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仮題/終焉戦争
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――走れ。
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世界の終わりを見た。
悟りに沈む極楽浄土のどん底で、
喰われ、呑まれ、消えていく世界を黙って見ていた。
見ていることしかできなかったから、一人でそうしていた。
何が起きて、
何が変わって、
何がどうなって。
一体どれだけのことが起こったなら、こんなことになるのだろうか。
空に穴が空いている。
そこに向かって空の色が吸い込まれていき、空は気味の悪い白色に脱色されていく。
音もなく、溶け落ちていく。
青の惑星が、端から順繰りに消滅していく。
星が今際を迎えているのだと、誰かが言った。
それで納得出来ない、たくさんの大人たちが血眼になって生き延びる手段を探した。
けれど、二日が過ぎて。星が半分になった頃には、もう誰も、そんなことしなくなっていた。
やがて程なく、人類文明の死が、どこかの国の偉い人によって告げられた。
生き物が回遊をやめた。
争いごとが地上から消えた。
信仰の違いによるいがみ合いなんて、誰もが忘れていた。
――それはまるで、星が穏やかなモルヒネに浸かり、無痛状態のまどろみにあるかのようだった。
たくさんの国が消えた。
たくさんの人が消えた。
最後に地球に残る国は、極東の小さな島国だと報じられた。
そしてその通りに、島国の外の世界は、真っ白になっていた。
「これでいいのか」
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男は小さく呟いた。
こういう肝心な時に限って、力は働かない。
泣きの一回など、現実にはないと窘められているようだった。
時刻、午前、零時。
備え付けられた薄型モニターに映ったアナウンサーが、淋しげな顔で残り120時間です、と告知する。
もう、世界に残された都市国家はこの日本だけ。そしてその日本も、あと100時間弱で消えてなくなる。
歴史も、日毎繰り返してきた論争も、何もかもが無価値に思えてくるほどあっさりと、呆気なく。
舞台装置の崩壊という展開を前にしては、散って消えるしか術がなかった。
争うことの無意味さを漸く知った人類が、全ての戦争を放棄したのは一体何日前だったろうか。
ついぞこうなるまで、人類文明数千年の理想を達成することが出来なかったのは悲しい話だが。
しかし、今、地上を覆っている『平和』は――穏やかでありながら、どことなく寂しいものだった。
皆が今更になって思い出作りに勤しんでいる。それが無意味だと分かっているのに、皆が空元気で笑っている。
「……違うだろ」
譫言のように口をついて出た言葉を、仮に塔の頂上で叫んだとしても、きっと気狂いに思われるだけだろう。
どれだけ違和感を抱いても、それを口に出しても、変えられない。何も変わらない。
だけど心は喚き散らす。違うだろ。そうじゃないだろ。こんなのは間違っているだろ、と。
変わらないと分かっていながら、吐き散らして掻き毟るのだ。
もう一度(Revival)――どうか、もう一度だけ。
この狂ったような終わりを覆したい。
願う、願う、願う、願う。
もう手の届かない距離に去ってしまった未来という名の空を追い求めて、ただまっすぐに、縋るように手を伸ばすのだ。
「――望むのですか?」
いつしか、彼の前にはひとりの少女が立っていた。
浮世離れした可愛らしさを持つ女の子だった。
歳はきっと、彼の半分程度だろう。
なのにどういうわけか、その言葉には夢見るような重みがあって。
「この幸福な終末へ弓を引いて」
「……ああ」
「いつ終わるとも知れない争いに満ちた過去を」
「それでいい」
「それをこそ、正史に」
「……何でもいい。俺はとにかく、こんな終わりは認めたくないんだ」
くすりと少女は笑った。
仕方のない人ですね、とでも言いたげに。
そして手を差し伸べた。
覚悟はありますか。
言いながら突き出されたか細い手は、無痛の日常への最後通牒。サナトリウムからの外出券。
返事代わりに、手を取る。
彼はもう、すべてを理解していた。
「では参りましょう、地上最後の争いへ。戻り道はありませんから、どうか気を引き締めてくださいね」
裏切りの魔女。
そんな単語とは全く無縁な微笑みで手を引く在りし日の写身(リリィ)と一緒に、
彼は地球最後の戦争へと踏み込んだ。
世界が滅ぶ。
世界が終焉(おわ)る。
幾度となく繰り返される言葉。
告げられるリミット。
人が生きていられる時間は数字にして120。
日数にして、凡そ五日だけ。
それは長いのか。
それとも短いのか。
多分それは人それぞれ。
でも、その間に出来る事が限られているのは、誰も彼も同じ。
だから、これはきっと最後の選択。
何もかもが終わりを迎えてしまう前に。
勝ち取ろう、未来を。
あるはずのないその先を、この手で。
下りた幕を抉じ開け、終わらないと信じていた物語を、空のスクリーンに投射するために。
そんな主役の願いを標に、聖杯戦争が始まった。
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仮題:終焉戦争
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▼ルール
・五日間の制限時間の中で聖杯戦争を行うリレー小説です。
・世界は自然消滅を始めています。舞台となる架空の街以外の世界は消滅に巻き込まれ時間とともに消滅していきますが、この街にはその手が及びません。
・ただし制限時間を過ぎるか、聖杯戦争が終結して願いを叶え終わると消滅が再開します。
・本編開始は残り時間が三日となった時よりとします。それまでは候補作の予選段階です。
・参加キャラクターは現地人設定でお願いします。なので、中世時代とかの鱒はちょっとご遠慮願いたいです。
・当企画での身辺設定などは存分に組んでいただいて構いません。その辺は裁量にお任せします。
・色んな作品の設定が混合しても別にいいかなーと思ってるので、その辺りもご自由に。もしもあれでしたら、私にどうぞお気軽に質問してくれればと思います。
・主従は主の確定枠1+通常7騎+エクストラ1の全9主従の予定です。多分増減はしません。
・クラス被りも無いようにしようと思うので、1クラス1枠と考えてもらえればいいかなと思います。
・募集期間は2月いっぱいを予定しているので、どうぞふるってご応募ください。
・投下が来ない場合、一人さみしく主従を投下していくことになります。
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早速ですが、まずは一作投下させていただきます
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ひらりひらりと蝶が舞う。
黄金色の蝶が舞う。
現実を蝕む蝶が舞う。
それは終わりなき惨劇の象徴。
道理の通らない幻想の侵蝕を知らせる一つの法則。
閉ざされた島にて君臨し続けた幻想描写の担い手は、滅び行く世界に幽閉されていた。
▼
廃屋敷の薔薇庭園には奇妙な噂がある。
美しく芳しい香りが漂っているのに、どうしてか誰も近寄らない不思議な庭。
持ち主がいるのかどうかすら定かではない、けれど美しいからというそれだけの理由でほったらかしになっている。
そして、不思議はやがて怪奇へ繋がり、やがて幻想を作り出すのだ。
―――― 薔薇の庭には魔女が棲む ――――
新月の晩に黄金の蝶々を見た。
浮揚する杭に追い回され這々の体で逃げ帰った。
二本の足で歩行する山羊が、迷い込んだ野良犬の肉を食い漁っていた。
煙管を片手で弄ぶ美しい女と、傍らで無邪気に微笑む人形のような少女を見た。
火のないところに煙は立たない。
ましてやここは現在進行形で魔境と化しつつある土地。
神秘を否定する人間犯人説(アンチファンタジー)が薄れた領域は、言わずもがな魔女の独壇場だ。
薔薇庭園には魔女が“い”る。
変幻自在に飛び回る七本の杭と血に飢えた黒山羊を従えて、黄金の蝶が舞う庭で、少女の霊と共に他人が迷い込むのをじっと待っている。
噂はまことしやかに広まっていき、今や薔薇庭園へと近寄る者は誰もいなくなっていた。
そして、無人の館にて、今日も魔女と少女の夜会が始まる。
結論から言えば、魔女伝説は紛れもない現実のものだった。
黄金の魔女は実在する。
だが彼女たちの目的は、決められた行動ルーチンに従い続ける木偶を喰らうことではない。
彼らを利用するつもりがないわけでもないが、魂食いに訴えるつもりはなかったし、まだその段階ではなかった。
都市伝説の中では魔女の友人として語られた童子の利き腕には、少女らしからぬ禍々しい刺青が見て取れる。
三画の刻印。全知の魔女に引導を渡すことさえ可能とする、掟破りの絶対命令権だ。
しかし、この戦争が終了するまで……あるいは、彼女たちの聖戦が半ばで終わってしまうまで。
彼女がそれを使うことはないだろう。
何故なら少女にとって、聖杯戦争とはひとつの“ゆめ”に過ぎないのだから。
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いつだって、魔女と出会うのは幼い子供と相場が決まっている。
現実に汚染されていない少女だけが、魔女の箱庭へ迷い込んで尚、彼女達と敵対せずに済む。
汚れた欲望を持たない少女だけが、魔女の奇跡を正しい形で使うことができるのだ。
終焉へ向かう世界の戦争も、そのセオリー通りに少女と魔女とを引きあわせた。
夢見るような瞳で茶会を楽しむのは、ひとりの偶像。アイドル。
無痛作用に沈んだ世界で彼女を出迎えたのは、黄金を司る無限の魔女であった。
無限の惨劇を作り出す、六軒島の魔女。
肩書、右代宮家当主顧問錬金術師。
真名を、ベアトリーチェ。
ベアトリーチェは、煙管から煙を吐きながらくつくつと嗤う。
悪辣だ。
やはりニンゲンとは、時に魔女を凌駕する醜悪さを発揮する。
途中下車のできない殺し合い。
――この幸福に満ちた病床の中ですら、刃を持たねば気が済まぬか。
黄金の魔女をして驚嘆する。
驚嘆はやがて感嘆に代わり、面白い、と彼女を笑ませるに到った。
孤島密室(クローズド・サークル)の域を飛び越えた、ゲーム盤とでも称すべき人外魔境。
この盤面で互いに潰し合い、最後に残った者だけが、魔法でも生み出せない財宝を手に入れることができる。
聖杯の輝きに比べれば、金塊の光沢など足下にも及びはすまい。
無限の魔女たる者、チェスを挑まれたならば自ら降りることはしない。
たとえ自分自身が駒となって戦わねばならない状況だとしても、チェックメイトの時まで勝負は分からない。
だから密室殺人の長たるベアトリーチェもまた、この聖杯戦争を勝ち抜くことを高らかに宣言した。
彼女の旧知である“原初の魔女”を彷彿とさせる無邪気な少女へと、その輝きをプレゼントするということも。
至高の輝き。
遊佐こずえというアイドルにとってのそれは、たったひとつ。
聖杯戦争の何たるかも、そもそもこれが殺し合いだということも理解していない幼い彼女ではあるが。
どんなお願いでも叶えてくれると言われた時、どう答えるかは決まっていた。
――――いちばんになりたい――――
そうすれば、プロデューサーはきっと喜んでくれる。
パフェを食べに連れて行ってくれるかもしれないし、うんと褒めてくれるだろう。
ママだって、凄いねって抱きしめてくれるはず。
「るしふぁー……おふく、きせてー」
《わかりました、こずえ様。このルシファーめにお任せください!》
《むー。ルシ姉ばっかりずるいー》
《そうよそうよ。たまに私達に譲ってくれてもいいんじゃなーい?》
《ちょっと、五月蠅いわよ! こずえ様のお着替え担当は私でしょ!》
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薔薇庭園を見下ろす廃屋敷の中で、同じ格好をした少女たちが戯れている。
主の着替えを誰が手伝うかで言い争う姿は微笑ましいが、その内面に秘めるのは残虐な気性だ。
煉獄の七姉妹。ベアトリーチェが持つ宝具の一形態にして、彼女の《家具》たち。
「むー……けんか、だめー……」
《う…………》
《ほら、ルシ姉が大人げなくムキになるから!》
「こういうときはー……じゃんけんで、きめるのー……」
山羊の執事が紅茶を注ぎ、七姉妹がアイドルの少女を飾り立てる。
そんな様子を見守るキャスターがふうと煙を吐くと、それは綿菓子に変わって机へ落ちた。
ここは幻想の城。
無粋なミステリーの入り込めない、虚実と愛に満ちた世界。
そして、こずえ自身が願った世界でもある。
ありがちな少女の空想が現実化した、どこまでも楽しみに満ちた魔法の城……
だからこの景色はある意味で、彼女が遣った《魔法》の賜物でもあった。
「愛がなければ、魔法は視えない」
キャスターは、呟く。
魔女という存在に、もっとも大切なものを。
「こずえよ。そなたが願う限り、妾はそなたのための黄金の魔女であり続ける」
「……? どうしたの、きゃすたー……?」
「ふ、何でもない。……そうだ。なあ、こずえ。そなた、歌が得意なのであったな?」
こずえはキャスターという友人に、自分のことを沢山話した。
アイドルをしていること。
プロデューサーとの出会い。
そして、一番のアイドルになりたいことも。
彼女はこの終末世界でそれを願うということの意味をまるで理解していない。
だが、それでいいとキャスターは思った。
夢見る少女はいつだとて、気まぐれに願って奇跡に微笑んでいればいい。
それが、正しい魔法のあり方だ。
「ひとつ、聞かせてみてはくれないか? 皆も賑やかな方が喜ぶだろうしな」
《あー! 私も聞きたいです!》
《こずえ様、アイドルしてらしたんですもんね! ほらルシ姉、いつまでも拗ねてないでさっさと座る!》
《な――だ、誰が拗ねてるもんですか!》
こうして今日も、幻の夜は更けていく。
それを嘘偽りのものと糾弾するものがいたとして、それはお門違いだ。
少なくとも遊佐こずえという少女にとって、この魔法のような時間は、紛れもない現実のものなのだから。
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【クラス】
キャスター
【真名】
ベアトリーチェ@うみねこのなく頃に
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力:E 耐久:D 敏捷:C 魔力:A 幸運:E 宝具:A
【クラススキル】
道具作成:A
魔術的な道具を作成する技能。
陣地作成:A
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
【保有スキル】
黄金律:A+
身体の黄金比ではなく、人生において金銭がどれほどついて回るかの宿命。
そもそもからして黄金の魔女。金など無限に生み出せる。
密室殺人:A
扉に対し、高度の魔術的施錠を施すことが可能。
強引に密室を作り出し、そこで他人を殺すことで、密室殺人が成立する。
情報抹消:E
対戦が終了した瞬間に目撃者と対戦相手の記憶から、彼女の能力・真名・外見特徴などの情報が消失する。
湾曲され、本来のあり方と異なった形で伝えられる魔女の宿命。
ランクが低いため、完全な消失ではなく記憶が薄れる程度。
【宝具】
『黄金の魔法(レジェンド・オブ・ザ・ゴールデンウィッチ)』
ランク:A 種別:対人/対軍 レンジ:1~300 最大補足:18人
ベアトリーチェが使用する、魔術師のものとは違った形での魔術体系。曰く、魔法。
Aランク宝具に相応しい高威力攻撃から、はたまたちょっとした手品程度のものまで、その形は様々。
ベアトリーチェは膨大な魔力を持つため、これらを存分に扱いこなすことが可能である。
『茶会に喚ばれし魔女の傀儡(ターン・オブ・ザ・ゴールデンウィッチ)』
ランク:D 種別:対人 レンジ:1〜30 最大補足:18人
ベアトリーチェが所有する、『家具』。
召喚にあたって彼女が持ち込んだ家具だけが、この聖杯戦争では召喚可能である。
したがって改めて別の家具と契約し召喚するなど、そういう芸当は不可能。
召喚可能なのは『煉獄の七姉妹』『ロノウェ』『山羊頭の家具』のみ。
『黄金伝説、望郷の島にてかく語りき』
ランク:E 種別:対人 レンジ:- 最大補足:-
真実のみを語る、赤き文字。
この宝具を使って語られた言葉は、全てが真実。
ミステリーをファンタジーで塗り潰す為の、理詰めの宝具でもある。
対サーヴァント戦において役に立つ場面は恐らく皆無だが、しかしこれは紛れもなく、ベアトリーチェという英霊を語る上では欠かせない――彼女が最愛の男と斬り合った逸話に際して、彼女が振るった最強の矛だ。
【weapon】
なし
【人物背景】
無限を生きる黄金の魔女。
【サーヴァントの願い】
急を要する願いはない。
だが、聖杯に興味はあるので手中には収めたい。
【マスター】
遊佐こずえ@アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
いちばんになりたい
【能力・技能】
戦闘能力、特殊能力共に皆無。
アイドルとしての経験から、歌って踊れる程度。
【人物背景】
11歳という若さでアイドルとして活躍している少女。
一番のアイドルになってプロデューサーやママを喜ばせたい、という願いを聖杯に聞き届けられた。
聖杯戦争についてはまったく理解しておらず、世界の終わりについても朧気な認識しか持っていない。
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投下終了です。
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投下おつー
おお、なんか雰囲気のある聖杯戦争が
マスターはいわゆるスパロボ時空みたいな感じで、現代日本を舞台にした色んなキャラが一緒の世界に住んでいる感じでいいんですよね?
架空都市の現地人とのことですが、高知県のこずえちゃんが登場しているように、現代人なら特に東京の人とかでもその街に住んでることにしていいのかな
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>>12
そういうことですね。舞台の街以外の世界が順繰りに消滅していくのは知れ渡ってるので、外国人や別な地方の人が街へやって来ててもいいと思いますし、何なら普通に居住地をいじってもいいと思います。
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>>13
なるほど、ありがとうございます。
確かに日本が最後に残るのはニュースで流れてましたし、避難してきてる方もいるかもですしね。
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現代人と書きましたが、こじつけられる範囲ならば大体オーケーです。
流石に戦時中とかだと厳しいかもですけど、昭和後半とかなら普通にありだと思います。
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新企画スレ立て乙です
投下させていただきます
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ある日、世界に終わりが訪れることが決まった。
まあるい地球の端っこから、鉋で削るように、世界が崩れていった。
世界が崩れ、多くの人の人生が終わった。
手も足も出ない状況から逃れるすべもなく国家の統率者の人生が終わった。
消えていく大地に絶望を抱いた学者の人生が終わった。
蓄えもなく、明日もなく、ただ今を生きていた浮浪者の人生が終わった。
やけになって白く染まっていく海に漕ぎだした荒くれ者が、白い海に揺られてどこかへ消えた。
宇宙開拓に七日目以後の明日を夢見た宇宙飛行士が、白い空に飲み込まれてどこかへ消えた。
明日死ぬ予定だった老人の人生が終わった。
つい先程おぎゃあと生まれた赤ん坊の人生が終わった。
明日も働こうと夜遅く床についた男の人生が終わった。
結婚式を前日に控えた美しい女性の人生が終わった。
老若男女も、貴賤も問わず、すべての人生が終わっていった。
これ以上世界が醜くならないように、美しいままで終わっていった。
世界が終わり始めて二日が過ぎた。
誰かが唐突に、最後の希望を投げかけた。
万能の願望器、聖杯。
その力があれば、ひょっとすれば、この終末を乗り越え、世界はもう一度、やり直せるかもしれない。
この地球を舞台にした物語は、再び紡ぎだされるかもしれない。
だから、彼は願った―――
-
◆
見上げれば今日もまた、重苦しいほどの濁った白が世界を見下していた。
空の青さが失われて二日が過ぎた。
最早誰も、元の空を思い出せないほどに、世界は『終末』へと動き出していた。
白い空の下、こつんと足音が一つ響く。
足音につられて、空とよく似た重苦しいほどの白い身体の、小さな人形が揺れる。
「あと百二十時間」
器用に二の腕に乗せられたその人形に、腕の主が語りかける。
世界の終末によく似合う、希望もなにもない、暗鬱とした声だった。
「それが、この星の描いた最期……地球という物語の完成までの時間です」
人形は答えない。
ただ、人形がそうあるように、輝きを持たない瞳で語りかける腕の主の男を見つめ返し続ける。
「ですが……」
男の目線が白い人形―――キヨちゃんからスイとずれ、キヨちゃんを乗せている左腕の先、左手の甲に移る。
そこにあるのは、見慣れぬ紋様。見ようによっては恐竜のようにも見える蚯蚓腫れと、それを大きく囲むようにのたうっている真円の蚯蚓腫れ。
様々なものを通して得た知識によれば、その蚯蚓腫れは令呪というらしい。
奇跡を司る願望器に選ばれたものにだけ与えられる戦争へのチケットのようなものだ。
令呪を見つめる男の目が細くなる。これから起こるであろう『奇跡』を思い、珍しく、眉間に皺が寄る。
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「誰かがそれを拒んでいる」
世界は終末へと向かっている。
衰弱し、疲弊し、持てる力の全てを絞り果たした末の醜い最期ではなく。
咲き誇る花弁が突然の風で舞い上がるような、限りある美しさを湛えたままの終末に。
だが、奇跡が起ころうとしている。
この終末に向かう鈍行列車に、「させるかよ」と颯爽に飛び込み、進路を変え、速度を上げなおそうとしている者がいる。
「聖杯戦争が始まったのなら……」
「奇跡にすがり、なおも醜く物語を続けようとする者が、出てくるでしょう」
男の双眸がゆっくりと閉じられる。
瞼の裏に踊るのは、燃え盛る部屋。美しいままの姉の姿。
男の見た初めての終末。
脳裏にこだまするのは、姉の声。
「人の人生とは死によって完成する」という言葉。
「ならば問おう」
男が目を開けば、キヨちゃんを挟んだ向こう側に、見慣れぬ人物が立っていた。
銀髪に、切れ長の目、長く尖った耳。
腰に携えた長剣、身体を覆う禍々しい鎧。
一目で『異なる文化から連れてこられた』と判断できる人物が、男の独り言とも取れるような会話にようやく口を開いた。
「私を呼び出した愚かな人間よ、うぬはその奇跡を前に何を望む?」
マスターである男は、サーヴァントである銀髪の男に目線を移さない。
ただ、銀髪の男ではなくキヨちゃんに向けて、一言だけ答えた。
「終末を」
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銀髪の男は答えない。
マスターである男は、もう少しだけ、言葉を続ける。
「この穏やかな世界が、再び醜くなることのない……
美しいままの、終末を」
世界が終わろうとしている。美しいままにその歴史に幕を下ろそうとしている。
死にたくないというのは勝手な道理だ。
誰かの勝手で世界と、人類と、キヨちゃんと、男に醜い続きを押し付けることは、少なくとも男にとっては黙って良しとはできない。
男の願いはただ一つ。
『奇跡が起こらぬこと』。
世界がありのまま終末を迎え、醜き続きから開放されること。
百二十時間後に、地球という物語にエンドマークが記されること。
「聖杯に、人の絶滅を願うというのか」
継がれた言葉を聞いた銀髪の男は、聞き返すように呟き、そして笑うようにこう唱えた。
「人を救う法に背き、人を絶滅させる道を選ぶのか。私に、それを望むのか。
いいだろう。うぬが望み、確かに聖杯に届けてやる!」
銀髪の男が一歩踏み出し、キヨちゃんとマスターの間に割って入る。
マスターは身じろぎもせずに、無理な体勢でサーヴァントから顔をそらし、キヨちゃんだけを眺め続ける。
「我が名は『デスピサロ』、人間どもを殺し尽くすと誓い、地の獄に落ちた『復讐者』だ。
忌まわしき人類の馬鹿げた男よ、私のマスターよ。せいぜい、人類が根絶やしになるその時まで生き延びろ」
『復讐者(アヴェンジャー)』。
そう名乗った銀髪の男―――デスピサロは、マスターから離れ、マントを翻し、歩み去る。
残されたマスターの男の視線が、わずかに持ち上がる。キヨちゃんから、去ろうと揺れる銀髪へ。
視線がキヨちゃんに戻され、同時に一言。
「アヴェンジャー」
「なんだ」
「我々の目的は、『終末』です。無駄な闘争で、脱落するようなことがないよう」
アヴェンジャーがその言葉に答えることはなかった。
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世界が終わり始めて二日が過ぎた。
誰かが唐突に、最後の希望を投げかけた。
万能の願望器、聖杯。
その力があれば、ひょっとすれば、この終末を乗り越え、世界はもう一度、やり直せるかもしれない。
この地球を舞台にした物語は、再び紡ぎだされるかもしれない。
だから彼は願った。
これ以上醜くなる前に、世界が、美しい終末を迎えられることを。
勝手な奇跡による救済ではなく、ありのままの消滅を。
「この星に、良き終末のあらんことを」
一歩、また一歩、男―――真木清人が階段を登っていく。
左腕に佇むキヨちゃんが、笑っているかのように小さく揺れた。
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【クラス】
アヴェンジャー
【真名】
ピサロ/デスピサロ@ドラゴンクエスト4
【パラメーター】
ピサロ
筋力:C++ 耐久:C+ 敏捷:C+ 魔力:A 幸運:E 宝具:A
デスピサロ
筋力:A++ 耐久:A+ 敏捷:A+ 魔力:A 幸運:E 宝具:A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
復讐者:A
復讐する者の持つ、その復讐対象への恨みの根深さを表すスキル。
アヴェンジャーは相手が『人間(英霊含む)』の場合筋力と耐久を一段階向上する。
また、『人間(英霊含む)』からのデバフを高確率で無効化する。
ただし、これは復讐相手に対する敵意の強さを示すバッドスキルでもある。
ピサロはきっと、人間に対して、終末を臨むまでもなくその手で絶滅に導くことを望むだろう。
【保有スキル】
魔族:A
魔族である。
呪いに対する強い耐性を持つが、対魔特攻の武器には弱い。
戦闘技術:B
ピサロとしての戦闘技術。
魔術・剣術をかなりの手腕で使いこなす。
陣地作成:D
ロザリーヒルのロザリーの塔を作成できる。
キャスターではないので陣地の作成によってなんらかメリットを受け取ることはない。
だが、マスターを匿っておくことはできる。(安全かどうかは不明)
デスピサロ:EX
ピサロが宝具である進化の秘法を自身に付与した姿。
幸運を除く全てのパラメータが向上し、使える技術が格段に増える。
また、七段階の形態変化を搭載しており、その全てを倒しきらない限りデスピサロを消滅させることはできない。
ただし、発動すると解除はほぼ不可能。精神汚染により意思の疎通もほぼ不可能となる。
■■■■:A
ピサロという存在の根幹。
ルビーを身に付けた相手と戦う場合、筋力と敏捷が一段階ずつ上昇する。
また、このスキルの逸話によって上記スキルデスピサロを打ち消すことができる。
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【宝具】
『進化の秘法』
ランク:A 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:999
生命の神秘に直接干渉し、急激な進化を引き起こす法。
犬猫に人語を操らせるような進化から人間をモンスターに変える進化まで多岐にわたる。
この聖杯戦争内で行使できる秘法は次の三つ。
・動物に対して進化を促し人語を授ける力。
・人間を超進化させ、モンスターへと変貌させる力。
・自身がデスピサロへと変身する力。
モンスター量産のようなスキルは持たないが、この宝具を民間人に対して用いることでモンスターを生産できる。
【weapon】
はやぶさのけん
ゾンビメイル
てつのたて
【人物背景】
ドラクエ4のラスボス。
装備はリメイク版の初期装備だがリメイク版出典ではない。
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【マスター】
真木清人@仮面ライダーオーズ
【マスターとしての願い】
良き終末を。
【能力・技能】
科学者。
時間と金と材料があれば再び仮面ライダーオーズに登場する化学兵器を作成することも可能かもしれない。
■■■■。
世界が白く濁らなかった場合、彼が辿り着いていた『終末』の形。
何らかの形で、それがこの世界に蘇ることも、あるかもしれない。
終末思想。
彼の心に根深く残った『終末』へのあこがれ。
キヨちゃん。
やああああああああんめてえええええ!!!!!さわっ、さわらないでえええええええ!!!!!
やあああああああああああめろ!!!やめあろおおおおおおおおおおおお!!!!!!
【人物背景】
仮面ライダーオーズのラスボス。
『終末』に取り憑かれた人間。
オーズ本編のどのあたりからの参戦かは分からない。
ひょっとしたらオーズ本編以前の段階で、世界の崩壊から姉の記憶を思い出したのかもしれない。
【方針】
聖杯戦争に優勝者が出ることを阻止する。
もしくは自身たちが優勝する。
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投下終了です。
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投下乙です 自分も投下します。
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ブラインド越しに見下ろす街には、拍子抜けするほど普段通りの時間が流れていた。
子を背負い妻を連れ、笑顔で何処かへ出かけていく一家の父親らしき男。
余程奮発したのだろう、買い物袋の中に普段は買えないような高級食材を詰めて帰途に着く主婦。
野球バットを背負って走っている小学生たちは、これから一日遊び倒す腹積もりなのだろうか。
世界の何処にでもありふれていた光景が、何一つ変わることなく眼下の街に広がっている。
ただひとつ異質なところを挙げるとすれば、今日は土日の休日でもなければ、祝日でもないということ。
月曜日。一週間の始まりである筈の日に、皆が休日と変わらない時間を謳歌している。
大人は仕事へも向かわずに趣味や大切な人との時間に没頭し、子供は学問という本分を投げ捨ててひたすら楽しそうに遊び歩いている。
平穏で素晴らしい光景には違いないが、一個の社会としてはあまりに異様な絵面だった。
「はっ、腑抜けどもが」
隻眼の男は、そんな世界を嘲笑ってみせた。
彼に限っては、強がりでも負け惜しみでも何でもない。
心の底から、黙って終わりを待とうとしている衆愚を無能な愚図めと侮蔑している。
やはり所詮は凡人どもだ。人並みの脳髄しか持たない人間だから、結局最後は無様に逃避することしか出来ない。
だが、自分は違う。
この終末期患者ばかりを押し込めたサナトリウムのような世界の中で正気を保ち、己の本願を果たすべく前進を続けているのだ。あらゆる争いが消えて酩酊するばかりの世界で、未だ確たる自分を失わずにいる。
世界終焉の知らせは、男の耳にも等しく届いた。
原因、理屈、一切が不明。
地球という星について積み重ねられてきた全ての叡智を駆使しても、その理由一つ見出せなかったという。
鉛筆書きの絵に消しゴムをかけるように、文字通り世界が端から少しずつ消えていく。
建物も、海も山も、そこに生きる生物も、一切の例外なく消えてなくなった。
やがて人類は抵抗の意思を捨て、如何にして幸福な終末を過ごすかということへ思考をシフトさせ始めた。
その結果が、この現状だ。
世界の終わりという状況に直面した人類が見せた反応は、心理学の定石を完膚なきまでに裏切った。
謂わば心理面に覿面な作用を見せる脳内麻薬が、オーバードーズで放出されているようなもの。
単純な死ともまた違った、種として根本的な終わりを前にした時、人はどうやら足掻くのを止めるらしい。
――それが人類共通の隠された性質であったのならば、きっと柳沢誇太郎は異常なのだろう。
彼は世界滅亡のカウントダウンが現実的なものとなった今も、幸福の追求などという戯言に身を窶していない。
そして今後どれだけの平穏が世界に満ちたとしても、それが彼を染め上げることはあり得なかった筈だ。
淀んだ隻眼の奥底に渦巻く汚泥のように混沌とした感情が、そのことを物語っていた。
-
「人生の絶頂ともいえる高みから無様に転落したあの日から、俺を突き動かすものは常に一つだった」
一つになってしまった目を閉じる度、昨日のことのように思い出される記憶がある。
散らばる死骸と瓦礫の中、異形に成り果てて暴走する忌まわしき実験動物。
潰された左目が放つ激痛と、婚約者の末路。
あの時、柳沢は間違いなく持っていた何もかもを失った。
残ったのは天才的なまでのその頭脳と、超生物を世に解き放ったという功罪と――
「『憎悪』だよ、モルモット。お前に復讐するという強い憎悪が無ければ、俺は此処までは来られなかったろう」
狂死するほどの憎悪を抱えて、柳沢は死に物狂いで足掻いた。
天才である自らに欠けているものを補充して、闇の情熱を携え、素性を隠して暗殺計画へ介入した。
奴の心底大事にしている生徒達をも存分に利用し、幾度となくあれを窮地へ追い込んできたつもりだ。
だが結果として、未だ柳沢はマッハ20の超生物……かつて『死神』と呼ばれた実験動物を殺しあぐねている。
手をこまねいている内に、柳沢が次の一手を完成させるよりも速く『終焉』がやって来た。
どれだけの速度で移動しようとも、星そのものが消滅してしまうのでは奴も形無しだ。
全てを失ったあれは、何も成せなかった空虚の中で自壊するか、もしくは永遠に独りで生き続けることだろう。
「俺もお前に色々なことを教えられた。そして教え子は、立派に成長して恩師に報いるのが礼儀だ。
だから俺は――」
弧を描いて吊り上がった口許は、空に浮かぶ体の欠けた三日月を彷彿とさせた。
柳沢の過去と抱く憎悪についてを知った人間は、まず間違いなくこう思うに違いない。――『逆恨みだ』と。
実際、その通りだ。柳沢誇太郎という人間が原動力としている憎悪は全て、彼自身の身から出た錆。つまりは完全な逆恨みであり、そこに同情の余地など一片も存在しない。
されども彼にとっては、最早理屈ではないのだ。
何がどうしてこうなってこうだからお前が悪いのだと説かれたところで、柳沢は顔色一つ変えはすまい。
ましてその憎悪と狂的な執念がほんの僅かでも薄まる確率など、真実零に等しい。
「悪鬼め――お前と、お前の愛した全てを惨殺しよう。
俺から全てを奪ったお前に、安らかな終焉や孤独な余生など与えるものか。
時間の許す限り、最上の苦しみの中でお前を看取ってやる」
だが、相手はマッハの超生物だ。
奥の手を切ったとしても、人間としての機能を残したこの体ではまず奴へは届くまい。
用意していた二代目死神というカードも、実戦配備可能な段階となるには後最低でも半月の猶予は必要だ。
それに何より、今の柳沢には一切の後ろ盾が事実上存在しないようなものだ。
あれほど人類の敵を抹殺せんと息巻いていた連中は、世界終焉の影響をモロに受けた。
これまでの準備も使ってきた金も、何もかもを顧みず、どいつもこいつも幸福な最期に奔走する始末。
こうなっては、超生物抹殺の手立ては揃えられそうにない。では、どうするか。
「その為にもお前の力が必要なんだ、ニコラ・テスラ。現代のプロメテウスたる、君の力が」
-
柳沢は天才だ。
そう呼ばれてきたし、自負もしている。
ちょっと頭がいい程度の人間ではどう頑張っても敵わないほど、自分は優れていると信じて疑わない。
或いはその過剰な自信こそがかつての破滅を招いたのかもしれないが、それはさておいて。
しかしその彼をしても、自らが喚んだサーヴァントには到底及ばないだろうと認めざるを得ない。
それほどだ。それほどまでに、この英霊は――文明の発展へ大きな貢献をもたらした。
「……星が末期の叫びをあげている。
無謬の人類神話が今、目の前で終幕しようとしている。
にも関わらず、君は救済を願わない。そしてそのことが、私には不可解でならない。
だが――その憎悪は深淵の海よりも尚深い。宛ら底の見えぬ常闇だ。それだけは伝わった」
此の聖杯戦争は、本来の様式とは些か異なるものだ。
通常英霊とは、人類史に名を残すような偉人英傑が、英霊の座より呼び出されたものである。
しかし柳沢の知るニコラ・テスラと、今彼の眼前に居るニコラ・テスラの容貌は一言、似ても似つかない。
これが何を意味するか。その答えは単純だ。柳沢の召喚したアーチャーのサーヴァント、ニコラ・テスラは、厳密に言えばこの世界に名を残した偉人とは別人ということ。
そしてそのことは、間違いなく柳沢にとっては幸福だったに違いない。
星の開拓者であり、己の手で構築すべき人類神話の墜滅を目の前にして何の行動も起こさないなどと、この英霊に限ってそんなことはあり得ないのだから。
「――マスター・柳沢よ。君は、神とは何と心得る」
「さあな。生憎、神頼みは嫌いな質なんだ」
「そうか」
アーチャーは頷き、その機械化した右腕よりバチバチと紫電を散らした。
電磁操作能力。彼が持つ、とある規格外級の宝具に由来する雷電の力。
神々の特権と、人では及べない自然の光と畏れられていたそれを、この男は地上へ顕した。ゼウスを人界へ引き摺り下ろしたのだ。その彼が神と奉ずるものが何か。考えてみればこれほど分かりやすい問いもなかったかと、柳沢は苦笑を零さずにはいられなかった。
「神とは、雷だ。
そして私はインドラを。
ペルグナスを。
ゼウスを超える稲妻を秘める。
既にこの身と我が叡智は、神霊にすら比肩している。
故に君が望むならば、私は遺憾なく――我が天才たる所以をお見せしよう。案ずるな、負けはしない」
近代の英霊が神を名乗る。
それどころか、神を上回ったと自称する。
これほど滑稽な話はない筈なのに、どういうわけか頭ごなしに否定させない威容がこの男にはあった。
だからこそ柳沢は確信する。このサーヴァントならば、彼の言う通り、決して負けはしないだろう。
我々二人の天才に、破れぬ敵など存在しない――如何なる英霊が現れようと、ゼウスの雷霆を響かせて、その全てを撃滅することが我々には出来る!
「ところで、柳沢よ。君に聞きたいことがもう一つある」
アーチャーは部屋に置かれたソファにどっしりと腰掛け、もう一度紫電を散らした。
デスクの上に置かれていた硝子製のコップが極小の稲妻に射抜かれて粉々になる光景は、爽快でさえある。
-
「君がそれほどまでに殺したいと願う生物」
柳沢の脳裏に、その面影が浮かぶ。
人間だった頃の容貌は、いつだって記憶の中で穏やかに嗤っている。
次に浮かぶのは、あの黄色い顔面に平和ぼけした表情を貼り付けて飛び回るアカデミックドレスの触手生物。
本来の漆黒色を下品で薄ら寒い偽善の色で覆い隠した、超高速の生命体。
「――私では、不足か?」
「まさか」
柳沢がそう返すのに、要した時間は一秒にも満たなかった。
「お前の雷霆ならば、あんな飛び回るしか能のない害獣如きは敵にすらならないさ」
「ふむ、そうか。それなら私を連れて行き、その超生物と殺し合わせれば良いと考えたが――愚問だったか」
「ああ……それじゃあ駄目なんだ。駄目なんだよ、アーチャー」
柳沢は頭を掻く。
髪の毛が抜けるのも構わずに、ぼりぼりと掻く。
その顔には、これまで奥底に隠されていた狂的情念が滲み出ていた。
確かにマッハ20で移動する生物が相手なら、その二十倍にも達する雷の力で仕留めることは難しくない。
だが、それでは駄目なのだ。それでは、柳沢の憎悪は満たされない。
「奴が手塩にかけて育ててきた生徒たち。――俺に言わせれば、地面を這い回る蟻にも劣る頭でしかないがな。
そいつらを人質に取りながら、じっくりと時間をかけて奴を殺す。
それから、奴の愛したガキ共も一人ずつゆっくりなぶり殺してやる……奴や、奴を先生先生と尊敬してやがるクソガキ共の苦痛と絶望で歪んだ顔をとっくり堪能したなら……思い残すことなく逝けるってものだ」
――これはあらゆる分野において言えることだが。
ある物事を窮極的に突き詰めた人間とは、得てして狂気と隣り合わせの生き様を送るのを余儀なくされる。
それはその分野に対しての情熱であったり、美学と呼べるものであったり、人によって様々だ。
柳沢誇太郎という男も、例外ではなくそれだろうとアーチャーは思う。
電気分野の権威であるアーチャーには、彼の語る反物質、触手細胞なるものについての詳細な知識はない。
しかし彼はきっと、それを極めるところまで極めたのだろう。
憎悪を燃料として研究に研究を重ね、自らが産んだ超生物を、宿敵を抹殺せんと研鑽を積んだのだろう。
彼の場合、燃料が燃料だ。その研究が実りへ近付いた時、狂気が発露するのは当然のこと。
「……果たして、悪鬼はどちらなのだろうな」
アーチャーの声が柳沢の耳へ届くことは、なかった。
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【クラス】
アーチャー
【真名】
ニコラ・テスラ@Fate/Grand Order
【パラメーター】
筋力:D 耐久力:C 敏捷:C 魔力:B 幸運:D 宝具:EX
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
ガルバニズム:A
生体電流と魔力の自在な転換、および蓄積。
魔力による実体のない攻撃を瞬時に電気へと変換し、周囲に放電することで無力化する。
また、蓄電の量によって肉体が強化され、ダメージの修復の速度も上がる。
生命活動を肉体に宿る電気で説明するガルバニズムの概念は錬金術のカテゴリーに属する。
星の開拓者:EX
人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。
神代の存在のみが有していた力を地上へ降ろし、文明を引き上げた彼は、EXランクを所有する。
天賦の叡智:A
神域にすら足を踏み入れた碩学の叡智。
【宝具】
『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』
ランク:EX 種別:対城宝具
生前の偉業と数々の超自然的伝説による神秘が昇華されたもの。
真名解放前でもきわめて強力な電磁操作能力。数多の神話で語られる雷電神たちの再臨を思わせる猛威を地上へともたらす宝具の存在が、彼をアーチャーたらしめている。
真名解放を行えば「限定的・擬似的な時空断層の発生」によって周囲一帯を破壊する。
【weapon】
なし
【人物背景】
電磁を制した十九〜二〇世紀の天才科学者。星さえ割ってみせると宣う、堂々たる天才。
数多の神話で神の伝説として語られる雷電の力を解明し、人類文明に「電気」をもたらした偉大な碩学のひとり。
比類無き天才。現代のプロメテウス。絶世の美男子。発明王エジソンの好敵手。
ゼウスの雷霆を地上に顕した男。壮絶にして華麗なる叡智の魔人こそ、彼である。
マスターへの態度は尊大の一語。
聖杯にかける願いは「ニコラ・テスラ世界システムを完成させること」。交流電流が空間そのものを行き交う新世界の到来である。これを成就させるためにも、ニコラ・テスラは人類史の修復に協力を惜しまないだろう。
【マスター】
柳沢誇太郎@暗殺教室
【マスターとしての願い】
超生物、及びその生徒に絶望に満ちた『死』を。
それさえ叶うならば、世界の滅亡さえ惜しくはない。
【能力・技能】
非常に優れた頭脳。その明晰さは、間違いなく天才と呼ぶに相応しい。
また彼は全身の各所に触手細胞を埋め込んでおり、超人的な身体能力と強度を有している。
力を引き出すには携帯している注射器を首に注射する手順が必要な模様。
この影響で寿命は短縮されてしまうものの、それでも聖杯戦争を勝ち抜く上では問題ない。
【人物背景】
生物細胞を利用した反物質細胞の研究に携わっていた天才科学者。
弟子の裏切りで捕縛された殺し屋『死神』を実験のサンプルとするが、最終的に彼の暴走で計画はご破算となり、全てを失う結果に終わってしまう。
そのことから彼を逆恨みし、マッハ20の超生物となった宿敵を惨殺するために覆面を被って声を変え、『シロ』を名乗って暗躍する。
【方針】
聖杯を手にする。手段は選ばないし、どれだけの犠牲が出ようとも構わない。
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以上で投下を終了します
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>>1
そういえばこの聖杯戦争は現実で行われますが、サーヴァントが消滅した場合、マスターはどうなるのでしょうか?
現実世界での聖杯戦争的に、サーヴァントにつられて退場とはならずに生き残ると考えてよろしいのでしょうか
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>>33
マスターはサーヴァントを失っても存命します。
また、令呪を全画使っても裏切りのリスクは上がりますが、特にそれで消滅したりすることはありません。
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というか上の投下で普通に酉ミスしてましたね。
正式酉はあくまでこっちです。
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投下します
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「やってくれたな」
ステイル=マグヌスは頭を抱えていた。
その理由は言わずもがな、己の召喚したサーヴァントの行動に対してである。
彼が他陣営との会談場所として選定した廃工場は今や壁の所々に大穴が空き、内装は荒れ果てて見る影もない。
辛うじて残されていた埃をかぶった機材類も戦闘の余波を受けて無残な姿となっており、その有様から、ここでサーヴァント同士の戦闘が行われたのであろうと容易く推察することが出来る。
「……バーサーカー。僕は君に、敵対行動を行うなと命じなかったかい?」
「あん? ……あー。そんなこと言われたような気もするな。よく覚えてねえけどよ」
ステイルの召喚したサーヴァントは狂戦士(バーサーカー)のクラスだった。
バーサーカーは基本的に意志疎通が出来なくなる狂化のスキルを持っていると聞く。
そのため、物言わぬ獣のような存在が呼ばれてくるのではと身構えていたが――予想に反して、ステイルにあてがわれた英霊は意志の疎通が可能な、狂乱の浅い手合いであった。
これには素直に自分の幸運を感じたステイルだったが、しかしそれが早合点だったとすぐに理解することになった。
バーサーカーは会話に応じる。最低限の理性を持ち合わせているし、作戦を聞くだけの知能もある。
だが、それでもこいつはバーサーカーだった。
理性と知能を持っているからと言って、彼女が持つ狂化のスキルと狂戦士の適性は、決して嘘偽りなどではなかったのだ。
「でもいいじゃんか。ちゃんと全部勝ってんだから、今んとこはさ」
「それで問題なければ、僕はわざわざ君にこんな話はしないんだけどね」
嘆息して、がしがしと頭を掻く。
バーサーカーのサーヴァントは強力だが、しかしそれだけに戦闘では窮地に立たされることがままあるクラスでもある。
それだけに、バーサーカーをサポートしてくれる同盟相手を確保しておく必要があるとステイルは踏み、行動した。
当然大半は門前払いだったものの、中には交渉へ応じてくれる者もいた。
しかし。現在に至るまで、ステイル=マグヌスはその全てを、自らのサーヴァントの手でご破算にされている。
「仕方ないだろ? あんな強ぇ連中目の前にして、指咥えて見てろとか拷問か何かかよ。えぇ?」
一言に狂っているといっても、様々な形があるだろう。
親や子を、あるいは友を殺された怒りで狂乱した者。
大きな力の代償によって自我を失った者。
愛や劣情の末に狂った者。
そもそも生まれた時から理性を持たない者。
そしてこのバーサーカーは、戦闘に狂おしいほどの執着を寄せる者――『戦闘狂』なのだ。
ステイルが連れてきた同盟相手へ、バーサーカーは決まって容赦なく攻撃を加える。
当然相手は謀られたと思い応戦し、敵を倒すにしろ逃げられるにしろ、どの道同盟の話は水泡と帰すわけだ。
令呪を使って攻撃を禁じれば流石の彼女も止まるのだろうが、言うまでもなく、この序盤も序盤からそんな理由で三度限りの命令権を切るのは愚策すぎる。
これから戦争が激化していく中で、このバーサーカーの手綱を二度までしか握れないのはあまりにも致命的だ。
彼女はこと戦いとなれば、マスターの指示などほぼ聞く耳持たずで暴れ回る。
それはこれまでの騒動からも明らかなことだった。ステイルは煙草に点火しながら、厄介なサーヴァントを引いたものだと自らの不運を嘆く。
本当に、この好戦的な所さえなければ……意志疎通も可能で実力もある、理想的なサーヴァントであったのだが。
-
「私はさ。聖杯だっけ? そういうのは正直さ、どうでもいいんだわ」
事も無げに、この問題児はそんなことを言ってのける。
それが聖杯戦争のシステムを根底から否定する発言であることを知ってか知らないでか、それさえ定かではない。
ただ、納得のできる物言いではあった。
そう長い時間を共にしてきたわけではないが、彼女は聖杯を手に入れ、何か願いを叶えたいなどという殊勝な心を持っているようにはとても見えない。
彼女が望んでいるのは一つ。
そして聖杯などに頼むまでもなくこの聖杯戦争に召喚された時点で、彼女の願いは叶っている。
「私は、強ぇ連中とやり合えりゃそれで満足だ」
ぱん、と拳と手のひらを打ち合わせ、にっかり笑ってバーサーカーは言った。
少しは人の苦労も知ってほしいものだけどね。ステイルは苦い顔をして皮肉ったが、それで行いを改めてくれる相手ならば彼もこれほど苦労させられてはいない。
現にバーサーカーはにやりと笑って、「そいつは無理な話」だなどと宣っている。
こればかりはこちらが慣れるしかないのだろう。
同盟相手についても、急いで見つけようとするよりかはもっと相応しい頃合いがやって来るまで待つべきかもしれない。
片っ端からバーサーカーに暴れてぶち壊しにされては悪目立ちするし、危険も大きいからだ。
彼女はその果てに戦死したとしても満足して消えるのであろうが――ステイル=マグヌスは、生憎とそうではなかった。
彼には願いがある。聖杯の力に頼ってでも、命に代えてでも叶えねばならない願いがある。
それを叶えるためならばきっと悪魔にでも、東洋の羅刹にでもなることができると自負していた。
誰でも殺す。いくらでも壊す。それで『あの子』が救えるなら、あらゆるものは安い。
――世界の延命なんてものは、そのついでに過ぎない。
「君がどう暴れてくれても構わないけれどね。しかし、一つだけ要求させてもらうよ」
「へえ、言ってみな」
「必ず勝て。それさえ約束してくれるなら、君の好きにすればいい」
煙草を靴底で揉み消して言うステイルの声には、十代半ばの少年とは思えないほどの気迫が宿っていた。
それを感じ、バーサーカーは驚いたように眦を動かす。
それを察知してか、ステイルは二本目の煙草を取り出すと火を灯し、一足先に廃工場の出口へと踵を返した。
その仕草は、らしくないことをした――とでも言いたげなものであった。
「言われるまでもねえっての」
バーサーカーはそれをからかうでもなく、ニヒルで不敵な微笑みを浮かべる。
いつも逃げ腰のつまらない男かと思っていたが、今の一瞬で少しだけ評価が変わった。
必ず勝て。もちろんそんなこと、改めて言われるまでもない。
負け戦というのも嫌いではないけれど、やはり最後に勝ってこその戦いだろうと彼女も思う。
魔法少女以外の敵と戦う経験はこれまでなかったが、要領で言えば同じだ。そして、魅力も変わらない。
この聖杯戦争はかくも面白い。実に『袋井魔梨華』好みの趣向とシステムだ。こんなおあつらえ向きの催しに折角招待されたのだから、目一杯楽しむとしよう。そう、文字通り体がぶっ壊れるまで。
-
「そうだ、マスター。私からも一つ頼みがある」
「……、……」
ステイルは振り向かぬままで足を止めた。
その背中へ、やはり不敵な微笑みを浮かべて――バーサーカー・袋井魔梨華は提案する。
「全部終わったら、あんたも私の相手をしてくれよ」
「生憎だが、猛獣と相撲を取る趣味はない。他を当たってくれたまえ」
【クラス】
バーサーカー
【真名】
袋井魔梨華
【パラメーター】
筋力B+ 耐久A 敏捷C 魔力C+ 幸運B 宝具B+
【属性】
混沌・中庸
【クラススキル】
狂化:E
通常時は狂化の恩恵を受けない。
その代わり、正常な思考力を保つ。
【保有スキル】
魔法少女:A
魔法少女『袋井魔梨華』として活動できる。
身体能力、五感、精神力が強化され、容姿と服装が固有のものへと変化する。
食事や睡眠などが不要となり、通常の毒物やアルコールの影響も受けない。
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
【宝具】
『頭に魔法の花を咲かせるよ』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
花の種を飲み込み、魔法の花にして頭に咲かせる魔法。咲かせる花の種類によって効果が異なる。
植物に優しくない環境で咲かせた花はすぐ寿命が尽き、また、即席で咲かせればその分枯れるのも早くなる。ただしこれには魔法の実を早く収穫することができるという利点もある。
花を育てやすい環境であると、魔法の使用者であるバーサーカー自身の身体能力も向上し、代謝が良くなる。水と土と太陽光さえあれば傷が治り、逆に太陽がないと治癒に時間が掛かるのだという。
【weapon】
魔法と拳
【人物背景】
戦闘能力の高い魔法少女が集結していた『魔王塾』を放逐された嫌われ者の魔法少女。
戦闘狂のケを多分に含んでおり、基本的に強い相手にはノリノリで勝負を申し込む。
人間時は袋井真理子という女性で、真理子は魔梨華と異なり気性が安定している。
袋井魔梨華は本能の求めるままに戦い、袋井真理子は発芽時間や条件、花の効果などを記録、研究し、袋井魔梨華がより戦いやすいようにサポートする、という二人三脚の体制を一人で行っている。
【マスター】
ステイル=マグヌス@とある魔術の禁書目録
【マスターとしての願い】
インデックスを助ける
【weapon】
なし
【能力・技能】
北欧神話のルーン魔術、中でも特に炎属性の魔術に特化した魔術師。
術の行使にはルーン文字の設置が必要で、現在は防水性のあるラミネート加工したカードを用いる。
『魔女狩りの王(イノケンティウス)』や『吸血殺しの紅十字』といった術式を使用する。
【人物背景】
イギリス清教第零聖堂区「必要悪の教会(ネセサリウス)」所属の魔術師。
魔法名は「Fortis931(我が名が最強である理由をここに証明する)」。
かつてのインデックスのパートナーで、彼女の記憶を定期的に消去し続けている。
後に彼は上条当麻によって自身の誤解を知ることになるのだが、このステイルは上条と出会う以前からの参戦であるため、そのことを知らない。
【方針】
聖杯を必ず手に入れ、世界とインデックスを救う
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投下を終了します
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投下します
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知っているか知らないかはどーでもいいが、僕の名前は岸辺露伴、漫画家だ。
さて、突然だが読者のみんなは世界の終わりと聞いてどんなことを思い浮かべる?
『北斗の拳』のように核が落ちて荒廃した状況か?
それともノストラダムスの予言のように恐怖の大王が空から降りてくることか?
それは確かに世界の終わりだろう。
しかし僕が、いやこの世界中の全ての人間が今体験しているのはそんなものじゃない。
消滅だ。
ただ、次々と消えていくだけだ。
それに僕が覚えた感情は興奮と落胆だった。
世界の消滅なんて体験はどうやっても想像でしか味わえないはずだが、それが現実に起きている。
このリアリティを漫画に起こせたらそれはとても素晴らしいだろう。
これが僕の興奮だ。
だが僕は漫画を『読んでもらう』為に描いている。
この状況で世界の終わりについて描いた漫画など誰も手にとる訳がない。
これが僕の落胆だ。
さて、前置きが少々長くなったがここからが本題だ。
あのスピードワゴン財団や承太郎さんが奮闘しても何ともならなかったこの消滅を、何とかする方法があるらしい。
その方法の名は聖杯。
キリスト教の聖遺物の1つで、最後の晩餐の際に用いられたとされるあの聖杯だ。
これは、僕がその聖杯を奪い合うための殺し合いに巻き込まれる話だ。
-
◆
とあるホテルの一室。そこに漫画家、岸辺露伴が居た。
露伴は何気なく窓から外の風景を見る。
そこには子供たちが遊んでいる姿がある。
その子供たちを眺める大人の姿もある。
それらは普段ならばわざわざ注視することもない普通の光景だろう。
しかし、世界の消滅が近いとなるとどこか鬱屈した雰囲気が漂っていた。
それらを見ても、露伴は特に思う事もなくある1つの事を考える。
「康一君、今はどうしているだろうか……」
それは自身の友人についてだった。
康一君、広瀬康一とは杜王町に住む高校生にして露伴の友人だ。
この消滅が始まった際も彼や彼の家族と共に逃げるつもりだったのだが、いかなる理由か康一が「先に行っていて欲しい」と欲求したため露伴は先にこの町に来ることになった。
勿論当初露伴は待つ、もしくは無理にでも連れて行くつもりだったが、康一が強く先に行くよう言ったので露伴はあえなく先に行くことにしたのだ。
それから先、露伴は康一に会っていない。
「まさか消滅に巻き込まれたなんてこと無いよな……」
いくら何でもそれはないだろ、と露伴は自身の発言を否定する。
康一君は馬鹿じゃないし、癪だがあのクソったれ仗助やアホの億泰もいる。何も問題ないはずだ。
強いて言うならスタンド使いに襲われている可能性だが、それも何とかなるだろうと露伴は思っている。
「気分を変えよう」
そう言って露伴は窓から外を見るのをやめ、外へ出ていく準備をする。
特に目的は無い、あえて言うなら散歩と言った所だろうか。
そして部屋から出て行こうとした瞬間、後ろから強烈な光が発せられた。
「な、何だッ!?」
露伴はそれに驚きつつも、何が起きてもいいようにスタンドを出して構える。
だが特に攻撃される事なく、そのまま光は収まった。
露伴が光っていた場所を見ると、そこには1人の少年が居た。
身長は170位、着ている服は学生服だろうか、何処にでもいるかどうかは知らないが街ですれ違えば注目する事のない存在に見える。
「えっと、あなたが俺の――」
「ヘブンズ・ドア――ッ!!」
だけど露伴はそんな少年相手でも容赦をしない。
少年が何かを言おうとしていたのを遮り、先制攻撃を仕掛ける。スタンド使いの戦いにおいて躊躇など荷物にしかならないのだから。
とは言っても露伴は少年を殺すつもりはない。
せいぜい少年を本にして素性と目的を調べた後、「岸辺露伴を攻撃できない」とでも書き込むつもりだ。(無論逃げるようであれば容赦はしない)
だが次の瞬間、露伴にとって信じられない事が起きる。
ヘブンズ・ドアーが少年を本にすることなく弾かれたのだ。
「な、何だとォ――――ッ!!!」
これは露伴にとっては驚愕だ。
どんな人間相手でも、スタンドやある程度の知能を持った動物相手にだって通用していたスタンドが通用しなかったのだから。
そんな露伴を見て少年は必死に叫ぶ。
「落ち着いてくれ! 俺は敵じゃない!!」
そんな少年を見て露伴は考える。
(本当に敵じゃないのか?)
敵ならば今ほどのチャンスは無いだろう、スタンドが通用せず動揺している今ほどのチャンスは。
けれども少年は露伴を攻撃しない。そんな姿が露伴を冷静にした。
「えっと、俺の話を……」
「分かった、きちんと聞いてやる」
話を聞くことにしたものの露伴は機嫌が悪い。
何故かと言うと、自分の力が通じないという点と、自分が不法侵入者相手に譲歩している点が気に入らないからだ。
特に後者の部分が露伴を苛立たせる。
そんな露伴に気づいているのかは分からないが、少年は話し始めた。
-
◆
そして少年が全てを話し終えた時、露伴の機嫌は良くなっていた。
最初に少年が聖杯戦争の概要について説明していた時は「悪趣味だ」と吐き捨てていたが、サーヴァントの説明になると一変した。
過去、もしくは異世界で英雄として活躍した存在。
そんな存在について取材出来ればどれほど漫画のネタになるだろう、と露伴のテンションは上がっていく一方だ。
だが露伴は疑問に思う。目の前の少年は英雄なのかと。
「なあ、君もサーヴァントなんだよな?」
そんな疑問が思わず口に出た。
「ああ、俺はランサーのサーヴァント。真名は武藤カズキ!」
「いやそこまでは聞いていない」
ランサーの自己紹介に対してにべもなく返す露伴。
しかしランサーはそんな事を気にも留めず露伴に話しかけた。
「ところでマスター。マスターってひょっとして岸辺露伴だったりします?」
「……そうだが、何で知っている」
「やっぱり! 俺ファンなんです。サインとかもらえます!?」
とても英雄とは思えない要求に一瞬唖然とする露伴。
だがすぐに思い直し、露伴は返答する。
「サインぐらいなら構わないが、あいにくこの部屋には書くものがない」
「じゃあ俺コンビニで買ってきます!」
そう言ってランサーは部屋を飛び出していった。
それを見て露伴は一言。
「コンビニの場所とか知ってるのか?」
考えなしだな、と露伴は少々呆れつつ、更に別の事を考え始める。
「とりあえず、あのランサーが何者かを聞かなくちゃな」
漫画のネタになるだろうし、最低でも戦い方位は聞かないと話にならない。
だがもし生前の話を拒まれたらどうしようか、聞かせないとサインを書かないぞとでも言ってやろうか。
そんな事を考えていた露伴は、少々黒い笑みを浮かべていた。
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【クラス】
ランサー
【真名】
武藤カズキ@武装錬金
【パラメーター】
筋力D 耐久B 敏捷D 魔力D 幸運B 宝具A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術は完全に無効化する。
事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。
【保有スキル】
錬金の戦士:B
生前のわずかな間だけだが戦ってきた者の証。
ホムンクルスなどの人造生命に与えるダメージも大きくなる。
戦闘続行:A
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
【宝具】
『山吹色の突撃槍(サンライトハートプラス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ: 最大補足:1
ランサーの心臓の代わりに埋め込まれている核鉄を闘争本能に呼応させて変化させた姿。
見た目は小型化した突撃槍。小回りが利き剣のように扱う事が出来る。
また、ランサーの意志に応じて山吹色のエネルギーを出して攻撃する。
『命を喰らう黒き者(ヴィクター化)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:1
常時発動型の宝具だが、普段はランサーの意志で限界まで抑え込まれている。。
この宝具を本格的に発動すると、肌の色が変化し人間でもホムンクルスでもない存在になる。
さらに、一定範囲の全生物の生命エネルギーを強制的に吸い取る事になる。
これは生態なのでランサーの意志で止めることは出来ない。
この生態をエネルギードレインと呼び、これは抑えている状態でも起きているが周りの生物に与える影響は0に等しい。
だが本格的に発動している場合だと、健康的な人間でも数分で立つことが出来ないほどに疲労する。
このエネルギードレインは魔術による攻撃に分類されるので、防ぐことは可能。
ただし、ランサーはこの宝具の本格発動を望んでいない。
ランサーにこの宝具を本格発動させたいのであれば、令呪を用いる事は必須となる。
だが、それをした場合主従仲は最低の物となるだろう。
ちなみに、発動している状態だと宇宙空間でも生存可能となる。
【weapon】
核鉄
【人物背景】
私立銀成学園高校2年B組の男子生徒にして錬金戦団の戦士。
性格はかなりの熱血漢で古き良き少年漫画の主人公と言った感じ。
一方天然ボケの気があり周りから失笑されることもある。
また特徴として、「○○の達人」を自称し、数々の特技を見せる事も。
だが似顔絵の達人を自称し描いた所ジョジョタッチになっていたりと怪しい。
実は岸辺露伴のファン。
【サーヴァントとしての願い】
強いて言うなら岸辺露伴のサインが欲しい。(成就)
【マスター】
岸辺露伴@ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない
【マスターとしての願い】
読者が居なくなるのは困るので世界を救う。
【weapon】
スタンド『ヘブンズ・ドアー(天国への扉)』
【能力・技能】
スタンド『ヘブンズ・ドアー(天国への扉)』
相手を本にして、記憶や能力を読んだり書き換える事が出来るスタンド。
体のどこかの部位が本となり、本には対象が記憶している人生の体験が書かれている。
また、本のページに書き込むことで相手の行動を思い通りにすることができる。
本来ならばスタンドはスタンド使いにしか見えないが、本聖杯戦争ではサーヴァントには視認可能となっている。
また、対魔力スキルなどで防ぐことも可能となっている。
マスターも異能の使い手なら認識する方法があるかも。
【人物背景】
M県S市杜王町在住の漫画家。
週刊少年ジャンプにて「ピンクダークの少年」を連載している。
性格は結構自己中止的で大人げない。
が、決して悪人ではない。
少なくとも殺し合いの儀式に不快感を覚える位には。
【方針】
聖杯戦争に勝ち残るが、マスターは殺さないようにする。
後時間に余裕があったらサーヴァントを取材したい。
【補足】
参戦時期は4部終了以降。(The Bookや岸辺露伴は動かないシリーズについては不明)
ホテルを拠点としています。
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投下終了します
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皆様、投下乙です
自分も投下させていただきます
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とある高校の音楽準備室で、一人の少女がギターを弾いていた。
世界の終焉が迫っている今、学校もすでに機能してはいない。
それでも少女は毎日ここに来て、音楽を奏でていた。
ここは彼女にとって、大切な場所だったから。
彼女だけでなく、仲間たちも足繁くこの部屋に通っていた。
だが今は、早朝と呼べる時間。さすがに彼女以外の人影は、部屋の中になかった。
いや、厳密に言えば、あと一人いるのだが。
「ふう……」
中野梓は、弾き語りを終えて一息つく。
すでに何曲か通して歌い続けているため、疲労もそれなりだ。
彼女は一度ギターから手を放し、傍らに置かれたペットボトルに手を伸ばした。
「いい曲だな」
そこに響く、重厚な男の声。
いつの間にか梓のすぐ後ろには、白い学生服を着た巨漢が立っていた。
彼こそが昨夜、梓が出会ったサーヴァント。
エクストラクラス・シールダーだ。
「まだまだギター弾きながらじゃ、上手く歌えないんですけどね」
「俺は音楽に関しては門外漢だ。お前がそう言うならそうなのだろう。
だが俺は、たしかにお前の歌に心を動かされた」
力の無い笑みを浮かべる梓に対し、シールダーはそう返した。
「お前の声から感じたのは現状に対する嘆き、そしてそれでも捨てられぬ希望だ。
世界の滅びが近づくこの状況でも、お前は未来を諦めていない。そうだな?」
「はい……」
梓の返事は小さく、だがそれでもはっきりとしていた。
「受け入れられるわけないじゃないですか、こんな終わり……。
私は先輩たちともまた一緒に演奏したいし、今の仲間たちとももっと部活を楽しみたい。
絶対にいやです! 私たちの音楽が、ここで終わるなんて!」
梓の声は徐々に強くなり、やがて叫びへと変わる。
ちっぽけな少女の中に蓄えられていた激情が、そこにはあった。
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「その意気やよし!」
梓の思いを受け取ったシールダーは、満足そうに笑う。
「お前は間違ってなどいないぞ、中野梓よ。
かつて俺たちがいた世界も、滅びの危機にさらされた。
だが、俺たちは滅びなかった。自分たちの力で、滅びの原因を打ち倒したのだ。
諦めぬ心さえあれば、この世界とて救うことはできる!」
「シールダーさん……!」
梓は半ば衝動的に、シールダーの手をつかんでいた。
「改めて頼みます。力を貸してください。
私には、この世界をどうにかできるような力はありません。
あなたに聖杯戦争を勝ち抜いてもらうしかないんです。
どうか、よろしくお願いします」
「今さら言われるまでもない。そのために俺はここに来たのだ」
シールダーが、梓の手を握り返す。彼の巨大な手は、梓の手をすっぽりと包み込んだ。
「この蒲郡苛、全人類の盾となろう!」
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【クラス】シールダー
【真名】蒲郡苛
【出典】キルラキル
【属性】秩序・善
【パラメーター】筋力:B 耐久:A 敏捷:E 魔力:E 幸運:C 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:―
乗り物を乗りこなす能力。
シールダーは乗り物の扱いを苦手としていたため、このスキルは機能していない。
【保有スキル】
戦闘続行:B
名称通り戦闘を続行する為の能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
仁王立ち:A
一時的に耐久を上昇させ、攻撃を自分に引きつけるスキル。
被虐の誉れ:D
肉体を魔術的な手法で治療する場合、それに要する魔力の消費量は通常の1/4で済む。
また、魔術の行使が無くても、一定時間経過するごとに傷は自動的に治癒されていく。
【宝具】
『三つ星極制服 縛の装/死縛の装』
ランク:C 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
シールダー専用の戦闘服。
発動時は全身を包帯状の布で覆われた「縛の装」だが、一定以上のダメージを受けることによって「死縛の装」に移行できる。
「死縛の装」では、全身を覆っていた布を鞭のように振るって攻撃できる。
『三つ星極制服 縛の装・改』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
「縛の装」の強化型。「死縛の装」への変化はオミットされているが、この状態で鞭による攻撃が可能。
『三つ星極制服 縛の装・我心開放』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
「縛の装」の最終型。攻撃方法は炎を纏った打撃に変化。
防御力も大幅に上昇している。
また「縛解傲擲」という必殺技が使用可能となっている。
【weapon】
○生徒手帳
風紀委員の魂が宿るアイテム。
投擲武器として使ったり、巨大化させて盾にしたりできる。
【人物背景】
本能字学園生徒会四天王の一人。役職は風紀部委員長。
筋骨隆々で人間離れした身長の巨漢。
その体格から来る打たれ強さを最大の武器とする。
真面目な堅物であると同時に、生徒会と対立している生徒であっても困っていれば手をさしのべる器の大きさを持つ。
【サーヴァントとしての願い】
マスターと共に聖杯戦争を勝ち抜き、世界を救う。
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【マスター】中野梓
【出典】けいおん!highschool
【マスターとしての願い】
世界を救い、日常を取り戻す。
【weapon】
なし
【能力・技能】
アマチュアとしては充分にハイレベルなギター演奏。
弾き語りは当初ひどい有様だったが、顧問である山中さわ子の指導により人前で披露できるレベルになっている。
【人物背景】
桜ヶ丘高校軽音楽部部長。
先輩たちの卒業によりただ一人の部員となるが、新たに入部した親友二人と新入生二人を加え部を再スタートさせる。
部長として、ボーカルとしての責任の重さに悩みつつも、彼女なりの答を見つけて部員たちを引っ張っていった。
【方針】
聖杯狙い。だが目的が同じ参加者がいれば、対立は避けたい。
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投下終了です
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皆様投下お疲れ様です。
各話への感想はもう少々お待ち下さい。
私も近々、また候補作を投下しようと思います
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投下しますが、その前に感想をば。
>>真木清人&アヴェンジャー(デスピサロ)
終末を拒むのではなく、良き終末を。
人類滅亡の阻止に動かず、終末思想を貫くあり方は実に退廃的ですね。
当スレの世界観にとても合致した主従だと思いました。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>ステイル=マグヌス&バーサーカー(袋井魔梨華)
ステイルはよりにもよって最悪の参戦時期ですね。
インデックスの真相を知らない以上、どう動いても道化になってしまうというのがなんとも。
一方でサーヴァントの魔梨華は気持ちのいい戦闘狂タイプのようで、ストレートな強さに期待できます。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>岸辺露伴&ランサー(武藤カズキ)
露伴先生の独白が非常に「らしい」もので、読んでいて感嘆しました。
先生の漫画についてサーヴァントのカズキが反応するという流れも面白かったですが、如何せん露伴先生は癖のあるマスターなので、カズキの今後が心配でもあります。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>中野梓&シールダー(蟇郡苛)
本能字学園の盾から、全人類の盾へ。
ガマ先輩はシールダーというクラスにすごく適合したサーヴァントで、成程なあと思わされました。
マスター狙いなどをされるとやや辛そうですが、そこは彼の手腕に期待ですね。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
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世界の終わりがやって来た。
大仰な計画も、物々しい黒幕の存在もなく、それは突然に始まった。
星が消えていく。
柵(しがらみ)を呑み込んで。
人の築いてきた文明が、不出来な絵画に消しゴムをかけるような調子でかき消されていく。
本当に、ただ消えていくとしか言いようのない光景だった。
山が、草木が、あるいは海が、光の粒子になってなくなっていく。
しかし真に恐ろしいのは、その光景を見た時、心の中に芽生えた感情だ。
怖いとも、嫌だとも、どうにかしたいとも思わなかった。というより、思えなかった。
こうなってしまったのだから仕方がない――そんな肯定的な気持ちで、事を捉えている自分がいた。
怖くない。
怖くないのだ。
あと数日の内に自分も含めた何もかもが消えてなくなるというのに、自分はそれを毛ほども恐れていない。
自分だけではなく、誰もが。
いのちの終わりというものを、揃いも揃って良いものとして捉えている。
毎日のように生き死にや損得について、不毛な論議と争いを重ねてきた生き物とは思えないくらいに。
それに気付いた時――はじめて、怖いと思った。
「……はあ」
気付けばまた、溜息が漏れている。
それを聞いては顔を顰める古株の教師も、顔を見なくなって随分久しい。
それどころか、誰一人。
慈の知る限り、ここ数日は誰ひとりとして、この学び舎へ寄り付く人間はいなかった。
終わりゆく世界の中で、法律や規則の類は軒並み希薄化の一途を辿った。
皆が皆、幼い日の揺りかごで微睡むような心地よい酩酊の中で生きている。
赤ん坊に、法律の穴を突いて利益を得ようとするような狡猾さはない。
それと同じだ。きっと今、世界中の誰もがそういう意味では幼児退行を遂げている。
当然、例に漏れず義務教育などという観念は真っ先に無視された。
どうせ未来はないのだから、「学ぶ」ことに意味などない。
その主張の正誤は置いても、残された限りある時間を家族と過ごしたいという想いは理解できる。
佐倉慈にも、当然のように家族がいる。
けれど慈は滅亡へのカウントダウンが秒読み段階にまで迫った今もなお、こうして一人出勤を続けていた。
今朝も母親から電話があった。
そろそろ帰っておいでと誘う声は、どこか淋しげだった。
チクリと胸の内側を刺す罪悪感。
それを感じていながら、それでもやはり、足は自然とこの学校へ向かう。
とはいっても、こんなルーチン通りの暮らしを続けられるのも精々あと二日が限度だ。
最期は自分をここまで育て上げてくれた母の下で、礼の一言もかけてあげたい。
そんな思いは、人として当たり前に持ち合わせている。
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なのに未だこんな日々を送っているのは、きっと諦め切れていないからだろうと思う。
世間が抗うのをやめて、ただ受け入れるばかりになった終わりの瞬間。
巡り、廻る観覧車のように、確率がどうこうではなく当たり前のこととして落ちる、銀幕。
「死にたくないなあ……」
この考えこそが、既に異端なのだ。
皆が全てを受け入れて、幸福な最期に拘り始める中で、佐倉慈は生へ未練を抱いている。
死にたくない。
もっと生きていたい。
人として当然の願いが、相対的に、立派な狂気の一形態に姿を変えている。
なんという、異常。
狂気的なほどの安らぎの中では、正気こそが狂気に成り代わる。
「聞いたわ。死にたくないのね、あなた」
仄暗い部屋の中。
無人の筈の職員室に、鈴の音にも似た少女の声が響いた。
沈みかけの夕陽が窓際に照らし出した姿に、慈は思わず息を呑む。
「あなた……誰なの?」
その少女は、あまりにも可愛かった。
美しい、という形容は似合わない。
ただ、可愛らしい。
童話の中から抜け出てきたとしか思えないような、全身で可憐さを主張した少女だった。
しかも、それは作られた可愛らしさではない。
この娘が生まれつき持ち合わせた、一言素質としか形容のしようがないものだ。
少なくとも慈は生まれてこの方、こんな人間は見たことがなかった。
それほどまでに、少女は現実離れした精微さを満面に宿していた。
「そんなことはどうでもいいのよ」
高校生ではないと思った。
多分、中学生――もしかすると小学生かもしれない。
それくらい、幼さを感じさせる。
それも、ある種の懐かしさすら抱かせるような。
他人であるはずなのに、どこか他人の気がしない。
「あなたは、死にたくないのね?」
「……死にたく、ない」
「そう。なら、私が喚ばれたのに間違いはなかったってわけね」
少女は満足そうに、にんまりと笑った。
とてとてと、可愛らしい擬音の似合う歩調で、彼女は慈の傍までやってくる。
滅びへ向かう前の世界には、慈が知らないだけで沢山の不思議な物語があった。
剣と魔法の冒険譚や裏社会を舞台とした能力者同士の抗争すら、確かに存在していた。
しかし佐倉慈は、誓って一度もそういったものへ関わったことがない。
その彼女でも、もう察していた。――この少女は、人間ではないと。
幽霊とか妖怪とか、そんな陳腐なものとはわけの違う……もっと輝ける「何か」であると。
-
「ねえ、お名前は?」
「……慈。佐倉、慈」
「慈ね。じゃあ慈、早速だけど、あそこへ案内してちょうだい」
少女が指差したのは、窓の向こうに見える景色の中でもひときわ目立った一本の塔であった。
日本一なんて大層なものではないが、市内では一番の高さを誇る電波塔。
展望台も兼ね備えられて、特にこの数週間は大人気となっている観光スポットだ。
なんでも、今は入場料も取っていないらしい。
「えっと……それは、どうしてかな?」
「私、あんな高い建物知らないわ!
女王様のお城なんて目じゃないほど、高くてスマート!
せっかくの現代なんだし、満喫できるものはうーんと満喫したいもの!」
「現代って……」
慈には、さっぱり話がわからない。
ただ、この可愛らしい少女は、やっぱりまともな人間ではないようだった。
先の「喚ばれた」という発言に加え、今のまるで現代人ではないかの如き振る舞い。
聞きたいことは山ほどある。けれどまずは、名前だ。
彼女の名前を聞いておかないことには、会話にさえ不都合する羽目になる。
「タワーに行くのはいいけど……その前に、あなたのお名前を教えてくれるかな?」
「――アリス」
にっと笑って、少女――アリスは言った。
「セイバーのサーヴァント、アリスよ。私はね、慈。あなたに未来をあげに来たの」
アリス。
その名前を聞いて、慈は歯車が噛み合ったような気分になった。
覚えている。
まだ小さかった頃。
世界が夢と希望と、そして幻想に満ち溢れていることを疑わなかった幼少期。
眠気に微睡む布団の中で、母に読み聞かせてもらった、心湧き踊る異国の冒険活劇。
――不思議の国のアリス。彼女はまさに、慈がイメージする通りの、「アリス」だった。
【クラス】
セイバー
【真名】
アリス@グリムノーツ
【パラメーター】
筋力:A 耐久力:D 敏捷:A 魔力:D 幸運:A 宝具:C
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
冒険体質:A
生前二度も未知の幻想領域へ足を踏み入れ、冒険を繰り広げた冒険者の象徴。
彼女が重ねた冒険の数は多くないが、正攻法では辿り着けない地を馳せたことから最高ランクとなっている。
セイバーは、自身が初めて赴く場所での戦闘時、幸運及び戦闘時の各種判定にプラス補正を獲得する。
キャスタークラスの陣地作成や、固有結界などの宝具へは更に効能が上昇。
ヒーロー:A
英霊の座と酷似した、「導きの栞」に宿るヒーロー。
セイバーは善性のヒーローであるため、悪属性のサーヴァントに対しては特攻を発揮できる。
ちなみに悪性のヒーローの場合は、善属性のサーヴァントに対して特攻が発動する。
コンボ攻撃:A
セイバーの攻撃は、手数が多くなればなるほど威力が上昇する。
撃破攻撃:A
敵を倒す毎に、その戦闘中においてのセイバーの筋力値が上昇していく。
これは敵を撤退させることでも効力を発揮しますが、サーヴァントを消滅させた場合は更に大きな上昇を見せるのが特徴であるといえる。
また、このスキルによる強化は重複するので、使い魔などを呼び出して戦うタイプのサーヴァントには猛烈な相性の良さを発揮するだろう。
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【宝具】
『暴風の冒険譚(ワンダーラビリンス)』
ランク:C 種別:対人宝具
それは不条理を切り裂く刃の迷宮。少女を阻む者は皆、戦慄すべき刃の迷宮に閉じ込められる。
超高速から叩き込む十二連撃で、最後の切り上げの動作をもって攻撃が締め括られる。
特に物珍しくもない、あくまで技の範疇に収まった宝具だが、導きの栞に記録されたヒーロー達の持つ必殺技の中でも最高ランクと称される程に猛烈な威力を持つ。
『夢の始まり(ルイス・キャロル)』
ランク:E 種別:対人宝具(自身)
この宝具の発動タイミングは、いかなる手段を使ってもコントロールできない。
セイバーが不思議の国へと迷い込むに至った、時計ウサギの後ろ姿を象って宝具は何の前触れもなく発動する。
時計ウサギの姿はセイバー以外には見えず、またセイバーさえもウサギと意思疎通することも不可能だが、時計ウサギを追いかけた場合、必ずサーヴァントの下へと辿り着く。
【weapon】
片手剣
【人物背景】
時計ウサギを追いかける内に不思議の国へと迷い込んでしまった好奇心旺盛な少女。
次々巻き起こる奇妙で怪奇な事態にも物怖じしないその姿は、まるで少女こそが狂気の源のようでもある。
少女が見た世界は実在したのか、それともただの夢だったのか。真実は誰も知らない。
【マスター】
佐倉慈@がっこうぐらし!
【マスターとしての願い】
世界滅亡を止めたい……?
【能力・技能】
一般人。ただし学校の先生であるため、学力は高め。
【人物背景】
私立巡ヶ丘学院高等学校国語教諭。
生徒たちからは「めぐねえ」と呼ばれているが、本人は「『佐倉先生』と呼びなさい」と指導している。
【方針】
死にたくないし、世界には存続してほしい。
だがそんな一人の我儘を押し通していいのか、迷っている。
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投下終了です
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投下いたします
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魔王/キャスターは、失敗はしなかった。
過程だけを見れば、確かに彼女は失敗したように見える。
途中までは順調だった。
不和を蒔いた。
疑心を蒔いた。
対立の火種を蒔いた。
扇動、恐怖、あらゆる感情を操りながら立ち回り、やがて大きな崩壊に繋がる種を散りばめていった。
巧みに潜伏しつつ、ただの一度も自分へ疑いや感情の矛先が向かわないように、細心の注意を払って立ち回った。
彼女たちに刻まれた傷と根付く闇を燃料にし続け、ゲームの終盤、いよいよ魔王は動き出す。
工作と演出を重ね、事態を糸引き、いよいよあと一歩のところまで漕ぎ着けて……、
……最後の最後で下手を打った。
あれがキャスターの過失かどうかはともかくとして、彼女の筋書きは既の所で破られたのだ。
キャスターには、直接的な戦闘手段がほとんどない。
固有アイテムでぶっ叩くくらいはできるし、人間よりも身体能力は遥かに上だったが、自分以上の実力を持った相手を少なくとも二人敵に回した上で打ち勝つほどの強さを彼女は持っていなかった。
元凶、黒幕、真なる魔王――自分たちを追い詰め、あわや同士討ちによる全滅寸前まで追いやった存在。
そんな奴が無防備で転がっていたなら、どうなるかは火を見るよりも明らかだろう。
袋叩き。
私刑(リンチ)。
嬲り殺し。
浮かぶ単語はどれも元を辿れば同じような意味。
キャスターは、深く絶望した。
自分が勝利するための、最後の手段が目の前で潰えてしまった。
しかし、それでもキャスターは諦めなかった。諦められなかった。
だから行動した。精一杯の不敵な笑みを作って、逃れられない絶望の中に活路を拓いた。
たとえひとりの少女と、ひとりの魔法少女の終わりだとしても、彼女にとっては紛れもなく最後の希望だった。
キャスターは死んだ。
自らの手で、自殺した。
だからといって、キャスターが負けたわけではない。
彼女は最後の最後に、確かに勝った。
片手をなくして。
地の底へ這い蹲って。
ボロボロになりながら。
――それでも、彼女は勝ったのだ。
-
◇
世界が終わると聞いてから、家の中はがらりと変わってしまった。
日々醜い争いに満ちていたニートたちの夢の城は、言葉にできないような怠惰な空気で満ちている。
今日は近くのパチンコ屋に新台が入荷する日だというのに、そんなこと誰も話題に出しすらしない。
普通なら至って健全な家庭の風景と片付けられそうなものだが、この松野家に限ってそれは異常事態だ。
松野家の六つ子たちは、世間様で言うところの〝クズ〟だ。
いい年をして実家でモラトリアムしているのもさることながら、その性根もなかなかに腐っている。
自他共に認める悪魔の六つ子。その彼らが……ここ数日間は特に、異常なほどの無気力状態にあった。
単に無気力というだけなら、人間なのだから珍しい話ではない。
季節外れの五月病として片付けられるし、ちょっとドタバタ騒ぎが起きればどうにかなる範疇である。
しかしもう、そんなドタバタ騒ぎが起こることはないのではないかと、松野チョロ松は思っていた。
何故ならこの地球は、あと百十時間と少しで消えてなくなる。
自分たちを乗せたまま、何十億年という時間があったことさえ嘘のように、死んでしまうという。
これまでにも、トンデモな出来事は色々あった。
風邪を引いた自分たちを、分裂した弟が体内へ潜り込んで治したり。
町のある博士が作ったものの影響で、猫がエスパーの力を手に入れてしまったり。
この何ヶ月かだけでも起きた事件はよりどりみどり。けれど、今回の事は確実に今までの出来事とは違うと分かる。
不条理(ギャグ)でも、急展開(ミラクル)でもどうにもできない……〝終わり〟というイベント。
気持ち悪いほどの安らぎに包まれて、文句ひとつこぼさずに〝終わり〟を待つ人々。
それは驚くべきことに、チョロ松の兄弟たちも例外ではなかった。
あの我欲の塊も、痛々しさの権化も、闇のオーラも、奇跡のバカも、ドライモンスターも……
皆が皆、奇妙なほど落ち着いていた。
そして薄ぼんやりとした時間を、誰も欠けずに過ごしている。
〝終わる〟ことを、恐れてすらいない。
その姿がチョロ松には、とても異常なものに見えた。
彼だけだ。彼だけが、世界の消滅という事態に焦燥感を抱いていた。
――終わりたくない。まだ死にたくない。
そんな当然の願いすら、今は異質なものとされてしまう。
試しに弟の一人に相談してみたら、案の定笑い飛ばされた。
そんなことを今更怖がっているのかと、そう言われた。
「……やっぱり、俺は……」
笑われれば、もちろんムカつく。
怖くないわと強がり混じりに返してしまったし、多分彼らへこの気持ちを相談することはないとも思う。
それでも……
「生きたい」
チョロ松は呟いて、ぐだぐだと時間を浪費している兄弟たちを見る。
五人の兄弟がいるということは、決して五人の仲間がいることとイコールじゃない。
むしろその真逆。五人の敵がいることを意味する。
それは服だったり、職業問題だったり、パチンコだったり、今川焼きの争奪戦だったり。
様々な場面で彼らは自分を邪魔立てしてきたが、それでも、やっぱり兄弟は兄弟だ。
みんな揃って平穏の中で死ぬなら、それは確かに一つの理想的な〝おしまい〟だろう。
だからこれは、単に松野チョロ松という異端者のわがままだった。
――終わりたくない。まだ生きていたい。
-
その為なら……覚悟は、できる。
「キャスターちゃん、俺、やっぱりやるよ。
聖杯戦争……正直、上手くやれる自信はあまりないけどさ。やれるだけはやってみる」
「本当に、いいんですね」
「わがままだとは分かってる。でも、どうしても納得出来ないからね」
チョロ松は凡人だ。
他人を逸脱するような非凡な才能があれば、彼に限ってはとっくに定職に就けている。
松野兄弟の中でも良識派と言われるだけはあって、いざという時に非情になれるかも自分では分からない。
それでも、彼は戦うことにした。時限式のカラミティを避けるために、ジャンル違いの戦いに踏み入ることにした。
ただし、理由はそれだけではない。もう一つ、戦う理由がある。それは目の前の、小さな少女のためだった。
キャスター。魔術師のサーヴァント。真名を、「のっこちゃん」。
最初に彼女を見た時は、それは面食らった。
松野家の中にこんな年端もいかない女の子がいるという事実もそうだが、それ以上に、彼女はあまりに可憐だった。
彼女があと五歳ほど年を重ねていたなら、ひょっとすると自分は陥落していたかもしれないとさえ思う。
「それに……のっこちゃんの願い事も叶えてあげたいし」
チョロ松は聖杯戦争について聞いてから今に至るまで、どうするかを決めあぐねていた。
らしくもない兄弟たちの様子を眺めながら、あれこれと考える中、彼女の願いについても思い返した。
彼女の願いは、あまりにも切実なものだった。
英霊としてはごくささやかなものだが、彼女くらいの年頃の少女にはとても大事であろう願い。
彼女と話し、一緒にいる内に、チョロ松は何としてもその願いを叶えてあげたいと思うようになっていた。
世界の危機をどうにかしたい。それと同時に、キャスターの願いも叶えたい。
ここまで腹が決まったなら、もう迷う余地などどこにもありはしなかった。
「……チョロ松さん」
「大丈夫だって。いや、自信はないけど。
さっきも言ったでしょ、やれるだけはやってみるからさ」
「……ありがとうございます」
さあ、大変なのはこれからだ。
いくら平穏の中にあるからといっても、あの兄弟たちに何かを勘付かれる事態だけは避けなくてはならない。
平静を装いつつ、聖杯戦争に精を出して行かなければならない。
きっと道は茨道だ。想像しているより、何倍も険しいに違いない。
それでも、自分がやらなければ、何もかもが終わってしまう。
この世界も、ひとりの女の子の幸せも。
チョロ松は覚悟を決めた。
キャスターへ、もう一度強く頷いてみせる。
キャスターは、小さく微笑んだ。
寂しそうに、笑っていた。
【マスター】
松野チョロ松@おそ松さん
【マスターとしての願い】
滅びを回避したい。
キャスターちゃんの願いも叶えてあげたい。
【能力・技能】
特になし。
【人物背景】
松野家に巣食う悪魔の六つ子の第三男。
六つ子の中では常識人に分類されるが、彼も他の兄弟の例に漏れずなかなかのクズい側面を持っている。
キャスターの宝具により、終焉の回避とは別に、彼女の願いを叶えることへも執心気味。
【方針】
どうにかしてうまく立ち回りたい
-
◇
「ごめんなさい、チョロ松さん」
マスターには聞こえないように、キャスターは呟いた。
松野チョロ松は良識のある人間だが、しかし、本来勇者になれる人間ではない。
少女の幸せを叶えるためにと義憤に燃え、聖杯戦争へ名乗りを上げるような人物ではない。
だが彼が聖杯戦争に参ずると決めた理由には、確かにキャスターの願いを叶えたいという思いがあった。
彼らしくもない熱い感情の後押しが、そこには間違いなく存在していたのだ。
納得できずとも、彼は兄弟に同調し、穏やかに終末期を迎えようとする未来もあったかもしれない。
その未来を彼から奪い、戦いへ目を向けさせたのは、他でもないキャスター……のっこちゃんの宝具である。
戦えない彼女は、かつて魔王を演じなくてはならなくなった。
嫌だ嫌だと駄々を捏ねることは、のっこちゃんには許されなかった。
何故ならのっこちゃんは、許されないだけのことをしたからだ。
過去にのっこちゃんがしたことを白日の下に晒されれば、彼女は間違いなく、大好きな母のところへいられなくなる。
だからのっこちゃんは戦うしかなかった。戦えないのに、戦うしかなかった。
彼女の魔法/宝具は、「まわりの人の気分を変える」というものだ。
読んで字のごとく、人の感情を操作することができる。
のっこちゃんが悲しいと思えば、周りの人間も悲しくなり。
のっこちゃんが怒れば、周りの人間も怒り始め。
のっこちゃんが怖いと感じれば、周りの人間は恐怖で大パニックに陥る。
……のっこちゃんが熱く心を燃やせば、周りの人間の心も熱に浮かされる。
チョロ松を聖杯戦争に乗せたと言えば簡単だが、この魔法はそう単純なものではない。
下手に加減を誤れば、松野家の他の人間まで熱くなってしまう。
それを避けるため、慎重に機を見計らいながら、出来る時は確実にチョロ松の心に炎を生み出してやった。
結果、彼は半分は世界のため、半分はのっこちゃんのために聖杯戦争に乗ると決めたのだ。
非道の行いだとは分かっている。
けれどそれでも、のっこちゃんには押し通したいわがままがあった。
チョロ松が世界に反してまで貫こうとするわがままに比べればちっぽけだが、のっこちゃんには――「野々原紀子」にとっては、それと同じくらいに大切なわがままがあった。
のっこちゃんは、勝った。
ゲームには負けたが、勝負には勝った。
しかし、愛するお母さんのところへ帰ることはついにできなかった。
お母さんを置いて、のっこちゃんは遠いところに行くことになった。
残すものは残せたにしても、決して百点満点の結果ではなかった。
-
のっこちゃんが聖杯へ望むのは、ただひとつ。
お母さんと、また幸せに暮らしたい。
今度は魔王なんかになることなく、野々原紀子として、のっこちゃんとして、一緒にいたい。
そのために、のっこちゃんはもう一度魔王をやると決めた。
ここに、彼女の戦いはrestartする。
【クラス】
キャスター
【真名】
のっこちゃん@魔法少女育成計画restart
【パラメーター】
筋力:D 耐久力:E 敏捷:D 魔力:A 幸運:D 宝具:D
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
陣地作成:-
機能していない。
道具作成:-
機能していない。
【保有スキル】
魔法少女:B
人智を超えた存在、魔法少女である。
身体能力、五感、精神力などが等しく強化され、容姿と服装が固有のものへと変化。
更に食事や睡眠などの各種活動が不要になり、毒物やアルコールの影響を受けない。
自己保存:E
マスターが生存している限り、危機的状況から逃れやすくなる。
彼女の場合、集団戦において強い効果を発揮するが、一対一の状況では効き目が薄い。
気配遮断:D+
サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
【宝具】
『まわりの人の気分を変えることができるよ』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:100
自分の気持ちを周囲へ伝播させる、魔法少女「のっこちゃん」の魔法が宝具となったもの。
人間のみでなく、精神あるものならば建物のようなものへも通用する。
キャスターが楽しい気分になれば周囲の面々も楽しくなり、逆に悲しい気分になれば周囲の面々もそれに釣られて悲しくなる。要するに、感情のコントロールが可能。
常時発動型の宝具であるため、自己の感情を制御できる人物でなければ使いこなすことは難しい魔法だが、彼女はその点も問題なく扱うことができる。
Cランク以上の対魔力スキルを持つ者には通用しないが、かと言ってキャスターの宝具が使用されていることを何の事前知識もなしに把握することは極めて困難。
また、心に闇や傷を抱える者へはより強い効き目を見せる。
【weapon】
モップ
【人物背景】
真なる魔王はここにあり
-
投下終了です。
-
投下乙です。感想は後ほど。
投下します
-
肉切り包丁なんてものを見つけてくるまでが大変だった。
人を解体するというのは、やってみると分かるがそんなに難しくない。
血の後始末が簡単な風呂場でやれば、匂いを取るのに少し難儀するくらいで済む。
まずは手足を上手いこと外して、それから適当に首を落として、後は黒いゴミ袋に入れてしまえば作業終了。
検問に引っかからないことを祈りながら、見つからなそうな場所に捨てるなり埋めるなりすればいい。
「聖杯戦争ってのも不親切だよな」
小太りな男の首を片手で絞め上げながら、表情一つ変えずに言ってのける男は医者だった。
「だった」と語尾が付くのだから、当然今は医者などという高尚な職業には就いていない。
彼が担当する分野は脳だ。脳の中。深層心理。精神科医と、かつて彼は呼ばれていた。
そこら辺の凡百に比べれば腕が立つ方だとは今でも自負している。
彼が精神科医を志すに至った最初のきっかけは、自分の妹を助けるため。しかも、当時彼はまだ子どもであった。
彼はスタートラインから、患者の治療という実戦の舞台に立っていたのだ。
そんな男が、精々二十近辺でようやっと人生の岐路を決めたようなボンクラに遅れを取るわけがない。
ただ、彼は医者をやめた。
正確には、やめざるを得なくなった。
理由はこれもまた、家族のため。
今度は娘と息子と、妹――もとい、嫁のため。
彼は、医者ではいられなくなった。
「どうせなら殺した野郎の処分なんて雑務は、こんなことを考えやがった奴がやればいいのにな」
右手で絞め上げていた首から、ぐぎ、と嫌な音が鳴る。
頚椎が砕けた音だとすぐに分かった。
何度もこんなことをしてきた経歴は伊達じゃない。殺し方など、そこらの学者よりよく知っている自信がある。
こうなったら人間は生きていられない。九割死ぬし、一割で手当てが間に合ってもまず人生は終わりだ。
温情を与えるわけではないが、最後っ屁などされては面倒なので、確実に息の根を止めておく。
動かなくなった男を引きずるようにして路地裏を抜け、停めてあった車の後部座席に放り込んだ。
「お前はその辺どうしてたんだよ、零崎」
「あ? 放ったらかしに決まってんだろ。いちいち片付けてやる義理もねえ」
そうかよ。
そいつぁ、楽で良さそうだ。
助手席に座る中性的な風貌をした青年の答えを聞いて、殺人犯はケケケと笑った。
世界が終わると聞いた時、殺人犯――岩本健史は喜んだ。
別に自殺がしたかったわけではない。
人生なんてものはろくなもんじゃなかったが、それでも自傷の趣味も、鬱病のケも覚えはなかった。
ただ、彼の世界は……もとい「彼ら」の世界は、とっくの昔から末期状態にまで冒されていた。
狂い始めは、一つの絶望からだった。
そこから全ての歯車が緩やかに、しかし確実に狂い始めた。
完全に取り返しが付かなくなったのは、「サキ」が目覚めた頃だった。
「岩本早紀」が、「岩本亮平」に。
「岩本亮平」が、「岩本早紀」に。
息子と娘が事実上入れ替わった頃にはきっと、もうどうしようもなくなっていたのだと思う。
-
最初に殺したのは誰だったか。
勝手な愛の末に狂い死んだ中学生だったかもしれないし、もっと前に誰か殺していたような気もする。
その辺りは不謹慎ながら、曖昧になりつつあった。
人殺しに不謹慎も何もありはしないだろうという突っ込みは、さておいてだ。
「初めに言っとくが、零崎。俺は多分、もう半分狂ってる」
「知ってるよ」
「お前の思ってるような意味じゃない。俺は今、人間の本能ってヤツと戦ってる状態だと思うんだ」
ハンドルから左手を離す。
それを自分の眉間に当て、トントンと小突いた。
人間の本能――それは、世界滅亡が不可避のものと明らかになって初めて浮かび上がったもの。
人間は逃れる可能性が一パーセントもない、人類種終焉の瞬間を決定付けられた時、過剰投与された脳内麻薬が特殊作用を引き起こして極度のリラックス状態に陥る。
あれほど執着していた信仰の正否を投げ捨て、よき終末を誓い合うほどに。
誰も喚いたり震えたりせず、終わりの時まで幸せに暮らそうとどいつもこいつも日和っている。
今のところは、健史はまだそれに冒され切っていない。しかし、いつかは完全に喰われるだろうと自覚していた。
「完全に負けた時、俺もあの緩やかな狂気に溺れながら死ぬことになるだろうな」
岩本健史の家族……岩本家の人間は、揃いも揃って狂っている。
最初から狂った人間に対して全く別ベクトルの狂気を発露させたことで、今、健史の家族は壊れている。
狂いながら、破滅しながら、絶望を知っているのに、薄ぼんやりと夢見心地でいるのだ。
まさにそれは、余程トリップの強い麻薬を常時投与されているとしか思えない有様だった。
自分もいずれはああなるかもしれないと考えただけで、怖気が走ったのを覚えている。
「んで、あんたはあれか? やっぱりその世界滅亡ってのをどうにかして、みんな仲良しハッピーエンドと洒落込みたくて戦争やるってわけかよ」
「違うね」
殺人犯は、殺人鬼にケケケと笑う。
「世界を救ったとして、戻ってくるのはどうせ地獄なんだよ」
聖杯で世界を延命する。
もしかしたら、ついでに幸せな日常なんてものを叶えることもできるのかもしれない。
しかし健史に、それをするつもりはなかった。
「聖杯様の力を使ったとして、いつか必ずまた皺寄せが来る。何年か、何十年後かは知らねえが、俺達の周りの世界だけはどうにもならねえ。
呪いとか言われてるらしいけど、正直的を射てると俺は思うぜ。だから――」
また、彼はケケケと笑った。
何度聞いても、おかしな笑い方だった。
「――俺は、幸せに死にたい」
殺人犯は、幸せになりたかった。
自分だけが、ではない。
愛する妻であり妹でもある女と、息子に娘。
全員揃って幸せに暮らせていれば、やはりそれに優る願いなどはなかったのだ。
-
それがいつしか、父親から殺人犯になっていた。
殺して、殺して、殺して、死刑台に送られる前に世界ごと屠殺が決まった。
「三日……いや、一日ありゃ十分だ。丸一日、あいつらと幸せに過ごしたい。
あんなラリったみてえな有様で、じゃねえぞ。一ヶ月前みてえな絶望のどん底でも、ねえ」
だから、彼は父親として最後に願う。
「絶望」から一切合切解き放たれた――
「『希望の世界』だ」
あんた、やっぱり頭おかしいわ。
顔面刺青の青年は、かははと笑った。
殺人犯の健史にとって、このサーヴァントは実にお誂え向きの皮肉が利いたチョイスだ。
殺人鬼。この世で最も敵に回してはならず、同時に味方にしてもならないとされた最悪の群体の、鬼子。
零崎人識。それが、岩本健史のサーヴァントの真名である。
「まあ、いいぜ」
アサシンに願いらしいものはない。
ないが、しかしただ適当に自殺して終わりというのも気が乗らない。
「かるーく、サービス残業してやるよ」
とりあえず、生き残ることを目指して聖杯戦争をやってやろうと、アサシンは決めた。
【クラス】
アサシン
【出典】
人間シリーズ
【真名】
零崎人識
【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷A 魔力E 幸運B 宝具E
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を絶つ。
完全に気配を絶てば、探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【保有スキル】
人間失格:EX
とある欠陥製品の鏡写し。
EXランクはただ一例を除いた代替品が存在しない証明であり、零崎人識という反英霊の希少性、異常性を示す。
このスキルを保持する者は精神汚染の抵抗判定に対し大幅なプラス補正を受け、また、戦闘からの撤退を選択した場合の成功率が常に上昇する。
矢避けの加護(殺):D
飛び道具に対する防御。
あらゆる投擲武器を回避する際に有利な補正がかかり、銃手を視界に収めていなくとも射撃攻撃を回避できる。
ただし遠距離からの狙撃攻撃、超遠距離からの直接攻撃、広範囲の全体攻撃には該当しない。
心眼(偽):B
直感・第六感による危険回避。
曲絃糸:D
糸やそれに類するものを自在に駆使する戦闘技能。
Dランクでも人間や耐久値の低いサーヴァント相手には高い殺傷性能を誇る。
-
【宝具】
『集結の鬼筋』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:可変
一賊の殺人鬼を、一日に一人までランダムに呼び出す宝具。魔力を殆どと言っていいほど喰わない。
呼び出された『零崎』は彼らの主義や主張に基づいて殺人を行い、直接的にアサシンがその行動を支配できるわけではないが、意思疎通は可能なので、全く制御不能というわけでもない。
『零崎』はそれぞれが一個の反英霊として行動し、聖杯戦争の知識も予め保有している。状態的には正規の方法で召喚されたサーヴァントと変わらない。
ただし召喚後二十四時間が経過した『零崎』は直ちにその場で消滅してしまう。『零崎』の消滅とともに次の殺人鬼が召喚され、同じ『零崎』は決して現れない。消滅を待たずに『零崎』が倒された場合も、最初の発動から二十四時間が経過していなければ次の殺人鬼は出現しない。アサシンが消滅した後も、時間いっぱいまで殺人鬼は現界可能。呼び出せる殺人鬼は零崎軋識、零崎双識、零崎曲識、零崎舞織の四名。
『流血の血筋』
ランク:E 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:-
『集結の鬼筋』により呼び出された『零崎』が何者かによって倒され消滅した時、自動発動する。
零崎一賊は流血で繋がる一賊。家族に仇成すならば、老若男女・動物人間植物の区別なく皆殺し。
『零崎』を敵に回すということの意味、そのものが昇華された宝具。アサシンは、自分の家賊を殺害したサーヴァントとの戦闘において全てのパラメータと判定にワンランクの補正を受ける。
アサシンは一賊としては異端とされた英霊であるため、効果はこれでも他の『零崎』に比べて低下している。
またこの宝具は『集結の鬼筋』により召喚された『零崎』全員が持ち合わせており、彼らの場合、上昇値はアサシンのものより更に大きくなる。
殺し名の猛者達が揃いも揃って忌み嫌い、この世で最も敵に回すことを忌避される醜悪な軍隊と称された逸話が昇華されたことにより、生前よりも敵に回すことの意味は重く、鋭く変化している。
【人物背景】
殺し名序列第三位の殺人鬼集団・零崎一賊の一人。
零崎零識と零崎機織という二人の殺人鬼を親に持つ、生粋の殺人鬼。
【サーヴァントとしての願い】
適当に生き残りを目指す
【マスター】
岩本健史@絶望の世界
【マスターとしての願い】
『希望の世界』を。
【weapon】
なし。
【能力・技能】
紛れもなく純粋な人間であるが、常人離れした戦闘能力を持つ。
そこそこ腕の立つとされた人物に金属バットで強襲されても、それを二度に渡り軽くあしらえるほど。
【人物背景】
精神科医。
希望と絶望の父。
誰よりも家族を愛したが、故に報われなかった殺人鬼。
-
投下終了です
-
皆さま投下乙です。
自分も一作投下させていただきます。
-
蒼穹、とはもう呼べない空。
そこでは、彼女も元気を失った。
それでも、元気に振る舞う努力くらいは、ちゃんと続けた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夢原のぞみの通うサンクルミエール学園は、当然休校だった。
世界で最後にひとつだけ残った、この街は、ただ消滅を待っているだけだ。
そうすればみんな死ぬ。みんないなくなる。みんな終わる。
だから、もし、仮に人生最後の百時間に学校に行けなんて言われても、誰も行こうとしないのだろう。
だが、そんな日にも、のぞみは、制服を着て……学校に通っている。
……なぜだろう。
世界の終わりがカウントされてからも、美容師の母も店を開けていたし、児童作家の父も原稿を書いていた。
彼女の家の人間は、『明日地球が滅びるとしても、リンゴの木を植える』……そういう性格なのかもしれない。
のぞみが学校に行くのを、家族は止めなかった。それどころか、当然のように、「行ってらっしゃい」と言った。
幼馴染の夏木りんも一緒に連れて行こうと思って学校に誘ったけど、彼女には怒られた。
だから、結局、のぞみは一人で学校に足を運ぶ事になった。
歌いながら歩いたけど、それは途中でやめた。
そして、学校に着いた。
「……」
やっぱり、校門は閉まっていて、中には誰もいなかった。
人気のない学校。
のぞみ以外、本当に誰も来ていない。
こんな日に、制服を着て、学校に通う人なんていない。
いるとすれば、馬鹿だけだった。
だけど今日は、本当なら休みじゃない日だ。
ここに来れば、先生がいて、友達がいて、何だかよくわからない授業に四苦八苦する筈だった。
成績は悪いし、体育もダメ、家庭科もダメ。
それでも、のぞみは、残りの時間を、どう過ごすかは自由だけど、やっぱり普通に過ごしたかった。
本当に何の才能もなかったけど、この学校で夢を探し続けたかったのだ。
-
「……はぁ」
ちょっと前に、何という事のない日に喋った友達。
あれが、きっと、彼女たちと会う人生最後の瞬間だったんだ。
突然、世界がこんな風になって、それから先はもう会う事はなくなるんだ。
……そう思うと寂しい。
りんとは喧嘩したっきりになってしまうから、世界が終わる前に、またちゃんと仲直りして、世界が終わっても悔いのないようにしたい。
「あーあ……」
仕方なく、のぞみは、校門の前に座った。
門が閉まっているから、中には勝手に入っちゃいけない。
それに、入らなくても、誰もいないとわかるような状態だ。
……ここで待っていれば、もしかしたら、自分以外にもこの学校に誰か来てくれるかもしれないと思う。
のぞみはただ、それを待ち続けた。
……。
……すると、少ししてから、一人の男が歩いてきた。
長身で、かっこいい外国人の男の人。色眼鏡をかけていて、青い髪をしている。
彼には見覚えがあった。
「やあ」
この人は、のぞみの前に、最近よく現れてくれる人だ。もうすっかり顔なじみである。
のぞみの気配を見つけて、追ってきたのだろう。
彼は、出会った時、のぞみの事を「マスター」と呼んだ。のぞみは、その時、喫茶店のマスターをイメージした。
のぞみにとって、「マスター」という呼ばれ方は、そういう「おじさん」のイメージがあったのだ。
それで、自分に合わないので、呼ぶなら名前で呼んでほしいと言った。
だから、彼は、のぞみをこう呼ぶようになった。
「こんな所にいても、誰も来ませんよ。……のぞみさん」
どういうわけかのぞみが選ばれた、この『聖杯戦争』。
そこで、のぞみの従者となっているのがこの男の人なのだ。
クラスは、『ライダー』だった。
ここではないどこかの世界で、戦闘機に乗って、昔、もっと青い空や、遠い宇宙で戦っていたらしい。
その辺りの歴史は、一応、ライダーの口から全部聞いたけど、のぞみにはちんぷんかんぷんだった。
だから、本当の事を言うと、のぞみにも詳しくはわからない。
ただ、わかるのは、このライダーが、のぞみの持ってない物をたくさん持っているという事。
世界の英雄として名前が残るほど、いろんな才能を持っていて、いろんな活躍をしたのが彼なのだ。
つまり、天才。
のぞみの反対だ。
最初は、「敵を殺してきた英雄」なんだと思って、少し怖かったけれど、そうは思えないくらい、ライダーはやさしい人だった。
それに、時代が時代なら仕方がないんだろう、と、のぞみは思った。流石に責めるつもりにはなれなかった。
「……もう少しだけ待ちたいよ」
そんなライダーに対して、のぞみは、拗ねた子供のように、言った。
時刻はもう、朝九時を回る頃だった。
普通の中学校は、八時ごろに学校が始まるがに……、誰も、そこには来なかった。
「もう少しだけ」
もう誰も来ないのは、正直、わかっている。
それでも、あともう少し待てば、遅刻の常習者が来るかもしれないと、少し思った。
その少しの為に、のぞみはここで待っていた。
-
もう一日だけ学校に行きたい。
ドジで、何の才能もないし、授業は苦痛だけど、それが無いのはもっと苦痛だ。
もう一日だけ奇跡が起こってほしい。
中学三年生で卒業するまで、自分はこの学校にいたいのだから。
……そんなのぞみに、ライダーが寄り添うように座った。
「……そうですか。
じゃあ、僕も一緒に待つ事にします」
ライダーは薄く笑う。
彼は変な人だった。
それから、ずっと、ライダーはのぞみの横でニコニコと笑っていた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
寄り添うように座っていても、のぞみはライダーに何も喋る事がなかった。
こうしてずっと、この校門の前で、ぼうっと待ち構えていれば何かが変わるというわけでもない。
ここで待っていたって、誰も来てはくれない。
すぐに立つのはライダーに悪いから、意地を張るようにしてずっと待っているだけだ。
すると、ライダーが口を開いた。
「……この分だと、みんな遅刻ですかね。
この学校の生徒は……あ、いや、それだけじゃなく先生たちは、時間に少しルーズなようです。
まったく、困ったものですね、のぞみさん」
ちょっとした冗談を口にしたつもりだろうが、笑えない。
ただ、慰めようとしてくれているのかもしれないと思って、のぞみはそれに対しては答えなかった。
それでも、ライダーが静寂を引き裂いてくれたのは良い機会だったと思う。
全く関係ない事を口にするために、のぞみは口を開いた。
「……ねえ、ライダーさん」
「何かな、のぞみさん」
すぐに返事が来たところを見ると、ライダーも、のぞみが何かしゃべるのを待っていたのだろう。
それで、のぞみは、少しためらってから、また口を開いた。
「どうして、聖杯は私をマスターに選んだんだろう」
それは、素朴な疑問だった。
夢原のぞみは、ただ、この聖杯戦争に自分がマスターの一人として選ばれた理由が知りたかった。
勿論、ライダーはその理由なんて知らないのだろうけど。
「私って、勉強もダメだし、運動もダメだし、趣味もないし、夢もない。人に胸を張れる物なんて何もないんだ。
……なのに、世界がもうすぐ終わっちゃうっていう時にだけ、世界を守れるかもしれないチャンスをもらっちゃった」
「なるほど」
「……だけど、私、魔力っていうやつも持ってないし、やっぱり何の才能もないから。
最初は、『聖杯で世界を救いたい!』って思ってたけど、何の才能もない私じゃ、出来るかわからないし」
気づけば、諦めたような弱弱しい笑顔が顔に出てしまっていた。
のぞみの悪い癖だ。
しかし、たとえば、世界の命運が願望器に託せるとしても、他に何人もいる相手を倒して自分がそれを手に入れられるなんて、のぞみはもう思っていなかった。
いや、そんな自信がなかった。
同じような願いを持っている人が他にもたくさんいるかもしれないから、その人たちに任せよう、とも思っている。
ただ、もし、この状況でも世界の安定を望まない人がいたら、やっぱり世界は滅びてしまうだろう。
そうしたら、全部終わってしまうから、やっぱり一番信用できる「自分」が世界を終わらせない為に行動しなきゃいけないのだと思う。
それはわかっている。
わかっているけど、自信がなかった。
……これまでの自分を振り返ると、どうしても、成功なんてイメージできない。
何の才能もないのだから。
やっぱり、こうしてここで一人で待っていると、それを強く実感してしまった。
-
ライダーは、余裕のある笑みを返して言う。
「……僕は、君にも、きっと何か才能があると思いますよ。
いえ、ちゃんと、君の中に立派な才能があると、もっとはっきりと確信しています」
「え?」
「……そうですね。
たとえば、こうしてこんな日にも、学校にちゃんと来ようとする生真面目さ。
これも立派な才能です。中学生とは思えないなぁ、うん」
「……それは、私がバカだからだよ」
「いえ、そんな事はありませんよ」
そう否定してから、ライダーは、少し遠い目をした。
……彼の目はどこを見ているのだろう。
遠く、自分の生きてきた時代の景色でも見ているのかもしれない……。
「僕の世界の歴史では、『自分は何の才能もない』と思い込んでいた女の子が、歌を歌う事で戦争を止めた話もあります。
才能というのは、常にそういうものです。目に見えず、誰にもわからない。しかし、いざという時に世界を平和に導いてしまう事もある」
「……」
「それに、僕も、最初は自分にヒコーキを運転して敵を殺す才能があるなんて思ってもみませんでしたよ。
しかし、僕はいつしか天才と呼ばれ、こうして伝説にまでなっている。……と、こう言ってしまうと、嫌味ですか? はは……。
……いや、しかし、僕もね、何人もの敵を殺して、いくつもの勲章をもらった自分より、その少女の方がずっと立派だとさえ思っています――」
歌が戦争を止める、なんてライダーは言った。
前に聞いた話では、彼の世界は、そういう事が何度もあったらしい。
宇宙規模の戦争を、いつも「歌」が鎮めてくれた……とか。
それはよく覚えている。のぞみもそういう世界だったらいいな、と思っていたからだ。
この世界では、「世界の終わり」が戦争を鎮める事になったけど。
「……そら来た」
ライダーが、ふいに、視線を遠くにやった。
のぞみはライダーの見ている物が何なのかわからなかったが、ライダーと同じように遠くを見て、それに気づいた。
……人が来る。
うちの学園の制服を着ている。
いや――あれは。
「あっ……りんちゃん」
先ほど、のぞみを叱ったばかりの、夏木りんだ。
こんな日にも学校に来ようとするのぞみに、心を動かされたという事なのだろうか。
ライダーがこうなる事を予期していたとは思えないが、驚いているのぞみに対して、いやに冷静だった。
「そう、あれが君の才能ですよ、のぞみさん」
「え?」
「……君の、溢れんばかりのパワー……人をひきつける力です。
これをこれから、活かすも殺すも自由ですが、僕に言わせてみれば、殺してしまうのは少し勿体無いですね。
しかも、それがあと少しで、勝手に終わるというのはなおさら惜しい。
僕からのアドバイスですが……のぞみさん、あなたは夢を見つけて、素晴らしい大人になるまで生きていくべきだと思います」
こんな気障な言葉を、全く違和感なく並べられるのも、天才の特権だ。
りんがここに来る前に、ライダーは内緒話は言い切ってしまおうと思ったらしい。
「それまで……この世界一つくらい、君の力と僕の腕があるのなら、救えない事もないでしょう」
そう言って微笑みかけるライダーの妙な自信。
しかし、それは、天才である彼がゆえの自信であった。
才能がないゆえに自信がなかったのぞみとは、やはり正反対だ。
「うん、ありがとう……ライダー」
のぞみも、ライダーの声を聴いていると、自然な笑顔が戻ってきた。
自信が湧いてきた、というのだろうか。
確かに、天才であるライダーに言われたのだから、自信がつかないわけがない。
「……さて、生徒が二人いて、ここに教師がいれば、今日の授業を行うには十分ですね」
さも当然のように、ライダーが言った。
この終わりに近づく世界の中で、学校にも入れないのに、三人で少し授業を行おうとしている。
この天才も――『マクシミリアン・ジーナス』さえも一緒になって。
それはまるで悪ふざけのようだったが、彼女たちが前向きに世界と向き合い、闘おうとしている証でもあった。
-
「よーし……今日の授業はりんちゃんとライダーさんと三人で、ここで行う事――――けって〜い!」
【CLASS】
ライダー
【真名】
マクシミリアン・ジーナス@超時空要塞マクロス
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷E+ 魔力E 幸運A 宝具A+
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術・儀礼呪法など大がかりな魔術は防げない。
魔力を持たず、魔力のランクもEであるマックスだが、彼の場合は天才である為、相手の魔力を見切って無効化するスキルを持っている。
騎乗:EX
騎乗の才能。
天才である彼は、全ての獣や機械を人並以上に乗りこなせる。
その操縦技能や騎乗技能は、魔術を以ても並ぶのが難しい程に緻密で、もはや人間だった者が出来る技ではない。
人並以上、を越えており、その獣や機械の性能以上の動きを天然で見せてしまう。
【保有スキル】
天才:EX
技能や技術が試される場では、初見であってもほぼ人並以上に試された行動をこなしてしまう圧倒的なセンス。あらゆるスキルがこのスキルに内包される。
元々、マックスは大抵のスキルにおいて、Bランク以上の技能を持っているが、マックスの場合、それを保有スキルとして列挙するとキリがない為、全てをこの一言で片づけている。
ただし、『狂化』のように特定のサーヴァントである事を前提としたクラススキルや、逸話・伝承によるスキルなどは全く持ち合わせていない。
あくまで、人間の天才が可能とする技術において高いランクを持っているという事であり、『皇帝特権』を常に使えるのと同義と考えて良い。
【宝具】
『蒼茫に溶ける青き女神(VF-1 バルキリー)』
ランク:A+ 種別:対機・対城宝具 レンジ:不明 最大捕捉:不明
マクシミリアン・ジーナスが搭乗していたとされる変形機構を持つ戦闘機。彼の搭乗機のカラーは青
後の活躍も有名であるが、マクロスワールド史の上で最も有名かつ多数の伝記映画になったA.D.2009当時のバルキリーを具現化する。
人型の「バトロイド」、戦闘機に手足の生えた「ガウォーク」、戦闘機の「ファイター」の三つの形態を持ち、それぞれに変形し、適切な戦闘手段を取る。
天才とはいえ生身での身体能力は超人レベルには敵わないマックスは、この宝具によって戦力差を埋めるが、マックスの技巧はこの宝具を性能以上に引き出してしまう。
仮に他者が同様の戦闘機を用いたとしても、マックスほど巧みに操縦する事は不可能。
その為、「A+」という高いランクは、「マックスが操縦したバルキリー」に与えられる物であり、通常はこんな高ランクではない。
『スカル小隊』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:不明 最大捕捉:不明
マクシミリアン・ジーナスがこの時代に所属していたとされる、VF-1 バルキリーを駆る小隊。
マックスの他には、リーダーにあたるロイ・フォッカー、伝説のアイドルとのスキャンダルで有名な一条輝、そして、有名な戦死を遂げた柿崎速雄の三名が所属する。
発動により、この三名の英霊を英霊の座から呼び寄せ、一時的に戦闘に加勢させるのが聖杯戦争におけるこの名の宝具の効果である。
ちなみに、この宝具は、当時と同様の陣形を再現する事から、あくまで隊の指揮権はマックスではなく、ロイ・フォッカーに委ねられる。
また、計4機のVF-1 バルキリーの為に必要な魔力は、呼び出した個々の英霊で多少賄う事も出来るが、やはり負担は大きいので、一条輝と柿崎速雄のみを呼び出す形での戦闘も有効手。
その場合のリーダーは、伝説では一条輝であるという説と、マクシミリアン・ジーナスであるという説が混在しており、どちらをリーダーとする陣形も可能とする。
ただし、VF-1と共に出現する為、マックスが『蒼茫に溶ける青き女神(VF-1 バルキリー)』を使用している状況でなければ発動できず、これらの英霊が既に場に存在する時には宝具の発動は封印されてしまう。
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【weapon】
なし。
【人物背景】
バルキリースカル小隊のパイロット。愛称は「マックス」。
一条輝少尉の部下として、柿崎速雄と共にロイ・フォッカー率いるスカル隊に配属された。
その並外れた操縦技能は、「天才」と呼ばれるに相応しく、操縦以外にも料理や恋愛やゲームなど、なんでも人並以上にこなしてしまう。
その上に美男子と来ており、この容姿は、「天才」であるが故に、年月を経ても全く老けない。
敵軍メルトランディのエースパイロットであるミリアとは星間結婚を果たし、後に多くの子を設けている。
この後、第37次超長距離移民船団旗艦マクロス7船団長兼バトル7艦長に昇格しているが、あくまで前線で活動していた現役時代の肉体の影響が強く、現在の外見年齢は16歳〜18歳程度である。
精神的には成熟している部分もあり、マクロスサーガについても詳しく知っている部分がある模様。
【サーヴァントとしての願い】
のぞみと共に、この世界を救う事。
【基本戦術、方針、運用法】
マックスは天才なので、直接戦闘に持ち込まれて強力な宝具で殺されない限りは、大抵何とかなる。
パラメーターは低いが、実際は技巧と宝具で全部カバーできてしまうので、これは心配ない。
ただし、マックスは天才ゆえに周囲に気が回らない事があるので、護衛の能力は少し危険かも。
それこそ、マスターが狙われればアウトになる可能性もある。
マックスを上手に運用するというよりも、マスター自身が自分の身を上手く守っていかなければならない。
それさえできれば、彼はパラメーターの低さに反して、最強のサーヴァントとなりうるだろう。
【マスター】
夢原のぞみ@Yes!プリキュア5
【マスターとしての願い】
世界の消滅を止める事。
【weapon】
なし。
【能力・技能】
伝説の戦士プリキュアとなる才能を秘めている。
しかし、異世界からやって来る妖精たちに出会わなかった彼女は、その才能を開花しなかった。
ドジで勉強も運動も苦手。長所はないし、趣味や夢はない。
ただ、底なしに明るく、強い意志だけを持っている。
【人物背景】
サンクルミエール学園に通う中学2年生。
ある世界では、大いなる希望の力キュアドリームに覚醒する筈の少女。
しかし、この世界では、プリキュアにはなっていない為、夏木りん以外の主要キャラとは親しい関係になっていない。
それでもプリキュアになってないだけで、性格や内面はほぼ同じ。
何の才能も持たない事にコンプレックスを抱く、普通の女の子である。
合言葉は「けって〜い!」。
【方針】
世界を救う為に、聖杯がほしい。
ただ、きっと同じ目標を持つ人たちがいるはず。
ライダーさんと一緒にがんばって聖杯を手に入れちゃおう!
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以上で投下終了です。
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投下させていただきます
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駆紋戒斗は、強さを渇望する男である。
幼い頃、彼の父が経営していた工場は大企業の強引な土地買収で失われた。
その時彼は、弱者が強者に虐げられるのが世の中だと理解した。
両親が死にこの地の親戚に引き取られてから、戒斗はそんな世界に抗うために強者になることを目指した。
だがそんな彼の生き方をあざ笑うかのように、世界は崩壊を始めた。
世界中の人間が手を尽くしてもどうにも出来ない事態の前では、強くなろうと努力し続けた戒斗であっても全くの無力であった。
彼はただただ、苛立ちを募らせ続けた。
そんな中、彼の舎弟のひとりが奇妙な噂話を仕入れてきた。
どんな願いでも叶える不思議な宝物、聖杯。それが地球最後の地となった日本に現れるというのだ。
平時の戒斗ならば、ただの与太話とまったく意に介さなかったであろう。
だが今は、まったく理解の及ばない現象で地球が消滅し続けているまっただ中だ。
どんな荒唐無稽なことが起きても、おかしくはない。
戒斗は舎弟を総動員し、聖杯について調べた。
そしてついに、その参加資格を手に入れた。
-
◆ ◆ ◆
街の外れで起きた廃屋の倒壊は、一時的に街の住人の注目を集めた。
だがすぐに、人々はその件から興味を失った。
今はそれよりも、残された時間を有意義に過ごす方が大切だと考えたからだ。
警察すらもろくに調べることはせず、倒壊の原因は不明のままとなった。
当事者を除いては。
「すさまじいものだな、英霊の力というのは」
高台からがれきの山となった廃屋を見下ろしつつ、戒斗は呟く。
その傍らには、うつろな目の青年が佇んでいた。
彼こそが、戒斗の召喚したサーヴァント。
廃屋の倒壊は、戒斗が彼の実力を確かめるために行わせたことなのだ。
結果として青年は、斧による一撃だけで廃屋を粉砕して見せた。
「…………」
青年は言葉を発しない。
なぜなら、彼のクラスはバーサーカーだからだ。
強大な力と引き替えに知性を奪われる、それがバーサーカーだ。
高ランクの狂化スキルを持って現界した彼は、完全に言語機能を失っていた。
「赤の他人に力を借りて戦うというのは気に入らないが、この際仕方あるまい。
俺は必ず、聖杯戦争を勝ち残る。そして、世界を……!」
戒斗は、固く拳を握りしめる。
舎弟たちには、自分が聖杯を手にした時は「世界を作り直す」としか伝えていない。
だがそれは、世界を滅びる前の状態に戻すということではない。
弱者が強者に虐げられることのない、新たな世界を作り上げる。
それが戒斗の願いであった。
「お前も感じているか、バーサーカー。具体的に何かがあったわけではないが、なんとなくわかる。
おそらく、聖杯戦争に参加する全てのサーヴァントは出揃った。
もうじき、本格的な戦いが始まる。俺たちも、いつでも戦えるようにしておかねばな」
きびすを返し、その場を去る戒斗。バーサーカーも、無言でそれに続いた。
◆ ◆ ◆
戒斗は知らない。
バーサーカーが、一時的に暴走してしまった逸話をもとに現界していることを。
破壊しかできぬ現在の姿は、彼の本質とはかけ離れたものであることを。
バーサーカー……火野映司の本来のありように戒斗が気づくには、あまりに時間が足りなかった。
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【クラス】バーサーカー
【真名】火野映司
【出典】仮面ライダーOOO/オーズ
【属性】中立・狂
【パラメーター】筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:D 幸運:D 宝具:A
【クラススキル】
狂化:B
理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。
身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。
ランクが上がるごとに上昇するステータスの種類が増え、Bランク以上だと全能力が上昇するが、理性の大半を奪われる。
【保有スキル】
千里眼:C
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。ランクが高くなると、透視、未来視さえ可能になる。
単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
マスターを失っても、Bランクならば2日は現界可能。
【宝具】
『調和乱れし三色の欲望(タトバコンボ)』
ランク:B 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
「タカ」「トラ」「バッタ」のコアメダルにより、バーサーカーが変身した姿。
変身中は筋力・耐久・敏捷がそれぞれ1ランク上昇する。
本来の火野映司ならばメダルの組み合わせにより多種多様な姿に変身できるが、
バーサーカーとして召喚させた現状ではこの姿と下記の「破壊もたらす紫の欲望」にしか変身できない。
『破壊もたらす紫の欲望(プトティラコンボ)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
「プテラ」「トリケラ」「ティラノ」のコアメダルにより、バーサーカーが変身した姿。
変身中は筋力・耐久・敏捷がそれぞれ2ランク上昇する。
また冷気を操る能力が身につき、翼やしっぽを活用した野性的な戦闘スタイルとなる。
『破滅もたらす幻の獣(ダイナソーグリード)』
ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身)
恐竜メダルの力に肉体を支配された、上記二つとは異質の変身。
欲望の怪物・グリードと化し、外見は白骨化した恐竜のような異形となっている。
変身中は筋力・耐久・敏捷がそれぞれ1ランク上昇。また、狂化スキルもAに上昇する。
「破壊もたらす紫の欲望」と同様に冷気を操る他、触れたものを消滅させる「無の波動」を放つことができる。
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【weapon】
○オーズドライバー
仮面ライダーオーズの変身ベルト。
三つの穴にそれぞれ対応するコアメダルをはめ込むことで、メダルに合わせた姿に変身する。
本来メダルは手動でセットするが、今回の召喚にあたってはバーサーカーの意思により
自動でメダルがセットされるように調整されている。
○メダガブリュー
恐竜メダルの力により、地面より生成される武器。
「アックスモード」と「バズーカモード」の二つの形態を持つ。
バズーカモードはプトティラコンボに変身した時のみ使用可能。
なお唯一コアメダルを破壊できる武器であるという逸話から、
攻撃対象の神秘性が高いほど破壊力が増すという能力を得ている。
【人物背景】
仮面ライダーオーズとなり、欲望を糧とする怪物・グリードと戦った青年。
かつて体験した悲劇のために自分の命や欲望に対して無頓着になっており、過剰なまでの自己犠牲精神を持つ。
その精神の空白のため破壊欲求を司る恐竜メダルを埋め込まれ、徐々に肉体がグリードへと変貌していってしまう。
最終的に彼は恐竜メダルの破壊に成功して人間に戻ったが、
今回はバーサーカーとして召喚されたことで最もグリード化が進行した状態で現界している。
今の彼に人類の自由と平和を守る仮面ライダーとしての精神はなく、ただ破壊衝動があるのみである。
【サーヴァントとしての願い】
狂化しているため不明。
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【マスター】駆紋戒斗
【出典】仮面ライダー鎧武
【マスターとしての願い】
弱者が強者に虐げられない、新世界の創造。
【weapon】
○トランプ
どこにでもある、市販のトランプ。
戒斗はたまに、これを投擲武器として使う。
【能力・技能】
○カリスマ
おのれの信念に忠実なその生き方は反発する者も多いが、引きつけられる者も多い。
また、集団を統率する能力にも長ける。
【人物背景】
幼少期の体験により、強者に支配される世界を変えるための強さを求めるようになった青年。
本来の世界では仮面ライダーバロンとなっておのれの目的のために戦い続け、
最後には戦友にして宿敵である葛葉紘太との一騎打ちに敗れ命を落とした。
この世界では両親の死後に舞台となる街へ移り住み、そのまま現在までいたっている。
そのため、仮面ライダーバロンにはなっていない。
【方針】
聖杯狙い。
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投下終了です
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投下します
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こんな日常、誰が望んだって言うのよ。
■――――――――――――――――――――――――――
テレビから聞こえるニュースは今日も街が消えたことを報道している。
いつからこんな現象が起きているかはもう覚えていない。ただ、突然だったことだけは覚えている。
あれはそう、雪が降っていた日だった。
部室から出た私達は一緒に帰った。そんな雪の日。
家についてから何だが妙な感覚に襲われたような気がしないでもない。
心が何かに引っ張られるような、胸が苦しくなる感覚だった。
あの時は風邪だと思っていたけど、もしかしたら私は世界で唯一、予兆を感じていたのかもしれない。
今になってはもう、どうでも良い話だけど。
世界が消えて行く。
映画のお話なら銀河を揺るがす大事件になってたと思う。
でも、現実の問題なら誰もが望んでいない最悪の未来しか訪れない。
救世主がいればきっと世界の消滅は止められるだろう。
でも、世界は消え過ぎてしまった。亡くなった世界の数より何倍もの人が死んでいる。
私が知るのは報道だけ。
音や文章だけでしか――世界の現実を知ることが出来ない。
知りたい。
この世界が今、どうなっているか。私はそれを知りたい。
-
残された時間が少ないのは解っている。
もう生きている世界はこの街しかないのは誰もが知っている。
外を歩けば、毎日に怯えている人が暗そうに歩いている。
横を見れば最期の人生を謳歌するために、やりたい放題遊んでいる人もいる。
全てが嫌になって犯罪に手を染めている人だって少なくない。
日常は簡単に壊れた。
私達が普段何気なく過ごしていたあの時間はもう、戻らない。
私は心の中で刺激を求めていた。
溢れている平穏な日々では無くて、何処か非日常を感じさせる特別を。
だから世界が消失していくこの現実は私にとって――。
「あとどれくらい……生きれるのかしら」
最悪だった。
カーテンの隙間から入る朝日を気持ちよく感じない。
瞳をこすっても気分は晴れず、いっそのこと夢だったらいいのに。なんて、どれだけ思ったんだろう。
覚めても覚めても。この世界は崩壞を止めない。
世界は五日しか保たない。
それ以降は形成を留めることが出来なくなって本当に終わってしまう。
だから、私達に残された時間は本当にちっぽけでしかない。
でも、それを認識出来ているだけ幸せなんだろう。
-
聖杯戦争。こんな非日常を日常に戻すための最終手段を私は知った。
「どれくらいねえ……おじさん達が生き残ればマスターの思うがままさ」
背もたれを正面に携え椅子に座ったランサーが笑みを含めて反応してくれる。
図書室にあった本を持ち出した私は、何を思ったかグラウンドに魔法陣を描き始めた。
悪魔や天使を召喚したいと思って、昔にネットや本を漁っていた経験が役に立ったのかもしれない。
聖杯戦争のことなんて知らなかった。
けど、「私は今、やることがある」そんな風に誰かが言った気がした。
本能が赴くままに魔法陣を描き上げた私は本を媒介にランサーを召喚した。
手にとったのはこれも、偶然。
誰かが仕組んでいた。なんて言われたら信じちゃうぐらい偶然だった。
「私は前の世界が退屈だった。もっと楽しいことが起きればいいってずっと、ずっと思ってた」
「そうかい」
「だから初めて何処かの街が消えた時。ドン引きだったけど、少しだけ興奮してた」
「はは、正直だなあ」
「でも、私は――」
言葉が詰まっちゃった。
言うことは決まってる。だから、少しした後に私は言った。
「こんな世界は嫌だ。私はまだ……みんなと一緒にいたい」
どれだけ退屈な時間だろうと、もう我儘を言わないで我慢する。
遅刻するメンバーがいても許す。笑って、だから嫌だ。
まだ、思い出は完成していないから。
-
私の言葉を聞いたランサーの表情は笑顔だった。
でも馬鹿にしている訳ではなくて、その瞳はとても暖かい。
英霊。
達観しているというか、一緒にいると自然と落ち着く。
世界がこんな状況じゃ無ければ、もっと騒いでいたと思う。
だって歴史上の人物が目の前にいるんだから。
でも。
私がしっかりしなくちゃ。世界が滅んでしまう。
「おじさんはいいマスターに喚ばれたみたいだ。
いいぜ、俺の力を全部あんたのために捧げてやる。
誰かを殺すためじゃない。誰かを守るためなら俺はあんたの命令で死んでもいいぐらいだ」
ちらっと見えた歯。
にしし、と笑っているランサーは頼りなさそうに見える。
だけど、確証も根拠も無いけど絶対に負けない自信があった。
だって私のサーヴァントだから。
あの涼宮ハルヒのサーヴァントなんだから、そこら辺の参加者に負ける訳ないじゃない。
――そうやって自分を奮い立たせる。
「ありがとう……聖杯は絶対に手に入れる。巫山戯た人に渡しちゃダメ。世界を、救うの」
まるで伝説の勇者みたいだ。
そのとおり。勝手に背負った使命は大きい。その重圧に潰されそうになる。
でも、絶対に逃げない。
私はまだ。この世界で楽しみたいから。
「もしもしキョン? 今すぐ学校に来なさい――何って今日もみんなで遊ぶにきまっているじゃない!
……え? こんな時に遊ぶのかって……当たり前じゃな――え、あぁそう……解ってるなら早く来なさい!」
だから、今日も私は残された少ない時間を謳歌する。
――――――――――――――――――――――――――■
まさに命がけで世界を救うんだな。いいぜ、やってやるよ。
-
【マスター】
涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱
【マスターとしての願い】
世界の消失を止める。
【weapon】
――
【能力・技能】
彼女が持ち合わせている不思議な力は次のとおり。
◯自分の都合の良いように周囲の環境情報を操作する力
◯何もないところから情報を生み出す力
聖杯戦争ではどのように発現するかは不明だが、現状として世界の崩壞を止められていない。
また、閉鎖空間の発生が確認されている。
【人物背景】
県立北高校1年5組SOS団団長涼宮ハルヒ。彼女を知らない人間は学校にいない程の有名人。
性格以外欠点は無いと言われているほどの美貌とスタイルを誇るが……。
唯我独尊・傍若無人・猪突猛進かつ極端な負けず嫌いであり、それが原因となって色んな意味で有名人である。
平凡な世界に退屈していた。
けれど、今の世界は彼女が望んた世界では無かった。
【方針】
あの日常を守るために、聖杯を手に入れる。
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【クラス】
ランサー
【真名】
ヘクトール@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力B 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運B 宝具B
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
軍略:C
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
友誼の証明:C
優しい人間は心を固く閉ざした相手にたいしても、歩みを止めない。
ランサーの人の良さは例え敵だろうとその心を掌握する。対峙した相手の筋力及び敏捷を一段階低下させる。
仕切り直し:B
窮地から離脱する能力。
不利な状況から脱出する方法を瞬時に思い付くことができる。
加えて逃走に専念する場合、相手の追跡判定にペナルティを与える。
【宝具】
『不毀の極槍(ドゥリンダナ・ピルム)』
ランク:A 種別:対軍宝具
世界のあらゆる物を貫くと讃えられる槍。後に槍としての機能は失われ、ローランの使う絶世剣デュランダルとなる。
ヘクトールは剣の柄を伸ばして槍として投擲することを好んだため、槍の形状をとっている。
真名開放の際は、投擲の構えに入ると同時に籠手を着けた右腕から噴射炎のようなものが発生し、そこから擲たれて着弾する。
『伝承の聖剣(ドゥリンダナ・デュランダル)』
ランク:A 種別:対軍宝具
世界のあらゆる物を斬り裂くと讃えられる剣。上記の槍がヘクトールの手を離れローランが嘗て使用した剣。
何かしら理由ので上記宝具が破壊された場合、奇跡の宝具として発動する。
真命を開放した場合、黄金の刀身は更に輝きを増し、ありとあらゆる現象を含め、全て斬り裂くと言われている。
【人物背景】
兜輝くヘクトール』と讃えられたトロイアの王子であり、トロイア戦争においてトロイア防衛の総大将を務めた大英雄。
軍略・武勇・政治の全てに秀でた将軍。
老いた父王に代わりトロイア陣営をまとめ上げ、卓越した籠城戦を展開して圧倒的な兵力差を誇るアカイア軍を一時は敗走寸前にまで追い込んだが、
アキレウスの参戦によって形勢は傾いていく。
アキレウスを挑発しつつ時に逃げ、時に戦いを繰り返し持ちこたえていた。しかし、『宙駆ける星の穂先』を用いた一騎打ちを挑まれ、
「アキレウスを倒せるかもしれない」という誘惑に負け応じてしまい、不死性を捨ててなお最強であったアキレウスに敗れ去る。
彼の死後、トロイアは加速度的に崩壊していき、遂には「トロイの木馬」によって陥落した。
【サーヴァントとしての願い】
マスターに捧げる。
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投下を終了します
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投下します。
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友達がいた。
気が弱くてどんくさく、とにかく要領の悪いやつだった。
敬語が苦手で余計に考え込む面倒くさい性格をしていて、けれどいざという時は誰よりも優しい女の子。
中学校に上がって、新しい出会いがあって、それでもなんとなくだらだらと付き合いが続いて、
高校、大学と一緒に過ごし、大人になってからも腐れ縁の友達でいるものだと疑いもしなかった。
それが間違いだったのかもしれないと初めて気付いた時、
あれほど一緒に過ごした友達の背中は、もう届かないところに行ってしまっていた。
あいつは要領が悪いから――自分がいなければ何もできないと、そう思っていた。
でも、自分の前から去っていったのはあいつの方だった。
自分が握り締めていた手を離すまでもなく、手は、あっちから離された。
「はぁ」
漏れる、吐息。
そういえばあいつは、星が好きなやつだった。
小高い丘の上から日が落ちかけた空をぼんやり見上げて思い出す。
灰色の空に星はない。あの日、あの時から、青空というものは地球から失われてしまった。
空だけではない。
そう遠くない時間の後に、すべてが消えてなくなるらしい。
らしい、というのは、未だに私が現実を受け止められていないからだ。
「弱いなあ……私」
世界が滅ぶ?
星が終わる?
人が消える?
……そんなの、知ったことじゃない。
私は、身の回りの悩みのことで手一杯なんだから。
そんなことに気を回している余裕なんて、とてもじゃないけどないんだよ。
いくら悪態をついても、誰も待ってはくれない。
世界は、時間は、私を放ったらかしにしたまま終わっていく。
星が好きだったあいつは、自分の住む星の終わりを、どんな気持ちで見つめているんだろう。
考えたくなかった。あの子も他の奴らと同じかもしれないと考えたら、それだけで叫び出しそうになる。
私はあいつに、落ち着いていてほしくない。
私はあいつに、泣いていてほしい。
最低の考えだと思うけど、もしもあいつが皆と同じように落ち着いた気持ちで、
何も怖がらないで終わりを受け入れていたら――嫌でも私は、答えにたどり着いてしまう。
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私がついていないとダメだと決め付けて、
友達として付き合っていた時間の全てが、私の独りよがりでしかなかったという「答え」に。
「ねえ、私さ……どうすればいいと思う?」
丘の上で空を見ているのは、私だけじゃない。
思わず二度見してしまうような派手な格好をした、あいつと同じ色の髪をした女の子。
いや……少し濃いかな。それに性格も、あいつとは全然似ても似つかない。
「ねえ、ライダー」
「知らないわよ、そんなこと」
問いかける言葉は、にべもなく切り捨てられた。
日常のまま終わろうとする世界にやっと現れた非日常も、やっぱり都合よく答えを与えちゃくれない。
「あんたの問題は、あんたが解決しなさいな。私が手伝ってあげられるのは荒事だけよ、マスター」
「……そっか。ごめん、ライダー」
「あーもう、面倒臭い子ねぇ」
ライダーはやきもきするように、頭をぼりぼりと掻く。
見た目はアイドルのように可愛いけど、この人は結構女子力ってやつに乏しい性格をしていた。
「決めるのはあんた、戦うのは私。あんたの世界がどうなろうと、別に私の世界がどうなるわけじゃないわ。
言い方を悪くすればどっちでもいいのよ。私はサーヴァントなんだから、マスターに従うのは当然だしね」
聖杯戦争、それが私の前にやって来た非日常の名前。
七騎のサーヴァントによる戦いの末に現れるという聖杯でなら、世界が救えるかもしれないらしい。
目の前にいる彼女は、ライダーのサーヴァント。真名を、蛇崩乃音。
知らない名前だったけど、別な世界の英雄や偉人らしいしそれも当然か、と納得した。
私は何も知らない。ライダーが強いのか弱いのかも、まだ戦ったことがない今ではさっぱりだ。
「でも、あんたが望む通りの働きはきっちりしてあげる。
世界を救うにしろ、聖杯を壊すにしろ、ちゃんと期待された分は働いたげる。
だから……もうちょっとどっしり構えなさい。そんなんじゃ、勝てる勝負も勝てないわよ」
「はは……ありがと、ライダー」
私はまだ迷ってる。
聖杯を使うことは正しいことなのか、
それとも、やっぱり間違っているのか、いまだに決めかねてる。
でも、この戦いを諦めることだけは――嫌だ。
ついこの前まで笑い合ってた友達に会いに行く勇気さえない弱虫な私でも、
おもいっきりまっすぐに、この聖杯戦争にぶつかっていけたなら。
きっと、仲直りの勇気くらいは出ると思うから。
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【クラス】
ライダー
【真名】
蛇崩乃音@キルラキル
【パラメーター】
筋力D 耐久C 敏捷A 魔力B 幸運B 宝具B+
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
騎乗:A-
乗り物は人並み程度のものしか乗りこなせない。
だが彼女は自身の宝具である極制服の超常的な特性を我が物としている為、このランクとなった。
対魔力:D
一工程による魔術行使を無効化する。
魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
【保有スキル】
忠義の柱:A
信じたただ一人の主へ誓った固い忠誠。
主以外が発する「カリスマ」の効果を無効化し、いかなる場面においても精神的屈服を喫することがない。
余談だが、彼女以外にこのスキルを持つ者は少なくともその同胞に三人存在おり、他三人はA+の最高ランクである。
しかしライダーは主――鬼龍院皐月の部下ではなく、「理解者」となることを望んだ為、このランクとなっている。
勇猛(音):C
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
本来は格闘ダメージを向上させる効果を生むスキルだが、彼女の場合は極制服の性能が上昇する。
吹奏楽部:A
吹奏楽のジャンルに部類される楽器を十全に扱いこなすこと。
Aランクは部長クラスの奏者を意味し、配下として極制服で武装を施したマーチングバンド隊員を呼び出し、使役することが可能。
隊員の戦力は総じて低いが、それだけに魔力消費が小さくて済む利点を持つ。
【宝具】
『極星・奏ノ装』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:1000人
ライダーが着用する三つ星極制服。奏の装・グラーヴェ。
物質化した音符による弾幕攻撃や牽制攻撃、接近する相手にはスピーカーから重低音を利用した破壊音波を発生させて退けるなどオールラウンダーな立ち回りをすることができる。
彼女のモチベーションに合わせて曲や攻撃がエスカレートしていき、それにつれて「ブレスト」へ変形する。
変形形態には他にも「ダ・カーポ」「奏の装・改」があり、後者を使用するためには魔力の消費が必要。
『極星・最終奏装』
ランク:B+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:1000人
前述の第一宝具である三つ星極制服の、最終形態たる姿。
火力、速度を初めとした各性能が段違いにまで向上しており、最終楽章の名に恥じない猛威を奮う。当然、魔力消費の度合いも上がっているため注意が必要。
宝具開放には令呪一画の使用が不可欠で、使用後は元の極制服に戻すことは不可能となる。
開放後、更に令呪を用いてブーストすることで宝具の性能を増幅できる。
【人物背景】
本能字学園文化部統括委員長。鬼龍院皐月に仕える、本能字学園四天王の一人。
皐月との間柄は幼稚園からの幼なじみであり、四天王の中で付き合いが断トツで古いため彼女の心情を一番理解していると自負する。
鷹飛舎幼稚園に通っていた頃、多くの男子たちを虜にしていたが「幼なじみ」である皐月には対等に接していた。砂の城で遊んでいた際、皐月に砂の城とREVOCSコーポレーションのタワーを比較された乃音が「どんなビルでもいつかは壊れる」と言った返答として皐月が発した「何人にも永劫に壊されることのない城を自身の心に作る」という決意に感銘を受け、「自分だけは常に皐月と同じ目線でいる」という執着心を胸に秘めている。
【サーヴァントとしての願い】
聖杯に託す願いはないので、とりあえず世界を救うつもりでいる。
しかしあくまでサーヴァントとして、マスターのあおいの決断に従うつもり。
【マスター】
あおい@放課後のプレアデス
【マスターとしての願い】
迷い。運命を覆すべきなのか、受け入れるべきなのか。
【weapon】
なし。
【能力・技能】
後にドライブシャフトの魔法使いとなる――はずだった少女。
この時点ではプレアデス星人に出会うこともなく、日常を過ごしていた。
【人物背景】
進学先の別れた友人のことで鬱屈としたものを抱えている。
世界の終焉を受け入れるべきかどうかで迷っているが、聖杯戦争のことは受け止めた上で理解している。
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投下終了です。
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続けて投下します。
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男の故郷は寒い国だった。
職業は作家。
とはいっても、別に売れているわけじゃない。
年がら年中、見飽きた書斎に籠もってキーボードを叩く。
たまに同じ仕事仲間と飲みに行ったりする以外には外にも出ない毎日。
別に、熱意があってこの仕事を選んだのではなかった。
頭も悪い、運動神経もない、けれど空想することだけは得意だった。
だからペンを執った。いつしかペンはマウスとキーボードに変わっていたが、文を綴れるなら違いはない。
ひとり黙々と、空想を描き出す。
楽しくて、面白い、子供向けの幻想童話――金も殺しも、泥のような三角関係もない優しい世界の夢を。
作品を書き上げたときの達成感よりも、
なんともいえない虚しさが勝るようになったのはいつからだったろう。
結局のところ、頭じゃわかっているのだ。
自分は別に、熱意やこだわりがあって物を書いているわけじゃない。
ただ逃げているだけだ。
大人になりきれず、子供の日の夢にすがっている。
子供に夢を与えると嘯く度、注がれる哀れみの視線に気づかないふりをし続けていた。
分かったところで変えられるものでもない。
そうわかっていても、一度気付いてしまえば止められない。
やきもきとした想いが汚泥のように積もっていく。
カーテンも開けずにキーを叩き続けるだけの日々が、何週間か続いた。
そんな毎日に終わりを告げたのは、とあるニュースだった。
どこかの国、水平線の果てから終わりがやってきた。
空が昏い色に染め上げられ、破滅のバックスペースキーが常に長押しされている。
ワードパッドの文字に、自分が消されるのを防ぐすべはない。
それどころか、それに恐怖して喚き散らすようなこともできない。そもそも、そういう概念がない。
破滅に直面した人類は――"そう"なっていた。
作家なんて職業に、まともな奴はいない。
父親から酔いに任せて吐かれた暴言だったが、その通りなのだと直感した。
自分だけが普通だった。
怖い、死にたくない、まだ終わりたくない。
当たり前の感情で、頭を抱えていた。
ただ、やがてそれは――ひとつの勇気に変わる。
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家族さえ入ってこない自分の城。書斎。
そこに踏み入ってきたのは、美しい青年だった。
今まで山程書いてきた空想の世界の住人のように、
澄んだ瞳と輝く髪と、話す者の心を優しく包む穏やかな声。
話のうまい男だった。彼が持ち込んだとある戦いの話――それは紛れもなく、作家が心から待ち望んでいたもの。
すなわち、自分でもヒーローになれる非日常。
世界の救済を掲げて、人ならざる剣士とともに戦場を駆ける。
不謹慎ながら、夢のようだと思った。
心が躍った。彼の手を掴んで、自分にやらせてくれと懇願した。
そうして赴いたのは、地球最後の地となる島国。
未だかつてない希望に満ち溢れた心で異国の地を踏んだのが、つい数時間前。
そして、今――それが本当にただの夢でしかなかったのだと、身をもって思い知らされている。
「■■■■■■」
振るわれる異形の触手。
それが、麗しき戦士の剣を簡単に跳ね除ける。
反撃しようとした瞬間、背後へ回り込まれ、ただの一撃で弾き飛ばされる。
まるでスーパーボールか何かを見ているようだった。
オーロラのような輝きを見せる鎧は今や土と埃で汚れ、大きな亀裂が入って見る影もない。
「■■■■」
光の一閃が、より禍々しい光で弾かれる。
あれほど綺麗に聞こえた声は、ただの悲鳴と呻き声だけになっていた。
「■■■」
話が違う。
話が違う!
彼……セイバーは、自分を最強のクラスだと呼んでいた。
「■■」
なのに、今のこの有様はなんだ?
一太刀も浴びせられない。
それどころか、相手の攻撃さえろくに見えていない。
こんな有様で――いったい何を救えるという? 何を成せるというのだ?
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歯の根が合わない。
道理が通らない。
お前、最強と言ったじゃないか。
一緒に世界を救おうなんて、どの口で言ったんだ。
私は――私はお前を信じて、こんなところまでやって来たのに!
「 殺 す 」
バーサーカーの、底冷えするような声が響く。
それはまさに、地の底から響く音色だった。
湧き上がりかけた怒りが、瞬時に絶対零度の風にさらされて鎮火していく。
鎮火するどころか、炎の形を保ったまま凝結して、片っ端から弾け飛んでいく。
雷にも似た魔力……によく似た光が、セイバーをひときわ強く吹き飛ばした。
それを見て、悟る。確信する。
こいつには勝てない。
何をどうやったところで、届きっこない。
セイバーもきっと、弱いサーヴァントではないんだ。
伊達に最優を名乗ったわけじゃないんだろう。
彼奴だって、きっと相当に自信があってあんなことを言ったはず。
ただ――相手が悪すぎる。
こんなものが相手なら、どんな英雄だろうとただ蹴散らされる以外に能を持たない。
「セイバーぁぁぁぁ!!」
喉を枯らす勢いで叫ぶ。
このままでは駄目だ。
このままでは、セイバーは殺される。
彼だけじゃなく、多分自分も。
令呪を使う。
令呪は単にサーヴァントを強制するだけじゃなく、力を与えることもできるらしい。
例えば、空間移動のような。
魔法としか言いようのない芸当だって可能だと、セイバーは言っていた。
だから――全力で叫ぶ! 死なないために、殺されないために、――勝つために!
「令呪をもって」
その時、視界に妙なものが入った。
セイバーと、それを痛めつけるバーサーカー。
二人の戦いとは全く別に、ひとりの女の子がいた。
白いもこもこした髪の毛を靡かせて、瓦礫の山を歩んでくる幼い娘。
-
その姿に、一瞬だけ気を取られた。
白い肌に浮かび上がる赤い紋章を見て、
ようやく、それが「マスター」の証だと気付いて。
目が合った。
赤い、赤い目をしていた。
体が動かなくなる。
まるで石になったように。
もう声も出ない。
最後、バーサーカーの放つ光がひときわ大きくなったのが見えた。
世界が光に包まれていく。
そんな光景の中で――
「ごめんね」
少女の謝罪を聞いた。
それが、最後だった。
◇◇◇
「終わったね」
少女は、瓦礫の山に立っていた。
セイバーとそのマスターは、もう影も形も残っていない。
バーサーカーの放った光が、全てを消し去ったから。
人を殺した――ことになるのだろう。
手をかけたのがバーサーカーなのは確かだが、それで免罪符になると考えるほど、彼女は幼稚ではない。
「……帰ろ、バーサーカー」
バーサーカーは低く唸り、消える。
霊体化を完了するや否や、少女は自分の胸元をぎゅっと抑えた。
はぁはぁと荒い息が漏れる。
まるで運動をした後のような疲労感だった。
バーサーカーは強い。
多分、最強だ。
そのことは今の戦いを見れば分かる。
しかし、どうも何のリスクもないというわけじゃないらしい。
前に、ゲームをしたことがある。
さわり程度のものだったが、いわゆる「最強キャラ」と呼ばれるものには、決まって弱点があるものだ。
聖杯戦争における、「最強キャラ」の弱点は……要するに、燃費の劣悪さだ。
本人に自覚はないものの、大きな魔力を保有する彼女でさえ、長期戦で運用すれば力尽きかねない。
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彼女には、難しいことは分からない。
ただ、まるっきりの馬鹿でもない。
バーサーカーをむやみに戦わせてはいけないらしいことは理解した。
疲れることは辛い。
苦しいのは、嫌だ。
でも――もっと嫌なことがある。
それを避けるためなら、少女は何だってできる。
大嫌いなことでも、……ひどいことでも、何でも。
少女の願いは、永遠だ。
永遠に、大好きな皆で一緒にいたい。
世界の終焉なんてことは、彼女にはどうでもよかった。
ただ、結果的に世界も救うことになるというだけのことだ。
自分がどういうものなのかもろくに知らないまま、少女は狂ったジャバウォックを従えて、往く。進む。
少女は知らない。
気づいていない。
気づけるわけが、ない。
彼女を守り導くジャバウォックが、何を原動力に動いているのか。
それは、憎悪。
この世で最も深い、殺意。
認められたいという感情の果て、人をやめた化物。
明日を捨てて、殺すだけを望んだ――未来なきがゆえの「最強」。
目を合わせる蛇は歩いていく。
目を増やした神も歩いていく。
永遠と刹那、交わることのない願いを胸に。
天然の超生物と人工の超生物が――カゲロウのように生きている。
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【クラス】
バーサーカー
【真名】
死神<二代目>@暗殺教室
【パラメーター】
筋力A+ 耐久C 敏捷A+++ 魔力B 幸運E 宝具A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
狂化:B
全パラメーターを1ランクアップさせるが、理性の大半を奪われる。
【保有スキル】
超生物:B+
禁断の研究の末に生み出された存在――を、殺すために改造された存在。
マッハ40での超高速移動を可能とし、対先生物質を内包した武器以外から一切の悪影響を受けない。
しかしサーヴァントの格に当て嵌められたせいか、魔力を含んだ攻撃であれば何であれ、ライダーにダメージを与えることが出来るようになっている。
オリジナルの超生物はこれに加えて脱皮機能などを保有していたが、バーサーカーはそれらを持たない。だが単純な出力のみであれば、彼は原典を凌駕する。
精神汚染:A
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。
魔力放出(偽):A
正確には反物質エネルギーに部類される力を、光として放出する。
自身の肉体にそれを帯びさせての能力向上や、そのまま光線による砲撃として利用するなど用途は多岐に渡る。
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【宝具】
『偽・融し穿つ天空の矛(フェイク・ゲイボルク・イミテーション)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~2000 最大捕捉:1人
正確にはバーサーカーではなく、その生涯最後の戦いの舞台を作り出していたもの。
月の破壊者を撃破するために人類の叡智、全ての技術を結集させた人造宝具である。
現代に生まれた科学技術の結晶であるため神秘としては極めて未熟だが、全世界中の殺意を乗せて完成した必殺必滅の一振りであるために、宝具としても上位のランクを持つ。
その逸話上、この宝具の原典である『融し穿つ天空の矛(ゲイボルク・イミテーション)』を個人の持ち物として所持するサーヴァントは存在しない。
宝具発動と同時、バーサーカーを中心として一山を覆う程の巨大な光の結界が展開される。
霊体はこの結界を通り抜けることはできず、接触と同時に肉体が崩壊、それでも無理をして通り抜けようとすれば霊核の溶解に至り、たとえサーヴァントであれども消滅を免れない。
解除条件はバーサーカーの消滅。しかし戦闘開始から90分の経過を合図として、結界と同じ要素で構成された光の柱が結界内全域を押し潰すように降り注ぐ。
この光も人間に対しては何の影響も与えないが、霊体に命中すれば即座に霊核の崩壊、消滅を招く。当然、このタイムリミットが訪れればバーサーカーも確実に消滅することになるだろう。
90分のタイムリミットは、令呪三画の使用によって残り数分単位にまで縮めることが可能である。
『沸騰せよ、我が憎悪(アンチマター・オルタレイション)』
ランク:E 種別:対人宝具(自身) レンジ:- 最大捕捉:-
バーサーカーの根幹にある憎悪を最大限まで増幅させ、狂化ランクを強引に引き上げ、スキル「魔力放出(偽)」による出力を数段上昇させる。
この宝具を使用するにはマスターの指示が不可欠で、令呪は必要としないものの、一度発動すれば只でさえ劣悪な魔力消費は更に膨れ上がっていく。
バーサーカーは長期運用を考えずに生み出された存在であるため、元の状態へ戻すことも不可能。
【人物背景】
最強の呼び名をほしいままにした殺し屋「死神」の弟子であり、成れの果て。
初代を超えることを目的に作り上げられた兵器で、長期運用を考えず、寿命を犠牲とした設計になっている。
彼の行動原理は初代「死神」への憎悪。聖杯に懸ける望みも、ただそれだけである。
非常に強力なサーヴァントだが、その設計理念上、燃費はまさしく最悪。メデューサと人間のクォーターであり、巨大な魔力量を誇るマリーをしても考えなしに戦闘させれば破滅に繋がりかねない。
運用法はなるべく長期戦を避けつつ、確実に倒せる敵を倒していき、聖杯戦争の最終段階で二つの宝具を発動し、閉鎖空間内で残る全ての敵を殲滅するのが最も効果的であろう。
【サーヴァントとしての願い】
初代死神との殺し合い。
【マスター】
小桜茉莉@メカクシティアクターズ
【マスターとしての願い】
みんなと、ずっと一緒にいたい
【weapon】
なし
【能力・技能】
・『目を合わせる』能力
目を合わせた相手の動きを一定時間停止させる。
彼女の母は文字通り他人を石にできるほどの力があったが、クォーターの彼女では数分間の停止が限度。
・『目を合体させる』能力
終わらない世界、カゲロウデイズを統括する能力。
10の蛇を統括するメデューサ本来の能力で、彼女はそれを受け継いでいる。
【人物背景】
メデューサと人間のクォーターである少女。愛称はマリー。
メカクシ団・団員No.4。人形のような風貌をしており見た目も精神も幼いが、実年齢は百歳を超えている。
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投下終了です。
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お疲れ様です、投下します
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世界があと五日で消失する。
そんなことを言われても、何をすればいいかだなんて浮かぶわけもない。
そもそも何で世界が消えなくてはならないのだろうか。何て疑問が生まれるのは当然だった。
誰かが仕組んでいることは考えられなくて、きっと自然現象何だと思い込むことにした。
機械が活動を続けていればやがて停止するように世界も疲れてしまったと、自分の中で結論にした。
テレビは毎日、世界の止め方について議論している各国首脳達を映していた。
毎日毎日、解決策が出る訳でも無く罵声が飛び交っていて、自分の国しか考えていない大人たちばっかりだった。
世界が終わりを迎える時ぐらいみんな仲良くすることは出来ないのか。
本気で考える人や口に出す人もいた。そんなこと出来る筈も無いのに。
大切な世界が消えるのは悲しい。でも、自分が消えるのだって悲しいのは当たり前なんだ。
首脳達の決裂により戦争だって起きかけた。
もしかしたら報道されていないだけで、紛争を超えた何かが勃発していたのかもしれない。
世界が消失していく中、そんなことはどうでもよくなって生きている街は今、私が立っている場所だけになってしまった。
親とは連絡が取れなくなった。
海外に居たんだから無理も無い。消失に巻き込まれたのかもしれない。
でも認められなくて私は今日も電話を掛ける。
あの声を聞くまで何度でも、何度でも。
「……出ないよね」
そして今日も出ない。
わざわざ世界の隅まで届くように願掛けでビルの屋上から電話をしているけど、出ない。
肌を撫でる風が一段と冷たく感じる。
靡く髪に手を携えながら私は、フェンスに身を預けた。
「どうなっちゃうんだろ」
その答えが解れば今頃世界は困っていないのに、口から零れてしまった。
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世界は今日も廻っている。
消失が当たり前のように受け止められていて、残す街は此処だけ。
屋上から見下ろす街には人がいれど活気は感じられない。
全ての人が絶望している訳では無いけど、八割は既に生き残ることを諦めている。
無理もないと思う。私だって世界の裏側を知らなければ絶望していた自信がある。
この街は消失してしまった世界から逃げてきた人達も滞在している。
人類最期の楽園――私達が最期まで時を感じられる場所はもう一つしかない。
溢れかえった街並みは今まで訪れたどんな場所よりも色に溢れている。
活気さえ加わってくれればきっと最高の場所になったと思ってしまう。
誰もが思っている。
世界はもうお終いなんだって。
誰もが思っている。
まだ、生きていたいって。
私だって、まだまだ人生を楽しみ切れていない。
だから――聖杯戦争。
選ばれた私は、最後の希望を叶えなくちゃならない。
「見つけたあああああああああああああああああああああああああああ!!」
突然響いた男の声。
持ち主こそが私にとっての最期の希望であって、それは世界も同様だ。
聖杯戦争を勝ち抜くにはサーヴァントの力が必要不可欠だから。
私の従者――ライダーがビルの壁を駆け上がって私の所までやって来た。
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ガラスを割らないように重力だとか色々な大切なモノを無視してライダーは壁を駆け上がる。
登り切った所で屋上の縁を蹴り上げると、新体操のように空中へ身体を移動させている。
綺麗な回転を描きながら、美しい着地を決める。
私に背中を向けていたから、振り向いてサングラスを外しながら流暢な言葉が流れてくる。
「いやあ! 探しましたよマスター、美棘さん! お部屋に伺った所居なくて驚いちゃいましたよ……ん? 驚いたと言ってもタイムロスなんてありません!
瞬時にマスターが何処にいるかを察知しましたよ私は! 一秒、いや、一秒を切っていた! 世界の理に置いて大切なのは速さですからね速さァ!!
世界が消失するって時にモタモタしてられませんからなあ! いやあ〜タイムイズマネー…………まさにその通り…………美棘さん?」
「私は千棘だって何回言ったら解るのよ、ライダー」
もう一度言う。
この突然現れてよく解らないことを早口で喋ったのが私にとっての最期の希望であるサーヴァント。
私が勝たなきゃ世界はこのまま消失してしまうから、人類にとっての希望でもあるライダー。
「いやあすいません」
手を頭に置きながら笑って誤魔化す。
出会ってから何度目になるか解らないけど、もう見飽きた光景だった。
「今日もお母様に?」
「うん……でも、ダメだった」
ライダーにも言われた。
解っていても心の何処かでは願っている。みんなが生きていることを。
私には根源への到達だとか聖杯の仕組みは全然解らないし、理解しようともしていない。
ただ、願いが叶うのなら。
望みを託すことだけは解っている。私が、世界を救わなくちゃみんなが死んでしまうから。
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「じゃあ明日もまた電話をしましょう。私も街を探します」
「…………え?」
急に掛けられた言葉に戸惑って変な声が出てしまった。
ライダーは私に無駄なことをするな。と、激を飛ばさずに力になってくれると言った。
聞き間違いで無ければ、この認識であっていると思う。
「マスターは俺じゃ見付けられないと思っていますか?」
笑っていても瞳は本物だった。
とてもふわふわしていて何を考えているか解らないライダーだけど、信頼は出来る。
一緒にいると、全てを預けられそうな気がしてしまう。
でも、頼りっぱなしはいけない。私自身も前を向かないといけないから。
「ありがとう、ライダー。
じゃあ……お願い。私のお母さんを見つけて」
その言葉を聞いたライダーはフェンスを軽く飛び越えると、反対側に着地した。
サングラスを降ろして、此方に振り向くと腕を大きく広げて口を開いた。
「了解しました美棘さん! 私に任せて下さい……貴方のお母様も、世界も、ご友人も全て救ってみせましょう」
当時は解らなかったけど、私を励ましてくれていたんだと思う。
それだけを告げるとライダーはまるで翼が生えていると錯覚するぐらいの勢いで、落下しった。
本当に規格外な存在なんだ。と、サーヴァントや聖杯戦争の異常性を再認識した。
何で自分が選ばれたのかも解らない。きっと、意味があるのだろう。
それが解る日が訪れるとは限らない。
そもそも、勝ち残れる保証なんて何処にもない。
他の参加者だってきっと血に物狂いで襲ってくるだろう。
悲しいけど、誰もが明日を祈っている訳じゃ無いのは理解しているつもり。
だから。
「みんなの明日は私が守ってみせる」
誰かが見ている訳じゃないけど、私は拳を握って宣言した。
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【マスター】
桐崎千棘@ニセコイ
【マスターとしての願い】
みんなの明日を守る。
【weapon】
――
【能力・技能】
――
【人物背景】
青春真っ只中の高校生。美しいブロンドと大きめのリボンがトレードマーク。
父親がアメリカ人で母親が日本人のハーフ。ついでにマフィアのボスの娘。
明るい性格で友達も多くクラスでも人気者であるが、男勝りな性格と若干刺々しい言動から一部の男子に怖がられている。
文武両道であり弱点は料理が壊滅的に下手な点と片付けが苦手な美少女。
幼いころ、日本人の少年と「愛を永遠に」と誓い合ったことがあるらしいが、顔は覚えていない。
その時に受け取った鍵を今でも大切に持っている。
日本来てからはとあるヤクザの息子と奇妙な縁からニセモノの恋人を演じることになる。
最初は拒絶反応を示していたが、男の優しい一面に触れてからだんだんと心を開くことになる。
そしていつかは心は惹かれ続け――ニセモノの恋はホンモノになったのかもしれない。
【方針】
世界を守るために聖杯を手に入れる。
しかしまだ高校生である彼女にとって、戦争はあまりに残酷である。
落下を続けるライダーは一つ、考え事をしていた。
聖杯戦争に召喚されたからには当然のようにマスターが存在する。
彼にとっては桐崎千棘である。守る存在であり己の全てを投げ売ってでも彼女を生かそうと決意している。
そんな彼女に対して抱く疑問が一つだけあった。
『召喚されたサーヴァントは何かしらマスターとの共通点或いは類似点が在る筈だが……俺と千棘さんか』
ライダーを一言で表すならば速さである。
速さを追い続けた男は世界の時を縮めてしまいそうな程に、速さを求めている。
そんな彼と共通点を探すと言えば……簡単に絞られてしまう。
しかしマスターである桐崎千棘が速さを求めているかというと、そんな風には見えなかった。
『……ん、あれは千棘さんの恋人……役』
落下する中、ビルの中を見ると一人の男が階段を駆け上がっていた。
会話をしたことは無いが顔は知っており、マスターにとっての恋人役である男だった。
その顔は疲れており、居なくなったマスターを探し回っていたのだろう。
心優しい男は文句を云えど、一度も彼女のことを見捨てたことが無いという。
ライダーから言わせてもらえば、彼女達がニセモノの恋人であることが理解出来なかった。
始めは見せつけられているだけだと思っていたが、どうやら本当にニセモノらしい。
『速さを求めているのは……青春だなあ』
何かを勝手に結論付けたライダーの顔は笑顔だ。
今にも世界が消失を迎えている中で、この男は笑っている。
けれど。
『なら俺は最速で聖杯を手に入れて、千棘さんと世界を守る』
その瞳はホンモノである。
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【クラス】
ライダー
【真名】
ストレイト・クーガー@スクライド
【パラメーター】
筋力C 耐久D 敏捷EX 魔力D 幸運B 宝具B
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:B
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
ライダーは宝具を用いることにより、対象を自分の色に染め上げる。
【保有スキル】
仕切り直し:A
窮地から脱出する能力。
不利な状況であっても逃走に専念するのならば、相手がAランク以上の追撃能力を有さない限り逃走は判定なしで成功する。
戦闘続行:D
瀕死の傷でも長時間の戦闘を可能とする。
高速詠唱:B
魔術詠唱を早める技術。ライダーはとても早口である。
【宝具】
『求め続けた進化の先(ラディカル・グッドスピード)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人
精神官能性物質変換能力、アルター能力の一つでありライダーのそれは具現型である。
速さを求め続けた彼に呼応するべく発現した力は『車などの乗り物を自分専用の超高速仕様にアルター化させる』こと。
己の身体に掛かる負担が大きく、生前のライダーの身体は満身創痍だと言われている。
己の脚部に纏わせたり、身体を覆う鎧の精製も可能である。
【weapon】
上記の宝具。
【人物背景】
横浜で起きた大規模な隆起現象によって誕生したロストグラウンドの住人。
アルター使いで構成された組織HOLYの一員でもありその戦闘力は本物である。
嘗てはネイティブと呼ばれる治安外地域で生活をしており、生き抜く力にも長けている。
求めるものは速さであり趣味は読書。
風のように掴めない人間だが、ロクデナシでは無さそうだ。
【サーヴァントとしての願い】
最速でマスターに捧げる。
【基本戦術、方針、運用法】
基本的には宝具を利用した接近戦がメインとなる。
持ち前の速さで相手を翻弄し、知覚させることなく倒せればベストである。
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投下終了します
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皆さん投下乙です
私も投下します
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平和島静雄にとってこの街は、実に住みやすい環境だった。
正確に言えば「この現状が」そうさせているのかもしれないが、そうでなくともあの街よりかはずっと静かに過ごせるだろうことは疑いようもなかった。
喧嘩を売ってくる輩はいない。
きな臭い騒動とは無縁で、銃やら刃物やらを軽々しく所持しているような連中も今のところは見えない。
知り合いが全くいないのは少々不便だったが、そこはあの鬱陶しいノミ蟲も居ないのだからおあいこだ。
平和な街だと思う。しかし此処にもやはり、どうにも居心地の悪い空気が蔓延していた。
居心地が悪いという表現には、少しだけ語弊がある。
むしろ現実はその真逆。居心地が良すぎるのだ。どこもかしこも、あまりに穏やかな安心感に満ちている。
非日常の気配など微塵も匂わせない平和な日常が、呑気なほどのペースで流れている。
それはこの街に限らず、あの池袋も同じであった。
……思い出しただけでも吐き気がする。
常に平穏を望んでいた静雄ではあったが、あれは明らかに「違う」と分かった。
出来の悪い、ご都合主義が平然と罷り通る茶番の喜劇を見ているような気分。
知り合いの中にもその「良い空気」に揉まれ、見るも無惨に漂白されてしまった奴が居たのだから笑えない。
先ほど呑気なほどの、と評したが、実際には呑気を通り越して阿呆の域に達してさえいる。
明日自分が死ぬと知っていながら、明日の献立に頭を悩ませる人間が居たとしたら、人はそれを阿呆と笑うだろう。
それが、どうだ。池袋もこの街も、今となってはそういう人間が普通と認識されている。
二つの街に限った話ではない。全世界の人間が、世界の滅亡を差し置いて日常を楽しんでいるのだ。
人格や思想さえ捻じ曲げ、平穏の二文字にひれ伏させる、吐き気がするほどの「良い空気」。
静雄が知る限り、その影響を全く受けていない人間はただ一人であった。
――折原臨也。
平和島静雄がこの世で最も忌み嫌う、ノミのように賢しく飛び回る情報屋。
なんたる皮肉か、奴だけが思考の蕩ける平穏の中で唯一正気でいた。
二日前、往来の真ん中でエンカウントするなり苛立ち紛れに殺り合った静雄であったが、あの小癪さと聞く者の血管へ甚大なダメージを与える戯言が健在だったところを見るに、それは間違いないだろうと思う。
静雄が殺すつもりで暴力を幾度と振るってもいけしゃあしゃあと生き延びている、ただ一人の男。宿敵。
正気でいるのは単なる偶然だとばかり思っていたが、どうやらそうでもないらしいと知ったのがその日の夜。
最初へ戻ろう。
時間は流れて静雄は今、池袋から遠く離れたとある街に居る。
それこそ二日前の夜までは名前さえ聞いたことのなかった、特筆して目立つところのない街だ。
池袋ほど都会なわけではなく、かと言って別に田舎というわけでもない。まさに中くらいの発展を地で行っている。
本来であれば、わざわざ訪れることは一生なかったであろう土地。
静雄は此処に、反吐が出るほど嫌いなことをしに来た。
喧嘩よりも暴力よりもたちが悪く、本来は遠いはずの言葉。
――戦争だ。平和島静雄はこの街に、戦争をするためにやって来たのだ。
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「まあ、なんだ。悪いなお前ら。俺が資質無えせいで、弱くなっちまってんだろ?」
とはいっても、国を挙げてするような大規模なものではない。
ある意味ではそれよりずっと大規模な戦争だが、少なくとも、一個の街で収束できる程度のそれだ。
更に言うならば、実際に戦うのも静雄ではない。
彼はあくまで、従える者。柄ではないが、指揮官と呼ぶのが一番正しいであろう立ち位置に居る。
ばつが悪そうに頭を掻いて静雄が謝意を述べた相手は、髑髏の面を被った異装の集団であった。
老若男女の区別から体格、声色まで全く別種の異装が、都合数十ほど静雄の周囲に存在している。
非日常に(誠に不本意ながら)精通した静雄をしても、この光景に最初は面食らったものだ。
改めて見ても、どうしてもホラーゲームか何かのワンシーンにしか見えない。
「戦争」の仕組みについてそう深く理解しているわけではなかったが、自分にあてがわれた戦力が少々特異なものであることは静雄も薄々察していた。
実力の度合いはともかくとして、単純な兵力で言えば、静雄の従える彼らを超えるものはまず居ないだろう。
「少々地力に低下が見られるのは確かですが、この程度ならば誤差の範囲内です」
「それなら良いけどよ、あんまり無理はするんじゃねえぞ。消耗品みたく扱う気はねえからさ……、それとだ。俺が最初に言ったことは覚えてるか?」
「……ええ」
二日前。
平和島静雄は自身に備わっていたマスターの適性と、それが何を意味するのかを突如として目の前に現れた髑髏面の暗殺者から教えられた。
最初は流石に少しばかり取り乱してしまったが、暗殺者――サーヴァント・アサシンの語る内容は静雄にとって現実離れしてはいたものの、決して無視できるものではなかった。
聖杯戦争。七騎のサーヴァントと呼ばれる存在を七人のマスターが使役し、万能の願望器を巡り行う戦い。
それがこの滅び行く世界で行われようとしており、自分はそのマスターの資格を有している。
そして仮に聖杯を手にすることが叶ったならば、世界の滅亡さえも食い止めることが可能だということ。
静雄は言葉を失った。完全な理解の外側からやって来た非現実は、手土産に希望を持ってきた。
静雄は悩んだが、それも長くは続かなかった。
争いは嫌いだ。暴力など、反吐が出る。
しかしそれでも、こんな気色の悪い空気に包まれたまま世界が終わるなんてのは認められない――認めたくない。
定められた結末を変えるためには、聖杯の奇跡が必要だ。
聖杯の力だけが、この滅びへと向かう世界を救済する可能性を秘めている。
彼は戦うことを決めた。ある一つの約定を条件として、聖杯戦争の舞台に上がることを決めたのだった。
「倒すのはサーヴァントだけだ。マスターは余程のクズでもねえ限り、殺すな」
これを最初に聞いた時、アサシンは思わず言葉を失った。
それは聖杯戦争のセオリーはおろか、アサシンクラスの根底に唾を吐くような約定であったからだ。
地力で敵わないからこそマスターを中心に狙い、そうして勝ち星をあげていく。
アサシンクラスの常套戦術であるそれを、全く捨て去って臨めと、このマスターは言うのだ。
「ただ、あれだ。その辺の一般人とかガキとか、そういうのを殺して――……魂喰いだっけか? そういう胸糞の悪くなるような真似をやってる奴は関係ねえ。
折原臨也って野郎が万一出てきた場合もだ。ていうか、こいつはむしろ即殺せ」
「……心得ました。マスター」
「むず痒いから静雄でいいっての……ま、そういう訳で頼む。苦労かけるけど、よろしくな」
アサシンは当然これに反論したかった。
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したかったが、最初の静雄の「取り乱し」を思い出せば、そんなことはとても出来なかった。
思い出すと今でも首を傾げたくなる。この世のどんな魔術師でも、生身であんな真似は不可能だろう。
優に重量一トン以上はありそうな廃車を玩具のようにぶん回す光景は、一周回って壮観ですらあった。
平和島静雄はマスターの適性がある。
だがそれは、必ずしも優秀なこととイコールではない。
むしろ静雄のマスターとしての資質は、限りなく低い方と言っていい。
事実そのせいでアサシンのステータスは微量ながら低下していたが、しかし今となっては彼らは、全くそれを不利と思わなくなりつつあった。
サーヴァントとしては、確かに弱くなった。
しかしマスターが尋常ではない。明らかに人間を超えているし、もしかしなくてもサーヴァントに届いている。
サーヴァントが霊体という原則がなかったなら、ゴボウ抜きにしてしまうのではないかと思わせる程に、平和島静雄という男は強い。強すぎると言ってもいいだろう。
彼についての心配は一切していない。だからアサシン達としても、気兼ねなく戦いへ身を投じることができる。
――「池袋一名前負けした男」が、「平和」へ否を唱えた。
街を解き放たれた最強は、救うため、続けるために、大嫌いな戦いへと向かい合うことになった。
【クラス】
アサシン
【真名】
ハサン・サッバーハ@Fate/Zero
【パラメーター】
筋力:D 耐久力:D 敏捷:A 魔力:D 幸運:D 宝具:B
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
気配遮断:A+
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
-
【保有スキル】
蔵知の司書:C
多重人格による記憶の分散処理。
LUC判定に成功すると、過去に知覚した知識、情報を、
たとえ認識していなかった場合でも明確に記憶に再現できる。
専科百般:A+
多重人格の恣意的な切り替えによる専門スキルの使い分け。
戦術、学術、隠密術、暗殺術、詐術、話術、
その他総数32種類に及ぶ専業スキルについて、Bクラス以上の習熟度を発揮できる。
【宝具】
『妄想幻像(ザバーニーヤ)
ランク:B+ 種別:対人宝具(自身) レンジ:-
単一個人でありながら分割された無数の魂を持つことと、生前と異なり肉体という枷に縛られなくなったことで、根本的に霊的存在である自身のポテンシャルの分割を行い、必要に応じて別の個体として活動することを可能とする。
分身は最大八十体までで、無自覚な自我が出現する可能性も。人格それぞれに応じた身体で現界するため、老若男女、巨躯矮躯と容姿も様々なものとなるが、人種は固定されている。
自身を「分割」する為、個体数は増えても力の総量は同じ。従って分割すればするほど一個体の能力は落ちていくが、暗殺者クラスの固有スキルである「気配遮断」の恩恵は全個体が受けるため、これを最大限利用することで非常に優秀な「諜報組織」と化す。
分割されたそれぞれの個体は、各々別の存在として成立する。分割された個体が死亡すれば、その個体はアサシン全体に還元されることはなく、消滅する。
いずれかに上位の「本体」と呼べるようなものがあって下位の「分身」を生み出しているわけではなく、全てのアサシンは同位の存在である。
また、テレパシーのようなもので繋がっているということはなく、会話等の何らかの手段で伝達しなければ、持っている情報を共有はできない。
【weapon】
短刀
【人物背景】
暗殺教団の教主「山の翁」ハサン・サッバーハの十九代目、「百の貌のハサン」の異名をとる暗殺者。他の歴代ハサンとは異なり、肉体改造は施さずに「山の翁」となった異例のアサシン。
いかなる状況でも数多の才覚を発揮し「任務」を遂げてきた万能の暗殺者。
演技とは信じ難い多種多様な立ち振舞いに、老若男女ありとあらゆる変装もこなし、時と場合によって性格すらも豹変するため、真の実態は側近すらも掴めなかったとされる。
【マスター】
平和島静雄@デュラララ!!
【マスターとしての願い】
世界を存続させる
【能力・技能】
超人の域さえ通り越しかけている怪力と鋼の肉体。
自販機を軽々投げ飛ばし、サッカーボールのように乗用車を蹴り飛ばし、この世で最もしなやかな刃物であるメスが静雄の前ではへし折れる。
【人物背景】
池袋の街における、敵に回してはならないとされる人間の一人。
折原臨也の天敵であり、池袋最強の名をほしいままにする魔人めいたバーテン。
【方針】
聖杯を使うつもりでいるが、倒すのはあくまでサーヴァントだけ。
マスターを殺すことは原則許可しない。そう、原則は。
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投下終了です
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感想を投下致します。
>>松野チョロ松&キャスター(のっこちゃん)
チョロ松が勇ましくてクズ揃いの六つ子にしては新鮮だなと思って読んでいました。
最後の種明かしで、そういうことかと思わされましたね。
主従仲は(嫌でも)良好になりそうですが、同盟相手の確保が急務になりそうです。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>夢原のぞみ&ライダー(マクシミリアン・ジーナス)
プリキュアになっていない状態のプリキュア出展とは予想外でした。
しかし力はなくとも、生まれ持ったものは変わっていないようですね。
協力しての聖杯狙いということなので、頼もしい対聖杯の中核になってくれそうです。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>駆紋戒斗&バーサーカー(火野映司)
世界を救うのではなく、新世界の創造を。
そういう願いで戦う人物という選択肢も、なるほど確かにありますね。
しかし肝心な相方のことを完全に理解できていないのが不安要素かな……?
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>答えはいつも私の胸に
終わる世界で、ハルヒをマスターに選ぶというセンスにまず驚かされました。
世界を救うために戦いながらも日常を謳歌する描写が実に良いです。
ヘクトールは柔軟な動きができるサーヴァントなので、ハルヒにはよく合っているかもしれませんね。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>あおい&ライダー
世界を救うのも大事ですが、仲直りの勇気を出したいという願いが等身大で良かったです。
あおいはシャフトを手に入れていない時期ということで、マスター狙いをされると少々厳しそうとも思いましたが。
しかしサーヴァントの乃音ちゃんは本編終了後ということもあり、実に頼もしいですね。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>目/芽を潰す話
目を合わせてから潰すという、まさにタイトル通りの話でした。
二代目のスペックは非常に恐ろしいですが、後先を考えない出力なので燃費最悪というのが面白いです。
マリーがどこまで非情に徹せるかにもよりますが、全主従にとって最大級の脅威となりそうですね。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>桐崎千棘&ライダー(ストレイト・クーガー)
終わる世界の中で、誰もが明日を祈っているわけではない。
そう理解していながらも、明日を守ろうとする意思が非常に格好良かったです。
クーガー兄貴も優良なスペックと性格をしているので、頑張って欲しいところですね。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>平和島静雄&アサシン
マスターのスペックならば、静雄は本当に化物ですね。
魔術師どころか、本当に霊的干渉さえ可能ならサーヴァントさえ普通に相手できるレベルだと思います。
アサシンは人間限定の不殺を言い渡されましたが、これがどこまで響くか……
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
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投下させていただきます
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すみません、やっぱり投下を中止します。
それと報告が遅れましたが、別所でトリバレをしてしまったため、大丈夫だとは思いますが念の為にこっちへトリップを変更します。
遅くとも明後日には投下できるように改めて内容を書き直しますのでもう少々お待ちを……
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何か予定があるようですので先に投下します。
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空が消えていく。
その空を、ただ苦悩に満ちた視線で見上げる男がいた。
顔にもまた同じ表情が張り付きながら、男にとってそれは無表情と変わらない顔だった。
苦悩という事象は、とうの昔に男に張り付いたまま拭えぬものとなっているからだ。
「……救えぬ」
人が滅ぶ。星が消える。
感慨は湧かず、星の滅びに抗しようとする発想すら男には浮かばなかった。
「人は、救えぬ」
絶望からの発想ではない。
彼にとってそれは単なる事実確認。
人間は救われず、世界に救いなどない。
故に。
世界の終わりを前にして為すべきは――――
※ ※ ※
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「アラヤ」
言葉に、男は目を開いた。
アラヤ。
それは男の姓であると同時に、彼が戦い続けた怨敵の名でもある。
魔術師・荒耶宗蓮は、己がサーヴァントの姿を真正面から再度確認した。
「アサシンか」
「この世界がどういう状況か分かっておろう。
それでもやる事は変わらんのか」
「変わらぬ。
否。この世界を見て、更に想いを強くした」
道着を着た壮年の男――彼のサーヴァント、アサシンの問いに対しての答え。
そこに淀みはない。覇気もない。
ただ今まで行なってきた事を繰り返す、平坦さだけがある。
「あと数日。最後の機会に根源へ至る手段は聖杯のみ。
ならば、私はただ私の目的を為すために根源への接続を願う。
舞台が戦争であり、参加者の死で以って聖杯へ至るというのならば尚更のこと。
世界の復活など求めはせず、人の死を覆せる理由はない」
荒耶の声はただ重く、死が纏わりついた言葉は空気にさえその重圧を伝播させる。
だがアサシンは動じない。
空気だけが耐え切れなかったように、アサシンの後ろに結んだ髪を靡かせた。
「まるで人類を憎んでいるかのような物言いだな」
「この期に及んで現実から目を背け、下らぬ幻想に浸って暮らす。
一方で抑止力の一端を持ち出してまで、生存に望みを繋ごうとする。
星が滅ぶという状況に至って尚、人類は矛盾している。
人は変わらぬ。
仮に抑止力によって破滅を覆したとしても、人間はまた安寧を貪る者と命を奪われる者に分かれるのだろう。
――これを醜いと呼ばずして何と言う」
アサシンは眉をひそめる。
まるでサーヴァントが抑止力の権化と言わんばかりの物言いだった。
「儂らは聖杯に呼び出された身に過ぎんのだぞ」
「違いなどない。
人類の最期に都合よく聖杯が残っているという奇跡。
霊長の世を維持しようとする有象無象の意志が、この場を整えたに過ぎない」
完全なる平行線。議論の余地は残っていなかった。
憎しみしかない声に――けれど、その裏にあるものをアサシンを微かに感じ取ったからだ。
「確かに、儂を引き寄せたのは必然であったか」
嘆息は聞こえないような小さなもの。
その言葉にあるのは自嘲である。
かつて、似たような境地に至ったが故に。
「好きにするがいい、アラヤよ。
儂は儂なりに願いを叶えさせてもらおう」
荒耶がこの場に来てから驚いた事柄を挙げるとすれば、このアサシンの返答であろう。
人間を憎む己にサーヴァントが従うと思ってもいなかった。
令呪で意志を奪うか、或いは自害させて身一つで聖杯戦争に挑むことも已む無しと。
だがアサシンは荒耶を否定せず、姿を消した。
魔力の流れからしてそれほど離れてはいないのは間違いない。気配を消して何処かで待機しているようだ。
「…………」
しばらく思案した荒耶であったが、やがて止めた。
いずれにせよ、目指す事は代わりはしない。
ただ、根源へと至るのみ。
※ ※ ※
-
「流派……東方不敗は王者の風よ」
舞う。
住宅の上での演舞は、しかし誰にも見咎められることはなかった。
荒耶という男が齎す緊張から解放された大気の中、静かにたおやかに舞う。
生前の演舞を吹き出す炎とすれば、今のそれは星と一体化する風だ。
「全新系裂、天破侠乱」
何物にも視認されぬ舞の中で、アサシンは一人の男を見ている。
静かに拳を突き出した先にあるイメージは、自らを越えた愛弟子の姿。
「――見よ。東方は赤く燃えている」
息を吐き、腕を引き戻す。
空を見た。
天が破れているというのに、人々は嘆くことさえも諦めている。
ガンダムファイトによって荒廃した世界よりも、遥かに陰惨な空であった。
「人類もまた、地球の一部……か。
なあ、ドモン」
星が滅びを迎え、人々もそれを受け入れてしまった時、お前ならばどうするのだ――
その問いに答える者は、なかった。
かつてアサシン――東方不敗マスターアジアは、滅び行く自然に悲しんだ。地球を汚し、それを省みようともしない人類に激怒した。
導き出した答えは人類抹殺による地球再生だ。
だが人類抹殺に異を唱える彼の弟子は真っ向から立ち向かい、そして彼を越えていった。
故に東方不敗は認めた。
真に地球を守るとはどういう事なのか、真のキングオブハートたるドモン・カッシュならば見出してくれると。
ならば、自分は引き立て役になるまで。時代を作るのは老人ではないのだから。
最期に見た暁の美しさは、座にあっても失われる事はない。
アサシンとしては、この世界の救いとはこの世界のモノが定義するべきものだと思っている。
所詮サーヴァントなど亡霊にすぎない。ましてや東方不敗は別の世界の存在。
ならばあくまで後に続く者を導くに留めるべきであり、答えはこの世界にいるモノが出すべきなのだ。
しかし、この世界の人間達は万策尽きている。人類を含む自然が消えつつあるのに為すがまま。
この有り様にはやはり憤らざるを得ない。
それは自然を愛するが故のみならず。弟子が自分を越えたと認めたからこそ、弟子が地球の一つだと唱えた人間の腑抜けぶりに怒るのである。
最悪の場合はこの世界の救いを、地球再生を自ら聖杯に願うもやむ無しか――そう考えているのも事実だった。
「だが、問題は荒耶宗蓮という男よ」
呟くは、自らのマスターの名である。
この後に及んで己が目的に邁進するのみ。当初は典型的な魔術師だと侮蔑していた。
しかし……観察するうちに気付いた。その邁進は我欲と呼ぶにしては行き過ぎていると。
「奴は星の滅びを無視して己が目的を果たそうとしているのではない。
むしろ、滅びを前にして諦めようとする人間を憎んでおるのだ」
荒耶宗蓮は滅びを意に介していないのではない。
星が滅ぶという事態を前にして、より己の意志を強くしている――
人の対する憎しみを強くしている。
かつて人類に絶望し、人類抹殺を志した東方不敗だからこそ分かることだ。
「奴の目的も、恐らくはかつての儂と同じく人間の在りようを悲しみ、憎んだが故なのだろう。
……ならばその憎しみは何処から来た?」
目を閉じる。
東方不敗は荒廃した大地を見たが故に、地球を省みぬ人類を憎んだ。
荒耶宗蓮は、何を見てこの境地に至ったというのか。
※ ※ ※
-
「人は、救えぬ」
絶望からの発想ではない。
彼にとってそれは単なる事実確認。
人間は救われず、世界に救いなどない。
こうなる以前からわかりきった現実だ。
争いが起こる度に人々を救おうと赴いた。そして、死者の山を見た。
快楽に溺れる者がいる一方で、害をなすモノが排除されていく。
すべての人間が幸福になる世界などあり得ず、救われる者の誕生には救われぬ者の存在が必要となる。
星の滅びを止めたところで、人の有り様は変わりはしないのだ。
故に。
世界の終わりを前にして為すべきは――世界の終わりまでを記録し、検分することである。
根源に触れ、全てを知り、せめて死んでいった人間の価値というものを見出すことができるのなら――
その存在に、救いを見出すことができるだろう。
※ ※ ※
-
【クラス】
アサシン
【真名】
東方不敗マスターアジア@機動武闘伝Gガンダム
【パラメーター】
筋力A+ 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運E 宝具B
【属性】
中立・善
【クラススキル】
気配遮断:B
【保有スキル】
透化:A+
明鏡止水。水の一滴。
このランクになると精神面への干渉を無効化するのみならず、己が肉体を作り変え潜在能力を引き出すことをも可能とする。
病弱:E
打たれ弱さ。
本来はまだ病の影響はない頃の身体で現界しているのだが、晩年に患った病が稀にステータス低下またはスタンとして発現する場合がある。
流派東方不敗:A++
アサシンの真名を冠する流派。
その教えは単なる拳技のみならず武器術・兵法にまで至り、魔力放出や軍略といったスキルを内包する。
習得の難易度は最高レベルで、他のスキルと違い、Aでようやく「習得した」と言えるレベル。
A++となれば相当な達人であるが、同時代においてこのアサシンをすら越えた者も存在する。
仙境の智慧:A+
己を鍛え、自然を巡る中で見出した武術の智慧。
英雄が独自に所有するものを除いた全てのスキルにB〜A程度の習熟度を発揮できる。
また、マスター(真名のほうではない)の同意があれば他サーヴァントにスキルを授けることも可能である。
――格闘家としては弟子に越えられたものの、その後も「師」であり続けた。
【宝具】
キング・オブ・ハート
『人よ、その大地を見よ』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~10 最大捕捉:1人
何世紀にも歴史の影に隠れ人類滅亡を阻止してきた組織「シャッフル同盟」、そのリーダーの称号であり右手の甲に浮かぶ紋章。
真名を解放すれば歪んだ人の有り様を正し、あるべき姿へと戻す。
限界まで魔力を放出すればありとあらゆる魔術的・機械的・生物的な傷や呪いを癒やすことも可能。
ただし、この宝具の担い手自身を正すことはできない。
【人物背景】
シャッフル同盟のリーダーとして人類を正してきた英雄であり、人類抹殺を志した反英雄。そして、英雄ドモン・カッシュの師でもある。
アサシンとしての彼は歴史の陰にて世界秩序を維持していたシャッフル同盟時代、即ちシャッフル・ハート或いはクーロンガンダムを愛機としていた頃の肉体で呼び出されている。
クラス制限によりガンダムの使用は不可能であるが、その戦闘能力はガンダム無しでも一級品のためさして問題にはならない。
なお余談ではあるが他にもランサーとライダーとしての適性を持ち、ランサーとしての全盛期は晩年、ライダーとしての全盛期は若年がそれぞれ該当する。
ランサー、もしくはライダーとして召喚されればガンダムを使用することが可能だが、ランサーでは病弱スキルが悪化しライダーでは仙境の智慧などのスキルが弱体化するのでどれも一長一短。
【サーヴァントとしての願い】
世界を救う手助けをすること。できれば自らが願うのではなくこの世界の人間を後押しするに留めたい。
そのため、まず荒耶宗蓮を見定める。
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【マスター】
荒耶宗蓮@空の境界
【マスターとしての願い】
根源到達。
【weapon】
周囲に張り巡らせる三重の結界。荒耶宗蓮はこの結界を展開したまま移動することを可能とする。
その結界に触れたものはなんであろうと静止する。もっとも、相手が対魔力を持つサーヴァントとなれば話は別だが。
【能力・技能】
起源である「静止」を覚醒させた肉体。
胸を刺された程度では何の影響もなく、直死の魔眼で切られたとしてもすぐには死なない。
身体能力も相当なものであり、銃弾を撃たれた後で避ける域にある。
ただし仏舎利を埋め込んだ肉体は既に失われており、左腕に仏舎利はない。
当然ながら小川マンションのような異界も用意されておらず、今回は結界と身体能力のみによる勝負となる。
【人物背景】
かつて人類救済を志していた台密の僧。
今はただ根源を求めているだけの概念と化した存在。
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投下終了です。
一部レスの名前欄を失敗してしまったようで申し訳ありません。
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投下乙です
自分も投下します
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「俺だ」
その男は、異質な人物だった。
白い着流しを着込み、往来の真ん中を憚ることなく異様な格好で闊歩している。
断っておくが、今は別に祭りの季節でもないし、この街に観光名所のようなものもない。
彼にとってはこれが普段着なのだ。ついでに言うなら、一際その異様さに拍車をかける、顔を覆った狐の面も。
下手をすれば不審者と間違えられ、警察のご厄介になっても決して不思議ではない装いだが、
終焉の時を前にして、奇妙な落ち着きと多幸感に支配された世界では、それをいちいち気にかける者もなかった。
「今まで何をしていたのか……ふん。ありきたりな問いだな。面白みがないともいう。
だが強いていうならば、終わる世界の探訪と呼ぶのが一番的を射ているだろう。
何せ俺たちが何かするまでもなく、世界の終わりは向こうからやって来たんだからな。
この機を放って眠りこけるなんざ、お前、それこそ本物の白痴というものだぜ」
男の名前を、西東天といった。
その名を知る者はきっと多くないに違いない。
だがもしも知っている者が耳にすれば、否応なく眉を顰めるであろう不吉さを孕んだ名前であった。
彼の、ひいてはその思想の為に、いったいいくつの物語が狂わされたか分からない。
だが、彼と彼らの《十三階段》も、いよいよもって世界からの解雇通知を受け取る羽目になった。
世界の終わり。
ディングエピローグ。
狐の夢見た結末は、呆気なく、つまらなく、拍子抜けするほどの陳腐さで、今目の前にまで迫っていた。
世界が、消えていく。
それは何の比喩でもない。
文字通り跡形も残さず、端から順繰りに現在進行形で消滅しているのだ。
既存の科学や人類が必死こいて想定した終末シナリオなど完全に無視して行使される『終わり』。
そこには理屈やカラクリはおろか、誰の思惑さえありはしなかった。
機械仕掛けの神(Deus Ex Machina)が振り下ろす、幕引きの鉄槌としか言いようのない光景だった。
挙句の果てに、世界は最後の数日間に新たな物語が生まれることをも許さなかった。
世界中に蔓延した、これまた原因不明の精神疾患とも呼ぶべき多幸症状。
麻薬の吸引時に訪れるトリップ状態の爆発力を弱め、効果時間を取り払ったような不可解な現象。
それが人々の心から恐怖と不安を消し去って、物語の生まれ得る可能性を極限まで淘汰し、叩いて潰してくれた。
「おいおい――お前も、頭をやられてるんじゃないのか?
そんなに結論を急ぐたあ、お前らしくねえぜ。……まあいい。では、結論から言おう」
しかしそれは、狐に限っては意気消沈を招かなかった。
彼の《十三階段》は半分以上が欠落し、残る面々もこの通り、微弱ながら既に終焉麻薬の影響を受けている。
唯一完全な意味で素面なのが、この西東天だ。
彼はいつも通りの不遜さで姿を消し、何処かを渡り歩き、それからこの、変哲もない街へとやって来ていた。
-
「《物語》は、まだ死んでいない」
終わる世界は退屈だった。
皆が皆、人間性を事実上漂白されてしまっているのだから無理もない。
だが、彼の探訪は全く無意味というわけではなかったのだ。
彼は終焉が近付いたことによって露出した機密へと踏み入り、そうして、そこで答えを得た。
この平和という名の文学的荒野に――ただ一つ、《物語》の新芽を見出した。
「潤に連絡しておけよ。あれは俺の娘だ。大方、俺と同じく正気だろうぜ。
もしそうでなかったなら、それまでだったということだがな。
くくく――なに、ただ個人的に興味があるだけだ」
西東天はこれまでに、幾度か失敗を喫している。
世界の終わりを求め、それを挫かれ、ずるずると此処まで来た。
犠牲は多いが、彼が死ぬという事態だけはついぞなかった。
だが今回ばかりは、そういう幕切れはあり得ない。
つまるところ、彼はまたしても失敗したのだ。
物語の幕が上がる前に、史上最大級の大ポカをやらかした。
世界が終わるにしろ、彼の敗北で存続するにしろ、西東天という人間に未来はない。それだけは決まっている。
それは世界の消滅に巻き込まれて消え去るような、そんな綺麗な終わりでさえない。
彼に約束されたのは無惨なる最期――惨死だ。
追い立てられ、這い寄られ、血を撒き散らし、喰らわれ、紅い原野の砂と消える。最早変えようもない。
彼はこれから死ぬ――呆気なく。今も絶えず意識の彼方より降り注いでいる視線の主によって、今までの行いの報いとばかりに食い散らかされてこの世を去る。
だが、無理もないことだ。「それ」に関しては、誰もが失敗してきた。そして彼もその例外ではなかったという、ただそれだけの話でしかない。
「何せ真紅と緋色、砂漠と原野、鷹と鳥だ。実におあつらえ向きな組み合わせだろう」
最後にそう言い残して、西東天は電話を切ると、それを路傍の自販機に備え付けられた屑籠へ放り捨てた。
その足取りは、時代の流れと共に打ち捨てられた雑居ビルへと向かう。
建物を取り壊すにも費用が嵩むのだ。
こういう寂れ気味の都市では特に、こういう廃墟が野放しにされていることが多い。
鍵は掛かっていなかった。少し前までは、どうやらチーマーや非行少年の格好の溜まり場になっていたようだ。
もっとも今は彼らの姿も、下品な会話も聞こえてこない。
大方終焉に漂白され、親元へ帰り、最後の親孝行と洒落込んでいるのだろう。殊勝なことだと思う。
西東天が向かったのは屋上だった。
-
面越しに見上げる空はモノクロームにも似た灰色だ。
実に芸がない。
終末の地としては、少々落第点か。
「いいや、そんなものは、どちらでも、同じことだ」
――視線を感じる。赤い視線を。
「あかしけ やなげ 緋色の鳥よ くさはみねはみ けをのばせ」
――声が聞こえる。赤い声が。
――風を感じる。あの原野を吹く風だ。奴の翼が起こす風だ。
人は常に何かの視線を感じながら生きている。
それは常に「何か」の視線でしかない。そこには如何なる具体性も像も存在しない。
だが、一体誰が己の背後に何者も存在し得ないことを保証できるだろうか。
一体誰が、人の魂は誰の侵入も許さぬ神聖な不可侵領域であると嘯いた?
一体誰が、己が己たる部分には鵬の嘴すらも届かぬであろうと説いたというのか?
偶然などはどこにも存在しない。全ては必然であり、何らかの誘導の結果引き起こされたものである。
だがそれを観測出来ぬ者はそれを偶然と決めつけなければ気が済まなくなる。
人は結論の出ない問いにすら答えを押し当て、前に前にと進んで来た。それが故に、盲目であった。
そしてそれは自然の摂理であった。盲目につけ込む捕食者。人が人たるを狩る、人類種の天敵。
西東天というマスターが喚んだのは、厳密に言えば英霊ではない。
英霊のような高潔さは持たず、反英霊と呼ぶにも悍ましすぎる、もっと別種の何かだ。
あるいは聖杯の加護すらも遡り、這い寄るもの――それにとって、聖杯戦争とは単なる狩場でしかない。
そしてそれにこの地を伝えた、もとい発見させたのは、他ならぬ西東天本人である。
だが「それ」は仁義礼智の概念など持たない。理解を示すことも永劫にない。
発見した先で一番最初に見つけた男がいたからというそれだけの理由で、因果関係など確認もせず、第一の獲物として砂漠を統べる狐(マスター)を食い殺す。
それは緋色の鳥。祝詞によって封じられ、祝詞を利用し力を得た、意識界を飛ぶ鳥。
さあ、後ろを見ろ。
振り向け。そして、認識しろ。
それは像を結び、観測することで形を与える。
その時初めて、認識界から現界へと――緋色の鳥がまろび出る。
-
さあ、見つめろ。
凝視しろ。そして、見つめ返されろ。
脳の片隅にのみ存在したその巨躯を、己の意識界一杯に拡大するのだ。
そうしてそれは、遂に存在を得る。
「直に混ざれねえのは残念だが、まあいい。残りはあの世で酒でも飲みながら見守るとするぜ」
西東天の体が血を噴いた。
肉を散らした。
目玉が落ちた。
内臓がこぼれた。
首が曲がってはいけない方向に折れ曲がった。
四肢が跳ね跳び、地上、何もない場所ではあり得ない損壊を見せる。
銃弾でも浴びたようにその体はがくがくと、彼の意思とは関係ない物理的要因による痙攣を示していた。
彼だけに見える、緋色の悪夢。
その種子は、他ならぬ狐の悪意によって聖杯戦争の各所に蒔かれている。
発芽の時をただ黙して、意識界の片隅で待ちわびている。
「――緋色の鳥よ、今こそ発ちぬ」
からん。
そんな音を最期に、狐の面がコンクリートへ落ち、跳ね、血の海に沈んだ。
血生臭さだけがこんこんと立ち込める廃墟の屋上に、西東天以外の生物など、どこにも存在しなかった。
【クラス】
パンドラ
【出典】
SCP Foundation-JP
【真名】
SCP-444-jp-■■■■[アクセス不許可]
【パラメーター】
筋力■ 耐久■ 敏捷■ 魔力■ 幸運■ 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
禁断存在:EX++++++++++++++++++++++
エサをやるな 知るな 閉じこめろ
-
【保有スキル】
認識の鳥:EX
パンドラは実体を持ちません。
彼あるいは彼女は認識上の存在、精神の支配者、意識界の王と呼称される存在です。
よって、パンドラに対して直接的な干渉を行うことは人間には不可能であり、サーヴァントでさえも、パンドラの幻覚空間か、もしくはパンドラの捕食目的での接触時以外にその体を害そうとすることは不可能です。
単独行動:EX
一度召喚されたパンドラは、聖杯戦争が終了するまで決して消滅しません。
あるいは、 杯 争 う 当 める えも 味 か れ ん。
【宝具】
『緋色の鳥よ、未だ発たぬ』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
パンドラは顕現時以外、この第一宝具により文章形式の言葉という概念を取ります。
その言葉を実際に発声し読み上げた際、その人物は幻覚世界へ囚われ、その空間にてループ・イベントの幾つかを疑似体験することとなります。
幻覚から脱出する手段は、件の言葉を対象の現実の肉体が筆記することのみです。この行動の際のみ、幻覚世界内の人間の意識的行動が現実の肉体を制御できます。
但しループの性質から、それを思い立つには幻覚世界内での数週間単位の時間を要します。サーヴァントとして具現化した影響により、幻覚世界での時間と現実での時間経過は一致しません。
幻覚世界から脱した対象者はループの記憶を保持したまま生存可能ですが、発作的に『緋色の鳥よ 未だ発たぬ』と呟きながら、自身の周囲の生命へ無差別に危害を加える擬似発狂状態へ陥ることがあります。この状態に陥った存在はその後重度の知性退行と強迫性障害を患うことがほとんどです。
『緋色の鳥よ、今こそ発ちぬ』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:∞ 最大捕捉:∞
パンドラの第一宝具を受けた者、その文面を目にしたものは勿論、彼あるいは彼女の存在を知った者全てがこの第二宝具の対象となります。
過去、パンドラは幻覚の中のみに存在する認識の鳥でした。
しかし人々の好奇と責任感が重ねた多くの実験の末、パンドラは肥え、拡大し、第一宝具の言葉を読み上げるというプロセスさえも必要としない、無意識を這い寄る緋色の悪夢と化したのです。
パンドラがこの第二宝具で最終的に引き起こす事象は不明とされており、誰も知るすべがなかった為に、聖杯戦争機構の中にさえその詳細情報は収められていません。
聖杯戦争におけるパンドラは直接的接触による捕食という手段を取ります。
彼あるいは彼女の存在を知った人物の前に、場所、時間、次元の全てを問わず、パンドラは餌を喰らうために現れ、その血肉を貪り体躯を肥え太らせるでしょう。
一度パンドラに認識された者は、もう何をしても、何処へ逃げてもパンドラの視界から外れることは出来ません。
知るな、見るな、関わるな。それを無意識的に遵守する以外、緋色の原野から逃れるすべはないのです。
【人物背景】
あかしけ やなげ 緋色の鳥よ くさはみねはみ けをのばせ
なのと ひかさす 緋色の鳥よ とかきやまかき なをほふれ
こうたる なとる 緋色の鳥よ ひくいよみくい せきとおれ
【サーヴァントとしての願い】
今こそ来たらん我が脳漿の民へ
今こそ来たらん我が世の常闇へ
今こそ来たらん我が檻の赫灼ヘ
【マスター】
西東天@戯言シリーズ
【マスターとしての願い】
最後の物語を。
【weapon】
なし
【能力・技能】
彼は一切の特殊な力を持たない
【人物背景】
世界の終わりを望み、行動する狐面の男。
人類最悪。砂漠の狐。
彼は、失敗した。だから死んだ。
-
投下終了します
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投下します
-
世界が終わるのだとようやく世界中が理解した。
その頃、終焉は既に一週間というところまで迫っていた。
気づけば、小さいものも大きなものも含め、全ての戦争が終わっていた。
諍いもなくなった。衝突も無意味だと悟られた。
人々はようやく、理解を得て、隣人を愛することに成功した。
だが、争いという人類開闢以来の脅威が去ったあとでも、絶対になくならないものが一つだけあった。
死だ。
争いがなくなり、人々は全て隣人を受け入れ、最後に残った生物としての絶対普遍の恐怖と直面することになった。
死ぬ。あと数日で死ぬ。
やがて迫り来る白に飲み込まれ、自分が自分ではなくなる。
痛いのか、辛いのか、全くわからない、誰も教えてくれない未曾有の恐怖が、襲い掛かってくる。
時計の針が秒針を刻む音は、死神の足音だ。
世界を包む鮮やかな音の群れは、天使のラッパか、角笛か。
一秒、また一秒、自身の寿命がすり減っていく。
首筋に当てられた鋸が、緩やかな速度で引かれ続けていく。
その恐怖は、有史以前より普遍のもので、だからこそ、人々はその恐怖に対する術を持たなかった。
自分で命を断ったものも居たが、世界に残された大半は、そんな勇気を持っておらず、ただ迫る恐怖に怯え、喉を締め付けられるような閉塞感の中で寿命をすり減らしていった。
だから人々は求めた。
安楽を。
精神の解放を、迫り来る恐怖からの救済を。
せめて心だけでも幸福の中で死んでいこうと願い。
そして人々は、ついに禁忌に堕ちていった。
世界が半分消えた頃の話だった。
-
***
白を基調とした毒々しい色の服を着た男が、空を見上げていた。
空は昨日と変わりない。明日もきっと変わらない。
どこまでも濁っており、曇ったレンズ越しに見ているように、どこかぼやけ、薄暗い印象を覚える、居心地の悪い空だ。
「あなたが、チョコラータさん?」
チョコラータ、と呼ばれ、男が振り返る。
振り向いた先に居たのは、まだ二桁を数えない年頃であろう少女だった。
「おや、これは珍しい。子どもがわたしのところに来るなんてねえ」
「お父さんもお母さんも、もう動きたくないんだって。
あの、私でも、大丈夫ですか?」
少女がおずおずと、チョコラータに尋ねる。
チョコラータは、何も言わずにただじっと、言葉を待った。
「『夢』を、くれませんか」
それは合言葉。
言葉を聞くと、チョコラータは無言で懐から、幾つかの薬包を取り出した。
一般的な薬局で処方されるものによく似たその薬包。
違うのは、中に入っている真っ白な粉が、『夢』と呼ばれる、終焉の特効薬だというところ。
-
***
世界が半分終わった頃、最後に消えると分かった小さな島国で、終焉の特効薬が生まれた。
薬効は、『多幸感』『安堵感』。
服用後脳の快楽を司る物質が過剰に発生し、迫る絶望からつかの間目を背けることができる薬。
世界が終わる前ならば『違法薬物』と呼ばれている特効薬に、追い詰められた島国の人々はすぐに飛びついた。
金を持つものも、地位を持つものも、様々な人間が、その特効薬を求め、男のもとに集まった。
中にはその行いを非難すべき役職につく者達も居た。
違法薬物の取り締まりを行っていたものや、危険性を十分理解しているものも居た。
だが、誰一人男の薬を咎めることはなかった。
「人間やめますか、クスリやめますか」なんていうのは結局、その人物と世界に未来があるときの文句にすぎない。
せめて、あと一時の快楽を。
つかの間の安堵を。
静寂のうちの死を。
生き残ってしまい、死を恐れる人達が我先にと押しかけた。
どうせ持っていても意味のないものだからと金を叩きつけ。
数日後には死ぬのだからと臓器の提供を持ちかけ。
ただひたすらに、安楽だけを望んで。
人の波に揉まれながら、特効薬の生みの親である男、チョコラータは叫んだ。
「この薬は、『夢』だ」
「この世界の見る最期の『夢』だ」
「わたしももう金がどうとかなんて言わない。好きなだけ、持って行くといい。
全部タダでやるさ」
その時、チョコラータは笑っていたという。
世界が崩壊するのが一瞬だったように、培われてきた倫理観が崩壊するのもまた一瞬だった。
恐怖に勝てず、命も断てない心の弱い人々は、最期の希望を白い粉に乗せ、『夢』へとその意識を溶かしていった。
-
***
『夢』の入った包みを受け取った少女が頭を下げ、駆けていく。
その背を見送っていたチョコラータに、誰も居ないはずの空間から声が掛けられた。
「優しいのう、マスターは」
「まさかここに来て、わたしが、善意でクスリを巻いてるなんて言い出さないだろうな?」
「けひはは、まさか」
チョコラータの隣に、異様な姿が並ぶ。
まるでミイラのように、肌と呼べる部分のほぼ全てに、血に汚れた包帯が巻かれ。
露出されているのはいくつかの髪の房。そして、痩せこけた体躯には似合わぬぎらついた右目と、よだれにまみれた口。
そんな創作世界から飛び出してきたモンスターのような風貌をし。
それでも医者だと言い張るように、わざとらしく身につけられているのは聴診器と白衣を身に付けた男が。
「見間違えんがね、同類は。マスターは我がためにクスリを撒いとうのよなあ」
楽しそうに、もしくは嬉しそうに。
あるいは既に気を違えてか、怪我のせいか、その顔しかできないらしく。
白衣のミイラは包帯を醜く歪めながら、上ずった調子の声で言った。
チョコラータは『同類』という言葉が鼻に触ったらしくやや不機嫌そうに鼻をならしたが。
それでも否定はせずに。
彼が少し前まで組んでいた『オアシス』のセッコに言って聞かせていたように。
これから数日限りの相棒へ、心の中のドス黒い澱を見せびらかすように。
彼の心のなかで熱を上げている『夢』について、白衣のミイラに語った。
-
「当然さ。他の奴らなんて知ったことか。わたしはただ見たいだけだ」
『聖杯戦争』。
その参加者に選ばれて以降、チョコラータは、手に入るクスリの全てを無償で望むものに与え続けた。
クスリは全て彼のサーヴァントである白衣のミイラが魔力によって創りだす。つまりノーコストで無限に作り出せる。惜しむはずがない。
チョコラータが拠点を置くこの街には、既にジャンキーと呼ぶべき人間が三桁以上存在している。
ジャンキーたちは、来るべき終焉を、快楽の中で迎えようとしている。
だが、チョコラータに関わった以上そんな甘い未来があるはずがなく。
「幸福にその生を終えようと薬物に手を出した奴らが、最後の最後で薬物を絶たれ。
安楽から一転、肥大した恐怖に突き落とされる、その時の顔をね」
世界の終わる日。
その頃にクスリの効果が切れるように、クスリの配布をやめる。
そうすれば、ジャンキーどもはどうなる?
きっと全員が、クスリを求めて男のもとに集まるのだ。
そして、怯え、震え、縋りつき、求め、得られずに絶望していく。
クスリによってもたらされた作り物の安堵から引きずり出され、絶望と直面した人間は、どんな顔をして死んでいくのだろうか。
考えるだけで胸が弾んだ。
チョコラータの言葉に間違いはない。
この薬は『夢』だ。
人の絶望した顔という、チョコラータの垂涎の『夢』を運んでくる薬だ。
-
けひひ、と、かすれた笑い声が、また路地裏に響く。
声の主を見れば、ミイラはまた、包帯に幾つかの皺を刻んでいた。。
「にしても頓狂なやつじゃ。命を捨ててまで、他人の死ぬ顔が見たいと抜かすとは、センセも流石に予想外ぜよ」
「おっと、勘違いするなよ?
命あっての物種だ。モチロン、わたし自身が死ぬのはできれば避けたい。
確かにそういう結末ってのも捨てがたいが、世界が救われるというならばぜひとも救われてほしい」
「おお、おお? そいつぁ困るのう。マスターも困ろうが。せっかく作ったクスリの世界が台無しと来れば」
「そうでもないさ」
包帯の歪みが少しだけ落ち着いた白衣のミイラに、チョコラータは語る。
それは、また別の、『夢』。
「この戦争の末、世界が救われたとして、今一時の快楽に溺れている彼らは」
世界に絶望しきっており、人間をやめ、未来を捨てたジャンキーたち。
世界が救われるとは露とも思っていない者達。
そいつらの未来を思い描き、チョコラータの顔が愉悦に染まる。
「せっかく世界が続くと決まったのに、自分たちはその世界に戻れないと知ったら、どんな顔をするんだろうなあ」
-
世界が再び回り始めれば、いつかまでのように人倫や法もまた働き出す。
そうすれば、終焉に生まれたジャンキーどもは全員揃って違法者だ。
世界が終焉するときのために火をくべ続けている安楽。
それは同時に世界が救済された時のためのさらなる絶望の火種として燃え盛る瞬間を待っているのだ。
「目先の嘘っぱちの安楽が、未来の大きな絶望を齎すんだ。素敵だろう。
取り戻せた輝かしい希望の中に二度と戻れないと知り、以後の人生を覆しようのない絶望の中で過ごすんだ!!
その時、中毒者たちはどんな顔をしている!? それを見るのも、とても楽しそうじゃないか!」
腕を広げて天を仰ぐ。
見上げた空は白く濁っていた。
空の映ったチョコラータの目もまたドブ川のように濁っていたことだろう。
腕を寄せ、拳を握る。声に力が篭もる。
「ああ、惜しい! 終焉での絶望、救済からの絶望、どちらかしか選べないのが非常に惜しい!!
できることならどちらも見たい!! 畜生、これほどまでに自分の人生をもう一度やり直せたらと思ったのは初めてだ!」
呆れるほどに自分勝手な願い。
終演を迎える前の世に放てば、即座に引導を渡される『夢』。
しかし、世界の異常がその『夢』を肯定している。
その証拠が、白衣のミイラであり、チョコラータの右手に刻まれた令呪だ。
「へ、へけけけ、へへ!」
引きつったような笑い声。
見れば、白衣のミイラの顔の包帯はまた歪んでいた。
今度はだらしなく舌まではみ出して、それでもやはり、上ずった調子で。
「おお、おんまぁ……まっこと面白いやつぜよ!」
ふらりふらりと、ミイラの身体が揺れる。
足元がおぼつかない原因をチョコラータは知っている。彼もまた、薬物中毒。しかも末期の。
そんな者が世界の存亡を賭した聖杯戦争に呼び出されたサーヴァントだと言うのだから、いよいよ世界は、奇跡は、その寄る辺を失っていると見える。
-
だが、サーヴァント・キャスターは、そんな思惑はお構いなしに、やはり上ずった調子で言うのだ。
「楽しいなあ、楽しいのう、マスターよう!
撒こう、撒こう、残ったちっぽけな世界に。せ、せ、世界を、クスリで満たそうや! けひっひひはは!!!
最期の最期、この世をぜえんぶ、クスリ漬けぜよ! けけ!!」
キャスターの拳がチョコラータの胸を叩く。
どん、と押し付けられるのは幾つもの薬包。
その全てが『夢』。
ついと顔を上げ、チョコラータは自身のサーヴァントを見る。
いつもどおり、包帯が歪む。
これまでどおり、全てが包帯に隠れているので、表情の大部分は読み取れない。
ただ、もしあえて有り体な言葉を使うなら、その顔は声と合わせてとても『幸せそう』なものだと、チョコラータは感じていた。
手渡された薬包を懐にしまい、チョコラータはほくそ笑む。
キャスターもまた、受け取ったチョコラータを見ながら包帯を歪める。
終焉に夢を撒く男。外道医師、チョコラータ。
白衣姿のミイラ。キャスター、素敵医師。
看取る患者は『世界』。与えた薬は『絶望へ至る安楽』。
世界は安楽へと向かう。その身体の内を腐らせながら。
-
【クラス】
キャスター
【真名】
素敵医師@大悪司
【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:C 幸運:C 宝具:E
【属性】
混沌:悪
【クラススキル】
陣地構築:E
特別陣地と呼べるものは作れない。
工房とは銘打っても彼の場合用意できるのは薬物を作り出すささいな薬局みたいなものくらいだろう。
道具作成:E
道具を作るスキル。
キャスターに作ることのできる道具はただ一つ、『薬物』である。
【保有スキル】
薬物中毒:A
薬物依存性の高さを表す。
身体は既に薬物まみれのぼろぼろであり、薬物なしでは生きていけない。
薬物によって感覚が麻痺しているので恐怖や痛みにすこぶる強いが、薬物が切れると死ぬ程苦しむことになる。
また、薬物によって魔力を補充できるが、薬物が切れれば魔力がゴリゴリ減っていき、最悪消滅する。
カリスマ(偽):C
本来は先導する力のない、作り上げられた先導者としての格。
薬物を利用することで、ジャンキーたちに対して同ランクのスキル:カリスマと同等の効果を発揮する。
-
【宝具】
『絶望へと至る安楽(ドラッグ)』
ランク:E 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1
薬物を作る。
違法薬物の特殊ブレンドを再現したスペシャルなお薬でありそんじょそこらのお薬とは効果がケタ違い。使えば一発で虜になる。
服用すれば絶大なる安堵感や多幸感が得られる代わりにこれが切れればバッドトリップを起こす。
これを利用することで自身の配下であるジャンキーを増やすことができる。
お薬であるが宝具であるため、このお薬を摂取した人間は一時的に神秘を身にまとい、ジャンキーたちは一時的にサーヴァントと戦闘することが可能になる。
なお、この宝具の解放に真名は必要としない。
『壊れた兵、壊れた王、壊れた国(ジャンキー・ジャッカー)』
ランク:EX 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1
薬物を使ったわかめ組襲撃及び乗っ取りという逸話から生まれたスキル。
作り上げたジャンキーたちを瞬時に呼び寄せて、物量作戦でサーヴァントを捕まえることに成功したならば、耐性スキルを無視してどんなサーヴァントでも薬物漬けにすることが可能。
薬物漬けが成功した場合、そのサーヴァントは以降キャスターの指揮下に入る。
もし、この宝具を固有結界・陣地内で発動したならば、ジャンキーたちの戦闘能力に補正がかかる。
なお、この宝具の解放に真名は必要としない。
【weapon】
ジャンキーたち。
直接戦闘の武器はなし。
【人物背景】
アリスソフトのエロゲー『大悪司』に出てくる序盤のボスポジションのような、そうでないようなキャラ。
大悪司を世界でシコクを薬物まみれの地獄絵図に変えた張本人。
オオサカ・センリに居を構えるわかめ組をお薬漬けにして乗っ取ったこともある。
喋っているのは土佐弁らしい。
-
【マスター】
チョコラータ@ジョジョの奇妙な冒険 第五部 黄金の風
【マスターとしての願い】
人々が絶望しながら死んでいく姿が見たい。
世界が終わろうと、終わるまいと、最大多数の絶望を見られるよう立ちまわる。
【能力・技能】
医療技術。
医者としての類まれな医療技術。
グリーン・デイ。
スタンド能力。
高い所から低いところに移動するとカビが生えるという不気味な能力を持った精神のビジョン。
街一つを包み込むほどに長大な射程距離を持つ。
素敵医師の宝具である薬物が出回っている状態では広範囲の攻撃は行えないが、それでも限られた範囲内ならカビまみれにできる。
精神エネルギーという人間の神秘に根ざした能力であるため、サーヴァントの攻撃にも対応が可能。
ただし、あまり強い攻撃を受ければ当然死ぬ。
スタンド能力を持つため、一般人よりは魔力に優れている。
【人物背景】
元医者。34歳。スタンド使い。
人の死や絶望に対して多大な関心を抱いており、医療ミスに見せかけて数多くの患者を殺してきた。
ギャング時代からの参戦。
終焉が差し迫ったこの世界では外法医として安楽薬物『夢』を心の弱い人達に売りさばいている。
『オアシス』のセッコは居ない。死んだかは不明だが、チョコラータはそんなに気にしていない。
【方針】
薬物をばら撒き、人々に終焉の間際までの安楽をもたらす。
その後、最終日まで生き残り、絶望に染まる人々の顔を見る。
聖杯戦争に関しては、表立って戦うようなことは避けたい。
直接戦闘になればまず間違いなくキャスターは一方的に殺されるだけだからだ。
どっかのサーヴァントをジャンキーにして手駒にできれば強いが、神秘を纏った人の群れに遅れを取るサーヴァントがどれほど居るのだろうか。
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投下終了です。
なお、本作を書くにあたり、葱板ロワとアリスロワの素敵医師の出ている話を彼の口調の参考にさせていただきました。
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投下します
-
一人の青年が、夕陽を見ていた。
滅びゆく世界を憂い、これまでに犠牲になった数々の命を偲んでいた。
自分に懐いてくれた少年はどうしているだろうか。
自分に好意を寄せてくれていた女性はどうしているだろうか。
自分を受け入れてくれた仲間達はどうしているだろうか。
世界の崩壊が始まってから、青年―――東光太郎は、かつての仲間たちに連絡を取ろうと奔走したが、未だに誰一人として連絡は付かない。
かつて所属していた防衛隊も、既に解散して久しい。
下宿先の家族も、このような異変が起こったのだから引っ越しをしていてもおかしくない。
元から簡単に見つかるとは思っていなかったが、ここまで手こずるとは思わなかった。
ひょっとすると、もう自分の知っている人たちは全員……
そんな嫌な想像を振り切るように首を振るが、一度沸いた最悪のイメージは簡単にはなくならない。
泣きそうな顔で夕陽を見ようとした彼に―――
『光太郎さん』
―――懐かしい光と声が届いた。
「お母さん」
光太郎は先ほどまでの暗い表情を僅かに明るくさせ、母の元へと走る。
いつの間にか、周囲は不思議な空間に変わっていた。
「お母さん、もう会うことはないかと思っていました」
自分は既にタロウのバッチを母に返した。
あの日、人間として生きていくことを決意した時がウルトラの母と会う最後になると思っていたのだ。
『光太郎さん、もうすぐ貴方の人生を変えてしまうような大きなことが起こりますよ』
母は優しく微笑みながらも、そう告げる。
「僕の人生を変えてしまう大きなこと?一体、それは?」
かつても同じようなことを母に言われたことがある。
あの時はバッチを返す決意を固める事件が起こったが、今度は何が起こるというのか?
「ごらんなさい」
母が指差した方向を見てみると、辛うじて崩壊を免れていたこの町までもが滅びようとしていた。
「そんな!」
光太郎は叫ぶ。
あの町に住んでいる人たちまでもが消滅してしまうというのだろうか。
世界は滅んでしまうというのか。
『あれは近い未来の出来事です。
例え貴方がタロウのバッチを再び手に入れたとしても、防ぐことはできないでしょう』
「そんな……僕には、ただ待っていることしかできないのですか?」
『いいえ、貴方がしなければならないことがあります。
命を懸けてもしなければならないことがあります』
「一体、それは?」
『それは、貴方が自分で見つけなければなりません。
ウルトラマンタロウの力を捨て、人間として生きていくことを、貴方自身が決めた時のように』
母はそう言うと、ゆっくりと透けていってしまう。
「お母さん!待って下さい!お母さん!」
自分でも彼女は遠くへ行かなければならないことは分かっている。
そもそも、もう一度会えただけでも奇跡なのだ。
分かってはいても、思わず声をかけてしまう。
……ター……スター……
どこからか声が聞こえる。
でも、お母さんの声ではない。
この声は―――
「おい、マスター!起きろって!」
耳元で叫ばれて飛び起きる。
「ったく、大丈夫か?随分とうなされてたぞ」
そうだ、自分は世界の消滅を防ぐため、人間としてできることを探していた。
そして聖杯戦争という勝利すれば願いが叶うと言われる戦いについて突き止め―――
「ああ、ちょっと夢を見てただけだよ、アサシン」
サーヴァントの召喚に成功し、聖杯戦争に参戦したのだ。
呼び出したサーヴァントは狐のような顔をした男で、シルクハットにマスク、マントを羽織り、紫のスーツと赤いブーツを着用している。
本人はアサシン……暗殺者と名乗ったが、服装的にはヒーローのように見える。
「ならいいんだけどよ、俺様のマスターなんだから頼むぜ。
ニヒヒ、それはそうとママの夢でも見てたのか?」
「! 驚いたな、どうして分かったんだい?」
「いやだって、寝言でお母さんお母さんって言ってたからよ」
場合によっては馬鹿にしているとも取れる言葉だが、光太郎は温厚な性格だ。そんなことで怒ったりはしない。
それに、母親に関係することでアサシン―――かいけつゾロリは人を馬鹿にするようなことは決してしない。
彼にとって「母親」とはそれだけ大切な存在のだ。
-
「はは、聞かれてたのか……恥ずかしいな」
母を想う息子が2人。
「まぁいいや、とりあえず作戦会議の続きやるぞ」
幼い頃に母を亡くした息子が2人。
「ああ、作戦会議の途中で寝ちゃったのか」
「ったく、暢気なマスターだぜ。
俺様のクラスは一応アサシンだけど、陣地作成もできるぜ。
ニヒヒ、機会があったら俺様のいたずらを見せてやるぜ」
1人はいたずらの王者を目指し、自分の城を持つことを夢見て、かわいいお嫁さんを欲しがった。
1人はプロボクサーを目指し、地球を守る光の巨人となり、人間として生きていくことを決意した。
「拠点はあった方がいいな……
ZATだって、立派な基地があったからこそあれだけ戦えたんだ」
「ZAT? 確か、光太郎が入ってたスーパー部隊だったか?」
通ってきた道程は違えども、根っこにあるものは同じ2人。
「ああ、ZATの仲間達を―――この世界を守るためにも、聖杯の力を手に入れなくては。
しかしアサシン、本当によかったのか?
君にとってはこの世界が滅ぶのは他人事なわけだし、願いはあっても聖杯に叶えてもらう気はないんだろう?」
「ああ、聖杯なんかに頼って夢を叶えても、ママは喜ばないからな」
「じゃあ、どうして?」
母への想いの強さは、どちらも甲乙つけ難い。
「グス……俺様、ああいう話に弱いんだよ、光太郎のママの話。
死んだ後もウルトラマンとかいうヒーローになってお前を見守ってくれてたんだろ?
それでお前はヒーローの力を捨ててせっかくママから独り立ちしたのに、その世界が滅ぶなんてあんまりじゃねぇか!」
守ろうとしている世界には、どちらの母もいない。
「アサシン―――ありがとう」
(彼は多くは語らないが……きっと彼にとって、『母親』というのは特別な存在なんだろうな)
それでも、母にとって誇れる息子であるために。
そしてなにより純粋に、人々を守るために。
優しさと決意を以って巨人ではなく人間であろうとした男と、いたずら好きながら人を傷つけるようなことはしない人情家。
彼らは世界を救うために戦う『ヒーロー』となる。
【クラス】
アサシン
【真名】
ゾロリ@かいけつゾロリ
【パラメーター】
筋力:B 耐久:C 敏捷:B 魔力:D 幸運:C 宝具:B
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
気配遮断:C(B)
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を断てば発見する事は難しい。
また、変装と併用すればBランク相当になり、発見は非常に難しくなる。
-
【保有スキル】
カリスマ(偽):C
不思議と人を惹きつける天性の魅力。
効果は強いものではないが、魔力的なものではない為抵抗は難しい。
変装:C
変装の技術。
人間であれば親しい者でも騙し通せるレベルで変装できる。
道具作成:B
魔力を帯びた器具を作成できる。
陣地作成:D
怪獣の形をしたお菓子の城やイジワルな遊具ばかりの遊園地を作り出せる。
キャスターではないのでこのスキル単体のメリットは少ないが、道具作成と合わせれば十分に拠点として機能させることが可能。
計略:C
物事を思い通りに運ぶための才能。状況操作能力。
端的に言えばいたずらの才能である。
【宝具】
『寒々しくも心温まる言葉遊び(ブックラこいーた)』
ランク:B 種別:対人/対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:100人
ゾロリの持つ世界に一冊しかない幻の本、「ブックラこいーた」より紡がれる親父ギャグ。
ただの親父ギャグと侮るなかれ、その親父ギャグは余りの寒さに雪や氷を生み出し、果ては吹雪すら起こすことができる。
大洪水を水を凍らせることで防いだこともあり、最早親父ギャグの域に留まっていない。
ブックラこいーた自体が魔力を負担しているため、ゾロリ自身の魔力の消費は少ない。
『真面目に不真面目(スッポコヘッポコポコポコピー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人(自身)
ゾロリの生き様そのものを表した宝具。
真名解放中は、秩序属性以外のサーヴァントの攻撃をほぼ完璧に防ぐことが可能。
ただし、秩序属性のサーヴァントの攻撃に対しては通常の倍のダメージを喰らってしまう。
また、真名解放の際は紫のスーツに書いてある「Z」の文字が強く光輝いてしまうというアサシンとしては致命的な弱点がある。
【人物背景】
いたずらの王者を目指す狐。他の夢は自分の城を持つこととかわいいお嫁さんをもらうこと。
いたずらの王者といっても(媒体によって多少左右されるが)誰かを傷つけるようないたずらは基本的に好まない人情家である。
大金や宝物に目がなく、弟子のイシシとノシシと共に何度もそれらを手に入れようとするも、ちょっとしたすれ違いや事情から大体失敗に終わる。
母であるゾロニーヌは既に故人だが、彼女のことを心から慕っており、天国で見守ってくれている彼女のためにも夢を叶えようと誓っている。
【サーヴァントとしての願い】
特になし。とりあえず光太郎の手助け。
【マスター】
東光太郎@ウルトラマンタロウ
【マスターとしての願い】
人間として聖杯戦争に勝利し、世界を救う
【能力・技能】
ZATの隊員としての豊富な実戦経験。
アマチュア新人王レベルのボクシング。
条件さえ揃えば、再びウルトラマンタロウになることもあり得るかも……?
【人物背景】
明るく活発な性格で、知恵と勇気を兼ね備えている好青年。
子供にも分け隔てなく接しており、彼を兄のように慕う子供も珍しくない。
しかし、会ったばかりの女性に軟派な台詞を投げかけるといった気障な一面もある。
最終回後からの参戦のため、ウルトラマンタロウへの変身能力を失っている。
【方針】
聖杯を手に入れて世界の消滅を止める。
ひとまずは陣地作成に専念する。
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投下終了します。
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投下します
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もしも無人島に一つだけ道具をもっていくのならだとか、もしも明日世界が滅ぶとしたら何をするだろうだとか、
益体のない質問が飛び交う呑気な世情ではあったものの、俺が、いや俺に限らずとも大抵の人間がそんな質問にまともに答えたためしはないだろう。
世の中そんなバラエティに富んだものではないことは、時間と共に多くの人間が学んでいく道徳であり、こんなくだらない質問に小一時間考えて本気で答えるようなやつが出てきたならば俺は頭を疑うね。
情緒が豊かなのは誇らしいことではあるんだがな、限度ってもんがあるだろうよ。そんなものに時間を費やすぐらいなら明日の英単語の予習でもしている方がいくらか有意義だ。幸か不幸か英単語のテストなんかなくなったけど。
もちろんのこと俺も昔は考えたりもしたものだ。突如超常的な異形生命体が目の前に現れて世界中の人間をお得意の謎原理超常ビームを展開して滅ぼしてしまうようなドラマをな。
その時俺はどうするだろう。アニメ的特撮的マンガ的ヒーローのように無謀にも化け物に立ち向かうだろうか。脳の回復に努めるどころかむしろ頭が痛くなるぐらいにすやすやと惰眠を貪るだろうか。
はたまたちまちまと溜めて将来に役立てようとした可愛い可愛い全財産を崩して地中海に漂う全盛期の海賊蛮族よろしく豪遊を味わうんだろうかね。
今となっては答えは暗闇の中といった次第だが、さてさて俺が導き出した答えは面白みのないものだったと思う。
俺は現実と向き合うのが賢しくもありがたくもないことに存外早く、そんな質問をされる頃には明日世界が滅びるなんてふざけたイベントが起きないことを知っていた。
無人島に行くことも、ましてやそんな単身でかつ一つしか道具を持って行かないなんていう嘗めた条件を飲むこともないと断じていた。
そりゃあこの世が一切合切塵も残さず掃除機に吸い取られれば良いという程の暗澹としたネガティブ思考を今も昔抱いちゃいないが、そのぐらいの不思議が起こらないものだろうか、と思ったりもした時期もある。
平凡な毎日ではあるものの、俺はこんな日常を愛している。なんて格好いいセリフを言ってみたいものだが俺は手放したいほど嫌っちゃいないが平凡な日常を別に愛しちゃいなかったし、
スパイス程度でもいいから何か起こらないかと、頭の片隅でしたためたものだ。しかしリアルというのは世知辛く、俺にも小学校から中学校に掛けて懇切丁寧に現実というのを叩き込んでくれたっけね。
お陰様で大した夢を抱くこともなく俺は高校生になった。
そんな折、涼宮ハルヒと出会った。
俺の席の後ろの魔王様の発した自己紹介は今でも覚えている。
宇宙人、未来人、超能力者はあたしのところに来なさいっていう、あれ。
高校生にもなった今では、そんなセリフは笑い話でしかなく、たちの悪いことにこいつのご尊顔を拝見する限りでは冗談めいたものを感じない。
第一印象を目立たそうとウケを狙い、見事氷点下をものにした痛い奴ではなさそうである。だからこそ異質であったそいつと俺は何の因果か関わってしまった。
今にしてみても不思議で仕方がないものの俺はハルヒの妄言に付き合い、見事宇宙人、未来人、超能力者とコンタクトしてしまったのだ。
それからの俺の日常は変わっていった。
もうとんでもない毎日だったね。アホの谷口でさえマシに見えてくるハルヒの奇矯さを知りたければ是非とも俺の脳内アルバムを総ざらいしてくれ。
涼宮ハルヒという名前をした災害が襲来してきたときから変わっちまった、不思議がはびこる毎日。溜息も出るほど憂鬱に感じる日々も多かった毎日。
俺は会社帰りのサラリーマン並みにシャツにしわを付けくたくたになりながらも、それでもきっと楽しかった毎日を送ったのさ。
ハルヒの織りなす、平凡でこそなかれ平和な毎日を俺は愛した。ああ、そうだよ。俺はSOS団という学校から隔絶された宗教めいた団体と過ごしたあの日々が恋しくて仕方がない。
朝比奈さんの愛らしいメイド服姿も、長門の物静かだけど頼りになる瞳も、まあ古泉の腹立たしい微笑でさえ、きっと無くてはならないものだろうね。
いつからだったか、あんまり考えないでいた。超常的現象に憧れるあまり見ないようにしていたありきたりな俺の答え。
そして、成長するとともに憧憬と共に形骸化しちまった、俺の求めていたものは、よりにもよってトンデモの権化であるあいつらから存外単純だったと気付かされちまったよ。
もし明日世界が滅ぶんだとしても答えはいつだって俺の胸にあるんだ。
愛すべき楽しい日常が続くってんなら。
俺は願っちまうさ。
いつも、ハルヒが世界に対して願い続けているように。
■ ――――――――――
-
世界が終焉に向かって奔走しているという馬鹿げたようで救いのないニュースを流石に俺も知っている。
平日の午前十時にも差し掛かっているというのに未だ布団にいることが何よりもそれを物語っていよう。
つまりは学校も臨時休校、もとい臨時廃校と言ったところかね。大してうまいことも言えないが。
世界がなくなるにつれ、あらゆる闘争が意味を失くし、あまねく教養が意義を失くした。まあ、なるようになったのだろうな。俺には国の偉い奴が何を考えているかなんてわからないが、結果としてはなくなった。
とはいえ、かれこれ小学校の時分から夢に見ていた学校がなくなったという事実を獲得して喜べるほど日和見ではないんでね。こうして布団にくるまりながらこれからの展望について考えていたところさ。
寝ているだけにしか見えないんだとしても、それは致し方ない。何分今この世界で起こっていることは俺の常識の範疇をヘリオス1号もびっくりの速度と衝撃で突き破っていったもので、俺も理解が追いついていないというのが正直なところだ。
今になってこんな気持ちになるとはついぞ思いもよらなかったが、出来れば思わずに済む世界であってほしかった。俺が思考を巡らせたところで、今のところはにっちもさっちもいかないのが、何よりも救いがたい。
さてさて、世界も残り五日。例の報告がない以上俺はどうにもできない。これからどうしたものか、と予定を組み立てた時、中空から聞き馴染んだ声が降ってくる。
「キョンくん、お客さんだよ」
さしもの妹もあんまりにもショッキングな現実を目前にしているためか、声音にも布団を揺らす力にもいつもの快活さがない。
妹に遅れてやってきて俺の布団を占領せんと乗りかかってきた猫の方が元気あるんじゃねえか? 知らぬが仏ってやつかもしれないな。
布団から這い上がった俺は目覚まし代わりの妹を部屋から追い出し、適当に服を見繕ってから玄関に向かうと予想していた通りのにやけ面がそこにはあった。
「お久し振りです。お変わりありませんか?」
「はいはい、お陰様でな。で、どうだったんだよ、例の話は」
悪いが、今は古泉の長話に付き合ってやれるほどの精神的な余裕は俺にはない。これでも現実を受け入れるのにいっぱいいっぱいでね。
「お気持ちお察ししますよ。では早速本題に入らせていただきますが」
お得意のスマイルはなりをひそめ、こいつにしては珍しく真顔に近い表情で打ち明ける。
いつもならばそれはそれで気味悪く感じたかもしれないね。ま、俺も人のこと言えるような顔色じゃあないだろう。
「先ほどの質問は何も社交辞令ってわけじゃないんですよ。あなたがお変わりないかどうか、というのはこの場合何よりも重大でして」
「だからなんだってんだ。それよりもハルヒは――」
「そう、そのハルヒ――涼宮さん。彼女が先刻、聖杯戦争に参加いたしました」
「……ん?」
俺は今回のこの件、ハルヒが――いや、よしんばハルヒのものじゃなくともそういった超常が――どう関わっているかその一点に思考がぎりぎりと絞られていた故、あまりに脈絡のない単語に戸惑ってしまう。
朝比奈さんが案の定というべきか禁則事項の一点張りで、長門が何故だかうんともすんとも言わないものだからこうして古泉の『機関』の連絡網などを頼りに調査を広げていた次第ではあるんだが……しかし聖杯戦争ね。
「聖杯っていうと……あの聖杯か?」
「ええ、まあ。とはいえ『アーサー王伝説』なんかで用いられる聖杯伝説としての聖杯の方がイメージに近しいんでしょうか。ともあれ、その聖杯を巡る争いに、涼宮さんは乗り込んだんです」
「乗り込んだんですって言われてもな」
この期に及んでこんな見解は些か不適切な気もするが、どうにも実感がつかめない。
今は巻き込まれていないからだろうか。具体的に戦争って何をするんだ。世界からあらゆる諍いがなくなったというのに、今更何を。
「それは……」
と、古泉はちらりと背後に目を見遣る。
扉の陰からひょっこりと我が妹が顔をのぞかせていた。
話を聞かれたところでどうともならないが、確かに場所が悪いかもな。
妹に一言告ぐと、俺らはいつもの公園へと足を運ぶことにした。しかしやれやれ、思った以上に話は簡単では無いようだ。
-
「話の続きですけれど」
公園へと向かう道中、古泉は口を開いた。
「涼宮さんが参戦した聖杯戦争、やるべきことは単純です。殺し合うんです、一つの万能の願望器・聖杯を巡るために」
終末を案じてか通りに人は少ない。
仮にも古泉の言葉が周囲の人間に聞こえていたとは思えない。
けれど俺の脳内メトロノームが何度も何度もこいつの言葉を反響する。
何も言えずに呆然とする俺を慮ってか知らないが、俺の言葉を待たず古泉は話を続けた。
「ですから、涼宮さんが参戦してしまった以上あなたのことが心配になりましてね。慌てて様子を見に来たんですよ。以前にもお話ししましたが私は『機関』の一員である以上にSO――」
「なんで、ハルヒはそんなものに参加したんだ」
せっかくのご高説を遮るのも憚れたが、俺の口は止まらなかったね。
不思議で仕方がない。あいつは確かにとんでもないやつだが、人の命を奪えるような奴じゃないだろ。
古泉も肩をすくめて戸惑った声音で、
「分かりません。今のところ閉鎖空間も出ておりません。ですが、分かったこと――それに分かることはあります」
こいつの説明好きはもはや性分なんだろう。
つらつらと言葉を並べる。
「一つに、今回の世界の終焉はやはり涼宮さんの力によるものじゃありません。一向に閉鎖空間を出てないのもそうですが、何より彼女は世界の終焉を望むわけがありません」
当たり前だ。
あいつの使命は世界を大いに盛り上げることだ。それを消滅させてどうする。
しかしそれにしたって、まったくの作用が働いていないというのが驚きではあるのだが、その驚きを感じ取るには今の俺はあまりに麻痺していた。
いや、もっと純粋にそんなことはどうだっていいのかもしれない。
「もっと理屈的な説明をするのであれば……そうですね、彼女に限って言えば人を殺してまで聖杯を手に入れる必要がないはずなのに、聖杯戦争に参加しなきゃいけなくなった。ここには、涼宮さんの力の弱体化があるようにも思われます。
そもそも世界が消滅するという抑圧的な生活の中で閉鎖空間が一つも出現していないなんて想像がつきませんし、そうであるならば長門さんの無反応ぶりも少しは納得いくでしょう」
弱体化する理由も検討が尽きませんし、何より閉鎖空間がこれからも生じないなんて断言もできませんけどね、と小さく付け加えた。
願いを叶える力――ざっくり言っちまえばそんなミラクルを無自覚ながらもいつも使っていたハルヒが聖杯に縋らなきゃいけないというのも確かに考えものではあるか。
「そしてもう一つ、分かること。これは推測にしかすぎませんが、涼宮さんは――」
そこで携帯の着信が鳴る。俺のものじゃ無いようだ。
古泉がはたと言葉を切り、断りを入れてから電話に出る。
にやけ面が標準だからか不気味で仕方がない真顔から、これまた珍しく苦々しい面を露わにしたところで、電話を終えたらしい。
俺に限らずとも精神的に摩耗している奴らばっかなんだろうと空を見上げながらぼんやりと思った。
「すみません、わざわざご足労をかけて恐縮なんですが、ちょっと呼び出しされまして。なんでも人手が足りないとかで」
「ああ、じゃあ行ってこいよ。森さんにはよろしく伝えておいてくれ」
「また連絡します」
古泉は踵を返し、どこへやらと足を進める。
不意に俺は言葉を投げかけた。
「なあ、古泉。きっとお前はハルヒを守るために戦うんだよな」
「でしょうね。今回の呼び出しも恐らくはそのための準備によるものでしょう」
そうかよ、と俺は会話を切る。なんだって俺はそんなことを聞いたんだろうね。
帰るにしたって流石に早すぎるし、当てもなく歩くとしよう。すると今度は向うから呼び止められた。
「涼宮さんだけじゃありません。あなたもですよ。例え『機関』を裏切ろうとも、何があろうとも守って見せましょう」
期待しているよ、なんて乾いた言葉を残して俺は立ち去った。
もちろんのことあいつが本気でそれを口にしたのも理解しているし、それほどまでの事態なのだろう。
ただ、真摯に応えてしまったら、何かが変わりそうな気がした。俺が認めたくないだけなんだ。異常な事象を信じたかったガキの頃から何も変わらないね。
今俺が信じたいのは日常って点で違うのだろうが。世界が崩壊しているというのに、いよいよ俺も往生際が悪い。
-
「……」
ハルヒは何を聖杯に望んだというのだろう。
この世界の終焉がハルヒのせいじゃないのだとしても、これ以上ホットな異常もないだろうに。
ならば、ハルヒが望んでいるのも異常なものではなく俺たちと同じ――。
「――――っ!」
右の手の甲に熱を感じる。
なんだと視線を遣れば紅く発光してるじゃねえか。
ああ、この色はどこかで見たことがある。灰色空間で『神人』が内包する赤色と同じだ。
「……くそっ!」
なんだ、古泉の言ってた戦争ってのが始まったのか?
ハルヒを狙う輩が人質か何かのために俺を襲撃したのか?
てんでうまく働かないまま、俺はどこかへ逃げこむように走り出す。
特に意識していたわけではないが辿り着いたのは、先ほどまで目指していた公園だった。
どうすればいい? 古泉を呼び出すか? いや、ああはいっていたもの即時的な戦力としては数えがたい。
ならば長門――そう、長門だ。あいつが今どんな状況か分からないがとりあえず電話するだけ――。
そこで俺の思考は途切れた。
目前に広がる公園のその広場。
突拍子もなく砂塵が巻き起こり、一つの人影が現れる。
次第に砂塵は晴れていく。
中から現れたのは、白髪を足腰のあたりまで垂らし同じく白を基調としたアヴァンギャルドな服装を纏った女だった。
特に目を引くのは三色で彩られた棒状の何か。とにかく虚無的な瞳をじろりと向けて女は口を開く、
「我が名はアルテラ。匈奴の末たる軍神の戦士だ」
匈奴の戦士で名前から察するにアッティラに近しいものだろうか。
何が何だかわからないまま、頭の冷静な部分がセリフの端から推測立てていく。いつの間に俺はそんな器用なことが出来るようになったか。ハルヒ様のおかげかね。
アルテラは俺の右手に一瞥する。見ると発光こそ収まっていたものの、俺の右手の甲にはしっかりと紋様が刻まれていた。
「聖杯戦争に挑みしものよ。お前が私のマスターか」
……決定。
世界の終焉を迎えんとする残り五日。
そのすべてを俺は厄日の連続で迎え入れそうだ。
―――――――― ■
俺は確かに日常を願ってるさ。
でもその願いは、もはや叶えようもないのかもしれない。
それが俺の終焉戦争だった。笑えないね、まったく。
-
【マスター】
キョン(本名不詳)@涼宮ハルヒの憂鬱
【マスターとしての願い】
世界の消失を止める。
【weapon】
――
【能力・技能】
――
【人物背景】
周囲からはキョンと呼ばれる高校生。涼宮ハルヒと同じクラス(もっというと席も常に近い)の普通の人間。
良くも悪くも普通の少年で、かつては異常な世界に夢を見ていたが、時間と共に現実というものを知っていった。
高校一年の四月、涼宮ハルヒとの出会いが彼の生活を大きく変えていく。
【方針】
あの日常を守るために、――――
【クラス】
セイバー
【真名】
アルテラ@Fate/Grand Order
【ステータス】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力B 幸運A 宝具A+
【属性】
混沌・善
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:A
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。
【保有スキル】
軍略:B
一対一の戦闘ではなく、多人数を動員した戦場における戦術的直感力。
自らの対軍宝具の行使や、逆に相手の対軍宝具に対処する場合に有利な補正が与えられる。
天性の肉体:D
生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。このスキルの所有者は、常に筋力がランクアップしているものとして扱われる。
さらに、鍛えなくても筋骨隆々の体躯を保つ上、どれだけカロリーを摂取しても体型が変わらない。
星の紋章:EX
(自身の攻撃力アップ+スター獲得)
神性:B
神霊適性を持つかどうか。ランクが高いほど、より物質的な神霊との混血とされる。
「粛清防御」と呼ばれる特殊な防御値をランク分だけ削減する効果がある。また、「菩提樹の悟り」「信仰の加護」といったスキルを打ち破る。
【宝具】
『軍神の剣(フォトン・レイ)』
ランク:A 種別:対軍宝具
「神の懲罰」、「神の鞭」と畏怖された武勇と恐怖が、軍神マルスの剣を得たとの逸話と合わさって生まれたと思われる世界を焼く大宝具。
未来的な意匠を思わせる三色の光で構成された「刀身」は、地上に於ける「あらゆる存在」を破壊し得るという。
真の力を解放した時、ランクと種別が上昇する。第二章で召喚された際には対城宝具級の一撃を放っている。
イベントクエストの「月の女神はお団子の夢を見るか?」でアルテミスがアルテラの持つ剣はなんでも軍神の剣になると発言していたが、詳細不明。
『Fate/Grand Order』のゲーム上では、敵全体にダメージを与えつつ防御力を下げる効果になっている。
【人物背景】
礼装を纏う褐色の女性。誇り高く理性的な戦士だが、どこか無機質な「空虚」を感じさせる。
彼女の根底に刻まれた厳守は「破壊」であり、進んで人間を殺害したくないが壊したいという歪みを抱えている。自分を文明を滅ぼすのための装置だと割り切っているようで、その言動は冷静を通り越して自動的に動く機械のようですらある。
その心象風景も、かつて殺したと思われる個体の判別も定かならぬ魔物が徘徊する、破壊し尽くされた荒野という寒々しいもの。
文明の象徴であろう建物を破壊し、自然には手を出さないものの結局は巻き添えという形で破壊してしまうが、一応感覚という形で文明にも種類があると分別を弁えているようだ。
その一方で、マスターと絆を深めることで少しずつ人間的な一面を垣間見せてくる。
【サーヴァントとしての願い】
戦士ではない人生を生きてみる
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投下終了です
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拙作「チョコラータ&キャスター」において、お薬を粉末描写しましたが、よくよく考えると粉末ではブレンドできないので「アンプル+注射器」の液体タイプに変更させていただきます。
また、素敵医師の人物背景の「薬物まみれの」という表現は不確定情報だったため読み飛ばしてください。
wiki収録時に修正させていただきます。
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投下させていただきます
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人気の無い学校の屋上に、二人の青年がいた。
片やだぶついたパーカーを着た、派手なオレンジの髪の青年。
片や特攻服を着た、リーゼントの青年。
正常な世の中であれば、誰が見ても授業をサボっているヤンキー二人の図である。
だが、そうではない。
彼はこれでも、聖杯戦争に参加しているマスターとサーヴァントなのだ。
◆ ◆ ◆
「なあ、和真」
「だから、なれなれしく呼ぶんじゃねえって言ってるだろ!」
金網越しに街を見下ろしながら、オレンジ髪のマスターはリーゼントのサーヴァントに呼びかける。
だが、返ってきたのは怒りの声だ。
「いいか、サーヴァントってのは全盛期の姿で呼び出されるんだ。
俺は中坊の時の姿になっちゃいるが、ジジイになるまで人生全うしてるんだよ!
敬え! 桑原さんと呼べ!」
「でもよお、明らかに精神的にも若返ってるじゃねえか。
年上への敬意とか湧いてこねえよ」
桑原と名乗ったサーヴァントは力説するが、マスターには馬の耳に念仏であった。
いくら言っても無駄だと判断した桑原は、諦めて話を進めることにする。
「はあ……。で、話はなんだよ」
「本当に聖杯戦争って始まってるのか? 半日使って街をぐるっと回ったけど、他のサーヴァントなんて見つからなかったじゃねえか」
「始まってなかったら俺は召喚されてねえよ、タコスケ。
まあそうは言っても、全部のサーヴァントがよーいドンで一斉に召喚されるわけじゃねえからなあ。
まだ召喚されてねえサーヴァントが多いんだろうよ」
「そういうもんか……」
桑原の答を聞いたマスターから漏れた言葉は、力が込められていなかった。
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「不満か?」
「いや、不満っていうか……。やっぱり、できるだけ早く決着つけたいからなあ。
白黒つく前にこの街が消えちまったら、笑い話にもならねえし……」
「焦りは禁物だぜ、と言いたいところだが……。そりゃ焦るよなあ。
何せ世界が滅ぶ寸前なんだから」
空を見上げるマスターにつられ、桑原も視線を上に向ける。
そこには、淀んだ色の何かが広がっているだけだ。
夜に見上げても、星など見えないだろう。
「たぶん俺一人だけだったらさ、俺も他の連中みたいにさっさと諦めてたと思うんだよ。
けど家族まで一緒に死ぬって思ったら、諦められなかった。
お袋が死んだ時に言われたんだよ、妹たちを守れって」
空を見たまま、マスターは呟く。
「俺は兄貴として守る義務がある。妹たちの未来を。
だからこんなところで、世界に滅びてもらっちゃ困るんだよ。
そのためには、聖杯でもなんでも使ってやるさ」
「泣かせる兄妹愛だねえ。だが……」
ふいに、桑原の眼光が鋭くなる。
「聖杯戦争に乗るってことは、多かれ少なかれ他人を傷つけるってことだ。
最悪、殺すことになる。それでもいいんだな」
「今さら聞くことかよ。お前が召喚された時に、覚悟はできてるさ」
余裕を感じられる表情で、マスターは答える。
だがその余裕は、すぐに消えた。
「いや、そう思いたいだけか……。やっぱり、誰かを殺しちまうのは怖いよ。
たいそうな大義名分があるわけじゃねえ。ただ家族を守りたいって個人的なわがままで戦うわけだしな」
「まあ、そうだろうな。殺人なんかしたくねえってのは、人間として真っ当な感情だ。
聖杯戦争を勝ち抜くには邪魔になるかもしれねえが、そこは失っちゃいけねえ。
それでも勝ちたいっていうなら、それはもう十分な覚悟じゃねえのか?」
「けどやっぱり、俺の自分勝手な考えで……」
「いいじゃねえか、わがままでも自分勝手でも。世界が滅ぶかどうかって瀬戸際だぜ?
常識だとか世間の目とか、多少かなぐり捨てたところで誰も怒らねえよ」
「…………」
黙ってしまったマスターに対し、桑原はさらに続ける。
「まあ俺から聞いておいてなんだけどよ、そう深刻になるなよ。
仮に相手を殺しちまったとしても、直接やるのは俺だ。俺のせいにしておけ。
お前が地獄に落ちたりはしねえよ。なんなら俺が、閻魔大王に口利きしてやってもいいぜ。
これでもあの世じゃ顔が利くんでな」
「和真……」
「どうした、俺様の言葉に感動したか? 今からでも敬っていいんだぜ?」
「お前って違う世界から来たんだから、俺が死んでもお前が知ってるあの世には行かねえんじゃねえか?」
「そこかよ!」
こめかみに血管を浮かべて怒鳴る桑原だったが、マスターは動じない。
「まあ、多少は気持ちが楽になったかな。お前がいいやつだったのはよくわかったよ。
尊敬はしねえけど」
「頑固だな、おめえも! 浦飯の野郎を思い出すぜ……」
「頑固なのはお互い様だろ」
マスターの顔に、やわらかな笑みが浮かぶ。
「よし、それじゃそろそろ探索再開といくか! さっさと終わらせようぜ、世界の終わりを!」
「おうよ!」
熱情を胸に秘め、二人は動き出す。
夜空の星を、今一度つかむために。
-
【クラス】セイバー
【真名】桑原和真
【出典】幽遊白書
【属性】混沌・善
【パラメーター】筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:B 幸運:A 宝具:A
【クラススキル】
対魔力:B
魔術に対する抵抗力。
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。
騎乗:E
乗り物を乗りこなす能力。
特に乗り物に関する逸話を持たないため、申し訳程度の効果しか無い。
【保有スキル】
戦闘続行:B
名称通り戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
直感:B
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。Aランクの第六感はもはや未来予知に等しい。
また、視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。
勇猛:A
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。
格上殺し:A
実力で自分を上回る相手に、根性と機転と悪運で幾度となく勝利してきた逸話に由来するスキル。
ステータスで自分を上回るサーヴァントと戦闘する時、ランダムでステータスが上昇する。
-
【宝具】
『霊剣』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-5 最大捕捉:1人
桑原の代名詞とも言える能力。
おのれの霊気を手から放出し、剣を形作る。
剣は伸縮も曲げることも自在で、両手に1本ずつ出して二刀流で戦うことも可能。
『次元刀』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1-3 最大捕捉:1人
仙水一派との戦いで覚醒した、桑原の新たな能力。
霊剣と比べ鋭角的で、より実体に近いデザインとなっている。
その能力は結界や魔術的拘束を切断し、無効化すること。
霊界が設置した結界も易々と切り裂いたこの能力には、事実上どんな結界も耐えられない。
また空中を斬ることで次元を歪め、ワープホールのようなものを生み出すことも可能。
ただし必ずしも行きたいところに繋がるとは限らないため、移動手段としての確実性は低い。
(いちおう桑原のやる気が高ければ、狙い通りの場所に繋がる可能性は上がる)
なお攻撃力という点では霊剣と大差ないため、普段の戦いでは燃費のいい霊剣を使った方が無難である。
【weapon】
宝具で生み出した剣
【人物背景】
皿屋敷中学に通う不良生徒。
生まれつき霊感が強く、見たくもないものが見えることに悩んでいた。
ライバルと目していた浦飯幽助が霊界探偵となったことにより彼も妖怪絡みの事件に巻き込まれるようになり、
霊剣を生み出す能力に目覚め戦士として成長していく。
最終的にはS級妖怪とも渡り合える、純粋な人間としては最強クラスの霊能力者となった。
後に戦いから身を引いた彼は猛勉強に励み、名門高校への進学を果たしたという。
【サーヴァントとしての願い】
世界を救う。
-
【マスター】黒崎一護
【出典】BLEACH
【マスターとしての願い】
妹たちの未来を守るため、世界を存続させる。
【weapon】
特になし
【能力・技能】
非常に高い霊力を持つが、この世界の彼はそれを覚醒させておらず、幽霊が見えるだけである。
また、身体能力も一般人としてはかなり高い。
【人物背景】
霊が見える高校生。
医師の父と、二人の妹と共に生活している。
母の遺言に従い、妹たちを守れる強い兄でいることが彼の信念である。
オレンジの髪は生まれつきなのだがそのせいで不良に絡まれやすく、そのたびに返り討ちにしてきたため不良界隈では有名人。
本来の世界では死神の少女と出会い自らも死神となるが、この世界の彼にその出会いは訪れていない。
【方針】
聖杯狙い。しかし、できれば他の参加者の命は奪いたくない。
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投下終了です
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投下させていただきます
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◇
世界の終わりが目に見える形で訪れてから、どれほどの時間が経ったのだろう。
この親愛ならざる隣人はすっかりと世界に受け入れられてしまい、
消滅アトラクションの順番待ちをする人間は諦めの笑顔を浮かべて、ただ、日々の思い出作りに勤しんでいた。
金や仕事や身分の何もかもが無意味に成ってしまうことは、いくつもの消えてしまった国々が保証しているというのに、
なんとなく国は何事もないかのように動いていて、駅前のドーナツ屋もヤケクソの世界崩壊セールなんてすることもなく、いつも通りに営業していた。
「結局、信じたいのかもしれないね」
世界の終末を目前にしてもいつも通りの値段のチョコレートドーナツをつまみながら、優は言った。
店員と客の数は終末の前よりも減っていたが、貸切状態にはならず店内には優達以外の客が数人いた。
「信じるって……?」
優の言葉に、菜々芽が応じる。
世界が終わる数日前に、少女二人だけでドーナツ屋に訪れていた。
話したいことは山程あるはずなのに、結局いつも通りの世間話に終止してしまう。
終焉を目前にしても、結局外国の出来事のように世間話の内容に世界の終わりが加わるだけだ。
世界の終わりを前に、思い出話だなんて――全て諦めてしまったのと同じだ。
「ドッキリ大成功!って、看板を持って消えてしまった人たちが登場するのを。
それで、世界はこれからも続いていきますよ、って言ってくれるのを……あたしもね、待ってる」
今となってはこの国で誰もが浮かべる諦観の笑顔、
優のその表情を見た時――思わず、菜々芽は彼女を抱きしめたくなるような衝動に駆られた。
大丈夫、と言ってあげたかった。
これからも世界は続いていくよ、と言ってあげたかった。
もしも奇跡が起こったら――世界は救われる。
そして、その奇跡を起こすための道筋を――菜々芽は所持している。
背中に刻み込まれた三片の黒い天使の羽根――令呪。
世界の終末の前に現れた蜘蛛の糸、あるいは悪魔の罠――聖杯戦争に参加するための資格を、光本 菜々芽は手に入れてしまった。
けれど、全てを言うことは出来ない。
かつて起こった蜂屋あいの絡んだ二つの事件よりも、今巻き込まれているものは純粋な暴力性に満ちている。
「……大丈夫だよ、優」
「菜々芽……?」
「きっと、明日も明後日も明々後日も続いていくよ。きっと、誰かが……ドッキリの看板を掲げてくれる」
その誰かは――私になりたい。
みんなと過ごす毎日を――これからも続けたい。
ささやかで、そして――この滅び行く世界において、どうしようもなく絶望的な願い。
「菜々芽がそう言うなら……なんだか、大丈夫な様な気がしてきたよ」
優が笑う。
菜々芽も笑う。
諦めのない、ただただ純粋な笑い。
明日も明後日も明々後日もあった頃の――かつて未来があった頃の笑顔を二人は浮かべていた。
◇
バスを乗り継いで、海へ。
手を繋いで、二人で世界の終わりを見に行く。
水平線の向こう側に見えるものは、最初から何も存在しなかったかのような虚無。
星に手を伸ばしても決して届かないけれど、虚無は手を伸ばさなくても向こうから自分たちを捕まえに来る。
どちらともなく、手を握る力が強くなる。
目の前の虚無が、優にとっては約束されたエンドマークで。
菜々芽にとっては、立ち向かわなければならない――拳も言葉も通用しない、奇跡だけを武器にしなければならない敵だ。
「世界が終わらなかったらみんなで海に行こうよ!!」
優が虚無に向かって大声で叫ぶ。
「いいよ、みんなで行こう!!」
菜々芽も虚無に向かって叫ぶ。
握る手は離さないまま、二人で世界の終わりに抗うように叫ぶ。
「菜々芽はモテる!!きっとビーチの視線を独り占め!!!」
「あはは……」
優の叫びに、菜々芽は苦笑する。それは出来れば、遠慮願いたい。
好かれるならば、今手を繋いでいる相手が一番良い。
「私も……また……好きな人、出来るといいな」
「……優」
心の傷は忘れられないまま、ただ癒えるほどの時間は過ぎた。
それでも、またやり直すには時間が足りない。
世界の終わりはあまりにも早過ぎる。
「大丈夫!!!!」
だから、菜々芽は叫ぶ。
「絶対に大丈夫!!!!」
好きな人に、好きな人が出来ますように。
好きな人の恋が、叶いますように。
世界の終わりに負けることなく、いつまでもいつまでも――エンドマークが出ることなく、続きますように。
そして、繋いだ手はいつか、離さないといけないけれど。
少しでも、長く――このぬくもりと繋がっていることが出来ますように。
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◇
深夜になって、親にいうこともなく、誰にいうこともなく、菜々芽は家を出る。
目的地は――■■■■
世界で唯一つの戦場。
平和になった世界で最後に残された戦争。
「行こう、ランサー」
既にランサーのドリルは、その街までのトンネルを開通させていた。
ランサーは現場主義!
聖杯戦争という、この世界で最もHOTな現場にマスターと共に急行するのだ!
◇
ランサー、ゲンバー・ダイオードは一度終わった世界から訪れた英霊だった。
かつて起こった大災害は文明の何もかもを破壊し、人間の活動スケールを大幅に縮小させた。
だが、大災害でも人間の強さを変えることは出来なかった。
新たなる復興のための大工事時代――ランサーはその時代に大王として君臨していた。
数多の国を侵略した目的は唯一つ――無限のエネルギーが眠る地、ユデンの園を開発し、飢えた子どもたちを救うこと。
数多の闘争、数多の工事の末、彼は英雄バルと戦い――そして、過労死という結末を迎える。
だが、ランサーはサーヴァントとして再び、この大地に立つ。
かつての世界よりもその有様は終末に近く、そして手のつけようのない世界。
だが、世界が白紙になったというのならば、もう一度工事計画を立て直そう。
世界は終わりつつあっても、人は未だ終わってはいない。
ならば、ゲンバー大王ではなく、唯一人の工事戦士として――聖杯戦争に挑もう。
◇
ランサーの背に乗って移動する菜々芽は、彼との出会いを思い出す。
――君は、世界を救いたいか。
――ええ
――聖杯の奇跡は、全てを元通りにはしないやもしれぬ。
――ただ、世界の終わりが止まる……それだけの結果に終わるかもしれぬぞ。
――それでも
――私たちには明日が残される。
――そうか
――ならば、明日という大事業。
――余の工事力を以て挑むことにしよう。
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【クラス】
ランサー
【真名】
ゲンバー・ダイオード @重機人間ユンボル
【パラメーター】
筋力A++ 耐久B 敏捷C++ 魔力E 幸運D 宝具D
【属性】
秩序・中庸
【クラススキル】
対魔力:E
魔術が滅んだ工事力がものをいう世界の英霊のため、申し訳程度の対魔力しか所持しない。
【保有スキル】
工事:A+++
大災害後の世界の中心となる、世に誇るべき技術力。
修得の難易度は最高レベルで、他のスキルと違い、Aでようやく修得したと言えるレベル。
+++ともなれば世界の工事計画を一手に握ることが出来る。
また、工事を行いながらの移動に際し、敏捷の+補正を得る。
対惰:A
さあ、働こうか。
大工事時代に於いて、ニートは許されない。
世界の支配者にして、生粋の現場主義者であるゲンバー大王の前では尚更のことである。
怠惰なる者に対して、全ての判定を有利に働かせることが出来る。
過労:A++
ゲンバー大王は生粋の現場主義者であり、その有様が故にその肉体は限界を超えても働き続けた。
保有者は、あらゆる行動時に急激なステータス低下のリスクを伴うようになる、デメリットスキル。
また、激しい戦いに際してはその最期の逸話の通りに過労死に至る可能性も存在する。
発生確率はそれほど高くないが、戦闘時に発動した場合のリスクは計り知れない。
【宝具】
『JUMBOR0D(ユンボルナンバーゼロドカルト)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
改造されたゲンバー大王の肉体そのもの。
常人にあらざる異様なパワーを発揮し、その巨体はまさしく工事車両そのもの。
また、全力を出すに相応しい相手を見つけた際には、その両腕は世界最大の自走車両、バケットホイールエクスカベーターの形状を取る。
【weapon】
『無銘』
―名も無いドリル、ゲンバー大王の行った数多の工事に用いられた。
【人物背景】
ゲンバー帝国の支配者であり、「ゲンバー大王」と呼ばれている。主君自らがつるはしを振るい、
常に一番HOT(ホット)な現場へ急行する事をモットーとする、現場第一主義の支配者である。42歳厄年。
元は無名の工事戦士だったがDr.ドカルトにより改造され誕生した最初のユンボル
「JUMBOR0D(ユンボルナンバーゼロドカルト)」であり、頭部全体が仮面のような形状をしたユンボルホーンに覆われ、
体格は筋骨隆々で人間離れしている。バケットホイールエクスカベーターのテツグンテ「D0DO100(ディーゼロディーオーハンドレッド):バケットフィンガー」を持ち、
WJ版では、製造番号1Dであり、5年前にドヴォーク王国に侵攻し、
ドヴォーク重機士団を壊滅させた。飢えに苦しむ子供たちを救うためドカルトの筋書きと知りつつユデンの園を目指していたが、
機能停止直前にバル達にユデンの園の鍵を託しその生涯を終えた。
【サーヴァントの願い】
世界を救う
【マスター】
光本菜々芽@校舎のうらには天使が埋められている
【マスターとしての願い】
世界を救う
【能力・技能】
小学生時分にして野犬と戦い勝利する戦闘能力と
折れた方の腕で殴り、白い悪魔蜂屋あいに最後まで屈することのなかった精神性。
【人物背景】
黒い天使
参加時期は<蝕>終了後。
【方針】
未定
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投下終了させていただきます
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皆様、投下お疲れ様です。
候補作を投下します。
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この星には、『スーパー戦隊』と呼ばれる者達がいる。
太古より受け継がれた異能、異世界の文明から授かった能力、科学技術の粋を集めて生み出された機甲など、
人知を超えた超常の力を身に纏い、様々な色の特殊強化服を装備したチーム。
人知れず、この星を侵略しようとし続けた悪の軍団と戦い続けた彼らは、一説によれば200人以上存在していたという。
命を賭けて地球を守りぬいたスーパー戦隊の戦士達
そんな彼らが守りぬいた地球が、世界が消えていくのを黙って見ている者など、一人たりとも存在しなかった。
あるスーパー戦隊は、この国の外にいる人たちの救援に向かうために空を駆け。
あるスーパー戦隊は、地球とは別の時空に存在する異世界に人々を避難させようとし。
あるスーパー戦隊は、消滅に立ち向かうおうと科学技術の粋をかき集めて研究をした。
だが、彼らは無力だった。
歴代のスーパー戦隊の全てがぶつかり、そして乗り越えてきた『世界の終わり』という現実に対し、多くのスーパー戦隊は敗北したのだ。
あるスーパー戦隊は、自分達の戦いは無意味だったと絶望した末に命を絶ち。
あるスーパー戦隊は、自暴自棄となって街を破壊し出した仲間を止めようとして同士討ちとなり。
あるスーパー戦隊は、この世界に見切りをつけいずこかへと去っていった。
人々の間でまことしやかに囁かれ続けた、この地球に危機が訪れる時に現れるという、5色の戦士達の伝説。
もはや、その戦士達の伝説は、この地球に残された最後の街から、消えうせていた。
-
◆
人の気配が消えうせた、とある昔風の屋敷。
玄関口の表札には『志波』の2文字が刻まれ、玄関の先にある奥の間では、一人の青年が瞑想していた。
彼の背後に見えるは、300年の歴史が刻まれている志波家の家紋。
この青年こそ、志波家19代目当主にして、文字に宿る不思議な力――『モヂカラ』を操り、
この世とあの世の狭間を流れる三途の川に棲む怪物――『外道衆』から世界を守り抜いた、
『侍戦隊シンケンジャー』のシンケンレッドこと『志葉丈瑠』。
志波家という歴代シンケンジャーのリーダー――殿の家計の末裔である彼の周りには、
共に外道衆との戦いを生き抜いた仲間達と、後見人として丈瑠の幼少からの付き合いである爺。
さらには、シンケンジャーの戦いをサポートしてくれた黒子達、数多くの人々がおり、共にこの屋敷で生活を営んでいた。
だが、世界が終わるという現実が判明した時、丈瑠は彼らを全員、この屋敷から追い出した。
決して邪な理由などではない。
丈瑠に仕えていたとはいえ、彼らにも家族がおり、恋人がおり、友人がいる。
故に丈瑠は、最後の時を迎えるなら、自分が本当に傍にいたい人の近くにいてあげろと、全員を解雇したのだ。
最初は反論した仲間達も、丈瑠の決断を尊重し、一人また一人と姿を消した。
爺は最後の最後まで残っていたが、やがて彼も姿を消し、志波家の屋敷に残っているのは丈瑠のみとなっていた。
それから数日後。食事と睡眠以外の全ての時間を費やした瞑想を終え、丈瑠は眼を開く。
その表情は、一つの決意をした男の顔となっていた。
「決心はついたのか」
「・・・セイバーか」
横手から、男の声が聞こえた。
丈瑠が視線をそちらに向けると、裏に続く通路の壁に寄り添う、セイバーと呼ばれた金髪の外国人の姿。
その背には、身の丈ほどもある巨大な大剣を背負い、素人目から見てもかなりの使い手と分かるほどの気配をかもし出していた。
腕を組みながら丈瑠に顔を向け、その青い瞳で丈瑠を直視する。
「お前の・・・いや、お前達シンケンジャーの戦いについては、裏にあった資料を見せてもらった。
お前がその気になったのなら、他のマスターやサーヴァント相手にも、有利に動けるだろう。
だが、お前は――」
「それ以上は言うな。分かってるさ、自分が何をしようとしているかって事ぐらいはな」
立ち上がった丈瑠の手に握られていたのは、シンケンジャーとしての彼の武器である『シンケンマル』と呼ばれる刀だ。
モジカラが込められた『秘伝ディスク』を鍔に装着することで、様々な能力を発現する愛刀を眼前にかざす。
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「俺はこの世を守るシンケンジャー・・・今も、その使命に迷いはない。
俺たちが守ったこの地球が、あと数日で終わってしまうのが運命なのだとしても、
何もしないで黙って見てるなど出来ない・・・・・・だからっ!」
振り返りざま、シンケンマルを一閃。
彼の象徴である、志波家の家紋に縦一文字の亀裂が刻まれた。
迷いのない全力を込めた一撃を、300年の歴史が刻まれた家紋に対して振り降ろした。
それは、彼が侍として…この世と人を守る者として、絶対にしてはいけない行動を起こすための決意の証明。
「俺は聖杯戦争に勝ち残り、世界の消滅を止める。この世を守るために、他のマスターを…殺す」
爺が最後の最後に丈瑠に伝えた言葉の中に、風の噂に聞いた『聖杯戦争』という単語があった。
どんな願いでも叶えてくれる奇蹟の聖杯を巡り、
参加者たるマスターと、その従者として呼び出されるサーヴァントによる、参加者同士の殺し合い。
その聖杯が、地球最後の場所となるこの街に現れるという。
爺はたんなる噂話だと笑っていたが、元々外道衆などという化け物と戦っていた身だ。突拍子もない話など慣れている。
丈瑠は一人、その噂を徹底的に調べ上げ、いつのまにかマスターの資格を得ていたのだ。
やがて彼の前に、セイバーのクラスで現界した一人の男が現れた。それがこの金髪の男だ。
剣で戦うセイバーのサーヴァントということもあり、丈瑠も一度手合わせを願ったが、その力は歴戦の戦士である丈瑠を大きく上回っていた。
このセイバーの力と、自分が培ってきた侍の力があれば、聖杯戦争に勝ち残る事が出来るかもしれない。
聖杯がどれだけの力を持っているかは不明だが、世界の消滅という瞬間に現れる物だ。
この消滅を食い止める手段があるとすれば、きっとこの聖杯に縋るしかない。
そして、丈瑠は決意した。
世界という大を救うために、聖杯戦争のマスターという小を斬ることを。
人々を守り続けたスーパー戦隊の戦士が、世界を守るために他の人々を殺すという、ひどく矛盾した答えを。
「世界を守るために、他の人間を蹴落とす…それが、アンタの決意ってことでいいんだな」
セイバーが、最後の確認と言わんばかりに言葉をぶつける。
それに答えるかのように、丈瑠はシンケンマルをセイバーに突き出す。
その眼は一切の迷いを見せず、セイバーを真正面からにらんでいた。
「何度も言わせるな。俺は世界を守るシンケンジャーの使命を果たす。
マスター達にどれだけ恨まれようと、世界を守った後で外道に落ちようとも構わん。
だから、お前にも力を貸してもらうぞ、セイバー…いや、クラウド・ストライフ」
「…興味ないね、と言いたい所だが、そこまでの決意をしたマスターをほっとくのも気分が悪い。
いいだろう。だが、やるからには必ず勝つぞ」
星を救った魔晄のソルジャー――『クラウド・ストライフ』。
愛剣たる『バスターソード』をシンケンマルに突きあわせ、ここの侍と戦士は共闘の意思を固めた。
侍戦隊シンケンジャー、終ノ幕―――これより開幕
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【クラス】セイバー
【真名】クラウド・ストライフ
【出典】ファイナルファンタジーⅦ
【性別】男性
【属性】中立・善
【パラメーター】
筋力:B+ 耐久:D 敏捷:C+ 魔力:B 幸運:D 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせる。
中でもバイクの扱いに長け、バイクに限ってはスペック以上の能力を引き出し、騎乗しながらの戦闘も可能。
【保有スキル】
ソルジャー:E-
ある生物の細胞を埋め込むことにより、身体能力を向上させた兵士に宛がわれるスキル。
戦闘技術だけならランクAだが、これは上記の細胞にプラスして、あるエネルギーを照射された副作用によるものである。
この理由により、ランクがこれ以上上昇することはない。
【宝具】
『誓いの大剣(バスターソード)』
ランク:D 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1
友の形見として譲り受けた、身の丈ほどもある巨大な大剣。
生前の旅の最中、この武器だけは決して手放さなかったという逸話があるため、
クラウドが聖杯戦争から脱落するその瞬間まで、決して消滅したり折れたりする事はない。
『魔を封じし宝玉(マテリア)』
ランク:C 種別:対人(自身) レンジ:1 最大捕捉:1
星の生み出した力『ライフストリーム』が結晶化した宝玉。
クラウドと仲間達が、生前の旅で使用した『マテリア』そのものが宝具となった。
『誓いの大剣(バスターソード)』に空いているスロットに装填したマテリアにより、自身に様々な追加効果をもたらす。
一度に設定できるマテリアは2つ。付け替えのためには、足を止め無防備となる隙が生じる。
今回の聖杯戦争で使用できるのは、下記の通り。
・魔法マテリア(雷・炎・氷)
クラウド自身の魔力を消費し、遠距離から属性魔法で攻撃する事が可能
戦闘回数の蓄積によってランクが上昇し、さらに強力な属性魔法が使用可能となる
・能力マテリア(みやぶる・かばう)
みやぶる:対象の能力と魔力残量を看破し、即座に対策を立てられる。真名の看破は不可能。
かばう:味方が敵の攻撃を受ける瞬間、その攻撃を自身が代わりに受ける
・上昇マテリア(HPアップ・MPアップ)
クラウドの耐久、魔力が1ランク増加する。
・召喚マテリア(バハムート)
3ターンの経過と大量の魔力消費と引き換えに、使い魔として召喚獣『バハムート』を呼び出す
『限界を超える力(リミット・ブレイク)』
ランク:B+ 種別:対人(自身) レンジ:1 最大捕捉:1
多量の魔力消費と引き換えに、クラウドの身体能力を極限まで高める宝具。
発動後、全ステータスが一時的に2ランクアップし、相手の防御を突き破ってダメージを与えられる。
この際、クラウド最強の技『超究武神覇斬』が発動可能となる。
【weapon】
バスターソード
【人物背景】
反神羅組織『アバランチ』に雇われた、自称・元ソルジャーの青年。
ソルジャークラス1stの肩書きの通り、愛剣たるバスターソードを用いた戦闘技術は、かなりのレベルに達している。
やがて彼は自らの星の危機と、自ら倒したはずの因縁の相手が星を滅ぼそうとしている現実に直面し、
悩みながら、苦しみながらも、仲間達と共に星の危機に立ち向かった。
【サーヴァントとしての願い】
マスターである丈瑠の力となる
【基本戦術、方針、運用法】
近接戦闘においてその真価を発揮する、正統派のセイバー。
『魔を封じし宝玉(マテリア)』を付け替える事により、数種類の追加能力を使い分け、相手に合わせて効果的に立ち回る事が可能。
消費魔力は高いが、『限界を超える力(リミット・ブレイク)』の発動により、相手のガードを打ち砕いて強力な一撃を入れていこう。
マスターである志波丈瑠も、戦士としては高水準の能力を備えているため、連携によって優位に立ち回れるだろう。
-
【マスター】志波丈瑠
【出典】侍戦隊シンケンジャー
【性別】男性
【令呪の位置】右手
【マスターとしての願い】
世界の消滅を食い止める
【weapon】
シンケンマル
シンケンジャーとしての丈瑠の愛刀。
変身前後問わず使用可能。
【能力・技能】
シンケンレッド
侍戦隊シンケンジャーの長として、丈瑠が変身する姿。
火のモヂカラを操り、シンケンマルに炎を纏わせた大胆かつ華麗な剣術を操る。
サーヴァントには及ばないが、マスターとしてなら間違いなくトップクラスの戦闘能力。
ショドウフォン
モヂカラを発動する携帯電話型アイテム。
筆モードに変化させると先端に筆が現れ、空中に漢字一文字を描くことで、その漢字に由来した効果を発動させる。
モヂカラの発動に必須となるため、何かしらの事情で破損した場合、シンケンレッドへの変身も封じられる。
烈火大斬刀
『火』ディスクを装着することでシンケンマルが変化する、身の丈以上の巨大刀。
【人物背景】
天下御免の侍戦隊シンケンジャーの殿としてこの世を守り続けた、志波家19代目当主。
殿として他の家臣の命を預かることへの責任感などから、時として厳しく接していたが、
お化け屋敷(作り物の化け物)が苦手といった一面も持つ。
本聖杯戦争においては、残された最後の街に志波家の屋敷があり、原典通りに外道衆との戦いを終えた後。
なお、この世界には歴代のスーパー戦隊が数多く存在していたが、
シンケンジャーの他のメンバーも含め、ほとんどの戦隊は死亡、もしくは行方不明となっている。
【方針】
この世を守るシンケンジャーとして、他のマスターを斬って聖杯を勝ち取り、この世を救う。
他のマスターに恨まれようと、戦いの後で外道に落ちようと構わない。
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以上で投下終了です。
投下時にトリップの設定をミスしてしまったため、投下内容に2つのトリップが表示されてしまいました。
180-186までの投稿は、トリップ『◆V8Hc155UWA』とさせていただきますよう、よろしくお願いします。
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投下します
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――――この空が、消えてなくなるその日まで
✝ ✝ ✝
朝の陽ざしが窓を貫いていた。
起きる。変哲もない自分の部屋だ。世界が崩壊しているといのに今日も清々しい朝。
日本以外の世界が断絶されたというのに太陽はどこを公転してるんだか。今日も今日とてライフワークを勤しんでくれたまえ。
朝っぱらからたまえとか言っちゃって。俺ってダンディ。
のそのそと着替えて、適当に鞄を手にする。
鞄の中身を精査する必要はない。最悪太一袋があればどうにかなる。
階下へ降りる。
睦美おばさんはいないけど、食事はあった。
湯気が立っている。ありがたくいただくことにした。
「むぐ」
さすが美味い。
朝食というのに箸が進む進む。
両の掌をあわせて、ごちそうさま。
さぁ、学校だ。
女っ気のない当家の家庭事情におきましては、起床→通学過程における萌え要素は皆無ゆえ、
いちいち思考をなぞることもなくさっくり外に出た。こんなに悲しいことはない。
いい天気だった。
学校への道のり。
通いなれたスクールロード。
坂道を上る。けっこう大変。
前髪がかすかにまぶたにかかる。
少し不快。あまり自分の髪は好きじゃない。
前髪をいじりながら通学路に出た。
てくてく歩く。今度誰かに切ってもらおうか。
都合よく手頃なメイドがいる。彼女なら粗相せずこなしてみせるだろう。
「うーん、でもなあ」
悩ましげにつぶやく。
惰性で動く足は、いつになく緩慢だった。
髪を気にしていたせいだろうか。
途中、田崎食料へと寄っていく。
今日も店主はいない。俺はお茶を手に取る。そしてレジの方へ向かうといつものように紙に商品名を記入した。備え付けのテープを使い、ぺたりと壁に貼る。
『世界が滅ぶまで残り五日 緑茶皇 130円 黒須太一』
素直に日付を書かずに、洒落っ気を演出してみる愛貴族。これはモテるな、という確信がある。
ちなみにこれで暫時的な購入手続きは済んでいる。決してルールに反しているわけではない。
店主は道楽で店を開いているのはいいものの、店主は鉄道趣味で鉄道を見にふらりとローカル線の写真を撮りに行く。
そんな特別な店での特別なルールとして、いわゆるツケ払いが基本となる。
まあ、いくらでも窃盗しようと思えばできるけれど、そこは信用しているのかもしれない。地域密着型。素敵なレトリック。
ふと見ると、他にも名前を記入した人がいるようだ。覗いてみる。ほほう。出歩いてるのか。呑気だなあ。
-
「おや」
つらつらと眺めていると、俺の名前があった。
あれ、こんなの買ったっけ。この年で記憶障害とはやだなあ。
俺の名前を騙ってるメモはもう幾つかあった。
『白菜 580円 黒須太一』
『ペットボトル天然水×10 100円 黒須太一』
『野菜ジュース健々GOGO 110円 黒須太一』
『バーニングカレー 200円 黒須太一』
『マグナムライチ 110円 黒須太一』
『牛カルビ100g 160円 黒須太一』
……。
…………。
………………。(ギャルゲ的クォンティティ表現)
日付のないツケの用紙が山ほどある。日付もないけど覚えもない。(ガクガク)
いつから二重人格者になったのだろうと思案していたところ、字体が俺のものじゃないと気付く。
何やら達筆。
ははーん、あの子だな。確かにこの店のことを教えた気がする。あの子、そういえば今日が何日か知らないのかな。
俺の名を騙った罰として後でお仕置きしなきゃな。もちろん性的な意味で。ぐへへへ。
覚えがないといったが、そういえば完全に覚えがないわけじゃない商品もある。
というか、今朝食卓にあり、口に運んだ食材も記載されている。……もしかして、俺ん家の冷蔵庫はいっぱいいっぱい? ツケもいっぱい?(ブルブル)
まあ世界も滅ぶらしいしいっか。俺は見なかったことにして(というより字体が明らかに違う時点で有効性があるか分からないし)店から立ち去る。
緑茶を喉に流し込みつつ、再び旅路へ。
学校の門は締まっていた。
閉校しているのだからさもありなん。
関係ないけどね。俺は柵を飛び越して校内へと闖入していく。
わはは、なんだか悪いことをしてみた気分♪
当然のように校舎の鍵も掛けられていたけれど、なんとかした。
教室。
一人ぐらい誰かいるかと思ったけれど、誰もいない。
いや、校舎の鍵が締まっていたのだから察するべきだったか。
鞄を机に投げる。誰もいない教室に用はない。
「…………」
なんとなく、自分の席に座ってみた。
物思いにふけてみる。誰もいない教室というのは閑散としている。
俺は間もなく席から立った。
「部活部活ー」
屋上へと足を向ける。
世界には誰もいないような錯覚を覚えた。
誰かいないかな。
誰ともすれ違うこともなく、屋上の前まで来た。
ノブをひねって、鉄扉を押し出す。
視界が開ける。
青空と平たいコンクリート床。
広々とした給水塔が階段とは別にあって、その土台を共有して、大きなアンテナが立っていた。
未完成のアンテナ。計画倒れのしわ寄せで預けられた、案外本格的だが未成熟のアンテナ。
誰もいない。
誰もいなかった。
風に抱かれて俺は立っていた。
「そっか」
悲嘆と納得。
たぶんそれらがない交ぜとなったつぶやき。
俺はアンテナへと歩み寄る。
-
「それを使って何をなさるんです」
後ろから声。
最近、この声ばかりを聞いている気がする。
会ったのは昨日が初めてだけど。
「部活」
答えながら振り返る。
美人がいた。フレンチちっくなメイドさんだ。
衣服や編まれた銀髪が風に流され踊っている。
なぜかパンツは見えない。
あの立ち位置、この角度、そして風
見えないはずはないのに。
そのすらりとしていて肉付きに乏しい、されど蠱惑的なメイド女子の罪深い太股と、
股間部を包む男心を鷲掴む抗えない逆三角形の情熱を目撃することはかなわない。
※男心を鷲掴む抗えない逆三角形の情熱――
太一語。女性用下着(ショーツ)の意。太一の射程距離は上下に幅広いが、やはり年若い女性のものが好ましいとされる。
一般に純白を最上とし、煽情的な色を最下に置くが、状況によって基準は変わる。
だけど肉欲の罪過の一派であるメイド女子の臀部に含まれたエロティッシズムまでは、レーティングでは量れない。
……としておこう。あれ、殺し合いってレーティングに含まれないの? 俺が言うのもなんだけど中々酷なものですよ?
だったらパンツが見えてもいい世界設定でよくない? んんん?
「さいですか。では頑張ってください」
風にはためくミニスカートを両手で抑えられた。
世界の残酷なことだ。
仕方ないのでアンテナと向かい合う。
メイドと自称するくせに手伝う気はないようだ。
「ところで、聖杯戦争についてお考えなさったかしら」
「んあ? んー」
曖昧な言葉で濁す。
とはいえそれが答えだった。
メイドさんはずば抜けた瀟洒な方なようでそれだけで察したようだ。
聖杯戦争。
メイドさんと絆を深めつつ殺し合いをするものらしい。
優勝景品は、聖杯とのこと。おっどろきー。
とはいえ、俺はそんなもの欲しちゃいない。俺が求めるのは繋がりだった。
誰かとの繋がり。誰かと交差をすること。世界に爪弾きにされないこと。
殺しちゃだめだ。今のところ。
忌避すべきものだ。
たとえ世界が終わるのだとしても。
それに血は見たくない。
――――っ。
血を想起したら発作が起きた。
大丈夫、このぐらいの軽度ならば耐えられる。
俺は一つ呼吸を落とすと、メイドさんに向きなおった。
話題を変える。
「時にメイドちゃん。きみはどうしてメイドなの」
「メイドだからですわ」
「サーヴァント……従者ってみんなそんなもんなの?」
「私を基準に考えますとそうなりますわね」
「じゃあ違うわけだ」
「はい」
正直、数ある萌え属性の中でもメイドはランクが低い。
きっといやでも思い出されるから。昔を。
彼女の完全な佇まいはかのスーパーニンジャを連想させるしたちが悪い。
……あるいは、その流れるような銀髪に俺の白髪を当てはめているからだろうか。
考えすぎだ。
だけど考えてしまうものは仕方がない。
-
「ところで従者なら答えられると思うんだけど、今日のパンツは何色?」
ま、可愛さを前にしたら何の問題もないけどネ!
げへへへ、どーれどれどれ。今の俺はレーティングの壁を超えるロンリーウルフさ!
「灰色ですわね」
灰色かあ、あまり女の子らしくはないかな。いや、この黒須太一、既存のジェンダー論には左右されない男よ。
某有名画像加工ソフトを立ち上げる。0.1秒で起動だ。脳内だから。
彼女の肢体を嘗め回すように凝視した後、似ている身体つきをした女の子を探り当て顔以外を切り取る。
そして下着の部分だけレイヤー分けして、カラーコードを設定する。灰色……灰色……。おーっと、大事なことを忘れるところだった。
「ち、ちちちち、ちなみにブ、ブラジャーの方は」
「恥ずかしくて言えません」
「は、恥ずかしい!?」
恥ずかしいしブラジャーを付けてるんですって奥様!
あわわわ、どうしようどうしよう。僕の従者は恥ずかしい子なんだ!
「ちなみに先んじて言っておきますがパンツの方も言及は控えておきます」
「え、でもさっき言ってたじゃん」
「あら、あれはあなたの下着の色ですわ」
「アウチッ!」
即時脳内画像を破却する。
さらば、愛しきマイメモリー。
「しくしく」
「慰めるイベントが起きるには、あと好感度が398必要ですね」
「なんてこったい」
「これでも私は一人の主に仕えていた身ですから。それなりの待遇を欲するのでしたら、私の好感度を上げること」
どっちが従者かわかったもんじゃない。
「もしかしたら好感度があればむふふイベントも発生するかしら」
「さぁーって、いっちょ参加者殺してくっかー」
俺は腕をまくり、にゅちゃりと唇をなめる。
だってむふふですよ? むふふ。いやー、むふふかー!
「いえ、このナイフを錆びつかせるのは私の仕事でございます」
「そなの?」
「太一様は太一様で好きなことをなさればいいわ。それを見極めるのが私の務め」
流石はメイドさん。
「現状、好感度はマイナスを振り切っていますのでどしどし頑張ってください」
そこまでのことしたかしら。
生きていく自信を失くす。
-
「え、顔が目も当てられないから? 確かにひどい顔だと思うけど、だからってマイナスは」
「あなたは美形の部類かと判断しますが……そうですね、その眼」
目。眼。瞳。
俺の、目。
「マスターの目を見ていると、どことなく不安な気持ちが湧いてくるのは事実ですわ」
腹立たしい気持ちは吹き出さない。
それが当然だからか。もはや慣れてしまったものだからか。
むしろ、そんなものは笑い話にさえしてしまいたい。
「じゃあ、まずは目を何とかしないとね」
「ああいえ、好感度が下がっている原因は自宅の金庫にあった猥褻本の数々によるものですよ」
「え?」
どうしてそれを! 俺の可愛い可愛いピンク空間をどうしたっていうんだ!
「燃やしました」
「バンボーレ!!」
衝動的に身体が頽れる。
俺の命が……。何にも代えがたい俺の大切な子供たちが!
そんな馬鹿な話があっていいのか、いやだめだ(反語的表現)。
この世の中にそんな残酷な仕打ちはあってはならない。あってはならないんだ!
「お、お前だけは許さないぞ……!」
「太一様には私がいるじゃないですか」
「……え、なにかしてくれるの?」
「いえ、いるだけですわ」
「うわーん!」
だろうと思ったよ。
ああ……、俺のマイサンズが……。
「ところで、何をなさろうとしていたのですか」
打ちひしがれている俺を傍目に、彼女は未完成なアンテナを見上げている。
彼女自身の言う通り、何かを観測しているような瞳であった。
俺は唇を尖らせながらも変わらない答えを提示する。
「部活」
「どうして?」
「誰かと繋がれると思ったから」
「さいですか。まあ、私があなたの従者である限りはお供させていただきましょう」
ぬけぬけとー!
お、俺の……と言葉にしようとしたところではたと気付く。
そういえば。
「ところできみ、名前なんて言うんだっけ」
「アーチャー、十六夜咲夜ですわ。ご主人さま」
敵意のない、素敵で瀟洒な自己紹介だった。
俺と彼女との交差だ。悪くない。――たとえそれが何であったとしても触れ合えるというのは尊いものだ。
敵意のない限り、俺は俺であろうと思う。
世界が崩壊に至っても。聖杯戦争が始まるんだとしても。
-
【マスター】
黒須太一@CROSS✝CHANNEL
【マスターとしての願い】
誰かと繋がっていたい/ずっと孤独でいたい
【weapon】
太一袋(ナイフとか水筒とか雑多なものが入ってる)
【能力・技能】
観測する目の力
【人物背景】
適応係数は84。社会に適合するにはあまりに重篤すぎる青年。
顔はそれなり以上の美形であるが、なぜかコンプレックスを抱いている。
彼が求めるのは他者との触れ合い。いつだって、誰かと交差していたい。
【方針】
積極的ではない。敵意があるなら適宜行動
【クラス】
アーチャー
【真名】
十六夜咲夜@東方Project
【ステータス】
筋力C 耐久B 敏捷A 魔力A 幸運B 宝具A
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
マスターがサーヴァントへの魔力供給を気にすることなく自身の戦闘で最大限の魔術行使をする、
あるいはマスターが深刻なダメージを被りサーヴァントに満足な魔力供給が行えなくなった場合などに重宝するスキル。
反面、サーヴァントがマスターの制御を離れ、独自の行動を取る危険性も孕む。
【保有スキル】
幻想の加護:A
幻想郷に住まった経歴のある者が獲得するスキル。
飛翔や弾幕行為など、幻想郷で行えたことは行える。
ただし英霊の座についたことで、多少の制限がかかっている恐れもある。
投擲(ナイフ):B
ナイフを弾丸として放つ能力。
複数のナイフを同時に生み出し、弾幕を張ることも可能。
クラス補正により精密な投擲が可能となっている。
また、今回は魔力でナイフの錬成することも可能となっている。
仕切り直し:A
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を初期状態へと戻す。
『ボム』の性質を上手に扱った経歴から獲得した。
矢避けの加護:B
飛び道具に対する防御スキル。
攻撃が投擲タイプであるなら、使い手を視界に捉えた状態であれば余程のレベルでないかぎりこのスキルの所有者に対しては通じない。
ただし超遠距離からの直接攻撃、および広範囲の全体攻撃は該当しない。
【宝具】
『咲夜の世界』
ランク:A 種別:対人(対界)宝具 レンジ:1〜10(時間停止:全世界) 最大捕捉:-
時間を操る程度の能力の一つの使い方。
約5秒間、時間停止を展開する。
時間と空間に作用する能力であり、原則この宝具を展開している間は十六夜咲夜しか動けない。
紅魔館を清掃したりする際に頻繁に使っていたようではあるが、サーヴァントになるにあたり相応の魔力を要することとなった。
また、この宝具は時間を停止するものであり、他の時間操作に関してはこの限りではない。
【人物背景】
紅魔館のメイド。レミリア・スカーレットに仕えていた。異変が生じたら時折解決へと赴く。
主であっても恭しいだけでなく軽口を叩いたりもする軽妙さ、はたまた瀟洒な様も見せる。
異変に赴くこともあってか妖怪たちとの接触も多い。戦闘の際は行け行けモードになるのはご愛敬。
投げナイフが達者なので料理も上手なようだ。
【サーヴァントとしての願い】
不明
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投下終了です
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報告を怠りました。
十六夜咲夜のステータス作成にあたり二次キャラ聖杯戦争のDIOのものを参考にさせていただきました。
失礼いたしました。
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皆様投下乙です。
予定通り、締め切りは今日中で行こうと思います。
OPは遅くとも一週間以内には投稿できるかと。
感想は期限終了時にまとめて書きますのでもう少々お待ちくださいませ。
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投下します
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終わりゆく世界へと召喚されると知った時、オレは心底歓喜した。
ああ、それはきっと絶望に閉ざされた世界に違いねえぜ。
我らディスダークにとって心地よい世界のはずだと。
それでいて聖杯などという願望機を求めている奴らがいるということは。
きっとそいつらは世界を救おうなどという途方も無い夢を抱いていやがるのだろう。
ならば今は亡きディスピア様に変わってこのオレ、クローズ様がその夢を絶望に閉ざしてやるぜ……。
そう息巻いていた。
召喚された、その瞬間までは。
召喚されたオレを襲ったのは異常なまでの脱力感だった。
異変に気づいた時にはもう遅い。
アベンジャーのサーヴァント。
人の夢に仇なす絶望の化身たるに相応しかったオレの威容はみるみるうちにやせ細っていき懐かしくも無力な姿へと弱体化を果たしていた。
「なんじゃこりゃー!?」
無様にも思わず叫んでしまっていた。
どうやら中身まであの頃の自分に引きずられていると気づいた時には後の祭りだった。
慌てふためいていたオレ様の醜態は召喚主にバッチリと見られていた!
ふざけやがって……っ!
「テメーのせいか、テメーのせいでオレは!」
驚きへたり込んでいたマスターに食って掛かった。
サーヴァントの枠に嵌められた以上、マスターからの魔力供給は不可欠だ。
だからオレが弱体化したのはマスターがオレにろくに魔力も供給できねえような役立たずだからだ!
……その推測は半分当たりで半分ハズレだった。むしろ100%当たりの方がずっとマシだった。
オレのマスターは確かに魔力もろくに持ってないただの小娘だった。
だがそれと同時にこの上なく、絶望していた。
曰く、私がいたからみんな不幸に、とのことだ。
馬鹿じゃねえか、こいつ。
開いた口が塞がらなかった。
絶望しているのは大いに結構だがそれにしても卑屈がすぎるだろ。
小娘が一人いるくらいで世界が滅ぶというのならディスダークは必要ねえっての。
むしろ13の女子中学生などというのは散々オレたちを邪魔してきた側じゃねえか。
プリンセスならぬただのガキでさえ自力で絶望の檻をこじ開けやがったくれえなのに何をこいつは言ってるんだ?
あまりの妄言にオレまで馬鹿な言葉を返してしばらくふざけた問答をしちまったが、確信したぜ。
絶望を糧とするオレが本気で絶望しているマスターに召喚されて尚ここまで弱くなったということはつまり――
他の主従に見つかって面倒くせえことにならねえようカラスに変身して窓から飛び出す。
マスターが何か叫んでるような気がしたが今は状況確認が何よりも先だった。
――そうして眼下に広がっていた街は、肌で感じる世界は、オレの予測通りのものだった。
人間たちは絶望していなかった。それだけの話だった。
静かだった。
街も、世界も。
老人が神に祈ることもなく、大人が理不尽を嘆くこともなく、子どもが泣きじゃくることもなく。
ただただただただ。
誰しもが笑顔を浮かべていた。安らかな笑顔で満たされた人間たちがそこにいた。
-
「……つまんねえぜ」
かつて、腹立たしい笑顔があった。
幾度突き落とそうが泣かせようが絶望させようがその度に笑みを取り戻し向かってくる奴がいた。
……強く、優しく、美しく。
何度も何度もオレの前に立ちふさがったあいつを、あの笑顔を、オレが忘れるはずもないぜ。
なら、あの忌々しいと思っていた笑顔と比べてどうだ?
こいつらは……この世界の人間どもが浮かべている笑顔は……強いか? 優しいか? 美しいか?
比べるまでもねえ。
こいつらの笑みには強さがねえ、優しさがねえ、美しさがねえ……夢が、ねえ!
どいつもこいつも諦めてやがる!
明日を夢見ず綺麗に終わることだけを求めてる!
「くだらねえぜっ……」
そこに絶望はない?
当たり前だぜ。
夢ある限り絶望は消えず、絶望ある限り夢もまた消えない。
なら、そもそも夢がねえなら……?
そりゃ絶望することもねえよ。
こいつらは……絶望から逃げやがったんだ。
希望を捨て、夢を忘れ、明日を諦めることで、絶望から目をそらしてやがる。
「イライラするぜ……!」
苛立ちのままに絶望の種を撒き散らせども、絶望なきこの世界ですぐに発芽するわけがなく、ムカムカが募るばかり。
大体なんだ、いつもならこの辺りで邪魔が入るはずじゃねえか。
この世界のプリキュアたちは何をやってやがる。
いねえのか? ……そりゃなんとも羨ましい限りだぜ。
ぺっ、と唾と一緒に絶望の種を吐き出す。
絶望の森を生み出せるとは到底思えねえが、それでも仕掛けとかねえよりはマシなはずだ。
くだらねえ戦いだが、グランプリンセスでもねえ奴らにやられたとあってはディスダークの名折れだ。
ディスピア様に面目が立たねえし、オレとしてもこのいらだちをぶちまけてえぜ。
それにもしかしたら当初思っていたように、世界を救おうとかする奴らのような、未だ夢を持ち続けている人間も残っているかもしれねえ。
召喚されたサーヴァントの中にはプリンセスプリキュアのような奴らもいるかもしれねえ。
その時は存分に絶望させてやるぜ。
そう心に決めて街を飛び交いながら絶望の種を撒いていく。
見下ろす人間たちの目には相変わらず光がなくて。
「けっ、やっぱり絶望できるだけテメェはマシだぜ、花の灰かぶり」
今も一人、絶望に呑まれているであろうマスターを思い出し吐き捨てた。
✿ ✿ ✿
-
世界の終わりを告げられた時、絶望するとともに、どこか、ああ、やっぱり、と思う自分がいました。
だって、余りにも幸せだったから。
私には似つかわしくないくらいに幸せでしたから。
いつか揺り戻しが来るんじゃないかって、そう心のどこかで思っていたんです……。
私はずっと不幸のどん底にいました。
私だけではなく周りも不幸にして生きてきました。
いつもそうだったんです。
事故とか、アクシデントとか、私のせいでたくさん起きて……。
今回も……。
私のせいで世界が滅ぶことになってしまったんじゃないかって……そんなことを取り留めもなく考えていたんです。
いくらなんでも自意識過剰ですよね……。
でも私は本気だったんです。
私なんかがアイドルとしてみんなを笑顔にしようとして、私も幸せを感じていたから。
積もりに積もった不幸が、努力ではどうにもならない、笑い飛ばすことのできない不幸が来てしまったんだって、そう思ったんです。
今まで私が所属したプロダクションが、全部倒産してしまったように。
今度は私や、プロデューサーさん、アイドルの仲間たち、ファンのみんなが所属するこの世界そのものが、消えてなくなってしまうんだって。
分かってます、分かってるんです。
世界の終焉だなんそんな恐ろしいこと、私のせいなはずがないって。
プロデューサーさんやみんなだってそう言ってくれました。
かつて私を疫病神だと責めた大人たちでさえ、私を責めるどころか、あの時は悪かったと謝りに来てくれたくらいです。
それなのに、私は、終焉を受け入れることができませんでした。
みんなのように、笑顔でいることができませんでした。
世界の崩壊が避けられない以上、最後を迎えるその時まで、みんなを笑顔にする。
きっと、それがアイドルとして正しい姿なんだと思います。
現にこの平和な世界で、誰もが穏やかに最後の一時を送っています。
私は……ダメです。
最後までアイドルとしていたいのに避難してきた街の自室で一人塞ぎこんでいて。みんなを心配させちゃって。
せっかく、せっかくみんな、終わりを受け入れてるのに。私のせいでつられて悲しませちゃって。
私は……私は……。
やっぱり人を不幸にしてしまうんだって。疫病神なんだって。自分を責め続けていました。
福を運んでくる存在になんて生まれ変われていなかったんです……。
……その信じがたい光景を目にした時も、自然と受け入れていました。
蘭子ちゃんが好きそうな魔法陣が浮かび上がって。
幸運を運ぶフクロウよりもずっと私にお似合いなカラスの羽根が舞い散って。
ああ、そういえば幻想公演の時はつつかれて大変だったなあとか、思い出して。
その中から輝子ちゃんみたいなかっこうをした男の人が現れて……。
普通なら悲鳴を上げるべきだったんだと思います。
でも私は彼を見つめたままで。逆に彼のほうが何だか姿を変えたと思ったら悲鳴をあげていて。
そのまま食ってかかられた時でさえ、思わず頷いてしまったんです。
-
「テメーのせいか、テメーのせいでオレは!」
多分私はほっとしたんだと思います。
ずっと思っていたことを他の誰かに言ってもらえたことが。
もしかしたら暗い願望を抱いてさえ居たのかもしれません。
私のせいで世界が滅びるというのなら、どうか、誰か私を罰してください、と。
私さえ居なければ世界が救われるというのなら、どうか、わ、私を……なんて。
欲しかった言葉を貰えたはずみで、聞かれても居ないのに私は自分のことを話しだしました。
堰を切ったように思いの丈は零れ出て止めようがなかったんです。
白菊ほたるという名前。私が不幸だったこと。沢山の人を不幸にしてきたこと。
今のプロデューサーさんとの出会い。幸せを感じたこと。みんなを笑顔にできたこと。
そのせいで、世界が滅ぼうとしているのではないかと思っていること。
全部、全部話しました。
彼は何度か眉をひそめたり嫌なことを思い出してるような表情を浮かべていて。
私の話を聞き終わると馬鹿じゃねえかと呆れていました。
私自身、そう思うのですが、彼の身の上からすればより一層のことだったんです。
テメェがどれだけ馬鹿げたことを言ってるのか教えてやると、彼は自分のことを話してくれました。
クローズという名前。
ディスダークという組織の元幹部で、今は首領であること。
何度も人間たちを絶望させたけどその度に邪魔されたこと。
闇の魔女とプリンセスの戦い。
闇から光へと転じたプリンセスの話。
何度も立ちふさがった花のプリンセスの話。
クローズさんとしては世界を滅ぼすというのがどれだけ難しいのか、私に思い知らせようとしたのでしょう。
ディスダークという組織は人間を絶望させ続けるのが目的で人間を滅ぼしたり殺したりせず閉じ込めるとのことですが。
そんな光ちゃんが聞いたら、飛びかかっていきそうな話を聞いて、私はどこか重なる幻想公演のことを強く思い返していました。
幻想公演 黒薔薇姫のヴォヤージュ。
あの時の私は復讐に取り憑かれた騎士の役で。
……本当はみんなを不幸にしたいだなんて思っていなくて。
不幸を嘆いてばかりではいけないと、聖騎士として立ち上がった、素敵な大役。
だから、クローズさんがそんなに自責してるならこういう話はどうだと聖杯戦争の話を振ってくれた時。
私は心を決めました。
「聖杯があれば、どんな願いでも叶うんですね?」
「ああ、叶うぜ。お前に夢があるっていうなら、応援してやっぜ?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべ差し出されたその手に、私も手を重ねようとします。
「なんたって他の奴らの夢を蹴落として、たった一人の願いを叶えるっていう夢同士の殺し合いだからよ!
せいぜい他人を傷つけ、お前も傷つくんだな!」
その通りなのでしょう。
さっきクローズさん自身が言ったことです。
彼は、夢を閉ざし絶望させる側だと。これはきっと悪魔の契約みたいなもの。
それでも。それでも私は――。
「誰かの幸せのために傷つくなら、不幸とは思いません」
かつて演技として口にしたそのセリフを、自分の言葉として口にしていました。
「誰かの……?」
「はい。みんなが聖杯で救われて幸せになってくれたなら……それだけでいいんです……」
そう答えて、偽りだったとしても重なりかけた手は、
-
「みんなみんなみんなみんな、みんな、ねぇ? ――それはテメェの夢じゃねえぜ。みんなとやらの夢だ」
私をけしかけようとしていたはずのクローズさんに振り払われていました。
「クローズ、さん?」
「……いや、みんなの夢ですらねえんじゃねえか?
ちっ、そういうことかよ。人間の絶対数が足りないだけじゃねえ。
望んでいねえんだよ、人間たちは、何も、夢を見ちゃいねえ!」
「ど、どういうことですか、クローズさん!」
「白菊ほたるぅ! 絶望出来るだけてめえはまだマシだぜ」
クローズさんは言い捨ててから窓を開け放つとそのままカラスに変身してどこへと飛び立ってしまいました。
後には呆然とした私と、舞い散る羽根が残されているだけでした。
……あれ?
私は何か、間違え、た?
だって不幸は私一人で、聖杯でみんなが救われたならそれでよくて。
みんなの幸せが私の夢で。
こんな私でも聖杯で世界を救えばみんなを幸せに……。
【クラス】アヴェンジャー
【真名】クローズ@Go!プリンセスプリキュア
【属性】混沌・悪
【ステータス】
(初期形態)
筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:D 幸運:C 宝具:E
(強化形態)
筋力:C 耐久:C 敏捷:C+ 魔力:D 幸運:C 宝具:D
(最終形態)
筋力:B 耐久:C+ 敏捷:C+ 魔力:C 幸運:C 宝具:C
(新生形態)
筋力:B 耐久:C+ 敏捷:B+ 魔力:B 幸運:C 宝具:B
(究極形態)
筋力:A 耐久:B+ 敏捷:A+ 魔力:A 幸運:C 宝具:A
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【クラススキル】
絶望の化身:EX
闇の魔女ディスピアの後継者であるアベンジャーは夢や希望と表裏一体な絶望そのものである。
絶望を吸収すればするほど力を増し、幸運と宝具以外のステータスが際限なくランクアップする。
反面夢も絶望もない世界やそもそもの人間の絶対数が少ない世界ではアヴェンジャーの力は大きくランクダウンする。
アヴェンジャーの現ステータスやスキルのランクは、このクラススキルと宝具により初期形態へとランクダウンしている。
あくまでもアベンジャーとしての本来の姿は究極形態であり、このスキルはどの形態でも無効化されない。
【保有スキル】
陣地作成:A
「魔術師」のクラス特性。魔術師として自らに有利な陣地「工房」を作成可能。
アヴェンジャーは絶望の大魔女ディスピアの力を引き継いでいるため、このスキルを所持している。
“絶望の種”を蒔いておくことで神殿級の“絶望の森”を作成可能。
工房級の“絶望の檻”なら前準備無しでも戦闘中に限り一時的に生成できる。
究極形態なら“絶望の森”も“絶望”を具現化することで瞬時に作成可能。
人間観察:B+
人々を観察し、理解する技術。
アヴェンジャーの場合、最たる対象は相手の抱く夢である。
扇動:B+
他人を導く言葉や行い。
個人に対して使用した場合には、ある種の精神攻撃として働く。
その言動は意外にも的を射たものであるため、痛烈に効く反面、相手の自己理解を促してしまうことも。
変化:B+
カラスや青い小鳥、人間の姿に変身できる。
また変身時は能力値が落ち込む代わりにサーヴァントとして感知されなくなる。
人間時の演技も中々のもので、原典では自ら正体を明かすまでほぼ疑われずばれることもなかった。
戦闘続行:EX
絶望は消えない。
何度負けても懲りずに現れる能力。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
霊核を破壊されようとも、強い絶望を抱いているものさえいれば、パワーアップして復活する。
【宝具】
『夢は止まらず、されど絶望はやってくる(ストップ・フリーズ・ユア・ドリーム)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大補足:1〜4
配下であるストップ&フリーズをE-相当の単独行動スキル持ちの擬似サーヴァントとして召喚する。
ストップとフリーズは、目から緑色の破壊光線を放つほか、素早さと瞬間移動を駆使し、抜群のコンビネーションを誇る。
人間の夢を閉ざし絶望させてゼツボーグと呼ばれる怪物を生み出す力も持つが、人が夢を失くした終焉世界では死に能力である。
また、クローズの形態変化に合わせ、巨大な茨の木や金と銀の蛇のような姿に変わる。
『夢閉ざす絶望(クローズ・ユア・ドリーム)』
ランク:E〜A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
ディスピアの力を受け継いだアヴェンジャーは自力で強化形態〜最終形態までの変身が可能となっている。
吸収した絶望及び令呪などの魔力供給の量が多ければ多いほどより強力な形態へと変身できる。
ただし令呪や絶望の檻などのバックアップで変身できるのは最終形態までで、新生形態より先は誰かの絶望の吸収が不可欠。
各上位形態への変身時に一回ずつだけ傷や魔力が全快する。
また、究極形態時に限りディスピアの力を完全に再現でき、自らの分身であるメツボーグも四体まで生成可能。
こちらは死に能力となっているゼツボーグ生成と違い素体となる人間が必要ない。
『背中合わせの夢と絶望(クローズ・トゥー・ドリーム)』
ランク:A+ 種別:対夢宝具 レンジ:- 最大補足:-
アヴェンジャーの隠し宝具。
この宝具の存在を知るのはアヴェンジャー自身と、ある花のプリンセスの二人だけであり、他のいかなる手段でも見抜くことは出来ない。
アヴェンジャーは絶望を力とするが、絶望とは夢から生じるものであり、夢もまた絶望から生じるもの。
絶望と夢は表裏一体である。
故に、アヴェンジャーは自らのマスターや敵が夢や希望を抱けば抱くほど、立ちふさがり続ける絶望としてその力を増すことができる。
この宝具の効果は、絶望が条件である自身のスキルや宝具にも有効であり、一部条件を無視できる。
-
【人物背景】
夢ある限り絶望は消えず、絶望ある限り夢もまた消えない。
絶望の化身たる彼が召喚されたということはそれ即ち――
【サーヴァントとしての願い】
聖杯自体に興味はないが、聖杯に夢や希望を託そうとする奴がいるなら絶望させる。
【運用】
より多くの人間が深く絶望すればするほど強くなるアヴェンジャーのサーヴァント。
魔力とは別に感情の力をエネルギーにできるため燃費も良く、本来なら強力なサーヴァントなのだが……。
人々が夢も絶望も抱かなくなり、穏やかな終末を選んだ当聖杯戦争では大きく弱体化してしまっている。
その上、終焉により夢や絶望の母体である人間たちの数は次々と減っていっていくため、弱体化は止まることなく進行中である。
諦めよう。
……このサーヴァントの本質は、敵や自身のマスターに夢と絶望を突き付け続け、問い続けるところにこそある。
夢と相対し続ける絶望として、絶望に限らず相手が夢や希望を抱けば抱くほど強化されていく。
無論敵が夢や絶望を抱いているタイプとは限らないので、アヴェンジャーの真価が発揮できるかは誰よりもマスター次第だと言える。
マスターが夢を抱き続けられるなら、どうあっても味方ではないが、決して独りにはせず常に立ち塞がり続けてくれるだろう。
【マスター】
白菊ほたる@アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
聖杯で世界を救って、みんなを幸せにしたい……
【能力・技能】
幸運E。
アイドルとしての経験から、歌って踊れて一般的な同年代よりは体力はある。
【人物背景】
生まれついての不幸に加え、所属していたプロダクションが幾つも倒産し、遂にはアイドルを諦めかけていた少女。
それを踏みとどまらせ、自分を信じてくれた人や、新しい仲間たちと共にアイドルとして笑顔を育てていた矢先――終焉は、来たれり。
世界の終わりを自分のせいとして捉えてしまい、それが思い込みに過ぎないと分かりつつも絶望していた。
聖杯戦争についての説明は甘い夢と厳しい現実を突きつけようとしたクローズからきちんとされている。
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投下終了です
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投下します
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―――万物にはあらゆる「死」が存在する。
生物が勿論、物にも、概念にまで。
姿形がないものにも「死」は存在する。
朝が来れば夜がくるように。
夜が来れば朝がくるように。
生を授かった時点で、最期には原則として死が待ち受けているものなのだ。
どれだけ高潔な成人であろうと。
どれだけ醜悪な悪人であろうと。
死は、全てに平等に降り注ぐ。
「ああ、ならば」
しかし、ここに。生命の原則を
暗く閉ざされた世界にて、彼女は囁く。
生きた者に死を。
死なぬ者に死を。
死んだ者に死を。
数多くの死を与えた彼女は、茨に包まれた国にて微笑む。
自虐的ではない。あくまで、結論として彼女は述べる。
滅亡していく世界を前に、くつくつと笑う。
「そうだな―――やはり、こうなる前に死んでおけばよかったか」
世界が白んでいく。
世界が消える。
あらゆるモノが消え去っていくのを前に、ぽつりと零す。
願うことならば。万能の願望器が実在するのならば、願おう。
「私を殺せる者は、何処だ」
…願わくば。
その人物がかつて魔槍を与えた男であることを祈りつつ。
彼女は、戦場へ言葉を飛ばす。
「万古不当の英霊達よ。世に憚られし反英霊達よ。
この私に力を見せ、上回ってみよ―――でなければ、貴様等の命を貰うまで」
それは、宣戦布告。
死を望み、聖杯に死を齎す者望む女王からの、宣告だった。
● ●
-
「世界の破滅だってな」
"其処"は、あまりにも質素な部屋だった。必要な生活品以外何も無い、質素な部屋。
いや、もしかしすれば必要なものすらないかもしれない―――それくらい、生活感の欠片も無い部屋。
がちゃり、と扉が開く。白い無機質な四角形は、中で絶えず食物の鮮度を保つため働いている。
と言っても水しか入っていないため冷蔵庫としては些か不本意かもしれないが、持ち主がソレしか入れないのだから仕方ない。
ひんやりとした冷気が辺りを漂う。取り出された水のペットボトルもまた、同様にひんやりと冷たかった。
「世界の死なんて珍しいものじゃない」
この世が酷く脆いものであるということを、彼女は知っている。
『地面なんて無いに等しいし、空なんて今にも落ちてきそう』とは彼女の言葉ではないけれど。
事実彼女には、世界はそう見える。
死は、あらゆる場所に溢れている。
彼女は、世界が酷くあやふやで、脆いという事実を知っている。
彼女は、一秒先にも世界が滅んでしまいそうな錯覚を知っている。
死を視るということは、そいうことだ。
『直死』の名を冠す瞳を持つ少女は、この事態にそう危機感を抱いていない。
彼女にとって。世界の死とは、常に隣にあるようなものだからだ。
名を、両儀式。少女と呼ぶにはあまりにも冷たい、剣のような少女だった。
「おまけに聖杯戦争…だっけ?よくやるよな。
こういうのはトウコの仕事だろう?それに、願いが叶う杯なんて眉唾ものにも程がある」
あくまで冷静に、式は吐き捨てる。
元より聖杯なんてものに縋る気はないし、そもそも実在するかもわからないものに思いを馳せるほど乙女じゃない。
トウコ―――あの魔術師なら何か知ってるかもしれないが、姿も見えないし探して聞き出そうと思うほど気になってもいない。
だからこそ、式は今も自室で特に行動を起こさずにいる。
はっきり言って、現実味がないというのが本音だった。
「ほう。ではマスター。お主は特に望みも動機もないと?」
すると。魔力の束が人の形を為すと同時に、声がした。
女性としての美しさを極めたような端整な顔立ちに赤い瞳、すらりと伸びる足。腕。
それらは決して華奢なものではなく、よく鍛えられた戦士のものを彷彿とさせる。
ランサー、と式は口を開いた。
槍の英霊。そのクラスで呼ばれた彼女は粉うことなく、サーヴァントである。
「ああ、ないね。面倒事は御免だ。
…でも」
「…でも?」
-
「…何が原因なのか、それとも誰が元凶なのかは知らないけどさ。
はいさようならで大人しく消えてやれるほど、オレは―――」
ふと、思い浮かんだのは、あの大馬鹿者の顔。
世界の消滅を阻止する理由を考えたときに、アイツの顔が思い浮かんだ。
何故思い浮かんだのかはわからない。
わからないので、少し苛ついた。
その苛つきを吐き出すためなのか、乱暴に口を開く。
「そういうお前はどうなんだ」
「…私か?」
「他に誰がいるんだよ」
「私はないよ。聖杯に託す願いなどなにもない―――とでも言うことができたら良かったのだがな」
ランサーの顔に浮かんだのは、笑みだった。
自嘲だろうか、式にその感情を推し量ることはできない。
ただ。その揺ぎ無い瞳が、一瞬、遠い過去を見るような。
まるで遥か遠くを見るような素振りが、感じ取れた。
「私は『死』を失った存在でね。此処にいるのも正式な英霊というわけではない。神霊でもない。
死に遅れ生者でも死者でもなくなった。死に見放された者だ」
ランサーは語る。
悲観はない。哀れみを誘うつもりもない。
ただ、『起きた現実』としてランサーは事務的に語る。
「故に、私に死はない。美しい死も、醜い死も。
栄光の死も、悲劇の死もない。世界とその外が消えるまで、私は存在し続ける」
淡々と語るランサーの話に、式は目を丸くする。
元来他人には興味は無いが、こんな話をされれば式だって反応せざるを得ない。
「なんだ、お前―――死にたいのか?」
ポツリ、と。
一言で、ランサーの心の底を言い当てた。
「…驚いた。人に興味がない冷めた者だと思っていたが、存外変化には機敏だったか」
「煩い。余計なお世話だ」
「まあ、概ね当たりだよ。私は死を望んでいる。聖杯戦争で消えたとしても、サーヴァントは座へと帰るのみ。
死す運命から外れた私がどうなるかは知り得ないが…死することはない。世界そのものが消えたらどうなるかは知らんが、私のために世界の消滅を静観するわけにもいかんだろう?
故に、願うものはある。聖杯が真に万能の杯であるならば、私を殺せる者を寄越すがいい―――とね」
その顔は。
祈るように、何かに願うように。
先程までの力強さが嘘のような、若干の願望が込められていた。
-
「…」
死の運命から外れたもの。
不死。殺されず、永遠に生き続けるもの。
その言葉を聞いた式の瞳は、無自覚にランサーの『死』を視ていた。
彼女の視界にあらゆる『死』が満ちる。
壁。床。天井。全ての『死』が、露になる。
…しかし。
当のランサーにのみ―――まるで『死』がランサーを避けているかのように、全く見えなかった。
「…ほう。魔眼の類…バロールの眼か。いや、少し異なるか。
さしずめ『直死』と言ったところ…しかし、如何な魔眼と言えど私の死は見えんだろう。
『死して尚再生する』のではなく『死する運命から外れた』のだから。存在しないものは見えはしまい」
集中すれば、多少は視えるかもしれない。
だが、ソレは脳に負担を掛ける。白熱する脳を痛みを、無駄にわざわざ己から味わいに行うほど式は酔狂な人間ではない。
大人しく瞳を閉じ―――開けた頃には、普段のがらんどうな瞳に戻っていた。
「じゃあ、何だ。お前、殺して貰いたいから戦ってるのか。
…変わったヤツだな。少なくとも理解はできない。しようとも思わないけどな」
「ふ、そうだな。そうかもしれんな。あの男がもう少し早く生まれていれば何とかなったかもしれぬが…いや、若い若い。
おかげで死に損ねたよ」
くつくつとランサーは笑う。
何が楽しかったのかはわからいが、なにやらいい思い出でもあったのだろうか。
「まあ、いいさ。オレは聖杯になんて興味は無い。そんなもの、魔術師にでも任せておけばいい。
だけど―――オレは消えてやるつもりはない」
両儀式の帰る場所は、一つだ。
両儀の屋敷でもない。此処ではない何処かでもない。
黒桐幹也の待つ、何でもない平凡なアパートだ。
世界の消滅なんて言われても実感など無い。
唯一、『此処』だけが世界で残っているなんて言われても実感などない。
だが、しかし。
帰る場所を奪われる。アイツを消されるのだけは許せない、と。
式は自覚しているのかしていないのか―――確かな心を胸に、言ってのけた。
ソレを見て、何を見出したのか。
ランサーは音も無く式の目前に立ち、
「良かろう、ならば此の場でのみ、此の身体はマスターの槍となろう。
我が真名はスカサハ。異境、魔境の影の国より罷り越した」
「式でいい、堅苦しいのは面倒だ」
「ではシキと。…ああ、この私が誰かと組むことになるとはな」
こうして。
死に近い故に、死を忌避する少女と。
死から遠い故に、死を求める女王の、聖杯戦争が幕を開けた。
-
【マスター】
両儀式@空の境界
【マスターとしての願い】
世界の消滅の阻止。
【weapon】
ナイフ
左手の義手(青崎燈子作)
【人物背景】
男性口調の美人。冷めた性格で、万事がどうでもいいように振る舞う少女。
『両儀式』から出でた殺人衝動を抱えており、『直死の魔眼』を有している。
今回は『殺人考察(後)』より参戦。
【能力・技能】
『直死の魔眼』
対象の「死期」を視覚情報として捉えることが出来る目。またそれに加え、その視覚情報をもとに対象を「殺す」ことができる能力。
ここで言う死期とは生命活動の終焉ではなく、「存在の寿命」。
意味や存在が、その始まりの時から内包している「いつか来る終わり」のこと。
誕生という大元の原因から、死という最終結果を読み取っているとも表現される。
物理的な破壊ではなく、概念的な死であるため、治療や蘇生、再生や復元も無効化する。
『義手』
青崎燈子作の義手。中にナイフを内臓することも可能であり、霊体を掴むことも可能である。
【方針】
とりあえず原因を探るか、他の組を探す。
相手マスターが普通の人間だった場合は―――?
-
【CLASS】
ランサー
【真名】
スカサハ@Fate/Grand Order
【パラメーター】
筋力B 耐久A 敏捷A 魔力C 幸運D 宝具A+
【属性】
中立・善
【クラススキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。
【保有スキル】
魔境の智慧:A+
人を超え、神を殺し、世界の外側に身を置くが故に得た深淵の知恵。
英雄が独自に所有するものを除いたほぼ全てのスキルを、B〜Aランクの習熟度で発揮可能。
また、彼女が真に英雄と認めた相手にのみ、スキルを授けることもできる。戦闘時によく彼女が使用するスキルは「千里眼」による戦闘状況の予知。
アルスター伝説でも、彼女はよくこの予知によって未来を予言した。愛弟子たるクー・フーリンの最期さえをも
原初のルーン
北欧神話の魔術文字「ルーン」、その中でも神代に用いられたもっとも原形に近いものを操ることができる。
神殺し:B
元は魔女だった身の彼女だが、戦いの果てに神霊の類いさえ屠り去る魔力を得ており、その力の証左と思われる。
【宝具】
『貫き穿つ死翔の槍』(ゲイ・ボルク・オルタナティブ)
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ: 不明 最大補足:不明
形はクーフーリンの持っている紅の魔槍と似ているが実は別物。
彼女が使うものは一段階古く、前に使っていた同型の得物。
宝具解放すれば、刺突と投擲を同時に行う。
アイルランドの光の御子―――ケルトの大英雄、クーフーリンに授けた権能一歩手前の絶技、その原初。
いかなる壁があろうとその心の臓を貰い受ける、紅の魔槍である。
【wepon】
・魔槍。
二本所持しているが、複数精製し投擲することも可能。
【人物背景】
ケルト・アルスター伝説の戦士にして女王。
異境・魔境「影の国」の女王にして門番であり、槍術とルーン魔術の天才である。数多の亡霊に溢れる「影の国」の門を閉ざし、支配せしめるに足る絶大な力を有している。
後にアルスターの英雄となる若きクー・フーリンの師となって彼を導き、技の悉くを授け、愛用の魔槍さえ与えたという。彼の息子コンラをも教え導いた。
誇り高く、何者にも傅かない。
生まれながらの支配階級
王者の気質を有しており、民に幸福を与える女王として君臨することを自明とする。
才能に溢れ、凡人とは違う事を自分が一番よく理解している。
その在り方と瞳の赤色は、二十世紀の東京に存在したとある人物が近いという。
自己を把握しているのと同じく、他者の素質と気質を見抜く(特に凡人かそうでないか)確かな目を有している。
つまり、クー・フーリンは、彼女が導くに値する天才性を有した稀有な人物であったと言える。
長き年月の果てに半ば神霊と化したスカサハは、人のように死ぬことははできない。美しい死も。醜い死もない。
ただ、世界と、その外側が消えてゆくその時まで、在り続けなければならない。
故に、彼女は本来サーヴァントとして呼ばれることはない。
『死を受け入れられない』彼女は、座へと運ばれることがないからだ。
しかし。
この場では世界が崩壊した未来により影の国も崩壊。
彼女は消滅し、一時的に召喚可能な存在となった。
聖杯なるものが真に万能ならば、自分を殺してみせる何者かを寄越すがいい。
そして願わくば、その者が。
かつてこの手で授けた槍を持つ者であれば――。
【サーヴァントとしての願い】
「―――私を殺せる者は何処だ。
只の戦士ではいけない。
只の蛮勇ではいけない。
勇気ある戦士こそ、私の好む戦士である。」
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投下終了です。
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>>207
にて、
>しかし、ここに。生命の原則を
>暗く閉ざされた世界にて、彼女は囁く。
>生きた者に死を。
は正しくは
>しかし、ここに。生命の原則から逸脱した者が存在する。
>暗く閉ざされた世界にて、彼女は囁く。
>生きた者に死を。
でした。
失礼します
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皆さま投下お疲れ様です。
私も投下させていただきます
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――――終焉―――――
それは誰しもに平等に訪れ、誰もが終焉をむかえるまで目を逸らすもの。
ある者は生まれた直後に。
ある者は生まれてから、百年後に。
ある者は一年の猶予を経てから。
ある者は何の前触れもなく唐突に。
場所、時間、一切関係なくそれは訪れる。
まるで神の気まぐれのように。
だが、それはいつもと違った。
―――残り120時間―――
決まった時間、決まった場所にすべての者に訪れる。
例外は一切ない。時を刻み続けるように、決められた絶対。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「う〜ん」
とある公園のベンチ。
少女は体の節々に痛みを感じながら、身体を起こす。
やっぱりベンチで寝るものではないな
髪と制服についた土を手で払い、大きく身体を伸ばし、身体を解す。
身体を解したせいか、寝ぼけた意識は覚醒し、視界もはっきりしてくる。
その目に飛び込んできたのは、朝日に赤く照らされた町の風景だった。
少女はおもむろにスカートのポケットからカードのようなものを取り出し、頭上に掲げた。
「綺麗だね。花代さん」
少女は独り言のように、景色を見た感想を言う。
「ああ、本当に綺麗だね。遊月」
すると、少女が掲げているカードから女性の声が聞こえてくる。
しかし、仮にこの場に他の人間が居たとしても、この女性の声は聞こえないだろう。
この声は少女、紅林遊月にのみ聞こえる声だった。
カードには女性のイラストが描かれており、よく見てみると、その女性は動いているのが分かる。
実際に彼女は生きているのだ。
彼女の名前は花代。
ルリグと呼ばれる存在である。
Wixossと呼ばれるTCG。その中にルリグと呼ばれる意志を持ったカードが存在し、そのカードを持った者はセレクターと呼ばれる。
セレクター同士が戦い、勝ち続けると自分の願いを叶えることができる夢限少女という都市伝説があった。
それは実在する。
遊月はセレクターとして、花代と伴に願いを叶えるためにセレクターバトルをおこなっていた。
「今までなら、こんな景色見ても何も思わなかったのに……今日はやけに綺麗に見える……
この朝日もあと何回かしか見られないかも……」
「そうかもしれない……でもそうしないために勝とう!遊月!」
「そうだね。花代さん」
遊月は花代の励ましが効いたのか、声色にも瞳にも活力が宿っていた。
そして、脳内にこの景色を焼き付けるように、街の景色を見続ける。
――――かならず生き残る!そして二人でこの景色を見るんだ!
-
日本政府から発表された世界の終焉。
日本中は混乱の坩堝に陥る。
嘆き、悲しみ。
日本中、世界中は絶望に包まれる。
遊月はその発表を聞いた時はそれを信じなかった。
そんなことがあるわけがない。これはたちの悪い冗談だ
しかし、時が経つごとに終焉が現実味を帯びていく。
怖い!死ぬのが怖い!
遊月は藁にもすがる想いで、花代に問い詰めた。
セレクターバトルに勝ち続け、夢限少女になれば終焉を阻止できるのか?
だが花代は首を横に振る。
夢限少女になって叶えられるのは個人の願い。
世界の終焉を止めることはできない。
その答えを聞いた瞬間、遊月はせきを切ったように泣き始めた。
一生分の涙を流したかもしれない。
それほどまでに、泣き叫んだ。
何時間泣き続けただろう。それすら分からないほど泣き続けた。
そして、気が付いたら、それはそこに居た。
金色の髪に白い花の冠を頭に被り、蝶のようなエメラルドグリーンの羽を纏った妖精のような可憐な少女。
まるで、wixossのカードのイラストのキャラが画面から飛び出したようだ。
そんなことを考えていると、その少女は語りかける。
「あなたが私のマスターね?」
自分は恐怖のあまりに、幻覚を見ているのか?
そんなことを考えていると、妖精の少女は手を取り、そのサファイアのような赤い瞳で見つめ。
「あなたが私のマスターね?」
もう一度問い詰めた。
遊月は妖精の少女から聞かされた。
サーヴァントのこと、マスターのこと、令呪のこと、聖杯戦争のことを。
聖杯とは万能の願望機。
とある町で聖杯戦争が行われ、その戦いに勝ち抜ければ、願いを叶えられる。
そして、聖杯を使えば、世界の終焉を止められることを。
遊月はその話を聞いた瞬間、すぐさま行動に移る。
その街に向かう為の荷造りをすまし、家を飛び出した。
-
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「よく眠れましたか?」
「ううん。背中が痛くてあまり眠れなかった。いや〜公園のベンチで寝るもんじゃないねアーチャ―」
霊体化を解いたアーチャ―に、おどけた態度で答える。
「それでしたら、ホテルというところで休めばよかったのでは?」
「本当はそうしたかったけど、中学生じゃ泊めさせてくれないし、こんな状況じゃホテルが一杯だし」
終焉から一秒でも逃れるために、街には生き残った人々が押し寄せた。
街にあるすべての宿泊施設は瞬く間に満室。
その結果、公園のベンチで夜を過ごすはめになってしまった。
「でも、残り日数ぐらい公園で寝ても大丈夫!大丈夫!」
遊月はアーチャ―にニカッと笑顔を見せる。
だが、アーチャ―は遊月の笑顔は空元気であることを見抜いていた。
「マスター。以前に説明したようにこの戦いは命をかけた戦いです。
その戦いによって想像を絶するような苦痛を味わい、無残な死を遂げるかもしれません。
もし、それが嫌というなら聖杯戦争を辞退し、友人や家族と穏やかに終焉を迎えることを勧めます。
それに、他の参加者も世界の終焉を止めたいと願うものもいるでしょう。
その者が終焉を止めてくれるかもしれません」
その声は可憐な少女の姿から、発せられた声とは思えないほど威厳のあり、慈愛の感情が含まれていることに気付いた。
自分の身を心から案じての進言。
その気遣いはありがたかった。
「ありがとうアーチャ―。正直言えば、すごく怖い……痛いのは嫌だし、死ぬのもいやだ。
でも、このままじゃ皆死んじゃう。るう子も一衣も……そして香月も……
そんなの嫌だ!それを他人に任せるのはしたくない!
だからあたしは戦う!
それに聖杯じゃなきゃ叶えられない願いがあるんだ……」
遊月の言葉には力強さがあった。
恐らく、戦いに縁のない人生をおくってきたことはわかる。
そんな少女が聖杯戦争という、殺し合いの舞台に自ら足を踏み入れることは並大抵のことではない。
何もしなければ死ぬから?
何もしなければ友人や家族が死ぬから?
それもあるだろう。だが戦う理由はそれだけではないはず。
だとするならば、願いか。
「もしよろしければ、その願いは何か聞かせてくれませんか?」
遊月はその問いにすぐ答えられなかった。
二人の周辺は沈黙に包まれる。
この願いを人に聞かせることは、自分の繊細で最も知られたくないものを見せることになる。
しかし、言わなければならない気がした。
セレクターバトルは一人で戦うもの。
それならば願いは胸に秘めていてもいい。
だが聖杯戦争はサーヴァントとマスターと2人で戦うもの。
そして、サーヴァントの力が無ければ聖杯を手に入れることは絶対に不可能。
そのサーヴァントに自分の願いを言わないで、願いを叶えてもらうことはフェアではない気がする。
「好きな人がいるんだ……誰よりも身近な人。
でもその人は好きになっちゃいけないって、よく言われた。
だけど、その人が好きなのは止められない。その人と幸せになりたい!
だから、聖杯には世界の終焉を止めてもらって、その人と結ばれて、祝福される世界にしてもらう」
-
遊月は双子の香月が好きだった。
肉親に恋をする。それは生物として、倫理としても許されざるもの。
奇跡でもおこらない限り叶わぬ願い。
だから願った。
セレクターバトルで勝ち抜いて、夢限少女になって叶える願い。
それは香月と結ばれること。
しかし、ふと考える。
結ばれた後、自分達はどうなるのか?
もし自分達の関係がばれてしまったら、待っているのは苦難の連続。
迫害、排除、周囲の人間は気持ち悪い何かを見るような目線を向けるだろう。
肉親同士で愛し合うことは、他人には理解できないものだから
自分は耐えられる。香月と心が通じ合う歓びを考えれば、そんなこと苦でもなんでもない。
だが、香月はどうだ?
もしかしたら、周囲の目に、圧力に耐え切れず壊れてしまうかもしれない。
ならば、世界を変えればいい。
肉親同士が愛し合っても、何の問題のない世界に。
こればかりは、夢限少女になっても叶えられない願い。
終焉を止められるほどの力を持つのが聖杯だ。
もしかしたら、できるかもしれない。
「それがあなたの願いですか」
「終焉を止めて、自分の願いを叶えてもらう。ちょっと、欲張り過ぎちゃったかな」
人に自分の想いを打ち明けたのが恥ずかしかったのか、遊月の顔が少しだけ紅潮していた。
その様子が可笑しかったのか、アーチャ―は笑みを浮かべる。
「いえ、いいと思います。これからはマスターの願いを叶えるために全力で戦いましょう」
「ありがとうアーチャ―。そしてこれからよろしく」
遊月はアーチャ―に向って手を差し伸べる。
アーチャ―も手を差し延ばしその手を優しく握った。
アーチャ―はこの終焉を迎えようとする世界に、サーヴァントとして呼ばれたことに縁を感じていた。
アーチャ―が生きていた世界にも終焉は訪れた。
五日間という猶予もなく、ゆったりと進行するでもなく、嵐のような勢いで突然訪れた。
獣がすべてを蹂躙し。
死の王がすべてを喰らい
炎が大地を焼き焦がし
大釜が命を吸いつくし
蛇が大地を海に沈めた
予言に記された終焉。
いま思い出しただけでも、寒気がするこの世の地獄。
あの終焉に比べれば、この世界の終焉すら、ましと思えるほどに。
アーチャーは終焉を止める為に、命を落とした。
その後世界はどうなったのかは知らない。
願わくば終焉を迎えずに、世界は残ってもらいたい。
自分の世界のような終焉が訪れないように。この世界での終焉を止めて見せると心に誓う。
自分のマスターは世界の終焉の阻止を願ったことは幸運だった。
もし、世界の終焉を望むのであれば……この手で打ち取らなければならなかったから。
マスターは終焉の阻止を願うとともに、思い人と結ばれ、祝福される世界を望んだ。
他のサーヴァントはこの願いを聞いて、どう思うだろう。
ありとあらゆる願いが叶う願望機に、願うものとしてはあまりにもちっぽけと思うかもしれない。
だが、アーチャーはそうは思わない。
マスターの願いは極めて切実であることは、手に取るようにわかる。
是非とも願いを叶えてもらいたい。心から願う。
彼女も同じような願いを抱き、叶える事ができなかった少女だから。
アーチャーも恋をしていた。
だが、意中の相手と結ばれるどころか、思いすら告げることができなかった。
意中の相手と再会した時は、その体は氷のように冷たかった。
また会えると彼は言ってくれた。
それなのに、こんな形で再会するだなんて
アーチャーには願いがある。
その願いはあまりにもささやかなものだった。
たった一言、たった一言、この言葉を伝えたい。
―――イングヴェイ、私はあなたのことが好きなの―――
-
【クラス】
アーチャー
【真名】
メルセデス@オーディンスフィア
【属性】
秩序・善
【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:B 魔力:A 幸運:C 宝具:B
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
食事摂取:A
食事摂取による魔力回復が極めて高い。
またダメージの回復し、僅かばかり耐久が上がる
魔弾の射手:B
彼女の生前の逸話がスキルとなったもの
炎にまつわる逸話をもつサーヴァントに与えるダメージが増加し
逆に炎にまつわる逸話をもつサーヴァントの攻撃は通常に比べダメージが増加する。
アイテム作成:C
アイテムを作成できるスキル
自分の世界にあった材料と似たようなものがあれば
同様のアイテムを作ることができる
【宝具】
『すべてを貫きし魔弓(リブラム)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1〜20
アーチャ―が生前使用していた、サイファーと呼ばれる、魔石を原料として作った宝石を組み込んだ石弓。
命ある者をその武器で倒すことにより、力が増幅する特性を持っている。
また最強のサイファーであるバロールを破壊した逸話により、
武器の形をした宝具を破壊できる可能性を秘めている。
【weapon】
リブラム
【人物背景】
妖精の国リングフォードの王女、のちに女王となる
お転婆で世間知らずな面の目立つ幼い性格をしていた。
だが妖精の国の女王、母エルファリアの死により否応なしに女王として立つことを求められる。そして周囲の支えを得ながら、やがては立派な女王として成長していく。
予言に記された終焉を止める為に、炎の王オニキスと対峙し、相討ちとなり命を落とした。
【サーヴァントとしての願い】
イングヴェイに思いを伝えたい
【マスター】
紅林遊月@selector infected WIXOSS
【マスターとしての願い】
終焉を止め、香月と結ばれ、祝福される世界にしてもらう。
【持ち物】
ルリグカード(花代)
【能力・技能】
なし
【人物背景】
明るく明快な性格中学2年生
夢限少女に託す願いは「香月を自分のものにすること」。叶わない願いと知りつつ肉親である香月へ想いを寄せるが、夢限少女になり「願い」を成就させるため、セレクターとして勝ち続ける道を選んだ。
感情的な性格で香月への思いを否定されるとすぐに激昂してしまう反面、香月との関係を壊さないために普段はその思いを内に秘め続けている。
-
以上で投下終了です
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投下します
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かつてブレイン・バーストというゲームがあった。
一般層にも広がり始めた量子接続通信端末ニューロリンカーを用いた所謂オンライン型対戦格闘ゲームであった。
バーストリンカーを自称するプレイヤーたちは仲間たちとレギオンと呼ばれる集団を組み、ライバルたちと鎬を削りあった。
時に加速研究会という謎の組織の暗躍と戦いながらも、バーストリンカーたちは日々の対戦を謳歌していた。
――それも今は昔の話である。
世界の終焉が告知された時、多くのバーストリンカーたちもまた、武器を捨てた。
ブレイン・バーストの世界は高度な仮想現実だ。
同時に加速世界と称されるようにブレイン・バーストが構成する仮想現実では現実世界での1秒を1000秒として体感できる。
たとえ世界が5日後に滅びようとも、加速世界でなら1000倍の5000日……約13年8ヶ月と9日前後の猶予があるのだ。
多くのバーストリンカーたちがその猶予に浸った。
彼らは滅び行く現実世界から加速世界へと逃げたのだ。
無理もなかろう。
いくら加速世界で現実の1000倍の時を過ごし、実年齢と釣り合わぬ精神年齢を得ていたとはいえ、彼らは皆、子どもであった。
ブレイン・バーストの仕様上、バーストリンカーは最年長でも15、16歳なのだ。
その上、元来彼らの多くは心に傷を負っており、ブレイン・バーストは世界が滅ぶまでもなく一つの逃避先でもあったのだから。
故に彼らは、世界の終焉という恐怖を前に、逃げ場たるブレイン・バーストの喪失を恐れた。
バーストリンカー同士の対戦はポイントの奪い合いであり、全損してしまえばブレイン・バーストを失うどころか、二度とインストールできなくなってしまう。
自身がバーストリンカーであった記憶さえもなくしてしまう。
その危険性を回避しようと言うのなら、戦わないこと、それが一番だった。
バーストリンカーたちの殆どが誰ともなく武器を置いた。
ほそぼそと日々の加速に必要なポイントだけを、エネミー相手に狩るだけに留め、あれだけ盛んだった対人戦や領土戦が行われることはなくなっていた。
あの加速研究会ですら、姿を見せなくなっていた。
それは加速世界の終焉を恐れ、ブレイン・バーストのクリアを目指すことをやめたいつかの再来。
だからこそ、加速世界最大の反逆者たちは抗った。
ゲームはクリアしてこそだと。世界が終わるからこそ、ブレイン・バーストのエンディングを見てみたくはないかと。
そんな反逆者たちの意見に同調する声がなかったわけではない。
だが、圧倒的に少なく、故に、クリアは現実的に不可能だった。
ブレイン・バーストのクリア条件と目されている2つの可能性。
一つは加速世界最高難易度のダンジョン、帝城の攻略。
もう一つはプレイヤーのレベル10への到達だ。
前者はあまりの難易度に、ゲームクリアを目指す全バーストリンカーで挑んでもクリアできる目処が立たなかった。
加速世界が現実世界を反映している以上、世界が終わり切るより先に帝城が滅ぶ可能性すらあるという厳しい時間制限付きだ。
ならば後者はといえば、“王”と呼ばれるレベル9同士の戦いで他のレベル9リンカーを5人倒す必要があるのだが。
加速世界の終焉を覚悟して戦いに挑む王は二人しかいず、多くのバーストリンカーが対戦を放棄している以上、新たなる王が生まれる希望も皆無だった。
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だからこそ彼女は、加速世界最大の反逆者と手を結び、自らもまた王であるスカーレット・レインこと上月由仁子――ニコはここにいる。
加速世界の終焉を見るために、現実世界の終焉を止める。
そんな自分でも妙だと思う願いを抱いて彼女はこの街へとやってきた。
加速世界に流れていた一つの噂。霊子ハッカーによる万能の願望機をかけた戦い――聖杯戦争。
その足取りを1000倍の時間を駆使して追ってきて、ニコは彼女が追いかけていた戦いへと辿り着いた。
ただしそれは噂で聞いていたような電脳空間での戦いではない。
現実世界での戦いだった。
そのことに恐怖がないわけではない。
ニコたちバーストリンカーの少女たちは加速世界での強いアバターを纏った自分と、現実世界での無力な自分とのギャップに大なり小なり苦しまされてきた。
加速世界の頂点、レベル9の王ともなれば尚更だ。
現実世界での戦いというのならどれだけバーストリンカーとして強くとも、ニコは思考加速と一度限りの肉体加速が使える程度の少女に過ぎない。
使い魔同士の倒し合いと聞いてはいるがまず間違いなく屈強なサーヴァントではなく、弱者であるマスターを狙う者もいると踏んでいる。
強いアバターではなく弱い生身を狙う。リアルアタックと呼ばれるオンラインゲームの定石だ。
だけど――
(あたしはこんな形での終わりを認めたくないんだ……)
ずっと終わることを恐れていた。
自分は七王の中で最弱で、純色ではないまがい物の赤で。
緋色に過ぎなくて。
自分がしっかりしてないと領土もとられて、レギオンメンバーも抜けていって。
そんなことばかり考えて、自分の弱さをひた隠しにしてきた。
でもあの時、先代赤の王から正式に後を任されて。
そんな風に、誰かを丸ごと信じて自分の抱えたものを預けられるのが、きっと本物の強さなんだと知った。
ブレイン・バーストはいつか終わる。
けれど、あの世界で、自分の中に見つけたものは、たとえバーストリンカーとしての全てをなくしてしまっても、心の中には残るはずだ。
そう信じてる。
だからこそ、自分に色んなことを教えてくれた加速世界をただの逃げ場として終わらせたくなかった。
あの場所は逃げ場であるとともに、逃げずに前へと進むための勇気だって見るけることのできる、そんな場所なのだから。
(だから頼む。来てくれ、あたしのサーヴァント!)
その願いは聞き届けられた。
赤い――赤い――サーヴァントの召喚をもってして。
(なんだよ、これ……なんなんだ、これは……!?)
呼び出したサーヴァントは一人の男だった。
細身の獅子のような、身軽であるのに重々しい威圧感を放っていた。
内側でくすぶる力がにじみ出るように、彼の身体からほのかな赤い光が漏れている。
けれどニコが戦慄したのは、そんな外面から受ける印象ではなく、その内面。
高レベルのバーストリンカーだからこそ、ニコは自分のサーヴァントがどういった存在なのかを直感的に理解してしまった。
(こいつは、このサーヴァントは破壊の心意の塊じゃねえか!)
心意――それはブレイン・バーストにおけるイメージでの結果の押し付けであり、言ってしまえば意思の力だ。
ニコが召喚したサーヴァントはそんな破壊の意思に満ち溢れていた。
サーヴァントと繋がったラインを通して伝わってくるのは身を焦がすほどの破壊衝動。
自分を傷つける世界が怖くて、遠ざけたいと願ったニコとは真逆。
自らを縛る世界を焼き払いたいという飽くなき破壊と自由への渇望。
ぞっとする。
(あたしはこいつを制御できるのか!?)
ニコには破壊の心意が使えない。
ブレイン・バーストの対戦で、破壊の力を打ち消す攻撃もできなければ、耐えるだけの防御も出来ない。
それが長らく彼女のコンプレックスだった。
そんな自分に果たしてこのサーヴァントを制御できるのか……。
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「……どうした、ガキ。俺が怖いか? 怖いなら家に帰れ」
ニコの逡巡を読んだかのように、どうでもよさげな声でサーヴァントが聞いてくる。
怖い、なんてものじゃない。
ともすれば意思とは裏腹にへたり込んでしまいそうなくらいに身体が震え、歯の根が合わない。
自分は世界を終わらせないつもりで、世界にトドメを刺す引き金に手をかけているのではないか。
いつ爆発してもおかしくない爆弾を手に取ろうとしているのではないか。
「マスターになる気なら、俺の手を取れ」
サーヴァントが差し出してきた左手は赤い炎に包まれていた。
破壊の心意。
デュエルアバターを纏っていない現実世界であの炎に触れたなら、火傷どころでは済まないだろう。
辞めとけと、臆病な自分が言う。
破壊の心意の塊の獅子の如き男なんて、ニコにとっては最大最悪の恐怖の対象じゃないか。
今までそうしてきたように、遠ざけて、逃げたいと、心が折れそうになる。
「どうする? お前が、選べ」
それでも。それは、今までの話だ。
誰かを丸ごと信じて自分の抱えたものを預けられるのが本物の強さだと、先代赤の王から教わったばかりじゃないか。
だから、信じる。
臆病で、自信がなくとも、どれだけ相手が怖くとも。
一蓮托生なこいつを、このサーヴァントをニコは、スカーレット・レインは信じる。
「ガキじゃねーよ。あたしは、上月由仁子。赤の王、スカーレット・レインだ」
腕を失う覚悟で、サーヴァントの手を掴む。
手足の一本や二本くれてやる。
両義足のバーストリンカーがいるんだ。義手の王がいてもいいじゃないか。
そう己を鼓舞し、勇気を出して重ねた手は、しかし不思議と熱さを感じることはなかった。
サーヴァントの手から燃え移った炎は、ニコを傷つけることなく左掌に宿り、“徴”となる。
契約の証である令呪だ。
ここに契約は、完了した。
そのことを理解し、今度こそ全身から力が抜けようとしているニコに向かって、サーヴァントはふんと鼻を鳴らした。
「奇遇だな。俺も――赤の王だ」
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【クラス】バーサーカー
【真名】周防尊@Kシリーズ
【属性】混沌・中庸
【ステータス】
筋力:A+ 耐久:B 敏捷:C 魔力:B 幸運:C 宝具:A
【クラススキル】
狂化:E
通常時は敢えて精神を摩滅させ、異常なまでに無気力になることで狂化の影響を抑えている。
しかし、抑えてきた力を解放したら最後、心地よい熱のままに、全てを破壊し破滅へと突き進む。
狂化が機能している時は筋力と耐久のステータスが上昇するが、自分一人では解除できず、ヴァイスマン偏差は臨界に近づいていく。
【保有スキル】
王権者:A
大いなる力を持ち、この世の理を体現した存在。
赤の王である尊は第三王権者であり、暴力を司る。
同ランクの魔力放出(炎)、対魔力を内包し、クランの生成やクランズマンへの能力授与も可能にする複合スキル。
このスキルが機能すればするほど、ヴァイスマン偏差は臨界に近づいていく。
怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間は“怪力”のランクによる。
本来魔物、魔獣のみが持つ特性であるが、尊は“赤い怪物”の伝説で語られる存在だったため所持している。
王殺し:A
王を称するもの、王と称されるものたちに対する攻撃に補正が入る。自身も対象内であり、王権暴発や吠舞羅に効果が載る。
その逸話から実体のない存在にも攻撃が通り、不死者相手でも一時的にだが復活を阻害できる。
このスキルが機能すればするほど、ヴァイスマン偏差は加速度的に臨界に近づいていく。
カリスマ:C+
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
現代社会に馴染めないアウトローや自由を求める人間などにより効果を発揮する。
サンクトゥム:B
王の支配する広域結界を展開し、自身のクランズマンたちを強化する。
このスキルが機能すればするほど、ヴァイスマン偏差は臨界に近づいていく。
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【宝具】
『ダモクレスの剣 (ソード・オブ・ダモクレス)』
ランク:B- 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:-
ヴァイスマン偏差と呼ばれる王の異能による因果律の歪みの度合いが一定数を超えるとその頭上に顕現する剣の形をしたエネルギー結晶体。
王の力や危険性の象徴であり、威圧効果も持つ。
王の状態も表しており、限界状態だと剣も崩壊していく。王が死ぬと消滅する。
全盛期の状態で召喚されたはずの尊の剣が既に罅割れているのは、自らと不可分な破壊衝動と常時戦い、精神を磨り減らしているからである。
『王権暴発(ダモクレスダウン)』
ランク:A+ 種別:対王宝具 レンジ:999 最大補足:700000
王の力が暴走したり、力を出し切るなどヴァイスマン偏差の臨界に達すると発動する現象。
ダモクレスの剣が落下し、大爆発を引き起こす。
先代“赤の王”の時の暴発は、関東南部を中心に半径数十㎞を壊滅させ、70万人以上の犠牲を出した。
ある逸話から破壊不能とされる物も壊すことができるため、真っ当な手段で防ぐことは不可能。
剣が落ち切る前に王を殺すことで現象を回避できる。
『吠舞羅(メモリー・オブ・レッド)』
ランク:C 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大補足:1〜200
尊が守りたい絆であり、尊を縛る鎖でもある赤のクラン、“吠舞羅(ほむら)”のクランズマンを一定範囲内の空間に召喚する宝具。
召喚される面子は尊存命時に準拠するため、十束多々良も呼び出せるが、伏見猿比古は召喚に応じないし召喚する気もない。
あくまでもチーム“吠舞羅”を召喚する宝具なため、一人ひとり別々には呼び出せず、一度に全員を召喚しなければならない。
取り回しの悪い宝具だが、クランズマンには戦闘以外の面で役に立つ能力を持つものもいるため汎用性はある。
クランズマンは全員が独立したサーヴァントで、宝具は持たないが全員がE-相当の「単独行動」スキルを有しており、短時間であればマスター不在でも活動が可能。
ただし王とクランズマンの間には大きな力の差があり、尊のスキルで能力を上乗せした吠舞羅総掛かりでも英霊相手には分が悪い。
同系統の宝具に比べてランクが低いのはそのためである。
わざわざ呼び出してまで己の破滅に巻き込みたくはないとして、現状、尊はこの宝具を使わないつもりである。
『愛が永遠に繋ぐ絆と炎(フレイム・オブ・レッド)』
ランク:EX 種別:対運命宝具 レンジ:- 最大補足:-
吠舞羅発動時に奇跡的な確率で起きうることもあるとされる現象。ステータスには記載されていない。
天に二振りの赤き王剣が顕現し、英霊櫛名アンナがクランズマンとしてではなく王として尊と並び立つあり得ざる光景。
アンナは単独行動:Eに加え、尊と共通・共有できる王権者:A、サンクトゥム:B、カリスマ:C、ダモクレスの剣 :B、王権暴発:A+、吠舞羅:Cを所持している。
正規の召喚に比べれればスキル・宝具共にオミットされているとはいえ、英霊相手でも戦えるだけの能力を誇る。
また、吠舞羅をアンナ時代と尊時代のいいとこ取りで召喚した上に、二人分のサンクトゥムやカリスマで二重に強化できる。
ただし、ダモクレスの剣同士が影響し合い、ヴァイスマン偏差の限界への加速や王権暴発の連鎖誘爆も起こりうる危険性がある。
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【weapon】
なし。戦闘は拳や蹴りや炎を用いる。
【人物背景】
第三王権者「赤の王」。吠舞羅のキング。いつ爆発してもおかしくない爆弾。
思うがまま、感じるままに生きる人間だが、その“自由”が現代社会とは根本的に相性が悪く、何もかもを壊してしまいたいという欲求を抱えていた。
しかし、独りで生きれることのできる人間ながらも仲間たちへの絆は確かに存在し、破壊衝動と壊したくないという想いが常にせめぎ合っていた。
サバンナにライオンとして生まれた方が幸せだったと気心の知れた相手から評されたほど。
そんな中、精神的なストッパーであった十束多々良が殺されたため、自らの手による復讐を決意。
破滅を理解しながらも突き進み、犯人を殺害。
王権暴発を起こしかけるも、数少ない対等な存在であった宿敵にして友でもあった第四王権者「青の王」に自ら討たれることで仲間たちを守り切る。
青の王や自身と共にあった少女へと言葉を遺し、安らかな表情で死亡した。
【サーヴァントの願い】
思うがままに力を振るい、衝動のままに全てを焼き尽くして果てるのも悪くはない。
【基本戦術、方針、運用法】
一言で表すならデメリットアタッカー。
破壊の王に相応しい圧倒的攻撃性能を誇るが、その全てが王権暴発による自滅へと結びついている。
一度狂化すれば最後、自分一人では止まることなく破滅へと突き進むだろう。
常から不安定なヴァイスマン偏差は平均的なサーヴァントなら二体、格上のサーヴァントなら下手すれば一体倒すと臨界に達してしまう。
王権暴発は令呪による自害で防げるが、どちらにせよ退場は免れない。
強力でありながらも、生き残るということに関すれば致命的なまでに向かないサーヴァント。
幸い今回の聖杯戦争はサーヴァントの数も少なく、複数回対戦必須の月の聖杯戦争のトーナメント形式でもないためまだ可能性はある。
このサーヴァントで生き残りたいなら、宝具“吠舞羅”を使用する気にさせるのが先決である。
吠舞羅は尊のブレーキとなり得、特に十束多々良、草薙出雲、櫛名アンナの存在は大きい。
最終宝具は掟破りの性能を誇るが、狙って発動できるものでもなく、そもそも起きることのほうが稀なので期待はしないように。
万一奇跡が起きたとしても、王権暴発の危険性は減るどころか増すので油断なきよう。
【マスター】上月由仁子 / スカーレット・レイン
【出典】アクセル・ワールド
【マスターとしての願い】
加速世界をただの逃げ場として終わらせないためにも、現実世界を終わらせない。
【weapon】
特になし
【能力・技能】
バースト・リンク
思考を1000倍に加速させる。
使用にはバーストポイントを消費するが、十分な手持ちがある。
フィジカル・バースト
意識を肉体にとどめたまま10倍に加速する。効果時間は3秒、体感時間は30秒。
使用にはバーストポイントを消費するが、十分な手持ちがある。
フィジカル・フル・バースト
意識だけでなく、肉体全てを100倍に加速する。
身体にかなりの負荷をかけるため激痛が走り常人の身体では、100倍速で動くことは不可能。
蓄積ポイントの99%を使用するため、この機能を使用した場合、以降はポイントをを必要とする各種能力が大幅に制限・使用不能となる。
対戦でポイントを稼がない現状、実質一度限りの大技。
赤のクランズマン
バーサーカーのスキル、王権者により獲得。
身体能力の向上や、炎の力を得たが強弱は不明(お任せ)
ただし吠舞羅の説明にあるように、クランズマンはどれだけ強くてもサーヴァントには敵わず、最弱の場合一般人とあまり変わらない。
【人物背景】
小学六年生の孤児の少女にして、ブレインバーストにおける二代目赤の王。プロミネンスのレギオンマスター。
外界への恐怖や、他の王と違って自身が純色でないことを気にするなど、多くの弱さを抱えており、
そうした本心・弱さを隠すために虚勢を張る自分をさらに自己嫌悪していた。
多くの出来事がきっかけに、赤の王を正式に襲名し、自らの有り様や、他者への向き合い方を問い直す。
そうしてこれからのことを考え、中学生になる自身の将来図を思い描いていた矢先に、現実世界は終焉へと向かう。
加速世界で聖杯戦争のことを知った彼女は、聖杯に一縷の望みを託し、自ら現実での戦いの地へと赴いた。
【方針】
聖杯狙い。バーストリンカーの誇りにかけても、マスターを殺すようなリアルアタック地味た行為はしたくない。
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投下終了です
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皆さん、投下お疲れ様です
投下します
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どれほどの人間がそれを知っているのであろうか。
今も言い伝えられる「スサノオ」「三種の神器」にまつわる神話において頭と尾が八本ずつ生えた怪物、「ヤマタノオロチ」とされている存在。
――オロチ。
その正体は「地球意思」であり、実体を持たぬ思念の塊。厳密には地球意思の数ある側面が一つ。
たかが星の意識の一部とて侮るなかれ、一度それが依代に宿り、実体を持ち現世に顕現すれば人類は瞬く間に「無」に還るであろう。
オロチは、遥か太古より地球の自然を守ってきた「神」に近き存在だった。
しかし、人類がその数を増して文明を発展していくにつれ自然は破壊され、自然界のバランスは崩れていった。
人類の傲慢さに耐えられなくなったオロチは、ついには人類の敵となった。
オロチの力を分け与えられたオロチ一族なる人の形をした人外の集団は人類を滅ぼそうと行動を開始。
オロチ八傑集を筆頭とする彼らはオロチを完全に覚醒させ、この世に降ろすべく人類に侵攻した。
これに人類側が黙っているはずもなく、「三種の神器」と称されることになる草薙・八尺瓊・八咫が立ち上がった。
ここに、人類の存亡を賭けた大きな戦いが起こっていた。
結果は人類の勝利に終わり、呪術の力に優れた八咫によってオロチ一族の中でも優れた力を持つ八傑集ともどもオロチは封印された。
現代から1800年前のことだ。
だが、660年前。
三種の神器の一人、八尺瓊がオロチの強大な力に憧れを抱き、その封印を解いてしまう。
八咫の計らいによりオロチ本体は別の場所に封じられていたことで、解き放たれたのはオロチ八傑集のみであった。
オロチ八傑集は八尺瓊が八神となる切欠を作る暗躍の後にオロチ復活の時を待ち、その時が来るまでに力を蓄えるべく行方を眩ました。
そして、現代。
世界の「無」に還るまであと5日であることが残された人類に告げられたこの日。
だんだんと無機質な白に染め上げられていく世界のなかで人は少ない余生を過ごしていた。
660年前、八傑集がこの世に解き放たれてからどうなったのかは明らかになっていない。
三種の神器の子孫は今もオロチの封印を守り続けているのかは分からない。
オロチ八傑集に至っては今となって全員が生きているのかどうかすらも怪しい。
もしかすれば、ほとんどが世界の終焉に飲み込まれたのかもしれない。
だが、世界の消滅で最後に残されるというかの街には、人々の絶望に紛れてある噂話が流れていた。
――この街は、あの「ヤマタノオロチ」が封印された場所に当たるらしい。
かのオロチ八傑集がかの街で何人生きているかは分からないが、あの男は少なくとも生きているであろう。
オロチへの絶対の忠誠心を胸に秘めた「吹き荒ぶ風」は。
◇
-
天にまします我らの父よ、願わくは、み名を崇めさせたまえ
み国を来らせたまえ み心の天になるごとく、地にもなさせたまえ
我らの日曜の糧を今日も与えたまえ、我らに罪を犯すものを、
我らが赦すごとく、我らの罪をも赦したまえ 我らをこころみにあわせあず、
悪より救いだしたまえ 国と力と栄光(さかえ)とは、限りなく汝のものものなればなり
「アーメン」
牧師が主の祈りを唱え終わる。
教会に設置された時計が礼拝の終わりを告げるように音を鳴らす。
教会のつくりは質素ながらも独特な西洋の雰囲気があり、牧師の後ろにそびえる十字架が妙に神々しい。
無宗教者の多かったこれまでの日本とは違って、礼拝堂にはそれなりの人数のキリスト信徒が教会の椅子に座って牧師の話を聞いていた。
皆、顔には沈痛な表情が浮き出ており、何かに縋ろうとしているようだった。
「ゲーニッツ先生」
信徒の一人がおそるおそる手を上げ、牧師のゲーニッツに問いかける。
「我々に、救いはあるのでしょうか?」
それはこの教会にいる信徒の全員が聞きたいことであった。
残り100時間余りとなったこの星の寿命。それがなくなると同時に人間は世界と運命を共にする。
もはや打開策がない中で、少しでも心の拠り所を作ろうと教会へ足を運ぶ人間も少なくはなかった。
神の救いというノアの箱舟に一抹の希望をかけてここに足しげく通っているのだ。
「救い、ですか」
ゲーニッツは丁寧な物腰で信徒の問いに答える。
「皆さんのお手元にある聖書にあるように、主イエスは我々人類の罪を一身にお受けになられました」
ゲーニッツは全人類への神罰、原罪とイエスの関係を踏まえて信徒へ語る。
「新約聖書の使徒言行録にて、ペトロは『この方を信じる者はだれでも,その名によって罪の赦しが受けられる』と言われています。
これは、主イエスを信仰することで我々は神罰の裁きから救い出されることを言います。
罪の赦しは神のいる天国での永遠の生を意味し、それはまた救いを意味します。結論ですが、皆さんにとって大事なことは信じる心です。
残された時間も常に主イエスを信仰し、聖書の教えに沿って過ごせたのであれば、あなた方は全ての罪を赦され、そして救いをもたらされるでしょう」
言い終わった後にゲーニッツは『この世界の消滅を神罰と捉えるならば尚更ね…』と付け加える。
聖書に記されたことを重視するプロテスタントに相応しい答えであった。
それを聞いた信徒達は感動したのか、どちらにしろこのまま生きることはできないことに絶望したのか静まり返っていた。
この妙な静けさの中、他の信徒からの質問もなくこのまま解散となった。
◇
-
「人類は落ちていくのです。どこまでも…」
誰もいなくなった礼拝堂で、オロチ八傑集が一人、ゲーニッツは呟く。
それにはこの地球が消滅していく現象への嘆きも込められていた。
――ここまで人類は堕ちたのか。オロチが人類を滅ぼすために自らの守ってきた星を犠牲にするまでに。
ゲーニッツは、この世界の消滅がオロチを含む地球意思の力によるものであることを確信していた。
中でもオロチはゲーニッツも使う「風」の力を始め「地」「雷」「炎」「牙」「闇」「獣」「死」「重」といった自然の持つ力に加え、「無」の力をも操ることができる。
例え実体を持たず覚醒していなくとも、それらの力を合わせれば地球を自然ごと無に還すのは造作もないだろう。
現に日本の外は白一色の世界――まさに「無」そのものだ。このようなことができるのはオロチのような地球意思しかいない。
されど、地球意思が太古より守ってきた自然ごと人類を消すという手段を取ったことはゲーニッツとて驚きを隠せなかった。
元より、ガイア――星の無意識部分――のような地球の意思は星の生命延長を第一としており、自らに破滅を招くようなことはしない。
だが、オロチのような無意識部分とは違う、全体としての星の意識の一部分が人類を滅亡させるために地球の消滅すらいとわなくなったのだろう。
それほどまでに彼らは、オロチは人類への憎しみを積もらせていたのだろう。
「私は神の意志に従うまでです」
だが、ゲーニッツはオロチがどう思おうと決して裏切るような真似はしない。
オロチの意思に従い、そのためにはどんなに手を汚しても構わないというのがゲーニッツという男。
彼にとって「神」とは聖書のそれではなくオロチに他ならない。
「それに抗おうとする者には死、あるのみ。聖杯の力でそれを止めようなどオロチ一族が決して許しません」
ゲーニッツの左手には、聖杯戦争の参加者の証である令呪が刻まれていた。
この街が聖杯戦争という儀式が行われる場になることは世界崩壊の始まった当初よりゲーニッツは把握していた。
聖杯という万能の願望機を巡る争い…。愚かな人類のことだ、ほとんどのマスターが『人類を救う』などと仰々しい願いを携えてかの地にたどり着くことだろう。
それは人類を消そうとするオロチに反する行為。1800年前より受け継ぎし「風」の力にかけて止めねばならない。
世界を救おうとする人類を止めることこそがゲーニッツの目的であった。
「復活された主イエスの聖遺物はまさしく『復活』のために使われるべきなのです」
そして全ての参加者を排除した暁には聖杯にオロチの完全なる復活を願い、地球意思の顕現した状態でこの星の物語に終幕を降ろす。
オロチの復活には本来、様々な制約があるが、聖杯の魔力、そして譲れぬ願いを持つ者達が争うことによって生じる精神のエネルギーをもってすれば、
それらを撥ね退けてオロチを完全に覚醒させることができるだろう。
ゲーニッツにとって、聖杯戦争はオロチ復活の儀式でもあるのだ。
「さて、アサシンがそろそろ戻ってくる頃―――」
ゲーニッツが自らのサーヴァントの名を口ずさんだその瞬間、
ガ オ ン !
という特徴的な音がした。それを聞いたゲーニッツはすぐさま礼拝堂の入口の方へ飛び移る。
「風」の力を使えば瞬間移動はもちろん、一時的に姿を消すこともできる。コンマ1秒も経たぬ内にゲーニッツは移動を済ませていた。
態勢を整えたゲーニッツが聖餐卓の方を睨むと、そこには金のハート型アクセサリが特徴的な長身の男が立っていた。
正直に教会の入り口から入ったわけではないし、礼拝堂の影に最初から隠れていたわけでもない。
突然『現れた』のだ。
その男は体のところどころに血がついていて、生臭いにおいがそこら中に漂う。
男の口の中から垣間見える鋭く尖った歯が、男が吸血鬼であることを示している。
男の名はヴァニラ・アイス。
邪悪の化身・DIOを崇拝し、絶対的な忠誠を誓い、そして敗れた男。
-
「…なるほど、これが人間の血か。力がみなぎってくる感じがする。このような肉体をくださったDIO様はやはり素晴らしいお方だ」
「気が済みましたか、アサシン?」
ゲーニッツは別段驚きもせずに淡々と話す。丁寧な口調も変わらない。
ヴァニラの身体についている血も、全て信徒のものであると分かっていたからだ。
礼拝の後に退室した信徒の内数人をヴァニラは殺害した後に吸血し、ゲーニッツはそれを容認していた。
「それにしても、困りますね。少しは慎重にその『クリーム』を使ってくれませんか」
「……私の勝手だ」
「勝手にされてはあなたの死に繋がることを忘れないでください。暗黒空間に飲み込まれれば、私とて無事ではないことはあなたも知っているはず」
「…フン」
ヴァニラは傍らに佇むスタンド『クリーム』をその場から消して気だるげに答えた。
『クリーム』。『クリーム』の暗黒空間に飲み込まれた者は何もかもが粉みじんになって消えてしまう。
現に、礼拝堂の壁に目を向けると綺麗な形の丸い穴が開いている。
これは『クリーム』に削り取られた跡で、ヴァニラは壁を突き破って礼拝堂に入ってきたことがわかる。
削り取られる対象はマスターであるゲーニッツも例外ではない。
マスターの近くにいなければならないというサーヴァントの特性上、『クリーム』の能力は慎重に扱わなければならないのだ。
それゆえに、少しでも長い時間離れられるように、魂食いをする必要があった。
「貴様はこんなところで何をしていた?」
「神に祈りを捧げていたところです。牧師ですので」
「解せんな…崇拝する神がいながら聖職など…」
「私はただ、絶対なる神に仕えればそれでよいのです。あなたとてそうでしょう?」
ゲーニッツとヴァニラ・アイス――絶対的な存在に忠実である者の主従は一時的な協力、いわば利用し合う間柄であり、そこに絆と呼べるものはない。
そのため互いのことを知る必要もなく、ゲーニッツがアサシンを召喚してからしばらくしたがお互いに絶対の忠誠を誓う相手がいる程度しか把握していなかった。
しかし、腹に一物を抱えていることは察していた。
(聖杯はDIO様にこそ捧げられるべきものだ…。どこの馬の骨ともわからんド畜生共には渡してはおけん…!)
万能の願望機ならば、DIOを唯一脅かしている忌々しい太陽の無効化やDIOに盾突く愚かなジョースター共を抹殺することが可能であろう。
仮にジョースター共が生きているのであれば今すぐにでも暗黒空間にバラ撒いてやりたいところだが…。
聖杯が長く顕現できない代物であった場合は、失礼を承知でこのヴァニラ・アイスが代わりにDIOの永遠の栄光を願うことも視野に入れている。
DIOの繁栄を約束するためにも、邪魔する者は全員暗黒空間にばらまき、粉みじんにしなければならない。
――このゲーニッツという男も。
ゲーニッツにも願いがあることが分かっている。
この男には崇拝する神がいるというが、それはつまりDIOの障害になり得るということ。
世界の中心たる存在はDIO一人で十分なのだ。いつまでも放っておくわけにはいかない。
令呪がある分、今のところは向こうが有利だが――必ず願いを叶えてみせる。
DIO様への忠誠に誓って。
(アサシンに別なる絶対的な存在がいるならば、その障害となる私を消そうとするはず…こちらには令呪がありますが、いつ裏切られてもおかしくはないと思うべきですね)
行動を共にするものを排除しようと考えているのは無論ヴァニラだけではない。
ゲーニッツもまた、オロチの完全なる覚醒のためには余計な願いを持つ者は排さなければならない。
機を見てゲーニッツを消そうとしてくることも視野に入れておかねばならないが…やはりここは『協力』が必要だろう。
一時的な協力だが、やはりヴァニラの宝具が味方にいるのならば心強い。
ありもしない希望に縋る主従を排除するのであれば尚のことヴァニラの力が必要になってくるだろう。
こちらもマスターといえど、『吹き荒ぶ風のゲーニッツ』の異名を持ち、同志からも一目置かれるくらいには実力がある。
―――全ての参加者を排除する。
最後に排除するべき者はそれから考えればいい。
ゲーニッツはアサシンに近づき、手を差し出す。
その瞳は人のものではなく、蛇のように縦に割れていた。
「いい風が来ました。アサシン、お互いにとっての神のために―――聖杯を勝ち取ろうではありませんか」
◇
-
わ れ がいあと と も にあ り
Варе Гаятотомоняри
-
【クラス】
アサシン
【真名】
ヴァニラ・アイス@ジョジョの奇妙な冒険
【パラメータ】
筋力B 耐久A+ 敏捷D 魔力D 幸運E 宝具EX
【属性】
混沌・悪
【クラス別スキル】
気配遮断:-
自身の気配を消す能力。
宝具によって気配を断つため、このスキルには該当しない。
【保有スキル】
邪悪の加護:EX
邪悪の化身への忠誠に殉じた者のみが持つスキル。
加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の忠誠から生まれる精神・肉体の絶対性。
ランクが高すぎると、人格に異変をきたす。
EXともなると『バリバリと裂けるドス黒いクレバス』のような歪んだ精神になる。
戦闘続行:A
信仰の強さ。DIOに仇なす者を消すことへの執念でもある。
決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の重傷を負ってなお戦闘可能。
また、吸血鬼スキルにより脳髄にダメージを追っても行動を続行できる。
吸血鬼:D
多くの伝承に存在する、生命の根源である血を糧とする不死者。
一度は死んだもののDIOの血により蘇生されたことで肉体が吸血鬼と化した。
しかし吸血鬼になって間もない状態の上、一人の生き血も啜らずに死亡したためランクは低い。
並外れた筋力に吸血、再生能力など人を超越した様々な異能力を持つが、
ランクが低いために使えるのは前の三つだけである。
代償として紫外線、特に太陽光に弱いという致命的な弱点も持つ。
【宝具】
『亜空の瘴気(クリーム)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
生命が持つ精神エネルギーが具現化した存在。所有者の意思で動かせるビジョン『スタンド』。
口から先はあらゆるものを『粉みじん』にする暗黒空間へと繋がっており、アサシン以外は入った瞬間に耐久値に関係なく消滅してしまう。
また『スタンドの口の中に入る→スタンドがスタンド自身を脚から順に飲み込む』といった手順で通常空間から姿を消し、
暗黒空間への入り口を球状に露出させて『触れるもの全てを消滅させる不可視の球体』になることもできる。
この状態で移動する際は臭いも音もなく色も完全に透明であり、
攻撃しようにもアサシン本体に届く前に攻撃が消滅してしまうため、相手は逃げる以外の一切の抵抗が出来ない。
アサシンはこの宝具を気配遮断スキルの代用としているが、
厳密には気配を遮断しているのではなく『この世から魂と肉体を別世界にうつしている状態』である。
そのため、『気配遮断を無効化する能力』ですら『亜空の瘴気』には無力である。
ただし、暗黒空間からは外の様子が見えず、攻撃の際に一切の衝撃・手ごたえが無い。
そのため、逐一顔を出して相手の位置を確認する必要がある。
あらゆるものを無差別に暗黒空間へ飲み込むという特性上、マスターをも飲み込む危険があるので細心の注意が必要。
【weapon】
・宝具『亜空の瘴気』のスタンドビジョン
スタンドで格闘戦を行うことが可能。
ステータスはサーヴァント換算で、
筋力B、耐久C、敏捷B相当。
暗黒空間に隠れて移動するときはこちらのパラメータが適用される。
【人物背景】
エジプトのDIOの館にて、ジョースター一行の前に立ち塞がった最強にして最後の刺客。
DIOに心からの忠誠を誓っており、自らの首を切断してDIOに血を捧げたほど。
この時、DIOの血で蘇生された時に身体が吸血鬼と化しており、それに本人は気づいていなかった。
普段は冷徹だが、DIOが関わると、
『砂で作られたDIOの像を壊させた』という理由で蹴りだけでイギーを殺してしまうほどに
激昂して普段以上の残忍さを見せる。
上記の凶悪なスタンド攻撃によりアヴドゥルを即死させ、イギーを蹴り殺したが、
最期はポルナレフに吸血鬼であることを看破され、日光を浴びて死亡した。
【サーヴァントとしての願い】
DIOの永遠の栄光。
ジョースターの血を引く者が生きていれば最優先で抹殺する。
-
【マスター】
ゲーニッツ@THE KING OF FIGHTERS '96
【マスターとしての願い】
オロチの意思に反する人間を排除し、オロチを完全な形で復活させる。
【weapon】
己の肉体
【能力・技能】
・オロチの力
「風」の力を操る。
ゲーニッツ含むオロチ四天王は、自然現象すらも自らの力で行使することができる特別な存在である。
任意の場所に竜巻を起こしたり、かまいたちを発生させて相手を切り裂くことができる。
オロチ八傑集は人類を滅ぼすべく行動を開始した1800年前の時点でその存在が確認されており、
それゆえにその能力の纏う神秘の位は非常に高く、生半可な対魔力では意味をなさない。
また、ゲーニッツは現代まで人類に紛れて力を蓄えてきたため、保有する魔力も常人とは比べ物にならない。
【人物背景】
「地球意思」と称されるオロチの血と力と意思を受け継ぐ者達の中でも特に優れる力を持つオロチ八傑集の一人であり、その中でも特に優れた力を持つオロチ四天王の一人。
「風」の力を操り、『吹きすさぶ風のゲーニッツ』の二つ名を持つ。
八傑集随一の実力者で、オロチ復活を目論む一族の実質的なリーダーだったと思われる。
他の八傑集も同様だが、人の形をした完全な人外で、はるか昔から転生を繰り返して現代まで生き延びてきた。
戦闘能力は若い頃からズバ抜けたものがあり、
オロチの力を奪おうとしたルガール・バーンシュタインと一戦交え、右目を奪って退けている。
そのやり方は極めて冷徹で、オロチ復活に非協力的だった八傑集の一人を、
その娘に宿るオロチ八傑集の力を暴走させることで両親を殺害させる。
その行動理念は全てオロチの意思によるものであり、普段のゲーニッツはそれほど残忍ではない。
職業は牧師。神父ではなく牧師である。
本編となるキング・オブ・ファイターズが開催される直前には、三種に神器の力を測るために草薙京に野試合を仕掛けて片手で圧倒した。
この時点で結束が不十分な三種の神器は脅威になり得ないと判断したゲーニッツは
封印の最後の護り手、ちづるを排除すべくキング・オブ・ファイターズの決勝戦会場を強襲するが、
優勝チームに敗れ自らの風の力を使い自害した。
【方針】
聖杯狙い。邪魔する者は消す。
【捕捉】
作中では世界の消滅が地球意思によるものということになっていますが、
その通りであるかもしれませんし、ゲーニッツの勘違いであるかもしれません
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以上で投下を終了します
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投下させていただきます。
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◇
少女の時代が終わるよりも早く、世界の終わりは告げられた。
今、この時に叶えたかった夢【トップアイドル/シンデレラ/あなたのとなり】は山程あるし、
大人になってから叶えたかった夢【お嫁さん/あなたのとなり/わからないけど素敵な未来】も山程あったはずだった。
手が届きかけた夢は、結局掴めないまま終わる。
掴んだはずの夢は、全てが無意味になってしまった世界で嘘みたいにすり抜けていく。
今、目の前にあるしあわせも、世界まるごと巻き込んで何もかも夢だったかのように消えてしまう。
「ボクは嫌ですよ……プロデューサーさん」
世界は十二時を迎え、魔法は解けてしまった。
かつて、数多のアイドルを抱えていた■■プロダクションにも、今となってはかつての賑わいはない。
ほとんどのアイドルは、かつてアイドルだった女の子になり、かつてあった日常を無理矢理に演じるために家族の元へと帰っていった。
今この終焉の時代にもアイドルを続けようとする女の子は、やはり事務所を飛び出して――自分が立ちたかった舞台でライブを行っている。
かつての憧れであったドームも、今となってはそこで歌い踊ることに資格はいらない。
今、事務所に残っているのはプロデューサーと、そして唯一人のアイドル輿水幸子のみ。
「けどなぁ、幸子……」
「だって、だって……ラストライブに行ってしまったら、諦めてしまったみたいじゃないですか。本当に世界が終わってしまうみたいじゃないですか」
プロデューサーは困ったように溜息をついた。
本当に世界は終わるし、どう足掻いても■■プロダクションのアイドルとしては今行われているものがラストライブになってしまう。
普通の女の子に戻るならば、それでいい。
けれど、輿水幸子はアイドルとしてプロダクションに残った。
ならば、世界の魔法が解けてしまうまで――アイドルとして最後の舞踏会で踊って欲しい。
アイドルでいようとするならば、最後までアイドルとして終焉を迎えさせてやること。
それがプロダクションの総意でであったし、プロデューサー個人としてもそれは理想だった。
けれど、目の前の少女は――自分が世界の終焉の最後の鍵であるかのように、まるで自分が否定すれば世界は終わらないかのように振る舞う。
そうだろうとプロデューサーは思った、虚無が突き付けられているというのに、未だに世界の終焉は冗談としか思えない。
それならば、目の前の十四歳の少女は尚更だろう。
普段、散々に大人【レディー】ぶってみせても、結局はプロデューサーから見れば未だ子どもなのだ。
無限大とは言わない、けれど――素晴らしい未来が待っているはずだった。
終わらないと言ってあげたい。
世界は明日も、明後日も、明々後日も、一週間後も続いていくし、幸子には幸福な未来が待ち受けていると言ってやりたい。
けれど、それは無理だ。
プロデューサーは世界の終わりをわかりきった大人で、正義のヒーローが虚構であると知ってしまった大人で、
そして待ち受ける終焉に対して何の力もない大人だ。
「幸子」
だから、プロデューサーは幸子に向けて手を伸ばすことしか出来ない。
「世界は終わるけれど、俺達は皆消えてしまうかもしれないけれど、
それでも……幸子はアイドルで、俺はプロデューサーで、舞台があって、観客がいて、あぁ……っと、つまり
一緒に行こう、幸子。カボチャの馬車は無いけど、そこそこ速い車は持ってるんだ」
「……キス」
「え?」
「キスしてください、プロデューサーさん」
言っている意味がわからなかった。
幸子は女の子ではなく、アイドルのはずだった。
女の子だとしても、相手は自分ではない――もっと、若い、幸子と一緒に学校へ行くような少年だと思っていた。
「あは、プロデューサーさんはダメダメですね」
幸子は瞳を潤ませていた。
どんな演技よりも真に迫る彼女そのものが目の前に立っていた。
「やっぱり……女の子の扱い方を知らない。気づかなかったんですか?」
142cmしかない背を精一杯伸ばしても、プロデューサーの顔は未だ遠い。
今までずっと、この近くて遠い数センチの距離が縮まらなかった。
-
「ボクは……自分が思っていたよりも女の子で、
最後までプロデューサーさんの側にいたかったずるい女の子で、プロデューサーさんのことが大好きな、カワイイ恋する女の子なんですよ」
幸子は女の子の力でプロデューサーを思いっきり抱きしめる。
身長は変えられないから、だから自分に出来ることをする。
プロデューサーが、自分へと距離を縮めてくれるように。
「キスしてください、プロデューサーさん。
ボク、今だけはアイドルから普通の女の子に戻ります。キスしてくれたら、アイドルに戻ります」
――キスしても、アイドルには戻れない、戻れるわけがない
――けれど、輿水幸子はやっぱりずるい女の子で
――プロデューサーさんが大事にしていたアイドルという自分を人質に取ることが出来る
――普通の弱い女の子だった
「……」
法律はもう意味が無い、14歳も16歳も20歳も変わりはない。
今ここでキスしたところで、誰もスキャンダルにはしないし、されたところで意味は無い。
だから、世界はプロデューサーが目の前のカワイイ女の子の思いを受け止めることを咎めも妨げもしない。
プロデューサーは、キスして、髪を撫ぜて、愛の言葉を囁いてやることも出来る。
そうやって、目の前の女の子をアイドルに戻すことが出来る。
何より、終わりゆく少女に――すぐに消えてしまう大切な思い出を一つだけ渡すことが出来る。
「幸子……俺は……」
自分自身。
幸子。
幸子のファン。
他のアイドル。
■■プロダクション。
自分の中のアイドル。
「出会った時から、お前を愛していたよ」
プロデューサーは全てを裏切った。
「プロデューサーさん……」
幸子は女の子で、プロデューサーは大人で、
好きでもない女の子に愛していると囁くことが出来るずるい大人で、
好きでもない女の子に口づけを交わすことの出来るずるい大人で、
幸子はそんな思いに気づきながらも、信じたフリが出来るずるい女の子だった。
「ボクは幸せです」
「ああ、俺も幸せだ」
――この一瞬だけの愛情が永遠に続けばいいのに。
-
◇
■■プロダクションを抜けだして、二人はそこそこに高級なホテルへと訪れた。
その行いを誰も妨げはしないし、誰も咎めはしない。
「プロデューサーさん」
「どうした幸子」
「ボク怖いです」
「怖いか」
「どうせ終わるなら、世界で一番幸せな女の子になって、幸せの絶頂で終わりたいと思ってました。
でも……嫌です、こんなに幸せなのに……何もかも終わってしまうのは嫌です」
「そうか……俺も怖いよ」
「プロデューサーさんも怖いですか」
「みんな思い出作りに励んでるけどさ、結局自分が終わってしまうことを必死に忘れようとしてるだけなんだ。
だから……思い出してしまうと、叫び出したくなるぐらいに怖い」
「プロデューサーさんにはやりたいことがありますか?」
「山程あるよ……なぁ、俺、子どもの頃にやりたかったことは、大人になるとほとんどどうでも良くなってた。
けど、大人になってから初めて見つかるやりたいことって言うのも、山程ある。幸子、お前は……そういうものを見つけられないんだな」
「…………」
「幸子、俺はお前をトップアイドルにしたかった。
誰よりもカワイイアイドルにしてやりたかった。ああ……いや、いいさ。愛してるよ、幸子。永遠に愛してる」
ボソリと、プロデューサーが言った『死にたくねぇな』の一言を幸子は聞き逃さなかった。
誰もが皆、死という言葉を避けていた。
終わるだとかそういう言葉で遠ざけたかった、ふわふわとしたものに包んで誤魔化したかったのだ。
事実を目の当たりにしてしてしまうことは、何よりも恐ろしいことだから。
「あぁ……」
「プロデューサーさん……」
幸子はプロデューサーを抱きしめた。
体温が直に伝わる零距離。
二人で溶けて混ざってしまいそうな、ぬくもり。
「ごめんな……お前が一番怖いのにな」
「……いいんです、ボク」
――幸せですから
その言葉を、幸子は飲み干した。
幸せであればあるほどに、終わる時が怖い。
ただ、麻薬に溺れるようにしてぬくもりに溺れてしまうしか無い。
ただひたすらに終わりを待っていたい。
溶け合ったままのハッピーエンドマークが付くような終わり。
けれど、そうはいかないだろう。
「幸子……お前」
プロデューサーが幸子の肌を撫ぜる。
「タトゥーなんかしてたんだな」
幸子に刻まれた三枚の悪魔の羽根の文様。
サーヴァントへの絶対命令権――令呪。
普通の女の子が世界の終わりに抗うための空想の弾丸。
「どうせ……終わっちゃいますからね」
そう言って、幸子は笑ってみせる。
いつかは戦わなければならないと思っていた。
終焉の時代に現れた無限の願望機、聖杯を巡る争い――聖杯戦争。
聖杯を手に入れることが出来れば、世界は何事もなかったかのように再び時を刻み始めるだろう。
来週にデートの約束を取り付けることだって出来るだろう。
けれど、幸子はカワイイだけの普通の女の子で、とても殺し合いが出来るとは思わなかった。
だから、勇気を振り絞って――プロデューサーに告白して、いっそ終わってしまっていいと思い込もうとして、
それでも無理だった――幸せであれば、幸せであるほどに、世界の存続を望んでしまう。
当たり前だ。
誰だって死ぬのが怖いし、輿水幸子に心中の趣味は無いのだ。
だから、幸子は戦いに赴く。
眠るプロデューサーの頬にキスをして、プロデューサーのぬくもりに別れを告げて、
そして世界が再動を始めれば、きっと――この愛は壊れてしまうことを知りながら。
-
◇
「それで、いいのかい?」
「ええ、大丈夫です」
ホテルの外には、如何にも魔女然とした少女が立っていた。
美少女であることを除けば、百人が百人思い描く魔女のイメージそのままのクラシックスタイル。
つまり、魔女のとんがり帽子、魔法の箒、そして魔女のワンピースだ。髪は二房の三つ編にまとめてある。
丈の長い紫地のコートと首から提げたお守り袋だけが一般的な魔女のイメージに反しており、
コートの背中には大きく金字で『御意見無用』と刺繍されている。
その魔法少女こそが、幸子の召喚したライダーのクラスのサーヴァントであった。
「……ボクは聖杯戦争に参加します」
幸子が聖杯戦争への参加を表明した時、ライダー何かを思い出すような物憂げな表情を浮かべて、手を差し出した。
「とりあえず握手な、よろしくマスター」
ライダーに叶えたい願いはある。
今更どう足掻こうとも、どうにもならない願い。それでも、聖杯ならば叶えられるであろう願い。
けれど、それは――戦うことを望まない少女を巻き込んでまで、叶えようとは思わなかった。
今でも思い出す。
十六人の魔法少女が殺し合うこととなった、地獄。
自身も命を喪い、そして――大切な人の命を喪ったあの魔法少女の試験。
ライダーは己の腹を撫ぜた、今となっては痛みも何も無い。
全ては終わってしまったことなのだ。
だから、魔法少女のようにカワイイ目の前の女の子を無理に戦場に引きずり出す気はなかった。
世界は終わる、だが安らかな世界で死ぬことを望むというのならばそれで良かった。
「よろしくおねがいします」
幸子が手を握る。
幸子――幸せな子ども。
良い名前だとライダーは思った、親の望みというのは結局子どもの幸せなのだろう。
自分だってそう思う。
「んじゃあ、とりあえず飛んでみよっか!幸子は空飛ぶの初めて?」
「スカイダイビングの経験ならありますよ、ボクはアイドルでしたから」
「えぇー」
アイドルというものはスカイダイビングを経験するものなのだろうか、
少なくともトップスピードにはそうは思えなかったが、世界が違うのだ。深くは気にしないことにした。
初めて乗る空飛ぶ箒は、バイクのような風防やハンドル、マフラーや推進装置がゴテゴテと盛られていた。
「魔法の箒って、みんなこんな感じなんですか?」
「いやー、俺だけだと思うよ。なにせ俺は――」
トップスピード【最高速度】それが魔法少女としての彼女の真名だ。
もちろん、人間としての真名もある。
だが、それを知っているものは英霊にはいないだろうし、人間としての自分を覚えているものだけが知っていればいいと思っている。
だから、自分の名はライダーのトップスピード、それでいい。
魔法の箒が浮かび上がる。
ビルよりも高く、月よりも低い場所――幸子は空を飛んだ。
魔法少女に憧れなかった女の子はほとんどいない、そして幸子は魔法少女に憧れた女の子だった。
世界は滅ぶ、戦いに挑む、落ちたら死ぬ、でも――すごい、空を飛んでいる。
「〜〜〜〜〜!!!」
だが、それは声にならない叫びになるばかりであった。
-
「大丈夫、大丈夫、しっかり掴まってれば後部座席からは落ちない……と思う」
「本当に大丈夫なんですか!?」
「なんなら曲技飛行をやってもいいよ」
「嫌ですよ!」
「はは、ジョーダンだって」
箒の後部座席に乗った相手と会話をするのは久しぶりのことだった。
共に戦った相棒――素直じゃない忍者の魔法少女のことを思い出す。
彼女はあの戦いを生き延びたのだろうか、今でも元気でやっているだろうか――出来れば、そうであって欲しい。
自分が生き延びることの出来なかった半年を生きているのならば、嬉しい。
「なぁ、プロデューサーさん、どうだって?」
幸子は女の子で、相手は大人で。
幸子はアイドルで、相手はプロデューサーで。
分厚い障壁に妨げられた告白を、ライダーは背を押すどころか箒に乗せて壁の向こう側へ放り込んだ。
戦わないにしても、世界が終わるならば後悔はしてほしくなかった。
彼女がいなければ、幸子は――アイドルとプロデューサーのまま、世界を終えていただろう。
「愛してるって言って、キスしてくれました」
照れたように、そして世界一幸せな女の子であるかのように幸子は言う。
だが、その声色に若干の悲しみが混ざっている。
失恋したわけではないのだろう、けれど完全無欠のハッピーエンドではなかったのだろう。
容易に推測のできることだった。
けれど、無理やり事実を聞き出す必要はない。
「そうか、良かったな!」
「はい!」
「やっぱり、ボクはプロデューサーさんのこと、大好きなんですよ!!」
ほんの少しだけ、トップスピードは
幸せな子どものことを可哀想に思った。
-
【出典】
アイドルマスターシンデレラガールズ
【マスターとしての願い】
世界が続くこと
【weapon】
カワイイ
【能力・技能】
カワイイ
【人物背景】
中学二年生の十四歳。
「ボクが一番カワイイに決まってますよ」と事あるごとに自分を「カワイイ」と発言するなど自意識過剰な性格の髪の右側に緑と赤のヘアピンをした薄紫のショートヘアの少女。
髪の両端の一部が少しハネている(持ち歌の歌詞では寝癖)。一人称は「ボク」。口癖は「ふふーん!」。どこか慇懃無礼な口調だが、
分が悪くなると強がりつつも弱腰になる。元の世界ではエスカレーター式の私立に通っている。
現在の所CDデビューを除いたすべてのレア名には「自称・」が付く。自称・マーメイドでカナヅチであることが判明。
そしてプロデューサーと結ばれた、世界で一番幸せな子ども。
【方針】
???
【真名】
トップスピード(室田つばめ)@魔法少女育成計画
【クラス】
ライダー
【属性】
中庸・善
【パラメーター】
筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:C
【クラススキル】
対魔力:D
一工程(シングルアクション)によるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
騎乗:E++
自身の持つ魔法の箒を操ることのみに特化している。
【保有スキル】
魔法少女:C
『魔法の国』から与えられた力。魔法少女『トップスピード』に変身できる。
魔法少女時は身体能力や五感や精神が強化され、容姿や服装も固有のものに変化する。
通常の毒物は効かず、食事や睡眠も必要としない。その影響かサーヴァントとしての現界に必要な魔力量が通常時よりも低下している。
気絶や死亡などで意識を失ったら変身は解除される。
俺だって、魔法少女だ。
人間観察:E
人々を観察し、理解する技術。
人間時の経験が、魔法少女化によりブーストされている。
【宝具】
『猛スピードで空を飛ぶ魔法の箒を使うよ(ラピッドスワロー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-飛べるところまで 最大捕捉:2人
空を飛ぶ魔法の箒、最高速度【トップスピード】は敏捷A++
取り付けられた風防にはある程度の物理攻撃、魔法攻撃を防ぐ効果がある。
後部座席が付いており二人乗りが可能となっている。
『後部座席の相棒(――)』
ランク:C 種別:対魔法少女宝具 レンジ1 最大補足1人
大虐殺の中で戦った二人の魔法少女に対する牙なき民衆の祈り、箒に二人乗りの魔法少女のイメージを強化する宝具、
ラピッドスワローの後部座席に誰も乗っていない際、その後部座席にくノ一の姿をした魔法少女を具現化する。
英霊の座からの召喚ではないため、くノ一の姿をした魔法少女は、
トップスピードがよく知る魔法少女と、同じ姿をして、同じ声で喋り、同じ戦い方をし、同じ心根を持った他人である。
【weapon】
『ラピッドスワロー』
【人物背景】
魔法少女の試験で自分の命と大切な人の命を喪った魔法少女。
【サーヴァントとしての願い】
大切な人を蘇らせたい。
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投下終了させていただきます
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投下をします。
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青色を失った空の下、人がほとんどいなくなってしまった学校の屋上のベンチに2人は座って会話をしている。
1人は、髪をリボンでツインテールに結んでいる少女。
もう1人は、少女よりも背の低い、特撮に出てくるヒーローみたいなスーツを纏っている人型の何か。
2人は、今しがたマスターとサーヴァントになったばかりで、少女は聖杯戦争についての説明を受けていた。
「――――以上が聖杯戦争についてだ。質問はあるかマスター?」
「・・・・・」
(オレは、聖杯戦争というものを聖杯から与えられた知識の限り話した。さて、どう返事を返すのか・・・・・)
マスターである少女かがみは、聖杯戦争について聞いた後、顔を曇らせて黙ったまま俯いている。
少しずつ消滅が迫ってくる世界の終わりの中で、願いを叶えるための殺し合いである聖杯戦争が起こると聞かされたのだ。
心中でどんな思いが渦巻いているのかは分からないが、気が滅入っているということだけは雰囲気で分かった。
-
「ねぇ、」
「ん?どうした」
「一つだけ、聞きたいの。世界が終わるのをどうにかするには聖杯戦争で勝ち抜くしかない・・・・・本当にそれしか手段はないの?」
「・・・・・オレが知っている限りでは」
どれだけ時間がたったかは分からない、呟くような声の質問に返事を返した。
その答えに決意をしたのだろう、顔を上げた。
「・・・・・そっか・・・・・」
そう言うと、まるで憎い敵が目の前にでもいるように空を睨みつけてから、アサシンを真っ直ぐに見つめた。
俯いていた時とは違い、その瞳は前を見据える力強い輝きを放っている。
「聖杯戦争のために、力を貸してアサシン」
逃げないで戦う。そう言わんばかりの思いが込められている
「本当にいいのか?願いを叶えたいのならば、相手の命を奪わねばならない」
「分かってるわ。でもね、当たり前だった日常をみんなに返してあげるために、私は腹を括るって決めたから」
そこで言葉を一旦区切ると、ある方向に慈愛の眼差しを向ける。
家族もしくは友人を思っているのだろうか?再びアサシンへと視線を戻す。
「それに、私はお姉ちゃんなんだから、逃げるなんて情けないことするわけにはいけないのよ」
「・・・・・だから、貴方の力を貸して。お願いアサシン」
そう言って、かがみは片手を差し出した。
その手は、僅かに震えている。
(・・・・・気丈に振る舞おうとしているのか、無理もない・・・・・)
だから、その手をあえて力強く握りしめた。大丈夫だと安心させるように。
「期待してるわよ。アサシン」
不安などないと言わんばかりの笑顔と言葉を自身のサーヴァントへと返答する。
握った手は、今度は震えていない。
「ああ、勿論だマスター。いや、かがみ」
彼女のためにも、負けるわけにはいかないと心に誓いながら。
そして、
『つかれた・・・・・・。少し・・・・・・ねむる・・・・・・・・・・・・よ』
――――そう言って、二度と目を覚まさなかった、Xの兄ちゃんを思い出しながら。
-
【クラス】
アサシン
【真名】
スーパー1@仮面ライダーSD 疾風伝説
【ステータス】
筋力:B(パワーハンド使用時はA+++) 耐久:B+ 敏捷:B 魔力:C 幸運:D 宝具:A
【属性】
秩序・善
【クラススキル】
気配遮断:A
自身の気配を消す能力。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。
【保有スキル】
心眼(真):B
修行・鍛錬において養われた戦闘を有利に進めるための洞察力。
僅かな勝率が存在すればそれを生かすための機会を手繰り寄せることができる。
戦闘続行:A
生還能力。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。
風の戦士:A
伝説の戦士1号の力を受け継いだ戦士の1人。
戦闘時、ステータスに補正が付く。
勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。
仮面ライダーSD:A
仮面ライダーをデフォルメしたような姿の存在。相手の警戒心が薄まり、対応が甘くなる。
また、現界時の消費魔力が少なくなる。
【宝具】
『ファイブハンド』
ランク:A 種別:換装宝具 レンジ:- 最大補足:-
能力の違う5つの腕を切り替えて戦う。
スーパーハンド
ファイブハンドの基本形態の銀の腕。
分子振動によって大木を切り倒し、30tのパンチで大岩を砕く。
腕に付いているフリンジ状のものは、飾りではなく衝撃を吸収するためのもの。
パワーハンド
50tの鉄球を受け止め投げ返し、300tのパンチを放つ赤い腕
エレキハンド
発電能力を持ち、最大3億vの高電圧を発生させエレキ光線や接触放電で敵を焼いたり、
外部機器に電気を供給することが出来る青い腕
冷熱ハンド
右手から超高温火炎、左手から超低温の冷凍ガスを発射する緑の腕
火炎と冷凍ガスは同時発射も可能
レーダーハンド
偵察用小型ロケット・レーダーアイを発射し、様々な情報をえることができる金色の腕。
600m上空から半径10kmを四方を探索して、手の甲部分のスクリーンに映像となって表示される。
また、緊急時においてはレーダーアイは小型ミサイルとして使用できる。
『裏切り者は地獄に落ちろ(ゴートゥザヘル)』
ランク:A 種別:対裏切り用宝具 レンジ:1 最大補足:1人
裏切り者に対する怒りがレイピアの形となって具現化したもの。
このレイピアでスーパー1が裏切り者を刺した場合、相手は確実に死亡、サーヴァントならば消滅する。
相手が確実に裏切っているとスーパー1が確信し、怒りが爆発しない限りこの宝具は発動しない。
『偵察用虫メカ(ピーピングトム)』
ランク:E 種別:偵察用宝具 レンジ:- 最大補足:映せるだけ
カメラが付いたハエぐらいの大きさのメカを偵察させて、相手に気付かれないで監視することが出来る、ただそれだけの宝具。
監視している相手に気付かれなかった以外はこれといった逸話を神秘性も無いため、ランクは最低である。
大した宝具ではないうえに、小さいので消費する魔力は微々たるもので済む。
【weapon】
ファイブハンドと拳法、そして改造人間としての身体
【人物背景】
伝説の戦士である1号から力を受け継いだ風の戦士(疾風伝説では仮面ライダーという名称は使われず、風の戦士と呼ばれている)
の1人で拳法とファイブハンドを使い戦う。
ある日、野盗に両親が殺されてしまい、みなしごとなったスーパー1は、ジェネラルシャドウに拾われて
グランショッカーで戦士として育てられた。
ジェネラルシャドウの右腕として戦うなかで、本当の兄弟のように仲良しだったXと再会する。
そして、戦士の素質を持つ優れた子供を手に入れるために村を全滅させてきた集団の中心人物が
ジェネラルシャドウであったと告げられる。
事実ジェネラルシャドウが両親を殺害したと話しているのを聞いたために怒りが爆発、ジェネラルシャドウを倒し、
V3達の仲間となる。
親友であり兄であったXは、戦いのなかで敵の猛攻に晒されてスーパー1の目の前で死んでしまった。
-
【サーヴァントとしての願い】
かがみの願いを叶える
【マスター】
柊かがみ@らき☆すた
【マスターとしての願い】
家族や友人のために、世界の終わりをどうにかしたい
【weapon】
なし
【能力・技能】
これといって特になし
【人物背景】
私立陸桜学園の高校生で主にこなたやつかさのお守り兼ツッコミ役。
2卵性双生児の姉で妹の名前はつかさ。
姉として妹よりもしっかりしようとこころがけてきたためか、基本的に真面目で面倒見のよいお人好しだが、天然でやや抜けているところがある。
素直じゃないところがあり、こなたからはツンデレと言われた。
実は意外と情にもろい。
超能力も魔法も使えないごくごく普通の少女だが、神社の娘なので一般人よりは魔力が少し多いかもしれない。
【方針】
偵察メカなどを使い、相手の情報を収集してから戦う
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投下を終了します
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すいません、自分も一応お話はできているのですが、もう時間切れですし無効ですかね?
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>>253
滑り込みでしたらまだ大丈夫です
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>>254
ありがとうございます。
では、投下します。
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「へへ、キュウべぇもたまには役に立つじゃんか
まさか聖杯なんてモンが本当にあったなんてさ」
暗い路地裏で、一人の少女がどことなく楽しそうに呟いた。
少女―――佐倉杏子は魔法少女である。
どんな願いでも叶えてもらうことと引き換えに、戦いの宿命を義務付けられた存在なのだ。
本当は魔法少女には他に隠された真実があるのだが―――今の彼女はそのことを知らないので割愛させて頂く。
少女を魔法少女へと変える存在であるキュウべぇ。
彼らは地球の消滅を前にさっさと帰り支度を始めた薄情者だが、一つだけ杏子に有益な情報をくれた。
それこそが世界を救う唯一の方法―――聖杯戦争についての話だ。
もっとも、キュウべぇ本人は与太話だと思っていたみたいだが。
「この世界にキリエル人がいれば、こうなる前に愚かな人間達を救ってやることができたのだがな」
杏子の近くに突如怪しげな男が現れる。
霊体化していたサーヴァントだ。
「アーチャー……へ、そうかよ」
短い付き合いだが、この男とまともに話そうとすると無駄に疲れることはよく分かっていた。
口を開けば敬意を表しろだのなんだのと煩いのだ。
なので適当に相槌を打つ杏子。
「世界を救い、人々から敬われるのはキリエル人でなければならない。
他の者が救世主になるなど、おこがましいとは思わないか?」
適当な返事をされたのも気にせずに続けるアーチャーことキリエル人。
どうにも自己顕示欲が強すぎるようだ。
「まぁあたしとしては、死なずにすむんなら誰が勝ったっていいんだけどさ……
世界を救うとか言ってる甘ちゃん同士がまごまごやってる間に手遅れになったりしたら最悪だろ?」
状況が状況だけに、聖杯戦争の参加者はおそらく大半が世界の消滅を止めるのが目的だろう。
だが、そういう輩には得てして甘ちゃんが多い。
誰かを蹴落とさなければ願いを叶えられない中で、相手が善人と分かったら戦えなくなるような連中だけが残ったら世界の終わりだ。
「あたしは死にたくはないからそういう甘ちゃんを蹴散らして優勝したい。
あんたは自分の手で世界を救って自慢したい。利害の一致ってやつ?」
ちなみに、グリーフシードの蓄えは十分にある。
激戦になることは必須とはいえ、時間にすればほんの一週間にも満たない戦いだ。
よほどのことが起きない限り、ソウルジェムの穢れについては心配いらないだろう。
最悪の場合はその辺で魔女でも狩ればいい。
世界滅亡での絶望が原因かは知らないが、割と頻繁に魔女の口づけをされた人間を見かける。
いざという時の獲物には困らなそうだ。
「利害の一致などは大なり小なりどの魔術師とサーヴァントも持っているだろうが……な」
表向きは杏子の言葉に普通に返答しながらも、キリエル人は内心で杏子を見下していた。
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(むしろ、もっとまともな魔術師に呼び出されたかったものだ。まさかアーチャーのクラスで召喚されるとはな)
自分がアーチャーのクラス適正を持つこと自体には何の不思議もないが、キリエル人の本領は戦闘ではない。
生前はウルトラマンティガに挑戦するために戦闘形態であるキリエロイドにならざるをえなかったが、本来は死体に憑依して身を潜め、人々の信仰を集めて地獄……いや、天国の門を開けさせるなど本来は暗躍にこそ真価を発揮するのだ。
どうにも、マスターである愚かな人間は狙って自分を召喚したわけではないらしい。
そもそも、聖杯戦争についての知識すらほとんどなかったようだ。
クラス特性を考慮して召喚するなど無理な話だろう。
とはいえ、話を聞く限り戦闘に関しては素人ではないようだし、魔力量もそこそこ多い。
マスター自身もある程度戦えるということは、アーチャーのクラス特性である単独行動との相性も悪くない。
そう悲観することはないかもしれない。
(欲を言えば、救世主たるキリエル人に最も相応しいクラス―――セイヴァーで現界したかったが、あの愚かな人間にそこまで望むのは高望みか)
ちなみに、キリエル人にセイヴァーのクラス適正などない。
杏子を―――否、人間自体を見下しているが故に、自らを救世主や預言者と言って憚らないキリエル人。
その歪んだ救済を果たした先に、何が待っているのか―――今はまだ、誰にも分からない
【クラス】
アーチャー
【真名】
キリエル人@ウルトラマンティガ
【ステータス】
筋力:B 耐久力:C 敏捷:B 魔力:C 幸運:D 宝具:A
【属性】
混沌・悪
【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。
大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。
【保有スキル】
戦闘続行:B (ハンス・ウルリッヒ・ルーデル)
戦闘から離脱する能力。
また、敗戦において自軍領地まで生きて辿り着く能力
啓示:E
"天からの声"を聞き、最適な行動をとる。だが根拠がないため、他者にうまく説明できない。
アーチャーの場合、ほとんど自作自演のようなもの。
ペテンと言ってもいいかもしれない
怪力:B
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
使用すると一時的ではあるが筋力をワンランク向上させる。
持続時間は“怪力”のランクによる。
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【宝具】
『神聖なる救済の炎(インフェルノ・ファイアー・バースト)』
ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:ー 最大捕捉:1000人
キリエル人が操る炎。
基本的には炎を弾丸のように飛ばす技だが、その応用性は高い。
地下を経由して建物を爆破する、炎を弾丸にするのではなく放射して広い範囲に攻撃するなど、その攻撃方法は多岐にわたる。
【weapon】
なし。
【人物背景】
人類が発展する以前から地球に住んでいたと称する一族。
人類から認められているティガに嫉妬し、ティガに挑戦するも敗北した。
実は実体を持たない精神だけの生命体で、人間の死体に憑依して行動する。
聖杯戦争にはキリエルの預言者という中年男性のような姿で参戦している。
戦闘の際にはキリエロイドと呼ばれる怪物の姿になる。
【サーヴァントとしての願い】
世界を救い、愚かな人間にキリエル人を讃えさせる。
【マスター】
佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ
【マスターとしての願い】
死にたくはないから、聖杯で終焉を止める。
【能力・技能】
魔法少女としての高い戦闘能力。
しかし、彼女はある事情から元々持っていた幻惑の魔法を使えない。
【持ち物】
グリーフシード×5
【人物背景】
キュゥべえと契約した魔法少女の一人で、まどか達が住む見滝原の隣町の風見野から来た。
自分のためだけに魔法少女の力を使う主義ゆえに他人のためには動かず、自らの障害となる者には容赦しない。
魔女に対しても「グリーフシードを落とすエサ」程度の認識で、
グリーフシードを得られるなら魔女や使い魔が人間を襲うことも必要悪だと考えている
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投下終了です
滑り込みになってしまい、すいませんでした。
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皆様、投下お疲れ様です。
これにて当企画のコンペ期間を終了させていただきます。
それと感想は今日落とすと言ったのですが、まだ書ききっていませんので、OP投下時までもう暫し延長させて下さい。申し訳ありません。
本企画へのご投下、本当にありがとうございました!
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今日一日で数作投下あったくらいですしね。
気になさらず自分のペースでお書きください。
まずは一区切り、お疲れ様でした
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OPの投下を、明日の0時より行います。
まずは先延ばしにしていた感想をば。
>>荒耶宗蓮&アサシン(東方不敗マスターアジア)
人類は救えないと願い、根源の到達を最後に望む。
荒耶の思考回路が実に彼らしいもので感服しました。
マスターアジアはサーヴァントとしての登場なだけはあり、こちらもまた深い。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>西東天&パンドラ(SCP-444-jp-■■■■[アクセス不許可])
聖杯戦争開始前に、マスターが死亡するというのは驚きでした。
緋色の鳥は非常に例外的なサーヴァントで、災害としか言いようのない脅威ですね。
それを残していった人類最悪もまた、実に厄介なことをしてくれたとしか言いようがありません。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>チョコラータ&キャスター(素敵医師)
これはまた、非道い外道の主従ですね。
チョコラータは言わずもがなですが、素敵医師の薬物の力がまたえげつない。
サーヴァントも薬物漬けにできる第二宝具が非常に恐ろしいです。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>東光太郎&アサシン(ゾロリ)
かいけつゾロリとは、また懐かしいですね。
宝具もトリッキーなものばかりですが、どちらも効果自体は結構強力なのではないでしょうか。
変身能力を失ったウルトラマンが世界を救えるかにも注目したいところです。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>キョン&セイバー(アルテラ)
ハルヒに続いてSOS団二人目、キョンですね。
一人称視点の文章回しが非常に原作のキョンらしく、見事でした。
アルテラは強いサーヴァントですが扱いやすいサーヴァントでは間違いなくないので、波乱の予感がします。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>黒崎一護&セイバー(桑原和真)
死神になっていない一護がマスターというのは驚きでした。
しかし作品内での会話を見る限り、確かに相性は良さそうですね。
桑原は格上殺しのスキルがあるので、見応えのある戦闘を披露してくれそうです。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>光本菜々芽&ランサー(ゲンバー・ダイオード)
世界の終わりに直面してからの日常風景の描写がとても好きです。
世界の終わりが止まるだけに留まっても、明日は残されるというモノローグもまた雰囲気がある。
ゲンバー大王はなかなかピーキーな性能をしていますが、筋力は相当なものなのでそこを活かせば強そうです。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>志波丈瑠&セイバー(クラウド・ストライフ)
戦隊ヒーローが人を殺す覚悟を決める描写はお見事でした。
人物背景を見るに、この終わる世界ではスーパー戦隊には頼れない状況のようですね。
サーヴァントのクラウドは宝具が豊富で、いろいろな状況に対応して戦えそうです。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>黒須太一&アーチャー(十六夜咲夜)
太一と咲夜のコミカルな会話が楽しく読めました。
しかし誰もいない学校で普段通りの生活を送る描写は切ない。
咲夜の宝具である時間停止は強力ですが、相応の魔力を消費するようなので、使い所には注意が要りそうです。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
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>>白菊ほたる&アヴェンジャー(クローズ)
不幸体質のほたるのモノローグは胸が苦しくなるものがありますね。
この状況で引いたサーヴァントが絶望を是とするクローズというのもまた。
夢と希望に反応して力を増幅させるという宝具のこともあり、彼は敵に回れば相当厄介そうですね。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>両儀式&ランサー(スカサハ)
自分を殺せる者を探しているスカサハを、直死持ちの式が呼ぶというのは面白い組み合わせでした。
何より師匠は非常に強力な性能を持っているので、サーヴァントもマスターも非常に強い、隙のない組み合わせとなっているように思います。
性格面の相性も良さそうですしね。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>紅林遊月&アーチャ―(メルセデス)
世界の終焉を止めるだけでなく、禁断の恋の成就も願う。
作中にある通り欲張りではありますが、人間らしいなあと思いました。
メルセデスの宝具は一部のサーヴァントに非常に刺さりそうですね。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>上月由仁子&バーサーカー(周防尊)
赤の王繋がりの主従ですね。
「奇遇だな。俺も――赤の王だ」の台詞がとても格好よく、痺れました。
多数の宝具に優秀なステータスと、かなり強いサーヴァントだと思います。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>ゲーニッツ&アサシン(ヴァニラ・アイス)
ヴァニラとゲーニッツ、崇拝するものは違えど同じ信奉者。
歪な噛合い方ではありますが、主従としては非常に理に適っている二人ですね。
何と言ってもやはりヴァニラのクリームが恐ろしいです。気配感知不可能の一撃必殺は伊達ではないですね。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>輿水幸子&ライダー(トップスピード)
幸子とプロデューサーの描写が実に切ない。
世界が再動すると壊れてしまう関係と知りながら戦うことを決める辺りの雰囲気は見事でした。
トップスピードは速度特化のサーヴァントのようなので、協力相手がいないと第二宝具を含めても戦力的には少々厳しそうではありますが、彼女達の生き様には期待です。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>柊かがみ&アサシン(スーパー1)
日常を取り戻すために戦う覚悟を決めるかがみの描写が良かったです。
お姉ちゃんだから逃げずに戦うという台詞が、彼女を端的に表しているように思います。
スーパー1は宝具も基礎スペックも強力なサーヴァントなので、扱いやすそうですね
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
>>佐倉杏子&アーチャー(キリエル人)
杏子はやはり生存優先の立場を取りましたか。
キリエル人は相当危ないサーヴァントのようなので、前途は正直多難そうですね。
ただ宝具はシンプルながら強力で、サーヴァント戦では活躍してくれそうです。
当企画へのご寄稿、本当にありがとうございました!
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執筆・感想お疲れ様です
OPも楽しみにしております
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OP投下します
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歌が聞こえる。
世界が終わる歌だ。
冴えない、一生売れる見込みはなかったであろうストリート・ミュージシャンが粗雑な音色を吐き散らしている。
足元に置かれていた空の桃缶には、たくさんの小銭が積もっていた。
空は灰色。
光の射さない永遠の曇天。
もう二度と、人が太陽を見ることはない。
星と最期の時を共にすることができたなら、地球が消えた最期の一瞬、その輝きを拝むことができるだろうか。
時計の針が、たったいま零時を指した。
大通りのネオンが表示したカウントが、3になる。
あと3日。
あと72時間の後に、地球が積み重ねてきた歴史はゼロに還る。
終わった後はどうなるの?
幼子の問いに、答えられる親はいない。
誰も知らないからだ。
天国や地獄といったものが――人生の後日談とでもいうべきものが、本当に存在するのかどうか。
臨死体験の最中に死後世界の一片を垣間見たという意見などを、まさかまっとうな根拠とする輩はいないだろう。
それでも彼らは信じている。
地球が終わり、何十億年という歴史に幕が下りた時、そこには幸福な永遠が待っていると。
そう信じているからこそ、誰も恐れない。
終末の先には永い安穏があり、この酩酊した平和をずっと謳歌できる。
ならば、どうして恐れる必要があろうか。
痛みもなく、ただ一瞬でかき消される終焉など。
後に待つものを考えれば、あまりにも軽い。
.
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あと72時間です。
アナウンサーが、四角い画面の向こうで告げた。
これから始まる三日間は、地球の危篤状態だ。
走馬灯のように日々を懐古し、誰もが終わりに思いを馳せながらも何もできない、無常なる終焉の前夜祭。
――されど、されど、されど。
まだ、終わっていない。
生き汚く足掻き、終焉を否とする者が。
終焉を是とし、希望を踏み躙る者が。
この時をずっと待っていた。
これからが彼らにとっての本番。終わりを前にして、地球最後の戦争が始まる。
小さくて、
ちっぽけで、
兵器も科学も関係のない、
一周回って意地の張り合いにさえ等しい、ただの潰し合いだ。
人間の精神は老いるにつれて、幼児期のそれに戻っていくという論がある。
ならばこれもきっと、戦争という概念が一周し、より原始的に、直情的に戻っていった結果なのだろう。
誰もが負けられないと思っている。誰もが、世界に終わってほしくないと思っている。
終わりを受け入れた世界では異端と称される『希望』を胸に、あるはずのない未来を願って。
その戦争は幕を開ける。たったひとつの奇跡を求めて、末期の祈りが物語を生むのだ。
「……行こう、キャスター」
「えっ? この時間からですか?」
「ちょっと、外の空気を吸いたいんだ」
ジャケットを羽織り、暮らし慣れた家から外へ。
空寒い外気の突き刺す夜空の下を、彼は一人、後に魔女となる少女英霊を連れて、歩く。
-
◆ ◆ ◆
001:佐倉慈&セイバー
◆ ◆ ◆
教師になろうとしたきっかけは、なんだったろうか――
今となっては、思い出すことにさしたる意味もないのかもしれないが。
それでも、佐倉慈にとって教師として過ごした時間は、かけがえのないものだった。
深夜零時に、誰もいない学校の屋上で空を眺めている姿は端から見ればどう見ても不審者のそれである。
しかし、だとしても咎める者はもういない。
世界中が大らかになっているし、第一、この学校に寄り付く人はもう一週間以上もいないのだ。
鍵の管理は、今や慈に一任されている。
生徒のやって来ない学校に毎日通い続ける慈を教頭は不思議そうに見ていたが、許可はあっさりと下りた。
とはいえ、仕事らしいものも終わる世界には何もない。
毎日学校に来ては、意味のない書類を書き、気まぐれのように学校の中を歩き回るだけ。
そんな日々でも、慈にとっては意味のある大事な時間だった。
「……これも、意味なくなっちゃうなあ」
屋上の菜園は枯れてこそいなかったが、見るからに元気をなくしている。
世話をする人間がいなくなったこと以上に、やはり日光が射さないのが最大の原因だろう。
ここで以前は、ひょんなことから仲良くなった生徒たちとよく世話をしていたものだ。
今となっては、慈一人になってしまったが。
「慈は、寂しいのね」
「まあ……そうじゃないって言ったら、嘘になっちゃうかな」
けれど、彼女の隣には少女がいた。
高校生には見えない。
よくて中学生、もしかすると小学生かもしれない背丈の、可愛らしい妖精のような少女。
セイバーのサーヴァント、アリス。
ふしぎの国と鏡の国に迷い込んで大冒険を繰り広げた、物語の中の英雄(ヒーロー)、その一人。
-
「でも、先生なんて職業はお別れと常に隣り合わせだから……
ちょっとだけ早くそれがやってきたって考えれば、我慢はできるわ」
「変なの。どうして、我慢をする必要があるの?」
アリスは唇を尖らせる。
そんな所作も、とても愛らしい。
「寂しいなら、最初から寂しいって言えばよかったのに」
「そうね……そうかもしれない」
星空は、見上げた先にはない。
月も見えなくなって随分久しい。
願い事を叶えてくれる流れ星なんてものも、もう見られない。
それでも慈は、空を見ていた。
「セイバー、私ね」
「?」
「やっぱり、まだわからないの。決断できてない」
「しょうがないのね、慈は」
「ごめんね。
……でも、思うの。
世界を続けさせたい、それって私のエゴじゃないかなって。
私だけの都合で、未来を作っちゃってもいいのかなって」
「ふうん」
慈の視線を追うようにして、アリスの眼差しが空へと向かう。
「じゃあ、それでもいいんじゃない? 好きなだけ悩んで、自分だけの答えを出せば」
ひょっとすると佐倉慈は、世界を望まれる通りに終わらせる存在にもなり得るのかもしれない。
はたまた逆に、世界を救って明日をもたらす存在にもなり得るのかもしれない。
その力が、アリスにはある。二つの異国を踏破した冒険少女の剣は、英霊の武勇にさえ届く。
彼女は――ヒーローなのだから。
-
◆ ◆ ◆
002:柳沢誇太郎&アーチャー
◆ ◆ ◆
案の定、最終暗殺計画は白紙に戻されたらしい。
当然といえば当然の運びだ。
奴の身体に仕込まれた時限爆弾には地球を終わらせるだけの力があるが、しかし、ある中学生たちが見つけ出した一パーセントという確率を上回ろうが下回ろうが、どちらにせよ地球は三日後に終わるのだ。
ならば残された僅かな時間を浪費してまで、奴の存亡に目くじらを立てる必要はない。
それが、上の結論だった。
「腑抜けが」
くつくつと笑いながら電信柱へ自らの拳を打ち付けるは、天才科学者、柳沢誇太郎。
彼の拳を浴びたコンクリートはびしりとひび割れ、青白いスパークを散らしている。
粗暴な振る舞いではあったが、彼は別に怒っているというわけではなかった。
ただ、予想していた以上の腑抜け具合に呆れ返っただけだ。
腹を抱えて笑う代わりに、その衝動をぶつけてやったというだけのこと。
日本中の兵力を結集させてまで決行しようとしていた作戦を反故にした挙句、そんな日和ったことを抜かすとは。
さしもの柳沢も、これほどまでに連中が白痴に落ちているとは思わなかった。
元から軽視していた連中ではあるが、こうなればいよいよ救えない。
だが、柳沢にはもう、彼らの力は必要なかった。
何故なら彼は、天から降り注ぐ光なんかよりもずっと相応しい手段で恩師を葬る術を知っているからだ。
奴に下される死は、感動的なものであってはならない。
奴が満足して終わるようなものであってはならない。
奴が心底絶望し、怒りと無念の中で死んでいくようなものでなくてはならない。
二代目の死神は、もう使い物にならないだろう。
元々急拵えであったのに、半ばで様々な処置を解除したのだから、無事なはずがない。
もしかするといらない同情心から、既に安楽死でもさせられているかもしれないな――と思う。
しかし、最早あんな二番煎じの力など柳沢には無用だった。
彼の傍らに霊体化して付き従う男、アーチャーの力があれば、聖杯へ辿り着くのはそう難儀ではない。
神の雷霆、雷電公、人類神話の体現者――稲妻の天才。稀代のゼウス、ニコラ・テスラ。
「アーチャー」
「何だ、柳沢」
「勝算はあるな」
「ああ」
淀みない答えに口元が緩む。
口角が僅かに釣り上がり、
心の奥から歪んだ高揚心が沸き起こってくるのがわかる。
当初は、柳沢も首を傾げた。
確かにニコラ・テスラは電気学の権威だが、神話の英霊と比して優るほどの力があるだろうか、と。
しかし今は、彼の強さを微塵も疑っていない。
ニコラ・テスラは強い。
常時放出可能な雷霆だけでも相当なものだというのに、その最大火力で宝具解放を行ったならば、果たしてどうなるのか、柳沢にも分からない。
彼を使って、柳沢誇太郎は聖杯を手に入れる。
他の全ての主従を焼き殺し、奇跡の力へ手をかける。
そしてそれを用い、怨敵であり恩師でもある男のためだけの地獄を遂行するのだ。
手足を寸刻みにする拷問の、何千倍という苦痛を浴びせた末に、あの汚れた魂を地獄の底へ叩き落とす。
世界を救う?
どの道未来を持たない身だ、そんなことに興味はない。
ただ、刹那の快楽があればいい。
地獄の一年間を耐え忍んだ苦労が報われればいい。
それだけで柳沢は、世界の誰よりも幸福に人生を締めくくることができる。
「さあ、始めようか。我々の聖杯戦争を。
一人の世界を終わらせるための、戦争を」
-
◆ ◆ ◆
003:涼宮ハルヒ&ランサー
◆ ◆ ◆
携帯電話。
表示されたワンセグテレビが、カウントダウン放送を受信する。
残り72時間。
それが、この地球と人類に残された時間だった。
あまりにも短い。
日数に直して、たったの3日だ。
少しぼうっとして過ごしていれば、あっという間に過ぎてしまうような時間でしかない。
それが終われば、世界は終わってしまう。
誰一人、何一つ残さずに、消しゴムをかけられたようにまっさらに消えてなくなってしまう。
最近は見納めだからか、深夜に街を出歩いている人も比較的多い。
子どもが深夜徘徊していても補導すらされないというのは、なかなかに異様な光景だった。
ここに来る前にハルヒは、公園で小学生たちが草野球している光景を見た。
前までなら瞠目必至だったろう絵面だったが、今はそんなことにいちいち注目する人間もいない。
それに素行のことについては、こんな時間に無人の学校にいるという時点で、人のことは言えないだろう。
「それで?」
問うのはランサー、ヘクトールだ。
トロイア戦争の大英雄。
本来なら、一介の女子高生でしかないハルヒと出会うことは一生無かったろう存在。
-
「こんな時間に、マスターは一体何をしようってんだい?」
「別に、何かしようってわけじゃないわよ」
ただ、過去への郷愁に浸りたいというだけ。
中学校の頃、校庭にミステリーサークルを描いたことがある。
あの頃から涼宮ハルヒは不思議を求めていて、
けれどあの頃の涼宮ハルヒは、自分が大人になる前に世界が終わるなんて想像もしていなかった。
世界の終わりなんていう単語は、自分には所詮遠いものだと心のどこかで高を括っていた。
そう簡単に、少なくとも自分の生きている内は無縁のことだと思っていた。
しかし終わりは突然に、拍子抜けするほどの気軽さでやって来た。
やってきて、しまった。
「ねえ、ランサー。
私ね、なんとなくわかる。
聖杯戦争が、いよいよ始まるんだなって。
世界の命運を分ける戦いが、もうすぐそこまで来てるのがわかるの」
後戻りするなら、今しかない。
今、聖杯戦争を諦めると一言言えば、涼宮ハルヒは平穏な日常の中にいられる。
平穏な日常の中で、最期を迎えることができる。
「けど、やめるつもりはないわ。私は世界を救う――聖杯の力は、私が使う」
人類の歴史が、だとか、そんな大層な理由じゃない。
ハルヒ個人として、皆で過ごす日常を失いたくなかった。
ただそれだけの理由が、彼女が聖杯戦争へ乗った理由。
本人は知る由もないが、彼女はその特異な能力で、これまで何度も無意識下に世界を危機へ陥らせている。
まるで台風のように激しく騒動を引き起こす彼女らしく、今回も、彼女は大騒動で世界を変えようとしていた。
世界の救済という形で。
涼宮ハルヒは、過去最大の大騒動を巻き起こす。
「おうよ。なら、付き合うのがオジサンの役目だ」
ランサーが笑って応える。応えてくれる。
ハルヒも笑みをこぼした。勇気はある。怖くはない。
少女の聖戦は、月下のグラウンドで始まった。
-
◆ ◆ ◆
004:輿水幸子&ライダー
◆ ◆ ◆
「なんていうか、味気ない空だよな」
魔法の箒に跨って、一人と一体は空を駆けていた。
日付が変わりたてで、夜は最大級に深まっている。
なのに空の星々はすっかり隠れており、それどころか、その夜天にはほんの1ミリメートルの隙間さえもない。
分厚い灰色のヴェールで覆われていて、風情も何もあったものではない有様と化している。
世界の終わりというには少しだけ、地味な絵だった。
どこかの国が消える映像は、未だにニュース番組などでひっきりなしに流されている。
それもまた、世界の終わりというには少しだけ、いやあまりにも、あっけない終焉だった。
街が、山が、道路が、建物が、光の粒子になって片っ端から消えていく。かき消されていく。
ただその光景は、今までに見たどんな映画とも違うリアルだった。
きっとこの世に現存するあらゆるCG技術を駆使しても、あの消滅を再現するのは不可能に違いあるまい。
それほどまでに、あれは現実離れした光景で――
見るものに、否応なく世界の終わりを信じさせる説得力を孕んだ悪夢に他ならなかった。
「本当に、終わっちゃうんですねぇ」
それは、もう誰にも変えられない。
多分、止めることも不可能だ。
いくら幸子が可愛くても、世界はそれで変わっちゃくれない。
夜空に試しに決め顔をしてみる。
――ほうら、何も変わらない。
百年後の未来ならばいざ知らず、少なくともこの現代には、消滅する地球から残った人類を逃がす手段も、
逃げた後に人類が次の定住地とする場所も、残念ながらどこにも存在していないのだから。
摩訶不思議なバリアで消滅を防ぐなんて真似が、まさかできるわけもない。
-
世界の終末は突然やって来て、不可避の運命に「確定」された。
変えられない、止められない。
それをどうこうできるとすれば、ひとつ。
「それを終わらせないのが、マスターなんだろ?」
奇跡の力に頼るしかない。
零を一に変え。
表を裏に変え。
正しいことを間違ったことにする。
そんな奇跡が、必要だ。
目には目を、歯には歯を、理不尽には理不尽を。
聖杯という理不尽の力で、輿水幸子は世界に「続き」を作る。
「やるからには勝ちますよ」
「はは、その意気だ」
トップスピードが笑った。
彼女には、後ろの幸子の顔は見えない。
振り向けば見ることはできるが、そういうことはしなかった。
ひとりと一体が、空を飛んでいる。
誰かがそれを見たかもしれない。
もしくは、誰にも見られなかったかもしれない。
それはわからない。
でもこの時間だけは確かに、灰色の空は、彼女たちだけのものだった。
-
◆ ◆ ◆
005:松野チョロ松&キャスター
◆ ◆ ◆
松野チョロ松は帰途に着いていた。
何をしてきたか。
語るまでもなく、その手にあるものを見れば窺い知れる。
数枚の一万円札だ。
彼はこの時間までパチンコ屋で粘り、見事大勝ちを果たして来た。
半ば願かけのつもりで赴いたのだったが、まさかこれほど勝てるとは正直予想外だった。
兄弟と一緒に来ていなくてよかったと、心からチョロ松はそう思う。
ただ、あいつらはこと金が絡むと引くほど鋭い勘を発揮することが時たまある。
自分が以前それに加担して、末弟から金を巻き上げたことは見事に棚に上げて――
チョロ松は、この金をどうしようかと考えあぐねていた。
そして、少し考えたところで、ああ、と納得して手を打った。
「もう、そんなことする必要もないのか」
自他ともに認める悪魔の六つ子。
彼らはこの終末に際して、すっかり牙を抜かれてしまっていた。
あの、彼らが、だ。
きっと今この金を持ち帰ったところで、それを隠していたところで、血を見るような事にはならないだろう。
そのことが、無性に哀しく思える。
「キャスターちゃんもごめんね、いや、俺もまさかあそこまで長引くとは思わなくてさ」
「いえいえ。でも、すごくたくさん当たってましたね……」
「うん、自分でも正直引いた」
-
願かけのつもりで臨んだ勝負なのだから、結果は喜ぶべきところなのだろうが、
しかし英霊とはいえ、見た目がどう見ても小学生な幼女を連れてパチンコに勤しむ青年の絵面はちょっと酷い。
霊体化しているからいいとかそういう問題ではないと思う。
「俺さ、聖杯を手に入れて、世界を救ったら、その後は今度こそ真面目に就職しようと思うんだ」
ぼんやりと見上げた空は灰色だ。
月も星もない。
多分変わらず宇宙にはあるのだろうが、地球とは無縁のものに成り果ててしまっていた。
「母さんたちからも自立して、まともに生きるよ。
多分兄さんたちは変わらず前のままだと思うけど、俺だけでもね」
そのためにもまずは、やるべきことがある。
縁起のいい結果が出たのだし、いよいよ腹を括らなければならない。
明日からは――いや、もう今日か。
次に朝日が登って、目が覚めた時からは、聖杯戦争だ。
世界を救い、ひとりの女の子の願いを叶える戦いが始まる。
「キャスターちゃんは確か、直接戦闘は無理なんだっけ」
「そうですね……ほとんど駄目です。自分の魔法以外には、特にできることもありません」
「だったら、他の参加者に取り入るしかないかな」
チョロ松は、のっこちゃんの魔法が何かは知っている。
それを使えば、相手次第ではあるものの、心に取り入るのは可能だろう。
上手くその点に付け込んで同盟相手を確保し、利用しつつ立ち回る。
それが一番賢い戦略だと、チョロ松は考えた。
のらりくらりと躱しながら、最後は漁夫の利のような形で聖杯を手に出来ればいい。
松野チョロ松は今、間違いなく勢いづいていた。
使命感と勇気に満ちた、一人のマスターとして大成していた。
それが作られた自信、取り入られた結果であるなどとは露も知らずに。
彼は、戦う。
-
◆ ◆ ◆
006:岩本健史&アサシン
◆ ◆ ◆
煙草を吸う。
不健康な煙が肺に流れ込んでくる。
最初は心地悪いと思っていたこの風味が、心地よく思え始めたのはいつだったか。
何年も前だったような気もするし、つい最近のことのような気もする。
医者という立場からすると褒められたものではないのだろうが、生憎今は医者ではない。
ただの人殺しだ。
「頭がおかしいよな、こいつら」
カーナビ付属の機能だからか、テレビの画質は悪い。
だが、映像が読み取れないほどではなかった。
画面にはアナウンサーたちが、世界の残り時間が72時間を切ったと伝えている。
あと三日! のテロップは、まるで大きな行事を前にしたような浮かれ具合すら感じさせる。
実際、大きな行事であることは間違いないのだが……
「あと三日で死ぬんだぞ。
それなのに、まるで喜ばしいことみてえに残り時間をカウントしてやがる。
狂ってるとしか思えねえ」
ケケケと、元医者の人殺しは笑った。
後部座席には、ガムテープで動きを封じた哀れな魔術師が気絶させられている。
元は聖杯戦争に臨むつもりでこの街を訪れたのだが、見たところ、戦いの中でサーヴァントを失ったらしかった。
聖杯戦争に参戦したからには、彼も終末麻薬にあてられていない数少ない人間だったのだろう。
だが、彼はサーヴァントを失った。
見苦しく足掻いている内に、目を付けられてはいけない男に目を付けられた。
そうして今に至る。
魔術師なんて存在を相手にしたことは流石になかった岩本だが、やはり基本はそこら辺のゴロツキを相手にするのと変わらなかった。
首を締め上げ、ちょっとそれを強めてやれば意識が落ちる。
あとは適当に縛って、車に放り込めば、終わりだ。
「魂食いだ、零崎」
「あいよ」
-
助手席から後部座席へ身体を乗り出し、零崎の鬼子は手持ちのナイフでぐさりとその心臓を突き刺す。
ううっと小さく呻いて、魔術師の呼吸は止まり、その魂は零崎の体内へ吸収された。
零崎人識というサーヴァントは、英霊としてはお世辞にも強くない。
だから日頃からこうやって、魔力を充足させておく必要があった。
無論この行いは秘匿の原則に反するものだし、ルーラーなどに見つかればえらい目を見ることになろう。
だが、別に大きな騒ぎを起こしてはいない。
酩酊状態にある狂った街では、人が一人二人消えても、別に大騒ぎにはならない。
警察も麻痺しているのだから、足がつくわけもない。
魂食いを積極的に行う方針の岩本にとっては、実にありがたい環境だった。
「しかし、ルーラーって奴に目ぇ付けられたらどうすんだ?
討伐令とか出せるらしいし、最悪令呪で俺に命令できたりもすんだろ、そいつ?」
「確かに、そうなっては面倒だな。だが、零崎」
車の窓から、外へ紫煙を吐き出す。
「俺はこの聖杯戦争に、ルーラーは存在しないと思っている」
「へえ?」
「聖杯戦争ってのについては色々調べてみたが、普通は監督役ってのが居るんだろ。
だが、今回の聖杯戦争にはそれがいない。まるで聖杯戦争というプログラムが勝手に実行されているみたいに、この聖杯戦争ではそういう連中が顔を見せてないんだ。
まあ用心するに越したことはないだろうが、そんな可能性もあると思ってるよ」
もしくは。
灰皿で煙草を揉み消し、残りの紫煙を吐く。
その顔は少しだけ、訝しむような色を帯びていた。
「もしくは、そいつに聖杯戦争を調停しようっていう気がないかだな」
「……かはは。そりゃあ面倒だな。積極的に出張って来られるより面倒なんじゃねえの?」
「仮説の一つだけどな。もしそうなら、お前の言う通り非常に面倒だよ。
なんてったって、普通の戦い以外にルーラーの思惑についても考えなきゃならねえからな」
殺人鬼たちは語らう。
平穏な街の影で、暗躍する。
真の平穏というささやかな願いを胸に――修羅道に入った医者は、地獄すらも踏破する。
-
◆ ◆ ◆
007:小桜茉莉&バーサーカー
◆ ◆ ◆
皆と会えなくなって、どれだけの時間が経ったろうか。
どれだけの、なんていうと大袈裟だ。
精々、長くても一週間とちょっとがいいところだろう。
それに、会えなくなって、というのも語弊がある。
別に彼ら、彼女らがどこかへ行ってしまったわけではない。
会おうと思えば、いつでも会える。
むしろどこかに行ってしまったのは、他ならぬ小桜茉莉――「マリー」の方だった。
ずいぶんご無沙汰していたように思える、自分の家。
森の中にあるそこは、かつて母と二人で暮らしていた思い出の場所だ。
昔のマリーにとっては、この家の中だけが世界の全てだった。
そういう意味ではマリーは既に一度、世界の終わりを経験していると言えるのかもしれない。
もっともその終わりは、新しい世界の始まりでもあったのだが。
そして今、彼女の前には本物の世界の終わりが立ち塞がっている。
世界が端から消えていくという原因不明の現象を見た時、マリーはあまりの恐怖に泣き出してしまった。
なのに他の人々は驚くほど平然としていて、タイムリミットが迫ってきた今でさえ殆どの人は恐怖していない。
マリーは、怖い。死にたいなんてとても思えないし、皆との日常がどうにかなってしまうと考えると大声で叫び出したくなる。
そんな時、彼女の前に現れたのは、一体の化け物だった。
その名前は、バーサーカー。
人間とは思えない姿をした彼は、終わる世界でただ一人、マリーの味方であってくれる人物だ。
-
バーサーカーは強い。
他のサーヴァントなど、歯牙にもかけない。
マリーは彼と一緒に、聖杯を手に入れることに決めた。
大好きな皆のもとへ寄り付かなくなったのは、そのためだ。
彼らを巻き込むようなことだけは絶対にしたくないし、許せない。
だから涙を呑んで距離を取り――それどころか、自分の姿を徹底的に彼らの目から隠して。
彼らの力を借りずに、この聖杯戦争に臨むことにした。
独りぼっちは寂しい。
でも、マリーは独りではなかった。
彼は言葉を発しないが、それでも側にいてくれる。
マリーの味方でいてくれる。
それだけで、彼女にとっては十分だった。
バーサーカーは今、霊体化して英気を養っている。
自分も布団にくるまって、身体を休めていた。
彼を実体化させ戦わせたなら、マリーの身体には大きな負担がかかる。
彼を気兼ねなく戦わせるためにも、休息はしっかり取らなければならない。
魔力切れで自滅して敗退なんて、笑い話にもならないのだから。
小桜茉莉という少女は勝負事に貪欲ではない、大人しい性格の持ち主だ。
その彼女も、今回ばかりは誰にも勝負を譲れない。
何としてでも聖杯を手に入れなければならないと、強くそう思っている。
自分のために、皆のために、――そして、バーサーカーのために。
起こさなければならない奇跡が無数にある。
たとえ同じ願いを持った人間がいても、マリーはバーサーカーのために、彼らを敵に回すだろう。
「……頑張ろうね、バーサーカー……」
彼女は、知らない。
自分が友人だと思っている狂戦士が、彼女のことなど路傍の石程度にすら認識していないということを。
その心を占めるのはある存在に対する憎悪の念だけであり――その献身は、一方通行でしかないということを。
-
◆ ◆ ◆
008:藤沼悟&キャスター
◆ ◆ ◆
深夜の街を歩く。
春は近付いているが、まだ肌寒い。
人通りが奇妙に多いのは、やはり終末期特有のものだろうか。
世界の終わりが告知されてから、世界は、人は、大きく変わってしまった。
それがいいことなのか悪いことなのかは、多分判断の別れるところだ。
人間は、誰しもが幸福に死ねるとは限らない。
何も悪いことをしていなくたって、業病に苛まれて地獄の苦痛の中で死ぬ人間がいる。
刃物を持った精神異常者に追い回された挙句、死ぬ寸前まで恐怖を与えられて逝く人間がいる。
自分が死んだということすら自覚できずに、一瞬で死んでしまう人間がいる。
日頃の行いや思想に関わらず、悲惨な末路を遂げる人間は確実に存在するのだ。
そういう運命にある人間にとっては、この終末は紛れもなく最大級の幸福に違いあるまい。
酩酊状態の中とはいえ、恐怖なく、苦しむことなく、納得した上でこの世から消え去る。
世界が滅ぶのだから、妻子や親を残して逝くことへの心配もない。
死後の世界があるかどうかは定かではないが、それでも、酩酊しながら夢見て逝けるのは確実だ。
人の死に際として、これほどまでに恵まれたものもないだろう。
だから正直なところを言えば、彼らの気持ちも分からないでもない。
幸せに生きて幸せに死にたいなんてのは、人類の共通認識だ。
この時を逃せば、きっと永遠にそんな機会は訪れまい。
そうして世界の何割かの人間は、前述したような不幸な死を遂げ、この世を去ることになるのだ。
「言ってなかったけどさ、俺、実は能力みたいなものがあったんだよ」
「マスターに、ですか?」
「短い時間だけ、過去に戻れるんだ。俺は再上映<リバイバル>って呼んでた」
「呼んでた、ということは……」
「……ああ。過去形だよ。今は、どういうわけかめっきり使えない。
まるで――世界が、これ以上のやり直しを拒んでるみたいだ」
-
青年の名前は、藤沼悟といった。
年齢は二十九歳。
独身で職業は売れない漫画家。
どこにでもいるような冴えない人間だ。
人と違うところがあるとすれば、昔とある誘拐事件に巻き込まれかけたことと――先述の力位のものだった。
「多分、世界が終わるのはもう避けられないんだと思う。聖杯の力以外では」
安穏とした酔いの中で死ぬのは、確かに幸福に違いない。
しかし悟は、その幸福を享受しなかった。
甘ったるいほどの多幸感に包まれて暮らしている人間を見ると、どうしても違和感が拭えないのだ。
少なくとも彼は、この終わりを正しいものとは思えなかった。
「だから……俺は聖杯戦争をやるよ。聖杯の力でなら、きっと世界をどうにかできるはずだからさ」
藤沼悟という人間はこれまで、何度もその力で過去をやり直してきた。
言っても、何年、何十年というタイムリープをした覚えはない。
あくまで数分程度の時間遡行をすることで、重大な事件を防いできた。
その程度の人間だ。だから正直、自分が聖杯戦争でどれだけ生き延びられるかという点には自信がない。
「お供いたしますよ、マスター。共に世界を救いましょう」
「……そのマスターっての、やめてくれないかな……悟でいいよ」
「そ、それは失礼しました。では……改めまして。よろしくお願いしますね、悟さん」
メディア。
その名前には、覚えがある。
歴史に名高き裏切りの魔女――しかし、目の前の彼女はどうにもその逸話と一致しない。
それもその筈だ。
「この」彼女は、後に裏切りの魔女となる女の少女時代。
華々しい時を過ごしていた、心優しい可憐な少女(リリィ)。
彼らは、向かう。
聖杯へと。
奇跡へと、辿り着かんとする。
自分達が、いるはずのない、二騎目のキャスターというイレギュラーであることなど露知らぬまま。
また一つ、未来を望む願いが生まれた。
最後のやり直しに、全てを懸けて。
-
◆ ◆ ◆
そして――――――――茫漠と広がる世界があった。
現実ならぬ、どこかの憧憬。
されどこれは、確かに現実と繋がっている。
夢であり、現である。
夕焼けと比してなお朱く、赫い、緋色の原野。
――その最果てから、それは覗いている。
じっと、鋭い眼を光らせて。
緋色の巨体を意識の空に横たえて、
自分から皿に乗ってくれる餌を待ち構えている。
これは一人の男が残した爪痕。
災害だけを呼び、因果律に弾かれているから舞台に上がれなかった男の残骸。
これこそは、間違いなく、この聖杯戦争における最大の厄災であった。
祈るがいい、知らぬことを。
深淵を覗く時、深淵もまた此方を覗いている。
それと同じだ。
――緋色の原野を覗く時、緋色のパンドラもまた、此方を覗いているのだ。
-
◆ ◆ ◆
そして、裁定の権限を持ったそのサーヴァントは――
今も、街の深層で嗤っている――
◆ ◆ ◆
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-
01:佐倉慈@がっこうぐらし!&セイバー(アリス)@グリムノーツ
02:柳沢誇太郎@暗殺教室&アーチャー(ニコラ・テスラ)@Fate/Grand Order
03:涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱&ランサー(ヘクトール)@Fate/Grand Order
04:輿水幸子@アイドルマスターシンデレラガールズ&ライダー(トップスピード)@魔法少女育成計画
05:松野チョロ松@おそ松さん&キャスター(のっこちゃん)@魔法少女育成計画restart
06:岩本健史@絶望の世界&アサシン(零崎人識)@人間シリーズ
07:小桜茉莉@メカクシティアクターズ&バーサーカー(死神<二代目>)@暗殺教室
08:藤沼悟@僕だけがいない街&キャスター(メディア<リリィ>)@Fate/Grand Order
08:西東天@戯言シリーズ&パンドラ(SCP-444-jp-■■■■[アクセス不許可])@SCP Foundation-JP
10:ルーラー(???)@???
.
-
舞台は冬木市です。
NPCは存在しますが、現状は魂食いを行ってもお咎めがある気配はありません。
マスターが死亡した場合、サーヴァントは消滅します。
令呪を全て失ったことによる消滅はありません。
サーヴァントが死亡した場合、マスターは死亡することなく生存できます。
72時間後、世界は滅亡します。
状態表
マスター
【名前@出典】
[状態]
[令呪] 残り◯画
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1:
[備考]
サーヴァント
【クラス(真名)@出典先】
[状態]
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1:
[備考]
【時間表記】
未明(0~4)
早朝(4~8)
午前(8~12) ※開始時刻
午後(12~16)
夕方(16~20)
夜(20~24)
【予約期間】
二週間。延長によって更に一週間の延長が可能です。
予約開始は少々リアル事情で>>1が数日ほど文章を書けない状況ですので、遅くとも次の土日までにはお知らせしようと思います、申し訳ありません。
また、その時にwikiのURLも載せますので、もう少々お待ち下さい。
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以上でOP投下終了となります。
今後とも当企画をよろしくお願いします。
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OP投下お疲れ様です
終末世界ならではのどこか寂しさを感じる雰囲気からの、最後のパンドラでぞくりと来ました。
ルーラーも少し考察されてましたが、いるにはいるのですね。
嗤ってるとのことでこちらもろくでもなさそう……。
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ttp://www65.atwiki.jp/endworld2/pages/1.html
遅ればせながら、当企画のwikiになります。
それとやはりだいぶ遅くなってしまいましたが、予約の方も解禁していこうと思います
藤沼悟、キャスター(メディア・リリィ)、小桜茉莉、バーサーカー(二代目<死神>)で予約します。
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予約解禁してた!
最初から確定枠だった二人来るの楽しみ
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本スレッドは作品投下が長期間途絶えているため、一時削除対象とさせていただきます。
尚、この措置は企画再開に伴う新スレッドの設立を妨げるものではありません。
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