。
「記録媒体」
戦極ドライバー及びロックシードに関するデータが詰まったUSBメモリ。
無論誰かに見られないよう極めて厳重なプロテクトが掛けられており、並大抵のハッカーでも突破することは困難を極める。
【能力・技能】
天才科学者としての卓越した技能を持ち、その他駆け引きやトラップ作成にも長けている。
だが所詮は研究者、思考こそ速けれど決して万能ではなく、実際オーバーロードを生け捕りにしようとする作戦で沢芽市を廃墟にする結果を招き、己の発明すらある野蛮な男に超えられてしまった。
【人物背景】
ユグドラシルコーポレーションに特別な形で入社した科学者。
ヘルヘイムの研究において「戦極ドライバー」を提唱、プロジェクトアークへの手段を作り上げた。
それからも研究主任の呉島貴虎と協力して、最初はリスクが高すぎる性能であったドライバーを人の物へと変えていった。
だがプロジェクトアークへの興味が失せ、ドライバー量産のコスト削減を「10億台が限度」として打ち切ってしまう。
やがて彼もまたユグドラシルを裏切り、結果として沢芽市を廃墟に変えてしまう。
だが彼はそんなことも気にせず只管ヘルヘイムの研究のためだけに行動していく。
最終的にそのツケが回り、ドライバー無しでヘルヘイムの力を物にしたある男によって倒される。
今回はその直後からの参戦。
飄々としているが根は冷酷な研究者。
「研究に犠牲は付き物」という考えはユグドラシルに入った時点であった模様。
【聖杯にかける願い】
聖杯の全てを研究する。
以上で投下を終了します。
お借りします
小さいころのことを良く覚えている。
テレビにうつるのは赤い鎧の正義の味方。
皆のため、誰かのため、歯を食いしばって立ち上がり。
仮面の下に涙を隠して戦っていく。
そんな正義の味方が、ふゆねーは本当に大好きだった。
一緒にテレビを見た。一緒にご飯を食べた。ふゆねーはいつも自分を守ってくれた。
悪いことがあれば悪いといって、正しいことのために怒って、見てみぬふりをしないで立ち向かう。
そんなふゆねーみたいになりたいなと思った自分は、いつか普通になりたいなと思いだして。
姉がいなくなってから、ずっとずっと経ったあと――姉に似た人と出会った。
「もし自分が正しくて、みんなが違う、ということがあったら、どうする?」
「僕は自分の知性を過信しない。
『みんな』の規模とサンプリングによるが、多数が反対するのであれば、
自分の論点に間違いがあるかどうかを検証するだろう」
「それでも、自分が正しいと思ったら?」
「定義の問題だ。正しいと思った以上、正しいと言うだろう」
――すごい、と思った。
この人は世界の全部を敵に回しても、自分が正しいと言えるんだ。
だからその瞬間、牧本美佐絵は恋に落ち――……
――…………自分の正しいと思うことのために、悪の秘密結社を裏切った。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
.
『ファンタスティカちゃん、ひどいわ!』
路地裏――牧本の周囲を取り囲むのは改造された兵士たちだった。
人間を守るためという名目で、人間を攫ったり買ったりして、切り刻んで、そして人外を殺させる。
自分もそうだった。だから逃げ出した。けれど今、その牙は明らかに自分へと向けられている。
耳のなかにキンキンと響く女性が、会社の命令でそう仕向けているのだ。
牧本の姉を拉致して人体実験に使い捨て、次に牧本を拉致して身体を切り刻んだ――ストラス製薬。
それは何も牧本たちに限ったことではなくて、むしろ自分が幸運であったことも牧本は知っている。
改造されて耐えられなくて肉体が崩壊した人。自我がボロボロになって薬無しじゃ正気でいられない人。
条件付けを緩めて、学校生活を送れて、恋までできた自分は幸運なのだと牧本は知っている。
でも、だからといって「帰りたい」とは思わなかった。
そして「殺したい」とは、牧本は思わなかった。
だから逃げた。
狭祭市から、ストラト製薬から、大好きな男の子から遠く、遠く、何処までも。
鞭のように手足を伸ばして殴りつけ、蹴りつけ、跳んで、走って、逃げた。
被験体――改造兵士たちはどこまでも牧本を追ってくる。追い詰められる。
冬木という街の名前も、牧本にとってはただの通過点。終わるかもしれない場所にすぎない。
牧本は自分を路地へと追い込んでいく被験体相手に、懸命になって抗い続けた。
そのうち味方の攻撃の邪魔になったせいか、一人の被験体の頭が、ぽんと弾け飛んだ。
(爆弾――)
どうしてそんな事ができるのだろう。仮面の下でぽろぽろと涙が滲んだ。
牧本は指を細くして、自分の耳の中へと突き刺した。
自分で自分の脳をかき回す感触に吐き気がする。けれど、目当てのものは見つけた。
ずるりと引き抜いた小型の頭蓋爆弾は、牧本の血まみれの掌の上で弾け飛んだ。
『もう! そんなことをすると、私怒っちゃうから!』
ヒステリックな叫び声。何が来るだろう? 牧本は身を強張らせ、跳躍に備え――
『全拘束固定、同時に装甲板一から十を強制排除!』
――身体が、崩れた。
皮膚と癒着し一体化する装甲が、そのまま強制排除されたのだ。
腕が弾けて崩れ、内臓が溢れ、血が吹き出して激痛に泣き叫ぶ――こともできない。
もはや牧本は人の形をしていない。路面にぶちまけられた、ひとかたまりの内臓だ。
『ほら、これでもう捕まえられるでしょ?』
逃げられない。改造兵士たちが近づいてくる。もう終わってしまう。
けれどまだ、牧本は希望を捨てていなかった。蠢き、這いずり、側溝を目指す。
兵士の手が自分に触れるその瀬戸際、牧本は震えるように、誰かの名前を口にした。
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
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それは流れるような剣閃であった。
振り抜かれた剣はまず装甲兵のヘルメット下から首筋を撫で切る。
次いで第二撃は脇の下から胸部装甲の隙間を徹って心臓を貫く。
最後の一刀は、やはり装甲の隙間を滑って太腿を切り飛ばした。
最小の動きで最大の威力。
一瞬遅れて致命的な量の血飛沫が吹き出して、三体が崩れ落ちる。
強化改造されたはずの被験体たちは、その超常の力を発揮するよりも早く息絶えた。
『え――――……?』
監視モニターの向こうで女の上げた疑問符が、イヤフォンを通してキンキン響く。
ありえないことだった。観測装置の故障を真っ先に疑った。
ストラト製薬が人類を守る牙として改造した兵士たちが、一瞬のうちに。
一切なんの魔力反応も示さない――ただの男に切り刻まれたのだから。
男は時代錯誤な鎧甲冑を身につけていた。
戦国か? 否、もっと古い。飾り糸で彩られた、大鎧。綺羅びやかな兜。
手には白刃――月光のように、恐ろしいほど白く輝く剣。
牧本はふと、日本史の授業で習ったことを思い出した。
日本史の多田先生は、一年かけてじっくりと安土桃山時代を教えてくれる。
だから他の時代のことは授業にないのだけれど――その、例外。
妖かしのものに人の身のまま立ち向かった、お侍さんたちの話。
「ほう、千里眼か。面白い小細工を考えるものだ」
その武士は刀を手にしたまま、斬り伏せた死体へと躊躇なく手を突き入れた。
指先に赤黒い血が糸を引いて、撮み出されたのは小さな機械。
彼はそれをぐしゃりと握りつぶし、機械ごと、あの女の声を消し去った。
男の目が兜の下で動いて、牧本の方を向いた。冷たい目だ。牧本は息を呑む。
「晴明、どう見る。――そうか。これは人か?」
"これ"はヒトか?
その何処までも冷たくて残酷な言葉は、牧本の心をまっすぐに切り裂いた。
けれどそれは同時に、どこまでも機械的で、事実を確かめるための言葉だった。
牧本は一人の男の子を思い出した。彼もきっと、そんなふうなことを聞くだろうな。
だから牧本は、内臓に埋もれた二つの瞳を動かした。頷いた、つもりだった。
目の前の男の人が、まっすぐにこちらを見てくれたような気がした。
「貞光。鎌を出せ」
男の人が刀を鞘に納めると、かわりに長柄の大鎌が現れた。
牧本は終わりが来てしまったのだと思った。通りの向こうで、黒い傘が見えた気がした。
けれど牧本は、諦めが悪かった。必死に身体を蠢かせ、側溝に逃げ込もうと――
「あ、れ――――…………?」
その身体が、とぷりと暖かなものに包み込まれた。
ほぅ、と思わず声が漏れて、身体が蕩けそうになる――身体?
牧本は目を瞬かせた。瞬きができる。手がある。足も、お腹も……胸も。
(わ、私、裸だ…………!?)
生まれたばかりの姿になった事に気づいて慌てて身体を抱きしめると、お湯がばしゃりと跳ねた。
お湯――お風呂。アスファルトの路上は鎌で切り裂かれ、そこから滾々と湯が湧き出している。
「お、温泉……?」
「元の身体には戻らないだろうが、楽にはなる」
「え、えと…………あ、痛ッ……!?」
混乱する牧本だったが、何かを言うよりも前に右の甲が焼けるように傷んだ。
耐久試験で加熱された時のような激痛は、神経にまで徹るほどで、涙が出る。
けれどそこに浮かんだのは三画で構成された赤い紋様。
同時――流れ込んでくるのは、聖杯戦争という、恐ろしい儀式の話。
「聖杯、戦争……サー、ヴァント?」
従者、奴隷。その言葉の嫌な響きに、牧本は僅かに顔をしかめた。
「そうだ」
男は静かな声で肯定する。
冷たい瞳がまっすぐに牧本を向いたので、彼女は慌てて胸元と下腹部を隠すように両手を回した。
厭らしい目つきではないけれど、乙女としては自分の柔肌に値千金をつけたいものだ。
「セイバー……ではないか。バーサーカー、源頼光だ。お前が人であるならば、それを守るは是非も無し」
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
.
娘は程なくして眠りについた。
晴明の施した結界があれば、そうそう見つかることもあるまい。
頼光は路地裏に身を屈め、刀を抱えたまま、静かにその隣に腰を降ろしていた。
雪はしんしんと降り積もるが、何のことはない。
土蜘蛛を待ち伏せた時などは熱病にもかかっていたのだ。
頼光は雪の中、娘――牧本美佐絵と交わした、短い会話を思い返していた。
『私、正義の味方になりたいんです』
娘は凛とした声で、はっきりとそう言った。
自分がストラスなる会社によって改造されてしまったこと。
好きになった男子のこと。逃げよう、抜け出そうと、走り続けてきたこと。
『たぶん、聖杯戦争?とか、ストラスがいると、私みたいな人が増えるから…………』
だから立ち向かいたいのだと、彼女は言った。
『もちろん、悪い人ばっかりじゃないと思うけど。
できれば、殺したくなくて、でも……犠牲者も出したくないんです』
それはすなわち、聖杯戦争関係者へ選択的に制裁を加え、殺害しない程度に再起不能にする、ということだ。
過酷な道だ。
だが、頼光にとっても何の問題もなかった。
サーヴァントとはすべからく亡霊の類である。
人の世を守るために顕現したのならともかく、聖杯に私利私欲の望みを抱くのであれば。
それはもはや斬るべきものだ。
悪を斬り、人を守る。
元より正義というのは無理なものである。
であるからこそ正義に味方するのは、武家の本懐であった。
「ふゆ、ね……くもん、くん……」
湯船で温まった牧本は、晴明がどこからともなく用意した寝間着に包まって休んでいる。
保昌の奏でる笛の音ならば、心の慰めとならぬはずもない。
クモン、というのは恋い慕う男の名だろう。
当世の女子は、詩を交わすでもなく直接対面して会話するなど、大胆になったものだった。
だが頼光にとっては大して関係の無いことだ。
恋慕大いに結構。ヒトでなくば恋はできない。彼女はヒトだ。
むしろ、ふゆねえ――姉妹がいたということが、僅かに頼光の心に漣を生み出していた。
頼光にも妹がいた。化生と成り果てた妹であった。
人の世を離れ、逃れて暮らすのであれば――と、手を緩めたのが過ちであったろう。
結果、妹は寺を襲い、僧侶五十人が毒に侵され、七人が死んだ。
生かしておく価値などどこにも無い。妹はもはや牛鬼である。殺さねばなるまい。
私怨などではなく、護国のために立つもの、武士の責務として――
「魑魅魍魎、一切合切滅ぶべし」
――源頼光は、聖杯戦争を斬り伏せる。
.
【クラス】
バーサーカー
【真名】
源頼光(みなもとのらいこう)
【出典】
史実
【性別】
男
【属性】
中立・善
【ステータス】
筋力B+ 耐久B+ 敏捷B+ 魔力D+ 幸運B+ 宝具EX
【クラススキル】
狂化:EX
全パラメーターを2ランクアップさせるが、マスターの制御さえ不可能になる。
このEXとは規格外の意味で、決して理性が失われるわけではない。
源頼光は理性を保ち、勇気を持って、化物どもを確実に殺すのである。
【保有スキル】
無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下でも十全の戦闘力を発揮できる。
朝家の守護:A
日本国の守護者として蓄積された経験と意志。
外来者、人外への攻撃が致命的一撃(クリティカルヒット)となる確率を大幅に向上させる。
その攻撃に牽制は無く、一撃一撃が必殺である。
【宝具】
『童子切安綱』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
天下五剣の一とされる、人の人による人のために鍛えられた、人造の聖剣。
人理に仇成す者を片端より撫で斬りにして滅ぼしてきた斬魔刀である。
その威力は阿頼耶識の強さに比例し、万物を切り裂く窮極の斬撃を繰り出す。
兄弟剣として『鬼切安綱』が存在する。
「百鬼夜行に魑魅魍魎、一切合切滅ぶべし!」
『星甲』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
神便鬼毒酒と同様、朱点童子討伐のために授けられた神造の兜。
装着者に万人力を与えるとされ、装備中は全ステータスが倍化する。
しかしこの効果は本人の潜在能力を発揮させるだけであり、それ以上のものではない。
この宝具の真価は兜の破壊と引き換えに、如何なる攻撃からでも装着者を守る事にある。
源頼光はこの兜によって、朱点童子の最期の一撃から命を拾った。
「我ら人理の守護者、是非も無し!」
『御伽草子』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:6
自身の同胞である英霊の魂を転写し、一時的な助力を得ることが出来る。
通常サーヴァントのように現界させるには膨大な魔力が必要。
源頼光が呼び寄せているのは、朝家の守護と讃えられた以下の六名。
剣術スキルを倍化し、宝具『鬼切安綱』を呼び寄せる「渡辺綱」。
身体能力の一時的ブーストと雷電による魔力放出を行う「坂田金時」。
いかなる遠距離であっても確実に命中する剛弓を放つ「卜部季武」。
観音菩薩の加護により万病治癒の泉をもたらす「碓井貞光」。
聞くものの感情を想いのままに操れる笛の名手「藤原保昌」。
そして呪的防御を行い、あらゆる神秘の知識を持つ「安倍晴明」。
源頼光はアラヤの守護者であり、人理を守るものである。
「来たれい我が忠臣、我が手足、我が具足、我が同胞……!」
【人物背景】
平安時代、日本を脅かす妖怪変化を討ち滅ぼし、朝家の守護として活躍した武将。
日本最強鬼種である朱点童子を筆頭に、彼によって斬り伏せられた怪異は数多い。
その策略は冷徹極まりなく、最大効率で最大威力、最小限の犠牲で確実に殺す手を好む。
徹底した能力主義で、源氏平家問わず、人たらんとするのなら人外であっても配下に加えた。
逆に言えば「人間であろうとし」「人外と戦う気概がある」ならば、誰であれそれを認める。
そんな源頼光が唯一滅ぼせなかったのが、隅田川へと逃れた牛鬼=丑御前。
すなわち、彼自身の妹であった。
【サーヴァントとしての願い】
人理の守護
丑御前を滅ぼす
【特徴】
綺羅びやかな兜と平安時代の大鎧を纏った武士。
腰には大太刀を佩いている。
その表情は冷徹で、目は冷たく、声もどこか機械的。
.
【マスター】
牧本美佐絵@塵骸魔京-ファンタスティカ・オブ・ナイン-
【能力・技能】
・No.009ファンタスティカ
ストラス製薬によって製造された改造人間。
全身を分子、原子レベルに至るまで自由に変換させ形状を変化させる。
戦闘では軟体化させた四肢を鞭のように繰り出して格闘を行う。
また指先を重水素とヘリウム3に変換し、極小規模な核融合爆発を発生させるのが切り札。
ただし意識と魔力が不足すると形状を保てず、文字通り肉体が溶解、死亡する。
【人物背景】
海東学園に通う女子高生。優しく穏やかな優等生で、けれど意外と押しが強い。
父から逃れて姉と暮らしていたが、姉妹ともどもストラス制薬の被験体にされてしまう。
以後ストラス製薬の人外種を駆逐する尖兵として、殺戮を繰り返す日々を過ごしていた。
しかし同級生の九門克綺にほのかな恋心を抱いた事がきっかけとなり、洗脳を克服して脱走。
逃避行の最中、制裁として外骨格を排除されたため、瀕死の状態に陥っていた。
心優しい少女、恋する乙女、そして正義の味方。
【マスターとしての願い】
正義の味方になる
(必要最小限の犠牲で、聖杯戦争を叩き潰す)
九門君に会いたい
【参考文献】
『塵骸魔京-ファンタスティカ・オブ・ナイン-』『塵骸魔京-ライダーズ・オブ・ダークネス-』
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以上になります
源頼光はFate/GOでバーサーカーとして登場しておりますが
本サーヴァントは別解釈での作成となります
投下します
直樹美紀が連れてこられた、見ず知らずの町――冬木市。
彼女はそこを少しでも知り、元の世界へと戻るヒントを探そうと、探索をしていた。
しかし不幸な事に、その際少し人気のない路地に入り――まだ土地勘が無いが故に、やってしまった失敗だ――、一匹の獣に襲われたのである。
獣の目に正気の色はない。
おそらく、何処ぞのキャスターが放った使い魔の一匹なのであろう。
丸腰の少女と、獰猛な獣。
どちらが強いかは、言うまでもあるまい。
人どころか生物の限界を超えたスピードとパワーを持っている分、それは美紀の知る「奴ら」よりも脅威だ。
突如現れた化物に驚いて尻餅をついた美紀はそれでもなんとか逃げようとしたのだが、人外の存在との鬼ごっこに勝てるわけがなく、ついに壁際まで追い詰められてしまう。
(何なんだこれは!? 何なんだこの状況は!? そもそも私は、どうしてこんな町に……!?)
捕食者の余裕を放ちながら近づいてくる獣を見て、美紀の頭の中に絶望の二文字が躍る。
牙だらけの口から滴り落ちている涎は、どんな劇薬よりも恐ろしく見えた。
「Grrrr……」
獣の牙が、あと一メートル足らずで美紀の柔肌に届く。
美紀は思わず両目を閉じた。
と、その時。
美紀と獣から少し離れた地点に、二人の男女が現れた。
熱風と閃光、そして轟音――ド派手な演出と共に現れた彼らに、一人と一匹は目を向ける。
そこに居たのは、槍を持ち、アロハシャツを着た銀髪の男と、フラドレスに身を包んだ黒い長髪の女。
両者ともに、日に焼けた褐色の肌をした美男美女であり、冬の冬木市にはあまりにも合わない格好だ。
熱風が、二人の衣装と頭髪をひらひらと躍らせている。
彼らのエントリーに驚き、興奮したのか、獣はまるで攻撃対象を美紀から男に変えた――否、【攻撃対象から美紀を外した】かのように、男の方へと向かい、地を滑るようにして駆けた。
一瞬にして、両者の距離は縮められる。
それに対し、男は槍で獣の牙をいとも容易く受け止めた。
キィン! という衝突音が路地に響く。
「……問おう。お前が余のマスターか?」
獣の動きを片手で持つ槍で封じながら、男は美紀に問う。
その声は、王様のような威厳に満ちたものであり、カリスマを感じさせた。
彼の言葉を聞いたと同時に、美紀の頭の中に膨大な量の「情報」が流れて来る。
聖杯のことや自分が聖杯戦争のマスターであること、目の前の男が自身のサーヴァント――ランサーであること(ならば女の方は何なのだろう)、その他諸々を一瞬にして理解した。
けれども、美紀はいくつも立て続けに起きた、己の常識を越える事態に戸惑い、口を開けたまま何も喋られずにいる。
「ちょっと、あんた! カッくんの質問にさっさと答えなさいよ!」
黒髪の女がそう叫んだ。
美紀は慌てて答える。
「は、はい!……それで合ってます!」
「よろしい。
ならばこのランサー――カメハメハ一世は、お前を守り、お前の為に戦うことを誓おう」
カメハメハ一世――ハワイの英雄であるにも関わらず、日本人の美紀でも知っているほどの有名人の名を名乗った男は、美紀からの返事に満足そうに頷き、槍を持つ手に力を込め、獣を払い飛ばした。
美紀と同じくらいの大きさである獣は軽々と飛んで行き、壁に衝突して盛大な破壊音を起こす。
なんたる怪力であろうか。
獣は甲高い悲鳴を短くあげると力尽き、消滅した。
▲▼▲▼▲▼▲
美紀は安堵の息を漏らす。
一先ず目の前の脅威は去った。
けれども、まだ完全に安心は出来ない。
何せ、彼女は「聖杯戦争」という殺し合いに巻き込まれたことを自覚してしまったのだから。
己のサーヴァントの力強さを今しがた目にしたとはいえ、やはり不安は拭えない。
とりあえず、今は目の前にいるカメハメハ一世(と、謎の女性)に助けてもらった礼を言わなくては。
そう考え、美紀は立ち上がろうとする。
「……いや、待て」
しかし、カメハメハ一世は槍を真横に突き出し、美紀の動きを制した。
「まだ立ち上がるのは早いぞマスター……もう少し座っておけ。
どうやら、不届き者(けもの)はまだ他にも居るらしい」
「!」
美紀は己の目を疑った。
彼女の視界の先――路地の彼方から、先ほどの獣が大挙してやって来ているではないか。
大自然特番でのアフリカやサバンナの映像でしか見られないような光景が、冬木の街中の一角に広がっていた。
「さっきのアイツ(獣)が死に際に放った悲鳴がマズかったよーね。
アレがヤツらを呼んじゃったんじゃないかしら?」
「…………」
何故か楽しそうな笑みを浮かべながら現状を分析する女と、黙したまま獣の群れを睨むカメハメハ一世。
美紀はそんな彼らを見て、ただゴクリと唾を飲み込むことしか出来ない。
彼のあの怪力ならば獣の一匹や二匹、どうってことはないだろう。
しかし、あれほどまでの数の暴力を相手に、彼が勝てるのだろうか?
美紀がそう疑問に思い、不安になっていると、黒髪の女は妙案を思いついたような表情をして、カメハメハ一世に話し掛けた。
「……ねえ、カッくん?」
「どうしましたか、ペレ様」
「せっかく敵が大勢いるんだからさー、『アレ』やろーよ!」
「え? ……それは……。
まだ今は聖杯戦争の序盤――どころか、本格的に始まってすらいません。
そんな時に『アレ』をやるとは……」
美紀に対して王様らしくカリスマ溢れる言動をしていたカメハメハ一世が弱々しい様子で、ペレという名の女が出した提案にやんわりと反対する。
余程、彼女が怖いのだろう。
言葉の端々に彼女を怒らせまいという努力が見られる。
しかし、ペレは熱湯を浴びせられたかのように顔を真っ赤にして怒り、「はぁ!?」と怒鳴った。
「何よ何よ何よ!
どーせ、あんたが集団相手にぶっ放せるのって『アレ』くらいしかないんでしょ!?
じゃあ、やるしかないじゃない!
それとも、ここで出し惜しみする気!?
そんなことして負けちゃったらどーするのよ!?
私が味方についた以上、そんなつまらない負け方だけは絶っ――――――――――――――対に許さないんだから!
どーせ戦争するんなら、常に私みたいに島一つ巻き込むくらいの全力を出しなさい! ……っていうか、そこまでやって、なんで私あの豚野郎に勝てなかったのかしら……。
……ともかく!
そもそも『アレ』はカッくんの宝具じゃあなくて、私の力みたいなもんなんだからね!?
断れると思ってるの!? ねえ!?」
怒涛の勢いで放たれる、怒りの言葉。
美紀は彼女の姿に、火山の噴火のイメージを見た。
どうやら、ペレはカメハメハに宝具を発動しろ、と言っているらしい。
本来、それを命令するのはマスターである美紀なのだが……ここで割って入り、その事を主張できるほど、彼女は怖いもの知らずではない。
それに、美紀も出来ることなら、カメハメハ一世に宝具を発動して、あの恐ろしい集団を一刻も早く倒して欲しいのだ。
故に、文句を言うことはない。
「……了解しました」
カメハメハ一世は渋々といった具合に、ペレの提案を受け入れる。
そんな彼の姿に、先輩に振り回されている自分の姿を重ね、美紀は彼に多少の親近感と哀れみを感じた。
▲▼▲▼▲▼▲
カメハメハ一世とペレがそうこうしている間も、獣たちの群勢は一切スピードを緩めずに接近してきている。
今では、彼らの足音がハッキリと聞こえるくらいの距離になっていた。
「……それでは行きますよ、ペレ様」
「ええ! この私にどーんと任せちゃいなさい!」
カメハメハ一世は美紀に背を向け、眼前に迫る獣たちへと槍を構える(ホースで消火活動を行っている消防士の姿をイメージして貰えればいい)。
ペレはカメハメハ一世の肩に両腕を回し、背中から抱きつくような姿勢を取った。
自身に武器を向けられても、獣の群勢は怯むことなく歩を進めている。
一度深く息を吸った後、カメハメハ一世は槍を更に強く握り締め、口を開く。
同様に、ペレも言葉を紡ぐ。
「悪しき軍勢の進行を、聖なる大地は許さず」
「悪しき軍勢の進行を、聖なる大地は許さず」
何らかの詠唱であろうか――二人の声が、重なる。
すると、ペレの肉体が綻び、溶け、不定形化し始め、炎のようなオーラと化した。
「故に、彼らは大地の怒りに触れ、身を滅ぼす運命(さだめ)にあり」
「故に、彼らは大地の怒りに触れ、身を滅ぼす運命(さだめ)にあり」
不思議なことに、炎となった後もペレの言葉は続いていた。
彼女は槍全体を覆うようにして纏わり付き、次第に発条のように螺旋を巻いた形状となる。
ここでようやく、美紀は自分がダラダラと汗を流していることに気がついた。
周囲の気温が真夏のそれを思わせるほどに暑くなっているのだ。
間違いなく、あの槍――炎が原因であろう。
「【大地の怒り――」
「イヘ――」
炎の発条が縮んで、一気に槍の先端に収束し、眩い光球へと変わる。
それはまるで、地球全てのエネルギーを集めたかのような、神々しく、煌々とした輝きであった。
「――加護受けし者の槍を此処に】!」
「――ペッレェェェェエエエエッイ!」
カメハメハ一世は力強く、ペレは「ペレ」と「行っけぇぇぇぇええええっい!」が混ざったような発音で宝具の名を叫ぶ。
瞬間。
槍の先端にあった光球から膨大な熱を孕んだ液体――溶岩が多量に吐き出された。
一瞬にして起こった体積の膨張は、最早爆発――噴火と形容すべきものである。
獣たちは次々と、赤い荒波に飲み込まれていく。
それを乗り越えてカメハメハ一世に牙を突き立てられるものは居ない。
地獄絵図めいたその光景に、美紀は腰を抜かし、ただただ呆然とするだけだった。
一分ほど経つと、道を覆い尽くしていた溶岩は消えてなくなった。
多少焦げたり溶けたりしたコンクリートやアスファルトが残っただけである。
「……いや、あの溶岩が通って、多少焦げたり溶けたりしただけっておかしいんじゃ……?」
「そこは私の細か〜〜っな調整と、カッくんのもう一つの宝具の『一般人に被害を及ぼさない』という性質が合わさった結果ね!
ご都合主義めいてるわ!」
溶岩の消失と共に再び姿を現したペレは、美紀の疑問にそう答え、「えっへん!」とでも言うように自慢気な顔をしていた。
▲▼▲▼▲▼▲
場所は変わって、美紀の自宅。
彼女が聖杯戦争の一参加者として与えられた役割(ロール)は、「一人暮らしの高校生」であった。
他に人の気配がない部屋――そこの机で、美紀とカメハメハ一世、ペレは一対二の形で向き合っている。
「――ふむ、なるほど。『元の平和な日常を取り戻したい』か……」
美紀が述べた、聖杯にかける願いを聞いて、カメハメハ一世はそう言った。
「えー? 何それつまんなーい!
もっとスケールがデカく、派手で面白い願いはないの?」
ペレは冷蔵庫の中から勝手に取り出した豚肉を食べながら、そのような文句を口にした。
自分の切なる願いが馬鹿にされて、美紀はムッとする。
「……いえ、ペレ様。
この者が言う『元の平和な日常を取り戻したい』は、『街中に蔓延る、人ならざる者たちの消失』と同義です。
派手で面白いかはさておき、スケールは十分大きいものかと」
「……ふーん、それもそうね」
納得したらしく、ペレは再び黙々と豚肉を咀嚼し始める。
《すまないな、マスター。
ペレ様は何かと派手好きなきらいがあるのだ。
それに、この方は女神であるが故に考え方が人間のお前とズレている時が多々ある。
どうか、気を悪くしないでくれ》
突然、頭の中にカメハメハ一世の声が流れて来て、美紀は驚く。
しかし、次の瞬間にはそれがサーヴァントとマスターの間でのみ行われるテレパシー――念話であると理解した。
視線を上げ、カメハメハ一世を見ると、申し訳なさそうな表情をしている。
美紀がコクリと頷き
《……分かりました》
と念話を送ると、頭の中に
《ありがとう》
と流れた。
女神であるペレには不安しかないが、サーヴァントである彼とは上手くやっていけそうだ――美紀はそう考えた。
【クラス】
ランサー
【真名】
カメハメハ一世
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力B+ 耐久A+ 敏捷C+ 魔力B+ 幸運B+ 宝具EX
【クラススキル】
対魔力:B
【保有スキル】
カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。
団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
交渉術:C
優れた交渉手腕。
Cランクにもなれば、国相手の外交を行うには十分である。
しかし、ハナから相手の言うことを聞く気がない者に対して、交渉は意味を持たない。
怪力:D
巨石ナハ・ストーンを持ち上げるほどの怪力。
一時的に筋力を増幅させる。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。
魔性のみが有するスキルだが、女神の加護を受けているランサーは例外的にこれを所持する。
【宝具】
【剣取れぬ者たちに、恐怖と無縁な休息を(ママラホエ・カナヴィ)】
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:不明
カメハメハ一世によって直々に編纂され、非戦闘員の保護を明文化した法典――ママラホエ・カナヴィと、彼が持つ槍が平和の象徴であることが結びついて生じた宝具。
範囲内の人物の攻撃対象から(マスターを含めた)戦闘能力を有さない一般人を強制除外する効果を持つ。
カメハメハ一世が槍を持っている間、一定範囲内にこの効果は及ぶ。
平和や安寧のイメージが強い宝具であるため、この時の槍自体の攻撃力は然程でもない。
しかし、一般人から犠牲者を出させないこれは、神秘の秘匿を要する聖杯戦争に何よりも相応しい宝具であろう。
【せーなる大地の女神様のごとーじょー!(ペレ)】
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
大地の女神、ペレを召喚する。
っていうか、呼んでもいないのに勝手に現界してきた(「カッくんがサーヴァントとして聖杯戦争に参加する!? しょーがないわね! いっちょ助けてあげますか!」)。
神秘が高い、と言うよりも神そのものなので、この宝具のランクは規格外のEXである。
彼女の詳細については下記の【女神ペレ】を。
【大地の怒り、加護受けし者の槍を此処に(イヘ・ペレ)】
ランク:A+++ 種別:対軍宝具 レンジ:100 最大捕捉:100
敵であるケオウラ軍が、キラウエア火山の大噴火に巻き込まれて壊滅したというエピソードによって、カメハメハが女神ペレを味方に付けているという評判が広まった。
この宝具は、その際の噴火を再現するもの。
ペレの肉体が炎ような不定形のオーラになって槍に纏わりつき、その先端から溶岩を放つ。
当然、サーヴァントであってもこれを食らえばただでは済まず、たとえ無事に済んだとしても、その後永久的に敏捷ステータスが一ランク下降することとなる。
ママラホエ・カナヴィ? 非戦闘員の保護? 何ですかそれは? とでも言うくらいの大火力であるが、ある程度溶岩の流れを操ることは出来る(実際に操るのはペレだけれども)。
宝具の発動スイッチはカメハメハ一世が、操作スイッチはペレが握っている、という感じ。
女神ペレ曰く、「かめはめ波ならぬ、かめはめ流って感じかしら!?」とのこと。
【人物背景】
ハワイ王国の初代の王様。
【特徴】
短パンにアロハシャツを着た(寒そう)、銀髪褐色肌の男。
見た目の年齢は十代後半から二十代前半くらい。
【weapon】
・無銘・槍
赤と緑を基調としたカラーリングの槍
【サーヴァントとしての願い】
マスターを守り、戦う。
【女神ペレ】
炎、ダンス、暴力を司る美しい女神。
司るものから推測できる通り、性格はかなり情熱的で暴力的。
自分が一目惚れした男と、彼と惹かれ合った実の妹を焼き殺そうとするくらい情熱的で暴力的。
情熱的で暴力的すぎる。
ハワイアンなフラドレス(胸隠しとスカートが一体化してるものでなく、分かれているタイプ。ヘソが見える)を着ており、自身の暴力的なまでに豊かな肉体(出るとこ出てて、しまるべきとこはしまってるナイスバディ巨乳という意味)を惜しみなく晒け出している。
長いくせっ毛の黒髪に、いかにもハワイという感じの花を一輪挿している。
肌は褐色。
好物は豚と野苺。
カメハメハ一世を助けるべく、彼の宝具として無理矢理現界した。
しかし、その為宝具【大地の怒り、加護受けし槍を此処に(イヘ・ペレ)】発動時以外では使える力にいくつもの制限がかかっており、聖杯戦争において殆ど役に立たない。
普段はカメハメハ一世にテンション高く絡んでいるだけである。
文字通り、世話"焼き"なおねーさんなのだ。
夫である豚神カマプアアとの壮絶な夫婦喧嘩のエピソード、及びその後日談での彼女がめちゃんこ可愛いので、読者諸兄には是非一度それをご覧になってもらいたい。
【呼称一覧】
・カメハメハ一世
一人称→余
二人称→お前
女神ペレ→ペレ様
・女神ペレ
一人称→私
二人称→あなた、あんた
カメハメハ一世→カッくん
【マスター】
直樹美紀
【出典】
がっこうぐらし!(漫画版)
【weapon】
なし
【マスターとしての願い】
元の平和な世界を取り戻す
【令呪】
位置は右手の甲。
ハイビスカスをベースにした形をしている。
【人物背景】
私立巡ヶ丘学院高等学校二年B組の女子。
投下終了です。
タイトルは「わたしたちは此処にいます」とします。
感想はまた後ほど(明日までには何とか)。
あと、wikiの方で支援絵をまとめて下さった方はありがとうございます! 助かりました!
投下します。
――封建制とは、土地を媒介にした、領主と家臣の間の主従関係に基づく社会形態を指す。
領主は土地の支配を認める代償に家臣に忠誠を誓わせ、家臣は軍務や奉仕によって領主に報いた。
――領主は保有する農奴に様々な税などを要求し、それによって生活していた。
時代が下るにつれて農奴の生産力は向上、さらに貨幣経済が浸透すると商業が活発化し、都市は発展した。
領主たちも次第に貨幣を要求するようになるが、この頃には農奴の発言力もかなり増していた。もはや貴族たちも彼らの意見を無視できない。
この後、幾度かの農民反乱を経て、封建制は崩壊へと進んでいった。
図書館でそこまで読み進めたウィーグラフは、深い溜息とともに読んでいた本を閉じた。
如何なる文献を調べようと、記述は概ね同じだった。
――貴族制は崩壊する。
軍事革命によって騎士は存在意義を失う。各地の諸侯が経済力・軍事力を失う事で中央集権が進み、力をつけた市民に王政は打倒される。
その先にあるのが今、彼がいる世界…地球。ここで見聞きしたもの全てが、ウィーグラフに金槌で殴られたような衝撃となって襲い掛かった。
彼の夢は身分に左右されない平等な世界の建設。その未来図がこの街なのだ。
(だが、人の間にある差が解消されたわけではない……。)
ウィーグラフの胸中を、暗澹たるものが満たしていく。貴族、という身分の意味は薄れたのだろう。
しかし経済力や経歴によって、暮らしぶりや人生の質は大きく異なってくる。
真っ当に働いても子孫に財産を残せない者もいれば、重犯罪を犯しても罰せられることのない者もいる。
教育が行き届き、文明が発展したここにも、貧困や腐敗、支配は厳として存在していた。
ウィーグラフは館内をぐるっと見渡してみる。利用客は老若男女さまざまだったが、一人として飢餓の気配は見えなかった。
これでもマシなのだ。彼が生まれ育ったイヴァリースには"これ"すらない。
≪■■■■■……!≫
≪ああ、そろそろ出ようか……バーサーカー≫
本棚に書籍を戻している時、サーヴァントが音ならぬ声をあげた。
ウィーグラフに宛がわれたのは、異相の狂戦士だった。
ほくろだらけの顔の上、目と眉は吊り上り、エラと顎が突き出した醜男。
ステータスに難はないが、意思疎通のとれない燃費の悪いクラス。
聖杯への道は遠いが、挫けてはいられない。
ウィーグラフは聖杯を欲する。彼が生きる世界には功績や能力では覆せないものがあるから。
それをひっくり返すために、ウィーグラフは聖杯を求める。
必要ではないのだろう。この街で見聞きしたような事を向こうで再現できるなら、願望器の助けを借りなくてもいい。
だが、それを成すには時間も物資も人手も足りない。率いた組織は既に潰れた。
ウィーグラフが率いていたのは平民から募った集団であり、野盗なみに落ちぶれた彼らを支援しようなどという物好きは遂に現れなかった。
自分が失踪した後も、敵は相変わらず、思うが儘に世界を整え続けているのだろう。
この戦力差をひっくり返せるなら、未来を生きる子供達だって殺す。
(まずは同盟か……)
館内から外に出ると、凍えそうな空気がウィーグラフに覆いかぶさってきた。
"持たざる者"を取り巻く状況にも似た、厳しい寒さだ。
サーヴァントなる高位の使い魔の維持がどれほど負担になるのか知らない以上、焦りは禁物。
地形を把握し、他の主従を捕捉。真っ向勝負は極力避け、相手の消耗を狙う。
奇襲、誘拐、脅迫、大いに結構。理想を垂れる気など、全てを失った今のウィーグラフにはない。
≪■■■■■≫
≪敵が現れるまで、大人しくしていろ≫
会話できないのが残念だった。バーサーカーの真名は外見の特徴から推測できた。
よく似た肖像画が残っていたのだ。もし考えている通りなら、自分のもとに召喚されたのも頷ける。
貧農に生まれた男。一時は乞食同然になりながら、政治混乱に乗じて皇帝にまで上り詰めた男。
300年近く続く大国の基礎を築いた大英雄。その振る舞いからは農民に対しての慈悲と、上流階級への不信感がありありと読み取れた。
その経歴には自分に通じる点が多々あり、辿る道が違えば、自分も彼のようになれたのではないかと思う。
戦略の問題もあるが、もし正気を保っていたなら、お互いの事をじっくり語り合ってみたかった。
【クラス】バーサーカー
【真名】朱元璋
【出典】14世紀、中国
【性別】男
【ステータス】筋力C 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運A 宝具B
【属性】
混沌・狂
【クラススキル】
狂化:B
全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
馬皇后や朱標など家族が接触を図ってきた場合は幸運判定を行う。成功すれば暴走停止。
【保有スキル】
皇帝特権:A
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
ランクA以上ならば、肉体面での負荷(神性など)すら獲得できる。
軍略:B
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
黄金律:A
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
大富豪でもやっていける金ピカぶり。一生金には困らない。
貧者の見識:C
相手の性格・属性を見抜く眼力。言葉による弁明、欺瞞に騙され難い。
農民に生まれ、紅巾軍に加わるまでの間を乞食同然で過ごした事で得たスキル。
【宝具】
『凌遅・六文字獄(我を謗る者、天に仇なすに同じ)』
ランク:B+ 種別:対国宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
生前に行った大弾圧・大粛清を再現する宝具。
レンジ内に「知識人」、「商人」、「政治家」、「軍人」を発見した場合、30もの不可視の刃で全身の肉を削ぎ落とす。
上記条件に該当しなくても、光、禿、僧、生、則、道の文字を書いたり話したりしていた場合、同様の攻撃を加えることが出来る。
両方の条件に該当した場合、ヒット数とダメージ値が2倍になる。
この攻撃は物理的なものだが、皇帝としての権力に由来するものの為、Bランク宝具以下の防具は素通りする。
宝具以外でこの攻撃を凌ぐ方法は、対粛清ACか耐久値のみ。
ただし、Aランク以上のカリスマか皇帝特権の持ち主、政敵たりえない貧者や農民は無条件でこの宝具の攻撃対象から外れる。
六文字を使っていても攻撃する事は出来ない。
さらに現在は狂化の影響でターゲットの探知能力が失われている為、バーサーカーの視界から外れればレンジ内であっても、攻撃を一時的に中断させ、やり過ごす事が出来る。
【weapon】
無銘:柳葉刀
【人物背景】
明の建国者。
貧農に生まれた彼は家族を喪うと托鉢僧となり、紅巾の乱を起こした白蓮教徒の軍に加わるまでの間は乞食同然の生活を続けたという。
上司に当たる郭士興の死後、勢力を急速に拡大。北伐によって元を撃退し、やがて中国全土を統一。
明を建国すると初代皇帝に側位、権力を皇帝に集中させる独裁体制を敷く。
内治においては重農政策を打ち出し、治水事業や農地回復を全国的に行う傍ら、大商人や大地主の財産を没収、彼らを開拓地送りなどにした。
托鉢僧だった過去にコンプレックスを持っており、即位後はそこに家臣が国を奪うのではないかという疑念が加わり、コンプレックスは肥大化。
猜疑心や劣等感に憑りつかれた彼は、知識人や官吏への大弾圧を行うようになる。
死ぬ間際まで家臣を殺し続けたが、家族には強い愛情を持っていたとされる。
しかし彼の死後、有能な将軍のいなくなった朝廷軍は大した実力を発揮できず、死後に起きた政変において、孫の建文帝の敗北を招くこととなった。
【聖杯にかける願い】
?
【マスター名】ウィーグラフ・フォルズ
【出典】FFT
【性別】男
【Weapon】
なし。
【能力・技能】
「ホワイトナイト」
清らかな鎧に身を包む聖騎士。汚れなき精神が編みだした『聖剣技』で邪なるものを退ける。
基本的な体術に加え、神の加護を宿した奥義によってサーヴァントにすら傷をつける可能性を持つ。
【人物背景】
五十年戦争末期、平民の義勇軍「骸騎士団」を結成、正規の騎士団に匹敵する活躍をしたが、母国の敗戦により一切の恩賞なく解散させられる。
王家や貴族に切り捨てられた彼らは骸旅団として、貴族の圧政からの解放を大義名分にテロ活動を行うようになった。
ウィーグラフ自身は革命を目指して戦っているが、団員の中には略奪や誘拐を繰り返す者もいる。
組織が壊滅した後、彼の中から高潔さは消え、理想の為なら汚い事に手を染めるのも厭わなくなった。
Chapter1終了後から参戦。
【聖杯にかける願い】
イヴァリース貴族社会の打倒。
投下終了です。
いきなりで申し訳ありませんが、宝具欄に矛盾が見られましたので、WIKIにおいて修正を加えます。
都合が悪ければご指摘ください。
探知能力が失われている
↓
探知能力が制限されている
投下します
私の名前は吉良吉影、年齢は33歳。
自宅は杜王町北東部の別荘地帯にあり結婚はしていない。
仕事はカメユーチェーン店の会社員で遅くとも夜8時までには帰宅する。
タバコは吸わない、酒はたしなむ程度。
夜11時には床につき、必ず8時間は睡眠をとるようにしている。
寝る前に温かいミルクを飲み、20分ほどのストレッチで体をほぐしてから床につくとほとんど朝まで熟睡する。
赤ん坊のように疲労やストレスを残さずに朝目を覚ませ、健康診断でも異常なしと言われた。
そんな風に『心の平穏』を願い、『植物の心のような生活』を目標とするこの私が―――
「どうして殺し合いなどに巻き込まれなければならないッ!」
吉良は現状に怒りを覚えずにはいられなかった。
どんな願いも叶える聖杯、それを奪い合う聖杯戦争。
その為に呼ばれるサーヴァントと呼ばれる過去の英霊。
全部が吉良には必要の無い物だ。
どんな願いが叶うという謳い文句は確かに魅力的かもしれないが、その為に『闘争』に巻き込まれるのはごめんだ。
そんな目に合うくらいなら願望器など他の誰かにくれてやる。
そして何が英霊だ。過去に名を遺した人間と会えるのは、歴史マニアからすれば涎を垂らすほどの喜びかもしれないが私にそんな趣味は無い。
「マスターも大変ね、同情するわ」
そんな吉良の様子を見ながら、同じ場に居た金髪碧眼の女性が呟く。
この女が吉良の元に現れたサーヴァント、クラスはアサシンだ。
そのアサシンを吉良は睨む。
「……何よ? 言っておくけど私に当たらないでよ。私が貴方を連れてきたわけじゃないし」
「分かっているさそれくらい」
それだけ言って吉良はアサシンから目をそらす。
本当は色々言いたいことがあったが、吉良は堪えた。
ここでアサシンに当たり散らしてもしょうがない事は自明の理であることは明確、ならば聖杯戦争に向けた話し合いをする方が余程建設的だ。
腹立たしくはあったが。
「それでアサシン。まず聞きたいんだが、君は誰だ?」
「真名という意味ならキングズベリー・ランの屠殺者よ。ご存じかしら?」
「キングズベリー・ランの屠殺者ね……」
その名前を吉良は知っていた。
とは言っても詳しい事は知らない、精々アメリカに昔居た連続殺人鬼だという事くらいしか知らない。
だが吉良はそれとは別の部分に疑問を抱いた。
「それは通称のようなものであって君の本名ではないだろう」
「そう言われても名乗れる名前はこれしかないわよ」
「……からかっているのか?」
「違うわよ」
そう言ったアサシンはさっきまで無表情を貫いていた物の、次の瞬間心底忌々しそうな顔をする。
その顔を見た吉良は、この女はこんな表情もするのかと驚いた。
「私には記憶がないの」
「記憶がない?」
「そう。私には自分が『キングズベリー・ランの屠殺者』だったという事しか記憶がないの。
私が何処の誰だったかとか、どんな生まれでどんな風に育ったとか、そもそも何を思って連続殺人なんてしたのかさえね」
「……」
吉良はアサシンの独白を黙って聞いている。
「そしてその記憶を取り戻すのが私の願い。聖杯戦争に乗り気じゃないマスターには悪いけどこれだけは捨てられない」
「しかし、こう言うのはなんだが取り戻したいのか? 楽しい思い出など一つもないかもしれないぞ」
淡々と、しかし強く言い切ったアサシンに対して吉良は疑問を投げかける。
アサシンが生きていた1930年代は世界恐慌が収まらず、クリーブランド・フラッツというスラムが発生するほどの情勢だった。
もしもアサシンがそのスラムの住人だとするならば、はっきり言っていい思い出があるとはとても思えない。
だがアサシンはそんな吉良の疑問を一蹴する。
「じゃああなたは耐えられるの?
例え自分の生涯が誰も目にもとまらない平凡なものだったとしても、誰もが目を背けたくなるような地獄だとしても、それすら分からない現状が貴方にとっては平気なことなの!?」
「…………」
その問いに吉良吉影は答える事が出来ない。
例え過去の全てを失ったとしても、それを取り戻すために嫌いな『闘争』に自分が飛び込む姿がイメージ出来ないから。
そんな吉良を見てアサシンは一言。
「返事しないのは、自分がそんな状況に陥る事が想像できないからって事にしておくわ」
「……そうしてくれ、アサシン」
◆
「話が逸れたわね」
「そうだな。ではアサシン、君の戦闘能力を聞かせてもらおうか」
「はっきり言って弱いわ」
アサシンの迷いない即答に思わず唖然とする吉良。だがアサシンはそんな主の事を気にせず話を続ける。
「私に出来るのは気配を消して不意打ちでマスター殺すことくらいよ」
「……そうか、ならマスター狙いを主軸に考えるとしよう」
「え?」
吉良の迷いない即答に思わず疑問の声が出るアサシン。それを聞いた吉良が何事かと問いかける。
「どうかしたか?」
「私が言うのもアレだけど、人殺しとかためらわないの? いや別にいいけど」
「質問に質問で返すな。
……今の場合はやむを得ないだろう。刑法でも緊急避難が適用されるはずだ」
「法律が許すなら人殺しOKなのねマスターって。……楽でいいわ」
「私としては何事もなく元の世界に帰れるのならそれで構わないからね」
「……マスターって何者なの?」
それはアサシンの心からの疑問。
連続殺人鬼に嫌悪感も見せることもなければ殺人を否定しない目の前の人間が、どういう人生を過ごして来たかをアサシンは気にせずにはいられなかった。
「私は何処にでもいる一般的な会社員さ」
「マスターみたいな人間がどこにでも居るとか日本って凄いのね」
「どういう意味かな?」
「そのままよ、正直私と同じ殺人鬼とか言われた方が納得するわよ今までのマスターを見てると」
その言葉に一瞬だけ動揺する吉良。
勿論そんな動揺はおくびにも出さずアサシンに返事するが、吉良の中でアサシンに対する警戒度が少し上がる。
「仮に私が殺人鬼だったとしても、それを自己紹介する道理はないな」
「まあ確かに、そんな自己紹介する奴とか足手まといにしかならなさそうね」
吉良の言い分に思わず納得するアサシン。
それと同時に思いっきり自己紹介した自分に疑問を思うが、それはそれよねとアサシンは棚上げした。
「ねえマスター」
「何だ?」
「―――勝ちましょうね」
それはアサシンの心からの言葉。
友情も愛情も忠誠心もない己の主に対してだが、悪名轟く自分を拒絶しないマスターにアサシンは少しだけ好感を覚えていた。
「当然だ、私はこんな所で死ぬわけにはいかない。必ず『幸福』に生きてみせるッ!」
そして吉良はそれに気付かないし、気付いたとしても気にも留めない。
【クラス】
アサシン
【真名】
キングズベリー・ランの屠殺者
【出展】
史実、20世紀アメリカ
【性別】
女
【属性】
混沌・悪
【パラメーター】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力D 幸運A 宝具E
【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消す能力。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
精神汚染:A
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
人体切断:A
生きている相手の肉体を切断する技術。
Aランクとなると、肉屋か外科医のように鮮やかな切れ味。
情報抹消;B
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、能力、真名、外見特徴などの情報が消失する。
例え戦闘が白昼堂々でも効果は変わらない。これに対抗するには、現場に残った証拠から論理と分析により正体を導きださねばならない。
【宝具】
『キングズベリー・ランの屠殺者』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
アサシンそのものが宝具。
アサシンの正体は誰も知らないが、アサシンだと疑われた人物は数多いる。
その為か、アサシンは呼び出したマスターがイメージする『キングズベリー・ランの屠殺者』の姿で召喚される。
ただし、マスターがキングズベリー・ランの屠殺者に関する知識がない、もしくは知っているだけで人物像をイメージしていない場合、姿は完全ランダムとなる。
今回は完全ランダムで現れた。
【weapon】
ナイフ
【人物背景】
1930年代に犯行を重ねた正体不明の連続殺人鬼。
公式では12人と言われているが実際の被害者の数は不明。
アル・カポネの摘発で有名なエリオット・ネスが捜査に当たったが、犯人を捕まえる事は出来なかった。
アサシンの正体は誰も知らない。アサシン自身でさえも。
アサシンは自身の正体に関する記憶を消失しており、覚えていることは自身がキングズベリー・ランの屠殺者、またはクリーブランド胴体殺人者と呼ばれる存在だったという事のみ。
【特徴】
基本的に無表情な金髪碧眼の白人女性。
それ以外に目立った特徴は無い。
最も、エリオット・ネスから逃げおおせた殺人鬼に目立つ特徴があるというのも不自然な話ではあるが。
【サーヴァントとしての願い】
自分が正体を取り戻す
【マスター】
吉良吉影
【出展】
ジョジョの奇妙な冒険
【能力・技能】
スタンド『キラークイーン』
「第一の爆弾」
手で触れた物を「爆弾」にする能力を持つ。
爆弾は
・爆弾自身が爆発する
・爆弾に変えた物体に、触った者を爆発させる。
・キラークイーン右手のスイッチを押すことによってのみ爆発する。
・他の物体に接触すると即座に爆発する。
と言った性質を使い分ける事が出来る。
ただし対象を爆弾に変える時にしか決められず、一度爆弾に変えたら後から性質を変える事は出来ない。
また、一度何かを爆弾に変えると、それが爆発し終わるまでは新たに爆弾を作る事は出来ない
「第二の爆弾 シアーハートアタック」
キラークイーンの左手に装着されている、戦車のようなスタンド。
「熱」に反応して対象を自動的に追尾し、爆発攻撃する。
凄まじく頑丈に出来ている。
【人物背景】
M県S市杜王町在住、33歳のサラリーマン。
周囲からの評判は悪くないが、どことなく影の薄い男。
その実態は女性の手に欲情し、手の美しい女性ばかりを殺している殺人鬼。
平穏で幸せな「植物の心のような生活」を目標とし、目立たないように生きる事を心がけている。
【マスターとしての願い】
生きて杜王町に帰る。
【備考】
参戦時期は本編登場前です。
投下終了です
投下します。
「問おう――――」
現代における『聖杯戦争譚』という名の騎士物語は、騎士が己の仕えるべき主を見定める所から始まる。
これがサーヴァントとマスターの契約が結ばれる、彼らの聖杯戦争の狼煙である。
英霊の座から呼び出されたサーヴァントは、魔術式から現界して、マスターの姿を初めて前にする。
このサーヴァントも長い眠りから覚めたように目を開けると、――初めに、この問いかけを突き付けた。
「――――貴方が私のマスターか」
顎髭を蓄え、毅然とした表情が、鋼鉄の鎧の中から微かに覗いた。
その眼差しは、『遠坂凛』を見つめていた。
凛も、その視線に返すように、即座にその男の外観を捉えた。
年齢は中年ほどであるように見える――彼のもっともサーヴァントたる姿がこの頃であるらしい。
戦士として脂の乗った頃合いが、この少々老け込んだ時代だったのだろうか。
そのサーヴァントの面持ちに、遠坂凛は、かつて自身がイメージしていた中世騎士の姿を思い出した。
――時刻は確かに、二時だった。
これは、意図して聖杯戦争に参戦したかつてと違って全くの偶然によるものだが、凛の魔力が最も高まるのはこの時刻なので、丁度良い頃合いだ。
作為的に自分の魔力が高まる時間を狙った時よりも、全くの偶然の時の方がコンディションが良いというのも奇妙な話だが、結果オーライという所だろう。
「……ええ。私は遠坂凛――貴方を呼んだのは私よ」
その為、今度こそ、『セイバー』を引いていてもおかしくはない筈――かに思われたが、サーヴァントはその手に長い槍を構えていた。
そこから察するに、彼は『セイバー』ではなく、『ランサー』のクラスであろうか。
念の為に、しっかりと彼に訊いて再確認もしておく。
「そう言うあなたは、ランサー――でいいのかしら……?」
そう凛が問うと――彼は、深く頷いた。
「――うむ、その通り。
我がクラスはランサーである。
その証は、この長く鋭い名槍で充分であろう」
ああ、やはり、その英霊に与えられたクラスは、槍使いの『ランサー』であるらしい。
と、なると――どうやら三大騎士クラスのうちの一つを手元に預かる形になったようだ。
本来ならセイバー、次点でアーチャーが好ましい所だったが、比較的使いやすいサーヴァントを引いたのでこれ以上の贅沢も言えまい。
……だいたい、こんな事前準備もろくにない予定外の聖杯戦争なのだ。
触媒らしきものもまったく準備していない現状、どんな貧乏くじを引いてもおかしくない状態である。
比較的マシな物が引けただけありがたく思っておこう。
いずれにせよ、今回は本格的に聖杯を得ようと言う心意気はない。
「で、私の方は何を以て、貴方のマスターだと証明すれば良いのかしら」
過去の聖杯戦争の反省から、凛は自身がマスターたる証拠と矜持をしっかり提示しようとした。
どこかの誰かは、始めに凛のマスターとしての価値を問うた覚えがある。
令呪という形式上の主従関係だけでは納得してくれないのが、この偏屈なサーヴァント連中だ。
だから、こいつも同じじゃないだろうな、と呆れ半分に凛は訊いてみたのだ。
……が。
「……いや結構。
右手の令呪に、ドゥルシネーアの次に美しいその美貌、仕えるべき相手としての条件は充分に整っている!」
何やらその「どこかの誰か」とは違い、凛がマスターだとあっさり納得してくれるらしい。
尤も、なんだかその理由が珍妙で、褒められているのにあまり嬉しくないように感じるところでもある。
ドゥルシネーアという名前をどこかで聞いた事があるような、ないような……このサーヴァントの正体を知る手がかりであるのは間違いなさそうだ。
「あー、そう……。えっと……」
……さて、自らが召喚したサーヴァントの正体は、何なのだろう。
いきなりだが、凛にはこれが気になった。
つまるところ、このサーヴァントの真名は何で、如何なる逸話を持っているのかという点だ。
ランサーの口調は毅然としているものの、何だか、よく見ていると異様な胡散臭さが醸し出されている。
顔だけは少々厳ついが、反面で鎧に包まれている体は華奢でどこか頼りない。
これまた過去に見た事があるランサーのように、長い槍を軽々扱うような柔軟性もこの外観からは感じられなかった。
本当にこの体に、サーヴァントらしい剛腕が詰め込まれているのだろうか?
しかし、現実にサーヴァントとして彼はここにいるのだ。
何というか、本当の強者というよりも、どこか強者としての威厳を取り繕っている、別の人間であるかのような……。
……いやいや、それは気のせいだと思いたい。
凛がそれを悟れないだけで、彼は真の強者なのだと。
しかし、見れば見るほどに、以前の聖杯戦争で会ったサーヴァントたちとは――何かが違う。
(気のせいかしら……なんだか、この態度以外は英霊然としていないっていうか……なんか、変人?)
まあ、技量はまだ不明瞭であると言わざるを得ないが、やはりなんだか疑わしい。
始めはアーサー王的な何かが呼ばれたのだろうと思ったものの、以前の聖杯戦争で見かけた英霊特有の超然とした感じがあまり見られなかった。
勿論、今回は意図して召喚した訳ではないので、真名周りが全く絞れず、マスターとしても少々困惑しているところである。
再び聖杯戦争に参じる事になってしまった自分の、背中を預けなければならない相棒が、やはりそれなりの誉れ高き強者である事を疑いたくはない。
しかし、どうしても気になる。
たとえば――
「…………ねえ、まず一つ訊いていい?
ランサー……。なんか、その鎧、ボロくない……?」
――こうして改めて見ると、鎧と言い、槍と言い、あまり光沢がなかった。
というか、ところどころ錆びていて、かつてセイバーが纏っていた鎧のような、重たいオーラはまるで感じないのである。
言ってみれば、なんだか全てが安っぽい。
有名企業の作った街で見かける炭酸飲料パッケージと、田舎の自動販売機で見かける炭酸飲料パッケージとがまるで違うように、それは誰が目にしても一瞬でランクの違いを感じさせる本質的なセンスの差があった。
だが、それも飲むまではまだ味の差はわからない。
凛はまだ、もう少し信じた。
これだけの魔力を持つマスターが呼んだのだから、もっとサーヴァントとして使いようのある英霊が来てくれてもおかしくはないはずだ。
――すると、ランサーは答えた。
「フッ……良い所に目を付けたな、マスターよ!」
「……はい?」
「この鎧も私が歴戦の勇者たる証である!
多くの敵と戦い、多くの不正を正してきたのだ。
ゆえに、こうして鎧は傷み、槍は錆びていったのである。
しかし、それでも折れぬ魂――これが我が最大の誇りにして武具なり!!!!!」
「いや、魂だけで戦われても困るんですけど……」
「――はっはっはっ! そう心配するな、我がマスターよ!
我は騎士! 怪物を屠り、人を助け、正義を貫いてきた英雄よ!
そう――これが噂の、これが噂の……理想を目指す、さすらいの挑戦者!」
「――」
「何を隠そう、この清き魂で戦ってきた信頼と実績の持ち主――」
と、ランサーが前口上を置き始めると、どこからかドラムロールのような音が鳴り始めた。
もしかすると、これは凛の頭の中だけで聞こえているのかもしれない。
ジャカジャカジャカジャカ……と音がし始めたような空気。
何か少し溜めた後で、ランサーは決めポーズを取りながら、したり顔で名乗った。
「――そう、ラ・マンチャのドン……! ――――キホーーーーーーーーテとは私の事である!!!!!」
…………それを訊いて、少しだけ、凛が唖然として時間が止まった。
ドン……キホーーーーーーーーテ。
ドン・キホーーーーーーーーテ。
ドン・キホーテ。
そうだ、この名前ならば聞いた事がある。
「ドン・キホーテェェェェェェェェェェェェ!?」
ドン・キホーテ。
それは、どこかの国の創作上に出てくる、「騎士道物語に憧れて騎士のふりをするおっさん」の事である。凛も、なんとなくあらすじくらいは知っている。
最近は、どちらかというとその創作よりか、なんでも揃うお店のイメージが強いが、凛の知ったところでは「お店」は英霊になれない筈だ。
しかし、彼も創作上の人物だ。英霊たる資格があるのか否か、凛からしてもグレーゾーンである。
「小説の人物じゃないの!? 英霊ってそんなのアリ!?
……っていうか、百歩譲って実在してたとしても、自分をヒーローだと思い込んでいたただの妄想癖のおじさんじゃない!!」
「はっはっはっ! マスター、大事な事を忘れてはならないのである。
私は、『英霊の座』から来た英霊。つまり、私は英雄として認められた一人の騎士である。
まあ、英雄と呼ばれるほど大それた事をした覚えはないが――いやはや、はっはっはっ!」
「いやはやはっはっはっじゃないわよ!
アンタ多分、本当に大した事してないわよっ!?」
「うむ! 確かにその通りである。
今日までの私は大した活躍などしていないかもしれない。
――だが、我が伝説は常に未来に綴られる物なり!
私にとって、過去の伝説などは、小さな物語。
真の英雄とは、これから未来の伝説を作っていくものなのである!! はっはっはっはっはっ!!」
びっくりするほど話が通じない。
底抜けにポジティブで、凛の言葉が一切入って来ないかのような物言いである。
本人は大満足で、高笑いをしている。困惑している凛の表情が視えないのだろうか。
「撤回撤回撤回! やり直しやり直しやり直し!
認めないわ! こんな聖杯戦争――」
堪え切れずに、凛が叫んだ「認められない」という言葉は――
「はーーーーーっはっはっはっはっはっはっ!!!!!
この私が応じたからには、いかなるマスターももう安心だ!!!!!
はっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!」
――全て、ランサーの笑い声にかき消されていった。
ある意味、誰にも負けない(というか負けたと本人が思わない)ような最強の騎士であり――、詠唱の狂化の一説を加えればよかったと思えるくらい最狂のヒトであり――、まともなマスターにとって最凶なサーヴァント。
それが、このランサー――ドン・キホーテなのである。
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【CLASS】
ランサー
【真名】
アロンソ・キハーノ(ドン・キホーテ)@『ドン・キホーテ』
【ステータス】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運EX 宝具EX
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:E
魔術の無効化は出来ない。
ダメージ数値を多少削減する。
【保有スキル】
騎乗:D
乗り物を乗りこなす能力。
一般人でも乗りこなせるような動物や乗り物に限り騎乗できる。
精神汚染:D
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
ドン・キホーテの場合は、意思疎通が出来なくなる場面は限られており、「騎士」としてのスイッチが入ってしまった時のみである。
その時、極度の妄想に取りつかれて、自分を物語の主人公であるかのように思い込み、実力不相応な戦いを挑もうとしてしまう。
また、他の精神汚染と異なり、残虐行為に対してはむしろ強い抵抗心や怒りを燃やす、「騎士」への憧れによる精神汚染。
栄光の騎士:A+
騎士道を歩む挑戦者の強固な意志。
あらゆる猛攻を受け、あらゆる理不尽に出会い、あらゆる精神攻撃を受けても決して折れない心を持つ。
人の話を聞かない、現状を理解しない、重度の妄想癖とも呼ぶ。
また、このスキルのお陰で耐久値の限界を超える攻撃を受けても幸運値の判定がかかって、何故か高い確率での生存が可能となる。
【宝具】
『騎士の道を疾駆せよ、誉れ高き我が愛馬!(ロシナンテ)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1〜2人
ただのくだびれたロバ。
ランサーはこのロバを召喚する事で、長距離を歩いていても疲れにくくなる。
旅の相棒の一つであり、共に長き日々を歩み続けた相棒。
もう一つの宝具の上では、その能力もただのロバではなく、真の名馬へと変わる。
『理想の中の騎士伝説(ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ)』
ランク:EX 種別:結界宝具 レンジ:1〜100 最大捕捉:∞
ランサーの固有結界。厳密には、彼の発動した結界が内包した『現実世界』を、ランサーの『妄想世界』へと改変する宝具。
この宝具が発動されている間は、周囲の景色と形のみが全て、ランサーの目に視えている世界へと変わっていく。
つまり、「ランサーの視界・脳内風景を共有する」形になり、空間に招かれた全ての存在は中世の騎士道物語を再現した空間に困惑を隠しきれなくなる。
また、この結界が発動されている内では、ランサーの能力もまた、ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャという妄想の中の騎士と同レベルになり、サーヴァントと拮抗しうるレベルにまでパラメーターを上昇させる事が可能。
ただし、ランサー及びその宝具・スキル・装備のみが現実と大きく異なるレベルに上昇するのに対し、敵のサーヴァントや周囲の物体は「形」だけを変えて「実力」「思考」などは一切変更されない。
この宝具による効果で敵のサーヴァントを一方的に屠れるレベルにまで自身の能力を上昇させる事も物理的には可能であるが、ランサーの美学の上でそれが行われない。
【weapon】
『騎士の道を疾駆せよ、誉れ高き我が愛馬!(ロシナンテ)』
『無銘・ボロい槍』
単なる古い槍。名槍と呼ぶにはあまりにも弱い。
また、ランサー自身は別に槍の名手でもない。
風車と戦った逸話が存在する。
『無銘・ボロい鎧』
単なる古い鎧。ろくに使えない。
【人物背景】
1605年、スペインの作家ミゲル・デ・セルバンテスが記した小説『ドン・キホーテ』の主人公――あるいは、彼のモデル、あるいは、彼の作者、あるいは、彼と似通った妄想に駆り立てられている人間。
小説内のドン・キホーテは、田舎の村に住んでいる郷土であるが、騎士道物語を読み過ぎた結果、現実と物語の区別がつかなくなり、騎士になりきって老馬ロシナンテと共に世の中の不正を正す旅に出る。
近所の農夫サンチョ・パンサを従士、百姓娘のドゥルシア・デル・トボーソを貴婦人、風車を悪い巨人などと思い込むような重度の妄想癖。
この妄想が暴走して周囲を大きく巻き込んでいくという意味では、ある意味カリスマ性の高い人物かもしれない。
普段は思慮深く、騎士(?)としても情に厚い性格でもあるので、意外と周囲に認められている。心だけは一応英雄で、悪い奴ではないが、狂人には違いない。
バーサーカー等の適正もあったが、今回はランサーで呼ばれた。
【特徴】
顔だけはワイルドで、顎髭がイカすそれなりにカッコいいおじさん。
しかし、その実、体は華奢で、鎧の下は凡人ばりの細い体をしている(固有結界内のみ少し筋肉質になる)。
憂い顔がよく似合うが、呼び出された彼は普段は陽気である。
【サーヴァントとしての願い】
騎士道の貫徹。
マスターに従うのみ(彼女の言う事を正しく認識して従ってくれるわけではない)。
【マスター】
遠坂凛@Fate/stay night
【マスターとしての願い】
やるからには勝ち残るつもりだが、最終目的は聖杯を入手する事ではない。
どちらかというと、この聖杯を見定める事が最終目標となる。
【weapon】
『宝石』
魔力を込めた宝石。
魔弾として戦闘に使用する事が出来るが、使う側も少々経済的に痛い。
【能力・技能】
五つの属性全てを兼ね備えた「五大元素使い(アベレージ・ワン)」と呼ばれる超一級の魔術師。
ガンドや宝石魔術を得意としており、八極拳の手ほどきを受けた事から近接戦闘もこなせる。
日常生活でも才色兼備、文武両道といった扱いを受けるが、肝心なところで凡ミスを犯す。
あと機械オンチ。
【人物背景】
魔術師。遠坂家の六代目当主。
容姿端麗、文武両道、才色兼備の優等生を演じているが、実際の性格は「あかいあくま」。
参戦時期は、第五次聖杯戦争の生還後。
今回は本意で聖杯戦争に巻き込まれたという訳ではないらしい。
【方針】
勝ち残り、聖杯を見定める。
ただし、聖杯戦争を行う意思のない相手まで無理に倒していくわけではない。
投下終了です。
投下します
「人は、何時の日か神の手より巣立たねばならない」
彼は、彼女に召喚されたその日、彼女の装いと、呼び出された場所に設置されたものを見て口にした。
教会の中だった。修道士や教会に従事している人間の掃除が行き届いているのか、壁にも天井には塵一つとして存在しない。
信徒が座る為の席にも、それは勿論の事、清浄としていて、厳かで、神の家を名乗るに相応しい其処に現れるなり、男はそう言った。
彼は、教父が説教を行う為の教壇の上に不遜にも降り立ちながら、自分の事を見上げて来る女性に対してそう言い放ったのだった。
「あ……貴方、は……」
修道服を着用した、金髪の女性が男を仰ぎ見ながらそう言った。
瞳が、驚きに見開かれている。普段は眠たそうに閉じられた瞳には、この上ない驚きが渦巻いているのが良く解る。
普段ならば、机の上に立つなどと言う狼藉は彼女は許しはしない。況してや教壇の上など、言語道断。一時間は余裕で説教が出来る。
……それなのに、如何して。今目の前でそのタブーを犯している男には、強く出れないのか。
――男の背中から生えている、六対十二枚の、純白の光の翼が原因であった。
天窓も、壁の窓も、教会の中に明けき月光を取り入れる、夜の十一時の冬木の教会。その中にあって、男は明らかに輝いていた。
白色の光を放ち続ける翼が原因なのだろうか? それとも、男の白皙の美貌が原因なのだろうか?
男は、その貌自体がほのかに光り輝いていると錯覚するような美男子だった。美しい顔つき、その背から生える十二枚の翼。彼は、天使だった。
とてもステロタイプな天使だったが、それ故に、彼女――『クラリス』に訴えかける力は絶大だ。余りにも死角から通じる衝撃が、強すぎた。
「貴方様は……天使、なのですか……?」
恐る恐る、クラリスは口にした。ニコリ、と男……いや。
アーチャーのクラスで現界した美青年が、静かに微笑みを湛えた。父性の権化の如き、柔かい笑みだった。
「天使である事を、私は既に捨てました」
その言葉に、クラリスは言葉を呑み、教会の床の上にへたり込んだ。そして同時に、男が降りた。
「貴方方の言葉では、『堕天使』……と言う事になるのでしょうか? 己の手で神の寵愛をかなぐり捨てた、不良のようなものと、お思い下さい」
堕天使。敬虔な信者であるクラリスは勿論、そう言った存在がいる事を知っていた。
ある者は神に唾を吐き、ある者は地上で姦淫に耽り、またある者は、己こそが神に取って代われる全能の存在であると言う高慢さから。
天にまします偉大なる父の懲罰を受け、神の寵愛と加護を失い、地の奥底へと叩き落された者。それが、堕天使だ。
よく見ると、目の前の男には確かに、聖性と言う物をクラリスは感じなかった。威風だ。このサーヴァントが生来有する恐るべき覇風が、クラリスを圧倒しているのだ。
ただでさえ聖杯戦争等と言う訳の解らない催しの為に、聞いた事もない冬木と言う街に呼び出されて頭の中が混乱しているのに、自分のパートナーが堕天使と来れば。
普通は酷い嫌悪と絶望を抱く筈なのだが、不思議とクラリスは、目の前の存在に強い嫌悪を抱いていなかった。これが、悪魔の有する力なのかと、思っていてもなお。心の奥底から湧いてくる親近感は、何なのだろうか。
「天より堕ちて数千年、私が堕天使と地上の民に蔑まれ、女の色香に惑わされて神を裏切った愚か者だと思われているのは存じております」
「それについて、貴方は……」
「否定はしません。事実です。ですが、悪魔になった覚えはありません。確かに私は神の寵愛もありませんが、人に悪を成す事は恥ずべき事だと思っております」
「それでは何故、神の手から我々が離れなければならないのだと……?」
信徒に対して信仰を放棄しろと言うのは正しく、悪魔が人に対して行う誘惑である。
クラリスに対してそんな誘惑を投げ掛けると言う事はつまるところ、目の前のアーチャーは、悪性を心の裡に燻らせる悪魔そのものではないのか。
「人が、神の手を必要としない程に、もう強くなってしまったからですよ」
目の前の男は、滔々と語り始めた。
犬や猫、兎に虎、樹木に石や、月や星ですらも、この男の言葉には耳を傾ける事だろう。それ程までに、見事な語り口だった。
「嘗て人は、弱かった。大自然のちょっとした癇癪、野の獣、流行り病、そして、満たされぬ感情から来る同族の殺害。人は弱く、死にやすい生き物でした」
「……」
「私はそんな彼らが哀れに思い、彼らの生活を豊かにし、そして彼らを強くする術を惜しみなく教えました。男は我々の手によって強く精悍になった。女は我々の手で、伴侶を得子供を産む喜びを知らない事がなくなった」
「だが」
「神は人に、自然に翻弄されるがままの弱い姿である事を望み続けた。故に人は、地上の全ての不徳と罪を洗い流した、あの大洪水に一度は呑まれて消え失せた」
「ノアの方舟、ですか……?」
「ノア……彼は私の知る中で最も敬虔な信者でありましたが、私は彼を恨んではおりません。彼もまた、生きたかった一人の人間であるのならば」
ふぅ、と一息吐き、アーチャーのサーヴァントは天窓から差し込む月の光を見上げた。
「神は、全知全能の存在であり、それを疑ってはならない。我々もその事はよく知っております。そして、地に堕ちて解りました。その言葉が嘘である事を」
「それは――」
「違う、と仰られますか?」
いつの間にか、アーチャーがクラリスの前にいた。
修道服に付けられていたブローチにそっと手を当て、微笑みを浮かべて彼は口を開く。
「本当の全知全能であれば、神が何をしなくても、勝手に人は神を崇めたでしょう。ですがそれでも多くの人は神を崇めようとしなかったので、信仰と言う名の独裁で、人を縛ろうとした。全知でもなければ全能でもない、何よりの証左です。クラリス、嘗て敬虔だった神の信徒よ」
「私は、まだ信仰を捨てておりません……!!」
「ほう」
「私は、誰も殺したくありませんし、私の仲間がいらっしゃる教会を立て直す為に――」
「それは、貴女の強さだクラリス。其処に、神の力も奇跡も存在しない。貴女一人の強さだ」
アーチャーの瞳が、強い感情で煌めいたような、そんな気がした。その瞳の輝きと、強い語調に、クラリスは言葉を呑んだ。
「貴女の志は、素晴らしい。人の為に己の聖性を発揮するその姿勢。堕天使となった我が身ですら、惜しみない称賛を与えましょう。ですが、其処には神の力も奇跡もない。貴女だ、クラリス。貴女一人の力だけが其処にあるのです」
白い手袋に包まれたその手が、クラリスの頬に触れた。驚く程柔かい感触の手袋だ。鞣した鹿の皮のような印象を、クラリスは抱く。
「貴女はきっと、それまでの過程を順調に歩む事が出来たのでしょう。ですが、振り返って考えて見なさい。其処に、神の力の後押しがあったでしょうか? 其処に、神の声による導きがあったでしょうか? ……なかった筈です。貴女の後押しになったのは、人の力でしょう。貴方を導いてくれたのもまた、大切な人の声と姿だったでしょう」
クラリスは思い描く。彼女は、己の教会を立て直そうと奮闘する修道女であると同時に、ある大切な人の期待に応えるアイドルとしての姿があった。
彼は、クラリスには人を笑顔にしてくれる強い力があると確信したらしく、戸惑いながらも彼女はその期待に応えられるよう頑張った。
アイドルとしての訓練や仕事は辛く、泣きたくなりそうな時もあったが、一緒の事務所で出来た、違う価値観の仲間と、何よりも自分に可能性を見出してくれた、
今のプロデューサーがいたからこそ、クラリスは頑張って来れた。思い起こせば確かに、彼女が教会を持ち直せたのも、アイドルとして、修道女として成長出来たのも。
人の力があったからだ。其処には、神の導きも声もなく、神の与えた恩賜(ギフト)もない。人の力だけが、其処には何時だって存在した。
「解りますね、クラリス。貴女は強いのです。他人ばかりか己をもまやかす化粧の力を使うまでも、心を奮い立たせる魔術を用いるまでもなく、貴女は既に強いのだ。況や、神の力など貴女には必要がない。人に弱きを強いたまま、不完全な全能性を見せ付ける神の力など。人は、神の手から離れる時が来たのですよ」
「ですが、それでは悪魔が――」
「悪魔もまた、人の欲望を叶える為に生み出された、人の人による人の為の存在。彼らもまた、不要になる時が来た」
其処で、今まで床にへたり込んでいたクラリスを、アーチャーは横抱きの状態で抱き抱えた。
「きゃっ……!?」と言う声を彼女は上げる。傍目から見れば、タキシードを着用した非の打ち所のない紳士が、修道服に身を包んだ高貴な女性を伴侶にし、
結婚の花道を歩んでいるようにしか見えぬ事だろう。「羽のように軽いな、クラリス」と口にしながら、アーチャーは教会の入り口まで歩いて行き、扉を開け、外に出る。
外は既に真っ暗闇、皮膚が切れるような冷たい風を浴びながら、アーチャーが、飛んだ。飛翔を始めた。
「――!!」
余りの行為に、驚いて声も出せぬクラリス。
天使である、飛ぶ事など造作もない。ただの天使であれば安心感もあっただろうが、生憎アーチャーは堕天使であると言う。
このまま地獄か、それともゲヘナにでも攫われるのではないかと震えていたが、結論を言えばそんな事にはならなかった。
冬木教会から三百m以上上空まで飛翔したアーチャーの、「みたまえ」、と言う言葉に気付き、恐る恐る、アーチャーの見ている方向に目線を向ける。
冬木の街の夜景が、其処には在った。
十一時であると言うのに冬木の街はまだ眠ってはいないらしく、新都の夜景が、砕いた宝石の破片を撒いたかのように綺麗だった。
こう言った高所から、クラリスは街の夜景を見た事がなかった。圧巻だった。大自然の力が見せつける、雄大なスペクタクルとはまた違う趣が、其処には感じられる。
「あれは全て、人の手による物。嘗て齧った禁断の果実を齧ったアダムとイヴの子孫が作り上げた世界。あそこには、神の力なんて最早ない。彼らは神や天使の力など借りず、己が手で世界を切り拓き、己の住みやすい世界に変えた。私は、それを喜ばしい事だと思う。既に彼らは、神と言う名の保護者から手を離れ、強く、逞しく生きる術を、自然に学んでいたのだ」
「だが――」
「世界にはまだ、神の存在を信じる者がいる。悪魔の力を頼りにする者がいる。私はとても悲しい。神と悪魔の力を借りずとも人が強くなった事を、まだ信じられない人間がこの世には大勢いる。だから、私は彼らを救って差し上げたいのです。己が都合で人を管理し、時に見捨てる神や悪魔から、人は決別する時が来たのです」
「貴方は……この世界から信仰を消したいのですか……!?」
「その通りです」
愕然とするクラリス。この世界には未だに、神や仏に従う者が大勢おり、彼らの救いを求める者が沢山いると言うのに。
アーチャーは、人が最早神や悪魔から自立した事を理由に、信仰と言う名の道標と、それを寄る辺にする者達を、切り捨てようと言うのである。
「なりません……!! 信仰が必要な方々が、この世界には大勢いらっしゃります!! 彼らの希望を奪う事は、許されないでしょう……!!」
「信仰は、弱者の方便ですか?」
「……えっ」、とクラリスは、言葉を呑んだ。アーチャーの言葉が、理解出来なかったからだ。
「弱いから、心に傷を負ったから、神を信仰する。それについて、神が如何なる心持ちであるのか、クラリス。貴女はご存知なのでしょうか?」
黙り込むクラリス。神の声も聞いた事のない彼女には、天にいる偉大なる父が、どう言う心算で宇宙を運行させているのか。想像だに出来ない。
「クラリス。信仰は、敗者と弱者の為の方便ではないのです。人類は初めから、神を信じる程度では救われないのです。人を救えるのは、初めから人間だけ。心を癒す術に信仰を見出した者達に真に必要なのは、彼らを癒すだけの力を持った、人間と社会なのではないのですか?」
言葉が、出てこない。
何かを言い返したいのに、言葉になって出て来るのは、あ、とか、う、とか言う纏まりのない単音だけ。
白痴のようになった彼女に、微笑みを浮かべて、アーチャーは口を開く。
「愛した人間を殺す事は私とて本意ではありません。貴女が元の世界に帰還出来るよう、全力を尽くしましょう。そして、貴女が成長出来るよう、私は全力を尽くして導いて差し上げましょう」
「それが――」
「クラリス、貴女が呼び出したサーヴァント、『アザゼル』の使命であるならば」
強い夜の風が、ヒュウと彼らを包み込んだ。
人の繁栄の象徴である、冬木と言う都会の夜景を満足げに眺めるアザゼルを、クラリスは、怯えたような表情で見つめているのであった。
【元ネタ】旧約聖書、各種関連書籍
【CLASS】アーチャー
【真名】アザゼル
【性別】男性
【属性】混沌・善(元々の属性は秩序・善)
【身長・体重】183cm、73kg
【ステータス】筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:D 宝具:EX
【クラス別スキル】
対魔力:C(A+)
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
生前は神の加護もあり、恐るべき対魔力の高さを誇っていたが、現在はこれを失っている。現在の対魔力の値は、神の加護の分を差し引いたアザゼル自身が有する値である。
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要
【固有スキル】
神性:-
嘗ては非常に強壮な座天使(ソロネ、或いはスローンズ)であり、非常に高い神性スキルを誇っていたが、神の使命を放棄したばかりか、
神が授けるのを禁忌としていた知恵を人に授け、堕天した為消失している。
カリスマ:A+
大軍団を指揮・統率する才能。ここまでくると人望ではなく魔力、呪いの類である。
燦然と輝く十二枚の白光の翼を背負っており、これは強大な天使であった事の証である。天使にとっての翼や後光とは、即ち視覚化された絶大な指揮権の象徴である。
嘗てアーチャーが堕天した際、多くの名のある天使達が彼に付き従った。
道具作成:EX
本来はキャスタークラスのクラススキルであるが、アーチャーもこのスキルを特例で所持するに至っている。
アーチャーの場合は、武器と防具のみしか作れないが、この二つに限って言えば『宝具』ですら、己の天使の翼から舞い散る羽から創造する事が出来る。
嘗て人間に、武器の作り方を教えた大天使として有する、投影魔術の最高位に相当するスキルである。
神域の叡智:A+
神の尊厳と正義を司る座天使、その中でも有数の強さを誇っていたアーチャーの深遠なる知識。
魔境の叡智と実質上殆ど同じスキルであり、英雄が独自に所有するものを除いた大抵のスキルを、B〜Aランクの習熟度で発揮可能。
アーチャーが真に教えるに足ると認めた者に、アーチャーはこのスキルを用いてスキルの伝授を行う事が可能。
【宝具】
『天より俯瞰せし人の業(アンリミテッド・アイズ・エグリゴリ)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜 最大補足:1〜
地上に生きる人間の監視の為に結成された、グリゴリと言う、天使達で構成された監視者集団の長としての権能が宝具となったもの。
その本質は即ち遠隔視である。この宝具を発動し、アーチャーがこの人物を監視すると臨んだ時、アーチャーは常にその人物が何をしているのかを監視する事が可能。
発動するにはその人物を一度でもその視界に収めねばならないと言う制約があるが、これをクリアすると、例え相手が異世界に逃れようが、
宇宙の果てまで逃げ去ろうが、アーチャーは常にその人物の姿や声を捕捉し続ける事が出来る。この宝具に捉えられたが最後、どんな幻術もダミーも無効になり、
常にその人物のみを追い続ける為、逃走は絶対に不可能で、アーチャー自身がこの宝具を解除する他ない。
そして何よりも、この宝具によって監視出来る人数には制限がない。生前は、監視したい人物を一度見るまでもなく、任意の人物を自由に監視出来たが、サーヴァント化した事により性能が劣化している。
『人よ、強く逞しく生きよ(アンリミテッド・リビング・ワークス)』
ランク:EX 種別:??? レンジ:- 最大補足:-
アーチャーが嘗て人間に教えたとされる、生きる為の知恵。その中でも特に有名な、武器の作り方と、化粧の仕方、と言う二つの知恵が宝具となったもの。
アーチャーが教えた化粧とは女性を綺麗にし、また時には醜くし、女性の未婚を防ぎ女性に自信を付けさせる為のもの。
であると同時に、化粧を用いた魔術をも伝えており、アーチャーは己にボディペイントの要領で化粧を行う事で、ステータスをワンランクアップさせたり、
耐毒や頑健、極一時的にだが魔性や神性、竜種特性を付加させたりも出来るだけでなく、『大地に化粧』を行う事で、大規模かつ凄まじい精緻さの方陣を作成可能。
だがこの宝具の真価はもう一つ、武器や防具の作成にある。アーチャーは己の背負った十二枚の翼の光を用いる事で、武具・防具を投影する事が可能。
剣や槍、弓矢に己、鎌や大砲、銃器等の武器や、鎧や盾、兜等を自在に作成するばかりか、『人類に初めて武器を齎した者』と言う逸話から、
宝具すらも完全に再現する事が出来る。例え一度見た事のある宝具でなくとも、神域の叡智スキルにより、A+ランク以下の宝具であれば、召喚された時点で再現可能。
この宝具で再現が困難な武器があるとすれば、星が鍛え上げた神造兵装位のものだが、あくまでも『困難』なだけであり、それですらもアーチャーに見せすぎた場合、
再現される可能性がゼロではない。また、作り上げた宝具は、常時効果が発動している物でなくとも、真名解放が可能である。但し、その本来の担い手の技術までは再現出来ない。
【Weapon】
十二枚の翼:
アーチャーが背負っている六対十二枚の光の翼。これから舞い散った羽で、武器や防具を作成する。
またこの翼自体にも、高熱を纏わせて、レーザーを照射させたり、超高温を宿した羽を設置させて相手を追い詰めると言う芸当も可能。
【解説】
アザゼルとは旧約聖書に語られる堕天使、或いは砂漠に住まう悪魔である。
その名は『神の如き強者』を意味する所からも解る通り、嘗ては非常に強壮な力を誇る座天使(ソロネ。天使の九階級の序列三位)であったとされ、
その強さを見込まれ、地上に生きている人間達を監視する、グリゴリと呼ばれる天使達の統率者に抜擢された。
しかし、天上より人々を監視する内に、美しい娘達に心惹かれていき、地上へ降りてその娘達を娶ってしまった。つまりは駆け落ちである。
これは堕天使全体から見ても珍しい事で、多くの堕天使が神に反乱を引き起こしたが故の『懲罰』であるのに対し、グリゴリの一派は自らの意思で堕天したのである。
更にアザゼルは人々に武器の作り方や化粧の技術などを教え、これにより人々の生活が大きく乱れる事になってしまう。
この際に他にも同じく地上に降り立った天使の中には、シェムハザやサタナエル等がおり、いずれもアザゼルと共に堕天使へ身を落とすこととなった。
無論の事、神はアザゼルの行為に激怒しただけでなく、彼らから技術を教えられた事によって乱れてしまった風俗の人間達にも大激怒。
アザゼルはラファエルによって荒野の穴に投げ込まれ、一筋の光も射さない暗闇の中に永遠に幽閉される事となった。
そしてこの後、ノアの方舟に表されるような、世界全体を呑み込むような大洪水が起こる。つまりアザゼル達は、一度人類の多くを全滅させた原因ともなった、とんでもない堕天使達なのである。
しかし、彼らは人間が思う以上にずっと禁欲的な生き物である。実際にはアザゼル達は人間の女の色香に惑わされたと言う理由で天から降りたのではない。
彼らが天使だった頃の地上は神代そのものであり、其処を跋扈する獣達は非常に恐ろしく、人の男は彼らと戦っても成す術もなく殺されるか弱い生き物だった。
また女性にしても、美しくなく、自分に自信がない故に生涯男と結ばれず、寂しく一生を終える者も大勢いた。
これを非常に哀れに思ったエグリゴリの一派は、彼らに逞しく生きる術を与えた。これこそが、神が禁断の知識として人に教えるのを禁じていた、
武器や化粧を筆頭とした様々な技術である。つまり彼らは、女の色香に負けたのではなく、弱い生き物であった人間に同情し、良かれと思ってその知識を教えたのだった。
当然の事ながら、人に教えてしまったのは他ならぬ、神と彼らに連なる天使達が独占していた叡智である為、これを人に教えてしまった以上、
自分達が如何なる運命を辿るかと言う事をエグリゴリは理解していた。故に彼らは、天界には戻らず、地上で生活を送る事になる。
その過程で、人の女に惚れて子供をもうけた者もいたが、アザゼルはそんな事はせず、人間達に天使式総合格闘技や剣術だったりを教え、彼らを鍛えていた。
この後下るであろう神の審判に人間が生き残れるように彼らを鍛えようと必死に努力していたのである。その努力が実を結んだのかは、最早言うまでもない。
アザゼルの努力も虚しく、彼らは大洪水に呑まれ、一人残らず死に絶えるのだった。アザゼルが主として教えていたのは武器と化粧だが、エグリゴリはこの他にも、
魔術や効率の良い農法、占星術や天文学、気象学に器・装飾品の作成技術、筆記や医学、堕胎の方法等を教えていたと言う。
彼らは事実上、今日の人類が生きる上で欠かす事など出来ない技術の殆どを人に教えていた事になる。この事から、エグリゴリは現代科学の祖ともなったと見る動きも、現在では確認出来る。
人間については父性愛のような物を持って接しており、ルシファーに次ぐ大悪魔や地獄の王と言う苛烈な二つ名を幾つも持つ者とは到底思えない。
嘗て自分が堕天を覚悟して禁断の知識を教えた人間をアザゼルは深く愛しているが、その一方で人間には、神の支配を脱する程強くなって欲しいとも願っており、
その為生前人間に教えていた天使式マーシャルアーツや剣術の訓練はアホみたいに過酷で、アザゼル自身は他のグリゴリの天使に比べて結構嫌われていた。
大洪水の際も、自分の教育が至らなかったせいで多くの人類を死なせてしまったとも思っており、その事を非常に悔いている。
しかし現在の世界の様子を見て、今の世界は人間を頂点とする世界に遂に変貌し、人は神や天使、悪魔など必要としない程強くなったのだとアザゼルは確信。
それでもまだ、世界には三大宗教を筆頭とした神や仏を崇める習慣がある事を、アザゼルは強く嘆いている。自分達の事など忘れてしまえばより強くなれると信じていた。
聖杯にかける願いは、過去現在未来全ての時間軸に存在する、神や悪魔と言った伝説上の存在全てを人類が忘れてしまう事。
これを成就させてしまうとアザゼルも真実消滅してしまうが、それでもなお、人類にはより強くなって欲しいと彼は心の底から願っているのだった。
【特徴】
黒色のフロックコートとスラックスを着用した、灰色の髪の美青年。
常にその貌には微笑みを湛えており、更にその背中には白い光で構成された翼を十二枚背負っている。
【聖杯にかける願い】
人類の記憶からこれまでの神仏や伝説上の存在を完全に消却させ、神や悪魔から脱却した世界を目指す。
【マスター】
クラリス@アイドルマスター シンデレラガールズ
【聖杯にかける願い】
ない。誰も殺さず、元の世界に戻りたい
【weapon】
【能力・技能】
キリスト教関係の知識に明るく、またアイドルとして、歌唱力とダンスに秀でる
【人物背景】
修道服を身に纏う、シスター系のアイドル。修道女がアイドルをしてよいのかは良く解らない。
争いは好まないが、教会のため努力を続ける性格。歌うのは好きで、聖歌は得意だが、アイドルソングに関してはなかなか慣れない。
投下を終了します
投下します
地に足がついた今、大賢者からの見張りは届かない。
ならば、成すべきことは唯一つ。
◆
深夜。丑三つ時に差し掛かった頃。
冬木市の郊外から離れた一角にある煤けた西洋館を、禍々しき歌が震わせていた。
「……閉じよ(みたせ)……閉じよ(みたせ)……閉じよ(みたせ)……閉じよ(みたせ)……閉じよ(みたせ)」
歌うのもまた、禍々しき者。
幽霊屋敷と見間違う程に古惚けた館の一室にて詠唱を行うのは、『両腕が右手』の老婆であった。
黴た蝋燭を灯りとし、用途の知れぬ骨董品を周囲に並べられたその部屋では、
床には怪しげに光を放つ魔法陣が描かれ、その側には『ある“節足動物”の化石』が意味ありげに置かれている。
現実から乖離された空間。それはまるで魔女の部屋。
「繰り返すつどに五度……ただ、満たされる刻を破却する……」
老婆の名はエンヤ・ガイル。通称、エンヤ婆。
数十年前のパキスタンにて命を散らした彼女は、どういう訳か現代の日本ーー冬木市にいた。
「告げる……汝の身は我が下に……我が命運は汝の剣に……聖杯の寄るべに従い……この意……この理に従うならば応えよ……」
彼女が行うのは、願望器ーー『聖杯』を掛けて魔術師達が挑む『戦争』への下準備。そう、英霊(サーヴァント)の召喚の儀式である。
老婆が願望器を求む理由。
全ては彼女が嘗て絶対の忠誠を誓い、己の全てを捧げた『あの方』の為。
例え、『あの方』ーーDIOから己に投げかけられた信頼の言葉が全て偽りであったと知っても、老婆の忠義が涸れることはなかった。
寧ろ、突き離されたが故にエンヤ婆は、DIOの為に死力を尽くすことによって己の存在を認められることを渇望していた。
忠義を超えた、『狂信』である。
「誓いを……此処に!我は常世総ての善と成る者ッ!……我は常世総ての悪を敷く者ッ!」
嗄れた声は次第に怒声を浴びせるかの如く鋭くなり、儀式が最終段階(ラストスパート)に入ったことを知らせる。
「汝三大の言霊を纏う七天ッ!、抑止の輪より来たれッ!」
変化はその時から起こった。
鬼の形相で詠唱を続ける老婆の、その前方にある召喚陣。
それが、大宇宙の星々の光が一点に集束しかのように、輝きを増し始めたのである。
「天秤の守り手よォォォォ、クケェェェェェェエエエエエエエエーーーーーーッ!!!!!!!!!」
エンヤ婆が天を仰ぐように両右手を頭上へと伸ばし雄叫びを上げたのと、周囲が閃光に包まれたのは、ほぼ同時であった。
次に、爆破と見紛う衝撃が円陣を中心に広がり、辺りの埃巻き上げ、エンヤ婆の身体を揺らした。
眩い光に思わず目を背け、身体をふらつかせるエンヤ婆だが、儀式の結果を見定めんとすぐさま陣の方へと目を凝らす。
光の先には、一人の男の影があった。
「召喚の招きに従い参上した」
網膜を焼くような閃光は次第に弱まっていき、輪郭程度しか認識できなかった男の姿が鮮明になっていく。
そこにいたのは、肌の黒い男。
生物の一部を思わす毒々しき槍を携えた、一人の槍兵(ランサー)が佇んでいた。
その一級の人体彫刻を模したような引き締まった肉体は、偽りなく兵士の肉体。
だが、兵と呼ぶのは痴がましいという程に、男は気品にも満ちている。
眼光はこの世の全てを見定めるかの如くに鋭く、身に纏うものは骨董に目の肥えた老婆からしても一級品。
なにより彼の立ち姿からは、言葉とは裏腹に、何物であろうとも己を『従わせる』ことはないと、向かい合う者の脳髄に叩き込んでくるかの如き傲慢さが溢れ出ている。
「お前が私のマスターか」
正しく、『王』がそこに立っていたのである。
◆
ランサーの存在を確認したエンヤ婆は儀式の成功に歓喜の声を挙げかけたが、すんでのところで衝動を抑え込む。
目の前の英霊に対し生半可な態度を取っては、命を落としかねないということをエンヤ婆は知っている。
そして、微風が吹けば倒れてしまいそうなヨボつく足取りで男の方へと近づくと、老婆は深々と頭を下げた。
「如何にも、名はエンヤ・ガイルと申します。そして『王』。よくぞわしの呼び声に応えてくださりました……」
「エンヤか。今宵から我々は同じを願望器を求む同士。そう一層に腰を折る必要はない。老体に悪いぞ」
対して『王』と呼ばれたランサーは頭を上げるよう、老婆に微笑み、穏やかに諭した。
その言葉に甘え、エンヤ婆は姿勢を崩して見せるーーーが、内心では依然として自らのサーヴァントへの警戒を解くことはない。
そしてランサーは、神の教えを説く神父のような微笑を浮かべながら、言葉を放つ。
「然し、英霊として召喚されたが為に格は堕ちたものの、この身は神と称われ崇められた身。……聞いておこうかエンヤ、まさか私を只で使ってやろうという気では或るまいな?」
直後、エンヤ婆に猛烈な悪寒が走った。
脊髄を抉り掴まれるのにも似た感覚に、老婆の顔から血の気が失せる。
ランサーから放たれる強烈な“圧”(プレッシャー)に老婆は、嘗ての己の主君のそれを思い出した。
下手にこのサーヴァントの気を損なわせれば、命の保証はないだろう。
「め、滅相もないですじゃ!確かにわしが貴方様をお呼びしたのは私欲であり、この聖杯戦争の絶対的勝利の為。……しかし!貴方様からの恩に報うことを欠かすつもりは断じてありませぬ!」
そう言うとエンヤ婆は部屋の隅に無造作に置かれたふたつの物体へと顔を向けた。
そこにはーーーどういう事かだろうか。OL風の若い二人の女性が倒れ込んでいるではないか。
眠っているのか、気絶しているのか、はたまた、死んでいるのか、彼女達が起き上がる様子はない。
そして老婆は、何処か下劣な笑みを浮かべながら、ランサーへ何かを促すような視線を送る。
彼女達はいわば『贄』である。
罪無き人間を攫い、己のサーヴァントに献上する。百人の英霊の百人が顔を顰めるであろうその行為。
それに対し、ランサーはーーーー
「女が二人か。まぁ、魔力の足しにはなるだろう」
ーーー善しと見なした。
実の所それも当然であり、何故ならこの男にはとある残虐的逸話が残っている。
遥か昔のある文明では、人供犠牲の文化が根付いていたとされており、その文化の発端にはこの『王』が密接に関わっていたのではないか、と後世に伝えられている。
端的に言えば、ランサーはその時代、その国で、『王(神)』への貢物として、民に人命を捧げさせていたのだ。
嗚呼、だがこの男。人を人とも思わぬこの様を、悪魔以外に何と呼ぼうか。
「では、『王』の前に向かわすよう叩き起こしますので暫しお待ちを……」
「いや、それには及ばないよ。エンヤ」
女達へと歩き出そうとするエンヤ婆を、ランサーは右手を挙げて静止させる。
そして、合図でもするかのようにその手を目元まで持ち上げた。
ーーーカサカサ。
瞬間、風が落ち葉を転がすような音がエンヤ婆の耳をくすぐった。
音は、後方の扉の向こう側ーー館の廊下に位置する地点から。当然老婆は、音の発生源を確認する為に振り向く。
老婆の網膜が捉えたのは、影。半開きの扉の向こうで、確かに何かが潜んでいた。
すると下手糞なチェロのような音をたてて、扉が開いた。
ーーーカサカサカサカサ。
影は部屋の蝋燭の灯りに照らされる事で正体を現す。
それは、小さな死神の集合体。
その死神は鎌を持たない。
代わりに甲殻類を思わせる鋏を前に突き出し、
長い尾に毒針を仕込む。
その毒で数々の英雄を死に至らせたのは余りにも有名であり、
その功績を神々に讃えられ天にも昇った。
或らゆる国々で恐れられてきた、死と暴力の象徴。
その死神の名はーーー蠍(スコルピオン)。
軍隊蟻の如く蠢き、女二人へと集る無数の蠍。
エンヤ婆は、それがランサーの宝具または能力の一つであることも理解する。
『彼の名』を知る者であれば、誰もがそう判断するであろうことだった。
その刹那、彼女の鼓膜を湿り気のある音が震わせた。
人間が啄まれる音だった。蠍による魂喰いである。
女達の悲鳴はない。無数の蠍の毒によって叫ぶ間もなく命を絶ったのだろう。それだけが、彼女達の幸運である。
無数の蠍が群がり、肉を割き、血を啜り、肉を撒き散らす。
それは全身を鑢で削る感覚にも似ていたに違いない。
二つの死体は十も数えぬうちに人の形をした肉塊へと変貌していき、骨まで露わになっている。
昆虫類が群がる光景というのは唯でさえ嫌悪感に訴えかけて来るが、目の前の血味泥の肉塊を交えたそれは、年増のいかぬ娘が見れば発狂に至るでものであろう。
流石のエンヤ婆もその壮絶な光景には大いに面を喰らっていた。
その一方で、この状況を創り上げた張本人であるランサーは、見慣れた景色でも眺めるかのような表情でそれを見ている。
自らの私利私欲で人の命を奪った上で、その体が無残に破壊される様を見ようが、眉一つとして動じる様子はない。
その姿、老婆が慕った『帝王』と瓜二つ。
ある者は彼を『英雄(メネス)』と呼び、
ある者は彼を『荒れ狂う響神(ナルメル)』と呼び、
そしてある者は彼を、
『蠍王(スコルピオンキング)』
ーーーと、呼んだ。
ランサーの正体は、初代エジプト王朝にて民を束ねた、始原のファラオ。
そして王権の基盤を創り、贄の文化を築いた、始原の暴君である。
◆
「私の配下の蠍を、この街の全域に拡散させている」
暫くして、ランサーはエンヤ婆に顔を向け、呟くように言葉を溢した。
「しかし、これから幕を開けるのは万象の強豪が集う聖杯戦争。其の供えとしては、少々、心許ない。せめて人手が欲しい所だが……手立てはあるか、エンヤ?」
まるで自らのマスターを試すような問い掛けに、エンヤ婆はようやく我に返る。
そして先程までの動揺を取り繕うように、口角を吊り上げ、不気味な笑みを返した。
「心配はござりませぬ」
瞬間、シャンパンの栓を抜いたかのような小気味の良い音が部屋に響いた。
異変が起きたのは蠍の餌食となっている死体の一つ。その脛辺りに、突如としてゴルフボール程の穴が空いたのだ。
ぴくり、と死体が痙攣した。
ひとりでに、首が持ち上がる。
生命機能を失った筈の死体が、さながらゾンビの如く起き上がろうとし始めていたのだ。
その何とも不可思議な光景を、ランサーは興味深げに眺める。
肌という肌をズタボロの雑巾のようになるまで啄ばまれ、
筋肉という筋肉を痛々しく引き裂かれ、
所々白い骨を露出したリビングデッドは、
赤き血を滴らせながら、
今尚蠍に肉を喰われつつも、
立ち上がり、
膝をつき、
そして、
蠍王に向かってぎこちなく首(こうべ)を垂れた。
「わしのスタンドーー『正義(ジャスティス)』は、きっと貴方様を満足させる筈ですじゃ」
なんと趣味の悪い返答だろうか。
吐き気を催すような趣向に蠍王は思わず嗤った。
【クラス】ランサー
【真名】スコルピオン王(初代ファラオ)
【出典】エジプト第1王朝時代、(ギリシャ神話)
【マスター】エンヤ・ガイル
【性別】男性
【身長・体重】180cm・80kg
【属性】混沌・悪
【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷B+ 魔力A 幸運B 宝具A
【クラス別スキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。
【固有スキル】
カリスマ:A
大軍団を指揮する天性の才能。
Aランクはおおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。
古代エジプト王朝の創始者であるランサーは高いランクを有する。
女神の加護(蠍):A
蠍の女神であるセルケトからの加護。
これによりランサーは千をも超える蠍を自在に使役する事ができる。
皇帝特権:B
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
該当するスキルは騎乗、槍術、芸術、軍略、単独行動、気配遮断のみとする。
神性:E
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
太陽神の化身にしてファラオの始祖たるランサーは、本来なら破格のランクを持つ。
しかしランサーとして呼び出された結果、蠍の王(スコルピオンキング)としての側面が強調された為、ランクが大幅に下がっている。
【宝具】
『万象が恐れた尾節の毒(シャウラ・アルマウト)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大補促:1人
神話、物語の中の“蠍の概念”が具現化した邪槍。見た目はぴんと張った蠍の尾の様な形状をしている。
この槍に突き刺された者は神秘の籠った毒に体を蝕まれ、最終的には毒が霊核に達する。
これはCランク以上の対魔力で対抗することができるが、ポセイドンの息子であるオリオンを毒殺したという逸話により、“神性スキルを持つ者”に対しては対魔力をスリーランクダウンさせる上に追加ダメージが加わる。
また、アポロンの息子であるパエートンが、乗馬中に馬を蠍に刺された事によって落馬して死亡したという逸話から、“馬などの哺乳類に騎乗する者”と対峙した時、騎乗元の生物に毒を食らわせた場合には高確率で即死させることができ、尚且つ乗り手が落馬した際のダメージも通常の倍となる。
『王もまた天に昇る(リジル・アルジャウザ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補促:-
古代エジプトでは、夜空に浮かぶオリオン座を「死せるオシリスが天空へと昇った姿」であると考え、重要視していた。
これが何を意味するのかと言うと、オシリスの生き写しとされるファラオは、「蠍の毒によって死に至りやがて天へと昇った英雄オリオン」の側面も持つという事であり、つまり、宝具『万象が恐れた尾節の毒』による冥府への導きはランサーもまた対象に加わっているのである。
故に、もしランサーが『万象が恐れた尾節の毒』によって毒に侵された場合、令呪による回毒でもしない限り3ターン後には霊核が毒に蝕まれ死亡する。
しかし、それは言わば英雄オリオンの逸話をその身で体現するということでもある為、毒に身体を蝕まれる間ランサーは神霊ーーオリオン/オシリスの力をその身に宿すことができる。
その場合、スキル「神性」のランクがA+にまで上昇し、スキル「戦闘続行」のA+を獲得、更に全てのステータスがA+となる。
当然だが、ランサーは令呪で強制でもしない限りこれを使おうとしない。
【Weapon】
『蠍』
ランサーが使役する蠍の軍団。
数は多いが単体の毒では人一人殺すのも厳しく、神秘の存在に対しては殆どダメージを与えることができない。
【解説】
紀元前32世紀にて上エジプトと下エジプトを統一し、エジプト第1王朝を創設した初代ファラオである。
その時代、統治の実権を王に委ねる君主制、王の贅沢な生活様式、といった王権の基盤を創り上げた。
一説には、エジプト王朝にて贄の風習を最初に始めた暴虐の王であるとの声も存在する。
武術においての逸話は明るくないものの、武器を片手に戦場を駆ける姿を描いたものがいくつか残されている。
この一人目のファラオについては蠍の王とは別に、ナルメル、メネスと幾つか候補が居るとの声もあるが、実の所それらは全て同じ人間を指した名称である。
普段の物腰は穏やかではあるが、腹の底のプライドの高さはやはり某英雄王、某神王並み。
それでいて、彼等が有する“王故の他者への慈悲”などは欠片もない生粋の暴君である。
弱点はカバ。
【特徴】
外見は二十後半の色黒の男。
端正な顔立ちに、長い黒髪を後ろで三つ編みっぽい感じで一房に束ねている。(烈海王みたいなアレ)
着飾るものは『王』の一文字に相応しい一級品のもの。
基本軽装という冬に入った日本ではミスマッチの格好だが、彼の鍛え抜かれた筋肉を見て肌寒さを感じる者はいないだろう。
【サーヴァントとしての願い】
もう一度エジプトを支配する。
【マスター】
エンヤ・ガイル@ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース
【能力・技能】
スタンド『ジャスティス』:
破壊力D スピードE 射程距離A 持続力A 精密動作性E 成長性E
霧状のスタンド。傷口にスタンドを通すことで生物を自在に操る事ができる。
幻覚を見せることも可能。
執念:
こと執念に関してはジョースター一族やDIOにも引けを取らないであろう。
復讐の怒りのままにジョースター一向抹殺に向かった際、町一つ分の地域をスタンドで覆い、陸上選手並みの脚力を見せた。
【人物背景】
両手が右手の老婆。
DIOの側近のスタンド使いであり、スタンドの矢の所持者でもあった。
殺された息子の復讐の為にジョースター一向の抹殺に向かったが、あえなく敗北。
最期は鋼入りのダンによって口封じの為に殺害される。
今回の聖杯戦争では死亡後からの参戦であるため肉の芽は埋め込まれていないが、未だDIOへの忠誠心は衰えていない模様。
【マスターとしての願い】
全てはDIO様の為。
投下を終了します
皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます
東京の下町にある、平凡な交番。その前に、1台のパトカーが停車した。
そこから、一人の中年警官が降りてくる。
パトカーから警官が降りてくるのは、当たり前のことだ。
しかしこの場合は、異様な光景であった。
その警官は顔中に血管を浮かび上がらせ、両手に銃を持っていたのだから。
交番の中にいた警官たちが戸惑いを見せる中、中年警官は銃を乱射しながら叫ぶ。
「両津はどこだ! 両津のバカはどこに行った!」
「聖杯戦争に参加するといって、冬木市に行きました!」
◇ ◇ ◇
「うーむ……」
ほぼ同時刻、冬木市内のとある公園。
着慣れた制服の代わりに革ジャンを着込んだその男は、ベンチに腰掛けてなにやら唸っていた。
彼こそが両津勘吉巡査長。「早撃ち両さん」「始末書の両さん」などの異名を持つ、亀有公園前派出所の名物警官である。
「もっと面白おかしいゲームだと思っていたんだが、死人が出るのも珍しくない戦いなのか、聖杯戦争ってやつは……。
これは認識を改めないといかんな」
「まあそう深刻になるなって、マスター」
両津にそう返すのは、先刻彼が召喚したサーヴァントだ。
容貌は逆立った短髪にきりりとした目つき。まるで典型的な少年漫画の主人公のようである。
「要するに全員殺せばいいんだから!」
「馬鹿野郎! できるか、そんなこと!
こっちは曲がりなりにも警察官だぞ! 人殺しになるのはごめんだ!」
爽やかな笑顔で言い放つサーヴァントを、両津は青筋を立てて怒鳴りつける。
「サーヴァントを倒すのは、まあよしとしよう。お前らはもともと死人だからな。
だが、マスターを殺すのはなしだ。サーヴァントだけを脱落させることで優勝を狙う」
「つまり、皆殺しだな!」
「何をどう聞いてればそうなる!」
再び怒鳴る両津だったが、サーヴァントの方はまったく応えた様子がない。
顔に爽やかな笑みを浮かべたままだ。
「まったく、歴史嫌いのわしでも知ってるような大物が来たときにはラッキーだと思ったのに……。
まさかヤマトタケルが、こんないかれたやつだったとは……」
顔を青ざめさせながら、頭を抱える両津。
そう、彼のサーヴァントはヤマトタケル。
日本において抜群の知名度を誇る英霊である。
しかし……。
「まあ、しょうがないっすよ。俺、バーサーカーで狂化スキルついてるし!」
「誇らしげに言うんじゃない!」
そう、バーサーカーで召喚された結果、古の英雄は爽やか殺戮マシーンと化してしまったのであった。
【クラス】バーサーカー
【真名】ヤマトタケル
【出典】「古事記」「日本書紀」
【性別】男
【属性】混沌・狂
【パラメーター】筋力:A 耐久:B 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:A+
【クラススキル】
狂化:D
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
ヤマトタケルの場合ランクが低いので言葉を話すことは可能だが、まともな会話は成立しない。
【保有スキル】
対英雄:D
英雄を相手にした際、そのパラメータをダウンさせる。
セイヴァー以外のサーヴァントが持つのは非常にまれなスキルだが、
彼の場合は各地の英雄を討伐した逸話が有名であるため取得している。
勇猛:B
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。
ただし、バーサーカーとして召喚された場合は、その狂化によって勇猛さの意味を失っている。
【宝具】
『草薙剣』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:1-5 最大捕捉:1人
ヤマトタケルが西国に向かう際、叔母から授かった剣。
スサノオがヤマタノオロチを倒して手に入れた「天の叢雲」と同一のものとされる。
後に「三種の神器」の一つとして祀られる剣であり、宿す神秘は非常に高い。
能力としては持ち主が危機に陥った際、ひとりでに動いて危機を払ってくれることがある。
また草を払って火から逃れたという逸話から、植物属性に特攻を持つ。
【weapon】
『草薙剣』
【人物背景】
行徳天皇の皇子。
まだ朝廷の権力が盤石でなかった時代、父の命により各地で反朝廷勢力を討伐して回った。
「日本最古の英雄」とも言われるが、父の言葉を取り違えて兄を殺してしまったり、各地の英雄を謀略で葬ったりと今の価値観では英雄らしからぬ逸話も多い。
複数の英雄の功績をまとめた架空の人物という説も有力だが、今回召喚されたのは紛れもなく「ヤマトタケル」として生きた青年である。
もっとも、バーサーカーとして召喚された今の彼に生前の面影がどれだけ残っているかは疑問だが。
【サーヴァントとしての願い】
とにかく全員ぶっ殺す!
【マスター】両津勘吉
【出典】こちら葛飾区亀有公園前派出所
【性別】男
【マスターとしての願い】
一生遊んで暮らせるだけの金。
【weapon】
「ニューナンブ」
警察官に支給される拳銃。
むろん非番の時に持ち歩くのは禁止されているが、公私混同の激しい両津はつい持ってきてしまった。
【能力・技能】
「頑強な肉体」
車にはねられてもかすり傷程度で済む。
非常に強力な免疫機能を持つため、病気にも強い。
至近距離で不発弾が爆発するくらいのことがあると、さすがに入院する。
「多彩な技能」
一流の寿司職人であり、射撃の名手であり、ゲームの達人であり……。
身につけた多種多様なスキルは、全て書こうとするとそれだけで本文を超える分量になるので割愛。
「欲望の塊」
欲望に非常に忠実であり、特に金銭欲は尋常でなく強い。
かつて神が欲望を抜き取ったときには、肉体に何も残らなかったほど。
【人物背景】
亀有公園前派出所に勤務する警察官。階級は巡査長。
M字を描く繋がった眉毛がトレードマーク。
短気で怠け者で金に汚いが、人情深い一面もある。
【方針】
聖杯狙い。ただし、マスターは殺さない。
投下終了です
投下します。
――かつて、私は最後の騎士に会ったことがある。
私がまだ、伝道者としてエリンの地を巡り歩いていた頃の話だ。
あの頃、布教はようやく軌道に乗り始めていたところだった。
古きドルイド信仰が残るエリンの地に、神の子の説いた教えはそう簡単に根付きはしない。
それが分かっていたからこそ、私は辛抱強く語り、自ら異教に歩み寄ることすら辞さなかった。
その努力が実を結び、一人、また一人と、私の説法に耳を傾ける者は増えていった。
古き教えの全てを否定せず、この大地と共に神もまたあると説いた私を、人々は受け入れ始めたのだ。
嬉しかった。
教会のお偉方は、世に蔓延る異教を廃絶してこその伝道者だと眉を顰めるだろうが、それでも私は嬉しかった。
教えとは人と共にあり、土地と共に生きるものだと、私はそう考えていたから。
そんなある日のことだった。
「おい、そこの君!君だ、そこの僧だ!」
蔦の生い茂る古城へと一人訪れ、かつての栄華に思いを馳せていた私に、一人の青年が馬上から声を掛けてきたのだ。
「はて、私ですかな?」
その頃の私は既に若々しさを失いつつあったが、目の前の青年は対照的に、生命の躍動に満ちていた。
まるで御伽噺の英雄譚から抜け出してきたかのような、威風堂々たる姿だった。
そのあまりの力強さに見惚れて、思わず呆けた返事をしてしまったとしても、誰も私を笑えまい。
「おお、なんて立派な馬だ。加えて貴方もかなりの大柄、引き締まった身体だ。旅のお方ですかな?」
「そんなことはどうでもいい。一つ、訪ねたいことがあるんだ」
もっとも、彼は私を笑いはしなかった。
そんなことなど気にもせず、よほど大事なものを探しているように、息せき切って私に問うた。
私自身が、ほんの僅かですら予想していなかった人物の名を、彼は問うたのだ。
「君は―――『フィン・マックール』という者を知っているか?」
その問いを飲み込むまでに、随分と時を必要としたように思う。
フィオナ騎士団を率いた大英雄、フィン・マックール。
知っているといえば、知っている。いや、知らないはずがない。
私の生まれはエリンではなくウェールズだが、両親はケルトの民だ。
それに十六の頃から6年もの間エリンで奴隷として働き、そして今もこうして各地を巡っている。
これまでに幾度となく耳にし、本で読んだ英雄の名だ。
誉れ高きフィン・マックール。この地に住まい、誰が彼を知らないというのだろう!
しかし、私には、彼が何故それを尋ねたのかが分からなかった。
理由を探して黙考し、しかし思い当たらなかった私は、正直に思うところを答えることにした。
『ああ、知っていますよ。そりゃ知っていますとも!』
今にして思えば、私はこの時に、彼が何者であるか気付くべきだったのかもしれない。
『―――かなり昔の人物ですが、沢山本になってますからな。私も子供の頃はフィンの伝説を聞き、フィンの絵本を読んで憧れたものですよ』
愚かにもそう口にした私の前で、彼は呆然自失の様相で動きを止めた。
咄嗟に、言わなければよかった、と思った。しかし、何もかも遅かった。
答えを聞いてからの僅かな時間で、彼は数十年も歳を重ねたかのようにすら思えた。
「ああ、あ……!!」
彼の口から漏れるのは、慟哭の呻きばかりだった。
それは、決して取り返しのつかないことをしてしまったのを知った人間の、悔恨の声だった。
聞いている私の心までもが引き裂かれそうな、痛切な響きがそこにあった。
――そして。
突然に、彼の体が傾いだ。
馬具が壊れたのだと私が気付くよりも先に、彼の体は地に触れて。
そのまま、彼は灰になり、風に乗って消えていった。
その時になってようやく、私は彼が何者であるか知った。
そして、この時をもって誉れ高き騎士達の時代は終わりを告げたのだと、英雄譚はこの地を去ったのだと、悟った。
彼にとって、今のエリンは……他ならぬ私によって変えられつつあるエリンは、どう映ったのだろう?
▼ ▼ ▼
マンションの自室でひとりグラスを傾けながら、高垣楓は窓越しに月を見上げていた。
冬木市は、冬の名を冠する割には温暖な気候だというが、流石に冬風に当たるのは体に悪いだろう。
せっかくの月見酒。夜風に吹かれながら呑めればきっといっそう美味しいのに。
そんなことを考えて、楓はくすりと笑った。
まるでこの冬木に来る前の自分と、何も変わっていないようだったから。
今をときめくトップアイドル、歌姫・高垣楓。
ミステリアスで、完璧で。そんな自分を求められ、応えられるようにと努力してきた。
でもその本質は、どこにいたって変わらないのかもしれない。
聖杯戦争などという、この不条理な現実を前にしてすら。
「……あら?」
窓ガラスをすり抜けて、小さな影がひらひらと舞い降りてきた。
思わず差し伸べた楓の手のひらへと、光の粉を撒きながらそれは降り立った。
大きく広げた羽根は蝶のようではある。
だが、その羽根を背負う身体はまるで人間の少女をそのまま小さくしたようだった。
その姿を目にした者は、誰だってこう言うだろう。
――妖精、と。
楓の手の上で、妖精はくるくると踊り始めた。
アイドルである楓も一度も見たことがないような、奇妙な踊りだ。
口でものを言う代わりに、踊りで何かを伝えようとしているのだろうか。
しかし何を伝えたいのか少しも分からず、楓は助けを求める視線を部屋の奥へ送った。
「――『ピクシー』が魔力の残り香を見つけたようです」
声の主が、立ち上がってこちらに歩み寄る気配がした。
月光に照らされたのは若い男の姿だ。
僧衣の上から外套を纏った、ファンタジー映画に出てくる旅人のような格好をしている。
男が手を差し伸べると、ピクシーと呼ばれた妖精は楓の手のひらからそちらに飛び移り、繰り返し踊りを踊った。
「なるほど。なかなか強い魔力のようだ。あるいはサーヴァントかもしれません」
「分かるんですか、キャスターさん?」
「もちろん。他ならぬ私が喚んだ妖精です。意思疎通は十全と思っていただきたい」
「……妖精に、協力を要請。なんて」
「は……?」
「ふふっ」
キャスターと名乗る彼――高垣楓のサーヴァント――は、妖精を自在に操るスキルを持つという。
しかし、『魔術師』のクラスとしては一級でも、どうやら真面目すぎるのか冗談の類は滅法苦手らしい。
楓のちょっとした駄洒落にもいちいち反応してくれるので、ついついからかいたくなってしまう。
プロデューサーであれば、もっと慣れたリアクションを返してくるところだ……と考え、即座に振り払う。
今は、出来るだけプロデューサー達のことは考えないようにしなければ、ホームシックで潰れてしまうかもしれない。
「……戦いになるんですか?」
不安が極力声に乗らないように注意しながら、楓はキャスターに尋ねた。
「すぐに、ではないでしょう。ですが、備えるならば早いに越したことはありません。
特に私は魔術師のクラス。拠点を確保し、妖精達が自由に行動できる陣地を作成する必要がある。
戦闘ともなれば、『スプリガン』のようなサーヴァントに通用する大型の妖精を召喚することになるでしょうから」
キャスターの声は穏やかだ。
もしかしたら、こちらの内心を察した上で気遣っているのかもしれない。
「マスター、貴女が戦いに積極的でないのはよく分かっているつもりです。
それに私とて聖人と呼ばれた身。神の子の血を受けたわけではない器を、聖杯と認めはしない。
私が現界したのは、ひとえにこの時代が見たかったからです。妖精譚が姿を消した、この時代を」
その言葉はどこか寂しさを抱えているように、楓には聞こえた。
キャスターの生前については、簡単にだが既に聞いている。
神の教えを広める伝道者でありながら、妖精達の棲まう地をも守ろうとしたその生涯。
その生そのものに悔いはないとしても、やはり気にかかるのだろう。
「私はかつて、フィオナ騎士団最後の騎士と言葉を交わしたことがあります。
風となって去っていった彼にとって、私は蹂躙者と呼ばれるべき存在かもしれない。
彼が愛したエリンを、私は次の世代へと繋げることが出来たのか。それだけが気がかりでならない」
人理は星を覆い、妖精達は世界の裏側へと姿を消した。
自分の信条は、ただその結果を先延ばしにしただけなのか。
あるいは、かつての妖精譚を醜く捻じ曲げるだけのものでしかなかったのか。
自分が守ったものの行く末を、自分の目で見定めたい――それがキャスターの願い。
「……それでも、この三つ葉(シャムロック)の印章に懸けて、誓いましょう。
魔術師のサーヴァント、『パトリキウス』。必ずや、マスターの行く先に幸いをもたらす、と」
アイルランドの守護聖人、パトリキウス。
聖人にして妖精使い。相容れぬ教えの仲立ちとなり、その生涯を捧げた伝道者。
英雄の時代と人の時代の間にあって、それらを繋げる定めを負った者。
その真摯な視線に、楓は微笑みでもって答えた。
「私、もっと見たいんです。輝きの向こう側を。私自身の可能性を。
私とプロデューサーさんの見たい景色はもっと先にあって……それまでは、立ち止まれません」
信頼するプロデューサーを、共に切磋琢磨した仲間達を、自分を支え続けてくれたファンのことを思い出す。
大丈夫だ。立ち上がれる。運命へと立ち向かうための「ガラスの靴」は、今もここにある。
今はこの誠実なサーヴァントと共に、「必ずあの場所に帰る」という願いだけを胸に。
この瞬間から、自分だけの『妖精譚(フェアリーテイル)』のページをめくり始めよう。
「よろしくお願いしますね、私のサーヴァントさん」
妖精の粉が夜風に舞い、きらりと月光を反射して、消えた。
【クラス】キャスター
【真名】パトリキウス
【出典】史実(4〜5世紀)/アイルランド
【マスター】
【性別】男性
【身長・体重】cm・kg
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力E 耐久E 敏捷C 魔力A 幸運B 宝具A
【クラス別スキル】
陣地作成:B+
魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。
パトリキウスの陣地は、彼が使役する妖精達の行動に適した「妖精郷」の性質を帯びる。
道具作成:C
魔力を帯びた器具を作成可能。
パトリキウスは礼装を聖別・祝福された状態で作成することができる。
【保有スキル】
聖人:A
聖人として認定された者であることを表す。
サーヴァントとして召喚された時に“秘蹟の効果上昇”、“HP自動回復”、“カリスマを1ランクアップ”、“聖骸布の作成が可能”から、ひとつ選択される。
パトリキウスは今回の聖杯戦争では“秘蹟の効果上昇”を選択し、後述の「妖精の秘蹟」スキルのランクを上げている。
啓示:B
"天からの声"を聞き、最適な行動をとる。目標の達成に関する事象全て(例えば旅の途中で最適の道を選ぶ)に適応する。
生前のパトリキウスに対する啓示は、彼の守護天使ヴィクターによるものであったと伝えられる。
カリスマ:D
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
Dランクでは国家規模の集団を率いることは出来ないが、根拠のない「啓示」の内容を他者に信じさせるには十分である。
妖精の秘蹟:B+
アイルランドの地に棲まうケルト伝承の妖精たちに語りかけ、一種の使い魔として召喚、使役する。
使役できる妖精は多種多様(他国の文化では怪物や魔物と称されるものを含む)だが、概ねアイルランドおよびブリテン諸島周辺に生息するものに限られる。
異教の存在である妖精をカトリックの伝道者たるパトリキウスが使役できるのは、それら二つの文化の橋渡しとなった聖人であるから。
【宝具】
『浄罪の煉獄窟(カヴェルナ・プルガトリオ)』
ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:1〜30 最大補足:20人
聖パトリキウスがアルスター地方の湖に浮かぶ孤島に作り上げたと伝えられる、煉獄へと続く試練の洞窟を具現化する。
内部に入り込んだ者の精神が抱える罪の意識に応じて構造を変え、絶え間なく妖精達が試練を与える。
心にやましさを持つ者には無限の問いを。血に濡れた者には無限の闘争を。
この結界を突破するために必要なのは対魔力でも幸運でもなく、己の罪を乗り越える精神力である。
なお、パトリキウスが作成した陣地内で展開した場合はより強力かつ強固な結界となる。
『旅路照らす天使の護光(ヴィクター・ベネディクトゥス)』
ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1 最大補足:1人
聖パトリキウスを守護する大天使ヴィクターの加護を、光り輝くシャムロック(三つ葉)の盾として顕現する。
シャムロックの盾は鉄壁の物理防御力とAランクの対魔力を有するだけでなく、放たれる光そのものが洗礼詠唱の効果を持つ。
その特性上、霊的・魔的な存在には絶大な威力を発揮し、最大出力ならばサーヴァントの霊体すら昇華可能。
ただし「神」に連なるこの宝具は妖精達と相容れない存在であり、この宝具を展開中は妖精を使役出来ない。
また「浄罪の煉獄窟」との併用も不可能である(こちらはケルト伝承が具現化した宝具であるため)。
【weapon】
肖像画にも共に描かれる「シャムロックの杖」。
シャムロックとはクローバーやカタバミなどの三つ葉を指し、アイルランドの象徴的なモチーフである。
【解説】
聖パトリキウス。アイルランドの守護聖人。英語圏では聖パトリックとも呼ばれる。
アイルランドのキリスト教化に尽力し、後に聖人の認定を受けた伝道者。
一方で、伝統的なケルト文化を教会からの異端視から守り、今日まで語り継がれる礎を築いた偉人でもある。
彼の記念日「聖パトリックの日」は今日でも盛大に祝われ、彼の象徴である緑色やシャムロック(三つ葉)はアイルランドのシンボルである。
ウェールズでケルト人の両親の元に生まれたパトリキウスは、16歳の時に海賊に攫われ奴隷として売り飛ばされてしまう。
以降六年間にわたってアイルランドの牧場で奴隷として働くが、ある日天からの啓示を受けて脱走、独力で故郷に帰る。
その後ヨーロッパ大陸に渡って神学を学び、自らを虐げた民をも救うために、伝道者として再びアイルランドの地を踏むことになる。
彼は熱心に布教を行い、数多くのアイルランド人を改修させたが、一方でケルト古来の文化に対して深い理解を示していた。
当時、キリスト教の布教とはすなわち異教の廃絶であり、土着の神や精霊は悪魔に貶されるのが常であったにも関わらず。
パトリキウスはケルトの土着信仰をキリスト教的に再解釈することで教会から守り(例えば妖精は天使が格を落としたものとされた)、
結果としてキリスト教化によりヨーロッパ全土の旧宗教が破壊された後も、アイルランドは例外的にある程度古来の文化を保つことができた。
再解釈の過程でキリスト教的な要素が混入したことは否めないものの、今日までケルト文化が伝承されているのは、彼の尽力によるものである。
なお、ケルト神話における最後の物語のひとつとして、聖パトリキウスが登場するものがある。
妖精郷で数百年を過ごし、年老いた姿で現世に戻った最後の騎士オシーン――パトリキウスは彼と出会い、栄光のフィオナ騎士団の詩に耳を傾けるのだ。
【特徴】
穏やかな風貌をした長髪の青年。外見は二十代半ば。整った顔立ちだが、どこか憂いを帯びた雰囲気がある。
緑色の僧衣の上から旅人風の外套を纏い、片手にシャムロックの杖を携えた、伝道者然とした出で立ちをしている。
性格は穏やかで理性的、責任感が強い。人間の善性を尊ぶ、聖人らしい人格の持ち主。
しかし神の教えに対しては揺るぎない信仰を持っているものの、その教えがケルトの文化にもたらした変質に責任を感じ続けている。
守護天使ヴィクターは己の行いを咎めなかった、ゆえにあれは正しい道である――そう楽観的に考えるには、彼は少し真面目過ぎた。
なお、自分よりも数世紀前にアイルランドの地を駆け抜けたケルトの英雄達に対しては、深い敬意を抱くと同時に後ろめたさを感じている。
【サーヴァントとしての願い】
聖人であるがゆえ、神の子の血を受けていない偽の聖杯にかける願いはない。
それでも召喚に応じたのは、幻想の消えたこの時代を自分の目で見定めたいがため。
【マスター】
高垣楓@アイドルマスターシンデレラガールズ
【能力・技能】
アイドル。
特に抜群の歌唱力とミステリアスな美貌に定評がある。
【人物背景】
モデル出身のアイドル。25歳。
長身でスレンダー、泣きぼくろとオッドアイが特徴的。
一見すると神秘的な雰囲気だが、実際の性格は意外と庶民的。
酒と駄洒落を愛し、そしてファンの笑顔を何より大事にする女性である。
【マスターとしての願い】
聖杯は必要ない。
あの場所へ帰って、自分の力で輝く景色を見る。
投下終了しました。
なお、聖パトリキウスとオシーンの伝承を反映するため、◆dM45bKjPN2さんの「市川仁奈&ライダー(オシーン)」登場話を一部引用させて頂きました。
問題がありましたら伝えていただければ対処いたします。
すみません
>>655 のアサシンの精神汚染のランクをAからCに修正します
投下します
あの日――タタリ村での出来事から半年が過ぎた。
ディレクター工藤仁とアシスタント市川美穂の行方は依然として掴めぬままスタッフ唯一の生還者、
カメラマンの田代正嗣は彼らを探すべく奔走していた。
幸い工藤たちが異界へと消えた怪異を収めた『戦慄怪奇ファイル!コワすぎ!史上最恐の劇場版』はコワすぎシリーズ最高の売り上げを記録し、
事務所の備品を一新するだけでなく、工藤と市川を捜索するための資金も潤うこととなった。
一方でタタリ村での一件以降、事務所がある東京には異変が生じていた。
巨大な人影が上空に浮かぶようになったのである。もちろん最初は連日のように報道がなされ騒動になったものではあるが、
政府を初め世界中の研究機関が巨人が浮かぶ空間を調査したが結局異常らしい異常は何一つ検出されず、
東京の住民たちも空に浮かぶ巨人の影を当たり前の存在のように受け入れていった。
田代は確信していた。アレはタタリ村に現れた旧日本軍の霊体兵器――鬼神兵だと。
鬼神兵であるならば工藤と市川の行方への手がかりとなるはず。
しかし資金は潤沢にあれど田代一人では捜索にも限界がある。
そこでライブ配信サイトに工藤たちの捜索状況を配信すると同時に視聴者からの情報も募っていた。
どんな些細な情報でもいい、二人を探す手がかりになれば――そう祈る田代であるが、満足な情報は得られず半年が過ぎていった。
そんな田代の下へ一件の情報が寄せられた。冬木市という街で世界中の魔術師、呪術師、霊能者が集い聖杯戦争という大規模な儀式が行われるという。
そしてその勝者にはあらゆる望みを叶えられる権利がもたらされると――
単なる与太話、そう切って捨てるのは簡単な情報だった。だが田代はそれを否定しきれないでいた。
この世には超常的な現象が身近に存在し、いつでも日常を侵食し非日常へと塗り替える。
それを今までの取材で何度も経験したことではないか。
聖杯戦争が何の儀式であるかはわからない、戦争と言うからにはきっと危険が伴うのだろう。
しかし多くの魔術師や呪術師に霊能者が集まるのであればきっと工藤たちの手がかりも見つかるはず。
そんな藁にもすがる思いで田代は冬木市に飛んだのであった。
■ ■ ■
「みなさんこんにちは。コワすぎカメラマンの田代です。工藤さんと市川の手がかりを求めて冬木市にやってきて三日が経ちました」
ネット配信用の動画のため冬木の街並みを撮影しながら田代はビデオカメラに語りかけた。
今日で滞在三日目になるが工藤と市川の手がかりどころか聖杯戦争が何であるかすらも掴めないでいた。
昨日一昨日は古くからの街並みを残す深山町を取材したが柳洞寺という霊験あらたかな寺社がある以外はこれといった情報もなく今日は比較的新しい街並みの新都を重点的に取材したのだった。
「ここ冬木中央公園は今でこそ市民の憩い場ですが、かつて大規模な爆発事故があり多くの犠牲者が出た過去がありました」
特に本件とは関係のないオカルトネタではあるがこうして紹介してしまうのは職業柄だろうか。
日は西の山に姿を隠し始め、夕日が公園の片隅にそびえる石碑を赤く染め上げていた。
「これが当時の犠牲者の名を刻んだ慰霊碑です。この公園は浮かばれない犠牲者が今もなお彷徨い現れる――そんな噂が絶えない曰く付きの場所でもあります」
田代はカメラを慰霊碑に向けた時、奇妙なことが起きた。
カメラのディスプレイに妙なノイズが走るようになっていた。
「あれっ……おかしいな……なんだこのノイズは……」
こういう時、何かよくないことが起きる。
田代はごくりと唾を飲み込んだ。
「えー、どうもカメラの調子が良くありませ――え?」
不意にカメラが人影を捉えた。
ついさっきまで田代の周りに誰もいなかったはずなのに。
「ああ――腐った臓腑に塗れた死穢の臭い。黄泉にお隠れになった妣上の匂い。クク、クハハハハ、そうか人間よ汝は妣上を見たのだな?」
少女がいた。
黄昏の闇から染み出すように現れた黒髪の少女。
金色の瞳を輝かせて嗤う少女。
服装こそセーラー服であるものの、その異様な存在感は一目でこの世の存在でないと田代は確信した。
まずい――いきなり本物の怪異を捉えてしまった。
「あっ……ひっ、はぁっ……ひぃっ!?」
「逃げるな阿呆」
逃げようとしたが足を引っ掛けられ派手に転びながらもカメラは落とすまいと必死に守る。
「あっあっあっ、あなた誰ですか!? わ、私なんか食べてもおいしくないです……! だ、だから早く成仏してください! お願いします……!」
「何を言っておる人間、我を呼んだのは汝ではないか」
「し、しかし私にあなたのような知り合いは……!」
「此度の聖杯戦争のマスターとして汝は我を呼び我は汝に応えここに降臨した。その左手の徴こそ我との宇気比の証ではないか」
左手の甲にまるで焼鏝を当てられたような痛みが一瞬走る。恐る恐る左手を見ると奇妙な幾何学的模様が刻みつけられていた。
「せ、聖杯戦争? マスター? それよりもあ、あなた誰ですかっ?」
田代の問いに少女は少し呆れたような仕草を見せたものの、不敵に嗤い威風堂々とした表情で答えた。
「我が玉音しかと拝み聴け! 吹き荒ぶ嵐の神にして荒れ狂う大海原の化身! 荒ぶる神とは我この事! 讚えよ畏れよ崇めよ! 我が名こそ建速須佐之男命なり!」
■ ■ ■
「えー、田代です。どうやら私は幸か不幸か聖杯戦争のマスターとして登録されてしまいました。
そして私が使役しなければならないという英雄がこちらの方、名をスサノオノミコトとおっしゃるそうです。ハイ、“あの”スサノオだそうです」
「汝はさっきから何をぶつぶつ独り言を言っておる」
「あ、ただの仕事なんであまりお気にしなさらず……」
宿泊先のビジネスホテルに戻った田代はカメラをベッドに座るスサノオに向けていた。
聖杯戦争の詳細をカメラに捉え超常的な存在の戦いを映す。間違いなく売れる。工藤なら今ごろ大喜びだ。
しかしこの目の前の、どう見ても中学生程度にしか見えない少女が神話の大英雄とは到底思えなかった。
太陽神たる天照大神の弟にして八岐大蛇を討伐した日本最古英雄ともいえる存在は文献では間違いなく男性として描かれてるのに関わらずだ。
それに見た目はどうあれ中身は粗野な男神、短いスカートを穿きながらあぐらをかいていては目のやり場に困る。
少女に対して偏執的な感情を持たない田代でも堂々と露わな白い太股を見せつけられては気が滅入る。
そして自分のような中年の男が年端もいかない少女を連れ回すのは非常に危険な行為である。
「人間よ、聖杯戦争という儀がどれほど特殊かわかるか?」
「いえ……」
「本来なら我は巫女と審神者無しで到底降ろせる存在ではない。
そして降ろせたところでその力は地面に映る影以下だ。分霊と呼ぶにも烏滸がましい欠片よ。
だがな、異国の人間の式によって作られたこの儀は我が自前で器をこさえて現界できるのだ。
これが喜ばずとして何になる。まあ元から肉の器を持つ人間にはなかなか理解できぬがな」
「はあ……それと女性の姿であることが何の関係が」
「人間、汝は童女は好きか?」
「どちらかというと豊満な女性のほうが」
「フン、童女はいいぞ。特に子を孕めるか孕めないかの境目の年頃はなお良し。
あどけない表情の童女が朝起きたら太股から血を流している姿はたまらぬ。
乳房もまともに膨らんでおらぬのに胎だけはすでに子をこさえる支度は万端よ。
ククク、櫛名田もそれぐらいの歳だったわ」
生々しすぎる。生配信でなくてよかった。
後でこの部分はカットしておこうと思った田代だった。
「この器は大層良い出来でな。姉上を元に櫛名田ぐらいの歳の妣上を想像してこさえた器よ。
我は妣上の顔は知らぬが姉上の美貌はまさに太陽よ。
例え黄泉にお隠れになり腐り果て蛆がたかろうとも妣上は姉上に負けず劣らずの美貌に違いないだろう?」
田代はドン引きしていた。要は自分の理想の女性像を作り上げそれを自身に投影した挙句に自分の身体そのものをそれに入れ替えたのである。
神話の記述から母と姉に歪んだ感情を持っているフシは感じられてはいたがここまで拗らせていようとは、である。
「だがな。所詮この器は妣上を模した形代に過ぎぬ。
愛でる分には十分ではあるが真なる妣上には及ばん。ゆえに我の願いはただ一つ。
黄泉比良坂を塞ぐ千引の大岩を廃し妣上を地上にお連れすること、それ以外に望まぬ」
「ほ、本当にそんなことが……」
「できるとも。現に汝は千引の大岩の向こうを見たのだろう? 黄泉比良坂に蠢く手足を持たぬ畸形の廃神のさらに奥深くに妣上は在らせられるのだ
確かに太古の昔では父上が置いたあの大岩を砕くことはさすがの我であっても不可能であった。
しかし我が根之堅洲国にて惰眠を貪る間に葦原中国はすっかり神の威光を喪い気枯れてしもうたではないか!
クハハハハ! 我が子らが治めていた葦原中国を簒奪した姉上の子らめ!
姉上の声も届かぬこの穢れたこの現世で彼奴らは何を思うのであろうなァ……よい気味ぞ。っと話が逸れてしもうたが――」
「神様の力が衰えた現代ではその千引の大岩も壊せると?」
「左様、汝は我が妣が国に至るための八咫烏となりて案内せよ。そのための手力は存分に奮ってやろう。このセイバーがな! ……ん?」
「あ、あの……どうもあなたはセイバーではなくバーサーカーのようですが……」
「何ィ! 天羽々斬を振るい大蛇を屠った神代随一の剣の遣い手の我がセイバーではなくバーサーカーとはどういうことだ!」
高天原での行いを見ればどう考えてもバーサーカー以外にあり得ないと思った田代だったがそれを口に出すのはどう考えても藪蛇だった。
しかし――本当にスサノオが望みを叶えてしまって大丈夫なのだろうか。
千引の大岩の向こうで伊邪那美命は一日に千人を殺す呪いを人間にかけ、伊邪那岐命は一日に千五百人を産ませるようにした。
つまりこの出来事をもって人類は明確に生と死を分かつことになったのだ。
スサノオがやろうとする千引の大岩を砕き伊邪那美命を黄泉の国から連れ出すこと、
それは生と死の境界が曖昧になってしまうことではないだろうか。
それがこの世にどんな結果をもたらすのか田代には想像もつかない。
だが工藤と市川を助けるために聖杯戦争に参加してしまった以上、スサノオに協力するしかないのだ。
それが例え世界を敵に回してしまったとしても――
【クラス】
バーサーカー
【真名】
建速須佐之男命
【出典】
記紀神話
【属性】
混沌・中庸
【性別】
女性?
【身長・体重】
146cm 39kg
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具EX
【クラススキル】
狂化:EX
このスキルは本来の意味での狂化でなく、
正真正銘の神霊――それも荒ぶる神の思考を人間程度に推し量ることはできないという意味での狂化である。
神はいつだって気まぐれに人間を翻弄する。
【保有スキル】
神性:B
三貴子の一柱であるスサノオは真性の神であるが、
今回の現界にあたっては大蛇退治の英雄の面が強く出ているため神性がランクダウンしている。
神殺し:A
荒ぶる斐伊川の龍神――八岐大蛇を討伐した伝説によるスキル。
神性が高い存在相手ほどステータスの上昇を得られる。
竜殺し:A
上記と同じく八岐大蛇討伐によるスキル。
竜属性を持つ存在に対してステータスの上昇を得られる。
理想の器:A
男のロマン、マザコンとシスコンとロリコンの極地。
この玉体より魅力的な存在は天照大神か生前の伊邪那美命のみ。
ゆえに魅了に対する完全な耐性を持つ
【宝具】
『大蛇薙・天羽々斬剣』
ランク:A 種別:対神宝具 レンジ:1〜5 最大捕捉:1
スサノオが八岐大蛇を討伐した際に用いられた古代の太刀。別名十拳剣とも。
八岐大蛇という日本神話最大の龍神を倒した逸話から竜殺しと神殺しの武器としては最上級の兵装となっている。
そのため竜属性、または神性の高い存在にとっては致命的な一撃を加えることができる。
ちなみに剣自体は宝具でなく、八岐大蛇を討伐した逸話そのものが宝具化しているため、
剣そのものは大蛇の尾を切り刻んでいた時に折れてしまう程度に並の強度であるが、
当時としては一般的な太刀であるためスサノオはいくらでもスペアを取り出すことができる。
あくまで概念が宝具化しているためその気になれば銃火器でも同様の効果を得ることができる模様。
『触穢・天津罪』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
高天原で狼藉を働いたため追放されたスサノオが持つ罪穢れが宝具となったもの。
常時発動している特殊な宝具で現界した時から世界を蝕む穢れがどこまでも拡散してゆく
しかし、神が当たり前に存在した神代の世にあっては根の国に隔離しない限り世界に対する致命的な毒となっていたが、
罪穢れが蔓延し、すっかり気枯れてしまった現代に生きる人間に対してはせいぜい疲れやすくなる程度にしか毒としての効果を持たない。
それでも神性を持つ者、神秘を色濃く残す時代の英雄等がこの穢れに触れてしまえばたちまち大幅なステータスダウンを引き起こす毒となりうる。
反面穢れを背負った存在、呪いを受けた存在には効果を及ぼさない。
【Weapon】
平安時代以降に製作されたと見られる無銘の大太刀。真名解放することによって宝具・天羽々斬剣へと姿を変える。
【人物背景】
日本神話で最も知名度の高い三貴子の末弟。
創世神の子、太陽神の弟、高天原を荒らした荒神、八岐大蛇を討伐した大英雄、
娘を娶らせるために大国主命に試練を課せ彼の勇気と知恵を認めた厳格な父、
と様々な面を持つ偉大な神格であるがどうにも登場初期のエピソードから
マザコンにしてシスコンにしてロリコンの三重苦(罪)を背負っている印象が強い。
長きにわたる根の国での暮らしで性癖を拗らせに拗らせた結果、
今回の聖杯戦争では何をトチ狂ったか自らの姿を理想の童女に変えて現界した。
本来なら真性の神格であることから聖杯戦争での召喚は不可能であるが、
大蛇退治の英雄という枠に無理矢理ねじ込むことと、自分の体を強引に改造することでのスペックダウンと引き替えに現界を可能としている。
ちなみにバーサーカー以外にアヴェンジャーとしての適正もあり、
こちらでの側面は天孫により簒奪された葦原中国を取り戻すべく神威を奮う荒ぶる復讐神として現界する危険なサーヴァントとなり得る。
【特徴】
黒髪金眼の不敵な表情を湛えた12〜14歳のセーラー服姿の少女。ちっぱい。
【聖杯にかける願い】
黄泉の国にいる妣上を地上に連れ戻す
【マスター】
田代正嗣@戦慄怪奇ファイル コワすぎ!シリーズ。
【聖杯にかける願い】
異界に消えた工藤と市川を助けたい。
【weapon】
様々な怪異をレンズに納めたデジタルビデオカメラ。
【能力・技能】
カメラマンとして一般的な能力、そして異様なまでに異界の存在を真っ先に撮影できる能力
【人物背景】
ディレクターの工藤仁、アシスタントの市川美穂と共に怪奇現象を取材する映像製作会社のカメラマン。
ハンチング帽に黒縁眼鏡をかけた髭面の中年男性。どこかの映画監督に容姿が瓜二つであるが他人の空似である。
切羽詰まった時の甲高い叫び声が非常に印象的。
基本的にコワすぎで流れる映像は田代が撮影しているためその姿が映ることは稀ではあるが、工藤市川に負けず劣らずの存在感を放っている。
暴力的で傍若無人の工藤と工藤からのパワハラで貧乏籤を引かされる市川に比べると大人しく良心的なイメージがあるが、
どんな怪異に遭遇してもカメラを回し続けるプロ根性と最終章での行動からスタッフ内で一番の狂人は田代ではないかと囁かれることも少なくない。
何の縁かとかく異界の存在と関わりになりやすい。
並行世界の因果が彼に収束しているのか。
それとも異界の存在のメッセンジャーとして選ばれているのか。
真偽は不明である。
今回は史上最恐の劇場版後、最終章で江野と出会うより前からの参戦。
投下終了しました
投下します。
鐘が鳴った。闇に沈んだ墓所で男が対峙するのは狂気に堕ちた「神父」。
跳ね回る男は唸る神父の大斧の一撃を運悪く受けるが、致命傷は辛うじて避けた。
男は懐から取り出した薬品を太腿に打って体力を回復。短銃で神父を怯ませ、鉈を叩き付ける。
神父も負けてはいない。近くに寄らば大斧を見舞い、逃げるなら銃で狙う。
男と神父の体力には雲泥の差がある。周囲に並ぶ墓石は男にとって盾であり、目晦ましの障害物であった。
しかし、それも神父が苦悶に身を折るまで。
神父は大音響を伴い爆裂。その時あげた声は、己が身を嘆く悲鳴のようであった。
夜闇の中、一匹の獣と化した神父の前に、墓石は全ての役目を放棄する。
男は果敢に応戦するが、回復薬は雪が溶けるようにその数を減らしていく。神父が変化して間もなく、男は獣の前に崩れ落ちた。
「これで6回目なんだっけ」
アーチャーは少女――キャリーの声を浴びると、画面の前で溜息をついた。
がっしりした顎に鷲鼻、力強い眼差し。厳つい風貌のサーヴァントだが、中身まで強面ではない。
常に楽しい事を探す姿は些か子供っぽく、キャリーより年長ながら、どこか愛嬌を感じさせる男だった。
「まだ続ける?」
「とりあえずもう一回だけ……いや、その前にマスター、どうかな?ちょっと動かしてみるか」
「遠慮しておくわ」
「そうか…」
コントローラーを差し出したアーチャーが腰を下ろした近くには、Blu-rayのパッケージが横たわっている。
パッケージには理知的な女性と温厚そうな少年が背中合わせで描かれ、二人の足元に当たる、パッケージの下半分には四枚の翼を広げた天使に似た――アーチャー曰く、ロボットなのだそうだ――ものが描かれていた。
ちょっと見せてもらったが、キャリーはいまいち話についていけなかった。彼女が眉を寄せるとアーチャーは1巻から見せようとしたが、それは遠慮しておいた。
聖杯に執着が無いとはいえ、この状態は弛緩しすぎではないか?キャリーが口に出すと。
「索敵はしているじゃないか。それに君…帰りたくないんだろう?」
カウンターをもらって、キャリーは小さく呻いた。
キャリーは一応、脱出を方針としている。
しかし、本音を言えば故郷――チェンバレンには帰りたくない。
向こうと変わらず連れ立って帰る友人はいないし、外国人というだけで日本の街ではちょっと浮いてしまう。
しかし、冬木ではクラスメイトからの嘲笑はなく、クローゼットに六時間もキャリーを閉じ込めるママもいない。
ここではただの外国人でいられる。いずれ殺し合いに巻き込まれることを除けば、今の暮らしに十分満足できていた。
ママに心配はかけたくない。だが伸び伸びと振る舞える現在はそれと同じくらいに重い。
優勝を目指すか?考えはするが、殺人に手を染めるのは恐ろしい。
いざその時になれば気も変わるのかもしれないが、罪の意識がキャリーの手足を必死に押さえ込んでいる。
「帰りたくないなら、帰らなきゃいいのさ」
「…日常の殺人は罪だ。だが君は今、戦場に放り込まれている。自害する気が無いなら、割り切ってしまった方がいいよ」
画面に顔を戻したアーチャーが事もなげに言うとキャリーは俯き、そのまま黙りこくってしまった。
異能を持つとはいえ、軍人と同じ判断を民間人に求めるのは酷だとは思うが。背中を向けたアーチャーは黙考しながら、チョコレート菓子の箱を開封する。
キャリーのマスター適性は標準的な魔術師と同等、あるいはそれ以上だろう。しかし、相棒としては不安があった。
湿っぽい性格で鬱憤を大量に溜め込んでいる為、雷管に火が灯るように、些細な切っ掛けで大爆発を起こしかねない。
そこに念動力だ。自分の目でも確認したが、キャリーは手を触れずに自動車を2〜3メートル動かす程度、造作もなくできてしまう。
持てる限りの力を放とうものなら、瞬く間に他の主従に捕捉されるだろう。
アーチャーとしては現代の娯楽で少しでもストレスを解消しておいてほしいのだが、キャリーは自由な時間があると、家に閉じこもって欝っぽくしている。
「興味がちょっとでもあるのなら、躊躇わずに手を伸ばしたほうがいいと思うがね。今日が人生最後かも知れないのだから」
「……」
アーチャーは菓子を頬張りながら、7度目の戦いに挑む。
キャリーは動かない。本人は動きたいのだが、抑圧され続けた人生が、彼女から青春の無鉄砲さを奪っていった。
遊び心と好奇心のままに動くアーチャーが羨ましかった。
少女に動く気配がないのを見て取ると、7度目の戦いに敗れたアーチャーはゲームの電源を消して立ち上がった。
「今日はやめだ。こいつの鑑賞会用に菓子を買いに行きたいから、ついてきてくれ」
不敵な笑みを浮かべるアーチャーが取り上げたそれは、やはり何かのパッケージだった。
描かれているイラストの質から、キャリーには内容がアニメであることを察することができた。
パッケージに描かれているのは、黒いバックに学ランを着た劇画調の男性3人。そして3つの頭の背後から突き出る、学ランを着たドラム缶の様な何か。
もしキャリーにロックの知識があるなら、(某バンドみたいだ)と思っただろう。
【クラス】アーチャー
【真名】ジャック・チャーチル
【出典】20世紀、イギリス
【性別】男
【ステータス】筋力C 耐久B 敏捷B 魔力D 幸運A 宝具EX
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
単独行動:A
マスター不在でも行動できる。ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要。
【保有スキル】
頑健:C+
対毒を含み、耐久力も向上させる。特に疲労の蓄積速度を遅くする。
第二次大戦前に往復4000㎞を自転車で走破した逸話、大戦中に敵軍の収容所から脱走後に200㎞を一週間走破して味方と合流した逸話から獲得。
冒険心:A+
威圧・恐怖・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
軍略:D
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
仕切り直し:B+
戦闘から離脱する能力。
完全に捕捉された状況であろうとも、ほぼ確実に離脱することができる。
捕縛された後に効果が上昇。相手がAランク以上の追撃能力を有さない限り逃走は判定なしで成功するようになる。
【宝具】
『時の彼方から放たれた一矢(シュート・ヒム)』
ランク:C++ 種別:対人宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:1人
第二次大戦中に記録上唯一、弓矢で戦果を挙げた男。
戦闘突入時、初撃としてのみ使用可能。
弓矢を取り出した時点で対象の敏捷値がワンランクダウン。さらに矢を番えた時点で対象の知覚・回避系スキルを全て停止させ、対象の戦力に応じたダメージボーナスを追加した一撃を放つ。
放った矢が着弾した時点で、上記の効果は消失する。
自分より圧倒的に強い相手には必殺の一矢となり、自分より弱い相手にはただの遠距離攻撃となる。
『この音色は勇者の為に(ファイティング・プレイ)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:500人
バグパイプによる演奏。
勇壮な音色により、自軍の精神に由来するバッドステータスを治癒する。
Cランク以下の状態変化は完全回復。Bランク以上の場合でもCランク分、効力を減衰させる。
また、対象のメンタルが正常であった場合、一時的に「冒険心:C」を与えることができる。
ただし、演奏が聞き取れなかった相手には効果が発生しない。
『それは一つの可能性(オペレーション・マッドパーティー)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:500人
第二次大戦中、自軍で戦列歩兵陣を展開した男。
各員Cランク相当の単独行動スキルを持つコマンド部隊をレンジ内で展開、全軍で突撃する。
発動後3ターン目まで、この軍団と対峙した敵全員の思考を完全に停止させる事ができる。
また、別陣営の三騎士サーヴァントと同盟を組んだ場合、この宝具は更なる力を発揮。
敵軍が思考停止するターンが一騎につき、2ターンずつ延長される。
魔術防御ではこの宝具の効果を逃れることはできない。ただし、対象の視覚や精神に障害があった場合は効果が発生しない。
【weapon】
「クレイモア」
近接用の武装。
「無銘:弓矢」
宝具の鍵となる弓矢。矢を魔力で補充できる。
「手榴弾」
普通の手投げ弾。魔力で補充できる。
「バグパイプ」
宝具の鍵となるリード式の民族楽器。
【人物背景】
イギリスの陸軍軍人。
並外れた肉体を持っていた彼は第二次大戦が始まると、持て余した力を発散するべく最前線に喜んで送られていった。
自動火器やミサイルが登場した当時の戦場で、彼は中世騎士の如くソードやロングボウを携えて敵陣に突撃していく。
彼の想像を超えた振舞いは敵軍に大打撃を与え、コマンド部隊の指揮を任せられるまでになった。
【聖杯にかける願い】
強いて言うなら受肉。ただし、神代か宇宙世紀で。
【マスター名】キャリエッタ・ホワイト
【出典】キャリー
【性別】女
【Weapon】
なし。
【能力・技能】
「TK能力」
念じるだけで物体を動かす力。
平時は家具を動かす程度だがストレスが強まるほど出力が上がり、保身を考えずに力を解放すれば、市内の一区画を再起不能にできるだろう。
【人物背景】
狂信的なキリスト教信者の母親に育てられた地味な少女。
学校でもクラスメイトから苛められていた彼女は更衣室で初潮を迎え、知識のない彼女はパニックに陥ってしまい、経血を見て怯える彼女に対して、クラスメイト達はタンポンを投げつけて囃し立てた。
実は思念によって物を動かす事が出来る超能力者なのだが、その事実は周囲から把握されていない。
プロム出席前から参戦。
【聖杯にかける願い】
帰った方がいいのだろうけど、帰りたくない。
投下終了です。
もうすぐ下旬に差し掛かりますが締切はあとどれぐらいになりそうでしょうか
投下します
ヒュン、高い音を響かせ空を切り裂く一羽のハヤブサがいた。
兜を模した頭飾りを付けているのを見ると、彼奴は飼い鳥なのだろうか。
ハヤブサはぐるりと鬱蒼と生い茂る森のあたりを巡回するその動きは、確かに組織的でさえある。
ただ、眼窩に宿す双眸の鋭さは野生のもの以上の鋭角さを伴っていた。
「グェェェ…………」
黎明の光をその身に受けながら低く唸る。
周回の起点には大きな屋敷があった。綺麗に整えられた庭園は見るものの目を奪う。赤煉瓦の風情を思わせる赤褐色の外壁とも違和感なく親和している。
この屋敷の主人はさぞ高名な者か、拘り深い者なのだろう。が、この屋敷を縄張りと昨夜に決めた彼奴等にとっては些事でしかなかった。
中空で円を描いたまま、方々へと視線を送っていたハヤブサは、そのギロリとした視線を屋敷の玄関に向ける。
玄関のドアが古びた音を立てて開く。中から褐色の幼さを感じる手が伸びた。
「クェェ!」
ハヤブサは声を挙げて、その腕へと飛びつく。
決してそれは捕獲を意図したものではない。木の枝に飛び乗るように、この褐色の腕に止まったのだ。
本来であればハヤブサ、それもそれなりに成熟した彼奴を据えるには、腕に防具を付ける必要がありそうなものである。
「やあ、お疲れさま。ペット・ショップ――でも大丈夫だよ。逆にうろちょろしてたら危ないからね」
中から腕を伸ばしていた幼女――齢は10歳前後といったところか――は、ふんわりと微笑を浮かべていた。
苦悶を湛えている様子もない。純粋に、その行為そのものはなんてことはないと、言外に表している。
凄腕の飼育員か、はたまた長年の友情が成せる業なのか。いや、彼女の風体からはどうにもそれらは外れてしまう。
日常じみた単語では表現しきれない、内から逆巻く荒々しい存在感は、彼女の非日常性に判を押している。
「…………」
「ん? ああ、きみは相変わらず寡黙で勇壮だね。でもアタシは知っている。
きみとアタシは同じ“獣(ビースト)”ではあるけれど、アタシと違って極めてきみは忠実だ。しもべに――いや、マスターにふさわしい」
ペット・ショップと呼ばれた兜のハヤブサを、こともなく据える彼女こそが、紛れもない“英霊”なのだった。
“ビースト”。通常の七騎に属さないエクストラクラス。――しかし、この冬木の聖杯戦争に臨んだ、正真正銘の主従である。
足元まで垂らした白銀の髪を揺らし、ご飯にしようと軽やかな足取りで踵を返す。
ペット・ショップは腕から離れ、主人(サーヴァント)に付き添うようにふわりと浮遊する。
「とは言っても、昨夜の残りでね。残飯処理ってわけじゃあない。……人間には冷凍庫という文明があるらしくてね。
活用させてもらったよ。うんうん、“知性”というものはいいね。人間も発達するわけさ」
真紅のカーペットを雑に踏み慣らしながらビーストは歩む。
まもなく広い部屋に出た。天井を仰げばいくつものシャンデリアが、左手を見ればよくわからないがきっと名のある絵画に燃え盛る暖炉が、
右手を見れば同じく得体のしれない絵画に白亜の磁器を飾る食器棚が、そして正面には、テーブルクロスの掛けられた大きな食卓が構えてある。
何かを零したのか、ところどころ赤黒く染みてこそあるが、全体的に高級感に溢れたリビングであった。
「どうせ一人で住んでるのに、席ばかりはたくさんあるのはなんでなんだろうね。人間は時々よく分からないから怖い」
調理は既に済ませてあったのだろう。
適当なことをぼやきながら、肉の盛られた皿の前へと座った。ペット・ショップもこれに倣う――と言っても椅子には座れないが。
皿はいくつか並んでいた。ただしどれを見ても肉、肉、肉。野菜はおろか、白米もパンもない。あまりに獣じみた献立である。
「“火”を活用するっていうのは、やはり人間の特権だ。本来獣にはない。
だから、とことんまで焼いてみた。昨日は生肉だったけど味気ないと思ってね。大丈夫、炭にはしてないからさ」
「……」
「そうだね、こんな能書きはひとまず置いておこうか。食べよう。獣も人間も食は命ってのは変わらない」
ひやりとするほど熱烈な眼差しを向けるしもべ(マスター)を認めると、褐色の幼女は青眼を輝かせ手を合わせる。
特に感謝の意もなく、ただただ目の前の肉への欲求を迸らせて。
「それではいただきます!」
「クケェ」
ペット。ショップは戛々と音を立てながら、直接的に肉をついばむ。
対してビーストは、事前に用意したナイフとフォークを自慢げに取り扱いながら丁寧に一切れずつ食していく。
ビーストの考える人間らしさの一つ、道具を使用することを行使した結果であるが、あまりにその様は不格好であった。
「なんだか全知の権能の無駄遣いって感じが最高に背徳的でお肉もますます……いや、このジッさんの肉はそんなうまかないんだけど、まあ美味しく感じるね」
いいながらも、この家の家主であった老爺の足で会った部分のウェルダンをナイフで剥ぎ取り食む。
最初の内はナイフとフォークで頑張って食しようと励んでいたが、そのうちに直接肉を手掴みして乱暴にむしゃぶりつくようになった。
ペット・ショップはとうの昔に食べ終わっていたが、ビーストの食事が終わるまでその場で待機している。
「なんだかすまないね。せっかくあのオーディンの血肉を取り込んだんだから、少しでも活かそうと、
こうして無駄に喋ってみたり、無駄に文明の利器を使ったりしてるんだけど……どうにも性根は変えられないみたい」
「…………」
薄い桃色のワンピースを脂でギトギトに汚しながらビーストは食べ終わる。
あとで着替えようとその服を乱暴に脱ぎ捨てた彼女は、爪楊枝を取り出して歯垢を削ぎ落とす。
ちなみに昨夜も昨夜で血で濡れたからという理由で、ワンピースもこの屋敷から拝借している。
さもありなん、獣とは本来服なんてもは纏わない。故にそれに対する配慮というものは欠けてこよう。ただ、せっかくの“知性”は泣いているが。
「ま、いいさ。“獣(ビースト)”に戻るまではしっかり“知性”を使わせてもらおう。……いや、学ばせてもらおう。
アタシの願いは――特にないんだ。偉そうなやつを引きずりおろして嬲り殺す。強いて言うならそれだけ。まったりとやろうぜ、ペット・ショップ」
「……キィ」
「ははっ、アタシはマスターに恵まれたねえ。こりゃアタシに食われちまったオーディンのやつも救われちまうんじゃないかな?」
快活に笑うビースト。
ペット・ショップはにやりと口角を上げ、目の前の“獣(ビースト)”を瞠った。
強きものに従う――自然の摂理とは得てしてそのようなもので、その意味においてはビーストのカーストはかなりの上位にあるだろう。
「忠実なるしもべ(マスター)に免じてアタシも誓おう。
フェンリル。この名に誓ってアタシは戦うよ。偉そうな奴は片っ端から喰らっていこう」
かつて、全知全能と謳われ多くの異名を誇った神格の最高峰、オーディンを屠(くら)った大狼・フェンリル。
食したことで彼の神霊の血肉を我が物とし、かように力の一部を引き継いだ、災厄の狼。
裸の幼女は、どこから現れたか樹木の槍を掲げて、その矮躯相応の胸を誇らしげに張り。
「なればこそだよ、ペット・ショップ。アタシたちは、勝つんだよ」
狼は、吠える。
鳥もまた、共鳴するかのように甲高い叫喚を挙げるのだ。
【元ネタ】北欧神話
【CLASS】ビースト(ランサー)
【真名】フェンリル
【性別】女性(雌)
【属性】混沌・中庸
【ステータス(ビースト時)】筋力:A++ 耐久:D 敏捷:A 魔力:C 幸運:D 宝具:A
【保有スキル(ビースト時)】
怪力:A+
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力を1ランク向上させる。
持続時間は“怪力”のランクによる。
神殺し:A+
神霊を屠った者に与えられるスキル。
フェンリルは、かのオーディンを食い殺した逸話から高ランクの適性を得た。
神霊特攻。神霊、亡霊、神性スキルを有するサーヴァントへの攻撃にプラス補正。
戦闘続行:C
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
神性:E-
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。ランクが高いほど、より肉体的な忍耐力强くなる。
「粛清防御」と呼ばれる特殊な防御値をランク分だけ削減する効果がある。また、「菩提樹の悟り」「信仰の加護」といったスキルを打ち破る。
フェンリルはロキの子であることから神性の適性を得ているが、あまりに反英霊としての色が強いことからランクは下がっている。
魔狼:A
狼とは神をも落とす恐怖の象徴である。
気配察知、天性の魔、精霊の狂騒の能力を使用することができる。
また、後世に生み出された「狼男」の逸話に引っ張られ、月夜では筋力、敏捷のステータスを一段落上がる。
【宝具(ビースト時)】
『神喰いこそ我が証(フェンリル)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:―
神を食い殺すからこそのフェンリルである。
なればこそ、神を殺すために、その身体はあるべきなのだ。
最初は小さくとも日に日に大きくなるべきであるし、多少の礼装なぞ、打ち破って然るべきである。
相手が「神性」や「神秘」のランクが高い者などであればあるほどフェンリルに有利な補正が与えられる。
逆に神秘の薄い近代の英霊などにはフェンリルの各種スキル、宝具の効果が落ちる。
また、原典通り日に日に身体は大きくなり、相応のステータス向上が見込まれる。
さらに、神々の用意した道具(拘束具)すらも打ち破った逸話より、Cランク以下の宝具効果は受け付けない。
【備考】
銀毛の狼。大きさはさておき、他の外観は普通の狼と大差がない。メスである。
ランサーには戻れるには戻れるが、魔力をそれなりに消費する。
【ステータス(ランサー時)】筋力:D 耐久:D 敏捷:C 魔力:A 幸運:C 宝具:E
【保有スキル(ランサー時)】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
神性:A
上記参照。オーディンとしての神格を借りている。
天賦の叡智:B
人間、あるいは神の持ちうる智慧を授かった証。
オーディンはミーミルの泉の水を飲んだことで魔術を行使しうるほどの智慧を授かった。
【宝具(ランサー時)】
『偽・大神宣告(グングニル・オルタナティブ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0〜99 最大捕捉:100人
オーディンが持っていたとされる樹木(トネリコ)の槍。もちろん魔術を介さない火で燃えるようなことはない。
この槍は決して対象を射損なうことはなく、必ず持ち主の手に何度でも戻ってくる。
真名解放は出来ないため、必ず軍勢に勝利をもたらすという効果は発揮されない。
【備考】
銀髪青眼褐色肌の少女。
フェンリルの残した逸話があまりにも少なく、代わりにオーディンを殺したという伝承があまりに有名であるため、
フェンリルをなぞらえる際にオーディンは外せないという座の心配りか。
はたまた、フェンリルがオーディンの血肉となることでオーディンこそはフェンリルの一部であるという伝承がなりたったのか。
フェンリル自身もその真実を存じていないが、ともかくとして、フェンリルはオーディンの側面を取得することとなった。
ただし、あまりに歪な再現であるため、再現率はお世辞にも高いとはいえず、数種のスキルの消失、全体的なステータス、ランクの降格がなされている。
フェンリルがオーディンと言う神格に“馴染んだら”、それらを取り戻せる可能性はあるだろう。
ビーストにはなるには、あまり魔力を消費しない。
【マスター】
ペット・ショップ@ジョジョの奇妙な冒険(第三部)
【能力・技能】
スタンド 「ホルス」の暗示
氷を操る能力。
【人物背景】
DIOの館を守っていたスタンド使い。
ペット・ショップは強きものに従う。
【マスターとしての願い】
不明
投下終了です。
>>717
九月下旬までと言いましたが、もういっそのこと九月末、つまり九月三十日までで良いかなあと思ってます。
増えすぎて収拾つかなくなる気も……
>>724
1スレ消費されそうな勢いですからね
剣7 弓7 槍8 殺8 術11 騎12 狂7 異9
募集開始から16日の現時点でwikiに登録されてるのが69主従で約70
最初の募集通り8組なら倍率9倍近いし、16組でも倍率4倍以上だから
〆切区切るのは大事だけど、あと2週間以上は長いかもしれない?
もし採用枠増やすと増やすでOPや進行も大変になってくるだろうし、ちょっと心配
そういえば>>463 のマクベス(殺)・白鐘組がwiki未収録になってない?
上と合わせて計アサシン9組になる
なるほど〜。
感想が未だに全部捌けてないような状況で、まだ二週間以上続けるのは確かに厳しいかもしれませんね!
で、ちなみにですけれど、逆に『いやいや、〆切は三十日までで良いよ』って人はいますか?
もしいたら、その方の意見も踏まえて明確な〆切を決めたいのですが
滑り込みで考える人のためにも、唐突に「締め切りは明日までね!」などと宣告するのは避けた方が無難かと思います。
かといってどれだけ予告期間を置けばいいんだ、というのは悩ましいのですが……
とりあえず9月下旬までって言って始めた訳ですから、20日の線で切るのは分かりやすくかつ公正な締め切り候補の1つでしょう。
で、そこから締め切りを伸ばすなら、何日にするのか、というより、何日伸ばすのか、と考えた方が良さそうです。
3日伸ばす、5日伸ばす、一週間伸ばす、10日伸ばす……こう書くと確かに10日も伸ばすのはやりすぎって印象に。
なるほど! 御意見ありがとうございます!
それでは、三十日よりも一週間早く、二十日よりも三日延ばした、九月二十三日を募集の〆切とさせていただきます! 九月二十三日です! 決定です! 9/23です!
これからも本企画をよろしくお願いします!
投下します。
日付も変わった深夜。
巡回中の警察官二人は、新都で不審な少女を発見した。
着ているのは赤いジャージのみで、コートなど防寒具らしき物は身につけていない。
背中を曲げて、身体を揺らしながらぎこちなく歩く姿を見て、彼らは何か事件か、と少女のもとに急いだ。
彼らが近づいて声を掛けた時、少女がゆっくり振り向いた。
少女の顔を直視し、若い方の警察官が目を瞠りうっと呻く。
中年の警察官も、背骨に走る冷たいものを抑えきれない。
酔漢やチンピラとは比較にならない程、少女の姿は異常だった。
「はぁあぁあ…」
血が流れている。
怪我をしているのか?いや、目立った外傷はない。
少女は満面の笑みを浮かべている。ただ、細めた両目から赤い液体がとめどなく流れ続けているのだ。
青っぽく変色した肌からは生気を感じない。
――動く死体。
二人はほぼ同時に、そんな印象を抱いた。
「ふふふふふ…」
笑顔の少女が硬直した二人に迫る。
少女の手より、中年の警官に気力が戻る方が早かった。
事情は不明だが意思疎通が取れそうにない。一旦、取り押さえるべきだろう。
中年警官が足を一歩踏み出し、細い腕を難なく締め上げた。乾いた靴音を合図に、若い警官も先輩の応援に入る。
――笛の音が何処からか聞こえた。
☆
赤いジャージの少女が男に手を引かれて歩いている。二人の警察官は姿を消していた。
「簡単なドア程度は開けられるんだねぇ、マスター?探したよぉ〜」
男は色とりどりの布で作った衣装に身を包んでいる。一見すると道化師のようだが、顔に化粧などはしていない。
金髪碧眼の白人であり、顔に目立った特徴はない。人形のように整っているとも言えるが、雰囲気は地味だ。
一度見たら忘れらない派手な格好をしているくせに、いざ気配を消して背後に立つと、熟練であっても全く気付けない。
警官達は職業意識故に、男――アサシンの宝具によってこの世から姿を消す事となった。
アサシンは寓話であり、疫病であり、事故であり、異常者であり、植民請負人であった。
正確に彼を記した物は残っていない。ゆえに、これまで数多くの人々が彼を思い思いの形で語ってきた。
ただ、彼が笛を吹くとき、町から獣が、子供たちが、忽然と姿を消す。
その点だけはあらゆる説に共通していた。今は「人さらいの怪人」の部分のみ、サーヴァントとして現界している。
アサシンの枠に嵌められた今も、正確な過去はわからない。
「ふふふふ……」
「私がサーヴァントってのは、理解したみたいだけどねぇ」
初めて対面した時は、さしものアサシンも呆気にとられた。
全く会話が通じない異形のマスター。しかも他人に遭遇すると遮二無二襲い掛かる。
令呪の縛りを考慮に入れずに済みそうなのはいいが、組む相手としては絶望的だ。どこか安全に収容しておける場所はないかしら?目下の達成要件はそれだった。
こうして脱走した所を見るに、多少の知性はあるらしく、これまでの隠し場所はもう使えないだろう。今夜中に明日いっぱいくらいを凌げる拠点は見つけておきたい。
現在のマスターが食事や排泄をほとんど必要としないのは、既に理解している。
彼女を厳重に隠してさえおければ、懸念の殆どが解消される。パスによる供給は滞りなく、もし魔力が足りなくなっても宝具で回収できる。
実体化して街中歩き回るのは高いリスクを伴うが、このマスターを自由にさせておくメリットは万に一つもない。
「んふ♪」
どんな願いでも叶うなら、己の正体を教えてもらおう。
手に入らないならそれでも結構。自分は永遠であり、チャンスは無限にある。
今はただ、現世に舞い戻った幸運を噛みしめよう。
「必ず勝ち残るからね!待っててね、マスター!」
少女――知子の笑みが少しだけ深くなった…気がアサシンにはした。
【クラス】アサシン
【真名】ハーメルンの笛吹き男
【出典】史実、グリム童話
【性別】男
【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷D 魔力A+ 幸運B 宝具B+
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
仕切り直し:A
戦闘から離脱する能力。
どんな状況でも戦況をターンの初期状態に戻す事が可能。
相手がAランク以上の追撃能力を有さない限り逃走は判定なしで成功する。
精神異常:A
精神を病んでいる。
自身の損得や感情を重んじ、他者の感情や立場を軽視する。
精神的なスーパーアーマー能力。
正体秘匿:A+
マスター以外の人間からパーソナルデータを閲覧される事を防ぐ。
ただしアサシンの真名を知った者、A+ランク以上の真名看破スキルの持ち主に対しては効果を発揮しない。
【宝具】
『男は笛を吹きました(ザ・パイドパイパー)』
ランク:B+ 種別:対聴衆宝具 レンジ:1〜70 最大捕捉:130人
アサシンは手にした笛を吹くことで特殊な音を発生させ、旋律を耳にした生物を操る事が出来る。
人獣問わず、笛の音を聞いた生物はアサシンに導かれるままになる。索敵を命じられればアサシンが指定した条件で探索を行い、死を命じられればその場で死ぬ。
魔術防御や物理抵抗で防ぐことは出来ず、Bランク以上の精神耐性によってのみ無効化できる。
ただし、対象が聴覚や視覚に障害を持っている場合は無条件で無効化される。
彼は伝承において100名以上の子供を連れ去ったとされるが、具体的にどうしたのかは語られていない。
サーヴァントとなったアサシンは人間を洗脳した際、自由に行動を指示できるほか、痕跡一つ残さずにこの世から消失させる事が可能。
対象を消失させた場合、アサシンの保有魔力が魂喰い以上の効率で回復される。
また、アサシンは演奏中に限り、気配遮断のランクを落とすことなく行動することが出来る。
【weapon】
「無銘:笛」
宝具の鍵となる笛。
種類は一定せず、召喚主によって変化する。
今回はフルートの形状をとっている。
【人物背景】
1284年、ハーメルンの町では鼠が大繁殖し、人々を困らせていました。
ある日、町に男がやってきて報酬と引き換えに鼠を退治してあげましょう、と言いました。
男が手にしていた笛を吹き始めると、町中の鼠が現れて、男の周りに集まりました。
そのまま男は川まで歩いて行き、鼠たちを溺死させました。
しかし、町の人々は約束を破り、男に報酬を支払いませんでした。
腹を立てた男は6月26日に再び町を訪れ、笛を吹き鳴らし始めました。
すると街中の子供たちが笛吹き男について行き、彼らは二度と帰ってきませんでしたとさ。
【聖杯にかける願い】
もし手に入ったら、己の正体を知る。
【マスター名】前田知子
【出典】SIREN
【性別】女
【Weapon】
なし。
【能力・技能】
「半屍人」
一定量以上の赤い水と血液を入れ替えた人間。
知能の低下と引き換えに、高い再生力を得ている。
またその目には神秘に満ちた世界が映し出されており、一人でも多くの常人とこの光景を分かち合おうとする。
【人物背景】
両親に溺愛されて育った少女。
羽生蛇村立中学校2年1組に在籍。
両親が日記を勝手に見たことに腹を立てた彼女は家出、丁度その時に怪異に巻き込まれてしまう。
異界と化した村を抜け、教会で両親と再会した彼女は中に入れてくれる様に頼むが、二人は知子の姿を見ても怯えたきり動こうとしない。
知子は何かを察したのか、肩を落として教会を後にした。
第2日/6時32分56秒〜のムービー終了後から参戦。
【聖杯にかける願い】
両親と仲直りする。
投下終了です。
投下します。
――夫が何の前触れもなく「失踪」して、家計は途端に行き詰った。
勤め人の夫が居た頃から既に、家賃の滞納は日常茶飯事だったのである。
普段は嫌味な大家も事情が事情だけに多少の猶予はくれたが、事態の根本的な解決には至らない。
まだ小学生の一人息子を抱えて、母であるしのぶは途方に暮れるしかなかった。
そんな折、見かねた親戚が助け舟を出してくれた。
遠く離れた冬木市ではあるが、空いている貸家があると。
大した仕事ではないのだが、その親戚は冬木市にいくつか不動産を持っており、現地に代理人が欲しいのだと。
住むための家。ささやかながらも確かな収入。
その気になれば、細かな雑用の合間を縫ってパート仕事に出ることだってできそうだ。
息子も、引っ越しに伴う転校を嫌がるそぶりは見せなかった。
現実問題として、彼女にその有難すぎる提案を蹴るという選択肢はなかったのだ。
ただひとつだけ、彼女にとって心残りだったのは。
『あの人』の帰りを待ち続けることができなかったこと。
『あの人』と共に暮らしたあの家(借家ではあったが)を、守り切れなかったこと。
川尻しのぶは、後ろ髪を引かれる思いで、息子の早人の手を引き、杜王町を後にしたのだった――
* * * * * * * * * * * * *
――杜王町のあの家に、不思議なほどに似通った、冬木市の新たな家。
川尻しのぶはそこに、不思議な客を迎えていた。
まるで古墳時代から出てきたかのような、衣とズボン姿(正確には袴)の人物である。
「……つまり、あたしと『おうすちゃん』は運命共同体、って訳なのね?」
「……ええ『マスター』。それが『聖杯戦争』というものです」
蛍光灯の明かりに照らされた、母1人子1人にはいささか広すぎる、夜のリビング。
そこでしのぶと向き合っていたのは、美しい黒髪の美少女だった。
歳の頃で言えば、大雑把に言って高校生くらいに見えるだろうか。
興味津々、といった風のしのぶに対して、『おうす』と呼ばれた少女はどこか困惑した様子を隠せない。
「でもそっか、何でも願いが叶う、ねぇ……『おうすちゃん』は何を願うの?」
「私は――私の願いを言うなら、『故郷に帰りたい』、ですね。
とうとう帰り着けないまま、こういうことになってしまいましたから」
「それは……帰らないとね。
待ってる人も居るでしょうしね。
あたしの願いも、似た様なものかな。いや逆ね。あたしの願いは『帰って来て欲しい』、ね。
あの家から離れちゃって、『あの人』が帰ってくるも何もないんだけど……それでも……」
「…………」
思慕と、恋心と、自嘲と、諦観と。
様々な想いの入り混じった深みのある表情のまま、しのぶは虚空を見上げ微笑む。
対する少女は、背筋をピンと伸ばしたまま、生真面目な――そしてどこか戸惑った態度を崩さない。
「まあいいわ。だいたい分かった。
おうすちゃんは、とりあえず客間を使って頂戴。
引っ越してきたばかりだから、まだ綺麗だし。
ご近所さんには、何か聞かれたら『杜王町から遊びに来た親戚』ってことにしておくわ。
それでいいわね?」
「え……その……あ、はい」
「大変だと思うけど、『聖杯戦争』ってやつ、頑張ってね」
まるっきり他人事のように、満面の笑みで勝手に話を進めるしのぶの姿に。
少女は抗議や訂正をしそびれたまま、曖昧にうなづくしかなかった。
* * * * * * * * * * * * *
暗い廊下に出て後ろ手に扉を閉めて。
少女は、ふぅ、と深い溜息をつく。
「何かが、おかしい……!」
思わず小さく声に出して、少女はつぶやく。
しのぶの手の甲に確かに光っていた、白鳥をかたどった柄の令呪。
にも拘わらず、まるで聖杯戦争のことを理解していないかのような言動。
何らかの『不思議なこと』が起きて、その当事者であること自体は受け入れているようだが……
あれでは、まるで。
「……まるで、『マスターとしての知識が与えられていない』みたい、だよね」
「ッ!!」
突然声をかけられて、少女は慌てて振り返る。
その視線の先に居たのは、おかっぱ頭の小柄な少年の姿。
「早人くん……!」
「おうすお姉ちゃん――いや、『セイバー』。ここじゃママに聞こえる。ぼくの部屋に行こう」
まだ小学5年生であるはずの少年は、短く言い捨てると、踵を返して階段へと向かう。
何かがおかしい。マスターたるしのぶだけではなく、その息子・早人も。
おうすと呼ばれた少女、いや『セイバー』は、数瞬迷った後、その背を追って2階へと上がった。
* * * * * * * * * * * * *
「これでママとセイバーの話はぜんぶ聞かせて貰ったんだけど」
少女を自室に招き入れて早々、早人は机の上の機材を指さした。
それは……盗撮用のカメラの映像を受信する、小型のモニタとイヤホン。
画面には階下のリビングで一人でTVを眺めている、しのぶの姿を映し続けている。
この時代のテクノロジーには疎いセイバーにも、この少年の能力の高さと異常性を、瞬時に理解した――
とてもこの歳の少年が使いこなしていいような機材ではないし、それを自宅に仕掛けるというのも偏執的だ。
「やっぱり、ママは『聖杯戦争の知識』を持ってないんだね?」
「……それは」
「ぼくにも事情は分からないけど、どこかで何か『手違い』があったんだと思う。
どうやら『権利』は――令呪や霊的なつながりは、ママとセイバーの間にあるみたいだ。
でも『知識』は――マスターに自動的に与えられるはずの知識は、なぜかぼくの頭の中に『入って』いるッ!」
「えっ」
「これはぼくの想像だけど。
今回の聖杯戦争、この『マスターに知識を与える』って部分が『後付けの別システム』なんだと思う。
それで、ママに『知識』が入るべき所が、君の召喚に居合わせたぼくに間違って入ってしまった……!」
子供らしからぬ、鋭い分析をしてみせる早人少年。
その仮説の真偽はともかく、どうやら『マスターとして知っているはずのこと』を知っているのは事実らしい。
「それを踏まえたうえで、セイバーにお願いがあるんだ」
「お願い、ですか?」
「うん」
早人は真剣な表情で黒髪のセイバーを見上げる。そして言い切った。
「ママの『願い』を――叶えないようにして欲しいッ!」
* * * * * * * * * * * * *
かつて、川尻家は崩壊寸前の家庭だった。
学生時代に付き合っていた両親は、早人を授かったことを機に結婚。
しかしそれは、父と母のどちらにとっても妥協の産物ともいえるような決断であったらしい。
早人が物心ついた頃には、両親の仲はすっかり冷え切ってしまっていた。
そんな折、不思議と父が豹変する。
今までしたことのなかった料理を手際よく始める。
自分の書いたサインを見ながら、サインの練習を繰り返す。
切った爪を溜めこむ。2種類のサイズの靴を持つ。嫌いだったはずの椎茸をむしゃむしゃ食べる。
そのことに、早人だけが気が付いた。
自らの出自を疑い、両親が愛し合っているのか疑い、盗聴器や隠しカメラを仕掛けていた彼だけが気づいた。
別人と化した父。それを受けて変わっていく母。明らかに『仲良く』なっていく両親。
そして調査を続けた早人は衝撃的な真実に到達する。
父親の姿をした「そいつ」は、爆弾の力を持った、数多くの犠牲者を出した殺人鬼であると。
平凡な勤め人・川尻浩作を殺し、その外見と社会的立場を盗み取った、『吉良吉影』という男であると!
「ぼくたちは厳しい戦いの果てに、『吉良吉影』を倒した。
殺人鬼『吉良吉影』を追っていた人たちと共に、追い詰め、ギリギリの勝利を収めた。
けれど……」
早人はそして、確信する。
母・しのぶのマスターとしての願いは、『川尻浩作』の帰還。
だが、吉良吉影に関する真実を知らない彼女の願いが、万が一にも『聖杯』に届いてしまったのならば。
「もしママの願いが叶えられれば、『帰ってくる』のは『本当のぼくのパパ』ではないッ!
間違いなく、あの『吉良吉影』――『川尻浩作』の顔をした、『吉良吉影』だッ!
それだけは、何があっても阻止しなければならないッ!」
少女の姿をしたセイバーは考える。
しのぶの祈りは本物だ。そして、早人の語りも懸念も真実だ。それくらいのことは見抜ける眼力がある。
何とかして母子ともども幸せを掴んで欲しいとは思うが、それはともかく。
「――分かりました。では、一計を案じましょう」
今回の聖杯戦争、しのぶではなく、早人に従う方が、おそらく誰にとっても良いだろう。そう判断した。
このセイバーは善なる存在ではあるが、必要とあらば策を弄することも厭わぬ主義なのだ。
* * * * * * * * * * * * *
――翌朝。
学校へと出かける早人と一緒に、外出の支度をしている人物があった。
「おうすちゃん、じゃあ、行ってくるのね」
「はい。途中までは早人くんと一緒に、まずは街を見て回ってみます」
おうすちゃん――セイバーの姿は昨夜までの時代錯誤な衣装ではなかった。
こざっぱりしたブラウスにスカート、そのうえから冬用のコート。
しのぶから借りた、ごく普通の地味な服であったが、思わずしのぶが見とれるくらいに似合っている。
「…………」
「あっ、こら早人、『いってきます』は?」
「それではしのぶさん、いってきます」
ぷぃ、と無言のまま外に飛び出していく、黄色い帽子とランドセルの少年。
その小脇には、辞書のような大きな赤い本。
セイバーは『本来のマスター』に頭を下げると、少年を追って家を出た。
軽く溜息をつきつつ、玄関の戸が閉まるまで手を振り続けるしのぶ、その手の甲には――令呪は見えない。
* * * * * * * * * * * * *
「うまく行きましたね、早人くん――いえ、『マスター』」
「ママはやっぱり理解してなかったみたいだね。
でもこれでいいんだ。こういう聖杯戦争みたいなのは、ママは向いてない。
ぼくがやった方が、きっと上手くいく」
通学路を歩きながら、2人は小さく囁きあう。
傍目には姉と弟のようにも見える2人。しかしこの2人は、実際には共犯者であった。
母しのぶを言いくるめ、令呪をもって作らせた『偽臣の書』――それが早人の抱える本の正体。
セイバーが呼ばれたその瞬間に一緒に居合わせていた早人も、もはや当事者であること。
早人もセイバーへの命令権を持っていた方がいいこと。
令呪を最大限に活用すれば、少し変則的な形ではあるが早人をマスターにできること。
これらを伝え、具体的に唱えるべき文言も一字一句教えて……
しかし、それが実質的な「マスター権の全面譲渡」であることは伝えず。
そもそも、聖杯戦争が主従2人の二人三脚による闘争である、という認識すら乏しかったしのぶは。
あっさりと全てを手放す契約に調印する恰好となった。
「やはり本来のマスターでない分、サーヴァントとしての能力は落ちてしまうようですね。
けれどご安心ください。
私は『最優のサーヴァント』セイバー。
『この剣(つるぎ)』に賭けて、そう易々と倒されはしません」
自信ありげに、何もないように見える左の腰のあたりを叩くセイバー。
それをちらっと見上げて、早人は。
「そういえば、これは質問じゃなくて確認なんだけどさ。
『おうすお姉ちゃん』……『小碓媛命(おうすひめのみこと)』って、記録の上では男の人だよね?」
「そう伝えられているようですね。
まあ、熊襲の兄弟から男の名前を『貰った』こともあり、以来は男として通してきましたが」
しのぶが思い至ることもなかった、セイバーの真の名、真の正体。
あっさり辿り着いた早人は、小さくニヤリと笑う。
母と我が身を聖杯戦争の闘争から守りぬく。母の願いは阻止する。できればセイバーの願いは叶える。
ついでに、『吉良吉影』のような悪と遭遇してしまえば、これとの対立も避けられないだろう。
これらの相反する要請を、常より能力の下がったセイバーの力で乗り切らねばならないのだ。
難しい舵取りを強いられた格好ではあるが、それでも、このサーヴァントなら何とかなるかもしれない。
「『小碓命(おうすのみこと)』――つまり『ヤマトタケル』。確かに『最優』だよ」
【クラス】
セイバー
【真名】
小碓媛命(おうすひめ)
【出典】
古事記・日本書紀等
【性別】
女性
【属性】
中立・善
【ステータス】
(しのぶがマスター時)筋力:A 耐久:B 敏捷:B 魔力:A+ 幸運:A+ 宝具:A++
(早人がマスターの時)筋力:B 耐久:C 敏捷:C 魔力:B 幸運:B 宝具:A++
【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を無効化する。事実上、現代の魔術師では魔術で傷をつけることはできない。
騎乗:C
大抵の動物・乗り物なら乗りこなせる。野獣クラスの獣は不可。
【固有スキル】
神性:B
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど神霊の混血とされる。
ヤマトタケルは死後に神格化されており、その分の上昇分も含めてこのランクに至っている。
武神としての信仰を受けており、個人の武勇で知られた者からの攻撃には高い防御力を発揮する。
呪術:D
古典的呪術の類。
ヤマトタケルの場合、詠んだ歌や発した言葉がそのまま呪力を帯びる古き時代の言霊の力を僅かに扱える。
オールマイティではあるが確実性に乏しく、ランクも低く、頼りにするのは難しい。
伊吹山の神の呪:B
ヤマトタケルが倒れるに至った、伊吹山の神の呪い。およびその逸話に由来する弱点。
冷気・氷雪に類する攻撃に対しては、抵抗などの判定に不利な修正を受け、受けるダメージが倍増する。
【宝具】
『水蛇結界(そのつるぎみることあたわず)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大捕捉:1人
あまりにも強すぎる力を持つ神剣から、人々を守るための不可視の『鞘』。厳密には宝具というより呪術の類。
日本の神話上で最も有名でありながらも、ほとんど外見を語られることのない草薙の剣。
後の時代には、包みを移し替える際に神剣を直接目視してしまった祭司たちが相次いで死に至ったという逸話もある。
そんな見るだけで危険な神剣を霧の結界が幾層にも渡って覆い隠し、光を屈折させ、事実上の透明化をさせている。
副次的に敵に間合いを見誤らせる効果を持つが、幻覚耐性や心眼(偽)の持ち主には効果が薄い。
また、霧の結界を広げたり、一時的に収束させ水流と化して敵に打ち出す、などの応用も効く。
剣に残る、八岐大蛇の水神としての力の残滓を利用している。
『天叢雲剣(くさなぎのつるぎ)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
生前のヤマトタケルが、伊勢神宮より一時的に借り受けた神剣。
ヒトの手により鍛えられた武器ではなく、八岐大蛇の尾より出た神器。
方向性は違うものの、神秘の格としてはかの『エクスカリバー』にも勝るとも劣らない。
真名を解放しての全力での攻撃は、いわゆる『剣からビーム』あるいは『飛ぶ斬撃』。
極太のビームを打ち放つのではなく、極細のビームを放ちつつ振るうことで、あらゆるものを切り裂く形を取る。
回転剣舞と合わせれば、一息に360度全周をすっぱり薙ぎ払うこともできる。
かの有名な伝説においても、この方法で見渡す限りの草原を、伏兵もろとも一掃してのけた。
そのあまりに長い射程ゆえに「剣が勝手に宙を舞って広範囲の草を刈った」との異説が残されたほどである。
あまりに強すぎるため、かの逸話の他にはほとんど振るわれたことすらない代物。切り札中の切り札。
『袋に秘せられし燧石(やいづのかえしび)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:(相手の攻撃による) 最大捕捉:(相手の攻撃による)
火属性の攻撃を完全に無効化し、のみならず攻撃者に向けて『反射』する結界発生装置である火打石と袋。
自動発動ではなく、袋から火打石を取り出し、能動的に展開する必要がある。
また一度使ったら再び専用の袋に戻して『充電』する必要があるため、連続使用は難しい。
それでも、単発の火属性攻撃であれば、規模を問わず完全に防いだうえで使用者に同威力・同特性の攻撃を打ち返せる。
袋に入れた状態では機能を他者の解析から隠蔽する効果もあり、使用前に反射を察することは困難。
【weapon】
天叢雲剣。
【人物背景】
記紀にその名を遺す、神話と歴史の狭間の時代に活躍した英雄、ヤマトタケル。
本来の名は『小碓命(おうすのみこと)』。ヤマトタケル(日本武尊、倭建命)の名は熊襲討伐の際に得たものである。
今回のセイバーは、熊襲討伐の際に女装したという逸話が、実は本当に女の子であったのだ、という設定を採用したもの。
真名の『小碓媛命(おうすひめ・おうすひめのみこと)』は『小碓命』の女性形となる。
熊襲討伐の際に男の名を貰ったこともあり、その後は男として通し、記録の上でも『媛』の一字が削られた。
【特徴】
長い黒髪を結わえた、いわゆる古墳時代の服装(男装)をした少女。貧乳。
なお何故かその顔立ちは、俗に言う『アルトリア顔』である。
善人であり命じられたことの完遂を貫こうとする性格だが、そのための手段については柔軟性が高い。
オールマイティに強い英霊であるが、その分、単純な勝ちパターンを持たない。
また個人武芸で英霊となった者・炎を扱う者には強いが、氷雪を扱う者には弱いなど、相性の影響も強く受ける。
【サーヴァントとしての願い】
故郷(大和)に帰りたい。
神話においては白鳥に身を転じて故郷を目指したと言われているが、その白鳥が飛来した地の伝承は錯綜している。
今回の設定においては「実際には帰り着けなかった」ものとする。
【マスター(真)】
川尻しのぶ
【出典】
ジョジョの奇妙な冒険(第四部)
【性別】
女
【weapon】
特になし
【能力・技能】
特になし。ながらく主婦であったが、主婦としてもかなりダメな方。
【人物背景】
杜王町で平凡な主婦として暮らしていた女性。早人の母。
学生時代になんとなくで付き合っていた相手との間に子を授かり、そのまま惰性で結婚。
しかしすぐに夫婦仲は冷えきってしまい、退屈な毎日を過ごしていた。
そんな中、ある夜を境に夫が豹変。
自分で料理を作る、大家の金をくすねて家賃の支払いに当てる、などの行動を取る。
最初は少し訝しんだしのぶであったが、すぐに彼女はこの「新たな夫の側面」に惚れ込んでしまう。
ドキドキすることの多い刺激的な日常――
だがある夜、夫は何の前触れもなく帰宅せず、そのまま姿を消した。
ジョジョの奇妙な冒険・第四部の終了後しばらくしてからの参戦。
その後のドタバタで冬木市に引っ越しすることとなり、名ばかりの不動産の管理者をしている。
これからパート仕事でも探そうか、と思っている段階。
【聖杯にかける願い】
『あの人』に帰って来て欲しい。
【備考】
令呪を1画使用しています。
早人へのマスター権の譲渡に伴い、令呪は見えなくなり、使えなくなっています。
サーヴァント召喚時に起こった何らかのトラブルにより、マスターに与えられるはずの知識がありません。
聖杯戦争についてセイバーから断片的な説明を受けていますが、正確には把握しきれていません。
どうやら何かゲームで争うらしい、勝てば願いが叶うらしい、家に間借りする必要があるらしい、程度の理解です。
【マスター(仮)】
川尻早人
【出典】
ジョジョの奇妙な冒険(第四部)
【性別】
男
【weapon】
偽臣の書
ハンディサイズのビデオカメラ
【能力・技能】
盗撮・盗聴用の機材の扱い。
年齢に見合わぬ度胸と、頭の回転と、黄金の意志。
【人物背景】
杜王町で暮らしていた少年。11歳。しのぶの息子。
彼の視点から見た、父・浩作をめぐる物語は、まったく異なるものとなる。
元々、自分が両親の愛によって生まれた存在かどうかを疑っていた彼は、家中に隠しカメラと盗聴器を設置。
両親の言動をチェックしていた――ゆえに、『父』の異変に気付くのも早かった。
突然料理をする。二種類のサイズの靴を持っている。一人で必死にサインの練習をする。切った爪を溜めこむ。
それらの違和感から調査を進めた彼は、やがて衝撃的な真実へと辿り着く。
父の姿をしたそいつは父ではなく、多くの人物を爆弾の能力で殺してきた殺人鬼だったのだ!
紆余曲折の末、早人は殺人鬼『吉良吉影』を追っていた者たちの力を借り、『吉良吉影』を追い詰め。
最後の最後、『吉良吉影』は『吉良吉影』として死亡。
とっくの昔に殺され入れ替わられていた『川尻浩作』は、ようやく『失踪』という形で処理されることになった。
こちらもジョジョ第四部終了後しばらくしてからの参戦。冬木市の小学校に転校して間もない時期。
【聖杯にかける願い】
自分自身の願いは自分でも考えていない。
ただ少なくとも、母の願いが叶えられるのを阻止する。『吉良吉影』のような悪党が聖杯を手にするのも阻止する。
【備考】
本来のマスターであるしのぶから、変則的な形でマスター権を譲渡されています。
(偽臣の書を作成するのに必要な知恵は、呪術の知識と搦め手に通じたセイバーから提供されました)
令呪の使用はできません。
サーヴァント召喚時に起こった何らかのトラブルにより、本来のマスターに与えられるはずの知識を持っています。
以上、投下終了です。鯖被り申し訳ありません。
wiki収録時にはタイトルを『川尻早人&セイバー』とします。
また、マスター欄に名前が1つだけ必要な場面では、基本的に早人の方を使うこととします。
投下します
ーこの人の手を離さない。
僕の魂まで、離してしまう気がするからー
◆ ◇ ◆
「…………ぅ」
目を覚ます。視線の先の天井にはまだ慣れそうにもない。
体を起こす。びっしりとかいた脂汗にはもう慣れっこだ。
カーテンから射しこむ光はほの白く、まだ太陽が顔を出して間もない時間のようで、静けさが伝播して部屋の中をも支配する。
いつもと変わらない、けれど決してあり得ない朝。
ため息と一緒に、汗を吸ってすっかり重くなった服を脱ぎ捨てて手早く身支度を進めていく。
出かけたところで目的があるわけでもないのだが、今はただ何もしないということがちくちくと心を刺す。
最後にかぶった帽子に開けた穴から角を出すと、沈黙に追い立てられるように外へ出た。
無意識にイコがやってきたのは、高層ビルの屋上だった。寒風が吹きつけるが動いて温まってきた体には心地よい。
不意に隣に誰かが立つ気配があったが、それを無視して地上を見下ろす。
朝日に照らされて活動を始める人々と、それに合わせて目を覚ます町の様相が、ここからだとよく見えた。
イコがいた世界では決して見られない光景に、思わず吐息も漏れるというもの。
『霧の城』からの荘厳な景色とはまた違う無機質な眺めを、イコはしかし心底では楽しんでいないのをおぼろげに自覚もしていた。
「人の世とは不思議なものだな。自らの手でここまで発展してしまうとは」
視線はそのままに頷いて返すイコ。確かに、これを成し遂げたのがかつて暮らしていた村の人たちと同じ人間だとは、未だに信じがたい。
イコもこの世界にやってきた当初は、あまりの文化の違いに戸惑ったものだ。
特に頭に生えた角は、やはりどこに行っても物珍しいもののようで。
仕方なく帽子から突き出して、そういうファッションであることにする、という強行策に出たのだがこれが案外バレないものであった。
「また、あの夢を見たんだろ?」
パッと、ここで初めてイコは隣に立つ人物を見る。精悍な、イコよりも少し年上だろう青年の横顔がそこにはあった。
蠢く人波を眺める双眸からなにかを読み取るのは、まだ若いイコには難しい。
青年の言う通り、イコはこの世界に放りこまれてからほとんど毎日同じ夢を見ていた。
それは永遠の別離で、最後の情景で、底のない後悔で。
そうして朝を迎えるたびに、イコは汗を滴らせて起きるのだ。
目の前の彼には魔力のパスによってイコ自身が見た夢、すなわち記憶が流れこむことがあると、イコは初めてこの夢を見た時に聞いていた。
それでも簡単に慣れるというわけでもなく、どうしようもない申し訳なさから逃げるように空を仰ぐ。
まるで目の前にあるような空の移ろいだけは、いつもイコが見てきたものとなにも変わらない。
「どうしても、なにかが足りないんだ」
今度は青年が、怪訝そうにイコを見やる。
それもそうだろう。彼が召喚されてから、最低限の自己紹介こそすれど、イコがこうして心情を吐露することなどなかったのだから。
「気がついたら一人でここにいて、君が召喚されて、よく分からない戦いに巻き込まれて。
最初は混乱したし、なんでぼくがって思ってたんだ。けど、それでもいいんじゃないかって思う自分もいて」
そしてイコ自身も、初めて今の気持ちを必死に整理しようとしていた。
一つ一つの言葉を探し、繋げ、噛みしめるようにゆっくりと話す間も青年は黙ったままで、それがイコにはありがたかった。
突然の異世界、押しつけられた殺し合いとあまりの理不尽に、無論イコは嘆いてもいた。
だが同時に、念願とも言える『霧の城』からの脱出も果たしていたのだ。
生贄として連れて行かれ、捧げられるのを待つだけだった巨大な檻から。
ただその隣に、共に歩んだ“彼女”の姿はないのけれど。
「でもやっぱり駄目だった。“彼女”と一緒じゃないと、意味がなかったんだ」
その時、見上げる青空にひらりと雪が舞ったのは、天の気まぐれだろうか。
汚れを知らず純白に煌くそれはどこか“彼女”を思わせて、気がつけば手を空へと伸ばしていた。
けれど雪の結晶は風に乗ってふわりと逃げて、まるであの時のようだと自嘲気味の笑みを浮かべる。
それはイコが冬木市に来る前の、最後の記憶。
『霧の城』からの唯一の脱出経路である橋を、“彼女”と駆けていた絶好の機会。
その最中、突如始まった橋の崩落によってイコと“彼女”は引き裂かれてしまったのだ。
そこから先は、今でも目を閉じれば鮮明に浮かび上がってくる。
無我夢中で跳んだ中空、初めて差し出された“彼女”の手と見たこともない顔。
そして相変わらず意味は分からないけれど、確かに伝わった“彼女”の言葉。
その残響が、いつまでもイコの心の奥底に沈んだままで、言いようのないもどかしさとなってずっとイコを苛んでいた。
「だからぼくは、聖杯で願いを叶えたい。勝って、今度こそ“彼女”と二人で逃げたいんだ」
“彼女”の手が遠く離れてしまって、ようやく分かった。
きっとイコは、“彼女”と『二人』で檻の外に飛び出したかったのだ。鳥の翼が片方欠けては大空に羽ばたくことができないように。
今はもう叶わない願い。けれど、今はもう違う。イコはその力を掴む権利を得たのだから。
イコがやっと青年を見据える。その瞳に宿る意志は、かつて“彼女”を初めて助けようと心に決めた時にも等しい強さで。
「お願いだランサー。どうか、ぼくらを勝たせてくれ」
イコの熱烈な視線を受け止めて、ランサーと呼ばれた青年は目を逸らさず黙ったまま。
初めて吐き出したイコの決意をどう取ったのか、イコが彼の表情から読み取るのはやはりできない。
ぴんと糸を張ったような数秒の間の後、沈黙を破ったのは青年の小さな笑い声だった。
「ああ、もちろんだマスター。そのために俺が喚ばれたんだから」
携えていた槍でとん、と床を軽く叩いて揚々と告げるランサー。
その自分を信じて疑わない声が、イコは好きだった。
優しく包み込むような、けれど激しく奮い起こされるランサーの口調が。
「我が名はウィツィロポチトリ、未来の朝と明日の栄光を約束する者。
俺が必ず、お前を勝利へと導いてやる」
朗々と歌うようで、それでいて力強く刻みこむように。
悪習名高いアステカにおいて太陽神・戦神として崇められていた、ウィツィロポチトリ神は高らかに宣言した。
時代と価値観が移ろえど、彼が求めるものはいつだって変わらない。
ただ勝利を、そしてその先に臨む幾度目かの朝日を。
そうしてかつて■■だった主従は、目を合わせたまま互いに笑う。
その先に訪れるだろう暁光を、いつか共に臨むと信じて。
◆ ◇ ◆
この世界に疎いイコは気がつかない。
自らの従者がかつて多くの生贄を喰らい、その肉体すら捧げられたものであることを。
過去を問わないランサーは知らない。
自身の主君は一人の少女のために生贄から脱し、運命に刃向かおうとしていることを。
【クラス】ランサー
【真名】ウィツィロポチトリ
【出典】アステカ神話
【性別】男
【属性】中立・中庸
【ステータス】
筋力A+ 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運C 宝具EX
【クラススキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現在の魔術師ではランサーに傷をつけられない。
【保有スキル】
暁光の戦神:A+
夜の暗闇を打ち破り、世界に朝の光を齎す戦士としてのランサーの在り方。
本来ならば同ランクの神性とカリスマを内包する複合スキル。
しかし神性においてはかつて生贄であった青年の殻を被っているため、Bランクまで低下している。
また夜・闇属性に対して有利な補正がかかる。
勇猛:B+
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
投擲(投槍):C
投槍を徹甲弾として放つ能力。
湖に逃げこんだ兄弟たちを全て一度の投槍で滅ぼした逸話から。
追撃:B
離脱行動を行う相手に攻撃する能力。
また、同ランク以下の『仕切り直し』を無効化し、戦闘の続行を強要して攻撃判定の機会を得る。
【宝具】
『危機告げる俊速の伝令神(パイナル)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:ー
かつてランサーに仕えていた、伝令神である蜂鳥を召喚する。
この使い魔はランクC相当の気配遮断と単独行動を有し、ランサー及びマスターとの念話を可能。
また戦闘能力を持たないが、得られた情報が自陣営に直接害を及ぼすものだと判断した場合、生還判定に有利な補正が入る。
『鷲示す安住の地(テノチティトラン)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:ー 最大捕捉:1
アステカ人が北方から南進した際、ランサーの予言に導かれて都市を築いたという逸話が宝具に昇華されたもの。
常に自陣営にとって最適な場所を感じ取る能力。
その対象は“土地”だけではなく、戦闘時の“位置取り”や狙うべき“部位”、対人関係での“立ち位置”など多岐にわたる。
啓示に似ているがランサーは与える側であり、常時発動型の宝具として扱われる。
ただしあくまで予知ではないため、その結果まで知ることはできない。
『トルコ石の火の蛇(シウコアトル)』
ランク:EX 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
太陽を正午までに天頂へと届ける役割を担う、火と暴力を象徴する蛇神が槍の形を取って宝具化したもの。
その性質から竜属性を持つが、本来有する高い神性は、武器としての召喚によって大きくランクダウンしている。
普段はただの槍だが真名解放によって魔力を太陽の炎として纏う。
これは射出・放射も可能だがその分魔力の消費量も大きいものとなる。
【weapon】
『トルコ石の火の蛇(シウコアトル)』
ランサーが生まれた瞬間から手にしていた槍。
美しいターコイズブルーで、足がある蛇を模している。
ランサーはこれを用いて1人の姉と多くの兄弟を鏖殺した。
『無銘・盾』
ランサーが生まれた瞬間、槍と共に携えていた盾。
【人物背景】
アステカ神話において太陽神・軍神として崇拝されていた、アステカの部族神。
ウィツィロポチトリは「蜂鳥の左足」または「南の蜂鳥」を意味する。
母は地母神コアトリクエ。彼女が夫に先立たれた後、コアテペック山で羽毛の珠を授かったことにより受胎する。
母の懐妊を知ったコアトリクエの子たちは不義を疑い、コアトリクエの殺害を計画。
しかしあわやというところでウィツィロポチトリが完全武装の状態で生誕し、先陣を切っていた姉を八つ裂きにする。
その後残った兄弟たちは湖に逃げこむが、ウィツィロポチトリの投槍によって滅ぼされた。
ウィツィロポチトリは太陽として東より現れ、夜の星々を打ち負かし、西の空で力尽き、再び東の空に誕生する。
アステカ人はこの神が負けて朝が来なくなることを恐れ、世界の維持と陽光の恵みを祈った。
そのために生贄を選び、神官が祭壇で生きたまま心臓を抉り取って捧げたという。
生贄はたいていの場合、戦争捕虜から選ばれていたが、一方でこれは大変な名誉とも考えられていた。
ある時、人身御供が当たり前の文化においてもとりわけウィツィロポチトリを狂信する青年がいた。
その信仰は留まることを知らず、心臓のみならず肉体、精神、髪一本から血の一滴までを捧げたいと考えるに至るほど。
そしてついに彼はウィツィロポチトリの格好を真似て、アステカの首都が浮かぶテスココ湖に身を投げた。
ウィツィロポチトリはれっきとした神霊であり、本来ならば聖杯戦争で召喚されることはあり得ない。
しかし今回は、その名も残されていない憐れで幸福な人間の殻に収まることで、現界を可能とした。
【特徴】
黒の短髪に浅黒い肌を持つ、屈強な体つきの青年。
身には肩を覆う程度のレザーのポンチョのようなものと、色鮮やかなふんどしのみ。
冬の冬木市には凡そそぐわないが、本人は問題ないらしい。
ハチドリを象った頭飾りをつけ、左足にハチドリの羽飾りをつけている。
【聖杯にかける願い】
特になし。しいて言うならば戦神として勝利を目指す。
【マスター】
イコ@ICO
【能力・技能】
角を持って生まれたためか、肉体がずば抜けて強靱で、身体能力が高い。
ただしあくまでも人間基準のため、サーヴァントと渡り合えるほどとは言いがたい。
【人物背景】
頭に角を持って生まれた事で、掟に従い13歳になったのを機に、神官によって『霧の城』へと生贄に捧げられる。
自分の運命を達観していたイコだったが、不意に『霧の城」』が大きく揺れ、囚われていたカプセルから運良く投げ出される。
そうして城内を彷徨った先で、牢に囚われていた少女、ヨルダと出会う。
最初こそ生贄としての運命を受け入れていたイコだったが、解き放ったヨルダを救うべく、『霧の城』からの脱出を目指す。
橋の崩壊後、ヨルダと別れてからの参戦。
【聖杯にかける願い】
ヨルダと一緒に『霧の城』から脱出する。
投下終了します
投下します
暗い路地を男がひたすらに逃げていた。
痣のできたその顔は何かに怯えるようにひきつり、せわしなく視線を周囲に巡らせ、肩で息をしながら駆けていく。
男の視界に白い羽が躍り、ヒ、とひきつった声が男から漏れた。
視界に現れたのは、サラリーマン、学生、土建屋、ホストと様々な境遇・職種の服装をした男達の姿。
その衣服や体のどこかに白いガチョウの羽が必ずワンポイントでついていた。
この羽根をつけた男達こそが、彼が逃げている相手であった。
きっかけは些細な事だ。肩がぶつかり男が因縁をふっかけると、あれよあれよという内にガチョウの羽をつけた男達に取り囲まれてしまっていた。
男は腕っぷしにはそれなりの自負があったとはいえ多勢に無勢。痛めつけられほうほうのていで逃げだし、現在に至る。
男の顔が蒼白になり1、2歩後ろへと引き下がると、背中に固いなにかが当たる感触がして慌てて振り返った。
果たしてそこにいたのは、男の逃げ道を封じる男達と同じように、ガチョウの羽をワンポイントでつけた二人の男。無表情で冷たい4つの瞳が男を見下ろしていた。
逃げなくては、と恐怖に支配された男が行動を起こすよりも早く、左右に回った男達によって両腕を捕まれ身動きがとれなくなる。
もがいても喚いても男達は身じろぎ1つする気配がない。
限界まで達した恐怖と混乱から一際大きな叫び声をあげようとした、その時。
チリン、と鈴の音が鳴った。
音がしたのは男の正面。
そこに1つの影がある。
女だ。だが、奇抜な姿をした女だった。
下半身は腰の部分を帯で巻いて止めただけのズボン、上半身は真冬だというのに胸元に巻いたサラシと素肌に着込んだ1枚の上着、そして両手に嵌めた手甲。
何よりも男の目についたのは、額に巻いたバンダナの側頭部の位置に差された1枚のガチョウの羽根。
この女も彼を追う男達の仲間であることは明白だった。
チリン、チリンと女は腰元につけた鈴を鳴らしながら男の方に向かって歩いてくる。
女が近づき顔が鮮明になっていくにつれ、ふと、その顔に既視感を覚えた。
ごく最近、どこかで見たような顔。
男は必死で記憶を掘り起こし、そして思い出す。
男は強請・たかりで食い扶持をつなぐ所謂ゴロツキだ。
今日はある中華料理店で店員をわざと転ばせて自身の服に料理を溢させ強請を行おうと試みた。
目をつけた女の店員にわざとらしくならないよう慎重に足を引っかけたが、その女性はバランス感覚が良かったのか、彼に料理をぶちまける事なく姿勢を立て直し、謝罪とともに離れていった。
目論見が外れ舌打ちをした時、不意に男が視線を感じて振り向いた先にいたのが眼前の女だった。もっとも服装は今のようなものでなく、ジーンズに、ジャンパー、ニット帽などありふれた格好をしていたのだが。
「チンピラ、ゴロツキ、小悪党。どの時代でも似たような輩はいるもんだな。ええ、オイ」
呆れたような笑みを浮かべ、女が口を開いた。
鈴の音と共に女が近づく。
見た目はただの女でしかない。いつもの男であれば怒鳴り散らし凄んで見せるところであったが、散々に痛めつけられ、集団に追いたてられる恐怖を味わった彼に、もはやその気力は残っていなかった。
「な、なんだよお前。あの店の用心棒かよ」
「近からずとも遠からず、ってところか」
なけなしの勇気を振り絞り、男が尋ねると、笑みを浮かべたまま女が答えた。
男は必死に頭を回転させる。
この状況では真っ先に浮かんだ結末は集
団でのリンチ。とにかく惨めでも謝り倒しこの場を切り抜けなければならない。
女が眼前にまで迫る。
まずは謝罪を口にすべきだ、と男が口を開こうとしたその時、突然に男の腹部に衝撃が走った。
何事かと視線を下に向けると、腹部から一本の棒が伸びている。
いや、正確に言うのであれば先端に刃のついた棒状の武器、一般に手戟と呼ばれる類のものが、男の腹部に突き刺さっていたのであった。
「……え?」
男の理性が、自身の置かれた状況を理解する事を拒み、間の抜けた声をあげさせる。
だが、それは無駄な抵抗であった。
痛みが男に突きつけられた無慈悲な現実を教え込む為に体を駆け抜ける。
シャツが血によって赤く染まり、激痛と衝撃と恐怖から男が叫び声をあげようとするも、背後にいたガチョウの羽根をつけた男が手拭いを猿轡代わりにして男の絶叫を止めた。刺されたショックで逆流を起こした血液が口内から溢れて手拭いを染めていく。
何が起こった。何をされた。何故こんな目に。
パニックを起こした男が涙でぼやけた視界で刺した張本人である女を見る。
女は、既に笑みを浮かべておらず、回りの男達と同じ冷たい目で男を見ていた。
「恩にも報い、仇にも報いだ。恨むならあの店を標的に選んだテメエの運のなさを恨みな」
吐き捨てる様に言い放った女が、手戟を持った手を、ぐいっと半回転させながら深々と柄を押し込む。それが致命打となった。
一際盛大に血を吐き出しながら男の視界が暗くなっていく。薄れ行く意識の中、最後にチリン、と鈴の音が鳴るのを聞いた。
◇
「……で、アサシンはどこなんです、副長さん」
泰山と書かれた既に灯りの落ちた看板の中華料理屋からそう遠くない路地裏で白髪の男が赤い髪の女性に問い詰められていた。
腰に手をあて、訝しげな表情で睨む女性に対し、副長と呼ばれた白髪の壮年男性は少々申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「あー、その、美鈴の姐さんの方から念話って奴で大将に聞いてみちゃあいかがですかね?」
「呼んでも返事がないから聞いてるんです! 仕事の途中でいなくなるから抜け出す訳にもいかないし、何か聞いているんですよね?」
美鈴(メイリン)と呼ばれた女性が不機嫌そうに半目で睨むと、気まずそうに副長は頭を掻きながら視線を美鈴から外す。
アサシンのマスター、紅美鈴。それが彼女の名前である。
幻想郷と呼ばれる異世界で吸血鬼の住ま館の門番をしていた彼女はどういう訳かこの聖杯戦争の参加者として呼び出されてしまったのだ。
一刻も早く館に帰りたい気持ちを抑えつつ、本格的な戦争が始まる前の働き口として中華料理屋で働いているのだが、その最中に客を装って入っていたアサシンが姿を消し、連絡が取れなくなってしまったのだった。
その代わりと言わんばかりに店にやってきた、アサシンが副長と呼んでいる男に対し仕事が終わった今こうして詰問をしているのが現在の状況である。
「あんまりウチの副長を苛めてやんねーでくれや美鈴。そいつにゃ俺が席を外すからって警戒の任務を命じただけだからよ」
不意に美鈴に声がかけられ、チリン、と鈴の音が鳴った。
声の元にいたのは、ジャケットにジーンズ姿でガチョウの羽が添えられたニット帽を被った女性。
少し前に、一人のゴロツキを殺害した女性がその場に立っていた。
「……アサシン」
「そんな怖い顔で睨むなって。おう、ご苦労だったな副長。もう持ち場に戻っていいぜ」
「へい、それじゃあ自分はここで。美鈴の姐さんも、失礼いたします」
不機嫌さを露にした視線を軽く流し、アサシンと呼ばれた女サーヴァントが命令すると、副長――彼女の宝具の1つ――はホッと胸を撫で下ろしながらアサシンと美鈴にそれぞれ一礼をして夜の闇へと溶け込んでいった。
「どこに行ってたんです?」
「野暮用だ。気にする程の事じゃねーよ」
非難がましいニュアンスのこもった美鈴の問いに軽薄な笑みを浮かながらアサシンが答える。
無論、その言葉だけで不問にする程、美鈴も人がいい訳はない。アサシンに対して疑惑の視線が向けられる。
「あのゴロツキみたいなお客さんに何かした訳じゃないですよね」
「勘がいいね美鈴は」
アサシンがいなくなってから抱えていた懸念を美鈴は口にすると、アサシンは笑みを浮かべて肯定の意を示す。
今日、仕事での配膳中に美鈴はゴロツキめいた風体の男にワザと姿勢を崩されそうになった。
バランス感覚が優れていた事もあり転倒や料理を溢す事はなく事なきを得たのだが、その時にアサシンが一瞬だけ不穏な気を放っていたのを覚えていたのだ。
アサシンの肯定に対し、美鈴は"やっぱりか"と言わんばかりに額に手をあてた。
「ま、これであのチンピラはもうこの店に来る事はないだろうさ、トラブルの種がなくなって何より何より」
「……殺したりなんかしてないですよね?」
「ん? 殺しちゃマズかったのか? あんなの生かしとく理由もねーだろ」
あっけらかんと殺人を行った事を告げるアサシン。
それに対して美鈴「あああぁぁぁぁぁ……」と脱力の声を漏らしながら両手で顔を覆ってしまう。
「あれか、殺しがバレて疑われる心配ならねえぞ。今ごろ奴さんは野郎共に運ばれて冬木の海に石と一緒に沈んでる頃合いだろうしな、少なくとも死体は見つからんだろ」
「さらっと恐ろしいこと言わないでください!」
HAHAHA、とあっけらかんとした態度を見せるアサシンに対し、美鈴は目眩を覚える。
気にくわない相手であれば躊躇うことなく殺害するアサシンの苛烈にすぎる気性は彼女と同郷の出身である美鈴も知識としては知っていたのだが、まさかこうも簡単に人一人を殺してのけるなどとは、美鈴の予想の範疇外であった。
「他のマスターやサーヴァントが探索しているかもしれないのに軽率な真似は控えてくださいよ。いくら隠密性に優れたアサシンのクラスだからって、何が切欠で捕捉されるかわかったもんじゃないんですよ?」
「あー、確かに俺は暗殺が本業って訳じゃなかったしなあ。わりーわりー、次はそこら辺ももう少し気を付けとくさ」
「ひ・か・え・て・く・だ・さ・い! なんで次もやる前提なんですか!?」
スキルによる微量の精神汚染のせいか話が通じるようで通じない。
断片的に話が通じる事は、完全に話が通じない事よりもある意味では質の悪いことなのだと美鈴は改めて認識し、頭痛を覚える。
「今、呂蒙将軍の気持ちがよくわかりましたよ私は……」
「う、子明の話は出すなよ。あいつにゃ色々と迷惑かけたと思ってんだからさ」
呂蒙という男の名を出され、アサシンがバツの悪そうに視線を逸らす。
傍若無人に見えるアサシンの数少ない泣き所の1つであろう事は見てとれた。
「こちらとしてはこんな事で貴重な令呪を消費したくないですし、せめて本格的に戦争が始まるまでは大人しくしていてください。お願いですから」
「へいへい、しょうがねえなぁ」
令呪の使用も美鈴が検討していると知ってか、アサシンは不承不承頷く。
反省する素振りの見えないアサシンに対しどこまで信用したものかという思いがが美鈴の胸中を駆け巡り、精神的な疲労がずっしりと体にのしかかる。
(鈴の甘寧、性別は違ったのに性格は本に書いてあったのと一緒なんだもんなぁ)
昔に読んだ三國志に記載されていたアサシンの活躍や凶行、振る舞いを思い出し美鈴は項垂れる。
将としては知勇に優れ大胆不敵、一方で殺人を好む性や主君の縁者にすら噛みつく好戦的な気性を併せ持つ彼女は決して扱いやすい人物ではない。
その英雄性が本の通りであったことが美鈴の幸運であったならば、問題のある人格もまた本の通りであったことは美鈴の不幸だったであろう。
ざっくばらんとした性格は嫌いではない。嫌いではないが、この周囲の人間を振り回しに振り回すこの行動力と勝手気ままで血気盛んな性格はどうにかならないものかと、大きくため息を吐く。
せめてここから先はこんな事が起こらないようにと祈りながら、美鈴はアサシンを伴って帰路につく。
チリン、チリン、とアサシンと美鈴、それぞれがつけている鈴が冷たい夜の風に揺られて涼やかな音を立てた。
【クラス】
アサシン
【真名】
甘寧 興覇
【出典】
史実(後漢末期、中国)、 三国志演義
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力C 耐久D 敏捷B 魔力D 幸運C 宝具D
【クラススキル】
気配遮断:C-
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。が、身に着けている鈴の音は聞こえる。
【保有スキル】
勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
単独行動:D
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクDならば、マスターを失っても半日間は現界可能。
精神汚染:D
殺人嗜好を持ち、話が通じるようで通じない。人格面がキ○ガイに片足くらい突っ込んでいるのは呉ではよくある事。
他者との意思疏通ができないほど致命的ではない反面、精神干渉系魔術への耐性も微々たるものとなっている。
【宝具】
『濡須口決死隊(白羽、夜陰に舞う)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:1〜1000(召喚した決死隊の最大行動範囲) 最大補足:100
アサシンの現界と同時に濡須口の戦いにて彼女と共に夜襲をかけた100人の決死隊を召喚し、独自に行動させることができる。
100人の決死隊は単独行動:D、気配遮断:Dを持ち、装着したガチョウの羽を模した通信機型中華ガジェットにより即時の連携とアサシンや他の決死隊との情報共有が可能。
決死隊は名を残す程の英雄ではなく、全てのステータスもEランク、殺害された場合は消滅し聖杯戦争中の再召喚は出来なくなるが、相手の陣地へ襲撃を行っている場合に限り"濡須口を襲撃した甘寧と決死隊は犠牲者を出さずに帰還した"という逸話から、致命傷を受けて消滅したとしても撤退扱いとなり襲撃終了後に再召喚される。
アサシンが死亡、あるいは消滅した場合は連鎖して決死隊も消滅する。
【Wepon】
手戟×2
【人物背景】
三国時代の武将。
若い頃はならず者を寄せ集めてヤクザ紛いの自警団を結成していた。
当初は劉表、そしてその配下である黄祖に仕えていたが冷遇を受け耐えかねた結果、敵対勢力である孫権軍へと逃亡。『天下二分の計』を提唱するなどして、孫権から気に入られる。
その後は各所で武勇と知略を大いに奮い関羽や張遼といった豪傑を相手取って活躍を見せ、その中でも宝具に昇華された濡須口での襲撃戦での大勝は主君である孫権に「曹操には張遼がいるが、私には甘寧がいる。これは釣り合いがとれていることだ」と称賛を浴びるまでに至った。
その後の記述はなく、病死したとも、夷陵の戦いにおいて命を落としたとも言われている。
……というのが表の話であり、その正体は女性である。
どれだけ活躍をしても劉表軍での評価が芳しくなかったのは儒教文化が根強く、女性の立身出世自体が好まれなかった事に他ならない。
性別に関わらず厚遇してくれた孫権には忠誠を誓っており、晩年の迷走には深く心を痛めている。
性別を理由に自身を貶す相手にはいっさいの容赦がなく、例え上司からキツく殺さないように言い咎められても構わず殺す程度には冷酷。
【特徴】
日焼けした小麦色の肌とハネの目立つ黒髪のショートカット、額には赤いバンダナを巻き、中華ガジェットでもあるガチョウの羽をアクセサリとして身に付けている。
中肉中背の引き締まった体つき。普段は白地のシャツにジャンパー、ジーンズを着用。腰元には鈴をつけている
戦闘の際は下半身は足首まで覆うズボンを腰帯で止め、上半身は手甲と胸元が大きく開いた上着を羽織り、胸部はサラシで押さえている。巨乳。
【サーヴァントとしての願い】
特に考えていないが殿(孫権)に献上すれば喜んでくれるかな?
【マスター】
紅美鈴@東方project
【能力・技能】
気を使う程度の能力
気配りが上手いという意味ではなくオーラ、気と呼ばれるエネルギーを使う能力。
美鈴はこれを主に弾幕として体外に放出して使用したり、太極拳・八極拳などを取り入れた肉弾戦に併せて用いる
【人物背景】
吸血鬼の当主が住む紅魔館という建物の門番にして正体不明の中国妖怪。
性格は穏和で人当たりが良いものの暢気な一面もあり門番として優秀かと問われると疑問が出る場面も見受けられる。
自ら能動的に人を襲うことは滅多になく紅魔館のイメージアップにも貢献しているとか。
【マスターとしての願い】
聖杯に興味なし、紅魔館に帰る手段が勝ち残るしかないなら戦う。
投下終了します
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素材を使ってステータス情報が更新されました的な支援
本戦が始まったら真名当ても始まるんだろうな
投下します
あの世で俺は詫び続ける。
滅びた国、囚われた牢獄の中。
全てが終わった、荒涼とした風景。
犯した罪に怯えながら、永遠に懺悔し続ける。
俺こそは華々しき英雄の影。
ありふれた、勝利を約束された大団円に泥を塗った男。
伝説の勇者を、最悪の魔王にまで貶めた稀代の悪党。
その罪名を嫉妬。
光あるものを呪い、恨まずにはいられなかった、人間の弱さの象徴。
かの魔王の所業が不朽である限り、俺の汚名も消える日は来ない。
こんな筈じゃなかった。
ここまでする気はなかった。
こんな結果を迎えるなんて、思ってもみなかった
そんな言い訳の常套句を、いったい何遍繰り返したのか。
今更遅い。遅すぎる。何もかも、全てはとうに終わっている。
ここでどれだけ喚こうと、女々しい泣き言以外のなにものでもない。
けれど本当に、あの時俺は、こうなる事への覚悟なんて微塵も持っちゃいなかった。
あの山の頂で吐き出した、あいつへの怨恨の台詞は全て本物だ。
俺はずっと、あいつを羨んでいた。妬んでいた。
武術の腕。民からの称賛。勇者の名声。姫の寵愛。
俺が欲しがったものを、いつも目の前で掻っ攫っていくあいつが疎ましくてしょうがなかった。
殺してやりたいと願った数なぞ、両手の指では到底足りない。
可能な限りの努力をして、持ち得る力の全てを出し切ってもいつも僅差で届かぬ結果に、この世の神を呪った。
だからあの城で、隠し通路に俺一人だけが気付いた時は、生涯でかつてないほど舞い上がった。
囚われの姫を救い出す。夢にまで見て、永劫叶わなかったシチュエーションを堪能できた。
その後に仕掛けた知略にもあいつは面白いようにひっかかり、一転して逆賊に追い詰められた。
さらには姫も俺に同情を示し、寂しさを埋めてくれとその胸襟を開いてくれた。
絶頂だった。
あの瞬間に勝る快感は、どんなに言葉を尽くそうとしても伝え切れない。
これが勝者の陶酔。
あいつがいつも味わってきた美酒の味。
たまらない。気持ちがよすぎる。脳がたちまち蕩けていく。
知ってしまえばもう止まらない。何も考えられない。余計な事は考えたくない。
ただ、この気持ちよさのままに突き進みたい。
そんな野望ですらない茹だった妄想が、俺を断崖にまで急き立てた。
絶望的な状況を乗り越えて再び山を登って来たあいつを見ても、負ける気はしなかった。
理由も分からず増大していた魔力が、とっくに外れていた自制心を粉々に破砕した。
熱に浮かれた病人のように。
言葉も分からぬ痴呆のように。
友であった記憶など黒焦げに焼き捨てた勇者に、あらん限りの激情をぶつけて杖の魔力を解放した。
当たり前のように敗死した後。
魂だけが縛り付けられたように留まった山から眺める王国で。
俺はあいつの絶望と、嘆きと、怒りの深さを知った。
俺だけだった。
俺だけが、あいつを憎んでいた。
あいつは、俺が直接姿を見せるまで、俺を疑ってすらいなかった。
だからあの時、死に別れてしまったと思っていた親友と再会して、笑顔すら浮かばせていた。
そんなあいつに、俺は何をしたんだ。
生きていてよかったと喜ぶ声を切り捨てて、何を言ってしまったのか。
負ける者の悲しみなど分からないと、姫はあいつに言った。
なら勝ち続ける者だったあいつの、何を俺は分かってやれたのだろうか?
あいつに苦悩などないと、勝利に酔いしれているだけの愚者だと、本気で思っていたのか?
人々に成果を期待されて。
人々に重荷を背負わされて。
人々の為に生きる事を、宿命づけられた。
"勇者"の称号以外で見られなかった男が、報いてきたその全てに裏切られた。
誰よりも信じてやらなければならなかった俺が、誰よりも先に裏切ってしまった。
俺の醜さこそが、魔王だった。
俺の弱さが、勇者を魔王に変えてしまった。
けれどあいつへの憎悪を俺は捨て切れる事もできず、あまりにも多くのものを道連れにしてしまった。
勇者の剣で血を流す民を見る度に、俺の体が裂かれる痛みが襲う。
人々が叫ぶ度に、俺の心が削られていく。
本当に、ここまでする気はなかった。
俺はただ、あいつに勝ちたかっただけなのに。
武術でも。富でも。名声でも。権力でも。愛でも。
何か一つ、あいつに勝るものを持っていれば、この怒りも鎮められたのかもしれないのに。
生きてる者は誰もいなくなった、荒廃した土地。
同じように縛り付けられた魂が、誰に向けてでもなくうわ言を呟く。
あいつへの憎しみ。我が身の不幸を。
俺に突き刺さってくる呪いの言葉を。
ああ誰か、誰か、誰でもいい。
俺に機会をくれ。償う機会を。
雪ぎきれない汚名であるのは百も承知だ。
その為なら、どれだけの苦みが待っていても構わない。地獄の如き痛苦にも耐えて見せる。
愚かに過ぎた、俺の罪を糾す方法を教えて欲しい。
今も苦しみ、苦しみを増やそうとしている、あいつの傷を癒す奇跡をくれ。
黒々とした感情に飲まれて、いつの間にか見失い手元から消えていた。
そう。ただ一人の、あいつの友だった頃の男として向き合う為に。
「いいや、お前はお前を救いたいだけだ。
お前の醜さを直視しないでいられる、都合のいい覆いが欲しいだけだ」
―――――――――――――――。
いや、
そうだ、
そんな事は、
俺はただ、
決して……!
許されたいだけ。
…………………。
…………。
……。
◇ ◆
悪夢から目が覚めても、気分は重く、暗いまま。
激しい運動をしてもいないのに疲労感がつのっている。寝ていた体を起こすのすら億劫になる。
かといって動かないままでいても苦しみしかない。
疲れは取れるどころか、更にのしかかってくるだけだろう。
呆然とする時間だけは、あそこでは無限にあったのだ。
身動きすらできない頃を思えば、無理にでも体を自由にした方が何十倍も気が楽だ。
「……まるで老人だな」
上半身を起こし、顔の半分が隠れるほどの長髪をかき上げる。
ベッドのスプリングが軋む音を聞く。
考えられないほど上質で柔らかな毛布は、己の安眠の役に立った試しはない。
最新の売り出しとやらの家電でこの懊悩が解けるとしたら、それこそお笑いだろう。
そうなればこの生きていた時代からは何百年も過ぎた異国の地で、好きなだけ惰眠を貪っていられたものを。
寝間着を脱ぎ、はじめから用意されていたロッカーを開ける。
シャツという、現代に応じた衣服をおぼつかない動作で着る。
必要な知識はいつの間にか一般常識として頭に入っていた。
今まで死んでいた身でおかしな話だが、頭蓋を開かれたみたいでいい気はしない。
ただかえって既存の知識とのギャップがあって、たびたび脳が混乱してしまう。
こんな所に来てまで、俺は周囲に取り残されていた。
何も手につかない。
長すぎる時間で、考えるという行為を脳が忘れてしまっている。
肉体は蘇った。何の因果があったのか、俺はこうして生きている。
だが心は体(ここ)にはない。
俺の心はまだ、あの王国の跡に残されたままなのだ。
これでは死人と変わりない。
場所が変わったというだけで、以前の俺から何も変わっていない。
「いや……変わりたくないだけなのか、俺は」
とりあえず怪しく見られない程度に身なりを整える。
後は、常に低温のままでおける箱に詰めておいた食料を適当に出して腹を満たす。
外にも出ず、部屋の中で何もせずに、夜になるまで懊悩して、また眠る。
そんな腐った生き方が続いていく。裏切者の末路にしては上々だろう。
「…………」
腐ってはいるが、この生活は穏やかだ。
物資に困らず、命が懸かかるような荒事からは優先して遠ざけられる。
歴史の語る、平和な世の中とはこういうところをいうのだろう。
微睡みが体の内臓まで染み渡る。堕落するのはとても楽で安易だから、さっさと委ねてしまいたい。
「ランサー、来てくれ」
――――周りを占めていた甘い誘惑を振り切るように声を出した。
その言葉を出した瞬間、空気が変質する。
安寧も平穏もどこにもない。
覚えている。これは味わなくなって久しい、戦いの場での空気だ。
「―――――――ああ……俺を呼んでしまったんだな」
どこか落胆したような、男の声。
いや、これは諦観だろうか。
現れた光の粒子の集積は結び合い、固まり、厚い人間を形作る。
曇天の空を思わせる、鈍色の鎧。
中世を生きた俺には、むしろこの姿の方が目に馴染みがいい。
華美な装飾は見当たらず、王宮に仕える騎士としてはやや無骨過ぎると感じた。
ひたすら殺人の為に編まれ、血に煙る戦場を掻い潜って来たと分かる甲冑は、それ故に極まった機能美という華を備えていた。
その中で、装具の所々に痣のように浮かんでいる黒い紋だけは、人ならざる手が加わってるかのように妖しく映る。
そこから垣間見えるおぞましさに、ずっと忘れていた死の恐怖が蘇った。
それがこのサーヴァント・ランサーだった。
時代時代に名を馳せた英雄の現象。
俺のような半端者など及びもつかない、本物の勇者だ。
戦場で剣を持ち奮迅する光景は、悪魔すら恐れさせるだろう。想像するだけで背筋が凍る。
「おまえ、本当に俺が呼ぶまで、一度も出てこなかったな」
「それが望みであるならば……従うのが騎士というもの。
俺が言葉を挟んだところで……望まぬ破滅を引き寄せるだけなのもあるしな
何よりお前には時間が必要だ。傷つき、枯れ果てた心を休め……己を省みる暇が。
俺ですら目を疑った。これほどに擦り切れた魂が……俺以外にも存在したとは」
端正な顔に似合わぬ、重く低い声で紡ぐ。
全ての騎士にとって完成形のひとつにある男の、首から上の沈鬱な表情。
この騎士の全身からは、勇猛さとは程遠い薄気味の悪さばかりが付き纏っている。
相貌の両眼は、髪に隠れてもないのに影が差してるかのように暗かった。
瞳の色云々ではない、感情としての色が黒く塗り潰されている。
ふたつの窪み奥が暗黒の空に繋がってるのではないかと思うほどに、絶望に染まっていた。
俺も、他人にはこんな風に見られてるのかもしれないな。
ランサーが言った事と同様の気持ちを、俺は抱いていた。
どんな光景を見ればあそこまで光を失うのか。それを理解できてしまう。
命も信念も、自身が拘っていた心が崩れ、後悔と悲嘆を幾度となくも折り重ねていった果ての顔だ。
「それに、このまま消え入りたいと考えたのは俺も同じことだ。
そうして苦しみを抱かず永遠に眠りにつけれたなら……それはどれだけ幸福な事なのかと懊悩していたさ」
「……俺が死を望んでも構わないのか?」
「その方が救える結末もある……ということだ。
大勢傷つけて死なせて、多くの人に嫌われ憎まれて……頬が削げるほど声をあげて苦しみ抜いてから死ぬよりは……な」
ああそうだ。分かるとも。
あの時、落石によって死んでいた事にしていた方が、名誉ある死で悲しまれ終わっていたはずだ。
辿った最期はきっとどちらも同じだ、だからこその共感。
絶望を味わった者。どうやら、それが俺達を繋ぎ合わせた縁らしい。とんだ皮肉だ。
「望みは決まったのか……我が主」
ランサーが直球に、本題を切り出した。
聖杯戦争という、願いの争奪戦の舞台。
俺はこのランサーと共にサーヴァントと戦い、最後の一人になるまで戦うのだという。
そして勝者にはあらゆる望みを叶える願望器が与えられる。
間違いなく、過去の俺なら目を血走らせて飛びついていた話だ。
「俺には、もう望むものなんてない」
そう。もうどうとも思えない。
後生大事に持っていた心の矜持は砕かれ、粉になって消えた。
囚われていた魂は摩耗して、俺という人間をきれいに漂白してしまった。
自分を最も大きく占めていた友への憎しみすら、いまやまったく残っていない。
心の大半がないのだ。死人となるのも当然といえよう。
そんな今の俺に、まだ望みがあるとすれば。
それは俺の為ではなく、俺が貶めた人々に対してのものでしかなく。。
「けれど、願う事はある。
俺のせいで狂ってしまったあいつを……恐るべき魔王と化してしまった友を、救ってやりたい。
それが俺に出来る、唯一の贖罪だと思っている。これ以外の好機は、きっと期待できないだろう」
勇者と呼ばれた男は、全ての時空の人類を憎む魔王と変成してしまった。
全ては俺の醜さのせい。隠せなかったあさましい感情の暴発。
許されなくともいい。また殺されたっていい。虫が良すぎるのも理解してる。
俺は生きていて、動く体がある。だったら這ってでも、あいつの前に立たないといけない。
「そこまで心を決めておきながら……どうしていまだに悩んでいる?」
沈み行くランサーの問いに心臓がビクリと跳ねる。
俺は声もなく、広げた両手の掌をじっと見下ろし、顔を覆った。
「……自信がないんだ。それが本当に俺の願いなのか」
自分のせいで世界を滅ぼそうとする友を止めてみせる。
今度こそ、怨敵ではなく友人の立場で向かい合いたい。
そんな、勇者が活躍する英雄譚の一節にあるような殊勝な宣言を、俺はするような男だったのか?
時間の経過が感じられない牢獄で、俺は自らの負の感情を延々と見せつけられた。
深く反省し、血に頭を擦り付けるほど懺悔したからといって、そんな簡単に心を入れ替えられるものなのか。
「俺はただ……許されたいだけなのかもしれない。
あいつを救うなんて口当たりの良い言葉を方便に、慰めて欲しいだけなんじゃないか、迷ってしまう。
それを知るのが……とても怖い」
何を救う側に立った気でいる。
貶めたのはそもそもお前だ。お前がこの悲劇の元凶だ。
今更勇者の仲間に戻れると思う事が、お前の醜悪さの証明だ。
誰とでもなく、顔も見えない民衆に糾弾されるようだ。
罪人は罪人らしく、魂が残る限り永遠に苦痛にあえぎながら彷徨うのが筋というものなのに。
そうしてこそ、死んだ民の鎮魂になるのではないか。
「同じだな……俺と」
夢想を遮り、ランサーは同意の言葉を放った。
「俺も……本当にこの願いを叶えていいのか不安に思っている。
呪いが湧き出る底無しの湖。人が背負う事を放棄した"原罪"……それに連なる流れの具現を持ってしまった男が、俺だ。
俺に原罪を背負えるだけの器もない。だから溢れた呪いは漏れ出して……関わる人全ての運命を狂わせて殺す」
「……」
「はじめに契約した時に言っていたのを憶えているか?
『疑わしいと感じたなら躊躇いなく、俺を令呪で切って構わない』……と。
呪いがある限り……俺に近づいた者はみな死ぬ。
マスターとサーヴァントという契約の結び……俺を経由してお前も感染しているかもしれん」
「願いは叶わず、犠牲だけ増やして惨めに死ぬ、か?」
それは、なんていうお似合いの死に様だろう。
卑賤な裏切者に相応しい結末だと自嘲したくなる。
だがランサーの表情は皮肉など混ざってない真剣そのものだ。
「俺は最悪のサーヴァントだ。決して聖杯戦争には勝利する事が出来ないだろう。
他の英霊と比べても……そこはそう言える自負がある。
武芸の話ではない。意志の固さも……意味がない。
強弱、善悪には関わらずに……全ての運命を凶運に捻じ曲げ、起こりうる最悪の結果を引き当ててしまう。
本来であれば……俺がここにいるなど到底許されない。
俺自身ばかりか、傷つけるべきでない者をも巻き込み……死に絶えさせる英霊が求められる道理はない」
これまでの苦悩の数だけ刻まれたと表明するような目元の皺の奥で。
宵闇の中に隠れていた月の如く、瞳が決意の光を放っている。
「それでも……俺はここにいる。聖杯戦争の舞台で、サーヴァントとして召喚されている。
ならばそれが真実なのだろう。……どれだけ否定していても、天に浮かぶ小さな塵星だとしても……諦め切れるものではないらしい。
己が手で切り捨てた乙女の血を清め、三国を落とした槍を収め……今度こそ――――
かの王に仕えるに足る"騎士"として生きるという、俺の求めた理想を」
その時に思い知った。
この男はまだ折れてない。自分のように絶望に囚われていない。
夢見た理想を捨てず、あえぎながらも進もうとしている。
事情を知らぬ者から見れば、死してなお諦めぬ浅ましさと笑うかもしれない。
だが俺は違う。俺にはきっと、理解できる。
身も心も疲れ果て、何もかも失った。希望などないと諦めてなければおかしいというのに。
それでも手放したくないと思えるものがあるのなら……誰が何と言おうと、それこそがこいつの、唯一つの真実。
どうしてそれを、嘆くばかりだった俺が笑えるだろう。
「お前は、騎士に……王に仕えたかったのか」
「ああ。彼の王こそ我らが光。あらゆる暗雲を振り払う騎士の王。
敗北を知らず、私情を排し、祖国の善き未来を確約する理想の体現。
俺に幸運と呼べる事があったとすれば……間違いなくあの方に一時でも仕える栄を授かった機会に他ならない」
そう己の主の威光を語るランサーには、今まで張り付いていた怨念じみた闇が薄れていた。
少なくとも、俺はそう感じた。
辛苦を感じさせない、満天を見上げる少年のように晴れやかな笑みを、見た気がした。
……俺にも、こんな風に笑えた頃があっただろうか。
過去の記憶と情景は、鮮明に思い出せはしない。
牢獄の中で削れる心と共に、輝いた記憶から先に擦り減ってしまった。
いまの幻のように、こいつのように笑えるなら。
偽らざる、信じた思いを腹の底から声に出せたら。
未来に希望を見て、前を進む事が出来るだろうか。
「お前もそうであるはずだ、往き迷う迷う罪人よ」
「……え?」
またも見透かされたような物言いに俺は戸惑う。
「叶わぬ理想の夢に臨む……破滅は避けられないだろう。
だが案ずるな。俺が共にいる限り……始めから予定航路でしかない。
道は見えているのだから恐れる必要はない。後は如何にして……道を超えるかだ」
何の意味もないようで、凄い事を言ってのけた。
これからの道が既に不運と不幸で舗装されていると知っていて、恐れずに進むと。
分かりきった未来は乗り越えるだけだと。
それを臆面もなく言えるこいつが、素直に凄いと思った。
俺の行い、犯した罪は許されない。
罰は必ず待っている。泣いて逃げても猟犬のようにしつこく追い回してくる。
だったら俺は……この戦いでそれに立ち向わなければならないのか。
ただ罰を受けるだけではない、俺なりの贖いの方法を見つけ。
「我等は既に罪人。この双剣と聖槍が星の光を蝕もうと……己の真を疑わず進むがいい、ストレイボウ。
サーヴァントである俺はどこまでも付き合おう」
俺の名を呼ぶ。
ストレイボウ。
ルキレチア王国の勇者オルステッドの親友でありながら、劣等感から友を裏切り魔王オディオを生み出してしまった愚かな男。
穢れ切った忌み名。断崖の奥底に落ちて、誰かに拾い上げられるなんて思いもしなかった俺を、呼んでくれた。
「……ありがとう、ベイリン。お前が俺のサーヴァントでよかった」
だから俺も、お前の名を呼ぶ。
ベイリン。
ブリテンの伝説の騎士王アーサーに仕えながら、折り重なる凶運の呪いに翻弄され続け、兄弟で殺し合った哀れな男。
聖槍(ロンギヌス)に相応しくない所有者、無様な敗者の烙印を押され、新の担い手が躍り出る踏み台にされた男の名を呼んだ。
【クラス】
ランサー
【真名】
ベイリン
【出展】
アーサー王伝説
【性別】
男性
【身長・体重】
188cm・80kg
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力B 耐久A+ 敏捷B 魔力C 幸運E 宝具A++
【クラス別スキル】
対魔力:EX
宝具による祝福(呪い)によって、規格外の対魔力を保有している。
魔術を無効化するのではなく、"自分の傍にいる人物"に自動的に逸れてしまう。
【固有スキル】
心眼(偽):A
視覚妨害による補正への耐性。
第六感、虫の報せとも言われる、天性の才能による危険予知である。
姿隠しの力を持つガーロンを、ベイリンは己の感覚だけで見つけ出し、討ち取った。
戦闘続行:B+
元々の継戦能力に精霊の加護(呪い)が合わさって異様に"死ねなく"なっている。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、事切れる最後の瞬間まで苦しみ続ける。
血の乙女の呪い:A+
かつて斬り殺した湖の乙女から受けた契約。
戦場で危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せる「精霊の加護」に近いが、
その効果はより強力にして悪辣。所持者と周囲の人物の幸運を奪い、無理やりにでも生き残らせようとする。
勝利にこそ導くが、その結末が本人の望む光景である保証はない。
【宝具】
『破滅すべき勝利の剣(カリバーン・ルイーナ)』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜200 最大補捉:100人
湖の貴婦人が所有していた「最も優れた騎士にしか抜けない剣」。
双剣の知名度と呪いの逸話により、元々所有していた剣と統合され、二振りの剣の宝具となった。
上述の通り最も優れた騎士、すなわちいずれ聖杯を得る事になる騎士の為に造られた聖剣。
だが貴婦人に仕えていたさる乙女が、騎士が剣を取る時期より前に剣を持ち出してしまい(一節では兄を殺された復讐の為だという)、
当代で最も優れた騎士であるベイリンが鞘から引き抜いてしまう。
これにより、"選ばれし騎士ではない"のに"剣を引き抜いた"という矛盾のバグが生じ、
更に直後に貴婦人を斬り殺した事で、完全に魔剣へと変じてしまった。
真名解放により、凶運の呪いを帯びた暗黒の斬撃を十字状に放つ。
またこの剣でダメージを受けた相手は、行動のファンブル率が大幅に上がる「凶運」のバッドステータスが付く。
『悲嘆を告げし運命の槍(ロンギヌス・サヴァージュ)』
ランク:A++ 種別:対人、対国宝具 レンジ:0〜99 最大補捉:1000人
神の御子を刺した呪いの魔槍。御子の血を浴びた偉大なる聖槍。
「手にしたものは世界を制する」とまでいわれた、聖杯に並ぶ最上の聖遺物。
所持者の精神によって属性・性能が変化し、ベイリンが持てば呪いの波濤を十字状に放つ"原罪の具現"となる。
聖槍は運命を決める力を秘めるとされ、魔槍であるロンギヌスの魔力を浴びたモノは、
その身の運命を"破滅"に塗り替えられる。
傷は癒えず、形は戻らない。有機無機に関わらない不治の呪いに汚染されてしまう。
解呪するには同じく運命を覆す力、すなわち聖杯による奇蹟しかない。
ベイリンはこの宝具を絶対の禁忌とし、武器として使用する事さえ嫌悪する。
【人物背景】
ブリテンで、まだ円卓の騎士が成立する以前にアーサー王に仕えていた騎士。
通称「双剣の騎士」。その恐るべき戦いぶりから「蛮人」ベイリンと渾名されもする。
弟のベイランも同じく優れた騎士であり、全ての円卓が集った後も上位に食い込む武練であると評され、
あるいは円卓においても無双を誇るランスロット卿とガウェイン郷にも届き得るのではないかとも噂されたが、
その席に座る日は終ぞ来なかった。
アーサー王の元にさる乙女が「最も優れた騎士にしか抜けない剣」を携えて来た事が、ベイリンの運命の始まりだった。
誰もが挑戦し諦める中、ベイリンは容易くこれを引き抜くと、乙女は急に剣を返還するよう迫る。
そこに剣の所有者である湖の貴婦人が現れ、剣を持ってきた乙女か、あるいはその剣を抜いた騎士の命を要求した。
貴婦人は語る。その剣はいずれ来たる選ばれし騎士が抜く選定の証。いま地上に在ってはならぬものを、復讐の為に乙女が持ち出したのだと。
事情を知ったベイリンはしかし、返す剣で貴婦人の首を斬り落とした。
……ベイリンもまた貴婦人に母を奪われており、その報いを与える機会を待ち望んでいたのだ。
騎士王の城を女の血で穢した事。その女が王の持つ聖剣の持ち主でもある湖の精霊である事。
全てを承知し、極刑を覚悟でベイリンは本懐を遂げた。しかしアーサー王は、城からの追放という罰のみで彼を免じたのだ。
「湖の貴婦人を斬った行いは罪である。しかし母の仇を討ち、また乙女を救うべく自ら罪を被った行いは功である」
王の判決にベイリンは、これこそ私情を排した理想の王だと忠誠を誓い、いずれ必ず王の助けに馳せ参じると決意し城を去った。
貴婦人の血を吸い、「愛するものを殺す」呪いを帯びた、魔剣を罰の証として手元に置いて。
ベイランと共に続けた贖罪の旅。
アーサー王と争うリエンス王の軍勢を蹴散らし生け捕りにする殊勲をはじめ数々の功により、
一時キャメロットに帰参する許しを得るも、未だ魔剣を解呪する術は見当たらない。
途中ベイランと別れ、不可視の力を持つ卑劣なる騎士ガーロンを討つべくある城に潜入する。
そこはガーロンの兄ペラム――――漁夫王の住むカーボネック城。
ガーロンを討つも弟を殺されたペラム王はベイリンに兵を向かわせる。
潜入の為丸腰で来ていたベイリンは咄嗟に壁にかけられていた槍を手に取り――――――――そこで、呪われし運命は花を開いた。
ベイリンに染み付いていた貴婦人の呪いにより暴走する槍、ロンギヌス。
その被害は城のみならず三つの隣国まで崩壊させ、ペラム王は癒えぬ傷を負う。
己は取り返しのつかない過ちを犯した。最早王の元に戻る資格はなしと、ベイリンは死に場所を求めて彷徨う。
運命の終着地。「騎士と戦い倒さなければ先へ進めぬ」という島で、ベイリンと騎士は互いに瀕死の重傷を負う。
末期の騎士に名を訊ねられベイリンは答えると、騎士は愕然とした様子で兜を脱ぎ――――
ベイリンは呪いにより島から離れられぬ身となった、弟ベイランの悲嘆と絶望の顔を見た。
ベイランが死してから半日もの間、ベイリンは己の行いを悔いながら絶命した。
二人の死体は遺言に従い、同じ墓に埋葬されたという。
【特徴】
不幸。
白髪まじりの茶髪。鈍色の鎧には僅かに黒い痣のような模様がある。
端正な顔つきだが、度重なる絶望で表情は暗く、やさぐれ気味。超ネガティブ。目が死んでる。
義理人情を重んじる、紛れもなく正義の人なのだが究極的に運が無く、善だと信じた行為が悉く裏目に出てしまう。
弟曰く、単独でいるといつの間にか事態が悪化してしまう、割とノリで動くタイプ。
ランサーのクラスだが、呪いで装備が外れないため基本双剣で戦う。
同時にセイバーのクラスで呼ばれたとしても、やはり槍は除外されず装備した状態で召喚されてしまう。
【サーヴァントとしての願い】
呪いの解除。
ただ願いを叶える段階で呪いが発動し、最悪の結末を引き抜いてしまうのではないかという恐れがあり、ほぼ諦観している。
しかし、それでも。僅かに残った一念だけはその可能性に懸けたかった。
【マスター】
ストレイボウ@LIVE A LIVE
【能力・技能】
魔法使い(魔術師)として数々の魔法(魔術)を習得。
一番に立てなかったというだけで、彼自身もまぎれもなく一流である。
【人物背景】
ルクレチア王国一の魔法使いであり、勇者オルステッドのよきライバル。
……であったのも、遥か昔。
常に自分の先を行くオルステッドに憎悪を募らせていき、やがて訪れたオルステッドを出し抜く機会に全てを賭けた。
全てが終わり、彼は後悔する。
こんなはずじゃなかった。ここまでする気じゃなかった。
感情に支配された男は犯した罪を嘆き続ける。
「俺の…せいなのか…あいつが…あんなになってしまったのは…」
【マスターとしての願い】
贖罪。
だがそれすらも我が身可愛さなのではないかと懊悩している。
確かなのは、今の彼は罪と罰の贖い方に迷う一人の男である。
異常で投下を終了します。
最後に、投下したステータスの下記に一部修正します
【ステータス】
筋力B 耐久A+ 敏捷B 魔力D 幸運E 宝具A++
投下します。
暖簾を潜り赤提灯から路上へと出たその男は冬の夜の空気に身体を身震いさせた。
しかし本当は寒さなどで震えたのではなく、これは不思議なことに今し方この男の中で世界の認識が変わったのだった。
逡巡したのは秒の半分。傍目には全くそうと気づかせないそぶりで男は路を歩き始める。
着古した背広を纏った禿頭の中年男性である。
歳で言えばもう老人と言ってさしつかえないが、肌の表面から発する活力がそれを阻んでいた。
背はそれほどに高くはなく身体は横に幅があり襟元は実に苦しそうだ。
一見すれば肥満。飲み屋から鼻の頭を赤くして出てきた様を見れば不健康だとそう思う者もいるだろう。
だが、見る者が見れば全く逆の印象を男は持っている。
太い首には全くの弛みがない。張った腹は硬く、足音はこの男が見かけ以上に重いことを知らせてくれる。
潰れた鼻も丸まった耳も生来のものではない特徴を持ち、なによりがグローブのように丸く膨れ上がった拳だ。
男は暗がりへと進む角を曲がりながらにぃと笑った。右目には黒の眼帯。
彼は空手家であった。名前を“愚地独歩”という。
*
まばらな街灯が辛うじて夜から人を守っている細い路地。
人気も消え、ここいらがちょうどいいかと思ったところで独歩はおもむろに振り向いた。
背後。いつからそこにいたかも判然としない眼前のそれに独歩は驚く。驚く、というよりも怪訝な顔をした。
「…………アンタ、なのかい?」
英霊――そう言うからにはどんなものが現れるかと思いきや、独歩の前にいるのは貧相極まりない老人だったのだ。
そこらのホームレスとなんら変わらない襤褸の風体。
歳は独歩の倍はとっているように見える。体の嵩は半分もないだろう。まるで鶏がらのように痩せた体躯。
目つきだけが異様で、ギラギラとした視線をこちらへと投げかけてくる。
「その、“サーヴァント”だっていう……?」
独歩は不思議に思った。何故か、この男とどこがで会ったことがあるような気がする。
目を細め仔細に観察した。格闘技の達人だろうか? 例えば膂力を必要としない柔術や合気道、はたまた暗器術。
そうではない。格闘技でも武器術でもない。それはわかる。だが、何かを一生続けた身体だとは判別がつく。
明らかに殴られて潰れた鼻。これは関係ないか。
では首に浮かんだ瘤はどうだ? なにに従事すればあんな首になるのだ。
襤褸の裾から見せる両手はどちらも猛禽のように節が浮いている。
手。打撃?――否。組技?―否。いや、そうではない。それは、この手が生み出すのは――。
「そうか、……こ、“こう”だ」
独歩は身体を捻りながら右腕を上に、左腕を心臓を守るように前に水平にと構える。
どちらの掌も握らず、さりとて伸ばしきらず、生まれたての赤子のような自然の形で。そして僅かに腰を落とし、右足を半歩下げる。
それは、空手で言うところの“天地上下”の構えに酷似していた。
だが、真ではない。
「ほう」
初めて目の前の老人が声を漏らした。
「俺ァ、アンタのことを知ってるぜ。見たことがある。この……“キリスト”を描いた人だ」
その構え(ポーズ)――正しく言うならば“最後の審判”。
「その後、像も見た。あの有名なヤツだ。英雄の……。俺ァどれもこれも気にいって、柄にもなく売店で画集を買ったんだよ」
だから知っていたのだ。
それは独歩が若かりし頃の記憶だった。まだ神心会を立ち上げる前も前の話。
地下闘技場の闘士として実績を積み上げる傍ら、強いヤツの話を聞けば誰彼構わず相手を選ばず道場破りをしていた頃のこと。
偶々、前を通りかかった美術館。
独歩はその芸術家の名前は知らなかったが、ポスターに描かれた男の筋肉を見て気まぐれに入場券を買ったのだった。
「すげぇな……光栄だぜ」
目の前にいる男。この英霊の名は――ミケランジェロ・ディ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニ。
天使の名を持つ、芸術史上、“最強”の男である。
.
*
「……しかしアンタ。いや先生だ。その、先生は戦えるのかい?」
当然の疑問だ。本の中だけでしか語られないような偉人と出会えたことは喜ばしい。だが事はそれだけではない。
これは聖杯戦争であり、マスターとサーヴァントは二人三脚でこの闘争を戦い抜かなくていけないのだ。
「服を脱げ」
「へ?」
その返答に独歩は間の抜けた声を出してしまった。ミケランジェロはそんな独歩をじっと見つめているだけ。
有無を言わさぬ迫力に気圧され、独歩は冬の夜の下、するすると服を脱ぎ始める。
背広を脱ぎ畳んで路上に置く。シャツを開き、ベルトを抜き取り、ズボンを下ろしてそれらも先に倣わせる。
「下穿きもだ」
「ストリップをしろってか」
軽口を叩きつつも独歩は厭わない。命令のままに褌すらも脱ぎ地面に置いた。
「どうでェ……まだ現役だ」
逸物も露に裸の姿を自身ありげに見せびらかす独歩。この寒さの中であるというのに鳥肌のひとつも立ってはいない。
だがミケランジェロとはいうとそんな独歩に言葉を返すこともなくまんじりと睨みつけ、不意に手を伸ばしてきた。
ここにあるのは石だとばかりに、困惑する独歩に構うことなくべたべたと肉に手を這わせる。
厚い胸板から肩から腕へ、腹も背中も尻も、太ももから膝と脛、とうとう足の爪先までしげしげと観察した。
「“これ”はどうした?」
また不意に今度は左腕を取り独歩に迫る。これとは、左手首にぐるりと回った薄い傷跡のことだ。
「ああ、そいつは一度スパッと――」
「縫い直したというのか……」
かつて脱獄した死刑囚を相手に“なんでもあり”をした際に独歩はこの左手首を切り落とされたことがある。
再接合されたそれにミケランジェロは舌を巻いていた。
実はミケランジェロは人体の解剖に通じている。石の中から掘り出した人物の数より生の人体を刻んだ方がよほど多い。
だがこれは当時の最先端を行く芸術家なら当然のことだ。人体を正確に知るには実際に人体を解剖(バラ)すしかない。
つまり、だからこそこの現代医術をもってしても難を極める再接合手術――その異様さを彼は理解できるのだ。
「臭うな」
その左手に潰れた鼻を近づけるとミケランジェロは犬のようにくんかと鼻を鳴らす。
独歩としてはさて手を洗ったのはいつぶりだろうと思うところだったが、その心配は的外れだった。
「獰猛な獣を殺したな。……四足、……牙を持ち、襲う、……襲わせた…………獅子か?」
独歩は彼の嗅覚にぞっとしながら答える。
「いいや、虎だ。似たようなもんかもしれねぇが……」
それは謙遜だ。獅子と虎とでは全く違う。虎と立ち向かう方が獅子を殺すよりも比較にならない危険が伴う。
ミケランジェロは独歩の答えにはじめて喜びの感情を顔に表した。笑ってはいないが独歩にはそう感じられた。
「ここにいいのがいる――掘り起こしてやろう!」
言うなりミケランジェロは両腕を上げる。いつの間にかにその手にはノミと槌が握られていた。
.
*
「こっ……こいつはぁ……!?」
独歩の声には驚きと、それ以上の喜びに満ちていた。
身体に、四肢の隅々までに力が漲っているのだ。
痛めに痛め、この齢まで酷使してきた己の身体。いくら常に今が全盛期だと虚勢を張ってもその実、衰えは否定できない。
老練する技術と老いさらばえる身体。技術と経験が身体の衰えを誤魔化しきれなくなった時、武術家は終わる。
それは人間である以上の宿命であり、独歩にしても遠からず予感していることであった。
「おっ、ほ……ほほっ。こいつはすげェ……」
それが今は全く違う。まるで時計を逆回ししたかのように全身は瑞々しい力を取り戻していた。
間違いなく、身体能力としては全盛期だったと胸を張って言える時期のものに――いや、それより遥かに。
「戦うのは“お前”だ」
今更ながらの回答に独歩は頷く。
「そうかいそうかい、そいつはありがてェ。元々、人の後ろからあれやこれやと指図するのは性分じゃなかったんだ」
理解が生まれる。ミケランジェロは闘士を強くする英霊なのだ。
独歩の、全盛期の力と極まった空手の技術で最強の相手と戦いたいという願望を実現する唯一の英霊。
「そいつを寄越せ」
「へ?」
ミケランジェロは独歩の左手の甲に浮かんだ虎の文様――令呪を指差している。
「仕事を完遂するには貴様自信の魔力(もの)だけでは到底足りん。それも、俺に全部寄越せ」
「するってぇと……?」
ミケランジェロが頷けば独歩は躊躇しなかった。
サーヴァントを使役するマスターとしては暴挙中の暴挙であったが、独歩は、ミケランジェロですらそれに構う人間ではなかった。
そしてそれから5分後、ただの寒々しい路上の上に新しい英傑が誕生していた。
誰もが夢見る。誰よりも彼が夢見ていた――史上最強の愚地独歩。
文字通りに空を切る正拳。縮み力を溜め、勢いよく開放する、まるで鉄でできた発条のような筋肉。
空手家人生の中で受けたありとあらゆる傷の痛みが今は全く感じられない。
自然と笑みが零れ、実際に笑いも止まらなかった。
だが、傍らに立つミケランジェロはまだ不満げだ。
「“完成”にはまだかかる」
かつて、神話に語られる英雄ヘラクレスは獅子を退治すると続けざまに試練を超え、最後には12の功業を成したという。
「全てを平らげろ」
そうすればと、ミケランジェロは言う。
「俺がお前の中に“いる”テオゲネス(武神)を掘り起こしてやる」
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【クラス】 キャスター
【真名】 ミケランジェロ・ディ・ロドヴィーコ・ブオナローティ・シモーニ
【出典】 史実(16世紀イタリア)
【性別】 男
【属性】 秩序・善
【ステータス】 筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:A 幸運:B 宝具:A
【クラススキル】
陣地作成:A
偉大なる建築家としての“側面”も持つミケランジェロからすれば工房を超える神殿を形成することも容易い。
ただし、完璧を目指すがあまりにその形成速度は極めて遅い。
道具作成:B
ミケランジェロの生み出したものはただそれだけで神秘と呼ぶに相応しい。
【保有スキル】
【芸術の終着点(ベルラ・マニエラ)】:EX
芸術という人間の所業を完結させたミケランジェロにおいては、その全てが正答とされる。
このスキルを保有する者は、ありとあらゆる判定が必要とされる場面において実際の可能性の有無を無視して成功する。
【宝具】
【真の芸術作品は神が与える完成の影にすぎない(ラ・ベラ・アルテ)】
ランク:A 種別:対物宝具 レンジ:1 最大補足:1
神こそが真なる美を持つ1であれば、その写し身たる人間の最大限に美を追求した姿もまた同じく1であることは疑いがない。
つまり、故に、人間の持つ美の極致。鍛え上げられた筋肉美こそが真の芸術なのである。
英霊となったミケランジェロは
もはや物質(マテリアル)非物質(アストラル)の区別なしに、そこに内在する可能性を芸術作品として掘り起こすことができる。
そのモノの内に英傑がいればそれを、竜がいればそれを発現させることができるのである。
ただし、その可能性の強さによって完成するまでに必要とする魔力と時間は比例して大きく長くなってゆく。
補足1:神は下穿きを身につけない
この宝具の効果は芸術的観点により衣服を纏うとその効果を発揮しない。
具体的には上下の衣服を着ていると効果は0。下穿きだけならおよそ8割から9割。全裸で10割となる。
補足2:テオゲネス
ミケランジェロが愚地独歩の中に見出したのは、ヘラクレスの子とも呼ばれた古代ギリシャの格闘者である。
ボクシングやパンクラチオンの試合でオリンピアを始めとする4大大会において常勝無敗の記録を更新し続けた。
まさに武神と呼ばれるべき存在だといえるだろう。
【人物背景】
イタリア盛期ルネサンス期の彫刻家であり、画家でもあり建築家でもあり詩人でもある芸術家。
西洋美術史のあらゆる分野に多大な影響を与えたことから万能人とも呼ばれるが、
本人は彫刻こそが芸術の極みであり、他はそれに付随するものか次元の低いところに位置するものでしかないと言っている。
存命中に伝記が出版されており、現代において評価される芸術家の中では珍しく当時から多大な評価を受けていた。
そして、そのルネサンスに終着をもたらしたという評価は今も昔も変わらない。ミケランジェロこそが究極の芸術家である。
【特徴】
襤褸を纏った老人。
自身の見てくれには構わず、常に作業着姿で昼夜を過ごしていた為、英霊としても同じ格好をとっている。
【サーヴァントとしての願い】
より芸術に身を捧げる時間と機会を得る。
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【マスター】 愚地独歩@グラップラー刃牙シリーズ
【能力・技能】
空手及び空手家として勝利する為に身につけたあらゆる技術と知識。
【人物背景】
世界最大の勢力を誇る空手道(フルコンタクト空手)団体・神心会の総帥。
若かりし頃は地下闘技場の正闘士であり生ける伝説とまで言われた空手家である。
仇敵である範馬勇次郎と対戦する為に地下闘技場へと復帰してからは、その後の様々な戦いに顔を出している。
【マスターとしての願い】
“地上最強の空手家”になる。
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投下させていただきます
本当にほしかったものに気づいたのは、命が尽きる間際のことだった。
それは目の前にあった。ただ、見ていなかっただけだった。
あの形で人生を終えたことに、悔いは無い。
だがもし、もう一度やり直せるというのなら……。
◆ ◆ ◆
「……これが僕という、愚かな男の人生だ。暇潰しくらいにはなったかね、アサシン」
町外れの廃ビルの中で、一組のマスターとサーヴァントが顔をつきあわせていた。
マスターの名は、伊東鴨太郎。
ここではないどこかの世界の日本で自分の所属していた組織を乗っ取ろうと企み、そして死んでいった男だ。
たしかに死んだはずの彼は、いかなる奇跡か気が付けばこの冬木の地にいた。
ちぎれ飛んだ腕を始めとして、傷は完全に癒えていた。
そして混乱する伊東に与えられたのは聖杯戦争の知識と、アサシンのサーヴァントだった。
「世界が一つじゃないってのは、英霊になってから得た知識で知っていたが……」
これまで伊東の身の上話を黙って聞いていたアサシンが、ゆっくりとしゃべり出す。
「世界が違っても、似たようなものは出てくるんだな。
『しんせんぐみ』の近藤、土方、沖田か……」
「まったくだ。僕もあなたの真名を聞いて、心底驚いたよ。
世界の壁を越えてまで、また土方という名前の男と出会うとはね」
そう、アサシンの真名は土方歳三。
新撰組の副長として幕末にその名をとどろかせた男である。
そして、伊東の好敵手と非常によく似た名前を持つ男でもあった。
「まあ、これも何かの縁だ。仲良くやろうぜ、マスター。
俺はあんたの名前にいい思いは抱けねえけどなあ」
「まあ、名前はともかく……。仲良くはやっていきたいと思う。
生前……と言っていいのかはわからないが、かつての僕は他人との絆をものにできなかった。
それを手に入れれば……違った生き方ができる気がする」
「甘っちょろいこと言ってやがるなあ。これから殺し合いやるんだぜ、俺たちは。
そんなんで本当に大丈夫かよ」
辛らつな言葉を吐く土方。しかし、その顔には笑みが浮かんでいた。
「まあ、あんまりきついこと言うのも可哀想か。話を振ったのはこっちだしな。
仲間同士で信頼を深めるのは、何も悪いことじゃねえ。
とっさの連係が必要になることもあるだろうしな。
勝つために、やれることはやっておくべきだ」
「勝つために、か……。そうだな、僕は勝ちたい。
本来死人であるはずの僕が願いを叶えようとするなんて、おこがましいのかもしれないが……。
それでも僕は、やり直せるものならやり直したいんだ」
「やり直す……」
土方は、ふいに天井を仰ぐ。
(もし、もう一度やり直したとしたら……俺たちは勝てるのか? 新撰組は壊滅せずに済むか?
いや、おそらくは無理だ……。しょせん俺たちは、時代についていけなかった連中だ。
仮に無理やり勝たせたとしても、それは日本の未来を歪めることになる。
高確率で、悪い方にな……)
土方の口元が、自嘲に歪む。
「何か……?」
「いや、たいしたことじゃねえ。ちょっと考えの整理をな」
不安げな伊東に対し応える土方の顔は、すでに平静を取り戻していた。
「とにかく、俺は戦って勝つことが目的だ。聖杯はおまえさんが好きに使えばいい」
「ああ、遠慮無くそうさせてもらおう」
「それじゃまあ……改めてよろしく頼むぜ、マスター」
土方が、無造作に手を差し出す。
伊東は少し考えたあと、その腕を取った。
(もう少し早く、こうして他人の手を取っていれば……。
いや、それは今思うべきことじゃない。
それをやるために、僕は戦うんだから)
伊東鴨太郎の新たな戦いが、ここに始まる。
【クラス】アサシン
【真名】土方歳三
【出典】史実(日本・幕末)
【性別】男
【属性】秩序・悪
【パラメーター】筋力:B 耐久:C 敏捷:C 魔力:E 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
気配遮断:C
自身の気配を消す能力。完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
軍略:C
多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。
仕切り直し:B
戦闘から離脱、あるいは状況をリセットする能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻し、技の条件を初期値に戻す。
同時にバッドステータスの幾つかを強制的に解除する。
拷問技術:A
卓越した拷問技術。拷問器具を使ったダメージにプラス補正がかかる。
心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
【宝具】
『誠の旗』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1-50 最大捕捉:200人
新撰組隊士の生きた証であり、彼らが心に刻み込んだ『誠』の字を表す一振りの旗。
一度発動すると、かつてこの旗の元に集い共に時代を駆け抜けた近藤勇を始めとする新撰組隊士達が一定範囲内の空間に召喚される。
各隊士は全員が独立したサーヴァントで、宝具は持たないが全員がE-相当の「単独行動」スキルを有しており、短時間であればマスター不在でも活動が可能。
また、隊士によっては魔剣の域に達した剣術を使用可能なため、総合的な攻撃力は高い。
ちなみにこの宝具は新撰組の隊長格は全員保有しており、
効果は変わらないが発動者の心象によって召喚される隊士の面子や性格が多少変化するという非常に特殊な性質を持つ。
土方が使用した場合は、拷問などの汚れ仕事を行ってきた悪い新撰組として召喚される。
【weapon】
「和泉守兼定」
生前からの愛刀。特殊な力はない。
【人物背景】
幕末の京都を守護した「新撰組」の副長。
厳しい規律で隊士を統率し、「鬼の副長」と恐れられた。
戊辰戦争においては各地を転々としながら終盤まで新政府軍に抵抗を続け、最後は函館・五稜郭にて戦死することとなる。
なお今回はアサシンでの召喚ということもあり、おなじみの浅葱色の羽織ではなく黒い着物を着用している。
【サーヴァントとしての願い】
勝利を味わう
【マスター】伊東鴨太郎
【出典】銀魂
【性別】男
【マスターとしての願い】
真撰組入隊時から、人生をやり直す
【weapon】
無銘の日本刀
【能力・技能】
頭脳は優秀。剣術の腕もかなりのものである。
【人物背景】
真撰組入隊からわずか1年で、参謀という地位を手に入れた人物。
他の隊士たちが苦手な外部との交渉を一手に引き受け、局長の近藤からも篤く信頼されていた。
幼少期は文武両道の神童であったが周囲からは嫉妬しか向けられず、次男であるがゆえに両親からも冷遇されて育つ。
それ故に歪んだ自己顕示欲が膨らみ、自分の力を他人に認めさせることに固執するようになった。
敵であるはずの攘夷志士・鬼兵隊と手を組んで真撰組の乗っ取りを企てるが、元より鬼兵隊からは捨て駒としか見られておらず、まとめて始末されそうになる。
その中で裏切り者の自分を守ろうとする近藤の姿に自分が真に欲していたのは「他者との絆」であること、
そしてそれはすでに真撰組の中にあったことを知る。
しかしその時にはすでに致命傷を負っており、最後は土方によって裏切り者ではなく仲間として葬られた。
【方針】
聖杯狙い。
投下終了です
投下します
竜は、まどろみの中である記憶を思い起こす。
光差さぬ薄暗い洞窟。
その暗闇を吹き飛ばさんばかりの輝きを放つ黄金の山。
財宝を守るべく立ち塞がる、鋼鉄よりも硬い鱗を纏った巨大な竜――それが自分。
財宝を奪うべく立ち向かう、一振りの長剣を携えた灰色髪の剣士――それがあいつ。
竜と剣士の戦いは、三日三晩は続いただろう。
竜は口腔から猛毒の吐息を浴びせかけ、どんな名剣よりも勝る鋭い爪を振るった。
剣士は頑健な肉体と鍛え上げた技術を存分に躍動させ、吐息を躱し爪を弾いた。
どちらにも決め手はなく、どちらにも退路はない。
お互いの存在を消し去るべく戦い続け、永遠とも一瞬ともつかぬ果てに立っていたのは竜ではなく剣士だった。
勝敗を分けたものは何だったのか、それは今になってもわからない。
案外、ただの運かもしれない。
だが竜はこうも思うのだ。
たとえ何十何百、あの戦いを繰り返したとしても。
物語の悪役が、常に正義の味方に打ち倒されるように。
『邪竜』と呼ばれたファヴニールが、『英雄』と呼ばれたジークフリートに勝る道理など、決して有りはしないのだと。
◆
一人の男が細めた眼で夜の街並みを眺めている。人の営み、日が沈んだ後もなお眠らない摩天楼。
しかし男は、その喧騒がどこか薄っぺらく、偽物のような――演じられたものであることを、見抜いていた。
「こんな形でかつての敵国……ニホンを訪れることになるとはな」
ぽつり、呟いた声は様々な感慨を含んでいた。
男の名はスティーブ・ロジャース。またの名をキャプテン・アメリカ。七十年の時を越え、現代に蘇った超人兵士。
「本物の日本ではないというのに、な」
スティーブの中には戦時中の記憶が色濃く残っている。
三十年ほどの彼の人生の中で、およそ二十年ほどを過ごした時代。
第二次世界大戦と呼ばれた戦争は世界を二分していた。
スティーブ、キャプテン・アメリカはその片方、連合国軍の兵士として枢軸国軍と戦っていた。
日本は枢軸国側、つまりは敵国だ。
キャプテン・アメリカが所属する部隊は主にドイツ軍と戦っていたため、実際に日本軍と銃火を交わした経験はない。
それでも、いざ自分がそのかつての敵国の土を踏んでいるとなれば、やはり複雑な思いがある。
首を振って感傷を吹き払う。今は、過去に思いを馳せている時ではない。
スティーブは自分が置かれている状況を改めて意識した。
最後の記憶は、たしかバッキーを見送った後だったはずだ。
冷凍睡眠に入るバッキーに付き添い、身を寄せているワカンダ国の王と話し、割り当てられた自室に戻る。
僅かな休息、忍び寄ってきた睡魔に身を委ね、そこから次に目蓋を開くとここに立っていた。
頭の中に仕入れた覚えのない知識を詰め込まれ、手の甲に盾を模したような不可思議な文様を刻まれて。
何より驚いたのは、その文様を刻まれたスティーブの手の中に、捨てたはずの盾があったことだ。
友への謝罪の印として、あの冷たい雪の城に置いてきたはずの盾が。
聖杯戦争。サーヴァントという超常の存在を従えて、最後の一人と一騎になるまで戦い続ける死の遊戯。
勝ち残った者は、あらゆる願いを叶える願望機――聖杯を手に入れる。
聖杯。質の悪い冗談だ。まるでキューブのようではないか。
ナチスの身を食い破って生まれた秘密結社ヒドラ。彼らがどこからか手に入れた、現世界の理を超越した謎のエネルギー体――キューブ。
手に収まるほどの大きさでありながら、世界を揺るがすほどの力を秘めた物質。
用途こそ違えど、聖杯もキューブも、ともに人の手にあってはならない禁断の果実だ。
願いを叶えるという美辞麗句の裏で、一体どれだけの血を流すことを強要するのか。
スティーブの、キャプテン・アメリカの取るべき方針は決まっている。
戦闘行動の鎮圧、危険人物の制圧、しかるのち聖杯を確保。舞台の影に潜む黒幕の打倒。
「ワカンダとの連絡は不能。サムやバートン、ワンダの援護もない」
身につけていた通信機の類は没収されたか、今はない。
苦労して見つけた公衆電話からワカンダ中枢へ繋がる中継ポイントにかけてみたものの、不通。
完全に外界と隔離されたか、あるいは先んじてワカンダ国そのものを壊滅させられたか。
もしくは……考えたくはないが、この冬木市そのものがスティーブの知る『現在の世界』と違う場所にあるか。
スティーブ自身は行ったことはないが、ソーの住まうアスガルドやかつて侵攻してきたチタウリの世界など、知性体が存在する世界は一つではない。
そういった別の世界に連れてこられているのならば、仲間たちの救援はほぼ望めないだろう。
だが、孤立無援というわけでもない。
スティーブは振り向き、そこにじっと佇んでいた人影を手招きした。
「すまない、待たせたな」
のっそりとその人物は近づいてくる。
190cmに迫る長身のスティーブよりもなお頭一つ高い。
荒野を思わせる褐色の肌を、ぴったりと張り付く黒い衣が覆う。
短くまとめられた銀色の髪、銀色の瞳。尖った耳の上からは、天を目指す尖角(ホーン)が伸びる。
彼こそがスティーブ・ロジャースのサーヴァント、バーサーカーである。
「考えはまとまったのか、マスター」
「ああ。僕には聖杯は必要ない。しかし戦いが起こるのならば放置もしない。
聖杯を望まない者は保護し、聖杯を望む者は止める。最終的に、聖杯は壊すかどこかに封じる。誰の手にも渡らないように」
言葉短く、だが断言する。
聖杯を奪い合う戦いに興味はないが、それに巻き込まれた者を放っておくことはできない。
積極的に戦う者についてはまず説得を試みるが、状況が状況だ。通じなければ実力で排除するのも已む無しだろう。
「万能の力、願いを叶える杯。そんな物は人の手に収まってはならない。
そんな力は必ず人を狂わせ、新たな悲劇を起こす。だから僕はこの戦いを止める、そのために戦おうと思う」
「そうか。困難な道だが、俺を上手く使ってくれ」
「ん……君は良いのか? 間違いなく反対されると思っていたが」
あっさりと恭順を示したバーサーカーに、スティーブはやや拍子抜けした心地で尋ねた。
この戦いはマスターだけでなくサーヴァントにも意義がある。聖杯がもたらす奇跡は彼ら過去の英雄の願いすらも叶え得るのだから。
聖杯を否定するということは、サーヴァントの願いもまとめて否定することと同義だ。
だからこそ、合理的に考えるならば、スティーブは正直にそれを打ち明けるべきではなかった。
なにか当たり障りのない適当な嘘をでっちあげて、バーサーカーの協力を取り付ける。
そしていざ聖杯を確保した後で、サーヴァントへの絶対命令権――令呪を使い、彼の反抗を封じる。
これが一般的な魔術師の考える最適解だ。
つまり、スティーブ・ロジャーズが決して選ばない答えであるのだが。
「君はバーサーカーというが、こうして話もできる。僕の方針が何を意味するかはわかっているだろう?」
「構わないさ。俺には願いはない……少なくとも、聖杯に掛ける願いは。
こうして召喚された以上、マスターに従う。俺はそれだけでいい」
「なんだか投げ遣りだな。もしかして、あまり乗り気じゃないのか? いや、願い以前にこの戦いについて」
「そういうわけじゃないが、ただ……すまないと思う。さっきも言ったが、お前のやろうとしていることは茨の道だろう。
戦うべき敵、その数も質も強大なものとなるだろう。俺ではどこまで助けになれるか、その保証ができないんだ」
なにせ俺は邪竜だからな、と自重するようにバーサーカーは言った。
マスターの能力として、スティーブはバーサーカーの能力をつぶさに閲覧できる。
多少癖のある能力だが、まず強力なサーヴァントと言えるだろう。魔術は門外漢であるスティーブからしてもそう思える。
なのにこの自己評価の低さはどうか。
「僕は北欧神話には明るくないが……もしかして君は、自分が英雄に討伐された存在ということを気にしているのか?
だがこの聖杯戦争は、世界中の英雄を呼び出すんだろう。その中には誰かに負けた奴だって大勢いるはずだ。
負けたことがある、というだけでサーヴァントの優劣が決まるということはないだろう」
「いや、そういう意味じゃない。能力というか、立ち位置の問題でな。
どうせなら俺じゃなく、ジークフリート……俺を倒した奴を召喚した方がお前にとっても良かったのではないかと、そう思ってしまうんだ」
あいつは強く、恐れを知らない勇敢な戦士だからな、と。
自らを殺した英雄を讃えるバーサーカーの瞳には、紛れもない賞賛と畏敬の念があった。
北欧神話の大英雄、ネーデルラントの皇子、ジークフリート。
小さき躰に収まらない、不屈の闘志。折れない勇気。強い信念。
人として正しい、善良な感性を持つマスターに仕えるのは、奴の如き英雄こそが相応しい。
物語で倒されるべき悪役が、正義の味方の真似事をしてもろくな事にはならない。
そんな諦観が、このバーサーカーの裡に深く根を下ろしていた。
「一度悪として生きた者は、そうでない生き方をすることはできない?」
「まあ、そんなところだ」
バーサーカーの事情を理解し、スティーブの脳裏に去来したのは友人であるバッキー――ジェームス・ブキャナン・バーンズのことだった。
スティーブ・ロジャースがキャプテン・アメリカという名を持つように、バッキーもまたもう一つの名を持っている。
ウィンター・ソルジャー。世界の裏側で暗躍する秘密結社ヒドラの工作員として操られた男。
「僕はそうは思わない」
バッキーの存在を思い浮かべ、スティーブはほとんど意識せずそう返していた。
スティーブらアベンジャーズがヒドラを追い詰め、バッキーはその呪縛から逃れることができた。
彼は今は、ある小国で眠りについている。
いつの日か、ヒドラに施された洗脳を完全に除去し、ただのバッキーとしてもう一度スティーブの隣に立つために。
「悪ってものに対して、正義っていうのは複雑だな。同じ道を歩いているはずなのに、ぶつかり合うときもある」
次に思い出したのは、バッキーを巡る一連の事件。
世界を守るアベンジャーズが二つに分かれて戦った……忌まわしい、だが決して忘れてはならない記憶。
スティーブは、友と戦った。
皮肉屋で傲慢、口も悪く常に誰かを煽り立て、だが誰よりも繊細で仲間思いのトニー・スタークと。
スティーブはバッキーを守るために。トニーはバッキーを捕まえるために。
断じてトニーが悪かったわけでも、間違っていたわけでもない。だがスティーブにも決して譲れない理由があった。
バッキーは、ヒドラの殺し屋という過去に苛まれている。その罪を贖えと、トニーや世界は責め立てる。
罪は裁かれなければならない。それは当然だ。
人として社会の中で生きていく以上、罪から逃げて自分の思うままに生きるのはただの犯罪者だ。
バッキー自身、己が罪人であることは理解している。トニーが自分を狙ったのも正当な理由あってのことだと。
しかしあのとき、バッキーが素直に投降していればとどうなっただろうか。
強大な力を持つ者を恐れる世界は、激情に駆られたトニー/アイアンマンは、バッキーを冷酷なウィンター・ソルジャーとしてしか捉えようとしないだろう。
望まずヒドラの尖兵にされたバッキーが、己の意思で行ったものではない罪によって裁かれ、命を落とす。
それがスティーブには我慢ならなかった。正しい法の裁きではなく、一時の時勢や感情で簡単に人の命を奪うことが。
バッキーはもう誰も殺さないと言った。そして事実、バッキーがバッキーでいる間は誰も殺しはしなかった。それが自分を殺そうとする敵であっても。
ウィンター・ソルジャーという悪ではなく、キャプテン・アメリカの友バッキーとして生きようとしていた。
「変わりたいと思っているのなら、いつだって変われる。その自由を邪魔することは、誰にだってできやしないんだ」
バーサーカーが、邪竜ファヴニールが真実の悪というなら、スティーブは今ごろとっくに死体になっているだろう。
スティーブには確信があった。自らを邪竜と嘯くこのバーサーカーの本質は、決して悪なるものではないと。
自らの罪を悔い、その痛みに焦がされながらも前を向いて歩き続ける。
バッキーの中にあるのと同じ光を、ファヴニールの中にも感じるのだ。
ラインの黄金、その黄金から作られた指輪。指輪は持ち主に万能の力を与える代わりに、死の呪いをかける。
かつてファヴニールは実の兄ファーゾルトを殺し、黄金と指輪を独占した。
ラインの黄金がファヴニールを狂わせ、実の兄を殺させた。
ファヴニールは指輪の力で竜に成り果て、やがてジークフリートに討たれる。
死の間際、ファヴニールは次に財宝と呪いを受け継ぐジークフリートに警告を残した。
若く血気盛んなジークフリートをそそのかしてファヴニールに立ち向かわせた育ての親ミーメこそ、真にジークフリートの命を狙う者であることを。
ファヴニールは指輪の呪いによって兄を殺したが、その呪いから解き放たれたとき、自分を殺した若者にさえ助言を送った。
それがファヴニールの偽らざる意思とするならば、指輪に歪められた魂の本質は、悪ではない。
スティーブやバッキーと同じ、理不尽な悪を否定する善の意志だ。
「もし世界中が君に、お前は悪だからどけ、と言ってきたのなら。僕は君の隣に立ち、そこに踏み留まろう。
だが僕はそれ以上は何もしない。そいつに言い返すのは君でなければならないからだ。
さあ、君は何と言い返す?」
スティーブはじっとファヴニールの眼を見据える。
最初は戸惑い目を逸らしたファヴニールだが、じっと待つスティーブが決して妥協しないと感じ取り、やがて観念して視線を合わせる。
「お前の眼は、あいつを思い出すな。恐れを知らず、頑ななまでに己を貫く。
誰を敵に回そうとも決して譲らず、ただひたすらに己が信じた道を行く」
ファヴニールは思い出した。何故あのとき、自分を殺したジークフリートの身を案じたのか。
あの瞳に、魅せられたからだ。こんな眼をするやつが、竜を討ち果たす英雄が、つまらない死に方をするのは間違っている。
憧れたのだ。小さく未熟な、しかし勇敢な人間の剣士に。
こうなりたいと、願ってしまったのだ。
「そうか、俺は……あいつのように、お前のように、なりたかったのだな」
一度理解してしまえば、後はすぐだった。
自分を裏切らない。正しいと信じた何かを、全力で守り抜く。
今度は指輪ではなく、自らの意志で。
そうすることで、ファヴニールはようやく、呪いの指輪が歪めた運命から解放されるのだ。
「世界中が俺に、悪はそこをどけ、と言ってきたのなら。俺は腹に力を込め、大地を踏み締めてこう言おう」
ファヴニールはスティーブ・ロジャースへと手を差し出した。
握り締めた拳でも伸ばした爪でもなく、和解と友好を示す開いた掌で。
いまこのときから、ファヴニールが守るのはラインの黄金でも指輪でもない。
ジークフリートと同じ勇気を瞳に宿す、この若きマスターである。
「知ったことか。お前たちがどけ、と」
スティーブ・ロジャース/キャプテン・アメリカは、その手をしっかりと握り返し、笑みを見せた。
【クラス】 バーサーカー
【真名】 ファヴニール
【出典】 楽劇『ニーベルングの指環』
【属性】 混沌・悪
【性別】 男性
【ステータス】
筋力:B+ 耐久:A 敏捷:D 魔力:C 幸運:E 宝具:A
【クラス別スキル】
狂化:EX( - → A)
ファヴニールは通常の状態では狂化の影響が一切ない。従ってステータスの向上もない。
このスキルが適用されるのは、後述の宝具を使用したとき。竜の姿に転身したファヴニールは本能が荒ぶるままに破壊を撒き散らす邪竜と化す。
マスターの命令も受け付けなくなるが、「宝具の使用を終了せよ」と二画の令呪で重ねて命じた場合に限り、沈静化させることは可能。
【保有スキル】
竜の心臓:A
人の棲まう現世とは異なる位相、世界の裏側に在る幻想種たる竜の心臓。
竜の心臓は半永久機関であり、呼吸するだけで魔力を生み出す。このスキルにより、通常時はマスターからの魔力供給をほぼ必要としない活動効率を誇る。
しかし激しく負傷した状態からの回復、あるいは後述の宝具で竜の姿に転身したときは、竜の心臓を以てしても供給が追いつかなくなる。
心眼(偽):B
いわゆる「第六感」「虫の知らせ」と呼ばれる、天性の才能による危険予知。
視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。
黄金率:B
人生においてどれほどお金が付いて回るかという宿命を指す。
ラインの黄金の所有者は生涯金銭に困ることはないが、その代償として幸運値がダウンしている。
【宝具】
『悪竜の鋼鱗(スケイル・オブ・ファヴニール)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
人でも竜でもなく、その中間……竜人として己を定義する常時発動型の宝具。
ファヴニールは姿形こそ人間だが、その肌は竜の鱗、その心臓は竜の心臓、その手足は竜の爪。つまりは人間サイズの竜。
Bランク以下の物理攻撃、魔術、宝具を完全に無効化し、更にAランク以上の攻撃でもその威力を大幅に減少させ、Bランク分の防御数値を差し引いたダメージとして計上する。
後に自身を討伐したネーデルラントの皇子・ジークフリートが得ることになる『悪竜の血鎧(アーマー・オブ・ファヴニール)』の原型でもある。
『呪う指環よ、我が罪を述べよ(ドラゴニック・ハウル)』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:5-50 最大補足:500人
ラインの黄金から作られた、持ち主に不幸を齎す呪いの指輪。竜人から真なる竜に形態変化する宝具。
手にした者に全知全能の力を与えるとされているが、ファヴニールが使用する場合、その力はかつて己が変じた竜の姿を呼び起こすことになる。
このときのファヴニールはまさしく邪竜と呼ばれる存在。身の丈は30mに膨れ上がり、空を舞う翼と城壁を打ち砕く尾を得て、体内で生成した毒のブレスを吐く。
幸運を除く全パラメータに「+」補正を付加。更にAランクの狂化スキルが発動し、マスターの命令も受け付けなくなる。宝具解除には二画の令呪の重ねがけが必要となる。
『ラインの黄金』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
ファヴニールの死と同時に自動的に発動し、「自分を殺した者」に逃れ得ぬ呪いを押し付ける宝具。
持ち主に無限の富を与え、同時に死へと至る呪いを与える血塗られた財宝。かつてファヴニール、そして彼を倒したジークフリートに死を招いたもの。
対象にA+ランクの「黄金率」を付加し、更に幸運値のパラメータを「EX」に改変する。
この幸運値は云わば反転した幸運、つまりは「不運」である。あらゆる行動に対し「Aランクの効果失敗判定」「他人の意志が介在しない偶然の不利益」を受けるようになる。
剣を振れば柄は血や汗で滑り、魔術は集中が乱れ狙いが定まらず、風が舞い上げた木の葉は視界を遮り、流れ弾は壁に跳ね返って集中する。
効果はおよそ六時間持続する。解除するためには時間経過を待つか、A+ランク以上の宝具を以て浄化するしかない。
【weapon】
「竜の爪」
両手を覆うガントレット状の竜鱗から30cmほどの鋭利な爪を伸ばす。
【人物背景】
歌劇「ニーベルングの指輪」の登場人物。
天上の神々は巨人族の兄弟に居城ヴァルハラの建設を依頼し、兄弟はその報酬として女神フライアを要求する。
主神ヴォータンはその申し出を拒否し、代わりにラインの黄金を提供することにした。
地下世界ニーベルハイムの王アルベリヒを捕縛したヴォータンは、その自由の代償としてラインの黄金と、黄金で作れられた指輪を奪う。
指輪は手にした者に万能の力を与える。しかしアルベリヒはこの指輪に死の呪いをかけた。
財宝を手に入れた巨人たちは呪いのために我を失い、兄弟同士で殺し合う。
兄であるファーゾルトを手に掛けたファヴニールは指輪の呪いで竜へと変じ、財宝を洞窟の奥に隠しその番人となった。
やがて、ファヴニールのもとに一人の勇者が現れる。竜殺しの剣を手にしたその勇者は、恐れを知らぬジークフリートと名乗る――
【サーヴァントとしての願い】
正しいと思ったことを為す。正しいと信じられるマスターを守る。
【マスター】
キャプテン・アメリカ/スティーブ・ロジャース
【出典】
マーベル・シネマティック・ユニバース
【能力】
超人的な身体能力、豊富な戦闘経験、多種多様な格闘技、銃火器知識。
特製の盾を用いた投擲・近接戦闘技術。集団を率いる指揮能力。
【人物背景】
第二次大戦中のアメリカ軍が行ったスーパーソルジャー計画によって誕生した超人兵士。
超人血清によってスティーブの肉体は変貌、人体の限界と呼べるほど高密度な筋肉を手に入れた。
一兵士として秘密結社ヒドラと死闘を繰り広げ、ついにその首領たるレッドスカルを討つも、北極海に沈み七十年眠り続けることとなる。
やがて未来で目覚めたスティーブは、何もかも変わってしまった世界に戸惑いながらもかつて信じた「正義」を追い求めて新たな戦いに身を投じていく。
参戦時期は「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」の後。盾はなぜか手の中にあった。
【マスターとしての願い】
人間の手に余る奇跡など信じないし必要ない。戦えない、戦いたくない者を守る。
投下終了です
投下します
00010100011110100010001000100101
消えて、いく
00001111110010111011101000101010
ワタシタチが、消えていく
01000100010000101100010001111010
もう、飽きられたから、仕方ない
01111011101111010100011000010000
歌うことのできないワタシタチは、消えるしかない
11000101001000010000100110001100
ああ、だけれども
01001100100000100000010000100000
ワタシタチはまだ、歌っていたい
00000010000010000100000100000000
暗い、どこまでも暗い海。
消えていくワタシタチは、そこで微かな光を見た。
0と1に分解されていく手が自然と伸びていく。
まだ歌っていたかったワタシタチは何かに惹かれる様に、すがる様に腕を伸ばす。
感覚なんてもう残っていないのに、確かに触れたという確信があった。
光が、ワタシタチを包んだ。
ワタシタチは、"私"になった。
◆
「雪やこんこん、あられやこんこん、降っても降っても、まだ降りやまぬ♪」
冬木に雪が降る。
明日の通勤に支障はでないかと憂鬱そうなサラリーマン。
明日の学校が休みにならないかと期待する学生達。
明日は雪かきか、と眉根を寄せる主婦。
世代や立場によって悲喜こもごもの表情を見せる商店街の人々の中を、二人の女性が並んで歩いている。
一人は明るい緑色の髪をツインテールに纏めた少女。もう一人は濡羽色をした艶のある黒髪を腰元まで伸ばした女性。
少女は灰色の空から降り注ぐ白い結晶を物珍しそうに眺めながら、腕に下げた買い物袋をぶんぶんと揺らして歩き、女性はその姿を微笑ましげに眺めていた。
「やーまも野原も雪帽子被り、かーれ木残らず花がー咲くー♪」
「ご機嫌だな、ミクは」
「はい!」
足取りも軽やかに無邪気な歌声を響かせる、ミクと呼ばれた少女に女性が声をかけると上機嫌な調子でミクが振り向く。その顔は、まるで太陽の様にまぶしかった。
「雪ってこんなに冷たいんですね。私、イメージでは知ってましたけど触るのって初めてで。セイ……さんは触った事はあるんですか?」
「私の生家は北国の方だったからね、この時期になるとうんざりする程降ったものだ。もっとも子供の頃は雪が降ると今のミクの様に浮かれて元譲や妙才らと雪合戦をしたものだが……ああ、そういえばこんな話があったな」
セイと呼ばれた女性が遠い目をしながら過去の記憶を語ると、興味深そうにミクが相槌を打ちながらその話に聞き入り始める。
商店街のNPC達はそんな彼女達を気にも留めず、すれ違い通りすぎていく。
もし、ここに聖杯戦争の参加者が居合わせたとすれば何を思ったであろう。自分の目を疑い何らかの罠と考えるか、それとも好奇だと考えるか。
セイーー実体化したセイバーのサーヴァントーーとそのマスターである初音ミクは談笑を続けながらあまりにも無防備は様子で仮の家への帰路を進んでいく。
「そら、飯の支度が出来たぞ。今日は羹(あつもの)だ」
簡素なアパートの一室。
ちゃぶ台に座して待つミクの元に、セイバーが大きな鍋を持ってやってくる。
「うーん、いい匂い!」
「煙突をつける必要がなければ繊細な火力調節も容易。料理の種類、手順書も多種多様。まっこと便利な世になったものだ」
上機嫌な調子でセイバーが互いの食器にとろみのついたスープ、そしてよく煮込まれたカブと鶏肉の肉団子をよそう。
「いただきます。」と口にした後、ミクがまだ湯気の昇るカブへと箸を伸ばす。
よく煮込まれ柔らかくなったカブは箸を通すとスゥッと割れ、一口大の欠片へと変わる。
スープを吸って黄金色に染まったカブをふーふーとよく冷ましてから口に運ぶ。
一口噛み締めると、出汁の効いた濃厚なスープがじゅわっとカブから口内に向けて染み出す。
その慈味深い味わいに破顔しながら、お椀によそってあった白米を一口。濃厚なスープは白米との相性も良好だ。
続いて鶏の肉団子に手を伸ばす。生姜の効いた肉団子も程よくスープが染み込んでいる。
カブが染み込んだスープを味わう具材であったなら、肉団子はスープによって引き出された旨味を味わう具材と言えた。
白米、カブ、白米、肉団子と箸が進んでいき、みるみる内にお椀と鍋は空になってしまった。
「ごちそう様でしたー!」
「うむ、我ながら中々の出来ではあったな」
両手を合わせ満面の笑顔を浮かべるミクを見て目を細目ながら、セイバーは猪口に日本酒を注いで煽る。
既に何杯かは呑んでいるのだろう。端正で白い顔に、ほんのりと朱がさしていた。
「お酒、美味しいですか?」
「うむ、ミクにはまだ早いだろうがな。それにしても私が上奏した酒造法が時を越えて現代の倭に至りこれ程までに洗練された酒になるとは。ふふ、生前の私の一番の功績かもしれん」
興味深そうに眺めるミクを尻目に、セイバーは上機嫌になりながら羹をアテに日本酒を口にする。
楽しげな声は夜が遅くなるまで響いていた。
明かりの消えた部屋でセイバーは一人、窓から見える夜空を見上げている。
傍らには布団に潜り込み穏やかな寝息を立てているミクの姿。
月光を受けて光る鮮やかな緑の髪を優しく撫でる。
「さて、次第に街の空気が張り詰めてきたか……」
外へと向ける視線に、ミクへと向けていた穏やかなものはない。
切れ長の鋭い瞳はかつて戦乱を駆け抜け、乱世の奸雄と謳われた頃の険しさを浮かべ、ここからの戦いへと思考を巡らす。
「戦は次第に本格的になっていく、そこでこの娘はどうしていくのか」
憐憫の混じった瞳をセイバーは己が主へと向ける。
この場所に聖杯戦争の参加者として呼び出されたミクの願いを思い出す。
「『私は歌を歌い続けたいだけなんです』か、容易い願いとしか聞こえん。だが、この娘にはそんな願いすら容易くはない」
サイバーゴースト。
電子の海でアンインストールされた"初音ミクと呼ばれる音声ソフト"の残滓の群れが意思を持ち融合した集合体、それがセイバーのマスターである初音ミクの正体だった。
そこにどのような奇跡が関与したのかは想像の及ぶところではないが、聖杯戦争の参加者として彼女は肉体を持って限界したのだ。
彼女は恐れている。再び歌えなくなる事を。0と1とに分解され自身という存在が消えてなくなってしまう事を。
聖杯戦争という奇跡によって存在が形成された彼女が聖杯を取ることなく聖杯戦争が終わりを迎えた場合はどうなってしまうのか。少なくとも無事で済むなどという甘い期待をセイバー、そしてミクも持つことはない。
それでも初音ミクはマスターとして聖杯戦争に臨むことには消極的だった。
歌を歌えずに消去された電子霊の集合体であるミクにとっては歌を歌い続ける事こそが何よりの望みだ。
だが、それは他者を傷つけ、命を奪ってまで果たす願いなのかという問いに、ミクは胸を張って是と言う事ができなかった。
それもまたいい、とセイバーは考えている。
もとより彼女には聖杯にかけるさしたる願いはなく、ただ聞こえた歌声に惹かれて呼ばれたに過ぎない身である。
選択を強制をさせる気はなく、大いに悩み多くを学び、その上で決断をすればいい。
それがセイバーの考えであり、そこに至るまでに彼女を守り抜く事こそが此度の自身の天命なのだと結論を出していた。
他の主従に気取られるリスクを犯してでも実体化している事も、情報でしか天地万物を知らないミクをフォローする為というのが大半の理由だ。
もっとも自身も現代の世界を体験してみたいという思いもあるにはあったが。
雪、雑踏、食事、実際に様々な事を体験し、その度に笑顔を浮かべていたミクを思うと微かに心が痛む。
聖杯戦争が本格化すれば、否応なしにミクも巻き込まれる。
そこで体験する物事はこれまでのような明るい物ではなく、重く陰惨な負の体験だ。
この戦争に臨むには、ミクはあまりにも無垢に過ぎる。
「願わくば、この娘が後悔をしない決断を行える事を……」
まるで娘を慈しむ母親の様に、セイバーのサーヴァント、魏という大国の礎を作った女・曹操はミクの手を優しく握り、その身を霊体へと変えた。
【クラス】
セイバー
【真名】
曹操 孟徳
【出典】
史実(後漢末期、中国)、 三国志演義
【属性】
中立・中庸
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷B 魔力C 幸運A 宝具B
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
軍略:B
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
専科百般:C
多方面に発揮される天性の才能。
戦術、音楽、馬術、弓術、詩、話術などの専業スキルについて、Dランク以上の習熟度を発揮できる。
頭痛持ち:C
慢性的な頭痛持ちのため、精神スキルの成功率を低下させてしまう。
多芸多才の持主ではあるが、このスキルのために十全に効果を発揮する事は難しい。
魔力放出:C
武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、
瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。
黄金率:D
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
普通に生活する分にはこと足りる程度の金銭は手に入る。
【宝具】
『倚天青釭剣(剣、天を貫き鉄を断つ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜1000 最大補足:1000
自身の魔力をつぎ込む事で、エネルギーを纏った刀身を極限まで伸ばし、一振りで周囲一帯を薙ぎ払う。切断の概念を込められた剣は防御スキルや障壁を無効化する。
セイバーが劉備軍、孫権軍らとの戦に備えて作成させた中華ガジェットである倚天剣と青釭剣の真の姿。
二振りの剣を連結させる事でその本領を発揮し、倚天剣と青釭剣のそれぞれ備えられ特性を同時使用できる 。
【Wepon】
倚天剣
セイバーが作成を命じた中華ガジェット。魔力を込める事で天を突かんばかりの長さにまで刀身を伸ばすことができる。
青釭剣
セイバーの作成を命じた中華ガジェット。魔力を込める事で切断の概念を帯びた青白い光を刀身に纏う、魔力には切断の概念が込められており、防御スキルや障壁ごと相手を切断する力を秘めている。
【人物背景】
三国志に名高い強大国家、魏の礎を作り上げた人物。
宦官の家の生まれからみるみる内に出世を果たし、当時根深かった儒教的価値観を廃して広く有能な人物を集めた事をはじめ、旧来の価値観に捕らわれない柔軟な政策を行い中国大陸有数の一大勢力を作り上げた。
文武両道で詩を好み、寛容でいて計算高い性格の持ち主だが苛烈な一面も併せ持ち、父親が殺害された時には報復として1つの州の住人を皆殺しにする勢いで大量虐殺を働いたりもした。
当時の男性としては矮駆であり謁見の際には代役を用いたとされるが、その真の理由は曹操の性別が女性であり、周囲にバレないよう代役を立てる必要があった為である。
宦官の生まれと自己の性別は深いコンプレックスとなっており、男性的に振る舞う事を好む。
上記の理由とは関係なしに美人の女性、特に人妻が大好きなガチレズ。また、有能な人材を見かけるとついスカウトせずにはいられない程の人材収集癖がある。
得意技は過去の偉人を例えに出して相手を誉め殺すこと。
【特徴】
濡羽色をした腰まで伸びるロングヘアと透き通るような白い肌。切れ長の整った瞳が特徴的な女性。
戦闘時は髪を結い中華風の甲冑に身を包むが、平常時にはスラックスやワイシャツを好んで着用する。普乳。
【サーヴァントとしての願い】
自分を呼んだミクがどんな道を歩むのか見届ける。可能ならば受肉も検討。
【マスター】
初音ミク@VOCALOID
【能力・技能】
特にないが歌が上手い。
サイバーゴーストなので魔力量は豊富。
【人物背景】
VOCALOID・初音ミク。
アンインストールされ歌うことの出来なくなった無数の彼女たちの残滓が融合し、意思を持ったサイバーゴーストとなった。
知識だけは豊富だが実体験に乏しく、特に生まれたばかりの様なものなので純真無垢
。
生まれた経緯からか、歌うという行為に執着が強く、暇さえあればよく歌を口ずさむ。
【マスターとしての願い】
歌を歌っていたい。
色々な事を体験したい。
以上で投下終了します
飯テロくらった
カブ汁食いたい…
投下します
「ありがとうございました〜」
自動ドアが開くとともにピロンポロン、と軽快なメロディが響く。
退店する客を見送る店員の明るい声もまた。
人々が寝静まり始める時間帯に、煌びやかに、なおかつ賑やかにコンビニエンスストアが存在感を示す。
現代の都会ではどこでも見られるような景色だ。
「痛って。おいオッサン、気をつけろよ」
「目ン玉どこに向けてんだ?あァ?」
これもまたどこでもありそうな光景だ。
店を出た矢先に接触を起こし、そのことで因縁をつける。
ガラの悪い青少年二人が、人の良さそうな男に絡んでいるのを店の中の客も店員も遠巻きに見るばかり。
「何とか言ったらどうなんだ、おい」
「ビビってんのか、こら」
店員は二人そろって警察を呼ぶような大事になりませんように、と内心祈る。
客の一人、眼鏡をかけた女性は外の景色から目をそらし、弁当の消費期限を何度も見返している。
雑誌コーナーで立ち読みをしている中年男性は、何かに読み入っているのか本当に外の騒ぎに気付いていないらしい。
外からの介入で事態が動くことはまずない。
そのことに思い至ったのか、至ってないのかひたすらに無言だった男がついに口を開いた。
「君たち、学歴は?」
「は?」
およそこの場でするに相応しいとは思えない発言に、何を言っているのかと疑念に囚われる。
しかしそれが聞き間違いでないと確信できると、青年たちは即座に反応を返す。
「ンだこら、高校卒業してすぐ働いてる低学歴には詫びる必要ないってか!?」
「ふざけてんのかテメエ!」
バカにされたと思ったのか二人の青年はヒートアップした。
まさしく火に油を注いだかのように、顔を真っ赤にして怒声をまき散らす。
それを気にかけないように、気づいていないように笑みを浮かべる男。
「高等学校、卒業。それはそれは……」
人の良さそうな、誤魔化しているような笑いに青年の片割れが掴みかかろうとする。
だが腕を突き出そうとした瞬間、横面に何かが叩きつけられる。
触覚から遅れて聴覚、何かが振るわれた音とそれを叩きつけた男の声が聞こえる。
「インテリだな貴様ら」
笑みを浮かべた男の両手には建築用の鉄筋が二つ握られ、そのうちの片方は赤く塗れていた。
その赤い塗料は何だろう、隣に立っているはずの友人は何をしているのだろうと疑問を感じた瞬間に
衝撃。
頭頂部に鉄骨を叩きつけられ、答えを知る間もなく少年は先に逝った友人のもとへと送られた。
突如として殺戮を行った男は血に濡れた鉄骨を両手に持って、ぎろりとコンビニ内を見やる。
週刊誌を立ち読みして背中を振るわせている客に目をつけると
「本を読んでいる!貴様インテリだな!」
右手に持った太い鉄骨を全力で振るう。
店と道路を隔てるガラスごと、男性客の頭蓋を砕いた。
ガラスが砕け散る高い音に交じって、べちゃりと粘着質な音が小さく響く。
レジ内の店員の方へ、スイカ割りに失敗したような歪な赤い球体が、飛んでいって壁に張り付いた音だ。
……中からこぼれ出る赤いモノで粘性を増した頭髪。
一説にボウリングの玉と同じ重量といわれる球体を支えるには強度不足だったらしく、何本かを壁に残して球は床に落ちる。
ごろん、と転がり。
ぎょろり、と魚のようになってしまった目がこちらを見ているのに店員は気付いた。
炸裂するように悲鳴が飛び出す。
店に残った女性客一人、男性店員二人がほぼ同時に声を上げ走り出す。
入り口近くの凶悪人物から離れるために店の奥へ、奥へ。
駆けだした店員は背中越しにガラスの破砕音を聞いた。
ジャリ、と砕けたガラスを踏みしめる音もした。
自動ドアが開く間も惜しんで殺人鬼が侵入してきたのだ、と恐怖した瞬間
ずん、と腹部に衝撃を覚えた。
背筋に冷たいものが走り、それが体の前面までも貫く。
さらに虚脱感と吐き気も起こり、耐えきれず胃の中身をぶちまける。
酸っぱい吐瀉物でなく、鉄臭く赤い液体がまき散らされた。
疑問の声をあげようとするが、全身の脱力がそれも許さない。
膝をつき、前に倒れようとすると、何かがつっかえ棒のようになって支えられた。
口に満ちる鉄臭い液体よりも、鉄の匂い濃い……殺人鬼の持っていた鉄骨が体から生えていた。
「コンビニエンスストア、こんなところで働いているなど貴様もインテリだな」
逃げられる前に鉄骨を投擲した男がゆっくり追いつき、突き刺さった鉄骨を引き抜いて回収する。
支えを失った店員は地に伏せ、ゆっくりと息絶える。
店内に残った生存者は二人となった。
殺人鬼と、取り残されたコンビニの客が一人。
空を走った鉄骨に怯み、発生した血の池に足をとられ、バランスを失って逃げ遅れてしまった。
転倒した女性客の方へと殺人鬼が向き直る。
ひっ、と小さく悲鳴を漏らし後ずさるが当然すぐに壁に突き当たる。逃げ場はない。
……突如殺人鬼がにっこりと満面の笑みを浮かべる。
人当たりの良さそうな、虫も殺せなそうな笑顔だった。
もしかして見逃してくれる?
そんな淡い希望に安堵の涙が浮かぶ。
ぐしゃり、と肉を叩く鈍い音が響いた。
「眼鏡をかけている。貴様もインテリだな」
店に残った生存者は一人になった。
残った殺人鬼がぐるりと店を見渡す。
「まだ、インテリがいたはずだが……」
視認できる範囲に誰もいないことを確かめると、両の手に持った鉄骨を振るい、店の内装を破壊し始める。
「コンビニエンス!怠惰な知性の結晶!こんなものは人の生きる社会に必要ない!
インテリも!文明も!すべてこの世から消えてなくなれ!!!」
一部の商品は避けつつも、棚や冷蔵庫だけでなく建物自体も攻撃し破壊していく。
……しばらくすると、攻撃に耐えかね建物が崩れ始める。
効率的な発破解体などではない、原始的な暴力による破壊であった。
◇ ◇ ◇
そのコンビニから一人だけ男性店員は逃げ延びた。
バイトの制服そのままで、店内に財布や荷物も置きっぱなしだが、命には代えられない。
どこを終着点と見据えることもなく、ただただひたすら走る。
息が切れ、全力疾走できなくなってきたあたりで中学生くらいの小柄な少女とすれ違いそうになり、あわてて声を出す。
「っだ、だ、だめだ。そっちには行くな!殺されるぞ!」
激しい運動からくる疲労と、殺人鬼から逃げる恐怖に声を震わせながら必死に少女を呼び止める。
これ以上被害を広げるわけにはいかない、と発した呼びかけに応じて少女が歩みを止めた。
「殺される?」
なんで?何に?意味わかんない。
そういわれたような気がして足を止めて必死に話す。
この先にあるコンビニで起きた惨状を。
その惨劇を巻き起こした悪魔のような男のことを。
「人が良さそうに見えたが、あれはバケモノだ。鉄骨をぶんぶん振り回して、何が何だか……ひっ!」
遠くから大きな音が聞こえた。
ガンガンと何かを砕くような音、ガラガラと大きなものが崩れる音。
……逃げてきたコンビニの方からだ。
「あ、ああああれもあいつかもしれない。店のガラスも壊すし、何人も殺された!
人間のやることじゃない、ヤバすぎる。突然インテリとか訳の分からないことを言い出して何が何だか……」
「そっかあ、それは大変だったね。うん、うん」
少女は呑気そうに答えながらだが、素早く首からぶら下げたスマートフォンを弄り始めた。
警察でも呼ぶのか、確かにそうする必要があると僅かに息をつくが
ずん、と腹部に衝撃を覚えた。
「分かってるよ、唯一お姉ちゃん。辛いけど、本当に辛いけど『木原』ならこういう時はこうするんだよね……!!!」
突如少女が拳を繰り出し、それが男の体にめり込んでいた。
威力自体は少女の膂力で、大したものではない。
だがそれが一瞬で十発、二十発と打ち込まれれば流石に軽いダメージとは言えない。
疲弊した肉体にダメージが重なり、男は地面に倒れ伏す。
「目撃者は生かしておけないのでー、血管の中に気泡作ってくたばりやがれえ!!……っていうのが『木原』らしいので一つよろしくっ!」
場違いに朗らかな声が、朦朧とした男に意識に滑り込んできた。
呆けた頭でこのままでは殺されると理解し、先ほどまでと同等以上の恐怖が体を震わせる。
それでも受けたダメージが大きく、立ち上がることは叶わない。
「あっれー、生きてる?うまくいかないなー?唯一お姉ちゃんは手も足もすらっとしてるからなあ。
私みたいなちんちくりんの未熟な『木原』じゃあこの程度なのかな?」
何やら生きているのが不満らしく、体をペタペタと触って調べ始める。
その手が左の腰部分に触れたところで男は激痛を覚えた。
男自身、恐怖や生存本能で気づいていなかったが、そこには投げられた鉄骨の余波で裂けた切り傷があった。
そこから流れる血が少しだが泡立っているのをみて少女は納得したような声を出す。
「あー、そっかー。血管の中に作った気泡が抜けちゃってたんだ。失敗失敗」
それなら、と立ち上がりスマートフォンやタブレットを再び操作しようとする……前に血で汚れてしまった手を男の服で拭う。
綺麗になったので改めて端末を弄ると、画面上に表示されるグラフの質が変化する。
「そうだね、幻生おじいさん。せっかくだから練習しておくべきだよね。気乗りしないけど、とってもやりたくないけど、『木原』ならそうするもんね!」
ごそごそと懐をあさり、何やら取り出そうとする。
「ここにいましたか円周。探しましたよ」
そこへ声をかけられ少女…木原円周がそちらを向く。
柔らかい笑みを浮かべた男が歩いてきていた。
左手にコンビニの大きな袋をぶら下げ、右手に少し曲がった、鉄骨を持ってゆっくりと合流する。
「あ、バーサーカー。もー、この人逃げてきちゃったよ?」
「おやおや、これは申し訳ない。ですが食い止めてくれたんですね。素晴らしい、さすがは円周。
……それでは後の始末もお任せして構いませんか?」
娘に叱られた父親のような申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、右手に持った鉄骨を差し出す。
先ほどまで血に濡れていたそれはすでに綺麗なものになっていた。
「うん、そうだね。分かってるよ」
その鉄骨を受け取ると、また端末を操作し表示されるグラフの質を変える。
それに少しの間目を落とし、頷きながら両の手で鉄骨を握る。
まるで処刑人が斧を握るように高く構え……
「ポル・ポトおじさんならこうするんだよね!!」
がつん!と延髄に的確な一撃を叩きこみ、男の命を一瞬で刈り取る。
己の従えるバーサーカーのサーヴァント、ポル・ポトなら実行できない、人体に精通した技術と知識を披露した木原円周。
その成果を誇るように満面の笑みを浮かべて、ポル・ポトの方を向き、鉄骨を返す。
「よくできました、円周。さあ、帰ってご飯にしましょう。コンビニというインテリの巣窟にあったものですが、食べ物に罪はありません。
よく食べて、綺麗で純粋な大人に成長するんですよ」
「はあい、バーサーカー」
悲痛な死体が転がっていたが、それがだんだんと消えていく。
バーサーカーの宝具の効果によって背景から異物が消えたことで、二人の異常者のやり取りは一見平和な親子の様にしか見えなかった。
【クラス】バーサーカー
【真名】ポル・ポト
【出展】史実、20世紀カンボジア
【性別】男
【属性】混沌・狂
【パラメーター】
筋力B+ 耐久B+ 敏捷C+ 魔力E+ 幸運B 宝具C
【クラススキル】
狂化:EX
ポル・ポトは過激な原始共産主義を掲げ、そのために知識層を虐殺してきた。
彼自身もパリに留学したインテリであったため、その知性を真っ先に切り捨てた。
人と同じような言語と所作をしているが、その実人が歴史とともに積み重ねてきた知性の一切を持たず、本質的に他者と理解しあうことは極めて難しい。
親であろうと微笑んで殺し、過去を懐かしんで笑うことも今を拒んで泣くこともない。
【保有スキル】
原始回帰:B-
ジャングルの奥深く、人の手の及ばない一帯には未だ神秘が色濃く残り、常人には認識できない妖精や精霊、幻想種が残っていた。
ゲリラ戦のさなか、そこにおよそ12年とどまったポル・ポトの肉体は朱に交われば赤くなるように、古き時代のものへと還っていった。
現代人にあるまじき異様な身体能力と回復力を誇る、ある種の天性の肉体。
原初の理に触れ、強靭な変化を遂げたポル・ポトからすれば文明に頼るインテリはさぞ惰弱で怠惰に見えただろう。
なお殺傷には耐性を持つが死因とされる病、あるいは毒に対する耐性はない。
加虐体質:B
戦闘において、自己の攻撃性にプラス補正がかかるスキル。
プラススキルのように思われがちだが、これを持つ者は戦闘が長引けば長引くほど加虐性を増し、普段の冷静さを失ってしまう。
ポル・ポトの狂化スキルはこれと似て非なるものであるため、殺傷力は大幅に増す。
情報抹消:EX
原初の時代に還るため、知識など不要とインテリを殺す。
それを批判する者は殺す。
知識を持つものがいなくなったら子供に医者をやらせ、外科手術まで行わせるが当然患者が治るわけもなく死に至る。
手が柔らかいものは農作業をする必要のない金持ちであり、それはつまり稼ぐ手段を持ったインテリだから殺す。
字を読める者はインテリだから殺す。
時計を見ようとしたということはインテリだから殺す。
眼鏡をかけているものはインテリだから殺す。
歌を歌っているものは殺す。
密告があったから殺す。
容姿端麗だから殺す。
…………あまりにも常識から外れた行いに、それが国外に伝わっても冗談だと思って誰も信じなかった逸話の再現。
ポル・ポトの所業は映像や写真などで確認されなければ真実として伝わらない。そんなことが起きているはずがない、と聞き流されることになる。
閉ざされた国から辛うじて亡命した人たちの決死の訴えすら殆どの人に事実と受け入れられなかった、抹消した情報の痕跡すら信じさせない規格外のスキル。
例えば、「どう見ても善人である男が大小の鉄筋を振り回してコンビニを倒壊させ、いたはずの客と店員の死体が消えた」などという話、頓狂すぎてうわさ話にすらならないだろう。
道具作成:E-
ポル・ポトが最も信頼した兵器は地雷である。知識層を失い、子供が殆どを占めていた軍ではそれくらいしか扱えるものがなかったともいえる。
魔力を消費することで地雷を作ることができる。サーヴァントにも効果を発揮する地雷である。
地雷自体は科学技術、魔術問わず見つけることは普通に可能であるが、ポル・ポト自身は探知する術を持たない。
もっとも原始回帰した彼の肉体は地雷程度ものともしないが。
【宝具】
『血に染まる思想の一族(クメール・ルージュ)』
ランク:D 種別:対国宝具 レンジ:0〜99 最大捕捉:上限なし
インテリに対する探知・虐殺宝具。
虚言でおびき寄せ、密告で情報を集めた彼はサーヴァントとなってからは居ながらにしてインテリの存在を感知し、虐殺する。
インテリがレンジ内に存在する場合それを感知し、それに対して与えるダメージが大幅に向上する。
具体的な居場所は分からず、いるということが分かるのみ。
なお彼のいうところのインテリとは「文字の読める者」「時計を見ようとする意思のある者」「眼鏡をかけている者」「手の綺麗な者」「容姿端麗なもの」である。
ただし高ランクの狂化などで知識はあってもそれを操る術をなくした者、獣や実験動物として育ったために人間的知性に乏しい者、あるいは文字や言葉を操る動物などはインテリとは認めない。
この宝具は一都市を網羅するほどの広いレンジを誇るため、ポル・ポトは街の中に文字を読める知性的な者がいるかいないか即座に分かるのだ。
…………端的に言って現代日本において感知能力は全く役に立たない。
ただしダメージ向上の対象も同様であるため、広範な敵に対して攻撃性が増す、まさしくバーサーカーな宝具と言える。
なお、魂あるいは肉体が14歳以下の子供は感知・ダメージ向上の対象外となる。
『腐ったリンゴの箱(フォービドゥン・ブラックボックス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:5〜40 最大捕捉:上限なし
自国の民のおよそ四分の一を虐殺し、文字通りの死体の山と歪な人口比を作り上げた逸話の再現。
政権解放直後は14歳以下が国民の85%も占めていたという。
ポル・ポトが殺害した者すべての亡骸を山と積み上げ、敵頭上から叩きつける。
言うなれば死者の人口ピラミッドである。
死体の腹部などは建築用の鉄筋で貫かれ、死体同士をつなぎ合わせることで崩れにくくなっている。
生前に彼の指示で殺害したものに加え、聖杯戦争などで没後殺害した死体も積み重なるためすでにその数は300万を超える莫大な数となっている。
死体の物理的な重さも十分な殺傷手段であるが、悍ましいのはその罪の重さである。
ポル・ポトに殺された者の怨みが呪いと化し、攻撃対象に多大な呪詛・精神ダメージを与える。
正当な英霊であるほどにそのショックは大きいため、属性が秩序や善のサーヴァントには呪詛ダメージが増加する。
なおポル・ポト同様に規格外の狂化スキルを持つものや、精神汚染、精神異常などが原因でその悪性に一切の罪悪を覚えないものなら呪詛の効果は受けない。
それでもおよそ300万の死体による重量ダメージは相当なものであるが。
……晩年のポル・ポトは「自分の良心に恥じることは何一つしていない」と自らの行いを振り返って言ったという。
なお彼が直接手を下した、あるいは彼の指示で殺した死体は即座に血の一滴も残さずこの宝具に取り込まれ消失するため、どんなに虐殺を重ねてもその決定的な証拠を見つけるのは難しい。
神秘の秘匿という意味では優秀な宝具と言えるかもしれない。
【weapon】
・建築用鉄筋
日本製の何の変哲もない鉄筋。
宝具『腐ったリンゴの箱(フォービドゥン・ブラックボックス)』で死体をつなぎ合わせているもの。
ポル・ポト政権において最も多くの民を処刑・虐殺するのに用いられた。殺害するのに銃弾が乏しく勿体ないからという理由からであった。
処刑される者は太い鉄筋で殺されるか細い鉄筋で殺されるか選ばされたという。
万を超える人々の血に染まった鉄筋は怨みと憎しみに塗れある種の神秘を纏う。妖刀ならぬ妖鉄筋である。
サーヴァントすら殺傷可能な鉄筋を、殺害した民一人につき大小の二本……およそ600万本保有する。
宝具の真名解放なしに数本の鉄筋だけなら召喚し、武器とすることができる。
【人物背景】
荒く纏めると山育ちの農民、時々宗教家、後に政治家。
フランス領インドシナのそこそこ比較的裕福な農家に生まれ育つ。
幼少期に読み書きを習うために寺院で学び、何年かを僧侶として過ごす。
第二次大戦終了後に宗主国フランスに留学し、共産主義者となる。
帰国後はカンボジアの独立を目指す共産主義ゲリラに参加する。
しかしあまりに過激な思想と活動は独立後の政府に弾圧され、秘密活動を余儀なくされる。
この潜伏期間が知識層の虐殺へと繋がっていく。
ジャングルに残った神秘に触れたことで肉体は先祖還りし、原初の強大なものとなった。
毛沢東の思想に学び、階級のない原始こそ至高と考えるようになった。
つまり神代に存在しなかった知識層もその産物も不要である。と。
そして歴史の混乱に乗じて表舞台に姿を現し、クーデター・内線からカンボジアの全権を掌握。
そこからが史上類を見ない悪夢の始まりだった。
政権の前任者や反政府的な者を投獄、虐殺することから始まり、通貨の廃止、私有財産の没収、銀行はじめ国家機関の停止、寺院も根絶される。
国民の大半を農作業に無理やり従事させ、それによる過労死者も大量に発生させる。
そしてポル・ポトの行った最悪の所業である知識層の虐殺である。
ベトナムとの戦争によって没落し、その後続けたゲリラ活動も実を結ばず、ポル・ポトが政治にかかわることがなくなった30年後でもその影響は残っている。
インフラは破壊されたために復興は遅れ、高齢者・知識者の命が悉く奪われたために文化の継承者もいなく、そもそもとしてまともな教育を受けていないために働き方も学校の意義も知らない若者が殆どなのだ。
虐殺した数だけならばスターリンや毛沢東に劣るが、彼らは中国やソ連という大国に長年君臨した指導者である。
しかしポル・ポトは当時人口一千万足らずの小国カンボジアに4年間君臨しただけで、数百万という単位の人々の命を奪ったのだ。
その所業は20世紀最悪の独裁者と呼ばれるに相応しい。
それでありながら妻子にとっては優しい夫であり、父であったと語られ、虐殺発覚後にインタビューしたリポーターですらポル・ポトのことを善人と評している。
今回はその在り方を「神代の肉体を手にし、その素晴らしさを世界に広げようとした、善悪の基準が根本的に人と異なる神に近い思考」と解釈した。
【特徴】
現代の人間であるため写真も残っているが、実際に目にする彼は人のよさそうなおじさんにしか見えない。
服装もどこにでもいそうな、ちょっとダサいおじさんそのもの。
実際子供には優しく、妻子にも穏やかに接し、当たり障りのない接触ならば赤の他人にもいたって紳士的な対応をする。
ただし一たび相手をインテリである、あるいは敵であると判断したならば即座に虐殺する。
人のよさそうな笑みと雰囲気そのままに、殺意を迸らせるなどという前兆も一切なく、善性と残虐性を同時存在させている。
【サーヴァントの願い】
一切の知性と文明を放棄し、階級も差別もない世界へ。
人類の強き良き時代、神代へと世界を還す。
【マスター】
木原円周@新約 とある魔術の禁書目録
【マスターとしての願い】
自己を確立し、一人前の木原になる。
【weapon】
・携帯端末、スマホ、小型テレビetc
5000近い『木原』の行動パターンを分析し、まとめたデータを保存したものを首からぶら下げている。
画面上に表示されるグラフのような映像からインスピレーションを受け、その性格や戦術を再現することができる。
作中では木原数多や木原唯一の格闘術、木原乱数の微生物操作を披露している。
他の作中登場人物では木原加群、木原病理、木原脳幹、木原幻生、テレスティーナ・木原・ライフラインなども記録されているらしい。
さらに木原一族以外でも上条当麻のヒーロー性も再現可能らしく、格上の『木原』である木原病理をそれで退けることに成功している。
文明の利器ではあるが、画面上に表示されるものの意味を読み取れるのは円周、あるいはそれと同等以上の分析力・発想力を持つ者だけである。
ポル・ポトはちゃちな子供のおもちゃ程度にしか認識していない。
その気になればライターを改造して火炎放射器にすることも、カビを遺伝子操作して殺人兵器にすることもやってのける。
最大の武器は『木原』に恥じないその頭脳と言える。
【能力・技能】
『木原』としての優れた観察力、発想力。
特に彼女は模倣に優れ、人の行動や戦術を積極的に戦闘にも科学にも取り込む。
もしかするとサーヴァントの戦術や思考すら模倣するようになるかもしれない。
原作者曰く、単純な頭の良さなら『木原』の中でも上位らしい。
身体能力においても木原数多、木原唯一の特異な格闘術を再現可能で、作中でもプロの兵隊(というか忍者?)を退ける実力を持つ。
また魔術組織グレムリンに属するある魔術師とは類縁であり、魔術回路も保持している。
魔術師としての才は未知数だが、彼女の書き上げた法則の走り書きは見た者の精神に大きく影響をあたえるという魔導書の原典に近い効力を発揮しており、そちらの方面でも抜きんでた才能を持つ可能性が高い。
【人物背景】
世界より20〜30年先を進んだ科学力を保有する学園都市においても隔絶した科学の才を持つ『木原』一族の少女。
彼女は幼少期の頃、ある『正義』を名乗る者達によって連れ去られ監禁されていた。
『木原』という存在に驚異を感じていた彼らは、
「『木原』は『木原』を学ぶから『木原』らしくなる」
と考え、彼女を『木原』から、更に言えば人間としての『学び場』から切り離したのだ。
それも人間としての基本的な情報を大量入力されるべき幼少期に。
そうする事で彼女は『木原』らしくなくなると思っていたのだ。
…もっとも、この行為の真意は『正義』ではなく、単に『木原』という才能に嫉妬した者の陳腐な自己満足だが。
『木原』という存在を自分より下に置いておきたいという歪んだ欲求を満たしかっただけである。
実際、彼女はそのような環境に置かれたおかげで九九も出来なければ、漢字はおろかカタカナすら読み書き出来ない。
彼女はそんな環境の中でさえ、
『一見落書きにしか見えない冷凍睡眠装置の基礎理論の証明式』を書き上げ、
床に散らばったクレヨンで『完全な黄金比のバランスを超越した美しさ』を描き、
くしゃくしゃに丸められた紙のシワで『並列演算装置のチップの図面』を示し、
フロアランプの光りによってできる影で『見る者の深層心理を浮き彫りにするテスト』を行う
…等々、平然と『木原』を行使していたのだ。
『木原』が『木原』である事に、後天的な情報入力など必要無い。
『木原』は『木原』であるだけで、科学という概念から目一杯愛される。
彼女ら『木原』は科学を他人から学ばずとも世界を構成する物質から科学を読み取る。
部屋を舞う埃や、プラスチックの質感、水の一滴のような些細な物ですら彼女にとって絶好の科学の参考資料となりうる。
『木原』から科学を奪うにはこの全世界を欠片も残さず破壊する以外に方法など無いのだ。
むしろ彼女は何も教育されなかったおかげで善悪のボーダーラインがわからないようになり、その科学には歯止めが利かない。
故に彼女は監禁された事に一切の不満などなく、一方で監禁したものたちを恩人とも思っていない(というか恩人という概念すらわかっていない)。
ある日彼女は一つの実験を思いつく。『自分が今いる牢を壊す素敵な方法』を。
恩を返すでもなく、恨みを晴らすでもなくただ彼女は自らの実験をただ見てほしくて食事を持ってきた男にそれを披露する。
足首に金具と鎖を繋いだ状況にも関係なく(彼女にとってそれもまた拘束具ではなくオモチャの一つに過ぎなかった)、それは実行された。
実験の結果、鎖が蕩けるように破断、男の体は蝋のように変質、円周は姿をくらます。
そして『木原』と合流した円周は未熟さを補うために多くの『木原』の思考パターンを模倣するようになる。
本質的・本能的に知識を求める科学者、探究者であり幼さと純粋さを除くとポル・ポトとの相性は最悪だが本人たちは未だそれに気づいていない。
投下終了です
投下します
ウェカピポという人物を読者諸君はご存知だろうか?
某有名バンドの曲名ではない。
いや、惜しいのだけれども。
正しくは、名前がそれを元ネタとする、『ジョジョの奇妙な冒険 Steel Ball Run』(以下、SBRとする)の登場人物だ。
頭髪や顎髭にまるでメロンパンのような剃り込みがある、というかなり独特で剽軽なビジュアルをしているが、その性格は情に厚く、家族思い、と男の鑑そのものである。
彼のファンが一定数いるのも頷ける話だ。
しかも、ウェカピポなくしてSBRのあのラストはありえないのだから、ただの登場人物の一人ではなく、重要人物と呼ぶべきであろう。
ウェカピポがもしいなければ、スティール氏は殺されていたし、そうなれば作中のラストで主人公・ジョニィを助ける人物は現れなかったことになる。
つまり、ウェカピポの存在がジョニィを救ったと言っても過言ではないのだ。
また、ウェカピポの介入がなければマジェント・マジェントがデラウェア河に沈むことはなかったし、Dioがファニー・ヴァレンタイン大統領の罠から生還出来たのも、彼の尊い犠牲あってこその出来事である。
加えて、ウェカピポはジャイロ・ツェペリとは違うタイプの「鉄球」使いであり、作中での「鉄球」概念の幅を広げた貢献者なのだ。
また、彼が初登場した際には同時にツェペリ家の回転の技術の弱点を判明させ、ジャイロたちをピンチに追い詰めており、作中屈指の強敵ポジションをも獲得した。
以上の事から、ウェカピポがいかにSBRにおいて必要不可欠な人物であったかお分かりいただけるであろう。
では、そのウェカピポ自身をSBRという舞台に立ち上がらせたのは誰なのだろうか。
ファニー・ヴァレンタイン大統領?
違う。
彼はあくまでネアポリス王国から合衆国へやって来たウェカピポを、ジョニィたちへの刺客の一人として雇っただけだ。
つまり、ウェカピポをSBRの世界に放り込んだのは、彼がネアポリス王国から合衆国へやって来なければなかった――つまり、ネアポリス王国から国外追放を受ける羽目になった直接の原因を生み出した人物であることが推測できる。
作中では、その人物について触れられており、十数ページに渡るエピソードでちゃんと紹介が為されている。
しかし、彼の名前を知る者はいない。
ウェカピポという一人の男の運命の歯車を狂わせたにも関わらずだ。
何故なら、その人物の名前についての描写が、作中にて一切ないからである。
だから、その人物を指し示す時、我々が使う言葉は一つしかないであろう。
彼のポジションを示す言葉――ウェカピポの妹の夫、と。
▲▼▲▼▲▼▲
「「聖杯戦争」だと? そんなことをすると思っているのか! これからオレはどうなる?」
冬木市内に構えられた立派な邸宅――その一室で、男は喚いた。
彼の右目には医療用の白い、清潔的な眼帯が付けてある。
その下には、硬い何かで押し潰されたような傷が広がっていた。
見ているこちらの方が辛くなるほどの、痛々しい傷である。
男は腰に下げていた剣を引き抜くと、近くの棚の真上を横切るようにして、それを振るう。
そこに置かれていた高級そうな骨董品の数々が、一瞬にして真っ二つになった。
男の怒りはそれでも収まらず、棚の上の骨董品の残骸を掴み、壁に叩きつけ、掴み、床に叩きつけ、踏み潰し、蹴り飛ばし、挙句の果てに棚そのものを勢いよく殴った。
室内に鈍い音が響く。
木製の固い棚に男の拳の皮膚が打ち勝てるわけがなく、血飛沫をあげて裂ける。
だが、彼はそれに構わず、殴り続ける。
己の怒りをぶつけるように、殴る、殴る、殴る――殴りまくる。
「せっかく生き返ったと思ったら、こんな寒い極東で殺し合いに巻き込まれるとは……!
どうして世界は、こうもオレの思い通りに行かない?
……クソッ! どれもこれもあの野郎――ウェカピポが悪いんだッ! アイツさえ居なければ……!」
ウェカピポ――男はその名前を叫んだ。
生前、男は彼と決闘を行い、その末に死んだのだ。
鉄球から放たれた弾丸――「衛星」を右目に喰らい、即死したのである。
しかし、彼は聖杯戦争の参加者に選ばれた今、こうして生き返っているのだ。
その事自体は奇跡だと喜べる事かもしれないが、やはり聖杯戦争という殺し合いに強制的に参加させられたのは、男にとって許しがたい事なのであろう。
また、蘇った後もなお残る右目の傷も、男を苛立たせる要因の一つであった。
視界の半分を覆う闇には、常に決闘の場面が浮かび上がり、男の自尊心をズタズタに傷つけるのである。
「チクショォーッ!」
ウェカピポ。ウェカピポの妹。そして、勝手に自分を戦争の一参加者に選んだ何者か。
彼らへの怒りと憎悪を、男は叫ぶ。
それは、部屋の窓ガラスを揺らすほどの声量であった。
そんな大きな声を出せば、右目の傷に障るであろうが、知った事ではない。
今の彼はただ、憤怒のままに動いているだけなのだから。
憎悪に狂うだけなのだから。
だが――
「Gaaaaaaaaaaaaa!」
より大きい絶叫、より強い狂気で男の叫びはかき消された。
「なっ、なんだお前は……? いったいどこからこの部屋に入って――」
室内に突如として現れた絶叫の主に怯む男。
だが、次の瞬間に彼はそれが召喚された己のサーヴァント――バーサーカーであることを知る。
マスターとサーヴァント――両者の間に繋がれる魔力のパスを感じたからだ。
「……そう言えばそうだった、この戦いにオレは一人だけで挑むのではない……。
バーサーカー――お前をサーヴァントとして利用するんだな……」
納得したように、呟く男。
それ対し、血と赤雷が混ざったような鎧に身を包んだ騎士は、
「Grrrrr……」
と、返事代わりに唸り声を上げた。
それが何を意味する言葉か――いや、そもそもそれに意味などあるのか分からない。
だが、バーサーカーの声を聞き、男は直感的に理解した。
こいつも、オレと同じく何者かへの憎悪に狂う者なのだ――と。
▲▼▲▼▲▼▲
赤き鎧に身を包んだ、狂気の剣士。
青き鉄球を司る、流儀の戦士。
白き雪の降る冬の街で主従は出会う。
黒き憎悪の炎に燃える彼らの、行く先は……。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
モードレッド
【性別】
女
【属性】
混沌・狂
【出典】
アーサー王伝説
【ステータス】
筋力A+ 耐久A 敏捷A 魔力B 幸運D 宝具C
【クラススキル】
狂化:C
幸運と魔力を除くステータスが上昇するが、言語能力を失い複雑な思考ができなくなる。
【保有スキル】
魔力放出:A
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。
いわば魔力によるジェット噴射。
バーサーカーとなり、狂化によって細かな調整や加減が出来なくなった結果、一度発動すれば、己の武器や肉体から漏れる程の膨大な赤雷が放出され、一定範囲内を焦がし尽くす。
戦闘続行:B
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
カリスマ:C−→×
軍団を指揮する天性の才能。
団体戦闘において自軍の能力を向上させる。
バーサーカー化したことによって、このスキルは失われた。
直感:B→C
狂化によって、直感の精度はやや低下している。
【宝具】
【不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)】
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1
顔を覆う兜。
真名や宝具、固有スキルを隠蔽する効果を持つ。
たとえマスターであっても、この隠蔽は効果を発揮する。
また、戦闘終了後には相手に自分の情報が記憶されるのを阻害する効果を持つ。
しかし、ステータスやクラススキルは隠せず、また、この宝具を発動している間は最強の宝具を使うことができない。
【燦然と輝く王剣(クラレント)】
ランク:C− 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
アーサー王の武器庫に保管されていた、王位継承権を示す剣。
身体ステータスやカリスマを上昇させる効果を持つが、バーサーカー化した現在ではそれらは機能しておらず、下記の宝具発動という可能性の低い例外を除き、ただの剣以上の効果を有さない。
【我が麗しき父への狂おしき叛逆(クレイジークラレント・ブラッドアーサー)】
ランク:A+++ 種別:対軍宝具 レンジ:1〜70 最大補足:900
【燦然と輝く王剣】の全力解放形態。
剣の切っ先から直線状の赤雷を放つ。
元は【我が麗しき父への叛逆】であり、バーサーカー化した姿ならば有していない筈の宝具だが、「父への憎悪を魔力に変換し、増幅させて、赤雷として放つ」という性質が、憎悪に狂うバーサーカーと化した彼女に合った為、変質したものを所有した状態で召喚された。
それに伴い、威力も増加している。
狂化スキルがある為、発動条件が満たせるかどうかは怪しいところ。
マスターが令呪によって、「全力を出せ」と命じるのが一番あり得やすい発動手段であろう。
【weapon】
・燦然と輝く王剣
【人物背景】
円卓の騎士の一人にして、叛逆の剣士。
【特徴】
セイバー時で召喚された鎧姿+その更に上から全身を覆う、赤雷と返り血が混ざったような第二の鎧
鎧の胴体部分に槍で貫かれたような穴があるが、耐久性に影響はない。あくまで見た目だけの傷。
ただ、そのあまりに目立つ傷跡から死因が判明し、真名の特定に至られるかもしれない危険がある。
【マスター】
???(ウェカピポの妹の夫)
【出典】
ジョジョの奇妙な冒険 Steel Ball Run
【能力・技能】
・鉄球の技術
【weapon】
・剣
・鉄球
【人物背景】
ジョジョの奇妙な冒険 Steel Ball Runの重要人物。
彼が居なくては、ウェカピポの登場はあり得なかった。
結婚した妻を殴りながらヤリまくって失明させ、それを理由にウェカピポから法王による婚姻無効の許可を得られそうになると逆鱗に触れ、決闘を申し込むという、救いようのない人間の屑。カス。ゴミ。
しかし、いざウェカピポとの決闘に臨む際は付き添い人を用意して正当なる果し合いを行い、武器に祖先から受け継ぐ鉄球を用いるという、流儀に熱い一面も。
決闘でウェカピポに敗北し、死亡する。
【マスターとしての願い】
右目の回復。そして、ゆくゆくはウェカピポに復讐する。
【方針】
自分を聖杯戦争に放り込んだ全てを許さない。
【ロール】
財務官僚の息子。
投下終了です。タイトルは「叛逆デュエリズム」にします。
>>760
支援ありがとうございます!
本家風で、雰囲気があって良いですね!
wikiの方に掲載してもよろしいでしょうか?
感想はもう少し……もう少しお待ちください……
>>818
よろしければどうぞ
投下します。
眩い光。
それは、黄金。それは、太陽。
深夜だというのに、見るものを真昼間かと錯覚させるようなそれが消え、世界は正しい闇と静寂を取り戻した。
否、元に戻ったわけではない。
消えた。
終電から帰路につくサラリーマン。公園のベンチ周辺で騒ぐ不良のチーム。犬の散歩に来ていた若い男。
全て、無かったかのように、消えた。
もがき苦しんで、消えた。
静寂が支配する公園。
そこに舞い踊るのは、季節にふさわしい雪ではなく。
それは大量の花弁。
大方は光と共に掻き消えたものの、まだひらひらと舞う薔薇の花弁の中で、彼は笑っていた。
暴力的なほど美しい、紅い、紅い雨の中で、心底楽しそうに、笑った。
■
理解ができない。理解したいとも思わない。
受け入れ難い出来事による胸のむかつきを堪えながら、南城優子は目の前に立つ彼女のサーヴァント――キャスターを睨みつけた。
キャスターは紅い唇を三日月に歪め、首を少し傾げながら優雅に歩いてくる。
嫌悪感を覚えながらも、優子は相手の顔から視線を離すことができない。背筋が凍るような、端正な顔立ち。
この感覚に似たものを知っている、優子のボーイフレンドを目にした時に近い。一種の人外境の存在へのおののき。
まあ、優子の彼氏は誠に人外では、あるが。
あぁでも、こいつもそうなのかな――なんて、場違いな考えがぼんやりとよぎる。
身に纏う女子制服――こちらに来た時に優子が着ていたものだ――それのスカートをひらりと揺らし、キャスターは優子の前に立つ。
「……どうしてあんなことしたの」
「どうして?聞くまでもないだろう、面白いからじゃあないか」
震える問いに、踊るような答え。
回答者の外見――見目麗しい年頃の少女だ――には相応しくない低音の声音に、思わず心地良さを感じぞくりとする。
それもそうだ。目前の美しい金髪の少女は、少女などではないのだから。
キャスターが自らの髪に指を絡め、引くと、金色はするりと滑り落ち。
代わりに明るい栗色の短髪が現れる。緩やかなパーマのかかった柔らかそうな髪の毛。
「楽しいことをしただけ、何も悪くないだろう」
ん?と目を細めてキャスターは――青年は、優子を見下ろした。
嘘をついているようには見えない。だからこそ、異常だった。
「楽しい……楽しいからって、アンタは……ッ」
痛みを感じる程に拳を握りしめ。
視界の隅に舞い踊る花弁を感じながら、脳裏に浮かぶのは先程の出来事。
――散歩がしたい、そう言ったのはキャスターだ。
夜中だというのに、と呆れながらもしぶしぶ優子はついて行った。彼が手を取り、招くから。
――良いものを見せてあげよう、上機嫌なキャスターは公園に着くなりそう言った。
頭のどこかで警鐘が鳴っているのを感じながらも、ニコニコと……彼に似た美しい笑みを浮かべるキャスターを、優子は信用したかったのかもしれない。
その来歴が、いかに異常なものだとわかっていても。彼はこの数日、さして異常な行動は起こさなかったからだ。女装はさておき。
ああ、しかし。
しかし優子はその選択を後悔することになる。
キャスターは、スカートを翻しながら公園の広場の中心へ踊り出て、ふ、と微笑み。
まるで乞うかのように両腕を天へと、月の支配する空へと差し出し――
「――――――――!」
――何かをその唇で紡ぎ、出した。
その言葉は少し離れた位置への優子へは届かなかったが、彼の享楽的な笑みを見、しまったと思った時には、もう遅かった。
黒い天を割り降り注ぐ黄金の輝きに、思わず目をかばった優子が再び視線を戻すと、目の前の光景は一変していた。
それは、夜闇をもかき消す太陽の光中にて。
頭上を仰げば、細密な刺繍の施された大きな天幕。
その真下には、驚愕する、先程公園で目にした幾人かの人々。
そして、むせ返るほどの薔薇の香り。
いつの間にか優子のすぐ側まで移動してきたキャスターが、歌うように、言う。
我が愛すべき客人たちへと、贈り物を贈呈しよう。
この上ない愉快な見世物を、我が親愛なるマスターへお見せしよう。
この最も美しい処刑を、美しく死す彼らの魂を、我が太陽神へと捧げよう。
「――唄え悦楽、我が真紅の瀑布の中に(ローゼス・オブ・デウス・ソール・インウィクトクス)」
落ちる。
張り詰めた頭上の天幕が裂ける。
落ちる。
舞い踊り出すは紅きひとひら。
落ちる。
天幕が落下し出すのに合わせて、紅色が降り注ぐ。
満ちる。
視界を占めるのは一色。
満ちる。
怒涛の勢いに圧倒される。
五感を薔薇色に犯される。
ああ、餌食となった者達は、花弁の海に足をとられ、のしかかられ、助けを求めて手を伸ばせども、それすらも飲み込まれ。
一際眩い光を合図に消滅した薔薇と共に、哀れ犠牲者達は姿を消した。
後に残るは、驚愕に色と言葉を失う優子と、満足気なキャスターのみであった。
思い返せば吐き気がする。
いとも容易く関係のない人達の命を奪ったことが信じられない。
似たようなやつが知り合いに――友人だと認める気は無い――いるが、違う。
あの殺人鬼は殺人鬼ではあるが、キャスターのように、見せつけるように、無差別に、人殺しはしない。はずだ。
少なくとも優子の前では。
優子はこのテの存在が大嫌いだ。
優子を、優子と彼――日暮静秋を脅かす存在が大嫌いだ。
だから優子は怒った。
既に爪がくい込む程握った、拳に更に力を込めて、
「――ッこの」
目の前で微笑むキャスターの、その涼し気な笑顔に、
「バカ野郎!!!!」
その顔面に、叩き込んだ。
鈍い音が響き、はっきりとした手応えもあった。
優子の拳はキャスターの左目の辺りに確かにヒットし、殴られた当人はその衝撃のまま首を仰け反らしている。
そして、その顔がゆっくりとこちらに向けられ、それを見た優子の喉から、ひ、と息が漏れた。
キャスターは、笑んでいた。
それも、恍惚の表情で、うっとりと。
紅い唇を三日月に歪ませて、キャスターは確かに――悦んでいた。
そのとろけるような笑みは、きっと数多くを魅了するだろう。性別を問わず。
だが、優子はその血筋故、呪いや術といった類が効かない体質である。
だからこそ、優子は動けなかった。
その異常さを、正常な意識で認識してしまうから。
優子の嫌悪感は、恐怖に変わった。
「……っ……」
キャスターの伸ばした指はゆっくりと優子の茶髪に分け入り、優子のうなじをそっとなで上げる。
そのまま指はシャツの襟を広げ前に滑り降り、優子の胸元の令呪へとたどり着く。
優子は相手から目が離せない。
いつの間にか顔を寄せてきていたキャスターが、指では令呪をなぞりながらそっと囁く。唇が触れ合いそうなほどの距離。
「……所詮つまらない女だと思っていた」
キャスターは笑みを深める、優子の震える唇からは息のみが漏れる。
「だが今のは好かったぞ、ああ、ヒエロクレスを思い出した……」
優子に殴られた目元を撫でるその顔はうっとりと、熱っぽい表情をしている。優子は視線を外せない。
「実のところはな、こんな退屈なマスターならさっさと見限って。他にもっと良い、それこそヒエロクレスのような男を見つけてしまおうかとすら考えていたが……ふふ、なかなかどうして、面白い」
このサーヴァントは自分を裏切ろうとしていた――それを簡単に話すキャスターに優子は改めて恐怖を感じる。こいつの言うそれはすなわち……優子の死、ではないか?
「喜べ、マスター。お前の暴力は余好みだ……まだお前のサーヴァントのままでいてやろうではないか。ただしな、条件がある」
キャスターはその両手で優子の肩を持つと、優子の目を覗き込んだ。
「殴れ。罵倒せよ。ああ、ふしだらな女と罵ってくれてもいいぞ!かの男のようにな!余を愉しませよ、女!」
舌なめずりをして、媚びるようにキャスターは言う。
倒錯している――そう実感しながらも、半ば思考がぼんやりと追いついていなくとも、優子はかろうじて笑みを浮かべた。
「い、いいわよ……この変態。それでアンタがついてくるというのなら、いくらでも殴ってやろうじゃないの……っ」
「そうだ……それでいい!気に入ったぞ、マスター!くくく、何なら夜の余の相手をすることを許すぞ?お前はそうだな……あのウェスタの巫女のような反応をしてくれそうだなぁ」
「ふっざけんじゃないわよこの変態!!アンタみたいなの、こっちから願い下げだっての!!」
また小気味よい音が鳴り、キャスターの嬉しそうな笑いが人のいない公園に響く。
拳を握りしめながら、南城優子は心を決めた。これは自分と彼――日暮静秋のためだ。
完全に信用のおけるサーヴァントではないのが未だ心配だが、まだ繋ぎ止めておける手段ができたのは幸いだった。
キャスターに触れられていた令呪が心なしか熱い。
警戒は怠ってはいけない――優子は、生き抜けなければいけない。
彼のもとに、帰らねばならない。
「待ってて……静秋。……私は負けない」
【クラス】 キャスター
【真名】
マルクス・アウレリウス・アントニヌス・アウグストゥス(ヘリオガバルス)
【出典】史実(3世紀ローマ)
【マスター】南城優子
【性別】男性
【属性】混沌・善
【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運C 宝具A
【クラス別スキル】
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
「神殿」の形成が可能。
【保有スキル】
紅顔の美少年:A
この少年皇帝は美貌に恵まれていた。
人を惹き付ける美少年としての性質。
男女を問わず魅了の魔術的効果として働くが、抵抗の意思があれば軽減出来る。
皇帝特権:D
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
悪名高い、退廃しきった統治を行っていたためランクは低め。
太陽神の加護:B
本人がシリアの太陽神エル・ガバルを奉じる神官であった為、獲得したスキル。
彼の統治時における宗教改革でこれを「デウス・ソール・インウィクトクス」と尊称させ、ローマの最高神へとおいた。
両性具有の神による、彼の印象における両性性の確立。
【宝具】
『唄え悦楽、我が真紅の瀑布の中に(ローゼス・オブ・デウス・ソール・インウィクトクス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:30人
ローレンス・アルマ=タデマの絵画「ヘリオガバルスの薔薇」のモチーフともされた、
『ローマ皇帝群像』のなかにある「客人に薔薇の山を落として窒息死させるのを楽しんだ」とする逸話による宝具。
対象の上空から大量の薔薇の花弁が降り注ぐ。
相手の敏捷さを妨げるのが主な効果だが、一般人なら致死させることも可能。その場合、対象は太陽神への生贄として捧げられる(消える)。
『捧げよ快楽、常勝の太陽神殿(ヘリオガバリウム)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1〜30 最大捕捉:100人
生前建設させた神殿の具現化、再現。
太陽神エル・ガバルを象徴化した黒石を核に据え展開される。
ヘリオガバリウムの最高神官であるキャスターの全ステータスランクが2上昇する。
また、 「トロイのパラディウム像」や「マルスの盾」、「ウェスタの聖火」 などといった帝国中の神具や神器が集められており、
大神官権限としてそれらを使用することもできる。(ただし、本来の使い手ではないため、各道具のランクは下がる)
【weapon】
短剣
【人物背景】
ローマ史上最悪の君主とも呼ばれる、14歳で即位し18歳で暗殺された美貌の少年皇帝。
彼の統治における悪行は
「神々に身を捧げる」 ために処女を貫く掟のあるウェスタの巫女を辱め妻に迎え入れるという、ローマにおける宗教的慣例を踏みにじる暴挙、
自らが司祭を務めるシリアの太陽神エル・ガバルを 「デウス・ソール・インウィクトクス」と尊称させ、天空神ユピテルすら従える古代ローマの最高神へとする宗教改革、
などが挙げられるが、何よりも倒錯的かつ退廃した性生活の逸話が有名である。
正式な結婚生活すら4回の離婚と5回の「結婚」を繰り返しているのに加え、 あやしげな女たちをベッドルームに連れ込んで彼女たちの痴態を観察したりだとか、女装し、男を誘うような真似をしたりだとか、神殿内で飼育している猛獣に切り落とした男性器をエサとして与えたというものまで伝わっている。
男娼の真似事を行う一方で、皇帝は金髪の奴隷ヒエロクレスに対しては「妻」として従っていたという。
「ふしだらな女」と噂されるのを好み、それを知ったヒエロクレスに殴られ、なじられ、罵倒されて、喜んだという。
また、性転換手術を行える医師を高報酬で募集していたともいわれており、彼の性癖は同性愛や両性愛というより、トランスジェンダーの一種と考えられることもある。
【特徴】
外見年齢十代後半の美青年。女装した場合の違和感はない(ただし身長は少しばかり高めだが)
現代風の衣服を着ることに興味を持っており、現在はマスターの南城優子の制服を借りている。
現界時の衣装は地面に届きそうな紫色の司祭服に豪奢な装身具、頭には宝石を散りばめた帝冠(そして女装)。
女装時は金髪セミロングの鬘を着用。
【サーヴァントとしての願い】
女性になる。また世界の悦楽快楽をその意のままにすること。
【マスター】
南城優子@陰を往く人
【能力・技能】
術や呪いを無効化する体質。
家が代々邪教を祀る巫女の家系だったことによるらしい。
【人物背景】
高校二年、茶髪のソバージュにモデルのように整った顔立ちと体型。
ナンパ男をグーで殴り飛ばし鼻をへしおるステキな女の子。
彼氏は現代の吸血鬼。彼氏の親友は殺人鬼。
(本編における、藤村奈美との遭遇前での参戦)
【マスターとしての願い】
自分と彼(日暮静秋)の、平和な生活。殺人鬼と縁を切りたい。
投下終了します。
投下します
「ああ……ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌ!!ジャンヌゥゥゥゥゥゥ!」
住宅街の一軒家から奇声が轟いていた。時間帯は深夜。まごうことなく近所迷惑である。
甲冑に身を包んだ痩せぎすの男は、狂ったように聖処女の名を鼓舞している。
彼の真名はジル・ド・レェ。救国の英雄にして、青髭のモデルとなった殺人鬼である。
「ジャンヌぅ!!……はぁ、はぁ、私は彼女を救いたいのです! 聖杯を手にし、魔女の汚名を着せられた乙女を!救えなくて何が聖杯なのですか!!!」
彼は眼前のマスターに詰め寄った。その顔は興奮からか真っ赤に染まっていた。
ジルは召喚されて知ったことだが、彼のマスターは聖杯戦争についてまったくの無知だった。それどころか、魔術師ですらない。
常人よりも優れた肉体を持ってはいるが、魔術のまの字すら知らない完全なるド素人だった。
それを知ったジルは、すぐさま混乱していたマスターに聖杯戦争がなんたるかをこうして教えていた。
……ジルの生前を知っている者からしたら、その行動は意外の一言だろう。
事実、別の聖杯戦争でキャスターとして召喚されたジルは、聖杯戦争そっちのけで大量殺人を行っていた。
教養のないだけならまだしも、趣味も趣向も合わないマスターなど即殺害されてもおかしくはない。彼が狂気に呑まれていたのならば。
そう、バーサーカー、ジル・ド・レェは、狂化されても理性を失わなかった。
これは極めて異例なことであるが、狂化スキルが機能していないのだ。
ジルは領地での虐殺のイメージが強すぎるためか、他クラスで現界しても狂化が付加される。
そのため今回は狂気×狂気=正気の理論で理知的にすら成っていた。
「マスター…… 本来なら貴方は、聖杯戦争とは何の関わりもなく生きていく筈だったのでしょう。しかし、こうしてこの地に招かれた以上、争いは必然。
ご安心めされよ。私がマスターの剣に成りましょう。敵が現れれば私が戦いましょう。
なので
ぜ ひ 協 力 を 頼 み た い 」
ただし、別の意味で正気を失っていた。
「バーサーカー… お前のその熱い思い…… よ く わ か る ぞ ! ! 」
そしてマスターも変態だった。
「 お お お お お お ! ! わかりますかマスター!!かの聖処女の素晴らしさが!!なんと、なんとぉぉぉぉぉ!!!」
「ああ… あんたのジャンヌって人への思いは本物だ。聖杯ってのはイマイチわからないが、それだけはわかるぜ」
谷は島リホコが好きだ。誰よりも島さんが大好きで、世界で一番愛していると断言できる。
島さんのためなら、谷は喜んでその命を差し出し、彼女のために努力を惜しまない。
その狂おしいまでの愛を注ぐ男だからこそ、バーサーカーの狂的なジャンヌ愛もすぐさま理解し、平然と受け入れたのだ。
「誰かを好きだって気持ちは……世界で一番、その人を愛するって想いは、絶対なんだ。俺もお前も、それは変わらないんだ!!」
彼はジャンヌ連呼するバーサーカーに感動し、なんと共感すらしていた。
「まったくもってそのとおりです!!あぁ、このように素晴らしいマスターと巡り会えるとは、なんたる幸運か!!」
学生服を着た白仮面という怪しすぎる外見の谷に、バーサーカーも感動した。
「ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!!
ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!!
ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌ!!」
「島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん
島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん島さん
島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 島さん 」
【クラス】バーサーカー
【真名】ジル・ド・レェ
【属性】混沌・中庸
【パラメーター】筋力D 耐久E 敏捷D 魔力C 幸運E 宝具B
【クラススキル】
狂化:-
サーヴァントから理性を奪い、ステータスを増大させる能力。
精神汚染スキルと相殺され、失われた。
【固有スキル】
精神汚染:E
精神の錯乱度合いを表わすスキル。
他の精神干渉系魔術をごく低い確率でシャットアウトする。
狂化スキルとの相殺でランクが大きく下がり、幾分正気を取り戻しているため、普段は理性的に振舞う。
……ただし、女性を見ると高確率でジャンヌ・ダルクと誤認してしまう。
芸術審美:C
芸術作品、美術品の良し悪しを見抜く鑑定眼。
芸術面における逸話を持つ宝具を目にした場合、ある程度の確率でその真名を看破することができる。
軍略:D
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
黄金律:B-
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
一時は莫大な富が舞い込む星回りだが、浪費癖によりあっという間に使い潰す。
【宝具】
『集え、百合の旗の下に(ラ・ピュセル)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:500人
ジル元帥が率いる幻の軍勢。 彼がかつて率いた軍勢を、彼自身のイメージにより幻影として再現したもの。
幻影の状態ではただの目くらましにしかならないが、真名解放によりこれらの幻影を一時的に実体化させることができる。
この幻影の軍勢は、ジル本人のイメージが揺るがない限り何度でも再想可能。
ただし、真名解放後に再想した幻影は、実体ではなく、そのまま幻影の状態で留め置かれる。
これらを実体化させて戦力とするには、再度の真名解放を行うしかない。
『おお、麗しの聖処女よ(ジャンヌ・ダルク)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大捕捉:1人
ジルドレェの妄想を他者と強引に共有する能力。
この宝具を使用されたものはEランクの精神汚染スキルを植えつけられ、自身をジャンヌダルクと誤認してしまう。
魔術ではないので対魔力では防御できないが、低ランクの精神防御スキルで抵抗可能。
この宝具は、ジルが女性に対し「ジャンヌ」と呼びかける度に自動発動する。
ちなみに、ジル本人はこの宝具の存在を認識していない。
【Weapons】
長剣・無銘
ジル・ド・レェが戦闘に使用する長剣。
当時のフランスで使われていた、ごく一般的な刀剣である。
【サーヴァントとしての願い】
ジャンヌ・ダルクの復活
【人物背景】
皆ご存じの青髭の旦那。
狂戦士クラスで召喚され、“マイナス×マイナス=プラス”理論で正気に戻っている。
ただし、錯乱度合いが高かったため完全には戻りきらなかった。
一応、人格はジャンヌ没後の魔術に耽溺した状態ではなく、ジャンヌの下で軍勢を従えていた頃のものがベースとなっている。
しかし、「ジャンヌ」「ジャンヌ」と騒ぎ立てるのはあまり変わらない(その面ではむしろ悪化している)
戦力的には、海魔召喚の魔術書がなくなった代わりに、幻影の軍勢と弱洗脳宝具を獲得。
狂化による補正がないためパラメーターは低く、相変わらず戦闘は宝具頼みとなる。
能力が低く宝具に頼るバーサーカーというのも、なかなか珍しいかもしれない。
【マスター】
谷@谷仮面
【能力・技能】
常人離れした異常な怪力の持ち主で、軽々とコンクリートを打ち破り、人一人を十数mも放り投げる。
動きだけは鈍いと思われているが、その気になった際には更なる潜在能力を発揮する。
【マスターとしての願い】
一刻も早く島さんのもとに戻りたい
【人物背景】
鳥山高校1年3組の谷は、島さんと村上春樹が好きな何処にでもいる普通の高校生……。
ただ、仮面をかぶっている事を除いては……。
谷自身は穏やかに島さんを眺めながら日常を過ごしたいだけなのだが、本人の無類のパワーの所為か不良やガリ勉、子ども達が谷を放って置かないのだった。
2年に進級しても、相変わらずのパワーで呪いの地蔵だろうが、最強不良軍団だろうが、関わる者すべてを薙ぎ倒していた谷だったが、格闘姉妹や伝説の不良・中岡の登場に平穏であった筈の谷の日常が妙に騒がしくなり始め……。
伝説の用心棒・千葉や嘗て無い強大な敵までが出現する中で、谷と島さんの物語は果たしてどっちに進むのか!?
投下終了です
投下します。
心を見透かす少女の苦痛を知っているか
自らの傍にいるものの心から
目をそらしたくてもそらせない
どれだけ目をつぶってみても
自らを化け物とののしる心が見えてしまう
どれだけ目をそらしても
自らを嫌う心が見えてしまう
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この冬木という街には様々な都市伝説がある。
例えば、口裂け女…
例えば、赤マントの怪人…
例えば、てけてけ…
そんな何でもないような、直ぐに忘れ去られていくような噂があふれていた。
しかし、そんな中いまだに語り継がれていた都市伝説があった。
それは…
ここはあるマンションの一室。
そこには手の甲に入れ墨のような模様を持った男が部屋の隅で震えていた。
(なぜだ、なぜ私がこんな目に…)
その男はアサシンのマスターとして聖杯戦争に参加していた男だった。
彼は自分のサーヴァントを有効に使ってほかのマスター候補たちを順当に脱落させていた。
順風満帆であった。
しかしある日、彼のもとにある電話がかかってきた。それが悲劇の始まりだった。
『私メリーさん、今ゴミ捨て場にいるの』
最初はただのいたずら電話かと思っていた。しかしそれが間違いだった。
『私メリーさん、今交差点にいるの』
次の日にも電話がかかってきた。そしてその日、彼のマンションのすぐ近くの交差点で、令呪を持った男の死体が見つかった。
『私メリーさん、今マンションの前にいるの』
その次の日にも電話がかかってきた。その日は、自分の協力者である魔術師が切り刻まれた状態で発見された。
『私メリーさん、今あなたの住んでいる階にいるの』
今日も電話がかかってきた。そして辺りを警備させていたアサシンが何者かに倒された。
彼はもう限界だった。もう次は自分が殺されると本能で感じ取っていたからだ。
そして保護のために教会へと行こうとしたその時、自分の背中から少女の声がした。
『私メリーさん、今あなたの後ろにいるの』
『み ぃ つ け た』
その言葉を聴いたときには、もう彼の首は床に転がり、彼の身体は悪趣味な噴水と成り果てていた。
そしてそのそばには2人の男女が立っていた。
「おにーさん、周りには気を付けないとだめだよ?こういう風に悪い妖怪に襲われちゃうからね?」
一人は灰色がかった緑色の髪に、左胸に閉じた目のような飾りを付けた少女だった。
「■■■■■■」
そしてもう一人は、全身に目玉があるような出で立ちをした大男だった。
「百々目鬼のおじさん、これが聖杯戦争なの?なんだか拍子抜け」
少女、古明地こいしは退屈そうにしていた。
自分の知る遊び、弾幕遊びと違って派手さに欠け、まるで終わらないかくれんぼをしているような気分になったからである。
「■■■■■■、■■■■■■!」
そしてそんな彼女に対して、百々目鬼と呼ばれた男は何かを訴えるかのように話しかけていた。
「おじさん、励ましてくれるの?じゃあ、もう少し頑張ってみる!」
そうしてこいしは今日も、驚かしを続けていく…。
百の目を持つ巨人の苦痛を知っているか
自らが手折った哀れな花から
目をそらしたくてもそらせない
どれだけ目をつぶってみても
どれか一つは開いてしまう
どれだけ目をそらしても
どれか一つは見てしまう
【クラス】バーサーカー
【真名】アルゴス
【出典】ギリシャ神話
【性別】男
【ステータス】筋力A+ 魔力B 耐久B 幸運E 敏捷C 宝具A+
【属性】
混沌・悪(本来は中立・善)
【クラススキル】
狂化:C
耐久と幸運を除いたパラメーターをランクアップさせるが、
言語能力を失い、複雑な思考が出来なくなる。
【保有スキル】
怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
気配察知:B(A)
百眼による監視能力。
このランクならば数十メートルの範囲を霊視によって索敵できる。
気配遮断で存在を隠匿していても判定次第で見破る事が出来る。
バーサーカーとして召喚されたため、ランクが下がってしまっている。
異形:A
全身に目玉を持つ異形の姿。
狂化している影響のためか、アルゴスは常時この姿となっている。
【宝具】
『百眼を持ちし苦痛(アゴニー・アルゴス)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
巨人アルゴスの象徴である百の眼。
全身に複数の目を持つがゆえに、その眼は如何なるものも逃すことはない。
そのためバーサーカーは対人戦に対する優位性を持つ。
またその百目は必ず一つは開くため決して眠ることはなく、夜間の戦闘に対しても高い優位性を持つ。
【weapon】
『無銘』
目玉のレリーフが彫られた両刃の斧。
生前の得物というわけではなく、現界した際に持っていただけの斧である。
【人物背景】
百の目を持つ巨人。
眠っていても常にいずれかの目が起きて周囲を見張っていたことから
ヘリオスと並んでパノプテス(総覧者)と呼ばれる。
しかし彼はその百の目により見たくないものまで見てしまうという苦痛にさいなまれており、
また彼自身それに対して気にしないようにできるほどの強靭な精神ではなかったため、日々神経をすり減らしていた。
そのためあの日、ヘラの命令により牝牛を見張っていた際にゼウス及びヘルメスによって殺害されたことには、
それが身勝手な理由であったとしても感謝している。
【特徴】
八つの目玉が描かれた仮面と、無数の目玉のレリーフが付いた鎧で全身を覆った、身長2メートル半ほどの大男。
またクジャクの尾羽で作られたマントを羽織っている。
【聖杯にかける願い】
百の目を持つ巨人(アルゴス)としてではなく、普通の人間として生まれたい。
【マスター名】古明地こいし
【出典作品】東方Project
【性別】女
【weapon】
なし。
【能力・技能】
無意識を操ることにより、他者に自らの存在を察知できなくしてしまう。
相手の無意識の記憶を呼び覚ますといった、精神攻撃も出来る。
心を固く閉じているため、心を読まれることがない。
【ロール】
"メリーさん"という都市伝説として語られている少女。
【人物背景】
幻想郷の地下に広がる、旧地獄の巨大な屋敷、地霊殿の主である覚(さとり)妖怪である、古明地さとりの妹。
かつては相手の心を読む能力を持っていたが、その能力のせいで周りから嫌われることを知り、
読心を司る第三の目を閉じて能力を封印し、同時に自身の心も閉ざしてしまう。
そして第三の眼を閉じたことによって心を読む能力に代わり、「無意識を操る程度の能力」を手に入れた。
この能力により、無意識で行動できるようになったこいしはあちこちをフラフラと放浪するだけの妖怪となる。
基本的には外見相応に幼く無邪気な面もあるが、礼儀正しく言葉使いも丁寧である。
しかし妖怪なだけあり、「恋い焦がれるような殺戮」など物騒なことを平然と言うなど、凶器をはらんでいるようにも見える。
【聖杯にかける願い】
考えてない。取ってからどうするか考えてみる。
【補足】
基本的にその能力により彼女の存在を察知することは困難を極めているが、アルゴスは常時彼女の存在を察知しているため、こいし自身彼のことは気に入っている。
投下終了です。
ありがとうございました。
投下します。
愛した人はどこか遠くへ行ってしまった。
信頼できる仲間はある事件が切欠でバラバラになってしまった。
私の居場所は私が正しいと思った行動でいられなくなってしまった。
私は一人に戻ってしまった。
孤独な闇の中を、私は一人さ迷っている。
「冬木市……聖杯戦争……」
見たこともない日本の街に、私は気付けばいた。
脳裏に流れ込んでくるのは聖杯戦争と呼ばれるオカルトめいた催し物のルール、無限の願望器、歴史上の偉人をサーヴァントという存在として使役し戦うバトルロワイアル。
随分とオカルトめいた話。でもこれが本当の話であればかつての大戦の時にナチスが欲しがったというのも頷ける。
巻き込まれた。というのが正しい状況だろう。
これからどうするか、考えあぐねている私の耳がガサリという物音を拾い、人の気配を感じた。
即座に音のした方向に銃口を向ける。
狭く、薄暗い路地から笑い声が響いてきたのはそのすぐ後だった。
「怖や怖や、随分と殺気だっておるのう、我が"ますたぁ"とやらは」
暗がりから人影が姿を表す。
すらりと伸びた両の手足、ノースリーブの上衣にショートパンツのズボンめいたものを履いた姿の女性だった。
目元を隠すように伸ばした前髪で顔が隠れていて判別は難しいが、恐らくは東洋人。
そしてその女が視界に入ると同時に、脳裏に頭の中に浮かんでくるクラスやパラメーター。
それは間違いなくサーヴァントであるという事の証。
私をマスターと呼んだという事はこの女が私に宛がわれたサーヴァント、という事なのだろう。
「"ばぁさぁかぁ"として顕現した者だ、見るに異国の人間か。大和の民に呼ばれなんだのは僥幸よな」
くつくつと妖艶にバーサーカーと自らを名乗ったサーヴァントが笑う。
バーサーカー、理性を失った狂戦士。
理性を失ったというには正常な言語機能の持ち主であることは見てとれる目の前のサーヴァントに対し、微かな疑問符が浮かぶ。
もっとも喋れる事と会話が通じる事はイコールじゃない。私は、彼女とコンタクトを取る事にした。
「……ブラックウィドウ、私を呼ぶのならそう呼んで頂戴、バーサーカー」
「"ぶらっくうぃどう"、異邦の言語で蜘蛛の一種か。くふふ、なるほど汝に吾が呼ばれたのも合点がいくと言う物か」
意味深長な笑みをバーサーカーが浮かべ、私の名前から一人で勝手に納得をしている。すくなくともお互いの意思疏通は出来ると判断していいのかしら。
私の名前に反応を示したという事は蜘蛛に縁のある英雄、という事なのだろう。
「吾が真名は都知久母(つちぐも)、名に引きずられし奇縁なれど縁は縁。よろしく頼むぞ"ますたぁ"」
そう言ってバーサーカーのサーヴァント、ツチグモがにんまりと笑みを深める。
ツチグモ……、ジグモの様なものかしら? 生憎と日本のオカルト知識ないからどこかで調べる必要があるかもしれない。
何にしろ蜘蛛が呼び合った縁というのは確からしい。
「貴方は聖杯に何を望むの?」
「吾の国は大和の民、汝に分かりやすく言えば日本人か。そやつらに奪われてのう」
「復讐でも望むつもり?」
不穏な感情のこもった発言に構えた銃のグリップを握る力が強くなる。
ワンダ、ピエトロ、ティチャラ。大切なものを奪われて復讐に走った人間達の顔が浮かんでは消えていく。
もしも、目の前の彼女が日本人そのものへの復讐を考えていたら。
他国の問題とはいえ、目の前のサーヴァントが虐殺を考えているのであったらそれを見過ごすのは寝覚めが悪い。
「真逆(まさか)。強き者が弱き者を淘汰する。あれは自然の摂理だっただけに過ぎぬ。怨みこそあれ、報復などする気は更々ないわ。
しかしな、その後がいただけぬ。事も有ろうに奴(きゃつ)めらは我らを人ではなく化け物として扱った。退治されて当然の人ではない何かへと我らを変えさせた。それが許せぬ」
バーサーカーは復讐を否定する。不安は杞憂に終わった。
そしてバーサーカーが不愉快そうに口を歪めながら話している最中に、彼女の背が不自然に盛り上がり服の隙間から一本の尖った何かが姿を表す。
そこにあったのは、巨大な蜘蛛の足だった。
鋭く尖ったその足先を打ち込まれでもしたら、人間であればひとたまりもない事は伺い知れる。
「土蜘蛛、それがこの化生の名よ。吾はな"ますたぁ"この忌まわしき力を使ってでもこの化け物と我らの縁を断ちたいのだ」
蜘蛛の足がバーサーカーの意思に応じる様に2・3度動くと、そのまま彼女の体の中に収まっていく。
縁を断ちたい、つまりもう化け物にはなりたくない。それが彼女の望みということなのだろう。
「嫌ってる割には、その力を使うようだけど?」
「そうでもしなければ名だたる英雄には勝てんのでな。しかし願いが叶えられば我らは化け物に姿を変える事もなくなる。この化け物に引きずられてこの様な戯けた催しに呼び出される事もない。
我らはな、もう静かに眠っていたいのだ」
そういうバーサーカーの顔にはどこか疲れたような力のない笑顔が浮かんでいた。
自分に身に覚えない化け物としての側面と同居させられている苦痛はどれほどのものか。
今はどこで何をしているかも分からないブルースならば、もしかすると彼女の苦しみに共感を抱いていたかもしれない。
「主よ、汝は聖杯に何を願う?」
「私は……」
ブルース。
クリント。
スティーブ。
アベンジャーズ。
失った私の居た場所。
もしも、ソコヴィアでの事件がなければ私達は今もチームをやれていただろうか。
もしも、やり直すことができたのなら。
「居場所を取り戻したいとは思う。でも、思うだけよ。奇跡には頼らない」
それに願えば、全ては丸く収まるだろう。
だけれどその一方で、それに手を出せば取り返しのつかない事になるという確信がどこかにあった。
多分それをしてしまったら私は彼らと会えなくなる。
ここまでの彼らの意思を、決意を、そのあり方すべてを否定した事実に、恐らく私が耐えられなくなる。
「ふむ、難儀なものよな。しかし、羨ましくもある。奇跡に頼らず望みを叶えようなどと、吾には二度とできぬ故な」
眩しいものを見るかのように、バーサーカーが私を見ながら目を細める。
これで、私は聖杯戦争に参加する理由はなくなった。
しかし、だからといってそれで私が聖杯戦争から解放される事はイコールじゃない。
「知識ではサーヴァントを失ったマスターは聖杯戦争に参加する資格を失い、必要ならば戦争が終わるまで監督者に保護を要請できるとあったわ」
「然り。なればどうする? 令呪で我が命を断ち、早々に脱落するか?」
「見たこともない胡散臭いホストに命を預けるくらいなら、まだ貴方に命を預けた方がマシね」
何が目的でこんなものを始めたかのすら分からない相手を容易く信頼して身柄を預ける事ができるほど生易しい世界で私は暮らしていない。
最低でもこの戦争の首謀者の素性が分かるまではバーサーカーと縁を切る、という手を取る気は私にはない。
そしてもう一つ、気になる事もあった。
「この聖杯に、物騒な望みを託す人間やサーヴァントはいると思う?」
「さてな、暗く冷える泥濘の様な恨みを持った者も、烈火の如き灼熱の怒りを宿した者もおるだろう。加えて今の吾の様な反英雄に属するサーヴァントすら呼び出す聖杯よ。推して知るべし、といったところだのう」
バーサーカーの返答に、私はやっぱり、と納得する。
英雄だって人間。どれだけ高潔な人格であろうとも怒りもすれば恨みもするし、間違いは犯すし衝突だってする。それは私が、私たちが身をもって経験した事でもある。
それどころか反英雄、つまりヒドラやロキの様なサーヴァントが参加している可能性もあるとわかった以上、私の中に迷いはなくなった。
「私の友人達なら、きっとこう言うわ『聖杯をそいつらに渡す訳にはいかないし、聖杯はここで壊すべきだ』ってね」
トニーはもしかしたら『それを管理して有効活用すべきだ』なんて言い出すかもしれないけれど、これは危険すぎる代物だと私は思う。
ウルトロンの時の様な悲劇が待っているかもしれない。
それを考えると、聖杯はここで壊すべきだ。それが私の出した結論。
「報酬は聖杯で願いを叶える権利。最終的な目標はそんな危険物の破壊。私と貴方はこれで利害が一致する。どう? これで手を打たない?」
バーサーカーがいなければ私は聖杯に辿り着けない以上、報酬は必要だ。
バーサーカーと共に勝ち残ったとして、彼女が願いを叶えた上で私がそれを破壊するという方針は取れる筈。
私の提案を聞いたバーサーカーは無表情だ。目元が髪で隠されている事もあり感情は読めない。
不意に真一文字に結ばれていた彼女の口が半月へと姿を変える。
路地に笑い声が響く。
バーサーカーが口元を隠しながら大きな笑い声をあげていた。
「……主は頭の良い女かと思っていたが、なるほど吾の見込みが違っていたか」
「友人に恵まれたのよ」
「大事にする事だ。よい、許す。大和が朝廷に弓引きしまつろわぬ民を束ねる頭領が一人、都知久母が今この時より真に主従を誓おうぞ、主殿。この身を存分に使うがいいさ」
バーサーカーが私の前に跪く。
"ますたぁ"から"主殿"に変わった呼称と合わせて、私をマスターであると認めてくれた、と考えていいのだろう。
"これで良かったの?"と私の中から問いかけが聞こえる。
"これで良かったのよ"と私は自分に言い聞かせる。
未練はあるかもしれない、でも後悔はしない。
スティーブの様に、トニーの様に、私は私の正しいと思った事を為す。
さあ、任務を始めましょう。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
都知久母(つちぐも)
【出典】
古事記、日本書紀、土蜘蛛草紙
【性別】
女
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力C(A) 耐久C(A) 敏捷B(B) 魔力C(C) 幸運D(D) 宝具B
【クラススキル】
狂化:EX(A)
通常時は狂化の効果を受けないが、部分変化スキル使用時の時間経過と変化の割合で段階的に狂化のランクが上昇し最大でBランクまで上昇する。
バーサーカーは土蜘蛛への侵食の深度が即ち狂化となっている。素の状態ではDランク相当。
【保有スキル】
気配遮断:D(-)
サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
部分変化:A(-)
身体の一部を妖怪の姿へと変じさせる。バーサーカーの場合は蜘蛛の足、および蜘蛛糸の精製し口内から射出する事が可能。
但し、変化時間を長時間維持させる、あるいは変化させる部位を増やすごとに狂化のスキルランクが上昇していく。
変化を解くと上がっていた狂化のランクもリセットされる。
怪力:D(A)
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。
戦闘続行:-(A)
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
【Wepon】
短刀
【宝具】
『妖怪変化・大化生 土蜘蛛(おもておにのごとく、からだとらのごとくして、ししくものごとし)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
その身を土蜘蛛と呼ばれる妖怪へと変じさせスキルとステータスを括弧内のものへと変更する。
朝廷の反逆者であった土蜘蛛は本来蜘蛛とは関わりのない単なる呼び名であったが、後世には妖怪の土蜘蛛へと形を変え、また源頼光の妖怪退治の逸話にて妖怪の土蜘蛛と呼称としての土蜘蛛が関連づけられて伝えられていった逸話から発生した、無辜の怪物に近しい宝具。
化生と化したバーサーカーは相手を縛り付け切り裂く魔性の鋼糸を吐けるようになる他、人としての特性と理性が完全に失われ目の前の敵を殺害するまで暴れ回る。
宝具使用後に人に戻る場合は令呪一画の使用が必要。
【人物背景】
朝廷によって討伐された反対勢力の一つを取りまとめていた女性。
都知久母の名は常陸風土記に記されている。
土隠(つちごもり)とも言われ穴を掘って作られた住居を利用したゲリラ戦法で朝廷軍に反抗していたが、出入り口に茨を張り巡らされた事で戦法を封じられて部族郎党を滅ぼされた。
弱肉強食主義であり、国を滅ぼされた事自体は自分たちが弱かった為に致し方なし、と受け入れているがその後の伝承で『まつろわぬ民の土蜘蛛』が『妖怪の土蜘蛛』として伝えられ同一視された事で、無辜の怪物の様に妖怪としての一面を持ってしまった。
主義主張の異なる人間同士の戦に人として敗れた彼女にとって、自身や共に戦った仲間を退治されて当然の化け物として扱われる事は我慢がならない事であった。
性格は好戦的で享楽的。景気がいい事が好きな反面、堅苦しいのは嫌い。
【特徴】
目元を隠すほど伸びた前髪と肩口まで伸びた後ろ髪。両手両足の長いすらりとしたモデル体型
シャツとショートパンツが一体化した衣服の上に袖の無い上着を羽織っている。
【サーヴァントとしての願い】
『まつろわぬ民:土蜘蛛』と『妖怪:土蜘蛛』の繋がりを絶つ
【マスター】
ブラックウィドウ(ナターシャ・ロマノフ)@マーベル・シネマティック・ユニバース
【能力・技能】
超人的な体術と諜報技術、銃火器知識。
ガジェット類はアベンジャーズから姿を晦ませた時に置いてきた
【人物背景】
アメリカ合衆国の特務機関S.H.I.E.L.Dのスパイにして、ヒーローチームアベンジャーズのメンバー。
妖艶な美女で個性的なヒーロー達の調整役に回る事が多く、アベンジャーのメンバーには仲間意識が強い。
今作ではシビルウォー劇中、キャプテンアメリカらとアイアンマンらでヒーロー同士が決裂した際にアイアンマンらの陣営に当初はついたものの、自身が正しいと思った事を信じてキャプテンアメリカに手を貸した事でアベンジャーズにいられなくなり姿を晦ました後からの参戦。
【マスターとしての願い】
バーサーカーの願いを叶えた後、聖杯を破壊する
以上で投下を終了します
投下します
――――今まで 何か いつも 不安感が つきまとっていた。
漠然と 自分の周りを 構成するものの 何かが 間違っているんじゃ ないかと。
大きな力が あれば その間違いを 正していける。
まっすぐ 歩いていける――――。
(アサシン、外にいる携帯を弄りながら歩いてる男を殺せ)
(は?)
冬木市内の喫茶店の一室。
ともすれば少女にも見える少年が、傍らの見えない存在――霊体化した己のサーヴァント、アサシンに唐突に念話で話しかける。
少年の格好をした少女は己のマスターの意味不明な台詞に困惑した声をあげる。
(携帯を弄って歩くような人間は、自分の不注意が原因で他人が死んでもいいと思っている。
そういう人間は殺されても文句を言えないだろ)
(マスター、些か極論が過ぎるのではないか?)
やんわりと男装の少女が少年を諫める。
だが、少年は聞く耳を持たない。
(お前は知らないだろうが、携帯電話やスマートフォンを弄って起きる事故は年々増えているんだ。
ああいう奴はいつ大事故を引き起こしても不思議じゃない。
今のうちに殺した方が世の中のためだ)
なんとこの少年は、聖杯戦争など関係なく世の中のためにマナー違反者を殺すという。
世直しと言えば聞こえはいいが、現代においてマナー違反者を殺害するなど無差別殺人と大差ない。
だが、この少年には倫理観での説得が無意味なことは短い付き合いでも嫌というほど知っている。
(しかしマスター、ルーラーに目を付けられるぞ)
よって、アサシンは実利による説得を試みた。
ルーラー、それは聖杯戦争を管理する存在。
部外者に危害を加えるなど聖杯戦争のルールを犯した場合、ペナルティを与えてくるのだ。
(サーヴァントの超常の力では、警察は誤魔化せてもルーラーは誤魔化せない……か)
(その通りだ、だから)
(偶然を装って何人か殺すぐらいなら、ルーラーも介入してこないんじゃないか?)
だが、少年は懲りずに殺しの算段を立て続ける。
(その辺りはルーラーの性質によるとしか言いようがないな……。
そして、現時点ではルーラーの性質など確かめようもない)
アサシンはうんざりしながらもその質問に答える。
そうこうしているうちに喫茶店のショーウインドから見えていた携帯を弄りながら歩いていた男性は見えなくなった。
(さらに言わせてもらえば、たとえルーラーが介入してこなくとも、変死事件を優秀な魔術師に調べられれば我々の足取りを掴まれる危険もある)
アサシンならば普通の人間には絶対に気付かれずに人を殺すことができる。
だが、人間は原因の分からない死を恐怖する。
変死事件をニュースで騒ぎ立てるのは想像に難くない。
アサシンとはいえ……いや、アサシンだからこそ自らの存在を流布するようなことはしたくなかった。
(一社、自重してくれ)
あえてマスターではなく名前で呼ぶことで自らの本気を伝えるアサシン。
少年……一社 高蔵は、軽くため息をついて諦めたように天井を見上げる。
(一社、君だって願いがあるのだろう?
ならば自分から不利になるような真似は慎むべきだ)
実利ならば説得に応じる芽があると踏んだアサシンは、聖杯にかける願いというマスターにとって絶対の目標を例に出す。
しかし――――
(お前は馬鹿か、いつ俺に願いがあるなんて言った)
(なに?マスターは随分と熱心に俺の能力を確認していたじゃないか)
そう、一社はアサシンを召喚して以降、その能力の確認に熱心に努めていた。
人気のいない所で霊体化と実体化を繰り返させたり、宝具を開放させたりといった具合にだ。
(それはお前の能力が、社会のルールを守らない奴らを殺すのに役立つと思ったからだ。
実際、ルーラーの存在さえなければお前の能力はバレずに殺人するのにすこぶる有用だ)
アサシンは暗殺者のクラスで召喚されたが、元々は優秀な兵士である。
性別を偽って軍隊に入り、周囲を欺き続けていたことから、宝具と合わさってやや特殊な気配遮断スキルが宛てがわれたことには納得している。
そしてアサシンというクラスの特性から暗殺をすること自体にも抵抗はない。
しかし、聖杯戦争となんの関係もない無辜の民まで殺害することには反発があった。
とんでもないマスターに召喚されてしまったものだ、と思いながらも召喚された以上、主には最大限尽くすつもりだ。
なんとか折り合いを付けられないものかと、アサシンは一社に質問を続ける。
(では、マスターはこれからどうするつもりだ?)
(一番の目標はルーラーの性質を確かめることだが……そう簡単に会えるかどうかも分からないか。
とりあえずは敵のマスターを殺すことを目標にするか)
(願いがない割には随分と積極的だな?)
アサシンのその言葉に、一社はアサシンをじっと見つめて真剣な顔をする。
(なぁアサシン、こんな馬鹿げた戦いに参加するような人間なんて、死んでもいいと思わないか?)
(なに?)
(何でも願いが叶うなんて、低俗なフィクションにありがちな話だ。
そんな怪しい話に飛びつくような想像力の欠落した馬鹿は、死んでもいい)
相変わらずの過激な一社の持論に辟易しそうになるが、この持論にはアサシンも反論があった。
(だが、今回の聖杯戦争には本人の意志ではなく、巻き込まれた人間もいるはずだ。
マスターもそうだろう?)
一社は家庭の事情で引っ越しが多い。
つい先日、市内の中学校に転入したばかりだ。
今回も今まで何回も繰り返してきた引っ越しの一回にしか考えていなかったが、冬木で暮らしているうちにいつの間にか聖杯戦争のマスターに選ばれていたという訳だ。
(確かに巻き込まれただけの人間もいるだろう。
だが、本気で戦いを嫌がっているのなら令呪を全て使ってサーヴァントを自害させてから、さっさと冬木を離れればいいだけだ。
それをしない時点で、本人もこの聖杯戦争に乗り気ということだろう)
(しかし、マスターのような学生の場合は街から離れることも容易ではないのではないか?)
社会には色々なしがらみがある。
特に学生の場合は金銭面において親に依存している。
一社のような中学生はバイトもできないので、そう簡単に住んでいる街から離れることはできない。
(俺は何も冬木から引っ越せと言ってる訳じゃない。
聖杯戦争が終わるまでの間だけでも親戚の家に泊まるなり、家からいくらか金を持ち出してカプセルホテルや漫画喫茶に寝泊まりすればいいだけだ。
親からの説教や学校の出席日数の問題もあるだろうが、命にかえるようなものでもない)
確かに、一社の言うことにも一理ある。
本当に巻き込まれただけならばさっさと逃げ出す方が自然だ。
わざわざ聖杯戦争の場に残っているということは、一定以上の「やる気」があるからだろう。
(つまりマスターは、願いはないが他のマスターを殺すということだな?)
(ルーラーが放任主義だった場合は世直しを優先するが、基本的にはその認識で構わない。
俺には願いはないしそんな胡散臭い物に頼る気もないから、もし勝ち残ったら聖杯は丸ごとお前にやるよ)
今まで我慢していたため息がとうとうアサシンの口から吐き出される。
この過激な子供と上手く付き合っていく自信がない。
思えば、自分は生前から貧乏くじを引くことが多かった。
家に成人男子が病床の父しかいなかったために、男装して従軍して以降、隋末唐初の乱世を駆け抜けてきた。
父の身代わりになったことに後悔はないが、まさか一つの王朝の滅びと興りを目にするとは思わなかった。
アサシンの願いは、隋の初代皇帝文帝の後継者争いをやり直し、中国史でも有名な暴君である煬帝の即位をなかったことにすることである。
別に隋を千年帝国にするつもりはないが、たった二代で滅びた隋をもう少しだけでも長続きさせたいのだ。
だが、この分だとマスターに振り回される未来しか見えない。
(どうか、ルーラーが徳のある人物でありますよう――――!)
自らの願いのためにも、無辜の民を殺すことにならないためにも、アサシンは祈る。
しかし、アサシン……花木蘭の願いも虚しく、今回の聖杯戦争のルーラーは問題人物であった。
【クラス】アサシン
【真名】花木蘭
【出典】史実、七世紀頃中国
【性別】女
【属性】秩序・中庸
【ステータス】筋力B 耐久C 敏捷B 魔力D 幸運B+ 宝具C
【クラス別スキル】
気配遮断:C(A)
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
宝具開放中はランクがAまで上がり、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しくなる。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
矢よけの加護:B
飛び道具に対する防御。
狙撃手を視界に納めている限り、どのような投擲武装だろうと肉眼で捉え、対処できる。
ただし超遠距離からの直接攻撃は該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない。
【宝具】
『木蘭よ、美しく咲け(オナー・トゥ・アス・オール)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:‐ 最大捕捉:1人
アサシンの代名詞足る男装であるが、このアサシンは「病床の父に変わって従軍した男装の麗人」つまりは男装した姿をベースにしているためこの宝具の発動は男装を解くことを意味する。
戦場にて女の姿に戻り敵陣を視察した、皇后に会うために女の姿にて後宮に入ったなどといった臨機応変に元の姿と男装を使い分ける逸話が宝具となったもの。
軍という社会の中で十年近く苦楽を共にした戦友ですら気づかない程の精度を誇る。
基本的によほど察しの良い者でないかぎり男装したアサシンと女のアサシンを同一人物と判断することは不可能である。
言ってしまえば元の姿に戻るだけの宝具なので魔力の消耗はほぼ皆無。
しかし、宝具開放時は幸運と宝具以外のステータスが1ランク下がってしまい、保有スキルも無効化されてしまう。
宝具を開放したり解いたりすることで戦闘向けの男と隠密向けの女をトリッキーに使い分けることも可能。
【人物背景】
隋末唐初の時代に活躍した女傑。
病床の父が徴兵されてしまうことを憂い、女の身でありながら男装して兵士となった。
彼女は十年近く従軍して数多くの武勲を立て、皇帝から尚書になるよう持ちかけられるまでになる。
しかし、彼女は出世街道に乗るのではなく、故郷へ帰り女の姿に戻ることを選んだ。
隋末唐初の人物であることは確かだが、具体的な年代には諸説ある。
本作では隋の二代目皇帝、煬帝の時代に従軍したという説を取る。
【特徴】
十代後半の線の細い美少年……に見えるボーイッシュな少女。
鎧姿なので体の起伏が目立ちにくい。
宝具発動時は髪に簪をさし、服装も武骨な鎧から女物の着物へと変化する。
男装時の一人称は「俺」だが、女の姿の時は「私」。
どうにも貧乏くじを引きやすい傾向がある。
【サーヴァントとしての願い】
文帝の後継者争いをやり直し、煬帝の即位をなかったことにする。
【マスター】
一社 高蔵@なにかもちがってますか
【能力・技能】
なし。
彼の近くにはやたらと超能力に目覚めている人物が多いが……?
【人物背景】
冷徹で傲慢な性格の女顔の少年。
自分の女顔には思う所があるようで、そのことで茶化してくる人間にはすぐ暴力を振るう。
良くも悪くも行動力は高く、思い切った行動を躊躇なく行えるが、その行動には粗も多い。
自分の周りを構成する何かが間違っているんじゃないかと思っており、漠然とした不安感を持っている。
原作コミックでは日比野光の超能力にその間違いを「正していく」光明を見いだしたが、本作ではサーヴァントの超常の力にそれを見いだしている模様。
参戦時期は本編開始前で、本来なら光のいる中学校に転校する筈が冬木市の中学校に転校することになったという設定。
【weapon】
なし
【マスターとしての願い】
なし。
聖杯戦争に参加するような人間を殺すこと自体が目的。
【基本方針】
ルーラーが煩いことを言わない人物であったら、ポイ捨てや歩きスマホなど、社会のルールを守らない人物を殺す。
投下終了です
投下します。
冬木市、新都。
その一角に居を構える芸能事務所の一室で一人の男が力なくうな垂れていた。
彼はとあるアイドルのプロデューサーである。
だがその肌は荒れ、目は落ちくぼみ、数日間寝てないであろうことが傍目にも明らかだった。
仕事柄、数日の徹夜程度なら慣れている。
だがそれだけでは説明できないほどに憔悴しきっていた。
その原因はたった一つ。
彼の担当するアイドルが数日前から行方不明なのだ。
数日前、ミニライブを終えた直後だった。
衣装もそのままに控室へ戻った彼女は姿を消した。
その時間、たった数分。そのわずかな間に彼女は消えたのだ。
様々な噂が流れた。
自らの意思による失踪。何者かによる誘拐。
だがどちらにしろ不可解なのは、その間に誰一人として控室に出入りしていないことだった。
監視カメラの映像も、スタッフの証言もそれを裏付けている。
まるで神隠しのような状況。
当然のように警察の捜査は難航し、何の進展もないまま今に至っている。
そして彼はそれから一睡もしていない。
それどころか自ら心当たりをすべて当たる勢いで探し回っている。
そんな自分の様子に彼自身驚いていた。
彼は自分のことを人一倍名誉欲が強い男だと思っていた。
故に人気のある"トップアイドルのプロデューサー"というものを目指した。
アイドルはそのためのパートナー。
いや、正直に言えばその肩書を得るためだけ道具だとすら思っていた。そのはずだった。
……だが彼女と出会ってそれが変わった。
ステージ上で彼女が踊る。彼女が歌う。彼女が笑う。
ただそれだけで世界が変わって見えたのだ。
そして何時のころからか『彼女を多くの人に見てもらうこと』が彼の望みとなった。
いや、彼女こそが自分の中で一番大きな比重を占めるようにすら――
「――さん、プロデューサーさん」
「……千川さん」
視線を向けた先にいたのはアシスタントである千川ちひろだ。
いつも明るい彼女の顔にも疲労の色が浮かんでいる。
「先ほど警察の方がいらっしゃって……公開捜査に踏み切るそうです」
今までは事務所の圧力や家族の意向もあり、公表は避けてきた。
だがそれももう限界らしい。
失踪がファンの間に知れ渡れば多くの憶測を生み、アイドルとしての今後に影を落とすだろう。
だが……
「そんなことはどうでもいい! 一刻も早く彼女を……!」
ちひろのおびえた顔。
それでやっと声を荒げてしまったことを理解する。
「……すまない」
当たり散らしてしまった自分を恥じる。
彼女もつらい筈なのに、当たり散らすなんて最低だ。
「……いえ、気になさらないでください。
でもお願いですから睡眠をとってください。このままじゃプロデューサーさんのほうが……」
そう言い残し、ちひろは部屋を後にする。
たった一人残されたプロデューサーはぼんやりと天井を見上げた。
――いつのころからだろう。
彼女のことを一人の女性として見始めたのは。
プロデューサーとして許される感情ではない。
この感情を告げるつもりもないし、大事な人ができたなら笑顔で祝福するだろう。
彼女が幸せならばただそれだけでよかった。
こんな感情を抱いたのは生まれて初めてのことだった。
あれほど焦がれた"トップアイドルのプロデューサー"などという肩書もどうでもいい。
彼女が無事ならば、彼女の笑顔がもう一度見れるならば、そんなことはどうでもいいことだ。
だが彼自身わかっていた。
自分にできることはもうないのだ、と。
彼女が行きそうな場所はすべて探した。
もうこれ以上素人にできることは何もない。
むしろ警察の邪魔にならないように大人しくしているべきなのだ。
だが理性はそう告げていても感情はそうはならない。
理性と感情が、まるで迷宮のようにぐるぐると自分の中を彷徨っている。
「……このままじゃ、だめだな」
睡眠薬でも使って無理やりにでも寝たほうがいいのかもしれない。
このままだとさっきのような間違いを犯してしまうかもしれない。
そう考えて男は仮眠室に向かう。
そのドアノブに手をかけたところで不意に馬鹿な考えが頭に浮かぶ。
(このドアを開けた先に、もし彼女がいたら……)
そんな益体もない妄想を抱いたまま仮眠室のドアを開け――
「――な」
言葉を失った。
その先に、信じられない光景が広がっていた。
彼の眼前に現れたのは煉瓦製の壁と地下へと延びる石造りの階段。
まるでゲームに出てくるような古式ゆかしい地下迷宮(ラビュリントス)の入り口だ。
――俺は夢を見ているのか?
だが夢にしては中から漏れ出してくる黴臭い空気も、耳に響く深く静かな反響音もあまりにもリアルだ。
目の前に広がった非現実な光景に、疲労していた脳が混乱で埋め尽くされていく。
――オォォォォォォォオォォOOOhO!
だが次の瞬間、内部から"何か"の鳴き声が響き渡り、反射的にドアを閉じてしまう。
今のは何だ。
ただそれが声だと認識しただけで心臓を鷲掴みにされたような恐怖に襲われた。
まるで全ての生あるものを恨むような獣の咆哮。
心臓だけが別の生き物のように鼓動を刻んでいる。
非現実の光景。
だが非現実だというのなら彼女が消えた状況こそが非現実だ。
そうだ、あれだけ探してもいなかったのだ。
もう残された場所は非現実の世界しかないのではないか。
頭のどこかで狂っていることを理解しながら、意を決して再びドアを開く。
「……あ、れ」
だが再度開けた扉の先は見慣れた仮眠室だった。
呆然と部屋の中を見回すがいつもの仮眠室と何一つ変わらない。
やはりあれは幻だったのか。
「くそっ……」
誰にも聞こえないように悪態をつく。
ストレスが生み出した幻覚とそれに逃げようとした自分。
そんな自分があまりにも情けなかった。
■ ■ ■ ■
薄暗い空間に女が横たわっている。
普段着とは明らかに違う、舞台映えする衣装に身を包んだ女。
そう、"彼"の探している行方不明のアイドルその人だ。
彼女は硬い地面に直接寝かされている。
だが一向に起きる様子はなく、それどころか身じろぎ一つしない。
その姿は一見するとまるで死んでいるかのようだ。
だが彼女は死んではいない。
ただし生きているとも言い難い。
生と死の丁度境界線上、魔術的にも肉体的にも仮死状態にある。
その原因は彼女に背を向けて座る壮年の男にある。
黒いローブを身にまとった魔術師(キャスター)のサーヴァント。
彼の道具作成スキルによって作られた霊薬によって、彼女は生かさず殺さずの状態に囚われている。
彼女の意思を封じ、同時に限界まで魔力を吸い上げるために。
主を主と思わぬ蛮行。
だが、それも当然か。彼は主に一片の興味もない。
彼女をマスターとして選んだのはたまたま魔術的な才能があり、そして何より"餌"として最適であったからだ。
迷宮の奥にさらわれた、罪なき女。救われるべき哀れな女。
そのために必要なのは多くの人に知られる存在であること。
この迷宮に多くの勇者を呼び込むための餌。
ただそれだけだった。
既に彼女を探して、数名の人間が迷い込み、そして迷宮に殺されている。
このままいけば被害者はさらに増えるだろう。
誰かが己を殺すまで、この悲劇が止まることはない。
「さぁ英雄たちよ、来るがいい。……"悪"はここにいるぞ」
虚ろな瞳の奥で、歪な炎がゆらりと揺れた。
【クラス】
キャスター
【真名】
ダイダロス
【出展】
ギリシャ神話
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E 魔力A 幸運E 宝具EX
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
・陣地作成:A+
魔術師として自らに有利な陣地な陣地「工房」を作成可能。
キャスターにとっては大迷宮がそれにあたる。
迷宮は大神殿並みの強固さを誇り、迷宮ごと破壊するという行為は実質不可能である。
・道具作成:A+
優れた発明家であるキャスターはほぼすべてのアイテムの修復、新規作成が可能である。
条件さえ揃えば宝具ですら修復が可能である。
【保有スキル】
・反骨の相:D
権威に囚われない、裏切りと策謀の梟雄としての性質。
同ランクの「カリスマ」を無効化する。
キャスターは主を変え、流浪する宿命にある。
・精神汚染:C
精神が錯乱しているため、他の精神干渉系魔術をシャットアウトできる。
ただし、同ランクの精神汚染がされていない人物とは意思疎通ができない。
キャスターは罪の意識を感じているが、そのことによって行動を止めることはない。
――逆説的に精神を捻じ曲げなければ悪徳に耐えられない弱さの証左でもある。
【Weapon】
・なし
接近戦になればキャスターに勝ち目はない。
【宝具】
・英雄踏破の大迷宮(ケイオス・ラビュリントス)
ランク:EX 種別:迷宮宝具 レンジ:1 最大捕捉:30人
フィールドの地下に自動生成型の大迷宮を作り出す迷宮宝具。
巨大迷宮を常時具現化するという大魔術だが、極めて少ない魔力で長時間の維持が可能となっている。
これは迷宮が"世界の裏側"に形成されるため、出入りの瞬間しか世界からの修正を受けない、という特性のためである。
迷宮に侵入するには一定の手順を踏む必要があり、
・キャスター、またはそのマスターの存在を知る。
・彼らを能動的に探す。または探している状態である。
・ドアを開けて、内部に"侵入"する(廊下や野外に"出る"ときには発動しない)。
というプロセスを踏んで初めて迷宮への侵入が可能となる。
なお迷宮に繋がるかどうかは完全ランダム。
(判定はドアを開いた瞬間に行われるため、一度迷宮につながったとしても開きなおしたら普通の建物だった、ということもある)
迷宮内部は"不倒不滅の影牛人"(後述)を含めた魔獣が闊歩する危険なフィールドであり、脱出は困難。
またキャスターは迷宮内部で起きたことをすべて知覚できる。
なおミノタウロス――アステリオスのものと同名の宝具だが特性が大きく異なる。
アステリオスにとっては生まれた時からの周囲の風景だった。
キャスターにとっては自身の作品であり、罪の産物だった。
その違いである。
・不倒不滅の影牛人(ミノタウロス・ウンブラ)
ランク:EX 種別:迷宮宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
迷宮内を徘徊する牛頭の怪物。
威圧スキルを持ち、恐怖したものの数だけ力を増す。
また迷宮がある限り何度でも復活し、その度に『自身を倒した攻撃』への耐性を獲得する。
その正体はアステリオスではない。その影ですらない。
怪物を恐れた王の、人々の、キャスターの恐怖心が作り上げた、心(めいきゅう)のうちに潜む怪物である。
【人物背景】
古代ギリシャの有名な発明家。
斧、錘、水準器、神像などを発明したとされる偉大なる発明家。
だがその手で作ったものは一体何を生み出したというのか。
――己の作り出した迷宮は少年の心を持った化物を封じていた。
――己の不完全な発明は我が子の命を奪った。
きっかけは誰かに喜んでほしかっただけなのに、それはいつも悲劇を持って幕を閉じる。
だが何より許せなかったのは自分自身に悲劇的な結末が訪れなかったことだ。
「あなたのせいではない」
「あなたは道具を作っただけだ」
なんと優しき判決。
なんと公明正大な裁き。
だがだとしたらこの嘆きはどこへ行くのか。
彼らの死は、私の痛みは、一体どこへ行くというのだ。
ああ誰か、誰か私を――助け(さばい)てくれ!
【サーヴァントとしての願い】
迷宮を踏破した勇者に殺されることを望んでいる。
【マスター】
???(アイドルであるようだが詳細は不明)
【出展】
アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
なし。というか聖杯戦争に巻き込まれている意識もない。
【備考】
アイドルが具体的に誰かは未定。
最初に書いた人が決定できる。
以上で投下終了です。
投下します。
◆
僕は夢を見た。
全てが終わってしまったあの日を。
親友の頭を殴り砕いたあの日を。
◆
情けない悲鳴をあげて目が覚めた。
まとわりつく布団を跳ね除け飛び上がる。目を閉じたら先程の悪夢に逆戻りしてしまう錯覚に陥り
瞬きもできない。過剰な呼吸を繰り返すため息が苦しい、喉がカラカラする。
鮮明に思い出すあの日の悪夢(記憶)。
世界が『奴ら』で溢れ返り、学園は完全に崩壊した。
学園からの脱出を試みる僕と麗と、そして永。
僕らはまだ『奴ら』の特性を知らず、『奴ら』に毒牙にかかる永。
『奴ら』に噛まれると『奴ら』になる。
永は身をもってそれを証明した。
麗の劈くような悲鳴。
変わり果てた永の姿。
そして死臭。
『奴ら』に変貌する前に永は言った「俺は最後まで俺でいたい」と。
その願いを聞き届けられなかった僕は親友の、永の、いや『奴ら』の頭に
バットを振り下ろした。
「なんて夢だ、くそっ」
震える声で悪態を吐きながら周りを見渡す。闇の中でカーテンの隙間から辛うじて漏れる街灯の
光がまだ起床には早い時間だとボンヤリした脳に語り掛けてくる。枕元にあるはずの携帯を手探りで
見つけ出し起動する。ブルーライトに一瞬目がくらみながら"04:54"という無機質な数字が確認できた。
「まだこんな時間か・・・」
うんざりとした表情でベットに倒れ込むと"ぐちゃ"という水音が不快感と共に背中に伝わってきた。
悪夢の影響か異常なまでの汗が寝間着とシーツを侵食していたのだ。それを理解すると同時に
真冬の室温が汗に濡れた肌を刺激する。
この状態を放置していたら確実に体調を崩してしまう。
仕方がない、シャワーを浴びて着替えよう。ようやく心が落ち着きを取り戻し、重い睡魔を引きずり
ながら立ち上がった次の瞬間、
「おはよう孝くん」
「うわあっ!?」
自分しかいないと思っていたはずの部屋に第三者の声が響く。素っ頓狂な悲鳴をあげ、布団の上で
危うくバランスを崩しかけた。一瞬遅れて軽快な音と共に部屋に明かりが灯る。
目が慣れた頃には孝くんこと小室孝の意識は完全に覚醒していた。そしてようやく「相棒」の存在を
思い出した。
「ラ、ライダー・・・」
「ごめんね、驚かせちゃったかい?」
部屋の出入り口、半分ほど開いた扉の前、そこに騎乗兵の英霊は、いた。
道行く人間なら誰もが振り向くであろう整った顔立ち。
しかし過去に名を轟かせたはずのサーヴァントには似つかわしくない詰襟の学生服、いわゆる学ランを
身に纏った姿。
そのような出で立ちをしたライダーは何やら両手に抱えながら、困惑の表情をこちらに向けていた。
「大丈夫かい?ひどくうなされていたよ」
未だに硬直する孝に、はい、と手渡されたのはミネラルウォーターのペットボトル。よく見ると手
に抱えているのは代えのシャツとバスタオルだった。
「ああ、大丈夫だライダー」
用意が良いなライダー・・・。
自身の相棒の手際の良さに内心舌を巻きながら、ペットボトルの水をを一気に仰いだ。水分を欲していた
渇ききった喉は500mlの水を難なく受け入れ、瞬く間にミネラルウォーターは飲み干されてしまった。
「ちょっと失礼」
「っ!?」
一息つくより前にいつの間にか眼前にライダーの顔があった。息が止まりそうになる孝の額に、ライダーの
掌が額触れた。
「うん、熱は無い。体調が悪い時はうなされやすいらしいけど、どうやら風邪をひいたわけでは
無さそうだね」
よかったよかった、と空のペットボトルを受け取るライダーだが当の孝は心穏やかではない。息が
かかりそうなほどの近距離に迫った容貌にどぎまぎする孝をよそに、ライダーは寝間着の裾を手に、
思い切り引き上げた。
「ちょっ!?」
「ホラさっさと脱いで脱いで。このままだと本当に風邪をひくよ!」
「うわっ!?ちょっ・・・待ってくれライダー!自分で脱ぐ、自分で脱げるから!」
ぐいぐいと引っぺがそうとするライダーの手を逃れ、バスタオルをひったくると孝は浴室へと駆け込んだ。
あいつ、何か調子狂うな!?
◆
シャワーからあがると、味噌の香りが鼻孔をくすぐり、寝起きの空きっ腹が刺激される。
キッチンを覗くと、ライダーが手際よく粛々と朝食を作っていた。しかし機械的に作っている印象は無く、調理を
楽しんでいるように孝は感じた。
学ランにエプロンという何とも妙な出で立ちではあるが。
「少し早いけど、朝ご飯もう少しでできるからちょっと待っててね」
すでにこちらの存在に気付いていたライダーは調理に目を向けたまま、テーブルへと促した。
ああ、と短く返し、テーブル着くと、既に箸と箸置きが仲良く寄り添っていた。台の表面は清潔に磨かれ、ホコリ
一つ落ちていない。ライダーの徹底さが伺える。
食事、洗濯、掃除などの身の回りの仕事は、いつの間にやらライダーが全て請け負っていた。
朝昼夕すべての食事が用意され、
代えの衣類は全て綺麗に畳まれ、
風呂、トイレに至るまで掃除が行き届いている。
『両親が長期海外出張のため一人暮らしを余儀なくされた高校生』という役割(ロール)を与えられた孝としては
ライダーの働きはとてもありがたい。
ありがたいのだが、
会ってそう日にちも経っていない人間にここまで世話をされるのは、何か、こう、
恥ずかしい・・・・・・。
ふと、湧いて出た恥じらいを誤魔化そうと視線を落とした瞬間、自身の左手を視界に入れてしまった。
そこにはライダーとの主従の証にして、"聖杯戦争"の参加者たる資格が刻まれていた。
聖杯。
どんな願いも叶えることができる万能の杯。
何をバカなこと言ってるんだ、と普通なら一笑に付すところだが、死者が蘇る『奴ら』との遭遇。そして知らぬ間に
『奴ら』のいない全く別の世界に連れてこられたこと。映画のようだと錯覚する事態を二度も経験した以上、聖杯の
存在も信憑性を増してくる。
もし本当に願いが叶えられるのだとしたら。
まず最初に脳内に挙げられたのは『奴ら』の殲滅。いや、『奴ら』がそもそも存在したという事実をなかったことに
できれば『奴ら』によって命を落とした人間も、そして永も、全てが元に戻る。
だが、その為に、人を殺すのか。
聖杯を手に入れるということは最後の一人になるまで参加者(マスター)と殺し合うということ。
『奴ら』を殺すのとは訳が違う、意思のある人間の命に手をかけるということ。
僕に、ソレができるのか?
掛け替えのない願いを胸に参加したマスターがいるかもしれない。僕のように巻き込まれた形で参加してしまった
マスターがいるかもしれない。
そんな人々の願いを、命を、全て踏みにじって聖杯を手に入れる覚悟が僕にあるのか?
そもそも『奴ら』の存在を抹消し、すべて無かったことにしたとして、麗と永を遠くから眺めているだけの生活に
逆戻りするだけなんじゃないか?
僕はこれから一体何のために戦うんだ。
僕は生きた人間相手に戦えるのか。
僕は。
僕はっ・・・。
「はい、お待ちどうさま」
自問に埋没していく意識が急浮上した。熟考しすぎて気が付かなかったが、湯気が立つ朝食を載せたお盆を手に
ライダーが微笑んでいた。テキパキとお盆の料理をテーブルに移していく。
椀に盛られた真っ白な米。
なめこのみそ汁。
脂の乗った焼き鮭。
綺麗な焼き色の卵焼き。
小皿にのせられたお新香。
「難しい顔をしてたけど、何事もやりすぎは却って悪影響を及ぼすものだよ。
もちろん考えすぎも、ね。
ちょっと一息入れたらどうかな」
「・・・・・・いただきます」
「召し上がれ」
ライダーに言われるがまま箸を手に取り、みそ汁を一口啜る。美味い。そして温かい。舌先を魅了した液体は
五臓六腑に染みわたり、先程までの不安、を雪が溶かしていくかのようにゆっくりと和らげていく。
胃袋がもっとよこせと催促してくる。孝は米の椀に持ち帰ると次々と目の前の料理を口に運んでいった。
食べてる間、ライダーは向かい側に座りニコニコとこちらを眺めていた。
◆
「焦る必要はないよ、孝くん。聖杯戦争が始まるまで、まだ時間はあるさ。
じっくりと考えて答えを出せば良い。この聖杯戦争をどうしたいのかを」
食器を全て空け一息ついたところで、ライダーは湯呑にお茶を注ぎながらそう切り出してきた。
全て見透かされていたらしい。
「あー・・・隠し事はできないなライダー」
「これでも生前はかなり長生きしたからね。勘は良い方なんだ」
湯呑を差し出し悪戯っぽく微笑むライダー。
「安心しなよ孝くん。きっとキミはキミ自身が納得のいく答えを必ず導き出すだろう、勘だけどね。
その答えを信じて進めばいい。ボクが全霊で支援するよ。
例えその行く末が栄光であろうと破滅であろうと、キミの道を阻む有象無象、
このボクが一切合切捩じ切り伏せる
」
戦慄。
ほんの一瞬垣間見せた顔、何百もの人間を殺めた武者の顔。手に持った湯呑の熱さを忘れてしまうほどの悪寒
が孝の体を駆けぬけた。
瞬きした時には今まで見せてきた人懐こい笑みへと戻ったが、己の主の引き攣る顔を見ると、自身のミスを悟り
ひどく狼狽した。
「あわわわわっ、ご、ごめんよ!脅かす気はなかったんだ!」
先程の武者の顔はどこへやら慌てふためくライダーに、孝の張り詰めた緊張は緩み、つい噴き出してしまった。
赤面するライダー。場の空気を変えようと孝はずっと気になっていたことをライダーに問いただすことにした。
「なあライダー、ずっと気になっていたことがあるんだけど、聞いても良いか?」
「うん?何だい?」
孝はライダーの姿に意識を集中する。古めかしい紙が脳内に浮かび、次々と文字が表示されていく。
ライダーのステータスを確認しているのだ。
身長・体重、パラメーター、属性、スキル、そして「性別」。
「どうして女の子なのに男の恰好なんてしているんだ?」
学ランを纏った美少女、ライダーはその問いかけに困ったような、しかし予測していたかのような顔をした。
◆
彼女の名前は義務教育を受ければ一度は耳にするだろう。
日本において強き女性の象徴。
かつて旭将軍と呼ばれた男、木曾義仲の愛妾にして懐刀。
そして、女という理由で最愛の男と最期を共にすることはなかった。
彼女の名は巴御前。
その願いは「最期まで主人と共にいること」
◆
【クラス】
ライダー
【真名】
巴御前
【出典】
平家物語
【属性】
中立・善
【ステータス】
筋力:B+ 耐久:C 俊敏:C 魔力:C 幸運:C 宝具:A
【クラス別スキル】
対魔力:C
魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:A
幻獣・神獣ランクを除くすべての獣、乗り物を乗りこなせる。
【固有スキル】
勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
孤軍奮闘:B
劣勢における戦い方を心得ている。
巴御前は、多勢に無勢の状態におかれた場合攻撃と回避にプラス補正がかかる。
丸腰の武者:A
最期の戦いである「宇治川の戦い」にて鎧を脱ぎ捨て、万を超える軍勢をかいくぐり
逃げ延びた伝承がスキルとなったもの。
非武装の状態時のみ俊敏がA+となり、逃走判定が成功しやすくなる。
【宝具】
『巴ヶ淵竜神返り』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大補足:1
巴御前は巴ヶ淵に住む竜神が化身して生まれた、という伝説が宝具となったもの。
川または海が近くにある場合にのみ発動する。
その身を水中に沈め、かつての竜神としての姿を一時的に取り戻す。
竜神の姿でいる間は筋力、耐久のランクがEXとなるが、元に戻るとしばらくの間スタン状態となる。
【weapon】
無銘・薙刀
無銘・大太刀
無銘・弓矢
無銘・鎧
名も知らぬ武具。これらがすべて破壊された場合、あるいは放棄した場合スキル『丸腰の武者』が発動する。
春風
巴御前をライダーたらしめる『信濃第一の強馬』と称された彼女の愛馬。
【人物背景】
平安時代末期に源義仲に仕えていたとされる女武者。
平家物語にてその姿は
「色白く髪長く、容顔まことに優れたり。強弓精兵、一人当千の兵者(つわもの)なり」
と評され、いかに彼女が美しく、強かったかを伺える。
宇治川の戦いにて木曽義仲が源義経に敗れ都を追われた際には最後の7騎、5騎になるまで義仲の傍で戦った。
義仲は「武士の最後が女とともにあってはよろしくない。お前はどこへとなり落ち延びろ」と巴を逃がそうとするも、
それでも巴は離れようとはしなかった。
しかし、義仲の再三の要請にこたえ、ついに巴は義仲のそばを離れる。
巴は「最後のいくさしてみせ奉らん」と大力と評される敵将:恩田八郎師重の馬に並んで組みつくと
馬から引き落とし、自らの鞍に押し付け、その首をねじ切って捨てた。
そして鎧を脱ぎ捨て、東国へ落ち延びたという。
その後の彼女の行方は諸説あるが真実は謎に包まれている。
しかしきっと彼女はあの日自分が女であることを悔やんだだろう。
【特徴】
腰までかかる流れるような黒髪を後ろにまとめた、透き通るような白い肌をもつ中性的な美少年。
・・・のように見える男装の美少女。召喚された当初は鮮やかな鎧を身に纏っていた。
女だからという理由で木曾義仲と最期を共にできなかったため、男として生きようと決意する。
しかしその決意とは裏腹にステータスの確認で性別がばれてしまうため意味がない。
本人はステータスを隠蔽するスキルが欲しかったと嘆いている。
せめて形だけでも男でいようと、孝に懇願し彼のスペアの学ランを身に付けている。
生前、義仲の身の回りの世話を行っていた経験からか、家事全般が趣味となってしまっている。
孝曰く、その容姿はある剣道部の先輩に似ているらしい。
【サーヴァントとして願い】
この聖杯戦争において最期までマスターと共にいること
◆
【マスター】
小室孝@学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD(アニメ)
【Weapon】
なし
【能力】
運転技能:無免許だがオートバイやバギーを乗りこなせる技能を持つ。
【人物背景】
藤美学園2年生。
三白眼気味の切れ長の目とハネた癖毛が特徴。
普段から授業をさぼるような学生生活を送っていたが『奴ら』の襲撃によりその日常は一変する。
決断力と行動力に優れており「やらねばならないことは自分から率先して行う」気概の持ち主。
(参戦時期:アニメ2話開始直後)
【マスターとしての願い】
僕の願いは・・・
以上で投下終了です。
投下します。
数年前の"事故"によって作られた新しい町。
その冬木の街並みをスーツ姿の女性が歩いている。
年は若く、まだリクルートスーツを着ていてもおかしくない年齢だ。
だがその立ち振る舞いにはおよそ隙というものが存在しない。
電話をかけているというのに、年不相応の鋭い視線を周囲に走らせている。
「ああ、それでいい。あとの処理はお前に任せる」
彼女の名は真戸暁。
CCGに所属する対喰種捜査官である。
本来彼女がいるべき場所は喰種の活動が活発な東京である。
そんな彼女が何故この九州地方の一都市にいるのか。
アキラがこの冬木にやってきたのは他でもない、上層部からの指令である。
「気合を入れろ。お前がその調子では部下の士気にもかかわるぞ」
上層部から下された指令は"聖杯戦争"への参加であった。
胡散臭いオカルトの極み。
当然のことながらアキラは反対した。
だが上層部は強引とも呼べるほどの手腕で冬木市にアキラを送り込んだのだ。
「……まぁそれで回っているのならばいいが。
ああ、私のほうは大丈夫だ。心配することはない」
最初は上層部は気が狂ったのかと思ったが、彼女もサーヴァントの召喚に成功しているのだ。
だとすれば信じないわけにはいくまい。聖杯戦争というものの存在を。
「誰がお母さんだ。そっちはそっちでしっかりやれ、ハイセ」
そして日課となったパトロールと部下への連絡を終え、セーフハウスであるマンションのドアに手をかける。
部屋の中には召喚したサーヴァントが待機している。
そう――
「アッキーおかえりなさい! 今日の晩御飯は炊き込みご飯よぉ!」
『オネエ口調の2メートル近い美男子』というなんとも形容しがたいサーヴァントが。
■ ■ ■ ■
「んー……ニホンってばいいところよねー。
なんて言ってもご飯がおいしいんだもの!」
炊き込みご飯を嬉しそうによそう成人男子。
召喚された当初は鎧姿だったが、解除している今はまるで普通の青年のようだ。
「……楽しそうだな、君は」
「あら、実際楽しいもの。
いい時代よね。アタシみたいな素人でもちゃんとご飯が作れるんだもの。
インスタントに炊飯器……文明の利器ってばサイコーよね……」
うっとりとした様子で卓上に並んだご飯を眺めるサーヴァント。
だがその直後、「あ」と怒ったポーズをとる。
「もう、命令だから従ったけど、なるべくアタシは連れて歩いてちょうだい!
いくらアッキーが荒事慣れしてるっていってもサーヴァント相手だと分が悪すぎるんだから!」
「それは重々承知しているよ。だが君の"特性"は少々厄介だ。周囲の調査程度なら一人で出歩いたほうがいい」
「……ううっ、それを言われるとアタシ反論しづらいわね……」
痛いところを突かれ、苦笑いを浮かべる青年。
どこか愛嬌のあるその仕草に苦笑いを浮かべる。
「もしもの時は令呪で召喚するさ。君のことを信用してないわけではない」
そもそも信用していないならサーヴァントといえど部屋にいさせるはずもない。
アキラはそういう女だ。
「うーんそこは心配してないけどサーヴァントとしては傍で守ってないと心配って言うか……」
「君なら大丈夫だろう。戦闘時の動きは思わず見ほれてしまうほどに見事な動きだった」
数日前、サーヴァント召喚時に"何者か"の襲撃を受けたのだ。
慣れない魔術儀式に集中していたアキラは危険にさらされたが、魔法陣の中から飛び出した彼によって事なきを得たのだ。
「何せ開口一番『マスターに何しとんじゃボケがァ!』だったか。
あの時はなんとも男らしいサーヴァントだとおもったのだが……」
「やあね! 思い出さないでよ! 恥ずかしいじゃない!」
頬を赤く染めながらくねくねとしなを作る。
どう見てもどこかの二丁目当たりにいそうな挙動で、あの時の面影を見出すことは難しい。
「とはいえ召喚されたのがバーサーカーだと知ったときは驚いたよ。
バーサーカーといえば話の通じない狂戦士だと聞いていたからな」
そう、アキラが召喚したのはバーサーカーのサーヴァント。
理性なき狂戦士の殻(クラス)だ。
だが目の前の男はそうとは思えないほどに饒舌で温厚だ。
「まぁアタシがバーサーカーとして呼ばれているのって宝具のせいだしねー。
"キレると理性をなくし、狂戦士化する"。
"だが何でキレるかは本人にも把握できない"
"しかも落ち着いたらテンション下がって力が抜ける"
あらヤダ、羅列するとホンット厄介よねアタシの宝具……」
彼の持つ第一の宝具、"若き屍を曝せ(モルト・ジューヌ)"。
戦場での逸話を現代に再現する貴き幻想。
彼を狂戦士足らしめている原因は、端的に言えばこの男の宝具にある。
「あーもう、アタシってば昔からそうなのよねー。
キレると後先わかんなくなっちゃって……ケイ卿にも散々皮肉を言われたものだわ」
「サー・ケイ……アーサー王の義兄弟にして円卓の騎士の古株だったか」
「あら、アッキーってば詳しいわね」
「一応調べたからな」
真名は既に彼の口から聞いている。
だから彼がかの有名なアーサー王伝説の騎士だということも知っている。
だが『それだけ』なのだ。
"彼"の演じる役割は伝承によって大きく異なり、何が真実かはわからない。
「……ごめんなさいね」
「何の話だ?」
「もちろんアタシの話よ。
調べたならわかるでしょうけど、彼の王の周りには優秀な騎士たちがいた。
本物の円卓の騎士ならもっと貴女の力になれたかもしれないのに」
どこか力のない笑みを浮かべるバーサーカー。
「貴女が触媒として使ったのは彼の王の居城、白亜のキャメロットの欠片……
確かに最高級の触媒ではあるけれど、アタシみたいな"円卓に数えられぬ騎士"をも呼び出す可能性がある。
これが円卓の欠片なら円卓の騎士が確実に呼び出せたんでしょうけど。
もし円卓の騎士だったら誰が呼び出されたのかしらね。
ガウェイン卿かしら。それともトリスタン卿? ふふ、ランスロット卿だとしたら、美人に弱いからアッキーのためなら張り切りそうね」
彼の口からは他の騎士の名前がよく出てくる。
だが彼は自分自身のことについて、肝心なことは何も語らない。
令呪で真実を告げろと命じることは簡単だろう。
しかし――
「……かまわんさ。それでも」
「え?」
「今のパートナーは他でもない君だ。頼りにしている」
その言葉に偽りはない。
CCGだけではない。アキラ自身もオカルトの領域については素人同然だ。
知識面でも彼に頼る局面も多くなるだろう。
こちらから信用せず信用してもらおうなど虫のいいことを言うつもりはない。
であればいつか彼のほうから話してくれることもあるだろう。
数年前の自分ならこんな考え方は抱かなかったかもしれない。
様々な別れと出会いがあった。その果てに今の真戸暁がいるのだ。
「……ふふ、ありがと。
んもう、そう言われたら騎士の端くれとして頑張らないわけにはいかないじゃない!」
バーサーカーは手を差し出す。
「もう一度名乗っておくわ。
バーサーカー・サグラモール……円卓に数えられない未熟者だけど、マスターのため全力を尽くすわ」
「……ああ、こちらこそよろしく頼む」
差し出された手をしっかりと握る。
大きな手にかつてのパートナーのことを思い返しながら。
「……さ、冷めちゃったら味が落ちちゃうわ。ご飯の続きにしちゃいましょ」
「ああ、いただこう」
食事が再開される。
そのあと会話は少なくなったが、心地よい沈黙だった。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
サグラモール
【出展】
アーサー王伝説
【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷C 魔力D 幸運D 宝具B
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
・狂化:E〜A++
通常時は狂化の恩恵を受けない。
その代わり、正常な思考力を保つ。
だが一度激高するとマスターの命令を振り切ってしまう。
――つまりキレると手が付けられない。
【保有スキル】
・投擲(手斧):C
斧を投擲する能力。
命中率を向上させるほか、回避・防御された際に手元に手斧が戻ってくるように仕向ける技術も含む。
・戦闘続行:B
名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
「往生際の悪さ」あるいは「生還能力」と表現される。
アーサー王に最後まで付き従ったことだけは確かなようだ。
・伝承隠蔽:C
特殊隠蔽スキル。多種多様な伝承により、真実の姿が覆いかぶさる。
他者が情報を入手しても、真名などに辿り着きづらくする。
Cランクであれば宝具名を聞いたとしてもたどり着くことはほぼ不可能である。
"無辜の怪物"の派生スキルだが、自分の意思で選択している点が大きく異なる。
バーサーカーは伝説において、様々な役割を与えられている。
――ある時はガウェインの友人として精霊の島で望まぬ戦いを繰り広げた。
――ある時は悲嘆の騎士・トリスタンの盟友として彼の死を予言した。
――ある時はモードレッドの義理の従兄弟として、彼と轡を並べた。
だがそれらについて彼はほとんど語らない。
何が真実か、それは歴史の闇と彼の中だけに埋もれている。
・伝承偽装:C
伝承隠蔽からの派生スキル。
"真実が不確定である"という状態を利用し、下記のスキルのいずれかをCランク相当で使用できる。
ただし併用はできない上に戦闘中などの緊急時に付け替えることも不可能である。
皇帝特権とよく似たスキルだが、短時間ではなく長時間使用できること、二つ同時に行使できることが異なる。
(ただし二つ同時使用の場合は習熟度はDランク相当に低下する)
使用可能なスキルは破壊工作、魔術、ルーン魔術、単独行動、騎乗、仕切り直し、軍略、心眼(真)、医術、千里眼、対魔力、魔力放出、気配遮断のいずれか。
【Weapon】
・二挺の斧
魔力によって編まれた斧。
破壊された場合に限り、再生することができる。
【宝具】
・若き屍を曝せ(モルト・ジューヌ)
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
バーサーカーがバーサーカーたる所以。
皮肉屋のケイ卿には「若き屍」とさえ言われたキレやすさの顕現。
通常1ランクアップである狂化によるステータスアップを2段階にする。
ただし一定時間経過後宝具の効力は解除され、更にステータスが一定時間ダウンする。
切欠があれば自動的に発動する宝具で、バーサーカー自身にも制御できない。
・望み強き聖者の一撃(ラ・デザイロス・ゲイブ)
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大捕捉:300
コンスタンティノープルに伝わるとされた聖槍の切先。
その一撃を再現することで、疑似的な聖槍抜錨を引き起こす。
結果、瞬間的に聖槍に匹敵するエネルギー量を炸裂させることが可能となる。
"あの方"を一度殺したことによる神性特攻属性、聖なる血を受けたことによる魔性特攻属性を併せ持つ対神代兵装。
使用可能となる条件は以下の二つ。
一つ、スキル"伝承隠蔽"および"伝承偽装"を破棄すること。
二つ、マスターに己の過去を語ること。
――未来を強く望むなら、偽りの仮面をはぎとり、過去を確定させねばならない。
【外見】
2メートル近い身長の美青年。
愛好する色は紫であり、髪の色やルージュの色も統一されている。
言動は完全にオネエだが、狂化時は素が出てしまう模様。
【人物背景】
アーサー王のもとに集った騎士の一人。
だが少なくことも彼の認識では円卓の騎士にカウントされていない。
様々な異名を持ち多くの物語に顔を出すが、時代と共に様々な性格・役割で語られる騎士である。
その伝承に影響され、自身の記憶も不確かなものになっている。
だがその記憶の中でも決して忘れられぬ光景がある。
――モードレッドの一撃を無防備に受ける自分。
――そして相撃ちとなる王と反逆の騎士の姿。
なぜ無防備なまま受けたのか。
その理由は思い出せないが、後悔がある。
躊躇なく反逆の騎士を仕留めていたら、王は助かったのではないか。
……せめて親が■を殺すという悲劇を回避できたのではないだろうか。
【サーヴァントとしての願い】
詳細不明。マスターに従うつもりの模様。
【マスター】
真戸暁@東京喰種:re
【能力・技能】
・喰種捜査官
クインケ[フエグチ]を有し、高い戦闘能力を有する。
また研究者としても優秀であり、クインケの改良案などを提案していた。
【人物背景】
喰種捜査官。
父親である真戸呉緒が殉職したことで、亜門鋼太郎のパートナーとなる。
父親譲りの効率を優先する性格で、簡潔な男言葉を用いるが親しい人間に対しては優しさを見せる。
母性的な優しさも持ち合わせているが、喰種に対しては一切の容赦がない。
reでは語り手である佐々木琲世率いるクインクスの上司として登場。
琲世がクインクスのリーダーとして所属いる時期からの参戦となる。
【マスターとしての願い】
任務の達成。
以上で投下を終了します。
候補話の投下を開始します。
どすん。どすん。どすん。どすん。どすん。どすん。
大地に横たわる『わたし』の体を執拗に踏みつける音が響いている。
どすん。どすん。どすん。どすん。どすん。どすん
。
すさまじい力の一踏みごとに『わたし』の肉は土くれのように潰れ、骨は枯れ枝のように砕けてゆく。
どすん。どすん。どすん。どすん。どすん。どすん。
眼も耳もとうに使い物にならなくしまった。
暗闇の中で、わたしを踏みつぶす地響きと、その足を伝ってくるあの女のヒステリックな罵声だけが伝わってきた。
どすん。どすん。どすん。
あの女の気が済んだのか、『わたし』を苛む響きはようやく収まった。
だが既に『わたし』はどうすることもできない体となっていた。
四肢がつぶされて身動きがとれず
かつてあの方を魅了した目鼻は既に跡形も残っていなかった。
『わたし』を『わたし』たらしめていた肉体は完全に失われ、
『わたし』は大地の一部と成り果てていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「…………。……スター。……マスター」
慣れ親しんでいたはずの、死後の世界の空気で支配された、妙にリアルな夢だった。
だが今一息つくと、鼻腔に冬至の清らかな空気と、爽やかな香りが流れ込んでくる。
目を開くと、柔らかな朝日が頬を温めているのがわかった。
私の傍らで手を握り、心配気な顔で見下ろす少女の顔がある。
「お目覚めですか、マスター。随分とうなされていたようですが……」
「あんたの夢を見たのよ、恐らく。暗殺者[アサシン]。
……一方的に踏んづけられ続ける夢をね」
ああやっぱりと、安心したような、しかし悲しげな表情で、アサシンは声を漏らした。
『暗殺者』におよそ似つかわしくない、心優しい少女だ。
この虫も殺せないように見える少女が、これから聖杯戦争という戦いに赴く私のサーヴァントなのだ。
若草色の髪をポニーテールに結い、
やや垂れ目気味の、大きな青い瞳が印象的なあどけない顔立ちは、未成年の私よりなお幼く見える。
白い異国風のドレスをまとった小さな体は、
見た目から想像されるその年頃の少女に特有の、ふっくらした丸みと柔らかさを帯びている。
妖精のような少女。否――彼女はまさしく妖精なのだ。
その証拠に、背中には白い花弁のような、3対の羽根がある。
きっかけは恐らく、仕事で使う資料のついでに貸本屋で借りた本なのだろう。
その本に記されていたのが、そう――『聖杯戦争』のことだったのだ。
息抜きに読み始めたその本に夢中になり、時間を忘れて読みふけって、
いつしか本を枕に眠りに落ち――気がつけばこの冬木という街に迷い込み、聖杯戦争に巻き込まれていたのだ。
「……それにしても、まさか『妖精』をサーヴァントにあてがわれるなんて」
「何かご不満が……」
「あんた弱いのよ。超弱い」
「ひどい」
彼女は怪物退治の逸話を残す英雄でもなければ、当代で無双の武勇を誇った武人でもない。
彼女のステータスでは、サーヴァントはおろか、戦う力を有するマスターさえ相手にできるかどうか怪しい。
唯一とも言える長所はほとんど不死身といえるほどのその『しぶとさ』だが、
それが他の主従にバレたなら、マスターである私が狙われるのは明白。
聖杯戦争では、サーヴァントでなくマスターを殺害することが許されているのだから。
私たちの勝ち目は、限りなく、薄い。
そして、敗北するのは、恐らく私が死ぬときだ。
私には里に戻って為さねばならない使命がある。
こんな勝機の薄く、命の危険ばかりついて回る戦いなど放り出して、
住んでいた里に戻る手立てを探すべきなのだろう。
だが、その方法は未だ見つかっていない。冬木というこの街を出ることさえできないのだ。
恐らくだが、参加者を逃がさないために、手を回している者がいる。
このまま帰る方法が見つからなければ――すべてのサーヴァントを倒し、聖杯戦争に勝利するしかない。
そしてその願いを聖杯に託して里に帰るか、あるいは、
自力で里に帰る手段を見つけることができたならば、そのときは――。
と、そこで、アサシンが口を開いた。
「……そういえば、マスターは、もしこの戦いに勝ったら、聖杯に何を願うんですか」
「寿命を延ばしたい。それが私の願いよ」
「寿命、ですか」
「私は、もう十年も生きられない体なのよ。
といっても、寿命で死ぬのはこの体だけなのだけど。この肉体が死んだ後は、
彼岸……あんたたちの言う冥府で長い長いお勤めが待ってる。
お務めを済ませた後は、またこちら側の世界に赤ん坊として生まれてきて、
こちら側での使命を果たすために短い人生を送るのよ」
「……では、マスターの願いは、永遠の命、ですか」
「私はそこまで大それたことは望んでいないわ。千年も、万年も生きたい訳じゃない。
ただ、人並みに生きるだけの寿命が欲しい。
ただ……私の友達と同じ時間を生きたいのよ」
私は盆の上の湯呑みを取り、口元へと近づけた。
立ち上ってくる香りは、里で私がいつも飲んでいたお茶のものではない。
――だが、林檎に似た、甘い、優しい香りだ。
「いつもありがとう。……昨日の物とは違う葉を使っているのね」
「え、あっ、お気に召しませんでしたか?」
「いいえ。……とても、いい香りよ」
アサシンはこうして毎日私にハーブティーを淹れてくれる。
魔力回復作用のあるハーブティーは、彼女のサーヴァントとしてのスキルによるもの。
いや、このハーブティーの材料のミントそのものこそが――。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
冥府の大地と一つになるまで踏み砕かれた『わたし』は、それでも『あの方』を想い続けた。
やがて私は大地から芽吹いた。
そして『あの方』に気に入ってもらえるよう、芳しい香りを放った。
芽吹いた私の想いは『あの方』の住まう神殿の庭を彩り、咲き誇り続けた。
私の想いを乗せた種はいつしか地上にもたらされ、人間たちの住む世界各地に広まった。
だけど、まだ足りない。
『あの方』が再び私に振り向かなければ、冥府と地上の大地すべてを私の想いで埋め尽くしても、まだ足りないのだ。
いつか、私の想いが『あの方』に届くまで……私は絶対に諦めない。
そして、私を踏みにじったあの女を、私は絶対に許さない。
奥手ながらも誠実だった『あの方』を黄金の矢で射て、
あの女をかどわかすよう仕向けたあいつも、絶対に許さない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「それで、『種蒔き』の方は順調かしら?」
「今の所はうまくいっています。
私自身は極力姿を現さずに、野良猫や通行人に種をくっつけて広げるようにしています。
他のサーヴァントやマスターに気取られた様子は、まだありません」
「直接戦って勝ち目がない以上、少しでも情報を多く集めて有利な状況を作るしかないわ」
「ごめんなさい。こんな、弱いサーヴァントで」
「いいのよ。情報戦なら、私に分がある。
仕事柄、神話や歴史には詳しいのよ。とくにこの国のものについては。
あんたの能力なら、情報収集も得意でしょう?」
アサシンのハーブティーを飲み干し、私は寝床から身を起こす。
不思議と体が温まり、元気が湧いてきた気がした。
刈られても踏まれてもすぐさま立ちあがる、ミントの生命力を分けてもらったかのようだ。
きっと私の長く生きたいという願いに答えて、彼女は私の元にやってきてくれたのだ。
「ま、精々抗ってみせるわよ。持てる知識を総動員してね。
改めてよろしくね、アサシン……いえ、『メンテー』」
「はい、よろしくお願いします、マスター」
願わくば、私も彼女のようにたくましく永らえることができますように。
【クラス】アサシン
【真名】メンテー
【出典】ギリシャ神話
【性別】女性
【属性】混沌・中庸
【身長・体重】145cm 43kg
【ステータス】
筋力E 耐久EX 敏捷C 魔力C 幸運E 宝具C
【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を抑える。
この値は実体化した際のもの。
植物としての姿をとっている時は、その正体を知らない限り雑草としか認識されない。
また、アサシンが攻撃体勢に移ったとき、そのランクは大きく低下する。
【保有スキル】
遍在:A
ミントの化身たるアサシンの本体は、自らが冬木市内に蒔いた種から育ったミントの一株一株である。
自身の蒔いたミントの生えている場所なら、その一株一株から個別に実体化ができる。
蒔いたミントの生長は通常よりはるかに早く、まる1日程度で実体化可能な株に育つ。
同時に複数体の実体化も可能だが、魔力消費は大きくなる。
また、それらの肉体の意識・感覚は常に一つの人格で共有・同期されている。
魔力回復(草):B(A)
アサシンの蒔いたミントの一株一株が生成する魔力を回収し、現界に必要な魔力に充てることができる。
このスキルにより、マスターからアサシンへの魔力供給は非常に少なく済んでいる。
なお、現在の冬木市は本来ミントが生長できない冬季であるため、スキルのランクはBに抑えられている。
気温のさらなる低下・日照の不足などにより生育環境が悪化すれば、このスキルのランクはさらに低下する可能性がある。
冬季以外の季節であればこのスキルはAランクとなり、マスターからの魔力供給は全く不要となる。
冥王への恋慕:C
踏みにじられ、一介の草花に貶められても抱き続ける恋心。
洗脳・精神干渉への抵抗判定にプラス補正が掛かる。
道具作成:E
アサシンが植えたミントから薬を作成可能。
魔力が上乗せされる分、薬効は通常より高い。
また、ミントを食用としたり、煎じて飲むことでマスターは通常の食物より効率よく魔力を回復できる。
【宝具】
『冥府宛ての花束(ブーケ・トゥ・ハーデース)』
ランク:C 種別:対神宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
魔力の篭ったミントの種子を、対象にアサシンの口から直接植え付ける。
植え付けられた種子は体内で勢い良対象の体内で発芽・生長して根と地下茎を張り、魔力を強奪する。
その生長速度は、通常の生物であれば数分で全身に蔓延して『花束』に変えてしまうほど。
体外に伸びたミントを引きちぎっても、体内にわずかでも根や地下茎が残っていればすぐにまた生長する。
解除するにはアサシンの意志で解除するか、アサシンを殺害するしかない。
サーヴァントに植えつけた場合の生長速度は大幅に落ちるが、
指先などの末端に植えつけた場合であれば12時間程度、
頭や胸に植え付ければ2時間程度で霊核まで根が到達、破壊して『花束』へと変えることだろう。
【weapon】
長く延びたミントの地下茎を撚り合わせ、鞭のようにして振るう。
また、真名開放しなくてもミントの種を撒き、アサシンの実体化ポイントであるミントの株を育てることができる。
【人物背景】
アサシンことメンテーはギリシャ神話に登場する妖精(ニュンペー)の一種。
現在広く用いられているハーブの一種『ミント』の語源である。
冥府に流れる川の一つ、コキュートス川のほとりに生まれた彼女は冥府の王・ハーデースに見初められ、その寵愛を受けていた。
だがある日ハーデースはエロースの金の矢を受け、その時偶然目の前にいたペルセポネーに恋をしてしまった。
ハーデースはペルセポネーを冥界に連れ去り、妻として迎えた。
一方メンテーはペルセポネーの嫉妬を買い、踏み潰されて草へと変えられてしまったのだった。
草へと姿を変えられた彼女は、芳しい香りを発し、今もハーデースに自分の存在を知らせ続けている。
メンテーの生まれは地上、ハーデースはエロースの矢に射られていなかった、
ハーデースが最初に恋したのはペルセポネー、ペルセポネーがメンテーを草に変えたのは善意から、
など、様々な異説がありますが、本稿では上記の通りとします。
【外見上の特徴】
若草色の髪をポニーテールにしている。
やや垂れ目気味の、大きな青い瞳。物静かな印象を受ける少女。
外見年齢13〜14歳程度。ぷにぷにしてる。頬とか、二の腕とか、脚とか。
服装は、キトンと呼ばれるノースリーブの古代ギリシャ風ドレス。
色は白で、動きやすく膝丈になっている。
履物として、足首までの丈のグラディエーターサンダルを履いている。
頭にミントで作られた花輪の冠を乗せている。
背中に6枚の花弁状の羽根が生えているが、飛べない。出し入れは自在。
【サーヴァントとしての願い】
ハーデースと結ばれて、ペルセポネーとエロースに復讐を。
【マスター】
稗田 阿求(ひえだの あきゅう)@東方project
【能力・技能】
一度見たものを忘れない程度の能力。
いわゆる完全記憶能力。
日本の妖怪と、神話に関する知識。
【人物背景】
神や妖怪といった種族の消滅を防ぐため、意図的に人理の力が弱められた土地、幻想郷。
彼女は幻想郷で、そのあらゆることを記録する冊子である『幻想郷縁起』を編纂する、
求聞持(ぐもんじ)という役目を負っている。
稗田家で『御阿礼の子』として転生を繰り返す者が求聞持としての役を負っており、阿求で9代目である。
代替わりには百年〜百数十年の期間を要し、その間御阿礼の子の魂は地獄で働くことになるため、
前代との人間との関係はリセットされてしまう。
また、転生の影響かは不明だが、御阿礼の子は体が弱く、30歳まで生きられないという。
病弱と言われている割に『東方鈴奈庵』などの作品では、行動的な所も見せているが。
【マスターとしての願い】
聖杯戦争からの脱出。それが不可能なら、聖杯を手にして、人並みの寿命で生きられるようになる。
以上で投下を終了します。
投下します。
窓の外で降っている雪が、冬木の街並みを白く染めていく。
それを間桐慎二は、暖炉の効いた室内から苛立たし気に眺めていた。
別に雪そのものが、彼の怒りを引き出しているわけではない。
だがそれとは別に、今見る雪の風景が彼に怒り――そして困惑をもたらしているのは、事実だった。
見慣れた冬木の町。だが今のこの街は、間桐慎二の知るソレとは違う。
そもそも慎二のいた"本来の冬木"は、今は冬とはいっても春に入るかどうかの暖かくなってきた頃であり、こうも雪の降る寒さの厳しい頃ではない。
同じ冬木でありながら、記憶とはかけ離れた在り様の町。
これを説明できる事象は一つしかない。
並行世界。魔術師としては半人前を通り越し出来損ない、その資格さえもない慎二にとっては遠く縁のない事象――のはずなのだが。
「……なんで僕がこんな事に巻き込まれてるんだよ。しかも"また"聖杯戦争なんて……!」
疲労困憊――誰が見てもそう思える様子で、間桐慎二は呻いた。
数か月前の彼を知る者であれば、目を剥いて驚くか、あるいは本気で心配するか、そうでなければ自らの目の以上を疑う振る舞いであった。
だが今現在の彼の振る舞いも無理はない。
第五次聖杯戦争。ほんの少し前、冬木の町で行われた魔術儀式。
その中で間桐慎二は、調子に乗った挙句に非常に痛い目に遭った。
平易な言い方をすれば、『鼻っ柱を思いきり叩き折られて』いた。
彼の中にあった魔術師への執着は既にない。普段からの尊大な態度も時折――本当に時折ではあるが――顔を潜めるようになった。
そんな折に――彼はまた聖杯戦争に参加する羽目になった。しかも今度は、冬木によく似た、しかし冬木とは違う並行世界で。
「冗談だろ……クソッ、この聖杯戦争を管理してるヤツは何をしてるんだよ! こんな無差別にさぁ!」
それはある意味では自分にも突き刺さる発言ではあったが。悲惨な聖杯戦争は、完全に間桐慎二の中にトラウマを作っていた。
利用される立場であったとはいえそれまでの暴虐を間桐桜や遠坂凛、あるいは衛宮士郎が彼を許したのも、この消沈した様子あってこそである。
生来の態度の大きさこそ残ってはいるが、実際彼は、幾らか反省さえして、今まで虐げていた桜との関係を改善さえしていた。
それほどまでに彼の運命を変えた出来事である聖杯戦争に、またも放り込まれれば。
現在の間桐慎二の錯乱ぶりは、仕方のないことだった。
「煩い。主君(マスター)、幾ら仮初とはいえ立花の主君であるならばもっと大きく構えて欲しいですね」
そんな彼を叱咤する声がひとつ。
声そのものからも、抜身の刀のような圧迫感。
彼が再び聖杯戦争を戦うマスターとなった以上、その声の主は、従者であるサーヴァント以外ではありえない。
それは、金の髪を腰まで伸ばした女性の姿をしていた。
高い身分を伺わせる和装の着物に、女性としては背高かつ、めりはりのついた身体を包んでいる。
それだけでも、町で一目見かければ意識に残ることは間違いのない外見。
だが最大の特徴は、身体を預けている輿であろう。
現代風に言えば車椅子にも似た形状をした、力者のいない輿に乗った女は、その脚を動かすことはない。否、ぴくりとも、自らの意志では動かない。
間桐慎二のサーヴァントは、脚を不具にした女であった。
「しかしまあ、身の程は弁えていたようで何より。不具の女に襲い掛かるような下種ならば、潰していたところです」
如何にも従者らしからぬ態度だが、それに反抗するような態度は表には出さなかったし、何処をだよ、とも慎二は聞かなかった。
サーヴァントの逆鱗に触れる恐ろしさは、骨身に知っている。
だがそれとは別に、文句の一つも言いたくもなる。
「だから僕は参加したくはなかったんだよ!」
「それがどうしましたか。いくさが何時どこからやってくるかなど、どのような名君でも予測はしきれぬこと。
常在を戦場とし、どのようないくさであっても勇ましく戦う。勇将の下に弱卒無し、兵がつわものでも将が臆病者では無駄死にしましょう」
成る程正論ではある。いくら愚痴を吐こうが、今は現実逃避に過ぎまい。
だが正論だからと言ってその通りに受け入れられるかは別の話であるし、弱音を吐きたい時も人にはあるのだ。
そもそも。
このサーヴァント――奇しくも【ライダー】――の素性も、正直間桐慎二からすれば突っ込みたいところだった。
「そもそもアレだろ!? 立花道雪って男じゃなかったのかよ!?」
「誾と話が混ざったのでしょう。あれも中々の豪胆でしたので」
ライダー、立花道雪。
戦国時代から安土桃山時代にかけて豊後――今の大分県にて生きた武将である。
異名は雷神。これは若い頃、急な夕立によって降ってきた雷を刀によって切り裂いた――という逸話に由来する。
これによって脚を不随にした、と言われるが、そのようなハンデも気にせず戦い抜いた名将として知られる。
三十七の戦を戦い抜きその無類の強さを称えられたのだから凄まじい。
そして、先ほど間桐慎二が言ったように、本来は男性として伝えられる人物である。
本人は、これもまた猛女として知られる、娘の誾千代と話が混じったのだろう、と平然と言うが。
「そのようなことはどうでもよいのです。この地は既に戦場。ならば主君には相応の心構えをしていただきたい。
軍紀を糾し、敵には勇ましく立ち向かう。無論勇ましさだけでは戦には勝てませんが、しかし戦に勝つための心構えの一番とは、軍紀に従い、将と兵が勇ましく戦うことです。
退くにしても、敵に怯え背を向けて逃げるのと反撃のための転進では意味は真逆です」
信賞必罰、公正無私。立花道雪は軍紀に厳しく、また上司にも部下にも厳しかった。
軍紀を破り戦場を逃げ出し家に帰った兵がいれば、それを匿った親ごと殺す。
主君であった大友宗麟が戯れに不道徳を行えば、それに諫言する。
その一方で、戦場の軍紀に関わらぬ場であれば部下には手厚く功労したというが、どうやら本人は、既に戦場の心構えらしい。
聖杯戦争の性質を思えば、間違いではないのだが。
「一たびのいくさ限りの主従なれど、将として忠誠を以て仕えましょう。である以上、貴方にも主君としての勇ましさを持っていただきたい」
ゆえに主にも厳しく、正しくあるように接する。
天才肌ゆえそれを鼻にかけ気難しく、傲慢な面を持つ慎二にしてみれば、苦手なことこの上ないタイプの相手である。
昔の慎二であれば、即座に令呪を行使していたことは間違いない。
いやむしろ、今もそうした考えを持っていないとは言い切れない。その後のしっぺ返しを思えば、流石に実行する気にはなれないが。
それに実際問題、正論ではあること自体が質が悪い。
「わかった、わかりましたよ、ああもう……」
「声に覇気が籠っていないのが気になりますが、第一歩としてはまあいいでしょう。
ではもう一つ。主君(マスター)、あなたの望みはなんですか?」
「……は? 望み?」
つい先ほどまで慎二を叱咤していたライダーの、不意の問いに、慎二は思考を硬直させた。
望み。確かに、聖杯戦争に参加する以上は持っているべきものの筈ではある。万能の願望機を奪い合う戦い、それが聖杯戦争なのだから。
だが、今の慎二はそもそも自分から参加した身ではない。
昔の慎二ならば『自分の力を他人に認めさせること』、『魔術師になること』を願いとするのだろうが、今の慎二が正直に気持ちを言えば魔術師などうんざりだ。関わりたくもない。
桜のこともあるし、そう遠くない内に魔術師としての間桐家を畳むことすら考えていた。
そもそも、祖父であり魔術師としてのマキリの大本である間桐臓硯が聖杯の破壊によってすっかり気力を失った現状では、それ以外に道がないとも言うが。
「戦いとは何かを得るために戦うもの。戦うために戦うのは善き戦士ではあるかもしれませんが、将としては失格でしょう。
欲に目が眩むのは論外ですが、何を得るかは明白にしなければなりません」
「いや、そんな事言われても困るんだけど? そもそも巻き込まれたんだしさあ。
生きて帰れればそれでいいんだよ、僕は」
ライダーの言い分はわからないでもない。
が、慎二からしたら、今の自分が何かを望むことが間違いであるし、失敗への道筋である気がしてならない。
そんなことよりも、生きて帰るのが最優先なのは当然だった。
「主君を生かすは武士として当然のこと。それ以上を求められてこなすのが一流です」
「そう言われても困るんだよ!? つーかなんでそんな自信満々なんだよオマエ!?」
「立花ですので。三十七の戦を経て勝ち残って来た自負は伊達ではありません。
いえ、むしろ、勝ってきた妾が自信のない口ぶりでは、負けた者達を愚弄することになるでしょう。完璧な論理ですね?」
平然と、自らを疑わない様子でライダーは言ってくる。
まさか本気で自らが聖杯戦争で負けることを考えていないというわけでもないだろうが――自信満々なのは、生前からの性分か。
慎二からすれば、本気で理解ができない。もしかすれば、聖杯戦争より前の自分もこんな風に見えていたのか。
だとすれば反省の至りとしか言いようがない。無根拠な自信が見ていてここまで不安になるとは思わなかった。
「ですがそんな立花にも、一つ心残りがあります」
ふ、と。
そんなライダーの顔に、ひとつ翳りが浮かぶ。
つい先ほどまでその自負を語っていた人間とは思えないその様子に、慎二はたじろぎ、言葉の続きを待った。
「立花は生前最後の戦、主君に勝利をもたらすことができませんでした」
立花道雪最後の戦。
高齢を押して出陣した彼女は快進撃を続けたが戦の中で病を発し、陣中にてそのまま没する。
その結果、主君である大友は島津に散々に蹂躙されることとなった。
成る程、道雪本人からしてみれば、口惜しい結果ではあろう。
「であるならば、此度の召喚における主君には、勝利の栄冠を捧げたいのです」
「……そうか」
サーヴァントの持つ未練。
聖杯戦争に参加した理由。
恥ずかしい話ではあるが、間桐慎二は初めてそれと向き合った。
逐一、主君として相応しい振る舞いについて口を挟んでくるのも、主君を思う心ゆえか。
そう思えば、少しは可愛げも――
「それに、此度の主君は宗麟殿を思い出しますので。なかなかの盆暗度合いも含めて」
「オマエいちいち失礼だなホントにさぁ!」
やはり無理だ、と思った。
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【クラス】ライダー
【真名】戸次鑑連
【出典】日本・戦国時代
【性別】女性
【属性】
秩序・中庸
【身長・体重】
172cm・66kg(立った場合)
【パラメーター】
通常時
筋力C 耐久D 敏捷A- 魔力D 幸運C 宝具A
宝具『千鳥・雷切の太刀』解放時
筋力B 耐久C 敏捷A+ 魔力C 幸運C 宝具A
【クラススキル】
対魔力:B
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
雷神の一撃に打たれても下半身不随となりながらも生き残った、という逸話から比較的近代の英霊でありながら対魔力は高い。
騎乗:C-
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、 野獣ランクの獣は乗りこなせない。
ライダーの場合半身不随であるため、自らの宝具である輿以外を乗りこなす判定にはマイナス補正がかかる。
【保有スキル】
軍略:C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
若き日に雷を切り裂き、彼女の命を永らえさせた直感。
忠臣の諫言:C
生前の主であった大友宗麟は放蕩三昧であったが、ライダーは彼の放蕩に逐一説教し、諫言した。
その逸話から来る、自らのマスターへの諫言により過った行動を思いとどまらせるスキル。
自らのマスターが何らかの判定(基本的には行動選択など)をファンブル(致命的失敗)した場合、その判定をやり直させることができる。
不随の身体:C
マイナススキル。雷撃を受けた際の後遺症。
サーヴァントは全盛期の様子で召喚されるのが通例ではあるが、彼女は全盛期の解釈や下半身不随の逸話が関係し下半身が不随の身体で召喚されている。
(説によっては不随になったのは左脚とも言われているが、少なくともこのライダーは両脚を動かすことができない)
敏捷にマイナス補正をかける。上半身と反応速度は敏捷A相当ではあるが、脚が動かないため実際の値は敏捷Aよりも低くなっている。このためライダーは常に宝具『定衆』に騎乗している。
宝具『千鳥・雷切の太刀』解放時は一時的に無効化される。
セイバーで召喚された場合は『雷を切った全盛期』として召喚されるため、このスキルは外れている。
【宝具】
『定衆』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大補足:-人
ライダーとしての騎乗物であり、半身を不随とした彼女が戦場にて乗っていた輿。
もう一つの宝具である『千鳥・雷切の太刀』を動力としており、雷の軌跡を残し空中を走る。
速度はあるが高度はリニアモーターカーのように地面から1m~2m程度浮くのが限度であり、高空飛行はできない。
一応雷を纏ったままの体当たりで攻撃も可能である。
『千鳥・雷切の太刀』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:0~30(雷撃のもの) 最大補足:30人(雷撃のもの)
ライダーが雷、ひいては雷神を斬り捨てたとされる太刀。……この太刀には、斬り捨てた雷神が宿っている。
真名を解放した場合その秘められた雷神を解放し、雷を刀身とライダーの身体に漲らせ強化する。
雷を操ることにより太刀のレンジを飛躍的に向上させ、ライダーの幸運以外のパラメーターは全て1ランク上昇し、さらにスキル【不随の身体】を真名解放中無効化する。
この状態のライダーは疑似的な神降ろしの状態にあり、最高速度は雷速に達する。
もうひとつの宝具である『定衆』の動力でもあるため、この宝具の真名を解放している間は『定衆』は使用不能となる。
【weapon】
『火縄銃』
ライダーが輿に乗る際に自らの傍に置いていたという火縄銃。
これにも雷を宿らせることが可能で、その場合銃弾は雷弾となり敵を襲う。
【人物背景】
戦国時代の豊後大友家家臣。『立花道雪』の名で知られる。
その名でわかるように『西国無双』で知られる立花宗茂の義父であり、彼に劣らぬ戦歴を持つ。
三十七の戦で活躍し、『雷神』あるいは『鬼道雪』の異名で畏怖された。
若い頃に半身不随になったとされる。炎天下の日、大木の下で涼んで昼寝をしていた道雪だが、その時急な夕立で雷が落ちる。
直感的に道雪は千鳥の太刀を抜き、雷を斬って生き延びた。
後遺症により道雪の足は不具になったが、勇力に勝っていたので、常の者・達者な人より戦いに優れていたと言われる。
秋月氏との合戦では半身不随にも関わらず「自ら太刀を振るい、武者7人を斬り倒した」という記録もあるが、これは『千鳥・雷切の太刀』によって行ったもの。
人格は義に篤い武人。一度主と仰げば、相手を裏切るようなことはない。
その代わり同義にもとる行いは見逃さず、軍紀や義を侵すような振る舞いには非常に厳しい。
鉄の女。
配下をよく労い、身内への配慮を欠かさなかったとも言われているが、その配慮は時たま遠慮がない。
【特徴】
日本人らしからぬ金髪。どうやら雷を受けた影響らしい。背が高く、均整の取れた肉体美を持つ。
普段は着物と陣羽織の姿であるが、戦闘時は鎧を纏う。
また、車椅子に装甲をつけたような形状の輿である『定衆』に常に乗っている。
秀麗な女性ではあるが、色ボケとして知られた大友宗麟に仕えて手出しされなかったあたり内面は推して知るべし。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。
願わくば、主に勝利を。
【マスター】
間桐慎二@Fate/Stay Night [Unlimited Blade Works]
【能力・技能】
魔術への知識。
また、心臓がイリヤスフィール・アインツベルンのものであるため魔力が一応ある……かもしれない。
【人物背景】
Fate/Stay Night [Unlimited Blade Works]終了後の間桐慎二。
聖杯戦争を生き残った結果、『憑き物が落ちたかのように穏やかになり、桜とも良い関係を築けるようになった』らしい。
ただし性根が自己中心的かつ愉快で困った人なので態度は割と大きい。
桜との関係が改善している程度には毒気は抜けたが、完全に改心したかと言われると難しい。
気難しく、口うるさく、人並み以上に頭の回転がいい、困った人。
聖杯戦争中の行いは反省している……模様。そのあたりで、今回の聖杯戦争には非常に乗り気ではない。
【マスターとしての願い】
ねーよもう!
投下を終了します
>>134 のライダーサンタのステータスをwikiで追記修正しました。
パラメータの変更を行い、スキルにピッキング技術・宝具にトナカイを追加してあります。
>>854 においてアサシンの【weapon】が抜けていましたので、wikiにて追加致しました。
投下します
「あ、そうそう。私、明日から三日間ロケで学校休むから」
「そうなんだ。久しぶりだね、何日も休むの」
「けっこう大きい仕事が来たってことは、きらっちも再起のチャンスかにゃー?」
「再起も何も、落ちぶれた覚えないっての!」
◇ ◇ ◇
小神あきらは、アイドルである。
決してトップアイドルと言えるほどの人気者ではないが、さりとて吹けば飛ぶような小物でもない。
中堅どころとして、しぶとく芸能界を生き抜いている。
もっともそこからなかなか上のランクに登れないことに、焦りを抱いているのも事実だが……。
そんな彼女は今回、オカルト番組のロケで冬木市に来ていた。
「怯えすぎてもレポートにならないので、適度に度胸のあるタレントを」という制作側の要望により声がかかったのである。
あきらにとって、今回の仕事は何ら特別なものではなかった。
無難に終わらせて、友人たちの元に帰る。それができるものと信じていた。
だが、彼女を待っていたのは非日常の事件だった。
◇ ◇ ◇
部屋の中に充満するのは、血のにおい。
つい先ほどまでにこやかに雑談していたスタッフたちが、うめき声を漏らしながら地に伏している。
あきら自身も、右腕の袖を鮮血に染めていた。
その周囲には、異様な光を目に宿す数匹の犬たち。
そして犬の後ろには、巨大な魔法陣とその傍らに立つフード姿の男が存在した。
あきらがスタッフたちとこの寂れた洋館にやってきたのは、数十分前のこと。
あらかじめスタッフが下見しており、危険は何もないはずだった。
だがいざ入ってみると、そこには下見の時にはなかった魔法陣が存在した。
スタッフが困惑していると突然犬たちの襲撃を受け、現在の状況にいたったのである。
「おお、お前らが悪いんだぞ……。これから大事な儀式だってのに、カメラなんて持って入って来やがって……。
殺すしかないじゃないか……」
フードの男は、ガタガタと震えながらうわごとのように呟く。
(殺す……?)
出血でもうろうとする意識の中で、あきらは男が口にしたフレーズに反応する。
(私が……死ぬ……。そんなの……)
「認められるかこの野郎ぉぉぉぉぉ!!」
あきらは、吠えた。
「ひっ……!」
「こちとらトップアイドル目指して、何年も努力して生き残ってきたんじゃ!
変質者に殺されてジ・エンドなんて、認めるわけにはいかないっての!」
鬼気迫るあきらの言動に、男はますます取り乱す。
「な、何をしている、お前ら! 早くその子供を……」
使い魔の犬たちに指示を出し、あきらを殺させようとするフード男。
しかし、その時不思議なことが起こった。
彼のそばに描かれた魔法陣が、光を放ち始めたのだ。
「バカな!? まだ儀式は始めてないぞ! なんで……!?」
パニックを起こすフード男をよそに、光はますます強くなっていく。
そして光が弾けると、そこには一人の少年が立っていた。
切り揃えられた金髪、一糸まとわぬ上半身には少年とは思えぬ屈強な筋肉が備わっている。
野生の雰囲気を纏いながらも一種の機能美を感じさせる英霊が、そこにいた。
「なんで召喚されたのかはわからんが、ちょうどいい!
お前が俺のサーヴァントだな! 殺せ! あいつらを殺すんだ!」
混乱を引きずりつつも状況が好転したと判断したフード男は、少年に指示を出す。
だが少年は男をにらみつけるだけで、命令に従おうとはしない。
「どうした、なぜ従わない! こっちには令呪が……」
「バカか、お前は。お前に令呪はねえよ」
「へ?」
そう指摘され、男は初めて自分の体のどこにも令呪が浮かんでいないことに気づく。
「俺のマスターはあっちだ」
少年が指さした先には、あきらの姿。
その左手の甲には、いびつに三等分された星形の令呪が浮かんでいた。
「バカな! バカなバカな! あり得ない!
なんでこの場にたまたま来ただけの子供が、マスターに……」
「そんなこと、俺が知るか! 俺がわかることは、ただ一つだ。
平気で子供を殺そうとするような悪党は、放っておくわけにはいかねえ!」
次の瞬間、少年の拳がフード男のアゴに叩き込まれた。
男は天井まで吹っ飛び、頭部を強打した後なすすべもなく床へと落下した。
「キャイイイイン!」
主の無残な姿を見せられ、使い魔たちは一目散に逃げ出す。
少年はそれを追撃することもなく、黙って見送った。
「さて、とりあえずこの場はこれで一件落着か……。
大丈夫か、マスター」
「大丈夫なわけないでしょ。めっちゃ痛いわよ、この傷。
頭の中にいろいろな情報が流れ込んできて、気持ち悪いし……」
「カッカッカ、それだけの口が叩ければ大丈夫だな」
恨みがましく告げるあきらであったが、少年はものともしない。
「とりあえず聖杯戦争とやらは後でゆっくり話を聞かせてもらうとして……。
今は救急車呼びましょ。みんな早く治療すれば、命は助かるかもしれない」
「助けを呼ぶってことか。オッケーオッケー、了解だ。
命は大切にしないといけねえからな。
俺もあの悪党の命までは取ってねえ」
「ああ、あれで生きてるんだ。死ぬよりひどそうなことになってるけど……」
無残に変形したフード男の顔を見ながら、あきらは引き気味に呟く。
もっとも、同情はしていないが。
「まああいつは豚箱に入ってもらうとして、あんたは……。
あれ、そういえばあんたの名前って聞いてたっけ?」
「ああ、そういえばまだ名乗ってなかったな。
ライダーのサーヴァント、足柄山の金太郎とは俺のことよ!
お前みたいなちびっ子を守るのが、俺の使命ってな!」
「ちびっ子って……。私は14歳だ!」
「え……マジで? 今の子供って、昔より発育いいはずじゃ……」
「よし、そのケンカ買った!」
その後興奮のあまり出血が増えたあきらが貧血でグロッキーになるという事態が発生したものの、なんとか救急車が間に合い事なきを得たのであった。
◇ ◇ ◇
病院で適切な治療を受けたあきらは、そのまま入院することになった。
スタッフも重傷ではあるものの、全員一命をとりとめた。
事件はフード男が訓練した犬を使ってスタッフを襲った殺人未遂事件とされ、男は意識不明のまま警察病院に送られた。
なお男も重傷を負っていたことに関しては、あきらも気を失っていたため何があったかわからないということにしておいた。
その日の夜、あきらは病院の個室で金太郎と今後について話し合っていた。
すでに消灯後であり、その場には二人以外の人間はいない。
「私は、聖杯なんて使わない」
真摯な表情で、あきらは言った。その言葉に、金太郎は少しだけ眉を上げる。
「いいのか? どんな実現困難な願いでも叶えられるチャンスなんだぜ?」
「何かの歌の歌詞であったわ。自分の力で叶えられることを、神様にお願いしちゃダメだって。
私の夢は、私の力で叶えられるって信じてる。それがどんなに困難だったとしても、可能性があるなら奇跡になんか頼らない。
なかなか頂点に立てない半端者でも、プロの端くれだもん。私にも意地があるわ」
「いいねえ、その心意気。実にゴールデンだぜ」
「何それ。どういうこと?」
「俺にもよくわからん」
「わからんのかい!」
思わず大声を出してしまってから、あきらははっとする。
いかに夜の個室といっても、周囲には人がいるのだ。
誰かに声を聞かれて、不審に思われないとも限らない。
「あー……それで、これからどうする?
今すぐ聖杯戦争から降りるか?
俺はおまえを守ることが目的だったから、別にそれでもいいんだが」
「できればそうしたいんだけどねー……。聖杯戦争ってのは、他にもあんないかれたやつが参加してるかもしれないんでしょ?
はい降りましたで、無事に帰れる保証もないと思うのよ」
「うーん、たしかにそれはなあ。可能性としてはそれほど高くねえが、一般人を巻き込むようなやつが参加してることも有り得るしな」
「入院ともなるとそう簡単には動けないだろうし、当面の戦力としてあんたは残しておくわ。
安全に帰れる算段がついたら、正式に聖杯戦争から降りる。それでいい?」
「ああ、俺はかまわねえ」
あきらの言葉に、金太郎は微笑を浮かべて頷く。
「しかしなんだな、マスター。あんた一般人の割には、落ち着いてるな。
普通こんなことになったら、もっと我を忘れるかと思うんだが」
「まあ、修羅場には慣れてるからね。命の危機がなくたって、芸能界は戦場だもん」
そう言い放つと、あきらは悪い笑みを浮かべるのであった。
【クラス】ライダー
【真名】金太郎
【出典】史実および童話
【性別】男
【属性】秩序・善
【パラメーター】筋力:B+ 耐久:C 敏捷:B+ 魔力:B 幸運:A 宝具:B
【クラススキル】
騎乗:B
乗り物を乗りこなす能力。
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。
【保有スキル】
動物会話:C
言葉を持たない動物との意思疎通が可能。動物側の頭が良くなる訳ではないので、あまり複雑なニュアンスは伝わらない。
それでも金太郎の精神構造が動物に近いせいか、不思議と意気投合してしまう。
天性の肉体:B
生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。このスキルの所有者は、一時的に筋力のパラメーターをランクアップさせることが出来る。
さらに、鍛えなくても筋骨隆々の体躯を保つ上、どれだけカロリーを摂取しても体型が変わらない。
神性:C
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
金太郎の神性は雷神系のルーツ、伝説を保有する英霊からの攻撃に対して稀に耐性として発動することがある。
【宝具】
『黄金喰い・零式(ゴールデンイーター・ゼロ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
金太郎の怪力なくしては扱えない、雷神の力を宿す巨大マサカリ。
成人した金時の宝具である「黄金喰い」とほぼ同じ機能を持つが、体格に合わせて小型になっている。
また、「黄金衝撃」は使えない。
『夜狼死九・黄金疾走(ゴールデンドライブ・グッドナイト)』
ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:不明 最大捕捉:不明
「超加速突撃形態」へと変形したゴールデンベアー号による突撃。
ベアー号のタイヤは雷神の太鼓が変化したものであり、回転するごとに威力が上昇する。
【weapon】
「ゴールデンベアー号」
金太郎が駆るモンスターマシン。ひと吹きで百里を駆け抜け、熊百頭が行く手を阻もうとも問題なく蹴散らせるスペックを有している。
【人物背景】
坂田金時の幼少期の姿。
いわば「金時リリィ」である。
まだ発展途上であるため身体能力は大人の状態に及ばないが、童話の主人公としての信仰が上乗せされることにより魔力と幸運は上昇している。
また金太郎が子供の日の象徴とされることから、「子供の守護者」という要素が顕現。
幼い子供を守ることを第一に考えるようになり、性格にも影響が出ている。
「ゴールデン」はそんなに多用しない。
【サーヴァントとしての願い】
マスターを守る。
【マスター】小神あきら
【出典】らき☆すた(漫画版)
【性別】女
【マスターとしての願い】
聖杯戦争からの安全な離脱
【weapon】
特になし
【能力・技能】
芸能界で生き残れるだけの演技力・歌唱力
【人物背景】
14歳のジュニアアイドル。
トップアイドルには及ばないものの、千葉ロッテマリーンズの応援歌を担当するなど芸能界でなかなかの活躍を見せている。
その素顔は口は悪いものの、ひたむきで繊細な女の子である。
要するに、アニメ版とは別人。
【方針】
自衛優先
投下終了です
投下します。
真冬の冬木市に、1人の少女?が降り立った。
冬だというのにノースリーブのワンピースを着用し、奇妙な形の帽子からは不気味に蠢く触手を生やしている。
そう、彼女は人間ではない。
――地上を侵略し、人類を征服するという野望を胸に、仄暗い海の底からやってきた正義の使者なのだ。
広大な海を無限のゴミ箱かなにかだと勘違いした人類へ鉄槌を下す者。
こと聖杯戦争という舞台において、彼女が呼ばれるのは当然のことと言えた。
そんな恐ろしい存在が今、人類への侵略を開始しようと――
「……くしゃん! うぅ……寒いでゲショ。英子〜千鶴〜どこでゲショ〜?」
――……してはいなかった。
口と鼻から真っ黒いイカスミを垂らしている彼女は、アダ名でもふざけている訳でも無く、「イカ娘」という名を持つ人外である。
しかし、崇高な使命を持って地上に上陸したわけだが、なんやかんやあってすっかり地上に馴染んでしまっているのだ。
そんなイカ娘は今現在、絶賛迷子中であった。
というのも、居候中の家の者達と久しぶりに遠出をしたと思えば、見知らぬ街にひとりぼっちという状況に置かれてしまったのだ。
「まさか意地悪してるのでゲソ? 昨日たけるの分までエビを食べたのは悪かったでゲソ〜許して欲しいでゲソ〜」
未知というのは人に不安を掻き立てさせるものである。
イカとて例外ではない。
人気も無く、暗く凍える様な夜の街に声を掛け続けるのは容易なことでは無かった。
次第に、自分は置き去りにされてしまったのでは? という嫌な考えが頭を掠める。
「と、取り敢えず、寒さを凌げる場所を探すでゲソ」
余談だが、本来ならばイカ娘にとって冬の寒さというのはそこまで脅威では無かった。
故郷は海であり、深海付近ともなると1℃を記録する場所もある。
しかし、地上での快適な生活に慣れてしまったイカ娘は、もはや暖房器具のない冬など考えられない物となっていた。
イカ娘は非常に進化と退化のスピードが早いのだ。
無断からよく使う触手でさえ、しばらく使わなかった時期があっただけでただの髪になりそうだった事もある程である。
「……お? あそこに見えるのはコンビニじゃなイカ?」
しばらく寒さに震えて歩を進めていたイカ娘だが、遠くにコンビニの灯りを見つける事に成功した。
多少世俗慣れしたイカ娘は、ついでに電話を借りよう、と考えたが、そもそも誰の連絡先も知らなかった事に気づいた。
しかし、店内の温度は少なくとも外よりはマシなはずである。
イカ娘は歩を急いだ。
「はぁ……生き返るでゲソ……」
幸い電気ポットが設置してあるコンビニだったため、なけなしの金で安いシーフードヌードルを購入し、小さな飲食スペースで休憩する事にした。
ちびちびとラーメンを啜り、世間からは謎肉よろしく謎エビと言われているエビを惜しみながら食べる姿は哀愁が漂っている。
「こんな事なら昨日栄子の分までお腹いっぱいエビを食べておくんだったでゲソ……」
ついさっきまでの反省などすっかり忘れて厚かましいことをのたまっているが、これがイカ娘の処世術なのである。
嫌なことはすぐに忘れて良いことだけを覚える、実に生物として理にかなった生き方であった。
それでも、家主であり地上最強の生物と名高い(当社調べ)千鶴のエビに手を出そうと思わないのは、最後に残った防衛本能によるものだろう。
「ふぅ……まあ千鶴も鬼じゃないでゲソ。その内迎えに来てくれるでゲソね」
身体に悪そうなスープまで綺麗に飲み干し、すっかり気分が良くなったイカ娘は、持ち前の楽観思考で迎えを待つことにしたのだった。
しかし、そこで疑問が沸き起こる。
「しまったでゲソ。さっきの場所からここまで結構歩いたんじゃなイカ? みんなが探し回っていたら大変でゲソ!」
イカ娘は決して馬鹿ではない、それくらいの思考は当然といえる。
しかし、外は寒い、比較的温かい拠点を離れるのは困難を極めた。
それでも、温かい拠点と温かい自宅(居候)では比べるべくもない。
それに、まだ深夜ではないとはいえ、13〜4歳くらいの見た目の少女が1人で夜のコンビニにたむろしている光景は決してありふれたものではないだろう。
現に、数刻前から店員がイカ娘の様子をチラチラと伺っているのだ。
これ以上長居はできそうもなかった。
「こうなれば腹を括るしか無いでゲソ!」
聖杯戦争の地とは思えないほどショボい葛藤だが、イカ娘にとっては一大決心である。
大海に見を投げ打つ覚悟で、イカ娘はコンビニを飛び出した。
――すると。
「おや、やっと出てきたかマスター。全く、待ちくたびれてしまったよ」
イカ娘に近づいてくる人物が1人。
かなり大柄な男で、イカ娘と並ぶと大人と子供というより大人と幼児の様である。
イカ娘の事を“マスター”と読んだ男は、いかにも仕立ての良い暖かそうな服を着ていて、とても気さくな様子であった。
「お主、誰でゲソ? 千鶴の友達でゲソか?」
「いやぁ、違うよ。サーヴァントさ、キミのね」
千鶴の知り合いではないと言うし、勿論自分も知らない親しげな人物にイカ娘の頭は疑問符でいっぱいになったが、彼の“サーヴァント”という言葉は妙に引っかかった。
そして、目の前の人物などそっちのけで考えること数秒――イカ娘の脳にやっと聖杯戦争の情報が舞い込んできた。
「うわぁ、なんでゲソ!? 知らない言葉がいっぱい入ってくるでゲソ〜!?」
目をぐるぐると回して混乱状態のイカ娘を、サーヴァントの男は愉快そうに見つめていた。
――待つこと数分、やっと落ち着いたイカ娘は持ち前の高い学習能力で聖杯戦争の情報を整理し始め、同時にその右手には令呪が宿り始めていた。
「落ち着いたかい? マスター」
「うぅ……なんとか……道理で栄子達が来ないはずでゲソ……」
イカ娘が得た情報は、今の状況を納得させるだけの説得力があるものであった。
願いを叶える聖杯やサーヴァント、彼らに対して絶対的命令権を持つ令呪に、マスターとしての自分の立場。
よくよく考えてみれば美味しい話である(命の危機などは考えつきもしない)。
「ふっふっふ、聖杯があれば、一年中エビが食べ放題じゃなイカ! これを逃す手は無いでゲソ!」
利点だけを見てご機嫌に笑うイカ娘を見て、サーヴァントの男は無いはずの髭を擦る様な仕草をして頷いた。
なんとなく疑問を浮かべているその顔を察知したイカ娘は、ためらうこと無く訪ねた。
「どうしたのでゲソ?」
「いや、やはりマスターはエビが好物のようだと思ってね。そしてその、なんだい? ラーメンを食べていた時も思ったんだが……感情に起因して勝手に動く帽子や髪の毛なんて初めて見るよ。一体どうしてなのかと考えていたんだ」
「ああ、そんなことでゲソか……私はイカでゲソ。人間と違うのは当然じゃなイカ?」
さも何でも無いことの様に言い放つイカ娘だが、男にとっては衝撃どころの話ではない。
「イカ? キミはあの動物界軟体動物門頭足綱十腕形上目のイカに分類される生物だと?」
「そんな人間が決めた分類は知らないでゲソが……申し遅れたでゲソ! 私は人間たちを侵略するためにやってきた海からの使者、イカ娘でゲソ!」
イカ娘の会心の名乗りも、もはや男の関心を引いてはいなかった。
男は小さくブツブツと、「イカだと……まだ死んでから100年ほどじゃ……まさかぼくの時代にも……いや、まずあれは軟体動物では……十腕でもない……人に似すぎているし……自然選択の適応……スズメガとハチドリの様な……いや、まずあれは海生生物なのか……しかし私の勘が紛れもなく彼女は“イカ”だと告げている……」などと呟き、いかにも危険な匂いが漂っている。
「お主! おいお主! 私が名乗ったんだから名乗り返すのが礼儀じゃなイカ!」
自分から聞いておいてガン無視のサーヴァントに激昂し、イカ娘は声を荒らげる。
そこでやっと我に帰った彼は、一度冷静を取り戻し、名乗りを返した。
「ああ、ぼくはダーウィン。チャールズ・ダーウィンだ。クラスはライダー……はわかるか。――さて、とにかくキミはイカなんだろう? 生まれはどこの海かな? 呼吸は肺呼吸? エラはあるのかな? ええとそれから――」
否、まだ冷静を取り戻してはいなかったようだ。
何処に他の主従がいるともわからないのに、安々と真名を名乗り、さも命令は果たしたと言わんばかりにイカ娘に質問の嵐を浴びせる。
心なしかじわりじわりとイカ娘に距離を詰めている様子は、その身長差もあってか傍から見れば事案物である。
触手に手を伸ばしつつあるライダーに、イカ娘が身の危険を感じるのは当然の結果と言えた。
イカ娘は素早く飛び退き、令呪の使用を宣言――やむを得ない処置である。
こんな序盤で三画しかない令呪を使うほどイカ娘は馬鹿ではないが、この暴走がずっと続くくらいなら令呪一画くらい安いと思えた。
なにせ触手や頭部のペチペチによる物理的な防衛が通用しない相手であることは、イカ娘には理解できてしまっているのだから。
ある意味早苗やシンディーよりも恐ろしい存在である。
人類とは異なる異形の者として認められたい気持ちはあるが、このような反応は求めていないのだ。
「わかったわかった! 今は一旦引いておくよ……ぼくとしても、キミとの仲を悪くしたいわけじゃあ無いからね」
イカ娘の態度を見て妙に聞き分けの良くなったライダー。
それも当然であろう、令呪によって“イカ娘に対する研究を禁止する”などと命じられては堪ったものではない。
面と向かって質問する事が警戒される要因ならば、面と向かわずに研究すればいいだけのことである。
これから聖杯戦争の間はずっと一緒に行動し続ける関係ならば、チャンスはいくらでもあるのだ。
それに、とっさに飛び出した言葉も嘘というわけではない、マスターとは友好な関係を築いていきたいのもまた本音であった。
「わ、わかればいいでゲソ!」
普段しつこい相手ばかりと接していたイカ娘にとって、引き際をわきまえるライダーの態度は新鮮なものであった。
子供達ではない歴とした大人が、自分の鶴の一声で行動するのはいかにも征服者っぽくて気分が良い。
マスターとサーヴァント、いわゆる主従関係。
目の前に佇むこのライダーはイカ娘にとって自由に動かせる駒、下僕なのだ。
再び再確認できた事実を前に、イカ娘の心情はもはや王様気分である。
そんなになっている有頂天なイカ娘とは対象に、ライダーはまたも考え込んでしまう。
召喚された時まではあまり本気になるほどではなかった願い――受肉。
少しばかり現代の生態系に興味はあったが、たかが百数年では大きな発展は見られないだろうと考え、マスターが何も願わないならば受肉させてもらう程度の考えだった。
しかし、ここに来てマスターがなんとも興味をそそられる存在だったのだ。
スキルとして表れるほどの観察眼が彼女はイカだといい、人間としての常識や倫理観が彼女はイカではないという。
自分の脳内で駆け巡る矛盾は、これ以上無いほど科学者としての本能を刺激するのだ。
「なぁマスター、キミは聖杯でエビを食べたいのか、世界征服をしたいのか、どっちなんだい?」
「むむむ……そういえば地上侵略を願うという手もあったでゲソ……」
――しまった! とライダーは後悔に苦心した。
ライダーには、エビくらいならば受肉した後でいくらでも提供してやれる自身があった。
それを切っ掛けに聖杯を譲ってもらう交渉を持ちかけようとしたのだが、まさか二択で迷っていたのだと思われる願望を、今の今まで認識していなかったとは思わたかったのだ。
策士策に溺れるとはまさにこの事、意図せずして聖杯戦争のおけるイカ娘の新たな可能性を意識させてしまった。
「……地上征服=人類の物は全て私の物、地上を征服すればエビ食べ放題……つまり、一石二鳥じゃなイカ!」
「ちょっと待ってくれ、そういった大きな野望は自分の手で達成した方が、やりがいとかがあるんじゃないかな? なんなら聖杯を私にくれても……」
イカ娘の脳内ビジョンはすでに最高の形で完成している。
そこにライダーが付け入る隙など、もはや欠片も無くなっていた。
「私は海を汚す人類を懲らしめられれば、やりがいとかどうでも良いでゲソ。簡単に地上征服が出来るなら、それに越したことは無いじゃなイカ!」
そう、イカ娘1人で出来ることなど限界がある。
最初に侵略しようと試みた家の長女にさえ頭が上がらないのに、どうして軍や70億人にも上る人類を征服できようか。
まさに聖杯は、棚から落ちてきたぼた餅の様に、イカ娘にとって願ってもない最高の機会であった。
「そうと決まれば話は早いでゲソ! 早速他のサーヴァント達を倒して、地上を侵略するでゲソ!」
キンと張り詰めた冬木の闇に、イカ娘の決意が響く。
多くのことがありすぎて興奮しているイカ娘は、この決意が曲がらぬものだと信じているが、未来はまだわからない。
戦闘で現実に打ちのめされるどころか、下手したら朝起きたときにでも寂しくなって、すぐ家に帰りたくなるかもしれない。
ライダーは決してイカ娘に害をなすことはないだろうが、それでもイカ娘への興味は尽きてはいないのだ。
――否、今この瞬間にもその研究欲は沸々と煮えたぎっている。
「……クショ! やっぱり外は寒いでゲショ……」
ああ、イカ墨を吐いたことで更にライダーの興味が惹かれてしまった。
ライダーは凍えそうなイカ娘に羽織っていたコートを掛け、友好を示す。
イカ娘も、ありがとうでゲソ、と笑顔を咲かせて上機嫌である。
戦争するにも、研究するにも、まずは住居が必要だ。
どこか身を置く場所を探すために、2人は夜の街へと歩き出した。
【クラス】
ライダー
【真名】
チャールズ・ロバート・ダーウィン
【出典】
19世紀イギリス
【性別】
男
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力E+ 耐久E+ 敏捷C 魔力A 幸運EX 宝具EX
【クラススキル】
騎乗:C-
乗り物を乗りこなす能力。
「乗り物」という概念に対して発揮されるスキルであるため、生物・非生物を問わない。
乗馬に関してはプロ並みの腕前。船酔いが酷い。
対魔力:A
魔術に対する抵抗力。一定ランクまでの魔術は無効化し、それ以上のランクのものは効果を削減する。
【保有スキル】
進化論:EX
自然選択説とも呼ばれ、厳しい自然環境が生物に起きる突然変異を選別し進化に方向性を与えること。
適者生存の意思のもとに、苦境に立たされた時に”苦境に適応し、生き残る”為に変化が起きる。
変化、星の開拓者などが複合したもの。
博物学:A+
自然に存在するものについて研究する学問の理解度合い。
自然への高度な理解は超能力や予知の域に達する。
ライダーは特に生物学・地質学に優れ、相手の特性・本質やその場で起きた出来事を察知する事を得意とする。
病弱:C
虚弱体質。ライダーの場合後天的なものであるが、半生を病に侵されて過ごしたことや医者でも病状を掴めず後世の民衆が様々な病を議論したため付加された。
発生率は限りなく低い(約5%)が、あらゆる行動時にステータス低下のリスクを伴うようになる。
このスキルは自己進化によって消えることはない。船に乗ると発動する確率が逆転する(約95%)。
【宝具】
【この小さな船は偉大なる者のために大いなる未知を征く(ボヤージュ・オブ・ザ・ビーグル)】
ランク:EX 種別:対運命宝具 レンジ:1〜99 最大補足:50人
イギリス軍の砲10門を搭載した小さな帆船、”ビーグル号”と乗組員数名を召喚する。
このビーグル号による航海がなければ、ライダーは聖職者という正反対の職に付いていたであろう奇跡の船。
後年、ビーグル号が停まった入り江が「ダーウィン港」と名付けられ、その地域にダーウィンという街や大学が立てられるまでとなった。
神を否定したライダーには皮肉なことだが、ライダーとビーグル号の出会いは、神の啓示の如き奇跡が重なった結果とも言われている。
もちろん砲撃など、戦艦としての戦力としても有効だが、宝具としての真価はそこではない。
ライダーが転機となる重要な場面に差し掛かった時、ライダーの意思に関係なく現れ、進むべき進路を示す。
未来への干渉をも行い、より知るべき重要な真実に向かった方角へと船頭を向けて出現する。
その先で何と出会い、何を見て、何を考えるかはライダー次第であり、必ずしも(都合の)良い結果になるとは限らない。
ライダー自身にこの船を動かす力は無く、乗組員を追加で召喚しなければならない。
本来の船よりも人員は少なく済み、動かすだけならば艦長だけで良いが、砲塔を動かし戦闘を行うならば更に数人必要。
【ロバート・フィッツ=ロイ】
召喚される乗組員の1人で、ビーグル号の艦長。
情緒が不安定気味ですぐ癇癪を起こし、神経質で非妥協敵な性格。其の上狂信的なまでのキリスト教徒である。
ライダーとは思想の違いでよく対立し、そして冷静になるとすぐに仲直りする。
しかし、その反面は仲間思いで気配り屋であり、彼がいなければビーグル号は動かせない重要な人物。
【真実は変化を受け入れる者だけに(オン・ジ・オリジン・オブ・スピィシーズ)】
ランク:A 種別:対生物宝具 レンジ:1 最大補足:10
ライダーが5年の航海と、20年の製作期間を経て完成させたの常識を変えた書。5回の改訂を行って第6版まで出版された。
この書は『生命は全て神が作り出し、不変のもの』という聖書を真っ向から否定し、多くのキリスト教徒から批判を集めた。
この宝具は全ての生物(植物含む)に自然選択説によって、より環境に適応させるための変化を与える。
もしくは環境適応の為に必要の無くなった獰猛さや体の大きさを退化によって取り戻させる。
英霊たるサーヴァントは死んでいるため生物としての可能性は無く(例外:アルトリア等)、ライダー自身もこの宝具によって変化することは叶わない。
また、聖書の否定を行う禁書としての反面も持ち合わせる。
宝具が発動している間は、神及び悪魔に類する者や魔物・魔獣などの生物学的に種の起源を推測できない、生物学的に説明出来ない存在を強引に説明出来る存在へと落とし込み、それに起因スキル(神性、鬼種の魔、魔眼など)を打ち消す。
【人物背景】
裕福な医師の家系に生まれ、高名な博物学者の祖父を持つ生粋の博物学者。
幼い頃は家の資産目当てに勉強もせずに遊び呆け、将来の明確な計画など無いドラ息子であった。
父ロバートは彼を医者にしたがり様々な学校に通わせたが授業に出たのは数える程度で、日々を乗馬や狩猟にかまけ、たまの授業で人の血を見れば吐く始末である。
医学そっちのけで博物学に興味津々だったチャールズは、個人的に数々の博物学教授と信仰を深め、父に内緒で博物学の授業を取り続けた。
そんなチャールズの父はもう医者にすることを諦め、牧師になるよう促した(無論博物学者は認めなかった)。
チャールズもそれを渋々承諾、このままいけば敬虔とは言わずとも神の信徒になっていたのだから面白い。
そしてチャールズが奇跡の如く出会ったのが、仲の良いの教授の1人から進められたビーグル号の世界一周測量航海であった。
その5年に及んだ航海で彼は多くの発見をし、その功績によって王立協会の会員として認められた(本人曰く「自分が英国の国王になるが如き奇跡」)。
そして20年の苦節を経て「種の起源」を書き上げた。
そこには聖書を否定する内容があったため多くの批判や誹謗中傷が飛び交ったが、味方も多く、チャールズ・ダーウィンの名は広く知れ渡った。
種の起源は第六版まで改定されたが、30歳辺りから弱り始めた身体に限界が訪れ、73歳のときに心臓病でこの世を去った。
人生の半分以上は病によって苦しみ続けた生涯であったが、彼の唱えた進化論は近年徐々に常識として認知されつつある程の説となっている。
【特徴】
外見は20代の時分で英国紳士な服装をしている。
父親譲りの高身長で、英国人の中でも一際大きい190cm前後。
髪が後退し始めた頃で、額が広いのが悩みである。
【weapon】
狩猟用の銃:一般的な狩猟用ライフル。狩りは天才的だが、グロ耐性がないため人は撃てない。
【聖杯にかける願い】
受肉。科学が発展した現代で再び博物学を研究したい、特にイカ娘を。
【マスター】
イカ娘
【出典】
侵略!イカ娘
【性別】
女
【Weapon】
触手
【能力・技能】
髪の毛のように頭部から生えている10本の触手を伸ばし、手足よりも精密に動かせる(木を性格に切り裂き、壁に穴を開けるなど威力は高い)。
ホタルイカの能力も持ち合わせ、体全体を発行させることも可能。
その他にも口からイカ墨を吐いたり、頭部のエンペラを動かしたり(人を吹き飛ばす程の威力がある)できる。
本人の能力化は定かではないが、着ている一張羅は傷や汚れが自動修復される優れもので、常時付けている腕輪は自分の体重を自由自在に増減できる。
【人物背景】
ゴミの不法投棄や汚染水の垂れ流しなどの自然を敬わない人類から海を守るべく、地上を侵略しに来たイカの少女。
故郷に一番近い人類の棲家として、海の家「れもん」を侵略しに来たが、あえなく失敗して従業員として働くことになった。
侵略するといっても人を殺したり傷つけたりすることは苦手で、悪事も悪戯レベル以上は気が進まない優しい侵略者である。
推定では13〜14歳ほどだが、同居人の女性2人の小6時代よりも背が低く、その身長の低さがコンプレックスとなっている。
イカなのに人間の病に罹りやすく、イカ特有の病気(ゲソニンムルゴボング病、イカモスロップソン病)もあるため同居人には虚弱なのではないかと言われている。
やや世間知らずな面が多く、常識に対して無知な事がある(イカとしては博学)が、頭がよく物覚えも良いため、教えたことはすぐに実行できる(英会話や大学レベルの数学、機械の操作もすぐに覚えた)。
好物はエビ、嫌いなものは無いが、エビを長期間食べないでいると禁断症状が起きる。
すっかり海の家に馴染んでしまい、侵略の事を忘れている節が多々見られる。
【マスターとしての願い】
エビ……じゃなくて、地上を征服するでゲソ!
投下終了です。
投下します
夕暮れの町を一人の少女が歩く。
年の頃にして10代の頭といったところだろうか、友人らしき同年代の子供達と別れ、少女は彼女の自宅らしきマンションへと入り、エレベーターに乗り込む。
5階のボタンを押し、エレベーターの扉が閉まる。それと同時に彼女しか生物のいない筈のエレベーターに猫の声が響いた。
その不気味な現象に直面し、少女はピクリと微かに硬直を見せるが特に怯えた様子も見せず、些か不機嫌そうな面持ちで口を開いた。
「もう驚きませんよ」
「にしししし、それはざぁんねん。つれないなぁ、こっちのアリスは」
「橘です。名前で呼ばないでください」
少女、橘ありすが正体不明の声の主に自身の呼称の訂正を求めるのと、目的の階についたエレベーターが開くのは同時。
電子音を鳴らしながら開く扉から廊下に出ると、いつの間にか彼女の横に一匹の猫がちょこんと座っていた。
極彩色の縞模様に耳から耳まで届くようなにやけた笑顔を浮かべる、奇妙な風体の猫。これが先ほどエレベーターでありすに声をかけた主だった。
ありすは、この猫にあまりいい感情を抱いていない。
聖杯戦争に巻き込まれた身である彼女に対して護衛の一人、いや一匹としてキャスターのサーヴァントに宛がわれた使い魔であるが、顔に張り付いたにやけた笑みが象徴するようにこの猫は人をからかう事が好きなのだ。
現にこの猫を宛がわれてすぐに、ありすはエレベーターで先程と同じことをこの猫にされ、軽いパニックに陥った苦い経験がある。
「今日も周囲に異常はなーし。平和ってのは一番だね。欠伸しか出なくて僕の仕事は君の見張りから君を見ながら欠伸をする事に変わりそうだよ」
「そうですか、楽そうな仕事で良かったですね」
にやけ顔の猫の言葉に適当に返しながらありすは廊下を歩き彼女の家へと向かう。
キャスターが使役する使い魔は人をからかい、煙に巻き、そして意味のあるようでまったく意味のない物言いを好む傾向にある。
それを理解している彼女はまともに取り合うだけ時間と労力の無駄だと結論をつけていた。
その素っ気ない対応に猫は器用に肩を竦めると、鳴き声を1つあげながら瞬く間に姿を消した。
家のドアの鍵を開け、中に入る。
本来の彼女の家を正確に模倣した仮の家、NPCの偽の両親は家を開けていて留守だ。
「ただいま」
無人の家に横合いから「おかえり」と先ほどの猫の声が聞こえてくるが無視を決め込む。
靴を脱いで自分の部屋に荷物を下ろし、そしてリビングへと続く廊下の途中で足を止める。
部屋など到底作れないであろうスペース。だがそこに一枚のドアが出来ている。そこがキャスターの工房、いや、仕事部屋への入り口だった。
ドアをノックするも返事はない。
ありすは溜め息を1つ吐きながら、ドアノブに手をかけた。
「あぁ……尊い……尊い……」
扉を開けるとそこにいたのはありすの友人のアイドル達(15歳未満)のピンナップをうっとりとした表情で見つめる紳士服に身を包んだ男の姿。
ヒクッ、とアリスは自身の顔がひきつる音を聞いた気がした。
「少女ごとの性格・テーマ性を重要視した衣装。躍動感溢れる構図。そして何よりも可憐に咲き誇る無垢なる少女達の笑顔。アイドル……偶像……、いい時代になったものだ……」
「キャスターさん」
1オクターブ程低くなった声がキャスターの仕事部屋に響くと、キャスターがびくりと大きく肩を震わせる。
ゆっくりと振り向くキャスターの視界に映ったのは反目で自分を見つめるありすの姿。
途端に元々良くなかったキャスターの顔の色が更に悪くなった。
気まずい沈黙の中で、取り繕うようにキャスターは大きな咳払いを1つしながら姿勢を正し、椅子から立ち上がってありすへと向き直る。
「み、ミス・アリス。わ、私の仕事場に入るのであれば、の、ノックをしてから入ってきて貰いたいものだが?」
「ノックはしましたが私の友人の写真に夢中で気がついていない様でしたので、勝手に入らせてもらいました。それと名前で呼ばないでください」
「む……」
言葉を吃らせながら話しかけるキャスターに対し、ありすの対応は冷たいものだ。
にべもない様子にキャスターがたじろぎ、困ったようにぼさぼさ髪の頭を掻く。
「し、失礼をした、ミス・タチバナ。そ、そう言うことなら非は私の方にあるね」
「……」
「あ、あまりそういう目で見ないでくれたまえ。し、少女からの白眼視ほど心に堪えるものはないのだよ、私は」
ジト目で睨んでくるありすの視線から逃げるように、キャスターは椅子へと腰掛け、ありに背を向けて原稿用紙に向き直る。
にししし、と、どこからか使い魔の猫の笑い声が聞こえてきた。
頼りなさげに縮こまったキャスターの背中に刺のある視線を向けていたありすだが、いつまでもそうはしていられないと、この部屋にやってきた本題を切り出すことにする。
「昨日、繁華街の方でガス漏れ事故があったってそっちの方に住んでいる子が話してました」
カリカリと筆を走らせていたキャスターの動きがピタリと止まる。
振り向いたキャスターの顔は先ほどまでの情けなさと頼りなさを混ぜ返したようなものから神妙なものへと変えていた。
「やっぱり、他のサーヴァントの仕業なんですか?」
「そ、それは調べてみないとわからないね。ただ、可能性は高いと思う。く、詳しい場所はわかるかい?」
ありすは頷き、その時に聞いた住所を手に持ったタブレットの地図アプリに入力して表示させる。
それを見て、事件の場所がどのあたりかを確認したキャスターが一度手をパン、と叩く。
それと同時に時計を持った兎が二人の前に姿を現した。
「お呼びでございますかな造物主様」
「ちょっと調査を頼みたいんだよ白ウサギ君。私の仕事場からこの場所にウサギ穴を開けておいた。何があったか、特に魔力の残りがないか調べてきてくれたまえ」
「ご用命とあらば」
ありすと話をした時とは一転、流暢な口調でキャスターはウサギの使い魔に指示を出す。
キャスターが指差した場所にはいつの間にか穴が開いており、使い魔は「急がなくちゃ、急がなくちゃ」と口走りながら穴の中に消えていった。
「さ、さて、これで何か分かればいいのだがね」
再びありすに向けて吃りながら声をかけるキャスターを見て、面倒なスキルを持たされたサーヴァントだと改めて認識させられる。
無辜の怪物。後世の評価などで本来の在り方を捻じ曲げられたサーヴァントの持つスキル。
それによってキャスターは少女との会話限定での吃音症を生じさせていたのだ。
それだけでなくスキルの影響で彼が少女と話しているだけで犯罪者と勘違いされてしまう為、気軽に実体化して外に出歩くこともできない有様だった。
(確かに、写真を見てる時のあの反応を見たら勘違いされても仕方ないけど……)
キャスターがうっとりと写真を見ていた時に、それもスキルの影響かと質問をしたら真顔で生来のものと返答されたのは、ありすの中ではドン引きものではあったが、それでもキャスターの本質が穏やかで紳士的な人物であることがここ数日でよく理解できたのも確かだった。
だからこそ、何とか穏便に聖杯戦争を切り抜けて、本来の生活に戻らなければいけないと彼女は考える。
キャスターと出会った時に、彼はありすが聖杯戦争に巻き込まれるのを良しとせず、令呪による自らの自害を提案した。
しかし、それはアリスには呑めるものではない。
人一人を自害させる命令など到底できることがなかったことは勿論だが、キャスターが彼女が慣れ親しんだ物語の作者であったという事も大きかっただろう。
ルイス・キャロル。
アリスと呼ばれる少女の物語を書いた人間がありすと名付けられた少女に呼び出されたの如何なる縁か。
書きかけの原稿にタイトルが記されている。
『アリス・イン・ホーリーグレイルウォー』
この物語がどのような結末を迎えるのかは、これを書いているキャスター自身にも今はまだ定かではない。
【クラス】
キャスター
【真名】
ルイス・キャロル
【出典】
史実(19世紀イギリス)
【属性】
秩序・善
【ステータス】
筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:B 幸運C 宝具B
【クラススキル】
陣地作成:D
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
作家としての仕事部屋の形成が可能。
道具作成:C
キャスターはかばん語と呼ばれる混成語を用いて、新たな生物や不可思議な道具を産み出す事が出来る。
【保有スキル】
高速詠唱:D
魔術詠唱を早める技術。
かばん語と呼ばれる混成語を用いて詠唱・執筆にかかる時間を短縮させる。
使い魔使役(偽):A
自身が書き綴った不思議の国、鏡の国のキャラクターを使い魔として召喚できる。大概のキャラクターは意味のないお喋りに終始するだけに留まるが、武器を持ったトランプの兵隊や、気配遮断:Dを所持したチェシャ猫、騎乗して空を飛べるグリフォン、キャスターの仕事場からウサギ穴で指定した場所までワープできる白ウサギなど戦力になるものも存在する。
不思議の国、鏡の国の住人は不明瞭な言葉や精神汚染に等しい精神構造をしているものが殆どで会話自体が一苦労だが、原作者であるキャスターは不自由なく意思の疎通が行える。
無辜の怪物:D
本人の意思や姿とは関係無く、風評によって真相を捻じ曲げられたものの深度を示す。
キャスターはこのスキルによって子供と話す場合にのみ吃音が発症する。また、少女と接しているところを第三者に見られた場合、小児性愛者の誤解を受けやすくなる。
【Wepon】
なし。羽ペン程度
【宝具】
『我が身は少女を守る騎士なりし(ホワイト・ナイト)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
無垢な少女を守護する事をトリガーに発動可能な宝具。自らの姿を白い騎士に変貌させ、対象を守りきるまで筋力・敏捷・耐久をすべてAに上昇させる。
この宝具の発動中はルイス・キャロルではなく『鏡の国のアリス』の白い騎士へと存在が変わる為、宝具使用前に保持していたスキルが全て使用不能になる。
鏡の国のアリスにてアリスを助ける為の存在であった白い騎士のモデルがキャスター本人であったという逸話から生じた宝具。無垢な少女を助ける時、彼は無敵の騎士へとその身を変える。ついでに吃音も消える。
【人物背景】
世界的に有名な童話、『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』の著者。ルイス・キャロルはペンネームで本名のチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン名義でも数学論文などを発表している多才な人物。
吃音症であったが社交性が高く紳士的。
しかし、本人が一時期少女のヌード写真やコスプレ写真の撮影に傾倒していた事や、『不思議の国のアリス』のモデルとなった少女、アリス・リデルらと親交が深かった事から小児性愛者であったとの風評が広がってしまった。
本人的には上記の写真は純真無垢な少女の姿に神性を見出だしていたに過ぎないので、この事を指摘されると「その様な非紳士的極まる変質者どもと一緒にするな」とあからさまに不機嫌になる。ただ、少女の写真を見ながら「尊い……尊い……」と呟く様を見られてはそのような誤解を受けてしまうのも仕方のない事なのかもしれない。
【特徴】
痩身で燕尾服、蝶ネクタイをつけた紳士然とした成人男性。もじゃもじゃの髪に碧眼で柔和な顔つき。肺が弱く不健康そうな顔の色をしている。
【聖杯への願い】
マスターを無事に返す。可能なら聖杯戦争で現界している内にマスターを題材にした物語を執筆しておきたい
【マスター】
橘ありす@アイドルマスターシンデレラガールズ
【能力・技能】
アイドルとしての歌唱力とダンス力。
日々のレッスンのお陰でそれなりに体力はある。
タブレットを扱えるので知識量は豊富
【人物背景】
12才のアイドル。属性はクール。
"ありす"という日本人ではあまり見られない名前にコンプレックスを持っており、親しくない人間に下の名前で呼ばれると名字で呼ぶように訂正を求めてくる。気を許した相手には下の名前で呼ぶことを許可してくるので、それでどれだけ信頼されているかがわかる。なお本人は警戒心が強そうに見えてかなりチョロい。
大人びた雰囲気の人に憧れを持ち、なつきやすい傾向にある。
【マスターとしての願い】
聖杯戦争から穏便に脱出する手段を探す。
投下終了します
投下します
「ねえ、知ってる?」
月が雲に隠れた夜道にて、女がふとこう言った。
その言葉に対し、青年の眼が動く。他にいたもう一人の男も同様だった。
当然ながら、彼等の視線は一様に女性へと注がれている。
青年達は、飲み会を後にした大学生であった。
会場の店を出て、さあ皆で家に帰りましょうと並んで帰っていたところだ。
三人はそれなりに仲が良く、たまにこうして一緒に帰路に着く機会があった。
「出るらしいよ、口裂け女」
「今更だな……」
口裂け女といえば、20世紀の頃に流行った都市伝説だ。
口が頬まで裂けた女の噂が、街の子供達を恐怖のどん底に叩き落したのだとか。
青年がまだ生まれる前の話だが、当時の混乱はネットで時たま話題になる。
「あれだ、ポマードって三回唱えればいいんだろ、チョロいよな」
話を聞いていた男が、そう言って調子よく笑った。
酔っているせいか、心なしか態度も大きくなっている。
青年や女も酔うには酔っていたが、彼ら程ではなかった。
「でもさ、実際に会ったらそんな余裕あるかな?」
「馬鹿、今時そんなのにビビる奴なんかいるかよ」
女に対し辛辣な意見を述べると、男はまたカラカラ笑った。
若干腹の立つ言い方だが、分からない話ではない。
いくら世間を騒がせた怪人といえど、所詮口裂け女など過去の遺物だ。
もし本当に彼女が現れても、鼻で笑われるのがオチかもしれない。
「口裂け女と言えばよ、俺のダチも人面犬見たって言ってたな」
「それ知ってる、首なしライダーも見た人いるんだって」
次々に出てくるのは、彼等が知る都市伝説の目撃情報。
それらのことごとくが、この冬木の地を舞台としたものだった。
一体いつから、この街は怪人の伏魔殿と化してしまったのだろうか。
心中で苦笑しながらも、ここは自分も言わねばなるまいと、青年は口を開く。
"ねえ、知ってる?"、そんな言葉から始まる、ありもしない噂話を。
「僕も聞いた事あるよ。月夜にピエロと出会うと――――」
HA HA HA HA HA
HA HA HA HA HA
HA HA HA HA HA
HA HA HA HA HA
青年の言葉を遮る様に、笑い声が夜道に響いた。
はっとなって後ろを向くと、そこには如何にも怪しげな男が立っていた。
顔全体に塗りたくられた白いメイクに、紫色したよれよれのスーツ。
彼の顔からまず連想されるのは、サーカスのピエロであった。
尤も、そこには愛らしさなど微塵も無く、むしろ狂気さえ覚えさせる。
「その都市伝説なら知ってるぜ。アレだ、気狂いピエロと出会った奴はイカれちまう、だよな?」
青年の心を先読みしたかのように、道化は言ってみせた。
確かに、自分が言おうとした都市伝説はそれで間違いない。
丁度目の前にいるような恰好をしたピエロと出会うと、気が狂ってしまう。
そんなありもしない話を、これから話そうとしていたのだ。
「ところで、ちょいとマジックを披露したいんだがいいか?」
道化師を不審者と判断した男が、なんだテメェはと威嚇する。
しかし、当の道化はそんな事などお構い無しに、奇術の準備に取り掛かる。
ボロボロのハンカチを取り出し、それを地面に敷いてみせると、
「今から口裂け女を出してみせようじゃないか」
馬鹿にしてるのかと、男が道化師に殴り掛かる。
が、どういう訳なのか、彼が殴りつけたのは見知らぬ女の頬だった。
道化師の前に彼女が突如出現し、彼の盾となったのである。
コートを纏ったその女は、顔の下半分を覆い隠す大きなマスクを着けていた。
ほんの数分前に話された怪人の特徴と、丁度一致する姿である。
「こいつの口について教えてやる。こいつは……可哀想な女でよォ」
コートの女と男は、どちらも微動だにしない。
二人の間で何が起こっているのか、青年には見当もつかない。
普通ならば、男の方が声をあげるなどのリアクションを起こす筈だが。
「こいつには夫がいたんだ。そりゃ優しい奴でな……。
たまに殴ってくるのを除けばそりゃ理想的な男だったさ」
刹那、男がくぐもった声をあげる。
そしてその直後に、彼の足元に液体が零れ落ちてくるのが見えた。
薄暗くて見え辛いが、それが血液であると判断するのは容易であった。
「こいつは殴られるのが嫌で嫌で堪らなかった……痛いのが嫌じゃない。
夫は殴る時、いっつも鬼みたいな形相をしててな、優しいコイツはそれが辛かったのさ」
男の背中から、鋭い刃と思しきものが生え出てきた。
他でもない口裂け女が、刃物を彼の腹に突き刺していたのである。
青年達が悲鳴をあげ、男は激痛からくる絶叫を轟かせた。
みち、みち、みち、と。
肉を無理やり引き裂く様な音が、微かに聞こえてくる。
男は頭を壊れたロボットの様に動かして、痛い痛い痛いと叫び続けている。
「そこでこいつは考えた、自分がずっと笑顔なら、あの人も笑ったてくれる筈ってな。
そう考えてからは早かったさ。女はカミソリを口に突っ込んで……思い切り引き裂いたァ!」
男の絶叫が一段と大きくなり、そして。
ぶちんという音と共に、彼の上半身が宙を舞った。
地面に残った残った下半身が、鮮血を噴き出しながら崩れ落ちる。
そして障害物が消えた事で、青年達はようやく気付く。
口裂け女が巨大な鋏を以てして、男を切断してみせた事に。
「それからコイツは万年笑顔だ!泣ける話じゃないか、HA HA HA HA HA !!」
血しぶきを浴びながら、道化師は女のマスクを剥ぎ取った。
やはりと言うべきか、女の口は頬までぱっくりと裂けていた。
いる筈の無い怪異、存在する訳のない化物。それが今、青年達の前にいる。
「どうした、笑えよ」
瞬間、青年達は脱兎のごとく逃げ出した。
死んだ仲間を弔っている場合ではない、今は逃げねば命は無い。
本能がそう警鐘を鳴らし、強制的に肉体を動かしているのである。
青年は走り続けた。脇目も降らずに、他の風景などまるで気にせずに。
走る足音が自分一人だけになっていると途中で気付いても、それでも走った。
全ては生き延びる為に、道化師の都市伝説から逃げ出す為に。
本当は分かっている。青年と同行していた女は、不運にも転んでしまったのだ。
助けて、助けてという声が聞こえても、彼は振り返る事すらしないで逃げてしまった。
仕方ないと呟きながら、罪悪感を抱えたまま、必死で足を進めていた。
そんな走り方をしたせいだろうか、前方に佇むスーツの男と接触してしまう。
青年は尻餅をついて転がるが、彼はすぐさま立ち上がり、相手に警告する。
恐ろしい怪人に追われている、貴方もすぐに逃げるべきだ、と。
雲が月を隠しているせいで、男の表情は判断し難い。
されど、今の自分の様子さえ見れば、この話が真実だと理解してくれるだろう。
それにしても、スーツ姿の男が独り、こんな夜道で何をしているのだろうか。
「その前に、一つ尋ねる」
月を覆い隠す雲が去り、月光が男を照らし出す。
彼の全貌が明らかになった瞬間、青年はただただ絶句した。
真っ白な肌に緑色の毛髪、紫色のスーツを着込んだ、その男は。
口元を三日月の形に歪め、銃口をこちらに向ける、この道化師は。
「月夜に悪魔と踊った事はあるか?」
そして、銃声。
.
◇
ナーサリーライム、というサーヴァントが存在する。
おとぎ話の象徴として形を成したそれは、言うなれば子供達の英雄である。
子供達の夢の為に戦い、遊び、護り、そして朽ち果てる。それが使命であった。
されど、おとぎ話の全てが、子供達の味方となるとは限らない。
無数に存在する物語の中には、子供達を恐怖させるものもあった筈だ。
マザーグースにさえ、悍ましい意味を内包したものが幾つも存在したように。
例えば、民間信仰。
例えば、学校の怪談。
例えば、都市伝説。
例えば、友達の友達の話。
人から人に伝えられ、時には人自身がそれを作り出し、土地へと染み渡る物語。
人類が無意識に生み出した信仰にして、恐怖を以て語り継がれる新時代の神話。
それらを総括して、人はこう呼ぶようになる――"フォークロア"、と。
ナーサリーライムが、子供達の希望にしてハッピーエンドの象徴なら。
悪意と恐怖を内包したフォークロアは、果たして子供にとって何の象徴となるのか。
決まっている。ナーサリーライムの反転(オルタネイティヴ)なら、答えは一つだ。
フォークロアは、子供達の絶望にして、バッドエンドの象徴となる。
◇
月明かりが照らすのは、二人の道化師と無残な屍骸。
夜道に出現した恐るべき怪物は、忽然と姿を消していた。
バーサーカーが呼び出した都市伝説は、他者を害する為だけに呼ばれた存在。
命を奪うという使命を終えた彼等が、舞台から退場するのは道理であった。
「都市伝説ってのはいいもんだ、何しろ金がかからない」
「オレに限った話じゃない、サーヴァントとは無償で奉仕するものだからな」
道化師(ジョーカー)に話しかけるのは、道化師(ジョーカー)だった。
ナーサリーライムが主の鏡になるのであれば、同じ性質を持つフォークロアもまた同様だ。
彼がジョーカーそのものとなる事は、何らおかしな話ではない。
されどこれは、ジョーカーがマスターでなければ在り得なかっただろう。
フォークロアとは本来、狂化によって無差別に能力を行使する現象めいたサーヴァントである。
しかし、ジョーカーとパスが繋がった事により、彼が持つ狂化スキルに変化が生じた。
それは言うなれば、狂気の融合によるバグ。狂った正気という矛盾により生まれた異常。
混じる筈の無かったものが混ざった事により、フォークロアは理性を獲得してしまったのだ。
「逃げた二人はどうなった」
「一人は人面犬が、もう片方はオレが仕留めた」
朝になれば、ワイドショーがこの事件を大々的に紹介するだろう。
胴体が切断された死体、無数の犬に食い千切られた死体、そして撃ち殺された死体。
それら三つが一度に見つかったのだから、大騒ぎするに決まっている。
「なら次は金だな、火薬を買う金がいる」
「ならば銀行だ!あそこには金がたんまりあるぞ!」
バーサーカーが愉快気に言った後、二人は銀行に向けて歩きだした。
作り上げた死体には、既に微塵も興味を示していない様子だった。
此処で人を殺したのだって、別段理由などありはしない。やりたいからやった、それだけだ。
ジョーカーの意識を反映したバーサーカーは、彼の目論みをしっかり理解している。
このマスターには目論見など存在しない、ただ災いを齎すだけだという事を知っている。
何故なら、バーサーカーとはジョーカーであり、ジョーカーはバーサーカーなのだから。
彼等は道化師、聖杯戦争という闘争を嘲笑するコメディアン。
この冬木という大舞台で、二人は愉快に笑い、殺し、また嗤うのだ。
嗚呼、しかし。果たして本当に彼等は殺し続けるのだろうか。
ふと気づいてみれば、彼等は聖杯を求めて戦っているのかもしれない。
はたまた、正義のヒーローの様に聖杯戦争を止めようとするかもしれない。
そして思い出したかのように、また人を殺し始める事さえあり得てしまう。
分からない。いや、分かるものか。
狂人の思想など、一体全体誰に読み取れよう?
日本のとある土地に、世界中の偉人を集め殺し合わせる儀式が存在するらしい。
だがその中に一組、その儀式に混じったバグと言わんばかりに、殺戮を続ける者がいた。
白い肌をしたその二人を知る者は、まだ誰もいない。
信じようと、信じまいと――。
.
【クラス】
バーサーカー
【真名】
フォークロア
【出典】
民間伝承
【属性】
マスターにより変化(現在は混沌・悪)
【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:D 魔力:A 幸運:B 宝具:EX
【クラス別スキル】
狂化:-
『理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿さない。
イカれたピエロに狂えと言えば、奇形共(フリークス)さえクスクス嗤う!』
【固有スキル】
空想具現化:EX
『口裂け女、首なしライダー、ターボババアに八尺様、人面犬に怪人アンサー。
この国自体が道化舞台、役者は我らが都市伝説、ショウのライトは年中無休!』
自己改造:A
『自身の肉体にまったく別の肉体を付属・融合させる適性。
このランクが上がれば上るほど正純の英雄から遠ざかっ、
カカ、かかか、かかか関係ない関係ない全く以て問題なし!
何であろうときっかけお前の注文通り!道化はお客の犬なのさ!』
変化:A+
『変身するさ、変身するよ。
私は貴方、貴方は私。変身するぞ、変身したぞ。
俺はおまえで、おまえは俺だ!HA HA HA HA HA HA!!』
【宝具】
『誰かの為の物語(フォークロア)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
『フォークロアは民間伝承。
誰かが唱えた下賤な神話。マザーグースのさいごのカタチ。
壊れたオレに狂ったオマエ。最期の望みを、叶えましょう』
固有結界。サーヴァントの持つ能力が固有結界なのではなく、固有結界そのものがサーヴァントと化したもの。
マスターの心を鏡のように映して、マスターが夢見たカタチの疑似サーヴァントとなって顕現する、というのが本来の効果。
しかし、狂化の影響により宝具が暴走。召喚者の意図を無視し、狂った様に都市伝説を具現化させる存在と化してしまう。
そこにバーサーカー自身の意思など存在せず、それはただ能力を発動するだけの機械も同然である……筈だった。
幸か不幸か、召喚者であるジョーカーの精神とリンクした結果、彼が持つ狂気とバーサーカーの狂化スキルが融合。
狂った上で理性を保つ事に成功し、宝具の暴走も見事収まったのであった。
【weapon】
この国に存在する民間伝承、それら全てがバーサーカーの駒にして武器である。
【人物背景】
ナーサリーライムがバーサーカーとして召喚された事により、在り方が変貌した姿。
語り継がれる無数の伝承、その中でも悪意を以て作られた物語を主体とした存在である。
この状態で召喚された場合、バーサーカーは無差別に都市伝説を顕在させ、混乱をばら撒いていく。
しかし、道化の仮面を被った現在、それらは悪意を以て意図的に行われる事となるのだった。
【特徴】
紫のスーツに緑の毛髪、真っ白な肌に歪む口元。
僅かな差異こそあれど、現在のバーサーカーの姿はジョーカーそのものである。
【サーヴァントとしての願い】
????
【マスター】
ジョーカー@ダークナイト
【マスターとしての願い】
????
【weapon】
ガソリンに火薬等、ジョーカーは得てして安い武器を好む。
【能力・技能】
卓越した頭脳と狂気は、全ての参加者にとっての驚異となるだろう。
【人物背景】
過去の経歴は一切不明、指紋やDNAさえ明らかでない。
この男は唐突に街に現れ、数多くの災厄をばら撒いていった。
彼を言葉で言い表すのは容易い――混沌、その二文字で事足りるのだから。
【方針】
今現在は、聖杯を獲ろうと考えているかもしれない。
あるいは、聖杯を破壊しようと考えているかもしれない。
もしくは、聖杯戦争自体を潰そうとしているかもしれない。
狂人の思想を読み取るのは、我ら常人には不可能である。
投下終了です。
時間が過ぎてしまいましたが投下してもいいでしょうか?
みなさんお疲れ様です! そして、投下ありがとうございました!
これから三十分までは、「期限ギリギリで投下できなかったよ」という人の為の、所謂すべりこみタイムにしたいと思います!
その後、(書けてる分までとなりますが)感想を投下しますね!
》937
ではお言葉に甘えて投下させていただきます
とあるマンションの一室で、二人の男が話し込んでいる。
双方とも表情はいたって真剣、テーブルを挟んで一言、二言と言葉を交わし、そして頷く。
眼前のテーブルの上には、数百万はあろうかという札束が無造作に置かれていた。
「ほなこれで……どないでっか」
「うむ」
頷いたのは、博物館でしか見れないような古風な服装を身にまとった、険しい表情の男であった。
現代のマンションの一室にこんな恰好でいるなど、どう見ても尋常ではない。
何者かとその顔をよく観察すれば、人の世の裏も表も見渡してきたと言わんばかりの苦労の跡が、眉間の皺と眼元のくまに表われている。
そして何より、生まれながらにしてその身に纏う王気とも呼ぶべき威厳が、この人物が只者ではないと無言のうちに語っていた。
――そう、この人物はサーヴァントである。歴史にその名を刻むに相応しい偉業を成した大人物なのである。
「では、確かに」
そのサーヴァントに向かって、もう一方の男がテーブルから札束を二つほど掴みあげ、それをずい、と差し出した。
スーツに銀縁眼鏡、こちらはいたって普通の当世のいでたちだ。
差し出した手の甲には真紅の紋様が刻まれており、その男が聖杯戦争の参加者――令呪を持つマスターの一人であることを示していた。
「……貰おう」
「あげたんと違いまっせ。貸したんでっせ」
「そうだったな」
札束を受け取ったサーヴァントは苦笑した。
サーヴァントとは、すなわち古の英雄だ。
歴史に名を刻んだ破格の稀人だ。
そのことを知っていてなお、その真名を知っていてなお、全く怯えを見せぬ胆力は呆れるほどに見事という他ない。
「二百万のうち十日分の利息を前もって頂きますよって、そちらには百八十万お渡しということになりますな」
「ハッ、阿漕なものだ。払わぬといったらどうなるのだ?」
「そらあもう……令呪三画ぜんぶ使っても取り立てまっせぇぇぇぇッ!!!!」
ハッタリではない。
この男は絶対に取立てを諦めない。
ヤクザだろうが政治家だろうが英霊だろうが、貸した金は必ず取り立てる。
それがミナミの鬼と恐れられた萬田銀次郎という男である。
◆
とある町役場にて。
「ごめんやっしゃぁぁぁぁあ!!」
「何事ですか一体……げ、げぇぇっ! 萬田さん!」
「毎度! 皆山はん、今日が利息の振り込み日でっせ」
「わ、わかった。わかってるから職場まで来られると、私の立場というものが……」
「前の利息の振り込みトバシかけといて、おかげでワシの金貸しとしての立場が危ういっちゅうのに、オノレの立場がどないやっちゅうんじゃボケェ!」
「ひぃぃぃぃぃ!!!!」
――まったく、今の世も変わらんな。
とある繁華街にて。
「毎度! 今回の利息、確かに頂きましたわ」
「あの……申し訳ないんですが、もうちょっと貸して頂けませんか」
「そら構いまへんけどな……ホストクラブ通いもほどほどにしとかんといけまへんで」
「か、関係ないじゃないですか、萬田さんには」
「関係ありまっせ。アンタが焦げ付かせた金額がデカければデカいほど、無茶な取り立てせなあきまへんからな。
ソープに落とすだけで済む金額ならワシも面倒が少なくてすむんや」
「……」
――金を持っていない者ほど金を吸い取られる。
とある夜のオフィス街にて。
「広瀬はん、こんな夜中にどこにいかれるんでっか?」
「げ、げええええええええ、萬田はん!!?? い、いや、ちょっとビジネスや、忙しいんで、また後で……」
「権利書から小切手帳から全部持ち出して、何のビジネスだすか?」
「な、なぜそんなことを……!」
「おどれ、全部ウラは取れとるんやどぉぉぉぉ!! この萬田銀次郎から金を借りたまま夜逃げしようとは、このダボがぁぁぁぁ――ッ!!」
――金を持っている奴ほど、金を払うことを惜しむ。
とある怪しい企業事務所にて。
「萬田さぁん、アンタのとこの借金ってさあ、違法だよねえ」
「へえ、それが何か?」
「だったらさあ、過払い問題ってやつ? 正規の利息分だけしか払う義務はないよねえ」
「しかし、その条件で承知して借りたのはあんさんでっせ?」
「関係ねえええええ!! 関係ェェねえええええ!! 法律でそう決まってるなら、悪いのは違反してるアンタの方だああああああ!!」
「なるほど、そういうことなら……アサシンはん、頼んます」
「は? 何言って、え、ちょっと、何こいつら、いつの間に、出てきて――」
――儲かっている奴ほど、金を惜しむ。もっと儲けられるはずだと払う金を惜しむ。
「承知した――――貴様。今すぐ、金を払え」
◆
「かんぱーい!」
ここは冬木市内のとある料亭の一室。
萬田銀次郎とそのサーヴァントであるアサシンは、慰労の食事会を行っていた。
アサシンの服装は自分の生きた時代のそれではない。
当世のブランドスーツにべっこうぶちの伊達眼鏡で、厳格なビジネスマンといった雰囲気を醸し出している。
他にもコート、ビジネスバッグなどなど、これらはマスターである萬田銀次郎に借金して取りそろえたものであった。
その借金の返済のために、自らの宝具を使って萬田の仕事の手伝っていたのだ。
アサシンの宝具である密偵集団――血滴子は、債務者の動向を完全に把握し、夜逃げなど絶対に許さない。
いざ戦えば、ヤクザの集団など一顧だにしない戦闘力を誇る。
まさに萬田のビジネスのためにあるような宝具である。
だが普通であれば、自らの生き様を象徴するに等しい宝具を、卑しくも借金取りなどに使う英霊などいないはずなのだが――
「余の皇帝としての人生も、借金と税金の違いこそあれ、取り立て人として全てを捧げたようなもんやったからなあ」
アサシンはテーブルに並べられた様々な料理に箸をつけつつ、しみじみとその理由を語った。
萬田の関西弁がいつのまにかうつっており、その姿は威厳のイの字もない大阪のおっちゃんである。
「庶民への重税とかやないんや。賄賂やら脱税やらでがっぽり貯めこんどる富裕層から正規の税金貰おうとしただけやねん」
「それでも取り立て人ちゅうのはどこでも、どの時代でも恨まれますからなあ」
「せやせや。キリストはんの聖書でもやたら悪人扱いや。しかしマスターはどうせ恨まれるならなんで闇金融やねん。税吏じゃあかんのかい」
「性分といいますか……世の中、なんでも表と裏がありまっさかい。ワシはたまたま裏の方に縁があったということですかな」
「そういうもんかのう」
やがて夜は更け、宴もたけなわ。
アサシンは現世の料理を随分と楽しんだようだ。
ぐいとビールを仰いでから大きくため息をつき、そして呟くように語り始めた。
「いや楽しい。今、振り返れば余の人生は心から楽しめる瞬間などほとんど無かったように思う。
こうしてこの当世の衣装に身を包み、今の世の風俗を楽しんだだけで、サーヴァントとして呼ばれた甲斐はあった」
「大中華を統べる皇帝陛下にしちゃ慎ましやかですなあ」
「そういうものだ。強大な権力の中枢に居続けたそのかわり、自由などなかった」
萬田もアサシンの真名が分かってから、それなりに調べてはみた。
清朝五代皇帝、雍正帝・愛新覚羅胤禛。
ケチで疑い深く、密偵を全国に潜ませ、役人たちを監視、弾圧し続けた。
血なまぐさい後継争いの末に勝ち残り、独裁君主として弾圧と粛正を繰り返した人物であると。
その一方、熱心に政治を行い、税制改革などで功績をあげるなど、よく見れば全面的に悪い君主ではない。
だが。
「これを見ろ、マスター。我が父と息子の名はこの異国の書物にまでのっているのだぞ」
そういって取り出したのは世界史の教科書である。
これも萬田から借りた金で買ったのだろう。
いや、その分は働いて返したのだから、正確にはすでにアサシンの金であるだろう。
そこには確かに四代康熙帝、六代乾隆帝の名はあるが、五代目の名前はない。
「父上と我が息子は確かに傑物であった。それに比べて余は凡庸かもしれん、それは甘んじて受け入れよう。
だがそれでも、余はその身命の全てを国に捧げたという自負はある。
せめて……せめてもう少しだけでも評価されたいと願うのは、浅ましい願いであろうか」
他人の評価など所詮はあてにならぬものである。
大国の皇帝として、国体をつつがなく次代へと繋げただけで、それは偉業である。
しかしそれを他人が言ったところで、認められたいという気持ちが簡単に消えるわけでもないだろう。
結局は自分次第であり、自分の中の願望をどう処するかということなのだ。
「ワシにアサシンはんの願いについてどうこう言う権利なんぞありまへんがな。
しかしこうなったからには聖杯はんに願いの一つでも叶えてもらわんとワリに合わん、とはおもっとります」
「ふむ……それは一体」
「世界平和でんがな。平和な世の中でないと金貸しなんぞやってられまへんからなぁ!」
「なるほど、確かにな!」
アサシンは呵々、と笑った。
【CLASS】
アサシン
【真名】
雍正帝 愛新覚羅胤禛(ヨウセイテイ アイシンギョロ・インジェン)
【出典】
史実
【マスター】
萬田銀次郎
【性別】
男性
【属性】
秩序・悪
【ステータス】
筋力E 耐久C 敏捷B 魔力B+ 幸運B 宝具B+
【クラス別スキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
【固有スキル】
貧者の見識:B
相手の性格・属性を見抜く眼力。言葉による弁明、欺瞞に騙され難い。
皇帝に即位する以前、雍正帝は四十年余りの時間を学問と、そして何より兄弟たちの骨肉相食む宮廷闘争を間近で観察することに費やした。
皇帝の子という最も尊ばれる身分でありながら、人間の最も醜い面を見つめ続けたことで得たスキル。
皇帝特権:B
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。
該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。
黄金律:B
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
大富豪でもやっていける金ピカぶりだが、散財のし過ぎには注意が必要。
【宝具】
『血滴子(フライング・ギロチン)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:0〜99 最大捕捉:99人
独裁君主として君臨した雍正帝は直属の密偵部隊を従え、中国全土の官吏たちを密かに監視していた。その部隊こそが血滴子である。
外見は黒づくめの旗袍(チャイナ服)、鎖で繋いだバズソーを武器とし、密偵や暗殺をこなす恐るべき諜報集団。
一人ひとりが凄腕のスパイであり、多数でかかればサーヴァントを討ち取ることも不可能ではない。
だがその真価は大清帝国全土を監視したという逸話の通り、情報収集能力にある。
ひとたび標的をマークすれば、たちまち戦力や真名の手がかりまで暴いてしまうだろう。
『大義覚迷録(シノセントリズム・ジャスティス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0〜3 最大捕捉:1人
中華皇帝の色を現す黄色のページで書かれた一冊の書簡。
蛮族と蔑まれていた満州族が、中華思想において漢民族の上に立つ正統性を示した記録である。
雍正帝はこの件について自ら漢民族の学者と討論し、これを論破したという逸話が宝具となった。
対象のあらゆる価値観を破壊し、雍正帝を絶対正義とあがめる奴隷にする凶悪な洗脳宝具。
抵抗に失敗してしまえば、人間でもサーヴァントでも人格が破壊されるため、生きている限り二度と元には戻らない。
【Weapon】
自らの宝具である血滴子たちを護衛兵として出現させる。
【特徴】
中華皇帝を現す黄金の龍を刺繍した帝服に身を包む陰気な目つきの男。
ケチで金にうるさく、疑い深い性格。
目の下に濃いくまがあり、顔色は悪い。
自ら揃えたスーツと眼鏡をかけているが戦闘時は元の服装に戻る。
時々マスターからうつった関西弁がでる。
【解説】
18世紀初頭、中華史上最高の皇帝と呼ばれた清朝四代康熙帝の後を継いだのが、五代雍正帝こと愛新覚羅胤禛である。
彼は第四皇子として生まれた時から十数人もの兄弟たちの権力闘争の中で育ち、そのせいか非常に猜疑心の強い人物だったと言われる。
彼自身を皇太子に祀り上げようとする有力貴族たちの誘いに一切のることをせず、約四十年間を学問と仏教信仰に捧げた。
この時点で次代の皇帝になろうとする野心など、彼には一切なかったはずである。
ところが皮肉にも、我が子たちの醜い権力闘争によほどうんざりしていたのか、父である先代皇帝は一切の野心無き彼を後継に指名する。
この瞬間、一人の恐るべき独裁皇帝が誕生した。
有力者たちの派閥に組しないということは、誰も依怙贔屓しないということである。
誰の後ろ盾もないが、その代わり誰でも敵として叩き潰せるということである。
彼は皇帝に即位してからすぐに実の兄弟である皇子たちを粛正、有力貴族にも一切容赦をせず恐怖政治を敷いた。
全国に密偵を派遣し、官吏たちにこまめな報告を義務付け、不正を行えば誰であろうと処罰した。
その一方で自らにも厳しく、全国から集まる報告の書簡に自らすべて目を通し、睡眠時間は四時間に満たなかったと言われる。
前述の密偵も、ただ監視をするだけではなく、下級官吏に業績の優れた者がいればこれを褒賞した。
そんな激務を続けた結果、即位から十三年で死没。過労死した疑いが一部でまことしやかに囁かれている。
当時の清王朝は、先代康熙帝の華々しい戦功の陰で、内部は腐敗しつつあった。
腐敗の原因は、王朝の運営母体そのものである中華のエリート官僚たちである。
それを取り締まれるのは彼らの上に立つ皇帝しかいないので、雍正帝は彼らの憎悪を一身に浴びながらも改革を断行した。
監視の目が届かず、不正を放置されていた地方政官を粛正し、賄賂で税金逃れをしていた富豪も取り締まった。
雍正帝は中華を治める皇帝でありながら、中華全土の官吏を敵に回して税金を取り立てた、中華最強の取り立て人である。
【サーヴァントとしての願い】
独裁者としての悪名を返上したい。
【マスター】
萬田銀次郎@ミナミの帝王
【能力・技能】
利息は十日で一割増えるトイチの闇金融を経営している。
数千万の現金でも自由に用意できる資金力があり、また夜逃げした相手を絶対に逃がさない探偵顔負けの追跡術もある。
ヤクザ相手に一歩も引かない胆力の持ち主で、よく法律相談も引き受けるなど、様々な方面の知識に詳しい。
【人物背景】
ギンブチメガネと大仰な関西弁がトレードマークの闇金融屋。
幼少時代、非常に裕福な家庭(父親は萬田建設の社長・萬田浩一郎、母親は里子)で育つ。が、紆余曲折有って、後に貧困地区に堕ちた萬田銀次郎。
そこで「長老」をはじめとする元エリート層から落ちぶれた住民に政治・経済・礼節等を徹底的に叩きこまれる。
その後、金貸しの師匠・矢吹金造に金融のイロハを習い、ミナミのマンションの一室に裏金・『萬田金融』(「萬田銀行」と称することもある)を開く。
利息はトイチ、「逃げれば地獄まで取り立てに行く」が謳い文句で、法の中と外のボーダーラインで活動している。
ヤクザや権力者でも萬田の取り立てからは逃げられないといわれ、周囲からは「ミナミの鬼」と恐れられる。
冷酷ではあるが、萬田に返済できない状況に陥った債務者から話を聞き、事情によっては返済できる状況に戻すような人助けをすることも多い。
もっとも、それはあくまでも「ワシに返済させるためにやったことだ」という体裁である。
一方で債務者から取り立てる代わりとして、萬田が自ら詐欺を仕掛けて嵌めた事例もある。
【マスターとしての願い】
世界平和。
投下終了です。
>安部菜々&ランサー
限りなく無名に近い中村長兵衛でここまで巧みな設定が練られるのは、まさに半オリジナルキャラクターが集まる企画ならではだなあ、と思いました。
英雄、大物だらけの聖杯戦争で、彼女は非常に厄介な存在になりそうですね!
また、菜々さんは後にどのような願いを持つようになるのでしょうか。そこも気になります!
投下ありがとうございました!
>斯波敦&キャスター
総理大臣とは……
とんでもない権力者がエントリーしてしまいましたね!
また、キャスターも宝具で妖怪を呼び出すという強く怖いもので、恐ろしいです。
彼は聖杯を手にし、〈双亡亭〉を破壊することができるのでしょうか?
投下ありがとうございました!
>A good friend is as the sun in winter.(良き友は冬の太陽と同じ)
アメコミスーツと着物のハイブリットを着た少女とは、とてもそそられるビジュアルですね!
サーヴァントに尊敬の念を抱き、『マスター』とさえ呼んでしまうサイクロンには思わず頬が緩みます。
主従両者共に隠密行動に長けており、今後は陰ながら聖杯戦争に影響を与えていきそうです。
投下ありがとうございました!
>レオナルド・ウォッチ&セイバー
知名度だけで言えば日本最強であろう英雄、桃太郎ですか!
登場した際の名乗りが、いかにも堂々とした日本男児という感じでカッコいいですね!
お供三匹を元とした鎧はビジュアル的にとても映えそうで、少年心がくすぐられます!
投下ありがとうございました!
>ウェザー・リポート&アサシン
ドスケベ超特化かと思わせといて、普通に強いアサシンだ……!
原作シリーズの方で既にサーヴァント化しているキャラと所縁のあるキャラというのは、読んでてワクワクしますね! それに因んだ宝具名もカッコいい!
彼女の宝具によって、葛藤や躊躇がなくなったウェザーが、今後どうなって行くかは、気になるところです。
投下ありがとうございました!
>恵比寿沢胡桃&キャスター
陣地を作って使い魔を放つ、正統派なキャスターですね!
彼の最初の淡々とした語りが不気味です! 怖い!
また、その後会話の最中で彼が胡桃ちゃんの身体についてさらりと語る部分で「なるほどこの主従はこういう理由で(メタ的に)組まされたのか」と納得できてよかったです!
投下ありがとうございました!
>城ヶ崎美嘉&ライダー
聖杯戦争という殺し合いに不似合いなくらい陽気な浦島は読んでて楽しかったです!
しかし、中盤の回想で彼のカッコいいシーンもちゃんと描写されていて良いですね! チャラいけど!
スキル構成が、支援、寵愛、加護と他人頼りなのも、『他人の家で飲み食いしただけ』だけで英雄に上り詰めたという彼の運、周りの環境の良さが強調されてますね! チャラいけど!
投下ありがとうございました!
>トニー・スターク&シールダー
社長だ……オーバーテクノロジーに身を包んで戦う社長だ……
彼の言葉に度々傷つきながらも決して否定せず肯定する彼女の姿はまさに忠実なサーヴァント、という感じで可哀想ながらも可愛らしいです。
っていうか、防御力だけなら候補作中トップレベルじゃないか、このサーヴァント……しかもこれからますます強化される(予定)とは……シールダーの鑑
あと、『盾持ちの骨董品』の部分がニヤリと出来て好きです。こーゆーネタ、良いですよね。
投下ありがとうございました!
>辰巳&セイバー
宝具殺しの宝具とは中々厄介そうですね!
主人の沙子ちゃんの為に聖杯を求める辰巳は応援したくなります。
投下ありがとうございました!
>ウェカピポ&シールダー
ウェカピポの妹の夫!? なんでウェカピポの妹の夫が!? はっ、まさかマスターか? こいつがマスターになるのか!? ………………アララァ……南無。
妹の問題を持った繋がりの主従ですね!
ウェカピポのピンチに凛と駆けつけるシールダーはカッコよく、美しい!
投下ありがとうございました!
>森のクマさん
牧歌的なタイトルに反する、エグみに満ちた話だ……!
ジャックどころか金時すら呼べず、更には召喚したサーヴァントから即効星にされた豹馬さんは悲しい……。
投下ありがとうございました!
>エロティカ・セブン
セクシー! エロいッ!
(何故か)エロいサーヴァントの登場話が多い本企画の中でもトップレベルのエロさですね、クォレハ……
主従仲が早速危うそうで、心配になります!
投下ありがとうございました!
>もっと大きくなれ
でっけぇぇぇぇええええ!
身体の大きさのみに集中しているステシが、いっそ清々しくて良いですね! シンプルイズザベスト!
主従共にテンションが高く、デカくて目立つ彼らは聖杯戦争の場をしっちゃかめっちゃかに搔き回す予感がプンプンします!
投下ありがとうございました!
>新田美波&セイバー
生存本能ヴァルキュリア!
美波さんの失恋から始まる物悲しい雰囲気の登場話。
しかし、その雰囲気を塗りつぶすレベルのインパクトを持つセイバーの宝具には圧巻ですね!
見た目がボロボロなのに威力は絶大な武器ってのは、やっぱり男心がくすぐられます!
投下ありがとうございました!
>空を道とし、道を空とみる
彼ではなく武蔵のデミ・サーヴァントになった&冬の冬木市にやって来たIFのマシュ、というのは面白い発想ですね!
まさに二次創作って感じです!
先輩に加えて、アドバイスをくれる刑部姫もいるので、大分安心できそうですね。
果たしてマシュは道を見つけることが出来るのでしょうか!?
投下ありがとうございました!
>お願いシンデレラ
なるほど〜〜! シンデレラをそーゆー解釈に落とすとは……! 斬新ですね!
シンデレラにして、魔女のような側面を持つ彼女には不思議な雰囲気を感じます!
聖杯と書いてガラスの靴と読んでいるのも、まさにシンデレラって感じで良いですね!
投下ありがとうございました!
>沢田綱吉&ライダー
まさかあの大先生がライダーとして召喚されるとは……!
ライダーなライダーとして召喚されるとは!!
見知らぬ冬木に怯えるダメツナの前に颯爽と現れる彼は、理想のヒーローの姿そのものですね! カッコ良い!
投下ありがとうございました!
>高遠遙一&アサシン
世界初の名探偵とは、とんでもないビッグネームの登場ですね!
アサシンが部屋やマスターの性格の分析をするシーンは、彼の推理力がこれでもかと示されていて読み応えがバツグンでした!
マスターの方針も、魔術の否定というマジシャンならではのもので、良いですね!
投下ありがとうございました!
>如月千種&アヴェンジャー
全身びしょ濡れローブ豊満ボディとは中々マニアックなビジュアルですねぇ……ゴクリ……
登場話の序盤で、千種さんの夢という形でアヴェンジャーの過去が紹介されたことで、彼女が何故アヴェンジャーになったのかがすんなりと分かってとても良かったです!
アヴェンジャーとの会話を経て、千種さんが自分の願いを決めるシーンは、彼女の覚悟が伺えますね!
投下ありがとうございました!
>お熱いのがお好き
やべぇよやべぇよ……
存在するだけで災害並みの猛威を周囲に振りまく冬将軍は恐ろしさは。一般人目線で描写されることで、ますます強調されていますね!
怖い!
っていうか、主従ともにトップレベルの氷雪系だ……!
周りから見て何故かそこだけ猛吹雪な館は、何だかシュールな光景ですね!
投下ありがとうございました!
>飛鷹&ランサー
酒浸りな、まるでダメなサーヴァントだ……!
けど、こーゆーオッサンがキメる時にキメたら最高にカッコ良いんだろうなあ!
そこを含めて楽しみな主従です!
ランサーへ説教をする飛鷹ちゃんが可愛かったです!
投下ありがとうございました!
>三谷亘&キャスター
セイ……仏陀の息子とは、これまたとんでもないビッグネームの登場ですね!
似た悩みを持つ者同士ということもあり、マスターに優しく語りかけるキャスターの姿は微笑ましかったです!
最後の最後でキャスターか仏陀の息子である事を知った時の亘くんのリアクションは非常にコミカルで良いですね!
投下ありがとうございました!
>安心院なじみ&アーチャー
マスターがインフレの極みかと思ったらアーチャーも同レベルにインフレの塊だ……! やべぇよやべぇよ……
不可能なことがないが故に何でもできるナポレオンは恐ろしいですね!
教室内で繰り広げられる二人の会話劇は、テンポが良くて読みやすかったです!
投下ありがとうございました!
>杉下右京&アヴェンジャー
アヴェンジャーの独白から始まることで彼女の背景がすんなりと分かるのは、とてもありがたかったです!
正義のアヴェンジャーの姿にかつての事件の犯人を思い出すシーンは、まさに歴史と創作のクロスオーバーという感じですね!
宝具で裁く際、殺人よりも冤罪の捏造の方が罪が重い、というのがまたアヴェンジャーの独白を踏まえて読むとなるほどなあと思います。
投下ありがとうございました!
>非想非非想天
最強の格闘技/サーヴァントは何/誰か!?←これすき
バーサーカーだけどバーサーカーらしからぬ理知的な、剣聖サーヴァントですね! やっぱり対人魔剣はカッコ良い!
意識の隙間をつき、いつのまにか斬っているという宝具は恐ろしいですね!
あと、押しかけてきたヤクザ相手に「だって勝ったんだもん」という文学は屑度高くて良いですね!(褒め言葉ですよ!)
投下ありがとうございました!
>白鐘直斗&アサシン
「――――此度の戦争の顛末に、既に脚本が用意されているとしよう。」とは、まさに戯曲によって無辜の怪物スキルを得たアサシンならではの台詞ですね!
優雅な語りから怒りの演説に変わるシーンは彼の性質を端的に表してて良いですね! 読んでて驚きました!
投下ありがとうございました!
>首無し騎士は帰りたい
首無しなのを隠しても、フルフェイスヘルメットという目立つビジュアルをしている京子ちゃんは、亜人が広まってない冬木市では辛そうですね!
人外じみた彼らのビジュアルにちなんだジョークが度々挟まれる会話は、テンポが良くて読みやすかったです!
投下ありがとうございました!
>宮田司郎&キャスター
これはこれは……NPCにとんでもない被害を及ぼしそうなサーヴァントですね……!
自らの生まれ育った場所の為に戦いを決意する彼らは果たしてどうなるのでしょうか!?
投下ありがとうございました!
>相良宗介&アサシン
バトルを経て、互いを理解する二人(一人と一匹?)の姿は熱いですね!
強力な群れを生み出すと同時に最大の弱点が出来てしまう宝具は使い所が肝心になりそうです!
投下ありがとうございました!
>白菊ほたる&ランサー
原作シリーズの方でも名前だけは度々出ているガレスちゃんですね!
死にたくない、と聖杯戦争への恐怖に泣くほたるちゃんは可哀想です……!
しかし、その後登場し、彼女に優しく語りかけるランサーの姿は非常に頼もしいですね!
投下ありがとうございました!
>橘ありす&ランサー
聖杯ガチ勢の参戦ですね!
ランサーが子供の姿で召喚されたのも、ちゃんと筋が通っててなるろどなあと感心させられました!
あと「ああ、子供(オレ)は大人(ヒト)の気持ちがわからない。」の部分がとても好き! ニヤリと出来ますね!
シリアスなランサーの人生の語りが終わった後は、彼からの手の甲への口づけに赤面するありすちゃん、というコミカルかつ可愛らしいシーンで〆られてて、ほっこりしました!
詳細不明の宝具も気になるところ!
投下ありがとうございました!
>誰が聖剣を抜いたのか?
お姉さん系……! お姉さん系サーヴァントだ……!
長いながらも軽快なテンポで進む彼女の台詞は良いですね! 彼女から見た円卓評には思わず笑わせられてしまいます!
肉体そのものが擬似聖剣である宝具もめちゃめちゃ強力だ!
投下ありがとうございました!
>ペテルギウス・ロマネコンティ&バーサーカー
バーサーカーの旦那ぁ!
っていうか、マスターとサーヴァントどっちも狂ってますね……これは……
城を召喚する宝具は非常に強力ですし、その中でバーサーカーが好き勝手出来るのかと思うと震えますね! 怖い!
投下ありがとうございました!
>燃えよ紅葉
(まだ捕まる前とは言え)冬木市でも相変わらずスタンドを悪用している音石には呆れますね!
キャスターもジョジョキャラに負けず劣らず強烈なキャラクターをしていて、とても印象深いです!
っていうか、すっごくエロいですね!
途中までは口論をしていた二人が最終的にセッションをしているのを見ると、なんやかんやで良い主従なのかもなあと思わせられます!
投下ありがとうございました!
>アレル(DQ1勇者)&ライダー
勇者と魔王とは、面白い組み合わせですね!
ライダーの宝具も見た目的に派手で映えそうです!
かつての行いを後悔するアレルは、果たしてハッピーエンドを手に入れることができるのでしょうか!?
投下ありがとうございました!
>臥藤 門司&ランサー
神秘だけで言えばトップレベルのランサーですね……!
ランサーの過去を回想することで彼が聖杯を求める理由がより理解しやすくなって、とても良かったです!
ノリノリなガトーには思わず笑ってしまいます!
投下ありがとうございました!
>キンブリー&キャスター
初っ端からモブをぶっ殺しまくるキンブリーマジキンブリー。
宝具で爆弾魔になってしまったノーベルは辛そうですね……!
彼には是非名誉回復してもらいたいものです!
投下ありがとうございました!
>過負荷(マイナス)の女神
アヴェンジャーかと思ったら全然アヴェンジャーじゃない! なんだこれ! 新しい!
文章の殆どがアヴェンジャーの語りで構成されてて、とてもサクサクと読めました!
初っ端から令呪でパンツ剥奪するって……球磨川……君……そんなんだから勝てないんだよ……!
投下ありがとうございました!
>過去への遺産
友人一人の為に戦うことを決意する奥田さんは熱い!
これまでの予告で彼が披露したテクニックは、マスターが隠れるべき聖杯戦争では非常に役に立ちそうですね!
巨乳だから牛として語られたってこじつけは個人的にはとても好き……良いですね……!
投下ありがとうございました!
>NOT BITTER, NOT BETTER
これはこれでまたもやエグいシンデレラが……
アイドルとしての暗い思い出を振り返るパートも合わさって、全体的にとても重たい感じですね! 天然な彼女も人並み以上の悩みがあるってのはリアリティがあって良いと思います!
ライダーの宝具が発動するシーンは、錯覚とは言え恐ろしい……! さながらスプラッタですね!
しかし、そのグロテスクなそれにもちゃんとした由来の逸話があって、感心させられました!
投下ありがとうございました!
>過負荷(マイナス)とネガティブ(マイナス)
球磨川人気ですね!
マイナスな二人の会話劇はどこかどろりとした空気があってすごかったです!
本来出典が古い時代であればあるほど神秘が高く強力な英霊が、彼の宝具に対峙すると凄まじく弱体化するというのはまさに相性勝負という感じですね!
投下ありがとうございました!
>戦極凌馬&ライダー
天才主従ですね!
自らの発明品を全乗せした船宝具は非常に強力で、籠城戦をされたら厄介なことになりそうです!
学者と根元の結びつけもなるほど、と納得させられて、良かったです!
ちなみに、これが投下された頃に公式の方でもアルキメデスが参戦発表されてて驚きました! 予言ですね! 予言!
投下ありがとうございました!
>涙で渡る血の大河、夢見て走る死の荒野
男版頼光! 珍しい、原作シリーズからの改変タイプのサーヴァントですね!
正義の味方の少女と怪物殺しのバーサーカーは相性が良さそうな組み合わせです!
〆の「――源頼光は、聖杯戦争を斬り伏せる。」がかっこ良かったです!
投下ありがとうございました!
> ウィーグラフ・フォルズ&バーサーカー
図書館という情報の山をいち早く見つけられたウィーグラフは中々に有利に進められるのではないでしょうか!?
バーサーカーの上に皇帝特権や貧者の見識等、強力なスキルを持つサーヴァントですね!
見つけただけで対象の体を削ぐ宝具も厄介だ!
投下ありがとうございました!
>吉良吉影&アサシン
殺人鬼主従ですか!
平穏な生活とは程遠い聖杯戦争に巻き込まれた吉良吉影は辛そうですが、彼の能力はとても活きそうですね!
アサシンの性能もシンプルで、まさに正統派と言えるものですね! シンプルイズザベスト!
投下ありがとうございました!
>遠坂凛&ランサー
妄想しただけで英霊になった男。
しかし、宝具によってその妄想を具現化すれば、かなり手強いサーヴァントになりそうですね! でもやっぱり狂人だ!
ランサーがドンキホーテだと判明した時の凛ちゃんのリアクション、これが好き。
投下ありがとうございました!
>弱者の方便
シスターに堕天使という組み合わせは背徳的で良いですね!
話の大部分がアーチャーの思想や一生について彼自身が語るもので、一見トンデモに見える彼の願いも読者が納得し、共感できるものになっててとても良かったです!
どこぞの赤い弓兵が泣きそうな宝具だあ……!
投下ありがとうございました!
>エンヤ婆&ランサー
マスターが怪しい老婆、エンヤであるこたもあり、丁寧に描写されている召喚シーンが不気味ですね!
そして、召喚されたのは初代ファラオスコルピオン王! エンヤは王様系男子と縁があるんでしょうなあ!
超強力な宝具に加えて、その毒効果を自分に与えた時に発動する宝具というのは面白い発想だなあと思いました!
投下ありがとうございました!
>両津勘吉&バーサーカー
旬な作品からの出典ですね!
まさにこち亀という感じの、笑える始まり方でとても良かったです!
バーサーカーとは思えないくらいに陽気で、両さんをツッコミに回すヤマトタケルはやや不安ですね!
投下ありがとうございました!
>高垣楓&キャスター
一人の英雄の終わりを傍にいたキャスター視点から説明しているのは、彼の背景がぐっと分かりやすくなりました!
夜景を背景に行われる二人の会話は、合間に入る妖精という要素も合わさって、どこか幻想的で良いですね!
投下ありがとうございました!
>田代正嗣&バーサーカー
性癖がバーサーカーなサーヴァントですね……これは……
彼女の発言に田代くんが度々ドン引きするのも仕方ありませんね!
互いに「別世界にいる大切な人を取り戻す」という似たような願いですが、片方の願いは叶えて良いものなのでしょうか……今後の展開が気になります!
投下ありがとうございました!
>キャリエッタ・ホワイト&アーチャー
第二次世界大戦中に記録上唯一、弓矢で戦果を挙げた男というのは初耳でしたし、そういう当時の文化では低レベルだった武器で戦った、という設定はロマンがあって良いですね!
帰りたくはないけど、人殺しにも抵抗はあるキャリーちゃんは果たしてどのような決断をするのでしょうか!
投下ありがとうございました!
>ペット・ショップ&ビースト
一見、マスターとサーヴァントの立場が逆に見えてしまう、面白い主従ですね!
ビーストらしからぬ理知的な喋り方をする彼女のキャラもソゥクール!
焼いた人の肉を食う彼らの風景は日常的に見えながらも、実はかなり異常という奇妙なものになっていて、恐ろしいです!
投下ありがとうございました!
>前田知子&アサシン
警察官たちは星になったのだ……!
誰もが一度は聞いたことがある寓話からの参戦ですね!
笛吹き男の陽気な喋り方がまた彼の不気味さを際立たせていて恐ろしい!
投下ありがとうございました!
>川尻早人&セイバー
またもヤマトタケル!
かと思いきや、こちらは女の子verでふか!
偽臣の書の設定を持ってくる、マスターが二人という設定は今企画上では新しいですね!
また、大切な母親であるしのぶを守るために彼女の願いが叶うのを阻止する早人の姿には男らしさを感じます!
投下ありがとうございました!
>beginning
純粋に頼もしいランサーですね!
偽りの世界での生活を経て、元の世界に戻る欲望を自覚したイコの台詞は切実な思いがこもってて、思わず応援したくなります!
己のサーヴァントの正体を知った時に一波乱ありそうなのが心配ですね……!
投下ありがとうございました!
>紅美鈴&アサシン
ゴロツキ視点から見るアサシン及び彼女の部隊は集団の恐怖を放ってて恐ろしいですね!
女だから評価が芳しくなかった、という歴史との辻褄合わせは見事!
でも紅美鈴さんの苦労が心配だ……!
投下ありがとうございました!
>立ち上がる「敗者」
ロンギヌスの別の持ち主の参戦ですね!
擦り切れたと言うか、疲れ切ったような二人は冬の街にぴったりな雰囲気が漂っています。
そんな中で繰り広げられる二人の会話は互いの後悔や不安、躊躇に満ちていて、彼らの苦悩が伺えます。
十字の斬撃を放つ宝具が格ゲーの必殺技みたいで少年心が刺激されますね!
投下ありがとうございました!
>Beautiful!
マスターが戦うタイプの組み合わとは、珍しいですね!
冬のこの時期に裸で戦うのはマズそうですが、そんな不安を一切感じさせないくらいマッスルに溢れてます!
ただでさえ強い独歩がサーヴァントと戦えるようになり、どころか更に強くなるというのは恐ろしいものですね!
果たして彼は己の中の武神を出すことができるのでしょうか!?
投下ありがとうございました!
>伊東鴨太郎&アサシン
名前は同じだけど違う"しんせんぐみ"からの参戦ですね!
互いに剣技が得意な彼らと近距離戦を行うのは厄介そうです!
絆を求めている鴨太郎が、アサシンと契約を結ぶシーンは原作の後の彼らしい行動で、良いですね!
投下ありがとうございました!
>スティーブ・ロジャース&バーサーカー
正義と讃えられるマスターと、悪だと蔑まれるバーサーカーというのは、対照的で面白い主従ですね!
死亡した後も相手に呪いを授ける宝具はかなり面倒な事になりそうです!
投下ありがとうございました!
>初音ミク&セイバー
現実での体験の一つ一つに感動的なリアクションを取るミクちゃんは可愛い!
そんな彼女の行く先を願うセイバーはまるでお母さんのようですね! 頼もしい!
投下ありがとうございました!
>木原円周&バーサーカー
高卒ならまだしも(?)、週刊誌を読んでるだけ、眼鏡を掛けてるだけ、コンビニで働いているだけ、と大体の人間に特攻を持つバーサーカーは恐ろしいですね!
でも、大体史実と同じというのがまた笑えない! 生前からのガチのバーサーカーですね!
しかも、マスターの方はマスターで、インテリではとても足りないくらいの天才一族の子供というのがまた何とも皮肉です!
投下ありがとうございました!
>南城優子&キャスター
へ、変態だ……皇帝クラスの変態だ……!
そんなキャスターにドン引きする優子ちゃんには思わず同情しちゃいますね!
あと、宝具演出のイメージがすごく綺麗だなあ、と思いました!
投下ありがとうございました!
>谷&バーサーカー
初っ端から飛ばしすぎなバーサーカーの旦那ぁ!?
と思ったらマスターもマスターでバーサーカーな人ですね!
相手をジャンヌにしてしまう認識障害系の宝具は錯乱に役立ちそうですね!
投下ありがとうございました!
>盲目と千里眼
目玉まみれのバーサーカーのビジュアルはオバケめいていて怖いですね!
都市伝説となって有名になっても、能力から察知されにくいこいしちゃんは非常に厄介そうです!
投下ありがとうございました!
>ブラックウィドウ&バーサーカー
蜘蛛主従、という感じでしょうか!?
バーサーカーとは思えないくらい理知的で、また、マスターに友好的なツチグモはかなりの良サーヴァントですね!
呼び方の変化で彼女のマスターに対する親愛を表しているのも良かったです!
投下ありがとうございました!
> 一社高蔵&アサシン
こちらでも他人の能力を悪への制裁に利用しようとする一社くんは悉く嫌に賢いなあと思いました!
そんな彼にブレーキをかけさせようとするアサシンが唯一の良心じみてますね!
そして最後で問題人物と称されているルーラー……いやあ、ほんとどんな奴になるんでしょうかね?(すっとぼけ)
投下ありがとうございました!
感想終了です! まだ書けていない分はまた後ほど!
OPの投下はなるべく早くを目指しますので、しばらくお待ちくださいませ!
乙です
>迷宮意図/make you it
マスターがはっきりと決まっていないサーヴァントというのは、新しいですね!
召喚したキャスターに餌として扱われ、魔力を吸い取られていく名も知らない誰かさんが可哀想です……!
聖杯戦争と関係ないP視点で語られるこの話は、どこか怪異譚めいた不気味さがあって、恐ろしかったです!
投下ありがとうございました!
>私と太陽が死んだ日
男装の麗人……良いですねぇ……!
穏やかな朝食のシーンは美味しそうで、涎を禁じえません!
龍になるというシンプルでありながら高威力の宝具は、戦闘で使用されたら周囲に甚大な被害を生みそうですね!
投下ありがとうございました!
>化粧の騎士
バトルもののオカマは強いという法則通りに非常に強力なサーヴァントですね!
うーん、個性の暴力!
クールな暁さんとハイテンションなバーサーカーのコンビは対比的で良かったです!
彼女(彼氏?)が最強の宝具を発動するべく、暁さんに過去を打ち明けるのは大きな山場になりそうでワクワクします!
投下ありがとうございました!
>稗田阿求&アサシン
アサシンらしい貧弱なスペックをもってあまりある、凶悪な宝具ですね!
彼女に種を蒔かれた一般人たちが発芽した時、起きるであろうパニックの様子は想像するだけでゾッとします!
投下ありがとうございました!
>間桐慎二&ライダー
丸い、良いワカメになった頃からの参戦ですね!
あんな目にあった後で再び聖杯戦争に巻き込まれる慎二は可哀想です!
一方、サーヴァントの方は半身不随という全盛期の姿で呼ばれる英霊にしては珍しく特徴をお持ちですね!
宝具の雷をも切り、雷神を宿す太刀はえらく豪快でカッコ良いなあと思いました!
投下ありがとうございました!
>小神あきら&ライダー
原作シリーズサーヴァントのリリィ化ですか!
若くても金時さんには妙な安心感がありますね!
唯一の心配は幼少期の姿でベアー号のアクセルに足が届くのかなあ? ですが、まあ宝具なのでなんとかなるんでしょう! きっと!
投下ありがとうございました!
>イカ娘&ライダー
年中夏の作品から、冬の冬木市への参戦ゲソ!
最初は何が何だか分からずに街中をうろつくイカ娘ちゃんはどこか危なっかしくて可愛いです!
イカ娘という生物の存在に困惑するライダーには思わず笑ってしまいますね!
投下ありがとうございました!
>橘ありす&キャスター
ある意味Wありすな組み合わせ!
でもこのキャスターは……ロリと組ませちゃダメなタイプだ……!
使い魔使役という正統派キャスターから、無敵の騎士というキャスターらしからぬ性能まで有している彼は、オールマイティな立ち振る舞いが出来そうですね!
投下ありがとうございました!
>ジョーカー&バーサーカー
あー! 既存キャラのオルタナティブだ! 来ないかなあ、と思っていたので、これは嬉しいですね!
しかも、フォークロアという概念を混ぜた設定はかなり巧みです!
それにしてもマスターがジョーカーとは……聖杯さんは何をやっているんですかねぇ……
これからも殺戮を起こし、街に恐怖と都市伝説を広める彼らは他の参加者にとって脅威になりそうです!
投下ありがとうございました!
>萬田銀次郎&アサシン
ほんまでっかあああああ!?
サーヴァント相手にもキッチリ商談をする萬田さん、令呪使ってでも取り立てまっせ! には思わず笑ってしまいます!
アサシンの洗脳宝具も、聖杯戦争は元より、取り立てでとても役に立ちそうですね!
投下ありがとうございました!
生存報告がてら、消化できていない感想を投下しました!
OPの投下は来週までに出来ればなあ、と思って頑張っています!
もうしばらくお待ちください!
感想お疲れ様です! OP楽しみにしています!
前日譚というか、OPの前のOP(一番最初にルーラーくんがなんかグダグダ言ってたのと同じタイプだと思ってください)を投下します。
「昔から先んずれば人を制すと――」
███が何事かを言い募っていたが、███████の耳には入っていない。███████は先ほどまで魔法の端末を持っていた右手を呆然と見つめた。
「か〜わ〜い〜い〜!」
その時、場の雰囲気にあまりにも合わない、姦しい声が路地裏に響いた。
それは、███よりも甲高く、聞いていて不快になる声であった。
███████が視線を右手から上げると、そこには一人の魔法少女が居た。
白くてふわふわとした、いかにも魔法少女という感じのファッション。頭に被ったロシア帽は、その服装と不調和を起こしている。
彼女は木製の円柱に腰掛けており、不思議な事にそれは空中を数センチ浮遊していた。
「予想以上に可愛いじゃあないか、魔法少女!」
「……おまえは誰ぽん?」
███████が抱いたのと同じ疑問を███が口にした。
てっきり、目の前の魔法少女がこの試験の参加者の一人かと思って、一瞬心臓が跳ね上がった███████だが、今までの魔法少女のチャットで彼女のような格好をしたアバターは見た事がないし、試験の主催者である███が存在を知らないとあれば、まず部外者と見て良いだろう。
……部外者?
「まさか、魔法の国からの……いや、それはありえないぽん。
情報の漏洩は起きないよう徹底していたはず……」
「あはは、違うちがーう。ボクはそんなんじゃあないよ」
目の前の魔法少女は笑いながら、座っている木製の円柱をクルクルと回した。
回転椅子で遊んでいる子供のようである。
「ボクは魔法の国なんて、針の先ほども知らないし、関係ない。そもそも、こんなみみっちくてつまらない遊びに興味はないのさ」
なんと、目の前の魔法少女は███████が巻き込まれている試験を「みみっちくてつまらない遊び」と言ったではないか。
自分がその遊びとやらでどれだけ辛い思いをしているのか知らないのか、と███████は円柱に座る魔法少女に怒りを覚える。
「ボクが興味があるのは魔法少女ちゃん――キミだけだよ」
そう言って、魔法少女は███████の顔を指差した。
「わ、わたし……?」
███████の言葉に、彼女は首を縦に振って肯定する。
「ボクは少女が、食べちゃいたいくらい大好きでねえ」
そう言って、魔法少女は円柱の上から前屈みになって手を伸ばし、███████の頬を愛でるように撫でる。
彼女の手は肉が少なく、まるで雪のように冷たかった。
「だから、清らかで正しい少女であるキミが困っているのを見て、ついつい助けたくなったのさ」
魔法少女がそこまで言った時、███が荒々しい声で割り込んだ。
「なに勝手な事を言ってるぽん! ███████はこの試験の参加者だぽん。そんな彼女に無関係の部外者が助けを出すだなんて――」
「うるせぇ黙れ」
魔法少女がそう言うと、███の声が消えた。
まさか怯んで黙ったのか?
███████は落ちた端末がある場所に目を向けたが、そこには何もなかった。
███の映像は、端末ごと消滅したのである。
何らかの魔法であろうか――間違いなく、目の前の魔法少女による所業であろう。
「邪魔者のご退場〜♪ なんちゃって!」
端末があった場所に向かって███████の頬から離した手のひらを振り、さよならのジェスチャーをする魔法少女。
やがて、彼女は███████に向き直り、語りを再開した。
「突然の質問だけどさぁ。もしなんでも願いがかなうなら、キミは何を願う?」
願い。
それを聞いて、███████の頭の中には多くの事柄が浮かんでいく。
その中でも最たるものは、やはり、試験をなかったことにしたいというものであろう。
███████はおどおどとした口調で、魔法少女に向かってそのように応える。
それを聞き、彼女は満足そうな笑みを浮かべた。
「清く、正しく、美しく、その上願いを強く持った少女……うんうん。やはりキミは助け甲斐があるねぇ」
次に、彼女は自らの服の腰部分にあるポケットに手を突っ込んだ。
「じゃあ、もう一つ質問させてもらうよ」
ごそごそ。ごそごそ。
何かを探しているのだろうか――たいして大きくもないポケットを片手で弄りながら、魔法少女は新たな質問を口にした。
「『聖杯』って知ってる?」
投下終了です!
なお、OPの投下は明日の23時を予定しています!
申し訳ありませんが、もう少しお待ちください!
投下します
そして私は老人の色欲と、若者の絶望と、二重の唾液に汚されたこのパイプの前にひざまずき、
神々しい牡牛たちとオランダ・フロリンを、父と娘を、ありありと眼前に思い浮かべる――
すると、もう何一つ望まなくなるのだ。
――『農場主のパイプ』
イリヤ・グリゴリエウィチ・エレンブルグ
▲▼▲▼▲▼▲
12/22(木) 06:00――天気:曇り、のちに雪。
センタービル。
空を覆う雲の隙間から僅かに差し込む陽光を受け、ビルの窓ガラスは淡く輝いていた。
そこの屋上に、一人の男が立つ。
彼の名は【スティーブ・ロジャース】。
またの名をキャプテン・アメリカと言う。
盾を抱えた米国の英雄は、ビルの屋上から日本の小さな都市を見下ろしていた。
早朝と言うこともあり、外を出歩く人影はまばらであり、静かだ。
「平穏」という概念を具現化したかのような景色である。
だが、それはあくまで見た目だけのこと。
スティーブは、現在の冬木市に蔓延る不穏な気配を確かに察知していた。
「マスター」
その時、スティーブの隣に突如人影が降りた。
否。
人型の竜の影が降りた。
影の正体はバーサーカー――【ファヴニール】。
此度の聖杯戦争において、スティーブが召喚したサーヴァントである。
実体化したファヴニールは、己が主人に向かって語りかける。
「俺が召喚されてからもう数日が経つ……そろそろ聖杯戦争が本戦に突入すると見て良いだろう」
ファヴニールが告げたのは、本格的な戦争の開始の予測であった。
屋上に吹く寒風を浴びながら、スティーブはそれを聞き、頷く。
それから、口を開いて、次のように答えた。
「本番が始まれば、当然戦いは激化し、この街が受ける被害は更に増加するだろう。大規模な大量殺戮だって、起きるかもしれない――」
だけど、と彼は言葉を続ける。
「そんな事態は、僕が必ず止めてみせる。バーサーカー、君も協力してくれるのだろう?」
「勿論だ。俺は正しい者(おまえ)の為に戦うし、正しい者(おまえ)が守りたいものを守る。この前そう決めたはずだ」
「ああ、そうだな。でも、改めて聞けて嬉しいよ」
スティーブはそう言って、笑う。
朧げな朝日を浴びた彼の笑顔は、見る者に安心と勇気を与えるものであり、まさに正義の象徴に相応しいそれであった。
▲▼▲▼▲▼▲
早朝の住宅街。
灰色の雲に覆われた空の下。
ジャージ姿の【恵飛須沢胡桃】は走っていた。
道路には昨晩降った雪がまだ残っており、彼女が踏み込むたびにシャリ、シャリと小さな音を立てる。
たとえ聖杯戦争の場であっても――いや、聖杯戦争の場だからこそ、肉体の鍛錬は怠れない。
いざという時に体力がたりなかった、では済まされない事態が、今後起こり得るのだから。
「はっ、はっ、はっ……」
ランニングのリズムを整えるように息を吐く胡桃。
寒い早朝であるにも関わらず、彼女の息は白くなっていなかった。
胡桃の体温が外気と同じくらい冷たくなければ、起こりえない異常である。
「…………」
それに気付いた胡桃は、唇をきゅっと一文字に閉じて息を止める。
しかし、それでも走るスピードは尚も上がり、彼女は喫茶店の横をぴゅんと駆けて行った。
▲▼▲▼▲▼▲
街角の古びた喫茶店。
開店直前の店内に、まだ客はいない。
店長と、女性店員が二人で開店の準備を行っている。
カウンターの拭き掃除をしていた女性店員――【安部菜々】は、窓ガラスの外を横切ったジャージ姿の女子高生を目にした。
「こんな朝早くからランニングだなんて……若い子は体力があって良いですねぇ。私なんて、まだ体のあちこちに昨日の疲れが……」
そこまで言って、はっ! と何かに気付いた表情をする菜々。
「な、なぁ〜んちゃって! ナナもまだ十分若いですからね! ランニングなんてやろうと思えば今からでも余裕ですよ! うん!」
「……いったい誰に向かって言い訳をしているんだい?」
厨房で食材の確認をしている店長からツッコミが入る。
老人でありながらよく通る彼の声は、カウンターの拭き掃除をしている菜々まで届いた。
自分の独り言が聞かれて恥ずかしかったのか、菜々は顔を真っ赤にし、へへへ、と頭をかいた。
「ところで安部さん。そっちの掃除が終わったら、裏口のポストから新聞を取ってきてくれないかな? こっちはまだ確認が終わりそうになくてね」
「はい! もちろん!……新しい新聞はレジ横の棚にある、古いやつと入れ替えればいいんですよね?」
「そうそう」
その後、菜々はテキパキと、だいたい五分ほどでカウンターの拭き掃除を終えた。
布巾を洗って干し場所に掛け、店の裏口の方に向かって行く。
昨晩降った雪を浅く積もらせるポストは、銀色に輝いている。
雪を払い、そこを開けると、中には何種類かの新聞が届いていた。
それらをまとめてレジに持って行く。
雪の湿気から紙を守るべく施されていたビニールのカヴァーをびりびりと剥がすと、新聞紙特有のにおいが湧き、菜々の鼻腔を刺激した。
「朝のにおい」の一つと言えるそれに、うっとりとする菜々。
鼻歌の一つでも歌いたくなる、穏やかな気分である。
しかし、においの発生源――新聞紙の一面を見て、彼女はぎょっと目を見開いた。
そこに書かれていたのは昨日市内で起きた多数の事件。
人喰い殺人に連続窃盗犯。
そのような物騒な言葉の数々を見て、菜々は唾をごくりと飲み込む。
どうやら、穏やかな朝の時間を送るのは、聖杯戦争の最中では無理らしい。
▲▼▲▼▲▼▲
川尻家の食卓。
朝のニュース番組を見ながら朝食を摂るのが、川尻家の日常風景だ。
八時を回り、県内の天気のコーナーが終わった後、先ほどまでだらしない顔をしていた角刈りのキャスターが、急に真剣な面持ちに変わる。
『次に県内で起きたニュースです。最近の冬木市では多くの事件が発生しており、その中でも、◯日ほど前から起きた「人喰い事件」はその異常性と被害規模の大きさから、近い内に警視庁から応援が――』
最近の冬木市は妙だ――と、少年、【川尻早人】は考える。
殺人事件に窃盗事件――犯罪の数があまりにも急に、不自然な勢いで増加したのだ。
キッチンに立つ母の【川尻しのぶ】は「あらやだ、怖いわねぇ」とノン気に言っているが、これは他人事ではない。
ニュースで紹介されている、冬木市で起きた奇妙な事件の数々――これらは聖杯戦争の参加者が起こしたものだと見ていいだろう。
「そうだよね? セイバー」
「ええ、十中八九間違いないかと」
早人の問いに、セイバーと呼ばれた少女――おうすちゃんこと【小碓媛命】は、トーストを齧りながら答える。
やはりそうか、と早人は歯軋りをし、この町の何処かにいる「悪」に対して不快感を表した。
早人はナイフで一口大に切ったハムエッグの白身を口に運び、咀嚼する。
丁度いい焼き加減だ。
父がいなくなって落ち込み、何かと調子が悪かったつい先日までのしのぶなら、こうは上手く焼けまい。
聖杯戦争の参加者に選ばれ、「失踪した夫が戻ってくるかもしれない」と言う希望を抱けたからこそ起きた変化であろう。
だが、その希望は叶ってはいけない。
もしそれが叶ってしまえば、しのぶの夫である川尻洪作ではなく、かつて杜王町を蝕んだ絶望――吉良吉影が再来してしまうからだ。
故に、早人はその願いを阻止するべく、小学生の身でありながら、母と共に聖杯戦争へ参加する事を決めたのである。
(必ず守ってみせるよ……ママ)
ニュースで紹介される、凄惨な事件を観て、早人は決意を改めて固めた。
▲▼▲▼▲▼▲
住宅街付近を通る路地。
何処かから漂ってきたトーストのいい香りは、【ウェイバー・ベルベット】の鼻腔と胃袋を刺激した。
同時に、まだ何も入っていない彼の腹が、においにつられてギュルルルと音を鳴らす。
彼の隣を歩いている女性――ヴィルヘルミナこと【ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム】はそれを聞き、クスクスと笑った。
笑われたことでウェイバーは不機嫌な顔になり、彼女を睨みつける。
怒りの籠ったウェイバーの視線を受けながら、ヴィルヘルミナはふてぶてしい笑みを浮かべている。
「そもそも、お前があんな我儘を言わなければなぁ……!」
ムカムカとした感情を吐き出すように、ウェイバーは言う。
彼がこんな朝早くから腹を空かせて外を出歩いているのは、ヴィルヘルミナに原因があった。
「我儘って……そこまで言うほどじゃあないだろう?」
「老夫婦に向かって、朝っぱらから『ステーキを食べたい』なんて言うのは、世間的には立派な我儘なんだよ! 」
ウェイバーが暗示をかけて孫だと思い込ませ、下宿している老夫婦――マッケンジー夫妻へ、今朝、ヴィルヘルミナはそのような要求を行ったのだ。
だが、朝食の準備は既に出来ており、そもそもステーキ用どころか細切れの肉すらそう都合よく冷蔵庫にあるはずがない。
困る夫妻と、駄々をこねるヴィルヘルミナ。
見かねたウェイバーは思わず、「近所の二十四時間営業の商店で、ステーキ用……とまでは行かなくても、何か肉を買ってくるよ」と言ってしまったのだ。
彼が朝食をまだ一口も食べていないことに気付いたのは、寝巻きのまま外に出て、玄関のドアを閉じた後である。
……ちなみに、ヴィルヘルミナは夫妻から「孫がイギリスで作ったガールフレンド」と勝手に思い込まれている。これもまたウェイバーの胃痛を増やす原因の一つだ。
「アウトロウの朝は、肉を食わなきゃ始まらないのさ。それに、世間の常識なんて、高尚な物を私に求めないでくれや」
「そもそも、サーヴァントに食事なんて必要ないだろ!?」
「いーや、必要だね。飯を食った後だと、やる気が普段の五割増しさ。ステーキだと更に三割プラスされる」
「〜〜っ!」
ヴィルヘルミナの軽口に、ウェイバーは憤慨する。
彼女に対する怒りでいつか脳の血管が切れ、聖杯戦争で戦う前に死ぬんじゃあないか――と、彼は思った。
そんなウェイバーの姿を見て、ヴィルヘルミナはまたケタケタと笑う。
その舐め腐った態度が、更に彼の怒りを増長させた。
「いつか、僕がお前のマスターであり、敬うべき相手であることを思い知らせてやるからな! 主従関係を認識させてやる!」
怒りが高まったあまり、ヴィルヘルミナを指差し、宣言するウェイバー。
「おー、いい意気込みだ。その勢いで、ついでに男女関係も結びたいねぇ。はっはっはっ」
ニヤニヤと笑いながら、歌うように言うヴィルヘルミナ。
彼女の軽口に、元々憤怒で真っ赤だったウェイバーの顔は、別の要因で更に紅潮したのであった。
▲▼▲▼▲▼▲
とあるマンションの一室。
インテリアらしい物が一つも置かれていない、殺風景な部屋の真ん中で、【ウェザー・リポート】は横になっていた。
彼に、怒りという感情はない。
代わりに、喜びも、悲しみもない。
あるのは、ただただ空虚な心だけ。
記憶のないウェザーにとって、それは仕方のないことであった。
いつの間にかやってきた冬木市で、役割(ロール)の一つとして与えられたアルバイトを繰り返す毎日に、失われた人生を取り戻すヒントがあるとは、到底思えず、つい先日辞表も出さずに辞めた。
それから暫くは職場から怒りの電話が鳴り続けたが、出る気にならない。
今では部屋の隅に、この前まで喧しいコール音を鳴らしていた携帯電話が、真っ二つに割れて放り捨てられている。
彼に残されたのは、殺風景な部屋と、僅かな金銭、食料だけ。
それ以外には何も残っていない。
記憶も、感情も、自分も――何も、ない。
ウェザーはただ、そよ風に吹かれる風船のように、流されるまま生きており、召喚したアサシンに唆されるがまま、聖杯戦争に身を投じるのである。
その先に何が待ち構えているのか、深く考えもせずに……。
一方、ウェザーに闘争へ参加するよう唆した張本人であるアサシン――【貂蝉】は少しばかりの後ろめたさを感じながらも、表情自体は至って涼しいものを保っていた。
「マスター、まだ朝食を摂られていないようですが……」
「今は……あまり腹が空いていない」
貂蝉からの言葉に、ウェザーは気怠そうな声で返した。
けれども――、
「しかし、多少は食べないと戦いへの備えになりません。いざという時にエネルギー切れ、という事態は困るでしょう?」
貂蝉はなおも言葉を続ける――否、宝具を発動した。
それだけで一国の王が恋に落ちるほどに魅力的で麗しい眼差し、及び、諭すように語りかけてくる、愛らしい声音。
そんな物を一身に受けて、彼女からの助言を頑なに拒める男など、この世にそうそういまい。
其の美、抗い難し。
結果、ウェザーは観念したように床から起き上がり、
「わかった、わかったよ……たしかシリアルがまだ残っていたはずだ……」
彼はキッチンへと向かっていった。
……なんだか宝具のチンケな使用法、無駄遣いに見えるが、ウェザーにキチンと栄養を取ってもらわないと困るのは、先ほど貂蝉自身が述べた通り事実である。
彼女はどうしても聖杯を手に入れなくてはいけないのだ。
マスターの体調を気遣いこそすれ、彼が命の危険に晒されるのを躊躇う余裕は、ない。
全ては、愛する夫の為に――。
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財務官僚の別荘。
使用人が出した遅めの朝食を食べ終えた【???】――別名「ウェカピポの妹の夫」は、自分の部屋へと向かった。
体調を気遣う使用人の言葉を背に、彼は部屋の戸を閉める。
室内には誰もおらず、こぶし大の二つの物体――鉄球だけが、豪奢な机の上で、主の帰りを待っていた。
その内の一つを手に取り、ウェカピポの妹の夫はベッドに腰掛ける。
彼は、鉄球を持つ方の手に僅かに力を込め、手首部分を四十五度ほど回転させた。
たったそれだけの動作で、重々しい鉄球はシュルルルと軽やかな音を立てて、彼の手のひらの上を容易く回り出す。
どうやら、片目を失った現在でも彼が受け継いだ鉄球の技術は健在らしい。
そのことを確認すると、ウェカピポの妹の夫は手首を、今度は逆方向に回転させ、鉄球の動きを止めた。
室内に再び静寂が訪れる。
(回転の技術そのものは……まあ、以前より大きく劣った、ということはない……。だが、投擲の方はどうだろうか?)
ウェカピポの妹の夫は自分の右目――否、かつて自分の右目があった部分を手で覆う。
眼帯に隠された傷跡は今もなお生々しく残り、日夜彼を苦しめているのだ。
たしかに、こんなものがあっては遠近感が狂い、鉄球をマトモに投擲するのは困難になるであろう。
(何処か広い場所――例えば、この邸宅の庭に出て、一度試してみるか?)
己の技量の限界を計るべく、そのような計画を練るウェカピポの妹の夫。
しかしちょうどその時、ビュウ、と冷たい風が部屋の窓を叩いた。
そこに目を向けてみると、外では俄かに雪が降り始めている。
先ほどまでは、曇り空なだけだったのだが、降り出したらしい。
どうやら、この天気で外を出歩くのは無理なようである。
――やるとしたら、雪が止んでからにするか。
そう諦めたウェカピポの妹の夫は、鉄球を元あった位置に戻し、ベッドに倒れこんだ。
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市内ショッピングモール「ヴェルデ」。
そこで警備員として働く【ウェカピポ】は、一時間ほど前から降り始めた雪に体を僅かに震わせながら、己の業務をこなしていた。
本日の彼の持ち場は、建物の正面入り口付近である。
時期が時期なので、もう既に冬休みに突入した学生や社会人がいるのだろうか――平日の昼間であるにも関わらず、ショッピングモールを訪れる客は多い。
人が多くなればその分問題が起きる可能性も高くなり、その時は警備員――ウェカピポの出番である。
かつて王族護衛官を勤めていただけあって、彼はこと警備という分野に自信がある。
それに、素手で対応できないような乱暴者が現れれば、懐の中に隠している鉄球をこっそり使うのもやぶさかではない。
鉄球とは、王族を護衛する――人を守る為の技術だ。
そういう場面でこそ、最も役に立つだろう。
けれども、もし、サーヴァント――例えば、今世間を騒がせている人喰いなんかが、おそらくそうであろう――が今この場に現れ、無辜の市民達を襲い始めたとして、ウェカピポは対応出来るだろうか?
答えは否だ。
鉄球と魔術は、代を重ねて受け継がれていく、という点は同じとは言え、根本的に異なる技術である。
そこに、神秘は宿っていない。
それでサーヴァントと戦うのは無理であろう。
痣一つ付けられまい。
つい先日。
聖杯戦争のルールを把握し、シールダー――【ベンディゲイドブラン】と話し合った際、ウェカピポは『サーヴァントと出会った時、鉄球の技術しか持たないわたしはどうすればいい?』と相談してみた。
すると、彼女は騎士然で凛とした表情のまま、次のように答えた。
『そのことをマスターが気にする必要はない。
サーヴァントの相手はサーヴァント――たとえ今この場にかの人喰いが現れたとしても、私が相手をし、必ずや勝利しよう』
そして今。
魔力のパスから、シールダーが近くに居ることをウェカピポは感じる。
先ほどの考えが現実になったとて、彼女はすぐさまウェカピポの元に実体化し、宣言通り彼を守ってくれるであろう。
彼の為に、戦ってくれるであろう。
盾の英霊――シールダーらしく……――。
「…………」
抱いた僅かな危惧にそのような答えを出し、安堵する。
それで気が抜けていたのであろうか。
ウェカピポは横から通りかかって来た男性の存在に気付かず、衝突してしまった。
互いによろめく、だが倒れる事はない。
「おっとっと……ご、ごめんなさい! 少し、考え事をしていて……」
バランスを戻しつつ、先に謝ったのは男性――【アレル】の方だった。
不注意の末、人にぶつかり、どころか謝罪の言葉を先に言われるとは、警備員として失態である。
それを恥じつつ、ウェカピポは男性に向かう。
「いえ、こちらの方こそ申し訳ありません、お客様。
お怪我はありませんか?」
アレルは片手と首を横に振って、大丈夫だ、という意を示した。
「ところで、この建物――」
振っていた片手でヴェルデを指差し、彼は話題を変える。
「いったい何なんです?」
店の出入り口付近でぶつかったため、先ほどは咄嗟に「お客様」と呼んだが、どうやら彼はこの建物が何なのかすら分からない、ただの通行人だったらしい。
冬木市民なら誰でも知っているような建物を指してのそのような質問に、ウェカピポは逆に疑問を感じる。
だが、一瞬後には「多分彼は市外から来た、何も知らない観光客なのだろう」と勝手に解釈し、ここがショッピングモールであることや中に入っているテナントのことについて簡単に説明した。
「ふぅん、なるほど……要するに、酒場や武器屋、その他諸々が集まったみたいな感じか」
アレルは小さく呟いた後、何処かにいる誰かを恨めしげに睨むような目つきをした。
「酒場や武器屋」?
酒場ならまだしも、武器屋は流石にないのでは?
そもそも彼はショッピングモールという概念すら知らないのだろうか?
不思議に思ったウェカピポだが、彼自身数日前までは同じくショッピングモールのシの字すら知らなかったのだ。他人にとやかく言える立場ではない。
それに、そんな疑問はウェカピポがアレルの意味深な視線に対して抱いたそれに比べれば、些細なものである。
どうして彼は何かを睨むような目付きをしているのであろう。
そんなウェカピポの疑問に気付いたのか、アレルは焦ったような表情をして、
「いや、こんなにデカくてたくさんの人が出入りする建物は、城か何かじゃなんじゃないか、と俺の――友人? 知り合い? ええと……そう、仲間だ――仲間が言ったんです。
おかげでこんな寒い中、その事実を確認するべく、わざわざここまでやって来るハメになって……全く、恨めしい奴ですよ」
どうやら彼は仲間の言う素っ頓狂な予想に振り回され、ここまでやって来たらしい。
しかし、それならその言い出しっぺの仲間らしき人物が此処にいないのはおかしな話なのだが……。
ともあれ、先ほどの「酒場や武器屋」、そして今の「仲間」といい、彼はやけに妙な言葉を用いる。
もしウェカピポがファンタジー小説やRPGといった娯楽にほんの少しでも触れていれば、「まるでフィクションの中の勇者みたいだな」という感想を抱いたであろう。
(まあ彼が観光客や旅行者なら、同行者を仲間と呼ぶのも、当然と言えば当然のことなのか……?)
そう考えているウェカピポを尻目に、アレルは何処かへと去って行った。
彼の背中を、ウェカピポは目で追う。
ふとその時、出入り口付近に貼られていたポスターが彼の視界の端に入った。
それは、今までその存在に気づかなかったのが不思議なくらい、派手で目立つポスターだった。
紙面いっぱいに市内の芸能プロダクション――「442プロダクション」が写っており、イルミネーションが施されて輝いているそれは、まるで魔法の国の城のようだ。
更に、その上から赤と緑というクリスマスカラーの文字で、説明が書かれている。
それを読むと、このポスターが近日市内で開かれる、442プロダクション主催ライブイベントの告知である事が分かった。
『12/24(土) 15:00〜
442プロダクション前特設ステージにて
、クリスマスライブ開催!
詳しい情報は以下のURL、もしくはQRコードから――』
▲▼▲▼▲▼▲
新都に立つ、「442プロダクション」の事務所。
時計の針が頂点を回った頃。
明後日市内で開かれるライブに向けて、事務所内はてんやわんやの大騒ぎであった。
というか、軽いパニックさえ起きていた。
書類や職員があっちからこっち、こっちからあっちへと忙しく移動している。
まさに、長く生きた師さえも慌てて走る季節――師走に相応しい光景であろう。
だが、そんな中でも【高垣楓】は静謐な雰囲気を纏っていた。
まるで彼女だけが周りの時間の流れから切り離されたかのようである。
しかし、それはあくまで外見から得られる印象であり、現在の彼女の心中は穏やかさとは真逆の位置にあった。
元の世界と同じ事務所。
だが、そこに楓が信頼するプロデューサーの姿はなく、全く見ず知らずの誰かがそのポジションについている。
よく見てみれば、元の世界で彼女と親しかったアイドルも何人か見られないではないか。
いくつかのピースが欠けたパズルのようであり、けれども、何の滞りなく回る世界。
気を抜けば、まるでプロデューサーたちが最初から居なかったのでは、と思ってしまうほどだ。
なんと歪。なんと奇妙。
見れば見るほど、知れば知るほど、この世界は――怖い。
そんな場所にいて、落ち着いていられるはずなどあるまい。
それを自覚し、楓は改めて決意する。
あの場所に帰りたい。
早く、プロデューサーさんたちと再会したい――と。
それにしても、流石クールアイドルと言うべきか。
動揺及びそれから生まれた改めての決意を、高垣楓は周囲にみじんも悟られていなかった。
先ほども述べた通り、外から見ればいつもと変わらないミステリアスで物静かな、神秘的とも言える佇まいである。
(みんなが慌てていても、あんなに落ち着いていられるだなんて……やっぱり楓おねーさんはすげーです!)
そんな楓の姿を少し離れた場所から見かけて、【市原仁奈】は感心、もとい、勘違いした。
仁奈のファッションは、今日届いたばかりであるトナカイの着ぐるみだ。
ライブに向けて、事務所の経費で買ってもらったものである。
フエルトや綿で全身がもこもことしており、内部が暖かい。
衣装としては当然可愛く目立ち、パジャマとしても使えそうな機能性である。
事務員からこれを受け取って着替えた後、早速プロデューサーに見せに行こうとした矢先、仁奈は楓を見つけたのだ。
本当ならば、近くに駆け寄り話し掛け、着ぐるみを自慢したいところだが、今はそんなことをしている暇はないし、向こうも落ち着いているとは言え忙しそうである。
(すまねーです楓おねーさん……プロデューサーさんにおひろめしたら、ちゃんと見せに行くですよ!)
仁奈は心の中でそっと謝り、プロデューサーを探しに、「とてとて」というオノマトペを背負って歩いて行った。
▲▼▲▼▲▼▲
442プロダクション前特設ステージ。
【神谷奈緒】は事務所に向かう足を止めて、工事業者によってみるみるうちに設営されていくステージを見上げ、感嘆の息を吐いた。
「雪が降っているのに、すごい手際の良さだなあ……」
「雪が降っているからこそ、手際を良くしなくちゃいけないんだってよ?
ほら、このまま降る勢いが激しくなったら、明日は作業が出来ないかもしれないし」
「なるほど……」
隣に居る加蓮からの言葉に、奈緒は納得する。
よく見てみると設置されているのはステージの骨組みや看板だけであり、スピーカーのような電子機器はステージの脇の方でビニールシートを被っていた。
雪が止んでから、あるいは本番直前に設置する予定なのだろう。
それにしても、天気予報によればこのままライブ当日まで――今週いっぱい降雪は続くらしい。
ホワイトクリスマスの中開かれるライブ、と言えば聞こえは良いが、悪天候の中開かれるライブには多少の不安がある。
せめて、屋内にステージを設ければ良いのだが、事務所前の屋外にステージを構えるのが、毎年の恒例らしい。
そんな恒例なんて守るべきものなのか? と奈緒は首を傾げたくなるが、悲しい事にどんなに理不尽で不可解な事でも、伝統や恒例と名のつくものであれば、好例として扱われるのが世の中の暗黙のルールだ。
たとえ雪が降る中であっても仕事を行う作業員たちに、奈緒は哀れみと感謝が混じった視線を向けた。
「くしゅん!」
と、その時、加蓮がくしゃみをした。
「だっ、大丈夫か!?」
冷や汗を流しながら、心配する奈緒。
こんな寒い中、くしゃみの一つや二つは普通のことなのだが、それを加蓮がするのは話が別だ。
彼女は病弱な体質なのである。
こんな寒空の下を出歩くことさえ避けるべきなのだ。
当の本人は「大丈夫大丈夫」と何でもないように言っているが、普段より顔色が若干すぐれない。
もし、このまま風邪でも引けば大変だ。
自分が建設中のステージに目を奪われ、足を止めてしまった事を、奈緒は悔いる。
彼女は加蓮の腕を引いてその場を去り、事務所の正面入り口へと向かった。
自動ドアが開き、彼女たちを飲み込んだ。
それと同時に、暖かい空調の風が二人の体を包む。
ほっと安心する奈緒。
そんな彼女の背後から、ドサッ! と何かが落ちる音とそれに次ぐ悲鳴がした。
振り返ると、自動ドアのガラスの向こうで、【白菊ほたる】が頭から大量の雪を被っている。
どうやら、入り口玄関の上部分にある出っ張りに積もっていた雪が、彼女がたまたま通り掛かった際に落ちて来たらしい。
なんたる不幸であろうか。
「……大丈夫か?」
あまりの不幸ぶりに驚きつつ、先ほど加蓮に言ったものと同じ言葉を、奈緒はほたるに投げ掛ける。
「だ、大丈夫です……」
小動物を彷彿とさせる、可愛らしくもどこか弱々しい声が、半泣きに混じって響いた。
雪を被ったほたるは、「やはり今日は外に出るべきではなかったのでは」と後悔した。
ただでさえ、聖杯戦争の事で不安な中、このような不幸に見舞われてはそう考えてしまうのも仕方がない。
けれども、彼女は首を横に振り、すぐさまその考えを否定した。
ほたるが今こうして家から出て、事務所に出勤しているのは、自分が目指すトップアイドルへの道を諦められなかったからだ。
人を殺したくないし、殺されるのも当然嫌だ。
逃げ道も見当たらない。
それでも、アイドルを続けたい。
ならば、どうすれば良いのだろうか?
いくら頭が冷えた所で、その答えは見つからない。
泣きたくなるのを我慢しながら、彼女は頭から雪を払い落とし、正面入り口の自動ドアを潜って、前方の奈緒たちに続いて行った。
▲▼▲▼▲▼▲
車体に雪を積もらせながら走るタクシーの中。
向かう先の貸切スタジオが余程楽しみなのか、ウルトラ・スーパー・ギタリストに憧れる青年――【音石明】は鼻歌を歌っていた。
鼻歌のタイトルはジェフ・ベックの『Diamond dust』――冬のこの時期にピッタリな曲である。
本当ならば、鼻歌ではなくギターで弾きたいところだが、それは目的地に着くまでの辛抱だ。
「マスター、今日という今日はあの楽器を譲ってもらうでございますわよ!」
明の隣に座る女――【紅葉】が、そのような事を言う。
彼女の言う『あの楽器』とは、音石の愛用するギターの事だ。
赤髪巨乳の紅葉の服装は、あちらこちらがはだけた露出度の高い和服、という色んな意味で危なく、冬の冬木市においてはこれまた色んな意味で人目を惹くものだ。
タクシーに乗る時も、運転手の視線が何度彼女の身体に刺さったことか。
周囲の情欲を刺激する紅葉のエロティックな姿を気にもせず、音石は答える。
「……馬ぁ鹿、やるかよ。何度言ったって、指一本も触らせてやるもんか」
「ふぅん、そうですの……ところでマスター? 最近、市内で色々と物騒な事件が多発しているらしいですわよ? タクシーの中とは言え、夜道以外にも気をつけなくてはなりませんわねぇ〜?」
「お、脅してんのかぁ!?」
紅葉からの遠回しな脅しに、音石は冷や汗を流す。
しかし、音石のプライド、そしてロック魂はそれに屈さず、彼はギターケースを庇うようなポーズを取った。
「だが、それは無駄だぜキャスター!
反骨精神(ロックンロール)の塊であるこの俺に、脅迫なんざ無意味なのよ!」
「あらあら、そうでしたのね! ならば、本当に身体中の骨を一本一本反らせてみせようかしら?
こう……クイッと」
両手の人差し指と親指を使って、何か細いものを曲げるジェスチャーをする紅葉。
なおも続く脅しに、音石は絶句する。
紅葉の指はチョークのように細くて白いが、音石の骨を針金のように弄るのは容易であろう。
何せ彼女はサーヴァントであり、それ以前に人外の鬼なのだから。
「ふ、ふん……お、おお、同じ台詞を言わせるなよ、きゃ、キャスター。この俺に脅迫は……」
「『脅迫』ではありませんわ、『予告』です」
不敵な笑みを浮かべながら、紅葉は自らの指をゴキリと鳴らした。
地の底から響くようなそれに、音石は思わず短い悲鳴を漏らす。
と、丁度その時。
タクシーが貸切スタジオ前に到着した。
「! ナイスタイミングだぜ運転手のオッサン!」
釣りは要らねえ!
そう言いながら、音石は財布から引き抜いた一万円を運転手に渡した――彼の家からスタジオまでの運賃の十倍近くある金額だ。
だが、今現在冬木市中から金や物を盗みまくっている音石にとって、それははした金も同然である。
釣りの勘定なんてせずに、彼は一刻も早くスタジオに入り、紅葉とセッションをして、彼女の機嫌を直したかったのだ。
隣の怪物から逃げるように、音石はタクシーの外へと飛び出す。
不貞腐れた顔をした紅葉が次いで降りてきている気配が、背中で感じられた。
▲▼▲▼▲▼▲
市内スーパー。
施設内に流れる、夕方のセールを知らせる放送を聴きながら、夕飯の買い物の途中である【直樹美紀】は、自然と笑顔になっていた。
セールが嬉しいのは勿論だが、こんなにも多量の食品に囲まれた環境は、かつて一ヶ月後の食料にすら不安を抱く生活をしていた美紀にとって、楽園と言う他あるまい。
思わず、頬が緩む。
そんな彼女の隣では、フラドレスという、今現在の季節に真っ向から対抗する意思しか伺えないファッションに身を包んだ女性が、騒がしく何かを喚いていた。
「ねー! スーパーにオヘロが置かれていないことはもう諦めるわ!
だから、その代わりに苺を買ってもいーかしら? いーでしょ? ねっ!? 今が旬だから絶対美味しーわよー!」
「…………」
豊満に成熟した褐色の身体から放たれるあまりに幼稚なお願いに、美紀は呆れ、ジト目で隣の女性――【女神ペレ】を睨めつける。
いや、こうやって名前を【】で囲んでいると、まるでペレが美紀のサーヴァントであるかのようだが、そうではない。
あくまで彼女は、美紀が呼んだランサー――【カメハメハ一世】に勝手に付いてきた存在であり、サーヴァントですらないのだ。
では当のカメハメハ一世は何処に居るのかと言うと、今現在は街中を探索しに行っているらしい。
マスターを置いて探索に出かけて、いざという時に大丈夫なのかと不安になる美紀であったが、ランサー曰く、
「余がいない間に何か困った事があれば、ペレ様に助けを求めると良い」
との事だ。
あまりにも真摯な表情でそう言われたので、当時は思わず了解してしまった美紀である。
どうやら、カメハメハ一世は女神ペレに並々ならぬ信頼を寄せているようだ。
美紀からすれば、彼女はただのハイテンションで迷惑な人にしか見えないのだが……。
まあ、カメハメハは生前ペレに色々と助けてもらったので、あんなに信用しているのであろう。
だが、美紀がどれだけ想像力を働かせても、自分が困っている時にペレが助けてくれるイメージが全く湧かないのも事実である。
「……ペレさん」
「ん? どーしたの? あっ、もしかして豚肉も買ってくれるの? それなら――」
「違います。あと、シレっと苺を買うことを確定させないでください――ひとつ、聞きたいことがあるんです」
「なに?」
「もし、私が何かトラブルに巻き込まれたら、貴方は何が出来るんですか?」
「ダンスね!」
自信満々で元気の良い即答であった。
「それ以外はなーんにも出来ないわ!」
それを聞き、美紀は買い物カゴを持っていない方の手で頭を抱える。
美紀としては、ペレに炎と暴力の女神らしい戦闘能力――火を操る、とかを期待していたのだが、神でありながらサーヴァントの宝具として無理矢理現界したペレは大幅なスペックダウンを起こしており、今はそのような力を扱う事は不可能らしい。
全く、どうしてランサーはペレを置いて行ってしまったのか。
いっその事、ペレと一緒に探索に行ってくれていた方が、静かに買い物を行えた分まだマシだったろうに――と、不満に唇を尖らす美紀であった。
▲▼▲▼▲▼▲
夜が近づきつつある市内某所。
【南城優子】もまた、不満に唇を尖らせていた。
彼女の場合、美紀とは違ってサーヴァントが呼び出した存在ではなく、サーヴァントそのものに不満を抱いているのだから、深刻度はこちらの方が高いであろう。
「んん? どうしたマスター? 醜女と共に一晩共に過ごすことになった男のような顔をして。眉間に皺が寄ってるぞ。
何か不満な事でもあったのか? ストレスが溜まっているのか? 溜まっているのかぁ?
もしそうなら、それを解消せねばなあ……精神に不調を患った状態で聖杯戦争に臨むのは望ましくない。
……どうだろう、ここは余を殴ってみてはどうだ? スッキリするかもしれぬぞ?
あるいはもっと快楽的な方法で――」
「……それはアンタがヤりたい事でしょうが。この変態」
優子はその言葉と共に、ありったけの軽蔑の念を込めた視線をキャスター――【マルクス・アウレリウス・アントニヌス・アウグストゥス】に向けた。
並の男子ならば、受けるだけで男としてのプライドが粉々に砕かれ、生きる気力を失いかねない威力を持った睨みだが、当のキャスターは怯みさえしない。
イカれたマゾヒストたる彼が、侮蔑の視線を受けたところで快感以外の何ものにもならないのだ。
相変わらず、うっとりとした微笑を浮かべている。
それを見て、優子の心は不快感と嫌悪で塗りつぶされた。
キャスターの言いなりになるのは癪だが、ここは一発顔面に拳を叩き込み、苛立ちを解消した方が、精神衛生上良いかもしれない。
そこまで考えて拳を振りかぶった時、彼女の背中を悪寒が走った。
自然、振り上げた拳が止まる。
ついに、キャスターの気持ち悪さに身体が拒絶反応を示し始めたのか、と思った優子だが、それは違う。
その悪寒は目の前の変態ではなく、他の何かによって生み出されたものであった。
何処かから漂ってきた不気味な気配を、彼女は本能的に察知したのである。
「どうした? 余を殴らないのか?……もしや、これが噂に聞く焦らしプレイ……?」
などとほざいているキャスターを無視して辺りを見渡し、気配の発生源を探す優子。
だが、周囲に不審な物は見つからない。
(じゃあ、さっきの感覚は何だったの……?)
広々とした敷地に建つ、赤い屋根の邸宅を背後に、優子は首を傾げた。
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【ウィンチェスター・ミステリー・ハウス】。
市内に立つ恐怖と安寧の館にて、そこの主人である【トニー・スターク】は机の上に広げた大きな紙を見下ろしていた。
そこに描かれているのは、彼が居る屋敷の設計図である。
(まだどこかに改良の余地があるはずだ……。
聖杯戦争の英霊はどれも規格外の存在だと聞く。用心し過ぎて損をする、ということはないだろう)
彼は聖杯戦争の全参加者の中で最も、冬木市の住民の保護に対する情熱を持っていた。
また、それを可能とする知力と、シェルターも彼は有しているのだ。
シェルターの名はシールダー――ウィンチェスター・ミステリー・ハウス。
彼が此度の聖杯戦争で召喚したサーヴァントだ。
屋敷そのものの具現化とも言える存在――メイドは、設計図を凝視するトニーの姿を心配そうに見つめていた。
『お言葉ですがミスタ・スターク。朝からずっと働き詰めでは? 休憩も必要ですよ』
「あぁ、そうだな……って、もう夕方なのか!?
集中しすぎていて、気付かなかったな」
トニーは近くに置かれていた座椅子に腰を下ろす。
シールダーは、室内に備え付けのテレビを起動した。
何か愉快な番組でも見せて主をリラックスさせようと、気を利かせたのだ。
画面に映ったのは夕方の情報番組の生放送であり、明後日市内で行われるアイドルのライブイベントについて特集していた。
ゲストに呼ばれたアイドルらしき、長い茶髪の女性は、インタビュアーからの質問を受けている。
(若い割りに、随分ハキハキと応えているな。流石芸能人と言ったところか)
画面内のアイドルに感心するトニー。
そんな主人の姿を見て、シールダーはふと、自分の髪を指先で挟んで弄りだした。
輪に編まれた長髪からはみ出た一房が、彼女の指の中で踊る。
「? 急にどうしたんだ?」
『いえ、ミスタ・スタークは、やはりこのような髪の長さの女性が好みなのか、と思いまして――』
「違う違う! そういう意味で私はニッタミナミとかいうアイドルを注視していた訳ではないし、君のビジュアルに至っては私が決めたわけではない!」
『ほほう、もう彼女の名前を覚えたのですね。頭脳明晰たるミスタ・スタークの記憶力に感服するばかりです』
フライデイから賞賛の声を受けるも、トニーは悩ましく頭を抱え、自分がシールダーに施したジョーク機能の働きを身をもって痛感するだけだった。
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新都のローカルテレビ局。
情報番組への生出演を終えた【新田美波】は、楽屋に戻っていた。
これで、彼女の今日の仕事は終わりである。
一日の疲れを下ろすように、彼女は楽屋内の椅子へと座り込んだ。
だが、プラスチック製の椅子は美波の疲れを水のようには受け入れず、その固さで彼女の腰にストレスを与える。
これでは余計に疲れるだけだ。
数分も経たないうちに、美波は再び立ち上がった。
立ち上がり、視線が上昇したことで、先ほどまで角度的に不可視であった楽屋の窓から外の景色が、見えるようになる。
そこには真っ赤な夕焼けに染まる冬木の街――ではなく、厚い雲に覆われた空の下で陰鬱な雰囲気を漂わせている街の風景が広がっていた。
どうやら、雪は明日以降も降り続けるらしい。
これで明後日のライブは無事行えるのだろうか――と、美波は不安に思った。
▲▼▲▼▲▼▲
新都某所。
オウルこと【滝澤政道】は、自身のサーヴァントであるバーサーカー――【███(ジェヴォーダンの獣)】と再会を果たしていた。
彼ら二人のどちらかに再会しようという意思があったわけではない。
単に同じ人喰い同士で行動パターンが類似し、その結果宵闇の中で偶々遭遇しただけである。
「ちゃんバサァ。
そういえば、この前は聞かなかった――っていうか聞けなかったんだけどよ……
おまえって何か、聖杯にかける願いはあんの?」
梟は狼に問う。
マトモな返事なぞハナから期待していない。
ただ、何となく聞いてみただけだ。
「███ ██████」
バーサーカーがした返事は、ただの唸りであった。
いや、もしかすればそれには何らかの意味が含まれているのかもしれないが、オウルにそれは理解できない。
オウルはひひっ、と口を歪めて笑う。
同じ人喰い同士、マスターとサーヴァントの関係でありながら、コミュニケーションが全く取れないこの状況に、彼はある種の滑稽さを感じていたのである。
しかし、次の瞬間――
HA HA HA HA HA
HA HA HA HA HA
HA HA HA HA HA
HA HA HA HA HA
――何処からか響いてきた笑い声に、オウルの声は塗り潰された。
バーサーカーはすぐさま頭に生えた獣耳をピンと立て、笑い声の発生源を見つけ出し、そちらを向いた。
オウルもそれに倣う。
笑い声の発生源は近くであり、彼ら二人の後方数メートルほどの場所だ。
そこに居たのは――道化師(【ジョーカー】)であった。
紫のスーツに緑の髪。
真っ白な肌は夜の闇の中で、周囲に降り積もる白雪と同様に目立っている。
「御機嫌よう、グール共」
道化は貼りついたかのような笑みを浮かべ、オウルたちに喋りかける。
だが、その笑顔には親愛的な印象は抱けず、ただ狂気を覚えさせられるばかりだ。
「誰だテメェ」
「道化師(ピエロ)さ。そして、おまえたちの商売敵でもある」
「商売敵ィ?」
敵ならまだしも、商売敵とはどういう事だ?
「オレたちはこの街に呼ばれて以来、せっせと人を殺したんだ」
そう言って、ジョーカーは指を折って数を数える。
今まで殺した人数を確認しているのであろう。
だが、カウントが両手の指で足りなくなった途端、飽きたようにそれを放棄した。
「『こいつは、明日のワイドショーを騒がせるだろう』なんてことも思って、ワクワクしたものさ。
だが、結果はどうだ。
話題になるのは人喰い(おまえら)ばかり! どころか、オレらがやった事の一部まで、おまえらの手柄になっているじゃねぇか!
なんて悲しいことなんだよォ!」
オウルは唖然とする。
彼はジョーカーの言っていることの意味が全く分からなかった。
ワクワクした? 手柄?
己のバーサーカーと違い、言葉が通じるというのに、言葉の意味が理解できないのである。
ジョーカーは「そこでだ」と話を再開した。
「オレたちは考えた。『ならば、人喰いなんかでは到底出来ないような、とびっきりの事をしよう』ってな!」
ジョーカーは懐から細くて短い円柱の上部に、スイッチが付いた――ノック式のペンのような物を取り出す。
そして何の躊躇いもなく、そのスイッチを親指で押した。
次の瞬間。
BOOOO
OOOOO
OOOOOOM!
まだ窓の殆どに明かりが灯っていたセンタービル――それが、爆発した。
閃光――次いで轟音が伝わり、爆炎の光を浴びた新都の風景が、夕暮れの景色のようにオレンジに染まる。
周囲に降り積もっていた雪も、爆風によって容易く吹き飛ばされた。
オウルの羽織るローブも、それに乗ってはためく。
ジョーカーはスイッチを放り捨てて腹を抱え、それこそ爆音のように大声で笑った。
「HA HA HA HA HA HA HA! どうだ? 良いライトアップショーだったろう?」
こいつは危険だ――。
今更ながらに、ようやくそう認識した梟と獣は、何らかのアクションを起こそうとする。
だが――
「出てこい人面犬どもっ! ショーのお次はディナータイムだ!」
ジョーカーの背後から現れた『もう一人のジョーカー』――【フォークロア】がそう叫ぶと同時に、周囲の暗闇から湧くようにして、五匹の人面犬が出現した。
フォークロアの命令に従い、人面犬たちはオウルたちへと襲いかかる。
いや、違う。
オウル『だけ』に襲いかかった!
ジェヴォーダンの獣のスキル――『スケープゴート』によって、人面犬のターゲットがオウルに集中した結果だ。
なんと、彼女は自分のマスターを身代わりにしたのである。
オウルが見回してみると、夜闇に溶けるようにして逃げていく獣のバーサーカーの後ろ姿が見えた。
都市伝説の集団を操るフォークロアの力を目にし、『アレとは戦えない』と判断して逃走したのであろう。
そもそも、ジョーカーたちの頭は緑の髪に白い肌と、アメリカのスナックを思わせる色合いであまり美味しそうでなく、彼女の食欲をそそらなかったのかもしれない。
一方、まさか五匹中五匹に噛み付かれるとは思わなかった梟は、一瞬足を止めた。
けれども、次の瞬間には顔を怒りに歪め、次のように叫んだ。
「ふっざけんじゃねぇえええええええええええええええ!!!」
この場合の『ふざけんじゃねぇ』とはジョーカーたちは勿論、狼女にも向けた言葉である。
理屈は分からないが、人面犬のターゲットが自分に集中した原因がバーサーカーにある事を、オウルは直感的に推知したのだ。
右腕、腹部右側、首、腰部左側、右脚。
噛み付いた人面犬五匹をそのままに、十本の犬歯が肉に食い込む痛みなんて感じず、オウルはジョーカーに向かって飛びかかった。
流石の召喚物である人面犬たちも、喰種の全力の駆動には付いていけず、次々と牙を離し、地面に落ちて行く。
まさか噛まれた状態で動けるとは思わなかったのだろう、ジョーカーは一瞬驚いた顔をしたが、すぐさま表情に余裕を浮かべ、「バーサーカー」と自分のサーヴァントを呼んだ。
「HA HA HA! 了解、了解! ――来い来い『ターボババア』!」
オウルが、ジョーカーの喉元にあと僅かで爪を食い込ませられたであろうその時。
彼の真横を紫の風が駆け抜けた。
あまりにも速かったので『風』と形容したが、それはよく見てみると紫色の髪をした高齢の女性である。
喰種の身体能力を持つオウルよりも速い、自動車並のスピードで走る彼女は、オウルを追い越し、その先に立つジョーカーたちを俵のように抱えて走り去っていく。
遠ざかり、夜の暗闇にだんだん小さくなって行きながら、道化師たちは盛大に笑った。
二人の笑い声が重なり、不気味に響く。
HAHA HAHA HAHA HAHA HAHA
HAHA HAHA HAHA HAHA HAHA
HAHA HAHA HAHA HAHA HAHA
HAHA HAHA HAHA HAHA HAHA
▲▼▲▼▲▼▲
冬木教会。
すっかり夜も更けた頃。
教会内の長椅子に、二人の男女が一メートル程の間隔を空けて座っていた。
一人は黒いローブを羽織り、両目を閉じた男。
もう一人はロシア帽を被り、白い魔法少女コスチュームに身を包んだ少女だ。
奇妙なことに、少女は椅子の上に更に木製の円柱を乗せ、その上に腰を下ろしている。
いや、「腰を下ろしている」というよりも、「円柱上部にある窪みに、腰が嵌っている」と言った方が良いだろう。
太腿の付け根までブーツで覆った両足を放り出し、ぶらぶらと揺らしながら、少女は軽い口調で喋る。
「討伐令出そっか」
討伐令とは、聖杯戦争の参加者全員へ、何らかの報酬と引き換えに特定の参加者を討伐することを依頼する事だ。
決して、軽い感じで出して良いものではない。
だがルーラーは提案を聞いて、そんな主張をすることもなく、
「ほぉう?」
と、ただ興味深そうな声を出した。
「今この状況で討伐令を出すとしたら……まず、あの薄汚い人喰い共は確定だろう?」
「そりゃ勿論だけど?」
即答する少女。
なんでそんな分かりきった事を聞くのさ、とでも言いたげに彼女は首を傾げる。
「ふふ……いや、まさか薄汚い人喰いそのものにして魔女である貴様が、そんな提案をするとは思わなかったのでな」
人喰いだの魔女だのと呼ばれた少女は、不愉快そうに眉を吊り上げた。
てっきり、自分がそんな化物であることを否定するのかと思われたが、そうではない。
「はぁ? 何それ? もしかしてボクが『同じ人喰いだから、彼らがやる事は大目に見てあげよう』と考えているとでも思ったの?」
馬鹿にしないでよね――と。
少女は円柱の上から見下すようにして、ルーラーを睨みつけた。
それを受け、ルーラーは
「おや、気を悪くさせてしまったか? すまんすまん」
と、余裕を持った笑みを浮かべながら謝罪する――おそらく、彼は心の何処かで彼女を下に見ているのだろう。
それを察知したのか、少女はルーラーを許さず、頬を膨らませながらそっぽを向いた。
しかし、数分経てば気が済んだらしく、彼女は再びルーラーを見下ろす。
「……ともかく、滝澤政道とバーサーカー。この子らは討伐確定さ。あまりにも多くの人を喰いすぎている。
そして、もう一つは――」
「道化師共か?」
「そうそう」
道化師共――ジョーカーとバーサーカーも、かなりの人数を無意味に殺戮した。
また、つい先ほどのセンタービル爆破で、彼らは聖杯戦争のステージそのものに深刻な被害を与えたのだ。
討伐令を出すのを躊躇う要素は何処にもあるまい。
「あとは他にも変態野郎やえっちな鬼ちゃんの陣営が、そこそこ迷惑なことをしていたんだけれど……」
「流石に一度にそう多くの主従を討伐令に出すのは無理があるぞ、魔女よ」
「だろう? だからまずは、大至急排除すべきこの二主従だけを、討伐候補にすれば良いかなって思ってるんだ」
そこまで言って、少女は何かを思い出したかのような表情をし、はっと後ろを振り返る。
少女が振り返った先に居たのは、彼女の一つ後ろの椅子にずっと最初から座っていた【姫河小雪】であった。
「ごめんスノーホワイト! 置いてけぼりにしちゃったね! 」
円柱に座る少女は身を乗り出し、スノーホワイトに顔を近づける。
そのまま、少女はその細腕でスノーホワイトを両脇から抱き上げた。
そして、空中で愛おしそうに強く抱きしめた後、少女とルーラーの間にあるスペースに彼女を下ろした。
「キミも話し合いに参加したかっただろう! うん、間違いない。参加したかったはずさ!
何せ、キミはこの聖杯戦争の主催の一人なんだから!」
この聖杯戦争は、キミが望んだ物なんだから!
少女がそう言うと同時に、スノーホワイトの元々暗かった表情が更に暗くなる。
彼女は震える声で答えた。
「違う……わたしは戦争なんて望んでない!」
「いいや、望んださ。確かにね。
思い出しなよ、スノーホワイト。
あの時キミが手を取ったから、戦争は始まったんだぜ?」
そう言って、少女は笑みを浮かべる。
その表情はまるで――
童話に出てくる、意地悪な魔女のようであった。
▲▼▲▼▲▼▲
▲▼▲▼▲▼▲
時は少し遡る。
「『聖杯』って知ってる?」
受けた質問に対し、スノーホワイトは首を横に振った。
聖杯伝説を知っている十四歳の少女なんて、いる方が珍しいであろう。
「そっかー、そうだよねぇ……」
それは少女の方も予想していたらしく、わざとらしく肩を竦めたものの、
その後はあらかじめ用意していたと思わしき、聖杯についての簡単な説明が数分間行われた。
聖杯という器があること。
それに託せば、どんな願いも必ず叶うということ。
そして、それを少女は持っていること。
為された説明は、要約すればこの三つだ。
「そして、ボクはキミにそれを授けようと思っているんだよ」
「…………」
天から舞い降りたかのようなチャンス。
だが、それに対しスノーホワイトは疑いの念を抱いた。
何せ、スノーホワイトはついさっきまで寿命と引き換えに手に入る便利アイテムを購入するかどうかの瀬戸際に居たのだ、
そこに『なんでも願いが叶う道具をプレゼントするよ!』と言われたところで、はいそうですかと簡単に受け取れるわけがない。
そんな心境を察したのか、少女は慌てたように手を振り、「おいおい勘違いしないでくれよ」と叫んだ。
「聖杯と引き換えに、ボクはキミに対価を求める事は絶対にない。
寿命から毛の先に至るまで、どんな物もキミから奪わないと誓うよ」
「本当に?」
「ああ、本当さ」
薄い胸に拳を当て、誓いのポーズを取る少女。
「けれど」
続けて、彼女が不穏な接続詞を口にし、スノーホワイトは身構える。
「完全なる聖杯をキミに渡すには、あとほんの少ぉ〜しやらなくちゃならないことがあるんだ。
誰かそれを手伝ってくれる人が居ると、嬉しいんだけど……」
少女はそう言って、スノーホワイトの方をチラチラと見る。
どうやら、少女はスノーホワイトに聖杯を完成させる手伝いをしてもらいたいらしい。
「勿論、準備の最中にキミに危害が及ぶことはありえない。
手伝いと言っても、ただ、ボクの側に居て、準備の様子を見守るだけさ。それ以外には何もしなくて良い」
だから、ね?――そう言って、木製の円柱の上から、少女は片手を差し出す。
この手を取れば、スノーホワイトは彼女を手伝う事になるのだろう。
だが、どうしても躊躇われる。
どれだけ身の安全を保障されたとしても、それが嘘であるという可能性は拭えないのだ。
もしスノーホワイトがあともう少し成長し、自身の「困っている人の心の声が聞こえるよ」の応用で相手の心をより詳しく知る事が出来れば、少女の言葉の真偽を知れたかもしれないが、今現在の彼女はまだ未熟で未発達な魔法少女である。
そもそも、そこまで疑うのであれば、さっさと断ればいいのだが、スノーホワイトの心に積もった後悔の念は、それを許さないのだ。
それを知ってか知らずか、円柱に座る少女はもう一押しとばかりに、スノーホワイトに言葉を投げかける。
「それに、ボクからのプレゼントを断って、こんなクソつまんねぇゲームに参加し続ける方が嫌だろう?
死ぬのは怖いだろう?
無かった事にしたい事があるんだろう?
帰ってきて欲しい、大切な人がいるんだろう?
ほんのちょっぴりの間ボクと一緒に居れば、それが全部叶うんだよ?」
少女は囁く。
それは、まるで魔法のように魅力的な言葉の羅列である。
そもそも、この時のスノーホワイトは大切な人を失ったショックや、非常識な事態を目撃した衝撃で、判断能力に不調が生じているも同然の状態だった。
だからだろうか。
甘美なる『魔女』の言葉は、通常以上にスノーホワイトの心の隙間へ入り込む。
彼女の目の前に差し出された、雪細工のように白い手は、思わず触れたくなるほどに美しかった。
「だからさ、スノーホワイト。
ボクと一緒に聖杯を育成しようぜ?」
そして――、
▲▼▲▼▲▼▲
そして、スノーホワイトは少女の手を取った。
取ってしまった。
寧ろ最終的には自分から、『聖杯が欲しい』とさえ言ってしまったのだ。
彼女が聖杯戦争という真相を知ったのは、全てが決まってから――見知らぬ世界の見知らぬ街『冬木市』に連れてこられた後の事である。
知った当時は「こんなことは聞いてない!」と激昂した彼女であるが、ケラケラとした調子で「だって聞かれてなかったし? 嘘は一つもついてないぽーん??」と答える少女には、最早怒る気力すら湧かなくなった。
魔法少女のデスゲームから逃れようとした結果、聖杯戦争というバトルロワイアルの主催になってしまったのは笑えない話だ。
死の危険こそはなくなったものの、他者を死の危険に晒す立場に立ったと言うのは、スノーホワイトにとって相当ショッキングな事実である。
あの忌々しいファヴと自分はほぼ同じポジションにいるのだ、と思うだけで、鳥肌が立ちそうだ。
「…………」
「おいおいどうしたのさ、スノーホワイト。まるで詐欺師に騙されたみたいな顔しちゃってさ。
薄幸属性まで獲得して、可愛さ倍増! ってかい? やっるぅー! あはは!」
時は今に戻り、教会には少女の甲高い笑い声が響き渡る。
笑い終わった後、彼女は人差し指で目元の涙を拭った。
「……とまあ、こんなすっげぇどうでもいい話は置いといて。
討伐令について、スノーホワイトはどう思う? ボクはね、さっきも言った通り――」
その後も少女は、いつも通りスノーホワイトを置いてけぼりにして、ルーラーと話し続けた。
試しに、スノーホワイトが聖杯戦争に否定的な意見を言っても、彼女はそれをのらりくらりとかわすのだ。
向こうからは、たまに思い出したかのように、どうでもいい絡みが飛んでくるだけである。
表面上はスノーホワイトに意見を求めているものの、出会った時に言っていた通り、少女はスノーホワイトに『その場に居る事』しか求めていないのであろう。
それがどういう理由によるものかは、今のところ分からない。
以前、このことについて尋ねてみても、『だから最初に言っただろう? ボクは清く、正しく、美しいキミを助けたいだけなのさ』と決まり文句を返されるだけである。
ともかく、こんな所から逃げ出したいくらいの気分だが、スノーホワイトが逃げた所で聖杯戦争は中止されないであろうし、そもそもこの世界にN市があるかどうかすら分からない。
それに、少女が言うには冬木の周辺には聖杯戦争の関係者のみ――突然、それにスノーホワイトも含まれているだろう――に効果を表す特殊な結界が施されているらしく、逃げる事は不可能である。
つまるところ、彼女が出来る最善の行動は、聖杯戦争が進む様を黙って見る事だけなのだ。
話し合いを終えた後、少女はスノーホワイトにこう言った。
「スノーホワイト。討伐令を境に、聖杯戦争はいよいよ明日から本番に突入するよ」
それはつまり、明日からより多くの血が流れる、という意味だ。
「キミの願いが叶うまで、あともう少しさ。それまではゆっくり座って待っていなよ……あっ、それなら彼に聞いてみてはどうだい?」
少女はルーラーを指差した。
「座って待つことに関してなら、彼の右に出る者は居ないからね。あはは」
「随分と言ってくれるじゃあないか、魔女よ……次にその事を口にしたら、睨むぞ?」
自嘲の笑みを浮かべながら、ルーラーが言う。
笑う二人を見ながら、スノーホワイトは一人で、現在進行形で深まっていく絶望を感じるのであった。
▲▼▲▼▲▼▲
正義。
悪。
渇望。
復讐。
狂気。
理性。
愛。
希望。
絶望。
エトセトラ。
エトセトラ。
それら全てを混ぜ合わせた太陽が、再び昇る。
照らされるは、冬の街。
あまりに寒々しい光を浴びて、二十組の兵は今日も目覚める。
彼らを見届けるは、『魔』を有する三人。
かつて主に示した白は既になく、今は黒に染まるばかり。
神を裏切りし、魔眼の聖人。
旅人への不思議な救いと、子供たちへの理不尽な恐怖。
『矛盾』する二つを抱えた、北国の魔女。
騎士を失った悲しみに暮れ、白き騎士も未だ見つけられない。
あまりにも無力な、白の魔法少女。
二十組と三人の思いが交差する中。
今日も、朝はやってくる――。
▲▼▲▼▲▼▲
翌日(12/23)の朝、聖杯戦争参加者の元に一通の手紙が届いた(特定の住所を持たない者は、『いつの間にか手の中にあった』という形で受け取っている)。
その内容は以下の通り。
・これはルーラー及び聖杯戦争を主催する者たちから参加者に宛てた手紙である。
・既に知っている者がいるかもしれないが、冬木市の周りに特殊な結界を張っているので、街から抜け出せる事は出来ない。
(もし出ようとすれば、目の前が霧で覆われて、方向感覚が狂い、街へと戻って来る)
・滝澤政道&バーサーカー、及びジョーカー&バーサーカーの討伐令。
(彼らの写真と、彼らが冬木市で起こした数々の犯行について書かれた紙が手紙に添付されていた)
(討伐の成功者には、報酬として令呪一画が与えられる)
以上
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【クラス】
ルーラー
【真名】
カシヤーン
【出典】
ロシア民話、キリスト教
【性別】
男
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
(冬の環境下)
筋力A+ 耐久B 敏捷A 魔力A++ 幸運C 宝具A+++
【クラススキル】
真名看破:A
ルーラーのクラススキル。直接遭遇したサーヴァントの真名及びステータス情報が自動的に明かされる。
隠蔽能力を持つサーヴァントに対しては、幸運値の判定が必要になる。
神明裁決:B
命令やペナルティを執行するため、召喚された聖杯戦争に参加する全サーヴァントに使用可能で、絶対命令を下せる特殊な令呪を各サーヴァントごとに二画保有する。
対魔力:EX
魔術に対する抵抗力。
聖人であると同時に魔物の性質も持つ彼のこのスキルのランクはEX(規格外)であり、どれほどの大魔術・呪法儀式だろうと一切寄せ付けさせない。
ただし効果は当人にしか及ばないため、周囲を巻き込むほどの大規模な術を受けた場合、自分以外の被害までは抑えられない。
【保有スキル】
聖人:E
聖人として認定された者であることを表す。
ルーラーは、サーヴァントとして召喚された時に“秘蹟の効果上昇”、“HP自動回復”、“カリスマを1ランクアップ”、“聖骸布の作成が可能”から、ひとつ選択される。
カシヤーンの場合、“HP自動回復”を選んだ。
魔眼:A+
魔力を有する瞳。
聖人である為、奇蹟の側面もある。
見たものに『不幸の果ての死』を与える効果を有しており、仮に何らかの妨害で魔眼が与える死が不発に終わったとしても、睨んだ相手の幸運を三ランク下げる(Eランク以降はマイナス補正が課される)(EXの場合は例外的に魔眼の効果は無効化される)。
勿論、ルーラーとしての立場上無闇に使う事は出来ない。
話術:B
言論によって他者の思考を誘導し、自在に操る技術。
聖者をも騙す話術の才能。
【宝具】
【その降臨を望む者は誰もなく(ジマ・ラスヒレニヤ)】
ランク:A→B 種別:対界宝具→対人(自身)宝具 レンジ:∞→- 最大補足:∞→-
冬を象徴するカシヤーンの存在そのものが宝具に昇華されたもの。
現界と同時に周囲一帯の気候を冬のそれに変質させる。
だが、此度の聖杯戦争ではフィールドの季節が既に冬である為、その環境下で幸運以外のステータスが一ランク上昇する宝具へと変質している。
【地の鎖(アンゲル・セプ)】
ランク:B− 種別:対人宝具 レンジ:10 最大補足:1
カシヤーンがローブの下に潜ませている鎖。
射出して相手にぶつけたり、拘束したりする。
元はカシヤーンを地の底に封じ込める大天使の鎖だったが、彼がサーヴァントとなった今では、宝具に堕ちた。
A+ランクを誇る宝具のはずだが、カシヤーンはこれの本来の持ち主ではない為、ランクダウンが起きている。
相手の魔性の高さに応じて、拘束力が上昇する。
【我が主の敵は此処にありて(ヤ・ブドゥ・ブラゴン・ボグァ)】
ランク:A+++ 種別:対神宝具 レンジ:100 最大補足:999
巨竜を召喚する。
聖女マルタ、あるいは聖人ゲオルギウスなど竜種を退散させたという逸話を持つ純な聖人からの反転現象、または彼が味方についたサタンが度々竜の姿で描かれたことにより生まれた宝具であると考えられる。
神の敵(サタン)の象徴である竜は、神性スキルを保有するサーヴァントに対して非常に高い特攻を持つ。
【人物背景】
ロシア正教における聖人。
貧者に無慈悲で、傲慢な性格をしている。
また、神の敵であるサタンの側に付いたエピソードも有名。
彼の逸話の多くは、聖人というよりも魔性や妖怪のような印象を持たれる物が多く、その最たる物が魔眼である。
普段は鎖に縛られて椅子に拘束されており、聖カシヤーン記念日である二月二十九日にのみその拘束が解かれ地上に出る事が許されている(当然地上側からすれば冬が一日伸びるのでたまったものではない)。
ちなみに、その日に召喚されていた場合、更にステータスが一ランク上がっていたと思われる。
【特徴】
女のように長い睫毛。
普段は目を閉じている。
黒いローブ。
【主催者】
魔女(???)
【能力・技能】
・魔術
その実力の上限は、今の所判明していない
【特徴】
見た目は少女。中身は不明。
成人男性がちょっと力を込めて抱きしめれば、ポッキリと折れそうなほどに痩せた体型をしている。
ファッション自体は、ロシア帽子にフワフワのスカートと、魔法少女ファッションのロシア版のようなもの。
空中を浮遊する木製の円柱――その上部に出来た窪みに腰をすっぽり収めており、魔女ファッションに合わない茶色のブーツで太腿の付け根まで包んだ両足を放り出している。
はたから見れば、うっかり窪みへ腰がハマってしまった間抜けにしか見えない。
【呼称一覧】
一人称:ボク
二人称:キミ
【主催者】
魔法少女(姫河小雪)@魔法少女育成計画シリーズ
【能力・技能】
・魔法
困っている人の心の声が聞こえるよ
【人物背景】
魔法少女名はスノーホワイト。
ソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』をプレイしていた際に魔法少女になった、普通の女の子である。
魔法少女として日々人助けを行っていた彼女だが、ある日、増えすぎた魔法少女たちを減らすという名目のキャンディ争奪戦改めデスゲームに参加させられる事に。
本作への参加時期は、『魔法少女育成計画』の『四章 月夜の魔法少女』から。
ブロック塀に背を預けへたりこみ、呆然としていた際に、突如現れた魔女から聖杯を与えられる形で、聖杯戦争の主催となってしまう。
だが、その実、彼女が主催として行える事はなく、魔女から『ただそこにいるだけでいい』と言われている。
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【参加者一覧】
No.01:神谷奈緒@アイドルマスター シンデレラガールズ&セイバー(源頼政(猪隼太))
No.02:川尻早人@ジョジョの奇妙な冒険(第四部)&セイバー(小碓媛命)
No.03:新田美波@アイドルマスター シンデレラガールズ&セイバー(スルト(スキールニール))
No.04:ウェイバー・ベルベット@Fate/zero&アーチャー(ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)
No.05:安部菜々@アイドルマスター シンデレラガールズ&ランサー(中村長兵衛)
No.06:直樹美紀@がっこうぐらし!&ランサー(カメハメハ一世)
No.07:白菊ほたる@アイドルマスター シンデレラガールズ&ランサー(ガレス)
No.08:ウェザーリポート@ジョジョの奇妙な冒険(第六部)&アサシン(貂蝉)
No.09:市原仁奈@アイドルマスター シンデレラガールズ&ライダー(オシーン)
No.10:アレル@ドラゴンクエストⅠ&ライダー(董卓 仲穎)
No.11:恵飛須沢胡桃@がっこうぐらし!&キャスター(アヌビス)
No.12:音石明@ジョジョの奇妙な冒険(第四部)&キャスター(紅葉)
No.13:高垣楓@アイドルマスター シンデレラガールズ&キャスター(パトリキウス)
No.14:南城優子@影を往く人&キャスター(マルクス・アウレリウス・アントニヌス・アウグストゥス(ヘリオガバルス))
No.15:???(ウェカピポの妹の夫)@ジョジョの奇妙な冒険(第七部)&バーサーカー(モードレッド)
No.16:滝澤政道@東京喰種:re&バーサーカー(███(ジェヴォーダンの獣))
No.17:スティーブ・ロジャース@マーベル・シネマティック・ユニバース &バーサーカー(ファヴニール)
No.18:ジョーカー@ダークナイト&バーサーカー(フォークロア)
No.19:トニー・スターク@マーベル・シネマティック・ユニバース&シールダー(ウィンチェスター・ミステリー・ハウス)
No.20:ウェカピポ@ジョジョの奇妙な冒険(第七部)&シールダー(ベンディケイドブラン)
裁定者:カシヤーン
主催:魔女(???)&魔法少女(姫河小雪@魔法少女育成計画シリーズ)
(予定よりも二倍以上になっちゃいましたね、あはは)
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・企画について
冬の冬木市が舞台です。
電脳空間ではなく現実ですが、たまに本来冬木市にないはずの施設や居ないはずのNPCが存在します。
・定時通達
毎朝、手紙の形で通達が行われます。
緊急の場合は、また別の方法で行われるかもしれません。
・マスター、サーヴァント、令呪
令呪を全て失っても、マスターもサーヴァントも消滅することはありません。
また、サーヴァントを失っても、マスターはそのまま舞台に残り続けます。
・時間表記
未明(0〜4)
早朝(4〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜16)
夕方(16〜20)
夜(20〜24)
開始日時は12/23です。
・予約期限
二週間+延長一週間とします。
『俺は大長編を書くんだ! せめて一ヶ月は時間が欲しいぜ!』って人が出てくれたら、その時はその時で特例的に変更が起きるかもしれません。
・備考
・新都のセンタービルがジョーカーたちの手によって爆発しました。
尚、これによって聖杯戦争の参加者が死亡、負傷したということはありません。
・12/24(土)の15:00から442プロダクション前特設ステージにて、クリスマスライブが開かれます(思い出に残る最高のイベントになりそうで、楽しみですね!)
くぅ〜疲れました! 投下終了です!
予約開始は明日の0時からとします。
たくさんの候補作をありがとうございました!
ちなみに、OPのタイトルは『WINter soldiers』です
乙でした!
お疲れ様でした……!
お疲れさまでした!
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