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邪神聖杯黙示録 - Call of Fate - Session.2

1 ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:27:24 ID:8pkJnobw0





 人類の最も旧く最も強烈な感情は恐怖であり、恐怖の中で最も旧く最も強烈な感情は未知なるものへの恐怖である



                                               ――H.P.ラヴクラフト『文学における超自然の恐怖』より








前スレッド:邪神聖杯黙示録〜Call of Fate〜
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Wiki:邪神聖杯黙示録〜Call of Fate〜 @ Wiki
ttp://www8.atwiki.jp/21silverkeys/pages/119.html

2 ルール再掲  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:30:09 ID:8pkJnobw0
【企画概要】
・当企画はTYPE-MOON原作の『Fateシリーズ』および、『クトゥルフ神話』の設定をモチーフとした聖杯戦争リレー小説です。
・クトゥルフ神話設定に関してはあくまでモチーフに留め、神話作品として原作設定の遵守を徹底する予定はありません。
 知らなくても参加できるが知っていればより深く楽しめる、というバランスを目指していこうと考えています。
・なお、当企画ではクトゥルフ神話の要素を取り入れ、聖杯戦争に『神秘への畏れ』および『正気度喪失』の特殊ルールを導入します。


【神秘への畏れについて】
・当企画における聖杯は術式こそ従来のものと同じですが、英霊の座やムーンセル・オートマトンから英霊を召喚するのではなく、
 次元の裂け目に存在しあらゆる時間と場所に隣接するとされる窮極の門、『外なる神ヨグ=ソトース』の無限の知識を利用しています。
・そのため召喚されるサーヴァントは、聖杯というフィルターを通すとはいえ人類史に残る英雄であると同時に邪神の記憶でもあり、
 その英霊の性質や在り方によって左右されはするものの、すべて『人間の潜在的な畏怖を喚起する性質』を備えます。
 高潔な英霊ならばその高潔さへ、おぞましい反英霊ならばそのおぞましさへ、人は人を越えた存在に対する畏れを抱く、と考えてください。
・具体的にはサーヴァントが何らかの神秘を行使する時、その神秘の強さに応じて目撃者に対する精神へのショックを発生させます。
 霊体化や身体能力の行使程度なら影響は少ないものの、超自然的なスキルの使用、更に宝具の開放と、神秘が高いほどショックは大きくなります。
 例えばアーサー王の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の真名開放ともなれば、目撃しただけでその神秘に圧倒され一時的発狂すら有り得るでしょう。
・唯一、マスターは自身の契約するサーヴァント固有の神秘に対してのみ耐性を持ちます。また同じ神秘を繰り返し目撃することで耐性がつく場合もあります。


【正気度喪失ルールについて】
・当企画では、マスターの健康状態や魔力量に加えて『精神状態』を重要なステータスとして扱います。
 さらに、クトゥルフ神話TRPGよりいわゆる「SANチェック」、つまり『正気度喪失』を共通設定として導入します。
・精神状態は感情や気分によって変動しますが、前述の神秘の目撃などによって精神へのダメージが蓄積されます。
 具体的には神秘の目撃だけでなく、殺人などの自身の倫理に反する行為、衝撃的光景の目撃、魂喰い、その他精神的に強いショックを受ける状況が該当します。
・一度に多くの正気度を失った場合、あるいは精神的ダメージの蓄積量が多くなった場合、以下のようなデメリットが発生します。

 《軽度》……瞬間的動揺(呆然、混乱、判断力低下など。すぐに回復する)
 《中度》……一時的狂気(激しい混乱、パニック、ヒステリー、トラウマ、幼児退行など。ある程度持続するが回復する)
 《重度》……気が触れる。Eランクの精神汚染スキルを取得(回復不可、既に所持している場合はランクが上昇する)

・聖杯戦争が進行するほど各マスターの精神は必然的に退廃していくこととなるため、自身の精神を休めて守ることが重要な要素となります。
 また、他のマスターに精神的ショックを与えるための行動を戦略として取ることも有効となります。
・精神的に動揺しにくい人物の場合、一時的狂気に陥りにくくなる代わりに精神汚染スキルの進行が早まります。
・なお、基本的にサーヴァントには正気度喪失は発生しません。
 そのため、マスターとサーヴァントの間で精神汚染ランクに開きが生じると意思疎通が困難になる可能性があります。

【サーヴァントの死亡とマスターの脱落について】
・自身のサーヴァントを喪失したマスターが、それを原因として死亡したり消滅することはありません。
・しかし、サーヴァントの消滅時に魔力パスを逆流する邪神の魔力は精神に恐るべき負担をかけ、結果としてサーヴァントを失ったマスターは例外なく発狂します。
・その後は精神病院に収容されるのか、自宅に引き篭もって怯え続けるのか、狂人として街を彷徨うのか。
 いずれにせよ物語の主要人物からただのアーカム市民へと降格され、自力で物語に復帰するのは不可能でしょう。
・なお、この事実はマスターとサーヴァントには周知されておらず、開幕時点で知っているのはキーパーのみです。

3 ルール再掲2  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:31:50 ID:8pkJnobw0
【キーパーについて】
・『秘匿者(キーパー)』とは、本来の聖杯戦争におけるルーラーに相当する、聖杯戦争を管理する独立したサーヴァントです。
・令呪による強制権を持たない代わりに認識操作による情報秘匿スキルを持ち、聖杯戦争全体の情報をコントロールする役割を持ちます。
・キーパーだけが知り得ている聖杯戦争の特殊な情報は多く、この聖杯が英霊の座ではなく邪神と接続されているという冒涜的事実はその最たるものです。

【アーカムについて】
・この度の聖杯戦争は、合衆国マサチューセッツ州に位置する架空都市『アーカム』を舞台とします。
・時代設定は現代ですが、この時代においてもアーカムは「大きな大学がある地方都市」ぐらいの発展に留まっています。
・アーカムに暮らす市民は全て並行世界から連れて来られた生身の人間です。
 ただし聖杯とキーパーによって、超常的能力の封印および規範から逸脱した行為を抑制する暗示が掛けられています。
 各マスターと関わりのある人間の「平行世界上の同一人物」が存在する可能性もあります。
・ちなみに上記の市民に対する魂喰いを禁止するルールも罰則もありません。ただし、魂喰いを行うと正気度喪失が発生します。

【アーカムにおけるマスターの立ち位置について】
・各マスターは、アーカムにおいては基本的に「はじめからアーカム市民だった」という扱いになります。
 もちろん一時的に滞在しているだけなど、市民ではない立ち位置になる可能性もあります。
・公用語は英語ですが、読み書きや日常会話に不自由しない程度の言語能力はあらかじめ各マスターに与えられます。
 もっとも、文献を読み解く場合などはあらかじめ英語の知識があるほうが有利になることもあるかもしれません。


【各エリアについて】
・アーカムは大きく分けて9つのエリアに分けられています。
 それぞれの地区の解説は大まかなイメージなので、SSの都合で設定を修整しても構いません。
 また、地区のイメージに合わせた施設(参戦作品の原作施設含む)を追加することも許可します。
・なお、マップはクトゥルフTRPGサプリメント付属のアーカム地図を使用します。

ttp://i.imgur.com/usemDJT.jpg

《ノースサイド》
 オフィス街。アーカムにおける経済の中心地。
 大きな商社やマスコミ、高層ビルなどはこの地区に集中している。
 駅、ホテル、劇場、美術館などもあり、人が行き交う活気のある地区。

《ダウンタウン》
 行政の中心。市役所や警察署を始めとする公的機関はだいたいこの地区にある。
 大きな広場があり、一般的な住宅も多く、治安もいい。標準的な市民の街。

《イーストタウン》
 寂れた地区。かつては上流階級の人々が住んでいたらしいが今は見る影もない。
 大きい屋敷は多いがいずれも過去の栄光といったところである。
 南側には貧しい人々の住宅がこまごまと並び、総じて治安はあまり良くない。

《商業地区》
 ミスカトニック川の南に並ぶアーカム最大の商店街。
 アーカムの商店の75%があるとまで言われ、連日買い物客で賑わっている。
 川岸には船から積み荷を下ろすための倉庫群が並んでいる。

《リバータウン》
 移民街。外国系の住人が多い地区。
 質素な家が立ち並び、昔気質の職人などが多く住む。
 それなりに歴史のある建物が多く、アーカムの下町といった雰囲気がある。
 
《キャンパス》
 かの有名な『ミスカトニック大学』のキャンパス地区。
 立派な学舎、広くて清潔なグラウンド、世界最大級の蔵書を誇る大図書館など充実した施設が魅力。
 学生寮やアパート、下宿屋なども周辺に並ぶ。大学病院もここ。

《フレンチ・ヒル》
 高級邸宅地。アーカムで最も古い家系や、最も裕福な人達が住む。
 外国からの移住者である富裕層も多い。総じてお屋敷だらけのセレブな地区。
 とはいえ周辺には一般的な家もあり、ミスカトニック大学の学生が立ち寄るような店もある。

《アップタウン》
 住宅街。経済的に比較的余裕のある人が多く住み、警察のパトロールが多いので治安も良好。
 とはいえ中心から離れるほど徐々にグレードは下がっていく。

《ロウアー・サウスサイド》
 貧民街。アーカムで最も貧しい人々が住む。
 住宅環境は劣悪で、治安も全地区中最悪。看板も出ていないような怪しげな店も多い。
 少なくとも、日が落ちてから足を踏み入れるような場所ではない。

4 ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:33:30 ID:8pkJnobw0
テンプレは以上です。

新スレに移行しましたが、投下が前後のスレに跨っているのも読みづらいですので、最初から投下し直します。

5 昏濁の坩堝へと  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:34:21 ID:8pkJnobw0




『――昔と少しも変わらぬ伝説に取り憑かれた都市、アーカム。歪み、傾いだ腰折れ屋根が連なる街。

 旧き闇黒の植民地時代には、その狭い屋根裏に英国王の官吏の目を逃れた魔女共が隠れ潜んでいたという――』



                                   ―― H.P.ラヴクラフト「魔女の家の夢」より




                    ▼  ▼  ▼






ダウンタウンの警察署へとまっすぐ向かうはずの車が急にスピードを落としたので、後部座席のDr.ネクロは、おや、と顔を上げた。

アーカムという街が目を覚まし切らない早朝に、ロウアー・サウスサイドのスラム街を中心として発生した災厄。
『白髪の食屍鬼(グール)』という都市伝説を媒介とした「なにか」による犠牲者は、静かに、しかし着実に増え続けている。
現れた食屍鬼――正確にはそれを模した『タタリ』――を撃退することでこの異変に関わったネクロは、これから協力者と共に警察署へ向かうはずだった。
ネクロ本人としては不本意ながら、非常に不本意ながら、事件の重要参考人として連行されるという形で、だが。

「どうした、マスク君。ようやく私に対して正しい扱いをする気になったかな」

これ見よがしに掛けられっぱなしの手錠をガチャつかせ、運転席に座る青年を見やると、彼は手元の端末を神妙な顔で見つめていた。
いや、神妙な顔なのかも、本当に見つめているのかも、厳密に言えばネクロには分からない。
というのも、彼の目元は奇妙な仮面――蝶の両翅のように左右に広がった、四つ目の意匠を持つ視覚補助デバイス――によって覆われているからだ。
コードネームは『マスク』。
ネクロに言わせれば安直でひねりのない名を名乗る彼は、ここアーカムにおいてはFBI捜査官のロールを宛てがわれていた。
ひょんなことから協力関係になった二人だが、この数時間で、ネクロからマスクへの印象は概ね「めんどくさいヤツ」で固まりつつある。
もっとも、マスクもマスクでネクロに対しては似たような認識でいるかもしれないが。

「ん? どうしたんだ、手錠の鍵なら君の右胸のポケットだぞ」

「……ロウアー・サウスサイドの一件はしばらく市警の諸君に任せて、後回しにすべきかもしれんな」

「おーい、人の話を聞かない奴だな君は」

「話したいことしか話さん奴が言うことかよ。見ろ、ミスカトニック大のキャンパス内で学生の首吊りがあった」

マスクが差し出した携帯端末の画面を、後部座席から身を乗り出して覗き込む。
このスマートフォンとかいう端末は、馴染み深い1950年代――ネクロが本来暮らしているはずの時代――には存在しなかったものだ。
だからというわけでもないのだが、ネクロはこの最新鋭の情報機器ではなく、ロウアーの闇市場で転売されていた旧式の携帯を使っている。
辛うじて電話帳機能が付いているだけのオンボロだが、電話するだけなら不自由しないし、万が一番号を押さえられても足が着かないからだ。
とはいえ、使い方に詳しくないだけでスマートフォンの機能自体は十分理解している。単に使う気にならないだけだった。

画面に表示されているのは、アーカム・アドヴァタイザー紙のオンライン記事だ。
運転中のマスクが気付いたところを見るに、号外記事が載ると通知が来る仕組みになっているのだろうか。
アドヴァタイザーは競合紙のアーカム・ガゼットよりも攻撃的な話題を好む傾向にある新聞社だが、タブロイドめいたいい加減な記事を刷ったりはしない。
見出しに躍る"Miskatonic University Death"の文字列は随分と刺激的ではあるが、信憑性はそれなりに確かだと判断して読み進める。

そして。
最後まで目を通したところで、Dr.ネクロの、まだ幼い少女のものにしか見えないその整った眉が、僅かに動いた。
しかし声色を変えたりはせず、ネクロはなんてこともないように軽く返事をした。

「……これがどうした。こんな陰気くさい街じゃ、学生だって自殺したくもなるさ」

「陰気くさいのは同意の至りだが、それだけで足場のない木にぶら下がれるほど器用に死ねるものか?」

「おいおいマスク、まるで首吊りじゃなくて首縊りだって口振りだな。自殺と他殺じゃ大違いだぞ」

「大違いだからこそ、こうして車を止めて話している。サウスサイドの魔女には察してもらえるものと信じるが?」

6 昏濁の坩堝へと  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:34:42 ID:8pkJnobw0

ネクロはおどけた口調を引っ込めて、すっとその双眸を細めた。
たったそれだけで彼女の両目に宿る光は、飄々とした少女のものから、人の道に外れたる者――魔術師に特有の仄暗いそれへと変化した。
Dr.ネクロはロウアー・サウスサイドの闇医者だが、同時に百年を超える年月を生きた闇の住人でもある。
マスクが何をもって自分を試しているのかも理解しているし、それに対する答えも当然のように用意している。

「……1704年、グーディ・ファウラー。セイラム魔女裁判の影に怯えたアーカム市民によって弾劾され、木に吊るされる。
 彼女が本物の魔女だったかはさて置くとして、アーカムの裏に流れる影の歴史を知る者にとっては、首縊りは魔女狩りの隠喩だ」

「流石に詳しいな。侮った非礼は詫びねばならないか」

特に詫びているふうではないマスクの口調に腹を立てるでもなく、ネクロは「分かればいい」と鼻を鳴らした。

「だが随分と大胆な挑発だな。魔女狩り……今のアーカムで魔女狩りをやろうとは」

「狙いは聖杯戦争のマスターと見て間違いないな」

「その吊るされた学生が、実際にマスターの一人かは知らんがね。だが宣戦布告には違いあるまいさ」

ここまで大胆な行動をよくぞやったものだと感心したものか、それとも呆れたものか。
その両方だろうなとDr.ネクロは率直な評価を下した。
架空都市アーカムの中心たるミスカトニック大学の構内で起こったセンセーショナルな事件。
このニュースがアーカム全市を駆け巡るまでにほとんど時間はかからなかっただろう。
アーカムの暗部に関する知識を持つマスターならば魔女狩りのメッセージを読み取れるし、そうでなくても異常事件はそれだけで注意を惹きつける。
結果、多かれ少なかれ、聖杯戦争に関わる者達の目は首縊りの主犯者へと向けられることになるだろう。

「下手をすれば全てのサーヴァントを敵に回しかねないというのに、よくやるものだ」

「君は知らないだろうが、魔術師なんて連中は大概どこかしらネジが飛んでるものさ」

「それは自分自身も含めての評価と聞こえるなあ、ドクター?」

「さぁてね。だが本物の馬鹿でないとするなら、現実的に追求を捌き切る手段があるのかもしれん。
 それほどまでに強力なサーヴァントを従えているか、あるいは自分自身の実力に相当な自信があるか。
 もしくは、もともと不特定多数のマスターを引き寄せるのが目的で、あえて混戦を招こうとしているのかもな」

いずれにせよ、相応のリスクを伴うのは間違いない。
それをも織り込み済みの挑発行為ならば、なるほど犯人は大したタマだ。
サウスサイドの大破壊の黒幕を追うのも大事だが、新たな動きがあるまでは現状以上の情報を得るのは難しいだろう。
だからこそ、こちらの事件を先に調査する価値はある。それは確かに理解できた。

「だがマスク。大学の件はそれこそ市警の諸君に任せて、我々は後で情報だけいただくというわけにはいかないのか?」
「私がサウスサイドで自由に動けているからこそ、余計に縄張り争いに執心するのが田舎警察の習い性なのだ」
「お、おう。なるほど、そっちの理由か」

言われてみれば、FBIのエージェントはアーカムの警察組織においてはいわば外様のよそ者だ。
捜査体制が盤石になって情報を回してもらえなくなる前に、さっさと現場に上がり込んでおこうというわけか。
いつの時代も警察は面子というものを大事にするのだなあ、とネクロは妙なところで感心をした。

「故にだ。ドクターには私の助手働きとして、私の捜査の旗担ぎをしてもらうことになる」

「助手だぁ? 言っちゃ悪いがマスク、君は魔術に関して素人だろ。君が私の助手じゃないのか?」

「これでも相応の歩み寄りと敬意の証だと受け取ってもらいたいものだ」

例によって話を聞かず、胸ポケットから出した鍵を無造作に後部座席に放ったマスクに、ネクロは恨みがましい視線を送った。
手錠くらい、敬意があるなら自分で外してくれたっていいじゃあないか。



                    ▼  ▼  ▼

7 昏濁の坩堝へと  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:35:15 ID:8pkJnobw0

ミスカトニック大学応用化学部教授、プレシア・テスタロッサにとって、警察の捜査は茶番そのものだった。

大学の構内で首縊りにされた女学生の遺体を下ろし、何処かへ――恐らくは市警と提携を結んでいる大学内の附属病院へ――運び去ってからは、
警察官たちは飽きもせずに現場周辺で這いつくばって証拠を探し、学生や教授たちの証言を取り、署と何やら無線でやり取りする流れを繰り返している。
市の中核たるこの大学は独立自治の気風が強く、たとえ事件捜査とはいえ「よそ者」の警官たちが構内を荒らすのを快く思わない者も多い。
大学が機能を止めていない以上は市警もよそ者であり続けるほかなく、正義の執行者が肩身を狭くしてせこせこと歩き回る様は滑稽だった。

プレシアも犠牲者が所属していたゼミの担当教授として何度か聴取をされたが、一度もあくびをしなかったのは我ながら驚嘆に値すると思っていた。
警察は少女の死を不審に思いながらも完全に他殺に切り替えることも出来ず、その歯がゆさがプレシアへの接し方にも現れていた。
まるで腫れ物に触るような刑事の態度に辟易としながらも、プレシアは「気丈に振る舞いながら内心で教え子の早すぎる死を悔やむ教師」を演じ切った。
元々、警察側も他殺の線一本で操作しているわけではない以上、現状プレシアを重要な参考人とはしていないのだろう。
あるいはもっと現実的に、女の細腕で死体を吊るすのは不可能だと考えたのかもしれない。
うんざりするほどの時間を奪われはしたものの、結論から言えば、午前中のうちにプレシアは鬱陶しい「任意の捜査協力」から開放されたのだった。

来賓室を後にして、いつもながらの不機嫌な顔を今日は一層に険しくしながら、プレシアは新棟の廊下を足早に歩いていた。

(警察に聖杯戦争の関係者がいれば、これを機に仕掛けてくると思ったのだけれど。とんだ肩すかしだわ)

不機嫌の理由は、自分が僅かなりとも疑われたことではなく、思いのほか「疑われていない」ことにある。
プレシア・テスタロッサは、精神の均衡こそ保てているとは言い難いものの、しかし前後不覚の狂人ではない。
自分の行いがどのような結果を招くかを、その明晰な頭脳をもって推し量ることぐらいは容易い。

あからさまに他のマスターへのメッセージを含んだ変死体。
当然、アーカム中の視線がこちらに向くことになる。そんなことは当然、想定済みだ。
死んだ女学生は応用科学部のゼミ生だ。彼女の死を調べるのならば、どうやってもプレシアに接近せざるを得ない。
あえて我が身を渦中に巻き込むことによって、逆に近づく者の正体を暴き立てる。
そんなプレシアの目論見は、今のところ実を結んでいるとは言い難かった。

(警察はともかく、このミスカトニック大学の内部に聖杯戦争の関係者が潜り込んでいない、などということはあり得ない。
 ここはアーカムの中心であると同時に、この街の智識の集積点であり、魔術師にとって最大の要地だもの。
 パチュリー・ノーレッジに限らず、この大学の何処かには他のマスターがいるはずなのに……揺さぶりが足りなかったかしら)

事件を起こしてみれば即座に食いついてくると考えるのは、早計だっただろうか。
何も直接的な行動を起こさなくてもいい。僅かに嗅ぎ回る素振りを見せてくれるだけでも、狙いをもって観察すればその不審さを捉えられるもの。
そう思って、自らの目だけでなく魔術的手段を併用して学内を偵察しているのだが、今のところ尻尾を出す者はいない。
もしも本当に大学内に隠れ潜んでいるのなら、どうやら敵は相当したたかなようだ。
こちらも、手段を尽くし全力をもって事に当たる必要がある。

(……それにしても。本当に役に立たない英霊様だこと)

プレシアの苛立ちの矛先は、いつの間にか己のサーヴァント、ランサーへと向いていた。
彼女には、引き続き大学内での敵勢力の捜索と、奇襲を含めた威力偵察を命じてある。
にも関わらず、あの日本刀を振るうサムライのサーヴァント――恐らくクラスはセイバー――との一戦以来、全くの手がかりを拾えていない。
それにはランサーが一切の探索系スキルを有していないというのも理由としてあるはずだが、プレシアにとってそんなものは言い訳にもならない。
英霊とはいえ所詮はサーヴァントなど使い魔に過ぎないというのが、魔術師プレシア・テスタロッサの考えである。
使い魔ならば、主の命にはその存在意義を懸けてでも応えるのが従属物としての務めというものだろう。

8 昏濁の坩堝へと  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:35:49 ID:8pkJnobw0

つまるところ、自分はあの偉大なる英雄様に軽んじられているのだと、既にプレシアは結論付けている。
あの憎たらしいランサーは、令呪という絶対遵守の命令権によって、いやいや頭を垂れているに過ぎないに違いない。
なんて、屈辱。
死人ごときが一度世界を救った程度のことでつけ上がって、主人を見下し、あまつさえ口ごたえをするなんて。
もうプレシアの死んだ娘は、アリシア・テスタロッサは、あの愛らしい声を聴かせてはくれないのに。
何が英霊だ。何様のつもりで、さも当たり前のように蘇っているのだ。
誰がお前などに生き返ってくれと願った。
本当にこのプレシア・テスタロッサのしもべなら、今すぐそのまやかしの命を捧げてアリシアを連れ戻してみせろ――!


――どん、と鈍い衝撃があって、続いて何かが散らばる音が聞こえ、プレシアは思考への没入から引き戻された。


視線を落とせば、黒髪の少女が尻餅をついた姿勢のまま、散らばった本をかき集めていた。
どうやら考え事をしながら歩いていて、出会い頭に彼女とぶつかってしまったらしい。
常にデバイスを持ち歩いている以上、並の魔術師の不意討ち程度で不覚は取らないと自負しているが、流石に不注意が過ぎたようだ。
全てはあの忌々しいランサーに責があると内心で舌打ちをしながら、プレシアは眼前で本を拾うおどおどした少女を睥睨した。

「まったく。それだけの本を抱えて、人にぶつかればどうなるか想像できなかったのかしら?」
「あ……その……ご、ごめんなさい……」

見れば見るほど気弱そうな少女だ。
ゆったりとした服装の上からストールを羽織り、やけに長い前髪は半ばその瞳を覆っている。
本を山のように抱えているから、一瞬「図書館の魔女」ことパチュリー・ノーレッジかと思ったが、外見はまるで違っていた。

深夜に構内を歩いていたという情報から、刀剣のセイバーのマスターは例外的に時間外の図書館への立ち入りが許されている学生、
すなわち神秘学部の新星と名高いパチュリーである可能性が高いと推測したプレシアは、既に彼女に関する学内の資料には目を通している。
幸い彼女を取材した記事には写真が添えられていることが多く、一通り確認した今なら遠くから見かけても顔を見分けられる。
しかし何事にも無関心そうでありながら何処かふてぶてしさを感じさせるパチュリーと、目の前の少女はあまりに印象が違った。

顔立ちは東洋系。プレシアには中国人との見分けがつかないが、日本人だろうか。
もっとも東洋人は今のミスカトニック大学では珍しくない。学生だけでなく、確か何とかという民俗学の教授は日本人だったはずだ。
もうひとり、学内の名物である植物学部の芳乃さくら教授は、東洋系だとかどうとか以前の段階で目を引く容姿だが。
ともかく、東洋人であることがありふれた特徴となってしまうと、目の前の彼女はあまりにも特別な印象に乏しい。
つまるところ、どこにでもいる平凡なつまらない少女というのが、プレシアから彼女への第一印象だった。

プレシアは自分の講義に出席する学生の顔をいちいち覚えているほどマメでも人間好きでもないが、彼女の顔には見覚えがない。
恐らく応用化学部ではないだろうし、散らばった本がどれも小説や詩集であるのを見るに、そもそもプレシアとは無縁の人間だろう。

「あなた。学部と学年、それに名前は」

だからプレシアがそう尋ねたのは彼女に興味を持ったからではなく、腹立ち紛れの言い掛かりに過ぎない。
案の定というべきか、少女はびくりと震え、分かりやすいぐらいに狼狽した後、蚊の鳴くような声で答えを絞り出した。

「……文学部、一年……鷺沢文香、です……」

やはり日本人か。だからどうだということもないのだが。
既にプレシアは、どう見ても魔術師とは思えないこの少女、鷺沢文香から興味を失っていた。

「鷺沢文香、ね。つまらない不注意で貴重な私の時間を奪ったこと、文学部の担当教授にはきちんと報告しておくわ」

別にそんな報告などしてやる義理も意義もないのだが、文香は素直に信じたのか、しゅんと肩を落として項垂れた。
ああ、この反応。プレシアの嫌いなタイプの人間だ。
おとなしく抵抗しないでいれば、それだけで事が上手く運ぶとでも思っているのだろうか。
自らのサーヴァント、あるいは元の世界に残してきた愛娘の紛い物を思い出し、プレシアの眉間に皺が寄った。

9 昏濁の坩堝へと  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:36:24 ID:8pkJnobw0

「はぁ……もう結構よ。何処へなりとも行ってしまいなさい」

羽織っている白衣をこれ見よがしにはたいてから、プレシアはこれ以上文香に一瞥もくれることなく立ち去ろうとした。
足を止めたのは、背後から自分の名を呼ばれたような気がしたからだ。
最初は聞き間違いかと思ったが、振り返ると、文香の前髪の間から覗く瞳がまっすぐにプレシアを見つめていた。

「……あの、テスタロッサ教授……ひとつ、お聞きしたいことが……」

「まだ何か用? いえ、その前にどこで私の名前を? 私は貴女と接点など無いはずだけれど」

露骨に訝しがるプレシアに、文香は「図書館に置いてあった、大学の広報誌で……」と答えた。
なるほど、朧げな記憶がある。そういえば大昔にそんな取材を受けていたかもしれない。
プレシアがこのアーカムに辿り着くより前の時期に「あったことになっている」出来事だろうか。
自分が実際に取ったわけでもない行動が過去として存在するのは厄介だと思いながら、プレシアは不機嫌な視線だけで続きを促した。

「……はい……では……テスタロッサ教授は、パチュリー・ノーレッジという方を、ご存じですか……?」

何故ここでパチュリー・ノーレッジの名前が出てくるのだ。
などという疑問はおくびにも出さず、プレシアは「応用化学部の私がよその学生など知るわけがないでしょう」と切って捨てた。

「どうして私にそんな脈絡のない質問をしたのか、理解不能だわ」

「……すみません……テスタロッサ教授は、よく図書館を利用されているようですから……もしかしたらと思って……」

プレシアは舌打ちをした。
確かに図書館地下の稀覯書保管庫に魔導書が保管されているという噂を聞き、足繁く通い詰めていたのは確かだった。
しかし教授職にあるプレシアであっても禁書庫への入室は許されず、更には書庫自体に何らかの魔術的封印が為されており、無駄足に終わったのだ。
封印の突破自体はプレシアの魔術師としての智識と能力を総動員すれば可能かもしれないが、今はまだ大学内で騒ぎを起こすのは不味い。
そう思って機を伺うことにしていたのだが、こんな何でもない学生にも気に留められていたのか。
同僚はともかく学生になど一切興味のないプレシアは、恐らく顔を合わせたこともあっただろうパチュリーの顔も知らなかったというのに。

そこまで思いを巡らせてから、プレシアはようやく、目の前の少女が小刻みに震えていることに気がついた。

プレシアの高圧的な態度に怯えているのかと思ったが、もしもそうなら一刻も早く立ち去ろうとするはずだ。
たかが今の質問を投げかけるようなことが、鷺沢文香にとってはそんなにも勇気がいる、切実な行動だったのか。
言語化できない引っ掛かりを覚えながらも、プレシアはそれ以上何かを訊くこともなく、今度こそ立ち去った。

歩きながら、鷺沢文香の瞳がはっとするほど綺麗な青色をしていたのを思い出し、その美しさに一瞬惹きこまれていた自分に苛立った。



                    ▼  ▼  ▼


まだ耳鳴りがしているような気がする。

大学職員にキャンパス地区を案内されながら、マスクは今後のことに思いを巡らせていた。
アーカム市警への義理立てとして正規の手続きを踏んで捜査へと加わろうとしたのが、そもそもの間違いだったように思える。
おかげで署長直々の苦言を無駄に大音量で聞かされ、気勢を大いに削がれる羽目になってしまった。

10 昏濁の坩堝へと  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:37:16 ID:8pkJnobw0

『いいかね、ミスター・マスク! 我々アーカム市警が君の自由を許しているのは、捜査局本部のクンパ長官の肝煎りだからだ!
 君が気ままにロウアーのスラムをうろつけるのも我々の厚意あってこそのものだということを、君には今一度自覚してもらいたいものだね!
 確かに君が我々の仕事に少なからず貢献していることは認めよう! まああの程度のチンピラならうちの優秀な署員でもしょっぴけるがね!
 しかし! いいかねマスク、しかしだ! 自由といってもリバティとフリーダムは違うし、ワシントンD.C.とマサチューセッツも違う!
 ここはアーカムだ、我々の庭であり我々の故郷だ! 君のような外部の人間に頼らんでも、アーカム市警はこの難事件を解決してみせる!
 今に見ていたまえ、わがアーカム警察署が誇る敏腕捜査官『亜門 鋼太朗』が君より先に成果を上げると約束しよう!
 君は知らんだろうが、コウタロウとは日本の言葉で“鋼の男”という意味らしいぞ! ちなみに私も最近まで知らなかった!
 ともかく、亜門君はその名の通りの鋼の信念で必ずや真実に辿り着くだろう! 首を洗って待っていたまえミスター・マスク!
 では私はこのあたりで失礼するよ! この後はアップルフィールド氏とのアポがあるのでな! HAHAHAHAHAHAHAHA!!』


いい歳した大人が何をムキになっているんだと溜息もつきたくなるというものだ。
そのアモン・コウタロウなる男が何者かは知らないが、せいぜい自分の捜査の邪魔だけはしないでもらいたい。
それにしても、連邦捜査官という立場も思いのほか制約が多いものだ。
何しろ今回の事件について正式な令状を貰っているわけではないので、こうして大学に入るだけでも一苦労である。
というか、こうして職員に案内されるという形で大学内に入れたのは、結局のところマスクの実力ではなく……。

「それにしても驚きました、まさかあの高名なネクロ博士がミスカトニックの客員として赴任されるなんて」
「うむ、ここの大図書館の蔵書は世界有数だからな。前々からお招きに与ろうと思っていたのだ」
「………………」
「ところで博士、助手のマスクさんは顔色が良くないですが、お体の具合でも悪いのでしょうか?」
「ああ、気にするな。彼は面倒な言い回しをやめると死んでしまう病気なんだ」
「そうなのですか、おかわいそうに」
「………………」

いつの間にか、Dr.ネクロはミスカトニック大学に赴任した客員教授で、マスクはその助手ということになっている。
マスク達を出迎えた女性職員はそれを完全に信じ込んでいるようで、ネクロはそれをいいことに随分と好き勝手なことを話していた。
ロングコートの襟を立てて得意気に歩くネクロの耳元へ、マスクは体を屈めて顔を寄せた。

「おい、ドクター」
「どうした、助手くん。持病の具合はいいのか」
「それ以上言うならいよいよお前をインスマスの海底に沈めてやらねばならん」
「冗談だよ、短気な奴だな。それで?」
「それでじゃない。いったいどんな手を使ったんだ」

仮面の下で眉を顰めるマスクに、ネクロは特に大したことでもないように「暗示魔術だ」と答えた。

「暗示だと?」
「ああ。魔術としては比較的初歩だ。強い働きかけをもって、相手に自分の存在を斯くあるものと刷り込ませる。
 今の彼女には、私は子供の姿にすら見えていないだろう。こう見えて、幻覚を見せる魔術は得意なほうでね」
「摩訶不思議なる手を使ったか。この先出会う全員にそうやって暗示を掛けていくつもりか?」
「まさか。そこまで大々的に魔術を広めれば逆に怪しまれる。ここからは舌先三寸さ」

ネクロが、首から下げている「客員研究員(仮)」と書かれた小さなプレートをちらつかせてみせた。
今さっき窓口で貰った、名前も顔写真もない仮置きの証明証だが、ひとまず構内を歩き回るには問題無いだろう。
マスクも同じものを(ただし助研究員というひとつランクの低いものを)貰ってはいる。
だがこんなものでは見咎められた時の言い訳には弱く、警察関係者や証人相手には連邦捜査局の身分証の方が役立つだろう。
あるいは、マスクの持つもうひとつの証明証――アーカム市内における拳銃携帯許可のライセンス――が。

(いずれにせよ、この大学は必ず聖杯戦争と関係を持つ。私とクンタラの千年の願いに懸けて、成し遂げねばなるまい)

11 昏濁の坩堝へと  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:38:06 ID:8pkJnobw0

マスクの悲願は、かつて宇宙世紀末期に食糧不足のため食用に供された人々――そしてマスクことルイン・リーの祖先――クンタラの開放である。
それを為すのが聖杯である以上は、目の前を歩く魔術師Dr.ネクロもいずれは決着をつけるべき敵となるだろう。
彼女の宿願が何かは知らないし、訊いても教えてはくれないだろうが、決して聖杯を諦めたりはしないという確信はある。
それに、今でこそ冗談めいた台詞を飛ばしてくるが、いざとなれば自分の事も冷徹に始末しようとするのが魔術師だと、マスクは理解しつつあった。
口にこそ出さないが、彼女が血も涙もない人間だとまでは思ってはいない。
思ってはいないが、魔術師の倫理とは、兵士のそれとすら一線を引いたところにあるようにマスクには思えてならない。
そして、もしもこのミスカトニック大学で糸を手繰っているのが、そういう手合いの魔術師ならば――。

(こちらもモビルスーツで顔を隠した人間しか殺せないなどと、甘えたことは言うものか)

仮面越しの視界が、光学センサーでは捉えられないはずの穢れた魔力で烟っているように思えて、マスクはかぶりを振ってから歩みを進めた。



                    ▼  ▼  ▼



ミスカトニック大学の地下書庫には、封印された稀覯書だけが集められた禁書庫が存在する。

この世の理を外れた書、この宇宙の触れてはならぬ深淵へ言及した書、目を通すだけで不定の狂気に取り憑かれる禁断の書。
かつて、大学図書館の長であったヘンリー・アーミティッジ博士により「ダニッチ村で起こった何か」以降に作られたこのコレクションは、
世界各地から掻き集められたいわゆる魔導書――黒の書として知られるカルト儀式の見聞、南極の古代文明について記された書、
人類出現以前に認められたという最古の写本、屍体崇拝教団のおぞましき目録、中東地域の異端信仰について述べた書物、
そして狂えるアラブ人アブドゥル・アル=ハズラッドによってこの世に送り出されたかの悪名高き“死霊秘本”――のみならず、
かつては非オカルト的な書物として出版されたにも関わらず、後に禁断の智識や放置できない怪異を秘めているとして大学が収集した書を含む。
例えば、ジェームズ・ジョージ・フレイザーの『金枝篇』。
あるいは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの『アウトサイダー及びその他の恐怖』。
最近のものでは、日本の作家である大迫栄一郎の『現代都市伝説考』が新たにリストに加わったと噂されている。
いずれにせよ、このコレクションは魔術に携わる者にとっては公然の秘密ではあるものの、魔術的処置により厳重な封印が為されており、
正規の手続きによっての閲覧は不可能とまでは言わないものの、非常に困難であることは間違いなかった。
現在アーカムで執り行われている魔術儀式、聖杯戦争。
その関係者の中には、ここにこそ聖杯や英霊の秘密が記された書が存在すると推測する者もいるが、入室を果たした者は未だにいない。


聖杯戦争の参加者として三画の令呪を戴くマスター、鷺沢文香は、その詳細な事実を知っているわけではない。
それでも大学図書館にアーカムの叡智が結集していることは理解していたし、元の世界へ帰る手掛かりがあるとすれば、まずここだろうと思っていた。
そして同じ学生でありながらも図書館の魔女と噂されるというパチュリー・ノーレッジならば、文香の迷いにも応えてくれるのではないか。
そう思って、以前図書館で見かけたことのある応用化学部の教授に意を決して話しかけたものの、すげなく切り捨てられ。
消沈して図書館へ実際に足を運んでみると、パチュリーは今日に限ってまだ図書館へ足を運んでいないという。
自分のなけなしの決意がことごとく空回っているように思えて、文香の長い前髪が落とす影は一層深くなった。

(そもそも……誰かに頼ろうというのが、間違いなのでしょうか……)

文香は聖杯になど興味はない。ただ自分が暮らしていたはずの世界に帰りたいだけだ。
たったそれだけのことなのに、ひとりぼっちの文香は地図もコンパスもなく荒野へ放り出されたようなもので、途方に暮れる以外に何も出来ない。
いや、本当はひとりぼっちではない。それは、分かってはいるのだが。

(……アーチャーさんは、私が話しかければ答えてくれる。だけど、言葉にしない問いに、答えをくれたりはしない。
 私から歩み寄らない限り、ずっと今のような、近くて遠い距離……。でも、その一歩が、私にはあまりにも……)

12 昏濁の坩堝へと  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:38:55 ID:8pkJnobw0

文香と契約した双銃のアーチャーは、その武器そのものが象徴するかのような、抜き身の銃のような男だ。
マスターである文香が願えばどんな敵とも戦い、あらゆる障害を排除しようとしてくれるだろう。
決して口数の多い男ではないが、彼なりの誠実さで文香の事情を慮ってくれているのは伝わってきていた。
それでも、怖いのだ。何故なら、彼は銃だから。
銃である以上は、銃爪に指を掛けるのも、決意をもって弾丸を撃ち出すのも、その持ち主であるマスターの役目だ。
アーチャーにとっての決断は、完全に文香へと委ねられている。
それが、文香にとってはたまらなく怖い。

(アイドルになった時は、プロデューサーさんが手を引いてくれた……でも、今の私のそばには、あの人はいなくて……。
 私の物語を読み進めるには、私自身がページを捲らなければならないのに……誰でもない、私が……自分で……っ)

自分の体がぶるぶると震えていることに気付き、文香は自分の両肩を抱いた。
それでも涙だけは――その一線だけは越えないようにと、悲鳴を上げそうな心を押し留める。
一度泣いてしまったら、もう立ち上がれなくなってしまう。そうしたら、もうあの輝くステージには手が届かない。
十二時までのシンデレラの魔法を、まだ解いてしまうわけにはいかないから。



                    ▼  ▼  ▼



それぞれの思惑をもって、マスター達は次々と舞台へと上がる。
そして彼らの従者たるサーヴァント達も、また、次々と。


プレシア・テスタロッサのサーヴァント、沈黙のランサー。
“破滅の使者”セーラーサターンは、学舎の屋上からキャンパスを見下ろしていた。
その胸に抱くのは悲愴な献身と、健気な覚悟。
どんなに主から虐げられようとも彼女の悲願は叶えてみせる。
それが献身の英雄としての矜持であり、父の愛によって生かされた娘としての想いだから。


マスクことルイン・リーのサーヴァント、刻印のアサシン。
“傷の男”スカーは、主の傍で一言も発することなく警戒を続けていた。
彼は暗殺者であり、復讐鬼である。その力の源泉は、今は怒りであり嘆きである。
現界にあたって欠落した何かを自覚することなく、ただ激情のままにその牙を研ぐ。
新たなる決意も、託された願いも知らぬ。今はただ、血をイシュヴァールへと捧げるために。


Dr.ネクロことデボネア・ヴァイオレットのサーヴァント、異貌のバーサーカー。
“マスクド・ライダー”風祭真は、その超感覚をもって敵を探し続けていた。
狂化によって薄められた知性。混濁する意識の中、求めるのは獣性を叩き付けられる存在だけだ。
だが、暴走する本能のままに敵を引き裂き食い千切って、その先は。
分かるわけがない。あの序章(プロローグ)の続きを知る者など、彼以外に一人としていないのだから。


鷺沢文香のサーヴァント、双銃のアーチャー。
“反逆者”ジョン・プレストンは、何も語らず、ただ無心にそこにいた。
その冷徹な鉄面皮の裏側に、鋭敏すぎる感受性を隠したまま。
遥か未来の英霊である彼に与えられた神秘は乏しく、立ち向かうべき敵はあまりにも強大。
だが男に動揺はない。ガン=カタとは人類史の窮極。人が人として積み重ねた全てをもって戦うのみ。


そして、ミスカトニック大学に潜む、他なるサーヴァント達。
威風堂々たる剣劇のセイバー、あるいは真理を嘯く幻実のアサシン。
戦端は今やそこら中にあった。後はそれが開かれるか、開かれないかの違いである。

秘匿者(キーパー)の宣言により開幕した聖杯戦争、その一日目。
魔導が混沌を呼び、ミスカトニックのキャンパスに腥い瘴気が集いつつあった。

13 昏濁の坩堝へと  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:39:59 ID:8pkJnobw0
【キャンパス・ミスカトニック大学構内/一日目 午前】

【プレシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは THE MOVIE 1ST】
[状態]健康
[精神]精神汚染:E
[令呪]残り三画
[装備]ミッドチルダ式ストレージデバイス
[道具]大学教授としての衣服および所持品
[所持金]豊富
[思考・状況]
基本行動方針:ミスカトニック大学に潜むマスターを燻り出し、殺す。
1.深夜の施設利用を許されているパチュリー・ノーレッジをマスター候補として警戒。
2.それ以外にも「罠」に反応する大学関係者がいないか観察する。
3.セーラーサターンに対して強い不信感。
[備考]


【ランサー(セーラーサターン)@美少女戦士セーラームーンS】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]『沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)』
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターへの献身。
1.プレシアの願いを叶えるために尽力する。
2.マスターの信頼を得たい。
[備考]






【鷺沢文香@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態] 健康
[精神] 恐怖
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] 本
[所持金] 普通の大学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に帰りたい
1.プロデューサーさん……
2.パチュリー・ノーレッジに会ってみたい
[備考]


【アーチャー(ジョン・プレストン)@リベリオン】
[状態] 健康
[精神] 正常
[装備] クラリックガン
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守る。
1.マスターを守る。
[備考]
※今のところ文香の方針に自ら干渉するつもりはありません。

14 昏濁の坩堝へと  ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:40:20 ID:8pkJnobw0
【マスク@ガンダム Gのレコンギスタ】
[状態]健康
[精神]一時的ショックから回復
[令呪]残り3画
[装備]マスク、自動拳銃
[道具]FBIの身分証
[所持金]余裕はある
[思考・状況]
基本行動方針:捜査官として情報を収集する。
1.ミスカトニック大学内で首縊り事件に関する情報を集める。
2.白髪の食屍鬼を操るサーヴァント(ワラキアの夜)を警戒。
[備考]
※拳銃のライセンスを所持しています。


【アサシン(傷の男(スカー))@鋼の錬金術師】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:基本的にはマスクに従う。
1.Dr.ネクロを警戒しつつ、マスクを護衛する。
[備考]
※盾の英霊(リーズバイフェ)およびそのマスター(亜門)と白髪の食屍鬼の戦闘を目視しています。
 どれだけ詳細に把握しているのかは後続に委ねます。



【Dr.ネクロ(デボネア・ヴァイオレット)@KEYMAN -THE HAND OF JUDGMENT-】
[状態]健康、魔力消費(小)
[精神]正常
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]魔術の各種媒介
[所持金]そこそこ
[思考・状況]
基本行動方針:他のマスターと協力しながらしばらくは様子見。
1.ミスカトニック大学内で首縊り事件に関する情報を集める。
2.せっかく大学内に入れたのだから、図書館にも寄ってみたい。
3.白髪の食屍鬼を操るサーヴァント(ワラキアの夜)を警戒。
[備考]
※盾の英霊(リーズバイフェ)およびそのマスター(亜門)と白髪の食屍鬼の戦闘、
 また白髪の食屍鬼同士(金木とヤモリ)の戦闘を把握しています。
 しかしどちらも仔細に観察していたわけではありません。


【バーサーカー(仮面ライダーシン)@真・仮面ライダー序章】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???
[備考]

15 ◆q4eJ67HsvU :2016/04/24(日) 23:40:38 ID:8pkJnobw0
投下終了です。

16 名無しさん :2016/04/25(月) 21:15:37 ID:MGA35PFg0
投下乙です。
あわあわわわわ……大学の中がヤバイことに……
関係者だけで臨界状態だったのがマスク&ネクロまで集中しちゃうか……
いやぁそれにしてもプレシアおばさん、普通にいそうな嫌な教授で笑う。
因縁つけられた文香の明日はどっちだ。

17 名無しさん :2016/04/27(水) 00:06:03 ID:09/JiKFo0
投下乙です
ミスカトニックに集合だードコドコ
今のところはあまり身バレした陣営ないけれど、常時プレシアの監視下にあるとなるとコワイ
最後、各鯖に二つ名もついてきて感慨深かったです

18 名無しさん :2016/04/27(水) 00:36:28 ID:8gZ0bKPQ0
投下乙です。
キャンパスが振ったニトロのようになりつつあるな・・・・・・

そういえばキャンパス地区にはナイ神父がいましたね。

19 名無しさん :2016/04/27(水) 01:39:16 ID:LHGiGK1o0
投下乙です!
己のサーヴァントやか弱い女学生はおろかアーカム全土にまで中指立てていくスタイルの虐待おばさんの実家のような安心感
大学が一触即発ムードに包まれる中でのマスク&ネクロのクレバーながらも軽妙なやりとりは清涼剤ですね
ラストの各陣営サーヴァント達の、数行に濃縮された生き様の描写が燃える

20 名無しさん :2016/04/28(木) 00:50:43 ID:a8WEyzvw0
アルフォンス・エルリック&リナ・インバース予約します。

21 ◆HQRzDweJVY :2016/04/28(木) 01:03:57 ID:a8WEyzvw0
おっとトリップを忘れていました。
申し訳ありませんでした。

22 ◆HQRzDweJVY :2016/05/08(日) 23:53:45 ID:DicIYwDE0
投下します。
ちょっと確認しながら投下するので多少時間がかかると思われますのでご容赦ください。

23 CrazyBotch  ◆HQRzDweJVY :2016/05/09(月) 00:02:33 ID:.DTn/S.Q0




きんいろのらいおんさん


おひめさまをねらってた


やりをもったきしも


ぼうとくてきなちからでねじふせた


ひとりになったおひめさま


あわれにむしゃむしゃたべられた



  ■  ■  ■



商業地区の一角にとある古ぼけた飲食店があった。
いわゆる"ダイナー"と呼ばれる形式の大衆食堂であり、
現在様々な地域にある24時間営業のファミリーレストランの元になったような店構えをしている。

その店内の奥まった場所にあるボックス席に二人の姿はあった。
一人は金髪の少年。13歳にしてミスカトニック大学に籍をおくアルフォンス・エルリック。
そしてもう一人は彼の従者(サーヴァント)。魔術師(キャスター)、リナ・インバースだ。
今現在リナは先程までつけていた魔術師めいたショルダーアーマーやマントを取り払い、
二人の姿は早めの昼食を取る年若いカップルにも見える。
だがそんな彼らには店内中の視線が集中している。

正確に言えば二人にではない。
二人の間にあるテーブル、更に正確に言えばそこにのった大量の料理に、である。

24 CrazyBotch  ◆HQRzDweJVY :2016/05/09(月) 00:10:51 ID:.DTn/S.Q0


ただでさえアメリカンサイズの料理が机狭しと並べられている。
だが男性4人がやっとのことで平らげる量は、次々とリナの胃袋の中へ消えていく。

「んー……大味だけど味自体は悪く無いわね」

ここに来るまでに食事をしているというのに、その小さな体のどこにそれだけの量が入るのか。
サーヴァントだから物理法則を無視して入るのだろうか。
いや、多分英霊になる前からこんな人だったに違いない。
そう思わせるほどに慣れていた。

「うーん、食べた食べた。ごちそうさまでした!」

満足そうに一息つくリナ。
そんな彼女に対しにアルフォンスは気になっていることを問いかけた。

「ところでリナさん、今更なんですけど堂々と姿を表して大丈夫なんですか?」

出発前に話した対魔力を持つサーヴァントに襲撃されると危険なのではないだろうか。
そんなアルの疑問にリナは『何を当たり前のことを』と言いたげな表情で答える。

「仕方ないでしょ。実体化しないと味覚が働かないんだから」
「ええー……」
「……っていうのは半分冗談よ。ちゃんと考えぐらいあるわよ」

『半分は本気だったんだ……』と呆れ半分の視線を無視して、リナはピッと人差し指を立てる。

「まずこの状況で最も警戒すべきはアーチャーによる長距離狙撃とアサシンによる襲撃……つまりは暗殺ね。
 でもこの店の構造上、奥の方にあるこの席は狙撃がしにくい場所にある。
 それに暗殺するにしてもあたしならもっといい時間と場所を狙うわ」

ただ標的だけを消せばいいならば話は別だが、この場所で起こっているのは聖杯戦争という名のバトルロイヤルなのだ。
獲物を殺した次の瞬間に自分自身が獲物になってしまっては元も子もない。

「ちなみに宝具に関しては"なんでもあり"だから警戒するだけ無駄よ。
 それはもう背負うべきリスクとして割りきりなさい。警戒しすぎたら何も行動できないわ」

25 CrazyBotch  ◆HQRzDweJVY :2016/05/09(月) 00:15:44 ID:.DTn/S.Q0
遠回しに"諦めろ"というようなリナの言葉。
一方で自分のマスターを安心させるように自信満々な笑みを浮かべている。

「ま、安心しなさい。
 狙撃手にも暗殺者にも狙われたことは一度や二度じゃないから、よっぽど特殊なタイプでない限り逃げることはできるわ」

その言葉には経験に裏打ちされた自信が見え隠れしている。
どれだけの修羅場をくぐってきたのだろう。
人生経験の薄いアルには想像もできなかった。

「あともう一つは実体化したあたしがどれぐらいの影響があるか確かめたかったっていうのもあるんだけど……」
「影響……ですか?」

リナの言葉の意味が理解できず、アルは小首を傾げた。

「言ったでしょ。あのギャングの怯え方が尋常じゃなかったって」

最初に襲撃したギャングのことを思い出す。
喚き、叫び、まるで親を見失った子供のように泣き叫ぶ男たち。
確かに怯え方が異常だった。

「最初にあたしを目撃した時は威勢がよかったんだけど、どうも魔法を見た途端にああなっちゃったっぽいのよね」
「それは……いきなり火の玉とか見たらビックリするんじゃないでしょうか」
「一般人ならわからないでもないけど、あいつだって三下とはいえ悪党よ。
 あんないきなりパニック状態に陥るなんていくらなんでも不自然よ」
「……そういうものですか」

アルは動く鎧(リビングアーマー)として兄と旅した間の記憶が無い。
故に伝聞でしか世界を知らない。
そしてそのことを自覚している。
だからこそ世界を旅してきたリナの言葉に素直に頷いた。

「ええ、そういうものよ。
 ……で、予想通りといえば予想通りなんだけど、普通に実体化してるぐらいだと影響はないみたいね。
 となると魔術を目撃するとあのギャングどもみたいになる、って考えるのが自然ね」
「うーん……それだとなんで僕は大丈夫だったんでしょう」
「あたしとパスがつながってるから……ってのが一番可能性としては高いでしょうね。
 自分の毒で死ぬ毒蛇がいないのと同じことよ」

となると他人の魔術を見た瞬間、自分もああなってしまう可能性があるということか。

26 CrazyBotch  ◆HQRzDweJVY :2016/05/09(月) 00:22:06 ID:.DTn/S.Q0
「ま、そのあたりは宝具同様心配しても仕方がないことね。
 今のところは覚悟しときなさいとしか言えないわ。
 ……それで、さっきお願いしてたものは書いてくれた?」
「あ、はい。思いつく限りはここに書きましたけど……」

そう言ってアルはメモ帳を差し出す。
そこにはマメそうな筆跡でずらっと、ミスカトニック大学で教鞭をとる個性的な人物が列記されている。
つい先程、当面の調査対象を大学教授陣に定めたものの、該当者は山のようにいる。
そこでとりあえず絞るためにもアルが知る学内の有名人をリストアップしたのだ。

「ハーバード・ウェストの再来と呼ばれるリー先生、ロボット工学のエキスパートであるティモシー・ウェインライト教授、
 核物理学の権威であるラトホテップ博士に民俗学のタモン・タケウチ……そのほかにも結構いるわね」
「元々何かに極めて秀でた人って変人が多いですからね……」
「……まぁ一理あるわね。のーみそがスライムの天才剣士ってやつもいるし」

どうもその系統の天才に心あたりがあるらしい。
アルにしてみれば目の前の存在もそれに近いのだが、それを口にすれば碌な事にならないことは確かなので口を閉じている。

「あれ、そういえばあのちみっこは?」
「ちみっこって……芳乃教授ですか? うーんそれほど怪しいとは思えないんですけど……。
 変わり者ってわけじゃないですし、親しみやすい人ですよ」
「いや、怪しい事この上ないと思うんだけど……」

呆れたようなリナの視線を受け、彼女も加えるべきだろうかとアルが考えたその時だった。
ポケットの中から響く振動。
どうやら誰からかメールが届いたらしい。
慣れた手つきでスマートフォンを取り出し、メールの文面を見たアルの表情が驚きに変わる。

「どうかしたの?」
「大学の友人からです。
 "今、大学にはこないほうがいいかもしれない"、と」
「どーゆーこと?」
「ええと……こういうことらしいです」

液晶の上で指を滑らせ、表示されたサイトをリナに向ける。
その小さな画面に映しだされていたのはアーカムの地方紙の電子版。
その中央にでかでかと"Miskatonic University Death"というショッキングな見出し文が映し出されている。

27 CrazyBotch  ◆HQRzDweJVY :2016/05/09(月) 00:23:45 ID:.DTn/S.Q0
この事件により、受ける予定だった講義が休講になっただけでなく、
アルの友人も長時間事情聴取に付き合わされたらしい。
実際、死体が吊るされていた桜の木とアルの所属する機械工学科は目と鼻の先だ。
今学校に行けばアルも似たような目に合うだろうことは想像に難くない。

「……嫌な感じね」

記事を読み終わったリナがポツリと呟く。
その視線はスマートフォンに固定されたままだ。

「嫌な感じって……魔術的な何かを感じるってことですか?」
「流石にあたしでも電波越しに魔力を感じるとかそんな真似はできないわよ。
 ただ……これ、どーみてもあたし達――マスターとサーヴァントに対する挑発でしょ」

被害者は桜の木に吊るされていた。
首をくくられた死体。それはアーカムでは別の意味を持つ。

魔女狩り、そして首括りの丘。
アーカムに伝わる陰鬱なる歴史。
この街に住む人間ならば、そのことを思い出さずにはいられない。
ましてやそれが魔女――"魔"に係る聖杯戦争のマスターならば。

「その被害者の子がマスターかどうかはわからないけど、学内にマスターが居るのは確実みたいね。
 ただこれだけ全方面にケンカ売ってるってことは、今頃は大学に血気盛んな奴が押し寄せてるでしょうね……
 ああもう、こっちの予定ぐちゃぐちゃじゃない!」

元々アルたちは大学に行って各マスターやサーヴァントの情報を探る予定だった。
だが今大学には次々とサーヴァントたちが集まっている。
万が一、三騎士にでもこちらの正体がバレでもすれば、手も足も出ないまま撃破されてしまう可能性がある。

「僕達も向かうべきだと思いますか?」
「乱戦になれば切り札――神滅斬(ラグナブレード)を当てるチャンスは格段に増えるでしょうけど……
 こっちの情報も少なからず割れてしまうことは覚悟しないといけないわ。
 そうなるとこの序盤で今後の動きが制限されてしまう。
 ハイリスク・ハイリターン……個人的にはリスク多めって感じね」

『あんまりオススメはできないわ』と付け加えるリナ。
しかし真剣な眼差しでアルを真正面から見つめる。

「……とはいえ最終決定権はマスターであるあんたにあるわ。
 これに限ってはどっちが正解――なんて話じゃないから好きに決めちゃって」

28 CrazyBotch  ◆HQRzDweJVY :2016/05/09(月) 00:27:32 ID:.DTn/S.Q0
そう言われても頭の中は一気に増えた情報でごちゃごちゃしている。
とりあえず頭の中をリセットさせようとアルがコーヒーを口にした瞬間、

「――だからその子がロウワー・サウスサイドで"さまよう鎧"を見たんだって!」

隣の席から聞こえてきた女性の声にむせ返る。
衝立で姿は見えないが、どうやら隣のテーブルで誰かが話をしているらしい。

「ままままた、ボクを驚かそうたってそうはいきませんからね!」
「あー、でもYogTube(ヨグチューブ)に動画も上がってるんだって。せっかくだし見る?」
「どーせトリックですよ! ボ、ボクより歳上なんだからそういうのはそろそろ卒業したらどうですか!?」

上ずるような少女の声に我に返ったアルは事態を把握する。
どうやら自分がとった行動が噂になってしまっているようだ。
それも一種の都市伝説として。
しかしまさか動画まで上がっていたとは……。
一方で、対面のリナはにやにやとした笑みをアルに向けている。
どうやらアルが都市伝説となったのが面白いらしい。

「でもその噂ならウチも聞いたことありますえ?
 確か……"悪逆非道の悪魔をつれている騎士の亡霊"って話でっしゃろ?」

が、続いた言葉にリナの笑顔が凍りつく。

「なんでも出会ったら最後、口から地獄の炎を吐いて、生きたまま焼き殺されてしまうそうどす。
 更にはあまりに残虐なその光景を目にしたものは恐怖のあまり発狂してしまうそうどすえ。
 物騒すぎて凶暴すぎて黒い仔山羊もまたいで通るとか……」
「へー、その話は初めて聞いたかも。ん……? 冷房が効きすぎてない、この店?」

真正面に座るリナは表情こそ笑顔だが青筋を立てている。
あと少しでもリミットを超えたら見ず知らずの彼女らのもとに乗り込みそうな雰囲気さえある。

「まぁ、でもそんなお話、この街ではそう珍しいことでもないどすえ?
 【幻の地下鉄道】とか【発狂した漁師】とか、お祖母様からいくらでも聞いたことありますし。
 最近だと【軍の秘密ステルス機がUFOを撃墜した】とか、【白髪の屍食鬼】とか、【地下から聞こえてくる男の叫び声】とか……」
「あ、それなら私最近面白い噂聞いたよ! "空飛ぶ金色のライオン"の噂!」
「そ、それは怖くなさそう……じゃなくて、ボクは優しいですからね! 話ぐらい聞いてあげますよ!」
「うん、なんでもビルぐらい大きい巨大なライオンで、目撃した人を頭からバリバリ食べちゃうんだって」
「……」

意外と残酷なオチに絶句する気配が伝わってくる。

29 CrazyBotch  ◆HQRzDweJVY :2016/05/09(月) 00:31:31 ID:.DTn/S.Q0

「……あ、あれー、そろそろバスの時間みたいですね! 食べ終わったし早く行かないと!
 ほ、ほら二人とも急いでくださいよ!」
「ちょ、ちょっと待ってってば! まだあたしコーヒー飲み終わって――」
「もう一本あとでも間に合うからそんなに急がんでもええのに……」

ドタバタという足音とともに、少女たちの声が遠くなっていく。
再び沈黙の落ちるテーブル。
恐る恐るリナの様子をうかがう。
だが視線の先のリナはアルの予想とは違い、真剣な表情で何かを考え込んいた。

「……何か妙じゃない?」
「妙、ですか?」
「ええ。いくらなんでも噂が多すぎるでしょ」
「うーん……そうですか? "インターネット"があるこの世界なら不思議じゃないと思うんですけど……」

リナもアルも元々は個人が自由にできる情報通信網のない世界の出身だ。
故にインターネットに対しては聖杯を介しての知識しか持たない。
だが聖杯によって与えられた知識はあくまで知識だ。
そこに実感はなく、その間には奇妙な齟齬がある。
だからこそ"そういうこともあるのではないか"と思っていたのだが……

「だとしても、よ。
 通信技術が発達しても、それを使ってる人間はどの世界でもあまり違いがないわ。
 ……そもそも噂っていうのはあんまり同時並行的に流行らないのよ。
 噂となる火種が多い場合、短いスパンでどんどん切り替わるってほうがありえるわ。
 それにさっきの話にでてきたのはあくまで一部分でしょう?
 ちょっとそのインターネットってやつで調べてみてくれる?」

言われるまま、適当なキーワードで検索をかける。
すると胡乱なサイトや掲示板がいくつも引っかかた。
SNSサイトであるHastturでも同様だった。
先ほどの会話の中に出てきたものもあれば、そうでないものも両手の指で数えられないほどある。
確かにこれは一つの街にはびこる噂の量としては多すぎる。
しかもそれはここ数日で異常なほどに増えている……なんとなくだがアルにはそう感じられた。

30 CrazyBotch  ◆HQRzDweJVY :2016/05/09(月) 00:36:46 ID:.DTn/S.Q0
「あたしとしては、"何か"がいるんじゃないかと思うんだけどね。
 噂を流通させる"何か"、が」

ネズミや虫が疫病を媒介するように。
噂話のパンデミックを引き起こしている存在がいる?
それは、ただの人の手に余る行為だ。

「……サーヴァント、ってことですか?」
「ええ、断言はできないけど確率は高いと思う」
「うーんだとしたら一体何のためにそんな真似を……?」
「噂話を流すことで有利になる"何か"がある……
 一番考えられるのは知名度によってステータスをアップさせることだけど、
 噂程度でどれだけ力になるかわからないし、何より単純な愉快犯である可能性も捨てられないのよね……
 "人格が破綻した英雄"なんてどの世界にもいるもんだし」

それに、と付け足す。

「噂そのものがあたし達と無関係とも言い切れないしね」
「それって……」
「そう。多くの噂話ってのは元となる原型(アーキタイプ)があるものよ。
 普通なら"影を怪人と見間違えた"とかそんな些細なものだったかもしれない。
 ――でもここアーカムではそうとは限らない」

聖杯戦争。
超常現象(オカルト)の窮極である英霊同士のぶつかり合い。
それに付随する科学では到底証明できない現象。

「聖杯戦争で起こった超常的な何かが、その噂の元になっている可能性がある。
 ちょうど鎧姿のアル君が都市伝説になったみたいにね。
 特にさっきの"金色のライオン"なんて、都市伝説としては突飛すぎると思わない?」

確かに。他の都市伝説が人間などをベースにしているのに対し、あまりにも具体的かつ突飛だ。
だとしたら、金色のライオン"の元になった現象とは一体何なのだろうか。

「――金色のライオン、か……」

誰に向けたものでもないつぶやき。
だがその言葉が持つ何かが、アルの脳裏に奇妙に引っかかった。


  ■  ■  ■

31 CrazyBotch  ◆HQRzDweJVY :2016/05/09(月) 00:36:58 ID:.DTn/S.Q0


  ■  ■  ■



「……おじさんは、だあれ?」

「フフフ……私かね? 私は君と同じく真実を知ったものだ。
 同様に真実に辿り着いた君に会いに来た」

「しんじつ……?」

「ああ、そうとも。
 君の知る真実を他のものにも知らしめようじゃないか。
 さぁ、聞かせてくれたまえ……君の知る真実(メモリー)を!」





【商業地区・大衆食堂/一日目 午前】

【アルフォンス・エルリック@劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り三画
[装備]掌に錬成陣が描かれた手袋、赤いコート
[道具]鞄(大学生としての所持品)、西洋鎧(屋敷に保管)
[所持金]古物商だった父の遺産で慎ましく暮らしていける程度
[思考・状況]
基本行動方針:兄さんに会うために聖杯に願う。
1.今後の方針を決める。
2. 噂話が気になる。
3.三騎士との戦いはできるだけ回避する
[備考]
令呪は右手の甲に宿っています。
芳乃さくらと顔見知り程度に知り合っています。マスターとは認識していません。


【キャスター(リナ・インバース)@スレイヤーズ】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]ショートソード、バンダナ
[道具]魔血玉
[所持金]たくさん金貨や宝石があるけど支払いは全てアルフォンス持ち
[思考・状況]
基本行動方針:おたからとごちそうをゲットしつつなるべく楽に敵をぶちのめして勝つ!
1.大学ねぇ
2.芳乃さくらを含めミスカトニック大学の教授陣が怪しい
3.対魔力持ちを警戒、三騎士の情報をできるだけ集める
[備考]
芳乃さくらをマスターではないかと疑っています。

32 CrazyBotch  ◆HQRzDweJVY :2016/05/09(月) 00:37:22 ID:.DTn/S.Q0
以上で投下を終了します。

33 名無しさん :2016/05/09(月) 05:00:11 ID:VHDLXhxY0
投下乙です。
Yogtubeとか見たら発狂しそうな動画サイト名ですねw

34 名無しさん :2016/05/10(火) 12:52:57 ID:IO4RumNs0
投下お疲れ様です!
さすがミスカトニック大学だ錚々たる教授陣だぜ
包帯おじさんはこの人に目を付けたか!噂の元が元だけに広まればとんでもないものが産まれそうですがはてさて

35 ◆q4eJ67HsvU :2016/05/17(火) 15:36:52 ID:dxIY7weo0
一騎&アーチャー、シュバルツ&キャスター、キーパーを予約します。

36 ◆Jnb5qDKD06 :2016/05/29(日) 10:58:32 ID:CAWaVVIg0
下記予約します。
・木戸野亜紀&バーサーカー(広瀬雄一)

37 今は鉛毒の時間 ◆Jnb5qDKD06 :2016/05/29(日) 10:59:08 ID:CAWaVVIg0
そして投下します

38 今は鉛毒の時間 ◆Jnb5qDKD06 :2016/05/29(日) 10:59:28 ID:CAWaVVIg0

 今は鉛の時間

 生き延びた時、記憶に刻まれるだろう──

 凍っていく人が雪を思い出すように──

 最初に冷気──そして麻痺し──そして一切の放棄

                                   エミリ・ディキンソン──『激しい苦痛の後に、形式だけの感情が生まれる』


 鉛色に曇る空。
 木戸野亜紀はナイと名乗った神父の話を確かめるべく、キャンパス郊外よりフレンチヒルへと向かった。
 朝方に事件があったらしく、その影響で市電が一時期停止していたが、時間が経つにつれて混雑が緩和されつつあった。

 ホスピタル線でミスカトニック大学周辺を回り、フレンチヒル線に乗り換えでフレンチヒルを目指す。
 移動の間、スマートフォンを弄りSNSのHastturで「黒い 男」で検索をかける。亜紀の探し人の空目恭一は黒を基調とする服ばかり着るからそれだけで目立つ。
 結果は芳しくない。黒人男性に対するツイートが大量にヒットする。多すぎて絞り込めない。「黒い 少年」でも同じだろう。
 「黒い 少年 アジア人」でもまだ多い。もっと絞りこもうと入力し──────ピタッ。

 スマートフォンを弄っていた指を止め、そこから「黒い 少年 アジア人 ハンサム」と入力していた単語を全て消去した。

「〜〜〜〜〜〜〜ッ!」

 ハンサムという俗な単語で検索することが嫌で、そんな理由で検索を中断した自分の愚かしさに嫌気が差す。
 確かに恭の字(空目恭一のこと)は顔がいい。
 だが、自分と彼を引き合わせたのは彼が『特別』だからということだ。誓って美男だからではない。と、誰かにそう言い訳していることに気付き、この事を考えるのを止めた。



       *       *       *



 フレンチヒルで乗り物から降りて周囲に聞き込みを開始する。
 高級住宅街が並ぶフレンチヒルは人の通りは決して多くは無いものの零ではなく、ましてや昼時にもなるとそれなりに人口密度が増えている。
 ランニングをする人、犬の散歩をする人、芝生の手入れをする人、路上でホットドッグを売る人、二時限から講義を受けるミスカトニック大学の学生など様々な人に聞き込む。
 この手の調査には慣れたものだ。歩かにもバス停前や喫茶店等で空目の特徴を伝えると幾つか証言が帰ってくる。だが、今日見た者はいないらしい。

 時刻が既に11時半を過ぎ空腹を覚えたため近くの喫茶店に入り、サンドイッチとコーヒーを注文する。
 待っている間、退屈しのぎに店内に置かれていた雑誌を物色していると今朝の『アーカム・アドヴァタイザー』という地元紙の記事が目に入った。

39 今は鉛毒の時間 ◆Jnb5qDKD06 :2016/05/29(日) 11:00:07 ID:CAWaVVIg0

《ロウアー・サウスサイドで爆発事故!! 死傷者・行方不明者多数》
《ミスカトニック大学にて生徒が自殺!? あり得ない死に方に疑問が》
《ミイラ化した死体が次々と発見! 首元から血を吸われたような痕が!》
《失踪者多数! アーカムで一体何が!?》

 手に取り記事を眺める。
 これらは聖杯戦争の影響だろうか。この辺りはどうやら危険な奴がいるらしい。
 そして亜紀は死傷者多数という文章に目が行く。空目の目撃情報が今日だけ無いという事実を踏まえるとこの事件に巻き込まれた……?

(恭の字が……いや、まさかね)

 空目が巻き込まれるはずが無いと確信している。
 空目や亜紀が所属している文芸部はなんだかんだで怪談の事件に関わることが多いが、自分から首を突っ込んだケースはほとんど無い。たいていは相談者が怪異を持ち込むか、ちょっかいをかけられるのだ。
 しかし、何事にも例外はある。もしかしたら恭の字から動くことがあるかもしれない。かつて神隠しの少女を捕らえた時のように────
 例えば亜紀が今持っている銀の鍵。これを拾った経緯は亜紀が自らの意思で呪(まじな)いを行い、〝自分に足りないもの〟として現れたものだ。

 はぁと溜め息をつく。
 恭の字が止めるように言っていた呪いを敢行した理由。自分としては意地だと強がりをしていたが、今思えば嫉妬だとはっきり分かる。
 神隠しの少女は役に立つ。そして私は役に立たない。だから恭の字の傍にいる彼女に嫉妬し、役に立とうとした。

 獣の意匠が施された銀の鍵。そして聖杯戦争と虚無のサーヴァント。
 呪いの結果は分からず、異国の地で戦争に巻き込まれたのは自業自得だ。思い返せば自分の迂闊さに腹が立つし、仲間に対して恥ずかしい気持ちもある。

 だが、それでも、こんな事態になっても。今は空目に会いたいという気持ちが強い。彼の隣にいて、彼の役に立ちたい。置いて行かれるのは真っ平ごめんだ。
 そうこうしているうちに注文した料理が届く。

 アメリカ合衆国では州ごとにサンドイッチに特徴が出る。
 アーカムが置かれているマサチューセッツ州ではパンの間にピーナッツバターとマシュマロクリーム『フラフ(fluff)』を塗ったフラッファーナッター(fluffernutter)という種類が州の公式サンドイッチとされている。
 出された調味料をパンに塗って口に運ぶと塩味と甘味がハーモニーを奏でる。


       ▽       ▽       ▽


 サンドイッチは甘く、コーヒーは苦い。それは彼女の恋の如く。


       △       △       △

40 今は鉛毒の時間 ◆Jnb5qDKD06 :2016/05/29(日) 11:00:28 ID:CAWaVVIg0

 ──────ドクン。

 霊体化しているサーヴァントがマスターの恋の波動に反応する。
 それは在りし日の禁断の果実であり、彼がバーサーカーに至るきっかけとなった事象だ。

 もしも彼がバーサーカーでなければ恋愛経験について何かしら語ったかもしれない。
 自分がどんな風に恋をしてどんな風に破れたか。

 人に求められようと努力しても得られない苦さを知っている。故に狂う結末を誰よりも知っている。
 唯一の楔が無くなって、最後に誰も彼も憎むのだ。そう世界に仕向けられるのだ。

 しかし、それを語る理性は無い。よって彼は黙ったままだった。


----------
【フレンチヒル・喫茶店/一日目 午前】
【木戸野亜紀@Missing】
[状態]健康
[精神]恋の病
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]鞄(中身はオカルト関係の本など)、スマートフォン
[所持金]一人暮らしに不自由しない程度
[思考・状況]
基本行動方針:脱出する。聖杯戦争など知ったことではない。
1.空目恭一を探す。
[備考]
※キャンパス地区外れのカフェでナイ神父と接触しました。


【バーサーカー(広瀬雄一)@アライブ -最終進化敵少年】
[状態]健康
[精神]狂化
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:――――
1.――――
[備考]

41 今は鉛毒の時間 ◆Jnb5qDKD06 :2016/05/29(日) 11:00:57 ID:CAWaVVIg0
投下終了します

42 名無しさん :2016/05/29(日) 11:51:48 ID:XipZ6lPQ0
0 3 5 5 3 9 6 8 19

0 3 5 5 3 9 9 6 8 1

0 3 5 5 3 9 6 8 3 3

0 3 6 7 4 8 1 3 0 9
今日はこれ

43 名無しさん :2016/05/30(月) 18:47:27 ID:jOjImIWo0
投下乙です。木戸野ちゃんめんどくさカワイイ
魔王陛下(と隣の紫様)に会った反応が楽しみだ

44 ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/03(月) 00:52:25 ID:/Xqj03jk0
お久しぶりです
アイアン・メイデン・ジャンヌ&エネル
ローズマリー・アップルフィールド&グリフィス
亜門鋼太朗&ランサー(リーズバイフェ・ストリンドヴァリ)
予約です

45 ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 00:51:42 ID:UK7OMgu.0
少し遅れて早朝に投下いたします。申し訳ありません

46 ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:34:37 ID:UK7OMgu.0
お待たせしました。投下します

47 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:35:19 ID:UK7OMgu.0

前日より変わらぬ人の喧騒。
正午に入ったアーカムダウンタウン地区の街並みは平穏そのものだ。
ガス漏れなどではあり得ない、各地区での大量の衰弱死。
早朝ミスカトニック大学で発見された不自然な首吊り死体。
ロウワー・サウスサイドで起きた、無数のホームレスを巻き込んだ爆発。
そして『白髪の喰屍鬼(グール)』。
この連日にアーカムで立て続けに起きた怪事件にも、街の様子は変わりない。
平和の象徴。天下の警察署のお膝元という安心感が、行き交う人々に余裕を生み、緊張を失わせていた。
連日バッシングの的となりマスコミの飯の種にされているイメージのつきまとう警察だが、公的権力というバックボーンは街全体に根付いている。
大抵の人間の中には頼るべき組織という共通認識があり、気づかぬうちにそこによりかかる事で治安は保たれているのだ。

あるいは、それとも―――。
アーカムという土地が、この地に住まう人が、異常な事態に順応してしまっているのか。
いかなる怪異を受容してしまう受け皿が形成されてしまっているのではないか。
狂気を望み、悪意を喜びのうちに招き入れる、おぞましき邪教の宗団のように。
家が崩れ、人が死ぬ。そんなものはこの街にはよくある事。
第一ダウンタウンにも都市伝説のひとつ『包帯男』が出没している。警察の権力など既に形骸化しているに等しい。
全ては贄。都市の住人は皆すべからく、アーカムという魔女の鍋に放り込まれる具材に過ぎない
無知なまま煮殺されるか、真実を知り絶望の中で細切れにされるか。違いなどその程度の差でしかない。


ではその悪辣なる異界で。知られてはならぬ邪神の潜むアーカムで。
ダウンタウン街道を出歩く住民達がにわかにざわつきめいているのにはいかなる事件の前触れなのか。


休憩中に昼食を取るサラリーマン、衰弱事件による休校にかこつけて遊びに繰り出している学生達の視線を掴んで離さないものとは何なのか。
『包帯男』か?『白髪の喰屍鬼』か?居並ぶ都市伝説は枚挙に暇がない。人の恐怖と不安のカタチだけ怪異は家の影に潜んでいる。
ただし此度に限っては―――そのどれでもなかった。



森林の奥地に潜む湖に住まう妖精のようだった。
あるいは、神の園より降りてきた天使のよう。
身を守るように人の集まる街道をそぞろ歩く少女の姿は、もうそれ以外に表現する他ない。
横を通り過ぎた影を目で追い、その非現実的光景に咄嗟に振り返って見直して、誰もが一様にそう思った。
日の眩しさと日頃の疲れが生んだ幻覚かと、目頭を押さえ現実を認識する者さえいる。

48 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:36:11 ID:UK7OMgu.0


天からの光を浴び、透き通って煌びやかに輝く銀の髪。
それが風や体の動きで浮き上がって、さながらこの世と隔絶した別世界との境目となる深秘のヴェールにも見せている。
フリルをあしらった白のワンピースの下から覗く疵を知らないまっさらな肌。
神の恩寵を受けたが如く、珠玉の生地は陽の光を己を際立たせる輝きとして支配している。
ショーウィンドウに飾られた服を興味津々に眺め、かと思えば店頭で調理を実演している焼き菓子の匂いにふらふらと釣られてしまう。
迷い込んだ都会で初めてばかりの体験に戸惑う、世間知らずな深窓の令嬢そのものだ。
そして新しい発見をするたびに 、生涯に渡って残したい宝物を手にしたように、無垢な表情を綻ばせ大輪の笑顔を咲かすのだ。
調子を良くした店員が焼き立ての菓子入り袋をサービスしてしまうのもやむなしといったところだろう。

社会機構の運営が崩壊するまでには至ってないが、頻度を増す異変で住民の精神は日に日に疲労していっていた。
なまじ仕事が不可能なほど悲惨な状況ではないが為、堂々と休む事も出来ない。
中にはいい機会だとして有給で羽休めする者もいるが、そのしわ寄せは残る社員にのしかかるものだ。
悪循環する歯車の役目を負った者達にとって、目の前で踊る妖精がごとき少女は、淀んだ精神を浄うほんの少しばかりの癒やしの効果をもたらしていた。
その魅力を理解してないのは、羨望の眼差しを一身に受けている当人。
聖杯戦争に加わるマスターとして孤児院の外より出たアイアン・メイデン・ジャンヌのみであった。

「ローズマリー、その、やはり私の格好は変なのでしょうか?周りからずっと視線を感じるのですが……」

ジャンヌとしてはわざわざマスターであると宣伝する必要もないので、漫然と道なりに歩いて街に溶け込んでいるつもりでいた。
しかしいかんせん、ジャンヌという人物はマスター云々を抜きにしても目立つ格好でいる。異国人が住まうのもそう珍しくないアーカムであっても。
自覚できていない本人には不思議で仕方ないといった様子だが。

「そんなことないわ、むしろ逆よ。ジャンヌがあんまりにも可愛いからみんな見惚れちゃってるだけよ」
「そ、そうなのでしょうか」

そしてジャンヌを街に連れ出し可憐な服に着替えさせた張本人であるローズマリーは、悪戯っぽい笑顔でジャンヌをからかった。
素のままでも目を引く美人であるジャンヌに、更に魅力を引き立たせるドレスアップをさせたのは他ならぬローズマリーの趣味である。
元の世界で外出時の服装は目付け役のマルコに一任していたジャンヌに、自分の好みで選ぶという経験はない。
服の趣向もマルコが見立てたものと大差ないので気に留めなかったが、そもそもその服が今以上に全身フリルのメイド服だ。
X-LAWSの歪んで偏った教育の弊害は、ファッションセンスのおかしさにまで及んでいた。


(しかし……)


大樹のように屹立するコンクリートのビルの群れ。
人とものでごった返した道路。
百人単位での話し声、車の鳴らすクラクション、店内やビルの大型ディスプレイから流れるBGM……

街というものがこれほど騒がしく活気に満ちた場所であると、上辺の知識だけだったジャンヌは実感を以て理解した。
シャーマンファイトでの予選試験は日本の東京都市内で行われたが、ジャンヌは東京の街というのをほとんど見ていない。
拷問器具(アイアンメイデン)の中で日常的に肉体を痛めつけ巫力を高めるのみで、外への関心を向ける機会など無かった。
アメリカでのパッチ族の集落、本戦で改めて向かった日本の孤島でもそう。
代々シャーマンファイトを取り仕切るネイティブアメリカンやトーナメント戦の為の舞台に、都市といえるだけの文明が築かれるはずもない。
だから鉄の処女の中に篭っていた聖・少・女は、ここで初めて外の世界を知ったのかもしれない。

49 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:36:45 ID:UK7OMgu.0


今が聖杯戦争の最中で、ジャンヌは他のマスターを狙い狙われる側という自覚は忘れない。
ことに自分のサーヴァントはあの傲岸不遜の結晶のような男だ。迂闊に気の緩んだところを見せるわけにはいかない。
ライダーに情報収集を求めても当てにはならない。能力的にはうってつけでも性格的には全く諜報向けではないのだから。
ジャンヌ自身が直に出向き接触の機会を掴むのが、最も確実な手段であり安全な方法であると理解していた。


「ほらジャンヌ、また難しい顔をしてる」

ぴっ、と伸ばした人差し指が思考に耽るジャンヌの眉間を軽くつついた。

「友達と一緒にいるのに他の事を考えるなんて失礼よ。せっかく孤児院から抜け出したんだから思いっきり羽根を伸ばしましょう?
 それとも、私といるのは嫌?」

目の前でこちらを窺うローズマリーの表情に寂しさの色が見える。
そうだ。彼女は父親に無理を言ってまで自分が外出する便宜を図ってくれた。
ジャンヌにとってはマスターの調査の名目でも、ローズマリーには久方ぶりの友人との語らいの場であるのだ。

友人というものを、ジャンヌは生まれてこの方得ていない。
LAWSのメンバーは支援者あるいは部下であり、向こうにとっても自分は信仰対象。
アーカムに来る以前、即ち死の直前の車内で期せずして麻倉家の玉村たまおと交友を深められたが、その結びもすぐに断たれた。
ローズマリーもそうだ。あくまで舞台上での役割。与えられた友人というロール。偽りの関係。
それでも自分を友人と慕ってくれている。笑顔を向けて手を取ってくれる。
真実を知らぬとしても、そこにあるのは偽らざる愛ではないか。
胸に生まれる、好いと思える感情。十の法を遵守するX-LAWSのリーダーとして、ただの孤児のジャンヌとして。
その思いを裏切る行為はなるべくしたくは、ない。

「……いえ、そんなことはありません。あなたと共に過ごせるのは祈りを捧げるのと同じくらい大切な時間です。
 ありがとう、ローズマリー。今日は良い思い出を作りましょう」

答えに満足がいって顔を綻ばせるローズマリー。
時間がくればローズマリーは家に帰りジャンヌは孤児院に戻る。
ローズマリーの方はいつかまた自分に会いに行く計画を立てるだろう。しかしその時は訪れない。決して。
この逢瀬で二人は永遠に別れる運命だ。聖杯戦争に身を投じるなら余計に彼女を近づけてはいけない。
だからこの時は。この瞬間だけは。
どうか世界が平和でありますようにと、今まで以上に心の中で深く願った。




正午で賑わうダウンタウンの衆目の興味は銀の少女に一極している。
一緒に連れ歩く金髪の少女と護衛らしき数人の男女が視界に入っても、誰もそちらの方に意識を向けたりはしなかった。
せいぜいが絵画の風景や調度品と同程度の扱いでしかない。際立つ美を前にすれば、それより劣る美はくすんで見えてしまうものだ。
……きり、という微かな歯ぎしりの音は、雑踏の喧騒に揉まれて聞かれる事なく消えていた。



 ◆

50 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:37:22 ID:UK7OMgu.0



「ローズマリー、あのお店はなんというのでしょうか?」
「やだジャンヌったら、クレープも知らないの?」


なんてみっともなくはしゃいでいるだろう。
まるで盛りのついた猿だ。張り付けた笑顔を決して剥がさないまま、ローズマリー・アップルフィールドは包み隠した内心でのみ嘲笑した。

孤児院の院長を説き伏せてジャンヌを連れ出したローズマリーは、当初の予定通りのダウンタウン地区にまで来ていた。
当然、ここに来たのはジャンヌとウィンドウショッピングに興じる為ではない。
全てはローズマリーの夢見る城に続く橋の建設、聖杯戦争で勝利する戦術の為だ。

父となった男とは既に警察署の前で別れている。そこで警察署長の男と顔を合わせる段取りは既についている。
無論そこには最も忠実な家臣であるセイバー、グリフィスも伴っている。そこで署長を宝具『鷹の団』の一員に加える手筈だ。
フレンチヒルの名士である男を警察は無下に出来まい。そして一般人ではグリフィスの魔性のカリスマを目にすればひとたまりもない。

いつの時代でも、権力者を自陣に引き込む事は様々な側面で有利を取れるものだ。
無論、取り込む対象の地位は高いほどいい。
如何にグリフィスの魅力が抗いがたいものといえど、それには直接対面する事が必要条件となる。
末端のヒラ全員に順に顔を覚えさせられる機会は中々ないし何より手間だ。
諸々の問題を一段飛ばしで解消するには、頭を押さえるに限る。
司令系統を奪えば組織の動きを大まかになら差配できるものだ。
警察人員を動かせる地位にあり、アーカム内で起こる事件の情報を一度に収集できる立場。
その男を『鷹の団』に引き込めば実質上、署長の座をグリフィスと挿げ替えるのに等しい。
この一挙で警察という組織は、グリフィスとローズマリーのアーカム全域に伸びた監視の目とあり、充実した装備を公的に保有できる大軍団と化す。

そして鷹の翼の広がりはそこのみに留まらない。
各地に顔の効く名士を餌にして、専門的、特権的階級の有力者を釣り上げる。そうなればあとは芋づる式だ。
いずれはアーカムの行政に干渉する権限を持った者の全てが『鷹の団』になる。
長たるグリフィスに心臓を捧げるほどの忠義を誓い、その姫たるローズマリーに聖杯を献上すべくその手を躊躇いなく汚す、プリンセスの理想の騎士団が組織されるのだ。


「ごめんなさい。知識としては知ってるのだけれど、実際に食べた経験はなくて……」
「うふふ、ジャンヌは世間知らずさんなのね。まるでどこかの国のお姫様みたい」
「そ、そんなことはないのです、けれど」
「いいわ、じゃあ頼んでみましょう。ジャンヌの初めてだもの、クリームとフルーツがたっぷりなとっても甘い思い出にしなきゃ!」
「ですがローズマリー、私には手持ちが」
「それくらい私が払ってあげるわ。友達でしょ?」


ジャンヌの花も恥じらう照れ顔が癇に障る。
自分がマスターという飢えた獣をおびき寄せる生贄とも知らずに。
貸し与えたドレスも餌を引き立たせる飾りであるとも知らずに気に入っている。
道行く人は一度二度とジャンヌを見返し名残惜しそうに後にしている。
ジャンヌという小石を投げ込まれたダウンタウンは、人の波の流れに変化をもたらしている。
纏う濃厚な"神秘"―――魔術に触れた者でなければ気づけない気配は、聖杯戦争の参加者にとってみればまたとない標的だ。

51 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:38:37 ID:UK7OMgu.0


まさに想定通りに展開だ。
後は哀れな餌に釣られた無様なサーヴァントかマスターが出て来るのを待つのみだ。
現在ローズマリーの傍にセイバーはいない。
この状況でサーヴァントとの接敵を望むというのは本来なら有り得ない策だ。
護衛でついている十数人の『鷹の団』も所詮は人間。サーヴァント相手にはものの役にも立たない。
しかしこの場合問題はない。戦いになった時に矢面に立つのはジャンヌ、あるいはそのサーヴァントだからだ。
自分はあくまで巻き込まれた一般人。『友達』のジャンヌにとっては庇護するべき対象。
いざという事態、ローズマリーの身に危険が及べば身を挺して庇ってくれるだろう。
慢心はない。ジャンヌは自分に対して心の大部分を許しているのが実感できる。
そして心に食い込んだ存在を無碍にもできない。余程のお人好しなのか、それとも何か気がとがめる経験でもあるのか。
ローズマリーを救うのに、その身に隠した力をひけらかす事を躊躇しないだろう。

なんて愚かさ。なんてお馬鹿な娘。疑うことを知らないのか。
純心さなんて、生きる上でなんの役に立つのか。
慈愛を振りまき、誰もに好かれ、蝶よ花よと愛でられて、神の恩寵すら貰って、そうすれば幸せに生きられると。
人に愛をあげれば、その人も同じだけ愛をくれるのだと、本気で思っているのか。


「これが……クレープですか。ええと、頭からかじるのですよね?」
「ええ、口を大きく開けないとこぼれてしまうからはじめは気をつけて―――」
「…………はむ」
「あら」


ああ。その輝くばかりの銀髪が気に入らない。
荒れた事など一度もない肌が恨めしい。
施してもらうばかりの平和に緩みきった面に虫酸が走る。
ローズマリーが捨てたものを持ったまま、恵まれた境遇にいる事が許せなくて仕方がない。
今すぐにでも、その無防備な背中にナイフを突き入れてやりたい。
与えられている加護を奪い取って、裸になって放り出される姿を嘲笑いたい衝動を必死になって抑える。


「これは―――とても、甘いのですね。いちごのショートケーキよりもずっと濃くて、とろけるような味で……」
「ふ、ふふふ……ふふふふふふ……!」
「ローズマリー?」
「やだ、ジャンヌ……!口にクリーム、ついて、おひげみたい……!」
「――――――!?」

52 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:39:04 ID:UK7OMgu.0



そうだ、そもそもが邪魔なのだ。
マスターであろうがなかろうが、そんなものは関係ない。そんなものと評すほどに、どうでもいい。
ジャンヌはローズマリーを日陰に追いやる極光だ。プリンセスという鏡に映る幸福を打ち砕くべく投じられた石だ。
あの女がいる限り、自分の夢は翳り、色褪せる。そんな確信がある。
何故ならジャンヌはローズマリーの『親友』だからだ。そしてローズマリーの親友はいつも自分を裏切ってきた。
だから許せない。だから認めない。
わざわざ自分の傍で富める者の余裕を見せつける存在を、ローズマリーは排除しなければならない。


「うふ、うふふふ……!」
「ロ、ローズマリー、そんなに笑わないでください……もう……ふふ、」
「だ、だって、ふふふ……!」


蓄積されていく負の想念。十三の少女の身には到底収まりきらぬ程の黒い塊が形成していく。
心の内に潜む闇。それは邪神のような凶災をもたらすわけではない。
都市伝説のように人から人に伝わり、タタリという実体を得て殺戮を繰り広げもしない。
たかだか一人の惨めな少女の激情。だがおぞましさでいえばむしろ同等であった。

嫉妬に狂いし怨鬼は少しずつ爪牙を研いでいく。
いつかその爪で引き裂く皮膚の感触を恍惚に夢見ながら。
牙で噛み切った肉から溢れる血で唇に艶やかな紅の化粧を施す時を待ち望みながら。


「あはははははははははははははははははは!」


ローズマリーは笑った。腹の底からこみ上げるおかしさに同調して。


……どこかで、赤い塊がブルリと笑うように震えた。



 ◆

53 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:39:28 ID:UK7OMgu.0




変わって、ダウンタウン上空。
近辺で一番の高層ビルのその天頂で、雷神のライダー、エネルは天下の全てを睥睨していた。
見下ろす眼差しは、その位置こそが当然というように傲岸で、尊大であった

「随分とまあ、緩んだ様子だな。これでは聖・少・女ではなくただの少・女のようではないか」

誰もいない屋上で虚空に胡座をかき、エネルは遊興するジャンヌを遥か遠方から見下ろす。
地上にいるジャンヌと数ブロック離れたビル屋上にいるエネルとはゆうに数百メートルは離れている。
サーヴァントでもすぐに駆けつけられる距離ではないが、これでもマスターの命令通り「いつでも駆けつけられる」距離にいるのだ。
この瞬間ジャンヌに聞きが及ぼうとも、瞬き一つの間があればエネルはあの場に到着してみせる。
お守りなど趣味ではないが、ここで命令に逆らってマスターの気を損ねるのも面倒だ。
それに、いまジャンヌの付近を監視する事は、エネルにとって興味の持てる行為でもある。

「ざっと十人。やはりぴったり張り付いているな」

心網(マントラ)で透視した、魔術による暗示や洗脳によるものではない「統一された意思」の集団。
エネルの興味を引いた人間達は今、ダウンタウンに繰り出したジャンヌに着いて離れずにいる。
その数はおおそ十数人。読み取れる精神はやはり互いに同調してるが如く一つの方向を向いていた。

「全員孤児院の連中ではないな。マスターを連れ出した女とその連れか」

孤児院の人間の顔など当然覚えていないエネルだが、状況やタイミングからいって、例の集団が潜り込んだのは資産家らしい男が訪ねた時であるというのには予測がついた。

「ほう、あの女だけは心が通常の動きだ。マスターの可能性が一番あるのは奴だが……」

エネルの雷の視線は、遠くジャンヌと笑い合うローズマリーと呼ばれた少女を射抜いた。
ジャンヌのほぼ同年代の年の頃、見るだけでは何ということもないただの一般人に映る。
しかしそれがマスターであるジャンヌを街に誘い、只の一般人とは思えない一団の一人となれば話は別だ。
年端もいかぬ少女のローズマリー。果たしてあれは笑顔の裏に研がれた殺意の糸を張りジャンヌを絡め取ろうとする奸物なのか、
それともさらに裏に潜むマスターの布石でしかない、哀れな捨て駒なのか。

54 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:40:05 ID:UK7OMgu.0


「……ふむ」

正体を看破するだけならば、簡単だ。エネルが直接出向けばいい。
実体化した至近距離での心網なら、宝具である雷の力と併用してその者の感情の働きを詳細に知る事ができる。
その際英霊の神秘を目の当たりにした人間は気が触れるだろうが、些細なことだ。むしろマスターの判別には手っ取り早い。
あの連中は明らかに聖杯戦争に関わりがある。令呪の効果範囲はともかくマスターに咎められる謂われもない。

対処は速やかに済む。
結果は即刻詳らかになる。
故にエネルは、


「ヤハハハ、いいだろう、せいぜい今は余裕に羽根を伸ばすがいい。
 折角の神を楽しませる催しなのだ、宴の準備ぐらいは待ってやらねばな」

やはり放置を継続するのだった。
マスターの危機を見せ物を眺める気分でせせら笑うサーヴァント。
ジャンヌほどのシャーマンの実力なら大抵の奸計は力づくでもねじ伏せられるとはいえ。その信頼からによる対応でないのは明らかだ。
木っ端が何をしようとも、どの道己が手を出せば全てはご破算になる。ならばその瞬間まであがきを見てやろうというだけのこと。

刺客が今すぐマスターを殺さないのも見当はつく。大方、膨大な巫力に寄せられて仕掛けてくる他のサーヴァントの情報収集が狙いだろう。
ジャンヌもまたその腹積りでいる。そしてエネルも、まだ見ぬ英霊との邂逅には少なからず興味を持つ。
しかして、それを覗き見る不貞の輩がいると前もって知っていてそれを許すというのは、いささか不興なのも事実。
聖・少・女のあの緩みっぷりでは獲物がかかるものまだ先だろう。しばらくは退屈が継続しそうだ。
さて、どうするか。聖杯戦争などつかの間の余興とする身にとって、ただ待つだけの暇とは苦痛である。
戦いに勝つ戦術ではなく、あくまでどうこの宴を楽しむかに思考を巡らすエネルに――――不意に得も言われぬ感覚が駆け巡った。

「……む?」

その時自分の中で生じた感覚が何であるか、エネルはこの場で理解しなかった。
仮にその正体に至ったとしても、この神を僭称する傲岸な性根の男が認める事は断じてないだろうが。
浮いたまま姿勢を立たせ、心網が捉えた方角に意識を尖らせる。
見据える先は先程までジャンヌもいた川向こう南西、孤児院の立つフレンチヒルとは逆の位置だ。
超常の探知機能を持つエネルでなく、通常のサーヴァント、のみならずただの人の身であってもそこで起きた異変には気づいただろう。
火の手の証。地上から曇天の空へ黒い煙が立ち上っている。
しかし舞い上がっているのはそれだけではない。エネル独自の鋭敏な探査能力があるとはいえ、川を隔てたこの距離まで届くほどの濃厚な神秘の気配……。

55 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:41:12 ID:UK7OMgu.0


「―――――ほう」


退屈に冷めていた神の目に、それ以外の色が宿った。
燻った程度の小火では到底満足のいかない、盛大な花火の打ち上げを求めるような妖しい愉悦の色を。








【ダウンタウン/1日目 午前】


【アイアンメイデン・ジャンヌ@シャーマンキング】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り2画
[装備]持霊(シャマシュ)
[道具]オーバーソウル媒介(アイアンメイデン顔面部、ネジ等)
[所持金]ほとんど持っていない
[思考・状況]
基本行動方針:まずは情報収集。
1.ローズマリー達と共にダウンタウンで過ごしながら情報収集
2.エネルを警戒。必要ならば令呪の使用も辞さない。
[備考]
 ※エネルとは長距離の念話が可能です。
 ※持霊シャマシュの霊格の高さゆえ、サーヴァントにはある程度近付かれれば捕捉される可能性があります。


【ライダー(エネル)@ONE PIECE】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]「のの様棒」
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を大いに楽しみ、勝利する
0.川向こうでの火に興味。さて、どう楽しむか?
1.ジャンヌとは距離を取り、敵が現れた場合は気が向いたら戦う
2.「心網(マントラ)」により情報収集(全てをジャンヌに伝えるつもりはない)
3.謎の集団(『鷹の団』)のからくりに興味
[備考]
※令呪によって「聖杯戦争と無関係な人間の殺傷」が禁じられています。
※ジャンヌの場にすぐに駆けつけられる程度(数百m)の距離にいます。
※「心網(マントラ)」により、商業地区周辺でのランサー(カルナ)の炎の魔力を感じ取りました。

【ローズマリー・アップルフィールド@明日のナージャ】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]裕福
[思考・状況]
基本行動方針:打算と演技で他のマスターを出し抜く
1.場所を変えながら獲物がかかるのを待つ。
2.ジャンヌに対しては親身に接し、餌として利用する。
[備考]
※10人前後の『鷹の団』団員と行動を共にしています。
 その中にはローズマリー自身の父親役も含まれています。

56 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:41:45 ID:UK7OMgu.0










 ◆




寿司屋を出た後亜門鋼太郎は警察署内へと舞い戻り、行方不明者の捜索願いの届けと、署や病院で保護している人物のリストを検索した。
短時間にしろ調べられる範囲で見てもやはり日本人、それも燕尾色のケープという目立つ服の少女の情報は載っていなかった。
これ以上調べようと思うなら、市内の探偵事務所などを当たっていかねばならなくなるだろう。

作業を一段落した亜門はそこで、何故そこまで性急に捜索に当たろうとしているのか自分に疑問を持った。
事件の捜査に順位の優劣などつけはしないが、それでも亜門は聖杯戦争という極位の災害に対し率先して対策を施さなければいけない立場だ。
そもそも依頼主からはその少女の名前すら聞いていない。簡易的な外見だけを事務的に、心配する様子を微塵も見せず伝えてきた。
頭髪から足先までが黒ずくめで包まれた、黒という色の概念を人の形に落とし込んだような少年。
店に入ってから出るまでのたった十数分足らずで、名前も知らぬ男は亜門の心象に強く焼き付いていた。
いうなれば手足の自由を奪われ為す術もなく海の底に引きずり込まれる大渦の中心部。
この世界に在るはずのない、存在としての違和感をもたらす姿を、知らず知らずのうちに意識してしまっていたのか。

なんにせよ、すぐに見つけるには情報が不足している。
職務を放棄する気はない。刑事課の同僚に連絡をくれるよう伝え、改めて外へ向かおうとする亜門を、聞き慣れた大声が再度呼び止めた。

「おお亜門君!戻っていたか!」

警察署長は現れるなり亜門の肩を景気良く叩いた。
朗らかな笑顔を浮かばせた顔はいつも以上にエネルギッシュで、なんというか覇気に満ちていた。よほど上機嫌になる事があったらしい。

「はい署長。ですが、資料の確認をしていただけなのですぐに調査に戻ります」
「まあ焦らずこっちの話も聞いてくれ。今調べてるのはロウワーの方だろう?
 喰屍鬼(グール)騒ぎといい大学の件といい、アーカムはよほど我々をタダ飯ぐらいにしたくはないらしい」
「例のミスカトニックでの首縊りですか。まだ若い少女でしたね……」
「ああ。こうもあたら若い命が摘まれいっては私の食も細くなるばかりだ。私の懐も察してくれるとは気配りのできる鬼どもだよ」

ミスカトニック大学での首吊り事件の報は既に亜門も聞き及んでいる。
広場に植えられた桜の木で足場がなければ届かない高さの枝にかけられた縄に首を通した応用化学部の女生徒。
発見時刻は登校時間のはじめ。ちょうど亜門とランサーがタタリとの戦いを終えた頃だ。

57 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:42:14 ID:UK7OMgu.0


「大学内は独自の規律が作られていてよそからの干渉を快く持ってない者が多い。なにせミスカトニックはアーカムの名物、学会に名だたる者も多く在籍してる。
 人里離れた田舎町じみて我々への協力も渋っているのが現状さ」
「国家権力も街の立役者には形無しというわけですか」
「ああ。しかしこの事件、私はこれに確かな陰謀の匂いを感じるのだよ」
「その根拠は?」
「勘だ」

閉口する亜門を見て署長は待っていたとばかりに大笑した。

「HAHAHA!ジョークだ!一度言ってみたかったんだなこれ!
 ああかけているのは勘のほうで根拠はきちんとあるぞ!」

ひとしきり笑って満足したのか、声を一段落として真剣味を帯びた様子で署長は話を進めた。

「……たった今遺体の検死の結果が出た。まず彼女は自殺ではない。死んだ後何者かが吊り上げたものだ」
「見せかけ……いえ、発見現場が足場のない木の枝ですから偽装の意図もないという事ですか。
 それで、その死因が私の事件と何か関連性が?」
「うむ鋭いな、流石は亜門君。どこぞのいまどき舞踏会でも見られない趣味の悪い仮面をつけた男にも見習って欲しいものだ!」

周囲に署員に聞き耳を立てられない為に声をひそめていただろうに、すぐさま元の声量に戻ってしまった。
おもに、やけに挑発的な物言いになっていた後半の部分が。

「それで死因の方なのだが、これも奇妙な報告でな。胸元に鋭利な刃物による刺し傷があったからこれが死因かと思われたのだが出血が少なすぎる、むしろまったくないのだという。
 他に目立った外傷もなく肉体的には異常なし。医者の見立てでは、「急激な体力低下による衰弱死」だそうだ」
「それは―――っ」

言わんとしているところの意味に気づいた亜門は騒然とする。
数日前まで担当していた、市内で起きた連続衰弱死事件。亜門はその裏の真実を知っている。
魂を抜き取り釜に投げ入れる魔女の鍋。何も知らぬ無知なる者を精神の髄までしゃぶり尽くす蛮行。
英霊に力を蓄えさせる魂食い。それ同様の症状の被害者が大学で現れた。
自身の受け持つ仕事をこなす傍らでもまさかと訝しんでいた亜門だがこれで確信する。
大学内に、あるいは大学を標的としているマスターが存在する……。

「この情報はまだ現場にも伝わってない、最新のものだ。
 無論食屍鬼事件も重大な案件だが、衰弱死事件との関わりが判明した以上、担当だった君に一報いれておこうと思ってね」
「ありがとうございます。わざわざ連絡をくださって」

ロウワーのみならず他のサーヴァントに関わる情報を得られたのは亜門にとっても朗報だ。

「なに、君の人徳だよ!昨日今日来たばかりのよそ者とは日頃の積み重ねが違うのだからね!」
「……マスク捜査官のことですか?」

先程からしきりに口を突いて出る誰かに向けた届くはずのない雑言に、流石に亜門も眉をしかめる。
警察署の人間か厄介扱いし、しかも仮面という特徴的な単語が当てはまる人物といえば、FBIから出向してきたという捜査官にほかならない。

58 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:42:42 ID:UK7OMgu.0


「そう、それだよ!まったく彼ときたら事件の匂いを嗅ぎつけて出しゃばってきて困ったものだよ。
 まあミスカトニックの偏屈な連中も、クソダサいセンスのマスクマンよりか日系のクールジャパンの方が受けがよかろう!あそこは日系の教授も何人かいるしな。
 明らかにティーンにしか見えないレディーといいアジアは神秘の宝庫だな!」
「はぁ」

言外に発される『手柄を横取りさせるな』というメッセージに適当に相槌を打ってごまかす。
権力や功績争いは眼中にないが、それとは別にマスクという男については思うところはある。
ロウワーに大学という、亜門が知る限り聖杯戦争絡みの場所を自分に先駆けて動き回る仮面の男。
これがただ犯人を先に掴み上げる欲をかいた行動でなく、自分と同じ目線に立った上での調査だとすれば。
直接顔を合わせて真偽をはっきりさせておくべきか。次の被害を未然に防ぐにも向かう価値はあるだろう。


―――今度こそ署を後にしようとした亜門の目に、ふと留まるものだあった。
署長の上着につけられた金細工。少なくとも今朝会った時にはつけてなかったものだ。

「署長、その飾りは?」
「おお気づいたかね?どうだカッコイイだろう!しかし残念だが亜門君でもこれは譲れんよ。なにせこの印を与えられるには特別な許可がいるからな!」

警察のバッジでもなければ記憶にある勲章の形でもないが、殊更考える必要もない事項だ。
この豪放磊落な男の事だし、どこかの懸賞や大会で当てたレアな賞品を見せびらかしにきたというのもあり得る。
鳥の羽をあしらった印象を記憶からさっぱり消して、日の下を出た直後ランサーへ念話で単刀直入に切り出した。

『君の意見を聞きたい』
『明らかな撒き餌、誘い、挑発、見え透いた罠だね。被害者のその子がマスターかは、実際に遺体を見てみないと判別できないけれど』

寿司をかっ食らっていた時とは面影すら残さない張り詰めた冷静さでランサーは所感を述べる。
完璧な調律が施された弦楽器の如く雑音の消えた、数多の魔術師と対峙した清廉なる騎士としての姿に立ち戻っていた。

『下衆な奴らだ。マスターがいるとすれば大学の研究所のどこかか』
『魔術師の張る陣地は魔窟も同然だ。そこに単身足を踏み入れる行為の意味を正しく理解しているかい?』

姿なき敵に憤りを見せる亜門に落ち着きを促すような忠告を与えたが、対する男の答えはなんとも簡素なものだった。

『独りではないだろう。君もいる』
『―――うん、それもそうだね』

それで十分だと言わんばかりに言葉を打ち切り歩き出した。ランサーもわざわざ追求する事なく随伴する。
命を懸けるという諫言を受けて止まるようならこの男は今ここにはいない。
それに逸っているようで、腹の底では冷静さを保っている。良き師に出会えたのだろう。

しかしこの聖杯戦争で、人の精神など容易く割れる薄氷に過ぎない。
タタリでの戦いで亜門がその根幹を揺さぶられたように、時には肉体より先に精神を保つ方が困難となる。
越えてはいけない最後の一線。その境界線の最後の砦となるのがリーズバイフェの役割だ。
魔を弾く城塞、音の聖盾ガマリエルを担う者として、今度こそ――――傍らの相棒を守護り抜いてみせる。
そしてその最果てに――――――かつての己の罪に、杭を突き立てるのだ。


「火事か」

けたたましいサイレンを鳴らす消防車の行き先を目で追う。
川を超えた辺りで昇る煙は商業地区の周辺からのものだ。店の倉庫で火が点いたか。
鈍色の空にくゆる狼煙は、アーカムを覆う暗雲を掴もうとするやせ衰えた腕のようだった。

59 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:43:41 ID:UK7OMgu.0






【ダウンタウン・警察署/1日目 午前】
【亜門鋼太朗@東京喰種】
[状態]正常
[精神]落ち着いてきた
[令呪]残り3画
[装備]クラ(ウォッチャーによる神秘付与)
[道具]
警察バッチ、拳銃、事件の調査資料、警察の無線、ロザリオ
[所持金]500$とクレジットカード
[思考・状況]
基本行動方針:アーカム市民を守る
1.他のマスターとの把握。ひとまずミスカトニック大学へ向かってみる。
2.魂喰いしている主従の討伐
3.白髪の喰屍鬼の調査
[備考]
※調査資料1.ギャングの事務所襲撃事件に関する情報
※調査資料2.バネ足ジョップリンと名乗る人物による電波ジャック、および新聞記事の改竄事件に関する情報。
※神秘による発狂ルールを理解しました。
※魔術師ではないため近距離での念話しかできません。
※警察無線で事件が起きた場合、ある程度の情報をその場で得られます
※シルバーカラス、空目恭一を目撃しましたがマスターだと断定はしていません。
※空目恭一の電話番号とあやめに対する情報を得ました。あやめを保護した場合、彼に連絡します。
※警察署から商業地区での火事を目撃しました(魔力は感じていません)。

【ランサー(リーズバイフェ・ストリンドヴァリ)@MELTY BLOOD Actress Again】
[状態]健康
[精神]
[装備]正式外典「ガマリエル」
[道具]なし
[所持金]無一文
[思考・状況]
基本行動方針:マスターと同様
1.タタリを討伐する
2.キーパーの正体を探る
[備考]
※女性です。女性なんです。
※秘匿者のスキルによりMELTY BLOOD Actress Againの記憶が虫食い状態になっています(OPより)
※『固有結界タタリ』を認識しましたがサーヴァントに確信を持てません。
※空目恭一に警戒を抱いています
※商業地区での火事には、距離の関係上魔力を感じられてません。

60 Pigeon Blood ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:44:02 ID:UK7OMgu.0








 ◆



羽撃け、鷹の翼。
広がれ、王の兵。


陰気香るアーカムを大いなる両翼で覆い隠せ。
その羽根の一枚一枚、鷹の目となりて王に届けよ。


全ては贄。
王と姫に捧ぐ饗膳。
血の宝石を生み出す儀に捧ぐ肉に過ぎぬ。
驕れる者、怯える者、■■さえも。



心せよ。王は既に、貴様らの腹の中にいる。






【???】
【グリフィス@ベルセルク】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]サーベル
[道具]『深紅に染まった卵は戻らない(ベヘリット)』
[所持金]実体化して行動するに十分な金額
[思考・状況]
基本行動方針:――ただ、その時を待つ。
1.霊体化してローズマリーに随行。
2.鷹の団の団員を増やす。最優先はアーカム市警、ついで市の有力者。
3.ジャンヌは餌として利用する一方、マスターである可能性を警戒。
[備考]



【全体の備考】
警察署長が『鷹の団』の団員となりました

61 ◆HOMU.DM5Ns :2016/10/13(木) 07:44:23 ID:UK7OMgu.0
投下を終了します

62 名無しさん :2016/10/14(金) 01:12:08 ID:auuS1jxA0
投下乙です!
ローズマリーの邪悪っぷりが良いですね……!
ジャンヌから見えない裏側に潜む下種っぷりがたまりませんね。
友達のいなかったジャンヌがそれに気付けるはずもなく……うーんどうころんでも邪悪だ。
そしてあまりにあっさり鷹の団の手に落ちた警察署。
……しかし名無しNPCなのにホントキャラ濃いなぁ、署長。

63 名無しさん :2016/10/14(金) 12:20:21 ID:iYq66u4.0
投下お疲れ様です!
ローズマリーちゃんドス黒いなーほんとに女児アニメのキャラなんかこの子はw
各々のサーヴァントも腹に一物抱えてることだし、見てて胃の痛い2組になりそう……。
一方大学には更なる来訪者の気配が。あちらは既に火薬庫状態ですが守護者2人は如何なる影響を及ぼすのでしょうか。

64 名無しさん :2016/10/15(土) 12:43:40 ID:pAc1/av60
投下乙です!
着々と領土を広げていくローズマリー陣営は恐ろしいですね……
ローズマリーの日曜朝のキャラとは思えない凶悪さが最高ですw
ジャンヌちゃんはエネルが相変わらずの調子なので先行き不安ですねー
亜門組は一触即発状態の大学に向かうことになり、警察署も既にグリフィスの支配下同然とこちらも中々にハードモード
どの陣営もこの後どうなるのか気になりますね

65 ◆HGpcLvDIJ6 :2017/01/04(水) 20:54:50 ID:WRery4.w0
金木研&ウォッチャー(バネ足ジョップリン)
予約します

66 ◆HGpcLvDIJ6 :2017/01/06(金) 00:57:19 ID:vDhbmayc0
投下します。

67 吊るしビトのマクガフィン ◆HGpcLvDIJ6 :2017/01/06(金) 01:04:17 ID:vDhbmayc0

「『標的』の情報が入ったよ」



休息も束の間、金木に対して目の前の小柄な女性から不似合いなほど剣呑な言葉が発せられた。

だが、自らのサーヴァントのそんな発言にも金木には動揺が一切無かった。
既に自身が一戦交えているのだ。
あのヤモリが蘇った本人なのか、あるいはその名を騙る偽者なのかまでは判別がつかなかったが間違いなく聖杯戦争の関係者であろう。
キーパーなる存在の通達から半日も経っていないが好戦的な主従は恐らく積極的に行動しておりその姿を『バネ足ジョップリン』が捉えたのかも知れない。

「それで……具体的にどういった情報で?」
「んー、どれから話そうかな。今、カネキくんに話せる情報は四つくらいあるんだけど」
「もうそんなに集めたんですか……」
「正確には私以外の『バネ足ジョップリン』が集めた情報だけどね」

金木のサーヴァント、『バネ足ジョップリン』は中心になる人物こそいるものの、その本質は"ウォッチャー"というクラス名が表すように不特定多数の傍観者にして観測者たちである。
彼らはこのアーカムシティにも一市民として紛れ込み、各々が観測した事象を共有し『都市伝説』として好き勝手に流布している。
いったい何人このアーカムに潜んでいるのかマスターである金木ですら分からないのだ。

―――そして今、目の前にいる小柄な女性こと掘ちえも本人ではなく彼女の姿を借りたウォッチャーの一人であり、こうして会話している間にも彼らは観測を続けている。


「それじゃあ、まずはこれにしようかな。一番最初に見つかった標的だよ。」


掘が最初に語った情報はこうだ。
時間にして今日の未明、場所はキャンパス地区。
甲冑を纏った青年が女性を抱えて駆け抜けていく所を街中の防犯カメラ―――バネ足ジョップリンの監視下である―――を通して発見したらしい。

甲冑具足という格好だけでも時代錯誤なのに、況してやここは日本ではなくアメリカ合衆国のアーカムだ。
コスプレではないだろうし、十中八九その青年がサーヴァントだろう。
一方、マスターと思しき女性については、外見から特筆するほどの情報は得られなかったと思われたが―――
 
「パチュリー・ノーレッジ、ですか」
「らしいね。ミスカトニック大学ではそこそこ名が通っている学生みたい。
 同じ大学に通っている『バネ足ジョップリン』からの情報だけどね」
 
金木にとっては幸運なことに、大学にもウォッチャーの一人が潜んでいた。
さらに、件の女性は大学でもそこそこ有名な人物だったらしく、そこからマスターの名前を探り当てることができたのだ。

―――パチュリー・ノーレッジ。
ミスカトニック大学では"七曜の魔女"の通り名で知られており優秀な神秘学科の学生らしい。
最も大学のバネ足も彼女と親交があったわけではないらしく、その人となりまでは知らないそうだ。
せいぜい、普段は図書館に入り浸っている程度のことしか分からないとのこと。
それでもマスターの名前と所在が判明したのは非常に大きなアドバンテージだ。

「彼らには気づかれなかったんですか?」
「多分、気づいていなかったんじゃないかな。あんまり余裕なさそうだったし」

既にその甲冑姿のサーヴァントは傷を負っていたらしく、脇目も振らずに駆け抜けていったらしい。
そんな様子では目立たないところに仕掛けてある防犯カメラに気づかなかったのも無理はない。
手傷を負っていたことと合わせて考えると他のサーヴァントとの戦闘から撤退している最中と考えるのが自然だろうか。
最も分かったのは外見に基づく特徴のみで、サーヴァントのクラスや真名といったより深い情報は手に入らなかったそうだ。
だがマスターがパチュリー・ノーレッジなる人物であることと、そのサーヴァントがおそらく日本人の武者らしき英雄という情報が得られただけでも十分すぎる結果といえよう。

68 吊るしビトのマクガフィン ◆HGpcLvDIJ6 :2017/01/06(金) 01:11:15 ID:vDhbmayc0

「そろそろ、二つ目の情報に入っていいかな。
 まぁこれはそんなに大した内容じゃないんだけどね、ひょっとしたらさっきの話に関係あるかもしれないよ?」


次に語られた情報はそのミスカトニック大学で発生した不可解な首吊り事件についてであった。
大した内容じゃないと前置きしたのは、既にその事件が大々的にアーカムで話題になっているからであり警察の捜査も始まっているそうだ。
とはいえ、浮浪者という身分でおまけに"白髪の喰屍鬼"の噂のために表立って出歩くこともできない金木にとっては貴重な情報である。

何でも事件の被害者である女学生は自殺が困難な高さの桜の木で首を縊っていたらしい。
明らかに聖杯戦争の関係者の仕業だが一体どのような意図でこんな目立つことをしでかしたというのか。
単純に他のマスターをおびき寄せるための罠なのか、あるいはそれこそヤモリのようなイカれた嗜虐趣味の持ち主なのか……。
どちらにせよ下手人は相当に碌でもない人物であることが窺える。 

「チエさんはさっきのパチュリーってマスターがこの件に関わってると言いたいんですか?」
「別にそこまで言ったわけじゃないよ。あくまでその可能性があるかもってだけだし。
 彼女とは無関係の人間が事件を起こした可能性だって十分あるわけだしね」

第一の情報で明らかになったマスター、パチュリー・ノーレッジは確かにミスカトニック大学に在学している。
だがそれだけで彼女がこの事件の関係者と決めつけるのは早計だろう。
大学に潜むマスターが彼女一人と決まったわけではないし、むしろあれ程大きな大学ならばマスターが複数人大学の関係者として存在していることも十分に考えられる。
これ以上パチュリー主従と大学での首吊り事件との関係について考えても詮無き事であるし、一先ずこの件について金木は考察を打ち切ることにした。


「さて、三つ目の情報なんだけど……。これはカネキくんにも結構関係あることだししっかり聞いておいた方がいいかもね」
「……僕に関係する情報?」


今まで淡々と情報を受け取っていた金木の表情に僅かな驚きの感情が浮かんだ。
自分に関係する情報とは一体何なのか―――


「私たちウォッチャーが直接コンタクトまでとった―――『包帯男』についての情報だよ」


今アーカム中を騒がせている『包帯男』。
アーカムの人々はそれを下らない噂話か、目立ちたがり屋による迷惑な悪戯程度にしか捉えていない。
しかし、その正体は聖杯戦争の関係者―――それも、極めて危険な―――である。
関係者、としたのは包帯男がマスターなのかサーヴァントなのかウォッチャーには判別がつかなかったかららしい。

ウォッチャーによれば包帯男は、無秩序に"白髪"の怪物を生み出しては街の住民に嗾けているそうだ。
金木がつい先ほど戦ったヤモリも生み出された怪物の一体であるという。

「サーヴァントって本当に常識が通用しないんですね……」
「まあ、私たちもそうなんだけど言ってみれば人々の信仰の集合体みたいなものだし。
 でも今のカネキくんも十分常識外れの存在だと思うよ?」
「あはは……」

ごもっともな掘の指摘に苦笑しつつも金木は考える。
あのヤモリが本当に蘇った本人ではないことが分かって安堵できたが、同時に包帯男についての警戒も強めなければならないと。
その強さを除けば、姿形、声、口調に至るまでとても偽者とは思えなかったあのヤモリ。
件の包帯男が見知った人物を再現して、あの強さで襲わせることができるとすれば非常に危険な相手だ。

「直接、包帯男と接触したんですよね。どんな人物だったか分かりましたか?」
「いやー、それがさっぱり。……強いて言うなら話が通じない人ってことが分かったかな」

猫と無線機を通して包帯男とコンタクトを取ったウォッチャーであったが会話すらまともに成り立たなかったという。
言っていることは支離滅裂でこちらの話にもまともに取り合わなかったそうだ。
ただ、一つ気になるワードを繰り返していて―――

69 吊るしビトのマクガフィン ◆HGpcLvDIJ6 :2017/01/06(金) 01:21:19 ID:vDhbmayc0

「……邪神?」 
「そうそう。まるで口癖みたいに邪神がどうのこうの呟いていたよ」

―――邪神。
一体何のことなのか、金木には見当もつかなかった。
だが、話を聞く限り包帯男は正真正銘の狂人だ。そんな狂人の妄言を真に受ける方が馬鹿馬鹿しいのかもしれない。
……しれないが、なぜだろうか。
その邪神という言葉に妙な引っ掛かりを覚えるのは……。



――――そして、幻聴だろうか。その瞬間、きゅるりと自らの腹から音がしたのは。



「とりあえず包帯男について分かっている情報は今ので全部だね。
 次は四つ目、最後の情報だよ」


思考を打ち切られ、顔を上げて最後の情報に耳を傾ける金木。
最後は一体どのような情報がもたらされるのか。

「さっき話した包帯男が生み出す怪物。
 カネキくんがそいつと戦っていたのと同じ時間に他の怪物と戦ってた二人がいたんだよ。
 多分、っていうか間違いなくマスターとサーヴァントだね」

先の戦場をハイセ―――ウォッチャーが宝具で呼び出した猫―――を通して徘徊していた際に偶然その主従を発見したらしい。
サーヴァントと思わしき方は女性で、大きな盾の様な物を武器にしていたとか。それがそのサーヴァントの宝具だろうか。
そしてマスターである方は大柄な男性で服装からしてアーカム警察署の者だという。
驚くべきことにそのマスターは自分のサーヴァントと肩を並べて共に戦っていたらしい。
戦っていた怪物があの偽ヤモリと同レベルの強さだとしたら、そのマスターの凄まじさが知れるというものだ。

「そのマスターについて、顔まではよく覚えていないんですよね?」
「うん。本当に通りがかっただけだからね。
 あの場所に留まっていたらハイセが戦闘に巻き込まれちゃうだろうし。
 でも、使ってる武器は分かったよ。目立つ大きさだったもの」

そう、武器。
そのマスターは両腕で巨大な剣のような武器を振るっていたそうだ。
……大柄、警官、凄まじい実力者で武器が大剣。
次々と浮かび上がるマスターの人物像に、金木の脳裏に"ある男"の姿がよぎった。

だが、そんなはずはない。あの人とは別人だと金木は考え直す。
そもそもそのマスターは"両腕"で武器を振るっていたそうじゃないか。
そう否定しても動揺は金木の表情にしっかりと出ていたらしい。
金木の様子を見かねた掘が声を掛けた。

「急にどうしたのさ、カネキくん。……ひょっとして知り合い?」
「…………いえ、多分、人違いだと思います。だって―――」


―――だって亜門さんの腕を奪ったのは僕だから。


「――――ッ!!」
「ホントに大丈夫?顔色悪いよ」
「……もう、大丈夫です。直ぐにでも戦えますよ」

そうだ。元の世界ではやらなくちゃいけないことがたくさんある。
こんな所で油を売っている暇はないんだ。早くあんていくに帰って皆を助けなきゃ。
芳村さん、古間さん、入見さん……そして、亜門さんも。
誰一人として死なせたくない。死なないでほしい―――

70 吊るしビトのマクガフィン ◆HGpcLvDIJ6 :2017/01/06(金) 01:26:50 ID:vDhbmayc0

「おお、やる気満々だね、カネキくん。そっちの方が観ている側としては面白いけど。
 でも、今後の具体的な予定とかはあるの?」
「とりあえず、大学の方に向かってみたいと思います。一番明確にマスターの所在が分かっている場所ですからね。
 ……人目を忍ばなきゃならないのは面倒ですけど」
「へえ、外出するんだ。だったらいい物があるよ」

ごそごそとカバンから何かを取り出して金木に手渡す掘。
金木が手に取ったそれは後ろ髪まですっぽりと覆える大きさである黒のニットキャップだった。
確かにこれを被れば、万が一その姿を見られてもすぐには"白髪の喰屍鬼"だと騒がれることはないだろう。

「ありがとうございます。でも、いいんですか?ここまでしてくれて」
「これもアーカムの一市民からのサービスの範疇だからね。
 今まで話した情報だって私たちがアーカムで見聞きしたことを勝手にカネキくんに喋っただけだし。
 その情報を使ってどうするかまでは私たち干渉したりしないけど」

ともかく、これでどうにか外出がしやすくなった。
後は大学の方でマスターを探し出し、あわよくばそのサーヴァントを仕留める。
当面の標的はパチュリー・ノーレッジのサーヴァントであるが、無理をするつもりはない。
危険を感じたら直ぐにこの拠点へと帰ってくるつもりである。

……金木は聖杯で叶うという願いについては半信半疑だ。
あくまで、このアーカムという名の監獄から一刻も早く元の場所―――あんていく―――へと帰るために戦っているに過ぎない。
そして他のマスターをその手に掛けるつもりもない。狙いはサーヴァントのみである。
だから、その為には今よりもっと強くなる必要がある。
誰にも奪われない、奪わせない強さが必要だ。
そして、その強さは自ずと得られる。自らのサーヴァントによって。

アーカムに"白髪の喰屍鬼"の噂を最初に流布したのは他ならぬ金木のサーヴァント、『バネ足ジョップリン』である。
その噂によって金木は"白髪の喰屍鬼"という名の都市伝説として神秘を纏うことができたのだ。
さらに、実際に"白髪"の怪物による犠牲者を包帯男が出しているために、噂は真実味を帯び、金木が纏う"白髪の喰屍鬼"としての神秘はより濃くなっている。
そのため金木はウォッチャーの想定を超える早さで強さを増し、既にサーヴァント級の存在とも渡り合えるレベルにまで達していた。
……同時により強く"白髪の喰屍鬼"としての在り様に引っ張られるようにも。
それでも金木は構わない。強くなれるのなら。


「それじゃあ、行ってきます。遅くても日が変わる前には帰ってきますよ」
「いってらっしゃい、カネキくん。外での食事は自分でどうにかしてね」
「子どもじゃないんだから……」


必要最低限の"食料"を臭いが外へと漏れないようタッパーに詰めて、鞄に放り込む。
また、アーカムに来る前から身に着けていたマスクも同様に鞄へと仕舞い込む。
いざ戦闘を行う前に、顔が外部に割れないよう装着するつもりである。
ウォッチャー以外にも情報収集に長けたサーヴァントがいるかもしれないからだ。

拠点の入り口のドアを開けば、もうすぐ正午だというのにアーカムの空は相変わらずの曇天。
正直、気が滅入るがそんな事を気にしている場合ではない。
しくじれば死ぬのは自分だからだ。

――――この世のすべての不利益は当人の能力不足。

忌まわしくも真理としてその身に刻み付けられた言葉を胸に、金木はキャンパス地区へと向かっていった。
その後ろに一匹の猫を伴って。

71 吊るしビトのマクガフィン ◆HGpcLvDIJ6 :2017/01/06(金) 01:31:59 ID:vDhbmayc0

▼  ▼  ▼



カネキくん、行っちゃったね。

【ソノヨウダネ。サテサテ、コレカラ如何ナルコトヤラ】

とりあえず、私からは面白そうな情報を喋っただけだからね。
カネキくんの方針には私たち不干渉だから、ここからどうなるのかは彼次第としかえいないよね。

【おいおいよりにもよって大学かよ】【ご愁傷様】【死ね】【お前がな】
【はいはい喧嘩しない】【戦争開始だ!】【祭りだワッショイワッショイ!!】
【金木君どうなっちゃうのかな】【大金星?】【それとも速攻退場?】【それは勘弁】

【フフフ、彼がどう行動するにせよ、きっと面白い物語を綴ってくれるだろうさ】

【相変わらず新顔のくせに偉そうだな】【何様?】【俺様】【ツマンネ】
【金木君以外も色々面白そうだけどね】【やっぱ時代はアイドルっしょ】

【金木クンガドウ動コウトモ、ソノ結果ドウナロウトモ、私タチハ彼ノ物語ヲ楽シムダケ。ソレガ私タチ『バネ足ジョップリン』ダカラネ】



―――ソレデハ、諸君。観測ヲ続ケヨウ。




【ロウワー・サウスサイド・寂れた住宅街/1日目 午前】
【金木研@東京喰種】
[状態]健康(神話生物化1回)
[精神]少しリラックス
[令呪]残り3画
[装備]鱗赫(赫子と邪神の触手と銀の鍵のハイブリッド)、ニットキャップ
[道具]鞄("食料"、マスク入り)、違法薬物(拠点)、銃(拠点)、邪神の細胞と銀の鍵の破片(腹の中)
[所持金]100$程度
[思考・状況]
基本行動方針:あんていくに行かないと
1.ひとまず人目につかないよう注意しながらミスカトニック大学へ向かう。
2.マスターの捜索。当面の目標はパチュリー・ノーレッジ。
[備考]
※邪神の化身と銀の鍵を喰ったためピンチになった時に赫子に邪神の力と銀の鍵の力が宿ります。
※神話生物化が始まりました。正気度上限値を削ってステータスが上がります。
※暗黒の男に憑かれました。《中度》以上の精神状態の時に会話が可能です。
※《重度》に陥ったため精神汚染スキルを獲得しました。
※『白秋』を詠うことで一時的に正気度を回復できます。
※パチュリー主従、亜門主従、包帯男(シュバルツバルト)についての情報を得ました。
 ただし、包帯男がマスターかサーヴァントかは分かっておらず、亜門については別人だと思っています。



【アーカム全土/1日目 午前】
【ウォッチャー(バネ足ジョップリン)@がるぐる!】
[状態]観測中
[精神]多数
[装備]不要
[道具]不要
[所持金]不要
[思考・状況]
基本行動方針:金木研の神話を作る
1.【金木君どうなるかな】【楽しみだね】【他にも色々見て回ろうぜ】
[備考]
※包帯男を認識しました(マスターかサーヴァントかはわかっていません)
※暗黒の男を認識しました
※包帯男の都市伝説を広めています。
※金木研に情報を渡しました。また、それ以上の情報を保有しています。
※ミスカトニック大学にも生身のバネ足ジョップリンが存在しています。
※宝具で召喚した猫を通して金木を観測しています。

72 ◆HGpcLvDIJ6 :2017/01/06(金) 01:33:25 ID:vDhbmayc0
投下終了です。

73 ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/10(金) 00:59:24 ID:LYoBGxa20
神崎蘭子&ランサー(カルナ)
ナイ神父 予約します

74 ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/16(木) 00:03:28 ID:0g5yT/MU0
延長申請します

75 ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/20(月) 22:27:30 ID:vZuDzX.s0
申し訳ありません。延長制が無い事を失念しておりました
大幅に遅れましたが、これより投下します

76 Call of darkness ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/20(月) 22:35:14 ID:vZuDzX.s0


悪夢(タタリ)は去った。
初めての戦い、聖杯戦争の一幕を神崎蘭子とランサーは超えた。
真昼に沸いた陽炎。演目の合間に差し込まれた短い即興劇だとしても、行われたのは確かに殺し合いだった。
サーヴァントの戦い。伝説に残る英雄譚の再現……それとは反転した、恐怖劇。
一人の少女を象徴とした真昼の幻影は、光の幻想の前に虚偽を暴かれ、神威の焔に貫かれ蒸散した。
残るものは確かな実数。生き残ったマスターである蘭子と、そのサーヴァントであるランサー、カルナの二人だけだ。

「近づいてくる気配が複数ある。火の騒ぎを聞きつけて集まってきたようだな。このままでは人目につくのも時間の問題か。
 マスター、動けるか」
「……うん、なんとか」

膝を折って倒れていた蘭子に傍らのランサーが声をかける。よろよろと、緩慢ながらも立ち上がって答える。
一気に体力を奪い取られた倦怠感も、悪夢を目にした震えも今は喉元を過ぎて治まりつつある。
発汗で背筋にじっとりと張り付いた服が、少し気持ち悪い。着替えるか、シャワーでも浴びれば気持ちよくなれるだろうか。
そんな風に、どこか現実逃避気味に考えを巡らせる程度には、精神も安定を見せていた。

「ぅ―――――」

思わず口を塞ぐ。一瞬、鼻をつく臭気に吐き気がこみ上げた。
そこは戦場跡。切り取られた区画に吹く風に、溶けたゴム素材特有の悪臭が乗っている。
ランサーの放出した炎で黒一色に染め上げられた、スタジオ裏の空き地だ。
最後の一合以外は最大限加減された出力だったのだが、それでも元あったバスケットコートのラインも見えなくなるほど黒く焼け焦げていた。
ブスブスと焦げ付く地面から昇る煙が、鉛色をした天に繋がれて消えていく。
毒と害を生産し続ける黒い染み。底の見えない、深い洞穴に繋がっているように蘭子の目には映る。陽の光を浴びれぬ、影に潜み血を啜る怪物がねぐらにするような。
恐怖の空想をトリガーにして、数分前の記憶が紐解かれる。堕ちた天使のイメージが蘭子の脳内で踊る。グロテスクな情景が脳髄をくすぐる。

磨き上げた武技や練り上げた魔法。天界や魔界、本来なら在り得ぬ世界に生きた住人。
一般人の常識の枠に留まらない超越した者達。
黄金に貪欲な魔物を屠り財宝を手に入れた勇者のような、救国の為に立ち上がった聖女のような、幾多の困難を踏破する冒険譚。
そんな綺羅星の如く眩い物語の主題となる誇りある英雄達が一同に集い、互いに鎬を削る絢爛たる光景。
それが神崎蘭子の想像だった。会場の外から見ているだけで高揚するような、迫力と鮮烈さに満ちた舞踏会。
いつも脳裏に思い描いている幻想。輝きを持った生命の飛翔だった。

まったく、違っていた。
先程まで自分に迫って来ていたモノは、そんな幻想とは遠すぎる、埒外にあたる存在だ。

戦いとは即ち殺人だ。
名高き英雄であるほどに、奪った命の数は数多に登り、手に担う剣には常に血が滴っている。
英雄など殺戮者の偽称。獣の醜さを覆い隠し華美に彩ったに過ぎない欺瞞。
血潮を見せつけ、希望を手折り、絶望を顔に突きつけ、殺すという意思に耐えられなくなり、器が割れるまで注ぎ込む。
今更語るまでもない。人は人を殺す。人類史は人間の死で溢れている。
蘭子が直視を避けてきた、当たり前の現実(リアル)。
その、血なまぐさい酸鼻な現実を、都市に流布された恐怖(フォークロア)で脚色した劇が―――あの姿だった。

77 Call of darkness ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/20(月) 22:36:50 ID:vZuDzX.s0


初めての殺意との遭遇。恨み呪いをぶつけられる経験。
邪神の神秘。恐怖の噂の具現。自分自身の悪夢。
有無を言わさず流れ込んだ数多の忌まわしき情報は、蘭子の純真無垢な精神に禍々しい爪を立て、疵をつけた。
それがアーカムで行われる聖杯戦争のルール。英霊と宝具を認識する事で発症する精神汚染。
今まで受ける事のなかったあまりに濃い恐怖の形は、アイドルになるより以前から持っていた蘭子の期待を、嘲り笑いながら破壊していった。
何枚も自分の想いを込めて描いた絵をまとめて、大事に抱えていたお気に入りのスケッチブックを、目の前で破り裂かれたのにも等しい。
疵というのなら、それが一番の疵痕だ。アイドルとして壇上で歌いファンから声援をもらうようになって、久しく忘れていた寂しさ。
今までの自分の趣味を、ひいては人生そのものを否定される。それはどんな怪異よりも蘭子の心を壊す恐怖となる。


「やはり、調子が優れないようだな」

狂想に駆られていた心が、現実に引き戻される。
顔を上げると、頭一つ分上から蘭子を窺う翠の瞳と目が合った。
無表情であるが、こちらを気遣うようなランサーの眼差しに暫し見入る。
白昼の悪夢に蘭子が囚われずこうして生きていられるのは、全てランサーのおかげだ。
一人では為す術なく殺されていた。孤独では縋れず耐えられなかった。
体も心も死ぬ以外ない闇中から救い出してくれたのは、容赦なく敵を討つ烈火の激しさと、寒さから守る焚き火の暖かさを兼ね備えた、炎のようなひとだった。

"いいや、この勝利は我がマスターに捧げられるものだ。
 彼女の求心力(ひかり)がお前の虚飾(カゲ)を払った。オレはそこに槍を刺しただけにすぎん"

幕間の終わりの間際、ランサーはそう影の魔王に宣告した。
彼を傷つけたものはマスターの噂が生み出した影だ。言ってみれば自分が傷つけたようなもの。
それを前にして命を危機に晒されていながら、ランサーは蘭子を責める事もなく、その輝きを肯定した。
己が背負う太陽に劣らぬ眩き光だと。闇に打ち克ったのは彼女の功績だと華を添えたのだ。

黄金の鎧を纏った体は命を守り、誠実な言葉は心を救ってくれた。
恐怖から解放された蘭子の胸の中に残るのは、ささやかな、華開く前の蕾のような誇らしさだ。
それだけで何も変わらない。現実に何かを起こす事もない。けれどそれは背中を小さく押して前に進む力をくれる。
家の窓を開いて外の世界に足を踏み入れた時のように。アイドルとして成功した蘭子はその力を信じていた。

「……ククク、案ずるな我が友よ。この身の翼はいまだもがれてはおらぬ。片翼の天使へと堕ちはしないわ!」

片方の手を突き出し、もう一方の手で顔を覆う。蘭子にとってのいつものポーズ。アイドルとして受け入れられ、求められた形。
プロデューサーがアイドルの魅力を引き出し、アイドルはプロデューサーの期待に応える。
今の自分を通すのが、称賛してくれた彼に対する一番の礼儀だ。

「本来我とは相容れぬ属性。されど光と闇は同時に隣り合い、高め合う運命を背負っている……。
 比翼たる貴方がいる限り、たとえ嵐に見舞われようとも、共に羽撃き空を舞う時を待っているわ……!」

ややぎこちなく不敵な表情を形作る蘭子を、ランサーはじっと見てどこか感心したように頷いた。

「……そうか、なるほど。虚勢でも口に出せるうちは正常の範囲だ。その迂遠な言葉回しもまさしくいつものお前だ。安心したぞ」
「う、迂遠……?あ、我が友こそ、その体は壮健か?」
「傷なら問題はない。既に治癒は済んでいる」
「おお、さすがは金色の羽衣……あらゆる魔を弾く神の真結界ね……」

78 Call of darkness ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/20(月) 22:38:48 ID:vZuDzX.s0


申告どおり、ランサーの肉体にはあれほどあった傷は跡形もなく消えていた。
傷の殆どは鎧の内側の肉体にあったものなのだから正しく装着している今見えないのは当然でもあったが、それを抜きにしても健全な状態にまで治癒されている。
何者をも弾く黄金の鎧、伝承に疑わぬ姿の英霊カルナは元の万夫不当さも完全に取り戻していた。
裏路地に細く差す日差しの温もりと別の、心の凍えを解かす存在感。
これこそが太陽の具現。生まれた頃より神に賜った日輪の具足。
日常を照らす象徴に護られているという感覚が、底に溜まった澱を焼却していく。

「時に主よ、話を戻すがこの場をどうやって離脱するつもりだ?じきに駆けつけてくる、この街の救急隊員とやらに保護を願うのなら、それも手だが」
「そ、それは困る……ンンッ、今は我らの神秘を衆目の民に晒すわけにはいかぬ。急ぎ翼を羽撃かせ退かねば……」

人気のない場での火事騒ぎなど、まずアイドルが関わっていてはいけない状況だ。
付近には蘭子が所属しているプロダクションも入っているスタジオもある。
プロデューサーや仲間のアイドルにも迷惑をかけてしまう。……聖杯戦争には無用の配慮だが、アイドルの目線でいえば自然な対応だ。

「神秘の漏洩は魔術師の禁忌と聞くが、お前にもそのような気構えがあったとはな。
 しかし翔ぶか。ふむ、確かに上に逃げるならまず一般人には目につくまい」
「え?」

そしてランサーは何か、見当違いの方向で納得した風に、蘭子の細い手首を軽く掴んだ。

「ふぇ、ぅぇ!?な、何故我が手を取って……!?」

青ざめていた顔が一瞬で赤くなる。引いていた熱がまた上がっていく。
ゆるりと伸ばされた蘭子の華奢な腕を誤って壊さないように慎重に手に取るランサー。
見る構図によっては、場所さえ考えなければダンスを踊る二人の男女、と捉えられなくもない。
……ランサーは一切感じていないし、蘭子にもいつもの口調を保つ余裕もなかったが。

「案ずるな、お前から魔力を貰う必要もないぞ。オレが担ぎ上げるだけで事足りる」
「そ、そうじゃなくてぇ……」
「……?ここを離れるのではなかったのか?」
「あぁぅぅ〜‥…」

ちぐはぐとした、噛み合わない会話。
死線を共にし、互いに確かな信頼が通っているのにどうしてか、こうした普段にするような会話の時二人の意見は奇妙なまでにすれ違うのだった。


急に手を放してランサーが背後へ振り返る。マスターである蘭子を背にして、彼女を庇う位置に回る。
緩やかさを取り戻していた空気が凍りつく。警戒と殺気を表層に出してビル影の奥を睨む。

「――――何者だ」

暗い、ビル影の向こう側。
そこには、闇があった。
闇が固形となって光の下を謳歌している、そんな混沌の具現のような存在。
この大英雄をして、今の今まで気配すら悟らせずにいつの間にかそこにいた、男のような闇が佇んでいた。

「おや、お邪魔だったかな?これは失敬。
 仲睦まじき事で実に結構。マスターとサーヴァント、互いの奉仕と信頼こそ聖杯戦争の華だ」

ずるり、と闇が這い出てきた。
赤い衣に身を包んだ、神父風の男だった。
風、としたのはあくまで見た蘭子がイメージした中で一番近しいと思ったのが、神父の衣装というだけでしかない。
鮮血を想起させるほど毒々しい赤に濡れた装束を纏う聖職者が実際にいるかなどは、蘭子には想像もつかない。
嫌でも目につく派手な服装は、しかし男の持つより強烈な特徴で印象を塗りつぶされていた。
真昼の空において、一点だけ破り裂けられたような夜の色。
空間に孔が空いていると錯覚してしまう黒。
人種だけでは到底説明がつかないほど濃く染まった肌が、男の不気味な存在感を決定づけている。
衣装と相まってよりイメージを収束させる。蘭子がいつも心の中で思い描く物語に登場する、『悪の魔法使い』そのものだった。

79 Call of darkness ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/20(月) 22:40:04 ID:vZuDzX.s0


火を見て駆けつけた住民、と考えるはずもなかった。
コレはとっくに、日常に含まれる範囲を逸脱している。蘭子にもそれは理解できていた。
マスター。サーヴァント。アーカムに紛れる自分達の間でしか意味の伝わらない力を持った言霊。
唇までも黒い口から、既に呪いの言葉は吐かれている。

「聖杯戦争の監督役か」
「如何にも」

薄い笑み。

「私は呼び声を聞き遂げて現れた者。大いなる日の降誕を待ち望む者。
 魔女の流刑地、アーカムにて執り行われる儀式。血の陣の上に贄を乗せ開かれるサバト。
 此度の聖杯戦争の名を見届ける者。名をナイ神父という。
 以後お見知りおきを。灰かぶりの姫。そして太陽の子よ」

恭しく頭を垂れる、ナイと名乗った男。
恐ろしい容貌とは裏腹に語りかける口調は穏やかなものだ。
それが逆に誤魔化しの利かない齟齬になって、よりおぞましさが増している。蘭子にはそんな気がした。
対してランサーは恐れを感じた様子は微塵も見せず、臆せずナイへと尋ねた。

「それで、用件はなんだ?ただマスターに顔を見せるためにこの場に現れたわけでもあるまい。
 ここでの損壊を責めるというのなら、それは確かにオレの落ち度だ。叱責があれば甘んじて受けよう」

目を見開いて、ナイは白の手袋をはめた手を出して破顔した。

「落ち度?叱責?まさか!私は罰する者などではない。私は見届けるだけのものだ。それに君の手際は完璧だったとも。
 襲い来る敵を滅ぼし、己がマスターを守護する。なおかつ外の往来を歩く有象無象の市民への被害にも配慮した。
 残留した神秘の残り香に誘われてそのまま精神を焼かれる者はいるだろうが、まあそれは自己責任さ」

ランサーの言葉が心底意外だと言わんばかりに説明を施す。

「私が来たのはその始末のためでもある。単なる火消しだよ。儀式は序盤に入ったばかり。神秘の漏洩はまだ避けるべきだからね。
 ああそれと、そこのお嬢さんの顔見せの意図も含めているよ」

そこまで言って、ナイは口を止めた。赤く濡れた、蛇のように艶めかしい視線が妖しく光る。
ランサーの後ろでおっかなびっくり顔を覗かせていた蘭子は生理的嫌悪を覚えた。

「どうかね。お楽しみ戴けているかな?聖杯戦争は」
「―――!」

心臓が裏返りそうになった。
ただ見られただけで身が竦む。気持ちの悪さが肉の底から這い上がってくる。
見ることは原始の魔術である。目は口ほどに物を言う、と言われるように視線にはある種の意思が宿る。
邪視。魔眼。言葉が発達するより前から人は視線に力を見出していた。
今蘭子が感じているのもそれだ。見てはならない断崖の淵。底から覗く眼を見てしまった。

「ふふ」

神父はずっと、言葉を投げかけるランサーに注視しているとばかり思っていた。
監督役といえど、サーヴァントと正面で相対するのなら警戒は怠るまいと勘違いしていた。
実際は違う。視線の焦点が当たってるのはひとつのみだ。ランサーはその射線上にいただけでその実眼中に入っていない。
現れた最初の時から、ナイの眼球はたった一点、一人にぴったりと張り付いて見ていたのだ。

80 Call of darkness ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/20(月) 22:42:36 ID:vZuDzX.s0


「そのご様子では、あまりお気に召されてはいないようだ。意外ではあるね。
 是非再び神秘を目の当たりにした喜びと興奮の感想を聞かせてもらいたかったのだが―――」
「そんなの、わ、我は―――私は、このような儀式など、求めていないわ」
「ほう?」

神父の眼が細められる。震えながら自らに拒否の言葉を返してきた少女に、大きく関心を寄せられていた。

「求めてない?何故?
 神秘との遭遇、魔と幻想の体験は君の念願であった筈だろう?」

故に的確に、嘲笑を以て少女に刃を突き刺した。

「ぁ……―――――――」

蘭子の心臓に痛みが襲う。攻撃ではない。物理の刃、魔的な呪詛であれば傍にいる英霊が弾く。
しかし幻痛は、言霊の重みは耳を塞いで何も聞かない限り防げるものではない。

「此処には在るのだよ。魔術も、英霊も、君が求めしかし掴めなかった神秘の全てが。
 このアーカムでなら君はそれを目にする事も、手に取る事もできる。自ら使役し、行使する事だってできる。
 かつて君が夢見た空の世界、再びその神秘を着飾れる舞踏会場に招かれた。それなのに、どうして快楽の海に耽溺しないのかね?」

―――痛みの次は、胸が穿たれたような空虚。
翼を生やし、手の内から魔法を放ち魔獣を討つ。蘭子が思い出した、冒険の日々の記憶。
楽しかった。歓喜に満ちていて、嬉しくて、その後のことなんて忘れてしまって。
ずっとこんな時間が続けばいい。永遠に愛したものと幸福に包まれていたい。そんな駄々をこねたこともあった。
忘れていた記憶を思い出して、もう一度行きたいと願っていた。条理の外を超えてもう一度彼らに会いたい、流れ星に願う小さな欠片。

その結果、辿り着いたのがこの世界。
一握りの奇跡を追い求める殺し合い。
酸鼻な殺撃を広げるのみに狂信する怪物。化物。
それは違う。そんな世界は求めていない。けれど―――
あの世界でも、陽の当たらない裏では同じような地獄が起きていたのだろうか?目を逸した向こう側には、怨嗟が沼のように沈んでいたのか。


これが、自分の楽しんできたものの正体―――?


神父の言葉の意味を問い返す余裕も、今の蘭子にはない。
胃の内容物どころか、内蔵もろとも体の中から排出したくなるような拒絶感が体内で暴れまわっていた。
まるで腹腔の奥の奥にイキモノが棲みついてるよう。自分の体を内側から食い破って出て来る怪物の姿が浮かぶ上がる。
いっそ、吐き出してしまえ。黒い誰かが耳元で囁く。
ああそれはなんて甘い誘い。極めて堕落。安易な失楽。
喉に手を肩まで突っ込んで引き摺り出す。するとほら、出て来るのはこんなに綺麗で艶めかしい君の■■が―――

「―――――――――」

81 Call of darkness ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/20(月) 22:44:58 ID:vZuDzX.s0


不意に、上を見た。高い空ではなく、すぐ隣に佇む金色の太陽を。
伸びた前髪から見え隠れする瞳は、鮮やか色で自分を見返している。濁りのない、吸い込まれるような色に、暫し蘭子は恐怖を忘れた。
ランサーは静かに、ただそこにいるだけ。主に慰めの言葉ひとつ授けずに、何も語らず黙している。
それが無関心からくる放棄の沈黙ではないと、もう蘭子は知っている。
英雄であり、けれど少し不器用で人に伝える事が苦手な所がある、温かな性根があると知っている。

だって、彼はそこにいる。
そこに、いてくれているのだ。
一人では耐えられなかった。誰かに傍にいて欲しかった。
サーヴァントはマスターに従うもの。そんな、ルール上に記載されているだけの理由だとしても、傍を離れないでいた。
ならば他に、ここで何を望むというのだろう。それだけで蘭子は救われているのに。

彼は待っている。蘭子が口を開くのを。
自身への命令であれ、目の前にいる神父への返答であれ、選んで取るのは蘭子の意思。彼女にしか背負えない役目であると理解している。

そっと、鎧の上からでも細い腕に手を乗せた。振り払いもせず青年は受け入れる。
硬い、金属質の触感。けれど冷え切っていた指先には暖かさが戻ってくる。

「は、ぁ―――――――」

暗転しそうな意識を懸命に保つ。えづきそうになりながらようやく重い息を吐き出す。それで、気持ちの悪さは一旦引いてくれた。

「でも……私が行きたい世界は、ここじゃないから」

喉には唾液がからみつき、心臓の鼓動は不穏に高鳴っている。

「ならば君は、何処を目指す?」

声は掠れ掠れて、歌声なんて聴かせられないぐらいみっともない。

「もっと綺麗で、輝いていて、皆に声を届けられる場所」

今にも崩れ落ちそうな体を支え、泣きそうな顔を抑えて、それでも言葉は断ち切れる事なく、
弱々しくも、こう告げた。


「―――星みたいな、煌めく舞台を、昇っていきたい」


「ああ――――――素晴らしい」

黒肌の男は目を閉ざして顔を上向け、まるで聖歌に聴き入ってるかのように深く頷いた。
胸に当てられた手が震えている。感動か、はたまた別種の感情か。

「そうだ。そうだとも。そうでなくては意味がない。
 自身の『願望』のため、生きて、考え、動き、戦い、呼吸し、走り、足掻き、傷つき、泣き、笑い、叫び、奪い、失い、築き、壊し、血を流し、怒り、這いずり、狂い、死に、蘇る……。
 君のような愛しい人間が足掻くからこそ、定命の華は美しく咲き誇るのだ」

やがて目を見開いたナイの顔には、変わらぬ微笑が張り付いていた。
分け隔てなく振り撒かれる慈愛の如く、しかし全てを見透かし睥睨する薄っぺらい笑み。

82 Call of darkness ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/20(月) 22:48:57 ID:vZuDzX.s0


「やはり、聖杯戦争とは面白い。私も監督など暇な役職(ロール)でなくいっそ参加者として関わりたかったが……いや、言うまい。
 『私』という可能性は遍在する。思い至った時点で、既に別の『私』が実行に移しているだろう。
 それに相応しい英雄の仮面(ペルソナ)も、あることだしね。知っているかね?全ての人には心の闇に潜む普遍的無意識の住人が―――」

本人にしか意味のない言葉を呟いて、再び蘭子へ向き直ったナイが冒涜的な真実を並び立てようとした時、焼き焦がす熱気に次の句を遮られた。

「悪いが、そこまでにしてもらおうか。それ以上は害意ある干渉と見做さざるを得ん」

主の意思を聞き届けたランサーが口を開く。
周囲に炎の翼が舞い降りたかと思う火の熱は、しかし現実には火の粉の一片も舞ってはいなかった。
今のはあくまでランサーの視線の威。太陽神の子たるカルナとなれば、眼力だけでも燃焼の現象を齎す。魔力ではなく単純な覇気としてもだ。

「用向きが済んだのならば疾く去るがいい暗黒。蘭子はオレの主人だ。監督役といえど手を出さない訳にはいかない。
 それこそお前の中立としての立場も揺らぎ出すぞ」

マスターの許可なく戦闘力を開放する軽率さは持ち合わせてない。翻せば、命令さえ下ればカルナの槍は音速で神父に迫りくるだろう。
ナイはその間合いに入っていた。物理的な距離にも、蘭子の精神の許容量においてもだ。

「それは怖い。生ける炎が如し君を相手にしては、私のような影は消えるしか他ないな。……確かに、些かからかいが過ぎたようだ。少し『貌』が覗いてしまった」

白い手袋をはめた手で表情を覆い隠し、さっと身を引くナイ。
そこに口にするほど、ランサーの炎を畏れている風には見受けられない

「これでは叱責を受けてしまうのは私の方だな。望み通り素直に立ち去るとしよう」

するすると遠ざかっていく様子は波が引いていく様子にも似ていた。

「しかし、覚えておきたまえ施しの英雄。人はいずれ、太陽(きみ)にも手が届く時が来る。
 かのアインシュタイン、オッペンハイマーが発明し、アンブローズ・デクスターが推し進めた滅びの兵器。終末の時計の針はいつ進んでもおかしくはないのだから」
「警句、感謝する。有難く受け取っておこう」

皮肉を交えていたらしきナイの言葉にも至極真面目に取り合う。ナイもさして不快にした気もなく笑みのまま流した。
路地裏にまで引き込み、そのまま影の中に溶け込んでしまいそうな段になって、思い出したように言い残した。

「……ああ、そうそう。隔離の為この辺りの時間を少しかしいであるが、君達が去るまでは解除しないでおこう。
 何処へ向かおうと、君達のその過程が他人に捉えられる事はないだろう」

時間を取らせたお詫び代わりだよ、と付け足して、今度こそ神父の姿は路地の奥に吸い込まれて完全に消失した。
影から生じた闇が元の影に戻り、今度こそ世界は色を取り戻す。

『ではさようなら、暗雲に覆われしアーカムで、なお輝きを見失わぬ少女よ。汝に星の智慧があらんことを』

なのに、声だけが明瞭なほど耳に反響して、去る最後まで跡を濁していった。
アーカムという水面に投げ入れられた小石。広がる波紋は次なる波の呼び水になり、より大きな波を作る。
この邂逅は、その流れのうちのどれに値するのか。
暗黒の神父に脆く決意を宣言した少女の行為に、如何なる意味を持つのか。
真実は暗雲に包まれている。正答は仄暗い海の底に沈み落ちていく。
全ては闇の中にあり、闇もただ黒い笑みを浮かべるのみ――――――。
神崎蘭子の緒戦。聖杯戦争ではありきたりな一幕はこうして下ろされた。

83 Call of darkness ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/20(月) 22:53:08 ID:vZuDzX.s0



【商業区域・スタジオビル裏/一日目 午前】

【神崎蘭子@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]魔力の消費による疲労、ストレスにより若干体調が優れない
[精神]大きなストレス(聖杯ルール、恐怖、流血目視、魔王ブリュンヒル登場によるショック)ナイ神父との接触により症状持続
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]中学生としては多め
[思考・状況]
基本行動方針:友に恥じぬ、自分でありたい
0.……
1.我と共に歩める「瞳」の持ち主との邂逅を望む。
2.我が友と魂の同調を高めん!
3.聖杯戦争は怖いです。
4.私が欲しいのは―――
[備考]
タタリを脅威として認識しました。
商業区域・スタジオビル裏にて、ナイ神父と接触しました。

【ランサー(カルナ)@Fate/Apocrypha+Fate/EXTRACCC】
[状態]
[精神]正常
[装備]「日輪よ、死に随え」「日輪よ、具足となれ」
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従い、その命を庇護する。
1.蘭子の選択に是非はない。命令とあらば従うのみ。
2.今後の安全を鑑みれば、あの怪異を生むサーヴァントとマスターは放置できまい。
3.だが、どこにでも現れるのであれば尚更マスターより離れるわけにはいかない
[備考]
タタリを脅威として認識しました。
タタリの本体が三代目か初代のどちらかだと思っています。



【アーカム市内?/一日目 午前】

【ナイ神父@邪神聖杯黙示録】
[状態]?
[精神]?
[装備]?
[道具]?
[所持金]?
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争の行方を最後まで見届ける
1.?
[備考]


[全体の備考]
ナイ神父の措置により、現在位置を離れるまで、蘭子達が一般人に発見される事はありません。

84 ◆HOMU.DM5Ns :2017/03/20(月) 22:54:12 ID:vZuDzX.s0
投下を終了します

85 名無しさん :2017/03/21(火) 00:32:25 ID:BLwD.plM0
投下乙です。
今まで夢見てきた幻想の負の側面を見せられながらも、ナイ神父に向かって自分の夢を絞り出して告げる蘭子はかっこいい、これはナイ神父も歓喜しますわ。
その勇気の支えになってるのがカルナさんっていうのも良いなぁ、本当に蘭子ちゃんは良いサーヴァントを引いたなぁ戦力面でも精神面でも頼り甲斐がありすぎる。
ナイ神父さんは邪神なのに戦闘の後片付けとか監督役の鏡やで、数ある亜種聖杯の監督役の中でも一番まともに監督役してるのが邪神だというのがなんとも……そして参加者として参戦している英雄としてのペルソナを持った「私」……いったい何ヒトラーなんだ

86 名無しさん :2017/03/29(水) 00:57:26 ID:P1ePoAgI0
>吊るしビトのマクガフィン
ウォッチャー、その実、決してマスターの味方にあらず。
情報を手に入れた金木君だが大学は今や爆発寸前の火薬庫そのもの。
しかも肝心のパチュリーはそこにいないと来た。
刻一刻と火薬が迫る何かにぞくぞくしますね。

>Call of darkness
ナイ神父、バリバリに干渉してて本当に迷惑な奴だよ……
一方カルナさんの正統派英雄イケメンムーブは五臓六腑にしみわたるぜ……
抱きかかえられる蘭子ちゃんかわいい……かわいくない?
流石はシンデレラガールだぜ……

87 ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/15(水) 00:02:54 ID:H4FniH2E0
鷺沢文香&アーチャー
マスク&アサシン
Dr.ネクロ&バーサーカー
で予約します

88 ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:24:53 ID:4eyCh4960
投下します

89 Libra ribrary ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:25:40 ID:4eyCh4960



―――結局、行き着く所はここしかないのだった。



書物の匂い、窓から差す日の光の照らし、積もった歴史を感じさせる雰囲気は、今日も文香を迎え入れてくれる。
読み尽くせぬ本に囲まれた空間は未知が潜む森に似て、魔術を知らぬ身にも知識の泉という神秘を思わせる。
代わり映えのない自分の家にいるより、ずっと文香の気分を落ち着かせていた。
ミスカトニック大学・附属図書館。文香が殆ど入り浸りになって本を捲る毎日を送っているこの閲覧室は、このアーカムの何処よりも慣れ親しんだ場所になっていた。
すっかり定位置になった閲覧室の椅子に腰掛け、そこで文香は今までの徒労を思って項垂れた。

「……どうすれば、いいのでしょう」

アーカムから無事に抜け出す手がかりの捜索は、ここまでどれもが空振りに終わっている。
相談相手の候補に定めていたパチュリー・ノーレッジとは会えずじまいで終わり。
偶然会った応用化学部のプレシア・テスタロッサ教授にはすげなく突き放された。
頼みの綱は断たれた。取れ得る『行動』の選択肢は、現状何もない。デスクの上には大量の本が目の前に虚しく並んでいる。
件のプレシア教授と接触する際に持ち寄っていた館外へ持ち出した書物だ。
アーカムの歴史書、魔術・オカルトの関連本……普段は好んで読もうという気にはならなかったジャンルは新鮮ではあるが、あくまで関心止まりでしかない。
都市の成り立ち、風土や伝わる逸話などにはそれなりに詳しく知れたが、当然ながら聖杯戦争の脱出に繋がるような情報が見つかることはない。
一般生徒でも閲覧・貸し出しが可能な範囲の本ではそこが限界だ。より真に迫るには……普通には見ることはない秘書に手を出す必要がある。

地下に置かれた禁書庫……世界各地から蒐集された稀覯書を封じてある開かずの間。
そこには記者の妄想や嘘八百の伝記として書店に置かれるようなインチキ本とは違う、力ある魔術に基いて記された『本物』の魔導書が幾つも眠るという。
図書館に通う学生なら誰もが一度は耳に挟む噂話だ。噂は噂でしかなく、現実に目にしたと吹聴する話はとんと聞かない。
しかし文香の生還に必要な知識があるとしたら、恐らくその場所だろう。
魔術やアーカムの秘密の知識を探すような、情報収集を目的とした、つまりは比較的穏健な人間であればここを訪れに来るかもしれない――――
その程度の考えくらいは巡らせていた。

網を張る、というには心許ないか細い糸。
あくまでも待ち。どこまでも受け身。希望的観測に頼るだけ。
仕方のないことでも、それ以外何か進展になる考えが思いつかなくても、待つだけの時間は憂鬱だ。
アイドルとして活動していた鷺沢文香としての時間まで消し飛ばされてしまったのか、自分一人では何も変えられない無力感は、じわじわと首を締め付ける真綿のようだ。
時が刻むたび、無力さを思い知られ、無意味であると嘲弄されていると錯覚する負の循環。
それでもそこで諦観に投げ出さず、前を見て道を模索しているのは確かな成長の証か。

90 Libra ribrary ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:27:22 ID:4eyCh4960



『マスター』


文香の中だけで渦巻いていた重苦しい雰囲気は、そこで唐突に終わった。文香にだけ届く無機質な男の声で。

『今すぐ席を変えろ。ひとつ隣でいい』
「……え?』

未だその手に銃を握らぬ男、自ら沈黙を破ったアーチャーの声が明瞭な指示として飛んできたのだ。

『その位置では守り辛い』

聞き返すよりも先に理由が述べられる。意味を斟酌し、それについて詳しく聞こうとしても、さらなる変化がそれを許さなかった。
今度は外界。図書館の入り口から軽く話し合いながら歩いてくる、おかしな格好の、おかしな組み合わせをした男女。


状況は進展する。混沌は渦を巻いていく。
文香の意図などお構いなしに、聖杯戦争は着々と進行していく―――。




 ◆ ◆ ◆



―――つまりは、この衝突は必然であるべきだった。



二人分の足音が廊下に響いて鳴っている。
大きいが慎重さが足運びにまで移っている音と、小さいが大胆にふてぶてしくすらもある音。実に対照的な存在感であり、互いのスタンスの違いを感じさせる男と少女だ。

「さて助手のマスクくんよ、いま私達が何処に向かっている先がわかるかい?」
「見物人がいるならいざしらず、二人だけの今なら私と貴様は捜査官と重要参考人の間柄だと憶えているのか?」
「大学内にいる限りは教授と助手のまま継続だと思うけどねぇ」

警察官兼客員教授という体でミスカトニック大学内へと潜入したマスクとDR.ネクロだ。
関係者との挨拶もそこそこに済ませ、自由の身となった二人は何を相談するでもなく同じ方向へ歩いている。

「そもそも舞台のロール以前に我々は協力し合うマスター同士だろうに。ならば立場は対等だろう?」
「その言葉はシラフのままでこちらをからかっていると受け取ろう」

いま二人以外にはすれ違う学生や教員の影はない。外でまばらに見えるぐらいだ。マスクは偶然であると捉えたが、あるいはネクロが根回しをしたのか。
そのためマスターという身分を明かすこともリスクは薄い。それも、構内に隠れ潜んだ他のマスターであると目する首吊り犯の存在を考慮しなければだが。

「冗談の通じん奴め」
「時と場合を選ぶだけだ」

底意地の悪いからかいを切り捨てつつも、マスクはバイザー越しの情報でネクロの最初の質問に対する解答を選んでいた。
ネクロと出会う以前にマスターとしての資格を得て以降、聖杯戦争に勝利するために収集してきた情報の一部を閲覧する。

91 Libra ribrary ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:28:12 ID:4eyCh4960


「……ミスカトニックの大学を根城にする輩なら、まず初めに押さえるべきは書庫だろう。貿易商の遺産を元手に建てられたたここはアーカムの隆盛に一役買っている。
 さらに魔術書という黴臭い遺産が大量に眠るという場所だ。網を張るには最良の定位置にもなろうさ」
「さすが、素人なりに当たりはつけてるか」
「伊達と酔狂目当てのマスクだと思われては困るのでな」
「えっ違ったのか?そういうかわいそうな趣味かと……」

仮面越しでもどういう表情をしているか分かる視線がネクロに突きつけられる。無視してネクロは、マスクの推理を引き継ぐ。
幼い顔の眼差しに影を這わせ、百年を超える時を生きた魔術師は語る。

「―――そうだ。ミスカトニック大学の禁書庫には叡智を記した魔術書が貯蔵されている。
 魔術の王ソロモンの魔術書。極東を支配し忽然として姿を消した半神的存在。アヴァロン、ティル・ナ・ノーグに連なる幻想の異界。
 ヘンリー・アーミティッジを初めにかき集めた世界各地の神秘の断片が眠るそこは、アーカムに潜む闇の側面の象徴でもある。
 聖杯戦争に関わるマスターにとってこれ以上の要所はあるまい。そして餌としては極上の部類だ」

ネクロにもアーカムという都市に根付く黒き知識は完全に把握するには至らない。それほどまでに此処の神秘は『濃い』。そして異常な形をしている。
館内の禁書庫はマスターという立場を除いた、魔術師のネクロとしても垂涎の的だ。故に、そこにかかる魔術師を獲物として見る、冷酷な狩人が伏せている可能性もまた高い。

「獣の口に飛び込むも同じ真似か」
「それか屠殺場だな」

マスクもネクロもそれは承知している。敵の存在を知ったからこそこうして潜り込んでいるのだ。
一時という限定とはいえ共に行動しているのは敵サーヴァントの打倒のため。所在が絞り込めているならば、二の足を踏む理由はない。
勝利への戦意という点のみでいえば、二人は確かに対等であり、同等であった。

「しかし、許可証を得た足でもうはらわたを開ける気か?」
「それを調べるためにも一度見ておくべきなのさ。それにまだ私達の存在が知れ渡ってない今なら監視の目も届かないかもしれない。
 兵は拙速を尊ぶ、ってのは東洋の格言だったか?」

あちこち探りを入れて慎重に立ち回り結果後手に回るよりも、真っ先に見ておきたい場所の調べを済ませてしまいたいというわけだ。そこはマスクも同感だ。
そうこうしてる内に館の前にまで辿り着く。歴史を重ねた扉は今の話もあり、マスクには秘島に隠された宝物庫にも感じられる。
あるいはそこに隠れ住む、それこそはらわたに繋がる人食いの怪物の口か。
当然まず始めに会うのは守衛か館長かだ。マスクの感覚は一瞬の気の迷いでしか無い。
しかしそれに飲まれてしまうだけの雰囲気が、この館からは放たれていた。吸い込まれれば二度と引き返せない、ブラックホールにも似た引力。
魔術神秘に既知のないマスクにとって、ここでの探索はともすれば宇宙でのモビルスーツ戦と同様の死地にすら成り得る。

「では行くとするか。サーヴァント以外の脅威が出て来る可能性もある。気を張っておけよ」
「絵に書かれた魔物が飛び出てくるとでもいうのか」
「案外そういうのも有り得るぞ?ここの禁書を盗もうとした異形の男は番犬に噛み殺されたそうだ。
 自分の常識に縋りいているようなら捨てておけよマスク。外なるものから奪われるよりは、自分の意志で捨てる方がまだマシな選択だ」

脅し。というよりは警告に近い色。
飄々として得体の知れないネクロにしては、今の台詞には真剣な意味合いを感じさせる。
引き返すことは出来ない、ここを超えれば自分の中の何かを捨てる羽目になると臓(ハラ)が訴えている。

92 Libra ribrary ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:29:21 ID:4eyCh4960


「―――ここで退いて、おめおめと帰っていられるか」

本能の警鐘を自覚しつつも、マスクの中のルイン・リーは理性と感情を優先する。
命の危機はとうに覚悟している。マスターになる前から、キャピタル・アーミーとなってから。
あるいは、それよりずっと前に決めていたのかもしれない。クンタラと蔑まれてきた己が身、民族の血を浄化しようという野心を孕んだ時から。
そして今、ルインはこれまでにないほど本懐を果たす道に近づきつつある。呪われた宿命を一代で払拭できる奇跡の御業。
既にネクロへの貸しという高い授業料を払う羽目にもなっている。ここで命を取るようなら男が廃るというものだ。
ひょいひょいと先を行くネクロを追って、意を決しマスクは中に足を踏み入れた。


閲覧室はその名が示す通り、見渡す限りの棚という棚に本が詰められていた。
これまでのマスクの情報収集の供給源は警察署の事件ファイル、ネットワークを通じてのもので占められている。
虎穴となる大学に潜る口実が思いつかなかったのもあるが、単に電子上のデータである方が馴染み深いだけの理由だ。
人類が母なる星を飛び越え幾百年、技術は過渡期を超え衰退し今また復元を果たそうとする流れにいるリギルド・センチュリーのマスクにしてみれば、
まさに埋もれた旧時代の遺跡に立ち入ったような気分にもなる。

「一般生徒でも貸し出し可能な範囲で、本物が収まってるわけはないか」
「だろうな。まあだからこそ逆にそこに紛れ込ませているって手もあるが……」

観光目的で来たわけでもないので、傍に積もる本の題に目移りすることなく通り過ぎる。
少なくともこれだけの蔵書、マスク一人で調べをするには効率が悪すぎる。それこそ魔術を知り自ら行使するネクロの管轄となるが……

『マスター。耳に入れておきたいことがある』
『何だ』

念話で己のアサシンから告げ口がされた内容にマスクの動きが止まる。
そのやりとりの間に、ネクロは本が山と積まれた席についていた女生徒に近づき声をかけていた。

「昼時だというのに熱心だな。講師に課題をたんまり出されたか?」

果たして暗示とやらは使用しているのか、不躾にネクロは話しかける。かけているとして、それがどういう姿に見えているかはマスクにも与り知らぬが。
一方の生徒である少女はびくりと肩を揺らし、ネクロとマスクを交互に見やって困惑した様子でいた。
顔立ちは東洋人らしく、前に下ろされた黒髪の隙間から蒼い瞳が見え隠れしていた。

93 Libra ribrary ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:29:42 ID:4eyCh4960





「あの…………ぇと」

文香にとって、自分に話しかけてきた少女は青天の霹靂そのものだった。
数少ない知り合いではないし、大学で見かけるような出で立ちでもない。
濃い紫色の長髪、椅子に座る自分より頭一つ分ほどしかない体躯に大人用のロングコートを羽織った少女など、一度見れば中々記憶から抜け落ちてくれそうにないイメージだ。

「ここの生徒で間違いないな。少し話を聞かせてくれるとありがたいんだが」

年齢に似合わぬ口調と雰囲気は、同じく高校生らしからぬ体つきで話題の元の世界でのアイドル仲間を思い起こさせる。
見た目は少女でしかない謎の人物からの質問に文香は閉口するしかなかった。
人見知りだから、という理由ではない。それだけであればまだ多少なりともまともな受け答えもできただろう。
―――先程伝えられたアーチャーからの提言。『襲撃の可能性がある来訪者への対処』が、いつも以上に思考を鈍重にしていた。

目の前の人が……まさか……?

俄には信じられない。確かに一般人からは外れた格好をしてはいるが、文香が見知ったアイドルにもそうした『きわどい』格好をした人もそれなりには、いた。
それがそのまま危険に直結するなどとは考えつかなかった。
しかし自分のサーヴァントからの忠告。第一級クラリック。ガン=カタの達人。卓越した戦闘における情報処理能力を疑うのは致命的な判断であるような気がする。

―――途端、急速に喉が乾きを訴えてきた。

長く、砂漠を彷徨い続けてきたような、罅割れた飢餓感。飲み込む唾すら急速に乾燥する。
本能は貪欲に今すぐに水分を欲しがっている。コップ一杯―――いや足りない、足りない、到底足りはしない。
肺の中を完全に水で満たさねければ収まらないと。そのまま地上で溺れてしまいたくなるような衝動。
目の前の机に水溜まりが出来ていれば、みっともなく頭をそこに突っ込んでいただろう。

「ん?どうしたよそんなにびくついて」

目の前の相手は威圧や脅しをかけているわけではない。明確な敵意は完全に見られない。
なのに口元は微かに震えるばかりで、何一つ言葉が出てこない。早鐘を打つ心臓の鼓動だけが耳に響き、脳を痺れさせる。
言うべきことは。取るべき行動は。アーチャーに指示するべき対応は?
思考は霞がかって、目の前が暗闇になったみたいに『次』が見えないでいた。
向こうは何もしていないのに、自分だけが一方的に怯えている。相手が■■■■の可能性があるというだけで。
今の文香は震えて見えるのだろう。無様に、哀れに、蛇に睨まれた蛙のように。これでは自分が敵―――ですらない、餌であると看板を掲げているのと同じなのに。


「見知らぬ相手に問い詰められて黙りこくる理由に思い至らないなら、鏡を見ておくことだ」


聞く人に耳を傾けさせる、どこか爽やかな感触のある声だった。
横から入り込んだ助け舟の声に、恐怖で凝り固まっていた文香の体に僅かばかり自由が戻る。

94 Libra ribrary ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:30:32 ID:4eyCh4960

「ああ、名を聞くならまず自分からってやつか?東洋の習わしは厄介だな」
「一般教養と言われているものだ、それは」

顔を上げた文香に映るのは、そのまま舞踏会にでも出れそうな四つ目の仮面で目元を隠した、少女に負けず劣らずデザインの強い男だ。

「失礼したね。ついさっきここの客員として招かれた教授のネクロという。ここの書庫にはかねてから興味があってね。タイミングがいいのか悪いのか凶事があったおかげで少し時間を食ってしまったんだ
 そして彼は助手のマスク君だ。まんますぎるだろ?」

ネクロと名乗った少女は背後の男を指差して笑いつつ、首元にかけられたプレートを指で摘んで見せびらかす。
そこには「客員研究員(仮)」と小さく記されている。外から招かれた学者に渡される臨時の許可証だろう。ちなみに男―――マスクの方は助研究員だった。

「紹介に預かったマスクだ。……がしかし、今は別の身分の使い時でな」

顔の一部のパーツが隠れてるのでわかりにくいが、声からしてまだ青年だろう。マスクはそう言って懐から黒い艶の手帳を取り出す。
そこにつけられたバッジを見た文香の瞳が、前髪の隙間で大きく揺れた。

「改めまして、連邦捜査局のマスクだ。大学生徒である君にはご協力願いたい。案件は……言うまでもないね?」

ほんの少し声を落としたマスクの声が、文香には先程より一段凄みの色を帯びたように感じた。

「……警察の方が、助手を?」

どこかピントのずれた疑問を聞いてしまうものの、マスクは律儀に、肩をすくめる調子で答えてくれた。

「閉鎖かつ保守的な大学とFBIを目の敵にする警察署の双方に睨まれては、猫を被らざるを得ないのさ」
「被ってるのは仮面だがな」

横から口を挟むネクロ。口を歪ますマスクからして、仮面の下の目は鬱陶しそうにしているのだろう。

「それで、あの、協力とは……」
「単なる事情聴取さ。市警は今ひとつ踏み切れんでいるが、自殺にせよ他殺にせよ大学内の者を洗うのが常套だろう。
 君は東洋人だし、ここの風土やしがらみにとらわれてないだろうとね」

首吊り事故……いや、犯人に聖杯戦争が関わっている事実があるなら事件だろう。それに気づけているのは文香だけ。
その現場に現れるのは職務に忠実な警察官として自然な流れだ。あくまで、表向きには。
治まりかけていた胸の動悸が、また起こる。聖杯戦争に比べて、確かな事実として起きた殺人の報にこそ、よりリアルで身近な恐怖があった。

「……わかりました」

文香は了承した。警官相手に反抗して目をつけられたくはないし、もとよりその気もない。あくまで一生徒として受け答えすれば、それでいいはずだ

95 Libra ribrary ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:31:16 ID:4eyCh4960



「確か被害者は応用科学部だったな。君は?」
「私は文学部です……その人とは顔も合わせてはいません……」
「では、その教授は?」
「……プレシア・テスタロッサ教授とは……先程、廊下ですれ違いました……。角でぶつかって、本を落としてしまい……」
「ふむ。その人に不審な点は?」
「いえ、特には……。神経を尖らせてるようでしたが……元々気難しい方だとは聞いていましたので……」


文香も、そしてマスクも、決して核心へ触れないままに聴取は続いた。
確かめるのは簡単なのに、決定的な亀裂が生まれるのを良しとしないから。
断絶ほどに致命的ではない、けれどそれに直面したら対応を取らざるを得なくなる事態を。

いっそこのまま生きているか死んでいるか曖昧な箱の中身の猫のように、曖昧なまま話が終わって欲しいと文香が考えていた時。


「しかし随分持ち込んでいるな。顔に似合わずオカルト趣味か?文学というか民俗学の範疇じゃないかコレ」
「―――」

聴取も粗方終わろうとした頃、傍で聞いていただけのネクロが突然話を振ってきたのだ。
手には机に置かれていた本の山から適当に見繕ったらしい書物。表紙には不気味さを煽るグロテスクな表記で「GHOUL」と書かれている。

「屍食鬼(グール)か。この街で題材にするには確かに今が旬だな」
「……はい……気になって……しまいましたので……」

今や街中に広がり知らぬ者はいないとまでいわれている、『白髪の屍食鬼(グール)』の噂は文香も耳にしていた。
直接的に、サーヴァントなりマスターであると結びつけるには至らないが、その噂の爆発的な感染度は目に留まるものであった。
聖杯戦争の参加者でなくとも、関連性ぐらいはあるかもしれないと、こうして書を当たってみていたのだ。結果は、知識が積まれていくのみでまるで奮わないが。

「主に、どのあたりが?」

興味を惹かれたのか、ネクロが再び問い返す。深遠な気配を湛えた謎の少女なら答えに辿り着いているかもしれないが、文香の口からそれを聞きたがっているようだった。

「…………何故、屍食鬼なのでしょうか、と」

それに応じて、文香も言葉を返した。教授から投げられた問題に答える生徒のように。

「吸血鬼や、竜、悪魔……民話や物語に出て来る怪物には様々な名称があります。
 屍食鬼……グールはアラビアの伝承に登場する怪物が発祥とされ、千夜一夜物語の挿話にもその名があります……。
 し……屍肉を漁る、または旅人などを惑わし襲うとされてる悪性の精霊、ジンの一種だとされています。
 アーカムにはとあるアラブ人も住んでいたようで、馴染みもあるかと思えますが……それも一般的では、ないでしょう」
「ははあ。なるほど、出処も分からない屍食鬼という名が当たり前のように使われ、しかも世間に定着してまかり通っているのが疑問だったわけか」

文香は頷く。途切れ途切れ、言葉をつかえつつも。
それは本で読んだ知識を紐解く、すなわちいつも通りの行動であり、だからこそ緩やかに口を開くことができたといえる。
違いと言えば、その内容。常であれば目を背ける、猟奇要素をふんだんに含んだ恐怖を記した伝記や記事。いうなれば黒い知識。
そうしたホラーを大いに好むアイドル、白坂小梅ならば、目を爛々と輝かせて飛びつく題材だろうか。
本のジャンルを選ばない乱読の気がある文香だが、アーカムに来てからは歴史書にせよ風聞にせよこうした知識ばかり溜め込むようになっていた

96 Libra ribrary ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:31:59 ID:4eyCh4960


蛇に睨まれた蛙も同然の状況だった時と比べれば、それは確かな好転といえただろう。
精神に余裕ができたことで、文香の思考も正常に回り出す。ここが千載一遇の、逃せば二度と訪れない機会であると。
このまま会話を進ませ関係を結べれば、今後に実りある相談ができるかもしれないと、期待が芽生える。

「あるいは……食人文化の方向で調べてみますと、食料難時に止む無く供されたというクンタラ人などが見られ、」



―――次の一言を音に出すまでの秒に満たない数瞬に、その攻防は展開された。



「―――――――――え、」


ぶあ、と、額を覆い隠す前髪が舞い上がり、文香の視界が突如開けた。
目の前で起こった風がさらっていく長髪は絹糸の如く滑らかで、今時の若者にありがちな整髪料や矯正の荒れがない天然の艶やかさを保っていて、
昼下がりの街通りにいればさぞ絵になっていただろうが、その光景に目を奪われた人は生憎この場では皆無だった。

「……!?」

息を呑む。
呼吸を忘れる。
文香の目の前に出現した、互いの両腕を絡ませたまま対峙する二人の男に、筋肉が麻痺硬直しかねないほどの威圧が放たれたからだ。

全身黒服。後ろに撫でつけた変哲のない髪。露わとなった眼光は夜鷹すら射殺す冷ややかな黒鉄の意思。
サーヴァント・アーチャーは、マスターたる文香を守護する任を全うすべく実体化し、手から愛銃を抜き放っていた。

「あ、アーチャーさん……っ」

震える声で、どうにか言う。言葉にするのみで、それだけで精一杯だった。
アーチャーと睨み合う男は、鬼と形容すべきだった。
姿形として、ではない。体つきは服の上からでもわかるほど屈強ではあり、人体の範疇に留まっている。
頭があり、胴体があり、手足が二本ずつの、肌の浅黒いまっとうな人体である。
その、最も人のパーソナルを象徴する顔面には、眉間を境に交差した傷痕が克明に残っている。
元々厳しい顔つきなのだろうが、そこに重ねられた十字の紋が殊更凶悪に見せている。
だが鬼と評した理由はその傷ではない。熾烈な意思の収められた赫い瞳こそが、男を鬼足らしめている元凶だ。

「……っアサシン!」

マスクも叫ぶ。文香と同じくこの相対に衝撃を受けていたが、復帰はより早かった。
二騎の交差の切欠を生んだのは、マスクの激昂にかられての行動だった。
決して聞き流せない言葉、忌まわしくも長きに渡って己の民族を穢し続ける通称。それを口にした文香を問い質そうと詰め寄ったことだ。
華奢な少女の肩へ手を伸ばす……よりも先に、その行動を予測したアーチャーが霊体化を解き先んじてマスクの前に立ち、更にアサシンが対応として躍り出てきたのだ。
背でマスクを突き飛ばし距離を取らせ、アーチャー目掛けて右の掌底を打ち出したアサシンに、アーチャーは半身を逸らすのみでそれをかわす。
のみならずマガジン底で伸びた腕の橈骨を叩きつけ手を封じてさえした。
それはアサシンが拳打を繰り出す速度、タイミングを予め把握していたとしか思えない、最小限で最も効率的な効果を発揮する挙動だった。
かわした勢いを殺さず流れるような動作で右の銃口を向ける。しかしアサシンも虚に囚われることなく冷静に空き手の左で弾き斜線を外す。

97 Libra ribrary ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:32:37 ID:4eyCh4960


以上が一瞬の攻防。
斜線をずらされたアーチャー。右手で触れることができないでいるアサシン。
互いの必殺の手を封じたことで生じた膠着状態であった。
尤も、所詮はいつ砕けてもおかしくない薄氷の上、仮初の静寂でしかない。
アーチャーは既に先の先まで見越した戦術を構築してあり、いつ戦端を開いたとしても瞬時に完璧な対応をこなしてみせる準備を整えてある。
アサシンもまたとっさに手首を回し、砕かれるのを避けた右腕の術式をいつでも回せる状態にある。
すぐに使わないのはマスターの復帰を待っているのと、アーチャーが右腕の動きに最大の注意を払っているとわかっているからだ。

指示を委ねられた二人のマスター。
文香は言うに及ばず、マスクにもこの状況でどう命令を下すのか瞬時の判断がつかなかった。このまま戦闘を継続すべきか。しかし目を配らせればまだ人の姿が確認できる。
始めれば目につくのは必然。そして被害が及ぶのも自明の理だ。退くにせよ敵は銃使い、アーチャーだ。多少の距離は問題にしない。
こちらにはアサシンがいる限り無様に背中を穿たれる始末にならないという自信はある。つまりは最初に戻り、マスクの判断次第ということだ。
非を詫び穏便に済ませるか、勝負をしかけ頭を取るか。


「オイオイ、なにを急いて始めてるんだお前達」


どのような反応が起こるかわからない、混沌した場にあって、この落ち着き払った態度は実に呑気につきた。
声はネクロ。二人以外にこの場にいたもう一人のマスター。

「お互いさっさとサーヴァントを引っ込めろ。少なくともこの館内は大丈夫だが、どこに目がついてるかわかったもんじゃない」

はっとして文香もマスクも周囲を見回した。閲覧室には遠目に生徒がまばらに歩いていたり本を読んでいるのが見える。
だというのに、誰も自分達に目を向けてない。凶器を突き付けあっているアーチャーとアサシンに至っては存在すら気づいていないようだった。
これもさては魔術の類か―――一度実例を見ているマスクはすぐに不可思議なる事象の正体に気づいたが、やはり驚きは隠せない。絡繰り自体もさっぱりだ。
いったいどれだけの術をその内面に仕込んでいるか分かったものでもない。どこまでも底知れぬ相手だった。

「そっちも、積極的に打って出る気はないんだろう?」
「なぜそう思う」

睨み合ったままの姿勢でアーチャーがそう聞いてきた。意識を外に割いても微塵も体に隙は生み出さず、従ってアサシンも迂闊に動けない。
怯えも昂ぶりもしない、人間らしい感情のブレのない、機械の如き冷却装置。

「マスターが魔術師かそうじゃないかくらいすぐに見分けがつく。怯え方も演技というには過剰だったしな。
 」

言葉が、みるみるうちに浸透していく。沸騰しかけていた場を冷却して、本来の静けさを取り戻していく。
様々な化合物を配合したフラスコの中に、それらを調和させる液体を一滴ずつ垂らしていくように。
少女の―――いや、魔女の台詞は、それこそ呪文だった。文字にして声に聞かせて惑わせる、魔術師の呪言。

98 Libra ribrary ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:33:09 ID:4eyCh4960


「わかった。こちらもここで騒ぐのは好ましくはない。此処は、本が多いからな。
 いいな、マスター」

判断は素早く、アーチャーは停戦を受け入れた。元々マスターに気概を加えようとした行動に対応しただけだ。ここで交えるのは本意ではない。

「ぇ―――あ、はい」

呼びかけられた文香の方は、まだ現実に復帰しきってないらしい。呆けたままに頷いた。

「だが、腕を下ろすのはそっちが先だ」
「何……」

一瞬で緊張が戻る。今度はアサシンが睨みをきかせる番だった。
アサシンだけは自分達が折れることに納得していないようだった。同盟相手でもない明確な敵がいながら退く意味があるのかと。
手負いの獣にも似た念を込めらせていたアサシンにマスクが諌める。

「下がれアサシン。無礼を働いたのはこちらが先だ。これ以上蛮行を重ねては我らの名折れになる」
「……」

マスターの声をどう受け取ったか、不承不承といった風ながらもようやくアサシンの腕が下ろされる。一呼吸置いてアーチャーも銃を両腕の袖の中にしまい込んだ。
これで正真正銘、闘争の空気は断たれた。周囲と変わらぬ正午の閲覧室の静けさに戻る。

「とまあ、期せずしてだが、これで本当の自己紹介は済んだわけだな」

いつの間にか仕切る立場を取っていても、ネクロを咎めたてる者はいなかった。
少なくとも今、話を円滑に進めるのには俯瞰して見ていた彼女が適していることは全員が一致している意見だ。


「では本題に入ろうか。ここからは大事な講義の時間だ」


内面とは乖離した印象を振り払うような幼い微笑みを見せて、魔女はそう宣言した。

99 Libra ribrary ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:34:05 ID:4eyCh4960



【キャンパス・ミスカトニック大学付属図書館閲覧室/一日目・午後】


【鷺沢文香@アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態] 健康
[精神] 恐怖
[令呪] 残り三画
[装備] なし
[道具] 本
[所持金] 普通の大学生程度
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に帰りたい
1.プロデューサーさん……
2.パチュリー・ノーレッジに会ってみたい
[備考]


【アーチャー(ジョン・プレストン)@リベリオン】
[状態] 健康
[精神] 正常
[装備] クラリックガン
[道具] なし
[所持金] なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守る。
1.マスターを守る。
[備考]
※今のところ文香の方針に自ら干渉するつもりはありません。



【マスク@ガンダム Gのレコンギスタ】
[状態]健康
[精神]
[令呪]残り3画
[装備]マスク、自動拳銃
[道具]FBIの身分証
[所持金]余裕はある
[思考・状況]
基本行動方針:捜査官として情報を収集する。
1.ミスカトニック大学内で首縊り事件に関する情報を集める。
2.白髪の食屍鬼を操るサーヴァント(ワラキアの夜)を警戒。
[備考]
※拳銃のライセンスを所持しています。


【アサシン(傷の男(スカー))@鋼の錬金術師】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:基本的にはマスクに従う。
1.Dr.ネクロを警戒しつつ、マスクを護衛する。
[備考]
※盾の英霊(リーズバイフェ)およびそのマスター(亜門)と白髪の食屍鬼の戦闘を目視しています。
 どれだけ詳細に把握しているのかは後続に委ねます。



【Dr.ネクロ(デボネア・ヴァイオレット)@KEYMAN -THE HAND OF JUDGMENT-】
[状態]健康、魔力消費(小)
[精神]正常
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]魔術の各種媒介
[所持金]そこそこ
[思考・状況]
基本行動方針:他のマスターと協力しながらしばらくは様子見。
1.ミスカトニック大学内で首縊り事件に関する情報を集める。
2.白髪の食屍鬼を操るサーヴァント(ワラキアの夜)を警戒。
[備考]
※盾の英霊(リーズバイフェ)およびそのマスター(亜門)と白髪の食屍鬼の戦闘、
 また白髪の食屍鬼同士(金木とヤモリ)の戦闘を把握しています。
 しかしどちらも仔細に観察していたわけではありません。


【バーサーカー(仮面ライダーシン)@真・仮面ライダー序章】
[状態]健康
[精神]正常
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???
[備考]

100 ◆HOMU.DM5Ns :2017/11/25(土) 00:36:55 ID:4eyCh4960
投下を終了します

101 名無しさん :2017/11/26(日) 02:36:32 ID:GjhNhWPA0
投下乙です
マスクとネクロの応酬はニヤニヤしてしまいます。アーチャー、アサシンの一瞬の攻防もカッコイイ
そして食人って原作からある設定なんですね……びっくりしました

102 名無しさん :2017/12/01(金) 08:26:08 ID:PzZX3pLo0
投下乙です
事情聴取から一気に一触即発の場になる瞬間がかっこいい
文香はようやく自分以外のマスターと接触できたけど2組とも聖杯が目的の主従
この出会いが吉とでるか凶とでるか今後も目が離せませんね

103 名無しさん :2017/12/09(土) 00:08:52 ID:9FzaRy7.0
投下乙です。
クンタラまで把握しているミスカトニック大学パネェ・・・・

104 ◆Jnb5qDKD06 :2017/12/19(火) 00:30:17 ID:TWOgc9Nw0
下記予約します。
・シュヴァルツ・バルト
・キャスター(ワラキアの夜)
・アーチャー(ストレングス)
・キーパー(オシリスの砂)

105 ◆HOMU.DM5Ns :2017/12/22(金) 00:42:03 ID:yr9PA2Vo0
神崎蘭子&ランサー(カルナ)
パチュリー・ノーレッジ&セイバー(同田貫正国)
クリム・ニック&ランサー(リュドミラ=ルリエ)
アイアンメイデン・ジャンヌ&ライダー(エネル)

予約です

106 ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:19:59 ID:Qs/OuI/w0
明けまして投下いたします。ひとまずは前半のみとさせていただきます

107 Shining effect ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:23:01 ID:Qs/OuI/w0



調査報告。
本日昼頃において商業地区にて火災が発生。
現場は清掃も録にされてないビル同士の隙間にある寂れたバスケットコート。
通報があった時点で火は鎮火しており、急行した時点でゴールポストも炭化しコート全体が黒く焦がされていた。
犠牲者は発見されていないものの、発見者及び先行した救急隊員から次々と吐き気、怖気、等の体調不良を訴える声が多発。
更には精神に異常をきたしたような言動・行動に走ったことから燃焼物から幻覚効果をもたらす有害ガスが発生したと考えられる。
現在は警察と連携して早期に封鎖線を敷き二次被害者を防いでいる。

日本から来訪したアイドルグループも参加したスタジオ裏が現場という背景から、過激なファンによる悪質な嫌がらせの類の可能性も考慮されている。
検証していく過程で延焼もせず一瞬で燃え広がった炎がこつ然と消えたかのような状況に、むしろ爆発物によるものではないかという声も散見しており、さらなる調査が求められる。


また、ほぼ同時刻、現場上空で突発的な落雷が発生。同様のアイドルグループのいたスタジオ屋上を直撃した。
今日のアーカムの空は雲が覆っているが、当時兆候となる積乱雲は見られず、目撃者(こちらも一部情緒不安定になった者が確認されている)からは、
まるで直接現場で雷が発生し、『意思を持って真下に落ちた』かのようであったという。
スタジオ内の人員は一時パニックに見舞われたが、一時心神喪失状態が数名出るのみで治まり犠牲者は出ていない。
屋上にも火災の痕跡があるが既に鎮火しており、水気があることから貯水槽が破損したのが原因だと思われる。

いずれも自然現象によるものとは考えにくく、事件と事故両面の線から捜査を開始している。
アーカム全域で警戒されている一連の連続変死事故との関連性も視野に入れ、より一層解決の手がかりを得るため警備の増員を要請するものとする。



(報告員044(役職:消防員)よりの報告書)




                   ▼  ▼  ▼

108 Shining effect ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:25:13 ID:Qs/OuI/w0





「……だから、そもそも私、喘息持ちなの。体力なんてないに等しいの。頭脳労働者なの。肉体労働なんて断固拒否よ」
「大丈夫だ、ずっと病弱だったけど今や看板娘にもなったアイドルもいるぞ」
「いやこれ持病だから。治ってないから。舞台の上で死なせる気なの?新手の拷問?それともそういう演目かしら?」


雑多に賑わう室内。飛び交う声に快音。視界の隅から隅へせわしなくあちこちを行っては返す人、衣装やカメラの機材。
見ているだけで、気が滅入ってくる。
元々、騒がしいのは好みじゃないのだ。本を読むのに集中できないし大勢走れば埃が舞って肺に障る。はっきり言って嫌いである。
すぐにでも席を立って出て行きたいのだが、事情が諸々に被さっていてそれも許してくれない。

自分達はミスカトニックに潜むランサーのマスターを見つけるべく生徒の顔を使って調べに行く予定であったはずだ。
それがどうして、アイドルプロダクションが催す舞台スタジオで、芸能会にスカウトされてるという状況に陥っているのか?
今までの経緯を振り返って、どこに原因があったかを考えても、パチュリー・ノーレッジにはこれがまったく分からなかった。


「心配しないでくれ、当プロダクションはいつでもウェルカム、君の席はいつでも空けてるぞ」
「どうして入る前提で話を進めているのよ……」


日本から渡米してきたグループだとか次の公演や舞台の日程だとか、さりげなく契約書も混ぜ込んだ資料を流し目で通す。
熱心に聞き入る気は無いがとりあえず知識として記憶してしまうのは習慣の悪癖といえる。書式に悪辣な罠がしかけられてないかと注視してしまうのもまた、魔術師の性であった。

そもそも、歌や踊りなら幻想郷にはもっと適任がいるではないか。騒がしい三妖精や、新顔にもちらほらいる目立ちたがり屋は頼まれなくても出張ってくるだろうに。
紅魔館にしたって咲夜は器用だから瀟洒にそつなくこなすだろうし、美鈴だって演舞くらい出来るだろう。……いけない、思考が明後日の方向に傾いている。


「前々から思っていたんだ。うちにはクール成分が足りないと。
 例えるなら古書店で店番にかこつけて日がな読書に夢中になってる、自分の魅力に無自覚なダイヤの原石タイプとかが!」
「えー?クールなら蘭子ちゃんともいるんじゃないの?」
「それはそうだがあの子は全属性完備みたいなところあるしな……。無論そこが最高にカワイイけどな!」


ただの惚気か。他所でやれと言おうとして、余所者は自分だったと気づいて口を噤む。
隣の金髪娘も交えて熱意ある答弁は勝手に盛り上がっており、このままさらりと断りづらい空気を形成している。異様に粘り強く交渉する男といい考えてやっているなら相当なやり手だ。

109 Shining effect ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:27:09 ID:Qs/OuI/w0

よもやこれも自分達を捕捉したランサーのマスターの妨害工作なのではないか。ふつふつとそんな妄想も頭に湧き上がってきている。
そうであればまだ気が楽であるのが逆に頭が痛い。敵と見れば相応に話の取り合う余地も出るというのに。
―――それに、丸きり現実逃避の産物ばかりというわけでもないのだし。


(おい)


耳元、いや直接脳内に伝わってセイバーの声が伝わる。

(来たぜ)

稽古場の隅にいたパチュリー達の前に一人の男が姿を見せた。前を切り揃え、後ろ髪を編んでまとめている青年だ。
身につけた中世風の衣装や装飾を見て、先程までパチュリーが見せられていた舞台稽古で主演らしき位置の役者だと分かった。

「どうやら、さしものプロデューサーも苦戦していると見ましたが」
「ああ、クリム君か。さっきの代役お疲れ様だね」
「あっ、クリムちゃんおっつー!」
「当然ですともプロデューサー。万事こなせてこその私があるというもの。そしてユイ、今日もチャーミングだね」

ウインクを飛ばし、鼻につく気障な台詞がすらすらと恥ずかしげもなく並び立てる。余程に自信過剰なのか、本物の実力の表れなのか。
豪胆とも間抜けとも取れる態度がパチュリーこの男の第一印象を決定させた。まずもって自分と気が合う相手ではない、と。

「紹介するよ。彼がクリム・ニック、今観てた劇だと主役の王子役を代理でやってくれてたんだ」
「代理とつけずとも、キャスト変更のオーダーはいつでも受け付けております」

大仰に礼をするクリム。来ている衣装は軽装で狩人のようであるが、その仕草は何処かの貴族めいた風気を感じさせる。

「それで、どったのクリムちゃん?唯に呼び出し?」
「いやなに、プロデューサーが連れ歩く見慣れぬ少女がいたものでね。またぞろ地元のカレッジからスカウトしたかと思えばこそ、ここは天才の出番と直感したのですよ」
「またまたそんなこと言って、ホントは女の子と仲良くしたいだけじゃないのー?」
「そうともいうが!ハッハハ!」

などと快活に笑い合ってはいるが、実態はパチュリーに言わせれば質の悪い勧誘である。非合法、暴力的手段に出てないと言うだけでほぼ拉致にも等しい。

「さて、私は名乗った。次は君の番だよ。名前を聞かせておくれ」
「ああ、彼女は――」
「パチュリー・ノーレッジ。ミスカトニックの生徒よ」
「ほう、やはりカレッジの」

そう言ったクリムの口角が、僅かな高揚により微笑の形に歪む。パチュリーに翠の視線を合わせたまま離そうとしない。
汚れのない水面の透明さを備えた瞳は男慣れしない田舎娘でもあれば頬に熱を帯び思わず顔を背けてしまうのだろうが、今パチュリーが感じているのは、まったく別のものだ。

110 Shining effect ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:28:22 ID:Qs/OuI/w0


「あちらでは何やら陰気な事件があったと聞いているが」
「大学には向かう予定だったわよ。そこの勧誘男に無理矢理連れてかれたんだけど」
「なるほど、そういう。なら気分転換に場所を移すべきかな。よいですね、プロデューサー?なに、ひとつの社内見学というやつですよ」
「む……それもそうだが……」

顔を男の方に向けつつもクリムの視線はこちらに向いていた。
単なる出歯亀、興味本位とは違う。色目の類でもない。自分に見せつけている意思表示の意図は。
セイバーからの耳打ちの内容と合わせても―――用件はまず間違いあるまい。

「そうね、騒がしいのは好みじゃないし」
「あれあれ-?あっさり食いついちゃって。パチェちゃん、メンクーイ!」

こうも堂々と見せられてしまえば無視してしまう方が危険が及ぶというものだ。
戦いになると決まったわけでもないし、少なくともこのまま無意味に生殺し状態が続くよりもずっと有意義なのは確実だ。

「ここにいるよりましなだけよ。あと、なに今の呼び方」
「パチュリーだから、パチェちゃんだよ。ちゃんパチェの方がいい?それともパッチェちゃん?」
「ぜんぶ却下よ」
「落ち着きたまえよ。私に見惚れてしまうのは仕方ないにしても、争いの火種になるのは遺憾だな」
「あ、それは本当にないから」

さりげなくついて行こうとする金髪娘を手で追い払って外に出ていこうとする。
なおもめげずに追いかけようとして、その時にわかに周囲のざわめきたった。
舞台上であれば騒がしいのは当たり前だが、そうした活気とは違う種類の空気が流れるのが肌で感じた。

「ん?プロデューサーちゃんー?」

スタッフが焦った様子で駆け回って連絡を取り合い、さっきまでの男も呼び出されて深刻そうな雰囲気を見せている。
少女も不穏さを感じ取ったか気になって男の元へ戻っていく。


「頃合いだな。出るぞ」

小脇に荷物を抱えたクリムが早に人の群れを抜け、パチュリーもそれに続く。
先導されてるのは癪だが、タイミングそのものは完璧だった。
スタジオ付近で起きた謎の出火騒ぎ―――その事実を知りはしない二人だが、その騒ぎとなる前兆は既に感じ取っていた。
心胆を震わせる程の魔力の波動が、現実で某かの事態を引き起こす先触れであればこそ、間隙を突く形で利用できている。
目をやる暇もない事務員達は慌ただしく傍を通り過ぎていき、非常階段に向かう二人の動きは誰の目に留まることなくスタジオから姿を消した………………。




                   ▼  ▼  ▼

111 Shining effect ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:29:19 ID:Qs/OuI/w0






スタジオ"ル・リエー"屋上は開放スペースとなっている。
椅子や机も置かれ骨休みの場に使えるだけでなく、機材を持ち込んで写真やPVの撮影にも多く使われる。
そういった訳で広いスペースが設けられており、敷地外に落とすリスクさえ気をつければ、チームを組んでバスケットだってできる。
ノースサイドやダウンタウンには劣るがそれなりの高層であり、周囲の建築物から一方的に上から観察されるということもない。
サーヴァントを戦わせるでもなく、マスター同士が密談を交わす場所の条件にはなるほど合致していた。


「待たせてすまなかったね」

扉を開けて、舞台衣装を解き普段着に変えたクリムが出てきた。

「別に、いいわよ。こっちも準備する時間もできたから」

外で待っていたパチュリーは周囲の把握を止め、クリムに顔を向ける。

幻想郷の魔法使いとして、一度無様を晒した汚名を注ぐ為にも、パチュリーはあらゆる状況と手段を想定した。
準備とは迎撃と撤退の下ごしらえだ。魔法、魔術は万物の根源を読み解く。魔を知りし者は多くの手段を知り得、実行し得る。
本腰を入れて挑むならば、百年培った魔法の腕を存分に奮い土台を固める他にない。
具体的には簡易的な人避けの術。戦闘に入った場合場に最適となる呪文の選定。いざという時の逃げ道の確保。
クリムがどう行動しようとも、不測の事態が起きたとしても即座にカバー出来るだけの策を事前に用意していた。


「そうか。騒ぎの原因は火事だったか」

飛び出し防止のフェンスから乗り出してクリムが眺めているのは、この建物のすぐ近場で起きた火災の後だった。
黒煙は屋上に届く前に消えているが……パチュリーには嗅ぎ慣れないゴムとコンクリートが焼けた刺激臭が目につんと染みた。

「話の前に聞きたいんだけど、アレは貴方の仕業かしら?」
「火事場泥棒如きでマスターの誇りが示せるものか。勝利と誇りは己が手で手に入れてこそ。私とは常にそうであるべきだ」

どうやらこちらのセイバーと同じタイプらしい。力自慢、技自慢、ご大層に名誉や誇りを掲げ、戦場を駆け巡る。
サーヴァントならともかくマスターの方にもこうした戦バカがいるのは予想外だったが、戦争と名がつく限りはこうした手合も出て来るものか。

「もうひとつ質問。どうして私がマスターだと気づいたの?」
「天才の眼の成せる技さ」
「……目的は?」
「私の誇りを証明するために。だからこそお相手願いたい」

裏が見えぬ答えとおちょくるような口調に苛立ちが募るが、ここは堪える。
そしてクリムの方は裏のない本心を伝えてるのに過ぎないことは、知らぬが仏と言うべきか。


「へっ、話が早いじゃねえか。俺がいてお前がいる。剣をぶつける理由なんざそれで足りるってな」

案の定、これだ。
我が意を得たりとばかりに実体化する戦バカ(セイバー)。眼光は鞘から抜かれる直前の刀にも似て、鋭さと獰猛さを隠そうともしない。
刀剣同田貫の御霊がサーヴァントとなったのだから当然ではあるが。

112 Shining effect ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:31:08 ID:Qs/OuI/w0


「待ちなさいってば。どうして刀を振る以外の考えが及ばないのかしら」
「敵がいるなら斬る。それで話は終いだろうが。大体それ以外に俺に何をしろっていうんだよ。
 あんただってやる気なんだからわざわざ誘いに乗ったんじゃねえのか?」
「武器を振りかざすだけを戦いとは言わないの。少しは知識人らしく振る舞わせてよね」

臨戦態勢に入っているセイバーを諌める。従者の粗相はその主にまで及ぶものだ。
ひとりでいきり立つならともかく、自分まで脳筋みたく思われるのは心外である。質実剛健を謳うならもう少し口を閉じて欲しい。


「あら、勇ましいサーヴァントに比べてマスターはとんだ臆病者ね。せっかくのセイバーの名が泣くわ」

弄うような声は、新たに姿を見せた第四者からだった。
例える象徴は氷の彫像。セイバーと同じく霊体を紡ぎ壮麗なる戦装束に身を包んだ女性。
濃密な魔力を放つそれこそは、紛れもなくクリム・ニックが従えるサーヴァント。ランサー。真名リュドミラ=ルリエに相違なかった。

「ふっ戦姫さま。逸ってるようですが今は私とパチュリー・ノーレッジによる話し合いと決めています」
「分かってる。判断は任せるわ」

戦姫は得物を見せもせずに、クリムより前には出ず成り行きを見届ける位置でいた。
自身のマスターの真価を鑑定するためこの交渉では見に回る。マスターの存在を感知した時にそう決めていた。
実体化したのは臨戦態勢のサーヴァントへの牽制のため。挑発を吹っかけてきたのは誘いと、プライド高い本人の気性の問題といえた。

セイバーもパチュリーに制され不服そうにしながらも手を柄から離し殺気を収めた。クリムの言う通り、会話は互いのマスター同士に委ねられた。


「……挑発のお礼は後で返すとして、戦う気がないのは本当よ。というよりもう先約済み。悪いけど相手はまた今度にしてもらえない?」

即刻戦闘はお断りだとパチュリーは告げる。真っ先に狙うべきは大学のランサー。その方針は変わらない。
異変騒ぎが起きればとりあえず邪魔する奴を蹴散らしていき黒幕に辿り着いて倒せばそれで解決。ごく単純な道筋だ。
しかしここはアーカム。殺傷せず勝敗を決める、華やかにきらびやかに魅せるかが重要な弾幕勝負のルールは通用しない。だからこそ戦う相手は選定しなくてはいけない。

「叩きたい相手を前に消耗するわけにはいかないという狙いか。しかし、それで君の眼の前にいる男が見逃すとは限らない」

対してクリムの方は逃げる暇など与えないと戦意を張り巡らせている。
事実クリムは戦いの相手を探していた。失墜した誇りを取り戻すランサーもそれは同じ。許可が取れれば今すぐに氷槍を抜き英霊の首級を挙げてみせるだろう。

「なら逃げるしかないわね。ここからなら飛んでも下から見られる事はそうそうないし」
「ん、君は飛べるのか?」
「最近の少女は空を飛ぶものなのよ」
「なるほど初耳だよ。リギルド以前の文化とはかくもファンタスティックな。一度拝見したいものだ」

クリムはその言葉に強く興味を惹かれた。
グライダーもモビルスーツも、何の外付けの装置も用いず人が飛ぶ技術を、魔術に縁遠い世界の人であるクリムは知らないからこその反応だった。

113 Shining effect ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:32:44 ID:Qs/OuI/w0


「ただじゃないわよ。魔術の世界は等価交換。そうでなければ取引は成立しない」

流れを掴んだ。主導権を握る切っ掛けをパチュリーは逃さなかった。
自らの術法をみだりにひけらかすのは、正直に言って憚られるのだが、得られるリターンはそれなりに旨味がある。
どうやら、クリムは魔術に詳しくはないらしい。魔術師でもない者がマスターになれるかは疑わしいが、そこも含めて交渉の材料にもなる。
アーカムの奥底の神秘を解明する事が最終目的であるからには無駄骨になりもしないだろう。

パチュリーの言葉には半分嘘を含んでいる。それはアーカムに来て以降、飛行の魔力能率が極度に落ちていることだ。
現代の社会では魔術は廃れ人は単独では飛行できない、という常識が浸透している影響か。街の端から端まで一直線で超えることも難しいだろう。
飛行も難しい。魔力の調子も良くない。懸念材料が多くある中でいつものように道中勝負三昧をしては一日と身が持たないのは明々白々だ。
英霊との戦闘は可能な限り避けるべきである、というのがパチュリーの見解だ。そのため非戦にせよ同盟にせよ、ここで恩を売っておきたいところだった。


「ふむ」

クリムとてパチュリーの持ちかけに乗るのは利があると理解していた。
魔術に神秘、そうした背景が消え去った文明に生きるクリムが聖杯戦争という魔術の戦いに挑むには、その部門の知識の不足は深刻な痛手である。
無論、天才たると自負する己であれば多少の苦境は乗り越えられると疑わないが、それ故に更なる研鑽を求めるのもまた道理。
ランサーに教えを請えば最低限の教養は得られようが……頭を垂れる可能性は問うまでもない。

「どうするのかしら、マスター?」
「戦にも作法がある。民間人を巻き込んで街中での戦闘よりも、軍人の筋の方を通すさ。逃げる背中を撃つのも興が乗らないしな」
「見逃してくれる気になった?」
「そう結果を焦らずとも。ここで顔を合わせていれば、心変わりもあるやもしれんだろう?」
「いや、さっきの話を聞いてなかったの?私はもうこんな場所に用は―――」
「私というマスターとの繋がりが出来たのだ。みすみす機会を手放す愚を犯しはしまい?」

これは、厄介な物件に手を出してしまったかもしれない。パチュリーに早速後悔の念が押し寄せてきた。
適当に情報を与えればあしらえると踏んでいたのだが、この自信満々な男は掴んだ腕をどこまでも離しはしない。舞台上で女優を胸元に引き寄せる、先程の歌劇のように。
考えてみれば、スカウトの時点で名前も身元も明かしてしまったのだ。こうしてマスターだと割れてしまえば、この先幾らでも狙われる可能性すら考慮のうちに入ってしまう。

つまりは、この建物に連れ込まれた時点で、自分に何事もなく逃れるという選択肢は無かったのだ。
今までの強引な勧誘がマスターの手引という妄想が、予想外の方向に現実味を帯びてしまった瞬間だった。

この狸、と歯を軋らせる。
クリムはしてやったりの顔で笑みを見せており、ランサーに至っては尊大に見下した表情を隠しもしない。ようするにドヤ顔である。許されるなら今すぐ両方殴りたかった。
が、背後でセイバーの鯉口を切る音が聞こえた事で頭が冷えてきた。そろそろ結論を出さねば本気で痺れを切らしてきそうだ。
大げさにため息をついて、考えを切り替える。


「―――いいわ。取り敢えずは、手を組む方向で行きましょう」
「おいおい本気かよ。これから刀を振るいに行くって時によ」

セイバーは大いに不満ありだとばかりに嘆いてみせた。

「決めてるからこそよ。狙いを見つけるまでは余計な手出しを出されるのも困りもの。露払い役ぐらいはあっても困らないわ」

なにも一朝一夕でマスターが見つかるとは思ってない。大学応用科学部の関係者にまで絞れているが、だからこそそこからは慎重にならざるを得ない。
そして時が長引くほど、血の気の多い他のサーヴァントに出くわす回数も増してくる。無用な戦闘が増え、辿り着く頃には消耗する。
なので戦いを引き受ける役を得ておくのは大変ありがたいことだ。

114 Shining effect ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:33:40 ID:Qs/OuI/w0


「あなたには、私の傭兵をやってもらう事にしましょうか」
「……ハッ!」


目を見開いてクリムが吹き出した。パチュリーの提案が可笑しくて仕方がないと。だが目に宿らせた炎はより一層燃え上がり。

「よくも笑えるものね、マスター」

逆にランサーは不快極まりないといった念をありありと放っている。

「私なら露払いだの、よりにもよって傭兵呼ばわりした事への侮辱の贖罪に最低でも令呪のひとつふたつは要求したところよ」
「いや私とて返上したい気持ちは同じですよ。しかしここでは喜びが勝る、気骨ある言葉というものには」

誇りを何よりも至上とし、人生の指標とするのはクリムもリュドミラも同一である。
リュドミラは怒りを抱き、クリムは獰猛な戦意に転化させている。そこだけの違い。

偶然の因子に依るところが大きい戦姫の選定において唯一、代々家系が戦姫を継承する歴史を重んじるリュドミラ。
国家大統領という約束された栄達の名を借りた七光を疎い、血筋に頼らない己のみで培った力を自信の源としたクリム。

その差異の顕れとして、クリムはパチュリーに好感を抱いた。
権謀術数は大いに結構。望むところである。だが彼女はそうした策謀を打っては来なかった。
優先するのは自分の意志。こちらを焚き付けて主導権を譲ろうとしない負けん気の強さ。
性格は一致しないが、その姿勢にかつてのベルリ・ゼナムを思い起こさせるものが気を引いたのか。

「いいだろう。この私と肩を並べる資格は十分にある!
 宜しいですかな、戦姫さま?」
「マスターの決定には従うわ」

クリムの決定に胃を申し立てることなくそっけなく認めるランサー。戦姫たるもの一個人の感情で盟を振るのは言語道断。
マスターの差配とて、決して考えなしの愚策というわけでもない。むしろ評価している部分さえもある。後は背中を蹴落とされないように気をつければいい。お互いに。


「じゃあひとまず同盟締結ね。短い間になるけど」
「契約の印にクラス名ぐらいは開示しようか?私はランサーだ」
「あっ先に言うのはずるい。……こっちはセイバーよ」

またランサーか。パチュリーにとっては変な因縁を感じる。
……ふと。目の前のサーヴァントを視界に収めていて、思い出したことがあった。
あのランサーの宝具を目視した瞬間の恐怖。這い寄る混沌の衝動。
思い出すだけでも吐き気がこみ上げてくるような、知識による理解を超えた領域を犯してくる冒涜の気配。
あの宝具だけが異常なのか。それとも他のサーヴァントの宝具にも同じ機能が備わっているのか。その真偽を確かめずには迂闊に足を踏み出せない。

「……あなた、他のサーヴァントの宝具を目にした事はある?」
「いや、ないが?」
「そう。それじゃあ依頼料代わりに教えてあげましょう。いい、この聖杯戦争はね」

115 Shining effect ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:35:04 ID:Qs/OuI/w0









「――――――何だ。戦わんのか。つまらぬ」








体の中を焼き尽くす電流が駆け巡るが如く、その声は聞く者に不可視の衝撃をもたらした。
すぐ傍を得も言われぬ力の塊が暴虐的な速度をもって掠めて過ぎたような、紙一重で致命的な結果を免れた危機感が脳の痺れと共に残る。


「不届きなり。わざわざこうして来てやったというのに、遊興の一つに武闘でも舞って見せるのが道化の務めであろう」


全員がその方向を見上げる。屋上階のさらに天辺、広告の看板の上に、その存在は肘を立て横になって寝そべっていた。
それは、目にした者の眼球を潰し、焼き焦がし、融けて落ちるほどの熱と光が実体を持っていると錯覚する、およそ信じがたい雷気を纏っていた。
およそ人の神経で許容される範囲を逸脱して余りある雰囲気は、落雷が直撃するのと変わらぬ破壊のイメージを植え付ける。

吐き気がこみ上げるほど美しく、全身が震えわななくほど神々しい。
それは、地上にあってはならないものだった。脆弱なる生命が視界に収める事など許されぬと、人が目を背けずにはいられない光輝であった。


天から降り注ぐものが全てを滅ぼす―――――――――妄想の具現が今ここにある。
それは「恐怖」であり、すなわち「神」の降臨そのもの。


騎乗兵(ライダー)のクラスを冠するサーヴァント、神(ゴッド)・エネルが、四人の前に顕現した。



                   ▼  ▼  ▼

116 Shining effect ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:40:30 ID:Qs/OuI/w0





(――――――居るな)
「え?」

己がランサー、カルナの内なる声に、神崎蘭子は顔を上げた。
ここはスタジオ"ル・リエー"の一室。一度スタジオを出てから蜻蛉返りで戻ってきた蘭子に、慌ただしいスタジオの中で自分を見つけたプロデューサーに駆け寄られた。
曰く、付近で火事が起きた。防犯とアイドル狙いの嫌がらせも考慮して厳重警戒の態勢に入っていると。
既に火は止まっているがレッスンは一時中止し、避難の準備をしているという。

(我が友よ、如何なる所用か……?)

蘭子は素直に従い、今はソファに座って待機している。自分のサーヴァントに原因があるなどとはとても言えない。
みんなに迷惑をかけてしまった―――そう一人思い悩んでいる時に、沈黙を破ってカルナが念話で口を開いたのだ。

(この階層の上、おそらくは屋上だろう。そこから二体のサーヴァントの気配を感じる。互いに実体化したようだ)

タタリとの邂逅から静まってた心臓が、再び大きく跳ね上がる思いだった。
ビルの真上に、サーヴァントがいる?まだ大勢のスタッフやアイドルが残っているのに?
既に英霊の恐怖を身にしみて理解していた蘭子は、恐る恐るにカルナに聞いた。

(戦ってる、の?)
(いいや。魔力の拡大を感じない。大気も乱れもせず凪いでいる。単なる交渉か盟約かを行っている可能性が高い)

ひとまず胸をなで下ろす。今すぐ戦火が起こるわけではないらしい。

(先のように無差別に食らう魔の類ではないのだろう。いやアレが例外極まる形であっただけでもあるが。
 今であれば、交戦に至る危険は無い――――――……)

そこまで言って、カルナは言葉を止めた。
霊体化していた蘭子にはその姿は見えないが、鋭い視線は遠くに向けているようにも感じた。

(…………そうか。これを予期していたか。混沌を是とする、ある意味でこの聖杯戦争の監督役らしい振る舞いではあるだろうが)
「……?」

蘭子はただ困惑するのみだ。
自身の英霊が察知したただならぬ気配、肌が痺れるような神の息吹きにはまだ気づかない。それを知れたのはこの男であるからこそか。
日輪の神の血を継ぎ、雷神の武装を与えられる、インド神話(マハーバーラタ)の英雄が。


(もう一体、新たにサーヴァントが上に来た。そしてこちらは、ここで仕掛ける気でいる)


蘭子は確かにタタリの脅威を退けた。サーヴァントと絆を紡ぎ上げた。暗黒の神父に対し引くことなく告げてみせた。
それは大いなる前進だ。生き残る未来を引き寄せる糸に手を伸ばす為の工程だ。

だが、それだけだ。所詮呼ばわりせねばならぬほどその歩幅は小さく、芥にすら劣る距離でしかない。
恐怖とは波のようなもの。ひとつの恐怖を乗り越えたところで、時が経てば潮が満ち、より大きな波となって押し寄せる。
斟酌なく容赦なく、小石を飲み込むのと変わりなく命をさらっていく。


神崎蘭子は、新たな選択を迫られる。

117 ◆HOMU.DM5Ns :2018/01/01(月) 23:42:05 ID:Qs/OuI/w0
前半の投下を終了します。後半は今しばらくお待ち下さい

118 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:45:51 ID:aSCLzBVE0
>>117乙です。

追加で1名予約しつつ投下します。
・ナイ神父

119 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:46:18 ID:aSCLzBVE0

 ───ストレングスが固有結界を展開してから10分経過───


 虚ろな世界に劈くような銃声が響いていた。それも一つではなく複数。銃声一つで金属質な床や壁が破砕し、破片が天高くまで舞い上がる。とても銃弾が作り出せるような弾痕ではなく戦車の滑腔砲に近いだろう。しかし、それも違う。金属を破砕しているものの正体は岩石だ。


「っう!」


 ストレングスの肩を砲弾が掠った。肉が抉れ、疑似的な神経が激痛を伝えてくる。それでも目の前の敵から目を離せない。離せば死ぬ。
 ブラック★ロックシューター。彼女は「虚の世界」における死神(きゅうさいしゃ)である。もっともこれはキャスターの宝具によって形成された偽物だがストレングスはそれで相手の実力を測ったりしない。
 というよりも、これはもしかして。


(本物よりも───強い!?)


 ストレングスの四指。両手合わせて八門の銃口から弾丸が放たれる。そのどれもが当たらない。速いのではなく早い。発射する前に回避されている。
 接近してきたブラック★ロックシューターの銃剣とストレングスの鉄拳がぶつかり、そしてストレングスが弾き飛ばされる。膂力も本物より強い。出鱈目だ。
 二撃目を避け、三撃目も鉄拳で防ぎ、弾き飛ばされて、四撃目は防御も回避もできない体勢。だが、ここはストレングスの世界である。この世界で唯一の地面である浮遊した巨大なルービック・ミラーブロックスを自在に動かすことが可能だ。
 右へ、前へ、左へ。
 一瞬で空間跳躍にも等しい位置替えをし、ブラック★ロックシューターの背後に回り、その拳がブラック★ロックシューターに突き刺さる。ブラック★ロックシューターは突如前方に生えてきた金属の壁にめり込んだ。上半身がぐちゃぐちゃに潰れて然るべき鉄拳を叩き込んだが、頭を失った昆虫のように手足をばたつかせながらその砲をストレングスへと向けた。


「────っ!」


 急いで後方へ跳ぶことで岩弾を回避する。金属壁から起き上がり、ストレングスを補足したブラック★ロックシューターは再び岩弾を発射した。厚さ1メートルを越す金属が次々を撃ち抜かれ、土埃の如く金属片が巻き上げられる。ストレングスも位置替えによる回避を行うもブラック★ロックシューターの青い瞳は猟犬の如く逃さない。
 遂にストレングスの肩が、脇腹が、太ももが撃ち抜かれ、機械の手の指一本が被弾して吹き飛んだ。金属の壁5枚を生えさせて更には自身も位置替えによる空間転移をするが無意味。壁は貫かれ、青い炎を灯す瞳からは逃れられない。

 ストレングスではブラック★ロックシューターに勝てない。
 それは純然たる実力差以前に二人の、いや彼女と虚の世界の住人の関係性が原因だ。

 ──ブラック★ロックシューターは虚の世界の住人を殺(いや)す──

 それがこの世界の住人の描く彼女の形であり、タタリが再現したものである。
 だから勝てない。だから敵わない。だから殺せない。
 故にストレングスは虚の世界を解除して逃げるくらいしかない。


「これがブラック★ロックシューターだって……」


 だが、ストレングスにはそんなものはどうでもよく。
 それ以上に一つの激情が彼女を埋め尽くしていた。


「これがマトだって……」


 その両眼からは赤い涙を流し、三日月に開いた口は血の海の如く真っ赤で、涎のように血を垂れ流しながらストレングスを見下してケラケラと笑っている。
 こんなものを私の友達だと認めるものか。彼女の形をしていることすら冒涜だ。
 キャスターのマスターを狙うという選択肢は既に消えた。キャスターの術中に嵌っていると頭が理解できても見逃せない。1秒でも長く存在させてなるものかとストレングスは吼える。
 その怒りに呼応した地面全てが噴火し火山の火口と化した。


「許さない」


 竜の如く炎の帯が天を舞う。
 一面火の海の世界の中、四腕の機人がオレンジの眼をタタリに向けていた。




120 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:46:54 ID:aSCLzBVE0


 端が燃える包帯を千切って捨てながらシュバルツ・バルトはつまらなさそうに溜息をついた。いや、実際につまらないのだ。こんな何の益もない茶番に付き合うつもりはないのだから。
 暴き立てることこそがシュバルツ・バルトの目的であり、暴れ回ることは手段にすぎない。つまり、外に出来事が露出しない心象風景内部の戦いなど何の意味もない。かと言って脱出する手段がないのもまた事実。


「犬め。銀の鍵に繋がれた犬め」


 戦況はキャスターが優勢に見えて常にこちらが不利なのだ。なぜならアーチャーがシュバルツ・バルトに狙いを絞れば即座に決着がついてしまうから。まさに牙を剥く犬に警戒する人間の気分であり、それが何ともしがたい屈辱感を与えている。
 背後からカツンという音がした、


「だが、ああ。ちょうどよい暇潰しが現れたわ。そうだろう、腐った町と犬共の親玉よ!」


 シュバルツ・バルトが腕を組みながら振り向くと、先ほどまで無人だった空間に人物が現れていた。
 キーパー────シオン・エルトナム・アトラシアが立っていた。手には銀の鍵、その双瞳は包帯男を厳しく睨んでいる。


「答えろ、シュバルツ・バルト。キャスターを使い、町中にタタリを発生させ、その神秘を秘匿しない理由を」
「犬共の親玉に相応しい傲慢な問いかけだ。だが、答えてやろう。
 真実を暴くため、そして楽しんでいる観客共を引きずり下ろすためだ。
 この舞台が一体如何なるものかを蒙昧な人々に知らしめるためだ」
「真実……だと?」
「そのために用意したのだろう?
 腐った町を! 狂った者共を! 下らない催しを!!」


 シュバルツ・バルトはそのままニタリと嗤いながらキーパーを嘲る。


「だいたい神秘の秘匿……神秘の秘匿だと!?
 見れば狂人と化してしまうようなプロテクトを掛けておいて笑わすな。
『恐れ』で人は止められない。止まってはならない。真実に恐怖し、袋小路に逃げ込んだ時、人間は待つだけの哀れな───」
「黙るがいい、狂人。これが、最後の警告だ。今すぐにアーカム全域にまで展開したキャスターの宝具を解除しろ。さもなくばここで殺す」


 シュバルツ・バルトの言動に何か逆鱗に触れるものがあったのか、濃密な殺気が溢れかえっていた。恐らく常人であれば気が狂わんばかりの恐怖に襲われただろう。事実、シュバルツ・バルトは心臓を握られているに等しい圧迫感に襲われていた。


「貴様もまたメガデウスを操るか」


 そう、彼女の背後に。巨大な機械の掌。世界を摘み取るデウス・エクス・マキナの如く。それが極大の魔力と物理的大質量を伴って顕現していた。掌だけでこの圧力。間違いなく大いなる(ザ・ビッグ)に匹敵する何かに他ならない。


「回答しろ、シュバルツ・バルト……いや、マイクル・ゼーバッハ!!」


 アーチャーの固有結界が軋む。
 そこに在るだけで世界が壊れるような超質量が矮小な男一人を狙っている。
 シュバルツ・バルトは回答する内容次第で象に踏み潰された蟻と同じ運命を辿るだろう。
 もはや拒否権は存在しない。助かる見込みはたった一つしかない。他に何一つ、黙秘すらも許されることはない。


「フ、ハハ、ハハハハハハハ!」


 しかし神の如き掌を見てもシュバルツ・バルトは哄笑し、そしてキーパーを嘲笑った。


「ノーだ!」


 答えた瞬間、あるいは答え終わるより早く顕現していた手が振り下ろされる。
 神の鉄槌が如く、シュバルツ・バルトに超質量の何かが落ちてくる。
 誰であろうと絶望するような事態を前に、しかしシュバルツ・バルトは聖母像にクソを塗るが如く悪意を盛って言葉を紡いだ。


「貴様のような、『恐怖のあまり逃げ出した者』に意味はない。
 人とは恐怖のあまり真実から逃げ出した瞬間、無価値な存在になる。
 故に────貴様の持つもの、語る者全ては無価値だ! 理想も! 願望も! 全て!!」


 狂人の紡ぐ言葉は一瞬でキーパーの怒りを頂点へ迎えさせ───


「貴様はこの聖杯戦争の果てに! 無価値に! 無意味に!! 何も得ないまま死ぬだろうさ!!!
 ハ、ハハハ、ハーハッハッハッハッハ」
「────黙れ」


 ──まるで勝利者の如く高らかに笑いながら、巨大な掌に圧し潰された。




121 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:47:46 ID:aSCLzBVE0


 ほぼ同時刻。自身の固有結界が軋み始める以上をストレングスは感知した。
 そしてブラック★ロックシューターに化けているキャスターもまた同じく。


「これはこれは。予想外の展開だ。まあ、即興劇にアクシデントは付き物だがね」
「な、なんで? ここは私の世界。私の心象風景。呼んでもいない人なんか入って来れないのに」
「まあ、予想はつくがね。恐らくは監督役……キーパーのサーヴァントだろう。神秘をばら撒く我々を追ってきたというわけだ」


 アーチャーでも知っている。神秘とは秘匿せず衆知されるほど薄れゆくものであることを。喩えこの舞台が■■であろうと変わらず、故に神秘を隠匿するための特権を有した存在がいる。
 それがキーパー。ルーラーならざるエクストラクラスであるが既存サーヴァント達を滅ぼせる権能を有していることは想像に難くない。
 なのに愉快そうに言葉を放つキャスターに嫌悪を催す。


「自分のマスターが心配じゃないの?」
「いいや、サプライズもまた良い刺激となる」
「もしかしてあなたはキャスターじゃなくてバーサーカーなのか?」
「いいや、ちゃんと狂った魔術師だとも。だが、君に正気云々を言われたくはないな」
「何……?」


 訝しむアーチャーにキャスターは嗤って答えた。


「この固有結界。この心象風景。詳細は分からないが言わんとしていることは分かる。
 己の周りは炎の如き激痛。逃げ出したい。だが逃げ場がない。だからルービックキューブのように自分の代わりに表で受けてくれる何かが欲しい。
 ハハハ。つまり『身代わり』が本質なのだろう、君は。いいや、もしかしたら『君たち』かな?」
「黙れ」


 本質を突かれたこと以上に、それをマトの、ブラック★ロックシューターの姿で嘲われることが許せなかった。


「彼女の姿を真似て、そんな最低な表情を浮かべるお前なんかに何が──」
「分かるとも。何せ私も死から逃れるためにタタリという皮を被る者だ。
 だが、君と私は延命手段が同じでありながら道は全くの真逆だ」


 浮かべていた嘲笑が消えると同時に周囲の温度が下がった気がした。
 キャスターの声が嘲笑と侮蔑から極寒の激怒に変わる。
 人々の心に巣食う固有結界。他者の皮を被り、自らの身を守る。
 ある種の同族嫌悪。自分と似通う属性であるが故に余計に許せないことがある。


「私が延命として皮を被るのはその先にある未来を救わんと挑むためだ。人々を、霊長の未来を救うために己という概念を捨て、そして人類救済の計算式を求めるためだ。そこに恐れはない。逃避もない。諦める道理など微塵もなかったとも。
 永遠の逃避を願い、未来からも現実からも逃げ出す君とは違うのだよアーチャー。
 未来はおろか前すら見ていない愚か者に人の正気・狂気を語る資格などあるものか」


 その口から洩れる熱情。狂気。そして怒り。
 何度挑戦しても挫け、それでも諦めきれずに狂い落ちた魔術師の残影がそこにいる。
 だが、ストレングスは決して怯まずにキャスターを見据えて言った。


「言ってくれるね……これでも変わったつもりなんだけどね」


 かつて、神足ユウという女の子がいた。
 彼女はいじめられっ子だったんだ。現実は辛い。逃げ場はない。毎日何かが壊されて、毎日が痛い。だから私が生まれて、彼女の代わりを引き受けた。だけど今は────


「あんたが声高に言ってくれた事はもうとっくに乗り越えたんだよ。私達は。
 だから、ここにいるのはもう、あんたの言う身代わりじゃない。ここにいるのは彼女を救い上げた、彼女のための、彼女のためだけの英雄だ!」

122 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:48:10 ID:aSCLzBVE0

 四つの鉄腕が唸る。
 ストレングスの気炎を具現して固有結界内部の炎が猛り狂う。


「大体、あなたは好き勝手言ってくれたけどさ」


 足に力を入れて地を踏む。


「英霊(こんなもの)になってもまだ未来だのなんだの言って暴れているあなたはどうなんだ」


 そして地を蹴る。
 ニトロをくべたレーシングカーの如く爆発的に速度が出た。


「いつまでも惨めな有り様で、人に迷惑をかけて、正気を語る資格が無いのはどっちだ!」


 己が固有結界の炎を焼かれようがその激痛すらも乗り越えて。


「英霊になっている時点で、あんたの挑戦とやらはとうの昔に失敗して終わってるんだよ!」


 アーチャー・ストレングスは最後の吶喊を果たした。
 アーチャーの啖呵。決死の吶喊。それすらも己の熱意に足らずとキャスターは言った。


「だが、それでも諦めないのが魔術師の宿業というものだ」





 ワラキアの夜───ズェピア・エルトナム・オベローンと呼ばれていた魔術師の話をしよう。
 その男はアトラス院と呼ばれる魔術協会に所属していた。
 根源と呼ばれる世界の深奥にたどり着くことが一般的な魔術師の悲願であるがアトラス院の魔術師、いや、ズェピア・エルトナム・オベローンの願いは違った。
 人類滅亡の未来を変える。ただそれを願い、求めた───だから狂った。
 何をしても変えられず、何をしてもより酷い未来が生み出される。
 なんという悲劇。
 なんという皮肉。
 なんという憐れさ。
 未来を救いたいあまり、未来をより凄惨な終わりにするなど悪辣にも程がある。
 それでも。ああ、それでもと諦めきれず未来を計算する。計算する。計算する。計算スル。計算スル。計算スル。計算スル。計算スル。計算スル。ケイサンスル。ケイサンスル。ケイサンスル。ケイサンスル。ケイサンスル。

 狂った思想で精密な機械の如き思考。
 寿命が足りなければ寿命を超越する死徒となり、それでも足りなければ現象となって計算し続け。


「時計を回せ、針を回せ、廻セ……廻セ廻セ…………廻セ廻セ廻セェェェ!!」


 こうしてズェピア・エルトナム・オベローンはワラキアの夜と呼ばれるモノになった。
 森羅万象未来永劫を計算し尽くす思考機械。呪われたエルトナム。一夜限りの虚言の王。死徒二十七祖の一角。それが■■に滅ぼされても尚、英霊として在った。


 ───だからこそ、この舞台(セカイ)はオカシイのだが。




123 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:49:13 ID:aSCLzBVE0


 ブラック★ロックシューターがガトリングを構え銃身を回転。物理的にあり得ない連射速度での掃射を開始する。
 同時に決着をつけるべく未来の計算も始めた。


 ───分割思考展開。計算開始。計算終了。


 コンマ2秒で計算終了。この5秒間で起きうる可能性(シナリオ)を四桁ほど演算し、統計でまとめ上げる。
 アーチャーが星(ルービックキューブ)を回し位置を変えるだろう。その軌道すら計算範囲の中だ。


(右からのフェイントの左、上、前、右、更に右……いや、これは左のシナリオか。そして左下。
 狙いは側面から拳による殴打か。蛮脳な)


【一秒経過】


 アーチャーが固有結界の効果を使い、計算通り位置を変える。
 どの道を使うのかは計算済みである故、脅威ではない。
 迎え撃つべく、重火器を長大な剣に変形させ切先を天へと向けた。炎が更に燃え盛り、熱風が二人の肌を焼くも互いに斟酌しない。
 台本通りに動かねば死ぬことは明白。裏を返せば台本通りならば死ぬことはない。偽肉がいくら焦げようとどうでもいいことだ。


【二秒経過】


 ガシャン。ガシャン。ガシャン。
 星が、ルービック・ミラーブロックスが回転する。
 この体(タタリ)であれば恐らく目で追うことも可能なのだろうが、計算しきれている未来に対し、無駄なことはしない。
 ただ振り上げた長剣の刃を巨人が如き膂力と迅雷の速度を以て振り下ろすだけ。


「幕といこう」


 その言葉と共に断頭台の刃の如く振り下ろされる黒鉄の剣。その剣の軌道上にストレングスの首が来ることをワラキアの夜は算出していた。
 そして、それはストレングスの生前、ストレングスの身体を使っていた神足ユウをブラック★ロックシューター葬ったのと全く同じ動作。故に客観的に見ればこの結果は順当だろう───前のままのストレングスならば。


「何?」


 ワラキアの夜の口から驚愕の声が零れた。
 振り下ろした刃は無為に虚空を裂いて金属の床へと突き刺さり、そこにあるべきアーチャーの首も胴体も存在しない。
 理不尽極まる結果に怒りと焦慮が湧く。


【三秒経過】


 さあ、思い知るがいい。稀代の錬金術師。未来を計算する者よ。

 ストレングスの本質は見抜いた。固有結界の構造も見抜いた。

 そのどれもが正答であると同時に誤答である。

 故に───

124 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:49:35 ID:aSCLzBVE0

「ぐぅぬ!」


 落石の如き轟音。続いて骨が砕ける音。肉が潰れる音。体が木端の如く吹き飛ぶ風切り音。最後に金属の床へとめり込む音。
 間違えた者へ下される鉄拳制裁。
 それはワラキアの夜が計算した結果に含まれていたが、あまりにも可能性が低いために排除したシナリオだった。
 すなわち正面からの殴打。

 ワラキアの夜の計算ミスの原因。それは己が舞台観で世界そのものを知り計算したことにある。
 この舞台は旧い。この固有結界が形成されたのは神足ユウという少女が成長する以前に形成されたモノである。
 だからこそ、計算できても誤差として消してしまう。
 現実から逃げ出した者が『正面から飛び込んで来る』などという未来が。


【四秒経過】


「やっとその面を殴れたね」


 魔力を乗せて怪力スキルを発揮したアーチャーの拳はキャスターの殻に重度のヒビを入れていた。ノイズが走り、輪郭そのものが不安定となっていく。
 ワラキアの夜の耳にはドシドシと死神の足音が聞こえてくる。


「私たちの世界に祟りはいらないよ。ことりとりが来るから」


 自らの炎で焦げた衣服を纏い、オレンジ色の瞳を煌かせる魔人がタタリを滅ぼすべく近付いていく。
 どうするかなど明白だろう。これまで虚の世界の住人を廃棄した方法と同じ方法でタタリを滅ぼすだけだ。
 すなわちルービック・ミラーブロックスの下で煮えたぎる灼熱地獄への廃棄。
 掴んで投げて落とすだけ。ただそれだけ。


「なるほど」


 ダメージが大きかったのか、足が崩れていっているキャスターに逃れる術はない。
 にも関わらず不気味な笑みを浮かべていた。
 生理的にこれ以上見ていたくないと思ったストレングスはブラック★ロックシューターの首へと手を伸ばし。


「こういう"枝"か」


 その時、キャスターが訳の分からないことを呟き。


"貴様はこの聖杯戦争の果てに、何も無価値に! 無意味に!! 何も得ないまま死ぬだろうさ!!!"


 そして誰かの高笑いが響いた瞬間、天地が波打った。
 ルービック・ミラーブロックスの足場が吹き飛ぶ。衝撃波で空が割れる。
 吹き荒れていた炎は残さず消し飛び、嵐の如く空気が吹き荒れた。


「え、な、何で!?」


 未曽有の大災害を前にストレングスは焦った。
 そしてそれを事前に計算していたワラキアの夜は嗤いながらタタリの皮を剥がして──


「では、ここで死ね」


 悪性情報によって形成された爪がストレングスの肉体を抉った。





125 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:50:18 ID:aSCLzBVE0



「やはり狂っていたか」


 巨大機械人形の掌の下。肉が潰れた確かな感触を感じ取るとキーパーの溜飲が下がった。最後に何やら囀っていたようだが、所詮狂人の戯言に過ぎない。そう判断して忘却しようとた時、眼前、機械人形の手の甲上部の景色が歪む。
 それは靄の如く朦朧かつ無形であったが徐々に形を取り始め、色が付き始め、そして成った。その姿は先ほど叩き潰したはずの男であり、今は機械の掌の下で肉塊になっているはずの男である。
 

「シュヴァルツ・バルト……」


 見間違えようがない。そのぎらついた、そして果て無い宇宙の深淵のような狂気とその中核で常に沸騰し続けている汚泥のようなおぞましい情熱を宿した瞳を見間違えようもない。
 キーパーは何故生きているなどという疑問を溢さなかった。なぜならばこれは馴染み深い現象だったからである。すなわち──


「タタリとして具現できるほど『包帯男』の噂が浸透したということか。であれば今潰したのも悪性情報で生み出したタタリというわけか」
「ほう。その真実の映らぬ眼でよくも理解できるな、狂った犬共の親玉よ」
「ならばキャスターの方を排斥すれば問題ない」
「しかし、もう遅い」
「キャスター、ワラキアの夜がまだ此処にいることはわかっている」
「我らは誰も止められぬ」


 二人の間に飛び交った言葉は全く噛み合わなかった。
 手の甲に立っているシュバルツ・バルトを払いのけ(少し払うだけで砂の城のように弾けて肉片が舞った)キャスターへと向かって歩を進めるその二歩目で、世界が歪んだ。
 まるで濁水を純水へ濾過するように固有結界が現実世界へと変わっていく────





126 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:50:49 ID:aSCLzBVE0



 苦しい。
 熱い。
 悶えたいのに体が動かない。
 胸元から夥しい血が流れていく。
 胃から血が逆流して口から溢れる。
 こんなに血が出ているのに痛みが無いのが気持ち悪い。
 
 ストレングスはエーテルで構成された肉の感触に苦しみながら、どうすればよいのか頭を必死に動かしていた。
 奇跡的に霊核は無事だが、立ち上がることすら困難な今、目の前の怪物と戦うことなどできない。顔を上げればふわり、ふわり浮遊霊のようにキャスターが近づいてくるのが見えた。勝利を確信した笑みが張り付けられたその顔が無性に癪に障る。
 だが武器のOrga Armsは指一本動せない。


(負けた……)


 大衝撃によって天地が揺れた瞬間に動けなかった。それが敗因だった。浮いているキャスターと足が接地していた自分とでは影響度が違いすぎる。だが、戦いにそんなものは関係ない。バスケの試合じゃないのだ、不幸な事故だったからノーカンとする審判は此処に存在しない。
 そう、戦いとは結局は死ぬか生きるかだ。そこに善悪の優劣は存在しない。死にたくないなら抗うか逃げるしかない。


「さて、サーヴァントの血というのはどんな味かな?」


 グイッと首を掴まれて持ち上げられる。
 逆流していた血液が喉に詰まり、溺死の如き息苦しさが襲う。サーヴァントが窒息死することは無いが耐え難い。


(いいや……駄目だ。まだ……終われない……)


 マスターを置いて死ぬわけにはいかなかった。故に───


(固有結界、『解除』)


 世界が渦巻く。光景(いろ)が変わる。空の色が炎のオレンジから曇った鉛色へ。
 夢から覚めるように、ストレングスはロウアー・サウスサイドの小汚い路地へと吐き出された。固有結界の解除と同時にキャスターとストレングスが現実へ吐き出される位置を極限まで引き離すことでキャスターから逃げることに成功したはいいが、魔力の消耗が激しすぎた。傷の再生が遅く、これ以上は行動できない。単独行動スキルがなければ既に消滅していただろう。悔しさで奥歯を噛みしめながら霊体化する。




127 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:51:19 ID:aSCLzBVE0


 俯瞰的に見ればワラキアの夜の大勝利だった。
 マスター(の形をしたタタリ)を守るためにブラックロックシューターの姿を取って煽りつつ、さらにアーチャーを打ち負かした。アーチャーから何発かは喰らったものの耐久値EXランクのワラキアの夜にとっては重傷ですらない。事実、傷もまた人々の噂の如く消え去っていた。
 しかし───


「ふむ。これは詰んだという奴かな?」
「そうだ。キャスター・ワラキアの夜。貴様をここで処分する」


 固有結界から吐き出された直後。巨大な機械の掌を浮かべるキーパーとキャスターは出会ってしまった。
 アーチャーが意図的に同じ場所へ出したのか、それとも神の悪戯か。ともあれ逃げられそうもない。


 問答無用で落ちてくる鉄槌。

 分割思考展開────回避不能。死確定。


 即座にワラキアは逃れられぬ死と敗北を認めた。未来を諦めぬ妄執によって吸血種になった彼であるが、計算結果には真摯に向き合う魔術師でもある。もしもこの聖杯戦争が人類の未来を左右する戦いならば、人類を救済する聖戦ならば足掻いただろうが、そうでもないならあっけなく諦める。
 ああ、すまないねマスターと僅かばかりの懺悔して自らの終焉を待った。


 しかし、いつまでもその衝撃はやってこない。
 鋼の腕が止まっていた。そしてワラキアの夜の前には────


「なんのつもりだ。ナイ神父」
「いやいや、君こそ何をやっているんだ?」


 黒き衣を纏った男──後姿だけでは見えないがおそらく声からして──がいるからキーパーの攻撃は止まったのだ。その隙をワラキアは見逃さない。
 再び巨掌が動き出す前に霊体化し、姿を消す。消える間際、キーパーから奥歯を噛みしめる音が聞こえたのは非常に心地よかった。





「答えろ、神父。監督役でありながら神秘を漏洩させているワラキアの夜を見逃したのは何故だ」
「それはこちらのセリフだキーパー。常識的に考えて審判がプレイヤーを殺すゲームが存在するか?」
「これはゲームではない」
「いいや、ゲームだとも。果てしない悪意と想像を絶する神意とスズメの涙ほどの誠意によって紡がれる見世物(ショー)だ。
 故にこのような筋書きは認められん。初の脱落者がキーパーによる殺害などと言う無粋極まる流れはな」
「正確に言えば6人目だ、ナイ神父。お前の理屈はどれも的を射ていない。ゲームであれば規則正しく動くべきであるし、見世物であれば醜悪極まるタタリなど存在する価値などない」
「それは価値観の相違だな。混沌と醜悪を楽しむ者もいよう。というか私がそれを見たいのだ」


 まるで表情が罅割れた如く、怒りで血管が浮き出た。
 怒りのみならず極寒の殺意がキーパーから発せられる。キーパーの殺意に応じて一度は停止していた鋼の手が再び動き出した。超質量。超魔力。それが軽く動くだけで嵐の如き暴威が吹き荒れる。ほんのわずかに手を振るのみで足下のコンクリートに罅すら入れるほどの物理的な圧力すら伴うそれを浴びてもナイ神父は凪いでいる。


「這い寄る混沌……貴様は聖杯戦争そのものを台無しにするつもりか」
「阿呆か。まさかお前、せいぜい国を滅ぼせる程度の力でこの舞台が壊れると思っているのか?」


 ナイ神父は冷笑しながら愚者へと諭す。
 お前何を勘違いしているんだと小馬鹿にした態度で超弩級の、サーヴァントすら殴り殺せる武装を展開しているキーパーに向かって。
 第三者が入れば神父の嘲弄は狂人の振る舞いにしか見えないが、さてそれは本当なのだろうか。
 仮にキーパーの強さを理解した上でそんな態度を取っているとしたら───


「ならば────」

128 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:52:59 ID:aSCLzBVE0

【ロウワー・サウスサイド・???/1日目 午後】
【シュバルツ・バルト@THEビッグオー 】
[状態]健康
[精神]狂人(正気度判定を必要としないが、いつでも物語の表舞台から姿を消す可能性がある)
[令呪]残り3画
[装備]ガソリンを染み込ませた包帯
[道具]望遠レンズ付きカメラ(キャスターの道具作成によるもの)、ライター、替えの包帯
[所持金]不明
[思考・状況]
基本行動方針:真実暴露
1.金木研をモデルに邪神の情報を流布し、邪神の存在を知らしめる。
[備考]
※金木研の中にある邪神の触手を視認しました。
※ウォッチャーの存在を認識しました。
※この世界の仕組みを大体知っています(登場話より)
※ラヴクラフト小説を読んだためEランク相当の「神話技能」スキルがあります
※タタリとなるほど『包帯男』の噂が浸透しているためもしかしたら何処にでも現れるかもしれません


【キャスター(ワラキアの夜)@MeltyBlood】
[状態]健康(戦闘分の魔力を消費)
[精神]Bランク相当の精神汚染
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]一文無し
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争の筋書きを書いた者を探し出し、批評を叩きつける
1.タタリの範囲を広め、よりイレギュラーを生み出す乱数を作り出す。
2.いっそのこと『邪神』をタタリで出すのも面白い
[備考]
※固有結界タタリより以下のかたちを取ることができます。
(〝白髪の喰屍鬼〟、〝包帯男〟)
※亜門鋼太朗&リーズバイフェ・ストリンドヴァリを認識しました。
※金木研を認識しました。
※スキル「吸血鬼」より太陽が昇っている間はステータスが下がります。(タタリのステータスも下がります)
※キーパーを認識しました。


【アーチャー(ストレングス)@ブラック★ロックシューター(TVアニメ版)】
[状態]ダメージ(中)、魔力消費(大)、Orga Arms破損(小)
[精神]正常
[装備]Orga Arms(小破)
[道具]黒いフード
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:仲間としてマスターに協力する。
1.一騎の指示に従う。
2.ワラキアの夜への敵意
[備考]
※三好夏凜を見ましたが、マスターとは認識していません。
※キャスターとシュバルツ・バルトを認識しました

129 The Keeper of Arcane Lore(後編) ◆Jnb5qDKD06 :2018/01/02(火) 00:55:31 ID:aSCLzBVE0

【キーパー(シオン・エルトナム・アトラシア?)@MELTY BLOOD actress again】
[状態]健康
[精神]健康
[装備]エーテルライト、永劫刻む霊長の碑
[道具]エーテルライト
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の完遂と邪神の隠蔽
1.シュバルツ・バルト&キャスターペアの処分
[備考]
※ある程度の情報があれば何が起きたかシュミレートできます
※シュバルツ・バルトを処分対象としました
※どうするかは次の書き手にお任せします。

【ナイ神父@邪神聖杯黙示録】
[状態]?
[精神]?
[装備]?
[道具]?
[所持金]?
[思考・状況]
基本行動方針:この聖杯戦争の行方を最後まで見届ける
1.?
[備考]
※神崎蘭子&ランサーに出会った直後、時間的かつ物理的にありえない速度で商業区域からロウワー・サウスサイドへ移動しました。

130 名無しさん :2018/01/02(火) 00:56:29 ID:aSCLzBVE0
投下終了します。

ナイ神父が瞬間移動したのか、それとも同じ時間に二人存在したのかは想像にお任せします。

131 名無しさん :2018/01/13(土) 18:39:18 ID:sUlmfgxQ0
<Shining effect>
前編投下乙です。
パチュリーとグリムの交渉、ひとまず一件落着と思った矢先のエネル襲来、たった一言で場所の雰囲気を一変させるあたり別格感がやばい。近くにカルナさんもいるしこの聖杯戦争でもトップクラス級サーヴァントの頂上対決となるか。
ギスギスしてる交渉の中ことあるごとに刀を抜こうとする同田貫さんは癒し。


<The Keeper of Arcane Lore(後編)>
こちらも投下乙です。
ストレングスとロックシューター(タタリ)による圧巻のバトル、原作さながらの戦闘にその映像が想像できるようでした。タタリが形作ったロックシューターへの怒りやワラキアの夜への啖呵とストレングスさんまじ主人公
そして主従ともに煽りがうまいタタリ組、本当どちらも相手の逆鱗をピンポイントで刺激してて笑うwww
主催者は仲悪いなぁ、秩序(シオン)と混沌(ナイ神父)じゃ致しかたなしとはいえ。

132 名無しさん :2018/03/02(金) 08:26:22 ID:LpnUlh5A0
書き手が失踪したね。これはもう破棄扱いでいいのかな?

133 ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 22:22:19 ID:Ewx.zsUc0
長らく音信がなく申し訳ございません
随分時間が経ってしまい文量も多くなってしまったため、別話として改めて同組を予約します。投下は今夜中には必ず終えます

134 ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:31:06 ID:Ewx.zsUc0
投下します

135 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:32:49 ID:Ewx.zsUc0





臓と肺腑の底の底、魂を収める土台から湧き上がってくるような衝動が、パチュリーに襲いかかった。


この感覚は既知のものだ。
忘れようにも忘れられない、恐怖と屈辱とが粘つくまでかき混ぜられた忌まわしき記憶。
大学内でのランサーがその細腕に持つ戦鎌の真名を解放された魔力と共に襲った滅びへの本能の警鐘。
魔力とこの恐怖は強く結びついている。
英霊という人の側を超越し、死の際より来たり概念に、『それ』を構成する魔力が汚染されてるとでも言おうか。
筆に染み込み過ぎた絵の具が白紙を滲ませるぐらいに染めてしまうように。
井戸に毒となる水銀を流し込むみたいに。
同じ規模、同じ術式でパチュリーが魔力を用いても、英霊が行えばその魔力に特有の色がつく。魔力が恐怖を生み、恐怖とは魔力だ。

(なんて……歪な)

パチュリーの背筋に冷や汗が流れる。
英霊。神秘。宝具。狂気。
人智はおろか魔境の叡智ですら届かぬ根源的な恐怖。
既に知り得ている情報なのに、本能は震えを止めない。

「………………っ」

唇を噛む。
震える心を緊迫し、折れそうな膝を立たせる。
智を誇る魔法使いであるパチュリーにとって、知識こそが身を守る鎧だ。理解こそが敵を打ち破る魔杖だ。
その誇りが理性の火を絶やさぬ燃料となり、凍える体を解きほぐしていく。

「おし、平気だな。やりゃあ出来るじゃねえか」

背を押すような言葉を送るセイバーの顔は、見えなかった。
パチュリーに背を見せて、現れた英霊の注視に全霊を傾けているからだ。
既に刀剣男子はサーヴァントの本分に立ち返り、鞘から刀は抜かれ両手で構えられている。

「で、誰だよてめえは。いきなり現れて好き放題言ってんじゃねえぞ」

睨みつけての問いに対し男は怯みを見せず、何でもない、至極当たり前のように告げた。

「我は、神なり。この青海の街で無聊を慰めるべく降臨した至高なる唯一神よ。今はライダーのクラスなどに定まれているがな」

クラス名を開示し、胡座をかいて四人を睥睨する様は傲岸そのもので、なるほどいかにも神らしいものだ。
パチュリーも神とは直接面識がある。幻想郷とはそもそも信仰を喪失した神々が最後に降り立つ異界である。そしてそうした手合いは基本上から目線でものを言う。
在り方はどうあれ、前提として信仰されてこそ神は神足り得る。信仰とは祈りであり、捧げられるものは上に立つのが最も自然な形だ。

「神、ですって?あなたが?」

反応を示したのはランサーであった。
彼女の収めるオルミュッツ公国、ひいてはジスタード王国にも信仰する神が在る。特定の宗派があるでもないが崇める存在には違いない。
目の前のライダーが、その神と同じだと名乗ることは聞き捨てならなかった。

「会談の最中に断りもなく割り込む礼儀知らず、華美に光を散らして見せる品のなさ。恵みをもたらす気なんて微塵も感じられない。
 あなたには人の上に立ち、民が崇めるに値するものを何一つ持ち合わせていないわ。田舎地方の領主からやり直すことね」
「ヤハハハ。馬鹿め。神が人をどう扱おうが構わんではないか小娘が。
 神は導きなどせぬ。神は教えなどせぬ。ただ天上にいるだけでいい。それを見上げるしかできない者どもは自然と平伏し頭を垂れる」
「ほう、言ってくれる。だが私は宇宙にスコードと祈った事など一度とない」

136 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:34:55 ID:Ewx.zsUc0


新たにクリムが口を挟み出して、言葉の応酬は続けられる。

「私の地で崇敬を集めている、フォトンバッテリーを運ぶキャピタル・タワーはあくまで機械でしかない。
 地球の生活圏を支えてるとはいえマシーンに祈りを捧げるなどナンセンスだ」
「それが神だ。生殺与奪を握られ、抗えぬと諦めたものを人は古来より神と定めてきた。
 そうやって奉り崇めれば自らの矮小さを誤魔化せるとでもいうようにな。
 ヤハハ、時代が違っても人の考える事は変わらんな」
「神々が、人の諦めですって?」
「少し違うな。神とは恐怖そのものだ」

常人の精神を毒に浸す、邪なる神秘の塊である自身の指を見せつける。
掌の中心で、一瞬だけ火花が散った。

「恐怖こそが神を神たらしめるものだ。絶対なるものへの恭順の証だ。
 貴様らが私を恐れるのは世の摂理であり、私の意に沿うよう動く事が唯一救われる行いだ。存分に私を愉しませ、私を悦ばせるといい。
 それでこそ最後には無為に散る貴様らにも価値が生まれるものであろう?」
「つまり―――どうだと?」

意図を判じかねて、ただ不穏なものを感じ取りクリムが眦を決する。

「サーヴァントの実体を掴んだのはこれが初めてでな。何処とも知れぬ木っ端であっても英霊の戦いには興味がある。
 今より、そこの二騎で戦って見せるがいい。無論、双方殺す気でな」


暴言と取るにもあまりに限度を超えすぎた発言が飛び出した。
二騎のサーヴァントが集った場に何を目的に乗り込んできたかと思えば、ただ観戦に来た程度の興味心だった事に誰もが次の言葉を失っていた。
しかも彼の中ではセイバーとランサーが対決するのが既に決定済みになっている。痴れている、と言わずして他になんと言おう。

「ああ、生き残った方は暫くは見逃してやってもいいぞ?この街は狭いが、わざわざ練り歩いてサーヴァントを探し当てるのも骨折りだからなあ。
 かつての"神隊"のように、動かせる手足があるに越したことはない」

薄笑いを浮かべながらペラペラと並び立てられる言葉に、いったいどこまで真実味があるか。煎じ詰めるまでもなかった。
これはただの気まぐれだ。本人すら本気にしていない傲慢故の遊び心に過ぎない。
気分次第で約束を守りもするし、好きに破りもする。保証などどこにもない思いつきの放言。
そこまで自身の実力に自信があるのかもしれないが、だとしてもなんという放言か。
クリムとランサーは言うに及ばず、パチュリーすらも湧き上がる怒りで黙る中で。

「あ?なんだそんな事かよ」

武者は頭を掻きながら、ライダーの大言を酒の席の痴れ言か何かであるかのように切って捨てた。

「神とか恐れだとか長々話し込んでて眠っちまいそうだったから流してたけどよ、最後のだけはよく聞こえたぜ。
 試合を見てえんだって?いいぜ、お望み通り見せてやるよ」

黒備えの鎧の剣士は刀を振りかざし、切っ先をライダーの首めがけて突きつけた。
何の装飾も施されていない打刀。
台に鎮座されるのをよしとせず、見処を捨てただ武器としての価値だけを追い求めた末に辿り着いた剛の刃。

「ただし、てめえが実演でだ。ここまで舐められて、今更退けとか言わねえよなぁ大将(マスター)?」

主に振り向いて見せた顔は禍々しく、今こそが己が存在意義を果たせる瞬間なのだと打ち震えていた。


この英霊の思考はパチュリーには理解の外だ。
自分が一般的な感性の持ち主だとは思ってないし、知己は揃って偏屈揃いであるが、ここまで単一の事に全身全霊を注げるのは殆ど目にしない。
なにせこの男には遊びがない。弾幕ごっこのように、彩りと美麗を以て競い合う要素を排してる。
遊びとして成立させるための、常に弾幕の抜け道を用意する余地がない。
無くせる隙は無くせるだけ埋めて、防がれる間を突き詰める。
それは斬ることを、勝つことを至上とする、少女無用の真剣世界。
馴染まないのも当然だ。パチュリー・ノーレッジの生きる世界と、幻想郷での枠組みから最も遠い位置に同田貫正国はいる。

137 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:36:04 ID:Ewx.zsUc0


「ほんとあなたって、単純よね」

溜め息をついて応える。
理解しようなどとは今更思わない。
けれども、今ここでの一時だけは。

「退く気なんてはじめからないわよ。あなたが流してた台詞ね、私にとっては聞き流せない発言のオンパレードなんだから」

共感を持てる事がある。
腹に巣食う悪寒を押し殺し、啖呵を切ってやる理由がある。

「では初の共同戦線といこうか。行けますね、戦姫さま」
「当たり前よ。これで下がるよう言ったならそれこそ貴方を見限っていたわ。
 マスター、指示をちょうだい。とびきりシンプルで冷酷にね」

横からはそんなクリムとランサーの声。
燃えて荒ぶる意気を見せるのはパチュリーだけではかったらしい。
ここにいる全員か、奧に湛える闘争心を剥き出しにしている。


不思議な光景だった。
偶然邂逅しただけの二組のマスターとサーヴァント。同盟を組んで間もないのに、現れた敵を前にして意思をひとつにしている。

何がトリガーになったのか。
ここまで燃え上がる理由とはなんだ。意見を一致できた要因は。
答えるものはいない。聞く者には誰であれ分かりきっている答えだから。

難しい話ではない。
細かな理屈など必要なく。
特別な理由なんて、始めから存在していない。

これは単純にして明快な不文律だ。
「売られた喧嘩は買う」――――――男女問わずして共通できる、戦うに足る理由。




「斬りなさい、セイバー」
「応よ!」

「蹴散らせ、ランサー」
「受けたわ!」




銀刃が黒い残像を残して走る。
蒼槍が絶氷を散らして舞う。
マスターの命を受けた二人の騎士は体内の魔力を唸らせ疾駆した。
身体は限界まで絞られた弓の弦が解放されたが如く弾け飛び、二秒とかからずエネルを捉える間合い迫る。
地を飛び上がって振るわれる刃はライダーの首を、槍は心臓に狙いを同時に定めている。
即席とは思えない連携の手並みこそは徒党で戦場を駆けた者同士の経験則が成せる技か。
緩みきった状態のライダーに防御の猶予などなかった。そもそも防ぐ意識すらあったかどうか。
自身の命脈を断つ凶器を前にして避ける素振りすら見せず――――――肉に触れようかという寸前に姿を消失させた。

「あ?」
「これは……」

刀と槍は手応えを得られずに何もない宙を虚しく切り裂いた。思いもよらぬ結果に困惑する二者。
予想だにしない攻撃にたまらず霊体化して逃げおおせたのか。そうしたものとは違うと直感で断じる。
現に痺れるような魔力はまだ傍から感じている。

138 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:37:48 ID:Ewx.zsUc0



「……不敬なり」


声は、再び頭上からだった。
どこから取り出したか雲を凝り固めたような球体に座るライダーは、やはり変わらぬ泰然の構えで、最初の時を同じように二人を見下ろしていた。

「いいだろう。体が鈍っていて準備運動もしたかったところだ。神たる者、不健康ではいられんからな。
 光栄に思え。私自ら、真の恐怖というものを直々に刻みつけてやる。
 肉の繊維一本といわず、魂の一欠片といわず。全身全霊、余すところなくな」

言葉とは裏腹に声に怒りはなく、笑みは消えなかった。
エネルにはいまだ余裕が失われはしない。この段になっても、余興に座しているという認識を改めはしてはいない。
自らに及ぶ以外の一切合切を有象無象に捉える男には全てが遊興である。
力をひけらかし無知なる輩に彼我の格差を教授してやるのも神の務め。そう確信しているのみ。

「まずは小手調べだ、楽には死ぬなよ」

そう言って、無手を晒す。
掲げられた掌からは魔力が光となって集積していき。


「百万∨(ボルト)、"放電(ヴァーリー)"」


天(そら)を支配する神の怒りが、地上に落ちてくる。
放射された光が白熱した道を形作り、二者を焼かんとして到来した。

「っと!危ねえ!」

いつまでも突っ立って相手に狙いを定めさせてやる馬鹿はいない。
セイバーもランサーも共に、エネルが手をかざした時点で攻撃を予期して駆け出していた。
迅速な行動であったが、それも雷に先んじるほどの速度とはいかなかった。
ごく浅い範囲、引っかけた程度とはいえ雷の奔流を浴びる。戦闘行為に支障はないが肉の焦げた匂いが鼻につく。
そういや夜にも雷をもらったか、と余分な思考を一瞬浮かべる。

「ヤハハ。まずは貴様からといこうか、侍」

なんと、逃げた胴田貫の進行先には何食わぬ顔でエネルが待ち構えていたのだ。
予め行動を予測し先回りしたとしても信じがたい速さだった。
パチュリー達マスターは無論、ランサー達サーヴァントにも移動の過程を見逃していた。
単に機動力が高いというだけでは説明できない突然の出現にも、胴田貫は一瞬の躊躇も見せずに返礼と刀を振り抜く。
それをライダーは黄金で出来た棒で受けた。
宝具ほどの神秘はないがただの金属ではないのか、それとも持ち主の尋常ならざる魔力の賜物か、セイバーの膂力に歪みもせず拮抗する。

「―――かっ!」

不遜なる態度が決して虚仮威しでない事に胴田貫は破顔する。
そしてすぐさま再燃。滾る戦気のままに凶器を息つく間もなく振り回した。

139 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:39:04 ID:Ewx.zsUc0


駆動する全身はそれこそ颶風のように。
英霊の華々しさからは程遠く、戦舞と呼ぶ美麗さはない。
光輝。英気。矜持。神秘。飾り立てる全ては無用。
恩讐。執念。善悪。信仰。人世に纏わり付く全てと無縁。
「如何様にして斬るものか」。剣に生きる者が終生かけて専心する無念無想の境地、ではない。
この男が奉ずるのは自らを振るう刹那のみ。戦い。戦闘。斬り合い。殺し合い。刀を振るって敵を斬れれば何も要らない。
それのみを意味と価値として存在してきた、凶器に宿りし付喪の霊。
ゆえにこそ刀剣男子。剣を使う英霊ではない、文字通りの「剣の英霊」である。

「キェエアアアア!!」

猿叫一喝。鉄をも両断する太刀が戦場を巡る。
当たればまさに一刀両断。誉れも高き兜割りの異名を真実名さしめる撃剣はしかし、その真価をいまだ発揮してはいない。
なぜなら体の力を抜いたライダーには、ただのひとつの掠り傷も負わせられないからだ。


柳に風。まさに諺の再現であった。
自らを八つ裂きにせんと迫り来る斬撃の嵐を、全て紙一重で躱していく。
薄皮一枚でも軌道が違え血飛沫が上がるギリギリの差。しかしそれでも当たらないものは当たらない。
胴田貫の剣捌きが稚拙なのではない。そも刀の化身が得物の扱いを損なうはずもない。気迫を叩きつけてくる太刀筋は愚直ではあるが同時に豪速でもある。
脳天を割る唐竹、胴体を泣き別れにする胴、いずれも急所を狙い撃つ必殺の手。
脅威なるは初見でそれを見切っているエネルの動き。
僅かな体のこなしだけで面白いように脇を通り過ぎる。時に金棒でいなし、ゆるりと流してすらいた。

――――――青海に息づく猛者が備える"覇気"の類種、見聞色。
かつてエネルが支配した空島において心網(マントラ)と呼ばれるこの能力は心の声を聞く、守りにおいて非常に重用される。
読心に抵抗できる精神防御を備えてない限り、接近戦でエネルの先を取るのは不可能に等しい。
その点で、迷いなく真っ直ぐに攻める同田貫にとっては最悪の相性といえた。
心の声と動きが完全に一致している動きなぞエネルにすれば目を瞑ろうが避けるに苦心しない。

幾度目かの空振りに合わせて、ライダーの腕が脇をかすめる刀と交差する。
鍛錬で鍛え上げたというよりも、持って生まれた天然の宝石がごとき無駄のない肉体は、見た目以上のパワーをもってセイバーの胸に拳を打ち付けた。
鎧越しでも骨が軋む衝撃に、肺から息を吐きセイバーの体が浮く。
見事にタイミングを図ったカウンターを食らった体は態勢が崩れ後方へと飛ばされてしまう。
見るからに隙だらけの状態に追撃を入れようとしたライダーを、四方から飛来する無数の氷解が阻んだ。
指揮棒の如く短槍を掲げるランサーの技だった。
一歩下がって戦況を俯瞰し、セイバーが殴り飛ばされ距離を取った頃を見計らっての援護。
精緻な手並みこそは、単純戦闘以外の軍略にも通ずる戦姫(ヴァナディース)である何よりの証左である。


「"電光(カリ)"!!」


鳴り響く雷鳴が氷牙の華を照らし、枯らし、蒸散させる。
エネルの全身より発する光の熱により、仕掛けられた氷柱の罠はその全てが融解した。

140 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:41:30 ID:Ewx.zsUc0


電流を分散させる水面も熱で干上がって、今やラヴィアスとランサー自身の魔力で抵抗するしかない。
宝具である竜具の神秘と選ばれた血筋という誇りは焼き切れずとも、悲鳴を上げる肉体が限界に達するのも時間の問題。
かといって、それを黙って見ている剣(サーヴァント)ではない。

「凝りぬ男だ、さては馬鹿か!」

背後からの殺気にも、ライダーはごく当たり前に先を取った。
馬鹿正直に突っ込んでくるセイバーを嗤い、ランサーへの責め苦を止めず空いていた手で同量の雷撃を飛ばす。
同田貫は止まらない。止まる、という思考をこの時彼は捨てていた。
骨身を焼き尽くす豪雷に遮二無二駆けるのは精神をいわした白痴の無様さか。
そうではない。それは否だ。剣の瞳は無骨にもただ一点を見据えた確固たる意思に固定され、目前を包む雷を恐れる気は微塵もない。
何故ならば――――――


「―――水符『ジェリーフィッシュプリンセス』」


宣言する。
命名された呪文(スペル)が詠唱され、発動のための手順が満たされる。
少女遊戯。弾幕勝負。けれど満たされる魔力と起こされる現象は、紛れもなく『本物』だ。

「馬鹿はてめえだカミナリ野郎っ!!」

剣は止まらなかった。痛みによる減衰もせず、雷の波に飲まれて動きを阻害されてもいない。
突き進む男の全身は、いつの間にか透明な泡のような膜に包まれていた。
膜を中心にして大量の泡状の弾幕が打ち出される。それらがさらに大泡の表面に覆い被さって、セイバーを押し寄せる電流から保護する防壁になっていた。

「効いてる、わね……!」
「当然だ、私の考えた策である!」
「行使してるのは私だから!」

泡の弾幕を発生させる防壁の術。
これは英霊が持つ能力ではなく、そのマスターであるパチュリー・ノーレッジの行使した術に他ならない。
英霊同士の、神秘同士がぶつかり合う闘争の空間で、パチュリーは己に取れる選択を模索していた。
一度目では思考を錯乱させられる神秘の邂逅も、二度目であれば余裕が生まれる。
そこはクリムもまた同じ。直接目の当たりにしてこそないものの、英霊同士の戦いの何たるかを心得ていた今対応は素早かった。
白熱する戦いの傍で二人は別個に作戦を練り、それぞれのサーヴァントへ念話を伝えた。
パチュリーはランサーが水溜まりを利用して雷を流した事からヒントを得、セイバーに自らの水の術を施す。
クリムはそれに乗っかる形でセイバーがエネルの目から逸れるようランサーへ指示する。

141 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:43:47 ID:Ewx.zsUc0


要となったのは魔法使いの種族たるパチュリーの魔術だが、連携となるまでの提案・立案をこなしたのは戦争での立ち回りを熟知したクリムの手腕だ。
神秘を体験する事で起こる精神の消耗は疑心と判断力の低下を招く。その中で的確な指示を下せたのは如何なる根拠があるものか。
ニュータイプという、クリムの時代には半ば忘れ去られた伝説的な概念。
惑星の浮かぶ宇宙で戦った結果研ぎ澄まされた感覚は時として稀なる才能の開花を生むという。
新人類とも呼ばれるステージはアーカムの虚の中に潜む邪悪な神秘に対抗する革新なのか。
あるいはただの、天才と紙一重に並んで位置するという、それなのか。


割れるという工程すら鬱陶しく雷流に飲まれる。
突撃するセイバーをコーティングしている水泡が秒を置かずに消えていく。
如何に相性の観点から突いたとしても、それはある程度彼我の力量が近づいているからこそ成立する図式だ。
山火事にバケツ一杯の水をかけたところで鎮火は一向に進まない。魔術師とサーヴァントの絶対的な差は多少の相性などものともしない。
パチュリーが魔力を送り込み術を維持していても、ライダーの魔力の濁流の前にしてたかが泡風船が保つはずもない。
だが、稀代の魔法使いであるパチュリーは全開で魔力を注ぎ込んで術を行使し続け。
驕り切ったライダーは半端な分しか魔力を割いてない。
この違いが、訪れる結末を数秒だけ引き伸ばした。
その僅かな差に、同田貫は身をねじ込ませる。

「おおぉぉぉっ!」

泡の消耗は九割を超え間もなく全ての防備が消える。
だがその時点でセイバーは雷撃の波を超える一歩手前、即ちライダー本体に肉薄していた。
刀の間合いに入るにはあと一歩分進まなければならない。だがその時には泡は全て失われ雷が直撃するだろう。
問題なかった。これだけ近づけばあとは自前の耐久力だけで持ち堪えられる。
マスターは己を使う意思を見せ、斬るまでの手はずを整えてくれた。
ならば武器たる己はその意を受け取り主の分まで斬り込むのみ。
纏わりつく波状の戒めを無視し、痛覚を捨てる。四肢は動く、戦闘は依然続行だ。
乾坤一擲の進撃は遂に、神を断つ間合いに踏み込んだ。

「―――ヤハ」

脳天目掛けて断頭台が降ろされる寸前にあって、ライダーはどこまでも笑う。
笑う。嗤うとも。嗤わずにいられるか。
弱卒が健気に力を合わせ知恵を絞り、傷を刻みながらようやく一矢報いる所まで来ているというのに、この後一秒で全てが無駄に帰するのだ。
全て読めていた。剣の軌道、剣速はどれも織り込み済み。あまりにも直截すぎる。これで避けれぬ方がどうかしている。
神は当然のように読み取った心に沿って体を流し。



「ええ、本当に―――――――馬鹿ね貴方」



眼下から急速に生えた氷に両足が縫い止められる事態に、一瞬思考が硬直した。

142 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:45:52 ID:Ewx.zsUc0


「……お?」

雷化が、できない。
氷は素足を固め、膝を覆い尽くし、半身にまで昇って肉体を侵食してくる。
『静かなる世界よ(アーイズビルク)』―――竜具ラヴィアスの解放した奥義が一。
迂闊にもリュドミラから目を離した隙に魔力を解放した宝具の開帳は、エネルの両足が地面を離れるより前に縫い付けた。

一瞬、ライダーはよもやの事態に我が身を眺める。
再び前に視線を戻せば、そこに立つのは鬼顔。掲げられる昼天の三日月。
神秘は薄く、特別な魔力も内在しない。ただ断つための凶器が神を見下ろす。
ライダーはまだ自由が利く両腕で金棒で防ぐべく前に出し――――――




「チェストォォォォォ!!」




その防御ごと、顔面から胸元を鮮やかに割断された。











……同田貫正国体系の最大の逸話『兜割』。
これを再現した宝具は刀そのものではなく『刀で斬る』という工程に神秘が発生する。
聖剣のように煌めく魔力の光を放出するわけでもない。
魔剣妖刀のような奇々怪々な効果が付与されもしない。
触れればあらゆる抵抗を許さず切り裂いてみせる、という刀剣にとって当然の性能を突き詰めた単純無骨極まる宝具だ。
燃費の面から使い勝手はいいが用途は限定される。
攻め一辺倒の能力はこの場面でこそ最大の効果を発揮した。

143 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:49:23 ID:Ewx.zsUc0


「決まった……!」

そして斬滅の宝具は今、ライダーに完全な形で入っていた。
パチュリーとクリムにもはっきりと結果を見せている。
斬撃は脳天から真っ二つに割れ胸元まで届いており、上半身は魚の干物みたいにばっくりと開いている。
人間は言うまでもなく魔術師でも即死している傷。
人より遥かに頑健で、魔力によって身体を保っているサーヴァントであろうとも致命なのは間違いない。
喜ぶべき勝利を得た事でパチュリーの精神も高揚する。
先日の失態の挽回。今後に控える大学のランサー戦に向けて上々の成果だ。
恐怖を呼び起こす英霊の神秘を乗り越えた事に安堵しても良いだろう。

「……いいや、これは」

そうだ、現象は覆らない。結果は変わらない。
ライダー・エネルは上半身を唐竹に裂かれた。それは既に決定した事実だ。


「……む、治りが遅いな。手足も心なしか冷たい。なるほどこれがサーヴァント下での制約というやつか。
 神秘ある攻撃にはこの体も多少なりとも影響を受けてしまう。忌々しい。神たるこの身に何たる不届きよ」
では、割れた口で暢気にも分析し、胸元にまで入ってる刀身を気にも留めずに喋っているのは何者なのか。
答えは言うまでもなく、斬られた張本人であるエネルに他ならない。
頭蓋の断面からは血飛沫も内蔵も流す事なく、白い光で満たされている。
割れた口で喋る光景は、麻袋を破いた中身から数百数千の蜘蛛の子が沸き出ていくのを見たにも近い、見てはいけないものを視界に入れた不快感を齎した。

「セイバー、離れなさい!」
「て、め……ッ!」

死んでいなければおかしい者が生きている、異常極まる光景を見たことによる硬直からいち早く復帰したランサーが叫ぶ。
だがセイバーは動かない。動けないでいた。
ライダーに突き刺したままの刀に幾つもの稲妻が巻き付き、焼けた痛みを与えつつもセイバーを拘束しているためだ。

「っなら、そっちが!」

動けないとわかるなり、ランサーが氷槍を繰り出す。
宝具『雪姫放つ破邪の穿角(ラヴィアス)』を解放した事で能力向上を果たしたランサーの突きは、先程と比にならない威力と凄烈さを誇る。
槍は周囲の大気を凍らせて纏わせ、元の得物より遥かに巨大な氷塊となってライダーを穿つ。

144 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:49:46 ID:Ewx.zsUc0


「それはもう、見飽きた」

同田貫によって中間を断たれた筈の金棒は既に修復されていた。
さらに電流を纏わせた先端が三叉戟に変形し、大剣を上回るラヴィアスを受け止める。
重量さをものともせずに槍は押し戻され、接触した部位から煙が上がる。
得物から伝わる電熱が、ラヴィアスに増設された氷の穿槍を融かしているのだ。

「天を仰ぎ見ろ。我が業を見ろ。
 施しをやろう。貴様らの敢闘を称えてな。大口を開け、ありがたく飲み干すがいい」

空を指さしたライダーの腕が強く輝き出し、逆巻く天変を招く。
見る者の視神経を破壊する雷気を散らして、伸ばした腕は光の柱と化して空高くへと伸びた。
大気に白い裂け目を作りながら天上に昇る光景は、さながら破壊の竜の如く。


セイバーは戦慄した。
ランサーは理解した。
雷の操作、どころではない。そんな領域に収まる話ではい。
これは文字通りの、神か悪魔の域にある概念。


"この男は、肉体そのものを雷へと―――――――"


認識した時点で全ては遅い。
気付いた時にはその身は喰らわれている。
故に、雷速。




「"神の裁き(エル・トール)"」




雲から、懲罰の裁断が落ちてくる。
それはもはや捕食だった。飢えた竜が顎を開けて牙を剥き出しにし、身を躍らせて得物に食らいつく。
天変地異が起こるほどの圧倒的な破壊の力が、波濤となって神の許へと還っていく。
今度こそ避ける間も防ぐ術も与えられぬまま、昼の空に鳴り響く白雷は二者を貫いた。





                      ▼  ▼  ▼

145 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:51:44 ID:Ewx.zsUc0






撃ち出した"神の裁き(エル・トール)"を、エネルは自分自身に狙いを定め落とした。

この身を未だ縛る忌々しい令呪は、『聖杯戦争に関連する以外の人物への危害』を禁じている。
商業地区に立ったビルは中の人間は勿論、周囲にも昼時に活発になって外を出る人の姿で溢れている。
効果を限定し、神クラスのシャーマンであるアイアンメイデン・ジャンヌの使用する令呪となればその強制力も一段と強まるというもの。
下手に抵触すれば意にそぐわぬ能力低下、機能停止を余儀なくされるだろう。せっかくの楽しみの最中に水をさされては余りにも興を損なう。
そのため命令の範疇に収めたまま、雷撃を自身の体で吸収して被害を最小限に抑えたのだ。
本来ビルを一階の地上底まで貫通していた"神の裁き(エル・トール)"は屋上のみで留まり、下層には及ぶことはない。
一手間かかる工程だったが、威力そのものが減衰したわけではない。吸収の余波に巻き込まれた犠牲者は力なく地面に倒れ伏していた。

ランサーの氷の彫像とでも言うべき怜悧な美を誇る肢体は、露出した箇所をくまなく火傷を与え痛々しさを見せつける。
苦悶に喘ぐ姿は蒼色の衣装とあいまって、泡になって消えていく人魚姫を連想させる。
セイバーは元が黒髪に黒甲冑だったのもあって、完全に炭化してしまったのではないかと思うほど黒ずんでいた。
こちらは声もみじろぎもせず、生命の残り香も感じさせない。打ち棄てられた塵としか映らなかった。

「褒めてやるぞ。序曲にしては上々だった」

裂かれた顔面は、斬られた痕跡も残さず完全に張り付いていた。
悠然に立つ一騎。無様に横たわる二騎。勝敗の結果は稚児にもわかるほど明瞭だった。
自分達は敗北した。一部始終を見届けたパチュリーの頭蓋の中の、最も凍えた部分はそれをただ自動的に認めた。
認めていて、只々唖然とするばかりだった。思考も、行動もままならない。白痴の病人そのものに呆けているしかなかった。


何故?
何故負けたか?
何故負けなければいけなかったのか?


思考を支配するのはその疑問だけだった。恐怖も、恥辱もいまだけは忘却の彼方にあった。
脳内を占めている言葉はぐるぐると巡り、行き着く先もなくどこまでも流れ続けている。
対策は、整えていた。前戦で得た知識を軸にして精神の制御を第一とし、狂気に呑まれる事なく恐怖に抵抗した。
連携も、なし崩しとは思えないほど十二分に叶っていた。
相性の良さもあったのか、即席であれだけ息を合わせられたのは予想以上だ。
同盟相手と共闘して、己が術法が英霊相手に効果を見せ、自身のサーヴァントで敵サーヴァントを討った。
悪手といえるものは無かった。最高とはいえずとも最善に近い差配だった。
どこをどれだけ精査しても、自分達に落ち度があったとは思えない。

146 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:52:54 ID:Ewx.zsUc0


だから答えは単純なこと。
最初の一歩の時点で、自分はとっくに底なしの沼に足を浸けていただけの話。
それを早々に結論づけないでいるのは、パチュリーがまだその答えを認めていないからだ。
認めてはならない。その事実に目を向けてはならない。
それは単なる意地なのか。一世紀かけて研鑽した魔法使いの矜持かそうさせるのか。
それとも。
それとも、認めてしまえば、心の最後の拠り所、縋れる塊を失ってしまいそうな気がするという、ちっぽけな恐怖心からなのか。

「まだだ、まだ終わってはいない!令呪を以て―――」

懸命が故に理解してしまった底の深さに嵌まるパチュリーの一方で、クリムはまだ己の敗北を認めてはいなかった。
この程度の苦境で屈する、やわな誇りしか持って生まれた覚えはない。
そして自分のサーヴァントも同じ筈だ。クリムに仕えるに相応しい誇り高い英雄であるという信頼がある。
ならば逆転の目は残されている。鬼札を切るのに躊躇はない。
腕の甲に刻まれた紋様に意識を集中させ、起死回生の手を打とうとし……告げようとした言葉を物理的な衝撃をもって焼き捨てられた。

「が―――っ」

再び忘我に陥りかかっていたパチュリーを、火花の散る音と鼻につく焦げ臭さが引き戻した。
すぐ横にいたクリムが、ライダーが指から飛ばした稲妻を受けて全身から煙を上げながら崩れ落ちた。
くぐもった声を出して身悶えしているものの、確かに致命にまでは至ってないらしい。
何の魔術抵抗も持たないクリムには一巡させる程度の電流で、令呪を使う声と余裕を奪うには十分すぎた。

「……ッ!」

混乱に陥っていたパチュリーは、そこで自分を見る視線からの衝撃に現実に復帰した。
氷の縛りは蒸発し、サーヴァントという障害もなくなったエネルは、何の憚りもなくパチュリーに歩いて近づいている。

「いい目だ。絶望と恐怖、諦観と困惑が入り混じっている。神を見るに相応しくなったな」

英霊の守りのない光気を直に浴びせられパチュリーの肌は粟立っていた。
自律神経は反応せず全身が動かせない。目を逸らすことすら叶わない。
それは魅入られてる、とも言い換えられた。
過去に飽くほど見てきた魔法の神秘とまるで別種の圧。
濃いでも多量なのでもない、完全に異なる次元から未知の魔力が漏れ出てるのを感じた。
研究者としてパチュリーの好奇心が湧くのは必然といえた。火に群がる蟲のような、儚く無謀な誘惑が。

147 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:54:18 ID:Ewx.zsUc0


「だが選別にはちょうどいい。どうやら貴様の方が魔術の知識や能力に長じているようだな。
 貴様は幸運だぞ?これより先僅かな間だが私という恐怖から逃れられるのだからな」
「……誰か勧誘に従うなんて言ってたかしら?」
「恐怖には素直に従うものだぞ?軽口を言っても震えが手に取るようにわかる。神に隠し立てはできん。
 力の差はよく理解しただろう。何故そうまでして抗おうとするのだ。
 それともまだ、『実演』が足りんか?」

強がりは秒で脆くも崩された。
目前で弾ける火花に再演される記憶に全身が跳ねる。
直接肉体的なダメージは一度として負わずとも、焼き付いた雷のイメージはそれだけでパチュリーの心を折る手間にまで追い込んでいた。

「サーヴァントが助けに来るものと期待するなよ。神の雷を受けたのだ。意識があってもシビレた手足ではもう暫くは動けまい。
 そして当然令呪を使用する暇など与えはしない」

この期に及んでも念話への根回しも怠らない周到さは、傲岸と愚鈍の違いを物語っている。
天に唾吐いた愚かな振る舞いへの当然の仕置きとして、故に余裕を持っていたぶる事ができる。
痛みは恐怖を刷り込ませるのに大切な要素だ。苦しみから逃れようとする生物の本能を手っ取り早く引き出せる。
焼ける肉の臭い。心胆を震わせる引き裂く音。人が黒焦げに成り果てる光景。
反抗する者を従わせるには心をへし折るのが一番であり、それには五感で以て訴えるのが最も効率がいいとエネルは手ずから学んでいた。

「私も気が長い方ではない。降伏するなら気が狂ってしまう前にしろよ。聞くに堪えぬ叫びなど聞いてはそのまま殺してしまいかねん」

腕の構造がばらけて雷に再構成される。
まるで巨人の指のように拡大した雷がパチュリーを握り潰そうとする。
抵抗はしなかった。この新気を前にしては歯向かう術も意思も装填を許されない。
これから自分の肉体と精神を焼却させる地獄の責め苦を呆然と待ち受けるしかない。
いっそ受け入れて極地の神秘に抱かれ、歓喜と共にこの世から存在を消すのが至上ではないか。そんな世迷言すらどこかから聞こえてくる。




「…………え?」

だが。
痛みも、恐怖も、狂気も、一向に訪れはしなかった。

148 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:54:52 ID:Ewx.zsUc0





空を厚く覆った雲を裂いた陽の光が、エネルとパチュリーの間に差し込み雷をかき消した。
はじめパチュリーにはそうとしか見えなかった。
心網で前兆を感じ取り後方の給水塔にまで下がっていたライダーも、己自身の雷が叛逆の意志を持ったのかと有り得ぬ錯覚した。
飛来した黄金に輝く物体は、先端に日輪を象った形状をした槍であった。
突き立った槍は避雷針の役目となって雷を受け止め、そのまま散らしパチュリーを責め苦から守ったのだった。

槍から伝わる豪壮な魔力は、それ自体が雷を結晶化したかのようであった。
ともすれば、目の前のライダーに相似した概念を脳裏に叩き込ませる。
……もしこの結晶が砕け散った時、内包される雷が解放されたとしたら、地区といわずアーカム全域が焦土と化してしまうのではないか。
根拠はなく、パチュリーはただ生物的な危険信号を訴える直感のみで破滅的なイメージが浮かべた。


「―――悪いが、そこまでにしてもらおうか」


静かに、淡々とした声。
パチュリーが、クリムが、胴田貫が、リュドミラが、エネルが、空より降り立ったその男を見た。
燻る煙が、吹く風が、流れる雲が、砕かれたビルの地面が、大気を漂う魔力が、現れた存在を注視した。
男は全身からは魔力とも狂気ともつかない、だが埒外に巨大であると無意識に頷かざるを得ない威圧感を伴っている。
その形容し難い威圧に、時間も空間も硬直していると錯覚してしまうほど、男の存在感は圧倒的に尽きた。


白髪と白面。全身には絢爛な黄金色の鎧。両眼は鋭利に研ぎ澄まされている。
スタジオ"ル・リエー"屋上階に集った四騎目のサーヴァント。
槍の英霊カルナは、ともすれば四面楚歌になりかねない状況に、臆することなく介入した。






                      ▼  ▼  ▼

149 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:55:51 ID:Ewx.zsUc0






動と静の視線が対になって交差する。
突き刺さった槍の側に立つカルナは背後に二人のマスターを抱え、この場で最も健常であり、強大であり、戦意を見せびらかしているライダーと向かい合っている。

「この魔力の名残り……そうか貴様だな、下の狼煙を起こしたサーヴァントは!」

新たな乱入者の正体に見当がついたのはエネル。
そもそもわざわざ端を越えたスタジオに赴いたのも、オフィス街から感じ取った濃厚な魔力を感じ取ったのが発端となる。
パチュリーとクリムにしても行動の契機になった点では同じ。狼煙、という言葉は言い得て妙であった。
なんにせよ当てが外れた二人と遊んでるうちに本命が自分から来たのだから願ったりである。

「得物から察するにランサーのサーヴァントか。それにこの気配……ほう、貴様さては神の血なり力を宿しているな?」

初見でありながら出自を的確に言い当てられたカルナの目が細められる。

「なるほど、慧眼だな。クラスはともかく見ただけでオレの血脈まで看破するか」
「当然だ。我は神也、青海以外の神性を見抜くのなどわけもない。
 だが所詮は紛い物だな。真に神足るはこの私のみ、他の神なぞ有象無象の木っ端に過ぎん」

聖杯戦争に呼ばれる数多の英霊には自分と異なる神が集まってくるのをエネルは当然知っている。
さして気にする事でもない。恐れを神に置換するのはどの国でも同じだ。
むしろ、そんな相手を倒し誰が真に神を名乗るのに相応しいかを英霊共に知らしめるのも悪くない。そんな風に思ってすらいた。

「いいぞ、来るがいい。神のゲームは始まったばかりだ。
 丁度よく準備運動も終えて興が乗ってきたところ、貴様も遊戯の駒ならば精々楽しませるがいい!」

挑戦者をエネルは拒まない。神にとって祭は大いに望むところにある。
一騎二綺湧いたところで己は揺るがない。倒れないと豪語して憚らぬ。
それは勿論、集まる衆生でなく自らを愉しませる生贄の祭壇と同義といえたが。
生前スカイピア全土の勢力、神隊、神官、シャンディアの戦士、青海から来訪した海賊一味を含めた争いをサバイバルゲームと評したように。
ひとりひとり追い詰め地に伏せていくのも快感だが、やはり蹂躙とは多勢を纏めて跪かせるのが格別である。


「いや、それには及ばない。オレには此処で戦う意思はない」


だが、完全に戦闘の享楽に傾けていた思考は、カルナの一言で一気に冷や水を浴びせられる格好になった。

「……………貴様は何を言っている?」

などと、心網(マントラ)を使うのも忘れ冷えた声色で問うのも無理からぬことであった。

150 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:57:02 ID:Ewx.zsUc0


「言葉通りの意味だが。オレがマスターから受けた命令は、この場で起きた戦闘を止めさせ、巻き込まれる犠牲者を生まない事の一点のみ。
 退けばそれでよし、追いはせん。だが戦いを継続してこれ以上被害を広げるようならば、こちらも手を出させてもらう」

戦う気はない。だがここで続ける気であれば自分も加わり強制的にでも戦闘を止めさせる。
言わんとしている内容はそういうことだ。そういうことだが……それを実際の戦場で告げるのは話が別次元だ。
英霊同士の殺し合い。常在戦場が必然たる聖杯戦争において、勝ち誇るライダー(エネル)に対し、ランサー(カルナ)は戦闘を止めろと言ったのだ。
余程空気を読めてなければ口にすら出来ない発言である。

「……命乞いにしても度を越えたな。期待外れにも程があるぞ。とんだ臆病者のマスターもいたものだ。それに従う貴様もな」
「オレの意思は関係あるまい。マスターが臆病なのは認めるがその上で自らの意思選択をした。その選択を咎めることは誰にもできない。オレはその意のまま動くだけだ」

生真面目に返答するカルナにも、エネルは無関心だった。既にこの相手に戦いを愉しもうという気は萎えていた。

「もういい。貴様は不要だ。即消えろ」

不愉快そうに、虫を払う動作で雷霆を投げる。
出力は一千万。塵を跡形も残さず掃除するためには勿体ないぐらいの破壊力。
白光が迫り、逃れようのない死の洗礼である暴雷を―――――――装甲を張った右腕を軽く振っただけで明後日の方角に飛んでいった。

「それが答えか。いいだろう」

片手で弾かれた雷は儚いまでに霧散した。
振りぬいた右腕には何の痕跡も残っていない。
代わりに燃え上がるのは炎。火傷とは違う、カルナ本人の内から出し揺らめき。

「ならばマスターの命により、お前を此処から退かせる」

地に縫い止められた槍を引き抜く。炎は槍に移り、眠れる神気を顕にした。

「不遜なり!青海の白ザル如きが神に退場を迫るとは!」

怒気に満ちたエネルの叫びが、稲妻となって周囲に飛び散った。
輝く腕が輪郭を解れさせる。悉くを打ち砕く神の弾丸を撃ち出すための大砲の筒へと変化し、溢れる魔力が装填される。

「座興は終わりだ。そこの雑魚諸共消し飛ばしてやろう!"神の裁き(エル・トール)"!!」

鼓膜を破壊する、号砲の快音にしか聞こえない雷鳴。
天頂からの落雷ではなく、真横に吐き出される魔力はまさしく、巨大な大砲の砲撃そのものだった。
カルナのみならず、背後のパチュリー達をも纏めて一網打尽にする規模。サーヴァント二綺を戦闘不能にした雷の大波濤が再び襲いかかる。
そんな必滅の魔力を前に、カルナは見る者の眼を疑う行動を取った。
正確には、動かなかった。
横に避けるでも、迎撃するのでもなく、両腕を交差し仁王立ちの姿勢に構えたのだ。

151 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:57:39 ID:Ewx.zsUc0


「愚か者めが!ハエを庇って死に急ぐとはな!!」

余波を食らったに過ぎない胴田貫やリュドミラと直撃の"神の裁き(エル・トール)"とでは話が違う。俄かの防御策や気合で耐えきれるほど温い熱ではない。
誰もが地に横たわるざを得ないからこそこの技は裁きと呼ばれる。サーヴァント一体の壁なぞ容易く貫通してパチュリー達も焼き焦がすだろう。
まして自分のマスターですらない、他のサーヴァントと契約するマスターを守るために残るなど何の意味もない。愚かな自殺行為としてしか映らなかった。
水平方向に撃ち出した"神の裁き(エル・トール)"はランサーを消し、その向こう側の広告塔の看板に風穴を空けて彼方に消えていく。
高所なのだからビル階層でも狙わない限り通行人を巻き込むわけがない。ちゃんと計算に入れての攻撃だった。

……なのにいまだ雷撃はカルナを貫けず、それ以上の前進を押し留められている。
海岸に押し寄せる大波に人が立ち塞がるようなもの。自然の猛威には人間なぞなす術なく一呑みにされるしかない。
けれど、カルナの五体は緻密に計算して積み上げられた防波堤のように立ち塞がり、粛正の雷を抑えていた。
神の裁きを受け止めるカルナの姿は、天の蒼穹を両腕と頭のみで支える巨人の逸話を再現しているようでもあった。

「……!?」

よもやの事態にエネルの思考が乱れた隙に、逆にカルナが前進した。
痩身でありながら踏み出す足の力強さは巨象が豹の速度で駆けるにも等しく、押し込まれた"神の裁き"が遂に臨界に達した。
飛行船並のバルーンにナイフが刺さったみたいに割れる、肝の小さい者であれば心停止に陥るほどの破裂音。
さしたる損傷もないままに"神の裁き(エル・トール)"が通っていた道を抜ける。
エネルが大砲ならば今のカルナは発射された弾丸そのもの。
背に炎を背負ってジェット加速する、一本の槍となってエネルの元へ疾走する。

「2000万V放電(ヴァーリー)!!」

迎撃は素早かった。
両の掌から打ち出された稲妻の檻が徒手の間合いにまで肉薄していたカルナを挟み込んで撃ち抜く。
白雷に絡め取られたのも、しかし一瞬のことだった。
エネルは目の当たりにしたのだ。
浴びせた雷が肉体にまで流れることなく、それより前に表面の鎧を伝って空中に散っていくのを。
まるで宇宙に煌々と燃え盛る太陽に、星の下を走るだけの稲妻が届かないのが当然だと教え込むように。
電流が意思を持ち、その鎧に触れる恐ろしさのあまり我先にと虚空に逃げていく、悪夢のような光景を。














その瞬間のエネルの表情を、どう表したものだろうか。

眼窩から飛び出しそうなほど目を見開き、顎も関節が外れかねないぐらいに大口を開けている。
焦燥と驚愕と困惑と絶望が一斉に押し寄せ、ない混ぜになって処理が追い付かない。
絶対と信じ切っていたものが目の前で音を立てて崩れ去っていくのを目の当たりにした時、こういう顔をするものだろうか。

152 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:57:56 ID:Ewx.zsUc0





生前の体験がリフレインされる。
忌まわしき敗北の記憶。
認めがたい屈辱の記録。
無敵を誇り、最強に何の疑問も持たず神の座に君臨していた絶頂の頃に現れた、ある青海の人間。
取るに足らぬいち海賊に過ぎぬはずが、頼りにしていた力が一切通用せず無防備に拳を食らった謎の体質。






エネルは思い出した。
記憶から忘却し封じ込めていた、かつての『恐怖』の感情を。





「貴様、まさか『ゴム人間』……!!!」





それより先を言い切ることは出来なかった。
黄金の手甲とそこに纏われる炎、そしてカルナ自身の燃え上がる『覇気』が込められた拳は。
エネルの生身のままの頬を、すり抜けることなくごく当たり前に打ち抜いた。



「!!!???」



受けた衝撃と痛みへの理解も追いつかぬまま。
エネルの体は殴られた勢いのまま彼方へと飛ばされ、向こう側の広告塔の看板に風穴を空けて落ちていった。







                      ▼  ▼  ▼

153 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:58:36 ID:Ewx.zsUc0







炎を背に纏って軽やかにカルナは着地した。
我が手を見つめ、手応えを得たのを確かめる。
肉を打ちすえ、頬骨を砕いた。エーテルの体に記憶と共に染みついている、生前何度も重ねた打撃の感触だ。


鎧で雷撃を受け止め、魔力放出で一息の間に距離を詰め、炎を纏わせた手甲を嵌めた拳で殴る。
以上三手が、カルナがエネルに一撃を喰らわせるに要した工程であった。
瞬間的に魔力を引き出した全開の一発は、無敵を誇っていた神の体に誤魔化しの利かない痛打を与えた。


エネルが有する常時発動型の宝具『神の名は万雷の如く(ゴッド・エネル)』。
悪魔の実『ゴロゴロの実』を食した事で身についた特質こそはエネルの自信の理由。
肉体自体が雷電となり大自然の力を自在に行使でき、凡そ物理的な打撃は透過される。
自然(ロギア)系と呼ばれる強力な悪魔の実でわけても最強に数えられる、神を称するに相応しい能力だ。

しかし全てに例外はある。抜け道のないルールはない。
相互能力の相性。神秘はそれを上回る神秘を前に塗り潰されるという絶対則。明暗を分けたのはその二つだ。

カルナの全身に埋め込まれている防具型宝具、『日輪よ、具足となれ(カヴァーチャ&クンダーラ)』。
父なる太陽神スーリヤの威光が形をとった是こそは、カルナが不死身の英雄と呼ばれた所以。
あらゆる敵対干渉を九割方削減させる神の恩寵は、たとえ神域の雷撃といえど貫けるものではない。
加えて鎧部分が全身に及ぶ以上腕の手甲にも恩恵があるのは自明の理。
降り注ぐ災禍を退ける防備は、単純な神秘性の高さで雷化による透過を防ぐ攻めの一助と機能したのだ。

しかも念の入ったことにカルナは拳に自らの魔力を炎として付与していた。それが第二の相性。
エネルの世界、青海の強豪達が使う"覇気"のうち武装色と呼ばれる種類がある。
拳や武器に力を注入する事で、形なき自然系の能力者を捉える代表的な対抗手段として知られている。
カルナの炎は自然系共有の無敵を破る、武装色と同等の効果に含まれ更なる決定打を与えることに成功していた。

鎧と覇気。期せずしてエネルに対するふたつの特効を併せ持っていた因果。
空島には存在しない絶縁体であるゴム。その特性を悪魔の実で身に着けた『ゴムゴムの実』能力者。
生前自身の天下を脅かした天敵の再来は、その結果すらも再現したのだった。

154 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:59:00 ID:Ewx.zsUc0



しかしカルナは表情を崩さず、あくまでも正確に分析する。
神の無敵性を破り痛打を与えたるために、カルナは自ら課していた魔力のセーブを一時解かなくてはならなかった。
ただでさえ超級の宝具を幾つも揃えたサーヴァントとしての現界は劣悪な燃費を要求している。
そこに魔力放出の重ねがけを無遠慮に行えば、未だ発展途上のマスターの蘭子へ命に関わるほどの大きな負担を強いることになる。
強力なサーヴァントほどその実力を発揮するのにより多くの魔力を要する。カルナもまたその例外に漏れないでいた。


"―――そう容易く攻め切れはしないか"


今の一発は運が向いただけだ。油断しきっていた相手の隙に差し込んだ形だけでしかない。
それも魔力放出による加速がなければかわされた可能性がある。
マスターを慮りはしても、戦士であるカルナはエネルの力量を侮らず真摯に向き合う。
弱みにつけ込むのみが能の悪夢(タタリ)とは違う大英雄の観察眼は、此度の相手を易々とねじ伏せられる相手ではないと判じた。






「―――で、どういうつもりなのかしら、貴方」

黙考するカルナに、不愉快さを隠さず冷たく問い詰める声があった。
全身の痺れから復帰を果たしたリュドミラだ。
よく体を見れば、小柄な手足には髪の色と同じ衣服とは違う薄い透明な膜に覆われている。
それに周りの空気も、カルナが発した熱気のせいでほぼ分からなくなってるが雪が降っていてもおかしくない気温にまで落ち込んでいた。
ラヴィアスの常時流している冷気を意識的に放出して、火傷の応急措置を施しているのだ。
これをクリムと、ついでに胴田貫にも施してある。持ち前の継戦力と合わせて回復した胴田貫は唯一雷を受けてないパチュリーを守るように立っている。
二綺が戦端を開いた最中にも、戦姫は抜け目なく再起の手筈は整えていたのだ。

そしてリュドミラは今、もう一人のランサーに対して槍を突き付けている。
結果を見れば、突如として姿を見せたこのランサーに助けられた形だ。
だがそれで安易に気を許して下出に出るべきではない。
付け加えれば、下での火災がこの男の仕業であれば自分達を誘い出す算段の可能性もある。狙いが不明瞭な限りはまだ要警戒対象だ。

155 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:59:24 ID:Ewx.zsUc0


「それは戦いに割り込んだことに対してか?
 戦士にとっては斃されるより横やりを入れられる方が誇りに抵触する……その気持ちは理解しているが、これも命令だ。間が悪かったと諦めてもらおう」
「よく回る口ね。それで、見逃せば勝手に消えてくれた敵をわざわざ助けて、どう恩を売るよう命令されたのかしら?」

リュドミラの言には自虐が混じっている。
聖杯戦争がバトルロワイアルの形式を取る以上、落としやすい陣営は早期に落とすのが定石である。
先ほどまでのリュドミラ達は、業腹なことにそれだった。
その絶体絶命の窮地を救ったランサーはまさに天の恵み、差し伸ばされた救いの手に等しかった。
尤もそれは、こちら側から見たのみの場合だ。
他陣営同士の戦闘は初めは見に回るのが定石だ。
遠目から成り行きを観察して情報を得るもよし、潰し合わせて互いに疲弊したところを討つもよし。
そこに割り込んできてひとり戦果を丸ごと掠め取るのなら、野蛮ではあるがまだ理解できる。
だが殺し合う敵、それも初見の相手を体を張って守護しに来たなどと、どうして信じられよう。
だからリュドミラは何らかの利用価値を見出されて助けられたものと真っ先に疑ってかかっていた。
敗死寸前を救われたのだから、何か法外な報酬でもふっかけられるのではないかと内心穏やかではなかった、のだが。

「いや、特には」

簡素に、そしてあっさりと、カルナはそれを否定した。

「マスターの命令は先ほど言った通りだし、それ以外の含みはない。
 そして"守るべきこの館内の者"に、他のマスターやサーヴァントも含まれるのも当然の帰結だ」

事実、本人には含むものなど始めからないのだから、そう言うしか他にないのだった。

「つまり利益も見返りも勘定に入れずに、ただ私達を助けるためだけに動いたとでも言うわけ?」
「ああ」
「…………本気?」
「嘘を言った憶えはない」

開いた口が塞がらない、とはこういうことか。
無私無償。溺れる者の手を掴み義によって助太刀する。
英雄らしいといえばらしい、典型的な行動原理ではあるが、これは限度を超えている。
それでいてお人好し、というわけでもない。マスターの判断らしいがこのサーヴァント自身の感情はどうなのか。リュドミラにはまるで読み取れない。
損得で動かないというのは、悪辣な取引を迫る輩よりもある意味タチが悪いものだ。

「オレにしろ奴にしろ、続けるというならばそれも構わん。
 だが最低でもマスターは遠ざけてからにした方がいい。回った毒が抜けなくなるぞ」

リュドミラの動揺をよそにして、カルナは構わずに言葉を紡ぐ。

156 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/09(金) 23:59:44 ID:Ewx.zsUc0


「毒ですって?」
「この聖杯戦争が異形であることには気づいているだろう。オレ達サーヴァントの神秘は変質している。
 英雄の光は眼を潰す闇に堕ちた。人の精神を冒す悍ましき狂気に満ちている。
 現に、戦意を向けたわけでもないオレを見ただけでそちらは中てられてしまっている」

そうして視線をリュドミラから外す。
目を向けた方向には、胴田貫の後ろで、膝を折って項垂れたまま動かないパチュリーがいた。
連続して雷と炎の神秘に晒された精神は既に許容量を超え、一時的な虚脱状態に陥ってしまっている。
目の焦点は合わず憔悴し切っている。ここでの会話も聞こえているかどうか。

「奴はこちらで引き受けよう。オレからは以上だ」

そう締め括り、身を翻して未だ煙る広告塔に向き直る。
晒した背中は無防備に見えていて、けれど隙が見当たらない。
舐めているのか。絶対の自信の表れか。それとも本気で疑ってないのか。


……ラヴィアスで冷やした思考の最も凍り付いた部分が計算を組み立てる。
明らかに自陣営は瓦解している。
マスターは傷つき同盟相手は意識が朦朧。態勢の立て直しはどうしても必須だ。
二度に渡る敗北と、助け舟を出される屈辱。舌を唇を噛み切りたくなる激情が今も口腔を満たしている。

しかし、そう……だからこそ見直さなければならない。
二度も起きた幸運。誇りを引き裂かれながらも繋いだ命脈。
マスターに意識があったら、これも己の才智が引き寄せた好機とでも軽口を飛ばすだろうか。
ついた泥を洗い流し家名を穢された罪を清算するためにも、ここで消える訳にはいかない。

「……いいわ。なら殿は任せます。行くわよセイバー」
「おいおい、俺もついていくのかよ」

呼ばれるとは思ってなかった胴田貫は嫌々そうに顔を歪める。

「一度盟を結んだ相手を軽々に捨てはしないわ。まだ価値がある限りはね。
 心配しなくても寝首を搔くなんて下水の鼠じみた真似はしないわよ。貴方一人で今の彼女を守り切れる算段があるのかしら?」

痛いところを突かれて押し黙るしかない。
切った張ったが専門分野の自分であるのに、刃を握るマスターがこの様子のままでいるのに大いに気を揉んでいたところなのだ。
治療を請け負ってくれるというのなら願ったりだ。

「……しゃあねえか。てなわけだ、動けるか大将?」
「……」
「駄目か。後でまた荒れるなあこりゃ」

頬をぺしぺしとはたいても反応を見せないパチュリーを大雑把に肩に担ぐ。
リュドミラは両腕でクリムを抱きかかえて手近なフェンスの上に乗り上げた。


「″赤″のランサー」

157 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:00:14 ID:QIXHoGZ20



リュドミラが呼びかける。
呼称に特に意味はない。せいぜい炎を現出させた点から想起しただけ。
単に、同じランサークラスに区別をつけたかった程度だ。

「必ず生き延びなさい。そして事が済んだら、マスターを連れて会いに来なさい。
 非礼とお礼その他諸々を纏めた茶会で、とっておきの紅茶(チャイ)をご馳走してあげるわ」

あくまで不敵に、誇り高く微笑んで。
自分にとって最大限の敬意を込めた誘いを送り、フェンスを蹴って下に降りて行った。

「じゃあな。縁があったら俺とも一戦交えてくれや」

胴田貫も続いて消える。
これで屋上にはただ一人。カルナも漸く肩の荷が降りる思いになる。
英霊の神秘性が狂気を呼び起こす聖杯戦争でカルナがマスター以外を守るのは不利が大きい。
庇ったマスターにカルナの魔力で脅えが生じる本末転倒になるためだ。
二人も別陣営のマスターを近くに置いて戦うのは枷をはめられるのと同義だ。無論それを不満に思うカルナではないが。


一時の静寂が訪れた空間が俄かに震動、いや鳴動する。
広告塔に空けられた虚空から、魔力の大塊が噴出した。溢れる熱気と怒涛の勢いはまるで間欠泉。
それをカルナは体で受けるのではなく、手にする槍で応じる。
霞をかき消す呆気なさで雷気に満ちた魔力が斬り裂かれた。


「よくも―――やってくれものだなランサァァァァァ!」


稲妻の残像をつけて、激憤の叫びを上げるエネルが帰還した。
拳を受けた左頬はまだ肉体の再構成が追いついておらず、肉も骨も見せず不定形に波打っている。
その形相は憤怒に染まり切っている。怒髪天を突く勢いで周囲に放電が舞い散った。
他の主従の姿が消えている事など完全に頭に入っていなかった。

「神である我の裁きを受け入れず、この身に傷をつけおって!
 あってはならない障害だ、愚かなりゴム人間!英霊となっても性懲りもなく私の道を阻みに来るか!」
「ならば降参するか。前言を違える気はない、退くなら追いはせんぞ」
「―――ッ!調子に乗るのも大概にしろ白ザルが!」

158 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:00:33 ID:QIXHoGZ20


挑発―――エネルにはそうとしか聞こえなかった―――を聞き、雷鳴にも等しい怒号を上げてかき消える。
電速で飛び繰り出す三叉槍を、黄金の槍が猛然と撃ち落とす。
余人を寄せ付けさせない衝撃波の暴風域が形成される。
咲き乱れる雷花。踊り狂う気迫の嵐。衝突した力と力がせめぎ合う。
弾かれては引き合い、触れては弾く槍撃の電流火花。
見えない引力に引っ張られながらも、互いに合一する事を否定するように、二極の英霊は必殺の意志を武器に込めて交差させる。


打ち合いに優勢に立つのはエネル。
やはり"心網(マントラ)"による読心の利は多大なるもので、豪速のカルナの槍を全てかわしていく。
無味乾燥なほどてらいのない、容赦のない一撃は捕えられれば壮絶な威力を誇るだろうが、あくまでも当たった場合だ。
敵の気配を探り、常に"次の一手"を先んじて知れるエネルが、その身に宿る稲妻の速さを以てすれば避けられぬ道理はない。
シビれさせるだけが能ではない。たとえ雷が効かずとも肉弾だけでも他のサーヴァントを制する自信がエネルにはあった。
長大な槍の攻撃のほんの僅か、常人からすれば電流の走りに満たぬ間に次々と刺突がカルナの全身に入っていく。

しかしそれでカルナがなすがまま翻弄されているのかといえば、それは否だ。

「なんだこの硬さは……!貴様、ゴムではないのか!?」
「生憎と、そうした材木とは縁がなくてな」

三つ又の槍には常に手に持つエネルからは、電流とそれに伴う熱が伝導し一種の電熱スピアとして機能している。
ゴム人間も斬撃や熱には肉が焼け血も流れる。いやゴムでないにしても十分脅威になる攻撃だ。
にも拘わらず、当のカルナは一切の痛痒も見せない。
幾度となく刻まれながら、その白い痩躯にはひとつとして傷らしい傷が残らないでいた。

攻撃が当たらず、フェイントにもかからないと見るや、戸惑うどころかより槍の冴え渡らせるカルナ。
守りは最小限に。今は攻勢こそが守勢を上回る生存を切り開く。
動きを読まれているならば、さらにその先を読み予測も追従できぬほどに攻め続けて引き離せばいい。
そんな単純極まる、そして実現はおよそ不可能に見える荒業を槍の英霊は実行しようとしていた。



―――その武練の卓越さは神域に至り。
一息をつき終えるまでに一体どれほどの突きが放たれたのか。時計が針を刻む数瞬にどれだけの戦闘の状況を想定しているのか。
右の薙ぎ払いをかわした次は。雷化して背後に回り込んだ次は。その次を。次を。誰も見通せぬ『次』を。
徒労は感じない。疲労は忘れた。処理が追い付かぬまで走り続ける。
読心があらずとも、己には神話の大戦を潜り抜けて練磨された眼力があり。
燃え盛る列火の絢爛さと、針の穴に糸を通す精密さが一体となった隙の無い体捌き。
一意専心を込めて果断に攻めるカルナの技量は、エネルの想定を遥かに超えていた。攻め手を逸し、回避に専念しなくてはならないほどに。

159 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:01:37 ID:QIXHoGZ20




一方は全身が残像を遅いと嗤って置き去りにし。
一方は手足の末端部分を不可視の術をかけられたかのようにかき消す。
全体の速度ではエネルが勝り、微細な体捌きでの技量ではカルナが上回っている。
実際に電気を走らせ、サーヴァントすら目で追えない領域にまで突入しようかという超高速の斬り合いの中で、ついにたまらずエネルが距離を取る。
技巧の比べ合いを放棄。戦士として相手より劣る証明。
それがどうした。全ては神の力を以て斃せればそれでよい。
背中から太鼓のひとつを柄で叩く。すると太鼓はたちまちに膨張して形ある雷に変わる。

「三千万V、"雷鳥(ヒノ)"!」

迅雷という嘶きを張り上げ、殺戮の猛禽が飛翔する。
翼を広げ迫りくる"雷鳥"は逃げる獲物をどこまでも追いすがる。羽の一枚でも掠ればそこから絡めとり全身を焦熱させてでも狩り取りにくるだろう。
だが既に雷の洗礼を払っているカルナに怯みはない。心臓を啄みに来た嘴を五指で掴み、素の腕力で口腔まで握り潰す。
そのまま地面に叩きつけられてから拳を深く抉り込まれ、"雷鳥"は制御を失いその身を散逸させた。

「やはりな、あくまで弾くのはその鎧か!」

"雷鳥"は囮だ。高出力の技で出方を見て無敵の秘密を看破するのが本来の狙い。
見立て通り、奴は全身が雷を無効化しているわけではない。身に埋め込まれた鎧のある個所で迎えている。
"雷鳥"にかかずらってる隙に接近して、腕と肩の鎧部分に手を置く。

「"雷治金(グローム・パドリング)!!"」

発電熱による金属操作。
自身の「のの様棒」も同様にして矛に精錬させたものだ。
宝具であれ雷流を直接送られれば形状を歪めさせ、引き剥がしてみせるという目論見なのだ。
金属の融点なぞとっくに超え、上昇し続ける熱は周囲にも伝播し大気を浸食する。
おぞましき魔力の捻じれが空間をかき乱す。
繰り広げられる傲岸なる神の処刑場。
狂い悶えるが如く散る火花。


その中でも。

160 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:02:00 ID:QIXHoGZ20




"融けぬか……!?"



なお崩れぬ精神が在る。
原型を留める肉体が大地を踏みしめている。

鎧で分散されてるとしても生身に流れ続ける熱は零にはならない。
骨肉は融け、目玉も落ち、想像を絶する激痛が襲っている筈だ。
それなのにカルナの目はどこまでも清廉で。
苦痛に歪めもせずに。眼前のエネルから決して視線を逸らさず、滾る意志を放つ。


「―――梵天よ、」
「!」


そして前髪から覗く瞳に熱烈なる魔力が充填されていき。


「地を奔れ!」


それまで受けた熱を返すかのように照射された視覚化された眼力が、視界に収めた空間を焼き尽くした。
先ほどエネルが突っ込んだ広告塔は、今度は熱線により看板そのものの存在が滅却される。
咄嗟に上空に飛び難を逃れたエネルだが、予想しえなかった反撃に肝を冷やしたあまり"心網"の精度に陰りが生じる。

「しまっ……ッ!」

一泊置いて危機感に戦慄し下に目をやるが、時既に遅し。
既に敵者は同じく中空まで飛んだ位置から、黄金の左ストレートを腹腔にぶつけた。

「ガフ……ッ!!」

再び、拳の感触。
己の意思と無関係に急降下し、叩きつけられる体。
肉が弾ける衝撃は骨に伝導し臓腑を掻き乱す。思考が濁流に押し流されていく。
受け身も取れず地面に激突した衝撃で意識が霞む脳内は、ただ己が跪かせられているという事実を認識する。

「おのれェェェェ!!」

161 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:02:52 ID:QIXHoGZ20


体を苛む痛み以上の激憤が、落ちかかっていた意識を覚醒させた。
すんでのところで雷化して槍の追撃から退避する。今の一撃をまともに食らっていたら絶命は免れなかっただろう。
一息で追いつかれない距離のフェンスの端で実体化し敵を睨む。
黄金の鎧の隙間から煙が吹いた姿は決して無傷ではない。ダメージは確かに与えている証拠だ。
それなのに安堵できない理由。神の雷霆を受けていながら衰えを見せない鋭い眼光。
神であるエネルを見据える視線には恐怖が全く見えない。
心網で読み取れる心理に偽りはなく、故に虚勢でないと否応なく理解させられ、その事実がより一層忌々しい。

「その槍、その鎧、その炎……そして何よりもその目!貴様の何もかもが私を苛立たせるな。
 『恐怖の否定』は『神の否定』!遍く全ての神は絶対の存在として恐れられるよう出来ている!神の血を引きながらそんな事も分からぬか!!」

留まるところを知らない怒りがそのまま電気に変換され、今や空には邪悪なる樹(クリフォト)が根を張っているかのように稲妻が充満している。
そんな状況でもカルナは至極冷め切った声を返した。

「恐怖こそ信仰の源泉か、それもまたひとつの理だろう。神とは往々にして畏怖される事で信仰を保つものだからな。
 だが神とは超越者であると同時に与えるもの。忌み嫌われる神もその根底には穢れを引き受けてくれる事への感謝がある。
 畏れと敬いは表裏であり、だからこそ神は様々な側面を備えている」

自らを神の零落と謳い後世に真に神と結びつけられる英雄がいる。
偉大な事業を成した事で新たな神に召し上げられた聖者がいる。
エネルはそのどちらにも及んでいない。既存の神話を背景に置くことなく、人を畏怖させ、従えるのみで歪なる神性を得た。
外と分けられた小さな世界において、神(ゴッド)・エネルは正に唯一の君臨者でいられていた。
その信仰を基にして投影されたサーヴァントへの言葉は英霊の瑕―――生前の敗北の歴史を暴き立てる。

「人は理解できない恐怖に呑まれながらも、常にそれに抗い未踏を切り拓いてきた生命である。
 その陥穽に気づいているか、奪う神よ。お前という恐怖に従わぬ者が現れた時点で、その信仰の礎は瓦解しているとな」

黄金の穂先が、証明するようにエネルの首元に向けられる。

「そして―――オレもまた英雄だ。この命ある限り、相手取るのが一国の軍勢でもおぞましき邪神であろうとも、等しく恐れる道理はない」

告げられた声には、決然とした信念。
呼吸の乱れなく佇む姿勢は万夫不当。地を焦がす万雷にも燃え尽きぬ灼熱の陽光を宿らせて、恐怖の象徴に宣言する。

162 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:03:27 ID:QIXHoGZ20




「――――――よく言った。ならば見るがいい」



人の声に聞こえない、それまでの怒気が消え失せたと思えるほど底冷えた声がした。
だがそれも一瞬のこと。ある感情が臨界を超えるほど高まり振り切った時、一端ゼロにまで反転する錯覚でしかない。

「我が真なる裁き―――児戯とは比較にもならん神の力の降臨を!
 そしてその上で聞いてやる、今の痴れ言をもう一度言えるのかをなァ!!」

落雷の衝撃音に匹敵する怒声。
いま二人の頭上で、魔力が渦を巻く雷雲と化し、集合してひとつの形を成そうとしている。
湧き上がる凄絶たる魔力にカルナも目を見張る。言う通り、発揮される力の規模が違うと、顕現するよりも前に眼力が見抜いていた。
ライダークラスのサーヴァントは強大な宝具を乗機にする傾向が強い。
その例に漏れずエネルももうひとつの宝具を所有していた。
肉体そのものである宝具を全力稼働させて初めて機能を解放する、神(ゴッド)・エネルが実行しようとした最大の逸話の象徴を。

暗雲の中で、今度こそ質量ある物体がその実在を確固たるものにする。絶望を乗せたものが錨を下ろす。


「来れ『雷迎』!黒雲を走らせて現れ不出来な大地(ヴァース)を砕き散らし、目映き神の世界への道を開け!
 宝具解放――――――――――」






『そこまでです、ライダー』







最終宝具の解放が行われんとした、まさにその寸前。
玲瓏な声が、聴覚を超えた感覚、精神に向けて直接二人に届いた。

163 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:03:50 ID:QIXHoGZ20


人ならぬ小動物、鳥に羽虫、草花に土、街で起きた殺戮の被害者の霊までもがその声に聞き入った。
それほどまでに遍く存在に、奥深くまで届いていく響きがあった。
まるで、精霊か天使かの歌声の調べ。
そしてその思念の発信源は、二綺の英霊が居合わせるビル屋上のフェンスの上に乗っていた。

赤子ほどの背丈に垂れた尾。
短い手で抱えた分厚い書物と帽子は智慧を司る象徴か。
人の種では到底ありえない霊体的存在には違いない。
しかし規格外に余りある魔力は、実際はサーヴァントのものですらなかった。
それはこの聖杯戦争に召喚された、どのような神に連なるサーヴァントであろうとも絶対に、絶対に持っていない神聖さに満ちていたからだ。

その名をシャマシュ。
メソポタミア神話の太陽神にして、正義の法と裁判の神。
名を借りた神性ではない、英雄跋扈する聖杯戦争においてすらおよそ召喚される可能性のない、純全な神の化身。

『ここでの宝具の開帳は許可いたしません。我がサーヴァントよ、今すぐ戦闘を止め我が許に戻るがいい』

そして童子を通して発される少女の声は、幼げで無垢でありながら容赦のない鉄の苛烈さを伴っている。
霊を操り共に歩む者、シャーマン。
その枠組みの内でも最上級に分類される、神霊すらその身の巫力で実体化させる正真正銘の『神』クラスと称される存在。
十の法を行使するシャーマン組織『X-LAWS』のリーダー。そして今はサーヴァントを率い聖杯を望むマスターの一人。
『聖・少・女』アイアン・メイデン・ジャンヌは、己がサーヴァントに断とした口調で命令した。



「……なんのつもりだ、貴様?」
『汝は、その令呪の効果を忘れたか。無辜の民がいる場所での戦闘行為の一切を私は禁じていたはず』

少女期を超えていない声は、しかしあどけなさというものを感じさせない。
愛らしさが全面に出ているだろう年頃でありながら、宗教の組織の長であるような威厳との落差は恐ろしくすらもある。
そこに人は聖なる信仰を見て、あるいは人間ではないモノへの恐怖を抱くだろう。
幼く、純粋無垢で、穢れを知らない純粋さが想起させる色は白。
万象全てを塗り潰す、絶対の白だ。

164 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:04:14 ID:QIXHoGZ20


「何を言い出すかと思えば……いつまでも物見遊山の気分でいるマスターに代わって自ら敵サーヴァントを探し出してやったのだぞ?
 逃がした二匹とそこの愚か者を含めて都合三匹。首尾よく仕留められたものを邪魔しようとは。
 聖杯を望むマスターの振る舞いとは思えんし、神に対する態度でもないな」

マスターの諫言にも、エネルは傲岸さを改めず鼻を鳴らす。
自分はあくまでサーヴァントの務めを果たしてるだけであり、感謝こそすれ諫言を受ける謂われなどどこにもありはしまいと。

『ならばこの場で続けますか。その英霊との戦いが早々に決着が着くと思っているなら今すぐ改めるがいい。
 そしてこのような街中で宝具を解放しようものなら、如何なる結果が待つか読めないはずもないでしょう』
「……」

口元をひくつかせ、エネルは不快げに下の街を睥睨する。
負けはしない。そこは確信している。だが全力を以てあたる必要はある。
だがそうなれば確実に街の人間にまで影響を与える。それほどまでに秘蔵する宝具は大規模な範囲を誇る。
取るに足らない塵でも、被害を与えた時点で令呪は効果を発揮し身を縛る無数の鎖と化す。
マスターによって冷まされた思考は合理的な言葉を鬱陶しく呟き始める。

「興が削がれた。つまらん」

吐き捨てたその一言と共に、展開されていた魔力が薄れていく。
迸る雷気も、渦を巻く暗雲も、全てが夢幻の如く消え失せた。

「今回はここまでにしてやろう。臆病なマスターに感謝する事だな」

魔力は収まり、しかし視線の険しさだけは残したまま凝縮された殺意でカルナを睨めつける。

「次で終曲(フィナーレ)だ。度重なる屈辱と蛮行、最早貴様の死を以てしか償えん。必ずや神の名の許に我が裁きで誅を下す。
 それまで下らぬ者共に掠め取られてくれるなよ」

絶対の死刑宣告に対してカルナが答えた言葉は―――これまで通りの冷静で、しかしとどこか違う質の意志がこもっていた。
彼をよく知る者でなければ気づく事もできない、些細な変化を。

「その確約、必ず果たそう。どうやら我等は互いに知らずとも切り離せぬ鎖に囚われてるらしい。
 その神(な)を名乗り、その雷(ちから)を振るう以上、オレとお前が相争うのは偶然ではなく、ひとつの宿業だという事だ」

―――その言葉の重さを知る者は、今ここにはいない。
英霊カルナ。インド叙事詩マハーバラタに名を遺す施しの英雄。
太陽神スーリヤより誕生時に賜った鎧と、神々の王インドラから返礼に授かった槍、それらを持つに相応しい器を兼ね備えた男。
その威光に恥じぬ生き方をする事こそを人生の指標とした男が、雷を統べ、唯一の神と奢る英霊(おとこ)と出会った意味を。

165 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:04:37 ID:QIXHoGZ20



「……抜かせよランサー。貴様の最期にはそのご自慢の鎧を剥がし、目の前に揃えた上で殺してやる」

一瞬憎悪を宿らせたエネルだがすぐに感情を醒まして、そのまま放電と共に姿を消した。
甚大な破壊を齎した張本人が消えた事で空間も震えが解けたのか。今度こそ弛緩した空気が流れ出す。
残ったものはただ二人。
カルナとジャンヌのメッセンジャーの役を果たしている、シャマシュだけとなった。

『……感謝します。わたくしの至らなさの為にお手を煩わせてしまい申し訳ありません』

持霊越しの思念でジヤンヌは真摯に謝罪をする。
エネルの行動は全てが間違いとはいえない。
サーヴァントを見つけ戦おうとしたのはジヤンヌも同じ。それをいち早く察知し戦闘を始めたのは結果的に意の通りと言えなくもない。
だがエネルにそのような殊勝な心がけなどはない。
傲岸不遜なあの男は奔放に場を荒らし回り徒にアーカムを危機に陥れようとした。
自らのサーヴァントの制御もできず好き勝手に暴れ回して得た勝利が、ジャンヌの望む正義の道だといえようか。
かつての過ちを認めた今、そのような振る舞いを容認する事はできなかった。

「感謝はこちらがする方だ。オレ一人ではどこまで抑えられたか自信がない」
『ご謙遜を。わたくしが気付くまでに彼の齎す災禍を食い止められたのは、紛れもなくあなたの奮闘のおかげ。
 いずこかの名高き神の血を引く英霊と存じますが、その技量と、無辜の民を守る高潔な精神に感服致します』
「守ると命じたのはマスターだ。その賛辞はオレにでなく我が主にこそ送ってくれ」
「まあ、それは」

互いに礼を尽くし、敬意を欠かさないやり取りは、宮廷の貴族と執事にも近い。
威厳の鎧を脱ぎ捨てたジャンヌの声は柔らかく、年相応のそれになっていた。

「それに、その霊もまた偽りならざる神の化身であるのはオレにも感じ取れている。
 それを付き従えるだけのマスターが令呪を切ったからこそ、あの男も大人しく言葉を聞き入れているのだろう」
『恐れ入ります。あなたのような太陽のごとき素晴らしき英雄が従うとなれば、余程よきマスターなのでしょうね』
「……そうだな、恐らくあちらも大層喜ぶことだろう」

奇妙な構図だった。
今まで激しく首を狙って争ったサーヴァントが、戦ったサーヴァントのマスターとは実に友好的に接する関係にある。
共に神に通じ、神の力をその身に宿す事に通じ合う部分もあったのか。
もしジャンヌがこの場にいてそれを第三者が見ていたとしたら、二人が契約したマスターとサーヴァントだと疑いなく思ってしまうだろう。

166 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:10:06 ID:QIXHoGZ20



『聖杯戦争の舞台である限りはいずれ争う運命ですが、この出会いをわたくしは幸運に思います。 
 ごきげんよう。神の在り方を自らをもって肯定する、輝けるひと。
 どうかあなたとそのマスターに、神の恩寵がありますように」

主の言葉を伝え終わったシャマシュは能面のまま一礼をして、テレビ画面の電源を落とすようにぷつりと消えた。
実際に映ったわけではないが、その寸前に少女がニコリと微笑むイメージを垣間見た。
それは真夏の陽炎のようなもの。虚像でしかないが虚飾ではない。
未だ晴れない雲から差す陽光を見据えて、カルナは呟いた。

「……恩寵か。『オレ達とは違い』汚染されてない神からであれば、その加護も善因に結び付くだろう。
 問題はそれまでにマスターの精神を繋ぎ止められるか……どうやら、オレのすべきことも見えてきたようだ」

そして自らも霊体化し、マスターの元へはせ参じる。
無人になった屋上に転がる残骸。
サーヴァント戦が行われた後、英雄達が消えた今残るものはこれら破壊の痕跡のみだ。
人々は何も知らず、ただ得体の知れない出来事が起きたというだけの、災いの証拠として心に刻まれていく。
ビル風がクスクスと、誰かが忍び笑いをするように妖しく吹いた。

【商業区域・スタジオ"ル・リエー"/一日目 午後】

【パチュリー・ノーレッジ@東方Project】
[状態]魔力消費(小)
[精神]瞬間的ショック(虚脱状態)
[令呪]残り三画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]大学生としては余裕あり
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に関わり、神秘を探る。
0.少女呆然中……
1.さっさと大学へ行きたい。行きたいのに……。
2.ランサーのマスター、あるいは他の参加者を探り出す。
3.クリム達を護衛にして立ち回りたい。
[備考]
※ランサー(セーラーサターン)の宝具『沈黙の鎌(サイレンス・グレイブ)』の名を知りました。
※ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
※クリム組との同盟を結びました。
※ランサー(カルナ)、ランサー(リュドミラ)、ライダー(エネル)の姿を確認しました。

【セイバー(同田貫正国)@刀剣乱舞】
[状態]全身やけど(冷気による処置)、ダメージ(中)
[精神]正常
[装備]日本刀
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:敵を斬る。ただそれだけ。
1.敵を見つけたら斬る。
2.面倒な考え事は全てマスターに任せる。
[備考]
※ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。

167 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:13:02 ID:QIXHoGZ20


【クリム・ニック@ガンダム Gのレコンキスタ】
[状態]喉付近にやけど(冷気による処置)、
[精神]なぜか正常
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]クレジットカード
[思考・状況]
基本行動方針:天才的直感に従って行動する
0.……
1.パチュリー達と連携し敵を探す。
2.あやめとやら、見つければアサシン主従の貸しにできるな
[備考]
※アサシン(八雲紫)とそのマスター『空目恭一』を確認しました
※空目恭一との間に休戦協定が結ばれています。
 四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。
※パチュリー組との同盟を結びました。
※ランサー(カルナ)、セイバー(胴田貫正国)、ライダー(エネル)の姿を確認しました。

【ランサー(リュドミラ=ルリエ)@魔弾の王と戦姫】
[状態]全身やけど(冷気による処置)、ダメージ(中)
[精神]正常
[装備]氷槍ラヴィアス
[道具]紅茶
[所持金]マスターに払わせるから問題ないわ
[思考・状況]
基本行動方針:誇りを取り戻す
0.雪辱は果たすわ、必ず
1.クリムの指示に従う
2.四日目の未明にアサシン主従を倒す
3.それまではマスターの行動に付き合う
4.ランサー(カルナ)とそのマスターが来たら紅茶でも振る舞ってあげましょう
[備考]
※アサシン(八雲紫)とそのマスター『空目恭一』を確認しました
※アサシンの宝具『境界を操る程度の能力』を確認しました。
※空目恭一との間に休戦協定が結ばれています。
 四日目の未明まで彼とそのサーヴァントに関する攻撃や情報漏洩を行うと死にます。
※ランサー(カルナ)の宝具発動の魔力を感じ取りました。


【ランサー(カルナ)@Fate/Apocrypha+Fate/EXTRACCC】
[状態]ダメージ(軽)
[精神]正常
[装備]「日輪よ、死に随え」「日輪よ、具足となれ」
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従い、その命を庇護する
1.蘭子の選択に是非はない。命令とあらば従うのみ。
2.今後の安全を鑑みれば、あの怪異を生むサーヴァントとマスターは放置できまい。
3.だが、どこにでも現れるのであれば尚更マスターより離れるわけにはいかない
4.ライダー(エネル)との戦いは避けられない。いずれは雌雄を
[備考]
タタリを脅威として認識しました。
タタリの本体が三代目か初代のどちらかだと思っています。
※ライダー(エネル)、ランサー(リュドミラ)、セイバー(胴田貫正国)の姿を確認しました。

168 Rising sun ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:13:55 ID:QIXHoGZ20



【ダウンタウン/1日目 午後】

【アイアンメイデン・ジャンヌ@シャーマンキング】
[状態]健康
[精神]正常
[令呪]残り2画
[装備]持霊(シャマシュ)
[道具]オーバーソウル媒介(アイアンメイデン顔面部、ネジ等)
[所持金]ほとんど持っていない
[思考・状況]
基本行動方針:まずは情報収集。
1.ローズマリー達と共にダウンタウンで過ごしながら情報収集
2.エネルを警戒。必要ならば令呪の使用も辞さない。
3.ランサー(カルナ)に興味の念。
[備考]
※エネルとは長距離の念話が可能です。
※持霊シャマシュの霊格の高さゆえ、サーヴァントにはある程度近付かれれば捕捉される可能性があります。
※ランサー(カルナ)の姿を確認しました。

【ライダー(エネル)@ONE PIECE】
[状態]ダメージ(中)、片側の頬の肉体化が不完全
[精神]憤懣やるかたない
[装備]「のの様棒」
[道具]なし
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を大いに楽しみ、勝利する
1.ランサー(カルナ)は必ず倒す。絶対に許せぬ
2.ジャンヌとは距離を取り、敵が現れた場合は気が向いたら戦う
3.「心網(マントラ)」により情報収集(全てをジャンヌに伝えるつもりはない)
4.謎の集団(『鷹の団』)のからくりに興味
[備考]
※令呪によって「聖杯戦争と無関係な人間の殺傷」が禁じられています。
※ジャンヌの場にすぐに駆けつけられる程度(数百m)の距離にいます。
※「心網(マントラ)」により、商業地区周辺でのランサー(カルナ)の炎の魔力を感じ取りました。
※ランサー(カルナ)、ランサー(リュドミラ)、セイバー(胴田貫正国)の姿を確認しました。

169 ◆HOMU.DM5Ns :2018/03/10(土) 00:14:34 ID:QIXHoGZ20
投下終了です。ウィキ収録時には前後編に分割します

170 名無しさん :2018/05/15(火) 01:17:39 ID:NAusfgqM0
遅ればせながら読みました……!
何といってもカルナさんの一挙手一投足がかっけぇー!
邪神に対して一歩も引かず、ド正論で真っ向勝負する、まさに英雄って感じの描写がたまらない!
そしてそれに相対する自称"神"も本当に傲慢で、それでいてむちゃくちゃ強いというのが本当にすごい。
サーヴァント二人を相手取ってこともなげにあしらう、邪悪の鑑……!
策も魔術も破られ、しかも長時間狂気にさらされたパッチェさんほんと災難。
同じように相対していたクリムがそこそこ大丈夫なのほんと好き。
しかしサーヴァント間で実力差がこうもあるのやっぱ運営してる邪神ってクソだな……!

171 <削除> :<削除>
<削除>


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