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魔界都市新宿 ―聖杯血譚―

1 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 00:47:50 Yzp6owFM0









     つねに歴史はすべてが終わったところからはじまっていた

                           ――光瀬龍、百億の昼と千億の夜








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2 : 美影身 ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 00:48:43 Yzp6owFM0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

  平和と引き換えに、毒気と混沌、悪徳に哀しみ、そして、自由を失った街。男が<新宿>に抱いたイメージはそれであった。

 身体全体から光が差しているのでは、と思わずにはいられない程の、美の化身だった。
黒いロングコートに、黒いシャツ、黒いスラックス。上から下まで、それこそ靴に至るまで黒一色。
着る人物が間違えば気障か、或いは不審者と言う評価は免れない黒尽くめと言うファッションを、男は、千年付き合った自らの半身の如くに着こなしている。
黒と言う色は、この男に纏われる為に神が生み出したのでは、余人はそう思うだろう。神が鑿を持ち、自らその顔を彫り上げたとしか思えない美男子――秋せつらの為に。

「変われば変わるものだな、この街も」

 感慨深そうな声で、せつらが零した。
何処だって良い。ただぼうっと立ち上がり、その場にたそがれるだけで、ラファエロやボッティチェリの絵画のデザインや構図を超える程の美を演出出来る男よ。
その言葉にはその感情の他に、幾許かの寂しさと言う感情も掬い取る事が出来た。

 <魔界都市“新宿”>と言う場所を身体全体で表現しているとすら言われた秋せつらには、よく解るのだ。
この街は<新宿>であって<新宿>でない。この街にはせつらの知る<新宿>が、魔界都市と言われていたその所以が全て失われているのだ。

 この<新宿>には――当たり前のように設置されていた、麻薬の自動販売機が一つもない。
この<新宿>には――野良猫や野良犬のような感覚で街の裏路地や広場、一般道路にすら跳梁していた妖物が何処にも見られない。
この<新宿>には――たったの数千円で、身体をサイボーグ化させる手術を請け負うヤミでモグリの外科医が一人も存在しない。
この<新宿>には――戸山町を住処にしていた吸血鬼達はもとより、高田馬場を根城にしていた魔法使い達が影も形も見当たらない。
この<新宿>には――バズーカ砲や、米軍や自衛隊の御下がりの武装ヘリや戦車は愚か、拳銃ですら流通していない。

 この<新宿>には――――――――――平和と、けち臭い悪徳の匂いが微かに存在するだけであった。


3 : 美影身 ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 00:49:23 Yzp6owFM0
 それで、良いのかも知れない。これで、良かったのかもしれない。
せつらの懐かしむ<新宿>とは、耐え切れない位に命の軽い街だった。命の値段など羽毛より軽い街だった。
人も、妖物も、ミュータントも、何もかも。命を奪われる者も奪う者も、全てに命の価値がなく、それ故に平等であった街。それが、<魔界都市”新宿”>。
そんな街が正常で、当たり前だったとは思わない。この<新宿>が並行世界の一つであると言うのなら――この未来が当たり前の未来だったのかも知れない。
<魔震(デビルクエイク)>の無残な爪痕から見事立ち上がり、此処まで復興して見せたこの世界の<新宿>の方が、寧ろ立派なものであろう。

 しかし……この街もまた、<新宿>たる所以をしっかりと世界に刻み込んだ街である事は、せつらにも否めない。
その証拠が、せつらの目の前に広がっている、巨人がその手で大地を抉り取ったような深い亀裂であった。

 この亀裂は、せつらのいた<新宿>ではそのまま<亀裂>と呼ばれていた。
198X年9月13日金曜日午前3時、東京都新宿区『だけ』を襲撃した直下型大地震、通称<魔震(デビルクエイク)>。
その大地震によって刻まれた爪痕こそが、<亀裂>であった。それは、新宿区と区外地を隔てる境界線。
幅二十m、深さ五十数㎞にも達する大空洞。文字通り地の底にまで続いていても不思議ではないこの亀裂は、嘗ての<新宿>住民達にすら不吉の代名詞として扱われていた。
不吉で不気味な扱いの際たる原因が、亀裂の形だ。なんと、外縁区との境界線を寸分の狂いもなく正確になぞって亀裂は走っているのだ。
これこそが、<魔震>と呼ばれる所以。新宿区だけを狙い、隣接区には一切の微震すら感知させなかった魔の現象。それが確かに起こった証が、せつらの目の前に広がっているのだ。

 この亀裂がある以上、この街は決して普通の街ではない。
見た所倒壊した建物やその瓦礫の撤去も、地面に刻まれた大小の亀裂――<亀裂>以外の――修復も全て終わり、<魔震>前よりも新宿区は栄えていた。
魔界都市とは似ても似つかぬ平和な街。しかし、せつらには解る。例え平和で、温い街になっても尚、此処は<新宿>たる力を秘めた都市である事に。

 でなければ、秋せつらが――<魔界都市“新宿”>の具現たる男が、サーヴァントとして呼ばれる筈がないのだ。
いやそもそも、この街が平穏な都市であるのならば、聖杯戦争なる奇妙な催しが、行われる筈がないのだ。

「結局、僕が足を運ぶ新宿は、<新宿>にしかならないと言う事か……」

 区外の常識を超えた犯罪者がいなくても。武器が流通していなくても。魔術や呪術が伝わっていなくても。吸血鬼やグール、妖怪などがいなくても。
<新宿>はその独特の魔力を、有している、と言う事なのだろう。であればその魔力に、光源に引かれる蛾の如く、秋せつらが呼び寄せられるのも、必然の事か。

「僕を特別扱いする事もないだろうに」

 <亀裂>の先に広がる中野区の街並みを見ながら、せつらは恨めし気に愚痴を零す。
大人しく英霊の座に眠らせてくれればよいものを、態々せつらを指名して呼び寄せるとは、余程この都市は秋せつらと言う『黒』を望んでいるようである。
傍迷惑な話だ。せつらは聖杯にかける望みなど、何もないと言うのに。受肉して、この平和な街でせんべいでも焼いて過ごすか? 
実際せつらは、その程度の願いしか抱いていない。


4 : 美影身 ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 00:49:48 Yzp6owFM0
 ――では、せつらのマスター(依頼主)は、どうなのか? マスターは、聖杯を焦がれる程に欲している。
下卑た物欲とも違う、もっと切実で、痛切な思いから聖杯を欲している事は、せつらにも解る。決して悪い人物ではない。
それは確かだが、聖杯と言う得体の知れないものに対して、些かひた向き過ぎる。
何か裏があると説明しても、「それでも良い。自分はそれでも聖杯が欲しい」の一点張り。
結局せつらは折れた。せんべいを焼く為に<新宿>に呼び出されたのならばともかく、よりにもよって副業の人探し(マン・サーチャー)の為に呼び出されたと来た。
愚痴の一つや二つ、零したくもなるだろう。

 <新宿>を舞台にして現れる、奇跡の杯。聖者の中の聖者の血を受け止めた、黄金の杯。
この街の住民の血と命を犠牲に顕現する聖杯に、果たして奇跡などありや? ああ、知っているのか、せつらの主よ。
この街が嘗て、『希望を抱いてこの街に来る者はいない、この街を出る者は皆哀しみを抱くだけだ』と言われた程の、地獄の都である事を。

「それでもあのマスターは――」

 求めるのだろう。いや、求めたのだ。せつらはマスターに対してその事を語ったのだ。それでもなお、マスターは聖杯を欲した。
となればせつらは、<新宿>で最も優れた人探し屋として、その辣腕を振るわねばならない。
道に落した財布から、はぐれてしまった子犬や子猫、ヤクザに監禁された人物や、吸血鬼に攫われた女性だって、依頼されれば探し当てて、依頼人に返還せねばならないのが秋せつらである。

 今回の目標はあの聖杯と来た。アーサー王伝説などの騎士物語や、キリスト教の宗教史に頻繁に名が出てくる程のメジャーなアイテム。
しかし、神秘の根差した世界では、皮肉にもメジャーなアイテムこそ、その発見及び到達が困難なのは常識も常識。聖杯などその代表格。
そんな物を、英霊の座から呼び出され、人探しのブランクが空いたせつらに探させるとは……怒りを通り越して、最早呆れの念しか湧いてこない。マスターに、ではなく、<新宿>に、だ。

「改めて見ると、本当にロクな街じゃないな。此処は」

 今更になって、<新宿>と言う街を実感するせつら。区外の人間であれば数分と掛からず理解出来る真理を、漸くせつらは理解出来た気がした。
この世界の<新宿>の把握は、これで終わり。西新宿の五丁目――奇しくも生前せつらがせんべい屋を営んでいた場所と同じ所――に待たせたマスターの下へと、戻らねばならない。

 <亀裂>に背を向け、せつらは元来た道を辿って戻り始めた。
老若男女問わない、ありとあらゆる人物が、せつらに対して熱っぽい目線を投げ掛けていた。せつら程の美貌の持ち主となれば、性別の垣根を容易く超越し、人を魅了させてしまう。

 これもまた、<亀裂>と同じで、元居た魔界都市ではよく見られた光景なのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


5 : 美影身 ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 00:50:06 Yzp6owFM0
 その建造物がいつから<新宿>に存在したのか、知っている者は存在しなかった。
気付いたら、其処に建てられていた。いや、その言い方は正確とは言えなかった。本来建てられていた建物が、別の建物に変異していた、と言うべきなのだろう。

 其処は嘗て、K大学の大学病院であり、医学部の学棟だった……筈なのだ。
区内の、特にその病院が存在している信濃町の住民ならば、誰もが知っている程の有名な建物。それが、ある日を境に、全く別の建物に変貌していた。
建物自体は、以前と変わらない。その白亜の大伽藍、来るもの拒まずと言った佇まいで、病める者の為にその病院は今も門戸を開いている。
違うのは、名前だ。K義塾大学病院から、『メフィスト病院』なる名前に変わっていたのは、果たしていつの頃の事だろうか。
メフィスト。ゲーテのファウストと言う作品に出てくる、老博士を誘惑して来た悪魔の名前を冠するこの病院。
誰もが異分子だと気付いていた。誰かが異議を唱えるだろうと、皆が思っていた。

 ――しかし、現実問題としてその病院は、信濃町に存在していた。行政的な手続きを経ずに、確かに、だ。
だが、区民も、行政も、この病院の存在を認め、<新宿>の新たなる施設の一員と、このメフィスト病院を認めていた。
区内に姿を見せてから、一ヶ月と経っていないにも関わらず、だ。

 何故か。

 一つは、この病院の医療技術が、ありとあらゆる病気や怪我を治すから。
死亡していないのであれば、どんな怪我でも。それこそ心臓を外部に抉りだされようとも、大脳が粉々に損傷していようとも。
元の状態に、一切の後遺症も残す事なくその病院は怪我人を完治させる事が出来るのだ。
死亡していないのであれば、如何なる病気も。それこそ水虫から全ての風邪、エボラ出血熱から新種の結核、そして、癌に至るまでも。
あらゆる病原菌を根絶させる事が出来るのだ。

 不治の心臓病にかかった一人娘をタダに等しい医療費でその病気を完治させた時、少女の両親が涙を流して喜んだ。
癌にかかった最愛の妻を、手術を含めてたった一日で全ての主要を取り除き、二度と再発の恐れがないと夫に述べた時、彼は神の存在を確かに信じた。
歌舞伎町でイザコザに巻き込まれ、ドスで内臓をズタズタにされたヤクザが、その内臓を完璧に治したばかりか、生来患っていた弱視すらもおまけで治された時、彼はヤクザの道から足を洗い、真っ当に生きると主治医に誓った。

 其処は、区外の病院で匙を投げられた患者が、救いを求めて最後に頼る蜘蛛の糸だった。
だがその糸は、芥川龍之介のあの作品の中に出てくるような、細く頼りのない糸ではなかった。
ワイヤーを何百、何千、何万条も束ねて作った、信頼の出来る、切れる事のない糸。それは最早、糸ではなく、綱だった。

 そして、この病院があらゆる人間にその存在と、医療行為を行う事を認可されているのは、もう一つあった。
この病院を運営する、神の御業のような医療の腕前を持った、男が原因だ。

 その男は――

 神が惚れ――

 世界から色を奪い――

 月すらが嫉妬する程に――

 ――――――――――――――――美しかった



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6 : 美影身 ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 00:50:31 Yzp6owFM0


                                  我が白髪の三千丈 


                                   心の丈は一万尺 

                              
                                  因果宿業の六道も 


                                 百の輪廻もまたにかけ 


                                 愛し愛しと花踏みしだき 


                                  おつる覚悟の畜生道


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7 : 美影身 ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 00:50:47 Yzp6owFM0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 花の精が歌を歌っているかのような美しい声が、陰鬱なコンクリートの部屋には不釣り合いだった。
薄暗い部屋で、色のヤケた古い本を読んでいる女性は、そんな歌を思わず口にしていた。

 悲壮な愛の詩だと彼女は思った。そしてその詩と自分を、重ね合せていた。

 蛇に騙されてしまった事は、百も承知だった。初めから解っていた。
しかしそれでも彼女は、嘗て焦がれた愛する男を求めるのだ。我が身を犠牲に世界を救った少年の事を。
決して触れてはならない感情の嵐を繋ぎ止める人柱になった少年を、解放させてやりたいのだ。

 その為に、人を犠牲にしてしまう事は、最早避けられない事だった。決して、決して。
何十人もの人間の命と引き換えに、絶対の奇跡を引き起こす。そんな事は、姉も弟も、許さない事は、痛い程理解している。

 だがそれでも――利用されると解っていても、彼女はその奇跡を求めた。
それこそ……畜生道にでも。いや、地獄道に落ちる覚悟で、彼女は聖杯戦争を引き起こした。
たった一人の少年の復活と引きかえに、多くの人間を争わせ、その命を聖杯に捧げる儀式を。
 
「……我が白髪の三千丈、心の丈は一万尺」

 再び、コンクリートの狭い部屋に、澄んだ歌の音が響き渡る。
その様子を、無感情に眺める紅色の瞳の少年に、彼女は、果たして気付いたかどうか。


8 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 00:51:14 Yzp6owFM0
【ルール】
①当企画はTYPE-MOON原作の『Fateシリーズ』の設定の一部と、菊地秀行氏の『魔界都市シリーズ』の設定の一部をモチーフにした、所謂聖杯戦争コンペです
②主従はおおよそ18〜24程度を考えておりますが、主従の集まり次第では、増減するかもしれません
③原作における通常7クラス及び、エクストラクラスの投下を可とします
④投下候補作の投下数制限は、原則ありません。思い付いた物をジャンジャカ送って来て下さい
⑤投下がない場合は企画主が1人投下します。悲しいので皆様是非とも奮ってご投稿下さい
⑥Fateシリーズの設定は兎も角、菊地秀行氏の魔界都市シリーズは現在に至るまで本筋及び、その派生作品も含めたら、
冗談抜きで膨大な数に達し、到底全ての設定を把握出来ない程になってしまいますので、魔界都市シリーズの設定はなるべく薄目に調整するつもりです。
と言うより自分自身でも、魔界都市シリーズの設定は全て把握出来ている訳ではございませんので、そうなるのも当然の運びになってしまいます。予めご了承下さい


【設定】
①舞台は何者かの手によって再現された、偽りの〈新宿〉です。ですが、電脳世界と言う訳ではなく、れっきとした本物の世界です
②我々が認識している東京都内の23区の1つである新宿区ではなく、当作品では『菊地秀行氏の魔界都市シリーズ』の設定を採用、
魔震(デビル・クエイク)と呼ばれる大地震のせいで壊滅、この地震の影響で区の周囲に生じた深い亀裂により外界と地理的に断絶されてしまった、〈新宿〉を舞台とします
③当聖杯戦争への参加資格は、『契約者の鍵』と言う、澄んだ青色をした鍵を入手している事を条件とします。
入手した時点では何の変哲も無いただの鍵ですが、これを手に入れ、〈新宿〉に足を運んだ瞬間、鍵に宿っていた『力』が発動。サーヴァントを呼び寄せます。
契約者の鍵の形状や、大きさ、及び、サーヴァントの召喚演出や、<新宿>へと転送されるタイミングは、書き手の皆様の裁量にお任せ致します
④〈新宿〉へとやって来た時点で、マスターは『身体の何処かに三画の令呪が刻まれ』、同時に『聖杯戦争に関する基本的な知識が全て頭に刻み込まれ』ます
⑤マスターにはそれぞれ新宿内で用意された日常が用意されております。それを送るか否かは、自由です
⑥契約者の鍵を手に入れ〈新宿〉へと招かれた際の、『記憶の有無』は、書き手の皆様の自由にお任せ致します。
また、③、④に付随して、記憶を取り戻した瞬間に令呪が刻まれる、サーヴァントも呼び寄せられる、と言った演出も、可と致します
⑦『ズガン』は可とします。ただし、オリキャラに限ります。


【新宿について】
①設定としては魔震から20年程が経過、地震によって生まれた倒壊した建物の瓦礫も漸く区内全域から撤去出来、ようやく震災前の新宿に戻りかけ始めた、並行世界の〈新宿〉です
②世界観的には、<亀裂>の向こう側の、〈新宿〉以外の特別区は設定上存在するものとしますが、聖杯戦争の参加者は亀裂の向こう側へと足を運ぶ事は『出来ません』
③東京都特別区から〈新宿〉へと渡るには、或いは〈新宿〉から特別区へと移動するには、『早稲田』『西新宿』、『四ツ谷』にある、
『ゲート』と呼ばれる場所に建てられた長いトラス橋を渡る必要がありますが、その橋の上は『移動出来る物とします』。橋を渡った向こう側の土地へは、透明な壁に阻まれ移動は出来ません
④原作の魔界都市シリーズ及びその系譜に連なる作品の設定を完全再現すると、冗談抜きで聖杯戦争なんてやってられないレベルの超科学&超魔術の犯罪都市になりますので、
〈新宿〉に住まうNPCは殆どの場合当該作品で見られる様な魔術や高い身体能力を封印され、他聖杯のNPC同様、極普通の人間として生活している物とします。
また原作魔界都市に見られた設定である、最高危険地帯(モースト・デンジャラス・ゾーン)も、危険地帯(デンジャラス・ゾーン)も存在せず、妖物や悪霊も、存在しない物とします
つまり、原作魔界都市シリーズに見られたようないかがわしい風俗街も魔術的な道具や危険な生物、銃火器の売買店は、『この世界の〈新宿〉にはありません』
⑤〈新宿〉を舞台には致しましたが、様々な世界観が混同しあった世界の為、もしかしたら、『マスターやサーヴァントと縁のあった施設』が存在するかもしれません。
ただし、世界観はあくまでも『現代』であるため、時代設定に即した建物でお願いいたします。


9 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 00:51:32 Yzp6owFM0
【NPCについて】
①当聖杯戦争におけるNPCは、何者かの手によって再現された存在です。ただし電脳世界の中ではない為に、正真正銘生身の生きた人間です。
②NPCの中にはマスター及びサーヴァントと縁があった人物がいるかもしれません。彼らは、そのマスターやサーヴァントが見ても、自分が良く知っている人物だと思う程完全に見た目も性格も再現されております
③全てのNPCは、元居た世界で扱えた筈の超常的な能力や身体能力、そしてその世界での記憶を一切封印されております。
④過度のNPCの殺生及び魂喰いは、ルーラーからのペナルティを負わされる可能性が高いです。


【契約者の鍵について】
①契約者の鍵は設定の項でも述べましたが、マスターが〈新宿〉へとやって来るための絶対条件であり、サーヴァントを呼び寄せる為の重要アイテムであります
②『通達』は、契約者の鍵から投影される小型のホログラムによって行われます。この事柄は、マスターの頭に予め刻み込まれています
③鍵を失くした、壊されたからと言って、聖杯戦争への参加資格を失い消滅する訳ではありません。
ただし、壊された場合は通達を受けとる方法がなくなりますし、鍵を奪われると、マスターの名前やサーヴァントの真名やステータス、宝具が、奪われたマスターに知られてしまいます。つまり、大幅な戦局的不利を強いられます。この事柄も、予め頭に叩き込まれています。
④契約者の鍵に秘められた魔力を全て消費する事で、『サーヴァントに対して命令強制及び、行動にブーストをかける事が出来ます』
つまり、『令呪と同じ作用を齎す事が可能です』。但しこの機能を利用すると、二度と『通達は受け取れません』


【サーヴァント及びマスターについて】
①契約者の鍵で呼び出されたサーヴァントは、原則原作の設定に則る事といたします。
②サーヴァントが消滅しても、マスターもそれに牽引して死にません
③逆にマスターが死亡した場合は、サーヴァントは消滅を免れません。しかし、消滅する間に他マスターと契約を交わせば、これを免れます
④令呪の全消費=マスターの死亡ではありません。が、当然命令権を失う事となりますので、裏切られるリスクは遥かに跳ね上がります
⑤当企画におけるサーヴァント達は、英霊の座やムーンセルから召喚されるのではなく、あらゆる次元の全ての未来全ての過去を記録しているとされる、
『アカシア記録(アカシック・レコード)』に接続して召喚されていると言う設定になっております。
召喚される物は既存の英霊の他に、神霊や魔王と言った存在の『分霊』もまた、存在するかもしれません。
尚、召喚されたサーヴァントやマスターは、この事実を『知りません』。座から呼び出されたものと認識しております


【時刻の区分】
深夜(0〜5)
早朝(5〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜17)
夕方(17〜19)
夜(19〜24)


【締切日】
候補話の締め切りは、おおよそ八月の中旬を予定しております。期限が伸びる事はあっても、縮まる事はありません


10 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 00:52:09 Yzp6owFM0


以下細かい補足

※基本完全に、強さのバランスは度外視しています。舞台が舞台ですし……。強いサーヴァントは許容しますが、なるべく手心をお願いします
※ロワで企画立てるのが初めてですので、何かルールを詳しく知りたい場合は、質問を宜しくお願い致します
※淫夢聖杯戦争はこの企画が終わったらやります。カッツェニキには死んで詫びます
※コンセプトは、皆で新宿区を盛り上げてやろうぜ、です。盛り上げましょう。


11 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 00:55:28 Yzp6owFM0
早速候補話投下したい所ですが、スレ立てに気力を使い果たしたので、今日は休みます


12 : 名無しさん :2015/07/04(土) 00:59:48 JFU1gy/E0
えっ今日は淫夢主従投下していいのか!


13 : 名無しさん :2015/07/04(土) 01:04:42 3zDYecv.0
>>12
>※淫夢聖杯戦争はこの企画が終わったらやります。カッツェニキには死んで詫びます


14 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 01:05:57 Yzp6owFM0
休みますと言った傍からですが、追記の程を
地図に関してですが、これについては、このサイトの地図が非常に役立つので、これを参考に致します
ttp://www.linkclub.or.jp/~haraguti/sightseen/kanko2.html

候補話投下しないと言いましたが、嘘です。やっぱ投下します


15 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 01:06:13 Yzp6owFM0






                           その少年は、逃れられぬ『死』を友としていた






                         その青年は、あらゆる摂理を敵に回す宿命を背負っていた






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


16 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 01:06:31 Yzp6owFM0
 新目白通りを歩くその青年は、何処となく浮世離れしていると言うか、一言で言えば、超然とした印象を見る者に与える男だった。
無欲そうな光を宿すその瞳は、此処<新宿>の繁華街を歩けば数百数千とすれ違うであろう、欲望にギラついた瞳の人間や、或いは、
人付き合いや仕事で疲弊しきった生ける屍のような人間達とは違う。恬淡とした雰囲気を感じ取る事が出来た。

 青みがかった髪の青年だ。中肉中背と言った風情の男だが、顔立ちは整っている。
この街の繁華街を歩く高校生や大学生、OLを口説き落として夜を過ごす遊び人に、今からにでもなれそうな美貌の持ち主だ。
しかし、男の纏う雰囲気は決して軽く、軟派で、チャラついたそれではなく、寧ろエリートが醸し出す特有のインテリジェンスと、
肝の据わったヤクザの類が醸し出す度胸が、高いレベルで混ざり合ったそれなのだ。
つまるところこの青年は、老若男女を問わず、人を無意識に引きつけてしまうような、魅力の塊であった。

 夜の十一時五十五分の新目白通りは、歩く人も通る車もまばらだった。
イヤホンを耳に付け、お気に入りの曲を聞きながら其処を歩く青年は、携帯電話を頻繁に取り出していた。
デジタル時計が指し示す時刻を、気にしている様であった。現在時刻は、十一時五十八分。じきに日を跨ぐ。

 曲を聞きながら歩いていた青年だったが、突然音楽を止め、イヤホンを耳から外して、ある一点に目をやった。
それは、今から二十年以上も昔に、新宿区のみを狙った局所的な大地震、通称<魔震(デビル・クエイク)>によって生じた<亀裂>、
これによって隔てられた<新宿>と区外を繋ぐ、亀裂の上に建てられたトラス橋。通称『ゲート』と呼ばれる橋である、
<新宿>には、ゲートは三つあり、西新宿、四谷、早稲田鶴巻町にそれぞれ設置されている。青年が今見ているゲートは、早稲田方面のものだった。

 間もなく、時刻は深夜零時を回ろうとしていた。
残り、五秒。四。三。二。一。――零時になった。青年は当たりを見回した。
「あちゃー、もうこんな時間か、電車間に合うかな」、遅くまで飲み会をしていたであろう、学生らしい若者が愚痴を零す姿が見えた。
スーツを着た疲れ顔のサラリーマンが、黙々と歩くのも見えた。如何にも頭も尻も軽そうな日焼けた女性が、軟派そうな男と一緒に歩いているのも見える。
あらゆる人は、何事もなかったかのようにそれぞれの道を歩いていた。誰一人として、棺桶になっていなかった。
青年は空を見上げる。夜の色は、先程までとずっと変わらないミッドナイトブルーであった。

【どうしたんだ、マスター】

 青年だけに聞こえる声が、心に響いて来た。念話、と言うらしい。
声の主は、他人には勿論の事、青年にも見えない。彼が有する心の鎧、心の海より出でし者が発する声でもない。

【此処には影時間がない】

 携帯電話の時計機能を確認する。十二時一分。

【それが何なのかは解らないが、此処は俺達のいた世界と違うんだ。無くて当たり前じゃないのか】

【そうかもしれない】

 恬然とした受け答えだった

 誰も通りを歩いていないのを見計らって、虚空から声を発していた主がその姿を見せた。
青髪の青年よりもやや背の高い、身体から贅肉と言う贅肉をとことんそぎ落とし、その上で切磋琢磨された、豹のような身体つきの男だった。
どこか近未来風の服装をその身にしたその男を初めて見た時、青髪の青年は、幾つもの場数を踏み死線を掻い潜った戦士だと感じた。
男の鍛え上げらた肉体も、戦士らしさを助長させる一因だった。見よ、男の腰に回されたガン・ホルスター、其処に収められた本物の銃を。そして見よ、彼が背にする大振りの刀を。彼が戦いを生業としている者の、証左ではあるまいか。

 青髪の青年と、戦士風の出で立ちの男は、早稲田ゲートにかけられたトラス橋の向こうの区――つまり、文京区のビル群を光景を、数秒程目にした後で。
背後の、<新宿>の風景を見やる。眠らない街歌舞伎町とは違い、<新宿>もこの辺りまでくれば、夜は眠らなければならないと言う、夜の掟に従うようであった。


17 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 01:06:53 Yzp6owFM0
「大地震が起きて壊滅的被害にあった、らしいけど、ちゃんと復興してるね」

 青髪の青年が、何処か感慨深そうに言った。
ゲートの下に広がる、深さ五十㎞以上もあると言う底なしの亀裂がある以外は、この<新宿>は誰もが思い描く都会だった。
きっと今では、大地震など過去の出来事になって久しいレベルなのだろう。

「俺の所の新宿に比べれば、遥かにマシだな」

「何で?」

「ICBM撃たれて廃墟にされた挙句、大津波で東京丸ごと水没して、その後地盤沈下で地下に沈んだ」

「それは、比較するのがおかしいんじゃないかな」

「かもな」

 それは最早、新宿、ひいては、東京と言う場所に何か並々ならぬ恨みがあるんじゃ、と邪推するレベルであった。

「それで……マスターは、覚悟は決まったのか?」

「聖杯?」

「ああ」

 言われて青髪の男は、顎に手を当てて考え込んだ。

 十二月のあの日。特別課外活動部は、世界が滅びてしまう事を知ってしまった。次の春は、もうやって来ない事を知ってしまった。
青年の身体の中に眠っていた、絶対の死が形を取った少年が成長した男、望月綾時は、文字通りの死の宣告者であった。
世界に滅びを齎す者、死と言う概念そのものである存在、綾時がニュクスと呼んでいたその存在が目覚めてしまえば、地球上の全ての生物は等しく死に絶える。
綾時が彼らに告げた真相が、それであった。そしてその存在は、倒せない。何故ならば死と言う概念そのものが敵である故に。

 彼らに残された手段は二つに一つである。
綾時と言う宣告者を殺し、特別課外活動部の面々の記憶を消してしまい、苦しまずに滅びを迎えるか。
或いは、蟷螂の斧と解っていても、絶対存在たるニュクスに抗って見せるか。彼らは、大いに悩み、苦しんでいた。

 自分達が信じて行って来た、大型シャドウと呼ばれる存在の掃討が、実は一人の狂人の馬鹿げた妄想を叶える為の茶番で。
その茶番で、大事な人物の父親が死んでしまい。そう言った衝撃からやっと立ち直れてきた、その矢先に、絶対の滅びが到来すると言う宣告。
彼らが受けたショックは、表現する事も不可能な程であった。

 青年の仲間が言っていた。お前は特別なんだろ、何とかしろよ、と。
身体にニュクスの一部分を宿したお前が来たんだから、こんな事になったんだ、と暗に言われているような気がして、青年は悲しくなった。
何とかしたいと言う気持ちは、青年にしても同じ。当初はなりゆきで参加した活動であったが――此処まで来てしまっては、後に退くのは御免である。
皆の記憶を消さず、しかしそれでいて、何とか死を退ける方法はないものか。無関心を装いながらも、青年はその方法を模索していた。
だが結果の方は芳しくない。このままでは世界は滅びを迎えてしまうのかと、柄にもなく焦っていた矢先に、嘗て長い鼻の老人に手渡された契約者の鍵が、激しく光り輝いた。
そうして気付いたら、彼はこの、並行世界の<新宿>へと足を踏み入れていた。そうして、輝きの止まぬ契約者の鍵に呼応するように、サーヴァントと呼ばれる、
ペルソナとも違うサーヴァントが召喚された。それこそが、今青年の近くに佇む、セイヴァーと言うクラスの男であった。


18 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 01:07:08 Yzp6owFM0
「聖杯を使ってでも叶えたい願いは……正直言って、ある」

 青髪の青年は、ハッキリと自分の思う所をセイヴァーに告げた。

「だけど……」

「ん?」

 やや伏し目がちになった青年を見て、セイヴァーはそんな声を上げる。

「その為にさ、何人も人を殺したんじゃ、正直、僕が蔑んでる相手とやってる事は同じだ。自分自身の力で、目的は対処したい」

 勝ち取る事が出来れば、如何なる願いをも成就させる事が可能だと言う万能の願望器、聖杯。そして、それを巡って血を流す戦いが、聖杯戦争であると言う。
何人もの人間が死ぬ事が決まっているこの戦い。正直青年は、乗り気ではなかった。いや、最初から乗る気なんて、ないと言っても良かった。
自分達が直面している問題は、正直言って、聖杯でも用いない限り解決出来ない程の大問題である。
しかしだからと言って、人を騙して利用したり、不要となれば殺したりでは……唾棄すべき悪党だった幾月修司や、影時間を利用して人を殺すストレガ達と同じである。
聖杯なんかを利用しなくても、きっとニュクスを退ける方法は、ある筈なのだ。青年は、それに賭けたかった。

「じゃあマスターは聖杯戦争をどうするんだ?」

 至極真っ当な疑問を投げ掛けるセイヴァーに対して、青年は言った。

「どうでもいい……って言う訳には行かないな、何とかするしかないんじゃないかな。縦しんば勝ち残ったら、聖杯は君が破壊してくれないかな、セイヴァー」

 青年は凡そ踏んではいけない地雷を踏んでしまっている事に気付かない。
聖杯戦争に参加するサーヴァントと言うのは、大抵の場合は聖杯にかける願いがあるからこそ、現代にやって来るのが大体のケースなのだ。
そう言った願いを秘めた存在に対して、聖杯を破壊して欲しい、と頼む事は、願いは諦めて欲しいけど自分の為には動いて貰う、と言っているに等しい。
こんな事が、通常通る訳はない。サーヴァントの不興を買うだけであり、最悪殺されてもおかしくない暴挙である。

 だが不思議な事に、このセイヴァーは何処かホッとした様子で、自分の胸を撫で下ろしていた。
「良かった」、と小声で口にしたのを、青年は聞き逃さなかった。

「どうしたの?」

「マスターがそう言う人物で助かったよ。正直、いつ切り出すか迷ってたんだ」

「何を」

「多分、俺を呼び出した時点で、そのマスターは聖杯を扱えないんじゃないかなって思ってね」

「うーん、どう言う事?」

 セイヴァーの言う事が理解出来ないらしく、青年は不思議そうな表情を浮かべていた。

「昔、聖杯信仰の大本の、そのまた大本の存在と喧嘩した事があってね。早い話、そいつと喧嘩したって事は、聖杯にも喧嘩売っちゃったってのに等しいのさ」

「その大本ってもしかして……?」

「神様かな。文字通りのさ」

 そんなバカな、と言おうとしてしまったが、青年は元の世界に戻ったら自分達が対処せねばならない存在の事を思い出して、言葉を引っ込めた。
此方も此方で、そんなバカなとしか言わざるを得ない存在と戦う宿命を背負ってしまっているのだ。セイヴァーの事を、馬鹿には出来ない。
……ちなみに、聖杯信仰について青年が一定以上の知識を有せているのは、学校で保険体育の教鞭を執っていたある教師の授業の賜物であった。


19 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 01:07:36 Yzp6owFM0
「そんな奴に喧嘩売ったからさ、聖杯も俺と、そのマスターの願いだけは聞き入れてはくれないと思ってね。だけど、マスターが聖杯をいらないって言うのなら、安心した。肩の荷が下りた気分だよ」

「セイヴァーは、僕の為に戦ってくれるの? 聖杯にも執着してないし、目下の悩みも消えたみたいだけど」

「ああ、それは大丈夫だ。責任を持って、マスターを元の世界に送り返すよう善処するよ。自覚は薄いけど、これでも救世主の端くれなんでね」

 救世主。そう言えばセイヴァーには、そんな意味がある。
青年が連想するところの救世主とは、もっと厳かで、神秘的で、威圧的な存在かと思ったが、目の前の存在はそんな事はない。
強い事は、確実だ。しかしその中に、人間らしさ、と言うものが備わっていた。

「それで、まだ<新宿>の地理を見たいんだろう? マスター」

「うん。僕も初めて来る所だしね」

「俺も、昔の東京がどう言う街だったのか気になるからな。付き合おう」

「解ったよ。えーと……そう言えば、セイヴァーの真名は?」

 青年がセイヴァーを呼び出してから、実を言うと一日と経過していない。
この間、自己紹介を交わした事がないと言うのも考えてみれば間が抜けている。青年は少し自嘲気味に笑った。

「『アレフ』だ。君は何て名前なんだ、マスター」

 今度は、アレフの方が聞いて来た。

「有里湊だ。今後ともよろしく頼むよ、アレフ」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






memento mori...
 




【クラス】

セイヴァー

【真名】

アレフ@真・女神転生Ⅱ

【ステータス】

筋力A 耐久B 敏捷A 魔力C 幸運B 宝具EX


20 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 01:07:53 Yzp6owFM0
【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

矛盾した救世主:EX
セイヴァーは確かに、人類を滅亡から救ったと言う意味では間違いなく救世主である。
しかしセイヴァーは悪魔や魔王の類ではなく、秩序の体現である唯一神を斬り捨て破壊した事で救世主となった男である。
神に仕えるメシアとなる事を宿命付けられた存在でありながら、主である『神』を斬った事で救世主に至ったセイヴァーは、測定不能の救世主ランクを持つ。
神性や悪魔としての性質を持ったサーヴァントと対峙した場合、そのサーヴァントの全ステータスをワンランク下げ、セイヴァーの行動の全てに大幅な有利がつく。
この場合の『悪魔』とは、あらゆる超自然的な存在と定義されるため、文字通りの『魔』に限らず人外としての属性を有する者が相手ならばこのスキルによる補正が機能する。

【保有スキル】

無窮の武練:A+++
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。心技体の完全な合一により、いかなる制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
精神的な影響下は当然の事、地形的な影響、固有結界の内部においてすらその戦闘力が劣化する事はない。大魔王が支配する領域や神の支配する高次元空間ですら、セイヴァーの剣術は劣化する事がなかった。

対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。事実上、現代の魔術師ではセイヴァーに傷をつけられない。

心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

透化:A
明鏡止水。精神面への攻撃を遮断する精神防御。通常の透化とは異なり、アサシンクラスではない為気配遮断の効果はない。

話術:D
救世主とは言うが、実はそれほど話術の方は上手くない。交渉事を有利に進められる程度。

【宝具】

『父には欣快、世界に秩序。遍く万魔に威を示せ(プロトタイプ・1)』
ランク:EX 種別:奉神宝具 レンジ:- 最大補足:-
神に仕える三柱の大天使がその手によりて作り上げた、人造の救世主(メシア)。神の定めた生命の法に逆らって造り上げられた悪魔の子。それがセイヴァーである。
本来のメシアならば、一神教の神とその神の薫陶を受けた者以外の全ての存在のステータスをワンランク下げ、大幅にファンブル率を上げるだけでなく、
逆にメシア自身が行う全ての行動には大幅な有利がつくのであるが、神が遣わしたメシアでないセイヴァーには、そう言った効果は全くない。
あるのは、神の決めた絶対の生命の法に逆らって造り上げられ生きていると言う規格外性と、偽りのメシアでありながら唯一神を斬ったと言う絶対性だけである。

【weapon】

将門の刀:
伝説の金属、ヒヒイロカネを鍛えて作り上げられた宝具級の刀。凄まじい切れ味を誇るだけでなく、非常に頑丈。

ブラスターガン:
現代よりも進んだミレニアムの科学力で創り上げた銃。レイガンとも、光線銃とも呼ばれる。物質的な姿を持った弾体ではなく、熱線を放つ。

【人物背景】
 
神が与えし裁き/滅びから人類を救った男。

【サーヴァントとしての願い】

マスターを元の世界に送り返す。


21 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 01:08:16 Yzp6owFM0




【マスター】

有里湊(主人公)@PERSONA3

【マスターとしての願い】

元の世界への帰還

【weapon】

召喚銃:
内部に黄昏の羽と呼ばれる、ニュクスから剥離した物質を内蔵された銃。殺生能力はゼロで、あくまでも、ペルソナを召喚する為の補助ツールである。

【能力・技能】

ペルソナ能力:
心の中にいるもう1人の自分、或いは、困難に立ち向かう心の鎧、とも言われる特殊な能力。
この能力の入手経路は様々で、特殊な儀式を行う、ペルソナを扱える素養が必要、自分自身の心の影を受け入れる、と言ったものがあるが、
超常存在ないし上位存在から意図的に与えられる、と言う経緯でペルソナを手に入れた人物も、少ないながらに存在する。
湊の場合は、元々のペルソナを扱える素養が凄まじく高かった事もそうだが、過去にデスと呼ばれるシャドウを身体の中に封印され、
元々高かった素養が時を経るにつれて急激に成長、遂には『ワイルド』と呼ばれる、ありとあらゆるアルカナのペルソナを操る程にまで成長するに至った。
装備する事で、精神力を消費して、魔術に似た現象を引き起こす事が出来、更に、身体能力も通常より向上させる事が可能。
現在の湊は、魔術師〜死神までのアルカナの最上位ペルソナを扱う事が出来る。それ以上のアルカナのペルソナは、絆が限界まで高まっていない為使用不可能。
以下のペルソナを使用可能
魔術師:スルト
女教皇:スカアハ
女帝:アリラト
皇帝:オーディン
法王:コウリュウ
恋愛:キュベレ
戦車:トール
正義:メルキセデク
隠者:アラハバキ
運命:ノルン
剛毅:ジークフリード
刑死者:アティス
死神:タナトス

【人物背景】

絶対存在が与える世界の滅びに抗う青年。

【方針】

元の世界に戻る


22 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 01:08:28 Yzp6owFM0
投下を終了いたします


23 : 鳩田亜子&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/04(土) 04:13:44 OmE1T2iI0
初投稿です

本作は戦闘破壊学園ダンゲロス(漫画版)の最終巻のネタバレを含みます
まだ読んでない人は全巻まとめて買ってください、全8巻と非常に集めやすいです


24 : 鳩田亜子&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/04(土) 04:15:06 OmE1T2iI0
  叩き潰す。
  叩き潰す。
  叩き潰す。
  これでもか、と叩き潰す。
  白い何かが砕け散る。
  灰色の何かが飛び散る。
  赤い液体が頬を濡らす。
  少女はもう動かない。
  それでも、男は叩き潰す。
  手に持ったシャベルで、何度も、何度も、叩き潰す。

  シャベルの矛先、男の敵だった少女はすでに無残な有り様を晒している。
  頭と呼べる部分が残っていない。シャベルの先にあった、可愛らしいその顔は、今は赤茶色の粘土をこねまわしたような『何か』に変わっている。
  少女の可愛らしい顔によく似合っていた漆黒のエプロンドレスは、少女の返り血で黒を更に深く染めていた。
  それでも男はまだ叩き潰す。
  まるで何かを恐れるように、一心不乱に叩き潰す。

  それから数分が経ち、ついにシャベルの柄が折れ、男の叩き潰しは終わった。
  柄は木製だったが、それにしたってシャベルとして使えるほどの強度を誇るもの。それが折れた。
  シャベルの取っ手を放り投げ、男は自身の両手を見つめる。
  真っ赤に染まっている。少女の血ではない。力を込めて握りしめ、力を込めて振り下ろすうちに手の皮が剥け、肉が裂け、知らずのうちに流れていた男自身の血だ。
  恐怖が弱まり、同時に意識が痛覚を取り戻す。両手に激痛が走る。
  男は両手を握ろうとし、握ろうとして走った激痛から、まるで古典的なお化けのように肘を曲げて両手を中空で固定したまま駆け出した。

  これなら大丈夫。
  絶対に大丈夫。
  もう大丈夫。
  大丈夫なはずなんだ。これで大丈夫じゃないわけがない。
  男は自分に言い聞かせるようにそう心のなかで何度も唱え、少女に背を向けて走る。
  大丈夫、大丈夫、大丈夫。
  殺したはずの男が、死んだはずの少女から逃げる。
  まばらな街灯に照らされて闇夜に踊る影は、そんな男を笑うように揺れていた。


25 : 鳩田亜子&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/04(土) 04:17:26 OmE1T2iI0

  瓦礫の街を走る。
  魔震によって崩落した新宿の街も、復興が軌道に乗り始めたとはいえ、まだまだ傷跡はそこかしこに残っている。
  瓦礫の街を抜けると、大きめの四車線道路が続いている。
  道路脇には修復された建物はまだなく、墓標のように規則正しく並んだ街灯だけが、彼の進行方向のはるか先まで続いていた。
  両手をぶらぶらとみっともなく揺らしながら駆ける男の前に、一人の少女が降り立った。
  先ほどの少女とは違う。
  学生帽に学ランを着て、帯刀している、年の頃は16〜18ほどの少女。
  少女は、無数の墓標を背負って男と対峙する。

「こ、殺したんだ」

  男の口から出たのは、確認か、あるいは自身への暗示か。

「俺ぁ確かに殺したんだ!! あのフリフリな子を!! 撃った!! 潰した!! 普通死ぬ!!!! 俺ぁ、俺ぁ殺したはずなんだ!!!」

  闇夜に男の悲痛さすら感じ取れる叫び声が響く。墓標の群れの奥から野犬の鳴き声が返ってくる。
  学ランの少女は、くいと学帽のつばを親指で持ち上げ、逆の手で男の遥か後方を指さした。
  男の心臓が、破裂しそうなくらいに高鳴る。
  声の代わりに鼓動の音が口から出ているのではと思うほど、心臓の音が大きい。
  ずるむけの手の平に汗が滴り、痛みが脳を殴りかかる。それでも、悪夢は覚めてくれない。
  男は、ゆっくりと、ゆっくりと、後ろを振り返る。
  そこには小さな少女が立っていた。
  あの時と同じエプロンドレス。あの時と同じ可愛い顔。あの時と同じ、生気を感じさせない肌。
  ショットガンで打ち砕いた肉。引きずりだした内蔵。叩き潰した頭。
  全てがまるでなかったことだったかのように、少女は以前の通り、無傷の状態で男の前に再び現れた。

「み、見逃してくれ」

  男は膝をつき、地面に両手と頭を擦り付ける。
  恥も外聞もない。土下座をしての命乞い。
  地面に勢い良く叩きつけた両手で、傷口が広がり、再び血が流れ出す。地面から感じる異物感で痛みが更に跳ね上がる。

「見逃してくれ!!! 俺ぁもう、聖杯なんかいらねぇ!! 戦争にも関わらねえ!!!
 なんだったら、あんたらの手伝いをしたっていい!! だから頼む!! 許してくれ!!」

「頭叩き潰したのは悪かった!!! でも、俺だって驚いたんだよ!! 心臓撃ちぬいても死なねえ、なんて、思わなくて!!!」

  そもそもは、男のほうが仕掛けたことだった。
  数日前少女たちに彼の呼び出したサーヴァントを出会い頭にけしかけた。
  そしてまんまと返り討ちにあった。英霊は一撃目で真っ二つにされ、お得意の向上を述べる前に消滅した。
  しかし男は諦めなかった。
  マスターとしての権利が失われていないのなら、と今度は少女を殺し、自身が少女のサーヴァントのマスターに成り代わろうとした。
  そして今日、手に入れたショットガンで彼女の身体を撃ちぬいた。少女は大量の血と臓物を身体から撒き散らせた。
  してやったりと笑う男の目の前で、魔法が起こる。少女の内蔵が血を這い、腹に収まり、傷口がふさがったのだ。
  あまりの出来事に、半狂乱でリロードして少女の頭を撃ち抜く。頭蓋骨と思われる白いものや、なにか大切な液体だろう透明な汁が飛び散った。
  しかしビデオの巻き戻しのように傷口がふさがり、再び少女の切羽詰まったような顔を作り上げる。
  それこそ狂乱という様相で今度は残弾を撃ち尽くすまでトリッガーを引き、更に手近に置いてあったシャベルで少女の頭を再現不可能な状態まで叩き潰した。
  生き返るな、生き返るな、頼むから死んでくれと念じながら。
  結果は、もはや語るまでもないだろう。


26 : 鳩田亜子&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/04(土) 04:19:41 OmE1T2iI0

「……」

  土下座する男を、少女は見つめる。
  生きているのか死んでいるのかわからない。
  傍目には区別できないほどの、空虚な顔。

「私達は」

  男の背中越しに、凛とした声が響く。
  その声とともに、革靴がアスファルトを叩く音が近づいてくる。

「サーヴァントの有無に関係なく、貴方を殺す必要があります」

  ぎょっと目をむく。そんな答えは、想定していない。
  聖杯戦争とはサーヴァントたちの代理戦争だ。
  男が言うのもなんだが、マスターは基本死ぬ必要はないし、殺す必要もない。
  顔を上げ、男に話しかけた方の少女に向く。
  学ランの少女は、すでに刀を抜いていた。

「な、なんで……」

  思いが溢れて声になる。
  くだらない問いかけ。
  しかし、声の主である少女は律儀に答えた。

「私が『転校生』だからです」

  『転校生とはなんだ』。そう聞こうとしたが叶わなかった。
  声が出ない。
  おかしいなと思って喉のほうを見ると、なんと喉が遠く離れている。
  あんなところに喉があったら喋れるわけがない、などと考えていると、視点は男の意思に関係なく切り替わった。
  学ランの少女に向き、ドレスの少女に向き、再び男の身体に戻る
  少女、少女、男、少女、少女、男。
  三回繰り返したところで、男は自身の首が刎ねられたことに気づき、そしてそれからようやく死を理解した。

【男 死亡】
【男のサーヴァント 消滅済】

◇◇◇

「セイバー、こいつは?」

「この人はさすがにいらない、かな」

「分かった」

  短い言葉でやりとりを済ませて、死体を墓標の向こう側に放る。
  放った傍から、ぎゃあぎゃあというわめき声があがる。
  これで、明日の朝には全てが隠れているだろう。

「帰ろう」

「そうだね」

  再び短いやりとり。そして二人は同じ方向へと歩き出す。
  墓標の群れのように見えた街灯たちの反対側、瓦礫の街の向こう側、少女たちの拠点へ。
  そうしてそこには、餌を奪い合う野犬の慟哭と、断罪の証のように道路に強く塗りたくられた両手型の血の跡と、それなりの血しぶきだけが残された。


27 : 鳩田亜子&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/04(土) 04:20:12 OmE1T2iI0

☆ハードゴア・アリス


  鳩田亜子は死んだはずだった。
  敵対しているチームから襲撃を受け、その結果、甲斐もなく死んでしまった。
  そう思っていた。
  でも、どうやら違うらしい。

  死んだと思ったその直後、亜子は握りしめていた兎の足を失う代わりに、何かを掴んだ。
  そして、気がついたらこの街に居た。
  港湾都市であるN市とはまったく違う、内陸都市<新宿>。
  身体を起こした亜子は、すぐさま服を脱ぎ捨てて傷を確認する。
  ばっさり斬り捨てられたはずの傷は、綺麗さっぱりなくなっていた。
  魔法の効果だろうかと思ったが、だとしたら死ぬはずがない。
  誰かに助けられたのか、なにか別の事件に巻き込まれたのか。
  亜子が服を着ながら考えていると、傍に突然少女が現れた。

「君が、私のマスター……かな?」

  少女が口を開いた瞬間、亜子は魔法の端末に触れて変身した。
  きらきらと可愛らしいエフェクトを振りまいて、少女が魔法少女へと変貌する。
  パフスリーブのドレス。ウェーブがかった長い髪、くまが酷いがそれでも愛らしさは失われていない端正な顔。
  魔法少女ハードゴア・アリスは、まず一歩目を踏み出すと同時に手に持っていたぬいぐるみで少女に攻撃を仕掛ける。
  魔法少女は、人間を遥かに上回る運動能力を持つ。その運動能力を持ってすれば、ただのぬいぐるみの一撃ですら、たちまち必殺の一撃に変わる。
  少女は一切避けようともせずにそのぬいぐるみを受けた。
  瞬間、ぬいぐるみが砕け散る。
  まるで魔法少女の膂力でも砕けない壁に当たったように、布を裂き、綿を飛び散らせて破裂する。

「落ち着いて。私は敵じゃない」

  少女の言葉に、ハードゴア・アリスの動きが止まる。
  真実かどうか、分かりかねる。敵じゃないなんて言われてはいそうですかと信じられるか。
  ハードゴア・アリスが怪訝な表情をしているのがわかったのか、再び少女は口を開いた。

「私は―――」

  学生帽のつばをつまみ、きゅ、とかぶり直す。
  その行為はたどたどしいが、つばの奥に光る目と、そこに込もる挟持に一切の揺らぎはない。
  少女は手を突き出し、一本ずつ指を立てながら名乗った。

「セイバー」

「転校生」

「魔人」

「両性院乙女」

  四本たてて、自己紹介が終わる。

「それが私の名前。どうせ誰に質問されても正直に全部答えなきゃならないし、どの名前で呼んでくれても構わないよ」

  両性院乙女と名乗った少女は、そう言って学帽を脱ぎ、深々と礼をした。
  セイバーという単語は聞き覚えがあるなぁ、というのが、ハードゴア・アリスの率直な感想だった。


28 : 鳩田亜子&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/04(土) 04:21:44 OmE1T2iI0

  ◇◇◇

  そうやって、自己紹介を終え。
  聖杯戦争についての知識を思い出し。

  彼女は自身が兎の足の代わりに握りしめていたものを理解した。
  『それ』を取り出し、あまりにかけ離れてしまった見た目をもう一度眺める。
  彼女の手に光るのは、クリアブルーの鍵。
  彼女が敬愛する魔法少女によく似た、透き通った白雪のような色の鍵。
  それはあの日、鳩田亜子が名前も知らなかった魔法少女に見つけてもらい、手渡された鍵。

  死の間際、亜子が握りしめていたのはその鍵だった。
  どうしてこの鍵を握りしめられたのかはわからない。
  なぜ色が変わっているのかも分からない。
  ハードゴア・アリスにとって重要なのは、再び願いが扉をこじ開けた。その事実。
  スノーホワイトに会うために魔法少女育成計画をはじめて、実際に魔法少女になれたように。
  スノーホワイトを守りたいという願いが、実際に願いを叶える聖杯の元へと導いた。
  そして、再び、スノーホワイトがハードゴア・アリスを助けてくれた。
  命を救われたのは二度目だ。
  お礼なんてもんじゃない。ずっとそばに居て守ってあげるなんてもんじゃ足りない恩義だ。

  戦うのは、恐ろしくはない。
  ここにくるまでだって戦いの中だった。実際一人殺してしまった。今更取り繕うつもりはない。
  死ぬのも、恐ろしくはない。
  鳩田亜子は死ぬはずだった人間だ。更に一度死んだ。死にたくないなんて言うわけがない。

  だから、前に進む。この鍵を持って。
  二度彼女を救ってくれた憧れの魔法少女スノーホワイトの元に帰るために。
  今度こそ、彼女を守りぬくために。


29 : 鳩田亜子&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/04(土) 04:22:43 OmE1T2iI0

  ◇◇◇


  ころん。
  神様がサイコロを振った。

  誰にも聞こえない。
  誰にも見えない。

  それでも、賽は投げられた。


  1。1。1。1。1。1。
  少女はずっと1を引き続ける。
  きっと彼女は、神様には愛されていなかった。何度振ろうとサイコロは1を刻み続ける。
  それでも彼女はサイコロから逃げない。命を救い、微笑みかけてくれた少女のために1を引き続ける。
  少女は、その命を削る1の先で、理想郷へと辿り着く。

  6。6。6。6。6。6。
  少女はずっと6を引き続ける。
  何故ならば、神は少女を愛しているのだと少女が認識しているから。
  彼女が望むのならばこの先数億だろうと数十億だろうと6が出続ける。
  少女は、その無限に続く6の先で、理想郷へと辿り着く。

  1を引き続ける少女。目指すのはほんのちっぽけな一人の隣。
  6を引き続ける少女。目指すのは目がくらむほど大きな世界の続き。

  小さいけれどかけがえのない。
  大きいけれどささやかな。
  愛すべき世界を手に入れるまで、二人は数字を重ねていく。


30 : 鳩田亜子&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/04(土) 04:25:30 OmE1T2iI0
【クラス】
セイバー

【真名】
両性院乙女@戦闘破壊学園ダンゲロス

【パラメーター】
筋力:A 耐力:EX 敏捷:C 魔力:D 幸運:A+ 宝具:A

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
対魔力:EX
直接的な攻撃魔法はどんな大魔法でも無効化する。
ただし低級だろうと有効な魔法は有効である。

騎乗:D
バイクに乗れる。

【保有スキル】
転校生:EX
認識の衝突に勝った存在。
宝具『我こそは神の寵愛受けし者』によって得たスキル。
斬撃だろうが打撃だろうが銃撃だろうが直接攻撃で死ぬことはなく、衰弱・内臓破壊・必中必殺・金玉大爆発などの特殊な攻撃でのみ死亡する。
当然、セイバー自身の宝具である『福本剣』でも殺害は可能である。

認識阻害(性転換):A
生涯一度も「もげた性器をただくっつけるだけで元に戻る」と気付かれなかったことから来るスキル。
同ランク以上の洞察能力を持たない英霊には宝具『チンパイ』について解除方法を考察することが不可能となる(考察をしようとすると認識が阻害される)。
また、他者は『チンパイ』についてのみ、セイバー自身に解除方法を尋ねるという方法が思いつかなくなる。

情報譲渡(真):-
情報を隠すことが出来ないスキル。
セイバーは問いかけに対してなんであろうと『真実を答えなければならない』。
例えそれが自身の弱点や宝具に関する能力の詳細であっても、である。
ただし例外的に、転校生のルールとして下記収集癖の根源については説明できない。

収集癖:E
気に入った人物の体の一部を収集する、転校生の全てに通ずるスキル。
これは『転校生』のシステムの一部を理解した結果セイバーが行う可能性がある動作であり、行わない可能性も十分にある。
ただし、『なぜ体の一部を集めるのか』については説明できないようルールが定められている。

契約:EX
転校生は召喚とはまた別種の『契約』に基づき行動する願望実現の協力者である。
そのため、マスターの願望の力が強ければ強いほどセイバーとこの世界との繋がりが濃くなり、魔力消費を軽減する。
しかし契約に定められているため、他の参加者(マスター含む)が全滅しない限りはセイバーとそのマスターは願いを聖杯に込めることが出来ない。


31 : 鳩田亜子&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/04(土) 04:27:56 OmE1T2iI0

【宝具】
『我こそは神の寵愛受けし者(ウィナー・オブ・コンフリクト)』
ランク:- 種別:対転校生 レンジ:1 最大捕捉:1
神が天秤を傾けた証。
厳密には宝具ではなく彼自身に刻まれた『呪い』や『存在改竄』に近い存在。
世界はこの宝具を持つものを『転校生』であると認識し、無比の攻撃力と無敵の耐久力を与える。
この聖杯戦争では攻撃力はAランク相当、耐久力はEX相当(殺せる攻撃では殺せるがそれ以外は無効化)として再現されている。
また、何事かによって幸運判定がくだされる場合、幸運値に補正を得る。
なお、この宝具の真髄を理解し、同一の手順を踏めば誰であれ(たとえマスターでも)この宝具を得ることが出来る。

この宝具は魔力を消費しないかわりに彼の意思で解除することは出来ず、他者からの干渉によって発動を阻害されることもない。

『チンパイ』
ランク:E 種別:対人 レンジ:1-10 最大捕捉:1
セイバーの『認識』が宝具と化したもの。
相手の性別を逆転することができる。
男性の場合男性器が、女性の場合乳房がぽろりともげ、その後徐々に異性の体へと変化していく。
実際に骨格を含めて性別が変わり終わるまでは数分のラグがある。(参照:ダンゲロス8巻、ユキミの変化)
転性前の美醜と転性後の美醜は必ずしも一致せず、醜い男が美女になったり、また逆もしかりである。

なお、もげた男性器や乳房を元通りにくっつければ普通に戻れる。
そしてこの宝具が他者に効果を及ぼすのはその生涯で一度きりである。

『福本剣』
ランク:B 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1
昔々、とある青年が自身の『魂』を込めて打った剣。
魔人の命が込められたその剣は、必中・両断・必殺の効果を持つ。
すべての防御スキルを超越し、敵を両断できる。
この宝具から逃れるには敏捷を用いてレンジ外に逃げるか、そもそも剣を抜かせないかである。
幸い、セイバーは剣の扱いにまだ不慣れなため、予備動作を見きれば回避が可能である。
なお、この宝具は他者が奪えばその人物の所有宝具として使用が可能となる。

【weapon】
転校生になった今なら拳だけでも戦える。

【人物背景】
ダンゲロス・ハルマゲドンの生還者。男女くんじゃなく乙女ちゃん状態で参戦。
剣の覚えはないが福本剣のおかげでセイバーとして呼ばれてしまった。

彼にとってこの世界は末那識千尋の『認識』の中であり、聖杯戦争自体が『ダンゲロス』だと認識している。
そのため、天音沙希や『ダンゲロス・ハルマゲドン』参加者を捜し、彼ら彼女らの体の一部の回収を優先している。


32 : 鳩田亜子&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/04(土) 04:29:22 OmE1T2iI0
【マスター】
鳩田亜子/ハードゴア・アリス@魔法少女育成計画

【マスターとしての願い】
帰る。

【能力・技能】
・魔法少女
人間を遥かに超えた存在。
鳩田亜子は魔法の端末を使うことで魔法少女ハードゴア・アリスに変身ができる。
変身中は身体能力が並みの人間には及ばぬほどになり、更に魔法を操れるようになる。
食事や排泄の必要はなくなり、絶世の美少女になり、汗とかもすげーいい匂いになる。
更に魔法少女というように魔力が常人よりも多い。

鳩田亜子の場合、ここに来る前の状況が状況であるため、変身は一切とかずに居るつもりである。

・どんなケガをしてもすぐに治るよ
魔法少女ハードゴア・アリスに与えられた魔法。
どんなケガをしてもこの魔法があるかぎりは必ず完治する。
たとえ首を切り落とされようが完治する。
頭を半分吹き飛ばされようが完治する。
肉片レベルまで細分化されようが完治する。


【人物背景】
彼女はきっと、神に愛されていなかった。

【方針】
もとよりこの世界に興味はない。
全員を殺して元の世界に帰り、スノーホワイトの隣へ。


33 : 鳩田亜子&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/04(土) 04:29:47 OmE1T2iI0
投下終了です


34 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 13:45:08 Yzp6owFM0
>>鳩田亜子&セイバー
早速のご投下ありがとうございます。魔法少女育成計画と、ダンゲロスからの出演ですね。
<新宿>聖杯と言うロワの方向性が早くも決まってしまいそうな主従で、思わず口の端が吊り上ってしまいます。
元の世界に戻りたい、その為に聖杯戦争を勝ち抜くし、誰であろうと容赦しない。
行動原理はシンプルですが、それをやるのが年端もいかない少女で、しかも怪物じみた再生能力を持った少女と言うのが、ある意味で<新宿>らしい。
原作じゃ肉体の再生は当然の事、不老不死のキャラクターですら当たり前に登場しますからね。主の方が<新宿>向け、と言うのは面白い。
……それにしても、サーヴァントの転校生と言う設定を見ると、菊地先生の魔人学園を思い出しますね。異世界から転校生と呼ばれる魔人を召喚して学園同士の代理戦争を行う小説でしたが、あれは

ご投下、ありがとうございました!!


それと、此方側の説明に不備があったようなので、一つ補足を。
当聖杯の<新宿>についてですが、復興しかけた、ではなく、『完全な復興から既に十年近く』は経過している物と思って下さい。
つまり、この街には瓦礫もなく、倒壊したビルも既に見当たらず、震災前の新宿区よりも復興している、つまり、2015年現在の東京都新宿区のような街並みと思っていただければ。
無論、過去に大震災が起こった、と言う分岐の世界ですので、東京都新宿区に存在しない架空の建物も、余程現実的でない限りは認めます。


さて、投下いたします


35 : アカルイミライ ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 13:47:35 Yzp6owFM0








 ――明るい未来を







.


36 : アカルイミライ ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 13:47:59 Yzp6owFM0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 たとえどんなに歴史が移り変わろうとも、この世から差別と争いがなくなる事がないと言う事を、彼女は痛切に思い知った。
時を重ね、哲学が多種多様に枝分かれし、テクノロジーが発展しても、この二つが世界から根絶される日は、永遠に来ないのだと彼女は知った。

 この世にある全てのものは、有限のものだった。
土地も、食料も、個人が生きて行くのに必要な摂取エネルギー量も。全て、その数は限られている。
世界には一つたりとも、無限大の数値を誇る実体などない。凡そすべての物質的なものは、有限のものなのだ。
彼女は、思うのだ。その有限のものを管理する為のものが今の社会であり、その有限のものを多く、或いは低い値で手に入れる為の線引きこそが、階級なのではないかと。

 レプリロイドが動く為のエネルギーは、慢性的な不足状態に陥っていた。
科学がどんなに発達しようとも、無から有を生み出す事は出来はしない。ややランクの落ちる、有を有のまま保つ技術も、かなり難しい。
有限のエネルギーを長く保たせる、最も簡単で、それでいて即時的に効果の表れる手法とは、とどのつまり何か? 
それは、そのエネルギーを摂取して活動する存在の総数を、減らす事であった。

 英雄・エックスが築き上げた理想郷、ネオ・アルカディアは、エックスを頂点とする事実上の専制君主制の国であった。
過去に勃発した大戦争により疲弊した人間達の為の楽園を築こうと言う名目で築き上げたこの国は、人の為の安定した平和の供給と言う意味では、成功を納めている。
しかし、其処では、レプリロイドの権利は蔑ろにされていると言っても良かった。元々レプリロイド、つまりロボット自体は人間の為に尽くすものだ。
人よりもやや低く見られるのは仕方のない事ではあるが、エネルギー不足にアルカディアが陥ってからは、少々目に余る。
と言うのも、正常な筈のレプリロイドを、イレギュラー認定し、不要の烙印を押し、処分すると言うケースが後を絶たないからである。
迫害されたレプリロイドは、住処を追われ、穴倉の生活を送り、いつ絶えるか解らないエネルギーを恐れ、ビクビクする生活を余儀なくされている。

 ――シエルには、それが堪らなく可哀相なものに見えた。
彼女はアルカディアに所属する科学者の一人だった。黙っていれば地位も安定した生活も約束された身分でもあった。
だが、謂れもなく処分されるレプリロイドを見て、疑問に思った。イレギュラーなんかじゃないのに……狂ってなんかいないのに。
何で、彼らが消えなくてはならないのだろうか? ネオ・アルカディアに不要だからと言う理由で、どうして排斥されねばならないのか。
聞いた事がある。アルカディアと言う言葉はそのまま理想郷と言う意味なのだと。誰にとっても平和な街だからこその、アルカディアではないのか?
誰もが明るく笑って暮らせるところだからこそ、アルカディアなのではないのか……?

 シエルはアルカディアの在り方に疑問を覚え、籠から外へと飛び出した。そして、迫害されるレプリロイドの為に、レジスタンスも創設した。
だが、現実は甘くなかった。戦いは何時だって苦難と離別の連続で、芳しい結果を得られた事など、片手で数えられる程しかなかった。
アルカディアは圧倒的な補給量と戦力を保持している。にわかレジスタンス如きが、到底刃向える相手ではなかったのだ。


37 : アカルイミライ ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 13:48:18 Yzp6owFM0
 次々と破壊されて行く仲間達。先行きの不透明さに打ちひしがれる仲間達。
だから、シエルは欲していた。現状を打破してくれる、正義の……いや。より平和な世界を築く為の。
明るい未来を築いてくれる、暖かな、それでいて確かな力を持った英雄を。

 ――今シエルは、<新宿>にいた。
いつ建てられたのかも解らない、遺跡と化した建造物を調査していた時の事。遺跡の最奥に、蒼く光り輝く小さな宝石を発見したのだ。
エネルゲン水晶の類かと思い手に取るや、気付けば彼女は、異世界の<新宿>なる街へと飛ばされていたのだ。
そして、頭に刻み込まれた、聖杯の情報。如何なる願いをも叶えてくれる、万能の願望器。世界の改編すらも思うがままの、究極の神器。
それを廻って争う、聖杯戦争。彼女が此処で流血を我慢すれば――自分が生み出した偽りのXによる支配も、そして、冤罪をかけられ迫害されるレプリロイド達を。
全て等しく解決させ、本当に明るい未来を築き上げる事が、出来るのだ。

 怖くない、と言えば、嘘になる。本当は怖い。想像するだけで、身体が震える。歯の根が合わなくなる。
しかも今度の相手は、レプリロイドではない。生身の人間を相手にしなければならないのだ。恐ろしくない筈がない。

 だが、シエルは最強のカードを引き当てた。
彼女の引き当てたサーヴァントは、彼女の居た世界でも名の知れ渡った、赤き英雄。
嘗てエックスと共に、イレギュラー戦争を戦いぬいた、伝説の英雄の一人、『ゼロ』。それこそが、シエルが引いたサーヴァントなのだ!!
その強さは知っている。あのエックスと互角、或いはそれ以上の強さを持ち、戦場に現れるや鬼神のような活躍をして見せたという、最強のレプリロイド。
彼と一緒なら、本当に平和な世界を築ける、そんな気がするのだ。

 ……だがシエルは今、草むらの影に隠れ、ビクビクと怯えてその場をやり過ごそうとしていた。
ゼロの戦いぶりは凄まじい物である事、そして、実は英雄としての側面以外に、世界に混乱を齎したと言う部分がある事は、シエルは知っていた。
しかし、英雄と呼ばれるからには、絶対に高邁な魂の持ち主だと、彼女は堅く信じていたのだ。

 ――まさか、これ程までに激しく、そして、凄まじい戦いぶりを展開するとは、シエルも思わなかった。
<新宿>は戸山にある、とある大学のキャンパスの敷地内に響く、凄まじい戦響音。度々生じるフラッシュ。
あの戦い方は、何だ。あれはまるで英雄と言うよりは――――――


38 : アカルイミライ ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 13:48:32 Yzp6owFM0








 英雄と言うよりは、破壊神ではないか。







.


39 : アカルイミライ ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 13:49:31 Yzp6owFM0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 <新宿>はW大学の戸山キャンパスは今や、地獄の戦場となっていた。
舗装された地面には蜘蛛の巣めいたヒビや亀裂が生じている。深さ数m、直径十mにも及ぶクレーターの数々が幾つも生まれている。
街路樹が不細工なささくれを残して圧し折れている。かなたこなたで、メラメラと炎が燃え上がっている。
キャンパス内の学舎の一部が、倒壊を起こさぬのが不思議な程の絶妙なバランスで、廃墟と瓦礫の境界線を彷徨っている。あと少しの衝撃で、その建物は崩れ去ってしまいそうだった。

 どのような力を持った狂人が暴れれば、このような光景が産まれうるのだろうか。
正気を保った存在では到底このような、破れかぶれも甚だしい目だった破壊の光景を生み出す事はありえないだろう。
それもその筈、戸山キャンパスのこの惨状は現状、たった一人のバーサーカーによって齎されたに等しいのである。
無論、そのバーサーカーの足元で、身体を十字に四分割されて即死した魔術師と、彼が操っていたセイバーのサーヴァントによる破壊も、確かにあった。
だが彼らの破壊の傷痕を容易く塗り替え、目立たなくする程に、バーサーカーの戦いぶりは激しく、狂気染みていたのだ。

 そのバーサーカーはどちらかと言えば背丈も普通と言う他なく、身体の厚みも全くない。中肉中背と言った風情の体格だ。
威圧感の欠片も無いそんな体格や、ワインレッドのプロテクターを身体の所々に装備している事もそうだが、特に目を引くのが、女の様に長い黄金色の髪。
それが今は、キャンパス内を蕭々と吹く風に靡いていた。金色の粒子が、バーサーカーの周りの空間で煌めいているかのようだった。

 バーサーカーは夢想していた。足元で転がる魔術師が操っていた、騎士鎧を身に纏ったセイバーの事を。
強かった。それは確かだった。そして、この聖杯戦争には、そう言った存在が何体も何体も、何体も招かれているらしい。
であるならば、これをこそ止めるのが、自分の使命だとバーサーカーは堅く信じていた。
終る事無く続いていた百年戦争、後に妖精戦争と言われていた戦争を終結させた自分ならば、それが出来る。
このバーサーカーは、聖杯戦争を止める事をこそ義務と考えていた。それこそが、英雄の――救世主の役目であろう。

 <新宿>の夜空を、赤い英雄が見上げた。疎らに輝く星の中に、月が黄色に明けく輝いていた。
月に、星に。吠えるようにして、英雄は雄叫びを上げた。セイバーを切り裂き、そのマスターを葬った勝鬨の意味合いも、あったのかも知れない


40 : アカルイミライ ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 13:49:54 Yzp6owFM0





                               「――我はメシアなり!!」





 爆発するような哄笑がその名乗りの後に上がった。
空気が震える、炎が揺らぐ。倒壊しかかった建物が、その躁病患者が上げるみたいな笑い声に呼応し、崩れ去る。天地が引っくり返るような轟音が、世界に響き渡る。

 バーサーカーは確かに百年戦争を終わらせたジャンヌ・ダルクではあった。そう言った意味では間違いなく英雄と呼ばれるに相応しい存在でもあった。
しかし彼は、妖精戦争と呼ばれるその戦争の終結の為に、何千何万、いや、何百万と言う命を犠牲にさせた、血塗られた救世主だった。
何よりも彼の魂は、本物の赤い英雄の魂では断じて有り得なかった。その身体は、赤い英雄の肉体そのものだ。

 だが、彼の中に宿る魂は、邪悪の権化の男が生み出した、破壊と死の権化。バーサーカーには、本物の英雄が持ち得るヒロイズムが、備わっていなかった。
彼は魂こそ偽物であったが、肉体だけは本物の英雄のそれだった。しかし、それでは同じ名前の存在が世に二人といる事になる。
それでは、紛らわしい。故に、区別する必要があるだろう。本物の英雄の魂を持つ者を始まりや起源を意味すると言う点で、ゼロと名付けるのであれば。
このバーサーカーは、終わりや終局を意味すると言う点で、きっとこう呼ばれるべきである。

 ――『オメガ』、と。


41 : アカルイミライ ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 13:50:21 Yzp6owFM0




【クラス】

バーサーカー

【真名】

オメガ@ロックマンゼロ3

【ステータス】

筋力B+ 耐久C+ 敏捷A 魔力E- 幸運E- 宝具A

【属性】

秩序・狂

【クラススキル】

狂化:A-
狂化、と言うよりはある種の精神汚染に近い。ある科学者の手によって、破壊と殺戮のみに傾倒するよう思考回路を弄られている。
ある程度の意思疎通は可能とするが、この狂化にはステータスの向上効果はない上に、思考も上記の感情で固定化されている。
実質的にコミュニケーションを成立させる事は困難、ないし不可能である。バーサーカーは自分の事を救世主(メシア)だと言って憚らない。

【保有スキル】

信仰の加護(自身):EX
一つの価値観に殉じた者のみが持つスキル。加護とはいうが、そもそも崇めているのが神性すらない自分自身である故に、最高存在からの恩恵はない。
あるのは信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。バーサーカーはある科学者の手によって、思考回路をその科学者にとって都合のいいように弄られている。
バーサーカーは自分自身の事を、長らく続いた戦争を終結させた救世主であり、そして聖杯戦争をもこの手で終結させうる英雄であると、本気で信じている。

蛮勇:A
無謀な勇気。同ランクの勇猛効果に加え、格闘ダメージを大幅に向上させるが、視野が狭まり冷静さ・大局的な判断力がダウンする。
なおバーサーカーではなく、本物の『英雄』が有するスキルは、蛮勇ではなく『勇猛』である

無窮の武練:B
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。 心技体の合一により、いかなる精神的・地形的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。
但しバーサーカーの魂は、本物の英雄の魂ではなく紛い物の魂である為、本来よりランクが下がっている。

真名混濁:B
自身の真名や過去を暴くスキルや魔術、宝具をかけられた時、真名の看破率を著しく下げるスキル。
バーサーカーの身体は『ゼロ』と呼ばれるレプリロイドのボディであるが、その魂は彼の物ではないと言うイレギュラー性に起因する。

【宝具】

『抜殻(オリジナル・ゼロ・ボディ)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:自身
バーサーカーのボディである、ゼロと呼ばれる伝説のレプリロイドのオリジナルのボディが宝具となったもの。つまり、バーサーカー自身が宝具である。
初めて製造された時から数百年経過しても尚、レプリロイドのカタログスペックの最先端を往き、その時代で最も優れた科学者達ですら、
解析する事すら不可能と言わせしめた程ブラックボックスの多いゼロのボディは、悪の科学者Dr.バイルによって、その性能を可能な限り高められている。
バーサーカーとなった影響で精度こそやや落ちているが、ゼロをゼロ足らしめていた、相手の必殺技をラーニングする機能は健在。
相手の必殺技や体術をコピーする事が出来る。格闘術やレーザーブレードを用いた剣術の高さは当然の事、銃による遠隔攻撃に、オーラめいたエネルギーを射出したりと、攻撃方法は多岐にわたり、その全てが強烈。

 但し、正真正銘本物の、イレギュラーハンターだった時代のゼロの魂が持っていた、代えがたい戦闘経験や戦闘に対する慎重さと言うものが、
バーサーカーからは失われている。兎に角攻めると言う行為しか彼には頭にない。だがその単純に攻め続けると言う行為こそが、何よりも恐ろしいのである。

【weapon】

無銘・セイバー:
柄からエネルギーを刃状に発生させて敵を斬る剣状の武器。エネルギーを収束させる事で、衝撃波を生み、地面を容易く叩き割る程の威力を発揮する。
凄まじい切れ味を誇る武器ではあるが、宝具ではない。伝説の英雄・ゼロの用いた、十の光る武器の一つ、ゼットセイバーとは別のもの。

無銘・バスター:
遠隔攻撃用のエネルギー銃。強烈な威力をこれも誇るが、あくまでも副武装の為、セイバーに比べて威力は落ちる
但し、エネルギーをチャージさせ、発射した場合には、この限りではない


42 : アカルイミライ ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 13:50:38 Yzp6owFM0
【人物背景】

彼は確かに、長きに渡る戦争を終結させた。
地上の人類の6割、レプリロイドの9割と引き換えに、だが。

【サーヴァントとしての願い】

救世主(メシア)として、聖杯戦争を終わらせる。その為には、『手段を問わない』




【マスター】

シエル@ロックマンゼロ

【マスターとしての願い】

全てのレプリロイドと人間が笑って暮らせる世界の実現。

【weapon】

【能力・技能】

非常に優れた科学者であり、レプリロイドの開発者。
相応の科学技術の整った研究施設さえあれば、それらの開発や、新しいエネルギー理論の構築すらも可能な程の天才。
また、逃げだしたレプリロイド達の指揮官を務めていた事もあり、指揮能力にも非常に長ける。
但し本質的には極々普通の少女である為、身体能力も魔力の量も、期待は出来ない。

【人物背景】

優秀な科学者を遺伝子操作で生み出すという計画の下、ネオ・アルカディアが生み出した人造の科学者とも言うべき存在。
ネオ・アルカディアが当初予定していた目標通り、彼女は優秀な成果を収め、遂には伝説の英雄であるエックスのコピーを制作する事に成功する。
しかし、エックスの代行として自身が製作したコピーエックスのせいで、多くの無実のレプリロイドが処分されてしまった事に心を痛め、ネオ・アルカディアから離反。
以降は処分が不可避のレプリロイド達の指揮官となり、レジスタンス活動を続けていたのだが……。

今回は封印されていたゼロを解き放つ数週間前の時間軸から参戦。彼女のパートナーであるサイバーエルフ、パッシィは存在しない。

【方針】

ゼロ(と認識しているオメガ)を頼る


43 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 13:50:49 Yzp6owFM0
投下終了です


44 : 名無しさん :2015/07/04(土) 14:12:02 fk3WGQeU0
乙です


45 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:53:04 Yzp6owFM0
投下いたします


46 : 遠坂凛&バーサーカー ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:53:43 Yzp6owFM0
 一般人が遠坂凛と言う少女を比喩する言葉を探した場合、一番相応しい言葉は才色兼備だろう。
可憐な容姿、明晰な頭脳、優れた運動神経、何をやらせても卒なくこなせる多方面への才能。
それに加えて、典雅流麗たるその立ち居振る舞い。異性からの好意を一纏めにするだけでなく、同性からも憧れの対象と見做される程の、優等生であった。

 魔術師が遠坂凛と言う少女を評価した場合、天才以外の評価は下しようがないだろう。
一属性操れるのが普通、二属性も扱えれば上等な魔術師の世界にあって、五つの属性全てを平均的に扱えるアベレージ・ワンと言う才能を持った彼女は、
誰が文句を吐けようかと言う程の超一級の天才児だ。魔術回路の数も胸を張って自慢出来る程多く、家格も魔術師の世界では広く名が知れている。
遠坂凛はとどのつまり、表舞台の世界でも、一般人から見れば裏の世界と言ってもいい魔導の世界に於いても、極めて優秀な人物なのであった。

 いつか来るであろう聖杯戦争に向けて、独自のルートから宝石を仕入れていた時の事である。
遠坂の魔術師は転換、特に宝石を用いた魔術を得意とする一族。魔力を移し、溜めておくのも宝石なら、攻撃に用い、儀式の触媒とするのも宝石である。
所謂宝石魔術と呼ばれるそれを操る魔術師は兎に角宝石を掻き集めなければならない。当然タダではない。
純度の高い宝石を仕入れる以上、莫大な金が入用になる。宝石魔術を生業とする魔術師は、兎に角収入と金策の管理をしっかりとし、余計な出費を抑えねばならない。
当然遠坂凛も、その常道に外れていない。なるべくなら安く、それでいて質の高い宝石はないかと目を光らせてはいるのだが、実際そんな美味い話などある筈もなく。
結局、値段が安い宝石と言うのは、それ相応の質と純度しかないのだ、と言う当たり前の現実をまざまざと見せつけられるだけだった。……あの日までは。

 遠坂家が代々贔屓にしている『そっちの筋』の宝石商が持って来た宝石の中に、純度・質共に、今まで見た事もない程見事なサファイアで出来た鍵があったのだ。 
それの出所が気になった凛は、如何なる代物なのか宝石商に聞いて見た所、スコットランドのピトロッホリーに広がる荒野で拾ったのだそうだ。
こんな上物をただで拾うなど、何と運の良い商人であろうか。凛はこの鍵が気になった。このサファイア、ただクオリティが高いだけではない。
凛が目を付けたその時点で、既に莫大な魔力を有していたのだ。さぞや高い値段で売り付けるつもりなのだろうと思い、商人に値段を聞いて見た所、これが安い。
正味数千万、事によっては億の額は堅い、このサファイアで出来た鍵を、商人は百万ぽっちの値段で捌こうとしていたのだ。
本人曰く、宝石商の勘が、この鍵は不吉極まりない代物だと警鐘を鳴らしているのだとか。凛は構わずこの宝石に食いついた。
これだけの代物、今自分が抑えておかねば、宝石魔術を専門とする魔術師でなくとも手を伸ばすのは自明の理。
それに魔術師が、曰くつきの代物を怖れるなど笑止千万。宝石商からその鍵を即決価格で買い取り、我が物としたのである。

 ――神が遠坂凛と言う少女に対して課した運命を言い表した場合、一番相応しい言葉は『過酷』だろう。
彼女が手にしたその鍵こそが、数か月後に冬木の街にて起こる聖杯戦争とは違う、別の世界の聖杯戦争への片道切符である事を知っていたのならば。
凛はその宝石鍵をツンと無視したであろう。宝石商がスコットランドの荒野で拾ったその宝石の名前は、サファイアで出来た宝石細工ではなく契約者の鍵。
遠坂凛が生きていた世界とは別の世界へと赴く為の、彼が商っていた宝石の正体なのであった。


.


47 : 遠坂凛&バーサーカー ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:54:05 Yzp6owFM0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 遠坂凛は単刀直入に言って、相当困惑していた。
一地方都市である冬木市から、日本の首都東京の新宿区……ではなく、<新宿>に何故か転送された事もそうである。
この<新宿>が凛の知る新宿区ではなく、元いた世界の新宿とは全く異なる歴史を歩んでいるという事もそうである。
目玉が飛び出る程に地価の高い神楽坂の一等地に、冬木の街に居を構えていた遠坂邸が寸分たがわぬ外観と内装で建てられていた事もそうである。

 だが一番の当惑の原因は、恐らくは並行世界の新宿区と思しきこの場所で、聖杯戦争が開催されていると言う事実の一点に他ならなかった。
脳内に刻み込まれた聖杯戦争への知識及び、その舞台となる<新宿>の知識が、凛の脳髄に刻まれていた。
特に聖杯戦争に関する知識は、冬木で学んだそれとほぼ同じそれ。聖杯戦争に参加し、聖杯を勝ち取る事は父の代からの遠坂の悲願だ
それに対して参加する事自体に、不満はない。――問題は、冬木の聖杯戦争ではなく<新宿>の聖杯戦争である事だ。
つまりそれは、今までシミュレートして来た、冬木での聖杯戦争でどう立ち回るかと言う計画が、全て水泡に帰してしまった、と言う事を意味する。

 聖杯戦争において聖杯を勝ち取ったり、聖杯を例え取れなくても無事生き残ったりする為には、サーヴァントの優秀さが明暗を分けると言っても過言ではない。
無論マスター自体の優秀さも勘案されるべき事柄なのではあるが、しかしそれは、優れたサーヴァントを引き当てているか、と言う事実の前では瑣末な事。
例え<新宿>で行われる聖杯戦争であろうが、サーヴァントを宛がわれる、と言う根幹は全く変わらない。つまりここでも、サーヴァントの強さは最も大きいファクター。
遠坂凛は優れた魔術師である。そんな彼女の下へとやって来るサーヴァントだ。きっと優秀な存在に違いない。……違いない。

「えーっと、貴女が私のサーヴァントですか?」

「私はマスター!!」

「そうでしたか」

 「私は遠坂凛よ……私は優秀な魔術師……、だから私の引き当てたサーヴァントは優秀なのよ優秀……」。
恐い位の勢いで心の中でそう念じ、自己暗示する凛であったが、とてもではないが目の前にいるサーヴァントが、優れたサーヴァントである風には、見えなかった。

 アイロンなど全くかけていないのだろう、よれよれの礼服を着用した、百九十は堅いであろう大柄で、骨太の体格の男だった。
彫りの深い端正な顔立ちをした男だが、切れ長の瞳は何処か眠たげで、間抜けな印象を凛に与える。
床屋や美容院などで髪を切らず、自分で散髪しているのだろう。男の髪は、一目見て解る、左右不均等でかっこの悪い髪型であった。

 とてもではないが優れたサーヴァントには……いや、訂正しよう。
優れている風には、見えない。見えないのだが同時に、この男を見ていると凛は、底知れぬ不安感に覆われるのだ。
何が面白いのかは知らないが、淡い笑みを浮かべて此方を見下ろすこの大男は、ひょっとしたら引き当ててはいけない存在だったのでは、と。凛の直感は告げていた。

「……で、よ。貴方のクラスを教えてくれるかしら?」

 強いサーヴァントを引き当てるのは勿論の事だが、それと同じ位に大事なのが、そのサーヴァントのクラスである。
呼び出されたクラスによって、聖杯戦争とどう付き合って行くかが大きく変わって行く。
ただ単に強いサーヴァントを引き当てて、片っ端から喧嘩を売って行くと言うスタイルでは駄目なのだ。そのクラスにあった運用法を無視すれば、最悪格下にすら不覚を取りかねないのだから。

「確か私は、バーサーカーでしたか」

 最悪だ、と凛は思った。バーサーカー、つまりは狂戦士のクラスだ。
あわよくば最優のクラスであるセイバー、妥協点でアーチャー・ランサー、ライダーが欲しかった凛にとっては、頭の痛くなる現実である。
バーサーカーとは理性や言語能力を失わせる事で、弱い英霊を強化する為のクラス。これまでの聖杯戦争でバーサーカーを引き当てた魔術師は、
結局は彼らを御し切れずに自滅してしまったケースが殆どである。こう言う過去の事例を知っていたからこそ、凛は最優のクラスであるセイバーが――


48 : 遠坂凛&バーサーカー ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:54:23 Yzp6owFM0
「……あれ?」

 このバーサーカーとどうやって聖杯戦争を付き合って行くか、右脳左脳をフルスロットルで回転させていた凛であったが、ふと気づいたのだ。

「貴方、何で喋れてるの?」

 バーサーカーとは先述したように理性と言語能力を引き換えに強さを得るクラスなのである。
故に、通常彼らはマスターとコミュニケーションが取れない傾向にある。なのに、何故このバーサーカーは、言葉を喋れて、理性の喪失が全くないのか?

「そう言う事もあるのではないのでしょうかな?」

 考える素振りも全く見せずに、バーサーカーが返事をする。
考えるのが面倒くさいだけなのか、それとも理由を隠しているのか。……もしかすると、本当に自分でも解っていないのか。
それは凛には解らない。が、今はそれでも良いかと考える事にした。引き当てたサーヴァントはバーサーカーだが、言葉を交わせるとは言うのは大きいアドバンテージ。
その一点だけでも、凛は良しとする事にした。

「それで、バーサーカー。貴方の真名を教えてくれるかしら」

「真名……あぁ、名前の事ですな。黒贄礼太郎です」

 先ず思ったのは、日本の英霊なのかと言う事であった。
脳裏に刻まれた聖杯戦争への知識によると、宛がわれるサーヴァントは洋の東西の英雄や猛将と言った存在だけでなく、別の世界の強者も呼ばれうるらしい。
凛の引き当てたこの黒贄と言う男も、その類なのであろう。

「黒贄……ね。解ったわ。私の名前は遠坂凛。苗字と名前、好きな方で呼んでも良いけど、相手のサーヴァントの前ではマスターで通して頂戴」

「ほほう、遠坂ですか」

「あれ、もしかして……遠坂の家名って、異世界にも轟き渡ってたりとか?」

「いえ、初耳ですな」

 思わず前のめりにずっこけると言う、一昔前のコミック的表現を体現してしまいそうになる凛。
期待させる様な口ぶりしないでよ、とジト目で黒贄の事を睨めつけるが、彼は意にも介していなかった。

「取り敢えず、バーサーカー。早速だけれども、今後の事を話し合うわよ」

「遠坂さん、私の名前はバーサーカーではなく黒贄礼太郎です」

「馬鹿ね、聖杯戦争ではクラス名で呼び合うのが当たり前なのよ。貴方の真名が露見して、弱点が知れ渡ったらコトでしょ?」

「ははあ、そう言うものなのですか」

 ――もしかして、不安の正体とはこれか? と勘繰る凛。
このサーヴァント、聖杯戦争の戦略上まず考えられる事由について、あまりにも無知である。
幾らなんでもこの程度の事すら考えられないようでは、自分のサーヴァントとしては余りにも不出来である。凛は試しに、黒贄に対して質問を投げ掛けようとする。

「バーサーカー」

「遠坂さん、私の名前は黒贄ですよ」

「……黒贄」

 変な所で律儀な男である。自分の調子が狂うのを凛は感じた。

「聖杯戦争の目的とか、貴方、しっかりと解ってるのよね?」

「もちろん。其処は勉強しましたから」

「流石にその点は大丈夫よね」

「ええ、殺人をしても問題がないなんて、素晴らしいですよね。殺人鬼魂が疼きますよ。戦争、と言う名前が少々アレですが、規模から言って戦争と言うよりは小競り合いのような物ですし、まぁ良しとしましょう」

「んんん〜?????」

 致命的な話の噛み合わなさに、凛は間抜けみたいな表情を作ってしまう。
同じ国の言葉を話し、難しい言葉も言い回しも用いていないのに、何故だろう。言葉のキャッチボールが全く出来ていないと言う感触が、否めないのだ。
急速に嫌な予感を感じ取った凛は、恐る恐る口にして見る。


49 : 遠坂凛&バーサーカー ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:54:47 Yzp6owFM0
「バーサ……黒贄?」

「なんでしょう」

 薄い微笑みを崩しもせずに、黒贄が訊ねる。

「聖杯戦争が何を目的としているのかは、解るわよね? 貴方の言う通り、人を殺す事も当然あるけれど、最大の目的は聖杯を手に入れる事よ?」

「成程、聖杯ですか」

「それ位は流石に解るわよね」

「いえ、初耳でした」

 ――今度こそ前のめりにずっこけた。
「おや、立ち眩みですかな?」、凛が今直面している、事態の深刻さとは裏腹に、黒贄は実に間の抜けた声色で凛に声を掛けて来た。

「せ、聖杯も知らないサーヴァントって……」

 よろよろと立ち上がり、近くにあった椅子に腰かけ、何とか言葉を紡ぐ凛。
そもそもサーヴァントと言うものは、聖杯に何か願うところがあるか、現世で何かしら成したい事があるからこそ、聖杯戦争の舞台に呼ばれるものなのではないのか?
このサーヴァントが聖杯戦争のセオリーから外れた存在なのか、はたまた、<新宿>の聖杯戦争そのものが異常なのか。
どちらにせよ、冬木で学んできた聖杯戦争の常識は、一部通用しない所がある、と見た方が良いだろうと凛は結論を下した。今怒鳴るには、尚早が過ぎる。

「黒贄……、聖杯って言うのは、どんな願いでも叶えてくれる器の事よ」

「ははあ、凄いものもあるのですねぇ」

「……欲しくないの?」

 黒贄の言葉には、聖杯に対する執着心がこれっぽちも感じられない。そういうものもあるんだなぁ、程度の感慨しか受け取る事が出来ないのだ。

「逆に問いますが、凛さんは聖杯が欲しいのですかな?」

「えぇ。聖杯を手に入れる事は、遠坂の悲願だから。だからその為には、貴方の力が必要なの」

「ふうむ、それはつまり、依頼と言う事で宜しいのですね?」

「そうなるわね」

「解りました。では、依頼料の方を……」 

「お金取るの!?」

 思いもよらない提案に、およそ優雅を家訓とする遠坂家の女性らしからぬ声を上げてしまう。 
何かしらの生贄や代償、供物を求めるサーヴァントと言うものも、ひょっとしたら呼び出した存在次第ではありうるかもしれない。
しかし、現代に流通している貨幣や硬貨となると、話は別だ。余りにも価値が違い過ぎる。もしかして本当に、凛が生きている時代と、ほぼ同じ時代の英霊なのかも知れない。

「探偵ですからな、ただで仕事は受けませんよ」

「探偵だったんだ……」

 正直、見えない。ボケっとしていてそうで抜け目も隙もない、と言うのが世間一般の探偵のイメージであるが、この男は正直隙だらけだ。
サーヴァントではあるが、凛ですら、黒贄がちょっと向こうを向いている間に殺せそうな、弛緩した空気しかこの男は醸し出していなかった。

「それで……いくら払えば良いのかしら? 二百万円で足りるかしら」

「ではそれで行きましょう」

「(いいんだ……)」

 聖杯戦争の危険性を考えたら、二百万円どころか、遠坂家の全財産のみならず自分の身体すら要求されるものかと凛は危惧したが、そんな事はなかったらしい。
尤も、一千万以上の額を要求されたら、その瞬間凛は、令呪を用いて黒贄を御していたのだが。
二百万。決して安い金ではないが、凛がいつも用意している宝石の値段に比べればまだ許容出来るのであった。


50 : 遠坂凛&バーサーカー ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:55:05 Yzp6owFM0
「報酬の方は後払いとかで、大丈夫?」

「結構ですよ。そう言った依頼人も多いですから。では改めて、依頼の方は聖杯、と言う物の捜索で、宜しいですかな?」

「えぇ、問題ないわ」

「了解しました。それでは、この箱の中から選んでください」

 言うと黒贄は、何処からか立方体の箱を取り出して、凛の前に差し出した。箱の上面には、丸い穴が空いている。余裕を持って手を入れられる周径の穴だった。
穴を覗いてみると、折り畳まれた紙片が幾つも入っており、まるでくじ箱のようだと凛は思った。
いつの間にこれを取り出したのか、と一瞬疑問に思ったが、相手はサーヴァントである。それ位の不思議は、まだまだ許容範囲だった。
言われた通り穴の中に手を入れ込み、適当に紙片を一つ摘まみ、それを開いてみる。9番、と言う数字が書かれていた。

「ほう、中々くじ運がよろしいですな」

「あら、そう?」

「えぇ、そうですよ」

 黒贄はそう言って、右腕を高々と掲げると、彼の右手の周りの空間が、水のように揺らぎ始め、そして、歪み始める。
空間の変化からゼロカンマ三秒程経過した後、黒贄の右手に、ある物が握られていた。
やや湾曲した薄い刀身を持った、刃渡り五十cm程の剣。峰の部分はギザギザとした鋸状で、切ると言う行為と引き切ると言う行為の二つを行える代物だった。
凛は知らないが、この剣はマチェットと言い、中南米の国民が農作業や山作業の時に使う山刀なのである。

 突如としてこんな物を出されて驚く凛だったが、よくよく考えればサーヴァントが武器を持つのは当然の事ではないか。
聖杯戦争はサーヴァントを呼び出した時点で、既に始まっているものと見るのが道理。
であるならば、自分のサーヴァントである黒贄が、武器を持ち、警戒に当たるのは寧ろ良い事であろう。
イレギュラーな事態が連続しているとは言え、結局<新宿>の聖杯戦争も、聖杯戦争の基本からブレていない。
凛は聖杯戦争に関する事柄について勉強し、この日の為に魔術の腕を磨く鍛錬をサボった事など殆どなく、その腕前も実に見事な程にまで成長した。
これらの点において凛は、他参加者より一歩所か何十歩も先んでた所にいると言っても良いのだ。
理はまだ此方にある。例え引き当てた存在がバーサーカー、しかもやや常識知らずのサーヴァントとは言え、こちらの優位性がまだ揺らいだ訳じゃないのだと。凛は思い直したのだった。

「では、調査に行きましょうか、凛さん」

「調査って……聖杯の? 聖杯は他のサーヴァントを全員倒さないと……」

 と、此処まで言って、考えた。どうせ黒贄に言った所で無駄だろうと。
それに今の凛は、聖杯の調査など無駄だと解っていても、遠坂邸の外を歩いてみたくなったのだ。
理由は単純明快。彼女は<新宿>の地理に全く疎いからである。見知った冬木の街ならばいざ知らず、今まで足も踏み入れた事のない東京。
しかも、本来の歴史とは異なる歴史を歩んでいる<新宿>で行われる聖杯戦争なのだ。万難は、可能な限り排しておきたい。
土地鑑が弱かった為に負けました、など、笑い話にもなりはしない。だからせめて、自分の家の周りだけでも、見ておきたかったのだ。

「――いえ、解ったわ黒贄。一緒に調査に付き合うわ」

「解りました。それでは」

 言って黒贄は霊体化を行い、物質的な肉体を持たなくなった。
このような機会で東京の街に訪れる事になろうとは凛も思いもしなかったが、この現実、最早受け入れる他はなかった。
これから行われる戦いが凛の知る聖杯戦争であるのならば――彼女も手を抜かない。開催時期が早まり、開催地が違ってしまっただけだと思う事にした。

 ツカツカと歩いて行き、黒贄と今まで話していた遠坂邸のリビングを後にする。
――遠坂凛の安息は、この瞬間に終わりを告げた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


51 : 遠坂凛&バーサーカー ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:55:27 Yzp6owFM0
 靴を履き、外に出る。雲一つとない、晴れ模様。洗濯するにも散歩をするにも打って付けの天気である。
この辺りに住む人間は経済的にも時間的にもゆとりのある人物が多いらしく、普通の人間であれば仕事をしている時間であるのに、のんびりと散歩をしている風の、身なりの良い中年や老年の人物が、道を歩いている。

 凛の視界には、見るからに家賃の高そうな、モダン風のマンションが建ち並ぶ光景が広がっていた。
凛が住んでいた冬木市では、少し見られない風景であった。これを見ると、自分は本当に冬木の街とは違う、正真正銘本物の都会にやって来たのだと実感する。
街並みが違う。空気が違う。道路が違う。道行く人が違う。夢でもなければ、幻でもなし。此処は本当に、<新宿>であった。

「こんな状況でなければ……」

 ゆっくりと街を観光出来たのに、と、続けようとした時であった。
霊体化した状態で凛の隣で随伴していた黒贄が、いきなり霊体化を解き始めた。
サーヴァントを聖杯戦争の参加者は元より、聖杯戦争に全く関係のない人物――<新宿>ではNPCと言うらしいが――にすら、見られる事は得策ではない。
理由は単純。目立つからである。特に聖杯戦争のマスター達には、なるべくならその存在を秘匿しておかねばならない。
黒贄の姿は、NPCには「自分の連れ合い」と言う言い訳が通用するかもしれないが、マスターやサーヴァントにはそうも行かない。
「勝手に霊体化を解くな」、と叱りつけようとしたその時だった。

「すいませ〜ん」

 と、何とも気の抜けるような、本当にサーヴァントかと疑いたくなるような声で、黒贄は凛ではない、道路を行く赤の他人に声を掛けたのだ。

「はい?」

 黒贄の声に反応したのは、いかにも人のよさそうな見た目をした、中年の女性であった。
一目見て、聖杯戦争とは何の繋がりもないと解る人物。平和な日常の中に生きている事がありありと見て取れる、ごく普通の一般人であった。

「この馬――」

 鹿、と凛が続けようとした、その時であった。

「聖杯と言う物をご存知でしょうか?」

 言いながら黒贄は、右手に持ったマチェットを垂直に振り下ろした。
マチェットの刀身は中年の女性の脳天を裂き、そのまま臍まで、彼女の服ごと裂いた。
チーズの様に身体を裂かれた中年女性は、桶をひっくり返した様に血液をたばしらせる。アスファルトを血液の褪紅色が赤く染め上げる。中年女性が前のめりに倒れた。即死だった。

「な、な……?」

 パクパクと、酸欠気味の金魚の様に口を開閉させながら、凛が言葉にもならない言葉を呟く。
今の彼女は、遠阪家の家訓たる『常に余裕をもって優雅たれ』から、全くもって程遠い、間抜けな姿をしていた。

「ありゃりゃ」

 自らが成した凶行の産物を見下ろしながら、黒贄は、やってしまったと言う風で口にする。其処に、罪悪感など欠片もなかった。
彼はすぐに、道の脇に止めてあったセダン車へと近づいて行く。運転手であろう、年の若い、セールスマン風の男は、黒贄の凶行を目の当たりにしていたらしい。目を丸くし、黒贄と、女性の死体に釘付けであった。

「すいません、聖杯をご存知でしょうか?」

 言って黒贄が、マチェットを思いっきり突きだす。
サイドガラスを濡れた薄氷みたいに容易く突き破り、マチェットの剣尖がセールスマン風の男の歯突き破り、そのままの勢いで喉元を貫く。
うなじまで、マチェットの剣身は突き出ていた。それを引き抜き黒贄は、凍り付いたようにその場から動けずにいる四人組へと近づいて行く。
見るからに学生風の四人だった。<新宿>の大学と言えば……この辺りで有名なのはW大だ。恐らくは講義をサボってこの辺りをぶらついていたのだろう。不運だった、としか言いようがない。

「もしもし、聖杯と言う物を――」

 今度はご存知とすら言わなかった。既に右腕を横薙ぎに振るっていた。一緒にいた、如何にも今時の服装と髪型をした男の首が跳ね飛ばされ、宙を舞う。
返す刀で一緒に歩いていた女子大生の頬の真ん中より上が地面に落ちた。正確無比に黒贄が、眼鏡をかけた男の心臓をマチェットで貫き、
引き抜いて直に、山刀を袈裟懸けに振り下ろしてやや肥満気味の男の右肩から左腰までを斬った。朱色の線が剣の通った軌道と同じ位置に刻まれており、その線に沿って肥満気味の男の身体がズレて、道路に倒れ込んだ。

「うわぁ殺人鬼!!」

 道行く人の一人が漸く、叫び声を上げた。年の割にはカジュアルで、若々しい恰好をした中年の男だった。


52 : 遠坂凛&バーサーカー ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:56:23 Yzp6owFM0
「ラララ聖杯さ〜ん」

 黒贄は風のような速度で、先程叫んだ中年の所へと接近し、山刀で腹を裂いた。「うぐぅ」と言って中年は倒れ伏した。
――忽ち、平和な一時で満ち満ちていた神楽坂の往来は、蜂の巣を突いたような大パニックに陥った。
悲鳴や金切り声が空気を切り裂く。「警察に連絡しろ!!」と言う至極尤もな怒号が上がる。倒けつ転びつと言った体で、その場から皆逃げようとする。

「ああ〜聖杯さ〜ん、貴方は〜、ど〜こ〜に〜」

 最早聖杯の所在を聞く気すら、この男にはなかった。如何にも即興で作ったような歌を口ずさみながら、逃げ惑う人々の下へと凄まじい速度で接近して行く。
マチェットを振り下ろす、セールスマン風の女性の身体が頭頂部から股間まで真っ二つになる。マチェットを横薙ぎに振るう、少年の首が刎ね飛んだ。
マチェットを突き差す。杖を突いて歩いていた老婆の胸部に深々とマチェットが突き刺さる。マチェットの柄で殴る、バイクに乗って逃げようとしていた男のヘルメットを突き破り、柄が何cmも頭蓋にめり込んだ。

 凛が一呼吸している間に、平均して一人或いは二人の人間が殺されて行く。
遠坂邸の建てられた通りにいた人間を殺し尽した黒贄は、なおも飽き足らないのか、大通りの方へと残像が残る程の速度で走っていった。
凛がその事に気付いたのは、黒贄の黒い残像が消えかけて行くのとほぼ同時であった。遥か遠くで、凄まじい怒声と悲鳴、そして自動車などのクラクションが鳴り響いている。

 ――拙い拙い拙い拙い拙いッ!!
心臓が早鐘を打つ、大脳がモーターみたいに空回りする。冷たく粘ついた汗が背中をじっとりと濡らし、胃に石でも詰められたかのように呼吸が苦しい。
どうしてこうなっている何でこうなっている!? この後どうしたら良いのか、焦りながら凛は考える。
十秒程経過して、凛はどうしたらよいのか思い付いた。やはり、聖杯戦争の事柄について学んでおいて良かった。決して此処に来るまでの日々は無駄ではなかったのだ。
急いで凛は遠坂邸へと駆け込み、リビングへとドタドタ足を運び、自らの右手に刻まれた令呪に力を込めて祈る。

「令呪をもって命ずる――」

 言った瞬間、凛の令呪が激しく輝く。それは、漢字の『狂』の字を模した令呪。『けものへん』の二本の横線部分が、爛々と輝いていた。

「大人しくなった後、此処へ来なさいッ!! バーサーカーッ!!」

 ありったけの怒りを込めてそう叫ぶと、凛の前に黒贄が姿を現した。
呆けた表情を浮かべながら、「ありゃ」と言って周りを見渡す黒贄の身体は、髪の毛から靴先に至るまで、赤くない部分がない程に血で濡れている。
髪の毛と、血を吸った礼服から、ポタポタと血液が滴っている。これらは全て、返り血であろう。であるのに、血液を満たしたプールで泳いできたかのようだった。
何人の返り血を浴びれば、此処まで真っ赤になれるのか。

「おや、これは凛さん」

 軽く会釈する黒贄。血液は今もぽたぽた滴っている。
爪が割れるのではないかと言う程の勢いで両拳を固く握りながら、凛はブルブルと震えていた。
恐怖から来る震えではない。鬼相の刻まれた表情を見れば解る。彼女は――嘗てない程の勢いで憤っていた。

「馬鹿ああああああぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 喉から稲妻が迸ったのでは、と思う程の声量で凛は叫んだ。肺に溜まった空気を全て、この一言を発するのに費やした。
室内の調度品や窓ガラスがビリビリと小刻みに振動する。人は大声で、物を揺らす事が出来るのだ。

「アンタ何やってるの!? どんな悪党だって、普通は目立つだろうなって考えて、真っ昼間の往来で人なんか殺さないでしょ!? そんな事も考えられなかったの!?」

「いやぁ申し訳ございません。つい発作的に、八津崎市にいた頃のような振る舞いをしてしまいました」

「やつざき市ぃ? そんな冗談みたいな街があってたまるか!!」

「はぁ」

 過去此処まで、暖簾に腕押し、と言う諺を体現した存在がいただろうか。
目の前の男は凛の烈火の如き怒気を浴びても、春風駘蕩とした態度を崩しもせず、飄々と、薄い笑みを浮かべるだけであった。

「ああ〜もう最悪……聖杯戦争に備えて、抜かりのない聖杯獲得の計画をシミュレートして来たのに、一瞬で台無しじゃない……」


53 : 遠坂凛&バーサーカー ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:56:48 Yzp6owFM0
 頭を抱えて唸り出す遠坂凛。
この家にテレビがないのが悔やまれる。もしもこの家にテレビがあり、適当にチャンネルを回したのならば、間違いなく黒贄の凶行について緊急特番が組まれ、
放送中の番組を中止してまで、彼の犯した大殺戮を報道している事であろう。
目立たない、水面下でやるのが鉄則の聖杯戦争、その一端が事もあろうに近代メディアの俎上に上がるのだ。これ程最悪な状況は、先ずないであろう。

「まあいいじゃないですか凛さん、私は楽しかったですよ」

「私が楽しくないの!!」

 本当に、人の神経を逆なでする才能は天下一である。
凛は自分が、令呪を使ってこのサーヴァントに自殺を敢行させないでいる自らの我慢強さに、我ながら心底驚いていた。

「第一、聖杯の事を赤の他人に聞くのならまだしも、何で其処で手が出るのよ!! アンタ本当に生前は探偵だったんでしょうね!?」

「すいません、私は探偵は探偵でも、世界に一人しか存在しない特別な推理を得意とする探偵ですので」

「……それって?」

 じとついた瞳で黒贄を睨めつけながら、凛が口にする。

「私は『殺人鬼探偵』です」

 ――余りの言葉に凛は思わず仰向けにぶっ倒れそうになる。いや、と言うより、後ろに倒れた。仰向けにならなかったのは、丁度その位置に椅子があったからであった。
ストレスやら頭痛やら展望の真っ暗さやら初手でサーヴァントがやらかしたと言う絶望感やら。もう意識はブラックアウト寸前。

 ――お父様ごめんなさい、私遠坂凛は聖杯を勝ち取る以前にもう駄目かもしれません――

 血を滴らせる黒贄礼太郎を、椅子に座った状態で見上げながら凛はそんな事を考えた。
家の外でけたたましく鳴り響く、パトカーのサイレン音すらも、今の凛には遠い音なのであった。


54 : 遠坂凛&バーサーカー ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:57:36 Yzp6owFM0




【クラス】

バーサーカー

【真名】

黒贄礼太郎@殺人鬼探偵

【ステータス】

筋力A+++ 耐久EX 敏捷A+ 魔力E- 幸運E- 宝具D

【属性】

混沌・中庸

【クラススキル】

狂化:EX
バーサーカーでありながら意思の疎通も言葉によるコミュニケーションも可能。
但しバーサーカーの思考は『殺す』と言う思考のみに特化されており、損得勘定など一切無視して、ありとあらゆる人間を殺害してしまう。
状況次第ではマスターすらも殺害対象になり、実質上このバーサーカーを制御する事は、不可能に近い。

【保有スキル】

不死
不死。葬る手段がない。
首を斬られようが体中を燃やされようが、身体の半分近くをひき肉にされてもライフル銃で胸を撃たれても、バーサーカーは死ぬ事がなかった。
傷の再生には魔力を消費し、死亡からの復活となると、莫大な魔力を消費する。バーサーカーの特技は、誰も知らない所でこっそり復活である。

戦闘続行:EX
往生際が悪すぎる、と言うより往生際がない。どんなに身体をズタズタにしても、首を切断しようとも、戦闘を続けようとする。
四肢の一部が極限まで炭化したり、骨だけの状態になり神経や筋肉がない状態でも、十全の状態で戦闘が可能と言う怪物。
足止め程度の攻撃では、バーサーカーの殺害意欲は先ず削ぐ事は不可能。

怪力:A+++
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性……なのだが、バーサーカーは何故か人間なのに有している。
使用する事で筋力を向上させる。バーサーカーの場合は発動した場合相手を殺すか、その相手に逃げられでもしない限り、永続的に筋力が向上し続ける。
更にバーサーカーは、怪力スキルを筋力だけでなく敏捷にも適用させる事が出来、瞬間的に凄まじい速度での移動をも可能とする。

貧困律:D
人生においてどれだけ金銭と無縁かと言うスキル。ランクCは、纏まった金が入り難いレベル。
バーサーカー自体の宿命もそうであるが、探偵の仕事を依頼して来た依頼人を、報酬金を支払う段階で殺してしまうなど、バーサーカー自体のせいによる所も大きい。

威圧:C
普段のバーサーカーは眠たげな瞳をした気だるげな男であるが、殺人の際になると、絶対零度の冷たさを宿した、機械的な瞳をするに至る。
ランク以下の精神耐性の持ち主は、その余りの眼力に即座に怯んでしまう。

【宝具】

『狂気な凶器の箱(凶器くじ)』
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大補足:5
生前バーサーカーが殺人に使っていた道具の数々が、宝具となったもの。
バーサーカーは依頼を引き受ける度に、依頼人にくじを引かせ、引いたくじの番号に対応した凶器で、事件を(力技で)解決させてきた。
相手サーヴァントと対峙する度にマスターにくじを引かせ、そのくじ番号と同じ武器が、何もない虚空から出現。それを握ってバーサーカーは戦闘に臨む。
チェーンソーやククリナイフ等のいかにもな武器もあれば、スプーンや着ぐるみなど、およそ武器とは言えないものまで、実に多種多様な凶器が揃っている。
凶器くじで選ばれた凶器は、Eランク相当の宝具として扱う事が可能。


55 : 遠坂凛&バーサーカー ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:57:51 Yzp6owFM0

【weapon】

凶器くじに収められた武器の数々:
色んなものが入っている。因みに探偵業の収入の殆どを、この武器の購入に充てている。

【人物背景】

史上最強の殺人鬼。最悪の破壊者。異世界アルメイルの元魔王。第一回世界殺人鬼王。世界を破壊しかけた男。
様々な呼び名を持っているが、一つ確かな事は、彼は何処までも殺人鬼であると言う事だ。
 
【サーヴァントとしての願い】

不明




【マスター】

遠坂凛@Fate/stay night

【マスターとしての願い】

聖杯の獲得。かける願いはない

【weapon】

アゾット剣:
魔術師の世界ではよく使われ、師匠が一人前となった弟子に贈ることが多い。凛の場合は、兄弟子の言峰に手渡された。
父である時臣の遺品として渡された品だが、実は彼の直接の死因となった武器がこれである。この事実はまだ知らない。

【能力・技能】

ガンド:
指差した相手に対して呪いの弾丸を放つ魔術。呪いの種類は様々だがそれ自体で致死に到るものではない。
しかし凛は、高い魔力のおかげで拳銃並みの威力のダメージを与える、フィンの一撃を放つ事が出来、しかもこれを機関銃のように連射が可能。

宝石魔術:
宝石に蓄積していた魔力を解放、破壊や治癒など様々な用途に利用する。
聖杯戦争に備えて今日まで練り上げて来た、サーヴァントの頭すら吹き飛ばす程の魔力の籠った宝石を複数所持している。

この他にも、五属性全てを扱える魔術師の為、火や風、水などの様々な属性を操る事が出来る。早い話が天才

【人物背景】

冬木の管理者・遠坂の六代目継承者。父に魔術師の遠坂時臣を持つが、既に故人。
家訓の「常に優雅であれ」を実践し、学園内では非の打ち所のない優等生として男子生徒の人気も高い。
しかしそれは表向き振る舞っている性格で、実際には競争相手がいるならば周回遅れにし、刃向かう輩は反抗心をつぶすまで痛めつける事に、抵抗を持たない。
やるからには徹底的に、を信条としている。が、実際の所お人よしで甘い所が見られる上に、ここぞの場面で大ポカをやらかす、詰めの甘い少女。

アーチャー召喚から数ヶ月前の時間軸から参戦。

【方針】

聖杯戦争は勝つ……勝つけど、サーヴァントがアレだしどうしようもう。


56 : ◆zzpohGTsas :2015/07/04(土) 21:58:07 Yzp6owFM0
投下を終了いたいます


57 : ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 00:46:11 hxsv82Fw0
どんどん、投下いたします


58 : 結城美知夫&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 00:46:37 hxsv82Fw0
 千代田区は麹町に建てられているカトリック教会、聖イグナチオ教会で神父の一人として従事する男、賀来神父は、<新宿>のBIGBOX高田馬場前で、そわそわとしていた。
待ち人が来るのを待っているのである。普段は黒い法衣を身に纏い、勤勉な男であると司教や他の神父達からも尊敬され、カトリック信者達からの評判も良い男だ。
そんな男が今、白いシャツと黒いズボンと言う服装で、駅近くのファストフード店で買ったハンバーガーを口にしていた。
賀来は確かに神父ではあるが、彼にも普通人としての生活と言うものがある。故に、神父らしからぬ服装も、肉を食べる事も、さして珍しい事ではない。
言わなければ、誰も彼を神父だと認識しない。人と言うのは、そんな物である。どんな瞳を持とうとも、その内面を視覚化する事は、出来はしない。

 賀来は落ち着かない様子で高田馬場駅をたむろする学生達を目にしている。
W大学の御膝元に等しいこの駅は、昼夜問わず、その大学の学生達が散見出来る。夜になると飲み会帰りのW大学生の姿など、それこそ当たり前のように見られる。
ロータリーで嘔吐している大学生を、無感情に賀来は眺めている。あまりいたくない街であった。
<新宿>が有数の繁華街ではあるが、神に仕える道を志した賀来にとってこの街は、下品で、汚い場所だった。
もっと別の場所を待ち合わせにすれば良いのにと、包装紙に残った最後のハンバーガーの一かけらを口にした時であった。

「待たせたかな」

 男の声が聞えてくる。聞き覚えのある声だ。明らかに、賀来に対して向けられた声だった。

「今来た所だ」

「嘘ばっか、そうだったらハンバーガー何て食べてないだろ」

 賀来が包装紙をくしゃくしゃに丸める様子を苦笑いを浮かべながら見ている男がいた。
腕の良いテーラーに仕立てて貰ったであろう上物のスーツを身に纏った、如何にもなエリート風の男性である。
さもあらん、この男は事実、エリートそのものの男だった。日本各地に支店を置くメガバンクの<新宿>支店で辣腕を振るう銀行マン。
しかも色気を感じさせる整った顔立ちで、出世街道を真正面から行く成績の持ち主でもある。男はその銀行の女性行員の人気を一極に集めるプリンスだった。
名を『結城美知夫』と言うこの男は、誰もが認める人生における勝ち組に属する男性であった。

「すまないね、ぼくとしては急いで君に会いたかったんだが……ほっぽり出せない仕事があってさ、予定より一時間程遅れてしまった」

「構わない、君には君の仕事があるのだ、それを咎めるつもりはない」

「ハハハ、優しいねぇ、神父様。一時間も待ちぼうけ喰らわせちゃったら、怒って帰るのが当たり前なんだけど……やっぱり賀来は賀来だ」

 言うと賀来は赤面して、結城から目線を外した。

「一ヶ月ぶりだが、食事でもするのかな。結城」

「よせやい賀来。メールで連絡をしたじゃないか」

 大きな掌で顔を抑え、嘆く様なジェスチャーをする賀来。解っていた事ではあるが、惚けたって無駄なようだった。

「ぼくの職場から近いから毎度此処を待ち合わせにしてるが、ガキどもが煩くて馬場は敵わんな。次からは別の所を待ち合わせ場所にするか。早く行こうか、賀来」
 
 言って結城は、足早にBIGBOX前から高田馬場駅へと足を運ばせる。
彼の後をついて行く賀来の足取りは、絞首台に向かう囚人さながらに、鈍重なそれなのだった。


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59 : 結城美知夫&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 00:46:59 hxsv82Fw0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「飲むかい」

「僕は飲まない」

 「固い事言うなよ」と言いながら、結城は空のバーボングラスにバーボンを注いだ。彼の手元には自分が飲む分のバーボンのオンザロックがあった。
結城の背後には、クラシカルなデザインの棚があり、その中には、酒類の知識を齧った者がいればすぐに高級の銘柄と解る酒の数々が沢山仕舞われていた。
所謂、ちょっとしたホームバーと言う奴である。御丁寧に凝ったカウンターテーブルまで置いてある

 新宿区の富久町に建てられた賃貸マンションだった。
地方に転勤された結城が、久方ぶりに都に戻って来た時に新しい住まいとしたのが、このマンションである。
一介のサラリーマンの月給、いや、今の景気状況では彼らの月給を軽く上回る程の家賃を要求されるマンションだが、
若くしてメガバンクの支店の貸付主任を任される、エリート以外に形容すべき言葉が見当たらない結城にとって、この程度の家賃など大した額ではなかった。

「いつまでこんな関係を続けるつもりだね」

 バーボングラスを二つ乗っけた銀盆を手に持って結城が、大きめのビーズクッションに座る賀来神父の下へと近づいて来る。
賀来はバーボンを結城から受け取り、それを口へと運ぶ。聖職者になってからは飲む機会がめっきり減ったが、やはりアルコールは美味かった。

「死が二人を分かつまで、かな」

「よしてくれ、それは結婚の宣誓で使う言葉じゃないか」

 男同士でそんな事を言われるとなると、流石に気色悪いにも程がある。
況してや賀来は聖職者だ。同性愛は認めるべき余地こそあれど、良い顔はしないのは、当たり前だった。

「結城、君もいい大人じゃないか。そろそろ独り立ちしたらどうだ」

「してるじゃないか」

 自分の稼いだ金で、自分のスペースを借り、そこで生活する。誰がどう見たって、結城美知夫は、自立した一人の大人であった

「僕を頼るのは止せと言う事だ」

 バーボンを一気に賀来は呷った。「良い飲みっぷり」、と結城が茶化す。

「結城。今の君は、誰もが羨むような立場の人間ではないのか? こんな良い所に住めるんだ、きっと稼いでもいるのだろう。順風満帆な生活、と言う奴だ。
君も私も、いい歳になったじゃないか。私の方は聖職者だからそう言う訳にも行かないが……君もそろそろ、いい女性の一人ぐらいは……」

「おいおい神父様、ありがたい説教は教会の中だけにしてくれ」

 ウンザリした様子で結城がそう言った後、彼はバーボンを口にした。


60 : 結城美知夫&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 00:47:17 hxsv82Fw0
「ぼくらはもう代え難い友情で結ばれてるのさ。違うかい、賀来」

「切ろうにも切れない、の間違いだろう」

「それでも友情には代わりないよ」

「君は狂ってるんだ、狂気の住人だ」

「賀来は、僕との関係をこれで終わりにしたいの?」

 うっ、と賀来が言葉に詰まった。結城の手口である事は、賀来も承知している。
解っていてもなお、賀来は動揺してしまう。だって彼は、そんな人間だから。そして、そんな騙されやすい自分が、賀来は堪らなく嫌だった。

「酷いや賀来。僕を見捨てるつもりなのかい?」

「……メフィストフェレスめ……!!」

 唾棄するように賀来が言った。結城はもとより、自分に対しても言っているようにも見える。

「もっと気楽に生きようぜ、賀来」

 そう言った瞬間、結城は部屋着を脱ぎ始めた。するすると衣擦れの音が部屋に響き、着ていた服が床に落ちる音が聞こえてくる。
彼は、シャツとパンツだけの姿になった。その状態で、革張りのソファの上に横たわり始める。いやに、扇情的な座り方だった。

「昔のお前は、もっと人生を楽しんでたじゃないか。今時ストイック何て流行らないぜ、人生を楽しんで行けよ」

「よせ!!」

 賀来は結城から目線を逸らした。目線の先には、窓があった。
結城の部屋は、十四階。賀来の目には、足元に星空が敷かれているような、ネオンと電球が生み出す<新宿>の夜景が広がっていた。

「こっちを向いてよ、賀来」

 熱っぽい、甘えるような声で結城が言葉を投げ掛ける。

「黙れ、結城!!」

 賀来が声を張り上げた。悪魔の誘惑を、心を無理やり意気軒昂にさせる事で跳ねのけようとする修行僧のようである。

「時間ってのは不思議なもんだなぁ賀来。昔の君は僕の事を可愛い可愛いって言ってくれたじゃないか」

「昔の話はよせ!!」

 そう言って賀来が、バーボングラスをフローリングの上に置いた、その瞬間だった。
結城が賀来の胸の中に飛び込んで来た。「抱いて!!」、高校時代にサッカーで鍛え上げられた逞しい賀来の肉体に抱き着きながら、結城が叫ぶ。
何を、と言う前に、結城は賀来の口を唇で塞いだ。バーボンの味と唾液が混ざり合った物が、互いの口腔を行き交いする。
賀来は既に、股間のものを屹立させていた。口を離した後、賀来が「主よ、私を御裁き下さい……!!」と言うのも聞かず、結城は彼の服を脱がし始めるのだった。


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61 : 結城美知夫&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 00:47:45 hxsv82Fw0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 五度に渡る性行為を終えた後、洋室のベッドで一緒に寝ていた賀来に、言葉をかける事無く部屋から退室。
リビングには精液や汗の臭いの混じり合った性臭がなかった。ふぅ、と軽く息を吐くと、結城は、ホームバーを演出するようのカウンターテーブルに近付く。
その上に置いてあった紙タバコを一本吹かそうとした為である。間接照明の照らされている薄暗い部屋の、掛け時計に目線をやった。短針は、もう直深夜の二時を刻もうとしていた。

「汚らわしい男だ」

 誰もいないリビングに、明らかに結城美知夫を嫌悪するような、棘を含んだ女性の声が響き渡る。
結城は、驚くでもなく、冷静に、紙タバコの箱から一本タバコを取り出した。

「人と人とが愛し合う行為を汚らわしいと言うのは失礼だろうよ」

「ロマンティシズムを気取るつもりか、恥知らずが」

 その言葉と同時に、その声の主は姿を現した。
上から下まで白一色の服装をした、黒髪の、内面の気の強さが外面ににじみ出ている、美女だった。
灰色の瞳には声音通りの、結城を蔑むような光が宿っていた。体中から性臭を漂わせるこの男を見て、女性は徹底して不快感しか現していなかった。

「『この部屋を陣地にするのは構わないが、今日まで待って欲しい』。どんな理由があるのかと疑問だったが、見損なったぞ。まさか男同士のセックスの為に、貴重な時間を無駄にするとはな」

「あの男はね、既に死んだ人間なんだよ」

 「何……?」、と、女性は面食らった様な表情をする。シュッ、とライターの火をタバコに近付け、点火した。

「何百万人もの人間が死ぬかもしれない毒ガスを抱いて、空から海へと落っこちた、英雄であり、ぼくの大事な友達(こいびと)だったんだ」

 タバコを吹かし、結城は紫煙をだらしなく吐きだした。

「心底驚いたよ。ぼくがいた世界じゃ過去の人物が、NPCとか言う身分で復活してるなんてね。しかもあの賀来は……ぼくの知ってる賀来と、本当に、よく似てる。生き写しだ」

「元の世界でも、あのような関係だった、と」

「悪いかい?」

 心底気色悪そうな表情を、女性が浮かべた。ケラケラと結城が笑った。

「だから、懐かしく思えてね。ついつい、賀来にちょっかいを出してしまったって訳だ。今日みたいな事はこれで最後にするよ、この部屋は君のラボにでもすればいいよ」

「当たり前だ、これ以上男の喘ぎ声など聞かされるのなら、貴様を殺していた」

「おーこわ」

 タバコを口元に運ぶ途中で、結城が言った。その様子を見て女性は、深い溜息を吐いた。

「貴様のようなマスターに従わねばならないとは、私も運がないな。聖杯戦争、貴様は勝ち抜く気があるのか」

「あるよ」

 女性がそう言った瞬間、結城は、直にタバコを口から離して、そんな事を言った。
彼女は彼の顔を見た。驚く程真面目な表情だった。そしてその顔つきには、常人であれば立ち竦みを起こしかねない程の狂気が彩られていた。

「何でも願いが叶うって言うのならば、ぼくはその願いをある事に使ってみたい」

「その願いとは」

「ぼくを含めた全人類に滅びて欲しい、って所かな」


62 : 結城美知夫&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 00:48:20 hxsv82Fw0
 女性の顔は、鉄面皮と言う言葉がこれ以上となく合致する程、表情が動かなかったが、彼女の表情筋は、明らかな驚きの反応を示し始めた。

「子供の頃に、それはそれは凶悪な致死性を誇る毒ガスを吸った事があってね。苦しかったよ、本当に。今でも後遺症で、痛みが頻発する程度にはね」

 遡る事、十五年前。いや、今の<新宿>の時間軸で言ったら、それこそ下手したら半世紀以上も昔の話になるだろう。
沖縄周辺にある、本土の人間にすら知られていない程の小島、沖ノ真船島と呼ばれる島に、ヨットで遊びに来ていた時の事。
この小さな島には某国の軍隊が駐留する島と言う側面も有していた。そして、これは国民の殆どに知らされていない事実であったが、この小さな島は、
ベトナムやラオスの人間を無差別に攻撃する為の、ある兵器の貯蔵庫としての側面も有していた。それこそが、『MW』と呼ばれるガス兵器だった。
運命の悪戯か。そのガスがある日、漏れ出した。このガスの致死性は、驚くべきもので、家畜や禽獣、人間に至るまで等しく、島の生き物は死に絶えてしまった。
結城と、当時カラスと呼ばれる非行集団に属していた賀来巌の二名だけが、風上の洞窟の中にいた事で難を逃れた……のであるが。
下手に風下に向かったせいで、子供故に免疫のなかった結城は、ガスの残留を吸ったせいで、大脳や内臓を侵された。

 これが、結城美知夫と賀来巌のいた世界における、MWを巡る大事件の真相だった。
そしてこの時を境に、結城と賀来の、肉体関係が始まった。十歳にも満たない結城の身体に欲情したのは、今は聖職者として振る舞っている賀来の方からだったのだ。

「ぼくはね、もうじき死ぬんだ」

 短くなったタバコを灰皿に突き立てて、結城が言った。

「自分の身体の事だから、よく解るよ。後一ヶ月……いや、事によっては、一週間持たないかも知れない。MWはそれ程凶悪なガスだったんだ。兎に角、ぼくに残された時間は短すぎる」

「ならば、聖杯でお前の病気を治せばいいじゃないか」

「賀来のいない世界何て、つまらないだけだよ」

 真直な表情で、結城が言った。瞳に、狂気以外の、並々ならぬ執念が渦巻いている。
結城は、思い出していた。全人類に無理心中を強要させる為の足掛かりである、MW数kgを抱えて、小型飛行機に乗り込んだ時の事だ。
賀来は、結城にこれ以上悪事を重ねさせない為に、彼が持っていたMWを奪い取り、外へ逃げる為の非常口を開け、其処から太平洋に飛び込んだのだ。高度、数千m程の高さだった。

 ――結城!! 勝ったぞ、これで救われるぞ!!――

 追いすがる結城の頬を平手打ちにし、賀来は迷う事無く眼下の大海原へと飛び込み、MWごと散った。その時の事を、結城は思い出す。
彼は最後の最後まで、結城美知夫を救おうとしたのだ。彼に悪行を止めて貰いたかったのだ。
自分の若き過ちで、道を踏み外してしまった男を……神父の終生の友人でもあった男を、賀来は最期の瞬間まで見捨てる事がなかった。
海に散った賀来を見て、結城は、十何年かぶりに、涙を流した。体育座りをし、子供のように泣いていた。己の半身を失った様な喪失感。結城の心は、その日以降から、満たされぬ空虚で出来てしまっていた。

 自分を止めるべく国の警察機関の要請で戦闘機に乗り込んでいた、自分の双子の兄になりすまして司法の手から逃れた結城は、ふと、昔賀来が神父を務めていた、
地方の教会に足を運んだのだ。生前も悪事を重ねに重ねた時、結城は、彼の教会を隠れ家にして過ごしていた。
賀来の古い友人と司祭に説明し、賀来の私室に案内された時、奇妙な群青色の鍵を発見したのだ。不思議に思いそれを手に取ると――結城は、この<新宿>にやって来ていた。

 この世界の賀来は、確かに結城美知夫のよく知る賀来巌そのものだろう。
しかし、所詮はNPC。彼に問い質してみた事があったのだが、この世界の賀来はMWの事を知らない。彼が結城と今のような関係になったのは、もっと別の理由かららしい。
結城と賀来を結びつける絆は、このMWであった。MWを知らない賀来など、賀来ではない。だから結城にしてみれば、この世界の賀来など、よく出来た偽物以外の何物でもないのだ。だからこんな世界も、つまらない。


63 : 結城美知夫&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 00:48:44 hxsv82Fw0
「なあ、キャスター。人が人生を楽しむ上で、最も重要な前提条件が何だか解るかい」

 キャスターと呼ばれた女性は、無言だった。数秒の沈黙の後、結城はその答えを言葉にするべく、口を開いた。

「『生きている』、って事だろ? 生きてなきゃ人生を楽しむ事も、クソだなんだと不満を漏らす事も出来やしない。近い内死んじゃうって絶対解ってる人間が、人生を楽しめる訳がない」

「何が言いたい」

 結城の口の端が、吊り上った。
きっとこの世に悪魔がいるのなら……、それは、彼の事を言うのかも知れないと錯覚せずにはいられない、邪悪な笑み。

「ぼくは聖杯にね、全人類に苦しんで死んで貰うよう願うんだよ。アッハハハ、死んじゃったらぼくにとって地球に用がある訳ないだろ? だから、全人類にはぼくの死に付き合って貰うのさ」

 道化のようにオーバーに手を広げて見せて、結城は語る、騙る。

「面白いだろう!! 長く続いた人類の歴史が、ぼくの手で幕が降りちゃうんだ。こんな面白い事、あるかいキャスター!!」

 凡そ、最低にして最悪の無理心中だった。自分の余命が短いから、それに付き合って全ての人間にも死んで貰う。
その願いを叶えるのが、よりにもよって聖遺物中の聖遺物である、聖杯と来ている。ああ、これ以上の悪徳があろうものか!!
そして、見よ。結城美知夫の、最低最悪の願いを聞いた、キャスターと言われた女性の浮かべた笑みを!! 実に愉快である、とでも言いたそうな笑みを浮かべて、彼女は結城の事を見つめていた!!

「成程、この私が呼ばれるだけの思想は持っていたようだ」

「フフ、当たり前だろう。ぼく達は性癖や趣向こそ違えど、聖杯に願いたい事柄は本質的には全く同じなのさ」

 ジッ、と。キャスターの事を射抜く様に真っ直ぐに見つめて、結城は口を開いた。

「初めてあの鍵から導かれた君を見て、思ったよ。こいつは、ぼくと同じ。世界に意味なんて全く見いだせていないって事にさ」

「人類の歴史などとうの昔に終わっていた。続くだけ無駄だ。地球が死んでも生き続ける、愚かな寄生虫。私が引導を渡してやりたいだけの事さ」

「ほーらみろ、やっぱりぼくと君は同じだ。だからさ、喧嘩なんてやめようぜ。賀来とは今後二度と会わない。だから気を直してくれキャスター。……いや――」

 結城美知夫は、言葉を言い直した。クラス名ではない。キャスターと名乗る妙齢の女性の、真なる名を口にするべく。

「『ジェナ・エンジェル』だっけ? 皮肉だねぇ。世界に破滅を齎す人間の名前が、まさか天使だなんてさ」

 口の端を、今度は、ジェナと呼ばれた女性が釣り上げた。美しくも、これ以上となく残酷で……そして、悪魔的な邪悪さに満ちた笑みであった。

「人類のまどろみを破る鐘を鳴らしてやるだけさ」

 「詩的な表現だなぁ」、と結城は茶化して見せた。
窓の外に広がる<新宿>の夜景は、未だ眠る事無く続いている。世界が永久の微睡に落ちるだろう最後の日は、着実に近付いていた。



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64 : 結城美知夫&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 00:49:06 hxsv82Fw0
【クラス】

キャスター

【真名】

ジェナ・エンジェル@DIGITAL DEVIL SAGA アバタールチューナー

【ステータス】

筋力C 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具A+

(ハリハラ時)
筋力A 耐久B 敏捷B 魔力A 幸運D

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

陣地作成:D
自らに有利な陣地を作り上げる技能。キャスターは自らの宝具を生み出す為の研究室の形成が可能。

道具作成:-
後述する宝具しか作成しえない。

【保有スキル】

破滅主義者:A
過去の出来事から、キャスターは人類は当に滅ぶべき存在であったと固く信じている。同ランクの精神耐性を保証するスキル。

飢餓:A+
抗い難い生物の本能。栄養素を摂取出来ない事による苦しみ。
キャスターを常に苦しませる生理現象であり、このランクの飢餓を発症させると、ステータス向上効果のない同ランクの狂化を獲得。
更に、後述する宝具を暴走させてしまう。完全なるデメリットスキルの上に、如何なる手段を以っても外す事は出来ない。

喰奴:A
『喰』らうと言う行為の『奴』隷。それがキャスターである。
魂喰いによる魔力摂取量の向上、及び日常的な食事からすらも魔力を獲得できるようになるスキル。

魔術:-(宝具発動時:A+ 宝具暴走時:D)
人間形態時には魔術を行えないが、宝具を発動した際には魔術を使用可能となる。
全ての魔術が一工程或いは一小節で発動する事が出来、その威力と効果も非常に高い。が、宝具を暴走させた場合には大幅にランクが低下。
正確な狙いが困難になり命中精度が下がる。

両性具有:B
キャスターは機能する卵巣と精巣の両方を併せ持ったエイセクシュアルである。過去にこの二つの機能を用いて子供も作っている。

星の開拓者:B
人類史においてターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。あらゆる難航、難行が“不可能なまま”、“実現可能な出来事”になる。
人間を生きたまま石化させる奇病、ギュヴィエ症候群の原因を太陽光にある事を突き止め、後述の宝具を太陽光の情報から作成する事に成功した。

カリスマ:D
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。カリスマは稀有な才能で、一軍のリーダーとしては破格の人望である。

【宝具】


65 : 結城美知夫&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 00:49:31 hxsv82Fw0
『災禍の大渦(アートマ・メイルシュトロウム)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:自身
キャスターの胸部に刻まれた、アートマと呼ばれる痣が宝具となったもの。此処に力を込める事で、キャスターはハリハラと呼ばれる悪魔に変身が可能となる。
神話上ハリハラは、ヴィシュヌとシヴァが合体した最上位の神霊であるが、キャスターの変身するこの悪魔はその神霊とは直接的な関係はない。
彼女に限らず、アートマに覚醒した人間が変身する悪魔と言うものは、神格や魔性を有する本物の超常存在ではなく、どちらかと言えば、 それらと同じ名前と姿を持ち、かつ、それらに肉薄する身体能力と超常的な力の一端を振るう事が出来る『怪物(ミュータント)』に、その在り方は近い。

 ハリハラに変身する事で、キャスターのステータスは、ハリハラ変身時に対応したものに修正される。
これにより戦闘能力の格段の向上や、高い威力と精度の魔術の使用が可能となり、三騎士に匹敵する程の力を得る。
変身時に掛かる魔力も、変身を維持するのに必要な魔力も低い燃費の良い宝具。
但しそれは『飢餓スキルを暴走』させなかった時の話で、キャスターを含めた全てのアートマ覚醒者は、常に生体マグネタイトに餓えている状態を発症しており、
生体マグネタイトを経口摂取し取り込まない限り、この飢えは満たされる事がなくなる。
飢餓状態を暴走させると、消費魔力量がAランク相当の狂化持ちバーサーカーのそれへと跳ね上がり、魔術のスキルランクの大幅低下の発生。
更に敵味方問わず、その場にいる者を襲い、それらに喰らい掛かり、飢餓を抑えようとする本能が働く。
飢餓を抑えるには兎に角NPCやマスター、サーヴァントを喰らって生体マグネタイトを摂取すれば良いのだが、これを摂取し過ぎると、
ハリハラの本来の人格が『消滅』、それに代わって、神話上の『ハリハラ』の人格が彼の性格に成り代わり、マスターの命令を一切受け付けなくなる。
飢餓状態のデメリットは、『宝具を発動させている状態限定で発動する訳ではなく』、人間の時の状態、つまり、常に発動している。
つまり、霊体化している最中でも飢餓を発生させてしまえば、キャスターはハリハラへと変身し、その場で暴走してしまうと言う可能性を孕んでいる。

 仮初の煉獄、ジャンクヤードで、エンブリオンの者達に見せた、最終形態は使用不可能となっている。

『悪魔化ウィルス』
ランク:EX 種別:悪魔化宝具 レンジ:- 最大補足:-
生前キャスターが作成した、人間を悪魔化させるウィルスが宝具となったもの。キャスターはこれを陣地内で作成出来る。
このウィルスを取り込んだ人間は、身体の何処かにアートマと言うシンボルめいた痣が刻まれ、其処に力を込める事で悪魔に変身する事が可能なチューナーになれる。
悪魔に変身しても元に戻れないと言う訳ではなく、変身は可逆的な物で、悪魔から人間に戻る事も可能。
チューナーになった人間は、人間の状態でも凄まじい身体能力を発揮出来るだけでなく、悪魔に変身する事で、それを凌駕する身体能力と、魔術の数々を行使可能。
どのような悪魔になれるのかと言うのはキャスターを以ってしても予測不可能で、全く弱い悪魔になる事もあれば、
サーヴァントと互角以上に渡り合える強壮な悪魔になる事もあり、完全なアトランダム。
但し、このウィルスを取り込んだ人間は、上記の宝具、『災禍の大渦』と同じデメリットを孕んでしまう。これには例外がなく、必ずそのリスクを負う。

【weapon】

【人物背景】

カルマ協会技術部門総責任者。地球が荒廃する以前国際環境保険機構に属していた頃から天才と謳われ、太陽光に含まれる情報が与える地球環境への影響に警鐘を鳴らしていた。
太陽光に含まれる情報異常の影響で、先天的両性具有者になってしまう。物語のヒロインであるセラの遺伝的な両親。
神と交信する為のEGG施設で起った、人間が突如悪魔化し、施設内の人間の大多数を食い殺すと言う惨劇の後、悪魔化ウィルスを開発。
悪魔化ウィルスに感染した人間は、太陽光が含む、生きたまま人間を石化させる奇病、キュヴィエ症候群に耐性を持つ事が解っており、
これを利用し、表向きカルマ協会の長でありマルコ・キュヴィエの、『世界のエリートを悪魔化させ、残りの人間をその悪魔達の餌にする』と言う思想に尽くすふりをする。
しかし実際には、エンジェルの本当の目的は、世界を混沌と破滅の世界に導く事である。
過去に、キュヴィエ症候群の患者が収容されていた病院をテロリストに襲撃され、その事故の際に思い人のデイビッドを殺され、愚かな人間に復讐を誓った為である。

今回のエンジェルは、全ての蟠りが解決する前の時間軸からの参戦である。

【サーヴァントとしての願い】

全人類の滅亡


66 : 結城美知夫&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 00:49:46 hxsv82Fw0




【マスター】

結城美知夫@MW

【マスターとしての願い】

全人類と無理心中

【weapon】

【能力・技能】

変声術・変装術:
結城は、人気歌舞伎俳優の双子の兄を持つ男で、彼にた、女性寄りの美しさを持つ男。
結城は女装や変装、声を変える技術に天性の才能を持っており、少し化粧をし、服を変えるだけで、全く結城だと気付かれない程の変装術を持っている。
特に変声術の腕前は驚く程の物で、真似た声の人物と親しい者すらも騙し通せるだけでなく、女性の声も完全に模倣できる程。
<新宿>にやって来る前は、この技術を以て様々な悪事を働き、そして多くの人間を殺して来た。

【人物背景】

手塚治虫原作の漫画、MWの主人公。幼少の頃に足を運んでいた沖縄周辺の小さな島、沖ノ真船島に貯蔵されていた毒ガス兵器、MWが漏れ出てしまう大事件に巻き込まれ、
大脳を初めとした体中を毒で蝕まれてしまう。毒ガスの影響で大脳をやられてしまい、知能の発展にこそ異常はないが、倫理感やモラルが大幅に欠如してしまう。
また、同島にやって来ていた非行集団・カラスの一員であった賀来巌と身体を重ねてしまい、性趣向も変化。バイセクシャルになってしまう。
その後、優れた顔立ちと知能を以て、関都銀行の新宿支店に勤めるエリート銀行員になるまで成長するが、彼はMWを手に入れ、
それを悪用したいと言う野望に駆られるようになる。以降、MWによって死んだ沖ノ真船島の住民の死に顔がトラウマになり、聖職者になってしまった賀来を脅し、MWを手に入れようと画策、作中で様々な悪事を運ぶ事になる。

 性格は最低最悪を地で行く男で、作中多くの人物が、結城の手にかかり殺されて来た。兎に角、良心や倫理観が欠片も無い、最悪の破滅主義者。
人を殺す事や同性とSEXする事に全く躊躇いがなく、男を含めた作中登場人物の多くと肉体的な繋がりを持っていた程。
そんな男の唯一の心の支えであり、友として依存して来たのが、賀来巌と言う男なのだった。

本編終了後の時間軸から参戦。

【方針】

キャスターと共に人類に引導を渡す。


67 : ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 00:50:01 hxsv82Fw0
投下終了です


68 : ◆S8pgx99zVs :2015/07/06(月) 19:50:31 EBP22xJ20
投下します。


69 : 敗残兵と絶望の魔王  ◆S8pgx99zVs :2015/07/06(月) 19:51:23 EBP22xJ20

今、そこにあるのは墓標の群れであった。
灰色の巨石群――かつては、あの“魔震”が起こるまではここいらに立ち並んだそれらを人々は副都心と称していた。
空が澄んでいる日であれば遠くに富士を背景とし、その威容を見せる巨大ビル群。
王はいつの時代であっても天に近い所に座を欲する。副都心に連なる無数の塔もまたその為の、権力の象徴としての存在であった。

今、そこに残っているのは墓標の群れだ。
確かに今現在の新宿はあの“魔震”から復興したように見える。事実、人の営みは九割方は以前の姿へと戻っている。
副都心に立ち並ぶビル群にしても倒壊したものなどひとつもなく、その姿は以前と変わらないように見えるだろう。
あれほどの地震であったにも関わらずである。さすがは日本の耐震技術だと賞賛せずにはいられない。

とはいえ、なんら一切の傷がなかったと言えばそうではない。
近づいて目を凝らせば、そこかしこに細かい罅割れが走っているのがわかるだろう。
見えないところにはもっと傷が、それも致命的な損傷があるかもしれず、ひょっとすれば明日にも倒壊するかもしれない。
かもしれない――という理由で副都心のビル群は使われてはいけないことが決定した。

臆病な判断だと言われるだろうか。あるいは勿体無いと?
そんなことはない。ひとつのビルには千近くの人が入り、全てのビルを合わせれば万を越す人がそこで働くのだ。
万が一などという“高確率”にそれほどの人間の命を賭けられるはずもない。

ビル群がどれも巨大すぎることも問題だった。解体するにもそれから建て直すにも費用がかかりすぎる。
加えて“魔震”後の新宿を取り囲む“亀裂”の存在もある。
外との行き来が著しく制限されるということは、この場所から副都心としての価値を全くの皆無とするまでに奪った。
なにより“魔震”が普通の地震でないことは明白だ。あまりにも不気味、不明解――ここを都心とし続ける心理的な理由もまた皆無だろう。

近く予定されていた新都庁建設の話も流れた。
それから今まで、高額な予算を投じてまで手をつける理由を遂に誰も思いつかなかった為にこの元副都心は墓標なのである。

そんな、かつて呼ばれた副都心という名の為の墓石。その一角にその男の姿はあった。





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70 : 敗残兵と絶望の魔王  ◆S8pgx99zVs :2015/07/06(月) 19:51:58 EBP22xJ20

  - Ж - Ж - Ж -


その晩は雲が厚く、星の瞬きはおろか月の光さえも満足に届かない陰鬱とした夜であった。
男は風すらも吹かぬその夜に、あるビルの屋上の更にその端に立って遠く遠く目が眩むくらいに遠い地上を見下ろしていた。

男は考えていた。困惑しているからだ。巻き込まれてしまった“聖杯戦争”に対して、まだ飲み込みきれていない部分があるからだ。
この男は聖杯戦争を知っていた。その最中に身を置き、死闘を演じたこともある。
かつて冬木と呼ばれる地で魔術師達が起こした“聖杯戦争”――それをこの男はすでに体験している。

だからこその混乱だ。それ故にの当惑である。
ではこの“新宿の聖杯戦争”の何にこの男は戸惑っているのだろうか?

冬木以外の聖杯戦争が存在したことにだろうか? ――否、誰かがそれを望めば難度の差はあれどどこでも行えるはずだ。
目の前の新宿が自分の知らない新宿だからか? ――否、男はもとより並行世界の存在を肯定する。
聖杯戦争を監督している者が不明だからか? ――否、正式な参加者でなければそれを知れないのは当然のことだ。
どうやらサーヴァントの数が七騎程度ではないことか? ――否、聖杯戦争の規模に大小があっても驚きはしない。
では、何に戸惑う?

その浅黒い肌をした男は、かつて冬木の地で“アーチャー”として召喚された男だった。
遠坂凛という名の魔術に長けた、それでいて縁の浅からぬ少女の僕として幾度となく死闘を演じたサーヴァントだった。
ならば、何故? なおさらに、どこに戸惑う理由があるというのか?

それは、男の、かつては“アーチャー”と呼ばれた男の手の甲に三画の“令呪”が浮かんでいたからであった。

かつての“アーチャー”は、此度の聖杯戦争において、一人の魔術師エミヤとしてこの地に立たされているのだ。



赤錆色の荒野から守護者として新宿に降り立った時、エミヤはここが日本であることに僅かな郷愁を覚え、
そして同時に流れ込んできた聖杯戦争の認識にひどく驚いた。
あくまで世界から世界を渡る転移は守護者としてのものだったはずなのに、どうして聖杯戦争の召喚なのか?
地面に足がつくまでの僅かな間での困惑。
それは手の甲に浮かび上がった令呪により瞬く間に氷解し、更に新しくより大きな困惑をこの男に与える。

守護者が、守護者となった者が偶然に出向いた先で聖杯戦争のマスターに選ばれるということがあるのだろうか?
ありうるのかもしれない。冬木の聖杯戦争への参加にしてもそれは星の数に対してひとつほどの奇跡だったのだから。
いやそれよりも、これこそが今回の守護者としての仕事なのだと考えるのが合理的か。
つまり、この聖杯戦争は人類に対し酷く危険を及ぼす可能性があるので、守護者として儀式を破壊せよ、と。
しかし、そうは考えられても答えは不明瞭だった。そもそも、守護者としての仕事が判然としないというのが初めてのことだった。

そんな、彼にとっての聖杯戦争の開始より一週間後の今、未だ答えは得られてはおらず、男は墓石の上で佇むだけであった。





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71 : 敗残兵と絶望の魔王  ◆S8pgx99zVs :2015/07/06(月) 19:52:35 EBP22xJ20

  - Ж - Ж - Ж -


不意に風がエミヤの頬を撫でる。夢魔の舌のようにじっとりとした不快な風だった。

「あれもサーヴァントか……」

見下ろす先に、ビルの壁面に四つん這いで張り付き奇妙に滑らかな動きで駆け登ってくる異形の姿があった。
果たしていかなサーヴァントかというのはエミヤには判らない。
かつてはこれも英霊と呼ばれるに相応しい行いを果たした者なのか、あるいは神の半身か魔の権化か。
その一瞬の思考の内に異形はエミヤの前へと辿りついていた。

「醜悪だな」

どれほどの呪いをその身に受ければこの様な姿になるのか。
それは全身に黒い泥を被り、その上に油を浴び、この世のあらゆる毒を呷り、知られる全ての病を発したような姿をしていた。
爛々と輝く対の瞳から読み取れる感情は激しい後悔と自分以外の存在に対するそれ以上の嫉妬。煮凝りとなった不の感情。

異形が細長い前脚を持ち上げ黒い粘液の滴る爪をエミヤへと振り下ろす。

エミヤにはまだひとつ些細な疑問があった。
それはどうして自分がマスターの側なのか? という疑問だ。
確かに自分は英霊と呼ばれるにはおこがましいただの奴隷闘士でしかない。世界にこき使われる掃除夫の一人に過ぎない。
英霊と呼ばれるサーヴァント達と並べれば実力が一段も二段も劣るのは認めよう。
だがそれでもただの人間との間には厳然とした実力差がある。それは自身と英霊の間にあるものよりも遥かに圧倒的な差だ。
つまり、サーヴァントに匹敵する存在がマスターとして存在することへの疑問。それは些かバランスに欠くのではないかという疑問。

異形の爪はエミヤへとは届かなかった。そう、“彼”がいる限り、何者の害意もエミヤには永遠に届かないだろう。

「ルルタ、俺をひやりとさせるな」

エミヤの冗談めいた言葉に、彼と異形との間に現れた少年は柔らかく笑みを浮かべ言葉を返す。

「エミヤこそ自殺志願めいた言動は控えてほしいな。いつ飛び降りるのか気が気ではなかったよ」

異形との間に立ちはだかり、難なくその呪撃を受け止めてみせたのはまだ年若く見え、エミヤよりも一回り背の低い少年であった。
少年はまた美しい存在でもあった。
鍛え上げられ均整の取れた肢体。染みひとつない白い肌。神による造詣だと疑いようもない美貌。
裸の上に簡素な腰布だけを纏ったその姿からは神話の時代の人間だということが伺い知れた。
そして何よりも目を引くのが少年の真っ白な髪の毛だ。
エミヤも白髪であるが、しかし少年の髪は正しくは白ではない。少年の髪の色は硝子のような透明なのである。
これはこの少年の強さの根幹を表しその証明である色であるが、ともかくとして少年は人知の外側にある美しき存在なのである。

「ただ退屈していただけだよ。あまりにも手応えがないんでな」

少年に対しマスターであるエミヤは軽口を叩く。
これは事実だ。この聖杯戦争の開始よりエミヤはすでに4回の戦闘を経験しているが、その中で危機を覚えたことは一切ない。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!!!」

まるで午後のお茶会で語らう風に和やかな二人の前で存在を無視されていた異形が雄叫びを上げる。
再び振り下ろされる魔素に満ちた爪はルルタと呼ばれる少年に向けられるが、やはりそれは届かない。
まるで見えない壁があるのか、あるいはそこで時が止まってしまうのか、少年の目の前までゆくとそこでピタリと止まってしまうのだ。


72 : 敗残兵と絶望の魔王  ◆S8pgx99zVs :2015/07/06(月) 19:52:57 EBP22xJ20
そして少年が涼しげな視線をやるだけで爪は木っ端微塵に砕けた。
おそらくは聖剣に匹敵するほどの強固さと霊的な剛性を持つそれが、ただのひと睨みで繊細な硝子細工のように飛散する。

「■■■■■■、■■■■■■…………■■■■■■■!!!」

異形は慄き、逃げ出すように身を宙へと投げる。
ばたばたと手足をもがくように振る様はその異形が空を飛ぶ力を持たないことを悟らせたが、それほどに異形は恐怖したのだろう。
だが、少年が指差せばその動きはまたピタリと静止する。
いつの間にやら地上から伸びてきた一本の針が、まるで羽虫を留めるように異形を刺し貫いていたからだ。

「これは燃やしてしまったほうがいい」

少年の指先に白い火が点る。
それを見てエミヤは言葉を発さず背筋だけを震わせた。
触れるだけで魂が汚染されかねない異形を見た時でもこれほどの恐怖は覚えなかった彼が、ただの指先に点る火に震える。

その熱量だけでこの新宿を100回焼き払っても足りる火が少年の指から異形へと飛ぶ。触れた瞬間、異形は激しくスパークした。
異形の断末魔はエミヤに届かない。届くのは光だけで僅かな熱すらもエミヤは感じなかった。
少年は尋常ではない威力の核熱魔法を使いながら、同時にその熱量を全て相殺する冷気魔法も使用しているのだ。
故にエミヤの肌に熱気は届かない。冷気も感じない。ただ、異形が燃える光景だけが目の中に届く。

自分がマスターでよいのかというエミヤの疑問は己のサーヴァントを認識した瞬間に霧散した。
『ルルタ=クーザンクーナ』――セイバーのサーヴァントとして彼に宛がわれたその少年は、まさに神に等しい実力の持ち主だったからだ。
これほどの存在が、これに匹敵する存在がこの聖杯戦争に犇めいているというのなら、所詮エミヤ如きの存在など誤差でしかない。





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73 : 敗残兵と絶望の魔王  ◆S8pgx99zVs :2015/07/06(月) 19:53:29 EBP22xJ20

  - Ж - Ж - Ж -


「相手側のマスターはどうした?」

異形を退け、二人は空虚な時間を潰すための語らいを始める。
聖杯戦争に巻き込まれてより、ずっとそうしてきたことだ。
エミヤにはまだ聖杯を得ようとする目的が見えない。サーヴァントであるルルタもあまり聖杯には“期待”をしていない。
なので、二人は互いのことを語らい、時折襲い来る他の主従を撃退する、それだけで時間を進めていた。

「切り裂いたよ。くだらない男だった」

ルルタは異形を燃やし尽くすと同時に、そのマスターをも始末していた。
異形のマスターはこのビルの立つ地面より更に地下の下水道の中に身を潜めていたが、そんなことはルルタにとっては意味を成さない。
その気になれば世界中のどこでもを千里眼で見通せるのだ。ルルタを相手にして隠れるという行為は全くの無意味である。

そしてルルタは異形を焼き払う中で相手のマスターを見極め、その身を千の肉片へと細切れにした。
男は小癪にも魔術による防壁を張っていたがそれもまたルルタの前には無意味だ。
因果抹消攻撃――途中経過を発生させず、切り裂いたという結果だけを現すその攻撃に対し防御は身を守る術にならない。

「ふっ、君ほどの存在からすれば誰もが取るに足らない存在だろうさ」

エミヤの皮肉めいた言葉にルルタはそうでないと首を振る。

「いいや、そんなことはない。確かに、そう……この世の中にはくだらない人間は多い。守るに値しない人間はいる。
 だが、尊い人間もまた多い。
 家族を大事にできる者、友人の為に力を振るえる者、他人の痛みを知れる者、未来の為に身を投げ打つことができる者。
 皆、くだらなくはないし、その中には僕にはできないことして僕を驚かせる者もいる」

ルルタは顔を上げてエミヤの目を見つめる。

「君はこの世界に満ちる人間が等しく価値のないものだと思うかい? この世界はもう滅んでもかまわないと?
 そうではないはずだ。だから僕は君に召喚された。“似たもの同士”としてね」

エミヤはルルタに言葉を返せなかった。
その通りだと言い返したかったが、それを素直に口にするにはエミヤはもう疲れきって、枯れ果ててしまっていたのだ。

「わかるよ。意味がないと知りながら、いつかはどこかに辿りつくという願望だけを胸に果て無き道を歩き続ける辛さは。
 僕も同じだ。今すぐに投げ出したいといつも思ってる。自殺すれば楽になると何度も考えた。
 世界を滅ぼさないのはただ躊躇っているだけにすぎないとも自覚している」

ルルタは空を見上げる。相変わらず雲は厚く、その先の光は見通せない。それは彼らの生きる道そのもののようだ。

「……この聖杯戦争はいい“機会”だと思ってる」
「“機会”?」

ルルタは目を瞑り、小さくて、それでいて染み入るような声で言った。

「“幸福”を探そう」

言葉とは裏腹に、ルルタがそれを信じているような気配は少しも感じられなかった。
しかし、そこにしか追い縋るものがないのだともエミヤには理解できた。

「可能性はゼロだろう。だが、せっかく知らない世界で僕と君が出会えたんだ。“奇跡”を探すふりくらいはしてもいい」

そしてルルタはその言葉を発する。


「――世界を救う方法(解答)を見つけるんだ」


それはまさに、エミヤ――かつての衛宮士郎にとっても最終命題であった。





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74 : 敗残兵と絶望の魔王  ◆S8pgx99zVs :2015/07/06(月) 19:54:29 EBP22xJ20
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【クラス】 セイバー
【真名】 ルルタ=クーザンクーナ
【属性】 中立・善

【ステータス】
 筋力:EX 耐久:EX 敏捷:EX 魔力:EX 幸運:EX 宝具:EX
 
【クラススキル】
 ※自身の能力がクラススキルを内包しつつそれを凌駕しているのでここにスキルは記載されない。

【保有スキル】
 十万の魔法権利:EX
  楽園時代の戦士達がそれぞれに生涯をかけて磨き上げ、ルルタ=クーザンクーナへと捧げた十万種の魔法権利。
  これによりルルタはありとあらゆる魔法を自在に操り、また同属性の魔法を重ね合わせて使うことで
  人一人の身では到達し得ない領域――単身で神と戦う戦闘力を得ている。
  そして、この十万の魔法の中に存在する無数の強化魔法によりルルタのステータスは常時最大値(EX)で固定される。

 因果抹消攻撃/防御:A
  十万の魔法権利の中に存在する一種。
  因果の過程を発生させないことによる結果だけが現れる攻撃、
  または相手の攻撃の途中から先の因果を消し去り攻撃そのものを否定する能力。

 超再生:A
  十万の魔法権利の中に存在する一種。
  ルルタ=クーザンクーナの肉体は例え細胞の一片までに破壊されようが次の瞬間には完全に元通りとなる。

 小惑星落下:A
  十万の魔法権利の中に存在する一種。
  地球の周辺に存在する小惑星を呼び寄せ大地へと叩きつける超大規模破壊攻撃。
  あくまで地球の周辺から小惑星を引き寄せるものなので、その小惑星が近くになければ使用することはできない。

 全人類の希望:EX
  神により滅亡の判決を言い渡された時、人類は滅亡への対抗としてルルタ=クーザンクーナを生み出した。
  全ての力はルルタ=クーザンクーナへと捧げられ、人の世の全ては彼を強くするためだけの存在へと体制を変化させた。
  完全な絶望へ対抗する希望としてルルタ=クーザンクーナ自身も含めた全人類が味わった絶望こそが神殺しの力の根源である。

 未来管理者オルントーラの能力:EX
  世界を救った際、神の一柱であるオルントーラから取り上げた世界を滅亡させる力。
  この力を振るえば、ルルタ=クーザンクーナはいつでもすぐに人類世界を滅亡させることができる。

 涙なき結末:B
  世界を滅亡させる能力の一種。
  触れた相手からなにかをしたいという意思を剥奪し、死んでもいいと思わせながら安らかな眠りにつかせることができる。
  これは強靭な意志があればなにかしらの外部からの刺激や、強烈な痛みと合わさることで抵抗することも可能。


75 : 敗残兵と絶望の魔王  ◆S8pgx99zVs :2015/07/06(月) 19:54:51 EBP22xJ20

【宝具】
 『終章の獣(今日この日、人類は滅びる)』
 ランク:EX 種別:対人類宝具 レンジ:地球上〜成層圏内 最大捕捉:全人類
 世界を滅亡させる能力の一種。
 自身の足元を発生源に、人類のみを殺害する魔獣を無限に召喚し、世界をこの獣で埋め尽くすことで人類史に終止符を打つ。
 終章の獣は多種多様な姿を持つが、どれもが黒色をしており、一流の戦士や魔術師でも容易には太刀打ちできない強さを持つ。

 また終章の獣の鳴き声は涙なき結末と同じ効果がある。
 しかもこれは聴覚ではなく魂に直接届くために回避できず、更に一瞬で地球上全体に響き渡る。

【weapon】
 『追憶の戦器』
 神が作り出した七種の兵器を人類が夥しい犠牲の果てに奪取したもの。
 どれもが常世の呪いをかけられており、いかなる方法、どれだけの時間を持っても兵器そのものを破壊することはできない。

 ・「常笑いの魔刀シュラムッフェン」
  ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜50 最大捕捉:50人
  柄が蜘蛛の形をした細剣。
  振らずとも意識するだけで因果抹消攻撃により空間を断裂させることができ、その際の音により常笑いの魔刀と呼ばれている。
  また持ち手に攻撃が及んだ場合に、自動的にそれを迎撃する機能も備わっている。
  ただ、攻撃の発生までにコンマ数秒のタイムラグがあり、戦器としてはやや不完全である。

 ・「常泣きの魔剣アッハライ」
  ランク:A 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:100人
  持ち手が芋虫の姿をした短剣。
  常笑いの魔刀からより精度と威力を高めた魔剣。
  能力は同じく因果抹消攻撃による空間の断裂だが、その性能は全ての点において常笑いの魔刀を上回る。

 ・「大冥棍グモルク」
  ランク:A 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000人
  常に黒い霧に覆われておりその実際の姿を見ることができない棍棒。
  叩きつけることで尋常ではない破壊力を発揮し、地面に叩きつければ大地を割り砕くことができる。

 ・「彩なる砂戦艦グラオーグラマーン」
  ランク:B 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:100人
  虹色に輝く宙に浮かぶ船。
  その船体は、無数の鉄片が集合してできたものであり、これを並び替えることで自由な形を取ることができる。
  また上に乗って高速飛行するだけでなく、鉄片を分散させ射出すれば攻撃にもなる。

 ・「韻律結界ウユララ」
  ランク:A 種別:結界宝具 レンジ:1 最大捕捉:自分自身
  複雑な蔦の模様をした紋様。
  自身に攻撃の意思がない時に限り、いかなる攻撃も因果抹消防御により遮断するという個人用の結界。
  ルルタ=クーザンクーナは常時、これを刺青のように左肩に刻んでいる。

 ・「虚構抹殺杯アーガックス」及び「自転人形ユックユック」
  これらをルルア=クーザンクーナ自身は所持していない。

  ※追憶の戦器はどれも強力であるが、あくまでこれらがルルタにとっては自身を補助する装備にすぎず、
    彼自身はこれらと同じかそれ以上の効果を発揮する魔法権利をその身に備えている。


76 : 敗残兵と絶望の魔王  ◆S8pgx99zVs :2015/07/06(月) 19:55:14 EBP22xJ20

【人物背景】
 出展は「戦う司書シリーズ」
 楽園時代と呼ばれるまだ神が人類を見捨てていない時代の、その終わりに生まれた見目麗しき少年。
 人類滅亡が宣告され絶望が世界を包む中、予言により救世主足るとされた彼は生まれてよりずっと、その日が来るまで
 過酷な、到底並の人類にはなし得ない修練の日々を送らされた。

 彼自身が生来持つ能力はその透明な髪が象徴する『本喰らい』というもので、
 これは死んだ人間から生まれた『本(=魂)』をその身に取り込むことで、その人間の魔法権利を自身のものにするという力である。
 この能力によりルルタ=クーザンクーナは無限に強くなり、彼を強くする為に10万の戦士がその命を捨てた。

 命を捨てたのは直接本を喰われた者達だけでなく、追憶の戦器を懲罰天使より奪うためにも無数の兵が死に、
 ルルタに捧げる有用な魔法権利を生み出す研究の為に幾人もがその命を犠牲にし、それらを支える者らはその身を礎とした。

 ルルタ=クーザンクーナだけを信奉する国家が生まれ、全人類はそれに隷属することを強いられ、歯向かうものは悉く粛清された。
 世は絶望に満ち、ルルタはその全人類の絶望に後押しされ、それだけでなく体内に取り込んだ10万の戦士からも
 彼自身が絶望することを許されず、人類を救うことだけを強いられそれ以外の全部を否定された。

 そして、救世の大英雄ルルタ=クーザンクーナは15歳という幼さで神殺しを果たし人類を滅亡より救い、
 その最後に彼自身が愛したひとりの少女を救えなかったことを知る。

 その後、神に見放された世界をルルタ=クーザンクーナは支配し、以後約2000年、少女を救う方法を探し続けている。

【サーヴァントとしての願い】
 もし見つかるのならば「完全なる幸福」を。

【基本戦術、方針、運用法】
 無闇に力を振るって聖杯戦争そのものを破壊するようなことはせず、この世界でゆっくりと「世界を救う方法」を探す。

 戦闘が不可避であり、相手が殺してもかまわない者であれば一瞬で終わらせる。
 もしそうでなく興味を引く点があればコミュニケーションを取るか、または遠くからその様子を観察する。


77 : 敗残兵と絶望の魔王  ◆S8pgx99zVs :2015/07/06(月) 19:55:33 EBP22xJ20
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【マスター】 エミヤ

【参加方法】
 『契約者の鍵』の鍵は新宿についた時には所持していた。
 いつどこでこの鍵を手に入れたのか、あるいは所持していた何かがこの鍵に変化したのか、今現在エミヤ自身にはわかっていない。

【マスターとしての願い】
 現状を打破するなんらかの解答、それがもし得られるのならば……。

【weapon】
 『干将・莫耶』
 エミヤが基本装備とする一対の怪異殺しである剣――の複製品。
 その他、エミヤは彼自身が取り込んだ宝具の記憶からその複製品を投影し、それを武器/防具として戦う。

【能力・技能】
 『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』
 錬鉄の固有結界。
 自らの心象風景の中に相手を誘い込む大魔術であり、彼の場合、そこには彼の記憶に蓄えられた無数の剣(複製品)が存在する。
 また彼は複製品を投影する際、その武器に篭められた記憶をも同時に再現するため、その武器に応じた持ち主の戦闘経験を発揮できる。

【人物背景】
 出展は「Fateシリーズより」 ※細かい出展時期は現時点では不明、あるいは本編に関わらない並行世界よりの登場。
 ある並行世界において誰かを救う為に世界と契約し、その死後に守護者となった衛宮士郎本人である。

 結局、正義の味方として誰を彼も救うなどという理想が現実に沿うものであるはずはなく、
 人を救うことで救われない人を生み出し、その矛盾に魂を磨耗させてあげくの果てに絶望し、ただの守護者と成り果てようとしている。

【方針】
 自分がなにを目的とすればよいのか、今一度理想を抱いてよいのか、まずはそこから考える。


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78 : ◆S8pgx99zVs :2015/07/06(月) 19:55:43 EBP22xJ20
以上で投下終了です。


79 : ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 22:36:30 OHoXctM.0
>>ルルタ=クーザンクーナ&エミヤ
ご投下ありがとうございます。戦う司書シリーズと、原作Fateからの参戦ですね。
菊地秀行氏の文章のような重圧な、迫力のある文章、堪能させて頂きました。やはり氏の作品は、多くの方に読まれているのだなぁと実感させて貰った次第です。
そして何よりも目を瞠るのは、サーヴァントの強さでしょう。勉強不足なので、原作の事を全く知らないのが悔やまれますが、これ程強いキャラクターがいる世界観なのですか。
魔界都市シリーズの設定を下地に敷いた当聖杯に募集されるのも、当然の運びなのかなぁと思った次第です。
それよりも、原作のサーヴァントをマスターに抜擢すると言うのは、凄まじい着眼点ですね。
そもそも、魔界都市のマスターなのですから、マスター自身も強いと言うのも、考えてみれば、あり得なくもありませんでしょうし。
聖杯で幸福を成そうとするサーヴァントと、今ひとたび夢を聖杯に書けようとするエミヤのこれからが、気になります。

ご投下、ありがとうございました!!

間をおかず、ですが。投下いたします


80 : ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 22:37:54 OHoXctM.0
「君は、いつまでイラついてるんだい?」

 人を小馬鹿にするような、おちょくったような。癪に障るトーンの声が、少女の心を苛立たせる。
苛々を助長させるその声は、年の若い、声変わりすらまだ訪れていないような、少年の声であった。

「……」

 少年の問いかけを少女は、冷ややかな無視と言う応対で返してやる。

「無視かよ、つれないなぁ」

 そうは言う少年だったが、それに対して残念がるような様子でもなければ語調でもない。寧ろ、少女の無視を楽しんでいる風すらあった。

「マスターのその辛気臭い顔見てると僕もイラつくし、大して『事』の解決能力もないくせに必死に考えてみてますよって言うアピール、正直見てて寒いんだよね。
早い所、聖杯戦争に乗りますよ、って表明してくれた方が動きやすいんだけどな」

「――黙れ、悪魔。斬り殺すぞ」

 少女の口から紡がれる言葉は、少年に対する態度とは比にならない程冷たかった。
その冷やかさは、少年に対する敵意と嫌悪、そして殺意から来ており、冷たい、と言うよりは凍て付いていると言っても良い。
――見よ。少女の左手に握られた、彼女の身長程はあろうかと言う刀の鞘を。斬り殺す、と言う言葉が嘘ではない事は、彼女が鯉口を切っている事からも証明済みだ。
杯に満たした水が凍り付きかねない程の、冷たい殺意の放射と、木の板すら貫きかねない程の鋭い目線。
そして今にも刀を抜きかねないと言う事実を、少年は飄々と受け止める。
少年期特有の、シミ一つない女のような白い肌をした、小柄で華奢そうな緑髪の少年だった。その声音に相応しい、子供のような風貌。
少女の言葉を受け、少年は肩を竦める。その後で、口を開いた。

「出来ない事は口にするものじゃないよ。――セッちゃん」

 その言葉を聞いた瞬間、少女は何の予告もなく抜刀した。
刀を引き抜く少女の右腕には、緩やかさがなかった。速度、勢い、そして、彼女の身体から放出される気魄。
その全てが、対象を殺すと言う目的で横溢している。そしてその対象とは、目の前の少年であった。

 真っ直ぐ、刀を振るう少女の方を見つめる少年。
彼は、彼女が振るう刀に一切目をくれる事無く、迫り来る鋼色の殺意を、右手の人差し指と親指でその剣刀身を摘まむ事で難なく受け止めてしまう。
愕然とする少女に対し、呆れた様な微笑みを向ける少年。少女の驚きは無理からぬ事だろう。
直撃すれば身体を寸断する程の勢いで放った一撃を、宙を舞う小さな羽毛を摘まむような容易さで、防いでしまったのだから。
少女がどんなに刀に力を込めても、万力に挟まれてしまっているかの如く動かない。少年の人差し指と親指には、果たしてどれ程の力が込められていると言うのか。

 少年が、刀を摘まんでいる右腕を思いっきり引いた。
凄まじい力で身体ごと引かれてしまい、少女は俯せに倒れ込む。その拍子に、右手から刀がすっぽ抜ける。
頬に当たる板張りの床の冷たさが彼女に、今の状況は拙い事を告げる。立ち上がろうとするが、突如として背部に強い自重をかけられ、それがままならなくなる。
少年が、彼女の背中を右足で思いっきり踏みつけているのだ。

「出来ない事は口にするのは馬鹿だけど、実行に移すのは馬鹿を通り越して愚かなんだぜ? セッちゃん」

 少年の声には、先程のような軽い雰囲気に、侮蔑の色が混じっていた


81 : ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 22:39:45 OHoXctM.0
「君が僕に対してこんなにも強気なのは、君の右手に刻まれてる令呪のせいなのかな?」

 少女の背中に一層強く体重を掛けながら、少年は、少女の右手甲に刻まれた、トライバルタトゥーめいた紋章に目線を移す。
射干玉のような黒髪をした、見るからにストイックで、凛とした雰囲気のこの少女には相応しくない紋章だった。
人間の頭蓋骨の下に、大腿骨が交差していると言う意匠のそれは、頭の悪い不良が刻んでいそうな、低俗な入れ墨にしか見えない。
しかし、これは入れ墨ではないのだ。これこそが、英霊及び超常存在の分霊を矮小化させた、サーヴァントと呼ばれる、人智を超越した存在を律する手綱。令呪なのである。

「それとも、君の剣術の腕前のせいかな?」

 少女は答えない。少年に見えないよう、悔しさに歯噛みするだけだ。それに果たして、この意地の悪い少年が気付いているかどうか。

「どっちにしろ、君如きが僕を御する何て無意味だから止めた方が良い。僕は君が令呪を行使する前に殺せる自信があるし、君の剣術程度でも死にやしない」

 少年は、それまで右手で摘まんでいた刀の持ち方を変え、柄を握り、その剣身を少女の細首に当て始める。少女の身体が強張った。

「僕はそんなに剣とか刀について詳しくないんだけどさ、人の身体っていざ斬るとなるとこれが中々難しいんだろ? どれぐらい難しいか、君の首で試していいかな」

「やってみたらどうだ。だがそんな事をしてみろ、マスターの私がいなくなれば、当然お前はこの世界から消え失せ、聖杯も手に入らなくなるぞ」

 少しだけ強気を取戻し、少女が言った。「はっ」、と、少年は嘲笑で以て彼女の言葉を迎えた。

「別に僕は良いけど?」

「何……!?」

「聖杯は要らないって言ってるのさ。手に入れれば如何な願いも叶えられる神の杯? そして、それを手中に収める為に行う聖杯戦争?
確かに魅力的ではあるけど、それが要らない奴もまたいるって事さ。少なくとも僕は要らない。僕には聖杯は不要だから、聖杯が手に入れられなくなる、って言うのは脅しにならない」

 「それに――」と、少年は更に言葉を続ける。

「僕が言った事をもう忘れたのかい。出来ない事は口にするものじゃないって。『やってみたらどうだ』、だって? 勇ましい言葉だね、セッちゃん。
僕には解るよ。君は本当は、絶対に死にたくないって思ってるって事が。この〈新宿〉から、絶対に脱出したいって事が」

「黙れ悪魔!! 私をその名前で呼ぶな!!」

 立場の圧倒的不利を忘れて、少女が――桜咲刹那は叫んだ。
この少女には許せないのだ。本来斬り捨てるべき存在である悪魔に、刹那がこの世で誰よりも思っている幼馴染の少女が、刹那に対してかける呼び名で言われるのが。

 魔震と呼ばれる大地震に見舞われた〈新宿〉へと足を踏み入れてしまった切欠は、今でも鮮明に思い出せる。
刹那が生徒として通っている麻帆良学園とは、公にはされていないが世界的に見ても大規模な魔法組織としての側面を有している。
市井で普通に過ごしていては解らない事実ではあるが、魔術の道を歩む者であれば、誰でも知っている事実だ。
学園には洋の東西問わぬ魔術書だけでなく、貴重なマジックアイテムをも保管している。これらを狙って、ならず者の魔法使いが侵入、襲撃すると言う事案は決して少なくない。
刹那は表向きは生徒と言う立場であるが、京都神鳴流の優れた使い手である彼女は、魔法に通じている教員や他の生徒と共に、
招かれざる客を撃退・排除するという任務を任される事もあるのだ。言い換えれば、学園からも強く信頼されている戦士であると言う事だ。
例に漏れず襲撃して来た魔法使いを処理する仕事に当たっていた時の事。相手は、ケルトのドルイドの流れを汲む魔法使いの一派だった。
麻帆良を襲撃する魔法使いと言うのは大抵が有象無象の集まりである事が多いのだが、今回は非常に統率の取れた相手だった為に、思わぬ苦戦を強いられた。
それでも、ベテランの魔法使いの教諭達や、安心して背中を任せられる同級生の助けもあり、無傷で刹那はその場を凌ぎ、彼らを排除出来た。
彼らを拘束しようと、魔法使いの一人に近付き、武器となる物を取り上げている途中で、その懐から、澄んだ青色をした鍵が転がり落ちるのを刹那は見た。
向こうの魔法使いは、オガム文字やルーン文字を用いた使った魔法と言うものを扱う事を彼女は知っていた。
この鍵には、そう言った文字が刻まれているのだろうか、とそれを手に取った瞬間――。
桜咲刹那は麻帆良学園の敷地から、並行世界の〈新宿〉へと招かれてしまったのだ。まさか彼女も、その時手に取った鍵こそが、聖杯戦争への参加切符である契約者の鍵であったなどとは、夢にも思うまい。


82 : Girl Meets Devil Children ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 22:41:32 OHoXctM.0
 〈新宿〉へと招かれてしまった刹那は、困惑するしかなかった。麻帆良学園の敷地から、<新宿>区内の某女子中学の学生寮の一室に転移された、と言う事実もそうであるが。
自分はこれから麻帆良学園の生徒ではなく、<新宿>の私立の女子中学の生徒としてのロールを演じなければならない事、
この<新宿>がもといた世界の新宿区とは異なる歴史を辿った全く別の街だと言う事、そして、聖杯戦争に関する諸々の知識。
これら全ての情報が頭に刻み込まれ、その全てを一切の違和感なく受け入れている自分自身に、刹那は酷く困惑していた。
当惑が収まりきらぬそんな時に、この少年はやって来たのである。聖杯戦争における七つのクラスの内の一つ、槍兵(ランサー)のクラスを与えられたサーヴァント。
真名を、『タカジョー・ゼット』と呼ぶらしい。

 神鳴流の剣士として、妖物とも斬り合うケースも少なくない刹那は、目の前に現れた自分のサーヴァントがいかなる存在なのか、その本質を一瞬で理解した。
人間ではない。いや、サーヴァントである以上、生身の人間ではないと言うのは当然なのだが、そう言う問題ではないのだ。
この少年は、外見こそ人間の子供のそれであるが、その中身は人間ではない。だが、人に仇成す妖怪や鬼と言った存在とも違い、かと言って人に対して性善な存在でもない。
人間に対して良い影響を与える存在では断じてなく、それでいて、妖怪や鬼よりも悪しき存在。少年は悪魔だった。
それも、今まで刹那が見聞し、戦って来た存在の中で、最強の力を誇る存在――『魔王』なのである。これは、少年自ら認めた事実である。
本来ならば敵対関係にある存在に、刹那が世界で一番大事に思っている幼馴染が使う呼び名で呼ばれるなど、彼女にしてみればおぞましい事この上ない。
タカジョーにせっちゃんと呼ばれる度に、刹那の心には、昏い怒りが沸々と湧き上がるのである。

 刹那の怒りを更に助長させるのが、タカジョーの指摘であった。結論から言えば、タカジョーの指摘は刹那の痛い所を強かに突いていた。
刹那は死ぬのが怖かった。より正確に言えば、麻帆良学園の面影が影も形も無いこの世界で、誰に知られる事もなく死んでしまうのが怖いのだ。
近衛木乃香。刹那の幼馴染である少女であり、そして、刹那が命を懸けて守り通さねばならない主の名前である。
見知らぬこの地で木乃香に知られず、死んでしまうのが、怖い。それを思うだけで、身体中の毛孔から、粘ついた冷たい汗が噴き出て来る
この地で果てる事。それは即ち、木乃香を守る為に今まで力を磨いてきた、と言う行為、のみならず刹那の全人生の否定に他ならない。
それを回避すべく、必死に思案を巡らせて……。此処で、冒頭のやり取りに繋がる、と言う訳だった。
結局打開策は、浮かび上がらなかった。悪魔が自分のサーヴァントになったという事実で生まれた苛々と、焦燥感が積もった現状で、その様なアイデアなど、浮かぶ筈もないが。

「で、結局君はどうしたいのかな、マスター? 死ぬのが御望みなら、一肌脱ぐけど」

 踏みつける力を強めながら、タカジョーが言った。この少年は冗談でこのような事は言ってない事を、刹那は理解していた。
自分の返答次第では、本当に、首が飛ぶか、体中の臓器を潰されて即死する。その実感が、彼女にはあった。

「……私はまだ、やるべき事が残っているんだ……!! このような場所で死ぬ訳には……!!」

「初めからそう言えば良いんだよ。変に意地張らなきゃ、みっともない姿を晒さなくてすんだのに」

 仕方がない、と言葉が続きそうな声音で、タカジョーは足を背中から退かした。
急いで刹那は立ち上がり、タカジョーの方に背を向ける。いつの間にか彼は、刹那から一mと半程距離を離していた。
まだその手には、刹那の愛刀、夕凪が握られている。タカジョー自身が認めるまで、返さないつもりなのだろう。

「僕としては戦う方が変に考える必要もなくて楽なんだけどさ、本当にそれで良いのかい? 他に何か、リクエストしたそうな目をしてるけど」

 何から何まで、少年の姿をしたこの魔王には御見通しと言う訳なのだろうか?
非常に癪に障る話だが、タカジョーの言う通り、刹那にはもう一つの要求があった。これをタカジョーに対して口にしなかったのは、言えば絶対に彼からダメ出しを喰らう事が、火を見るより明らかだったからだ。


83 : Girl Meets Devil Children ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 22:42:21 OHoXctM.0
「……なるべくなら、人を殺さないで欲しい」

「へぇ、不殺主義かい? この刀は飾りなのかな?」

 刹那に対して見せびらかすように、タカジョーが夕凪を掲げた。それが嫌味である事は、誰にでも解るであろう。
刀身に照明の光が当たって、鋭い銀光を放つその希代の名刀は、刹那の手に渡る以前に百を超える人間や妖怪を斬り伏せ、刹那の手に渡ってからも何十体もの妖物を斬り捨てて来た、歴戦を経た大太刀であった。今にも、血が香りそうである。

「人間は殺したくないだけだ。私が殺すのは……妖怪だ」

「成程ね。妖怪や悪魔は殺しても平気な訳だ。僕らだって人間と同じで、ちゃんと生きてるのにね。人の命と狐狸妖怪の命、重みで言えば同じ筈なんだけど」

「そうだ、私は身勝手な女だ。大切な人の為に、死ぬ訳にはいかない。その方の為ならば私は、どんな妖怪でもサーヴァントでも斬り捨てる。……だが……」

 言葉を其処で区切り、刹那は、伏し目がちになった。

「人を殺したら私は、お嬢様に顔向けが出来なくなるかも知れない……。ただでさえ人と違う私だと言うのに、その上に人を殺してしまったら、優しいあの方は私の事を嫌うだろう……」

「だから僕にサーヴァントだけを殺せって?」

「甘いと思うのだったら罵ればいい、蔑みたいのなら蔑めばいいだろう、悪魔ッ」

「別にやってあげてもいいけど」

 タカジョーのあまりの即断即決の返事に、刹那は目を丸くする。
嫌味の一つや二つ言われる事は元より、致命的な代償すらも求められる事を覚悟していたが、それらが全くなく、逆に困惑してしまったのだ。

「間抜け面して驚いちゃってまぁ、可愛い所あるじゃん」

「悪魔……何が目的だ?」

「別に? 僕だって久しぶりの現世だし、少しはブラブラしたいなって思っただけさ。観光出来ないで還るのも味気ないだろ? そのついでに、サーヴァントとも遊んであげるよ」

 何とも軽い気持ちで聖杯戦争に乗るサーヴァントだろうか。
聖杯を欲するでもなく、この機に何かを表現するでもなく。ただ、久方ぶりに世界に現れる事が出来たから、そのついでに戦う。
それは果たして、他を隔絶する強さを持った悪魔である、魔王が故の余裕なのであろうか。

「悪魔って奴は気まぐれなんだ。礼や供物をどれだけ尽くしても願いを叶えてやらない事もあれば、視界の端にとまっただけの奴の願いを叶えてやる事もある。君の言う事を聞くのだって、単に気が向いてるだけ。他意はないよ」

 言葉を切ると、今まで握っていた夕凪をフローリングに転がすタカジョー。「返すよ」、刹那の目を見てタカジョーが口にする。刀には目もくれない。
尊敬する近衛詠春から授かった大事な愛刀に対して、何ともぞんざいな扱いをする悪魔であったが、それに対する怒りの気持ちは、今の刹那には湧いてこない。

「外行ってさ、夜風に当たって来るよ。君もさ、不殺を誓うのもいいけど、場合によっては、人を斬る事も視野に入れておいた方がいい。
この戦い、甘い事ばっかり言ってちゃ乗り切れない。心を悪魔にして臨まなくちゃいけない局面だって来るんだから、覚悟しておこうね。セッちゃん」

「貴様、何度言えば解るんだ!! その名前で私を――」

 口角泡を飛ばして怒鳴りかかろうとした瞬間、タカジョーの姿が、まばたきするよりも速く、その場から消えてしまう。
純粋な超スピードでの移動ではない。魔法の発展した刹那達のいた世界ですら、超高等技術とされる、瞬間移動。
それを事もなげにして見せるのは、人間とは構造が根本的に異なる生命体であり、人以上に魔法の造詣が深い魔王であるからこそ、なのだろう。
フローリングに死んだタチウオの様に横たわる、愛刀の夕凪を拾い、鞘に納める刹那。
瞳を静かに閉じ、握り拳を固く作り、今も元いた世界で楽しく過ごしているであろう大切な幼馴染の事を、刹那は思う。

「必ず戻ります、お嬢様」

 一人そう口にする少女の態度は、巌の如く頑としていた。


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84 : Girl Meets Devil Children ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 22:42:39 OHoXctM.0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 演じるロール上刹那が通っているとされる女子中学の学生寮の屋上で、タカジョーは夜風に当たっていた。
ただ屋上にいるのではない。この魔王は、電波受信の為のアンテナの上で佇立しているのだ。
細い枝を組み合わせて作ったような、細い金属棒で構築された頼りなさそうなそれは、人間の子供がその上に乗っかれば即座に圧し折れそうな脆さを醸し出しているが、
その上にタカジョーは、ポケットに手を入れた状態で器用に立ち尽くしていた。全体重をかけているにも関わらず、アンテナが折れる様子は欠片も見当たらない。
この少年魔王には重力が一切かかっていないのか、それとも彼は、この世を統べる物理法則の桎梏の外にある存在なのか。

「何で僕が言う事を聞くのか、不思議がってたな、あの女」

 誰に言うでもなく、タカジョーが一人口にする。
この少年の独り言を聞いてやれるのは、紺碧の夜空に浮かぶ、疎らに散った星と欠けた月だけであった。

「……恥かしくて言えるわけ無いよな。下の名前が君と同じだったから、なんて」

 タカジョーは言った。自分は聖杯になど興味がないと。それは確かな事実である。だが、刹那は知らなかっただろう。
もしも彼女が、『刹那と言う名前じゃなかったのならば』、彼に対して夕凪を振ったその時点で、一切の慈悲もなく彼女を細切れにされていたと言う事を。
あの部屋に数リットルもの血液と何十kgもの肉片が粉々になって四散しなかったのは、彼女の名前が、タカジョーの大事な友人と同じだったからである。
こんな事、タカジョーには恥かしくて言えたものではなかった。

「ったく……随分と僕も丸くなったなぁ? ……セッちゃん」

 一人かぶりを振るって、タカジョーは一人言葉を紡ぐ。
今はこの場にはいない、タカジョーではなく、高城絶斗として生きて来た時に出来た友人である、甲斐刹那の事を、タカジョーは思っていた。
過酷な運命から逃げもせず、抗い、そして戦い、遂に平和を勝ち取ったあのデビルチルドレンの少年は、今の自分の事を見て、何を思うのだろうか。
らしくないと小馬鹿にするか、それとも優しくなったなと褒めるのだろうか。解らない。が、タカジョーは、今はこれで良かったのだと思う事にした。

 タカジョーがアンテナから見下ろす<新宿>は、嘗て魔界で繰り広げた戦場もかくやと言う程の地獄にこれから変貌するとは思えない位に、平穏無事な東京都なのだった。



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85 : Girl Meets Devil Children ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 22:43:34 OHoXctM.0
【クラス】

ランサー

【真名】

高城絶斗(タカジョーゼット)@真・女神転生デビルチルドレン(ボンボン漫画版)

【ステータス】

筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具EX

深淵魔王・ゼブル時
筋力A 耐久A+ 敏捷A++ 魔力A++ 幸運D

【属性】

秩序・中庸

【クラススキル】

対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】

反骨の相:B+
独自の行動原理に従い動く者。その在り方はトリックスターに近い。或いは、気分屋か。
強い権力を持った者に従わない。生前、ありとあらゆる陣営の前に姿を現し、適当に場を掻き乱し、翻弄して来た。

魔王:C(A)
呼び出されたサーヴァントによって内包されるスキルが変わる複合スキル。
ランサーは世界の創造主であるホシガミと呼ばれる神から、世界の監視を言い渡された魔王ゼブルの転生体である。
ランサーの場合は、ランク相当の飛行や瞬間移動、魔力放出、怪力、再生、戦闘続行のスキルを複合している。普段は魔王としての適性はCランクだが、ある過程を経る事で、カッコ内の値に修正される。

【宝具】

『光も届かぬ泥の深淵(ディープホール)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:50 最大補足:200〜
ランサーが発生させる事の出来る、ある種の閉鎖空間のようなものが宝具となったもの。固有結界とは違い、あくまでも対象をその世界へと引きずり込む入口を作るだけ。
ランサー自らの背中から展開させられる光の翼から、漆黒のタール状の物が滴って行き、それが湖のような物を形成。
其処に足を踏み入れた物は、一切の光も届かない、永遠の闇の世界へと沈んで行く。沈ませられるのは生物だけではなく、
形成させたタール溜まりが呑み込む物の大きさを超えるのであれば、建造物すらも容易く呑み込み、闇へと消えさせる事が出来る。
生前ランサーはこの宝具を発動させ、1つの国を闇の中に沈ませたが、サーヴァントとしての召喚の為格段に効果範囲が落ちている。

『魔王転生(深淵魔王・ゼブル)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:自身
ランサーを人間の姿から、深淵魔王と称される悪魔、ゼブルの姿へと変身させる宝具。その変身プロセスとは、自分自身が一度『完全に殺される事』。
生前、魔界の大魔王であるルシファーの名を騙ったある1体の悪魔によって完全に葬られる事で、ランサーは深淵魔王として完全覚醒した。
魔王として覚醒する事で、ランサーのステータスはゼブルの物へと修正される他、魔王スキルがカッコ内のランクに修正される。
更にダークスピアと呼ばれる槍を初めて此処で使用可能となる上に、より高度な魔術も扱う事が出来る。
凄まじい強さを得る宝具である一方、この状態から人間形態に戻る事は最早不可能になる上に、魔力の消費量も凄まじいものとなる。
また、マスターが殺され、それに引っ張られる形での消滅では、この宝具は発動しない

【weapon】

ダークスピア:
ランサーが深淵魔王と化した時に初めて使用可能となる黒色の槍。ランサークラスとしての適性を満たす武器。竜種を貫く程の代物であるが、宝具ではない。

【人物背景】

元々はハラジュクに住んでいた少年で、主人公である刹那の幼馴染の一人。
気弱な性格で外見も少女的であり、刹那や同じく幼馴染の未来の背に隠れていることが多かった。
その正体は『ゼブル』というデビルであるが、刹那と未来に関わった事で、人間としての心である良心に目覚め、世界を救う事を決意する。
人間としての高城に眠っていたゼブルと言う悪魔の異能に覚醒したのは、小学校の初期の頃との事。
深淵魔王と呼ばれる程の強大な力を誇るデビルであるが、邪悪な存在ではなくその逆で、寧ろ秩序を司る側の存在。
世界の創造主であるホシガミによって世界を見守る役目を与えられた存在で、高城絶斗の姿も、なるべく不干渉で世界を監視するためのものであった。
そう言った性質上いかなる勢力にも組するつもりがなく、黒幕のアゼルや、アゼルに捕らえられたルシファー。
魔王軍や反乱軍とあらゆる勢力の前に現れ、翻弄してきた、気分屋な性格。


86 : Girl Meets Devil Children ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 22:44:00 OHoXctM.0
【サーヴァントとしての願い】

特になし




【マスター】

桜咲刹那@魔法先生ネギま!(漫画)

【マスターとしての願い】

元の世界へと帰還する

【weapon】

夕凪:
刹那の愛用する巨大な野太刀。嘗て紅き翼の一員だった、近衛詠春から受け継いだ一振り

【能力・技能】

京都神鳴流:
妖物と戦う為の剣術流派。巨大な魔物を一刀の下に両断する事が多く、そう言った性質上、自らの背よりも大きい野太刀を使う事が多い。
が、対人戦にも特化しており、その場合は小ぶりな二本の刀を用いた戦闘を行う事が可能。
手元に剣が無い場合には、氣を用いて棒状のものを強化させ、それを振って戦闘をする事がある。また、体術にも造詣が深い。
とどのつまりは、全局面に特化した武術流派である。刹那はこの流派における優れた戦士であり、凄まじい戦闘能力を誇る。

白い翼:
刹那は鳥人とのハーフであり、その象徴である白い翼を展開する事が出来る。これを展開している間は、極めて自由に空を飛べる事が出来る。
白い翼は鳥人の中でもタブー的な存在であり、かつ鳥人と言う怪物の血が混じっている為、刹那はこれを深く恥じ、滅多な事では展開しようとしない。
極めて頑丈でもあり、翼で自らを覆うようにする事で、高い防御性能を発揮する事も出来る。

陰陽道:
本家本元ほど洗練されてはいないが、補助程度に扱う事が出来る。
インターフェース程度の役割しか期待できないが、通称ちびせつなと呼ばれる式神を作成可能。

【人物背景】

麻帆良学園の中等部に通う女子生徒。剣道部。両親はすでに他界している。
その実態は京都神鳴流の剣士であり、近衛木乃香とは京都での幼少時代からの幼馴染。
昔は一緒に遊ぶ程に仲が良かったが、過去の一件により、疎遠になる。以降は、木乃香からは一歩身を引いた所で見守ると言う形で彼女と付き合う事になる。
これに加えて、鳥人であると言う出自から、なおの事コミュニケーションを取る事が少なくなり、会話が全くなかった。
白い翼が原因で里を追われた所を、日本へ帰国した近衛詠春に拾われ、現在に至る。

参戦時期は、ネギ・スプリングフィールドが麻帆良へとやって来る前。当然のように、パクティオーカードを用いた戦闘は展開出来ない。

【方針】

何とかして生き残る


87 : ◆zzpohGTsas :2015/07/06(月) 22:44:20 OHoXctM.0
投下終了です。引き続きの投下を、お待ちしております


88 : ◆zzpohGTsas :2015/07/09(木) 03:46:14 eVak5ito0
投下いたします


89 : 雨生龍之介&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/09(木) 03:47:22 eVak5ito0
Case1:区内某商社に通う商社マン、加藤俊也の場合 

 加藤俊也は率直に言って、相当に出来の悪い営業マンだった。顔が悪い上に口下手で、その上性根も根暗なそれ。とどめに、営業の業績も、社内で最低と来ている。
上司の心証はもとより、同僚の心証も頗る悪く、給湯室に足を運べば女性従業員が陰口に華を咲かせる代表の社員だった。
次の人事異動の時には窓際部署に配置される事が約束されているような男。自主退職を、誰よりも望まれる男。
それが、某商社の従業員が、加藤俊也と言う男に抱いていたイメージであった。

 ――それが、ある日を境に、別人になっていたのである。
どもりがちだった口調からはどもりが消えてなくなり、性格も身体の中身を全て変えたように明るいそれに変わり。
顔の悪さだけは流石に変え難かったが、服装と髪型を清潔なそれに変えるだけで、大分見違えるようになった。

 だが一番変わったのは、外見ではない。その成績が百八十度転換したのだ。
加藤はものの三日間で、社内で一番優秀な営業マンが月に成立させて来る商談契約の数と同じ数の契約を取り付けたのである。
超人的を通り越して、最早悪魔的な営業手腕であると言わざるを得ない。社内の誰かが言った。加藤は悪魔と契約したのではないかと。

 加藤俊也はたった二日で、それまでの自分のイメージの払拭に成功した。
コミュ症の無能と言うイメージが、一転。口達者で明るくて、その上に成績も良い。忽ち彼は、社内でも一目置かれる出世頭の一人へと躍り出た。

 加藤は一昨日、極めて大口の商談契約を取り付ける事が出来た。
その契約先との商談を成立させる為、様々なライバル会社が接待をしたり袖の下を送ったりしていた。
加藤の通う商社は、その接待合戦に出遅れた。今更接待をした所で、最早時間の無駄だろうと社の幹部達も諦めていたのだ。
それなのに彼は、商談を成立させて来たのだ。接待もしていなければ袖の下もなく、商談を成立させた加藤を、社は英雄だと称賛した。その営業手腕を魔法のようだと褒め称えた。

 そしてそれが、加藤俊也の最期の契約となった。
商談を成立させた後、加藤は何を思ったのか――自分の営業手腕に過度の自信を抱いたのか
彼は歌舞伎町の暴力団事務所に足を運び、営業を開始し、カチコミか何かかと勘違いした構成員のリンチを受け重傷を負った。
路上にほっぽりだされた加藤は、通行人の通報を受け、その後病院へと搬送された。
頭蓋骨陥没、全身の複雑骨折、神経断裂、脳挫傷。特に大脳に致命的なダメージを負ったという。
加藤が今後言語障害と全身マヒと付き合って行かねばならないと言うのは、彼を診断した医師の談であった。


90 : 雨生龍之介&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/09(木) 03:47:42 eVak5ito0
Case2:区内某大学に通う学生、柿木健介の場合

 一言で言うのならば柿木健介は、女と縁のない学生だった。つまり、童貞だ。
女っ気がまるでなかった高校までの生活。柿木は自分の人生は大学に入学した時に変わるのだと本気で信じた。
だから高校二年から本気で受験勉強をし、その甲斐あって、見事難関私立への現役入学に彼は成功した
これで自分の大学のネームバリューにつられて、女が寄って来ると、入学前に本当に夢想した。

 だが、モテない。あれだけ勉強して良い大学に入ったのに。何故なのか。結論を言えば柿木は自分のキャラクターを弁えていなかった。
似合う顔じゃないのに、髪の色を茶に染めた。似合いもしないのに、洒落た服も買った。そして何よりも、似合うキャラじゃないのに、チャラついた雰囲気を醸し出そうとした。
つまり柿木は、自分がどう振る舞ったら良い印象で見られるか、と言う事に全く気付いていないのだ。
良い大学に入ったエリートなのに、雰囲気も軽くて親しみやすい。それが柿木の狙った、女性に好かれる自分の造型であった。
……実際柿木が、彼の入ったサークルの同級生や先輩からどう見られているのかと言えば、空回りしまくった痛い奴、なのだが、本人だけがそれに気づいていない。

 それがある日を境に、急に女性に好かれるようになった。
何かが変わったと言えば、何も変わっていない。顔も髪型も服装のセンスも、同級生の知る柿木健介のそれ。
何も変えていないのに、モテ始めた。同級生が寄ってくる、区内の女子高の生徒が寄ってくる、何故だか知らないが、女性ウケが途端によくなった。
サークルの人間に、自分が童貞を捨てた事を意気揚々と柿木は自慢し始めた。十回は射精したとも言っていた。
真偽は流石に不明だが、少なくとも、女性が寄り付くようになったのは、事実である。

 柿木は、自分の灰色の高校生活の事を思い出すのか、大学生よりも高校生と付き合う傾向が強い学生だった。
バイト先や、歌舞伎町、高田馬場など、女子高生がたむろする場所などこの区には数多い。
其処で柿木はナンパをし、彼の心意を知らずに、ホイホイとついて行く女性が後を絶たない。

 一昨日、柿木は意気揚々と、サークルに入った事により出来た学友に、女子中学生を抱いた事を自慢した。
流石に今回ばかりは反響が大きかった。「やるなぁ」と言う声もあれば、「ロリコンかよ」と非難する声もあった。
しかし、多くの男達の羨望を一挙に集める事は出来たのは事実。性欲も満たせ、自尊心も満たせる。柿木健介は、これ以上となく満ち溢れた性生活を送れていた。

 ――翌日柿木健介は、殺人の現行犯で逮捕された。
犯行内容は常軌を逸していた。世田谷区の住宅街に足を運んだ柿木は、ある一軒家へと押し入り、その家に主婦に暴行。
主婦が面倒を見ていた生後数ヶ月の女児の膣に、男根を突き入れたのである。身体の機能もまだ完成し切っていない赤ん坊が、当然これに耐えられる筈もなく。
膣の破ける凄まじい痛みに悲鳴を上げて、赤ん坊はその場で死亡。強姦罪以前に、殺人罪で起訴されたと言う訳である。

 当然柿木健介が、彼の在学していたW大学から除籍、退学処分にあった事は言うまでもない。


91 : 雨生龍之介&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/09(木) 03:48:01 eVak5ito0
Case3:歌舞伎町で水商売に従事する女性、高山良子の場合

 高山良子は歌舞伎町で、仕事に疲れた男達の接客業……身も蓋もない言い方をすれば、キャバクラ嬢として働く女性だった。
顔と身体のプロポーションが仕事上の全てとも言えるこの業界において、高山は、かなり微妙なラインの女性であった。歳も、顔も。
指名された男性から、「君指名写真と随分顔が違うね?」と遠回しに言われた回数は、数知れない。
本当ならば頬を引っ叩いてやりたいところなのだが、腐っても客商売。朗らかに笑って「やだ〜社長さんったら〜」と言って場を和やかにしなければならない。

 昔ならばいざ知らず、今はインターネットもSNSも高度に発展した時代である。
今日日キャバクラに限らず、風俗もソープも、どの嬢が外れでどの嬢が当たりかと言う情報は、その店の名前で検索をすれば簡単に把握が出来る。
指名する程の女ではない。それが某ちゃんねる及び、キャバクラ店の評価サイトが、高山良子に対して下した評価であった。

 高山は女性である――いや、こんな仕事に従事する女性だからこそ。
女性と言う生き物が抱き続けるだろう究極の野望、永遠に美しくありたいと思うのは、至極当然とも言えた。
しかし、そんな願望が叶う等とは、本気で高山も思っていなかった。当たり前だ。高山はじき二十八になるいい大人だ。
同じキャバクラ仲間と話す。キャバクラ嬢を止めたらどうするのかと。嬢などいつまでもやってられる仕事ではない。
今の内に一生分の金を稼いで貯金をし、適当な所でパートをして過ごすか。或いは、誰だっていい。
理想は堅実な会社員、最悪ヤクザとでも結婚をして、場を固めるのがセオリーなのだ。その店で一番人気の嬢などは、若くして数千万にも届く貯金があるなどザラだ。
高山には、数十万の貯金しかない。これでは到底今後の人生を乗り切れない。所謂正規雇用の社員になろうにも、職歴欄にキャバクラ嬢など書ける訳がない。
これからどうやって生活をすればよいのか、眠ろうと布団の中に入ると、その不安の影が脳裏にチラつくのだ。――美しささえあれば!! 全てが解決するのに!!

 ある日を境に、高山良子は非常に美しくなった。人間性が、と言う意味ではない。その顔面からプロポーションに至るまで、全てが変わっていた。
顔付きはその店で一番人気の嬢を遥かに超え、身体つきは肉感的で非常にエロチシズムに溢れていて。
元の高山を知る店長や嬢達は、どの整形外科の先生に手ほどきされたのかとしつこく聞いて来た。高山は自慢げに、「神様が授けてくれた」と返すだけ。
別人のようになったその日から、高山はたちまち店の人気嬢となった。それまで一番人気であった女性の人気を、全て一瞬で掻っ攫ってしまった程である。
気を良くして指名した男達が、高い酒を注文してくれる、ぼったくりに等しい価格のフルーツの山盛りやおつまみをジャンジャン頼んでくれる。
店の売上にも直接的に貢献してくれる上に、それまで得られなかった、男性からチヤホヤも獲得出来る。高山良子はまさに、人生の絶頂の最中にいる気分であった。

 そんな高山が昨日から行方知れずになってしまった為に、店は一時騒然となった。数日間も店に来ないし、足立区の住まいの方に連絡を寄越しても反応がない。
何処ぞの悪い男にでも引っかかったのではないかと同僚のキャバクラ嬢や従業員達は噂した。本来ならばやりたくない手段だが、店長が警察に行方不明者届も出した。
最初に高山良子が店に来なくなった日と同日、同姓同名の老婆が、高田馬場駅の裏路地で野垂れ死にしていた事がニュースとなっていた。その老婆は九十歳であった。


92 : 雨生龍之介&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/09(木) 03:48:36 eVak5ito0
Case Special:連続殺人犯、雨生龍之介の場合

「すげぇよアンタぁ、こんな事が出来る何て!!」

 <新宿>は歌舞伎町の裏路地を所在地とする、小ぢんまりした内装のバー『魔の巣』にて、見るからに軽薄そうな雰囲気の男が、熱っぽい声で賞賛した。
薄暗い室内、ムーディーなBGM、黙々とグラスを拭き続ける顔中髭だらけのマスター。如何にも落ち着いたバーだったが、その部屋の中で、この男だけが浮いていた。
蠱惑的で洒脱そうで、それでいて何処か軽そうなこの男は、<新宿>の繁華街の夜には相応しそうな男ではあるが、少なくとも『魔の巣』で酒を飲むには、子供っぽい。
雨生龍之介。魔の巣のカウンター席にて、ジン・トニックを飲みながら楽しそうにiPadを操作している男の名前である。

「いえいえ、それ程のものではございませんよ」

 龍之介の左隣の席で、ウイスキー・ソーダを口にする男が、控えめな声で謙遜する。
ずんぐりむっくりと言う言葉が、これ以上とない相応しい体型の男だった。背は龍之介よりも頭二つ、いや、下手したら三つ分ほども小さい。
脚も子供の様に短く、胴回りもとても太い。人間の体について研究している学者が彼を見れば、胴長短足のサンプルとして即座に採用を決めかねない程の男だ。
だが、男は酒を飲んでいる事からも解る通り、断じて子供ではなかった。黒いスーツに山高帽、茶の革靴を着こなすその様は、子供とは思えない。
いや寧ろ、下手な人間が着ようものなら即座に浮くであろう黒尽くめの服装が此処まで似合っていると言う事から見ても、ただ者ではない事が窺える。
そして極め付けが、男の顔つきだ。異様に大きい垂れた目と、張り付いた様に浮かべている、白い歯を見せつけるような薄気味悪い微笑み。
ある者がこの男を見たら、きっと不気味で近寄り難いと思うだろう。だが一方、ある者がこの男を見たら、不思議な親近感を覚える事であろう。兎に角、不思議な魅力を醸し出す男だった。

「だって、見てくれよこれ。<新宿>の商社に勤めるサラリーマンが重傷、W大学の学生が殺人の罪で逮捕、歌舞伎町で老婆が老衰で野垂れ死に……」

 尚も熱が冷めやらないのか、龍之介は言葉を止めない。

「一見して共通点がなさそうに見えるこの三人、俺は間近で見たから知ってるぜ。全員アンタの『客』だった人間じゃないか!!」

「ホッホッホ」

 山高帽の男は、耳に残る特徴的な笑いを浮かべて、龍之介の言葉を濁した。

「アンタすげぇよ本当に、人を幸せにしておきながら、後からそいつの大事なものを命も幸せも全部奪って行く何て……本物の悪魔だぜ!!」

「龍之介さん、それは違いますねぇ。私は悪魔でもなければ、人の命も幸せも不当に奪ったつもりもありませんよ」

「へ? でもあんた、三人とも無事にすまさせてないじゃん。ホラ、これ」

 言って龍之介は、手元に置いてあった、山高帽の男のiPadを操作し、先程見ていたニュースのタブを開いた。「どれどれ」と山高帽の男が覗いてみる。
<新宿>の商社のサラリーマンを暴力団構成員がリンチした事件、W大学の学生が生後間もない赤ん坊をレイプして殺人した事件、歌舞伎町で野垂れ死にした老婆……。
龍之介は知っている。この三人は、目の前の山高帽の男が、彼らが浮かべていた満たされない表情に気づいて近づいて来て、商品をセールスした客であると。何故知っているのかと言えば、話は単純。龍之介は近場で、その様子を見ていたからに他ならない。

「龍之介さん、私はあくまでもセールスマンです。しかも私は、日本で一番セールスマンの基本に忠実なセールスマンだと、自負しておりますから」

「その基本って?」

「セールスマンは相手の需要を満たさねばならない、と言う事ですよ。私の場合は、『ココロのスキマ』を埋める事を重視しております」

 言い終えてから、男はウイスキー・ソーダを呷った。「ココロのスキマねぇ……」、と龍之介は考え込む。 

「要するに、不満って事で良いのかい、それって」

「乱暴な言い方ですが、その通りですな。龍之介さん、先程貴方がiPadで示したその三人は、ある時期までは確かに幸せだったのですよ。それは保障致します」

「でもあんたが死なせるよう仕向けたじゃないかこう……『ドーン!!!!』って言って人差し指突き差してさ」

 言いながら龍之介は、山高帽の男に人差し指を突き付けるジェスチャーをして見せる。
普通の人物であったら失礼だと言って叱りそうなものであるが、この男はあいも変わらず、ふてぶてしい笑みを浮かべているだけだった。


93 : 雨生龍之介&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/09(木) 03:49:16 eVak5ito0
「龍之介さん、私の商売する状況を見ていた貴方なら解る筈ですよ。私があの三人に商品を売りつける際に、私は条件を付けた筈です」

「条件……あ〜あ〜、言ってたなそういや。何て言ってたのかは忘れたけど」

「自分に自信がつくようになり、話し上手の聞き上手になれるネクタイを差し上げた加藤俊也さんには、『自分の会社よりも大きい規模の取引先とは取引してはいけない』。
女性に好かれやすくなるワックスを差し上げた柿木健介さんには、『高校生以下の年齢の女性とは絶対に交際してはならない』。
顔から身体までを自分が理想とする美女にしてくれる化粧用品一式を差し上げた高山良子さんには、『貢物は絶対に受け取ってはいけない』。……と。この三人はこのような条件を付しました」

「みーんな破ったよな」

 言ってから、龍之介はジン・トニックを口へと運んだ。

「私は自分でもお人よし過ぎて悩んでいましてねぇ、困っている人を見かけるとついつい助けてしまいたくなるのですよ」

 本当かよ、と言った目線に流石に山高帽の男も気付いたらしい、直に言葉を続けた。

「龍之介さん、人の満たされない心と言うものは解消されるべきだと私は思っておりますし、不幸でいるよりかは幸福でいる方が絶対に良いに決まっていると、私は思っております」

 ――「ですが」

「幸福は一極に集中させてはなりません。不幸だった人がある日幸福になり、人生が薔薇色になる。それは素晴らしい事だと思います。
ですが、その方が幸福になり過ぎる事によって、今度はそれまで幸福だった人が不幸になり、今不幸の中にいる方が更に不幸になる。
解りますか龍之介さん? 私の扱う道具は、幸福になり過ぎる事も十分可能です。しかし、なり過ぎてはいけないのです。『節度を持たねば』なりません。
そうしなければ人は……幸福を貪り続けるだらしのない人になってしまいますから」

 カラッと、山高帽の男が、ウイスキー・ソーダの中の氷を揺らして見せた。ロックアイスは、三つあった。

「セールスマンは、契約と責任を重んじます。私は契約を遵守致しますが、それは相手にも強います。
享受した幸福の度量によって、契約違反のペナルティは決められねばなりません。ですので、龍之介さん。私は相手の不幸を奪っているのではありません。殺しているのでもありません。幸せの代償を払って貰っているだけなのです」

「……な……」

「?」

 何処か疑問気な顔付きで、山高帽の男が龍之介の事を見上げた。

「何て、COOLで、CLEVERで、STOICな考え方なんだ、旦那ァ!!」

 龍之介は、目の前の男の――自分の懐に今もしまわれている、契約者の鍵だか言う青色の鍵に導かれてやって来た小男の言に、感動を覚えていた。
当初龍之介は、東京の<新宿>などと言う街に訳も解らず呼び寄せられ、しかも聖杯戦争だか言う茶番劇を行わねばならないと聞いた時には、心底辟易していた。
帰りたいとすら思った。誰かが勝手に解決してくれないか、と思っていたくらいには、聖杯戦争など如何でも良かった龍之介だったが……いやはや、この男と出会えたのならば、存外悪い物ではなかったのかも知れない。


94 : 雨生龍之介&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/09(木) 03:50:06 eVak5ito0
 雨生龍之介はもといた世界に於いて、司直や捜査機関の手を巧みに掻い潜り、猟奇殺人を繰り返していた連続殺人犯であった。
今まで殺害してきた人数は両手の指の数を超える程。死刑など確実とも言える人数を殺して来ていながら、この男が今まで犯人として疑われてすら来なかったのは、
この男の殺人の手口が洗練されたそれであり、かつ、捜査の目を絶妙に掻い潜る方法を本能的に行っているからに他ならなかった。
龍之介にとって殺人とは一種の芸術表現であり、――本人達は同列にするなと激昂するだろうが――哲学者が命題(テーゼ)を求める行為に等しいのである。
彼は『死』と言う現象が如何なるものなのか、解体しようと試みていた。アニメやコミック、小説に映画などで表現された死と言うのは、嘘っぱちのそれ。
死んでいるのはこの世にいる人物ではない非実在の存在或いは役者がこう演じろと言われて演じているだけのそれで、実際には死んでいないのだと解ると、
実にチープなものとしか映らない。彼は死を理解しようと、解体しようと、様々な行為を行ってみた。つまりは――殺人である。

 実にいろいろな方法を試した。刃物も使った、電気も使った、水も使った、酸素も使ってみた。
原形を留めぬ程バラバラにして見た事もあれば、出来るだけ綺麗な状態で殺そうと努めた事もあった。
殺す対象も様々だ。男も殺したし女も殺した。大人も子供も老人も。外国人だって殺して来たかも知れない。
色々な方法を試しに、色々な人物を殺して行く内に、雨生龍之介はある種のスランプ、マンネリに陥った。
どうも此処最近の殺人は、昔にやったそれをなぞっているような気がしてならない。二番煎じはなるべく避けたい龍之介にとって……、殺人を一種の芸術表現だと思っているフシがある龍之介にとって、これは死活問題であった。

 現状のスランプを打破する為に、龍之介は、一度原点に立ち戻ってみようと考えてみた。スランプやモチベーション低下に悩まされる芸術家が良く取る方法である。
龍之介の原点とは、実家であった。彼は実に五年ぶりに田舎へと戻り、家族が寝静まった頃を見計らい、自分の表現行為の始点となった実家の土蔵へと足を踏み入れた。
彼の姉が、最後に見た時とは全く変わり果てた姿で、彼の事を出迎えてくれた。雨生龍之介の姉は、五年前から行方知れずであった。
当然だ、何故ならば龍之介の許されざる芸術活動の最初の犠牲者こそが、彼女の実の姉であるのだから。

 ――その姉の亡骸の横で、青い鍵が光り輝いていた。
思わず眼を龍之介は擦った。茶と、酸化して茶味がかった白色と、中途半端な黒色の三色しかない土蔵の中で、リンのようにその鍵は淡く光っていたのだ。。
誘蛾灯に誘われる羽虫みたいにその鍵に近付き、手に取った瞬間――雨生龍之介は、実家の田舎から、都会も都会の東京都新宿区……いや、<新宿>に転送された。

 <新宿>を舞台に行われる、どんな願いでも叶える事が出来る聖杯を賭けた聖杯戦争? 
人類史に名を遺した英雄や異なる世界の強者達をサーヴァントとして従える? どれもこれも、龍之介には魅力に映らない。
そもそも龍之介は殺しは好む所ではあるが、戦争が好きなわけではなかった。それに、どうもこの聖杯戦争と言う催し。
他人から「やれ」と言われているような気がしてならないのも、龍之介の意欲を更に下げる一因となっていた。
御誂え向きに、<新宿>でどう過ごすかと言う役割すらも与えられてしまっている。元居た世界と同じように、フリーターが、<新宿>での雨生龍之介のロールであった。
主催者に申し出れば棄権させて貰えるかなぁ、と考えていた所、土蔵に落ちていた鍵――契約者の鍵と言うらしい――に導かれ、目の前の山高帽が姿を現した。

 聖杯戦争のクラスに当てはめればキャスターと言うものに相当するその男は、相当な変り者だった。
如何にも満たされていなさそうな人物を見つけては、その人物に声を掛けて行き、巧みな話術で商品を与え――何とタダ!!――、
商品を与えた際に付け加えた条件をその人物が破れば、重大なペナルティを与える。その様子を見て龍之介は思ったのだ、自分が求めていたのはこれだったのだと。


95 : 雨生龍之介&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/09(木) 03:50:39 eVak5ito0
 龍之介は思う。考えてみれば、自分が今まで取った方法は、少々独り善がりな感が否めなかったと。
つまり、『殺』に至るまでの物語性(ストーリー)がないのだ。相手との対話がないのだ。コミュニケーションがないのだ。
ただ相手を殺し、その死に様を観察して終わり。これでは、『死』と言うものを理解出来る筈がない。
しかし、殺す相手とコミュニケーションを取り、対話をし、関係を深めて行き、その後で殺すと言う事は極めて危険な行為だ。警察に足がついてしまう。
だから今まで、相手とのコミュニケーションは最小限度に抑えていたのだが、今は四の五の言っている場合ではないだろう。
それに此処は、元居た龍之介の世界とは違う上に、龍之介の創造を遥かに超えた力を振うキャスターだっているのだ。<新宿>でなら思う存分、この場で考えたメソッドを活用出来る。龍之介はそう考えたら、此処<新宿>に来れたのも、存外悪い事ではなかったのかも知れないと、今になって思い始めていた。

「なぁ、旦那。俺にさ、旦那の話術と、アレ教えてくれよ!! 『ドーン!!!!』って奴!!」

 元の世界に戻ったら、目の前のキャスターの話術を使い、龍之介は死と言うものを解体するつもりでいた。
話術を学ぶ事は、その重要な足がかり。しかし山高帽のキャスターは明らかに、龍之介の提案に難色を示した風に、ウイスキー・ソーダを口にしていた。

「ホッホッホ、ドーン、は貴方には無理かもしれませんが、話術が知りたいと言う事は……ふぅむ、弱りましたな」

「え? 駄目なのか?」

「いえ、口下手を直す道具ならば幾つもあるのですが、私は先程も申し上げましたように、ココロのスキマを埋めるセールスマン。
貴方はどうも悩みとは無縁そうな上に、私のマスターですからねぇ……。はてさて、どういたしましょうか……」

「そ、そんなぁ。何とかならないかなぁ、旦那ぁ」

 自分を拾ってくれと縋りつく子犬のような態度で龍之介が口にする。ややあってから、山高帽の男が口を開いた。

「ではこう致しましょう。今から貴方は私の補佐です。私のサラリーマン活動のサポートに回って下さい。
無論私も貴方にセールスの機会を与え、話術の何たるかを教えて差し上げますが……やはり話術は数と経験、そして上手い人から盗むもの。それで宜しいですね?」

「OKOK!! それで十分だよ、『メフィスト』の旦那!!」

「ホッホッホ……メフィスト、と言うのは、ゲーテのファウストに出てくるメフィストフェレスの事ですかな? 
私のような太っちょでチビの男がメフィストと呼ぶとは、本物のスマートなメフィストから怒られますよ龍之介さん。
……そう言えば貴方には私の名刺を渡しておりませんでしたな。私とした事が迂闊でした。最初に会った時に自己紹介をしたきりでしたね。この名刺をお納め下さい」

 言ってキャスターは懐の名刺入れから名刺を取り出し、それを龍之介へと手渡す。
「あ、どうもッス」、と、一端の社会人ならアウト以外の何物でもない返事をしながら、龍之介は渡された名刺に目をやってみた。

 ――ココロのスキマ、お埋めします。喪黒福造(もぐろふくぞう)……。



.


96 : 雨生龍之介&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/09(木) 03:51:05 eVak5ito0
【クラス】

キャスター

【真名】

喪黒福造@笑ゥせぇるすまん

【ステータス】

筋力E 耐久A 敏捷E 魔力A 幸運A 宝具EX

【属性】

混沌・中庸

【クラススキル】

道具作成:-
後述する宝具により所持しない。

陣地作成:D
魔術的な陣地の作成は出来ないが、代わりに、自らがセールスしやすい状況の作成に長ける。
本人曰く、『魔の巣』と呼ばれるバーが一番仕事がしやすいとの事。

【保有スキル】

魔術:C+++(EX)
キャスターは空間転移等の高位の魔術を扱えるが、取り分けて得意とするのがガンドである。
キャスターのガンドは大魔術・儀礼呪法と言った多重節の魔術に匹敵する威力を持つが、フィンの一撃は出来ない。キャスターのガンドは精神干渉などに偏っている。
と言うよりガンドに限らず、キャスターは直接的な攻撃手段に成り得る魔術を一切保有していない。……後述する宝具が発動すると、カッコ内の値に修正される。

話術:A+
言論にて人を動かせる才。国政から詐略・口論まで幅広く有利な補正が与えられる。
キャスターは特に一対一の対話に優れており、『心の隙間』に入り込むようなその話術は、悪魔的とさえ言える。

不死身:B
キャスターは異様に死に難い。ランク相当の再生と戦闘続行を兼ねたスキル。

【宝具】

『こんなこといいな、できたらいいな(四次元アタッシュ)』
ランク:E-〜A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
キャスターがセールスする商品の入ったアタッシュケースが宝具となったもの。
キャスターのアタッシュケースの中はある種の亜空間になっており、アタッシュの体積以上の物品が何品も入り込んでいる。
自らをセールスマンだと名乗るこのサーヴァントが取り扱う商品は、現況に不満を抱く人物の悩みを即自的に解決する品そのもの。
生前の様に土地や不動産、現在の状況を即座に解決する『チャンス』まではセールス出来ず、あくまで解決するアイテムのセールスのみに留まる。
生前科学的、魔術的、空想科学的な物品の数々を扱って来たキャスターが、この聖杯戦争においてセールスする物品とは即ち『宝具』。
キャスターはE-〜Aまでのランクに相当する宝具を、聖杯戦争の参加者及びNPCに、譲渡する事が出来る。
この宝具を用いた際に消費する魔力は、あくまでその宝具が本来有していた魔力から消費され、魔力を完全に消費し終えた宝具はその場で消滅する。
セールスマンを自称するキャスターは、その信条により、『武器に類する宝具は絶対に取引しない』し、『概念や逸話の具現化した宝具も譲渡不可』。
また、『キャスター及びそのマスターが、セールスする商品である宝具を自らの為に扱う事も出来ない』。

ともすれば相手にだけ利益を与える宝具に思われるが、この宝具を相手に譲渡する際にキャスターは1つだけ契約を付ける事が出来る。
相手がその契約を破った時、キャスターは後述する宝具の発動を可能とする。

『契約違反(ドーン!!!!)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
キャスターによって譲渡された宝具を譲り受けた者が、キャスターから付された契約を破った時に初めて発動可能となる宝具。
この宝具が発動した場合、魔術スキルのランクをカッコ内の値に修正。契約違反者に対して行う魔術の成功率が『対魔力や所持スキル、宝具の性能を無視して100%になる』。
キャスターが契約違反者に使う魔術は主にガンドであるが、この宝具が発動した場合に相手に舞い込む効果は、
性格の改変、社会的地位や信頼の喪失、成功しかけていた計画の頓挫、肉体の欠損、急激な老化、果てはその場で即死する等、聖杯戦争の範疇が許す限りの力を揮う事が可能。
譲渡した宝具のランクが高ければ高い程、契約違反者に致命的な効果を与える事が出来るが、逆に低い場合には、軽微な効果しか発動出来ない。
また、宝具を譲渡された者が契約を違反せず宝具を使い切った場合、或いは宝具の効果が気に入らずクーリングオフをした時も、この宝具を発動する事は出来ない。
あくまでもキャスターが言い渡した契約を破った者にしか、この宝具は効果を発揮しないのである。


97 : 雨生龍之介&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/09(木) 03:51:18 eVak5ito0
【weapon】

名刺:
セールスマンの基本。自己紹介の際には必ず相手に与える。何故なら彼は、律儀なセールスマンだから。

【人物背景】

現代人のちょっとした悩みを解決する為に日々奔走する、人の好いセールスマン。幸福の運び手。
そして、セールス締結時に交わした契約を絶対に遵守する、厳しいサラリーマン。都会の魔王。

【サーヴァントとしての願い】

不明




【マスター】

雨生龍之介@Fate/Zero

【マスターとしての願い】

特にはない。強いて言えば、キャスターと一緒に立ち回る

【weapon】

【能力・技能】

天性的な殺人隠蔽能力。警察がどうやって自分を発見して来るか朧げながらに解っている

【人物背景】

死の意味を知る為に殺人を続ける殺人鬼。芸術家・哲学家崩れ。

四次聖杯戦争開始前、もっと言えばキャスター召喚前の時間軸からの参戦。

【方針】

キャスターの話術と『ドーン!!!!』を学びたい


98 : ◆zzpohGTsas :2015/07/09(木) 03:51:33 eVak5ito0
投下を終了いたします


99 : ◆Vj8ALFvfao :2015/07/10(金) 12:43:30 Z/P1cSvg0
投下します!


100 : ◆Vj8ALFvfao :2015/07/10(金) 12:44:03 Z/P1cSvg0
「ゆゆーん! みんなゆっくりしてるよおおおおお!」
ここは新宿のとある公園。休日にはまばらに人が集まるだろうこの場所には、人ではなく別の生き物が大量に生息していた。
丸っこい体、人の生首をデフォルメしたかのような外見、帽子やリボンのようなものを着飾り、人と同じ言語を解する謎の生物。
その名をゆっくりと言った。
「のーびのーびするよ!」
「まってね! ちょうちょさんまってね!」
「むーしゃむーしゃしあわせー!」
「でりゅ! うんうんでりゅ!」
「んほおおおおぉぉぉ! 一緒にすっきりしましょうねまりさあああああああぁぁぁ!」
「やめてね! やめてね! まりさにはれいむがいるんだぜえええええ!」
顔もおかざりも様々なゆっくりたちは、皆各々がしたいようにゆっくりしている。日向ぼっこするゆっくり、花壇の花を貪り食うゆっくり、虫を捕えむーしゃむーしゃするゆっくり、性欲が抑えきれないゆっくり。
ここはまさにゆっくりの楽園。好きなように食べ、好きなように遊び、好きなようにすっきりして無制限に個体数を増やしていく。
しかし終わりは突然訪れる。
「おうおう、こりゃまた大量に湧いて出たな」
がさがさと白い服を着た人間が公園に足を踏み入れる。
着込んだガスマスクには加工所と銘が打たれていた。
『か、か、かこうじょだあああああああああああああああああああ!』
『みんなにげてえええええええええええええ! いっせいくじょよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
それを一目見たゆっくりたちは、一気に顔色を青ざめさせて逃走する。しかし悲しいかなゆっくりの逃避スピードは子供が歩くより遥かに遅く、大人の人間から逃げ切れるはずもない。
「はいはいゆっくりゆっくり」
特に何ら感情も含めず、白い服の人間(加工所職員)は掃除機のノズルのようなものを取り出す。スイッチを押すと赤みがかった煙が勢いよく噴射された。
「ゆびゃああああああああ! がらい! がらいよおおおおおおおおおおおおおお!」
「ゆわあああああああああああ!! おぢびじゃああああああん!! めをあげでぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! ゆっぐりじでよおおおおおおおおおおおお!!」
「おがぢゃあああああああああああん!! ずーりずーりじでよおおおおおおおお!!」
「にんげんさんはみんなをかえしてね! れいむおこるよ! ぷっくううううううううう!! やめでえええええええええええ!! あんござんずわないでえええええ!!」
「まりさのかもしかのようにしなやかでしゅんっそくまあんよがあああああああ!! だれにもまけないこのよにただひとつのとーといとーといあんよざんがあああああああああ!!」
「れいみゅはゆっきゅりにげりゅよ! しょろーり、しょろーり・・・なんでめのまえににんげんじゃんがいりゅのおおおおおおお!!」
「よくもありすのまりさをぉぉぉぉぉぉぉ!! ばいっしょうとしてあまあまをしょもuゆんやああああああああああ!!?」
「かぞくのあいどるすえっこまりちゃは、れいみゅが守るよ! いまのうちににげてね! ぷっky・・・もっちょゆっくりs・・・」
「だーぢぇ! だ〜ぢぇ! ゆゆぅ〜ん♪ あいっどるのまりちゃがおうえんしょんぐとだんしゅをおどってあげるきゃりゃ、おねえしゃんはぎゃんばっちぇまりちゃをまもるんだじぇ……なんでおねえじゃんぎゃちゅびゅれちぇるにょおおおおおお!!? ゆぎゅ!?」
「いいいいいいいいでぃいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「わからないよーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「「「どぼじでごんなごどずるのおおおおおおおおおお!!」」」
阿鼻叫喚。赤い煙を吸ったゆっくりは全身に血管のようなものを浮かび上がらせて悶絶の末に死に、そうでなくとも加工所職員が手ずから潰してごみ袋に詰め込んでいく。
別に完全に皆殺しにする必要はない。駆除だし。ひとまず全部のゆっくりを確保できればそれでいいのだ。
「・・・うへえ、何度やっても慣れねえわこれ。気持ち悪すぎる」
赤い煙、トウガラシ成分をこれでもかと詰め込んだ対ゆっくり用殲滅兵器(人体には無害)を吸ったゆっくりは、白目を気持ち悪いほど剥きだして、苦痛に顔を歪めたまま、舌をデロンと垂れさせて死んでいく。
変に人と似ているから精神的には結構つらいものがあった。いくらこいつらがカス以下の塵屑であろうとも、それとこれとは話が別である。
5分後、公園に生きたゆっくりは一匹としていなかった。


101 : ◆Vj8ALFvfao :2015/07/10(金) 12:44:38 Z/P1cSvg0



この公園だけではなく今や新宿全域にゆっくりたちが大量発生していた。
一般道路、河川敷、あるいは民家の庭に至るまでゆっくりのいない場所など存在しない。
そしていくらゆっくりを駆除しても次から次へとどこからかゆっくりが湧いて出る。
それにつられてか街にはゆっくりの虐待に命をかける漢たちが溢れ、通行人の3人に1人はモヒカン肩パットという出で立ちだ。
露店ではゆっくり駆除アイテムや逆にゆっくりを加工した商品が並べられ、ゆっくりは最早周知の存在となっている。
ならばゆっくりはどこから来ているのか、その答えはとある民家にあった。
「ここにあまあまがひとつある」
「・・・ごくり」
「このままだと一回しか食べられない」
「・・・ゆう」
「それじゃあすぐに食べ終わる。しかし」
「・・・しかし?」
「こうして真ん中から切り分ければ二つに増やせるんだよ!」
「ゆわああああああああああああああ!! すっげえええええええええええええええええええ!!」
そこにいたのはドでかいゆっくりまりさとそこそこイケメンだ。何やらやってるが別にどうでもいい。
「それじゃあ俺はうどんを茹でてくるからお前はあまあまでも喰ってろ」
「いわれなくてもそうするよ! うっめ! これめっちゃうっめ!」
がつがつと貪る巨大まりさを後目に男はゆっくりでうどんって作れるかなと考えながら淡々とうどんを茹でていた。




【クラス】
ドス

【真名】
ドスまりさ@ゆっくり二次創作

【ステータス】
筋力C- 耐久B- 敏捷E- 魔力E- 幸運E- 宝具E

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
ゆっくり:EX
正体不明のふしぎないきもの。ドスまりさはその中でも突然変異ともいうべき希少個体となる。
基本的に脆弱な種族なので全てのパラメータにマイナスが付与されるマイナス効果を持ち、あらゆる外的要因でもダメージを負う。
また、ゆっくりしてない状態(主にストレスを感じるなど)に陥った場合には非ゆっくり症と呼ばれる精神崩壊状態になることもある。

カリスマ(餡):A+
ゆっくりの群れを指揮・統率するための才能。ドスは存在そのものがカリスマの塊であり、周囲のゆっくりをゆっくりさせる癒しの力も持つ。
なおこのスキルはゆっくりにしか効かない。

【保有スキル】
受け継がれる意思:A
何百世代を経てもなお受け継がれるただ一つの感情。それは人間種に対する絶対的な恐怖である。
このスキルによりドスまりさ及び宝具で呼び出される全てのゆっくりは一般人にも殺傷され得る存在となる。

被虐体質:A+++++
集団戦闘において、敵の標的になる確率が増すスキル。
マイナススキルのように思われがちだが、場合によっては優れた護衛役としても機能する。
A+++++ランクともなるともはや呪いというか宿命の域であり、戦場はおろか日常においても確実にいい的になる。
敵味方は皆、このスキルを持つ者の事しか考えられなくなる。

魔力回復:E
むーしゃむーしゃしあわせー!
あまあま(甘味類)などを捕食することにより多少の魔力を回復する。
また霊核(中枢餡)を破壊されない限りはあまあまを捕食することで損傷の回復が可能。

威圧:-
ぷくーっするよっ!
勿論何も起こらない。

陣地制圧:-
おうちせんげん。
潰される。


102 : ◆Vj8ALFvfao :2015/07/10(金) 12:45:04 Z/P1cSvg0
【宝具】
『ドススパーク』
ランク:E 種別:対ゆ宝具 レンジ:1〜10 最大捕捉:1ゆん
ドスまりさの口から放たれる破壊光線。威力はそこそこ。あと燃費は結構いい。
ただし発射までに数秒のチャージが必要な上に一旦チャージに入ったら方向転換ができない。キャンセルもできない。

『ゆっくりしたむれ』
ランク:E 種別:ゆ宝具 レンジ:のびのびー 最大補足:たくさん!
かつてドスまりさが治めていた群れのみならず、死したゆっくりを無制限に召喚し使役する軍勢宝具。
ゆっくりはドスまりさも含めて100万匹で通常のサーヴァント一体に相当する非常に燃費のいいサーヴァントである。この宝具は100万単位でゆっくりを召喚・使役することが可能。
呼び出されるゆっくりは母性に特化したれいむ、狩りや戦闘に特化したまりさ(通常)、家事に特化したありす、頭脳に特化したぱちゅりー、素早さに特化したちぇん、剣術に特化したみょんが主になり、他にも希少種が混じってたりもする。これらのゆっくりは全ステータスE-であり、カリスマ(餡)以外はドスまりさと同じスキルを保有する。
なお特化とは言うがあくまでゆっくりの中ではであり、いずれの種もサーヴァントはおろか一般人にすら容易く虐殺される脆弱な個体となっている。

【weapon】
なし。

【人物背景】
ドスはドスだよ!
ゆっくりしていってね!

【サーヴァントとしての願い】
ドスはすべてのゆっくりのかいっほうをようきゅうするよっ!


【マスター】
司波達也@うどん科高校の劣等生

【マスターとしての願い】
至高のうどんを創る。

【weapon】
うどん

【能力・技能】
まあお前らには分からないか。この領域(レベル)の話は。

【人物背景】
鬼威様
年越しにもそばじゃなくうどん

【方針】
おうちかえる


103 : ◆Vj8ALFvfao :2015/07/10(金) 12:45:19 Z/P1cSvg0
投下を終了します!


104 : ◆S8pgx99zVs :2015/07/10(金) 19:40:36 6Os/Okx20
投下します。


105 : 絶対運命黙示録  ◆S8pgx99zVs :2015/07/10(金) 19:41:16 6Os/Okx20


「――ハ、ハハ……アハハハハ! 素晴らしい! 実に素晴らしいよ!」

月の蒼い晩に青年の少し掠れた笑い声が木霊していた。
もしここに誰か他の人間が通りかかれば、彼の甘くもどこかズレた声調から狂気を感じ取っただろう。
凡そほとんどの人間はそれに嫌悪を示しこの場を足早に立ち去り、僅かなそうでない者は快楽めいた眩暈を覚えたに違いない。

だが、ここには青年ただ一人しかいない。
新宿中央公園――陽のある内はレクリエーションに励む人々の明るい顔が見られるここも、深夜となっては閑散とする。
特に今晩は何故だかどこもしんと静まり返り、酔っ払いやカップルの姿すらもなかった。
今ここに存在するのは不気味な青年のみ――いや、加えるならば彼と彼を見下ろす巨像のみ。

「こんな“奇跡”がボクに降りかかるなんて!」

両手を夜空に向け青年は喝采する。その左手は不思議と指のない手袋に覆われていた。

「なんて“幸運”なんだ!」

青年の出で立ちは不気味であった。
長身痩躯。肌は生気を感じさせぬ白。面立ちは整っており、すましていれば美青年とも見えるが、揺らめく白髪が不気味だ。
しかしなによりもその目が不快の極みであった。
水と油のように決して相容れぬ感情を同じ量ずつ内包し、それでいてやはりそれを合わせることなく、しかし交じり合い持つ眼。
物の怪の持つ魔眼、妖眼とはまた違う。
人間の尊さを慎重に悪辣にかつ破壊を齎さぬよう丁寧に分解しつづければ、こうなるのではと思わせる眼。
完全に絶望させて、しかし完璧に絶望を否定する――その様な矛盾を孕んだ狂眼であった。

「これで世界を“絶望”させることができるんだ。より完全に、絶望的に、破滅的なまでのどん底に!」

青年の歪んだ口の端から怪鳥の様な不気味な笑い声が漏れる。
この青年は“絶望”を欲していた。全世界の全人類の心が挫け押し潰されるような強力な“絶望的な絶望”を切望していた。
そこに“希望”が生まれることを、新しい光が闇の奥より産声を上げ、その白光がこの世界を新しく塗りつぶすことを。
人類にとってより輝かしい“未来”。その為に不可欠な人類が乗り越えるべき“絶望的な絶望”。
それを、青年は――狛枝凪斗と呼ばれる彼はずっと求めていたのだ。

そして、かつては“超高校級の幸運”と呼ばれた彼は、この新宿でそれと出会ったのであった。





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106 : 絶対運命黙示録  ◆S8pgx99zVs :2015/07/10(金) 19:41:39 6Os/Okx20

  - Ж - Ж - Ж -


『――愚物が』

一人喝采を上げる青年へとどこからか、岩を擦り合わせたような重い声が落ちた。
果たしてそれはどこからか? 未だ顔を歪めたままの青年は目の前の巨像をうっとりと見上げる。
否。それは真実巨像ではなかった。
王座とも見える台座より腰を上げ、立ち上がってみせたそれは石でできた像ではなく、また別のひとつの存在であった。

月光を跳ね返す青い表皮は金属の様でもあり、永く磨き上げた石の様でもあった。
筋骨隆々とした古代のヘラクレスを思わせるその姿は、全体として非常に有機的な造詣であったが、部分を見れば無機的だ。
およそ5メートルほどの身長を持つそれの、体躯に比しては小さな頭部。その耳まで裂けた口が僅かに開く。

『何の能も持たぬホモ・サピエンスがこの我を御せると思うか。
 この一瞬、未だ貴様の命が繋がれているのは、貴様自身がこの世界においてわしの核であるからにすぎんのだと知れ。
 例え、令呪とやらをかざしてみせようが、このアポカリプスを一瞬でも怯ませられると思うな』

彼は王であった。
通常の人類――ホモ・サピエンスより分岐した新しい人類であるホモ・スペリールの初めての者にして最古の者。
この人類の世界に終末という新しい局面を与えようとする自身のことを、彼は人に『アポカリプス(黙示録)』と呼ばせている。

「当然だよ。ボクが君に指図するだなんてとんでもない。考えただけで身も毛もよだつようなおぞましささ。
 ボクみたいななんの実力もない、なにも達成した例のない愚物という言葉をもらうことすらおこがましい存在が、
 万物の王たるキミにボク自身の意思を汲み取ってもらおうだなんて、そんなことを考えるはずもないよ」

アポカリプスは自分の足元で囀る矮小な人間に、最大の侮蔑の視線を投げかけた。
彼はこのように自らを無価値と思う者、より強き存在へと媚びへつらうことで生を長じようとする者を蛇蝎の如く嫌っている。
好むは強き者。自らの手のみによって未来を切り開き、その手によって新しい世界の理を生み出す者だ。
『適者生存』――所謂、弱肉強食というのが彼が標榜し信奉する唯一の価値観であった。

しかし、そうするならばアポカリプスのマスターである狛枝凪斗という人間は、部分的には共通する思想の持ち主である。
アポカリプスはより強い種による世界征服を望み、狛枝凪斗はより強い希望による世界の一新を願う。
その過程で行われるのは弾圧と支配、圧倒的な暴力と絶望。弱肉強食を強制すること。

『囀らぬことだ。黙示録の到来を望むというのならば、貴様が成すべきことはそれを記憶することに他ならん。
 いや、貴様にはこの我の傍にいて偉業の証言者となる義務がある。それを果たすまでは死することすら許されん』

ぴたりと口を閉じ、しかし薄ら笑いは浮かべたままの人間に辟易すると、アポカリプスは視線を外し新宿を遠くまで眺めた。
アポカリプスが足元の人間を踏み殺さずに聖杯戦争へと乗り出したのには複数の理由がある。
ひとつに、狛枝凪斗がこの世界にアポカリプスが顕現していられる為の核であること。
ひとつに、狛枝凪斗はアポカリプスが最も嫌う人種であるが、その目的に重なる部分があること。
そして――

『(この“新宿という世界”、決して見かけ通りではあるまい。
  おそらくは、アストラル界を通して視ればまた別の様相を、この街が真に“適者生存”であることを現そうぞ)』

アポカリプスはこの“世界(新宿)”に興味を持ったのだ。
この街は全てを受け入れ、正誤の針は実力によってのみ動かされる――そういう世界だと予感が揺らめいていた。

彫像のように表情を浮かばせないアポカリプスの顔が今は僅かに歪んでいる。




DOWN OF APOCALYPSE――ここより、黙示録の始まりである。





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107 : 絶対運命黙示録  ◆S8pgx99zVs :2015/07/10(金) 19:42:36 6Os/Okx20
-----------------------------------------------------------------------------------------
【クラス】 エクスターナル(規格外)
【真名】 エン・サバー・ヌール
【属性】 混沌・悪

【ステータス】
 筋力:A 耐久:A+ 敏捷:B++ 魔力:C 幸運:E 宝具:EX
 
【クラススキル】
 イモータル:A
  不老不死。もはや通常の存在を超えた者に寿命というものは存在しない。
  ※不滅ではない。実体が完全に破壊されれば死を迎える。

【保有スキル】
 分子構造変換:A
  自身の分子構造を自在に変換するミュータント能力。
  これにより身体の大小や形、強度、重さを思ったままに変化させることができ、形態変化により飛行も可能とする。
  また、これを他人に使用することで姿形を変えたり、不老不死の存在にすることも可能。

 超能力:B
  強力なサイコキネシスと、短距離のテレポート能力を有する。

【宝具】
 『黙示録の世界(AGE OF APOCALYPSE)』
 ランク:EX 種別:固有結界 レンジ:∞ 最大捕捉:∞
 この世界に、アポカリプスが世界征服を果たしたという並行世界の現実を重ね合わせ、そのまま上書きする。
 実行されれば別世界の歴史により全存在の在り様が変化することになるが、
 展開に宇宙開闢クラスのエネルギーを必要とするため、この宝具が使用されることは到底あり得ないだろう。

 『黙示録の四騎士(FOUR HORSE MEN)』
 ランク:A 種別:対英霊宝具 レンジ:--- 最大捕捉:4騎
 アポカリプスの名において、すでにマスターを失ったサーヴァントを同時に4騎まで自身の配下する能力。
 配下としたサーヴァントの魔力はアポカリプス自身が賄うこととなる。
 この宝具には洗脳効果があるが、支配された者が自身の能力を振るう度に弱まるという欠点があり、最後には解けてしまう。

【weapon】
 『アポカリプス』
 アポカリプスの肉体そのものが分子構造変換によりあらゆる武器と化す。

【人物背景】
 出展は「X-MEN」及び「マーベルコミックス全般」
 元々は古代エジプトで奴隷となっていたただの人間の男である。
 だが、ある者により遺伝子改造を受け、強力なミュータントとなり、時の王と成り代わりその時代を支配した。
 その根本にあるのは「適者生存」という信条。
 より強い者こそが支配者に相応しいと傲慢に信じており、逆に己より強い者が現れれば滅ぼされるのは必然と潔くもある。

 増長し、軍勢を率いて神の国に乗り込むようなこともあったが、紆余曲折を経て一度は活動を停止。
 その後、発掘されたことを切欠に現代において活動を再開。
 ホモ・スペリオル=ミュータントによる世界征服を目指し、X-MENや他のヒーローと幾度となく死闘を演じることとなる。

 より未来である39世紀には世界征服を成功させており、また別の並行世界では現代の時点で世界征服を成しえていた。

【サーヴァントとしての願い】
 この世界に「適者生存」を。

【基本戦術、方針、運用法】
 自らが動くのはよほどのことであるので、まずは黙示録の四騎士を揃えようとする。
 それが成功したならば、その四騎士を操作して聖杯戦争を進め、自らに匹敵する強者を確かめた時のみ自身が動く。


108 : 絶対運命黙示録  ◆S8pgx99zVs :2015/07/10(金) 19:43:02 6Os/Okx20
-----------------------------------------------------------------------------------------
【マスター】 狛枝凪斗

【参加方法】
 『契約者の鍵』の鍵を持ったまま偶然に新宿へと足を踏み入れた。鍵の出自そのものは謎。

【マスターとしての願い】
 この世界に再び『人類史上最大最悪の絶望的事件』を起こす。

【weapon】
 『なし』

【能力・技能】
 『超高校級の幸運(Devil's Luck)』
 自分によって都合のいい現実を引き寄せる幸運としかいい様のない能力。
 くじ引きや数当てといった簡単なものなら意識すれば確実に当たりを引け、より複雑な状況でもまず幸運でいられる。
 ただし、狛枝凪斗の幸運は常にそれと見合った不幸とワンセットであり、不幸は必ず幸運より前に来る。

【人物背景】
 出展は「スーパーダンガンロンパ2」及び「絶体絶望少女」
 超高校級の幸運を認められる青年。

 その“幸運”という才能を認められ希望ヶ峰学園に入学した彼は、より強い才能がよりよい“希望”を発揮すると信じていた。
 故に、在学中に超高校級の絶望である江ノ島盾子へと傾倒。
 彼女の手足となって世界中に絶望を振りまき、その中で歯向かい強くなるであろう才能に期待した。

 だが、江ノ島盾子は狛枝凪斗の次代の幸運であり、実際は何も才能を持たない苗木誠に敗北する。
 これを目の当たりにした狛枝凪斗の中で、希望は才能からではなく絶望から生まれるのだとその思想はより性悪なものへと変化。
 左手に死んだ江ノ島盾子の手を移植した(※)彼は、それから世界を絶望させる方法を探して世界を放浪している。

 ※手首の先を無理やり取り替えただけで神経も筋肉もつながっていないので、その左手が動くことはない。

【方針】
 全てをアポカリプスに任せ、世界の絶望とそこから生まれるであろう希望を切望し続ける。


109 : ◆S8pgx99zVs :2015/07/10(金) 19:43:18 6Os/Okx20
以上で投下終了です。


110 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/11(土) 00:40:57 RAE01vdg0
皆さん投下乙です。私も投下させていただきます。


111 : 七代千馗&キャスター ◆GO82qGZUNE :2015/07/11(土) 00:42:14 RAE01vdg0
 そこには静謐のみが存在した。
 日が陰り出した夕刻、赤みがかった光が差し込む鳥居は、そこから一歩踏み入れた瞬間から明確に空気の質が変質する。そこはまさしく聖域であった。
 新宿という雑多な街の一角にあって、しかし都会の喧騒とは無縁なそこには一切の雑念がなく、ただ清廉な空気が満ちるのみ。
 古びた社殿が存在するその場所は、名を鴉羽神社といった。

「どうしたもんかな、本当に」

 鳥居と社殿を繋ぐ短い参道に一人の少年が立っていた。鴉羽神社の居候兼神職見習いとして籍を置く彼は、中肉中背で特徴らしい特徴を持たない、言ってしまえばどこにでもいそうな雰囲気の少年だった。
 少年は学校の帰りだろうか、黒い学生服を着たまま両手で竹ぼうきを持って参道の落ち葉を黙々と片付けている。風に揺れる木々のざわめきだけが場を支配する中、ざっざっ、という規則的な音が心地よい響きを加えている。
 彼が置かれている現状を鑑みればいっそ滑稽なほどに平和的な光景である。しかし、少年が醸し出す朴訥な雰囲気が、その違和感を封じ込めていた。

「ねえキャスター、そこらへんまるっと全部手っ取り早く解決できたりしないかな」
「何を指して言っているのかあやふやにもほどがあるぞ、マスター。せめてもう少し具体的に物を言ってくれ」

 少年以外には誰一人として存在しなかった静謐の空間に、しかし虚空から答える声があった。いいや声だけではない。いつの間にか少年の背後にはもう一人学生服の少年が静かに佇んでおり、マスターと呼ばれた少年の春の陽気のようにのほほんとした言葉を切って捨てる。

「まあ、言わんとしていることは分かるさ。つまりこの聖杯戦争の根本的解決、マスターが言いたいのはそれだろう?」
「うん、それそれ」

 相も変わらない呑気な返事にキャスターと呼ばれたもう一人の少年は少し頭が痛くなるのを自覚した。召喚の際、マスターが聖杯を望まないと聞いた時も開口一番サーヴァントに何を言ってるんだこいつはと思ったが、どうにもこのマスターには打算とかそういう類のものがないらしい。
 生前もそうだったが、どうにも自分はこの手の人間には弱いらしい。もう少しくらい腹に一物を抱えていたり悪辣だったりしたほうがよっぽどやりやすいと心から思う。

「……正直なところ、最後の一人まで残る以外にはどうすることもできないというのが現状だな。聖杯戦争というシステムからしてそうだが、そもそも自ら聖杯戦争に挑む人間には代えがたい願いというものがある。中には当然、人の命など歯牙にもかけない悪党だって存在するだろう。そんな連中を相手に、仲良しこよしでやっていけるほど甘い戦いじゃ決してない」
「そっか。うん、まあそうだよね」


112 : 七代千馗&キャスター ◆GO82qGZUNE :2015/07/11(土) 00:42:46 RAE01vdg0
 茫洋とした雰囲気を微塵も変えようとしない主に、キャスターは本当に分かっているのかと口に出しかけるがすんでのところで呑み込んだ。

「それで、結局マスターはどうしたいんだ。願いがないなら帰還を目指すのもいいだろう。それまで俺が守るし、生き残りたいから戦うというなら共に戦おう。逃げたいなら逃げればいいし、戦いたくないなら隠れていればいい。やはり聖杯が欲しいというのならそれに否やは言わないさ。だから」
「それに対する僕の答えは決まってるよ、キャスター」

 言葉を遮りマスターたる少年は静かに振り返る。朴訥とした雰囲気はそのままに、しかしその双眸は決意で引き締められていて。

「僕は誰かの犠牲を認めない。願いのために誰かを殺すことを強制する聖杯なんて願い下げだし、そんな聖杯を求めて起こる戦いだって全部止めたいと思う」

 その答えは考えられる中では最も困難で最も滑稽なものだった。しかし少年は伊達や酔狂でこのようなことを言っているわけでは断じてない。
 〈新宿〉に招かれる直前、少年の前に二つの選択肢が提示された。自らの命と日本の未来と引き換えに大切な相棒と親友を生き永らえさせるか、二人を犠牲に束の間の平穏を手にするか。
 どちらかしか選べず、それ以外の選択肢などない状況。しかし少年は第三の答えを探すことを選んだ。
 その時の少年に、何か具体的な解決策があったわけではない。その当てがあったわけでもない。言ってしまえばそれは単なる青臭い感情の発露であり、いっそ愚かと断言してもいいものだったが。しかし少年はどこまでもそういう人間で、その芯を変えることはどうしてもできなくて。
 そんな少年だからこそ、聖杯戦争に対する答えも決まりきっていた。

「というのが僕の考えなんだけど、どうかなキャスター」
「……」

 キャスターは比喩でも何でもなく本気で頭を抱えていた。
 馬鹿だ馬鹿だと散々思っていたが、まさかここまで底抜けだったとは思いもしなかった。よりにもよってそれを選ぶのかと、正義の味方気取りもいい加減にしろよと思って。

 ―――けれど、だからこそ自分が彼のサーヴァントに選ばれたのではないのかとも思う。

「……分かった。マスターが決めたのなら俺もそれに従おう。全く、なんでこんなのが俺のマスターなんだか」
「またまた、本当は嬉しいくせに」

 なんかムカついたので軽く蹴りを入れてやる。何すんだと突っかかるマスターは、しかし怒りの感情は一切顔に浮かべていない。
 やはり、どうにもこういうタイプは苦手だ。



 かつてキャスターは文字通りに世界の命運をかけた戦いに身を投じた。
 最初は単なる巻き込まれで、やれ宿星だやれ運命だと自分の意思などほとんど介在しないものだったが。それでも、守りたいと願う人々が次々とできて。
 だからこそマスターの言葉も理解できる。理屈とかそういうものではないのだ、これは。
 嬉しいという指摘も図星だ。別に正義の味方を気取るつもりはないが、それでも悲劇を失くしたいという気持ちに嘘などないのだから。
 キャスターの口元には、抑えきれないくらいの笑みが浮かんでいた。


113 : 七代千馗&キャスター ◆GO82qGZUNE :2015/07/11(土) 00:43:18 RAE01vdg0
【クラス】
キャスター

【真名】
緋勇龍麻@東京魔人學園剣風帖

【ステータス】
筋力B 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具A++

【属性】
中立・善

【クラススキル】
陣地作成:C
魔術師として自分に有利な陣地を作り上げる。
龍脈・龍穴から力を汲み上げる方陣を作成可能。

道具作成:-
キャスターに道具作成の適正はなく、このスキルは機能していない。

【保有スキル】
気功:A
瞬間的な気の放出により身体能力を強化する。
発剄による攻撃や自身に限定した回復能力など様々な技に転用できる。
 
陽の古武術:A
日本古武術の一派。現代のものとは異なり、源流のひとつである。ランクB相当の見切りと矢避けの加護のスキルを内包する。

カリスマ:C
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。

心眼(真):B
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】
『黄龍甲』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
陰陽五行の中央に位置する黄龍が彫られた黄金に輝く手甲。真名解放と共に、手甲・無銘に重なるように出現する。
耐久・魔力を1ランク上昇させ、時間経過で自身の傷を癒す効果を得る。

『黄龍の器』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
龍脈を流れる膨大な気を自らの肉体に無尽蔵に取り込み、己の力とする。龍脈の上に専用の方陣を組み上げた状態でのみ発動可能。
この宝具を発動している間、キャスターの幸運が2ランク、それ以外のステータスが1ランク上昇し、後述する『秘拳・黄龍』が発動可能となる。
龍脈から直接力を得ているため陣地内では宝具発動を含むあらゆる魔力消費を必要とせずAランク相当の透化・対魔力スキルが付与されるが、発動後は時間経過と共に方陣が徐々に破壊されていく。
キャスターの宿星であり、キャスターの存在そのものと言える宝具。

『秘拳・黄龍』
種別:対城魔拳 レンジ:不定 最大捕捉:不定
陽の古武術に伝わる秘奥義であり、気功の究極形。龍脈から汲み上げた力を金色の龍にも似た姿の発剄として放出し、大規模な破壊として撃ちだす。
上述の宝具『黄龍の器』が発動している状態でのみ発動可能。龍脈の上に作り上げた専用の方陣がより完全な形で残っているほど威力・範囲が上昇する。
ただし、この宝具が発動し終わった時点で方陣は完全に破壊される。
 
【wepon】
手甲・無銘
 
【人物背景】
古武術を修め、「陽の黄龍の器」を宿星とする高校生。
新宿都立真神学園に転入したことをきっかけに、人ならぬ《力》を得た少年少女たちと出会い、東京に巣食う闇との戦いに巻き込まれていくことになる。
最終決戦において変化なき存続を選択した後はエジプトに行ったり宝探し屋と間違われていい年して再び高校生になったりしている。
いわゆる喋らない系主人公というやつだが、アニメ版の設定は一切含まないものとする。

【サーヴァントとしての願い】
マスターを守る。


【マスター】
七代千馗(しちだい・かずき)@東京鬼祓師 鴉乃杜學園奇譚

【マスターとしての願い】
日本滅亡を回避しつつ白や零を死なせない道を探る。

【weapon】
・呪言花札
白札と鬼札を除いた48枚を所持。
地形に張り付けることで様々な結界を張り、道具に張り付けることで伝承の武器へと変じさせる力を持つ。使用には当然魔力を必要とする。

【能力・技能】
秘法眼:あらゆる超常を見抜く魔眼。不可視の存在を視認しあらゆる隠蔽効果を無効にするが、使用には魔力を必要とする。

封札師:あらゆる呪符を封じ従える異能、及び手にした物品の力を限界まで引き出す資質。彼が手にした物ならば玩具や生活用品の類であろうと銃火器や刀剣類を超える火力を発揮する。

道具作成:物同士を組み合わせて新たなアイテムを作成可能。例:砂糖+輪ゴム=ガム。ガム+レトルトカレー=カレーガム
【人物背景】
図書館のアンケートにより秘法眼を見出された少年。高校二年生。
国立国会図書館収集部特務課から呪言花札の回収を命じられ新宿は鴉乃杜學園に転校することになる。
こちらも喋らない系主人公だが札に憑かれた燈治と弥紀を迷いなく助けようとするあたり結構な善人。あと仲間のコンプを目指してプレイすると底抜けに明るくてお人よしな熱血漢みたいな性格になる……ような気がする。
本編の第九話終了後、第三の選択肢を選んだ状態から参戦。

【方針】
聖杯戦争を止めるために動く。


114 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/11(土) 00:44:18 RAE01vdg0
投下を終了します。


115 : ◆Ee.E0P6Y2U :2015/07/11(土) 01:20:11 kqcH9f/20
投下します


116 : ◆Ee.E0P6Y2U :2015/07/11(土) 01:20:26 kqcH9f/20

Light shines on the heaven the earth the spirit Light brings glory and grace.
May it open your eyes to the truth Shanti Shanti...

(Gayatri Mantra )






遥かなる遠く――

例えるならばそれは大河だった。
見渡す限り光が走っている。地を越え、空を越え、その狭間の境界すらをも越え、限りない“果て”へと向かっている。
そのすべてが石のように美しく、時にはさんさんときらめき、時には、ふっ、とその気配を消す。
明滅が石となり、光芒が水となり、続く境界が流れとなる。そうして光は一つの巨大な大河となる

彼ないし彼女は知っている。
その光ひとつひとつが“全て”であり“一”であり、“世界”であり“空”であることを。
手に取れば転がせそうな光ひとつひとつが宇宙なのだ。

幾億数千万の光が目の前に広がっている。それは同じ数だけ宇宙が存在することを意味する。
光は宇宙であり、宇宙は光なのだから。

そこに“果て”などなかった。目を凝らし先を見て、これで終わりだ、と思っても次の瞬間には、ぱっ、と視界が広がり更なる光の支流が現れる。
世界の“果て”を求めることは、自分の背中を追いかけることと同義だっだ。“果て”を求めたところで回帰する場所は一つしかない。

――そうして大河は何時しか海となっていた。

光の海。1000000000000の宇宙が1000000000000のきらめきを持って消えていった。
寄せてはかえし、寄せてはかえし、波が海を駆け抜け、音を奏でていく……

彼ないし彼女はその光の王であった。

存在とはすなわち振動である。
すべての粒子が正しく振動することで物質は生まれ、消滅する。
しかし振動する粒子本体は消えない。別の振動数に移り、また別の物質が生まれる。
そうして宇宙は存在という永遠の音楽に充たされ、変化しつつも決して絶えることはない。

彼ないし彼女もかつては音楽の一部だった。
コーラスの一部であり、奏でる弦であり、音楽そのものでもあった。
しかし彼ないし彼女はそこから抜け出し、シンフォニーを守る調律者/チューナーとなった。

『かつて上位存在が下位存在に転落したことがあった。それが一つの音楽を歪ませ、歪みが君たちを生んだ』

どこかでその猫は喋った。
どこまでも続く無限の宇宙のどこかでその猫は喋っている。

『かつて、という表現は本来ここでは正しくない。時とは因果の一次元的な定義に過ぎない。
 この言葉は過去であり、現在であり、未来であり、そして同時に何物でもない。
 その上で調律者たる君たちに私は語りかけている。』

光の海は音を奏でている。静かに、雄大な響きを持ってして。
その響きを調律するものこそ、彼であり、彼女であり、あるいはもう一人の彼であった。

『時の上に偏在するもの、涅槃に達したるもの、光の王たちよ。
 君たちはだから、これから遠い未来たる過去を生きることになる。それが君たちの現在となる』

猫は――あるいは彼ないし彼女はその言葉の意味を知っていた。
無限なるもの。それはかつてニルヴァーナと呼ばれ、そして“果て”でもあった。
それを知っているからこそ、彼ないし彼女はこの光すべてに存在することができる。
1000000000000の宇宙には1000000000000だけ彼がいて、彼女がいる。
それは1000000000000であり3であり1である。

故に――猫は、そして彼ないし彼女はこう言うのだ。

『時に偏在するものたちよ。君たちはどこにでもいる。この宇宙すべてに彼らは偏在し、世界の調べを守っている。
 存在を脱したものはもはや因果に縛られることはない。
 だから調律者/チューナーはどんな場所にも姿を現すことができる。どんな形でも、姿でも、人でも、猫でも』

あるいは、と付け加えるように、

『かつての姿、悪魔――あすらの王として、君たちは存在している』


117 : 熾天の玉座より  ◆Ee.E0P6Y2U :2015/07/11(土) 01:22:47 kqcH9f/20







オリジナルの九十九十九がトランクからロータリーに降り立つ。僕と同じ顔、同じ体の九十九十九。美しすぎる。でも本当は醜い。
オリジナルの九十九十九が姿を見せたときに、もう一人の九十九十九も現れる。緑色の四角の中に赤い7。もうひとつの≪玉座≫、セブン・イレブンから。

(九十九十九)









その街に彼女が訪れたのは夜だった。
駅。雑踏。あふれでる人々の足音。靴音がごたごたとうるさい。
ある者は疲れた顔を浮かべながらも帰路につき、ある者は「ははは」と調子の外れた声を上げて笑っている。
復興した街。21世紀初頭。日本――東京。

「あ……」

口を開くと声が出た。
それはほかの誰でもない――彼女の声だった。
彼女は他人ではなかった。彼女には彼女だけの身体があった。
短く切りそろえられた黒い髪がある。夜に溶け込むような黒い瞳。人形のような白い肌。
どれもが彼女のものであり、彼女のものでしかない。
ああそれがなんて――不思議なことだろう。

目の前にはこんなにも多くの人がいる。
くたびれたサラリーマン。ぽっこりお腹のでた中年男性。にこやかな笑みを張り付ける若い女。
そのどれもが人であり、同じ生き物であり、本来ならば区別のない存在だった。

けれども彼女は彼らではない。
彼女は彼女でしかない。駅に現れ、立ち尽くす少女は、そう、彼女でしかないのだ。

彼女は不思議な顔をして目の前の自分でいない誰か達を見た。
誰かが誰かと共に話している。その隣で全く関係ない誰かが端末を開いている。
この街は自分でない誰かで溢れている。

みんな、誰かだった。
それ以外のものではない。ただ“自分ではない”という一点のみで彼らは定義されている。
しかしそれは逆説的に自分を“自分ではない、ではない”という意味でしか定義できないことでもある。

おかしな話だ。何の意味も持たない、歪な世界。
彼女にはそう見えた。

……それが起こるまでは。


118 : 熾天の玉座より  ◆Ee.E0P6Y2U :2015/07/11(土) 01:23:06 kqcH9f/20





……シッダールタがこの川に、千の声のこの歌に注意深く耳を澄ますと、悩みにも笑いにも耳をかさず、魂を何らか一つの声に結びつけず、自我をその中に投入することなく、すべてを、全体を、統一を聞くと、千の声の大きな歌はただ一つのことば、すなわちオーム、すなわち完成から成り立っていた。

(シッダールタ)






それは静かに現れた。
赤子の寝息のように穏やかに、それは存在を結んだのだ。
ふわり、とその姿が輪郭を持った。

それは人のカタチを持っていたが植物と同化しており、身体をつたう蔦が緑を湛え生命を芽吹かせている。
纏う雰囲気は一言でいえば、静、である。
虚空に座り込み動かない。それでいて穏やかな生命の波が彼を中心にたゆたっている。

――端的に言って、彼はサーヴァントであった。

<新宿>で発生した聖杯戦争に呼ばれし英霊である。
そうした具体的な状況と紐付けされることで――彼女は名前を得た。

私。
自分の名前。
セラ。

セラがセラであると気付いたとき、彼女は、はっ、と顔を上げた。
けれどその瞬間にはサーヴァントは既に姿を消していて、あるのはもはやただの街だ。
何の変哲のない。ただの、普通の街。

――ただの?

セラは己の抱いた印象に疑問を抱いた。
この街の状況を、当たり前のもの、と考えている自分自身が発生したことが、ひどく意外だった。

「え……ここ」

言葉が滑り落ちた。当たり前のように発音され、そして街に呑みこまれ消えていく。
普通のことだ。セラはなぜ自分がその“当たり前”に疑問を抱いているのかが分からなかった。

――セラは、そこに至って、同時に自身が何も覚えていないことに気づいていた。

自分を得た。
名前を得た。
けれどそれだけだった。

自分がどうしてここにいるのか、セラには分からなかったのである。

しかし聖杯戦争という言葉は分かるのだ。
そのルールも、舞台となるこの街のことも。
けれど、その前後の文脈がすっぽりと抜け落ちているのである。
台本を渡され、役割とセリフを与えられた。それをどうこなせばいいのかは分かる。
けれど――そもそも自分が何故演じているのかが分からない。
そんな奇妙な欠落感がセラを貫いた。

けれど同時に彼女は納得もしていた。
サーヴァントとの縁/パスから伝わってくる温かな意思。
その温かさに縛られる――定義されることは決して間違っていない。

自分は確実に何かをしに――堕ちてきた。
<新宿>に、この街に、この東京に、この世界に。
遥かな遠くよりなすべきことをなしに来たのだ。


それを理解した時、セラは孤独を覚えた。
自分を得た。他人を得た。縁を得た。そこまでいって――初めてセラは自分が今一人であることを意識したのだ。
地には無数の人たちがいて、街はきらびやかに脈動している。摩天楼に切り取られた空は暗い。けれどその向こうには星があるはずだ。
その星の海の下で彼らは生きている。
堕ちてきたセラもこれから歩かなくてはならない。たった一人で何もないままに。

――貴方はどこにでもいて、どこにでもいない。けれど今は確かにここにいる。

その孤独を感じ取ったのだろう。セラのサーヴァントは穏やかな口調で語りかけてくれた。

――ならば見届けることができる。涅槃より降り立ったあすら王よ、この業の結末を共に……

その言葉に込められたものをセラは知っていた。
きっとそれは慈悲と呼ばれるものだった。








遥かなる遠く――

あすら王たちと一つになった少女。
顕現せしはブッダ。
彼らは共に堕ち、そして出会った。


119 : 熾天の玉座より  ◆Ee.E0P6Y2U :2015/07/11(土) 01:23:20 kqcH9f/20


【クラス】
セイヴァー

【真名】
覚者(ブッダ)@Fate/EXTRA

【ステータス】
筋力A 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運B 宝具A++

【属性】
秩序・中庸

【クラススキル】
・カリスマ:A+
軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。生前は王として君臨した三者は高レベル。
A+は既に魔力・呪いの類である。

・対英雄:B
相手の全パラメータを、英雄なら2ランク、反英雄なら1ランクダウンさせる。

【保有スキル】
・菩提樹の悟り:EX
世の理、人の解答に至った覚者だけが纏う守護の力。 対粛清防御と呼ばれる“世界を守る証”。
EXランクでは物理、概念、次元間攻撃等を無条件で自身のHP分削減し、精神干渉は完全に無効化する。
スキル「神性」を持つ者は、ある程度このスキルの効果を軽減出来る。

・カラリパヤット:EX
古代インド式の武術。才覚のみに頼らない、合理的な思想に基づく武術の始祖。攻めより守りに長けている。
セイヴァーは格闘技において、勝るのは氷室の天地版プラトンぐらい、と無双を誇る。

【宝具】
『一に還る転生(アミタ・アミターバ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:零 最大補足人数:1人
セイヴァーの大宝具である究極の対個人宝具。下記の『転輪聖王(チャクラ・ヴァルティン)』の最大展開。
人類創生に匹敵するエネルギーを集中し、解放する。その時点の人類史の長さや版図の広がり、言い換えれば人口等によって威力が変動するが、何十億人分ものエネルギーを受けるため、理論上これに耐えられる人類は存在しない。EXTRAにおけるダメージ値は五十六億七千万(EXTRA世界の地球人口と同数と思われる)で、これを上回る威力を持った宝具は存在しない。
また、人類を救う最終解脱説法なので、人外にあたり、かつ存在の規模が人類の版図を超えた存在が対象となると、無効化はされないが効果が軽減してしまう。

『転輪聖王(チャクラ・ヴァルティン)』
ランク:? 種別:? レンジ:? 最大補足人数:?
セイヴァーの小宝具である、相手を倒すための武具。『転輪聖王』とは古代インドの理想の王を指す。本来セイヴァーは徒手空拳で戦うが、この宝具は飛び道具で攻撃を行う。セイヴァーの背にある曼荼羅のようなこの宝具に順番に7つの光が灯り、全てが揃うと『一に還る転生』が発動する。
字コンテではセイヴァーの上空に展開される7kmの光輪であり、範囲内に光の矢を放つ全天方位型の移動砲台と解説されていた。
チャージすると光の輪は増えて七つ揃い虹を思わせる姿になったりなどの案も考えられていたが、製作コスト面からボツになった。そのためどこまで当初の設定が反映されているか不明。
ゲーム中の戦闘では7kmの光輪や相手を攻撃し続けるビーム砲台といった要素はない(やろうと思えば出来るのかは不明)が、通常攻撃時や『一に還る転生』発動時にビームが多数放たれたりなど名残と思わしき描写は残っている。


【人物背景】
英霊としての彼は原作参照。
基本の7クラスには該当しない、特別なクラスのサーヴァント。
「Fate/EXTRA」のラスボスにして究極の出オチ。
聖杯戦争終了後、熾天の玉座にて主人公を待ち構えるトワイス・H・ピースマンが従えるサーヴァント。
本来は神霊をも超える力を持つがサーヴァントとして召喚に応じた為、如来(悟りを開いた仏)としてのそれ程には力や権限は無い。
余談だが、元ネタの仏教での三千大千世界は『大銀河団規模』が尺度を持ち、如来と違い悟りを開けていない菩薩ですら、太陽系くらいは軽く管理している。
ただし、サーヴァントとしても規格外の強さを誇り、キャス狐がこれまで戦ってきたサーヴァントとは格が違うと称する。



【マスター】
セラ@クォンタムデビルサーガ アバタールチューナー

【マスターとしての願い】
???

【weapon】
特になし

【能力・技能】
記憶喪失。聖杯戦争のルールや東京についての知識はある。
けれど自分が何故ここにいるのかは思い出せないでいる。

【人物背景】
かつてどこかの宇宙であすらの王と一つになり、次元の調律者となった少女。


120 : ◆Ee.E0P6Y2U :2015/07/11(土) 01:23:46 kqcH9f/20
投下終了です


121 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/12(日) 22:40:05 SkLt6oao0
皆様、投下お疲れ様です。
私も投下します。


122 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/12(日) 22:41:38 SkLt6oao0
能楽。
日本の伝統芸能の一つとして知られる。
能と狂言の総称であるそれはかつて猿楽とも呼称されていた。
猿楽は室町時代以前では庶民の文化レベルであったが観阿弥・世阿弥らによって集大成され、現在に残るほどの文化に昇華された。
その起源には諸説あり、一説には聖徳太子の側近であった秦河勝が起源となったのではないかという話がある。
かの世阿弥は河勝の子孫を自称しており、著書『風姿花伝』には聖徳太子が秦河勝に六十六の面を与え神楽を奏させたというエピソードが記されている。
明治維新後には猿楽の役者たちが失職し、他の伝統芸能諸共消滅の危機に瀕していたが、
かの岩倉具視や九条道孝の助力もあり猿楽は能楽に改められ、「能楽社」が発足。歴史の波の中に消えていく運命は免れた。

そんな能楽は、魔震の被害から20年経つという外界と断絶された新宿でもしっかりと現存していた。
その象徴が、神楽坂にある能楽堂であろう。
築50年を超えるそれは新宿の中では最も古く、能楽シテ方(=能での主人公的役回りのこと)のとある流派の職分家が所有する由緒ある能楽堂であった。
今もそこでは継続して能楽の公演が行われており、愛好家はもちろん一般の人々の興味も引き、公演日には客席がほぼ満員になるほど盛況であった。

そして現在、能楽堂の舞台にて、扇を片手にシテ方を演じ、能面をかぶって舞う少女の姿があった。
正方形の舞台の上を踏むたびに桃色のロングヘアーが揺れる。
観客は一人を除いていない。舞台の傍らに、少女とは対照的な壮年の男性が真剣な目で少女の能を睨んでいた。
この男は能を演じている少女の師匠にあたる者だ。
兼ねてより、能楽師を志した者は所属する流派の家系の家に住み込んで内弟子となり、修業の日々を送らねばならない。
この少女も能楽師を夢見て、この能楽堂を所有する職分家の内弟子となった一人であった。
元来、能楽は女人禁制の決まりであったが、近年ではそれが緩和されて女性にも門戸が開かれている。
彼女もまた、珍しい女性能楽師の卵として弟子達の中ではそれなりに注目されていた。

少女が舞台の上を踵を上げることなく摺り足で舞台を行く。
ハコビと呼ばれる運歩法で円弧を描くように正方形の舞台を回り、扇を現在演じている演目に合わせてゆったりと、それでいて優雅に振る。
能楽においては舞台から見て正面と右、左の3方向に客席があり、能楽師はそれぞれの方角にいる観衆の目を意識して見せねばならないのだ。

舞台の上で登場人物そのものになりきっている仮面の少女の演技は、男からすれば見事なものであった。
その動き、ハコビやカマエの一挙一動からも感情が伝わり、面が動くことはなくとも舞から発せられる感情のエネルギーが全身を駆け巡っていく感覚だった。
演目のシテ役をプロの能楽師に勝るとも劣らないほどに演じきってみせている。


123 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/12(日) 22:42:35 SkLt6oao0

「終わりました」

少女が演目を終え、能面を外して師の方へ目線を移す。
その顔は無表情という言葉がこれ以上なく当てはまっており、何を考えているのかが一切わからない。

「流石だな。見事な能だった。もう少し突き詰めれば若竹能に出ても問題ないレベルに達するだろうな」
「ありがとうございます」
「しかし、だな。こころよ」

男はこころと呼ばれた少女の舞を褒めつつも、少し困ったような顔をして腕を組む。
少女の名は秦こころといった。現在は新宿の能楽の有名な職分家に住み込んで弟子入りしている。
能楽堂にて数週間後に公演される『若竹能(若手能楽師が稽古の成果を見せるための能の公演)』のために日々鍛錬に励んでいた。
こころの演じる能楽を見た能楽師は誰もがその素質に驚愕し、賛辞と拍手を送った。
若手の駆け出しとは思えない、前途有望な能楽師であった。
だが、男が難しい顔を見せたように、こころにはある難点があった。

「もう少しわかりやすく演じることはできないか?」
「わかりやすく?」

こころは師の言葉の意味がわからないといった様子で小首を傾げた。

「私がお前の能を『見事』と言えるのは私が能楽を生業としているからこそだ。お前の所作が何を表しているかがわかるからな。
だが、能を初めて観る方々にとってはどうかな?特別区、果てには世界中から神楽坂を訪れた人々がここの能を観に来る。
そんな人達が皆、能を理解しているはずがないことなど自明の理だ」
「……」

こころの難点。それは伝統芸能になじみの無い庶民には難しすぎて意味が分からないことだった。
確かに能楽師の目からすれば出来は非常にいいが、素人目で見ると何をしているかがわからず、不安になってその演目とは関係のないことまで考えてしまうのだ。
プロの能楽師であるこころの師匠は新宿のNPCでありながらもそれを的確に見抜いていた。

「今日の稽古はここまでにしよう。これからはお前の自由時間を多めにとる。自主的に鍛錬して、お前だけのわかりやすい能を編み出してみてくれ。
私もそろそろ年だ。年寄りには考えつかない、お前なりの新しい能を期待しているぞ」
「はい、考えてみます」

この会話を最後に、今日のこころの稽古は終了となった。


◆ ◆ ◆


124 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/12(日) 22:45:00 SkLt6oao0

言うまでもないが、秦こころはこの新宿での聖杯戦争におけるマスターの一人である。
66種類の面が付喪神と化した存在で、面霊気とも呼ばれている。
彼女に与えられた役職は前述のとおり、とある能楽師の家に住み込みで修業中の天才若手能楽師。
66種類の面を常に携帯している様子が自分だけの能面を好んで使っているように見えたのか、関係者の間では「My能面」を持っていることでも有名であった。
また、この新宿は外界と断絶されてしまったという点で幻想郷と似ていた。

「私の能楽ってわかりにくいの?」

近場の公園にて、夜風に吹かれながらこころは独り言ちた。
こころにはこの日の稽古で師にかけられた言葉が引っ掛かっている。
幻想郷の博麗神社で精神安定のために能楽をしていた時もそのような不満を小耳にはさんだことがある。
マミゾウによれば、「難しすぎて不安になり、余計なことまで考えてしまう」のだそうだ。

「新しい希望の面を使いこなせれば何か見えてくるかな?」

豊聡耳神子に新たに作ってもらった希望の面を手に取る。
先の幻想郷での宗教戦争は、希望の面がなくなったことによりこころの能力が暴走し、人々が刹那的な快楽を求めるようになったことに起因する。
その騒動の中で、道教勢力に立つ神子に与えられたのがこの希望の面だったのだ。
尤も、この面は道具として完璧すぎるゆえに、こころの自我が失われてただの道具に逆戻りしてしまう可能性を孕んでいる。
博麗神社で能楽を始めたのも希望の面をまだ使いこなせておらず、精神を安定させて無用な騒ぎを防ぐという側面もあった。
新宿で与えられた役割は、日常的に能楽ができるという点でこころとしても非常に助かっていた。






「まろからすれば見事でおちゃったよ」
「ライダー」

こころがライダーと呼んだ先に霊体化を解いたこころのサーヴァントが現れる。
しかしその外見はおおよそ人とはいいがたく、形容するならば台座に乗ったからくり箱と、その前方に取ってつけた腕のない人形といった風体。
その名も【機巧《からくりの》おちゃ麻呂】。
平安時代から存在する機巧兵にして、こんななりだが平安の神楽で江戸中を魅了した舞踏家でもある。

「能楽とは何とも雅な舞でおちゃるなぁ〜。狂死郎の歌舞伎にも劣らぬでおちゃるよ」
「そんなによかった?」

おちゃ麻呂に褒められたこころは頭に張り付いている面を福の神に変えた。
彼女なりの嬉しさの表現だろうか。

「そちの舞を見ていると、まろも舞ってみたくなったでおちゃる〜。あそ〜れ――」






「ぬおおぉぉぉ〜〜〜私が吹き飛ぶぅぅぅ〜〜〜〜」
「おちゃ〜〜〜〜!?!?!?」

おちゃ麻呂が舞おうとして得物の扇を一振りした瞬間、こころが力の抜けた悲鳴を上げた。
こころの方へ目を向けると、まるで扇から煽られた風に吹かれているようにヨレヨレで、今にも倒れそうな態勢であった。
おちゃ麻呂は高名な陰陽師に製造された退魔機巧兵で、魔の者を見事調伏したという逸話から、霊的・魔的なモノを祓う最高ランクの『退魔力』を持つ。
彼の舞にも退魔力は付加されており、それを見た霊的なモノは祓われる。
こころは付喪神であり、その祓われる対象に入っていた。

「まことや、こころは付喪神でおちゃった…げに危うし、げに危うし」
「気を付けろ!我々はまだ不安定なんだ!」
「おちゃ〜、般若面となりて怒られたでおちゃる……されど、まろが意識しておけばもう心配ないでおちゃるよ。心安かれでおちゃる」

ただ、祓われるといってもおちゃ麻呂が意識さえしておけば特に問題はない。
対魔力がサーヴァントの意思で効果を弱めることができるのと同様に、退魔力もその力を弱めてこころのような存在を傷つけぬようにできるのだ。
おちゃ麻呂は人形を精一杯動かし、頭を下げて謝った。


125 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/12(日) 22:46:16 SkLt6oao0

「さても、それがそちの希望の面でおちゃるか?げにあやしげな面持ちでおちゃるな〜。つゆ完璧とは思えぬでおちゃる」
「確かに変だけど、我々には必要な面だから」
「されどその面を使い続けるとそちは道具に戻ってしまうのでおちゃろう?何ぞそれを使い続けるでおちゃ?」
「この面を使い続けて自我に取り込めって狸の妖怪に言われたの。そのためには色んな人間の感情を見て、表情を学ばなければならない」

こころがこの面を使い続ける理由は二ッ岩マミゾウにあった。
こころは無表情だが感情自体は豊かで、感情を司る面を被ると対応した感情に変化し、口調も変わる。
以前までのこころは面こそが本体であり、自身の感情そのものという認識を持っていた。
だが、本体は妖怪となって形を成した『こころ』であり、
『こころ』自身が感情・表情を手に入れることで面霊気の『こころ』は完成して自我を保ち続けることができる、とマミゾウは諭したのだ。

「ライダーも私と同じで表情がない。でも、面がないのに感情がとても豊かだわ。他の人間や妖怪と違う…あなたって面白い♪」
「ほっほっほっ……まろの『これ』は人形ゆえ表情はなかれども、師父様から賜りしこの魂は感情を持っているでおちゃるからな〜。
まろがただの機巧で終わらなかったのもそのおかげかもしれないでおちゃる」

おちゃ麻呂は歯車のぎっしりと詰まった箱から生えた手で己の人形を指さしながら言った。
おちゃ麻呂はからくりにも関わらず、その機体に魂を持ち、意思と感情を持っている。
彼も感情を持っていたからこそ、逸話になるほどの偉業を成し、英霊という存在にまで押し上げられたのだろう。

「そう、私もただの道具で終わりたくない……。だから私は、この聖杯戦争を通して感情を学ぶ。それが私の願いだ!」

こころは自分の手元にある契約者の鍵を取り出した。
透き通るように青いそれは元々は神子がくれた希望の面にいつの間にか入っていたものだ。
それを得て何が起こるでもなく、こころ自身も特に理由もなく持ち歩いていたのだが、ある日を境に突然新宿へ飛ばされた。
マミゾウに敗北し、その言葉を受けて感情を探しに行こうとした矢先であった。

「この聖杯戦争を通して…?さらば、そちは聖杯が欲しくないのでおちゃるか?」
「聖杯戦争みたいな殺し合いは殺意を生むわ。そんなモノを認めるわけにはいかない!」

殺意という感情は人間を不安定にさせ、果てには多くの死をもたらし、感情をも含めてその人間達の『全て』を壊してしまう。
感情のバランスを保つ面霊気のこころにとって、それは許しがたいものだった。

「ほっほっほっ……あなおもしろき面霊気かな〜。……そちを見ていると、まろもそちが何を成し遂げるのか見てみたくなったでおちゃるよ〜」

おちゃ麻呂は扇を人形の口元に当てる。
彼は、前述のとおり魔を祓う機巧兵として生きていた。
初めてこころの正体を知った時は何事かと思ったが、彼女からは悪しきモノを感じないので自らのマスターとして認め、彼女についていくことにした。
現に、妖怪であるはずのこころはこの聖杯戦争を認めないと言ったのだ。
劉雲飛のような善悪両方の気配を持つ者にも会ったことがあるが、今のところこころからは悪しきモノは感じられない。

「……新宿に潜む悪しきモノは、別にいるようでおちゃるなぁ〜」

現界した当初からおちゃ麻呂が感じていた、新宿に巣食う『魔の者』の気配。
この再現された平和な新宿にも、「再現元」と同じように悪しきモノがいることをおちゃ麻呂は見抜いていた。
いずれはこの新宿にも、魔界都市に相応しい悪しきモノが表舞台に姿を現してくるのだろうか。

「悪しきモノを祓うはまろの使命。その時は、まろが祓ってしんぜよう〜」

おちゃ麻呂はこころに聞こえぬよう、か細い声で呟いた。


126 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/12(日) 22:47:48 SkLt6oao0
【クラス】
ライダー

【真名】
機巧おちゃ麻呂@サムライスピリッツ 天下一剣客伝

【パラメータ】
筋力C 耐久B 敏捷E〜A+ 魔力A 幸運A 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
対魔力:A
Aランク以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではライダーに傷をつけられない。
後述の逸話により退魔の属性を得たため、それと同時に破格の対魔力も得ている。

騎乗:-
ライダークラスにあるまじきことだが騎乗スキルを所有しない。
ライダーは台座を足代わりにして移動している。

【保有スキル】
退魔力:A
霊的・魔的なモノを祓う力。
ライダーは陰陽師により生み出され、最終的に羅将神ミヅキを始めとする魔の者を調伏したことからこのスキルを有する。
ライダーの全ての攻撃は霊体にもダメージを通すことができ、
さらに魔の属性または闇の属性を持つサーヴァントに対しては追加ダメージを負わせる。
なお、無差別というわけではなく、対魔力と同じくライダーの意思で対象を指定できる。

舞踊:A
江戸の民を魅了し続けた平安時代の舞踏、裏式神楽雅《うらしきかぐらみやび》。
ライダーの場合、その舞踏自体に退魔の属性が宿っており、
周囲で発動している同ランク以下の魔術を全てキャンセルする。
どんな強力な魔術工房やエンチャントですら舞一つで全て台無しになる上、攻撃魔術から同行者を守る実質的なバリアとしても機能する。
さらに攻撃にも使うこともでき、見切りにくく、予想のつかない身体動作により敵の防御姿勢を容易に崩すことができる。
敵の防御判定におけるファンブル率を大きく上昇させる。

侍魂:C
サムライスピリッツ。武芸者同士の御前試合に参加していた逸話からこのスキルを持つ。
怒りの爆発を武器に乗せて力に変え、あるいは自身を無の境地に置くことで静なる剣を引き出す奥義。
ライダーは厳密にはサムライではないため、ランクはそこまで高くない。

王服茶:A
ライダーの好物である縁起物のお茶であり、薬湯。
この茶を飲んだ者はみな病魔を払われ快癒したという逸話から、
ライダーの出した王服茶を飲んだ者の受けたダメージを回復し、毒などのバッドステータスを治癒する。

【宝具】
『師父製山車舞台型魂宿退魔機巧兵御茶麻呂《しふせいだしぶたいかたたまやどるたいまのからくりのつはものおちゃまろ》』
ランク:A 種別:退魔宝具 レンジ:―― 最大捕捉:――
平安時代に高名な陰陽師「師父様」が生涯をかけて生みだしたおちゃ麻呂の機巧《からくり》の体そのものが宝具。
からくりでありながら魂を持ち、豊かな意思・感情を持っている。
からくりの特性上、その内部に様々な機構を持ち奇怪な攻撃ができる他、
ある程度の範囲ではあるが材料さえ揃えばライダー自身の体を分解して魔力を消費せず自己修復が可能。
さらに、ライダーの機巧内部の埃や塵の量、潤滑油の質などにより敏捷が大幅に上下する。
四六のガマの油のような神秘の宿った油を潤滑油としてライダーに注入したともなれば、敏捷はA+ランクまで上昇するだろう。
時を経て、仲間の遺志を継ぎ見事羅将神ミヅキを封印した逸話から、最高ランクの対魔力、そしてあらゆる行動に退魔の属性がついている。


127 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/12(日) 22:48:55 SkLt6oao0

【weapon】
切鉄翁・裏鉄嫗《きりがねおきな・うらがねおうな》
ライダーが舞に使う一対の鉄扇。
舞踊と共に繰り出される機巧体動作は多彩で、完全に見切るのは困難。

黒鉄鋳造刃金焼入白銀歯車《くろがねちゅうぞうはがねやきいれはくぎんのはぐるま》
ライダーのからくり箱の頂点で常に回っている巨大な歯車。
変形し、押し付けて高速回転させることで敵を切り刻む。

人形
機巧部の前についている平安の公家風の人形。
ただの人形のため、表情はないがライダー自体は普通に感情豊かである。
人形自体も頭突きや足払いができる他、獅子舞に変形して敵を飲み込む「獅子舞 鬼遣」「獅子舞 鬼紋封」といった技も使用可能。

台座
ライダーの移動手段。常にライダーはこの台座に乗っており、ライダーとして現界した原因の一つ。
遠隔操作・攻撃可能。

【人物背景】
高名な陰陽師「師父様」が生涯をかけて生みだした機巧戦士の内の一体。
平安時代、陸奥・恐山にて力を蓄えている羅将神ミヅキを始めとする世に災いをなすであろう魔の者を調伏するために製造された。
現代から1000年以上昔の産物であるが、驚くべきことにただの機械ではなく、意思や感情を持っている。
からくり箱のような機巧部分の正面にちょこんと人形がついているが、人形に表情を変える機能はないため、表情はない。
いわゆる公家言葉っぽい喋り方をするが、「おじゃる」となるべき部分が全て「おちゃる」となっている。
彼の他に「いちゃ麻呂」「ろちゃ麻呂」「はちゃ麻呂」…と、40体以上の機巧兵がいる。

普段は京都「天閣座」に奉納されており、年に一度だけ「機巧人形舞台」として平安の舞を披露しているが、
ひとたび世に魔が溢れると目覚め、魔を調伏し終えると再び眠りにつく。
江戸時代初期に、羅将神ミヅキを封印するべく、おちゃ麻呂は法力僧数十人と兄弟の機巧兵とともに恐山に赴いたが、
壮絶な戦いの果てに戦いを共にした法力僧や兄弟である機巧兵はおちゃ麻呂を残して全滅してしまう。
一人眠りについたおちゃ麻呂だったが、「サムライスピリッツ天下一剣客伝」本編で再び高まったミヅキの気配によって目覚め、
仲間の遺志を継いで最後の戦いに挑むのだった。

そして御前試合を経て、ついに宿敵・ミヅキを見事封印することに成功。
かつての戦友の子孫と対面するも、おちゃ麻呂は死んでいった兄弟と喜びを分かち合えないことに寂しさを感じていた。
しかし、幕府お抱え・柳生一族の中でもカラクリに精通した者の手によっておちゃ麻呂の兄弟はみな復活する。
この出来事にはおちゃ麻呂も感激のあまり涙を流す(しぐさをしていた)。
そして、ミヅキ封印により本来の魔の者を調伏する役目から解き放たれた彼ら機巧兵は思い思いの道を辿った。
農夫となる者、平安京に帰る者、柳生新陰流を極める者、
旅に出る者、茶店で働く者、忠臣となる者、寝てから考える者…と様々な道を歩み、
おちゃ麻呂は平安時代の舞を江戸に蘇らせ、あらゆる人々を魅了し続けた。

【サーヴァントとしての願い】
新宿に潜む悪しきモノを祓う
こころの行く末を見届ける


128 : 秦こころ&ライダー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/12(日) 22:49:56 SkLt6oao0
【マスター】
秦こころ@東方project

【マスターとしての願い】
ライダーと共に感情を探しに行く

【weapon】
弾幕ごっこで使用する遠距離攻撃、面、扇、薙刀など
面の目の部分からレーザーが発射されたりとスペルカードルールに則して様々な方法で弾を放てる。

【能力・技能】
感情を操る程度の能力
それぞれの感情を司る66の面を持っており、被った面によってこころの性格は様々に変化する。
多すぎるので普段は喜怒哀楽の面を主に使っている。
「希望の面」が失われたことで幻想郷の人間達から希望の感情が失われたりと多数の感情にも影響を及ぼすことが可能なようだが、詳しい能力の規模や応用性は不明。
こころの持つ感情の波動を相手に浴びせて情緒不安定にさせる「喜怒哀楽ポゼッション」なるスペルカードがある。

能楽
特技に能楽を演じることができ、こころが新宿に来る前に起きていた宗教戦争は後に『心綺楼』というタイトルの能楽として披露されるはずであった。

【参戦方法】
契約者の鍵が神子の作った希望の面に入っていた。

【参戦時期】
『心綺楼』マミゾウED後。

【人物背景】
66枚の古い能面の面霊気(付喪神)。
こころ本人は無表情で周囲を漂っている面をかぶるとその面に対応した感情になるという特徴を持つ。
六十六枚全てに感情が割り当てられているが流石に多いので普段は喜怒哀楽の面くらいしか使用しないらしい。
ただし決して無口ではなく会話は普通に成立しており、会話シーンでは無表情のまま口調が次々に変化するという妙な光景が見られる。
『心綺楼』騒動の元凶であり、面の1つである『希望の面』を失い、能力が暴走。
その結果として人里の人々全体から希望の感情が失われ、刹那的な快楽を求めるようになってしまった。
「東方心綺楼」では面を揃え再び人々の感情を安定させるために、希望(信仰)を集めてきた者を新たな希望の面とするべく襲い掛かってくる。

豊聡耳神子によって新しい希望の面を作ってもらったことで、異変は解決するかと思われたが、
その面が完璧すぎたため使いこなすことができず、このままでは自我が失われ、ただの道具に戻ってしまう事態に陥る。
それを打開しようと奔走していたが、二ッ岩マミゾウに諭され、新しい神子の希望の面を使いこなして自我を手に入れることを目指すようになる。

【方針】
聖杯戦争には乗らない。


129 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/07/12(日) 22:53:24 SkLt6oao0
以上で投下を終了します。
作中に登場した能楽堂は神楽坂に実在する矢来能楽堂をモデルにさせていただきました。

また、ステータス表の一部記述を「聖杯戦争異聞録 帝都幻想奇譚」での◆q4eJ67HsvU氏の壬無月斬紅郎のステータス表を参考にさせていただきました。ありがとうございます。


130 : ◆zzpohGTsas :2015/07/16(木) 22:16:25 s5O/C1Ws0
>>ドスまりさ&司波達也
ゆぐっ!? このこうほしゃくどくはいっぢぇるうぅうぅうぅうぅぅぅうぅぅぅうぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!
ご投下ありがとうございます。ゆ虐と、劣等生からの参戦ですね。
インフレ上等の<新宿>聖杯にゆっくり虐待で勝負を仕掛けようとするその意気を買おうと思います。なかなかできることじゃないよ(バス女並の感想)
ゆ虐特有のゆっくりのふてぶてしさとウザさが演出されていて、自分の中の内なる鬼威惨が覚醒してしまいそうでした。
何かとネタにされがちな劣等生ですが、アニメは本当に良質なギャグ異能バトルなので、腰を下ろしてみる事をお勧めします

ご投下、ありがとうございました!!

>>アポカリプス&狛枝凪斗
ご投下ありがとうございます。X-MENシリーズからと、ダンガンロンパシリーズからの参戦ですね。
流石に原作X-MENの中でも最強クラスのヴィランだけあり、圧倒的なカリスマ性とステータスです。
もとより応用力に富んだ能力持ちが多いX-MENの中にあって、特に頭抜けた応用力と基礎的な力が、ステシに如実に反映されている感じがイカします。
そして、アポカリプスの、強大な力と長い年月を生き続けて来たと言う事実に裏打ちされた、尊大な性格と<新宿>への不信感が表現されていて、実に面白い。
この強大な存在を御さねばならない狛枝は、今後どうなるのでしょうか。幸運だけでは乗り切れないようなサーヴァントやマスターが出そろう<新宿>で、どう動くのかが見ものですね

ご投下、ありがとうございました!!

>>緋勇龍麻&七代千馗
ご投下ありがとうございます。東京魔人學園からと、東京鬼祓師からの参戦ですね。
両者共に、選択肢でしか会話をしない、喋らないタイプの主人公と言うのは、当方の拙作であるキタローとアレフを思い浮かべます。
流石に両者共に主人公だけあって、聖杯戦争に乗るか否かに対して、即座に乗らないを突き付けました。その意気やよし。
その一方で、これから起こるだろう人外魔境の戦いに対する不安感も、朧げながらに描写出来ている感じが実に良いと感じます。
そして、<新宿>に集うキャスターだけあり非常に攻撃的でありながらも、バランスの取れたステータスと高いステータス。良い主従であると思います。

ご投下、ありがとうございました!!

>>覚者&セラ
ご投下ありがとうございます。Extraからと、クォンタムデビルサーガからですね。
眩暈を引き起こしかねない程シャープでヘヴィーなキャラ選に最早僕の心はドキドキですね。冒頭のエピグラフに、百億の昼と千億の夜を持って来た甲斐がありました。
どちらも原作では強さの描写が曖昧で、しかし確かに人間では足元にも及ばない主従でしたね。セラの方は、もう実質サーヴァントとして呼ばれかねない存在でしたね。
冒頭の、原作クォンタムのような幽玄なSF描写と、それでいて幻想的なシュレディンガーの台詞。
其処から続く、<新宿>の喧騒の様子と、現実の<新宿>のありふれた描写の対比が驚く程綺麗です。自分も、見習いたいところです。

ご投下、ありがとうございました!!

>>秦こころ&機巧おちゃ麻呂
ご投下ありがとうございます。東方ProjectからHTN……秦こころと、サムライスピリッツからですね。
自分はエロガキなのでナコルルといろはと妖怪腐れ外道にしか興味がない人間でしたが、ああそんなキャラもいたんだなぁと言う事を思い出させてくれるキャラでした。
現実の新宿区に存在する建物を利用した描写は、見事と言うほかありません。能の描写と、それに付随する師匠の教えも、よく調べて回ったのだなぁと言う事を
感じさせるそれでした。自分はこう言う所をどうにも適当にやってしまう悪癖がありますので、見習いたい所であります。
原作のHTNの、無表情で感情的な台詞を口にすると言う何処か間抜けな姿と、それに応答するおちゃ麻呂の描写が、非常に面白い。
それでいて、ただの無感情な道具で終わりたくないと言う秦の心根が、凄く、良い。<新宿>の環境で、どんな感情が芽生えるのか。非常に気になる所です。

ご投下、ありがとうございました!!


投下します


131 : 葛葉ライドウ&セイバー ◆zzpohGTsas :2015/07/16(木) 22:17:19 s5O/C1Ws0
「ヘイ、見てみろよ少年、コレ」

 マホガニーで出来たアンティーク調のデスクの上に両足をのっけて、椅子の背もたれに限界までよりかかる、と言う。
何とも行儀の悪い体勢で、スマートフォンを操作する男がいた。裸の上半身の上に、血のように赤いコートを身に纏った、如何にも気障ったらしい服装である。
そして、その恰好が様になっている。体格が非常に優れ、肌蹴たコートから覗く上半身が非常に鍛え上げられていると言う事実もそうだ。
しかし、何と言っても、男の顔だ。端的に言えば、非常に整っている。鋼に似た輝きを放つ銀髪に、非常に野性味のある、それでいて青年らしい若々しさに溢れた美形。
歌舞伎町に繰り出して、道行く女性に声を掛ければ、その日の内にヒモにでもなれそうな美青年であった。

 赤コートの男の瞳は、全体的にアンティーク調に統一された室内の隅で、影のように佇立していた男に向けられていた。
まるで部屋の主のような佇まいを見せる赤コートの男に対して、表面的なリアクションを何一つとして見せず、影法師のような青年は近づいて来る。

 羽織っているビロードのように滑らかな黒マントの下に、前時代的な日本の学生服を身に付けた男である。
きっと今風に言えば、バンカラという奴だ。今時珍しい学帽まで被っている。
荒々しい男らしさの象徴とも言うべき服装スタイルであるのに、その青年の身体つきは服装に似合わぬ細見のそれだった。身体の線も優美でスッとしている。
そんな身体つきなのに、バンカラ風の服装が良く似合う。そして、青年の顔立ちだ。これが赤コートの男に劣らない程整っている。
コートの男が野生味の象徴なら、こちらはセクシーさの象徴と言うべきか。鋭い角度のモミアゲが、チャームポイントだった。

 学生服の青年が、行儀の悪い座り方をする赤コートの男の方まで近づくと、さっきまで見ていたスマートフォンの画面を、コートの男は学生服に見せつけた。
色とりどりのフルーツの乗ったパフェの画像が数多く転載されたページだった。見た所、季節の果物を主役にしたパフェが殆どである。
何とも、見る者の食欲を煽る編集の成された画像の数々だろうか。ついついうっかり、足を運んでみたくなる魔力が画面越しからも伝わってくる。

「……?」

 学生服の男が、疑問気な目線を赤コートに投げかけた。赤コートの男に比べ、この男は寡言だった。

「タカノフルーツパーラーだな」

 画面を一番上までフリックさせ、赤コートの男はページ名――もとい店名を教えに来る。非常に有名な、高級フルーツの専門店である。
が、聞きたいのはそれじゃない、とでも言いたそうな表情を、学生服の男は浮かべた。

「本当はストロベリーサンデーを平らげたい所何だがな、ニッポンは季節に凝る国だから、今の季節、イチゴを使ったデザートが少ないみたいでな。
何かないものかと思って調べてたら、此処だよ。この<新宿>には有名なデザートパーラーがあるみたいじゃないか。この際イチゴじゃなくても良いから、舌が馬鹿になる位甘いパフェでも食いたいと思ってよ」

「……セイバー。その店は女性と同伴じゃないとデザートを食べられないぞ」

 石垣の石と石との隙間みたいに口を閉じていた学生服の男が、そんな言葉を赤コートに告げた。
「Shit!! 何だよそれ!! 性差別だ性差別!!」、露骨に男は――セイバーと呼ばれた男が悔しがった。完全に誤算であったらしい。


132 : 葛葉ライドウ&セイバー ◆zzpohGTsas :2015/07/16(木) 22:17:49 s5O/C1Ws0
「一応釘を刺しておくが、此処で食べたい為に女を誘うのはやめておけよ」

「チッ。馬鹿野郎、『ライドウ』。俺がそんな頭の中身の軽そうな男に見えるかよ」

 よくもまぁそんな服装で、そんな言葉を口に出来る物だと、ライドウと呼ばれた男は呆れを通り越して感心した。
誰がどう見たってこの赤コートの男は、如何にも軽そうで、女性遍歴も凄そうな、遊び人風の男にしか見えないだろう。

「第一、セイバー。お前はサーヴァントなのだから、人間が食べる食物で栄養を摂取しても、現界維持にかかる魔力が賄える訳じゃないだろう」

「昔から俺の主食は、オリーブ抜きのチーズとサラミたっぷりのピザと、ストロベリーサンデーって決まってんだよ。それさえ食ってれば魔力も何とかなるだろ」

「ならないし、金の無駄だ。我慢しろ」

「固い事言うなよライドウ、野菜も頑張って喰うからさ」

 そんなにピザとサンデーが食べたいのかこの男はと、ライドウは呆れて物も言えなくなる。
本当に目の前の男が、伝説の大魔剣士の血を引くデビルハンターなのかと、魔帝ムンドゥスや覇王アルゴサクスを滅ぼした最強の悪魔なのかと。疑いたくもなる。
だが、ライドウは知っている。この赤コートの男が正真正銘、大魔剣士スパーダの息子であり、ライドウが使役する如何なる悪魔よりも強い男である事を。

 契約者の鍵に導かれてやって来たこのセイバーの真名を、『ダンテ』と言う。
遡る事二千年以上前、万物を創造する力を有した魔帝ムンドゥスの腹心でありながら、正義の心に突如として目覚め、人間界へと侵攻に来た魔界の悪魔達に、
単身で立ち向かい、彼らを退けた魔剣士・スパーダ。その息子が、このサーヴァントなのだ。
生前滅ぼして来た魔界の上級悪魔達の数は、両の手で数えられる頭数を遥かに超え、それ故あらゆる悪魔達から恐れられてきたデビルハンター。
それが事実であるとライドウは確信しているのだが、どうにも性格が軽いし、お喋りだ。寡言で冷静なライドウとは、あらゆる意味で正反対の男である。

「そりゃなぁ、少年。俺だって悪魔やサーヴァントがいれば、ピザやサンデーなんてほっぽり出して踊りにいくさ。だが、いないだろ?」

 マホガニー製の机の上に乗っけていた足を床に下ろし、甥っ子でも諭す様な口調でダンテはライドウに言った。
これは、ダンテの言った事が事実であった。ライドウもダンテも、自らの仕事には極めて忠実な男達である。
悪魔退治の依頼が舞い込もうものなら、この男達は疾風のように現場に向かい、暴れる悪魔達が泣き出す程の活躍をしてみせるのだ。

 この<新宿>でライドウ達が相手にせねばならない相手は、サーヴァント……もとい、英霊と呼ばれる存在だ。
厳密には悪魔とは似て非なる存在達だが、素人やにわかデビルサマナーが御するには荷が重すぎる存在なのは事実だ。見過ごしてはおけない。
だから、元の座に叩き返すのだ。それが、ライドウらの使命。……なのだが、肝心要のそのサーヴァントが全く見当たらない。
東京都全域ならいざ知らず、<魔震>によって生じた<亀裂>で隔絶された<新宿>内でしかサーヴァントは見られない筈なのに、だ。
これでは、歴代最強と言われる程の腕前を持つ葛葉のサマナーも、悪魔も哭いて恐れる程のデビルハンターも、暇を持て余すのも当然の事なのだった。

「ところで、少年」

 机に頬杖を突いた状態で、ダンテがライドウに目線を向ける。

「少年は何の為に聖杯を欲するんだ?」


133 : 葛葉ライドウ&セイバー ◆zzpohGTsas :2015/07/16(木) 22:18:12 s5O/C1Ws0
 聖杯。それは、かの救世主が遺したとされる聖遺物の一つ。黄金、ないしエメラルドで出来ているとされる杯。神の薫陶を受けた神品。
如何なる願いをも成就させると言うその聖杯を巡って争うからこそ、聖杯戦争と呼ばれると言う。ライドウとダンテは、その聖杯戦争の参加者の一組だった。
彼らは既にその戦いに組み込まれているのだ。聖杯を望む望むまいに関わらず、サーヴァントを呼んだその時点で、二人の運命は決まっていた。

 何でも願いが叶う聖遺物!! そんな物が手に入るのであれば、普通は誰でも、どんな犠牲を払ってでも手に入れたいと思う事だろう。 
それが例え、英雄と呼ばれる高邁高尚な精神の持ち主でも。それが例え、覇王猛将と呼ばれる猛々しい性根の持ち主でも。
結果に至るまでの過程をすっ飛ばし、叶えて見せたい願いの一つや二つ、心の中にしまい込んでいる事だろう。
ならばダンテも、自らのマスターとなったライドウに、そんな望みがあるのだろうかと考えるのも、自然な事。
今の彼がこの黒衣のデビルサマナーに従っているのは、ライドウが優秀なデビルサマナー及び、悪魔狩人の目線から見ても優れた戦士であると認めているからこそ。
それに、ライドウのストイックで無口な性格は、ダンテが生前、宗旨の食い違いで相対してしまった自らの兄によく似ていた。それも、ライドウに従容と従う理由でもあった。
だから、気になるのだ。兄によく似た性格で、その上、腕も非常に立つこの男が、聖杯に何を望むのかが。

「特に望む願いはない」

 何の逡巡も見せずに、ライドウはそう返した。「へえ?」と、ダンテが面白そうに相槌を打つ。

「自分の役目は、帝都……この時代の人間が言うところの、東京都を護る事だ」

 それは、国家を霊的に守護する秘密機関・ヤタガラスから任された神聖な任務だった。
自分が健在な以上、ライドウは命を賭して帝都を守護せねばならないのだ。例えそれが、ヤタガラスなど存在しない、異世界の帝都であろうとも。

 槻賀多村の無限奈落騒動を終えてから幾週間か経った頃。
帝都守護の任に再び戻ったライドウは、騒動の折に槻賀多村の巫蠱衆が放った運喰い虫の生き残りを発見。
それを処理しようと虫を追い、その虫を破壊した。喰らった幸運が、自分に舞い込むのをライドウは感じた。と、同時だった。
地面に、群青色に光る鍵が落ちたのを。運喰い虫が持っていたものらしい、光物を集める鴉めいた習慣だった。
それを奇妙に思ったライドウが、落ちた鍵を手に取った――その瞬間だった。ライドウが帝都の築土町から、<新宿>は歌舞伎町の貸しビルの1フロア。鳴海探偵事務所へと飛ばされてしまったのは。

「サーヴァントや悪魔を使役する、と言う事は、危険性を伴う。デビルサマナーであれば誰でも知っている事だが……恐らく、聖杯戦争の参加者の中には、それを知らない者もいるだろう」

 古来、悪魔を使役すると言うのは、その道に通暁したものであろうとも万全とは言えない程に危険な行為であった。
最も危険なのは、その悪魔との交渉である。大体の者は、この交渉段階でしくじり、命を落とす事が多い。
故に多くの召喚士や、悪魔を呼び出そうと試みた者は、生贄や供物を用意したり、言葉遣いや身なりに気を使ったりと、様々な事に腐心してきた事は歴史が証明している。
契約を交わしたとしても、油断は出来ない。悪魔は非常に気まぐれな性質で、嘘吐きだ。錬金術を得意とするある堕天使は、このような手順で錬金術を行えば、
黄金が出来ると言っておきながら、いざそれをやってみると有害な毒ガスを噴出する貴金属が出来上がり、結果として召喚士を死に至らしめたと言う事例もあった。

 そう、素人や付け焼刃の知識しか持たない人物が、悪魔やサーヴァントを使役すると言う事は、死んでもおかしくない事柄なのだ。
その道のプロであるライドウは、その事をよく知っている。ましてや今回参戦している聖杯戦争に於いて、マスターと呼ばれるサマナーもどきが使役する存在は、
悪魔とは一線を画した存在である、サーヴァントだ。ライドウですら、御する事すら初めての存在だ。
令呪と言う絶対命令権による脅しがあるとは言え、これだけで、全ての参加者がサーヴァントと友好関係を築け、彼らを従えさせられるとはライドウには思えないのだ。
サーヴァントに主導権を握られる主従も、確実に存在してくるだろう事は容易に想像出来る。サーヴァント/悪魔に主導権を奪われる。
その相手の性格にもよるが、大抵の場合はロクな結果を招かない。ましてや聖杯戦争の末には、願いを叶える聖杯が手に入るのである。
これを不穏に思わない程、ライドウは楽観的な性格をしてはいない。彼が思うにサーヴァントは、帝都の、東京の平和を大いに乱す要素に大いに成り得るのだ


134 : 葛葉ライドウ&セイバー ◆zzpohGTsas :2015/07/16(木) 22:18:27 s5O/C1Ws0
「別に、聖杯は自分には必要ない。いつも通りの東京の日常が続けばそれでいい。その日常を、サーヴァントは破壊しかねない。だからこそ、座にでも魔界でも、叩き返す」

「……お前面白ぇ事言う奴だなぁ。うちの兄貴にも見習わせたいね」

 首の骨をゴキゴキと鳴らしながら、ダンテが言った。

「より言うのなら、サーヴァント達が聖杯を求めて争うのならば、自分はその聖杯を破壊する。セイバー、お前の願いは、叶わないと思ってくれ」

「いいぜ、別によ」

 あっさりとダンテは言葉を返す。

「やりたい事は大体生前にやり切ったからな。聖杯にかける願いもそんなにないし、少年の頼みを聞いてやるのも、悪くはないね」

 「それに、よ」、とダンテが言葉を続ける。

「座で良い気持ちで眠ってたのに、叩き起こされて聖杯巡って戦え何て言われちゃ、いい気持ちなんざしないしよ。お前が聖杯を破壊したいって言うのならば、好都合よ。俺にも、聖杯にコイツをぶち当てさせてくれよ」

 言ってダンテは、懐から目にも留まらない速度で拳銃を引き抜き、ライドウの額にそれを突き付けた。
それは、拳銃と言うには余りにも巨大な代物で、デカけりゃデカい程良い、と言うアメリカの国民性を如実に反映したような銃だった。
ピアノの黒鍵のように艶やかな黒色をしたその拳銃の銃口を突き付けられても、ライドウは眉一つ動かさない。平時のようなリラックスした雰囲気で、ダンテに目線を送るだけだった。

「聖杯に銃弾をぶち込める何て、中々ない機会だしな。楽しみにさせてもらうぜ、ライドウ」

 言ってダンテは、自らの愛用する二丁拳銃の片割れ、エボニーを懐にしまい、不敵な笑みを浮かべた。
ライドウもつられて、少しだけ口の端を吊り上げた。その場に狩られる対象の悪魔がいれば、その場で叩頭して詫びる程の、凄まじい雰囲気が両者の間に流れていた。

 そして、その雰囲気を、間の抜けるドアチャイムの音がぶち壊した。何だ、と思いライドウは、来客が誰だか解るチャイムテレビの方へと近付いていく。
所長の鳴海――顔も性格も元の世界とうり二つ、NPCと言うらしい――が不在である今、留守番はライドウの仕事だ。新しい依頼人だろうかと考えた。

「はい、此方鳴海探偵事務所ですが」

 事務的な声音でライドウが言った。

「すいません、こちらピザハットですー。注文された商品の配達に参りましたー」

 如何にも解りやすい、学生バイト風の青年が営業スマイルを浮かべてインターホンに対してそんな声を投げ掛けた。その手にピザ箱を持っている。
ライドウがダンテの方に顔を向ける。顔には強い険が、隠さず浮かんでいる。いつの間に、注文していたのか。
自らのマスターである黒衣の少年の強い非難の目線を受けても、ダンテは悪びれもなく、大人ぶった口調でこう言った。

「お前が頼んだのか?」

 ライドウが問う。

「もうランチタイムを回ってるんだぜ、少年?」

 掛け時計を確認するライドウとダンテ。時刻は既に十二時半を回っている。

「……金は誰が払うんだ、セイバー」

「……ミート・シュプリームのLサイズだ。肉たっぷりで美味いぜ? 少年」

 良い笑顔で注文したピザの名前を告げた瞬間、ライドウは懐から愛銃コルト・ライトニングを引き抜き、ダンテの額に発砲した。
銃弾にそのものに梵字を刻んだ銃弾の為、悪魔や、霊体であるサーヴァントにも有効な代物である。
だが、ライドウが発砲したと同時に、ダンテはフワリと空中に、軽業師のような軽やかさで、コートを翻らせて飛び上がりこれを回避した。
「おいおい血の気が多いな少年!! お前にもピザを分けてやるから落ち着けって!!」、空中からそんな声が響いてくる。

 この後ピザの代金3500円は、ライドウの懐の金から降りた。ピザは、美味かった。
美味そうにコーラをかっくらいピザを頬張るダンテの顔に、コルト・ライトニングの銃弾を叩き込んでやりたい気持ちのライドウだった。


135 : 葛葉ライドウ&セイバー ◆zzpohGTsas :2015/07/16(木) 22:19:06 s5O/C1Ws0
【クラス】

セイバー

【真名】

ダンテ@デビルメイクライシリーズ

【ステータス】

筋力B+ 耐久A 敏捷B 魔力A 幸運B- 宝具A+

(デビルトリガー発動時)
筋力A+ 耐久A+ 敏捷A 魔力A 幸運B-

【属性】

混沌・善

【クラススキル】

対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、野獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】

半人半魔:B
人と悪魔の混血であるかどうか。セイバーは伝説の魔剣士と称された程の大悪魔を父に持つ男である。
が、兄とは違い自らの人間としての部分を誇りに思っている為、兄のそれよりもランクは下がっている。

勇猛:A(A+)
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

戦闘続行:A+(A++)
往生際が悪い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。心臓や脳を破壊されても生きている程。
悪魔との混血であるセイバーは、再生速度が人間のそれとは比較にならぬ程に速い。

魔力放出:A(デビルトリガー時:A+)
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。いわば魔力によるジェット噴射。

矢よけの加護:B
飛び道具に対する防御。狙撃手を視界に納めている限り、どのような投擲武装だろうと肉眼で捉え、対処できる。
ただし超遠距離からの直接攻撃は該当せず、広範囲の全体攻撃にも該当しない。

スタイルチェンジ
状況特化技。最大補足1人(自身)。
自身の魔力回路を戦闘状況に応じて瞬時に組み替え、その時々の状況に相応しい戦い方(スタイル)を行う技。
筋力ステータスに補正が掛かり、高い練度の技の数々をこなせるようになる『ソードマスター』
敏捷ステータスに補正が掛かり、空中で水平移動を行ったり、重力を無視して壁を駆けあがる、短距離のテレポートをも可能とする『トリックスター』。
Cランク相当の千里眼を獲得、銃器に対して高い習熟度と練度を誇るようになる『ガンスリンガー』
耐久以下の筋力・神秘の攻撃をノーダメージにまで低減、ランク以上の攻撃も減算させる防御が可能となり、今まで受けて来た攻撃の威力をそのまま返すリリースを発動出来る『ロイヤルガード』。以上四つのスタイルを状況によって選択可能。その時に応じて選べるスタイルは一つだけである。

【宝具】

『叛逆せよ、悪魔の宿命に(魔剣リベリオン)』
ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:3 最大補足:1〜8
父である魔剣士スパーダが振るっていた魔剣が宝具となったもの。セイバーはこの大剣を、父から受け継いだ。
一つの金属の塊をそのまま削り取ったような、銀色の大剣で、柄の部分に髑髏の意匠が凝らされている。
頑丈かつ切れ味に優れるだけでなく、生前数々の悪魔を、スパーダが振るっていた時代も含めて斬り伏せて来た為に、
悪魔と言った魔性の属性を有する存在をこの宝具で斬った場合、追加のダメージ判定を与える事が出来る。
またこの宝具自体が、魔力増幅器のような効果も持ち合わせており、次の宝具を発動するのに必要なキーアイテムとなっている。

『覚醒せよ、魔剣士の血に(デビルトリガー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:自身
セイバーの中に流れる魔剣士・スパーダの血を覚醒させ、自身の姿を紅色の禍々しい悪魔の姿に変貌させる宝具。
発動時はステータスを、デビルトリガー状態のものに、スキルをカッコ内の値に修正させ、B+ランク相当の再生スキルを習得する。
シンプルが故に強力な宝具だが、発動時は魔力消費が著しく早くなる。これは生前の時も変わっていない。


136 : 葛葉ライドウ&セイバー ◆zzpohGTsas :2015/07/16(木) 22:19:21 s5O/C1Ws0
『魔剣“スパーダ”』
ランク:A+++ 種別:対悪魔宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1〜100
二千年前、人間界へと攻め込んで来た、魔帝ムンドゥス率いる魔界の悪魔の軍勢。人々の平和は、瞬く間に踏みにじられた。
しかし彼らの中に、魔帝に次ぐ程の圧倒的な強さを有していながら、正義の心に目覚め、魔帝ムンドゥスに反旗を翻した悪魔がいた。
その悪魔こそ、後世魔界の悪魔から不倶戴天の敵と見做された魔剣士スパーダである。この宝具は、悪魔だった時代にスパーダが振るっていた魔剣の中で最強の一振り。
余りにも強大過ぎる力の為に、スパーダはこの魔剣の力と自らの力を二つのアミュレットに分け、二人の子供に分け与え、そして力を抜かれた魔剣・スパーダ、
もといフォースエッジと呼ばれる魔剣を、魔界と人間界の境界に存在する巨塔テメンニグルに封印した程。
生前はトリッシュと呼ばれる相棒の上級悪魔にこの魔剣を渡していたが、サーヴァントになり、かつスパーダ以外の血縁者で唯一この宝具を振っていた男であった為に、この宝具を得た。

 剣と言う名前を冠してはいるが、実際には状況に応じてその形状を変える可変型の武器と言うもので、局面に応じてその姿を剣や鎌、槍のように伸縮させたり出来る。
武器としての性能の指針である切れ味、破壊力、頑強さや、宝具としての神秘は、スパーダが振るって来たリベリオンや閻魔刀のそれを超越する。
特に切れ味は、空間の切断・概念の破壊にも及び、ランク以下の物理・魔術・概念系防御に対して抵抗、貫通の判定を行える。
また、二度に渡り魔帝を退けたと言う逸話により、悪魔の属性を有するサーヴァント及び生命体に対して、特攻の効果を与える事が可能。
そして、対城宝具以上の破壊力を秘めた、魔力を巨大な赤い竜の形に練り固め放出する技の使用が可能。
強力な宝具の反面、これを振って戦うと言う事は想像を絶する程の魔力を消費する事を意味し、この状態で前述の宝具、デビルトリガーを発動しようものなら、ライドウと言えど著しい魔力の消費は免れない。

【weapon】

リベリオン:
宝具参照。

エボニー&アイボリー:
リベリオンと並ぶ、セイバーのシンボルである大型の二丁拳銃。名前のような、黒鍵と白鍵のような色味をした銃身が特徴。
成人男性ですら保持する事が難しく、発砲などしようものなら脱臼を起こしそうな程のサイズと重量を持っている。
悪魔に対しても有効な火力を誇り、一度発砲しようものなら、銃口から馬鹿げた大きさのマズルファイヤが光る。
フルオートなのに、セイバーは何故か知らないが一々指で、それもマシンガン並の速度で連射する

【人物背景】

嘗て魔帝ムンドゥス率いる魔界の悪魔達に一人で立ち向かった大魔剣士スパーダと、人間の母であるエヴァとの間に生まれたアメリカ人男性。双子の兄にバージルを持つ。
表向きは『Devil May Cry』と言う名前の何でも屋を営む男だが、普段は全くやる気がなくドル札をどんなに積み上げても仕事を引き受けない事もある程。
しかし、悪魔に母のエヴァを殺されたと言う痛ましい過去を経験したせいで、悪魔に対して強い敵愾心を有しており、胡散臭い悪魔祓いや幽霊退治と言う依頼になると、
タダみたいな値段の依頼でも向かって行く程。

1〜4の全てのシリーズ作品の記憶を持つが、マスターであるライドウの若い精神性を反映して、DMC3の時の姿、つまり十代後半〜二十代前半の時の姿で召喚されている。

【サーヴァントとしての願い】

特にはない。


137 : 葛葉ライドウ&セイバー ◆zzpohGTsas :2015/07/16(木) 22:19:37 s5O/C1Ws0
【マスター】

十四代目葛葉ライドウ@デビルサマナー葛葉ライドウシリーズ

【マスターとしての願い】

帝都の守護。聖杯を巡って、サーヴァント達が争い、帝都の平和が乱れるなら、聖杯を破壊しサーヴァントを座に叩き返す

【weapon】

赤口葛葉:
葛葉四天王の一、ライドウ一族に代々伝えられる霊刀。マグネタイトを以て受肉した悪魔は当然の事、霊体や思念体の類も斬る事の出来る刀。
悪魔を退治するにはこれ以上と無い名刀で、優れた技量の持ち主が振えば、鋼鉄をも難なく切り裂く。

コルト・ライトニング:
アメリカのメジャーな拳銃器メーカー、コルト社が開発した自社初のダブルアクション式リボルバー拳銃。M1877とも呼ばれる。
片手で素早く連続発射が行える。この拳銃のバリエーションであるコルトサンダラーは、かのビリー・ザ・キッドが使用した銃として有名。
ライドウの場合、梵字を筆頭とした呪文文様を刻んだ銃弾を使用している為、現代の科学だけで作られた武器でありながら、神秘を纏った存在にもダメージを与える事が可能となっている。

【能力・技能】

悪魔召喚術:
ライドウ一門に限らず、葛葉の一族は皆悪魔を使役する術に長けたデビルサマナーである。
一族の者は悪魔、つまり世界中の神話伝承、御伽噺や伝説の類に非常に造詣が深く、彼らを使役する術にも長け、また彼らと交渉出来る程のコミュニケーション能力も持つ。
ライドウの一門は神道系の術に長け、これらの術式を応用して悪魔の使役に臨む。
より未来に行けば、COMPと呼ばれる霊的技術と科学技術の融合した悪魔使役の機械があるのだが、大正時代のデビルサマナーであるライドウ達にはCOMPは存在せず、
彼らは封魔管と呼ばれる細長い管に悪魔を封印、其処から悪魔を召喚する。またこの時代のサマナーは、一時に二体以上の悪魔の使役は非常に危険。
禁術と呼ばれる程の危険性がつきまとい、二体使役には特殊な認可がいる。ライドウ程の技量の持ち主ですら、二体同時に悪魔を動かす認可が下りたのは、つい最近の事である。
今回のライドウは、以下の悪魔を召喚出来る。

紅蓮族・ケルベロス
銀氷族・アズミ
銀氷族・ライホーくん
雷電族・ツチグモ
雷電族・ミジャグジさま
疾風族・モーショボー
疾風族・ヒトコトヌシ
蛮力族・ヨシツネ
外法族・モコイ
技芸族・イッポンダタラ

ケルベロス、ライホーくん、ミジャグジさま、ヒトコトヌシ、ヨシツネの五体は魔力消費量(マグネタイト消費量)は高いが、残りの五体は微量で済む。

【人物背景】

葛葉ライドウの名を若くして襲名した天才デビルサマナー。彼の代で十四代目に当たる。
大正二十年の人物であるが、大正時代は二十年も続いておらず、いわば並行世界の東京の人物である。
表向きは鳴海探偵社にて探偵見習として働く青年だが、裏では凄腕の悪魔召喚士として、帝都守護の任務を遂行している。
歴代最強とすら噂されるデビルサマナーで、帝都どころか世界レベルの規模にまで発展しかねない、超力兵団事件や、アバドン王事件を解決した立役者。
モミアゲがチャームポイント。また、風呂に入っても学帽だけは絶対に脱がないこだわりを持つ。

アバドン王事件解決後の時間軸から参戦。相棒であるゴウトは不在。

【方針】

サーヴァントを探し、倒す。が、相手が通じる相手なら、得意の交渉に入る。


138 : ◆zzpohGTsas :2015/07/16(木) 22:20:02 s5O/C1Ws0
投下を終了いたします。引き続きのご投稿をお待ちしております


139 : ◆zzpohGTsas :2015/07/17(金) 18:01:59 iezmgnls0
投下いたします


140 : 一之瀬志希&アーチャー ◆zzpohGTsas :2015/07/17(金) 18:02:52 iezmgnls0
「ゆ〜めならさ〜めればい〜いのにな〜、……っと」

 小唄でも口ずさむようなリズムで、少女は言葉を紡いで行く。
声質はまだ熟れきっておらず、瑞々しい若さに満ち溢れており、それでいて、絶妙な色気が香気となって漂ってきそうな、艶やかな声。
端的に言えば、少女の声は、良い声であった。なのにその声には、隠したくても隠し切れない程の、憂いと恐怖が宿っているのだ。

「現実逃避はよしなさいな」

 少女の背後から、若々しい青春時代は当に過ぎた、と言った風な、如何にも大人の女性と言った声質の声が聞こえて来た。
声だけでも、男性を魅了しかねない程の香しい色気が漂っていた。二十歳にも満たないこの少女には、出そうと頑張っても、体験して来た年齢と言う壁のせいで出せる事はありえない。場数を踏んだ女性の声だ。

「……逃避行したい気持ちも解るでしょ〜」

 言って少女が、声のした方向を振り返ると、果たして、その女性は、下草の上に座り込む学生服の少女を見下ろしていた。
女性美とはかくあるべし、と見た者に強く思わせる程の、怜悧で艶やかな美しさに溢れた顔つきをした麗女であった。
辞書の編纂者が彼女の姿を見たのであれば、『美女』と言う名詞の関連語句に、この緩やかな銀髪を一本三つ編みにした女性の名前を記すに相違ない。

 少女、『一ノ瀬志希』まだまだ駆け出しとは言え、芸能業界に生きる人間にカワイイと言わせしめる程の顔立ちを持った、アイドルである。
プロダクションにいると、カワイイ女の子だとか、綺麗な大人の女性だとか、エロチックな人だとか、沢山見かける機会がある。
しかし目の前の銀髪の女性は、カワイイと綺麗とエロチックの三つの概念、全てを極めてハイスタンダードに内包した美しい人だった。
世の女性から見れば、『ズルい』と思われても已む無しの人物。この絶世の美女の名前を、『八意永琳』と言う。いかにも気取った名前であるが、外見が外見だ、名前負けしていない。

「愚痴なら一日五分くらいは聞いてあげても良いけど、いい加減覚悟を固めたら?」

「ご、五分? いくらなんでも短すぎじゃ……ってそうじゃなくって〜。そう簡単に覚悟何て決められないよアーチャー……」

 言って一之瀬は、深い溜息をつきながら、永琳の方から、先程までじっと見つめていた前方の方へと視線を移す。

 深い亀裂が、地面に刻みつけられていた。幅二十m、深さ推定五十㎞以上。地の底どころか、地獄へと続いていてもおかしくはない深さだ。
夜の闇よりなお暗い本物の暗黒が、亀裂の底で蟠っている。神の怒りの産物と言われても、今の一之瀬には信じる事が出来た。

「……凄いものね。永く生きて来たけれど、こんな現象は初めてよ」

 後ろで永琳が感心したように呟いた。彼女にしても、この<亀裂>は驚きに値する代物であるらしい。

 <亀裂>は、今から三十年程前に生じた大地震によって生まれたものであり、航空写真によると、この亀裂。
新宿区と其処を隣接する他区の境界線を寸分違わずなぞって走っているらしい。そんなバカな話があるものか。
事と次第によっては、ひょっとしたら、そう言った亀裂が生まれるかも知れない。だが、その確率は甚だ天文学的確率と言う他なく、常識的に考えれば、成立する事はまずないとみて間違いないのだ。

 その奇跡が、成立しているのだ。驚く以外に、どんな反応を取れと言うのか。
そしてこの奇跡が成立している以上――この<新宿>は一之瀬志希が知っている新宿区ではあり得なく、そしてこの場所に彼女がいる以上、彼女は聖杯戦争に巻き込まれた哀れな女性だった。


141 : 一之瀬志希&アーチャー ◆zzpohGTsas :2015/07/17(金) 18:03:19 iezmgnls0
 仕事がちょっと面倒になったからと言って、収録を終えた直後に失踪などするものじゃないなと、自分の悪癖を一之瀬は深く反省した。
今時珍しい露天商が、プロダクションを飛び出し、気のすむままに街を歩いていた一之瀬の興味を引いたのだ。
少女の視線に気付いた露天商が、「そこのお嬢ちゃん、ちょっと買ってみないかい? 掘り出し物が多いよ!!」と言っていたのを思い出す。
暇つぶしには良いかと思い、一之瀬は露天商の所へと近付いていった。珍妙なデザインのカップや、奇妙な文様の彫られた皿やスプーン、フォーク。
色とりどりの、何処ぞの河原か何かで拾って来たような小奇麗な石を千円と言うぼったくりも甚だしい値段で売り捌こうとしていたのを思い出す。
ガラクタばかりか、そう思う一之瀬だったが、小物――店主はパワーストーンで出来ていると言って憚らなかった――の中に一つ、
奇妙な煌めきを放つ鍵があったのを一之瀬は見たのだ。
宝石を煮詰めた雫のようだった。朝の光に照らされて輝く朝露のようだった。夜の空に輝く一等星のようだった。
サファイアに似たその石で出来た鍵が気になり、思わず手を伸ばしてしまう一之瀬。――まさかそれが、この<新宿>への招待券だとは、夢にも思わなかっただろう。

 区内のアパートの一つに住むアイドル候補生、と言う設定の一之瀬の前に、契約者の鍵が呼び寄せたサーヴァントは、この八意永琳だった。
アーチャー(弓兵)としてのクラスでこの世界に現れ、一之瀬をサポートするその姿勢に、聖杯をめぐる邪な考えはない。
掛け値なしに、良いサーヴァントであり、善い人だとは思う。だが、同時に苛烈な側面も持つ。
肉体も精神面も単なる少女に過ぎない一之瀬に対し、聖杯戦争に参加する覚悟を固めろと促す事からも、それは容易に解る事だろう。
負けず嫌い、なのだと言う。外見の割には意外と子供っぽい側面を持つ。これも魅力の内なのだろうか?
どちらにせよ、そんなのに付き合わされるなど、堪ったものではなかった。

「……何でアーチャーは、私のもとに来たの?」

 地面に落ちていた小石を<亀裂>に放り投げながら一之瀬が訊ねた。
大地が口を開いたような大穴に小石が吸い込まれる。あの石が<亀裂>の底に到達するのには、果たしてどれ程の時間が掛かるのか。

「私じゃ不満かしら?」

 むくれたように永琳が言った。

「だってアーチャーって、美人だし、強そうだし、魔法だってちちんぷいぷ〜い、って感じで使えるんでしょう?」

「美人で強いのは認めるけど、魔法はそう簡単には使えるものじゃないわよ」

「美人で強いのは否定しないんだ……」

「事実だもの」

 自信満面と言う言葉が肉を得た様な人物だった。

「それにアーチャーは、私と違ってさ、聖杯戦争を切り抜けようとする覚悟も、ちゃんとある」

「貴女にはそれがない。だから、私が貴女に従うのも、不思議って事かしら」

「うん。よく解ったね」

「顔に出てるもの」

「そんなに出やすいかな、私」

「私が毎日相手にしてるお姫様に比べたらずっと」

 クスッ、と妖艶に笑いながら、永琳が言葉を返した。


142 : 一之瀬志希&アーチャー ◆zzpohGTsas :2015/07/17(金) 18:04:03 iezmgnls0
「別に、貴女に従いたくて従ってる訳じゃないわ。全てなりゆきよ」

 表情を真面目なそれに戻してから、永琳は<亀裂>の方に視線を送った。
その様子は、美しい自然の風景を見ながら、詩歌を形にせんと頭の中で言葉をこねくり回す、美人詩家さながらであった。

「貴女に導かれてこの<新宿>にいるのも、聖杯戦争だなんて言う下らない催しに付き合わなくちゃいけないのも、全部なりゆき。まあそう言う事もあるか、って思って納得してるわ」

「なりゆきで人を殺すのは、その……」

「一理あるけれど、そうしなきゃ帰れないんでしょう? 特に貴女は」

「うぅ……」

 痛い所を突かれて一之瀬は呻いた。聖杯戦争は、最後の一人にならねば『生きて』元の世界に帰れないらしい。
ドロップアウトは、出来はしない。参加した以上は勝つ以外の道はない。何と酷いイベントであろうか。

「まあ、貴女が殺す訳じゃなし、私が手を汚すんだからそれで良いでしょう? それに私も、一応医者だから。そんな無暗矢鱈に殺すような真似はしないわよ。殺さずに聖杯戦争を終わらせる方法があるのなら、一応それも模索するわ」

 強い女性だと、一之瀬は感じた。
美人で、芯もあって、その上魔法も使えて。本当にズルい人だと、一之瀬は思った。
美貌が欲しいとも、魔法が使えるようになりたいとも言わない。ただ、ほんの少しだけ、永琳のような度胸が、欲しかった。

「アーチャーが羨ましいな」

「肝が据わってるから?」

「うん」

「誇れるべき事じゃないわ」

 バッサリと永琳が否定した。

「普通の人より永く生きて、普通の人より汚い事をやって来たから、そう見えるだけ。貴女の方が普通なのよ。それを誇りなさい」

「ひょっとして、私の方が、羨ましかったり?」

「……二度と、貴女のような綺麗な状態に戻れない、って意味ではそうかも知れないわ」

 永琳は肯定する。鋼のように強い声だった。自分を偽っていない。

 新宿御苑から見る、<亀裂>の向こう側の渋谷区は、いつも通りの東京の日常が展開されていた。
煌びやかな夜景と、行き交う車のライト。新宿区が<新宿>になっても、この東京は今では何事もなかったかのように復興し始めたのだ。
その平和が、今から脅かされようとしている。そしてその一端を、一之瀬達は担おうとしている。
死ぬのも怖い、殺すのも怖い。だが……自分が、平和を乱す一因になってしまうのでは、と言う懸念もまた、一之瀬には恐ろしいのだった。

 茫洋とした態度で、<亀裂>の先で蛍のように動いているカーライトを追う一之瀬。
彼女の背後にいた永琳が、落ち着くまで待つか、と言った様子で、一之瀬から目線を外し、背後の、<新宿>の夜景に目を移した。
夜空の星々を地上に映したような、百万の光が<新宿>には広がっていた。<魔震>だか何だか知らないが、<亀裂>の外側も<亀裂>の内側も、今は平和なのだ。

 それを自分が乱す事になるのか、と思うと。
何だか永琳は、酷くやるせない気分になる。彼女の気持ちもまた、一之瀬と同じなのであった。



.


143 : 一之瀬志希&アーチャー ◆zzpohGTsas :2015/07/17(金) 18:05:44 iezmgnls0
【クラス】

アーチャー

【真名】

八意永琳@東方Projectシリーズ

【ステータス】

筋力D 耐久B 敏捷C 魔力A++ 幸運B 宝具-

【属性】

中立・善

【クラススキル】

対魔力:A+
A+以下の魔術は全てキャンセル。事実上、魔術ではアーチャーに傷をつけられない。
最低でも数千年の時を生き、正真正銘月の世界の住人であったアーチャーが積み上げて来た神秘は、破格の値である。
なお本人の発言を鑑みると、本当は数億年以上の時を生きて来たそうであるが、確かな確証は全くない。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる能力。

【保有スキル】

蓬莱人:A
人の姿をしていながら、人間とはその性質を根本的に異にする存在、蓬莱人であるかどうか。
アーチャーは自らが仕えている姫と呼ばれる人物の助力で蓬莱の薬を完成させ、それを服用した、不老不死かつ不滅の存在である。
Bランク相当の再生と戦闘続行スキルを兼ね、肉体の損壊を回復するのに必要な魔力が通常の1/10で済み、霊核ごと消滅させられたとしても、
マスターの魔力を多大に消費してリスポーンが可能。そう言った肉体の性質上、ランク問わず全ての『毒』を無効化するが、全ての『薬効』も無効化してしまう為、薬による回復は出来なくなっている。

魔術:A+
数千年以上の時を優に生きる月人として、地球文明よりも遥かに優れた霊的・科学的技術や教育水準を誇る月人達の中にあって天才と称される人物として。
非常に優れた魔術の数々を使用する事が出来る。医療に転用させられる魔術は勿論の事、攻撃の魔術や認識阻害などの魔術、時空にすら作用する魔術など行使可能な魔術は多岐に渡る。

月の頭脳:A+
アーチャーは月にいた頃、月の指導者である月夜見が頼りにする、月夜見の摂政或いは補佐的な立場の家柄の一人であった。
地球の文化水準、知的水準を遥かに超える程の文明を築いた月人の中にあって、賢者と称される程の頭脳を誇る程の天才。
同ランクの高速思考、軍略、計略、分割思考を内包した複合スキル。

道具作成:C++
アーチャーは現在は薬師を営んでいるが、それ以前に優れた発明家でもあり、科学的、魔的なそれを問わず、ありとあらゆる道具を作成する事が出来る。
但しキャスタークラスではなくアーチャークラスでの召喚、及び聖杯戦争の制限もあり、作成出来る物は薬のみにとどまり、その薬にしても、
霊薬や神話に出てくるような神々の薬の作成は、実際の所は不可能或いは非常に難しくなっている。材料面の問題により、蓬莱の薬は無条件で作成不可。

【宝具】

『蓬莱の魂』
ランク:- 種別:魂 レンジ:- 最大補足:-
嘗てアーチャーが、自分が仕えるべき主人の後を追うようにして、自ら服用した禁断の薬・蓬莱の薬を服用した事により変質したアーチャー自身の魂が宝具となったもの。
蓬莱の薬と言うのは厳密には肉体に不老不死の性質を与えると言う物ではなく、永劫不滅の存在である魂を本体とさせ、魂の入れ物である肉体が、
何らかの外的要因で滅んだ時、任意の場所に任意の時間で肉体を再構築させ、その肉体に魂を入れさせて、不老不死を体現させるのである。
蓬莱の薬を飲んだその時点で、アーチャーは老化及び病とは一切無縁の肉体を手に入れたが、痛覚は機能している為、肉体が破壊されれば恐ろしく痛いし、
空腹感も暑さ寒さも感じる上、何よりも体力や持久力も無限大はなっておらず、激しく動き回れば当然に疲労する等、肉体の機能性自体に然したる昇華はない。
本来ならば殺された際の肉体の再生はノーリスクで行えるのであるが、聖杯戦争による制限により、殺されてからの再生にはマスターから大量の魔力が徴収され、
それが足りないのであればアーチャーは聖杯戦争の舞台から退場。また、マスターが死亡してからアーチャーが殺された場合も同様に、舞台から退場する。

【weapon】

無銘・弓矢:
アーチャーが用いる名前のない弓矢。和弓。宝具ではないが、性能自体は高い。


144 : 一之瀬志希&アーチャー ◆zzpohGTsas :2015/07/17(金) 18:05:58 iezmgnls0
【人物背景】

この世界の何処かにあると言われる、妖怪と人間とが共存する、結界で外と内とを隔絶された世界、幻想郷。
幻想郷の領域の一つである、迷いの竹林と呼ばれる深い深い竹林の奥に静かに存在する館、永遠亭に住まう医者。或いは、薬屋である。
その正体は今も月に存在するとされている月の都の住人の一人。つまるところ、正真正銘本物の宇宙人である。
数十万年以上を生きて来たような発言をする事があるが、実際の所は定かではない。確実に言えるのは、数千年の時を生きている事は確実であると言う点。
嘗ては、月の都の姫であった蓬莱山輝夜の教育係を務めていたが、ある日彼女の能力を利用し、蓬莱の薬と言う、飲めば不老不死を得られる薬を製薬。
それを輝夜に飲ませるが、蓬莱の薬は服用する事は勿論の事、作る事自体が以ての外の禁断の薬で、これを飲んだ輝夜は地上へと追放。
永琳は輝夜に唆されたとされ無罪になる。が、永琳は輝夜が薬を飲む事を止められなかった事と、自分が無罪になってしまった事とを後悔。
その後、地上人として生活を送っていた輝夜を月へと迎えに行く為、月の使者のリーダーも務めていた永琳は地上へと輝夜を迎えに行くが、
この時に他の使者を皆殺しにして月から逃げる道を選ぶ。完全な裏切り者となった永琳達は、追手の追跡を撒く内に、やがて輝夜と共に幻想郷の迷いの竹林に行き着く。
以降はその世界でひっそりと隠居の生活を送っていたが、永夜異変と呼ばれる異変の後に、長年人々の目から隠れる様な生活を輝夜共々止める。それからは、妖怪や人里の人間達と折り合いを付け、幻想郷での生活を送るのであった。

【サーヴァントとしての願い】

ない、が。自分は優れている存在だと思っているので、負けたくはない。




【マスター】

一ノ瀬志希@アイドルマスターシンデレラガールズ

【マスターとしての願い】

元の世界に帰りたい

【weapon】

【能力・技能】

化学知識:
化学的な知識に長けており、若干十八歳で様々な薬を手掛ける事が出来るが、効能の程は不明。
だが、頭の方は非常に良いのは事実で、過去に海外の大学に留学、飛び級が出来る程には優れた知能を持つ。

アイドルとしての素質:
歌唱力と、ダンスの技術に優れる、かも知れない。

【人物背景】

岩手県出身の、トップアイドルの卵。十八歳。
能天気な口調と性格、それでいて非常にマイペースな少女。そんな人物からは想像も出来ないが過去に海外の大学に進学、飛び級が出来る程優れた知能の持ち主。
が、つまらないと言う理由で大学を辞め、日本に戻って来てフラフラしていた所を、プロデューサーにスカウトされ、何だかんだでアイドルの仲間入りを果たす。
得意分野及び科目は化学。製薬も出来ると言うが、効能の程は期待はしない方が良いかも知れない。後、驚く程集中力がなく、待ち時間に対する耐性が極端にない。
そんな性格からか、よくレッスンを抜け出し街に失踪、ブラブラする事が多い問題児。

【方針】

永琳を頼る。


145 : ◆zzpohGTsas :2015/07/17(金) 18:06:19 iezmgnls0
投下を終了いたします


146 : ◆zzpohGTsas :2015/07/18(土) 01:04:04 wcVW2RYE0
ttp://www8.atwiki.jp/city_blues/
Wikiの方が作成できました。これから投下したい方、何か参考にしたい方は、活用していただければ幸いです


147 : ◆p.OAbHB6aQ :2015/07/19(日) 16:33:30 IWFwxt8Q0
投下&wiki作成お疲れ様です。
自分も投下させていただきます。


148 : 間桐シンジ&キャスター ◆p.OAbHB6aQ :2015/07/19(日) 16:34:13 IWFwxt8Q0
 
 シンジは思う。
 ――失敗した、と。
 同盟相手の調達に焦る余り、早まった判断をしてしまった、と。

 間桐シンジは、新宿の聖杯戦争に参加するつもりなどなかった。
 いや、そもそも彼はこのような魔都が存在しているという事実からして聞いたことがなかった。
 よしんば知っていたとしても、足を踏み入れることはしなかっただろうと断言できる。
 自分が参加を決めたのはムーンセルの聖杯戦争であり、間違ってもこんな訳の分からない町の戦争ではないのだから。
 しかし、彼は今その<新宿>にいる。
 理由は定かではない。
 天下無敵のムーンセルにおける、何兆分の一かの小さな可能性から生じたバグに足元を掬われたのか、それとも若き天才児である自分を妬んだ何者かが小癪な真似を働いたのか……どちらにせよ、彼にとってはたまったものではない。
 月の聖杯戦争に参加した暁にはこうしてやろう、ああしてやろうと色々な策を練っていた。
 それも全て水の泡だ。こんなふざけた運命の悪戯のせいで、自分の計画はご破算。

 想定外の事態に極めて弱いシンジに冷静さを失わせるには、今回の"予定外"は十分なファクターだった。

 結果。
 シンジは同盟の締結に躍起となり、聡明な彼らしくもないミスを犯す。
 それが今、この矜持の高い少年へ屈辱を与えているスキンヘッドの魔術師だった。
 彼が召喚したのはバーサーカーのサーヴァント。
 狂化の適性が非常に高く、宝具も強力なものを持つ――それを知るなり、シンジは自身のサーヴァントとの意見交換さえしないままにスキンヘッドとの同盟を取り付けた。
 尤も、プライドだけは一人前の彼のことだ。
 仮に話し合ったところで、同盟を結ぶ以外の選択肢は存在しなかったろうが。

 そして――案の定、例の如く同盟相手はシンジへ刃を向けた。
 彼曰く、もはや用は済んだのだという。
 なんでも厄介な主従がおり、目障りなそいつらを消すために戦力が必要だった。
 だからシンジを懐柔し、彼を体よく利用する形で立ち回り、無事に敵を討った。だから、最早シンジ達に用はない。

 「ま、そう顔を真っ赤にして怒らなくてもいいじゃねえのよ。
  俺、これでもお前のことは評価してたんだぜ? 
  ガキな所が玉に瑕だけどよ、そこらのボンクラよりかはよっぽど優秀だった。
  ――ま、だから見切りを付けたんだけどな。優秀な仲間ってのは、裏切った時に一番めんどくせえからよ」

 シンジの耳に、男の声は届いていなかった。
 彼の中では、強い後悔の念と焦りがグチャグチャになっている。
 さしもの彼も、この状況には悟らざるを得ない。即ち、自分の敗北を。聖杯戦争における死を。
 魔術師の傍らで、赤い眼光を瞬かせ、狂戦士が大斧を構えている。
 あとは指示一つあれば、あの大斧がシンジの頭を潰れた柘榴のようにしてしまうことだろう。
 悪足掻きをしようにも、間違いなく自分が何かアクションを起こすより、敵が自分を殺すほうが早い。
 つまり、完全に詰んでいた。チェスの天才であるシンジをして、打開不可能と言う他ない盤面が完成していた。
 
 「クソッ……クソッ! 何でこの僕が、こんなトコで――――!」


149 : 間桐シンジ&キャスター ◆p.OAbHB6aQ :2015/07/19(日) 16:34:41 IWFwxt8Q0
 「ま、冥土の土産に教えてやるよぉ。シンジ君」

 にぃ――と口を三日月に歪めて、スキンヘッドの魔術師が下卑た声で呟いた。

 
 「ルールってのは、破るためにあるんだよ。同盟のルールだろうが、何も変わらねえ」 


 それと同時に、狂戦士が斧を振り上げ、勢いよくシンジめがけ振り落とす。
 すでに廃止されて久しい、断頭台という処刑法を彷彿とさせる殺人方法がシンジを襲う。
 間桐シンジは走馬灯を見ない。今際の際に体感時間が引き伸ばされるという現象のみを体感していた。
 
 (はは……まあ、そうだよな。死に際に思い出すようなコトなんて、僕にはないし)

 つまらない人生だった。
 だが、このまま目の前のゲスな男に潰されるだけでは余りにやり切れない。
 だから、最後に減らず口の一つでも残してやろうと思い立つ。
 ルールは破るためにある? ――その発想が既に、シンジにとっては気持ちが悪い。

 間桐シンジは"ゲーマー"である。
 ウィザードでありながら、アジア圏屈指のゲームチャンプとして知られる名うてのクラッカー。
 ゲームで勝つためなら、彼は小汚い小細工だってする。
 現にシンジが相手の立場だったなら、同じことをしたかもしれない。
 だからこれは、ある意味で自業自得の結果でもある。
 しかしだ。そんな彼にだって、プライドとはまた違った部分での矜持がある。

 「……分かってないなあ、お前」 

 ゲームというのは、ルールの範疇で遊ぶからこそ楽しいもの。
 今回のように小細工の範囲ならばまだしも、そこから逸脱すれば立派なチート行為となる。
 シンジは思う。
 きっとこの男は、ゲームをやらせたら不正ツールで強化したキャラクターでオンラインゲームに出てくるような、マナーもへったくれもない底辺プレイヤーだ。
 俺が楽しいんだからそれでいいとか、バカみたいな理屈を並べて自分を正当化する、プライドも何もない屑野郎だ。
 僕も卑怯者だって自覚はあるけど、一緒にしてくれるなよ、このハゲ頭。
 
 「いいか、ルールってのはさ――」 
 
 その悪態もそこまで。
 斧は振り下ろされる。
 引き伸ばされた体感時間の終わりは唐突に訪れ、シンジは思わず反射的に目を瞑ってしまった。
 
 
 しかし。
 いつまで経っても、痛みや衝撃はやって来ない。
 痛みを感じる間もなく即死させられたのかとも思ったが――


 「……ああ? なんだ、てめぇ」 


 シンジの耳に入ってきたのは、動揺を含んだ魔術師の声だった。
 恐る恐る瞼を上げてみると、そこには驚くべき光景があった。
 シンジと狂戦士の間に割り込んでいたのは、一人の剣士。


150 : 間桐シンジ&キャスター ◆p.OAbHB6aQ :2015/07/19(日) 16:35:13 IWFwxt8Q0
 伝説上のエルフのような耳を持った謎の男が、バーサーカーの攻撃を真っ向から受け止めていたのだ。

 「フフ。お前、小さいヤツだな」

 聞こえてくる声は、シンジのものでも、魔術師のものでもない。
 しかし、どちらにとっても聞き覚えがあった。
 シンジにとっては、使えないサーヴァント。
 焦る余りロクな意思疎通もせずに外れと片付け、手綱を相手の男へ半ば握らせていたキャスターの英霊。
 
 星を思わせる赤髪と、前髪に混じった金髪。
 ――何度見てもどうなってるんだその頭、と聞きたくなったのをよく覚えている。 
 体格で言えば今のシンジよりもひ弱そうでありながら、しかしその眼に宿る眼光は紛れもなくサーヴァントのもの。
 首から提げた黄金の逆三角錐へあしらわれている眼の装飾は――ウジャト眼、とか言ったろうか。

 「……ぶはっ、誰かと思えばシンジ君のサーヴァントかよ。
  キャスター風情が出てきて、俺のバーサーカーに敵うとでも思ったか?」
 「いいや、オレはアンタのサーヴァントなんかと戦うつもりはないぜ」

 チッチッ、と指を振って挑発するキャスター。
 それに苛立った様子で舌打ちをすると、魔術師はバーサーカーへ殺せ、と指示を出す。
 エルフの剣が砕け散り、その身体は両断された。 
 だが、追撃がキャスターを捉えることはない。
 また新たな――今度はトランプの「クイーン」を思わせる女剣士が割って入り、再びその歩を止めたのだ。

 「アンタ、ルールは破るためにあると言ったね! なら、どうだい。オレと一つゲームをしようぜ!」
 「……ゲーム?」
 「そう、簡単なゲームさ! 仮にアンタがオレに勝てば、オレはゲームのペナルティで闇に飲み込まれるだろうぜ」
 「ほう? ……じゃあ、俺が負ければどうなるってんだ?」
 「もちろん、罰ゲームを受けてもらう。
  安心しな、殺しはしないぜ。ただちょっと、ルールの大切さってのを知ることになるくらいさ。
  それとも……アンタは、「キャスター風情」に恐れを成しちまうようなチキン野郎なのかな」

 宝具を使ったイカサマもないと約束しよう。
 そう言って両手を上げてみせるキャスター。
 安い挑発ではあったが、シンジに負けず劣らずの高い自尊心を持った魔術師には覿面だったようだ。
 
 「面白え……乗ってやろうじゃねえか!」
 「オーケー! そんな勇気あるアンタに、オレが挑むゲームは――これだぜ」

 言えば、キャスターは路傍に無造作に投げ捨てられていた積み木のおもちゃを取り上げ、自分と魔術師の間へぶちまける。

 「ルールは簡単さ。この積み木は全部同じサイズの長方形をしている。
  こいつを縦長に構えて、一個ずつ地面に積み上げていくんだ。後はもう分かるだろう?」
 「先に崩した方が負けってことか」
 「幸い今日は風のない日だ。互いのプレイング以外に勝負を左右する要素はない……
  先手は譲ってやるぜ! このゲームはバランス感覚が要求される……二手目からでも十分崩れるってことはあるはずだ。ちょっとしたハンディキャップってやつだよ」
 「……舐めやがって」

 苛立ちを隠そうともせずに、魔術師は積み木の一個を拾い上げる。
 そしてそれを縦に持ち直して、地面へと立てた。
 すると、どうだ――地面が完全な平面ではないからか、たったの一個でさえかなり不安定。


151 : 間桐シンジ&キャスター ◆p.OAbHB6aQ :2015/07/19(日) 16:35:40 IWFwxt8Q0
 ドクドクと、心臓が打楽器になってしまったかのように喧しく音を立てる。
 
 「ほー……! なかなかおもしろいゲームじゃねえか」
 
 次に、キャスターが積み木を手にする。
 彼は、今しがた魔術師が置いた積み木の上に次の木を置き――倒れない。

 「さ、次はアンタの番だぜ」
 「言われなくても分かってらぁ! チッ、ムカつく餓鬼だ……」   

 口では悪態をついていたが、彼の内心は焦燥感に満たされていた。
 キャスターが最初に言った通り、このゲームには慎重さとバランス感覚が要求される。
 少しでもそれを崩せば途端に積み木は崩れ、自分の負けが確定してしまう――

 (いや……待てよ? ヘヘ……そうだ。縦に積み上げるってのがルールだが、別に積み方に指定はねえ……)

 これだ。
 この方法でなら、ムカつくキャスターをぎゃふんと言わせて打ち破ることができる。
 男は積み木を新たに拾い上げると、キャスターの置いたそれと交差するような形で積み木を積んだ。
 上から見ると、ちょうど積み木がX字を描いているように見える。

 「へえ……やるね! だが、アンタはそれを後悔することになるぜ!」
 
 しかし。
 それくらいのことは、このキャスターだって想定している。
 キャスターは積み木を迷わず、しかし男がしてみせたように交差はさせず、前と同じ形で載せた。
 グラグラと積み木が揺れ、揺れ、揺れ、揺れ――止まる。

 (な……畜生! 何で崩れねェんだ!?)
 「ふう……少しヒヤッとしたが、これならまだまだいけそうだぜ。――さ、どうした? アンタの番だ、魔術師さんよ」

 積み木を持つ手が、震える。
 このままでは自分の手の震えで木を崩してしまいそうなほど、小刻みに震えている。
 落ち着け。
 落ち着け。
 落ち着け――俺なら、このくらいは余裕でできる筈!
 意を決して、手にした木を積んだ。
 ぐらぐらと揺れた後――止まる。

 「は、はははは! そら、てめえの番だぜキャスター! いくらてめえでもここまでくりゃ――」
 「フフ……違うぜ。アンタの番さ」

 魔術師は、頭の血管が切れるのではないかと錯覚した。
 自分があれほど苦労して積んだ積み木の上に、キャスターはもう木を積み終えているのだ。
 毛ほどの迷いもなく、載せたあとの揺れにも動揺していない。
 イカサマを疑いもしたが、ゲームの形式が極めてシンプルな以上、その可能性は彼自らが否定することとなった。
 
 そして――

 積む。
 積み返す。
 積む。
 積み返す。
 積む。
 積み返す。


152 : 間桐シンジ&キャスター ◆p.OAbHB6aQ :2015/07/19(日) 16:36:09 IWFwxt8Q0

 そんなやり取りを、四往復ほど続けた頃。


 「―――う、うおおおおおおお!!」


 プレッシャーと焦りに堪えられなくなったのか、ついに魔術師は叫び始めた。
 一方のキャスターは、相変わらずの不敵な笑みで彼を見ている。
 それが癪に障った魔術師は、最早ゲームのルールなどかなぐり捨てて叫んだ!
 こんな遊びに付き合ってやる理由はない――こっちのサーヴァントを使って、虫ケラのように蹴散らしてやる!

 「バーサーカーッ! この餓鬼をブチ殺せ!!」
 
 バーサーカーは呼応するように、既存の言語に当て嵌めることの出来ない咆哮をあげる。
 勝ちを確信する魔術師だったが、彼は未だ気付いていなかった。
 ルールを破るという行為。闇のゲームでその行いに手を染めることが、果たして何を意味するのかを。
 
 「フフ……予想通りだぜ! ルールを破ったな、魔術師!!」
 「ッ――な、なんだ……!?」
 「ルールを破った者には、罰が与えられる――」 
 
 キャスターは右手で、魔術師の眉間を指差した。
 そして。
 敗者、ゲームのルールを守らない愚者に相応しい「罰ゲーム」が……彼の手により、執行される。


 「  罰  ゲ  ー  ム  !  !  」


 


 「な……なんだこりゃあ!?」

 瞬間――魔術師の視界を埋め尽くすのは、数え切れないほどの"ルール"の数々!
 常識的なマナーから万国共通の法律まで、様々なルールが所狭しとその視界に浮かび上がってくる。
 ゴミ箱を見れば、《燃えるゴミと燃えないゴミを一緒にしてはいけない》
 道路を見れば、《ポイ捨ては禁止されている》
 建物を見れば、《建築物に落書きをしてはいけない》
 もはや、魔術師には目の前が見えなかった。
 一面のルール、ルール、ルール、ルール、ルール、ルール――それは彼の精神を、いとも容易く発狂させる。

 「ひ、ひぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいっ!! やめろ、やめてくれぇぇぇえええええええ――――!!」


153 : 間桐シンジ&キャスター ◆p.OAbHB6aQ :2015/07/19(日) 16:36:39 IWFwxt8Q0
 ◆


 その後の顛末は、実に簡潔なものだった。
 バーサーカーにはキャスターの宝具で応戦しつつ撤退し、予め確保しておいた拠点住居へと逃げ帰る。
 ……あの"ルール"に埋め尽くされた魔術師がどうなったのかは、シンジにも、そしてキャスターにも定かではない。
 もしかするとどこかで敵に狩り殺されたのかもしれないし、今もなお規則だらけの視界で生きているのかもしれない。
 だが、もう一度シンジ達の敵として立ち塞がることはきっとないだろう。
 敗者は敗者らしく消えるのがルール。――そこに例外はない。

 では、勝者の彼らがどうかと言えば。

 「へー! シンジくん、ゲーム上手いんだね!」
 「当然だろう? まあ君も、アジアチャンプの僕と五分で戦えるってんだからなかなかのものだと思うよ」

 すっかり元通りのペースに戻っている間桐シンジと、先の威勢がすっかり消え失せているキャスターの少年。
 二人は、拠点内でゲームに興じていた。
 と言っても、テレビゲームではない。
 その辺で簡単に買えるような型遅れのアナログゲームで気ままに遊んでいる。
 この二人、どちらもゲームの腕前は一級品だ。
 一見ただ遊んでいるだけに見えて、その水面下では高度な読み合いや戦略が張り巡らされている。
 
 「それでさ、キャスター」
 「違うよ。ボクは――ボクは、武藤遊戯。キャスターはもう一人のボクさ」
 「……あっそ。じゃあ武藤、そのもう一人のボクとやらは、本当に聖杯はいらないのかよ?」

 キャスターへ一度は押した、粗悪な雑魚サーヴァントという烙印を撤回したシンジだったが、一つだけ未だに腑に落ちない事があった。それがこれ。なんとあのキャスターは、聖杯に託す願いを持たないのだという。

 「うん。もう一人のボクには、これ以上叶えたい願いなんてないんだってさ」
 「ふーん……変なやつ。――おっ。ほい、4カード」
 「へへへ、そうはさせないよ。ボクは――ストレートフラッシュ!」
 「……オマエ、ちょっと運良すぎない?」
 「あはは……よく言われるよ」

 でも、まあ。
 こういうサーヴァントも、悪くないかもしれない。
 再び五枚ずつのカードを配りながら、シンジはふとそんなことを思うのだった。 

【クラス】
キャスター

【真名】
アテム@遊☆戯☆王

【パラメーター】
筋力:E 耐力:D 敏捷:E 魔力:A 幸運:A+++ 宝具:EX

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
陣地作成:A
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 千年アイテムの担い手が拓く陣地はただ一つ。
 闇に満たされた、互いの破滅を懸けたゲームである。

道具作成:D
 魔力を帯びた器具を作成できる。
 適性がなく、道具に魔力を込めることで最低限の指向性を持たせる程度。


154 : 間桐シンジ&キャスター ◆p.OAbHB6aQ :2015/07/19(日) 16:37:28 IWFwxt8Q0
【保有スキル】
遊戯王:EX
 「カリスマ」と「軍略」の複合スキル。格は双方Aランクに相当する。
 数々の強敵を相棒と彼を支える仲間共に下し、ついには決闘者の頂点に君臨した彼のみが保有するスキル。
 天下無双の三幻神を従えた王としてのキャスターを前に勝利した決闘者はただ一人のみ――

二重人格:A
 アテムと、彼が憑依した器である「武藤遊戯」の人格は表裏一体。
 「武藤遊戯」が表層に出ている内は、いかなる宝具を用いても彼をサーヴァントと看破できない。
 ただし、何かしらの理由でアテムが遊戯の中に存在することを見抜いた場合、このスキルはその人物には通じなくなる。

見えるけど見えないモノ:EX
 かつて絶望的な状況に際した時、仲間との絆によって封印されし神の最後の1パーツを引き当てた逸話の具現。
 キャスターが窮地に立たされた場合、彼の幸運スキルはEXランクにまで上昇する。
 英霊の座に召し上げられても尚、彼とその友の友情の証が潰えることは決してない。

闇のゲーム:A
 キャスターは、相手に闇のゲームを挑むことが出来る。
 ゲーム内容は彼が提示する場合が殆どだが、共通しているのは闇のゲームの敗者には罰が与えられること。
 キャスターが闇のゲームに勝利した場合、彼は例外的に相手へあらゆる防御耐性を無視した「罰ゲーム」を叩き込むことが出来る。――ただし、対魔力スキルのある相手には基本通じないスキル。

【宝具】
『決闘王の記憶(レジェンダリー・コレクション)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
 キャスターのような『決闘者』にとって、魂にも等しいカードデッキ。
 それらはただの紙切れでありながら、あらゆる魔術をも凌駕し得る可能性を秘めている。
 このデッキ内に存在するカードには三種類存在する。
 一つは魔物を召喚し、最大五体までの使役を可能とする「モンスターカード」。
 一つは不可思議な事象を引き起こし、王の決闘をサポートする「魔法カード」。
 そしてもう一つが、盤面へ伏せ、相手の行動をトリガーとして発動させる「罠カード」。
 キャスターのデッキ内には所謂「雑魚」カードも入っているが、どれも他のカードとの組み合わせで無限の戦略を生むことができる。逆に言えば、彼以外にこの宝具を使いこなすことは叶わない。

『決闘王の栄光(ロード・オブ・アテム)』
ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1-100 最大捕捉:1~1000
 双顎を持つ赤き竜――オシリスの天空竜。
 剛腕を持つ青き巨人――オベリスクの巨神兵。
 黄金の躰を持つ不死の鳥――ラーの翼神竜。
 一度は彼の好敵手として現れ、そして最後には「創造神」召喚の鍵となった三体の神を召喚、使役する。
 この神はEXランク相当の神性を持つ。
 本来、聖杯戦争で神霊の類は召喚できないが、古の三幻神はあくまでもキャスターのカードデッキを媒介として召喚されているため、聖杯戦争のルールから逸脱した存在として顕界している。

『光の中に完結する物語(ジェセル)』
ランク:EX 種別:対神宝具 レンジ:1~1000 最大捕捉:-
 ファラオの名の下に三幻神を束ねることで誕生する創造神。名を、ホルアクティ。
 その創世の光は、世界を暗黒に落とし込んだ大邪神ゾーク・ネクロファデスを一撃で消し去った。
 宝具としての破壊力は最早語るに及ばない。
 一度の真名解放で、創世の光は敵対者を母性にも似た浄化の力で霧散霧消させる。
 ――だが、この宝具には大きな弱点が存在する。
 一つは、言わずもがな三体の神を並べねばならないこと。
 そして、真名解放には絶大な魔力を消費せねばならない為、発動は即ちキャスター・アテムの消滅を意味する。
 創造神を呼ぶ瞬間こそが、再度動き始めたファラオの物語に、新たなる終止符が打たれる瞬間でもあるのだ。

【weapon】
 デュエルディスク


155 : 間桐シンジ&キャスター ◆p.OAbHB6aQ :2015/07/19(日) 16:38:07 IWFwxt8Q0

【人物背景】
 古代エジプトのファラオ。
 黄金のパズルに導かれて相棒と出会い、
 蒼き眼の龍を担う好敵手と闘い、
 仲間に支えられながら神を討ち、光の中に消え去った。
 願いはない。なぜなら彼の物語は、すでに完結している。


【マスター】
間桐シンジ@Fate/EXTRA

【マスターとしての願い】
自分の名前を記録に残したい。

【能力・技能】
 ハッカーとしての天才的な腕前。
 物心ついた頃から自主学習の繰り返しの日々を送ってきたためか知力は非常に優れており、実年齢にそぐわない高等教育レベルの学力を保有している。
 チェスの腕前は、ムーンセルの管理AIに匹敵する演算能力を持つ人物を相手に善戦するほど。
 扱うコードキャストは相手サーヴァントの幸運値を低下させるloss_lck(64)。漫画では敏捷を低下させるものやCCCでは小攻撃+スタン効果を与えるshock(32)も使ってくる。

【人物背景】
 没落した貴族が西欧財閥から優良遺伝子を買い取り、跡取りとして生み出したデザインベビー。
 両親からはまともな愛情は向けられていなかったようで「物心ついた頃から部屋を与えられて勉強をしていた」と語っており、どうやらネット世界ではともかく、現実世界では友人がいなかったらしい。
 自身の境遇については「ドライなの好きだし」と悲観していないが、寂しさは感じていた。
 自分の名前を記録に残したいという願望から聖杯戦争に参加したため、「命の奪い合い」という意識はなく、ゲーム感覚。
 ムーンセルの聖杯戦争に参加するはずが<新宿>にやって来てしまい、やや混乱気味である。
 ちなみに外見はムーンセルの彼の姿。

【方針】
 なんだかよくわからない。
 けど聖杯戦争だというのなら勝ちに行く。


156 : ◆p.OAbHB6aQ :2015/07/19(日) 16:38:22 IWFwxt8Q0
投下終了です。


157 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/20(月) 01:45:06 NTfSWe4I0
皆さん投下とwiki作成お疲れ様です。私も投下させていただきます


158 : 葛葉キョウジ&ライダー ◆GO82qGZUNE :2015/07/20(月) 01:47:19 NTfSWe4I0
 それは弧を描く新月が浮かぶ夜のこと。
 矢来銀座の一角にあるクラブ「CRETACEOUS」。会員制の洒落た店内の更に奥に、その男の姿はあった。
 一言で言えば、どうにも堅気とは思えない風貌の男だ。皺なく仕立てた白いスーツに身を包み、前髪をオールバックに掻き上げた外見はすわヤクザかマフィアかといった具合だが、しかし荒々しい見た目とは裏腹に纏う雰囲気は市井の民の如く穏やかなものだった。
 穏やかとはいえ射抜くように鋭い双眸からは彼なりのプロフェッショナルさが見て取れる。姿勢や動きに乱れはなく、クラブの雰囲気に呑まれることもない度胸も兼ね備える姿は、幾多の場数を乗り越えてきたことの証左とも言えるだろう。
 つまるところ、この男は一流の仕事人であるということだ。
 しかも担うのは普通の仕事ではない。この世のものではない悪魔を従え狩るデビルサマナー。それが男の生業だった。

「ようこそ、葛葉キョウジ。今日は、あなたにお願いがあるの」
「分かってる。いつものアレだろ、マダム銀子?」

 ニヒルに含み笑いを返す男に相対するのは、マダム銀子と呼ばれた妙齢の女性だ。
 紫地に狐の柄の和服を嫌味なく着こなし、大袈裟に洒落た髪型も不自然に映らない。その名に恥じず、マダムと呼ばれるに相応しい女性である。
 クラブのママである彼女は、しかし単なる経営者では断じてない。彼女は裏の世界に通じ、キョウジがデビルサマナーであることを知る数少ない人間でもあった。

「ええ、そう。いつものアレ。あなたにばかり頼むのは心苦しいけれど、この仕事をこなせるのはあなたしかいないわ。
 探偵じゃなく、デビルサマナーとしてのあなたにお願いするの」
「OK、詳細を聞かせてもらおうか」

 三方を観賞用の巨大な水槽に囲まれた部屋に二人の声が反響する。静かに水が流れる音に混じり、それは不思議な響きを湛えていた。
 キョウジの乞われたマダムは、これよ、と呟き、幾枚かの書類をキョウジへと手渡す。

「事の始まりは一週間前。あるサマナーが行方不明になったの。仕事に行くと言ってそれっきり。
 幸いと言っていいのかは分からないけど、そのサマナーは失踪から三日目に見つかったわ」
「ただし死体で、かい?」

 ご明察。マダムは含みを込めた笑みを返し話を続けた。


159 : 葛葉キョウジ&ライダー ◆GO82qGZUNE :2015/07/20(月) 01:47:52 NTfSWe4I0
「問題はそこからでね。そのサマナー、どうやら悪魔に殺されたようなの。サマナー稼業をやっている以上それ自体は珍しくもないんだけど、でも状況が明らかにおかしいわ。
 そのサマナーが仕事と言って向かった場所には悪魔も異界も存在しなかった。それにそのサマナー、あなたほどじゃないにしろ結構な凄腕だったのよ。それが、今まで悪魔も異界化もなかったような場所で、突然殺されるなんてとても考えられない」
「そこで俺の出番ってわけか」

 ぱしっ、とキョウジは膝を叩き書類をテーブルに放り投げる。内容は既に頭に叩き込んである。ならば早急に事に当たるまでだ。

「あなたに頼みたいのはサマナーが失踪した場所の調査、並びに危険の排除よ。悪魔や異界があったなら早急に解決してちょうだい。
 それと、一応これも渡しておくわね」

 席を立とうとするキョウジに、マダムは制するように声をかける。その手には、青い何かが握られていた。

「これは……鍵か?」
「件のサマナーが握っていたものよ。一応こっちでも調べたけど、詳しいことは分からなかったわ。
 ただ、これが何かの役に立つかもしれないし、あなたに持っていてほしいの」

 それは青い鍵だった。澄んだ海のような色合いのそれは、果たして死体が握っていたなどという物騒な事柄とは無縁に思えるほど綺麗に映る。
 キョウジはそれをしげしげと眺め、しかし次の瞬間には無造作に胸ポケットにしまい、マダムに答えた。

「受け取ったぜマダム。確かに、これが文字通り何かの"鍵"になるかもしれねえしな。
 任せろ、依頼は絶対に完遂するぜ」

 そして颯爽と扉を開き、キョウジはクラブを後にする。
 悪魔に異界に人死に、何とも因果な商売だと自覚するも、しかし自分が選らんだ道故に迷いはない。
 事務所で待機していたレイに依頼内容を説明し、武器一式を揃えるとすぐさまに出立する。
 目指すは東京―――欲望入り乱れる魔都新宿。





   ▼  ▼  ▼


160 : 葛葉キョウジ&ライダー ◆GO82qGZUNE :2015/07/20(月) 01:48:52 NTfSWe4I0





「……なんて恰好つけたはいいけどなぁ」

 そうして、キョウジは現在事務所の机に足を投げて不貞腐れていた。
 窓から見える景色は昨日までと変わらない、いつもの矢来銀座だった。グラサンをかけた巨漢が営む不動産や草臥れた爺が経営する骨董品屋やいかにもな雰囲気を漂わせるホテルが存在する、いつもの商店街。
 その一角、葛葉探偵事務所と銘打たれた寂れた事務所にキョウジはいた。

「いざ新宿に来たと思えば、どっか別の新宿に飛ばされました……ね。
 しかもお誂え向きに俺の事務所まで再現してやがる。おちょくるのもいい加減にしろってんだ」
「まあそう腐るなよマスター。アンタだって一応は覚悟して来たんだろ?」

 このまま不貞寝でも決め込もうかとすら思えるキョウジに答えるのは、相棒のレイではなく若い男の声だった。
 一言で言えば、全身を赤で染めつくした男だ。赤い髪に赤い瞳、纏う服まで赤尽くしと徹底されている。前髪の一房だけが青に染まっていることを除けば、赤こそがこの男を象徴する色であると言えるだろう。
 改造された赤服を着崩すその男は、純日本人のキョウジとは違い西洋人の風貌をしていた。年は若く、まだ20代も前半か。ともすればキョウジよりもずっと年下に見えるこの青年が、その実見た目通りの年齢ではないのだということをキョウジは知っていた。

「分かってる分かってる、だが愚痴くらい言わせてくれよ。確かに俺は依頼を受けてここに来たし、戦闘だって折込済みだけどな。聖杯戦争なんてもんはこれっぽっちも知らなかったんだ。
 ったく、あのサマナーもこれに巻き込まれて死んだってわけか?」
「ま、マスターの境遇には同情するぜ。それにしたって現状は一切変わらねえけどな。で、アンタこれから一体どうするつもりだよ?」

 青年の問いに、キョウジは一転して真面目な表情に変わる。聖杯、それは万能の願望器。自分が巻き込まれた聖杯戦争とは、すなわちその恩寵を授かる者を選別するためのものだ。
 望む望まないに関わらず、鍵を持って新宿に立ち入った時点で彼らは聖杯戦争のシステムに組み込まれる。否応はなく、運命は定まり、逃げることは叶わず、ただ最後の生き残りを目指して殺し合うのみ。

 確かに、あらゆる願いがかなう聖遺物が手に入るというなら試練はあって当然だ。いや、数十人を殺し生き残るだけならば試練としては秤にかけるまでもなく軽いものかもしれない。多くの人間が多大な犠牲を払っても得たいと望むものなのだから、当然と言えば当然である。
 そして当然、キョウジにも叶えたい願いの一つや二つは存在する。それは例えば、もう戻ることのできない「自分」の体だったり。
 植物状態となった自分の体に縋りつく父と母を覚えている。それを後ろから眺め、自分はここにいるのだと告げることも許されない遣り切れなさを覚えている。叶うのならば元の生活に戻りたいと願ったのは一度や二度ではなく、その思いは今も心に燻り続けているけれど。

「どうするもこうするもない。俺は依頼を完遂して矢来に戻る。それだけだ」

 しかし、キョウジの返答は聖杯に真っ向から逆らうものだった。
 即答、そこには何の迷いもない。流石にこの答えは想像していなかったのか、赤い青年は「へえ」と驚きの表情を形作っていた。


161 : 葛葉キョウジ&ライダー ◆GO82qGZUNE :2015/07/20(月) 01:49:33 NTfSWe4I0
「そもそもの話だけどな。訳も分からず連れてこられて、それで他のマスターを殺せば何でも願いが叶いますなんて、どう考えてもおかしいだろ。筋道が通っていない、具体的な原理も分からない。
 そんな甘言に惑わされて破滅した人間を、俺は何人も知っている」

 それは言うなれば悪魔の勧誘だ。
 奴らは言葉巧みに人に付けこみ、甘い言葉で地獄へと誘う。例え契約で雁字搦めに縛ったとしても、隙あらば召喚主を殺そうとしてくるのが悪魔という存在だ。
 だからこそ悪魔を扱うサマナーには何時如何なる時でも冷静に物を考えられる頭が求められるし、一瞬でも油断しない強い精神が重要となる。
 故にこそ、キョウジはすぐにこの儀式を見限った。下手な誘いに乗るほど、自分は愚かではない。

「そういうわけで聖杯なんてもんは糞食らえだ。んなペテン紛いの代物、鉛玉ぶち込むのが相応ってもんだろ」

 半ば投げやりなキョウジの言に、しかし青年は苦笑しながらも好意的な笑みを返す。
 ああ良かった助かった、まるでそんなことでも言いたそうな顔で、青年はキョウジに言葉を返した。

「マスターの言いたいことは分かった。けどまあ、そう言ってくれて助かったぜ。正直俺は勝ち残れるほど強いサーヴァントじゃねえし、優勝目指して頑張ろうとか言われても困るしな」
「……お前、なんか願いとかないのか。サーヴァントなんだろ?」
「生前ならいくらでもあったんだがな、生憎死んでまで叶えるような大層な願いは持ってねえんだ」

 それは例えば借金だとか、生活苦だとか、あとは払っても払っても舞い込んでくる火の粉だったりとか。生前ならばいくらでも変えたいものはあった。
 けれど死んでしまえばそれらは一切関係がない。今更変える必要もないことを願ったところで意味などありはしないのだから。
 そして何より、赤い青年はそんなくだらないことで誰かを殺すような人間では決してないのだ。

「そうか、ならそれを幸運と受け取ることにする。なら目指すは聖杯の調査と異変の根絶だ。協力してもらうぞライダー」
「お互い聖杯なんざいらねえって分かったんだ、協力は惜しまねえつもりだぜマスター。死なない程度に無理せず頑張ろうぜ」

 あくまで目的は依頼の完遂。
 デビルサマナーと異端なる空賊は、傍から見ればそんなつまらないもののために、死地へと身を投じるのだった。






【クラス】
ライダー

【真名】
ヴァーミリオン・CD・ヘイズ

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力E 幸運E+ 宝具E

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:E
無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:A(E-)
乗り物を乗りこなす騎乗の才能。
機械系の乗り物に対して高い適正を持つが、生物に対する騎乗適正は最低ランク。


162 : 葛葉キョウジ&ライダー ◆GO82qGZUNE :2015/07/20(月) 01:50:18 NTfSWe4I0
【保有スキル】
I-ブレイン:EX
大脳に先天的に保有する生体量子コンピュータ。本来ならば演算により物理法則すら捻じ曲げることが可能であるが、ライダーの場合は記憶領域の大半を演算素子に浸食されたことにより情報制御を一切行使できない。
そのため固有の能力を持たないが代わりに演算能力は通常の魔法士の数千倍にも相当し、ほぼ正確な未来予測すら可能とする。A+++ランクの高速思考・見切り・直感のスキルを内包する。
なおこのランクは超越性を示すものではなく、あくまで通常のI-ブレインの規格を逸脱した存在であることを指している。

異端なる空賊:B
異端にして最後の空賊。ライダーの在り方を象徴するスキル。ライダーはその身ひとつで幾多の地獄を潜り抜けてきた。
同ランクの仕切り直し・破壊工作・戦闘続行を兼ね備える特殊スキル。

貧困率:B
人生においてどれだけ金銭と無縁かと言うスキル。ランクBであるならば、日々の暮らしすら危ういレベル。
依頼の報酬を取り逃すのみならず、莫大な借金を背負う羽目になることも珍しくない。

破砕の領域:A
空気分子の動きを予測し、そこに音を加えることでバタフライ効果により30センチの空気分子による論理回路を形成。それに触れた相手を情報解体する。
有体に言ってしまえば、空気を用いて直径30センチの球形空間内に存在する物質を原子分解するスキル。
指や靴を鳴らすことによりほぼ無制限に連発が可能だが、生体には若干効きが悪い。
 
【宝具】
『赫色の人喰い鳩(Hunter Pigeon)』
ランク:E 種別:対軍宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:300
ライダーが所有する飛行艦艇。150m級高速機動艦。
巡航速度時速17000km、最高速度は時速50000km。主砲の荷電粒子砲の他に両脇に巨大なスピーカーがセットされている。また高度なステルス機能を有しているため非戦闘時には気配遮断を得る。
慣性の法則を無視した動きができ、ミリ単位の制動・急停止・急加速が可能。この宝具の使用時には破砕の領域の効果領域が直径30mにまで広がる。
ちなみに内部には高性能AI「ハリー」が搭載されている。

『虚無の領域(Void sphere)』
ランク:EX 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
破砕の領域の強化型。形成した論理回路が更に大きな論理回路を形成し、その連鎖で極限まで巨大化した論理回路が周囲を巻き込んで自壊することにより、範囲内におけるあらゆる存在を原子単位まで分解する。破砕の領域が通じない物体でも問答無用。
範囲はライダーが数センチ単位で自由に決定することができ、その効果範囲はハンター・ピジョンの補助を含めると最大で直径10kmにまで及ぶ。ただし範囲が巨大になればなるほど加速度的に魔力消費量は跳ね上がるし、例え数センチ程度の大きさでもハンター・ピジョン以上の莫大な魔力消費を必要とする。
使用後は一定時間貧困率以外のスキルと全ての宝具が使用不可能となる。

【wepon】
拳銃・無銘
電磁射出式の拳銃。

なお右目は義眼であり、中には神経毒や通信素子などが入っている。

【人物背景】
フリーの便利屋「人食い鳩」として活動する世界最後の空賊。世界に三機しかない雲上航行艦の持ち主でもある。
クールでニヒルぶってはいるが、その実熱血漢のお人よし。そのためか貧乏くじを引くことが多く損な役回りばかり負わされている。
元々は軍によって生み出された先天性魔法士であったが、演算素子の肥大化により魔法を使うことができず「失敗作」の烙印を押される。
実験体として他のシティに売り渡されそうになっていたところ、「HunterPigeon」を名乗る空賊に助けられた。
その後空賊たちと家族として一緒に暮らすが、シティの軍に攻撃を受けて全員殺され、彼一人だけが父親役の空賊に逃がされる形で生存。以降はフリーの便利屋として活動することになる。

【サーヴァントとしての願い】
流石に死んでから願うほどの大層なものは持っていない。非道さえしないならば、マスターの好きなようにやらせる。


163 : 葛葉キョウジ&ライダー ◆GO82qGZUNE :2015/07/20(月) 01:50:54 NTfSWe4I0
【マスター】
葛葉キョウジ@真・女神転生デビルサマナー

【マスターとしての願い】
新宿の異変の調査、及びそこに存在する危険の排除。

【weapon】
・草薙の剣
日本神話に名高い霊剣。マグネタイトを以て受肉した悪魔すら容易く切り裂く。結構神秘。

・デザートイーグル
イスラエル・ミリタリー・インダストリーズ社(IMI)とマグナムリサーチ社が生産している自動拳銃。大口径マグナム自動拳銃の中でも知名度の高い代物。
悪魔すら貫く銃だが、銃弾自体は大量生産品であるためサーヴァントには通用しない。

・GUMP
銃型のハンディ・コンピュータ。これ一つで悪魔召喚・通訳・アナライズ・オートマッピングをこなせる便利な代物。

【能力・技能】
銃や剣を用いた戦闘に長け、探偵としての技能を兼ね備える。

・悪魔召喚
霊的技術と科学技術の融合した悪魔使役の機械であるGUMPを用いて悪魔を召喚する。
最大では5体の悪魔を同時に使役可能だが、同時運用数が増えるにつれて魔力の消費は莫大なものとなる。
今回のキョウジは、以下の悪魔を召喚できる。

妖精・ピクシー
妖魔・アガシオン
妖鳥・バー
夜魔・キキーモラ
聖獣・ヤツフサ
妖鬼・ベルセルク
龍王・ヤマタノオロチ
霊鳥・ガルーダ
英雄・カンテイセイクン
鬼神・マリシテン

ピクシーからヤツフサまでは少量の魔力消費で召喚可能。ベルセルク以降は下になるにつれて魔力消費量が格段に増えていく。

【人物背景】
フリーの凄腕デビルサマナー、葛葉キョウジ……の肉体に無理やり憑依させられた無関係の人間。
元々は単なる一般人であったが、悪魔絡みの事件に巻き込まれたことで本物の葛葉キョウジに目を付けられ、魂を移し替えられた。
その後はなし崩し的にデビルサマナー業を営み、一連の事件にけりをつけた後も変わらずデビルサマナーとして活動している。
続編のソウルハッカーズでは当代最強のデビルサマナーと目されているらしきことを示唆されている。
なお葛葉ライドウシリーズには初代葛葉狂死なる人物が登場するが、ぶっちゃけこの作品が発売された当時に葛葉一族の設定なんてなかったので関連性は不明である。

【方針】
障害を排除しつつ聖杯戦争を調査する。特にサーヴァントは召喚主や無辜の住民に被害を加える可能性が高いためできる限り倒しておきたいが、無理はしない方針で。


164 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/20(月) 01:51:47 NTfSWe4I0
投下を終了します。
それと出典書き忘れたので訂正します。

【真名】
ヴァーミリオン・CD・ヘイズ@ウィザーズ・ブレイン

です。失礼しました。


165 : ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 02:14:58 qAlnxgVg0
感想は後程、と言う事で手を打ってくれませんか……?(感想サボりニキ)

投下いたします


166 : 暗殺犯 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 02:16:07 qAlnxgVg0
 男は今風の言葉で言うのであれば、ネットカフェ難民、と言う奴であった。
遠回しな言葉で実態を捻じ曲げているが、とどのつまりは、定住する所を持たない人物、早い話が、ホームレス、と言う事になる。

 男の日常は決まっていた。
<新宿>内の、十二時間のナイトパックが千七百円、ドリンクおかわり自由の格安のネットカフェに入店。
パソコンからアルバイトサイトのページを開き、日雇いのバイトを予約。その後、コンビニで買ったおにぎりや弁当を食べ、そのまま就寝。
そして翌日早起きし、節々が痛む身体に喝を入れ、前もって予約していた日雇いバイトに従事する。それが、この二十代後半の男性の日常の全てであった。

 一般人が連想する所の生活水準以下である事は、疑いようもないだろう。生活保護だって、ひょっとしたら貰えるかも知れない。
しかし、現実はそんなに甘くはない。貰えないからこそ、こんな最低な生活を何年も送っている。道行く人が送る、自尊心を破壊する視線に、何年も耐えている。
男の生活に、楽しみはない。希望もない。ただ、『生きる為』に『生きる』。そんな生活だ。

 ……全く、笑えてしまう。
どうして異世界と呼べる<新宿>で、『元居た世界と同じ様な生活を送らねば』ならないのか?
聖杯なるものがある事も、これを巡ってサーヴァントと共に聖杯戦争と呼ばれる戦いを勝ち抜かねばならない事も、此処では偽りの日常を送らねばならない事も。
男――『奥田宏明』は、重々承知していた。していたからこそ、納得が行かない。別の世界でも自分は負け組の男なのかと、怒るよりも先に苦笑いを浮かべてしまう。

 だが男は、そんな生活の中でも、自棄にならない。
『奥田宏明』には、元の世界でもこの世界でも、そんな最低な生活を送ってでも成し遂げたい目的があった。
その目的を達成したいと言う意識こそが、普通のネットカフェ難民と彼とを区切る、明白かつ明確な境界線。
そしてその意識こそが、彼の人生の骨子となっている要素なのである。

 新宿駅周辺で一番安いそのネットカフェのレジで、代金の支払いを済ませた奥田は、レジ店員に言われた個室へと黙々と歩いて行く。
数ヶ月は、ずっとこんな生活だった。一日中、レジ店員とコンビニ店員以外とは口をきかない日々。それは、心の堕落を招き、腐らせる日常であった。

 指定された個室の扉を開ける奥田。ナイトパック、つまり宿泊全体で利用するネットカフェの個室のなど、何処も大なり小なり同じ様なものだった。
畳二枚分のスペースがあるかないかと言う狭い個室に、その部屋の広さと和合したこじんまりとしたテーブル、そしてその上に乗ったパソコン。
見慣れた光景だ。そして、その光景に安心感を覚えている自分がいた。堪らない嫌悪感を、奥田は憶える。

「わ、せまーい」

 部屋に入り、個室のドアを閉めた瞬間に、部屋の狭さに感嘆とした声が響く。
如何にも年の幼そうな、少女の声。そして、その声を口にする存在は、この部屋にはいない……風に見えるだろう。他人には。

「ねぇねぇマスター、マスターっていつもこんな所に住んでるの?」

 そう言うと、奥田の隣に、彼よりも頭一つ半程も小さい少女が姿を現した。霊体化、と言う状態を解いたのである。
黄色味がかった緑色のセミロングの、可憐で、愛くるしい幼女。奥田と見比べれば、干支一周分以上も年が離れているように見えるだろう。しかし、奥田は知っている。
この少女がその実自分よりも長く生きて来た、妖怪の少女であると言う事を。聖杯戦争に際して、この少女に振り分けられたクラスは、アサシン(暗殺者)。この容姿で、だ。
だが、そのクラス名が仄めかす通り、この少女は人を殺すと言う事に一切の躊躇と言うものがない。そんな彼女の真名、つまり本当の名を、『古明地こいし』と言うらしい。


167 : 暗殺犯 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 02:16:28 qAlnxgVg0
「俺には住む家がないからな」

 その通りの事を、奥田は言う。この<新宿>においても、それは変わらない。
必要に迫られて住所氏名を記さねばならない時、それらの情報は全て、予めメモしておいたデタラメのものを使っているのだ。

「もしかして、私と同じでフラフラするのが好きなタイプ?」

「出来れば、一ヶ所に留まりたいタイプだ」

 言いながら奥田はPCの電源を付ける。
一ヶ所……つまり奥田としても、ちゃんとした住処と定職が欲しい所であったが、それは最早、諦めていた。

「ねぇマスター、こんな狭い部屋で貴方は寝れるの?」

「まるまるようにすれば行けるさ」

「でも二人で寝るには狭くない?」

 キョトンとした表情で部屋を見渡すこいし。
確かにそれはそうだろう。そもそもこの個室は一人用のスペースだ。二人分の広さの部屋は、あるにはあるのだが余分に金を取られる為頼んでいない。当然の按配だ。

「お前は室外だ、アサシン」

「え〜、何それ!? 女の子に対する扱い酷くないマスター!!」

 露骨に不服そうな表情を浮かべて、こいしはブーたれた。
インターネットブラウザを開き、活用しているバイトサイトのページを開きながら、奥田は冷ややかに応対する。

「馬鹿言え。霊体化だけじゃなくて、無意識だか何だか操るズルい能力まで持ってるんだ、寝床の一つや二つぐらいは、どうにでもなるだろう」

「一人で寝るのは最近寂しくてね〜、お姉ちゃんから貰ったペットと一緒に過ごして来たせいかなぁ」

「……俺はペット扱いか、アサシン」

「うん」

 即答された。怒る気力も奥田にはない。区内の清掃バイトを予約し終えた奥田は、コンビニのビニール袋からツナマヨネーズのお握りを取り出した。
これと、同じくコンビニで売っている、サラダパスタが今日の夕食である。実に、壊れた食生活だった。

「ねぇ、それ美味しい?」

 コンビニのお握りを取り出したのを見て、こいしが聞いて来た。興味津々そうな光が、瞳の奥で子供の目のように輝いていた。

「それなりと言った所だな」

「じゃあ頂戴」

「じゃあって何だじゃあって、あげんぞ」

「ケチ」

 こいしはそっぽを向いて頬を膨らませる。これが、本当にアサシン(暗殺者)なのか?

「サーヴァントは、食事を摂る必要がないんだろう? それにお前は、一足早い夕食を取って来ただろうが」

「……毎日あれだけの量の食事を約束してくれたら、ケチって言葉撤回する」

「無理だ。あれは今日限りの夕食だ」

「ケチ!!」

 面と向かって力強く言われてしまった。
食事を取ろう、と思った奥田が、ペリペリとお握りのテープをはがし始める。服の上に、細かい海苔の破片が落ちて行く。

「……でも、意外だったな」

 こいしがそう零した。

「何がだ」

「マスターの行動が、かな」

 どうにも、要領を得ない。

「何が言いたい」

 お握りを咀嚼しながら、奥田がとうとう口にして訊ねた。
ニッコリと笑いながら、こいしが口を開く。その瞳には、光が瞬いていた。十(とお)にも満たない子供が宿す純粋な光とは違う。狂気に彩られた、危険な光が。

「マスターってそんな平凡な見た目なのに、私に人を『殺せ』って命令出来るんだね」


168 : 暗殺犯 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 02:17:51 qAlnxgVg0
 ニコニコ笑いながら、こいしがそんな言葉を言い放つ。大した動揺も見せない。そんな事か、と言った風に、奥田は面倒くさそうに応対する。

「そんなおかしい事か、それが」

「うん、おかしいよ」

「人が人を殺す事なんて、珍しい事じゃないだろう」

「確かにそうかもしれないけど、マスターの場合だと、うーん……ちょっと意外だったかなぁって」

「嫌いになったか?」

 一つ目のお握りを口にし終え、二つ目をコンビニ袋から取り出しながら、奥田はマウスを動かし、新しいタブを開く。

「ううん」

「そうか」

 短いやり取りの後、奥田は複数のタブを使って、あるページを開いていた。
それは、公式のニュースサイト。それは、所謂まとめブログと呼ばれる、恣意的かつ変更的な書き込みだけを纏めた記事ブログ。
奥田が見ているニュースは、一つだけ。<新宿>内における、あるニュースを目にしていた。それは今日の昼過ぎに起った、ある大事件についてのニュースだ。
『<新宿>の某中堅IT会社の社長、幹部、社員全員が殺害される!!』。記事の内容を要約すれば、そう言う事になる。そして、それが全てだった。
白昼堂々、とあるビルのワンフロアに社を構えていたIT会社の構成員が、その日の内に全員殺害されていたのである。
ビル管理人や警備員は勿論の事、監視カメラにすら下手人の姿はない。犯行の瞬間の映像には、突如社員が首や心臓から血を吹いて次々と倒れる瞬間しか映っていない。
まとめブログに掲載されているレスを見ると、『怪異』だの『オカルト』だの、と言った言葉が躍っている。しかし今回に限り、それは正鵠を射ているだろう。
まるで透明人間にでもやられたかのように、次々と身体から血を吹いて倒れる人間達。誰が見たって、尋常の現象でないと思う他ないだろう。
そして事実、これは尋常の現象ではなかった。正真正銘本物のオカルト――即ちサーヴァントが絡んでいるのだ。

「わっ、私達ってもう有名人?」

 奥田が見ているまとめブログのページを見て、かぶりつくようにパソコンの画面に近付いて行くこいし。
自分の事が大々的に報道されている為、このサーヴァントは、興味津々であるようだ。

 そのIT会社の住民達を殺害した張本人こそが、今此処にいる奥田とアサシンの主従であった。
彼らが、いや。奥田がこのIT会社の事を知ったのは、全くの偶然である。奥田が日雇いの配達バイトで、<新宿>中を駆け巡っていた頃。
彼は偶然、繁華街でその社名を発見してしまったのである。忘れたくても、忘れられない会社だ。会社の名前、そして、そのロゴまで同じ。確定であった
嘗て奥田は、元居た世界のその会社で派遣社員として働いていた。いつか正社員として登用される事を夢見て。
ただそれだけを目標に、彼は無茶な注文にも耐え続け、デスマーチにだって弱音を吐かなかった。残業だってしっかりやったし、社員と何ら遜色ない働きぶりもして見せた。
そんな彼にその会社が叩き付けて来た仕打ちが、不当解雇であった。いわば、雇い止めだ。

 あの時の事は、今でも夢に見る。社長と、その社員の、予め示し合わせていたようなバッシング。
通常業務ではなく、トイレ掃除や部屋の掃除を行わせると言う、典型的な社内いじめ。そして、給湯室から聞こえて来た、自分を無能と馬鹿にする陰口。
奥田は、社長達の思惑通り、会社を辞めさせられた。転落はその日からだった。貯金を崩し、職を探す日々が続いた。見つからなかった。
日雇いの肉体労働で、日々を凌ぐ生活が始まった。長く続く、筈もなかった。そしてある日、運命の日がやって来てしまった。
初めて、殺意を胸に抱いてしまった日が。その殺意の突き動かすがままに、人の脳天にスコップを振り下ろしてしまった日が。
灰色の脳と脳漿を飛び散らせ死んだ、あの現場監督の姿を思い出す。吐き気を催す程の屑だった。そして、その屑に侮辱された、あの外国人労働者が哀れでしょうがない。


169 : 暗殺犯 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 02:18:32 qAlnxgVg0
 今日まで続く自分の不幸の源泉が、この世界にもいると思うと。奥田は我慢がきかなくなっていた。
霊体化して、原付の荷物入れの上に座っていたこいしに指示を出し、そのIT会社の社員を皆殺しにしろと命令を下したのは、他ならぬ奥田宏明その人だった。
ただ殺すのでは、無駄である。奥田はその社員達を有効活用してやろうと思った。彼はIT関連の知識や、情報処理技術者の資格しか取り得のない男だ。
つまり、聖杯戦争に際しては殆ど無駄な知識だ。戦闘力も無ければ、サーヴァントを長く運用する為の魔力も無い。
だから、せめて自らが召喚したアサシンを長く保たせる為に、奥田はこいしに魂喰いを命令した。その対象は、言うまでもないだろう。
奥田の言っていた『一足早い夕食』とは、彼がこいしに命令した、そのIT会社の社員全員の魂喰いの事を指していた。

「どちらにしても、こんなに一度に大量に人を殺す機会は、もう最後だ。後は最小限にとどめる」

 これは決定事項だ。そもそもこのこいしと言うアサシンは、直接戦闘には優れない。
無意識を操ると言う能力を用いて、相手に接近、一撃で相手を殺す、と言う解りやすい戦法を取らねばならない存在だ。
つまり、目立ってはいけないのだ。それはそうだろう、この世に、目立つ暗殺者などいてはならないのだから。
今回は感情の赴くままに何人も殺してしまったが、今回のような事態は二度と起こすつもりはない。下手したら今報道しているニュースから、自分達が聖杯戦争の主従だと突き止めかねないサーヴァントが、いるかも知れないのだから。

「えー、でも、おなか空いちゃうよそんなんじゃー」

「……」 

 仕方がないと言った風に、奥田はコンビニの袋から、昆布のお握りを取り出し、こいしの方に放った。
「ありがとー!!」と言ってこいしはそれを受けとる。現金な少女だ。が、肝心のお握りを包むビニールの剥がし方が解らず、色々な角度からお握りを眺めている。
面倒くさいので、それは教えてやらない事にした。

「(……ヒョロ……)」

 ブラウザを閉じ、奥田は目を瞑り、思いを馳せていた。自らの運命を決定づけた、あの日の事を。
それは、山間開発のバイトであった。肉体労働の典型のような業務内容。そして、正しく地獄のような労働環境で働く事を強いられる、劣悪な仕事である。
重機を購入する事を会社が渋っているせいで、二十一世紀だと言うのに、労働者はてこの原理やらを用いた原始的な手法で岩を撤去したり、スコップで一々土を除けねばならない。
身体から出てくる汗で塩が精製出来るのではないかと言う、炎天下のあの日に、奥田は出会ったのだ。その劣悪な労働環境で働く、自分を含めてたった五人の労働者達と。


170 : 暗殺犯 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 02:18:52 qAlnxgVg0
 葛西智彦。関西の方の出身である事と名前をもじって、カンサイと言うあだ名付けられた。元々バンドをやっていたらしく、日本のロックの現状を語らせたらうるさい男だ。
寺原慎一。不摂生が祟ったせいで太ってしまった容姿のせいで、着いたあだ名がメタボだ。パチンコにハマったせいで、人生を台無しした男。
木村浩一。眼鏡をかけ、ほっそりとした外見から、ノビタと言うあだ名を彼は貰った。無口で人と話す事が苦手な青年で、数年前までは引きこもりだったらしい。
そして、ヒョロ。フィリピンから、日本にいるであろう父親を捜しにやって来た男。……腎臓を売ってまで、父親を捜したかった男。そしてその末路が、最低なこの国で腎不全を起こして死んでしまい、最低の人間から侮辱された、と言う男。

 性格が良く、明るいだけでは、世界を生きて行く事は出来ないのだ。
ヒョロは、腎臓を売ってまで、この国にやって来て、日本人の父親を捜したかったと言う。ヒョロの母親は、病気で亡くなったと彼は言っていた。
その母が今わの際に、父が日本人である事を口にしたともヒョロは言っていた。奥田から……いや。誰が見たって、子供を捨てて日本に帰ったとしか、ヒョロの父親は見られない。
しかしそれでも、ヒョロは父親を憎まなかった。ただ会いたくて、彼は、非合法の医者から腎臓を摘出して貰い、日本にやって来て。
バイトでお金を溜めながら父親を探そうとして、そのバイト先が給料を未払いにして、その事に疑問を抱かないヒョロをタダ働きさせ。
そして、そのバイト先が経営難で潰れて。金もなく、就労ビザもなく。行き着いた地獄のような山間開発のバイトで、消耗品みたいに扱われ、ゴミみたいに死んでいった、哀れなフィリピン人。

 生きる為の知恵もなく、体力もない。ただ、優しさと明るさだけが取り柄の青年。世界も神も、そんな青年に慈悲をかけはしない。その証拠に、青年は死んだ。
現場監督が、ヒョロの死体を見て言った言葉を思い出す。「腐るから早く埋めろ」。どんな悲壮で悲惨な境遇も、笑って吹っ飛ばしていた青年にかける言葉とは、到底思えない。

 誰に感謝されるでもなく。まともに人間扱いされる事もない。生活の為に働く場所では、襤褸切れに近しい状態になるまで働かされて。
其処で死んでも、誰も悲しむ訳でもなく、厄介者のように扱われる。奥田達は、何の為に生きているのか、解らなかった。

 仕事もない、金もない。当然、将来も無い。あるのは人を殺し、放火をし、殺した死体を遺棄した、と言う消える事のない烙印だけ。
表の世界に浮き上がる事すら、最早出来はしない。だが、奥田は諦めなかった。そんな、社会の爪弾き者四人でも、出来る事はある。
吐き気を催す程邪悪で、慈悲のないこの世界に。自分達の意思を叩きつける手段が、ある筈だ。それを彼は考えていた。

 聖杯戦争。それは、奥田が考えていた世界に対する報復に、全く組み込まれていない、いわばエラーだった。
生活費を稼ごうと始めた、ホテル清掃のバイトをしていた時に、宿泊客の去った部屋で発見した、群青色の鍵。
それを手に取った瞬間には、奥田はこの<新宿>へとやって来ていたのだ。其処では、殺し合いを行わねばならないと言う。
そして、最後に生き残った者には、どんな願いでも叶えてくれる聖杯が手に入る、らしい。確証はない、が。異世界の新宿区に招く奇跡を見せつけられては、信じる他はない。

 ……望む所だ。だったら、勝ち残ってやる。自分はもう、失うものが何もない人間。人を殺す事など、訳はない。
勝ち残り、聖杯を手にし……『ヒョロの骨を、彼の父親の下に届けてやりたい』。傍から見れば、下らない願いにしか見えないだろう。
だが、そんな下らない願いが、奥田の行動原理の全てだった。世界から裏切られた青年の、ささやかな思いを叶えてやりたい。それだけが、奥田の願いなのである。

 奥田は懐から、カップアイスを掬って食べる為の、へら状のスプーンに似た形のものを取り出した。
ヒョロが遺した、正真正銘の遺品。傍から見たら珍妙で、下らない物にしか見えないだろう。それはOTPトークンと呼ばれるもので、ワンタイムパスワードを設定する為のものだ。
嘗てヒョロが働いていた、給料を未払いにしていたネットカフェ店。その店長が経営難で夜逃げした時に残していった物を、ヒョロは拾ったのだ。
彼が、おみくじマシーンと勘違いして、事あるごとにこれを弄っていたのを思い出す。

 ――数字がいっぱい並んだら、ラッキーなんだ!!――

 屈託のない笑顔で、そんな事を言っていたヒョロ。この装置の本当の意味を知らない人間らしい人間の解釈
ピッ、と。奥田は手にしていたOTPトークンのスイッチを入れる。デジタル画面には、全て数字が映っていた……。


171 : 暗殺犯 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 02:19:06 qAlnxgVg0
【クラス】

アサシン

【真名】

古明地こいし@東方Projectシリーズ

【ステータス】

筋力E 耐久D 敏捷C 魔力B 幸運B 宝具B

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

気配遮断:EX
自らの気配を、力量が許す限り薄めて気配を断つ通常の気配遮断とはまったく別の気配遮断方法をアサシンは持つ。
その方法とは、『相手の無意識を操りアサシン自身の存在を認識させない事で気配を一切消失させる』と言う方法。
相手の無意識を操る事に成功した場合、アサシンは敵サーヴァントの視界の前に立とうが、其処で食事をしようが、剰え相手に話しかけようが、気付かれる事はなくなる。

【保有スキル】

覚(さとり):-(A)
アサシンは相手の心を読む事の出来る、『覚』と呼ばれる妖怪である。
本来ならばAランク相当の読心術スキルと精神攻撃を可能とした存在なのだが、アサシンは自らの意思で、覚がその能力を発揮する為に必要な第三の目を閉じている為、
覚に由来する能力が全く使えない状態となっている。但し相手から封印されているのでなく、自らの意思による封印の為、彼女の気が向けば、第三の目を開眼してくれる、かもしれない。

閉じた恋の瞳:A+
アサシンは完全に心を閉じている。心を閉ざす事自体は、鍛錬を積んだ武芸者や、強いトラウマを負った者であれば行える事であるが、アサシンの場合は、
常時心を閉ざし、それでいて全く別の自分を演じられていると言う点で彼らとは一線を画している。ある僧侶はアサシンを指して、『空(くう)』の領域にあると言った。読心術や、魔術や意図的な精神干渉をシャットアウトする。

【宝具】

『無意識を操る程度の能力』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜10 最大補足:複数人
覚妖怪の特徴とも言える、心を読む能力を捨てた代わりにアサシンが獲得した能力が宝具となったもの。
覚が文字通り、読心術と、相手の心の表層を利用した精神攻撃を得意とするのに対し、アサシンは深層意識と無意識を利用した攻撃を得意とする。
深層意識に抑圧された感情やイドを爆発させたり、それらを表象した弾幕で攻撃したりと、精神的な攻撃だけでなく、直接的な魔術攻撃にも長ける。
この能力の真の活用法は、相手の無意識を操る事で、アサシンの存在自体を認識させなくさせる事で、これを用いて相手に近付き暗殺すると言う事。
但しサーヴァントの場合は無条件で無意識を操れると言う訳ではなく、対魔力及び相手の精神耐性を合算して判定する。
また相手が、気配察知に類するスキルを有していた場合には、姿こそは見えないかも知れないが、空間への違和感を感じる事が、もしかしたらあるかも知れない。

【weapon】

【人物背景】

幻想郷の地下に広がる、旧地獄の巨大な屋敷、地霊殿の主である覚(さとり)妖怪である、古明地さとりの妹。
その種族の特徴上当然の事だが、元々は読心術を使えたらしいが、その能力のせいで周りから嫌われることを知り、読心を司る第三の眼を閉じて能力を封印。
同時に自身の心も閉ざす。 第三の眼を閉じた事によって心を読む能力に代わり、『無意識を操る程度の能力』を得てしまう。
この能力により、無意識で行動できるようになったこいしは、はあちこちをフラフラと放浪するだけの妖怪となる。
読心術に長けた覚ですら心を読む事が出来なくなったこいしの放浪癖を心配に思ったさとりから、こいしと遊ぶための専属のペットを与えられた彼女は、
段々生活も性格も良い方向に変わって来た……が、本質的には人を喰らう妖怪。人殺しには、全く躊躇がない。
 
【サーヴァントとしての願い】

取ってから考える。


172 : 暗殺犯 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 02:19:18 qAlnxgVg0
【マスター】

奥田宏明@予告犯

【マスターとしての願い】

嘗て自分と働いていたフィリピン人労働者である、ヒョロの遺骨を彼の父親の下に届ける。

【weapon】

OTPトークン:
ヒョロが働いていたネットカフェの店長が、夜逃げの際に店に残して行ったもの。ワンタイムパスワードの設定の為に必要。
本来はこの道具を用いて奥田はその計画を成功させるのであるが、今回の聖杯戦争では全く役に立たない代物になるだろう。
しかしそれでも、奥田にとっては大事な、思い出の品。

【能力・技能】

IT知識:
元々奥田はそう言った会社に派遣社員として勤めていた為、そう言った知識に非常に明るい。金を取れるレベルのプログラムの構築だってお手の物。
その手腕は非常に優秀であり、正当な歴史においては、警察のサイバー犯罪課の刑事達をして、悔しい位頭の良い人物と言う評価を下さざるを得なかった程。
この知識に付随して、数学的な知識にも長けている。また、どのようにして調べ上げたのかは不明であるが、警察がどのようにして犯人を追跡、逮捕するか、と言う方法を、知っているフシがある。

【人物背景】

元々はIT会社の派遣社員であった青年。不当解雇に遭い、日雇いの肉体労働を始めるようになるが、その時にヒョロと呼ばれるフィリピン人労働者と知り合う。
が、日本に来るために腎臓を売ったヒョロは、山間開発のバイトと思しきタコ部屋で腎不全に陥り、死亡。
その事を監督に知らせ、やって来た監督の『腐るから埋めろ』と言う発言に逆上した、同僚の寺原に手を貸す形で、監督を殺害。
以降は、ヒョロの骨を彼の父親の下へと届ける為に、策を練る事になる。本文中では記載していなかったが、彼のあだ名は『ゲイツ』である。

犯罪予告をネット配信する犯罪グループ、『シンブンシ』として活動する前の時間軸から参戦。

【方針】

聖杯狙い。


173 : ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 02:19:29 qAlnxgVg0
投下を終了いたします


174 : ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 21:20:18 qAlnxgVg0
自企画ですら感想サボりニキになってるヤバいヤバい……もう少しお待ちください

取り合えず、投下します


175 : ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 21:20:33 qAlnxgVg0
「聖杯戦争……なぁ……」

 ぼりぼりと頭を掻きながら、その男は呟いた。
その声には隠したくても隠し切れない嫌悪の念が浮かんでいる。心底乗り気じゃない。そう言った空気が表情のみならず、身体のあらゆる所から発散されていた。

 古風な服装の男だった。今時着用している者など天然記念物に指定しても問題ない黒い長ランに学帽。
この平成の時代、時代錯誤にも程がある蛮カラ風の服装は、ある意味で人目を引いてしまうだろう。だが服装よりも何よりも、その顔つきだ。
見るがいい、その右目から縦に走る古い切傷、生やした口髭太い眉、そしてその厳つい顔立ち!! 壮年のヤクザと言われても、何の疑問も抱くまい。
……だが一番の驚きがあるとすれば、男の年齢であろうか。この男が、こんな風貌であるにもかかわらず、なんと高校生であるのだ。
天地が引っくり返りかねない程の驚愕の事実であろう。百九十cmはあろうかと言う長身に、高校生離れした恵まれたガタイ。
総合的に見るに高校生と言うより、体育大学の応援団か右翼青年にしか見えないこの男。
彼こそは東京都内に存在する全寮制の超スパルタ私塾、男塾の一号生、富樫源次その人である。

 ただでさえ厳めしいその面を、不機嫌に歪めさせて富樫は考え込む。
それは、小学校中学年並の教養しか存在しない己の頭の中に刻まれた、ある知識であった。
新宿区……ではなく、<新宿>で開催される、聖杯戦争なる催し。掻い摘んで言えば、富樫は殺し合いをする為にこの場に招聘された、と言う事だ。
富樫は御世辞にも頭の良い男とは言えないのだが、それでも、ある程度の常識は心得ている。少なくとも自分達の住んでいる世界の新宿区は、<亀裂>などと言う珍妙なものはなかった筈だ。

「ケッ、反吐がでる!!」

 胸糞悪さと、現状の混乱のせいで、思わず口に出してしまう富樫。
見るからに素行の悪そうな不良らしい姿の富樫であるが、その実この男は、男気溢れる義理人情に厚い日本男児。
確かに喧嘩っ早い側面もあるし、殺人ですらが許容の範囲内と言う狂った催しに何度も身を投げ入れた経験だってある。
しかし、殺人だけはこの男の矜持が許さなかった。しかも戦う相手が殺されても文句の言えない外道でもなければ、死をも覚悟している誇り高い武術家ですらない。
聖杯に縋ってでも願いを叶えたいただの人間が殆どであるのならば、猶更殺人何て出来る物ではなかった。

 そもそも、何でも願いを叶えると言う事を餌にして、参加者全員で殺し合せると言う趣旨が気に食わなかった。吐き気を催す程にゲスな考えではないか。
二週間ほど前に富樫も含めた男塾の全員が、藤堂兵衛が主催する天挑五輪大武會も業腹なイベントであったが、今回富樫が巻き込まれた聖杯戦争はそれと同等。
いや、それ以上に怒りを覚える内容だった。人間の弱みに付け込んで、或いは、願いを叶えたいと言う必死な思いを利用しているだけなのだから、富樫が怒りを覚えるのも当然である。

「のぉ、『カービィ』、俺はどうすりゃええんじゃろうか」

「ぽよ?」


176 : 参 戦 確 認 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 21:21:09 qAlnxgVg0
 そう言って富樫は、自分の足もとで唐揚げの山盛りとメガ盛りフライドポテト、トマトをふんだんに使ったサラダの山盛りをバクバク口にするピンク色の球体に目線を下ろした。
つぶらな瞳、短いまんまる手足。その愛くるしい姿を初めて見た時、ガラにも無く富樫は、本気で可愛いと思った程である。
口元をトマトで赤く濡らしたこのピンクの球体、名を『カービィ』と言うらしい。聖杯戦争において割り当てられたクラスは、ライダー。騎乗兵のクラスだ。

 場所は<新宿>某所のカラオケ屋、その店内であった。
訳も解らず男塾の寮から<新宿>の人気のない路地裏へと呼び出された富樫、其処こそが彼と、契約者の鍵に導かれてやって来たカービィの出会った場所であった。
このサーヴァントは自由奔放な側面が強いだけでなく、恐ろしく食い意地の張ったサーヴァントであった。
近くに興味の引くものや美味しそうなものがあるとみるや、すぐに霊体化と言う他人に姿を見られないようにする状態を解除してしまう程に。
これが人間の姿であるならばさして目立たなかっただろうが、いかんせんピンク色の動く球体、と言う珍獣めいた姿だ。衆目を集めない訳がなかった。
その結果が、カラオケ屋だ。此処なら個室があって目立たない上に、ルームサービスの食事を持って来させればカービィの機嫌も良くなる。
……カービィが上機嫌になればなるほど、富樫の財布の中身が反比例して行くように素寒貧になって行くのが、彼にとっては泣き所であるが。

「カービィ、俺はこの聖杯戦争に乗るべきなんじゃろうかのう?」

 富樫の迷いは其処にあった。
ドスを肌身離さず持ち歩き、取っ組み合いの喧嘩なら同じ一号生の虎丸と同じ位に好きな富樫ではあったが、殺し合い、
しかも、恨みもなければ戦う義理もない者達と戦うのだけは、死んでも御免であった。
しかし、途中退場は出来ないのである。富樫がもし此処から生きて帰りたいのならば、他の参加者を全員殺し、聖杯に元の世界への帰還を願う以外にほぼ術はない。

 ……それにしても、聖杯、である。
如何なる願いをも叶える奇跡の杯、と来たものである。如何な富樫とて、そんな御伽噺の世界から飛び出して来たようなものを無条件で信じる程馬鹿ではない。
絶対に何か裏がある、と、考えてはいた。しかし、自分を別世界に存在すると言うこの<新宿>に呼び出し、剰えこのような、地球上の生命体か如何かすら
解らないカービィを、サーヴァントとして宛がわれては……、その存在を完全に否定する、と言う事も出来ずにいた。

 富樫は俗な男である。願いだってある。
名門女子高の女の事友達になりたいし、彼女らとヤる事ヤりたい。金だって欲しい。男塾指定の学ランではなく、もっと違うイカした学ランを買っておしゃれしたい。
いやそれよりも……天挑五輪大武會で命を散らした数多くの仲間達を、蘇らせてやりたい。
自分と大差ない年齢でありながら、男塾の為、そして塾長である江田島平八の無念の為に、その若い命を散らした先輩と同級生を生き返らせてやりたい。

「……願いを、聖杯で叶えるべきなんじゃろうか、カーイィ?」

 真面目な、しかし、富樫らしからぬ弱気な声色でそう訊ねると、カービィは何故か手足をジタバタさせ始めた。
「うおっ、なんじゃ!?」と驚く富樫だったが、よく見ると、カービィの顔は普段の間の抜けたおっとりとした顔から、キリっとした怒り顔に変貌していた。

「ぽよ!! ぽよ!! ぽよ、ぽよい!!」

 ……何を言っているのかは、全然わからない。
サーヴァントとマスターは何かしらのパスのようなもので繋がっており、ある程度の意思疎通を可能とするらしい。
が、カービィの精神構造や使用言語は地球上のそれとは根本的に異なるらしく、富樫にはカービィが何を言っているのかは理解出来ない。
しかし、この可愛らしいピンク色のサーヴァントが何を言いたいのかは、富樫はしっかりと受け止めていた。
このサーヴァントは、この場での殺し合いを否定している。富樫がその手を血に染めて、願いを叶える事を否定している。
――聖杯自体を信用してはいけない、そう主張している。

 富樫は知らない。
このカービィこそは、住んでいる惑星であるポップスターを襲う様々な危機のみならず、銀河系、果ては宇宙規模の危難をその手で救って来た、破格の英雄である事を。
そして、愛くるしい姿とは裏腹に、確かな正義の心をその身体に宿す勇者である事を。
富樫は一瞬だけだが、カービィの姿が、彼のよく知る男塾一号生筆頭・剣桃太郎の姿と重なって見えた。

「ふ、ふふ、ははは、わはははは!!」


177 : 参 戦 確 認 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 21:21:34 qAlnxgVg0
 そうだ、そうである。このカービィが訴えている通りではないか。
聖杯などと言うクソッタレな代物で蘇らせて、男塾の仲間が。江田島平八が。死んでしまった男塾の先輩や同級生達――特に、地獄の獄卒よりも怖い三号生筆頭、大豪院邪鬼が喜ぶものか!!
彼らはきっと非難するだろう。無辜の人間を殺してまで、蘇らせたかったのかと。ならば、男・富樫源次のやる事は、一つである!!

「決めたぞカービィ、俺は聖杯をぶっ壊す!! そんな下らない代物に踊らされる程俺は馬鹿じゃないわい!! 
同じ事を考えてる仲間を見つけて、こんな下らない争いを考えた奴の鼻っ柱をぶっ潰してやらぁ!! 協力してくれるなぽよぽよ!!」

「ぽよ!!」

 カービィもまた、同じ事を考えていたらしい。
いつもの笑顔を取り戻したカービィは、更に乗っていた山盛りの唐揚げとフライドポテト、そしてサラダを凄まじい吸引力で皿ごと吸い込み、ゴックンする。
「化けモンかこいつぁ……」とドン引きする富樫。また何か頼むんじゃろうかと内心戦々恐々としていたが、意外や意外。カービィは食事を止めた。

 ――代わりに、であるが、このピンク色の球体は、カラオケ機器の方へと近づいて行き、その『マイク』を手に取った。
此処はカラオケ店である。カラオケ機材がある事は至極当然の話である。何の矛盾も無い

「おう、歌を歌うんか!! いいぞ、歌え歌え!! 飯を食うより余程安上がりじゃ!!」

 パンパンと手を打って富樫が囃し立てる。富樫は自分が知っている曲をリモコンで入れてやり、カービィをその気にさせる。
メロディが流れ始めた。まだまだ歌詞が流れて来ない。数秒の経過の後で、歌詞が表示された。

「さぁ、歌ってみぃ!!」

 カービィは大きく息を吸い、声を張り上げた。





 ――――――――瞬間、部屋の機材も完璧な防音を施した壁も、床も、全て消し飛び吹っ飛んだ。


178 : 参 戦 確 認 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 21:22:07 qAlnxgVg0
【クラス】

ライダー

【真名】

カービィ@星のカービィシリーズ

【ステータス】

筋力D 耐久D 敏捷B 魔力B 幸運A+ 宝具A++

【属性】

秩序・中庸

【クラススキル】

騎乗:A+++
騎乗の才能。乗り物を乗りこなす才能に非常に優れるだけでなく、獣であるのならば幻獣・神獣、竜種まで乗りこなせる。
但し幻獣や神獣、竜種程となると、心を通わせる必要がある。

対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

【保有スキル】

以心伝心:A+
人間以外の動物と心を通わせるスキル。同ランクの動物会話と動物使役を内包するスキル
このランクとなると野生の獣は当然の事、竜種とすらも判定次第では仲良くなる事も可能。
但し初めから仲良くなる気がない、仲間になる気もない、或いは、悪意しか存在しない相手には無効である。

吸い込み:A
凄まじい吸引力を持って相手の攻撃を吸い込み、呑み込んでしまうスキル。
ランクAとなると、ランクEまでの神秘性を有する、物質的な姿を持つ宝具であれば吸い込み、勢いよく吐き出して攻撃に転用させる事が出来、
更に吸い込んだ攻撃が何らかの『属性』を持っていた場合、その性質を『コピー』する事も可能。但し大きすぎる物体や、サーヴァントを吸い込む事は出来ない。

魅了:B
攻撃する気持ちを削がれてしまう愛くるしい姿で、老若男女の攻撃する意思を削いでしまうスキル。
魔力的な要因に依らないスキルの為、対魔力による抵抗は一切不可能で、強い精神性を保証するスキルでない限りは防御不可能。

魔力変換(食物):B
魔力の回復手段を、マスターによる魔力の供給以外に有しているサーヴァントに与えられるスキル。
ライダーの場合は食事をとる事でその栄養を魔力に回す事が出来、捉え方によっては非常に燃費が良いスキル。
但しライダーは規格外の大食いである為、その分マスターに負担される食費量も馬鹿にならない。と言うより、このライダーを運用する上で最もデメリットとなるスキルである。

武芸百般:C
剣やハンマー、曲刀に拳など様々な武器を自由に扱えるスキル。
本来はもっと高いランクを保持していたが、ライダークラスによる騎乗スキルと引き換えに大幅に低下している

【宝具】

『コピー能力』
ランク:E-〜C+ 種別:対人〜対城宝具 レンジ:1〜100 最大補足:1〜99
ライダーが有する、何らかの属性や性質、概念を保有した物質を『吸い込み』でコピー、その性質を意のままに扱うと言う生態が宝具となったもの。
扱えるコピー能力は多種多様で、炎や冷気を吐く、電気を纏う、レーザーを射出すると言う実戦的な物から、剣を振るう、ハンマーを振り下ろす等の物理攻撃。
果ては対城宝具に匹敵する程の超轟音や大爆発を発生させるなど、範囲攻撃もカバー。その一方で、ただ眠るだけと言うスカ同然のコピー能力もある。
遠近両方の戦闘をこなせる汎用性の高い宝具であるが、そのコピー能力を扱うには『吸い込む』と言う過程が不可欠で、これを経ない限り宝具の使用は不可能。
更にライダークラスでの召喚の為、この宝具を上回るランクの『コピー能力ミックス』や『スーパー能力』の使用は出来ない。

『睥睨せよ黄金の星(ワープスター)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜1000 最大補足:4
ライダー及び彼の住んでいた一部の住人のみが乗る事が出来る、黄色に薄らと光る五芒星状の乗り物。
本来ならば遠距離移動用の乗り物程度にしか過ぎない宝具なのだが、ライダークラスでの召喚の為そのランクが上がっている。
高度数百mを高速で飛翔する事を可能とするだけでなく、その高さから猛速で落下する事でランク相当の対人宝具として転用させる事が出来る。
ライダーのいた世界では普遍的な乗り物であった為、魔力を消費すれば修理、復活させる事が可能であり、潤沢な魔力さえあれば、乗り捨ててはまた攻撃に、と言った戦法を取る事も不可能ではない。


179 : 参 戦 確 認 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 21:22:33 qAlnxgVg0
『穹窿切り裂け虹の竜(ドラグーン)』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜1000 最大補足:1〜99
ライダーのいた世界に於いて、『伝説のエアライドマシン』としてその名を知らしめていた機体。
乗り物と言う点に限って言えばワープスターと同じであるが、その本質は根本から異なり、この宝具は完全に相手を破壊する攻撃用の騎乗物である。
桜色のボディに先の尖ったフォルム、虹色の翼を持つ、と言う優雅な形状をしており、それだけを見るのならば非常に美しい。
この宝具の運用方法は、ワープスターを遥かに超える程の速度を利用した『突進』と言う極めて原始的なそれ。
しかし、超音速を遥かに超える最高速度のこの宝具の直撃を受けると言う事は、耐久力に優れないサーヴァントならばその時点で即死も同然。
更にそれだけの速度で移動する為に、発生する衝撃波の規模も威力も尋常のものではなく、この衝撃波の直撃も、大ダメージを負うと言う事に等しい。
飛行高度もワープスターを遥かに上回り、この聖杯戦争に限って言えば、世界が許す範囲までの高さを飛翔する事が出来る。
生前の数ある伝説の一つに、城を遥かに超える規模の大きさの、亜空軍の超巨大空中戦艦の装甲をベニヤの様に貫き、衝突の衝撃波で艦全体が破壊されたと言う逸話からも、その威力は推して知るべし。

 破壊の規模、攻撃範囲、そしてその速度。全てがそのランクに相応しいと言える宝具であるが、欠点も少なくない。
発動には令呪一画を消費するだけでなく、発動中は膨大な魔力を消費し続け、極めつけが小回りが全く利かなく、殆ど直線的な移動しか出来ないと言う弱点がある。
特に最後の弱点は致命的で、反射神経と移動速度に優れた、或いは予知能力を持ったサーヴァントには、攻撃を読まれやすいと言う危険性をも孕んでいる。

【weapon】

本来ならばライダー――カービィは様々な宝具を保有していた、全局面に対応出来る万能のサーヴァントである。
セイバーランクならばギャラクシア、或いは虹の剣。アーチャークラスならスターロッド。
キャスターランクならばトリプルスター或いはラブラブステッキ等々。
母星や宇宙の危機を幾度も救ってきたライダーは破格の英霊であり、それに相応しい高ランクの宝具、そして極めて強力な固有スキルを幾つも所持していた。
それらの宝具やスキルは、ライダークラスでの召喚の為持って来れなかったが。

【人物背景】

ピンクのあくまがはねるとき、つわものどもはきょうふにおののく…。

宇宙で最も美しい星とされる惑星・ポップスター。その星に存在する、呆れかえる程平和な国プププランドに住まう住人。
但し最初から住んでいた訳ではなく、春風に乗ってやってきた旅人であるらしい。年齢や性別は一切不詳だが、「わかもの」である事だけは確かだと言う。
自由気ままで大食いなのんびり屋。座右の銘は、明日には明日の風が吹く。大好物はスイカ、或いはマキシマムトマト。
確かに強い星の戦士ではあるが、ゴルドーと毛虫が何よりも嫌い。前者は倒せないから、後者は食べられないからである。

【サーヴァントとしての願い】

沢山の食べ物が欲しいが、人を殺してまでは、と本能的には思っている。


180 : 参 戦 確 認 ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 21:22:51 qAlnxgVg0
【マスター】

富樫源次@魁!! 男塾

【マスターとしての願い】

なし。聖杯を完全に破壊する

【weapon】

ドス:
何の変哲もない短刀である

【能力・技能】

上記のドスを用いた喧嘩殺法を得意とするが、人間の形をした化物揃いの男塾の生徒の中では富樫の戦闘能力はとても低く、下から数えた方が速い。
富樫を富樫足らしめているのは、その規格外の超幸運――悪運の強さ――と、戦闘続行能力、耐久力、そして不屈の闘志である。
特に悪運の強さは最早異常とも言うべきもので、致死性の毒が体中を回った筈なのに復活、崖から落下し地面に激突したのにもかかわらず生存、治療を受けて復活。
数百mの高さの崖から落下するも先回りしていた先輩に落下を阻止され生存、アルカトラズ刑務所にて本当に刺殺されたのに何の説明もなく復活。
果ては老衰で臨終を確認されたにもかかわらず、招集状を持って来た同級生の声に呼応し復活する等、因果律を歪めているのではないかと言う程に死とは無縁の男。
「地球上のゴキブリが全滅しても俺は死なない」と富樫は発言しているが、全くそれが嘘じゃないのが、彼の恐ろしさである。
江田島平八を除けば、男塾最強の実力者である剣桃太郎は言う。富樫は、男塾の『カオ』であると。

【人物背景】

都内に建てられた創立三百年の全寮制私塾、男塾に在学している一号生。
男塾の切り込み隊長とも称され、ドスを使った喧嘩殺法の使い手。他の生徒達と異なり拳法などは学んでいない。
しかしその根性たるや並外れたものがあり、遥か格上の拳法や技術を持った相手を根性と機転、幸運で下す事も珍しくなかった。
バンカラ風の見た目からは恐ろしく硬派なように思えるが、その実煩悩の塊。女にモテたい、金が欲しい、と言う欲望に忠実な男である。
しかし本質的には他者の苦境を見過ごせず、仲間意識も非常に強く、そして人情に篤い熱血漢。
彼もまた、男塾の教育理念を正しく理解している『漢』なのである。

天挑五輪大武會終了後からの参戦であり、多くの仲間達がその戦いで死んだ――実は生きている――ものとまだ誤認している。

【方針】

聖杯を破壊はする、しかし情報が少なすぎるので、当座は仲間がいないか探してみる。


181 : ◆zzpohGTsas :2015/07/20(月) 21:23:05 qAlnxgVg0
投下を終了いたします


182 : ◆GO82qGZUNE :2015/07/22(水) 00:14:38 8ssQrtYU0
拙作「葛葉キョウジ&ライダー」の内容を若干修正したことを報告します。
何か問題がありましたら即刻以前の内容に差し戻します。


183 : ◆zzpohGTsas :2015/07/22(水) 21:08:55 um0rL9rE0
感想の程を

>>間桐シンジ&アテム
ご投下ありがとうございます。Fate/extraからと、遊戯王からですね。
でましたねぇ、スナック感覚で相手の人生を破滅させる畜生時代の遊戯君が。迷路の出口に向かってよー!! とか言ってた彼は何処に行ったんでしょうか。
<新宿>に参戦する遊戯は、童実野町でヤンチャしてた時代とDM時代が融合したサーヴァントの様ですね。
初っ端から原作初期を髣髴とさせる罰ゲーム描写を見れて安心いたしました。与える罰ゲームも原作にのっとった風のそれで、実に良い。
アテムとしての人格だけでなく、武藤遊戯本人も一緒になっていますが、extraシンジと仲良くカードゲームに興じる描写は、
<新宿>に起るこれからの血生臭い戦いの対比になっていて面白い。遊戯王世界よりもずっと世紀末になりそうな<新宿>聖杯戦争で、遊戯のカードバトルは、何処まで通じるのでしょうか。

ご投下、ありがとうございました!!

>>葛葉キョウジ&ヴァーミリオン・CD・ヘイズ
ご投下ありがとうございます。デビルサマナーからと、ウィザーズ・ブレインからですね。
完全に不幸以外の何物でもない事故で勝手に殺されてわけわかんない悪魔探偵の肉体に魂入れられて、何か殺し合いやらなくちゃいけなくなったデビサマ主人公は、
あまり目立ちませんけどアトラスキャラクターの中でも屈指の不幸キャラですよね。候補作のキョウジは、そんな不幸を飲み下して、キョウジとして生きているみたいですが。
キョウジとして生きる事を決めている事が解る描写と、仕事人として成長したキョウジの描写が、見事ですねぇ。
ライドウの事もそうですが、悪魔を使役するのとは訳が違う、サーヴァントを駆って行う聖杯戦争で、デビサマ勢は、どう立ち回るのでしょうか

ご投下、ありがとうございました!!



Gotham Chaliceに投下した作品の流用ですが、投下いたします


184 : 範馬勇次郎&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/22(水) 21:09:31 um0rL9rE0
 <魔震>の影響で国防の中枢を担う施設の地位を目黒駐屯地に譲ったとは言え、此処市ヶ谷駐屯地は今でも、国防の多くを担う施設として健在だった。
国家の要人が当たり前のように出入りする施設、しかもその要人の殆どが国家防衛を担当する者達なのだ。建造物の強固さは、一介のビルや家屋とは一線を画する。
最新鋭の耐震技術や耐火技術を取り入れて建設された施設である為に、駐屯地内の建物の殆どは、あの悪魔的な<魔震>の中にあって、外観が殆ど無傷の状態だった。
しかし、被害がなかった訳ではない。建物の中にいた防衛省の官僚達は物に押し潰されたり、階段から転げ落ちたりして、大けがを負ったり、死亡したり、
と言う被害が非常に多かった。無論それは、駐屯地内を見回っていた警備員や、其処にいた自衛隊員達も同様だ。

 <魔震>から既に二十年以上が経過した。駐屯地内の庁舎の被害は他の建物に比べて軽微だった為に、改築と修理は比較的早く済んだ。
無論この時に、当時の建築技術の最先端を行く耐震・耐火構造を徹底された事は言うまでもない。新宿区だけを襲った地震、通称<魔震>。
普通ならば、そんなバカなで一蹴されるような出来事が、実際に起ってしまったのだ。市ヶ谷駐屯地の改築を皮切りに、都内の自衛隊基地の全てが、
同じような処置を自らの所の基地に施した事は、至極当然の判断であった。

 市ヶ谷駐屯地は、<魔震>以前とは比較にならない程堅牢な基地となった。
先述の通り建物自体の強固性は勿論の事、其処を通っているインフラや設備、警備体制等々、<魔震>以前の市ヶ谷駐屯地の欠点と目されていた箇所が、
全て洗い浚い改良され、比喩抜きで、要塞のような防衛力を誇るに至った。……筈なのだ。

 その男は、市ヶ谷駐屯地の正門へと続いている、外堀通りを悠々と歩いていた。
人目を引かずにはいられない男である。<新宿>の都会を歩くには、その男は、天蓋から降り注いで来た隕石の如く、浮き過ぎていた。
道行く人々が、老若男女の区別なく、その男に目線を注ぐ。男の余りの異質性に、思わず目線を向けてしまうのだ。
そして、直に目線を逸らしてしまう。男が無意識の内に放つ、凶獣の如き殺意と覇気に耐えられないと言った風に。
しかし、そんなやりとりには慣れきっていると言った風に、男は威風堂々と、昼の<新宿>を肩で風切って歩いて行く。

 彼は、身体から香る獣臭と野性味を、隠そうともしない男だった。ライオンの鬣のような怒髪をオールバックにした、中年の男性。
だが、身に纏っている安物の黒いカンフー着の下で収縮している、筋肉を見よ。世界中の男がブラボーと称賛せずにはいられない程逞しい肉が、
黒の衣服の下に潜んでいる事が子供にも分かるであろう。皮膚の張り、搭載されている筋肉、背格好。誰が見たって、二十代の脂の乗った若者の身体つきである。

 男が立ち止まった。そして、ある方向に身体を向ける。
防衛省、と言う文字の刻まれた看板が、男の視界に入った。市ヶ谷駐屯地の内部へと続く正門前である。
先程述べたように、国防の中枢を担うと言う大役自体は、目黒駐屯地に譲られている。しかし、此処<新宿>の市ヶ谷駐屯地は、全てを譲ったと言う訳ではない。
当たり前だが、国防を担当する施設は、多ければ多いに越した事はないのだ。実の所目黒と市ヶ谷では、施設の数もインフラの質も、大差がない。
市ヶ谷もまた、目黒と同じで国防を担う最重要施設の一つ、いわばツートップの一つである。つまり今も市ヶ谷駐屯地は<魔震>前の如く、
防衛省の官僚達が日々職務を遂行する、国家にとって欠かす事の出来ない最重要施設として君臨しているのである。

 その施設の方に、男が堂々と歩いて行った。
まずもって、防衛省の敷居を潜るに相応しくない男である事は明らかである。
入口を警備している警備員に呼び止められ、要件を確認される事が――なかった。
制服を身に纏った屈強そうな警備員は、カンフー着の男――範馬勇次郎の姿を見るや、冷や汗を流しながら、彼の事をスルー。
市ヶ谷駐屯地の中に入る事を許してしまった。それが当たり前なのだと言った風に、勇次郎は駐屯地の中を我が物顔で歩いて行く。向かう先は、庁舎C棟。


185 : 範馬勇次郎&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/22(水) 21:10:35 um0rL9rE0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「また外をうろついていたのですか、勇次郎」

 眼鏡をかけ、マントを羽織った、如何にも、中世の世界から飛び出して来た魔道士然とした、美形の男だった。
顔以外に肌の露出はなく、厚手の布地で拵えられた服装。部屋の中は大して空調も効いていないと言うに、随分と厚着の男である。
そんな男が、部屋に入室して来た勇次郎を見るや、呆れた声音でそんな事を言って来たのだ。

「座して待つのは性に合わねぇ」

 ポケットに手を入れた状態で勇次郎が言った。悠々と、此方に向かって来る勇次郎。
普段の勇次郎は、常在戦場と言う概念が服を着て歩いているような男である。目線は常に一方向に定めさせ、フラフラする事などありえないのだが……。
今回ばかりは、事情が違う。部屋の中にあるもの全てが、勇次郎にとっては初めて目にするガジェットばかりであるからだ。

「手筈は整ったのかい」

 眼鏡の男の前に立ち止まり、勇次郎が問うた。

「この部屋だけに限って言えば、ですが。もっと万全の状態を期したいところですね」

 眼鏡の男――範馬勇次郎に従うキャスターのサーヴァント、『レザード・ヴァレス』は、言って辺りを見回しす。実に満足気な感情が眼鏡の奥で光っている。
およそ、勇次郎には想像もつかないような装置が広い部屋内に所狭しと配置されていた。
巨大な円筒状のガラスの中に、透明で粘度の高い液体に浸らされた成人の男性。ゴウンゴウンと言う音を立てる、工場によく設置されている蒸留装置のような大掛かりな機械。
オカルトの類になど興味も示さない勇次郎には、このキャスターが設置した代物らが何を意味するものなのか、見当もつかない。
一つだけ解る事があるとすれば、この部屋内にある全てのものは、既存の科学機器とは違う理論で構築され、全く違う運用法を行わねば活用すら出来ないと言う事だ。

「さしあたって此処を主だった工房としたいところですね。後は、この建物自体が倒壊しても、此処だけは無傷で済ませられる程強固にするべく、魔術を重ねがける事。
そして、此処と同じ様な工房を、市ヶ谷駐屯地の至る所に設営したい所ですね。そして、この作業と並行して、駐屯地の内部に、不死者を警備役としてバラまきます。これを以て初めて、私の工房作成は終了と言った所でしょうか」

「面倒くせぇ奴だ」

 さぞつまらなそうな調子で零す勇次郎を見て、レザードの眉がピクリと動いた。

「これがキャスターの戦い方の定石……と、貴方にはウンザリする程言ってきましたか」

「定石云々はこれ以上聞きたくはねぇな」

「私の願望成就もかかっておりますのでね。何度でも、口にしますよ。勇次郎、貴方のやっている事は正気の沙汰ではない」

「その話も何回目だ、レザード」

 今にも床に唾吐きかねない程の装いで、勇次郎が言葉を返した。

「お前にキャスターが籠城するにあたってこれ以上とない場所を提供してやったんだぜ。少しぐらい俺のわがままも認めて欲しいもんだがな」

「この市ヶ谷駐屯地を提供して下さった事は、感謝してもしきれませんよ。ただ、それで貴方がサーヴァントと交戦し、死んでしまっては籠城の価値がなくなります」

 霊地ではないものの、レザードが駐屯地と言う極めて優れた拠点を手に入れられた訳は、ひとえに勇次郎による所が大きい。と言うより、彼の手腕が全てだった。

 地上最強の生物、と言う呼称に相応しく、範馬勇次郎と言う男は、人間と言う枠の限界を超越した身体能力及び戦闘能力を持つ。
彼はその力を、戦場と言う場所にぶつけた。銃火器の携帯は勿論、ナイフ一本身に帯びる事すら許さない。
完全な徒手空拳で、彼は傭兵として、世界中の様々な戦場や内紛地を駆け抜けた。このような行為を続ける内に、ついたあだ名が地上最強の生物、或いはオーガだ。
本人はただ欲望を満たす為に行っていた行為だったが、金や名誉、コネと言うものが勝手について来た。
殆どが彼の振るう国家の軍事力に匹敵する暴力を恐れての、歩み寄り、ではあるが、繋がりである事には変わりない。
世界中のVIPや官僚、国家首脳と裏でコネクションを持っている、法の外に君臨する男の一人。それこそが、範馬勇次郎――現代に生きる鬼なのである。


186 : 範馬勇次郎&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/22(水) 21:11:02 um0rL9rE0
 元居た世界でのそんな立場が、此処<新宿>でも反映されていた。
この世界における範馬勇次郎の立ち位置は、結論から先に言えば元の世界と大して変わらないと言っても良い。
拳一つで戦場を駆け抜けた生きる伝説、全世界の軍人の憧れの的。そして、国家の威信を揺らがしかねない、地上最強の暴力を一個人で有する者。
それがこの世界での勇次郎だ。が故に国家首脳にも融通が利く程のコネを有している。ましてや国防関係ともなれば、当然のように繋がりを持つ。
勇次郎はその繋がりを利用した。防衛省の官僚にアポを取って置き、市ヶ谷駐屯地内部へと入り込むや否や、彼はレザードの霊体化を解き、
この優れたキャスターの卓越した魔術を以て、たちどころに駐屯地内の官僚や警備員、自衛隊員を洗脳。すぐに自分の陣地に昇華させてしまった……こう言う訳である。

 市ヶ谷駐屯地は<新宿>全体を見渡しても、これ以上と無い程、キャスターが陣地作成を行うのに適した場所である。
広さや建物自体の強固さもそうだが、此処を警備する自衛隊員や警備隊員の質も素晴らしい。レザードは魔術に精通したサーヴァント、強化手段はどうとでもなる。
現時点において、範馬勇次郎とキャスター・レザードは、間違いなく<新宿>に馳せ集った聖杯戦争参加者の中で、最も優れた拠点を手に入れた主従である。

 ――であるのに、レザードから憂いの念が消えない訳。それは、マスターである範馬勇次郎と言う男の性情が原因であった。
世辞抜きに、勇次郎と言う男は、強い。恐らくレザードが生み出す不死者達ですら、勇次郎には勝てないかも知れない。
つまりこれは、彼を魔術的な手段で強化させ、道具作成で作製したアイテムの数々を装備させれば、サーヴァントと戦えるだけでなく、
素の近接戦闘能力が極端に貧弱なレザードを護る盾としての役割も期待出来ると言う事を意味する。そう、マスターが強いと言う事は、本来ならば非常に宜しい事だ。

 レザードの卓越した魔術の技量で、勇次郎を強化する。そして勇次郎が強化された状態でサーヴァントと交戦する。
レザードの殴り合いの貧弱さを勇次郎が補い、神秘性を帯びていないと言う理由でサーヴァントを殴れないと言う揺るがない事実をレザードが補う。
一見すれば、これ以上と無いベストパートナーであろう。しかし、この主従には唯一にして最大の欠点があった。両者の聖杯戦争に対する、スタンスである。

 結論から先に言えば、勇次郎は自らのその強さに自信を抱き過ぎていた。
全人類の想念の具現体、過去の、そして未来の英霊・猛将・大悪党の具現にも等しいサーヴァントと戦える程、自分は強いのだと思い込んでいた。
元々勇次郎はそう言う男だ。自分が地球上で最強の生物と信じて疑わず、そして、自分と互角の存在を何よりも求める喧嘩狂い。
聖杯戦争とは端的に言えば英霊どうしの戦い、神話や伝説の再現に等しい戦いなのだ。勇次郎がこれに燃えない訳がない。
そう、勇次郎はレザードに断りもせず、一人で<新宿>をうろつき、サーヴァントを探す事が多いのである。レザードの心配事の全ては、此処に集約される。

 レザードはキャスターとしての戦い方に忠実に従いたいのである。
陣地作成で拠点を作り、其処で道具作成でアイテムを生みだし、不死者達を創造させ、使い魔を利用して他陣営の動向を探る。
着実に駒と道具を生み出して、勝利を盤石にして行きたいのである。慎重派と言う訳ではないのだが、キャスターのクラスで王手を打つのならば、これが確実だとレザードは考えていた。

 これに対し勇次郎は、自らサーヴァントのもとに赴き、彼らを自らの力で下したいのである。
勇次郎は闘争を世界の誰よりも好む男だった。世界に名を轟かせた偉人や猛将、果ては御伽噺の中でしか語られない存在と戦える。
強者との戦闘をSEX以上のコミュニケーション手段とし、末期にはアフガンやベトナムの戦場すらも退屈と称していた勇次郎が、この聖杯戦争に燃えない筈がなかった。
いつだったか、自分の腕力をヘラクレスのようだと褒めた大統領がいた事を勇次郎は思い出す。
此処ではそのヘラクレスが、実在の存在になるかもしれないのだ。イメージトレーニングで、カマキリや恐竜と戦うのとはわけが違う。それが楽しみで楽しみで、子供のように、その時が来るのをワクワクして過ごしているのだ。


187 : 範馬勇次郎&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/22(水) 21:11:24 um0rL9rE0
 だが、運命の神と言うものは何時だって意地の悪い事をする
勇次郎は全く、聖杯戦争の参加者に出会えない。東京都全域が聖杯戦争の舞台であると言うのならいざ知らず、<新宿>と言う狭い街の中で、遭えないのだ。
彼のフラストレーションはたまる一方だ。上等な料理があると解っていながら、其処まで辿り着けない。果たしてこれ程の苦しさがあろうか。
勇次郎にとっては、ない。ボヤボヤしていたら、どんどんサーヴァントが脱落していき、喰える餌にありつけなくなってしまうのだ。
レザードとしてはそれが一番の展開なのだろうが、勇次郎としては全く違う。二人の考え方は、一見してもすぐにわかる程の、水と油。正反対のものなのだった。

「とっとと作業を終わらせろ阿呆が。待ちくたびれてたまんねぇよ、俺は」

「……お前はそんなに、戦う事が好きか」

 ――底冷えするような、レザードの声音だった。地の底から這い出てくるような、低い声。
一見すれば優男風の顔立ちで、体格も筋量も、特筆するべき所はない。であるのに、何故、彼はこんな、息苦しくなるような威圧感を声に込められるのか。
その声には、殺意だけではない。並々ならぬ執念と、ある女性に対する信仰。これらが綯交ぜになっていると言う事を、勇次郎は果たして、気付けたかどうか。

「この世で一番のコミュニケーションだ」

 威圧感を醸すレザードもレザードなら、それを受け流す勇次郎も勇次郎だ。
彼はキャスターのサーヴァントが放出する冷たい怒気に対して、臆した様子も見せはしない。虚勢ではない。範馬勇次郎には、恐怖と言うネジが初めから嵌められていないのだ。

「俺は聖杯なんて言うものには興味がねぇ」

 出し抜けに、勇次郎がそんな事を口にし始めた。

「願う事なんざありやしねぇよ。俺にとっては、強い奴を喰らう事が願いだ。俺の願いは、聖杯戦争に呼び出された時点で叶ってる。
こんな面白い催し、楽しみで楽しみでしょうがねぇよ。早く、サーヴァントって奴がどんなものなのか知りてぇんだ」

 其処で言葉を切った勇次郎が、鋭い目つきでレザードを睨み始めた。
両者の間の空間が、歪み始める。汗がにじむ程の熱気を孕み、陽炎の如く空間を歪ませる殺意を放出する勇次郎と、ブリザードの様に凍て付いた、重い殺意を放射するレザード。
二人の気魄がぶつかり合い、弾け、工房の中をグルグルと高速で循環して行く。

「テメェは聖杯にかける願いってもんがあるんだろう、レザード」

「譲れない願いが、ね」

「俺は聖杯はテメェにくれてやるし、この事でお前を出しぬくなんて事はしねぇよ。そんな物はテメェの好きにしろ。
だが、市ヶ谷駐屯地を提供して、聖杯すらもタダでやるんだ。俺のサポートをするのが、此処までしてやった俺に対する仁義ってもんじゃねぇのか?」

「それで貴様が滅びれば、私の願いも水泡に帰すだろうが、馬鹿めが」

「そうしねぇようにマスターを支えるのがサーヴァントなんだろう? 優秀なキャスター様なんだ、俺を支えてくれよ」

 勇次郎の口の両端が、吊り上った。口が耳まで、刃で切り裂かれたような笑みであった。
そんな彼の狂笑の相を数秒程、鋭い目つきで睨んでいたレザードだったが、呆れた様な溜息を一つ吐いてから、錆びて軋んだ扉のようにゆっくりと、その唇を開き始めた。

「……出来得る限りの事はして見せますよ。とは言え、私のサポート出来る範囲の事を逸脱は、しないで下さい」

「良い返事だぜ、レザード」

「……少し休息を挟む。何処ぞへ消えろ、勇次郎」

 不機嫌そうにそう告げるレザードに対し、勇次郎は肩を竦め、言われた通り工房から退室。
何処へ向う、と聞きそびれたが、問題はなかった。勇次郎に手渡した、サーヴァントを殴れるようになる程度の神秘を纏わせる小物には、<新宿>内の何処にいて何をしているのか。
リアルタイムで把握できるような魔術的な仕組みを施してある。危機に陥っているとわかったのならば、移送方陣でその位置まで空間転移すれば問題はない。


188 : 範馬勇次郎&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/22(水) 21:11:38 um0rL9rE0
 全く頭のおかしい男だと、レザードとしては思わざるを得ない。常軌を逸した戦闘狂。我欲を満たす為だけに戦場を駆け抜けたと言う事実。
この世界に愚神オーディンがいようものなら、真っ先にヴァルキュリアに命を下し勇次郎の魂は神の所持物となり、その日の内にエインフェリアになっている事だろう。
無駄に弁も立ち、頭もキレる、そして何よりも性格が気に入らない。レザードにとっては不愉快の権化のような存在だ。
だが、強い。この一点だけは認めざるを得ない。腹ただしい事だが、この一点がある限り、勇次郎を裏切って他のマスターに鞍替え……と言う訳には、中々行かなかった。

 恐らく、あの男に匹敵する強さを誇るマスターは、聖杯戦争の中でもそうそう存在するまい。
不死者にして思い通りに動く傀儡にしようかとも思ったが、この男の強さの源泉は、自らの圧倒的な強さに裏打ちされたエゴイズム(自我)であるとも、レザードは気付いていた。
不死者にすると言う事は、その存在を術者の操り人形にすると言う事と同義。勇次郎の長所を殺してしまう危険性がある。
それは避けたい。この男の腕力はそれだけの利用価値があった。その強みを潰す様な愚作は、犯したくない。

 キャスターと言うのはその時点で不利を背負わせられているに等しいクラスである。
三騎士相手には対魔力のせいで思うように力を揮う事が出来ず、折角築き上げた工房も、相手から侵入して来なければ、意味がないのだ。
待ちには強いが、攻め手には欠ける。それが、キャスターと言うクラスだ。故にこのクラスは他クラス以上に、マスターとの緊密な付き合いと綿密な作戦が不可欠なのだ。
そのマスターがアレでは……レザードの胃も、痛くなろうと言う物だ。

 だが、それでも。レザードは聖杯戦争を諦めない。
彼は勇次郎のように、聖杯戦争に参加した時点で願いが叶ったと言う訳ではない。漸く、スタートラインに立てた、と言う所なのだ。
レザードは、この戦いに生き残り、聖杯戦争に勝利する必要がある。そして、今度こそ我が物とするのだ。
レザードがありとあらゆる知謀をめぐらせても、遂には創造主に等しい権能を手に入れても、振り向かせる事も出来なかった、初恋の相手。
彼が求めてやまない、至上の美を誇る戦乙女、レナス・ヴァルキュリア。自らの浅はかな行動で世界から消えてしまった彼女を、聖杯の奇跡で蘇らせたい。
そうして今度は、自分の手で、彼女の心を自らのものとするのである。それが、レザードの願いなのだから。

「レナス……愛しい人よ……」

 虚空を見上げ、呆然とレザードは呟く。

「……あの愚かなマスターも、貴女を我が物とする為の試練であると言うのであれば……私は、耐える事が出来ますよ……」

 瞳を閉じ、瞼の裏の暗黒に、あのプラチナのように輝く銀色の髪の凛々しい美女の事を思い浮かべるレザード
思い出を頼りに描くレナスの偶像は、彼に何も言葉を掛けてはくれない。ただ、彼女との思い出と、その中で彼女が見せた仕草を彼はなぞるだけ。
あの美しい戦乙女を我が物に出来る可能性があるのならば、レザードは一度は見限った神の奇蹟とやらも、今一度信じてみる気になれるのだった。


189 : 範馬勇次郎&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/22(水) 21:11:57 um0rL9rE0
【クラス】

キャスター

【真名】

レザード・ヴァレス@ヴァルキリープロファイル

【ステータス】

筋力E 耐久E 敏捷D 魔力A+ 幸運A 宝具A+++

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

陣地作成:B
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。“工房”の形成が可能。

道具作成:A+
魔術的な道具を作成する技能。
錬金術、屍霊術を初めとする様々な魔術を極め、物質を構成する原子の配列変換を高いレベルで行えるキャスターは、
時間及び材料さえ揃えば、グールパウダーやエリクサー、ホムンクルス、果ては賢者の石の作成すら可能とする。

【保有スキル】

錬金術:A+
賢者の石の作成を目的とした魔術体系。キャスターは過去に賢者の石の作成に成功している為、ランクは最高クラスである。

屍霊術:A
ネクロマンシー技術。死体や悪霊、幽鬼等のアンデッドや魂、霊魂に関する知識やそれらを扱う技術に長けているかどうか。
キャスターは高いレベルの屍霊術を操り、種々様々な不死者の作成が可能である。

信仰の加護(偽):A
一つの宗教観に殉じた者のみが持つスキル。加護とはいうが、最高存在からの恩恵はない。
自己の精神を強く保証し、自らの信ずる理念において、様々な非人道的かつ残虐な所業を行う事が出来る。
キャスターの信仰の対象とは、彼のいた世界における最高神であるオーディンでもなければ豊穣の女神であるフレイでもなく、
彼らの手足として働く戦乙女ヴァルキュリアであった。但し彼の場合はヴァルキュリアを信仰の対象と言うよりは、愛情の対象としてみていたようだが。

使い魔使役:B
優れた魔術師として使い魔を使役する事が出来る。
キャスターの場合は主に実在する動物を使い魔にする事を好み、元いた世界では鳥や猫を操っていた。

【宝具】

『万象記憶せし知識の魔石(賢者の石)』
ランク:A+++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
錬金術師のみならず、キャスターのいた世界であるならばあらゆる者が求めたと言う究極物質。
見た目はただの石にしか見えないが、その実、世界が創世される以前をも含めた、ありとあらゆる知識の集積体。
魔法にも等しい効能を持つ失伝魔法(ロストミスティック)をも網羅している。
だがこの宝具から知識を抽出する作業は非常に難しく、求めている知識は簡単には引き出す事は出来ない。キャスターに曰く、百億ページもある辞書のようなもの。
解析にさえ成功すれば、人の身でありながら神々しか知らない知識を知る事は元より、魔力量が許せば本来ならば神霊しか扱えない失伝魔法をも行使が出来る。
聖杯戦争に関しては、解読に時間をかければ他の参加者の情報及び、サーヴァントの真名や来歴、所持スキルや宝具と言った情報すらも手中に収められる。
また莫大な魔力を有する魔力炉としての効果も備えており、キャスターが操る魔術の効能を底上げする効果も持つ。
そして最終手段として、賢者の石が内包するその魔力を全て犠牲、つまり宝具を破棄する事で、並行世界からの干渉や五つの魔法、神霊級の奇跡や魔術をも一時的に無効化させる
生前キャスターはその効果を使用する事で、四宝・ドラゴンオーブが放つ、世界を焼け落とす終末の炎・ラグナロクをも無傷で乗り切った。

【weapon】

聖杖ユニコーンズ・ホーン:
ユニコーンの角を原子配列変換する事で作成出来る杖。
魔法(魔術)を遥かに超える規模・威力を誇る『大魔法』の発動を可能とする触媒。
大魔術の発動には膨大な魔力を必要とする為、その魔力に耐え切れず自壊してしまう杖が多いのだが、この杖にはそう言った心配が存在しない。

魔法及び大魔法:
元いた世界の、戦闘用の魔法(魔術)の殆どを極めている。
大抵の魔法は一工程で発動可能だが、大魔法クラスとなると、二小節の詠唱を必要とする。
使用する大魔法にはこだわりがあるらしく、天空から隕石を飛来させ、落下させるメテオスウォームの使用を好む。
どちらも短い詠唱で発動可能だが威力は高く、魔法レベルならBランク以下、大魔法レベルになるとAランク以下の対魔力でも容易くダメージを通す。


190 : 範馬勇次郎&キャスター ◆zzpohGTsas :2015/07/22(水) 21:12:50 um0rL9rE0
【人物背景】

男は優れた魔術師だった。錬金術も、魔術も、ネクロマンスも、何でも出来た。だが、協調性がなかった。そして、頗る残虐な思想の持ち主だった。
師匠から魔術学院を破門された。身を縛る要素がなくなりかえって好都合になった彼は、一人で研究を進めた。
その最中に、美しい戦乙女の姿を見てしまった。惚れた。彼女を自分のものにしようと八方手を尽くした。エルフを殺し、師匠も殺した。
しかし、手に入らなかった。彼女を手に入れる為に、彼は時を超えた。紆余曲折を経て、手に入れる事は一時的ながらできた。
だが惚れた戦乙女の横槍のせいで、指の間から水が零れ落ちるように彼女は離れて行った。逆上した彼は、戦乙女の一人とそのエインフェリア達に襲い掛かった。敗れた。
今わの際に、彼は悟った。神の力であろうとも、命と魂を御す事は出来ないと。そして、神は自分が期待していた程万能ではないと言う事を。

【サーヴァントとしての願い】

レナスを復活させ、今度こそ彼女を自分のものとする




【マスター】

範馬勇次郎@バキシリーズ

【マスターとしての願い】

ない。だが聖杯戦争がもし楽しければ、別の何処かで開催している聖杯戦争に参加したい。

【weapon】

身体:
勇次郎は重火器やナイフなどと言った、一般的な意味での武器を持たない。
しかし勇次郎の肉体は、それらよりも遥かに危険であり、ある者は勇次郎の姿を見て、巨大空母一隻分以上の戦力だと錯覚した程。
m単位の厚さのコンクリート塀や鉄板を破壊する腕力や、銃弾すらも見切れる程の反射神経など、地上最強の生物と揶揄されるに相応しい身体能力を持つ。

【能力・技能】

勇次郎はその圧倒的な身体能力をいかんなく発揮させ、思うがままに暴力を振るう戦法を好む所とする。
打撃の要となる背筋が鬼の顔の様に見える事から、通称「鬼の貌」と呼ばれる天然のヒッティングマッスルを持ち、その筋肉に裏付けされた力で、思い切り殴る、蹴る。
それが勇次郎の戦い方である。ただ、勇次郎自体は世界中のありとあらゆる格闘技及びその技の数々に精通しており、その気になれば一度見ただけで、
その格闘技の体系の中で最高級の技とされるものをトレース、自分のものとして使う事が出来る。
但し勇次郎は格闘技における技術を不純物と断言し、純粋な力こそを至上としている為、その技を使う事は滅多にない。
また解剖学や人体に精通し、数々の戦場を渡り歩いた為か、『相手の身体的な弱点を自動的に発見する』と言うスキルも持つ。
本人すら気付かないような些細な弱点(未発見の虫歯・癌なども)でさえ無意識的に発見出来、 その診断能力はベテランの医師すら上回ると言う。

人の身でありながら、Aランク相当の勇猛や心眼(真)、天性の肉体にカリスマ(偽)、反骨の相、無窮の武錬などに相当するスキルを持ち、
彼自体がサーヴァントとして呼び出される可能性すらある存在。キャスターによる強化なしでも下手なサーヴァントに肉薄するその身体能力は、マスターとしてはまさに破格と言う他ない。

【人物背景】

地上最強の生物、鬼(オーガ)と作中で呼ばれている男。主人公である範馬刃牙の父親であり、また彼の目標でもある存在。
自らの戦闘欲求を満たす為に数々の戦場を拳一つで渡り歩き、そして武勲を上げ続けて来た規格外の生命体。
最近息子の刃牙と史上最大の親子喧嘩/茶番を楽しんだが、それ以降は恐ろしく暇な日常を過ごしていた。

『範馬刃牙』に於いて、刃牙との最後の戦いの後、退屈な日常を送っていた時からの参戦。

【方針】

サーヴァント達と殴り合いたい、本気を出して戦いたい。但し、サーヴァントであるレザードの意向も汲んでやらないとつまらない結果を招いてしまうので、当分は彼の言い分も呑んでやる。


191 : ◆zzpohGTsas :2015/07/22(水) 21:13:08 um0rL9rE0
投下を終了いたします


192 : 名無しさん :2015/07/23(木) 20:55:24 LKtxRWFs0
な、なんだ?!この極悪極まりなく一体何をやらかすかが楽しみで仕方がない主従は!
頭は切れていても、倫理観など最初から崩壊している組み合わせじゃないかw


193 : 名無しさん :2015/07/24(金) 18:44:12 IAffJcXk0
そんな凄いマスターのA君と凄いサーヴァントのB君が
まるで意図したかのように出会ったのだから意図したんだろう


194 : ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:23:06 gADONqU60
投下いたします


195 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:23:34 gADONqU60
   山のあなたの空遠く

   幸(さいわい)住むと人のいう

   噫(ああ)、われひとと尋めゆきて

   涙さしぐみ、かえりきぬ

   山のあなたになお遠く

   幸住むと人のいう


               ――カール・ブッセ、山のあなた


.


196 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:24:39 gADONqU60
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 人口総数と人口密度と、犯罪数の関係は、当然のように比例の関係にあると言っても良い。
無論、住んでいる人間の年齢だとか、職業の傾向だとか、『質』、と言った物も加味されて然るべきである。
だが、人口総数と人口密度が、犯罪の発生数と関係が深い。理由は単純明快、人の数が多いと言う事は、色々な奴がいると言う事に他ならないからだ。
善良な性格の人間もいれば、そうでもない人間もいる。理屈としては馬鹿みたいに単純だが、結局はこれが全てである。

 では、人口総数と人口密度が共に平均よりも高く、かつ職業が堅気のそれではない人物が多く、人間の質も悪い人間が集う街の犯罪数は、多いのか? 低いのか?
……小学生でも結論は導き出せる。低い筈が、ないのである。

 <魔震>から完全復興した後も、歌舞伎町は<魔震>前の、アジア屈指の歓楽街として返り咲いていた。
家電量販店もあれば、パチンコ店もフランチャイズの飲食店もある。仕事に疲れたサラリーマンが鬱憤を晴らす居酒屋もあれば、バッティングセンターもある。
だが、歌舞伎町にあるのはそんな健全な施設だけではない。欲望産業の花形とも言えるキャバクラやホストクラブ、性風俗店も、この街を彩る役者の一員だ。
この街の夜を往く人達は、サラリーマンもいればOLもいるし、サークルの飲み会の大学生だっている。彼らは皆、歌舞伎町の表面の主役である。
裏の主役は、誰なのか。それは暴力団や極道者……俗的な言い方をすれば、『ヤクザ』と言った者達である。

 欲望産業の裏には、必ずと言っても良い程ヤクザの存在が関わっている。
風俗、キャバクラ、ホストクラブ。公営ギャンブルのパチンコにだって、彼らの姿はチラついている。
歌舞伎町の闇と影とに跳梁するアウトサイダー達は、何も日本の街であるからと言って日本人しかいないと言う訳ではない。
ヤクザの他にも、中国や韓国系のマフィアも跋扈しているし、タイやフィリピン、ロシア系のマフィアの姿だって見る事が出来る。
近年は時代の流れもあって、昔のような血生臭い、何人もの人間の命に係わる大事件などは減ってはいるが、それでもヤクザ者の本質は、暴力及び、
違法スレスレの稼業やビジネスで利益を喰らう事である。トラブルの発生数は、減りこそすれど、ゼロになるわけでなかった。

 彼らの存在は歌舞伎町、ひいては<新宿>全体の犯罪発生数の多さを担う、言わば癌であった。
組構成員の、学も何もない不良や暴走族上がりのチンピラが起こすトラブルもそうだが、経営のイロハも無い経営者が運営するぼったくりバーやキャバクラ。
そう言った店への客引きを行う外国人との面倒事。ヤクザ自体が問題を起こさなくなったと言っても、組織の末端が問題を起こさないとは、限らないのである。<新宿>は今日も、トラブルが絶えない街であった。

 そんな、闇社会の凝縮体と呼べる街に、一つのマンションが建てられている。
ラブホテル街のど真ん中に建てられたそのマンションを警察関係者や事情を知っている情報通は、ヤクザマンションと言う直球の名前で呼んでいる。
その名前が指し示す通り、このマンションはヤクザの巣窟とも言える建物であった。ヤクザ以外の人間、所謂カタギの人間など、総部屋数の二割程度しか住んでいない。
残りの住民は、皆ヤクザ及び彼らの関係者だ。外観は一見すると<新宿>に相応しい、モダンチックで洒落たマンションだが、その中は異界も同然。
このマンションの一室を組事務所や組長の住処にしているような弱小組織もいれば、末端組員複数人を住居一つにルームシェアの要領で住まわせている所もある。
組長や組の幹部の愛人の住まいにさせている者もいれば、タコ部屋にしている所もある。組のシノギを担当する者や企業舎弟もいれば、秘密のSMクラブや賭博場をしている所も。
宛ら、ニ十世紀の末に取り壊された九龍城塞を思わせる様な魔窟ぶりだった。事実此処は、真っ当に生きる人間にしてみれば魔界も同然の建造物だ。
三十弱の組が犇めき合うようなマンションなど、普通の感性の人間から見たら、近寄りたくもない場所であろう。


197 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:25:34 gADONqU60
 ――斯様な魑魅魍魎の伏魔殿を、長らく見上げる女性がいた。
線の細い、華奢そうな身体つきをした、茶髪女性であった。幼さの名残を残しつつ、大人の色香を香らせる、その顔立ちと身体つき。
歌舞伎町の繁華街を歩けば、ナンパや客引きから声を幾度もかけられる事は必定だろう。

 女性はそんな恵まれた顔を、怒りに歪ませていた。
今の彼女の表情には、平時のようなやや童顔の愛らしい顔の面影が欠片も無い。もしも、般若と言う存在が実在するのであれば、きっと彼女のような表情をしているに違いない。
そう思わせるに足る、怒りの顔相だった。今にも火花が飛び散りそうな程、その瞳には激しい怒りが燃え上がっている。視線だけで、人が発火しかねない。

 スタスタと女性は、我が家にでも入る様な気楽さを以て、ヤクザマンションの中へと入って行く。
が、本当に入口に入れただけで、ガラスの自動ドアに阻まれエントランスには入れない。
それはそうだろう、今日日のマンションは、入り口に設置されたインターホンパネルで、入りたい部屋の住民番号を入力し部屋主の了承を取るか、
専用のキーがなければ入れない仕組みになっている。このマンションの住民でもない彼女が、入れる訳がない。

 その女性――『セリュー・ユビキタス』は、舌打ちをした後で、目にも留まらぬ速度で右腕を横薙ぎに、一閃。
薄氷のような脆さで、ガラスの自動ドアは粉砕される。ジリリリリリリ!!! とけたたましい非常ベルの音が鳴り響く。
セリューの右手には、ある物が握られていた。武術に精通した者であれば、彼女の握るそれが沖縄武術におけるトンファーに酷似した代物であると、即座に看破出来た事であろう。
非常ベルの音を聞き、即座にエントランスの警備室から、四名の警備員が警杖を握ってやって来た。
このマンションにおいては警備員達ですら、ヤクザの息のかかった者……いや。むしろヤクザそのものと言うべきか。彼らはヤクザの配下企業の警備員であった。

「何をしているお前!!」

 警備員の一人で大喝する。目の前にウザったらしく飛ぶ蠅を見る様な、イラついた表情でセリューが口を開いた。

「お前達の方こそ何をしている」

 と。「何だと」、と四人の警備員の内最も歳をくった男が言った。

「このマンションの住民が、皆人間の屑と解っていて、何でお前達はこんな所の警備などしている?」

「馬鹿かお前、金さえ貰えば警備するのがプロじゃねぇかよ!!」

「そうか。だが、お前達はここに住んでいるヤクザ者とグルだろう?」

「こんなマンションの警備してるんだから、誰だってそれ位解るだろうが。おいたが過ぎたな嬢ちゃん、何処の極道の敵討かは知らねぇが……此処にカチコミ来る奴は生きてかえさねぇぞ」 

 ドスの効いた、低い声。カタギの人間には、出そうと思って出せる声ではない。彼らが闇の世界に生きる住民である事の何よりの証拠である。
四人が警杖を構えたのを見てセリューは、手に持ったトンファーを交差させる様に構えた。
警備員達が怪訝そうな表情を浮かべる。彼女の手に持った武器の異様な風体を訝しんだ為か? それとも、彼女のトンファーに、奇妙な、銃口めいた孔が空いていると言う事にか?

「正・義・執・行」

 警備員達が、トンファー状の武器の正体に感付く前に、セリューがそう口にした。
警備員達のドスの効かせた声よりも尚低く、そして、無慈悲さすら感じられる冷たさを宿した声。
氷山の如く冷たく重い声を聞き、四人の大の大人達が、震えた。声もそうだが、セリューの顔が――余りにも、狂的過ぎて……。

 ――警備員達が次の行動に移るよりも速く、火薬の炸裂音が、エントランスに響き渡った。十数回程だった。
硝煙のような物が、セリューのトンファーの孔部分から煙っている。無感動な瞳で、彼女は目の前の四人の男達を見ていた。
彼らは額に、眼球に、鼻に、喉に、胸部に、腹部に、四肢に。向こう側の風景が見える程見事な穴が空いていた。
その穴が、一秒と掛からない短い時間で、血色の穴に変貌する。苦悶の絶叫を上げて、二名の警備員が蹲る。残りの二人は、その黒点が穿たれた瞬間に死亡していた。
セリューが彼らに空けた穴は、銃弾による弾痕に他ならない。彼女の持っていた武器は、事実トンファーである。
但し、ただのトンファーではない。武器の内部に、銃の構造を隠し持たせた、トンファーガンと呼ばれる武器だった。


198 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:25:58 gADONqU60
 まだ息のある警備員に、トンファーガンを発砲。橙色のマズルファイアが、銃口で太陽のコロナめいて燃え上がった。
二発の弾丸が、寸分の互いもなく二人の脳幹を貫いた。即死である。苦悶の表情を浮かべる四人の警備員を確認するや、セリューは急いで一階廊下へと駆け出した。
事態を察知したヤクザが数名、廊下に出ていた。非常ベルの音もそうだが、このマンションでは拳銃、即ちチャカの発砲はタブーである。
<新宿>に限らず、日本の社会と言うのは今も昔も銃には非常に神経質な国。裏の社会でもそれは変わりはない。
このマンションで銃を用いようものなら、即座に所謂村八分の状態にあう。暴力で飯を食う男達だからこそ、拳銃にはより一層カリカリしているのだ。
そんな男達だ、セリューのトンファーガンから響き渡る銃声を聞いて、慌てて廊下に飛び出すのも、自然な事と言えた。
 
 此方に向かって来るセリューに気付いた男達。
眼鏡をかけた痩せぎすのヤクザの額を、トンファーで突き抜いた。頭蓋を粉々にされ、即死する。
事を認識しきれていない残りの男達に対して、セリューはトンファーガンを発砲。小太りのヤクザの心臓を打ち抜いた弾丸は、勢いをまだ失っておらず、
人を殺しうる推進力を保ったまま、彼の背後にいた中肉中背の男の肺を穿った。

「ッのアマぁ!!」

 漸く事態を呑み込めたヤクザ達が、懐から匕首を取り出した。
一番先頭にいた、髭面の中年の顎に、セリューは目にも留まらぬ速度でトンファーを振り抜く。顎を破壊され、彼は前のめりに倒れ込む。
後ろにいたヤクザ達が此方に向かって来る前に、セリューはトンファーガンを発砲し、彼らの急所を撃ち抜く。最小限度の弾丸の消費で殺す為だ。

 前に立ちはだかる男の眼球をピンポイントでトンファーで殴打するセリュー。
その男が倒れると同時に、彼女から見て前の方の部屋から、慌ててヤクザ者が飛び出してくる。
倒れ伏すヤクザの上に立つセリューの姿は、彼らから見たら、地獄の釜底から這いあがって来た悪鬼羅刹の類にしか、見えなかった。


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199 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:26:26 gADONqU60
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 経済ヤクザ、と言う言葉が一般にも浸透して来てしまった今日において、来生組と言う組織は、教科書に載る程のステロタイプなヤクザと言っても良かった。
今日の暴力団と言う者は、一見してそれと関係している人間であると解り難いものだ。昔と違い、代紋をひけびらかして夜の街を肩で風切って、と言う時代は終わった。
今日日ヤクザも外行きの時はスーツを着、堅気の人間にも敬語を使う、と言うのが殆どである。
そう言った時代の流れに逆らうような風体、言葉遣い、そして稼ぎ方をしているのが、ヤクザマンションの六階を事務所としている来生組だ。
組員全員が、一目見て『そっちの筋』と解る様な凶悪そうな人相をしており、誰に対しても伝法な口調を使う。
そして極め付けが、そのシノギの上げ方。暴力団の名に恥じず、拳と匕首、チャカを用いて利益を上げるのである。
好意的な言葉を使えば、武闘派集団。悪意的な言葉を使えば、時代遅れの荒くれ者。どちらかと言えばヤクザマンションでの彼らの評判は後者の方だった。

 組長、来生健介は五十にもなる中年のヤクザだった。拳と匕首捌きだけで今の地位にまで駆けのぼった、暴力団の鑑のような男である。
人を殺して刑務所に入った事もあるし、銃弾を腹に受けて本当に死に掛けた事だってある。
並の人間ならば、数度は死んでいる程の暴力の嵐と死線を潜り抜けて来たこの男を慕う極道者も、少なくはない。寧ろ多い方だった。実際組員も相当数に上る。
どんなに理性で取り繕おうとも、人は強い人間と言うものに惹かれる傾向にある。腕っぷしや喧嘩の強さ、これに男気等が加われば、それはある種のカリスマとなる。
二十一世紀の今日になっても、それは古の昔から何ら変わっていないのだった。

 人を殺し、銃弾を喰らった事すらある男が、誰が信じられようか。震えていた。
左手に、匕首を握っている。ドスを持たせたら<新宿>は愚か日本でこの男の右に出る男はいないとすら言われたこの男が。
恐怖から来る震えで、目の前の存在を見上げていた。

 風のようそのバケモノは、来生組の事務所に現れた。侵入した事に誰もが気付かない。意識した時には、それはいたのである。
その存在を認知し、誰だお前は、と誰何した瞬間には、腕を一薙ぎ。
たったそれだけで、組結成当時の部下である幹部数名の身体が挽肉と化し、惨劇に気付きそのバケモノへと向かって行った若手の組衆が全員、正体不明の力で『爆ぜた』。
比喩抜きで、身体の内側から爆弾でも発破したように、弾け飛んだのだ。

 そうして現在に至る。
フローリングは、浸水でもしたかのように組員達の血で溢れている。酸鼻を極る、とはこの事を言うのだろう。
血の上に、筋肉や内臓、無数の骨片が浮いているのだ。さしもの来生も、この光景には震駭せずにはいられない。
バケモノの目が、来生の方に向いた。残るは、彼一人だった。

「な、何者じゃ貴様(きさん)!!」

 精一杯の虚勢を以て、ドスの効いた声を張り上げる来生。
無論の事、来生組を七秒弱で壊滅に追い込んだ怪物には、そんなこけおどしが通用する筈もなく。
来生の問いに答える事もなく、右手を下から振り上げた。来生の身体が、股間から頭頂部まで、根野菜のように真っ二つになった。


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200 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:26:53 gADONqU60
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「お前は、お前の夫が何をして日銭を稼いでいたのか、知っていただろう?」

 トンファーガンの銃口を突き付けながら、心底威圧的な声音でセリューが言った。
彼女の低い声を受けるのは、透けたネグリジェを身に纏った、二十代前半の女性である。
茶がかった髪、部屋に並ぶブランド物のバッグや調度品。どうやらキャバクラ嬢に類する職業の女性であるようだった。

「や、や……ヤクザに決まってるでしょ……それの、何が悪いのよ!!

 流石に極道の女である。肝は据わっている。股間から黄色い小水を垂れ流し、恐怖に震えながらと言えど、この狂気の闖入者に食って掛かる度胸は見事であった。
……彼女を極道の女足らしめている夫が、寝室の床で、頭蓋をトンファーで破壊され即死している、と言う事も考慮に入れれば、実に凄まじい肝っ玉だ。

「詐欺、暴力、恐喝……何だっていい。違法な方法で市民から金を巻き上げて生活している男と結婚して、恥かしい女だなお前は」

 実に悪辣な笑みを浮かべて、セリューがネグリジェの女をせせら笑った。
それまで震えを隠し切れなかった女性が、その一言にカッとなって、手元の電気スタンドをセリューの顔面に投げつけた。
迫り来るガラスの凶器を身体を屈ませる事で回避。バリンッ、と後ろで鼓膜が裂ける様なガラスの破砕音が鳴り響いた。

「恥かしい女ですって!? アンタに言われたくないわよこの殺人鬼!! アンタ、ウチの隣の夫婦、アレが誰だか解ってるの!?」

「何?」

「あれはねぇ、本当にただの夫婦!! ヤクザと何の接点もないし関わりもない、安月給だから訳あり物件で安いこのマンションに住むしかなかった奴!!
ヤクザを殺すならいざ知らず、そんな無関係なカタギの人間まで殺して、アンタは何も思わないの、このキチガイ!!」

「その夫婦、お前達が何をやっているのか知っていたのだろう?」 

「当たり前でしょ、知ってて此処に住んでるんだから。知ってても、普通の近所付き合いをするんだったら、アタシ達だって迷惑かけないわよ、暇じゃないんだから!!」

「なら死んで当然だな」

 淀みも迷いもなくそう言い切ったセリューを、ネグリジェの女は狂人を見る様な目で見ていた。

「この世で一番の罪は、それが悪だと解っていながら目を瞑ると言う事だ。それは、正義が執行されるに値する」

「……狂ってるわ。アンタ、ヤクザ以下の屑ね!!」

 怒りに身を任せ、ベッドのスプリングを利用しセリューに飛び掛かる女だったが、カウンターの要領でトンファーガンで額を撃ち抜かれてしまう。
身体を半身にし、飛び掛かって来た女を躱すセリュー。フローリングの上に女が落下、頽れた血が、水たまりのように床に浸透して行く。


201 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:27:16 gADONqU60
「次は二階……」

「もう終わったぞ」

 セリューが寝室へと入るのに利用したドアから、そんな男の声が聞こえて来た。二十代前半ごろの、若い男の声だった。
その声の主の方に、「あっ」と言った表情を浮かべて向き直るセリュー。人が――いや、バケモノがいた。
野球帽を被り、野球のユニフォームを身に纏った、まるでワニの様な頭を持った怪物が。猛禽の爪の如き鋭さを持った両手指には、血と肉、血管が纏わりついていた。

「あっ、『バッター』さん!!」

 それまで浮かべていた狂相がなりを潜め、年の割には幼い、可愛らしい表情を浮かべ始めるセリュー。
先程殺した女性が生きていれば、心底驚いたであろう。この女に、このような柔らかな表情が出来るのか、と。

「上階を俺が、下階をお前が……。と言う事だったのに、俺が結局一階以外の全ての階の人間を浄化し尽くしてしまっているのは、どう言う了見だ?」

「うっ……そ、それは……その」

 自分が悪人に対して口にする口上よりも、ずっと威圧的な口調で、そのバケモノ――バッターは詰問して来る。
目の前の怪物に対してセリューが抱く感情は、恐れや怒りよりも、寧ろ敬服と畏怖だ。バッターに対して、否定的な感情の一切を抱いていない。
教師や親に叱られる子供のような態度で、彼女はバッターの次の言葉を待った。

「俺の方が強いんだ、お前より殺すのが早いのは当然として、お前は一々浄化する時に口にする口上が心底無駄だ。省け」

「は、はい……」

 目に見えて覇気を失うセリュー。虎か獅子を思わせる様な、先程の気魄が嘘のよう。
今の彼女は、借りて来た猫のように大人しく、それでいて、目の前のバッターと名乗る化物に従順だった。

「戻るぞ、セリュー」

「はい……」

 落ち込む様子を見かねたのか、バッターは言葉を続けた。

「反省しているのなら、次に活かせば良いだろう。お前の悪い所は逆に言えばそれだけだ。浄化の手腕は、見事なものだったぞ」

「!! ほ、本当ですか!?」

 余程褒められたのが嬉しかったらしい、身体から、光の粉が舞い散りかねない程、今のセリューの態度と表情は、キラキラとしたものであった。

「お前とならば、浄化に差し支えはない。今一度言う、戻るぞ、セリュー」

「はい!!」

 ビシッ、と敬礼しながら、セリューは力一杯バッターに対してそう言い放った。
嗚呼、何と奇妙ながらも、微笑ましい光景なのだろうか。……床に、二人の死骸が転がっていなければ、の話なのだが。


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202 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:27:35 gADONqU60
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 目が覚めた時には、セリューは上落合の安アパートで仰向けになっていた。
警察官を目指して試験勉強を続ける、帰化外国人。それが、此処<新宿>の聖杯戦争において、セリュー・ユビキタスと言う女性に与えられた役割(ロール)だった。
畳六畳程の、ボロくて、狭い部屋の真ん中で目覚めた彼女は、急いで窓を開け、周りの風景を見渡した。夜の星が、全く見えない街。それが<新宿>である。

 知らない街だった。彼女が住んでいた、見慣れた帝都の風景とは、全く違う未知の街、いや、未知の世界。
周りの建物も道路も、道行く人の雰囲気も、全てが全て別物。解っているのに、自分はこの光景について何も疑問を覚えていない。
この世界に呼ばれたその時点で、聖杯戦争及びその舞台となる世界の常識を、大体の範囲で教えられているせいであった。

 何故、こんな場所にいる。敬服するオーガ隊長を卑怯な手段で暗殺した、殺し屋集団ナイトレイド。
憎き彼らを探しだし、正義を叩き付けんが為に、相棒の帝具であるヘカトンケイルことコロを引き摺って、帝都中を駆け巡っていた筈だった。
しかし、警備隊の業務を全て投げ出してまで、ナイトレイドの捜索は出来ない。酔漢どうしのトラブルを解決させた時の事だったか。
拘置所に送られた、喧嘩をしていた酔漢の一人が落としたと思しき、群青色に透き通った鍵を、手にしたその瞬間だった。
自分が、<新宿>と言う未知の、それでいて帝都よりも発達した大都市へと転送されたのは。

「ッ、コロ!?」

 辺りを見回すセリュー。自らの半身であり、大事な相棒である、生物型の帝具であるコロが、いないのだ。
あの帝具までは、群青色の鍵――契約者の鍵と呼ばれるアイテムの転送の対象外だったらしい。
警備隊であった父を凶賊の襲撃で亡くし、天涯孤独の身となったセリューにとって唯一の家族と言っても良いコロが、この世界にいないのだ。
不安で不安で、押し潰されそうな。そんな時であった。傍に落ちていた契約者の鍵が激しく揮発、それに呼応するが如く、目の前の空間に、完全な球状をした光の球が現れ始めたのだ。

「な、何……!?」

 いや、理解している。予感ではない、確信だ。まるで太陽のようなその白色の光球は、きっと、おそらく。
この<新宿>に於いて、コロに代わる相棒――サーヴァントが現れる、予兆なのだ、と。

 光球に、ヒビが入り始める。
まるで卵の殻を破り、雛が出てくるようだと、セリューが思ったのもつかの間。ヒビは亀裂になり、亀裂から、球が剥がれてゆく。
光る剥片が、狭いアパートを蛍の光のように照らして行く。幾百もの光片の最中に立つ雛――サーヴァント――は、異形の怪物であった。
野球帽を被った、ワニと言うべきだろう。信仰心に篤い者ならば、きっと彼を見て、リヴァイアサンが現れたと言ったかも知れない。
野球帽を被り、野球のユニフォームに身を包んだ、ワニの様な頭を持った亜人。それが、セリューの引き当てたサーヴァントである。

 そのサーヴァントを見た時、セリューは、自分達の世界における普遍的な動物、所謂危険種を連想した。
だが、違う。本能がそう告げる。このサーヴァントは危険種でもなければ、野生に生きる凶獣の類でもなく、況してや魔物ですらない。
身体から漂う、理知的で、厳かな雰囲気。オーラとも言うべきか。それをこのサーヴァントは醸し出している。そんな物、獣には放てる訳がない。
セリューは、思ったのだ。この存在は、怪物の頭こそ持っているが……、本当は、天使に等しい存在なのではないか、と。

「身体の内に、己が身をも焼き尽くす程の灼熱の魂を持つ者よ。問おう――お前が俺のマスターか」

 そのサーヴァントは、纏う光に相応しい厳かで、高圧的な口調でセリューに語り掛ける。
人間の声帯など持って居るとは思えない風貌なのに、そのサーヴァントは喋る事が出来るのだ!! それに、何と淀みのない、闊達な喋り方!! ある種の感動すら、セリューは憶える有様であった。 

「そ、そうです!!」

 目の前の存在が放つ森厳たる空気に怯みかけるも、セリューは何とか己が意思を口にする事が出来た。今も冷や汗が止まらない。
この存在が現れた事で、六畳の部屋一つとキッチンしかないこの安アパートが、千年以上の歴史を誇る大教会の礼拝堂のような雰囲気に変貌してしまった。

「この聖杯戦争の汚れた地において、『バーサーカー』のクラスにて見参した、『バッター』だ。今よりお前の障害を引き裂く顎(あぎと)となり、腕(かいな)となろう」


203 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:27:56 gADONqU60
 バーサーカー、バッター。セリューが認識出来た情報は、これだけだ。この時述べたバッターの口上など、彼女には頭に入っていない。 
聞きたい事が、このリヴァイアサンの頭を持ったサーヴァントにあったからである。それを、彼女は聞きたかった。

「あの!!」

「何だ」

「バッターさんは、一体何者なのですか!?」

 目の前の存在が放つ、匂い立つ香気のような、浄化された空気。人には絶対醸し出しえない、混じりけのない神々しさ。
それを、ともすれば邪悪な風貌としか受け取られかねない存在が放出しているとは、信じられないのだ。
「そんな事か」、バッターと名乗ったバーサーカーは、セリューの疑問に答えるべく、言った。

「俺は“浄化者”だ」

「浄化者……」

 その言葉を、口の中でセリューは転がした。不思議な響きの、言葉だった。

「俺は果たさなければならない神聖な任務を負っている。俺は、この世界を浄化しなければならない」

「その任務とは……?」

「この世界に蔓延り、やがて跳梁するであろう、堕落した悪魔の子らと、その裏に隠れ潜んでいるであろう聖杯戦争を仕組んだ者に裁きを与えるのだ」

 雷に打たれたような衝撃を覚えるセリュー。瞼は限度一杯まで開かれ、今にもその眼球が零れ落ちんばかりだった。

「俺は、この堕落した戦争に馳せ参じた、痛ましき霊を滅ぼす許しの代弁者。この世界は――浄化されねばならない」

 確信した。目の前の存在は、自分の正義を愛する魂と、正義の光で世界を照らしたいと言う気持ち。
そして、この世の悪を全て裁きたいと言う自らの願いに導かれてやって来た救世主なのだと!!
コロと言う半身を失った喪失感が、風に吹かれて崩れ去る砂の城のように跡形もなくなるセリュー。
目の前の存在は、彼女にとってはサーヴァントでもなければ、帝具でもない。自らを導いてくれる、『天使』であった。

 ガシッ、と、鷹の爪の如くに尖った指を持つバッターの手を両手で掴むセリュー。
手の甲に指が食い込み、血が流れ、畳の赤い雫が零れて行く。しかし、神経に伝わる、痛いと言う感覚を脳が受け取る事を拒否していた。
今の彼女の頭には、感動以外の感情と感覚を、受け入れる事を拒否していた。

「バッターさん!! 私と一緒に、世界を――!!」

「解っている」

 人間など忽ち磨り潰せるであろう鋭い牙の生え揃った牙を見つめるセリューを見下ろして、バッターは言葉を続ける。

「堕落した魂に聖なる怒りを喰らわせるのだ」

 セリューは喜びの涙を流しながらバッターに抱き着いた。
漸く、自分の理想を理解してくれる者に出会えた感動と、コロの不安を払拭してくれる存在に対する依存感が爆発した結果の行動であった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

   汝ら、人を裁くな。裁かれざらん為なり

   己が裁く審判(さばき)にて、己も裁かれ、

   己がはかる量(はか)りにて、己も量らるべし

                     ――新約聖書





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204 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:28:43 gADONqU60
【クラス】

バーサーカー

【真名】

バッター@OFF

【ステータス】

筋力B 耐久C 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具EX

【属性】

浄化者・狂

【クラススキル】

狂化:E-
正常な判断力を持つ。が、バーサーカーの行動原理の根底には、世界を浄化すると言う思想が根付いており、それを成す為なら彼は妥協はしない。

【保有スキル】

浄化者:EX
世界を浄化する、と言う神聖な使命を負っている者。
バーサーカーは例えその浄化行動の先に如何なる結末が待ち受けていようが、迷う事無くその使命を果たそうと行動する。
バーサーカーの場合は、同ランクの信仰の加護と同じ効果を発揮する。

対霊・概念:B
霊的な存在、または魔的、概念的な存在に対する攻撃の適性及び、それらの存在を感じ取る知覚能力。
バーサーカーはこれらそのもの、あるいはその因子を持った相手と敵対した場合、全てのステータスがワンランクアップする。
霊的な存在である事は確かだが、実体化したサーヴァントにはステータスアップの恩恵は発動しない。
但し、サーヴァントが霊体化した場合、または、実体化してもそのサーヴァント自体が霊的・魔的・概念的な因子を有しているのならば、ステータスアップは発動する。
セイヴァーのクラスで召喚された場合は規格外の対霊・概念スキルを誇るようになるが、バーサーカーとしての召喚で、破壊者としての側面が強く押し出されてしまった為に、ランクが下がっている。

記号使役:A
使い魔使役の延長線上にあるスキル。バーサーカーは『アドオン球体』と呼ばれる、三位一体を成すリング状の記号生命体を3体行使する事が出来る。

真名看破:D
バーサーカー自身が使う事が出来る技、ワイド・アングルと呼ばれる技術によるアナライズ能力。
同ランクの秘匿スキルを持たないサーヴァントであれば、真名を看破する事が出来る。


205 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:29:22 gADONqU60
【宝具】

『アドオン球体(Spherical Add-Ons)』
ランク:A+ 種別:対人〜対軍宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1〜20
バーサーカーが使役する三体の記号生命体、通称アドオン球体と呼ばれる存在が宝具となったもの。
白色のリングとも言うべき姿をした彼らが何者なのかは解っておらず、使役するバーサーカー自身も、彼らが何処から来て何の為にいるのか理解していない。
解っている事は、三体にはそれぞれアルファ、オメガ、エプシロンと言う名前がある事。彼らは三位一体を表している事。
そしてそれぞれ、アルファが父なる者、オメガが子なる者、エプシロンが聖霊なる者を表している、と言う事だけであり、それ以上の事は詳細不明。
彼らは意思を持っているのか、そもそも生命体なのかすらも疑わしい存在だが、独自の行動原理を持っている事は確かであり、バーサーカーが敵と認識した存在に対して、バーサーカーと共に戦闘を行う事が可能。

アルファは高い威力の攻撃と状態異常の付着攻撃を、オメガは種々様々な状態異常の回復と敵のステータスを一時的に下げる攻撃を、
エプシロンは範囲攻撃とバーサーカー及び他のアドオン達のステータスアップを、それぞれ担当している。
3体がそれぞれ豊富な魔力を持っている為に、宝具を発動、維持させたとしてもバーサーカーやマスターに掛かる魔力消費は少なくて済むが、
長時間動かし続ける、或いはそれぞれのアドオン達が保有している魔力が底を尽きた場合には、バーサーカーあるいはマスターから魔力を徴収する。
また彼らは非常に強い霊的、及び概念的性質を有した存在であり、生身の人間は強い霊感が備わってなければ感知も視認も不可能。
サーヴァントは視認こそ出来るが、アドオン球体に攻撃を仕掛けたとしても、対霊・概念属性の備わった攻撃でなければ、行動を鈍らせる事も出来ない程の耐久性を発揮する。

『Demented Purificatory Incarnation(The Batter)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:自身
何者かによって世界の浄化を任命され、其処に蔓延る悪性存在を粛正する為に生まれたバーサーカーそのもの。つまりこの宝具はバーサーカー自身を指す。
バーサーカーの攻撃には本来備わっている物理的な干渉力とは別に、強い浄化の属性が宿っており、吸血鬼や食屍鬼、悪魔の属性を持つ者や、
霊的・概念的な存在に対して、絶大なダメージを与える事が可能。いわば行動の1つ1つが、高ランクの洗礼詠唱のようなもの。
バーサーカーはまた、既存の魔術や奇跡ともアプローチの違う、『保守』と呼ばれる回復手段を持ち、癒しの技術にも造詣が深い。
霊的・概念的・魔的な存在が統治する領域や世界の統治者をバーサーカーが倒した場合、その世界から肉体を持つ全存在は消滅。
霊魂だけが浮遊する、一面真っ白の浄化された世界だけが広がるようになる。バーサーカーの究極の理想は、<新宿>を含めた、世界全土をこの境地にする事。

バーサーカーはセイヴァーとしての適性も持ち、セイヴァークラスで召喚された場合は上記の宝具は『Purifier(The Batter)』となる

【weapon】

尖った両手:
指先が異様に尖った両手を持つ。これを持って相手を引き裂く。が、本来のバーサーカーはバットを用いて撲殺する戦い方を好む所とする。


206 : LEMONDROPS ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:29:49 gADONqU60
【人物背景】

この男の根幹を成しているであろう諸々の要素を語るに相応しい者は、この私の他には存在しないようだ。親愛なる君達の為に一肌脱ぐ事としよう。
私の猫のまなこから見た、このバッターと言う男は途方もない愚か者だ。盲目的な確信と確固とした期待、そして誠実極る信頼を裏切ったペテン師だ。
世界を浄化する、と言う人類の歴史の中で大体1千万の人間は抱いたであろう陳腐な大義名分の下に、聖母の如き女性と無抵抗の子供を殴り殺した狂人だ。
彼は世界を浄化などしなかった。彼は世界を破壊し、一切の生命を根絶やしにし、1つの世界を無の水底へ沈めてしまった罪人だ。
だが、今回のこの男はセイヴァーではなくバーサーカーとして呼び出されたらしい。因果応報だな、この愚物を表現するのにこれ以上と無い皮肉だ。

 さて、私はこの【人物背景】と言う小狭なパラグラフの冒頭で、バッターと言う男を語るに相応しいと比類ない自信を以て口にした。
事実私は、この男が我々の世界に現われてから世界を滅ぼした軌跡を目の当たりにして来た証人だからね。それを雄弁に語れる資格がある。
そんな私でも、バッターについて解らない事柄が多い。いや、訂正するべきか、我々はバッターの殆ど全てを理解していない。
我々はバッターと言う狂人が、我々の世界で何を成したかと言う事柄には君達の先を行く知識を持っているが、バッターが何者で、何処から来て、
そもそも誰から世界の浄化を任命されたのか、これらの事柄について我々は甚だ無知であると言わざるを得ないだろう。
確かなのは、バッターは女性と子供を撲殺し、許し難い彼の蛮行を止めようと現れた、誰もが愛してやまない無垢な猫であるこの私をも撲殺し、1つの世界をOFFにするレバーを倒したと言う事だけだ。

 恐らく、君達の知的器官、つまり、そのだらしない頭蓋の中でたゆたっているプティングよりも柔らかい物体で考えたとしても、
私がこの【人物背景】と言うパラグラフで、何処ぞの誰より説明せよと言われ、言われるがまま語った事柄について、全く理解を示せていないだろうに思える。
無理もない。我々の辿った道程は非常に多角的な解釈が可能であり、1つの枠に当てはめた説明は、かえって危険だろうと考えたのだ。
故に、私が語れるバッターの軌跡は此処までとし、彼に対する解釈も此処で打ち切るとしよう。
しかしそれではあまりにも不親切であり、この【人物背景】と言うパラグラフを此処まで読んでくれた君達に対して猫の糞を砂ごと飛ばすが如くに失礼だ。
そこで、私の方から提案がある。良いかね、それは、この男の軌跡を体験する……即ち、OFFと言うゲームをプレイすると言う事だ。
此処にURLを張って置く。この世界の流儀に則って、頭文字のhは抜いて置く。是非ともプレイし、バッターの狂人ぶりと、この私ジャッジの愛くるしさを堪能して貰いたい。

                          『ttps://offjptranslation.wordpress.com/』

【サーヴァントとしての願い】

神聖な任務を、ただ果たすだけ。





【マスター】

セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!!

【マスターとしての願い】

この世界から、自らが認識する所の悪全ての消滅。

【weapon】

トンファーガン:
トンファーの形をした銃。トンファーとしても使えるし、銃としても使える。

口と腕に仕込んだ銃:
殉職した警備隊隊長であるオーガの友人である、Mr.スタイリッシュから人体改造をうけており、両手と口に銃が組み込まれている

【能力・技能】

帝都警備隊に所属する人物として、優れた格闘術と運動能力を持つ。
その実力は、非常に優れた戦闘能力を持ったナイトレイドの腕利きの殺し屋が身の危険を感じる程。

【人物背景】

帝都警備隊に所属する女性隊員。警備隊の父がいたが、凶賊との戦いで殉職する。
可憐で親切な女性だが、そう言った過去の経験から、狂的とも言える程の正義に傾倒し、悪を裁く事を無上の悦びとしている。
敵対者に対する情は持たず、自身が『悪』であると断定すれば容赦なく処刑する。非常に独り善がりな性格。

ナイトレイドに隊長であるオーガを殺され、ナイトレイドに強い憎悪を抱きつつも出会えていなかった頃からの参戦。
契約者の鍵の転送の際に、コロを元の世界に置いて来てしまった。

【方針】

バッターと共に『正義』を示す。


207 : ◆zzpohGTsas :2015/07/25(土) 01:30:03 gADONqU60
投下終了です


208 : ウェザー・リポート&ライダー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/25(土) 03:13:12 wQvjIvgU0
投下乙です
私も投下します


209 : ウェザー・リポート&ライダー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/25(土) 03:14:13 wQvjIvgU0
☆ライダー

  朝日が登る。
  ガラスが光を反射してきらきらと輝く。
  世界に光が満ちる。
  ライダーは、朝が大好きだった。
  胸に吸い込む空気が大好きだった。
  キラキラ輝く色々なものが大好きだった。
  朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、居てもたっても居られなくなって。
  ランプから遠く、遠く離れて、空へ空へと舞い上がる。
  朝が始まっている。
  人が起きだして、煙が上がりだす。
  色んな音が流れだす。色んな色で街が染まる。
  こんな世界を知らずに死ぬ生涯があったのかもしれないと思うと、やっぱり、少し、不思議だった。
  ライダーは人間はよくわからないが、きらきらと輝く世界は大好きだった。
  だから、こういうきれいな景色を見るたびに、魔法少女になれたことを嬉しく思った。

  生活があふれ始めた街の向こう、鬱蒼と生い茂るビルの森のもっと遠くに目を向けると、地面と地面を切り分ける溝がある。
  溝は光を飲み込んで底知れぬ黒に変えている。どれほど深ければあんなに黒い溝ができるのか、ライダーは知らない。
  あの溝はなんなんだろう、というのが最近のライダーの謎だった。
  あんな溝はライダーの知ってる世界にはなかった。
  あの溝の中には何があるのか、というのを考えていて、一日時間が経ってしまっていたこともあった。
  少し前にマスターと一緒に溝の近くまで行って溝を見せてもらった。全く意味がわからなかった。
  でも、もう一回見てみたい。
  もう少し近づいてみてみたい。
  もう少しならいいだろう。
  ちょっとだけ、ちょっとだけと溝の方に揺られて飛んでいると。

『メイ』

  頭のなかに声が飛んできた。
  メイ、というのはライダーの真名だ。それを知っているのは、たぶん、今は1人しか居ない。
  ライダーはするすると泳ぐように空から地上に向かって降りて行き、今しがた目を覚ましたばかりであろうその人に声をかけた。

「ただいま、おはよう、ウェディン」

  ライダーが空に上るまでは木陰で寝ていた男―――たしかウェディン、は立ち上がり、降りてきたライダーにつま先立ちで器用に歩み寄って顔を近づけた。
  鼻息が少し生温かくて、むずむずする。でもライダーはそういう時に人間がどんな表情をするのかがよくわからないから、笑っておいた。

「飯を食いに行く」

  ウェディンは気にせずそうぼそりぼそりと呟くと、そのままするすると歩き出した。
  独特な歩き方は、遠目に見ても分かりやすい。ライダーはマスターのその歩き方がわりと好きだった。
  人間を覚えるのは難しい。人間には別の人間が服や顔なんかで見分けが付く、というのがライダーには未だに信じられない。
  ライダーは服や顔を見てもさっぱりわからないし、名前もさっぱりわからないから、他の人達が何者なのかがだいたい分からず生きてきた。
  でも、動きは違う。動きの優劣や癖なんかはライダーでもひと目で分かる。だからライダーは、人混みの中でもマスターを見失わない自信があった。
  ただ1つ気になっている点はあった。それは名前を呼んだのに返事が無かったことだ。
  名前、当たってたんだろうか。確か、当たっていたら答えてくれたはず。
  もしかしたら違っていたかもなあと思いながら、ライダーはふよふよとウェディンらしき人の後を追った。


210 : ウェザー・リポート&ライダー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/25(土) 03:15:46 wQvjIvgU0

  ウェディンらしき人は、特に住処を決めていない。
  日がな一日ぼーっとしていることが多い。ライダーと似ている。
  なにかを考えているのかもしれないし、なにも考えてないのかもしれない。
  ふらりふらりと街をぶらつくこともある、木陰で寝てることもある。そんな風に、毎日自由気ままに生きていた。
  ライダーの知っている人間とはまったく違う生き方だったが、ライダーからすればとても合理的な生き方だった。
  ライダーの見てきた人間は、とにかくよく分からないことばかりだった。
  キャプテン・グレースはいつも細かいことを注意してきて、好きじゃない人と『仕事』をして、仕事のたびに変な顔をしていた。
  ファニートリックはいつも怒っていて、でも時々泣いていて、忙しそうだった。
  人間はご飯を食べるために食事以外の仕事というものをしなきゃいけないし、仕事というものをするにはやりたくないこと・嫌なことをしなきゃいけないらしい。
  ライダーにはそんな人間の習性が理解できなかった。
  だから、そういう人間としての習性から大きく外れたウェディンらしき人は、ライダーにとってとても気のおけない相手だった。

「レイン・ポゥ」

  ライダーがウェディン改めレイン・ポゥに呼びかける。
  さっき名前を読んだ時に返事が帰ってこなかったのは、たぶん名前が間違っているからだと判断した。
  レイン・ポゥはがつがつと食事を続けている。
  今日の食事は、見たこともない色とりどりの食べ物だった。
  ライダーはレイン・ポゥに呼び出されて、赤や緑の色をした食べられるものがあるのを初めて知った。
  魔法少女は基本的に食事をしないので、ライダーが見たことあるのは変身する前に食べていたものだけだ。
  いい匂いがしているから、食べ物なんだろうけど。茶色い固形フードか黒っぽい草みたいなものくらいしか食べてこなかったライダーからすればレイン・ポゥが食べているものはなんだって不思議がいっぱい詰まっていた。
  色とりどりのものを食べ終わったレイン・ポゥは側にある紙のコップを手に取り、ぐびぐびと中身の黒い水を飲み干す。
  腐った水は緑色だ。淀んでいるし臭いもひどい。だが、その黒い水は透き通っているし、ぱちぱち弾けるような匂いがしている。
  あの水はどこにあるんだろう。海や河であんな水が取れる場所があるんだろうか。
  でも、幾ら透き通っていても臭くなくても、あの水の中では暮らしたくないというのがライダーの素直な感想だ。

「レイン・ポゥ、その水、美味しい?」

「メイ」

「なに」

「どこか行きたい場所はあるか」

「レイン・ポゥは?」

  返事はこない。
  三回繰り返して返事がないってことはたぶん、名前が間違っているのだろう。

「メイは、あの溝が気になる」

「そうか」

  レイン・ポゥらしき人は席をたってお盆をゴミ箱の方に運んだ。
  今日はやることがあるのかどうかわからないけど、またあの黒い場所を見に行けたら嬉しいなぁ。
  そんなことを考えながら、ライダーはやはりレイン・ポゥらしき人の後を追った。


211 : ウェザー・リポート&ライダー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/25(土) 03:17:50 wQvjIvgU0

  ふらふら、ふわふわ。
  二人でのんびりと道を行く。
  巨大なビルの森を抜けると、少しだけ見晴らしが良くなって、<新宿>と外界とを隔てる亀裂が家一軒分くらいの高さからでも見えるようになってくる。
  黒い溝には、今日も、やっぱり、何もなかった。
  ただ、全てを飲み込むようにぽっかりと口を開けてこちらを見つめ返している。
  一度降りてみたいが、吸い込まれて消えてしまいそうで、ライダーもほんの少しだけ怖かった。
  降りると死んでしまうかもしれない。死んでしまうと何も出来ない。それはリクガメも、人間も、魔法少女も、皆一緒。

「この先は」

  ウェディンでもレイン・ポゥでもマナでもプキンでもトコでもない人が喋る。

「何があるんだろうな」

  男の口をついて出た問い。それは、ライダーとも同じ疑問だった。
  溝で隔てられた先にある大陸は、どこまでも続いている。
  一度向こう側に行ってみようと思ったが、見えない壁のような物があって通り抜けられなかった。
  まるでライダーが昔暮らしていた水槽みたいだった、とライダーは思う。
  もしこの<新宿>という街が水槽だったら、誰かが、ライダーたちのことを見ているんだろうか。
  空を眺める。何もない。横を見る。男はいつもどおりの表情をしていた。
  笑ったり、怒ったり、泣いたりしないのは楽でいい。顔を変えられても、ライダーにはどうすればいいかわからないから。
  誰も見ていないのを確認して、もう一度溝の向こう側の大陸を眺める。
  もしかしたら、あの人が、この先にいるのかもしれない。
  ゴーグルをかけて、黒い『学生服』というらしい長袖の服を着た、大きな三つ編みが目立つあの人。
  繰々姫だったか、7753だったか、ピティ・フレデリカだったかは忘れたけど、ライダーはその人の近くに居るのが好きだった。
  本がいっぱいあって面白かった。暇な時は話し相手になってくれた。魔法少女の中で、特に仲良くしてくれた。

「ウェザー・リポート」

「どうした?」

  返事があった、ということはこれが当たりだったんだろう。
  ライダーはウェディン改めレイン・ポゥ改めウェザー・リポートの傍をふよふよと漂う。

「この先もどこかにつながってて、メイの居た魔法の国にもつながってたら、そこに7753が居る」

  名前があっているかどうかは分からないが、たぶん伝わるだろう。
  ウェザーは少し考えて、こう口にした。

「……それは……お前の帰る場所、か?」

「うん、そう」

「そうか……見つかるといいな。お前も、俺も」

  そこがどこかは分からない。
  そこにいるのが誰だったかも覚えてない。
  でも、ライダーも、ウェザーも、どこかを探している。
  そこがどこにあるのかは知らないけど、いつかはきっと帰れる場所。
  ライダーにとってそれは、あのゴーグルの少女の待つ家。
  ウェザーにとってそれは、ライダーとは別のどこかにある心温まる場所。なくしてしまった何かのある場所。
  それはきっと、たぶん、この黒い溝の向う側にある。ライダーはそんな気がした。

「そろそろどこか別のところに行くか」

「うん。どこかにいこう」

  溝に背を向けて、二人で道を戻る。
  ライダーはふわふわ漂いながら、また黒い溝の奥について考え始めた。

◇◇◇


  ライダー・テプセケメイはもともとリクガメだった。リクガメが魔法少女になり、魔法少女が人類の英霊として座に登録されたのがライダーだった。
  彼女の眺める聖杯戦争と、人間の世界は、やっぱりどこかがずれている。
  それでもマスターであるウェザー・リポートと歩くのは、楽しくて、過ごしやすくて、好きだった。
  同じくマスターであるウェザー・リポートも、テプセケメイとはそれなりに楽しくやれていた。名前は覚えてもらえていないが、それでも、だ。
  そうして二人は歩いて行く。
  どこか知らない旅の終わりに向かって。
  いつかたどり着きたい二人の帰る場所を探して。
  行く先はお天気次第、人とリクガメは、今日も気ままな風に吹かれて歩いて行く。


212 : ウェザー・リポート&ライダー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/25(土) 03:19:28 wQvjIvgU0
【クラス】
ライダー

【真名】
テプセケメイ@魔法少女育成計画limited

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:A 宝具:B

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
対魔力:A-
彼女は宝具の性質上気体と同化することで直接ダメージを与える攻撃は全て無効化する。
現代魔術で彼女を傷つけるのはほぼ不可能と言っても良いが、空気自体を傷つける特殊攻撃には弱く、その特殊攻撃が魔法少女の防御を貫通するようであればダメージを受ける。

騎乗:B---
宝具の性質から大気中全ての気体に乗る事ができる。無風の状態でも空間を漂える。
更に追い風に乗ることで立ち回りを有利に進められる。
ただし、機械・動物問わず乗り物に乗ることは出来ない。

【保有スキル】
魔法少女:B
魔法少女である。ランクが高いほど高水準の魔法少女となる。
魔法少女は人間離れした戦闘能力と視覚聴覚を得、排泄や食事などの新陳代謝行為を一切行わなくて良くなる。
また、疲労の蓄積する速度が人間よりも遥かに遅く、長期の不眠不休にも耐えられるスタミナと常人離れしたメンタルを持つ。
更に、固有の魔法を1つ使える。ライダーの場合それは宝具となる。
ライダーは優れた魔法少女であるが、訓練と研鑽を続けた一線級の魔法少女には叶わないためBランク相当となる。
そしてライダーは魔法少女の状態で呼び出されているためこのスキルの発動は阻害できない。

野生:C
ライダーの培ったリクガメとしての野生。快不快に正直で、どんなことにも直球で対応する。
また、人間生活や人間の習性にギャップがあり、少し鈍感な部分がある。

直感:B
危機的状況などを感じ取る能力。
本能とでもいうべき直感で自身を傷付けうる危険な攻撃を察知して深手を負いにくいように立ち回れる。

名前の無い世界:―
名前の無い世界で生き続けてきたもののバッドスキル。
ライダーは相手の名前を覚えるのが苦手で、同棲相手だったキャプテン・グレース(7753)の名前もまだ覚えてない。
ウェザーのことも「キャプテン・グレース」「ファニー・トリック」「繰々姫」「ポスタリィ」「レイン・ポゥ」「ウェディン」「マナ」「プキン」「ピティ・フレデリカ」「トコ」「ウェザー・リポート」のどれかを言っておけば当たるしいいかと思ってる。
ただ、「7753」ではないことはなんとなく分かる(7753の名前が間違えずに言えるというわけではない)
このスキルは永続的なものであり、一度名前を教えてもしばらくすれば忘れてしまう。
そのため他者とのやりとりの際、名前関連でファンブルを起こしやすい。

追い風に乗る少女:EX
クラススキルである騎乗と宝具の性質から来るスキル。
周囲の大気の密度が高ければ高いほど、変動が強ければ強いほど宝具の展開が容易になり、結果として魔力消費が少なくなる。


213 : ウェザー・リポート&ライダー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/25(土) 03:20:15 wQvjIvgU0
【宝具】
『風に乗ってどこまでも飛んでいけるよ』
ランク:B 種別:対人 レンジ:1-20 最大捕捉:30
常時発動型の宝具。
自身の存在を周囲の気体と同化させることによって様々な現象を巻き起こす。
空気の弾丸を打ったり、空を飛んだり、竜巻を起こしたりできる。
更に密度の操作で巨大化、縮小化、分身も可能。
この宝具の効果によって斬撃・打撃・一部の魔法などを完全に無効化できる。
この宝具は彼女の存在自身と複雑に絡み合っているため発動を阻害することは出来ない。
また、この宝具の性質からスキル:追い風に乗る少女を得る。

【weapon】
魔法。
ランプは武器じゃなくてランプ。

【人物背景】
リクガメ科チチュウカイリクガメ属の魔法少女。
彼女は魔法少女だが彼(?)は人物ではないためこの欄に書くことはない。

特筆すべきことがあるとすれば、彼女が探している7753は英霊として座に登録されていない可能性が高い、ということ。
テプセケメイの帰る場所は英霊の座ではなくどこか別のところにある。
そこに帰ることができる、と彼女/彼は心の底から信じている。


214 : ウェザー・リポート&ライダー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/25(土) 03:23:17 wQvjIvgU0
【マスター】
ウェザー・リポート@ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン

【マスターとしての願い】
俺も、誰かのもとに帰りたいのでは?

【能力・技能】
ウェザー・リポート
スタンド能力。天候を操ることが可能。
ヘビーウェザーの使用は不可能。重酸素ウェザーも不可能。
スタンド持ちであるため精神エネルギー(魔力)が常人よりも豊富である。
また、ライダーの特性上天候操作をすればするほどライダー側の魔力消費が少なくなるので戦闘中も天候操作は可能。
ただしライダーの戦闘+半径50kmスコールのような荒業は確実に出来ない。

マスターと戦うには十分すぎる戦力だがサーヴァント相手には一切の戦力にはならない。
他人のサーヴァントを傷付けられるのはライダーだけなのでサーヴァントとの戦闘時は彼女のサポートをする必要がある。

【人物背景】
記憶のない青年。
誰かから預かっていた空色の鍵で参戦。
水族館収監〜本編開始の間の二十年近い囚役生活の間から参戦。
時系列的にはエンポリオやアナスイとは出会えていない可能性が高い。

ホームレスのような暮らしをしているが、スタンドがあれば特に困ることはない。
金や食料といった生活に必要なものも、『ボヘミアン・ラプソディ』の時のように天候操作を利用して他者の悩みを解決すれば集めることができる。

【方針】
<新宿>を出て、ライダーを7753のもとに連れて行く。
ついでに外界でウェザーから欠落している『何か』を探し、『帰るべき場所』にたどり着く。

特に積極的優勝狙いというわけではないので、しばらくはライダーとぼちぼち暮らしていくだろう。
意識は常に<新宿>の外に向いており、二人の帰る場所がそこにあるのではないか、と両者ともに考えている。
マイペースに外に出る方法を探るのが当面の方針になる。
襲われれば自衛はする。
ライダーは風力補佐があればあるだけ魔力消費が少なくなるので、基本戦術としてはウェザーがスタンドによる風力補佐+牽制を行い、ライダーが仕留めるといった形になる。
両者ともに応用力の高い能力持ちであるため、どこまで自分の能力を理解して相手の弱点をつけるかが勝敗を分けるだろう。
なお、この二人はあまり交渉が得意ではないのでその点では心配が残る。
ちなみに、ウェザーの名前は一時的に思い出したがたぶん十分もすれば忘れてしまう。ライダーは所詮リクガメだから仕方ない。


215 : ウェザー・リポート&ライダー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/25(土) 03:23:30 wQvjIvgU0
投下終了です


216 : ◆NDKFyuz/Uk :2015/07/26(日) 01:22:49 7zjvA0u20
投下お疲れ様です。
自分も投下します。


217 : 柊聖十郎&セイヴァー ◆NDKFyuz/Uk :2015/07/26(日) 01:23:48 7zjvA0u20




 それは、逆さ十字の罪人が天国という名の地獄に導かれる、少し前のお話。



 「おのれがァッ……ふざ、けるなッ……!」


 地を這う病人の姿は、最早人間の形をしていなかった。
 壮健さとは裏腹の朽木色の素肌。少し動かすだけで肌が罅割れ、腐乱臭を放つ膿を垂れ流す。
 血走り見開かれた眼球は既に白濁しており、表面は歪に粟立ってすらいる。
 たとえどれほどの重篤な末期患者の症例を持ってきたとしても、彼のそれには到底敵うまい。
 脳、眼球、気管系、血管、肺、胃、肝臓、膵臓、腎臓、腸、皮膚、脂肪、骨、細胞――人体の全ての部位が、彼の場合はまともに機能していない。即ち、狂しているのだ。一欠片として、そこにまともに動くものはない。
 粘付くを通り越してコールタールのように変じた膿は粘膜が剥がれ、溶け落ちたものだ。それが気管に貼り付きあるいは溜まり、この末期病人から呼吸の自由さえも奪い取ろうとしている。
 
 しかし彼は死なない。柊聖十郎という男は、そんなことでは死なない。
 
 聖十郎は天才だった。
 学問も運動も、あらゆる分野で彼に匹敵する人間は存在しない。
 そして生まれ持った天賦の才能は、時に人間へ身の丈を上回った自尊心を植え付ける。
 柊聖十郎は、己を見下し、哀れむ全てのものを許さない。その怒りは当然、彼を蝕む病魔にも平等に向けられる。

 「糞、糞、屑め――役に立たん、塵が……貴様の生まれた意味などッ、俺に使われる為に決まっておろうがァッ!」

 信じられないことだろうが、彼が生きている理由はそれだけである。
 彼はこれまであらゆる延命方法を尽くしてきた。それこそ、民間療法からオカルトの分野まで、凡そ全てを。
 だが、どれ一つとして聖十郎を救うものはなかった。彼を蝕む病魔の桁は、最早病弱の域を遥か凌駕している。
 全部位に発生した末期腫瘍を免疫不全が数倍に増強し、血など全て白血病の魔の手によって支配された。
 彼が役立たずと、塵と切り捨ててきた延命手段の中には、確かにヒトを永らえさせるものがあったかもしれない。
 
 それでも、柊聖十郎は生かせない。
 悪逆の逆さ十字を生かす術理は、世界のどこを引っ繰り返しても見つからない。
 巫山戯るな。認めん認めん、断じて認めん。誰よりも優れているこの俺は、常に不死身でなければ道理が成らん。
 彼の意志は、聖十郎を常に今際への瀬戸際で止めてきた。
 鎮痛剤さえ作用を諦める苦痛の呑底にあって尚、彼は探求し続け――やがて一人の男と出会う。

 「甘粕――――甘、粕ゥゥゥゥゥッ!!」

 光の魔王、甘粕正彦――
 彼は盧生。邯鄲の夢を司る者にして、聖十郎には決して手の届かない高みへおわす者。
 故に聖十郎にとっての彼は無間の苦しみより脱する光であり、決して認められない闇の象徴であった。
 彼の眷属として接続されることで、聖十郎は病よりの脱却を果たす。
 逆十字の男は誓った。己の胤より成った子より盧生の資格を剥奪し、いずれはこの魔王を必ず排除すると。
 俺の上に立つような存在は――この世に居ない。それを証明するために、逆さの磔が幾度と無く鳴動した。

 その顛末が如何なるものであったのかなど――今の彼を見れば、火を見るよりも明らかであろう。


218 : 柊聖十郎&セイヴァー ◆NDKFyuz/Uk :2015/07/26(日) 01:24:29 7zjvA0u20

 八虐無道の逆さ十字は敗北した。
 敗北者には罰が待ち受ける。その例に漏れず、彼もそれに甘んじることとなった。
 邯鄲に繋がることで抑えていた病は再度溢れ出し、現在彼は苦痛の濁流に意識を蹂躙されている。
 常人であれば即座に脳死を通り越し即死するような激痛の大波濤――にも関わらず瀬戸際を保っていることが、彼という人間の埒外ぶりを物語っていた。柊聖十郎は魔人である。たとえ彼を厭う者であれ、その認識に異を唱える者は居まい。
 
 孝の心、それは即ち報いる祈り。
 彼にとっての鬼門である「対等」を前に、魔人は討たれた。
 本来であれば、初代の逆さ十字は悪魔との契約通り、彼を天国(じごく)へ導く悪魔(てんし)が現れ。彼にとって最も理解の出来ない愛情という名の汚泥に抱かれ――天命を全うする筈であった。
 百年後の未来に至るまで多くの爪痕と波乱を残して、柊聖十郎は救われる/壊される筈であった。


 「俺は、不死身だッ……舐めるなよ、屑めらが……!
  誰にも、負けん――不可能は、ないッ……………………!!」


 しかし彼は生きている。
 沸騰せんばかりの怒りと苦痛によって、彼はその不可解さを認識すらしていなかったが、それでも生きているのだ。
 それはあってはならぬこと。この男が永らえることは、世界にとって凡そ毒以外とはなり得ない。
 
 「寄越せ、寄越せェ――貴様の全てを、俺に……寄越せェェェッ!!」

 その毒牙に掛かったのは、騎士を連れた女であった。
 重篤なる病へ羅患した彼は、たとえ夢を持たずとも人外の域にある。
 叩き込むのは病の波動。凶念である。
 即ち呪殺、人間にとってもっとも在り来りな殺人方法が真っ向より魔術師を冒す。
 即座に魔術師は脳死へと至り、騎士は最後まで呆けきったままこの魔界都市より退場を果たした。
 聖杯戦争のセオリーを真っ向覆すような行いもしかし悲しきかな。これより死に逝く男には何の誉れともならない。

 それでも、柊聖十郎の辞書に諦めるという文字は存在しない。
 彼にしてみれば不本意であろうが、彼が阿呆と軽蔑する魔王とも、その一点においてのみ共通している。
 枯れ木を通り越し、罅割れた砂岩のようですらある足を軋ませ、醜悪なる病身は壁を伝い立ち上がる。
 ――聖十郎は狂っている。そして徹頭徹尾鬼畜である。彼の中には一縷の良心も、付け入る隙もありはしない。
 
 だがしかし。
 それでも聖十郎は“愛される”。

 彼が憎悪する甘粕正彦も。
 彼と絶望の契約を結んだ神野明影も。
 彼と唯一対等に殴り合った真奈瀬剛蔵も。
 彼を一度は憎み、それを乗り越えた柊四四八も。
 そして――彼を光り輝く天国へ導く救済者である、柊恵理子も。
 皆が彼を愛している。こんな、愛すべき所など微塵も存在しないであろう悪鬼であるのにだ。
 その生き様は否応なしにヒトの興味を惹き、憐れみを生み――時に、彼の最も理解できぬ感情へヒトを至らせる。


219 : 柊聖十郎&セイヴァー ◆NDKFyuz/Uk :2015/07/26(日) 01:24:58 7zjvA0u20
 「諦める、ものかッ」

 だがそれは、彼にとって必ずしも幸いではない。
 何故ならば彼を愛する者は、彼にとっては破滅を運ぶ鬼門の存在であるからだ。
 愛など気味が悪い。だから死ね、俺の役に立ったなら疾く消えろ。聖十郎は常にそう思っている。

 「俺は必ず――」

 聖十郎は吼える。
 窒息死へ導く膿の塊を気勢で押し潰し、その動作のみで筋肉が、皮膚が、潰れるのも厭わずに。
 そうすることこそが己に最後の好機を齎すのだと信じていた。
 それはこの魔界都市――<新宿>に迷い込んだ彼だからこそ、本能的に理解したことだったのかもしれない。
 
 聖杯戦争。
 マスターは、サーヴァントと共に成る。
 だが聖十郎の場合は例外だ。彼は既に死にゆく身である。
 彼が生を諦め荼毘に臥すことを受け入れたなら、彼はこのまま息を引き取ったろう。
 悪魔との盟約すら果たすことはなく、彼が望み憧れる地獄という死後へ至ったろう。
 しかし、彼は生を願う。求めるのは一つ。いかなる時も、柊聖十郎が求める奇跡は一つである。

 聖杯? 役不足だ。
 何故なら討つべき敵が残っている。
 柊四四八、甘粕正彦。俺以外の盧生などは忌まわしい。
 だからこそ、彼が願うのはただ一つ。
 渇望のみで他の全てを滅ぼせるほど狂おしく――ある一つの“資格”を希っている。

 だから彼は吼えるのだ。
 生きるために吼えるのだ。
 己が屑にも劣る敗残者で終わらない為に、最後の奇跡に縋るのだ。


 「夢を掴み――――盧生となるッ!!」


 そして。
 今日もまた、彼を愛する化外が舞い降りる。
 魔王、仁義、天使、悪魔。
 それに並ぶに相応しい名を持って、快楽の魔性がやって来る。


220 : 柊聖十郎&セイヴァー ◆NDKFyuz/Uk :2015/07/26(日) 01:25:31 7zjvA0u20


 
 

 そのサーヴァントは思った。
 何故にこの男は、これほどまでに生を願うのだろうと。
 それは彼、柊聖十郎と接する上で決して抱いてはならない感情だったが、ともかくそう思った。
 そして同時に、彼女もまた光の魔王と同じ境地へ至った。
 
 「なんという御仁でしょうか」

 仮に人伝に彼の存在を語り聞かせられたとして、それを信じはしなかったろう。
 そんな人間が居る筈がないと、英霊に昇華された身をしてもそう結論付ける以外にないからだ。
 それほどまでに、逆さ十字の魔人は人間を逸脱している。
 しかし同時に、サーヴァントはそんな彼の姿へ奇妙な愛情をすら覚えた。
 
 「ああぁぁ……そうです――貴方は、救われるべきだ」

 

 瞬きの内に消える三千世界。
 ヒトを超え神を目指すなど愚かだと説いた、欲望の果てが此処にある。
 彼女の銘は魔性菩薩。教化を受け入れられぬ者を救うべく顕れた和光同塵。
 何万何億という人間を用い、至上の快楽に酔うことを望んだ全能なる酩酊者。
 それとの契約が成った途端――柊聖十郎の体へ、遍く魔力が雪崩れ込む。
 状態で言えば、邯鄲の中に在る時と同じであった。
 然し、夢の資質に関して言うならば弱体化している。
 使えるのは精々が詠段まで。彼の十八番である玻璃爛宮は顕象出来ぬ有り様。彼に言わせれば、度し難い。

 
 「さあ、視て下さいませ。それとも、諦めてしまったのですか?」
 
 
 聖十郎の双眸が、その女を捉える。
 彼女に救われたというのに、そこに感謝の色合いは欠片とてなかった。
 当然である。彼は人を使いこそすれど、それで感謝を覚えるようなことは決してない。
 彼の口許に滲むのは不敵な笑み。されど彼は確信していた。どうやら、己はまだ終わらぬようだと。


221 : 柊聖十郎&セイヴァー ◆NDKFyuz/Uk :2015/07/26(日) 01:26:16 7zjvA0u20


 「魔術師(キャスター)か、貴様は」
 「いえ――魔術師などでは御座いません。
  強いて言うなら、私は救済者(セイヴァー)……遍く総ての人間から、快楽を賜る菩薩でありますゆえ」
 「――ハ。成程、売女かよ。貴様、見下げた屑のようだな」


 聖十郎の指摘は、事実間違ってなどいない。
 彼は紛うことなき邪悪であるが、その人物評に限って言えば何よりも的確にこの救済者の本質を言い当てていた。
 彼女は大人物では決してない。
 柊聖十郎や、彼を一度救い上げた魔王、更には邯鄲に群れを成す他の六凶のように。
 さりとて、心根の下らないモノが阿呆ほどの力を持っている方が、その危険度は洒落にならない域へ跳ね上がる。
 
 セイヴァーは屑だ。
 セイヴァーは売女だ。
 しかし彼女は屑であるからこそ、全人類をすら破滅させる力を持つ。


 「真の名を名乗れよ売女。俺の道具として、聖杯を勝ち取るまで手綱を引いてやる」
 「まあ、光栄です、我が主(マスター)。あなたは私を理解し、賛同して下さるのですね」
 「戯けが。
  貴様に賛同するならば、酔いどれの戯言に耳を貸していたほうが余程有意義だとすら思うよ」

 それを聞けば、これは手厳しいとセイヴァーは嗤う。
 そして、彼女は己の真名を告げた。
 
 「殺生院キアラ」

 彼女は全能。
 彼女は破滅。
 彼女は救いで、彼女は終わりの随喜自在第三外法快楽天――


 「生きとし生けるもの、総ての苦痛を招くものです」


 【クラス】
 セイヴァー

 【真名】
 殺生院キアラ@Fate/EXTRA CCC

 【パラメーター】
 筋力:A 耐久:A 敏捷:C 魔力:EX 幸運:B 宝具:EX

 【属性】
 混沌・中庸

 【クラススキル】
 彼女は異端のセイヴァー。
 本来ならば彼女がこのクラスを名乗ることが、何かの冒涜である。
 殺生院キアラという救済者は、クラススキルを持たない。


222 : 柊聖十郎&セイヴァー ◆NDKFyuz/Uk :2015/07/26(日) 01:27:03 7zjvA0u20
 【保有スキル】
 法力:A
 彼女は最悪の破戒僧であるが、その法力だけは紛れもない本物である。

 ウィザード:A
 天才的なまでのウィザードとしての腕前。
 電脳世界での逸話を主とし顕現したサーヴァントであるため、現実世界にもコードキャストを適用できる。

 素性秘匿:A
 彼女は自らがサーヴァントであるという事実を、後述のスキルを使わない間は隠蔽可能。
 この秘匿は非常に高度なものであり、たとえ専用の宝具を用いても看破不可能な域にある。

 魔人化:EX
 かつてマスター達とアルターエゴを吸収して変生した魔人の姿となる。
 これはあくまで彼女の逸話をなぞるスキルであるため、改めてそれらを取り込む行程は不要。
 頭部に2本の巨大な角を生やし、周囲には彼女に取り込まれた多くの人間の魂が怨霊のような姿で現れ、背後には巨大な髑髏が現れる。この魔人形態は随喜自在第三外法快楽天と呼ばれる。
 しかしこの魔人化は規格外のランクにありながらも不完全。
 宇宙規模の存在規模も、太陽系を管理するほどの権限も持たない。
 それでも――対サーヴァント戦をこなすくらいならば、雑作もないことである。

 神性:EX
 魔人化発動時のみ自動修得する。
 権限がなくとも、彼女は一個の神格、菩薩である。

 【宝具】
『この世、全ての欲(アンリマユ/CCC)』
 ランク:EX 種別:対星宝具 レンジ:- 最大捕捉:全人類
 魔人化した彼女の対星宝具。
 人類すべての欲望を受け止める大地母神に変生した彼女は、同時に人類すべての欲望の生け贄でもある。
 人類全ての欲望のはけ口となった彼女は、コードキャスト・万色悠滞により人々の魂を自身の身体に招き入れ、何十億という快楽の渦を作り上げる。この快楽の渦は知性あるものを融かし、その『人生』を一瞬で昇華させる。わずか一瞬の、しかし永遠の極楽浄土の誕生である。
 この快楽の渦はどれほど知性構造が異なっていようと、知性あるものには例外なく作用する。
 地球に残ったあらゆる生き物(人間、動物、植物)に自分の体を捧げ、これを受け入れる事で最大の官能を会得し、成長する権能。その規模の大きさから大権能として扱われる。
 異性であるか否かや知性の高さによってこの宝具によるダメージは変動する。曰く、最低最悪の宝具。
 ゲーム内では現HP・MPの99%ダメージを与える。ただし、これは「全能を振るうことができない相手」である主人公(のサーヴァント)に対しての効果であり、この制限が無かった場合の効果は不明。

 当企画においては、魔人化が不完全であること、マスターの存在などが枷となり使用不可。
 これを使用するには、それこそ聖杯を用いるでもして真の全能形態を取り戻さねばならない。

【weapon】
 素手。

【人物背景】
 本名は殺生院祈荒。月の裏側に召喚されたマスターの1人で、二十代後半の日本人。穏やかな眼差しと清楚な佇まいが特徴の尼僧で、月の聖杯戦争には「人々を救うという自身の欲望のため」に参加したと公言している。
 その正体は『CCC』の事件の黒幕であり、BBのプログラムを改変し、彼女の「主人公を消滅の未来から救う」という目的に「人類の欲望の解放による破滅」という破綻した意識を植え付けた張本人。
 「自分が気持ちよくなる」ためだけにムーンセルを乗っ取り、神になろうとする。
 自身の欲を追求した結果人類が滅びたとしてもかまわないと考えており、自分の欲のために人を救う、あるいは滅ぼすことにためらいを持たない。他人の人生を台無しにすることでしか絶頂することができない異常者で、彼女が菩薩として崇め奉られたのも単に逸脱しすぎた人間性を解脱と見紛われたに過ぎない。
 その人格は人間として破綻しきっており、他人を虫同然と見做し、己の快楽のための道具として扱うことに何の抵抗もない――しかしその上で、全ての人間を真に「愛している」ことが彼女の特筆すべき異常性である。


223 : 柊聖十郎&セイヴァー ◆NDKFyuz/Uk :2015/07/26(日) 01:27:26 7zjvA0u20


 【マスター】
 柊聖十郎@相州戦神館學園 八命陣

 【マスターとしての願い】
 聖杯を得、盧生の資格を手に入れる

 【能力・技能】
 邯鄲の夢。
 戟法、楯法、咒法、創法、解法の五種から成る夢を用いる。
 今の彼は破段、急段の夢を使うことが出来ないが、それでも詠段までの夢を超人的な域で扱う魔人である。
 頭脳も運動神経も魔人の域に達しており、達人の格闘技程度ならば闘いながら覚えられる。 

 【人物背景】
 おびただしいまでの死病に冒され、それを打破するべく邯鄲法を発立させた張本人。
 その内面は悪魔的なまでの自尊心の塊であり、自身を見下す者、哀れむ者を決して許さない人格破綻者。
 悪魔・神野明影との契約通り、破滅の運命を辿る筈だったが、その瀬戸際で魔性菩薩との再契約を果たす。 

 【方針】
 敵を討つ。
 使えるものは使い、使えなければ塵と断じて押し潰す。


224 : ◆NDKFyuz/Uk :2015/07/26(日) 01:27:47 7zjvA0u20
投下終了です。


225 : ◆zzpohGTsas :2015/07/26(日) 15:55:12 8TJ/X0/60
感想は後程。投下いたします


226 : もしも聖杯戦争だったら ◆zzpohGTsas :2015/07/26(日) 15:55:54 8TJ/X0/60



――MI作戦戦果詳報


 某日の深海棲艦による鎮守府攻撃に端を発するMI作戦は、我軍の大勝利に終われり。
MIを占領していた敵深海棲艦の首魁・飛行城姫は、特型駆逐艦一番艦・吹雪率いる第五遊撃部隊を筆頭とした我軍の猛攻により轟沈す。
戦死者の数も提督や秘書官である長門型戦艦一番艦・長門や二番艦・陸奥の予想を裏切り、一切出さなかった事実を鑑みても、我軍は大勝を収めたと言えよう。
まことに遺憾ながら、たった一人の生死不明艦を出した事を除けば、だが。


.


227 : もしも聖杯戦争だったら ◆zzpohGTsas :2015/07/26(日) 15:56:12 8TJ/X0/60
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 その日はムカつく程にスッとした快晴であった。
水で洗い流されたように雲一つない青空に、丸い太陽が燦々と輝いている。厭な気持が纏めて吹っ飛びかねない、そんな天気だ。

 嘗て、飛行城姫とその配下の深海棲艦と、熾烈な海上戦を繰り広げたMI諸島の沖合を、その少女は水上スキーの要領で滑っていた。
こんな天気だ。海が時化る素振りは、欠片も見られない。思う存分彼女の捜索に時間を割く事が出来る。
あの日、この場所で共に戦い――神隠しにでも遭ったように忽然とその姿を消した、同じ重雷装巡洋艦……『北上』に。

「北上さん、北上さん……北上さん……!!」

 若い竹のような緑色のセーラーを着用した、茶髪の少女だった。
普通に生活していたら可愛らしい事この上ないその顔に刻まれた深い隈と、眼球に走る血管は、睡眠不足を雄弁に物語る何よりの証拠だった。
女性の睡眠不足は、肌と髪に如実に表れる。髪はキューティクルが剥がれて痛んでおり、肌は目に見えて荒れている事が男でもすぐに解る事だろう。
しかし、今の彼女はそんな事は瑣末な事。気にしていられないのだ。血走った瞳、必死の形相。今の彼女は少女と言うよりも、鬼女か、般若の類である。

「北上さん、北上さん、北上さん!!」

 同じ事、同じ人物の名前を、彼女は何度も口にし続ける。口内の唾液が全て乾いてもなお、少女、重雷装巡洋艦『大井』は北上の名を呟き続ける。
その様は最早狂気じみており、並々ならぬ執念をいやがおうにも感じさせる。一種の、偏執狂とすら言えるだろう。
それだけ、大井の中において北上と言う少女は、特段のウェートを占めていた。今の行動原理は、早く北上に会い、その無事を確かめ、抱き着きたいと言う一点に他ならない。

 MI作戦の折に、重雷装巡洋艦・北上は生死不明となった。
如月のような轟沈ではない。確実に生死不明、或いは行方不明なのだ。これは大井の妄言ではない。何故なら大井は、北上が消えたその瞬間に立ち会っていたのだ。
索敵や敵艦感知や味方の状態を逐次把握する艦娘達、そして、大井と北上の近辺にいた艦娘達からの証言も取れている。

 敵駆逐艦型深海棲艦に追跡される北上を見、急いで救援、大井はその駆逐艦を撃破し、北上を救出した。
その後、二人の“““愛”””のコンビネーションを以て、二人を取り囲む駆逐艦を尽く轟沈。
二人の力を合わせれば、駆逐艦如き恐るるに足らない。空母だって戦艦だって、静める事が出来る。そう北上と認識しあおうと思い、彼女の方を向いた、その時だった。
いないのだ。北上の姿が、煙のように消えてなくなっていたのだ。ありえない。攻撃されるにしても、敵駆逐艦の物らしき砲音は聞こえなかったと言うのに。
沈んだ訳でもない、何処かに移動した訳でもない。その姿を消した北上を見て、大井は錯乱した。この瞬間から、彼女はMI作戦で使い物にならなくなった。
そんな状態に大井がなろうとも、鎮守府の命運を賭けたこの大作戦に勝利を収められたのは、せめてもの救いと言うべきか。

 MI作戦から、既に数日が経過した。
大井は今日も、MI諸島周辺の沖合を血眼になって動き回っている。其処は、自分が北上と戦った場所。彼女と最後に会話を交わした海域。
あの作戦の日からずっと大井は、提督や長門の許可を得て、この海域を探し回っている。夢幻のようにその姿を眩ませた、北上の姿を求めて。

 遠くから、そんな彼女の様子を見つめる金剛と加賀、吹雪と言った、MI作戦で活躍した第五遊撃部隊の面々が、痛ましそうに大井の姿を見つめていた。
彼女は、あの作戦の日からずっと、眠っていなかったし、風呂にも入っていなかったし、食事も摂っていなかった。


.


228 : もしも聖杯戦争だったら ◆zzpohGTsas :2015/07/26(日) 15:56:34 8TJ/X0/60
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ねーアレックスー」

「何よ」

 ニトリで購入した組み立て式のテーブルに置いたNECのノートパソコンに向き直る、若竹色のセーラー服の少女に対し、安いナイロンの絨毯に寝転がりながら漫画本を読む男が、やる気なくそう答えた。

「あたしのパソコンのデスクトップに入ってるこの、女の子のアイコンの奴、何?」

「俺が落としたエロゲだけど」

 見た所明らかに十代の少女であると言うのに、彼女に対してエロゲ、と口にする事に男は一切の気恥かしさも躊躇もなかった。声音に迷いが全くない。
それを聞いてその少女――北上は、赤面して怒るとか恥ずかしがるのではなく、寧ろ、呆れた様な表情を、その男に対して向けていた。

「買ったとかじゃなくて落したってのは……」

「torrentだけど」

「言わなくても良いから」

 自らの身銭を切って買ったとかならばまだしも、金すら落とさず『落とす』とは、何とも資本主義社会とゲーム制作会社に喧嘩を売っている男だろうか。
尤も、縦しんば自らの金でエロゲーを購入したとしても、買ったゲームがゲームの時点で、北上的には褒められる要素など欠片もないのだが。

「……うわ、このゲーム2GB以上もあるの……? 重くなりそうだから削除していい?」

「お前、2GB何て誤差だろ誤差。マスターのパソコン何て大した奴入ってないんだから、良いだろそれ位」

「人のパソコンをエッチなゲーム専用機にするのやめてよアレックスー」

 「てなわけでポチっとー」、と、間延びした声音でアレックスと言う男が落としたゲームを削除。
漫画を放り投げ、チッと軽く舌打ちするアレックス。怒りはしない。後でまた落とし直せばいいのだと、考えているに違いない。

「……おい、何やってるん?」

 ゲームを削除する、と言うだけでは北上は終わらなかった。アレックスは見たのだ。
彼女がパソコンのコントロールパネルを開き、何かを設定し直したのを。

「パソコンを開くパスワード設定してる」

「ちょ、何やってんのマスター!!」

 こんな手に出るとは予測しなかったらしく、慌ててアレックスは立ち上がり、北上の方に駆けよった。
が、時既に遅し。既に彼女は、自分だけにしか解らないパスワードを設定し終えたようである。

「この<新宿>での唯一の俺の暇つぶし手段に何してんだよ、なぁ〜!! エロゲと動画サイト巡りしかやる事ないのに!!」

「もっと建設的な趣味探した方が良いと思う」

 的確に急所を抉る様な正論であるが、アレックスは全く動じない。

「なぁ、パスワード何て設定したんだ、教えてくれ頼む!!」

 北上の肩を揺すりながら、アレックスは問い掛ける。赤の他人に銀行の口座番号を教えてくれと乞うのと同じ位、馬鹿げた質問だと言わざるを得ないだろう。
……だが彼女は、アレックスから顔を背けながら、ボソっと口にする。目線の先には、窓越しに広がる<新宿>の住宅街の風景があった。

「……『大井っち』」

「……あん?」

 何かを呟いた北上を見て、アレックスは疑問気な表情を浮かべながら、北上から手を離す。彼女はアレックスの姿などまるで見えていないように、黄昏ていた。

「パソコンでタイピングする様な感じで、『OOITTI』って設定したのよ」

「それ、人の名前か何かか?」

 事情を知らないアレックスにも、その程度の事は理解出来るようである。

「あたしの大事な友達の名前」


229 : もしも聖杯戦争だったら ◆zzpohGTsas :2015/07/26(日) 15:57:10 8TJ/X0/60
 パタンとノートパソコンを閉じながら、北上が語る。瞳は遠くを見ていた。

「元の世界にね、おいて来ちゃったんだ。はは、今頃寂しがってると思うよ、大井っちも」

 言って北上は、パソコンの傍に置いていた群青色の鍵を弄ぶ。
ピーン、と言う良い音を立てさせながら、北上がその鍵を弾き、器用にキャッチングする。
彼女ら艦娘達の主戦場である大海原よりも見事な青の鍵。誰が名付けたかは知らないが、これは契約者の鍵と言うらしい。
この鍵の正体が理解していれば、今頃<新宿>に何て来る筈はなかったのに。

 MI作戦の際、大井と絶妙なコンビネーションで、迫り来る駆逐艦型深海棲艦を打ち倒していた時の事。
自分達の周りを取り囲んでいた駆逐艦を全て倒した時、一匹だけ、特にしぶとかったそれが、水底に沈み行く際に、ある物を吐きだしたのだ。
それこそが、今北上が握っている、契約者の鍵。もしやこれが、駆逐艦が異様な強さを発揮した理由かと思い、海に沈んで行くそれを慌てて掬い取った、その瞬間――。
気付けば北上は<新宿>にいた、こう言う事である。

 そして、その契約者の鍵に導かれてやって来た北上のサーヴァントこそが、彼、『モデルマン』のクラスで顕現した、アレックスである。
大井のような茶髪、巻いた白い鉢巻。青を基調とした服装。何でもこの男は、一応勇者であるらしい。眉唾物である。何せ北上のパソコンにエロゲーを落とす位だ。
勇者と認める事自体が、相当の勇気を必要とする行為であろう。事実北上は、この男を勇者とは認めていなかった。

「こうやってさー、余裕ぶって、間延びした感じの喋り方をしてるけどね……本当は、とっても怖いんだ」

 契約者の鍵に、北上の顔が映る。光の反射と鍵の形状の影響で、北上の顔は小さくにしか見えないが、その状態でも。
不安と恐怖の翳を色濃く映しているのを、十分に見て取れる事が出来た。

「鎮守府の皆や、大井っちに会えないで死んじゃうのかなって思うと……叫びたくなる。怖い、いやだ、逃げ出したいって」

 戦争は、人の心を映す鏡である。本当に危険な状態でこそ、人はその本性を露にする。そう言ったのは、誰だったか。
人は死を前にして初めて自分の本当の性格を知る、北上に限らず、一度でも死線を掻い潜った事のある艦娘はその事を骨身にしみて認識している。
死を前にした時、寧ろ奮い立つ者もいる。恐怖で竦み上がる者もいる。黙ってそれを受け入れる者もいる。――艦娘にいるとは思いたくないが――全てを放棄し逃げ出す者も。
北上は、死ぬのが怖い少女だ。あの時駆逐艦の深海棲艦に負われていた時も、大井が助けに来るまでは本気で恐怖を抱いていた。
きっと、それこそが自分の本質なのだろう。余裕ぶった口調で、飄々とした人物を演じてはいるが、死ぬのは怖い。北上は自分で自分の事を、そう認識していた。

 聖杯戦争。いつも自分達艦娘が、一切気の抜けない死闘を演じている海の上でのそれとは違う戦争である事は、北上にも解る。
だがこの世界には、同じ死闘を共有した吹雪も金剛も加賀も瑞鶴も、大井もいない。北上は、完全に一人だ。
北上は思うのだ。この世界でもしも死んだら、鎮守府の皆は自分が死んだ事を一切認識しないのでは。そして、自分と同じ重雷装巡洋艦の片割れであるあの少女は。
いなくなった自分の影を求めて、永遠にあの青い海の上を彷徨うのではないか。怖い、怖い、怖い!!
死ぬのも怖い、それ以上に、誰にも知られず果てるのが、怖いのだ!! 「あはははは」と、誤魔化すような乾いた笑いを上げる北上。
しかし、一瞬、氷でも当てられたようにその身体が震えたのを、果たしてアレックスは見る事が出来たか。

「なあ、マスター」

 話の途中で胡坐をかき始めていたアレックスが、そう言った。

「その大井っちっての、女?」

「うん」

「美人?」

「まあ、可愛い方」

「ヘレンとかデイジーとかキャロルよりも?」

「誰それ」

 まったく知らない女性の名前を羅列されて、きょとんとする北上。
顎に手をあて考え込むアレックスだったが、三秒程経過してから、「よし」、と頷いた。


230 : もしも聖杯戦争だったら ◆zzpohGTsas :2015/07/26(日) 15:57:50 8TJ/X0/60
「俺にその大井っちっての会わせてくれよ、口説くから」

「大井っちを〜!? そりゃあなた無理無理無理のカタツムリって奴だよ。多分聖杯手に入れるより難しいと思うよ」

 アレックスに口説かれる大井の姿を想像する北上。流暢なトークを行うアレックス、頬を赤らめる重雷装巡洋艦・大井。……ないない、と否定する北上であった。

「それに、大井っちに会いに行くにしても、どうやって? <新宿>って、私のいた所とは世界が違うらしいじゃん?」

「さあ? 俺もそれは解らないけど、確実な方法は、俺もマスターも一つだけ知ってるよな」

「……聖杯?」

 北上が、恐る恐る、と言った風にその単語を口にする。アレックスは首肯した。

「のんべんだらりとエロゲプレイしてニート生活……、を、満喫したかったが、この世界じゃどうも、そうは問屋が、見たいだしな。面倒くさいが、サーヴァントとして俺も振る舞わなきゃならないらしい」

 言ってアレックスは立ち上がり、左腰に掛けている鞘から、剣を引き抜いた、
丸い物を幾千枚も張り繋いで剣身を加工した長剣。北上はその張り合わせたものが、凄い大きな鱗だと気付いた。

「最初に言っただろ? 俺はこれでも勇者なんでね。らしく振る舞えって言われたら、俺も振る舞うさ」

 剣先を北上の眉間に合わせ、アレックスは口を開く。

「マスター、アンタの引いたサーヴァントは“最強”何だぜ? 勇者を信じろ、“もしも”を叶えてやるから」

「……はは」

 笑みを浮かべる北上。それは、元居た世界で大井と談笑していた時に浮かべていた表情。
この<新宿>にやって来てから、久しく浮かべる事のなかった感情の発露。北上は漸く、自然体になれた、そんな気がする。

「それじゃ、信じてみちゃおっかな。エッチなゲーム消されて悔しがってた、おませな勇者さんをさ」

 そうだ、自分は元の世界に帰る。青い海が見渡せる、あの広い広い鎮守府に。
それでもって、取り戻す。あの世界での、楽しくて、しかし命の危険が確かに存在する、生きていると言う事を何よりも実感出来る鎮守府での日常を。
そして、皆に再び会って見せる。第五遊撃部隊の皆に、駆逐艦のウザったらしい子供達に、大人ぶった重巡戦艦達に、偉ぶった長門や陸奥に。
――自分の大事な大事な友達である大井に。彼女に会ったら、ワンワン泣きながら抱き着いてしまうかも知れない。そうなる日を……今の北上は望んでいた。
そしてその後で、もののためしにアレックスに口説かせてみるんだ。それで、口説きに失敗し痛烈な毒舌を貰い肩を落とすアレックスを見て、大笑いする。

 勝ちに行くのだ。海の上ではない、陸の上で繰り広げられる、聖杯戦争を。
何としてでも、生きて帰るのだ。青と白とレンガの赤が眩しい、あの鎮守府に。

「……ありがとね」

 静かにそう呟いた北上の言葉を、アレックスは聞き逃さなかった。

「こういう時はなぁマスター、俺達の世界ではこう言うんだぜ」

 すぅっ、と息を吸い込んでから、アレックスは、言葉を紡いだ。

「めでてぇwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww、ってさ」

「うん、めでたいね。あいや、めでてぇ、だっけね」

 流石に今は、アレックスみたいに、馬鹿みたいな底抜けの明るいトーンでは言えない。キャラじゃないし。
だけどいつかは、聖杯を取り終えたら、彼みたいな笑い方が出来るのだろうか。そうありたいものだった。
換気の為に空けた窓から、カーテンをふわりと持ち上げて、一陣の風が入り込んで来た。海のない<新宿>の風は、生ぬるく、都会のコンクリートの匂いで満ちていた。


231 : もしも聖杯戦争だったら ◆zzpohGTsas :2015/07/26(日) 15:58:30 8TJ/X0/60
【クラス】

モデルマン

【真名】

アレックス@RPGツクール2000デフォルトキャラクター、或いは、VIPRPG

【ステータス】

筋力C 耐久C(EX) 敏捷B 魔力B 幸運A 宝具EX

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

万人の雛形:EX
ありとあらゆる人物へと『なりうる』可能性を秘めたスキル。
1つの村の冴えない村民として終わる可能性もあれば、数多の世界を股にかけ極悪非道の魔王を討ち滅ぼす最強の勇者となる可能性もある。
一方で、誰にも同情されず惨めに死んでゆく小悪党になる可能性もあれば、世界中の人間に認知され、ありとあらゆる人物から危険視される大悪党にも成り得る。
果ては、人間以外の存在。地獄に名を轟かせる大悪魔にもなる事もあれば、勇者の敵そのものである大魔王にだってなる可能性も、決してゼロではない。
平時のモデルマンは非常に俗物的な人物であるが、彼が如何なる人物になるのかは、外的要因及び、彼を取り巻く状況によって決定される。

【保有スキル】

魔術:B
モデルマンは魔術にも造詣が深く、主に神聖、或いは光属性とも呼ばれる魔術を行使出来る。
モデルマン、もといアレックスと言う人物は勇者としての資質を強く設定されており、光の術の他に、回復や戦闘不能者の復活の術にも造詣が深い。
後者は世界観によっては死者の蘇生すらも可能とする術であるが、聖杯戦争の舞台では当然のように死者蘇生は認められない。

仕切り直し:E+++
モデルマンは『エスケープ』と呼ばれる魔術を習得しており、詠唱に成功すれば、状況が如何に不利でも、相手が如何なる追撃のスキルを持っていようとも、
その状況から確実に逃げ果せる。ある種の空間転移に等しい。但し、固有結界内、または魔術そのものが使用不可能な空間である場合には、このスキルは発動しない。

対魔力:C(EX)
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
ある宝具を発動させた場合には、カッコ内の値に修正される。

【宝具】

『“もしもサーヴァントだったら”』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:自身
後述するもしもの力を限定的に、自分にだけ発動する宝具。
この宝具を開帳する事で、モデルマンは、聖杯戦争における基本の七騎のクラスへと一時的に変身する事が出来、
それらのクラススキルを獲得する他、クラスに準じたステータス修正を受ける事が出来る。
外見こそ平時のモデルマンと変わりはないが、性質だけを完全に異なるものへとさせる、より高次元の変異現象。
発動させる事で以下のクラスに変化、そのクラス特性を獲得する

セイバー…対魔力の値がAに修正され、騎乗:Bを獲得する。
ランサー…対魔力の値がBに修正され、敏捷がワンランクアップする。
アーチャー…単独行動:Aを獲得する。
ライダー…対魔力の値がBに修正され、騎乗:Aを獲得する。
アサシン…気配遮断Bを獲得する。
キャスター…道具作成:C、陣地作成:Cを獲得し、魔術スキルに補正が掛かる。
バーサーカー…幸運を除いた全ステータスがワンランクアップするが、狂化:Cを獲得する

各クラスに変身している間は、平時の魔力消費量は、モデルマン時のアレックスに比べて割増になっている。この時割増される魔力量は、全クラス同じである。
また、如何なる手段を用いても、『モデルマン以外のエクストラクラスへの変身は出来ない』。


232 : もしも聖杯戦争だったら ◆zzpohGTsas :2015/07/26(日) 15:59:15 8TJ/X0/60
『“もしも勇者が最強だったら”』
ランク:EX 種別:最強宝具 レンジ:- 最大補足:自身
モデルマンのみならず、彼がいた世界に於ける象徴とも言える宝具。
その詳細は全てのステータスをA+++ランクにし、どんなサーヴァントでも滅ぼせる最強の一撃が放てる……と言うものではなく。
『触れた物を絶対に斜め方向に吹っ飛ばせる』と言う宝具。この宝具は発動している間は、モデルマンに触れようとした存在を斜め方向に吹き飛ばせるのである。
吹っ飛ばせるものは生命体や物質のみならず、魔的なものや霊的なもの、概念的なものにまで及び、発動最中は銃弾や魔術、精神干渉や呪詛、
空気の中に含まれる毒素ですら吹っ飛ばす事が出来、一切モデルマンに干渉が出来なくなる。
ランクを問わず全ての現象を吹き飛ばす事が可能で、因果律に作用する必中や確実な必殺宝具も、モデルマンに触れた瞬間あらぬ方向に吹っ飛ばされ無効化されてしまう。
五つの魔法や如何なる次元の干渉をも吹き飛ばし切る、『全て遠き理想郷』とは似て非なる方法の、最強の守り。耐久ランクと対魔力スキルのEXとは、この宝具を発動している時の値である

 相手を吹っ飛ばすとは言っても、この宝具はそれ以上の事は出来ない。吹っ飛ばした際にはダメージは全くなく、吹っ飛んだ先に壁があり、其処に激突したとしても、
そのダメージはたかが知れている。また攻撃を相手の方に反射すると言う性質の宝具でもない為、この宝具発動時に飛び道具を放ったとしても、
放った本人に発射した飛び道具が跳ね返る事はない。そして何よりも、この宝具を発動、維持するには莫大な魔力が必要になり、令呪のバックアップを用いたとしても、精々が数十秒程度しか最強状態はキープ出来ない。

『IF(もしもの力)』
ランク:- 種別:対人〜対界宝具 レンジ:-〜∞ 最大補足:自身〜∞
嘗てモデルマンが活動していた世界群で、何の法則もなければ秩序もなく発動していた高次の力。
その内容は、もしも何かがこうだったら、と言った風に、その世界に住まう人物の立場や運命、果てはその世界の物理法則や世界の根幹すらも『改竄』してしまう力。
モデルマンの存在や意思を遥かに超えた超高次元の力の為に、モデルマン自身はこの宝具の力を限定的な範囲でしか引き出す事は出来ない。
彼に許された発動範囲は、『もしも聖杯戦争の参加者だったら』、宝具・『もしもサーヴァントだったら』と『もしも勇者が最強だったら』と言う三つだけであり、
それ以外の『もしも』は無条件で発動不可。聖杯戦争において許される『もしもの力』とは、聖杯以外には許されない。

【weapon】

ドラゴンソード:
ドラゴンの鱗を加工して作られた片手剣。ドラゴンとは言うが、モデルマンのいた世界では強い種族でこそあれ普遍的な魔物の一種であり、幻想種とは全く異なる。
メタ的な話をするのであれば、ドラゴンソードとはRPGツクール2000でゲームを新しく制作する際、デフォルトのデータベースに記録されている中では最強の片手剣。
宝具、もしもサーヴァントだったらを発動し、ランサーになった場合には、同じくドラゴンの鱗を加工して作った槍である、ドラゴンスピアに変化する。

【人物背景】

能力のバランスがよく、強力な装備を扱うことが出来、回復魔法や神聖攻撃魔法を操るオールマイティーな勇者……と言う設定の、キャラクター。
元ネタはRPGツクールのデータベース上に存在するデフォルトキャラクターの一人。職業はそのまま勇者。
アスキー社が意図したキャラクターとは裏腹に、カスゲではニートだったりダメ人間だったりで勇者らしい片鱗を全く見せないキャラクター。
しかしオールマイティーと言う言葉には嘘偽りはなく、素の能力値自体は非常に高い。悪役や外道を演じる事も出来そんな意味でもオールマイティー。
むしろ主人公や味方キャラとしての登場と同じくらい敵役(特にラスボスや大ボスの役)としての活躍が多い。勇者は味方に回っても敵にまわっても美味しいのである。
リナックスとか言う妹がいるらしい。

【サーヴァントとしての願い】

マスターの北上をさしあたって元の世界に戻す


233 : もしも聖杯戦争だったら ◆zzpohGTsas :2015/07/26(日) 15:59:38 8TJ/X0/60
【マスター】

北上@艦隊これくしょん(“““アニメ版”””)

【マスターとしての願い】

元の世界に戻り、鎮守府での日常を取り戻す

【weapon】

14cm単装砲:
軽巡や重巡の基本装備と言うべき主砲。当然、人間相手には火力オーバーと言う他ない代物。
MI作戦の最中からの参戦であるので、持って来る事が出来た。

61cm四連装(酸素)魚雷:
重雷装巡洋艦の象徴とも言える魚雷。
北上の艦の特徴も相まって、海上では無二の威力を発揮出来るのだが、生憎<新宿>には海がない為基本的に宝の持ち腐れ。これには北上も相当落ち込んでいる。

【能力・技能】

水上での地形適応スキルと、水上戦闘の技量を持っていたが、<新宿>は海がない為それらを発揮出来る機会は絶無。
艦娘としての勘や運動神経は高い上、換装も持ってきている為、戦闘能力自体は高い。

【人物背景】

大井の相棒。彼女はどう思っているかは知らないが、北上にとっては大事な友人。
MI作戦最中からの参戦であり、あの作戦がどうなったのか、大井は無事なのかを確かめたい。

【方針】

聖杯狙い。ただ、弱い者いじめとかはしたくないかなー、とか思ったり。


234 : ◆zzpohGTsas :2015/07/26(日) 15:59:52 8TJ/X0/60
投下終了です


235 : 名無しさん :2015/07/26(日) 21:45:04 iPE7AIgg0
ポテチ


236 : ◆zzpohGTsas :2015/07/27(月) 02:28:52 09G0C8C60
投下いたします


237 : ◆zzpohGTsas :2015/07/27(月) 02:29:20 09G0C8C60




           鏡とは、人間が迷いから目を覚ますようにと、その上で何かある束の間の芝居が演じられるガラス板の事である



.


238 : ◆zzpohGTsas :2015/07/27(月) 02:29:36 09G0C8C60
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 コンクリートが煮え、沸騰してしまいかねないような、暑い日だった。
こんな天気の日に外にいくのは、日射病にかかりたいだけの馬鹿なんだ、と揶揄されるのも已む無し。そんな天気の真昼の事である。
コンビニエンスストアからは凄まじい早さでアイスや清涼飲料水の類が消えて行き、自動販売機からもジュースがどんどんなくなって行く。
すれ違う人間の大抵は、その手にミネラルウォーターやソフトドリンクのペットボトルを握っている。日射病対策には兎にも角にも、水の摂取が不可欠であるからだ。

 <新宿>の西新宿の住宅街を歩く少年も、その例に違う事はなかった。
左手にミネラルウォーターを握ったまま、彼は茹だるような暑さの中を歩いている。プラスチックの中の液体は、半分近くにまで減っていた。
高温多湿の日本、それも都会の暑さと言うのは、赤道直下の国々や砂漠の国から来た人間にも堪えると言う。
サウナの中にいるようだと形容されるような暑さもそうなのであるが、それらの暑さは自然由来のそれではなく、クーラーの排熱による暑さなのだ。
暑さに強い国民ですらがバテる正体が、それだ。自然の暑さと人口の暑さと言うのは、それ程の違いがある。

 外国からこの日本の<新宿>にやって来た青年にも、この暑さはいやなものだった。
ハンカチが欠かせない。髪を伝い汗はポタポタと垂れてくるし、身体の毛穴からも汗を噴出して来る。
キャップを空け、口に水を運ぶ。ぬるい水が緩く青年の口内を満たす。そしてそれを、喉の音を立てて彼は飲み下した。

 ふと、住宅街を歩いていると、路傍に一匹の猫が蹲っていた。
其処は今の太陽の位置で考えた場合、太陽光がモロに照射される場所で、陽炎で路面が歪んでいる程の所だ。
そんな所で、その猫はぼ〜っとしている。青年はその猫に近付いて行く。都会の野良は、人が近づけばヒステリーでも起こしたかの如く逃げて行くのだが、
その猫はそうではない。青年など眼中にないが如く、その場から動く事がなかった。

 見た所怪我を負っている様子もない。
猫が顔青年の方に顔を上げ、目線を彼へと向けた。二〜三歳程の猫である。「みぃ……」、と、一分後には死ぬのではないかと言う程弱々しい泣き声が口から漏れ出る。
「アツイ……」、そんな声を、青年は聞いた。暑さで完全にヘバっているようだ。犬や猫だって、熱中症にかかる。
ましてやペットと違い、野良は掛かれば殆ど命の保証はない。このまま行けば、この猫は死んでしまうだろう。

 青年はその場で屈み、左手にミネラルウォーターを零し始めた。
指を御椀状に曲げさせ、水を溜め、その状態で猫の口元に水を持って行かせる。
力なく、猫が舌を伸ばし手の中の水を舐めた。物凄い勢いで、水が減って行く。決して指の間から水が零れているせいだけではなかった。
無言で猫が青年を見上げる。もっと水をよこせと、催促している。仕方ないと水を手に零し、先程の要領で飲ませる。また水が減る。
「うなぁ」、と言う声を猫が上げた。先程よりも体力が回復したらしい。

 猫を抱え、青年は日の当たらない路地の方にまで移動、其処で猫を降ろす。
猫が、もう水はくれないのか、と言った様な瞳で此方を見て来る。意外と現金な性格のようだ。

「またね」

 言って青年は、被っていた帽子を目深にかぶり直し、その場を後にする。
なぁ、と路地の方で猫が鳴いた。「アリガトウ」と言っていた。その声は、青年だけに聞こえる。

 彼の背後を影のように歩く、墨を被っているが如き真っ黒い男には、一切聞える事がない。



.


239 : 終らせる/創造する者 ◆zzpohGTsas :2015/07/27(月) 02:30:23 09G0C8C60
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 その青年から見て、<新宿>、いや。この世界の社会と言うものは、何処までも人間が主役と言うべきものであった。
いや、そもそも社会と言う枠組み自体が、人間の為に在るものだ。人が主役である事が、普通は当たり前なのだ。
だが、青年のいた『世界』では、社会における主役と言うものは人だけではなかった。人と同じ高さの位置に、其処には、『ポケモン』と言う生き物が組み込まれている。

 『N』と言う名の青年には、この世界の社会は、自分達がいた世界以上に不自由で、皆の顔が暗い世界に映る。
何人もの大人と、この世界ですれ違って来た。一人たりとも、満ち足りた顔をしている者はいなかった。
スーツを着た男や女、同い年の男女と一緒にお喋りに興じながら歩く若者、高いビルから出て来た偉そうな中年の男性。
皆の目は、等しく疲れていた。装っている表面上の楽しさや溌剌さは、全て嘘だった。誰一人として、この世界を楽しめていなかった。

 ポケモンがいた世界では、違った。
其処では人とポケモンは、パートナーだった。人によっては、何者にも別ち難い家族であった。己が腕と同じ位に信用に足るパートナーだった。
彼らがいて、共に苦労を分かち、共に喜んで居られていたからこそ、人も、ポケモンも。今を生きる事が出来たのだ。それが当たり前の社会だった。
当たり前ではない社会に遭遇して、初めて解る、ポケモンと言う存在の大きさ。Nはそれをまざまざと実感する。

 嘗て父に踊らされていた自分を止めてくれた少女の事を、Nは思い出す。
人とポケモンは一緒にいなければならない存在なのだと、彼女は主張していた。人の為にも、ポケモンの為にも、それは必要な事なのだ、と。
この世界を見ると、彼女の言っていた事は本当だったのだとつくづく思う。ポケモンが万能の存在であるとは言わないが、それでもこの世界の人間には、
圧倒的に、心の支えが足りていない。疲弊した心を癒してくれる存在が、足りていない。

 遊具の豊富な公園へとやって来たN。十m程右に設置されたベンチに、人が座っていた。
左手に握った杖を見るに、どうやら盲目であるらしい。右足の近くに、毛並みの良いラブラドールレトリバーが侍っている。
如何にも頭も育ちも悪そうな子供が、その犬に油性マジックペンと思しきもので落書きをしていた。盲目の男性は、気付いていない。
レトリバーはジッと耐えている。盲導犬は絶対に他人に危害を加えてはいけないと訓練されているのだ。
ただ彼は、悪童の出し難い悪戯に耐えるだけ。大人に癒しも支えもないと、子供にもその影響が伝播するらしい。
いやな世界だと思い、Nはその子供達に近付いて行く。注意の為である。が、その子供達もNがこれから何をするのか気付いたらしい。
地面に落ちていた砂を石ごと投げつけて来た。近づくな、そう言いたいらしい。身体を大きく左に動かし、Nは何とかそれを回避した。
それを見て子供がケラケラ、クスクス、忍び笑いを浮かべた。子供のやる事とは言え、Nは悲しくなった。

 後ろの、N以外には存在を感知する事も出来ない男も悲しんでいるらしい。
そして、男が放射する感情がすぐに、怒りと綯交ぜになった悲しみに変貌した。
Nに向かって石と砂を投げつけて来た少年の両腕の肘から先が、凄まじい勢いでジグザグに折れ曲がった。
数秒程、沈黙が流れた。遅れて、少年の絶叫が響き渡る。骨が滅茶苦茶に圧し折れているのだ、その痛みたるや、言外出来ないものであろう。
傍にいた数名の悪童仲間が困惑し、涙目になる。公園にいた大人達が慌てて近づいて来た。不審さと、化物を見る様な目で、Nの事を、周りの大人達が見て来る。
ああ、この目は――この目だけは、変わらない。元の世界でも、この世界でも。違う鋳型で出来た人間の事を異物扱いする。
それだけは、ポケモンの居た世界でも、この世界でも、変わらない。

「病院を呼んできます」

 そう言い残し、Nは慌ててその場から駆け出して行く。公園から逃げ出す為の方便だった。



.


240 : 終らせる/創造する者 ◆zzpohGTsas :2015/07/27(月) 02:30:39 09G0C8C60
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 自分が引き当てた、『クリエイター』のクラスを以て召喚されたサーヴァントは、自分と、自分自身の正体を推し量る為に創造した人間の醜さに絶望したと語っていた。
人は利己的で、差別的で、人を慮る心がなく、姦淫に耽り、傲慢で、怒りやすく、妬み始めると止まらず、怠け者で……。
自分の生み出した鏡が人間であると言うのならば、その人間が醜いと言う事は、自分自身が醜いと言う事も意味する。その事実に、彼は絶望していると言う。

 しかし、彼は今も心の奥底の、そしてその更に片隅で。
人は美しく、優しい存在になれるのではないかと、信じているのだと言う。それを、Nを通して再び教えて欲しい。
それこそが、自分のサーヴァントの願いなのだと言う。それさえわかれば、聖杯などと言う紛い物は、このサーヴァントには必要がないのだと言う。

「……ごめんね、キミに悪い物を見せちゃったね」

 人通りの少ない裏路地で、Nは呟いた。汗が体中からダクダクと流れ、下着も上着も水を被った様に濡らしている。
あの時少年の腕が折れたのは、クリエイターの怒りの発露であった。彼はNの居た世界に於いて、伝説とすら謳われるポケモンを遥かに超える力を秘めた存在である。
その力を発揮すれば、あの少年は腕が折れる程度では済まされない。クリエイターは、自らの心より湧き出でる怒りに耐えていたのだろうか。
殺さないように、Nに配慮していたのだろうか。

「人が、醜い生物だと言うのは、正しいと思うよ。クリエイター」

 言いながらNの脳裏を過るのは、自分の義父の顔。
ポケモンの為の世界を創造すると言う理想を謳っておきながら、その実自分を頂点とする社会を築こうとした、愚かな男の姿。
自分が最も醜いと思う男、ゲーチスの事だ。人は醜い。それは、あのゲーチスの老醜を見れば、年の若いNにだって想像出来る。
世界は悪意に満ちている。それは、人が悪意に満ちていると言う事と同じなのだ。だが、それでも――

「だけど、クリエイター。人は醜いばかりじゃないんだ。良い人もいれば、悪い人もいる。それだけは、知っていて欲しい」

 余りにも陳腐な言葉だと思う。しかしそれは、Nにとってはつい最近知った真実であり、この世の真理とも言うべき事柄だった。
義父のゲーチスの偏った教育の影響で、人はポケモンを酷似する醜い生物だと長年誤認していた時期があるNにとって。
初めて外界に赴き、見聞を広め、ゲーチスの言ったような醜い人間がいる一方で、それと同じ位良い人間が沢山いた事は、Nにとっては衝撃だった。
子供だって理解出来る事がこの歳になるまで理解出来なかった。それは恥でありそして、無知であった。
その事を気付かせてくれた、トウコと言う少女には、感謝してもしきれない。世界と人間の見方と言う物を教えてくれたあの少女には。

「クリエイター。ボクを通して、見て欲しいんだ。……ボクの大事な友達が教えてくれた真実が、キミにも伝えられれば、ボクとしても、嬉しいな」

 何もない虚空にそう喋り掛けるN。影が、Nの目線の方向に伸びている。
その影から、蒸気が立ち昇るようにして、黒い霞が浮かび上がった。それは全体的に人の形をしたものへと凝集して行き、完全な人の形となる。
墨で出来たように真っ黒な、人型のシルエット、としか言いようのない何かだった。彼こそが、Nの引き当てたサーヴァントだ。

 無言の時間が、Nとクリエイターの間で過ぎ行きる。
カランッ、と言う乾いた音が響いた。地面に何かの落ちる音。屈み、それを拾う。
古ぼけたダガー(短剣)と、それを納める鞘だった。これは、と言う感情を込めた目線を、クリエイターに送る。彼は何も答えない。

「受けとれ」

 短くそう告げるだけ。素直に貰う事とした。鞘に短剣を恐る恐るしまい、服の中に隠す事したN。
それを受けとるや、クリエイターは霊体化と言う状態を発動させる。要件は、それで終わりらしい。

 彼が、何を言いたかったのかはNにはわからない。彼が味わった絶望が、如何ほどの物かは、他人である以上Nには推し量れない。
だがそれでも。彼には理解して欲しかった。人は決して、醜いだけの存在ではないと言う事を、自分を通して認識して欲しかった。

 裏路地から、<新宿>における自分の家へと帰ろうとするN。一歩足を踏み出したその時、頭の中で、声が響く。

 ――私は汝の背後にいる――

 と。自らの覚悟を問われたようで、Nは、名状し難い感情が心の裡に広がるのを、感じずにはいられないのだった。


241 : 終らせる/創造する者 ◆zzpohGTsas :2015/07/27(月) 02:30:54 09G0C8C60
【クラス】

クリエイター

【真名】

デミウルゴス@Nepheshel

【ステータス】

筋力A 耐久C 敏捷C 魔力EX 幸運B 宝具E

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

創造:-
嘗てクリエイターは、宇宙を創造し、星を創造し、大地も海も、人間や動物、果ては神霊や精霊、幻想種に至るまで。
全てを創造する事が出来た、まさに全ての創造主であった。女神を愛してしまった少年に敗れた現在、この権能は失われている。
その少年に敗れ、聖杯戦争にサーヴァントとして呼び出された現在では、このクラススキルの名残が使える程度にまで落魄している。

【保有スキル】

道具作成:EX
『無』から武器や防具、装飾品などの『宝具』を作成出来る。ランクE-〜B+相当の宝具を作成可能。
創造主の座を追われたとは言え、破格の道具作成ランクを誇る。

魔術:A+++
万物を創造した者として、多種多様な魔術を扱う事が出来る。水一滴ない所から津波を引き起こす事も、大地を崩壊させる事も彼には容易い。

神性:-
消失している。いや、そもそも彼は、初めから神ですらなかったのかも知れない。

魔殺
対魔神技。最大補足1人。
相手の神性や魔性、人間以外の生物の因子が混じっていないか解析。解析終了後、混じっている因子に対して特攻の光を放つ魔術。純然たる人間には、全くダメージを与えられない。

【宝具】

『死返しの雛形(ダガー)』
ランク:E+ 種別:対人宝具 レンジ:2 最大補足:1
クリエイターが召喚されると、任意のタイミングで自らのマスターにだけ与える事の出来る古ぼけた短剣。
最低ランクの神秘と、辛うじてサーヴァントを攻撃出来る程度の性能しか持ちえない。
また驚くほど頑丈で、Aランクの筋力ステータスを持つサーヴァントの攻撃でも破壊は不可能な程。この宝具はクリエイター本人には扱う事は出来ず、
サーヴァント以外の人間にしか扱えない。この宝具はクリエイターの死亡後も残り続ける。

『死返白刃・原罪奉還(ブレードオブデス)』
ランク:A+++ 種別:対存在宝具 レンジ:2 最大補足:1
上記のダガーを以て、『人間がクリエイター以外のサーヴァントを五名葬る』事で昇華される、ダガーの真の姿。上記の宝具はこの宝具の雛形に過ぎない。
この宝具の正体は、神が人に与えた死と言う原罪を神にそのまま返す剣。神が人の為に創造した、自身を殺すに最も相応しい性能を誇ると剣言う、矛盾した神造兵装。
世界の全ての属性をその剣身に内包した宝具で、神に限らず、およそ万物に対して特攻の効果を有している。
相手が肉のある生命体だろうが、霊体だろうが、物質だろうが、神霊や精霊、幻想種だろうが。彼らが弱点としている属性で確実に攻撃、致命傷を負わせる事を可能とする。
防御に関わる如何なるスキルや宝具による体質、加護、補正を無効化し相手を切り裂く事が出来るだけでなく、手に取った瞬間その人間は、
A+ランク相当の先制攻撃スキルを獲得する。また、この宝具の間合いで宝具を振った場合、剣が相手に命中したという結果の後に剣を振うと言う因果の逆転が発生。
つまり、回避不可能。この宝具はサーヴァントには扱う事が出来ず、振えるのはNPCを含めた人間のみ。またクリエイターは、この宝具の雛形であるダガーの真の意味を、あえて語らずにいる。

【weapon】


242 : 終らせる/創造する者 ◆zzpohGTsas :2015/07/27(月) 02:31:07 09G0C8C60
【人物背景】

彼の者は創造した。最初に彼の者は世界を創った。
しかし、分からなくなった。彼の者は己が何者であるか知らなかった。
彼の者は人を創った。人は彼の者によく似ていた。
彼の者は人に力を与えた。人は彼の者の鏡であった。
人に与えられた力、それは真実を求める力。

だがしかし、それは悲劇をもたらした。
それは絶望を知ってしまったこと。
彼の者は人を通じて己を見た。
人が絶望するとき彼の者も絶望した。人の絶望が世界を閉ざした。
世界を閉ざしたのは汝なのだ。

彼の者の終焉、それは世界の崩壊。
真実を知る者よ、汝は何を願う?
 
【サーヴァントとしての願い】

自らの似姿である人間を通し、自らの善性を推し量る。





【マスター】

N@ポケットモンスターブラック&ホワイト

【マスターとしての願い】

出来るなら人を殺さないで、元の世界に帰りたい。

【weapon】

モンスターボール:
ゼクロムを捕獲してあるモンスターボール。
本来ならばゼクロムは幻想種と比較して何ら遜色ない強さを誇るが、モンスターボールで捕獲された事により、捕獲前の幻想種にも比肩しうる力は発揮出来ずにいる。
また聖杯戦争においてはポケモンセンターなどの回復施設がない為、瀕死は死亡とほぼ=である。二度と扱う事は出来ない

【能力・技能】

ポケモンと会話し、心を通わせる力。また、ある程度人間の過去や未来を見る事が出来る(程度は不明)。

【人物背景】

ゲーチスからプラズマ団の王となるべく、様々な英才教育を施されて来た天才児。元々は森に捨てられた子供であった。
ゲーチスの偏った教育方針から、ポケモンと人間は解り合えず、人間の手からポケモンは解放されるべきと言う思想に傾くが、外界に出てからその考えに揺らぎが走る。
主人公であるトウコと幾度もバトルを繰り広げる内に、自分の考えに対する疑念を徐々に深めて行くが、最終的にはその疑念を振り切り、
伝説のポケモン、ゼクロムを手に入れ、本来の目的を達成しようと行動を開始する。
チャンピオンであるアデクに勝利を収めるが、これだけでは良しとせず、自身のライバルであり、唯一認めていたトレーナーであるトウコとの最終決戦に臨む。
ゼクロムの対となるポケモン、レシラムを手に入れる事で、彼女を最後の敵と認め、戦いを繰り広げるが、彼女に敗北。
後に現れたゲーチスから、自分がただの傀儡である事を告げられ、呆然とするが、これに怒ったトウコはゲーチスにバトルを挑み、これを打ち倒す。
その戦いはNに何か思う所を与えたのか、その後、ゲーチスを倒しトウコと二人きりになった時、彼女に別れを告げ、ゼクロムの背に乗り旅へと出る。

ブラック&ホワイト2に入る過渡期から参戦

【方針】

クリエイターに人間の善性を理解して貰う。


243 : 終らせる/創造する者 ◆zzpohGTsas :2015/07/27(月) 02:32:30 09G0C8C60
投下を終了いたします。また、クリエイターのクラスに関しましては、
『少女性、少女製、少女聖杯戦争』の ◆PatdvIjTFg様が執筆した作品を参考にしました事を、此処に明記いたします


244 : 名無しさん :2015/07/27(月) 23:50:09 y2TGln0.0
投下お疲れ様です
1さんに一点質問なのですが、>>238の描写からすると〈新宿〉の現在の季節は真夏もしくは夏に近い辺りなんでしょうか?


245 : ◆zzpohGTsas :2015/07/28(火) 02:04:06 ANBlCSOY0
>>244
質問にお答えいたします。
一応、現実の時間間隔、つまりこのスレをスレ立てした時の月日に近しい季節、と言う認識で間違いありません

質問の回答ついでに、投下をいたします。感想は、また後程


246 : A Midsummer Night's Lewd Dream ◆zzpohGTsas :2015/07/28(火) 02:04:48 ANBlCSOY0
 この世から、欲望産業を撲滅する事は、事実上不可能に等しい。
例えば性風俗、例えばキャバクラ、例えばホストクラブ、例えばテレフォンクラブ、例えばSMバー、例えばアダルトビデオ。
彼らは皆、世間一般から白い目で見られるビジネスの代表格だ。にも関わらず、彼らは社会から消え去る事無く、社会の風紀を乱している。
それは、経済の大原則に等しい、需要と供給をこの産業が満たしているからに他ならない。何も需要供給の関係は、物資や健全なサービスだけに限らない。
若くて綺麗な女性と酒を飲みたい、話をしたい、チヤホヤされたい。そして、彼らと一夜を過ごしたい、それが無理なら、彼らの痴態を目の当たりにしたい。
そう言った欲求を抱いている、或いは抱いているが叶えられない人間と言うものが、この世には大勢いる。これは古今東西、何処でも変わらない。
需要とはとどのつまり、人の欲望と欲求をもといとしている。それらを解消する為に、この世で欲望産業と言うものが成立しているのだ。
人が人である限り、これらの退廃的な産業は、影のように社会に付き纏うのである。

 ――だが、蔑まれつつもある程度の市民権を認められているそんな欲望産業の世界に於いてすら。
これが『同性愛』に関わる話となると、話はまた変わってくる。途端に、市民権を失ってしまうのだ。
それは、諸々の事情により、性産業に身を落とさざるを得なくなった人間達ですら、軽蔑される事もある。

 同性愛と言う概念に対して世間が向ける目線は、冷たく、辛辣だ。
同性愛は精神疾患の類では断じてありえず、治療の対象に当たらないと、WHO(世界保健機構)が宣言してからすでに二十年以上の時が流れた。
ではこの宣言で、彼らに対する誤解は解けたのか、と問われれば、首を傾げざるを得ないと言うのが現状であった。
二十一世紀になってから十年以上も経過した現在においてすら、彼らは倒錯した性趣向の持ち主、精神に異常を抱えた者、マッドである、と言う目で見られている。
建前の上では、彼らは市民権を得た事にはなっている。しかし、本音の部分では、いつだって彼らは馬鹿にされている。
汚く、醜く、産めよ増やせよ地に満ちよの教えに反する背徳者、と言う目線に、今でも彼らは晒されている。

 このような評価や迷信、偏見が蔓延る社会である。
これで、ゲイ・バーやビアン・バー、そう言った風俗やヘルスで働いている人間が其処にいようものなら、それこそその人物は、人格は愚か骨まで馬鹿にされる。
人格破綻者、社会に迎合出来なかった不適格者、人間の屑……本人の人格など一切顧みられず、好き勝手に言われ放題。
彼らに発言権など、認められない。黙して耐える事しか出来ないのだ。だって、自分がそう言う位置にいると言うのは、事実なのだから。
彼ら自身が、自分がどう言った目線で見られているのか、よく解っているのだから。

 ――此処、<新宿>に存在する丁目の一つ、新宿二丁目は、一般の人間には何て事はない歓楽街である。
居酒屋もあれば、食事処もある。ファミリーレストランだってある。ごく普通の街だ。
だが、知っているものは知っている。この街が特に名の知れた、『ゲイ・タウン』である、と言う事を。
この街は、世間的に低く見られがちな同性愛者達が集う、数少ないアジールの一つであると言う事を。

 今でこそそう言った街として名が知れ渡ってしまい、物見遊山に来た観光客の目を避けるように、往年のような勢いを失ってしまった新宿二丁目。
この街につい最近現れた、とある二人の男の話をしよう。


.


247 : A Midsummer Night's Lewd Dream ◆zzpohGTsas :2015/07/28(火) 02:05:31 ANBlCSOY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 新宿二丁目に建てられた、とあるバー。
表向きはバーと言う体裁を保っているが、此処に来る客層は……まぁ、そう言う事である。
先ず店長が、如何にもと言うか、何ともホモっぽい容姿の男である。厚みのある鍛えられた身体、毛深い身体、堀の濃い顔立ち。ウケそうな身体ではある。

 時勢の流れもあって、往年のような勢いは減ったが、そう言った客達の出会いの場として、十と幾年もの歴史がある、ちょっとした名店だ。
幾人ものカップルを輩出してきた、知る人ぞ知る店である。今でもたまにお中元やらお歳暮が届く事がある。まだまだ店は、畳む気はない。
しかし、そう言った目的だけで運営するバーでは、今も昔も自営業の世界は乗り切れない。揃えている酒の種類や、手がける料理の方にも、自信アリ、だ。
これでも店長は、自分の手がけるスパイシーチキンは、そんじょそこらのフランチャイズの居酒屋はもとより、歌舞伎町の名店にも負けない味だと自負している。
これを筆頭とした洋風のつまみの数々は、所謂ノンケの客にも評判が良い。店の目的は……まぁ理解して貰う事は難しいとは店長も理解している。
見せに来て、自分の料理を美味しいと言って貰えるだけで、結構嬉しかったりする。バーを開いた当初の目的とは違う目的で来た客だとしても、客は客だ。邪険にはしない。

 仕込みも終わり、店を開ける店長。
そろそろ自分も、歳であると言う事を認識せざるを得ない機会が多くなってきた。
ビール瓶の入ったケースを持ち運ぶ時、昔日に比べ重さが増していると感じる時など、特にそうだ。
バイトの一人を雇った方が良いのか、でも来てくれるかなぁと思いながら、カウンターに戻る。リン、と、入り口のドアに取り付けた子鈴が、洒落た涼しい音を響かせる。

「いらっしゃ〜い!!」

 言って店長は、何と形容するべきか……如何にも、オカマっぽい、女に近付こうと努力しているのだなぁ、と言う事が解る声音で客人を迎える。
しかし、どんなにクマが努力しても、ヒバリの声は真似出来ないように、この店長がどんなに努力しても、女性の声を再現する事は出来ない。
店長の声帯は、あまりにも男性フェロモンに満ち溢れていた。女の声を真似た所で、余人は鳥肌しか立たせる事は出来ないだろう。無論それは、悪寒から来る鳥肌だが。

「あら、『ゴウ』くんに『レイ』ちゃんじゃな〜い、常連さんに先駆けて来るなんて、ウチのファンになっちゃった〜?」

「どうもこんちゃ〜っす」

「ど、どうも……」

 店内に入って来た客は、男の二人組だった。この店にこの組み合わせで入って来るのだ。
「あっ……」、と、誰もが思うやも知れない。しかしそれにしては、奇妙な組み合わせの男二人だ。

 一人は、白い半袖のシャツに、少し白みがかった青色のジーンズを穿いた、良く日焼けた肌に長い金髪をした、所謂サーファー系の男だ。
一目見て、「ああチャラ男なんだな」と言う事が標識のように解りやすい男だった。しかし、顔は整った方に位置する。
少し服装を綺麗なものにすれば、ホストクラブでも働く事が出来るだろう。フレッシュで若々しい、プレーボーイ風だ。
こう言った場所には慣れているのだろう、実に自然体の装いだ。
 
 もう一人の方は、背丈も金髪の男よりやや小さく、身体の方は店長はもとより連れの男よりもなお薄い、少年のような男だ。
黒いリボン付きのフリル付きカッターシャツを身に付けた、黒スラックスの男性。店長は今でこそ男性だと知っているが、初めて彼を見た時、女性が男装していると思った程だ。
それ程までにこの男は、魅力的で、女性的で、中性的な容姿をしていた。これよりも女性的でない女性など、世に掃いて捨てる程存在しよう。
その『ケ』がない男も『覚醒』させてしまいそうな、罪深い容姿。魔性の男だと店長は思った。チャラついた方の男性とは違い、彼はこう言った店に慣れていないのだろう。
表情も挙措も、カチコチである。無理もない、明らかにこう言う店に入り慣れてないのは店長にも解る。育ちの良い貴族みたいだと本当に思う。きっとこんな店が世にある事など、ある時まで知りすらしなかった事であろう。

 チャラついた方の男の名前は、『豪』。もう一方の線の細い男の方を、麗、『神楽麗』と言うらしい。
だから、『ゴウくん』に『レイちゃん』なのである。なんともはや、直球なあだ名であった。

「いや〜、此処のおつまみ本当に美味しいね。何度も来ちゃうよ、おまけに俺達だけ特別価格だし」

「ご、豪殿……親切に縋る姿勢は褒められた事じゃ……」

 豪の無遠慮な発言を嗜めようとする麗だったが、店長は快活とした笑い声を上げる。


248 : A Midsummer Night's Lewd Dream ◆zzpohGTsas :2015/07/28(火) 02:06:01 ANBlCSOY0
「いいのいいのレイちゃん!! サービス価格よサービス価格、それに、アタシも馬鹿じゃないから、損をするようなサービスなんかしないわよぉ!!」

「だってさ、麗君。良かったじゃないか。俺も君もそんなお金ないんだし、親切心には甘えておこうぜ」

「そ、それは……そうなのだが」

「うし決まりっ、マスター、スパイシーチキンとスパイシーポテトをつまみに、俺はビール、麗君には何かジュースでも」

「はぁい」

 と、嫌な艶のある声で早速調理に取り掛かる店長。
このやり取りを皮切りに、続々と店内に客が入って来る。男二人組の、そう言った客。男一人の、今一目的の掴めない客。
料理目当ての男女や、若い学生。色々な者が来るが、この店本来の目的を楽しむ者は、皆奥の専用の男専用個室へと足を運ぶ。予約制である。
ちなみに麗達はカウンター席である。麗が何故かいやがった為である。

 業はカウンターに置かれた、王冠の開けてないビール瓶の結露を指で弾いて弄んでいる。
麗の方は、チビチビと、ロックドアイスの入ったオレンジジュースをストローで飲んでいる。
御通しの、カマンベールチーズと新鮮な生野菜を和えたサラダを、豪は既に平らげている。麗の方はまだ口にしていない。

「お待ちどうさま〜、此方スパイシーチキンとスパイシーポテトよぉ〜」

 つまみ、と聞くと、何だかケチくさい量のそれを連想するが、この店のチキンとポテトは、他の居酒屋のそれに比べて量が割り増しだ。
美味い上に、量も多い。人気の秘訣である。皿に盛りつけられた、一人で食べたら腹が十分膨れる量のチキンとフライドポテトが、麗達のカウンター席に置かれる。
親切に縋るのは良くないと口にした麗ではあるが、これを見ると、やはりそう言った気魄も霧散してしまう。美味しそうなのだ、やはり。次も来たくなるし、サービスに甘えたくなる位には、だ

「それじゃ、食べようか麗君」

「あ、あぁ」

 言って、豪と麗がそのつまみに手を伸ばした、その時。
バァンッ!! と言う乱暴な音を立てて、バーの入口の扉が開かれた。音と、店内に伸びた膝から先。蹴破った事は明白だ。
ツカツカと、男四名が店内に入って来た。主格は、射干玉のように黒いスーツ、クシでなでつけた様に整えられた髪の男とみても良い。
店内の客を見渡す、威圧的な目線。ヤクザである。途端に、店内の静かな和気藹藹としたムードが、委縮した様に縮こまるのが解る。
皆ヤクザと目を合わせないようにしている。が、豪と店長だけが、その無粋な闖入者に平時と変わらない目線を送り続けるのだ。

「みかじめ料はアンタらには払わないわよ」

 おねぇ言葉を真似する時のような声音ではなく、男としての声で店長が応対する。低く、クマが唸るような威圧的な声音だった。

「アンタにゃ用はねぇよ、今日の所はな」

 後でお前と話がある、と暗に言っているようなものだ。
黒スーツの男が、豪達の方へ近付いて行く。ポン、と豪の肩を軽く叩いた。

「おたくが『ゴウ』だな」

「違うけど」

「嘘を吐いちゃいけねぇよ。俺の舎弟に今から聞いても良いんだぜ」

 言って、後ろに控えているアロハシャツの金髪の男を指差すヤクザ。顔面が酷く腫れている。青あざだらけである。
ヤクザと言うよりは、末端のチンピラと言う言葉相応しい小物である。何故か指を指され、そのチンピラはビクッと震えていた。彼の目線は、豪の方に釘付けであった。
「穏便に済ませたかったんだけどねぇ」、と口にする豪。観念したかのような声音である。

「ご飯食べてからじゃ駄目? 俺ら腹空いてんだけど」

「後で食べられるだろ」

「短い時間で済む?」

「『済ませる』さ。ほら、立ちな」

 言って、豪を無理やり立たせる、チンピラ以外のヤクザ三人。
仕方ない、とでも言うオーラを身体から醸す豪。「麗君」、豪の言葉に漸く反応した、それまで茫然としていた麗が、弾かれたように立ち上がる。
ズルズルと引き摺られながら、豪は店長に向かって口にする。

「俺のビール来るまで冷やしといて」

 と。驚く程余裕な態度であった。
マネキンでも引き摺るかのように、ヤクザに連れて行かれる豪。慌てて彼らに追従するのは、神楽麗その人だった。


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249 : A Midsummer Night's Lewd Dream ◆zzpohGTsas :2015/07/28(火) 02:06:39 ANBlCSOY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 これは<新宿>に限った事ではないが、何処の商店街にも、みかじめ料と言うシステムがある。
暴力団は縄張り、もとい自己の勢力範囲で資金活動を行うのだが、、この縄張り内で営業を行おうとしている者或いは行っている者に対して、
その営業を認める対価として、または、その用心棒代的な意味をもたせて、挨拶料やショバ代など様々な名目で金品を要求する。
この時支払われる金品こそがみかじめ料であり、これを月々に払わせるのである。

 無論、こんな物は違法も甚だしい集金手段であり、現行法では当たり前の事であるが、禁止されているシステムだ。
にも拘らず、彼らに金品を献上する店は多い。無知だからではない、彼らとてそのシステムが違法のそれである事は理解している。
知っていて払う訳は、単純明快、相手が暴力団、アウトロー集団だからだ。拒否されたら、何をされるか解ったものではない。
暴力団の営業に於いて最大の武器は、恐怖である。恐怖を以て人を支配し、利益を上げる、それが暴力団の核であり、本質だ。
昔と違い暴対法の整備で遥かに生き難い時代になったと言うのに、未だに彼らが路地裏に生しているコケみたいに存続している訳は、
彼らに対して恐怖を抱いている市民が、一定数以上いるからに他ならない。彼らがいる限りは、暴力団は生きて行けるのだ。

 事の発端は、あのバーがみかじめ料を拒否した事から始まる。
元々はあの店も、その料金を払っていた。払わなければ、何があるか解ったものではなかったからだ。
月数万円、これで済むのであれば、安いものだった。だが、最近になって、そのみかじめを要求していた組が、別の組に吸収されたらしい。
この組と言うのが<新宿>の裏社会でも、特に評判も悪く経済のいろはも解らない粗忽者の集団なのだ。
そんな、新しく生まれ変わった組の者が、新しいみかじめ料の内訳を教えて来た。今時笑ってしまう位法外な値段だった。五十万など、馬鹿げている。
これをあの店長は突っぱねた。案の定とも言うべきだが、当然嫌がらせをされた。
店に一番人が来る時間帯を見計らってやって来て、何処ぞにいたであろうゴキブリを摘まみの上に載せ、「この店は客にゴキブリを食わすのか」とがなり立てられた事がある。
店の住所を使用され、頼んでもいないピザを何枚も何枚と注文された事がある。謂れのない金を返せと言う張り紙も、張られた事がある。

 店の繁忙する時間帯にやって来て、いちゃもんをつけられたその時に、このいやがらせをスッパリと解決してくれた二人がいた。
実はそれこそが、豪と麗の二人組なのだ。彼らはその時に見せにやって来た暴力団の組員三名と話をしたいと言って店の外に連れ出し、数分で戻って来た。
そして不思議な事に、それ以降毎日続いた嫌がらせが、止んだ。店長は感心と感動でいっぱいだった。こんな優男の二人組が、一体如何なる技でヤクザと話を付けたのか。
常連でもないのにこの二名が、店長からつまみをサービス価格で提供されている訳が、これであった。店長のお礼なのだ。

 人目のつかない裏路地に、豪と麗の二人は連れられた。
前には店内の時よりもいっそう威圧的な雰囲気を放出しまくって、主格のヤクザが豪達を睨んでいた。
麗の視界にいるヤクザは三人。残りの一人は、路地に人が入って来ない為の監視である。

「んで、要件って何?」

 ヘラヘラとした笑みを浮かべて、豪が訊ねる。

「ウチの組の奴を何処にパクった」

 ドスを利かせた低い声で主格の男が訊ねた。

「お宅の所にやって来た人から聞いてない?」

「聞いた。『テメェに殺された』って言ってたよ。それですら眉唾なのに、こいつはテメェの事を『神』だと言いやがった。ムカつくから何遍も殴っちまったよ」

「酷い事するねぇ。だからこの人こんな痣だらけなんだ」

 豪がアロハシャツのチンピラに目を向ける。酷い恐れを抱いた目で、豪の事を見ていた。
この男こそが、豪と麗がいやがらせを辞めるように交渉した、三人の組員の一人なのである。残りの二名は、果たして何処に? そして、殺されたの意味は?

「お前が神だぁ? 笑わせる、ジュク(新宿)じゃお前みてぇな箸にも棒にもかからねぇチャラ男を何人も見て来たぜ。自分を神だと言わないだけ、マシだったがな」

「悪いけどさ、事実なんだよね。俺が神だっての。信じてくれれば有り難かったけど、ま、そう簡単には行かないか」

 はぁ、と溜息を深く吐く豪。「豪殿……」と言う心配そうな麗の声が聞こえてくる。

「実演しなきゃだめかぁ」

 チラッ、と豪が、アロハシャツのチンピラの方に目線を向ける。
嫌な光を感じ取ったのか、そのチンピラは「ヒィ!!」と言う情けない声を上げて、後じさった。


250 : A Midsummer Night's Lewd Dream ◆zzpohGTsas :2015/07/28(火) 02:07:11 ANBlCSOY0
「た、頼む!! やめて、やめてくれ!! あいつらみたいな死に方、イヤだ!!」

「大丈夫だって安心しろよぉ。本当ヘーキヘーキ、ヘーキだから」

 その言葉の後、豪は、楽しそうな声音で、次の言葉を続けた。

「痛くない死に方にするから」

 豪がそう告げた、次の瞬間。アロハシャツの男の声が、消失した。
いや、性格には、喋れなくなったと言うべきか。――『豪に懇願していた体勢のまま、生きたまま全身を石にされていた』のだから。

「!?」

 その場にいた二人のヤクザが、舎弟の余りにも超常的な変化に目を剥いた。あまりにも非日常的な光景の為、我が目を信じる事が、出来なかった。

「チャカとかドスとか持ってないの?」

 スタスタと豪がヤクザ達に近付いてくる。完全にパニック状態に陥った主格のヤクザが、懐に隠し持っていた匕首を引き抜いて、豪の腹部に突き刺した。
――肉を貫いた感触がない。霞や空気を貫いた感覚と一緒だ。まるっきり、手ごたえが、ない!! そして、血の一滴も、流れていない!!

「ど、どうして……」

「もっと滅多刺しにして、どうぞ」

 その言葉に反応、弾かれたように、主格のヤクザは何度も何度も何度も豪の腹部を貫く。
しかし、男は相も変わらずヘラヘラとした表情を浮かべたまま。三十回程、主格の男が貫く動作をし終えたろうか。
疲れたようで、腕をダラリと下げていた。ありえないものを見る様な目で、豪を見上げている。

「……お、後ろの君は、俺の事を『神』だって信じてくれるみたいだね」

 ビクッ、と豪に言われて身体を震えさせる、舎弟の一人。幹部に近い男らしく、スーツでキメていた。

「それじゃ、布教に使わせて貰おうかな」

 豪がそう言うと、その舎弟の身体が浮かび上がった。まるで見えないワイヤーにでもつるされているかのように、数mも。
その地点で、舎弟は停止。――彼の身体は空気のいれられた風船が如く膨らんで行き、そして、破裂した。肉と骨の破片が飛び散る。
が、それらは建物や地面、豪達人間の体に当たる前に、白色の焔となって燃え尽き、消えてなくなる。辺りには血の一滴すら、付着していない。

「おっと、大人しくしろよ。あと、この場から動くな」

 今度は、豪の方が低い声音になる番だった。
彼がそう言ったその瞬間、主格の男は一切その場から動けなくなる、だけじゃない。口を動かす事が出来ない。真一文字に閉じられた状態のまま、上げる事すら出来ないのだ。

「さっきみたいな死に方をしたくないだろ? 命は欲しいだろ? ジタバタすんじゃねぇ」

「……!!」

 ジタバタしたくても動けないだろうが、と、抗議も出来ない。

「あのチンピラに言わせても説得力はなかったみたいだったからな。アンタ、組の偉い者なんだろ? アンタなら、仕事を果たしてくれそうだ」

 チラッ、と、後ろで、ビクビクと怯えている神楽麗に目線をやる豪。その後で、動けない男に目線を移す。

「麗君はこう言う死なせ方は本当に駄目みたいだからさ、俺も穏便に済ませてやるよ。安心しろ、命だけは助けてやる。感謝しろよ」

 そう言った次の瞬間、主格の男の見えない拘束が、解けた。目から光が失われた状態であった。
が、次の瞬間、その目に光が灯される。決して宿してはいけない類の光。狂信と妄信のそれだ。きっとカルト教団を漁れば、何人も同じ目の者は見つかるだろう。

「GO is God」

「うーしそうだ、それを組の奴らに広めろよ。解ったな」

「Go is God」

 それが、返事の代わりだったのだろう。「んじゃもう行ってね」、と豪に言われ、主格のその男は、何事もなかったように裏路地から去って行く。
見張りをしていた連れのヤクザの一人が、「話は済みましたか?」とその男に訊ねた。「Go is God」と、訳の分からない返事をしていた。連れは首をかしげていた。


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251 : A Midsummer Night's Lewd Dream ◆zzpohGTsas :2015/07/28(火) 02:08:47 ANBlCSOY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「あれしかなかったのか……」

 先程いたバーの所まで移動しながら、心底ゲンナリした口調で、麗は隣を歩く豪にそう言った。何処となく非難がましい、豪を責めるような光がその瞳に宿っている。

「冗談言わないでよ麗君、明らかに話し合いで解ってくれる人達じゃなかったでしょ」

 麗の言わんとする事を察したのか、豪が反論する。彼の言葉を正論と思ったらしく、「それはそうだが……」、と麗は大人しく引き下がる。
当然と言えば当然だ、あのような殺る気満々の手合いと、話し合いをしようと言うのがおかしいのだ。何をされるか、解ったものではない。

「いいじゃん別に、麗君が手を汚してる訳でもなし、罪を背負うのは全部俺。それで割り切りなよ」

「……そうした方が、楽なのは確かだが……。貴殿は、それで良いのか?」

「良いよ、別に。それで結果として、俺の……『宝具』って言うんだっけ? それを使える布石も一応打てるし、麗君も命が助かる可能性もあがるんだぜ? 良い事しかないって」

 そうは言う豪だったが、やはり、全面的に肯定する事は、麗には出来ずにいた。

「仕方がない事とは言え、迂遠な作業だ。……豪殿に直接戦う力がないのは解ってる、だがこんな事をしていてはサーヴァントどころか……」

「そりゃー言わない約束だよ麗くん。俺だってチャチャチャッと相手を倒せる力が欲しかったけどさ、そう言う訳にもいかないって」

 二名は、聖杯戦争の参加者であった。表向きは、麗が育ちの良い美青年、豪がそれとつるむ悪友と言う関係にしか見えないが、しかしそれは見当違いも甚だしい。
麗こそが、聖杯戦争に際して呼び出されたサーヴァントである豪のマスターであり。
豪こそは麗のサーヴァント――『デミウルゴス』と言うエクストラクラスを与えられた存在なのである。
麗が殺されれば、豪も自動的に聖杯戦争の舞台である<新宿>から退場する。つまりあの時ヤクザ達は、豪になど目もくれず、麗をドスで刺せばその時点で豪も殺せたのだ。
……尤も、それをNPCに理解しろと言うのが、酷な話ではあるのだが。

「までも、さっきのは儲けだよ儲け。俺の方から何もせずして、相手は神だって思い込んでくれるんだぜ? こんなおいしい話はないぜ麗君」

 先程ヤクザ達は、豪にドスが通用せず、そのまま素通りして行ってしまったと言う事実から、彼の事を神だと誤認した。
だがこのトリックは、聖杯戦争の参加者、或いは魔術師であれば数秒かからずにそのタネを看破出来る。
超近代の存在であるとは言え、豪はサーヴァント。サーヴァントには、神秘のない攻撃は通用しないのである。
だからこそ豪は、あそこまで鷹揚と態度を取れたのだ。敵対した相手が本物のサーヴァントであったのなら、豪は急いで麗を抱えてその場から逃げ去っていた。
何れにしても、殆どノーダメージで、豪の宝具を発揮できる環境を大きく整えられるのは、瓢箪から出たコマと言う他ない。豪が儲けと言うのも、頷ける話だった。

 デミウルゴスのクラスのサーヴァントである豪が、聖杯戦争に参加している全参加者の中でも特に弱い部類に入る事は、
マスターである麗は愚か、サーヴァント本人である豪ですら自覚していた。
恐らく豪は、何かの間違いでキャスターと殴り合いに発展したとしても、勝ちを拾える可能性は少ないだろう。
そんな彼の唯一の勝利筋が、彼を神であると『誤認』する事であった。豪は紛れもなく元人間のサーヴァントであるが、
戦う相手が彼を神に類する存在だと誤認した時に限り、豪は聖杯戦争の全参加者の中で最強を誇る程の強さへと昇華される。
しかし実際に、神秘に対して造詣の深い魔術師のマスターや、況してや神秘そのものであるサーヴァントを欺く事は至難の技。
だからこその布教活動なのだ。NPCに『豪(ゴウ)教』と呼ばれる宗教を布教する事で、『豪と呼ばれる神が<新宿>にいる』と言う噂を、
マスターやサーヴァントの耳にも入る規模にまで拡大させる。こうする事で、元々発動する可能性が極めて低い宝具の発動率を、高めさせる。

 初めて契約者の鍵が、デミウルゴスのサーヴァントである豪を引き寄せた、彼らは本気でどうやって勝ちに行くか悩んだ。
マスターには魔術の才能もない、取り立てた運動能力もない。そしてそれは、サーヴァントである豪ですらも同じと来ている。
ただ、発動すれば兎に角強い宝具だけがあるだけ。ならばその宝具の発動に全てを賭けるしかないし、その宝具を発動する環境を本気で整えるしかない。
二人の長い話し合いは、それで決着がついた。裏社会を起点として、豪と言う『神』がいると言う噂を広めさせる。
本当の聖杯戦争が彼らにとって幕を開けるのは、普通のサーヴァントよりも遥かに遅い時の話になるのである。


252 : A Midsummer Night's Lewd Dream ◆zzpohGTsas :2015/07/28(火) 02:09:16 ANBlCSOY0
 ……それに、神楽麗は人を殺したくない。豪が宝具を発揮できれば、どんなサーヴァントだって真正面から迎撃出来る強さを誇る。
しかしそれとは逆に、どんなサーヴァントの手傷だって癒せる程の力をも秘めている。
麗は、マスターを殺して聖杯を手に入れ、元の世界に帰るのではない。圧倒的な力を以て相手を降参させ、平和的に聖杯戦争を解決出来ないかと本気で考えていた。
だが非力な麗と豪では、その手法は絶対に取れない。だから何に変えても、豪に力を蓄えさせる必要があるのであった。

「私の考えは、甘いのだろうか、豪殿?」

「ん〜、まぁ甘いんじゃない? まぁでも良いじゃん、俺の為に必死に頑張ってくれてるんだし。俺は信じるぜ?」

 落ち込む麗を見て、豪がそんな事を言う。チャラい見た目が抱かせるイメージを全く裏切らない。
豪は事実本当にチャラい。が、悪いチャラさではない。これでも麗に対しては割と親身に接してくれている。少しだけ、麗は救われていた。

 目的の場所であるバーに到着する二人。
バーの扉を豪が開けた。「ただいま」、目立った傷もなくそう告げた豪を見た店内の一同は、ノンケやゲイ・カップルの隔てなく、ワッと沸き立った。
豪達の据わっていた席に、王冠のついた状態のビール瓶が新たに三本、麗のいた席に、オレンジジュースの瓶が新たに二本置かれていた。
それが、マスターの誠意の現れだと言う事に豪と麗が気付いたのは、殆ど同時の事なのだった。




【クラス】

デミウルゴス

【真名】

豪@真夏の夜の淫夢シリーズ

【ステータス】

筋力D 耐久E 敏捷D 魔力C 幸運A+ 宝具EX

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

神性(偽):E-(A+++++)
神霊適性を持つかどうか。
自らの存在が知られるに至った原因となった出演作、及び彼の身体を体験した者の話で、デミウルゴスは神として扱われていたり、形容されていたりする。
しかし極めて最近の偽神(神格)の為神秘の積み重ねが全くなく、実体化したデミウルゴスを確認しても、精々「不思議な何かを纏った人間」程度にしか認識されない。
後述する宝具の効果が発動した際に、神性ランクはカッコ内のそれへと向上。一創作体系の中で唯一の神として扱われている存在に相応しい力と権能を発揮出来る。

【保有スキル】

無辜の神格:EX
――ホモビに出ただけで神に列せられる男。
生前自らが出演していた同性愛者向けのアダルトビデオが一部のホモガキに目をつけられ、ただの人間にも関わらず神格として祀りあげられた。
デミウルゴスの信仰説は諸説あり、善神でもあり悪神でもある、光の神である一方で闇の神である、創造神の側面もあるし破壊神の側面もあると、一定しない。
宝具の効果が発動しない時のデミウルゴスには、神であると言う自覚が希薄で、特定状況下以外では能力・姿・人格が変貌する事はない。
このスキルは外せない。

カリスマ:E(EX)
軍団を指揮する天性の才能。根拠もなければ理由もないのに、いつの間にか神として認められ、人々の信仰を集めていた事実を指す。
デミウルゴスには軍事的知識が皆無の為、平時の状態では不思議と人を惹きつける程度の才能に留まっている。宝具効果が発動した際には、カリスマランクはカッコ内のそれに修正される。

話術:E+
言論にて人を動かせる才。
デミウルゴスは元々人気の男娼であった為か顔は良く、それを利用する事で、多少此方に有利な展開に進ませる事が可能。
また、相手が現在の状況に不満を覚えている時には、話術の成功率が上昇する


253 : A Midsummer Night's Lewd Dream ◆zzpohGTsas :2015/07/28(火) 02:09:30 ANBlCSOY0

【宝具】

『人から神へと至る者(Go is God)』
ランク:EX 種別:神霊昇華宝具 レンジ:- 最大補足:自身
元々ただの人間であったデミウルゴスが、同性愛者向けのポルノビデオに出演している様子を一部の趣味人に目をつけられ、
遂には神に祀り上げられてしまったエピソードの具現。デミウルゴスを『神霊』そのもの、或いは化身かそれに準ずる存在と認識した者に対して、デミウルゴスは、
聖杯戦争及びサーヴァントとしての範疇を逸脱しない限度であれば、まさに神の如き力を発揮する事が出来る。
全てのステータスをAランク以上に修正する事も可能であるし、魔力を無尽蔵に取り出す事も、キャスターランクを上回る威力と性能の魔術を連発する事も、
実戦向けのスキルの数々を獲得する事も、相手の傷を癒す事も、この状態のデミウルゴスには造作もない。
 
 発動さえしてしまえば対峙したサーヴァント相手にはほぼ勝利が確定されるも同然の凄まじい宝具であるが、
この宝具を発動するにはデミウルゴスを『神霊』として認識する必要があり、発動時に彼を『人間由来のサーヴァントである』と認識、
反論した瞬間、この宝具の効果は消滅する。更に、この宝具を発動した時に殺す事の出来る相手は、デミウルゴスを『神と認識した本人だけ』であり、
『デミウルゴスを神だと認識していない相手』に対して、この宝具の発動時のデミウルゴスが攻撃を仕掛けたとしても、攻撃は素通りされるだけである。

【weapon】

無銘・ビデオカメラ:
生前本人が所有していたとされる物の中で特に知られているもの。
199X年と言う極々最近の代物の為、神秘など当然ある筈もないのだが、趣味人はこれを神器だと捉えている。
デミウルゴスはこれを投影する事が出来る。

【人物背景】

神。彼をそれ以外の言葉で形容出来るだろうか。いや出来ない、ハッキリわかんだね。
小遣い稼ぎにしかならないバイトに精を出すSIYに簡単で割の良い、30分で5万のバイトを紹介する程に慈悲深く、心優しい神格。
しかしこのエピソードには異聞が伝わっており、その後SIYを巧みな言葉で操りオナニーをさせたり、そのSIYの童貞(前の方とは言ってない)を奪ったり、
そもそもその5万円と言うのは、正統な報酬額である10万円のピンハネして差し引いた額であったりと、邪神・悪神としてのエピソードも伝わっている。
またある時期、人間界の視察の為、東京大学の大学生としての姿で地上に顕現した事もあるが、こちらの逸話は余り人々に伝わっていない。
善悪様々な側面が世に残っており、そもそも神ではなく神の名を騙る愚か者(ヤルダバオト)であるとも言われている。
しかし、アポロンに例えられる肉体と顔つきは本物。多くの同性愛者達を魅了してきた。
さぁ君も、GOの裸をみて…ゴー、ゴッ、ゴー!






 焼けた肌と金髪が特徴的な、世間的に見ればイケメンに近い顔立ちをした男性。それが彼、GOと呼ばれる男性である。
表に決して出て来てはいけない同性愛者向けのポルノビデオの男優、しかもネットも黎明期であった時代の人物の為、
本名は当然の事、出生地も過去も定かではない。言うまでもないが、彼自身はれっきとした普通の人間である。
そのまま黙っていれば普通の生活を送れそうな風貌の彼が、何故同性愛の道に走ったのか、それは誰にも解らない。
2015年現在、彼の消息は不明。信憑性のない目撃談になるが、エイズに掛かっていたようであり、医者から薬を処方されている姿を確認されている。
このせいで死亡説が広く流れている。が、この手の死んでいると言うゴシップは、ゴムもなしで肛門性行に及ぶポルノ男優には極々当たり前の事であり、珍しい事ではない。

【サーヴァントとしての願い】

不明。


254 : A Midsummer Night's Lewd Dream ◆zzpohGTsas :2015/07/28(火) 02:09:43 ANBlCSOY0
【マスター】

神楽麗@アイドルマスターSideM

【マスターとしての願い】

誰一人殺さず、元の世界に戻りたい。

【weapon】

【能力・技能】

アイドルとして修行中。その歌声は光る所こそあれど、まだまだ成長段階。それよりも彼の武器は、素晴らしいヴァイオリン奏者としての腕前と、絶対音感である。
ただこれが、聖杯戦争に於いて役に立つ技能であるかどうかは不明。

【人物背景】

中性的で、女性と見紛う様な容姿を持った少年。真面目で音楽に真摯。信頼を大切にし、人の心に寄り添う音を奏でたいと願っている。犬と馬(意味深)がすき。

【方針】

GOの力を発揮させる為、当分は布教活動に専念。その際、敵サーヴァントに合わないように祈る。


255 : A Midsummer Night's Lewd Dream ◆zzpohGTsas :2015/07/28(火) 02:10:05 ANBlCSOY0
投下終了です。この話は事実に基づいて書かれております


256 : 名無しさん :2015/07/28(火) 03:00:51 Q2fgqBm20

やはりGOは神


257 : 北上&アサシン  ◆tHX1a.clL. :2015/07/29(水) 07:14:03 ZbqFHXmc0
キャラが被りましたがせっかく書いたので投下します


258 : 北上&アサシン  ◆tHX1a.clL. :2015/07/29(水) 07:14:25 ZbqFHXmc0
<新宿>区内の安アパート。
ちりちりという小さな目覚まし時計の音で目を覚ます。
隣にはもう誰も居ない。薄っぺらいせんべい布団は、北上一人でいっぱいいっぱいな大きさ。
昔のことを忘れるためにわざとそういうのを用意したんだからしょうがないけど、やっぱり寂しいもんは寂しい。
一人ぼっちになってから何日が過ぎただろう。
いちいち数えるほどには未練がましいたちじゃない。
ただ、いつまでたっても晴れない心の曇り空が、今何日続いてて、あと何日続くのかなと少し嫌になるくらいはある。

「目が覚めましたか、マスター」

「んー。さめた」

北上がぽけーっと壁を眺めていたら、部屋の奥からアサシンが出てきた。
朝ご飯を作ってくれていたらしい。
髪の収集なんていう変態チックな趣味を持っているけどいいサーヴァントだ。
言うこと聞いてくれるし、料理も美味しい。髪の手入れとか手伝ってくれる。あと、結構いい匂いがする。
普通のサーヴァントじゃこうはいかない、というのはアサシン自身の言葉だった。
起きてぼさぼさになった髪にアサシンが丁寧に櫛を通していく。
恥ずかしながら北上は自分の髪の手入れが上手く出来ない。自分でやるとへたくそだからいつも他の人にやってもらっていた。
髪の手入れはだいたい大井がやってくれていた。二人で喋りながら、たまに鼻歌を歌いながら。
アサシンは何も言わずにやってくれる。ただ、髪を見る目がちょっと熱っぽいのは気になるけど。
ちゃきちゃき素早く髪を三つ編みに結うアサシンに尋ねる。

「今日、どっちだっけ」

「和食ですよ」

今日の朝ご飯は和食らしい。
ご飯を食べたら学校だ。
戦争が終わっても、忙しいのは変わらない。むしろ戦争中よりも今のほうが忙しい気もする。
結われた三つ編みと壁近くにかけてある制服を見て、ふと、ここに来る前の自分のことを思い出した。

思えば、遠くに来たものだ。


259 : 北上&アサシン  ◆tHX1a.clL. :2015/07/29(水) 07:15:36 ZbqFHXmc0
☆北上

戦争が終わった。
海からの侵略者たちとの明けも暮れもの戦いが、終わった。
いつか終わるだろうとは思ってた。でも、思ってた以上に最後はあっさり訪れた。
四方八方手を尽くして敵の根城を発見し、そこにしこたま魚雷をぶちこんだらあっけなく終わった。
あっけなかった。人外との戦争には交渉も和睦もないから、どっちかの領域を徹底的に破壊しつくしたら終わり。そんなもんなんだろう。
世界中に広がっていた海はみるみる引いていって陸と海の対比が昔通りの3:7くらいに戻った。
暑い夏の日。8月15日。
深海棲艦と人類との戦争は、人類の完全勝利で幕を閉じた。

戦争が終わった。
そうなるともう、艦娘は必要ない。
各鎮守府の艦娘たちは艤装を解体して、意外とはやく日常生活に戻っていった。
ある子は田舎へ帰り海水の被害にあった土地の復旧作業に従事してる。
ある子は手腕を買われ軍に残って海軍下士官として腕をふるっている。
ある子は特にやることもないので就職してOLとして働いている。
那珂ちゃんはお茶の間のアイドルになって世間を騒がせている。
妖精さんたちはどうなったかは詳しくは知らない。
この前自動販売機の中から出てくるのを見たから皆なにかしら働いてるんだろう。
仲のいい子とは文通やら電信やらを使いながら。
それほど仲が良くなかったことはそれきり。
散り散りばらばらになって、皆が皆思い思いの普通の女の子やっていく。

そこについては北上も一緒だった。
ぽけーっと普通の女の子になって泣いたり笑ったり抱き合ったりしてる艦娘たちを見ていたら、名前が呼ばれた。
艤装が解体される、魚雷が撃てなくなる。
まあしょうがない。戦争は終わったんだから。
球磨型の姉妹艦、姉の球磨と多磨は軍に残るらしい、木曽は別の形で海に関わると言っていた。それじゃあ北上はどうしよう。
未来の展望がまるでない。まぁ、大井と離れる姿だけは予想がつかなかったけど。
二人で田舎に引っ込んで……いや、提督と三人で田舎に引っ込んでのんびり暮らそうか。
そこまで考えてようやくああ、戦争が終わったんだなぁと実感を得た。
これからは女の子に戻って海とは無関係な暮らしをしていくんだろうなぁと思うと、不思議な気持ちになった。


260 : 北上&アサシン  ◆tHX1a.clL. :2015/07/29(水) 07:16:36 ZbqFHXmc0
艦娘数十人分の艤装を解体するとなれば数日かかる。
北上の日程は最終日、それも最後から二番目だった。
北上が艤装の解体が終わる頃には鎮守府に艦娘はほとんど居なくなっていた。
残った子たちももう涙を拭い、新しい未来への進路を定めている。
うむうむいいことだと頷きながらぷらぷらと人がめっきり少なくなった鎮守府を歩いて、司令室にたどり着く。
ドアを開けると、そこはもう見慣れた司令室ではなかった。
木張りの床、質素な壁、窓に映っている景色さえ変わっている。
なんだかまるで、別の場所だ。
司令室はいつだってたまり場だった。
北上と、大井と、提督で、くだらない話をしてどうでもいいことをして過ごしたもんだ。
司令室にバーカウンターを置いてお酒を飲んだことがあった。大井がおいおい泣きながら提督の頭に焼酎をかけて謹慎されたことがある。
司令室にお風呂を用意して半身浴をしたことがあった。汗だくになったあとで飲んだフルーツ牛乳が美味しかった。
司令室にキッチンカウンターを置いて三人でチョコを作ったこともあった。あえて提督に渡さず妖精さんに撒いたら提督が泣いていた。
司令室に布団を敷いて寝ていたら、まさか布団が入り口近くに敷いてあるとは思わず入ってきた大淀に踏みつけられたこともあった。あれは痛かったなあとくすくす笑っていたら、司令室のドアを誰かがノックした。
扉が開く。
そこには、大井と提督が立っていた。

「見てよこれ。あたしが刻んだハイパー北上様参上の文字、消されててさ」

大井と提督が笑う。
見れば、全艦娘で一番最後だった大井の艤装の解体も終わっていた。
ただ、提督から大井に、全艦娘内で唯一支給されたアクセサリーの回収はされていなかった。大井の左手の薬指が、きらきら光っている。
そっか、と思い至る。この二人、ケッコンカッコカリがようやく仮じゃなくなったんだ。
特に感慨はない。この二人はいつかそうなるんだろうなぁと思ってた。

「なになに、隅に置けないじゃん。あたしはのけもの?」

脇腹をつついてやると、二人は幸せそうに笑った。お互いの顔を見合わせて、とても幸せそうに笑った。
でも、そこではたと気づいた。
それまではなかったものがある。
北上と二人の間には壁がある。
二人は変わらず接してくれてたけど、薄い皮膜のような何かが、確かに北上には見えた。

「じゃあ……まあ、お幸せにね。ないとは思うけど、浮気とかしたら怖いよ」

なんとなく居心地が悪かった。
あれだけずっと一緒に居たのに、もう一緒に居られないと思ってしまった。
分かってしまった。
もう、三人ではなく、二人と一人なんだと。


261 : 北上&アサシン  ◆tHX1a.clL. :2015/07/29(水) 07:17:21 ZbqFHXmc0

それからほどなくして、北上は大井たちと別れた。
大井は今生の別れのようにわんわん泣いてたけど、その涙も、なんだかあたたかみを感じなかった。
実際はそんなことはないだろうけど。でも、北上がそう思ってしまうのは、たぶん、どうしようもないことなんだと思う。
だって、カッコカリではなくなった二人の間に入る余地なんて見当たらないから、逃げ出すように離れるしかないと思った。
自覚はなかったけど、北上はきっと凄く我儘なんだろうと振り返って思う。
泣きわめく大井に頭を下げて、提督に大井を任せて、北上は走った。その時、もしかしたら泣いていたかもしれない。


行く宛がなかったので、とりあえず手間取らず、そして仮拠点として安く住める場所を見つけて移住した。
透き通った青色の鍵の家だった。
交通の便はよくない。ゴミ捨て場からもちょっと遠い。
建ってから結構な年月が立っているらしく、階段は踏むたびに軋んでぱらぱらと錆びた鉄くずを撒いた。
鍵で戸を開け部屋にはいると、それなりにい草の匂いが香った。
ガラス越しの光を受けて、塵か何かが輝いている。
入ってまっすぐ窓の鍵を開け、空気の入れ替えがてら錆びかけのアルミ窓を開け放つ。
当然、磯の香りとか潮風とか、そういう海っぽい感じはしない。
見える景色は陸ばかり。ああ、つまらない世界に来てしまったなあと思って鍵を放り投げる。
天井に当たる音がした。畳の上に落ちる音は聞こえない。
もしかして天井に刺さったかなと思って振り返ると、そこには占い師風の格好をした女の人が立っていた。

「お初にお目にかかります。私はアサシン。此度の聖杯戦争におけるあなたのパートナーです」

聖杯戦争。聞きなれない単語だ。
どういうものなのと聞くと、懇切丁寧に説明してくれた。
大方の事情を理解して頷くと、アサシンが本題に移った。

「それでマスター、あなたはなにか願いが?」

「え?」

「ええ。なにか願いがあったから、聖杯戦争の舞台である<新宿>に呼び出されたのだと思いますが」

「願い……願い、か」

願いの形は見えている。
司令室で仲睦まじそうな大井と提督を見たときから感じていたあの違和感が、たぶん、北上の願いだろう。
でも、なんと言っていいかわからない。言葉が見つからない。
あれや、これやと考えて、ようやくわかりやすい言葉が浮かぶ。

「……アサシン、あたしさ」

口に出すのが少しだけ恐ろしかった。
遠くに聞こえた蝉の鳴き声がやんだ気がした。

「よくわかんないけど、たぶん、世界が平和になってほしくなかったんだと思う」

遠くで猫がにゃあと鳴いた。運命の羅針盤が回る音が聞こえた気がした。


262 : 北上&アサシン  ◆tHX1a.clL. :2015/07/29(水) 07:18:16 ZbqFHXmc0

深海棲艦との戦争中は、とても楽しかった。
北上はきっと、心の何処かでそれがいつまでも続いてくれることを望んでいた。
提督が居て。
大井が居て。
北上が居て。
あとまあ魚雷が撃てればそれでおっけー。問題なし。
戦いに終わりはなくて。
でも、安心できる場所があって。
いつまで続くか分からない戦いを毎日毎日続けていき、いつまでも続けていたい安息を毎日毎日暮らしていく。
戦争も。
関係も。
全部がカッコカリのまま、三人揃っておじいちゃんおばあちゃんになるまで楽しい毎日を続けていく。

世界に平和が訪れた今、北上はたぶん誰よりも強く、心の底からこう願っている。
軽巡洋艦・重雷装巡洋艦としてもう一度生きたい。
北上某なんて名前じゃなく、艦娘北上として。
提督と、大井と、三人で。
すべてがカッコカリのままの、もうもどれないあの日のままで。
もう一度深海棲艦と戦いたいと。
もう一度だけ、あの日に戻りたいと。

「とても不思議な一言です」

アサシンは目を閉じて、ゆっくりと答えた。
そうしていると、衣装も相まって本物の占い師みたいに見えてくる。

「でも、分かりますよ。守りたかったものがあったんでしょうね」

アサシンは見透かしたような言葉がよく似合う人だった。
どんな時も朗らかに笑っていたし、身のこなしも立派だ。
度量が大きいのか、あたしのけったいな願いを聞いても一言も口を挟まなかった。
いや、一言もじゃないか。アサシンはあたしの言葉を聞いて的外れに一言こう言った。

「あなたは、きっといい魔法少女になれたと思います。私に魔法少女を選ぶ権限がないのが非常に残念です」

冗談めいた言葉。だが同時にどこか不思議と真実味を感じさせる言葉だった。
アサシンが笑う。その笑顔はどこまでも朗らかで、世界をもう一度海の底に沈めようとする相棒としてはいささか眩しすぎる気がした。

不思議な人だ。でも、なんとなく信頼できる。
それがアサシンとの出会い。北上の聖杯戦争の始まりの記憶。


263 : 北上&アサシン  ◆tHX1a.clL. :2015/07/29(水) 07:19:02 ZbqFHXmc0

☆ アサシン

今思い返しても、素晴らしい願いだと思う。
鬱屈した感情。世界を変えたいという強い願い。我儘を肯定できる傲慢さ。そして心の強さ。
アサシンの理想の要素を兼ね備えた少女の願いを聞いて、興奮しないわけがない。
願いを聞いた瞬間、アサシンが心の底からの笑みでその願いを受け止めたのは言うまでもないだろう。

思い出しての興奮冷めやらぬ内に北上の髪を口に含む。
普段はテイスティングまではしないのだが、マスターとサーヴァントは一心同体なので髪の毛くらいいつでも手に入るから今回は我慢する必要がない。
少し潮の匂いがする。海軍のような機関で働いていた、と言っていたからその時の名残だろう。
でも海の潮風に負けて傷んだりはしていない。むしろ荒波に負けないほどの力強さが篭っている。
本人に髪のことを尋ねると、大井っちが毎朝やってくれてたと答えていた。
この艶、このハリ、この味、このキューティクル。よほどその『大井っち』という人が手入れに熱心だったんだろう。
この美しさの価値がわかる人物が居て、その美しさを誰かに伝えるためにその人物が尽力したということがわかると一層うれしくなる。
『大井っち』。
北上の原動力の一端であり、北上の髪の理解者。
アサシンは声に出さず胸の内でお礼を言って、口の中の髪の毛を優しく布巾で拭いて懐紙に包んだ。
懐紙を袖口にしまい、代わりに別の懐紙を取り出してその中空数本の髪の毛を取り出し順番に指に巻いていく。
髪を巻いた指を水晶玉にかざすと、水晶玉に髪の持ち主の姿が映った。
指を入れ替える。チャンネルが変わるように映っている人物が切り替わる。
感度良好。制限も加えられていない。
これなら、アサシンは自分を見失わずに戦い続けることが出来る。
アサシンらしく、慎重に、時には大胆に、冷静に、時には情熱的に、敵の、味方の、自分自身の未来を水晶玉に委ねられる。
トイレに行っていた北上が帰ってきて、水晶玉を覗き込み感嘆の声をあげる。
内緒ですよ、と口に指を当てて言うと気の抜けたような笑顔を返してくれた。
そんな笑顔が、今は愛おしくてたまらない。
微笑み返して水晶玉に再度向き直る。
北上は、学校に行くと言って家から出た。
チャンネルを切り替えて北上を移す。アサシン渾身の三つ編みを揺らしてかけていく愛しいマスターの姿がそこにはあった。

アサシンの方針は決まっている。
愛おしいマスターのために持ちうる限りの力を尽くす。
ついでに色々な髪の毛を拝借して楽しむ。英霊たちの髪の毛は、それはもう、口舌尽きない程のものばかりだろう。
そしてあわよくば、自分の願いを叶える足がかりにする。これはライフワークであるため聖杯で叶わなくても大丈夫。
楽しみと、趣味と、淡い願望が同居した物語。
願いと、希望と、剣と、魔法と、逃走と、闘争と、救済と、暗躍に満ちた物語。それが聖杯戦争だ。
その先に何が待つとしても、結末がどこへ向かおうとも、アサシンにとって素晴らしい物語であることには変わりない。

それでは、素晴らしい物語の幕を開けよう。

アサシン―――ピティ・フレデリカはそんな素晴らしい物語の紡ぎ手としてここにいる。


264 : 北上&アサシン  ◆tHX1a.clL. :2015/07/29(水) 07:20:22 ZbqFHXmc0
【クラス】
アサシン

【真名】
ピティ・フレデリカ@魔法少女育成計画JOKERS

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:C 魔力:B 幸運:A 宝具:B

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
気配遮断:E
自身の気配を消すスキル。
アサシンは宝具の性質上本体が気配を消す必要が無いため気配遮断のランクがすこぶる低い。
E程度ならば他人の部屋を物色していても発見されるまでは気配を感付かれない程度。

【保有スキル】
魔法少女:A
魔法少女である。ランクが高いほど高水準の魔法少女となる。
魔法少女は人間離れした戦闘能力と視覚聴覚を得、排泄や食事などの新陳代謝行為を一切行わなくて良くなる。
また、疲労の蓄積する速度が人間よりも遥かに遅く、長期の不眠不休にも耐えられるスタミナと常人離れしたメンタルを持つ。
更に、固有の魔法を1つ使える。アサシンの場合それは宝具となる。
アサシンは魔法少女としての技術・スキルは最高水準、かつ魔法も希少価値が高く戦闘や交渉・対魔法少女の駆け引きにも優れているため最高のAランクとなる。
そしてアサシンは魔法少女の状態で呼び出されているためこのスキルの発動は阻害できない。

収集癖(髪):A
髪の毛に対する性愛まで届かんほどの執着。
とりあえず目に付いた髪の毛は集めておくし、一度髪の毛を手に入れた相手からも何度も髪の毛を入手しようとする。
みずみずしい髪の毛、つやめいた髪の毛などが大好きで宝具越しにそれらを見ると入手したくてしょうがなくなることもしばしば。
特に魔法少女の髪の毛が大好物。
行動時に髪の毛についてのあれこれで行動を失敗する可能性が高くなる。
ただし、どれほど魅力的な人物・魅力的な髪の持ち主であったとしても死んでしまえば彼女/彼の髪への興味はなくなる。この点に関しては例外あり。
性癖由来のスキルであるため無効化不可能。無効化するとキャラ崩壊となる。

審美眼(髪):A
髪を見分ける力。
一度出会った人間ならば髪の毛を見誤ることはない。また、集めた髪の毛を見誤ることもない。
更に相手が髪に対して特殊な逸話を持つ人物であったならば、その髪を見ただけで真名までたどり着ける。
性癖由来のスキルであるため無効化不可能。無効化するとキャラ崩壊となる。

情報管理:A
情報を集め、それらを記憶しておくスキル。
宝具によって収集した情報のすべてを記憶する知能の持ち主。
更に人づてや本やテレビなどからの情報も決して忘れない。

戦略家:B
話術や策略といった舌戦・頭脳戦関係のスキルの複合スキルであり、それらすべてを高度に使いこなすことが可能。
彼女の交渉成功率は限りなく高く、作戦の成功率もまた高い。
相手の心理を完璧に読みきっての行動なども多く、挑発などにも一切応じない胆力を持つ。
ただし完璧というわけではない。不意を付かれれば失態を犯すし、不確定要素で失敗も起こす。


265 : 北上&アサシン  ◆tHX1a.clL. :2015/07/29(水) 07:21:11 ZbqFHXmc0
【宝具】
『水晶玉に好きな相手を映し出せるよ』
ランク:B 種別:対人 レンジ:99 最大捕捉:10
アサシンの暗殺者たる性能を裏付ける宝具。
発動には他者の髪が必要不可欠。
指に髪の毛を巻き付けて水晶玉にかざすことで手持ちの水晶玉にその髪の持ち主の姿を写すことができる。
それ単体で一切相手に感付かれない魔法の監視カメラであり、一方的に相手の動向を探ることが可能である。
同時に捕捉できるのは両手の指分の10人、かざす指を変えることでチャンネルを変えるように写す相手を変えられる。
また、巻きつける髪の毛を変えるというワンアクションを挟むことで捕捉する相手を切り替えられる。
更にアサシンは研鑽を積むことで水晶玉越しに相手に干渉すること・水晶玉から相手を引きずり出し、水晶玉の先へ自分を含む別のものを転送させる魔法へと進化させている。

この宝具の発動するには相手の髪をアサシンが入手している・相手の髪がアサシンの指に巻きつけることが可能であるという条件をクリアする必要がある。
髪の毛が短い、痛みが酷くちぎれやすい、ハゲみたいなもんなどの相手には通用しない。
ただし、髪の毛を持つ相手ならばNPC・マスター・サーヴァントの誰でもこの宝具の対象たりえる。
変身によって姿形が変わる相手や髪の毛入手後に散髪した相手なども髪の毛を持っていれば変身前・散髪前の髪を入手していれば永続的に把握が可能。

【weapon】
魔法の水晶玉。これを奪われるとアサシンは宝具を使用できなくなり立ち回りは一気に厳しくなる。
アルバム。すぐに使わない髪の毛は懐に入れずここに挟んでおく。あとで楽しむためには事前の準備が必要だ。

【人物背景】
完全変態☆スーパーヘア〜アディクションな魔法少女。
魔法の国の住民ではなく現実世界で暮らす何の変哲もない魔法少女だった彼女。
その本質は狂信者。『完璧な魔法少女の誕生』という崇高な目標を掲げて、その目標のために自分自身を含めた全てを使い潰していく狂気の魔法少女。
一度は積み重ねてきた罪から次元の狭間に幽閉されるも、彼女の支持者によって次元の狭間から脱出。
その後紆余曲折あって魔法の国の影として暗躍を始めた。

お手つきの魔法少女は置いてきた。操作用のレイピアがアサシンの宝具と認識されなかったから連れてこれなかったらしい。


266 : 北上&アサシン  ◆tHX1a.clL. :2015/07/29(水) 07:24:29 ZbqFHXmc0
【マスター】
北上@艦隊これくしょん(ブラウザゲー版)

【マスターとしての願い】
世界の平和なんてほしくなかった。

【能力・技能】
甲標的を扱わせれば艦娘一。
ただし艤装は解体されている。

軍事知識は豊富。
一応深海棲艦との戦争においての最終生存艦なので運もいい。
銃火器の扱いは人並み。艦娘の銃火器と現実の銃火器は勝手が違うので彼女も特に取り扱いに長けているわけではない。

【人物背景】
北上様。
戦争終了及び艤装解体後から参戦。
彼女の世界線では大井が秘書官+全艦娘中唯一カッコカリしており、終戦後も提督の側に居ることになった。
北上様は大井とも提督とも仲が良かったが、二人の間に居づらくなって飛び出し、一人暮らしをはじめたというところで参戦。
曖昧な状態で三人で居るのが楽しかったのだということにようやく気付き、艦娘だったころに戻りたいと願っている。

ちなみに。
誤解があるかもしれないが、ブラゲ版の大井っちはカッコカリ後なら北上様も好きだが同時に提督ラブ勢(重量級)。
北上様の反応は提督に対しても大井っちに対してもほどほどに薄いが、そういう女の子なんだと思う。

【方針】
出来ることなら聖杯は欲しい。
とりあえずアサシンにまかせておけばなんとかなるかとは思うが、それでも気持ちが良いものではない。
ただ、代替案があるならそれでも構わない。
どちらにしろ、大井や提督と、あのほんわり幸せな日常を取り戻したい。

アサシンの立ち回りはいかにして他人の髪を集めるかにかかっている。
髪の毛を集めて、愛でて、口に含んで、楽しんで、そして聖杯戦争となる。
短髪のサーヴァント・マスターとは分が悪いとは言え、それ以外にはものすごく強い。
NPCすら武器に出来るという長所を利用できれば上手く立ち回れるだろう。


267 : 北上&アサシン  ◆tHX1a.clL. :2015/07/29(水) 07:25:06 ZbqFHXmc0
投下終了です
独自解釈に不適切な部分があれば候補作を取り下げさせていただきますので指摘お願いします


268 : ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 20:57:50 0xuAt0g20
候補作品を投下させていただきます。


269 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 20:58:17 0xuAt0g20





某日 某時刻
?????????





ミツルギ
(ムゥ‥‥ここは‥‥。)

 胸元にヒラヒラのスカーフがついた、豪奢な赤い服を着たこの金持ちらしい成人男性。
 目覚めてみると、自分がどこだかもよくわからない暗い空き部屋で倒れていた事に気づき、きょろきょろと目を見まわしていた。

ミツルギ
(ま、まさか‥‥私はまた、殴られて監禁されたのか‥‥!?)

 彼の名は、御剣怜侍(ミツルギ レイジ)。──職業は検事である。
 長らく無敗を貫いたこの男は、そのキャリアにおいてもエリート中のエリートであり、将来は検事局長を約束されたような天才検事であった。
 そんな彼も、警察と協力してある事件の調査中に、証拠品の鍵を見つけ、気づけばこの聖杯戦争にマスターとして召喚されていた。

???
「起きたか、マスター。」

 御剣の前には、一人の男がいた。男の姿には見覚えがない。
 聖杯戦争に関する記憶を、何らかの事故によって全く有さないまま連れて来られてしまった彼は、今も自分が置かれている状況を全く把握しておらず、この男に対する警戒心で満ちていた。

ミツルギ
(一体、何者だ‥‥?
 ‥‥このオトコは。)

 顔ははっきりと見えている。御剣より若い男性だ。
 服装は非常にラフで、色は御剣同様、赤を基調とした物である。ただ、御剣と決定的に違うのは、もう少し当世風な恰好であるという点だろうか。
 比較的整った顔立ちながら、あまり活気のあるタイプではなく、御剣に笑顔を見せそうな気配は今のところなかった。

ミツルギ
「キミは、一体‥‥?」

???
「‥‥俺の事がわからない、か。『巻き込まれ型』のマスターみたいだな。
 だとすると、どうするべきか‥‥。
 これじゃあマスターがどんな人間なのかもわからないしな‥‥。」

ミツルギ
「‥‥まさか、キミが私をここに監禁した犯人というわけではあるまいな?」

???
「監禁? ‥‥いや、そういうわけじゃない。
 だが、マスターが今、把握しきれていない事態については、理解している。」

ミツルギ
「‥‥つまり、キミは私が置かれている状況を、知っているという事か?」

???
「ああ。」

ミツルギ
「なるほど‥‥。紹介が遅れたが、私は、御剣怜侍。検事をやっている。
 ‥‥まずは、キミの素性と、キミが知っている事について聞いておこう。」

 そう言って勝気に微笑むと共に、御剣の職業病が始まる。
 裁判で人を追求する癖がついた御剣は、こうして不可解な状況や事件に遭遇した時、その関係者から情報を集めようとするのである。
 捜査、証言、ロジックチェスなど、彼からすればお手の物なのだが、今回はまず、セオリー通り、証言から始める事にした。


270 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 20:58:37 0xuAt0g20




〜〜〜〜〜〜追及開始〜〜〜〜〜〜




    〜知っている事〜

証言中

「俺の名は、志葉家十九代目当主・志葉丈瑠(シバ タケル)。
 侍戦隊シンケンジャーのシンケンレッドをしている。」

「マスターは、聖杯戦争に巻き込まれたんだ。
 ‥‥聖杯を得る為に、ここで他のマスターと戦う事になる」

「聖杯戦争では、俺たち『サーヴァント』を使って戦わなければならない」

「まあ、言ってみれば、『マスター』が殿様で、俺たちサーヴァントはそれに仕える家臣というところだ」

「そして、聖杯を得れば、自分が叶えたいあらゆる願いを叶える事が出来る」




〜〜〜〜〜〜追及終了〜〜〜〜〜〜





 証言を聞き、青ざめた顔で白目を向いている御剣。

ミツルギ
(な、なんだ‥‥この証言は‥‥。
 ムジュンを探るどころか‥‥言っている事が一つ残らず、サッパリ、ワケがわからんではないか!)

ミツルギ
(‥‥だが、この空き部屋の中に捜査するほど気になる物はない。ここでは、このオトコの証言が唯一の情報源だ。)

ミツルギ
(まずは、片っ端から『Lボタン』でゆさぶって、彼から情報を引きだそう!)


271 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 20:59:04 0xuAt0g20






〜〜〜〜〜〜尋問開始〜〜〜〜〜〜



タケル
「俺の名は、志葉家十九代目当主・志葉丈瑠。侍戦隊シンケンジャーのシンケンレッドをしている」



『待った!』



ミツルギ
「‥‥その‥‥『ジンセイジャー』というのは一体?」

タケル
「『シンケンジャー』だ。俺たちは、先祖代々、『外道衆』という魔物と戦っている。
 わかりやすく言えば、『悪党を成敗』する『侍』という所だ。
 そして、俺たち志葉家は、共に戦う四人の侍を従える『殿様』にあたる。」

ミツルギ
「外道衆‥‥悪を成敗‥‥侍‥‥殿様‥‥。
 そのハナシ、詳しく聞かせてもらおうかッ!」

タケル
「殿様の話が気になるのか?
 ‥‥マスターにとって、重要な話ならば続けるが。」

ミツルギ
「ムッ‥‥いや、そんなに重要なハナシではない。
 証言の続きをお願いする。」

ミツルギ
(ただ単にその番組にキョウミが湧いただけとは言えないな‥‥。)





タケル
「マスターは、聖杯戦争に巻き込まれたんだ。
 ‥‥聖杯を得る為に、ここで他のマスターと戦う事になる。」



『待った!』



ミツルギ
「聖杯戦争? 戦うとは、どういう事だ?」

タケル
「‥‥それはこれから話す。」

ミツルギ
(その説明を、まず先に教えてほしいものだ‥‥。)





272 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 20:59:45 0xuAt0g20


タケル
「聖杯戦争では、俺たち『サーヴァント』を使って戦わなければならない。」



『待った!』



ミツルギ
「サーヴァント?」

タケル
「俺たちサーヴァントは、かつて一度死んだ英霊だ。マスターの魔力で動く。」

ミツルギ
(‥‥一度死んだ‥‥マリョク‥‥だと? そういうのは真宵クンの方が詳しいかもしれないな‥‥。
 まあ、私はまだ、あの子の言う霊媒や、このオトコのハナシも信じるつもりはないが。)

タケル
「サーヴァントには、『セイバー』、『アーチャー』、『ランサー』、『ライダー』、
 『キャスター』、『アサシン』、『バーサーカー』の7種類のクラスがある。
 俺はそのうちの『セイバー』だ。」

ミツルギ
「なるほど。
 それで、キミたちを、『使う』、とは‥‥?」

タケル
「サーヴァントは、いわばマスターであるお前のパートナーだ。
 マスターの命令を基本的には何でも聞く。‥‥一応、令呪の事も教えておくか。」

ミツルギ
「令呪‥‥?」

ミツルギ
(彼の語る『設定』には、ムズカシイ用語が多いな‥‥)

タケル
「自分の手の甲を見てみろ。」


 御剣が自分の右手の甲を見てみると、そこには『三つ葉』のマークを象った奇妙なマークが入っていた。
 今は薄くて見えづらいが、よく目を凝らせば、そこにははっきりと『三つ葉』のマークの痕がついている。


ミツルギ
「な‥‥なんだこれはあああああああああああああああああっ!!」

ミツルギ
(手で消そうとしても、全然落ちない!)

タケル
「それが令呪だ。それを使えばサーヴァントに二度だけ、どんな命令でも聞かせる事ができる。」

ミツルギ
「い‥‥いつの間に、こんな物が‥‥ふでペンで書いているわけではないようだが‥‥。」

ミツルギ
(マズイ‥‥もし、こんな物をつけたまま生活すれば‥‥また検事局でからかわれるッ!)

タケル
「もし一度でも使えば、令呪は消えていく。」

ミツルギ
「‥‥これは、使えば消えるのだろうか?」

タケル
「ああ。だが使わない方がいいな。
 俺がいざという時にマスターを守れなくなる‥‥もしかすれば、死ぬかもしれない。」

ミツルギ
「ブ‥‥ブッソウな事を!」

タケル
「二度きりだ。‥‥考えて使うといい。
 使う時は、『令呪を以て命じる』と言って、Xボタンで『つきつける』事で作動する。
 ただし、本当に二度きりだ。慎重に使わなければ自分の身が危うくなるぞ。」

ミツルギ
(一体どういう事なんだ‥‥? まさか本当に‥‥。)

→『令呪』を証拠品ファイルにしまった。
 『令呪』……私の右手の甲についているシンボル。ミツバをかたどっている。

ミツルギ
(今の証言‥‥何か気になるところはないか?)

→証言に付け加える。
 いや、別にいい。

ミツルギ
「今の発言、証言に付け加えてもらおうッ!」





273 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 21:00:28 0xuAt0g20


タケル
「令呪を使えば、二度だけサーヴァントにどんな命令でも聞かせる事が出来る。」



『待った!』



ミツルギ
「二度だけ‥‥? レイジュを使えるのは、確かに二度なのだろうか。」

タケル
「ああ。一度使うと、令呪は消えていく。
 令呪を使えるのは、どう頑張っても二度だけだ。」

ミツルギ
「ちなみに、どんな命令でも‥‥というのは、一体、どんな命令の事だろう。」

タケル
「どんな命令でもだ。」

ミツルギ
「‥‥だから、それは、どんな命令だと聞いているッ!」

タケル
「‥‥マスターが『目の前の人間を殺せ』と言えば俺は殺すしかなくなる。
 限度があるとはいえ、普通の人間ならば困難な事も、令呪で命じればその時だけ出来るようになる事もあるらしい。」

ミツルギ
「人を殺す、だと? それは‥‥立派な殺人罪だ!」

タケル
「だが、聖杯戦争のルールだ。俺も人斬りにはなりたくないがな。」

ミツルギ
(‥‥そんな物が二度も使えてしまうというのか?)





タケル
「言ってみれば、『マスター』が殿様で、俺たちサーヴァントはそれに仕える家臣というところだ」



『待った!』



ミツルギ
「君が家臣で、私が殿様‥‥だとすると、キミの態度は、いささかソンダイすぎるのではないか?」

タケル
「うっ‥‥!
 ‥‥悪いが、家臣は殿様にどんな態度を取ればいいのかわからない。
 これまで殿様だったからな‥‥偉そうな態度しか取れない。」

ミツルギ
「ムゥ‥‥。」

ミツルギ
(何故か、他人の気がしない‥‥。)

タケル
「マ‥‥マスタあああああああああああああああああああああああっっ!!!!!」

ミツルギ
「う‥‥うおおっ! 何だ、いきなりっ! 驚かせるな!」

タケル
「‥‥いや。忠実で良いサーヴァントというのは、こんな感じかと思っただけだ。
 ‥‥忘れてくれ。」

ミツルギ
(何かあったのだろうか‥‥。)

ミツルギ
「まあ、私への態度はどうこう言わない。
 証言を続けてくれたまえ。」





274 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 21:00:49 0xuAt0g20


タケル
「聖杯を得れば、自分が叶えたいあらゆる願いを叶える事が出来る」



『待った!』



ミツルギ
「願いを叶える‥‥?」

タケル
「ああ、どんな願いでもだ。」

ミツルギ
「‥‥そんな技術があるのか?」

タケル
「それが聖杯だ。他のマスターは皆、それを勝ち取る為に戦おうとしている。」

ミツルギ
「‥‥自分の願いの為に、他者を殺すというのか?」

タケル
「それが聖杯戦争のルールだ。」

ミツルギ
「信じがたいハナシだな‥‥。」





ミツルギ
(言っている事は非現実的だが、まずはその非現実を前提にハナシを合わせよう。)

ミツルギ
(彼が嘘を言っているならば、必ずムジュンが生まれる。‥‥そこに付け入るスキがある!)

ミツルギ
(そして、それを見つけた時‥‥)

ミツルギ
(真実への道は、開かれるッ!)





「俺の名は、志葉家十九代目当主・志葉丈瑠(シバ タケル)。
 侍戦隊シンケンジャーのシンケンレッドをしている。」



「マスターは、聖杯戦争に巻き込まれたんだ。
 ‥‥聖杯を得る為に、ここで他のマスターと戦う事になる」



「聖杯戦争では、俺たち『サーヴァント』を使って戦わなければならない」



「令呪を使えば、二度だけサーヴァントにどんな命令でも聞かせる事が出来る。」


275 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 21:01:05 0xuAt0g20



→つきつける『令呪』




               i.     i'ヽ、        ,
   、       !ヽ、 _  i.ヽ,.--、 i  ノヽ      ./i           _,.-
   ヽ丶、._   ノ,.._ヽヽ ̄ヽ,._ヽ、`' ´_,.!ヽ 、__ /. |        _. -'./
    ヽ  _.. '´  iヽ、i. '´ .`'´,.ィ ."'´〉.<      !、  __..-‐' ´ /
   ___ ..`''´ ._. -'! 、.!-‐'´ _ .. -<' _,. .'´'´、 <ヽ      ̄       /
  <  _..-'! `''´.、 .ヽ、,シ'´_.ィ',.:'´、.'i i'.ゝ'、ヽ          / ___
   i `-'´,.  !-' _ノ i、_-'´_._-、. r'" ,. ヾ、_.ィヽ    ____    /´  `ヽ、
    !  !.-'´_,.、 !_'´ヽ_> 、´" .'´ : ';'、 /´ >! ヽ..__ ヽ、  `.i、.,'      iヽ
 .  i ,ri `'´_i ''"´ `!  i'´! .、-‐ヾィ.、 `'''´ .i´  `)ヽ.!   ! i    ,. ' _!
   _,`r'"_, `'´_,.._. =ニ、.'i  !''、_/i   ) _> ̄ヽi  /´,、.ィ|  .i i    / /
 ーニ_,. >'´  -、ヽ.   ノ!_.ノ i'ヽ!   '´_...  _ノi   ! /./. 〉!  .||  / /、_
   ヽ_,..イ  / ソ ,.-'´ノ、ー-'‐'´  i''、-‐ 、二!  .'' .| .,' !.  ∥ / /---‐'
     >' / .ハ、_,.:-'´. ヽ、__ノ,i  '´  ,.、_  ヽ.  `iノ   /.| ,:' /
.   < '´_.,.-'´        .>'´_,  !' /. /!.  !`'´   _.-' .!i /
     `´/  _. - ' ´ヽ   /  / !  / //  // _..:‐'´_.. -'ノヾ、ヽ
   . /, -'´       |  _!、_ '、/ .,、!,_/'_.-'/_ : ' _. -'´ r'´   ヽ、ヽ
   -'´        !./  ヾi、__/. 人 _/-'´_ 、'.i'    ヽ_ ...-'. !`ヽ
            !     .ヽ--'  < _ -'´ ヽ     `ー‐''´


(流れていたBGMが消える)


276 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 21:01:26 0xuAt0g20



ミツルギ
「‥‥私の手の甲を見てくれ。」

タケル
「‥‥。」

ミツルギ
「ここには、『ミツバ』の絵が描かれている‥‥。」

タケル
「ああ、確かに。」

ミツルギ
「あなたは令呪を使えるのは二回だけで、使う度に消えると言った。
 ‥‥だが。わかるかね? これは『三つ』葉だ。」





ミツルギ
「これでは、二回ではなく、三回使える事になってしまうではないかッ!!」





タケル
「くっ‥‥! ぐおおおおおおおっ!!」

 御剣の私的に動揺した丈瑠は、懐から奇妙な筆を取りだし、空中に『苦』と書いた。
 文字は空中に浮きあがり、丈瑠自身にぶつかり、丈瑠を苦しめる。

ミツルギ
「つまり、キミの言っている事は、明らかにムジュンしているッ!!」

タケル
「くっ‥‥!! はぁ‥‥はぁ……!!」

 丈瑠は、今度は、筆で空中に『安』と書いた。
 文字は空中に浮きあがり、丈瑠自身にぶつかる。
 すると、丈瑠は精神の落ち着きを少し取り戻す。

 ……のだが、御剣にはその大袈裟な証人のモーションが、少し引っかかったようだ。

ミツルギ
「ムッ‥‥。ちょっと待ちたまえ。
 ‥‥なんだそれは?」

ミツルギ
(今、一瞬、空中に文字が書いてあったような気がするが‥‥。)

タケル
「‥‥これの話か?」

ミツルギ
「うム。‥‥それは何だろうか?」

タケル
「‥‥これは、俺の宝具『変身携帯(ショドウフォン)』だ。
 シンケンジャーになる為に使う。」

ミツルギ
「‥‥まだそんな事を言っているのか。
 キミの作った設定は、私が先ほど指摘した通り、既にムジュンしていて‥‥。」


277 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 21:01:45 0xuAt0g20

タケル
「つまり、信じないのか?」

ミツルギ
「そういう事だ。」

タケル
「‥‥仕方がない。
 あまり無意味にやりたくはなかったが、実演させてもらう。」



タケル
「一 筆 奏 上 !」



 空中に、丈瑠が『火』の文字を書いて裏返すと、それは丈瑠の顔と重なり、彼の姿を真っ赤な外装に包ませた。
 頭に『火』の文字を象ったマスクを拵えているこの何者かわからない男。
 それは、志葉丈瑠に違いなかった。

ミツルギ
「‥‥なっ。」

タケル
「‥‥これで信じたか。」

ミツルギ
「なっ‥‥何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」

ミツルギ
(バ、バカなっ‥‥!
 ニ‥‥ニンゲンが、一瞬で変身した‥‥!?)


278 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 21:02:00 0xuAt0g20

タケル
「シンケンレッド、志葉‥‥丈瑠‥‥。」

ミツルギ
「ど、どういう事だ‥‥。どんなトリックを使った!?」

タケル
「すまん。確かに、令呪が二度使えるというのは嘘だ。
 とにかく、出来るだけ少なく見積もっておけば、マスターももっと考えて令呪を使うと思った。
 令呪を使う機会はなるべく減らしておいた方がマスターの為だ。」

→証拠品リスト『令呪』の情報を書き換えた。
 『令呪』……つきつける事で三回だけ丈瑠に言う事を聞かせる事ができるマーク。

ミツルギ
「う‥‥嘘だ、こんな物はあああああああああああああああああああっっ!!!!」

タケル
「‥‥驚くのも無理はないが、トリックや嘘じゃない。
 これから、俺たちはこうして他のサーヴァントやマスターと戦わなければならないんだ。」

ミツルギ
「ならば‥‥私は、本当に、ここで、そんな事に巻き込まれたというのかッ!!」

タケル
「ああ。不幸にも。」

ミツルギ
「ついこの間、不幸にも、何日も連続で殺人事件に巻き込まれたばかりだというのにッ!」

タケル
「‥‥検事っていうのは大変そうだな。」

ミツルギ
「そうだ‥‥! 私の仕事は忙しい‥‥!
 聖杯戦争などやっている場合ではない‥‥!
 そんな物は検事ではなく、弁護士でも連れてやってくれたまえ!
 そうだ、レイジュとやらで、今すぐ私を脱出させる事はできないのか‥‥!?」

タケル
「残念だが、無理だ。ただ、言われれば、俺はここでマスターを守り続ける。
 それが仕える身の義務、だからな‥‥。」

ミツルギ
「くっ‥‥!」

タケル
「今、マスターは事情を詳しくは知らないから、俺たちの状況は他に比べて不利だ。
 ‥‥見たところ、魔力も殆どないようだしな。」

ミツルギ
「‥‥マリョクとやらが欲しいならば、それこそ、弁護士事務所に行って霊媒師を呼んでくれ!」

タケル
「‥‥今の弁護士事務所には霊媒師がいるのか。」

ミツルギ
(これから、本当に彼と共に聖杯戦争をしなければならないのか‥‥?
 くっ‥‥なんという逆境だ。‥‥まるで、弁護席に立っている気分だ!)


279 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 21:02:17 0xuAt0g20



【クラス】
セイバー

【真名】
志葉丈瑠@侍戦隊シンケンジャー

【パラメーター】
筋力D(B+) 耐久E(C) 敏捷D(B+) 魔力D(C+) 幸運C 宝具C
※()内のパラメータはショドウフォンを使ってシンケンレッドへと変身した際のパラメータ。

【属性】
秩序・善

【クラススキル】

対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
※シンケンレッド変身時に限る。
 普段はD〜E程度。

騎乗:B
 騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、
 魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなせない。


【保有スキル】

モヂカラ:C
 文字(漢字)を操り、時に空に書いた文字の意味する事象を具現化する力。
 幼少期からの修行によって身に着けた物であり、セイバーは特に『火』のモヂカラを得意とする。
 尚、本来の志葉の家系の人間は先天的に受け継いだ物であり、Bランク以上になるが、彼は正しくはその血筋の人間ではない為、Cランクより上にはならない。

変化:C
 文字通り、「変身」する。
 彼の場合はモヂカラによるシンケンレッドへの変身の他、そこからの多段変身も可能(ただし膨大な魔力を消費する)。

影武者:E
 生前に持っていたスキル。
 周囲を欺き、「志葉家当主」の影武者として、君臨してきた秘匿の術。
 ただし、正式に志葉家一九代目当主となった為、現在は失われている。


【宝具】

『変身形態(ショドウフォン)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:文字による 最大補足:文字による
 彼をシンケンレッドに変身させる事が出来る変身アイテム。
 変身時でなくとも、このショドウフォンで空中に文字を書くと、一定期間だけその文字で書いた現象が発生する(「馬」と書くと白馬が現れる、「思」と書くとその人の思い出が具現化される…など)。
 ただし、出来る事は限られており、彼のモヂカラの才能によって、そのキャパシティは変化するほか、複雑な物を出すと彼自身のエネルギー消費も激しい。
 シンケンレッドへと変身する際は、空中に「火」と書く。


『秘伝円盤(秘伝ディスク)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:文字による 最大補足:文字による
 モヂカラを空中に書く際には膨大なエネルギーを消費する為、この秘伝ディスクを通してそれを軽減する事ができる。
 モヂカラを継ぐ者たちがこのディスクの中にモヂカラを込めており、これは、『変身形態(ショドウフォン)』によって出現したシンケンマルという刀を通して発動する。
 多種類あるが、どれを所有しているのかは不明。


【weapon】
『変身形態(ショドウフォン)』
『秘伝円盤(秘伝ディスク)』


【人物背景】
 志葉家十九代目当主(十八代目・薫の養子)にして、侍戦隊シンケンジャーのシンケンレッドとして外道衆と戦った侍。
 かつては、志葉家十八代目当主の影武者として、味方さえも欺いて殿様を演じていたが、十八代目が養子にした事で十九代目当主として名実共に「殿様」となる。

 殿様や家臣といった関係が当世風ではない事を自身も理解しており、その為、自らの家臣にもタメ口を許し、私生活でも割と対等な関係を結んでいる。
 だが、元々殿様(影武者だが)として生活していた為、どこか世間知らずで人見知りな面があり、仲間内には「常に胡坐をかいて偉そうにしている」というイメージを植え付けられがち(嫌われているわけではなく、それも含めて愛されている)。
 そんな中でも、時折からかわれたり、家臣と共に遊んだりしながら次第に打ち解けていき、彼らとは「殿様と家臣」というだけではない絆で結ばれていく。
 尚、泣き虫で怖がりな性格でもあり、絶叫マシーンやお化け屋敷(本物の怪物と戦っているが、作り物のお化けは無理)は苦手。


【サーヴァントとしての願い】
 不明。

【基本戦術、方針、運用法】
 なるべく、マスターになっている人間を斬りたくはないが、サーヴァントとは戦闘する。


280 : 逆転侍(御剣怜侍&セイバー) ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 21:02:54 0xuAt0g20




【マスター】
御剣怜侍@逆転検事シリーズ(逆転裁判シリーズ)

【マスターとしての願い】
 特になし。聖杯戦争に対しては否定的。

【能力・技能】

 頭脳明晰。
 天才検事として名前を轟かせており、20歳で法廷に立ってから成歩堂龍一と法廷で再会するまでは、一度も無罪判決を渡した事のない無敗の検事だった。
 法廷では、数々の証拠品や論理によって弁護人や被告人を追い詰めていく。ねつ造や隠蔽などを行って被告人を有罪にしていたという噂が流れていた時期もあったが、それはあくまで単なる風評被害だった模様。
 あくまで真実を追い求める姿勢の為に法廷に立っている為、場合によってはあえて弁護側に有利な状況を作る事もあるが、それは結構稀な話。
 また、一度だけ弁護側の席に立った事があり、成歩堂の代わりに逆境を跳ね返していった。

 チェスが得意で、人から情報を引きだす際も、駆け引きをチェスに見立てた「ロジックチェス」というやり方を行う(実際は、ただの駆け引きだが)。
 運転免許を有しており、高そうな赤いスポーツカーを愛用。スポーツカーの中で殺人事件が起きた事がある。
 幼少期からゴルフやフルート、論文などで多くの賞を獲得しており、弁護士だった父の影響か、裕福な過程で様々な事を習ったようである。

 子供向け特撮番組『大江戸戦士トノサマン』のシリーズのファンであり、それに関してはかなりの知識を持っている模様。
 周囲には隠しているが、たまに熱中しすぎて疑われる事も。

 あとは、強いて言えば、折鶴が折れる(幼少期、折鶴が折れないほど不器用だった事が悔しくて練習したらしい)。

【人物背景】

 検事局の天才検事。
 弁護士・御剣信の息子として生まれ、幼少期は父に憧れて弁護士を目指していたが、その父が殺害され、犯人が心神喪失による無罪となった事から犯罪と弁護士を憎み、検事を志す(ただし、本当に無罪だった事が後に発覚)。
 父のライバルだった狩魔豪の元に弟子入りし、「被告人を全て有罪にする」という信念を持って検事を続ける。
 そして、ある時、彼の前に、小学校以来の幼馴染・成歩堂龍一が弁護士となって現れた事により、御剣の中で心境の変化が生まれる。
 ただひたすらに依頼人を信じ、真実を追い求める姿勢を絶対に崩さない成歩堂を見て、御剣もだんだんと、「真実を追い求める」という幼少期憧れた弁護士像を取り戻していった。
 やがて、父が殺害された「DL6号事件」の真実を、御剣の証言を元に成歩堂が解明。これにより、事件の真犯人だった狩魔豪は逮捕される。

 師匠が逮捕された後に、知り合いの警察局長まで逮捕されるなど、立て続けに法曹界の不祥事を暴く羽目になり、「法とは何か」と悩み始めた彼は世界を旅した。
 しかし、「逆転裁判2」で帰国後、自分が今いる「検事」という立場から「真実」を探るべく、また成歩堂と何度も法廷で対決していく事になる。

 口下手で他人と話す事が苦手タイプ。「なのだよ」「たまえ」などといった古風な喋り方で他人に偉そうに接するが、本人にはあまり自覚はない。
 幼少期のトラウマから、地震が大の苦手。…この聖杯戦争に参加して大丈夫か?
 参戦時期は「逆転検事2」の一連の事件を終えた直後。成歩堂はまだ弁護士バッジをはく奪されていない時期。

【Wepon】

『証拠品ファイル』
検事バッジ……私の身分を証明してくれるものだ。いつもポケットに入れている。
鍵……とある事件の証拠品。ここに来る前に持っていたもの。
令呪……つきつける事で三回だけ丈瑠に言う事を聞かせる事ができるマーク。

『人物ファイル』
志葉 丈瑠(故)……御剣のサーヴァント。クラスは『セイバー』。

『携帯電話』

【方針】
 聖杯戦争なる物について、更に詳しくサーヴァントに問い詰める必要がある。
 とにかく、聖杯戦争だろうが何だろうが、犯罪を犯すつもりはない。
 この場にあるムジュンを指摘し、立証していく。
 そして、聖杯戦争の真実をつきとめる。

【備考】
 何らかの事故により、聖杯戦争の記憶がなく、この状況について何も知りません。
 なので頑張って捜査や証言を得て、手探りで真実を追い求めていくようです。


281 : ◆CKro7V0jEc :2015/07/29(水) 21:03:17 0xuAt0g20
投下終了です。
台本形式は仕様です。


282 : ◆zU0ZDiKLcw :2015/07/30(木) 01:52:06 ix4gjYkQ0
投下させていただきますー


283 : 英純恋子&アサシン  ◆zU0ZDiKLcw :2015/07/30(木) 01:53:34 ix4gjYkQ0






 そして弄ぶ、狭いステージの上、操られながら上手く踊るの/踊らされてるのも随分前から分かっていて、それでも、それでも








                ▼  ▼  ▼





「わざわざご足労いただき、感謝いたしますわ」

 返事代わりに侮蔑を込めて鼻を鳴らし、壮年の魔術師は豪勢な椅子に座った少女を睨めつけるように見た。
 そんな視線などまるで意に介していないかのように悠然と紅茶を口に運ぶ姿が、心底癪に障る。

「……ハナブサ・コンツェルンの令嬢ともあろうお方が、来客に椅子も勧めんのかね」
「あら、失礼。わたくし、幼い頃から体が弱いものですから。一人だけ腰掛ける非礼をお詫びしますわ」

 魔術師のこめかみに、みしりと血管が浮いた。
 挑発しているのか、それとも自分が特権階級たることに微塵も疑問を抱いていないのか、あるいは身の程知らずの無礼者か。
 おそらくはその全てなのだろうと、魔術師は即座に結論付ける。
 そうでなければ、このような馬鹿げた場所にわざわざ呼び出したりはしないだろう。

 魔術師が招かれたのは、〈新宿〉で最も高価な宿泊施設であるハイアット・ホテルの一室である。
 正確にはこの部屋だけでなくフロア全体を彼女が丸ごと借り上げて、此度の『聖杯戦争』の本拠地としているのだ。
 その桁外れの財力こそが、彼女の背後に存在する「英財閥」の強大さを雄弁に物語っている。

 ――『英純恋子(はなぶさ・すみれこ)』。

 彼女もまた、男と同じくこの〈新宿〉の聖杯戦争のマスターなのだという。
 ふざけた話だ。
 恐らくこの〈新宿〉における英財閥は彼女の本来の世界にのバックボーンを再現する形で存在しているのだろうが、しかし彼女は魔術師ではない。
 ただの資産家に過ぎない娘が、時計塔で名を挙げた自分と対等のように振る舞い、あまつさえ見下してすらいる。
 聖杯に授けられた令呪によって運用できる僅かばかりの魔力では、使役できるサーヴァントもたかが知れていよう。
 にも関わらずこの傲岸極まる振る舞い。体に染み付いた人間性とは、舞台を変えても変わらないものと見える。

「……随分と怖い顔をなさるのね。わたくしの提案した共闘のお誘い、お気に召しませんでして?」
「当然だ。どうやって私がマスターだと知ったのかは知らんが、年端もいかぬ小娘に預けてやる背中はないぞ」
「あなたを探り出したのはわたくしのサーヴァントですわ。もっとも、招待状はわたくしのアイデアですけど」

 明確な対立の意思を込めた返事にもその慇懃無礼な表情を崩さずに、純恋子は楽しそうな口ぶりで言う。
 探索に優れたサーヴァント。アサシンかキャスター、次点で機動力に優れたライダーやランサーか。
 いずれも敵ではない、と壮年の魔術師は値踏みする。
 なにしろ、自分のサーヴァントは最優と称されるセイバーのクラス。、
 今この場で奇襲を受けたとして、切り抜けるだけなら何とでもなるという確信が男にはあった。


284 : 英純恋子&アサシン  ◆zU0ZDiKLcw :2015/07/30(木) 01:54:53 ix4gjYkQ0

「そして、答えはNOということですわね。それは残念――というわけでもありませんわね」
「……どういう意味だ?」
「そのままの意味ですわ。このわたくしと共に勝ち残るには……貴方、随分とチンケでつまらない殿方ですもの」

 今度こそ、感情の熱量が沸点を越えた。
 男の口角が小刻みに震えながら釣り上がったが、それは笑みの形を作ったものではなかった。

 屈辱。

 その二文字が今の男の脳内から脊髄を通って四肢の隅々に至るまで駆け巡り、蒸気となって立ち上らんばかりとなっていた。 
 一流の魔術師を自負するこの自分をここまでコケにしたのだ。
 もはや提案の破却だけでは収まらない。
 身の程知らずの小娘には、断罪以外に取る道はあるまい!

「――セイバーッッッ!!!」

 呼ぶ声を先読みしていたかのように、男の傍に戦闘態勢で実体化したのは絢爛たる鎧の剣士。
 この距離ならば、三歩踏み込むだけで、その剣は小娘の首を跳ね飛ばすだろう。
 さすがに純恋子も反応を示した。
 しかし今更何を言おうが、男の怒りが収まることなどない。

「……本当に小さい男。もはやわたくしが手を下すまでもありませんわね――『アサシン』!」
「何がアサシンか! 我がしもべの剣、アサシンごときがどうこう出来るかァァ!!」

 下劣なマスターには下劣な英霊。
 暗殺者のクラスとは、身の程知らずの下僕に相応しい無様さだ。

 男は手をかざした。
 前進の合図。すなわち、攻撃の号令である。

「応ッ!!!」

 セイバーが応えた。
 そしてその言葉が音となって伝わるよりも早く、純恋子へと一歩を踏み込んだ。

 一歩。

 一歩を踏み込んだ。

 三歩踏み込めば剣が届く距離で、セイバーは一歩だけ踏み込み、そこで止まった。

 信じられないものを見るような目で、男は自らのサーヴァントを見た。
 サーヴァントもまた男へと視線を送ろうとしたが、思うようにいかなかった。
 眼球だけを動かして危険を知らせようとしていたが、首を回すわけにはいかず……回しようもなかった。

 そこで男はようやく気づく。

 虹だ。

 七色の虹が鋭利な刃となって、セイバーの喉元を骨に達するまでに深く裂いていた。


285 : 英純恋子&アサシン  ◆zU0ZDiKLcw :2015/07/30(木) 01:56:23 ix4gjYkQ0
 壮年の魔術師は、その年季に相応しくないほどに取り乱した叫び声を上げた。
 自身が無敵と信じた英霊の首元から溢れ出す鮮血はまるで現実味がなく、しかし紛れもなく現実そのものだった。
 純恋子のアサシンの攻撃だというのか。しかしこの距離で三騎士相手に成功するはずがない。
 気配遮断スキルは、攻撃時には大きく効果を減じる。セイバーならば即座に反応して切り捨てるはずだ。
 こんなことが、あり得るはずがない――あり得るはずがない!

「貴様ァァァァァあぁァァァ!!」

 半狂乱で放った呪詛魔術は、しかし純恋子までは届かず、幾重にも重なった虹の壁に阻まれる。
 打つ手を失った男は、死にかけの魚のようにぱくぱくと口を動かした。


「……なん、で」
「なんでってそりゃあオジサン、あんたらが間抜けだったからじゃないの?」
「な、に」
「よっぽど自信あったのか知らないけどさ。でも現実は非情です、はい残念! 分かったらちゃちゃっと死んでよね」


 憤死寸前の形相のまま、男は視線を自分の目の前へと動かした。
 虹の輪を背負った、純恋子よりも更に若い少女である。
 まだ十二、三歳ぐらいでありながら、誰もが目を奪われるほどに可憐な容姿をしている。
 しかしその服装はサイバーチックな可愛らしいもので、まるで暗殺者というよりも、日本のアニメや漫画に出てくるような――


 ――魔法少女。


 それを認識する前に、虹の魔法少女の手刀が男の頚椎を意識ごとへし折った。

 



                ▼  ▼  ▼



 英純恋子は紅茶を一口飲み、僅かに顔を顰めた。
 人死になど見慣れた光景であるとはいえ、流石に死体の前で飲む紅茶が美味いわけでもない。

「まったく。人を呼んで処分しなければなりませんわね」

 呟いて、下手人である己のサーヴァント――アサシンを見る。
 素手で人間を絶命させた割には(暗殺者としては当然なのかも知れないが)さらさら気にしている素振りは見受けられない。
 まだ、あのミョウジョウ学園『黒組』のクラスメート達のほうが人間味溢れる反応をしそうだ。
 それが暗殺者としていいことなのかどうかは別として。

「――アサシン」

 呼ぶと、サーヴァントの少女は振り返った。
 同性の純恋子から見ても……いや同性だからこそか、はっと息を呑むほどに可愛らしい。
 もっともその本性を見てしまっては、蝶よ花よと愛でるには少しばかり躊躇いがあるが。


286 : 英純恋子&アサシン  ◆zU0ZDiKLcw :2015/07/30(木) 01:57:00 ix4gjYkQ0


 アサシンのサーヴァント。真名は、虹の魔法少女『レイン・ポゥ』。


 魔法少女にして、暗殺者(アサシン)。
 純恋子は魔法少女アニメに夢中になるような歳ではないが、しかし暗殺業の魔法少女の存在に失望を感じなかったといえば嘘になる。
 魔法少女といえば夢と希望、愛と勇気の、女の子の憧れとなるような存在だ。
 しかしそんな魔法少女たちの世界に、暗殺者が必要とされているということは。
 結局、魔法の国もまた、腐敗と癒着と私利私欲に溢れた、ドブのような匂いを放つ世界に過ぎなかったということ。
 今も純恋子を取り巻く、醜い悪意の渦と同じように。
 
 アサシンが、横たわる魔術師の死体をつま先で蹴って言う。

「一応、床が血で汚れないように気ぃ遣ったんだからさ。ちょっとは感謝してよね」
「……殺しのプロというのも、あながち嘘ではないようですわね」
「あ、今更そうやって疑っちゃうわけ? 多感な年頃だからそういうのはキズつくんですけど」
(嘘おっしゃいな)

 白々しい言葉がよくもすらすらと出てくるものだと感心するが、これがレイン・ポゥという英霊の特性らしい。
 彼女の真の武器は虹の魔法ではなく、抜群のコミュニケーション能力と演技力だということだ。
 考えようによっては、人を欺いて出し抜くことに特化しているともいえる。
 その最たるものが、先ほど見せた三騎士相手の奇襲だ。
 条件付きで気配遮断スキルのランクダウンを無効化するスキルは、ある意味でアサシンの本質を表している。

「んで、こんなやり方でマスターの願いってのは叶うわけ?」
「わたくしの願いは、自らが女王として立つに相応しい存在であることの証明。
 好敵手足り得ないようなマスターには、正々堂々たる決着を与える必要すらありませんわ」
「うわー、私が言うのもなんだけど性根がひん曲がってるわ。私を喚ぶ時点でろくな人間じゃないけど」

 純恋子はぱちぱちと瞬きをした。

「あら、意外。自覚はあるんですのね」
「自覚なきゃこんな仕事やってられんっしょ」
「もっともな言い分ですわね」

 そう言うと、アサシンはわざとらしくため息をついた。

「なんかマスターって、私の知ってるやつに似てるわ。いや知ってるっていうか、直接会ったことはないんだけど。
 依頼主みたいな感じっていうか……とにかくなんとなくさ、私は特別!って素で考えてそうな感じがするんだよね」
「わたくしが特別なのは改めて言うまでもないでしょうに」
「はぁ……私をこき使ってくれた魔法少女様も、あんたみたいに性格悪い大金持ちのお嬢様だったりするのかな」

 うんざりした顔のアサシンに、悠然たる笑みを浮かべたまま純恋子は呼びかける。

「その性格の悪いお嬢様へ、これから力を貸していただくことになるのだけれど。御覚悟はよろしくて?」
「ま、利害は一致してるからね。私も聖杯の力でもう一度人生やり直したいって気持ちはあるし。それに」
「それに?」
「今度は、もっと上手く立ち回って生きてやる。誰にも私をハメさせたりはしない」

 ぞくりと、機械化されたはずの背筋が粟立つような錯覚を覚える視線。
 まるで、生前誰かに陥れられたことがあり、それと純恋子を重ねているかのような。
 まっすぐに向けられるその視線を持ち前の克己心で正面から受け止め、純恋子はあえて微笑んだ。

「……お互い、意図しないステージで踊らされた者同士。上手くやっていけると思いません?」
「どーだか。ま、あんたがスポンサーで私は雇われ。いつも通りやるだけか」

 どこまでもドライな虹の魔法少女の生き様は、純恋子の生き方と幾度と無く交差しながら、しかしどこまでも相容れない。
 君臨者を鼻で笑う彼女を、女王たらんとする自分が扱おうとするのは滑稽ですらある。
 しかし、それもまた自分の戦い。
 一ノ瀬晴のように他人の陰に隠れるのとは違う。サーヴァントを己の手足、その最強のパーツとしてこの聖杯戦争を戦い抜くのだ。



 なにせ――彼女は、一度“魔王”を殺している。ゆえに、この〈新宿〉において殺せない敵はいない。


287 : 英純恋子&アサシン  ◆zU0ZDiKLcw :2015/07/30(木) 01:58:28 ix4gjYkQ0


【クラス】
 アサシン

【真名】
 レイン・ポゥ@魔法少女育成計画Limited

【ステータス】
 筋力C 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運B 宝具C

【属性】
 中立・悪


【クラス別スキル】
気配遮断:B
自身の気配を消す能力。
完全に気配を断てばほぼ発見は不可能となるが、攻撃態勢に移るとランクが大きく下がる。


【固有スキル】
魔法少女:B+
魔法少女である。ランクが高いほど高水準の魔法少女となる。
魔法少女は人間離れした戦闘能力と視覚聴覚を得、排泄や食事などの新陳代謝行為を一切行わなくて良くなる。
また、疲労の蓄積する速度が人間よりも遥かに遅く、長期の不眠不休にも耐えられるスタミナと常人離れしたメンタルを持つ。
更に、固有の魔法を1つ使える。アサシンの場合それは宝具となる。
アサシンは暗殺者として経験と鍛錬を積んでいるためランクが高いが、それでも上位には及ばない。
そしてアサシンは魔法少女の状態で呼び出されているため、このスキルの発動は阻害できない。

演技力:B
他者に好感を与えるキャラクターを演じ、友好な関係を築くことができるスキル。
アサシンはこのスキルを用いて他者と交流する場合、自身の属性を好きな組み合わせとして誤認させられる。
またアサシン本来の性格を知らない相手がアサシンの演技を見抜こうとする場合、成功ロールにマイナス修正が加わる。

人間観察:C
人々を観察し、理解する技術。
誰が誰にどのような感情を抱いているかを見抜き、把握した上で行動できる。
単体でもそれなりに有用だが、先述の演技力スキルとの組み合わせで真価を発揮するスキル。

魔王殺し:EX
生前のとある逸話により与えられた、虹の魔法少女の異名。
霊格が自分より高い、あるいは宝具を除く平均ステータスが自分より高い英霊に対してのみ発動するスキル。
このスキルが適応された不意討ちの一撃目に限り、気配遮断スキルのランク低下デメリットを無効化する。


【宝具】
『実体を持つ虹の橋を作り出せるよ』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:視界内 最大補足:10
レイン・ポゥの固有魔法にして象徴。
アサシンが念じた場所から反対側へと伸びていく虹の橋を作り出す。
虹の橋は厚さを持たないが、サーヴァントが踏みしめてもヒビひとつ入らない。幅は最大1メートル半、長さは視認範囲内なら無限遠。
また魔術によって生成されるものの、実体を持つため性質としては神秘を帯びた武器に近く、対魔力等のスキルの影響を受けない。

一見するとメルヘンチックな魔法だが、その実体は攻撃・防御・応用性に優れた凶悪な能力。
虹の縁はサーヴァントの肉体をやすやすと切り裂く鋭利な刃であり、橋として魔法少女の全力疾走に耐える強度は盾としても使える。
視認不可能な細さの虹を複数発生させ張り巡らせることで、触れたものを感知するセンサーにすることも可能である。

欠点は、視認範囲外の虹は徐々に崩れて消滅してしまうことと、攻撃するには「虹を伸ばして」「斬りつける」の二動作が必要であること。
正面切っての戦いでは決め手に欠けるうえ見切られる危険があるが、逆に奇襲にはこの上なく適した能力である。


288 : 英純恋子&アサシン  ◆zU0ZDiKLcw :2015/07/30(木) 01:58:54 ix4gjYkQ0
【weapon】
戦闘手段として使用するのは宝具で作り出す虹の刃のみ。
もっとも、レイン・ポゥは素手でも並の魔法少女なら瀕死に追い込めるだけの格闘能力を持つ。


【人物背景】
魔法少女育成計画シリーズ三作目に登場する、虹の魔法少女。
変身前の名前は『三 香織(にのつぎ・かおり)』。中学一年生。社交的で友達の多い、明るい少女である。
魔法少女服はサイバーチックな意匠を持ち、背後に虹の輪を背負っている。
ある日魔法の国から来た妖精トコにより、香織は親友の酒己達子らと共に魔法少女へとスカウトされる。
悪い魔法使いに追われているというトコを助けるため、香織たち七人の新米魔法少女は協力を決意。
手にした力に戸惑いながらも、魔法少女レイン・ポゥは仲間と共にトコを狙って襲い来る敵の魔法少女たちとの戦いに見を投じていく。

……もっとも、このあらすじは物語の一面ではあっても真実ではないのだが。

本来ならば英霊になり得る存在ではないはずだったが、『Limited』作中で起こしたとある事件により彼女の名は知れ渡ることとなる。
続編『JOKERS』に登場する魔法少女・袋井魔梨華など「虹の魔法少女」を知る者は多く、それが結果として彼女の英霊化に繋がった。


【サーヴァントとしての願い】
第二の生。
次はもうちょっと賢くやって、今度こそ楽しく生きる。



【マスター】
 英純恋子@悪魔のリドル

【マスターとしての願い】
 自らが真の女王であることを証明する。

【weapon】
 サイボーグである自分自身。

【能力・技能】
 全損した両手両足を含むほぼ全身をサイボーグ改造しており、特に義肢には戦闘用の改造を施している。
 その強度は拳銃を握力だけで破壊し、壁を拳で破砕し、片手で人間をやすやすと投げ飛ばすことが可能なほど。
 また指先にワイヤーを仕込んでいる他、腕全体を銃器アタッチメントに換装することも出来る。


【人物背景】
 英財閥の令嬢。名前は「はなぶさ・すみれこ」と読む。
 彼女の家は明治維新以降に急成長した家であり敵が多く、彼女も幼い頃より幾度と無く命を狙われた結果、四肢を失うほどの重傷を負っている。
 それでも血の滲むほどの努力を重ねてリハビリを乗り越え、強化改造した義肢を武器に今まで生き抜いてきた。
 そんな自分の存在に強烈な自負を持ち、家柄への誇りとも相まって特別扱いされないと気がすまないタイプ。

 同じように命を狙われながらも生き延びてきた一ノ瀬晴には並々ならぬ対抗心を抱いている。
 ミョウジョウ学園黒組に参加し晴への暗殺を表明した理由は、他人によって生かされている晴を倒して自分が真の女王であることを証明するためである。
 そのため彼女自身は常人を越えた戦闘能力を持ちながらも暗殺者ではなく、晴への暗殺も半ば(一方的な)決闘のような形だった。

 結果的に彼女は土壇場で驚異的な行動力を発揮した晴により、99階建てのビルの最上階から突き落とされ戦闘不能になる。
 最終回では晴への対抗心を捨て穏やかな表情を浮かべていたが、この聖杯戦争への参戦時期はそれ以前であり、未だ敗北の記憶の抜け切らぬ状態である。


【方針】
 聖杯狙い(聖杯そのものが目的ではないが)。
 女王として焦ることなく優雅に勝利を得たいところだが、生粋の暗殺者であるアサシンとは見解の相違が生じている。


289 : ◆zU0ZDiKLcw :2015/07/30(木) 02:00:15 ix4gjYkQ0
投下終了です。
一部スキル及びステータスは同じ出典のメイやフレデリカを参考にさせていただきました。

また、今更ではありますが、魔法少女育成計画シリーズの一部ネタバレを含む内容であることをお詫びします。


290 : フマトニ&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:20:42 v76UlsIo0
投下します


291 : フマトニ&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:21:34 v76UlsIo0

  男性にしてはさらさらと艶めく肩口までの長さの髪に、笑顔が似合う甘いマスク。女性受けもよく、人当たりもまた悪くない。
  上背は高く、ガタイもいい。特にスポーツをしているわけではないが鍛えるのが趣味ということもあり、引き締まった身体は人目を引いた。
  多少目立つ見た目をしているが、その程度なら単なる個性の範疇。
  白いスーツを着こなし、それなりの業績を上げ、可もなく不可もなくな扱いで会社に通っていた。
  男・フマトニはある一点を除けばどこにでも居る商社マンだった。
  そう、ある一点。右手のミミズ腫れを除けば。

「はぁっ、はぁっ、クッソ、なんだってんだよ……!!!」

  フマトニはとある催し事に強制的に参加させられていた。
  その催し事こそ聖杯戦争。願いを持つ者達が椅子を求めて蹴落とし合う戦争だ。
  フマトニは記憶も取り戻さぬ内に、彼の英霊であるというセイバーと出会い、戦場に放り出された。
  そして今、逃げている。街で突然繰り広げられた戦闘から、そして無慈悲な追撃者から。

  ぱあん。
  火薬の爆ぜる音で空気が揺れる。
  フマトニの顔が苦痛にゆがむ。スーツの脹脛の側部に焦げ跡と、真っ赤なシミが広がる。
  襲われるのは、今回で三度目だった。
  一度目はビビって動けないところをセイバーに助けられた。
  二度目は襲いかかってきた相手をセイバーにまかせて逃げた。
  そして三度目、今回は勝手が違う。
  二度目のようにサーヴァントが襲ってきたので、セイバーにその場を任せてフマトニは戦場から離脱した。
  だが、逃げ出したフマトニを待っていたのは敵マスターだった。
  フマトニと同じく戦場に放り込まれたマスターが、拳銃を持ってフマトニを殺しに来たのだ。
  逃げる敵を想定し、戦力を割いた上で相手を殺す。実際、見事としか言い様がない。

「おい、セイバー、セイバーどうなってんだ! 早くしてくれ!」

『敵の宝具の相手で精一杯なんです! あと数十秒でなんとかするから逃げ切ってください!』

「なっ、お前っ!」

  文句を続けられない。再び火薬の爆ぜる音。鮮烈な痛みがフマトニの右大腿部を襲う。
  どくりどくりと脈打つ音が聞こえる。音と一緒に命が貫通痕からこぼれ出す。
  だが、立ち止まってはいられない。立ち止まれば死だ。逃げ場のない死しかない。
  痛みをこらえて曲がり角を曲がって暗がりの中を逃げていく。
  数十秒後、フマトニは自身の運の無さを呪った。暗がりの奥に待っていたのは行き止まりだった。
  相手を巻くために路地に逃げたが、それが思い切り裏目に出た。


292 : フマトニ&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:22:52 v76UlsIo0

「はあい、ゲーム・オーバー」

  きざったらしい台詞とともに女性が現れる。
  かちゃりかちゃりという金属音が路地裏に反響する。
  死がやって来た。
  数十秒まであと何秒ある。念話を飛ばす余裕もない。
  ならば令呪で呼び出すか。令呪を使えばこの窮地を脱することも出来るかもしれない。

「早打ちでこの私に勝てると思うかい? 思うんだったら、やってみなよ」

  どうも、世の中はそんなに甘くないようだ。
  ガンマン風の女性は拳銃を降ろさず、視野を広く取るためにテンガロンハットのつばを指で持ちあげている。
  少しでも動けば、あの銃口から弾丸が飛び出し、フマトニの頭蓋骨を割り中身をくちゃぐちゃにかき回すだろう。
  そう遠くない未来を思いフマトニの心に到来したのは死の恐怖でも焦燥感でもない。怒りだった。
  ここで死ぬのか。自身が何者だったのか、そんな単純なことすら終ぞ思い出すことも出来ずに死ぬのか。
  他のマスターからは獲物として見られ、ガンマンの女にいいように踊らされ、ここで無残な死体に変わるのか。

「ふざけるな……」

  怒りに任せ、己の境遇に思わずぼやく。かりりと頭の内側に小さなヒビが入る音。
  何かが違う。何かが間違っている。何故かそう分かった。
  違和感の正体を探ってすぐに思い当たる。言葉だ。フマトニが口にするのはこんな丁寧な言葉じゃなかった気がする。

「ふざけんなよ……」

  まだ遠い。もっと叩きつけるような粗野さだったはずだ。

「……っざけんな……」

  だんだんだんだん近づいていく。
  ぐるぐるとかき混ぜられた記憶たちから元の記憶を取り戻していく。
  向けられた銃口。
  さらさらと降り注ぐ小雨。
  重金属の輝きと雨の音が重なる瞬間、すべての記憶が蘇る。
  重金属の雨。
  ネオンライト。
  飛び交う怒号。
  マグロ粉末。
  バリキドリンク
  スシを喰らい。カニを喰らい。
  スモトリが、ヤクザが、無法者共が笑う世界。
  一般人にとっては全てが敵。奪い、奪われ、響く笑い声。
  クローン技術で複製された、ヤクザ、ヤクザ、ヤクザ、
  彼らが口々に吐き出していたヤクザスラングの数々。
  その全てを切り裂く、拳銃よりも鋭い一閃。

「ざっ……ッ!!!」

  ガンマン風の女の人差し指の筋肉が収縮する様が網膜に焼きつく。
  瞳孔拡大。インパルスが走る。ニューロンが伝達され、電気信号が遺伝子に刻まれた魂を叫ぶ。
  記憶が重なり、未知と既知とをつなぎ合わせる。魂に刻まれた疾風の拳が蘇る。
  ―――鍵は、開いた。


293 : フマトニ&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:23:13 v76UlsIo0

◆◆◆



            「ザッケンナコラァァァァ―――――――――――!!!!!」


◆◆◆


294 : フマトニ&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:24:26 v76UlsIo0

  トリガーが引かれる瞬間、クロスカウンターのように突き出した拳。
  拳銃の射程に対して拳撃を放っても距離が遠すぎる。当たるわけがない。
  だが、フマトニには確信があった。この一撃で敵の拳銃を無効化する、その確信が。

  放たれた拳撃が、衝撃波を巻き起こす。
  撃ちだされ、フマトニの頭を撃ちぬくはずだった弾丸が、衝撃波で止まり、ひしゃげ、あらぬ方向へ弾き飛ぶ。
  衝撃波は止まらない。
  そのまま直進し、拳銃を構えていた敵マスターの拳を砕く!
  ゴウランガ! ソニックカラテだ!!

「イヤー!」
「グワー!」

  二発目、一歩踏み出しアッパーめいた拳撃! ソニックカラテアッパーだ!!
  衝撃波が地面をえぐり、数瞬後に敵マスターの顎をえぐる。天高く舞い上がる的に対して、フマトニは三歩踏み出す。

「イヤー! イヤー! イヤー!!」
「グワー! グワー! グワー!!」

  三発目、空中の敵めがけて拳を突き出す! ソニックカラテ対空ポムポムパンチだ!!
  敵マスターの身体に衝撃波が何度も、何度も、何度もめり込む!

「イヤー!」
「グワー!」

  宙を舞っていた敵マスターを、今度は上空からの衝撃波が襲う! ソニックカラテニ段浴びせ蹴りだ!

「イヤー!」
「グワー!」

  地面に叩きつけられた敵マスターを、今度は地面すれすれの衝撃波が襲う! ソニックカラテ足払いだ!

「イヤー!」
「グワー!」

  そして最後は全体重を込めた右拳の一撃が無防備な背中に突き刺さる! ジェット・ツキだ!
  敵マスターは曲がり角の奥のコンクリート壁に背中をしたたかに打ち付け、悲鳴をあげる事もできず昏倒! ワザマエ!


295 : ソニックブーム&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:25:15 v76UlsIo0

「ようやく思い出せたぜ」

  コンクリートの壁に叩きつけられた敵マスターが、まるで変身でも解けたかのようにガンマン風の格好から惨めな量販店のシャツにジーンズ姿になる。
  数秒の空白の後女が目覚めると、そこにもうフマトニは居なかった。
  すでに髪のセッティングは終わっていた。いつものフマトニからは予想ができないほどに奇抜な、天をつくポンパドール・ヘア。
  スーツを脱ぎ捨て、ネクタイをほどき、ガラモノのシャツのボタンを上から三つ開ける。
  かばんの中にいつも入れていた特注のメンポを装着する。メカニカルでシャープなメンポ、あちらの世界で使っていたものとは別物のはずだが見た目は同一。更に実際よく馴染む。
  折りたたみ式の櫛をポケットに戻し、胸の前で乱暴に手のひらを合わせ、オジギをする。

「ドーモ、エネミーマスター=サン。ソニックブームです」

  合わせた右手、甲に浮かぶのは赤いミミズ腫れめいたクロスカタナのエンブレムとGのマーク。
  ポンパドールが雨に濡れてしとやかに輝く。
  パッパパッパというクラクションの音が遠くから響いてくる。
  ガソリンを喰らってマフラーが唸る声。

「記憶が戻ってねえのをいいことに、俺様に好き勝手やってくれたなぁ。エエッ?」

  敵のマスターは何も喋らない。ほぼほぼ死んでいる。
  だが、まだ完全に死んではいないらしく、時折ぴくぴくと身体を動かし声にならない声をあげている。
  フマトニ……いや、ソニックブームはその大きな手で敵マスターの頭を掴み、らくらく持ち上げる。
  ニンジャ身体能力を使えばこのまま頭を握りつぶすことも可能だ。
  しかし、それは叶わない。
  マスターの危機を察知して、ワニの足に獅子の身体を持つキメラめいた奇妙な生物に乗ったサーヴァントが現れたのだ。
  敵マスターのサーヴァント、騎乗兵・ライダーだ。
  獅子は牙をがちゃがちゃならしている。あれに噛み付かれればさすがのソニックブームも五体無事には済まない。
  ならば如何にしてこの窮地を切り抜けるのか。
  その秘策は、ソニックブームのサーヴァントが握っている。

「オイオイオイオイ。始末も出来ねえ上に、足止めもろくに出来ねえのか」

『すみません、2つ目の宝具を解放されてしまって』

「チッ、まあいい。さっさと終わらせるぞ」

  ソニックブームは右手に持っていた敵マスターをキメラの方に放り投げる。
  キメラの動きがやや遅くなるのを見逃しはしなかった。
  バッファローめいた力強い眼光を携えていた目を伏せ、意識をセイバーに向ける。
  セイバーの宝具を通して、ソニックブームとセイバーの意識がつながる。


296 : ソニックブーム&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:26:08 v76UlsIo0

「やれ、セイバー」

  ソニックブームが目を開く。
  視線の先に映るのはライダーのサーヴァントと、未だ前後不覚で彼に抱きとめられている敵マスター。
  その瞬間、空間を切り裂いて煌めく流星が飛び出す!
  その菱型の流星、高速回転する致死の刃、明らかにスリケン!

「なッ―――」

  ライダーが気づいた時には既にそのスリケンの必殺の間合い。
  空間についでマスターとライダーの身体を真っ二つに切り裂いたスリケンは、他の何物も傷つけずに消える。

「もう一発だ」

  再び異次元からスリケンが飛び出す。今度は縦に、ライダーとマスターとキメラを同時に切り裂く。
  もはや三者はどいつも動けない。

「サヨナラァァァァァ――――――――!!!!」

  ナムサン! ライダーはしめやかに爆発四散!
  したように見えたがなんてことはない、ただ消滅しただけだった。
  その場には、四分割された敵マスターと、ライダーの呼び出したキメラの足あとだけ。

『終わりましたか?』

「あぁ、もう帰る」

『分かりました。食事の用意はしておきます』

  簡単な念話を済ませて、スーツのジャケットを拾って歩き出す。
  しかし、記憶喪失以前に嗜んでいたタバコを持っていないことに気づき、そのまま、血塗れの格好でコンビニを目指した。

【ガンマン風の女性マスター 四分割】
【キメラを操るライダー 爆発四散】


297 : ソニックブーム&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:26:43 v76UlsIo0

◆◆◆

「お帰りなさい……って、すごいイメチェンですね」

「アァ……思い出したんだよ、全部な」

  セイバー―――金髪の青年、橘清音は作った料理をテーブルに並べていた手を止めて、ソニックブームに向き直った。
  今朝ぶりにソニックブームと彼のサーヴァント・セイバーが顔を合わせる。
  時間にして12時間も空いてない。だが、見た目は大きく変わっていた。
  ソニックブームはあの時整えたままの格好で帰宅した。理由などない。もともとこの格好が正装なんだから着替える必要がない。
  多少人目は引いたようだが、それでもフマトニ時代のように絡まれることはなくなった。

「今日も狙われましたね」

「それだけ、やる気のやつが多いってことだろ」

  望むところだが、と付け加え、椅子に腰掛ける。
  食卓に並ぶのは白飯、味噌汁、漬物、きのこと野菜と鮭のバターソテー。
  見た目青年なセイバーが作った食事とは思えない、なんともしょっぱいメニューだ。
  ソニックブームは食事作法など知った事かというような味噌汁を飲み下し、他のすべてをかっこんでいく。

  セイバーは食事がわりに湯のみに注いだ緑茶を飲み、ソニックブームはタバコを吸う。
  セイバーが後片付けをしている間、ソニックブームはようやく傷の手当を行う。
  ソニックブームが傷を庇いながら風呂に入っている間、セイバーは日課の座禅を行う。
  各々一息ついて、セイバーがつぶやく。

「記憶が戻ったってことは、何を願うかも思い出したんですか?」

「願い……アァー……なんだろうな」

  はぐらかすわけではない。
  単純に、思いつかなかった。
  他人を支配したいと思っているし、物欲だって人並み以上にある。ニンジャとして暴れ回りたいというのも願いといえば願いだ。
  ただ、どれもこれも無限の願望器へ届けるほどの願いではない。元の世界で十分に叶っていた願いだ。


298 : ソニックブーム&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:27:13 v76UlsIo0

「そんなこと聞いてどうするんだ?」

「……貴方の願いが他人を害するようなら、俺は貴方を殺さなきゃなりません」

「言うじゃねえか、餓鬼のくせに。エエッ?」

「餓鬼じゃない。これでも立派な英霊です」

  物騒なことを口走る。
  ソニックブームの眼光が鋭くなる。
  セイバーがNOTEに手をかける。
  だが、どちらも動かない。
  ポーズだけ、自身の意志を示すための威嚇と言った方がいいかもしれない。

  二人組は急造ではあったが、三度の戦闘を経てお互いとの呼吸の合わせ方を知っていた。
  相方がどんな人間かを知っている。
  ソニックブームはセイバーのバカ真面目さを知っているし、セイバーはフマトニ時代からソニックブームの身の振り方を知っている。
  そして、相方との距離感の保ち方も知っていた。
  特にソニックブームは冷静に立ち回りが行えるニンジャだ。
  争っても特に意味が無いと分かれば、身を引く潔さも持ち合わせている。

「それじゃあ、英霊さんに迷惑をかけねえように願いの内容も考えねえとなあ」

  ソニックブームはからからと笑う。
  その笑いは、どちらかといえば嘲笑に近い。
  セイバーは少し眉を潜めるが、特になんと言い返すこともなかった。
  ソニックブームの性格を考慮した上で、言い返しても堂々巡りだと分かっていたからだろう。

「まあ、願いがどうなるにしろ、黙って殺されるのはごめんだがな」

  先に記したとおり、ソニックブームたちが襲われたのは今回で三回目だった。
  フマトニがマスターとして目立っていたのか、図体ばかりの弱い男と思われたのか、それとも単に星のめぐり合わせか。
  はっきりとしたことは言えないが、それでもこの戦争のなんたるかを理解するには十分だった。
  やる気の主従は多い。油断していればこちらが食い物にされる。
  だから、襲われれば殺す。徹底的にぶちのめしたあとぶち殺す。
  この点については、セイバーも「記憶を取り戻していない相手を殺すようなやつの願いを叶えたくない」と同意権だった。

「願いなんて、そんなもん、戦ってる内に思いつくだろ。それよりもセイバー、お前スシは作れねぇのか」

「……調べておきます」

  二人は、あまり互いを快く思っていないが、それでもそれなりに仲良くやれていた。


299 : ソニックブーム&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:27:50 v76UlsIo0

【クラス】
セイバー

【真名】
橘清音@ガッチャマンクラウズ

【パラメーター】
橘清音 筋力:E- 耐力:E 敏捷:E 魔力:C 幸運:A 宝具:B
ガッチャマン 筋力:B- 耐力:C 敏捷:B 魔力:C 幸運:A 宝具:B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C

騎乗:―

【保有スキル】
正義の味方:―
正義の味方である。
悪を見過ごすことが出来ず、自身のメリット度外視で被害者を助ける。
弱者や善人を攻撃する際筋力が下降する。
そして、自身のマスターが悪であるならば、マスターさえも敵とみなす。

気配遮断(偽):―(B)
ガッチャマン変身中に使用可能。
アムネジア・エフェクトを用いて気配を完全に遮断出来る。
ただしサーヴァントからは隠れることができない。

正体秘匿:C
ガッチャマンのメンバーとしてバレることなく数年間生活を続けていたことに起因するスキル。
橘清音状態ではサーヴァントであると気づかれにくい。
ただし逸話を知っている相手や勘のいい相手には気づかれる。

縦横無尽の立ち回り:―(C)
ガッチャマン変身中に使用可能。
壁や天上を足場にすることが出来る。
Cランクでは走り回る以外に壁や天井での直立不動も可能。


300 : ソニックブーム&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:29:50 v76UlsIo0

【宝具】
『目覚めた自由の翼(むげんまあいのNOTE)』
ランク:A 種別:― レンジ:― 最大捕捉:―
セイバーの魂が具現化したもの。
この宝具を使うことにより、セイバーはガッチャマン状態に変身する。
ステータスを向上、他の宝具の使用条件を開放する。
更に、NOTE経由でマスターとどれだけ距離が離れても念話が可能となる。これに関しては開放せずとも使用可能。
この宝具は魂の具現化したものであるため、破壊された場合セイバーは消滅する。

『音叉刀 疾風』
ランク:C 種別:対人 レンジ:10 最大捕捉:30
音叉刀疾風を振るうことで清めの音で敵に攻撃する。
斬撃ではなく音撃であるため振動による特殊攻撃を無効化出来ない場合、相手はダメージ判定を得る。

『無限刀 嵐』
ランク:C 種別:対人 レンジ:99 最大捕捉:1
感知できている場所ならばどんな場所にでも手裏剣型の斬撃を飛ばし、切り裂くことが出来る。威力は加減が可能。
マスターの視覚越しに認知しても『感知した』と判断し、斬撃が飛ばせる。
真正面からの不意打ちであり、相手の耐久が筋力以下である場合防御されなければ両断が可能。

『燃え上がる正義、大きな手のひら。私の始まりはあなたの背(ジョーさん)』
ランク:C 種別:ジョーさん レンジ:1 最大捕捉:1
セイバーの心のなかに強く残っているジョーさんこと枇々木丈を再現する。戦力が単純に倍になる。
・そもそもがセイバーの宝具であり、彼の魔力でも再現の補助を行っていること
・呼び出されたジョーさんが再現された爆炎のNOTEから魔力をある程度供給していること
・ワンポイントで呼び出せ、通常契約のように常に魔力を供給する必要がないこと
などから魔力消費は他のサーヴァントと契約するよりは格段に安上がり。だがそれでも、魔力適性のない者では呼び出せないほど負荷がかかる。
かなりの練度のカラテを使えるソニックブーム=サンが呼び出すとすれば、令呪による魔力ブーストなしでは1分が限界。

なお、この宝具は枇々木丈を召喚する宝具ではなくセイバーの心の中のジョーさんを再現する宝具であるため、実際の枇々木丈とは性能が少し違うことがある。

【weapon】
音叉刀 疾風
刀。セイバーが変身前に持っている刀。銃刀法の関係から模造刀かも知れないが切れ味は鋭い。

【人物背景】
その風貌!その戦闘!
あからさまにニンジャなのだ!

クラウズ時代の先輩として再現されているのでわりと直角定規な部分がある。
インサイトみたいに素で調子に乗ってないのでこちらの方が御しやすいのかもしれない。
今回の聖杯戦争では「最も適した願いを届ける」という方針で動くつもりでいる。


301 : ソニックブーム&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:30:25 v76UlsIo0

【マスター】
ソニックブーム@ニンジャスレイヤー

【マスターとしての願い】
特になし。

【能力・技能】
ソニックカラテ

【人物背景】
◆忍◆ ニンジャ名鑑#114 【ソニックブーム】  ◆殺◆
ソウカイ・シックスゲイツのニンジャで、元ヤクザ・バウンサー。
ソニックカラテやジェットカラテの訓練を積んでおり、格闘能力は高い。
気が短く凶暴であるが、同時に、冷静な判断力をあわせ持つ。

参戦時期は死亡前。
ショーゴー=サンと面識があるかどうかの頃でヤモト=サンとの面識はない。

【方針】
この世界にソウカイヤがない以上ただのフーテン。フマトニ時代の仕事はあるし住む場所もあるが記憶が戻った以上どうするかは考えもの。
襲ってくる相手は容赦せずに叩き潰す。叩き潰してぶち殺す。慈悲はない。
願いが見つかったならば攻勢に転じるが、それまではぶらぶらするつもり。
ただ、元来腕で相手を屈服させるのが好きなタチなので、みずから戦闘に向かうこともあるだろう。

セイバーは近接戦闘にも長けるが、一番の長所はマスター越しに知覚しても攻撃が可能な『無限刀 嵐』。
この技を起点にして攻めるのが基本の立ち回りになる。
マスター自身もわりと色々できるが、追い詰められた時にジョーさんを呼べるように余力は残しておきたい。
ジョーさんは足止め要員。焼き加減レアにしといてください。


302 : ソニックブーム&セイバー  ◆tHX1a.clL. :2015/07/30(木) 05:30:44 v76UlsIo0
投下終了です


303 : ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 00:26:05 2iuToF1Y0
感想の程を

>>ウェザー・リポート&テプセケメイ
ご投下ありがとうございます。ジョジョの奇妙な冒険からと、魔法少女育成計画からですね。
陸ガメの行動原理を持ったライダーとは、……<新宿>聖杯の中では現状、頭一つ抜けた鯖ですね。亀と言えば、五部のココ・ジャンボを思い出します。
マスターがウェザーと言うのは、本当に<新宿>ならではのキャラ選ですね。記憶喪失後かつ、現状では家なきホームレスの身とは言え、
刑務所と言う鬱屈とした閉鎖空間では無く、本当のシャバの世界で自由を謳歌して生きているのは、例え家が無くても彼にとっては幸せなのでしょう。
そして、聖杯戦争の最中にいるとは思えないような、ライダーとののんびりとした日常の描写が上手い。彼らは果たして、<新宿>の外に出られるのでしょうか。

ご投下、ありがとうございました!!

>>柊聖十郎&殺生院キアラ
ご投下ありがとうございます。相州戦神館學園からと、Extraからですね。
まさかの魔人後のキアラとは、驚きましたね。流石に聖杯戦争でサーヴァントとして呼ばれた以上、原作のチート権能を扱うのは無理っぽいですが。
夥しい病魔に身体を蝕まれ、生存何て絶対出来っこないマスターなのに、それでも貪欲に生きる事を求め続けるマスターのハングリー精神。
そして、あくまでも聖杯を以て自分の求める者になり、自分の敵対者を独力で潰そうと言う姿勢が、実に良く描けている。
そんなマスターに対して歪んだ愛情を向ける破戒僧何て言葉が生ぬるく見える程のセイヴァー。二人は全く反りが合わないように見えますが、果たして

ご投下、ありがとうございました!!

>>北上&ピティ・フレデリカ
ご投下ありがとうございます。艦隊これくしょんからと、魔法少女育成計画からですね。
少女聖杯に参加したクソレズ大井姉貴が血涙流して悔しがりそうなキャラ選ですね。ただブラ版とアニメ版じゃ絵柄違い過ぎますが。
悲痛以外の何物でもない戦いを終えたのに、戦いがあったからこそ、楽しい日々もあったと言う事に気づいてしまった北上。
そして、何処となく満たされない退屈な日常の描写を、ダルダルと送るその様子を、実にうまく書き上げられていると思います。
折角得た平和を捨ててまで、重雷装巡洋艦としてもう一度生きたい北上と、その願いを叶えようと仕える、ちょっと頭のネジが変な方向に緩んだ魔法少女の組み合わせは、期待が持てます。

ご投下、ありがとうございました!!


304 : ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 00:26:16 2iuToF1Y0

>>御剣怜侍&志葉丈瑠
ご投下ありがとうございます。逆転裁判シリーズからと、シンケンジャーからですね。
正直初めて目の当たりにした時、まさかの小説形式ではなくSS形式だったので、「おいおい此処はSS速報じゃねーんだぞ」と失礼ながら思ってしまいましたね。
本家のゲーム進行を模した形で、何故か聖杯戦争について記憶喪失になってしまった御剣に、尋問形式で聖杯戦争への情報を教えて行くのは、面白いなと感じました。
そして、御剣の、オカルトに対しては忌避感があると言う設定が発揮されているのが、良い。
検事と言う法律に携わる者として、殺人や詐欺など当たり前の聖杯戦争を、御剣がどう切り抜けるのか。これは注目に値いたしますね。

ご投下、ありがとうございました!!

>>英純恋子&レイン・ポゥ
ご投下ありがとうございます。悪魔のリドルからと、魔法少女育成計画からですね。
割かしサーヴァントとマスターの仲が良好、或いは殺伐としているペアが多い<新宿>にあって、意外とドライなペアですね。
どちらも聖杯にかける願いはあるが、出し抜こうと言う気はなく、あくまでも依頼人とそれを遂行する者、と言う感覚が伝わってきます。
見た目は同い年同士であるのに、ものの考え方は境遇のせいで全く常人とはかけ離れた少女達。
共に肝の据わり過ぎた二名は、タチの悪い主従が集う<新宿>で、どう生きて行くのか、気になる所です。

ご投下、ありがとうございました!!

>>ソニックブーム&橘清音
ご投下ありがとうございます。ニンジャスレイヤーからと、ガッチャマンクラウズからですね。
原作では強大な後ろ盾があったソニックブームも、その庇護がないと単なるチンピラに戻ってしまうと言う切なさが、敵マスターに追撃にあっているシーンと、
セイバーが作った平凡な料理からも伝わってきます。それにしても、やはりソニックブームと言えば、裂帛の気魄から発せられるヤクザスラング。
それを態々、一小節に分けて台詞にするあたりが、実に良い。記憶を戻った後は、得意のカラテで敵マスターを圧倒する様子は見てて胸がスッとします。
あらゆる意味で性格も容姿も正反対なセイバーを引き当てたソニックブームですが、果たしてこれから二人はどうなってしまうのでしょう。

ご投下、ありがとうございました!!


305 : ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 00:28:30 2iuToF1Y0
同期の聖杯コンペである、Fate/Fanzine Circle-聖杯戦争封神陣-様がコンペを締め切りましたので、
この辺りで此方の企画も締め切りの方を明示しておきたいと思います。

暫定的には、『8月24日』を予定しております。無論、延長もあるかも知れませんが、差しあってはこの日を期限にしたいと思います
コンペ終了まで三週間はありますので、ゆるりと候補作の投下を、お待ちしております


306 : ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:28:16 2iuToF1Y0
投下いたします


307 : They need more power ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:28:38 2iuToF1Y0





   未だに夢に見る。


   巨大な研究所を一撃で破壊した大爆発。中で働いている姉を案じ、研究所へと駆け寄り、その中にもぐりこむ私。


   血まみれになって倒れる姉。その傍に佇む、触手に覆われた怪物。   


   その怪物に対する憎悪を募らせる私。姉の亡骸の近くに転がる、姉の血を弄んでいた怪物へと変貌出来る触手のタネ。


   私は、あの化物への復讐を胸に、迷う事無くそのタネを自らに埋め込んだ。


   ――もっと力を。あの化物を『殺』せる、十分な力が、私は欲しかった。そうして私は、殺された姉の無念を晴らすんだ。




.


308 : They need more power ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:28:53 2iuToF1Y0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





   未だに夢に見る。


   弟と俺と母とで過ごしていた、平和な家。其処に突如として現れた、醜い悪魔共。


   鎌で、爪で、牙で。不浄なもので切り刻まれて行き、血を流して殺された母。泣きながらその様子を眺める弟と、俺。


   弟と俺は、親父から授かった魔剣を手に、その場から逃げ出した。悪魔に対する強い憎悪を、その胸に秘めて。


   悪魔を許さないその一心で、俺達は力をつけた。悪魔を斬って行った。伝説の魔剣士である父に近付こうと、あらゆる努力を惜しまなかった。


   弟は、親父を超えるには、魂と高潔さが必要だと悟った。俺の考えは違った。


   ――もっと力を。母を裂いた悪魔を一匹残さず殺し尽せる、父をも超えた強大な力が、俺は欲しかった。あんな無力は、二度と御免だった。




.


309 : They need more power ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:29:34 2iuToF1Y0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「疑問に思わなかったのかしら、誰も人が通っていない、だなんて」 

 真正面五〜六m程先から、嘲るような女の声音が聞こえてくる。身体の線が浮き出る程の黒のパンツスーツでバッチリとキメた、キャリアウーマン風の女性。
遠目から見ればその女は、二十代前半程度に見えるだろう。しかし、近付くと解る。皮膚にたっぷりと塗られたファンデーションが。
女性は化粧で年を誤魔化していた。きっと、年齢は三十の前半か、事によったら、四十にも届くのか。

「……」

 厚化粧の女と相対する人間もまた、女性だった。こちらは、スーツの女性よりもずっと若い。
誰が見てもローティーンとしか思えない顔立ちと身体つきをした、緑髪の少女である。
青春の象徴とも言える学校制服に身を包んだ彼女は、化粧気等一切なくても、可愛らしい顔つきであった。
笑えばきっと素敵な、幼さを残した顔立ちには、無表情が刻み込まれていた。路傍の石でも見る様な目で、彼女はパンツスーツの女性を眺めている。

「人払い。腕に覚えのある魔術師だったら、誰だって出来る術よ。本当だったらこの通りには、今頃人目の一つや二つ普通にあるのに、それがないのはこの術のおかげ」

 夕方の落合の通りだった。そもそも<新宿>ではどんな時間帯でも、人通りが少ない場所を探す方が難しい。
深夜ですらない落合など、少し歩けば余裕で人間と何人もすれ違えるような場所である。そんな場所であるのに、人気がこの通りにはまるでない。
田舎の畦道のようだった。きっと今のこの状態でならば、人を殺したとて、誰も気付く事は決してないだろう。
そう例えば――聖杯戦争の舞台としては、御誂え向きと言うべきか。

「貴女みたいな子供が聖杯戦争の参加者だとは思わなかったけど……今際に覚えておく事ね。サーヴァントは、子供が扱うと火傷じゃすまないって事を」

 言ってスーツの女は、自らの隣に、サファイアのような青みを持った金属で出来た軽鎧を身に纏ったサーヴァントを呼び寄せた。 
霊体化状態から解いたのだろう。装いから見ても、歴戦の勇士のサーヴァントである事が見て取れる。中々の当たりを引き寄せたようである。

「せめて戦って死んでみないかしら、お嬢ちゃん? 出しなさい、貴女との運命共同体を」

「……クスッ」

 少女が笑った。スーツの女の嘲りの言葉を、そのまま返しているかのようだった。
何に、少女は笑っているのか。女の思い上がった発言にか、それとも、彼女の厚化粧(虚飾)をか。

「殺せる機会なんていくらでもあったのに、態々私の目の前に姿を見せて、そんな事言っちゃうんだ」

 寒気を覚える程に、毒気を孕んだ声だった。声の調子は、甘いものにしか噛み分けた事のない少女のそれであると言うのに。
熟年の悪婦を思わせる、その毒々しい声音と仕草は、一体全体何なのか。瞳にはスーツの女を何処までも馬鹿にした様な光が、キラキラと輝いていた。

「私が聖杯戦争の参加者である事が解ってて、こうして私の目の前に現れてくれて、今みたいな前口上をグダグダと口にしてくれる。余裕なんだね、私がどんなサーヴァントを引き当てたのか、解ってもないのに」

 少女は、更に言葉を続けた。

「チャンスを無駄にし、冒さなくてもいい危険を冒す。……今日まで生き残れてきたのが不思議な位間抜けだね、おばさん」

 最後の一言に、スーツの女性が反応した。こめかみに、青筋を浮かび上がらせる、と言うリアクションだ。


310 : They need more power ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:29:47 2iuToF1Y0
「どうせおばさんは此処で死ぬから、教えておいてあげるね。この世で一番怖いのは、『見た目が普通である』と言う事だよ?」

「遺言代わりに覚えておくわよ、小娘……!! セイバー!!」

「――アーチャー」

 スーツの少女に対応するように少女がそう呟くと、彼女の真正面に、一人の男が霊体化を解除、姿を見せた。
蒼いコートをたなびかせた、銀髪の男。そう彼の姿を認識したのは、パンツスーツの女性の引いたセイバーだった。
弾かれたように、セイバーが動く。アーチャーの姿が掻き消えた。「You Trash……」、少女の引いたサーヴァントが口にした言葉だと認識出来たのは、セイバーだけ。
叩き込まれるであろう攻撃に対応しようと身体を動かしたその瞬間、セイバーの佇んでいる場所を取り囲むように、青色の光の断裂が何百本も現出した。
それは前に伸びているものもあれば、上下に伸びているものも、斜め方向にも伸びているものもある。まるでデタラメに、布を織ったかのようだった。
断裂が消える。音もなく、蒼コートの男が、少女の目の前に、片膝をついた状態で現れた。主君に忠実な、騎士を思わせる。
チンッ、と言う小気味の良い金属音が響いた。アーチャーの持っていた刀の鍔と鞘の鯉口がぶつかる音だった。
その音を契機となったか。セイバーの身体が身に纏っていた鎧や、手に持っていた宝具と思しき長剣ごと、ありとあらゆる方向にズれ、細切れになって崩れ落ちた。
肉がアスファルトに落ちる湿った音と、鎧が奏でる金属音が、悪夢のように響き渡る。

 事態を認識するのに、スーツの女が要した時間は、四秒程。
ファンデーションの上からでも、顔中の血が引いて行き、青ざめて行くのが見て取れた。 
アーチャーは、マスターにイタチの最後っ屁を行わせる時間すら許さなかった。瞬きよりも速い速度でスーツの女の下へと接近。
鍔鳴りが遅れて聞える程の神速の居合を以て、彼女の身体を四十八分割にし、即死させた。

「何処までも、自分に次があるって思ってたんだね、このおばさん」

 言って少女は、アーチャーが細切れにした相手マスターの方へと近付いて行く。
敗者は黙して消え去るのみ、とでも言うように、彼がバラバラにした敵セイバーの身体が粒子になって、虚空へと還っていた。
 
「馬鹿な奴。自分の命も賭ける気もなしに、人の命を取ろうだなんて」

 一息吐いてから、少女は続けた。

「命も賭けられないような人何か、聖杯を取る事も、目的を達成する事も、出来ないんだよ」

 今にも唾を吐きそうな装いで少女が言った。無感動な表情を彼女に向けた後で、蒼いコートの男は霊体化を行い、血生臭い落合の通りから姿を消すのだった。


.


311 : They need more power ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:30:08 2iuToF1Y0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「お前が俺のマスターか」

 気障ったらしい程に気取った、蒼いコートを嫌味なく着こなす、オールバックの銀髪の青年だった。
顔付き。誰がどう厳しめに見ても、美形としか言いようのない程の整った顔立ちであるにも関わらず、男は険を含んだ仏頂面を隠しもしない。
極め付けが、彼の腰に差されている、黒い鞘に納められた刃渡り一m程の刀。誰がどう見ても異人の容姿であるのに、珍しい事にこの男は帯刀をしている。
刀を持った、異国の人間。普通であればミスマッチになる事が殆どだが、この銀髪の男に限っては、それがなかった。
帯刀している、と言う様子がこの男の場合これ以上となくマッチしているのだ。刀が異物になっていない。まるで刀が初めから男の身体の一部であるかのように和合している。
宛ら刀が意思を持ち、彼を主と認めているようでもあった。

 誰が異論を挟もうか、と言う、麗しい男性剣士。それは確かだった。
しかし、彼女――エンドのE組に於いて、『茅野カエデ』と呼ばれている少女は、そんな事を考える余裕がなかった。
――それは、銀髪の男から発せられる濃密な鬼気と、死そのものと言い換えても問題がない程の圧倒的な威圧感の故であった。
男を源流とする鬼気と威圧感は、容易くカエデを呑み込み、怯ませ、そして、恐怖させた。
色々な殺し屋を見て来た。鬼より強い自衛隊員上がりの臨時教員も見て来た。骨と皮だけの容姿でありながら、凄まじい強さを発揮する死神も見た。
だがこの銀髪の男は別格。カエデが有する人間的な『部分』に訴えて来る何かを有する男。その何かとは――『悪魔』なのではないか?

「……そうよ」

 恐怖を億尾に出さず、カエデは口にした。元々は子役としてテレビドラマに出ていた時期もあるカエデだ。
毅然とした態度を装う事位は、訳はない。だが、この男の瞳は、カエデの肉体の内奥で活動している、心を見透かしているようで。彼女は、居辛く、そして、やり辛かった。

「そうか」

 其処まで銀髪の男が言った、刹那の事であった。
七m程、カエデと男は距離が離れていた筈なのに、彼我の距離が一瞬で縮まった。縮めたのは、銀髪の男の方だった。
誰が信じられようか。男は、カエデがまばたきをし、ゼロカンマを遥かに下回る速度で視界が一瞬だけ暗黒に染まったその時間内で、
コートをはためかせる音も、踏込の音もなく。間合いへと接近したのである。しかも、腰に差していた刀を引き抜き、その冷たい切っ先を、カエデの喉仏に突き付けて……!!

「え――」

「そのままの姿勢でいろ。変に動けば貫いてやる」

 頑とした、死そのものの如き冷たい声音で、男が言った。背中を氷で出来た剣で貫かれたような感覚をカエデは覚える。
こんな声、今まで聞いた事もなかった。腕利きの殺し屋が発する、冷徹で、冷酷な声。それ自体はカエデも聞き覚えがある。
だが、この銀髪の男のそれは、別格。一切の感情が籠っていない。絶対零度の冷たさしか、声には宿っていないのだ。この冷たさこそが、死の冷たさなのではないか。

「聖杯にかける願いはあるのか」

 男が訊ねて来たのは、この聖杯戦争へ参加する意義そのものだった。
あらゆる願いを叶えてくれる、奇跡の神品。それが努力次第で手に入る可能性が、今のカエデにはあるのだ。
であるならば、その聖杯に対して希う事の一つや二つ、なければ嘘だ。叶えて見せたい願いの一つ、心の何処かで抱いた筈である。

「……殺したい程憎い相手がいる……」

「……」

「そいつは人から家族と幸福を奪って置いて、今ものうのうと教室で教師として生きてて……人倫とかを説いている……それが、許せない。……だから私は……」

「一応願いはあると言う事か」

 チンッ、と言う小気味の良い金属音。男は鞘に刀をしまった。

「俺にも叶えたい願いがある。が、従うに値しない者に頭を下げる事は御免だ。……貴様の願いはさして面白みもないが、その気迫は買ってやる」」

 自分の願いが、つまらない。
蒼コートの男がそう口にした事を理解したその瞬間、カエデの頭に、血が上った。
うなじを隠す後ろ髪を両手でバッとかきあげたその瞬間、其処から二本の、鞭に似たしなりを持った黒く細長い何かがビュッと伸び始めた。
それは、触手だった。蒼コートの男が一瞬、瞳を見開かせた。如何にも優れた戦士然とした男の、不意を打てたのだ。

「この触手を見なさい。……見ろ!!」

 怖い声音でカエデが言った。彼女を視界に収めている限り、その触手は、見まいと決め込む事は不可能であった。


312 : They need more power ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:30:22 2iuToF1Y0
「これはね、私の姉を殺した化物を殺す為に、私が自分の意思で埋め込んだ触手なの。その人殺しの怪物が振るっていた武器と全く同じ触手なの」

 男がカエデの言葉を聞いていようがいるまいが、知った事ではない。構わずカエデは話を続けた。

「その怪物はね、マッハで動けるの。銃弾も効かないの、刃物何て掠りもしないの。当たった所で、直に再生しちゃうの。
そんな化物を殺す為に、私は、この触手を埋め込んだ。副作用のせいかしらね、頭も滅茶苦茶に痛くて、体温もたまに変になる時がある。
ああ、私、長く生きられないなぁ、って思う事だって少なくないわ」

 其処まで言って、少女は黙りこくる。いや違う、息を大きく吸って、吐いてを繰り返しているのだ。
何度かの繰り返しの後、カエデの瞳に、烈火の如き怒りが燃えあがった。口角泡を飛ばす勢いで、彼女は感情を蒼コートの男にぶつけた。

「私はね、絶対に許さないわ!! 人から家族と幸福を奪っておいて、お姉ちゃんの教師と言う立場を奪って自分が教師になって生徒に物を教えて、
剰えお姉ちゃんが受ける筈だった生徒からの信頼をお姉ちゃんの代わりに受けておいて!! アイツは、あの人殺しはのうのうと生きている……。
そいつを殺す為に、私は人間である事を辞めたのよ!! 寿命何て捨ててるのよ!! あなたにとってはつまらない願い何だろうけど、私にとっては重要な事……。馬鹿にはさせないわ、絶対に!!」

 姉、雪村あぐりは教師だった。教え方が上手かったのか、下手だったのかは、実際の現場を見た事がない為よく知らない。
ただ、熱意だけは、本当だったのだろう。真剣さだけは、他の教師にも負けなかっただろう。それは、事実だ。
今となっては良く解らない、だって彼女は、過去の人間だから。彼女を殺した人間は、嘗て彼女が教鞭を取っていた教室で、何食わぬ顔で教師を続けている。
何で、どうして? 姉が主役であった世界で、あの人殺しの怪物は、地球破壊生物は教師をしているのだ?
絶対に、許せない。人から姉を奪い、その罪悪感の欠片も見せないあの怪物を、カエデは、命に代えても葬るのだ。寿命などとうの昔に、おいて来た。

「己の無力を実感し……力を得る為に、人である事を捨てたか」

 蒼コートが、やはり無感情な言葉で言い捨てる。

「その考えは、間違ってはいない」

 銀髪の男が、低い声でそう呟く。緩やかな時間が流れて行く、正常な時間の流れが、更に遅くなったような感覚をカエデは感じる。
銀髪の男の発する凄烈な鬼気に、時の流れすらも恐れをなしているかのようであった。緊張の余り、呼吸をするのもカエデには苦しかった。だが、目を逸らさない。ずっと目線は、男の瞳に合わさっている。

「良いだろう、貴様は生かしておいてやる。……マスターとしても、認めてやらんでもない」

 更に男は言葉を続ける

「俺の目的を邪魔する奴か……、俺がマスターとして認めるには余りにも下らん奴だったら、閻魔刀で斬り殺し、『座』にでも帰ってやろうかと思ったが……。運が良いな、女」

 突き付けた刀は、示威でもなければ脅しでもなかったらしい。返答を誤っていれば、カエデは本当に殺されていたようだ。足腰が笑い出そうとするのを、彼女は抑えた。

「……あなたの、名前は何」

 息を整え、触手を元の、伸ばした後ろ髪で隠せる程度の長さに縮めてから、カエデは言った。

「セイバーだ。真名は『バージル』。他のマスターがいるときは、クラス名で呼べ。真名で呼ぶ事は、弱点の露呈に繋がる。クラス名で呼ぶ癖をつけろ」

「セイバー。私にだけ願いを聞いておいて、自分は、聖杯に何を願うつもりだったのか言わないなんて、失礼じゃないの?」

 こうして聖杯戦争へ呼び出された以上、バージルにも何かしらの目的があるかも知れない。
カエデは、そう思っていた。超然とした態度を崩しもしないこの美しい剣士が、心に何を抱いているのか……。彼女は、それが気になっていた。

 顔の前まで右手を持って行き、其処でグッと握り拳を作るバージル。――地の底から響く魔王めいた声で、彼は言い放つのだ。

「もっと力を」

 この瞬間、茅野カエデは――いや、『雪村あかり』は、直感で認識した。
ああ、この男もまた、自分と同じで、過去に途方もない出来事があって、己の無力を認識したのだ。そして、目的を達成する為に、より大きな力が必要になったのだ、と。

 怪物に姉を殺された女と、悪魔に母を殺された男。
己の無力を骨身にしみて認識し、憎い相手を殺す為に人である事を捨てた者達は、今、聖杯の奇跡を求めて直走り始めた。



.


313 : They need more power ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:30:45 2iuToF1Y0
【クラス】

アーチャー

【真名】

バージル@デビルメイクライシリーズ

【ステータス】

筋力B 耐久B 敏捷A+ 魔力A 幸運D- 宝具A+

(デビルトリガー発動時)
筋力B 耐久A+ 敏捷A++ 魔力A 幸運D-

【属性】

混沌・善

【クラススキル】

対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【保有スキル】

半人半魔:A
神ではなく、悪魔との混血度を表す。伝説と謳われる魔剣士と人間の女性との間に生まれた双子の兄。悪魔となる事を自ら望んでいる為、弟よりもランクが高い。

無窮の武練:A+
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。 心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮出来る。
アーチャーは生前、悪魔達の王である魔帝・ムンドゥスに肉体を改造され、『黒き天使』とされてもなお、スパーダ直伝の剣術を失う事がなかった。

戦闘続行:A(A+)
往生際が悪い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。悪魔との混血であるアーチャーは、再生速度が人間のそれとは比較にならぬ程に速い。

直感:A
戦闘時に常に自身にとって最適な展開を“感じ取る”能力。研ぎ澄まされた第六感はもはや未来予知に近い。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

矢よけの加護:A(A+)
飛び道具に対する防御。狙撃手を視界に納めている限り、どのような投擲武装だろうと肉眼で捉え、対処できる。
超遠距離からの直接攻撃や身体一つを容易く呑み込む爆風ですら、判定次第では無効化する。但し、広範囲の全体攻撃は該当しない。

透化:A
明鏡止水。精神面への攻撃を遮断する精神防御。通常の透化とは異なり、アサシンクラスではない為、気配遮断の効果はない。

魔力放出:B
武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。


314 : They need more power ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:32:08 2iuToF1Y0
【宝具】

『裁け、忌避すべき魔を(閻魔刀)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:4 最大補足:1〜8
アーチャーが保有する、父スパーダから受け継いだ一振りの日本刀。人と魔を分かつ剣、と呼ばれている。
スパーダが遺した三振りの剣の内の一本で、残り二つが、ダンテが受け継いだリベリオン、テメンニグルに封印されたフォースエッジである。
剣自体が意思を持ち、セイバーを主とみなしており、この刀を彼以外の者が振るう事は出来ても、その『真の力』を発揮出来るのは、
アーチャー或いはスパーダの血族の者だけである。『斬る』と言う性質が究極まで高められた刀剣であり、その鋭利さは悪魔を斬り伏せるのみならず、
空間・概念の切断にまで及ぶ。Aランク以下の物理・魔術・概念系防御に対して抵抗、貫通の判定を行え、更に、悪魔の性質を有した存在に対しクリティカルの判定を得る。
また、この刀は相手の魔力を喰らう性質を有し、この刀でダメージを与えた場合自らの魔力が回復する。セイバーは閻魔刀を駆使した神速の居合、遠方・近方の空間の切断、可視化した斬撃の射出などを、基本戦術としている。

『浅葱の鋭幻(幻影剣)』
ランク:E+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜20 最大補足:1〜7
アーチャーが戦闘の際に用いる、魔力を練り固めて作った浅葱色の剣、幻影剣が宝具となったもの。アーチャークラスでの召喚により宝具へと昇華された。
それ自体は魔力をただ固めただけの代物に過ぎない為、宝具としてのランクは最低クラス。裏を返せば、燃費が良いと言う事を意味する。
アーチャーの豊富な魔力により凄まじい勢いでの連射や一時に数十本を展開させる事が出来るだけでなく、威力も速度も既存の銃弾より優れている使い勝手の良い宝具。

『闇裂く瞬動(ダークスレイヤー)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1〜15 最大補足:1
生前のアーチャーの戦い方(スタイル)が宝具となったもの。
弟と違いスキルではなく宝具へと昇華されたのは、アーチャーの戦い方はこれだけであり、これのみをまさに極限まで鍛えているから。
敵対した存在を基点とした、宝具ランクと同等の空間転移を可能とする。転移にかかる魔力消費は極めて低く、連発が可能。
敏捷ランクの圧倒的高さは、この瞬間移動を連発した時の値である。しかし、転移は最大でも現在地から十m程離れた場所までしか出来ず、超距離の空間転移は出来ない。

『閃光装具・神韻剔抉(ベオウルフ)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜2 最大補足:1
生前アーチャーの父が片目を潰し、アーチャーの弟が残った片目を潰し、そしてアーチャー自身が引導を渡した、光を操る上級悪魔の魂が宝具となったもの。
その形状は両肘までを覆う籠手、両膝までを覆う脚甲と言うべきもの。元となった悪魔の性質を色濃く宿しており、装備自体に強い光の属性を宿している。
不死者や、死徒と言った吸血鬼の属性を宿した存在には追加のダメージを与える事が出来るだけでなく、装備したものの筋力をワンランクアップさせる。
装備して殴ったり蹴ったりして戦う分には非常に燃費の良い宝具だが、宝具に備わる光の魔力を解放して戦うとなると、途端に魔力消費が上がる。

『覚醒せよ、魔剣士の血に(デビルトリガー)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:自身
セイバーの中に流れる魔剣士・スパーダの血を覚醒させ、自身の姿を紅色の禍々しい悪魔の姿に変貌させる宝具。
発動時はステータスを、デビルトリガー状態のものに、スキルをカッコ内の値に修正させ、Bランク相当の再生スキルを習得する。
シンプルが故に強力な宝具だが、発動時は魔力消費が著しく早くなる。これは生前の時も変わっていない。

【weapon】


315 : They need more power ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:33:59 2iuToF1Y0
【人物背景】

嘗て魔帝ムンドゥス率いる魔界の悪魔達に一人で立ち向かった大魔剣士スパーダと、人間の母であるエヴァとの間に生まれたアメリカ人男性。双子の弟にダンテを持つ。
オールバックにした銀髪、ダンテの赤いコートと対照的な青いコート、そして性格や物事に対するスタンスまで、ダンテとは正反対の男。しかし、髪を降ろすと瓜二つ。
だが、悪魔に母のエヴァを殺されたと言う痛ましい過去を経験したせいで、悪魔に対して強い敵愾心を有しており、その点はダンテと全く変わらない。
但し彼は、悪魔を斬り捨てるには人間的な優しさや高潔さではなく、悪魔としての力を求めるべきだと考えるようになり、ダンテと対立、袂を分かつ。
性格は冷静で、そして冷酷。人を信用する事はせず、例え味方でも疑惑が生じれば迷わず斬り捨てる。 無差別な殺戮はしないが、邪魔する者は人間でも悪魔でも容赦無く排除する。

 このバージルはテメンニグルでの最終決戦でダンテに敗れ、魔界に落ち、魔帝・ムンドゥスにネロ・アンジェロとして改造され、その後ダンテと戦った後のバージルである。
テメンニグルでの一件、ネロ・アンジェロとして動いていた時の記憶、ダンテが自分とスパーダ、エヴァの意思を継いでムンドゥスを倒した事など、
諸々の理由が積み重なり、昔に比べれば性格は割と丸くなり、人情に対してそれなりの理解を示そうとはしている。
しかしそれでも、自らの信念である、力こそが重要であると言う思いは全く揺らぎを見せておらず、その点はいつも通り。
また性格が丸くなったと言っても、悪魔や自らを利用、目的を邪魔しようとしている人間に対する苛烈な性格はいささかも変わっておらず、斬り捨てる事も視野に入れている。

【サーヴァントとしての願い】

より力を得た状態で、受肉。悪魔を斬り殺しに行く。

【マスター】

雪村あかり(茅野カエデ)@暗殺教室

【マスターとしての願い】

エンドのE組の担任、殺せんせーの抹殺

【weapon】

【能力・技能】

触手兵器:
あかりの身体に埋め込まれた触手型の生体兵器。彼女の究極の暗殺対象である、殺せんせーが扱う触手と実質的には同じもの。首に埋め込まれている。
触手細胞と言うものを基にしている武器で、移植を受けた者は適合処置を毎日受けねば地獄のような拒絶反応に苛まれる。
触手による激痛は神経を蝕ばみ、常人ならば先ず耐えられず発狂を起こす。安定させる為には一ヵ月に火力発電所三基分のエネルギーが必要である。
精神面にも影響があり、異常興奮とそれに伴う触手の暴走を起こすことがあるほか、甘党、水の忌避、乳房など身体の柔らかい部分への執着と言った性質が現れる。
使い過ぎると触手に思考が乗っ取られるだけでなく、完全に死に至る諸刃の兵器。殺せんせーでさえ、やがては死に至ると言う弱点を克服出来ていない。
あかりの場合はそれらの痛みや興奮を、強烈な自我を以て抑えている。またこの黒い鞭上の触手を利用して、凄まじい速度での移動や、
触手を超高速で振るい相手を薙ぎ払ったり、奥の手として、触手自体を異常な体熱で燃焼させて、炎の鞭のような攻撃を行わせる事も可能。


316 : They need more power ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:34:09 2iuToF1Y0

演技力:
雪村あかりは今でこそ一線を引いているが、元々は卓越した演技力を誇る子役俳優だった。
その演技力はドラマの主演にも抜擢される程。この演技力を以て、上述の触手細胞が齎す発狂ものの副作用を抑え、か弱い女学生としてエンドのE組で生活を送っていた。

【人物背景】

陽気な性格の少女で、E組担任教師の『殺せんせー』と言うニックネームを付けた人物。
貧乳である事に強い劣等感を抱いている為それらの話には敏感であり。殺せんせー暗殺の賞金が手に入ったら、「胸囲を買いたい」と望む程。
その事もあって水泳に強い苦手意識を持っており泳げない。プリンを初めとした大の甘いもの好きで、ケーキの飾りは最後に食べるタイプ。
暗殺に関しては表だった活動はせずに、サポートに徹するタイプ。三年の時に他校から転入、そのままE組落ちとなった珍しい人物。故に、当初は問題児であるカルマの存在や、入学式で悪目立ちした木村の本名を知らなかった。

その正体はE組の前担任・雪村あぐりの実妹であり、茅野カエデは偽名。かつて磨瀬榛名(ませはるな)と言う芸名で席巻した、
現在は事務所の意向で長期休業中の元天才子役であった。姉が手伝いに行っている研究所を訪れた際に触手の怪物が姉の血を弄ぶ場面に遭遇してしまう。
現場で発見した触手の種とそのデータ、怪物の書き置きなどの僅かな情報を頼りに姉の仇討ちを決意し、住民票の偽造をして椚ヶ丘中学校3学年に編入。
更に理事長室の備品を故意に破壊することでE組に落とされるよう仕向けている。
その後は自らに触手を移植し、暗殺決行の時まで正体を隠すため、偶然隣の席になった渚の印象を際立てせることで自身をクラスに同化させていた

死神(大嘘)との戦いの後から一週間後の時間軸から参戦。

【方針】

聖杯を絶対に手に入れて、あの化物を葬り去る


317 : They need more power ◆zzpohGTsas :2015/08/01(土) 22:35:54 2iuToF1Y0
投下を終了いたします。バージルの宝具・人物背景の一部の文章を、『第二次二次キャラ聖杯戦争』における、
『◆HOMU.DM5Ns様』の宝条&セイバーから引用させていただきました事を、此処に明記いたします


318 : ◆7yIYuqEusg :2015/08/02(日) 19:30:17 D/euaIy60
投下します


319 : ◆7yIYuqEusg :2015/08/02(日) 19:30:36 D/euaIy60
『耐久型なのにまさかのフルアタwwwwありえねえwwwww』

『グロスに比べりゃ補助特化だろ、なんで何も覚えさせてないの』

『ラwwwwスwwwwタwwww最遅に調整してジャイロ撃たせてろks』

『んんwwwwwwはがねエスパーのアタッカーならグロス以外ありえないwwwwww』

『ちょうはつで終わりですね、わかります』

生まれてからずっと浴びせられてきた罵声、それがドータクンは悔しかった
せめて、せめてちょうはつかジャイロボールさえあれば。そう思ったことは数知れず、しかし貴重なわざマシンをわざわざ使ってくれるはずもなく、ドータクンは人知れず涙を流した
「9845D61A897(なら見返してやるといい)」
スカしたイケメンがいた。ドータクンは何を考えてるのかよくわからない目で見上げる
「コアアアアアアアァァァ……」
おれだってメタグロスに勝ちたいよ。そんなドータクンにイケメンがイケボで答える。
「4A22874D986132B193E5327465D6849(聖杯を使って自分を見下した連中を好きなだけ嬲るといい。メタなんとかだってきっといちころさ。そうだろmaster?)」
天啓、ドータクンはその瞬間悟りを得た。聖杯を使ってウザい奴らを皆殺し、なんと胸のすく行いだろうか。
「じゃ、やるか」
「よしやるぞ」
こうして一人と一匹の戦いが始まった。


【クラス】
セイバー

【真名】
水神狩流(カル ミカミ)@GEコピペ

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷D 魔力D 幸運EX 宝具E

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:EX
常に調子に乗っている(ダンス的な意味で)。

【保有スキル】
慢心:C
ファンブルが起きやすくなるデメリットスキル。
戦いを遊びと捉えており、窮地に陥らない限りは慢心の念が抜けることがない。

リズムニシス:A+
ダンスの動きを取り入れた体術。元がダンスなのでAランクにでもならなければ実戦では通用しない。
不思議な踊りによる幻惑の効果が付属する。

ネクスト:B
P73偏食因子を保有するとある人物の遺伝子を組み込まれており、通常の神機使いよりもよりアラガミに近しい存在となっている。
同ランクの怪力スキルを内包し、対人への精神干渉に多少の耐性を持つ。


320 : ◆7yIYuqEusg :2015/08/02(日) 19:30:55 D/euaIy60
【宝具】
『ギアスイッチング現象』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
生命の危機に陥った際に発動。「斎藤 匠」という人格に切り替わり中空よりもう一振りの神機を取り出し二刀流となる。
また、他者の魔力を受け取ることにより魔力で構成された巨大な刃を形成可能。長さは魔力量によって変化し最大では高層ビル程度まで巨大化する。
全ステータスが3ランク上昇し慢心のスキルを一時的に削除。属性を中立・中庸に変化させる。

【weapon】
神機:オラクル細胞で構成された対アラガミ用武装。
剣・銃・盾が融合したような外見で、形態変化を行うことで多様な動きを可能とする。
宝具発動時は「LA ADAM」と呼ばれるもう一振りの神機を出現させる。

【人物背景】
オリキャラの流れに便乗してみる
オリキャラというか今のマイキャラの制式詳細設定だが・・・

水神 狩流(カル ミカミ)
ドイツと日本人のハイブリッド。
あくまで狩りを 「遊び」 と捕らえており、 ダンスの動きを取り入れた体術
「リズムニシス」 を駆使する。特技はHIPHOP、読書( ラテン語の文献のみ )、静寂にひたる事。
実は ソーマ の遺伝子を実験的に埋めこまれた 「ネクスト」 。これは誰にも知らされていない。
そのため、生命の危機の事態に陥ると、 「ギアスイッチング現象」 という現象が発動し、 人格が変わる。
空間からもう一振りの 神機 「LA ADAM」 を発生させ、 2刀流となる。
口癖は 「9999921」 (16進数 方ぼ アナグラムで 『朽ち果てな』 という意味)、
彼女はいない、面倒だから。だが女好き、酒を愛するがタバコは本人いわく 「ファック」 との事・・・。

アリサ に一方的 行為 を持たれている。本人は気がついていない。 鈍すぎる・・・



オリキャラの流れに便乗してみる
オリキャラというか今のマイキャラの制式詳細設定だが・・・

斎藤 匠(さいとう たくみ)
その正体は、ゴッドイーターの死体で死姦 したアラガミが産んだ半アラガミの人間。
シックザール前支部長がサンプル体として保護していたが、エイジス騒動の際にフェンリルに回収された。
他人の神機に触れても侵喰が起きず、それを使いこなす事ができる。
アラガミなので、神機だけでなく体内にもオラクル細胞を溜める事ができる。
その残念なコミュニケーション能力の影響で友人が出来なかったが、ある事件をきっかけにある程度まともな会話ができるようになる。

他のゴッドイーターの受け渡し弾を、体ではなく神機で受け止める事でオラクルで形成された巨大な刃の一振りを繰り出す事が可能。刃のサイズはリンクバーストレベルで変化し、最大で高層ビル程の超大型オラクルソードを作り出す。

【サーヴァントとしての願い】
19EA68146(特になし)


321 : ◆7yIYuqEusg :2015/08/02(日) 19:31:09 D/euaIy60
【マスター】
俺のドータクン@ポケモンコピペ

【マスターとしての願い】
メタグロスに勝ちたい。

【weapon】
なし。

【能力・技能】
常時浮遊してるので地面タイプの技が当たらない。
ノーマル・ひこう・いわ・はがね・くさ・エスパー・こおり・ドラゴン・フェアリーの技に耐性を持つが、ゴースト・ほのお・あくの攻撃に弱い。どくは完全に無効化する。

神通力:不思議な力で敵を攻撃。相手を怯ませる効果がある。
ラスターカノン:体の光を一点に集め光を放つ。相手の特殊防御を低下させることもある。
地震:大きな地震を発生させる。魔震ほどではない。
岩雪崩:でかい岩を大量発生させる。当たると痛い。

【人物背景】
俺のドータクンは
まず特性は「浮遊」、理由は大体の人が考えてることと思うがダメージを半減するだけの「耐熱」よりも無効化する「浮遊」の方が断然お得だから。
そして技は、一.神通力 二.ラスターカノン 三.地震 四.岩雪崩
まず一の神通力だが、サイコキネシスの方が威力高いがこれを選ばなかった理由はもちろん神通力のPPの多さが魅力だから。
二のラスターカノンは覚えられそうな鋼タイプの強力技がこれ位しかないから、まさか素早さの遅いドータクンにジャイロボールを覚えさせる人はいないだろう。
そして三と四は言うまでもなく唯一の弱点である炎潰しの為。
まあほとんどの場合地震だけでもOK だろうが、相手がファイヤーかリザードンの場合だあと地震が効かないので岩雪崩でその代わりに岩雪崩の4倍ダメージで沈めてやろう、ってことで。
逆に岩雪崩で効果抜群にならない炎タイプ (ヒードラン等・・・もっともこいつを使う人は少ないと思うが)には地震で。
これで死角無し!ある意味で最強のポケモンだなw

【方針】
聖杯を獲る。


322 : ◆7yIYuqEusg :2015/08/02(日) 19:31:21 D/euaIy60
投下を終了します


323 : ◆c92qFeyVpE :2015/08/02(日) 21:22:57 wmZYR4FA0
投下します


324 : シーモア&キャスター ◆c92qFeyVpE :2015/08/02(日) 21:24:16 wmZYR4FA0
「やあ、お兄さんが私のマスターだね」
「ほう、キミが私のサーヴァントですか」
「うん、キャスターのサーヴァント、ヤシロだよ。
 お兄さんのお名前は?」
「私はシーモア=グアドと申します。
 世界を恐怖に陥れている『シン』、私は聖杯を使ってこの存在を消し、世界を救いたい」
「わあ、凄いお願いだね、お兄さんは救世主になりたいんだ!」




「―――なんて、そんな人にボクは呼び出せないよ。
 ボクを呼び出したってことは、自分か、世界か、どちらかを『破滅』に導こうとしている人のはず」
「………」
「ねぇ、お兄さんはどっちなの?」
「……ふふ、どちらもないですよ」


「私が『破滅』させたいのは―――その、両方です」


【クラス】キャスター
【真名】ヤシロ=フランソワ一世
【出典】101番目の百物語
【性別】女性
【属性】中立・悪

【パラメーター】
筋力:E 耐久:D 敏捷:D 魔力:A++ 幸運:C 宝具:EX

【クラススキル】
陣地作成:B
 魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 彼女が作るのは工房ではなく、『主人公』として集めたロアの物語を紡ぐ"書斎"とでも言うべきフィールドである。

道具作成:C
 『8番目のセカイ』に接続するための端末、Dフォンを作り上げる事が可能。

【保有スキル】
カリスマ:B
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。

都市伝説:EX
 噂で成り立つ都市伝説そのもの。
 その地において『ノストラダムスの大予言』を知る者が多い程にステータスが向上していく。
 ―――彼女は『ノストラダムスの大予言』の『主人公』である。

物語収集(破滅):A
 既に存在している物語を自分の物語として収集するスキル。
 彼女は『破滅』の属性を持つ物語を収集することに特化している。
 破滅の逸話を持つ宝具を目にした時、中確率で相手の真名を看破できる。

【宝具】
『終末の預言書』
ランク:A+ 種別:― レンジ:― 最大捕捉:―
 彼女の収集した『破滅』の物語を召喚する。
 同時に召喚できる物語の数に制限はなく、また、その物語が破壊されてもヤシロ本人にはダメージはない。
 種別・レンジ・最大捕捉数は呼び出した物語によって変化する。
 確認されている物語は以下の通りだが、他にも無数の物語を手に入れているらしい。
 ・猿夢 ・人体発火 ・チュパカブラ ・モンゴリアンデスワーム
 ・某合衆国政府が宇宙からの侵略者に対して秘密裏に作り上げた組織
 ・人間を攫うUFO ・無数のUMA ・『七人の御使い』

『ノストラダムスの大予言(アンゴルモア・プロフィット)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:2〜999 最大捕捉:― 
 百詩篇集に綴られている詩を読むことで、その現象を発現させ世界を滅ぼす。
 ヤシロの周囲は台風の目となっていて安全である。

      巨星が七日間燃え続け
「 La grand’etoille par sept jours brulera,
     雲が二重の太陽表すだろう
  Nuee fera deux soleils apparoir:
     獰猛な巨犬が夜通し吠え
  Le gros mastin toute nuit hurlera,
     法王が大地を変える時――
  Quand grand pontife changera de terroir.」
             ノストラダムス 第2章41番


325 : シーモア&キャスター ◆c92qFeyVpE :2015/08/02(日) 21:24:39 wmZYR4FA0
【weapon】
無し

【人物背景】
『ロアの世界』の案内人として、ロアやハーフロアが生まれたときに世界に現れる少女。
『ノストラダムスの大予言』の『ロア』。
『8番目のセカイ』の『管理人』によって閉じ込められていたが、『管理人』がモンジの物語となった際に復活を遂げた。
『終わり』をもたらす者として、永遠に続く世界を終わらせようとした。

【サーヴァントとしての願い】
みんなが笑顔になるような、そんな終末

【マスター】シーモア
【出典】FINAL FANTASY X
【性別】男性
【マスターとしての願い】
『シン』となり、スピラへ破滅をもたらす

【weapon】
無し

【能力・技能】
魔法
 数々の黒魔法・白魔法を習得している。

召喚
 とても腕の立つ召喚士であったが、媒介となる祈り子が無いこの世界では使用できない。

【人物背景】
グアド族族長でありエボン四老師の一人。
排他的だった頃のグアド族の中で人間とグアド族のハーフとして生まれ、
散々疎んじられ、人間である母親と一緒に島流しにされた。
その後母と共に召喚士として旅立ち、ザナルカンドに辿り着き、母が自ら生贄になり、10歳ほどで究極召喚を得た。
しかし人種差別による迫害を乗り越え、召喚士としての過酷な旅さえ成し遂げたシーモア少年を待っていたのは、
「死の螺旋」という残酷な真実と、唯一の支えであった母との別れだった。
その後運命から何から全てを憎悪するようになり、『シン』に成り代わってスピラを破壊しつくそうと考えるようになった。

【方針】
聖杯を手に入れる。


326 : ◆c92qFeyVpE :2015/08/02(日) 21:24:55 wmZYR4FA0
投下終了です


327 : ◆zzpohGTsas :2015/08/03(月) 03:39:08 /qXb0PRc0
感想は後程。投下いたします


328 : 日出ずるところの天子 ◆zzpohGTsas :2015/08/03(月) 03:41:18 /qXb0PRc0







                             最強の格闘技/サーヴァントは何/誰か!?







.


329 : 日出ずるところの天子 ◆zzpohGTsas :2015/08/03(月) 03:41:40 /qXb0PRc0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「これ、する必要あったの?」

 革張りのソファに座りながら、腰まで届く青髪のロングヘアの少女が言った。
花の精を思わせる可憐な顔立ち、鈴を転がしたような綺麗な声音。胸の小ささに目を瞑れば、百点満点中、九七点は堅い女性である。

「まあ、感覚を取り戻す為だな」

 黒い学ランを身につけた黒髪の青年であった。そして、人の目を引く程の体格の良さであった。
人より頭半分程も高い百八十を超える程の身長に、厚みのある筋肉を体中に百キロ以上程も搭載しているのだ。
肥満体ではない。むしろ脂肪の類は人より少ない位である。身についた筋肉全てが、地道かつ過酷なトレーニングで切磋されている事が、学ランの上からでも解った。
宛らこの男の身体つきは、ラガーメンか。しかもその上、その顔つきは明らかにまだまだ子供っぽさを残した高校生、どんなに贔屓目に見ても大学一〜二年生程度のそれ。
兎に角、その年の子供にしては、度が過ぎる程の筋量と体格の持ち主であった。

「感覚って、何のよ」

「喧嘩」

 青年――『佐藤十兵衛』は即座に返した。それを聞いて、少女、『比那名居天子』は、類人猿か原始人でも見る様な目で十兵衛を見ていた。

「人を野蛮人でも見る様な目で見るのは止めて貰いたいね」

「見られてもしょうがないでしょ。見なさいよこれ」

 言って天子は、周りを。より詳しく言えば、二十畳ほどのスペースをした事務所風の部屋を見渡した。
部屋のそこいら中に、男達が泡を吹き、涎を垂らして気絶していた。その数、六人。中には白目を剥き、ビクビクと痙攣している者も。
十兵衛が胸部に思いっきり正拳突きを叩き込んだが故であった。筋肉のある者は気絶程度で済んでいるのだが、筋量の薄い者は、南無三、と言うべきか。
アバラを圧し折られているのだ。これが白目を剥いて気絶している者の正体だった。

「我ながら見事な『金剛』なんだな」

 ニッと天子に笑いかけ、十兵衛が言った。また天子が呆れ返る

「そりゃね、此処に転がってる男達が、悪い奴らだって事は解ってるわよ。とどのつまり、ヤクザ者でしょ? こいつら」

 天子の言う通りであった。十兵衛が胸部に正拳突きを叩き込み、昏倒させたこの男達は極道者達だった。
恫喝や情報弱者・お年寄り相手の詐欺などで利益を上げる、何とも狡い者達である。何れ法の裁きを受ける事は必定、そんな連中達だ。

「でも、十兵衛が裁くのは、お門違いなんじゃないのかしら」

 そう、天子の言う通り、裁きを与えるのは十兵衛ではない。あくまでも然るべき司法機関と、閻魔だけが、人を裁く事が出来るのだ。
個人の正義で人を裁くのは、独り善がりも甚だしい。ともすればそれは、横暴にもなりかねない。

「セイバー、覚えとけ。ヤクザってのは俺に殴られる為にいるんだよ」

「とんだマスターに私も当たったものね」

 一際深い溜息を吐く天子。一目見た時から、モラルとか良心の欠片も無い青年である事は見抜いていたが、よもや此処までとは。


330 : 日出ずるところの天子 ◆zzpohGTsas :2015/08/03(月) 03:42:19 /qXb0PRc0
 「メタルスライムがいそうな臭いがするからちょっと付き合ってくれ」、歌舞伎町の外れを歩きながら十兵衛は、ふとそんな事を言って来た。
「メタルスライムって何よ、要石の亜種?」と言う天子の問いに答えず、事務所に突撃する十兵衛。
俗にいう喧嘩殺法に近い戦い方で、十人を超す極道者達を倒して行った。十兵衛の叩き込んだ一撃が、相手の骨が折れようが知った事ではない、殺すつもりの一撃であった事を天子は憶えている。

「あなたみたいな悪漢が聖杯に願う事なんて、きっと、ろくでもない事なんでしょう」

 肩を竦め、今にも言葉の最後に「やだやだ」と付け加えそうな風にそう言った天子。
不良天人だ何だと言われ、我儘娘として名を馳せて来た彼女ではあるが、良心や倫理観がない訳ではなかった。でなければ天人として認められる訳がない。
そんな彼女からして見たら、十兵衛に従う事は不服以外の何物でも無かったろう。だが彼は、いつもみたいな軽い調子で返事をするのではない。
数秒程の沈黙の後、彼は口を開き始めた。

「お前はさ、ぶっ殺したい位憎い奴っているか?」

 ふと十兵衛が、そんな事を訊ねて来る。そんな事を語る十兵衛の顔つきは、強い憎悪と怒りに彩られていた。

「特にはいないわよ」

「賢い生き方だな」

 言葉を続ける十兵衛。

「俺は人間的に重大な欠陥を患ってる。普通の奴なら誰だって出来る事が、ある時に出来なくなっちまった」

 天子の瞳を見据えて、十兵衛が口にする。

「ある時を境に、俺は“諦める”と言う能力が欠如しちまった」

「良い事じゃないの、それって」

「スッパリ諦められないってのは、病気な事と紙一重だ。褒められた事じゃねぇよ」

 かぶりを振るう十兵衛。

「昔、ヤクザが雇った追い出し屋と喧嘩をした事があってな。予想外にタフな奴で、絶体絶命の状況に追い込まれたよ。
ビルの屋上、ドアノブを破壊されて逃げられなかった。そんな状況で俺は機転を利かせて、奴をビルから突き落とした。
俺もその場から逃げようとビルの屋上から川に飛び込んだ。絶対に勝ったと思った。……だがそいつは生きていた。フランケンシュタインみてーなタフネスでな。油断して川から上がった所を突かれて、俺はボコボコにされた」

 ギリッ、と、歯軋りの音。

「形が変わるんじゃないかって程顔面殴られて、身体から感覚が抜けて行ってションベンまで漏らして、マジで死ぬって思って命乞いして……、
挙句の果てに、県知事のおふくろの七光りに救われて……。悔しくて、悔しくて、悔しくてなぁ……ッ」

 ――あの時十兵衛は、絶対に勝ったと思ってた。相手を倒したと言う安心感から、完全に油断し切っていた。
今にして思えば、馬鹿な話である。どんな事にも絶対何てある訳がないのに……。師である入江文学は言った。
「お前がやっていたのは喧嘩じゃない、遊びだ」と。本当にその通りだったと思う。生半な覚悟で喧嘩に臨んだ代償が、忘れたくても忘れられない屈辱と、命の危機。
……二度と、あんな目になど遭いたくなかった。そして、一刻も早くこの記憶を抹消したかった。自分をそんな目にあわせた喧嘩師、工藤優作を倒して/殺して。

「で、十兵衛に大恥かかせたその追い出し屋を、聖杯で殺したいの?」

 天子が言った。限りない侮蔑の色が、瞳と声音に宿っている。

「ちげーよ貧乳、女心が読めねーな」

 盛大に舌打ちを響かせて、十兵衛が否定する。ちなみに天子はこめかみに青筋を浮かべて、十兵衛の事を睨んでいる。
虎の尾を踏み抜いてしまったようだが、十兵衛は全く悪びれた様子を見せない。構わず話を続ける事とした。

「そいつにな、俺が味わった屈辱と同じ位の恥辱は味あわせてやりたい。そいつに同じ目を遭わせたいからこそ、俺は歯食い縛って地味できつい鍛錬にも耐えて来た。
聖杯に頼ってそいつを殺すなんて真似はしねぇ。あの馬鹿は俺の技でぶっ殺す」

 「んで、その為には――」、其処まで言葉を続けたその時だった。十兵衛の足元の、大柄な身体をした厳つい顔の男が呻き声を上げ始めた。
全体重をかけて、十兵衛が男の胸部を踵から踏みつけた。一瞬で、男が動かなくなる。死んだとしか思えない程だった。
容赦の欠片も無い十兵衛の行動を見て、天子は思いっきり引いていた。


331 : 日出ずるところの天子 ◆zzpohGTsas :2015/08/03(月) 03:42:36 /qXb0PRc0
「聖杯戦争なんてものに時間をくれてやるのも惜しいわけだな。いや、そりゃ聖杯は欲しくないと言えば嘘になるが、本丸はそれで叶えたくないってのは本当の話。天守閣は、自分の手で破壊したい」

 十兵衛はプライドの高い男でもある。工藤優作の事を今も恨み続けていると言う点からも推して知るべき事柄だろう。
そんな男だからこそ、あの喧嘩師とは自分の実力でケリをつけたかった。でなければ、今までの自分の修行が無駄になってしまう。
キリストの血を受け止めた聖遺物を、あんなバカヤクザの抹消に使うだなんて、勿体ない事この上ない。

「……ま、十兵衛の言い分は理解は出来たわ。賛同は出来ないけど」

 数秒程の沈黙の後、天子がそう言った。言葉の通り、十兵衛の言葉に理解を示した様子は、態度からも声音からも、見られない。

「ご自由にどうぞ、仲間由紀恵みたいな胸のセイバーさん」

「参考までに聞くけど、そのこころは?」

「ま、聖杯にはGoogle買収でも願うとするよ」

 天子の問いを、露骨に十兵衛は無視した。
その事を気付かない彼女ではなかったが、此処はあえて、十兵衛の話を聞いてやる事にした。ストレスは、溜めないに限る。

「ぐーぐる……?」

 疑問気な口調で天子が聞いて来た。一応天人として相応しい教育を受けて来た彼女であるが、そんな彼女でも初めて聞く単語だ。彼女に限った事ではないが、天人は下界の事情に疎いのである。

「世界制服を目論む悪の枢軸だよ」

「ふーん、十兵衛でも意外と世の為になる事はするのね」

 見直したような口調でそんな事を言う天子だったが、まさかその『ぐーぐる』が世界最大の情報通信業会社の事を指すなど、天子は思いもよらないだろう。
佐藤十兵衛は自分が起こした情報通信会社である『十兵衛ドットコム』を世界最大の会社の一つにし、Googleを吸収すると言う野望を、未だに捨てていなかった。ああ、煩悩此処に極まれり。

「ま、それは良いとして、早い所此処から出ましょ。何か男臭くていや」

「目の前にいる妻夫木聡似の男もその男臭いのにカウントしてるんじゃないだろうな」

「馬鹿言わないでよ、アンタも当然数えてるわよ」

「ふざけんな馬鹿。俺を此処に転がってる、魔界転生で魔人になった剣豪に殺される根来衆みたいなモブ忍者みてーな風貌のヤクザと一緒にすんな」

 と、言い合いに発展しそうになった、その時。
閉じた部屋の扉が蹴り破られ、三人の男が事務所内に侵入してきた。地面に転がっているヤクザ達と似たり寄ったりの風貌。増援のようである。
「ほらー、だから早く出ようって言ったのに」と天子がウンザリした様に口にした。

「テメーらか!! 組にカチコミし――」

 赤い半袖のシャツを着たヤクザが、この後どんな言葉を続けようとしたのかは、解らない。
何故ならば、部屋に現れた瞬間、どの人物に先制攻撃を行おうか電瞬の速度で思考し終えた十兵衛が、心臓を筋肉の上から強打し、相手を一瞬で昏倒させる、
富田流の奥義・『金剛』をぶち込んだからである。十兵衛は見逃さなかった。金剛をぶち込まれ昏倒したヤクザが腰に隠し持っていた、『光物』の類を。
残りの二人は、素手だった。狙って倒した事は明白だった。

「もう今更お前らじゃメタルスライムどころか、スライムベスにだってなれそうにもないが、まあせっかく来てくれたんだ。この妻夫木聡の為に倒れてくれ」

 「……その設定生きてたの?」、と後ろから天子の疑問気な声が響いて来た。
異世界の<新宿>に辿り着こうとも、十兵衛は精神異常者だ。彼は何処までも、『喧嘩稼業』に身を投げる、破綻者なのであった。



.


332 : 日出ずるところの天子 ◆zzpohGTsas :2015/08/03(月) 03:42:57 /qXb0PRc0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



   最強の格闘技/サーヴァントは何/誰か!?



   多種ある格闘技/サーヴァントがルール無しで戦った時……



   出来レースではなく策謀暗殺ありの『戦争』で戦った時

   

   最強の格闘技/サーヴァントは何/誰か!?



   今現在、最強の格闘技/サーヴァントは決まっていない



   その一端が、此度の聖杯戦争で知れる事となる




.


333 : 日出ずるところの天子 ◆zzpohGTsas :2015/08/03(月) 03:43:11 /qXb0PRc0
【クラス】

セイバー

【真名】

比那名居天子@東方Project

【ステータス】

筋力B 耐久A 敏捷C 魔力B 幸運C 宝具A++

【属性】

中立・善

【クラススキル】

対魔力:C
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:D+
騎乗の才能。大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、獣は乗りこなせない。但しセイバーの場合は、要石と呼ばれる物を自由自在に乗りこなせる。

【保有スキル】

天人:E-
厳しい修行を長年続けるか、功徳を認められるか、悟りを啓くか等をして、天界にまで至る事の出来た人間。人間でありながら、神霊と化した存在達。
本来であればランク相当の神性、カリスマ、騎乗、弁舌、神通力、飛行などと言ったスキルを複数併せ持つ複合スキルであるのだが、
セイバーは正式な手順で天人へと至った訳ではなく、棚からぼた餅的に天人になった存在の為、そのランクは最低クラス。上記の複合スキルの殆どを発揮出来ない。
唯一発揮出来る力と言えば『飛行』だけだが、これは元々セイバーの住んでいた天界及び幻想郷の住民なら誰もが持っていたスキルである為、天人特有のものではない。
修行した訳でもなければ得を積んだ訳でもないのに天人へと至ったセイバーを、他の天人達は『不良天人』と揶揄していた。

地殻操作:B+
地震を司っていた比那名居一族の一員としての権能。セイバーは『大地を操る程度の能力』を保有する。
地震を引き起こす事は勿論の事、地面を隆起させて攻防に転用させたり、土砂崩れを引き起こしたりなど、大地を多芸に操る事が出来る。
聖杯戦争に際しては、この権能を発揮出来る有効範囲はかなり局所的な物に制限されている。

無念無想の境地:A
自分自身、及び自身が有する能力に絶対的な自信を抱いている。境地とは言うが、何も極めておらず、何処にも到達していない。
そもそも無念無想と言う境地からセイバーは最も遠い所にいる少女である。あるのは過剰すぎる自信から生まれる、精神・肉体の絶対性である。同ランクの信仰の加護の効果を持つ。

【宝具】

『緋剣よ、天霧を断て(緋想の剣)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:2 最大補足:1
セイバーが住んでいる天界に於いて、其処に住まう天人達の宝物として扱われている宝剣。
『緋』とはいうが、剣身の色は緋色と言うよりは、橙色。金属的な剣身を持たず、松明の炎の様なエネルギーが柄から吹き上がっている。
天人にしか振るう事は出来ない特殊な剣で、特殊な出自で天人に至ったとは言え、セイバーもまたこの宝具を問題なく振う事が可能。
周囲の気質を集めて自らの力にすると言う特質を持ち、気そのものを斬り断つ事が出来る。此処で言う『気質』とは、生物や無生物問わず、あらゆるものに宿る気の事である。
対峙した相手の気質を放出させ、それを解析した後で、気質を吸収。吸収した相手の気質の弱点となる気質を剣身に纏わせる事が出来、
この状態の緋想の剣にダメージを与えられると、特攻ダメージを与えられ、通常の倍のダメージを受ける事となる。
また、生物から気質を吸い上げる事で、セイバーと気質を吸収した生物の周囲のみを、その気質に対応した天気に変える事が出来る。
この天候操作は、相手が有する固有の気質が影響するので、セイバー自身は天候を自由に操作すると言う芸当は出来ない。

『全人類の緋想天』
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:1〜99 最大補足:1000
宝具・緋想の剣の性質、気質を吸収すると言う特質を活かした、セイバーの必殺技が宝具となったもの。周囲の気質を緋想の剣に吸収、凝縮させ、一気に解き放つ超大技。
これに“気質”に変換させた所有者の魔力を加えさせ、凝縮した気質+気質に変換させた所有者自らの魔力を、収束・加速させる事により運動量を増大させ、
気質の奔流を極大のレーザービームの形にし、圧縮された気質のレーザー及びそれが発生させる衝撃波によってありとあらゆる物を薙ぎ倒し、破壊する。


334 : 日出ずるところの天子 ◆zzpohGTsas :2015/08/03(月) 03:43:24 /qXb0PRc0
【weapon】

要石:
注連縄の巻かれた大岩。地震を鎮める力を持つ。地面に挿す事で、地脈の力を抑え、地震を抑制させる力を持つが、あくまで地脈を抑え、
本来起る筈だった地震の力を溜めるものであるので、不用意に地面に刺さった要石を引き抜くと、溜められた地震の力が一気に解放され、大地震が勃発する可能性がある。
セイバーはこれを無数に生みだし、高速で飛来させ飛び道具にしたり、空中に浮かばせ足場にしたり、防壁にさせたりと、多種多様な使い方を披露する。

【人物背景】
 
 天界に棲む不良天人。比那名居家は元々は地震を鎮める要石を護る神官であった。
だが、比那名居家の要石の存在も虚しく地震は頻繁に起こった。その度重なる地震により地震を担っていた天人、大村守(おおむらのかみ)の仕事が追いつかず、
幻想郷一帯の地震は当時、大村守に遣えていた名居(なゐ)一族に任すこととなった。名居一族は地上の神官であったが、死後に名居守(なゐのかみ)と呼ばれ、
神霊として山の池の畔にある小さな祠に祀られる事となった。名居守は今も静かに幻想郷を見守っているのである。
それと同時に、生前の名居守の部下であった比那名居(ひななゐ)一族も、その功績をたたえられ、天界に住むようになった。
だが、比那名居一族は他の天人とは異なり、修行を積んだわけでも無く、ただ名居守に遣えていただけだったので、天人としての格を備えておらず、
天界では不良天人とすら呼ばれていた。比那名居地子(ちこ)は名居守に遣えていた親のついでに天人になっただけの、幼い子供だった。

【サーヴァントとしての願い】

取り敢えず聖杯戦争を異変として認識している。たまには巫女みたいに異変解決をするのも悪くはない




【マスター】

佐藤十兵衛@喧嘩商売、喧嘩稼業

【マスターとしての願い】

Google買収。工藤優作を倒す願いは、聖杯では叶えない

【weapon】

【能力・技能】

富田流の継承者である入江文学から師事しており、流派の奥義を幾つか伝授されている。
心臓に重い一撃を叩き込んで相手を一瞬で気絶させる『金剛』。自己暗示をかけて火事場の馬鹿力を引き出す『無極』。
投げ落とす際に股間に通した手で睾丸を握り潰し、その痛みで相手の受け身を封じる『高山』。以上三つを使用可能。
またこれ以外にも、進道塾の高弟達にしか伝授されていない秘奥義である『煉獄』も、不完全ながら使う事が出来る。
だが十兵衛の戦闘の骨子は、勝つ為ならば何でもする、と言うそのスタンスである。
打撃や組、投げ技を利用するのは勿論の事、ルール規定がなければ凶器攻撃も平然と行うダーティさは、彼を語る上で外せない要素。
また非常に頭が良く、機転も利き、様々な知識・雑学を用いて罠や策略を巡らせることにも長け、洞察力も優れている。
これを利用して戦う前から自分の有利な状況を作り上げて置き、相手のペースを大いに乱す。これが十兵衛の恐ろしさである。
彼と戦った者は皆口を揃えて言う。十兵衛は、追い詰めてからが本番である、と。

【人物背景】

東京から栃木県宇都宮へと引っ越してきた高校生。官僚の父と、県知事の母を持つ。
父親の仕事の都合から転校が多く、またその体格の良さからいじめのターゲットにされていた過去を持ち、中学1年の時、偶然出会った、
進道塾で空手を学んでいた高野照久に助けられた。が、この時高野から言われた「見た目は強そうなのにお前弱いんだな」、と言う言葉をバネに、
いじめられっ子から脱却する事を決意。後の師である、富田流の入江文学から指導を受け、喧嘩に明け暮れる生活を送るようになる。
嘗て自分を助けてくれた高野を、自分の強さを見せつけると言う意味で喧嘩を売り、彼を倒す。
しかし、喧嘩三昧の毎日を送る過程でヤクザをボコボコにした事がきっかけで、彼に向けて送り込まれた工藤優作に完膚なきまでの敗北を叩き込まれる。
命乞いまでし、失禁すらしてしまったその時の屈辱が忘れられず、再び十兵衛は、嘗ての師である入江文学から再び師事。
工藤へのリベンジマッチの為に、文学の下で修業をし、その力をつけて行くのであった。
嫌いなものは春菊とピーナッツ。事あるごとに女性の知識を披露するが、実際には童貞かつ仮性包茎のエロ孔明(経験はないけどエロ知識だけは豊富と言う意味)
過去に教育実習生の多江山里から、細木数子を見ると勃起してしまう体質に調教されており、過去に戦った柔道家のキンタマを潰した際に、彼が上げた苦悶の声を携帯の着信音にしている。つまり佐藤十兵衛と言う男は――滅茶苦茶性格が悪い。

【方針】

さしあたって様子見。


335 : 日出ずるところの天子 ◆zzpohGTsas :2015/08/03(月) 03:43:34 /qXb0PRc0
投下終了です


336 : ◆c92qFeyVpE :2015/08/03(月) 12:37:13 Amqsqlqw0
申し訳ありません、キャラの一人称を間違えていましたので訂正します。

>>324の本文部分を以下に差し替えます

「やあ、お兄さんが私のマスターだね」
「ほう、キミが私のサーヴァントですか」
「うん、キャスターのサーヴァント、ヤシロだよ。
 お兄さんのお名前は?」
「私はシーモア=グアドと申します。
 世界を恐怖に陥れている『シン』、私は聖杯を使ってこの存在を消し、世界を救いたい」
「わあ、凄いお願いだね、お兄さんは救世主になりたいんだ!」




「―――なんて、そんな人に私は呼び出せないよ。
 私を呼び出したってことは、自分か、世界か、どちらかを『破滅』に導こうとしている人のはず」
「………」
「ねぇ、お兄さんはどっちなの?」
「……ふふ、どちらもないですよ」


「私が『破滅』させたいのは―――その、両方です」


337 : ダガー・モールス&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/04(火) 06:32:50 tWwsX6y20
投下します


338 : ダガー・モールス&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/04(火) 06:34:07 tWwsX6y20

  畜生。
  畜生。
  ああ、畜生。
  忌々しい。
  地べたを這いずり回ることになるとは。
  白饅頭そっくりな不便な身体を引きずりながら、馬鹿でかい建物を上へ上へと登っていく。
  天をつくほどの大きさのその建物の名前はUVM(ユニコーンヴァーチャルミュージック)本社。
  SHIBUVALLEY中心部のBOO-DOO-KANから程遠くない位置で、異様な存在感を放っていた世界征服の本拠地にして男の牙城。
  ほうほうの体でたどり着き、エレベーターが使えないので数十階分の階段を登り、高いドアに飛びついてなんとかノブを下ろす。
  こういう事態を想定して回すタイプのドアノブにしておかなくて正解だった、などといつもの彼らしくない弱々しい思考が頭によぎり、誰にともなく自嘲した。
  負けた。
  完全敗北だ。
  身体はもうボロボロだ。計画も頓挫、音楽の力を骨髄臓腑にまで叩きこまれてグロッキー寸前。威厳なんてありはしない。なんとみっともない姿だろう。

「だが、まだだ」

  社長用デスクからなんとか目当ての物を取り出す。
  青い鍵。
  サウンドワールドでも、サウンドコスモでも再現不可能な物体。
  専門家ではないが、その道に多少学のある男にはその正体は分からずとも使い道には心当たりがあった。
  これは形状通りの『鍵』だ。異世界への扉と道を切り開く鍵だ。
  男には平行世界に干渉する力がある。
  聖川紫杏をこの世界に呼び出す時に、ソーシャルゲーム『Show By Rock!!』を使って平行世界に干渉したように。
  この異世界の鍵を使えば、この鍵の出自である異世界に干渉することが出来る。

「見ていろ、グレイトフル・キング……私は、諦めないぞ」

  確かに負けた。
  だが、それは『この次元』『この世界』の話だ。
  音楽の才能溢れる者はどの時空にも存在する。
  別の次元に移れば敗北はちゃらになる。男が生き残っているのならば何度だってやり直しはきき、勝負は続く。
  どころか、その世界を掌握した後に再びこの世界を征服すれば、それでいい。
  プラズマジカ、シンガンクリムゾンズ、トライクロニカ、徒然なる操り夢幻庵。
  そしてなにより、グレイトフル・キング。
  彼らすべての目の前で彼らが勝ち取った輝かしい勝利をひっくり返してトドメを刺さなかったことを後悔させる。

  男の額の第三の眼。緑色の瞳がくわと見開かれる。
  キラキラ輝く粒子として空間を満たしていたシアンの音楽が、渦を巻いて青い鍵に飲み込まれていく。
  そうして居ると青い鍵がひとりでに浮かび上がった。
  何もない空間に鍵が突き刺さり、右に四半回転する。
  バキバキバリバリと音を立てて次元が歪み、まるで扉のように四角く縁取られ、道がこじ開けられる。
  空間が裂けて世界の裏側、次元の狭間に姿を潜り込ませ、男―――ダガー・モールスはミュージックワールドから消滅した。


339 : ダガー・モールス&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/04(火) 06:34:47 tWwsX6y20

◆◆◆


「見た目は多少まともになったか……」

  真っ黒でクラゲのような頭にダークスーツの大男、ダガー・モールスはくらむような頭を抑えて立ち上がった。
  UVM(ユニコーンヴァーチャルミュージック)本社。
  サウンドワールドと同じ規模の同じ建物がそっくりそのまま、この異世界に用意されている。
  社長の名前も変わりない。
  ただ、一つだけ代わりがあるとすれば、身体に刻まれた『それ』か。
  UVMのロゴそっくりのミミズ腫れ、この世界の知識によればこれは令呪というらしい。
  聖杯戦争という願いを叶える争いの参加者であることを示すチケットのようなもので、これを使えば戦争の代理人に命令を下すことも可能。
  戦争の代理人・サーヴァントは七クラスからなり、令呪が刻まれたということはそのうちダガーの前にもサーヴァントが現れる。
  そこまで情報を整理して、考える。
  平行世界毎に文化や常識が異なるのは理解している。
  聖川紫杏の世界は音楽ではなく電脳が世界を形成していた。ダガーの世界は音楽が無限の力を宿していた。
  つまりは、この<新宿>という世界が『そういう世界』なんだろう。

  なんともわかりやすく、なんとも複雑そうな世界だ。
  戦争で勝ち残れば願いが叶うというのは分かりやすい。
  そのために戦闘能力のない人間に英霊を与えて戦闘能力の平均化を行うというのも理にかなっている。
  マスターとしての立ち位置で有利不利は付くだろうが、それは各人の積み重ねだ。恨むべくは自分の怠惰な人生や枯れ細った才能であり、ゲームのシステムではない。
  だが、同時に複雑な状況でもある。
  聖杯が奇跡を起こす。願いが叶う。
  根源はここまで単純だが、呼び寄せられたマスターたちは違う。
  誰しもが、何かしらの奇跡を望んでいる。
  未来を変えるようなくだらない奇跡かもしれない。
  過去を変えるような途方も無い奇跡かもしれない。
  奇跡でしか埋められない願いを持つ者達が溢れかえっている、という可能性も考えられる。
  共通していることはダガーのように流れ着いた者は異端であり、他のマスターたちはすべて『願いの成就』を心にこの地を訪れたはずだということ。
  だとすれば少々厄介だ。
  懐柔、籠絡、交渉の類は一切通用しないと考えたほうがいいだろう。
  こちらの提示できる条件で納得して脱落してくれる参加者が居れば手駒にできるだろうが、ダガーに出来るのは『平行世界の情報を用いた強制送還』くらいだ。
  しかも、その平行世界干渉だってただでは出来ない。莫大な魔力が必要となる。
  しばらくは無理だ。

「知性も理性も足りない方法で争わなければならないというのは遺憾だが……」

  マスターのそれぞれが国主である国家戦争。世界一小規模な世界戦争。
  音楽での世界征服という崇高な理念を元に動くダガーにとっては野蛮で不純で下劣でしかない闘い。
  だが、この世界に逃げ込んだのは他でもないダガー自身だ。
  この世界に来たことは最善の選択だと考えているし、戦争が常識の世界でなにを叫んだところで状況が変わるわけでもない。
  ならば今行うべきは戦争に対して生き延びる覚悟を決めることと、そのための情報を集めること。

「なにより、音楽だ」

  革張りの椅子に腰掛け、最高級ヘッドホンを被る。
  そしてほうぼうのミュージシャンから送られてきたデモディスクを流しながら書類に目を通す。
  どうあれ、まずはメロディシアンストーンの輝きを取り戻すことと、この世界の音楽事情の把握が急務だ。
  音楽の方面から聖杯戦争に干渉できればいいのだが。
  そんな都合のいい話もないだろうなと考えながら、ダガーは仕事に集中することにした。


340 : ダガー・モールス&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/04(火) 06:35:14 tWwsX6y20



  この曲の名前はなんというのだろうか。
  書類に通していた視線をずらし、デモディスクの入っていたケースを見る。タイトルはまだ決まっていないらしく、歌っているアイドルの名前だけが記されていた。
  くだらない音楽ばかりで琴線に触れるものが全くなかったが、ようやく当たりが引けたようだ。
  良質な音楽を聞くことでミューモンのメロディシアンストーンは活性化して生きる力を取り戻す。
  ダガーはようやく、生きた心地を取り戻した。
  音楽レベルは最低辺の世界だが、それでも上澄みの部分はサウンドワールドのミュージックシーン上位と引け劣っていないということか。
  これからはメロディシアンストーンの活性化のために彼ら彼女ら『上澄み』を見つけ出し、発掘していく必要がある。
  時計を見る。目を覚ましてから1時間ほど過ぎていた。
  そして、気付く。
  社長用のL字デスク越しに、誰かがダガーに対して話しかけていた。

「―――――!!!」

  超高級と冠が付くだけあって、ヘッドホンは音質の良さだけでなく防音もばっちりきいている。
  しかもダガーにとって音楽は生命活動そのものに関わること。しかも状況が状況だっただけに少し集中しすぎてしまっていたらしい。
  気をつけなければ、『暗殺者』のサーヴァントが出てきたりしたらそれだけで終わりだった。
  ただでさえ慣れない荒事の中なのだから、他の参加者以上に気を張る必要がある。

「――――!? ――――!!」

  誰か―――オレンジ色の服を着た少女は何事かを叫んでいるらしい。
  見ない格好だが、ダガーにはその正体が一発で分かった。『アーチャー』だ。ご丁寧に表記されている。
  なるほど、サーヴァントを見てステータスがわかるというのはこういうことか。
  ダガーは手で少女を御しながらヘッドホンを外した。

「はーなーしーをーきーいーてー!!!!!」

  だが、少女の方は気づいていなかったらしく。
  ダガーがヘッドホンを外した瞬間、びっくりするほどの大声でダガーに声をかけてきた。
  部屋の物が揺れるんじゃないか、いや実際揺れるほどの大音声に思わず顔をしかめ耳(性格には耳の役割をしている部位)を塞ぐ。

「叫ばなくても聞こえている。少し静かにしてくれないか」

「あー! やっと聞いてくれたー!! もう、無視なんてやめてよねー!」

  オレンジ色の少女は特に悪びれた様子もなくそう言った。
  ダガーも特には言及しなかった。
  なんせ悪いのは気を逸らしていたダガーの方だ。ここで謝れといってもお互いの心象を悪くするだけだろう。
  今後戦争を共にするパートナーなのだから、気遣いはしておいて損はない。


341 : ダガー・モールス&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/04(火) 06:35:42 tWwsX6y20

「それで、あなたが那珂ちゃんのマスターさんなんだよね!」

「そうだろうな。君は?」

「はーいっ! アーチャーこと艦隊のアイドル那珂ちゃんでぇーっす!! よろしくね!」

  アイドル。なるほどダガーに持って来いのサーヴァントだ。
  宝具について聞けば、歌に関する宝具も持っているらしい。
  試しに歌わせてみた。メロディシアンストーンが反応するくらいには有望な歌手だ。
  相性のいい相手と引き合えるのは日頃の行いの賜物か。
  だとすればダガーにこんなサーヴァントが当たるわけがないかと考え、らしくない思考を鼻で笑う。
  今度はダガーの方から名乗り、お互いの情報を交換する。
  アーチャーの出来ること、得意なこと、苦手なこと。ダガーの出来ること、出来ないこと。
  基本的な情報のやりとりが終わり、最後にダガーは1つだけ釘を刺した。

「1ついいかな、アーチャー」

「なあに?」

「那珂というのが真名なら、それは伏せておいた方がいい」

  アーチャーはそっかぁと両手をぽんと合わせた後で「那珂ちゃんてばうっかり屋さん♪」と自分の頭にコツンと軽くゲンコツを落とした。
  舐めてるような態度だが、アイドルは世の中を舐めてるような態度くらいがちょうどいい。
  クリティクリスタのロージアだって、あざと学を主席で修めたからこそあそこまで人気が出たのだ。
  魅力のないものの媚は不快だが、魅力的な見た目にあざとさが加わればそれは武器になる。
  そのキャラが天然にしろ養殖にしろ、万民を惹きつけるものを持っている。
  『艦隊のアイドル』という肩書は伊達で名乗っているわけではなさそうだ。
  コミカルチックな動作の一つ一つを見ながら、そういえばと思い出して疑問を口にする。

「それとアーチャー、君、念話は?」

「念話? 念話がどうしたの?」

「念話を使えば私が音楽を聞いていても声を届けられたんじゃないのか」

  聖杯戦争の知識として念話についても思い出していた。
  魔力適性の低い者でも近距離で、魔力適性の高い者ならば遠距離でも声を出さずに会話が出来るシステム。それが念話だ。
  アーチャーは少しぽけっと考えた後で、今度は何も言わずにまた頭にコツンとゲンコツを落とした。
  そして満面の笑み。
  ダガーは『アイドルとしての』彼女は評価したが、『サーヴァントとしての』彼女については少し認識を改めた。
  少々抜けているフシがある。指令の伝達は細やかに行った方がいい。
  それとあまり鉄火場には立たせないほうがいいかもしれない。気が回らない者は往々にして劣勢に立たされると取り乱しやすい。

  情報交換を済ませて椅子に深く腰掛けて、天をつくようなビルの最上階から眼下の街を見下ろす。
  ネオンライトでカラフルに光る街並みはサウンドワールドのSHIBUVALLEYと似ている。
  戦争には不慣れだが。相方に不安は残るが。
  それでも駒は揃った。
  やれるだけのことをやろうじゃないか。
  再び世界を手中に収めるその日まで。
  ダガーは葉巻に火をつけ、アーチャーから「アイドルにタバコの煙は厳禁なんだよ!」と文句が出たのですぐに揉み消した。


342 : ダガー・モールス&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/04(火) 06:37:47 tWwsX6y20

【クラス】
アーチャー

【真名】
那珂@艦隊これくしょん

【パラメーター】
那珂ちゃん   筋力:C--- 耐力:C 敏捷:C 魔力:C+ 幸運:C+ 宝具:C
那珂ちゃん改ニ 筋力:B--- 耐力:B 敏捷:B 魔力:B+ 幸運:B+ 宝具:C

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:EX
どんな大魔法でも一撃で死亡せず、大破止まりとなる。筋力は最低値まで落ちるがそれ以上同戦闘で傷つくことはない。
大破進軍した場合のみ轟沈する。

単独行動:B
特に逸話はないが那珂ちゃんなのでマスター死亡後も『48』時間は現界が可能。

【保有スキル】
水雷魂:A
五省のうち三つ、悖らず、恥じず、憾まずの精神。
戦闘中に命中率降下効果を持つデバフ能力を全て無効化できる。
更に、魚雷を撃つ際に命中率と威力にランク値分補正を受ける。

艦隊のアイドル:C-
アイドルとしての戦闘への影響力を表すスキル。最上位である『銀河の歌姫』レベルになれば歌で星同士の戦争を終わらせられる。
彼女が歌を歌い出した場合、一時的に範囲内のすべての英霊に『行動不能:C』を付与する。
このスキルが転じて宝具と化したものが宝具『恋の2-4-11』である。
ただし、原作同様言葉の通じない相手(バーサーカー)にはこのスキルは通用しない。

正体秘匿:B-
アイドルとしてお仕事とプライベートを区別する能力。
那珂ちゃんは実体化していても艤装を付けない限り艦隊のアイドル那珂ちゃんだと気づかれることはない。
通常状態で一切の攻撃行動が不可能になる代わりに宝具開放まではパラメータが相手に見られることはなく、魔力反応も極限まで小さくできる。
ただし、那珂ちゃんの熱狂的なファンには気づかれる可能性がある。

大破轟沈システム:EX
原作システムがそのままスキルになったもの。
那珂ちゃんはどれだけ大ダメージを追っても、一回の戦闘では「大破」までしか行かず、たとえ致死ダメージでも一撃で死ぬことはない。
さらに「大破」となった戦闘中、筋力は最低まで落ちるが他者の攻撃を一時的に全て無効化する。
「大破」状態で別の戦闘に巻き込まれた場合、上記補正がかからず一撃でもダメージを受ければ轟沈する。

遠征任務:B
遠征任務に従事する艦娘であるという逸話から来たスキル。
マスターから離れれば離れるほど性能が向上し、一定距離以上離れると魔力・幸運値に一段階の、耐久には若干の補正を受ける。
更に単独行動中は両手で眼鏡のように輪を作ってそれを覗くことで千里眼:Cと同等の効果を得る。アニメ版のあのシーンの那珂ちゃん好き。


343 : ダガー・モールス&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/04(火) 06:40:02 tWwsX6y20

【宝具】
『艤装』
ランク:C 種別:対艦娘 レンジ:1-10 最大捕捉:6
自身の足元と進路に対して限定的に海を再現することによって水上と同じように行動が可能になる。
魚雷についても同じく魚雷の現在地と進行方向に海を再現することで自身と敵までの地中を潜行する。
この宝具開放中は常時一定量の魔力を消費し続ける。最大捕捉は両足+四連装魚雷で6。

『改ニ』
ランク:C 種別:改装 レンジ:1 最大捕捉:1
・那珂ちゃん誕生から48時間経過
・戦闘回数が3回以上
・戦闘において判定C(戦術的勝利)以上の判定が1回以上
・戦闘中に恋の2-4-11を1回以上歌っている
以上の4つの条件が揃うと令呪を一画使用することでステータスを改ニに変更出来るようになる。
条件を満たすとなんか光出すらしいので、それが目安となるだろう。

『恋の2-4-11』
ランク:C 種別:変則固有結界 レンジ:2、4、11 最大捕捉:99
那珂ちゃんと言えばこの曲。中の人が公式イベントで歌ったので無事宝具入り。
曲が続く間レンジの示す場所に居る相手の行動を全てキャンセルし続け、自発的な行動を不可能とする。

効果時間はイントロから曲終わりまでの4分31秒。
その間にマスターが敵を説得するもよし、曲合間に那珂ちゃんが魚雷をぶち当てるもよし。応用は無限大。
ただしレンジから一歩でも外れれば行動が可能になる上に一度発動すれば那珂ちゃんはアイドルとしての常識として歌い切るまで戦闘離脱が不可能になる。
更に変則的ながら固有結界であるため魔力消費も高く、戦闘中『艤装』によって魔力を消費していく那珂ちゃんの性能を考えれば諸刃の剣である。

【weapon】
・14cm連装砲
・61cm四連装(酸素)魚雷
(・なし)
改ニになれば電探も手に入る。

装備は近代兵器をつけることも可能。
那珂ちゃんはアイドルなのでそれなりに使いこなしてくれるだろう。

【人物背景】
艦隊のアイドル! 那珂ちゃんだよー☆
よっろしくぅー☆

本来、アーチャーで那珂が呼ばれたならば第四水雷戦隊を宝具として有するが、ダガーの『音楽で世界を征服する』という願いが干渉し、軽巡洋艦那珂ではなく艦隊のアイドル那珂ちゃんとして呼び出されてしまった。
そのため、スキルも艦娘+アイドルという変則構成になり、宝具も四水戦ではなく持ち歌が入っている。
好戦的、とまではいかない性格であるがそれでも軍人の現役時代の英霊なので敵は敵として戦える。サーヴァント相手には容赦せずに戦闘が行えるだろう。
ただ、マスターやNPCを殺すことには反発を抱く可能性が高い。


344 : ダガー・モールス&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/04(火) 06:40:38 tWwsX6y20

【マスター】
ダガー・モールス@SHOW BY ROCK!!(アニメ版)

【マスターとしての願い】
平行世界を含めた全世界の音楽による支配

【能力・技能】
音楽審美。
音楽によってすべての次元の世界を掌握しようとした生き物。
音楽の良し悪しについておそらく世界最高峰の審美能力を持っている。

平行世界干渉。
聖川紫杏を呼び出し、自身が新宿に逃げ込んだ際に使った力。
多大な魔力と平行世界の鍵を必要とするため現在は使用できない。
もしも多大な魔力と平行世界の鍵という条件が揃えば平行世界から誰かを呼び出すことや逆に平行世界に誰かを送ることも出来る。

ダークモンスター化。
最終話で見せた例のあれ。音楽という神秘を纏い巨大なモンスターと化す。
発動には那珂ちゃんの心にも宿っているだろうメロディシアンストーンを奪い取り、音楽の力を増幅する必要がある。
那珂ちゃんとの融合で発動できるため、サーヴァントにもダメージが与えられる。更に音楽以外の干渉の効果を大幅に削減できる。

ミューモン。
見た目が人間ではないのでマスターだとバレやすい。
更に体内のメロディシアンストーンのおかげで良質な音楽を聞くと生命力が湧いてきて魔力が補充できる。

【方針】
再び音楽による世界の支配を目指す。
聖杯の有無は問わず、サーヴァントを失ったとしてもこの方針は変わらない。
もし那珂ちゃんが消滅したら、UVMの社長として聖杯戦争とは別の所で世界征服に勤しむことだろう。

ダガー・モールスとして音楽を含んだ文化人サイドの人間に目星をつけ、那珂ちゃんに遠征してもらう。
ダガーは戦闘能力が全くないので出まわらず、メロディシアンストーンを利用してガンガン魔力を精製するのが主な役割。
那珂ちゃんは性能自体はそこまで突出はしていないが安定した性能を誇るため、普通の聖杯戦争なら素の殴り合いでも負けにくい。
戦闘回数を重ねることは改ニの条件でもあるので戦闘に積極的に挑まなければならない。
大破轟沈システムを利用すれば那珂ちゃんはボロボロになっても生き延びるのでいっぱい無茶してもらおう。
遠征時の大破回収用・改ニ用と令呪が結構必要になるので令呪があるなら積極的に拾いに行きたい。


345 : ダガー・モールス&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/04(火) 06:40:49 tWwsX6y20
投下終了です


346 : ダガー・モールス&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/04(火) 06:48:15 tWwsX6y20
投下してすぐで申し訳ありません修正です
宝具『改ニ』の戦術的勝利に関してですが正しくは判定Bです


347 : ◆3SNKkWKBjc :2015/08/07(金) 08:27:43 PIG36tSo0
皆様投下乙です。私も投下させていただきます。


348 : 機械人形は喋らない ◆3SNKkWKBjc :2015/08/07(金) 08:28:29 PIG36tSo0
<新宿>はかつて大地震による被害に見舞われた。

復興には時間と人材と資金を要する。

全てをつぎ込んだことにより、<新宿>は念願の平穏を掴み取る事ができた。



そして――平穏な<新宿>で聖杯戦争の幕が上げられる。





聖杯戦争、サーヴァント、マスター。
何でも願いが叶う。
全てを把握した少女は、ぬーんと呆けている。

「市松は色々お願いはありますが、一体どうすればいいのでせうか」

と、少女――市松こひなは言う。
確かに願望機は夢のようなものであるが、いざ何を願うか想像してみると何も浮かばないものだ。
さておき、もう一つ重要な事実がある。

こひなのサーヴァント――バーサーカーの姿がどこにもない。
何も始まらないので、そのバーサーカーを探そうと立ち上がったこひな。
先に腹の虫が鳴った。

腹が減ってはなんとやら
こひなは遠慮なく好物のカプ麺(カップラーメンのこと)を幾つか取り出し
夕飯のカプ麺をその中から一つ選び、お湯を注ぎ終えた。

瞬間! こひなに電流が走る!!!

視線を感じる。
異常な視線に対し、こひながハッと顔をあげ、周囲を見渡す。
日本ではよくある押し入れの襖がほんのわずか開いており、隙間から何かが覗きこんでいた。

人形。

大人一人が入る着ぐるみと称した方がいいかもしれない。表情の変化のないソレが、こひなに視線をぶつけている。
間違いなくソレがバーサーカーであろう。
さすがのこひなも無言になったが、双方共に動きはなかった。

「……狼のバーサーカーさん?」

動物の狼っぽい外見なので、こひなはそう呼ぶ。
返事もないし、動きもない。
ぬーんと様子を伺ったこひなだが、いつの間にかカプ麺が完成していた。

「これは市松のカプ麺なのです。譲る訳にはいかないのです」

呼びかけてみたがバーサーカーは微動だにしない。
反応なし。
そもそも人形で、バーサーカーなので理解力があるかも不明。
こひなはぬぬと心の奥底で思う。

バーサーカーも人形、そして自分も『人形』
人形の頂点をかけた戦が今ここで火ぶたを切られたのだと。


349 : 機械人形は喋らない ◆3SNKkWKBjc :2015/08/07(金) 08:29:02 PIG36tSo0



朝。

「市松は学校に行きます」

そう宣言するこひなを余所に、バーサーカーは玄関近くの扉の隙間からそれを見届けた。

こひなは相変わらずの日常を送っている。
ただの小学生。
復興した<新宿>の学校――生徒数は多いとは呼べないほどであったが、そこへこひなが一人加わった。
そんな状態。
居候のコックリさんたちがいないだけで、こひなは以前と変わらぬ生活と感じている。
相変わらず、子供一人に対して広々とした一軒家が<新宿>に用意されており、こひなだけが住んでいた。

一方で、コックリさんたちのいない生活はちょっぴり寂しく、物足りない。
バーサーカーがいるものの。
バーサーカーは喋らないし、動かない。
彼の性格(人形にあるのか定かではないが)も知らないこひなはぼやく。

「狼はイヌ……」

狐。
狗。
狸。

最終的に狼。

………憑き物についての議論は置いておく。

今日も小学校が終わり、いつも通りの下校が始まる。
ただ、こひなの耳に物騒な話題が入ってきた。
それは子供を迎えに来た母親たちの立ち話であったか、スーパーでの店員同士の他愛ない話であったか
家電販売の店から流れたニュースキャスターの読み上げであったか
どこで聞いたかはともかく、内容はこういったもの。


変死体

死亡推定時刻

深夜2時


「バーサーカーさんは押し入れで引きこもっていたのです」

こひなは言い聞かせるかのように言う。
自分がカプ麺を食べ、そのまま押し入れの前で爆睡したから、きっとバーサーカーは外出していない。
……………はず。

「……嫌な予感」

こひなは足を止めた。
最悪のシナリオが想像できてしまう。
バーサーカーは滅多に動かないと思うが、こひなのいない間に動いているのかもしれない。
彼女が熟睡している間に、何かしでかしているかもしれない。
何故、こひなが例の噂に敏感なのか?
それはバーサーカーのある宝具を警戒しての事なのだ。


350 : 機械人形は喋らない ◆3SNKkWKBjc :2015/08/07(金) 08:29:31 PIG36tSo0



「バーサーカーさん、白状するのです」

時刻は深夜0時。
子供が寝る時間はとっくに過ぎていた。
こひなは、夜食用のカプ麺を用意し、万全の態勢でバーサーカーのいる押し入れの前でスタンバイする。

「証拠は揃っています。質問はすでに拷問に変わっている――なのです」

深夜0時から朝6時。
この時間帯のみ、バーサーカーの宝具が発動してしまう。
一応、マスターのこひなには無害であるらしいが、それ以外には無差別なのだ。

「正直にお話しすればこのカツヌードルを差し上げます」

バーサーカーは相変わらず隙間から様子を伺うだけで何もしない。

「ほう、市松と持久戦をするのでせうか。上等なのです」





「市松の思いこみだったのです」

朝まで持ちこたえたが、結局バーサーカーはピクリともせず、時刻は6時を迎えた。
一先ず、こひなはいつも通り学校へ向かう準備を始める。

「ぬ?」

すると、押し入れからバーサーカーが姿を露わにするように出て来る
こひなは動じることもなく、バーサーカーの全貌を知った。

「海賊さんでせうか?」

よく見れば海賊がよく身につけてるフックや眼帯のある容姿で……バーサーカーは狼?の海賊だった。
こひなとしては、押し入れからの引きこもりを止めただけで十分な成長だと感心する。

「バーサーカーさん、お留守番よろしくなのです」

そして、平凡な日常を繰り返す。
こひなは疑念を覚えるどころか、安心を獲得していた。
人形だと自称する変わった少女・こひな。
しかし、彼女も結局のところは少女で、子供だった。

バーサーカーに話は通用しない。バーサーカーは全うな理性などありはしない。
彼女は未だそれを受け入れきれていなかった。


351 : 機械人形は喋らない ◆3SNKkWKBjc :2015/08/07(金) 08:29:53 PIG36tSo0



ある空き巣の話をしよう。

彼はある日の深夜、<新宿>の住宅街にある一軒家へ忍び込もうとしていた。
この辺りは警官の巡回が手薄であることを事前に下調べしており、さらには侵入しようとする一軒家には
子供一人しかいないことも把握している。
どうして、子供一人だけ暮らすのを周囲の人間は気に留めないのか?
まあ、近年では両親が共働きしたり、出張や、酷い話だが育児放棄なんてこともある。

何であれ、空き巣からすれば子供の事情などは然したる問題ではない。
要するに恰好な獲物という訳なのだ。
彼が周囲を見回してから、手際よく忍び込もうと身構えた時。
一軒家の扉がわずかに開かれているのに気づく。

おや、もう誰か『入っている』のだろうか?
空き巣が隙間の闇を覗き込むと、着ぐるみのような何かがこちらを覗き見していた。


我に返った時。
空き巣は踵を返し、復興により賑わいを醸し始めた都心へ足を運んでいた。
俄かに信じられなかった空き巣だが、改めて思う。

アレはヤバい奴だ。

生まれて今日まで幽霊だとか悪魔だとか、胡散臭い都市伝説なんて信じた事もなかった彼だが
あの妙な――狼のような着ぐるみ、いや人形かも……今となってはどうでもいいが
とにかく、アレはやばい類の存在だと感じた。


アレは一体なんなんだ?
子供のいたずらとは思えない。
そもそも、真夜中に着ぐるみを被り、外を覗き見てるなんて常軌を逸脱してないか?
よく分からない。
ああ……多分、理解しちゃ駄目なんだろうな。
人間本能でやばい存在をやばいって反応できるのはマジなんだな。
アレは本当にやばい奴だ。
人間だとしても、化物だとしても関わっちゃいけない。
もしかしたら――
これ以上、悪い事をするなって警告してきた神様が見せた幻覚か何かかもな……
今日はもう帰って寝るとするか……


その後の空き巣を知る者はいない。






                IT'S ME


352 : 機械人形は喋らない ◆3SNKkWKBjc :2015/08/07(金) 08:30:29 PIG36tSo0
【クラス】バーサーカー
【真名】フォクシー(Foxy)@Five Nights at Freddy's
【属性】秩序・狂

【パラメーター】
筋力:C 耐久:C 敏捷:A+++ 魔力:B 幸運:A 宝具:EX


【クラススキル】
狂化:EX
 全ステータスを上昇させ、理性の大半を奪われてしまう……のだが
 バーサーカーは海賊フォクシーのキャラクターを持つ。それらしい行動を優先する。
 会話はしないが、ダムダムと謎めいた歌を口ずさむので声は発せる。


【保有スキル】
アニマトロニクス:B
 バーサーカーは霊体化することができない。代わりに、実体化を保つ魔力消費が不要。
 戦闘時以外ではステータスを隠蔽し、ただの人形、もしくは着ぐるみと認識させる。
 見抜くには同ランク以上の直感等の看破能力が必要。

視線:EX
 自分を見ている者の位置を何となく把握し、追跡をする。
 監視カメラのような媒体ごしの視線でも感じ取れる。


【宝具】
『Freddy Fazbear's』
ランク:E 種別:対人 レンジ:- 最大補足:3人(4人)
バーサーカーと同類の機械人形、フレディ・ファズベアー、ボニー、チカを召喚する。
彼らは「単独行動:E」のスキルを保有しており、バーサーカーを手伝う。
低確率だが、ゴールデン・フレディなるものが召喚され、目視した対象に必ずスタンを与える。
スタンは幸運判定に成功するか、しばらくすれば回復可能。
バーサーカーが捕らえた者を押し込む着ぐるみもこの宝具の一部に含まれる。


『0:00 AM~6:00 AM』
ランク:EX 種別:対人 レンジ:1 最大補足:1人
深夜0時から午前6時のみ発動する宝具。
この時間帯になるとバーサーカーはマスター以外の者を全力で殺しにかかる。
シャイな行動パターンは相変わらずなものの、捕捉範囲と感じれば全力疾走で急接近し、相手を捕らえようとする。

詰め込むことが可能な対象であれば
バーサーカーは捕らえた者を梁やワイヤーが詰っている着ぐるみの中へに押し込む。
いかに対象が頑丈であっても押し込まれ、対象が不死であれば人形の中で永遠に死に続ける。
そして、そこから逃れる術はどこにもない。

即ち、捕まったらお終い。



【人物背景】
恥ずかしがり屋の海賊の狐。よく狼と間違われるが狐である。
茶色のパンツと、右目に折りたたみの眼帯、右手に海賊のフックを付けている。
犬のように鋭利な歯があり、金歯も混じっているようだ。
原作とは違いサーヴァントとして万全の状態で召喚された為、酷い損傷はない。

【行動パターン】
テンプレ的なバーサーカーの場合、戦場特攻が恒例行事だがこのバーサーカーはそれがほぼありえない。
特攻はせず、まずは物影から覗き見する事が圧倒的に多い。
これは決して相手の隙を伺っているのではなく、恥ずかしがり屋のフォクシーとしての行動である。

『0:00 AM~6:00 AM』の発動時間では本気で殺しにかかるが
捕まえれば相手を即死させられる為、いつになくバーサーカーから襲撃をしかける頻度が増えるだけで
宝具が発動していない場合でもバーサーカーから襲撃する可能性はある。

結論を言えば、行動パターンを予測する事は不可能に近い。


【サーヴァントとしての願い】
?????





【マスター】
市松こひな@繰繰れ!コックリさん

【マスターとしての願い】
まだ考えている

【能力・技能】
家系の事情で魔力はある。

【人物背景】
生物学上人間だが、人形を自称する電波少女。
笑うと目とか取れる。低確率に作画解放し美少女になれる。

【方針】
バーサーカーの宝具『0:00 AM~6:00 AM』を理解しており、それが発動し、殺戮するのを警戒している。
取り合えず、他のマスターかサーヴァントと接触してみたい。


353 : ◆3SNKkWKBjc :2015/08/07(金) 08:30:51 PIG36tSo0
投下終了です


354 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/07(金) 19:51:44 kFjx3eLU0
皆さん投下乙です。私も投下させていただきます


355 : 常世之篝火 ◆GO82qGZUNE :2015/08/07(金) 19:53:09 kFjx3eLU0
 そこは一分の隙もなく塗りつぶされた闇だった。
 気が付けばそこは尋常な空間ではない。店内の様相はそのままに、その周りの景色は、闇の荒野に浸食されていた。
 砂色の荒野が地平線まで続き、空は、彼方は、ただ一面の闇だった。
 荒野にはオベリスクのような奇妙なオブジェが点々と続き、それがただの荒野よりもなお荒涼とした雰囲気を強調していた。

 それは石のようでもあり、金属のようでもあった。
 また彫刻のようでもあり、機械のようでもあった。
 真新しいようでもあり、風化しているようにも見える。
 目的があるようにも見え、無意味にも見える。

 荒野にはひたすら、そんな物体が重力を無視して伸び上がり、斜めに傾ぎ、あるいは大きく弧を描いて、廃墟の如く彼方まで点々と続いていた。
 闇だというのに、荒野は地平線まで見渡すことができた。月明かりでも照らしているように、大きな篝火でも燃やしているように、どこまでも見渡せた。それでいて光など、どこにも存在しない。

「……それでは幻想と願望、そして宿命についての話をしようか」

 そこは自分ひとりではなかった。その声が聞こえた途端、周囲の闇の気配が一つの人間の形へと集束した。
 少女と背中合わせに立つ、黒衣の男の気配。
 それは影、それは幻、夜色の外套を纏った黒の男。
 振り向かずとも分かる。三日月に歪んだ嗤い顔が。彼を成すあらゆる全てが。
 それは大昔から知っている知識のように、本能的に理解できる。それはあたかも彼が、人間の潜在意識に刷り込まれている普遍の存在であるかのようだった。

「……あなたが、私のサーヴァント?」
「その通り。私の名前は神野陰之。君の認識で言う《キャスターのサーヴァント》だ」

 暗鬱とした声が響く。それは無明の闇に沈むように、広陵の空間に溶けて消えていく。
 全てが歪だった。男の嗤い声はそのままに、唐突に尋ねてきた。


356 : 常世之篝火 ◆GO82qGZUNE :2015/08/07(金) 19:53:50 kFjx3eLU0
「君は、定命の存在をどう思うかね?」
「羨ましいです」

 即答だった。定命、すなわち寿命のある生き物。それがとても羨ましいのだと、影に相対する少女はそう言った。
 男の笑みが深みを増す。少女には、それが黒に浮かぶ切り絵のようにはっきりと幻視できた。

「実直だね。そして賢明だ。永遠に意味など存在しない。死が無意味であるならば、その生もまた無意味であるのだから。
 では君は、世界というものがたった二つの要素で構成されていると感じたことはないかね? すなわち―――『出会い』と、『別れ』に」
「どちらも同じだと思います」

 だって、私は永遠に追いつくことができないから。
 喉元まで出かかった言葉を、すんでのところで呑み込む。そんなことまで言う必要など何処にもないのだから。
 男はくつくつと嗤う。こちらの意図を見透かして、それを睥睨しているかのように。

「なるほど、君は真に賢明な者であるようだ。しかし悲しいかな、君に狩人の素質はないらしい。
 優秀な狩人は君と同じ答えを返すが、真実として語られるそれとは違い、君の答えは単なる結果論だ」

 未だ嗤い続ける影と違い、少女のほうは理解できない、という表情をしていた。この状況も、質問の意図も、何もかもが不透明だ。

「……あの、質問はもういいです。それよりも」
「それよりも、自らの願望を叶える方法を知りたい。そんなところかな?」

 瞬間、少女の背筋に激しい怖気が奔った。
 その甘い、纏わりつくような声が、どろりと粘性を帯びて耳の中を流れたのだ。その異様な感覚に、生理的な悪寒が駆け巡る。

「だが、私が君の願望を叶えることはない。何故なら、君では『願望』が足りないからだ」
「それは、私に従うことはできないということですか?」
「いいや違うとも。君と私の間には既に主従の契約が結ばれている。この聖杯戦争において、少なくとも君の身の安全は約束しよう。
 無論、この契約をも超える願望が現れない限りは、だが」

 はぐらかすような言葉だった。
 背後の闇が蠢き、腕を動かすような気配を感じ取る。

「宿命の話は終わり、既に願望へと話は移った。
 君は願いを叶えたいのだと言ったね。自らにないものを手に入れようとする行為は、しかしこの魔都新宿においては闇の中を手探りに彷徨うことに等しい。人間の目は二つしかなく、闇を見通せる猫の目でもない以上、それは自殺行為と言える。
 その場合……そう、闇の中を真っ直ぐ進みたいのなら、君はどのような対策を取るかね」

 少女は少しだけ考える。少し、精神が落ち着いた。


357 : 常世之篝火 ◆GO82qGZUNE :2015/08/07(金) 19:54:30 kFjx3eLU0
「……明かりをつけます」
「正解だ」

 ぼぉ、と少女の手の中に微かな光源が生まれた。それは不思議と熱くなく、しかし心地よい暖かさを少女に与えた。

「ひとつの篝火では闇の全てを払うことは叶わないが、それでもしるべとすることはできる。
 勿論、物理的な闇をどうこうするような代物ではないが、少なくともこの篝火は君を導いてくれるだろう。呪具のようなものだ、受け取りたまえ」

 言葉が終わると同時、少女の掌で揺蕩っていた光はすぅ、とその内に吸い込まれるように消えて行った。
 困惑する少女を知ってか知らずか、男は更に言葉をつづけた。

「ある特定の地域において、篝火は豊穣と再生の象徴だったそうだ。だが同時に、篝火は死の象徴でもある」

 死。それは少女が追い求めてやまないものだ。勿論ただの死ではない。それは、魂を得ることだ。
 キカイ人間の少女には魂がない故に。果て無く、それを追い求める。

「篝火は死の属性を持つが、それが意味するのは供儀の象徴だ。迎え火や送り火とも呼ばれるそれは、すなわち魂の導き手ということだね。彷徨える死者を導き、あの世とこの世の架け橋となる。
 ならば、君を導く『それ』は、果たして生と死のどちらへ誘うのだろうね」

 豊穣の生か、供儀の死か。
 少女は何も答えない。男はただ嗤うだけだ。

 それは人のような嘲笑であって。
 しかし闇のような胎動であった。

「私は『名付けられし暗黒』にして『全ての善と悪の肯定者』。あらゆる願望は、その当人の手によって成就されなければならない。
 君は、あくまで君の手によって聖杯を獲得したまえ。君の物語は永遠に続く。ならばそれに終止符を打つべきは、やはり君しかいないのだから」

 ――――――――――――――――――――――――――――――

 ……気が付けば。
 私は、元の雑貨屋の椅子に座っていて、どうやら眠りこけていたようだった。

 ここは新宿の一角にある寂れた雑貨屋。商品はそれこそ手当り次第集めてきたと言わんばかりに溢れていて、正直私の目からすればガラクタにしか見えないものばかりだ。
 中には当然ぼろぼろに古びたものもあって、見様によっては道具の墓場のようにも思えてくる。

「……そういえば」

 そういえば、昔店長が言っていた。「長い歳月を経れば道具にも魂が宿ることがある」と。
 ここにあるのは正真正銘長い歳月を経てきたものばかりだ。けれど、どうにも魂が宿っているような気配はない。

「やっぱり、嘘だったのかな、あれ」

 膝を抱え込んで顔を埋める。意味などないけど、そうしていると少しは気が紛れた。

 永遠を生きるのも、聖杯を得るのも、どちらも気の遠くなるような話だ。
 けれど、それでも。いつか私にも魂が宿ることがあれば。

 それは至上の幸福だと、私はそう思うのだ。


358 : 常世之篝火 ◆GO82qGZUNE :2015/08/07(金) 19:56:00 kFjx3eLU0
【クラス】
キャスター

【真名】
神野陰之@missing・夜魔

【ステータス】
筋力??? 耐久??? 敏捷??? 魔力??? 幸運??? 宝具EX

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:EX
独立した異界を創造可能。

道具作成:A++
魔力を帯びた呪術的器具を作成できる。

【保有スキル】
精神汚染:EX
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を完全にシャットアウトする。ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。
彼が話す言葉は真実なれど、その実態は狂人の戯言にも等しい。そも、既に彼の自我は消え失せている。

神性:EX
神霊適性を持つかどうか。

遍在:EX
キャスターは他者の認識によって存在するため、観測者と成り得る者がいればどこにでも現れる。故に、キャスターに時間や距離などといった概念はなく、滅びるということもない。およそ人の手の及ぶあらゆる場所に遍在していると言っていい。

夜闇の魔性:EX
キャスターの姿を目撃した者に精神・幸運判定を行う。
この判定に失敗した場合、最小では恐怖で体が硬直する程度の、最大では発狂する程度の精神ダメージを与える。
精神耐性系スキルで無効化可能。

???:EX
??????

【宝具】
『名付けられし暗黒』
ランク:EX 種別:概念宝具 レンジ:不明 最大捕捉:不明
かつてキャスターが手に入れた、闇という概念が保有する権能。これによりキャスターは極めて概念的な存在となっている。
キャスターは自身の願いを持たないが、故に他者の願いを自動的に叶える存在でもある。叶えるべき願望が湧きあがった際、距離や時間を無視してその当人の前に姿を現す。
ただし、彼が叶える願望はそれ自体が強い力を持っていることが前提となる。正気にては大業ならず、狂気にまで堕ちぬ願望など願望ではない。故に、些細な願いすら無制限に叶えて回るということでは断じてない。
なお、願望の叶え方にしても順序や手順を無視して最終の結果だけ叶えることはない。あらゆる願いはその当人によって叶えられなければならないという関係上、彼が成すのはあくまでその手助けのみ。最後は自分で歩まなければならない。
また叶えるべき願望同士が衝突してしまった場合、より強い願望を優先して成就させる。


359 : 常世之篝火 ◆GO82qGZUNE :2015/08/07(金) 19:56:29 kFjx3eLU0
【weapon】
影で覆うことで生皮を引っぺがす。すごく痛い。

【人物背景】
名付けられし暗黒。夜闇の魔王。原初の魔人。叶える者。受肉した神の片鱗。いと古き者の代行者。全ての善と悪の肯定者。
かつて"根源"へと行き着き、闇に自らの名を売り渡した魔術師。今や彼の名前を呼ぶことは闇の名を呼ぶに等しい。
願いを叶えるべく魔法へと至ったが、彼自身が魔法になったことで自分の願いを失ってしまった。故に、彼は他者の願いを叶えるだけの現象と成り果てている。

【サーヴァントとしての願い】
彼は自身の願いを持たない。

【運用方針】
キャスターを能動的に活用するのは非常に難しいと言わざるを得ない。
誘蛾灯に集る虫のように、願望に惹かれてはあっちにふらふらこっちにふらふら。サーヴァント契約に基づきマスターを守護してはいるが、自発的に戦闘することはまずないため専守防衛となってしまう。



【マスター】
キカイ人間の少女@あかりや

【マスターとしての願い】
置いて行かれたくない。

【weapon】
なし。

【能力・技能】
人間ではなくキカイ人間。つまりロボットに近しい存在。経年により確固たる自我を有し、しかし魂は存在しない。

【人物背景】
永遠を生き、自死することもできない機械人間。元々自我は薄かったが、時を経るごとに人間らしさを獲得していった。
目的は、かつて置いて行かれ永遠に追いつけなくなってしまった人たちとの再会。死者の門の向こうに行くために死者のランプを探し求めていたが、魂がない故に門を超えた先には何もなかった。

【方針】
自らの願いを叶えたい。しかし誰かを犠牲にすることには躊躇いを覚える。


360 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/07(金) 19:56:49 kFjx3eLU0
投下を終了します


361 : ◆zzpohGTsas :2015/08/08(土) 00:59:46 VgmS5vyU0
皆投下してくれてウレシイ……ウレシイ……(ニチニチニチ)
感想は本当にもう少し待ってください、お願いします。

あと、投下します


362 : LOVE SICK ◆zzpohGTsas :2015/08/08(土) 01:00:22 VgmS5vyU0





   ぞっとするステュクス、死のような憎しみの流れ

   黒く深い悲哀の河、いたましいアケローン

   恨めしい流れのほとりに聞こえる高声の悲鳴からその名を得たコーキュートス

   ほとばしる火の滝が怒りに燃えるプレゲトーン

   この水を飲むものは前世の様も存在も一瞬にして忘れ

   喜びも悲しみも、楽しみも苦しみもすべて忘却の彼方へ消しさってゆく


                                   ――ロングフェロー、オリオーンの掩蔽




.


363 : LOVE SICK ◆zzpohGTsas :2015/08/08(土) 01:01:44 VgmS5vyU0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 山吹町のある一軒家に住んでいる、大手銀行の重役を務める男性、高橋君彦の休日は、愛犬のコメットの散歩から始まる。
コメット、つまり、英語で彗星を表す名前を与えられたこのシェパード犬は、名の通り彗星のような速度で疾駆する事が名前の由来であった。
ボールを投げればボールが落ちるよりも速く落下地点まで到達するし、フリスビーを投げればそれが落ちるよりも速く着地点へ移動、飛び上がって咥える程だ。
それに加えて、その気性の勇猛な事。主の高橋とその家族には忠実である一方で、気心の知れない人間には敵愾心を忘れない。番犬の鑑のようなシェパードだった。
夜中の遅くにたまに吠えている場面に出くわした事もあるが、きっと知らず知らずの内に、家主が眠っているのをいいことに盗みを働く空き巣の防止にも、
一役買っているに違いない……と言うのは、買いかぶり過ぎかもしれない。どちらにしても高橋家の立派な家族の一員である事には、代わりはなかった。

 そのコメットの様子が、此処最近芳しくない。何と言うべきか、今までの気性が嘘のように萎え、犬小屋に引きこもり大人しくしているのだ。
獣医の所に妻が連れて行った所、別段どこも異常はない。餌が気に入らないのか、とも思ったがそうでもないらしい。
まさか歳の筈はあるまい。コメットはまだ四歳。まだまだ遊びたい盛りの若い犬であった。

 コメットの様子はどうも、何かに怯えている、と言った方が妥当なのかも知れない。 
まるで犬の目にだけ映る、幽霊か、それに類する存在が近くを取り巻いているのではないか、と言うみたいな……。それが、自信のなさに繋がっているのか。
どちらにしても、コメットがこのような様子を見せるようになったのは、本当にここ数日の事だ。
些細な事でいつもの勇壮さを取り戻すかも知れない。そう願い、高橋は早朝の、昼に比べてそれほど暑くない時間帯に外へと出、コメットを散歩に連れて行った。
こうすればコメットも気が晴れ、行く行くは以前のような溌剌とした性分を取り戻すかもしれない。そう考えたのである。

 最初の方は散歩に対して難色を示していたコメットであったが、やがて、渋々、と言った様子で主に従い、散歩へと向かった。
今の季節は日が昇るのが早い。十二月の真っただ中の時は、六時も半を回っていると言うのに、まだ仄暗かった程だ。
それに比べたら、今の季節の早朝の、何と明るい事か。高橋にとって、このような早朝の方が散歩に向いている。気温の暑さを除けば、であるが

 いつもの散歩ルートとは別に、今度は別のルートを通ってみようと思い立った高橋。
ルートを回り終え、家へ戻るルートを辿ろうとするが、道の途中で違う道へと迂回を始めた。
その道を十数歩歩いた、その時だった。コメットが、『おすわり』の体勢から一歩もその場から動かなくなった。
リードに軽く力を伝えさせるコメットであったが、その場から一歩も動かない、動かせない。狛犬の石像にでもなったかのようだった。


364 : LOVE SICK ◆zzpohGTsas :2015/08/08(土) 01:02:04 VgmS5vyU0

「どうした? 暑くてバテちゃったのか?」

 言ってコメットの方に近付いて行く高橋。すると、コメットの表情に気付いた。
何年も付き合った飼い主ならば、犬の表情と言うものが解る。今のコメットはあからさまに何かに怯えていた。
くぅん、と、悲しげな泣き声を上げて飼い主の顔を見上げるコメット。犬の言葉は解らないが、今の高橋は、コメットが何を言わんとしているのか、
何となくだが理解していた。勘弁してくれ。恐らくコメットは、そう言っているに相違ない。

「何だぁ、何に怯えてるんだぁコメットぉ。しょうがない奴だなぁ……そらっ」

 言って高橋は、コメットを抱きかかえ、そのルートを進もうとした。
犬の体毛と体温が衣服越しに伝わってくる。全く暑苦しい。犬好きを自負する高橋だったが、炎天下スレスレのこの天気で、犬を長い時間抱きかかえる気にはなれない。
身体中から汗が噴き出て来る。早くこの場所を通り過ぎ、適当な場所でコメットを下ろして散歩をしよう。そう思った――その時だった。

 体中から流れる汗が、下に落ちるのではなく、上に上って行く様な……重力が反転したような感覚を覚える高橋。
身体から噴き出る汗が、妙に冷たい。何だ、この、体中に叩き付け、浴びせかけてくるような、猛烈な鬼気は。
宛らそれは、目の前に餓えた獅子が自分を睨みつけて来るような感覚。今にも殺されると言う事が解りきっている、そんな感覚。

 コメットの体温が、心なしか下がり、氷のようになっているようだと高橋は思った。
ああ、犬も恐怖が度を過ぎれば、冷や汗をかくのだろうか。そんな事を心の何処かで考える高橋。
この先には、行ってはいけないと、理性よりも根源的な本能が告げている。人間として積み重ねて来た知恵や理性ではない。
動物的な本能が語っている。この先に行けば、命はない。およそ確証も何もない直感だが、何故だろう。それが今は、とてつもなく信頼の出来るものになっていた。

 コメットをアスファルトの上に下ろし、高橋は元来た道を戻り、そのまま家へと素直に帰る事とした。
通勤する時も、何があってもこの道だけは通るまい。そう心に決めた高橋なのであった。

 ――この時、先程自分が通ろうとした通り周辺に、野良猫は愚か、小鳥の一匹、虫の一匹いなかった事に、高橋は気付いてはいないのだった。


.


365 : LOVE SICK ◆zzpohGTsas :2015/08/08(土) 01:02:37 VgmS5vyU0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 この態度、覚えがある。彼はそう思った。
直接そう言った態度を目にした事は、彼には無い。しかし確かに、彼には覚えがあった。
目の前の少女が遠い目で虚空を見つめ、何かが来臨するのを待ち望むその姿。確かに彼は、覚えがあるのだ。
それが何だったかと考える事、幾十分。漸く、その答えに辿り着いた。ああ、この姿は正しく……自分ではないか。
数十年も主を求めて彷徨い、そして……、死んでしまった主を同じ場所で何年も、会いに来てくれないかと主が死んだ場所で待ち続けていた自分と。この少女は、まるで同じではないか。

 少女、『睦月』と言う名前のこの少女は、契約者の鍵と呼ばれる品で自分を召喚、軽い自己紹介を交わしてからずっとこの調子であった。
海外赴任した両親を持ち、一人で済むには些か広すぎる一軒家に住む少女、と言う役割を与えられた彼女。
食事を作ってそれを食べる時と、風呂、そして眠る時以外は、ソファに座り、ただただぼーっとしているだけ。
テレビも見ない、パソコンも見ない。外へも出ない。日がな一日、睦月はそんな態度であった。

 睦月の態度が、大切な人間との死別から来る、半ば現実逃避であると言う事は、彼は気付いている。
はっぱをかけて、喝を入れる事は容易い。しかし、彼は知っている。大切な人との離別は、何よりも苦しく悲しいと言う事を、痛いほど。痛いほど。
昔も彼は、主が死んだという事実を認めきれず、主が死んだ場所でいつまでも動かなかった時期があった。
そんな時があったからこそ、彼は睦月に強く出れない。だが、このままではいけないと言う事も、理解している。
自分に訪れていた状況とは違い、睦月は今聖杯戦争と言う、戦わねばならない状況に身を置かされている。いつまでもこのままでは、自分も彼女も、無意味に死ぬ。
いつまでも、相手の気持ちを推し量ってばかりで、無言を貫いていては、何もならない。自分が、『きっかけ』になる番だ。主の亡霊を待ち続けていた自分に光を差してくれた、あのマダムのように。

「マスター」

 重圧な声が室内に響く。ビクッ、と露骨に睦月が反応。首筋に氷でも当てられたようにソファから飛び上がった。
彼女は彼の姿と、そしてその、心胆を押し潰しかねない程の威圧感を孕んだ声に、未だ慣れていないのだ。

「オ前ニコンナ事ヲ言ウノハ心苦シイガ……心ヲ鬼ニシテ言オウ。現実ヲ見ロ」

「げ、現実……?」

 疑問調子な声色でそんな事を言う睦月。
しかし、彼には解る。睦月が心の奥底では、彼が言う所の現実と言う物を理解していると言う事を。

「……ドンナニ待チ惚ケタ所デ、死人ハ蘇ラナイ」

 睦月の表情が、動いた。驚愕と、悲しみと、憂いを湛えたまま凍り付く。
シンプルで、飾らないが故に、彼の言葉は睦月の肺腑と痛い所を抉り抜くのだ。実際相当堪えているのは、目に見えて明らかだった。

「私が、何を、待ってるって……」

 たどたどしい、幼児の喃語めいた発音で睦月が言葉を続ける。
動揺している事が、子供にも解るであろう。それでもまだ隠し通したいと言うのは、余程、直視したくない現実であるのだろう。
その気持ちはとてもよく、彼には理解が出来る。

「……俺ハ知ッテイル。零レタ覆水ガ盆ニ戻ル事モアル事ヲ。冥府ノ国ヘト向カッタ者ガ再ビ現世ニ君臨スル奇跡ガアル事モ。
ダガ……ソレラヲ成シタ者ハ皆、自分カラ動ク事カラ始メタノダ。マスター。今一度言ウ。死人ハ、オ前ガ動カナイ限リ蘇ラナイ。絶対ニダ」

「そ、んな……し、死んでなんか……如月ちゃんは死んでなんか……」

 否定のつもりで言ったのだろうが、それが、肯定に繋がっている事に、果たして睦月は気付いているのか。
気付いている、らしかった。否定によって自己を保とうとする彼女であったが、現実と言う壁は彼女の前に無慈悲に立ちはだかる。
それを認識し出した彼女は、さめざめと泣き始めた。リビングに、睦月のすすり泣きの声が響き始める。それをただ、感情の読み取れぬ瞳で彼は見ていた。

「如月ちゃん……如月ちゃん……!!」

 睦月の脳裏をよぎるのは、自分の姉妹艦であり、無二の友人であった如月の姿。W島攻略の際に一緒に大海原へと向かい、活躍したであろう友人。
攻略自体は、大成功に終わった。戦略的には、此方側の完全な勝利であると言えるだろう。そう、如月が鎮守府の何処にもいない、と言う事実を除けば。


366 : LOVE SICK ◆zzpohGTsas :2015/08/08(土) 01:02:53 VgmS5vyU0
 ……解ってた。睦月も本当は、解っていた。吹雪や利根、赤城達の態度から、ひょっとしたらとは思っていたのだ。
如月はあの戦いで一人だけ轟沈したのではと、睦月も解っていたのだ。だから彼女は、今までずっと、部屋の中で如月を待っていたのではない。
海の方を見て彼女を待っていたのだ。それは、心の奥底では、如月はもうこの世にいないと言う事を認識している事の、何よりの証左ではないか。
しかし理性は、如月の死を否定していた。いつかきっと、一人遅れて、彼女は鎮守府に戻ってくる。あの笑顔で睦月の所へ向って行き、「ただいま」と言ってくれる。
そんな瞬間を、睦月は夢見ているのだ。それが、ありえない絵空事である事だと、解っていても。

「マスター……、オ前ハ、ソノ如月ト言ウ人物ヲ蘇ラセタクナイノカ?」

「勝手な事言わないで……!!」

 睦月が、鋭くギラリとした光を宿した瞳で、彼を睨みつけた。
眼球が裂けんばかりの敵意が籠っている。それを受けても彼は動じない。堂々たる態度で睦月の事を見据えていた。

「如月ちゃんは、人を殺して叶える奇跡なんて望むくらいなら、望むくらいなら……うぅ……っ!!」

 望むくらいなら、死んだ方がマシ、と、言い掛けたのかも知れない。言葉の途中で、睦月は再び泣き始めた。
聖杯戦争が如何なる戦争か、と言う現実は認識しているらしい。其処の所を確認出来て、彼は少し安心した。
睦月の言う通り、聖杯とは、非常に綺麗な言葉で飾っているが、結局は、参加者の血肉と死を以て成就される奇跡に他ならない。
この覆しようのない事実を認識していると言う意味では、まだまだ睦月は、マシな部類であった。

「優シイ友ダッタノダナ、ソノ如月ト言ウ者ハ……」

 言葉を切り、数秒の沈黙の後、彼は言った。

「俺ニモナ、大事ナ主ガイタ。マスターノ言ウ如月ト同ジデ、既ニ死ンデシマッタ人物ダガナ」

 「えっ」、と。睦月の方から意外そうな声が

「十何年モ一緒ニ過ゴシテ来タ、大事ナ主ダッタ。優シ過ギタ男ダッタサ」

 彼の主は、自由の世界の為の奴隷だった。
ある日突然に日常を壊され、母を鬼に喰らわれ、住んでいた東京を核攻撃され、友の背きにあい、反目しあい、そして殺し合った、悲しい男だった。
如何なる苦境にも屈さず、どんな敵にも負けなかった英雄だった。人に逢うては人を斬り、悪魔に逢うては悪魔を斬る、そんな男だった。
運命は彼に対して苛烈だった。常人であれば凡そ膝を折り得るありとあらゆる艱難辛苦を、運命は彼に与えたもうた。
だが彼は諦めなかった。人の為の世界、誰もが笑いあえる平和な世界を築こうと、彼の心は折れなかった。
彼は、そんな主を支えようと、心に誓った。常に彼は主の傍に立ち、彼と共に喜びを分かち合う無二の友人でもあり、そして同じ戦いを味わい血を流す戦友でもあった。

 主は確かに努力の人だった。誰もが尊敬する英雄だった。事実、人の平和を勝ち取ったかのように見えた。
だが、運命は主の働きを良しとしなかった。彼の主であるその英雄は、殺された。神の僕たる大天使達の思惑で、無数の瓦礫に呑まれ命を絶たれた。
大日如来の化身の一つを斬り、神の炎を意味する名を授かった大天使を屠った男の死を、彼は信じられなかった。
だから彼は、何十年も、主が呑まれた瓦礫の山の近くで、何時までも蹲っていた。いつか彼が何食わぬ顔で彼の元に戻り、そして再び……大破壊前の東京の公園でしてくれたような、ボール遊びをしてくれる日を夢見て。

「オ前ニ会イタイ人物ガイルヨウニ、俺ニモ……モウ一度会イタイ人物ガイル。俺ハ、コノ身ニ代エテモ、彼ヲ呼ビ戻シタイノダ」

 彼の主は、目的の為ならば修羅に身を堕とす事をも辞さない人物だった。
人を斬り、悪魔を斬り、天使を斬り、龍を斬り、獣を斬り、機械を斬り、神を斬り、魔王を斬り、そして、友を屠る男。
主の修羅の一端を最も近くで見て来た彼もまた、目的の為ならば、血肉を喰らう魔獣となる事だって辞さない存在。
聖杯……『神』の薫陶を受けた聖遺物だったが。嘗て神の僕であった大天使の策略で殺された主を、よりにもよって聖遺物で蘇らせる。
これ以上の皮肉と冒涜があろうか。神に対してそのアイロニーを全力で叩き付け、そして、主をこの世に蘇生させる。それこそが、彼の真の目的。睦月に従う理由。
仮に聖杯が紛い物であったとしても、問題ない。叩き潰すだけだ。嘗て偽りの救世主を仮の主と認め、唯一神を粉砕して見せた時のように。


367 : LOVE SICK ◆zzpohGTsas :2015/08/08(土) 01:03:08 VgmS5vyU0
「マスター、今一度問ウゾ。本当ニ、聖杯ハ欲シクナイノカ? 血塗ラレタ奇跡デ蘇ラセラレタ如月ト言ウ者ハ、確カニ憤ルダロウ。
ダガ、死ンデイテハ、怒ラレル事モ、軽蔑サレル事モナイノダゾ。……ヨク考エテ欲シイ、マスター」

「そんなの……会いたいに決まってる!!」

 一際強い大きさ、そして、その大きさに見合った意思を内包した声で、睦月が叫んだ。

「でも、どうしたら良いのか解らないよ……私、私……」

「……人ハ、苦悩シ、後悔スルイキモノダッタナ」

 しみじみと、彼は言葉を漏らす。

「思想ノ違イカラ、友ヲ手ニカケタ我ガ主モソウダッタ。友ヲ斬リ殺シタ後、彼ハ涙ヲ堪エナガラ次ノ戦場ヘト赴イテイッタ。
……涙ハ……俺ハ、流ス事ハ出来ナイ。ダガソンナ俺ニモ解ル。落涙ハ、人ノ美点ダ。誰カヲ案ジテ流ス涙ハ美シイト俺ハ思ッテイル。ダカラ……哭ケ。マスター。今ハタダ、子供ノヨウニ」

「け、『ケルベロス』さん……」

 睦月は彼の方を見て、感極まったような声を上げた。
彼女の目線の先には、尻尾を含めたら全長数m、体高二m程もあろうかと言う、鋼色の毛並みを持った逞しい巨大な獅子が佇んでいた。
彼こそが、睦月の手にしていた契約者の鍵に導かれ、『ビースト』のクラスで<新宿>に馳せ参じたサーヴァント。『ケルベロス』だった。

「……『パスカル』ダ」

「……えっ?」

「ケルベロス。ソノ名前ハ正シイ。ダガ、俺ノ主……フツオトソノ家族ハ、俺ニ『パスカル』ト言ウ名ヲ与エテクレタ。……ソノ名前デ呼ベ、マスター」

 その名は、悪魔の遺伝子を刻まれ、魔獣・ケルベロスとなった今でも忘れる事のない重要な名前。
ザ・ヒーローことフツオと、その家族が名付けてくれた、大切な名前。そして、今では誰も呼ぶ事のなくなったどうでも良い名前。
マダムや、唯一神を葬った救世主・アレフにすら教えなかった名前を、何故睦月に教えたのか。ケルベロス……いや、パスカルにとっても、それは謎だった。

「パス……カル、……う、うぅ……うぇえぇえぇええぇええぇぇええん……」

 フローリングの上にへたり込み、睦月が幼子のように泣きじゃくり始めた。その様子をただただ、ジッと見つめるパスカル。
睦月が如月を思い心の奥底から泣くのも、パスカルがフツオを求めて聖杯へと向かって行くのも。結局は、『愛の病』の成せる業だと。睦月は当然の事、彼女よりも遥かに長く生きているパスカルですら、知る由もない事なのだった。


368 : LOVE SICK ◆zzpohGTsas :2015/08/08(土) 01:03:31 VgmS5vyU0
【クラス】

ビースト

【真名】

ケルベロス、或いは、パスカル@真・女神転生Ⅰ〜Ⅱ

【ステータス】

筋力A+ 耐久A 敏捷A 魔力D 幸運D 宝具EX

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

魔獣:A+
ビーストは人間ではなく、正真正銘本物の魔獣であり、彼の冥府の神・ハデスの薫陶を受けた冥府の番犬である。このランクとなると人語も余裕で解するしそれを喋れる。
しかし、ビーストはあの冥府の番犬のオリジナルではなく、ある一匹のハスキー犬が込み入った事情を経て悪魔になった存在であり、かなり特殊な魔獣である。
Bランク以下の精神耐性の持ち主や、ランク以下の魔獣・神獣・幻想種スキルの動物に対し、強い威圧感を発動させる

【保有スキル】

野性:A+
自然の中に溶け込める性質。五感が発達し、獣と心を通わせる事が可能になる。ビーストは獣そのものであり、その適正は最高クラス。
自らに向けられた害意に対しては非常に敏感に反応し、同ランクの直感に相当する。

動物会話:A++
言葉を持たない動物との意思疎通が可能。複雑なニュアンスや細かい内容も自由に伝えられる。
百獣の王として、あらゆる動物に対しコミュニケーションを取る事が出来、破格の動物会話適性を持つ。
それは最早コミュニケーションと言うより命令に近く、一般的な動物程度なら問答無用でビーストの命令に従うし、判定次第では同じ魔獣や神獣すらも従える事が出来る。
但し命令に関しては、対話している動物が主と強い絆で結ばれている場合には、命令成功率が下がる。

怪力:A+
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

神々の加護:E+++
原典通りのケルベロスであれば、主君である冥府の神ハデスによる、最高レベルの神霊支援行使が行われるのであるが、ビーストはハデスとの繋がりが薄い為、
支援行使は見込めない。ビーストに許されているのは、死後間もない生命体の命を、神々が定めた死の摂理を歪め、生き返らせる行為だけである。

【宝具】

『我が懐に戻れ。真の英雄、我が主(サマリカーム)』
ランク:EX 種別:奇跡 レンジ:1 最大補足:1
冥府の神の番犬であり、彼の薫陶を受ける魔獣・ケルベロスに許された、魔法の領域に完全に足を踏み入れている宝具。
全人類の誰もが認め、連想する魔法であり、そして奇跡の典型例、『死者の蘇生』を成す宝具である。
死後数分以内であり、魂が死骸の近くにあると言う条件さえ守っていれば、如何なる肉体的損傷をも、時間を遡及させて回復させ、死者の復活を成させる。
但し、聖杯戦争に際しては許されざる宝具としてこれはカウントされており、使用には令呪三角の使用が絶対条件。
令呪三角によるバックアップがあったとしても、なお足りない程の魔力が徴収され、この宝具の使用後、ビーストは確実に消滅する。
主であるザ・ヒーローを蘇生出来なかったビーストの後悔と怒りの象徴。遅すぎた奇跡。

【weapon】

体毛:
鋼色の獣毛。非常に頑丈で、物理防御力に優れる。生半な武器系宝具では、傷を負わせる事すら難しい。
また、火の属性を宿した脅威を、そのランクを問わず確実に相手にリフレクトさせる事が可能。

爪・牙:
鋼を引き裂く程の強度を誇る爪と牙。人智を超越した筋力から繰り出される爪や牙の一撃は、非常に威力が高い。

火炎:
口腔から灼熱の火炎を吐きだすだけでなく、火の魔術にも造詣が深い。

【人物背景】

番犬は、主を護れなかった。
 
【サーヴァントとしての願い】

死んだザ・ヒーローの復活。


369 : LOVE SICK ◆zzpohGTsas :2015/08/08(土) 01:03:45 VgmS5vyU0
【マスター】

睦月@艦隊これくしょん(アニメ版)

【マスターとしての願い】

如月の蘇生……?

【weapon】

【能力・技能】

海上での戦闘に優れていたが……今は、艦装を所持していない為、何も出来ない状態。同年代の女子に比べたら、運動神経が良いかも程度。

【人物背景】

友を失った哀れな少女。彼女だけが、その悲しみを背負う事となる。

如月轟沈後から参戦。

【方針】

今はただ、涙が枯れるまで、泣く。


370 : LOVE SICK ◆zzpohGTsas :2015/08/08(土) 01:03:56 VgmS5vyU0
投下終了です


371 : 魔法駄犬育成計画(WITH 黄金P) ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/08(土) 01:27:31 LHL48f5s0
投下します


372 : 魔法駄犬育成計画(WITH 黄金P) ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/08(土) 01:27:49 LHL48f5s0
 <新宿>が先の<魔震>という災害に襲われたことで新宿区内の至る所からは妖気が吹き荒れ、一部の怪生物が生まれた。
 結果として人の住めない地域がいくつか誕生し、その中には今も噴水のように破裂した水道パイプが水を吐き出すことによって湿気った数件の廃墟があった。
 これらは元々は家の見本として木造建築という安上がりな手段で建てられ、当時の好景気の波に乗った中流階層の人々が買うことを期待されていたのだ。
 しかし、その後のバブル崩壊、<魔震>という悲劇の波に呑み込まれて現在は放置されて朽ちてゆく一方となっている。
 妖鼠が腐った床をかじり魔虫が溢れカビが蔓延る。妖気を含んだ腐敗した空気がたち込めるこれらの建物をもはや家とは呼べまい。
 人が住めるようにリフォームするくらいならば潰して新しく家を建てるべきだと誰もが言うに違いない。
 こんな場所に住もうという人間がいれば、であるが。

 そんな廃墟の一つ。とりわけ巨大な家は正に建てた当時の景気の良さを現しているだろう。
 この豪邸は中世の西欧貴族の城をイメージとして建てられたものであり、家というより城に近かった。
 他の廃墟とは異なり大部分が石造りであるため比較的に腐朽しておらず、悪臭もそれほど酷くない。
 その家の中で最も広い部屋であるホールの中央に一人の魔術師がいた。
 何処かから手に入れた家畜の首を刎ねて、その血で陣を描き中央には骨が転がっていた。
 魔術師の男は聖杯を得るために任意のサーヴァントを呼び出す聖遺物を用意していた。この骨がそうだろう。
 そして儀式の準備は完了した。後は儀式を行うだけ“だった”


 そう───全て過去形だ。
 なぜなら男は既に人の形をしていないほど破壊されていたのだから。
 この儀式の場に残されたのは男を殺して令呪を奪った者のみだ。

「『森の音楽家クラムベリーの試験』か」

 殺した方の男は殺された方の男の手記を読んでいた。
 どうやら几帳面な性格の魔術師だったらしい。
 触媒となった遺骨の出所、呼び出されるであろうサーヴァントとそれの運用方法を事細かに記載していた。

 魔法少女『森の音楽家クラムベリー』。
 かつて魔法の国と呼ばれる異国で魔法少女なる超人種に変身できる者を選別し、〝試験〟と称して殺し合わせたバーサーカー。
 自分の参加者として大勢の魔法少女を殺し、その行為が発覚するまで選りすぐった魔法少女を選別した。
 彼女の〝試験〟に合格した者の大半は無論のこと優秀だ。殺し以外でも優秀さを発揮し魔法の国で活躍できたらしい。
 そのためこのクラムベリーとやら、一時期は神格化さえされたらしい。

「ほぅ、よいではないか」

 好感が持てる。
 この時代には無価値な者が多すぎる。
 選別するのは当然だ、それで全滅するならば始めから存在する価値は無かろうよ。

「では来るがいい」

 たった一言。本来呼び出すための呪文など男にとっては何の意味無い。
 王が来いと命じたならば疾く馳せ参じるのが天上天下森羅万象に通ずる道理である。
 そして王命に応える形で夥しい量の魔力の奔流が光を伴って渦巻く。
 まるで嵐の如く強風が吹き荒れるも僅か二秒でそれは止まる。
 そして────

「あ、あの。あなたが私を呼んだマスターですか?」

 犬の格好をした少女がそこにいた。


   *   *   *


373 : 魔法駄犬育成計画(WITH 黄金P) ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/08(土) 01:28:17 LHL48f5s0


 魔法少女『たま』は考える。とりあえず無い頭で考える。

(この人、サーヴァントだよね……?)

 自分を呼んだマスターは目の前の男であることは令呪の繋がりから感じ取れる。
 だがサーヴァントの「他のサーヴァントの位置を感じ取れる」能力はこの男がサーヴァントであることを訴えている。

(でも、サーヴァントが私を呼び出すことなんてできるのかな。でも実際にできているし……)

 何だか分からなくなってきたので取り敢えず聞くことにした。
 自分の昔のリーダーの魔法少女『ルーラ』みたいに聞いたら何でも聞くな馬鹿って怒るかなあと思いつつ、

「あ、あの。あなたが私を呼んだマスターですか?」

 おずおずと聞いてみる。
 聞いた後に後悔した。
 よく見るとこの人恐い。眼が合っただけでもう涙が出そうだ。
 しかし、聞かれた方はというと、

「クックック。そうだとも我がお前のマスターだ。
 サーヴァントを呼び出すのがマスターなのだろう? ならば我(オレ)がマスターに違いあるまいよ」

 腕組みをしながら口角を吊り上げてたまに表面上はにこやかに返事をした。

「よ、よ、よかったです。これで契約は完了しました」

 本当に良かったと心の底から喜んで尻尾を振る。
 たまは犬をモチーフにした魔法少女だ。尻尾もあるし長い爪もある。
 名前はたまだがニャンコではなくワンコなのだ。

「そう、それは良かったな。ところでお前はどこの誰だ?」
「わたしはアサシンのサーヴァントの『たま』と言います。あなたが私の骨を使って呼び寄せたんですよね?」
「いや、触媒ならばそこに転がっているソレが選んだものだ。我ではない」
「え?」

 マスターが指を差した方向には無惨に破壊された男の死体が転がっていた。
 キャワンと犬の如き悲鳴をあげて飛び退く。

「そうか。ソレはどうやらお前の骨を別の者の骨と思って取り寄せたわけか」

 愉悦の笑みを深めながらマスターの男は腕を組んで見下ろしていた。

「あ、あの、じゃあ私って」
「ふむ、どうやらお呼びでなかったみたいだぞ」
「う、そんなぁ」

 ついにたまの涙腺は崩壊した。


   *   *   *


374 : 魔法駄犬育成計画(WITH 黄金P) ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/08(土) 01:28:35 LHL48f5s0


 たまの真名を知ったことで男はたまというサーヴァントがどういう者かを知識の奥より引っ張り出す。
 己の主人を見捨てて死なせ、次の主人は見捨てないで助けた結果、その主人に殺される。
 身体能力が低く、知能も低く忠犬にも番犬にもなれなかった魔法少女。それがたまだ。
 サーヴァントとしてのステータスも低く『臆病』などというバッドステータスまでついている始末。
 端的に言って駄犬、外れサーヴァントと言っていいだろう。
 まともな判断力を有していればこやつに命を預けることなどしない。
 故にさっさと令呪で自害させて他のサーヴァントを召喚するか、奪うかすればいい。
 魔術師ならばそうするだろう。

「良かったな犬よ。他のマスターであれば貴様は用済みだったろうよ」
「え?」
「ああ、この令呪で一言『死ね』と命じて貴様を死なせ、次のサーヴァントを召喚しただろう」
「え? え? え?」

 たまは己の立場を理解したらしい。そしてこう思っているに違いない。
 我もそこらの雑種と同じくたまを殺して次のサーヴァントを呼ぶのかと。

「安心せよ駄犬。だが我の威光に痺れる女子を殺す法は無い。
 その畏怖をもって我のサーヴァントとなることを許す」
「あ、ありがとうございます」

 尻尾をブンブンと振り心底嬉しいことを態度で示すのはまさに犬のソレだった。

「それで駄犬。貴様の聖杯は掲げる願いはなんだ?」
「それは、あの、無いです」


   *   *   *


375 : 魔法駄犬育成計画(WITH 黄金P) ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/08(土) 01:28:55 LHL48f5s0


 無いと答えた瞬間、明らかにマスターの態度が悪くなった。
 人の域を超えた殺気に当てられてたまはきゃんと声を上げたけて縮こまる。

「次に我へ虚偽の申し立てをした場合、その首を床に置いてもらうぞ」
「う、うぅ、嘘は言ってないです」

 偽らざる本心だ。
 たまには聖杯に願う望みが無い。呼ばれたから、必要とされたから嬉しくて飛び出してきたのだ。

「無いはずがなかろう? サーヴァントとは聖杯を必要とする者が呼ばれるのだ」
「じゃあ、その、帰りたいです」
「ほぅ、駄犬。貴様は我の傍で仕える栄誉を受けながら忠義を果たさずに帰ると?」
「う、うー。ごめんなさい。わかりません」

 どうしたらいいのかわからない。
 一つ分かったのはこの人はとても怖い人だ。

「フン。まぁ良い。貴様もまた己の望みを自覚しておらぬというわけだ。
 ならば黄金Pとして貴様も育成(プロデュース)してやろう。
 貴様がもしも己の願望(ゆえつ)を見つけられなければ、その時はやはりその首を置いていってもらう。
 それまで同伴することを許す」
「え? あ、あの」
「では行くぞ駄犬。目指す都市の中心部。雑種共の欲望の渦巻く歓楽街だ」
「ま、まって下さーい」

 スタスタと先も行くマスターについていくたま。


 こうして、たまの育成計画(※WITH 黄金P)は始まった。


376 : 魔法駄犬育成計画(WITH 黄金P) ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/08(土) 01:29:25 LHL48f5s0
【サーヴァント】
【クラス】
アサシン

【真名】
たま(犬吠埼 珠)@魔法少女育成計画

【属性】
秩序・善

【パラメーター】
筋力:E+ 耐久:E 敏捷:C+ 魔力:E 幸運:D+ 宝具:C

【クラススキル】
気配遮断:C
 アサシンのクラススキル。自身の気配を消して他のサーヴァントに見つからないようにする。
 但し攻撃時はランクが下がる。

【保有スキル】
臆病:A
 戦闘時に相手と堂々と戦う際に敏捷ステータスがワンランクダウンするスキル。
 いわゆるバッドステータスだが、たまを脅かす限り命令には服従する。
 このスキルは外せない。

魔法少女:C
 魔法の国から与えられた超人的身体能力と魔法を持つ美少女に変身できる能力。
 変身解除中は平均以下の女子中学生程度の能力しか発揮できないが、魔力の補給なく60ターン(半日〜一日)の単独行動が可能。
 また思念によってステータスを一時的に上昇させられることができる。
 またこのスキルを持つ者は通常のサーヴァントよりも霊格が下がり、人間でも傷つけられる。

戦闘続行:A
 致命的なダメージを受けない限り生存し、戦闘を継続可能とするスキル。
 たまの場合は三度敗走しても必ず主の元へ戻ってくる生還力を意味する。

狂化:E
 理性を失うことでランクを上げるスキル。
 たまの場合は命令を受けた時に『忠実に実行する』ための成功率が上昇する。
 但し常に思考力が低下するため命令内容や命令を実行する意味を理解できないことも多い。


377 : 魔法駄犬育成計画(WITH 黄金P) ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/08(土) 01:29:40 LHL48f5s0
【宝具】
『元気の出る薬』
 ランク:E 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:一人
魔法の国で流通した身体能力を活性化させる薬。
これを服用すると自身のステータスのうち、倍加(+)があるものは常に倍加状態になる。

『透明外套』
 ランク:E 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:一人
 纏った者を光学的に見えなくするマント。

『いろんなものに素早く穴を開けられるよ』
 ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:10 最大捕捉:-
自身の爪で傷つけた穴を広げる。塞がっていなければ時間差で発動可能。
穴の大きさは
で物理的、魔力的強度を一切無視する。
この宝具を防ぐには傷一つ付かない無敵性が必要。

『審判の時、例え貴女がいい人でも』(ルーラズ・ハイロゥ)
 ランク:D 種別:対人(自身)宝具 レンジ:- 最大捕捉:一人
 たまがかつて最初の主から貰った首輪。二番目の主によって血痕がつけられている。
 主が絶対絶命の時に如何なる状況でも必ず相手に不意打ちの一撃を与えられる。
 ただし成功率はたまにとってどれだけ恐くない人かに依る。
 また失敗時は主を見殺しにする。

【weapon】
 爪のみ

【人物背景】
魔法少女育成計画より参戦。
N市と呼ばれる都市で魔法の力を得て魔法少女となった少女。
『森の音楽家』と呼ばれる魔法少女により催された魔法少女達の殺し合いにおいて、
俗にいう「ルーラチーム」と呼ばれる魔法少女ルーラを筆頭にしたチームの一人だった。
彼女のアサシンとしての適性は不意打ちと主を裏切って見殺しにしたことに起因する。
なお、殺し合いの黒幕にして最上級の魔法少女である『森の音楽家』を仕留めたのは彼女であり、
繰り返される惨劇に終止符を打った英雄と崇められてもおかしくないのだが、その功績を知る者はいない。

【サーヴァントとしての願い】
怖い、もう帰りたい


378 : 魔法駄犬育成計画(WITH 黄金P) ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/08(土) 01:30:00 LHL48f5s0
【マスター】
ギルガメッシュ@Fate/Zero

【マスターとしての願い】
ここの聖杯がこの世の財ならばアレを持つべきは我だ。

【weapon】
王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)
 あらゆる財宝を収集した黄金の京の蔵へアクセスして財宝を取り出す。
 なお財宝を取り出す際に射出することが可能。
 ほぼ全ての宝具の原典と未来に製造される道具、更に令呪のストックまでもが詰まったチートアイテムの宝庫。

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)
 ギルガメッシュの持つEXランクの対界宝具。
 通常出力ですらAランクの宝具に勝つ威力と固有結界などの異界破壊能力を持ち、
 最大出力では受肉した悪魔さえ滅ぼす。

【能力・技能】
全知なるや、全能の星(シャ・ナクパ・イルム)
 あらゆる事象や未来を俯瞰する慧眼。
 相手が最善手しか打たないチェスで勝利したり魔術の特性を一発で見抜くというチート眼力。

黄金律
 人生でどれだけお金がついて回るか。
 Aランクのギルガメッシュにはどうあがいても金持ちになる因果力を発揮する能力。

カリスマ
 高すぎて呪いの域にあるカリスマ性。率いられた者はに能力に補整がかかる

【人物背景】
世界最古の英雄王。
あらゆる財宝を集め尽くし蔵にしまい、己を生み出した神々を嫌悪した。
冬木の第四次聖杯戦争で召喚され、終盤に受肉、現世に留まる。そして再びこの世を統べる王になる(予定)
受肉後より参戦。魔術師めがマスターに成れて我に成れない道理は無い。

【方針】
この世界を散策する。


379 : 魔法駄犬育成計画(WITH 黄金P) ◆Jnb5qDKD06 :2015/08/08(土) 01:30:32 LHL48f5s0
投下終了です。
言うまでもなくマスターの方がヤバイ。


380 : ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:53:08 epVQODyY0
投下します


381 : キング・オブ・ホロウズ ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:53:38 epVQODyY0






   腐敗は我が友


   夜は我が僕


   鴉にこの身を啄ませながら


   楡の館でお前を待つ





.


382 : キング・オブ・ホロウズ ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:54:01 epVQODyY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 その分子の中に莫大な質量が内包されているのでは、と思わずにはいられない程の烈風を、男は真正面から叩きつけられていた。
圧倒的な力を装備者に与える、サクランボを模した鎧を身体を鎧ってもなお、立っているのがやっとの程の猛風。
男の膝は現に折れかけ、今にも地面に這いつくばりそうな体であった。だがそれでも、男の心は折れない。
その風を産みだし、そして送りつけている、民族衣装風の灰色の外骨格に身を包んだ怪物は、「大人しく去れば命だけは助けてやる」と言っていた。
この忠告を無視してまで、果実の鎧を装備した男は、怪物の方へと重い足取りで向かって行く。局所的な過重力を掛けられているのではと思う程に身体が重い。
血を吐く様な思いで、彼は口を開いた。

「もう二度と、誰の言いなりにもならねぇ……!! 誰にも、ナメた口はきかせねぇ!!」

 人と言う枠を超える事の出来る、禁断の果実を目の前にして、遂にその口から本音が漏れた。
男は汚れ仕事を請け負うのが大人だと言って憚らない人物だった。感情や私情に流されず、賢い選択を選び続ける事こそが大人だと思っていた人物だった。
だがその実男は誰よりも、人に対して頭を下げる事に抵抗感を覚える男であり、誰よりも感情的で私怨で行動を起こす男なのだった。
果たして今の彼は気付いているのだろうか。自分の口から今飛び出た言葉が、他人が聞いたら幼稚である以外の印象を抱く事が出来ない程、未熟で子供っぽい言い分である事が。

 怪物が放出する烈風が、男の果実の鎧を形成するベルトを粉砕、旋風に巻き上げられる砂のように消し飛んで行く。
それと同時に、鎧われていたサクランボの鎧も千々に砕けて雲散霧消、男は元の、人間の姿に強制的に戻されてしまう。
身体に舞い込む衝撃の量が、途端に、累乗でもされたかのように跳ね上がる。それでもまだ、男は地に足を付けていられる。完全に、気力だけで行っている事だった。

「俺は、俺は……人間を超えるんだあぁああぁあああぁぁぁ!!」

 何かの拍子で口を切ったか、血の口角泡を舞い飛ばしながら男が叫ぶ。
その様子を、灰色の外骨格を有する怪物が嘲笑う。地面の上をのた打ち回る、蠅か何かを見ているような態度だった。

「自らの愚かしさに命まで捧げたか。宜しい、それが貴様の覚悟なら……」

 言って怪物は、もう片方の手を突きだした。今まで男に送っていた烈風は、片手だけで送られていたものだった。
両方の手から、凄まじい勢いの風が吹き荒ぶ。今度は、男も風の勢いに耐え切れなかった。誰が信じられようか、成人男性が、紙片みたいな勢いで吹っ飛んで行ったのだ。
もっと信じられない事は、男の背後にあった巨大な岩壁の閉じた亀裂が、女陰のように開いたのだ!! 
開かれた亀裂に男が挟まれる。其処からの展開が予想出来たのか。今までこの模様をずっと見続けて来た一人の、生傷だらけの男が、瞳を見開かせて反応した。

「その過ち、死を以て償え!!」

 怪物――ロシュオがその両腕を交差させる。その動きに呼応するように、男が挟まっている亀裂が、動いた。広まるようにして、ではなく、『狭まる』ようにして。

「ああぁあああぁああああぁああぁぁあぁぁぁぁあああ!!」

 声帯が擦り減る様な大声を上げて、男がその亀裂から脱出をしようと試みる。しかし、現実は無情なもの。万力に数億倍する程の力で、亀裂が閉じて行くのだ。
ドンッ、と言う重低音が森中に響く。音源近くの枯葉が舞い飛び、場の空気が撹拌される。開かれた亀裂は、完全に閉じている。
初めから亀裂など存在しなかった、と思われる位、その岩壁に生じていた亀裂が綺麗さっぱりとなくなっている。
その中に閉じ込められた男が、果たしてどうなったのか。最早語るまでもない。信じられない物を見る様な目で、生傷だらけの男――呉島貴虎は、男が閉じ込められた岩壁と、ロシュオとを交互に見つめていた。

 貴虎を裏切り、ユグドラシルを裏切った『シド』と言う男の顛末が、これである。


383 : キング・オブ・ホロウズ ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:54:36 epVQODyY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 無敵と信じていた自分の力が――時間を足下に跪かせるに等しい“老い”の力が、彼の身体を朽ちさせて行く。
自らの振るう力の強大さは、自分自身が何よりも理解していた。その力は絶対的で、生者はその力から逃れる術がない。
それはつまり自分自身も、自らの圧倒的な力の対象に含まれると言う事を意味する。無敵の力は、自分自身にすら牙を向く諸刃の剣であった。
だからこそ彼は、老いの力から自分を身を守る為の力場を、身体に纏わせていたのである。

 そのカラクリに、気付かれた。目の前に佇んでいる肥満体の男は、自らの腕を切断し、その腕を彼の体内に転送。
体内まで、その力場は浸透させられていない。だから、彼が発動させた老いの力に反応したその腕を媒体に、『老い』の力が王の身体を蝕んで行く。
絶対的な力が圧倒的な速度で彼を滅ぼして行く。怒りの炎が身体の中で燃え上がる。顔面のほぼ半分を消し飛ばされていると言うのに、未だに彼の叛骨の意思は、萎える事がなかった。

「許さん許さん許さん許さん!!!! 蟻共が蟻共が、蟻……共……が……」

 自らの怒りを、天と地と、そして人とに轟かせるが如く、彼は叫ぶ。だが、自らの力の絶対性を誰よりも理解していた彼は、己の滅びが最早必定の物であると悟った。
朽ち行く最中に、彼は思い出した。自分の本当の目的。己が本当は、何を成したかったのかを。

 嘗て彼は、常夜の世界の王であった。白い砂漠と石英のような枯れ木が無限大に佇む世界に君臨する神であった。
彼の城には、屋根も壁も無い。城と言う体裁を成していない城だった。それも当然だ、彼にとってはその世界の空こそが天井であり、世界全てが自分の部屋。自分の城。
そんな城に、三人の粗忽者が慌ただしくやって来た。死神である、が、王にとっては取るに足らない生き物だ。
千を超し万にも届く数の配下達で蹂躙させてやろうかと考えていた時、三人の中の首魁に類する男が聞いて来た。「自分に従え。そうすれば、更なる力と高見を与えよう」と。
腹の底から笑ったのは、数百年ぶりであったろうか。虚圏の王とは即ち遍く世界の王でありあらゆる高みの頂点。そんな自分に対して、更なる力と地位など、笑わせる。
自らが築き上げた軍勢を以て、三人の愚か者の思い上がりを糺してやろうと考えた、その時である。自らが有する全ての軍勢が、瞬き一つの間に葬り去られたのは。
「砕けろ、『鏡花水月』」それが、王の聞いた言葉であった。現状を認識し、三人を誅戮しようと玉座から立ち上がった時、首魁の男が言い放って来た。

「皮肉なものだね虚圏の王。そうして武器を構える、巨大で黒い君の姿は――死神に良く似ているよ」

 眼鏡の奥の瞳に、冷徹な光を宿らせて、男が言った。虚圏の神ですら羽虫扱いする様なその態度に、王は怒りを覚えた。
だが、勝てない。眼鏡を付けた首魁の男の力は圧倒的だった。極めて不服ではあるが、王は、その男に慴伏する。
が、心の奥では、彼に対する忠誠など微塵もない。いつか必ず、自らが有する絶対的な力で、滅ぼしてやる。その叛骨心を、心の裡に隠し通していた。

 ――貴様は殺す。この儂の手で必ず殺す。この儂に力を与えたことを後悔するがいい。儂は王。儂は神。永久に死なぬ。永劫貴様を狙い続けるのだ――

 グッ、と自らの得物である大斧を強く握りながら、王は、自らを滅ぼした不届き者よりも憎んでいる男の方を睨めつけた。
その男は王や、彼に近しい強さを誇る他の十刃達に目もくれていない。何処かの方向をジッと見つめているだけだ。今なら、殺れる。

 ――藍染惣右介――

 自らの身体と同じく、朽ちかけて行っている大斧を全力で、藍染の方に放擲する。
一瞬だけ藍染は、王の方に目をやった。氷柱のように、黒い大斧が砕け散る。斧は客観的に見て、藍染の下に届く事すらなかった。
『バラガン・ルイゼンバーン』がその事を認識出来たかどうかは、定かではない。斧が砕け散ったとほぼ同時に、彼は自らの“老い”の力で消滅していたのだから。




.


384 : キング・オブ・ホロウズ ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:55:20 epVQODyY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 逃げる、逃げる、逃げる。男は『死ぬ』と言う事象から必死に遁走を続けていた。
何て不様な姿なのだと、自分の現状を青年は唾棄する。時計塔の中にあって十何代と続く魔術の大家の一角として数えられてきた自分が。
誇りある先祖から刻印や魔術の数々を受け継いできた自分が、恥も外聞もなく、汗を体中から吹き上がらせて逃げている。
しかし、それでいい。どんなに不様で不格好でも、死ぬよりは遥かにマシである。俗世の塵埃の外にあると言っても良い魔術の世界でも、その不文律に変わりはない。
生きていれば、逆転の可能性だってある筈だ。――本当か? 脳裏にそんな疑問が過る。あの怪物を相手に、一矢報いる事が、出来るのか?

 男の経歴は本物だった。そして、その経歴に負けないだけの実力を、確かに彼は有していた。
その実力に見合ったサーヴァントも、確かに引き当てた。彼に呼応するように現れた騎乗兵(ライダー)は、ステータスもスキルも宝具も一級品。
これならば勝ち抜ける。そして先祖代々の悲願である根源への到達も、絶対に成す事が出来る。男は自らの勝利を確信していた。
サーヴァントを引き当てた時点で、聖杯戦争は既に始まっていると言っても良い。主従は今すぐに<新宿>に赴き、サーヴァントがいないかと言う確認と、
極東の国日本の<新宿>の地理の確認を行った。その折に、ライダーはサーヴァントの気配を感知。その場所に向かうと、やはりいた。
洒落たコートに身を包んだダービーハットの男。そして自らが現れたのを契機に、コートの男の近くに現れた、潰れた右目をした老いた男のサーヴァント。
だが、ただの老人ではない。鎧に身を包んだランサーが子供に見える程の大男。丸太のように太い腕を持った筋骨隆々の老爺で、そんじょそこらの大兵漢が、
可愛く見える程のサーヴァントだった。身体から放出する、叩き付ける様な鬼風。その手に握られた漆黒の大斧。
間違いなく強敵だ。だが、此方の引いたライダーも強い。勝ち星を上げるのだと息み、ライダーに戦闘の開始を命じたその時だった。
巨体からは想像も出来ない程の速度で、老人がライダーの目の前まで瞬時に移動。鎧の上から彼に右手で触れた、刹那。
ルビー色に光り輝く鎧から、突如光が褪せて行き、腐敗。ボロボロと垢のように地面に崩れて行ったのだ。
危険を感じた主従が飛び退いたその瞬間、老人の大男は小枝を振り回す様な容易さで斧を振り抜き、ライダーの胴体を野菜か何かのように切断してしまったのだ。
自分とライダーを繋いでいたパスが急激に消えて行くのを察知したマスターは、その場から逃走。魔力で身体を強化しての、全力の疾走だった。

 ――あの時。
持ち主と同じ位大きい戦斧を振うあの老人に、この魔術師は、『死神』のイメージを見た。
空虚な暗黒を嵌めた様な眼窩を持った汚れた白い頭蓋骨を、頭の代わりに首に戴き、黒いローブを身に纏ったその様は。
正しく西洋の絵画の中に登場する、黒死病(ペスト)を具象化させたあの死神その物ではないか。
ただ、あのサーヴァントの持っていた武器は、ギリシア神話の神霊・豊穣の神クロノスの象徴である大鎌ではなく、ミノタウロスを閉じ込めた迷宮・ラビュリントスに飾られていたとされる大斧・ラブリュスの様な斧だったが。

 自分は、本当に、あのサーヴァントに勝てるのか?
無論、人類史にその名を轟かせた英雄や大悪党が、想念と言う形で英霊の座に登録された存在。その化身に類する存在が相手なのだ。
勝ち目はない。それは解っている。だが例え、運よく主を失い消滅しかけているサーヴァントと遭遇し、再び戦いを挑んでも、あのサーヴァントに、勝てるのか?
本能が告げている。あれはサーヴァントと言うよりは、まるで……『死の具象』ではないか、と。


385 : キング・オブ・ホロウズ ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:55:30 epVQODyY0

「逃げ切れると思うたか」

 ――声が聞こえて来た。あの老人の声が。しかも、背後からではない。『真正面から』だ。
「馬鹿な、速過ぎるッ!!」、魔術師の男はそう思うだけで精一杯だった。ライダーに知覚出来ない程の速度で移動していた所からも、見た目以上に速い事は解っていた。
しかし、これ程とは……!! 追跡している事すら気付かせない程の速度で先回りされているとは!!

「死はの、小僧。あらゆる存在の前に立ち塞がる巨大な壁のようなもの。逃げ切る事など不可能じゃ」

 自らの意思を奮い立たせる叫びをあげ、魔術師の男がありったけの魔力を込めて、フィンの一撃のレベルにまで昇華されたガンドを放つ。
男のガンドはマシンガンのような連射ではなく、魔力を極限まで引き絞り、速度と威力を限界まで高めた、対物ライフルの一撃である。
下手なサーヴァントなら、反応すら許さず、その頭蓋を破壊する自負が男にはあった。――勇壮さに彩られた顔に、恐怖と言う感情が刷毛で塗られる。
赤黒い色のガンドが、老人のサーヴァントに近付いたその瞬間、熟れて腐った果実のようにボロボロになり、無害な魔力となって空中に霧散したのである。老人に一撃が届く前に、ガンドが『朽ちた』のだ

「儂から背を向け逃げると言う事は、死と『時間』から逃げ果せると言う事と同義。人の世の魔術師よ、それが不可能である事位、貴様の頭でも解ろうが?」

 魔術師の抵抗を嘲笑うような口調で、老爺は言った。

「それとも、理解出来ぬか? 貴様のちっぽけな脳では。魔術師として積み上げ研鑽した知識は飾りか?」

 老人が大斧を振り上げる。ああ、紀元前の、斧で死刑を執行していた処刑人もきっと、このサーヴァントの様な表情を浮かべていたのだろう。
無感動で、無感情。相手に死を与える事を生業とする者はきっと、相手に死を与える事に、何の感慨も抱かなかったのではあるまいか。

「だが恥じる事はない。どんなに聡い者でも――儂の力と与える死を、理解出来る者はおらぬのだ。儂の口から告げぬ限りは」

 大斧が、稲妻めいた速度で最頂点から振り落とされた。
左肩の肩甲骨から左脚の付け根までを真っ二つに切断された魔術師は、凄まじい激痛と大量の血液の消失で、その場で即死した。
<新宿>の聖杯戦争を勝ち抜こうと躍起になっていた主従は、ものの数時間で、魔界都市になる前の雛の様な<新宿>から、消え失せたのであった。




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386 : キング・オブ・ホロウズ ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:56:23 epVQODyY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「凄いモンだねぇ、ウェコムンドの神様とやら」

 左肩から真っ二つになり死亡したマスターの下へと歩みより、老爺のサーヴァント――『バラガン・ルイゼンバーン』のマスターである男は飄々とした態度でそう言った。
しかしそのマスター、『シド』の心の奥底には、隠し切れない恐怖が見え隠れしていた。まさか、このジジイにこれだけの力があるなんて……。
心の中で、シドは確かにそんな事を考えている。槍兵(ランサー)のクラスで顕現したこのサーヴァント、実に……実に圧倒的な力ではあるまいか。
下手したらインベスの親玉であるオーバーロード、特に、自分を岩壁に閉じ込めたロシュオですらも、手玉に取るかも知れない。

「声が震えているぞ、小僧」

 人の身体に孔を空けかねない程に鋭い目線をシドに送り、バラガンが言った。
人が恐怖を抱いているか否かなど、この男にとっては、、透明なガラスの箱の中に入った物を当てるのと同じ位に容易い事。
内面を強がった洒脱な雰囲気でシドは隠してはいるが、その本質をバラガンは理解しているのだ。

「小僧、儂は貴様の召喚に応じた時も言うたろうが。儂を呼ぶ時は陛下と呼べ、とな」

「ッ……。かしこまりましたよ、陛下」

「うむ」

 頭を下げ、自らの非礼を詫びるシド。
顔が伏せれらている為に顔は見えないが、今の彼は、歯を食いしばらせて、悔しさを堪えていた。
何故、この<新宿>に来てまで自分は、誰かの言いなりになり、全く知らないこの老人にナメられているのだろうか。この男は自らのサーヴァント(奴隷)ではないのか?
元居た世界で自分を岩壁に閉じ込めたあのオーバーロードの王と、バラガンの姿がダブって見える。
ロシュオもまた、他のオーバーロードから王、即ち、陛下と呼ばれて崇められていた存在であった。
元の世界では陛下にしてやられ、異世界の<新宿>では陛下に恭順の意を示さなければならない。これ以上の皮肉が、はたしてあるだろうか。

「下手な叛骨心は抱くなよ、小僧」

 顔を隠しても、お前の浮かべている表情など御見通しだ、とでも言わんばかりの語調でバラガンが言葉を紡ぐ。

「虚の王を人の子如きが奴隷に出来ると思わぬ事だ。建前上儂はサーヴァントと言う下らぬ身分を預かっているが、本質は貴様が奴隷、儂か主だ。履き違えるな」

「……了解」


387 : キング・オブ・ホロウズ ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:56:39 epVQODyY0
 ギリッ、と歯軋りを響かせ、シドが言った。食道から血がせり上がりかねない程の思いで、彼は言葉を口にしている。
大義そうに首を縦に振るバラガンは、その場で霊体化を行う。姿が一気に見えなくなり、シドの視界から完全に姿を失せさせる。
心に澱の如く溜まったストレスを、深呼吸で薄らげさせようとするシド。気分は、一向に晴れない。

 あの時。ロシュオが岩壁を閉じ、自分を圧殺しようとしていた時の事。
岩の亀裂の断面に嵌められていた契約者の鍵に、偶然シドは触れていたのである。すんでの所、閉じられる瞬間にその鍵に触れたシドは、此処<新宿>へと転送されていた。
この世界での自分は、悔しい事に無力であると言わざるを得ない。ゲネシスドライバーはロシュオに破壊された現在、彼はシグルドに変身する事も不可能である。
尤も、シグルドに変身出来たからと言って、バラガンを相手に強く出れるかと言えば、それは否だ。あのサーヴァントは危険すぎる。
葛葉紘汰やオーバーロードの面々よりも遥かに、だ。そんな存在を相手に、強くは出れない。今はただ、唯々諾々とあのランサーに従う他はない。
――今は、ただ。

 バラガンと言うランサーに腸が煮えくり返る思いで恭順の意を示す訳は、一つ。
今度こそ、人間を超え、誰も逆らわないような存在に至るのだ。シドはその野望を、ヘルヘイムの森の奥底に成る禁断の果実に求めた。
それが、聖杯に代わっただけだ。大人と言うのはクレバーで柔軟な存在だと認識している。目標が変わったのならば、その目標に狙いを定めて走ればいいだけである。
途方もなく大きく、そして途方もなく幼稚な願いを、シドは聖杯と言う聖遺物の中の聖遺物に宿すのだ。それが酷く子供じみている事に、彼は気付かない。

 聖杯を手にした時が、あの傲岸不遜なランサーとの縁の切れ目。
左手に刻まれた、サクランボを模した令呪で自害を命じ、自分は聖杯を手に入れる。それが、シドの脳裏に描かれた筋書きだ。

 バラガンもまた、同じような絵図を描いている事を、シドは知らない。
自分から神と言う立場を奪い、とことん煮え湯を飲ませ、苦汁を舐めさせてきた、藍染惣右介への怒りの念は未だに消えていない。
虚の王、虚圏の神が、絶対に殺すと誓ったのだ。あの男は自らの手で葬られねばならない。
受肉し、更なる力を得た後で、第八監獄・無間にて封印されていると言うあの男を朽ち殺す。
そしてその後で今度こそ、現世、尸魂界(ソウル・ソサエティ)、虚圏(ウェコムンド)の三界の神として君臨する。
それらの行為は全て、世界によって肯定される。何故ならば自分は神。死神を足元に敷き、人間を超越した本物の『神』なのだから。

 ――二人の願いも、その性根も良く似ていた。
誰にも自分を馬鹿にさせない為に人を超えようとした男と、自らを嘲った男を殺し神として世界に君臨しようとする最上級大虚(ヴァストローデ)。
二人は絶対に、こんな事を認めたがらないだろう。何処までも彼らが、『虚』ろ/無意味 な王(キング・オブ・ホロウズ)である事に。




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388 : キング・オブ・ホロウズ ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:56:55 epVQODyY0
【クラス】

ランサー

【真名】

バラガン・ルイゼンバーン@BLEACH

【ステータス】

筋力B 耐久A+ 敏捷A+ 魔力A 幸運E- 宝具A++

【属性】

混沌・善

【クラススキル】

対魔力:C(EX)
魔術に対する守り。魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。
後述する宝具を発動した場合、カッコ内の値に修正される。このランクになると、A+ランクの魔術は愚か、神霊級の魔術ですらが、ランサーを傷付ける事は不可能である。
ランサーに放たれた魔術は、彼に到達する前に老いて、朽ちて、瞬時に無害化される。この老朽化は魔術だけでなく生身の人間や霊体であるサーヴァントにすら及ぶ。
あまりにも凄まじい対魔力スキルであるが、この老朽化はランサー自身にも左右し、身体に纏わせた特殊な力場を剥がされれば、彼自身が真っ先に老いて消滅する。
また余りにも強烈な“老い”の力の為に、令呪の絶対命令権ですらも老朽してしまい、彼に命令を下す事も、魔力によるブーストを行わせる事も出来なくなっている。
自らをも滅ぼしかねない程の対魔力の高さ、令呪すらも無効化する“老い”の力の象徴。この二つの意味で規格外のEXを誇る。

【保有スキル】

十刃:A
虚(ホロウ)が仮面を剥ぎ、死神の力を手にした種族『破面(アランカル)』。その中でも指折りの戦闘力を持つ者に与えられる称号。
虚の技能である「虚閃(セロ)」という光線、死神の斬魄刀と能力解放を模した「帰刃(レスレクシオン)」、
他に破面の技能である高速移動「響転(ソニード)」や感知能力「探査回路(ペスキス)」、身体特徴である外皮「鋼皮(イエロ)」、
虚閃の派生型として高速光弾「虚弾(バラ)」や強化型虚閃「黒虚閃(セロ・オスキュラス)」など多彩な能力を保持する。
その他、神性を持つ相手に追加ダメージ判定を行う。相手の神性が高ければ高いほど成功の可能性は上がる。また魂を喰らう種族であるため、魂喰いによる恩恵が通常のサーヴァントより大きい

反骨の相:A+++
今のランサーを突き動かすものは、神の座を取り戻すと言う執念、そして、藍染惣右介に死を与えると言う怨念の二つである。
自らが唯一かつ絶対の存在(神)であると言う事を信じて疑っておらず、何者にも従う事をしない。
カリスマを完全に無効化するだけでなく、藍染の使う斬魄刀、鏡花水月の完全催眠にも抗い、叛骨心を失わなかった逸話から、ランクより低い意図的な精神干渉を完全に無効化する。

カリスマ:B
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。カリスマは稀有な才能で、一国の王としてはBランクで十分と言える。
ランサーは嘗て虚圏(ウェコムンド)の王として破格のカリスマスキルを誇っていたが、渋々とは言え藍染に雌伏の意を示していた時期があった事から、ランクが下がっている。


389 : キング・オブ・ホロウズ ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:57:12 epVQODyY0
【宝具】

『髑髏大帝(アロガンテ)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
破面の刀剣解放を宝具と見なしたもの。斬魄刀に封じた虚本来の姿と能力を解き放つ。解号は『朽(く)ちろ』。
解放前は巨大な斧の形をしており、解号を口にすると同時に、斧に嵌め込まれた眼球状の宝石から黒い炎が吹き上がり、ランサーの身体を包み、変身を行わせる。
他の十刃や十刃落ちの破面達の帰刃が、大なり小なり解放前の面影を残しているのに対し、ランサーの場合は解放前とは似ても似つかない、
王冠を戴いた髑髏の頭を持ち、ボロボロになった漆黒のコートを身に纏った、万人が想起する所の『死神』のような姿を取る。
帰刃前に使っていた大斧とは違い、帰刃後は滅亡の斧(グラン・カイーダ)と呼ばれる漆黒の大斧を使い、相手を粉砕、両断する。
だがこの状態の真の恐ろしさは、ランサーの司る老いの力に特化していると事であり、直接触れずとも周辺の建物を即座に朽ちさせる事が可能。
その特性から彼に接近して攻撃する事は困難を極め、例えサーヴァントであっても、Bランク以上の対魔力や、神性スキル等と言った特殊なアーマースキルを持たない場合、
急速に、筋力・耐久・敏捷のステータスの低下が発生。また実体を有したBランク以下の宝具を有していた場合には、急速に性能の劣化が発生。
最終的には完全に腐敗し、使い物にならなくなってしまう。Bランク以上の対魔力や、特殊なアーマースキル、Bランク以上の神秘を有する実体有の宝具があろうとも、
老化を無効化させられる訳ではなく、あくまでも進行を遅らせるだけであり、防御はほぼ不可能。
また朽ちさせる事が出来るのは宝具や生身の人間だけでなく、魔術にも及び、攻撃の魔術や捕縛の為の魔術すらも瞬時に老朽化させ無効化させる事も可能。
自己強化魔術によるバフ効果も、老いの力の範囲にいる場合、即座に無効化され、引っぺがされてしまう。対魔力EXとは、この宝具を発動させた時の値を指す。
当然、解放前から使用していた、あらゆる事象や物体の劣化を促進させて彼に接近する動きをスロー化、意志を持って触れた物体を老化・崩壊させてダメージを与える『セネスセンシア』も使用可能。

 ランサーは自らのこの力を、時間をも支配する絶対なる力と称している。
が、その絶対的な力は操り手である自分自身にすら有効である為、体表に自身の力を退ける結界が張られている。
この結界を剥がされるか、或いは結界の内部に老いの力を送られた場合、ランサーは問答無用で自らの絶対的な力で自滅してしまう。
また、この能力は時間の支配下にある存在にのみ有効な宝具である為、対象が不老不死の存在であったり、永久の属性を有していた場合、この宝具は機能しない。
そして、サーヴァントとしての制限として、帰刃状態の維持は、凄まじい魔力を消費する。

『死の息吹(レスピラ)』
ランク:A++ 種別:対人・対軍・対城宝具 レンジ:20〜40 最大補足:1〜100以上
帰刃状態の時に限り使用可能な、触れた物を急激に老朽化させる、“老い”の力を凝集させた吐息。
直接触れていない部分も、触れた個所から徐々に朽ち始める。技を食らった後回避するには、朽ち始めた部分を切り落とすしかない。
護挺十三隊屈指のスピードを誇る死神ですら回避しきれない程の速さで放たれる。

【weapon】

骨の玉座:
人体の骨を組み合わせて作ったような玉座。生前は部下である従属官が手ずから組み立てていたが、サーヴァントとなった現在ではオートで組み立てられる。
戦闘時はこれを変形させて、アロガンテの解放前の大斧を作る。その様な過程を経ずとも、サーヴァント状態のランサーは、普通にアロガンテを取り寄せられる。

【人物背景】

虚圏の王であり、そして神。より強い力による屈服を強いられた虚の王、虚ろな神。
彼もまた、多くの人間と同じで、死を恐れ老いを遠ざけようとした、世界に芽吹いた、一つの小さな命であった。 

【サーヴァントとしての願い】

更なる力を得て受肉、藍染惣右介を今度こそ殺しに行く。


390 : キング・オブ・ホロウズ ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:57:44 epVQODyY0
【マスター】

シド@仮面ライダー鎧武

【マスターとしての願い】

人間を超えた存在になる。

【weapon】

ゲネシスドライバーは失われている。

【能力・技能】

【人物背景】

ユグドラシルの人間という正体を伏せ、ビートライダーズにロックシードや戦極ドライバーを売り捌き対立構図を加速、戦闘テストを行わせていた男。
戦極凌馬が開発したゲネシスドライバーの完成以後はプロジェクト・アーク遂行の為にドライバーを使用、変身しての戦闘を行うようになる。
表向きは貴虎に従っているものの、実際は凌馬らと共謀し、独自の思惑で「禁断の果実」を狙っている。
禁断の果実を入手しようと暴走、共謀していた凌馬らをも出し抜こうと、果実の保有者であるロシュオの下へ向う。
が、オーバーロードの王である彼の圧倒的な力でゲネシスドライバーを破壊され、引き返せば命は助けると言う忠告をも無視した事で、岩壁の亀裂に挟まれ死亡――した筈だった。

ロシュオの念力で岩壁に閉じ込められた瞬間の時間軸から参戦。

【方針】

聖杯狙い。そしてランサーだけは、聖杯に到達した瞬間殺す。但しシドは、ランサーに令呪が通用しない事を、彼の口から聞かされていない


391 : キング・オブ・ホロウズ ◆zzpohGTsas :2015/08/09(日) 18:58:47 epVQODyY0
投下を終了いたします。
なおこのランサーの作成に際しまして、Gotham Chaliceのグリムジョーとウルキオラのステータスシートを参考にさせていただきました事を、此処に明記いたします


392 : 茶藤千子&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/12(水) 22:18:56 n2irlMBE0
投下します


393 : 茶藤千子&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/12(水) 22:19:22 n2irlMBE0




こんな僕でも。
こんな世界が。
それでも楽園であることを。
君の深呼吸で知った。


――――――――――――コミックLO Vol.81(2010年12月号) 表紙より


394 : 茶藤千子&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/12(水) 22:20:45 n2irlMBE0
☆茶藤千子

  千子が『契約者の鍵』の噂を耳にしたのは、ほぼ日課となった公園でのひとときを楽しんでいる時だった。
  理想的ビューポイントから目下に広がる理想郷をスケッチブックに焼き付けていると、きゃいきゃいと楽しげにしゃべる女の子たちの会話が聞こえてきた。
  最初は「あの年頃の子たちはどんなものに興味が有るのだろう」という興味程度だったが、話題の内容を理解して状況が変わった。
  一言足りとも漏らさず聞き取るために鉛筆を走らせる手を止め、耳を澄ませる。
  曰く、透き通るような青色をした鍵を手にする事がある。
  曰く、その鍵を手に入れたものは願いを叶える戦争に引きずり込まれる。
  曰く、鍵でたどり着ける場所は異世界である。
  曰く、異世界での戦争で優勝した者にはアカシックレコード(?)に干渉して自身の運命を書き換える事ができる。つまり、現在過去未来全ての運命を選ぶことが出来る。
  もしこれが事実だとしたら由々しき事態だ。
  過去すらやり直せる万能の願望機。これが本当ならば子どもたちが危ない。
  人間が自身にコンプレックスを抱くのは当然のこと。それは大人も子供も変わらない。
  というよりも、子供ほど自分のコンプレックスに敏感な存在は居ない。
  千子が「歩くモアイ」「能面」「メカゴジラのメス」と呼ばれて自己否定すらできなくなったように、コンプレックスを刺激されて傷ついている子は世界中に存在している。
  彼女たちが自分のコンプレックスを克服したいと願いのは当然のことだ。
  更に子供はある種の万能感を抱いており、「自分ならできる」「自分なら大丈夫」と根拠なく思い込むことがままある。
  つまりこの噂を聞き、実際に鍵を見つけてしまった場合、子どもたちは間違いなくそれを拾い上げ異世界の戦争に巻き込まれてしまう。

  噂を聞き終え、千子は携帯電話を取り出して最近仲良くしているメールグループに「今日から少し不規則になるかもしれない」というメールを送った。
  他のメンバーは出欠をあまり気にする方ではないが、それでも休みがちになるといらぬ心配をかけてしまう可能性がある。探索に割けるのは実質三日に一日ほどになるだろう。
  千子は花の女子大生だ。上手く時間をやりくりすれば放課後以外に日中や早朝にも時間は割ける。出向けない二日はそこで補っていこう。
  どうしてそこまでするのか。
  単純な話だ。少女が危険な目にあうかもしれない。それだけで動くには十分すぎる。
  どこにあるのかも分からないし、実際に拾った場合どうすればいいのか分からない。
  でもそれは動かない理由にはならない。少女を助けられるなら、動いておくべきだ。
  早速家に帰っていつものスーツケースにいつか必要になるだろうと集めておいた秘密兵器(暗視ゴーグルや集音マイクなど)を詰め込む。
  ないとは思うが、千子自身が青い鍵で召喚されてしまう可能性もある。念には念を、準備を万全に整えておいて損はない。
  出先でついでに火バサミを買ってスーツケースに入れて歩きはじめる。

  歩き始めて十五分といったところで、地面に鍵が落ちているのに気がついた。
  青く透き通った、うわさ通りの見た目の鍵が遊歩道の端寄りの場所に落ちている。
  道行く人達にそっと目をやると、皆気づいていないのか、それとも気づいているけど暇がないのか、鍵には特に意識を向けることなく歩いて行っている。
  まさか千子にしか見えていないのか、と考えたがここまで目立つものが見えないわけがないだろう。
  ゆっくりと近づいてスーツケースの中から火バサミを取り出す。
  直に触るよりはコチラのほうが安全かと思って買ったが実際に効果があるかはわからない。
  じっと十秒ほど睨み合う。
  青い鍵は、見れば見るだけ魂を吸い込まれてしまいそうな不思議な輝きを纏っている。
  蠱惑的とでも表現するべきだろうか。もし噂について知らなかったら千子もついつい手にとって閉まっていただろう。
  周囲に警戒をしながら、火バサミを伸ばす。
  3センチ、2センチ、1センチ、カチャカチャとアルミ特有の軽い音を立てて火バサミが閉じる。

  そうして気づいたら全く見知らぬ世界に居た。


395 : 茶藤千子&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/12(水) 22:21:49 n2irlMBE0

  火バサミ越しに触ったはずだが、その程度の対策では意味がなかったらしい。
  これならプリンセス・クェイクに変身して消滅するまで叩き続ければよかった。
  だが、火バサミで触れて飛ばされるならハンマーでも同じか。
  ならばアルティメットプリンセスエクスプロージョンでふっ飛ばしておけば?
  再び横に頭を振る。インフェルノもテンペストもわりと俗物で根拠の薄い自信にあふれている方だからまず間違いなく鍵を使おうとするはずだ。
  デリュージは街中であんな大技を使うのを良しとしないだろう。プリズムチェリーは千子たちとは魔法少女の種類が違うので大技を使えない。
  結局、千子の行動がどうあれ誰かがあの鍵に触れる運命だった。ならば他の皆が巻き込まれなかっただけでも良しとすべきか。

  ひとまず後ろ向きな思考にケリを付けて前を向く。
  戦争に呼ばれたということは願いを叶える機会を得たということだ。
  1人のマスターには1人の英霊が与えられて、英霊同士に代理戦争を行わせることで優勝者を決める。
  このルールならマスターは犠牲になる必要はない。
  つまり、千子が考えるべきは戦争に巻き込まれて死なないことと、戦争が終わった後の帰りの電車についてだ。
  万が一優勝したら、なんてことは考えない。千子はそこまで自信家ではないし、そこまでして叶えたい願いもない。
  ただひとつ気がかりなのは、先にこの戦争に呼び出されている少女が居ないかどうかだ。
  もしも戦争の危険性を知らずに巻き込まれている少女が居たならば保護しなければならない。
  それは良識ある大人として当然のことである。
  彼女たちの願いの成就も手伝ってあげたいが、何よりもまずは彼女たちの安全を優先するべきだろう。
  まずは参加者の把握が最優先。
  参加者中に少女が居た場合はなんとかして接触を図って保護を行う。
  それと同時にこの街―――<新宿>からピュアエレメンツのみんなの待つ街に帰る方法を探る。
  巻き込まれない限り自発的な戦闘は避け、交戦する必要がなくなった場合自身の英霊を座に返す。
  これが大体の方針になるだろう。

  そこまで整理して、大きく息を吸ってあたりを見回す。
  千子が参加者としての自覚を取り戻したということはそろそろ英霊が召喚されるはずだ。
  現に千子の右手にはピュアエレメンツのティアラとジュエルのような形の令呪が刻まれている。
  英霊の格などに深いこだわりはないが、それでも少女を保護するという使命を考えるなら強い方がいい。
  そして、仲違いを起こさないような性格だったらなお良い。『絶対命令権』を使うのは、気が引けるからできるだけ避けたい。
  そうやって考えているうちに千子は背後にふと存在感を覚え、その存在感を確かめるようにゆっくり振り返り。
  そうして、千子は出会った。

「ぼんじゅ〜る! あなたがミミのマスター……だよね?」

  これまで遭遇したことがないほどの『少女』に出会った。


396 : 茶藤千子&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/12(水) 22:22:51 n2irlMBE0

  ドール系の雑誌で説明されていたのを思い出す。確かハニーブロンドと言ったはずだ。
  光を浴びて艶やかに輝く飴色の長髪は、彼女が楽しげに左右に揺れるたびにしゃらりしゃらりと空気を彩る。
  ルビーのような瞳は無愛想な千子とは違ってきらきらと輝き、世界を美しく映し出す。
  ぷくぷくとしたほっぺたは過剰じゃない程度に朱がさしていて、とても柔らかそうだ。
  つ、と視線を流す。
  着ているセーラー服は紺色のリーファジャケットに黄色のタイ、緑のスカートとあまり突出したデザインではない。
  だが、羽織っているうさみみのついたフードコートがその平凡な服装を可愛らしい衣装へと昇華させている。
  視線を戻し、今度は顔だけではなく全身を眺める。
  身長は低い。140センチ、もしかしたらもう少しあるかもしれない。
  だが、うさみみフードや彼女の人懐こい動作も相まって、雰囲気は完全に愛玩小動物のそれだ。
  二次性徴がまだ始まっていないのか、女性らしさを感じるようなボディ・ラインはしていない。
  肉付きの薄い胸や太ももは小学生と見紛うくらいの身長とともに女性としての未完成さを際立たせている。
  だが、そういった部分も含めて、少女は、千子の呼び出した英霊は、完璧なまでに美しい『少女』だった。

「マスター? どうかした?」

  千子の視線が少しキツすぎたのか、少し顔を赤らめてアーチャーが言う。
  後ろ手を組んで、身体を前に傾けて上目遣いで千子の方を見つめながら。
  思わず鼻を手で覆う。
  千子は今、生まれて初めて自分が男でないことに心の底から感謝した。
  男だったら鼻血を噴いていた。絶対に噴いていた。性的興奮を覚えてもっとみっともないことになっていたかもしれない。そうすれば完全に変質者だ。
  女でよかった。だが、女だからといって完全に防ぎきれる攻撃ではない。
  これはもう、愛らしさの暴力だ。
  千子は、理不尽な暴力を受けて精神的に追い詰められていた。
  だが、これを暴力と定義するならば千子はとんだマゾヒストだ。
  鼻を覆ったのを怪しまれないように自然に手をずらしてこほんと一度咳払いをし、体勢と心を整えてアーチャーに向き直る。

「な、なんでもない。それより、あなたは?」

「ミミ? ミミはね、アーチャーだよ! えへ〜」

  アーチャーはそう言ってふにゃっと頬をゆるめて微笑む。
  その仕草もやはり衝撃的なほどに愛らしく、千子の心に荒波を起こすのだった。


397 : 茶藤千子&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/12(水) 22:24:09 n2irlMBE0

  なんとか我を取り戻し、思考を切り替える。
  英霊というからには世界を守れるような巨躯巨体の豪傑が出てくると思ったが、
  そういえば、千子たち魔法少女だって地球を守る英霊のようなものじゃないか。
  だったら、同じような境遇の少女が出てくる可能性だって否めない。
  アーチャーにそのことを聞いてみると、アーチャーは愛らしい笑顔を振りまきながら説明してくれた。
  彼女は「星守」という選ばれた戦士だったらしい。
  彼女の世界では日本はイロウスという未確認生物に侵略されており、アーチャーは地球奪還のために星の力を借りて戦う少女だった、とか。
  成程、それが本当ならば確かに英霊として呼ばれるにふさわしい経歴だ。

「これからよろしくね、マスター♪」

「……あ、うん」

  汚れた心が浄化されていくような清涼感を覚える満面の笑顔。
  平静を装っておきながらなんと答えるべきか迷った挙句結局素っ気ない返事を返してしまい、軽く凹む。
  まさか自分が本物の美少女を前にすると、ここまでポンコツになるとは思わなかった。

「あ、そうだ。ねえマスター!」

  アーチャーが、やはり人懐こい笑顔でずいと一歩近寄ってきた。
  少女特有の甘い匂いが鼻孔をくすぐる。1mほどの距離だが呼吸すら感じられるような気がする。
  思わず跳ねた心臓を深呼吸で整えながらアーチャーの問いかけに答える。

「どうかした?」

「あのね、マスター。ミミはね、なでなでしてもらうと強くなれるんだよ。凄いでしょ!」

  衝撃の事実だった。
  こんなことがあってもいいのか。夢ではないのか。
  願いが叶う聖杯戦争に呼び出されたと思ったら、愛らしさの塊のような少女の英霊と組むことになり、彼女はスキンシップをすればするだけ強くなる。
  都合が良すぎないか、大丈夫か。
  触ったら奥から怖いお兄さんや青い制服のお兄さんが出てきて詰め所まで連れて行かれるのではないか。
  そもそも触れず愛でるを心情にしてきた千子の方針と大きく食い違うのでは。
  千子がぐるぐると頭のなかを巡る疑問を整理できずに居るのを気づいてかどうかは知らないが、アーチャーは撫でやすくなるように背伸びをして頭を千子の方に寄せ、こう呟いた。

「はい、マスター! おねがい!」

  自慢じゃないが千子の最優先は少女だ。
  少女からお願いされて断れるわけがない。
  結局千子は「サーヴァントは人間じゃないからノーカン」と心のなかで繰り返しながら、ただ無心でアーチャーの頭を撫でまわして堪能した。
  アーチャーが満足気に深く息を吐く。
  その呼吸音を耳にして、千子は楽園という概念の真理に触れた。


398 : 茶藤千子&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/12(水) 22:25:06 n2irlMBE0
【クラス】
アーチャー

【真名】
綿木ミシェル@バトルガールハイスクール

【パラメーター】
筋力:C++ 耐久:C++ 敏捷:C 魔力:A 幸運:B 宝具:B

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
説明省略

単独行動:E++
星守としてのスキルから地球の持つ魔力の一部を借りることで発動する。
マスターを失っての長時間の現界は不可能だがその代わりに魔力に大きく補正を受ける。

【保有スキル】
星守:EX
星の守護者・星の奪還者。地球を侵略する悪意に対向する存在。
地球が舞台の聖杯戦争で発動するスキル。地球によって魔力に大きく補正を受ける。
また、敵対している相手が反英霊もしくは悪属性の場合筋力・耐久パラメータが一段階向上して魔力消費が軽減する。
更に他者の固有結界が発動した場合、地球側の固有結界に対する修正力を借りることで筋力・耐久パラメータが更に一段階向上して魔力消費が大幅に軽減する。
そして宝具のランクに地球の神秘を付与することで1つずつ上昇、ミシェルの場合Dランク宝具が全てCランク宝具となっている。

コスチュームプレイヤー:C
服を着替えることで武器と性能が変化する。
持ち込んだ衣類を交換することで武器と宝具をチェンジする。同時に2つの武器と宝具・コスチュームを使うことは出来ない。
コスチューム変更中は魔力消費量が上がるため注意が必要。
持ち込んだ衣類と武器・宝具の組み合わせは以下のとおり。
・冬制服 武器ソード・宝具なし
・星衣ユニコーン 武器ロッド・宝具「雷舞聖獣翔」
・メイド 武器ソード・宝具「ラブ・フォー・ユー」
・エプロンドレス 武器ガン・宝具「ミミのお友達」
・チアガール 武器ハンマー・宝具「Pompon Fire!」

無敵時間:B
一定時間攻撃判定から免れるスキル。
ミシェルは前転受け身(ドッジロール)を行うことでタイミングさえ合えば範囲攻撃すらも完璧に避けきる(ダメージ0・状態異常付与なし)。
ただし連続追尾攻撃などは回避不可能。
更に彼女の宝具発動にはいわゆる「無敵時間」が存在し、発動開始から発動終了までは他者の干渉を受けることがない。
ただし宝具発動の条件として宝具を放つ前に他者に攻撃を平均10回当てている必要がある。

好感度:EX
マスターと仲が良いほど強くなる。
マスターがミシェルをなでなでしてあげたり贈り物をあげたりすれば、マスターとの心の距離が近づいて魔力消費が軽減される。
ただしこのスキルが働くのはミシェルの最初のマスターだけであり、他者と再契約した場合このスキルは消失する。

むみぃ:A
むみぃ。可愛い。
少女に対して猜疑心や嫌悪感を抱く相手以外には好印象をもたれやすい。

手芸部:D
手芸が得意。服やぬいぐるみは手作り。
ただし、作った服は星衣ではないので着用しても武器は手に入らない。完全に趣味。


399 : 茶藤千子&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/12(水) 22:26:32 n2irlMBE0

【宝具】
『雷舞聖獣翔』
ランク:C 種別:対人 レンジ:1-20 最大捕捉:10
コスチューム星衣ユニコーンで使用可能。
天に高く飛び上がり魔力をまとった飛び蹴りを放つ。
飛び蹴り着弾後、周囲に魔力による衝撃波を展開して更に追加ダメージを与える。

『ラブ・フォー・ユー』
ランク:C 種別:対人 レンジ:1-5 最大捕捉:5
コスチュームメイドで使用可能。
ケーキを差し出した方向が大爆発する。
レンジ・方向がかなり限定されるが、威力は所持する宝具中最高。

『ミミのお友達』
ランク:C 種別:対人 レンジ:1-10 最大捕捉:10
コスチュームエプロンドレスで仕様可能。
空から一軒家くらいの大きさのうさぎのぬいぐるみが落ちてくる。
見た目はただの大きなうさぎのぬいぐるみだがれっきとした宝具であり神秘を纏った武器であるため破壊力は一軒家が落ちてくるよりも高い。
威力は高いが効果範囲が狭い。

『Pompon Fire!』
ランク:C 種別:対軍 レンジ:1-30 最大捕捉:30
コスチューム・チアガールで発動可能。
地面に魔力を注ぎ込んでレンジ内に魔力で生成した花火を打ち上げる。
効果範囲が広いが威力はやや低め。

【weapon】
魔力結晶から精製された剣・杖・銃・ハンマー。
銃と杖は遠距離武器であり最大段数五発。リロードを行う場合はドッジロールを繰り出す必要がある。

【人物背景】
バトガールのCMによく出るむみぃ〜って奴。/人(,,・ヮ・,,)人\むみ〜♪
可愛いわ……こいつ可愛いわ……
中学二年生ってことは六割くらい小学生だし、発育が悪い方なのでえぐりこむように千子のストライクゾーンのインハイを攻められている。


400 : 茶藤千子&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/12(水) 22:27:51 n2irlMBE0

【マスター】
茶藤千子@魔法少女育成計画JOKERS

【マスターとしての願い】
少女たちを守る

【能力・技能】
・プリンセス・クェイク
人口魔法少女プリンセス・クェイクに変身ができる。
武器は巨大なハンマー。地面を叩けば衝撃波が走る。また、土を操る魔法が使える。
長時間の変身には負荷がかかる。また、魔力充填の錠剤を数錠しか持ってきていないのでそんなに変身できない。

・ラグジュアリーモード
強化形態。魔力の使用量が増える代わりに戦闘力が上がる。
実質使用不可能。

・少女愛/少女審美眼/少女スケッチ技術
少女に関するいくつかのこと。
少女へのきれいな愛を抱いている。性質としては性愛ではなく慈愛である。
少女を見る目が確か。というか凄い。しなやかな筋肉の躍動も見逃さないしうわさ話も聞き逃さない。
スケッチの技術も高い。彼女の家の押入れの中にあるスケッチブックの山にはキラキラ輝く少女の姿が焼き付けられている。

【人物背景】
プリンセスロリコンお姉さん。大学生。
変身していないと無愛想に見られがち。

【方針】
少女を保護し彼女たちの安全を優先。
できれば彼女たちの願いを叶えてあげたい。

魔力の乏しいマスターであるためミシェルとどれだけ仲良くなるかが肝になる。
たくさんなでなでして貢いで少女と仲良くなり魔力を軽減するwinwin関係構築が重要。
ミシェルは武器が多く中〜近距離ではその手数で相手の弱点を探りつつ立ち回れる。
悪属性や反英霊に対してはスキル「星守」を使って強くなれるのでわりと有利に立ち回れる。
更に上記に当てはまらない相手でもスキル「無敵時間」を上手く用いれば負傷を最低限まで抑えることが可能。
ただ、スキルによる性能向上がなければ決定打に欠ける上マスターが魔力豊富な方ではないので積極交戦は控えるべきか。
また、コスチュームを変えると魔力の消費が大きくなるというシステム上、やはり魔力運用に気を使う必要がある。


401 : 茶藤千子&アーチャー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/12(水) 22:28:19 n2irlMBE0
投下終了です


402 : ◆3SNKkWKBjc :2015/08/13(木) 09:04:58 F8Oyt5gw0
皆様投下乙です。私も投下します。


403 : 暇を持て余した少女の遊び ◆3SNKkWKBjc :2015/08/13(木) 09:05:49 F8Oyt5gw0
震災から復興がある程度進めば、人が増え、店も開店し、そして活気が生まれる。
常連客もちらほら顔を見せたが、それでも人は減った方だろう。

アレで果たしてどれだけの人が死んだ事か
アレでどうして平凡な日常を取り戻せるか

現代においては不可能に近いと思う。
平和が保たれていた<新宿>で、突如の震災に衝撃が走った。
絶望と恐怖と死が折り重なったことで平穏な日常は再生された……


しかし、奇怪な噂があった。
美術館の芸術品が何者かによって無茶苦茶にされてしまったらしい。
その無茶苦茶、というのも一言で済まされないものであった。
有名な絵画が偽物とすり替えられていた……のではなく、全く異なる絵に変化したのだとか。
ある石像は、本来のポージングではない異なる格好へ変化していたとか。
鑑定をしても、筆のタッチや、芸術性から本物であることは間違いないのに

まるで絵が動いたような――そんな有様だった。





<新宿>の住宅街にポツンとある館。
例の震災でもびくりともせず、倒壊することがなかった数少ない建物の一つ。
だが、地割れや壁にヒビ一つ入らない姿からは、幸運よりかは不吉な場所だと人々は気味悪がっていた。
近頃じゃ心霊スポットになっているよう。

しかし、最近になって興味本位で近づく者が少なくなった。
何故ならば――あそこは本当に「出る」場所であると知れ渡ったから。

飾られている絵画が動き、埃を被っている芸術品などが生き物のように襲いかかり
どこからともなく少女たちの笑い声が響く。

最初は冗談半分で足運ぶ者が絶えなかった。
ところが生きて来れた人間は、わずかばかりで、警察も一度か二度様子見したらしいがそれ切りだったという。


あそこは本当に不味いところだ。


人々が自覚をすれば誰も何も触れようとはしなくなる。
触らぬ神に祟りなし、だ。
たとえ、そこにいるのが神でないとしても。


404 : 暇を持て余した少女の遊び ◆3SNKkWKBjc :2015/08/13(木) 09:06:46 F8Oyt5gw0



「んー」

一人の少女が青く不気味な人形を眺めていた。
彼女こそが館の主。
少女の姿をしているが吸血鬼である。

「どうしたの?」

その吸血鬼のサーヴァント――これまた少女の姿をしたもの――が問いかけた。
吸血鬼は答えた。

「きゅっとしてドカーンしようかなって」

「きゅ? ドカーン? ……駄目! この子もわたしの友達なんだから!!」

「しようとしただけよ」

「もう」

サーヴァント・キャスターは不安を隠せない様子で溜息をついた。
少女のキャスターも主の恐ろしい能力を知っている。

ありとあらゆるものを破壊する程度の能力

生物も鉱物も建物も、皆等しく破壊できるからこそ破壊する。
気のふれた吸血鬼の少女、フランドール・スカーレットはその手加減が出来ないのだ。
人間も、芸術品も、壊れてしまうものだと自覚しているのだから
うふふとフランドールは言う。

「メアリーたちの『目』は見えないし」

「そういう問題じゃないでしょ」

「ま、人間は元に戻せないみたいね」

流石のフランドールもその程度の常識は取り込めた。
しかし、それはすぐ壊してしまったらツマラナイ程度の解釈であって、最終的には壊してしまう。
それでもフランドールは昼間、外出することは叶わない。
彼女の知るのは夜の世界だけだった。

そんな狂った主にキャスターは尋ねる。


「ねぇ、フラン。あなたのお願い事はどうするの?」

「私は遊びに来ただけ」

「遊ぶことがお願い?」

「違うわ。私は願いを叶えに来たんじゃなくて、遊びに来ただけ。95年くらい地下にいたから外で遊んで楽しむのよ」

「そっか……でも、今は外で遊べて楽しいよね!!」

「気分転換には最適」

「今日は本が沢山あるところに行こう! 本には色んな子がいるから、沢山友達ができるよ!!」

「また、イタズラするのね?」

「うん、またイタズラしちゃおう!」


二人の少女が嗤い合う。

さあ、もう一度遊びましょう。

あなたもわたしも、コンティニューできないのだから。


405 : 暇を持て余した少女の遊び ◆3SNKkWKBjc :2015/08/13(木) 09:09:34 F8Oyt5gw0
【クラス】キャスター
【真名】メアリー@Ib
【属性】中立・中庸

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:EX 幸運:E 宝具:EX

【クラススキル】
陣地作成:A
 ヒトが立ち入ることは許されないその世界を堪能するため
 私はキャンバスの中にその世界を創った

道具作成:B
 ようこそ、ゲルテナの世界へ


【保有スキル】
変化:A
 一見美しいその姿は近づきすぎると痛い目に遭い
 健全な肉体にしか咲くことができない

精神異常:C
 あまりに精神が疲弊するとそのうち幻覚が見え始め
 最後は壊れてしまうだろう
 そして厄介なことに、自身が『壊れて』いるのを自覚することはできない


【宝具】
『我が愛おしい娘』(メアリー)
ランク:EX 種別:対人 レンジ:- 最大補足:1人
 サーヴァントが持つ宝具ではなく、宝具そのものがサーヴァントとなったもの。
 作品が自我に芽生えることすら奇跡に等しい。
 元は絵であった為、炎によって燃やされることで消滅してしまう。
 ただし、燃やされる事以外で彼女が消滅することはない。

 メアリーは芸術作品と友達になれる、メアリーの周囲にある芸術作品は動き出す。
 また、メアリーは彼らと話すこともできる。
 動くとはいえ実際に歩きだすのか、絵の中で物が動く程度なのか、それは作品の気分次第。


【人物背景】
ゲルテナの生涯最後の作品
その少女はまるで実在するかのように佇んでいるが、実在しない人物である。

【サーヴァントとしての願い】
お父さんに会いたい




【マスター】
フランドール・スカーレット@東方Project

【マスターとしての願い】
色々遊ぶ

【能力・技能】
ありとあらゆるものを破壊する程度の能力
 全ての物には「目」という最も緊張している部分があり
 その「目」を自分の手の中に移動させ、拳を握りしめる事で「目」を通して対象を破壊する。
 何らかの制限により、サーヴァントや宝具・使い魔などの「目」は認識できない。

吸血鬼にして魔法使い
 日光が弱点。

【人物背景】
495年引きこもりだった。
少々気がふれてい為、あまり屋敷の外に出してもらえず
また、彼女自身も外に出る気がなかった。


406 : ◆3SNKkWKBjc :2015/08/13(木) 09:09:58 F8Oyt5gw0
投下終了です


407 : ◆3SNKkWKBjc :2015/08/13(木) 09:19:28 F8Oyt5gw0
申し訳ありません。投下して早々ですが

>95年くらい地下にいたから外で遊んで楽しむのよ ×
495年くらい地下にいたから外で遊んで楽しむのよ ○

でした。変な脱字をして申し訳ありません。


408 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/15(土) 20:39:48 sU3w3yK.0
投下します


409 : 荒垣真次郎&アサシン ◆GO82qGZUNE :2015/08/15(土) 20:40:37 sU3w3yK.0
 198X年9月13日金曜日午前3時、東京都新宿区『だけ』を襲撃した直下型大地震、通称<魔震(デビルクエイク)>。新宿区だけを狙い、隣接区には一切の微震すら感知させなかった未曾有の大災害。
 しかしそれはかつての出来事だ。新宿は既に復興を遂げ、今では他所と変わらない平和な社会が形成されている。
 そう、復興。ばら撒かれた瓦礫もなく、倒壊したビルもない。民間遺伝子工学研究所のコンピュータが暴走して生み出された怪生物も、数多に及ぶ妖物も、魔術師や凶悪犯罪者や超能力者の流入も、そんなものは最初から存在しない。
 今やこの街は平穏そのものだ。表立った凶悪犯罪が日常的に起こるわけでもなく、塵屑のように人が死んでいくような地獄でもない。どこにでもあるような、それなりに発展した一都市。
 傍目から見れば他の都市との区別など、それこそ名前くらいでしか見分けがつかないだろう。
 それ故に。

「死ねッ! 死ねよてめえ! ふざけやがって糞がッ!」

 こうした暗部もまた、他所と同じように新宿も保有していた。
 まともな人間ならまず立ち入らないような入り組んだ路地裏。そこで行われているのは3人の男が1人の男を囲んでひたすらに殴り蹴る……有体に言ってしまえば集団リンチだ。
 甘んじて暴力を受けている男は、既に顔面はおろか露出した肌のほとんどが出血や内出血で変色し、肌色などほとんど見えていない。手を振り回す力も残っていないのか、時折ぴくりと痙攣するだけで抵抗らしい抵抗はしていなかった。
 相手の生死など歯牙にもかけない手加減抜きの暴力。このような有り様になって尚、3人の男―――男というよりは少年と言ったほうが正しいか―――は殴る手を休めない。それは殺すことを容認しているというよりも、そもそも相手が死ぬ可能性があることを最初から考えていないと言ったほうがいいだろう。
 端的に言ってあらゆる想像力が欠如している。そんな子供じみた幼稚さが垣間見える集団だった。
 暗部、と言っても精々がこのように調子に乗った餓鬼の遊びの延長のようなものであったが。それでも人の心の闇が引き起こす結果の一つであることは事実だ。現にその幼稚さに晒されている哀れな男―――こちらもまた少年だ―――は瀕死の憂き目に遭っている。
 不快な水音の混じった殴打の乱舞はいつまでも終わらない。それは不運な少年の命が尽きるまで延々と続けられるかと思われたが……

「……おい、そのへんにしとけよ」

 不意にかけられる声があった。それは路地の向こうから聞こえてきて、3人の少年は顔を向けると同時に殴打の手を止めた。
 声の出所にいたのはこれまた少年の姿だった。冬でもないのに厚手のコートを纏い、帽子を深く被った長身痩躯の少年。厳つい外見とは裏腹の静かな口調で、およそ生気というものが希薄な印象を受ける声をかける。

「そいつ、もう動けねえだろ。何があったか知らんがケリはついてるはずだ。別に殺したいわけじゃねえんだろ? だったらこの辺が止め時だぜ」

 ポケットに手を突っ込んだ姿勢でこちらを見据える少年の目はどう見ても単なる野次馬のそれではないが、しかし血と暴力で興奮しきった3人はそんなことに露と気付かない。
 胡乱気に振り向く顔面には嘲りの感情がありありと浮かび、その口元は醜悪に歪んでいた。

「あァ? なんだてめえ、ちっと来るとこ間違ってんのと違う?」
「お前みたいなのが来ると白けんだろ。帰れよコート野郎」

 げらげら、げらげら。3人は馬鹿にしたような大笑いで、しかしその目は全く笑っていない。突然の闖入者に驚きこそすれど内心は怒りと鬱陶しさしか感じておらず、それ故の憂さ晴らし。
 根拠もなく相手を自分より格下と蔑み、その虚偽を以て安心感を得ようとする。不思慮な人間の典型的な行動であったが、そこに単純な数の暴力が加われば根拠なき自負の地盤は加速度的に強化される。


410 : 荒垣真次郎&アサシン ◆GO82qGZUNE :2015/08/15(土) 20:41:06 sU3w3yK.0
「……メンドくせぇ」

 血気に逸る3人とは対照的に、コートの少年はどこまでも億劫そうな態度を崩さない。その顔は言葉通り面倒だなという感情に溢れ、眼前の集団に恐怖も危機も感じてはいなかった。
 3人にはそれが余裕と侮りに見え、そして当然の帰結として激昂するに至る。

「なにチョーシくれてんだ、あァ? 明日の朝刊載ったぞテメェ!」

 半ば裏返った甲高い奇声を発し、3人のうちの1人が大振りなモーションで殴りかかる。俗に言うテレフォンパンチは明らかに素人の所業で、あまりにも隙だらけだったものだから。

「―――ゲボエァ!?」

 その鼻面に思い切り頭突きをくれてやった。
 いっそコントかと思うほどに間抜けな悲鳴を上げた少年は、これまた滑稽なまでに大袈裟に吹っ飛んでいく。
 カウンターを喰らった少年が壁に衝突するのを見届けた後ろの二人からは、早いことにもう隠し切れないほどの怯えが滲み出ていた。先ほどまでの空虚な自信はどこへやら、既に戦意が消失していることが手に取るようにわかる。
 そんな程度なら最初からいきがるなよ、などと内心溜息を吐きつつ、コートの少年は顎で路地の向こうを指す。

「おら、もう行けよ。これでこの場はチャラにしてやる」

 言葉が終わるよりも早く、3人は酷く慌てた様子で走り去っていった。残されたのはコートの少年と、倒れた誰かのみ。

「……」

 コートの少年は嘆息すると、おもむろにポケットから何かを取り出す。それは小さな玉のようなものだった。用途不明のそれを血塗れで倒れた少年に宛がうと、途端に眩しいまでの光が溢れ、少年を包み込んだ。
 そこから起きた出来事は常識の範疇を完全に逸脱していたと言っても過言ではないだろう。内出血で青紫色に腫れ上がった皮膚は徐々に元の肌色を取り戻し、折れた骨は繋がり、出血していた傷もみるみる塞がっていく。
 それはまるで時間を巻き戻すかのように。あらゆる欠損を修復し、瀕死の体だった少年を死の淵から救い出す。

 ぱちり、と少年の目が開いた。周囲を見渡す視線は困惑に満ちていて、何が起こったのかまるで理解していない風だった。

「おい」
「ひィッ!?」

 かけられた声にびくりと反応し、弾かれたように飛び退る。こちらを見つめる少年の顔は、恐怖に固まっていた。
 そのまま少年はよく分からない叫び声を上げながら路地の闇へと消えて行った。まともに会話をすることもなく、自分に何があったのかを理解することもなく。
 そうして、今度こそコートの少年は独りになった。


411 : 荒垣真次郎&アサシン ◆GO82qGZUNE :2015/08/15(土) 20:41:35 sU3w3yK.0
「なんや、随分薄情な奴やなぁ」

 男の声だ。しかしコートの少年のものではない。不格好な関西弁めいた喋り口調はどうにも気が抜けそうで、けれど錬鉄を極めた鋼のような印象も受ける。
 コートの少年―――荒垣真次郎は、はぁ、と再度嘆息し、姿の見えない声に応える。

「構いはしねえよ。あんだけやられた後なんだ、まともに考えることなんざできねえだろ」
「ま、そりゃそうやねんけど……それでもな」
「いちいち気にすることじゃねえ。こんなんいつものことだ」

 ぶっきらぼうに言い捨てると、どこかの建物の裏口階段にどっかりと腰を据える。その隣にはいつの間にか別の人影が存在していた。
 白い少年だった。髪も肌も服装も、全てが白一色で染まっている。丸い小さなサングラスをかけたその姿は、洋画に出てくるマフィアのようにも見えた。
 どう考えても白人にしか見えないが、驚くべきことにあの関西弁を話していたのはこの少年だ。正直初見の際はあの禿げ上がった情報屋を思い出して気分が悪くなったが、あいつのような嫌味や空虚さがない分今ではむしろ好感さえ覚えるほどだった。
 本人はモスクワ訛りの英語だと主張していたが……まあどうでもいいことだ。

「で、お前一体何がしたかったんや。
 いきなり孤児院抜け出して、こんなけったいな場所まで来て、喧嘩したかと思いきや慈善事業の真似事かいな。意味ワカランでほんま」
「別に……決まった目的があったわけじゃねえ」

 ただ、あそこには色々と割り切れないものが多かったというだけのこと。
 何の因果かこの新宿に足を踏み入れ、誰かに用意された日常を過ごして。そして記憶を取り戻した瞬間、耐えきれずに逃げ出してしまった。
 荒垣に用意された日常は孤児院での日々だった。親を亡くしてずっと孤児院で過ごしてきたという設定。周りには懐かしい顔ぶれが集っていて、どうにも自分には似つかわしくない暖かな陽だまりがあって。
 中には、かつて取りこぼしてしまった姿もあった。

「ふーん。ま、大方予想はつくけどな。あん中に願いや未練の元でもあったんか」
「願いなんて大層なもん、俺は持っちゃいねえよ」

 己の人生を振り返ってみて、未練と呼べるものがあるとすればなんだろうか。
 美紀……アキの妹が死んでしまった火災を無くすことか? それとも自分のペルソナが暴走してしまったせいで死んでしまった天田の母親の蘇生か? どこかで間違ってしまった全ての選択肢をもう一度やり直すことか?
 それとも、それとも、それとも。取りとめのない思考は湯水のように湧いてくる、しかし聖杯に願うかと言われれば違うとしか言いようがない。
 人の死を無くして、過去を思うように変えて、それでどうなる? 今さら自分が犯してしまった罪が消えるのか。それは否だ。むしろそんな願いは罪から目を背けた逃げでしかないと、そう思う。
 今まで散々罪から逃げ回ってきたからこそ、最後の一線だけは踏み越えたくない。これを越えてしまえば、今度こそ自分は偽善者以下の何かになってしまいそうだ。
 唯一の未練と呼べるのは天田のことだが……なに、あいつの傍にはアキもいる。不足にもほどがあるが、自分の残せるものは全部残してきたと思いたい。
 ならば己の人生に悔いはない。あとは罪人らしく地獄にでも落ちるのが筋というものだろう。

 けれど、しかし。


412 : 荒垣真次郎&アサシン ◆GO82qGZUNE :2015/08/15(土) 20:42:07 sU3w3yK.0
「だが、わざわざ俺をこんな場所に連れてきやがったのは気に食わねえ。聖杯だの殺しだのはやりたい奴らだけでやってりゃいい、けどな」

 今にも死んでいく人間を連れてきて、さあ命を助けてやったのだから殺して回れなどと、そんなことを強制するのなら。
 そしてそんな糞のような所業を、己のような罪人以外にも課しているのだとすれば。

「死人を選んでマスターに仕立て上げやがった連中は放っておけねえ。きちんとぶっ潰して、二度と舐めた真似できねえようにしてやる。
 ……そんであとは元の通りさ。俺はあのまま死んでいくし、それでいい」

 口調はあくまで淡々と。しかし内には激情を秘め、その意志は何者にも曲げられない確かな強固さを持ち合わせている。
 
「で、そういうアンタはどうなんだ。まだ半信半疑じゃあるが、『知識』によればサーヴァントってのは聖杯にかける願いがあるから呼び出されるんだろう?」

 と、逆に問われた白髪の少年は面食らったような顔になった。

「おれの願い、か」

 願い。問い返されると、これほど困った質問はないだろう。
 別に願いがないわけではない。生前の自分はそのために戦ってきた。それはシティを守りたいという個人の我がままで、言ってしまえば自分が勝手にしてきたことに過ぎない。
 もちろんそれで救われた人間はそれなりの数に上るし、相応に感謝もされてはきた。ならば願うべきは彼らの平穏と幸福だろうが、さて過程として何をどうすればそれに繋がるのか皆目見当がつかない。具体的なヴィジョンもなしに漠然と願えば、どんなプロセスを経て結果を出されるか分かったものではないのだ。極端な話、一歩間違えれば世界そのものが滅亡する可能性だってある。
 ならば単純に全ての元凶となった大気制御衛星の暴走事故を無くすことを願ったとしても、事態はどうにもならないだろう。そもそもあの事故がなければ人類はおろか地球そのものが滅びていたという事実がある以上、改変すべきはひとつの事象では到底足りるものではない。
 だから。

「……お前がいた孤児院のちびっ子ども、ほんまええ子ばっかやったな」
「あ?」

 突然の台詞に面食らうも、白髪の少年の顔は冗談を言っているふうには見えない。
 そのままつらつらと、少年は言葉を続ける。

「これは受け売りなんやけどな。世界は変えるもんやなくて、変わっていくものらしいで」
「……へえ、いい言葉じゃねえか」
「せやろ? だからまあ、おれもそれに乗っかってみようか思ってな」

 考える。そう、例えば、仮に全ての問題が解決して最初からあらゆる悲劇がなかったとすればどうなるか。
 大気制御衛星の暴走とそれに伴う第三次世界大戦。死者の数は190億以上にも及び、それを丸ごと無かったことにすればバタフライエフェクトが云々どころの話ではないだろう。
 端的に言ってしまえば、自分が見知った人々が生まれてくることもなくなるはずだ。WBFの姉や弟、その彼女。赤毛の兄ちゃんにちびっ子1号と2号。先天性魔法士の多くはそもそも生まれる機会を失くし、自分が通い詰めた孤児院の子供たちだって例外ではない。
 如何なる変革を遂げようとも、そこには必ず犠牲や痛みがついて回る。だからこそ、その変化は部外者に強要されたものではなく当人たちが自ら選択しなければならない。


413 : 荒垣真次郎&アサシン ◆GO82qGZUNE :2015/08/15(土) 20:42:32 sU3w3yK.0
 全ての悲劇がないifの世界は、確かに誰かが不当に犠牲になることなく、大勢の人々が平和に暮らしていける理想郷だろう。そのこと自体に否やはなく、傍から見ればどちらがより良い世界かなんてそんなことは決まりきっている。
 だがそこに子供たちの居場所はない。あの灰色雲の下で懸命に生きた人々は、存在することも許されない。何故なら悲劇は否定され、その果てに生まれてくるはずだった者たちは生まれることすらできないのだから。
 過去を変えるとはそういうこと。それは枝分かれした未来に生きる人々の人生そのものを否定することだ。自分が守ってきた全員の否定に他ならない。
 正直なところ、自分には世界がどうとかいう話は難しすぎてどうにもついていけない。自分にできるのは個人で誰かと仲良くなったり仲たがいする程度で、一人で世界を変えるなどと途方もない話だったから。

「だからな。柄やないけど、お前の考えに乗ったるわ。正直おれのいた世界は面倒なことばっかで、それこそ聖杯でも使わんとどうにもならへん。だから手に入ったならおれのいた世界の人に託したいとは思うけど、それはそれとしてこんな茶番を仕組んだ胡散臭い連中は放っておけへん。
 黒幕はぶっ潰す、ついでに二度とこんなことできなくしたる。馬鹿なおれらにできるのは精々そんなもんやろ」

 ちっぽけな自分には、与えられた環境の中で最善を尽くすことしかできない。大局の全てを見通せる真理眼など、到底持ち合わせてはいないのだから。
 仮に自分が聖杯を手にしたとして、裏に潜む何者かはこれで事を終わりにはしないだろう。きっと第二第三の聖杯戦争が開かれ、その都度聖杯を手にする者が現れるはずだ。
 そいつが世界を滅ぼす選択をしないと、一体誰が言えるだろう。
 そりゃ自分とて聖杯は喉から手が出るほど欲しい。それさえあれば諸々の事情を無視して世界を救うこともできるかもしれないのだ。だが、その権利は自分には存在しないだろう。
 だから自分はこの道を選択する。後に聖杯を得る者による世界の破滅の可能性を根絶する。頭の悪い自分には、こんなことしか思いつかなくて。
 ここに召喚されたのが自分ではなくアニルや賢人会議の参謀だったらどれほど良かったかなどと馬鹿なことを考えながら。

「……随分と酔狂な英雄もいたもんだな。正直ぶっ殺されてもおかしくないと腹括ってたんだが」
「そりゃお互い様やろ。おれかてこんな珍種みたいなマスターがいるとは思っとらんかったわ」

 人を食ったような笑みで軽口を叩き合う。全く、似た者同士とは思いもよらなかったことで、縁召喚というのはどうにも食わせ物らしい。

「まあいいさ。俺は裏にいる奴らを潰すだけだ。聖杯なんざ興味はねえし、そこは好きにしたらいい」

 再びぶっきらぼうな態度に戻る荒垣に、白髪の少年は「おお、そうや」と手を叩いて。

「ここでこうしててもしゃーないし、ひとまずは戻ろか。で、最初にやるべきはみんなに『ごめんなさい』言うことやな」
「……勘弁してくれ」

 本気でしんどそうに俯く荒垣に、白髪の少年はケラケラと笑いながら肩を叩く。

(……そうやな。おれにできることなんかこんなもんや)

 自分にできることは誰かと縁を結ぶことくらい。世界をどうこうするとか、そんなのは専門外。変わりゆく世界に為す術なく漂うしかできない自分は、かつて思い描いた理想の自分ではないけれど。

 ―――なあ。おれ、かっこよく生きてるか?

 記憶領域に浮かぶ一人の少女の姿。遠い日に自分を庇い命を落とした彼女の笑顔が頭によぎる。
 ちっぽけな自分は理想の姿となることはできず、成せることなどたかが知れているけれど。
 それでも、あの日の彼女に恥じない自分でありたいと、そう思ったのだ。


414 : 荒垣真次郎&アサシン ◆GO82qGZUNE :2015/08/15(土) 20:43:15 sU3w3yK.0
【クラス】
アサシン

【真名】
イリュージョンNo.17(イル)@ウィザーズ・ブレイン

【ステータス】
筋力B+ 耐久C 敏捷B+ 魔力C 幸運C 宝具EX

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
気配遮断:C
サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。

【保有スキル】
I-ブレイン:A
脳に埋め込まれた生体量子コンピュータ。演算により物理法則をも捻じ曲げる力を持つ。
100万ピット量子CPUの数千倍〜数万倍近い演算速度を持ちナノ単位での精密思考が可能。極めて高ランクの高速思考・分割思考に匹敵し、自動発動の戦闘予測演算により同ランクの直感を内包する。

心眼(真):A
修行・鍛錬によって培った洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”。
逆転の可能性がゼロではないなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

無窮の武練:A
ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。
心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

勇猛:B
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

戦闘続行:A
往生際が悪い。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。


415 : 荒垣真次郎&アサシン ◆GO82qGZUNE :2015/08/15(土) 20:43:44 sU3w3yK.0
【宝具】
『幻影・シュレディンガーの猫は箱の中』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
量子力学的制御、物質の存在確率の改変。
自身、及び自身に接触している物質を構成する原子・分子・魔力の存在確率を改変し、それを限りなく0に近づけることでいわゆる透過状態になる。そもそもこの世に存在しなくなるという絶対無敵の防御。
およそ考え得るあらゆる攻撃と防御をすり抜け、肉眼での目視以外のあらゆる探知手段に引っかからない。物質の座標期待値の改変による短距離の空間転移も可能。
攻撃時は相手の体表を透過し内部を直接攻撃できるため耐久を無視したダメージを与えることが可能。かつこの宝具のランク以下のあらゆる透過能力を貫通して攻撃できる。
純粋な科学によって限定的ながらも魔法級の御業を成し遂げる、偶発的に誕生した極限域の例外存在。魔法士の範疇から完全に逸脱した文字通りの規格外。
アサシンは生前この能力をほぼ無制限に使用していたが、サーヴァントとなることで使用に必要な魔力量が増加。結果、長時間の発動は難しくなっている。

【weapon】
なし。

【人物背景】
かつて殺されるために生み出され、乱数の偶然により生き永らえ、世の全てを憎んで殺そうとした少年。
その果てで一つの救いに出会い、誰も守れない無力な力だけを携え、それでも誰かを守りたいと強く願った青年。

【サーヴァントとしての願い】
諸々の難しい事情は置いといて、シティに住まう自分の見知った全ての人たちの平穏。できるならば世界そのものの平和。
だが自分ひとりが勝手にそんなことを願う権利はないと思うし、仮に聖杯を手にすることがあれば自分のいた時代のしかるべき人間に託したいと考えている。
ひとまずは、この聖杯戦争を仕組んだ何者かの目論見を潰す。



【マスター】
荒垣真次郎@ペルソナ3

【マスターとしての願い】
そんなものはない。

【weapon】
召喚銃:
内部に黄昏の羽と呼ばれる、ニュクスから剥離した物質を内蔵された銃。殺生能力はゼロで、あくまでも、ペルソナを召喚する為の補助ツールである。

【能力・技能】
・ペルソナ能力
心の中にいるもう1人の自分、或いは、困難に立ち向かう心の鎧、とも言われる特殊な能力。
元々荒垣はこのペルソナ能力に対する適正が低かったのだが、友人だけを戦わせられないとして無理やり発現させた。しかし生来の適正の低さもあり、初期段階においては暴走することもあったらしい。
法王のペルソナ「カストール」を所持。物理攻撃に優れ運以外の全てのパラメータが高いバランス型。耐性が存在しない代わりに弱点も存在しない。

ペルソナ能力を除いても、一般人としては破格の身体能力と度胸を持ち合わせる。
【人物背景】
主人公と同じ私立月光館学院の3年生。冬以外でも厚手のコートを纏い、見た目と態度は完全に不良そのもの。しかし実は面倒見が良かったり、かなり涙脆かったり、やたら料理が得意だったりする。
元々ペルソナ適正が低く、暴走したペルソナが不幸にもとある家族を襲撃してしまうという事故が発生。その事故で天田の母親が死亡し、自責の念から特別課外活動部を脱退する。
その後は強い副作用のある薬によりペルソナを抑え込んできたが、後悔の源である天田を庇い、その命を散らした。

【方針】
ふざけた真似をしやがった黒幕をぶっ潰す。


416 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/15(土) 20:44:18 sU3w3yK.0
投下を終了します


417 : ◆Me7YRUBRz6 :2015/08/17(月) 00:09:17 NG/y2dno0
投下します


418 : Cursed Fates ◆Me7YRUBRz6 :2015/08/17(月) 00:09:46 NG/y2dno0
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
今まさに生命の危機に瀕した男は、次々と流れる走馬灯と同時に、そう思った。

男はこの歪な聖杯戦争への参加など望んでいなかった。
男には愛する家族も恋人もおり、満ち足りた生活を送っていた。
故に、誰かを殺めてまで叶えたい願いなどあるはずもなかった。
別の世界で送りたい人生など無かった。
ただ偶然、異彩を放つ青色の鍵を拾い巻き込まれてしまったのだ。

不幸中の幸いか、彼が契約を結んだサーヴァント、セイバーは優秀だった。
実力だけでなく人格にも優れ、自身の望みが聖杯にはなく元いた世界への帰還だと知っても協力的で、
他の参加者から襲撃を受けた際も力の限り戦い、守ってくれた。

そんな頼れるパートナーの協力もあり、男はこの世界を脱出する方策を見つけるため行動を開始した。
出来る限り戦闘を避けるため人目の付かない時間帯に行動し、街を散策した。
だが結果は著しくなく、早晩手詰まりになってしまった。
そして、唯一未だ調査していなかった、断崖に囲まれた新宿の街と他区を繋ぐ橋の調査に乗り出したのがつい先程であり、
そこで、襲撃を受け絶望的な状況に陥ってしまったのだった。

元より、橋は何者かの手で事前知識として記憶に刷り込まれた情報によって、
他区へ移動できないということは知っていた。
それ故調査に行くのも後回しにしていたし、例え調査に行ったとしても、
行くだけ無駄と思われる場所で他の参加者に襲われる危険性は低いだろうと多少気をゆるめてしまっていた。
その矢先に、敵は現れた。


419 : Cursed Fates ◆Me7YRUBRz6 :2015/08/17(月) 00:10:28 NG/y2dno0
橋を渡り始めてすぐの事だった。
突如空気が一変し、天候が異常な状態へ変化した。
まず霧が立ち込み始め、雷が鳴り始める。
そして橋の向こうには陽炎が立揺らめき始め、そこにはこちらに近づいてくる何者かの姿が朧気に見えた。
突然の事態に本能が危険だと訴えかけてくる。
自身のサーヴァントが迎撃のため臨戦体勢を取るが、脳内の警鐘は鳴り止まない。
逃げなければと体に命じるが、まだ遠くにいると認識していた敵が瞬間移動したかのように大幅に距離を詰めてきていた。
最早逃走も難しい。敵の放つ独特の足音がどんどんと近づいてくる。

カシャン カシャン カシャン カシャン

カシャン カシャン カシャン! カシャン!!

そして遂に男は敵の姿を見た。白金色の鎧に包まれた全身、煌めく真紅の双剣、仮面に浮かぶ深緑色の巨大な双眼。
月明かりがその身を照らし、恐ろしさと同時に美しさを覚えてしまう。
動揺と恐怖で動くことも出来ない間に、姿を現した敵に自身のサーヴァントが向かっていく。
心の底から頼りしていた己のサーヴァントだったが、今はただ止めたかった。
恐怖に支配された精神が、その敵には敵わないと警鐘を鳴らし続けている。
戦えば負ける、逃げなければ殺されると。
しかし、止められなかった。止める時間すらないほど決着は一瞬で付いてしまった。
敵はまるで自分のサーヴァントの動きを完全に読んでいたかのように一刀目の攻撃を受け払い、
隙を晒した所を一瞬で捉え、防具も身の守りも無視してセイバーを一刀両断した。
男は、セイバーと自分を繋ぐパスが消えていくことを自覚しながらも、
最早、どうしてこんなことになってしまったのかという一事しか考えることができなくなっていた。

これで男のこれまでの走馬灯が流れ切った。
敵は既に間近へと迫っている。
仮面に隠され表情の読めない白銀の剣士が、怪しく光る二振りの双剣を構えゆっくりと近づいてくる。
敵が自分を逃がす可能性など一欠片ほどもないことが、漏れ出る殺気から嫌というほど伝わった。


420 : Cursed Fates ◆Me7YRUBRz6 :2015/08/17(月) 00:11:17 NG/y2dno0
カシャン カシャン カシャン カシャンッ!

足音が止まる。すくんだ足がもつれて尻餅をついた自分を、敵は無感情に見下ろしている。
いよいよもって迫った死に、男は既に殆ど枯れ果てた勇気をなんとか振り絞り命乞いを始めた。

「おねっ、お願いです!見逃してくださいっ!今夜のことは全て忘れます!
 私はただ生きて元の世界に帰りたいだけっぇ!」

男の言葉が終わり切る前に、白銀の剣士はその手から念動力を放ち、男を宙へ浮かび上がらせた。
同時に放たれる緑色のエネルギーの光条が男の体を焼く。

「ああああああっ!だすっ、助げて、やめて……あ゛あ゛っ!」

男は磔の体勢で宙に固定された。
敵はこのまま急所を刺し貫くつもりなのだろう。
それでも、男は命乞いを止めなかった。
もうそれだけしか足掻く術はなかった。

「家族が……いるんです……妹が……恋人が待っている……帰らなきゃ……」

それが、男の最期の言葉になった。
紅く煌めく長剣で正確に心臓を一突きされ、男は絶命した。
白銀の剣士は無感情にその死体を投げ捨て、背後に控えていた己のマスターへと向き直った。


421 : Cursed Fates ◆Me7YRUBRz6 :2015/08/17(月) 00:12:13 NG/y2dno0
「終わったぞ。……これからどうするつもりだ?」

セイバーは平坦な声音で形式上の主へと尋ねた。

「どうするもなにもないさ、これからも同じ様にブッ殺し続ける。
 参加者がオレ達を除いて全滅するまでな。そうすりゃ願いが叶えられるんだろう?
 まあ、それをする前に少しリラックスしてもいいがな。
 アンタも一緒に来るか?ちょっと明るい街まで出れば、
 引っ掛けやすいそこらの『木』よりも頭の悪そうな女が溢れてるぜ」

長駆痩身の壮年の男性が暗闇から現れ軽口を叩く。
だがその口は笑っていれど、瞳には殺意以外の感情が一切宿っていない。

「貴様の冗談に付き合うつもりはない。
 それよりも、この男の死体はどうする。
 後始末をしなければ後々面倒になるやもしれん」

その問いを聞き、男は死体へと近づいていく。
そして自らの側に人型のビジョン――スタンドを出現させた。

「じゃあオレが後始末をするぜ。
 ……しかし以外だったな。アンタ、冷血無比な殺人マシーンのようなヤツだと思っていたが、
 ちょっとは情のようなものを持っているとは」

「……何の話だ?」

男の言葉にセイバーは低い声で反応した。

「アンタ、コイツが最後の命乞いをした時、一瞬、ほんの一瞬だが切っ先が揺れてたぜ。
 妹や恋人がどうとか言ってた時だ。
 もしかしてアンタにもそういうのがいたのか?
 だとしたらちょっと驚きだな」

男は冗談めかして両手で驚きを表現する。

「……昔のことは忘れた。俺は俺だ。再び蘇り一人の男を打ち倒すことだけが俺の宿命。
 それ以外に俺の感情が向くことはない。
 切っ先が揺れて見えたのは貴様の見間違いだろう」

セイバーはそう言い切り、男に背を向け虚空を見つめる。


422 : Cursed Fates ◆Me7YRUBRz6 :2015/08/17(月) 00:13:02 NG/y2dno0

「そうか。オレも昔のことは忘れていたがな、つい最近思い出した。
 オレにも絶対にブッ殺したい奴がいる。
 似た者同士、精々この戦いが終わるまで仲良くしようぜ」

そう言い終わると、男は側に立つスタンドを操り、雷雲を生み出しなんと雷を発生させた。
それもピンポイントに死体だけに向けて、何度も、何度も。
死体が完全に炭化するまで雷を振らせ続け、それが終わると今度は炭化した死体に向かって、
スタンドの蹴りのラッシュを叩き込んだ。
そして最後に強風を吹かせ、粉々になった死体は風に乗って何処かへと消えていった……。
 

「さて、具体的にこれからどうするかだが……
 アンタは何か意見はあるか、セイバー?」

良心があれば躊躇してしまうだろう残虐な後始末を終えても、
男の態度は何ら変わること無く平然としていた。
ただ無感動のまま己がサーヴァントに意見を求める。

「今回と同様の行動でいいだろう。俺もまたしばらく単独行動を執り、敵を探す。
 何かあれば呼ぶがいい」

今回、セイバーが敵のサーヴァントを瞬殺出来た理由がこの行動方針にある。
セイバーはその能力により、遠隔視で戦っている者の戦闘データを収集することが出来る。
此度の敵も事前に敵の戦闘を隠れ見、能力を全て把握していた。故に、勝つべくして勝ったのだ。

「了解。じゃあオレもオレで探す。アンタの方にも成果があることを祈ってるぜ」

「フンッ……」

セイバーは男の言葉を聞き終えると姿を消した。
同時に男も街の夜闇へと溶けていく。

男達はたしかに同類だった。一人の男は全てを失い、世界を憎み、兄弟を憎み、記憶を奪われまた取り戻し、
再び兄を殺す為に生きる男。
もう一人の男は、抗えない強大な力によりその身を異形へと作り替えられ、兄弟同然の男との争いを宿命付けられ、
敗北してなお記憶を犠牲に蘇り、再び宿敵を倒すため蘇った男。

彼らは呪われた運命を宿命付けられ、その地獄を突き進む者達。
彼らの行く先に光はない。それでも、彼らは戦うだろう。
ひとたび救われて尚、生ある限り彼らはその呪われた運命を生きる。


423 : Cursed Fates ◆Me7YRUBRz6 :2015/08/17(月) 00:13:42 NG/y2dno0
【クラス】
 セイバー

【真名】
 シャドームーン@仮面ライダーBLACK RX

【ステータス】

 筋力A 耐久B 敏捷A 魔力A+ 幸運E 宝具A++

【属性】

 混沌・中庸

【クラススキル】

 対魔力:A
 A以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。

 騎乗:B
 乗り物を乗りこなす能力。魔獣・聖獣ランク以外を乗りこなすことが出来る。
 時速800km以上で走るバイクも容易に乗りこなす。
 

【保有スキル】

 千里眼:A
 改造により得た複眼・マイティアイにより遠隔視、透視、戦闘データ収集などが可能。

 単独行動:B
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 Bランクならばマスターを失っても2日は現界が可能。

 戦闘続行:A 
 戦闘を続行する為の能力。決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。

【宝具】

 『陰る月の霊石(キングストーン)』
 ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
 5万年周期の日食の日に生まれた運命を持つ者が、世紀王となるため体内に埋め込む霊石。
 腰につけたベルト、シャドーチャージャーの奥に埋め込まれている。
 太陽と月のキングストーンがあり、こちらは月のキングストーン。
 2つ揃えることで創世王の資格を得る。
 シャドームーンをシャドームーンたら占めている宝具であり、これがなければただのバッタ怪人に退化する。
 凄まじいパワーを持っており、身体能力の大幅な向上、サイコキネシス、怪光線、精神操作、剣の生成、
 時空間に関する能力への耐性など、多くの力をもたらす。また、生成された装備はA++相当の神秘を有する。
 常時発動しており、宝具自体が魔力を無尽蔵に生成しているため、魔力消費はほぼ無い。
 

【weapon】
 シャドーセイバー:キングストーンの力により作り出す二振りの双剣。
  長剣と短剣があり、長剣は攻撃用。短剣は防御用に使用される。
          凄まじい切れ味を持つ。短剣は投擲することも出来る。
 
 レッグトリガー :両足踵部分に装着された強化装具。超振動することでキックの威力を向上させる。
          また武器としても使用可能。

 エルボートリガー:両手肘部分に装着された強化装具。超振動することでパンチの威力を向上させる。
          また武器としても使用可能。

【人物背景】
 次期創世王候補・世紀王として、実の兄弟同然に育った南光太郎と共に、青年・秋月信彦が改造された姿。
 かつて暗黒結社ゴルゴムの洗脳を受け、ゴルゴムに反旗を翻した親友・南光太郎=仮面ライダーBLACKと死闘を繰り広げた。
 最終的に敗北し、崩落したゴルゴム秘密基地内で死んだかと思われていたが、過去の栄光と記憶を代償に蘇った。
 その後再び仮面ライダーBLACK RXとして進化した南光太郎と互角の戦いを繰り広げたが、敗北。
 最期は満身創痍の状態で、敵対するクライシス帝国によって人質にされていた兄妹を救い、死亡した。
 その死後は、元の信彦の姿に戻っていた。
 最後の行動から、元の記憶が戻っていた可能性もあるが、本人はあくまで自分はシャドームーンだと貫き通した。

 戦闘力は凄まじいものがあり、宝具・『陰る月の霊石(キングストーン)』による特殊能力だけでなく、
 徒手空拳による格闘、双剣による巧みな剣術など一部の隙もない。


424 : Cursed Fates ◆Me7YRUBRz6 :2015/08/17(月) 00:14:20 NG/y2dno0
【マスター】
 ウェス・ブルーマリン(ウェザー・リポート)@ジョジョの奇妙な冒険Part6 ストーンオーシャン

【マスターとしての願い】
元の世界に戻り、プッチ神父を殺し、自分も死ぬ。

【weapon】
 なし

【能力・技能】
 スタンド:ウェザー・リポート
 天候を操る事ができる能力。人型のビジョンを持っており、至近距離では強烈な風圧のパンチを繰り出せたり、
 より正確な天候操作を行使できたりする。
 また、人間の深層心理に訴えかけ、街一つ以上の規模の触れればカタツムリになる
 虹を生み出す能力も有するが、何らかの理由により封じられている。
 高い戦闘力を持っているが、サーヴァントに対して有効なダメージを与えることは出来ない。
 スタンドという異能を持っているため一般的な人間に比べて魔力量は多い。


【人物背景】

 記憶喪失の男、ウェザー・リポートが記憶を取り戻した状態。
 実の兄であり復讐すべき相手であるプッチ神父により記憶を奪われていたが、
 DIOの息子、ヴェルサスがプッチを裏切りその記憶を取り戻すこととなった。
 参戦時期は記憶を取り戻した直後アナスイと共に街を散策していた時期。 
 偶然鍵を見つけ拾った。
 特にロールは割り当てられていないホームレスのような社会的立場だが、
 非合法な手段にも一切躊躇が無いため、強力なスタンド能力もあり生活に不自由はない。
 
【方針】

 優勝狙い。己のサーヴァントの能力を活用し、容赦なく他参加者は殺す。


425 : ◆Me7YRUBRz6 :2015/08/17(月) 00:14:41 NG/y2dno0
投下終了です


426 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 18:57:55 n5VLINyE0
皆様投下乙です
別企画に投下した候補作の再利用になりますが、私も投下させていただきます


427 : ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 18:58:50 n5VLINyE0


 少年は"勝利"の奴隷だった。


 記憶は曖昧になり、最早感慨すら抱かない作業と成り果てるまで、少年は勝利を繰り返した。
 それを得れば何も失わずに済むのか。救えるのか、守れるのか、幸せになれるのか。
 そんなことも分からぬまま、少年は只管に勝利を重ね続ける。

 そう、最初は己の母親を喰らった悪鬼だったか。下卑た言葉を吹きかけるそれを、少年はただ斬り捨てた。
 その時想い浮かべていた感情が悲憤だったか憎悪だったかは覚えていない。けれど、それが始まりの勝利であったことだけは覚えている。

 そこからは我武者羅だった。大きな時代のうねりに抗うこともできず、流離うままに戦い続けた。
 エコービルに巣食うドウマンを殺した。カオスとロウで争い続けるゴトウとトールを殺した。
 彼は確かに勝利した。神ならぬ人の身で、人ならぬ超人と魔神に確かに勝利したのだ。

 けれど、その偉業に報いるものなど何もなく。
 結果として、彼が住んでいた東京は消滅した。

 彼には何もできなかった。東京に向けられ発射されたICBMを止めることは只人の彼にできるはずもなく、全ては爆轟の光の中に消えていく。
 その果てに命を救われ、荒廃した未来に送られてなお勝利は彼に付き纏った。

 新宿を支配する暴虐者に侍る鬼神タケミナカタがいた。殺した。
 少女の心に巣食う鬼女アルケニーがいた。殺した。
 六本木を死者の都とした魔王ベリアルと堕天使ネビロスがいた。殺した。

 その過程で傍に在った親友は悪魔に成り果て、あるいは魂を奪い取られた。それでも彼は足を止めなかった。

 池袋で魔女裁判じみた司法を執り行う天魔ヤマがいた。殺した。
 上野の地下に潜む邪龍ラドンがいた。殺した。
 T.D.Lを背負う巨大な邪神エキドナがいた。殺した。
 品川は大聖堂に居を構える大天使ハニエルがいた。殺した。

 重ねて言うが、彼は心底ただの人間でしかない。当然傷つくし死にかける。苦悶に喘ぎ地べたを這いずり回った回数など両手の指でも足りないほどだ。
 彼はそれが嫌だったから、余計に研鑽を積む羽目になる。悪魔を斬り殺し、magを貯め、憎々しい敵と契約を交わし、迫りくる死の気配にそれでも尚と足掻き続けて。
 それがなおさら彼自身を苦しめると、半ば自覚していても止めることはできなかった。
 血反吐を吐き、身をすり減らして、気力と体力を全て使い果たし勝利しても、次に待つのは更なる苦難だった。
 何度戦い、何度勝っても終わりは見えない。際限なく湧き出る次の敵。次の、次の、次の次の次の次の次の。
 人は誰しも現状をより良くしたいがために勝利を目指す。しかし彼の場合に限っては勝利は何の問題解決にもならず、ただ悪戯に新たな火種を呼び込むだけ。


428 : ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 18:59:12 n5VLINyE0
 気付けば、最早逃れられない動乱の只中に彼はいた。勝利を重ねてきた彼は、彼自身が望まずとも世界の中心に据えられる。
 それは勝者が負うべき当然の義務。お前は見事に勝ったのだから、次のステージに進むのは当然でより相応しい争いに身を投じねばならないと囁く声が反響する。
 そして訪れる次の大敵。次の不幸。次の苦難。次の破滅。
 掴みとったはずの未来は暗黒に蝕まれ、むしろ手にした奇跡を呼び水に、よりおぞましい試練を組み込んで運命を駆動させる。

 カテドラルに降り立った四大天使を斬り殺した。
 カテドラルに侵攻する強大な魔王を撃ち殺した。
 そこに何の感慨も逡巡もなかった。彼に求められていたのは勝利の一言のみであったがために、少年の意思など鑑みられることはない。
 ただ、その過程で二人の親友を手に掛けた時に、何かが崩れる音が聞こえた気がした。
 それがいったい何であるのかすら、最早少年には理解することができなかった。

 そうして天使と悪魔は消え失せ、ここに人の世界が取り戻されて。
 それでも、彼が手にしたものは何もなかった。

 縋るものなく人は生きられない。それは誰の言葉だったか。分からない。けれど、それは真実であったと今ならば理解できる。
 人は神へと縋り、秩序を求め、その果てに四大熾天使は再誕する。
 最早彼にできることなど何もなかった。彼に許されたのは"勝利"のみである故に、人々を救うことなどできはしない。

 彼の祈りは届かない。元より聞き届ける存在などどこにもいなかった。神や天使はおろか、同じ人間でさえ彼を顧みることなどなかった。
 彼の言葉は届かない。地上に悪魔が溢れ、天使が跋扈し、人は自分の力を信じようともしなかった。

 より強大となる敵に打ち震え、より熾烈となる試練に身を削り、遂には最期の時が訪れる。
 四肢は力を失い、剣も銃も手を離れ、心は支えを失って。ああそういえば、自分の隣に誰もいなくなってしまったのは何時からだっただろうとくだらないことが頭を掠め。
 胸部に衝撃。穿たれた大穴から鮮血が噴き出る光景を、彼は他人事のように醒めた目で見つめた。
 怒りも悲しみもそこにはなかった。そんなものは当の昔に無くなっていた。あるのは、石くれのような冷たさだけ。
 ただ、意識が闇に沈むその刹那。
 ほんの少しの疑問が内から湧き出た。

 僕は、どこで道を間違えたのか。
 僕は、どこかで道を間違えたのか。

 その問いに、最早意味などなかった。勝利しか許されない少年から唯一であるそれを奪い取られた今、彼は真実無価値となったのだから。
 勝利者であったはずの少年は、只人のように呆気なくその生涯を閉じた。





   ▼  ▼  ▼


429 : ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 18:59:31 n5VLINyE0





 かつての現は終わりを告げ、これより始まるは終わりなき夢物語。
 死したはずの彼に与えられたのは敗残者の烙印。故に彼は運命の歯車により新たな舞台へと投げ込まれる。

 呪え、呪え、敗者という名の生贄よ。それがすなわち、おまえの存在意義なのだから。
 王道を歩む光を照らせ、その慟哭を積み上げろ。どこまでも果て無く啼くがいい。降り注ぐ悲しみの雨を呼ぶのだ。
 それを超えて進むことこそ、鋼の王道―――英雄譚。
 あらゆる涙を雄々しく背負い、明日への希望を生み出すためにいざ運命を生み落せ。

 囁く呪詛は止まらない。これまで踏み越えた死山血河は決して安息を許さない。
 勝利し乗り越えたなら次の戦場へ、敗北し堕ちたなら生贄として責を果たせ。果てのない苦難だけが彼を約束する。
 戦乱は無限に続く。戦がなければ勝利も存在しないのだから、それは少年を解放することなどあり得ない。

 渦巻く呪詛の奔流に呑まれ、意識は闇へと沈みこむ。
 何も見えない闇の中に手を伸ばすけれど。その手は何も掴めない。指はただ、空を切るだけで。
 彼は自身の築き上げた血の海に沈むのみ。そこに、救いなどありはしない。



 
 そこで悪夢は遮断され、彼は現実(ゆめ)へと帰還する。
 何もかもが変わり果てた、敗残の現在へ。





   ▼  ▼  ▼


430 : ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 19:00:04 n5VLINyE0




「おーい、一緒に帰ろうぜ」

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、学生が面倒な義務から解放され思い思いのことをして過ごす時間帯。
 気の抜けた声や騒がしい話し声がそこかしこで繰り広げられ、夕焼けに染まる教室に雑多な音が反響する。
 それはそんなありふれた声のひとつ。現代の若者らしく……と言えば語弊があるが、髪を茶に染めた少年が別の少年へと声をかけた。

「ああ。構わないよ」
「おっし、なら早く売店に行こうぜ。さっさとしねえと売り切れちまう」

 明るい声と、対照的に落ち着いた声。まるで正反対の属性でありそれがそのまま二人の性格にも表れているが、しかし不思議と二人のウマは合っていた。休日にわざわざ遊びに出かけるほどではなかったが、放課後にこうして馴れ合う程度には仲がいい。
 特に趣味が合うわけでも、性格がマッチしているわけでもない。少なくとも茶髪の明るい少年のほうには他にもいくらか友人がいるので絡む相手に困っているわけでもないのだが、それでも仲がいいのだから仕方がない。

「―――でな、佐伯の奴ふざけたことばっか抜かしやがるし、俺はこう、一発ぶちかますつもりでな」
「大変だったんだね。でも、その心意気はともかくとして実際に手を出すのはどうかと思うよ」

 冗談に決まってんだろー、と笑う。他愛もない馬鹿話だ。それは相手も分かっているのか、止めろという忠告も本気ではないことが伝わってくる。
 いい奴だな、と素直に思う。振り返ってみれば、こうまで一緒にいて安らぎを覚えるのは、こいつの誠実さ故なのではないだろうか。
 口数は少なくともビビりなわけでも根暗なわけでもない。それは言うなれば泰然とした山のようで、大人しいというよりは穏和というのがこいつの正しい人物評なのだろう。
 正直言えば高校生とは思えないほどで、ああ自分も見習わなきゃなあと思ったことも一度や二度ではない。新宿に来て間もない自分にとって、本当にありがたい友人だった。

 ……そう。俺が新宿に来たのはつい最近だ。
 【設定】としては生まれてこの方ずっと新宿に暮らしていることになっているが、実のところそうではない。青色の鍵を手にして、訳も分からずこの新宿に飛ばされた、帰還不可能の異邦人が本来の役どころ。
 【聖杯戦争】とはそういうもので、それに選ばれた【マスター】であるところの俺は、聖杯によって与えられた仮初の役割に沿って行動しているに過ぎない。
 突然見も知らぬ環境に放り込まれた時は混乱どころの話ではなかったが、どうにか周囲に怪しまれずやり過ごしていた矢先に話しかけたのが目の前の【こいつ】だった。
 基本的には聞き手に回り、余計なことを詮索せず、それでいて一緒にいて心が落ち着くような不思議なクラスメイト。精神的に余裕がなかった俺は我先にと飛びつき、今もこうしてずるずると友人未満の曖昧な関係が続いているというわけだ。
 そこらへん、自分が男子で本当に良かったと心から思う。これが女子だった日には、面倒な人間関係に組み込まれてにっちもさっちもいかなくなっていたことは容易に想像できてしまう。

「つーかお前もたまには一緒に来いよ。いやお前とばっかつるんでる俺が言えた義理じゃないかもだけど」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、大事な用事があるんだ。本当にごめん」

 冗談抜きで申し訳なさそうにするこいつに、いいっていいってと手を振りながら答える。大事な用というのが何かは知らないが、こいつが言うくらいだからよほどのことなのだろう。
 それに、俺だって用事があると誤魔化して時折自分のサーヴァントと一緒に色々やっているのだからお互い様だ。いや、誠実なこいつと違って俺は嘘をついているわけだから、全然対等ではないのだろうが。


431 : ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 19:02:04 n5VLINyE0
『―――以上が昨日発生した事故の概要で、被害者は……』

 道を歩く俺たちの耳に、ふとそんなニュースが聞こえてきた。
 頭上の電光掲示板ではニュースキャスターがわざとらしいまでに真面目な顔で【死傷者多数の事故】を説明し、画面には一目で凄惨と分かる現場の映像が映っていた。
 道行く人々はそれを気にも留めない。精々そこらの女子高生が「怖いねー」などと微塵も怖がってないことが丸わかりの軽い声を上げるくらい。目を向けず、足を止めず、そんなことより自分が抱える目先の問題のほうがよっぽど重要だと言ってはばからない。
 端的に言って興味がないのだろう。実際、自分一人が生きていく分には全く関係のない話だ。自分の与り知らないところで知らない人が死んだところで何を思うこともないし、思ったところで「自分が巻き込まれなくて良かった」程度のものだろう。
 それを悪いことだとは思わない。俺だって、こんなことに巻き込まれなければ何の関心も抱かなかったはずだ。
 けれど今はそうではない。この単なる爆発事故と放送されている事件が、実際は聖杯戦争によるものだと知るのは幾組かのマスターのみだ。
 そして当然、マスターたる自分もこの事故の真実を知っている。

「……物騒だな」
「本当にね。僕も、君も、気を付けたほうがいいかもしれないな」

 無意識に呟いていた言葉にはっとするも、しかしこいつは変に思うでもなく真摯に言葉を返してくれた。
 横目に見た表情は真剣そのもので、それは呟いた俺ですら少し怪訝に思うほどだったけど。それでも真剣に考えてくれたことがちょっとだけ嬉しいと思う。
 その言葉にほんの少しだけ救われる。俺は誰もが聖杯を求めて殺し合う戦争の中で、それでも誰も死なせたくなくて戦っている。
 無謀にも思えるそれが、誰にも知られない孤軍の戦いが、そんな簡単な気遣いだけでも楽になった。
 やっぱり俺は、こいつのことが好きなんだなと改めて実感した。
 こいつは異世界の街で出会った仮初の友人でしかないけれど、それでも好ましく思う気持ちに嘘はないから。

「だったら今日は早めに帰っちまうか。そういやお前の家って結構遠かったしな」

 だからこいつの言うことに同調させてもらおう。友人とのひと時が終わるのは惜しいが、考えてみれば夜は聖杯戦争の準備や諸々があるし、万が一こいつが巻き込まれでもしたら笑えない。
 夕焼けに染まる街は既に冷たい空気に満ちて、中心街から離れたこの場所は人の出入りも少なくなっている。そんな外れのT字路で、左に曲がるあいつに手を振り俺は右へと向かった。それで今日の付き合いは終わり。また明日、学校で会おうと思って―――

『―――マスター、すぐにそこを離れるんだ!』

 頭の中に焦燥した声が響いた。
 偵察に出ていたはずの己がサーヴァント、ランサーの声だ。聞き間違えようのないそれは、今まで聞いたこともないほどに余裕がない。

『ら、ランサー? そんな大声で何を』
『悪いが説明している暇はないんだ。いいから、今すぐその場所を離れてくれ!』

 ランサーの念話はそこでぷつりと途切れ、辺りは静寂に包まれる。二度繰り返された己がサーヴァントの声はどこまでも単純で、それ故に避けきれない災厄を予兆していた。
 まずいことになった……俺の心を焦りと恐怖が支配する。早く、ここから逃げなければ。

「……どうかした? なんだか顔色が悪いけど」


432 : ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 19:02:33 n5VLINyE0
 脂汗すら浮かべる俺の様子に反応して、あいつが声をかけてきた。いや、なんでもないよと安心させようとして、そこで気付く。
 この場所が危険だというなら、こいつの身にも危険が迫っているということじゃないのか。

「―――悪い! ちょっと一緒に来てくれ!」

 もうそこから先はおぼろげだ。弾かれたようにあいつの手を取り、問いかけてくる声すら歯牙にもかけず一目散に走り続けた。路地を、橋を、住宅街を突っ切って、夕陽が闇に染まるまで懸命に逃げ続けて。
 気が付けば随分と奥まったところまで逃げ込んでいた。周りを建築物の壁に囲まれた裏路地。およそ人の出入りがないと思われるそこは、夜闇が底まで浸透して深海のような鬱屈さを漂わせていた。

「はぁッ……はぁッ……ここまでくれば、大丈夫、だよな」
「……一体どうしたんだ、突然」

 息を切らせてへたり込む俺と違い、あいつは汗のひとつもかかず平然と言葉を発していた。運動ができるタイプとは思ってなかったのにやるなこいつ、などとどうでもいい感想が頭をよぎるが、しかし今はそんなことを言っている場合ではない。

「わ、悪い……けど、あのままあそこにいたら危なかったんだ。信じられないかもしれないけど、今は」

 俺を信じてくれ。そう言おうとして、口が止まった。
 異様な気配が辺りを包んだ。酷い耳鳴りが起きて、体は今にも倒れそうなほどに圧がかかっている。
 それは純然な存在感。ただそこに在るというだけで常人を屈服させるほどの【それ】が、今はただ一人に向けて放たれていた。
 すなわち―――俺という、聖杯戦争に参加するマスターに対して。

「お前が、ランサーのマスターか」

 こつ、と硬質の音が夜闇の向こうより届く。
 鳴り響いた軍靴の音は、まさしく鋼鉄が奏でる響きだった。

 闇の中から現れた姿は、金色に輝く偉丈夫だ。ドイツ将校にも酷似した軍服を身に纏い、光熱に歪む二振りの刀を持ち、瞳は決意に滾る男だった。
 そして一目で分かるのだ。この男は違う。何もかもが、只人たる己とは隔絶しているのだと。
 目に宿る光の密度。胸に秘めた情熱の多寡。そのどれもが桁を外れている。定められた限界をいったいいくつ超えれば、この領域に到達できるのか。所詮は市井の凡人に過ぎない少年には到底及びもつかないことであった。

 そしてマスターたる少年の目には、彼のステータスとも言うべき情報が映りこんでいる。ああ、やはりこいつは……

「……ランサーは、どうした?」
「俺がこの手で葬った」

 返答に澱みはない。紡がれる言葉は勝利の喜びでも弱さへの蔑みでもなかった。さりとて感情の介在しない事務的なものでも断じて違う。
 それは、この考えが間違っていなければ、このサーヴァントは―――


433 : ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 19:02:48 n5VLINyE0
「奴は紛れもなく強敵だった。奉じるモノこそ違えども、民の安寧を願い戦う姿、どうして軽んじることができようか。
 誇るがいいランサーのマスターよ。この屑でしかない我が身と違い、奴は間違いなく英雄に足る傑物であったと宣言しよう」

 そこに含まれるのは掛け値なしの賞賛。金色の男は、先ほど己の手で滅した騎士を、心の底より尊敬していた。
 それは決して嘘ではない。何故なら男の目は戦意や勝利に曇るでもなくずっと光に満ちている。真実彼はランサーを傑物と認め、その在り方を寿いでいた。
 認めていたからこそ、斬ったのだ。

「……当たり前だ。ランサーはこんな俺のために自分の願いを諦めてくれた。この戦争に巻き込まれた皆を、助けようって言ってくれたんだ」

 そしてその一点において、マスターたる少年と眼前のサーヴァントの意見は一致していた。
 彼は崇高な騎士だった。かつて取りこぼした民の安寧を願いながら、しかしこの地に生きる全ての人々と全てのマスターを守護せんと、その槍を振るってくれた高潔な騎士。
 俺はそんなランサーのことを心底尊敬してたし、ランサーは不甲斐ない俺をずっと助けてくれた。そこに欺瞞は何もなく、だからこそ許せない。

「お前の言う通りだ。故にこそ、俺はお前たちの犠牲を忘れない。過ちは地獄で贖おう。責も受ける、逃げもしなければ隠れもしない。
 しかし、その罪深さを前に膝を屈することだけは断じて否だ。さらばだ、名も知らぬマスターよ」

 そうして男は手にした刀を振り上げる。そこに躊躇は一片もなく、しかしランサーとそのマスターを尊いと言った言葉にも嘘はない。
 男は決して敗者を見下さない。踏みつけ乗り越えてきた夢の数々、無価値であったなどと誰が言えよう。そんな祝福を胸に抱き、しかしそれでも一切躊躇うことなく刃を振りかざす。
 それは一見すれば矛盾しているようにも見えるだろう。事実、男はそんな自己の歪みを自覚している。そして、その歪みを正し切れずにいることも、また。
 勝利とは相手を壊す罪業であり、だからこそ勝者は貫くことを義務としなければならない。
 最後までやり通し、夢見た世界を形にすることが報いになるのだと、男は頑ななまでに信じている。

 そして、そんな男に相対する少年は―――

「―――逃げろ!」

 ただ叫んでいた。今にも死する己が身など厭わず、ただ一心に願って叫んだ。
 それはすなわち友人の身を案じるという掛け値なしの献身だ。正しく自己犠牲と称せるそれを、少年は図らずも連れてきてしまった異邦の友人へと向ける。
 すまなかった、悪かった。俺みたいなロクデナシの事情に巻き込んでしまって本当にすまない。こんな俺が言うことではないかもしれないけど、それでもお前は生き延びてくれ。
 少年の心はただそれのみ。今際の際の自暴自棄かもしれないが、それでも少年は堪えきれずに叫んで。

「逃げてくれ×××! お前は、早く―――!」

 それは卑小な常人のものではあれど、確かな勇気の発露だったのだろう。
 背後の友人を庇うように腕を伸ばし、必死の形相で叫びながら後ろ手に振り向こうとして。
 そして。

「―――え?」

 そして、視界が反転した。
 くるくる、くるくると。遊園地のコーヒーカップにでも乗ったように、いっそ戯画的なまでに綺麗に視界が回転して。

 ああ、俺は死んだのか。首を斬られて。
 胴と離れた首は意識を闇に沈めて、それでも後悔が思考を占める。未練だなぁ、悔しいなぁと漏れる思いはそればかり。
 でも、あいつはちゃんと逃げられたかな。
 俺はここで死ぬけど、でもあいつにはしっかり生き残ってほしい。それだけが唯一の心残り。何も為すことができなかった、俺の最後の未練。

 そうして、回る視界が黒に染まり。
 少年は、敗残の徒としてその生涯を終えた。

 



   ▼  ▼  ▼


434 : ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 19:03:14 n5VLINyE0
「さあ行くぞ、ここで立ち止まるなど許さない」

 少年を睥睨し、金色の男は短く告げた。その言葉に戦意の陰りはなく、ただ果て無き使命感に満ちていた。
 視線の先の少年の手には一振りの刀があった。横薙ぎに払われたそれは、ちょうど人の首がある高さで静止している。
 斬ったのだ、人を。最後まで己を心配していた、心優しき少年を。
 裏切り、斬り捨てた。

 それは変えようのない真実だ。そしてそれはある種当然の帰結であるとも言える。
 何故ならこの少年は、眼前に聳える金色のサーヴァントのマスターなのだから。

 少年の名誉のために言うならば、今この瞬間まで、かの少年がマスターであるなど露とも知らなかったのだ。彼のことは心底友人だと思っていたし、損得勘定など完全に度外視した付き合いをしてきたつもりだ。
 故にその友誼に偽りはなく、同時にこの手で殺害した事実もまた真実である。

「この地で死者が抱いた恐怖、苦痛、そして絶望。俺たちはそれを受け止めながら地獄の炎で焼かれるべきだ。
 巻き込まれてしまった無辜の人々の命への帳尻合わせとしてな。忘れるな、我らが共に犯したこの罪を」

 故に不屈であり続けろ。真実から目を背けるな、俺たちは等しく罪人である。
 金色の男は言外にそれを滲ませる。ああ分かっているとも。僕たちは等しく屑でしかない。

 同調とも言うべき信頼関係がそこにあった。少年と男は、ただ一つの目的のために手と手を取り合っている。
 本来、それはあってはならない類の感情だ。何故なら男は永遠に一人であることを選択したのだから。
 目的へと挑む大志を純粋に保つため、男は永劫の孤軍奮闘を自身に課した。打ち明ければ賛同は得られるだろうし、仲間もできよう。しかしそれを要らぬと跳ね除け、全てを共に歩む同胞ではなく守るべき大衆として見てきた者こそこの男である故に。
 だからこそ、聖杯戦争におけるマスターであろうとそれは例外ではないはずだ。本来であるならば、どこか安全な場所に匿うなりして戦いには一人で出るのが道理のはず。しかし、現に彼らはこうして二人で行動を共にしていた。

 その理由は単純だ。それは単に、少年が男と同種の存在であるというだけのこと。

 少年の眼は全く死んでなどいない。友をその手で斬り捨てて、それでもなお絶大の覇気が消えることのない火種となって燃えている。
 それは永遠に尽きぬ恒星のように、人類種では到達不可能な領域の意志力だ。唯一の理想へ向けて一心不乱に突き進む純粋さはまさしく機械人形の如し。されど少年は無感にあらず。
 滾る情熱を秘めている。矜持と覚悟を秘めている。しかもそれは劣化の言葉を知らず、死した今であってもなお燃焼を続けていた。
 それは紛れもなく光に属する強さである。外敵の嘆きを願う闇の類では持ちえない、正反対の煌めき輝く星の希望。
 例えどのような状況に陥ろうとも、少年は明日を信じている。自らの往く道を、その尊さを拝する故に止まらないし諦めない。
 それは確かに、目の前の男と同種の輝きであって。


435 : ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 19:03:27 n5VLINyE0
「そんなこと貴方に言われるまでもない、バーサーカー。僕は決して諦めない。描いた理想に辿りつくまで、この歩みを止めないと誓った」

 何度戦い、何度失い、何度地べたを這いずろうと消すことのできない光がここにある。
 それは"英雄"と呼ばれる超越者。サーヴァントを示す英霊の呼称とは全くの別次元で、彼ら二人は英雄と呼ばれるに相応しい存在であった。
 その目は勝利しか見ていない。

 進軍せよ、覇道を往け。奪い取って天に掲げん。
 砕け、勝利の名の下に。すなわちそれこそ英雄の本懐なれば。

「ならば最早言葉は要らん。"勝つ"のは人間(おれ)だ」
「この戦いは絶対に負けられない。"勝つ"のは人間(ぼく)だ」

 何を今さら迷うことがあろうかと、全てを睥睨しながら決意が響く。
 勝利とは進み続けること。決めたからこそ、果て無く往くのだ。
 前回こそ敗れたが……なに、盟約通りこうして復活してのけた。
 復活、蘇生、あるいは輪廻。なんでもよいのだ。諦めなければ世の理など紙屑同然、蹴散らし捻じ伏せ突破できると信じていたが故に。
 五体を微塵にばら撒かれ、命を華と散らそうと、英雄の魂を砕くことは何者にもできはしない。
 魂の強さこそが英雄としての証なれば、それは法則を超越した当然の理屈として成立する。

 かくて道は開かれる。
 世界と祖国を背負う宿命が定まり、後は死ぬまで貫くのみ。
 明日へ、未来へ、光へと―――信じるがため止まらない、停止不能の英雄(かいぶつ)たちが動き出す。
 望んだものは変わらない。ただひたすら、人の行いに正しき報いが訪れる世界。そんな当たり前の権利を悪魔から取り戻すことこそ本懐。
 生き抜き死んだ全ての人間が流した血と涙の量に相応しい未来へと、万人を等しく導くために。鉄の男たちは、鋼の英雄として生きて死ぬ。ただその道のみを己に課した。

 これが、彼らの英雄譚。

 彼らは今も戦い続けている。
 敵対した無数の敗北者の屍を、かつて交わした輝ける友誼を、己に向けられた信愛を、その足元へ髑髏の山と積み上げながら前のみを見据えて駆けるのだ。
 ただ一度きり逃してしまった、"勝利"をその手に掴むために。
 いつか二度目の敗北が、その身を微塵に砕く日まで。


436 : ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 19:03:52 n5VLINyE0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
クリストファー・ヴァルゼライド@シルヴァリオ ヴェンデッタ

【ステータス】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力C 幸運D 宝具A+++

【属性】
秩序・狂

【クラススキル】
狂化:EX
それは勇気という名の狂気。英雄という名の狂人の有り様。バーサーカーは人類種最大の精神異常者である。
バーサーカーは善や光以外の感情を解さない。あらゆる輝きに敬意を表し、さりとて自論以外は理屈の上で理解することができても共感することは決してない。そして、ひとたび己の障害となれば心より悼みながらしかし躊躇なく斬り捨てる。
故にバーサーカーは通常時は意志疎通を可能とするが、しかし本質的に他者と分かり合うことはできない。パラメータ上昇の恩恵は受けず、代わりとして極めて高ランクの精神異常として機能する。
このランクは超越性を示すものではなく、あくまで特異性を示すものである。

【保有スキル】
光の英雄:EX
極めて高ランクの心眼(真)・無窮の武練・勇猛を兼ね備える特殊スキル。
また初期値として自身より霊格の高い、あるいは宝具を除く平均ステータスが自分の初期値より高い相手と相対した場合に全ステータスに+の補正をかけ、瀕死時には更に全ステータス+の補正をかけ、霊核が破壊され戦闘続行スキルが発動した場合には更に++の補正を加える。
戦闘中は時間経過と共に徐々にステータスが上昇し、その上昇率はダメージを負うごとに加速する。この上昇効果は戦闘終了と同時に全解除される。
また、相手がステータス上昇効果を得た場合には自身もそれと同等の上昇補正を獲得し、自身のステータスを低下させられた場合にはその低下量の倍に相当する上昇効果を得る。
意志一つであらゆる不条理を捻じ伏せ、人類の枠組みすら超えかねない勇気こそが彼最大の武器である。あらゆる手段においてバーサーカーの精神を揺るがすことはできず、このスキルを取り外すこともできない。
要するにバカ専用のスキル。

護国の鬼将:EX
あらかじめ地脈を確保しておくことにより、特定の範囲を“自らの領土”とする。
この領土内の戦闘において、総統たるバーサーカーは極めて高い戦闘ボーナスを獲得しあらゆる判定で有利となる。

カリスマ:A-
大軍団を指揮する天性の才能。
Aランクはおおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。
バーサーカー化によりマイナスの補正が付属している。

単独行動:B
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
バーサーカーはただ一つの目的のため、永遠の孤軍奮闘を自身に課した。

戦闘続行:A++
たとえ致命的な損傷を受けようと、「まだ終われない」という常軌を逸した精神力のみで戦闘続行が可能。
暴走した意志力、呪縛じみた勝利への渇望。因果律を無視しているとしか形容の仕様がないその有り様は、最早人類種の範疇を逸脱している。


437 : ザ・ヒーロー&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 19:04:12 n5VLINyE0
【宝具】
『天霆の轟く地平に、闇はなく(Gamma・ray Keraunos)』
ランク:A+++ 種別:対城宝具・侵食固有結界 レンジ:1〜99 最大捕捉:1000
ヴァルゼライドが保有する星振光。星振光とは自身を最小単位の天体と定義することで異星法則を地上に具現する能力であり、すなわち等身大の超新星そのもの。
彼の星振光とは核分裂・放射能光にも酷似した光子崩壊。膨大な光熱を刀身に纏わせた斬撃とその光熱の放出により敵を討つ、万象滅ぼす天神の雷霆。
その奔流は亜光速にまで達し、単純な近接戦から遠距離砲撃にも転用可能。その光は掠めただけの残滓であっても、体内で泡のように弾け細胞の一つ一つを破壊する。
それは一片の闇をも許さぬ“光”。絶望と悪を、己の敵を、余さずすべて焼き払う絶対の焔。邪悪を滅ぼす鏖殺の勇者。
正義の味方では断じてなく、ただ悪の敵たる死の光でありたいというヴァルゼライドの心象が具現した異能である。
故に対象の属性が混沌もしくは悪であった場合には必中かつ即死の効果を発生させあらゆる防御効果を貫通し、かつ威力を通常の倍にまで引き上げる。

【weapon】
星振光の発動媒体となる七本の日本刀。

【人物背景】
軍事帝国アドラー 第三十七代総統 生ける伝説。彼を現すは一言“英雄”。帝国最強にして始まりの星辰奏者として最大最強の伝説を打ち立てる。
彼は天賦の才というものを持たず、しかし常軌を逸した修練の果てに人類種最強とまで呼称される強さを手にした。それは最早輝きを超越し、一種の狂気にまで至っている。

【サーヴァントとしての願い】
祖国アドラーの繁栄/今度こそ聖戦の成就を。


【マスター】
ザ・ヒーロー@真・女神転生

【マスターとしての願い】
人の世の安寧

【weapon】
・ヒノカグツチ
火之迦具土神の力を宿した霊刀。相当量の神秘を纏っているためサーヴァントにも通じる武装となっている。

・ベレッタ92F
ピエトロベレッタ社が開発した拳銃。米軍に正式採用されており高い知名度を誇る。

・悪魔召喚プログラム
文字通り悪魔を召喚するプログラムであり、彼の持つハンドベルコンピュータに内臓されている。
しかし仲魔は誰もおらず、現在は機能していない。
愛犬だったケルベロスすら、今はもうどこにもいない。

【能力・技能】
人の枠組みを超えた身体能力。多くの修羅場を乗り越えたことによる多様な経験。

【人物背景】
最早名前すら失った少年。
彼を表すならば、英雄の一言で事足りる。

【方針】
今度こそ、完全なる勝利を。


438 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/18(火) 19:04:28 n5VLINyE0
投下を終了します


439 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/19(水) 16:01:22 KKWHj51A0
投下します。


440 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/19(水) 16:01:35 KKWHj51A0
0:


                              「――消えろ、消えろ、短いろうそく。
                                人生は歩き回る影、憐れな役者だ。
                                 出番の時だけ舞台の上で、見栄を切ったり喚いたり。
                                  それが終われば、消えるだけ」
                                            ――『マクベス』


441 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/19(水) 16:02:16 KKWHj51A0
1:


 魔界都市<新宿>。
 この都市がそう呼ばれるようになってから、――あるいは、そう呼ばれなくなってから――、それなりに、長い月日が経った。
 瓦礫は撤去され、如何わしい、――言い換えれば、非現実的な――、存在は姿を消した。
 もはや<新宿>が<新宿>であった名残など、<亀裂>以外には、――少なくとも、表面的には――、消えてしまったと言ってもいい。

 しかしそれでも、<魔震>の残した傷跡は、深く残っている。
 それは新宿区を切り取るように刻まれた<亀裂>にのみならず。
 <魔震>、そして<新宿>に殺された、生命を弔う慰霊碑や墓地が、今の新宿には目立つ。
 これらは復興した新宿区には、けして珍しいものではない。
 幾つも存在するそれらの内の一つ。比較的人通りの少ない地区に置かれた慰霊の墓碑には、ここ最近、ある噂が流れていた。

 曰く、夜にその慰霊碑に近付いてはならない。
 夜の鬼に連れ去られ、慰霊碑の下の地の底で、生贄に捧げられてしまうのだと。

    ◆


 時を同じくして、新宿に流れる噂があった。
 近頃新宿の骨董商や故買屋に流れている、独特の意匠を持った骨董品・美術品。
 あるいは最近若者達の間で流行の、異界の、魔法を以て栄えた帝国の物語。

 それらに触れた者は。夜、夢の中で、無人の都を見るという。
 天に浮かぶ、幻の帝都を。


442 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/19(水) 16:02:58 KKWHj51A0
2:


 復興された新宿区、その繁華街の一角に位置する高級ホテル。
 その最上階、スイートルームの一つに、一人の男がいた。
 茶色のスーツ、そしてそれに近い色のサングラス。
 ともすれば滑稽な印象を与えかねない服装だが、それをある程度自然に見せているのは、男の立ち振る舞いのなせる業か。

「素晴らしい」

 一人掛けのソファに座して、優雅な姿勢で、ワインを口に含みながら。
 男は、一人呟く。

「まったく素晴らしい。このような世界が存在するとは……いや、このような事態に行き会えるとは、と言ったところか」

 窓の外、高層からの夜景を、まるで宝石でも見るかのように眺めながら。
 男は、口元を愉快げに歪ませる。

「私が元いた世界とは文化の水準が違いすぎるな。私の国で一番の都でも、この都市とは比べ物になるまい」

 未曽有の災害である<魔震>から復興した新宿の調査に、――ある意味では、『調査』などという目的に人を送り込めるのが<新宿>の復興の最大の証拠であろうが――、外国から送られてきた政府機関のエージェント。
 それが新宿における、男の身分だった。
 だが、男の言う『私の国』とは、彼を新宿に送り込んだ、――ということになっている――、国のことではない。
 いや、そもそも、この次元に存在する国ですらない。

 そう、男はこの世界の人間ではない。
 "契約者の鍵"によってこの新宿に導かれた、聖杯戦争の参加者の一人だ。

 名を、ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタという。

 かつて彼の世界において、天空から全地上を支配し、その科学力で栄華を極め――しかし墜ちた空中都市、『ラピュタ』の王族の末裔、であった。
 それが何故、異界の新宿で聖杯戦争になど参加しているのか。理由は至極にして単純なことだ。

 数日前。
 家に残された資料を頼りにラピュタ探索を続けていたムスカは、ふとした拍子に、資料の中に埋もれていた"鍵"を見出した。

 瑠璃に似た色のその鍵に魅入られ、手に取ったその瞬間。ムスカは、この異界へと招かれていたのだ。
 聖杯戦争。その知識を手に入れた瞬間、ムスカはこの事件を好機である、と認識した。

「ラピュタのみならず、このように発展した世界を支配するチャンスを手に入れられるとは。つくづく私はツイているな」

 敗北すれば死ぬ。無論それは理解している。
 傲慢な気性を持つムスカであれど、召喚されたサーヴァントが弱小のモノであれば怯むこともあっただろう。
 ……だが。ムスカの元に召喚されたサーヴァントは。まさしく、神の領域に手を届かせた存在だった。


443 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/19(水) 16:03:13 KKWHj51A0

「キャスター」

 言葉と同時に。部屋の隅、照明の届かぬ闇の中に、白いヒトガタが浮かび上がる。

 無論、何もなかった場所に、いきなり人間が現れるなど、有り得ない。
 故にそのヒトガタも、超常の存在、――サーヴァントに、他ならなかった。

 白い男だった。
 肌は白く、長い髪も白く、纏う装束もまた白。
 唯一、瞳のみが赤い。

 白子(アルビノ)の男。
 本来ならば儚さや、あるいは虚弱さを感じさせるその特徴は、しかし。
 このサーヴァントの神秘性を、――あるいは不気味さを――、際立たせるだけの結果に終わっていた。
 こうしているだけでも、ムスカの肌にも、その威圧、そして風格を感じる。

 ……そう。彼のサーヴァントは、これも"王"だった。

「計画に滞りはない。魂喰いも、陣地の構築も、『アルケア』の想念を民衆に植え付ける事も。仔細なく進んでいる」
「結構だ。流石はアルケアの王。君のようなサーヴァントを引けて、私は非常に運が良かった」

 一つの帝国を1000年以上に渡って支配し、そして、人々の想念の中に空を浮く城を作り上げた王。
 それがムスカのサーヴァント、キャスター――『タイタス一世』、だった。

 そしてムスカは、これを天からの配剤だと、そう理解した。
 王。天空に浮かぶ城。これほどまでにラピュタとその王を想起させるサーヴァントがムスカの下に現れたのは、果たして偶然だろうか?

 ――必然だ。これこそが、私が王となるための天啓なのだ!

 彼がそうのぼせ上ったとして、不思議ではなかった。

 使い魔を用いて、キャスターは"陣地"である墓所に毎夜罪の無い人間を何人も引きずりこみ、魂を喰らっている。
 街に流通し、人々の間を流れるキャスターの作った美術品や物語は、人々の想念を糧とし、魔力を啜っている。
 だが、それに何の問題があろう。民衆とは、王に搾取され、王を維持するための存在なのだ。
 ムスカが王となるために、民衆はその礎とならなければならない。

 ……ラピュタ、いや、のみならず、異世界すらも統治する王となった自らを夢想し、ムスカは含み笑いを浮かべる。
 そのムスカの姿を見つめながら、キャスターも、また人知れずの笑みを浮かべていた。

 彼は気が付かない。如何な意気が投合したとしても、――いや、投合したからこそ――、サーヴァントが、ただの道具に終わる筈がないという事を。


444 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/19(水) 16:03:37 KKWHj51A0

    ◆


                              一人目の王様が死んだので

                              二人目の王様は嘆き悲しみ

                              三人目の王様は墓を立て

                              四人目の王様はそれを蹴飛ばす

                              五人目の王様は花を植えたが

                              六人目の王様は何をする?

                                      ――『冠を持つ神の手』


445 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/19(水) 16:04:22 KKWHj51A0
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【クラス】キャスター
【真名】タイタス一世(影)@Ruina -廃都の物語-
【パラメーター】
筋力B 耐久C 敏捷C 魔力A+ 幸運B 宝具A+
【属性】
秩序・悪
【クラススキル】
陣地作成:A(EX)
 魔術師としての"工房"の機能を兼ね備える"墓所"を作成可能。
 そして宝具『廃都物語』によって、人々の想念の中に陣地を築く。
道具作成:A
 素材(素材が現世に存在しない場合、それは魔力で賄われる)を消費する事により、武器や防具、あるいは薬品類を作成可能。
 あるいは、宝具『廃都物語』の為に必要な美術品や史書、戯書の類を作成する事もできる。
【保有スキル】
魔術:A
 神々から盗み取った魔術。
 多彩な魔術を得意とする。
カリスマ:A-
 軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる稀有な才能。
 大河の女神アークフィアの加護を受け、自らの帝国を千年以上支配した。
 Aランクはおおよそ人間として獲得しうる最高峰の人望といえる。
 ――が、"この"タイタスのカリスマは劣化し、効果が著しく安定しない。
魔物作成:B
 自らの工房を利用して、"夜種"と呼ばれる怪物、そして魔法生物の作成が可能。
 ただし作成と維持には魔力を比例して消費する。
異種殺し:A
 ドワーフ、エルフ、巨人、そして竜。この四つの「古き種族」を殺戮し、地下に封じ自らの帝国の柱とした逸話の具現。
 人間以外の種族(人間との混血は対象外)と対峙した際、対魔力などの魔術に対する加護を無効化する。相手が魔術に対する加護を所持していない場合は、魔術の効果を1ランク上昇させる。
【宝具】
『蘇りの時、来たれり(リザレクション・オーバーロード)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:1人
 キャスターそのもの、――というより、キャスターを構成する要素――、が宝具と化している。

 キャスターは、ただ剣や魔術で打ち滅ぼしたのみでは消滅しない。
 実体としての肉体を破壊されても、霊体として現界を続けることが可能である。(無論マスターを殺害され、魔力の供給を受けられなくなれば、じきに魔力が枯渇し消滅する)
 霊体の状態では現世に対しその言葉を届ける以外の介入はできないが、現世の肉を持つ人間に『憑依する』ことで、現世への干渉が可能となる。
 人間に憑依している間は憑依された人間の意識はほぼキャスターに乗っ取られた状態となり、更にサーヴァントのパラメータでいうと『筋力B、魔力A』までその人間の能力が強化される。(ただし耐久力は憑依された元の人間そのままであり、サーヴァントの一撃を受ければ容易く致命傷となるだろう)
 また、憑依された人間を殺害しても、キャスターが消滅することはない。
 ただし憑依する人間には条件があり、『何らかの特別な血統か才能、あるいは豊富な魔力』を持つ人間でなければそもそも憑りつくことすらできない。

 このキャスターの本体は、その魂を稲妻の術式で構成(プログラム)された巨人である。
 その力は絶大であり、天球を支配する結界すら生み出す。ただし魔力の消費も絶望的に悪く、例え令呪の援護があろうと平常時には真の姿を現す事は不可能。
 『廃都物語』が万全に作用し、アルケアの帝都アーガデウムの幻が天空に現れた時、キャスターは真の姿を現すことが可能となるだろう。
 ただし、この本体の核を破壊された時、真にキャスターは消滅する。


446 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/19(水) 16:04:41 KKWHj51A0
『我が呪わし我が血脈(カース・オブ・タイタス)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:14人
 自らの陣地である"墓所"から、タイタス二世〜十五世までの14代に渡るタイタスを召喚する事ができる。
 この"十四代のタイタス"はキャスターに魂を呪縛されており、忠実に従う傀儡として操られる運命にある。
 ただし"狂化"のスキルを持つタイタス二世、"精神汚染"のスキルを持つタイタス十世は、キャスターの命令を受け付けない。
 十四代のタイタスは倒された場合も再召喚が可能だが、魔力消費はその度にひたすら嵩んでいく。

『廃都物語』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-
 人々の『アルケア帝国』への想念を利用し、民衆から魔力を搾取する。
 具体的には、キャスターの作った美術品などを所持している人間や、『アルケア帝国』に関連する物語を聞いた人間から、夢を通じて魔力を回収する。
 一人から得られる魔力は一定であり、対象者が多ければ多いほど、キャスターが得られる魔力総量は増加する。
 この宝具によって得られる魔力量が最大限となり、人々の想念と噂がアルケアを作り上げた時、空にはアルケアの帝都・アーガデウムの幻が浮かび上がる。
 この幻は幻でありながら現実世界に干渉するだけの実像を持っており、もう一つのキャスターの陣地となる。

【weapon】
『ルーンの剣』
 ルーンの刻まれた剣。
 剣としては宝具の業物には劣るが、魔法の発動媒体である焦点具としても使用可能。

【人物背景】
『最初のタイタスは王の子として生まれ、羊飼いの長の家に育ち、のちに帝国を築いた。
 彼の下で人は知恵を得て、他の種族より優れた。その治世は百四十四年に及んだ。』


「――失われる今、はじめて知った。」「世界よ、私はお前を愛していた!」

【サーヴァントとしての願い】
 全ての並行世界に、タイタスという存在を刻む。

【基本戦術、方針、運用法】
 多彩かつ強力な魔術、数と質を両方補う事が可能な使い魔、陣地作成と道具作成にも隙がない。
 オーソドックスなタイプのキャスターとしては、絶大な力を持つ。
 だがその反面として、非常に燃費が悪い。十四のタイタスなんて全部召喚してたら間違いなく魔力が即枯渇する。
 そのため宝具『廃都物語』で魔力を回収しながら戦略を進める必要がある。

 肉体が破壊された場合、霊体として他人に憑依しての行動も可能。
 なお、現状での憑依の第一候補はマスターであるムスカである。


447 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/19(水) 16:05:23 KKWHj51A0
【マスター】ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ@天空の城ラピュタ
【マスターとしての願い】世界の王となる。
【weapon】
 38口径のエンフィールド・リボルバー。
 6発装填式で、弾薬もそれなりの量を持ち込んでいる。

 また、立場上、あるいはキャスターの作成した美術品などを売り払った対価として、金貨を相当量所持している。

【能力・技能】
 かつてラピュタを統治していた王家の末裔(ただし分家)であり、飛行石を用いてラピュタを制御することができる。
 無論これ自体は聖杯戦争では役に立たないが、一度神秘に触れた家系である故か、保有している魔力は一般人よりも多い。

 特務部隊に所属している大佐であり、階級に見合って能力は高い。
 代々受け継いできたラピュタについての知識のみならず、旧約聖書やラテン語の教養も持ち、射撃の腕はかなりのもののようだ。

【人物背景】
 政府の特務部隊に属する軍人。階級は大佐。
 その正体はラピュタ王家の末裔。ただし、おそらくは傍流、あるいは分家筋だと思われる。
 一族に受け継がれていたラピュタの古文書の伝承を参考に、ラピュタを追っていた。


448 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/19(水) 16:05:48 KKWHj51A0
以上で投下終了です。


449 : ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:49:32 jXi6I6XQ0
感想は最終日に纏めてやります。暫しお待ちを

そして、投下いたします


450 : Where do they come from? And where do they go? ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:50:18 jXi6I6XQ0




     我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか

                               ――ポール・ゴーギャン




     知らず、生まれ死ぬる人、いづかたより来たりて、いづかたへか去る

                               ――鴨長明、方丈記



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451 : Where do they come from? And where do they go? ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:50:47 jXi6I6XQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 何も大学と言う場所は、年の若い男女達が主役の場、と言う訳ではない。
年配の人物や、一時別の大学を卒業し、社会人を経験したのに、また戻ってくる者も、少なくない。
何故、その様な事をするのか、と言う理由についてであるが、これに関しては、本当に人それぞれである。
時間と金にゆとりが出来たので、学歴に箔をつけてみたいと言う中年もいる。
今の仕事を辞め、新しくやりたい仕事の為に、貯金を切り崩して、必死に大学で勉強しようとする二十代後半の社会人もいる。
高校を卒業してすぐに仕事を始めたり主婦になったが、勉強をしたくなったので、受験に備えて勉強し、入学する主婦もいる。

 では、彼女は、どんな経緯でこの大学に入学し始めたのだろうかと。
W大学の文学部哲学科で教授を務めて三十年のベテラン、山田司郎はパワーポイントで作ったスライドを移動させ、講義内容を口にしながら考えていた。

 『田村玲子』は率直に言って、山田がこれまで教えて来たどの生徒よりも物覚えが良く賢い女性だった。
登録された学生のデータによると、彼女の年齢は二十六歳。脳細胞の全盛期を過ぎた人物とは思えない程、頭脳も冴えている。
掃いて捨てる程いる、この大学に入れる程の知能を遊び呆ける為だけに使う、若いだけの男女にも見習ってほしい程であった。
ただ賢いだけでない。山田は主にサルトルを専門的に研究している人物だが、田村は鋭い切り口で此方に対して質問を投げ掛けて来る事が多い。
その質問に関しても、よく彼の著作や二次文献を読み漁っている事が良く解る内容で、答えがいのあるものばかりだ。早い話、哲学についても造詣が深い。
是非とも自分のゼミに入って欲しいものだと山田は願っていた。彼女程優秀な学生は、恐らく自分の教授人生の中で、二度と現れないのでは、と言う確信すらあった。
哲学科の教授と言うのは他の学部の教授達と比べて各界へのコネは少ないと思われがちであるが、実は書籍の編集の世界へのコネを多く彼らは持っている。
山田もその一人だ。田村が望むのであれば、懇意にしてやっている嘗ての教え子に彼女を紹介して、高い地位を与えてやるのも良いし、
彼女自身の高い語学力を活かさせて、翻訳の仕事を紹介しても良い。

 ――このように山田は、田村玲子に対して露骨とも言う程贔屓をしているのだが、同時に彼女には謎が多い。
先ず彼女が、この大学に来るまで何をやっていたのか、もとい、前職はなんだったのかと言うのが解らない。そして同時に、彼女の家族構成も全く分からない。
だが最たる謎は、何故この大学に入学したのか、であろう。十八、十九程度の年齢の少年少女なら、遊びたかったからとか、勉強がしたかったからとか言うのが相場だ。
大した謎じゃない。しかし、時期に三十路になろうとしている人物であった場合、何かしらの理由がある筈なのだ。生徒でなくても、教授だってこれは気になる。
以前同じ講義を聞いていた女学生のグループが、田村にその事を聞いていたが、如何にも大人の口ぶりで、「ちょっと勉強がしたかっただけよ」と答えていた。
嘘だろうな、と山田は思った。無論山田は読心術など使えない為、これが本当に田村の本心だと言う可能性だってきっとある。
それなのに彼がそう思った訳は、あくまでも勘である。その勘が、何故だろう。とても信頼が出来るのだ。十何年以上も研究し続けた、サルトルについての事柄が叩き込まれた己が大脳よりもだ。

 それともう一つ気になる事は、田村の身体から醸される、冷たい気配だ。時折、彼女と目がバッチリ合う事がある。その瞬間、山田はいつも寒気を感じるのだ。
人間以外の生物。例えるならば、人間の知能を持ったライオンに見つめられているような。そんな感覚である。
たまに思う事があるのだ。田村は、本当に人間なのだろうかと。人間の姿をした化物なのではないのだろうかと。

 ……考えすぎか、と思う事にした。
どうも昨日の、学会で発表する為の論文の作成作業による徹夜が響いているようだ。
講義が終わったら学内の自販機で、学生が良く飲んでいるエナジードリンクとやらを買って飲んでみるかと山田は考える。
チラリと田村に目線を彼は移した。机に突っ伏して寝ている男子学生を両サイドに侍らせながら、彼女は真面目にノートに、自分の発言を纏めているのであった。



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452 : Where do they come from? And where do they go? ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:51:06 jXi6I6XQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 <新宿>は嘗て<魔震>と呼ばれる未曾有の、そして地学史上稀に見る程不可解な大地震より、一時壊滅的な大ダメージを負った街であると言う。
日本国の徹底的な復興作業と、世界各国から集まった義捐金で、復興不可能とすら嘗ての専門家は口にした程の被害ぶりは跡形もなく消え去った。
――が、それでも。嘗てこの国で<魔震>と呼ばれる現象が起った何よりの証拠である、<新宿>と他区の境界線をなぞる様な形で生まれた<亀裂>だけは。
しっかりと東京都に刻み込まれているのであった。

 <新宿>は<魔震>前のような、東京都の中でも取り分けて栄えた区としての地位を、今や完全に取り戻したと言っても良い。
が、この区の行政の頭を悩ませているのが、やはりあの深さ五十数㎞以上にも達すると言われているあの亀裂である。
あれのせいでどれだけ不便な交通網を区民や都民に強いているのか、区長は痛いほど理解していた。
一色あの亀裂を埋め立てようと言う計画も立つには立ったが、コストと時間がかかり過ぎる為に結局お流れになった。
結局あの亀裂に対する対策は、橋を増やすしかないと言う極めて頭の悪い事でしか解決が出来ない。これはある意味で、人間の敗北とすら言える。

 このように<新宿>は行き来するのがやや不便な区なのであるが……不思議なものである。
そんな区でも、ホームレスと言うのは何故か集まるのである。周りを亀裂で囲まれたこの区ではなく、足立や葛飾にでも行けばいいのに、態々<新宿>へと足を運ぶ。
何故彼らがそんな事をするのかは、聞いて見ない事には解らない。都会の喧騒が心地よいからなのか、それとも飯を恵んでくれる物好きがいるからなのか。
それは、解らない。少なくとも人並みの生活を送る人間には。そして、誰も気にしない。戸籍も住民票もない人間がいなくなっても、誰が問題にすると言うのか?

「そう言う目で見てくれるな、アサシン」   

 <新宿>は新大久保の裏路地に響くその声は、妙齢の女性のものであった。
聞く者が聞けば、あっとなるだろう。さにあらん、その声の持ち主の名は、田村玲子。W大学の文学部哲学科に在籍する生徒の一人なのだから。

 まるで時間が凍結した様に静かな路地だった。
夜と言うせいもあろう、裏路地故に人の出入りが少ないと言うせいもあろう。
だが人がそもそも存在しない訳は……今田村が、『アスファルトにこびり付いた赤黒い液体を、二リットルのミネラルウォーターで洗い流している』からではないのか?
そして、田村のその作業を冷めた瞳で見つめる、黒い全身タイツ状の服を着用した、体格の良い青年は、何者なのか?

「人間の食事からでもエネルギーが摂取出来る事は出来るが、人間からエネルギーを取るのとでは効率が違い過ぎる。責めるのはよせ」

「……」

 アサシンと呼ばれた男、『駆動電次』は答えない。
寡黙な男だ、と、地面にミネラルウォーターを流し続けながら田村は考える。後藤も寡言な男だったが、駆動は後藤以上に何も喋らない。
最後に喋ったのは、駆動を呼び出した時の自己紹介の時だったか? あの時は自分のクラス名だけを伝えて、駆動は即座に霊体化した。
本当に、それ以外田村と駆動は言葉を交わしてすらいない。三木のようにお喋りを好む性質と言う訳では田村はないが、それでも、全く駆動の方からアクションを起こさないのは困り者だ。


453 : Where do they come from? And where do they go? ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:51:33 jXi6I6XQ0
 田村玲子、と言うのは彼女の本当の名前ではない。
否、訂正するべきか。彼女には名前などない。いやそもそも、彼女の性別も嘘であれば、彼女の肉体自身も嘘である。
彼女と言う呼称も、便宜上、肉体が女性のものであるから用いているだけである。
田村玲子と言う存在は『パラサイト』と呼ばれる生き物だ。Parasite……つまり寄生虫とか寄生生物を意味する英単語であるが、
田村玲子達パラサイトと言う者達の生き方は、その英単語と違える事はない。彼らは人間の脳に寄生し、その身体を乗っ取る生き物なのだ。

 彼らの主食は原則、寄生した生物と同系の生物……つまり田村の場合は、人を喰う事になる。
但し彼女は、本来人間が食べるような野菜や牛や豚などの肉でも、パラサイトが生命活動を維持出来る事を知っている。
知ってはいるが、彼女が述べた通りエネルギーの摂取効率が違い過ぎる。だからこそ――こうしてホームレスの肉体を喰らっていたのである。
これから巻き起こる聖杯戦争の熾烈な争いを生き残る為のエネルギーを蓄える為に。尤も、この街には広川はいない。従ってパラサイトの為の食事場も無い。
だからこそ食事には細心の注意を払い、人を『綺麗』に食べ、人が死んだと言う形跡を可能な限り消さねばならない。なくなって見て初めて解る、広川と言う男の手腕よ。

 右手に刻まれた、人間の眼球と口を模した、淡く発光するタトゥーを見つめる田村。
自身が聖杯戦争の参加者である事を如実に示す烙印とも言うべきか。令呪、と呼ばれているものらしい。
何の因果かは解らないが、田村はこうして<新宿>の聖杯戦争へと招かれてしまったのだ。あの時草野の死体から零れ落ちた、不思議な鍵など拾わねば良かったと考えだす。
これが人間が言う所の後悔か、と田村は自問する。初めて知った時は不可解な感情だとこれっぽちの理解も示さなかったが、成程。今はよく理解出来る。

 昔ならば、世界の終りが告げられても。自分の身体に死が舞い込んでも。ああそうか、と思うだけで、何の感慨も湧かなかった筈だ。
だが何故だろう。今は、田村は余り死にたくなかった。死そのものに恐怖していると言う訳ではなく、死んだ後で自分の知らない・知りたい事が起ってしまうのが惜しいのだ。
目下の懸念は自分が寄生した女性の母体が、Aとセックスした事で生まれたあの赤子である。あれはひょっとしたら、自分達パラサイトが何者なのか。
と言うインスピレーションを、自分に与えてくれるのでは――そう思い育てて来た筈なのだ。だが今は、そんな思惑とは別の感情が湧いて来ているような気がする。
女は子を産み母となり、母は子を愛で母性を知る。知識としては田村も知っている。それと同じような気持ちが、自分にも湧き起っているのか?
パラサイトが人の子を案じているのだろうか。ありえない……話では、ないのかも知れない。狼に育てられた、アマラとカマラではないが、
そもそもパラサイトは人の脳に寄生する生き物だ。元来人間の脳が有していた、物事に対する考え方を、パラサイトに影響を与えても、不思議はないだろう。

 元の世界に戻りそして、あの赤子の行く末を見てみたい。
だが、聖杯戦争も気になる。パラサイトは神と言う超自然的かつ絶対的、そして概念的で形而上学的な存在を信じない。
しかし実際、そのような超越者がいるのだと言う。そしてその超越者が、聖杯と言うものを実際に用意してもいると言う。
聖杯が叶える願いと言うものに対する執着は希薄だが、実際にこの<新宿>に馳せ参じているというサーヴァント、と言う名の過去の英霊、
或いは異世界の強者の姿を、見てみたい気もする。好奇心、と言う奴である。動物に備わる本能とは違う欲望が強くなっているのが田村には解る。
この上、――命名していいのかは解らないが――赤子に対する母性だ。全く、次から次へと、興味の念は絶えない。

「アサシン」

 緘黙を貫く自らのサーヴァントに、パラサイトの女は問うた。

「人は――『我々』は、何処から来て、何処へ行くのだと思う」


454 : Where do they come from? And where do they go? ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:51:49 jXi6I6XQ0
 それは、田村を現在進行形で悩ませる問いかけ。
パラサイトは何の為に生まれ、何の為に生きるのか。田村玲子はこの命題を追い求める為に子供を成し、自らの同胞を殺めた。
今や人間以上に優れた知性の持ち主となったパラサイトですら答えられぬ問いに、駆動は何と答えるか。はたまた、沈黙を貫くだけか。

「俺にとっては人もお前達も、白紙に過ぎない」

 それは酷く虚無的な言葉だった。
不思議なものである。人と言うのは些細な痛みにも神経質に反応し、些細な事で怒り、喜び、そして悲しむ生物だと思っていた。
駆動にはそれらがない。人間を人間足らしめる感情が極端に希薄なのである。パラサイトである自分ですら、それらに対してやや理解を示して来たと言うのに。
何故この男には、それらがないのか。田村には、理解が出来ない。

 ――……面白い――

 田村は駆動に興味を覚えた。
人の身でありながら人間に対して強い憎悪を抱き、人と言う種を間引く為に敢えてパラサイトに接触して来た広川と言う男に対して抱いた感情と同じだ。
この男は自らの存在を哲学する為のサンプルに成り得る。自分達パラサイトの存在の謎と、存在する理由を解き明かすツールが、此処まで揃うとは。
自分は幸運なのかも知れないな、と、田村は思うようになる。

 二リットルのミネラルウォーターのペットボトルを、路地の脇に置き終えた田村が、スタスタと裏路地の方を進んで行く。
要件は終わった、と言う事を言外に示している。その事を感じ取った駆動も霊体化を始め、彼女に追随する。

 ……まさか、田村も知る由はあるまい。
怒りや悲しみ、絶望が強くなり過ぎた時。人は、その感情や情動を失うと言う事など、想像すら出来ないだろう。
そして自らの引き当てたサーヴァントこそが、その類であった事など、解る筈もないだろう。

 彼の名は、駆動電次。
人の身体に奇居子を寄生させられる事で人生を狂わされた、哀れな男。孤独で報われない戦いを終生行い続けた、原始的な暴力の化身。
駆動は惰性で戦うだけである。相手が奇居子だろうがサーヴァントだろうが、それは変わらない。今も夢見る、人間としての幸福を求めて。



.


455 : Where do they come from? And where do they go? ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:52:07 jXi6I6XQ0
【クラス】

アサシン

【真名】

駆動電次@ABARA

【ステータス】

(黒奇居子発動時)
筋力A+ 耐久A++ 敏捷A+++ 魔力E- 幸運C 宝具EX

(黒奇居子非発動時)
筋力B+ 耐久B+ 敏捷A+ 魔力E- 幸運C 

【属性】

中立・悪

【クラススキル】

気配遮断:A++
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは不可能に近い。
示隔領域と言う空間を纏う事で高度に発達した科学技術や高ランクの千里眼や感覚スキルを持たない限り不可視の状態を維持可能。
自らが攻撃体勢に移ると、むしろ気配遮断のランクが『上がる』。この気配遮断の数値は、後述の宝具を発動した時の値である。

【保有スキル】

戦闘続行:A+
往生際が悪い。瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

再生:A+
傷を付けられれば、即座に回復する。四肢の欠損からですら、常人には視認不可能な速度で復活出来る。
但し、頸椎の剥離に関して言えば、再生能力が格段に落ちる。

反骨の相:B
権威に囚われない、裏切りと策謀の梟雄としての性質。同ランクの「カリスマ」を無効化する。

千里眼:C+
視力の良さ。遠方の標的の捕捉、動体視力の向上。とくに不可視化などを、ほぼ完全に無力化する。

単独行動:D
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクDならば、マスターを失っても半日間は現界可能。アーチャークラスでの召喚ではない為、ランクは低い。


456 : Where do they come from? And where do they go? ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:52:22 jXi6I6XQ0
【宝具】

『はらぺこゴウナ(黒奇居子)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:自身
検眼寮が保管する、奇居子及び示現体に対抗する為の聖遺物であり最終兵器。
その正体は数百年前に存在した大企業、第四紀連が白奇居子をもとにして開発した生体兵器。単体では、甲殻を持った虫状の生物。
これ自体は何の意味もなく、これを人間に寄生させる事で初めて真価を発揮する。この宝具はアサシンに移植されている。
宝具を発動させると、胞(えな)と呼ばれる、非常に強固な外骨格状の組織装甲を形成、それで己の身体を身を包み、全能力の爆発的な向上を行わせる。
アサシンの場合は肋骨(あばら)状の組織を形成する。宝具を未発動、つまり非胞展開時においても、圧倒的なスペックを発揮する。
特に向上が著しいのは敏捷性についてで、重力や慣性の法則、衝撃波の発生と言う不可避の現象を無視した、極超音速での空中機動をも齎す。
残像すら確認出来ない程の速度での高速移動による不可視性に加え示隔領域と呼ばれる自身の透明化を保証する空間を纏う事で、
Aランク以下の感覚、気配察知、直感、千里眼に類するスキルや宝具を完全に無効化する。
弱点である頚椎の剥離を除いて、一時的な行動不能状態にすら持ち込む事は困難であり、四肢断裂ですら常人には認識不可能な速度で再生する。
胞は追加展開が可能で、緊急時には盾のように用いることも可能。驚異的な速度での活動にも耐える高速思考や、大気圏外における活動も保証される。
魔力消費が極端に少ない常時発動型の宝具。解除は可能。

 黒奇居子を埋め込むと言う事は非常に危険な措置であり、アサシンはこの宝具を埋め込まれた三人の内の一人。
残りの二人の内一人は知能と情緒の大幅欠如、一人は車椅子での生活を余儀なくされた程。アサシンには目立ったデメリットはなく、ほぼ完璧に馴染んでいる。
但し、アサシンに関しては極端にデメリットが少ないとは言え、奇居子を元にした宝具である以上、アサシンはこの宝具を発動させると人喰いの衝動を発動させる。
そして聖杯戦争に際しては、その特徴がフィーチャーされており、この宝具を発動してから一分が過ぎた場合には、凄まじい空腹感に襲われ、人を貪り喰う衝動に苛まれる。
この衝動が発動した時には、魔力消費の少ないと言う長所が消滅。宝具性能に見合った、爆発的な燃費の悪さがマスターに襲い掛かる。

【weapon】

【人物背景】

報われないヤドカリ
 
【サーヴァントとしての願い】

不明




【マスター】

田村玲子@寄生獣

【マスターとしての願い】

自らの存在意義に関する謎の解明

【weapon】

【能力・技能】

田村玲子は人間ではない。この生き物はパラサイトと呼ばれる寄生生命体で、この個体はとある人間女性を宿主に決めた数あるパラサイトの内の一人。
パラサイトは人間の脳を奪うと首から上と同化して全身を操り、顔は同じでも元の宿主とは全く別の人格となる。
寄生部分である表面を含めた頭部全体が「脳細胞」の状態となり、脳・眼・触手・口などの役割を兼ねる。
一見すると一般の人間と同じだが、頭部は自由に変形しゴムのように伸縮したり、鋼鉄のように強くすることができる。
刃物の形状で攻撃する際には鉄をも切断するほど強力であり、重いものを持ち上げる腕力と動きの素早さも尋常でなく、
一般人の動体視力ではその動きを捉える事すら不可能に近い。いわば考える、強靭な筋肉。
またパラサイト宿主の体を身体能力の限界に近い状態で長期間稼働させる事も可能。
ただし、寄生部分以外はあくまでも人間のままである為無茶は出来ない。理性や感覚が働かない為に、限界を超えた負荷を発動して負傷する事も珍しくない。

 また彼らは痛覚に対する恐怖が希薄で、痛みを恐れない。但し自分がどの程度まで痛めつけられれば死に至るかと言う事については理解している。
寄生部位の頭は非常に再生力が強く、生半可な兵器では死に至らしめる事は難しいが、人間としての部位は別で、主要な内臓に重大な損壊を負えば死ぬし、頭を胴体から切り離され放置しても死ぬ。

 以上のようにパラサイトは様々な性質や特質を持っており、少々の攻撃では防御されたり避けられたり、ダメージも受けない。
但し、物理的な攻撃には極端に強靭な一方で、毒物・強酸を浴びたり体内に取り込まされる、火をつけられるなど、細胞同士の反応がずれたり、神経伝達に齟齬が発生する攻撃には不覚を取る事もある。

【人物背景】
 
人に寄生する事でしか生きられないか弱い生物。自らのレゾンデートルをいつも悩み続ける寄生獣

【方針】

聖杯戦争を楽しんでみる


457 : ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:54:49 jXi6I6XQ0
投下を終了いたします。
今回の主従を考案するに当たり、『ぼくのかんがえたサーヴァント』様の駆動電次のステータスシートを参考にさせていただきました事を、此処に明記いたします

続けて投下いたします


458 : 魔王再誕 ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:55:19 jXi6I6XQ0
 冷静に考えれば、二十一世紀と言うのは凄い時代になったものだと、新宿警察署のベテラン刑事、田山彦一は夢想する。
テクノロジーの発達や、生活水準の向上が、と言う意味ではない。刑事の観点から考える凄い時代と言うのは、物騒さ、と言う意味でだ。

 マスメディアは凶悪な犯罪だけをピックアップして、現代がさもいやな時代なったと言うイメージを大衆に抱かせる様な報道を行い、
人々の不安を煽り立てるが、田山には解っている。年々殺人や放火などの、万人が想像する様な凶悪な犯罪は、低下傾向にある事を。
だが、物騒さと言う種は消えていない。日本はアメリカなどと違い銃火器の所持には非常にうるさい国であるが、その一方で刃物に関してはルーズな面がある。
今日日百円ショップに行けばなまくらの包丁など幾らでも買える時代だ。人を殺せる凶器など、この国には幾らでも転がっている。それが銃か刃物か、という違いでしかない。

 刃物による殺しは、ポピュラーな殺人方法である。刃物が手に入りやすい日本に限った話ではない、海の向こうの諸外国でもそれは同じだ。
聞いた事があるが、銃社会と言うイメージが広く浸透したアメリカにおいてですら、五分に一人は刃物で傷つけられたり殺されたりしているという。
刑事生活二十五年。刃物による殺人は田山も多く見て来たが、ガイシャは圧倒的に刺されて殺されている事の方が多い。
この理由はシンプルで、市販の包丁やナイフで人を斬ると言うのは、とんでもなく難しい行為なのだ。先ずガイシャは死なず、下手をすれば反撃すら喰らってしまう。
次に、これは経験則であるが、人を刃物で刺すと言う行為は、所謂、「ついカッとなってやった」時に行う事が多い。
突発的な感情の爆発が起こり、そして、偶然近くに刃物があった時。人は、斬るよりも刺す行為を選択する。
そして何よりも重大な事は、人は本能的に、刃物は斬る事よりも刺した方が致死率が高くなる事を理解しているのだ。
だから、刃物沙汰の事件と言うのは、斬るよりも突いて行う事の方が多い。経験則から言って、そう言う物だと田山は認識していた。

 ――……だけどよぉ――

 この事件は、異常だ。その事を、長年培われ、磨き上げられて来た刑事のカンが告げている。

 ガヤガヤと野次馬が煩い、<新宿>は荒木町荒木公園だった。
黄色地に黒い文字でKEEP OUTと言う立ち入り禁止のテープを張り巡らせ、彼らの侵入を、新宿警察の一員達は防いでいた。
逸った無鉄砲者が中に入り込んだとしても、直にその意気軒昂とした気分はぶち壊され、その場で嘔吐してしまうだろう程の惨状が、その中で広がっていた。

 ――嘗てこの国で、井の頭公園バラバラ殺人事件と言う日本の近現代の犯罪史でも稀なる猟奇殺人が起った事がある。
バラバラ殺人と言う名前の通り、被害者は斬られて殺されたのが当然の事。刃物で刺すのではなく斬って使う事で相手を殺した殺人事件も、少なくない事は田山も知っている。
この事件では、遺体は二十七個の断片にされた状態で、半透明のビニール袋に詰め込まれ、池の周囲に設置されたゴミ箱に小分けにされて捨てられていた。
殺人事件と言うものは、推理小説の様には行かない。犯行手順がシンプルであればある程警察も犯人を突き止めやすいが、逆に変に複雑であればある程でも、
犯人の特定は容易である。そのバラバラ事件の特異な所は、バラバラにされた全てのパーツが、ほぼ二十数cmの長さで綺麗に切断され、それだけでなく、
太さまでもが肉を削ぎ、筋肉を削るなどして揃えられていたのである。また遺体は実に丁寧に洗われ、血管から絞りだすようにして血抜きされていた。
これだけ面倒な手順を踏めば、当然犯行の特定も容易い――と思われがちだが、現実は違った。この事件は結局誰の犯行なのか、と言う決定的な証拠を見つける事無く。
悔しい事だが、警視庁の未解決事件の目録に加え入れられてしまった。時効は、二千九年の四月。最早犯人に罪を追及する事は出来ない。

 その事件と荒木町の公園に広がるこの惨事は、よく似ていると田山は考えた。
田山は、最早この国の警察ではほぼ伝説になったと言っても過言ではない、井の頭の公園のあの事件は担当した事がない。
した事がないが、似ていると思ったのだ。これも、刑事のカンである。


459 : 魔王再誕 ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:55:55 jXi6I6XQ0
「どう思う、遠野」

 田山は隣に佇んでいる相棒の刑事に思う所を問うてみた。
刑事歴は七年程。ようやく刑事としてマシになって来たが、彼からすればまだまだ半人前。
カンは鋭い所があるので、此処を磨き、経験を積めば、良い刑事(デカ)になるだろうと見抜いていた。

「どう思うも何も……これは、異常としか……」

「……俺も、それ以外の言葉が見当たらん」

 言って二人は、目線の先数mの地面の上に転がっている物を見て、言葉を漏らす。
刑事経験を積んで来た二人ですら、正直な話、直視するのも嫌なものだった。

 それは、率直に言えばバラバラにされた死体であった。
先程引き合いに出した井の頭のバラバラ殺人は、胴体と頭が見つかっていない状態なのだが、荒木公園に転がっている死体は、全パーツ揃っている。
問題は、そのバラバラ振りであった。荒木公園のこの死体は、鑑識によれば二百五十七に分割されていると言うのだ。
そんなバカな、と思われるが二人の視界に広がっている、肉塊の堆積を見れば、鑑識の言っている事が嘘ではない事が解る。
だがもっと異常なのが、その切断面である。見るが良い、その滑らかさを。鮮やかさを!! 
剣豪が名刀で斬ったとしか思えない程、見事な斬り口だった。遠目から見ても、その見事さが窺える程だ。
適当な肉塊と肉塊の切断面を触れ合せればくっ付いてしまう程、平らな面。筋繊維の一本一本、神経系や骨の粗密すら確認出来る程、美しい面。
ジャック・ザ・リッパーも、このような切断面を求めて、娼婦を切り裂いたのではと夢想せずにはいられなかった。

 この場にいる刑事や鑑識の誰もが、この死体を見て性別を一目で判別が出来なかった。
大体身体の一部分を見れば、彼らは性別と言うものが何となく解る。だが、今回は余りにもパーツが細かく分けられている為、一目では解らないのだ。
殺された人物が果たして誰なのか。DNA鑑定の結果が、待たれる所だ。

「俺から言える事は、犯人は、この公園で人知れず、ホトケを切り刻んだって事だな」

「こ、此処でですか!? だって……」

 遠野の言いたい事は解っている。そもそも人間を殺した後でバラバラにすると言う事は、とんでもない程の大作業である。
先ず以て、人間の身体をバラバラにすると言う事自体が難しいと言うのに、これに加えて大量の血が出る為、これを洗い流すのに大量の水が必要となる。
どちらも、一般家屋ではまず行えない事だ。それを、家屋よりも更に条件の悪い、しかも何時誰が見てるかすら解らない公園のど真ん中でやるのだ。遠野がありえないような表情を浮かべるのも、無理からぬ事だった。

「俺だって信じたくねぇよ。見ろよ、あの大量の血液を吸った地面をよ」

 遠野も気付いたらしい。死体が転がっている砂地の地面、其処に吸われた大量の血液を。
その死体の周囲数mはどす黒い赤色で染まっており、その部分だけ色水を染み込ませたような雰囲気になっている。
恐らくは、体中の全ての血液が溢れ出ているのだろう。此処で全ての血を流し尽した……と言う事は、だ。
『別所で被害者を寸断し、この公園に遺棄した』、と言う線は完全に消滅した事を意味する。何故なら別所で人をバラバラにしたのならば、其処で血液が流れるのだから、この公園に人体の血液の総量が流れ出る事は、ありえないのだ。

「ですが、この公園で此処まで人をバラすなんて……」

「解ってる。それ自体が、ありえない事なんだ」

 結局、問題の根本は解決していない。
どのようにして、犯人は一人の人間を、公園で此処までバラバラに出来たのか? 目撃者の情報を募っているが、誰も異常を感知していなかったと言う。
そしてそもそも、どうやってあんな斬り口を再現出来たのか? 今の司法解剖の技術は凄まじい。どんな銃で撃ち殺されたのか、どんな刃物で斬られ刺されたのか?
その程度の情報など、簡単に識別出来る。今では田山も、ある程度までならどんな凶器で殺されたのか、判別出来る。
だが今回のそれは、明らかに包丁でもなければ刀剣類の類でもなく、況してや電機や油圧の力で動く業務用カッターの類でもない。
もっと別種の……いやそもそも、『刃物』ですらないのかも知れない。ありえない話なのだが……どうにも自らの刑事のカンを否定出来ない。

「――悪魔が殺ったのかも知れねぇな……」

 らしくない事を呟き、田山は死体の周りを再びうろつき回り始めた。
犯行現場を舐めるように観察し、事件を推理すると言う方式を見つけ、それを続ける事、二十年。
この公園に着いてから三時間以上観察を続けているが、異常性の欠片もないのであった。



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460 : 魔王再誕 ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:56:39 jXi6I6XQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ベリアル、と言う堕天使の事をご存知?」

 怜悧と言う言葉がこれ以上と無いほどに似つかわしい、女性の声だった。
性欲だけを募らせた童貞男が聞けば、自分が理想とする所の美女を連想してしまうような、美しい声であった、が。
その声には今、限りない侮蔑の色が込められていた。マゾの気質のある男は、それだけで射精すらしてしまいかねない程だ。

「神秘学はどうも教わっていなくてね」

 女性の声に対してそう返事をしたのは、二十を過ぎて数年と言った年の頃の男の声だった。
そう、その声は、ただの人の声である、筈なのだ。なのに、何だ。この天上の楽師が爪弾いた琴を思わせるような、美しい声は。
性別の垣根を超え、人の心を蕩かすような、艶やかな声は。例え同性であろうとも、この声を聞けば皆こう思うだろう。先程の女性の声よりも、この男の声は美しい、何時までも聞いていたい、と。

「ソロモン王が使役したとされる七十二の魔神の一人よ。その容姿は天使達の住まう天界にあって最も美しく、その不埒な性格の強さたるや世界全土を見渡しても比類がなかったそうよ」

「ふむ、面白い存在だね。で、僕に対してそう切り出した訳はなんだい?」

「皮肉を理解する程の教養もないのかしら。貴方がまさにそうだって言っているのよ」

 軽蔑を隠しもせず、女性が言った。
青一色のスーツを着用した、プラチナブロンドの大人びた女性である。
声は、体をよく表していた。清楚さの中に知性と艶美さを内包した、非常に美麗な顔立ちをしており、身体つきの方も、その顔の良さによくあっている。
出るところは出、くびれる所はくびれて。美の神が、女性美と言うものの基準を全人類の中から一人定めなければならない局面に当たった場合、先ず間違いなく選ばれるのは、彼女だったろう。

 ――だが男性の方は、その女性の美など鼻で笑ってしまう程の『美』の持ち主であった。
女性が人類の美の基準点とするのならば、その男は宛ら、天上楽土の世界の美の基準と言うべきなのだろう。
その男には女性美も男性美も関係ない。およそ万物全ての『美』の規矩と言われても、誰もが納得する所であろう。

 彼は、黒いインバネスコートを着用していた、コートの中のシャツからスラックス、靴や手袋に至るまで、全てが黒。黒一色である。
黒とは、目立つ色であると言うのは服飾の世界での常識である。そして、黒は、身に着けた人物の姿形を兎に角引き立たせる。良い意味でも、悪い意味でも。
黒は服飾の業界ではポピュラーな色であり、そして、着こなしがとても難しい色なのだ。それをこの男は、我が身の一部とでも言わんばかりなまでに、着こなしている。
この色はきっと、神がこの男の為だけに態々造り出した色なのだと言われても納得が行く程、黒と彼とは合致していた。

「つい先程の事を言っているのかい? 僕はただ、敵を排除しただけなんだが。キミのサーヴァントとして、ね」

「嬲り殺した事については、どう弁解するつもりなのかしら?」

 非難がましい――事実非難している――目つきで、『アサシン』のサーヴァントとして呼び出されたインバネスの男を睨みつけ。
彼のマスターである、『マーガレット』は問い質しに来た。彼女は、アサシンの顔を睨みつけている。信じ難い話である。
大人の男ですら、余りの美しさに頬に朱がさす程の美貌の持ち主であるアサシンを、異性の彼女が真っ向から見据えているのだ。
女性であれば魂すらも煮溶かしてしまう程の美に対して、真っ向から食って掛かる、マーガレットの胆力の凄まじさよ。「ほう」、とアサシンが嘆息を漏らしたのは、そんなマーガレットの肝っ玉を、賞賛したからなのか。

「敗者は勝者に蹂躙される。……それの何処がおかしいのかな?」

 ニコリ、とアサシンはマーガレットに微笑みかけながらそう言った。
まともな神経の持ち主であれば、心臓麻痺すら起こしかねない程の、圧倒的な美の奔流がマーガレットを襲う。
クッ、と彼女が目を伏せる。アサシンの言っている事が一理あると言う事もそうだったが、その美に、彼女の精神が耐え切れなかったからだ。


461 : 魔王再誕 ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:57:01 jXi6I6XQ0
 事の発端は荒木町のとある公園での事に遡る。つい十分程前の話だ。
何て事はない。<魔震>に見舞われた<新宿>の散策をしている途中に、敵のサーヴァントに出会ったのだ。
逃走の姿勢を、マーガレットは見せようとしていた。セオリー通りであればアサシンは、気配遮断で姿を隠し、マスターを暗殺するクラス。
つまり、直接戦闘には向かないのだ。姿を眩ませ、逃げ出そうとした時である。このアサシンは、自分に任せて欲しいと言って、敵のバーサーカーの前へと堂々と進んで行った。

――誰が信じられようか、と言う現象が、二つ起った。
先ず一つ。敵の主従が共に、星の放つ幽玄な光だけを集めて形作らせたようなアサシンの美貌に怯んだのだ。
敵のマスター――しかも女性――が怯むのは、理解出来る。だが、理性を奪われ戦闘力を極限まで高められたバーサーカーが。
美醜など理解出来る筈もないバーサーカーが、美に驚いたのだ。次に驚くべき現象が起ったのはその直後。
バーサーカーが茫然となってから、ゼロカンマ一秒経ったか否か、と言う短い時間だったであろうか。
バーサーカーの身体が、何百もの肉片となり細切れにされたのである。しかも、身に纏っていた鎧や、宝具と思しき武器ごと、だ!!
霊核すらバラバラにされたであろうバーサーカーが、その時点で即死したであろう事はマーガレットも想像が出来る。
残るはマスターの処遇である。契約者の鍵を破壊し、令呪の発現されている部位を切断するだけで済まし、命だけは助けようかとマーガレットが考えていた時だった。
未だアサシンの美貌に恍惚としていた相手マスターの衣服が、千々に吹っ飛んだのである。
夜気に晒される、張りのある二十代半ばの女性の裸体。桜色の乳首も、縮れた毛の密集した股間部も、全てが露になる。
生まれたままの姿を晒されているにも拘らず、相手のマスターは恥じらう事すらしない。いや、忘れていたと言うべきか。アサシンの美は、羞恥の心をも忘却の彼方に吹き飛ばす。

 そして其処から起ったのは、月と星とマーガレットだけしか観客のいない、アサシンによる残虐な公開処刑であった。
敵のマスターの乳首が斬り落とされる。漸く其処で痛みに気付いたのか、彼女もハッとした表情を浮かべるが、アサシンが微笑みかけるのを見ると、
凍り付いた様に動かなくなる。次に斬り落とされたのは、クリトリスであった。痛みを感じる前に、今度は両方の乳房が斬り落とされる。
其処から先は、瞬く間の出来事だった。臀部の肉を斬り落とされ、耳も、鼻も、唇も、足も、膝も、肘も、肩も、胴体も。
流れるように彼女の身体から別れて行き、地面へと落下して行く。数秒経つ頃には、敵のマスターは二百を超す分断された肉の堆積になっていた。
最後まで、何か言葉を発する事も出来なかった。圧倒的な美とは、モルヒネ以上の麻酔効果を人に与えるものなのか、と。思わずにはいられなかった。

 ――終わったよ、マスター――

 全てが終わった後で、にこやかな笑みを浮かべ、アサシンはマーガレットの方に向き直った。
そうして、現在に至る。あの後すぐに荒木町の公園から場所を移し、とあるビルの屋上にまで二人は移動した。目撃者の目から逃れる為である。

 マーガレットは、このアサシンの行った事に対して、心底反吐が出る思いであった。
命令無視であろうとも、一思いに殺すのであれば、戦いの常として、仕方がないと割り切る事も出来よう。
だが、このアサシンが行った事は、自らの嗜虐心を満たす為だけに行った嬲り殺しだ。
こんな物、如何に暗殺者のクラスで召喚された男とはいえ、英霊と呼ばれる程の者がやって良い行為の筈がない。自らの美を用い、嬉々として女性を嬲り殺しにするこのベリアルのような男に、マーガレットは心の底からの嫌悪を隠していなかった。

 月と、都会特有の疎らな星々が、二人を見下ろしている――いや、違うか。
月と星とが見ているのは、アサシンだけである。マーガレットにはきっと、目もくれまい。
遥か何百光年先で輝く天体すらも魅了するその男は、あるかなしかの微笑みを浮かべ、マーガレットの事を注視している。
自分ですらも、あの魔技で切り刻むのではないかと、思わずにはいられない彼女。何を思ったか、アサシンは突如口を開き、言葉を紡ぎ始めた。

「嘗てね、この街には、世界の全てがあった」


462 : 魔王再誕 ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:57:30 jXi6I6XQ0
 マーガレットから目線を外し、アサシンはフェンスの方へと向かって行く。
網目状のフェンス越しには、深夜一時の、夜の帳の降りた<新宿>の風景が広がっていた

「暴力があった、富があった、魔法使いがいた、吸血鬼がいた、殺し屋がいた、化物や魔物もいた、そして。自由が、あった」

 フェンスに手をかけ、アサシンは言葉を続ける。アサシンが手を触れた物は、例え少し錆びついたフェンスですらが、魅力的なものに見えてならない。
本物の美を持つものは、触れた物にすら、その美の一かけらを付与する事が出来るのだ。

「全ての命に価値がない街だった。例えヤクザや魔法使いだってある時は殺され、年端のいかない子供だって、ある時は殺人鬼に変貌する。
性風俗も乱れていたな。自分の身体を熊にする薬なんてのが流通していてね、熊に変身した男が、その獣のペニスで女を犯す事だってあったさ。まさにソドムだ。
拳銃や裏ルートから流れ込んで来た各国の軍隊の装備が流通してるから、暴力沙汰なんて当たり前。治安維持の為の法律なんて実質あってなきが如く。
だがそれ故に、平等だった街。どんな障害を身体に持っていようが、どんなに醜かろうが、どんな経歴を持っていようが、生きる自由が誰にもあった街。
それが、“魔界都市<新宿>”なんだ。僕が支配するに相応しい街だったんだ」

 ――「なのに、何だこの街は?」

「<新宿>が<新宿>たる所以が、全て失われているじゃないか。暴力も富も、魔法使いも吸血鬼も殺し屋も、妖物も全ていない。
僕が<新宿>を支配しようと思い立った全てが、此処にはない。あるのはただ、魔界都市になり損ねたスティグマの、<亀裂>があるだけ」

「……何が言いたいのかしら、アサシン」

 腕を組みながら、マーガレットが聞いた。言われてアサシンが、夜空に輝く黄金の月を見上げだす。
アサシンの目線を真に受ける月。今にも月と星とが恥じらいで、黄色からルビーのような紅色に変わり出しても、おかしくはない。

「折角聖杯戦争とやらにサーヴァントと言う身分に呼び出されて見れば、こんな<新宿>だ。不愉快以外の何物でもない。だからこそ、だ」

 マーガレットの方に身体を向け、アサシンは更に口を開く。心なしか、星月の光が寂しそうに褪せたような気がした。  

「僕がこの街を魔界都市に変えて見せよう。この世の悪徳の坩堝。生まれも育ちも関係なく人が死ぬ街。それ故に誰もが平等だった街に」

 アサシンがそう告げた瞬間、マーガレットが左手の甲をアサシンへと見せつけるように構えた!!
細い糸のような曲線と直線が、人間の頭を模した球体に巻き付いているトライバル・タトゥーが彼女の手の甲に刻まれていた。それは、令呪だ!!

「僕に自害を命令するのかい、マスター?」

「……貴方は、呼び出されてはならない存在だと言う事を骨の髄まで思い知らされたわ」

 世界が羨む美貌の中に、途方もない邪悪を宿した男。これを、ベリアルと呼ばずして、何と呼ぶ。

「だから、僕を殺すのかい。まあそれも良いかも知れないね。マスターの願いは叶う事はないだろうが」

「私が聖杯を欲する様な存在だとでも?」

「君の願いは、聖杯を手にする、と言う所にないのではないのかい?」

 マーガレットの瞳が、一瞬大きく見開かれた。その様子を、アサシンは面白そうに眺める。

「心配しないでくれ。ただちに魔界都市にこの街を変貌させる気はない。いや、事と次第によっては魔界都市にしないかも知れないな。マスターと僕は相容れない存在なのかも知れないが、当面の目的は合致してる」

 スッ、と。アルカイックスマイルを突如アサシンは消し、真顔になり始めた。
心根の弱い者は、それだけで脊髄が凍結しかねない程の凄味に、その顔つきは溢れていた。
本物の美は、人を恍惚とさせるだけではないし、茫然とさせるだけでもない。完成された美には、人は恐怖と死をも連想する。


463 : 魔王再誕 ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:57:45 jXi6I6XQ0
「僕は魔界都市を侮辱したこの聖杯戦争の主催者を葬りたいんだ。僕が命を懸けてまで手に入れると値した街を此処まで貶められる才能を、僕は称賛したい。
そして、賞賛しながら、我が妖糸の技で斬り刻む。……君も、同じ事を考えているのだろう、マスター?」

「……」

 答えない。

「心配しないで良い。君はとても優秀なマスターだ。今の所僕も君を裏切るつもりはないし、僕も志半ばで死ぬつもりもない」

 インバネスを気障ったらしくはためかせながら、再びアサシンはマーガレットに背を向ける。
最早彼は月に興味を示していない。闇に眠る荒木町の商店街を、無感動に見つめるだけだ。

「――僕の幼馴染がいるだろうからね」

「……幼馴染?」

 マーガレットが疑問気にそう口にするが、今度はアサシンの方が返事をしない。
瞑目しながら、彼は思いを馳せていた。生前の魔界都市での出来事。其処で起った、壮絶な戦いの一部始終を。

 その男は、アサシンが生まれる一時間前にこの世に生まれた男だった。
その美貌は、アサシンが誇るそれに匹敵、いや、それを上回るかも知れぬ程。彼と同じで、黒の良く似合う男だった。背格好も良く似ている。
そして、何の悪戯か――彼も、アサシンと同じ『技』を使った。目に見えぬ、細さ1/1000ミクロンの特殊チタン製の糸を操る妖糸の技。
宿命も何も知らなかった子供の頃は、親子間の軋轢など誰が知るかと言わんばかりに、仲よく遊んだ事もある。しかし、宿命は逃れられないから宿命なのだ。
それから十五年後、再び出会った時には互いは敵だった。自らの父である男が追い求めた、魔界都市を手中に収められる『封印』を、アサシンと、彼の幼馴染も求めようとした。

 そして、今まさに『封印』が手に入ろうと言う局面で、嘗ての友とアサシンは戦った。
繰り出される、目で見る事も存在を感知する事も出来ない程細い糸の応酬。大地が割れ、建物が斬り刻まれ。
指一本を少し動かすだけで。百千の細い殺意が相手に殺到する、魔人の戦い。そしてその戦いに、アサシンは敗れた。
首を斬り落とされた感覚は、今でも思い出せる。思いの外痛くもないし、死ぬと言う事は呆気のないものだとも、今際の際に思い知らされた。

 魔界都市、ひいては、世界の王になり損ねた男は、『魔界都市になり損ねた』、<新宿>のデッドコピーの街に今君臨している。
根拠もなければ理屈もない妄想に聞こえるかも知れないが、アサシンは確信していた。あの戦いに敗れた自分がこの街にいると言う事は。
――魔界都市の象徴の一つである、あの白亜の大病院と同じ名前の建物が信濃町にあると言う事は。結論、アサシンの幼馴染であり、友人、そして宿敵もこの街にいるのだ。
出来損ないの魔界都市は、微かに残った魔都の力を振り絞り、魔界医師と、自分。そして、あのせんべい屋の男をこの街に引き寄せたのだ。

 首もとで左の人差し指をクイクイと動かすアサシン。フッ、と笑みをこぼし、彼は口を開いた。

「首に糸は巻き付いていない」

 安心したと言った風に、アサシンが言った。

「今回は僕が勝たせて貰うとしようか。――せつら」

 世界の王になり損ねた男は、静かにそう呟いた。
彼の名は、『浪蘭幻十』。一時は<新宿>をその手に収めかけた魔王。目的の為ならば手段を選ばない外道。秋せつらと同じ技をこの世でただ一人操れる、双魔の片割れ。





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464 : 魔王再誕 ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:58:07 jXi6I6XQ0
【クラス】

アサシン

【真名】

浪蘭幻十@魔界都市ブルース 魔王伝

【ステータス】

筋力C+ 耐久C 敏捷B++ 魔力B 幸運D 宝具A

【属性】

混沌・悪

【クラススキル】

気配遮断:B++
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。完全に気配を絶てば探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
アサシンの場合は使う武器の都合上、Bランク以上の直感や感知に類するスキルがない限り、気配遮断のランクは落ちない。

【保有スキル】

妖糸:A++
細さ1/1000ミクロン、人間の目には映らない程細い特殊加工チタンの糸を操る技量。
ランクA++は歴史を紐解いたとしても、数人も発見できるか否かと言う程の腕前の持ち主。

美貌:A+++
美しさ。アサシンの美貌は神秘に根差したそれでなく、持って生まれた天然の美貌である。それ故に精神力を保証するスキルでしか防御出来ない。
性別問わず、Aランク以下の精神耐性の持ち主は、顔を直視するだけで茫然としたり、怯んでしまったりする。常時発動している天然の精神攻撃とほぼ同義。
ランク以上の精神耐性の持ち主でも、確率如何では、その限りではない。またあまりにも美しい為に、如何なる変身能力や摸倣能力を以ってしても、
その美しさが再現出来ない為、アサシンに変身したり摸倣する事は不可能。人間に近い精神構造を持つ存在になら等しく作用する。

悪逆の性根:A
後述する宝具によって長年培われた、魔界都市の住民に相応しい精神性と物事に対する考え方。
目的の達成の為なら一切躊躇をせず、女子供であろうと容赦もしない人間性。同ランクの精神耐性と信仰の加護の複合スキル。

【宝具】

『教育機関(浪蘭棺)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
生前、やむにやまれぬ事情により、幼少の頃から十五年間もの間、起きずにずっと睡眠を強要され続けたアサシン。
その睡眠中のアサシンに『教育』を行って来た棺が、宝具となったもの。棺の表面には、黄金の山羊の頭の紋章(クレスト)と、
その角に、顎髭の下で結ばれたマンドラゴラの蔓が纏わっていると言う意匠が凝らされている。棺の内部には霊的作用を豊富に含んだ土が敷き詰められ、更にその中にはアサシンの父である浪蘭廟璃の切断された首が入っている。

 所謂睡眠学習の要領でアサシンに諸々の知識を授ける宝具であり、生前はこの宝具を以て魔界都市<新宿>の様々な知識及び一般的な座学などを頭に叩き込んでいた。
だが、此度の聖杯戦争に際しては、開催場所が魔界都市<新宿>ではない為、土地柄の情報は一切期待は出来ない。
この宝具が持つ真の効果はそれではなく、修行の必要なく、眠りながらにして『アサシンの妖糸スキルの数値を際限なく上昇させて行く』と言う事。
宝具の中に安置された父・浪蘭廟璃の首による『教育』による、戦闘技能の向上こそがこの宝具の真価。
破壊しようにも棺の表面に塗られた特殊な体液により、異様なまでの頑丈さを発揮しており、Aランク以上の宝具の直撃でやっと破壊出来るかと言う程。
アサシンにとっては掛け替えのない『我が家』であり、唯一の安息の場所でもある宝具。


465 : 魔王再誕 ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:58:20 jXi6I6XQ0
【weapon】

妖糸:
アサシンが操る、細さ1/1000ミクロン、つまり1ナノmと言う驚異的な細さを誇る、人間の目には絶対捉えられない糸。
材質はチタンであるが、魔界都市の特殊な技術で作られており、非常に強固。その強固さたるや、銃弾や戦車砲の直撃で千切れないばかりか、
摂氏数十万度のレーザーですら焼き切る事が敵わない程。これだけの強度を持ちながら、風にしなったり、たわんだりする程の柔軟性を持つ。
アサシンはこれをもって、主に以下のような技を操る事が出来る。

切断:妖糸を操り、相手を切断する。妖糸のスキルランク以下の防御スキルや宝具を無効化する。
糸砦:妖糸を張り巡らせ、不可視のトラップの結界を構成させる。無造作にそのトラップに突っ込もうものなら、体中をバラバラにされる。
糸鎧:妖糸を身体に纏わせ、不可視の防御壁を構成する。妖糸のスキルランクより低い筋力や宝具の攻撃を無効化する。他人にも可能。
糸の監視:妖糸を広範囲に張り巡らせ、其処を通った存在を察知する。妖糸スキルランクと同等の気配察知に等しい効果を発揮する。
人形遣い:妖糸を相手の体内に潜り込ませ、相手の意思はそのままに、アサシンの自由に身体を動かせる技。サーヴァントレベルなら抵抗可能。また、死人も動かせる。
糸縛り:糸を相手の身体に巻き付かせ、捕縛する。無理に抵抗すると身体が斬れる。
糸探り:不可視の糸を伸ばし、糸の手応えで空間の歪み、空気成分、間取り、家具調度の位置から、男女の性別、姿形、感情まで把握する。

妖糸は指先に乗る程度の大きさの糸球で、2万km、つまり地球を一周しておつりがくる程の長さを賄う事が出来、
アサシンはこの大きさの糸球をコートのポケットや裏地など様々な所に隠している。アサシンから妖糸を取り上げる事は、ほぼ不可能。

【人物背景】

嘗て“魔界都市<新宿>”で生を授かったとされる男。この世のものとは思えない人外の美と、卓越した妖糸の技の持ち主。
自分よりも一時間先に生まれたせつらとは子供の頃は友達同士だったが、ある時已むに已まれぬ事情により、父である浪蘭廟璃の首が納められた棺の中で、
十五年の時を過ごす事になる。そして復活した浪蘭幻十は、父が追い求めた『封印』を求め、秋せつらと戦うが――
 
【サーヴァントとしての願い】

聖杯戦争の主催者の殺害。恐らく呼ばれているだろうせつらとの決着。そして、受肉。

【基本戦術、方針、運用法】




【マスター】

マーガレット@PERSONA4

【マスターとしての願い】

???

【weapon】

ペルソナカード:
弾丸以上の速度で射出したり、縁の部分で切断したり出来る。マーガレットが使えば、下手な宝具とでも打ち合える程。

ペルソナ辞典:
妹は縁や表紙の部分で殴ったりしていた。恐らくマーガレットも、同じ事は出来るだろう。

【能力・技能】

ペルソナ能力:
心の中にいるもう1人の自分、或いは、困難に立ち向かう心の鎧、とも言われる特殊な能力。
この能力の入手経路は様々で、特殊な儀式を行う、ペルソナを扱える素養が必要、自分自身の心の影を受け入れる、と言ったものがあるが、
超常存在ないし上位存在から意図的に与えられる、と言う経緯でペルソナを手に入れた人物も、少ないながらに存在する。
だがマーガレットに限らず、彼らベルベットルームの住人は、如何なる経緯でペルソナ能力に覚醒したのかは、一切不明。
彼らのペルソナ能力を操る才能は、同じような世界観の並行世界を含めて考えても最高クラスのそれであり、彼ら自身が下手をすればサーヴァントとして招かれかねない程。
以下のペルソナを使用可能
愚者:ロキ
皇帝:オベロン
皇帝:オオクニヌシ
剛毅:ジークフリード
塔クー・フーリン
塔:ヨシツネ
審判:アルダー
星:ルシフェル

総じて、所謂『イケメン』のペルソナを扱う事で知られており、この事から面食いと言う噂が立っている。

【人物背景】

ベルベットルームの住民。力を管理する者。長い鼻の老人に仕える女。

【方針】

???


466 : ◆zzpohGTsas :2015/08/19(水) 18:58:33 jXi6I6XQ0
投下を終了いたします


467 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:02:42 G7hUycyY0
投下します


468 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:04:42 G7hUycyY0
  まさかもう一度目を覚ませるとは思っていなかった。
  病魔は完全に身体を蝕み終わっていた。
  あの日、あの時、有馬冴子は死んだ。
  そのはずだ。
  そのはずだった。
  だというのに。
  目が覚めてみると、冴子は全く見知らぬ部屋に居た。
  着ている服も簡素な入院着に着替えさせられており、少し前まで寝ていた物とは比べ物にならないほど高価なベッドに横たえられていた。
  そして、いつだって身体の真ん中に居座り続けず痛みをばらまき続けていた『何か』が居なくなっている。
  冴子が現状を理解できずに困惑していると、男性の声が聞こえてきた。

「気がついたか」

  首だけを動かしてそちらを向くと、ベッドの向こう、ドアのすぐ側に全く見慣れない男が立っていた。
  服装は白いケープ。見ようによっては白衣に見えなくもないそれを、ばっちりと着こなしている。
  髪は男にしては長く、腰のあたりまで伸びている。その艶と輝きはブラック・クォーツを思わせるほどに高貴で、どこまでも深い。
  しかし、最も目を引くのはただ一点。
  それは男の貌(かお)。
  月明かりに照らされた男の貌はあまりにも美しく。
  それはまるで美という概念そのものが肉の器に閉じ込められているかのような。
  それはまるで遍く存在している『美』をその場に集めて形作ったような。
  そしてそれは、うら若き少女が畏怖を覚える程に―――美しい貌だった。

「どこか痛む場所は?」

  男は、特に意識したふうもなく冴子に近づていくる。
  対応を見るにどうも彼こそが冴子をこの病院に連れ込んだ張本人らしい。
  経過の確認に来ていることからには執刀を行った医師の可能性も高い。やはり白いケープは白衣代わりのようだ。
  冴子はそのあまりの美貌に声も出ず、ただ二度だけ頷いた。

「ならば、完治だ」

  男は特に感慨もなくそう口にする。

「……完治……どうして」

  男の『完治』という言葉を聞いて、美の衝撃からようやく我を取り戻して声が出た。
  だが、どうしてに続く言葉は決められない。
  どうして私は生きているの。どうして治せたの。
  どうしてあなたはここにいるの。どうして私はここにいるの。
  様々な謎の込められた『どうして』に、男はただの一言でもって答えた。

「君が<新宿>に選ばれた者だからだ」

「神宿?」

  脈絡のない言葉を鸚鵡返しで繰り返す。
  神宿は、冴子の居住区から程遠くない場所にある繁華街だ。知ってはいるが、今の会話に関係があるとは思わない。
  男はその問いには特別返答をせず、冴子の身体を引き起こす。
  そして何も言わずに冴子の入院着に手をかけ、左胸の側をはだけさせた。


469 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:05:28 G7hUycyY0

  同年代の少女に比べてわりと達観したところのある冴子も、突然のことに少し身構える。
  が、男のこともなげな顔を見てすぐに平静を取り戻した。
  冴子は男の素性にも顔にも心当たりはなかったが、それでもひとつだけ分かる。
  男女の性や淫というものに近しい位置で根無し草のような生活を続けていた彼女だから分かる。
  男は冴子をなんとも意識していない。興奮だとか、情欲だとか、そんな感情を欠片も抱いていない。
  ならばきっとこれは男としてではなく、<医師>としての振る舞いだろう。
  男が冴子の乳房に触れる。位置はちょうど、心臓の真上の辺だろう。
  冴子の肌に、男の指先から熱が流れ込んでくる。
  触れた場所から心臓まで、緩く熱した燗を染み込ませたような感覚が広がる。
  皮膚から脊髄を通って脳に運ばれる嫌悪とも快楽とも取れぬその感覚に、身を捩りたくなる。

「令呪も現れたようだな」

  男がゆっくりと心臓の上を撫で、そのまま指が離れる。
  男が触れていた部分には、鍵のような不思議な形の蚯蚓腫れが浮き上がっていた。

「これで君は、この戦争の暫定的な参加者となった。
 以後、予選期間を事無く済ませることが出来れば予選を突破という運びになる」
 
  男の口走った参加者、という言葉で知らなかったはずの記憶を思い出す。
  『聖杯戦争』。それに付随する全ての記憶。
  この場所は冴子の知っている神宿ではなく<新宿>という都市であるという。
  そして冴子はその<新宿>で行われる戦争の参加者の一人として呼び出されたということらしい。
  だからこそ、男は死の際に居た冴子を救ったということか。天命にすら逆らい、戦争で死ねと。
  ずいぶん非道い話だ。ため息をつく。漏れた吐息にもう熱は篭っていなかった。
  男ははだけさせた冴子の入院着を正し、ベッドの上に投げ出されていた冴子の手に何かを握らせる。

「それは持っておいた方がいい。君のためになる」

  男が渡してきたのは、青い鍵―――透き通った、不思議な鍵。
  鍵のナンバーは「1303」。その鍵は、有馬冴子が「有馬冴子」だった証。
  なぜ男が持っているかは知らないが、もともとの持ち主は冴子だ。
  冴子は渡された鍵を強く握り、男と向き合う。
  あまりの美貌に再び眩みそうになり、息を呑む。何かを聞こうと思ったが何も聞けない。
  二人の沈黙の中を、夜風が通り抜けた。


470 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:06:39 G7hUycyY0

  そよぐ夜風にカーテンが揺れる。
  同時に空間に橙黄色の粒子が満ち、一点に収束する。粒子は人の形を作り、次第に色を取り戻していく。
  現れたのは短髪の少女だった。
  『ランサー』という文字が浮かんで見える。どうやら彼女が聖杯戦争に呼び出された英霊の現身、サーヴァントであるらしい。

「……えーと、そっちは私のマスターだとして、あんた誰?」

「夜も更けた。あとは好きなようにするがいい」

  男はランサーの姿を認めると、それ以上その場に居る必要はないと言うように部屋のドアの方へ振り返り歩き出す。
  その離れていく姿に、冴子は自身の置かれた状況の特異さを思い出し、「あの」と声を出して男を呼び止めた。男は足を止め、振り返る。

「一つだけ聞かせて」

  男は、何も答えない。ただ、足を止めて冴子の方に振り返ったのだから、その沈黙が意味するところは肯定で間違いない。
  呼び止めてから考えた。なにか聞いておくべきことはないか、と。
  戦争に呼び出されたということは、今の彼のような中立の人物と話す機会はそうそう来ない。
  ここがどこか、とか。冴子の知り合いはどうなった、とか。どうして鍵を持っていたのか、とか。
  そういった全ての疑問がこの場で意味を持たないことは悟っていた。
  だから、冴子はひとつ、問いを投げかけた。

「あなたは……あなたも聖杯を……奇跡を望んでいるの?」

  口に出してから気づいた。男が参加者だとはまだ決まっていない。
  もしかしたら、管理者のような立場なのかもしれないし、全く無関係の善意の第三者なのかもしれない。
  少なくとも、冴子の目からは彼の身体に『令呪』のような痣は見えなかった。
  男は少考した後にこう答えた。

「私も君と同じだ。<新宿>が呼び、私はそれに答えた。私も、君も、『彼女』も、『彼』も、そこに変わりはない」

  その答えは、やはり曖昧で。だが、曖昧だからこそ本質に最も近しいだろう答え。
  無駄な問いに、無意味な答え。傍から見ればまったく価値の無い会話。
  だが、冴子には思いいるところがあった。だから既にドアに手をかけている男にもうひとつだけ、問いかける。

「……だとすれば、いつかはあなたとも戦うことになるのね」

「次に出会った時には、そうなるかもしれない」

  ドアが開き、廊下に満ちていた月光が男と室内を優しく照らし、男の影が伸びる。
  男は。
  その影すら美しく。
  彼女が見てきたどんな芸術作品よりも深く。
  魂すら奪われてしまいそうなほど優しく。

「気が向いたなら、その足で<新宿>を見てくるといい。いつでも出ていけるよう、鍵は開けておこう」

  振り返り、再び顔と貌があう。
  冴子はその美貌に再び身震いをした。


471 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:07:18 G7hUycyY0

  男が部屋を出て数十秒か、数分か。
  もう足音も聞こえない。
  それを確認してから冴子はもう一人の闖入者に目を向ける。
  つまらなさそうに椅子に座って足を組んで寛いでいた少女―――ランサー。

「……それで、あなたは?」

  その声を聞いてランサーはようやく出番かとその黒光りする足をおろし立ち上がった。
  かちゃり、と音を立てて義足が地を打つ。ラバーの床に小さな傷が刻まれる。

「ランサー。あんたのサーヴァント。これからよろしく」

  全身を眺める。
  髪は黒の短髪。なんとなく黒猫を思わせる癖毛。
  服装はセーラー服。その体は英霊と呼ばれて想像するそれよりはるかに華奢で、肉付きもあまり良くない。
  目を引くのはやはり、左脚の義足だろう。腿の半ばから下が黒く光る異形にすげ替えられている。
  槍らしき物を携えていないが、もしかしたらあれが槍のかわりになるのかもしれない。

「有馬冴子。よろしくね」

  簡単な自己紹介を終えると、ランサーは幾つか質問をしてきた。
  「何か病気をしているのか」とか「先程の男は何者で、どんな関係なのか」とか、そういう、冴子としてもこんがらがっているところについて。
  冴子がありのまま知っていることを話すと、ランサーは「見張りをしとくから、少し休んでて」と言って姿を消してしまった。
  霊体化、というらしい。近くにいるらしいが、もう見ることはできない。
  そうして冴子は再び、一人きりになった。
  ひとりきりになった室内。薄暗い病室のベッドの上で情報を反芻する。
  冴子が患っていたのは紛れもない不治の病だ。
  現代医術の粋を持ってしても絶対に治せないはずの病だった。神の手を持つ医者も匙を投げるような病だった。
  それがまるで、盲腸かなにかのように。
  いや、手術も行っていないのだから盲腸よりも容易く。
  この街の医者は(おそらくあの男は)治してみせた。
  冴子自身、少し不思議程度のことなら経験したことがある。
  だが、ここまで常識離れしたことは流石に初めてで。
  その経験を何かと称するならそれは間違いなく。

「……奇跡、か」

  奇跡と呼ぶほかない。
  <新宿>の医者は冴子の目の前で、冴子に実感できる形で実現不可能とされた奇跡を起こしてみせた。
  そして、あの振る舞いを見るに、この程度の奇跡ならばこの<新宿>では日常茶飯事と考えていいはずだ。
  これ以上の奇跡が、この街には存在している。
  全ての運命に干渉できるほどの奇跡が、この戦争の果てにはある。
  まるでお伽噺のような話だ。
  ただ、心臓の真上に刻まれた蚯蚓腫れのような痣―――令呪だけが、そのお伽話の実在を語っていた。

  冴子は青い鍵を握った左手をしばし眺めて、そのままベッドにもう一度身体を横たえた。


472 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:08:03 G7hUycyY0

―――

  どこかで虫が鳴いている。
  夜風の肌寒さに心が撫でられ、ぼんやりとした意識を徐々に徐々に揺り起こしていく。
  窓側の身体がこわばっているのを感じた。窓をあけっぱなしにして寝るのは、さすがに油断し過ぎだろうか。
  戦争の舞台ということもそうだし、そもそも冴子は身体が強い方ではない。
  完治したのは病気だけで、身体までいきなり健康体になるわけじゃないのだから、風邪を引いてしまわないように気をつけないと。
  上体を起こすと窓際に先ほど消えたはずのランサーが立っていた。
  ランサーは少し目を丸くし、ばつがわるそうに頭を指で掻きながら謝罪の言葉を述べる。

「様子を見に来ただけだったんだけど、起こしたならごめん」

「……気にしないで。私、人に比べて眠りが浅いから」

  少女・ランサーとやりとりをして、ようやく気付く。
  どうやら少し眠っていたらしい。
  時計を確認するに寝ていたのはニ・三時間ほどだが、少し前の冴子からしたら目覚ましい進歩だ。
  病気が完治したことが心のゆとりを生んだことで、こういう部分にも影響が出たのだろう。
  悪いことではない。少なくとも、聖杯戦争中に彼女持ちの男性を探してセックスする必要がなくなった、と考えれば大きなプラスだ。
  でも、なんだか寂しくもあった。少なくとも、冴子を形作っていた『何か』がまた1つ消えた。
  また少し、曖昧に。希薄になってしまった気がする。
  宙に手を伸ばすと、ランサーが冴子の手をとって引き起こしてくれる。

「また少し見張ってくるから、安心して寝てていいよ」

「ありがとう。でも、もう大丈夫。それより、ここから出たいの。手伝ってくれる?」

  男は好きなようにすればいいと言っていた。
  だが別れ際のあの口ぶりは、長居を求めてないふうだった。少なくとも冴子はそう受け取った。
  参加者を病人という形で匿い続けるというのは彼としても本意ではないのだろう。
  ならば、手をかけないようにできるだけはやく離れる。面倒事は少ない方がいい。
  本当は男と別れてからすぐに出ていこうと思っていたが、ランサーに切り出すきっかけが掴めないままランサーが見張りに行ったため、数時間だけ出発が遅れてしまった。
  ただ、数時間くらいなら見逃してくれるはずだ。

「……いいの? 治ったってもまだキツそうじゃない」

「大丈夫、少し前に比べればすごく元気になってるから。そうは見えないかもしれないけど」

  ランサーが冴子の顔を覗き込む。きっとランサーの目には幽霊のような生気のない顔が映っている。
  ただ、冴子の不健康な顔色はほとんど生まれつきのようなものだし、それまで積み重ねてきた不養生のせいでもある。
  決して病気だけのせいではないし、だからこそ病気が治ってもこれが治ることはない。
  ランサーもそのことを気づいてくれたのか、それ以上は追求せずに冴子の言葉を受け入れてくれた。

「こっから出るのはいいけどさ、宛はあんの?」

「……宛って言っていいのかはわからないけど、ひとつだけ」

  ここを出ても大手を振って向かえる場所もない。
  生前(というのはおかしいかもしれないが、これ以上にしっくり来る表現が見当たらない)病のこともあり、帰る場所を極力持たないように生きてきたのだ。
  ただ、帰れるかどうかは分からないが気にかかる場所はある。
  冴子は失ってしまった『何か』を埋めるために、手を握るランサーに少しだけワガママを言った。


473 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:08:24 G7hUycyY0

「ねえランサー。ひとつお願いしてもいい?」

「なに」

「一緒にビル、探してくれない?」

  ランサーの手を握っているのとは逆側の手。
  寝ている間も握っていた手を解き、中に握りこんでいた『それ』を見る。
  青い鍵。ナンバーは1303。
  それは、冴子を……「有馬冴子」を受け入れてくれた唯一の場所の鍵。

「有馬第三ビル。十二階建てのビル」

  有馬第三ビル。あの場所は、冴子にとって特別な意味を持っていた。
  あの場所で過ごした数ヶ月はきっと「榛名冴子」が生涯得られず、「有馬冴子」だけが掴んだ幸福だった。

「この鍵、そのビルの十三階の部屋の鍵なの」

「十二階建てなのに十三階……なんかおかしくない、それ」

「そういうところ、らしいわ。皆……私も、誰も、どういうこと原理かは知らなかったけど」

  1302、八雲刻也。1304、桑畑綾。そして1303、絹川健一。
  この<新宿>の地で、あの場所があるかは分からない。
  そもそも場所が違うのだから、普通に考えればないに決まっている。
  だが、それでもあの時、男が渡した『鍵』の意味を、冴子はこう解釈した。
  『鍵を使うことのできる場所がある』のだと。
  きっとこの身勝手な解釈を、巷では未練と呼ぶのだろう。
  冴子には無縁だと思っていた感傷を気恥ずかしく思い、ベッドから降りてランサーの隣に立つ。

「じゃあ、手始めにそこ探そうか」

  夜風にカーテンが踊り、ランサーのセーラー服のスカートがはためく。
  セーラー服の裾が翻って顕になったランサーの左足がその存在を強く示す。
  黒く鈍く光り、哮く雄々しく聳え立つ。アンバランスな『力』と『美』を兼ね備えたランサーの『槍』。

「お願い」

  ランサーが義足に魔力を注ぎ、その中に宿された真の力を開放する。
  義足は瞬くほどの間もおかず鋭く尖り、脅威を穿つための形を取り戻した。
  収まりきれなかった魔力が光となって周囲を照らす。ランサーの白磁のような太ももが魔力の淡い光で照らされて艶かしく暗闇に映える。

「飛ぶよ。しっかり掴まってて」

  ランサーが冴子を抱き上げ、窓に義足の方の足をかける。
  そしてそのまま、冴子が傷つかないように気を配りながら、窓の外へと飛び立った。
  しばらくの浮遊感。静かな着地音、再び浮遊感。
  ランサーは家の屋根から屋根を飛び移る。まるで塀を渡る猫のように、新宿の夜を跳ねていく。
  ふと、ランサーの身体越しに病院の方を振り返ってみた。
  美しい影はもう見えず、それなりに大きな病院の向こうで満月だけが笑っていた。


474 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:08:56 G7hUycyY0



「あの病院」

  ランサーがひときわ大きく飛び上がった後、冴子に耳打ちする。
  ランサーは身を切る風の音で声が届きにくいと思ったのか、少しだけ声のボリュームを上げて続けた。

「あの病院、メフィスト医院って言うらしいね」

「知ってたの?」

「いいや、見つけた。あの病院の中にあった資料、入院の手続き書? に書いてあった。
 あの男についても知りたかったけど、それはどうも上手く行かなくてね」

  メフィスト。
  冴子の知るメフィストとは、悪魔の名前だ。
  ファウストの魂の代わりに望みを叶える悪魔、メフィストフェレス。
  魂を捧げ。
  奇跡を起こす。
  これ以上聖杯戦争という舞台に似合いの名前があるか。
  ならばあの男の正体は。
  あの月すら霞ませる男は。
  金塊すらもくすませる美貌は。
  万人の心を掴み、正体不明の熱病にうかす存在は。
  そうしてようやく辿り着いた。あの男の美を示す単語に。
  『魔性』。
  そうか、あの男こそが。
  あの妖しく艶めく美丈夫こそが。



  ―――― 月すら妬み、海すら溺れるその美で人の心を奪う悪魔。



  ―――― <新宿>の地で有象無象に奇跡を齎す医者。



  ―――― <魔界医師>。



  ―――― ドクター・メフィスト。



  自然と至ったその名に聞き覚えがないことに、冴子は多少訝しんだが。
  彼のことも、左胸に浮いた『令呪』によって与えられた『聖杯戦争』の知識だろうと結論を下した。
  そして、それ以上考えるのはやめた。
  彼について考えて、何かが変わるわけではない。考えるだけドツボにはまってしまうだろう。
  それに冴子が生きていれば、またいつか会うかもしれない。
  再びどちらのためにもならない問答をする日が来るかもしれない。
  その時が来れば、その時に聞けばいい。
  ただ、心臓がどうにも心地が悪いからまだしばらくはあわなくていいか、と冴子はあまりらしくないことを考えながらランサーに身を任せた。
  くしゅん、と小さくくしゃみをする。夏とはいえ、やはり夜はまだ寒い。

「ビルもいいけど、まずは服からなんとかしようか」

  ランサーがそう言うのを聞きながら、冴子は心臓の上の令呪をドクター・メフィストがそうしたように撫でるのであった。


475 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:09:45 G7hUycyY0
【クラス】
ランサー

【真名】
猫宮慶@あいつはヴァイオレンスヒロイン

【パラメーター】
筋力:E(B+) 耐力:E(D) 敏捷:E(A+) 魔力:A+ 幸運:C(D) 宝具:C

【属性】
渾沌・善

【クラススキル】
対魔力:-(B)
魔力に対抗する力。
通常状態では発動しないが装備を解放するとBランク相当まで向上する。

【保有スキル】
装備解放:A
義足に込められた魔力を解放し、義足を武器に変える。
この宝具を解放することで、ランサーは戦闘態勢に入る。
パラメータが()内のものまで向上する。

直感:C
戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を”感じ取る”能力。
敵の攻撃を初見でもある程度は予見することができる。

短気:―
バッドスキル。キレやすい。
特に義足のことを馬鹿にされれば相手が誰だろうとすぐに攻撃を繰り出す。

反応:A---
アーティファクト熟練者の攻撃発動を見てから蹴り落とすほどの超速反応。
相手の宝具や必殺技の類の発動に対して確実に先手を打てる。
先手を打って攻撃ができるが、先手を打っての逃走や奸計などは不可能である。もし逃走や奸計を行おうとするとこのスキルは同戦闘中に発動しなくなる。

総受け体質:―
受け・攻めで言えば受け。攻めにはほぼ回れない。
戦闘でもR-18展開でも劣勢に陥った場合の敗北率がかなり高い。
敵の数や自身のダメージなどの条件によって大きく劣勢に立たされた場合、筋力と耐久が一段階下降する。

笑う影:A
彼女の内に潜む使い魔。
莫大な魔力の塊であり、彼女の宝具の本体でもある。
魔力に恩恵を授ける代わりに影がデフォルメされた猫になる。あとしゃべる。
このスキルから居場所を感知されることも、真名を特定されることもある。
このスキルは宝具同様解放の阻害は不可能。


476 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:10:17 G7hUycyY0

【宝具】
『魔法の呪文(バラバラにしてやる)』
ランク:D 種別:対人〜対軍 レンジ:1-15 最大捕捉:10〜30
3mほどの怪物の体を穿ちねじ切り殺した必殺の蹴り。
城門10枚程度なら軽く蹴破ることが可能という逸話を持つ。
一時的に筋力を一段階向上し、中度の貫通属性を纏って攻撃できる。

『その夜鳥の名は―――(トラツグミ)』
ランク:C 種別:対人 レンジ:― 最大捕捉:―
彼女の義足に宿る使い魔『トラツグミ』。
超強力な魔力を宿した『何か』であり、『装備解放』『笑う影』『魔法の呪文』『天蓋を覆うは漆黒の虎鶫』『あいつはヴァイオレンスヒロイン』の全てはこの宝具の存在が根幹にある。
全身真っ黒で猫のような見た目をしている。
彼女の精神と強く融合しているためこの宝具の解放を阻害することも、この宝具を破壊することもできない。

『天蓋覆うは漆黒の虎鶫(トラツグミ)』
ランク:C 種別:固有結界/対城 レンジ:50 最大捕捉:999
トラツグミの力を解放する。
周囲を局地的に夜にし、東京ドーム一個分以上はありそうな旧修練場を全壊させた逸話を持つ。
トラツグミの『影』によって天を覆い、『光』に関連する宝具の効果を消滅させる。
そして、トラツグミの魔力で空間を満たすことにより筋力・耐力・魔力を一段階向上する。
更に令呪を一画消費すれば対城宝具である人工ブラックホールっぽいものを展開することができる。
原作で確認できたのは『修練場が空中にある影の珠に引き寄せられて根本から浮き上がり』『浮き上がったものが粉々に砕け散り』『その後地面に叩き落とされた』という三工程。

『あいつはヴァイオレンスヒロイン』
ランク:B 種別:対人 レンジ:1 最大捕捉:1
ランサーの魔力が限界値を超えることによって、トラツグミとランサーが完全に融合した状態。
逸話から、相手のすべての補正を無視して本体に辿り着ける(≒最高度の貫通属性を得る)。
この宝具の発動はランサー単体では不可能であるが、唯一、令呪による魔力ブーストがかかった時に限り発動できる。
ただしこの宝具を発動した場合、トラツグミの魔力が一時的にほぼ枯渇状態になる。

【weapon】
変形した義足。鋭く尖り、槍のように敵を穿つ。
身体と融合しているため武器を剥奪することは不可能。また、魔力によって形成されているため破壊されても魔力消費で復元が可能。

【人物背景】

―――猫宮慶は魔法少女である
   左足を失い義足を余儀なくされた彼女のソレには
   あらゆる脅威をはねのける魔力が宿っているのだ!!(単行本二巻『スペルマニアックス』、前回のあらすじより)

ドリル汁著『スペルマスター』『スペルマニアックス』『イケないvスペルマビッチ!!!』収録作品『あいつはヴァイオレンスヒロイン』の主人公。
単行本名からも分かるようにエロマンガ。しかも九割くらいふたなり。
キャラの名前で検索して出てくる画像がたぶんいちばんマシな画像なので見た目はそちらで確認して欲しい。くれぐれも作品名で検索しないよう。
ネコミミのような髪型と左足の義足がトレードマーク。超短気だが受け攻めで言えば受け。淫乱を超えた何か。ぬこ宮さん。
粗野な性格をしている。わりとエロいことに奔放。生粋の男よりも女と盛りあった回数のほうが多い。作中数少ない男性器の生えない人物。


477 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:10:59 G7hUycyY0
【マスター】
有馬冴子@Room No.1301

【令呪】
左胸、心臓の真上あたり(服を着ていれば隠せる位置)
鍵のような形をしている

【マスターとしての願い】
???

【能力・技能】
鈍感。
感覚が鈍い。辛さ苦さや暑さ寒さにあまり頓着する方ではない、というよりもそういったものに対する感覚が鈍い。
痛覚を我慢する方法も覚えているが、これは内発的な痛み(持病の痛み)だけなので外傷は普通に痛い。

不眠症。
眠りにつきにくく、また眠りが浅い。
<新宿>到着時に彼女を取り巻いていた問題の幾つかが解決したので少しだけ眠りにつきやすくなった。

不治の病。
不治とは言うがそれはあくまで現実世界レベルの医学での話。
とある美しい男の手によって完治。ただ、今までの積み重ねもあってあまり身体が強い方ではない。

距離感覚。
人間関係、特に男女の距離感に敏感である。
横に並んだ男女を一目見ればその二人が性交渉を行ったことがあるかどうか見抜くくらいはお手の物。

【人物背景】
Room No.1301のメインヒロイン。最終巻から参戦。
1303号室の住人の1人。『幽霊のよう』というのは主人公の言。
『一年前のあの日』からずっと眠りが浅かったせいもあり、生気を感じさせない顔色をしている。
ちょっとした理由から一年ほど様々な男性(彼女持ち限定)と床を共にしており、同じ学校の女生徒からは多大な恨みを買っていた。
決して貞操観念が薄いわけではなく、性欲が強いわけでも快楽を求めているわけえもない。
時系列では既にシーナが退出しているのでアパートの回想でシーナについては触れていないが、シーナのこともちゃんと覚えてる。
あと、漂流の際に失ったらしく、1305の鍵も持ち寄っていない。

原作は富士見ミステリー文庫「Room No.1301」シリーズ。
なぜミステリー文庫から出版されたのかがわからないというメタミステリーで勝負する青春エロコメ小説。
なお、ネットで「有馬冴子」と検索して出てくるキャラはだいたい「大海千夜子」。
ツインテールの子は大海さん、有馬さんは黒髪ストレートの死にかけ娘。気をつけようね。

【方針】
特になし。
できることなら死にたくはないのだが……
なお、現在は入院着を着ているが、朝が来る前にどこかで着替えるのでそうそう目立つことはない。

ランサーは単独行動こそ持たないがその豊富な魔力から決して冴子に負担はかけないだろう。
スキル嗤う影による安定した魔力供給があるため、連戦も可能。
ただし、疲弊したところを複数人に襲われれば総受け体質から一転窮地に陥る可能性も高い。
直感持ちや宝具に先手を打てる反応のスキルと敏捷を合わせればある程度思うように戦闘を運べる。
義足ゆえの射程の短さと令呪負担なしで攻撃に転用出来る宝具が『バラバラにしてやる』しかないのが短所と言えるか。
奥の手であるあいつはヴァイオレンスヒロインの完全貫通属性を使えばほぼ全てのサーヴァントに致命傷を与えられるが、令呪消費・魔力枯渇があるため使いどころは選ばなければならない。


478 : 有馬冴子&ランサー  ◆tHX1a.clL. :2015/08/19(水) 22:13:51 G7hUycyY0
投下終了です

なお、本作では一切公開されていないメフィストを
・参加者(マスターもしくはサーヴァント(含ルーラー))である
・愛の黒子や魅了のようなスキルを持たない
ものとして書いていますが、これは>>1氏の作品を読んだ上での独自の解釈となります
間違っていたら申し訳ありません


479 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/19(水) 22:49:22 so10iJ0k0
皆様、投下お疲れ様です。
私も投下します


480 : 不律&ランサー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/19(水) 22:50:21 so10iJ0k0
聖杯によって再現された<新宿>は、<魔震>での被害から立ち直ろうとしている。
それは魔界都市と呼ばれている都市ではなく、現実世界、東京の内の一都市として一般的にイメージされる新宿の姿へと近づこうとしていた。
しかしその<新宿>にも、魔界都市の片鱗ともとれる怪異は少なからず存在する。
ある時は資格を得た者のサーヴァント同士が戦った痕跡。
ある時はサーヴァントが魂喰いをした際に打ち捨てられたNPCの死骸。
そして、何の手続きも経ずに新宿に現れ、創立一ヶ月も経っていないのに住民どころか行政にも受け入れられている『メフィスト病院』だ。

その病院で、塵一つ無い小奇麗な廊下を白衣を着た老人が歩く。
聴診器を首にかけていることからメフィスト病院に勤務する医師だとわかる。
しかし、その老人とすれ違ったある患者は少しおびえた表情で彼を見る。
しわがれた肌に、電灯の光を反射して銀色に光る白髪が不気味にみえるといえばそうだが、
何よりも目を合わせると今にもメスで叩き斬られそうな鋭い眼光が人を寄せ付けないでいた。
だが、老人は腐ってもかのメフィスト病院の医師。
メフィスト病院の医師はみな、院長ほどではなくとも他の街では極上の名医と呼ばれるほどの腕を持っている。
この老人もその例に漏れず、数々の難病を完治させてきた実績を持つベテランだ。
一方で、老人はある研究で欠損器官の再生を実現させた経歴を持つのだが、その技術を否が応でも実用化しようとしないという頑固頭の持ち主としても有名であった。

老人はある病室の前で止まり、引き戸式の入り口を開ける。
病室の中にはカルテを懐に準備して待っていた看護婦と、ベッドの上で寝ころんでいる老人の担当する患者がいた。
患者はテレビをつけっぱなしにしながら看護婦と談笑していた。

「ふ、不律先生!」

患者は不律と呼ばれた医師に気づくとビクついて上半身を急いで起き上がらせ、こわばった表情で迎えた。
老人医師・不律の回診の時間だった。
看護婦が不律に患者のカルテを渡す。

「経過はどうじゃ」

不律はベッドの隣に置かれていた丸椅子に座り、カルテと患者の間で目線だけを行き来させながら言う。

「り、良好です。特に痛みもありません」
「様態が急変することもありませんでした」

まるで上官に向かって話す一兵卒のようにはきはきと話す患者に看護婦が付け加える。
不律はふむ、と顎に手を当てながら考えるしぐさを取る。

「…とにかく、基本的な検査をしてみんと何ともいえぬ」

そう言って、回診で毎度のようにしている健康状態の確認を行う。
しかし聴診器を使って検査をしても、血圧を測っても特に異常は見当たらない。
不律がその患者は近い日に退院できるという判断に至るまで時間はかからなかった。


◆ ◆ ◆


481 : 不律&ランサー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/19(水) 22:51:13 so10iJ0k0

深夜の新宿某所の路地。夜天は雲で覆われており湿度が高く、どこか蒸し暑い。
道路やその両脇にある建造物は薄汚く、所々が老朽化しているようだ。
歩道ではガタイのいい男が店の前に立ってゲイクラブの客引きをしている。
この<新宿>が裏の顔を見せている時間帯だった。

その夜の街を時代遅れにも古風な着物とマントを着用し、銃刀法など何処吹く風といわんばかりに刀を腰に隠し持っている老人が歩く。
そこらへんの若い盛りの者や、弱いものから金を巻き上げようとするチンピラもゲイクラブの客引きも、老人とは目を合わせずにすれ違う。
不律はその凍てついた目を光らせながら夜の<新宿>を往く。

その老人の目の届かぬ場所から、老人を睨む視線があった。
廃ビルの一室、割れた窓、そこから黒い一本の銃身が伸びる。
音も立てず、着物を身に着ける老人の頭を撃ち抜かんと、その視線を放つ者はスナイパーの引き金を引く。
気付かれた様子はない。位置取りも完璧。スコープの中心点は老人の頭ど真ん中を捉えていた。

――必中。

契約者の鍵を得た者の一人は銃声を聞いてそれを疑わなかった。

「こっちじゃ!」

老人が廃ビルの中まで届く声を発するまでは。

有り得ない。完全に捉えたと思っていた老人が銃を引いた途端、声を上げて忽然と姿を消した。
そのマスターは慌ててスナイパーを持ち直し、老人をスコープ越しに探す。
時折スコープから目を離して肉眼で探しても老人は見つからない。
完全に死角に入られた。

混乱するマスターに次々と異変が襲いかかる。
まず、気配の乱れを感じた。
急いで念話を試みるが、彼のサーヴァントは念話の届かない範囲にいるので何が起こっているか分からない。
老人のサーヴァントに襲われて窮地に陥っていることだけは推測できた。


そして――。


チャキン。


小気味よい金属音が、マスターの背後で静かに音を立てる。
マスターの額に玉の汗がにじみ出る。動悸が激しくなり、呼吸が荒くなる。
バカな。そんなハズはない。あの一瞬でこちらの場所を感じ取り、気配を悟られずに背後を取るなど――。
震えながら恐る恐る後ろを振り向くと、そこには。

刀の柄に手をかけた不律が殺気を纏って立っていた。


482 : 不律&ランサー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/19(水) 22:52:07 so10iJ0k0

「斬る…!」
「……っ!」

マスターは咄嗟に懐に忍ばせていたハンドガンに武器を持ち替え、乱射する。
刀を己が身に近づけまいと弾切れなる心配をよそに無我夢中に打ち続ける。
銃声が連続で部屋の中に響き渡り、不律を貫かんと弾丸が迫る。

「こっちじゃ!」

不律の動きを見たマスターは目を疑った。
まばたきをしてから終えるまでに不律は別の場所に移動しており、肉眼で捉えきれないスピードであった。
テレポートの類を習得しているのかと思いたくなる速さで動いていた。
これほど瞬間移動という言葉が似合うものは存在しないといえるほどの転移術であった。

「こっちじゃ!」

すかさず移動した不律へ再度発砲するが、

「こっちじゃ!」

避けられる。

「こっちじゃ!」

また避けられる。

「こっちじゃ!」

「こっちじゃ!」

「こっちじゃ!」

避けられて避けられて避けられて避けられて避けられて。


カチッ。


最後には弾切れを示す音があっけなくマスターの耳に届いた。

「弾雨をくぐり生き延びた儂にそんな玩具は効かぬ」

それがマスターの聞いた最期の言葉であった。


◆ ◆ ◆


メフィスト病院に勤める医師・不律。それはあくまで表向きの顔だ。
その正体は契約の鍵を得た者、聖杯を手に入れる資格を持つ者の一人。
血に濡れた刀を一振りし、鞘に収める。

「儂の近辺を嗅ぎ回る者がおると思えば…マスターじゃったか。あの患者ではないようじゃな」

不律の前に血を大量に流して倒れる者の顔を見て、斬ったマスターが病院で退院を言い渡した患者とは別人であることを確認する。
最近不律は周囲を執拗に調べている者の存在を感知しており、もしや担当している患者が、とも勘繰ったがそうでもなかったようだ。


483 : 不律&ランサー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/19(水) 22:52:33 so10iJ0k0

「こちらも、終わりましたよ」

不律の耳に突如声が響く。
同時に虚空からドアが湧いたように現れ、ギィと軋む音を立てて独りでに開いた。
まるで某ネコ型ロボットのどこでもドアのようだ。
その中から、紙袋を被った背丈3mほどもある不律のサーヴァントが現れる。
その体格は長身に反して細身で、シルエットだけならばスレンダーマンに見えなくもない。
頭と四肢がついていることから辛うじて人間であることが判断できる。
片手には巨大なメスが握られており、身に着けている白衣も合わせるとその容姿は医者を連想させる。
サーヴァント同士の戦闘を終えて戻ってきたようだ。

「返り血がついておらぬ…『殺さなかった』ようじゃな、ランサー」

ランサーと呼ばれた紙袋を被ったサーヴァントは「ええ」と不律の言葉に肯定の意を返す。
ランサーの裏にあったドアはいつの間にか消えている。
彼も転移術を使って不律のもとへ一瞬で戻ってきたらしい。
不律のそれとは違う、本物のテレポートに分類される物質転移の術だ。

「マスターが死んだのを察知して、潔く負けを認めてくださいました。こちらが直接手を下すことにならなくてよかった」
「…敵は葬った。もうここに用はない」
「不律さん」

傍らに転がる遺体を尻目に去ろうとする不律をランサーが呼び止めた。

「今回は向こうから仕掛けてきたケースですから、殺すのもやむを得ないかもしれません」

声色は先ほどより少し重い。
まるで末期ガンの患者と今後を決める時のように背を向けたままの不律にランサーは語りかける。

「しかし、あなたは――」
「わかっておる。儂は聖杯を欲する身…。そのために犯さねばならぬ業ははかり知れぬ」

不律は振り返ってランサーと向き合い、自身の思いを述べる。
大戦時、当時軍医であった不律がドイツにて進めていたある研究。
契約者の鍵を手に入れた不律は、聖杯の力でその成果を抹消するべく刀と旧式電光被服を携えて動き出した。
しかし、ランサーが言うには聖杯戦争には巻き込まれた命も少なからず存在するという。
聖杯を獲るということはそんな巻き込まれた者達をも敵に回すことを意味していた。

「じゃが、儂はかの技術を生み出したことにけじめをつけねばならぬ。複製體に転生の器、果てには命の泉(レーベンスボルン)計画への転用、神を作る行為…
あれを悪用されてはいずれ人類の破滅を招く。今となっては進むところまで進んでしもうた…。どんな手段を取っても心を阿修羅にして抹殺せねばならぬ」

元々は欠損器官再生を目的とした研究。
しかし、それは徐々にその姿を悪魔へと変えていった。
人造兵士計画へと――秘密結社ゲゼルシャフトで用いられていたエレクトロゾルダートがその成果の最たる例だ。
不律は探求心からこの計画に参加していたが、戦後その危険性に気付き、研究成果の抹殺に明け暮れることになった。
アドラー、ムラクモ、そして完全者。
不律の技術は悪用され、災厄の種はその予想をはるかに超えて成長していた。


484 : 不律&ランサー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/19(水) 22:53:46 so10iJ0k0

「…あなたの胸中、お察しします。私も過去の罪に苛まれ、狂った者ですから」

ランサー――否、どんな奇病でも無償で治してしまう凄腕の闇医者【ファウスト】。
かつてファウストは起こるはずのない治療ミスで患者の少女を死なせ、罪の意識から発狂して殺人鬼へ身も心も堕としたことがある。
現在こそ正気を取り戻せてはいるが、殺人鬼として犯した罪は償おうにも償えない。
過去の治療ミスが何物かによる少女の謀殺だと判明し、ファウストがその真相を確かめるために奔走したように、
不律も過去の罪に決着をつけようとしているのだろう。

不律はサーヴァントとは違う、今を生きる人間。
しかし大戦終結からかなりの年月が経っており、まだ戦える程度には健康だがあと何年生きられるかわからない。
目の黒い内に終わらせると眼光の中で光るその心を、ファウストもよく理解している。
が、ファウストは「ただ、」と付け加えて紙袋の中で口を開いた。

「医者として一つ言わせてください。医者は斬るのではなく、治すのが仕事です。
あなたの中に全てを犠牲にする覚悟の他に医者としての僅かな良心でも残っているのであれば…
どうか、皆殺しにするのではなく救える命を可能な限り救ってみてはいかがですか?」

ファウストが不律に向けたのは、このままでは巻き込まれた者をも切り伏せかねないマスターへの提言だった。
外見に反する丁寧かつ穏やかな物腰からも、ファウストの持つ優しさが嘘偽りでないことがわかる。

「無論、強制するつもりは毛頭ございません。自己決定権というものがありますから」

その過去から、かつて軍医であったという不律には聖杯を狙うにしても皆殺しの道には堕ちてほしくないことを心のどこかで思っていた。
あくまで決定権はマスターにあるので提言という形で済ませたが、その思いは本当だ。

もし、この聖杯戦争に巻き込まれたマスターが年端もいかぬ少女で、斬り殺されたとなれば――。
そこから先を考えようとして、やめた。
ファウストにはサーヴァントとなった今でも殺人鬼であった頃の後遺症が少なからず残っている。
精神が不安定な時にトラウマを抉られでもしたら、正気を保てる自信がない。

「…儂も好きで斬っているわけではない」

ファウストの言葉を聞いて、不律は僅かにその表情を動かす。

「かの技術に関わる者、かの技術で生み出された者、そして儂の行く手を阻む者…儂が斬るのはこの3者のみよ」

特に最後に関しては<新宿>に来る前は復活した高級技官アカツキの電光機関、そして世界侵略を開始した新聖堂騎士団を巡って、
かつての同僚や上海のマフィアなど多数の強敵と死闘を繰り広げたことは記憶に新しい。

「サーヴァントさえ消滅させればマスターは斬らぬ。…我が道を塞がねば、じゃがな」
「では、巻き込まれた方々は殺すつもりはない、と?」

声が明るくなったファウストに対して不律は首を縦に振る。

「儂もこの心身をアイゼン(鉄)へと変えても元は医者じゃ。そういった子らが怪我をしているならば放っておくわけにはいかぬ」

不律は自身の研究に関わる事には決して容赦はしない。
それでも不律は大戦を終えてから時の流れに任せて老いた『人』であり、厳しくも優しい性格は鉄の心にもまだ残っていた。


485 : 不律&ランサー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/19(水) 22:55:09 so10iJ0k0
【クラス】
ランサー

【真名】
ファウスト@GUILTY GEARシリーズ

【パラメーター】
筋力B 耐久B 敏捷C+ 魔力A 幸運D 宝具E

【属性】
秩序・善

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

【保有スキル】
法術:A+
人類が理論化する事に成功した法力を使い行使する、『無限にエネルギーを生産する』限りなく万能に近い力。
ファンタジーでいう「魔法」に近い。
無から有を生み出せるという点で魔術よりも応用範囲が広く使いやすいが、
人類に理論化されていることからその神秘の位は低く、サーヴァントに傷をつけることはできない。
あくまで補助的に運用するかマスターへの攻撃に留めておくべきだろう。
ランサーの場合、習得が困難とされる物質転移、空間歪曲を主に使用する。
特に物質転移の術はランサーの敏捷を補強することもできる強力な法術。

医術:A+
医学の才能。
ランサーは世界最高とまで呼ばれるほどの外科医と呼ばれていた。
例え対象が瀕死に至るほどの外傷を負っていても、その傷を治すことができる。

何が出るかな?:EX
ランダムでアイテムを懐から取り出す、「道具作成」の変質スキル。
「道具作成」とは違って瞬時にアイテムを作成できるが、取り出すアイテムを指定することができずランダム性がある。
出せるアイテムはちびファウストやドーナツから、隕石、爆弾、ヘリウムガス、ブラックホールと幅広い。

自己改造:B
自身の肉体を改造し、如何様にも変態できる。
ランサーは便利なので手術で首を伸ばせるようにしたり、腕を四本生やせるようにしている。
某釜爺もびっくりである。

精神汚染:E-
かつて患者である少女を死なせてしまったことによる、気が触れた恐怖の殺人鬼としての一面。
しかし生前に善良な記憶を取り戻して正気に戻ったことでこのスキルはほぼ失われており、
現在はその後遺症として支離滅裂な言動や仕草が表れる程度で済んでいる。


486 : 不律&ランサー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/19(水) 22:55:53 so10iJ0k0

【宝具】
『刺激的絶命拳(エネマン・ルーレット)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:1〜15 最大捕捉:1
地面を泳ぐようにして敵に肉薄し、敵の括約筋に存在する体内に直接続いている1点の穴に向かって貫手を突き刺すランサーの絶命奥義。
その鍛えられない秘孔を突かれた者は耐久のランクに関わらず、ある者は痛み、ある者は快感に悶えて各々のリアクションを取るであろう。
ただし、ランサーが貫手を入れる前の一瞬の間に相手は4つのカップから1つを選ぶ4択問題に挑戦させられる。
その中の3つに入っている「悪魔」を選ぶと貫手をヒットさせるが、1つだけ入っている「天使」を選ぶと逆にランサーがダメージを受けて吹き飛んでしまう。
天使を選ぶか悪魔を選ぶかは敵の幸運判定で左右される。
なお、悪魔にも種類があり、その色によって与えるダメージが変動する。
…ここではあくまで貫手と記述したが、有体に言えば単なるカンチョーを食らわせる宝具である。

『今週の山場(デストラクティヴ・グッドウィル)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
神業の如き腕を持つ闇医者・ファウストの暴力的かつ見事な荒療治を診察台の上に寝かせた相手に無理矢理施す。
治療(?)の内容は様々だが、診察台の下に設置した爆弾を起爆したり、相手に顔面整形を施したりと効果にバラつきがある。
そもそも、敵に対して行う治療など碌なものではないことは当たり前である。

【weapon】
丸刈太(マルガリータ)
ファウストが武器に使う巨大なメス。

【サーヴァントとしての願い】
可能な限り多くの命を救う

【人物背景】
かつて名医と呼ばれていたファウスト。
だがある時、起こるはずの無い医療ミスによって一人の少女を死なせてしまう。
必ず救えるはずだった命を殺してしまった罪の意識に苛まれ、発狂した彼は、
ありとあらゆる残虐な方法で殺人を犯す恐怖の殺人鬼へと変貌。のちに逮捕され、次元牢へ投獄された。
その後、第二次聖騎士団選考武道会に出場。
集まった観客全てを皆殺しにしようとするも、自分に向けられる歓声を受けたことで、
かつて名医と呼ばれていた頃の記憶、そして死なせてしまった少女の声を思い出し、パニックになり逃走。
ショックにより正気を取り戻し、自分の犯した罪を償うために自殺を考えたが、
彼は「今の自分にとって、自殺とは背負った罪から逃げることだ」と判断し、可能な限り多くの命を救って生きることを決意した。
その一方で、あの医療ミスが何者かによる謀殺であるということが判明し、真相を確かめるために奔走する。

性格はいたって良識人。
一度は精神崩壊にまで陥った影響はまだ残っており、突飛な言動でギャグに走ったりシリアスに殺戮の快感を忘れ切れないことを自虐したりと情緒不安定気味な一面もあるが、
物腰はとても穏やかで、患者の病気に対しては真剣に立ち会える人物である。


487 : 不律&ランサー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/19(水) 22:57:04 so10iJ0k0
【マスター】
不律@エヌアイン完全世界

【マスターとしての願い】
自分の関わった研究の成果を全て抹殺する。

【weapon】
電光被服
電力を供給することで、使用者に超人的な身体能力を与える装備。
不律の場合、外部バッテリーなどの電光機関以外の電源で電力を送り、身体能力を瞬間的に増強している。

日本刀
仕事中でなければ常に帯刀している。

【能力・技能】
無骸流
不律のマスターしている居合い流派の一つ。
強化された肉体から振るわれる斬撃はリーチが長く、戦車の強化装甲をも一刀の元に両断する。
不律は研究に関わってきた者をその剣術で次々と切り伏せてきた。

前駆、後躯、天駆
強化された肉体で敵に肉薄する縮地、あるいは距離を取るために退避する、いわゆる瞬間移動。
そのスピードは並のサーヴァントでも見切ることができないほど速い。

医術
軍医として活躍していた他、負傷兵の欠損器官再生に端を発した研究に携わっていたため、特に生物学及び人体構造に明るい。

【人物背景】
元は帝国陸軍の軍医であり、大戦時は軍事視察団の一員となり渡独しある研究に携わった。
戦後行方不明となっていたが、アカツキ復活と共に姿を現し、研究の関係者を次々と抹殺していく。
本作のキャラクターの中で、唯一冬眠制御などを経ず正常に老いた戦時の人間。日本刀を携え、無骸流という居合い流派を修めている。
彼が関わった戦時の研究とは、欠損器官再生に端を発し戦況の悪化と共に人造兵士計画、すなわち複製體(クローン)技術へと発展したもの。
そのためか、エレクトロゾルダートとの会話において自らを「お主の親みたいなもの」と称しており、ムラクモとの会話においては「(未だ生きているのは)お前のお陰」と言われている。
またこれらから察するに、上述の研究においてある程度中心的な人物であったと思われる。
厳格な性格で、特に自身の研究に関わる事に対しては容赦がないが、
試製一號(アカツキ)やゾルダート・電光戦車などとの会話の端々から、本来は厳しくも優しい性格であることがうかがわれる。
 
【方針】
聖杯を獲る。
ただし、無力な者や自分の障害に成り得ないマスターに対してはサーヴァント殺害に留めておく。


488 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/19(水) 22:58:56 so10iJ0k0
以上で投下を終了します

ちなみにエネマとは医学用語で浣腸のことを指します


489 : ◆3SNKkWKBjc :2015/08/20(木) 08:01:49 .kPd/jmw0
皆様投下乙です。私も投下します


490 : ジョナサン・ジョースター&アーチャー ◆3SNKkWKBjc :2015/08/20(木) 08:02:54 .kPd/jmw0
聖杯はどの願いまで汲み取ろうとしているのだろう。
少なくとも、夢は願いに含まれていると解釈していいはずだ。

誰かを恨むならば、その者の死を願う。
誰かの死を嘆くならば、その者の生を願う。
億万長者を望むだけだとか、金以外の――とにかく何か重要な物が欲しいとか。

大小様々理由はあれど、それらは正式な願いの一種として判断される。
そう、聖杯にとってみれば。

戦争をする代償とは吊り合わない些細な願いも、結局は願いでしかない。
ただの平穏を願うことでさえ………





自覚すれば至って単純だった。
この<新宿>は自分のいた国ではない、自分が住むべき国ではない。
あらゆる願いが叶えられる聖杯。
願いはない訳ではない、それは些細な願いでしかなったのだから。

何故その答えに辿りつけなかったのだろうか?
これも聖杯の力と説明づけてしまっていいはずだ。
答えはソレで間違いない。しかし、未だに納得が出来なかったのである。

愛した女性とのハネムーン。
アメリカ行きの船での記憶が何度も繰り返され続けていた。
彼女との些細で平穏な幸福を、未来を、願ったのかもしれない。
ただ、聖杯戦争の犠牲者たちと天秤で比べるにはおこがましい事なのだ。


「……僕の話に付き合わせて悪かったね。アーチャー」

「いや、君の意思を理解した。君は聖杯を手に入れるつもりがない」


アーチャーの返答に、彼――ジョナサン・ジョースターは強く頷いた。


「ごめんよ、君にも願いがあるはずなのに」

「後悔はいくらでもあるけど……それはもういいんだ」

「そうか、ありがとう」


ジョナサンはアーチャーの返答に心の底から感謝したのだろう。
その程度のことは、アーチャーでなくとも伝わり切った。
聖杯を手にせず、聖杯戦争を打破するのは茨の道、一寸先も見えない闇を進むような感覚。
しかし、ジョナサンには『黄金の精神』という光が輝いている。
勇気、優しさ、精神力、覚悟、潔さ。
人間賛歌を象徴するに相応しい人間の一人がジョナサンだった。

一方で


「アーチャー。一つだけ聞いていいかな? 君と僕は、どういう関係なんだい」

「………」

「急にこんな事を尋ねるのも変だろうけど……僕は君に『繋がり』を感じているんだ」

「それは気のせいだと思う。僕は、君らしい人間との『繋がり』はないし、ジョースターの姓も知らない」


と、『ジョナサン・ジョースター』は答えた。
そう、アーチャーもまた『ジョナサン・ジョースター』だった。
容姿や経歴、魂の在り方。全てが異なるのだが、二人共『ジョナサン・ジョースター』なのには変わりがない。

アーチャーは、マスターのジョナサン・ジョースターの存在は知らない。
もしかしたら未来の子孫がマスターなのか? それとも全く異なる、平行世界のジョナサン・ジョースターか?
別に隠すほどのことではないが、奇妙過ぎる為、アーチャーは自身の真名を口にはしなかった。


ただ、アーチャーは―――自身の中に灯る『漆黒の意思』により納得をしていた。
自分はあの『ジョナサン・ジョースター』と対の存在であることを。






491 : ジョナサン・ジョースター&アーチャー ◆3SNKkWKBjc :2015/08/20(木) 08:04:01 .kPd/jmw0
【クラス】アーチャー
【真名】ジョニィ・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険
【属性】混沌・善

【パラメーター】
筋力:D 耐久:D 敏捷:D 魔力:A 幸運:E 宝具:D~A

【クラススキル】
対魔力:D
 一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。
 魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

単独行動:C
 マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
 Cランクならば1日現界可能。


【保有スキル】
漆黒の意思:A
 目的へ向かう意志が恐ろしく強く、殺人すら厭わない覚悟を持つ。
 精神干渉系魔術をシャットアウトし、戦闘時には『直感』の効果を発揮する。

騎乗:D
 騎手なので馬は余裕で乗りこなせる。

神性:E
 アーチャーは聖人の遺体に取り憑かれた経緯がある。
 未遂とはいえその遺体を破壊しても構わないとした瞬間もあった。
 神性を持つ宝具に対してそれなりの耐性を発揮する。

黄金の回転:-
 生命にある自然美の一種「黄金長方形」の軌跡で回転することにより
 「無限」の力を引き出す技術。ただし「黄金長方形」を視認しなければ発動できない。


【宝具】
『スローダンサー』
ランク:E 種別:対人 レンジ:- 最大補足:1人
アーチャーと共にスティール・ボール・ランレースを駆け抜けた愛馬。
高齢だが、その分知識と経験に溢れている。


『タスク』
ランク:D~A 種別:対人(対界) レンジ:- 最大補足:1人
聖人の遺体により発現したスタンドという精神を具現化したもの。
自身の爪を高速に回転させて弾丸のように発射したり、物体を切り裂く。
スタンドはスタンド使いにしか視認できないが、聖杯戦争においてそのルールはない。

ACT1
 指の爪を回転させ、爪を弾丸のように飛ばす。

ACT2
 『黄金の回転』で爪を回転させ、打った爪弾の弾痕が自動的に目標を追尾して破壊する。
 ACT2以降は新たな爪が再生するまで待たねばならない。

ACT3
 自身を爪弾で撃つことにより、自らの肉体を穴に移動させる。
 穴はジョニィ以外のものが触れると粉砕する。

ACT4
 筋力:A 敏捷:Bを持つ人型のスタンド像へ変化。
 『馬の走る力を利用した回転』とジョニィ自身の回転を合わせなければ発動しない。
 対象の行動をすべて無効化にし、ダメージも無限で終わりもない。


【人物背景】
本名はジョナサン・ジョースター。トラブルを引き起こし下半身不随となる。
ジャイロ・ツェペリの『回転』で足が動いた事から、希望を見出して『スティール・ボール・ラン』に参加する。
その最中『聖人の遺体』の存在を知り『遺体』の収集を目的とし、最終的に立ち上がれるようになった。



【マスター】
ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険

【マスターとしての願い】
聖杯戦争を止める

【能力・技能】
『波紋』
特殊な呼吸法により血液の流れを変化させ太陽の光と同等のエネルギーを生み出す。
吸血鬼など太陽を弱点とする存在に絶大な効果を発揮する。
負傷した肉体を治療したり、水面を歩いたりすることもできる。

【人物背景】
謎の石仮面の力により吸血鬼となったディオと死闘を繰り広げた。
これがジョースター一族とディオの長きに渡る因縁の物語の始まりである。


492 : ◆3SNKkWKBjc :2015/08/20(木) 08:04:27 .kPd/jmw0
投下終了します


493 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 19:44:10 BLxml8uA0
皆さん投下乙です。私も投下させていただきます


494 : 伊織順平&ライダー ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 19:46:10 BLxml8uA0
 新宿という街は、言うまでもないが都会である。それはすなわち商工業が発展し、物流が行きかい、経済の中心であるということを意味している。
 しかしそれはあくまで俯瞰的な視点からの話であり、より俗に言い表すならば、都会というのは人が多く物が存在する場所なのだ。
 人と物がごちゃごちゃと密集し、ただそこにいるだけでも息苦しい密度の高い大都市。それは田舎のような余裕こそ存在しないが、それ故に多くの刺激と娯楽に溢れ人を飽きさせることはない。
 刹那的で即物的……歓楽街のようにあからさまではないものの、人が都会に抱くイメージとしてはそんなところがあるだろう。事実それは間違っていないし、そもそも経済の中心地という側面がある以上は物質的な豊かさを優先させるのはある程度仕方ないと言える。そしてそれは、この新宿であっても例外ではない。
 しかし、だからといってそれがイコール悪ということにはならない。物質的に豊かであっても心が貧しくては、という言葉があるが、まず物理的に豊かでなければ精神的な余裕も生まれてこないのが人間である。
 新宿は都会で、ある意味俗な街ではあるが、しかし低俗なわけでは決してない。道を行き交う人々の目は濁っているわけでも死んでいるわけでもない。時間に追われ休む暇はなくとも、人は懸命に日々を謳歌しているのだ。
 そう。少なくとも、大人になりきれない子供たちが遊べるだけの余裕と娯楽は確かにあるわけで。

「よっしゃキタコレ! いくぜヴァルハラァ!」
「うわ、いきなり大声出すんじゃねえよ!」

 新宿駅前のゲーセンの店内で奇声を上げながらボタンを連打する高校生が二人、そこにはいた。
 平日の夕方にもなればこういった高校生の姿は多く見かけるようになるし、これ自体特に珍しいものでもなかった。奇声といっても特に周りに迷惑なほどでもなく、店員も良くあることと素知らぬフリでスルーする。

「ちょ、ま、オイオイオイオイ! やっべ、これフルボッコじゃねえか。おい待てこらオレ黄金だぞ!?」
「うっせーよ! そっちが黄金ならこっちは水銀だぜ。つーか反則ぎりぎりのバランスブレイカ―使ってんなよ!」
「お前が言うな!」

 ギャーギャーと仲睦まじく、格闘ゲームの勝敗で一喜一憂する姿はまさしく現代の若者だ。しかしそれは常として使われる侮蔑的な意味ではなく、むしろ微笑ましい在り方であった。
 ひとしきり言い合いをして、しかし後続からゲームをプレイしにきた人を見て即座に場所を譲った二人はこそこそと隅へと移動する。備え付けのベンチにどっかりと座り、はへぇと気の抜けた声が喉をついて出た。

「いやまあ、久しぶりのゲーセンってのも乙なもんだよなー。高校ってかあれ以来ずっとできなかったわけだし。ま、散々にボコられちまったけど」
「厳然な実力差とはこういうものですってな。つか、格ゲーとかできたんだなお前」
「……あー、そこはそれ、ちょっとした事情があるんだよなこれが」

 ほれ、という一言と共に缶ジュースを投げ渡す一人と、それを受け取って「サンキューな」と返す一人。二人は共に男子高校生にしか見えず、実際一人はその通りで、もう一人に関してもあながち間違いではない。
 缶ジュースを投げ渡した方の少年は伊織順平という。野球帽を被り無精髭を生やした顔は如何にもスポーツ少年崩れといった風貌で、お世辞にもモテそうには見えない。しかし人の良さが節々から滲み出ている、そんな少年だ。
 対するは線の細い少年だ。運動にも勉学にも疎そうな、オレンジ色にも見える色素の抜けた髪をした少年。古風な制服を纏った少年は、しかし奇抜な髪色から想起される不良のイメージとはまるでそぐわない。
 つまるところ、二人はそれなりに恰好を崩した、それなりに人のいい普通の少年だった。


495 : 伊織順平&ライダー ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 19:46:39 BLxml8uA0
「あ、もしかして年取ってからゲーセン行ってたり? 明治の終わり生まれだったらぎりぎりあり得ない話じゃないよな。
 なんだよなんだよ、俺そういうアグレッシブな爺さん嫌いじゃないぜ?」
「いや流石にそりゃねーわ、もうちょい違った事情が……ってか流石に馴れ馴れしすぎじゃね? オレ一応人生の大先輩よ?」
「敬語使わなくていいっつったのはそっちっしょ。今更言われてもしょうがねーべ」

 そりゃそうだ、と一言。そのままオレンジ髪の少年はぐーっと背を伸ばした。
 一見すれば一山いくらの高校生に見える彼らは、しかしながら普通とは少々異なった事情を抱えていた。魔都新宿にて開かれる聖杯戦争、その演者たるマスターとサーヴァントが彼らだ。
 本来ならば他の主従の目を気にしなければならない彼らは、しかし異常なまでに無頓着だ。サーヴァントはアサシンのクラスでもない限り自身の気配を広範囲にばら撒いてしまうものだし、当然それを察知する能力も備わっているが、少なくとも彼らに関しては全くというわけではないがほとんど気にかけていないのが現状だ。
 それは偏にオレンジ髪の少年―――此度の聖杯戦争ではライダーのクラスで召喚された―――が保持するスキルの賜物だろう。
 彼が解法、もしくはキャンセルと呼ぶそれは極めて高度な隠蔽能力を発揮する。彼はその気になれば、サーヴァントとしての気配はおろか姿そのものを隠蔽して透明化したり、果てには存在密度そのものを透過することすら可能である。
 疑似的、それも本家アサシンと比べても遜色ないどころかむしろ圧倒するほどの気配遮断能力。それがあるからこそ、彼らはここまで無防備に日常を謳歌していられる。
 無論、彼と同等以上の透視の使い手であるなら話は違ってくるが……この場合はむしろ、そういった手合いを見分けることも作戦の内なのだろう。

「まあ実際、オレが手下でお前が主人、上下関係は最初っから決まってんだよな。ったく、もうちょい年長者を敬うシステムにしろっての」
「そう考えてみりゃこうしてお互いタメ口きいてること自体がアレなんだよな。今更な話だけどさ」
「なんだよ、じゃあサーヴァントらしく『ご主人様ぁ〜』とか呼んでみるか?」
「……やめて、なんだか凄く気持ち悪い」
「……わりぃ、オレも同感だわ」

 二人は揃って項垂れる。そもそもどちらも本気で言ったわけではなく、あくまで冗談の類であったのだが……想起した情景が余程醜悪だったのか、その顔色は少々青かった。
 実の所、彼らが互いにタメ口をきいているのは両者が共に望んだからだ。それは互いの波長が合ったとか、そういうのも理由に含まれるが、最も大きな理由は「自分がそうしたかったから」の一点に尽きるだろう。
 順平はかつてとある集団に属していた。その中で彼は、自らは特別なのだと舞い上がり、しかしそんなことはあり得ない現実とのギャップから独断の行動を取ったり周囲に当たることが多かった。そうして周りの不和を招き、険悪な空気にしてしまったのは一度や二度ではない。彼はそれを、心から悔いている。
 オレンジ髪のサーヴァントも同じく集団に属していた。それは厳密に言うならば仲間であり、友であり、命さえも預けることのできる何よりも大事な者たちだった。そんな彼らと共に在ったからこそ自分は邯鄲という魔境を戦い抜くことができたのだと思うし、その後の人生においても大いなる助けになったことは言うまでもない。
 互いに理由は違えども、彼らは仲間というものに非常に重きを置いているのだ。かつてと同じ過ちを繰り返さないために、かつてと同じく真を貫くために。主従だなんだという隷属関係などお断りだ。


496 : 伊織順平&ライダー ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 19:47:17 BLxml8uA0
「でよ、結局のところオレたちは『願いはない』ってことでいいんだよな?」
「ああ、少なくとも俺はそれでいいぜ。正直言って叶えたいことはあるけど、でもこいつは駄目だ」

 軽薄そうな顔から一変、途端に順平の顔つきは真剣なものに切り替わる。
 叶えたい願いとは当然、過去の改竄だ。ニュクスを人類の悪意から守るための楔となったアイツを取り戻したい。そう願う心は本物で、それは今だって微塵も変わっちゃいないけど。

「俺だって聖杯は欲しい、奇跡が欲しい。アイツが帰ってきてくれるなら、俺にできることはなんだってするつもりだったさ。
 でも誰かを殺して、踏みつけて、そうしなきゃ手に入らない奇跡なんざ願い下げだ。そんなもので呼び戻されたって、アイツは何も喜んじゃくれねえよ」

 そもそもの話だ。そんな糞みたいな方法で聖杯を手に入れて、それでアイツがやった以上の奇跡をぶち上げて全部丸く収まりました……なんて、果たして可能だろうか。
 答えは否だ。論理があーだの理屈がどうとか、そんなもの以前にまず俺が想像できない。
 奇跡が起こる瞬間を、アイツが喜ぶ姿を、全てが元通りになる光景を。下手人となる俺自身が想像できなくて一体何が成せるというのか。

「俺はストイックじゃないし、未練も捨てられねえ臆病モンだけど、でも俺なりにこれは違うと思ってる。
 つか殺し合いとか怖すぎっしょ! 俺そんなの絶対嫌だからね! もうホント家に帰りたい……」
「あー、分かる分かる。こういうのってビビりにはホントつらいよなぁ……」

 シリアスは長続きせず、二人は再び情けない顔ではぁ、と嘆息する。これから始まる長い戦いを思えばこれくらいは許されるだろうと考え、更に憂鬱になる。
 新宿からの脱出を目指すという比較的穏当な方針を掲げてはいるものの、それでもこの先戦う機会はいくらでも出てくるだろう。譲れないモノがある以上話せば分かるなんてありえないと、彼らは自らの経験を以て熟知している。

「だけど聖杯を獲るってよりかずっと楽なのは確かだよな。
 まあ任せておけって。四四八みたいにゃいかねーけど、オレだってやるときはやる男なんだぜ?」
「……ああ。マジでよろしく頼むわ、ライダー。
 それと悪ィな、お前の願い叶えてやれなくて」
「いいってことよ。オレ、これでも生きてた頃はかなり恵まれてたしな」

 ライダーと呼ばれた少年はあっさりと言葉を返す。己の人生に悔いはなしと、生涯に裏打ちされた綺麗な笑顔を添えて。

「つーわけで、もう今日は帰ったほうがいいぜマスター。あんまり遅いと親がうっせえだろ」
「……親っつっても、気持ちとしては微妙なんだよなぁ。いや、言われなくても帰るけどよ」

 そうして二人は相も変らぬ雑談を繰り広げながら店外へ出る。それはまさしく普通の男子高校生の姿であって、しかし内には確固たる信念を抱く勇者でもあった。
 彼らは無邪気に、しかし無知では断じてなく、青臭い理想を抱いて戦いに赴くだろう。
 その先に待ち受けるのは、必ずしも輝かしい未来であるとは限らない。けれど、それでも彼らに躊躇いはない。
 誰しもに存在する恐れを胸に抱え、それでもなお大切な誰かを守ることこそ、彼らの有する真なのだから。


497 : 伊織順平&ライダー ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 19:47:36 BLxml8uA0
【クラス】
ライダー

【真名】
大杉栄光@相州戦神館學園八命陣

【ステータス】
筋力D 耐久D 敏捷C 魔力A 幸運A 宝具EX

【属性】
中立・善

【クラススキル】
対魔力:C
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが野獣ランクの獣は乗りこなせない。

【保有スキル】
邯鄲の夢:A
夢界に於いて超常現象を発現させる力の総称。Aランクならば五常楽・急ノ段に到達している。
身体能力を強化する戟法、体力やスタミナを強化する楯法、イメージを飛ばす咒法、他者の力や状況を解体・解析する解法、そしてイメージを具現化させる創法の五つに分かれている。
ライダーは総じて平均以下の適正しか持たないものの、解法に限定して最上の適正を叩きだしている。

解法:A++
上記の邯鄲法の一つに分類される能力だが、ライダーの場合は解法に対する資質のみ抜きんでて高いため個別のスキルとして計上されている。
他者の力や感覚、場の状況等を解析・解体する夢。すり抜ける【透】と破壊する【崩】の二つに分かれる。
戦闘において透は肉体透過による攻撃回避に優れ、崩は相手の肉体や技・魔術を直接崩壊させることに優れる。また解析による敵の力量や技の正体の看破、自らの戦力の偽装・隠蔽、重力や空間をキャンセルしての超次元的な移動など応用範囲は多岐に渡る。

勇猛:C
威圧・混乱・幻惑といった精神干渉を無効化する能力。
また、格闘ダメージを向上させる効果もある。

対神性:EX
神性スキルを持つ相手と相対する際、あらゆる判定で大幅に有利となる。地球意思たる金色の龍と相対した逸話が昇華したもの。
しかし本来このスキルは戦闘ではなく浄化、ひいては鎮静のためのものであるため、神性スキルを持つ相手を殺害しようとした場合には極高確率でファンブルが発生する。
なお、ライダー本人はこのスキルを得ることになった逸話のことを完全に忘却している。

仕切り直し:A++
戦闘から離脱する能力。また、不利になった戦闘を戦闘開始ターン(1ターン目)に戻し、技の条件を初期値に戻す。
解法は離脱能力も兼ねるため、必然的にランクが高くなっている。解法が使用できない状況ではランクはEまで低下する。

【宝具】
『風火輪』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大捕捉:1
炎のような光を纏ったローラーブレード。解法に特化したライダーの移動・戦闘を補助する器具であり、敏捷を2ランク上昇させ更に+の補正を与える。
機動力の上昇の他、解法による重力キャンセルを用いることで三次元的な空中移動を可能とする。崩と合わせた風火輪の蹴撃は一撃必殺級の剣呑な威力を発揮するだろう。

『戦の真は千の信に顕現する(トラスト&トゥルース)』
ランク:EX 種別:概念宝具 レンジ:1〜10 最大補足:1000
ライダーの使用する二つの解法を組み合わせた五常・破ノ段及び急ノ段。急段の中でも特異な存在であるためランクはEX(評価外)となっている。
その効果は「自身にとって大切だと思うものを差し出す代わりに、それに見合ったものをこの世から消滅させる」という相殺の業。等価交換を基本とした絶対的な完全消滅の強制執行である。
当然ながら一度この宝具が発動してしまえば防御や回避は絶対不可能。しかしこの宝具の最も恐ろしい点は「相殺の基準点がライダー個人の価値観に依存しきっている」ことだろう。
富や名声よりも愛を選ぶ者がいるように、千の見知らぬ他人より身内の一人を選ぶ者がいるように、そしてそれらの逆を選ぶものが必ず一定数はいるように。あくまでライダーの見た世界という贔屓まみれの天秤で機能するため、ライダーの中で相殺の判断基準が通った場合は他人にとっては信じられないような小さな対価で小国一つを消し去ることすら可能である。
差し出せる対価には己の体の一部や内臓器官はもちろん、触覚や記憶、思いといった概念的な所有物や自身の仲間達すらも含まれているが、一度対価として差し出したものはそれこそ対価を捧げる以前まで時を戻しでもしない限り如何なる手段を用いても取り戻すことは出来ない。
事実、ライダーが生前に差し出したとある想いはサーヴァントとなった現在でもなお失われたままである。


498 : 伊織順平&ライダー ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 19:48:30 BLxml8uA0
【weapon】
風火輪

【人物背景】
容姿平凡、頭脳壊滅、威勢はいいが度胸はなく、女好きだがまったくモテず、腕っ節もからっきしという、もはやネタにしかならない男。
しかし、彼の持ち味である底抜けの明るさと前向きさが、仲間たちの心を救うときもある。かもしれない。
名前の読みは「はるみつ」だが、自分の事を「エイコー」と呼ぶよう常日頃から仲間たちに言っているが、誰もそう呼んではくれない。だがめげない。とても幸せな性分と言える。
性格は女好きでノリの良いお調子者であり、軽率な発言、思いつき、行動をしては即座にツッコミを受ける。決して嫌われてはいないがこのような性なのでモテるわけでもない。
表面的にはお調子者でバカなムードメーカーという面が目立つが、「自分はビビリで臆病」だということを自覚しており、戦場で非情な行動ができなかったことがそれに拍車をかけてコンプレックスとなっている、ネガティブな一面を持つ。
自身が臆病者であり敵や暴力を怖がることを認める反面、だからといって仲間を置いて逃げるような「卑怯者では断じて無い」という矜持を強く持ち、誰かを守るという場面で自分の身を厭わない。また、自身に与えられた解法の才能については、「自分に任された重要な役割」という理由で好いているなど、非情に仲間想いである。
実は大正時代の人間であり、原作終了後は主人公らと共に満州へと渡り第二次世界大戦を未然に食い止めることに成功する。未来の日本では教科書に名前が載る程度には偉人となっている模様。
大切な誰かとの記憶を失い、生涯取り戻すことが許されなかった男。

【サーヴァントとしての願い】
特になし/?????

【基本戦術、方針、運用法】
解法の汎用性は高いが、ライダー自身は遠距離の攻撃を持つわけでも、戦闘技術を極めているわけでもないので直接的な戦闘には不向き。
仕切り直しで逃げ回りつつ、地道に立ち回る必要があるだろう。




【マスター】
伊織順平@ペルソナ3

【マスターとしての願い】
元の世界に帰る。

【weapon】
召喚銃:
内部に黄昏の羽と呼ばれる、ニュクスから剥離した物質を内蔵された銃。殺生能力はゼロで、あくまでも、ペルソナを召喚する為の補助ツールである。

【能力・技能】
ペルソナ能力:
心の中にいるもう1人の自分、或いは、困難に立ち向かう心の鎧、とも言われる特殊な能力。
この能力の入手経路は様々で、特殊な儀式を行う、ペルソナを扱える素養が必要、自分自身の心の影を受け入れる、と言ったものがあるが、超常存在ないし上位存在から意図的に与えられる、と言う経緯でペルソナを手に入れた人物も、少ないながらに存在する。順平の場合は生まれ持った特殊な資質により覚醒した。
体力や精神力を消費して魔術に似た現象を引き起こす事が出来、更に、身体能力も通常より向上させる事が可能。
保有するペルソナは「トリスメギストス」

【人物背景】
ペルソナ3のお手上げ侍。
月光館学園高等部2年2組の男子生徒。風呂でも脱がない帽子と、あごひげがトレードマーク。女好きのお調子者と、絵に描いたような三枚目。ゲーム好き、ジャンクフード好き、部屋を片づけられないタイプと、割とダメな男子高校生。
基本的に気さくな性格。勉強はできない。周りのメンバーが贖罪や復讐といった重い事情で戦っていたのとは違い、彼自身は特別な事情もなく、ただヒーローっぽいから・退屈な日常に飽き飽きしていたからという理由で戦っていた。
ある意味では最も一般人に近く、夢想と現実の差を認められず周囲に八つ当たりすることもあったが、それ故に作中において最終的に最も成長したキャラクターであると言える。
FES終了後からの参戦

【方針】
元の世界に帰る。


499 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 19:48:52 BLxml8uA0
投下を終了します


500 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 23:43:00 BLxml8uA0
投下します


501 : ヒメネス&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 23:43:40 BLxml8uA0
「ぐぅ、き、貴様……よくも私を……!」

 貫手で胸を抉られた中年の男が血に呻きながら怨嗟の声をあげる。
 常人ならば致命傷であるはずの攻撃を受けてなお光を失わない目は、憎悪を込めて下手人を睨め上げていた。
 それは深夜の繁華街。未だ人の気配が溢れる表通りから外れた路地裏、およそ一般の目が届かない澱みの一角でのこと。
 いくつかの影があった。倒れ伏した女の影、それに寄り添うように倒れる子供の影、腕を振り上げ仁王立ちになる異形の男の影、それに貫かれる法衣姿の男の影。
 さて、この状況を端的に説明するならば、「家路に着こうとしていた親子を襲った法衣の男を、更に異形の男が襲った」という構図になる。法衣の男は親子を襲う直前に名誉の犠牲がどうとか言ってたから、恐らくは魂喰いでもしようとしていたのか……まあそれはどうでもいい。
 文字だけで見るならばさながらヒーロー活劇のようにも思えるが―――しかし、二人の男の顔を見ればそんなことは言えないだろう。

「ここで私を殺せど……すぐに私のサーヴァントが貴様を殺す……!
 やれ、アーチャー……! 今すぐこやつを……」
「あー、生憎だがそいつはできない相談らしいぜ?」

 何故なら―――異形の男は嗤っている。
 へらへらと、けらけらと、血と悪徳が支配する地獄の只中で血潮に塗れながら口元を弦月の形に歪めている。
 笑っている。嗤っているのだ。そんなものかと見下して、弱い弱いと嘲るように。

 そんな異形の男の背後に、もう一つの影が舞い降りる。それは未だ幼い少年のようで、この異形と比するまでもない存在のようにも見えたが……

「ひ……ま、まさか……そんな、私のアーチャーが……こんな子供に……」
「負けたってことだろうな。まあ手前にゃ勿体ない男ではあったが、こんなペテン野郎にこき使われるくらいなら死んだほうがマシだろ。なあ、バーサーカー?」

 喜悦の笑みのまま背後へ振り返り、少年の影に問いかける。返答はない、しかしそんなこと百も承知か、男は満足そうにまた嗤った。
 子供―――確かにバーサーカーは20にもなっていないような線の細い少年の姿をしていた。対する法衣の男に付き従っていたアーチャーは鋼と形容できるほどの巨漢、常識的に考えるならばそもそも勝負にならないだろう。
 しかしそんな常識はサーヴァントには通用しない。ここは魔が跋扈する死の都。異界の法則が働くこの場において、見た目の優劣が何になるだろうか。
 そも、見た目がどうこういうならば見よ、バーサーカーの相貌を。かつて黒かっただろう髪は悲憤により脱色し、憤激に狂乱する瞳は血涙に噎び泣き、ただ憎悪のままに殺すという唯一の感情を除いて全てを投げ捨てた姿はまさしく狂戦士。
 体格よりも技術よりも、まず想念の強さが勝負を決定づけるとするならば。この少年を上回る存在など、三千世界を見渡してもそうはいまい。


502 : ヒメネス&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 23:44:08 BLxml8uA0
「ひ、うぅ……わ、私は敬虔なる神の使徒、メシア教の大司教なるぞ……!
 この私に手を出せばどうなるか、貴様よもや―――!?」

 命乞いにも似た脅迫の言葉はそこで終わりを告げた。
 貫く男の腕から発生した業火は瞬時に法衣の男を包み込み、灰も残さずこの世から消失せしめた。末期の言葉もなく、何をこの世に残すでもなく法衣の男は聖杯戦争という舞台から退場したのだ。
 異形の男―――ヒメネスは返り血さえも蒸発させたはずの腕を、しかし汚いものでも触ったかのように何度か宙に振る。それからバーサーカーに再度振り返り、ただこう言った。

「ったく、糞のせいで余計な手間喰っちまったか。行くぞバーサーカー、早いとこ他のマスターやらサーヴァントやらをぶっ殺してやらねえとな」

 ヒメネスはそれだけを言って、倒れ伏す親子になど頓着せず歩き出す。バーサーカーもそれに続き、哀れな犠牲者には目もくれない。

 補足しておくと、このヒメネスという男は義侠心で親子を救ったわけでは断じてない。
 彼が掲げる信条は弱肉強食。強きが弱きから奪い取り、死んだらテメエで落とし前。なんとも野蛮で醜悪で、それ故に原初の輝きに満ちた思想。
 だからこそ、あの似非宗教家が道行く親子に暴力を振るい命やその他を奪い取ろうが、ヒメネスはなんら義憤を抱かない。強者が自由に生きた結果として弱者が被害を蒙ろうが、それは世界のあるべき当然の姿だと本気で考えているからだ。
 この場においてヒメネスが似非宗教家に喧嘩を売った理由。それは、単にこいつのことが気に入らなかっただけだ。
 筋道だとか良心だとか、そんなものはヒメネスには存在しない。強者(自分)が自由にした結果弱者(ペテン師)がどうなろうと知ったことではないのだから。

「聖杯なんざくだらねえ。クソッタレの天使が絡んでいるならぶっ潰す。聖杯なんざなくてもオレにはメム・アレフがいるんだからな。
 ああ、それとついでに救ってやんなきゃならねえよなぁ。間違って人間なんかに生まれちまった連中をよ」

 故にヒメネスは止まらない。聖杯にかける願いも、人としての義侠も、守るべき信念もない彼は、故にこそ理由もなく他者を殺し食い物にしながら蹂躙劇を続けていく。
 そこに躊躇など一片もありはしない。弱肉強食という単純明快な真理のもと、いつか自分が更なる強者に敗れる日まで停止することなどありえない。
 豪放に笑うヒメネスの後ろで、バーサーカーは鉄のような無表情のままについていく。その心は狂っているが、しかし激烈なまでの信条を胸に秘めて。

 力に狂う悪魔の男と、復讐に狂う嘆きの少年。傍から見れば同じ二人も、しかし蓋を開けてみればその性質は真逆もいいところだ。
 しかし彼らは頓着しない。ヒメネスは力さえあればそれで良しと笑い、バーサーカーはただ殺すだけだ。
 義も理もない子供じみた戦場に彼らは共に舞い踊る。それは比喩でもなんでもなく、血に塗れた悪鬼の行軍だった。


503 : ヒメネス&バーサーカー ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 23:44:40 BLxml8uA0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
比何ソウマ@トラウマイスタ

【ステータス】
筋力A+ 耐久C 敏捷A+ 魔力C 幸運D 宝具B

【属性】
中立・狂

【クラススキル】
狂化:D
筋力と敏捷をランクアップさせるが、言語能力が不自由になり複雑な思考ができなくなる。

【保有スキル】
戦闘続行:A
往生際が悪い。
瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

精神汚染:D
このスキルは狂化と重複する。
殺意により精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を高確率でシャットアウトする。
ただし同ランクの精神汚染がない人物とは意思疎通が成立しない。

蛮勇:B+
無謀な勇気。同ランクの勇猛効果に加え、格闘ダメージを大幅に向上させるが、視野が狭まり冷静さ・大局的な判断力がダウンする。
現状のバーサーカーは完全に殺意に狂っており、既にその身は英雄から堕している。絶対的恐怖を乗り越え勇気の剣を手にした少年の姿はどこにもない。
下記スキル「復讐への憤怒」が発動した場合において+の補正を与える。

復讐への憤怒:A
復讐にかける殺意が昇華したスキル。復讐対象と相対した際、バーサーカーの全ステータスに+補正を与える。
バーサーカーの場合は特定人物がそれに当たるが、狂化により全く関係ない赤の他人であっても復讐対象と誤認する場合がある。
誤認する条件としては、意図した殺人・傷害、もしくは略奪行為を行った場面を目撃すること。他者を虐げる行いを目にしたバーサーカーはその相手を復讐対象と誤認し、何よりも優先して殺害しようする。
その対象には無論自分のマスターも含まれるが、復讐対象であると誤認した相手に対する殺人行為等は黙認される。

【宝具】
『真実の自己・接触嚥下(アートマン・ゲルニカ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1〜99 最大捕捉:10
人の心の奥に潜むトラウマが具現化した存在。反魂香と呼ばれる線香型の礼装を使用することにより実体を得る。
バーサーカーのアートマンはゲルニカと呼ばれ、鳥類の頭と羽を持った黒い鬼の姿をしている。呑み込んだ物質を原子分解し再配列することで砲弾として撃ち出す固有能力を持つ他、格闘による攻撃やバーサーカーを背に乗せての飛行などが可能。
本来ゲルニカには固有の人格が存在するが、狂化の影響によりゲルニカの思考能力もDランク相当で剥奪されている。

【weapon】
・勇気の剣
バーサーカーが手にする長剣。勇気の心の具現であるため物質の縛りに囚われることなく非常に頑強。
しかしその刀身は半ばから罅割れ砕けている。

反魂香
宝具の発動に必要な線香。一度の使用につき10分の時間制限があるが、30分経てば再使用が可能となる。

【人物背景】
復讐に全てを捨てた少年。

【サーヴァントとしての願い】
ダヴィンチを殺す


【マスター】
覚醒人ヒメネス@真・女神転生 STRANGE JOURNEY

【マスターとしての願い】
悪魔が神々に立ち戻り、人類が輝きを取り戻す新世界の創造。

【weapon】
悪魔の肉体。

【能力・技能】
半悪魔であるため非常に強靭な肉体を持つ。そのため人間では生存できない環境にも適応可能。
戦闘では主に肉弾戦を取るが、地獄の業火やダークマターによる魔力攻撃も得意とする。

【人物背景】
20代のヒスパニック系男性。元は某大国で兵曹長として従軍していたが、多額の報酬に惹かれシュバルツバース調査隊に志願した。
斜に構えた性格で協調性に乏しいが、弱った悪魔バガブーを助けたり、自分を助けた主人公とそれなりに仲良くしたりと独自の矜持も持ち合わせる。
とある一件から仲魔であったバガブーと悪魔合体し半悪魔となる。悪魔となって以降は人間の頃に持っていた弱肉強食の思想が更に極端になり、人間的な感情こそ持ち合わせるものの大分悪魔っぽい性格となった。

【方針】
聖杯などという如何にも天使どもが関わってそうなのが気に入らないのでぶっ壊す。それを手に入れようとしている連中も殺す。つまり基本的には皆殺し。
ただし中には悪魔になるに足る奴やタダノのように気に入る奴もいるかもしれないし、そこらへんは臨機応変に。あと弱い奴は相手にしない。


504 : ◆GO82qGZUNE :2015/08/22(土) 23:46:05 BLxml8uA0
投下を終了します


505 : ◆zzpohGTsas :2015/08/23(日) 00:26:37 N2p03ooo0
投下いたします。感想はもう少し……その……あの……


506 : より“強く”。より“怒り”を ◆zzpohGTsas :2015/08/23(日) 00:27:58 N2p03ooo0
 人が集まれば集落になり、規模大きくなると村が出来、村が発展して町になり、町が幾つも集まり、そうしてやがて国になる。
世界史を紐解けば、国の起りと言うのは大体そのようなものだ。国とは先ず人ありき。人がたくさんいて、各々の作業を行うからこそ、
法も整備され、文化も成熟する。――だが、人が集まると言う事は、何も良い事ばかりではない。人の個人差と言うものは、あらゆる動物の中で最も顕著だ。
性格の良いのもいれば悪いのもいるし、同時に職務を優秀にこなすのもいれば役に立たない人物もいる。
場所が発展するには人の頭数と言うのは当然不可欠なのだが、多ければ多い程逆に、足を引っ張り合うのが人と言うものなのだ。これはジレンマでもあった。

 <新宿>が<魔震>の影響で、瓦礫と亀裂だらけだったのは今は昔の話。
往年以上の勢いと経済規模を取り戻した<新宿>は、区内でも有数の経済規模と繁盛ぶりを誇る、アジア最大級の繁華街としての地位に返り咲いた。
つまり、人が昼を問わず夜を問わず、たくさんいる。学生もいる、社会人もいる、子供もいる、ヤクザもいる、チンピラもいる、ホームレスだっている。
当然これだけいると、新宿で働く人間も様々だ。飲食店のアルバイトもいるし店長もいる、銀行員も商社マンもいるし、土建業もいる。
司法書士事務所や行政書士事務所も、弁護士事務所だって珍しくないし、個人で営む歯科医や、昔から営んでいる八百屋だっている。
これらは全て、人に対して後ろめたさの欠片もない立派な職業だが、中には人に言えない仕事をしているものだっている。
暴力団、風俗やSMクラブの店長・従業員、キャバクラ嬢やホスト等。<新宿>と言う街は、清濁入り混じった様々な人間が織りなす箱庭だった。

 此処、<新宿>は高田馬場の貸しビルの一つで何でも屋を営むこの女性は、どちらかと言えば濁の側に属する人間だ。
何でも屋、である。何と胡散臭い仕事であろう。恐らく余人には、どのような事をして生計を立てているのか、想像すら出来ないであろう。
実は稼げる副業を別にやっているとかでも考えない限りは、どのように日銭を稼いでいるのか、思いもよるまい。

 ――事実彼女も。『ナジェンダ』と呼ばれるこの女性も、よくこんな意味不明な仕事で生活が出来るものだと感嘆していた。
何でも屋、とは言うが実態は体の良い便利屋に近い。やる事と言ったら、主に探偵の真似事である。
浮気調査や尾行など、主にそう言った仕事で彼女は日々を過ごしている。彼女が、探偵である。元居た世界の仲間達、ナイトレイドの者達が聞いたら驚く事に違いない。
命知らずの女傑、一国の軍隊の師団を率いていた程の指揮官であったナジェンダが、末端の探偵職を今やっていると言われても、誰もが信じぬであろう。
そして何よりも、その目立つ容姿だ。研磨された鋼に近い色味の銀髪、潰された右目を覆い隠す眼帯、そして、巨大な右手の義手。
目立たない事が鉄則である探偵として不釣り合いにも程がある容姿であろう。特に、義手が拙い。袖で隠せない程大きいのだ。外部に露出している状態だ。
これでは探偵として失格……と思われがちだが、意外や意外。探偵としての評判は今の所良いのだ。
それはそうであろう。そもそもナジェンダを頭目としたナイトレイドとは、暗殺者の集団なのだ。首領の彼女が気配を遮断する術を持たないのでは、話にならない。

 痴情の縺れとはどの世界に足を運んでも起こる物なのだなと実感させられる。
帝都よりも遥かに進んだ文明レベルのこの世界に於いても、金と女のトラブルは絶えない。
その甲斐あって弁護士や探偵と言うのはくいっぱぐれる事はないのであるが、これは同時に、平穏な世界の達成は不可能と言う事の証左でもあり、
ナジェンダには複雑だった。今日は前々からの浮気調査の仕事に取りかかって来た。相手は浮気をしていた。


507 : より“強く”。より“怒り”を ◆zzpohGTsas :2015/08/23(日) 00:28:53 N2p03ooo0
 経済的に有利な立ち位置、とは、到底言えない。
聖杯戦争を勝ち抜くには心許ない役割(ロール)であると、言わざるを得ないだろう。そう、ナジェンダは<新宿>の聖杯戦争の参加者の一人であった。
それは、彼女の左手の掌に刻み込まれた、ナイトレイドのシンボルマークに何処か似た令呪が証明している。
嘗て帝国で将軍と言う栄えある立場で、屈強な軍人達を率い、戦争を指揮していた事のあるナジェンダには解る。
戦争と言うのは結局の所、軍の練度と装備、そして国自体の資本力に全てが掛かっているのだ。寡兵が大軍を圧倒する等と言うのは英雄譚だけの話であり、
現実としてそれはありえない。聖杯戦争とは、サーヴァントと言う超常存在が主役となって行う神話の戦いの再現であるらしい。
例え神話の戦いの再現になろうとしても、だ。戦いを行う為の金はあるに越した事はないし、権力もあった方が断然よいのだ。
今のナジェンダのロールにはそれがない。厳しい戦いを強いられそうだと、紙タバコを吹かしながら考える。
 
 とは言え、何でも屋と言う職業にはデメリットばかりが用意されている訳ではない。この仕事は端的に言って、フットワークが非常に軽い。
その気になれば週休七日にだって出来る程である。つまり他の仕事に比べれば、昼夜を自由に行動出来ると言う事を意味する。
行動の自由度は当然、戦争においても重要なファクターである。となれば、自分が聖杯戦争を勝ち抜くにはこれを利用するしかないだろうとナジェンダは結論を下した。

「そうと決まれば、当分は店じまいとするか」

 このように、思い立ったが吉日、を実行出来るのも強みである。
その日の内に自分の意思で、何日でも店を休めるのは、一種の利点であった。
これで、目下の懸念は一つだけとなったナジェンダ。問題は、その懸念こそが、現状最も大きな悩みのタネ、と言う奴なのだが。

「……アーチャー」

 ナジェンダがそう口にすると、安デスク越しに一人の男が霊体化を解除して現れる。
擦り切れたカーキ色のマントを羽織った、特徴的なヘルメットに鋭い目つきの男。一目見て解る、この男は、恐ろしく強いと。
もしかすれば、自らの右目と右腕を奪ったあの恐るべき、氷を操る将軍ですら倒してしまうのでは、と思わせる程の鬼風に満ちている。
彼こそが、ナジェンダが手に入れた契約者の鍵によりて導かれた、弓兵のサーヴァント。真名は――

「真名は、思い出せたか?」

「……いや」

「そうか……」

 真名は――解らない。ナジェンダは残念そうな態度を隠しもしない。


508 : より“強く”。より“怒り”を ◆zzpohGTsas :2015/08/23(日) 00:29:10 N2p03ooo0
 真名とは乱暴な解釈であるが、本名と言う認識で十中八九間違いはない。相手の名を知ると言う事は、戦争を行う以前に大切な事である。
――結論から言おう。『目の前のアーチャーは自らの真名が思い出せずにいる』。自らの本当の名前を晒されると言うのは、聖杯戦争でなくとも、
それなりの危険の伴う事である。だから裏の世界では通り名やら源氏名と言う文化が罷り通っており、裏の世界で有名人であればある程、名が幾つもあるものなのだ。
だからこのアーチャーも、自分の事を信用していないから、真名を晒すのを渋っているのか、とナジェンダは考えたが、彼の場合はそれ以前の問題であった。

 アーチャーは『記憶喪失』だった。
自分の本名は愚か、過去に自分が何をやっていたのか、何処で生まれたのか、何者なのかすら解らないのだ。
自分がどう言った力を振う事が出来るのか、どうやって戦うのか、と言う事は身体が覚えていた為、戦闘を行う分には問題はないのだが、
来歴も名前も解らないと言うのは、正直かなり困る。困るからこそ、召喚した当初から、アーチャーにはゆっくりと過去を思い出す時間をナジェンダは用意していたのだが。
結果は、ご覧の通り芳しいとは言えないのであった。

「思い出せるといいな、お前の記憶」

 吸い終えたタバコをスチールの灰皿に押し潰してナジェンダが言った。
灰皿には根元まで消滅したタバコが何十本も、墓地の様に突き立っている。ナジェンダとしてもこのような貧乏な吸い方はしたくなかったのだが、所持金が所持金だ。致し方なかった。

「それ程、俺の名と記憶が重要か、女」

 アーチャーが疑問気な調子で訊ねて来る。

「重要だろう。コミュニケーションを取る上で重要だし、何よりも、私の名をお前が知っていて、私がお前の本当の名を知らないのは、気に入らない」

「下らない感覚だ。オレはただ、オレとお前の敵を排除して行けば良いのだろう。そう――聖杯と、力の為に」

 このアーチャーは確かに己の名前と過去の全てを消失している。
だが彼は一つだけ、確かな目標を持っていた。それは、力と、強者と戦う事への渇望である。 
不思議なサーヴァントだった。過去を全く思い出せないのに、その目標を達成しようと言う意識だけは明白なのである。
目標とはある程度過去に依拠するものである。記憶を失ったにも関わらず、失う前に抱いていた野望や目標があまりにも強すぎる為に、記憶を失ってなお、
その野望や目標を達成しようと邁進しようとするのは、決して珍しい事ではない。このサーヴァントはその類なのだろう。

 記憶を失ってもなお、力と戦いを求めるその姿勢。
きっと過去に、壮絶な何かがあったのだろう。根拠も何もない勘ではあるが、脛に傷持つ過去を持つ者も多かったナイトレイドの首領を務めていたナジェンダには、
そう言う機微はよく解るのだ。アーチャーの過去を知りたい……と言うのは、少々出歯亀が過ぎるだろうかとナジェンダは思った。

「明日からは<新宿>を探索して見ようと思う。どうだ、異存はないか?」

「ない。貴様に任せる」

「解った」

 素直にアーチャーが従った。記憶を失い、力に対する渇望が強いこの弓兵であるが、ナジェンダからして見たら、彼は存外組しやすい存在だった。
御しやすい、とも言う。と言うのも、この男が何を求めているのかは明白であり、従ってどう付き合えば良いのかも、おおよその推測がつくのだ。
この男は、更なる力を求める、と言う己の目的を邪魔しないのならば、不満はない。解りやすくて、良いじゃないか。
記憶の問題は、時が解決してくれれば良い。そうなる事を、ナジェンダは祈るのであった。


509 : より“強く”。より“怒り”を ◆zzpohGTsas :2015/08/23(日) 00:29:30 N2p03ooo0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――博士がつくってくれたリミッタープログラム、オレに似合っていますか?――

 ……知らない映像が、何故かオレの脳裏を過りだした。
その映像の中ではオレは、腕と足に光る輪を嵌められており、ポーズを取っていた。誰に、オレはその姿を見せている。

 ――処刑命令が取り消されたワケではない。キサマは消えるのだ!!――

 剣を持ったナビが、オレに対して斬りかかって来る映像が流れ始めた。
取るに足らない雑魚。目を瞑っていても殺せる相手。なのに何故、オレはそんな奴の前で甚大なダメージを負っている?

 凄まじい爆発がオレの前方で巻き起こり始めた。先程の男が、体中に走り始めたエネルギーの奔流に耐え切れなかったせいだ。
その様子を、殺意に満ちた瞳でオレは眺めている。何秒かの沈黙の後、絞り出すようにオレが言った。

 ――オレは……信じない……。もう二度と、誰も……!!――

 オレは、何を信じていたというのだ。オレが信じていたのは、絶対の力ではなかったのか。

 ――■■■■、やはりお前とは、再び相容れる事は出来ないようだな――

 場面が切り替わる。オレは金色の髪をした、年を取った男と何かを話していた。オレの名前を呼んでいたらしいが、ノイズが掛かる。
初めて見る顔……の筈なのだ。だがオレは、この男の事を知っていた。見ていて、懐かしさが込み上げてくる顔だった。
その男が、エネルギーを身体に収束させ始めた。エネルギーの許容量が限界を超え始めている。自爆を決行するつもりなのだ。

 ――自爆するつもりか……。……愚かな――

 ――確かに愚かかも知れない。しかし、お前を創り出してしまった責任を取るには、こうするしか方法はないのだ!!――

 男が身体に集中させたエネルギーを爆発させる。そしてオレがそれを迎え撃つ為、全力のエネルギーを――いや。
何をしているのだオレは。何故、何故。その男が死なないギリギリの力で迎撃した……!?

 次に出会った時、オレは、青いナビと戦っていた。
神殿を思わせるような、白いエリア。バグの力を得たオレは、無敵の存在になった筈だったが、その思いを挫かれた。
何故、目の前の弱そうなナビに負けたのか、理解の追いつかないオレに対して言い放った。

 ――それは、キミが一人で戦っているからだよ――

 ……何?

 ――ボクは、熱斗くんがオペレートしてくれる限り、どこまでも強くなれるんだ!!――

 ――何を甘い事を……強さとは、誰の力も借りない事だ!!――

 オレは自らの信条を声を大にして叫んだ。
そうだ、力とは誰の手も借りず、誰も信じず。一人で戦いに明け暮れ、強者と戦いその力を喰らう事で、得るものなのだ!!

 ――それは間違ってる!!――

 相手のナビも叫んだ。

 ――ボク達ネットナビは、オペレーター、つまり人間と深い信頼で結ばれてこそ、本当の力を引き出す事が出来るんだ――

 馬鹿な事を抜かすな、とオレも反論しようとしたその時だった。

 ――キミにもいた筈だ!! 心の底から信頼出来る人が!!――

 莫大なバグの力によってプロテクトされた記憶の底が、少し開いたような感覚をオレは憶えた。感情の赴くままに、オレは再び叫んだ。

 ――オレが信じるのはオレ自身のみ!! 誰も信じない!!――

 ――思い出すんだ、■■■テ!!

 相手のナビが、心を打つような力強さで一喝した。ヤツはオレの名を知っているらしかった。
殆どノイズが掛かって聞き取る事が出来なかったが、最後の方だけは、いやに明瞭に聞こえた。

 ――奴がオレの名を叫んだ瞬間、脳裏を、あの時葬った金髪の中年の顔が掠めた。
奴の事を考えた瞬間、名状しがたい感覚がオレに襲い掛かる。何者なのだ、この男は。オレは、この男を必要としているのか?
認めきれず、オレはその場から逃げるように去って行った。映像が、其処で途切れた。あの青いナビはオレの事を知っていたが、オレは奴の事を全く覚えていなかった。


510 : より“強く”。より“怒り”を ◆zzpohGTsas :2015/08/23(日) 00:29:48 N2p03ooo0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 嘗て彼は、一人の優秀なプログラム技術者によって作られたネットナビであった。
やがて来るであろう、高度に発達したネットワーク社会を導く人口知性体。つまり、完全に人の手から離れ、自律した行動を起こす事の出来るナビ。それこそが彼だった。

 新たな形態の社会を築くと言う事は、何時だって問題を伴うものである。如何に今より便利な社会になるからと言って、簡単に移行させる訳には行かない。
人に、そして後世のネットナビに、示唆を与えてくれる事を期待して、彼は創られたのだ。
彼は三次元的な肉体を持ちこそしない、電脳の世界の住民であったが、それにさえ目を瞑れば、彼は本当に、一人の人間と変わらない存在だった。
だからこそ、彼を作った博士は、この電脳の住民を愛した。自分の息子と言って憚らなかった程である。

 だが彼は、優秀過ぎた。そして、あまりにも現世代のネットナビとは比較にならない強さを誇っていた。
何時だって出る杭は打たれる。彼は生意気過ぎたのだ。多くのネットナビを、これからのネットワーク社会を守るに相応しくないと言って批判した。
プライドの高い科学省の職員のプライドを逆撫でするような行動を幾つも起こして来た。こんな事を起こし続けるが故に、彼は集団から孤立した。
牢獄に閉じ込められても、彼を創り上げた博士だけは、彼の味方だった。博士も、そして彼も、互いに互いを信じ合っていたのだ。

 運が悪かった、としか、言いようがない。
彼に対する憎悪や妬み、嫉みが最頂点のその時期に、来たるべきネットワーク社会の基盤、つまり、当時作られたインターネットがバグを起こし始めたのだ。
後に、『プロトの反乱』と呼ばれる科学省、いや、ネットワーク社会は愚か全世界を大混乱に落としかねない程の大事件である。
まさかインターネットの暴走の原因が、そのインターネットが原始的な自我を持ったからであると想像も出来なかった当時の科学省治安維持部隊は、真っ先に彼を疑った。

 この時に、彼は自らを作り上げた博士が、今回の討伐作戦を実行したと言う嘘を吹きこまれた。
そしてこの瞬間であった。彼が人間を。自分以外のネットナビを全て疑うようになったのは。そして、人類を滅ぼす為に、がむしゃらに力を得ようとしたのは。

 天才的なプログラム博士であるコサックが手ずから作り上げたこのネットナビは、博士の『より強く』と言う願いから、『フォルテ』と名付けられた。
世界をより良くする為に作られた知性体が、まさか人間達の妬みと勘違いから、人類を死滅させる為に行動をする事になるとは、これ以上の皮肉があるのだろうか。
ただ、フォルテも知らない。自分がコサック博士の強くなって欲しいと言う願いから創られた存在であると言う事は。
例え方法はどうあれ、人類を死滅させる為に『強くなる事』自体が、憎んでいたコサックの願いを成就しようと直走っていると言う事に。
結局フォルテもまた、人情を捨てきる事が出来なかった、電子で出来たか弱い一人の生き物なのであった。





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511 : より“強く”。より“怒り”を ◆zzpohGTsas :2015/08/23(日) 00:30:09 N2p03ooo0
【クラス】

アーチャー

【真名】

フォルテ.EXE@ロックマンエグゼ3

【ステータス】

筋力C 耐久C 敏捷B 魔力B 幸運E 宝具D

【属性】

中立・悪

【クラススキル】

対魔力:C(B+)
第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。
平時のアーチャーの対魔力ランクは平均値のそれであるが、宝具発動時には、カッコ内のそれに修正。
詠唱が三節以下のものを無効化するだけでなく、筋力B以下のサーヴァントの直接攻撃も無効化する。

単独行動:C
マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。ランクCならば、マスターを失ってから一日間現界可能。

【保有スキル】

ラーニング:A+++
後述する宝具とセットになっているスキル。
アーチャーは、倒した相手サーヴァントの宝具を吸収、自らのものとして扱う事が出来る。

記憶欠落:A
記憶喪失、その深刻さの度合いを表すスキル。
このランクになると自らの真名も生い立ちも、全て喪失していると言っても過言ではない。
だがアーチャーの場合、時折謎の男性の顔が記憶を過るらしい。

信仰の加護(偽):B-
一つの価値観に殉じた者のみが持つスキル。加護とはいうが、最高存在からの恩恵はない。
あるのは信心から生まれる、自己の精神・肉体の絶対性のみである。 アーチャーの場合は『力』だけを追い求めている。
しかし過去に戦ったネットナビの影響か、その理念が最近になって揺らぎを見せている

自己改造:C
自身の肉体に、まったく別の肉体を付属・融合させる適性。このランクが上がればあがる程、正純の英雄から遠ざかっていく。
普段はさしたる以上もないが、アーチャーは自らの意思で、その腕を獅子に似た動物の頭のような物に変貌させる事が出来る


512 : より“強く”。より“怒り”を ◆zzpohGTsas :2015/08/23(日) 00:30:31 N2p03ooo0
【宝具】

『恒久たる平和の為の礎(ゲットアビリティプログラム)』
ランク:D+++ 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:自身
人類初の完全自立型ネットナビであったアーチャーに本来備えられていた能力。サーヴァントを自らの手で消滅させた際に発動する。
その詳細は、『チップデータや相手の攻撃能力を吸収、いつでも自分のものとして使用出来る』と言ったもの。
聖杯戦争のサーヴァントとして呼ばれた為に、『相手の宝具を任意で、かつ半永久的に取捨選択し使用可能』に内容を書き換えられている。
ただ、見ただけで相手の能力を吸収出来ると言う訳ではなく、宝具を発動するには相手を倒すと言うプロセスを経ねばならない。
そもそもアーチャーは一人の国際的な天才科学者が、より世界を良くし、平和の為に貢献しようと言う理念の下に作られた存在であり、
必然的にこの能力も、闘争の為の力などではなく、平和の為に活用するよう意図されたものであるのだった。

『歪獣の福音(ゴスペル)』
ランク:D+ 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:自身
現在アーチャーと融合している、黒色の獅子頭が宝具となった物。保有スキル、異形の正体である。
アーチャーの意思で、どちらかの腕にその獅子頭が宿らせる事が出来、解除も任意。
アーチャーの攻撃能力を底上げする宝具で、これを身体に宿らせている限り、彼は天空から、融合している獅子のものと思しき爪を飛来させたり、
獅子頭から火の属性を宿したブレスを吐き出すなど、多彩な技を披露する事が出来る。
そしてこの宝具の切り札が、両腕を獅子頭に変貌させ、その状態で令呪一区画消費或いは真名解放をする事で、
Aランク相当の対城宝具に匹敵する威力と範囲の大爆発を発生させ、地形すら変貌させる必殺技、『バニシングワールド』である。
アーチャーはこの獅子の正体を全く理解してないが、この獅子はその昔世界を騒然とさせたネットマフィア・ゴスペルの首領であった一人の少年が、
計画の大詰めの際に事故によって生み出してしまった『巨大なバグの生命体』であり、組織名を取ってそのまま『ゴスペル』と呼ばれていた存在である。
アーチャーは過去、デリート寸前の重傷を負っていた際に、同じく消滅寸前であったゴスペルを取り込む事で、どちらも命を繋ぎ止めた。
アーチャーの記憶喪失スキルの原因ともなっている宝具で、ゴスペルの強いバグのせいで、彼は記憶を失ってしまっている。

『悪夢の障壁(ドリームオーラ)』
ランク:E 種別:対人宝具 レンジ:自身 最大補足:自身
嘗てアーチャーが記憶を失う前、WWWと呼ばれるネット犯罪組織のシークレット・エリアから奪取した防御プログラム。
元々は、嘗てWWWがドリームウィルスと呼ばれる究極のウィルスを利用、軍事衛星をハッキングし、世界を火の海にしようと計画した際、
そのウィルスに組み込まれていた防御プログラムである。発動するとアーチャーの身体を覆い込むように、薄い紫色のオーラが纏われる。
このオーラが纏われている際は、『対魔力ランクはカッコ内のそれに修正され、筋力B以下のサーヴァントの物理攻撃は全て無効化される』。
本来ならば常時、何のデメリットもなく纏われていた物なのだが、サーヴァントとしての制約により、オーラの展開には常時魔力消費を必要とする。
また、オーラや障壁と言ったものを剥がす、或いは、ステータス向上手段を打ち消すような攻撃や宝具の前には無意味で、『1回だけ攻撃を無効化した後に』この宝具は剥がされる。魔力が許す限りにおいて、再び宝具を展開する事は可能。

【weapon】


513 : より“強く”。より“怒り”を ◆zzpohGTsas :2015/08/23(日) 00:30:49 N2p03ooo0
【人物背景】

かつて科学省で働いていた世界的なプログラミング技術者、コサック博士の手によって作られた、世界初の完全自律型ネットナビ。
より強く、と言う意味を込めてその名前は付けられており、あらゆる能力を吸収して自らのものとする、『ゲットアビリティプログラム』を搭載している。
オペレーターの指示が無くても勝手に動く事と、その優秀な性能と高慢気味な性格のAIから人間、ネットナビ問わず多くの者から疎まれていた。
ある時、フォルテの開発と近い時期に開発されていた初期型インターネット、プロトに接続した電子機器が誤作動をおこし、
破壊されると言う事故が発生するが、当時の科学省職員はこれをフォルテの仕業と断定。彼のデリートを決定する。
コサックは当然反対するが、反対虚しくデリート寸前までフォルテは傷を負うが、逃走。
インターネットの奥にまで逃げ込み、ナビの残骸やウィルスを喰らいながら、フォルテは自らをデリートしようとした人間を強く憎むようになる。
それから20年経過した後、量産された自らの偽物が表舞台を騒がせていると言う事件以降、表舞台に自ら身を乗り出す。
同時期にWWWの首魁であるDr.ワイリーとコンタクトをとり、人間へ復讐するために手を組んだ。
自らの冤罪の切欠となるプロトの強奪作戦が行われた後、最終プロテクト・ガーディアンを破壊しコアをゲットアビリティプログラムで吸収。
パルストランスミッションシステムを使ってプロトの電脳にまで追ってきた光熱斗とロックマンに戦いを挑むも敗北。
ダメージを負い弱った所を、解凍終了したプロトに呑み込まれ、デリートされた、と思われたが、何処からか現れたゴスペルの残骸の求めに応じるように、
それを吸収。この時手傷の回復と、以前よりも遥かに強大な力を手に入れたが、ゴスペルの身体を構築する凄まじいバグは、フォルテの記憶を抹消してしまった。

今回のフォルテは、ロックマンエグゼ3において、シークレットエリア3でロックマンと光熱斗と戦った後からの参戦である。

【サーヴァントとしての願い】

もっと力を……。




【マスター】

ナジェンダ@アカメが斬る!

【マスターとしての願い】

帝都を牛耳る将軍の殺害。だがその為に、異世界とは言えこの街で無益な犠牲が伴うのであれば、この限りではない。

【weapon】

義手:
右腕全体を覆うように装着された、最早鎧と言っても過言ではない程の大きい義手。
様々なギミックが内包されており、その最たるものが、ワイヤで連動された右手部分を射出すると言うもの。
この他にもさまざまなギミックが、内包されているのかもしれない。

この他にも、浪漫砲台パンプキンや、電光石化スサノオと言う帝具を所持していたが、前者はナイトレイドの部下に譲渡。
後者は、契約者の鍵に導かれる際に、元の世界に置いて来てしまった。

【能力・技能】

 上記にもあるように、今のナジェンダ自身は現在帝具を持たない状態であるが、その身体能力は通常人とは比較にならない。
少なくとも今の<新宿>の住民程度では及びもつかない程の運動能力を発揮出来るし、元々帝都の将軍であったと言う来歴から、高い戦闘能力を誇り、軍略にも造詣が深い。

【人物背景】
 
右目の眼帯、右腕の義手が特徴的な銀髪の女性。こうなる前は誰もが認める美人であり、本当に男性からモテた程。
元々は帝都の将軍であり、浪漫砲台パンプキンと呼ばれる帝具を以て、あのエスデスですら認める程の功績を立てて来た、生粋の武人。
しかし、そのエスデスとの初の遠征にて彼女の軍の残虐非道な行いを目の当たりにし、さらにそれを許可・指示している帝国の腐敗を身に染みて感じていく。
その後、革命軍の砦を攻める為行軍中だった際、自身の考えを部下達に告げると自分を慕う部下達と共に革命軍に合流した。
だが追手のエスデス率いる軍隊の追撃にあい、粛清。ナジェンダは右目と右腕を失う。
その後は帝国を腐らせている元凶が皇帝補佐の大臣にあると確信した彼女は、大臣を暗殺する事でこの国の腐敗を断つ事を決意。
これが、帝都を騒がせる暗殺者集団、ナイトレイドの設立のあらましなのであった。

 電光石火スサノオをナイトレイドのメンバーに加え入れた直後の時間軸からの参戦。

【方針】

調査。……それにしても金がないと言うのは、辛いな。タバコが買えん……


514 : より“強く”。より“怒り”を ◆zzpohGTsas :2015/08/23(日) 00:30:59 N2p03ooo0
投下終了です


515 : 全て遠き理想郷  ◆tHX1a.clL. :2015/08/23(日) 12:05:25 DVxd6fw.0
投下します


516 : 全て遠き理想郷  ◆tHX1a.clL. :2015/08/23(日) 12:06:25 DVxd6fw.0



  <新宿>。
  復興後の経過も目覚ましい街。
  その繁栄を彩るように、夜の街には数々のネオンライトが踊り、さながら不夜の様相を呈していた。
  特に<新宿>区内の歌舞伎町は眠らないという形容が似合う街であった。
  昼間と同じ程の光量。眩みそうな看板の数々。
  行き交う人の波は昼間と変わらず。いや、来客も含めれば昼よりも活発であるのではなかろうか。
  どの店もこの店も活気に溢れ。
  嬌声と、歓声と、罵声と、脳を揺さぶるような音楽とが綯い交ぜになって飛び交っている。

  その眠らない街歌舞伎町で、今まさに立たんとする影が一つ。
  その男は、歌舞伎町最大のランジェリー・ショップのネオン看板を背負って立っていた。
  眼下に広がる世界を見ながら、ため息を一つこぼす。

「やはり、美しい……」

  影は笑い、手元の『白ワイン』を煽る。
  水のうちに漂う布地が揺れ、布地に合わせてネオンの作った影が踊る。
  ワイングラスから口を離し、布地を取り上げて、体に貼り付けた。
  ベチョォと音を立てて、男の身体に一枚の白布が増える。
  よくよく見ればその体は、真っ白な女性用下着が無数に貼り付けられている。
  遠目には全身に包帯を巻いているようにも見えるその姿。
  無数の女性用下着以外は一糸まとわぬその姿。
  『変態』としか形容できないその姿。
  しかしその姿は。
  世界の未来の一端を背負ったその男の姿は。
  ネオンライトに照らされて。
  神々しいほどの白さで輝いていた。


517 : 全て遠き理想郷  ◆tHX1a.clL. :2015/08/23(日) 12:08:11 DVxd6fw.0

―――

  ざ、ざざざ。
  歌舞伎町内の全てのテレビに同日、同時刻、ノイズが走る。
  テレビだけではない。公共の電波を使っている全てのものにノイズが走った。
  そして、全ての電波に同じ映像・音声が流れ始める。

『やあ、未だ欲望の寄る辺を持たぬ諸君』

  テレビにでかでかと映し出されたのは、体中いたるところに真っ白な女性用下着(しかもパンツ)を貼り付けた変態だった。
  歌舞伎町のすべての視線が男の身体に、すべての心が男の声に向けられる。
  す、と一息。
  呼吸を置いて。
  男は朗々と語りだす。
  自身の夢を世界に向けて。
  それは奇しくも。
  あの日、宿敵である『雪原の青』がやったように。
  人々の心を動かすにふさわしい『心』から『心』への果たし状。
  男は、世界の心を惹きつけてやまない言葉を綴りあげる。

『吾輩は……今まさにこの街で願いを掴むために戦っている者だ』

『我らが掲げる願いはすなわち、理想郷の創造』

  視る者。聴く者。
  すべての視聴者の心が男に釘付けになる。

『すべての性癖が、すべての人の元にあり』
『すべての人が、すべての性癖の元にある』
『そして広く世界が、すべての性癖を受け入れる』

  一人、女性用下着を身に付けた男が席を立つ。
  一人、ボンテージを着こなした女性が店を出る。

『理想郷とはすなわち、理解ある世界だ』
『全ての者が、全ての者として受け入れられる世界だ』

  あるいは激情。
  あるいは劣情。
  あるいは、あるいは、あるいは。様々な『感』情が激しく『動』く。様々な人物が『感動』する。
  一部の人間にとって、その放送をあえて陳腐に敬称するならば―――『感動的』な放送だった。

『吾輩は戦う、理解を得るために。再び世界と』
『集え、世間に打ち捨てられし理想たちよ』
『我こそは理想を切り拓き理解に手を伸ばす者『群れた布地』の首魁』



                  『―――『頂の白』!!』



  男―――『頂の白』と名乗った変質者は、天を仰ぐように両手を広げて高らかに鬨の声を上げる。

『さあ、その手に未来と下着を掴め!!』

  映像が切り替わる。
  変質者が公共の電波に乗っていたのはきっかり三分。
  三分間で、世界は変わっていく。

―――


518 : 全て遠き理想郷  ◆tHX1a.clL. :2015/08/23(日) 12:09:38 DVxd6fw.0

  ざ、ざざざ、ざざ。
  ノイズが走り、世界への交信が終わる。
  男―――『頂の白』は大きく息を吐いて、そして振り返った。

「やあ、よく来た。放送ジャックを見て来てくれたということは、我らと道を同じくするということかな」

  やおら振り返った男の向こう、一人の男が立っていた。
  甲冑に身を纏い剣を携えたその男は、まさに英雄と言うべき姿。
  変質者は英雄と向き合う。両者、姿は異質だがその目に一切の陰りはない。

「最初に聞いておこう。―――なんのつもりだ?」

  剣士が構える。いつでもと斬りかかれるように、『頂の白』をその剣の先に捉えて。
  『頂の白』はその様を見てしばし考える。
  剣士は放送の途中ですぐに『頂の白』の元まで辿り着いていた。だが、殊勝なことに放送が終わるまでは襲いかかってこなかった。
  ということは、好戦的ではあるが協力者も探している。そして『頂の白』程度ならば一瞬で殺せるということだろう。
  あとは、もしかしたら『騎士道精神』なんていう下らない精神を持ち合わせているのかもしれない。
  『頂の白』は一度だけ鼻で笑い、怪訝な表情の剣士に口だけで謝罪を述べた。

「すまない……しかし……なんのつもり、か」

  一切動揺せず、自身のペースを崩さずに語り続けた。その言葉はやはり淀みない。

「なんのつもりかというならば……吾輩はこの世界を拒絶するつもりだ。それだけだ」
「性に対する寛容さは確かに、我輩が過ごしてきた日本よりも格段に高い。
 PMなどというお粗末な首輪もなく、人間はより人間らしく生きていける。
 だが、それにしても、世界は未だに我らを嘲り笑っているのだ!」

  『頂の白』の目に浮かぶのは、彼の元いた世界。
  あの世界が特殊なだけだと思っていた。
  性に対する規制があまりにも進みすぎた世界だったからこそ、『頂の白』も受け入れられることがなかったのだと。
  しかしそれは彼の思いあがりだった。
  世界は、ところが変わっても、彼を受け入れなかった。
  その事実が、あまりにも、あまりにも、悔しくて悔しくて仕方がなかった。
  だから彼は拒絶する。この世界を、全ての世界を、すべての世界に敷かれたこの『性への抑圧』を拒絶する。
  それが、先の放送に込めた心のたけの全てだ。

「君にも問おう」

  『頂の白』が一歩進む。剣士の剣が揺れる。

「性とはなんだ!」
「吾輩の掴んだ『性癖(リアル)』は、笑われるものなのか! 我らは―――」

「もういい」

  『頂の白』の言葉を剣士が遮る。
  その言葉には怒気を感じさせ、その身体の隅々、その切っ先まで殺意を込めて。

「貴様が度し難い変態だというのは理解できた。一切の容赦なく、この場で切り捨てよう」


519 : 全て遠き理想郷  ◆tHX1a.clL. :2015/08/23(日) 12:10:53 DVxd6fw.0

  その答えを聞き、『頂の白』は再び、今度は声を上げて大きく笑った。

「―――所詮、相容れぬか」

  『頂の白』は笑う。声を上げて、たか笑う。
  そしてゆっくりと手を天に振り上げる。

「来い、赤道斎!」

  ベチョォ!と身体に貼り付けた白パンを叩く。
  剣士が踏みだそうとして、攻撃を察知して大きく飛び退る。

「『赤道の血よ、来たレ』」

  呪文とともに赤黒い衝撃波が走ったのは、飛び退ったその直後であった。
  衝撃波が遠いビルにぶち当たり、向かいのビルを打ち壊す。
  まさに魔術の粋と呼ぶにふさわしい威力で放たれた『それ』を確認して、剣士はその切っ先に捉える敵を改めた。

「相容れぬ……ならば貴様らは、この赤道斎の敵となるわけだ」

  攻撃を放った人物の方に向き直る。
  そこに立っていたのは……やはり、『変質者』だった。
  要所要所だけ見れば貴族と言って差し障りない。
  整った顔立ちにオールバックで纏められた白髪。豪奢なマントに同じく気品漂う上着。
  しかし、下半身には何も付けず、逆に顔には女性用の下着(パンツ)を装着している。総合点で言えば確実にマイナスで『変質者』だ。
  剣士が一瞬そのトンチキな様相に面食らう。その一瞬を『赤道斎』と名乗った男は見逃さない。

「先に行け、『頂の白』」

「そうさせてもらうよ」

  赤道斎の魔力の放出による後押しを受けて、『頂の白』は飛び上がり闇夜に消える。
  『頂の白』が見えなくなったのを確認し、赤道斎は優雅な立ち姿のまま空に浮かび上がった。
  剣士の方も、『頂の白』ではなく彼より強大な力を持った赤道斎に目を向けている。

「さぁ、しばらく付き合ってもらおうか。異国の剣士よ」

「だが、貴様は―――」

  剣士の言葉は、赤道斎の魔術によってかき消された。
  そして、剣士の剣と赤道斎の大魔術が交わる。


  その日の新宿・歌舞伎町の夜はひときわ輝いていた。


520 : 全て遠き理想郷  ◆tHX1a.clL. :2015/08/23(日) 12:12:44 DVxd6fw.0

▽ 赤道斎


「無事だったかね。『頂の白』」

「赤道斎か」

  新宿区、歌舞伎町の萎びたバーの中。
  夜の闇すら届かぬ闇の中で、再び二人の変態が邂逅する。
  かたや下半身丸出し。
  かたや全身に女性用下着貼り付け。
  見た目からもう奇々怪々な二人だが、その話口だけは真面目この上ない。

「剣士(セイバー)相手に立ちまわって無傷で生還とは、成程、大魔術師の名は伊達ではないようだな」

「幸い、『対魔力』が低かったようでな。如何に大魔術師とは言え、相手によっては苦戦も強いられるだろう」

  謙虚な物言いだが、実際赤道斎の身体には傷ひとつついていない。
  一介の魔術師が、三騎士と言われている『セイバー』を相手取ったと考えれば勲一等以上の働きだ。

「そちらの方はどうかね」

「現在、『群れた布地』メンバーには<新宿>区内に存在する全てのランジェリーショップの全てのマネキンの顔面パーツにパンツを装着させる任務に付かせている。
 そのテロ行為や先ほどの放送ジャックの甲斐もあり、NPC内に『群れた布地』の構成員は増え続けている。更に構成員とまでは行かないものの、無自覚な協力者も現れ始めたほどだ。
 世界は既に動き出している。より素晴らしき理解ある世界へ」

「そうか……上々だ」

  赤道斎もまた、『頂の白』の成果を聞き、満心を得る。
  やっていることは傍から見れば下らないいたずら。
  だが、この行為の意味するところはキャスターの『陣地作成』だ。
  ランジェリーショップに設置された顔にパンツを装着したマネキンを見たものは、その下着越しにキャスターのカリスマに触れて無自覚のうちに『群れた布地』の構成員となる。
  また、走り回る『群れた布地』構成員を見たものも同じだ。その頭部に装着された色とりどりの下着の神秘に触れ、自らの欲望を取り戻し、『群れた布地』の支援者となる。
  今もなお、この<新宿>の地に陣地は広がり続けている。
  白ワインが飲み干され、ベチョォと音を立てて『頂の白』の身体に新たな下着が貼り付けられる。
  並んで置かれていた飴色の影をバーカウンターに落とす高級な酒の水面が揺れる。
  赤道斎の脳裏によぎるのは、『抑圧された世界』の記憶。
  人間を否定する世界。
  息苦しい世界。
  人間が人間らしく最低限度に文化的な生活すら送れない(少なくとも赤道斎はそう思っていた)世界。
  抑圧された感情は、いつだって出口を求めて彷徨っている。
  赤道斎は『頂の白』の夢を通して彼の世界を知った。
  まさにディストピアと呼ぶべきその世界では、全ての性を否定したが故に人類は間違った方向へ歩み続けていた。
  世界を、あんな『下らない世界』に変えてはならない。
  世界を、今は遠き理想郷へと導かなければならない。
  幸いにして、この戦争の先には『聖杯』がある。あれは『大殺界』と同じく運命を塗り替える力がある。
  それを手にし、理想郷を作り上げるのは大前提。その前に赤道斎らは戦争を生き抜かなければならない。
  戦争に向かうのは、一人の魔術師(ヘンタイ)と一人の革命家(ヘンタイ)。そしてこの新宿の地も差別と欺瞞に溢れている。
  ならば―――

「さぁ、すべての欲望に光を授けようではないか」

      ―――手始めに、この地を抑圧の開放地区にするまで。
  まずはこの<新宿>を全ての変態願望を肯定する『理想郷』へと作り変える。
  遍く世界で虐げられてきた同志を募り、永久の安寧を得る。
  そしてその先で、輝かしいばかりの栄光を掴み、世に本当の自由を与える。

「征くぞ、キャスター……『理想郷』をこの地に築くのだ。
 赤道斎の名のもとに、作戦名『全て遠き理想郷(アヴァローン)』を開始する」

  下半身を隠すことを過去にしたマスター、現代に蘇りし大魔術師・赤道斎。
  下着を愛でることに未来を見たサーヴァント、『群れた布地』首魁、キャスター(一ノ瀬琢磨/『頂の白』)。
  世にもお下劣な紅白が新宿の夜の闇に跳梁する。
  彼ら二人がいる限り、変態達の未来は明るい。


521 : 全て遠き理想郷  ◆tHX1a.clL. :2015/08/23(日) 12:13:35 DVxd6fw.0

【クラス】
キャスター

【真名】
一ノ瀬琢磨/『頂の白』@下ネタという概念が存在しない退屈な世界

【パラメーター】
筋力:E 耐久:E 敏捷:E 魔力:D 幸運:E 宝具:D

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
陣地作成:E
同志を募り、彼の陣地であり宝具である『群れた布地』を展開できる。
陣地というが形はなく、ただ趣味嗜好を同じくするもの同士での心の共有である。
が、心の共有であるがゆえに強固であり、性癖干渉以外のすべての対陣地スキル・宝具を無効化する。

道具作成:―
他人の使用済み下着にしか欲情できないので自分で作ったりはしない。
白ワインとかなら作れるけどあれは違うでしょ。

【保有スキル】
神秘付与(下着):D
キャスターの秘術中の秘術。『頂の白』状態で発動可能。
このスキルを持つものが物体に触れると、実在のものでも神秘を纏い、宝具としての活用やサーヴァントへの干渉が可能な武器として使用できるようになる。
キャスターはすべての下着に神秘を与えることが可能。
更に下着を『顔に装着』している者は同ランクの神秘とサーヴァントへの干渉能力を得る。

カリスマ:E++++
志を同じくした者、つまりは同志を導くカリスマ。
彼のカリスマは範囲は狭く相手を選ぶが、同志ならば深く・広く受け入れることが出来る。
また、性に対して憧れや倒錯した感情を逆手に取ったカリスマであるため、そういった点で付け入れた個人に対しては絶大な効果を及ぼす。
このカリスマは彼及び彼の神秘を纏った『群れた布地』が触れた下着越しにも拡散される。

情報拡散(偽):A
情報を世間にばらまくスキル。
ただしバッドスキルではなく彼が望んでばら撒くという性質からランク表記がある。
彼及び『群れた布地』が行動を起こすたびに彼らの情報は拡散され、志を同じくする者達への吸引力となる。
このスキルとカリスマがあるから陣地の作成が出来る。

審美眼(下着):A-
下着を見、嗅ぎ、味わい、判別する能力。
数十メートル先のパンツの元所有者を判別できる、匂いでパンツの所持を判別できるなどこと下着に関しては超一流の審美眼を持つ。
マスターのパンツを被れば彼/彼女の人となりが、英霊のパンツをかぶれば真名・逸話・宝具が判別可能。
ただし本職はパンツであり、他の下着だと効果が下がる。

性癖解放:EX
彼の神秘を受けたものは自身の性癖に正直になる。
カリスマと合わせて陣地作成の補助スキルとなる。
マスターやサーヴァントでも対象にすることが可能。


522 : 全て遠き理想郷  ◆tHX1a.clL. :2015/08/23(日) 12:14:17 DVxd6fw.0
【宝具】
『群れた布地』
ランク:E 種別:陣地作成/対人 レンジ:愛が届く場所 最大捕捉:999
陣地作成を担う宝具。
彼が下ネタテロを起こすたびに理解者は増えていき、理解者は皆『群れた布地』のメンバーとなる。
陣地は際限なく広がり続け、陣地を心に宿した同志は彼の招集の声で作戦決行場所に集まる。
この宝具はNPCだけでなくマスターやサーヴァントにも効果を及ぼすが、彼らの強い意志をねじ曲げてまでこの陣地が彼らの心に蔓延ることが出来る思えない。

『頂の白』
ランク:D 種別:変態 レンジ:99 最大捕捉:999
ムレムレの白パンが数十枚集まることでキャスターが自身の欲望を開放した姿。
その身体に貼り付けた下着の一枚一枚が神秘の塊。
この姿になった時、彼が触れたすべての下着とその下着を頭に装着している人物にこの宝具と同程度の神秘を授ける。
さらに自身の身体に貼り付けた白パンをベチョオッ!と叩くことによって精鋭を呼び出せる。
呼び出す精鋭は彼の心次第。大体はマスターを呼び出すことになる。

ただしこの宝具を発動するには少なくとも一枚は鮮度の最も良い下着(半日程度身に付けられていて脱がれてから一日以内のもの)が必要。
そしてこの宝具の解放を終えると、下着に付与された神秘は消え失せる。
神秘を持続させたいならば、凄く目立つ『頂の白』でいつづけなければならない。

『下ネタテロは我が為に』
ランク:E 種別:固有結界 レンジ:99 最大捕捉:42
42の交通機関をハイジャックして、その中に居る人物から下着を奪うという完全にアレな宝具。
ただしこの宝具の解放が終わればキャスターは刑務所に連行される。
脱獄は可能だが『頂の白』の逮捕は『群れた布地』の壊滅と彼の失墜を意味するため発動したら負けと思った方がいい。

【weapon】
なし。
強いて言うなら精神攻撃と感染力。

【人物背景】
『SOX』を世界の悪に仕立てあげた男。


523 : 全て遠き理想郷  ◆tHX1a.clL. :2015/08/23(日) 12:15:01 DVxd6fw.0

【マスター】
赤道斎@いぬかみっ!

【マスターとしての願い】
すべての欲望が肯定される世界へ。

【能力・技能】
・大魔術師
稀代の大魔術師。
攻撃・防御だけでなく幻術・催眠術・捕縛術・監視術なども使えるオールラウンド魔術師であり、因果律を操る妖狐おして「人間という枠を超えた化け物」と称された。
主に攻撃・防御に応用の効く衝撃波発生魔法『赤道の血よ、来たレ』『赤道の血よ、アレ』を主に使う。
『アレ』は己の使う呪文に対して魔術基板を用意してそこにアクセスすることで呪文の省略を行っている(スキルで言う『高速神言』)。
呪文は短いがれっきとした二節の呪文であるため『アレ』でも対魔力Cまでなら対応が可能。
長い詠唱の魔法も存在するが、こちらは『アレ』より一段階威力は高くなる。
対魔力Aは貫けないが、それでも並のサーヴァント相手なら(神秘さえ纏えれば)相手になる。
そして、魔力量は桁外れ。基礎霊力の放出だけでも漬物石を10000個は吹っ飛ばせるらしい。
魔力による戦闘能力の補助でも行っているのか、ビルを壊す攻撃に耐えたり同程度の攻撃を繰り出したりも可能。

『月と3人の娘』シリーズはすべてあちら側の世界においてきたので使用不可となる。
ソクラテスやクサンチッペも居ない。大殺界も当然存在しない。
だが、時間と魔力を割けばこの地でも新しく魔具を作ることは可能。今回の聖杯戦争では既に『公共の電波を三分間だけジャックできる魔具』を作り上げている。

・露出癖
上半身は高価なマントと貴族のような服を、下半身にはプライドという名の服を着ている。
つまり下は全裸。パンツもないから恥ずかしくないもん!
神すらひるませるその素っ頓狂な行動は、相手によっては隙を作ることが可能。

【人物背景】
神仙に最も近づいた人間。齢数百歳の魔法使い。
個人の魔力による運用が可能な大殺界という『陣地作成』。
月と3人の娘シリーズという変態魔装具を作る『道具作成』。
更に二節以上の呪文の他に『月と3人の娘』を介せば儀式呪文の単独での使用も可能というどう見ても彼のほうが正統派キャスターである。
その力の強さと歪んだ倫理・理想故に世界から放逐されてしまった。
時間軸としては復活直前からの参加となる。

【方針】
新宿に眠るすべての欲望を肯定する。
そのために、手始めにNPCたちを全て『群れた布地』に覚醒させてマスターを炙り出す。

戦闘は赤道斎任せ。赤道斎に使用済み下着をかぶせて戦わせて勝ちを狙いに行く。
赤道斎は素の殴り合いも強く、魔法も多種多様で強い。サーヴァントとして呼んだらキャスター最優レベルの人物。ただし変態。
弱点はキャスターの存在、と断言していい。
キャスターが『頂の白』として顕現していなければ赤道斎の魔法も通用しないが、『頂の白』はあまりに目立つ。
そのため、肉壁代わりの同志を用意し続けて、撹乱のために彼らにも神秘の宿ったパンツをかぶらせる必要がある。
幸い、キャスターは『頂の白』でも常人並の魔力反応しか発生しないため、パンツを被った赤道斎がサーヴァントと誤認してくれる可能性も高い。
『下ネタテロは我が為に』はデメリットしかないため使ってはいけない。


524 : 全て遠き理想郷  ◆tHX1a.clL. :2015/08/23(日) 12:15:11 DVxd6fw.0
投下終了です


525 : ◆3SNKkWKBjc :2015/08/23(日) 17:24:47 F.ez24Nk0
皆様投下乙です。私も投下します。


526 : どうしてそうなの ◆3SNKkWKBjc :2015/08/23(日) 17:25:43 F.ez24Nk0
都市伝説と聞いて、どこにもある話題だと思ったのではないだろうか?
確かに平凡で下らない、非現実的だが耳に入っても不思議に思わない話だ。
真偽はともかく。
『そういう』類の話題はどんな時代であれ途切れず、尽きることはない。
何百年前に流行した妖怪の話が、現代においてもまだ語り継がれるのだ。
もはや生粋の噂好きの種族と言わざる負えない。

次に、新宿の都市伝説と聞いてどう思っただろうか?
別に新宿も『そういう』噂が流行っているのだなと関心する程度かもしれない。
だがしかし、あえて<新宿>という地名に限定されると引っ掛かりを覚える。
意図的に<新宿>を発生源にさせようという意志が存在しなければ
瞬時に<新宿>という単語すら口には出来ない。
その一点には理由があった。
<新宿>は近年、大震災に見舞われたからだ。

ならば、<新宿>で幽霊の群れが現れる都市伝説はいかがだろうか?
原因は納得できるはず。
<新宿>で震災が起こり、それにより死に絶えた成仏出来ぬ霊魂たちが群れなし、夜な夜な街を徘徊している。
一方で不謹慎だと嫌悪感を抱くかもしれない。
<新宿>で多くの犠牲者が出た。相手は自然災害で恨みようがない。
だとしても、死者の魂が実際に彷徨っていたとしてもだ。
それを都市伝説など興味本位に足を突っ込むような噂にするのは、限度が過ぎている。
何故、そんな都市伝説が噂されているのか?
実際に『出る』以外、理由はない。


最終的に何を申し上げたいか。
これで最後である。

最後に――……





<新宿>で、謎の殺傷事件あるいは器物損壊事件が多発するようになった。
犯人像および犯行目的は不明。
被害にあったものに特徴はなく、無差別ではないかと警察は推測している。

路上でたむろっていた若者たち
復興してようやく店舗を再開した居酒屋
近所に騒音被害をもたらしていた暴走族
集団下校をしていた小学生と引率の教師

善悪の区別もなく、人々は斬られ、そして物は破壊されていた。
台風が通り過ぎたかのような荒々しい光景。
ようやく訪れた平穏をかき消すかのような事件に<新宿>の一部地域は恐怖に飲み込まれている。


何故、このような事件の目撃者がいないのか?
目撃者は何人かいる。
しかし、全て信憑性に欠けるものだった。


527 : どうしてそうなの ◆3SNKkWKBjc :2015/08/23(日) 17:26:29 F.ez24Nk0



今日も幻影を引き連れ、彼は人を滅ぼす。

男は刀を無情に振り下ろし続けていた。
地球に蔓延る人間のごく一部を殺した程度で滅びは生じない。
理解しているかは定かではない。
それでも人を滅ぼし続ける他なかった。

彼のサーヴァントは残虐非道をただ傍観しているだけ。
止めもしない。
かける言葉が見つからない。
セイバーは、男の『刀』だった。


だからこそ、何も、どうすることもできない。
正直、目も当てられない。制止を謀りたい気持ちが強い。
しかし、主はその虐殺を望んでやっており、自らの手で犯している。

『一つだけ……聞いても良いか』

セイバーの念話に男は答えない。
歩みが止まる様子もなく、仕方なくセイバーは続けた。

『アンタは、俺のことを覚えているか?』

『「俺たち」のことを――忘れちまったのか?』

静寂だけが広がった。
思わずセイバーは舌打ちをし、そして納得をする。

そりゃそうだ。こんなの分かり切ってたじゃねぇか。もうこの人は、俺の知ってる人じゃねぇ。
頭で分かってるってのに……それでも、やっぱり。

己の情けなさを責めながらも、セイバーは言葉を紡いだ。

『もう何も言わねぇよ。アンタがどれだけ人を殺そうが、憎もうが、もう何も言わねぇ。
 けど――俺は今、サーヴァントだ。あの時……俺がアンタに出来なかった事をさせてくれ』

男はほんの一瞬。
一瞬だけ足を止めたが、歩み続けた。
人を滅亡させようと<新宿>を徘徊し続けた。






最後に――<新宿>で多発する事件であり、語り継がれ出した都市伝説を語ろう。

それは一人の男が怨霊を引き連れ<新宿>の街を徘徊しているという噂。
男は無差別に人を斬り、怨霊もそれに従う。
まるで百鬼夜行そのものだったと目撃した人間が口にした。
他にも奇妙な点があった。
怨霊は『新撰組』の怨霊ではないか、との噂。
そして、怨霊を引き連れた男がどこかで見た顔立ちだと思えば――『土方歳三』に酷似した男だったという噂。

実際、事件の目撃者たちは噂と同じ内容を警察の職務質問で繰り返してばかり。
馬鹿馬鹿しいが、あまりにも現実味のない情報に警察も目撃情報がないと発表するしかなかった。
何故、震災があった場所で『新撰組』の怨霊が現れるのか?
主犯者と呼ぶべき男は果たして『土方歳三』なのか?
舞台の登場人物にもなりえない街の人間が、真相に至る事はない。


今日も<新宿>で、男は人を滅ぼす為、刀を振り下ろす。
もう、人は滅ぼすしかないのだから。


528 : どうしてそうなの ◆3SNKkWKBjc :2015/08/23(日) 17:27:15 F.ez24Nk0
【クラス】セイバー
【真名】和泉守兼定@刀剣乱舞
【属性】混沌・善

【パラメーター】
筋力:A 耐久:A 敏捷:C 魔力:C 幸運:D 宝具:C

【クラススキル】
対魔力:C
 魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。
 大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:E
 申し訳程度のクラス別補正


【保有スキル】
刀剣男士:D
 日本刀の付喪神。
 同ランクの「神性」「直感」スキルを有している。

二刀開眼:C
 打刀と脇差による防御無効の連携攻撃。
 「堀川国広」がいる戦闘時のみ発動可能。

拷問技術:A
 卓越した拷問技術。このスキルは彼の主に影響されたもの。


【宝具】
『誠の旗』(偽)
ランク:C 種別:対人 レンジ:- 最大補足:4人
 新撰組隊士の生きた証であり、彼らが心に刻み込んだ『誠』の字を表す一振りの旗。
 本来は新撰組の隊長格全員が保有する宝具だが、
 セイバーは土方歳三の愛刀という特殊な立場により疑似的なものを保有している。
 この宝具により召喚できるのは「加州清光」「大和守安定」「長曽祢虎徹」「堀川国広」の刀剣男士。
 全員が独立したサーヴァントで、Eランク相当の「単独行動」「刀剣男士」のスキルを有している。

【Weapon】
日本刀

【人物背景】
名工・兼定の作であり、新撰組副長・土方歳三が愛用した刀。

【サーヴァントとしての願い】
刀だからこそ刃になり、サーヴァントだからこそ主を守る。



【マスター】
土方歳三@ドリフターズ

【能力・技能】
廃棄物
 一種の「精神汚染」に近いもの。
 霧状の新撰組隊士の幻影を産み出す能力を有している。

【weapon】
日本刀

【人物背景】
本来の人格から変わり果てたので参戦以前の経歴は省く。
もはや人を滅ぼすしかなく、人を滅ぼすことしかしない。
ただ、士道を重んじる姿勢は彼の中に残されている。


529 : ◆3SNKkWKBjc :2015/08/23(日) 17:27:42 F.ez24Nk0
投下終了です


530 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/23(日) 17:43:37 TwZdjf9s0
皆様、投下お疲れ様です。
候補作を投下します。


531 : テオドア&ランサー ◆ACfa2i33Dc :2015/08/23(日) 17:44:22 TwZdjf9s0

 ――姉が失踪した。

 前兆は、あったと言えばあった。あるいは彼がそれを前兆であったと理解するよりも多くの前兆を、おそらく姉は発していた。
 だが正確に、彼が姉の心情を理解していたわけではないし――
 ただ結果として、主たちの元から姉は去ったのだ。それに言葉を挟む余地はない。

 別に、特段として、彼は姉を心配しているわけではなかった。
 彼女は強い。――もう一人の姉と、どちらが強いかは……考えたくないが――彼が心配をする必要など、ありはすまい。

 故に、それを知った時彼が考えたこととは、

 ――自分は……『テオドア』という存在は、蚊帳の外にいるのだと、そういうことだった。


                         ∇


532 : テオドア&ランサー ◆ACfa2i33Dc :2015/08/23(日) 17:44:46 TwZdjf9s0


 掌の中で、澄んだ蒼色の鍵が淡い光を放っていた。

 契約者の鍵。
 資格を持つマスターを、聖杯戦争へと誘う招待状。

 テオドアは、この鍵が自らを『選んだ』理由に、皆目見当がつかない。

 聖杯戦争に参加するほどの願いはない。
 外の世界を見てみたいという思いを抱いたこともあったが、それがまさか聖杯戦争に招かれるほどの望みとも思えない。
 何より――

(――私は、選ばれなかったのだ)

 その思いが、テオドアにはある。
 選択されなかった者が、選択の機会を受けなかった者が、何故聖杯戦争の参加者になど選ばれたのか――

 「決まってるじゃない」、と彼女は言う。
 「選ばれたかったからだよ」、と彼女は言う。

 彼女。
 テオドアが聖杯戦争において召喚した、ランサーのサーヴァント。
 英霊――そのような言葉とは似ても似つかぬ、しかし、それ以上を抱えた少女。

 彼女は、テオドアの事を知っているのだという。
 ……正確には、『選ばれた』世界のテオドアのことを。

 彼女と共に、テオドアは街を巡ったのだという。
 テオドアの依頼を受けて、彼女はタルタロスや街中を走ったのだという。
 それこそ、姉と『彼』のように。

 ――今の彼には認識不能な感情が彼の中を駆け巡ったが、やはりそれは認識できなかったので、テオドアは、理解できない不快感に顔を軽く顰めた。

 「大丈夫?」と、声をかけてくる彼女に、テオドアは問題ありませんと返して、彼女の後を追った。
 ベルベットルームから出たことのないテオドアに、外の世界の知識は無い。
 故に、彼女から現代の知識を教えてもらわなければいけない。
 サーヴァントから現代のことを教えてもらうマスターなど、まるきり立場が逆ではあるが。

 ……契約者の鍵がテオドアを選んだ理由は、本当に『選ばれたかった』からなのか。
 だとすれば、『選ばれた』この聖杯戦争で、テオドアはどのような行動を取ればよいのか?
 彼女と共に、それを探すのが、今のテオドアの目的だった。


 そのテオドアの掌の中で、変わらず藍色の鍵が淡い光を放っている。

 ――はて、この鍵はそもそも。どのようにして、手に入れたものであっただろうか?


533 : テオドア&ランサー ◆ACfa2i33Dc :2015/08/23(日) 17:45:11 TwZdjf9s0
---

【クラス】
ランサー
【真名】
汐見琴音(女主人公)@Persona3 Portable
【パラメーター】
筋力C 耐久B 敏捷A 魔力B 幸運E 宝具EX
【属性】
中立・善
【クラススキル】
対魔力:A
 Aランク以下の魔術は全てキャンセル。
 事実上、現代の魔術師ではランサーに傷をつけられない。
 その身に宿した"死(デス)"、そして"宇宙(ユニバース)"により、埒外の神秘を誇る。
【保有スキル】
カリスマ:D
 軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において、自軍の能力を向上させる。
 カリスマは稀有な才能で、Dランクでも高校生が持つには破格のレベルの人望である。
心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。
 ランサーは、このスキルを戦術指揮レベルでも活用できる。
専科百般:D
 多方面に発揮される天性の才能。
 複数の専業スキルにおいて、E〜Dランクの習熟度を発揮する。
命の悟り:A+
 生の答えを悟ったランサーの持つ、対粛清防御。
 『菩提樹の悟り』の類似スキル。
 物理、概念、次元間攻撃などのダメージを無条件で減少させ、精神干渉を無効化する。
 スキル「神性」か類似のスキルを持つ者は、ある程度このスキルの効果を軽減出来る。
戦闘続行:A+
 諦めが悪い。瀕死の傷を負ってなお戦闘可能。
 また、決定的な致命傷を受けた場合も、食いしばり生き延びる可能性がある。
【宝具】
『宇宙(ユニバース)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:- 最大補足:-
 ランサーが築き上げた絆の形であり、その内に抱いた可能性そのもの。
 ランサーは宇宙そのものに近い概念を、その内に抱え込んでいる。
 これによって、ランサーに概念攻撃を行う場合は"宇宙そのもの"を攻撃するような労力が必要となる。
 事実上、概念攻撃はランサーにほぼ通用しない。
 無論概念系の攻撃のみに対しての話であり、殴ったりすれば普通にダメージを受ける。

 これはペルソナ能力と『ワイルド』の変化であるため、ペルソナ能力もこの宝具に含まれる。
 現在は『愚者・オルフェウス』しか召喚できないが、それでも最上級の火炎魔術や攻撃スキルを使用可能。(所謂スキルカードとペルソナ合成による魔改造である)
 また、聖杯戦争内での交流如何によっては、新たなペルソナを召喚することも可能になる……かも、しれない。

【weapon】
『無名・薙刀』
 ランサーがランサーである理由である長刀。
 特に謂れのある品ではないが、非常に頑丈で切れ味もよい。

【人物背景】
 滅びという運命に抗い、いのちの答えを知った少女。
 同じ運命を課された少年に比べると、表面上は明るい発言が目立つ。
 「がんばろっ!」や「バッチリ!」の発言頻度が非常に高く、口癖かと思われる。

【サーヴァントとしての願い】
 ???

【マスター】
テオドア@Persona3 Portable
【マスターとしての願い】
 ???
【weapon】
 『ペルソナ全書』

【能力・技能】
 エリザベスやマーガレットと同じように、ペルソナ全書からペルソナを呼び出す。
 テオドアが呼び出すのは天使や悪魔などが主。(ウリエル・ガブリエル・ミカエル・ラファエル・サンダルフォン・リリス・アバドン・ベルゼブブ・ピクシー)

 なお通常攻撃の際、たまに姉と違って回し蹴りをする。

【人物背景】
 ベルベットルームの住人の一人。ベルボーイの格好をした穏やかな青年。
 エリザベスとマーガレットの弟。

 ここにいるのは、『彼』がいなくなった世界のテオドア。

 少女がいない世界には、彼が選ばれるための選択肢も、また存在しない。
 故に、彼は少女に出会わなかった。

【方針】
 新宿の街を巡りながら、自分の願いを探す。


534 : ◆ACfa2i33Dc :2015/08/23(日) 17:45:34 TwZdjf9s0
投下終了です。


535 : ◆zzpohGTsas :2015/08/24(月) 00:15:41 uF3Fcnu20
感想は鋭意製作中です。本当に暫しお待ちを
締切についてですが、日付が8月25日に切り替わった瞬間に、コンペを終了と致します


536 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 03:23:21 dZo/xEVg0
皆様、投下お疲れ様です
私も投下します


537 : これ以上『街が』『不運』になる前に ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 03:24:19 dZo/xEVg0
イギリス情報局秘密情報部本部のとある部屋にて。
薄暗くてよくわからないが、その部屋の中央には英国式の豪華なソファが一対に並べられており、間には気品を感じさせる紅茶の乗ったテーブルがある。
片側のソファにはある男が座していた。
まだか、と落ち着いた様子で指を組んでおり、来客を待ち構えているようだ。

しばらくして、ガチャリ、という音と共にもう一人の男が部屋に入ってくる。
スーツに身を固めており、オールバックの黒髪の髪型、そしてサングラス。
裏社会で暗躍している人物を想像するならば真っ先に思い浮かびそうな、胡散臭さの塊のような外見であった。
男はゆっくりと歩きながら、もう片方のソファへと腰かける。

「よく来てくれた、クロード大佐。先日の件は本当にご苦労だったな」
「いえいえ、新聖堂騎士団の件はいろいろといいモン見せてもらいましたよ。それで、何かご用件でも?
副業に戻った矢先に緊急召喚命令なんて相当な大事なんでしょうね?」

クロードと呼ばれたサングラスの男は足を組みながら目の前に座している男を見つめる。
その表情は涼しげな顔で、内面でどんなことを考えているのかは全く読み取れない。

「ああ、実は君に一つ頼みたいことがあるのだ。これはイギリス本国、いや世界全体の問題になりうる重要な任務でな。無論、他言無用だ」
「それは随分とスケールがデカいですね…。俺なんかに務まるんですか?」
「君に頼むのは先日の新聖堂騎士団の件での功績を考慮してのことだ。
これはクロード・ダスプルモン大佐の任務であると同時に、イギリス情報局から新華電脳公司エージェント・塞への直々の依頼でもあるのだ。
勿論、報酬は好きな額を言ってくれていい。それほど大事な任務なのだ」

クロード――もとい塞は顎に手を当ててしばしの間考えた後、「わかりました、お受けしましょう」とその任を受けることを認めた。
塞とはクロードが部外者に対して名乗っている名であり、本名のクロード・ダスプルモンを知る者は世界に数えられるほどしかいない。
新華電脳公司のエージェント・塞。産業スパイから殺しまで何でもござれ、任務成功率100%の凄腕として業界では通っている。
その正体はイギリス情報局秘密情報部(MI6)に所属するエージェント。階級は大佐。
「8番目の許可証保持者(殺人許可証を持つエージェント)」とも呼ばれている。

「しかし、任務の内容にもよりますね。何が始まるんです?」
「そのことなんだが…アレを見てもらったほうが早いだろう。…おい!」

塞に任務を依頼した男は、部屋の隅に待機させていた部下に呼びかける。
それを受けた部下は若干慌てた様子で、厳重にロックされたアタッシュケースをテーブルの上に置き、塞と男の両方に見えるよう配慮して開いた。
その中に入っていたのは――


538 : これ以上『街が』『不運』になる前に ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 03:25:21 dZo/xEVg0

「…鍵?」
「おっと、今は触らないでおくれ。手に取ったらいつ『飛ばされる』か分かったものではないからな…」

澄んだ青い色をした、鍵であった。
それと同じ形をした濃い色のクッションの凹部にはめ込まれている。

「これはイギリス情報局が独自のルートを使って何とか手に入れることのできた『契約者の鍵』だ」
「へえ、よくわかりませんがそいつはすごい。それで、任務の内容は?」

『契約者の鍵』。それを所有した者は新宿へと旅立ち、街の中の戦場を疾る戦鬼と見なされる。
イギリス情報局は、この塞という男に鍵を渡すために入手してからだれも鍵に触れてはいない。
アタッシュケースに保管されていたのもそのためだ。

「君にはこれから契約者の鍵を手に取り、<新宿>へ飛んで聖杯をイギリス情報局に持って帰ってほしい」

――こりゃまた厄介なことに首を突っ込んじまったな…

鍵を手に取る直前、塞は内心で小さく呟いた。


◆ ◆ ◆


<新宿>のとある路地裏、深夜を回っている時間帯で近くに街灯もなく、とても暗いが、
その路地裏の中で唯一光るネオン看板が闇を照らし、辺りが真っ暗闇になる事態を防いでいた。
ネオンの光はその後ろにあるバーの店の名前を象っており、その青い光に虫のみならず人も寄せられそうだった。
そして、たった今それに吸い寄せられたように二人の男女が看板の背後にあるドアを開いた。
ドアを開くと下へ階段が続いており、バーは地下にあることを示していた。

「いらっしゃい」

中にいたバーのマスターが入ってきた客に声をかける。
このバーも外に負けず劣らず暗く、店内にある申し分程度の電灯と、カウンターの奥に並ぶ大量の酒を照らす光だけで視界を確保しなければならない。
男がカウンターの座席に座り、それに続いて女がその隣に座る。
二人が夜をほっつき歩いているカップルかといえばそうではなく、男も女もスーツに身を固めており、夜なのにサングラスをかけている。
その外見はかの都市伝説のMIBを想起させる。
どちらかといえばこの二人はカップルというよりかは仕事仲間の間柄のように見えた。
共通しているのは髪型が男女ともにロングヘアーであることくらいだ。
他方で髪の色は全く違い、男の方は黒髪だが、女の方は薄紫色だった。

バーのマスターはメニューを二人に配り、注文を伺う。
二人から店オススメのカクテルの注文を受け取ると、マスターはそれを用意するために一度店の奥へ引っ込んだ。


539 : これ以上『街が』『不運』になる前に ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 03:26:10 dZo/xEVg0

「厳しいねえ…」

塞は天井を仰ぎながらため息交じりに言った。
いつしか頭に記憶されている話によると、願望機・聖杯を手に入れるには聖杯戦争をサーヴァントと共に勝ち抜かなければならないとのことだ。
任務を依頼した男が言うには、聖杯をいち早く奪取してイギリス情報局で保管し、その存在を世間から隠さねばならないらしい。
万能の願望機・聖杯の存在を否定する情報工作を世界中におこない、それを巡る無益な争いを未然に防ぐのが目的のようだ。

そして塞は契約者の鍵の所有者となり、晴れて<新宿>へ渡ったのだが――。

「どうせなら仕事がやりやすいようにタフそうなサーヴァントがよかったんだがな…」
「…これでも人間よりずっとタフな自信があるわ」

塞のとなりに座している少女がサングラス越しに彼を見る。
塞にサーヴァントの愚痴をこぼされたことが少し面白くないようだ。
言うまでもないが、この薄紫色の髪の少女こそが塞のサーヴァント――鈴仙・優曇華院・イナバ。アーチャーである。

サーヴァントが召喚される際に触媒を用意していれば特定の英雄を狙って召喚できるらしい。
どうせなら上《イギリス情報局》は契約者の鍵だけでなく触媒としてアーサー王の聖剣の鞘でも用意できなかったのかと塞は思ったが、
どうやら契約者の鍵を手に入れるだけで手いっぱいだったらしい。

「お待たせしました」

バーのマスターが塞と鈴仙の前に注文したカクテルを差し出す。
その間、塞は何を思ったか鈴仙とバーのマスターを見比べていた。

「…やっぱり、あのマスター気付いてねぇな」
「何に?」
「お前のそのウサ耳にだよ」

塞はそう言って鈴仙の頭上にあるウサギの耳を指さした。
普通の人間が鈴仙を初めて見るならば、真っ先にそのウサ耳へ目が行くだろう。
しかし、塞の見たバーのマスターは鈴仙の頭上を二度見するどころか見向きもしなかったのだ。
鈴仙は元は月に住んでいた月の兎である。
本来はこれに加えて夏服風のブラウスに赤いネクタイを着用しているのだが、今は塞に合わせてスーツとサングラスで身を固めている。
しかし塞から見れば、ウサ耳もあってかなり異様な外見をしていた。
…塞から見れば、の話だが。


540 : これ以上『街が』『不運』になる前に ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 03:27:57 dZo/xEVg0

「それは私が周囲の人間の認識の波長を弄ってるからよ。あなた以外の人間はこの耳を『見ているけれど視認《み》えていない』。
あと私がサーヴァントだって分からないようにもしてあるから、たとえここにマスターがいても私がサーヴァントとは気付かないでしょうね」
「カワイイなりしておっかないことするねぇ…。バニーガールってのはもっと大人しいもんだと思ってたぜ」
「まぁ、今は孤立とか気にしなくていいし。あなたも聖杯を狙ってるみたいだからね」

そう言って鈴仙はカクテルを口に運び、師匠や姫様のいない世界ってのも新鮮だなぁ、と漏らす。
永遠亭に住む己の主の八意永琳や蓬莱山輝夜が傍にいないのを少し寂しく感じる一方で、なんだか肩が軽くなった気がした。
塞も釣られたようにグラスを手に持ち、こないだ助けたドイツ人の嬢ちゃんといい最近の若い娘はやんちゃで困る、と溢した。
鈴仙から少なくともあなたよりは長く生きている、と横目で返される。
かつて兇眼の杖を渡して救出した少女を思い出しながら塞はカクテルを啜った。

聖杯を獲ることに決めた主従にしてはどこか緊張感が欠けた会話であった。
塞も鈴仙も、これを仕事と割り切っているからなのか折角だから今を楽しもうとしているからなのかはわからない。

「…アンタの赤い目からは、俺のと似たニオイを感じるぜ」
「あなたのと?」

鈴仙はサングラスを外し、真っ赤な瞳に塞の姿を映す。
これを見た人間は感情の波長を乱され、狂気に落ちる。波長を操る程度の能力の賜物である。

「俺の眼を見た奴は即死する。サーヴァントに効くかはわからねぇがな…」
「うひょっ!?即死!?白玉桜の亡霊並に危ないじゃない!」

塞もサングラス越しに鈴仙の方へ眼を向ける。
彼の持つ眼は、兇眼。見た者を即死させるという恐ろしい魔眼。
あくまで奥の手で、サングラスで目を隠しているのも兇眼を無暗に使わないためである。
サングラスの奥にあるはずの眼は全く見えない。まるで眼自体が闇そのもののようだ。

鈴仙の眼が見せる狂気。塞の眼が見せる闇。
それはこの<新宿>を包もうとしている災いの凶兆かもしれない…。


541 : これ以上『街が』『不運』になる前に ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 03:30:10 dZo/xEVg0
【クラス】
アーチャー

【真名】
鈴仙・優曇華院・イナバ@東方project

【パラメータ】
筋力C 耐久C 敏捷C 魔力B 幸運D 宝具EX

【属性】
中立・中庸

【クラス別スキル】
対魔力:B
魔力に対する守り。
魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

単独行動:B
マスター不在・魔力供給なしでも長時間現界していられる能力。
Bランクならば二日程度の現界が可能。

【保有スキル】
波長を操る程度の能力:A+
万物に宿る「波」を狂わせて操作する能力。狂気を操る程度の能力ともいわれる。
光などの電磁波が波で出来ているのは常識のようだが、空間その物が波であり、そこに住む生物や物質も波で出来ている。
当然、生き物の思考も感情も波で出来ていて、その波長が異なる事で性格の差が生まれるのである。
精神の波長を操れば対象の精神を極端な暢気、あるいは狂気へと変調させることができる。
光や音の波長を操り幻覚や幻聴を引き起こす、位相をずらすことで相手と全く干渉しなくなる、狂気の波長を収束してレーザーを撃ち出す、
さらに遠距離の相手と通信することも可能と様々な分野で応用が利く。
Aランク相当の気配遮断、魔眼、正体秘匿を内包している他、魔術の素養がないマスターとも超遠距離で念話できる。
ただし、場合によっては高ランクの魔力、対魔力、スキル次第で抵抗できるので注意。

魔眼:A
アーチャーの赤い瞳には満月と同じ狂気が宿り、覗き込んだものを狂気に落とす。
波長を操る程度の能力の一端で、内包されたスキルの一つ。
具体的には感情の波長を乱され、振幅が極端に短くなるため短気を通り越し狂気へ至り、バッドステータスを引き起こす。
精神干渉を無効化する能力で抵抗可能だが、スキルがBランクの者でも判定次第で眩暈を起こし、敏捷が低下する。

心眼(真):B
玉兎の中でも優秀といわれていた戦闘センスと洞察力。
窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

道具作成:E
地上に降り立ってから従事した師匠・八意永琳から学んだ薬学の知識。
簡単な薬程度なら作成できる。

怯懦:-
臆病な性分。
しかし、長い間地上で暮らすうちに迷いも吹っ切れ、
身も心も地上に堕ちて穢れ(生死)を受け入れたことでこのスキルは失われている。


542 : これ以上『街が』『不運』になる前に ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 03:31:02 dZo/xEVg0

【宝具】
『障壁波動(イビルアンジュレーション)』
ランク:B 種別:障壁宝具 レンジ:―― 最大捕捉:1
アーチャーの使っていたスペルカードの一つ。波長を操る程度の能力の応用。
魔力を消費して対象の周囲に波長を変換する障壁を展開する。
この障壁は自動で敵の攻撃の波長を操作して無力化するという強力な効果を持っており、宝具による攻撃ですらも全て無効化できてしまう。
ただし、一度の展開につき3回までしか攻撃を無効化できないという弱点もあり、効果が切れるとその都度展開し直す必要がある。
その特性上、連続攻撃に対しては相性が悪い。
障壁自体は不可視で、傍から見れば宝具が直撃しても平気でいるように見えるのでハッタリをかけるのも有効。

『紺珠の薬』
ランク:EX 種別:対穢宝具 レンジ:―― 最大捕捉:1人
月にて起こった異変に際して八意永琳が作成し、アーチャー服用するよう渡した未来を見る薬。
アーチャーを介して博麗の巫女を始めとする人間にも届けられた。
本来は八意永琳の宝具となるべきものだが、この紺珠の薬を実際に服用して月の力に対抗したという逸話からアーチャーの宝具となった。
服用すると、文字通り起こり得る未来を実際にそこにいるかのように見ることができる。
これにより、訪れる死を予め体験して知ることで回避するという芸当も可能。
敵の能力や宝具を看破するのに用いるのも有効。何度も未来を見て突破口を模索することでアーチャーは月へ乗り込んでからも戦い続けることができた。
本来ならば無制限に未来を見ることができるのだが、聖杯戦争による制限により、未来を一度見るたびにマスターから魔力が徴収されるので注意が必要。

ただし、未来を見る他に過去を消し去る効果もあり、穢れが浄化されるという副作用もある。
ここでの穢れとは、生きる事と死ぬ事であり、「寿命」と「心境の変化」を与える存在。
服用し続けると、同じ不安に悩まされ続け、嫌な事を忘れることができなくなってしまうだろう。
…とはいったが、サーヴァントとなって寿命も関係なく迷いも振り切ったアーチャーにとってこの副作用は半ば形骸化している。

【weapon】
ルナティックガン
アーチャーの持つ、ウサギの耳をあしらった白い銃。
弾丸を発射するが、生身でも弾丸を撃つことが可能。
波長を操作する能力で軌道をずらして広範囲にばら撒くこともできる。

【人物背景】
永遠亭で暮らす月の兎で藥師の八意永琳の弟子。
元々は月に住む「月の兎」だったのだが、現在は月から逃げ出して幻想郷にある永遠亭で暮らしている。
永遠亭での位置づけは雑用係であり、薬師の師匠である八意永琳に学びつつ、日々様々な雑用を(押しつけられつつも)こなしている。
その仕事内容は永遠亭の主である蓬莱山輝夜のお守から師匠である永琳の補佐、
永遠亭の家事全般や迷いの竹林に住む妖怪ウサギたちの監視統率、そして人間の里へのお使いなど、恐ろしく多岐にわたる。
月に居たころに戦争になると聞いて一目散に逃げ出した経験を持つ。
その際にかつての上司である綿月依姫からは「身勝手な臆病者」と評された。
一方で戦闘のセンスは高いらしく、綿月姉妹からも高く評価されていた。
長い間地上で暮らすうちに穢れの影響を受けて心境に変化があったのか、
10年ぶりに自機として参戦した『東方紺珠伝』の会話では臆病な一面は全く感じられない。

【サーヴァントとしての願い】
塞とともに任務を果たす


543 : これ以上『街が』『不運』になる前に ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 03:33:02 dZo/xEVg0
【マスター】
塞@エヌアイン完全世界

【マスターとしての願い】
聖杯をイギリス情報局へ持ち帰る

【weapon】
特になし

【能力・技能】
体術
主に足技を主体とした格闘術を得意とする。

邪視、特攻邪視
サングラス越しに兇眼で敵を睨みつけ、呪いをかけることで状態異常を引き起こす。
主な状態異常には、防御ファンブル率が大幅に上がる「防禦低下」、敏捷が大幅に低下する「移動低下」、飛ぶと空から燻製ニシンが落ちてくる「跳躍妨害」がある。
より強力な特攻邪視で敵を睨むと、これらの三種をまとめてつける「満漢全席」を付与する。
魔力のパラメータや対魔力のランク次第で抵抗可能。

兇眼
見た者を即死させる魔眼。
サングラスを外し、裸眼で相手を睨みつける。
同時に他人の生気を奪うこともでき、体力と魔力を回復できる他、おまけと言わんばかりに状態異常「満漢全席」を付与する。
魔力のパラメータや対魔力のランク次第で抵抗可能。
ただし、少なくとも邪視、特攻邪視よりも抵抗は難しい。

【人物背景】
情報収集から暗殺まで、裏の仕事なら何でもこなす新華電脳公司の凄腕のエージェント。
人を即死させる「兇眼」と言われる能力を持っており、普段はそれをサングラスの下に隠している。
実は戦時には既に生きていた人間であり、ムラクモにも情報屋として顔が知られていることからもわかるように、
実年齢はかなり高いのだが外見はそれに反して若々しいままである。
これは、兇眼によって他人の生気を奪って若さを保ち続けているためとされている。

その正体は、イギリス情報局秘密情報部に所属する潜入工作員。本名はクロード・ダスプルモンでれっきとした英国人である。階級は大佐。
「8番目の許可証保持者(殺人許可証を持つエージェント)」の異名を持ち、情報部からは最後の切り札とされるなど、その実力は高く評価されている。
一方で、「副業」である新華電脳公司の仕事においてもその名を轟かせるほどの成果を上げており、彼がかつて電光機関を追うようになったのも本来はこの副業のためである。

ミュカレの魂が抜け、瀕死に陥っていた少女・カティを兇眼の杖を渡して助けたことがある。
少なくとも善人ではないだろうが、どこか優しい一面がある。

技のポーズや動作が独特で、奇声に近い独特の叫び声を挙げたりと、どこか色物臭さを感じさせる。
反面、ストーリー中において他のキャラクターよりも謎めいた台詞や描写が多く、ある種の「底の知れなさ」も併せ持っているキャラクターである。

【方針】
聖杯を獲る。
ただし、カティを想起させる無力な少女に出会うと…?


544 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 03:33:25 dZo/xEVg0
以上で投下を終了します


545 : ◆BATn1hMhn2 :2015/08/24(月) 22:20:24 Xrj7PKPs0
皆さま投下お疲れ様です。滑り込みで投下させていただきます。


546 : ◆BATn1hMhn2 :2015/08/24(月) 22:20:49 Xrj7PKPs0
あの〈災害〉がまるで嘘だったかのように、今宵も〈新宿〉には煌々と灯がともる。
街路を行き交う人の流れは途切れず、街は眠る気配を見せない。
今も〈新宿〉を囲う〈亀裂〉さえなければ、この街がかつて再起不能になりかねないほどの大打撃を受けた街だという事実すら皆が忘れてしまっていたことだろう。

だが――あの〈魔震〉の影響は、確かにこの〈新宿〉に残っている。
歪みとも、膿とも、魔そのものとも言えるそれは、少しずつこの地に蓄積し続け――今まさに一つのカタチとして、結実しようとしていた。
〈新宿〉にて繰り広げられる新たな聖杯伝説。灯りに誘われる蟲のように、一人また一人と魔界都市に集う魔術師(マスター)たち。
その中の一人の物語は、〈新宿〉のまばゆいネオンライトすら届かない、薄暗い路地裏にて始まる。

 ◆ ◆ ◆

ぴちゃ、ぴちゃと雨だれの音がする。
夕立ちが降ったのはもう数刻も前のことだというのに、なんでこんな音がするのだろう――と、音がする方を見てみれば、古ぼけて、ところどころ曲がってしまっている雨どいから、水が滴っていた。
あまりのぼろぼろさに、排水という本来の機能すらまともに果たせなくなってしまったのだということを容易に察することが出来る。
中に何かが詰まっているのか、樋には排水しきれない雨水が溜まっているようだ。
ひび割れた部分からじわりと漏れ出した水がぴちゃりぴちゃりと地面に落ちている音が、男の耳に届いていたのだ。

男――年の頃は三十路をいくらか越えたあたりだろうか。痩せぎすの身体に、くたびれた灰色のスーツ。
不潔とまでは言わないが、こざっぱりという形容からは遠く離れた風体の男は、ポケットから煙草とライターを取り出すと、慣れた手つきで火を着け、口にくわえた。
紫煙をくゆらせながら、待ち人が未だに来ないという苛立ちを右足を小刻みに震わすという形で表現する。

男の足下には既に十数本の吸い殻が落ちていた。待ち合わせた時間から、もう数十分は過ぎている。
苛立ちが完全に怒りに変わり、それでもなお待ち人が来ないことに――男は、不安を覚え始めた。
男が小脇に抱えた鞄の中には、数キロの白い粉末が入っている。言うまでもなく、法に触れるたぐいの物だ。

(遅い……遅すぎる。どうしたってんだ。まさか、サツにでも嗅ぎ付けられたか……?)

先ほどから何度も連絡を試みるも、まったく繋がらない。
もしや既に身柄の拘束でもされているのかもしれないと思うと、男は居ても立ってもいられない気持ちになった。
ここには言い逃れできない確実な証拠がある。ここは一旦出直すべきか……? と、男は思索する。

そのとき。「あ、」と男が声を漏らした。焦りのあまり、くわえていた煙草を落としてしまったのだ。
落ちた煙草は風に吹かれ、まだまだ終わる気配のない雨だれのすぐそばまでころころと転がった。
ちくしょう、まだ半分も吸っていなかったのに――と、男は憎々しげに己の手を離れてしまった煙草を見つめた。

そして、気づく。真っ白な煙草に――色が滲み始めたことに。
煙草は、薄紅色に染まっていた。ぽつん、ぽつんと雨だれが落ちるたびに、その色は濃くなっていく。
男の頭の中で、いくつかの思考が同時に浮かんだ。

(それはつまり、水が赤かったということか――?)
(赤……赤といえば、血の色……)
(……なんでだ。なんでアイツは、ここに来ない――?)

ぞわり、と背中を冷たいものが這う。
このままここにいれば、よくないことが起きるという、謎の確信が浮かんでくる。
今すぐにこの場を離れなければならないと、男は走り始めた。
だが、そんな男の目の前に――少女が一人、現れた。


547 : ◆BATn1hMhn2 :2015/08/24(月) 22:21:33 Xrj7PKPs0
薄暗い路地には絶望的なまでに似合わないセーラー服。
頭の後ろで一つ結びにされた、色素の薄い髪。
美しい顔に刻まれた、深い傷痕。
現実離れしたアンバランスで構成された少女が、そこにはいた。

少女の異様さに気圧され、男は立ち止まる。男は、次の瞬間にはその選択を後悔していた。
あんな細身の少女一人、突き飛ばすなりなんなりして強引に逃げ出せばよかったのだ。
ここで立ち止まることのほうが、遙かにヤバい事態に繋がる。それは理解しているはずなのに、一度止まった足は、もう動いてくれない。

狼狽する男を後目に、少女が口を開く。

「おい、おっさん。アンタは――悪いヤツか?」

男は、沈黙を貫いた。客観的に見たとき、自分が悪人に分類される人間だということは男もよく分かっている。
だが、「はい。私は悪人です」と正直に言ったところで、この異常な状況が好転するとも思えなかった。
だからといって、いつものように口先八丁デタラメを並べて善人ですよと嘘をつくのも、正解ではないだろう。
故に男は沈黙を選んだ。否、選ばざるを得なかった――何も選ばなかったがために。

少女は、くんくんと鼻をならした。
そして、美しい顔に似つかわしくない、口の端をつり上げる凶暴な笑みを浮かべる。

「あァ……『臭う』ぜ。これは……この街のにおいだ。
 泥の中に血と悪意をトッピングして腐らせたような……そんなにおいをプンプンさせてるアンタが、善人なワケねーよなぁ?
『許可』するぜ、バーサーカー。コイツを――喰い殺せッ!」

少女の声を聞いた男は、その言葉の意味を理解するよりも早く、脱兎の如く駆け出した。
走れ、走れ、走れ! 今すぐにここから逃げ出せ! ただそれだけを考えて、男は少女とは逆のほうへと走る。
もう何年も全力を出していなかった男の身体は、すぐに悲鳴を上げ始めた。
だがそれでも、男は走るペースを緩めない。
早く逃げなければ大変なことになる――恐怖という至極シンプルな感情に支配され、男は走り続ける。

しかし。走る男の目の前に――またもや少女は現れた。
セーラー服とポニーテール。シルエットは完全に先ほどの少女のそれだ。
だが、よく見てみれば、今度の少女の顔面には傷痕がなかった。
まるで人形のように美しい造形も、先に出会った少女のそれとは微妙に異なっている。

「なんだ……なんなんだ、お前らはッ!」

そんな台詞が、男の口をつく。当然の疑問に、対する少女は答えない。

あぁ、と、男は絶望した。
男は、〈新宿〉の商売人としては、手堅かったのだ。
ボロボロになる中毒者たちを見ながら、それでも薬を売り続けたけれど、自分は一度も手を付けなかった。
だから――男は、目の前に現れた異形を、たちの悪いバッドトリップがもたらした幻覚だと思いこむことが、出来なかった。

それは、二本の角を持っていた。猛牛のように太い尖角の先から、噴炎が立ち昇っている。
それは、牛の頭を持っていた。開いた顎の中には鋭い牙。そして聞く者全てを恐怖させる咆哮。
それは、人の身体を持っていた。何処からか伸びた鎖に拘束されながら、それでも有り余る暴力性を秘めていた。

少女に寄り添うように突如現れた牛頭人身の巨人。
その存在を一言で言い表すことが出来る単語が、男の語彙の中にあった。

「あ……悪魔……!」

怪物が、地面の中にどぷりと沈む。
もはや男は、逃げ出そうとすることさえ放棄していた。
暴牛の顎が己の身体を呑み込む寸前まで――男はただ恐怖に震えていた。

 ◆ ◆ ◆


548 : ◆BATn1hMhn2 :2015/08/24(月) 22:22:34 Xrj7PKPs0
ぐちょぐちょと咀嚼音が響く。べっ、と吐き出された肉塊が、壁にはりついた。
少女は牛の頭を撫でながら、吐き出すだなんてそんなに不味かったのかと怪物へと囁く。
その様子を、“傷有り”の少女――番場真夜は見つめていた。
今はセーラー服に隠れていて外から確認することは出来ないが、真夜の胸元には紋様が刻まれている。
聖杯戦争のマスターである証し――令呪だ。
しかし、本来ならば三画が刻まれているはずのそれは、既に一画しか残ってはいなかった。

「そこらへんにしといてくれよ、バーサーカー。そろそろ――オレは寝る時間だ」

もう間もなく、夜が明ける。真夜の時間は、そこで終わりだ。そこから先は真昼の時間になる。
番場真夜と番場真昼は、俗に言う二重人格者である。夜は真夜が、日中は真昼の人格が表に現れることになっている。

真昼は、真夜と記憶を共有していない。真夜は真昼の記憶を覗き見ることもあるが、その逆はほとんどない。
だから真昼は、自分が聖杯戦争のマスターであるということすら理解していないだろう。
それでいい、と真夜は思っている。真昼に争いごとは似合わない。厄介ごとや汚れ仕事は、全部真夜がやればいい。

番場真夜は、主人格である真昼を守るために後天的に生まれた人格――言うなれば、番場真昼の影である。
影である真夜が願うのは、真昼の幸せだった。
聖杯が願望器として真昼の幸せを叶えてくれるのならば。
真昼を守るという役目を終えた真夜が、真昼の中から消えることになろうともかまわない。

そのためなら何だってやってやろうと、真夜は決めていた。
今宵の殺戮劇も、その一環だ。〈新宿〉に住む人間たちの魂を喰わせることで、僅かでも魔力を確保する。
人命を奪い、裁定者に危険視されるリスクを侵し、それだけの労力を払って得られるのはほんの一握りの魔力。
それでも躊躇はなかった。元々、生きるために暗殺を生業にしていた身だ。

何より――〈新宿〉には、ひどく気に入らないにおいが蔓延していた。
ずっとこの街で生きていれば、慣れきってしまって感じることすらないだろうかすかなにおい。
だが余所者としてこの街に流れ着いた真夜にとって、そのにおいは鼻についた。
自らの私利私欲のために、弱者を食い物にしようとする――かつて真昼を襲った悪意と同種のそれが、この街の根深いところに存在している。
そういうものの上に成り立っている〈新宿〉ならば、どうなってしまってもかまわないと真夜は考えていた。

気づけば周囲は明るくなり始めていた。
完全に夜が明ける前の、世界が青く染まるこの時間が真夜は意外と好きだった。
真昼と交代する瞬間が、自分と真昼の距離が一番近くなる瞬間でもあると感じるからだ。

「あとは頼むぜ、バーサーカー。そのために奥の手の令呪ちゃんを二つも使ったんだからな」

真夜はバーサーカーを召喚した直後に令呪二画をもって二つの命を下した。
曰く、『番場真昼を危険に近づけるな』『番場真昼は何があろうとも守れ』。
日中は真夜が表に出ることが出来ない。真昼を守れるのはバーサーカーだけだ。
番場真昼に与えられた役割(ロール)をこなし、平凡な生活を過ごしている限りそうそう他の主従に目を付けられることもないだろうが、突発的な戦闘に巻き込まれる可能性はゼロではない。
万全を期すために切り札である令呪を二画も消費したわけだが――それでも不安はあった。
少なからず狂化の影響を受け、意志疎通が困難になっているバーサーカーが、本当に自分の命令を遵守するだろうか――と。
何よりも、このバーサーカーは――

「――っく」

意識が遠のく。今度こそ本当に、時間が来たらしい。
抗いがたい眠気に襲われて、番場真夜は番場真昼にバトンを渡した。

 ◆ ◆ ◆

番場真夜に召喚されたバーサーカーは、マスターと同様に『影』として生まれた存在だった。

その真名は――シャドウラビリス。

彼女の願いは、ただ一つ――『本体』であるラビリスを含む全ての存在を壊し、自らが『本物』になること。

『主』の幸せを願うマスターと、『主』に成り代わろうとするサーヴァント。
よく似ているようで正反対の二人が〈新宿〉にて果たす【役割】とは――はたして、如何なるものになるのだろうか。


549 : ◆BATn1hMhn2 :2015/08/24(月) 22:23:11 Xrj7PKPs0
【クラス】

バーサーカー

【真名】
シャドウラビリス@ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ

【ステータス】
筋力C(A) 耐久C(B) 敏捷C(C) 魔力D(C) 幸運D(D) 宝具B

※括弧内はアステリオスを考慮した数値

【属性】
混沌・悪

【クラススキル】
狂化:D
筋力と耐久が上昇するが、言語機能が単純化し、複雑な思考を長時間続けることが困難になる。

【保有スキル】
ペルソナ(シャドウ):C
心の中にいる「もう一人の自分」、困難を乗り越えるための心の鎧「ペルソナ」を召喚する能力。
シャドウであるバーサーカーは本来ペルソナを召喚することは不可能なはずだが、
己の中の過剰な攻撃性がペルソナに酷似した「力の形」と発現したことから便宜上「ペルソナ」スキルとして扱う。

陣地作成:-
幻惑:-
本来ならば「己の支配下にある空間」において「言動・認識を歪める」能力を所持しているが、狂化の影響を受け使用不能。

【宝具】

『迷宮より解き放たれし牛鬼(アステリオス)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1-30 最大捕捉:5
バーサーカーの内面が異形の怪物として現れた「力の形」であり、バーサーカーの一部と呼べる存在である。
牛頭人身の怪物であり、「地面から湧き出る」ように常に半身を地面に潜らせている。
地面の中を自在に移動し、本体であるバーサーカーと連携した多彩な攻撃手段を持つ。下はその一例。
・『テーラの噴煙』角から火焔を噴出し、対象を炎に包む。
・『地獄の業火』口からビームのような鋭さを持った炎を吐き出す。さらに着弾点に業火を舞い上げる。
・『ティタノマキア』黒炎をあたり一面に撒き散らし、戦場を黒に染める。攻撃範囲は非常に広い。

元はギリシャ神話に名前を残す怪物である。
アステリオスという名に聞き覚えがなくとも、クレタ島の迷宮「ラビュリントス」に巣食う怪物「ミノタウルス」といえば分かる者も多いのではないだろうか。


『迷宮に引きずり込みし怪物(ゲート・オブ・ラビュリントス)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1
「一度勝利したサーヴァント」を相手にしたときのみ発動可能な宝具である。
相手の霊核を掴み、迷宮「ラビュリントス」を再現した空間に引きずり込む。
擬似的な固有結界とも言える「ラビュリントス」においてアステリオスの猛攻は絶対である。
ほぼ全てのサーヴァントが為す術もなく霊核を破壊されることになるだろう。
欠点は多大過ぎる魔力消費量。令呪複数画に相当する魔力がなければ「ラビュリントス」の作成すらままならない。

【weapon】
スラッシュアックス:
バーサーカーの身の丈を超える、機械式の巨大な斧。変形させて背部に装着することで、推進器のように使うことも出来る。

チェーンナックル:
ロケットパンチ。チェーン式なので撃ったあとちゃんと戻ってくるぞ。

【人物背景】
「P3」「P4」のその後の物語として作られた「P4U」のプレイヤーキャラクターにして実質的なラスボス。
同じくP4Uの登場人物である機械の乙女「対シャドウ特別制圧兵装五式」ラビリスが生み出した影。

ラビリスが対シャドウ特別制圧兵装としての日々を送っていた中で強いられていた「仲間殺し」に対する罪悪感と、
「兵器ではない、人並みの人間の生活を送ってみたい」という逃避願望、そして「仲間殺し」という彼女に課せられた原罪の苦しみ・悲しみを「他者にも知ってほしい・味わわせたい」という、三重の葛藤が顕在化したもの。
姿形はラビリスと瓜二つだが、影特有の特徴である「鈍い金色の瞳」が爛々と輝き、高慢で暴力的な言動そのままに破壊願望を隠そうともしない狂戦士然とした性格をしている。

今回の聖杯戦争ではバーサーカーとして召喚されたため、「暴走」の側面が強い「P4U」時点がベースとなっている。
続編である「P4U2」にも出演しているが把握の必要性は薄い。
各種動画サイトに対戦動画や初心者講座動画があるのでそれを視聴すれば戦闘スタイルの把握は問題ないはず。

【サーヴァントとしての願い】
全てを壊し、本物になる。

【運用方針】
狂化によってステータスが上昇したバーサーカーとアステリオスの連携は強力無比。
しかしその分魔力の消費も増加しているため、連戦、長期戦になるとジリ貧となる。
バーサーカー単体で戦うことで魔力の消費を抑えることができるが、単体のバーサーカーは平凡以下のサーヴァント。
戦機を見極め的確な戦力投入をしない限り終盤まで勝ち抜くことは難しいだろう。


550 : ◆BATn1hMhn2 :2015/08/24(月) 22:23:31 Xrj7PKPs0
【マスター】
番場真夜/真昼@悪魔のリドル

【マスターとしての願い】
真昼の幸せ。

【weapon】
巨大なハンマー

【能力・技能】
真夜が表に出ているとき(夜間)は限界を超えて怪力を発揮することが出来る。
巨大なハンマーを軽々と振り回し、周囲のものを手当たり次第に破壊することもお茶の子さいさい。
反面、持久力などは常人のそれであるようで、戦闘が長時間におよぶとすぐにフラフラになる。カワイイ。

【人物背景】
昼と夜で人格が入れ替わる二重人格の暗殺者。昼が真昼(まひる)、夜が真夜(しんや)。
幼少期の真昼がある男に監禁されたことが真夜誕生のきっかけとなる。
暗殺は全て真夜が担っている――が、暗殺に依存しているのはむしろ真昼のほう。
真夜は真昼の願いを叶えるために暗殺に勤しんでいる。
参戦時期は黒組参加時、予告票の提出寸前から。

【方針】
日中は真昼に【役割】の通りに動いてもらう。
真夜の時間になってから目立たない範囲で魂喰いを行いつつ、目についた他参加者を狩っていく。
魔力不足に陥るだろうことを危惧しているが、今のところ具体的な対策は思いついていない。


551 : ◆BATn1hMhn2 :2015/08/24(月) 22:23:54 Xrj7PKPs0
以上で投下を終了します。


552 : ◆zO5zeya4IM :2015/08/24(月) 22:26:51 uC.5UaK.0
皆様投下乙です。私も投下します。


553 : ◆zO5zeya4IM :2015/08/24(月) 22:27:29 uC.5UaK.0




 Twas brillig, and the slithy toves
 Did gyre and gimble in the wabe;
 All mimsy were the borogoves,
 And the mome raths outgrabe.

 夕火の刻、粘滑なるトーヴ
 遥場にありて回儀い錐穿つ。
 総て弱ぼらしきはボロゴーヴ、
 かくて郷遠しラースのうずめき叫ばん。

 "Beware the Jabberwock, my son!
  The jaws that bite, the claws that catch!
  Beware the Jubjub bird, and shun
  The frumious Bandersnatch!"

 『我が息子よ、ジャバウォックに用心あれ!
  喰らいつく顎、引き掴む鈎爪!
  ジャブジャブ鳥にも心配るべし、そして努
  燻り狂えるバンダースナッチの傍に寄るべからず!』



.


554 : 鳴動-アウェイクン- ◆zO5zeya4IM :2015/08/24(月) 22:28:46 uC.5UaK.0
【◆】


 この書き留めが第三者に読まれているという事は、私はもうこの世にいないという事だろう。
 そして同時に、あの恐ろしい"魔獣"の存在が知れ渡っているという事でもある。
 私がこうしてあの状況を書き留めるのは、ほんの少し前に私達を襲った脅威を知れ渡らせる為だ。

 私はいわゆるヤクザという職種の者である。
 皆が想像する通り、反社会的な活動を主としている。
 魔獣が現れたあの時も、私は所属していた組の事務所で作業を行っていた。

 奴等は、私がそうやって作業をしている最中に現れた。
 あろうことか、彼等は何の警戒もせずに、正面から我々の前に姿を見せたのだ。
 女性と少年の二人組で、両方ともただならぬ雰囲気を醸し出していた。
 彼等から漂う臭いをあえて例えるなら、血と臓物の臭いであろう。

 開口一番、女は此処にある武器を全て明け渡せと言い出した。
 当然ではあるが、私を含めて組員は皆一様に激高した。
 一体全体、どうして見ず知らずの男女に銃器を渡さねばならないのか。
 私達は彼等にヤクザの恐怖を教えようと、一同に襲いかかったのである。

 それが、それがいけなかったのだ。
 次の瞬間には、襲いかかった仲間の内数人の首が飛んだ。
 そこから先はもう、語る事さえ恐怖である。
 秒針が進む度に壁に鮮血が飛び散り、臓物が床にぶち撒けられる。
 五分もしない内に、事務所は血の海と化したのだ。

 仲間の四肢を千切り投げるのは、あの少年だ。
 おぞましい気迫を纏わせながら虐殺を行う彼は、まさに人外と言うほか無い。
 あれこそまさに"魔獣"、蠢き呼応する怪異そのものなのだ。

 あの少年を飼い慣らす女を、私は全く知らない。
 だがしかし、彼女もきっとこの世のものではないのだろう。
 少年が魔獣であれば、女から漂う殺気は"人狼"のそれだ。

 幸運にも、私はあの場から奇跡的に逃げ延びた。
 こうしてあの光景を書き留めているのも、そうした偶然のお陰である。
 本来なら警察にでも頼るべきなのだろうが、彼等如きであの怪物をどうにかできるものか。
 きっと私の仲間の様に、一人残らず八つ裂きにされるのがオチである。

 だから私は、こうして警告を記しているのだ。
 もしあの魔獣に出会ったら、何も言わずに全てを差し出せと。
 どんな事情があっても、彼等に逆らってはいけないのだと。
 誰かにこの警告が伝わる事を祈って、こうして書き続けているのだ。

 ああ、すぐそこまで奴の足音が近づいてきた。
 僅かな後、私は彼等の魔手によって八つ裂きにされるだろう。
 怖くて怖くてたまらない、どうしてこんな恐怖の中で逝かねばならないのだ。
 誰か助けてくれ、悪魔でも神様でも何でもいい。
 私をあの魔獣から救ってくれるなら、どんな者の手であろうと掴むだろう。
 だから誰か助けてくれ、こんな所でまだ死にたくない。
 死にたくない、死ぬのは嫌だ、痛く死ぬなんて嫌だ、誰か助


555 : 鳴動-アウェイクン- ◆zO5zeya4IM :2015/08/24(月) 22:31:09 uC.5UaK.0
【◆】

 今し方始末した男が書いたであろう、警告を兼ねた書き留め。
 紙の端をライターの火に近づければ、紙の全体に火の手は広がっていく。
 火の玉と化したそれを、女はすぐ地面に放り投げた。

 女の名はロベルタ、〈新宿〉で幕を開けた聖杯戦争のマスターが一人。
 そして、中南米の資産家であるラブレス家のメイド"だった"女。
 主を殺された今の彼女は、まさしく復讐者(リベンジャー)であった。

 FARCのゲリラであり指名手配犯であったロベルタを匿った彼女の主。
 恩人であり善人であった彼は、アメリカの特殊部隊によって爆殺された。
 何の罪もない筈の彼は、政治のいざこざに巻き込まれ暗殺されたのだ。

 あの時、ロベルタの心に潜む猟犬は大きく吼えた。
 今こそかつての殺意を蘇らせ、復讐を果たすべきなのだと。
 血みどろの猟犬は、血肉を求めるかの様に唸ってみせたのだ。
 そして彼女は、思うがままにその声の奴隷となったのである。

 だが、そうして復讐を果たそうと、関係者を拷問して回っていた時。
 ロベルタは聖杯戦争のプレイヤーとして、〈新宿〉に招かれたのだ。
 恐らくは、拷問にかけた男の一人が持っていたアクセサリーのせいだろう。

 この〈新宿〉に、憎むべき標的は影も形もない。
 此処でいくら暴れようが、憎悪を向ける者達には何の苦痛も齎されない。
 だが、この街には万物の願望器たる聖杯がある。
 あらゆる願いを叶え、生と死の境界さえ乗り越える天の杯がある。

 〈新宿〉のマスターを残らず根絶やしにし、聖杯を手に入れた時。
 その時には、あの憎き狐共の存在そのものを消し去ってしまえばいい。
 奴等の栄光も、歴史も、汚名も、何もかもを無かった事にしてしまおう。
 そうすれば、あの平穏な日常さえ元通りに戻ってくれる。
 手の中をすり抜けていったあの日々を、今一度手にできる。

 ロベルタにとって、聖杯戦争とは闘争にして復讐。
 主を殺めた怨敵を虚無に返す為の、朱のドレスで踊る死の舞踏。

 彼女の身に秘めた憎悪に呼応する様に、少年が身震いした。
 ヤクザを悉く魂喰いし、魔力を充填させた狂戦士の英霊。
 高槻涼と呼ばれていたその少年は、まさしく魔獣であった。

 そう、狂化の影響を受けた彼には、平時の優しさなど微塵も残ってない。
 彼は"魔獣(ジャバウォック)"として、憎悪と共にその力を振るうのだ。
 まるで、今まさに暴れ狂う猟犬(ロベルタ)の様に。

「く、くく、くはははははは」

 歌を謳う様に楽しげに、獣を喰らう様に残酷に。
 猟犬は笑う、身の内の殺意と狂気に突き動かされるかの様に。
 そして、その感情に応えるかの如く、バーサーカーも唸りを上げた。

「さあ狩りを始めましょう、バーサーカー。
 狐の皮を残らず剥げば――全て、残らず元通りなのだから」


556 : 鳴動-アウェイクン- ◆zO5zeya4IM :2015/08/24(月) 22:31:32 uC.5UaK.0
【◆】


 さあ、せいぜい避けてみせろ、この魔獣の爪を。
 さあ、せいぜい耐えてみせろ、この魔獣の炎を。
 ヴォーパルの剣などどこにもないぞ、お前等は狩られるだけの醜鳥(ボロゴーヴ)だ。 
 怒めきずり、燻り狂う魔獣が、ちっぽけな命を喰らいにやってくるぞ。

 どれだけ足掻こうが無駄だ、所詮お前等は――うずめき叫ぶ獲物に過ぎん!



【CLASS】バーサーカー
【真名】高槻涼
【出典】ARMS
【属性】中立・狂
【ステータス】筋力:A+ 耐久:A+ 敏捷:B+ 魔力:D 幸運:D 宝具:C

【クラス別スキル】
狂化:B
理性の大半を引き替えにステータスを上昇させる。
Bランクともなると全ステータスが上昇するが、理性の大半が失われる。

【固有スキル】
憎悪:A
世界に対する絶え間なき憎悪。
同ランク以下の精神干渉をはねのける。

ARMS:A
炭素生命体と珪素生命体のハイブリット生命体「ARMS」の適合者。
ARMSと適合した者は高い再生能力と身体能力を得る他、身体の一部を戦闘形態に変化させる事が可能。
更に、本人の強い意志に同調する事で全身がARMS化、適合者を「完全体」と呼ばれる異形に変え、圧倒的な力を発揮する事が可能となる。
ただし、電撃を浴びると機能が麻痺する、体内に生成されたコアを破壊されると肉体が崩壊する等の弱点を秘めている。
なお、狂化の影響を受けたバーサーカーはARMSが全身に潜伏しており、通常形態と完全体の中間とも言うべき状態にある。

ARMS殺し:EX
バーサーカーが所有する特異な能力。
彼のARMSで傷つけられたARMSは再生能力を失い、与えられた傷は決して癒える事はない。
この逸話から、バーサーカーは不死の存在に対し追加ダメージ判定が行われる。

【宝具】
『魔獣(ジャバウォック)』
ランク:C 種別:対己宝具 レンジ:- 最大補足:-
バーサーカーと適合しているARMS。平時は彼の右腕がARMS化している。
ARMSの中でも突出した再生能力と自己進化を持っており、力の限界は測定不可能と言っていい。
完全体は鬼を彷彿とさせる形態であり、圧倒的な身体能力、超高熱の炎、更には反物質の精製など、その戦いぶりはまさに暴力の権化である。
本来は暴走させてはならない力だが、バーサーカーとしての召還、そして狂犬と化したマスターの元、彼の力は際限なく膨れ上がっていく。

【weapon】
『ジャバウォックの爪』
バーサーカーのARMSが備える堅牢な爪。
ARMSの再生能力を無力化する「ARMS殺し」の機能を持つ。

【人物背景】
憎悪に狂う魔獣。

【サーヴァントとしての願い】
???


【マスター】ロベルタ
【出典】BLACK LAGOON

【マスターとしての願い】
主を暗殺したグレイフォックス部隊の存在を消し去る。

【weapon】
不明。だが銃器を複数所有している事だけは間違いない。

【能力・技能】
刃を噛み切り、両手持ちの銃器を片手で操る。
憎悪でリミッターが解除されたその身体能力は、もはや人外の域にある。

【人物背景】
憎悪に狂う猟犬。

【方針】
見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)


557 : ◆zO5zeya4IM :2015/08/24(月) 22:31:50 uC.5UaK.0
投下終了となります。


558 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 22:51:42 dZo/xEVg0
皆様、投下お疲れ様です
滑り込みな上に短文ですが、投下します


559 : 宮崎のどか&バーサーカー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 22:53:41 dZo/xEVg0
「クレイグさーん…」

彼女は学生としての日常を送る裏で今まで共にいた仲間を探していた。

「アイシャさーん…」

しかし、彼女の知る人物は1人としていなかった。

「ネギ先生ー?ゆえー?ハルナー?」

魔法世界の遺跡で出会ってから冒険者として共に旅をした仲間も、魔法世界に来る前からのクラスメートも、想い人の先生も、大切な友人も。
宮崎のどかが<新宿>のあちこちを探しても、彼女を知る人物は見つからない。

「どうしてこんなことにー…」

のどかは公園のベンチに力なく腰掛けて、溜め息を吐いた。
長い前髪の奥に隠れている目には陰鬱さが浮かんでおり、とても心細そうだった。

魔法世界に来た途端、謎の敵から襲撃を受けたと思ったら転移魔法で飛ばされ、気付けばのどかは遺跡の中に独りぼっちになっていた。
傍にはネギ先生も夕映もハルナもおらず、現状を嘆くしかなかったが、
幸いなことにクレイグが率いる冒険者集団に拾ってもらい、なんとか生きながらえることができた。
冒険する遺跡の先々で「鬼神の童謡」と「読み上げ耳」も手に入れ、図書館探検部でいつしか身に着けたスキルを生かしてチームに貢献できたこともあって順調だった。

しかしオスティアでネギ先生と合流するための旅費を稼ぐべく、新たに入った遺跡で見つけた宝の中に『それ』はあった。
「契約者の鍵」。今現在ものどかが所有しているそれを、財宝の山から初めて拾い上げるまでの瞬間で記憶は途切れている。
のどかはまた飛ばされ、この<新宿>で独りぼっちになってしまった。

「ウジウジしてたって何も進まないわよ、ノドカ」

不意にのどかは背中を何者かに叩かれ、「ひゃー」と間の抜けた声を出しながら前のめりにこけた。
地面に手をついて振り向くと、そこには緑色の肌をした長身の女性が立っていた。その背丈は2mを超えている。
女性は背中をポンと軽く叩いたつもりだったが、のどかにとってはかなりの強打となったようで、痛そうに背中を撫でている。


560 : 宮崎のどか&バーサーカー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 22:54:21 dZo/xEVg0

厳密には<新宿>に来たのどかは最初から独りぼっちではない。
サーヴァントを従えて聖杯という万能の願望機を巡って殺し合う戦争――聖杯戦争で共に戦うこととなったサーヴァントが傍にいた。
バーサーカーのサーヴァント、シーハルクが現界していた。

「で、でも、聖杯戦争なんてー…私、人殺したくないしー…でもここから出ようとしても出られないしー…」

服に付いた塵を払いながらのどかはこぼした。
のどかは仲間を探す過程で新宿の外に出ようともしたのだが、橋を渡ることはできても<亀裂>の向こう側へ行くことは透明な壁に阻まれてできなかった。
そもそも、新宿が20年程前に<魔震>が起きて<亀裂>によって外と隔絶された街になってしまったなど聞いたことがない。
のどかは今いる<新宿>も、魔法世界のように別世界なのではないか、と考えていた。

「あなたを見てると昔の私を思い出すわ」

のどかを見ていたシーハルクはため息交じりに言う。
シーハルク――ジェニファー・ウォルターズはブルースから輸血を受けてシーハルクに変身できるようになるまではおどおどした性格だった。
しかし、後に変身自体を楽しむようになって自分に自信が持てるようになり、明るく奔放な女性になったという経緯がある。

「けどー、バーサーカーさん――」
「けど、じゃない!」

弱音を吐こうとするのどかを遮ってシーハルクは強い口調で言う。
その巨大な体躯に圧倒され、のどかは思わず一歩後ずさってしまう。
腰に手を当て、真剣な目でのどかと向き合っていた。

「あなたはこれから何をしなくちゃいけないの?」
「えっとー、ネギ先生やみんな…クレイグさん達と合流することですー…」
「その人達と合流するにはどうしたらいいと思う?」
「この世界から誰とも戦わずに魔法世界に帰るのが一番平和かなーって…」
「じゃあどうやったらその魔法世界とかに帰れると思う?」
「で、できないですよそんなのー…私はネギ先生やゆえみたいに魔法上手じゃないですしー…」

「甘い!!」

再度のどかに対してシーハルクは喝を入れた。

「できるできないじゃなくて、やるのよ!手段が見つからなかったら探せばいい!
裁判だって証拠がないと勝てないから、弁護士は必死にそれを見つけようと努力するのよ!
それとも、ノドカの戦いは裁判が始まる前から敗訴してるのかしら?」
「私はー…」

「私はもう一度…ネギ先生やみんなに会いたいです!」

ネギ・スプリングフィールド。もはやただの担任の子供先生ではなく、魔法使いであり、自分の想い人。
辛い過去を背負いながらも偉大な父を追ってめげずに頑張る姿を見て、のどかは何度も勇気をもらった。
引っ込み思案な自分でも、できることがあるかもしれない。
今も魔法世界でネギも、夕映も、皆も頑張っているはずなのに、こんなところで弱音を吐いて立ち止まってなんていられない。

「バーサーカーさん…あなたの力を貸してくれますかー…?」
「もっちろん!私は弁護士でアメリカンヒロインだからね!前衛は任せといて!」

シーハルクはウィンクをしながら、筋肉の詰まった腕をみせつけるように親指を上に突き立てた。


561 : 宮崎のどか&バーサーカー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 22:56:32 dZo/xEVg0
【クラス】
バーサーカー

【真名】
シーハルク@ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM 3

【パラメータ】
筋力A+ 耐久A+ 敏捷B+ 魔力D 幸運B 宝具A

【属性】
秩序・善

【クラス別スキル】
狂化:E
通常時は狂化の恩恵を受けない。
その代わり、正常な思考力を保つ。
外交的で激しい性格が表に出ている。

【保有スキル】
怪力:A+
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
筋力のランクが上がり、持続時間は「怪力のランク」による。
真名解放すると強化され、筋力の上昇量2倍かつ効果が永続するようになる。

弁護人:A
依頼を受けて法律事務を処理する弁護士。弁論、口述に長けている。
交渉・コネクション形成から口論・罪科の回避まで幅広く有利な補正が与えられる。
さらに、敵に異議を申し立てることで敵の直前の行動を低確率でキャンセルすることがある。

フォースウォール・スマッシュ:E-
たまにバーサーカーの言動がとある次元を認識したものになる。
能力の詳細は不明であるが、知ってはならない次元への干渉、
世界のあらゆる存在にとってのタブーとされるものらしい。
似たような能力を持つ者にデッドプール@X-MENがいるが、
こちらは重度の精神汚染の結果として発現して宝具『第四の壁の破壊』として扱われている。
シーハルクのそれは宝具ではなくスキルでランクも低く、運命干渉、現実改変といった効果もないためほぼ死にスキルである。
知り得ぬ情報の知覚こそできるが役に立たないものが殆ど。

【宝具】
『不慮の事故にご注意(テリブルアクシデント)』
ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:? 最大捕捉:?
敵が不慮の事故に遭いやすくなる、いわば敵に降りかかる不幸。
戦闘時に自動で発動する。
戦闘中、敵は幸運をE-ランクにまで下げられ、市街地での戦闘中において不慮の事故(主に交通事故)に低確率で巻き込まれる。
道路上に立っていれば、そこに車が突っ込んでくるかもしれない。
過信は禁物だが、下手をすれば逆転への糸口となる可能性も秘める宝具。

『これが新しいわたし(センセーショナル・シーハルク)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
従兄弟のブルース(ハルク)からの輸血を受け、シーハルクへ変身した自分をエンジョイする様になったジェニファー・ウォルターズの肉体そのものが宝具。
ハルクに匹敵し得る非常に高い筋力と耐久を持ち、ウルヴァリンほどではないがダメージ回復が速い。
さらに、真名解放することでその身体能力をさらに強化することができ、
筋力耐久敏捷にプラス補正がかかる上に怪力の筋力上昇効果が倍増して永続するようになる。
その分、魔力消費量も倍増するのでマスターへの負担を念頭に置かなければならない。

『巨人血液γ型(インクレディブル・ブラッド-TYPEγ)』
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1
ブルースから輸血を受けた結果、シーハルクへ変身できるようになった逸話からくる宝具。
バーサーカーの体内を流れる血液そのものが宝具。
輸血などでバーサーカーの血が体内入った人間は、バーサーカーと同じように肌が変色して超人的な腕力、強靭な皮膚と回復力を持つ身体へと変身できるようになる。
理論上バーサーカーを利用すれば超人を量産できるが、聖杯戦争による制限で変身している間はその人間から魔力が消費されていくという難点がある。
乱用すればその人間は命の危機に直面するだろう。

【weapon】
たまに街灯などの公共物を鈍器に扱うことがある

【人物背景】
本名ジェニファー・ウォルターズ。
重症を負った際に従兄弟のブルース(ハルク)から輸血を受け、その影響で変身できるようになった弁護士。
ハルクと同様に、超人的な怪力や回復力を持つ。
ハルクと違い、変身後も理性を持つことが出来るが、その反面、抑圧されていた彼女本来の外向的で激しい性格が表に出るようになった。
変化は体だけでなく性格にも及び、以前のおどおどした所はなくなって自分に自信を持てるようになった。
シーハルクになった時の自分が好きらしく、平時もシーハルクのままでいる事が多い。明るく奔放な、力と知性を兼ね備えたヒロイン。

【サーヴァントとしての願い】
基本的にはノドカの力になりたいけど、せっかく現界したんだからエンジョイしたい


562 : 宮崎のどか&バーサーカー ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 22:57:54 dZo/xEVg0
【マスター】
宮崎のどか@魔法先生ネギま!(漫画)

【マスターとしての願い】
魔法世界へ帰還し、ネギ先生やクレイグさんと合流する

【weapon】
鬼神の童謡(コンプティーナ・ダエモニア)
相手の名前を見破る魔法具。
名前を見破るときは相手が自分の存在を認識した状態で「我 汝の真名を問う(アナタノオナマエナンデスカ)」と言う必要がある。
ただし聖杯からの制限により、サーヴァントの真名まで看破することはできない。あくまでマスターに向けて使うべき。
『いどのえにっき』の名前が判らない相手には使えない弱点を補っている。

読み上げ耳(アウリス・レキタンス)
文字を読み上げる魔法具。
『いどのえにっき』の内容を自動で持ち主に伝え、絵日記を見るために相手から視線を外す必要がある弱点を補っている。

仮契約カード
ネギと仮契約を結んでおり、「アデアット」と唱えるとアーティファクト『いどのえにっき』が顕現する。
『いどのえにっき』は本のアーティファクトで、対象となる人物の名前を呼んでから開くとその人物の表層意識を読むことができる。
有効範囲は半径約7.4m。
対象者に質問するとその質問に対する回答が現れる。
また名前を呼ばずに開くと使用者本人の表層意識が現れることになる。
複数の相手に縮刷版を一冊ずつ割り当て、リアルタイムで思考をトレースすることも可能。
戦闘支援や尋問においては、名前さえ判れば敵の思考や情報を引き出す事が出来る。

【能力・技能】
罠発見能力
図書館探検部で培った能力。
クレイグ達からも一目置かれていた。

読心能力
「いどのえにっき」「鬼神の童謡」「読み上げ耳」を駆使して相手の心を読む。
それぞれのアイテムのシナジーは抜群で、一瞬で周囲の人間関係が把握できるほど強力。
今回の聖杯戦争では、バーサーカーに前衛を任せるとともに敵の思考や情報を引き出して援護するのが主な戦法。
鬼神の童謡の制限の関係上、敵サーヴァントの真名を知ることができれば優位に立てる。

【人物背景】
ヒロインの一人で、主人公ネギ・スプリングフィールドのパートナーの一人である。
前髪で目を隠しているのが特徴。
過度の恥ずかしがり屋であり、男が苦手なので最初にネギに抱かれたときは抵抗感があったのだが、
ネギの優しさに触れることがきっかけで、ネギのことが好きになる。その想いはクラスでトップになるほど。
同じ図書館探検部に所属する綾瀬夕映とは親友であり、ネギ先生との仲を応援し合う仲。
また、本好きからみんなからは「本屋」の愛称で呼ばれている。勉強が得意なのだが運動が苦手で、よく転ぶ。

参戦時期は、魔法世界にてネギと合流する前(24巻)。
遺跡の探検で見つけた宝の中に契約者の鍵があった。

【方針】
脱出の糸口を探す


563 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/24(月) 22:58:18 dZo/xEVg0
以上で投下を終了します


564 : 七海千秋&プレイヤー ◆sRofevVPes :2015/08/24(月) 23:36:57 WltemxYc0
投下させていただきます。
本文よりステータスが長いタイプのアレです。


565 : 七海千秋&プレイヤー ◆sRofevVPes :2015/08/24(月) 23:37:40 WltemxYc0
GAMEOVER


ナナミさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。


「バイバイ、みんな…」


「七海ッ!!」


566 : 七海千秋&プレイヤー ◆sRofevVPes :2015/08/24(月) 23:38:45 WltemxYc0
体感時間ではそれから数時間後、七海千秋は自らのサーヴァントとゲームをプレイしていた。
モノクマによって処刑されたはずの自分が、何故か生きて<新宿>にいる。そんな混乱の中、自らの横に現れたサーヴァントとのさしあたっての自己紹介の中でお互いがゲーマーと知り、
親交を深める…というわけでもないがどちらともなく対戦を申し出ていた。

<新宿>区内に設定された七海の部屋は、超高校級のゲーマーと呼ばれる彼女を象徴するかのように新旧様々なゲームで溢れている。
今彼女たちがプレイしているのは、某メーカーのキャラクター達が総出演し、相手を舞台から追い落とせば勝利というアレだ。
かれこれ一時間、四十戦ほどは戦っているだろうか、今、ピンクのボール玉が髭の帽子親父を蹴落とし、四十戦目の蹴りがついた。

「はぁ〜〜〜〜」
七海が嘆息し、自らのサーヴァント、プレイヤーに話しかける。
「ほんっとうに強いんだね。プレイヤー」

前述のとおり、七海千秋は超高校級のゲーマーである。あまりそんなそぶりは見せないが、彼女自身、その称号を気に入ってもいた。
だが、今回の戦績は四十戦四十敗、しかも途中からは、魅せプレイに徹したり、縛りプレイを加えてみたりとハンデを与えられての結果である。
七海も自らの腕とプライドにかけ、様々なキャラクター、様々な戦法で挑んでみたが、結果は惨憺たるものだった。
ゲームの腕前でこんな事を言うのも変だが、十歳ほどにしか見えないプレイヤーの底知れ無さを感じていた。

「当然。伊達にゲームが上手いだけで英霊と呼ばれてはいない」
対するプレイヤーはかなりそっけない。「マスターもそれなりに…」なんて慰めを言う気もないようだ。
「それより、少しは心の整理もついた?」

「……うん。少し落ち着いた」

ゲームをプレイ中、ぽつりぽつりと七海は自らの心境について語っていた。
それを整理するように言葉に出す。

「何でも願いを叶えてくれるっていうなら、生き返ってもう一度日向くん達に会いたい。
 でも、月並な言葉だけど、人を殺してまで日向くん達に会っても、日向くんは笑ってくれないと思うんだ」

「そう…
 なら、これも月並な言葉だけど、この殺し合いからの脱出を目指す?」

「それが問題なんだよね…」

七海が苦笑する。
実は、七海千秋は人間ではない。とあるプログラム内のNPC、人工知能のようなものなのだ。
もしも、何らかの方法でこの<新宿>から脱出できたとしても、その瞬間この仮初めの命は消えてしまうかもしれない。
そうなれば簡単に結論付けることができないのも道理だった。


567 : 七海千秋&プレイヤー ◆sRofevVPes :2015/08/24(月) 23:39:35 WltemxYc0
「プレイヤーはいいの?聖杯にかける願いとか」

「私は問題ない。どんなルートでも、最短を目指すだけ。
 十分に悩めばいい」

「……ありがとう。この悩む時間は、最短には影響しないの?」

「大丈夫、今はおそらく、長めのオープニングムービー中」

「ふふっ。
 ゲーマーとしての勘?」

「そんなもの」




【クラス】
プレイヤー

【真名】
TASさん@TAS動画二次創作

【ステータス】
筋力E 耐久D 敏捷E 魔力D 幸運A++ 宝具B

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
ゲームの達人:A+++
カード、ダイス、スポーツ、ギャンブル、交渉、人間関係、命のやり取りなどありとあらゆるゲームの達人。
A+++ともなれば、過去、未来を含めた人類史でも有数のもの。
状況をゲームと認識したとき、筋力、耐久、敏捷が3ランクアップする。
また、時を止めて考えていると思われるほどの高ランクの高速思考を内包する。

真名看破(ゲーム):E
相手のサーヴァントがゲーム出典であった場合、低い確率でその真名を看破する。
ただし、プレイヤー自身の高い幸運と後述の宝具により、実際にはかなり高い確率での看破が可能。
なお、ここでいうゲームとは、テレビゲームならPS2、Wii以前、PCゲームなら一世代以上前のものを指す。
PS4やWii Uなどの最新機種は、プレイヤー曰く「持っていない」そうである。

【保有スキル】
道具作成:-
何をすればどういう展開になるか、どう動けば敵がどう行動するか全てが記録された「チャート」の作成能力を有していたが
此度の聖杯戦争では失われている。

精密動作:A
1f(1/60秒)単位、1ドット単位での精密な動きが可能。
それはどれほどダメージを受けた状況でも変わらない。

専科百般:C
ゲーム攻略上必要な様々な知識、技能。
多数の分野にDランク程度の習熟度を持つ。


568 : 七海千秋&プレイヤー ◆sRofevVPes :2015/08/24(月) 23:40:55 WltemxYc0
【宝具】
『SHIFT+F1……F1(ステートセーブ、ステートロード)』
 ランク:C 種別:対己宝具 レンジ:1 最大補足:1
任意の瞬間に現状をセーブ、そしてそれをまた任意の瞬間にロードする事ができる。
その間に起こった出来事は、プレイヤーの脳裏にのみ記録される。
本来ならば、やろうと思えば聖杯戦争最終盤から序盤まで巻き戻すことも可能だが
サーヴァントとして呼び出されたことにより、セーブは一度に三か所まで、巻き戻すことができるのは十分まで、ロードにそれなりの魔力が必要、と弱体化している。

『します、させます、させません(乱数調整)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:10 最大補足:10
理論上可能なことであれば、それがどんなに低い確率であっても実現させる。
0.01%でも可能性があれば、放つ攻撃は必ず急所を穿ち、敵の攻撃が命中することはない。
また、この宝具の影響は味方、敵にもおよび、味方の攻撃も操ることができる。
どんなに大切な品物であろうと、うっかり落っことす可能性があるならば敵はそれを落としていく。
反面必中、必殺などの属性を持つ攻撃には弱く、全く影響を与えることができない。

【weapon】
・コントローラー
様々なゲームのコントローラー
単なるコントローラーだが、ゲーマーにとっては必携の武器。わずかな神秘を備えている。

【人物背景】
様々なゲームの最速記録を持つ凄腕ゲーマー。
アクション、シューティング、RPG、シミュレーションなどジャンルを問わない。
尊敬をこめてTAS「さん」と敬称づけで呼ばれることが多い。


以上は冗談である。
そもそもTASとはTool-Assisted-Speedrunの頭文字であり、追記機能、フレーム送りなど様々な補助機能を備えたエミュレーター上で
「理論上最速」でのゲームクリアを目指す一種の競技である。
だが、ニコニコ動画上で半ば勘違い、半ば冗談で、「TAS」という名のプレイヤーがそういった凄まじいプレイ記録を残している、と語られ続けた結果顕現した存在。
「TASさんはロシア系金髪幼女」という説により十歳ほどの姿で召喚された。

【サーヴァントとしての願い】
このゲームの最短クリア。使えるならばどんな手も使うし、<新宿>のバグも利用できるなら利用する。
もしも聖杯が得られたならば、desyncを滅ぼしたい。
あと、できればPS4やWii Uが欲しい。


569 : 七海千秋&プレイヤー ◆sRofevVPes :2015/08/24(月) 23:41:19 WltemxYc0
【マスター】
七海千秋@スーパーダンガンロンパ2

【マスターとしての願い】
人間として生き返って日向たちと会いたい。
だが、人を殺してまで願いを叶えたいとは思っていない。

【weapon】
なし

【能力・技能】
・ゲームの腕前
超高校級と称されるゲームの腕前は天才的
だが、プレイヤーと丸々被っているため発揮される機会があるかは疑問

・推理力、洞察力
ジャバウォック島での修学旅行中に起きた数々の事件で、優れた洞察力、推理力を発揮し、日向創と共に解決に導いてきた。


【人物背景】
超高校級の才能を持つ高校生のみが入学を許される希望ヶ峰学園の生徒で超高校級のゲーマー。
ゲームには驚異的な集中力を見せるが、コロシアイの起こる極限状況でもすぐ眠くなってしまうマイペースな性格。

実際には人間ではなく、絶望に堕ちた日向達を更生するためのプログラム内に設定された生徒NPC。
狛枝凪斗により、絶望に堕ちた狛枝達にとっての裏切り者=希望である七海以外を皆殺しにする策に嵌るが
自らの意思により、日向達を守るために自らモノクマの処刑を受けた。

モノクマのおしおきを受けた直後からの参戦。
鍵は修学旅行中、日向創からのプレゼントで受け取った模様。



【方針】
もう少し悩みたい。


570 : ◆sRofevVPes :2015/08/24(月) 23:42:19 WltemxYc0
投下終了です


571 : ◆zzpohGTsas :2015/08/25(火) 00:02:52 0B57KWDs0
コンペはもう終わりだぁ!!(レ)
皆様、本当にご投下ありがとうございました。
このまま寂しく終わるのではないかと言う思いが杞憂に終わって、非常に嬉しいばかりです。
それでは、たまりにたまった感想の時間です


572 : ◆zzpohGTsas :2015/08/25(火) 00:03:43 0B57KWDs0
>>ドータクン&水神狩流
ご投下ありがとうございます。ポケットモンスターシリーズからと、GEコピペからですね。
他参加者が原作を有する創作作品に依拠した主従を投下する中で、コピペと言うほぼオリジナル出典をサーヴァントにするというその慧眼には敬服いたします。
この手の狩りゲーには必ずと言っても良いほど1つや2つは痛いコピペがある物だと思ってましたが、こんなパターンのもあるのですね。
そして、マスターがドータクンと言うその発想力もまた、凄いと言うべきかなんと言うか。人じゃない鱒が当たり前の<新宿>でも、特に異質を極めるフォルムのドータクンを抜擢するとは、素晴らしいと思いました。

ご投下、ありがとうございました!!

>>シーモア&ヤシロ=フランソワ一世
ご投下ありがとうございます。FINAL FANTASY Xからと、101番目の百物語からですね。
シーモアと言う名前を見た時には、キャスターかなと思いましたが、まさかの鱒からの参戦なんですね。ちょっと意表を突かれた感があります。
召喚されたサーヴァントは典型的な災厄系のキャスター。ロアや噂を駆使して戦うと言うのは、何処となく帝都の髭か、二次二次候補作の稗田先生を思い浮かべますね。
ただ世界を破滅させようとするキャスターと、過去の確執と体験から世界を破滅させようとする二人は、似ているようで全く似てなくて、非常に面白い。
ごく個人的な感想ですが、シーモアバトル、いい曲ですよね。Other Worldと並んで、Xの戦闘BGMの中では好きな曲だったりします。

ご投下、ありがとうございました!!

>>ダガー・モールス&那珂
ご投下ありがとうございます。SHOW BY ROCK!!からと、艦隊これくしょんからですね。
不勉強ながらダガー・モールスの事を知らなかったので画像検索をさせていただきましたが……こんな容姿だったんですね。これは目立ちますわ。
こんな姿形でも、音楽に対しては極めて真摯で、そしてこれで世界を征服しようと言うのだから面白い。
そして相方が、2-4-11事那珂ちゃん。水雷戦隊仕様ではなく、マスターの在り方に牽引され、アイドル仕様になっているのが非常に面白い。
ゲームプレイしてた時は出まくってウザかったですが、久しぶりに見ると何だかかわいく見えますね。アニメ? 艦これってアニメ化してたんですね、知りませんでしたわ。

ご投下、ありがとうございました!!

>>市松こひな&フォクシー
ご投下ありがとうございます。繰繰れ!コックリさんからと、Five Nights at Freddy's からですね。
このゲームはニコニコで有名になる前から一応は知ってましたねそう言えば、本格的に見始めたのは淫夢実況からですが(淫夢ニキたる所以の証明)
お互いに人形だけれども、一方は学校も行ってて社交的で、一方はシャイが過ぎて、日中はそっとマスターを覗いてるバーサーカーが、ちょっと可愛い。
しかし、元がホラーゲーだけあって、深夜の本領発揮出来る時間帯になると恐ろしい。捕まったら梁とワイヤで満ちた体の中にねじ込まれると言うのは凄い恐ろしい。
全体的に可愛いらしい候補話でしたが、ステシを見た後でまた本文を見ると、恐ろしさを理解出来る後世は面白かったです。

ご投下、ありがとうございました!!

>>キカイ人間の少女&神野陰之
ご投下ありがとうございます。あかりやと、Missingからですね。
<新宿>にはどうにも厄災系のサーヴァントが足りないなぁと思っていた所ですが、そう言うのにうってつけなキャスターから来るとは嬉しい所。
高ステータスのサーヴァントが多い中で特異的な、全ステータスが全く定まっていないサーヴァント。
その上、本人は聖杯とほぼ同質の力を、形こそ違えど扱う事が出来ると言うのが面白い所ですね。
但し聖杯とは違い、過程をすっ飛ばすのではなく、最後は本人の努力に拠らねばならないと言うのもユニーク。マスターは果たして、どう動くのでしょうか。

ご投下、ありがとうございました!!

>>ギルガメッシュ&たま(犬吠埼珠)
ご投下ありがとうございます。原作Fateからと、魔法少女育成計画からですね。
考えてみれば、我様も受肉しているのだから、出れない事も無いんですよね。その発想力と慧眼は凄いと思います。
仰られる通り、マスターの方がヤバい主従と言うコメントが、これ程解りやすいペアもないかと思われ。
アサシンが<新宿>では控えめなステータスだけあって、余計に際立つ辺りが良く考えられていますね。
少し頼りないサーヴァントと、少し慢心が過ぎる(重要)だけど基本滅茶苦茶強いマスターの対比が、見事でした。

ご投下、ありがとうございました!!


573 : ◆zzpohGTsas :2015/08/25(火) 00:04:18 0B57KWDs0
>>茶藤千子&綿木ミシェル
ご投下ありがとうございます。魔法少女育成計画からと、バトルガールハイスクールからですね。
「オッ、コイツもとうとうエピグラフなんか使うようになったのか〜????」って思いながら見てみたら、出典がまさかのLOで大草原。
そしてそんな出典にも関わらず、氏特有の真面目で、引きこまれるような文体で話を綴る物だからまぁ違和感が凄い事。やっぱ凄い物書きさんです。
女二人の主従ですが、流石に少女聖杯専属調教師だけありますから、可愛らしいやり取りを書くのには本当に慣れている、と言った塩梅ですね。
それにしても、むみぃってなんなんでしょうねむみぃって。

ご投下、ありがとうございました!!

>>フランドール・スカーレット&メアリー
ご投下ありがとうございます。東方Projectからと、Ibからですね。
そう言えば二次二次でもフランが鱒で出た主従がありましたね。こいつこそバサカ向きだと思うのですが、不思議なものです。姉はランサー常連なのに。
<新宿>特有の、鱒の方が強い現象のシンボルみたいな主従ですが、特に戦闘力のないこのキャスターだと、余計に際立ちますね。
<新宿>の中でも取り分けて強いが夜にしかほぼ動けない鱒と、<新宿>の中でも特に弱味の目立つキャスターと言う主従。
これらが果たして、自分達の享楽と願いを叶える事が出来るのか、中々見ものな気がしてなりませんね

ご投下、ありがとうございました!!

>>荒垣真次郎&イリュージョンNo.17(イル)
ご投下ありがとうございます。P3からと、ウィザーズ・ブレインからですね。
来ましたねぇ荒垣さん。ストレガとか言う普通にストーリーを進めてたらクソザコナメクジのタカヤ君に殺されましたが、ガキさんは本当にいいキャラですよ。
やはりと言うべきでしょうか、参戦時期は、タカヤに銃で撃ち殺された直後みたいですね。しかも文章の端々から、天田や真田達に関係する後悔と、
罪悪感が漂う辺りが自分的には高評価。ガキさんは悪ぶってるけど本当は滅茶苦茶過去の事を引き摺ってる、責任感の強いキャラなんですね。
聖杯で叶えたい願いはあるけど、自分にはそんな権利などないと言って固辞する主従。実に見事な組み合わせでした。

ご投下、ありがとうございました!!

>>ウェス・ブルーマリン&シャドームーン
ご投下ありがとうございます。ジョジョの奇妙な冒険と、仮面ライダーシリーズからですね。
シャドームーン、人気の高い敵役ですよね。洗練されたデザインと設定、そして、今では広く特撮界隈随一のチートと言われるてつをと対等に渡り合う強さとカリスマ性。
今まで亜種聖杯に来てなかったのが不思議なくらいですが、此処に来るとは、嬉しい限りですね。そして鱒は、既に某氏が出しているウェザー。
但し記憶を取り戻している状態。如何に悪魔の虹を封じられている状態とは言え、シリーズ通しても相当な強スタンドの持ち主。
互いに記憶を失っていた時期があり、そして本当に倒したいし殺したい相手がいて、そして、互いに呪われているとしか思えない程幸の薄い人生を送って来た。素晴らしい主従だと思います。

ご投下、ありがとうございました!!

>>ザ・ヒーロー&クリストファー・ヴァルゼライド
ご投下ありがとうございます。真・女神転生からとシルヴァリオ ヴェンデッタからですね。
パロロワ界隈では何の影響か、やたらと不幸なキャラ付で登場する事が多いフツオくんですが、<新宿>でもその流れから逃げきれなかったみたいですね。
ただ、何かと強くキャラ付されるのも共通の特徴であったり。今回もまた全盛期の強さと、凄まじい強さのバサカを引き連れてのご登場の様です。
生前は負けなしで、事実ヒーローになった筈なのに、どうして彼はこうも虚無的なのでしょうね。同じ英雄でもアレフは全然違うのに。
投下された次点ではまだまだ枯れてもいないし折れてもいないフツオと、そんな彼に相応しい揺るぎない信念のバーサーカーは、何をなすのでしょう。

ご投下、ありがとうございました!!


574 : ◆zzpohGTsas :2015/08/25(火) 00:04:35 0B57KWDs0
>>ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ&タイタス一世(影)
ご投下ありがとうございます。ラピュタからと、Ruinaからですね。
長年の積み重ねのせいで、何処かネタキャラとしての地位を確立してしまったムスカではありますが、この候補作では極めて真面目なキャラクター付で、
正直滅茶苦茶驚きました。何と言うべきでしょうか、驚く程様になっているし、原作最後の情けなさが欠片もない。これが本来のキャラなのでしょう。
そして相方は、ツクールの世界でも古典的超名作のRuinaから。この作品、TRPG風のゲームシステムに、味わい深いイラストのタッチもあり、
長い間ずっとツクール2000でも名作扱いされていましたね。

ご投下、ありがとうございました!!

>>有馬冴子&猫宮慶
ご投下ありがとうございます。Room No.1301からと、エロ同人からですね。
ドリル汁氏のエロ同人で一番好きなのはあの西遊記の奴でしたね。ちぇんげっは別に……。
<新宿>でおちんぽに弱いってのは少々駄目なんじゃないんですかね、元ネタは何か知らないけど熟女がいきなり脱いでヤられるような作品ですし。
何れにしても、ふたなり重視の作品出典でランサーのクラスを割り当てるのはNG。

ご投下、ありがとうございました!!

>>不律&ファウスト
ご投下ありがとうございます。アカツキシリーズからと、GUILTY GEARシリーズからですね。
アカツキって言うゲームは何と言うか、ロワにしてみると設定が驚く程真面目なんですが、実物の格ゲーを見てしまうとどうもイロモノのイメージを拭えきれない。
其処はやはり氏の表現力もあって、非常に恰好よく描写出来ているのは、見事と言う他ありません。そして何よりも、コッチジャを入れるその精神が素晴らしい。
やはりこの爺さんにはそれがなくちゃね。そして相方が、ギルギアシリーズで随一の常識人かつイロモノキャラのファウスト博士。
『メフィスト』病院に勤務する医者のサーヴァントが、よりにもよって『ファウスト』と言うのが、皮肉が利いてて本当に素晴らしいと思います。

ご投下、ありがとうございました!!

>>ジョナサン・ジョースター&ジョニィ・ジョースター
ご投下ありがとうございます。双方ともジョジョの奇妙な冒険からですね。
いわば全ての始まりと言っても過言ではない初代ジョジョと、パラレルワールドのジョジョの主従と言う、何とも夢のある組み合わせ。
来るのならばライダーと思いましたが、まさかのアーチャー。確かに原作では爪を飛ばして居ましたね。そしてそれが、主人公らしくないと言う批判にもなっていましたか。
それまでの主人公らしくない、黄金の意思ではなく漆黒の殺意を秘めた並行世界のジョジョと、正真正銘黄金の意思の起源の主従、実に見事でした。

ご投下、ありがとうございました!!


575 : ◆zzpohGTsas :2015/08/25(火) 00:05:04 0B57KWDs0
>>伊織順平&大杉栄光
ご投下ありがとうございます。P3からと、相州戦神館學園からですね。
本編では「特別なんだろっ!!」を筆頭に兎に角株を下げる描写の多かったテレッテですが、何だかんだFESでは一番成長したキャラでしたね。
散々馬鹿にされてきたゆかりっちよりも精神的に大人になれたのは、面白い対比だったり。……続編では少年野球の監督と言う事実上の無職ですが。
そして彼の引いたサーヴァントは、自分と同じ精神性と、同じような価値観のライダー。
最終的に世界を救う為に殉じたキタローを見て、精神的な成長を果たした順平の姿を見れて、嬉しかったり。自分も、順平はお気に入りのキャラクターですから。

ご投下、ありがとうございました!!

>>ヒメネス&比何ソウマ
ご投下ありがとうございます。真・女神転生SJからと、トラウイマスタからですね。
ヒメネスは本当に、一目見て今作のカオスルート枠なんだなと言う事がバレバレなキャラクターでしたね。
ただ、自分的には、餃子に比べたらカオスルートを選ぶまでの描写は丁寧で良いキャラクターでした。大地人、覚醒人共にデザインも素晴らしいですし。
原作のヒメネスは最終的に、全シリーズでも屈指のカオス思想に傾倒したキャラクターになりましたが、この候補作でもそれが描写出来ていて見事。
聖杯などと言う天使の事物になど欠片も興味を示さず、ただメム・アレフの為に動こうとする心境の表現、素晴らしい。

ご投下、ありがとうございました!!

>> 赤道斎&一ノ瀬琢磨
ご投下ありがとうございます。いぬかみっ!からと、下セカからですね。
どんなアニメかは人伝程度に聞いてはおりましたが、宝具で列挙されるとまた壮絶ですねこれは。
スキル、宝具共に一般的にまともと認識できるような宝具が少ないのが本当に笑える。
本命のキャスターは性能があれなのに、マスターの方がヤバいって言うのは<新宿>流なのに、如何せんペアがペアのせいでシリアスさの欠片も無いのが実に良い。
いや良いのか? ……そういや<新宿>なのにセックスとエロを主軸を置いたペアって割と少ないですね。カッツェニキはしっかりと其処を見抜いていた……?

ご投下、ありがとうございました!!

>>土方歳三&和泉守兼定
ご投下ありがとうございます。ドリフターズからと、刀剣乱舞からですね。
これはまた、ありそうでなかったと言うべきか、自分には思い付かない組み合わせでしたね。生前振るった愛刀の擬人化と、その持ち主のペアと言うのは。
本来ならば高い志で満ちていたであろう主の、完全に堕ち切った姿を見るセイバーの悲しさが、とてもよく描写出来ています。
それでもなお、土方の為の刀であろうとすると言うセイバーの精神性と、廃棄物になった土方との対比が良い。
<新宿>を跋扈する人斬りの土方と、それに従う愛刀のセイバーは、今後どうなるのでしょうか。

ご投下、ありがとうございました!!

>>テオドア&汐見琴音
ご投下ありがとうございます。双方ともP3Pからですね
正直マーガレットを投下した瞬間から、何時か来るとは思っていましたが、やはり来ましたね。ペルソナセンスが中二の人が。
考えてみればテオドアは女主人公を選ばない限りは選ばれないんでしたね。つまるところ、キタローを選んだ場合はそもそも名前すら見られない。
その辺りがまさに、蚊帳の外と呼ばれる原因なんでしょうね。外の世界には興味があったけど見れず。ストーリー中に姿を見せない為に、ニュクスとの戦いも見れない。
本人は何ともない風にふるまっていますが、その寂しさと言うのが、短い文章からも良く伝わって来て、表現力と感受性の高さを窺わせました。

ご投下、ありがとうございました!!


576 : ◆zzpohGTsas :2015/08/25(火) 00:05:46 0B57KWDs0
塞&アーチャーの主従以降の感想は、しばらくお待ちください。
具体的には、名簿が完成した旨を告げる頃には、感想を行いたいと思います


577 : ◆tHX1a.clL. :2015/08/27(木) 03:39:03 JRWPnbyA0
候補作の誤字とかいろいろ修正しました
候補作自体に特に大きな変更はないので事後報告のみとなります

あと、「全て遠き理想郷」において赤道斎の呪文を「赤道の血よ、来たレ」と書きましたが正しくは「<来たレ、赤道の血よ>」でした
この点に関してもまたのちほど修正させてもらいます


578 : ◆zzpohGTsas :2015/08/29(土) 16:45:05 RUcVx8yA0
理論上奇跡が起きれば明日の日曜の夜9〜10時位にはUP出来ると判断しましたので、お待ちくださいませ


579 : ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 15:54:40 2ql0V7GM0
報告を致します。塞以降の感想を引き換えにするのならば、今日の夜9時にUPする事は十分可能だと判断いたしましたので、その方向で行きたいと思います


580 : ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:00:28 2ql0V7GM0
     お     ま     た     せ     

それでは、OP、投下します


581 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:01:13 2ql0V7GM0
      






   寄せてはかえし 寄せてはかえし 


   かえしては寄せる波また波の上を、


   いそぐことを知らない時の流れだけが、


   夜をむかえ、昼をむかえ、また夜をむかえ

                   ――光瀬龍、百億の昼と千億の夜






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582 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:02:43 2ql0V7GM0
1:魔界都市<新宿> “衝撃侠”

「<新宿>ってのは、どうもスシが高くていけねぇ」

 そう言いながら、赤身のマグロを手で掴み、口へと持って行く男は、『ニンジャ』だった。
派手な柄のシャツと白いズボン、そして何より目を引くのが、如何にも示威的な、古代ローマのグラディウスめいて彼の頭から伸びたリーゼント・ヘア。
黒装束に身を纏い、素早い動きで相手を翻弄すると言う固定観念に囚われた我々が見たら、きっとこの男が忍者である、と言われても嘲笑しか上げる事が出来ぬであろう。
だが彼は、『ニンジャ』であって『忍者』ではないのだ。其処を、履き違えてはならない。
彼の名はフマトニ、いや、『ソニックブーム』。衝撃波、と言う名の通り、眼にもとまらぬ速さの速度と、衝撃波を生む程のパワーのカラテを操る、歴戦のニンジャなのだ。

「俺のサーヴァント=サンがスシを上手く作れりゃ、飯代も低く抑えられるんだがな。エェ?」

 言ってソニックブームが、自らが引き当てた、セイバーのサーヴァントの方に目線を送る。それはネオサイタマにいた時代によく切っていたメンチである。
これだけで未熟なニンジャはたちまち震え上がり、ヤクザやサラリマンならその場で失禁しかねない程の威圧感を秘めている。
それを目の前の、線の細い金髪の青年は、風にそよぐ柳の様に受け流す。サーヴァントである以上当然の事なのだが、「ガキの癖に大した野郎だ」とソニックブームは何度も思っていた。尤も、それを口に出す事はないのだが。

「一朝一夕で寿司が作れたら苦労しませんよ。第一、寿司をジャンクフード代わりに食べる何て、どんな経済観念をしてるんですか貴方は」

「俺達の世界じゃスシは常食のブツなんだよ、セイバー」

 信じられない、とでも言うような表情で、『橘清音』は言葉を返した。
人間である以上、当然食事を摂る必要はある。当たり前の事だ。……だがソニックブームは何故だから知らないが、寿司を主食としているのだ。
ご存知の通り、寿司と言うのは高い。無論回転寿司――ソニックブーム曰くスシ・バーの一種との事――に行けば安いのだが、
ソニックブームは寿司の配達を頼む際、いつもグレードが中級以上のものを頼むのだ。これでは金が掛かっても仕方のない事だろう。
現にソニックブームの個人的な財布事情は、結構悪くなってきている。これが、彼が<新宿>の寿司の値段を嘆いていた訳である。
「どうもこの世界のスシは懐に優しくねぇ……味の方は美味いんだが、量もネオサイタマに比べてけち臭い。嫌な世の中だぜ……」、何度ソニックブームはこう思った事か。
清音にスシを作らせてみたは良いが、そもそも寿司を作ると言うのには、弛まぬ努力と研鑽研究が必要になる。直ちに作れる筈がない。
結果出来たのが、シャリの上にネタを乗っけただけの物と言う、それはそれは酷い代物だった。それ以降ソニックブームは清音にスシを作らせていない。配達に頼る事にしたわけだ。

「腹満たす為に食ってるって事もあるが、スシはニンジャの力を蓄えさせる基本食みてぇなもんだ。これを食っとけば、自然回復力も高まる。考えなしな訳じゃねぇ」

 寿司で回復力が高まるなんて、本当に人間なのかと言わんばかりの目で清音がソニックブームを見ている。
これが事実その通りなのだから全く信じられない。このニンジャが記憶を取り戻す契機となった戦いで負った傷が完治したのも、
生来の治癒力もそうなのだろうが、寿司を食べてから確かに目に見えて治癒速度が速まっていた。清音の知る忍者とソニックブームが言う所のニンジャとは、哺乳類と爬虫類ぐらいには違う生き物であるようだ。


583 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:03:02 2ql0V7GM0
「<新宿>って街は、ネオサイタマとは違う、不気味な街だな」

 タマゴを手に取り、ソニックブームが言う。

「近頃頻繁に起こるヤクザ・スレイ。各地で見つかるネギトロより酷い猟奇死体。頻繁に起こる行方不明者。
そして、巷を騒がせる、信条もねぇ、黒い礼服のマス・スレイヤー。この街の暴力は陰気で、ドロドロとしてて、不気味な物を感じるな。十中八九、聖杯戦争のせいなんだろうがな」

 此処でタマゴを咀嚼するソニックブーム。

「来たる時の為に、力は蓄えておくに限る。そうだろう、セイバー」

「……そう言う事にして置きましょうか。食べ過ぎて破産する事のないよう願いますよ」

 清音の言葉を聞き終えると、ソニックブームはイクラの軍艦巻きを手に取った。本当に清音の話を聞いていたのかどうかは、解らない。

 だがしかし――ソニックブームの言う通りでもあった。この街は表面上は、何処に出しても恥ずかしくない立派な経済都市である。
<魔震(デビル・クェイク)>によって生み出された亀裂の傷痕など物ともしない逞しい街。……であった筈だ。
この街の今は不気味だ。この街にやって来る前から、<新宿>には少なからぬ翳があったと聞くが、自分達がこの世界に現れてからこの翳は、
版図を急激に広げて行っているような気がしてならない。殺人。行方不明者。猟奇死体。不穏なニュースをよく耳にする。いやがおうにも、聖杯戦争の始まりが近い事を清音は思い知らされる。

 適当にソニックブームがつけたテレビの液晶に映る番組。二人は全くその内容に興味を示さない。
今はバラエティの歌番組の時間であった。此処<新宿>に本社を置く、『UVM社』がメインスポンサーの、人気番組だった。


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584 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:04:05 2ql0V7GM0
2:魔界都市<新宿> “艦想歌”

 どのような才能の分野もそうであるが、ちょっと上手いレベルの人物は、実は世間には沢山転がっている。
しかし才能業界のプロデューサー業と言うものは、ちょっと上手い程度人物など求めていないのだ。彼らが求めているのは、卓越した才能の持ち主だけ。
それが生来備わっていた才能によるものなのか、それとも努力の末に獲得したものなのかは、問わない。本音を言えば、上手ければ良いのだ。
そして、その上手な人間と言うのは、驚く程転がっていない。解っていた事であるが、『ダガー・モールス』は、その事を<新宿>にきてから嫌でも認識させられている。

 <新宿>は河田町に建てられた、巨大なタワー状の建物。通称、UVM社。
此処は嘗て<魔震>によって壊滅的な被害を負ってしまった、旧フジテレビ本社があった場所であり、その場所に成り代わるように、このレコード会社は建てられていた。
曰く、現在の日本において、音楽で一山当てたいと願う者達の理想の御殿、と言うのが余人の認識であるらしい。当然だ、この自分が社長をやっているのだから、とダガーは万斛の自信を持っていた。

 しかし同時に、UVM社は誰でも引き入れていると言う訳ではない。
国内のレコード会社の中でもその選考は驚く程厳しい事で知られており、余所の一線級の歌手やバンドでも、此処で活動出来るか如何かは全く予想出来ないと言われる程だ。
それはそうだ、良質な音楽こそが生命活動の助けにもなるダガーにとって、卓越した音楽の才能の持ち主を集めると言う事は至上命題である。
故にこれだけは、ダガーは妥協はしなかった。少し腕が立つ程度の音楽の才能など求めていない。求めているのは、天才か秀才だけなのだ。
UVMの選考は恐ろしく厳しい。そうと皆が解っていても、このレコード社に自分を売り込みに来る者は絶えない。
そしてそれら全てが、ダガーにしてみれば取るに足らない者。改めて、思った訳だ。本当に世界には、優れた才能を持つ者が少ないと言う事を。

 ――してみると、今自分の目の前で、完全に自分の世界に入っている風に歌を歌っている、オレンジ色の服を着た少女は、
今も完全に力を取り戻し切れていないダガーにとっては、干天の慈雨にも等しい存在なのだった。


585 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:04:25 2ql0V7GM0
「恋の2-4-11、ハートが高鳴るの、入渠しても治まらないどうしたらいいの? 」

 自分の世界に没入できるかどうかと言うのもまた、才能の一つだ。
ましてや歌謡や演劇の世界では特にそうである。これもクリアーしているというのだから、大した才能である。

 UVM社の収録スタジオの一つであった。
とは言えこの収録スタジオは専ら、ダガーの引き当てたアーチャーのサーヴァントである『那珂』が歌を歌う練習の為だけに使われているそれである。
そして同時にその歌を聞いて、ダガーがリラックスをする為の場所でもある。全くダガーも仕事がない訳ではない。疲れも溜まる。
蓄積した疲労を癒してくれるのが、那珂の歌なのであった。ちなみに今彼女が歌っている歌こそが、彼女の切り札的な持ち歌である、恋の2-4-11だ。

 那珂の歌声を聞きながら、ダガーは<新宿>でのこれからを考える。その手にはA4の書類が沢山納められたクリアファイルが握られている。
未だに、聖杯戦争の根幹である、聖杯を求める為に『殺し合う』と言うファクターについてはダガーは否定的だった。
但しそれは、ダガーが平和主義だからと言う訳ではない。寧ろダガーは、聖杯に縋って叶えたい願いが確かに存在する人物である。
殺し合いと言う手段が野卑で野蛮で低俗だから、忌避感を覚えているだけである。それにしても、こうでもしなければ願いが叶えられないと言うのならば。
ダガーはその殺し合いにも、乗る。遍く世界を音楽と言う芸術で支配する為ならば、主旨だって曲げられるのだ。

 音楽に関しては兎も角、ガチガチの実戦についてはダガーは初心者だ。兵法も軍略も欠片も知らない。
しかしそんな彼にも、戦いは情報を制した者が有利になると言う事だけは解る。ダガーの立場は、<新宿>内でも特に大きい。
レコード会社と言うのは各種マスメディアにも顔が利く。況してやUVM社程ともなれば、その影響力は絶大だ。
これらを駆使して、<新宿>区内の情報を掻き集めている。聖杯戦争を有利に進める為に、だ

 ……だが、其処は腐っても音楽会社の社長。
自分の会社に引き入れたい程良さそうな実績を持つアイドルや、少しオーディションをさせてみたいと気になる女優や俳優の情報を見ると。
ついつい情報を選出する行為を止めてしまうのは、本当に悪癖だなと、クリアファイルの中の情報を厳選しながら考える。
自らのサガについて苦悩しつつ、クリアファイルを捲る手を止めてしまったそのページには、二人の女性について記載されていた。
一人は<新宿>の中堅プロダクションに所属する新進気鋭の理系アイドル。そしてもう一人は、歌手ではないが、各界で天才的とすら謳われる程の演技力を持った、天才子役だった。


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586 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:05:52 2ql0V7GM0
3:魔界都市<新宿> “ドクター・マッドネス”

「見事な治療の指示と、腕前だ」 

 それは、耳にするだけで警戒心や遠慮などと言った、心の壁を蕩かすような、美しい声だった。
聞くだけで、声の持ち主は天与の美貌の持ち主なのだろうと察せさせる事の出来る声。想像力豊かな者なら、暗幕越しでもその美しさが想像が出来る程の美声だ。

 そして彼の美貌は事実、美しい――いや。
最早美しいと言う修飾語句ですら陳腐でありきたり過ぎて、使う事すら躊躇ってしまう程の美の持ち主だった。
本物の白よりも白いのではないかと言う程の、純白のケープで身体を覆った、長身のその男の名を、ドクターメフィスト。
<新宿>は信濃町を所在地とする、K義塾大学病院を乗っ取る形で現れた、白亜の大病院、メフィスト病院の院長である。
彼は今患者の部屋に佇み、一枚のカルテを眺めていた。メフィストのカルテを見る目は、何処か冷めている。
この世の真理を全て解き明かしてしまい、無上の退屈の中を過ごさねばならない事を余儀なくされた哲人のような佇まいだった。

「流石、と言うべきですかな。『不律』先生」

 言ってメフィストはカルテをそっと、目の前の、千枚通しもかくやと言う程鋭い眼光を持った老人に手渡した。

「恐縮です」

 かしこまった様子で、メフィスト病院に勤務する優秀な医療スタッフである不律は、カルテを受けとる。
患者部屋には、メフィストと、不律、そして、命に係わる程の内臓の重大疾患でメフィスト病院に搬送された患者当人がいた。
陶然と言うべきか、当惑と言うべきか、それとも、畏怖、と言うべきか。四十代も半ばの中年の男性患者は、メフィストの美に釘付けになっていた。
真の美を誇る芸術品を見る様な目、とでも言うべきか。世界には、見る者が見れば、それが途轍もない美を誇る物であると言う芸術品の類が幾つもある。
だが、万人が見ても美しいと思えるような美を誇る芸術品は、驚くほど少ない。――その数少ない、いや。この世で唯一のレアケースが、メフィストなのである。
患者は当然として、不律ですらが、まともにその美を直視出来ない。この男ですらも、目をやや伏せた状態でなければメフィストを直視出来ないのだ。直視すれば、魂すら引き抜かれそうな程の美しさには、不律は恐怖しか覚えなかった。


587 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:06:16 2ql0V7GM0
「患者はいつ退院させるつもりかね」

「経過を見る、と言う意味で、明後日には退院させるつもりです」

「結構。後の処置は、君に任せても問題はなさそうだ。では失礼する、不律先生」

 言ってメフィストは、本当にただちに患者の部屋から、ケープをはためかせて退室する。
部屋の光彩が、ドッと抜け落ちたような感覚を、不律は憶える。部屋に残ったのは明るい蛍光灯の光と、大理石よりもなお白い壁面とホワイトタイルの床。
白と言う清潔感溢れる色が、今はとても猥雑な色に見えて仕方がなかった。何故か? 空間が悲しんでいるのだ。
あの美しい医師が、自分達の空間にいなくなった事を、患者部屋、と言う箱の中の空間が、嘆いているのだ。
其処に佇むだけで、空間すらも彩らせ、いなくなるだけで急激に空間を褪せさせる男、ドクター・メフィストの美貌よ。

【……私の整形外科の腕前でも、彼は再現出来ませんねぇ】

 不律の脳内に、そんな声が響いて来た。念話、と言うものだ。
霊体化した状態で、不律がいる患者部屋で待機していた、ランサーのサーヴァント、『ファウスト』であった。

【どうじゃ、ランサー。あの男は】

【確実に聖杯戦争の参加者でしょうな。恐らくはサーヴァントであろうかと。……私の存在にも、気付いていましたからね】

 やはり、と言う装いで不律は少しだけ首を縦に振った。
元からこのメフィスト病院と言う場所には違和感と疑惑を持っていたのだ。不律がこれを覚えたのは、病院の名前から。
このような名前の病院が、この世にあってたまるものか。患者を受け入れる場所として、あまりにも不適格過ぎるではないか。
この病院には何者かが一枚噛んでいる。それが確信に変わったのは、あの美しい白医師を初めて見た時の事だ。
一瞬不律は、自らの老醜を恥じて刀で腹を裂こうか、と思いつめた程に美しい顔つきをしたあの院長。
何の根拠も確証もないが、あれは、この世にあって良い美しさではない。不律は、メフィストの美しさから、彼が黒なのではないかと考えた。そしてそれは事実、当たっていた。

 サーヴァントが運営する病院で、専属医として働くマスター。何ともアイロニーの効いた構図に、思わず不律は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
今日に至るまでに一線交えても良かったのだが、メフィストを慕う患者も多いし、何より今も彼の力を必要とする患者はメフィスト病院にもいる。
それを考えて、不律は衝動を抑えた。今はまだ、メフィストを葬る時ではない。この病院から不律と、メフィストの手を欲さぬ患者が消え失せた時。
その時こそが、彼の命の潰える時なのだ。彼は、葬られねばならない。自らが生み出してしまった、災厄の種子、パンドラの箱たる研究の成果と研究そのものを消すと言う願いの為に。

 そんな不律の決意を、複雑そうに眺めるファウスト。
解っている。彼もまた、自らの成してしまった事を悔いており、それを是正しようと走っているのであり、決して悪事を成そうとしている訳ではないと言う事を。
解ってはいるが、それには当然血が流れる。人が死ぬ。それらは不可避の事象なのだ。我がマスターがそれを覚悟で、聖杯を手に取ろうとしていると言う事実が。
ファウストには、とても悲しかった。

 ――あの美しい医師とは、同じ医者として語り合う機会が欲しかったのですがね……――

 ゲーデのファウストに於いて、メフィストに誘惑された老博士と同じ名を冠するランサーは、惜しみつつもそう考えるのであった。


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588 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:07:11 2ql0V7GM0
4:魔界都市<新宿> “量子去来”

 今一度、自らが封印していた力を振う時が刻々と近付いているのが、『荒垣真次郎』には解るのだ。
確証はない。勘である。しかし直感と言うものは時として、本人の予測を超えて当たる事が間々ある。

 今荒垣は、銀色の拳銃を手に取り、それを見下ろしていた。
中に黄昏の羽根と呼ばれる物を搭載する事で、通常の時間の制約を超越した影時間の中に置いての稼働をも可能とした、ペルソナ召喚の為に必要なデバイス。
ペルソナを安定して召喚するのに必要な、『荒垣にとって』は恐ろしく重要な意味を持つアイテム。召喚器である。
これを見る度に思い出す。影時間とは本来全く無縁であった天田の母親を、自分のペルソナの暴走で死なせてしまった痛ましい事件。
そして彼女の息子である天田から向けられた、これ以上と無い殺意を。……それから逃げるつもりは、荒垣には毛頭ない。
自分が、あのストレガのリーダーである、キリスト気取りの色白の男に殺された事で、罪がチャラになったなどとも思っていない。
人は、誰かを殺したのならば、死んで詫びるのではなく、生きて償う事が必要なのである。……陳腐な言葉に聞こえるが、
それがどれほど厳しい茨の道であるかは、荒垣が良く知っている。その茨の道から逃げ、S.E.E.Sから抜け、日の当たらない巌戸台の路地裏で過ごして来た荒垣には。

 一度は、もう発現させる事もしないと誓った力であった。
その制約を破り、天田を守る為――いや、あの少年に自分が母親を殺したのだと気付かせ、彼に殺される為に振るい始めた力だった。
……だが今は違う。今度は明確に、自らの為に。自らが裡に抱える怒りの為に、この力を発揮させる。その覚悟は既に、荒垣には出来ていた。

 召喚器の銃口を自らのこめかみに当てる荒垣。
嘗てはこのトリガーを引く事すら戸惑っていた事もあった。しかし、今は違う。迷いも何もなく、荒垣はトリガーを引き始めた。

「――来い、カストール!!」

 バァンッ、と言う、火薬を炸裂させたような音とは違う、ガラスが砕け散るような銃声が鳴り響く。
すると、荒垣の背後から、一つの、霊的、或いは精神的ビジョンが現れ始めた。それはスライムやアメーバのような原形質の生き物とは違い、明白な形を持っている。
たなびく長い金髪、白い仮面のような顔面、広く大きな胸板に突き刺さったシャベル状の剣。そんな人型が、足が一本しかない馬のような装置に跨っている。
ギリシャ神話における、ポリデュークスの兄。二人で一人の大英雄。しかし、弟と違い不死なる者ではなかったが故に弓矢を受けて死んでしまった悲劇の男。
それと同じ名を冠し、彼の由来を模した形をした、荒垣真次郎と言う個人の精神的なヴィジョン。それが、彼のペルソナ、カストールであった。

「へぇ、初めて見るけど、随分不思議な力なんやなぁ」

 それを見て、驚いたような表情を浮かべるのは、荒垣が呼んだアサシンのサーヴァント、イリュージョンNo.17こと、『イル』だ。
以前からただ者ではないとは思っていたが、どうやら本当にただの、喧嘩が強くてクソ度胸のある男、で終わる人間ではなかったようである。

「……俺は、心底この力が嫌だった。これを暴走させて人を殺しちまった時以降は、死に場所を求めて彷徨ってた記憶しかねぇ」

 「だが、今は違う」

「死人を勝手に呼び出して殺し合え何て抜かす糞野郎がいると思うと、腹が立ってしょうがねぇ。何処の誰の思惑なのか知らねぇが……絶対にぶっ飛ばしてやる」

「……はは、やっぱアンタ、おもろいわ。初めから解ってた事やけどな。ええで、マスターのやりたい事も、おれのやりたい事も合致してるし、付き合ったる。
あぁ但し、本物のサーヴァントは滅茶苦茶強いから、殴り倒すのはふざけたマスターだけにしとき。サーヴァントはおれがブン殴っとくから」

「あぁ」

 神話に曰く、カストールはポリデュークスと呼ばれる英雄の兄であり、弟に勝るとも劣らぬ英雄だったらしい。
乗馬とボクシング、軍事に優れたスパルタの烈士であったが、弟ポリデュークスの前で矢が刺さり、命を散らしてしまった悲運のヒーロー。
皮肉な事に荒垣は此処に来る前、ポリデュークスのペルソナを操る幼馴染の男の目の前で死亡した男であった。神話の再現である。
だが今、何の奇縁か、荒垣はこうして<新宿>の土地で、五体満足の状態で復活している。

 今の荒垣は、珍しくやる気に満ち溢れている。
死にゆくカストールを生き返らせれば、どんな事が起こるのか。カストールは一人だけでも大英雄である事を、聖杯戦争の裏に潜む魔物に、骨の髄まで教えてやるつもりなのだった。


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589 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:08:08 2ql0V7GM0
5:魔界都市<新宿> “死蠅王”

「近いな」 

 色気も何もない、無地の掛け布団の敷かれたベッドの上に腰を下ろしながら、その少年は言った。

「僕には解る。もうすぐ<新宿>が聖杯戦争の舞台地に様変わりするのがね」

 ピクッ、と。勉強机に向かって宿題を行っている少女、『桜咲刹那』が反応を示した。
引き当てた自分のサーヴァントである、ランサー、『高城絶斗』の発言はなるべく無視しようと決めていたのだが、どうしても身体が反応してしまったのだ。

「願いを叶えたい、と言う人の意思の奔流を甘く見ない事だよ、マスター。正義が勝つ、何て甘っちょろい事は思わない事だ。
意思が強くて、より努力した、才能のある奴が、常にこの世の勝利者になるんだ。正しい奴が勝つ、間違った奴が負けるなんて事は関係ない。
間違った考えを抱いた奴でも、強ければ、その間違った思想がその日から世界の真理になる事だってある。……で、だ」

 其処で言葉を切り、タカジョーはベッドから立ち上がる。流暢な男だった、言葉が途切れない。

「もうふわふわしたものの考え方は改められたかな? セッちゃん」

 タカジョーから見た桜咲刹那は、年齢のせいとは言え仕方のない事だが、生の人間を斬り殺す事への忌避感が強い。
それさえ捨てきれば、自分を御すに相応しい、優秀なマスターの出来上がり、と言うものなのだが、これが中々行かない。
時と場合によっては、人を斬り殺す事も視野に入れておいた方が良い。タカジョーが刹那に求める事は、それだけだ。
それが中々彼女は踏み切れていない。面倒なマスターだ、とタカジョーも苦笑いを浮かべるばかりだ。

「お前の言う事を鑑みれば、ふわふわした私の考え方でも、聖杯戦争を勝ち抜ければその日から正しい事になるのだろう?」

「天地が引っくり返ってもないない。聖杯に至る前に殺されるのがオチだよ」

 面白くもないジョークだったらしく、肩を竦めながらタカジョーがそう切り返して来た。

「君はハッキリ言って、命のやり取りの本当の怖さって言うのを解ってない。君は、その深奥を少しだけ覗いた程度。
命のやり取りの何たるかを身を以て知っている相手には、君は絶対負ける。賭けても良いぜ」

「私にそれをさせないように働くのがサーヴァントだろう。貴様は無能か?」

「おや手厳しい」

 これは面白いジョークだったらしく、ケラケラと笑い始めた。

「ま、君の言う事も正しい事だ。サーヴァントの相手はサーヴァントが務めるのは当たり前だ。無能は無能らしく、マスターに魔の手が及ばないように努めるよ。
但し、サーヴァントの相手で手一杯で、相手のマスターの動きは阻止出来なくなっちゃう、か・も・ね」

「……何?」

 タカジョーの言葉にただならぬ意味合いを感じ取ったらしい。刹那が眉をピクッと上げた。
それを見てこの少年魔王は、酷く呆れた表情で刹那を見据え、口を開く。

「その調子だと、君は、自分が殺されるのは敵サーヴァントだけだと思ってたみたいだね。それはつまり、自分より秀でたマスター何て、この世界にはいないと言う自身があった事を意味する」

 其処で、タカジョーは微かな笑みを浮かべた表情を、一切の表情を感じさせない。
宇宙が剥き出しになったような虚無の表情で、彼は口を開いてこう言った。

「お前死ぬな。間違いなく」

 タカジョーの言葉が途端に、刹那を突き放すような冷たいそれへと変貌した。
彼女は身震いを覚える。『死ぬ』、と言う単語を口にした時のタカジョーの冷たさが、尋常のものではなかったからだ。
死ぬやら殺すだのと言う物騒で、しかし陳腐な言葉は、この少年の口から紡がれれば途端に物質的質量を増してしまう。これが、魔王の存在感だった。

「何かを成したい、って言う人の心境と必死さを甘く見るなよマスター。生きてお嬢様だか言う女の所に戻りたいのなら、人一人、そのでっかい刀で斬り殺せる度胸位見せてみろよ」

 言ってタカジョーは、刹那に背を向け、室内から姿を消した。彼が良く使う、瞬間移動である。
普段なら夕凪を振って生意気なタカジョーを打擲する事でもしたのだが、今はそんな気になれなかった。
自分が甘い事など、彼に言われなくても解っている。しかし刹那は、それでも、綺麗な身体で麻帆良に帰りたかったのだ。
いつものように、近衛木乃香を遠くから見守る、あのささやかな日常に戻りたいのだ。

 人を斬る事と、妖物を斬る事は訳が違う。
机の傍に立てかけられた、恩人である近衛詠春から受け継いだ大刀、夕凪を見ながら刹那は考えに耽る。
彼女の選択の時は、近かった。


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590 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:09:27 2ql0V7GM0
6:魔界都市<新宿> “白貌帝”

 陸塊ごと天空に浮かぶ御殿の噂が<新宿>に流れ始めたのは、一体何時頃の事なのだろうか。

 その御殿を人々は、テレビや本、ネットから聞いた訳ではない。いやそもそも、これはその御殿の話に限った事ではないが、流行の端緒も何処からなのか解ってない。
気付いたら、多くの人物が『天空の城』の話を知っていた。しかもそのイメージは驚くべき事に、話す個人の主観によるブレが、全くない。
誰もが皆、同じ事を話す。天空に浮かぶ絢爛たる帝都。しかしその絢爛さに反して、その街には、誰一人として、人がいない……。死者を受け入れぬ、天国のようである。

 人々はその国について何故、今しがた見て帰って来たように鮮明に話せるのか。たかが、空想の国の話なのに。
此処が、この噂の不思議な所なのだ。彼らはテレビや本やネットで、天空帝国の話を聞いたのではない。
――夢だ。夢で彼らは、この国の話を見聞したのだ。そしてこれらは、天空の城の話をする人物全てに共通していた。
何と彼ら全員、夢を通じてこの御殿の詳細を知り始めたと言うのだ!! これ以上のオカルトが、果たしてあろうか!!

 この噂が流行り始めたのと時同じくして、不可思議な骨董品が、<新宿>を中心に流通し始めたのは、何の偶然なのだろうか?
それは、地球上に嘗て存在していた、如何なる文明様式とも違う形態や技術で作られた美術品であり、古文書であり、戯曲である。
しかし、炭素年代測定法で本当に古代の代物なのか計測してみても、確かに、最低でも千年の時を経た代物であると言う裏が取れている
ある日を境にしてポッと現れた、現代の人物が観測出来ていない未知の文明の産物。今、考古学界や史学界がちょっとした騒ぎになっている事を、余人は知る由もない。

 ――そして、この天空の城の噂が広く流布される度に、喜悦の感情が高まっている男の存在を、人々は知らない。


591 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:09:38 2ql0V7GM0

 <新宿>の繁華街の一つに建てられた、高級ホテルのスィート・ルーム。
そのまま眠りこけてしまいそうな極上の据わり心地のソファに、足を組んで腰を下ろし、鳩の血のようなワインを燻らせる眼鏡の男がいた。
彼は微笑みを湛えたまま、夜空を足元に敷いたような<新宿>の夜景を見下ろしていた。笑みが止まらないのだ。
この<新宿>だけでない。遍く全ての世界を、我が手で掌握出来ると思うと。『ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ』ことムスカは、知らず笑みが零れてしまうのだ。

 空調の効いた部屋。夜の中でも昼の明るさを保つ事の出来る照明器具。其処に居ながらにして、世界の様々な情報を把握出来るパーソナル・コンピューター。
全てが全て、ムスカの居た世界には無かったもの。ムスカのいた世界では、考えられなかった代物。彼らの世界の文明の規矩を超越した代物。
此処に来てからは、嘗ての自分の見識の狭さと言うものを思い知らされた。異なる世界に異なる文明、と言う価値観が、彼には想像だに出来なかったのだ。
しかし、その世界があり、そして、本人の努力次第で遍く世界が自分のものになるのだと知ったら……。
猛々しい野心をその胸に秘めたムスカが、滾らぬ訳がなかった。聖杯は、我が手に絶対に収めねばならない。世界は、己が足元に敷かれねばならない。

「最高のショーにしようではないか、キャスター、いや。此処では『タイタス王』と呼んだ方がよろしいかな」

 言うとムスカのすぐそばに、一人のサーヴァントが霊体化を解き実体化をした。
標高数千m級の高山の山頂に降り積もった、穢れの知らぬ万年雪のように白い肌をした、白子(アルビノ)の男である。
身に纏う服も白なら、流れる髪の色も絹のように真っ白。ただ唯一、瞳の色だけが、ルビーの様に紅い。
見る度にムスカは、その圧倒的なカリスマ性と神韻に圧倒される。そして同時に、王とはかくあるべしと言う勉強にもなる。
キャスターとは、聖杯戦争においては外れクジに等しいクラスであると言うが、とてもではないが、このタイタス王の威容を見てしまえば。
そんな文句を言う気概など、塵も残さず吹き飛んでしまう。自分がこのサーヴァントを引いたのは、運命の達しに違いない。世界の王になれと言う、神の思し召しなのだと。

 タイタス王はその口の端を吊り上げた。つられてムスカも、含み笑いを浮かべる。
自分達の相性は抜群だ。戦争などと言う野蛮な行いなど、するまでもない。自分達は、戦わずして聖杯を手に入れられるのだ。
そう考えれば、この白子の王から笑みが零れてしまうのも、無理からぬ事だと。ムスカはそう決めつけていた。

 ……ムスカは知らない。この白子の帝王が、彼の想像を超えて野心に溢れる人物である事を。
宝石を鏤めたような<新宿>の夜景を見て悦に浸るこの男には、想像も出来ないのだった。


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592 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:10:38 2ql0V7GM0
7:魔界都市<新宿> “喧嘩稼業”

 突然だが、此処で佐藤クルセイダーズと言うエリート集団の話を我々はしなければならない。
彼らは十代の福山雅治こと『佐藤十兵衛』の忠実な手足となって働く精鋭部隊である。
精鋭と言うからには、当然数は少ない。寡兵である。だがそれら全てが、佐藤十兵衛に対して忠誠心を誓い、そして確かに、優秀な実績を持った騎士(ナイト)達なのだ。
今日も彼らは、ボスである佐藤十兵衛の為に、<新宿>の情報を仕入れに行く。全ては佐藤十兵衛が、聖杯戦争を勝ち抜き、彼の究極の目的。
Google買収と、宿敵である工藤優作相手へのリベンジを果たさせる為に。

「……要するに遣い走りじゃない、その佐藤クルセイダーズって」

 呆れたようにカーペットに寝転がりながら、佐藤が引き当てたサーヴァント、『比那名居天子』が口にした。
まあ要するに、佐藤クルセイダーズとはそう言う事である。佐藤が強引かつ、半ば脅しに近い方法で結成させた、便利な使い走り集団なのである。
元々は、佐藤が元居た世界に住んでいた栃木県宇都宮の高校の一集団であったのだが、此処<新宿>でもそれが生きているとなると、幸いだ。利用しない手立てはなかった。

「立って奴は犬でも使えってのが佐藤家の家訓でね。割と役に立つとは踏んでる」

 佐藤クルセイダーズの役割は二つ。
一つは、佐藤十兵衛に対して、<新宿>の異変はないかと言う事を伝えると言う、伝令の役割。
そしてもう一つが――窮地に陥った時の、佐藤十兵衛のスケープゴート。佐藤はこの世界の人物が全てNPC、自分とは縁もゆかりもない存在だと解ると、容赦がなかった。
元々、自分さえよければ、の気が強い男だ。他人を犠牲にする事に一切の躊躇がない。自分が生き残る為には、彼は他の人物を思う存分利用するつもりで満々だった。
天子もこれには難色を示したが、流石に十兵衛も、見知った人間をすぐさま囮に使うような事はしたくない。パシリが減る。
可能な限り彼らには危難が及ばないようには努めると、天子を一応は説き伏せた。

 室内のテレビの電源を付ける十兵衛。
夜のニュースの時間である。この世界にきてから十兵衛は、ニュース番組のチェックを欠かさない。
佐藤クルセイダーズを使う事もそうだが、やはり一番確実なのはマスメディアを洗ってみる事である。不穏な事件は確実に彼らは採り上げるのだから。
だが今日も、放送する内容は変わりはない。<新宿>で起った事件についての報道ではあるのだが、それらは既に、十兵衛や天使も知っている、既知の事柄だった。

 ――日ごと、<新宿>と言う街がおかしくなって行くのを十兵衛は感じる。
黒い礼服の大量殺人鬼と、それと一緒に行動をしている『遠坂凛』と呼ばれる少女の話。荒木町のバラバラ殺人事件。
歌舞伎町の真っただ中にあるとあるマンションの住民全員の殺人。<新宿>と言う街全体で頻繁に起こる、ミンチ殺人。
聖杯戦争の参加者だから解る。これらは全て、人々の心の中で燻っていた闇が偶然爆発した結果起った事件ではないと言う事を。
一見無関係そうに見えるこれら全ての事件の裏には、聖杯戦争と言う太い共通項のワイヤで結ばれている事を。
佐藤十兵衛と比那名居天子は、確りと認識していた。そう、既に聖杯戦争は始まりつつあるのだ。これらの血なまぐさい事件は、その何よりの証だった。


593 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:10:58 2ql0V7GM0
「華やかさがねぇな」

 ポリポリと柿ピーの柿を口へと運びながら、十兵衛は舌打ちをする。 

「本当ね」

 これには天子も同意する。隠しもしない嫌悪が顔に浮かんでいる。

 聖杯戦争には魂喰いと言う魔力摂取手段がある事も知っているし、戦略上それを行わなければならない局面がある事も。
十兵衛は愚か天子ですらもが、それを認識している。だが、今ニュースで報道しているこの四つの事件は、どれらとも違う気がしてならない。
まるで自分の悦楽と欲求を満たす為だけに行われた、残虐な事件。天子が露骨な不快感を示すのは、極々自然な事だった。

 果たして俺は、聖杯戦争を勝ち抜けるのか、と言う不安に一瞬十兵衛は駆られる。
いや、勝たなくてはならないのだ。こんな街で、俺はこの命を散らせる訳には行かない。
顔の形が変わるまで殴り倒し、ションベンを漏らさせ、命乞いをさせたい程憎んでいる男の顔を十兵衛は思い描く。
この世界でNPCとして活動しているのかもしれない。だが佐藤が金剛を叩き込み、煉獄で意識を失わせ、高山で睾丸を潰す相手はこの世界の彼ではない。
元居た世界で、陰陽トーナメントの参加者の一人として出場しているあのバカヤクザの工藤優作の方なのだ。彼に会うまでは、決して下手な傷を負いたくない。

 聖杯戦争には、どんな手段を使っても勝つ。
そう改めて決意して、十兵衛は柿ピーの袋を天子に差し出した。「またぁ!? 何回私にピーナッツ食べさせるつもりよ、もうピーナッツ嫌いになりそうなんだけど!!」
天子がウンザリしたように叫んだ。聖杯戦争に参加してから天子は優に数百粒のピーナッツを十兵衛に食べさせられていた。


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594 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:11:59 2ql0V7GM0
8:魔界都市<新宿> “永夜抄”

 『一之瀬志希』はこの世界でも一応はアイドル候補生としての立場で通っている。
当然、所属プロダクションの友人や仲間達と一緒に、アイドルとしての練習を行う義務があるのだが……。
今は諸々の都合で、休暇を申請している。所謂オフタイムと言う奴である。プロダクションの友達からも、「志希ちゃんまたどっかいっちゃうのー?」、と
からかわれてしまったが、珍しく何の許可なく何処かへ失踪と言う訳ではなく、予め許可を取ってから休みを取るなんて、と驚かれたりもした。
この世界のプロデューサーが一番志希のこの行動に驚いていた。休みを取ったと言う事実でなく、休暇を取るのに許可を取りに行ったという姿勢にだ。
「年頃だからこんな日々に息苦しさを感じる事もあるだろう。そうと感じたらたまにはめい一杯羽を伸ばすのも良いんだぞ」、と優しく言っていた事を思い出す。

 ……何だか胸が苦しくなる。確かに、諸々の都合があると言う事は事実である。
その都合と言うのが聖杯戦争であり、そしてそれは、場合によっては一之瀬が人を殺すかもしれない事なのだ。
人を殺す事は、自らのサーヴァントであるアーチャー、『八意永琳』が肩代わりしてくれるとは言え、結局は、その片棒を担ぐ事には変わりない。

 此処最近の<新宿>は、血生臭い事件が多い事が、やや世間の事情に疎い所のある一之瀬にも感じ取る事が出来る。
そう言ったゴシップを見る度に、永琳は言う。聖杯戦争が近い、と。そしてこれを聞く度に、一之瀬は、己の脊髄に氷で出来た細いワイヤで貫かれるような感覚を覚えるのだ。
ああ、決断を迫られているのだと。この手を血で汚さねばならない時が来るのだと。チリチリと、自分の心が焦がされて行くのが解る。

【下品だから止めなさいな、マスター】

 念話でそんな、凛とした女性の声が脳内に響いてくる。自らの引き当てたアーチャー、八意永琳の声である。
どうやら、フルーツミックスジュースにブクブクと、空気を吹き込んでいる様子を咎めているらしい。
ついつい考え事やらなんやらで、アイドルらしくない振る舞いをしてしまった。

【それはまぁ、貴女にも悩みがある事自体はよく解るけれど、公の場で悩むのは良しなさい。笑われるわよ】

【うぅ……御免、アーチャー】

 とりあえず、千円弱もするこの高級ドリンクを口にする一之瀬。糖分の摂取は、集中力の維持に重要である。
果実特有の酸っぱさと甘さが程よく調和した味だった。とても、美味しい。店側の研究の程が窺い知れる。混ぜるフルーツの種類やその比率をよく研鑽しているのだろう。
二リットルペットボトルに入れ込めば、そのままスルスルと飲めてしまう程のど越しも良い。流石は、音に聞こえた高野フルーツパーラーである。

【アーチャー】

【何かしら?】

【やっぱ、聖杯戦争ってもうすぐ……?】

【そもそも、私を呼び出した時点で事実上始まっていると思っても良いのだけれど……。でも、大きな奔流めいたものは感じるわ。確実に近いうち、『始まる』わ】

 ああやはり、そうなのか。と一之瀬は、さして驚かなかった。
本当を言うと、一之瀬もそうなんじゃないかと思っていた。日ごと、刻まれた令呪がチリチリ疼くのを感じる。痒みにも似ていた。
これが起る度に、なんとなく一之瀬も察する事が出来るのだ。自身には想像もつかない殺し合いの瞬間が、もうすぐ後ろまで迫っていると言う事を。

 酷く憂鬱な気分も、味だけはしっかりと感じ取る事が出来る。重苦しい雰囲気の中で、フルーツミックスジュースの甘さだけはいやに鮮明だった。
ふと窓ガラス越しに外を見ると、スコールのような大量の豪雨が降り注ぎ始めた。またか、と一之瀬も永琳も思った事であろう。
ここの所ずっとそうである。天気予報にない雨がやけに降るのだ。雲一つなかったのに、突如として何処からか雨雲が彼方からやって来て、<新宿>に『だけ』雨を降らせる。
おかげで最近ずっと、気象庁に苦情が絶えない。お前達の予報は最近適当過ぎるのではないかと。おかげで、つい先日、気象庁の重役の謝罪会見まであった程だ。
しかし、一之瀬には不思議だった。何故この豪雨は<新宿>にだけ降るのか? <新宿>だけを狙って降り注ぐ豪雨。それはまるで、この世界の住民が言う所の<魔震>ではないか。 


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595 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:12:58 2ql0V7GM0
9:魔界都市<新宿> “エメラルド・タブレット”

「いやー、ゲーセン終わりにはやっぱりラーメンっすわ」

 セルフの水を二人分注ぎながら、『伊織順平』はしみじみと口にする。
一つのコップは自分の分。そしてもう一つは、自分の隣にいる男、『大杉栄光』の分である。

 聖杯戦争の参加者が見たら、目を見開いて愕然とせんばかりの状況である。
それはそうであろう。順平の隣にいるその栄光と言う人物こそが、彼の引き当てたライダーのサーヴァントであるのだから。
これはつまり、常時サーヴァントを実体化させ、マスターと共に行動をしていると言うのに等しいのだ。
これが如何なるデメリットを孕んでいるのかは、語り尽くせない。常時消費する魔力の消費量も多い事もそうであるが、
一般のNPCに対してその姿が目立つと言う致命的な欠点もある。特に致命的な後者の欠点をクリアーしている訳は、偏にこのライダーが、
隠蔽能力に極めて長けるサーヴァントであり、例え実体化していても、余程の感知能力の持ち主でない限りは、サーヴァントであると言う正体を隠し通せるからだ。
これを利用して栄光は順平と共に、<新宿>での日常をエンジョイしている。無論聖杯戦争についても、忘れてはいないのだが。

「お、サンキュ」

 言って栄光は順平に手渡された冷水を一息に飲み下し始めた。
「お、良い飲みっぷりだねぇ」と隣で順平の茶々が入る。無理もない、今日も今日とて<新宿>は炎天下。
建物が煮えてしまうのではないかと言う灼熱の真夏日和だった。夜になればなったで湿った熱帯夜である。
「東京の夏は地獄か何かかよ、鎌倉を見習ってくれよ」と外に出る度に愚痴っていたのを思い出す。
それは順平も同感であった。彼が主に活動していた巌戸台の夏よりもずっと地獄だ。なまじ周りが海ではない為余計暑く感じる。
更にこの暑さは自然の暑さではなく、クーラーの排熱による暑さと来ている。もう地獄も地獄。炭酸飲料を手放せない暑さだった。

「今宵の成績十勝七敗……お前、何か格ゲーやる度に強くなってない?」

「まそこは、地力と才能って奴? はは」

「うわすげぇ厭味ったらしい。地力とか才能とか、結構キちゃうタイプよオレ?」

 水を一口飲んでから、順平は、やや時間を置いて口を開く。

「……もうすぐ何だろ?」

「……まぁな」

 無論、聖杯戦争の始まりが、だ。
順平は栄光ほど過敏な反応を持ってないし、第六感なんて大それたものも持っていない。
ただ、解るのだ。嘗て『絶対の死』を相手取り、その死を相手にするまでの何十日を過ごして来た順平には。
時が経過するにつれ、体中を綱で縛られるような緊張感が身体に舞い込んでくる。この感覚は、覚えがある。
ニュクスを相手取った、あの運命の日。一月三十一日。その日がやって来るまでの時間を過ごしていた、あの時と同じだった。
あの、化物と言う言葉を使う事すら躊躇われる絶対存在と戦った時と同じ程の緊張を再び味わう事になろうとは。


596 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:13:19 2ql0V7GM0
「昔、さ。悪い大人に騙された事があってよ。十二体の悪い奴らをぶっ飛ばせば、全てが元通りになるみたいな事を抜かしておいて、結局はそいつは、
自分の私利私欲の為だけに俺達を利用して、あまつさえ、俺達を生贄にしようとしたんだよ」

 黙って、栄光は順平の話を聞いている。

「俺が馬鹿だったって事もある。全くその人を疑わなかったんだからな。だけどさ、俺は今でも、アイツの事を許してなんかいないし、これからも許すつもり何てない。
我慢が出来ねぇんだよ。人を好き勝手利用して、あまつさえその命を差し出して身勝手な願いを叶えるような奴がよ」

 カッと水を全て流し込んでから、順平は、呼吸数回分程の間を置いてから、言葉を紡ぐ。

「その点、聖杯戦争程解りやすいものはないよな。誰がどう考えたって仕組んだ奴がいるし、少なくともそいつがろくでもない奴だって事はすぐわかる。だからさ、頼むぜ。ライダー」

「解ってるって、頼りにしとけよマスター。何処の誰だか知らねぇが、こんなアホみたいなイベント仕込むような奴には、お天道様の元に引きずり出してぶん殴ってやらねぇとな」

「ったぼうよ」

 やはり、自分と彼とは息が合う。その事を改めて認識する、順平と栄光であった。
そうである、今更なのだ、こんな確認は。ちょっと、聖杯戦争の始まりが近付いていたからか、おセンチになってたんだなと、順平は恥じる事にした。栄光も空気を読んで、これ以上は何も言わなかった。

「……それにしても出来るのが遅いな。美味いのか、此処の飯屋」

「人があれだけ並んでたんだから美味いんじゃないのか? ラーメン二郎だっけか、ヤケに店内がニンニク臭いけど」

 へいお待ち、と言って如何にもガテン系の若い店員が二名の前に、モヤシとカットされたキャベツの山が盛られたラーメンが差し出される。
……いや、そもそもこれはラーメンなのか? 何と言うか、スープの上にボイルされた野菜が乗っているだけの代物にしか見えないのだが。 

「……ゲテモノかこれ?」

 順平の肩を小突き、ドン引きしたような調子で栄光が言って来た。

「……何だこれは、たまげたなぁ」

 二名とも頑張って食べてみたが、六合目あたりで悲鳴を上げ始めたのは言うまでもない。


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597 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:14:33 2ql0V7GM0
10:魔界都市<新宿> “地獄眼(ヘルズアイ)”

 日本は所謂タイフーンの国であると言うのは有名な話だ。
夏場には幾つもの台風が襲来する国として知られており、近場に広い川が流れている地域など、頻繁に氾濫を起こしたり、大量の雨により土が削られ、
大量の土砂崩れが起こる事だって珍しくない国である。

 聖杯戦争の参加者として『塞』は、ありとあらゆる情報を集め出した。
<新宿>の歴史、そして聖杯戦争の舞台となる<新宿>の地理。下水道がどう走っているのかと言う情報から、裏社会の事情に至るまで。
塞は様々な情報を纏めていた。無論、天気情報もその内の一つだ。彼が引き当てたサーヴァント、『鈴仙・優曇華院・イナバ』は言う。
自分達のいた場所でも、天候がモロに強さの強弱に関わる存在など珍しくはなかったと。サーヴァントでもそれは同じだろうと。
塞もそれには同意した。だからこそ、向こう一週間の天気は、把握していた筈……なのだ。

「……日本は何時からスコールの国になったんだ?」

 チッ、と舌打ちを隠しもせず塞が適当な店先の軒下で愚痴った。
隣の、黒のパンツスーツを着た薄紫色の髪の女性も、ハンケチーフでその髪を拭きながら、恨めし気に目線を前方方向に向けている。

 バケツをひっくり返したような雨とは、この天気の事を言うのだろう。凄まじいまでの集中豪雨である。
アスファルトに孔が空きかねない程の猛烈な驟雨。十数m先の空間が、煙って見える程の大雨であった。
まるでタイか何処かの東南アジアの国にでもいるかのようだと塞は感じた。この雨もまた、<新宿>を舞台に勃発する聖杯戦争の、予兆であるのだろうか?


598 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:14:43 2ql0V7GM0

 ――思えば遠い所にまで……いや、遠いとか言う問題でもないかこれは――

 そもそもイギリスから日本と言う時点で、ほぼ地球の反対側に等しい国であると言うのに、これに加えて異世界の日本、その<新宿>である。
最早遠いとか言う距離的問題と言う次元を超越している。そんな問題ですらなかった。そんな街に、塞はいる。
聖杯……。基督教の伝承の中で語られる、黄金の杯。確かアーサー王伝説の中に登場する勇士の一人、パーシヴァルが発見したと言うが、その所在は杳と知れない。
アーサー王伝説とは即ち、イギリスを象徴する伝承である。そしてその中に登場する聖杯もまた、ある意味でイギリスのシンボルであるのかも知れない。

 ……それが何故か、極東の国日本にあると言う。古事記の国である日本に、キリストの血を受け止めた杯が実は存在した、など、
かのアドルフ・ヒットラーも驚愕であろう。事実塞も、未だ半信半疑である。だが、低所得者の子供達が歌う流行歌から、
数千㎞離れた小国の国家機密まで把握しているイギリス情報局が、何の確証もなく聖杯が日本にあると言う訳がない。つまりこの情報は、八割・九割の確率で本当のネタであるのだろう。

 聖杯の奪還は塞、いや。クロード・ダスプルモンの任務である。これを妨げる人物に対しては、自分も容赦しない。
サーヴァントであるアーチャー、鈴仙が頼りなさそうな容姿なのが少々不服であるが、配られたカードに文句を付けるのは大人のする事ではない。
配られたカードをどう工夫して、ロイヤル・ストレート・フラッシュに仕立て上げるか考えるのが、プロなのだ。

「考え事?」

 降り頻る雨を見てたそがれる塞を見て、隣の鈴仙がそんな事を聞いて来た。

「聖杯について、ちょっとな」

「やっぱ興味ある?」

「ま、俺達の国で真っ当な教育をしてるのなら、初等部の子供でも知ってるような物だしな。それだけ有名なのに、誰もが実物を拝んだ事がない。
それを近現代に入って初めてお目に掛かれる人物になれる可能性があるって言うのなら、興味がない訳じゃないさ」

 聖杯の奪還は確かに面倒くさい仕事ではあるが、塞にしてみれば、楽しみの感情もあると言うのが本当の所だ。
何せ、あの聖杯の威容をその目に焼き付ける事が出来るのだ。本国イギリスは愚か、世界中で聖杯を見たいのかとアンケートを取れば、倍率は十億倍は下るまい。
名前の癖に案外ガッカリする程しょぼくれた代物なのかも知れないが、それはそれで話のネタになる。「ホーリーグレイルはこんなにもしょっぱかったぜ」、
と訳知り顔で話せるのだから。……その為には、聖杯戦争に参加した参加者を全員葬り去らねばならないが、自分とこの相棒ならば問題はあるまい。
何せ塞はプロである。聖杯に目が眩んで、欲望が鎌首をもたげたような連中に後れを取るつもりは、更々ない。聖杯をこの手に収める気概に、塞は満ち溢れているのだった。

 耳朶を打つような雨は、今なお続く。
自分の中の熱意を冷まさせてくれるなと、雨と言う自然現象に舌打ちをする。日本の天気予報は此処まで当てにならないのかと、胸中で愚痴をこぼす塞なのであった。


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599 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:15:58 2ql0V7GM0
11:魔界都市<新宿> “ワイルドカード”

 平日の真っ昼間だと、流石にかの花園神社も、人数は少ない。
年配の男女か、境内を遊び場にしている子供達位しかこの場にはいない。だがこれでも、『有里湊』の知っている長鳴神社に比べたらマシな方だ。
あちらは本当に人がいなかった。家庭の不和で家を飛び出した小学生の女児しか居なかった程である。
尤も、霊験の方は確かな物であった事は、長鳴神社の名誉の為に言っておく。

【セイヴァーは、神社って行った事ある?】

 恐らくは近くを霊体化して歩いているであろう、セイヴァーのサーヴァント、『アレフ』に対して、湊はそんな事を訊ねてみた。

【似たような様式の建物なら見た事はあるが……俺達の世界じゃ日本土着の宗教は実質殆ど消されていたも同然でな……】

 全く、どんなディストピアの世界からやって来たんだ自分のサーヴァントは、と内心で考える湊だった。
そして湊自身、アレフの居た世界がディストピアと言う言葉ですら生ぬるい基盤の元に成立していた国家であった事もまた、知る事はなかった。

【神社に来ると、ついついおみくじを引いちゃうんだよな、僕】

【おみくじ? 運試しでもするのか?】

【まぁ、そんな感じ。占ってみる? 聖杯戦争の行く末とかをさ】

【……命を懸けた戦いをそんな物で占うのか】

 何処か呆れた様子でアレフが口にする。
目の前にいるこの少年は、マスターとして申し分ないほどの魔力と、戦闘に適した能力を持つが、何処となく危機感が薄い。
いや、彼が彼なりに聖杯戦争について思い悩んでいる事は、アレフが一番よく知っている。
であるのに、彼は何処となく抜けていると言うか、時折ズレた精神性を見せる事が多い。おみくじを引こうか、と言う発言などその最たる例ではないか。

【僕だっておみくじで聖杯戦争の行く末が解るなんて本気で思っちゃいないさ。イワシの頭もプラシーボって言うだろ、セイヴァー】

【信心から、じゃないのか】

【うちの学校の保険の教師の受け売り】

 江戸川先生元気にやってるのかな、と独り言を口にしながら、湊はおみくじを販売している、アルバイトの巫女さんの所へと歩いて行く。

 聖杯戦争の事柄について、全く無頓着と言う訳ではない。湊は鷹揚とした態度の裏で、どうすればこの状況を打破すれば良いのか考えていた。
それでもって彼が思い付いた事柄は、たった一つ。人と『出会い』、『絆』を紡ぐ事。これまでも、そうして来たではないか。
ペルソナとは心の鎧。もう一人の自分。豊かな精神性を持つ程ペルソナは強くなって行くと言う事は、人々との出会いと接しが重要になる事を意味する。
ならば、聖杯戦争の参加者と出会い、絆を紡いで行けば。自ずと答えは浮かび上がって来る筈なのだ。だから今は慌てず、騒がず。
その時が来るまで、有里湊は有里湊らしく過ごす事にしたのだ。気張っていては空回りするだけ。気を抜いて、リラックスする事も、重要なのだ。

 そんな湊の態度を見て、アレフも何かを悟ったらしい。決して見限った訳ではない。
自然体の湊の身体の裡に秘められた決意と熱意を、確かに感じ取ったからだ。自分から言う事は、最早何もない。
有里湊もまた、自分と同じ烈士なのだ。その事を今認識したアレフはこの瞬間から、湊の事を信用するに至った。

 巫女に数百円の代金を払い、おみくじ棒を引く湊。
棒に刻まれた数字に対応する紙片を、巫女が湊に手渡す。それを開くと、小吉と言う言葉が紙片に踊っている。
コメントし難い無難過ぎる結果には、湊もアレフも、次に紡ぐ言葉を失うだけであった。


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600 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:16:43 2ql0V7GM0
12:魔界都市<新宿> “愛病獣”

 動物には人間には無い直感が備わっていると言うのは、洋の東西を問わず知られている所である。
そもそもイヌやネコなどは、身体のつくりからして人間とは根本的に異なる。例えば嗅覚、例えば聴覚だ。昆虫に至っては、赤外線が視認出来ると言うではないか。
人よりも遥かに発達した視覚や聴覚、嗅覚を持った生き物は、人間が危機を感じるよりも早く、迫りくる危難を感じ、未然にそれから遠ざかろうとする。
そう言った様を人は結果的に確認する事で、動物には人間にはない霊感めいた物を持っているのだと認識するし誤解する。
但し、これらを誤解と言うのは、些か尚早なのかも知れない。人はどう足掻いてもイヌ科の動物にもネコ科の動物にもなれないし、彼らの心も永遠に解らない。
ひょっとしたら持っているのかも知れないし、持っていないのかも知れない。動物に備わる第六感論等、所詮はその程度の結論に収斂する。
 
 とは言え、動物が人間に比べたら、予知に近しい危機察知能力を持っており、それらが全て、人より極端に優れたある知覚能力にある事は論を俟たない。
彼らは人よりも不穏な気配と言うものに敏感である。野生の中で研ぎ澄まされた本能は、自らの生命の危機を感知するのにこれ以上となく役に立つのだ。

 そして、これらの性質を最大限に利用する者達がいた。
一匹は、生物の死を司る死神ハデスが統治する冥府タルタロスの番犬ケルベロスこと『パスカル』。
そしてもう一人が、パスカルの主である、『睦月』と呼ばれる少女。
庭先で、チチチ、と鳴き声を連続的に上げ続けるスズメを見下ろしながら、パスカルは伏せの状態で佇んでいる。
睦月には、スズメの感情など解らない。しかし、今ならば、このスズメが何を思っているのかは、何となくであるが理解が出来る。
この鳥類はきっと、畏怖を抱いている。目の前の、鋼色の毛並みを携えた巨獣の存在感と畏怖に、ひれ伏している。間違いなく、これだけは言う事が出来た。

「マスター」

 声を潜めて、パスカルが言う。何時聞いても、動物の声帯から発せられているとは思えない程、完璧な人の声。
これで片言を直せば、誰が聞いても人間のそれだと疑わないだろう。 

「既ニサーヴァントヲ使ッテ、NPCヲ殺メテイル主従ガ<新宿>ニハ多イト言ウ。我々モ用心スルベキダ」

「……うん」

 遅れてそう答える睦月。だが、以前に比べれば、感情の所在がハッキリとしている。
大いに、気のすむまで泣き腫らし、感情の澱を洗い流した為である。今でも多少は迷う事はあるが……以前に比べれば、睦月は吹っ切れていた。

 パスカルは獅子の姿をしている所からも解る事だが、動物との会話を複雑なニュアンスを伝えるレベルにまで可能とする。
いや、それは会話と言うよりは最早命令に等しい。見るが良い、針金のような毛並を全身に蓄えたその魁偉を。
これを見て怯まぬ生命が、果たしているだろうか。いや、いない。況やそれは動物とて同じ事。禽獣の全てが、パスカルに従う。偵察などお手の物だ。
パスカルは自らのこのスキルを利用した。彼は野良猫や鳩、スズメなどと言った野鳥を駆使し、<新宿>中に動物のネットワークを張った。
何故かと言われれば簡単だ。サーヴァントの動向を探る為である。使い魔等とは違い、彼らは魔力を持たない。ただパスカルの命令に従って動いているだけ。
だから、怪しまれない。堂々と偵察を可能とする。これこそが、パスカルの最大の強みの一つなのであった。

「……以前ニ比ベレバ見違エル顔ニナッタナ」

 唸りながら、パスカルが思う所を述べた。これを受けて睦月も、口を開き始めた。その口から滑り落ちる言葉には、淀みがなかった。

「正直ね、未だに私、聖杯戦争で人を殺すって事、反対なの」

 「だけどね」、と睦月が付け加える。パスカルは反論する事をしない。睦月がまだ言いたい事を言い終えていない事を理解したからだ。

「死ぬつもりだけは全然ないよ。如月ちゃんはきっと怒るだろうし、吹雪ちゃんも不知火ちゃんも悲しむかもしれない。……パスカルの迷惑にならないように、私、頑張るから」

「……ソレデ良イ。期待シテイルゾ、マスター」

 パスカルは、睦月が未だに、如月を聖杯を利用して蘇らせていいのか迷っている事を看破していた。まだまだ瞳に、迷いの霧が掛かっている。
だが、パスカルは自分が言った通り、それで良いとすら思っていた。自分が愛する主を求めて奔走する姿を見て、何か思う所を見つけて欲しい。
そうパスカルは願っていた。少なくとも、主や友を思う気持ちに、罪もなければ穢れもある筈がないのであるから。


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601 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:17:16 2ql0V7GM0
13:魔界都市<新宿> “勇者冒険譚”

 目覚まし時計や携帯電話のアラームの補助を借りる事なく。
少女『北上』は、パチッ、と。その愛くるしい瞼を見開いた。ベッドに仰向けに寝ていた。
掛け布団はかけていない。夏も盛りの日が続く故に、毛布一枚肌にするのも嫌だったのだ。冷房の温度は二十八度。所謂省エネルックだ。
この時間に北上が起きる事が出来たのは、腐っても彼女は重雷装巡洋艦の娘であるからだ。規則正しい生活は、艦娘にとっては当たり前の事柄。
故に北上は、その間延びした気だるい態度からは想像も出来ないが、朝の六時半に起床する事など、造作もない事である。
その気になれば六時、五時半にだって起床が出来る。……そんな彼女に出来て、どうして、この男にはそれが出来ないのだろうか。

 絨毯の上で仰向けに寝転がり、寝息を立てる男がいた。大井が見たらこの男を不貞を働いた不届き者と勘違いし、酸素魚雷をぶち込んできかねない光景だ。
この男の名前は『アレックス』。<新宿>に於いてモデルマンとしてのクラスで北上の下へと推参した、頼りないナイト。自分の相棒。
どうせまたパソコンで夜更かししたんだろうな〜、と言った事を思いながら、北上はスタスタと台所まで歩いて行き、冷蔵庫から保冷剤を取り出す。
そのまま元の部屋へと戻り、アレックスの腹の中に保冷剤を潜り込ませる。

「ひゃんっ!!」

 本当に英霊の上げる声か、と思わんばかりに情けない声を上げ、アレックスが飛び上がった。
面白いのでケラケラと北上はその光景を笑う事にした。ざまあみろ。

「おはよ」

 悪びれもなく北上が挨拶をする。不服そうな表情でアレックスが口を開きこう言った。

「……まだ六時半じゃねぇか、もう少し寝させろ」

「何時まで寝るつもりだったのよ、アレックス」

「俺にとっては午後一時までは朝の範囲内だ」

「長門秘書官が聞いたらぶっ飛ばされそうなセリフだね」

 規律規則に厳しい堅物のあの戦艦の事である。アレックスのような性根の持ち主など、即座に特有のスパルタ教育で音を上げさせられる事だろう。

「こんな早い時間に起こしやがって、お前はおばあちゃんかっての」

「うっさいなー、長年の生活が染みついてるだけ。文句言うならご飯抜くよ」

「ちっ、そりゃ困るな。サーヴァントだから本当は飯なんて必要ないんだろうが、やっぱ食えるんなら食いたい。早く作ってくれ」

「りょっかーいっと」

 言いながら北上はテレビの電源を付け、再び台所へと向かって行く。
聖杯戦争の参加者として、一応<新宿>の情報には目を光らせている。と言っても、凄いコネがある訳でもなければ、優れた情報網を敷いている訳でもない。
北上の情報収集源はテレビとネット、そして新聞だ。庶民的な情報集めのメソッドだが、これが一番手っ取り早く、確実であった。

 たまご焼きを焼く為の卵を二つ程冷蔵庫から取り出すと、ニュースチャンネルのキャスターが、連日のトップニュースを報じ始めた。
此処最近<新宿>に現れた、大量殺人犯。大量殺人犯の定義は人によっては曖昧だ。十人殺せばそうなのか? それとも二十、三十人?
――目撃証言によれば礼服を着用したこの殺人犯の殺人数は、ハッキリ言って常軌を逸している。何をどうしたら、『百三十八名』も殺せるのか?
万人が認める大量殺人犯であろう。そんな危険極まりない男が、<新宿>の何処かに、或いは、<新宿>の外に逃げ出したと言う。
アレックスも北上も、当然この殺人犯が、聖杯戦争の参加者である事を予測していた。それにしても胸糞の悪い男だった。
必要に迫られて殺すのならばまだしも、この殺人鬼の行う殺しは、完全に悦楽目的のそれだ。こんな事を言うのは北上の性格に合わないが、人倫に反した外道であった。

 ……此処<新宿>で生き残る上では、あの礼服の殺人鬼は当然の事、様々な強敵を相手取って勝たねばならないのだろう。
それをあの、向こうの部屋で睡眠不足の為舵を漕いでいるアレックスと切り抜けられるのかと思うと、何だか不安になって来る。
自分を勇者と名乗っていたが、本当に大丈夫なのか。そう考えていると、割った卵の卵白に、滅茶苦茶殻が混入してしまった。「あちゃー」、と心中で呟く北上。
殻抜くの面倒くさいからコレアレックスに上げちゃお、そんな事を考えながら卵を溶き始める北上。
後でアレックスが卵を咀嚼する度に、凄い嫌そうな表情を浮かべているのが、何だか北上には面白かったのだった。


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602 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:18:47 2ql0V7GM0
14:魔界都市<新宿> “カッティングレインボー”

 誰しもが知ってる巨大財閥の令嬢であり、政財界の粘ついた黒い裏事情を知っている『英純恋子』ですら。
この世界には魔術や霊を操る一派と言うものが存在し、人々に知られぬ市井の何処かで戦っているのだと言う事を<新宿>の聖杯戦争に参加して初めて知った。
漫画や小説の中でしかありえないような、フィクションめいた話が現実に起っているのだ。
そして純恋子は、そのフィクションめいた話の渦中にいる人物だと言っても良い。彼女はその事を強く実感していた。
自らが呼び出したアサシンのサーヴァントが、このホテルにやって来たセイバーのサーヴァントを、虹の縁で斬り殺したその時から。
英霊悪魔の類が跋扈する聖杯戦争の蠱毒の中に放り込まれているのだと言う事を。臆している訳ではない。
自分自身に悪意と殺意が向けられる事など慣れている。向ける相手が人から英霊や悪魔などの超自然的な存在に代わっただけだ。
結局彼らは最終的に、純恋子に『死』と言うものしか齎せない。死以上に怖い結果など、絶対に与えられない。その程度であるのならば、問題ない。
幼少の頃から何度も殺され掛けた純恋子が、今更動じる筈もないのであった。

 魔道の世界に疎い純恋子ですら、解る。
聖杯戦争が始まりの鐘を鳴らすその『瞬間』が刻一刻と近づいていると言う事を。
<新宿>はハイアット・ホテルのフロアーを丸ごと借り上げ、其処から余り外に出ていない純恋子にですら解る。
<新宿>は徐々に、清濁様々な人々の思惑が入り混じった大都市から、人名など羽毛のように軽い“魔界都市”へと変貌を遂げつつある事に。
予報にもないのに、特定範囲に降り注ぐ豪雨や雷雨。各地で起るバラバラ殺人やミンチ事件。そして、百名以上の人間を殺している礼服の大量殺人鬼。
何故これらの血生臭い事件が、<新宿>だけに起るのか? それは簡単だ。此処が聖杯戦争と言う蠱毒の舞台に選ばれたからだ。
選ばれる前は、この街は本当に平和なただの街だったのだ。<魔震>から逞しく復興し隆盛した、日本が世界に誇れる都市だったのだ。
それが、今、風化して脆くなった石灰の塊のように崩れ去ろうとしている。その一端を、純恋子自身が担おうとしている。

「何だかそう言うの、ゾクゾクしませんこと?」

 ティーカップに注がれた琥珀色の紅茶を飲んでから、純恋子がそう言った。
それを受けて返答をせねばならないのは、純恋子が引き当てたアサシンのサーヴァント。『レイン・ポゥ』だ。

「ノーコメント、って言っておくわ」

 やや引いた目で、レイン・ポゥはコメントを返した。
桜色を基調とした、女性の愛くるしさを浮き彫りにさせるようなデザインの衣装。年の幼い子供が憧れそうな、如何にもな魔法少女風の服装。
しかし純恋子はマスターであるからこそ知っている。この魔法少女が暗殺者のクラスでこの世界に召喚され、凶悪の虹の凶器であらゆる物を切断する魔女であると言う事を。

「聖杯戦争、もうすぐ始まるのでしょう?」

「根拠は?」

「勘、かしらね。だけれど、解るの。どんどん、場が煮詰まりつつあると言う事を」

「奇遇だね、私も、すぐに<新宿>が地獄になりそうな気がしてならないのさ」

 やはり思う所は同じだったらしい。
日を追うごとに、サイボーグ化された身体に、チリチリとした火傷めいた緊張感が刻まれて行くのが純恋子には解る。
人に備わる第六感とか虫の知らせとか言う奴なのだろうか。それこそが純恋子が感じた、聖杯戦争の始まる瞬間なのだ。
そしてそれは、信頼して良い感覚だったらしい。何せサーヴァントですら、その日が近いと感じ取っていたのだから。

 英純恋子は自身が特別だと信じて憚らない、雛のままの女王である。
だが彼女はあくまで雛だ。成鳥ではない。自分が女王として完全に成るには、自身が特別であると言う事を皆に信じさせねばならない。
その為の聖杯。その為の聖杯戦争だ。聖杯戦争に勝ち抜いた末に獲得出来る聖杯には興味はない。それを勝ち抜き、頂点に立つと言う事に意味があるのだ。
慣れない形式の戦いであるとは言え、聖杯戦争に期待感を託していると言うのも話。この戦いに勝ち抜ければ、自分は、女王として翼を広げられる。
そんな事を考えながら口にする紅茶は、何処となく味が洗練されているような気がしてならなかった。レイン・ポゥは、如何にも年頃の少女と言った様子で、純恋子の仕草を見るだけである。


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603 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:20:09 2ql0V7GM0
15:魔界都市<新宿> “魔剣士譚”

 さして広くもない探偵事務所に、焼けたチーズとサラミの匂いが充満していた。
朝から何も飯を食わずにいた人間がこの部屋に入ってきたら、途端によだれを流し、腹を鳴らしてしまうだろう。
ピザを食べているのである。チーズとサラミがたっぷり乗って、野菜っ気の欠片も無い、如何にも頭の悪そうなピザを喰らう二人の男。
一人は、『葛葉ライドウ』。鳴海探偵事務所に勤務する探偵見習。今時珍しい、黒い学帽に黒いマント、その下に学生服を着用したモダン・ボーイ風の男。
そしてもう一人が、ライドウが呼び出した赤いコートのセイバー、『ダンテ』。ド派手と言う言葉がこれ以上となく相応しい赤コートを着用した美男子。
二人はテーブル越しに向かい合いながら、Lサイズのピザを喰らっていた。……いや、その表現を使うのに相応しい食べっぷりなのは、ダンテの方だけだ。
彼は既にピザを五切れ以上も口にしているが、ライドウの方は初めの一切れ以降から口にしていない。

「どうした少年。ちゃんと食わないと俺みたいに割れた腹筋にはなれないぜ」

 ライドウの様子を心配してか。コーラを飲んでからダンテが聞いてくる。

「俺の金で喰うピザは美味いか、セイバー」

 少しだけピザを口にしてから、ライドウが聞いて来る。

「ピザは美味ぇよ少年。ただ日本のピザは、美味いけど量が少ない上に高いのがな」

「ピザ代は全て俺が出している。高いと思うのなら俺の財布を圧迫しないで欲しいんだが」

「心配するなって少年。ピザは今日で食い修めだ。少年に言う事もないだろうが、直聖杯戦争も始まるだろうしな」

 口を乱暴にペーパーで拭きながらダンテが言う。
やはりピザを下品に喰らうこんな男でも、腕利きのデビルハンター。<新宿>と言う都市全体を覆う不穏の影には敏感であるらしい。
そしてライドウも、超常の事件を幾つも解決させてきたデビルサマナーとして、そう言った気配には敏感だ。
偵察に向かわせたモーショボーはしきりに言っていた。街全体がピリピリとしてる。何があったのと。
今<新宿>は未曽有の猟奇事件や殺人事件の温床になっていた。バラバラ殺人、ミンチ事件、そして礼服の男の大量殺人。
そしてこれは裏社会に半ば足を突っ込んでいる探偵業だからこそ解る事なのだが、最近目に見えてヤクザの数が減って来ている。
間違いない。<新宿>の裏社会の住民達も、時を同じくしてその数を減らしているのだ。しかもそれは警察と言う正当な国家機関が奮闘した結果が故ではない。
警察よりもより強大な力を持った個人の私的制裁でその数を減らされているのは、最早明らかであった。

 ピザのピースの数が、残り三切れ程になった。
「残りは少年にやるよ」とダンテが言ってから、彼はコーラをがぶ飲み。
首筋を黒い液体が伝う事など関係なし、と言ったワイルドな飲み方をし、五百mlのペットボトルを瞬時に空にしてから、ダンテは口を開く。

「漸く、楽しい事が起こりそうだ。ピザは美味かったがよ、そればかりだと退屈で退屈で気が狂っちまいそうになる。そうだろ、少年」

「街の平和は、少なくとも保たれるべきだ」

「結構。やる気に溢れてるな少年。――シケたパーティは参加者が暴れて盛り上げるに限る」

 懐のガン・ホルスターから、デカいは正義を地で行くアメリカですらクレイジー扱いされそうな、馬鹿みたいな大きさの拳銃を取り出し、
器用にそれをペン回しみたいな要領で手首の上で踊らせる。そして、そのトリガーに人差し指をかけ、それを持ち構えながら、ダンテが口を開いた。

「どうせなら、聖杯戦争を参加する何て口が裂けても言えない位に、派手に暴れてやろうぜ。マスター」

「……あぁ」

 ピザを漸く一切れ食べ終えたライドウが、短く、それでいて、確かな意思の強さを感じさせる声音でそう告げる。
それに対して満足そうな笑みを浮かべるダンテ。笑みの裏で、ダンテの脊髄は音叉のように震えていた。
いつからだろうか、こんな感覚が襲って来たのは。この聖杯戦争が気に入らないから、ライドウと一緒に聖杯を破壊しに行くだけだった筈なのに。
それだけでは済まされない何かが、この戦いに舞い込んできているような気がして。ダンテにはならないのであった。何故、自分の中のスパーダの血が、疼くのか。


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604 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:20:46 2ql0V7GM0
16:魔界都市<新宿> “閻魔剣譚”

 うなじに植え付けられた必殺の触手が最近になって共振めいて震えている。
なぜこんな事になっているのか、『雪村あかり』にもそれは良く解る。聖杯戦争が近付いている為だ。
うなじに埋め込まれたこの必殺の武器は、生身のあかり以上にそう言った危難には敏感だ。
そう言った気配を感知出来ても、何ら不思議ではない。そして、触手が震える度に脳髄に巻き起こる、耐え難い程の激痛が、あかりに強く認識させる。
この戦いには絶対に勝たなくてはならない。姉を殺害し、そして地球をも破壊しようとするあの凶悪な生命体を、聖杯の奇跡で抹消せねばならないと。

 あかりの私室の壁に実体化をして、仏頂面を崩しもしないで腕を組み、壁に背を預ける男がいた。
洗練された雰囲気の男だ。鋼色に近い色味の銀髪をオールバックにまとめ、如何にも目立つ気障ったらしい蒼コートを身に纏った美青年。
柔和な表情を浮かべれば女の一人二人は容易く堕ちそうな程の美貌に、凍り付きかねない程の険を含ませたこの男こそ、雪村あかりが引き当てたサーヴァント。アーチャーの『バージル』である。

 元々、抜身の刀のような雰囲気を醸し出す男だとは思っていた。
今まであかりが見て来たどの暗殺者よりもずっと恐ろしく剣呑な雰囲気を、体中から発散する強者。
それが、雪村あかりから見たバージルと言う男の印象。その剣呑さが、此処最近になって急激に強くなったような感じがする。
いるだけで息苦しくなる程の鬼気を常時醸し出すアーチャー。無論、臨戦態勢にある事は好ましい事なのだが、それにしても、度が過ぎる。

「……アーチャー」

「何だ」
 
 この男特有の、長ったらしい会話を好まないが故の、短い受け答え。

「聖杯戦争が近付いてるから。そんなにピリピリしてるのは」

「……そうだな」

 この男にしては珍しく、間が空いた。やはり音に聞こえた英霊とは言え、緊張はする物なのだろうか。
初めて舞台に上がって演技をした時の事をあかりは思い出す。今はそんな事はないのだが、あの頃は人前に立つだけで緊張して、口から全ての内臓を吐きだしてしまいそうだった。
今はそれとは別種の緊張感があかりの身体を貫いている事を、彼女は否めない。ひょっとしたら、歴戦の英雄や猛将の類と言うのも。
口や態度では何ともないような素振りを見せているが、内心では緊張をしている物なのだろうかと。あかりは、バージルを見て考えているのだった。

 ――だが、違う。本当はバージルはそんな事を考えてはいない。緊張何て全くしていない。敵に出会えば斬る。この男の思考は物凄くシンプルなものだ。
ある日を境に、彼の身体の中に流れる誇り高き悪魔の血。魔剣士・スパーダの血と、己の魂よりも重要な宝具・閻魔刀が騒ぐのである。
ただならぬものが、この聖杯戦争に紛れ込んでいる。自らの血をピンポイントで湧かせる事の出来る何かが。
ムンドゥスが一枚噛んでいるのか? それとも、親父が? ――いや、もしかしたら。

 ――……貴様がいるのか? ダンテ……――

 首元をまさぐるような動作を、無意識のうちに行うバージル。
其処でバージルは初めて気づいた。母の形見のアミュレットは、最早自分には存在しないのだと言う事を。
そして自分の弟が、母の形見を使って魔帝・ムンドゥスを打ち倒したのだと言う事を。


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605 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:21:35 2ql0V7GM0
17:魔界都市<新宿> “ファントムブラッド”

 近頃新宿御苑には、身なりの良い英国紳士風の男が現れる事でちょっと有名である。
非常に年の若い男で、二十歳を過ぎてるかどうかと言う外見で、ややクラシカルな礼服を身に纏っている。
自らをイギリスから来たと言うその青年は、アングロサクソンめいた黒髪をしており、礼服の下の体格もスポーツをやっていたのだろうと思わせる程に立派である。
そして何よりも、これぞ英国紳士の鑑であると言う程に礼節を弁えている。柔和な笑みを崩さず、物腰も柔らか。
こんな調子であるから、子供からは人気である。『ジョナサン・ジョースター』と言う名前を縮めてジョジョと言う愛称で子供達からは好かれており、
よく遊び相手にもなってやっているのだ。サッカーをしてあげたり、女児のおままごとに付き合ってあげたりと。本人も満更ではない。

 日が落ち、夕焼けになるまで子供達とジョナサンは遊んでいるが、母親達からもう時間である事を告げられると、渋々と言った様子で母親の所へと彼らは戻る。
ジョナサンと遊ぶのが楽しいのである。この、子供心の機微を知っているこの英国紳士と。

「いつも申し訳ございませんジョースターさん」

 子供達の母親である女性達が、ジョナサンの方に近付いて行きそんな事を告げて来た。

「いえいえ、そんな事はありませんよ。私も楽しいからやっていますので」

 流暢な日本語でジョナサンは言葉を返す。初見の人間には絶対に驚かれる。語学の方にも堪能なのかと。

「ジョジョは何時まで此処にいるの?」

 おままごとをしてあげた幼女が、無垢な瞳を此方に向けてそんな事を告げて来た。
うーん、とジョナサンは唸りを上げ、大体の範囲で答えた。

「あと一週間、いや。事によってはそれより短い期間でイギリスに帰っちゃうかもね」

「えー、もうそれだけしか遊べないのかよー!!」

 サッカーやキャッチボールなど、球技が好きな方な少年が残念そうな素振りを隠しもしない。
そんな様子を咎め、母親がコラッと叱る。「ジョースターさんにはジョースターさんの都合があるの!!」と言うと、複数の少年少女は黙りこくった。その様子を見てジョナサンも苦笑いを浮かべる。

「本当は僕ももっとこの国にいたいんだけど、すまないね。皆」

「また遊びに来てくれるの?」

 少女の一人が聞いて来る。

「約束するよ」

「その時は、絶対また遊んでくれよな」

「解ってるよ」

「はいはい、もうすぐご飯を作るから帰りましょうね。それでは、さようなら。ジョースターさん」

「じゃーねージョジョ!!」

「また明日遊ぼうぜジョジョ!!」

 元気に此方に対して手を振って去って行く子供達の方に、笑みを浮かべながらジョナサンも手を振った。
その笑みには隠し切れない哀しみが刻まれており、何だかとても哀愁と言うもので彩られていた。

 遠い異国の、自分がいた時代よりも進んだ時代。
そんな世界にも平和があり、平穏があり、それぞれの生活がある。例えNPCと言えどもだ。
それが、もうすぐ崩れ去ろうとしていると言う事実を、ジョナサンは知っている。何を隠そう、彼自身がその平和を崩しかねない人物なのだ。
それを思うと、何だかとても悲しくなってくる。子供達と遊んでいると、ジョナサンは己の決意が固まって行くのが解るのだ。
聖杯戦争は、絶対に止められねばならない。聖杯は、絶対に破壊しなければならない。
自分にだって願いがない訳ではないが、此処で平穏無事に暮らしている人々と、聖杯戦争の参加者の命をかけてまで、願いを叶えたくない。
天国にいる筈の、尊敬する波紋の師にも軽蔑されるだろう。だからこそジョナサンは、己が心の中に宿る黄金の意思に従い、聖杯戦争を止める道を選んだ。

【アーチャー】

 心の中で弓兵を意味する単語を呟くと、直に返事が返ってきた。

【ああ】

 ジョナサンのすぐそばで、霊体化を行った状態の『ジョニィ・ジョースター』返事を行ってくれた。

【僕は君に従うよマスター。こんな聖杯を使って願いを叶えたら、僕の恩人である友達にも怒られそうだからね。僕は、破壊する道を選ぶよ】

【ありがとう、アーチャー】

 其処で念話を閉じ、二人は、沈み行く<新宿>の夕焼けを静かに目にする。
灼けるような橙色と、夜の闇の黒色とが混ざり合っていた。それはこの二人の、黄金の意思と漆黒の殺意とが混ざり合っているその様子に、とてもよく似ていた。


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606 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:22:59 2ql0V7GM0
18:魔界都市<新宿> “銀影蝗”

 <新宿>に限った話ではないが、どんな街でも、ホームレスが一人増えようが減ろうが、普通に生きている人間にとってはどうでも良い事なのだ。
そう、この街に珍しい、外国人のホームレスが増えた事など、気に留める者など誰もいない。珍しいな、と思うぐらいしかないだろう。

 ウェザー・リポートこと、『ウェス・ブルーマリン』の寝覚めはいつも最悪だった。
無理もない。男はここの所、<新宿>の繁華街の裏路地で眠っているのだ。屋根も無ければ、仕切りも無い。
寝覚めが快適な筈がない。だが、それ以上に最悪な事は、あの時の胸糞の悪い夢を見る事だ。

 K.K.Kに殺された恋人のペルラ。死にたくても死ねない事による、世界への憎悪と怒り。
自分をリンチにかけた屑共。そして、自分にこのような境遇で生きる事を強いた、憎き男。エンリコ・プッチ。

 此処に来てからいい夢なんて見た事がなかった。見る夢全てが、苛々を助長させ、ストレスを増幅させるものばかり。
元の世界に戻り、あの神父を葬れば、少しは寝覚めも良くなるのだろうか。そして自分は今度こそ死ねるのだろうかと。
ウェザーの考える事は常にそれだけだ。殺す為に聖杯戦争を生き残る。死ぬ為に、聖杯戦争を生き残る。これ以上の矛盾が、果たしてあるのだろうか?

 立ち上がると同時に、ウェザーの真正面の空間が人型に歪み始め、銀色に光輝く鎧を身に纏った者が姿を現す。
エメラルドに似た緑色の複眼を持つ昆虫を模した兜を被った、全体的に色遣いも非生物的で冷徹なイメージを見る者に与えるその威容。
銀色の昆虫の鎧を身に纏ったその存在は、見る者に圧倒的な威圧感と焦燥感を与える。名を、『シャドームーン』。影の月の名を模した、世紀王になり損ねた男。ウェザーが従える、セイバーのサーヴァント。

「首尾の方はどうだ」

 ウェザーがそう訊ねると、シャドームーンが此方の方に近付いてくる。
カシャン、カシャン、と言う、踵のレッグトリガーと地面が接地する時に発せられる、死神の音を鳴り響かせながら。シャドームーンが言った。

「既に何人もの主従がサーヴァントを召喚している。本格的に、聖杯戦争が始まるぞ」

 シャドームーンと言う英霊が持つ、科学によりて作られた千里眼、マイティアイ。
科学で作られた千里眼は、本物の千里眼に勝るとも劣らない。彼は知っているのだ。既に<新宿>にいる幾人もの主従が、既にサーヴァントを召喚している事を。
そしてそれが、いやがおうにも実感させる。本格的な戦いの時が確実に近付いているのだと言う事を。

「そうか」
 
 特にウェザーは、その事について言及するでもない。如何でも良い計算問題の答えを知らされたような感覚で返答した。
シャドームーンに言われるでもなく、本当はウェザーも気付いていた。誰とも会話しない、閉塞的な状況でも解るのだ。<新宿>がやがて、火に沈み血に沈み行く事が。

「今更、俺からお前に言う事なんてもうないが、これだけは聞きたい。俺とお前には、絶対にぶっ殺さなきゃいけない相手がいる。そうだろう」

「……あぁ」

 シャドームーンの返答には、呼吸一つ分ほどの間があった。

「俺は絶対にそいつを殺さなければならない。その為だったら命すら惜しまない覚悟だ。お前に……その覚悟はあるか」

「当たり前だ」

 これは即答した。

「なら、俺達はその目的に向かって、ひたすら走るだけだ。行こうぜセイバー。憎い屑の元まで、一直線だ」

「……フンッ」

 ウェザーは水の一杯でも飲もうかと考えたが、生憎その水が切れていた。
チッ、と舌打ちをすると、ウェザーは適当な軒の下まで移動し、自らのスタンド、ウェザー・リポートを発動させ、局所的な豪雨を降らせようとする。
<新宿>を此処最近襲う、超局所的な豪雨の正体。それこそが、彼、ウェザーなのだった。

 死神の足音を響かせて歩きながら、シャドームーンは霊体化を行う。ウェザーが言う所の、殺したい程憎い相手。それを頭の中で描いていた。
ウェザーの脳裏には、法衣を着た黒人の神父の姿が描かれていた。シャドームーンには、自分の宿敵であるあの男の姿が描かれていた。
だが、何故だろう。その男は自分と同じような、漆黒の飛蝗をモチーフにした鎧で身を覆っていなかった。
シャドームーンの男の脳裏に描かれたその男の姿は、仮面ライダーBLACK或いはRXと言う姿ではなく、何故か、南光太郎の姿として映しだされているのだった……。


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607 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:24:17 2ql0V7GM0
19:魔界都市<新宿> “妖髪士”

 陳腐な言葉だが、失って初めて気付く物と言うのは絶対にあると。『北上』は今になって思う。
深海棲艦と戦っていた頃は、それが彼女ら艦娘の主たる日常だった。時には仲間が傷つき、泣きそうになった事もある。
被弾して、大井に泣く程心配された事もある。事実それは、北上に言わせれば、滅茶苦茶痛くて本当に泣きそうだった。

 戦っている最中は、何時になったらこんな日々が終わるのかと考える事も少なくなかった。
良い一撃に被弾する度に、艦装何て外して普通の少女として過ごしたいと思う事も、多々あった。
しかし、全てが終わって初めて解るのだ。あの時が一番、北上と言う少女が輝いていた時期であったと。
戦うと言う目的の元に築かれた絆を認識しあっていたあの日々が、一番楽しかったのだと。
そして同時に悟るのだ。楽しい時程、思いの外呆気なく、そして、早く終わるのだと。
深海棲艦とのあの戦いの日々は、北上と言う少女の人生の中で稲妻の如く激しく光り輝く、ほんの一瞬の瞬きであったのだった。

 緊張感に溢れるあの日々が終わってから、北上と言う少女は自堕落な生活を送っていた。
深海棲艦と戦っていた頃は腐っても軍隊であったから、規律には厳しかった。それがなくなると、こうまでタガが緩むのか、と。
北上は布団近くのデジタル時計に刻まれた数字を見て苦笑いを浮かべる。昼の一時。現役時代なら間違いなく大目玉だな〜、とか思ったり、思わなかったり。

「随分ねぼすけさんですね」

 北上の起床に呼応するように、彼女の呼び出したアサシン、『ピティ・フレデリカ』が仕方のなさそうな笑みを北上に向けて来た。

「おはよ〜」

 と言いながら北上は布団から起き、グッと身体を一伸びさせる。
流石に顔が酷過ぎるので、洗面所に足を運び顔を洗う事にした。目脂やらなんやらが汚い。
夏は温くて冬は冷たい水しか出さない事に定評のある、北上の住まうアパートの水道水で顔を洗いながら彼女は考える。
正味の話をすれば、聖杯戦争は自分の望む戦いではない。北上が取り戻したいあの日々とは、深海棲艦と戦っていた、あの時なのだ。
<新宿>では自分は、重雷装巡洋艦北上として輝けない。それに、全く自分とは関係のない人間を、殺さねばならない。
其処までして取り戻したいかと北上は思うが……考えるのを止めた。あの日々が戻らなかったら、北上と言う少女は平凡なままで終わる。
結局艦娘と戦争は、不可分の存在なのだと、たったの数日で痛いほど思い知らされた。自分の願いが許されざるものだと解っていても、北上は邁進する他ない。
辛くて、厳しくて、しかし、何よりも楽しかったあの日々を、取り戻すまで。

 北上の思う所を知ってか知らずか。ピティ・フレデリカは恍惚とした瞳で北上の事を見つめていた。
彼女の言っていた事を思い出す。自分は世界に、平和になって欲しくなかったのだ、と。あの一言が、鮮明にフレデリカの脳裏に焼き付いている。
あの言葉は、確実にフレデリカと言う少女の心を射抜いた。正直で、力強くて、鬱屈としていて……そして、美しい。
フレデリカと言う少女は最早迷わない。北上と言う少女と共に、聖杯まで駆け抜けるには、十分だった。

 フレデリカは目線を北上自身から、彼女の黒くて美しい、黒曜石のような黒髪に向けた。
やはり美しい。そして、美味しい。如何なるパスタでも、北上と言う少女の黒髪には敵うまい。
舌を少しだけ、悪戯っぽく出してみるフレデリカ。舌先に、北上が眠っている間に抜け落ちた髪の毛が十本程絡みついていた。


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608 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:25:28 2ql0V7GM0
20:魔界都市<新宿> “殺人鬼王”

 パッ、とテレビを付ける少女がいた。偶然にもニュースチャンネルだったから、チャンネルを変える必要もなく好都合である。

「此方、事件の現場の神楽坂にいます。今も三日前の悲惨な事件の影響で、人通りは全くなく、平日の最中であると言うのに信じられない人の少なさです」

 見ると、若い女性のレポーターが、真面目で固い表情で、現場のレポートを行っている様であった。
現場周辺の地面は不気味に赤黒く染まっており、凄惨な事故の現場で遭ったのだろうかと、いやがおうにも人々に連想させてしまう。
そしてレポーターの言った通り、現場の神楽坂には全く人がいない。過疎化が進んだ田舎の商店街か何かのようであった。

 全体的におどろおどろしいBGMを流しながら、場面が次のものに映り変わる。
被害者の遺族の声を聞いているらしい。「哀しいです……」、と涙を堪えながら心境を語る中年の女性。
「息子がいなくなってから家の雰囲気が幽霊屋敷みたいです」、と呆然と答える男女二名。
この他にも様々な声が寄せられているが、とてもではないが時間内に収めきれる量ではなかったらしく、数名の声を聞いただけでこの場面は終了。

 舞台は現場からスタジオに移る。
司会役のアナウンサーと、このニュースの為に集められた有識者が何人も座っている。
神楽坂で起った百三十八名もの無辜の通行人を殺害した、黒い礼服の男と、その男と一緒に行動をしていた『遠坂凛』と呼ばれる少女の情報は、
今<新宿>は愚か日本、いや世界中の注目を集める超トップニュースだった。
平日の真っ昼間から突如として起った凄惨な連続殺人事件。たった十数秒で百人以上の人間を殺してしまうと言う、礼服の男の凄まじい殺人技術。
そして何よりも、こんな事件が日本で起ったという事実。諸外国は、とうとう日本もテロの標的になったのかと、この事件に強い関心を寄せている。
ありとあらゆる推理がテレビや新聞で流れていた。曰く、遠坂家は極左暴力団と何らかの関わりを持っていたのではないか?
曰く、あの黒礼服の男は某国から送られた自爆テロリストの一種なのではないか? 曰く、この問題には高度な政治的判断を伴う背景が隠されているのではないか?

 政治学や地政学を絡めた極めて高度な推論から、陰謀論も甚だしい低俗な意見まで。
この大量殺人事件には、現在進行形で提起が成されている。
――だが、このニュースを見ている少女、『遠坂凛』は知っている。この殺人事件には実は高度な政治的問題何てものは絡んでいなくて、
一人の男の悦楽の為に巻き起こされた大事件であると言う事を。そしてもう一つ。その黒礼服の男が殺した人数は百三十八人と言う事になっているが、実際上の数値は『百八十名』であると言う事を。
……なぜ、そんな事を知っているのか? それは、簡単な話である。


609 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:25:52 2ql0V7GM0
「いやはや、世界が変わればこまで大事になるものなんですねぇ」

 ……その死体が、遠坂凛がいる部屋に転がり、死臭を放っているからだ。

 部屋中に転がる、死体、死体、死体死体死体死体死体死体死体。
中世ヨーロッパの時代、モンゴルとドイツ・ポーランドの連合国の間で行われた、ワールシュタットの戦いの後には、きっとこのような光景が見られていたに違いない。
頭を割られている者、身体を真っ二つにされている者、眼球を抉り出されている者、身体を胸や臍の辺りから横に寸断されている者、首を刎ねられている者。
死に様は鋭利な刃物で斬り殺されたかのような切断面を見れば解る通り、全てこの、ソファに寛いでテレビを見ている黒礼服の男のマチェットによるものだった。
そう、この男こそが、神楽坂の連続殺人事件を引き起こした張本人。そして、遠坂凛が呼び出した最悪のバーサーカー。『黒贄礼太郎』である。

 この男を呼び出してからの日常はもう最悪を極るものだった。
自分の姿は道路に配置された、スピード違反者などを取り締まる為の小型カメラでバッチリと捕捉されており、今では共犯者或いは重要参考人として、
新宿どころか世界中からお尋ね者扱いされている始末だ。警察と言うものは無能ではない。何れ掴まると判断した凛は、遠坂邸を飛び出し、
何処かで野宿をしようかと決めかねていた。其処で意見を提起したのが黒贄だった。「私が何とか遠坂さんの住まいを提供しましょう」。
嫌な予感を凛が感じたのは言うまでもない。止めて頂戴と凛が言うよりも速く、黒贄はある豪邸の方に霊体化した状態で向かって行き、そして――殺戮。

 そして現在に至る。増えた死体の数と言うのは、この時黒贄が殺した豪邸の住民の数を含めている。
この豪邸は<新宿>は愚か日本でも有数の規模を誇る暴力団の組長の自宅であった。邸宅に住む人間の数もやけに多かったのも頷ける。
確かに、住まいの問題は強引にクリアした。クリアしたが……もう凛の精神は限界だった。今テレビには、自分の顔写真と全体像がしっかりと放映されている。
この姿を見た人は、是非とも警察にご一報下さい。皆様の貴重な証言が、事件の解決の手掛かりに――

「じゃないわよもう……」

 頭を抱えてグネグネ身体を動かす遠坂凛。聖杯戦争が本格的に始まる前から自分の状況が完全に詰んでいるとは、これ如何に。
こんな短時間で死体にも慣れて来た自分と、この死体を生み出す黒贄が恨めしい。
凛の精神は、確実に限界一歩手前にまで近づいていた。黒贄は、特有のアルカイックスマイルを浮かべて、昼食のカップラーメンに湯を注いでいるのだった。


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610 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:27:07 2ql0V7GM0
21:魔界都市<新宿> “魔王伝”

 キイィ、と言う、蝶番の擦れる耳障りな音が、『マーガレット』の耳に聞こえて来た。
それは、棺桶が開かれる音。その棺桶に入っているのが、死人であればどれだけ良かった事か。
棺桶と言う死人の我が家に入っているのは、誰あらんマーガレットが引き当てたサーヴァント。
それにしても、如何なる存在がその棺桶に入っていると言うのか? その棺桶を見てみるが良い。
表面には黄金の山羊の頭のを模した紋章(クレスト)が刻まれ、その角に、顎髭の下で結ばれたマンドラゴラの蔓が纏わっているではないか。
如何なる財を積めば、此処までの美しく、それでいて冒涜的かつ背徳的な意匠を凝らせるのか? この棺桶に入っているサーヴァントとは、人か? それとも、ヴァンパイアか?

「快適な寝覚めだ」

 鷹揚とした動作で、その男が立ち上がった。女の陰唇を濡れそぼらせかねない程の、圧倒的な美を孕んだ声。
マーガレットがキッと、自らが引き当てたアサシンのサーヴァントを睨みつけた。
黒いインバネスコートを身に着けた、美しい魔人を。マーガレットが拠点としている<新宿>の下水道が、神仙の住まう世界に変質しかねない程の美を持ったアサシン、浪蘭幻十を。

「そう睨んでくれるなよマスター。君に害を成した覚えは僕にはないのだがね」

「貴方みたいな外道が召喚されたという事実に不快感を覚えているわ」

「手厳しいな」

 棺桶の蓋を閉じ、それに腰を下ろし、幻十が言った。
何気ないしぐさの一つ一つに、女を焦がし男を当惑させる程の魅力に満ちている。如何なる神に愛されれば、このような存在に生まれ変われるのか?

 この世界におけるマーガレットの立ち位置は、事実上ホームレスと何ら変わる物がなかった。家がないのだから当然である。
しかし、幸いにも彼女は金或いは、金に換えられる物は幾らでも所持している。食事や住処の類には困る事がないのだが、
幻十と言う男の性質を考えた場合、常道の宿泊施設には到底泊まれるものではない。それにきっと、宿泊施設を拠点としている主従も少なくはないだろうと踏んだのだ。
その結果が、下水道での生活である。生活環境は最悪であるが、幻十の張り巡らせたチタンの魔糸のおかげで、ネズミは愚かゴキブリ、ダニの一匹ですら、
マーガレットと幻十の眠っている宝具、浪蘭棺に触れる事すら出来ない。臭いさえ除けば、最低限眠れるだけの環境は整えられていた。

「まあいい。僕から何を言っても暖簾に腕押しだろう。実力で、マスターの小言を黙らせる事としよう」

「あら、貴方にそんな事が可能なのかしら? 『アサシン』、何でしょう?」

 暗にアサシンが、聖杯戦争の中でも弱いクラスである事を強調しているような言い方。フッ、と幻十が笑みを零してから口を開いた。

「僕を倒せるのは僕の技を知る『秋せつら』のみ。それ以外の存在に、後れを取るような事はしないさ」

 ――秋せつら。
その男の名前を口にする時の幻十の顔はいつも、何処か遠い所を見るようなそれであった。
遠い昔に死別してしまった友を思うような。しかし、その瞳には、確かなる敵意と殺意が同居している。
昔日の日々を思い出し破顔しながら、その友に確かな殺意を向けさせる。浪蘭幻十は、確かなる狂人であった。
……魔界都市の住民に相応しい、魔王のような男であった。

「今度は僕が君の首を刎ねよう、せつら」


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611 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:28:43 2ql0V7GM0
22:魔界都市<新宿> “魔執劇”

 人目につかない裏路地で、四人の男達がたむろしていた。正確に話すのならば、一人に対して三人が話かけていると言うべきだ。
そして、その全貌を語るとするならば、三人が一人の男を脅しかけていると言うべきか。

 眼鏡をかけた、モヤシを思わせる程白く細長い体躯をした眼鏡をかけたこの青年は、塾帰りにはいつも、この三人の不良に金銭を脅し取られていた。
誰が見ても弱そうな身体つき。小突いただけで、肋骨が折れそうな程か弱い印象を見る者に与える。其処を、狙われたのだろう。
人通りの少ない場所に案内され、金銭を脅し取られる関係が、かれこれ十日以上は続いている。断れば殴られ、蹴られ、無理やり全て奪われる。
この眼鏡の少年には、従順な態度しか許されていない筈であった。それが何故だろう。今日に限って、青痣と腫れだらけのその顔に、笑みが浮かんでいた。
目の前の三人の知性を嘲笑うような。強者が弱者を甚振るような。カンパと称して金銭を巻き上げようとしていた三人であった、その笑みを見て、何だか、とてもイラついた。
パンクファッションに身を包んだ小太りの男が、少年の頬に張り手を喰らわせた。いつもなら一m程も吹っ飛ぶのだが、今日は吹っ飛ばない。少年は、ヘラヘラと笑い始めた。

「馬鹿な奴らだよなぁお前ら」

 それは、本当に以前までカモにしていた青年の口から発せられているのかと思う程、邪悪で嗜虐的な声。
悪魔が少年の身体に乗り移って、言葉を紡がせているのではないかと思わせる程、以前とはまるで性格が違っていた。

「まぁでも手間が省けたよ。お前らだけは絶対に殺しておきたいと思ったからさ、今までの恨み、晴らさせて貰うよ」

 一瞬ポカンとした不良達であったが、青年の言葉を咀嚼し終えた瞬間、如何にも下品な笑い声を上げ始めた。
恨みを晴らすである。この、女にも負けそうな弱々しいがり勉男が、だ。全く笑わせる。今日は痛めつけるだけじゃなくて、着てるもの全部脱がせて転がしてやろうかと考えた、その時である。

 青年が、左手の甲に刻まれた、痣か、或いは、タトゥーに似た紋様を不良達に見せつけ始めた。
そして、コンセントレイト。青年が目を瞑り集中したその瞬間。その痣を中心に、青年の身体全体に緑色に光る筋が走り始め、それと同時に、光の柱が彼包み込んだ。
数秒の事、光が止んだ。其処に居たのは、人間ではなかった。それは、人間の背部に巨大なサソリの身体が合体した様な怪物で、
特撮の番組に出てくる怪人か何かかと錯覚させる生物だった。言葉を、不良達は失った。尻尾を猛速で、先程張り手を喰らわせた男に突き立てた。
顔面が吹っ飛ばされ、挽肉にされた。漸く事態を認識した、茶髪の不良が逃げ出そうとするが、そのハサミで胸部から、紙を切るみたいにジョキンと切断。即死させる。

「あ……ぁ……あ……」

 残った女の不良が、失禁しながらサソリの怪物を見上げていた。
殺さないで、と膝を笑わせながら許しを請う。ジロリとサソリ人間が目線をそちらに向けた。ガシリと彼女の両肩を掴み始める。
「いやぁ!! やめて、離して!!」と、大泣きしながら身もだえさせる女だった。サソリ人間の人間の部分の顔が、大きく口を開けた。
人間の頭など一口で丸かじり出来る程、その口は大きい。

「やだぁ!! 助けて、お母さん!! お父さん!! 食べられるの何ていやあぁああぁああぁ――あ゛、が……べっ……!!」

 其処で、女の声は途絶えた。サソリ男に頭を鼻梁の半ばまで喰らわれた。大脳を咀嚼し眼球を噛み砕く化物。頭蓋骨すらも、食事の対象だった。
女の死体からは気道から空気とどす黒い血液が漏れる音が連続的に響き始め、体内に溜められていた大便が全て肛門から噴き出して来た。
ブンッ、と、ボールの様に少女を投げ飛ばす。十mも吹っ飛ばされ、死んだ蜘蛛のように女体が横たわった。


612 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:28:56 2ql0V7GM0
 路地の暗がりから、上から下まで白一色の服に身を纏った、凛冽とした黒髪の美女が現れた。
その方向に、サソリの怪物が目線を向ける。「おぉ、アンタは……!!」、感動したような声音でそれが言った。

「凄い力だよ!! 身体の底から、俺が認識してなかった力が湧き出てくるようだ、ありがとう、ありがとう……!! 復讐が――」

「『パピルサグ』か。まぁよく見られた悪魔だな」

 青年が変身したサソリの怪物もとい、パピルサグの言葉など聞いていないと言った様子で、女性が近付いてくる。

「残念だが見込み違いだ」

 フッ、と、鉄面皮を笑みに崩させて、女性が言った。目の前のパピルサグを皮肉る様な、そんな態度。
ベラベラと饒舌に喋る怪物の機嫌が、何処か悪くなっていた。

「私も少し腹が減っている。貴様で満たさせて貰うとしよう」

 言って女性が腕を横薙ぎに振るったその瞬間。パピルサグの胴体が腰から横にズルリと移動し、ズレ落ちた。
痛みが遅れてやって来たのか。それとも、痛みに漸く気付いたのか。青年が叫び声を上げようとしたその瞬間、女性に頭を踏み砕かれ青年は即死した。
女性の腕は別種の怪物のそれになっており、それを高速で振るい身体を斬ったのだ。

 『ジェナ・エンジェル』にとって、この程度の雑魚悪魔にしか変身出来ないチューナーには用はない。
<新宿>中に、今やジェナが開発した宝具、『悪魔化ウィルス』に感染しチューナーとなった人間が潜伏している。
変身した悪魔によっては、サーヴァントと同等以上に戦える者も少なくないが、雑魚の悪魔を増やした所で混乱をいたずらに招くだけだ。
だからこうして、弱い悪魔にしか変身出来ない人間は、殺し、喰らう事で間引いているのだ。主の『結城美知夫』は悪辣な笑みを浮かべてジェナの事をこう評した。
アルバート・フィッシュもブラボーを送る程の大悪党だなと。

 口元をパピルサグの臓器の血で濡らしながら、ジェナは血肉を喰らい呑んでいた。
世間を騒がせるミンチ殺人の実行犯は、彼女及び、彼女の宝具で変質したNPCのせいだとは、まだ誰も知らない。


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613 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:30:21 2ql0V7GM0
23:魔界都市<新宿> “浄化狂”

 一日一善、と言う言葉がある。 
一日に一つ善い事をすれば、それが積み重なり、本人にもきっと善い事が起こると言う言葉である。
何て素晴らしい事なのだろう。難しい事はしなくていい。ただ一つ、一日に善い事を行うだけ。
だが待って欲しい。一日一善では少ないのではないか? もっとノルマを引き上げられる筈だ。
一日に一善と言わず、一日十善、いや、もしかしたら一日百善も、理論上は可能かもしれない!!

 『セリュー・ユビキタス』は<新宿>に例え来ようとも、自分の信念を曲げるつもりは毛頭なかった。
悪を裁き、善なる世界を築き上げる。それが、セリューの究極の理想。自分の目指す、正義の世界。
それが困難である事は彼女も良く解っている。この世には悪が多すぎる。自分の身体一つでは、厳しいと言うのもまた事実だ。
だが、聖杯があれば。この<新宿>の悪を一つ一つ挫いて行けば。きっと聖杯に辿り着き、全人類の理想である、正義だけの世界を構築する事だって可能な筈なのだ!!

 道は、険しいのかも知れない。茨や鉄条網が、沢山絡みついた道なのかも知れない。
でもそれでもセリューには、勝ち抜ける自身があった。だって、自分を助けてくれるパートナー――サーヴァント――は、最強の存在だから。
自分の正義の心に導かれてやって来た、正義の使者なのだから!!

「そ、その……どうでしたか?」

 及び腰になりながら、セリューが聞いて来た。
正義とは苛烈なものである。セリューはその事をよく知っていた。セリューのサーヴァント、『バッター』の正義は確かに苛烈である。
が、その正義は彼女の物とは違い、冷厳さと威厳に満ち満ちた正義である、熱を伴う彼女の在り方とは百八十度異なる。
セリューの正義とバッターの正義は、密度と質が違う。バッターが醸し出す正義のオーラは、セリューのそれを圧倒する程のパワーに満ちている。故にセリューは、バッターには従順であるし、その威厳溢れる魁偉には、最大限の敬意を払っていた。

 ワニに似た動物の頭を持った、バッターと呼ばれるサーヴァントは、ジロリとセリューの方を睨んだ。
真珠のような白い瞳。これに射抜かれる度にセリューは、心の内奥すら見透かされているのではないかとたじろいでしまう。
ややあってバッターは、言葉を紡ぎ出す。ワニの頭で、だ。

「見事だ。動作も軽やかだったし、掛かる時間も人にしては短かった」

「!! あ、ありがとうございます!!」

 勢いよく一礼して、セリューが感謝の言葉を述べる。漸く、バッターに認められた。
その事が嬉しくて嬉しくて、セリューには仕方がなかった。人に対して厳しいこのサーヴァントが、自分を認めてくれたのだ。
仕事の後の疲れ何て、風に吹かれる木の葉の山のように吹っ飛んでしまう。今セリューは、ヒマワリのように晴れやかな笑みを、バッターに対して向けていた。

 ……所で、彼女の頬と身体には返り血が何滴も付着していた。
今日セリューとバッターが行った正義とは、中堅の暴力団事務所を壊滅させた後で、その家族を子供も含めて皆殺しにした事であった。
足元に大量に転がる、骨を砕かれ頭を銃で撃ち抜かれた死体の数々。「これで七……いや、九善位は行きましたかね?」とバッターにコメントを求めるセリューだったが、彼はノーコメントであった。

 一日一善、と言う言葉がある。 
一日に一つ善い事をすれば、それが積み重なり、本人にもきっと善い事が起こると言う言葉である。
何て素晴らしい事なのだろう。難しい事はしなくていい。ただ一つ、一日に善い事を行うだけ。
だが待って欲しい。一日一善では少ないのではないか? もっとノルマを引き上げられる筈だ。
一日に一善と言わず、一日十善、いや、もしかしたら一日百善も、理論上は可能かもしれない!! ……セリューらの行った行為が、善に当たるかは別の話である。


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614 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:31:37 2ql0V7GM0
24:魔界都市<新宿> “星振光”

 青年の知る新宿には、このような建物など存在しなかった筈だ。それとも、此処が<新宿>であるからこそ存在しているのか?

 信濃町に建てられた、元々はK義塾大学病院として機能していた筈の病院は、現在『メフィスト病院』と言う名前で管理運営されていた。
病院の名前に、あのメフィストフェレスの名前を頂戴する等とは、大したセンスであると『ヴァルゼライド』は褒めちぎっていた。
無論、それが皮肉であると言う事は言うまでもない。院長のセンスは、相当捻くれているか、或いは本物の馬鹿であると、言わざるを得ないだろう。

 白亜の大伽藍とは、きっとこの病院の事を言うのだろう。
清潔感溢れる白い外装に、夜間でも診療を行っているのか、電気の明かりが煌々と窓から溢れている。
夜でも診療を行っていると言う事自体は褒められるべき事だろう。

【……この建物、やはりそうなのか?】

 霊体化をしているバーサーカー、ヴァルゼライドに少年はそう訊ねた。

【魔力の香りを隠そうともしないのが、いっそ清々しい程だ。此処まで堂々として目立つ拠点を築くとは、嗟嘆の念を禁じえん】

 要するに、此処にサーヴァントがいると言う事への肯定だ。尤も、ヴァルゼライドに聞くまでもない事だったかもしれない。
聖杯戦争の参加者であれば、此処が何よりも怪しいと言う事など、すぐに解るのであるから。

【……行くか、マスター?】

【今は良い。本音を言えば行きたい所だが、無益な犠牲は好む所じゃないよ】

【解った】

 言ってヴァルゼライドは、襲撃を取りやめてくれた。
メフィスト病院が、彼らにとっての敵の巣窟であると言うのは事実であろう。だが、この病院を襲撃すると言う事は、最低でも数百人は下らない患者と、
其処で働く医療スタッフの命をも危険に晒すと言う事をも意味する。言ってみれば、メフィスト病院は数百人の人質を擁していると言う事だ。
今はまだ、動く時ではない。何とか此処を攻略出来ないか。その手段は、何れ考える事とした。

 歴戦の烈士である二人は、聖杯戦争の始まりを告げる鐘が、もうすぐ鳴らされる事を直感的に理解していた。
日を追う毎に緊密になって行く空気、空気分子に鉛でも結合したのかと思わせる程重苦しくなって行く街全体の雰囲気。
そして、それらを裏付けるように、<新宿>と言う街で起る様々な事件。間違いない。この街は何れ、妖都と変貌を遂げる。
その瞬間こそが、二名の怪物を繋ぎ止める鎖が解き放たれる時。人類種が到達出来る限界点(リミッター)の、更に限界点を超えた超人達が、
剣を振い、如何なる魔術師たちの妨害にも屈さず、その勇名を轟かせる時なのだ。

 己の身体を鋼とし。己の身体を剣とし。その犠牲が新たなる世界への礎石になると信じて。
二人は、メフィスト病院の白き威容を背に、その場から去って行った。次に会う時は、こうは行かないと、彼らの背中は語っていた。
霊体化を行ってるバーサーカーの真名は、クリストファー・ヴァルゼライド。軍事帝国アドラーの総統。帝国の未来の為に過去も現在も未来も戦い続ける鋼の男。
そしてもう一人の男、即ちマスターには、名前がない。人の世の平和の為に、剣を振い銃を撃ち続ける孤独なこの男に名前を授けるとするのならば、英雄の中の英雄。
さしずめ、『ザ・ヒーロー』とでも名付けるべきなのであろう。


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615 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:32:45 2ql0V7GM0
25:魔界都市<新宿> “アイアンナイト”

 令呪と言う焼き鏝により騎士(ナイト)を強制させられた、機械の乙女がいた。
彼女を例えるのならばさしずめ、王や女王の近衛兵と言うべきか。但し彼女が振るうの、絢爛たる装飾に彩られた剣でもなければ、鋼の光が美しい直剣ではない。
ありとあらゆるものを粉砕し、薙ぎ倒す白銀の大斧。きっと、嘗てミノタウロスを閉じ込めた迷宮、ラビュリントスに収められていた大斧ラブリュスとは、
彼女が振るうこの大斧のような代物であったに相違ない。

 そんな機械の乙女に、『ラビリス』と言う名前が与えられたのは、一種の皮肉なのであろうか?
迷宮を意味する単語であるラビリンスをもじったような名前。迷路とは即ち、逡巡と躊躇、迷いのシンボル。
その様な名前を冠しておきながら、この少女には迷いがない。それはそうだ。迷う程の理性を既に、戦闘意欲と言う感情で塗り固められているからだ。
つまりラビリスは率直に言って、狂化させられている。しかも彼女は本物のラビリスではなく、彼女の心の迷いが具現化したシャドウだ。
言うなれば、『シャドウラビリス』とでも言うべき存在である。狂化等施さなくとも、狂気の具現のような存在であるラビリスの影であるが、
今は人が違ったように大人しかった。大人しくさせられていると言うべきか。背後のベッドで寝息を立てる彼女のマスター、番場真昼/番場真夜が行使した令呪によってだ。

 ラビリスが腕を振えば、体中がバラバラに離散するのではないかと言う程弱々しい身体つきをしている。
今は余程疲れているのだろう。年相応の少女めいた寝息を立て、泥のように眠っている。
夜になると極めて険の強い表情になる番場であったが、こうなると年頃の少女である。全く油断し切っている。

 令呪による強制力が働いているとは言え、ラビリスの戦闘本能の強さは、筆舌に尽くし難いものがある。
兎に角今の彼女は、大斧で敵を薙ぎ倒したい、破壊したい、粉砕したい。しかし、それが出来ずにいる。恐るべし、令呪の強制力よ。
ジレンマに悶えながら、ラビリスは考える。彼女は複数だった。彼女には同型機と呼べる存在が複数体存在した。
それらがいる限り、彼女は絶対にオリジナルにはなれない。全てを破壊し尽くす必要があった。

 無論それらも重要な命題であるが、やはり、聖杯戦争に対する期待も其処にはあった。
自分の力が、振える。圧倒的な暴力で、敵を蹂躙出来る。それがどれほど楽しい事なのか、ラビリスの影はそれをよく知っている。

 嗚呼、早く斧を振わせてくれ。早く聖杯戦争が始まってくれ。
自らにナイトとしての役割を授けたこの愚かな女に、サーヴァントよ襲い掛かってくれ。
そして願わくば――自らを本物へと昇華させてくれ。

「――殺す」

 一言、ラビリスの影からそんな言葉が漏れ出た。
その一言に、どれだけの感情が詰まっていたのだろうか。その声に秘められたる感情は喜悦と狂喜。
しかし、声にこそ、そのような感情が込められてはいたのだが。影の濁った金色の瞳は、何処までも笑っておらず、感情の光と言うものを一切宿さぬ、人形の如きそれなのだった。


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616 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:34:01 2ql0V7GM0
26:魔界都市<新宿> “魔獣戦線”

 神は人を私利私欲で殺さない。正確に言えば、神は人を試し、惑わす試練を与えるか、天罰を下すのである。
神によって人が殺されるのではなく、人は神の与え賜た試練に敗れて死ぬか、所謂天罰を受けた時に、彼らは死ぬのである。

 そう、人を殺めるのは神ではないのだ。
人を殺めるのは何時だって、神が土塊を捏ね、自らに似た姿となるように作り上げた、肉と糞との集積体である人間が。
増えすぎた地上の人物を間引きし、善い人間も悪い人間も等しく天国か地獄に案内する役割を担うのである。

 南米ベネズエラの名家であるラブレス家に忠誠を誓っていたメイド長、『ロベルタ』の平和は、マルガリータ島のビーチの砂で作った城のように呆気なく崩れ去った。
泥水を啜ってでも仕えて見せると誓った主が、爆殺された。車体ごと、主ディエゴの身体は粉々になり、焦げたステーキ片と成り果てた。
ディエゴの息子のガルシアは言っていた。父を殺した人は、何を思って父を殺したのか。そして、そうまでして、紳士の鑑であった父を殺す理由とは何だったのか。
ロベルタは知っている。其処に意味など初めから介在していないと言う事を。餓狼が得物を殺すのに何の感傷も抱かないのと同じである。
狼は、弱った相手を食い殺すのに、何の躊躇も抱かない。狼は、得物を殺す機会が用意されたのならば、それを最大限に利用する。
人はその性質を何処までも狼に近づけさせる事が出来、遂には、狼の性根すらも超えた怪物にだってなる事が出来る。

 稼業人にとって、人を殺す際に、そのターゲットに対しては、何も思う所などない事をロベルタは痛く知っている。
何故ならばそう言ったケースの場合、その標的と言うのは大抵自分とは縁もない他人であり、どうでも良い存在なのである。
そう、人が死ぬ事になど、意味などない。いない方が都合が良い、何処かの誰かにそう思われた時。人は何時だって、死と隣り合わせの存在となるのだ。

 それが世の真理であると言うのならば、殺されるのは自分の方だとロベルタは思っていた。恨みは随分買っていたからだ。
だが、自分を通り越して殺されるのが、何故ディエゴで、悲しみを背負わされるのが何故幼いガルシアだったのか。
神が人の為に作り上げた世界は、それ自体が完成された至高の世界であり、全てが美と調和の中に落ち着いている。
その中で、人だけが不完全なのだ。人だけが、理不尽な存在なのだ。たった一つの歯車がかみ合わないだけで地獄となるように、神は世界を創造した。
自分が受ける筈だった因果を、ディエゴが肩代わりする。何て、世界は理解し難いのだろう。――おかげで、自分は銃把を握らざるを得なくなったではないか。

 何故、ジャパンの都市である<新宿>に自分がいるのか、ロベルタは今でも解らない。
しかし、自分が暴力を振るい、山間民族がマチェットで邪魔な枝を切り払うが如く、聖杯戦争の参加者を蹴散らせば。
指と指との間から砂が抜け落ちるようにして、ロベルタの手から落ちて行った平穏なあの日々を、取り戻せるのだ。汚れた狐共を、一匹残さず殺す事が出来るのだ。
ならば、邁進するしかない。かのアーサー王が求めたとされる、奇跡の杯まで。ロベルタが引き当てた、破壊の権化、魔獣(ジャバウォック)と一緒に。

「まだまだダンスは始まったばかり。手足が動かなくなるまで、踊り明かしましょう。バーサーカー」

 覇気を放出しながら、ロベルタの方を見て佇む、少年の形をした化物がいた。
ロベルタが引き当てたサーヴァントの真名は、『高槻涼』。しかし、この名前は何処か威厳がない。
彼女は専ら彼の事をバーサーカー或いは、鏡の国のアリスに登場するドラゴン、ジャバウォックと呼ぶ事にしている。
猛り狂う暴力の化身。立ちはだかる者は、自分が扱う銃兵装がちゃちな花火にしか見えない程の火力で焼き尽くして灰にする。
まさに自分に相応しい魔獣であった。さぞや生前は、意思の赴くがままに暴威を振った怪物であったに相違あるまい。

 ……それが、この女の勝手な思い込みであり、高槻涼と言う存在を何処までも冒涜している考えだと言う事に彼女は気付かない。
彼がどれだけ、自分の体の中に眠る魔獣の力を恐れていたのか、彼が正義感に溢れる少年であった事など。
この身勝手な女が気付く事は、永久にないのかも知れなかった。


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617 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:36:51 2ql0V7GM0
EX:魔界都市ブルース “求答の章”

 ……話は、美しき魔人が初めて呼び出された日にまで遡る。

「――やぁ」

 その男は、群青色の鍵によりて導かれてやって来た、黒い魔人であった。
夜の闇よりなお黒い、襟を立てたロングコートを身に纏う、黒シャツに黒スラックスと言う、着る物全て黒ずくめの男。
それが見る者に、冬至の日の厳しい寒さを連想させ、魔人――『秋せつら』召喚したマスターの身体に、薄青い戦慄を走らせる。

「堅苦しいのは嫌いでね。君が僕のマスター?」

 そのマスターは答えない。目の前の青年が発する、凄まじいまでのカリスマ性に呑まれたからか?
それもある。だが、真実ではない。目の前の男は、余りにも……美し過ぎた。
柳の葉の如き眉、黒珊瑚に似た輝きを放つ黒瞳、すっきりと伸びた理想的な鼻梁、薄い紅を引いたような唇の中で太陽のように眩い歯並び。
そして、身体全体に纏わりついている、蕭殺たる神秘な雰囲気。神が創り上げた、汚されざる美の象徴の存在のようなせつらに、彼を召喚したマスターは、フリーズを起こしていた。この様な美しい男性が、存在して良いのかと。

「……そ、そうで、あります……」

 漸く、そのマスターは答えた。女の声だった。

「宜しく頼むよ。せんべいを焼く事と、人を探す事しか能のない人間だけど、精々仲良くやってこうぜ」

 「しっかしなぁ、僕を<新宿>に呼び出す何て、なんの因果なんだか」、と後ろ頭で手を組んだ状態でせつらが口にする。
マスターの女性は、せつらが放つ美の神韻に圧倒され、何にも口に出来ない状態であったが、ようやっと、と言った体で言葉を紡いだ。

「あ、あの……!!」

「どうしたのかな?」

 ややそっぽを向いた状態で、せつらが訊ねて来る。目の前の女には、興味を示さないのか。秋せつらよ。

「私には、どうしても聖杯を使って、叶えたい願いがあります!!」

「だろうね。でなければ、“魔界都市”に来れない」

 室内の壁際にまで歩いて行き、其処に背を預けてせつらが言った。
思えば生前のせつらが活動していた、“魔界都市<新宿>”もそうであった。この世総ての悪たるあの街にやってくる人物は、相当な野心家か、
<新宿>以外の街では生きて行けない程深い悲しみを背負った者ばかりであった。せつらが呼び出された<新宿>もきっと、そう言った者を選んでいるに相違ない。


618 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:38:01 2ql0V7GM0
「……貴方も解っている事なのかも知れませんが……私は、人間ではありません」

 せつらもそれは知っている。初めて見た時から、『糸』を使うまでもなく、彼女が人間ではない事は承知していた。
それにもかかわらずせつらがその事を聞かなかったのは、本当の魔界都市では彼女のような存在など珍しくもなかったからだ。
中国は夏王朝の時代から現代まで、身体をサイボーグ化させて生き長らえさせる事で暗躍していた大科学者や、フランケンシュタインの怪物そのものを目の当たりにして来た男を驚かせるには、目の前の女性は全く足りなかった。

「私には、どうしても、助けたい人がいるのです。私は、その人を絶対に、聖杯で生き返らせたい。ですから、お願いします!!」

 勢いよく深々と礼をする女性を見て、せつらはうーん、と唸った。さて、どうしたものかな、と顎に手を当てて考える。
サーヴァントとして呼び出された以上、マスターの為に聖杯獲得のサポートをする事は知っているのだが、生憎せつらには願いなどない。
生前に未練も何もないのだ。受肉してせんべい屋でもまた開こうかな、程度の願いしかない。
出来るのならばのんべんだらりと<新宿>で過ごしていたかったが、残念な事に、女性は聖杯が何が何でも欲しいと来ている。
せんべい屋としてのせつらではない。人捜し屋(マン・サーチャー)としてのせつらを求めたのだ。

「聖杯がね、スナックやバーが置いたワンダースの空瓶みたいに転がってるなら、僕も探すのは簡単なんだけどさ。聖杯って、人を殺さなきゃ現れないんだろ?」

 お辞儀を解こうとする女性の身体が固まった。

「君の呼び出したい人って言うのは、他の参加者を殺して生き返らせて、喜ぶ人なのかな」

 我ながら意地の悪い質問だとせつらは考える。だが、これは聞いておきたい事柄だった。
せつらも魔界都市の住民である。人を殺す事に躊躇はないし、痛めつける事だって時と次第によっては辞さない。
だが、それらは全て悪人に対して向けられる事なのだ。普通に生活している人間、訳も分からず聖杯戦争に巻き込まれた人間を殺すような事は、なるべくならばしたくない。
この戦いを勝ち抜こうとするのならば、そう言った人物とぶち当たると言う可能性をも検討せねばならない。これに対し、せつらのマスターよ、どう答える。

「……あの人は、こんな形で呼び返されても、絶対に喜ばない人でしょう。そう言う性格でしたから」

 スッ、と顔を上げる女性。せつらと、目があった。女性であれば正気を保てない程の美しさと真正面からぶつかった。
怯みそうになる。しかしこれを堪えて、彼女は言葉を紡いで行く。

「ですが……、それではあまりに、哀れであります。あの人は生前、良い事なんて何にもなかった!! 
私の勝手な判断で幸福を全て破壊されて、紆余曲折の末に、世界を救う為のたった一人の人柱になった……あの人に、人並の幸せ何て存在しなかった!!」

 もう、せつらの黒い瞳が明白に、少女の方に向けられた。表情と意思を、完全に一人の人間に向けているのだ。
この男の美を真っ向から受け止めて耐えられる人物など世に存在しない。本気で、彼女の意思を問うているのだ。


619 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:38:12 2ql0V7GM0

「私は彼に、『死』を封印した。今度は彼を、『死』から解き放ちたいのであります!! 彼は人柱になった事に悔いはなかったのかも知れませんが……私には、悔いがあるんです!! もう一度、彼に会いたい!!」

 本気でこの少女は言っているらしく、その決意の固さを骨の髄までせつらは思い知らされた。

「……解った。今から君は僕の依頼人だ。聖杯捜索か……はは、魔界都市でもこんな大それた依頼、あったかどうかなんだけどね」

「あ、それとこれは貴方に言われて決めた事なんですが――」

「うん?」

「あの……巻き込まれて<新宿>にやって来た方に関しては、マスターでなく、サーヴァントだけを殺してくれませんか?」

 「うわぁ、マジかよ……」、と胸中でせつらが思ったのは言うまでもない。
場合によってはマスターを殺した方が速い主従がいる事を、せつらも彼女も理解している筈。それを理解していてなお、彼女は自分にマスターだけを殺してくれと言って来た。
何たるわがままな女性――いや、女性を模した人形なのかとせつらは苦笑いを浮かべた。
どうにも、自分はこの少女には弱い。彼女は機械だった。しかし服を着てしまえば、誰がどの角度から見ても、人間にしか見えない。
そして何よりも、宿している感情である。彼女の感情は、プログラミングされた機械では絶対に再現できない程、人間性に満ち満ちている。彼女は最早完全に、一個の人間であった。

 自分はひょっとしたら、機械の乙女である自分のマスターである『アイギス』に。
プラハで一番腕の立つあの老魔術師が作り上げた人形娘の面影を、感じているのかもしれない。
この世界の<新宿>での日々が、きっと長い事になるのだろう事は、せつらにも容易に想像が出来るのであった。


620 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:38:48 2ql0V7GM0
     




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621 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:39:07 2ql0V7GM0
【クラス】

サーチャー

【真名】

秋せつら@魔界都市シリーズ

【ステータス】

(僕)
筋力C 耐久D 敏捷B+ 魔力B 幸運A 宝具-

(私)
筋力C+ 耐久D 敏捷B+++ 魔力B 幸運A

【属性】

中立・中庸

【クラススキル】

探索者:A
特定の物や人物を探す技量に長けた者。ランクAは凡そ人間が到達しうる中では最高のランク。
サーチャーの場合は長年の経験や妖糸を操るその技量、幸運や人とのコネなどを総合的に勘案した場合、このランクとなる。
サーチャーは魔界都市において並ぶ者がいないと称された程の腕利きのマン・サーチャー(人捜し)であった。

【保有スキル】

妖糸:A+(A+++)
細さ1/1000ミクロン、人間の目には映らない程細い特殊加工チタンの糸を操る技量。
ランクA+は世界中を探し回っても数人と見当たらない程の腕前の持ち主。人格が『私』に代わった時、カッコ内のランクに修正される。

美貌:A+++
美しさ。サーチャーの美貌は神秘に根差したそれでなく、持って生まれた天然の美貌である。それ故に精神力を保証するスキルでしか防御出来ない。
性別問わず、Aランク以下の精神耐性の持ち主は、顔を直視するだけで茫然としたり、怯んでしまったりする。常時発動している天然の精神攻撃とほぼ同義。
ランク以上の精神耐性の持ち主でも、確率如何では、その限りではない。またあまりにも美しい為に、如何なる変身能力や摸倣能力を以ってしても、
その美しさが再現出来ない為、サーチャーに変身したり摸倣する事は不可能。人間に近い精神構造を持つ存在になら等しく作用する。

精神耐性:A(EX)
精神攻撃や精神干渉に対する耐性。サーチャーは極めてマイペースかつ鷹揚とした性格の持ち主で、大抵の精神攻撃はそよ風程度にしか感じない。
人格が『私』に代わった時は、カッコ内のランクに修正。精神攻撃は愚か、心に訴えかける行為全てに聞く耳を持たない。完全に相手を葬る気概を見せる。

単独行動:A
マスター不在でも行動できる。ただし宝具の使用などの膨大な魔力を必要とする場合はマスターのバックアップが必要

“魔界都市”の庇護:E
“魔界都市”と言う土地が彼に与える加護。サーチャーが生前活動していた“魔界都市<新宿>”ならば、最高ランクのバックアップが得られるが、
サーチャーが活動している現在の<新宿>では最低ランクにまで落ち込んでいる。このランクであるならば、窮地に陥った場合、自らの幸運判定と相手のファンブル率を少し上昇させる程度の力しかない。

【宝具】

『“私”』
ランク:- 種別:人格 レンジ:- 最大補足:-
――“私”と出会ったな。
サーチャーの身体の中に潜む、もう一つの人格。サーチャーは状況によって“僕”と“私”の人格を入れ替える事が出来る。
この人格にはどちらが上位でどちらが下位かと言う区別はなく、どちらも平等の人格。が、平時の主導権は“僕”の方にあり、表に出ているのは“僕”の方。
“僕”では手に負えない程の強敵、或いは許し難い外道と対峙した時に現れる人格で、この人格には“僕”の時の様な親しみやすさや気前の良さが欠片もない。
“私”に性格が入れ替わった場合、ステータスやスキルランクは“私”の物へと修正され、妖糸を操る技量も格段に上昇する。

 この人格の正体は全く判別が出来ず、サーチャーのもう一つの性格なのか、それとも彼の中に眠るもう一つの魂なのか、その正体は不明。
性格や口調、発する威圧感のみならず、妖糸を操る技量ですらが格段に上昇する事からも、多重人格とも違う。


622 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:40:00 2ql0V7GM0
【weapon】

妖糸:
サーチャーが操る、細さ1/1000ミクロン、つまり1ナノmと言う驚異的な細さを誇る、人間の目には絶対捉えられない糸。
材質はチタンであるが、魔界都市の特殊な技術で作られており、非常に強固。その強固さたるや、銃弾や戦車砲の直撃で千切れないばかりか、
摂氏数十万度のレーザーですら焼き切る事が敵わない程。これだけの強度を持ちながら、風にしなったり、たわんだりする程の柔軟性を持つ。
サーチャーはこれをもって、主に以下のような技を操る事が出来る。

切断:妖糸を操り、相手を切断する。妖糸のスキルランク以下の防御スキルや宝具を無効化する
糸砦:妖糸を張り巡らせ、不可視のトラップの結界を構成させる。無造作にそのトラップに突っ込もうものなら、体中をバラバラにされる。
糸鎧:妖糸を身体に纏わせ、不可視の防御壁を構成する。妖糸のスキルランクより低い筋力や宝具の攻撃を無効化する。他人にも可能。
糸の監視:妖糸を広範囲に張り巡らせ、其処を通った存在を察知する。妖糸スキルランクと同等の気配察知に等しい効果を発揮する。
人形遣い:妖糸を相手の体内に潜り込ませ、相手の意思はそのままに、サーチャーの自由に身体を動かせる技。サーヴァントレベルなら抵抗可能。また、死人も動かせる。
糸縛り:糸を相手の身体に巻き付かせ、捕縛する。無理に抵抗すると身体が斬れる。
糸探り:不可視の糸を伸ばし、糸の手応えで空間の歪み、空気成分、間取り、家具調度の位置から、男女の性別、姿形、感情まで把握する。

妖糸は指先に乗る程度の大きさの糸球で、2万km、つまり地球を一周しておつりがくる程の長さを賄う事が出来、
サーチャーはこの大きさの糸球をコートのポケットや裏地のみならず、体内にすら隠し持っている。事実上、サーチャーから妖糸を取り上げる事は、ほぼ不可能。

黒いロングコート:
一見すれば普通の代物であるが、実は友人である魔界医師が作り上げた特注の品。
Aランク相当の高い対魔力性と対毒性、対光性を誇る特注品。但しこの対魔力はサーチャー自身にではなく、このコートそのものの値の為、サーチャーに魔術が直撃すれば当然彼はダメージを負う。

【人物背景】

“魔界都市<新宿>”は西新宿でせんべい屋を営んでいた男。副業で人探し屋(マン・サーチャー)を営んでおり、此方の方が有名。
数々の難事件や<新宿>の危難を解決して来た、魔界都市の英雄。そして、絶対に敵に回しては行けなかった三人の美魔人の一人。
 
【サーヴァントとしての願い】

特にはない


623 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:41:24 2ql0V7GM0
     





   我が白髪の三千丈 


   心の丈は一万尺 


   因果宿業の六道も 


   百の輪廻もまたにかけ 


   愛(かな)し愛(かな)しと花踏みしだき 


   おつる覚悟の畜生道
     





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624 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:41:57 2ql0V7GM0
EX:魔界都市<新宿> “月光花”

 <新宿>にやって来てからは院内に置いてあった小説を読み漁る日々が続いた。
良作もあれば、駄作を掴まされる事もあった。そんな中で、今彼女が口ずさんだ詩は、特にお気に入りのものだった。自分を皮肉っているようで好きだった。
お気に入りの詩歌は最早、見なくても口に出来る程のお気に入りになっている。目を瞑れば、情景すら浮かんでくるようだった。

 ……遂に、始まるのだ。
何人犠牲になってしまうのだろう。誰が、聖杯を手に入れられるのだろう。我々は、何処へ向っているのだろう。
そんな事が取り留めもなく、彼女の脳内に溢れて来る。今でも彼女は思っている。自分のやっている事が正しいなどとは露とも考えていない。
しかも彼女は、この聖杯戦争を主催した立場、しかも統治者であるにも拘らず。皆が顕現させるのに必死になった聖杯を、横取りしようとしている。
何と言う、呆れた考え。厳格な姉が見たら、殴ってでも性格を正されてしまうに違いない。

 しかしそれでも、彼女は聖杯を求めるのだ。
たった一人の男を蘇らせる為に。人の死にたいと言うネガティヴ・マインドの集積体が怪物となった存在から『絶対の死』を守り通す人柱となった青年を救う為に。
人一人の為に、何百人の命を犠牲にする。迷信と妄信が蔓延った中世ヨーロッパの悪魔信仰と同じレベルで、つり合いが取れていないだろう。
解っていても、彼女は求めるのだ。自分が、蛇に騙されたイヴだと解っていても、その奇跡に向けて突き進むしかないのだ。

 恋と愛は、人を狂わせる。
ある時まで彼女はその事を知識としては知っていたが、それが如何なる意味なのかと言う事までは理解していなかった。
だが今なら解る。自分は彼に恋をしていた。愛していた。自分は狂っているのだろう。しかし今は、狂わねばやっていられない。
正気を保っていれば、自分が壊れてしまいそうで怖かったから。だから彼女は、完全に狂う事とした。

 ――仏教の説話に曰く。
阿修羅王と呼ばれる悪鬼羅刹の王がおり、よりルーツを辿れば彼は正義を司る高次の存在であったと言う。
彼はその宿業によりて、帝釈天のいる兜率天浄土へと攻め込み、何億年の長きに渡り戦い続けるらしい。
では、その宿業の原因とは何か? 永劫の時を戦い続けるに至った動機とは、何か?
阿修羅王は、帝釈天に大事な娘を奪われたのだ。蝶よ花よと愛で、愛していた娘を。
そんな、人間界にでも良くある様な話が原因で、正義を司る神は、悪鬼を率いる王に近しい存在とまで認識され、怒りに狂ってしまったのだ。

 自分は阿修羅王だ。
たった一人の青年への愛の為に許されざる戦いと行為を行おうとする悪鬼羅刹だ。
どんな非難や誹りも、甘んじて受け入れる。だが、我が意を曲げたりなど彼女は絶対にしないと心に誓っていた。

「……もうすぐでございます、湊様」

 天井の照明を見上げ、力を司さどる者と呼ばれ、嘗て鼻の長い老人に仕えていた麗女、『エリザベス』が。
全人類の悪意から、人類とニュクスの身を守る盾となっているであろうあの青年の名を口にした。
数秒程照明を見つめた後、エリザベスはその部屋から退室した。向かう先は、この『病院』にいる、自分が引き当てたルーラーの下である。


625 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:42:53 2ql0V7GM0






   諸の声聞に告ぐ――


   我は未来世に於いて三界の滅びるを見たり


   輪転の鼓、十方世界に其の音を演べれば、


   東の宮殿、光明をもって胎蔵に入る


   衆生は大悲にて赤き霊となり、


   諸魔は此を追うが如くに出づ


   霊の蓮花に秘密主は立ち理を示現す


   是れ即ち創世の法なり――





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626 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:44:24 2ql0V7GM0
終わりの始まり:魔界都市<新宿> “夜想曲”

 エリザベスの引き当てたルーラーは、いつも病院の地下室にいた。
日長一日、薄暗い病院の地下室のベッドで眠りこけており、その瞬間が来るのを待っている。

 ――今がその時である。
相手も気付いている事だろう。自分が来て、聖杯戦争が始まると告げるまでもない事なのかも知れない。
解ってはいるが、やはり今日この日は特別な日になってしまう。自分の口から報告したいと言うのも、むべなるかなと言う奴であった。

 エレベーターもエスカレーターも死んでいる為、非常階段を下り、照明器具の一切が死んでいる地下を、エリザベスは歩いて行く。
光すら届かない程の真っ暗闇の中を、エリザベスは何の迷いもなく進む。フクロウの様に夜目の利く女だった。
角を曲がり、二十m程進んだ辺りで、更に曲がり、目的の部屋へと通ずる扉の前に彼女はやって来た。
ノックもなしに、ドアを開ける。淡い緑色の光が、やはり暗い室内で、幻想的に光っていた。
その光はライン(線)を形成しており、よくよく目を凝らして見ると、それが人型を成している事が解る。

「来ましたわ」

 エリザベスが告げる。

「……そうか」

 ベッドに腰を下ろしている人型が、そう告げて来た。年の若い青年の声だった。エリザベスが懸想する、有里湊と同年代位の男の声である。

「ルーラー。貴方に告げるまでもない事でしょうが、始まりますわ」

「『二十八組』だ」

 青年が口にする。その言葉の意味を、エリザベスは理解している。

「<新宿>は滅びる。俺達が滅ぼす。その末に、聖杯が現れる。……解ってるな、マスター」

「存じております」

 答えるエリザベスに、迷いはない。それはルーラーも解っていた事らしい。
彼は本当は、もっとエリザベスに問い質したい、聞きたい覚悟もあったに違いない。だがしかし、存じておりますと答えたエリザベスの、何たる意思の強さよ。
これを聞いて彼は、これ以上問う事は野暮だと判断したのだ。

「お前も大層な悪党だな」

「恥ずかしながら」

 エリザベスは否定しない。

「聖杯戦争の主催者にして管理者が、聖杯が現れた後でそれ分捕るなんて、普通は考えないだろうよ」

「私にはそれを行うだけの願いがあります。大切な人がおります。……ルーラー。貴方には、その様な方はいらっしゃらなかったのですか?」

「いた気もするが、俺の手で葬った」

 紅色の瞳が、エリザベスを射抜く。力を管理する者として、圧倒的な能力を秘めた彼女ですらも怯ませる、魔の眼光であった。

「俺は、この病院の、今此処に座るこのベッドで生まれた。俺にある感情と言えば、三度此処で生まれて、奇縁だなと思う位だ」

「冷めた人ですね」

「お前に言われたくないさ」


627 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:45:08 2ql0V7GM0
 皮肉を一つ利かせると同時に、青年がベッドから立ち上がる。
それと同時に、青年の身体に走っている緑色のラインが放つ光が急激に光を増し、その姿を露にさせる。
背格好は、エリザベスの知る湊と大して変わらない。黒髪もだ。奇妙な服装をしていた。
上半身は裸で、下半身はハーフパンツ、スニーカーを着用したラフ過ぎる恰好。その上半身の筋肉を見るがよい。如何なる死闘を幾つ経験すれば、此処まで身体が引き絞られるのか?

 その青年は、自分の本当の名前――人間であった頃の名前を既に忘れていた。
尤も、彼が人であった頃の名前など、歴史の荒波どころか、さざ波に浚われてしまえば跡形も残らない程脆いものであった為に、然程意味はない。
今の彼には、人であった頃の名よりも有名な名があった。有里湊を蘇らせる過程で、様々な世界を旅していたエリザベスも、その勇名は度々耳にしていた。

 ――その男、曰く。大いなる意思に呪われ、永遠を生きる事となった悪魔。
その男、曰く。創世を成す無辺無尽光を破壊した拳を持つ悪魔。
その男、曰く。十二枚の翼をもつ魔界の帝王の最強の懐刀、混沌の悪魔が永劫の時を待ち続け、漸く現れた究極の存在。
その男、曰く――『混沌王』。

 人間であった頃の名前である、『間薙シン』と言う名前は、最早機能していないに等しい。
この青年は『人修羅』と呼ばれる名前と、それに付随する伝説の方が最早、有名であるのだから。

 人修羅に纏わりつく緑色の光とは、彼の体中に刻まれた、黒い入れ墨を縁取る鮮やかな緑の発光現象で生み出された物であった。
これと、うなじに生える硬質化した脳幹こそが、彼を悪魔足らしめるシンボルだった。
その神秘的な、それでいて、エリザベスが操る全てのペルソナを足してもなお足りない程の、威圧的な姿に、彼女は何度気圧されそうになった事か。
其処にいるだけで、威圧感を放ち続ける、恐るべし、人修羅の魔力よ。

「これからやる事があるだろう。小説何て読んでられないぞマスター」

「聖杯の為ならば何でもする所存で御座います」

「良い返事だ。此処は懐かしい場所だが、やはり少々空気が湿っている。久々に上に向かうぞ」

 人修羅はそう言って部屋から退室し、我が家でも歩くが如く地下室を歩いて行く。それに追随するように、エリザベスも歩み始める。

 <新宿>にはメフィスト病院を筆頭に、病院が幾つもある。
その中で、現在病院としての機能を失っているのが、現在エリザベスたちの居るこの病院であった。
十年前、公安にもマークされる程の危険思想を抱く新興宗教の信者達が運営。
数々の非人道的な実験を行ったり、医者の立場を利用した死亡診断書を捏造し、敵対宗教の信者を何人も殺すと言う大事件があった。
現在関係者全員が総逮捕され、現在は時の流れに任せるまま。嘗ての姿を残し続ける建物が、<新宿>の北に存在している。
名を、『<新宿>衛生病院』と言う。それは嘗て、人修羅が人を捨て悪魔となった病院と、奇しくも同じ名前であった。


628 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:47:15 2ql0V7GM0





 ……参加者全員の契約者の鍵が、光っている。神秘的な群青色に。
ある者は人目につかない場所で鍵を取り出した。ある者は周りに誰もいなかったので鍵を取り出した。ある者は――寝過ごした。
契約者の鍵から投影されるホログラム。文字が、携帯電話でメールを見るようにしてパッと確認出来る。その大意は凡そ、こう言う事になる。



 ――ルーラー及び、<新宿>の管理運営者からの通達・報告。
ただ今の日付時刻、『7月15日金曜日深夜0:00時』を以て、<新宿>聖杯戦争の本選を開始いたします。皆様が聖杯の奇跡にまで到達出来る事を心より祈っております。
またこれに付随し、討伐クエストを発布いたします。クエスト達成者には、令呪一画を成果報酬として与えられます。

現在の討伐クエストは、以下の二つになります。

①:遠坂凛及びバーサーカーの討伐

討伐事由:<新宿>の無辜のNPC百八十名の殺害

開示情報:遠坂凛とバーサーカーの顔写真を転載いたしました

備考:主従共に生死は問いません


②:セリュー・ユビキタス及びバーサーカーの討伐

討伐事由:<新宿>のNPC百二十一名の殺害

開示情報:セリュー・ユビキタスとバーサーカーの顔写真を転載いたしました

備考:遠坂凛の項に同じ





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629 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:50:11 2ql0V7GM0





   ――――アカシア記録に新しい情報が登録されました




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630 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:50:26 2ql0V7GM0
【クラス】

ルーラー

【真名】

人修羅@真・女神転生Ⅲノクターンマニアクス

【ステータス】

筋力A+ 耐久A 敏捷A+ 魔力A 幸運C 宝具EX

(マサカドゥス装着時)
筋力A++ 耐久A+ 敏捷A++ 魔力A+ 幸運C+

【属性】

『混沌』

【クラススキル】

対魔力:D(A+++)
一工程(シングルアクション)による魔術行使を無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。
後述する宝具を発動した際には、カッコ内の値に修正される。

真名看破:C
ルーラーとして召喚されると、直接遭遇した全てのサーヴァントの真名及びステータス情報が自動的に明かされる。
ただし、隠蔽能力を持つサーヴァントに対しては、幸運値の判定が必要になる。

神明裁決:A+
ルーラーとしての最高特権。聖杯戦争に参加した全サーヴァントに二回令呪を行使することができる。他のサーヴァント用の令呪を転用することは不可。
帝都の守護者としての側面も有しており、かつ開催場所が東京の為そのランクが跳ね上がっている。ルーラーの使う令呪は、一画につき二画分の効力を発揮する。

【保有スキル】

半人半魔:-
彼は、彼を人として繋ぎ止めていたその心を、明けの明星に売り渡した。ルーラーは、明けの明星が待ち望んだ、究極かつ完全なる混沌の悪魔になった。

混沌王:EX
ルーラーは、明けの明星と、彼に従う混沌の悪魔が永劫待ち望んだ、終わりなき戦いを告げる者である。
極めて高ランクの心眼(真)、直感、勇猛、魔力放出、無窮の武錬を兼ね備えた複合スキルであり、Aランク以下の精神干渉を全て無効化する。
このランクは絶対性ではなく、明けの明星が認めた混沌王と言う種族の悪魔はルーラー以外にいないと言う唯一性を表す。

戦闘続行:EX
オーバーキルの大ダメージを受けても、因果を逆転させ即死させるような攻撃でも。一回だけ『食いしばる』事で寸前で耐える事が出来る。
このスキルは連発出来るわけではなく、一度発動したら次に発動するまで、発動した瞬間から起算して二十四時間を経過しない限り再度の発動は不可能となっている。

貫通:A
明けの明星から授かった究極の矛。物理攻撃に対する耐性、無効・吸収効果を無視し、本来与えられる筈だったダメージを等倍で与える事が出来る。
遍くスキル、宝具による防御効果を一切無視してダメージを与える事が出来るが、『攻撃を反射する性質』だけは貫けない。

魔術:D
キャスタークラスであれば、マガタマから引き出した様々なスキルを扱う事が出来たのだが、現在は大幅にランク低下している。
ルーラークラスの場合は、万能属性の魔術を除いた多少の攻撃魔術と、自らの攻撃を補佐する魔術程度しか扱えない。

帝都の守護者:-(A)
帝都、即ち東京を守護する側面を持った存在。ルーラーは本来そう言った悪魔ではないのだが、『公』と呼ばれる存在からその任を託されている。
普段は発揮されていないスキルだが、後述の宝具を使用した際にカッコ内の値に修正。
東京の平和を著しく傷つけたサーヴァントと対峙した場合、彼らの全ステータスをワンランク下げ、ファンブル率を大幅に上昇させる。


631 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:50:47 2ql0V7GM0
【宝具】

『混沌よ、帝都を守護れ(マサカドゥス)』
ランク:A+++ 種別:禍玉 レンジ:- 最大補足:自身
東京受胎によりボルテクス界とかした東京で、公こと『マサカド神』から授かった究極のマガタマ。貫通とは対になる、究極の盾。
普段は原初のマガタマであるマロガレをルーラーは装着しているが、これを装備する事で全てのステータスに『+』が一つ追加され、
対魔力の値をカッコ内の値に修正。同ランク以下の神秘の攻撃では傷一つ負わなくなり、銃弾を除く物理的な干渉の全てを一切無効化する。
また装備する事で帝都の守護者スキルを獲得する。此度の聖杯戦争の開催場所が、<新宿>と言う東京であるからこそ使用を可能とした宝具。
但し装備時は莫大な魔力消費が掛かるだけでなく、この宝具の肝である究極の盾も、相手の補正次第では、呆気なく貫かれる。万能属性宝具は、その最たる例である。

『地母の晩餐(ティタノマキア)』
ランク:A+(A++) 種別:対城宝具 レンジ:100〜 最大補足:1000〜
彼を中心としたレンジ内の大地に亀裂を生じさせ、その亀裂から莫大なエネルギーを噴出させて相手を攻撃する宝具(スキル)。
大地母神である神霊・ガイアの力の結晶体であるマガタマ、ガイアから引き出した攻撃スキルの一つ。
通常状態では、マスターの魔力を莫大に消費させるが威力の高い宝具、と言う扱いだが、真価は令呪1区画を消費してこの宝具を使用した時にある。
令呪を消費してこの宝具を発動した場合、威力がカッコ内相当のものに跳ね上がり、かつ攻撃属性が物理から、あらゆる方法でも無効化する事が出来ず、
耐久パラメーターでしかその威力を低減させるしかない『万能属性へと変貌』。途端に、一撃必殺の威力を誇る宝具へと昇華する。
但し、攻撃範囲が極大過ぎる為に、ルーラーは<新宿>を破壊しかねないとして、余り使う事はない。

『至高の魔弾(デア・フライシュッツ)』
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:100〜 最大補足:1
相手目掛けて、万能物理属性を秘めた、強大なエネルギーの集積体を超高速で射出させる宝具。
シヴァ神の力の結晶体であるマガタマ、カイラースから引き出した攻撃スキルの一つ。シヴァの第三の目その物。
万能属性かつ、物理属性、そしてスキル・貫通の影響で、その場に存在でもしない限り如何なる宝具やスキルをも貫いて相手に超特大の大ダメージを与える事が出来る。
新たなる世界秩序を内包した理とそれに満たされた一つの宇宙を産む力を粉砕した、“世界の未来を閉ざした魔眼”である。発動にはやや時間がかかるが、それも数秒の事である。

『集え、そして行こう。我らが真の敵の所へ(カオス)』
ランク:EX(使用不可能) 種別:魔の軍勢 レンジ:∞ 最大補足:∞
ルーラーが葬り、そして従えて来た混沌の悪魔を際限なく召喚し、相手を蹂躙する宝具。
悪魔とは言うが彼らが言う所の悪魔とは、唯一神とその庇護をうけた天使や唯一神から別れた神霊以外の事を指し、従える悪魔の中には一神話体系の主神などと言った、
破格の神霊も存在する。現在はルーラーと言う、『人修羅本人の指導力と人修羅と言う個の強さを押し出した』クラスでの召喚の為、使用は不可能となっている。

【weapon】

拳、そして、魔力を練り固めて作った剣

【人物背景】

うまれ、そだち、ほろび、……そしてまたうまれる。それがこのセカイのあるべきすがただったのに。ひとりのアクマがそれをゆるさなかった。

創りかえられるはずだった世界と引き換えに生まれてきたのは、混沌を支配し、死の上に死を築いてきた闇の力だ。
 
【サーヴァントとしての願い】

??????


632 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:51:26 2ql0V7GM0
       





「……まもなく、最上階でございます」

 <新宿>の夜景を、衛生病院の屋上から人修羅と一緒に見下ろしながら。
エリザベスは、物悲しそうにそう呟いたのだった。絶対の死へと挑む有里湊を見送った、最後の言葉であった。


633 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:52:15 2ql0V7GM0
       




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634 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:52:27 2ql0V7GM0
       




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635 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:52:37 2ql0V7GM0
       




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636 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:53:36 2ql0V7GM0
0:“魔界”

 聖杯戦争の開催場所である<新宿>にあるメフィスト病院で働く医療スタッフは全て、人間ではない。
この病院に勤務するスタッフは全て、メフィストの手によりて創り上げられた人造生命体(ホムンクルス)或いは、宝具によって再現された生前のスタッフ達だ。
彼らは皆、メフィストによる強化手術を受けており、対物ライフルや軍用の突撃銃や小銃を喰らってもまだ活動が出来るだけでなく、
戦車すらも解体してしまう程の強さを誇る。また病院全体には、区外及び<新宿>の常識を超えた凄まじい霊的かつ魔術的、そして科学的な防護システムが施されており、
これにより患者や医療スタッフの身の安全は完全に確保されていると言っても良い。
小型の核爆弾で攻撃されても、病院は愚か患者・スタッフ一人に傷すら負わせる事は叶わなかったと言う逸話からも、その堅固さの程が窺い知れよう。
そして、この病院を攻撃した不遜の輩は全て、防衛システムで跡形もなく消され、縦しんば逃げ果せたとしても、病院の防衛システムの構築者であり、
魔界都市で最も恐れられた三人の内の一人に数えられる院長が、地の果てまで追跡。その存在を抹消するのである。

 ――とは言え、結論を述べれば、病院にさえ危害を加えなければ、この病院は無害そのものと言っても良い。
患者であればどんな立場の人物であれ迎え入れる懐の大きさと、保険外診療であろうとも他区の1/10の値段で済むと言う、出血大サービスと言う言葉すらも生ぬるい診療費。
何もしなければこの病院はまさに、患者にとっての楽園であり、最後に縋るべきアジールなのである。

 だが、どんなに善良な患者でも。どんなに院長との信頼を勝ち得た人物であろうとも。
決して足を踏み入れられない領域と言うものが、この病院にはいくつも存在する。その最たる例が、メフィスト病院の院長室であろう。
キャリア数十年の婦長も、メフィストが全幅の信頼を寄せる医療部長であろうとも、院長室に足を踏み入れる事は出来ない。
院長室にいるメフィストを呼ぶには全て、モニタ通信でなければならない程である。

 白く美しい闇が、患者が寝静まり、数十名の夜勤スタッフが活動をしている深夜のメフィスト病院を歩んでいた。
固いリノリウムの床を、絹を踏むような軽やかさで歩くその男こそ、魔界医師ドクターメフィスト。
無窮の暗黒の中ですら、白く光り輝く美貌を持つ、美しい医師。白き魔人である。
道中スタッフとすれ違う事もなく、彼はメフィスト病院最上階に存在する院長室の前までやって来た。
彼の存在感と言うべきか、身体から醸す魔力を感知した自動ドアが、音もなく開いて行く。彼はその中に入った。

 メフィスト病院の潤沢な資産は、何処から来るのか。
一説によればメフィストは過去に、分子・原子構成変換機の開発に成功しており、無尽蔵に黄金や宝石を生み出す事に成功したと言う。 
こう言った噂を信じ、トレジャーハンターと言う名の賊が、院長室などに忍び込む事が多々あった。
院長室に侵入出来るだけでも、魔界都市でも指折りの怪盗だと自負して良いだろう。だが、院長室に入った賊は、皆生きて帰る事が出来なかった。
それは何故か。メフィスト病院の院長室は、メフィストの意思次第で空間自体の大きさを無限大に拡張出来るからだ。
ドアからメフィストが作業している黒檀の机までの距離が、見かけ上は三十m程に見えても、メフィストが許可しない限り、その実質上の距離を、
数千億光年にまで引き延ばす事だって不可能ではない。これを知らず院長室に入った賊が、餓死した状態で発見されると言う事態まであったほどだ。

 メフィストが一切の許可なく、メフィスト病院の院長室への入室を許可した人物は、二名ほど。
一人が、新宿警察署に所属している幸運の刑事、『朽葉』。そしてもう一人こそが、メフィストが懸想する、美しい黒魔人。『秋せつら』。
そしてつい最近入室を認めた存在こそが、メフィストを召喚したマスターである。


637 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:54:37 2ql0V7GM0
「やぁ、メフィスト」

 院長室は凡その想像がつくかもしれないが、この世界の時空にはない、完全な異空間である。
メフィストが作業している黒檀の机まで、幅五m程の細長い道が続いており、その道の縁には柵がなく、その下には宇宙の如き暗黒空間が広がっていた。
此処に落ちてもメフィストが許可すればすぐに助かる事が出来るのだが、そうでない者は、深さ∞kmを死ぬまで落下し続ける事となる。
メフィストの視界の先に存在する、黒檀の机に付近で、男が虚空に座っていた。
いや、正確に言えばそれは虚空ではない。マスターは蒼白い、エクトプラズム製の椅子に座っていた。
霊魂が発生させるたんぱく質に酷似した物質であるエクトプラズムの椅子は、使用者に最も快適な角度へ万分の一単位の精度で自動的に調整されるのだ。
極めて原始的かつシンプルな技術で作られて居ながら、その座り心地の極上さは言葉に出来ない程であり、一生をこうして座って過ごしいたいと人に思わせる程である。

「契約者の鍵に、聖杯戦争の開始を告げる通達がホログラムで投影された。いよいよ始まるな」

「私は、私を求める存在だけを癒す者だが」

「無論君の意思は尊重するよ。君が聖杯に興味がないように、私も聖杯には興味がないからね」

 音もなくメフィストは黒檀の机の所にまで歩いて行き、マスターと相対した。
嘗て、重度のドラッグ中毒により、精神が破綻し、己の名前すらも思い出せなかったジャンキーが、正気を取り戻した程の美貌を真正面から見据えても。
マスターは、何処吹く風と言わんばかりに、微笑みだけであった。メフィストも虚空に座った。主のこの動作を待っていたように、メフィストの周りに蒼白いエクトプラズムが凝集して行く。

「……マスター」

「うん?」

 足を組み直してから、マスターは聞いて来た。

「此処に来てから私はずっと、この<新宿>の成り損ないのような街について考えて来た」

「ほう」

 意外そうにマスターが嘆息した。無理もない、マスターから見たメフィストと言う男は、世界の全ての真理を解き明し、
その疲労感で消耗してしまった哲学者のような様子であったからだ。そんな彼にも、思い悩む事柄があったとは、と言う事実に驚いていた。

「私のいた本当の<新宿>では、様々な知識人や魔術師、果ては吸血鬼ですらが、“魔界都市<新宿>”が何故生まれて来たのか考えて来た。
高田馬場に住んでいた、チェコはプラハ随一の女魔術師も考えていただろう。その妹の醜い女魔女もだ。戸山町の吸血鬼の長も考えたに違いない。
数千年の時を生きる大吸血鬼や、それに付き従う中国夏王朝の時代から生きる大妖術師も、中世の時代に串刺し公と恐れられた魔王も考えたか?
名だたる者達が、我々の住まう都市が何なのか考えて来た。かく言う私もその端くれだが、私とて、遂に真理を掴む事は叶わなかった」

 恥も外聞もなく、メフィストは正直に吐露した。それだけ、魔界都市の真実は、近いようで見えて遠く、簡単なように見えて難解だったのだ。

「陰謀論、終末思想、神の裁き。色々な説があった。だが一つ、興味深い真実があったのだ」

「何かな」

 口の端に微笑みを刻みつけて、マスターが訊ねて来る。

「<新宿>は、新たなる人類を選出する為のステージだったのだと」

「成程、面白い考えだ」

 メフィストのこの一言だけで、マスターは全て得心したらしい。その様子に、解ったフリなどと言う嘘はなかった。


638 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:55:47 2ql0V7GM0
「此処とはまた別の、上位次元の存在。それを敢えて『神』とでも言おうか。きっと神は、現生人類を新たなる段階へと引き上げる実験場に、
<新宿>を選んだのだ。そう、太古の昔、原人が猿人に駆逐されたように。ホモ・サピエンスが猿人にとってかわるように繁栄したように。新しい霊長の覇者を、<新宿>と言う蠱毒で決めようとしたのだ」

 マスターは笑顔を浮かべて、メフィストの自論を耳にするだけ。
メフィストは、若き衒学者が自論をひけらかすように淀みなく話している。彼が大学教授として講義を務めれば、忽ち教室は、立ち見の生徒すら現れるだろう程、魅力的で解りやすかった。

「その考えで行くのならば、この<新宿>は、魔界都市の成り損ないでは断じてない事になる」

 空気の成分が、静止した。と、錯覚するほどの沈黙が、院長室中を支配した。光の動きすら止まりそうな程、緊密な空気。
空気をノックすれば、音が出るのではないかと言う程、固く引き締まっていた。

「この<新宿>は、今日この日までずっと、平穏な状態で雌伏の時を過ごしていたのだ。だからこの街には妖物もいないし、時空間の乱れもない、平和な街だった。
魔界都市たる要素など必要がなかったのだ。<魔震(デビル・クェイク)>から数十年の時を経れば、時空を超えてこの街に、異世界の強者が現れる事を知っていた。
この世界の<新宿>と<魔震>は、『妖物や超常現象、バイオハザードや時空法則の乱れを以て長期的なスパンで人類を進化させる街ではない』。
『聖杯戦争と言う雷光の様に光り輝く一瞬の煌めきで、新たなる人類を選出しようと考えた』のだ」

「成程。期間が長いか短いか、の違いでしかなかった訳か」

「そして貴方は、その事を知っていたのではないか? マスターよ」

「馬鹿な。君にも解る筈だ。今の私は、何の力もないか弱い存在だと言う事に」

 諸手を広げてマスターが言った。笑みは崩れていない。

「初めて私を召喚した時、貴方は言った。聖杯等必要がない。私はこの世界に集まった参加者が、どのようなきっかけで、どのように動くのかが気になるだけだと。
その意味が初めて理解出来た。貴方が初めから『蛇』である事は解っていた。だが、何故その蛇が此処まで矮小化されて此処にやって来たのかの理解に時間が掛かった」

「……」

 次の言葉を、マスターは待っていた。改心の出来の模試の結果を、今か今かと待つ受験生の心境である。


639 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:56:47 2ql0V7GM0
「――魔界は今、そんなに人手が不足しているのかね? 『ルイ・サイファー』。我が目には、その背に六枚の翼を携えているように見える男よ」

 ルイ・サイファーと呼ばれた、黒スーツに、黄金色の髪を持った紳士は、フフッ、と笑みを零してから、言葉を返してきた。

「嘗て、混沌王と言う会心の出来を誇る悪魔を作る事の出来た喜びが忘れられなくてね。彼程の存在が、出来上がれば嬉しいのだが……」

 赤と青のオッドアイが、爛と輝いた気がした。
メフィストはそれを黙って受け止めるだけ。この得体の知れない男の目的には興味はない。
自分はただ、自分の医療技術を求める者だけを、ただ救うだけ。メフィストは患者が好きだった。自分の技術を、求めてくれるから。愛してくれるから。

 数百m上空の天窓が、<新宿>の夏の月を映しだしていた。五日後に満月になる、<新宿>の月が。


640 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:58:35 2ql0V7GM0





   ――――アカシア記録に新しい情報が登録されました




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641 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:59:43 2ql0V7GM0
【クラス】

キャスター

【真名】

メフィスト@魔界都市シリーズ

【ステータス】

筋力D 耐久D+ 敏捷B 魔力A++ 幸運B 宝具EX

【属性】

中立・善

【クラススキル】

陣地作成:-
独自の固有結界を有する為に、本来ならば規格外(EX)の陣地作成ランクを保有していた。
しかし、聖杯戦争の舞台の影響で、常に固有結界が現出している状態で固定化されてしまった為に、陣地作成スキルが消失している。

道具作成:A+(A+++)
極めて高度なレベルの科学的道具や、魔術道具・礼装の作成を可能としている。材料さえ揃えば、宝具の作成すらも可能とする。
固有結界内部の場合、道具作成スキルはカッコ内のそれに修正される。

【保有スキル】

医術:A++(A+++)
魔界都市最高の医者であるキャスターは、オカルト・科学を問わぬあらゆる知識を修めており、それら全てを医術の為に利用している。
キャスターの行うありとあらゆる治療行為及び製薬行為は、常に極めて有利な判定を得る。
また、キャスター程の医術の持ち主となると、相手を治す医術だけでなく破壊する医術にも造詣が深く、攻撃に転用させられる医療も行う事が出来る。
固有結界宝具の中では、ランクがカッコ内に上昇。一神話体系の治療神・医術神に肉薄する程の医療技術を発揮する。但しそんな彼でも、死者の蘇生だけは出来ない。

美貌:A+++
美しさ。キャスターの美貌は神秘に根差したそれでなく、持って生まれた天然の美貌である。それ故に精神力を保証するスキルでしか防御出来ない。
性別問わず、Aランク以下の精神耐性の持ち主は、顔を直視するだけで茫然としたり、怯んでしまったりする。常時発動している天然の精神攻撃とほぼ同義。
ランク以上の精神耐性の持ち主でも、確率如何では、その限りではない。またあまりにも美しい為に、如何なる変身能力や摸倣能力を以ってしても、
その美しさが再現出来ない為、キャスターに変身したり摸倣する事は不可能。人間に近い精神構造を持つ存在になら等しく作用する。

魔界医師の頭脳:A+++
魔界都市にあって最強の存在と言われた三人の内の一人、キャスターが有する圧倒的な頭脳能力。
ランク相当の高速思考、分割思考、心眼(真)を兼ね備えた複合スキルであり、弁論や策略、戦術などで圧倒的な効果を発揮する。
これら三つのスキルを同時に発動する事で、高い精度の未来予測すらも可能とする。

精神耐性:A++
精神攻撃に対する耐性。およそ精神に作用する術の殆どが通用しない。特に、女性の美貌による誘惑や幻惑はランク問わず全て無効化する。

【宝具】

『白亜の大医宮(メフィスト病院)』
ランク:-(EX) 種別:固有結界 レンジ:100 最大補足:2000
生前キャスターが管理・運営していた、新宿は歌舞伎町を所在地とするメフィスト病院を固有結界として展開する宝具。
発動する事で、旧新宿区役所周辺の風景と、其処を拠点とする、地上10階地下10階、収容人数2000人を誇る白亜の大病院の風景が展開。
固有結界内部ではキャスターの道具作成スキル、医術スキルがカッコ内の値に修正される。
またメフィスト病院の中には、Dランク相当の『単独行動』を持った、改造手術やサイボーグ化手術によって高い戦闘能力を有するに至った医療スタッフの数々が、
病院内でキャスターの医療をサポート、或いは賊を迎撃する為にパトロールをしている、だけでなく。
病院自体が超科学技術による最先端の防衛・迎撃システムに、院長であるメフィスト自体が魔術に対して極めて造詣が深い男である故に、
様々な霊的・魔術的・空間的防衛手段を病院に施している為、その堅固さは下手な要塞を上回る。対城宝具を直撃させても、滅多な事では破壊されないレベル。

 本来この宝具は、莫大な魔力を消費する事でメフィスト病院を展開する宝具である。
しかし、<新宿>で展開されることで、異物の<新宿>と現実の<新宿>が融合。その結果、魔力消費なしで常時発動、流出している状態の宝具へと変貌を遂げてしまった。
神秘が常に現実世界に表面化、固定化され、世界に受け入れられた結果、固有結界を展開した時に起る、抑止力による世界からの修正が発生しなくなった。
神秘としての測定が不可能になっているのではなく、世界に受け入れられ、完全に神秘が表面化、固定化されてしまっている為に、神秘としてのランク測定が無意味になっている宝具。


642 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 21:59:57 2ql0V7GM0
【weapon】

針金:
文字通り銀色の針金を、キャスターは常に何百m単位で持ち歩いている。
瞬間的な速度でキャスターは針金細工を生み出す事が出来、これによって針金細工のトラやサイ、幻想種を生み出す事が出来る。当然針金細工の為に中身は空洞。
また針金を目にも留まらぬ速度で伸ばしたり縮める事で、相手を切断する事も可能である。
本来の実力なら針金細工の維持には何のデメリットもなかったのだが、サーヴァントである為に、維持には魔力消費が掛かる。

メス:
文字通りの医療道具であるのだが、キャスターの使うそれは、如何なる技術で作られているのか。
核弾頭でも破れぬ被膜を切り裂く力と、物質を素粒子レベルにまで分解する攻撃に直撃しても破壊されなかった程の耐久力を持つ。
空間や次元を切り裂く事も可能で、空間を切り裂いて、数百m単位で移動する事が可能。
直接このメスで敵を切り裂くと、耐久や宝具のランクを無視して相手にダメージを与える事が出来る。
宝具として機能してもおかしくない程の性能を誇るが、耐久力に関しては劣化が施されており、Bランク相当の宝具攻撃、
或いはAランク相当の筋力を有するサーヴァントの攻撃に直撃すると破壊されてしまう。また破壊されたメスを生み出すのにも、魔力が必要となる。

ケープ:
ルーラーが身に纏う純白のケープ。彼に身の危険が迫った時、意思を持ったように動き始め、攻撃を防御する。飛来する銃弾を包み、無効化した事もあった。
Aランク相当の対魔力を獲得出来るケープだが、あくまでもケープ部分のみだけで、生身のメフィストの身体には対魔力はない。

【人物背景】
 
魔界医師。何年生きているのか、何処の生まれなのか。彼の口からそれが語られた事はない。

【サーヴァントとしての願い】

?????????


643 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 22:00:56 2ql0V7GM0







   じゃ、これが地獄なのか……。こうだとは思わなかった


   硫黄の匂い、火あぶり台、焼き網など要るものか


   地獄とは他人のことだ


                           ――ジャン・ポール・サルトル、出口なし






.


644 : 全ての人の魂の夜想曲 ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 22:01:47 2ql0V7GM0





                                Let`s SURVIVE...


645 : ◆zzpohGTsas :2015/08/30(日) 22:02:32 2ql0V7GM0
投下を終了いたします。細かい設定については、後日お伝えいたします


646 : 名無しさん :2015/08/30(日) 23:49:31 YZm.JKgsO
大作OPお疲れさまです
オープニングからここまでの長編、わくわくしながら読ませていただきました
マスターのみならず、各ペアのサーヴァントまでしっかり描写されていること、驚きを隠せません
新宿の街を覆う戦前の重苦しい雰囲気が、伝わってくるようです
……凛ちゃんは残念でしたね
サプライズ枠も中々に刺激的……というか、ここもメガテン聖杯でしたか……
しかし確かに、新宿も東京なのでメガテンの舞台ではありますね

もう一度になりますが、大作投下お疲れさまでした


647 : ◆3SNKkWKBjc :2015/08/31(月) 08:06:59 lhZycz7.0
OP投下お疲れ様です。
あまりの超大作に、もう最終回かな?(すっとぼけ)と錯覚してしまいました。
全ペアを丁寧に描写されていて、そりゃこんなに長くなってしまいますね……
穏やかな場面もあれば混沌とした場面もあり、新宿の表裏が分かる感じです。
凛ちゃんはどうしてこうなってしまったんだ。(白目)
ついでですが、候補作の誤字等を修正したことを報告します。


648 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/08/31(月) 19:14:15 7iLN2c460
OP投下お疲れ様です。
長い(確信)
聖杯戦争が動き出すと<魔震>から立ち直りそうなIFの新宿が
魔界都市の<新宿>へ変貌しようとしていることを匂わせてますね。

そして、拙作の採用ありがとうございます。
通過が確定してからで申し訳ないですが、鈴仙のステータスを一部変更させていただきましたので報告しておきます
具体的には正体秘匿をBランクに落として、魔眼に対魔力で抵抗できることを明記しておきました


649 : ◆zzpohGTsas :2015/09/02(水) 21:45:52 XL4.qDhY0
細かいルールや予約日程の方は本当に暫しお待ちを……。その代わりと言っては何ですが、自作の候補作の出典作の把握難度と、把握のベターなやり方を列挙したいと思います。
参考程度にどうぞ

魔界都市シリーズ:秋せつら、メフィスト、浪蘭幻十が対応
まず初めに言いますと難易度は高いです。魔界都市リーズは現在に至るまで膨大な数の作品が世に出ていますので、
単純にせつらとメフィストがどんなことが出来るのか、そもそも魔界都市がどんな場所なのか全貌を把握するだけでも一苦労です。
ですが当企画は世界観の把握は必要ないので、せつらとメフィストの把握だけで十分です。
オススメなのは、『魔界都市ブルース ○○の章』と言う作品を読むのではなく、長編シリーズを読む事です。
これを見れば、せつらとメフィストの把握なだけでなく、魔界都市の外観も掴めます。
浪蘭幻十が出てくる魔王伝3部作を読めば理論上は、せつらとメフィストと幻十の把握は可能です。
但し長編シリーズはあくまでもせつらが主役なので、メフィストの性格や強さをより知りたいのであれば、スピンオフの『魔界医師シリーズ』を読むのがオススメです。

PERSONA3:有里湊、アイギス、エリザベスが対応
ニコニコ動画でプレイ動画を見る!! と言う方法を考えもしましたが、どれもこれもPART150越えのセンスの欠片も無い編集ばかりなので先ずおすすめ出来ません。
このゲームのプレイ時間の半分以上は、ペルソナ合体と戦闘と探索に費やされているに等しいので、イベントだけを見れれば良いのですが……。
このゲームには無印、FES、ポータプル版とありまして、一番新しいのがポータプル版で、イベントの追加の多いのもポータプル版です。
FESは無印本編に加えて、本編の後日談と言うパートが用意されておりまして、ボリューム自体はポータプルより確実に上です。
ポータプル版を買いますと、企画にも出ている伊織順平の把握がやや難しくなるかと思いますので、ご購入を検討されておられるのなら、FES版を買うのが無難です。
Amazonで値段見てみたら、FESは今廉価版も出て割と安い値段で買えるみたいですので、買うなら今かと思われます。

PERSONA4:マーガレットが対応
マーガレットは端役ですので、ネットに転がっているマーガレットのコミュ動画か、彼女とのバトル動画を見れば何とかなるかと。。

デビルメイクライシリーズ:ダンテ・バージルが対応
ゲームを買いたくない、と言う人はニコニコにプレイ動画が転がっているのですが、投稿者のプレイセンスがね……。
購入されるとダンテとバージルがどんな動きをしているのか、と言う事が解って良いのですが。ストーリーとキャラを知りたいと言うのなら、プレイ動画が一番かと。
ゲームは1〜4まで販売されておりますが、ストーリーの把握自体は、当企画に出ているゲーム関係で一番簡単です。1、3、4のストーリーさえ把握していれば概ね問題ありません。
(2の把握をする必要は)ないです。

葛葉ライドウシリーズ:葛葉ライドウが対応
これはニコニコに手ごろなプレイ動画が転がっていますので、それを見ればまぁ大体は把握は可能かと。
超力兵団とアバドン王と現在までに2作出ていますが、2つとも購入すると割と良い値段をしますので応相談。と言うか超力はゲームシステムがつまらないし……。
ちなみに漫画版は買う必要はほぼないかと思われます。無論、興味が出たら買うのが良いのですが。

Ⅰ・Ⅱ含む真・女神転生シリーズ:アレフ、パスカルが対応
SFC持っていない人も今は多そうですし、プレイ動画を見るしかないのでしょうか。
それが面倒ならば、実は台詞の書き起こしサイトがありますので、後々WikiにそのサイトのURLを乗せておきます。


650 : ◆zzpohGTsas :2015/09/02(水) 21:46:02 XL4.qDhY0

DIGITAL DEVIL SAGA アバタールチューナー:ジェナ・エンジェルが対応
ニコニコに転がっているプレイ動画で十分です。無論ゲームを買われるのが一番良いのでしょうが……輪をかけて作業ゲーのカラーが強いゲームなので、オススメは出来ません。

真女神転生Ⅲノクターンマニアクス:人修羅が対応
絶対にプレイ動画を見る事をオススメ致します。今このゲームはプレミアがついていて、下手をすれば1万円以上が飛びます。僕は9800円溶かしました(全ギレ)

東方Projectシリーズ:比那名居天子、八意永琳が対応
台詞書き起こしサイトがベストかと思われます。シューティングゲームは上手い下手がダイレクトに関わりますし、東方作品は基本Normalをクリアできないと、ストーリーの全貌が解らない事が多いですしね。

暗殺教室:雪村あかりが対応
登場時期的に、コミックス全巻を読む必要があります。

魔法先生ネギま!!:桜咲刹那が対応
登場時期的には、全巻を読む必要はありません。あくまでも、10巻ぐらいまで読めばおおよそかけるかと思われます。

真・女神転生デビルチルドレン:高城絶斗が対応
全巻読む必要があります。つい最近特装版が出たらしいですが、これ結構いい値段するんですよね……。
ちなみに原作ゲーム版かアニメで把握するのはオススメ出来ません。艦隊これくしょん(アニメ版)と艦隊これくしょん(ブラ版)程の違いがあります。

MW:結城美知夫が対応
全巻読む必要があります。が、これは割と安い上に、運が良ければ古本屋で3巻全部纏まった内容の、コンビニで売っている大増量本が手に入るかもしれませんので、把握難度は低いです。

喧嘩商売:佐藤十兵衛が対応
商売の方を全巻読む必要があります。が、ブックオフで108円で売っている可能性がありますので、掛かるお金は運が良ければ安く済みます。
続編の稼業の方は、3巻まで読めば宜しいかと。

アイドルマスターシンデレラガールズ:一之瀬志希が対応
Wikiでセリフ集見るのが一番です。

殺人鬼探偵:黒贄礼太郎が対応
第一部を読み終えれば、おおよその性格は把握できるかと。ネット小説ですのでタダです。

アカメが斬る!:セリュー・ユビキタスが対応
理論上2巻まで読めば把握は可能ですが、より詳しく知りたいのであれば8巻まで見る必要があります。

OFF:バッターが対応
全部プレイしないと解りません。フリゲなのでタダです。

VIPRPG:アレックスが対応
もしもシリーズを何作かと、適当なゲームをプレイすればおおよそは把握は可能かと。実質オリキャラみたいなものですので、ゆるくいきましょう。

艦隊これくしょん(アニメ版):睦月対応
4話まで見ればOKです。

大北劇場:北上が対応
全話です。如何されました書き手様? 把握の腕がとま……って見えるのは、私だけでしょうか?


651 : 名無しさん :2015/09/03(木) 09:37:37 U/0b693M0
いくら把握が困難だからって、スレ主が堂々と「プレイ動画見ろ」って言っちゃアカンでしょ……
あれらはメーカーに見逃されてるだけで法的には間違いなくアウトなんだよ


652 : ◆tHX1a.clL. :2015/09/03(木) 21:57:44 nfNUUzGM0
>>1氏がやってるので私も

○ソニックブーム&セイバー(橘清音)
ニンジャスレイヤー(媒体問わず):ソニックブーム
「ラスト・ガール・スタンディング」が出展です。
ツイッター・物理書籍・無印漫画・アニメ・オーディオCDで確認できます。おそらくどれでも結構です。
手早く済ませたいのなら無料公開されているツイッター版を読んだ後で同じく無料公開の無印漫画版を読めばいいのではないでしょうか。

ガッチャマンクラウズ(アニメ):橘清音
動かすだけなら1話・2話だけで十分です。性格的にもその辺りの先輩が再現された英霊になります。
宝具を確認するなら10話まで見る必要があるかもしれません(主にジョーさん)。


○ダガー・モールス&アーチャー(那珂ちゃん)
SHOW BY ROCK!!(アニメ):ダガー・モールス
1話と9話〜12話に主に登場します。
春アニメのため9話〜12話のレンタルが揃うのはおそらく11月・12月頃になります。
ニコニコ動画の公式放送分を1話を無料で、残りをちょい課金で見るのが手っ取り早いです。

艦隊これくしょん(ブラゲ・アニメ)
恋の2-4-11(動画):那珂ちゃん
基本性能はブラゲ版準拠となります。ブラゲのゲームシステムを見ていただいて、wikiにある那珂ちゃんの設定を押さえていれば大丈夫です。
なお、アニメ版では数少ない「出番に恵まれ、かつキャラが大きく崩れていないキャラ」であるため、アニメ版での把握も可能です。
アニメ版ならば1話・2話・3話まで見ればスキル遠征任務を含めて把握可能です。
宝具恋の2-4-11については実際に聞いてみるのが早いです。


○北上&アサシン(ピティ・フレデリカ)
艦隊これくしょん(ブラゲ)・候補作:北上
こちらは深い把握などなしに、wikiにまとめてあるキャラクター設定に加えて候補作を読んでいただければそのまま書けます。
もしどうしても把握したいという方が入ればアニメ版艦隊これくしょんの大井っちと北上さんのシーンを見ることをオススメします。ちなみに把握の役にはたちません。

スノーホワイト育成計画(ネット)
魔法少女育成計画Limited及びJOKERS(小説):ピティ・フレデリカ
初出がネット掲載されている特別短編「スノーホワイト育成計画」であり、能力や心情なども書き込まれているのでこちらを読むだけでも書けます。
ただし、その後刊行された「Limited」「JOKERS」にも登場しているのでこちらも読んでいただいたほうがいいかと。
ちょうど同企画内に「Limited」出展のレイン・ポゥがいるので魔法少女育成計画Limitedを読むのが一番だと思います。


以上です
聞きたいことがあればどうぞ


653 : ◆zzpohGTsas :2015/09/03(木) 22:39:40 9UbujzaQ0
効率の良い把握方法をお教えいただき有難うございます。さてここで、予約解禁回りの報告をば

【ルール】

①:舞台はエリザベスによって、何らかの手段で再現された偽りの<新宿>です。が、電脳世界と言う訳ではなく、れっきとした本物の世界です。
我々が認識している東京都内の23区の1つである新宿区ではなく、当企画では『菊地秀行氏の魔界都市シリーズ』の設定を採用。
魔震(デビル・クエイク)と呼ばれる大地震のせいで壊滅、この地震の影響で区の周囲に生じた深い亀裂により外界と地理的に断絶されてしまった<新宿>を舞台とします。
既に幾度も述べております通り、当企画における<新宿>は原作のような、妖物や蔓延り銃火器が流通する<新宿>ではなく、<魔震>から完全に復興し、
2015年現在の<新宿>と何ら変わらない程に反映した街と致します。

②:世界観的には、<亀裂>の向こう側の、<新宿>以外の特別区は設定上存在するものとしますが、聖杯戦争の参加者は亀裂の向こう側へと足を運ぶ事は『出来ません』。
東京都特別区から<新宿>へと渡るには、或いは<新宿>から特別区へと移動するには、『早稲田』『西新宿』、『四ツ谷』にある、
『ゲート』と呼ばれる場所に建てられた長いトラス橋を渡る必要がありますが、その橋の上は『移動出来る物とします』。橋を渡った向こう側の土地へは、透明な壁に阻まれ移動は出来ません。

③:<新宿>にはもしかしたら、参加者が元居た世界とゆかりのある建物や施設が存在するかもしれません。が、あくまでも時代背景と日本の国家事情に適した物であるようお願いいたします。

④:令呪の喪失或いは全消費、後述する契約者の鍵の喪失で、マスターはマスターたる資格を失いません。マスターがその権利を失うのは、『サーヴァントを失った時のみ』とします

⑤:<新宿>のNPCには、マスター・サーヴァントを含んだ作品のキャラクターがいるかもしれませんが、彼らは皆その世界で振るえた筈の力を封印されています。
またそう言ったネームドNPCだけでなく、所謂モブと言われるNPCであろうとも、殺生をし過ぎればルーラーによる討伐令或いは粛清を免れません。

⑥:契約者の鍵はその中の魔力を使用する事で『令呪としての機能の代用になる』だけでなく、『ルーラーからの伝達を受けとったり、
サーヴァントの情報を知る為のアイテム』です。但し令呪としての機能を扱えるのは、『当該契約者の鍵が最初に呼び寄せたサーヴァントだけ』であり、
その他のサーヴァントには転用不可です。なお、この令呪機能を用いた場合、当該参加者は『今後一切ルーラーからの伝達を受けとれません』。
また鍵を壊されれば伝達は受け取れなくなりますし、鍵を奪われれば相手にサーヴァントの真名のみならず、スキル構成や宝具すらも相手に知られてしまいます。


654 : ◆zzpohGTsas :2015/09/03(木) 22:39:53 9UbujzaQ0

【此処からは本編に向けてのルール】

①:念話は原則『全ての主従が行える』物とします。但し、『主従共に魔術に疎い場合は、自分から10m程離れた範囲でしか念話は出来ません』。
主従のどちらかが魔術やそう言った知識に長けている、或いはこれらを補助するスキルを持っていた場合、念話範囲が上がります。
念話可能範囲を超えての念話は、ノイズや声の掠れが発生するものとします。

②:サーヴァントが自分以外のサーヴァントを知覚出来る範囲は、原作の設定から縮小させて、『自身を中心とした直径50mの円内』とさせていただきます。
但し、サーヴァントが知覚に関わるスキルや宝具を持っている、或いはそう言った魔術に長けている場合、知覚可能範囲は上がります。

③:本選の開始日時は、『7月15日金曜日深夜0:00』からスタートです。参加者はこの情報を、契約者の鍵が投影したホログラム経由で知る事が可能です。

④:通達はその日の深夜0:00に行う物とします。但し、ルーラー及びエリザベスに特殊な事情があった場合には、その時間以外に緊急通達があるかもしれません。


【時刻の区分】

深夜(0〜5)→この時間からスタートとします
早朝(5〜8)
午前(8〜12)
午後(12〜17)
夕方(17〜19)
夜(19〜24)


【状態票のテンプレート】

【地区名/○日目 凡その時間帯】

例:【高田馬場・百人町方面(BIG BOX高田馬場内)/1日目 午前11時】
※地区名に於いて、現実の世界でも有名な建造物や施設の中であったり、現実の新宿区にはない、参加者と縁のある所にいる場合は、()内にその名前を入れて頂けると嬉しい限りです

【名前@出典】
[状態]
[令呪]残り◯画
[契約者の鍵]有か無と記入。破壊されたり喪失した場合は無を選び、奪った側は誰から奪ったのかを明記してください。
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:
1.
2.
[備考]


【予約期間】

1週間+延長3日間。最大で10日まで猶予があるものとします


【予約受付】

9月4日からスタートといたします。


655 : 名無しさん :2015/09/03(木) 22:48:53 C635aYkU0
>>651
法が何だろうが見逃してるのでセーフ
ばれなきゃ犯罪じゃないんだよ


656 : ◆GO82qGZUNE :2015/09/03(木) 23:02:21 DvWNMw6k0
お二人に続き私も把握関係のことを書かせていただきます。

○伊織順平&ライダー(大杉栄光)
○荒垣真次郎&アサシン(イリュージョンNo.17)
○ザ・ヒーロー&バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)

・ペルソナ3(ゲーム)
伊織順平と荒垣真次郎が該当。基本的には>>649で企画主様が仰っていることに準拠します。
ただし伊織順平に関してはFES版のみに存在する後日談がキャラ把握に必須と言えるレベルなので購入はFESを強く推奨します。

・相州戦神館學園八命陣(ADVアダルトゲーム)
大杉栄光が該当。把握に最も重要なのが最終ルートであるため、必然的に全ルートをしていただく必要があります。
プレイ時間の目安は30〜35時間。最終ルートの解放はそこそこ面倒臭い手順を踏まなければならないため、攻略サイトを拝見することを推奨します。
また、この作品はR18となっていますが、PSvita版でコンシューマ作品である「相州戦神館學園八命陣 天之刻」が発売されています。内容等に大きな変化はありませんので、お好みのほうをどうぞ。

・ウィザーズ・ブレイン(ライトノベル)
イリュージョンNo.17が該当。このキャラクターの初登場は5巻で、かつその巻において主役(準主役)に抜擢されているため、5巻さえ読めば最低限の把握はできるかと思います。
6巻以降は毎巻登場します。勿論全巻読破していただければそれに越したことはありません。
また、5巻には1巻と3巻のキャラクターが再登場しますが、wikiで最低限の設定さえ把握していただければ読むうえで障害にはならないと思います。

・真・女神転生(ゲーム)
ザ・ヒーローが該当。これは>>649で企画主様が仰っている以上のことはありません。

・シルヴァリオ ヴェンデッタ(ADVアダルトゲーム)
クリストファー・ヴァルゼライドが該当。こちらも最終ルートが把握に必須なので全ルートしていただく必要があります。ただしミリィルートはほとんど出番がないので最悪スキップしていただいて結構です。
なお戦神館と違ってコンシューマ版は発売されていないため、18歳以下の方はプレイできません。申し訳ありません。


657 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/03(木) 23:18:05 5GIyoTk60
御三方に続き、私も拙作のキャラの把握情報を書いておきます

〇不律&ランサー(ファウスト)
エヌアイン完全世界
アーケードの2D格闘ゲームで、実際にプレイしに行かないと把握できない…
なんてことはなく、ストーリーに関しては前作のアカツキ電光戦記と併せてそれぞれの攻略wikiで台詞・テキストの全文を見ることができます
どんな動きをするかはニコニコやYouTubeに転がっている対戦動画を見れば把握できると思います
さらに掘り下げが必要ならニコニコに投稿されている放送機関解放で不律に関する数分のラジオドラマが聞けます。
完結した某ロワに参戦経験があるので、塞にも言えることですがそっちも参考にしてみるのもいいと思います。

ギルティギア
掘り下げるならば最新作のXrdのストーリーも参考になるといえばなりますが、
ニコニコに投稿されてい るGGXXやGGXXACのストーリーモードでも十分把握できます。
ファウストも格闘ゲーム出身ですので、ゲーセンに行って実際に触ってみるか対戦動画を見ると把握しやすいかも
Xrdの公式攻略サイトはかなり詳しく必殺技を解説してますのでそちらも参考に
また、ギルティギアの小説「胡蝶と疾風」にも登場していますので掘り下げが必要ならこちらもどうぞ

〇塞&アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)
塞に関しては不律と同じ方法でほぼ把握できると思います
また、塞の元ネタにはテオフィル・ゴーチェ著の「魔眼」という小説があり、その主人公の名前が『ポール・ダスプルモン』だったりします
ネタ程度には使えるかも?

東方project
>>1氏と同じく、台詞書き起こしサイトがベストかと思われます。
個人的に東方紺珠伝の鈴仙を書いたつもりですので紺珠伝での台詞が最も参考になるかと


658 : ◆3SNKkWKBjc :2015/09/03(木) 23:41:10 HSZ1E5z60
皆さんやっていので私も便乗して把握情報を書きます。
ジョナサンは第一部全部見て下さい。
参戦時期がディオとの対決後となっていますので
漫画でもアニメでも十分追えるかと思います。

ジョニィは第七部全部見て下さい。
彼の成長を知るには話を全て通した方がいいかと思います。
残念なことに第七部は漫画でしか把握できないです。
第八部の設定は原作でも未だよく分かっていないので第七部のジョニィだけで十分です。


659 : ◆zzpohGTsas :2015/09/04(金) 00:03:17 R4QoJAyc0
スレ主なので責任もって予約します
アイギス&サーチャー(秋せつら)
ルイ・サイファー&キャスター(メフィスト)
不律&ランサー(ファウスト)
を予約いたします


660 : ◆2XEqsKa.CM :2015/09/04(金) 00:42:23 mMOTkz.g0
佐藤十兵衛&セイバー(比那名居天子)
ジョナサン・ジョースター&アーチャー(ジョニィ・ジョースター)
ロベルタ&バーサーカー(高槻涼)
で予約します


661 : ◆GO82qGZUNE :2015/09/04(金) 01:02:06 OBZ3sog.0
伊織順平&ライダー(大杉栄光)を予約します


662 : ◆GO82qGZUNE :2015/09/05(土) 09:07:54 UYvz1GQk0
予約分を投下します


663 : 二人の少年 ◆GO82qGZUNE :2015/09/05(土) 09:10:23 UYvz1GQk0
 戸山。新宿区の地理的中央部に位置するその場所は、多くの集合住宅が密集することで知られ、また木々に囲まれた緑地を多く保有する閑静な土地だ。
 すぐ傍に位置する歌舞伎町などと違い、夜にもなれば相応の静けさを取り戻す。草木も眠る丑三つ時には少し早いこの時間において、その場所は風の音だけが響く静寂さを秘めていた。
 その一角、建築からそれなりの時を経ていると見受けられる民家の一室で、二人の少年が頭を突き合わせて「青い鍵」をじっと見つめていた。
 聖杯の奇跡を否定する少年、伊織順平。
 少年を導くために現世へ降りたライダーのサーヴァント、大杉栄光。
 二人は共に腕を組み、生来の彼らには似合わない顰め面で何やらうんうんと唸っている。
 簡素な机に対面で座り、その上に置かれた鍵に視線を落としながら、ついには順平が口を開いた。

「……とうとう始まったな、聖杯戦争」
「ああ。ようやく本番ってわけだ」

 重く、しかし沈んだようでは決してない声音で二人は事実を確認する。
 それはつい先ほどもたらされた通告。他に存在する資格者を蹴落とし、最後の一人になることで聖杯を獲得するための残酷劇。その開始の宣言だ。
 開始通告、それ自体は特に驚くに値しない。直感とはいえ二人共近いうちに聖杯戦争が始まることは感じ取っていたし、そのことに対する覚悟もしてきたつもりだ。
 故に、ここで問題となるのは別の事柄。

「けど、討伐クエストか。分かっちゃいたけど、本当に見境なく殺して回ってる連中がいやがったか」
「しかも遠坂凛……俺の同級生がマスターなんてな。ニュースでも学校でもひっきりなしだったから、まさかとは思ったけど」

 すなわち、ルーラーから発布された討伐クエストの存在だ。
 管理運営者と名乗るその声は極めて事務的で、しかし告げられた内容は極めて残虐だ。なにせ一般市民を三桁単位で殺しまわっている連中についてのことなのだから、嫌でも重く考えてしまうというものだろう。
 しかもクエストに記載されている二組の片方は噂程度とはいえ自分も見知った人間なのだから頭が痛くなってくる。
 遠坂凛。順平が通う高校の同級生でミス優等生。学内でも屈指の有名人で、直接会ったことはないにしろその高名は頻繁に耳に入ってくるほどだ。
 それが気付けば世界規模で報道される大量虐殺の下手人で、しかも聖杯戦争のマスターで、直々に討伐クエストまで出されるほどになるとは。
 ちっぽけな小市民を自負する順平では、脳の処理速度が追いつかないのも自明の理だ。

「真昼間から街のど真ん中で大量殺人、しかも死体は放りっぱなし。どう見ても魂喰いとかじゃねえよな。
 こっちのセリュー・ユビキタスだって、そういう目的で殺したって風にはどうにも思えねえ。
 なんというか、殺すために殺したって感じだ」


664 : 二人の少年 ◆GO82qGZUNE :2015/09/05(土) 09:10:54 UYvz1GQk0
 もたらされた情報を頭の足りないなりに吟味し、あくまで推測とはいえ自分なりに出した考えを口に出す。
 それは魂喰いだとか目撃者の排除などとは違う、殺すこと自体が目的であるという極めて高純度の殺意だ。
 良く考えなくとも、それがどれほど馬鹿げた行為であるかは子供でも理解できるだろう。倫理観がどうのという前に、必要以上に注目と敵意を集める悪手の中の悪手だ。
 現にこうして裁定者直々に討伐命令が下される始末。狂気の沙汰としか思えない行動は、なるほど確かにバーサーカーの名の相応しいと言えるかもしれない。

「同感だぜマスター。こりゃ勘でしかねえが、少なくとも礼服のバーサーカーからは喜悦みたいな感情しか漂ってこねえ。
 前に一回、そういう奴を見たことがあるんだ」

 険しい表情でライダーは返す。言葉こそ静かだが、その胸中は爆発しそうなまでの憤りに満ちていた。
 それはあまりにも当然のことだった。ライダーは元来、彼の仲間たちの誰よりも優しい人間であったが故に。
 NPCの殺傷、魂喰い。時として戦略上そういった行為をしなければならない主従もいるということは納得はせずとも理解していたが、しかしこれは理性で見逃せる領域を遥かに逸脱している。

 今にも漏れ出してしまいそうな嚇怒の念を、しかしライダーは鉄の自制心で抑え込む。険しい表情はそのままだけれど、少なくとも頭を冷やすことはできた。
 抑えきれない胸のむかつきを、解き放つべきは今ではない。ライダーは、そのことを重々自覚している。

「いずれこいつらはどうにかするってのは決定事項としてだ。実際のところさ、お前こいつらに勝てるか?」
「五分五分……いや、正直言ってかなりきついな。三騎士よりかマシだけど、基本純粋に強い奴には相性悪ィんだ」

 苦々しげに呟くそれは、彼我の実力や相性差を鑑みてのものだ。
 ライダーはこの戦いにおいて決して負けられないという矜持を抱いてはいるが、それとは全く別の次元で、同時に自分だけでは決して勝てない相手がいるということも十分理解している。

 ライダーの持つ適正は、本来補助に特化したものだ。場の状況や相手の行動を看破し、絡め手を崩壊させ、時には撤退を補佐し遊撃へとまわる。
 仲間がいて初めて真価を発揮するその才は、だからこそライダーの誇りであったが……単独での戦闘ともなれば、途端にそれは脆弱さを露呈させる結果となる。
 端的に言ってしまえば地力が足りないのだ。故に、絡め手を使うまでもなく強大で、看破されようがお構いなしの純粋な性能と技量に特化した者がライダーの天敵と成り得る。
 その条件にこれ以上なく適合するのは三騎士のクラスだが、バーサーカーは狂化により技量を喪失する代わり、性能は三騎士をも遥かに凌ぐためにライダー単体では太刀打ちできない可能性が高い。
 無論ライダーとて生涯に渡り修練を課してきた自負はあるし、自我のない狂戦士に技でまで負けるとは思っていない。
 しかし時に力は技などという小賢しいものを紙屑の如く打ち破ってくる。
 相性や経験など所詮はある程度拮抗した状況でなければ意味を為さない。
 バーサーカーとは、そうした諸々の要素を文字通りの力づくで乗り越えてくる、そんな怪物に他ならないのだ。


665 : 二人の少年 ◆GO82qGZUNE :2015/09/05(土) 09:11:27 UYvz1GQk0
「つっても放っておくわけにもいかねえし、やっぱ他に協力できるマスターを探すっきゃねえか」
「ま、それが常套だわな。つーか討伐クエストを度外視しても、俺らの目的考えたら他のマスターたちと協力しなきゃ先はねえ。
 脱出するにしても情報が足りないし、聖杯を破壊するってんならそれこそ何回も戦わなきゃなんねえ。
 並み居る強敵共を物ともせずバッタバッタと薙ぎ倒し、なんて芸当ははっきり言って無理だからな。俺らだけでやれることなんざたかが知れてる」

 ライダーの言葉に、順平もまた頷く。
 差し当たっての目標は、仲間と呼べる主従の捜索。まずはそれをこなすべきだろう。
 今まではライダーの隠蔽能力の確認と、それを看破するだけのサーヴァントの警戒に当ててきたが、それも既に十分な成果を挙げたと言っていい。
 故にこれからは、より本腰を上げての捜索に手を尽くす。
 すぐに着手すべき目標としてはいささか大雑把だが、それくらいが自分たちにはお似合いだろう。

「ま、マスターはこれまで通り学校に行ってていいぜ。昼間の捜索は俺に任せとけよ」
「そりゃ助かるけどよ。いいのかよ、それで」
「学校休ませるわけにもいかねえだろ。いくら仮とはいえお前にはお前の生活があるんだし、親御さんの目もあるしな。
 それに下手な行動取って怪しまれたら本末転倒だろ」

 あくまでも朗らかに、なんでもないように言うライダーに順平も苦笑するように破顔した。
 やはりこいつと一緒なら聖杯戦争でも何とかやっていける。そんな確信染みた心境を胸に抱いて。

「心配すんなって。俺ァビビりだから、逃げ足だけは誰にも負けねえ自信はあるぜ。襲われたってそう簡単にゃ死なねえよ」
「……マジで気ィ付けろよ?
 お前に死なれちゃすっげえ後味悪いしな」

 軽口を叩きながら、いつものように笑いあう。それは軽いと見做されるかもしれないが、しかし彼らなりの信頼の形であるのだ。
 仲間、絆、信頼。それは何にも代えがたい宝であるし、それが無ければ自分たちなど単なる雑魚に過ぎないとさえ思っている。
 だからこそ、彼らは助けてと仲間に縋りつき、同時に何よりも守りたいと願う。主役には決してなれない脇役でしかないかもしれないけど、それ故に力を合わせることに否やはない。
 何故なら自分たちは、誰かがいないと生きていけない、誰かがいるから戦える、そんなどこにでもいるちっぽけな人間でしかないのだから。
 それこそ彼らの仁義八行。偽りなく専心尽くす忠の心に他ならないのだ。


666 : 二人の少年 ◆GO82qGZUNE :2015/09/05(土) 09:11:52 UYvz1GQk0
【歌舞伎町・戸山方面(戸山住宅街、一般住宅の一室)/一日目 深夜(午前1時前後)】

【伊織順平@PERSONA3】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]なし
[道具]召喚銃
[所持金]高校生並みの小遣い並み
[思考・状況]
基本行動方針:偽りの新宿からの脱出、ないし聖杯の破壊。
1.穏便な主従とコンタクトを取っていきたい。
2.討伐令を放ってはおけない。しかし現状の自分たちでは力不足だと自覚している。
[備考]
・戸山にある一般住宅に住んでいます。
・遠坂凛とは同級生です。噂くらいには聞いたことがあります。

【ライダー(大杉栄光)@相州戦神館學園 八命陣】
[状態]健康、霊体化
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]マスターに同じ
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを生きて元の世界に帰す。
1.マスターを守り、導く。
2.昼はマスターと離れ単独でサーヴァントの捜索をする。
[備考]


667 : ◆GO82qGZUNE :2015/09/05(土) 09:12:11 UYvz1GQk0
短いですが、これで投下を終了します


668 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/07(月) 01:07:33 TgX0Ht0o0
投下お疲れ様です
ついに新宿にも初投下
セリュー組と遠坂組の討伐クエストが発令されましたが、その2組と面識があるとその足取りを追いやすいかもしれませんね
そういった「殺すために殺す」殺人に対して強い嫌悪感を抱く参加者は少なくないでしょう

では私も、
塞&アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)
遠坂凛&バーサーカー(黒贄礼太郎)
で予約します


669 : ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 02:41:23 5.bIrmq.0
予約いっぱいいっぱい入ってウレシイ……ウレシイ……

>>二人の少年
自分の同級生が早速、失点何てレベルじゃない大ポカやらかしてるのを見た順平くんの心境や如何に
唯一の救いは、凛が悪いとは一言も言っておらず、黒贄さんが全部悪いって思ってる事でしょうね。実際その通りなのですが
クソミソにバッシングされる黒贄さんの姿が面白い。原作じゃ人殺しても何のお咎めもない世界の住人ですが、この世界では悪そのものと言う認識を向けられる事に、彼は気付くのでしょうか
いやそれにしても、順平君がヒーローをやっている構図は本当に面白い。流石は、FES後からの参戦はありますね

ご投下、ありがとうございました!!

それでは自分も投下いたします


670 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 02:42:11 5.bIrmq.0
 人面瘡、と言う病気がある。
身体の何処かに人の顔の様な腫瘍或いは痣が浮き出ると言う奇病の事だ。
日本のみならず世界中で似たような病気は言い伝えられている。曰くその顔は物によっては人語を解し、人が食べるような食事を要求したりもするし、
機嫌が悪い時は毒液に似た汚液を吐きだす事もあると言う。しかし、このような病気が本当にあるのか、と言われれば、医者は皆否と答える。
この病気の正体は何て事はない、腫瘍の形が人の顔の様に見えるだけに過ぎないのだ。見ようによっては、目鼻や皺にも見えるし、ひくひく動く姿が呼吸しているように見える。
それだけの事なのだ。所詮人面瘡とは、祟りや怪異の物でなく、顔によく似た腫瘍に過ぎず、医学的にも十分分析可能な代物なのである。

 七月十四日の午後の事、<新宿>はメフィスト病院に、一人の女性患者が秘密裏に搬送された。
日本国内の患者ではない。その女性はアメリカ国籍を持った女性であった。
もっと言えば彼女は、十人に聞けば六人は知っていると答えるであろう程の、ハリウッドの大女優であった。
六歳の頃から子役として出演、端役から脇役、脇役から準レギュラー、そしてついには一つの大作映画のレギュラーを何本も務めると言う、
スターダムの典型を往った若き天才女優。そんな彼女が、二か月程前から活動を休止していると言うのは、ちょっとした芸能通の人間であれば有名な話である。
ハリウッドから干されていると言う噂も立っている。恋人が出来たのだと言う噂もある。スランプなのだと言う意見もある。
その全てが見当違いで、蓋し正しくないと言わざるを得ない。だがその女優にとって、そう言った噂が立っていてくれた方が、まだマシと言うものなのだった。

 女性の顔に異変が起こったのは、関係者によると活動休止を表明してから二週間ほど前であると言う。
彼女の顔がいやにむくんでいたのだ。彼女も関係者も、寝不足か何かから来る、生活態度上の異変であると思っていた。
しかし、日を追うごとにそのむくみは酷くなって行き、遂には、象皮病を思わせる程皮膚は厚みを増して行ったのだ。
現在に至る。今その女優の顔の皮膚は、元々小顔気味だった彼女の頭の皮膚量を遥かに超えており、百歳を超えた老婆か何かのように、皮膚が垂れ下がっている。
瞳は皮膚に埋もれかけ、鼻も口も醜く歪み。とても、あの大女優とは思えない程の醜女(しこめ)になっていた。

 これでは仕事も出来ない、と言う事もそうなのであるが、そもそも彼女は女優である。
つまり、人からの注目を浴び続けたい目立ちたがり屋のスター気質で、何よりも、自分のプロポーションと美貌に絶対の自信を持っている。
それがこのような形で壊されるとなると、精神の均衡の崩壊すら招きかねない。アメリカ中の様々な大病院を回ったが、弱り目に祟り目とはこの事か。
どの病院でも原因が不明であり、そして、現代の医学では治療が困難な程の皮膚病であると言う。
こう言った事実が積み重なった結果、女優は酷いノイローゼに掛かってしまい、ある時など泣きながら、顔の皮膚が自分を悪罵して来る、馬鹿にすると訴えた程だ。
関係者の誰もが、このままでは自殺を敢行してしまうのではないかと危惧していた、そんな時である。
風の噂で、極東の国日本の<新宿>に、治せる可能性がある病院があると聞いた。そして其処こそが、メフィスト病院。
ゲーテのファウストに登場する、世界でも特に有名なあの悪魔の名を冠した病院の事だ。
常識的に考えれば、ロクな病院ではないだろうと皆思うだろう。事実周りの人物達は、行くのは止した方が良いと助言した。
しかし、溺れる者は藁をも掴むとはこの事。彼女はこの病院を頼ったのだ。縦しんばこの病院がダメでも、日本はアメリカに劣らぬ経済大国。
治せる病院があるかも、と踏んだのである。

 メフィスト病院の地上四階の部屋に、彼女はいた。入院患者にあてがわれる部屋である。
ベットから上体を起こした状態で、彼女は死んだように微動だにしなかった。ベッドと一体化した銅像の様である。
無理もない。この数ヶ月で、彼女の心は病気のせいで微塵に砕かれ、精神も崖っぷちの手前に立たされている状態なのだ。
病が蝕むのは、何も身体だけではない。身体と心は繋がっている。己の身体に自信を持っている者は、その自信を傷付ける病に掛かった時、紐で牽引されるように心も病むのだ。
「貴女の病気は特別に院長が見て下さるようです。ですが院長は多忙を極める御方ですので、明日の診察まで私どもの病院の病室でお待ちを」。
そう言ったのはこの病院に勤務している形成外科の男だった。


671 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 02:42:34 5.bIrmq.0
 常識で考えれば先ずありえないような病院の名前であったが、看護婦や勤務スタッフの態度やプロ意識は、彼女が通ったどの病院よりも徹底している。
日本はサービスに対して過敏な国であるとは聞いたが、病院でもそうなのだろうか。だが、それと自分の病気が治るか否か、と言うのは別問題。
態度が悪くたっていい。金など幾らでも払う。彼女は、自分の病気を治してくれる、ブラック・ジャックを期待していた。

 部屋にチャイムの音が鳴り響いた。医者、或いは関係者の入室を告げる為の物である。
自分の病気を治してくれる、院長先生のお出ましのようである。数秒程して、病室の自動ドアが音もなく開いた。
――病室の白い壁紙、白い天井、白い床。それら全ての白さが、増したような感覚を、彼女は憶えた。
まるで付着した塵が消し飛び、和紙の漉き工程をリアルタイムで見ているかのようだった。
何が起った、と、女優がドアのある方向を見た時、言葉を失った。

「成程、一介の病院で治せぬ筈だ」

 部屋に入るなり、白いケープを身に纏ったその男は、無感情にそんな事を言った。
見た瞬間に答えの解る数学の方程式をこれから解こうとするような、無聊な態度。きっとこの男は、自分と、その病気の事について言っているのだ。

 ハリウッドの夢工場で長年活動し、精神を若干病んでしまった彼女の思考が灼かれる程の美の男だった。
人間の嫉妬が極限まで肥大化した、あの魑魅魍魎の伏魔殿であるハリウッドに身を置く彼女は解るのだ。
あの界隈に身を置く男優や女優の顔の美しさが、自前の物なのか、整形によるものなのか。目の前のケープの男のそれは、間違いなく自前のもの。
それは間違いない。だが、こんな顔があり得るのか? 母親の胎の中で蹲っている段階で、神から、美の権化となるべく宿命づけられたのでないのか?
北の果ての海に浮かぶ氷塊を球状にして眼窩に嵌めた様な、鋭く冷たい澄んだ瞳。垂直に伸びた鼻梁、一文字に結ばれた唇。薄く伸びた眉。
今まで共演した色男の男優が、冴えない田舎男にしか見えなくなる程の美しい男だ。この男がハリウッドの世界に進出しようものなら、その日の内に、今のハリウッドの力関係は、引っくり返って覆される事であろう。

 心なしか、顔の病巣が。あれだけ憎んで、ナイフで削ぎ落としたくなっていた程の、顔の腫瘍が、震えていた。
この時初めて、彼女はこの病巣に共感を覚えた。ああ、お前にも解るのか。あのケープの男の、天与の美が。
ケープの男、メフィストよ。お前の身体から発散させる美は、意識を持たぬ筈の病魔にすら、それを意識させるのか。

 音もなく彼女の元へと近付いてきたメフィストが、その人差し指でそっと、彼女の病巣を撫でた。
この病気にかかって以来、彼女の顔面の感覚は希薄である。物が触れても触れられていると言う感覚が解らないのだ。だが今なら解る。この男が触れていると言う感覚が。
一目見て解った。この男が、自分の来歴やパーソナリティについて、欠片ほどの興味も抱いていないと言う事が。
ただ、目の前の、自分が治すべき病気のみに、興味を傾倒させている。何と言う、プロフェッショナリズム。
自分の顔に触れると言うこの行為に、男は決して疾しい考えなど抱いていないだろう。だが何故か、女優は今、そんな思いを抱いて欲しいと願っていた。
自分とメフィストとの関係が、患者と医者以上の関係になって欲しい、と願っていた。


672 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 02:42:49 5.bIrmq.0
 ――だが現実は無慈悲であった。
急に、視界が開けて来た。いや、その言い方は正鵠を射ていない。視界をそれまで阻害していた、皮膚のたるみが急激になくなって行ったのだ。
弛んだ皮膚が戻って行く。皺だらけになっていた皮膚に張りが戻って行く。皮膚の厚みが、紙の様に薄くなる。
果たして誰が信じられようか。メフィストが病巣に触れただけで、時間が回帰するように彼女の精神を蝕んでいた顔の腫瘍が消え失せて行くのだ!!
まるで録画したビデオの巻き戻しを見るような。まるで全てCGで出来た映像を見るような。キリスト教信仰に篤い者が見れば、神が起こした奇跡だと感動するかも知れない。

 己を苦しめていた病巣が癒えて行く感覚を女優は憶える。
彼女とメフィストを繋ぐ唯一の関係が、剥がれ落ちて行く感覚を女優は憶える。それは同時に、永遠にこの白い美の具現に会えない事を意味する。
恐らくこの男は、この病気を治してしまえば、一生自分に興味がなくなってしまう。彼女の予感が、そう告げていた。

 メフィストの人差し指が、女優の顔から離れる。
スクリーン越しに何人もの男達を魅了し、何人もの女の羨望を買い。何人ものハリウッド関係者が、一緒に一夜を過ごしたいと願った美が、其処にあった。
しかしそれすらも、ケープの男の美に比べれば、粗雑なものであった。人と神とは争えない。人界の美が神の世界の美に、敵う筈がないのだ。

「終わりだ」

 メフィストは無慈悲にそう告げる。解り切った実験の経過を記録する、科学者めいた言葉だった。

「経過をスタッフにでも見させてから、明日にでも退院させよう。その日の内に、元の仕事に専念出来るだろう」

 白いケープを雲母の如くに煌めかせ、はためかせ。メフィストは彼女に背を向け、スタスタと去って行く。
この男が、女優の部屋にいたのは一分程度の短い時間。しかし彼女には、その一分が、十秒程にしか感じられなかった。

「あ、待って……!!」

 もっと話したい事が、と言おうとしたのだろう。しかしその時には、彼女の視界には、閉じたドアだけがあった。
部屋に、彼女だけが取り残された。メフィストがいなくなったせいで精彩を欠き、途端にみすぼらしくなった、白い部屋に。


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673 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 02:56:19 5.bIrmq.0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 マスターのルイ・サイファーに曰く、聖杯戦争は既に始まりの鐘が鳴らされたと言う。
尤もこの美しいキャスターは、ルイにそんな事を言われるまでもなく、聖杯戦争がじきに始まる事位解っていた。
何故ならばメフィストもまた、音に聞こえた魔界都市の住民だから。人の命が羽より軽い、悪徳の都の魔人であるから。

 自分のメフィスト病院が、他参加者からどのように見られているのか、メフィストもおおよその察しはついていた。
大抵の者は皆、この病院が聖杯戦争の参加者の手によって運営されている、と言う事位は考えるであろう。
無理もない、今のメフィスト病院は、K大学病院を乗っ取る形で形成された固有結界なのだ。言うなればこの病院はこの世界の<新宿>にとっては異物である。
真っ当な新宿区の知識を持った人間ならば、その異常性に気付くであろうし、例え異世界からやって来たマスターであろうとも、この病院の名前から、
此処がただの病院でない事に気づくのは時間の問題であろう。となれば、他参加者はどのような行動に移るのか?
考えるまでもなかろう。襲撃である。メフィストのクラスはキャスターである。本来このクラスは直接戦闘に秀でているクラスではない。
予め誰にも気付かれず自領域、つまり陣地を確定させ、其処に自分にとって有利なフィールドを築き上げる、と言う籠城戦が通常セオリーになる。
この時、誰にも気取られないと言うのがポイントである。最も脅威となるキャスターとは、誰にも知られない場所で、徐々に戦力を蓄える者の事を言うのだ。

 それが、メフィストの場合はどうだ?
どんなに愚鈍なマスターでも、地図さえ見れば解る場所に堂々と。しかも一般人が怪我や病気の治療の為に普通に出入りしているのだ。
キャスターのクラスに限った事ではないが、本来魔術師や魔法使いと言う人種は、自分の研究成果を秘匿し、己のアトリエである工房など厳重な警備を施す。
そう言った処置をメフィストは全く取っていない。来る者を拒まずの姿勢だ。これではキャスターとして、失格の烙印を押さざるを得ないであろう。


674 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:03:36 5.bIrmq.0
 但しメフィストは、今のそんな境遇に全く危機感を感じていないし、彼のマスターであるルイ・サイファーも、現状に全く不満を覚えていない。
寧ろメフィストは好都合とすら思っていた。彼は聖杯になど全く興味はない。自分はただ、患者を救うだけ。自分の医術を求める者に、応えるだけ。
自分の宝具であるメフィスト病院は本来展開と維持に魔力が必要らしいが、イレギュラーによりそれらの消費のない代わりに、常時世界に流出している状態になっているらしい。
しかしそれはメフィストにとっては喜ばしい事だった。患者を救う為の施設が、魔力消費もいらず常時展開しているのだ。これで、自らの医術を発揮するのに滞りはない。
思う存分、生前の様に患者を救う事が出来る。仮に、このメフィスト病院に襲撃をかけるような不届き者がいる時には、問題ない。
その時は――その相手を殺せば良いのだから。その時になって、相手は初めて思い知るであろう。
メフィスト病院が何故、核爆弾が流通し、陣地を超越した魔術が蔓延るあの魔界都市にあって、その威容を保つ事が出来たのか?
病院の防衛システム、そして、病院を管理・運営する院長が、魔人の如き強さを誇るからに他ならない。

 メフィスト病院には、常に足りない者があるとメフィストが嘆いているものがある。
それは、人の臓器。メフィスト病院で患者に供される臓器の殆どが、この病院を襲撃した不届き者のそれである事は、有名な話なのだった。
この<新宿>でも、臓器を提供してくれる親切な者が来るだろうかと考えながら、院長室でメフィストが哲人めいて思考の海に沈んでいた、その時だった。
エクトプラズムの椅子に背を預けていたメフィストの真正面の空間に、切れ目が入り始めたのだ。横辺五m、縦辺三m程の長方形の形に。
その長方形の中の空間に、過去の遺物であるブラウン管テレビ等で見られた砂嵐の様なものが走り始める。しかし、それも半秒程の事。
すぐに砂嵐は、現代の如何なる液晶テレビでも叶わない程の画素数を誇る映像に切り替わった。映像は、看護士の服装を身に纏った、年配の女性を映している。
メフィスト病院に勤務する看護婦長だ。副院長、医師部長と並び、メフィストが全幅の信頼を寄せる優秀なスタッフである。

「何事かね」

 短くメフィストが訊ねた。

「院長にお客様がお見えになっております」

「どなたか訊ねてみたかね」

「『秋せつら』様です」

「――ほう」

 平時と変わらぬ態度で、メフィストがそう言った――ように見えるだろう。
しかし、彼との付き合いが長い者は解る。彼は今、少々驚いている。予想外――いや、本当を言えば、来るのではないかと、呼ばれていたのではないかとは感じていた。
だが、本当に呼ばれていて、しかもこんなに早くやって来るとは、流石のメフィストも予想外だったのだ。

「通したまえ」

「かしこまりました」

 其処で、通信が途絶えた。音もなく、空間に刻まれた長方形が閉じきり、切れ目も何も完全になくなってしまう。
空間をスクリーンに、病院内の光景を映し出す技術。メフィスト病院では驚くに値しないテクノロジーだった

「知り合いかい?」

 足を組みながら、エクトプラズムの椅子に座る黒スーツの男、ルイ・サイファーが訊ねた。
今の今まで、読書を嗜んでいたようである。彼が呼んでいた本とは、メフィスト病院の院長室にある、千を超し万にも届こうかと言う蔵書の一つ。
十五世紀半ばに、ヨーロッパで初めて活版印刷を発明したグーテンベルク、その技術を以て最初に刷った初版の聖書……の、エラー品である。
字は醜く歪み、文字の濃淡が甘いところが見られ、至る所に墨の後が付着した失敗作。嘗てグーテンベルクが捨てた筈の出来損ないの聖書を、何故メフィストは持っているのか?
そして何故、それを滑稽そうにルイは見つめていたのか?

「想い人だ」

「そうか」

 それだけ言って、ルイは再び聖書に目を通し始めた。其処から二人に、会話はなかった。


.


675 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:04:39 5.bIrmq.0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「こんちゃ」

 見知った友人の家にでも上がる様な気楽さで、その男は現れた。
暑さを感じないのか、夏場であると言うのに黒色のロングコートを身に纏った、黒いワイシャツに黒いスラックスと、上から下まで黒一色の男。
――だが、何と高貴な黒なのだろう。男の現れた、メフィスト病院の院長室と言うのは、全体的に薄暗い。その中にあって、彼の黒は、宇宙の暗黒の様に映えていた。
それはひとえに、ロングコートの男の、天使が地上に降りて来たと錯覚する程の、天上の美が原因であった。
際立ちすぎた美は、見に纏う服や、その色味すらをも天上のステージへと押し上げる。いや、この男の場合は最早、伸びる影すらも美しいのだ。
そう言うものである。秋せつらと呼ばれる男は、そう言う男なのである。

「月並みな挨拶だが、久しぶりだな」

 エクトプラズムの席から立っていたメフィストが、そんな事を言って来た。
初めて彼を見た者が聞いても何とも思わないのだろうが、これでも彼は大分気を楽にして話している。相手が、秋せつらだからだ。

「お前の所の藪病院の名前を聞いた時には、中々驚いたよ。お前、自己主張しないと生きてけないの?」

 入口の方からスタスタと、メフィストの方を歩いて行きながらせつらが茶化した。
言うまでもなく、メフィスト病院が現実世界に流出している現状の事を言っているのだろう。

「イレギュラーな事態だ、仕方があるまい」

「嘘吐くなよ、お前の事だ。患者を治せるから別に良いかって思ってんだろ」

 流石に、生前からの付き合いのある男は違った。メフィストの考えている事など御見通しであった。

「そもそも、お前の病院のあった場所は歌舞伎町だろ。何でK大学の病院を乗っ取ってるんだよ、訴えられるぞ」

「元来医術と言うのは、卓越した師の下で血の滲むような研鑽の末に習得するものだ。学校に行き、単位を修得し、卒業すれば医者になれるものではない。
待ち時間も長い、我が病院では考えられないような初歩的なミスが目立つ、待ち時間の改善も甘い。その様な病院は淘汰されるべきだろう」

「お前みたいな変態と比較対象にされるK大の教授も研修生も可哀相だな、同情するよ」

 とうとう、せつらがメフィストの作業している黒檀の超高級デスクの所までやって来た。
その背後に、学校制服に身を包んだ、金髪の少女を引き連れて。

「かけたまえ」

 メフィストがそう言うと、せつらの背後に、蒼白いエクトプラズムが凝集し始める。
慣れているのか、せつらはそれに腰を下ろした。何をして良いのか解らず、アイギスはメフィストとせつら、そして、奥の方で本を読む、ルイの方をきょろきょろ見るだけ。
彼女なりに、混乱していると言う事が解る。

「彼女には用意してやらないのか」

 言うまでもなく、エクトプラズムを、だ。

「人ならば、な」

 流石に、魔界都市の住民。いや、この場合は魔界『医師』と言うべきか。
アイギスが人間ではない。機械の乙女である事など、一目見た瞬間から看破していたらしい。
生身の人間であればいざ知らず、疲労も何も知らない機械に、エクトプラズムを用意する必要がない。メフィストはこう言っているのだ。

「流石の魔界医師先生も、自分の性格の悪さと性癖だけは治せないのか。怖いね〜、心の病ってのは」

 肩を竦め、露骨にメフィストを挑発して見せるせつらだったが、その魔界医師は全く微動だにしない。

「女は男の付随物だ。旧約聖書に曰く、アダムは己の肋骨からイヴを作り、イヌイットの神話では女は原初の男の親指から生まれた。
神が人を自分達の住まう世界にまで至らせられなかった最大の失敗要因は、女を創った事だ。女がいなければ今頃人は、神の玉座に王手をかけていた。追放された楽園を取り戻せた」

 それどころか、真面目な顔で反論する始末だ。

「安心したよ。その気持ち悪さがこの世界でも健在でさ」

 心底呆れたようにせつらが口にする。

「あの、そちらの方が仰った通り、私は疲れを感じませんので、気を使わなくても大丈夫ですよ? サーチャー」

「だそうだ。鉄の処女の方が人間が出来ているとは、恥かしくないのかね」

「機械の乙女に気を使われる方が恥ずかしいだろヤブめ」


676 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:05:15 5.bIrmq.0
 せつらの悪罵を無視し、メフィストはデスクの引き出しから何かを取り出し、せつらに対してそれを放った。
それを受け止めるせつら。一瞬攻撃か何かかと警戒したような素振りを見せるアイギスであったが、直にそれを解いた。
何て事はない。市販品の煎餅だった。何処のスーパーにも売っているような、工場で流れ作業的に作っているであろう事が解る品だ。
嫌そうな顔で袋を開けるせつら。「食べても大丈夫でありますか?」、とアイギスが念話で語り掛けて来る。「問題ない」とせつらが返す。
毒がない事位確認済みだ。目に見えぬ、1/1000ミクロンのチタン製の妖糸は、せつらに掛かればその食物に毒が含まれているか否かの判別すら可能とする。
毒は、入っていない。これは間違いなく言える事が出来た。では何故嫌そうな顔をしているのか。塩せんべいを袋から取り出し、齧った後のせつらの言葉を口にすれば、解る。

「まずい」

 心の底から言っているらしい。美しい顔をまずそうなそれに歪めて、更に彼は言葉を続ける。

「流石は大量生産品。此処まで不味く作れる才能を褒めてやりたいよ。うるち米を選ぶセンスもダメ、醤油やタレを塗るセンスもなっちゃない、焼き加減も論外。
秋せんべい店の店主に対して、よくもこんな不味い品をぬけぬけと茶菓子代わりに出せるな。とうとうボケたかよ」

「君の出す煎餅も最近は焼きが甘いだろう。女にいいようにされるからだ。君は一つの物と所に専念すると言う事が出来ないからな」

「人を多動の患者みたいに言うなよ、英霊になっても失礼な奴だな」

 煎餅を脇に置きながら、むかっ腹が立っていると言った様子でせつらがそう言った。
その様を見ながらメフィストは、机の上で両手の指をそれぞれ組み合わせ、その状態で両肘を黒檀のデスクの上に置いた状態で、せつらに言い放った。

「要件を言いたまえ」

「お前に会いたかった」

「“僕”の方に言われても嬉しくはないな」

「僕も言っていて気持ち悪かったよ」

 おえっ、と言ってから、せつらは言葉を続けた。

「昔の好(よしみ)で会いに来てやった。これは事実だ。この<新宿>はれっきとした“魔界都市”だ。となれば、僕以外にも見知った奴がいるんじゃないか思ってね。
そしたら、昔の腐れ縁が馬鹿正直に病院を経営してるじゃないか。顔を出さない訳にも行かないだろう?」

「同盟を組みに来たのではないのかね? サーチャーのサーヴァントくん」

 グーテンベルクの聖書のエラー品を捲るルイ・サイファーが静かにそう訊ねて来た。

「よせよ。回復の為の中継地点として利用するならともかく、こいつと同盟を組んでメリット何て欠片もない。このヤブが何度、自分の知識欲の為に相手と手を組んで僕を苦しめたと思ってるのさ」

 メフィストと言う男は秋せつらを懸想している。メフィストの優先順位の序列の中にあって、秋せつらと言う男は最上位に位置していると言っても良い。
但し、そのせつらと同じ位、行動の優先順位の序列を高く設定している物こそが、己の知識欲である。
治癒不可能な病気を治す為のメソッドを探す為ならば、せつらに対し不利になるだろうなと言う事をも平然と行う。
何せメフィストは生前、如何なる技術でも不可能とされる、『吸血鬼化した人間を元の人間に戻す治療の開発』の為に、敵対していた吸血鬼に己の血を吸わせ吸血鬼にさせた程であるのだから。


677 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:05:31 5.bIrmq.0
「お前の事だ。自分の知りたい事の為なら僕の反目に回る事もあるだろう。況してや今は聖杯戦争だ、そう言う事になっても仕方がない。が、一つ聞きたい事がある」

「何かな」

 美しい顔を絶対零度のそれに凍結させて、メフィストが訊ねた。
機械であるアイギスのCPUが、一瞬フリーズを起こした。余りの美しさの為に、彼女が有する人相識別システムが、エラーを起こしたのである。
システムが、告げている。理論上、このような顔の人類は、如何なる遺伝子配列でも生まれる事はない、と。では、メフィストの正体とは? そして、彼の美を見ても恬淡としている、せつらとは?

「お前、聖杯が欲しくないのか?」

 軽くメフィストに対し人差し指を指して、せつらが言った。
メフィストと、せつらとの間の空気が、凍結した。陽炎の如く歪むのではなく、空気分子の動きが、時が止まった様に停止しているのだ。
二人の周りを取り囲む空気が、零下にまで下がったような錯覚をアイギスは憶えた。今にも地面に、霜柱が生まれそうな寒さだった。
そんな時間が、何分も続いたような錯覚を、余人は憶えるだろう。だが実際には経過した時間は二秒にも満たない短い時間で、メフィストの返事も実際にはすぐだった。

「興味がない、と言えば嘘になる。如何な私とて、聖杯のオリジナルは見た事がないからな」

 だが、とメフィストは言葉を続けた。

「それだけだ。知識欲を満たす以上の役割を、聖杯には期待していない。願いについては、他の者にでも譲渡する気概だ」

「って、言ってますけど? おたくのサーヴァント」

 と、せつらが今度はルイに話題を振った。黒スーツを身に纏った金髪の紳士は、優雅な仕草で聖書に栞を挟み、音もなくそれを閉じ。
にこやかな笑みを浮かべて、せつらの方に向き直り、こう答えた。

「それで構わないよ。私は、メフィストの意思を尊重している」

 平然とルイの方もそう答えた。数秒程の沈黙が流れた後で、せつらはフッと笑みを零してから、口を開く。

「よく解った」

 すっくと立ち上がり、直立する黒い影の柱となったせつらが、メフィストの方に背を向け、一歩、また一歩。彼の方から遠ざかって行く。退室しようとしていた。

「行こうか、マスター」

「え? その、いいのでありますか?」

「良いよ別に。聞きたい事は聞けたしね。早く退散しないと、其処のヤブに身体を分解されちゃうぞ。真っ当な人付き合いが出来ないから、本とその中の知識しか友達がいない奴なんだからな」

 散々な事を口にしてから十数秒程した頃には、せつらは既に入口の所にまでいた。
遅れてアイギスも、彼の傍までやって来る。せつらがくるりとメフィストの方に振り返った。
遠目からでも解る、凍土の中で光るサファイアの柱めいたメフィストの美が、黒檀の黒とのコントラストを成していた。

「じゃ、また何れ」

「ああ、また何れ」

 そう別れの挨拶を交わすや、扉が無音で開き始めた。せつらとアイギスが、院長室から退室した。
部屋の中には、再びエラー聖書を開き始めたルイ・サイファーと、エクトプラズム製の椅子に背を預けるメフィストだけが遺された。

「彼を帰しても良かったのかい?」

 聖書に目を通しながら、ルイが訊ねて来た。

「機械の女の機嫌取りまで行うような恥知らずの人格は障害にもならんよ」

 冷徹にメフィストが返事を行う。「そうか」、と言ってルイもそれ以上の事は口にしなかった。

「“僕”の人格は、相も変わらず恥を知らないようだな」

 天窓に映る夏の青空を見て、メフィストはそう呟いた。今日も、天気予報にない豪雨が降るのであろうか?


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678 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:05:54 5.bIrmq.0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【サーチャー】

 メフィスト病院の院内を、霊体化させたせつらを引き連れて、アイギスが念話でこう言った。

【何かしたかい? マスター】

【あのメフィスト……と言う人はサーヴァントなのですよね?】

【アレがマスターで呼ばれる訳がないからね】

【何故、あの時倒さなかったのでありますか?】

 そもそもアイギスとせつらが、何故メフィスト病院にいるのか? それはせつらの要請でもあった。
元の世界での知り合いが運営していた病院と同じ名前の病院がある。その病院はしかも、この世界の<新宿>にはそぐわないしある筈がないものなのだ。
その病院の確認がてらに、寄ってみたい。せつらはそう言ったのである。そしていざ赴いてみたら、案の定せつらの知るメフィスト病院であり、その院長もやはり、であった。
と言う訳である。それは解る。だが何故、せつらはあの時メフィストを倒さなかったのか。それについて、彼女は理解が出来ずにいるのだ。
まさか昔の知り合いだから、気後れした、と言うのであろうか。解らない感覚ではないのだが……この聖杯戦争においてではやはり、問い質しておきたかった。

【色々あるが、先ずこの病院でアイツと戦いたくないんだよ。此処は、アイツのフィールドだ。この病院でアレと戦ったら、僕であってもどうなる事か】

 “魔界都市<新宿>”を身体で体現するとすら言われた秋せつらは、<新宿>に限って言えば知らない所などないと言われる程、その場所に精通していた。
しかしそんな彼でも、その全貌を把握しきれなかった場所がある。其処こそが、此処メフィスト病院なのである。
今でも、この病院には部屋数が幾つあるのか、どのような治療室が幾つあるのか、そして本当の収容患者数が幾つなのか。
せつらは愚か、彼が兎に角頼っていた<新宿>最高の情報屋である外谷ですら解らなかった程である。
曰く、この病院にはせつらは愚か、<新宿>区長であった梶原ですら把握できない場所に、秘密の分院が存在している。
曰く、今でもこの病院の何処かでは、医術の究極系である、死者を蘇らせる為の実験場が存在している。
曰く、この病院には、副院長や婦長と言ったメフィスト病院の要職ですら解らない場所に、<魔震(デビル・クェイク)>に関わったとされるある病人を匿っている。
全てが全て、噂であり、そして、あり得そうな話なのが、この病院の恐ろしい所である。実際せつらも、これらの話はある程度の事実に基づいているのだろうとすら思っている程だ。

 これらの話には、一つの共通項がある。それは、これらの噂の真実は全て、メフィストのみぞ知ると言う事だ。
秋せつらですら、メフィスト病院にこれらの施設や設備が存在するのかどうか、その確証は解らない。
せつらは愚か、病院に勤務するスタッフですら案内されない、知られていない領域がこの病院には幾つもある。
つまりこの病院のシステムの全貌や、本当の施設の数は、メフィストのみしか解らないのだ。あの院長室にしたって、侵入者を迎撃するシステムがもっとあるのかも解らないのだ。
そんな場所で、安心して戦える訳がないのだ。それに相手は、せつらが如何なる技を使うのか理解している。早い話がやり難いのだ。
何れにせよ、メフィストと戦うのであれば、この病院から引きずり出さねば安心も出来ない。アレは、せつらにすらも底を見せない白い魔人であるのだから。

 ――だが


679 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:06:31 5.bIrmq.0
【不利ってのもあるんだけど、アイツは生かしておいた方が得でもあるんだ】

【得、とは?】

【さっきも言っただろう。治療の中継地点として使うのさ、此処を】

【ッ、敵の治療を受けると言うのでありますか!?】

 念話越しでアイギスが驚くのも無理はない。思わず彼女はロビーで立ち止まってしまった。
同盟を組んでからであるのならば兎も角、同盟を組まないで、しかもあのような喧嘩腰のやり取りを交わした相手の治療を受ける等、普通に考えれば正気の沙汰ではない。
あのメフィストと言うサーヴァントやそのマスターは、如何にも聖杯には興味を示していなかったが、それらを抜きにしても、敵の治療を受けると言うのは忌避感がある。
これはアイギスに限らず、他の主従であってもそうであろう。彼女が抱く危機感は、常識的に考えれば至極真っ当な物である。だがせつらの返事は違った。

【あいつは患者の治療しか生きがいのない哀れな男なんだよ】

 念話越しに、せつらが続けた。感慨深そうな声であった。

【あいつはね、自分の治療技術を見せつけたくて見せつけたくて仕方がない目立ちたがり屋なのさ。だから、自分の治療技術を求める奴には、それに応えちゃうんだ。
例えそれが、後々自分の敵に回ると解っていても。例えそれが、この街を滅ぼしうる要因になると解っていても。あいつは絶対に治療を拒否しない】

 メフィストと言う男は、骨の髄まで医者である。彼は、自分を求めて来た患者を追い返すような真似はしないし、した事がない。
治療が出来ないからと言って、他の病院に回すような事をした、と言う噂など聞いた事もない。

 自分を頼り、最後の希望とする患者に対して、あの白い魔人は絶対の慈悲を以て応対し、その病巣を根絶する。メフィストと言う男は、そう言う人物なのだ。
例え、後々の自分の敵になると解っていても、彼は怪我も病気も治してしまう。治した後で、彼はその敵と対峙する。メフィストと言う男は、そう言う人物なのだ
自分が治療している患者を横取りされ、傷付けられ、自らの聖域であるメフィスト病院に害を成した者に対して、メフィストと言う男は悪魔となりて、地の果てであろうとも異世界であろうとも追跡し相手の息の根を止める。魔界医師とは、そう言う人物なのだ。

 とどのつまり、メフィスト病院の院長であるメフィストと言う男は、極限まで中立の立場を貫く男なのだ。
基本はせつらを贔屓しているが、状況次第では相手にもその力と知識を貸すし、そもそも全くの傍観者に徹する事だってある。
そんな男が、その中立のスタンスを崩す時は、一つ。患者を傷付けられ、横取りされ、病院に危害を加えた時である。
これらを犯さなければ、メフィストと言う男は体の良い治療屋なのだ。治療費も破格何てレベルじゃない程安いし、治療技術も驚く程高い。
だから生前もせつらは、怪我を負ったらとことんこの病院を利用してやっていた。この立場は、たとえ聖杯戦争でも絶対変える事はないだろうと言う自負がせつらにはあった。
そして事実その通りであった。実は今回メフィスト病院にやって来たのは、その確認の為もあるのだった。

【まぁ、精々利用し倒してやろうぜ。どうせ医術しか能のない奴なんだからさ】

 せつら以外の人物が口にすれば何が起こるか解ったものではない事を平然と言葉にするせつら。
取り敢えず今は、メフィストは脅威にはならないらしい。この男がそう言うのであれば、アイギスもそれに従う事とした。

【……ま、メフィストは何だかんだまだ解る相手だから良いんだ。敵に回れば確かに怖いが、今はそれ程怖くない】

【まるで……サーヴァントである、あのお医者様が、大して脅威にはならないとでも言うような口ぶりですね】

【あいつはね、自分の邪魔さえしなければ害にはならないよ。……僕はそれよりも、あいつのマスターの方に恐怖を覚えたよ】

【? あの金髪の紳士に、でありますか?】


680 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:06:50 5.bIrmq.0
 アイギスは、自分と同じ髪の色をしたあの黒スーツの男の姿を思い出す。
自分と同じで、せつらとメフィストの会話に一切割り込む事なく、ただ、薄い笑みを浮かべて本を読んでいたあの男を。
暗がりで本を読むその姿に、アイギスは、大それた恐怖を感じ取る事が出来なかった。何故せつらは、そんな男を脅威と見做しているのか?

【サーヴァントと言うものは、特別な触媒がない限りは、マスターの性格とある程度見合った存在が呼び出される事もあると言う】

 それは確かに、聞いた事がある。

【あのヤブを呼び寄せるマスターの事だ。どんな者なのかと考えてはいたが……断言出来る。あのマスターは、人間ではない。そして、メフィストよりもずっと危険だ】

 院長室に入った時――。
せつらは即座に、チタン製の妖糸を部屋中に張り巡らせ、トラップの類や、他に誰か潜んでいないか、と言う事を検分した。
結論から言えばあの院長室は、せつらの知るいつもの院長室ではあったのだが、一人だけ、信じられないような存在があの部屋にいる事を認識したのだ。
それこそが、あのマスターである、ルイ・サイファーだ。マスターが人間以外の存在である事は珍しくない。そもそもせつらのマスターがそうなのだから。
だがアイギスは、機械の乙女であると言う事は解っていた。あのルイと呼ばれる男は――人間以外の存在であるのは確かだが、『それが如何なる存在なのか』、
秋せつらの糸探りを以ってしても把握出来なかったのだ。まるで、水の中に糸を突っ込んでいるような感覚だった。捉え所がない。
メフィストのマスターは、人の形を真似した無窮の怪物ではないのか?人の形をした水ではないのか? 
人の似姿で<新宿>に現れた、宇宙の虚無ではないのか?

 解らないと言う事は、ある種姿が把握出来ている災厄や災害よりも恐ろしい事がある。
せつらの妖糸の技ですら理解が出来ない事象となれば、彼自身が不安感を覚えるのも、無理からぬ事なのだった。

【どちらにせよ、警戒はしておいた方が良い。何せ、『メフィストの方針に何の文句も言わない男』何だからね】

【……言われて見れば、そうでありますね】

 アイギスも漸く気付いたらしい。
そもそも真っ当な感性を持ち合わせたマスターであれば、あの場で敵対者にも等しい他参加者の秋せつらとそのマスターが、自らの牙城に入って来たにも関わらず、
黙って見逃すと言う行為や、一般のNPCの為に治療の門戸を開く、と言う行為は到底許せる筈がないだろう。
それに対して嫌な顔も見せない、と言う事実だけでも底が知れない。成程確かに、言われて見ればその通りだ。警戒しない訳には行かないだろう。

【まあ何にせよ、確認したい事だけは知る事が出来た。早く西新宿に戻ろうか】

【ええ、解りました】

 ロビーに立ち止まっていたアイギスが、再び歩き出し、病院の外へと向かい始める。
夏の朝の灼くような熱を内包した光がアイギスに降り注ぐ。今日は終日、晴れ模様になるとの事らしかった。


.


681 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:09:10 5.bIrmq.0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 せつらが院長室を出てから、十分程が経過した時の事だった。
穢れの知らない白き闇が、院長室の自動ドアからスッと姿を現した。
風もないのに緩やかにはためくケープを纏うその魔人の名前はメフィスト。ゲーテの有名な戯曲の中に出てくる、あの悪魔の名を冠した医者。魔界医師。
――そして

「御客人との会話はいかがでしたかな」

 院長室の自動ドアの真正面の壁に、実体化した状態で背を預ける、長身の男がいた。
三mにも届こうかと言う体躯を持ちながら、その身体には厚みがなく、太みも無い。まるでナナフシの様に細い胴体と手足を持ち、
目の当たる部分だけ適当な丸い穴を空けた紙袋を頭に被せたその男こそ、『ファウスト』。同じくゲーテの戯曲の中に出てくる、メフィストに誘惑された老博士と同じ名を持つ、サーヴァント。

「相変わらず男らしさの足りぬ者だと、嘆かわしいばかりだった」

 目の前の男が何者であるのか、と言う誰何をせず、メフィストはそう答えた。
憂鬱気にそう答えるメフィストの仕草は、実に美しい。ファウストが思わず目を伏せて離さねばならない程には。しかしもはや、このランサーの瞼にはメフィストの美が焼き付いていた。

「さて」

 其処でメフィストが、言葉を区切った。それと同時にファウストも、身体を屈ませ始めた。直立すれば天井スレスレな程の身長を持つファウストにとって、棒立ちの状態は窮屈なのである。

「君の存在は何日も前から知覚していた。今は君一人だが、マスターの不律先生は来なくて良いのかね」

「やはり気づかれておりましたか。私の存在も、私のマスターも」

 ファウストはやはりと言った様な口ぶりでそんな事を言って来た。気付かれていると言うのはおおよそ解り切っていた事だ。今更驚くに値しない。

「マスターは今患者の回診に向かっております。私が此処におりますのは、マスターから貴方と一対一の会話の時間を許可して貰いましたから」

「聖杯戦争の参加者でありながら、自らの医者としての職分を忘れなかったか。後で不律先生の所に戻ったら、見事だと言っておきたまえ」

 素性の知れないサーヴァントに、お前と会話しに来た、と言う旨の言葉を告げられても、メフィストは平然としていた。
それどころかこのキャスターは、ファウストをマスターの下へと帰還させるつもりですらいるらしい。余りの底知れなさに、ファウストも思わず冷や汗をかきそうになる。

「先ず初めに、真名を明かす事は得策ではないと言うマスターの意向があります故、クラス名で話し合いをすると言う非礼をお許し下さい。
クラス名はランサー。私は今貴方と事を争うつもりは断じて御座いません。貴方も気付いておられるでしょうが、今院長室の周りには人払いの法術を展開しております。
ですが、ご安心を。貴方の力が必要な救急患者が搬送された場合には、即座に解くつもりでおりますので、気を悪くしないで下さい」

「要件を伺おう」

 話し合いに足るサーヴァント、と言う認識を持ったらしい。メフィストが、紙袋の奥底で光るファウストの瞳に目線を集中させた。
両膝を曲げ、上体を屈ませた状態で漸くメフィストと同じ目線の高さになると言う、規格外のファウストの身長であった。

「Dr.メフィスト。貴方の治療の腕前、霊体化した状態で盗み見るようで恐縮ですが、拝見させて戴きました。……素晴らしい技倆であると、言わざるを得ません。私も同じ医道に携わる端くれですが、貴方の如き腕前には、届いておりません」

 これは心の底からファウストは言っていた。
法術を利用した治療と言うのは、彼のいた世界でも珍しくなかった。しかし、法術は必ずしも万能の理ではなく、必要とあらば、原始的で、しかしそれでいて一番確実な、
麻酔を施してから身体を切開し、内部の病巣を手術で取り除くと言う方法もメジャーであった。
だが、メフィストはどうだ。秘術或いは魔術で病巣を、児童文学の中に出てくる魔法みたいに取り除き、必要とあれば病巣を、メスも麻酔も使わず取り除く。
どうやって? そう、メフィストは相手の身体に触れるだけで、病んだ内臓や主要、折れた骨を、患者の皮膚や筋肉を傷付き損なわせる事なく外部に摘出出来るのだ。
ファウストから見ても、恐るべき医術の腕前なのである。この世界の一般人からして見たら、魔法だ奇跡だと言わずして何と言うのだろうか。

「ほう、君も医者なのかね、ランサー」

「恥ずかしながら」

 そのたった七文字の言葉に、どれだけの含蓄が込められていたのか。
それを知るのは、嘗て一人の少女を、裏で糸引く陰謀があったとは言え、手術で殺してしまったファウストだけであった。


682 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:09:55 5.bIrmq.0
「一目見ただけで優秀な医者かどうかは解る。君は、この病院で働くに相応しい医者だ。如何かね、今なら面接抜きで採用するが」

「有り難い申し出ですが、私は一つ所に身を置く性分ではありませんので……、流浪の医者、と言う奴ですな」

「フム、残念だ。臓器もそうだが、優秀な医師も喉から手が出る程欲しいのだが」

 一瞬、凄まじく物騒な事を口にするメフィストであったが、その発言をファウストは聞かなかった事とした。

「……Dr.メフィスト」

「何か」

 腕を組み、背後の自動ドアに背を預ける形でメフィストが問うた。

「貴方もやはり、聖杯を求めておられるので?」

「その問いは、先程の客も聞いて来た」

「それに対し、貴方は何と」

「興味はあるが、かける願いはない。それ以上でも以下でもない」

「無欲、ですな」

 これもある程度ファウストの予想していた言葉だったらしい。さして驚きはしなかった。

「君は聖杯を欲しているのかね、ランサー」

「実は私も、聖杯にかける願いは特にないのですよ。あるとすれば……」

「あるとすれば」

「可能な限り、人を救う事、でしょうか。医者は、治す事が仕事ですから」

 紙袋の穴の奥で光る、発光体の瞳が光った。ふむ、とメフィストが短く言った。

「崇高な信念だ。少なくとも、私よりは」

「貴方は、違うと?」

「私は、私を求める者だけを救う。私の力を頼る者だけを癒す。そう言う医者だ」

「目の前に、病に苦しみ、傷付き倒れそうな者がいても、ですか」

「ランサー。病や傷と言うものは、その当人を識別する上で重要なパーソナリティだ。神が人に与えた聖痕(スティグマータ)だ。
それを誇りにし、バネにする者もいれば、それを嫌悪し、癒したがる者もいる。人は病や怪我を治す権利もあれば、それを受け入れる権利もある。
つまり、掛かりたい医者を選ぶ権利だって当然ある。私が治す患者は、私を求めた者だけだ、ランサー」

「Dr.メフィスト。その言い方では私には、貴方が患者に依存している医者である、と宣言している様にしか聞こえませんよ」

「かも知れないな。自分でも、時折自覚する」

 悪びれもなく、メフィストは口にした。翳のある姿だった。
人が来ない、時間の都合上陽もやや当たらない場所で佇むメフィストの姿は、神韻縹渺とした墨絵を連想させる美があった。

「もしも、私が聖杯を手に入れ、『この世から病と言う病を失くす』、と願うとしたら、貴方はどうするおつもりでしょうか?」

 心を強く持ちつつ、ファウストは、メフィストに訊ねた。嘗てない程、彼の心は強固だった。無理もない、この男の美は、真正面から臨むには危険過ぎる。
こうでもして、己の心を鋼でコーティングしないと、美に呑み込まれると判断したのだ。そして、こんな問いを投げ掛けたのには、意味がある。
これに対して、憤るか、それとも受け入れるかで、今後のメフィストとの付き合いを判断する、と言う事だ。果たして――

「前提からなってない」

 悪魔の名を冠する医師は、駄目押し以て返した。

「君は、いや、曲りなりにも医者であるならば、確実にそんな願いを託せない。況してや君の様な聡明で、腕の立つ医者ならば、な」

「……何故、でしょうか?」

「医者は、病の存在があってこそ初めて成り立つ人種の事を指す。人は、芽吹いた悪意の芽は刈り取れても、その種子までは焼き払えない。
その芽を刈り取る事で潤い、自己を保てる存在がいるからだ。医者から世界に蔓延する病を取り上げると言う事はつまり、己のレゾンデートルの喪失に等しい」

「全ての医者が、そうであると思うのは傲慢です。病の根絶に尽くす者もいれば、利潤を求める為に癒す者もいる。全てが全て、貴方の言った通りの者だけとは限りませんよ」

「無論その通りだ。だが、君はそのどちらでもないのだろう、ランサー」

「……と、言いますと?」

 ふぅ、と息を吐いてから、メフィストが言った。


683 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:10:18 5.bIrmq.0
「――多くの医師を見て来たが、君の様なタイプは初めて見るかもしれんな。過去への後悔から、医者を続けている者は」

「……!!」

 一際強く、ファウストの瞳が光った気がした。メフィストの目は対照的に、冷たかった。冬至の日の太陽の様に。熱放射機能が死に掛けている、老いたる太陽のように。

「何があったのかは解らないが、過去に誇りを持てぬ医師と言うものには患者も敏感だ。それはつまり、医師への不信感を招きかねない。次に会う時には、それを改めたまえ」

 バサッ、とケープをはためかせ、メフィストが歩き去って行く。
その最中に彼は言った。「君とはもう少し話していたかったが、院内の用事を片付けてからだ。人払いは解除しておきたまえ」、と。
白い魔人は、ファウストの視界から消え去り、霊体化したファウストですらが未だに全貌を把握できていない、メフィスト病院の何処かへと去って行く。
遺されたファウストは、痛い所を突かれた衝撃から立ち直り、ふぅ、と息を吐いた。永久凍土の中に転がる巨大な氷塊の様な冷たさと重苦しさを宿した美との対峙から、解放された、と言う事実も其処にはあった。

「……恐ろしい方だ」

 自分とは全く違う、医道に対する心構えを持つ男。ファウストの中で、メフィストに対する新しい認識が生まれた。
好ましいタイプの医者ではない。寧ろある意味では、利益や利潤を求める為だけに医術の腕を振う医者の方が、まだ良心的とすら言えるかも知れない。
だが、ファウストは感じていた。あの男の心の中で燃えている、断固たるプロフェッショナリズムを。自分を求めて来た患者だけは救うと言う、鉄の意思を。

 ――ああ、しかし。それにしても。

「過去への後悔から、ですか」

 見透かされているとは思わなかった。あの時一瞬だが、ファウストの脳裏を過ったのだ。
急激な勢いで平らになって行く心電図。止まらない血液。慌ただしく騒ぐ医師や患者達。混乱する、自分。
自分の道を狂わせた、あの時の手術の事を。無辜の少女を殺してしまった、忌まわしい記憶を。
ファウストはその日から狂い、世界を震撼させる殺人鬼となり、ある一件で正気を取戻し。可能な限り、人を救うべく活動する医者として活動するようになった。
それは罪滅ぼしである。それは贖罪である。自分が犯した許されざる罪に対する罰である。英霊となった今でも、そう言った奉仕の心は忘れていない。だが。

「私もまた、患者と病に依存する、か弱い医者なのでしょうかねぇ」

 ファウストと呼ばれる男の行う、病を癒し怪我を治すと言う奉仕活動は結局の所、病や諍いがあって初めて成り立つ贖罪なのである。
この世からこれらを根絶すると言う事は、ファウストの罪滅ぼしを行う為の基点がなくなると言う事に等しい。
何て事はない、メフィストの事を言えないのだ。彼もまた、病と患者に依拠する、弱くて儚い医者だったのである。

 ファウストの中で、メフィストの言葉は銅板に文字を刻むが如く、強く残った。
もしかしたら、ゲーテの戯曲の中で、メフィストに誘惑されたファウストもまた、こんな心境であったのかも知れない。

「……例え私が病に依存する医者だとしても、私の在り方を曲げるつもりはありませんよ。Dr.メフィスト」

 そう一人口にしてから、ファウストは廊下に張り巡らせていた人払いの法術を解除した後、直ちに霊体化を行った。
後には、早朝八時半の、<新宿>の朝の明るさだけが、廊下に残るだけだった。


.


684 : “黒”と『白』 ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:10:30 5.bIrmq.0
【四ツ谷、信濃町方面(メフィスト病院)/1日目 午前八時半】


【アイギス@PERSONA3】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]自らに備わる銃器やスラスターなどの兵装、制服
[道具]体内に埋め込まれたパピヨンハート
[所持金]学生相応のそれ
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる
1.マスターはなるべくなら殺したくない
2.サーヴァントだけを何とか狙いたい
[備考]
・メフィスト病院に赴き、その帰りです
・メフィストが中立の医者である事を知りました
・ルイ・サイファーがただ者ではない事を知らされました


【サーチャー(秋せつら)@魔界都市ブルースシリーズ】
[状態]健康、霊体化
[装備]黒いロングコート
[道具]チタン製の妖糸
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の探索
1.サーヴァントのみを狙う
2.ダメージを負ったらメフィストを利用してやるか
[備考]
・メフィスト病院に赴き、メフィストと話しました
・彼がこの世界でも、中立の医者の立場を貫く事を知りました
・ルイ・サイファーの正体に薄々ながら気付き始めています
・不律、ランサー(ファウスト)の主従の存在に気づいているかどうかはお任せ致します


【ルイ・サイファー@真・女神転生シリーズ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]ブラックスーツ
[道具]無
[所持金]小金持ちではある
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯はいらない
1.聖杯戦争を楽しむ
2.????????
[備考]
・院長室から出る事はありません
・曰く、力の大部分を封印している状態らしいです
・??????????????


【キャスター(メフィスト)@魔界都市ブルースシリーズ】
[状態]健康、実体化
[装備]白いケープ
[道具]種々様々
[所持金]宝石や黄金を生み出せるので∞に等しい
[思考・状況]
基本行動方針:患者の治療
1.求めて来た患者を治す
2.邪魔者には死を
[備考]
・この世界でも、患者は治すと言う決意を表明しました。それについては、一切嘘偽りはありません
・ランサーと、そのマスターの不律については認識しているようです


【ランサー(ファウスト)@GUILTY GEARシリーズ】
[状態]健康、実体化
[装備]丸刈太
[道具]スキル・何が出るかな?次第
[所持金]マスターの不律に依存
[思考・状況]
基本行動方針:多くの命を救う
1.無益な殺生は余りしたくない
2.可能ならば、不律には人を殺して欲しくない
[備考]
・キャスター(メフィスト)と会話を交わし、自分とは違う人種である事を強く認識しました
・過去を見透かされ、やや動揺しています


685 : ◆zzpohGTsas :2015/09/07(月) 03:11:18 5.bIrmq.0
投下を終了いたします。NGワードに引っ掛かり投下間隔に時間が空いた事、そして予約内容とは違い、不律が出なかった事を、この場で謝罪します


686 : 名無しさん :2015/09/07(月) 21:16:50 TgX0Ht0o0
投下お疲れ様です
相変わらず氏の地の文には引き込まれますね
せつらとメフィストがどれだけ美しいかの描写が押し寄せるように伝わってきました
同時に<新宿>と関わりが深い両者だけにとんでもない大物だという凄みが感じられます
迂闊に敵に回したくはない鯖だ
そしてファウストは念願のメフィストとご対面
医者同士の会話だとメフィスト先生もファウスト先生もいいキャラしてるなぁ
もしかしたらファウストが屈んだのは窮屈だからだけではなくメフィストの美しさに頭を下げる意味合いもあったのかもしれない


687 : 名無しさん :2015/09/08(火) 00:48:03 eWe.WS2A0
すごいな
流れるような文章だわ
菊地秀行読んでみたくなる


688 : ◆zzpohGTsas :2015/09/09(水) 20:13:48 snXmwMCQ0
葛葉ライドウ&セイバー(ダンテ)
予約します


689 : ◆2XEqsKa.CM :2015/09/11(金) 00:57:00 oJPgsPyU0
皆様投下乙です!

>二人の少年
日常生活を怠らず、過分な妄執も持たず、協調する主従を探す。
圧倒的な力を持つ者たちより、彼らのような結びつきの強い組の方が聖杯戦争においては強敵になると思わせるお話でした。
このライダーは主に仕えるサーヴァントとしては正に100点満点の高潔な人格者ですね。マスターとの絆を最後まで守り続けられるかが非常に気になります。

>"黒"と『白』
一方こちらは我が強い、強すぎるサーヴァントたち!何だこいつら……菊池作品かよぉ
無闇に敵対者を増やさない、聖杯?うーんそこまで……なのに数々の描写から伝わってくる触れたらヤバイ感!
この<新宿>に深く根を張る者が潜むでもなく住まうメフィスト病院、院長の美しさに惹かれてか治療を求めてか、聖杯戦争の参加者たちが多く寄ってくる気がします。


私の『予約』ですが、出端から申し訳ないのですが『延長』させていただきます。12日の夜には投下できる予定です、申し訳ありません。


690 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 01:53:42 D4U7d91M0
投下します。


691 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 01:54:39 D4U7d91M0


「じゃあ、行ってくるから。手はず通りに頼むぜ。あとスーパー行くとかいって外には出ないようにな」

「はいはい。うっかり死なないようにね」

はいは一回、と心中で呟きながら、俺はあばら家を出る。鍵の束をポケットにねじ込み、庭に置いてる自転車を脇目に歩き始めた。
ここ<新宿>で俺に与えられた日常は、かって佐藤十兵衛という人間が過ごしたそれと似ているが、何処かが致命的に違うというもの。
学校はある。学友もいる。教師もいる。ケータイだって普通に使えるし、ネットも当たり前に繋がる。社会活動に不自由は一切感じない。
何故か俺と会わないように立ち回っていたが、先日ついに発見し佐藤十字軍(クルセイダーズ)高位聖職者という己の役職を再認識させてやった親友・高野くんもいる。その最愛のビクトリアもな。
俺の知る人物の皮を被ったNPCは俺に関する記憶を大幅に削減されていたが、元から深く心が繋がった連中というわけでもない。僅かな時間で、俺に心服あるいは屈服させる事は容易だった。
だが俺の家はなかった。当然妹の萌(もえ)もおらず、俺の頭が『自分の家がある』と認識している場所にはグレードがだいぶ落ちた一軒家が建っていた。
富田流の道場もなく、文さんもいなかった。こればかりは、正直こたえる。あんなおせちを作れてしまうようなオッサンでも、俺の中では大きな存在になっていたんだなって……。

「ってそんな事思わんわ! 喋り相手が減っただけだっちゅうの!」 気持ち悪う!(『喧嘩商売&喧嘩稼業』を読破し、たまに出てくる墨文字がフキダシ外に表示される漫画的表現を想像してください)

色々と環境が変わったとはいえやる事は同じだ。目的達成の為に頭を回し、実行手段として喧嘩を選ぶ。喧嘩には良心はいらず、貴卑の取捨も不要。
とはいえこの聖杯戦争、俺の視点からすれば『色々と』で片付けられるほど些細な変事ではない。
先ほど俺を見送ったセイバー……比那名居天子をおだてて聞き出した、サーヴァントや聖杯戦争に関する知識を思い返す。
新宿に来た時点で頭の中に基本的な知識が入ってくる感覚を覚えたが……あまりに突拍子もない内容で、同じく突拍子もない存在のセイバーに裏付けてもらう必要があったのだ。
どうもこの聖杯戦争、本来は魔法使いや魔法少女のような連中が行う闘争らしい。
事前知識もなくいきなり巻き込まれた俺のような奴が何人いるかはわからないが、基本的にはマスターたる者は魔術に類する神秘を学んでいるはず。
例えば化学を超越した現象の突発、例えば効能が実在する呪術、例えば異形の怪物の使役。その他、思いもよらぬ術を使う相手もいるだろう。
俺の喧嘩相手にも、流石に脇からビームを出すような敵はいなかった。
戦闘において俺にはその手の神秘に対する心構えが出来ていない。早急にマスター達の戦力がどの程度のもので、俺をどれだけ上回っているのかを把握する必要があるだろう。
ポケットの中の鍵の一つに意識が移る。昨夜、この不思議な鍵を通して告げられた本戦開始の通知は、全てのマスターに届いている事だろう。
目の前の往来に広がる通勤通学途中の人間の中にも、俺と同じように息を潜めて獲物を狙うマスターが存在するかもしれないのだ。

「簡単に尻尾を出してくれる馬鹿が多けりゃいいんだが」

連日ニュースで報道され、開始直後に討伐令を出されるほど派手に動き回る者ばかりでもないだろう。
二組の愚か者たちがやらかした凶事に共通するのは、NPC100人以上の殺害。
各マスターが魂食いをやらなければならない状況に陥ったとしても、これを目安に極力行為を抑えるはずだ。
もっともサーヴァントは埒外の存在。自分の存在維持が危うくなればマスターの抑えが利かなくなることも十分にありうる。
遠坂凛とセリュー・ユビキタスの擁するサーヴァントは特に制御が難しいであろうバーサーカー。暴走の原因も大方想像はつく。


692 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 01:57:51 D4U7d91M0


「持ち馬の手綱の握り方にも気を遣わなきゃならんが、相手の馬と鉢合わせたらどうにもならないってのがな……」

実はこの俺、サーヴァントという存在がどの程度頼りになるのか試した経験があった。
セイバーに「一日実体化してていいから、隙が出来たときに攻撃してみていい?」と提案したら自信満々で快諾してきたので、寝ている時に忍び寄って金剛を打ち込んでみたのだ。
打ち込んだ瞬間、巨岩……それも金剛石の感触を"金剛"を放った俺の拳の方が感じた。冷や汗をかく俺にセイバーは片目を開け、「もう、寝てる時はやめてよ。次は怒るわよ」とだけ告げて二度寝。
対人間の技術では、文字通り蚊に刺されたほどにもダメージを受けない怪物。マスターの数がわからない以上、こんな化け物が新宿にどれだけ潜んでいるかもわからないのだ。
金剛が効かない事に、自信の喪失すら起きない程の絶対的な差。俺は聖杯戦争において、戦略が意味を成さないことを即座に理解した。
全ての主従を撃破し、聖杯を手にする必勝戦略を構築したとしても、サーヴァントの持つ突出した多様な力はその戦略を飴細工のように粉砕するだろう。まさしく神話の英雄や怪物のように。
一戦に勝利する為の戦術が役に立たないとは思わないが、長期的な視点に拘る事はかえって敗北を招く予感がある。

「ま、ビビってても何にもならんわな。……おっ、いたいたスライムベス」

定刻通りにいつもの横断歩道で信号待ちをしている赤シャツのヤクザを発見し、背後に忍び寄る。
ヤクザが振り向く前に、背中にセイバーから預かった二つの小岩の片方を突きつけて囁く。

「振り返ったら殺す」

「!? その声……テメー、妻夫木聡似の……」

「今は向井理と名乗っている」

赤シャツが硬直し、俺の一挙一動に集中する。向かい合うよりこの体勢の方が、情報を引き出すには都合がいい。
室内に踏み込む前に俺とセイバーの会話を盗み聞く抜け目なさを持ち、その他愛ない会話の内容も覚えているこの赤シャツ、やはり俺が襲撃した事務所にいた連中のブレイン役のようだ。
佐藤クルセイダーズを動員し、こいつと他2名ほどに絞って素行調査を進めさせたのは正解だったか。


693 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 01:58:51 D4U7d91M0

赤シャツが硬直し、俺の一挙一動に集中する。向かい合うよりこの体勢の方が、情報を引き出すには都合がいい。
室内に踏み込む前に俺とセイバーの会話を盗み聞く抜け目なさを持ち、その他愛ない会話の内容も覚えているこの赤シャツ、やはり俺が襲撃した事務所にいた連中のブレイン役のようだ。
佐藤クルセイダーズを動員し、こいつと他2名ほどに絞って素行調査を進めさせたのは正解だったか。

「お前ら、筋モンにあんな真似してタダで済むと」

「そういう定型文はいいから。もう聞き慣れてるから。今日はちょっと聞きたいことがあってお邪魔しました」

「何を聞きたいか知らねーが脅されたくらいで答えるとでも……」

「そんな事言っていいんですかな? 倒れているあなたたちを見かねて救急車を呼んであげたのはこの向井理なんですよ」

倒したのもテメーだろ、と言いたそうな気配が伝わってくるが、続く俺の声を聞いて赤シャツはその言葉を飲み込んだ。

「襲撃の際に暴漢に組員全ての携帯を盗み見られ、全員の家族構成や交友関係を抜かれたかもしれないというのに大した自信だな」

「……ま、まさか」

「今日は俺の相棒である胸板だけ成宮くんにそっくりなダークナイトちゃんはここにはいない。誰のそばにいると思う?」

「良子に手を出す気か……」

良子というのが誰かは知らないが、勝手に勘違いしてくれたようで何よりだ。
俺は信号が変わったのを確認し、「歩けよ」と促して横断歩道をゆっくりと渡りながら情報を引き出す。
赤シャツは俺の望む情報を持っていた。とある事件の噂の真偽と、事件が起きた場所の情報だ。
都合のいい事に、セイバーからの"おつかい"の帰りに寄れる位置にある。
俺はスライムベスを解放し、振り向く事が出来ず歩いていく雑魚モンスターが視界から消えるのを確認して目的地へと向かった。


694 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:02:04 D4U7d91M0



"おつかい"を終えた俺は、先ほど得た情報を頼りに一棟のビルに辿り着いた。
<新宿>にまことしやかに流れるゴシップの一つ、『メイドがヤクザを壊滅させた』という噂の出所がここだと知る人間はそう多くないだろう。
赤シャツの情報が正しければ、その噂は大筋で真実。同系列の組連中の必死の隠蔽も虚しく拡散されたが、なんとか噂で止められた、という話だ。
たった一人に事務所に乗り込まれて組員皆殺しとなれば、面子以前に親組織の面目さえ立たない。警察はもちろん、商売敵にも内密に処理する必要があったのだろう。
赤シャツからスリ盗った金バッジをビルの管理人に見せ付けて入れてもらった事務所は完全に清掃されていたし、清掃の際にも下手人の身元特定に繋がるような物証は見つからなかったらしい。
実際に現場に入った赤シャツの話では、その虐殺ぶりは人間業とは思えなかったとの事だ。唯一の手がかりとなるのは監視カメラの映像。
残念ながら事務所内には設置されていなかったが、エントランスのカメラがメイド服を着た女と飾り気のない服装の少年の姿を捉えていた。
管理人室でその映像を見ながら、その容姿と挙動を記憶する中、ふと疑問が浮かんだ。

「……ねえおじさん、このホールのカメラってこれ映したときと今で何か変わりある? 映してる場所から見えないように隠してたかって質問だけど」

「いえいえ! 何もいじっちゃいません、取り付けてからずっと、カメラはむき出しのままです」

「ま、予想的中か」

俺の言葉の意味が分からず困惑する管理人をよそに、俺は映像を再生し続ける。
女の視線が、カメラを射抜き……そのまま歩き去る。監視に気付いていながら放置しているのだ。
ヤクザの溜まり場を襲撃して武器を奪っておきながら、あえて映像を残していく。つまり、身元が割れる心配をハナからしていない。
圧倒的な戦闘力と合わせて考えれば、間違いなく外からこの<新宿>に足を踏み入れたマスターとそのサーヴァントと見ていいだろう。
さらに言えば……と、俺の思考が止まる。ケータイが甲高いソプラノの悲鳴を上げた。かって打ち負かした柔道家、金田保の絶叫というイカした着メロだ。

「あっ、若衆さんもそれDL購買したんですね。ネットで流行ってるやつ」

「流行には敏感でね」

管理人が反応したように、金田の悲鳴は某サイトで着メロとして好評発売中。俺の為の軍資金稼ぎとして役立っている。
これが相当数売れる事が、この街が少しずつ暗い雰囲気になってきているひとつの証明と言えるのかも知れないな。
着信相手を確認すると、まさにこの着メロの販売サイトの運営を任せている佐藤十字軍の男からだった。
彼には俺がビルに入った後の周辺の監視を任せていた。回線を繋ぎ、報告を無言で聞いて「ご苦労」と労い立ち上がる。


695 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:03:24 D4U7d91M0

「うちの組系統の人間以外で、嗅ぎつけてここまで来た奴っていたかな?」

「はい、外国人の男が一人、つい昨日。追い返しましたけどね」

「多分同じ奴だと思うんだけど、そいつが外に来てるってさ。俺が追い払うから、おじさんは仕事に戻ってね」

返事を待たず、部屋を出る。懐から小岩を取り出して握り締め、一応カメラに映らないように考慮しながら、エントランスから外に出た。
自動ドアが開いて外に一歩踏み出してすぐ、来訪者の姿は発見できた。
俺から見てもとんでもなくガタイのいい、屈強な男。喧嘩も強そうだ。マスターとしての目で見れば、サーヴァントでないことだけは分かる。アサシンといった様子でもない。
表情と服の下に隠れた筋肉の緊張具合から即刻の交戦意思がない事を察し、臆せず歩み寄ってくる俺を、男は驚いたように見つめていた。だが隙はない。

「魔術師って感じじゃねえな」

「君は……」

「現代格闘富田流。セイバーのマスター、佐藤十兵衛だ」

躊躇なく名乗った俺に、男の驚きの表情が更に深まる。まだ、決定的な隙は生まれない。半端な修羅場をくぐってきた奴ではないらしい。
ポケットに突っ込んだ両手を握りこみ、いかなる事態にも即応する為、『無極』による自己暗示で外面には出ない部分を研ぎ澄ます。
だが男は豹変して牙を剥くこともなく、朗らかな笑顔を浮かべて名乗り返してきた。同時に、空間が歪んで二人目の男が姿を現す。

「僕はジョナサン・ジョースター! 彼はアーチャーのサーヴァント、ジ……」

「マスター、真名は隠さないとダメだ。出会ったばかりの敵マスターには特にな」

「日本語上手いな……しかしアンタ、サーヴァントを連れ歩いてるのかよ」

霊体化させても、優れたマスターならば発見しそのサーヴァントのマスターを特定できるかもしれないと危惧して一人でここまで来たが、流石に無用心だったか。
一応の緊急避難策はあるが、相手がサーヴァントでは殆ど役には立たない。今後は慎もう、と心に決め、俺はジョナサンに話しかけた。

「戦いに来たってわけじゃなさそうだけど、聖杯戦争の参加者同士だ。聖杯を求めて殺し合うってんならこっちもサーヴァントを呼ぶが……」

「安心してくれていい。僕には聖杯を求めるつもりは一切ないからね。ここには、別の用事があって来たんだ」

「んん? 聖杯欲しくないのに聖杯戦争に参加してるの? なんで?」

「参加したのは偶然だよ。僕はこの聖杯戦争を止めたいと思っている」


696 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:05:31 D4U7d91M0

「キリストの血を受けた杯が、教圏でもない場所に出現して敬虔な教徒でもない人間を相争わせ、勝ち残ればなんでも願いを叶えると言い出す。どう考えても信用に足らないと思わないか。
 聖杯の力は本物だとしても、その力を発揮する為の手段にしても、本当に持ち手の為に力を発揮するのかどうかも、はっきり言って疑わしい」

……予想はしていたが、"志願して参加している人間"ばかりでない以上、願いがないマスターもいるのか。
俺にしたって、負けるのは絶対に嫌だが欲しくもないニンジンを餌に走らされるのは面白くない。
ジョナサンは感情で、そのサーヴァントは理屈で、この聖杯戦争を頭から否定しようとしている。
俺達を呼び寄せた存在の詳細さえ明確になれば、他のサーヴァントを全て打倒して聖杯に至るよりはむしろ現実的で理性的な考えといえるだろう。だが……。

「今、このビルの中で他のマスターとサーヴァントが映った録画を見てきた。ヤクザを皆殺しにしたふざけた服装の女と、俺とそう変わらない歳の男だ」

「……僕たちも、その噂の真偽を確かめにここに来た。十兵衛君はよくあの管理人さんから聞き出せたね」

「まあ、ちょっとしたコネでね。で、聖杯を獲るためなら魂喰いもやるような奴が、最低三人はいると分かったわけだ。願い事が叶うと言われりゃ、すがる奴はもっと大勢いるだろう」

「そうだろうな。それで?」

「それでってアーチさん。言わなくても分かるでしょ……俺だってアンタらが本気で聖杯戦争止めたい!言ってるのは分かるけどさ、そういう連中は納得しないだろってこと。
 そいつらはどうするの? 言う事聞かない奴はドンドンぶっ倒していくってんなら、結局聖杯戦争やってる事にならないのかな?」

「大丈夫! 願いは結局、自分の力で叶えないと叶ったことにはならない。万能の願望器を獲得する為だけに手段を選ばず努力するという事は、願いを自分の手で叶える事への諦め……いや冒涜だ。
 そうやって叶えられた願いは、必ず本人を不幸にする。それを分かってもらうまで、僕は夢や祈りを持つ人たちに何度でも語りかけるよ。一人の男として、その為の労を怠るつもりはない!」



こいつ……マジモンじゃねーか……。正直憧れるほどカッコよくはあるが、実際に目の前にいると非常に扱いに困るタイプの人間だな。
ジョナサンさんにはジョナサンさんなりに、こういう言葉をスッと吐けるに至るまでの悟りや経験があったんだろうが、正論をぶつけられれば、歪んだ人間はよりその歪みを増す。
諭された人間の大半はジョナサンの真意を理解しようとせず怒り狂い、その怒りを周囲にぶつけるだろう。傍にいて愉快な事になる人間とは思えんな。
俺はなるべく彼と深く関わることを避ける事を避けるべく、「管理人さんに映像を見せてもらえるようお繋ぎしましょうか?」と敬語で提案する。


697 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:06:40 D4U7d91M0

「いや……その必要はなさそうだ」

「ん? うおっ」

空中で、何かが弾ける音。音を立てた物が何なのか認識して、生理的嫌悪感が湧き上がる。
一つは銃弾。地面にめり込み、アスファルトを砕いて砂煙を上げる。そして空中で銃弾の軌道を変えたのは……爪。
もう一つは誇張なしに、人間の爪だった。発砲音がしなかった事から、消音器を付けた銃から撃ち出されたであろう凶弾に"自分で"反応できたのはこの場において一人だけ。
アーチャーのサーヴァントを見れば、左手薬指の爪が剥がれていた。恐らくは、サーヴァントとしての能力だろうな。
銃弾を撃った人間が狙ったのは、どうやらジョナサンだったらしい。アーチャーの視線をなぞり、襲撃者の姿を探す。
見つけた。"普通"の格好をしていたので一瞬気付くのが遅れたが、ヤクザ事務所が入っていたビルの向かいの建物の3階……マンションの一室のベランダから銃を突き出す女は、間違いなくあのメイド。
狙撃の失敗を気にする事なく不適に嗤いながら、一息に飛び降りる。空中で不自然に減速し、着地と同時に背後に少年……サーヴァントを実体化させて。

「50m圏内にサーヴァントがいるのは分かっていたが、マスターの方から姿を現してくれるとはな」

「やっぱり張ってたか……わざわざメイド服着てカメラに映って、噂も自分で流してマスター釣りってとこかな?」

「彼女がそうか。十兵衛君、サーヴァントを呼ぶか、逃げるかした方がいい」

「はいはいっと。じゃあ逃げさせてもらおうかな」

『金剛』を撃つべく握り締めていた右手を開き、ポケットから抜く。同時に小岩を握る左手も抜いて宙に掲げ、意識を集中させた。
次の瞬間、未体験の感覚が体に走る。高所から飛び降りた時の逆、言わば浮遊感か。同時に視界も、地上が急激に離れていくという生身の人間には一生視れないものへと広がっていく。
唖然とするジョナサン達を見下す俺を、力場を纏った小岩が上へ上へ運ぶ。やがてビルの屋上、さらにその上空へ達した所で、体を振って小岩を放す。
かなり危うかったが、なんとかフェンスを掴んで屋上に辿りつくことが出来た。流石に足の震えを自覚しながらも携帯を取り出し、通話履歴を遡る。

「さて、どうなることやら……」

コール音を聞きながら、俺は眼下を注視した。


698 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:11:15 D4U7d91M0




「凄いな……吸血鬼だってあんなには跳べないぞ」

「あのマスターが魔力を発した感じはなかった。彼のサーヴァントの恩恵だろうね。それよりこっちだ、マスター」

感嘆するジョナサンに注意を促して、アーチャー……『ジョニィ・ジョースター』は敵対者を睨みつけた。
同じように舞い上がる十兵衛を見上げていた女も、銃を仕舞ってバーサーカーを一歩前に出させる。
相対した状態では、魔力を帯びない銃弾などサーヴァントに対しては無力。
マスターを狙おうとする僅かな隙でさえ、サーヴァントに突かれれば即座に死が待っている。
臨戦態勢に入った女の名は『ロベルタ』。人間として限界値に達したと言っても過言ではない軍事技術を持つ猟犬であり、聖杯に連なる神秘などとは無縁の存在。
しかしバーサーカーのサーヴァント『高槻涼』と共に、討伐令を出された二名に迫る量のNPCと交戦した経験から、ロベルタはサーヴァントの逸脱した力を十全に理解していた。
やり場のない憎悪を滾らせた瞳でジョナサンとアーチャーへの殺意を噴出させるその姿は、猟犬というより狂犬か。
一方のマスター、ジョナサンは従者の忠言にも関わらず、その視線をロベルタたちに向けていない。ビルの屋上から、ロベルタが飛び降りてきたマンションの一室を注視している。

「ジャバウォック。殺しなさい、過分な程に」

「マスター! 目の前の敵に……マスター?」

「君は、何故NPCを殺した?」

ビキビキと体格を変貌させて怪物じみた姿に変わっていくバーサーカーを恐れる事もなく、ジョナサンは静かに問いかけた。
アーチャーが気付く。ロベルタがいた部屋からは死臭が漂い、ベランダには生新しい血痕が残されている。
問われたロベルタは鼻で笑う。どのNPCの事か、と。

「武器を奪う為。狙撃に適したポイントを確保する為。聖杯戦争に勝つ為に、羊も狐も狼も、殺す理由しかないわ」

「その殺戮は本当に必要だったのか? 他人を害せずに同じ成果を上げる事は出来た筈だ。聖杯戦争における闘争とは違って」

「必要かどうか、なんて考える必要こそない。私の道に転がっていたものを排除しただけ――――」

「そうか」


699 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:12:23 D4U7d91M0

ロベルタの悪辣な嘲弄が止まる。理想論を振りかざす偽善者を哂わんとする表情が凍りつく。
初めてロベルタを見据えたジョナサンの顔には、甘さなど一片もなかった。
ジョナサンが件の噂とその出所を知ったのは、拠点とする新宿御苑で子供達と遊んでいたある日、少女の一人を迎えに来た母親が暗い顔をしていたのを気にして話しかけた時だった。
セリュー・ユビキタスと違い、ロベルタは魂喰いをやりすぎることには注意を払っていたが、殺したNPCの縁者を根絶やしにするほど徹底していなかった。
故に、"家を飛び出してヤクザの舎弟になった息子を心配して定期的に連絡を取っていた母親"が"息子と連絡が取れなくなり、他人に助けを求める"イベントの発生を防げなかった。
NPC……否、自分と関わりのない人間などいくら殺しても心は痛まない、という境地に達しているロベルタには、それが理解できない。
ジョナサンの、彼が闘争の人生において見てきた"他人を踏みつける事自体に快楽を覚える外道"への率直な殺意……宿敵からも「完全に甘さを捨てた」と言われたその"熱"を理解できない。

「君に言葉は通じない。君が擁し、殺戮に利用されるサーヴァントは傀儡。ならば僕は、君を殺そう。聖杯戦争も君の願いも関係なく、君が他人に流させる涙をこれ以上増やさない為に」

「―――ッ!! バーサーカーッ!!!」

ロベルタには、もはや余裕は微塵もない。殺戮者として"死"に深く接してきた彼女の直感は、己の死を明確に予感させていた。
ジャバウォック、と親しみを込めて己のサーヴァントの愛称を呼ぶことさえなく念話を走らせる。バーサーカーの行動は素早い。
ロベルタの体を掴み、眼にも止まらぬ速度で走り出す。人気のない陰闘に適した場所から、往来へ向けて走り出す。
聖杯戦争のセオリーに明らかに反した暴挙は、しかし決して暴走ではない。

「逃げたのか!?」

「いや、違うな。ここで戦えば負ける、と察して僕たちが全力を出せない場所に誘いこもうとしている。周囲にサーヴァントに触れただけで死ぬような人間が大勢いるところへね」

「ジョニィ! 力を貸してくれ!」

「ああ。行こう、ジョジョ」

即座に顕現させた宝具……『スローダンサー』に跨ったアーチャーはジョナサンを同乗させ、死してなお共にある愛馬を疾走させる。
アーチャーにとっても、ロベルタは救うべき、諭すべき迷い人ではない。己の道を過ったのみならず、その過ちを誇り正義と信じて疑わない者にかける慈悲はない。
聖杯を破壊するためでも、聖杯を求めるためでもなく対象に向けられる二つの殺意は、押並べて漆黒にして黄金。


700 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:14:06 D4U7d91M0

【西新宿方面(京王プラザホテル周辺)/1日目 早朝8時】

【ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 健康、激しい義憤
[令呪] 残り三画
[契約者の鍵] 有
[装備] 不明
[道具] 不明
[所持金] かなり少ない。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を止める。
1.殺戮者(ロベルタ)を殺害する。
2.聖杯戦争を止めるため、願いを聖杯に託す者たちを説得する。
3.外道に対しては2.の限りではない。
[備考]
・佐藤十兵衛がマスターであると知りました。
・拠点は四ツ谷・信濃町方面(新宿御苑周辺)です。

【アーチャー(ジョニィ・ジョースター)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態] 左手薬指の爪喪失
[装備] 宝具『スローダンサー』展開中
[道具] なし
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を止める。
1.殺戮者(ロベルタ)を殺害する。
2.マスターと自分の意思に従う。
[備考]
・佐藤十兵衛がマスターであると知りました。
・拠点は四ツ谷・信濃町方面(新宿御苑周辺)です。

【ロベルタ@BLACK LAGOON】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[契約者の鍵] 有
[装備] 銃火器類多数(詳細不明)
[道具] 不明
[所持金] かなり多い。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲るために全マスターを殺害する。
1.ジョナサンを殺害する為の状況を整える。
2.勝ち残る為には手段は選ばない。
[備考]
特になし。

【バーサーカー(高槻涼)@ARMS】
[状態] 異形化 宝具『魔獣』発動(55%)
[装備] なし
[道具] なし
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:狂化。
1.マスターに従う。
[備考]
・『魔獣』は100%発動で完全体化します。


701 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:16:25 D4U7d91M0





「ん? 移動するのか?」

『ちょっと十兵衛聞いてる? これちゃんと声通じてるのかな? 私の電話の着信音変えてよ。趣味悪すぎ……』

俺の携帯からわざわざ移してやった着メロへの文句を言い出したセイバーからの苦情を聞き流しながら眼下を眺めていたが、状況が動いた。
かなりの速度で移動し始めたが、通勤通学ラッシュの時間は過ぎたとはいえ何故人気の多い方でドンパチやろうというのか。
ともあれここから視認できない場所で戦闘を始められては貴重な観戦のチャンスを逃す事になる、と俺はセイバーから預かった"小型の要石"を拾い、電話口に要請を飛ばす。

「わかったよ。お経みたいな感じの曲を探してやるから今日は我慢してくれ。それよりまた石の操縦頼むぜ。さっきは上昇しか出来なかったけど、電話で細かい指示しながらなら違うだろ」

『契約のパスが繋がってるのを利用して、要石を握るマスターからの信号を受けて適当に操作しただけだもの。こちらからは見えないんだから、それに頼ってるとどんな事故が起きるか分からないわよ』

「そりゃそうだ。うーん……仕方ない。霊体化して、こっちに来てくれよ。一回、サーヴァント戦は二人で見といた方がいいと思ってたしな」

『そうね。アーチャーとバーサーカーなんて相手にするにはちょっと物足りないけど、いい宝具や暴れっぷりを見るのはきっと楽しいわ』

聖杯戦争の本戦が始まった初日に、俺が一人で出歩いたのはこの要石を使った緊急避難が上手くいくか試すためでもあった。
情報を得てすぐ、罠がありそうなところに飛び込んだ勇み足も窮地に作用しなけりゃどうせ役に立たないと思っての賭け。
結果として、要石を遠隔操作して俺の護身や逃走に使うのは無理があると分かった。
さっきの狙撃の際も、俺が狙われていればこの要石は防壁として銃弾の前に飛び出すはずだったが、多分間に合わなかっただろう。
先ほどの場面を生き残れたのは運によるもの。この運に頼るようでは、喧嘩稼業は名乗れまい。

「俺らしくもなくちょっと焦っちゃったかな。ま、切り替えていこーか」

『すぐ行くから、ゆっくりしてなさい』

「ああ……ところでなんか、めっちゃ環境音聞こえるんだけど。家の中にいるんだよね?」

『……』

「ちょっと。ねえ、なんか"とっくとっくと〜くとっくしまる"って聞こえるんだけど。遠ざかっていく感じなんだけど」


702 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:17:26 D4U7d91M0

『それはそうでしょうね。降りて、家に買い物袋を持っていってる途中だから。置いたらすぐ行くからゆっくりしてなさい……あっ、とくしまるが走り出した。ふふん、面白い』

「新宿にもやってきた移動スーパーとくし丸に行ってんじゃねえか!!」

『愉快な音楽が聞こえてきたから窓から覗いたら……なんとスーパーまで出かけなくても買い物が出来る大権能が家の前を走っていたわ』

「走っていたわじゃなくて!! スーパーに行くなってとこじゃなくて外出するなってとこが大事なの!」


チッ、と舌打ちが聞こえた。このセイバー、不良天人と名乗るだけあって性格が非常に悪い。いや悪いというよりはタチが悪い。子供だ。一体何故この俺にこのサーヴァントが……。
チッチッと舌打ちを繰り返すセイバーに戦慄しながら、忘れていた"おつかい"の報告を思い出す。
このまま電話を切ってしまうと経験上、セイバーは約束は守って合流しに来るだろうがかなり不機嫌になっていて報告しても流れてしまう可能性が高い。
おつかいと言っても俺が気になって申し出た事だけに、セイバーの意識がそこから逸れてしまうのは避けたかった。
「まあ、たまにはいいよ」と小さく呟いて(ここで恩着せがましく許可を出すと、さらにこじれる)、「金ももっと渡しとこうかと思ってたし」(これはやや大きめに)と追撃して、セイバーが息を飲むのを確認。
畳み掛けるように、"おつかい"の報告を行った。

「預かった要石、1個だけ新宿駅に沈めてきたぜ」

『ああ、そういえばそんなことするって言ってたわね。どうだった? やっぱり邪魔、入ったかしら』

「今のところは、何の接触もない。俺の勘が外れたか、当たってても様子見されてるか。それとも関心すらないほどセイバーの能力を舐めてるかだな」

『……最後はないわね。十兵衛、言葉には気をつけなさい』

「俺だってセイバーの能力の凄さは信用してるさ。大天使ミカエルみてーなお人だもんな」

本心から、そう発言する。日本に住んでて、地震を甘く見るような奴は救いようのない楽観主義者くらいだ。
その地震を司る神様の手下となれば、比那名居天子を敬う事に微塵の疑問もない。俺個人が実際敬うかどうかは別として、だが。
ミカエルにしては若干胸囲が寂しいセイバーは俺の言葉が満更でもないらしく、「じゃあね」と言ってから電話を切った。
より詳しい返答は、サーヴァント戦を見終わってから一緒に新宿駅に寄れば期待できるだろう。


703 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:19:56 D4U7d91M0

「あのサーヴァントの言う通り、聖杯戦争をやれと言われて聖杯戦争だけやるのは馬鹿らしいからな」

負けるのは絶対に嫌だが、欲しくもないニンジンを餌に走らされるのは面白くない。
聖杯戦争から生還するにあたって、知らなければならない事は何か?
己が使い魔との最善の関係構築法? 強敵に勝つ為のサーヴァント戦の骨子? 聖杯と呼ばれる物が具体的に何なのか、その正体?
俺の答えは、それら全てに○をつける、だ。その上で、もう一つ付け加えよう。

「黒幕の思惑」

最初からそれが示されている陰陽トーナメントやアンダー・グラウンドとはワケが違う、姿も声も見せない相手の真意を探る。
その為に俺が注目したのが、この新宿という偽りの街。何故、現実の新宿ではいけなかったのか。
わざわざ街の住民をNPCとして作り出し、個々の意思を持たせて活動させる必要がどこにあったのか?
疑問に思った俺は、この新宿を方々歩き回って調べ、俺が知る現実の世界に存在しない要素を探した。
現実になく、偽りの新宿にだけある物を探せば、聖杯戦争を"ここ"で行う理趣も読めるのではないか、との期待を込めた放浪。
見つけたものは多くある。だがその中で最も大きかったのは―――歴史。

「"魔震"。過ぎた事、みてーに謂れているが……こんな震災は、この<新宿>にしかないはずだ」

隠しようにも隠し切れない、未だ傷痕を残す大災害。
このフィールドがそれによって壊滅的被害を受け、復興の目処すら立たない魔界だったのならば、この歴史設定にも意味があるだろう。
聖杯戦争は今よりもっと単純で、人目を気にすることすらない激戦が毎朝毎夜繰り広げられる真の意味での"戦争"となっていたはずだ。
だが、ここ<新宿>は人目では現実の新宿と変わらないほどに復興している。現実と同じように誂えた世界で、"なかった事にした"要素を何故盛り込んだのか。

「聖杯が顕現する、という現実離れした要素を誘発するため。復興させて取繕ったのは"現実離れしすぎないようにするため"だ」

ならば、セイバーの……大地を操る程度の能力で、その隠蔽に―――"魔震"の震源地である新宿駅の地下に―――介入しようとすればどうなるか。
間違いなく、黒幕は姿を現す。明確に禁則としていない以上、建前の罰則ではなく本音の接触をせん、と。
どのような形であれ、その過程を経なければ俺は掌の上で踊らされるだけ。そんな事なら死んだ方がマシ、とまでは決して言わんが……。

「頭を抑えつけられるのだけは、どうにも我慢がならん」

せめて抑える相手の顔は知りたいもんだ、と一人ごち、俺はビルの非常階段を降りはじめた。


704 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:25:54 D4U7d91M0


【西新宿方面(京王プラザホテル周辺 ビル非常階段)/1日目 早朝8時】

【佐藤十兵衛@喧嘩商売、喧嘩稼業】
[状態] 健康
[令呪] 残り三画
[契約者の鍵] 有
[装備] 不明
[道具] 要石(小)、佐藤クルセイダーズ(10/10)
[所持金] 極めて多い
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争から生還する。勝利した場合はGoogle買収。
1.セイバーと合流する。
2.アーチャー(ジョニィ)とバーサーカー(涼)のサーヴァント戦を見学。
3.聖杯戦争の黒幕と接触し、真意を知りたい。
4.勝ち残る為には手段は選ばない。
[備考]
・ジョナサン・ジョースターがマスターであると知りました。
・拠点は市ヶ谷・河田町方面です。
・金田@喧嘩商売の悲鳴をDL販売し、ちょっとした小金持ちになりました。
・セイバー(天子)の要石の一握を、新宿駅地下に埋め込みました。
・佐藤クルセイダーズの構成人員は基本的に十兵衛が通う高校の学生。
 高野照久@喧嘩商売、喧嘩稼業が所属させられていますが、原作ほどの格闘能力はありません。


【市ヶ谷・河田町方面/1日目 早朝7時】

【比那名居天子@東方Project】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] スーパーの買い物袋、携帯電話
[所持金] 相当少ない
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を異変として楽しみ、解決する。
1.マスターと合流する。
2.自分の意思に従う。
[備考]
・拠点は市ヶ谷・河田町方面です。


705 : さよならレイ・ペンバー ◆2XEqsKa.CM :2015/09/13(日) 02:28:14 D4U7d91M0
以上で投下終了です。

>>704の比那名居天子の状態表は

【市ヶ谷・河田町方面/1日目 早朝8時】

【比那名居天子@東方Project】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] スーパーの買い物袋、携帯電話
[所持金] 相当少ない
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を異変として楽しみ、解決する。
1.一旦家に帰ってからマスターと合流する。
2.自分の意思に従う。
[備考]
・拠点は市ヶ谷・河田町方面です。


に修正します。


706 : ◆zzpohGTsas :2015/09/13(日) 02:41:06 CFxPPfAE0
投下が来てるじゃないか(歓喜)
滅茶苦茶有り難いですが、今は投下を致します。感想は後程お送りいたします


707 : Turbulence ◆zzpohGTsas :2015/09/13(日) 02:41:27 CFxPPfAE0
 世間の一般的な認識として、探偵と言う職業はそも、正規の職業ではないと言う傾向が強い。
界隈の最大手は探偵と言うよりは調査会社と言う形態を取っていると言っても過言ではなく、パイプを燻らせ洒落た帽子を被って……、
と言った一般的な探偵のイメージとは程遠い。ではそれより下の、中堅及び下位層の探偵は如何かと言うと、これも世間一般的な、
事件を名推理で解決、と言う、ステロタイプなイメージからも掛け離れている。探偵と言う職業で最も多く依頼される事柄が浮気調査と言う事柄からも解る通り、
社会が探偵に求めている事と言うのは、水面下での秘密調査なのである。尾行、張り込み、と言った手法を用い、クライアントが知りたい情報を入手する。
これこそが探偵の仕事なのである。情報会社等がこれをやるのならばいざ知らず、個人レベルでの探偵では、これでは正規の職業と見做されなくても仕方がない。
これに加え、日本では探偵業など諸外国と違い、なりたいと思えば免許もなしで開業出来る仕事なのだ。殆ど、虚業に等しいものなのだった。

 歌舞伎町の某貸しビルにオフィスを置く鳴海探偵事務所に勤務する、葛葉ライドウの尾行調査が終了したのは、7月14日の金曜23:55分のこと。
新大久保の大久保通りから外れた裏路地で秘密裏に、韓国系のヤクザが開業していると言う裏カジノの実在を確認する為の調査。それがライドウの仕事だった。
こう言った大それた仕事が、鳴海探偵事務所には結構来る。と言うのも、所長の鳴海が警察方面に太いパイプを通じさせており、その方面から依頼が来るのだ。
ライドウの知る、大正時代の鳴海も、そもそもは帝国陸軍方面にパイプを持っていた人間であったが、どうやらその来歴がこの<新宿>でも多少反映されているようだ。
その様なコネクションもあって、鳴海探偵事務所はそれなりにではあるが忙しかったりする。
ごく普通の探偵社が、そのそれなりの忙しさすらない事を鑑みれば、十分な事であろう。
……尤もライドウにとっては、所長の鳴海には申し訳ない事だが、暇であった方が、聖杯戦争に打ち込める、と言うものなのだが。

 大久保通りに出ようとした矢先の事だった。
聖杯戦争に参加する為の、文字通りのキーアイテムである、契約者の鍵が、群青色に光り輝き始めたのは。
異変を感じ取ったライドウはすぐに、人気の少ない裏路地へと引きかえし衆目に晒されない場所で、鍵を取り出したのだ。
そしてこの時になって初めてライドウは知った。聖杯戦争が始まった事を。

【いよいよ、だな】

 契約者の鍵から投影されるホログラムを見て、霊体化したダンテが念話でそう話しかけて来た。

【ああ】

 ライドウも短く返事をする。
別段二人には、驚きの念もなければ緊張感もない。近い内に聖杯戦争が始まると言う事は、この二人には予測出来ていたのだ。
ただ、始まった、と言う事実を受け止めるだけ。後はこの聖杯戦争を仕組んだ輩の野望を挫くのみである。……筈だったが。
どうやら一筋縄ではいかないらしい。主催者、に類する存在を討ち果たすまでに、やり遂げねばならない事がある事をライドウは知った。
それは、ホログラムに投影された、聖杯戦争の開催の旨を知らせる情報とは違う、もう一つの情報。即ち、討伐令に関する事柄だった。

【……案の定、聖杯戦争の参加者だったようだな、この殺人鬼は】

【みたいだな】

 契約者の鍵が投射するホログラムに映し出された、二人の男女。
この二人は、今更聖杯戦争の主催者が情報開示をするまでもない程の有名人であった。その規模たるや、日本どころか世界レベル。
女性の方は、遠坂凛。日本の女子高校生である。そして、黒い略礼服の男が、世界中を震撼させた大量殺人鬼である。
たったの数分で百三十名を超す人間を殺して見せた、手練の殺人鬼だ。どちらも今や世界規模の有名人である。……無論、良い意味ではない事は明らかな事であるが。
何れにせよ、この主従を取り巻く問題は、最悪を極る事は誰の目から見ても自明の利と言うものであろう。
聖杯戦争の参加者であると言う事実は、通常伏せていた方が絶対に良い。この主従は、主催者から早々に討伐令を出されているだけでなく、
警察などの国家機関からもマークされ、一般の人間にも知られている程の有名人だ。どう動いても、動きが逐次把握されてしまう。
言ってしまえばこの主従は、詰んでいる状態に等しい。周りを敵の駒で囲まれた王将の駒に等しい。


708 : Turbulence ◆zzpohGTsas :2015/09/13(日) 02:42:39 CFxPPfAE0
【どう思うよ、このマスター達について。少年】

 ダンテがライドウに意見を求めて来る。

【俺はこの遠坂凛と言う少女が、区内の某高校に通っていて、素行も真面目でかつ学園のマドンナ的な存在だったと言う事と、この少女がバーサーカーを引き当てたと言う情報しか知らない】

 前者の情報は、ウンザリする程ニュース番組で報道されていた事柄であった。

【だが、バーサーカーを引き当てている、と言う事実から一つ、推測出来る事がある】

【この遠坂って嬢ちゃんが『自分の引いたサーヴァントに振り回されている』って可能性か?】

【そうだ】

 ニュース番組が伝える遠坂凛の実情は、非常に頭も良く、物腰も優雅な、才色兼備の美女であったと言う。
この情報を頭から信じるのであれば、そんな少女がこのような愚挙に出るとは考え難い。
聖杯戦争に限った話ではないが、人の肉体や魂と言うものは、超常存在のエネルギー源として打って付けの物である。ライドウが使役する悪魔にしてもそれは同じなのだ。
ライドウは非常に潤沢な魔力を持つが、この聖杯戦争の参加者の中には、サーヴァントを使役するには少々心許ない魔力量の者もいるであろう。
これを解決する為に、魂喰いを行うと言うならば、人道面の問題はさておいてだが、まだ理屈は解る。――だが、この遠坂凛の行為は、余りにも無軌道過ぎる。
恐らくであるが、この遠坂と言う少女は魂喰いすらしていないのではないか。いや、例え魂喰いを行わない、悦楽目的の殺しであったとしても、
公衆の面前でそれを行うメリットは百に一つもない筈である。無論遠坂凛と言う少女が、そう言ったカオスを求める性格の女性ならば話も変わってくるが、今の所彼女がそう言う風には、ライドウにはとても見えない。

 現状考えられる、最もあり得そうな可能性は、ダンテの言った通りの事だ。
即ち、遠坂凛は『自らが引き当てたバーサーカーを制御出来ていない』、と言う事である。
熟達した魔術師やデビルサマナーでも、狂暴化した超常存在を御す事は非常に骨の折れる事なのだ。
これも推測の域を出ないが、遠坂凛は魔術的な知識など欠片も知らない、元々は単なる一般人の少女だったのではないかとライドウは考えた。
故に、自らのバーサーカーを制する術を知らず、結果、彼の虐殺を許してしまった。こうライドウは推理したのである。
となれば、現状このバーサーカーは、可能な限り早めに討つべきなのだろう。例え異世界とは言え、この<新宿>は帝都の一部。
その帝都の平和を潰乱させる存在は、隠密に葬り去るのが、十四代目葛葉ライドウの仕事なのであるから。

【続きがあるみたいだぜ、少年】

 ダンテが、討伐令がもう一つ敷かれている事に気づく。ライドウもその事は言われるまでもなく知っていた。
その情報を開示すると、これまた女性の顔写真が投影された。そして、彼女に従うサーヴァントも。
あの礼服のバーサーカーは誰が見ても人間の顔だったが、此方は誰が見ても怪物としか思えない顔立ちをしていた。ワニに似た動物の頭をしているのだ。
クラスは、バーサーカー。此方の方が狂戦士のクラスとしては、説得力のある容貌をしているであろう。見るからに狂暴そうで、一度暴れたらどうなるか解らなそうである。

 キルスコアでは遠坂凛のバーサーカーには劣るが、此方も大層な人数を葬っている。百二十一名、尋常な数値ではない。
だがこの、セリュー・ユビキタスと言う女性の場合は、遠坂凛の時と決定的な違いがある。殺しが表沙汰になっているか否かである。
真犯人が明らかになっていない事件と言うものは、世界には数多い。しかし、殺した事が明らかになっていない事件と言うものは、世界には極端に少ない。
百名を超す大人数を殺めて回っているにも拘らず、世間の話題の俎上に、セリュー・ユビキタスと言う女が上がって来た事は、全くない。
これは何故なのか。探偵としての憶測になるが、ライドウには思い当たるフシが一つだけあった。


709 : Turbulence ◆zzpohGTsas :2015/09/13(日) 02:42:58 CFxPPfAE0
 近頃、<新宿>を跋扈するヤクザや不法滞在外国人の数が、急激に減って来ていると言う話を、鳴海から聞いた事がある。
こう言う情報が入って来るのが、元警察関係者である鳴海と関係を持っているライドウの強みだ。
初めて聞いた時から、警察がいよいよ暴力団などの取り締まりに力をいれた、と言う訳ではないな、と考えてはいた。
警察は面子や体裁を、髪型や服装を気にする思春期の高校生みたいな組織である。自分達の手柄は絶対に、ニュース経由で報道する。
暴力団や不法滞在者の取り締まりと言う、誰もが諸手を上げて称賛する様な事柄が、今までニュースになった事などない。
となれば、考えられる事は一つ。アウトロー達は、誰にも知られる事なく消えているのではないか? と言う事だ。
もっと言えば、アウトロー達は、殺されているのではないか?

 やはり人道面では兎も角、ヤクザ達を殺して魂喰いをすると言うのは、遠坂の一件に比べたら合理的な判断である。
世間一般のバイアスとして、彼らは悪者である。そして、裏社会の住民、言い換えれば日陰者だ。そんな者が消え去った所で、気にする者は少ないだろう。
それどころか人によっては称賛すらされるかも知れない。少なくとも表社会の人物を殺すよりは、目立つ可能性は少ない。
次に、ヤクザ達の気質である。彼らは通常、警察と言うものを嫌っている。当然と言えば当然だろう、警察はヤクザを逮捕し牢にぶち込む側の住人であるのだから。
これが、何を意味するのか。ヤクザは絶対に、一般人が行うような、警察に被害届を出すと言う行為を出来ないと言う事を意味するのである。
それに彼らも警察同様、面子や体裁を気にする組織なのだ。自分達の仲間が殺されましたと言って、のこのこ警察に被害届を出してみるが良い。
馬鹿にされるのは、当然の帰結なのだ。これが我慢出来ない。出来ないからこそ、彼らは内輪で問題を解決しようとする。
その結果、血みどろで、凄惨な内部抗争に発展と言う事も珍しくない。警察に通報される事もない以上、ヤクザ達で魂喰いを行おうと言う判断は、妥当と言える。

 ――と言った推測を、ダンテに話すライドウ。

【あり得る話ではあるな】

 否定はしなかった。尤もこの男は、そう言った推理能力が全くないので、こう言った頭脳労働はライドウに譲る事にしているのだが。

【で、少年はこのセリューって言う嬢ちゃんと、クロコダイルみてぇなサーヴァントを追うのか?】

 ライドウと言うマスターに従う者としては、当然の疑問を聞いて来る。

【放っておけるような人物ではないだろう。尤も、探し当てるのは難しいだろうが……これも、俺の仕事だ】

【OKOK、少年に従う事にするよ】

 従順の意を示すダンテ。決して仕方なくとか、折れたとかではなく、自らの意思によりて、の発言だった。
ダンテもまた、誇り高き伝説の魔剣士の血と魂を持ったセイバー。こう言った、無暗矢鱈に人を殺すような存在は、許容出来ないのである。

【ま、方針は固まったな。敵を探す、出会う、お前が話す、話の通じない奴なら俺が。だな】

【そうだな。結局それが一番良い。<新宿>も狭い。俺の足を酷使すれば、何人かは出会えるだろう】

【おう。んじゃま、今日は帰るかね、少年】

【あぁそうす――!!】

【――】

 裏路地を歩き、今一度大久保通りに出ようとした、その時、二名の動きが、止まった。左足を前に踏み出した状態から、ライドウは動かない。

【気付いたか、少年】

 平時と変わらないような声音でダンテが語り掛けて来る。
しかし、ライドウには解る。今ダンテは、警戒している。剣呑な声音でライドウに念話している。

【向うぞ、セイバー】

【OK、楽しいパーティーにしてやろうぜ】

 マントを翻し、ライドウは大久保通りへと繋がる出口に背を向け颯爽と走り始めた。
感じたのは、血の臭い。そして、魔力。


.


710 : Turbulence ◆zzpohGTsas :2015/09/13(日) 02:43:21 CFxPPfAE0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 黒いマント着用した影法師めいた青年が、それをたなびかせ、一陣の疾風となりて新大久保の裏路地を走っていた。
身体に重力が掛かっていないのでは、と感じずにはいられない程の軽やかな走法。だが驚くべきは、その速度。
人の身で、何故これだけの速度が出せるのか。時速六十㎞超。とてもではないが、人間の脚力で出せる速度の限界を超えている。

 葛葉一族は、悪魔を使役する為に必要不可欠な、MAG、即ち、マグネタイトの扱いに極めて長ける。
悪魔の肉体を構築するこの霊的物質、或いは精神的活動エナジーは、使い手の身体能力の強化にも用いる事が出来る。
今ライドウが行っている、人間の枠組みを超越した身体能力は、MAGの応用の賜物だ。今のライドウを余人が見たら、きっと、色のついた黒い風にしか、見えぬ事であろう。

 ザッ、とライドウは急停止。目的の場所にやって来た。
人気の極端に少ない、コリアタウンの裏路地だった。蒸し暑い夏の夜。悪臭が、こもっている。
腐敗した菜物の匂い。果実の腐った発酵臭。野菜クズを齧るゴキブリやネズミが、夜目の利くライドウの瞳に映った。
だがライドウもダンテも、そんな物に目もくれない。彼らの目線を集めさせるのは、両サイドの石壁に色水をぶちまけた様に飛び散った大量の褪紅色の液体。
そして、両肩を抑えてガクガクと震える、半袖短パンの、体格の良い男。懐に隠した赤口葛葉の柄を、ライドウは卵を握る様な優しさで手にし始める。
マントで上手く隠されている為、男の目からはライドウの手は見えない。既に相手を斬る準備は、出来ていた。

「へ、ヘヘ……兄ちゃん、随分と洒落た格好だな……バンカラ、ってのか」

 その男がライドウに対して、いやに爛々とした黒瞳を向けて語り始めた。顔がやつれている。髪も痛んでおり、油でベト付き始めている。
だがそれ以上にライドウとダンテは、彼から香る血香に対して、敏感に反応していた。

「兄ちゃん、お、俺の独り言だと思ってよ、聞いてくれよ」

 警戒は解かない。ライドウの返事は無言だった。彼のそんな性質を男は理解したのか、勝手に喋り始めた。

「俺はさ、ヤクザモンだよ。っつっても、下っ端のチンピラみてーなもんだけどな」

「……」

「何日か前にさ、俺の組の上部組織がさ、壊滅させられたんだよ。ひでーもんだったさ。内臓は飛び散るわ、体中が粉々にされてるわ、闇ルート経由で蓄えてたチャカもドスも奪われるわ……」

 ――……組が壊滅?――

 もしやこれは、渡りに船なのではないか?
このチンピラから話を聞くに、被害は相当甚大な物であるとみて間違いはないだろう。
暴力団組織に此処までの被害を負わせる者。それは即ち、今の<新宿>の事情から考えれば、聖杯戦争の参加者とみて、間違いはないだろう。
となれば、この男が語っている件の下手人こそが、セリュー・ユビキタスなのではないか?
ライドウは、話を促すのではなく、あえて沈黙を保ち聞き手になる事で、目の前のチンピラから話を聞き出す事にした。

「その組によぉ、俺が世話になった兄貴分の人がいてなぁ……半分以上消し飛ばされた頭から、脳みそ垂れ流して死んでたんだよなぁ……」

 声に哀しみが混じり始めた。

「悔しくて悔しくて、俺は血眼になってジュクを探したよ。だけど、見つからねぇ。見つからねぇんだ、そいつがよぉ……」

 「そんな時だ」――

「あの『女』が現れたのは」

「女……」

 本題と、核心を引き摺り出せそうな感覚。ライドウとダンテが集中した。

「そいつはさ、俺に力を与えてくれたんだ。兄貴を殺したクソ野郎を、瞬き一つする間に殺せそうな力をな」

 【――少年】、ダンテが念話で語り掛けて来る。ダンテも感じ取ったらしい。確実にこのヤクザは、聖杯戦争の一端に関わっている。
……いや、関わってしまった、と言う方が適切なのか。

「でもさ、……駄目なんだ。お、俺が間違ってた。力なんて、受け取らなければ良かったんだ……」

「どうした」

「は、腹が……腹が減るんだよ」

 目線をライドウの方に男が向け始めた。正気の色が、その瞳には無かった。重心をライドウは変え始めた。


711 : Turbulence ◆zzpohGTsas :2015/09/13(日) 02:43:45 CFxPPfAE0
「どんだけ飯を食っても、腹が満たされねぇんだよ。い、何時頃かな……人間を見て、美味そうって思い始めたのはさ……」

【セイバー。霊体化解除を視野に入れておけ】

【おう】

 チンピラの男の身体に纏わりつく空間が、陽炎めいて揺らぎ始めたのを二人は見逃さなかった。
裏路地に満ちている、野菜や果物の腐った臭いが消し飛ばされている。チンピラの男が醸し出している、下っ端とは思えない程危険な、燃え上がる程の殺意で。
ライドウが放出する、研ぎ澄まされ、凍結した黒色の殺気で。これから起ころうとしている何かに、ネズミもゴキブリも、路地から一匹残らず消え失せていた。
小さき者には解るのだ。これから起ろうとしている事態が、敏感に。

「飢えで飢えで苦しくてよぉ、さ、さっき……、俺に喧嘩を売って来た、向こうの国のヤクザを『喰』ったんだよ……、う、うめぇ……泣く程うめぇんだこれが……。
人を喰らう何て事、やっちゃいけねぇって解ってるのに、う、美味くて、しかたが、ね、ねぇ……」

 自分自身の事を限りなく侮蔑し、嘲るような声音でそう揶揄し終えた、その時。
バッと左手の甲を、ライドウ達に見せつけるようにヤクザが構えた。その手には、タトゥーが刻まれていた。「令呪か……!?」と身構える二人だったが、違う。
令呪が醸す特有の、無色の魔力が感じられない。それによく見れば、それは入れ墨と言うより、ある種の痣に等しかった。
口と牙を凝らしたような独特のデザインの痣。――それが、突如として光り始めたのだ。

「まだ腹が減って仕方がねぇんだ、俺に食われてくれよぉ兄ちゃぁん!!」

 血走った目でそう叫んだ瞬間、男の身体全体に赤色に光る筋が刻み込まれ始め、身体中を蜘蛛の巣みたいにびっしりと、光の筋が走り終えた、その後で。
光の柱が彼を包み込んだ。魔力、いや、マグネタイト? 感じ慣れた二つの霊的エネルギーが暴走しているとライドウが考えたのは、刹那の様に短い時間の事。
カオスみたいに暴れ狂っていた魔力が、時を推移するごとに、ヤクザの身体に収斂して行くのをライドウは見逃さなかった。
暴走した魔力やマグネタイトを制御する術と言うものは、訓練を経ねば得られない。目の前の男がそう言った厳しい鍛錬をこなしたとは思えない。
ならば考えられる可能性は、一つ。遺伝子或いは本能レベルで、そのやり方が刻み込まれている、と言う事であった。

 光の柱が消え失せる。一瞬ライドウの瞳が大きく見開かれた。
鉄面皮のライドウの表情を、ほんの短い時間とは言え、驚愕に彩らせるとは何事か?
それはライドウの知識に照らし合わせ、この<新宿>には通常紛れ込む可能性は絶対的に低い存在が、目の前にいたからに他ならない。
そう、ライドウはその存在の事を知っていた。赤色の体表を持った、筋骨隆々としたその鬼を。
後ろ髪の長い黒髪を流した頭頂部から、鍾乳石の様な角を生やすその鬼を。ペルシャの刀剣、シャムシールに似た双振りの剣を手に持ったその鬼を!!

「邪鬼・ラクシャーサか……」

 マントで隠した懐に下げた鞘から、赤口葛葉の剣身を引き抜くライドウ。
夜気と夜闇を切り裂く様な鋭い鋼色の刀身が露になる。光の届かぬ路地の闇の中でも、その名剣の鋼色は、犯される事がなかった。

 ――ラクシャーサ。インドに伝わる悪鬼の一種であり、日本においては、羅刹と言う名前の方が有名だろう。
仏教にとりいれられた彼らは、羅刹天として天部に吸収され、仏法を守護する者として毘沙門天、引いては釈迦に仕える存在として活躍している。
だが、今ライドウ達の目の前にいる存在は羅刹天ではなく、仏教に吸収される以前のラクシャーサ。つまりは、仏法を護る為の善なる存在ではない。
人を喰らって生きる文字通りの悪鬼、文字通りの羅刹なのだ。決して人類と相いれる存在ではなかった。

【セイバー。訂正する。実体化はしなくて良い】

【いいのか? 少年】

【この『程度』の悪魔を相手にお前を実体化させて戦わせるのはマグネタイトの無駄だ。俺が葬る】

【……それでいいのかい? 少年】

 この場合のいいのか、とは、自分が戦わなくても良いのか、と言う意味合いとはまた違うだろう。
本当に、目の前の人間を、帝都を護ると誓ったお前が殺して良いのか? と言う意味合いが其処には多分に含まれていた。
だが、ライドウの返答は、正しく、彼が振う赤口葛葉の如く、鋼であった。


712 : Turbulence ◆zzpohGTsas :2015/09/13(日) 02:44:07 CFxPPfAE0
【悪魔になった人間を救う術は存在しない。下手に生かして混沌を振り撒かれるより、心で殺してやるのが慈悲だ】

【――ひと思いにやってやんな】

 半秒程の真を置いてから、ダンテはそう告げた。それ以外に、もう方法はない、と言う諦観めいた物を、ライドウは感じた。
彼だって、心苦しい訳ではない。救える方法があるのならばそれを行ったかも知れないが、本当に、悪魔になった人間を救う術はないのだ。
ないのだから、葬るしかない。帝都と、其処に住まう人間の平穏の為に。

 ガァッ!! と言う獣じみた方向を上げて、ラクシャーサが向かって来た。
ライドウと悪鬼の彼我の距離、七m程を瞬時に詰める、邪鬼の身体能力。極瞬間的な速度で言えば、自働車よりもこの悪魔は速く移動していただろう。
剣の間合いに入った瞬間、赤色の肌をした悪鬼が、黒衣の書生を唐竹割りにしようと曲刀を振り下ろす。
剣道の有段者程度ならば、一切の反応すら許さず真っ二つにする程の速度と気魄が漲っていた。
ライドウはこれを、赤口葛葉を振り下ろされたラクシャーサの剣の軌道上に配置する事で防御する。

 藁束に火が付きそうな程大きくて、花火みたいに大きな橙色の火花が飛び散った。鼓膜が引き裂かれるような金属音が鳴り響いた。
そして、脊椎が『く』の字に折れてポッキリと行きかねない程の衝撃がライドウに叩き込まれた。
ラクシャーサは己が膂力を駆使して、ライドウの防御を力付くで抉じ開けようとする。だが、ライドウは全く屈しない。
それどころか、悪鬼が力を込めれば込める程、それを上回る力でライドウは力の均衡を崩そうとして来るのだ。その様子はまるで、足の裏から根が生えて、地面と固着されているかのように、堂々としたものだった。

 真っ当な人間であれば、最早腕が圧し折れてる程のラクシャーサの膂力を、ライドウは涼しげな顔で防いでいた。
羅刹の曲刀とライドウの赤口葛葉の剣身の交合点が、摩擦熱と圧力の為に橙色に赤熱し始める。
そしてラクシャーサの顔も、力み過ぎで、生来の肌の色とは違う赤味が差し始めたのを、ライドウは見逃さなかった。

 このタイミングで、ライドウは赤口葛葉の剣身に、若緑色の、霞がかった霊的エネルギーを纏わせ始めたのだ。
これこそが、悪魔召喚士(デビルサマナー)の生命線であり、悪魔が現世で肉体を維持するのに欠かせぬエネルギー体、マグネタイトであった。
これを武器に纏わせる事で、その武器の性能は倍以上にまで引き上げられる。その効果は即時的に現れ、早速その効能は、覿面と言っても良い程の効果を出し始めた。
赤口葛葉の剣身が、ヌテリ、と。ラクシャーサの曲刀の剣身に食い込み始めたのだ。悪鬼の動揺が、剣越しにライドウに伝わる。
食い込む速度が速過ぎるのだ。砥ぎたての包丁で、スイカでも斬っているかのような容易さで、刀が剣を斬り込んで行く。
拙いと思い、ラクシャーサが飛び退いて距離を離そうとした、その時だった。ほんのゼロカンマ一秒と言う一瞬の間であるが、
ライドウは纏わせたマグネタイトの量を倍加させた。ポーン、と言う擬音すら付きそうな勢いで、曲刀の剣身が素っ飛んで行く。完全に、赤口葛葉に斬り飛ばされた形になってしまった。

 飛び退こうとしたタイミングで、自らとライドウの交合点であった剣と剣の接触部から、自らの得物を斬り飛ばされてしまった為に。
ラクシャーサは姿勢を大きく崩された。無論、ライドウがそうなるように仕向けた事は、言うまでもない事だった。
ダンテが念話で、ヒューッ、と称賛の口笛を吹いたのをライドウは聞いた。「ネロの坊やといい勝負が出来るかもな」と口にしていたが、これが意味する所はよく解ってない。

 剣身に纏わせたマグネタイトを解除してから、ライドウは颯っ、と。赤口葛葉を振り上げた。
鋼の刀身が、ラクシャーサの右腕を肩のほぼ付け根からするりとすり抜けた。いや、その言い方には語弊がある。
すり抜けたとしか思えない程鮮やかに、腕を斬ったと言うべきか。電光が煌めくような速度でライドウは刀を振るった為に、その剣身には血の一滴すら付着していなかった。
そして、余りの速度でライドウが葛葉を振った為に、ラクシャーサの右腕がズレる反応が遅れた。
ライドウが刀を振り終えてから、一秒程経って、漸く悪鬼の腕はボトッと湿った音を立ててアスファルトに落ちた。と同時に、切断面から血液がたばしり出た。


713 : Turbulence ◆zzpohGTsas :2015/09/13(日) 02:44:23 CFxPPfAE0
 獣の雄叫び染みた苦悶の叫びが、ラクシャーサの口から迸ろうとした、が。
此処で叫ばれては面倒だと、ライドウは目の前の邪鬼の首を刎ねようと横薙ぎに赤口葛葉を振った。
それに気付いた敵方は、慌てて後方に飛び退く。愛刀の剣先が肉を裂いた感触を、ライドウの右手が捉える。
首こそ斬れなかったが、どうやら、声帯をラクシャーサは裂かれたらしい。声を上げられず、何かの恨み言と思しき、
判別不能な空気の漏れ音をライドウに浴びせかけていた。

 万に一つも勝ち目がないと判断したラクシャーサは、その場で左斜め頭上に跳躍。
左右に不細工なコンクリートの壁があるのだが、左右の壁の幅は約四m程。目の前の邪鬼は元々、鬼族のカテゴリの中では上位に位置する悪魔。
であるならば、左右の壁を蹴って頭上へと逃げる芸当など、朝飯前なのだ。【逃げるぜ、少年】、とダンテが冷静に状況を分析する。
俺を使え、と暗に言っているのだろうが、その必要はない。何故ならばライドウも、この程度の真似事は出来るからだ。

 ダンッ、と言う音と同時に、ライドウの姿がアスファルトの地面から掻き消えた。
左右の壁からも連続的に、ダンッ、ダンッ、と言う音が響いてくる。それは誰あらん、葛葉ライドウがラクシャーサと同じく、壁を蹴っての跳躍をしている音であった!!
但しラクシャーサから出遅れた為に、今回は身体にマグネタイトを纏わせて身体能力を強化している。こうでもしないと、追い縋る事が不可能であったからだ。

 切断面から血液を吹き散らし、壁と言う壁を赤黒い血液で汚しながら逃げていたラクシャーサの双眸が、大きく見開かれる。
人間を超えた力、恐らくこの男にとってはラクシャーサの力はそんな認識であったのだろう。それは、ライドウから見ても事実その通りである。
そんな力に、人間の身でありながら拮抗、いやそれどころか、容易く上回る力を持ったライドウに、彼は恐怖心を抱いていた。
黒いマントを身に纏い、赤口葛葉をその手に握り急激に距離を詰めて行くライドウは、邪鬼と化した男の目には、自らの魂の尾を刈り取ろうとする死神に見えていた。

 ラクシャーサが夜空に舞った。高度は地上から十m弱。
最早蹴って跳躍出来る壁はない。最後に蹴った壁とは逆方向の建物の屋上に、着地するだけだった。
――ゼロカンマ数秒遅れて、ライドウが壁を蹴った。ラクシャーサが最後に蹴った壁とは、反対の位置にある壁だった。つまり、邪鬼と書生は、互いに交差する形になる。
慌てて、ラクシャーサは曲刀を振おうとするが、もう遅かった。ライドウの方が早く、そして速く、赤口葛葉を横薙ぎに振るっていた。

 月明かりに照らされながら<新宿>の夜空を舞う二名の怪物は、互いに交差した後で、各々の着地点にスタリと地に足を付けた。
ラクシャーサは屋上のある建物の平坦なタイル床に。ライドウは屋上のない、やや斜めったウレタン塗装の屋根の上に。
ラクシャーサが着地した瞬間、ラクシャーサの胴体の中頃に、スピッ、と言う音を立てて、極めて鮮やかな紅色の溝が横に走った。
朱色の絹糸を、巻き付けられたかのようであった。彼の体表の赤よりもずっと目立つ。其処から、赤線よりも上の部位は左に、下の部位は右にズレて行った。
桶の中身をひっくり返したみたいに、内臓と血とをぶちまけ、邪鬼は床の上に転がった。

 死後痙攣すらしなくなった、嘗て名も知らぬ男のなれの果てである邪鬼の方を、ライドウが振り返った。 
明けき月の明かりで、ラクシャーサの死体は照らされていた。殺しても、人間に戻る事はないのだとライドウは確信する。
ライドウが刀を振るう瞬間、あの男は声帯を切り裂かれて声を発せないのに、唇を動かして何かを口にしようとしていた。
死にたくない、と彼は声にしたかった事を、ライドウはしっかりと認識していた。


.


714 : Turbulence ◆zzpohGTsas :2015/09/13(日) 02:44:41 CFxPPfAE0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「どう思うよ」

 念話を使わずとも、どうせ誰も聞いていないと思ったのだろう。
ダンテはライドウに、そんな事を聞いて来た。殺したラクシャーサの死体を検分しようと、彼の亡骸が転がる方の建物の屋上に跳躍し着地したライドウが、口を開く。

「聖杯戦争の参加者の手によるものだと言う事は間違いない」

「だろうね」

 人間を悪魔に変える技術。それ自体は、人間の手であろうとも十分可能である。
但しそれは、並々ならぬ魔道の知識があって初めて、と言う枕詞が付く。少なくともこの世界の魔術の水準では、人間を悪魔化させる事など到底不可能な筈。
いやそもそも、初めからこの世界に魔術など存在するのか、と言う根本的な疑問にまで行き着く。
どちらにせよ、この世界の常識に照らし合わせれば、人が悪魔に変貌する等到底考えられない筈なのだ。
で、あるならば。聖杯戦争の参加者が一枚噛んでいる、とみるのが自然な考えであろう。
――だが、誰が? これは、流石のライドウだって解らない。マスターかも知れないし、サーヴァントなのかも知れない。

 死体の近くまで近づき、屈んで死体を検分するライドウ。悪魔はその擬態能力を駆使し、人間に化けると言うケースが往々にしてあるものである。
これらの場合は、悪魔であると見抜き調伏させても、肉体は所詮マグネタイトで構築されたそれである為に、死体が人間界に残らないと言うケースが殆どだ。
しかし今回の場合は、完全に人間が悪魔に変異した状態である。故に、悪魔の死体がそのまま現実世界に残っている、と言う、通常ありえない事態が起っているのだ。
デビルサマナーとしての常識で考えれば、混乱すら引き起こしかねない今回のケース。しかしライドウは冷静である。
数少ない情報から、可能性がかなり高いであろう推理を、彼を導き出せていた。

「恐らくこれを仕組んだ主従は、キャスターを引き当てた可能性が高い」

「根拠は?」

「悪魔に変身した時のあの迷いのなさ、変身そのものの淀みのなさ。そして、このラクシャーサの強さ。特に三つ目が重要だ。
俺の知るラクシャーサの強さに余りにも肉薄し過ぎている。これら三つの要素を統合して推理すれば、極めて高度な魔術或いは科学的な措置を以て、
この男は悪魔に変身出来る力を得た可能性がある。キャスター以外でそれを成せるクラスは、余程の例外が存在しない限り、ありえないと見た」

「キャスターって事は……魔術か、或いは工房で作った何らかの道具で変身させられた、って可能性があるって事か」

「その通りだ。……尤も、憶測の域を出ないがな。どちらにしても、証拠が少なすぎる。解っている事は、この男に力を与えた存在が、女であると言う事だけだ」

 このラクシャーサが人間であったあの時、彼は女から力を得たと言っていた。
この情報は重要である。二つの性別の内、一つは潰せたと言う事なのだから、これ程大きいものはない。後は、ライドウとダンテがやる事は、一つである。

「セイバー」

「ああ」

「悪戯にしても気分が悪すぎる。これを仕組んだ者を葬るぞ」

「ハハハ、やっぱ気が合うな少年。俺も、こう言う奴には御仕置しねぇと気がすまねぇんだわ。人間の尊厳も誇りも踏み躙る様な奴がな」

 ダンテの脳裏にはある組織の実態が映像として結ばれていた。
魔剣教団。自分にとっては甥にあたるデビルハンター、ネロが所属していた組織だ。
ある時期まであの組織は、人の魂を鎧に閉じ込め、所謂人工の悪魔として使役していた時期があった。
思い出すだけで、胸糞が悪くなる組織だ。父スパーダはか弱い人間を護るために悪魔としての力を、同胞の悪魔に振ったと言うのに、彼に守られた人間が、
何時しか悪魔の強大な力に魅入られ、罪なき人間や動物の魂を弄んだのだから、伝説の魔剣士の血を引くダンテが、気分が悪くならない筈がない。
結局、そんな悪魔染みた所業を指導した教皇は、甥の手により殺された。あの時は、美味しい所は、彼を立てると言う意味で甥のネロにくれてやったが、
この<新宿>には彼がいるかは解らない。となれば――引導を渡してやれるのは、自分と、相棒のライドウしかいないのだろう。

「悪魔も泣き出す仕置きをしてやろうぜ、少年」

 いつもの軽口を叩きながら、ダンテはライドウに対してそう言った。
隠し切れない怒りの念が、その声音に籠っている事に、ライドウは気付いていたのであった。


715 : Turbulence ◆zzpohGTsas :2015/09/13(日) 02:44:56 CFxPPfAE0
【高田馬場、百人町方面(新大久保コリアタウン)/1日目 午前0:10分】


【葛葉ライドウ@デビルサマナー葛葉ライドウシリーズ】
[状態]健康、魔力消費超極小
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]黒いマント、学生服、学帽
[道具]赤口葛葉、コルト・ライトニング
[所持金]学生相応のそれ
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争の主催者の思惑を叩き潰す
1.帝都の平和を守る
2.危険なサーヴァントは葬り去り、話しの解る相手と同盟を組む
[備考]
・遠坂凛が、聖杯戦争は愚か魔術の知識にも全く疎い上、バーサーカーを制御出来ないマスターであり、性格面はそれ程邪悪ではないのではと認識しています
・セリュー・ユビキタスは、裏社会でヤクザを殺して回っている下手人ではないかと疑っています
・上記の二組の主従は、優先的に処理したいと思っています
・ある聖杯戦争の参加者の女(ジェナ・エンジェル)の手によるチューナー(ラクシャーサ)と交戦、<新宿>にそう言った存在がいると認識しました
・チューナーから聞いた、組を壊滅させ武器を奪った女(ロベルタ&高槻涼)が、セリュー・ユビキタスではないかと考えています
・ジェナ・エンジェルがキャスターのクラスである可能性は、相当に高いと考えています




【セイバー(ダンテ)@デビルメイクライシリーズ】
[状態]健康、霊体化
[装備]赤コート
[道具]リベリオン、エボニー&アイボリー
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の破壊
1.基本はライドウに合わせている
2.人を悪魔に変身させる参加者を斃す
[備考]
・人を悪魔に変身させるキャスター(ジェナ・エンジェル)に対して強い怒りを抱いています
・ひょっとしたら、聖杯戦争に自分の関係者がいるのでは、と薄々察しています


716 : ◆zzpohGTsas :2015/09/13(日) 02:45:07 CFxPPfAE0
投下を終了いたします


717 : ◆zzpohGTsas :2015/09/14(月) 00:51:00 yWvYz6Jc0
セリュー・ユビキタス&バーサーカー(バッター)
予約いたします


718 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/14(月) 18:36:47 G9pSE1Lc0
お二方とも投下乙です!

>さよならレイ・ペンバー
ジョナサンの絶対に折れない黄金の精神は聖杯戦争の中ではより一層輝いてますね
でも、十兵衛の言うとおり結果的に敵を作ることになりそう、初っ端からロベルタ組と当たりましたがはてさてこの先どうなるか…
十兵衛天子組は役割を装って聖杯戦争のマスターらしく立ち回りつつも天子が勝手に買い物に出かけたりとどこかほのぼの感があっていいですね
要石が新宿に埋められましたがこれが<新宿>にどのような影響を与えるか…今後が楽しみです

>Turbulence
ライドウは流石の強さ。
悪魔化してしまった人間へのカイシャクは見事でした。
悪魔を相手にしても終始優位に立っていましたね。
恐らく全マスターの中でも最強といっても過言ではないでしょう。
そしてその黒幕へいつもの調子を保ちつつも怒りを燃やすダンテもかっこいい!

申し訳ありませんが私の予約を延長させていただきます


719 : ◆3SNKkWKBjc :2015/09/15(火) 21:39:07 SJy/ngu.0
雪村あかり&アーチャー(バージル)
予約します


720 : ◆zzpohGTsas :2015/09/16(水) 02:18:40 9c6gNNTg0
投下します。感想は、延長された書き手様が投下されてから致します


721 : 全方位喧嘩外交 ◆zzpohGTsas :2015/09/16(水) 02:19:10 9c6gNNTg0
 セリュー・ユビキタスと言う女性にとって、正義と言う概念は相対的なものでなく、絶対的な物だった。

 正しい、と言う事には理屈が絡んでいる。
AならばBと言ったように、AやB、Cと言った事柄があるからこそ、結果であるDが正しいのだ、と言う論法が、自分の正当性を主張する上で最もベターなやり方だ。
これらはつまり、AやB、Cと言う理屈があるから、自分の考えや言い分は正しいと言う事を意味する。
こう言った方法論は十字軍遠征やレコンキスタ、聖戦などの、宗教を母体とした武力行使や戦争行為の理由付けにも用いられる。
では、その様な方法論で導き出した結果が唯一正しい事柄なのかと言われればそうではなく、そうやって導き出した正当性は、
武力行使される側や論駁される相手側も往々にして持っているものなのだ。そして相手の方も往々にして、説得力のある理屈を持っているものである。
正しいと言う事は、そう言う物なのだ。絶対的なものなどそれこそなくて、個人の規矩で判断するしか出来ない、相対的な物なのである。

 セリューにはそれが解らなかった。
彼女にとって正義とはある一つのものに依拠したそれであり、そしてそれこそが、彼女の絶対的かつ、狂おしいまでの正義の根拠となるものであった。
それは、『自分の価値観そのもの』。冗談のような話であろう。セリューの価値観から見て許容出来ないと判断されれば、それは彼女にとって悪であり、
彼女の価値観から見て正義であると判断したのであれば、それが例え表面状の物であっても正義である、と言う事であるのだから。
セリューは、折り合いと妥協と言うものが出来ない女だった。思い込んだら、一直線の女だった。
今日も彼女は直走る。自分が追い求める完全完璧で、瑕疵のない正義の世界に向かって。相棒である帝具・ヘカトンケイルのコロではない。
自分と同じ、正義の世界を目指していると言う同志であり師匠である、バッターと共に。

 正しい一日は、規則正しい生活から生まれるものだ。少なくともセリューはそう思っている。
彼女の所属していた帝都警備隊がそもそも、規則正しい生活を旨とする傾向が強かった部署である。
その時の習慣が、この世界に行っても身についているのだ。就寝はどんなに遅くても十二時を超えないように。起床は七時以内。
朝食は欠かさず食べ、エネルギーを取ってから仕事に向かう。それが、帝都警備隊の隊員の一人、セリュー・ユビキタスの日常なのだ。

 カーテンの隙間から差しこんでくる、気持ちの良い夏の朝の光の匂いを感じたか。
毛布を腹に掛けて布団の上で寝ていたセリュー・ユビキタスは瞳を開かせ、ムクッ、と立ち上がった。
「んーっ」、と背を大きく伸ばしてから、カーテンへと近付き、バッと勢いよく左右に開かせた。
夏の朝日が燦々と、セリュー・ユビキタスに降り注ぐ。日は上り、空には雲の一つもなくて。雨なんか降りそうもなくて。
今日も一日、良い日になりそうな。そんな予兆を感じずにはいられない、午前六時半の朝だった。

「今日も正義を執行するには良い日になりそうですね、バッターさん!!」

 寝起きとは思えない程晴れやかな笑みを浮かべて、バッターのいる方に向き直るセリュー。
セリューの目覚めと同時に実体化し、部屋の隅でジッとしていたバッターが、ゆっくりと口を開き、こう言った。

「俺達にとっては今日が良い日になるかは、難しい所だ」

 「どうしたんですか? らしくない」、と、言おうとしたセリューだったが、気付いてしまった。
枕元にステンレスの台所の上に置いてあった、契約者の鍵が。群青色に明るく光り輝いている、と言う事実に。


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722 : 全方位喧嘩外交 ◆zzpohGTsas :2015/09/16(水) 02:19:27 9c6gNNTg0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 契約者の鍵から投影されたホログラムの内容を要約するのであれば、こう言う事になる。
①今日から聖杯戦争が開始する、②遠坂凛とバーサーカーの主従に討伐令が敷かれた、③自分にも敷かれた。
以上三つの内容が最も重要な事柄……いや、それら三つが、事実上契約者の鍵から投影された内容の全て、であった。

 今日から聖杯戦争が始まった、と言う事実に、二人はさしたる驚きはない。
寧ろセリューに至っては、「いよいよこの世から悪が消え去るんですね!!」、と強く意気込んでいた程だ。
戦略上重く受け止めねばならないのは、残りの二つ。即ち、遠坂凛とセリュー自身が、お尋ね者になっていると言う事であろう。

 遠坂凛に関して言えば、セリューとバッターは参加者なのであろうなと言う事は大体予測出来ていた。
安アパートではあるが、TV位はおいてある。<新宿>におけるセリューのロールは、警察官を目指して上京、勉強した女性の一人と言うもの。
時事の把握の為に、安物のTV程度は部屋に置いてあるのである。ニュース番組を付ければ、スピード違反者の取り締まりの為に道路に設置された隠しカメラが映した、
黒い略礼服の殺人鬼の大量虐殺の映像が流れていたのだ。当然、自らを正義の徒と信じているセリューは強く憤った。
一方で映像を見ていたバッターの方は至極冷静で、聖杯戦争の参加者かも知れない、と推理していた。それはそうだろう、余りにも殺人の手際が迅速過ぎる。

 遠坂凛の主従が、聖杯戦争の主催者から危険人物だとマークされるのは、よく解る。
余りにも悪目立ちし過ぎであるし、何よりも正義に反している。真昼間から往来で百人を超す人物を惨たらしく殺す何て、正義の欠片も無い行為だ。
到底許される事ではない。遠坂凛は、悪である。可憐な容姿のその中に、昏くて黒く燃える炎を燻らせた、ドス黒い悪なのだ!!
だから、彼らに討伐令が下された理由は、セリューも良く解る。――だが、何故

「何で私達にまで討伐令が下されてるんでしょう?」

 小首を傾げながら、セリューはバッターに意見を求めた。
セリュー・ユビキタスには、自分達が何故マークされているのか、理解が出来ずにいた。
例えこの世界が、セリューの認識している所の帝都でなくても、街の治安は守られるべきなのである。
ヤクザや暴力団と言うのは、公序良俗を乱す最たるものではないか。それを街から断罪して、何が悪いと言うのだろうか。

「このホログラムから見て取れる事が一つあるとすれば、聖杯戦争には主催者がいる、と言う事だ」

「そうなりますよね」

 バッターを呼び出してから、このホログラムを見るまで、セリューは、自分は聖杯戦争を行う為に此処に来たのだ、と言う意識自体が希薄であった。
この街に蔓延る悪を裁こうと駆けずり回り、汗を流していたら、すっかりそんな意識がすっぽ抜けていたのだ。だからこそ、考えが回らなかった。
不特定多数の人物を集めてこのような催しを行うのであれば、当然、催しを円滑に進める為の裁定者が必要になる、と言う事を。

「この遠坂と呼ばれる女が討伐対象になったのは、其処に書いてある討伐事由の通りだろう」

「許されない事ですねバッターさん……常軌を逸してますよ!!」

「『無辜』の、と言うのが重要だ。この女は何の罪もない人物を殺している事になる」

 ますます、遠坂凛への義憤が募るのをセリューは感じる。
このような巨悪は速く見つけだし、敬服するバッターと共に正義の鉄槌を下さねばならない。
遠坂凛達が裁かれるべき悪である事は論を俟たないのだが、此処で疑問が最初のそれに立ち戻る。即ち、何故自分達まで討伐されねばならないのだと言う事を。
遠坂凛とセリュー・ユビキタスは、同じ討伐令を下されたと言う共通項があるが、実は違いがある。
それは、『討伐事由の文面』だ。遠坂凛は『無辜の』、と書いてあるのに対し、セリューの方には『何の修飾語句』も付いていないのだ。
これらから、遠坂凛は本当に何の罪もない一般市民を殺して回っていると言う事を導き出せるのは容易い。何故、何故自分達まで?


723 : 全方位喧嘩外交 ◆zzpohGTsas :2015/09/16(水) 02:20:03 9c6gNNTg0
「恐らくこの討伐令が下されたのは、善悪何てものではなく、単純に、どれだけ人を殺したかと言う事を基準にしているのだろう」

 改めてセリューは、両者が何人殺したのかを確認してみる。
正直、自分が何人殺したのかなど彼女は数えた事もなかったが、バッターの言うように、遠坂と彼女の殺害人数は百の大台に乗っている。
セリューは自分の殺害人数を見ても、<新宿>に蔓延る悪が百二十一名減ったとしか思わない。自分とバッターの努力の結晶だ。
だが遠坂の殺害人数を見た場合、彼女は、<新宿>から善良な市民が百八十名も減ったと考える。これは遠坂凛とそのバーサーカーの暴虐の結晶だ。
同じ殺害人数百名超でも、これだけの差があるのだ。であるのに、自分達の主従を討伐対象に指定した、この聖杯戦争の主催者とは――

「もしかして、悪なのでは……?」

 バッターの顔を見て、セリューは意見を求めた。

「……」

 数秒程の時間を置いてから、バッターは答えた。

「そうだ」

 やっぱり、と言った様な表情で一度首肯した後で、セリューが言った。

「そうですよね、私達は正義を成しているのに、それが解っているのに討伐令を下す何て!! となればこの聖杯戦争の主催者は、悪だ!!」

 これが、セリューの思考回路だった。
自分と、自分が心酔するバッターの正義を邪魔する者は、例外なく悪。それこそが、彼女の価値観だった。聖杯戦争の主催者が相手でも、その認識は揺るぐ事はない。
寧ろ主催者でありながら、積極的にこの街の悪を是正して回っている自分達を、殺した人数の多さだけで討伐令を下す主催者側の方が悪だとすら思っていた。
この主催者が管理の下では、自分とバッターが理想とする、悪のない世界の達成に滞りが生じる。早くに、断罪されねばならない。

「バッターさん、この主催者を――」

「落ち着けセリュー。気持ちは解るが、俺達はこの主催者の場所が解らない。今は正義をぶつける時ではない」

 バーサーカー、と言うクラスの割には、バッターは冷静だった。
このホログラムからは、聖杯戦争の主催者の存在が仄めかされこそすれ、それが何処に住んでいるのか、と言う決定的な情報が伏せられている。
さしものバッターもこれではどうしようもない。だが、何時か必ずこの主催者はその姿を見せる筈だ。その時こそ、セリューの言うように、断罪される時なのだ。
蒙昧たる悪魔の子に。穢れたる哀れな霊に、聖なる稲妻が落とされる時なのである。

「では私達は、その間何をすればいいんでしょう、バッターさん」


724 : 全方位喧嘩外交 ◆zzpohGTsas :2015/09/16(水) 02:20:17 9c6gNNTg0
 当然の疑問であろう。これは要するに、今後の方針を決める為の質問である。
作戦指揮の殆どをバッターに任せているセリューにとって、これは聞いておきたい事柄であった。

「正しい事が、世の真理になる。のであれば、いつも通り、規則正しい日常を過ごし、悪を裁いて行けば良い」

「了解しました、バッターさん!!」

 ビシッ、と、帝都警備隊時代の名残である敬礼をし、了解の旨をバッターに示した。
今日から、聖杯戦争が始まった。となれば、いつも以上に日常を送る事に気を付けねばなるまい。
そしていつも以上に、栄養のつくものを食べねばなるまい。台所に設置した安い小型の冷蔵庫の中には、卵とハムが入っている。
これをフライパンで焼き、買っておいた食パンに乗せて食べるのだ。タンパク質と炭水化物も摂れて、これで朝食は万全、と言うものだ。
だがその前に、顔を洗おう。洗面所へと近付いて行くセリューを見ながら、バッターは口を開いた。

「セリュー」

「はい?」 

 蛇口に手を伸ばしかけたセリューが、何だろうと言った様な顔をバッターに向ける。

「俺の言う世界の浄化が、悪も善もない世界の成就だと言えば、お前はどうする」

 と、言うような内容の発言をセリューに訊ねるバッター。
一瞬キョトンとしたセリューであったが、ニコリ、と笑顔を浮かべて彼女は口を開いた。

「その世界には、悪はいないんですよね?」

「当然だ」

 バッターの答えは、淀みがなかった。

「ならば、その世界は、とても素敵で、理想的な世界だと思います」

 「だって――」

「私にとっては、悪のない世界こそが、本当の理想の世界なんですから。バッターさんは善もないと言いましたけど、悪がいないのなら、正義に満ちた世界だと思いますよ」

 迷いも何もなくセリューは思う所を口にする。それを聞いてバッターは、二秒程の間を置いてから、口を開く。

「それを聞いて安心した」

 笑みを強めて、満足気なセリュー。顔をぬるい水で洗ってから、後ろ髪をいつものポニーテールに纏め上げ、台所へと彼女は歩んで行く。
「バッターさんも朝食食べますか?」と聞くセリューに対し、バッターは、「いや」、と短く断った。
「ご飯食べないと本調子になれませんよ〜?」、と、サーヴァントが食事を摂る必要がない事を全く知らない風にセリューが言った。
狂人達の日常が、其処にはあった。屍の上に築かれた平穏が、其処にはあった。


.


725 : 全方位喧嘩外交 ◆zzpohGTsas :2015/09/16(水) 02:20:46 9c6gNNTg0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 セリューは割と当たりであったようだ、とバッターは、台所でタマゴを割っているセリューを見て考える。
このバーサーカーにとって、マスターの当たり外れの基準とは、何なのか? 戦闘能力か、それとも自身の存在を維持出来る魔力量の持ち主か?
確かにそれらも重要なのだが、彼にとってはそれよりも重要な物差しが存在した。それは、自らの神聖な任務を邪魔しないか否か、と言う事である。

 バッターは、絶対に果たされねばならない神聖な任務を負っている。
それを成す為ならば、彼は妥協しない。目の前に立ちはだかる存在が悪霊だろうが、文字通りの悪魔だろうが、自らをサポートして来た猫であろうが。
迷う事無く撲殺し、引き裂き、切り刻み排除する。この男はそう言う存在なのだ。世界を浄化する為ならば、誰だって敵になる。それが例え、マスターであるセリューであっても。

 しかしこのマスターを手にかける心配は、今の所なさそうであった。
バーサーカー、つまり狂戦士のクラスで召喚されたバッターにすら理解出来る。目の前の少女が、非常に歪んだ精神の持ち主であると。つまり彼女は、狂っている。
だが、狂っているかなどバッターにとっては問題ではない。肝心なのは、自らの浄化を邪魔しないか否か、それだけなのだ。
何が原因で彼女が狂ってしまったのかなど、どうでも良い。彼女は戦闘技能自体が高く、何よりも、自分の思想に賛同すらしている。
それだけで、十分だった。となれば、後は世界の浄化に向けて突き進むだけである。セリューは、生前のバッターを世界の浄化に導いた『プレイヤー』だ。
精確に言えば、彼女は『プレイヤー』のように上位の次元からバッターに指示を飛ばしていた存在とは違う。だが今は、バッターは彼女をプレイヤーと認識する事とした。

 ――主催者、か――

 今後世界の浄化を遂行する上で、他のサーヴァントと同じ位、避けては通れない道。それが主催者であった。
聖杯戦争などと言うイベントを主催、管理・運営すると公言した者である。先ず間違いなく、碌な存在ではない事は解り切っていた。
セリューの言う悪なのかどうかは、今のバッターには判別不可能であるが、一つ解る事があった。それは間違いなく、主催者は自分達の敵になったと言う事である。
主催者の思惑が、仮に全参加者の消滅であったと仮定しても、まさか初っ端から牙を向くとは考えられない。しかしセリューとバッターは、最初から牙を向かれている。
つまり、スタートラインの時点でこの主従は著しい不利を強いられていると言っても過言ではない。
このままセリューがNPCを葬り続けて行けば、下手をしたら主催者自体が此方を抹消しに行きかねないだろう。

 だが、それで良い。バッターがセリューの蛮行を止めなかったのは、これが理由だったのである。
バッターの究極の目標は、この世界の全てを浄化し、無の水底へと沈めさせる事に他ならない。そしてその願いを成すのに、『聖杯は不要』なのだ。
バーサーカーがこの世界の管理・運営者を倒した時、世界は白い海へと沈められる。そしてその管理者――ガーディアン――こそが、
この聖杯戦争の主催者だとバッターは認識していた。これを葬った瞬間、バッターの神聖な任務が成就される。
バッターには聖杯など要らない。従って、他の参加者と戦う必要性も極端に薄い。理想はただ、主催者一人を葬れば良い。
彼がそれを成したその瞬間、彼と、セリューの願いが果たされる。実に、シンプルで、そして、難しい道であった。


726 : 全方位喧嘩外交 ◆zzpohGTsas :2015/09/16(水) 02:21:00 9c6gNNTg0

 バッターは知っていた。
己が成す任務には、最後の最後に、邪魔が入る事を。決して誰にも理解されない、孤独な使命であると言う事を

 ――どんな風にイカレちまえばそんな、テメエに都合のいいことだけをめくらみてェに信じ込めるってんだ?――

 ――いいだろう、浄化する者よ。我が命運を封じようというのだろう? 案ずるな。死への準備はできている。だがその前に覚悟せよ。我が真の姿を目にするがいい――

 ――おまえの生きる希望なぞ、角砂糖のように喰らってやろう…――

 ――坊やに手出しはさせないわ。あの子が、私たちをこの世界へ生み出してくれた。今日があなたの墜ちる日よ――

 ――さあ、バッター、味わってくれ。我ら失った報復者たちの、益無き正義への渇望を。――

 自分に対して浴びせかけられてきた言葉が、次々とリフレーンする。
失せろ悪霊。心の中で静かに口にするバッター。あの世界は今や彼の手で浄化された。よってこの言葉など、か弱い雑霊の戯言に過ぎない。
今は、この<新宿>と、それを取り巻く世界の浄化こそが、バッターには重要なのだ。この世界は、か弱い赤子が生み出した世界とは違うかも知れない。
しかし、バッターは浄化者だった。骨の髄まで、白い炎と稲妻で構成された神聖なる者なのだ。だから、この世界でも直走る。
神聖な任務の成就に向けて。鮮やかな白い世界の成就に向けて。

 ――くらいのは…こわいよ…――

 血の海に沈む子供の映像が、バッターの脳裏を過った
三人の愚かな理想主義者に愛でられた一等星。羽虫の女王が世話に失敗した子供。バッターの浄化の犠牲者。

「……」

 この映像に対して、バッターは無言だった。ヒューゴを悪霊と言う勇気は、バッターには無かった。



.


727 : 全方位喧嘩外交 ◆zzpohGTsas :2015/09/16(水) 02:21:25 9c6gNNTg0
【落合方面(セリューの安アパート)/1日目 午前六時半】


【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]この世界の価値観にあった服装(警備隊時代の服は別にしまってある)
[道具]トンファーガン、体内に仕込まれた銃
[所持金]ちょっと貧乏
[思考・状況]
基本行動方針:悪は死ね
1.正義を成す
2.悪は死ね
3.バッターに従う
[備考]
・遠坂凛を許し難い悪だと認識しました
・主催者を悪だと認識しました
・自分達に討伐令が下されたのは理不尽だと憤っています
・バッターの理想に強い同調を示しております


【バーサーカー(バッター)@OFF】
[状態]健康
[装備]野球帽、野球のユニフォーム
[道具]
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:世界の浄化
1.主催者の抹殺
2.立ちはだかる者には浄化を
[備考]
・主催者は絶対に殺すと意気込んでいます
・………………………………


728 : ◆zzpohGTsas :2015/09/16(水) 02:21:39 9c6gNNTg0
投下を終了いたします


729 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/17(木) 19:11:00 4LgpD3ZY0
申し訳ありません、予約していた者ですが、全パートが期限内にまとまりそうにありませんので、
凛と黒贄が登場するパートのみを1話にまとめて投下します
塞と鈴仙が登場しないことをお詫び申し上げます


730 : 笑顔の絶えない探偵です ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/17(木) 19:12:02 4LgpD3ZY0
彼女の視界を覆うのは、闇。
彼女はテレビを前にして、ソファの上で微動だにしない。
三角座りをして膝と膝の間に額を埋め込み、なにも考えないように徹していた。
ふと、部屋にかけられていた時計が日付が進んだことを知らせる鐘を鳴らす。
怖気づいたように体を少し震わせて、顔を上げる。
彼女――遠坂凛を覆っていたのは、闇であった。

市ヶ谷の高級住宅地の一角にある豪邸内に、遠坂凛はいた。
明かりはつけていない。豪邸に誰もいないことを装えないから。
碌なものを食べていない。迂闊に外出したすることもできないから。
誰とも話していない。もう自分は追われる身で指名手配されているから。
無論、自身のサーヴァントとも少ししか話していない。下手に近づくと……その手にかかりそうだったから。

血の臭いと腐った生物の臭いが凛の鼻を刺突したが、何とも思わない。
もうこの臭いには慣れてしまった。もしかしたら嗅覚に障害を患っていて、もうこの臭い以外を知覚できないかもしれない。
三角に丸めていた脚を解いてソファに腰かける形になるが、足の裏には床の硬い質感ではなく足置きの柔らかい心地よさが伝わってくる。
足元を目を凝らしてよく見てみると、そこには死後間もない死体の背中の上に凛の足があった。
首から上はなく、切断面から流れ出した血が運河を形作っている。
そこら中に散らばった人間の死体の血で、部屋は文字通り血の海であった。

このどれもが、豪邸に元々住んでいた暴力団の構成員ではない。
ここに移り住んでから、新たに凛のサーヴァントがどこからともなく持って帰ってきた死体である。
黒贄礼太郎が虫取りに出かけて蝉がたくさん詰まった虫かごを手にした無邪気な子供のようにどさどさと死体を転がしていった。
黒贄礼太郎が新たに殺害した52名の内、約1/3が無関係な一般市民の骸である。

「…………」

それを見て目をしかめることもなく、凛は暗がりの中から群青色の光が輝いていることに気づき、死体の山につまづきながらもその光に向かい始めた。
その光に照らされた凛の顔には血がべっとりとついていた。
瞳に宿る光は今にも消えそうに弱々しかった。
服に血がつこうとももはや気にならないし、シャワーを浴びにいく気力も失せている。
遠坂家の家訓『どんな時でも余裕を持って優雅たれ』など、精神が擦り切れた凛の心からはとうに忘れられていた。


731 : 笑顔の絶えない探偵です ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/17(木) 19:12:39 4LgpD3ZY0

発光していたのは付近のテーブルに置かれていた、自身がマスターであることの証――契約者の鍵。

「あ………」

凛は何かの糸が切れたように、久々に声を出した。



『遠坂凛及びバーサーカーの討伐』



聖杯戦争の幕開けを知らせる通達と共に表示されていた、討伐クエスト。
ホログラムに投影されたそれを見て、凛の瞳から光が消え失せた。

しばらく呆然としていたが、理性をも手放したくなる自身を何とか抑え、動悸で肩を揺らしながら豪邸内にいるであろう黒贄を探す。
凛の中にある意地と遠坂の誇りが今にも崩れ落ちそうな彼女を繋ぎ止めていた。
凛と黒贄の討伐クエストが発令された今、新宿全域のマスターにはっきりと『遠坂凛がマスターである』ことが伝わった。
とはいっても凛は件の大量殺人で既に世界的に有名であったが、聖杯戦争が本格的に始まった今、
早期に対策を打たねば聖杯を勝ち取るどころか1日生き延びることすら難しくなってしまう。
マスター同士の1対1なら負ける気はしないが、それが1対多数なら話は別だ。
とにかく、腹立たしいことに今はこの状況を生み出した諸悪の根源である黒贄しか頼ることができないのだ。

床に散らばる死体を掻い潜り、なんとか黒贄を見つけた。
明かりのない暗闇で黒贄を探し出すことができたのは、グチョ、カチャといった音が豪邸内に響いていたからである。
一体黒贄が何をしているのかわからないが、黒贄にじりじりと接近する。
いつでも令呪を使えるように、集中を切らさないでおく。

殺人をするために生まれてきたような「異常」という言葉がとてつもなく生ぬるく感じるサーヴァントのことだ。
凛も無意識のうちにあの死体の山に仲間入りしているかもしれない。
いつしか凛は、なるべく黒贄に話しかけるときは令呪をいつでも消費できるよう万全の状態を整えるようにしていた。
それによる精神の疲弊が凛をより追い詰めるファクターの一つとなったことは言うまでもない。


732 : 笑顔の絶えない探偵です ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/17(木) 19:14:04 4LgpD3ZY0

「…くらに――」

凛が黒贄の名を呼ぼうとした瞬間、凛の首筋目がけて何かが飛来した。

「ッ!?」

それを見た凛は目を見開き、上体を逸らして間一髪で避けた。
令呪を使えるよう神経を尖らせていたことが功を奏した。
しかし無傷というわけにはいかず、凛の額の皮膚が少し削り取られて凛の鼻の頭を血が伝っていた。
鋭い痛みが凛を襲うが、右手で額を押さえて唸り声を出しながら怨みの籠った目線で黒贄を睨んだ。

ヨレヨレの黒い礼服を纏った腕の先には、彫刻刀が握られていた。
刃には凛のものと思われる血がポタポタと流れ出ている。
黒贄は机の上である作業をしていたようで、振り返った黒贄の顔には淡い笑みと共に幾分かの不機嫌さが含まれているような気がした。
机の上には死体からもぎとった生首が置いてあり、僅かに「中身」の残った頭蓋骨が置いてある。
彫刻刀で肉と皮、脳を全て掘り出して頭蓋骨だけを残す作業の真っ最中あった。
足元には中身と皮を除去された頭蓋骨が数個落ちていた。

「おや、凛さんじゃないですか」
「アンタねぇ…!」
「残念ですが、まだ受付時間ではありません。それ以外の時間では探偵として応対出来ない場合がありますって張り紙が――ああ、ありませんでしたねぇ」

今すぐ切り札にとっている長年練り上げた宝石を使って黒贄を消し飛ばしたくなる衝動に耐える。

「…サーヴァントに睡眠は必要ないってことは知ってるわよね?」
「それは本当ですか」
「本当の本当!!私のサーヴァントなんだから言うこと聞いてよッ!!」

相変わらず馬鹿にしたように微笑を浮かべている黒贄に耐えられず、凛は大声で怒鳴る。
仮にも世間から身を隠しているのにそれにも構わず凛の声は豪邸中に響き渡った。


733 : 笑顔の絶えない探偵です ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/17(木) 19:14:39 4LgpD3ZY0

「むう、こんな時間に依頼とはねぇ。サーヴァントは24時間労働だったのですね、初めて知りました」
「そうよ、サーヴァントは24時間労働!」

まるで子供に方便を並べて言うことを聞かせる大人のように凛は黒贄の言葉を肯定する。
黒贄が動いてくれるなら、それが間違っていようとも凛はどうでもよかった。

「困りましたなぁ、仮面を作る作業に打ち込めなくなる」
「いいから聞いて!後払いで百万でも二百万でも出すから!!」
「ほほう」

報酬の話を聞いた黒贄は先ほどよりも食いついた。
凛はこのまま押し切って依頼という形で指示を聞いてもらおうとして、続ける。

「私達の討伐クエストが発令されたわ。このままだと、他のマスターがここを嗅ぎつけてくるのも時間の問題よ」
「なるほど、討伐クエストですね」
「…知ってるのね?」
「いいえ、初耳です」

凛は溜め息をついた。
もう黒贄と一言二言交わすだけでも疲れるといった様子だった。

「もう、同盟を組める相手なんていないと考えていいわ。私達以外はみんな敵よ」
「ほうほう。それで、ご依頼は」
「私を殺そうとするマスターやサーヴァントがいたら、迎え撃ってほしいの」
「ふうむ、つまり依頼はあなたの護衛、ということになりますかな?」
「そうなるわね」

初めて黒贄が殺人を犯した時から分かりきっていたことだが、彼は殺人鬼である。
それもただの殺人鬼ではない、殺人という行為にある種のこだわりを持っているようで、「殺す」ことに関してはパラメータも併せて最強ともいえるだろう。
また、黒贄と数少ない言葉を交わすうちにわかったことだが、彼は正真正銘の不死身であるらしい。
通りすがりの人を殺害するという魔術師を泣かせるどころか卒倒させてしまうような外れもいいところなサーヴァントだが、戦闘能力はどのサーヴァントを相手取っても引けを取らない。

だからこそ、凛は黒贄を自分を守る盾にしてなんとかやり過ごそうと考えた。
その場しのぎの策だが、今のところ下手に動くよりかはこうした方が安全だ。
現在の凛の状況は、完全に詰んでいる。
討伐令が出され、同盟を組める相手もほとんど限られ、頼れるのは元凶の黒贄礼太郎のみ。
今の凛は聖杯どころではなく、自身の命を守って何とか生き延びることしか考えられなかった。


734 : 笑顔の絶えない探偵です ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/17(木) 19:15:41 4LgpD3ZY0

「聖杯の捜索とは別に、護衛、ですか。私、こう見えて人を守ることが苦手なんです。過去に何度かそういう依頼を受けたことがありますが、
私が殺人に夢中になっている間に依頼人が殺されたり殺してしまったり、あるいは私の殺人を見て発狂してしまったりと芳しい結果が得られていませんので。
それでも宜しいのでしたら頑張ってみますが」
「……もう頼れるのはあなたしかいないのよ」
「了解しました。では、この箱の中から選んでください」

そう言って、黒贄は四角い箱を凛に差し出した。
あの忌まわしい日に見た、上面に手が入りそうな丸い穴の開いている立方体だ。

(…誰か、助けてよ…)

いつもの彼女とはかけ離れた弱音を心中で吐きながら、『狂気な凶器の箱』に手を入れてくじを引いた。

【市ヶ谷、河田町方面(暴力団から奪った豪邸)/1日目 深夜(午前0時半)】

【遠坂凛@Fate/stay night】
[状態]精神的疲労(極大)、疲労(小)、額に傷(流血)、半ば絶望
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]いつもの服装(血濡れ)
[道具]魔力の籠った宝石複数
[所持金]遠坂邸に置いてきたのでほとんどない
[思考・状況]
基本行動方針:生き延びる
1.バーサーカー(黒贄)になんとか動いてもらう
2.バーサーカー(黒贄)しか頼ることができない
3.聖杯戦争には勝ちたいけど…
[備考]
・遠坂凛とセリュー・ユビキタスの討伐クエストを認識しました。
・豪邸には床が埋め尽くされるほどの数の死体があります。
・魔力の籠った宝石は豪邸のどこかにしまってあります。
・精神が崩壊しかけています。


【バーサーカー(黒贄礼太郎)@殺人鬼探偵】
[状態]健康
[装備]『狂気な凶器の箱』
[道具]『狂気な凶器の箱』で出た凶器
[所持金]貧困律でマスターに影響を与える可能性あり
[思考・状況]
基本行動方針:殺人する
1.殺人する
2.聖杯を調査する
3.凛さんを護衛する
4.護衛は苦手なんですが…
[備考]
・不定期に周辺のNPCを殺害してその死体を持って帰ってきます


735 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/17(木) 19:29:13 5KAO/AAI0
以上で投下を終了します


736 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/19(土) 00:32:42 rwhGicKk0
バーサーカー(黒贄礼太郎)、塞&アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)で予約します

今度は間に合わせますので許してくださいなんでもしますから


737 : ◆zzpohGTsas :2015/09/19(土) 00:55:44 b6QJnoV.0
桜咲刹那&ランサー(高城絶斗)
睦月&ビースト(ケルベロス)
予約いたします


738 : ◆2XEqsKa.CM :2015/09/19(土) 04:12:11 earFlKDY0
皆様投下乙です

>Turbulence
新宿の夜を駆ける魔探偵と魔剣士
街に根深く広がるジュナ・エンジェルの魔手にやはり早期に気付きましたね
普段から悪鬼滅霊を殺し慣れてるだけにこの手の事件にはこの主従は強そうだ
知も暴も隙なく高いこのコンビの活躍が楽しみです

>全方位喧嘩外交
一方こちらは智暴共に少々心配な組み合わせ……
悪に報いを与えんと燃えるマスターと、善性も悪性も無に還そうとするサーヴァント
今は上手く回っていますが、どんな風に二人の関係が変化していくのか気になりますね
セリューさんの新宿での清貧勉強ライフが見たいいいい

>笑顔の絶えない探偵です
ちょっと暴が強すぎますねこの探偵は(恐怖)
外堀も内堀も死体でぎゅうぎゅう詰めの牙城で生活する凛ちゃんー頑張ってくれー
基本行動方針が見事に対極で面白い
討伐令への他の主従の反応は様々ですが、凛ちゃんに弁明する気力は残るのか不安



ウェス・ブルーマリン&セイバー(シャドームーン)
番場真昼/番場真夜&バーサーカー(シャドウラビリス)
で予約します


739 : ◆3SNKkWKBjc :2015/09/20(日) 22:38:51 .fmZ.98s0
皆様投下乙です。私も予約分投下します。


740 : 君の知らない物語 ◆3SNKkWKBjc :2015/09/20(日) 22:39:53 .fmZ.98s0
聖杯戦争が開始されました。





新年のカウントダウンじゃあるまいし。
聖杯戦争開幕時刻、茅野カエデ――否、雪村あかりは眠りについていた。
………が、やはり起床する。
枕元に置いてあった携帯電話で時間を確認すると深夜1時34分だった。
特に意味はない。
4時44分ならば不吉を感じるが、何ら意味のない時間帯と分かれば、寝つきが悪かったと思うだけに留まる。

起きてしまったものは仕方ないので、あかりはインターネットで情報を集める事にする。
開始早々、討伐クエストが発布された。
報酬の令呪については正直、在りがたいもの。
いくら例の『触手』を兼ね備えていても、基礎は少女でしかない。
世間体でいう受験勉強に追われているであろう中学三年生なのには変わりはない。
他のマスターたちが魔術師おろか、もっと恐ろしい何かではないとは限らないのだから………
即ち、令呪は手に入れたかった。



遠坂凛。
彼女については四六時中、念仏のように耳にする名前であったから分かる。
聖杯戦争だというのに、派手にやらかすなど少々理解ができなかった。
ニュースのインタビューを参考にすれば
彼女は属に言う優等生。
「こんな事をするような子には見えませんでした」
なんて、ありきたりな返答ばかり。

遠坂凛が良心的な人物だったとして、何故このような強行に走ったのだろうか?
答えはバーサーカー。
全うではない、根本が狂気に満ち溢れているサーヴァント。
いかに優秀な魔術師であったとしても、バーサーカーを完璧に使いこなせる訳ではないほど。

しかし、そんな甘い話はありえない。
表面を良くすること、『普通』を演じることはやろうと思えば出来てしまう。
バーサーカーを召喚する辺り、遠坂凛も実は全うな人間では?と、あかりは推測する。
あかり自身、『普通』を演じ続けている一人。
故に、遠坂凛がバーサーカーに振りまわされる悲劇の少女――そう決め打たなかった。



一方でセリュー・ユビキタス。
彼女も遠坂凛たちには及ばずとも相当な暴れようをしている。
だが、その名をニュースで聞いた覚えはない。
あかりなりに調べても、表では全く名前すら浮上して来なかった。
どうして彼女の殺人は表沙汰にならない?

決して遠坂凛らの犯罪によって話題が浮上しないのではなく、たとえば自然死だとか。
一見事故にしか見えないように殺人が隠蔽されているだとか。
注目されないホームレスのような浮浪者の死や。
まるで暗殺したかのような、解決しようのない殺人。
あるいは、表社会では公にできない人間を殺害した、など。

少なくとも『相手を選んで殺人を行っている』のは明白だった。
意図的かは定かではないものの、派手に暴れまわるだけの遠坂凛とは違い。
セリューは、表向き『普通』の存在は狙わない……のかもしれない。
無差別ではなく、セリューの殺害対象が限られているのならば、その隙をつける可能性は十分にありえる。


741 : 君の知らない物語 ◆3SNKkWKBjc :2015/09/20(日) 22:42:43 .fmZ.98s0
だが。
全ては推測、確たる情報はどこにもない。
ネット掲示板の方はお祭り騒ぎのように書き込みが絶えない。
同級生か誰かによる情報か、遠坂凛の住所と電話番号が拡散されていた。
とはいえ、それに信憑性は全くない。

【そこに行け、と】

霊体化したままのアーチャーがようやっと口を開く。
あかりは「まさか」と返事をした。

【行っても面白半分に来る野次馬しかいないよ】

一先ず、今のところは寝ることだけを重視した。
疲れを溜めたままでは最悪の戦闘で支障になりえる。

なるべく普通でいる。
でも、あそこへ――学校に行っても情報なんて手に入らない。
単純な答えだ。
聖杯戦争の渦中にいる以上、普通と平穏を保ち続ける事は不可能なのだ。
今は意識を夢に沈める。


眠りについたマスター。
彼女の心配よりもアーチャーは自らの騒ぎに意識を向けていた。
『血』と『刀』の騒ぎは確たるもの。最悪、その感覚だけで相手を探り当てられるだろう。
しかし、アーチャーはまだ動かない。
臆病風に吹かれてはいない。
闇雲に行動するのが馬鹿らしいからでもなく。
いづれ巡り合う事を確信しているからだった。




【落合方面(自宅/私室)/1日目 深夜(午前2時)】

【雪村あかり(茅野カエデ)@暗殺教室】
[状態]健康 睡眠
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]なし
[道具]携帯電話
[所持金]何とか暮らしていける程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を絶対に手に入れる。
1.なるべく普通を装う
2.学校へ行くべきか?
[備考]
・遠坂凛とセリュー・ユビキタスの討伐クエストを認識しました。
・遠坂凛の住所を把握しましたが、信憑性はありません。
・セリュー・ユビキタスが相手を選んで殺人を行っていると推測しました。


【アーチャー(バージル)@デビルメイクライシリーズ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れ、力を得る。
1.敵に出会ったら斬る
[備考]


742 : ◆3SNKkWKBjc :2015/09/20(日) 22:43:13 .fmZ.98s0
投下終了します


743 : ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 02:59:32 8x3TprTg0
投下いたします


744 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:00:14 8x3TprTg0
 大分、この<新宿>での生活も睦月は慣れて来ていた。
さざ波の音、潮の香り、目に鮮やかな木の葉の緑。それら全てが一切合切なくなった<新宿>での生活は、睦月は結構当惑していた。
特に、艦娘である睦月にとって、<新宿>と言う海のない内陸の土地であると言う要素は、この地に慣れるまで結構な時間を要させた。
艦娘と言う存在が、海と不可分の存在である事をいやがおうにも認識させられた瞬間でもある。
この街に順応するのが遅れた要因の一つに、此処が都会であると言う事もあった。
睦月が所属していたあの鎮守府は、結構な僻地に存在した要所である。所謂都会までは、結構な時間をかけて移動しなければ辿り着けない。
そう言った場所にあまり赴いた事のない睦月には、この<新宿>と言う土地は何から何まで目新しいものばかりで、当惑するばかりであった。
最近ではそう言った事はもうないとは言え、まだまだ知らないものが睦月にはたくさんある。
早い所、慣れねばならないと認識する睦月。……聖杯戦争が始まったのであれば、猶更であった。

 聖杯戦争が正式にスタートした事を知ったのは、今日の七時頃の事。
ベッドから起床し、立ち上がりかけたその時、自分をこの街へと導いたあの契約者の鍵が、光り輝いている所を睦月は見たのだ。
待機させていたパスカルと共に、鍵を調べた所、ホログラムが投影。其処で初めて睦月達は、戦いの火蓋が切って落とされた事を知ったのである。

 結論から言って、契約者の鍵が参加者達に知らせた情報。
即ち、討伐令周りの情報は、この鍵のホログラムが投影される一昨日程前に二名は知っていた。
睦月の魂に導かれてやって来た、ビーストのサーヴァント、パスカル。彼が持つスキルである動物会話は、文字通り動物との完全な対話を可能とするスキル。
と言うだけでなく、パスカル程の威容の持ち主にかかれば、対話だけでなく、命令すらも下す事が出来るのだ。
パスカルは召喚されるや否や、自らのこのスキルを用いて、ある事を実行していた。それは<新宿>中の動物。
より詳しく言えば野良犬や野良猫、ネズミに鳩、スズメに至るあらゆる小動物に、<新宿>に不穏な動きはないかどうかの監視を命令したのである。
つまり彼は、動物によるネットワークを形成したと言う訳だ。これによりパスカルと睦月の主従は、自宅に居ながらにして、<新宿>中のあらゆる情報を網羅出来ていた。
キャスターが使役する様な使い魔などと違い、戦闘能力も魔力も持たないただの動物を使役していると言う点が、大きなメリットだった。
つまり、怪しまれないのだ。まさか単なる動物が、一匹のサーヴァントの完全な支配下に置かれている等とは、誰も思うまい。その意表を、彼らは見事に突いていた。

 誰と誰が戦っていたか、誰かがNPCを超常的な手段で殺していたか、と言う情報に至るまで彼らは把握。
その情報の中に、遠坂凛とバーサーカー、セリュー・ユビキタスとバーサーカーの主従に関してのものも存在した。
……尤も、前者に関しては、連日ニュースで大々的にその内容を報道されていた為、動物会話のスキルを使うまでもなく、まぁ聖杯戦争の参加者なのだろうな、
と言う事に関しては大体アタリを付けられていたのだが。何れにしてもこの二人は、情報戦については大きく他の主従を突き放している、と見て間違いはなかった。
後は、誰とどう戦うか、と言う吟味。パスカルは戦闘を得意とするサーヴァントだ。待ちの一手だけでは、腐らせるだけだ。
その事についてどうしようかと、睦月はうんうん唸って考えていた、そんな時であった。

 庭の軒先に、一匹の鳩が止まり、リビングに設置されたソファに座っている睦月の方をジッと見ていた。
その事に気づいたパスカルが、霊体化をした状態で外に向かって行き、庭先で実体化。
窓を隔てて睦月が二匹の様子を眺める。何かを話し合っている。一度パスカルの動物会話の模様をじっくり聞いた事があるのだが、全く何を話しているのか解らなかった。
唸り声だけで本当にコミュニケーションが取れるのかと常々疑問に思っているのだが、其処は人と動物の違い。彼らには彼らにしか解らない、意思伝達の在り方が存在するのだろう。


745 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:00:30 8x3TprTg0
【マスター】

 脳内に、パスカルの声が音響の良いアリーナの中で打楽器をめい一杯叩いた様に広がった。
どうにも、この念話と言うものにはなれない。頭の中に直接語り掛けて来る、と言う表現がこれ以上となく相応しいこの意思伝達手段は、便利ではあるのだが、
それ以上に睦月には当惑の感の方が強い。早い所、慣れたい感覚であった、

【サーヴァントト目サレル、少年ノ姿ヲシタ存在ガ此処ノ所、早稲田鶴巻町ノ辺リニ姿ヲ見セルト言ウ。……オ前ノ判断ヲ伺オウ】

 ああ、やっぱり、私の住んでる近くにもいたんだ、と言う実感が、漸く睦月にも湧いてきた。
<新宿>は狭い。面積約十八平方kmの都市で戦争を行おうと言うのだ。冷静に考えれば、気付かなかっただけで参加者とご近所さんであった、
と言う事態だって往々にして起り得る。それは予測出来ていたのだが、いざそれが起ってしまうと、及び腰になってしまうものであった。

 早稲田鶴巻町。此処から非常に近い場所である。自転車を使わずとも、歩いて散歩がてらに寄って行ける所だ。
そんな所に参加者がいて今まで睦月が気付かなかったのは、その場にいるだけで様々な情報がインターネットの如く入手出来る、と言う、
パスカルの動物会話スキルがそれだけ便利だったからに他ならない。今ならば、電撃戦を仕掛ける事だって出来る。
しかしそれは、睦月の決断に全てが掛かっていると言っても過言ではない。睦月は所謂、駆逐艦モティーフの艦娘である。
駆逐艦には通常、そう言った重要な局面を強いられる局面は少ない。生まれて初めての重大な選択に、睦月は大いに悩んでいた。

 必死に悩み、悩み、悩み。そんな時間が一分程経過したある時、睦月はふと、結局この逡巡の原因は何なのかと言う事を考える事にした。
それはすぐに見つかった。何て事はない。聖杯戦争と言う戦いが睦月にとって初めての物である、と言う事が一番大きい事柄であった。
自分が初めて、深海棲艦との戦いを行う為に出撃した記憶を彼女は思い出す。あの時だって出撃前夜は、緊張で緊張で夜も眠れなかった筈だ。
しくじれば命を失うと言う本質は、サーヴァント同士が行う聖杯戦争も、深海棲艦との戦いも同じの筈。丘か海かで戦いを行う程度の違いしかない筈である。

 ――ならば、答えは決まった。
戦わずに事が済むのならば睦月としては万々歳であったが、そんな甘い事も言ってはいられないだろう。
もしも……聖杯の奇跡で如月を生き返らせるとするのならば、戦闘行為は絶対に避けられない事なのである。
どちらにしても、早い所聖杯戦争の感覚に慣れておかねば、後々の対応が利かなくなる可能性が高い。今はその絶好の機会であった

【……パスカル。行こう。その鳩さんに案内して貰って】

【心得タ】

 そう言う事となった。パスカルの頭に響く睦月の声は、そう。鋼だった。


.


746 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:00:41 8x3TprTg0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「一応、学校には出るんだね」

 制服に着替え、学生鞄を肩に下げる刹那を見て、タカジョーはそんな事を口にした。
刹那の潤沢な魔力により、常に実体化していても問題のない彼は、テーブルの上に腰を下ろし、いつもの笑みを浮かべて刹那の事を見つめている。

「剣士でもあるが、それ以前に学生でもある」

 神鳴流の剣士である事もそうだったが、桜咲刹那と言う少女は中学生。花も盛りの思春期の少女なのだ。
当然学生生活と言うものが有り、麻帆良学園の裏で剣士として活動する一方で、表向き学生として生活する事は、最早義務にも等しかった。
学生であるのならば、学生らしく、と言うあの学園の学園長の方針である。この<新宿>でその方針に従う道理はない筈なのだが、如何にも落ち着かないのだ。
だから刹那は、この世界でも、学生らしく振る舞う事としたのである。

「ま、悪い事じゃないと思うけど」

 小言の一つは言われるかと覚悟をしていた刹那であったが、意外にもタカジョーからそう言った言葉は飛び出さなかった。
この聖杯戦争、開催場所の狭さと言う観点から考えた場合、待ちの一手にも限界がある。それにそもそも、ランサーのタカジョーは、
キャスターの如く籠城戦を得意としない。寧ろ積極的に前に出て相手を迎え撃つタイプのサーヴァントなのだ。
よって彼を上手く運用するには、ただ外に出て動き回るしかないのだ。だからこそ、タカジョーは刹那の判断に対して何も文句を言わなかったのである。

 如何なる基準で決めたのかは解らないが、聖杯戦争は既に開催されてしまったらしい。
今朝方に、群青色に光る契約者の鍵を見、其処に投影されたホログラムを見て刹那は悟った。
其処に書かれていた事柄は、聖杯戦争がスタートしたと言う事実の報告、失点を重ねすぎた参加者の討伐令。
一組は、テレビ放送で散々と言っても良い程報道されていた程の有名人である為、然程驚きはなかったが、もう一組の方はまるで知らない。
聖杯戦争を勝ち抜いていけば、何れは彼らともぶつかる事になるであろう。だが今は、何はともあれ通学である。其処から、全てが始まるのだ。

 机自体に腰を下ろしていたタカジョー。
何処か遠い目で、窓から見える<新宿>の住宅街を眺めていた彼だった、刹那。
キッと、瞳が急激に鋭くなり、目にも映らぬ速度で窓際の所にまで移動した。瞬間移動、刹那達の世界に於いても高級技術とされる術だ。
不意にやられると、刹那も慣れないし、少し驚く。その事を嗜めようとした、その時だった。

「――『いる』ぜ。マスター」

 言葉の意味を理解するのに、半秒程の時間を要した。「馬鹿な」、刹那が本当に驚いた口ぶりで言葉を零す。

「ああ、早すぎる。幾ら<新宿>が狭いって言っても、なぁ。運が良いのか悪いのか」

 クルッ、と刹那の方に向き直り、タカジョーは言った。

「選択の時だぜ、セッちゃん」

 最早、セッちゃん、と呼ばれて怒る余裕すらない。
それよりも重大な、タカジョーが言う所の選択を、刹那は強いられていたのであるから。
愛刀の夕凪を仕込ませた竹刀袋を持って、彼女は――。


.


747 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:01:15 8x3TprTg0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 其処は、早稲田鶴巻町に存在する、とある公園であった。
何処にでもある公園だ。遊具もあり、砂場もあり、ベンチもある。子供や主婦の憩いの場としても打って付けである。
今は朝も早い為、人も少ない――いや。全くと言っていい程人がいなかった。見渡して見ても、人影らしい人影は存在しない。
それどころか、公園と面した通りにすら、人の姿を確認する事が出来ない。まるで、この公園と其処を取り巻く空間だけ、別世界にでも隔絶されたかのようだった。

 人がいない。従って気配もない。音響も、ほぼ皆無に近い。
比較的風のない日であった。岩倉の中の如き静けさのこの公園に、突如として一人の少年が姿を見せた。
緑色を基調とした服装を身に纏ったその少年は、入り口から、ではなく、まるで初めから其処にいたかのように、公園の真ん中辺りに現れたのだ。
瞬間移動。任意の場所に、まるで書き割りを変えたかのように、障害物や距離と言う物理的制約を無視して現れる、移動と言う概念の究極系。
彼は――タカジョーは、そのような高等技術を、息を吸うように扱う事が出来る。

 タカジョーがこの公園に現れたのに呼応するが如く、彼の真正面九m先に、それが姿を現した。
全長六m、体高二m程にも達しようかと言う、巨大な獅子(ライオン)であった。鋼色の獣毛が、陽光を反射し、キラキラと光り輝いていた。
黒い珊瑚の様な色味をした、これまた長大な、二m程もあろうかと言う節くれだった尻尾を有している。先の全長六mとは、この尻尾を含めない時の大きさだ。
巨大(デカ)い、と言う言葉がこれ以上となく相応しい巨獣である。人間であれば、並の英霊であれば。その威容を目にすれば、忽ち卒倒してしまうかも知れない。
是非もなし。今タカジョーの目の前にいるその獣こそが、冥府の君主であるかの神霊、ハデスが統治するタルタロスの番犬を任されていた獅子、ケルベロスなのだから。

「――やれやれ」

 武辺を轟かせた豪傑ですら震え上がらせる、ケルベロス、もとい、パスカルの魁偉を見ても、タカジョーは不敵な笑みを浮かべるだけ。
それどころか、自分の奇縁を皮肉る様な、自嘲気味な笑みを浮かべて、パスカルの事を見つめるだけだった。

「幼馴染と同じ名前のマスターに当たったかと思えば、今度はその幼馴染が連れてた相棒に似た奴が最初の相手か。何の因果だか」

 タカジョーはパスカルの姿を見ても、全く怯まない。どころかまじまじとパスカルの姿を観察する始末だ。
ケルベロス。彼は確かに上位の魔獣であり、もしも十全の力で世界に顕現出来たらの話であるが、その時は下手な神霊や全盛期の英霊すらをも超越した強さを発揮する。
しかしタカジョーは、そのケルベロスをも超える程の力と魔力を内包した魔王なのである。故に、怯まない、恐れない。
そもそも彼は生前、この魔獣よりも恐るべき魔王と対峙した経験が、あるのだから、畏怖する道理がないのである。

「キミ、一応名前確認しておくけど、ケルベロスって名前じゃないよね?」

「……当タラズトモ遠カラズ、トダケ言ッテオコウカ」

 そんな動作は億尾にも出さないが、パスカルは内心で大いに驚いていた。
自分の姿が特徴的である事は、パスカル自身自覚していた。人間としての名残を残したサーヴァントならばいざ知らず、完全な獣の姿をしたサーヴァントなど限られている。
特定も容易いだろうとは思ってはいたが、まさか此処まで早く真名の一部を当てられるとは思っても見なかった。
恐らく相手は、パスカル自身が認識する世界群、アマラの宇宙の一つに連なる存在の一人なのかも知れない。その証拠にパスカルは、目の前の存在が何者なのか。その確証を一目見たその瞬間から得ていた

「ソウ言ウ貴様ハ、カノ暴食ノ魔王デハナイノカ」

「僕は一応小食なんだ、これでもね」

 解りやすい否定の言葉ではなかった。相手がもしもケルベロスであるのならば、自分の正体について察しがつくのも、予期せぬエラーと言う訳ではない。だからタカジョーの場合は、パスカルに比べれば驚きはなかった。

「僕のマスターは本当にヘタレでね。未だに相手を殺す決心が曖昧なんだよね。君にその気があれば、僕は同盟を組みたいんだけど、どうかな」

「断ル。……主以外ハ信ジナイ事ニシテイル。特ニ、天使ト、魔王ハナ」

 生前の事も重なり、パスカルは、非常に疑り深い性格をしている。 
主を謀殺した天使達、様々な権謀術数と暴力的な手段で覇権を握ろうとした魔界の大公や魔王達。
その様な存在を直に目の当たりにして来たパスカルに、魔王だと解っているタカジョーの言葉を信じろと言う方が、無茶な物であった。


748 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:01:49 8x3TprTg0
「聡明なイヌだね、君は。間違った事は言っちゃいないよ」

 小言の一つは送ってやろうかと思ったタカジョーであったが、全く間違った事を言っていなかった為に取りやめた。
パスカルの言う通り、天使も魔王も、ロクな存在ではないのだ。どちらも恣意と我欲が強くて、何かの上に立ちたがる。そんな性分の生物である事を、タカジョーもまた、よく知っているから。

「じゃ、僕とキミはご縁がなかった、って事で良いのかな。それじゃ帰って良い?」

「俺ハ聖杯ノ奇跡ヲ望ンデイル」

 数百tもある鉄塊が佇んでいるような、パスカルの重圧感と存在感が、倍加したような感覚をタカジョーは憶える。
パスカルの周りを取り巻く空間だけが、過重力で歪んでいるような錯覚すら彼は見た。遠回しな、お前は逃さないと言う言葉に、タカジョーはハハと笑った。

「自信がないから逃げる、って訳じゃないんだぜ? 君如きいつでも捻り潰せるから、今日は見逃してあげるって意味だったんだけどな」

 ズボンの両ポケットに手を入れて、不敵な笑みを浮かべながらタカジョーは口にする。
パスカルが放出する殺意が、鉛の様に重いそれであるのならば、タカジョーが放出する殺意は、冷気の様なそれ。
凍土の空気にも似たさっきを放射して佇むタカジョーの様子は正しく、魔王と言う名に偽りがなかった。

「魔王デアルガ故ニ、実力ガ矮化ガ著シイ貴様ナラ、俺デモ殺セル」

「言うじゃないか」

 ズチャッ、とタカジョーが一歩距離を詰める。パスカルが、低く唸った。
場の空気の緊密度が、最高潮に達しようとしていた。それは同時に、ちょっとした衝撃で、蔕が今にも枝から離れ地に落ちそうなリンゴと同じである。
本当に他愛のない切欠で、戦闘が始まると言う事をも意味する。何が契機となるかは、解らない。当人次第だ。
例えばそれは、この公園に彼ら以外の闖入者が入って来たか。例えばそれは、鳥や犬、猫の鳴き声が響いたか。例えばそれは、この場に風が吹いたか。
死闘の鐘を鳴らす要因は、今はまだ解らない。だが二人は、その要因を確実に待っていた。今動けば、確実に不利になる事は解っていたからだ。

「蠅ノ王、貴様ヲ喰イ殺ス」

 死そのものの様な冷酷かつ重圧的な響きを込めた言葉を、タカジョーに投げかけるパスカル。この瞬間、場の緊張が最高度に達した。

「やってみろ」

 声は、パスカルの真正面九m程先――『ではなく』。
『パスカルの左脇五十cm圏内から聞こえてきた』。彼の目線の先に、タカジョーはいなかった。
まるで自分が幻覚でも見ていたかのように、だ。タカジョーが直立していた証である、地面に刻まれた足跡すらも、見当たらない。
バッ、と声がする方向をパスカルが振り向いた。タカジョーが既に腕を振り被っていた。肩甲骨の辺りから、白色の魔力をジェットの様に噴射させながら。

「遅いよ」

 タカジョーの右腕が、鬣に包まれたパスカルの首元に突き刺さる。
全体重と、『魔力の放出』による勢いを乗せた、鋼の如き堅牢さの拳がパスカルに叩き込まれたその瞬間。
重さ一tを優に超す程の魔獣の巨躯が、丸めた紙を投げた様に吹っ飛んで行き、大型の遊具に直撃する。凄まじい轟音が公園中に鳴り響く。
遊具を構成するプラスチックや金属が悲鳴と、tクラスの重量が地面に落ちた事による轟音のせいだ。
ズゥン、と、パスカルの落下に地面が緩く応える。振動が、タカジョーの方まで伝わって来た。


749 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:02:25 8x3TprTg0
 緊張が最高度に達したその瞬間を狙い、不意打ちをすると言うタカジョーの作戦は成功した。
瞬間移動で瞬時に距離を詰め、怪力と魔力放出スキルを利用した一撃を、パスカルに叩き込む。この様な手筈であった。
この二つのスキルを同時に発動させる事で、タカジョーは筋力Aのサーヴァント並の一撃を叩き込む事が出来、下手な耐久のサーヴァントを一撃で沈めさせる事が出来る。
豊富なスキルを利用した立ち回りこそが、このランサーの最大の武器。――だが。

 ――やってないな――

 先ず間違いなく、あのケルベロスは戦闘不能に陥っていない。
それは殴ったタカジョーが一番よく知っていた。パスカルを殴った感覚はまるで、中身のキッチリと詰まった鋼の塊を殴ったような感覚に似ていた。
殴打したタカジョーの拳が逆に痛い位で、腕全体に軽度の痺れが走っている。あの鋼色の獣毛を初めて見た時から、生半な硬度ではない事は解り切っていた。
だが、此処までとは。厄介な相手に出くわしたものだと舌打ちをする。身体的な特徴だけならば、タカジョーも苦戦はしない。
パスカルに一撃を加えた瞬間、この魔王は即座に理解した。あのサーヴァントは、生半な死線を潜り抜けていないと言う事を。
実は右拳でインパクトを行うその瞬間、パスカルはわざと、拳が伸びた方向に跳躍していた。こうする事で、拳の衝撃をある程度まで減らす事が出来るのだ。
普通の獣形悪魔にはそのような芸当は出来ない。こうする事で威力を殺せる事を、パスカルは経験から知っていたのだろうとタカジョーは解釈した。
恐らくは、甲斐刹那が従えていた、黒い獣毛のケルベロス、クールよりもずっと、あの魔獣は手強いかも知れない。
そんな予感を抱いていたタカジョーの目線の先に、爛々と光る二つの点が浮かび上がった。朦々と立ちこめる砂煙の中でも、その二点はよく目立つ。

 ドンッ、と言う腹に響く音と同時に、パスカルが砂煙を突き破り、時速百三十㎞程の速度でタカジョーの下へと猛進して来た。
その巨体、その重量に見合わぬ、とんでもなく軽やかな動きぶりと速度。十分な距離さえあれば、これに倍する速度だって十分に出せたであろう。
速度と言う勢いを乗せた、パスカルの一撃を真っ向から迎え撃つと言う判断は、『今の』タカジョーには存在しない。
瞬間移動を用い、即座にパスカルの視界から消え、攻撃の範囲外まで移動する。その頃には丁度、先程タカジョーがパスカルを殴り飛ばした地点に、この魔獣はいた。腕を振り下ろせる間合いであった。

 革の鞭の如くに、尻尾を勢いよく撓らせるパスカル。
――獲物を勢いよく打擲する手ごたえを、魔獣は得た。水平に飛んで行くロケットみたいな勢いでタカジョーが吹っ飛んで行く。
両足を地面に着け、その摩擦で吹っ飛ぶ勢いを殺そうとするタカジョー。ギャリギャリと言う音と砂煙が生じる。吹っ飛びの強さが窺える証拠だった。
何とか動きが止まった頃には、既にパスカルから三十m弱も距離を離されていた。パスカルを鋭い瞳で睨むタカジョー。相手もまた、同じ目つきで彼を見ていた。

 背後に回っての攻撃は見事に失敗した。あの魔獣の尻尾も十分凶器になるであろう事も、やはりタカジョーは認識していた。
だがまさか、自分が背後に回り、攻撃を仕掛けようとしていた事を読まれていたとは思わなかった。でなければ、尻尾を勢いよく振い攻撃すると言う行動はなかった筈だ。
威力は、両腕を交差させて急所を守る事で何とか減らす事は出来たが、痛みと痺れは両腕に強く残っている。
撓りと柔軟性はゴムの様なのに、衝撃の強さは金属の棒に倍する、と言う恐るべきケルベロスの尻尾の一撃であった。

「俺如キ、イツデモ捻リ潰セルノデハナカッタカ?」

 体勢を整え、直立の状態に戻ったタカジョーの方を見て、パスカルは挑発染みた言葉を投げ掛けた。


750 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:02:58 8x3TprTg0
「スロースターター何だよ、僕は」

 自嘲混じりにタカジョーは切り返すが、これは恐らく本当の事だろうとパスカルは見ていた。
記憶の中の魔王ベルゼブブの強さを彼は反芻する。彼はその生涯で二度、蠅の王と戦った事がある。
強かった。主であった男も、偽りの救世主であった男も、苦戦は免れなかった程に。その記憶の中の強さと、余りにも目の前の魔王は乖離し過ぎている。
聖杯戦争に招かれたサーヴァントは、クラスシステムに当て嵌められたために、全盛期の強さを発揮出来ない事が多い。持ち込める宝具の数とステータスなどその典型だ。
だが、元が強い存在は、例え矮小化されたとしても、並の英霊を大きく引き離す程の強さでサーヴァント化される事が多いのも事実である。
魔王・ベルゼブブ。サーヴァント化しても強い存在である事は論を俟たないのに、このサーヴァントは弱体化が著しい。
何か、裏がある。パスカルがそう言った疑惑を抱くのも、無理からぬ事であった。

 鷹揚とした態度を崩さぬタカジョーを見て、底知れなさをパスカルは感じる。
可能ならば、マスターを葬って魔力の供給元を断つのが、一番安全であろうか。しかし、この場にマスターの気配がないのが疑わしい。
公園周辺に人が全くいないのが、人払い或いは、認識阻害の魔術に類するもののせいである事は、パスカルもとうに見抜いていた。
睦月では断じてない、となれば、タカジョーのマスターによるものである事は間違いない。マスターに関して言えば、タカジョーは当たりを引いていたと見るべきだ。
となると、マスター同士の衝突に陥った場合、睦月は最悪殺される可能性が高い。彼女がパスカルのマスターだと気取られないような措置は施してはいるが、
憂いの要素が消えている訳ではない。マスターは、葬っておきたい所存であった。

 音もなく、タカジョーの姿がパスカルの視界から消え失せる。
ザッ、と地面を蹴り、パスカルは一m半程右方向にステップをし、移動。パスカルがステップを行う前にいた地点、その左側でタカジョーが右足による前蹴りを行っていた。
しかし、蹴りを行う前にパスカルが飛び退いていた為に、蹴りの直撃は不発に終わり、無防備な隙を彼は曝け出している。
瞬間移動からの攻撃を読まれていた。と、タカジョーが認識した頃にはもう遅い。パスカルは、今しがたステップした方向とは逆方向にステップを刻んでいた。
それは即ち、タカジョーの居る方向。少年の姿をした魔王の目には、鋼色の巨大な壁が凄まじい勢いで此方に迫って来るように見えていた。
パスカルの巨体が、タカジョーの小柄な体に激突。木の葉みたいな勢いで、少年の魔王は中空を舞った。
無理もない事である、tを超す程の重量の生物が、勢いをつけて体当たりをかまして来たのである。吹っ飛ばないわけがなかった。

 高度二〜三m程の間を舞い飛ぶタカジョーに、パスカルが照準を合わせる。
噛み合わされた牙と牙の間から、火の粉が舞った。魔獣の口内に、灼熱のエネルギーが収束する。
思いっきりその牙を開いたその瞬間、世界が橙色に染まった。オレンジ色のフラッシュが、パスカルの口腔を中心に瞬くや否や、
地獄の番犬の口から灼熱の火炎が迸った。これぞ、パスカルもとい、ケルベロスと呼ばれる魔獣の十八番である、火炎の吐息である。
それは最早炎と言うよりは、火炎を練り集めたレーザーとも言うべき代物で、一直線にタカジョーの方へと向かって行った。
摂氏五千度を越え、供給される魔力次第では一万度にも達し、それを超え得る可能性を秘めた温度の火炎は、あらゆる金属を溶解、気化させる程の威力を内包している。
音に聞こえたケルベロスの火炎を喰らう事は、流石のタカジョーも良しとしなかったらしく、直に瞬間移動で、火炎の軌道上から転移。
灰にするべき対象を見失った火炎は、そのまま直進。公園内に設置されたベンチや東屋、公園の周りを取り囲む植え込みを一瞬で焼却、あわや一軒家に直撃するか、
と言った所で消え失せる。パスカルが口腔を閉じ、迸るエネルギーを断ったからである。

 パスカルの視界の外に瞬間移動したタカジョー。パスカルから十m程距離を離していた、その地点で。
魔王は地面を蹴り、パスカルの方へと向かって行った。瞬間移動に頼らなくても、この魔王は凄まじい速度での移動を可能としていた。
怪力スキルを限定的に脚部に適用させ、踏込の際の力を増大させる事で、短距離を爆発的な速度で移動する事が出来るのである。


751 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:03:27 8x3TprTg0
 タカジョーの方を振り向いたパスカルが、右前脚を振り上げ、彼の頭目掛けて勢いよく叩き付けた。
頭上に、交差させた腕を配置。何とこれで、タカジョーはパスカルの強烈な一撃を耐えようと考えたのだ。
魔王の腕に、魔獣の前足が激突する。パスカルらを中心とした、半径十m程の範囲の地面が上下に激震する。
局所的な地震を引き起こす程のパスカルの筋力もそうであるが、実に恐るべきは、それを耐え切ったタカジョーの膂力よ。
しかし、怪力スキルと魔力放出スキルを同時に発動させねば、その一撃には耐えられない。彼の背中からは、白色のフレアーが迸っていた。
例え他の英霊がこの二つのスキルを持っていたとしても、パスカルの一撃を防ぎきる事は、至難の技であろう。それを成すタカジョーの規格外性が、今の状況からも窺い知れるだろう。

「んのっ……」

 鍛えた格闘家の腕を枯れ枝の様に圧し折る程の、パスカルの前脚による圧力と拮抗しながら、タカジョーは口からそんな言葉を漏らす。
パスカルは圧力を強めた、このままタカジョーを頭から押し潰そうと言う算段であった。

「雑魚がぁッ!!」

 言ってタカジョーが、思いっきりパスカルの横腹を蹴り飛ばした。
三m程吹っ飛んだパスカルであったが、直に地面に着地。蹴り足を地面に戻したタカジョーの方を、血走った瞳で睨みつける。
怒気と殺気が混じり合った魔獣の瞳は、まるで中で焔が燃えあがっている宝玉の様であった。

「ヌルイワ、魔王!!」

「はっ、ケルベロスかと思ったらフェンリルかよお前!!」

 左掌に自身の莫大な魔力を収束させて、タカジョーが叫んだ。
掌をパスカルに向けた、その瞬間。其処から、ケルベロスを呑み込む程の大きさと規模をした、魔力の奔流が噴出する。
人は愚か、悪魔ですらも塵も残さず消滅させる程のエネルギーの嵐。それに魔獣の巨躯が呑み込まれる。
火炎などの熱エネルギーとは違う次元の熱と、痛みが彼の身体に舞い込んで行く。消滅を免れているのは、偏にパスカルの存在の格の高さが故である。
タカジョーが放出した魔力の奔流が止んだ、と同時に。パスカルは肺の中の空気を、獣の雄叫びに変換。公園所か、今二名が戦っている早稲田鶴巻町及び、
その町と近接している町にすら轟く程の咆哮が張り上がった。

「ぐぉっ……!?」

 凄まじい声量であった。パスカル周りの地面の砂は、十m以上も舞い上がり、公園周辺の建造物の窓ガラスが粉々に砕け散る。
何百m先まで均質に響き渡りそうな程のパスカルの咆哮。悪魔達はこれを、『バインドボイス』と呼ぶ。その凄まじい音圧で、相手の動きを止める技である。
余りの音量に、タカジョーの両耳からどす黒い血が流れ出ていた。鼓膜が破れたのである。
動きこそ止まらなかったが、魔王の身体にすら影響を与える程の、パスカルの咆哮の凄まじさであった。

 この程度の損傷なら、自らの再生スキルですぐに治ると踏んだタカジョーは、地面を蹴り、パスカルの方へと接近。
魔獣の方もまた、ダメージを負っていた。と言っても、少し程度であるが。
接近と同時にパスカルは大きく口を開け、タカジョーを頭から噛み砕こうとする。
ガチンッ!! と言う牙と牙とが噛み合う音が鳴り響く。火花すら巻き起こりそうな程の勢いで、パスカルは思いっきり口を閉じたのだが、其処に肉と衣服の感触はない。
空気を噛んだ感触しか、彼の顎は捉えられていない。閉じた下顎に、車の衝突にも似た衝撃が舞い込んで来た。パスカルの上体が上擦った。
パスカルが顎を開いたその瞬間に、タカジョーはスライディングをし、ギリギリ牙が届かない位置まで身体の位置を下にさせ、相手が口を閉じた瞬間に、両足でその顎を蹴り抜いたのである。


752 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:03:40 8x3TprTg0
 体勢を整えないままに、タカジョーは瞬間移動でその場から消え失せ、パスカルの背後に回った。瞬間移動を終えた頃には既に体勢は整えられている。
今度は、尻尾を振り回させない。直に尻尾を右手で握ったタカジョーは、そのまま魔獣を、子供が小枝を振り回すように軽々と持ち上げた。
そしてそのまま、アーチ状の軌道を描かせて、背部からパスカルを地面に叩き付けた!! 先程とは違い、今度は公園中が激震する。勢いが段違いだからだ。
これにはパスカルも堪えたらしい、苦悶の声が彼から上がった。

 この機を逃さず、タカジョーは勢いよく飛び上がり、ある高度にまで達した瞬間、勢いよく魔力を上向きに噴射。
鋭い角度で、彼はパスカルの腹部目掛けて急降下。膝を、落そうとした。が、流石にザ・ヒーローやアレフ達と共に死線を掻い潜って来た歴戦の魔獣である。
タカジョーが魔力を噴出した瞬間にはもう起き上がり、攻撃から逃れるべく飛び退いていた。
膝が地面に衝突する。公園中に深さ二m程のクレーターが生じ、公園に面した道路のアスファルトにも、亀裂が走った。

 口を閉じた状態で、パスカルがタカジョーの方へと向かって行く。迎撃しようと彼は立ち上がり、鋼色の巨獣を迎え撃とうとする。
彼我の距離が丁度中頃にまで差し迫った辺りで、パスカルが立ち止まり上顎と下顎を思いっきり開かせた。
拙い、とタカジョーが思った頃には、魔獣の口腔から地獄の業火が放たれていた。瞬間移動。座標の計算が間に合いそうになかったので、反射的に身体を動かした。
右方向に大きくステップを刻む。左腕の手首より先が炎に呑まれる。腕を通じ身体中に、凄まじい熱が伝わって行く。左手がブスブスと白煙を上げていた。
一瞬で炭化したらしい。対魔力スキルがあったからこの程度で済んでいたものの、彼以下の対魔力の持ち主であれば、文字通り、灰すらも残らなかった事であろう。

 パスカルの炎が着弾した地面は、一瞬でマグマ化と気化を引き起こした。
科学の炎を遥かに超える、神代の魔獣の火炎の威力が、窺い知れようと言うものであった。

 炭化した左手は、自らの再生スキルならば、時を経れば時期に回復するであろう。それまでは、両手を使えないと言うのが癪である。
自らの弱体化を嘆くタカジョー。生前の状態であれば、ケルベロスなど――と思った彼であったが、それは相手も同じであろう。
ケルベロス程の悪魔が、聖杯戦争において十全の状態で召喚される事などありえない。となれば彼もまた、何かしらの弱体化を背負わされているのだろう。
それが何なのかは、タカジョーには解らない。きっと相手も、そんな事教えはしないであろう。

 ――この場で、このサーヴァントは葬っておきたい。
対峙する二名の共通見解であった。どちらも生かしておいては厄介になる事は目に見えている強さの持ち主。
タカジョーの身体に魔力が漲る。パスカルの筋肉の密度が跳ね上がる。ジリジリと、一秒に十数cmづつ、二人は距離を詰めて行く。
もう数秒経過したら、飛び掛かる。と、二人が決め込んでいた、その時である。
機先を制する、と言う言葉がこれ以上となく相応しい程の不意打ちであった。やはり、動いたのはタカジョーの方であった。
瞬間移動。パスカルの視界から姿を消え失せさせた。但し、パスカルの知覚は理解している。タカジョーがこの公園から姿を消したと言う事に。

「逃ゲタカ!?」

 と口にし周りを見渡したその時。クルクル、と頭上で鳩が忙しなく鳴いていた。
その鳴き声の内容を咀嚼し、理解した瞬間、パスカルの方も地面を蹴っていた。時速百数十㎞。地理条件さえ整えば、更にここからの加速をも可能とする。
急がなくてはならない。頭上を飛んでいたスズメは、睦月が敵のマスターに見つかったと言う事実をパスカルに告げていたのであるから。


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753 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:04:04 8x3TprTg0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 凄まじい獣の咆哮に、睦月はビクリと身体を跳ねさせた。
彼女の足元にいた、緊急時の伝達に使う鳩も、驚いたように飛び上がろうとするも、パスカルに課せられた使命を思い出し、直に睦月の足元に戻って行く。
音の壁を叩きつけられたかのような衝撃であった。元居た世界で、戦艦の艦娘の主砲を間近で聞いた時の事を彼女は思い出す。
自分のサーヴァントの物であるからこそ、身構えられていたが、そうでない物達は腰を抜かし卒倒した事であろう。
空が鳥の飛翔で埋まる。スズメ、ハト、ムクドリ、カラス。様々な鳥類が、その咆哮に怯えた様子で、空を飛び逃げようとする。
きっと、自分達の王が激怒したに違いないと、彼らは思っているのだろう。そう思うのもむべなるかな、と言う物だ。
これだけの蛮声である。声の主が激昂したと考えるのも、致し方のない事であろう。

 睦月はパスカル達が戦っている所から三十m程離れた場所で待機していた。
本当を言えば、もっと近くでサーヴァント同士の戦いを目にし、慣れさせる筈であった。
しかし、パスカルが、戦う場所として選んだ公園の周りの空間に、人払いに使う為の魔力を察知し始めた瞬間、方針を変更。
相手が魔術に造詣のあるマスターである事を即座に悟った彼は、直に睦月を自分達が戦う場所から移動させたのだ。
何か危難が迫れば、彼が従えた鳩を常に近くに侍らせるので、それを自分の所に飛ばせ。そう言う算段で、事を進めようとした。

 建造物で公園の風景を遮られているのせいで、パスカルと、相手のサーヴァントがどうやって戦っているのか見えない。それが、何だか悔しい。
パスカルにだけ苦労を背負わせているのでは、と言う感覚が睦月にはあった。

 今度は、ズゥン、と言う大音が鳴り響いた。少し、地面が揺れた……?
気のせいかと思ったが、戦っているのが、あの鋼の巨獣である。地面を揺らす程の攻撃手段を持っていても、おかしくない。
誰と、どんな戦いを繰り広げているのか。見たい。だが、見れない。ジレンマに睦月は苦しんでいた。

 だが此処は、パスカルの言う事に従う事とした。
自分が魔術やらと言った世界に疎いと言うのは厳然たる事実であり、そのセオリーや定石を理解していないと言う事が大きいからだ。
睦月の引いたサーヴァントは、そう言った戦い方が当たり前のように横行する世界の住民であり、その世界で天寿を全うした存在であると言う。
つまりは、そう言った戦い方のプロフェッショナルである。だから大人しく、パスカルの言う事を唯々として守る事にしたのである。
正しい判断である。パスカルの方も、睦月の方も。

 ――睦月も、或いはパスカルも、予想出来なかった事があるとすれば。相手のマスターが、善良な性格であったと言う事であろう。
そんな性格だからこそ、人払いの魔術を、公園周辺だけに止めず、余計な二次被害の拡大を防ぐ為、公園周辺からより広げて展開しようとしていると言う事に。
彼らは気付けなかった。人払いの結界を拡大中の刹那の目線に、睦月は果たして気付けたであろうか。
今睦月は、タカジョーのマスターである刹那が展開していた人払いの範囲内にいる事に、彼女は気付けたであろうか。
その範囲内に人がいると言う事が、刹那にどう言った疑惑を齎すのか。そう、その答えは、一つである。

 軽やかな足取りで、刹那が睦月に方に近付いて行く。睦月は偶然、刹那が向かって来る方向に顔を向けてしまう。
そして気付く。明らかに、自分と同年代と思しき、竹刀袋と学生鞄を背負った少女が、此方に向かって来ると言う事に。
明らかにその少女が、自分に向けての敵意を見せていると言う事に。

 睦月が身構える、よりも速く。
刹那は彼女の両足の甲を踏みつけ、両手首をガッと、自らの両手で掴み上げ、その状態で背後の一軒家の塀に睦月を縫い付けた。
足元の鳩がバサバサと飛んで行く。今こそ、使命を果たす時であった。
縫いつけられた際に勢いよく、睦月は後頭部を塀にぶつけてしまう。その時の衝撃に痛がる事を睦月は忘れてしまう。
息が掛かりそうな程、刹那の顔が近かった。瞳は、睦月が深海棲艦と戦う時のそれよりもずっと鋭い。この歳で、艦娘ではない人間が。
どのような経験を経れば、こんな目をするに至るのかと、睦月は考えてしまう。今の状況は、誰が見ても危機的な状況であると言うのに。


754 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:04:32 8x3TprTg0
「答えなければ、痛い目を見ると思え。……お前は、聖杯戦争の参加者か?」

 威圧的な声音で刹那が詰問した。睦月は此処で初めて、刹那が今パスカルと戦っているサーヴァントのマスターである事に気づく。
艦娘として一応体術の手解きを受けている睦月は、抵抗しようと身体をもじらせるが、動けない。それはそうだ。
刹那は今、気を以て自らの身体能力を強化させている。艦装のない睦月が幾ら抵抗した所で、その拘束を解ける筈がなかった。

「な、何の事ですか……?」

 如月の死に動揺し、現実逃避めいた事をしていた時期があったとは言え、流石に艦娘である。
このような状況においても、シラを突き通そうとしたのは、見事な胆力、と言うべきであろう。
しかし、聖杯戦争の参加者かどうかは、判別が難しいようで、意外と簡単である。令呪か、この<新宿>に限って言えば、契約者の鍵の有無を確認すれば良いのだから。
先ずは令呪を確認をするべく、抑えた睦月の両手を、手首を握ったまま下に降ろさせ、確認する。見事に、刻まれていた。
三つ首の犬を模したようなトライバルタトゥー。これが、睦月の令呪であった。

 バレた、と思った瞬間、睦月は刹那の額に頭突きをかまそうとする。
だが、相手の方が一枚上手であった。上体を反らさせ頭突きを回避した刹那。
躱されたと睦月が思った瞬間、手首に急激な痛みを感じ始める。「痛いっ!!」と口にするよりも速く、身体が宙を舞い、そして、回転する。
背中から地面に叩き付けられる睦月。受け身は取れた為、痛み自体は軽微である。それよりも、左腕全体に走る痛みである。
動いて反撃に転じようにも、関節の駆動上の問題で刹那に手足の攻撃が届かない上に、何よりも、腕の関節を極められている。
古流柔術に近い関節技を極められた、と思った時にはもう遅い。少し力を込めれば、刹那は完全に睦月の腕を圧し折る事が出来るであろう。
京都神鳴流は何も剣術や格闘術だけではない。キッチリと、関節技も教え込まれる。睦月は、刹那に手首を抑えられたその時点で、既に詰んでいたに等しい状況だった。

 ここから人を葬る事は容易い。
その様な方法は刹那は教え込まれている。と言うよりそもそも、手首を握り動きを拘束したその時点で、既に殺せた筈なのだ。
それを行わなかった訳は、まだ刹那も、人を殺すと言う決断に悩んでいるからに他ならない。タカジョーは、この少女のサーヴァントと戦わせるべく、
鶴巻町の公園に向わせはした。その時に、マスターの姿が見えない事も、タカジョーの念話から確認した。
何処かに潜伏しているとは思っていたが、まさかこんなにも早く見つかるとは思っても見なかった。そう、刹那にとっても睦月を発見した事は、不測の事態であったのだ。

「……サーヴァントに自害を要求するんだ」

 これが一番、現実的な手段だと刹那は考えた。やはり、人を殺す事は自分には出来ない。例えタカジョーから甘いと謗られても良い。
だから、このマスターにサーヴァントの自害を要求する。これならば、サーヴァントと言う脅威を一騎減らせるだけでなく、勝ち方は如何あれ勝ち星が一つ着く。
あの小生意気なランサーだって、文句はないだろう。……だが、何処までも事は刹那の思い通りに行かなかった。


755 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:04:47 8x3TprTg0
「い、いやです……」

 流石に、シラを通そうとした時よりも、語調は弱くなっている。しかし睦月は確かに否定した。

「私のサーヴァントは、絶対に叶えたい願いがあるんです。わ、私にだって……。此処でビーストに自害を要求する何て、か、彼に対する裏切りです……!!」

 予想外の芯の強さに、刹那が歯噛みした。
如何して、解ってくれないんだ。如何して、私に人を殺させようとするんだ。運命は何処までも、刹那に対して残酷だった。

 歯を強く食いしばっていた刹那の付近に、気配が一つ唐突に増えた事を感じ取る。
刹那の正面数m程先に、耳から黒い血を流し、炭みたいに真っ黒になって白い煙を上げている左手の少年がいた。
見慣れた少年である。当たり前だ、自分が引き当てたランサーのサーヴァント、高城絶斗なのだから。
いつもは余裕げな表情で、皮肉や人を見下した発言をする彼が、余裕のない表情で刹那を睨んでいた。彼女も悟る。
あの公園で繰り広げた戦いが、刹那の予想を超えて激しいそれであった事を。

「それがマスターか、早く殺れ!!」

 サーヴァントとしては当たり前の事を叫ぶタカジョー。
タカジョーの言う事の方が、正しい筈なのだ。だが、踏ん切りがつかない。
その心理を読み取ったタカジョーが、「だったら僕が殺る!!」と言い、腕を振り上げようとしたその時だった。
何かに気付いた様な表情を浮かべた後で、刹那を横抱きの要領で抱え上げ、タカジョーが飛び退いた。その瞬間に響き出す、轟音。そして、大小の瓦礫が落ちる音。
鋼色の獣毛を体中に生やした巨大な獅子が、その右前脚を、先程まで睦月を縫いつけていた塀に叩き付けていた。
もしも、タカジョーが刹那を抱いて飛び退いていなかったら。間違いなく刹那はあの魔獣の前脚の一撃を貰い、文字通り『粉微塵』になっていただろう。

 タカジョーの方を見て低く唸るのは、睦月が引き当てたビーストのサーヴァント。
ケルベロス、或いは、パスカル。この世にあるどんな槍の穂先よりも鋭い瞳で、刹那とタカジョーを睨みつけながら、パスカルは口を開いた。

「ソノマスターヲ灰ニスレバ、貴様モ消エルノダロウ。ベルゼブブノ化身ヨ」

 鼓膜をバインドボイスで破られたタカジョーには、パスカルが何と口にしたかなど、解る筈はないのだ。
だが、今回に限って言えば、この地獄の番犬が何て言っているのか、耳が聞こえなくとも理解したらしい。
炭化された手の痛みや熱など感じさせない程、いつもの様な皮肉気な笑みを浮かべた表情で、タカジョーは切り返した。

「そのマスターを殺しちゃえば、その生意気な口も閉じるんだろう? ケルベロスくん」

 両者の周りの空間が、酷く歪み始める。戦端は今まさに、開かれようとしていた。



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756 : 僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:04:58 8x3TprTg0
【早稲田、神楽坂方面(早稲田鶴巻町・住宅街)/1日目 午前7:30分】


【睦月@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態]健康、魔力消費(小)、弱度の関節の痛み
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]鎮守府時代の制服
[道具]
[所持金]学生相応のそれ
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる……?
1.如月を復活させたい。でもその為に人を殺すのは……
2.出来るのならば、パスカルにはサーヴァントだけを倒してほしい
[備考]
・桜咲刹那がランサー(高城絶斗)のマスターであると認識しました
・パスカルの動物会話スキルを利用し、<新宿>中に動物のネットワークを形成してします。誰が参加者なのかの理解と把握は、後続の書き手様にお任せ致します
・遠坂凛の主従とセリュー・ユビキタスの主従が聖杯戦争の参加者だと理解しました




【ビースト(パスカル)@真・女神転生】
[状態]魔力消費(小) 、肉体的損傷(小)
[装備]獣毛、爪、牙
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.ザ・ヒーローの蘇生
[備考]
・ランサー(高城絶斗)と交戦。桜咲刹那をマスターと認識しました
・ランサーが高い確率で、ベルゼブブに縁があるサーヴァントだと見抜きました
・戦闘を行った、早稲田鶴巻町の公園とその周辺は、甚大な被害を負いました
・戦闘中に行ったバインドボイスが、もしかしたら広範囲に轟いているかもしれません




【桜咲刹那@魔法先生ネギま!(漫画版)】
[状態]健康、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]<新宿>の某女子中学の制服
[道具]夕凪
[所持金]学生相応のそれ
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争からの帰還
1.人は殺したくない。可能ならサーヴァントだけを狙う
[備考]
・睦月がビースト(パスカル)のサーヴァントだと認識しました
・まだ人を殺すと言う決心がついていません




【ランサー(高城絶斗)@真・女神転生デビルチルドレン(漫画版)】
[状態]魔力消費(小) 、肉体的損傷(小)、左手の炭化、両鼓膜の損傷。
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を楽しむ
1.聖杯には興味がないが、負けたくはない
2.マスターほんと使えないなぁ
[備考]
・ビースト(パスカル)と交戦。睦月をマスターと認識しました
・ビーストがケルベロスに縁のある、或いはそれそのものだと見抜きました
・左手が炭化し、鼓膜が破れています。が、再生スキルで回復する範疇です。回復にかかる時間はお任せ致します
・ビーストの動物会話スキルには、まだ気付いていません


757 : ◆zzpohGTsas :2015/09/21(月) 03:05:12 8x3TprTg0
投下を終了いたします


758 : 名無しさん :2015/09/21(月) 21:41:11 q6q2hTjQ0
投下乙です。
凄い闘いだった……。互いに初戦ながらサーヴァント達は殺る気十分。
またそれぞれの持つ実力、魅力は十全に伝わりながら、
互いに格を落とすこと無く痛み分けで終了するという素晴らしさ。
迫真の文章も相まり物凄く面白かったです。


759 : 名無しさん :2015/09/21(月) 23:20:48 cbKsHCzc0
タイトルはデビチルの歌詞からだろうか…


760 : ◆GO82qGZUNE :2015/09/22(火) 00:05:50 SOlqmaX20
ザ・ヒーロー、バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)を予約します


761 : ◆GO82qGZUNE :2015/09/22(火) 23:07:49 SOlqmaX20
予約分を投下します


762 : 終わらない英雄譚 ◆GO82qGZUNE :2015/09/22(火) 23:08:31 SOlqmaX20
 光があれば影があり、清が生まれれば濁も生じる。
 それは人の営みのみならず、自然界に遍く敷かれた普遍の真理だ。
 二つの顔は切り離せない。如何なるものにも浮かび上がる。どちらか一方を根絶やしにすれば、もう片方も諸共に消え去るのが定めというもの。
 それは此処も変わらない。災害復興に景気向上、文明の発展と法の整備に伴う治安の安定化が進んではいるものの、それと比例するように歓楽街の欲望が活性化している。
 かつてのように表立った悪逆こそ激減したものの、それらが抱える闇は目につかない深みへと潜り、より狡猾な方向へと密度を増しているのだ。

 そう、それは紛れもない真実であり、此処〈新宿〉であっても変わることはない。
 そのはずであったが。

【……やはり、この状況は異常だと思う】

 鉄筋コンクリートのビルの壁に寄りかかって下を向き、腕を組みながら言う少年の姿があった。
 特に変わったところは見受けられない少年だった。傍らに竹刀袋を携え、深夜出歩くこと自体が強いて言うなら奇妙ではあるが、それだって常識から外れているわけではない。
 だが彼はまさしく異常なのだ。それは内包する魔力であるとか、常人では及びもつかないほどに鍛え上げられた肉体であるとか、確かにそれも含まれる。
 しかし最大の異常とは、彼が持つ精神にこそ根差していた。それはある種の狂気にも似て、しかし闇とは無縁の光を放っている。
 それは勇気という極大の異常性。御伽噺の英雄しか持ちえないそれが、そこにはあった。

【異常であることは確かだ。だが、お前は一体"どの異常"のことを言っている】

 すぐ傍で霊体化していた少年の従僕が、巌のように重厚な声で尋ねた。

【"その手"の噂が、何もしなくても僕の耳に入ってくる現状が、だよ】
【……なるほどな、そういうことか】

 バーサーカー……ヴァルゼライドは、その言葉に納得したように頷く。
 少年―――ザ・ヒーローに、既に友人はいない。
 唯一そうだったかもしれない者を他ならない自分の手で斬り捨てた今、彼に話しかける人間は皆無にも近い状態になっていた。
 しかし、そんな状況でも尚、耳に入るのだ。"常識では考えられない事件の噂"が、それこそ大量に。


763 : 終わらない英雄譚 ◆GO82qGZUNE :2015/09/22(火) 23:09:04 SOlqmaX20

【遠坂凛の起こした大量殺人のように、日夜ニュースで報道されているようなものじゃない。それこそ表には出てこないはずの代物ばかりが噂として流布している】

 それは例えばニュースでは報道されない大量虐殺だとか、猟奇事件という言葉ですら生ぬるい惨殺死体だとか、しっぽすら掴めない大勢の行方不明者だとか、夜ごと夢に現れる天空の御殿だとか。その内容は様々だ。
 しかしそのどれもが共通している事項がある。それは非日常的なものであるということ。つまりは犯罪やオカルトといった類の噂だけが、ここ最近急速に濃度を増しているのだ。

【その手の噂は急速に広まっている。けど、"噂の種類"に限って言うなら、ここ数日で急激にその数を減らしているんだ】

 そう、そこが最も奇妙な点であった。
 一時は見本市の如く多くの種類の噂が存在した。その数は少年が把握していたものに限定しても数十種類にも及び、全体で言うならどれほどの数があったかすら定かではない。
 だが奇妙なことに、ここ数日に渡ってそういった噂をとんと耳にしなくなったのだ。今日聞いたものなど、精々が数種類程度に収まっている。
 まるで淘汰が進むように、噂は数を減らしていった。
 それは一時の流行が廃れていったようにも見えたが、しかしこの傾向は輪をかけて奇妙なことに、オカルトじみた街の雰囲気が正常化しているわけでは断じてないのだ。

 噂の種類それ自体は減ったが、街を覆うオカルト趣味、ひいては"闇"そのものはむしろ濃度を増していた。
 聞かれる噂の数は減り、しかし頻度は濃縮されるように上がって。
 例えるなら、有象無象の多様な噂を駆逐し、ある特定のいくつかの"闇"に収束していくような。
 蠱毒のような闇の淘汰を、少年は感じていたのだ。

【考えられるのは、やはり聖杯戦争の参加者によるものということか】
【ああ。現実離れした噂の数々、そして本戦の開催が近づくにつれて数を減らしていった傾向。聖杯戦争に由来するものと見て間違いないと思う】

 そして特定の噂に収束するからこそ、彼らとしてはやりやすい。
 雑多な情報に惑わされることなく、少数の有力な情報のみを厳選するという作業が既に外野によって完了しているようなものだ。ならば後は、それら噂に違わぬ者を見つけ出し、鏖殺すればいいだけの話。

 聖杯戦争の開始は近い。それは、二人が直感的に悟っているもので。
 ああ、そして。現に少年の持つ契約者の鍵が光っている。それは通達のあった印だ。

 取り出した鍵から投影されたホログラムは、少々の事務的な連絡を残して消え去った。
 それは戦争の開始を告げるものであったが、同時に二つのクエストを参加者に与えるものだった。


764 : 終わらない英雄譚 ◆GO82qGZUNE :2015/09/22(火) 23:10:02 SOlqmaX20

【……討伐クエスト、二組のバーサーカーが対象か。バーサーカー、貴方はこれをどう思う?】

 投射されたホログラムを前に、少年は一切の表情を変えずに尋ねる。
 助言を求めたのは、単に経験値の違いだ。少年とヴァルゼライドの潜り抜けてきた修羅場の密度はほぼ等しいものであったが、主に悪魔を相手にしてきた少年と違い、バーサーカーは軍人として人間を主に相手にしてきたという違いがある。
 故に、サーヴァントという化け物を使役するマスターについて少年が尋ねる側に回るのは、至極当然の話であった。

【語るに及ばん。役者不足が過ぎるというものだ】

 そして、答える声は明瞭に、ヴァルゼライドはそう断じた。

【まず遠坂凛、あの大量虐殺の主犯とされる少女だが……これは最早言葉にするまでもあるまい。己が侍従すら御せんその有り様、何の障害になろうか】

 何気なく聞けば相手を愚弄しているようにも聞こえるその言葉だが、しかしヴァルゼライドの内面は決して油断などしていない。
 彼は誰が相手であろうとも一切侮らず、油断や慢心とは無縁の存在だ。だがそれとはまったくの別次元で、彼は遠坂凛のことを役者不足だと切って捨てる。

【かの大量殺人、あれは魂喰いと言った戦術上のものではない。報道された事実とその後の動向を見ても、あれは遠坂凛にとって不慮の事態であったことは容易に想像がつく。
 彼女が自らの力量を見誤った愚者であるのか、それとも不運にも巻き込まれてしまった市井の民なのかは分からんが……狂戦士を引き当ててしまったこと自体が間違いだったのだろうよ】

 どちらにせよ、バーサーカーを扱うような器ではなかったということ。ならば自滅は必至であるし、そもそも全世界規模でその所業が報道されている以上、彼女を取り巻く状況は最悪と言っていい。

【だからこそ、我々にとっては都合がいいと言えるがな】
【それは、つまり?】
【否応なく、遠坂凛は全てのマスターの注目の的となるだろう。必然、彼女を目当てに寄ってくる者も少なからず存在するはずだ。そして浮足立った動きは必ず何処かで綻びを生む。
 端的に言って、捜索の手間が省けるのだよ。このようなくだらない闘争など長期間続ける意義はない故に、早期の終結は展開としては好ましい】

 早期の終結。それはつまり、敵の姿が見つかりさえすれば自分たちが全て打倒するという決意の表れに他ならない。
 侮るでもなく、見下すのでもなく、どこまでも純粋に自らの勝利を信じて疑わない。
 例え一度死に触れようが、英雄の根本は一切変化しないのだ。

【なら、セリュー・ユビキタスは?】
【遠坂凛とは別の意味で話にならん。なにせ情報が不足している。だが一つ言えることがあるとすれば、こちらは遠坂凛とは違い、正しくバーサーカーを使役しているということか。
 一切表沙汰にならないままに三桁ものNPCを殺害するなど、己が道具に振り回されるような者では為し得まい】

 転じて、セリュー・ユビキタスに対する評価は極めて中立的なもの。否定もしなければ肯定もしない、情報不足による答えの保留。
 だが分かることもある。それは隠蔽の有無であり、本来魔術師であるならば必ず行わなければならない基本中の基本だ。


765 : 終わらない英雄譚 ◆GO82qGZUNE :2015/09/22(火) 23:10:31 SOlqmaX20

【だとすれば、より厄介なのはセリュー・ユビキタスになるわけか】
【ああ。そして、表立った報道はされず、しかし噂として大量殺人が流布していることを鑑みれば、彼奴は暗示を備えた魔術師ではなく、物理的な隠蔽術を施していると予測できる。
 いいや、もしかすれば最近減少傾向にある裏社会の住人の掃討を行っている者こそが、彼女なのかもしれんな】

 表に名の出ない犯罪者、そもそも戸籍を持たない不法滞在外国人。そういった所謂闇の住人と言うべき人間が急速に数を減らしていることを、彼ら二人は感じていた。
 それは権謀渦巻く帝国をのし上がった経歴と、裏社会すらも超越する闇を渡り歩いてきた実績が成せる業か。
 そして、それら犯罪者を公的機関が摘発ないし排除したとあらば、確実に大々的な報道が成されるはずだ。権威や面子の関係上、そうしない理由はない。少なくとも、他ならないヴァルゼライドは生前そのようにしてきた。
 だからこそ、減少しつつある彼らは闇から闇へと葬られていると考えて間違いない。かといってそれをセリュー・ユビキタスの仕業であると断じるのは早計であるが、可能性の一つとして頭に入れておくべきことではあった。

【そうだね。今はまだ推論しか出ないけど……それでも、僕たちがやるべきことは定まった】

 一言だけ呟き、少年は壁についていた背中を離してその場を立ち去る。
 人気のない路地裏の一角、そこから一歩抜け出せば、途端にネオンの光が眩く乱反射する繁華街の通りに出た。
 ここは歌舞伎町。人の欲望渦巻く繁華街。それは深夜でも変わりなく、多くの人を擁する不眠の城だ。
 雑多な人通りをするりとすり抜け、少年はひたすらに感覚を研ぎ澄ませる。それは極小の気配すら見逃さないと言わんばかりに、超常たる者を探し求めている。

【さあ行こう、バーサーカー。僕らが負けるわけにはいかないんだ】
【無論だ。この都市に蔓延るサーヴァントの全て、我等が残らず殲滅するのみ】

 彼らは決して止まることがない。
 それは明日への希望を原動力として、あらゆる機関を暴走させて駆動する規格外の怪物故に。
 例えその身が砕かれようと、二人の意思が潰えることなど未来永劫ありはしないのだ。


【歌舞伎町・戸山方面(歌舞伎町一丁目)/一日目 深夜(午前0時5分)】

【ザ・ヒーロー@真・女神転生】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]ヒノカグツチ、ベレッタ92F
[道具]ハンドベルコンピュータ
[所持金]学生相応
[思考・状況]
基本行動方針:勝利する。
1.一切の容赦はしない。全てのマスターとサーヴァントを殲滅する。
2.遠坂凛及びセリュー・ユビキタスの早急な討伐。また彼女らに接近する他の主従の掃討。
[備考]

【バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】
[状態]健康、霊体化
[装備]星振光発動媒体である七本の日本刀
[道具]なし
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:勝つのは俺だ。
1.あらゆる敵を打ち砕く。
[備考]


766 : ◆GO82qGZUNE :2015/09/22(火) 23:10:55 SOlqmaX20
投下を終了します


767 : ◆2XEqsKa.CM :2015/09/25(金) 17:38:11 wGa.5jwc0
すいません、>>738の予約を延長させていただきます


768 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/26(土) 23:52:18 U3.TpFVw0
申し訳ありません、>>736の予約を延長させていただきます


769 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/09/27(日) 05:11:10 4qpR7zO.0
北上&アサシン(ピティ・フレデリカ)
英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)

予約します


770 : ◆2XEqsKa.CM :2015/09/29(火) 21:09:10 6swxr/U60
申し訳ありませんが本日中の投下ができそうにないので、一旦予約を破棄します
もし予約が被らなければ明日には投下させていただきます


771 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 02:58:28 zu1NC7bs0
申し訳ありません、私も寝落ちしてしまったせいで日をまたいでしまいました…
予約がなければ長くとも2〜3時間後には投下できます


772 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:19:02 zu1NC7bs0
お待たせしました
できましたので投下します
再予約した挙句延長までしたのに期限を超過して本当に申し訳ありません…


773 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:20:57 zu1NC7bs0
スパイ――別名諜報員、潜入工作員など――の仕事は主に政治・経済・軍事・科学技術のとうな重要な情報を素早く入手して味方に知らせつつ、敵の活動を阻害・攪乱することである。
近代以降では各国に情報機関が組織されており、スパイはそこに従事して任務を遂行するケースが多い。
アメリカの中央情報局(CIA)、ロシアのロシア連邦軍参謀本部情報部(GRU)、日本の内閣官房内閣情報調査室などがあるが、
冷戦においてはロシアがアメリカにスパイを送り込み、尻尾を掴もうとしていたのはよく聞く話である。
一方でアメリカもそれに対策を打たないはずもなく、捕えたロシアのスパイの生活を保障することを餌に寝返らせて逆にロシアの機密情報を得ていたのもまた、よく聞く話である。

さて、イギリス情報局秘密情報部(MI6)の潜入工作員(エージェント)・塞は<新宿>のありとあらゆる情報を網羅している。
幸い、仕事柄情報を収集することには長けている。新華電脳公司でのいつもの仕事のように、難なくその手に収めることができた。
<新宿>の地理歴史、下水道の所在、裏社会の事情に天気情報はもちろんのこと、
最近頻発している陰惨な殺人事件の詳細に加えてマスターと思しき怪しい人物も噂レベルの情報さえあればマークしている。
これらの情報は自分の足や己がサーヴァントの鈴仙を使って調べ上げたのも事実だが、それ以外に情報収集で欠かせないものがある。
それは政府や警察の役員とのコネクションだ。
塞は現在、警察と新宿区役所の役員に協力者がおり、内部の情報提供を得ている。
これにより市民が知り得ない殺人事件の詳細や、マスターと思しき人物の個人情報をも手にすることができる。
所謂「獲得工作」という、諜報活動で最もポピュラーな手法の一つによって手にした貴重な情報筋だ。
協力者になりそうな人物の身辺調査から始まり、工作対象の選定に工作をかける計画立てを経て、対象に接触、
その人物の問題を解決するなどして恩義や親近感を得たり、金銭を渡したりして既成事実を積み上げていく。
最終的に身分を明かして対象に協力を仰ぐことで『獲得』が完了する。
これらの過程でかなりの大金が聖杯戦争が始まる前に無くなってしまったが、
この工作を行うために持ち込んだ金にはまだ余裕があるためさして問題ではない。
そもそも、些細な情報のために金を惜しんでいては潜入工作員失格である。

「さて、と――」

夜が明け、太陽が顔を出すか出さないかという頃、塞は西新宿・京王プラザホテルの一室で、ノートPCと向き合っていた。
塞が新宿に来て割り当てられた役割は、奇しくも「イギリス本国より<新宿>の内情を調査するべく送り込まれたエージェント」という立場であった。
先の獲得工作がスムーズにいったのもこの役職であることが大きい。

鈴仙はこの部屋にはいない。単独行動である場所の偵察に向かっている。
塞の大方の方針は、「無益な戦闘はせず、情報収集に徹すること」だった。
鈴仙は基礎能力こそサーヴァントとしては平凡な部類だが、契約者の鍵に内蔵されている彼女の情報を把握する内にその強みが理解できた。
彼女の真価は直接的な戦闘ではなく、情報収集や偵察で発揮される。
「波長を操る程度の能力」による気配遮断と正体隠蔽、さらに高ランクの単独行動により二手に分かれて効率よく情報収集ができる。
また、ここぞという時には『アレ』もある。
この聖杯戦争において、マスター及びサーヴァントの力量も大切だが、その裏で物を言うのは即ち「情報」なのだ。
孫子の格言にも『彼を知り己を知れば百戦殆からず』とある。
今は表舞台に出ず、地道にマスターのあぶり出しと敵の情報解析を進めるのが賢明だろう。


774 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:21:45 zu1NC7bs0

ノートPCを操作して集めた情報をまとめたファイルを開き、それに目を通す。
そこにはマスターと思しき人物やそれにまつわる噂が記されていた。

「レコード会社の社長…ねぇ」

通称UVM社。旧フジテレビに代わって本社を河田町に構える会社だ。
選考の厳しさでは日本どころか世界でも有数と言われており、そこで活動しているだけで天才と目されるとのことだ。
しかし塞が注目したのはそこではなく、情報収集で<新宿>を周る中で小耳にはさんだ、ある噂だ。

――『UVM社』の社長は黒いクラゲのような姿をしているらしい。

それを聞いたNPCは苦笑しながら首を横に振って否定するだろうが、塞は噂だからといって馬鹿にはしなかった。
というのも、近頃はどうも耳を疑いたくなるような噂が塞の情報網に引っ掛かるのだ。

『全く同じ姿をした少女が互いに気付かずに歩いていた。ドッペルゲンガーか?』
『突如人間が化け物になって周囲の人間に襲いかかるのを見た知人がいる』
『人間が誰一人としていない、天空に浮かぶ街を夢で見たことを話したら家族全員が同じ夢を見ていた』

といった具合に。

――サーヴァントを召喚したマスターが増えているんじゃない?

鈴仙に意見を求めたところ、返ってきた答えだ。
確かに、これら全てが全てというわけではないだろうが、<新宿>で既に活動を始めている主従の仕業となれば合点がいく。
当の塞も、兇眼で生気を吸収して大戦当時より変わらぬ姿のまま長寿を全うしており、
鈴仙はその能力で気配遮断はおろか自身をただの人間と思わせる芸当ができる。
元の世界でも転生の法とかいう疑似的な不老不死も存在していた以上、突飛な噂は「アタリ」だと思った方がいいだろう。
この街そのものが「闇の世界」に染まろうとしている…そう思わずにいられない。
世間では人間の悲鳴が着メロとして流行している始末だ。
趣味が悪いとかそういう次元ではない。

「この間の当たらない天気予報も『アタリ』なのかもしれねぇな。さてお次は…俺と同じイギリス人か」

新宿御苑で英国紳士風の男が現れる事は塞の耳に届いていた。
名は「ジョナサン・ジョースター」。通称「ジョジョ」。
190cmを超える長身に筋肉隆々の体格であり、それでいて物腰は穏やかで子供たちからも人気。
塞にも同じことが言えるが、英国人にも関わらず流暢な日本語を話す。
「まるで漫画の主人公みたいね」とは鈴仙の弁だ。
鈴仙がジョナサンと遊んだことのある子供から「誰にもナイショ」という条件付きで聞き出した話なのだが、
『ひざをけがした時にジョナサンがへんな声をだしたと思ったらきずがなおっていた』らしい。
恐らくは怪我をした子供の傷を何らかの手法で治してあげたものの、それがバレたらマズいので子供と他言無用の約束をしたのだろう。
変な声を出して傷を癒すなど、手品のようなチャチなものでは断じてない。
特殊な呼吸法を用いてでもいるのだろうか?

「マッチョな男ってのは変な呼吸法を使うのが定番なのかい」

このジョナサンという男はマスターだと目星をつけておくべき人物だろう。
かつて拳を交えたモヒカン頭の兇手を思い出しながらも、次に進んだ。


775 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:22:51 zu1NC7bs0

「佐藤クルセイダーズのことはさておき…メフィスト病院、ねぇ」

佐藤クルセイダーズ。
<新宿>にあるハイスクールの学生の間で組織されており、構成員は佐藤という人物の命令に従っているらしい。
日本の学生の集団にも関わらず"十字軍"という大層な名前を冠している。
そのリーダーの佐藤という人物がマスターで、部下をいいように利用している可能性を視野に入れておくべきか。
<新宿>で調べものをさせているようだが、情報機関に務めるプロの塞に比べれば集まる情報は量も質もこちらに分がある。
リーダーの佐藤以外では特に気にする必要もないだろう。

しかし、問題はこのメフィスト病院である。
入手した資料によると、つい最近までK義塾大学病院であったはずが、突如『メフィスト病院』と名前を変えていたのだ。
メフィストフェレスというおっかない名前の病院など誰も近づかないといえばそうではなく、むしろ多くの患者がそこを頼りにして門を叩いていた。
現代から数世紀先を行っているかのような卓越した医療技術に、他の大学病院ならば百年に一度の名医とも称されているほどの腕を持つ医療スタッフ、
ボランティアで医者をやっているのかと問いたくなるほどの安い治療費と、非の打ちようがない病院だった。
それもあってすぐに<新宿>の住民に受け入れられた。

ただ、その病院が突如大学病院を取って代わったことからわかるようにサーヴァントが噛んでいることは間違いないだろう。
しかし、塞はこの病院の中を調べようという気にはなれなかった。

「こいつは敵に回しちゃあいけないやつだな」

長年培ってきた勘からわかる。
この病院を建てた(或いは建ててしまった)黒幕を嗅ぎ回ることは殺されにいくようなものだ、と。
仮にあの病院がキャスターの陣地であるならばなおのこと危険だ。
幸い、この病院で行方不明になった者はゼロで、入院した患者はみな退院している。
魂食いのようなやましいことはしておらず、黒幕はそこまで好戦的ではないようだ。
今はその動向に目を光らせておくだけでいいと結論付けた。

そしてノートPCに表示しているページを進めた時、塞は身を僅かに乗り出した。
そこには<新宿>の空気を重苦しくしている直接的な原因ともいえる、殺人事件の数々が事細かく記されていた。
その中には、日付が変わったと同時に発令された遠坂凛及びセリュー・ユビキタスと密接に関わっている事件も含まれていた。
特にギャングやマフィア――日本でいうヤクザや暴力団がここ数日でかなりの数が壊滅状態に追いやられてていることは興味深い。

塞は懐にしまっていた契約者の鍵を取り出し、クエストの討伐対象の顔写真をホログラムに投影した。

「このセリューって女がヤクザマンションの件の下手人ってことは確定か」

塞はセリューの顔を見て、やはりかと言わんばかりに得意げな表情を浮かべる。
塞は先日、鈴仙と共に住民のほとんどがヤクザの関係者という曰く付きのマンションの住民が全員殺されたという情報をいち早く掴み、まだ血生臭いニオイのする現場へ訪れていた。
気配を遮断した鈴仙に周囲を索敵させながら、まだ身内のヤクザに手をつけられていない惨殺された死体の数々に目をしかめながらもヤクザマンションに潜入、
たどり着いた警備室で監視カメラの映像をチェックしたところ、鬼のような形相でエントランスを破壊している女がはっきりと見て取れた。
ホログラムに映るセリューの顔を再度見る。間違いなく、塞の記憶に残る監視カメラの女の顔と一致していた。


776 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:23:48 zu1NC7bs0

「ここから目と鼻の先にある事務所の騒動のメイド女とは別人と考えるべきか」

京王プラザホテル付近に事務所を置くヤクザがメイドに壊滅させられたことも考慮しておかねばなるまい。
その情報は面子が潰れることを危惧した同系列の組織の尽力により、あくまで「噂」という形で世間に出回っている。
今では若者の間の取り留めのないおしゃべりでたまに話題に上る程度で済んでいる。
しかし、『メイドがヤクザを壊滅させた』という文言は塞にとってはどこか胡散臭かった。

なぜわざわざメイド服を着て殺人を犯す必要があるのか。
なぜ下手人がメイドであることが明らかになっているのか。

塞の中では、その答えとして2つの候補が挙がっている。
一つはメイド服を着用することで目撃者の目を顔などの身体的特徴からメイド服へ逸らし、自身が特定されることを防ぐため。
人は他人の外見を記憶する際には、『その人の目立つ部分』のみを記憶にとどめている。
それは黒子であったり、サングラスであったり、髪型であったり、服装であったりもする。
服装を目立たせることにより顔など個人を特定できる情報の記憶を薄れさせ、捜査をかく乱できる。
もう一つは敢えて『メイド服の女がヤクザを壊滅させた』という情報を流すことで敵マスターを怪しませ、その現場にたどり着いたところを奇襲するため。
<新宿>にいる現在、怪しい情報に食いついてくる人間はマスターであると疑った方がいいだろう。
聖杯戦争が始まった今なら尚更だ。
後者が目的であった場合、下手人のマスターは近場に隠れてその事務所に近づいたところを狙い撃ちすればいい。

事実、塞は後者を警戒してそのヤクザの事務所には行っておらず、監視カメラに映る下手人の確認もできていない。
セリューの犯行かと考えたこともあったが、監視カメラで見たセリューはメイド服を着ていなかったのでメイド服の女が別人であろうことは容易に想像がついた。


777 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:25:30 zu1NC7bs0
【もしもし、聞こえる?取り込み中じゃなければ確認したいんだけど】

その他に得た情報も閲覧してどこから調べをつけようかと一人考えていた塞の脳内に突如、若い女性の高い声が響く。
急に耳元でトライアングルを鳴らされた後に起こる頭痛のような感触を覚えながら、塞は鈴仙からの念話に応じた。

【近くにいるんならまだしも、遠くで単独行動中のサーヴァントから急にお呼びがかかるのはどうにも慣れないな】
【仕方ないじゃない、携帯電話じゃあるまいし。通話記録が残らないからってできる限り念話で話し合うことにしたのは塞の方でしょ】
【そりゃあ便利な能力は使わないわけにもいかないからな。それで、見つかったか?】
【ええ、ついさっき。市ヶ谷っていうんでしたっけ?気配自体は前からあったんだけど、そこにある豪邸から黒い礼服のサーヴァントが出て来くるのをはっきりと見たわ】

現在、鈴仙は塞と別行動し、市ヶ谷にてもう一人の討伐対象である遠坂凛の捜索を行っていた。
無論、気配遮断と正体の隠蔽は徹底しており、たとえ別の主従と遭遇しても相手がよほど感知に長けた能力を持っていない限り気付かれないだろう。
実際に遠坂凛とそのサーヴァントは市ヶ谷の豪邸にいるのだが、塞がその潜伏先を特定できた要因は他でもない、キャッチした情報のおかげだ。
警察が捜査に乗り出すよりも早く市ヶ谷・河田町方面で「黒い礼服の男が出没した」ことを突き止めており、
<新宿>の地理情報と出没した地点を照らし合わせれば捜索範囲を絞るのに時間を要さなかった。

【市ヶ谷だとアーチャーのスキルがあってもここから念話が届かない筈なんだがな…アンタ今どこにいる?】
【だいたい市ヶ谷と戸山の境界あたりかしら】
【そいつはわざわざご苦労だな。その豪邸の住所は覚えてるか?】
【ええと、確かね…】

鈴仙から念話で送られてきた豪邸の住所を書き留め、傍らから取り出した<新宿>の地図に豪邸のある場所へマークをつける。
波長を操る程度の能力は前述の他に、超遠距離の念話をも可能にする。
幻想郷ではこの能力で月の都と通じており、鈴仙は(送られてきた通信の内容が正しいかはさておき)月で何が起こっているかを永琳に伝える役目も担っていた。
鈴仙のいる「市ヶ谷と戸山の境界」あたりが、京王プラザホテルからの念話が不自由なくできる限界の距離だ。
塞は魔術師ほど魔術には詳しくはないが、鈴仙のスキルによって念話の範囲が約2km圏内まで広がったといえばいかに強力かがわかるだろう。


778 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:26:11 zu1NC7bs0

【確かここにある豪邸は…<新宿>どころか日本でも有名な暴力団の組長の家だ】
【大方、あそこの住民は黒い礼服のバーサーカーに殺されたんでしょうね。
かなり遠くから見てたからこっちに気付いてなかったみたいだけど、いつも薄ら笑いを浮かべてる変な男だった。
気色が悪くて背筋が凍りそうだったわ】
【バーサーカーだから予想していたとはいえ…やはりマトモなサーヴァントじゃ無いか】

遠坂凛と大量殺人の実行犯である黒い礼服の男は聖杯戦争の参加者のみならず<新宿>のNPC、果てには世界中の知るところとなっている。
セリューもそうだが、彼女のサーヴァントはマスターの制御から離れやすいといわれるバーサーカークラスのサーヴァント。
高ランクの狂化を有したバーサーカーが欲望のままに通りすがりのNPCを殺していった可能性をあり得る事実の一つに入れるのは難しくない。
サーヴァントでなくマスターが故意で殺戮の限りを尽くしているのならば目的はどうあれ、相手を選ぶはずだ。
しかし、監視カメラで憎しみの籠った顔で裏社会の人間「のみ」を殺戮するセリューはともかくとして、この遠坂凛にまつわる事件は無差別殺人。
それだけでこの哀れな少女を襲った『不運』に察しはつく。

【それで、どうするの?居場所は突き止めたわけだけど】
【そうだねぇ…】

遠坂凛に接触してみるか、一度引き下がって様子を見るか。
前述の通り、遠坂凛はただの『不運』な少女に過ぎない可能性が高い。
彼女を葬れば貴重な令呪を一画余分にもらえるが、今後邪魔にならないようならサーヴァントのみを倒して解放してやるのも悪くはないかもしれない。
それを決めるのは遠坂凛の真意を確かめてからだが、あくまで塞の任務は皆殺しではなく「聖杯を獲ること」。
見敵必殺の血生臭いやり方はスマートではない。
前者の選択肢を選べばバーサーカーと交戦することになる可能性は高いだろうが――。

【…よし、『アレ』を使うぜ】
【ええっ、『アレ』をー!?私あまり使いたくないんだけど…】
【今がカードを切る「ここぞという時」だ。特に俺達がサーヴァントと戦う前の「今」がな…】
【うう…】

鈴仙の持つ、二人がここぞという時に切る切り札として重要視している『アレ』。
不満を漏らしつつも、鈴仙は渋々それを使う諦めに近い覚悟を固めた。


779 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:27:53 zu1NC7bs0


◆ ◆ ◆


穢れ。
地上に蔓延するモノであり、月の都に住む月人が忌み嫌う生と死。寿命をもたらす死の匂い。
しかし、それと同時に物質や生命から永遠を奪い変化をもたらす。
月から逃亡してきた鈴仙を匿った者の一人である蓬莱山輝夜は、『永遠の魔法』を解いたことで地上を月の都よりも魅力的に感じるなど心境に変化が生じた。
当然、鈴仙も穢土に染まらないはずもなく、臆病な面は鳴りを潜めて月で起きた大異変の際も永琳から受けた任務を全うしてみせた。

『聖杯を持ち帰る』という任務の下<新宿>で活動している塞ではあるが、そんな塞に鈴仙が協力する理由は『主従の契約をしている』から。それだけに他ならない。
元より真面目な部分もある鈴仙だが、英霊の座から召喚され、契約したからには与えられた仕事――ここでの場合は聖杯を獲るという仕事――は果たすべきである、というのが鈴仙が従う理由だ。
詰まる所、鈴仙は不満を漏らすことはあるものの仕事感覚でマスターの指示に従っているのだ。

「…いた」

鈴仙は遠坂凛のサーヴァントのいた市ヶ谷の高級住宅街へ戻ってきた。
空は朝焼けを見せており、徐々に太陽の明るさを取り戻してきている。
その明るみに鈴仙が塞に合わせて着用している黒いスーツが徐々に露わになっていく。
一応、鈴仙はサーヴァントなので一瞬で着替えることができ、いつでも元の服装に戻ることができるのだが。

鈴仙の傍らには、彼女のマスターである塞が歩いていた。
彼らの視界の先には周囲にある敷地の広い小奇麗な高級住宅が霞んで見えてしまうほどの巨大な豪邸がそびえ立っていた。
塞は豪邸の門前に佇む黒い礼服の男をサングラスの奥で見据えているようで、いつでも戦えるようにポケットに手を入れて臨戦態勢を取った。
ポケットに手を入れるだけで何が臨戦態勢だと思われるだろうが、足技を主軸にした中国拳法を使う彼にとってはこの姿こそがファイティングポーズだ。

「ほ、本当にやるのね?」
「あのお嬢ちゃんが大人しく前に出てくれりゃよかったんだが…」
「自分に討伐クエストかけられてるのにノコノコと出てくるマスターなんていないでしょ」

黒い礼服の男の視線が鈴仙達を捉える。
それに続いてゆったりとした歩調でこちらに進んできた。
耳を澄ませると、

「あのー、すいませーん」

と気の抜けるような声で呼びかけてきた。
その顔には面白いものを見ているかのような笑みがこびりついており、第一印象では塞以上に胡散臭い。
右手には、重量感がある黒光りする丸い球体――ボーリングの玉が握られていた。

「話せるのか」

バーサーカーは狂化のせいで言語能力を失っているものと思っていた塞は素直に驚嘆の声を上げた。

「…だめだと思うけど、あいつとコンタクトをとってみる。何かわかるかもしれない。塞はここで待ってて」
「いいのか?相手はバーサーカーだぜ。しかも身体能力だとアンタは比べ物になってない。文字通り雲泥の差だ」
「あらかじめ『障壁波動』を張っておくわ」

そう言って鈴仙は塞を置いて眼前のバーサーカーへ重い足取りで向かう。弄った波長を元にもどしてサーヴァントの気配を敢えて出す。
マスターは永琳や月の上層部のように隠蔽したりせず、細部を明かした上で指示してくれるから幾分かはやりやすい。
戦闘力は魔眼を抜きにしても高く、銃を持ったヤクザに囲まれても返り討ちにしてしまうほどにその格闘術は卓越している。
しかし、鈴仙はともかくとしてセイバーのような耐久の高いサーヴァントに比べれば断然脆く、あのバーサーカーの一撃を急所に食らえば一撃で葬られるであろう。
幸い、鈴仙は耐久はサーヴァントとしては並の方だが切り札である宝具の一つに強力なスペルカードが具現化されていた。


780 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:29:19 zu1NC7bs0

『障壁波動(イビルアンジュレーション)』

一部魔力が薄れていくが鈴仙を襲った後、波長を操る能力を駆使した絶対的で不可視、三重の防護壁が鈴仙を包む。
これであらゆる攻撃に3回までは耐えることができる。
たとえバーサーカーが問答無用で攻撃してきたとしても、なんとか凌ぐことはできるであろう。
黒服の男女2人が対峙する早朝の市ヶ谷の高級住宅街。
鈴仙は、そこに月の狂気とはまた違う、おぞましい狂気が立ち込めるのを本能で感じ取った。

「もしかしてあなたは、サーヴァント、ですかな?」
「そ、そうよ」

失われた怯懦のスキルが蘇った感覚を覚えながらも、目前のバーサーカー――黒贄礼太郎に話しかける。

「そしてあちらのサングラスの方はマスターと」
「あ、あなたが遠坂凛のサーヴァント…バーサーカーね」
「はい、そうです。あと、私の名前はバーサーカーではなく黒贄礼太郎です」
「…へ?」

【え、ええええええええええええ!?真名!?真名言っちゃったよこの人!?】
【こいつは想像以上に厄介なサーヴァントらしいな…】

塞と鈴仙はマスターが遠坂凛であることを軽々と認めた挙句本来隠しておくべきはずの真名を堂々と名乗った黒贄に呆れを隠せない。
困惑していた鈴仙だったが、すぐさま気を取り直して続ける。

「ご、豪邸の前で張っているってことはバーサーカーは遠坂の護衛でもしてるの?」
「バーサーカーではありません黒贄です」
「く、黒贄は護衛をしているのかしら?」
「はい。だからここで見張りをしているんですよ――」

――何だか調子崩れるなぁ。
頭上にある兎の耳を垂らしてげんなりとした様子で、鈴仙は本題に入った。

「私達は何も問答無用で討伐対象になったあなたのマスターを殺す気なんてないわ。まずは話を――」

――と鈴仙が言いかけた、次の瞬間。

「ッ!アーチャー!!」
「!!?」
「ありゃりゃ」

塞が咄嗟に呼びかけると同時に、黒贄の持っていたボーリング玉が鈴仙の頭目がけて殺到した。
それに気づいた鈴仙は目を見開いて距離を取るが、塞の元へ戻った時には『障壁波動』は残り一回の残量となっていた。
黒贄は「ありゃ」と間の抜けた声を出しながらボーリング玉と鈴仙の頭を見比べている。
あの時、『障壁波動』を張っていなければ即死だった。
それだけでなく、あの一瞬の間で一振りされたと思っていたものが実は二回もボーリング玉を振っていたことがさらに鈴仙の精神を焦燥へ追い込んだ。

「ハハハ…手荒い歓迎だねぇ。最初だけ普通に応対する分現人神目指してたどっかの誰かさんよりも性質が悪――」
「ほうれストライク」

若干余裕のなさそうな塞の小言は最後まで紡がれることはなかった。
鈴仙の目に飛び込んできたのは時を操るメイドのように時を止めて投げた――まるでそれがその場にいきなり現れたかと見紛うほどのスピードで、
ボーリング玉を塞に投擲して文字通り炸裂させていた黒贄の姿であった。
塞の顔に驚愕と怒りが混ざり合った、鈴仙の初めて見るすさまじい形相が浮かぶ。
鈴仙はあまりの事態に、臓物を弾けさせながら吹き飛ばされた塞から離れていく、割れた赤いサングラスをみていることしかできなかった。



【塞@エヌアイン完全世界 死亡】


781 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:29:45 zu1NC7bs0



◆ ◆ ◆









攻略失敗






  >今のを無かった事にする

 








◆ ◆ ◆


782 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:36:54 zu1NC7bs0





【――という未来を見たのよ】

【マジでか】





鈴仙は市ヶ谷と戸山の境界付近にて、『アレ』を使って視ることのできた「遠坂凛へ接触を図った場合」の未来の内容を塞に念話で伝える。

それを聞いた塞は驚きを隠せなかった。
彼らの言う『アレ』とは『紺珠の薬』。鈴仙のもう一つの宝具で、永琳から月の都を侵略していた純狐に対抗すべく鈴仙と博麗霊夢ら人間に送られた未来を視る薬である。
実際のところ「副作用が怖い」という諸々の理由で人間に服用されることはなかったため、仕方なく鈴仙が『紺珠の薬』を使って月の都へ出撃することになったという過去がある。
敢えて付け加えるが、先の「塞が死亡する未来」はあくまで「遠坂凛へ接触を図った場合」というあり得る未来の内の一つでしかなく、現時点では十分に回避可能な結末である。

【まさか俺がそこまであっけなく死んじまうとはねぇ】
【私だってびっくりしたし怖かったわよ。あいつは月の狂気とは違う…なんかこう…とてつもなくドス黒い狂気を纏っていたのよ。
それだけじゃない、私の目でも捉えられない速さと鬼なんてかわいらしく思えるレベルの力を持ってたわ。まともに食らったら私じゃなくてもほぼ即死ね】
【ま、バーサーカーの真名がわかっただけでお釣りがくるレベルの収穫だ。とりあえず、霊体化してホテルに戻ってきてくれ。気配遮断を忘れるんじゃないぜ】

『紺珠の薬』は一部の魔力と引き換えに、未来を視る力を持つ。
それは訪れる死を予め体験して回避することにも使えるが、塞が鈴仙の視る未来に求めたのは「敵と交戦する未来で確認できた敵の戦力」だ。
塞の方針は「無益な戦闘はせず、情報収集に徹すること」だが、この未来視を活用することで交戦せず、尚且つこちらの手の内を明かすことなく一方的に敵の情報を得ることが可能になる。
今回の遠坂凛のサーヴァントの場合は真名を知ることができたので大きな成果を上げることができたといえよう。

「紺珠の薬は使いたくないんだけどなぁ。特に<新宿>みたいな血生臭いとこだと」

霊体化して本拠地の京王プラザホテルに戻る中、鈴仙は紺珠の薬で見た未来を思い返す。
紺珠の薬の副作用が怖かったのは鈴仙も同じだが、それ以上に<新宿>は当時の状況とはかなり異なっていることが大きい。
命のやりとりをしない、あくまで「ごっこ」のスペルカードルールとは違い、聖杯戦争はサーヴァント同士が聖杯を巡って死闘を繰り広げる殺し合い。
かつて月から逃げてきた臆病な自分が忌避していた陰惨な戦場。
スペルカードルールならば紺珠の薬で視る未来はミスをする(=軽い傷を負う)程度であったが、
聖杯戦争ならばマスターの死、果てには鈴仙自身が死ぬ未来をも目の当たりにすることになる。
そう思うと、思わず身震いしてしまう。
黒贄と対峙した時のように怯懦が蘇った感覚を覚えながら、鈴仙は京王プラザホテルへ向かった。


783 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:37:56 zu1NC7bs0

【西新宿方面/京王プラザホテルの一室/1日目 早朝(午前5時半)】

【塞@エヌアイン完全世界】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]黒いスーツとサングラス
[道具]集めた情報の入ったノートPC、<新宿>の地図
[所持金]あらかじめ持ち込んでいた大金の残り(まだ賄賂をできる程度には残っている)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲り、イギリス情報局へ持ち帰る
1.無益な戦闘はせず、情報収集に徹する
2.集めた情報や噂を調査し、マスターをあぶり出す
3.『紺珠の薬』を利用して敵サーヴァントの情報を一方的に収集する
4.鈴仙とのコンタクトはできる限り念話で行う
[備考]
・拠点は西新宿方面の京王プラザホテルの一室です。
・<新宿>に関するありとあらゆる分野の情報を手に入れています(地理歴史、下水道の所在、裏社会の事情に天気情報など)
・<新宿>のあらゆる噂を把握しています
・警察と新宿区役所に協力者がおり、そこから市民の知り得ない事件の詳細や、マスターと思しき人物の個人情報を得ています
・その他、聞き込みなどの調査によってマスターと思しき人物にある程度目星をつけています。ジョナサンと佐藤以外の人物を把握しているかは後続の書き手にお任せします
・バーサーカー(黒贄礼太郎)を確認、真名を把握しました。

【歌舞伎町、戸山方面/市ヶ谷、河田町方面との境目付近/1日目 早朝(午前5時半)】

【アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)@東方project】
[状態]魔力消費(小)、若干の恐怖
[装備]黒のパンツスーツとサングラス
[道具]ルナティックガン及び自身の能力で生成する弾幕、『紺珠の薬』
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:サーヴァントとしての仕事を果たす
1.塞の指示に従って情報を集める
2.『紺珠の薬』はあまり使いたくないんだけど…
3.本拠地の京王プラザホテルへ戻る
4.黒贄礼太郎は恐ろしいサーヴァント
[備考]
・念話の有効範囲は約2kmです(だいたい1エリアをまたぐ程度)
・未来視によりバーサーカー(黒贄礼太郎)を交戦、真名を把握しました。


◆ ◆ ◆


784 : ウドンゲイン完全無欠 ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:39:50 zu1NC7bs0


「ううむ、誰もきませんねえ」

豪邸の前にはうろうろしながら、退屈そうに欠伸をする黒贄がいた。
遠坂凛から護衛の依頼を受け、外の見回りに出たはいいものの、サーヴァントやマスターのような人物は誰も来ない。
左右非対称な髪をポリポリと掻き毟りながら眠たげな眼が一層弛みを増す。
塞とそのサーヴァントがここに来ることもあり得たのだが、彼はサーヴァントを本拠地に呼び戻してしまったため、黒贄の敵サーヴァントとの遭遇数は未だにゼロだ。

右手にはボーリング玉が握られていた。
『狂気な凶器の箱』で凛が引き当てた五十三番に対応する凶器だ。

「ああっ!!あんたは!!」

ふと、黒贄の右側から若々しい声が鳴った。
声がした方へ目を向けてみると、朝のジョギングをしていた体格のいい二十代前後の若者の男のようであった。
黒贄のことはニュースで見たことがあるようで、警察に電話しようとしているのかポケットから携帯電話を取り出している。

「ほうれストライク」

黒贄が軽い声で右腕を振ると、ボーリング玉が男の頭へ向かって寸分の狂いもなく飛んでいき、投げてからコンマ1秒も、
「あっ」と言う間もなくゴギュン、という生々しい音とともに男の頭から赤い脳漿のジュースがこぼれ出た。
携帯電話の画面には『11』と入力されていた。

「ありゃりゃ、頭が潰れてしまった。作業には使えないですが記念に持って帰っておきましょう」

そういって黒贄は男の死体を抱え上げ、豪邸へと入っていった。
見回りに出てから豪邸にある死体の数が既に3体増えていた。

【市ヶ谷、河田町方面(暴力団から奪った豪邸の門前)/1日目 早朝(午前5時半)】

【バーサーカー(黒贄礼太郎)@殺人鬼探偵】
[状態]健康
[装備]『狂気な凶器の箱』
[道具]五十三番『ボーリング玉』
[所持金]貧困律でマスターに影響を与える可能性あり
[思考・状況]
基本行動方針:殺人する
1.殺人する
2.聖杯を調査する
3.凛さんを護衛する
4.ひとまず豪邸周辺の見回りをする
[備考]
・不定期に周辺のNPCを殺害してその死体を持って帰ってきます
・塞&アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)の存在には気付いていません


785 : ◆ZjW0Ah9nuU :2015/09/30(水) 06:40:20 zu1NC7bs0
以上で投下を終了します


786 : ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 02:38:04 lkVlHWys0
皆様投下乙です、感想は後ほど
遅れて申し訳ありません、ウェス・ブルーマリン&セイバー(シャドームーン) 番場真昼/番場真夜&バーサーカー(シャドウラビリス)
で投下いたします


787 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 02:40:54 lkVlHWys0


敗退したマスターが聖杯戦争を複数回経験する事例は、あらゆる例外を考慮に入れたとしても極めて稀である。
万能の願望器を求め、際限なくその凄惨さを増す殺し合いだ。生還できた者ですらそう多くはない。
熟達した古強者、今日の裏世界を代表する新鋭、あるいは巻き込まれただけの戦う意思すらなかった子羊。
聖杯戦争から日常に戻れた彼らは、自分たちなりの悟りや救い、あるいは諦めを経て聖杯への執着心と決別する傾向にある。
聖杯に託し叶えようとした、己だけでは届かない願いが絶えても、敗者たちは自分の足で進む道を見つける。見つけなくてはならないのだ。

「……バーサーカー、手前ェ、まさか……!」

そしてここ<新宿>の聖杯戦争の参加者の一人、番場真夜もまた聖杯戦争に参加するのは初めての経験だった。
それ以前に魔術師でさえない彼女が、サーヴァントとの契約状態における魔力消耗の度合いを適正に把握できないことは責められまい。
バーサーカー……シャドウラビリスを召喚して以来、真夜の憔悴ぶりは日ごと増していた。
己の主人格である番場真昼の身の安全、そして偽りとはいえ得た平穏な日常を守ることを命じたサーヴァントは忠実にその任務を果たしていた。
二画の令呪を消費した事による縛り、シャドウラビリスの意向とは関係なく遵守されて当然のことではあったが、真夜は奇妙な違和感を覚えていた。
"有事を起こすな"という絶対命令を出しているのだから、当然サーヴァントとして使用する魔力も微細のはず……その理解が、現実に沿わないのだ。
毎夜悪人を探して殺し、魂食いで魔力不足を補う事を忌避する真夜ではないが、本当に毎夜それを行わねばならない事には辟易していた。

学校から帰宅した後、あまり外出する事のない真昼はかなり早い時間に就寝する。日が沈み、0時を回る前に真夜が起きて聖杯戦争に参加する、というのが彼女たちのタイムスケジュール。
しかし今日、7月14日は友人の誕生日と言う事で真昼は学校を終えてそのまま遊興に参加し、帰り道に真夜が体の主導権を握り、家に帰る事なくそのまま狩りに興じていた。
その倦怠感を基幹としてバーサーカーの戦いぶりを眺めていれば、自分の性分にピッタリはまる、そのあまりに無駄が多い……豪快な暴れようも変わった物に映る。
時折夜の街に現れる、他のマスターとサーヴァントが使役したらしき怪物。悪魔としかいいようのない異形と交戦するバーサーカー。抵抗すらできないただの人間を襲うバーサーカー。
どちらの戦闘も、一切の加減がないのだ。彼女が狂戦士のクラスで召喚されているとはいえ、真夜が必要以上に能力を使うなと指示してもそれは変わらなかった。
表情の変わらない彼女の眼に、嘲弄の気配を感じた真夜はさらに詰問する。バーサーカー特有のたどたどしい言語能力で、シャドウラビリスは簡潔に答えた。

「わざとやってやがるのか……? 毎度派手によぉ」

「―――ャァァ(Yes)」

「溜める力より使う力のほうがでかいんじゃ、毎晩暴れねえといけねえ。真昼が寝不足になっちまうだろうが」

「―――」

「黙ってんじゃねえ!」


788 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 02:41:38 lkVlHWys0

今夜の魂食いの獲物は、欧米人2人と、小柄なアジア系外国人1人。
ズタズタに引き裂かれた彼らの肉片と血を啜るシャドウラビリスが持つ戦斧からは絶えず魔力が放出され、彼女が召喚した魔牛も姿を消さずに唸り声を上げている。
精気が磨り減っていく感覚が真夜を襲い始めると、測ったように戦斧と魔牛は姿を消す。魂食いで得た魔力をすぐさま使い切る意図があるのは明らかだった。
激憤しそうになるのを抑えながら、真夜は己のサーヴァントを睨みつけてその真意を糺した。

「令呪で出した命令を忘れたか? なんで真昼を守る時の為にやってる狩りを無駄にするようなことをする?」

「―――ゥィィィ(No)」

搾り出すように、シャドウラビリスは否定の呻き声を上げた。首を横に振る仕草を見て、真夜はイライラと足元の肉片を蹴り飛ばす。
バーサーカーは「真昼を守れ」「真昼を危険に近づけるな」という令呪の縛りに背いていない、と主張している。
互いの存在を知る別の人格とはいえ、解釈によっては同一人物とも言える真昼と真夜だが、真夜は聖杯戦争の事を真昼に隠し、サーヴァントを使役する消耗も一心に引き受けている。
そしてシャドウラビリスと共に戦場に出てきている以上、二人をイコールで繋げることは出来ず、「真昼を危険に近づけるな」という命令は肉体を共有し令呪を課した真夜自身には適応されない。
より単純な「真昼を守れ」という命令については、真夜の肉体が破壊されれば真昼も死ぬためにシャドウラビリスには真夜を全力で守る義務があるのだが。
令呪による縛りが長期的かつ多面的な見方ができる命令であったことがこの失態を生んでいる以上、真夜としてはバーサーカーをただ非難するだけでは足りない。
マスターとしての采配をし直す必要があるのだが、残った令呪は一画。他の主従と逢い見える前に切り札を全て使い切るのはあまりに先が危ぶまれる。
まずはサーヴァントの意思を確認する必要があるか、と真夜はシャドウラビリスの暴挙の根源的な理由を探らんとする。

「いったい何が不満でこんな事を? 言っちゃなんだがオレはマスターとしちゃ三流以下だ、力を無駄遣いしていい道理はないぜ。お前だって他のサーヴァントと戦う時に存分に暴れられなくなるぞ」

「―――戦う」

「そうだ、お前は戦う為に喚ばれたんだろ」

「戦って、殺す」

「……」

言葉少なに返すバーサーカーの感情の揺れを、主従を繋ぐパスを通して検分する真夜。
どうやらシャドウラビリスには、潜伏するとか雌伏するとかいった思考が頭に一片もないらしい。
昼は……『番場真昼』である時には聖杯戦争に参加しないマスターを急かす為、そして派手に暴れることで自分を他のマスターに察知させる為に、毎夜派手に動く必要性を作っているというのか。
マスターが真夜である時に行った暴挙により真昼へ危険が及んでも、それは危険が向こうから近づいてきたというだけであり、シャドウラビリスとしては正当に迎撃すればよいだけ。
凶暴で鳴らした真夜でさえ、勝率計算という概念を持たないかのようなバーサーカーの浅慮には絶句せざるを得なかった。


789 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 02:43:51 lkVlHWys0

言葉少なに返すバーサーカーの感情の揺れを、主従を繋ぐパスを通して検分する真夜。
どうやらシャドウラビリスには、潜伏するとか雌伏するとかいった思考が頭に一片もないらしい。
昼は……『番場真昼』である時には聖杯戦争に参加しないマスターを急かす為、そして派手に暴れることで自分を他のマスターに察知させる為に、毎夜派手に動く必要性を作っているというのか。
マスターが真夜である時に行った暴挙により真昼へ危険が及んでも、それは危険が向こうから近づいてきたというだけであり、シャドウラビリスとしては正当に迎撃すればよいだけ。
凶暴で鳴らした真夜でさえ、勝率計算という概念を持たないかのようなバーサーカーの浅慮には絶句せざるを得なかった。

「……どうすっかなぁ」

「昼(マスター)に、夜(マスター)が、隠すから、よく、ない」

「真昼が自分でやるって決めるまでは、今の方針を変える気はねえ……何だ?」

ポトリ、と真夜の頬に水滴が落ちる。
シャドウラビリスが縦横無尽に散らかした死肉が電線にでも引っ掛かったのか、と夜空を見上げた真夜の表情が驚きに染まった。
何の予兆もなく、滂沱の雨が路地裏に降り注いだのだ。壁のひびさえ怪物に見えるような不気味な周囲の風景が、余計に嫌味を帯びていく。
今宵の狩場は南元町の一角、不法入国した外国人たちの溜まり場となっている通り。悪人探しの為に新宿全体を駆け回る真夜には決まった活動拠点はない。
だからこそ新宿全域のニュースに全て目を通していたが、今日は一日晴れの予報だったはず。
通り雨か、と舌打ちして駆け出す真夜。どの道、この場所に留まる理由はない。……だが。

「……バーサーカー?」

「ゥゥゥゥ……!!」

霊体化を念話で命じたシャドウラビリスが応じず、唸り声を上げていた。
鉄面皮を破って歓喜と暴虐が入り混じった、マスターでさえ初めて見る表情。
そんなシャドウラビリスが見据えるのは、一角の深部、明かりのない最奥。
やがて足音が聞こえる。狂戦士がいるとも知らず、恐れのない足取りで何者かが歩いてくる。

―――いや、その"何者か"は真実、無知な子羊なのだろうか?


790 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 02:45:36 lkVlHWys0

「雨が降ると……傷が痛む。だから皆が傘を差す」

「……?」

奇妙な男だった。髪型や服装もどこか現実離れしているが、何よりその醸し出す気配が奇妙だった。
見れば、降りしきる豪雨が男だけを避けているかのように、その体は全く濡れていない。
真夜の全身を緊張が走る。この異容、聖杯戦争に関わりある人物であると断ずるには十分だ。
念話を行うまでもなく、シャドウラビリスが臨戦態勢に入る。男は周囲に散らばる死体を冷たく見渡しながら、言葉を続けた。

「傘がいらない人間は、自分の人生を呪っているヤツだ……目的の為なら痛みも意に介さない。お前はどうだ?」

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

男の言葉が終わると同時に、シャドウラビリスが戦斧を具現させて突撃する。
真夜にとっては何度も見てきた光景で、1秒も経たずにミンチを作り出す結果を生んできたそれを目にしてなお、真夜の緊張は解けない。
その反応は正しく、シャドウラビリスの猛進空しく、男の鼻先で斧は止まった。
斧を防いだのは、細身のサーベル。事も無げに鉄の巨塊を撥ね退けるそれを振るうのは、男ではなく異形の輝鋼。
濁った光を放ちながら突如出現した、銀色の甲冑姿を見れば誰もが息を呑むだろう。
とりわけマスターである真夜には、簡易な文字列がその周囲を取り巻いて見えた。シャドウラビリスを目視した時と同じ現象だ。

「サーヴァント……!?」

「フン!」

間髪入れず、銀色のサーヴァントの拳がシャドウラビリスの顔面に打ち込まれる。
空気を抜かれた風船のように吹き飛ばされた己のサーヴァントが壁を崩しながら足元まで転がる姿を見ながら、真夜は拳銃を懐から取り出す。
だが直後、拳銃は使い物にならなくなった。豪雨が意思を持っているかのように弾層部に集中し、火薬を湿気らせたのだ。
魔牛・アステリオスを顕現させながら立ち上がるシャドウラビリスは、真夜の指示など聞くことはないだろう。
そう理解している真夜の行動は素早かった。暗殺者としての基本に、敵の懐では戦わないということがある。
この雨の正体は不明だが、その渦中にいてはいけない事だけは確かだ。
シャドウラビリスの徹底抗戦の構えもあってか、その場を離れるべく駆け出した真夜を追う者はいなかった。

「逃げたか。マスターが聞いて呆れるというものだ」

「放っておけばいいだろう、セイバー。サーヴァントさえ片付ければマスターはいつでも殺せる。……身元もこれで分かる」

セイバーのマスターが、真夜の落とした手帳を拾い上げる。学校の生徒手帳のようで、自宅の住所は記載されていないが十分な情報だ。
アステリオスを背後に迫るバーサーカー・シャドウラビリスを、セイバー・シャドームーンが迎え撃つ。二つの影が交錯する。

「存分に暴れるがいい……そして、次期創世王の力を知れ」


791 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 02:47:07 lkVlHWys0



<新宿>の片隅、南元町は大変に治安が悪く、反社会勢力の温床となっていた。
とりわけその区画の下部は<新宿>においても他に類を見ないほどに煩雑とした混沌に満ちていた。
ビザを持たない不法入国者がたむろする魔境は、"食屍鬼街(オウガーストリート)"と呼ばれて恐れられ、近づく者もそうはいない。
しかしウェザー・リポートにとっては、探し物の一環としてふらりと立ち寄ったその街に脅威を感じる要素は微塵もなかった。
聖杯戦争に参加している彼は、サーヴァントを用いずともチンピラ程度に遅れは取らない戦闘力を有している。
余所者に絡んできた連中を半分殺して半分残し、自分の存在を認めさせる作業は五分とかからず終了した。

「ウェザーの旦那、まーたヤクザもんの事務所が襲撃されたみたいですぜ」

「やあやあ、スカッとする葉が祖国から差し入れされましてね、一緒に飲りませんか」

「ギ ギ ギ! ウシュルウシュル……」

ロクでもない人間の集まりで、生きるためなら共食いは当たり前、人目なくば辻斬りも茶飯事という無法地帯だったが、それだけに集まる情報の質も量も一級品。
ウェザーが召喚したサーヴァント・セイバーの"超"能力によって支配統制した結果、烏合の衆だった食屍鬼街の住民たち同士の争いもなくなり、すっかり住めば都。
拠点として理想的な土地を得たウェザーは、セイバーに今後の方針を委ねた。
聞けば彼は生前、一軍の長だったという。さらに高ランクの単独行動スキルに加え、宝具により無尽蔵の魔力を生成できるセイバーにとってマスターは現世に自分を繋ぐ楔でしかなかった。
ならばマスターであるウェザーよりも立場は上にしてしかるべきだろうという配慮をセイバーは遠慮なく受けた。
ウェザーに待機を命じ、霊体化して新宿を徘徊し千里眼の能力でサーヴァントとそのマスターを探し回るセイバーは、既に片手の指で足りぬ程の主従を捕捉し観察していた。


「早速殺しにいくのか、セイバー?」

「簡単に落とせる相手ばかりではない。競技試合ではないのだ、自分の手で殺す以外の手法が有効な場合もある」

食屍鬼街にてウェザーが平時を過ごす、無人の廃墟と化したコンビニエンスストア。散策から戻ったセイバーが、横倒しになった棚に腰を下ろしてウェザーに指示を出している。
サーヴァントの中でも破格の戦闘力を持つセイバー……シャドームーンをしてここまで慎重を期する理由の一つに、近隣にいる一体のサーヴァントの存在がある。
堂々と街中に神殿を建造するキャスター、メフィスト。セイバーとキャスターというクラス間の相性を凌駕するほどの脅威であると、シャドームーンは一目見て理解していた。
宝具・キングストーンの加護がなければ腰砕けになっていたであろう、あの美貌のキャスター相手では、敵の神殿の中で戦うならば自身も百戦して百勝はできまい、と。
かの神殿、メフィスト病院について入念な調査が必須だと語るセイバーを見て、ウェザーもまた敵の強大さを悟る。
あらゆる面で死角のない強さを誇るセイバーの意見ならば、万に一つの誤りもないだろうと思えるだけの信頼を、シャドームーンは短い期間でウェザーから得ていた。

「幸い、彼奴の陣地は来るもの拒まずの医療施設だ」

「オレには診察券どころか戸籍すらないんだがな……この一帯の住民は全員そうだが」

「その点は問題ない、だが……」


792 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 02:48:56 lkVlHWys0

シャドームーンがマイティ・アイで収集した情報によれば、メフィスト病院は患者に報酬以外の何かを求めることをしない。
治療さえできればそれでいい、病気と病人以外の何も見ていない破綻者の居城なのだ。
そも、患者としてウェザーや食屍鬼街の住民たちを送り込むだけでは千里眼以上の成果は得られまい。
シャドームーンとしてはメフィストに対し、医者と患者という関係を一歩超えた位置に入り込みたかった。
ウェザーもその意を汲み、必殺のチャンスを待つためにまずは搦め手から入る事を許容した。

「せっかく人間共を大勢支配下に置いたのだ。あの病院は臓器や輸血用血液の不足に悩んでいるようで都合もいい。連中の職務をサポートしてやろう」

「モツやら血やらの売り込みをやれ、と? セイバー、先に言っておくがオレに商売の才能はないぜ。学問の徒相手じゃ立ち話も自信はない」

「交渉はこちらでやる。お前は食屍鬼街から健康だが能力が低く、諜報の役に立たない者を十人ほど選抜しろ」

「強制ドナー登録から墓場に直行とはこの街の連中もとんだ災難だな。気の毒だがまあ糞を垂れ流すだけで終わる人生よりは人道的に正しく昇天できるだろうな……」

かっては純粋でどこまでも正義を信じていたウェザーだったが、彼は真っ直ぐに生きていれば"幸福"になれるわけではないと、とうの昔に思い知らされている。
全ての人間に消す事のできない憎悪を秘めている彼にとって、『ヘビー・ウェザー』が封じられ死と恐怖を撒き散らさずにその憎悪を抱えなくてはならない<新宿>での生活は苦痛だった。
ここでなら自殺して楽になる事は恐らく可能だろうが、徐倫たちの為にも己の為にも、自身こそが地獄に送らなければならないプッチ神父を殺さずに死ぬわけにはいかない。
よって、ウェザーが<新宿>の聖杯戦争に勝ち残るべく起こす行為には一切の情け容赦も一片の躊躇もなかった。

「とはいえ、美貌のキャスターへの対処はあくまで特別だ。隙のある者共は積極的に狩るのに変わりはない」

「トオサカリンだったか。白昼の大事件を見せてもらったからな……放っておくのもマスター以外は全員死んで分かりやすくなっていいと思うが」

「外部から注目されて聖杯戦争に何らかの横槍が入るのは望ましくない。手遅れの感は否めんが、早期に排除するのが得策だろう」

調達したウィークリーテレビガイドをパラパラとめくりながら、『神楽坂大量殺人事件』を頭に置く特番の数々に目を落とすウェザー。
その犯人は、スタンドとの共感覚の要領で時たまシャドームーンの視覚共通を行っていたウェザーが目撃したマスターの一人、遠坂凛。
報道番組でも連日顔を売る彼女が何を考えてあんな死体の山を築いたのかは不明だが、シャドームーンの言葉にも一理ある、とウェザーは頷いた。
日付が変わるまであと数時間、シャドームーンも今日は出歩くつもりはないらしく腕を組んだまま立ち上がる気配を見せない。
臓物袋を調達してくるか、とウェザーが腰を上げようとしたと同時。外からドタバタと足音が近づき、割れた自動ドアから男数人が顔を覗かせた。

「ウェザー! ……世紀王の旦那もいるとは丁度いいや、大変な事が!」

「ここには来るなと……。どうした? 血相を変えて」

「こないだヤクザもんを殺しまわってる女の噂話をしただろ? それらしいのが凶器を持ってオウガーストリートをノコノコ歩いてやがんのよ!」

「ほう……外見は? 遠坂凛ではあるまい」

「アイヤ、学生服に長髪でスカーフェイス、性格悪そうなツラ構えのガキねーッ。世紀王様が言ってた連中とも違うみたいねーッ」


793 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 02:50:39 lkVlHWys0

彼ら食屍鬼街の住民は、施された精神操作によりシャドームーンの姿を見ても特に疑問に思っていない。
顔に刺青を入れた屈強な男と、東洋人然とした小柄な男が口角泡を飛ばしながらまくし立てる姿を見て、ウェザーは人間と向き合う事で心底から湧き上がる殺意を押し留めながら黙って聞いていた。
夏だというのに黒いコートを着込み、シルクハットを被った男が怒りに震えながら語る。

「悲しい事によォォ〜〜、オレのダチはでけえ鈍器で殴り殺されたんだがよォ〜〜、その女が持ってるのがダチの死体を作るのに一役買いそうなハンマーなんだぜ!!
 あいつのカタキだとしたら絶対に許せねぇ、恨みを晴らさなきゃいけねえんだ、手伝ってくれよウェザー……頼むよぉ〜〜〜」

「悪いがオレは君を知らない。行くなら早く行けよ……蹴り殺すなり何なり好きにするがいい」

「ハヤーーーッ! 東洋の神秘中国拳法でこのオウガーストリートに来たことを後悔させてやるねーーーッ!」

ウェザーに促されて駆け出した三人の男を見送りながら、シャドームーンが重い腰を上げた。
無言で霊体化するサーヴァントを見て、ウェザーはため息をついて住処の外に出て歩き出す。
念話で確かめるまでもなく、新たに現れた新宿の夜を騒がせる殺人者にシャドームーンが興味を持っていることは明白だ。
マスターであるウェザーとしても、生活圏に踏み込む外敵を排除するという意味で足を運ぶだけの理由はある。
しかし彼らにはそれ以外に、確信に近い予感があった。

聖杯戦争―――その敵の一角とぶつかる事になるという予感だった。


794 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 02:52:12 lkVlHWys0




体に当たる豪雨の感触が消えたのは、200m程走った頃だった。
周囲を見回せばまるで空にカーテンでも引かれたかのように、降雨と晴天が分かれている。
奇妙な男の周辺のみに雨が降っているとでも言うのだろうか。
真夜は超常現象に混乱しながらも、暗殺者としての行動に移る。
道端のダストボックスに駆け寄って蓋を開け、忍ばせていたハンマーを取り出して構える。
狩人から獲物に変わったときの為に、フィールドの数箇所に武器を分散させて隠しておいたのだ。

(マスターを殺しちまえば、敵サーヴァントとは再契約の交渉が出来る。バーサーカーとも縁を切りてえのが本音だしな。あのふざけた髪を脳とシェイクしてやるぜ)

マスターとしての感覚で分かるが、シャドウラビリスは激しく魔力を消費しながら交戦中だ。この調子で戦い続ければ消滅も時間の問題。
決着を急がなくてはならない―――最後の令呪を使用してここまでサーヴァントを呼び戻し、追ってくる敵マスターを不意討ちするか、と真夜が思案を始めた時だった。
眼前で南元町を濡らしていた雨が止む。風を切る音が聞こえたかと思えば、軌跡すら目で追えない速度で何かがダストボックスに突っ込み、壁を容易く粉砕した。
戦車が砲撃でもしたのかと思うような大破壊をもたらしたそれを見遣る。砲弾は、あまりに見慣れてしまった姿をしていた。

「バーサーカー!」

「■■■■■■■■■■■ーーー!」

全力疾走で距離をとったつもりだった真夜を一瞬で追い抜いたのは、咆哮を上げる狂戦士。魔牛の腕には、銀色のセイバーが捕らえられ、壁に叩きつけられている。
本来なら原型すら留めない衝撃を受けているだろうに、その緑色の複眼から感じる眼力が微塵も衰えていない事に真夜は気付いた。
人間同士の戦いならこれで決着だったろう。だが、この戦いはサーヴァント戦。ここからが本番……戦場を一瞬で染め上げる暴虐の気配が、真夜の背筋を凍りつかせた。
巻き込まれるまいと駆け出す真夜も気にせず、シャドウラビリスの後先事など考えない全力の攻撃が、連続して放たれる。
地面に、壁に、爆撃じみた痕跡を残しながらアステリオスの豪腕が振り回される。コンクリートに容赦なく叩きつけられるセイバーの表情は、鉄の仮面に覆われて読み取れない。
しかし構う事なく、シャドウラビリスは飛び上がって魔牛が中空に投げ飛ばした敵の身体に戦斧を一撃、また一撃と加えていく。
ある程度の高さまで跳ね上げられ、空中で半回転して地上を見下ろす格好になったセイバーの目に、半身を伸ばして迫る幻影の猛獣が映る。

「壊れ、ろ……!」

アステリオス……迷宮の中で生贄を求め彷徨う魔物の名を持つペルソナの口腔が限界まで広がっていく。
しかしその口はセイバーを飲み込もうとするのではなく、レーザーのような炎を数条吐き出した。
直撃を受けた部分から炎が燃え広がり、全身を炎上させながら落下するセイバー。
その元へ歩み寄るのは、セイバーのマスター、ウェザー・リポート。特に動揺する事もなく、むしろ感心したように燃え上がる己のサーヴァントを見つめている。

「驚いたな、セイバーがここまでやられるとは。初めての経験ってやつだぜ」

「お前も死ぬんだよ!」

勝機と見た真夜がハンマーを構えてウェザーに襲い掛かる。
死角から飛び出してきた真夜を見ることもなく、『ウェザー・リポート』のスタンドが発現して突風を巻き起こす。
しかしハンマーごと真夜を軽々と吹き飛ばした気流も、サーヴァントにとってはそよ風でしかない。
意に介さず暴風を突破してきたシャドウラビリスが振り下ろすスラッシュアックスから逃れるべく、ウェザーは自身の体をスタンドに打たせて移動する。
空振りした斧はそのまま、燃え上がるセイバーに向けられた。バーサーカーである彼女は、手の届く範囲に破壊対象があれば手の届かない対象よりそちらを優先して攻撃する。


795 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 02:55:06 lkVlHWys0

「バーサーカー……早く殺れェ……!」

地面に転がる真夜の意識は、痛みとは別の理由で朦朧としていた。
魔力を際限なく吸い上げるバーサーカーの戦闘は、魔術師の素養がない真夜に耐えられるものではない。
それ故に魂喰いを繰り返してきたというのに、シャドウラビリスの愚行のせいで、と恨みに思う余裕すら真夜にはなかった。
とにかく一刻も早く戦闘を切り上げなければ、との思いだけが念となってサーヴァントに届き、それに応えるかのようにスラッシュアックスの渾身の一閃が走る。
首を狩るべく落とされた、猛火のごとき一撃。しかしそれは、唐突にその熱を失った。
斧の柄を、銀色の手が掴んでいる。刃が1ミリも動かない事に気付いたバーサーカーが目を見開いた。
その金色の目を見返す緑の複眼が、鋭い輝きを増していく。全身を覆っていた炎も掻き消え、その身体には目立つ傷など一つもない。
炎だけではなく、夜空の月が落とす光さえも、セイバーのサーヴァント・シャドームーンの身体に融けて吸収されていく。

「終わりか? 人形遊びは……」

シャドームーンの言葉と同時に、アステリオスの影は完全に消滅した。
顕現させるだけの魔力をマスターから得る事ができなくなったのだ。
片手を斧から離し、シャドームーンの顔面に拳を打ち込むシャドウラビリス。
身じろぎすることもなくその一撃を被弾したシャドームーンは、淡々と喋りながら腕を引く。

「……ならば、貴様に見るところはもうない」

エルボートリガーが振動を開始し、拳に膨大な力が集中する。
危険を察知したシャドウラビリスの回避を許さぬ速度のパンチは、ただの一撃で彼女の腹部の60%ほどを抉り取った。
霊体が模る機械部品が飛び散っていく。だらり、と地面に対する反発力を失った身体が傾き、膝が地面についた。
その隙を見逃す事なく、シャドームーンはカカト下ろしをシャドウラビリスの肩口に見舞う。
レッグトリガーが超振動し、左腕を壊死させて千切り飛ばした。仰向けに倒れたシャドウラビリスは、もはや自力で立ち上がる事もできない。

「終わりだ」

「っ……!」

真夜は、一息もすることが出来ずシャドウラビリスが壊される様子を見守っていた。
殺人者として屍の上を歩んできた彼女でさえ初めて経験するほどの恐怖が全身に広がっていく。
絶対的な暴力として認識していたバーサーカーが、たった二発の打撃で完膚なきまでに敗北したのだ。
カシャ、カシャ、カシャ……金属の足音が近づいてくるのを感じて、真夜は防衛反応的に両手を前に突き出した。
シャドームーンは真夜を見下ろしながら、誰に対しても同じ、冷たい声色で語りかける。

「令呪を使い、サーヴァントに生命維持を命じろ。回復だけに専念するように、とな」

「……? な、なんで……」

「言う事を聞いたほうがいいな……オレなら生き残るチャンスは逃がさない」


796 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 02:57:11 lkVlHWys0

いつの間にか戻ってきていたウェザーの言葉に条件反射で応じ、真夜の令呪が輝く。命令は『回復のみに専念せよ』。
最後の一画、などと惜しむ暇すらなかった。数秒の躊躇が命を奪う結末をもたらすのは明白。
実体化が不可能になるほど魔力が枯渇し、消えかかっていたシャドウラビリスの霊質が令呪の魔素を取り込んで活性化する。
欠損した肉体が修復されていくが万全には至らず、僅かに身を起こして敵を睨みつける事が出来る程度に留まった。
完全に回復するまでそれ以外の一切の行動を禁じられたバーサーカーを見遣りながら、シャドームーンがウェザーに一本の鍵を放り投げる。

「戦闘中に通達が来ていたぞ。今日から聖杯戦争の……フン……本戦が始まるとの事だ」

「じゃあこいつらはフライングでギリギリ失格したカワイソーなオリンピック選手ってわけか……他にもいたが……なんでこいつらは殺さないんだ?」

「土産だ」

シャドームーンが、真夜の髪を掴んでウェザーの足元に叩きつける。
頭蓋が砕ける音を確かに聞いた真夜の意識は、その時点で途絶えた。それは彼女にとって、間違いなく幸福だっただろう。
不思議そうにシャドームーンの行為を見ているウェザーに、念話が届く。その内容には、ウェザーも大層驚いた。

「そこまでやって殺さないのは難しいな」

「指示通りにやれば、朝までは保つ。やりすぎても、急患を受け入れない事はないだろう」

「了解だ、セイバー」

ウェザーは一瞬の躊躇もなく、シャドームーンの指示通りにスタンドを操り始める。
令呪の縛りによりそれをただ見ているしかないシャドウラビリスに、マスターへの忠義はない。
彼女にあるのは彼女固有の葛藤が狂気化した精神だけだ。
しかし、それでも今、目の前で自分とパスで繋がれた少女の身に起きている……起こされている破壊は、彼女の内面の何かを刺激した。

「ゥゥウゥゥゥ……!ァァァァッァァァ……!!!」

「塵掃除の記憶でも蘇ったか? バーサーカー」

シャドームーンは、生理反応を超越した痙攣を起こしている真夜の服から抜き取った契約者の鍵を矯めつ眇めつしながら呟く。
主従それぞれのパーソナルデータが詰め込まれたそれを奪われる事は、全ての手の内を見られることを意味する。
シャドウラビリスの葛藤、その正体も手に取るようにシャドームーンの脳裏に刻まれていた。
ギリギリと歯を食いしばるシャドウラビリスの首を、冷たい金属の手が掴む。

「幸い魔力には余裕があってな……分けてやろう、ありがたく思え」

霊体同士の接触により流し込まれる魔力は、霊石が生成した異質なるもの。
遠慮なく注ぎ込まれる怪魔の奔流にシャドウラビリスの全身は震え上がり、魔力の補充と引き換えに全身に痣が広がっていく。

サーヴァントとマスターの身に起きた破壊が均一化したのは、それから30分ほど後の事だった。


797 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 03:02:01 lkVlHWys0




「かなり上手くいったんじゃないか? アナスイほど人体には詳しくないから心配だったんだがな」

「上出来だ。これならあと8時間ほどは生存できるだろう。朝一番で搬送するぞ」

「救急車じゃ、あの病院にいくかどうか分からないからな。タクシーを予約しておこう」

変わり果てた交戦相手の姿を見て、ウェザーとシャドームーンは普段となんら変わりなく会話を続けていた。
およそ人体が絶命を免れる限界まで痛めつけられたマスターと、魔力だけを過剰に与えられて霊体、霊核に至るまで激しく損傷したサーヴァント。
特にマスターは聖杯戦争はおろか、日常生活を過ごす事すら永遠に不可能であろう。後遺症などというレベルの問題ではなく、彼女の身体には正常に機能する部分が殆ど残っていない。
切断されていないことが逆に悲愴な程に形を歪に変えられた四肢は綺麗に折りたたまれて、大きなキャリーバックに入るような人間離れしたポーズを取らされている。
高圧電流により沸騰させられた箇所で特に痛ましいのは眼球だ。傷跡が走っている方の目は、その傷に見合う損壊を果たして零れ落ちている。
サーヴァントは霊体化してマスターの傍に侍り、離れる事すらできない。霊体が回復して万全に戦えるようになるまではこのままだろう。

「これを治せると見込まれる医者か……オレも少し興味が出てきた」

「着いてくるのはいいが、病院内では揉め事は起こすな。患者に手をかけるなど持っての外だぞ……今はな……」

彼らが自分たちの拠点に攻め込んだマスターとサーヴァントを生かしたのは、かの美貌のキャスター・メフィストの手腕を試すためだった。
これほどに破壊されたマスターをどれだけ快復させられるのか? サーヴァントの存在に気付いてもそれを治療しようとするのか? 治療しようとするならば、霊体をどう施術し治すのか?
更に、サーヴァントはバーサーカー。もし回復したのが病院内ならば、病院で暴れだすだろう。そうなった時、病院を捨てて逃げ出すなら神殿の利を奪い殺せる。
病院という神殿をフル活用してバーサーカーを斃そうとするのなら、キャスターの能力を見極めるチャンスになる。
臓器提供という縁結びの他にも、落とせる布石を打てるのならば打てるだけ打っておいた方がいい。それがシャドームーンの決断だった。

「遠坂凛はともかく、セリュー・ユビキタスとバッターというサーヴァントは一切情報が入ってきていない。朝までにもう一度調べておくぜ」

「任せた」


798 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 03:03:47 lkVlHWys0


昼間ずっと寝ているだけあり、夜は精力的に働くマスターに満足しながら、シャドームーンは自組と奪った『契約者の鍵』を見比べる。
シャドウラビリスも、番場真夜も、マスターとサーヴァントが似通った要素を持つ傾向に違わずそれぞれ共通する要素を持っていた。
すなわち、誰かの影。シャドウラビリスは光を喰らわんと叫び、番場真夜は光を守らんと願うという違いはあったが、両者共に己の光を強く意識していたことは同じだ。影らしく。
シャドームーンもまた、光……ブラックサンへの意識を片時も捨てた事はなかった。だが、それは真夜やシャドウラビリスの依存や反発という種別の物とは色を異にする。
シャドームーンはそもそも、己をブラックサンの影だと思ってはいなかったのだから。
彼が思い出すのは、先ほどの戦闘で自身が発した一つの言葉。

「人形遊び、か」

シャドームーンという影に対応するブラックサンという光。その二つが互いを高めあいながらも傷つけ合うという意思と意思の激突。
それら全ては、ゴルゴムの新たな創世王を決する為のシステムにより行われた、秋月信彦と南光太郎という人格を無視した茶番……旧創世王の人形遊びに過ぎなかった。
英霊となった今だからこそ、秋月信彦とシャドームーンという相容れない二つの過去の記憶を客観視出来てしまう。ウェザーが「情がある」と称した一瞬があったのもそれが原因だろう。
反英雄シャドームーンとして存在する以上、南光太郎への思いよりもブラックサンへのそれが優先されるはずなのだが……それ程に、南光太郎への感情が強かったのだろうか。

シャドームーンは、己をブラックサンの影だと思ってはいなかった。南光太郎は越えるべき壁であり、自分の対極ではない。己を失った秋月信彦に、自分の対極など存在するはずもない。
南光太郎=ブラックサンは人類の世界を照らす陽の光であり、シャドームーンは月より落ちて人類の世界を陰らせる者。互いだけで完結する関係ではなく、彼らの関係こそが世界を左右する。
彼は<新宿>で在る中で、常にそう己を定義し続け、"秋月信彦"の記憶を"シャドームーン"の中に深く深く沈めてきた。

「負けるはずがない戦いだったということだ」

自分に言い聞かせるように、影の王子が呟く。
英霊として、戦士として背負った物の重みにおいて、シャドームーンは誰に遅れを取るつもりはない。
人間の醜さや愚かさの象徴、頂点とも言うべきこの<新宿>において、人類の文明文化を終末に導くべく造られた存在である彼の暗黒の誇りは、最大に高まり……。

しかし、一人の男の顔を、どうしても脳裏から消す事ができないでいた。


799 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 03:04:50 lkVlHWys0


【四ツ谷、信濃町方面(南元町下部・食屍鬼街)/1日目 午前01:30分】


【番場真昼/真夜@悪魔のリドル】
[状態]魔力消費(絶大) 、各種肉体的損傷(極大) 、気絶、脳損傷、瀕死、自立行動不能
[令呪]残り零画
[契約者の鍵]無
[装備]ボロボロの制服
[道具]
[所持金]学生相応のそれ
[思考・状況]
基本行動方針:真昼の幸せを守る。
1.-
[備考]
・ウェザー・リポートががセイバー(シャドームーン)のマスターであると認識しました
・本戦開始の告知を聞いていません。
・拠点は歌舞伎町・戸山方面住宅街。昼間は真昼の人格が周辺の高校に通っています。


【シャドウラビリス@ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ】
[状態]左腕喪失、腹部損壊 霊体損壊(大)、魔力(キングストーン由来)最大充填
    令呪による命令【真昼を守れ】【真昼を危険に近づけるな】【回復のみに専念せよ】
[装備]スラッシュアックス
[道具]
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:全参加者及び<新宿>全住人の破壊
1.全てを破壊し、本物になる
2.回復に専念する
[備考]
・セイバー(シャドームーン)と交戦。ウェザーをマスターと認識しました。
・シャドームーンのキングストーンが生成した魔力を供給されましたが、代償として霊体が損傷しました。
・霊体の損壊は何の処置も施さなくても、魔力を消費して半日ほどで全回復します。


800 : 鏡像、影に蔽われて ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 03:06:41 lkVlHWys0


【ウェス・ブルーマリン(ウェザー・リポート)@ジョジョの奇妙な冒険Part6 ストーンオーシャン】
[状態]健康、魔力消費(小)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]無
[装備]普段着
[道具]真夜のハンマー
[所持金]割と多い
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に戻り、プッチ神父を殺し、自分も死ぬ。
1.優勝狙い。己のサーヴァントの能力を活用し、容赦なく他参加者は殺す。
2.早朝、番場真夜をメフィスト病院に搬送する。
3.それまでは食屍鬼街でセリュー・バッターの情報収集を行う。
[備考]
・セイバー(シャドームーン)が得た数名の主従の情報を得ています。
・拠点は四ツ谷、信濃町方面(南元町下部・食屍鬼街)です。


【シャドームーン@仮面ライダーBLACK RX】
[状態]魔力消費(小) 、肉体的損傷(小)
[装備]レッグトリガー、エルボートリガー
[道具]契約者の鍵×2(ウェザー、真昼/真夜)
[所持金]少ない
[思考・状況]
基本行動方針:全参加者の殺害
1.敵によって臨機応変に対応し、勝ち残る。
2.他の主従の情報収集を行う。
3.メフィストを警戒、早朝に食屍鬼街の住民の臓器及び血液を提供する取引を試みたい。
[備考]
・千里眼(マイティアイ)により、拠点を中心に周辺の数組の主従の情報を得ています。
・南元町下部・食屍鬼街に住まう不法住居外国人たちを精神操作し、支配下に置いています。
・"秋月信彦"の側面を極力廃するようにしています。


801 : ◆2XEqsKa.CM :2015/10/01(木) 03:07:10 lkVlHWys0
以上で投下終了です。


802 : 名無しさん :2015/10/01(木) 22:00:22 vIGHczBs0
投下乙です。
凄まじい。初っ端から凄まじく、そして面白い。
バーサーカーの一撃を余裕で受け、その止めは抜刀すらせず徒手空拳。
余力を残しながら、目的のために敵に魔力まで与える余裕ぶり。
不幸にも銀色の蝗に目をつけられた真夜の明日はどっちだ。
また敵主従を半殺しにしてメフィスト病院に送りつけるという発想もすごい。
めちゃくちゃ理にかなっていながらめちゃくちゃ理不尽。
すぐにでもこの先が読みたくなる素晴らしい発想と引きでした。
本当に面白かったです


803 : ◆zzpohGTsas :2015/10/02(金) 00:10:11 D21V2Sx.0
感想サボりニキを卒業します

>>さよならレイ・ペンバー
素晴らしい。自分の予想以上にこれは佐藤十兵衛だった。
十兵衛の優れた頭脳に裏打ちされた狡賢さ、計画を立てる速さと綿密さ。そして聖杯戦争に対する展望。
何よりも、本家喧嘩商売特有のその空気の再現。やはりあなた以外に塾長の器にある者はいなかった……(喧嘩王上杉均)
十兵衛の再現力も然る事ながら、天子との掛け合いも素晴らしい。原作のフリーダムさが実に良く表れている。
これを見て、聖杯戦争と言う事態についての認識で言えば、サーヴァントである天子より、マスターである十兵衛の方が、
事態を深刻に、そして重く受け止めてるんだなぁと言う事の掘り下げが面白い。良くも悪くも無邪気で移り気で、そして箱入り娘の天子の気質が良く表れている。
そして聖杯戦争のフェーズも大きく動き始めましたね。片や本来は出会う筈もなかった二人のジョナサンの主従と、片やジャバウォックを従える復讐者の女の主従。
黄金の意思とも言われる程高潔な心を持ち、しかも歴代で最も紳士的で優しい性格のジョジョをして此処まで怒らせるロベルタの傲岸不遜ぶり。
この本編中でジョナサンの優しさや聖杯戦争に対する認識の甘さが描かれつつも、やはり其処は、あの死闘を潜り抜けて来たジョナサンだけある。
ロベルタの発言を受けて、本気で相手を葬る気概を見せた所は、流石に生半な死線を潜り抜けてない事が解りますね。
最強のARMSと、完成されたスタンドの戦いも気になる所ですが、それと同じ位、新宿駅に埋め込んだ要石の伏線も、見事。正直滅茶苦茶感心致しました。
<魔震>は超常の自然現象であったとは言え、自然現象の域を出ないと言う認識から、主催者との交渉材料にタネを仕掛けておく十兵衛の凄まじさ。
正直この発想力と、十兵衛だったらやりそう感が本当に素晴らしかったです。一触即発のジョナサン、ロベルタ組もそうでしたが、結局、十兵衛に始まり十兵衛に終わる。そんな面白すぎる本編でした。

ご投下、ありがとうございました!!

>>笑顔の絶えない探偵です、ウドンゲイン完全無欠
今やハズレ、クソサーヴァントとして不動の地位を築き上げたと言っても良い黒贄さん。
真名露呈のリスクを理解してないわ、マスターを殺し掛けるわ、人を殺すわ、全国指名手配されるわと言ったせいで、ちょっと他では見られない扱いを受けてる遠坂凛さん。
そして何よりも黒贄さん本人はこう言った事に全く頓着してないで、人を殺す事しか頭にないと言う。
あのOPからまた人殺したのかよコイツ……って思い笑いました。まあこの殺人鬼は登場した話で絶対何人か人を殺す事に定評がありますので、間違ってはいない。
黒贄さんの再現は見事。探偵の受付時間の設定、被り物の設定、そして護衛が苦手と言う設定。原作で幾度も見られた設定を一話で練り込むとは、実に良い。
そして後半は打って変わって、塞の主従のターン。もう何か……JK凛ちゃんとの差に涙が出てきません?
強くはないかも知れないけど防御、逃走など全方向に特化した宝具の持ち主で、マスターとの相性も良い、命令にも忠実。後人を無暗に殺さない。
本当だったら凛ちゃんも数か月後には良い鯖を引くつもりだったんだなぁ、と言う事を認識させられました。
紺珠の薬で見た未来は、おっかなびっくり。あのまま黒贄さんと交渉を続けていたら、100%塞が殺されていたと言う未来。
近接戦闘ならば一部の例外を除けば最強レベルの強さを誇る黒礼服のバーサーカーの恐ろしさをまざまざと認識したと同時に、紺珠の薬のローリスクハイリターンぶり。
これが実にズルくさいと同時に、あぁ、こんなの持ってんだったら前半の情報収集能力も納得だよなぁ、と言う説得力を持たせている。
この主従は本当に情報面に関してはインフレを起こしそうですね。……ただ問題は、西新宿方面は時間経過でジャバウォック君達が暴れ回ってヤバい事になりそう、って事なんですが……。

ご投下、ありがとうございました!!


804 : ◆zzpohGTsas :2015/10/02(金) 00:10:33 D21V2Sx.0
>>君の知らない物語
様々な話と比較して解って事ですが、やっぱカエデ(あかり)も、エンドのE組の住民とは言え、経験値が低いんですよね。
考えてみれば触手兵器を埋め込まれて、凄まじい演技力を持つ子役であった以外は、本質的には単なる女子中学生。
作中明白に人を殺した描写はなく、そしてロールが女子中学生故に、推理展開に限界がある。圧倒的に他の主従に比べて、討伐令から推測出来る事柄が阻められている。
この辺りの塩梅が、やっぱりスタートラインの時点で凄まじい差がある聖杯戦争らしくて面白いなぁと感じました。
UMVC3でキチガイ染みた強さで熱帯を蹂躙していた鬼威惨は、相手を斬り殺す気概を絶やしていませんが、スパーダの血の疼きをしっかりと認識。
この主従は是非ともライドウ組と引き合わせてやりたいですね。……そうしたらどんな事態が起こるのか、火を見るより明らか何ですが。

ご投下、ありがとうございました!!

>>終わらない英雄譚
情報面で優位に立っているとは到底言えないこの主従。しかし、積み重ねて来た経験値から来る推理力と、不穏な空気の察知能力は流石の一言。
<新宿>を包む主だった噂話や不穏なネタを凡そ掴めている辺り、<新宿>でも上位に位置する主従面目躍如といった所でしょう。
掘り下げ話ですが、この話は非常に双方の個性が両立している。オカルトの見本市の様な世界で幾つもの死線を掻い潜って来たザ・ヒーローの、
<新宿>と言う舞台に対して感じて不穏な空気と、聖杯戦争自体の疑念。
そしてヴァルゼライドの超上から目線の考察と、どんな奴が来ても勝つのは俺だから思想が言葉の端々から感じられるキャラクター性。
短い話の中でこれらを両立させられたのは見事。……それと、凛ちゃんを愚物呼ばわりで、セリューの方を侮れないと評した所は、面白い。
実態は全く正反対で、本当の馬鹿はセリューの方だと気付く時は、来るんですかね……?

ご投下、ありがとうございました!!

>>鏡像、影に蔽われて
嘗て、登場話で此処まで甚大な被害を負った主従がいるだろうか、と思わざるを得ない、そんなお話でしたね……。
もう番場主従は、何から何までツイてなかったとしか言いようがない。引いたサーヴァントもクソなら、マスターの素養もゼロ。
極め付けに最初に出会った主従が、あのウェザーとシャドームーン。此処まで賭けが成立しない戦いも珍しい。
斧を力の限り振い、アステリオスを顕現させ、現状考えられるあらゆる手段を用いても、シャドームーンに大した痛痒も与えられないと言う実力差。
そしてチクチク削ったなけなしのダメージも、たった二発の攻撃で一瞬でひっくり返されると言う理不尽さ。もう番場ちゃんの絶望が伝わるようで興奮します。
サーヴァントを極限まで痛めつけ、番場ちゃんを「もういっそのこと殺せよ……」レベルでギリギリ抑えたのは、メフィスト病院に搬送させ様子見をさせる為。
これが実に凄い。そうくるか〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、とはたと膝を打ちました。
メフィストと話を付けようにも、メフィストは滅多に自ら動かない上に、動く相手を選びますからね。患者を利用して話をすると言う発想は実に良い。
あわよくば病院を乗っ取る事も考えているようだけれども、相手はチートを地で行く魔界医師。一筋縄ではいきそうにありません。
それにしても、『メフィスト病院があるから初戦から滅茶苦茶痛めつけても問題ないっしょw』感が文面から放出されていて、もうすっごい清々しい。
死後30分以内だったらどんな外傷でも治せるメフィスト先生に掛かれば、番場ちゃんもシャドウラビリスちゃんも治せるし、あながち間違いじゃない。
それとこれは余談ですが、冒頭の7月14日が誕生日のNPCの小ネタが、個人的には一番見事だと思いました。
此処までさりげなく、原作の主要キャラの一人を演出出来るその手腕。大から小まで、本当に素晴らしい配慮がなされ、そしてとても面白かったです。

ご投下、ありがとうございました!!


805 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/10/03(土) 12:56:48 qu6phD560
間に合わないと判断したので延長お願いします


806 : ◆EAUCq9p8Q. :2015/10/06(火) 23:40:59 jycoe9X.0
すみません、期限内に書き上げられないと判断したので現予約を破棄させて頂きます
長期のキャラ拘束申し訳ありません


807 : ◆zzpohGTsas :2015/10/10(土) 21:31:19 LUCg6/l20
マーガレット&アサシン(浪蘭幻十)
北上&モデルマン(アレックス)
予約いたします


808 : ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:10:15 5EVzEHRY0
投下いたします


809 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:11:05 5EVzEHRY0
「アレックスってさぁ」

 納豆をかき混ぜながら北上は、テーブルの真向いに座り、目玉焼きに醤油をふりかけている、自らが引き当てたサーヴァントに次の様な言葉を投げ掛けた。

「戦闘得意な方だったりする?」

 言葉を聞いて、アレックスは醤油さしを戻し、うーんと考え込み始める。
半熟の黄味の部分と、よく焼けた白身の部分に、これでもかと言う程醤油がぶっかけられていた。長生きは出来そうにない塩分量である。

「勇者だからな。それなりにはこなせる。ただまあ、過度な期待はしないで欲しい。痛いの嫌だしな」

「え〜、戦うの嫌って事? 男らしくないぞアレックス〜」

「馬鹿言え、平和主義者って言ってくれ。勇者も勧善懲悪じゃもうウケないんだよ」

「勇者にもそんな潮流あるんだ……」

「流行り廃りには敏感何でね」

 何と言うべきか、御伽噺の中で、ドラゴンや悪の魔王を倒し、麗しい姫を助けて云々、と言うステロタイプな勇者のイメージが崩れて行くのを北上は感じる。
尤も、マスターのパソコンでエロゲーをtorrentで違法ダウンロードし、日がな一日動画サイトで暇つぶしているアレックスと生活していた時点で、勇者のイメージなど完全に形骸化しているのであるが。

 勇者、と言う肩書の通り、アレックスのステータスは、バランスよく纏まっている。
どうしようもない程低いと言う訳でもないし、スキルも悪い物は見た所ない。勇者の面目躍如と言った所であろう。
後はどれだけ、アレックスが戦えるかと言う事であった。率直に言えば北上は、アレックスの練度を知りたかった。
基礎的な身体能力――艦娘風に言わせればスペックか――だけで、戦闘の勝敗は決まらない。此処から、潜り抜けて来た場数の数や経験値、
習得しているした技能や、装備等を総合的に判断する必要があるのだ。このアレックスと言うサーヴァントは未だに、そう言った底を見せない。
未だにサーヴァント同士の戦闘にこの主従が直面した事がないと言う事もそうであるが、彼の口からどれ程荒事に長けているのか、と言う事が語られた事はない。
故に北上は、この辺りで白黒ハッキリ着けておきたかった。どれだけ自分の馬が、デキる存在なのかを。

「他の奴らがどれだけ出来るのかが解らないのがな。いや、俺が最強だとは思いたいが」

 アレックスの実力が不透明なのは、結局はこれに終始すると言っても良い
ステータスを強さの物差しにするには、彼の強さは平均値で、宝具の方も極端に戦闘に特化しているとは言い難い。
まるで霞か霧の様な強さのサーヴァントであった。彼の強さを推し量る、濃くてハッキリとしたラインが、今の北上には欲しい。
それがサーヴァントとの戦い、なのではあるが、それは余り望むべくものでない。北上は魔力の総量に関して言えば、落第点も良い所のマスターだ。
今はアレックスが常時、自らの宝具によりクラスを『モデルマン』から『アーチャー』のそれにし、単独行動スキルを取得している状態だからこそ、
常時の魔力消費を抑える事に成功しているが、激しい戦闘になれば魔力の枯渇と言う問題は顕在化して来る事であろう。
最小の交戦回数で、最良の結果(聖杯)を。これがモアベターである事は、北上もアレックスも理解はしているが、そう簡単には行くまい。
何せ<新宿>は狭い。この総面積で、最後の二組になるまで誰とも敵性存在に遭遇せずに向える事を想定する等、全く甘っちょろいと言わざるを得ない。
マスターが何故強いサーヴァントを求めるのかと言えば、こう言った事態に対する保険的な意味合いが強い。
もしも戦闘状態に陥ったら? と言う局面を想定するからこそ、誰もが強いサーヴァントを望むのである。


810 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:11:21 5EVzEHRY0
「て言うか、何でやぶからぼうにそんな事聞いて来たんだ? 今まで俺と戦闘についての打ち合わせ何て、積極的にやらなかったのによ」

 と、聞いて来るアレックスに対し、納豆をかけた白米を咀嚼し終えてから、北上は口を開く。

「ほら、件のさ、討伐令」

「あぁ。……乗るのかよ? まさか」

「うん」

 迷う素振りも見せず即答する北上に、アレックスは重苦しい溜息を吐き出した。
如何もこのサーヴァントは、北上と言うマスターをか弱い少女のマスターだと認識しているフシが見られるのであるが、そもそも彼女は本質的には艦娘。
通常人類とは本質を異にする存在であり、かつ今の北上は、艦装を持ち込む事に成功しているのだ。
つまり彼女は、戦う事に対するプライオリティが高い存在である事を意味し、目的の達成の為ならば戦闘も已む無しなのである。

 深夜十二時の段階から既に、二人は聖杯戦争の開催に気づいていた。
と言うのも、深夜までアレックスは起きているから、契約者の鍵の異変には気付きやすいのである。
鍵が放つ光に気づき、それの報告の為にアレックスに起こされた北上は、鍵から投影されるホログラムで、基本的な情報を知る。
即ち、聖杯戦争の開催と、二組の主従の討伐令だ。どうやら本格的に戦端が開かれるよりも早く、『やらかしてしまった』主従が二組もいるらしい。
と言っても、その内一組については、テレビや新聞、ネット環境の整った所に身を置いているのならば、知らない者などいないと言う程の有名人である。
当然北上達もその存在を知っていた。即ち、遠坂凛とバーサーカーのチームの事であるが、彼らについては北上もアレックスも、
まぁ聖杯戦争の参加者なのだろうなと言う事は、ナシを付けることが出来ていた。もう一方の方、セリューらの組については、解らない事が多すぎるが。

 基本的に北上は魔力に優れないマスターの為に、サーヴァントを動かし続けるのには限度がある。
だからこそ他の面で優位に立とうとした。つまり、令呪の数である。この討伐令の遂行の暁には、令呪が一画、主催者から贈呈される事になっている。
無論の事、その主催者自体がそもそも信用出来ないと言う事もあるが、流石にこの内容については嘘はあるまい。
此処は、その討伐令に乗る事とした。令呪は、ないよりはあった方が絶対に良いのは明らかな事柄であるのだから。

 焼けた目玉焼きを食べ終え、椀に盛られた白米をアレックスが平らげる。
「ごっそーさん」と言いながら、食器を台所まで彼は持って行く。「はいはい、お粗末様」とやる気のない返事を北上は返す。
アレックスに此処までさせるのには苦労した。何せ食べたら食べっぱなしの状態である。とことん、世間常識のなってない勇者様であった。

 食器を水洗いする音を聞きながら、北上は食事を続ける。
時刻は七時。聖杯戦争も始まった事であるし、外に出向くか、それとも籠城に徹するか。考えていた、その時であった。
凄まじい勢いで窓際まで走って行くアレックス。カーテンを開け、外を見下ろしている。此処は六階である、全景を見渡すにはもってこいの高さであった。

「水流したままだよー、アレックス」

 シャッ、とカーテンを閉め、北上の方にアレックスは向き直る。かつてない程の神妙な顔付きで、彼はゆっくりと口を開いた。

「サーヴァント」

「……把握」

 <新宿>は、本当に狭い街であると言う事を北上は実感させられた。
聖杯戦争が開催されてから、七時間弱。初戦の火蓋が今まさに切られたと言う現実を、北上は認識させられるのであった。


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811 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:12:06 5EVzEHRY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 聖杯戦争に参戦している主従の思惑と言うのは、四つに大別された大枠(テンプレート)でラベル分けする事が出来る。
一つに、聖杯だけを狙う者。一つに、超常存在であるサーヴァントの力で自らの享楽を満たす者。一つに、主催者に対する義憤を抱く者。一つに、前三つのどれでもない者。

 その主従は、四つの大枠の内一つ、主催者に対抗しようとする勢力の一人であった。
しかしその主従のマスターは、一言で言えば例外中の例外と言っても良い存在でもあった。
主催者に刃向おうとする主従は、確かに存在しよう。しかし、その主催者が一体何者で、何を目的としているのか。初めから理解している者は、極めて稀である。

 マーガレットと言う名前を戴いたその麗女は、<新宿>の聖杯戦争を管理・運営する人物の姉に当たる女性だった。
この街を、――マーガレットの引き当てたアサシンが口にする言葉を使うのなら――魔界都市にしようと目論むその人物の名は、『エリザベス』。
マーガレットと同じ、ベルベットルームの住人であり、同じく力を管理する者の一人である。

 「世界の果てに、自らを封印のくびきに投じた、一人の少年の魂が眠っている。命の輝きを見失った人々が世界を自滅へ誘うのを、その魂は身を挺して防いでいる」
……そんな少年を救いに行くのだと、あの愚妹がマーガレットに告げ、ベルベットルームを去って行ったのは、何時の事だっただろうか。
マーガレットは、御伽噺の類だと思っていた。だが去り際に、彼女にそんな事を告白した妹の顔も声音も、真剣そのものだった。
後に主であるイゴールから、その御伽噺の真否を問うてみた所、「彼は最高の御客人であった」と答えるだけであった。
その様な存在が、嘗て世界に存在し、そしてエリザベスと絆を結んだと言う事をその時初めてマーガレットは知った。
そしてその時に初めて、エリザベスが最後に告げたあの言葉に込められた決意の意味を知った。

 ……だからこそ、姉には悲しいのだ。こんな方法で、その少年を救おうとする奇跡を成そうとすると言う事が。
マーガレットは、妹を止めに来た。聖杯を、この世界に現出させてはならない。妹は、止めねばならない。
エリザベスが、契約者の鍵……客人をベルベットルームに招く為の文字通りの鍵であり、ベルベットルームの住人であれば当然所有しているこの鍵を、
<新宿>に招く為のアイテムに設定した理由は、何故か? マーガレットは、本当は聖杯戦争が間違っているのだと言う事を、
エリザベスも心の底では理解しているのだと解釈していた。本当は、止めて欲しいのかも知れない。
自らの考えが間違っているのだと言う事を教えてくれる誰かを、此処に招きたかったのかも知れない。それに選ばれた存在こそが……自分なのではないか、と。

 ならば、期待通りにその思いを挫く。マーガレットも決意した。
仮に自分の推理が思い違いだとしても問題はない。そもそも自分はエリザベスを止める為に来たのである。
彼女の計画を破壊すると言う当初の目的には、何の揺らぎも無い。彼女の所まで向かい、彼女を完膚なきまで叩きのめすだけであった。

 しかし、事はそう簡単には行かなかった。
エリザベスが見つからないと言うのもある、彼女が引き当てであろうサーヴァントの問題もある。
だが一番の『内憂』は――マーガレット自身が引き当てたサーヴァントにあった。

「どうしたのかなマスター。聖杯戦争も始まったのだ、我々も出向くべきではないのか?」

 内憂、と言うからには当然、仲間や部下に問題があると言う事である。これは、敵などの外的要因が問題になる事よりも、よっぽどタチが悪かった。
しかも聖杯戦争において、事もあろうに手札であるサーヴァントが最大の問題になると言う事は、致命的なハンディキャップ以外の何物でもない。

 マーガレットのサーヴァントである、アサシン・浪蘭幻十は実力だけで言うならば、間違いなく非常に強い部類のサーヴァントだった。
天使の美貌と怪魔の邪悪さを兼ね備えた、悪魔学が説く所の魔王・ベリアルの様な男。分子レベルの細やかさのチタン妖糸を操り敵を切り裂く魔王。
聖杯戦争の主催者に制裁を与えんと燃える魔人。


812 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:12:37 5EVzEHRY0
 率直に言えばマーガレットは、この男に対して強い嫌悪感を覚えていた。
美の体現者足らんとする容姿の内部で燻る、頗る邪悪なその魂。何故、このような者が自分のサーヴァントなのかと悩む事も多々あった。
実力だけあれば、良いと言う訳ではない。限度がある。この男は必要以上に人を殺す。無用な殺生を招く。だからこそ、気に食わない。
今でも、令呪で自殺を敢行させたいと言うその気持ちに嘘はない。だが今は、その局面ではない。遺憾と言う他ないが、今はこのサーヴァントの力が必要なのだ。
この<新宿>に集った参加者の全てが、主催に対してその手袋を投げつけるような者ばかりではない。寧ろ殆どの場合、聖杯の奇跡を求める者の方が多いと見るべきだ。
そう言った者達への対策の為に、サーヴァントはどうしても必要になる。こんな男でも、今は生きていなければならないのだ。
それに、強い怒りを覚える。何故自分には、このような外面だけが美しい男を宛がわれたのか、運命を呪った事も一度や二度では済まされないのだ。

「外に出たいのは山々よ。私だって、こんな場所を根城にするのはいやだもの」

 周りを見回すマーガレット。
この主従には、定住するべき拠点がない。いわばホームレスと言うべきか。その為彼らは、目立たない下水道を拠点にしているのだ。
片や同じ女性ですら嫉妬の念すら消え失せてしまいそうな美貌の女性。片や天界に満ちる香気と神韻でつくったとしか思えない美貌の男性。
汚水の流れる下水道に住むにはこれ以上相応しくない者があろうかと言う二人であるが、仕方がない事であった。
幻十を外に出す危険性を鑑みれば、それ位の忍耐は、マーガレットには必要なのであるから。

「既に聖杯戦争は始まり、我々が此処にいる間、外は大きく状況も動いているらしい。その流れに乗り遅れたくはないね、僕は」

 契約者の鍵経由で、外で起っている事を知ったのは今日の事。
聖杯戦争の開始と同じ程に重要なのが、遠坂凛と言う少女と、セリュー・ユビキタスと言う女性の主従が行った大量殺人についての事柄だ。
マーガレットに限らず、ベルベットルームの住人と言うものは外界の情報に非常に疎い。外の世界が浮足立っている事は察知出来たが、その内容までは解らなかった。
外では世界規模で有名な事件にまで発展している、遠坂凛のサーヴァントが引き起こした大量殺人についても、知ったのはつい先ほどの事だったのだ。

 情報面では完全に後手に回っていると見て間違いない。状況が動くのが早すぎる。癪な話であるが、幻十の言っている事は強ち間違ってはいない。
幻十の欲求である大量殺戮と、せつらと呼ばれる男との決着に対する欲求も同時に満たせてしまうが、何時までも下水道には籠っていられない。
マーガレットは一番近くにあったハシゴを昇って行き、外界に出ようとする。
「付近に人はいない、安心してマンホールを外すと良い」、宝具・『浪蘭棺』に腰を下ろして座る幻十。糸で近辺に人がいないか確認していたらしい。
片手でマンホールを押し上げ、マーガレットは外に出る。言葉通り、この住宅街の道路には、人一人通っていなかった。

 退けたマンホールを元の場所に戻し終えると、マーガレットの近くに幻十が立ち並んだ。霊体化をした状態で、この場所までやって来たのである。
太陽が輝く晴天の下に佇む幻十の姿は、正しく青年美の純粋なる結晶体であり、天与の詩才を持った吟遊詩人(トルバドゥール)がその姿を見ようものなら、忽ち後世に名を遺す程の名詩を記してしまう事であろう。

「――ほう」

 アクアマリンの板を敷き詰めた様な夏の空を見上げ、幻十が嘆息する。
服に付着した埃を払い落しながらその様子を眺めるマーガレット。次の瞬間幻十は、思いもよらぬ事を口にする。

「成程、状況が動くのが確かに早い。『いる』よ、マスター」

 ピタッ、と、マーガレットの動きが止まる。瞳だけを、幻十に向ける。鏃の如き鋭い目線を受けて、幻十は微笑みを浮かべ返すだけ。
純粋たる美を極めた末に、人外の美に達したその貌に。邪悪で、狂的な光が瞬いていた。


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813 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:13:17 5EVzEHRY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 サーヴァントの気配を頼りに、アレックスが霊体化を解いた場所は、北上が住んでいるマンションの住民が使う駐車場であった。
予め用意された駐車スペースが全て、乗用車で埋め尽くされ、満車の状態を見るに、住民は皆北上のマンションにいると見て良かった。

 冷や汗が、アレックスの頬を伝って行く。
初めてのサーヴァントとの交戦による緊張、と言うのも確かにある。しかし元居た世界でも、それなりの修羅場は踏んで来た。
台本(ブック)の存在しない、真剣(シュート)の命のやり取りを行って来た数だって、三度四度じゃ利かない程だ。
間違いなく百戦錬磨の勇者であるアレックスが緊張の色を隠せないのは、この駐車場と言う空間が、今まで彼が体験して来たどの戦場とも違う鬼気に満ちていたからだ。
戦場特有の、荒縄で引き結んだような空気と、空気分子に鉛でも含まれているかのような重苦しい気配は、よく知ったるアレックスのそれである。
その中にあって、独特の香気の様なものが含まれているのは、何故なのか? 今から熾烈な死闘が演じられようとしている空間が如何してこうも、華麗に見えるのか?

「来たね」

 その声にアレックスが反応する。
黒色のオデッセイのボンネットに腰を下ろすような形で、相手のサーヴァントは霊体化を解いた。

 ――ゾッとする程の美貌の持ち主だった。サウンドノベルやライトノベルが語彙の供給元のアレックスには、そのサーヴァントの美を形容する言葉を探せずにいた。
愛くるしいと表現するべきなのだろうか。いや違う。華麗? それもしっくり来ない。美しい? 余りにもチープでありきたり過ぎて、使う事すら躊躇われてしまう。
この男の美を表現する術は、この世の如何なる文筆家にも不可能なような気がしてアレックスにはならない。
神が、この世に満ちる全ての、『美』と言う概念の規矩足らんとして創造したような、このサーヴァントの名を、浪蘭幻十。
魔王になり損ね、枯れ果てた魔界都市<新宿>で暗殺者(アサシン)として生きねばならぬ程に落ちぶれた、宿命の子の一人。

「本当ならば、君を無視しても良かったのだがね」

 スッとボンネットから立ち上がり、幻十はアレックスの方に向き直る。
宇宙の闇を裁ち鋏で切り取り、服の形に誂えた様なインバネスコートを、身体の一部の様に見事に着こなす美男子。
先程まで座っていた、ポリマーコーティングの成されたオデッセイの黒い車体が汚れたもののように、アレックスには見えた。
同じ黒でも、纏う者次第で、その格は山や谷の様に上下するのだと言う事を、彼は初めて知った。

「マスターも僕も、有象無象には興味がないんだ。が、君の方から向かって来たのならば話は別だ。目的の達成の妨げになる」

「……嘘は良くないだろ、色男」

 漸くアレックスの口から紡がれた言葉が、それだった。
何秒、幻十の美を前に陶然としていただろうか。幻十にはアレックスを殺せる瞬間が幾らでもあった。
それを敢えて行わなかった。これは、幻十の圧倒的な自身の裏打ちであると、アレックスは見ている。

「俺は、アンタが天使って言われても信じはしないが……、悪魔って言われたら、その場で信じられるだろうぜ。俺が此処に来なくても、アンタの方から向かって来たんじゃないのか?」

 伊達に、勇者としての生き方を強要されて来た訳ではない。
その人物が善か悪かなど、おおよそであるのならば判別出来る。しかし、アレックスが見てきた人間の中でも、幻十は初めてであった。
大抵の場合、人を善か悪かの二極に分ける場合、その判別には時間が掛かる物である。それはそうだ、人は善性と悪性が入り混じってこそなのだから。

 ……珍しい何てものではない。一目見て、悪性であると判断出来る人間など、レアケースなどと言うレベルではないのだ。
この男には邪悪しかない。目的の達成の為ならば、何者でも踏み台に出来、何者の犠牲も厭わない程の人間性の持ち主。アレックスは浪蘭幻十と呼ばれるアサシンを、そう判別した。


814 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:13:44 5EVzEHRY0
「……ハハハッ」

 短く、幻十が嗤った。小悪党の笑いではない。魔王の狂喜だった。

「愚鈍な男かと思ったが、それなりには人を見る目はあるようだ」

 幻十は悪魔と呼ばれた事について、否定しない。寧ろ誇らしくすら思っていた程だ。
あの街では――魔界都市<新宿>では、悪魔の如き性格の持ち主か、天使の様な強さと苛烈さの持ち主でなければ食い物にされるような街だった。
あの街の住人であるならば、心を鬼にし悪魔とする事が生きる為の必要最低限の条件。この男にとって、悪魔だベリアルだマモンだ、と言う悪罵など、微風ほども堪えないのである。

「幼馴染がね、この街にいるんだ。僕にとって宿敵と言えるような人物は、その男一人だけ。僕が唯一、この世で認める好敵手だ」

 その男が如何してこの<新宿>にいるのか、その確証はあるのかと、マスターであるマーガレットに尋ねられた事がある。
確証などない。全て勘だ。<新宿>の成り損ないの街に自分がいて、あの男がいない筈がない。それこそが、浪蘭幻十がこの<新宿>に、秋せつらがいる筈なのだと考えた全てだ。
せつらとの決着は、この男にとっては最も重要な事柄の一つ。自分の唯一の友達、自分に妖糸の技を教えた人の好い青年、やがて争い決着を付けねばならない運命を背負った男。エリザベスと言う女の制裁と同じ程、或いはそれ以上に、それは重要な事柄であるのだ。

「ただ彼は強くてね。生半な実力では少々不安が残るんだ」

「で、俺をウォーミングアップに、ってか?」

 シャッ、とアレックスが腰に提げた鞘から、緑色の剣身を持った長剣(ロング・ソード)を引き抜いた。
ドラゴンソードと呼ばれるそれは、鋭利な竜の鱗を何百枚何千枚と繋ぎ合わせて作り上げた、業物中の業物である。

「君に期待出来る役割は、それしかないよ」

 ドラゴンソードを中段に構え、アレックスが幻十の方に向き直る。
なるべく目線を、幻十の顔から外している。直視してしまえば、身体から溢れ出る美の瀑布に耐えられそうになかったからである。

「あやとりで、遊んであげよう。セイバーくん」

 インバネスの両ポケットから腕を引き抜き、幻十は微笑みを浮かべた。
穢れの知らない子供の様に悪戯っぽく、そして、何百人もの人間を貪り喰らった悪鬼の様な邪悪な空気を醸し出す、危険な笑みであった

「残念だったな、俺はセイバーじゃなくて――」

 中段の構えを解かず、アレックスは、叫んだ。

「――『キャスター』なんだよ!!」

 そう一喝した瞬間、幻十の頭上で、太陽の光とは全く違う、色のついた光が輝き、弾けた。
ベージュ色とも、クリーム色とも取れる色が、駐車場中のスペースに降り注ぐ。完全に不意を打たれる形となった。
クラスの読み違いをしていた幻十は、水をいきなり浴びせかけられたような表情を浮かべ、目にも留まらぬ速さで左腕を動かす。
アレックスの目が見開かれる。クリーム色の光が、幻十を避けるように逸れて行くのだ。椀をかぶせた様な、透明なドーム状の何かに覆われ、其処に水を流した様であった。

 魔術が終わり、光が止んだ。『スターライトⅠ』。アレックスが使った魔術である。
彼はこの魔術を放つにあたり、宝具、『もしもサーヴァントだったら』の効果で自らのクラスをアーチャーからキャスターに変更していた。
魔力ステータスと魔術の威力に補正のかかったこの魔術は、対魔力を保有しないサーヴァントであればそれだけで有効打に成り得る程の威力を秘めていた。
決してそれは、こけおどしでもハッタリでもない。現に、駐車場に止められていた乗用車の車体が、スターライトⅠの光が宿す凄まじい高熱で、火で炙られた飴の様にドロりと溶け始めている程だ。直撃していれば、無事では済まなかったろう。

 目に見えぬ力場で、魔術を防いだのか? それとも、この男の美貌の前では、魔術ですらが礼節を弁えるのか?
魔術を防ぐを防いだトリックを看破しようと推理するアレックスであったが、その思考は強制的に中断させられる。


815 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:14:13 5EVzEHRY0
 バグンッ、と言う音がアレックスの両サイドから響き渡った。
目線だけを素早く右左に動かす。アレックスを挟むようにして駐車されていた、乗用車二つの車体が、ゴボウか何かみたいに輪切りにされていたのである。
十以上に分けられた、輪切りの車体を見て急激に嫌な予感を感じ取ったアレックス。不可視の斬撃を、目の前の男は操るのか。
そう判断した彼は、敢えて幻十から距離を取って飛び退かず、彼の方へと走って向って行った。
この様な局面では臆して距離を取るより、接近して行った方が良い事が多いのだ。幻十もこう来るとは思わなかったらしく、一瞬だけ目を大きく見開いた。

 ロングソードの間合いに、アレックスが入る。
右足で強く地面を踏み抜き、その踏込の勢いを利用、楔を打ち込むが如き勢いの横薙ぎの一撃を、幻十の胴体目掛けて放った。
――攻撃が、幻十にドラゴンソードの剣身が当たるまで十数cmと言った所で、停止した。いや、停止させられたと言った方が適切か。
見えない壁にでも阻まれているかのように動かない、動かせない。どんなにアレックスが力を込めても、ドラゴンソードの剣身はビクともしなかった。

 ――刹那、ドラゴンソードが、数cm程動いた。
違う。アレックスが即座に認識する。これは動いたと言うよりも、『撓んだ』と言う方が適切だ。
今まで彼は、目に見えぬ壁に攻撃を阻まれていたと思っていた。しかしこれは、違う。例えるならばそれは、強い靱性を持った不可視の棒と言うべきか。
それに、アレックスの一撃は防がれていたのだ。その正体を認識するよりも早く、見えない何かの撓みが、戻った。但し、凄まじいまでの力を内包して、と言う冠詞がそれにはつく。

 金属バットのクリーンヒットを受けた硬球めいた勢いで、アレックスが真横に吹っ飛んで行く。
ガラスが砕け散る大音が響き渡る。車体が溶け始めている乗用車にアレックスが激突した音であった。
先ず初めにボンネットに衝突したらしい。ハンマーで強く殴打された様にそれは凹み、フロントガラスは人一人這って出られそうな程の大穴が空いていた。
アレックスは車内後部席で苦しそうに呻いており、未だに自分に何が起ったのかと言う事実を認識出来ていなかった。

「いけないなぁ、失点を重ね過ぎた」

 一人で、幻十はそんな呟きを漏らし始めた。
後部席から脱出しようと、上体を動かし始めたアレックスは、その言葉を聞き逃さなかった。

「クラスの読み違いと言い、戦術のミスと言い、二つもミスを犯してしまった。これではマスターに叱られてしまうな」

 アレックスの方に、困った様な笑みを浮かべて見せながら幻十が言った。
授業に使う教科書を忘れてしまった学生が、友人に対してそれを借りる時に浮かべる様な笑みにそっくりであったが、その表情を浮かべているのがよりにもよって幻十だ。嫌な予感を感じてしまうのも、むべなるかな、と言うものであった。

 幻十が独り言を口にしているその間に、アレックスは呪文を完成させていた。 
穴の空いたフロントガラスから、バスケットボール大の大きさをした、光り輝く球体が、弾丸並の速度で幻十の方に飛来して行く。
セイントⅡと呼ばれる呪文であり、やはりキャスタークラスで放つ魔術の為に、威力が向上している。
直撃さえすればやはり、無事では済まない威力を誇るそれが、フロントから飛び出してから十数cmと言ったほんの短い所で、粉々に霧散した。
今度と言う今度は、驚きの表情をアレックスは隠せなかった。顔中に驚愕の色が、鑿で彫られた様に刻まれている。

「考察は済ませたかい、キャスターくん」

 魔王が一歩、アレックスのいる車へと近付いて行く。

「ならば、逆立ちをしても僕に勝てない事も、解る筈だ」

 右腕を前方に突きだして、幻十は口にした。

 ――女の指の美しさを表現する定型句に、白魚の様な指、と言う言葉がある。
白くて、細くて、皮膚が透けて見えるようで。そんな指を表現したい時に、世の文筆家はそんな言葉を使う。
だが、突きだされた幻十の右手に連なる五本の指は、そんな言葉では表現が出来ない。
指の関節に集まる皺も、筋肉を包む皮膚も、微かに桃色がかった爪も、確かに人間のそれである。全て人のそれによって構成されているのだ。
なのに、何故、この男の指は此処まで美しい。何故、この男の指は、地球の内奥で精製された高純度の石英を、連想させる?


816 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:14:35 5EVzEHRY0
 手入れに何十万と掛けねばならないピアニストの指が、朽ちた白樺の枝にしか見えない程の繊指を、幻十はグッと握り締めた。
それよりもほんのゼロカンマ数秒程早く、アレックスが車内後部席から、消え失せていた。初めから彼の姿など、いなかったかのようであった。
幻十が拳を作った瞬間と全く瞬間に、先程までアレックスがいた自動車が五百七十七の鉄片とシートスポンジの破片に変貌した。
デタラメに、ありとあらゆる方向方角から切り刻まれたそのセダン車。本来ならば、その中にいたアレックスもまた、同じ運命を辿る筈であったのだ。
鉄とスポンジの堆積から漏れ出るのが、ガソリンや不凍液、エンジンオイルだけで、アレックスの血液が全く混じっていないのを見て、幻十は不愉快そうに顔を歪めた。

「逃げられたのかしら?」

 駐車場の入口の方から、聞きなれた声が聞こえてくる。
腕を組んだ状態で、浪蘭幻十のマスターであるマーガレットがやって来た。意外な物を見る様な目で、彼女は幻十の事を見ている。
まさかこの男が、サーヴァントを一度で殺せず、取り逃すとは思わなかったからである。

「全く先が思いやられる。言い訳が出来ない程の大失態だ。これではせつらとの決着など夢のまた夢さ」

 かぶりを振るい、己の体たらくに呪詛を吐き続ける幻十。
苛立ちが、彼の臓腑で蠢いていた。このまま行けば、嘔吐すらしかねない程であった。

「マスターの姿は見えなかった。外にはいないと思うわ」

 マーガレットは、幻十とアレックスが戦っている間、敵サーヴァントのマスターを探し回っていた。
幻十に任せれば、何が起こるか解ったものではない。正味の話、サーヴァントであるのならば、幻十が何をしようがマーガレットは別に構わない。
殺した所で座に還るのが精々なのだから。だが、マスターとなるとそうも行かない。聖杯戦争の開始前に戦ったバーサーカーのマスターを、幻十は、
それこそ筆舌に尽くし難い方法で惨殺した。その様な光景、マーガレットも見たくなかったのだ。
だからこそ、幻十をアレックスに宛がっている間に、マーガレットは敵マスターを捜索、その令呪を破壊せんと駆けずり回っていたのである。
その最中に、戦場である駐車場で一人佇む幻十を見つけ、今に至る。一目見て、相手を倒したと言う様子でない事はすぐに解っていた。

「どんな相手だったのかしら、アサシン」

「剣を振うキャスターだった」

「キャスター? キャスターが、近接戦闘を仕掛けに来たと言うの?」

 この言葉には、キャスターに後れを取ったのか、と言う非難の色も籠っている。

「本当にキャスターだったのかどうかは僕には解らないよ。彼がそう言っていただけさ。ただ、魔術に造詣の深いサーヴァントであった事は間違いない。恐らく、空間転移を使えるのだろう。それで逃げられた」

 アレックスは確かに自分の事を、キャスターだと言っていた。しかしこれが、幻十には引っかかる。
それは引っ掻き傷の疼きに似て、我慢出来ない痛みではないが、その癖やけに引っかかる、不愉快な感覚であった。
どうにも奥歯に物が挟まる。アレは、本当にキャスターだったのか? 本当にキャスターであれば、マーガレットの言葉通り、
幻十を相手に近接戦闘を仕掛けに来るとは考え難い。相手のサーヴァントのクラスやステータスを視認出来るのはマスターだけ。ブラフを掛けて来た可能性も、認められる。

「……それで。逃げられたのならば、どうするつもりなのかしら、アサシン」

「無論追うさ。顔も見られた上に、僕の使う技術も、ひょっとしたら推察が付いているかも知れない。後顧の憂いは断っておきたいね」

「何処にいるのか、解るのかしら?」

 空間転移とは、移動と言うプロセスを経ずに、任意の場所に瞬時に移動する高級技術である。
従って、足跡や臭いと言った、相手を追うのに必要な要素が一切存在しない。
転移で逃げられてしまうと言う事はつまり、最早相手を追跡する事は不可能である事を意味するのだ。しかし幻十は、自信満面な笑みを浮かべ、すぐに言葉を紡いだ。

「問題ない。我が糸は既に――あのキャスターの位置を捉えている」

 スッ、と。幻十は頭上を見上げた。朝天に浮かぶ太陽ですらが、恥じらいで赤く燃え上がり、地上を焦土に変えかねない程の美貌は、その空に、ではない。マンションの高階の方に向けられていた。

「我が糸の結界からは何者も逃れられない」


.


817 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:15:11 5EVzEHRY0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 音もなくアレックスは、北上が住んでいる部屋のリビングへとやって来た。
緑色の業物、ドラゴンソードを引き抜いた状態で、かつ身体の所々に痣と擦り傷をつけてやって来たアレックスを、北上は心配そうに見つめていた。

「無理」

 頭を横に振るって、開口一番アレックスは言葉を発した。

「む、無理ってアレックス……」

「初っ端から外れ引いちまったよ。あれは、デタラメに強い」

 思い出すだけで、身震いしか出てこないアレックス。
職業柄、様々なモンスターを見聞きしたし、デーモンや死神、ドラゴン、果ては、魔王や魔神とだって一戦を交える事だってあった。
しかしあの美貌のサーヴァントは、別格。今までアレックスが見て、戦って来たどんな敵よりも、彼は強い。
いやそれどころか、聖杯戦争に馳せ参じたサーヴァント全てをひっくるめて考えても、あの男は相当な強さの立ち位置に在るであろう。
到底、アレックスの手におえる相手ではない。此処は早い所、この拠点を捨てて、ほとぼりが冷めるのを待つべきである。
その事を急いで北上に彼は説明した。その事を呑み込んだ北上が、私室へと急いで走って行く。引きこもる訳ではない。
彼女の私室には、彼女を艦娘足らしめている、14cm単装砲と、61cm四連装酸素魚雷を筆頭とした、艦娘としての艦装が安置されている。
これは彼女が聖杯戦争を生きのびる上で、必ずやキーとなる装備であると北上もアレックスも考えているし、到底此処に捨て置いて逃げるべき物でもない。
これを取りに行き、装備して逃げると言う考えは、当然のそれであった。

 ドアを開け、北上が艦装を纏った状態で現れる。
何時みても不思議な装備だとアレックスは思う。園芸用のじょうろを思わせる単装砲、腰と脚部に装備された、魚雷の発射機構。
そして、実在の軍艦であると言う北上をモティーフにした、彼には全く名前も思い浮かばないような鉄の背負い物。
「海上だったらもっとかっこつくんだけどね〜」、と言って北上は苦笑いを浮かべる。陸の上に、重雷装巡洋艦娘・北上が君臨した瞬間であった。

「準備は出来たよアレックス、表口から逃げる?」

「いや、非常階段から逃げよう。俺が戦った駐車場からは見えない位置にあるからな」

「了解、んじゃ早速――」

 北上が其処まで言った瞬間であった。
スルッ、と言う擬音が立ちそうな程スムーズに、アレックスの左腕が肩の付け根の辺りから、下にスライドして行った。
明らかに、腕の稼働区域を超えて左腕は下がって行きそして――地面に落ちた。

 北上も、腕を落とされたアレックスも、瞬間、呆然としていた。
遅れて、アレックスの苦悶の声が響いた。北上は両手を口で押える。血が、アレックスの左腕の切断面から凄まじい勢いで噴出。
忽ちフローリングに、褪紅色の水たまりが出来上がって行く。二名の混乱などお構いなしと言った風に、ベランダに面した窓がベニヤの様に切り刻まれて行く。
窓枠ごと切断されたガラス板がフローリングに落ちて砕け散る。切り刻まれたカーテンが、ふわりと舞う、その先の空に男はいた


818 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:15:30 5EVzEHRY0
 何もない虚空に、彼は直立していた。
両腕を水平に伸ばした状態で、彼は、北上達がいる部屋に剣呑な笑みを向けている。
北上の動きが、氷の彫像のように停止する。蛇に睨まれた蛙と言うよりは、神の姿を初めて目の当たりにした敬虔な信者と言うべきであろう。
無理もない。超常の存在であるアレックスですら、男の美を見て呆然となる程なのだ。北上が、浪蘭幻十の美を見て、耐えられる筈がないのだ。

 北上の心は今や完全に、フリーズの状態にあると言っても良い。
幻十の姿を見て、美しいとすら思っていなかった。彼女が認識する、美の基準点。それを遥か彼方に置き去りにする程の人外の美。
これを見てしまったが為に、北上は、間違いなく美しい筈の幻十の姿を見て、美しいと考える事すら出来なくなっていたのだ。
そんな、今の北上の状態などお構いなしに、幻十はベランダに降り立った。黒いインバネスが風を纏い、ふわりと舞い上がる。
その一連の様子だけを見たら、美しい貌を持つ悪魔が降り立ったようにしか見えないだろう。いや――黒い翼を携えた天使が、舞い降りた、と言うべきか?

「何故僕が、此処に? そう言いたそうだね、キャスターくん」

 事実アレックスはそう問いたかった。
北上の部屋から駐車場までは、一般的なサーヴァントの知覚範囲を超えた距離の所にあり、縦しんば知覚能力に優れたとしても、だ。
マンションである以上部屋数が多い為、どの部屋に自分達がいるのかの判別までは難しい筈だ。
それを幻十は、初めからアレックスらが何処にいるのか解っているかのように、二人の拠点を突き止められた。何かのトリックがない限り、到底考えられない探知能力だった。

「魔界都市の住民は執念深いんだ。特に僕とその友人は、地の果てまでも追い詰めるよ」

 当然、幻十としては探知のタネを言う訳がない。
しかしそのタネとは、言ってしまえば単純で、それでいて驚くべきものであった。

 魔界都市に名の知れた三魔人の内の一人、秋せつらの武器とは、何か?
せつらが、絶対に敵に回してはいけない魔人である事は、魔界都市<新宿>でも非常に有名な事柄であった。
彼の恐ろしさは、誰もが知っている事柄である。区内で水商売を営む、口も股も緩い風俗嬢のみならず、命のやり取りを当たり前のように行う極道者、
高田馬場の魔法使いや戸山の吸血鬼連中ですら、魔神の如きその強さを認知していた。
しかし、そのせつらが果たして、どのような武器を用いて敵を葬るのか、と言う事実までを認識出来ていた存在は、極めて少ない。
それは果たして――何故なのか? それはせつらの武器が、千分の一ミクロンと言う細さのチタン妖糸であるからだ。
千分の一ミクロン、つまり、一ナノmである。これは物質を構成する分子一個分の大きさとほぼ同じであり、如何なる生物でも目視が出来ない。
この魔糸は、空気よりも軽い上に、人肌に触れてもその軽さと細さの故に、触れられた事にすら気付かない程細やかな代物である。
指先にほんの少し乗る程度の糸球で、二万㎞、つまり、地球を一巻き以上出来る程の距離を賄う事が出来る。
それ自体は素人が触れてもただの糸であり、そもそも真っ当に操る事だって出来はしない。だが、このチタン妖糸は、せつらと幻十が操る事で、あらゆる生命をも戦慄させる恐るべき武器へと変貌するのである。

 幻十が、アレックスの居場所を察知出来たのは、このチタン妖糸を操ったからである。
彼との交戦において、幻十はその局面の全てでチタンの糸を使っていた。
アレックスの詠唱した呪文、スターライトを防いだ時も、自動車を切断した時も、アレックスの剣撃を防いだ時も、だ。
彼と北上のいる部屋を探り当てたのは、糸の応用の一つ、糸による気配察知を利用したからである。幻十が空中に浮いているのは、空中に張り巡らせた魔糸を足場にしているからである。

 せつらと幻十に掛かれば、空気中に満ちている毒素の構成や、部屋にいる人間の数や性別、体重身長抱えている病気、人間以外の飼っているペットの犬種猫種。
果ては、財布の中身や、磁気部分に触れてさえいればキャッシュカードの残高すら、張り巡らせた妖糸で把握出来る程である。
幻十は、アレックスとの交戦中に、察知の為のチタン妖糸を、駐車場を中心とした半径四百m全域にばら撒いていた。
必然、引っかかる。これだけの範囲内に糸を張り巡らせたのだ。生半な移動距離では、逃れる事は出来ない。
部屋の中に籠ったとしても、ほぼ無意味である。細さ一ナノmと言う事は、どんな隙間からでも侵入が出来るのだから。
網戸の網目、ドアと床との隙間、サッシとガラスの間……。アレックスは、幻十と対峙したその瞬間から、最早、逃れられぬ運命であったのだ。


819 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:15:47 5EVzEHRY0
「下がってろ、マスター!!」

 幻十の美貌に見惚れている北上を後ろに下がらせ、アレックスが幻十目掛けて光の球体を弾丸に近しい速度で飛来させる。
つまらなそうな表情でその様子を見やる幻十。光の球は、たった四十cm進んだ所で、粉々に切り刻まれて、無害な光の粒子となり、空間に溶けて行った。

 ――桁が、違い過ぎる!!――

 これは、非常によろしくない事態であると言わざるを得なかった。
もしもマスターが北上ではない、もっと魔力も潤沢な人物であったとしても、目の前の美貌の男性には、敵うべくもなかったであろう。
次元違いにも程があるその力を前に、最早アレックスは、戦うと言う考えがなくなっていた。しかし、諦めて命を差し出すと言う訳でもない。
この場は、逃げる他なかった。幻十に先程、セダン車のリアシートまで吹っ飛ばされた時、その時の窮地を凌いだ空間転移。その術の名を、『エスケープ』と言う。
あの時はマスターの北上の下へと戻る為、わざと移動距離を短めに設定していたが、エスケープの転移距離は本来もっと長い。
次に魔術を発動する時は、真実幻十の糸の結界の範囲外まで、北上諸共脱出する。だが果たして――それが出来るのか? エスケープの魔術を発動させて、くれるのか?

 そんな事を考えていたアレックスであったが、その狐疑逡巡を、いよいよ断ち切らねばならない時が近づいてしまった。
事態を認識した北上が、装備した単装砲を、幻十目掛けて射出したからである。凄まじい音響が、リビング中を打ち叩く。
発射の際の衝撃と大音で、部屋中の塵と埃の類が舞い飛んだ。さしもの幻十も、マスターがこのような攻撃を行えるとは予想外だったらしい。
サーヴァントは霊体かつ神秘の存在であるが故に、神秘の纏われていない銃弾や砲弾の類による損傷は無効である事を忘れ、直に、妖糸を前面に張り巡らせる。
形成された、糸による即興のネットは、単装砲から放たれた砲弾の運動エネルギーを完全に殺し、無害化。
チタン妖糸に包んだまま幻十は後方にそれを放り捨てる。ベランダから外へと放り出された砲弾は数千もの鉄片に切り刻まれ、爆発を引き起こした。

 北上の幻十を見る目が、眉目秀麗な天使や仏を見る目から、怪物を見るようなそれへと変化した。
単装砲の砲弾の射出速度は、初速の時点で時速八百㎞を上回る。それ程までの速度で放たれた砲弾を、高々四m程の距離で幻十は反応。無害化したのだ。
アレックスの言った通りであった。これを、怪物と呼ばずして、何と呼ぶ!!

【マスター、これはもう手に負えない、この場は逃げるぞ!!】

【り、了解!!】

 さしもの北上も、現状如何転んでもアレックスに勝ち目がない事を、認識したらしい。大人しく、アレックスの指示に従う事とした。
アレックスはこの期に及んで、幻十の武器自体が何であるのかすら理解出来ていない。いや、理解出来る方が、寧ろおかしいであろう。
何せ幻十が使う武器と言うのは、分子の小ささとほぼ同等の、不可視のチタン魔糸。アレックス本人からして見たら、不可視の何かに斬られたという認識が関の山だ。
おまけにこの糸が、高範囲に渡り張り巡らされていると来ている。故に、普通であるのならば幻十が展開した、妖糸の結界から逃れる術は、ないように思える。
しかし、方策はある。令呪一つを代償に失う事になるだろうが、死ぬよりは断然マシである。このまま状況が推移すれば、北上もろとも切り刻まれ、肉の堆積にされかねない。

【マスター、令――】

 其処までアレックスが告げた時、単装砲を持つ北上の右腕の袖が、ハラリ、と地面に落ち始めた。
白く伸びたその腕が露出した瞬間、今度は無数の、朱色の絹糸を巻きつけた様な赤い線が、二頭筋の辺りまで走り始めたのである。
その赤い線に沿って、北上の右腕が、ズル、とズレ始めた。ボタボタッ、と、湿った水っぽい音が地面に連続して響き渡る。
幻十に左腕を切断されたと北上とアレックスが気付いたのは、丁度この時であった。そして同時に北上の、女性らしさの欠片もない絶叫が響いたのも、この時であった。


820 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:16:09 5EVzEHRY0
「――んの野郎、テメェッ!!」

 怒りの狂相を露にした表情でアレックスが、やけっぱちの魔術の一つでも放とうと試みたが脇腹の辺りを妖糸で超高速で切断され、片膝を付かされてしまう。
抵抗の一つ、アレックスは満足に出来ずにいる。己の無力さと言う物を、いやがおうにも実感する瞬間だった。

「アサシン、何をしているの!!」

 脂汗を浮かべ、アサシンが幻十を睨みつけ、部屋中に北上の悲鳴が響いていると言う、修羅場としか言いようのない状況に、そんな女性の声が響き渡った。
ベランダの方からである。その方には、青色のスーツを着用した、プラチナブロンドの美女がいた。間違いなく美しい女性であるのは事実だが、
天上世界の美の持ち主である幻十と比較してしまえば、酷く価値のない、それこそ路傍の石にしかアレックスには見えなかった。
どうやらこの女性が、憎いアサシンのサーヴァントのマスターであるらしい。このマスターは、如何なる手段を用いてか、マンションの六階まで此処まで跳躍して来たようだ。サーヴァントも怪物なら、マスターも怪物であるらしい。

「敵のマスター自体も、それなりに危険な娘だったからね。たった今、無力化させたところだ」

 悪戯っぽい笑みを浮かべ、幻十がマーガレットにそう返した。察するにマーガレットは、北上を痛めつけた理由を糺弾しているらしかった。
しかし幻十としても、全く無意味な理由から北上にダメージを与えていた訳ではない。幻十としては、北上が持つ艦装について、それなりに問題視していた。
無論自分は当然の事、マスターであるマーガレットにすら脅威になり得ない代物ではあったが、危険である事には変わりはない。
故に幻十は、北上の単装砲を妖糸で完璧に破壊したのである。彼女の足元には幻十の仕事の証明と言うべき、百分割以上に分けられた、単装砲だった物の金属片が転がっていた。
……そのついでに、北上の腕をも破壊する辺りが、実に、幻十らしいのであるが。

 部屋の中の状況を確認。少なくとも幻十の言っている事が全て嘘の事柄でない事を、マーガレットは理解する。
今ならば、マスター諸共、サーヴァントを葬り去る事など訳はない状況だ。どうするべきか、彼女は迷っていた。
放っておいても、この状況なら相手のマスターは、出血多量で死ぬであろう。それを、待つべきか、二の足を踏んでいた、その瞬間をアレックスは狙った。

【マスター、令呪だ、令呪を使え!!】

 大量出血が招く意識混濁を引き起こし始めた北上に配慮し、アレックスは叫ぶように念話を行った。
涙目になりながら、北上は小さく肯んじる。本当に幸いだった。令呪が、単装砲を持つ右腕でなくて、左腕に発現されていた事が、だ。
旭日のシンボルを模した令呪が、赤く光り輝いた。左手に思念を流し込み、北上は呟いた。酷く、苦しげな様子で。

「令呪を以て命ずる――」

 ボソリ、と呟くような言葉。
しかし、この発言を聞き逃す程、幻十もマーガレットも愚かではなかった。驚きに満ちた表情で、二名は北上の方に顔を向け始める。

「私を助けて、モデルマン!!」

 バレた、そう思った北上は叫んだ。その瞬間、アレックスが北上の方に飛び掛かり、押し倒した。彼女の左手の甲から、令呪が一画消え失せる。
最早幻十は完全に無視である。今は、マスターである彼女を守る事が、最優先なのだから。そしてこの瞬間アレックスは、自らが信頼する切り札の宝具を、発動していた。
「これで終わりだ」、幻十がそう言って、幾千ものチタン妖糸をアレックスの方に殺到させる。まともに直撃すれば肉片どころか、それすら残さず、肉体が塵になる程の線の殺意が、蛇の大軍めいて襲い掛かる。


821 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:16:59 5EVzEHRY0
 この場において唯一、チタン妖糸を視認出来、その行方を認識出来る幻十の表情が愕然とする。
『弾き飛ばされた』のだ。戦車砲すら無傷でやり過ごすパワードアーマーや、焦点温度六十万度のレーザー照射に耐え、地対空ミサイルの直撃も跳ね返すデューム鋼。
果ては霊体や影すらも切断出来るチタン妖糸を全て、アレックスの肉体が斜め右上方向に跳ね飛ばしたのである。
チタン妖糸は必ずしも、無敵の攻撃手段と言う訳ではない。現に幻十は、元居た魔界都市において、自分の糸の技すら無効化する油を身体から分泌する従者を一人知っている。
しかしその従者にしたって、凄まじい潤滑性を誇るその油で、糸を滑らせて防御するだけなのだ。斬る目的で殺到させた糸を弾き飛ばして防御する等、前代未聞だ。
まさかこのキャスター……いや、モデルマンと呼ばれたこのサーヴァントは、自分や、せつらの糸をも無効化する防御の技の持ち主なのか? 幻十は、そう考えていた。

 幻十の読みは、結論を言えば当たっていた。
アレックスは北上を押し倒したその瞬間に、宝具を発動させていた。北上――いや、例え魔力が潤沢なマスターを引き当てていたとしても、発動に難がある宝具。
――『もしも勇者が最強だったら』。元居た世界でアレックスを象徴する宝具であり、この聖杯戦争における彼の切り札。
発動と維持こそ難しいが、一度発動してしまえば、例外なく、全ての干渉を跳ね除ける無敵の防御宝具。
これが発動されている間は、十数秒と言う時間制限付きとは言えど、例え幻十の魔糸であろうともアレックスを害する事が出来なくなる。
つまり今のアレックスは、生きた無敵の盾なのである。これを以てアレックスは、北上を害意から守る肉の壁になる。
そして、この宝具が切れる間、北上の傷を回復させ、エスケープを発動、この場から逃げ切る。そんな算段であった。

 アレックス自身の右腕は、形を完璧に保ったまま斬りおとされた為、まだくっ付く可能性があるが、北上の左腕の場合は細切れの為、
元の状態に戻すのは最早不可能であった。故に今は、アレックスは出血を抑える為に、必死に回復の魔術、ヒールⅢを発動させている。
数秒程の時間を掛けて魔術を当て続けた結果、何とか北上の出血は押さえる事が出来た。後は、この場からエスケープで逃げ果せるだけだった。

 その間幻十は、ありとあらゆる斬り方で、アレックスにチタン妖糸を殺到させていた。
斬るだけでない、ある時は糸をこより合せ、貫く様な要領での攻撃も試している。
しかしその全てが、弾き飛ばされる。全くと言って良い程干渉が出来ない。何かしらのスキル、ないし宝具を発動させたと結論付けたのは、この時だった。

「マスター、相手のサーヴァントに攻撃が通用しない。敵のマスターに攻撃させるんだ」

 幻十はすぐに、無敵の防御が発動している相手が、アレックスだけだと言う事に気づいた。
彼は北上に覆いかぶさるようにして幻十の妖糸を防いでいるが、そもそもその糸の小ささは分子のそれと同じ。
例え覆い被さり抱き着いた所で、彼女を守り通す事は出来ない。被さった隙間から北上に糸を巻き付け、バラバラにする事が幻十には出来るのだ。
それを敢えてやらなかったのは、マスターの不興を、進んで買う事もないと思ったからである。が、今の状況ならこうも言っていられない。
だからこそ今幻十は、マスターの許可を仰ごうとしているのだ。……尤も、この指示を仰ぐ行為は形式的な物であり、幻十はマーガレットが断ったとしても、北上を斬り刻んで殺すつもりで満々だった。


822 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:17:29 5EVzEHRY0

 幻十の言っている事は、正しい事だとマーガレットも理解している。
北上がモデルマンと呼んだあのサーヴァントが、何かしらの力場を纏って、幻十の攻撃から北上を守っている事は、マーガレットの目から見ても明らかであった。
だからこそ、その力場の対象外である相手のマスターを攻撃すると言う幻十の判断は、全く理に敵ってと言えるだろう。
だが――本当にやって良いものか。相手を殺す事ならば、マーガレットだって躊躇はない。しかしそれは、明白に自分の敵であり、外道の時にこそありたい。
目の前の少女のマスターが、そうだとは、到底マーガレットには考えられないのだ。

 マーガレットは判断に迷う。そして、幻十は、彼女の答えなど待たなかった。
即決即答がこの場においては望ましいのに、マスターの腹が決まるまで待つ、等と言う悠長な真似など出来ない。
幻十が彼女の腹づもりを待つのにかけた時間は、ゼロカンマ七秒程。これ以上待つ気など、幻十には無かった。
北上に巻き付けたチタン妖糸を、収束させる。幻十、せつらの操る妖糸は、二名の、指を筆頭とした身体の筋肉の動きを光速で伝える。
これはつまり、巻き付けてしまえば、指示次第で相手の体など瞬時にバラバラに出来ると言う事なのだ。
指を動かした瞬間、幻十は勝ったとすら思っていた。が、即座にそれは、思い違いだったと自覚する事になる。
妖糸から、筋肉を斬り、骨を断った感触が伝わって来ない。逃げられた。その証拠に、目の前から二名の姿が消失している。
糸の結界も、アレックスと北上を感知出来ていない。張り巡らせた糸の外にまで、転移したのだろう。
収束させた糸にしても、精々が、北上の皮膚の薄皮一枚に溝を作った程度のダメージしか与えられなかったに違いない。

「全く、厄日だな……」

 ふぅ、と溜息を吐いた瞬間、北上達が住んでいた部屋の調度品と言う調度品が、幾百幾千もの欠片に、一秒掛からずして分割されて行く。
テレビ、テーブル、パソコン、衣装箪笥、冷蔵庫、台所、食器、ドア、トイレ、ベッド……。部屋にある物と言う物全てが、
部屋に張り巡らせていた妖糸が細切れにして行く。糸の殺意が十秒程部屋を蹂躙した頃には、嘗ての生活スペースには、元が一体何であったのか、判別がつかない程細かく分けられた塵芥しか存在していなかった。

 その様子を、冷めた瞳で眺めるマーガレット。
このアサシンは自分の実力に絶対の自信を持っているし、面子と言う物を兎角大事にするサーヴァントだった。
大見得を切っておいて、相手に逃げられたのである。その腸は、酷く煮えくり返っている事であろう。

「お優しい事じゃないかマスター。名も知らない、縁もない。そんな人間に、情でも湧いたかい?」

 物に当たる程度では、到底怒りが冷ませないらしい。
いつもマーガレットが幻十に対してやっているように、今度は幻十がマーガレットに対して非難の目線と言葉を投げ掛けた。

「放っておいてもあの調子では、サーヴァントは魔力不足で消滅するわよ。見た所あのマスター、魔力を全く保有していなかったわ」

 あの短い交戦時間で、マーガレットは、北上に魔力が全くない事を看破していた。
その様なマスターが、あれだけの手傷を負わせたサーヴァントの傷を回復させるだけの魔力を、補える筈がない。
放っておいても、以て一日、最悪半日程度であの主従は脱落するだろう。それは幻十にも解るのだ。が、彼としては、この場であの主従を殺しておきたかったのである。

「時間を消費したわ、アサシン。この場から早く立ち去るとしましょう」

 これ以上この話題は引き摺る事をしない事としたマーガレット。
あれだけの騒ぎになったのだ。此処での交戦が表沙汰になるのも、時間の問題である。
火中に何時までもいる理由はない。早くマーガレットは、エリザベスを探さなければならないのだから。

「……フン。それもそうだな。解ったよ、マスター」

 言って幻十は、張り巡らせた糸の結界を右手に収斂させ、粒の様に小さい糸球に戻した後で、霊体化を行いマスターに従順の意を示した。
その時の彼の瞳に燃え盛っていた、マスターに対する叛骨心の強さよ。きっと、『神』に反旗を翻して見せた美しい熾天使、ルシファーにも、
同じような光が宿っていたに違いない。そして、アサシンのそんな心の内奥を、マーガレットもまた認識していた。
せつらとの決着をつけた時。エリザベスとの蟠りを解消した時。二人は果たしてどうなるのか。賽の目はまだ投げられ、その目を決めている最中であった。


823 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:18:08 5EVzEHRY0




【落合方面(上落合・北上の住んでいたマンション)/1日目 午前7:40分】


【マーガレット@PERSONA4】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]青色のスーツ
[道具]ペルソナ全書
[所持金]凄まじい大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:エリザベスを止める
1.エリザベスとの決着
2.浪蘭幻十との縁切り
[備考]
・浪蘭幻十と早く関係を切りたいと思っています
・<新宿>の聖杯戦争主催者を理解しています。が、エリザベスの引き当てたサーヴァントまでは解りません




【アサシン(浪蘭幻十)@魔界都市ブルース 魔王伝】
[状態]健康
[装備]黒いインバネスコート
[道具]チタン妖糸を体内を含めた身体の様々な部位に
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:<新宿>聖杯戦争の主催者の殺害
1.せつらとの決着
[備考]
・北上&モデルマン(アレックス)の主従と交戦しました
・交戦場所には、戦った形跡がしっかりと残されています(車体の溶けた自動車、北上の部屋の騒動)


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824 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:18:39 5EVzEHRY0
 北上はビルの壁に背を預けながら、泣いていた。
腕を失った事に対する事もそうだ。痛みは今も、尾を引いている。だがそれよりも、恐ろしさで彼女は泣いている。

 率直に言えば北上は、聖杯戦争を侮っていた。完全に嘗めきった態度で臨んでいたと言っても良い。
自分は曲りなりにも、深海棲艦との、戦争と呼んでも差し支えのない戦いを経験した艦娘である。修羅場には自信がある、そんな思い込みがあった。

 それがとんだ思い上がりだと言う事を、骨の髄まで認識させられた。
浪蘭幻十。あの美貌のアサシンの姿は、今も瞼の裏に焼き付いていた。北上の両眼球の水晶体は今や、彼のイメージしか像として結びつけていない。
あの姿を連想する度に、余りの美しさと、性格の悪辣さと恐ろしさに身体が震える。天使の様な美貌を持ちながら、相手を殺し、痛めつける事に何の躊躇もない魔人。
その本質を北上は漸く理解していた。そしてその悲しみを助長させるのが、右腕に走る痛みである。
戦いを舐めて掛かった代償が、二頭筋より先のない右腕である。この手傷では二度と、自分は深海棲艦との戦いに望めないだろう。
二度と、吹雪や大井達が所属する遊撃部隊と戦う事も出来ないであろう。その現実を認識した瞬間、また北上は泣き始めた。
最初に泣いたのは、いつ以来だろう。初めて深海棲艦との戦いで被弾した時だったかもしれない。
あの時はみっともないから、もう泣くまいと心に決めていたのに、今は心とは裏腹に、涙がとめどなく溢れて来る。

 気の毒そうな表情で、アレックスはその様子を眺めていた。
幻十に斬り落された右腕の治療は、今終わった所だ。元々サーヴァントは、マスターから供給される魔力や、自己が有する魔力で仮初の肉体を形作った存在。
出血にしたって本当の血液と言う訳ではなく、魔力で形造られた血液なのだ。理屈の上では、霊核が無事で、回復に必要な魔力量と十分な時間があれば、回復は容易い。
だからこそ彼は、自分の治療を後回しにした。テレポートで転移する際に、切断された腕を持って来ていた。
切断面が極めて滑らかだった為に、回復は容易かった。今ではもう人を殴れる程にまで傷は回復している。
……北上の方は、腕自体が骨ごと細切れにされていた為に、最早回復など出来なかったが。

「……悪いな、マスター。不様な姿を晒した」

 この裏路地にきてから、北上は言葉を発する事なく泣き続け、アレックスはその声を耳に、ずっと治療に専念していた。
いつまでも黙っている訳にも行かない。そんな状況下で初めてアレックスが発した言葉が、これであった。

「勇者が笑わせるな。全く相手にならなかったぜ。……本当に悪い」

 何が、自分が最強だと思うだ、笑われる。アレックスは心の中で、自分自身の顔面に斧を打ち込んだ。
勇者だ最強だと言っておきながら、結果は散々たるものであった。得られたものは何一つとして存在せず、徒に魔力と令呪、身体の一部を失っただけ。
無能と言う言葉が、アレックスの脳裏を過って行く。

「いいよ、アレックス。私は大丈夫。助けてくれて、ありがとね……」

 沈んだ気持ちのアレックスに笑顔を向けようとする北上だったが、全く笑顔の体を成していない。
すぐにその事に気づいたのか、彼女は顔を伏せ、また肩を震わせた。大丈夫な訳がない。腕を失ったのだ。気丈に振る舞える方が、どうかしていた。


825 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:18:53 5EVzEHRY0
 巻き付けた鉢巻を目深に下げて、アレックスが物思いに耽る。
勇者と言う役割など、元の世界では飾りも同然で、世界の法則次第では、アレックスは勇者になる事もあれば、
魔王と一切引けを取らない程の悪行を犯す事もある大悪党になる事があったからだ。
ある時は魔王が勇者の代わりに世界を救う事だってあったし、その仲間が代わりに世界を救ったり滅ぼしたり、果ては勇者でなくて何の接点も無いただの村民がその役を負う事だって珍しくなかった。

 この世界は、そんな法則の外に在る場所であった。
この世界では、運命も役割も絶えず流転している。定まったロールなど、何一つとしてこの世界には存在しないのだ。
多くの参加者が、己の利害と目的の為に動き、それらが衝突しあう世界。聖杯戦争と言うのはつまり、予め定まった筋書きの存在する話ではない。
個々人の役割や目的が衝突しあう、未知なるシーソーゲームであったのだ。その事にアレックスは、今ようやく気付いた。

 そんな世界であったから、元の世界では、本気で人を恨むと言う事自体がアレックスにはなかった。
何故なら憎い人物がいたとしても、所詮その憎悪はその時の世界の法則下での話であり、再びリセットされてしまえば全てがなかった事になる。
恨むと言う行為自体が馬鹿馬鹿しい事柄であったからだ。だが、此処<新宿>には、アレックスが元居た世界の絶対法則である『もしも』が存在しないのだ。
生物の利己と利害、目的とが渦巻く伏魔殿。その事を認識した瞬間、アレックスは、初めて相手を本気で憎んでいた。

 ――男女の垣根を超える美貌の持ち主。どんな背景に組み込んでも、世界をその美に統合してしまう程の顔つきの男。
アサシンのサーヴァント、浪蘭幻十。悪を討ち、世界を救う事を宿命づけられた勇者の心に、強い憎悪が燻り始める。

 ――……絶対に殺す――

 その為だったら、魔王にだって、悪魔になる事だって辞さなかった。
この感情を、今のアレックスは大事にする事とした。この感情がある内は、本気になれるから。マスターを、守れる気がしたから。
二度と、悔しい思いなど、味わう事もなさそうな、予感がしたから。目の前で北上は、今も泣き腫らしているのだった。



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826 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:19:11 5EVzEHRY0
【歌舞伎町、戸山方面(新宿二丁目、裏路地)/1日目 午前7:40分】


【北上@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態]肉体的損傷(大)、魔力消費(中)、精神的ダメージ(大)、右腕欠損、出血多量
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]鎮守府時代の緑色の制服
[道具]艦装、61cm四連装(酸素)魚雷
[所持金]一万円程度
[思考・状況]
基本行動方針:元の世界に帰還する
1.なるべくなら殺す事はしたくない
2.戦闘自体をしたくなくなった
[備考]
・14cm単装砲、右腕、令呪一画を失いました
・今回の事件がトラウマになりました
・住んでいたマンションの拠点を失いました




【モデルマン(アレックス)@VIPRPG】
[状態]肉体的損傷(大)、魔力消費(中)、憎悪
[装備]軽い服装、鉢巻
[道具]ドラゴンソード
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:北上を帰還させる
1.幻十に対する憎悪
2.聖杯戦争を絶対に北上と勝ち残る
[備考]
・交戦したアサシン(浪蘭幻十)に対して復讐を誓っています。その為ならば如何なる手段にも手を染めるようです
・右腕を一時欠損しましたが、現在は動かせる程度には回復しています。
・幻十の武器の正体には、まだ気付いていません


827 : SPIRAL NEMESIS ◆zzpohGTsas :2015/10/15(木) 22:19:24 5EVzEHRY0
投下を終了いたします


828 : 名無しさん :2015/10/16(金) 10:14:03 b.bprSG.0
投下乙です!
幻十vsアレックス、重厚な描写の数々と幻十の圧倒的かつ恐ろしいまでの実力をこれでもかと詰め込んだバトルはお見事。妖糸の恐ろしさと、それでもなお食い下がるアレックスのしぶとさがよく現れていました
北上とアレックスは初戦から辛い相手とぶつかり、片腕欠損とトラウマという致命的すぎる痛手を負ってしまったわけですが、それを前にしたアレックスに憎悪が芽生えましたね……万人の雛形である彼は何者にでもなれる以上、彼の口から悪魔や魔王になってでもという台詞が飛び出すと色々な意味で戦々恐々してしまう
幻十は魔界都市の住人に恥じない凄まじい戦闘力を持ってますが、性格のほうは劣悪の一言。マスターのマガレさんもとんでもない実力者なわけですが、早々に手を切りたいとまで思われてるあたり前途多難。凸凹コンビというには些か物騒なこの主従にもぜひとも頑張って欲しいところ

改めて、投下乙でした


829 : 名無しさん :2015/10/16(金) 20:11:58 kIWkxdrg0
投下乙
なんということだ…
聖杯系ロワでアレックスと言えば勝ちフラグではなかったのか…


830 : ◆2XEqsKa.CM :2015/10/17(土) 00:03:03 EwbQvygY0
皆様投下乙です

>君の知らない物語

『相手を選んで殺人を行っている』 その通りだ……一分一厘反論の余地もない……
あかりちゃんには是非セリューさんの殺人現場を見ていただきたぁい
きっと殺せんせー爆誕の時より酷い惨状ですからね
普通に学校に通うかどうか迷っていますが、恐らく<新宿>では家を一歩も出なくても危険度はあまり変わらないので安心して笑顔で登校して欲しいですね

>僕は、君と出会えて凄くHighテンションだ

動物会話スキルの強力な効果もさることながら街の動物たちを集めて命令を下すケルベロスの姿を想像したらジブリ感すごい
サーヴァントの枠にはまって格落ちしてる上に『殺され待ち』とはいえ、魔王を翻弄するビーストの猛威に痺れる憧れる
死の危険に晒されても折れない睦月と、未だ覚悟が定まらない刹那の行く末も気になる。
人払いはしているとはいえ、住宅街近くの公園での激突だけに、更に介入してくる組もいるかもしれなくて楽しみです!

>終わらない英雄譚

討伐クエストに対し、切嗣戦法を取るのは強者ポイント高い!
果たして彼らがどれほどの強者なのか、是非その戦いぶりを見てみたい〜
毎回出てくる黒贄さんのムーブによる超風評被害、新宿バーサーカー界隈で唯一大量殺人を犯していないヴァルゼライドの苦言が刺さる刺さる
ぜひとも凛ちゃんに面と向かって叱り付けてあげてほしいです!!!

>ウドンゲイン完全無欠

諜報員として他とは一線を画す情報収集を進める塞たちと、護衛()に専念()する黒贄さん
未来視によって初見殺しの能力や凶悪な宝具の弱点を探れるアドバンテージは<新宿>では最上級に欲しいと感じました。
アーチャーの精神が保つかが心配な面もありますが……そこを置いてはまさに完全無欠の情報戦術
黒贄さんの死体これくしょんにも注目せざるをえない

>SPIRAL NEMESIS

あやとりで遊んであげよう(ドヤァァァァァァァ!!!!) こんな強そうな奴初めて見たゾ…
文中で妖糸の微細且つ強靭な性能とそれを操る幻十の技術の精密さがこれでもかと描写され、恐るべき存在とだ魂で理解しました
アレックスが普段過ごしているツクスレ次元では分単位、下手すりゃ秒単位で世界がリセットされているだけあって、<新宿>に確固たる存在として根を張った彼の今後に期待
北上さんも右腕をなくしてしまいましたが頑張って!



ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ&キャスター(タイタス一世{影})
結城美知夫&キャスター(ジェナ・エンジェル)

予約します


831 : ◆GO82qGZUNE :2015/10/20(火) 00:04:30 xUR3NgPI0
睦月&ビースト(ケルベロス)
桜咲刹那&ランサー(高城絶斗)
ザ・ヒーロー&バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)

予約します


832 : ◆zzpohGTsas :2015/10/21(水) 05:41:52 qoZKZ2j60
ダガー・モールス&艦隊のアイドル(那珂ちゃん)
予約します


833 : ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:47:11 9/ohwQuQ0
投下します


834 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:48:10 9/ohwQuQ0

「あれはケルベロスだ」

 開口一番、青年の口から飛び出たのはそんな一言だった。
 早稲田鶴巻町の住宅街、その一角。比較的大きな公園を臨むその場所にて、二人の男の影があった。
 一人は青年だ。この聖杯戦争にマスターとして呼び出され、果て無き理想を叶えるために戦う男。
 対する一人は金色の威容。狂戦士のクラスにて現界したサーヴァントであり、今はマスターたる青年の従僕として振舞っている。
 彼らは三階建ての民家の屋根に足を降ろし、100m先の公園とその周囲を睥睨していた。既にここら一帯には人払いがかけられているため、彼らの奇行が一般人に目撃される可能性は皆無である。

「そして緑の子供が恐らくベルゼブブ……いや、そのものじゃなく顕現体か転生体のどちらかかな。いずれにせよ、蠅の王の関係者であることは確かなはずだよ」
「その根拠は?」
「どちらも直接会ったことがある」

 なるほどな、と金色の男が短く頷く。最低限の確認を除けば、既に二人は互いの言葉を疑うということがなかった。
 その精神はただ敵を討ち滅ぼすことのみに集中しており、他の余計な要素など微塵も考慮していない。そのひたむきさこそが、もしかしたら英雄たる所以の一つなのかもしれない。

 一晩中の行軍を経て、彼らはとうとう敵手たるサーヴァントを発見するに至っていた。
 本来サーヴァントは数百m単位の感知能力を有しているはずだったが、何故かこの場においてバーサーカーの感知範囲は50m程度にまで狭まっていた。
 特に制約があるわけでも、青年のマスター適正が低いわけでもないため原因は不明であったが、ともかくとして彼らの主従捜索が難航したのは言うまでも無い。
 彼らはあくまで戦闘にこそ特化した者であるために、隠れ潜む何者かを探すことは不得手である。そのため怪しそうな場所を虱潰しに歩き回っていたのだが、朝の気配が濃くなってきたこの時をもってようやくサーヴァントと思しき気配を発見したのだ。
 発端は体の芯さえ砕けるかのような咆哮。この鶴巻町はおろか、早稲田方面全域にまで響き渡ったかもしれないほどの大音量は、それだけでサーヴァントの存在を如実に示していた。

「獣の咆哮、バインドボイス。悪魔が身に着けているスキルの一つだね。物理破壊を目的とした超音波で対象を攻撃し、鼓膜を破壊し麻痺させる。
 火炎魔術と合わせて、ケルベロスを相手にする時に気をつけないといけないものだ」
「その忠告に感謝しよう。尤も、如何なる敵が立ちはだかろうが、勝つのは俺だがな」

 不遜な物言いを崩さないバーサーカーはどこまでも揺ぎ無く、ただ前だけを見据えていた。
 勝つのは自分―――何か方策でもあるのか、それとも何も考えていないのか。少なくとも、彼は絶対の自信を持って発言している。どこまで行っても己の勝利を疑わず、その目は未来しか見ていない。
 なるほど確かに、気狂いとして召喚されるのも頷ける。

「事前に一通り見て回ったけど、この付近にNPCは存在しないみたいだ。恐らく人払いの魔術がかけられているんだろう」
「ならば」

 一刀を抜き放ち、共鳴する振動が爆砕の闘気となって具現する。
 星辰光、起動。光熱に歪む刀身が過剰なまでの魔力奔流を伴って振るわれる。
 それは至高。それは究極。それ以外に形容する言葉なし。
 人類種が生み出した最強の星辰光が、今こそ極大の暴威となって現れる。

「加減する理由はないということだな」

 そして、死の光が解き放たれた。
 視界の全てを金に染めて、殲滅の光が亜光速にまで加速して殺到する。
 足場となる民家さえも余波で粉々に砕け散って、しかし二人の英雄は全く頓着せず。
 放射能光は目標の地点へと、そこに立つ二組の主従へと向けて狙い違わず命中した。

 地を震わせる大激震と共に、天高く砂塵が巻き上がった。





   ▼  ▼  ▼


835 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:48:58 9/ohwQuQ0





「まったく、酷いことする奴もいたもんだね」

 突然の閃光と爆音に対応することもできないまま、ようやく聴覚が戻ってきた刹那の耳に、そんな言葉が届いた。

「何を……ラン、サー?」

 鈍った思考で舌が回らず、刹那は間の抜けた声を出す。
 聴力についで視力もようやく光を取り戻し、周囲の状況を見渡すことに成功した。
 破壊されていた。何もかもが。それなりの大きさを誇っていたはずの公園とその周囲は、最早瓦礫の山と化している。刹那は今、中空へと屹立するランサーに抱きかかえられて地上50mの高さにいた。
 事ここに至ってようやく事態の把握に成功する。攻撃されたのか、自分たちは。

「ったく、やっと鼓膜も再生してきたかな。
 ……おいおいマスター、まさかとは思うけど、今の状況が何なのか理解してないの?」

 嘲笑の形に口元を歪めるランサーには答えず、刹那は腕を振りほどくとそのまま地面へと着地した。「つれないなぁ」とぼやくランサーもまた刹那に続き、地に足を降ろす。
 改めて辺りを見回すも、目に映るのはやはり破壊し尽くされた惨状だけだった。刹那が知るいかなる上級魔法を用いても、ここまでの破壊はもたらせないだろう。
 自然と体に力が入る。夕凪を握る手が音を鳴らし、頬には一筋の汗が垂れた。

「……ランサー、周囲にサーヴァントの気配は」
「二つある。この際あのフェンリル野郎には死んでて欲しかったんだけど、そう上手くはいかないか」

 ぼやきに近いランサーの呟きの通り、砂塵の向こうから白銀の巨躯が垣間見えた。
 間違いない、先ほど目にした獣のサーヴァントだ。傍に居るマスターの少女を守るように、鋼の巨体は傷一つも負っては居ない。
 煙が晴れたなら再び戦闘の火蓋が切って落とされる。そうでなくとも自分たちを攻撃した誰かが近くにいるのだ。
 刹那は歯を食いしばり、周囲への感覚を研ぎ澄ませた。不意打ちなど、二度も食らってたまるものか。

「……コノ攻撃。ドウヤラ貴様ノ仕業デハナイヨウダナ、蠅ノ王」
「当然さ。僕は君らみたく粗暴じゃないんだから」

 舞い散る砂塵が風に散らされ、両者の姿が露となる。冥府の番犬ケルベロス、深淵魔王ベルゼブブ、共に健在。
 顔を合わせたその瞬間に放出される闘気が爆発的に上昇、気に当てられたケルベロスのマスターが小さく悲鳴を上げる。

 そして、この大破壊の下手人が姿を現した。


836 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:50:14 9/ohwQuQ0

「やはり、この程度で仕留められるほど甘い相手ではなかったようだな」

 戦端の火が灯らんとする空間に、鋼鉄が如き軍靴の音が鳴り響く。
 踏み出した足はその声に止められて、その場の誰もが行動を停止する。
 凪のように澄み切った静謐さと、烈火の如き凄絶さを兼ね備えて。
 クリストファー・ヴァルゼライド―――全てを踏み砕き突き進む鏖殺の勇者が戦いの舞台に登壇した。

「ヌゥ」
「……へえ」

 それを前に言葉を出せたのは、白貌の猛獣と蠅の王たる少年だけだった。獣は油断なく男を見据え、少年は興味深そうに視線をよこす。
 だが、彼らの主たる二人の少女は違った。舌がもつれて言葉が出ない。指先が震えてまともに動けない。この場には、今やそういったある種の重圧が存在した。
 分かるのだ、彼女らには。目の前に存在する者が、まさしく自分達とは隔絶したものであると。人の手が決して及ばない超越存在サーヴァント、その一端であると。
 そしてそれは、対峙する二体の異形も同じである。男を前にして視線を逸らすなどという愚を起こさないし、できはしない。
 つまりは対等。発する圧力がつりあっている。

「お、前は……」

 ここに至り、刹那はようやく呪縛じみた圧力から抜け出し、言葉を発する。しかし後に続く言葉は出ず、結果として彼女の問いかけは無意味な音の響きに終わった。
 ただ一言を発するだけでも心臓の鼓動が鳴り止まない。同時に、叫びたいほど恐ろしくなる。この男は、悪魔のような己がサーヴァントや、並み居る幻想種など歯牙にもかけない白銀の獣と同じサーヴァントなのだと、無意識の内に強く感じ取る。
 ケルベロスの殺意が鉄塊の如き質量を有するものだとすれば。タカジョーの殺意が永久凍土にも匹敵する冷徹なるものだとすれば。
 金色の剣士が放つそれは、まるで爆燃する太陽の如き熱さであった。

「横槍なんて随分と無粋な真似をしてくれるね。流石の僕でもちょっと頭に来たじゃないか」

 低いくぐもった笑みと共に、殺意の奔流が乱気流のように渦巻いた。
 常人なら、この場にいるだけで精神に異常をきたしかねない思念の嵐。蠅声の王たる少年から漆黒の意思が濁流のように溢れ出す。
 その意思の強度は男の覇気と比しても遜色なく、彼の戦意が微塵も衰えていないことを端的に示していた。
 現に、その圧力に当てられた睦月は半ば意識を手放している。魔王の放つ本気の殺意は、それだけで人を行動不能に陥れる威力を持つのだ。

「抜かせ蠅の王。貴様に道理を説かれる覚えはない」

 言葉少なく、荘厳に。激烈な闘志の強さが鼓動となって波を打つ。
 洗練されたその凄まじさはまさしく破格、並ぶ者なし。

「数ガ増エヨウガ関係ノナイコトダ。俺ハ貴様ラヲ打ち倒スノミ」

 冥府そのものを象徴するかの如く、死そのものを連想させる重圧的な響きを込めた呻きが轟く。


837 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:50:46 9/ohwQuQ0

「マスターヨ、オ前ハ早急ニコノ場ヲ離レルガイイ。二体ノサーヴァントヲ前二シテ、オ前ヲ確実二守リキレルトハ限ラナイ。退路ハ俺ガ確保シヨウ」

 一転して暖かみすら覚えるような口調でケルベロスが言うやいなや、睦月は弾かれたようにその場を走り去った。同時に刹那も追おうと試みたが、凶眼で睨みつけるケルベロスを前に動くことは叶わない。

「……とりあえず、マスターも一旦退いたほうがいいんじゃない?
 少なくとも、これ以上ここにいたら君、死んじゃうよ?」

 おどけたような口ぶりで己がマスターに進言するタカジョーに、刹那もこの時ばかりは素直に身を引いた。
 睦月が走り去っていった方角とは逆の方向に、刹那もまた姿を消す。
 無論、サーヴァントの索敵圏外に出た後は睦月の捜索に回ることは想像に難くないが。それでも早々に捕捉されることはないだろう。

「これで役者は揃ったというわけだ。ならばこれ以上の問答は無用」

 内に秘めた光熱を解き放たんと、刀を二振り引き抜いた。
 視線に宿る決意の火は、強く尊く眩く熱く。

「さあ行くぞ。お前たちを滅ぼすのが俺の役目だと知るがいい」

 威風堂々と言い放った瞬間、ヴァルゼライドは一迅の風となる。
 同時、動き出す二つの異形―――ここに、二度目となる戦乱の幕が切って落とされた。





   ▼  ▼  ▼





「グオォォォ―――ッ!!」
「はあッ!」

 ケルベロスの繰り出す牙撃が空を穿つ。タカジョーの放つ拳が膨大な魔力を伴い突き出される。
 その一撃は共に凄絶。様子見不要、加減や躊躇など欠片もなく、自らの前に立ちはだかるならば誰であろうと撃ち滅ぼすのだという極大の戦意が熱波となって押し寄せる。

 牙と拳、どちらも極めて原始的な物理攻撃でありながら、しかし有する性質は対極と言っていいほどにかけ離れたものだ。
 ケルベロスの一撃は極限域の暴性によって成り立つ。圧倒的なまでの筋力と敏捷に裏打ちされた身体スペックを駆使して放たれるそれは、最早技巧で凌げる領域を遥かに逸脱している。だが最も恐ろしいのは、それほどの圧倒的膂力を有していながらも、技能の面でも練達の領域に在るということだろう。
 物語の常として主人公に討たれる怪物のような粗暴さや乱雑さは皆無であり、そこにあるのは積み重ねた経験と修羅場によって磨かれた戦闘技術。力と技が高純度に混ざり合う歴戦の動きに他ならない。
 対するタカジョーは変幻自在の身のこなしだ。彼が使用する瞬間移動と魔力放出は、それだけで脅威となる必殺の魔業である。舞い散る桜の如き幽玄の動きは、しかし風に吹き散らされる脆弱さなど含まれない。
 大気の壁を突き破る一撃は、直撃すれば並み居るサーヴァントすら紙屑のように貫く暴威を秘めている。単純な膂力ではケルベロスに劣るとはいえ、彼の体術は小手先だけのものでは決してない。
 破壊力では前者が圧倒してはいるものの、応用力と手数の多さでいえば後者のほうが優れているだろう。性質の違いこそあれど、総合すれば彼らは互角。有する力はさほど隔絶したものではなく、性能だけを考慮に入れれば軍配が上がるのは時の運に違いない。


838 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:51:27 9/ohwQuQ0

 ならば、そんな二者に相対するヴァルゼライドはどうだろうか。
 一合、彼らが激突するその瞬間を見ることができた者がいれば、こう予測しただろう。
 クリストファー・ヴァルゼライドは敗北する。怪物に勝つなど、人間には不可能なのだと。
 事実、ヴァルゼライドに彼らのようなスペックは存在しない。人智を超えた性能も、天才的なまでの多彩さも、窮地を覆す奇策も彼は有していないのだ。
 内に秘めた情熱こそ彼らを比肩しているとはいえ、そんな人間らしい道理が人外の魔物にまで通じるかといえば、やはりそれは否だろう。

 白銀の獣の豪腕が、大地を木っ端微塵に粉砕する。
 抉り取られた岩盤はそれだけで致死の物量と速度を伴って殺到し、無慈悲に敵対者の体を殴打する。
 その標的は少年の影、すなわちタカジョー・ゼット。

「はっ、ぬるいね!」

 しかしタカジョーとてそれでやられるほど甘くはない。瞬間移動にて両者の頭上に出現すると、舞い上げられた巨大な瓦礫を軽々持ち上げ、鈍器のように叩きつける。
 子供のように華奢な体躯で、しかし戯画的なまでに常識を逸脱した光景を作り上げた少年の姿がそこにはあった。呆れるほどにアンバランスな一連の動作は、彼がサーヴァントという超越存在である事実を一目の下に証明していた。
 都合二体の異形は、生まれ持った超越性をこれでもかと見せつけながら、暴虐の限りを尽くしている。優れた個体に小技など不要と言わんばかりに、しかし動作に熟練の技巧を伴って、彼らは共に戦場を席巻する。

 振り下ろされる鉄槌の如き一撃を、ヴァルゼライドは素早く躱した。理由は単純、そうせざるを得ないから。
 回避に生じる隙を狙ったケルベロスの追撃も当然躱す。これも勿論、そうせざるを得ないから。
 それはある意味当然の流れであると言うべきだろう。ヴァルゼライドが有するスペックはそう大したものではなく、ケルベロスやタカジョーと比べればあくまで脆弱な人間の域を抜け出ないものなのだから。
 戦闘における決着の要因となり得るのは、何時如何なる時も破壊力、耐久力、敏捷性に余力の有無。すなわち純然たるスペック差であり、大が小を圧倒するという子供でも分かる方程式が厳然として存在するのは、誰の目にも明らかだ。
 強者は強者、弱者は弱者。その順列は決して崩れるものではなく、現実として弱者が強者を打倒するなどまず起こり得ない奇跡と言える。そこに疑問が入り込める余地などないし、闘争という極限状態であっても絶対の真理として機能する。
 故にヴァルゼライドの敗北は決定事項。小手先の技術など絶対的な戦力差の前には虚しい足掻きに過ぎず、三者が乱れ打つ三つ巴の戦場にあってなお、その圧倒的不利は覆らない。
 勝率など限りなく0に近しく、まさしく雲を掴むに等しい窮地であることに疑いはない。端的に言って絶体絶命の状況だ。

 そう、普通ならば。
 普通ならば、ヴァルゼライドが彼らに勝る道理などないというのに。

「おおおォォォ―――!!」

 金色の閃光が煌き、砂塵の舞う空間すら両断してケルベロスとタカジョーを襲う。
 一呼吸の内に放たれた剣閃は総じて七つ。その全てが両者の急所を狙っていたことは言うまでも無い。
 自らの七閃を各々の武装で受け止めた二人に対し、傲岸不遜な物言いを叩きつける。

「どうした魔性共。俺はまだ五体無事のままここにいるぞ。
 俺の命が欲しくば、死力を尽くしてかかってくるがいい」

 ヴァルゼライドは両者と渡り合っていた。それも互角に、鮮烈に。
 まるでこれこそ当たり前の展開だと言わんばかりに、彼はたった二本の剣で異形と対等の戦いを演じている。
 爆砕しながら三者の破壊が熱波の如く吹き荒び、舞台となる地形そのものを破壊しながら繰り広げられる。


839 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:52:15 9/ohwQuQ0

「ふッ―――!」

 鋭い剣閃が奔る度に轟音を響かせて弾き合う鉄爪、鋼腕。弾ける火花が宙に舞い空間を彩り、彼らの乱舞を豪華絢爛に染め上げていた。
 一合ごとに鳴り響く金属音はヴァルゼライドの持つ刀の絶叫だ。ただの一度でも彼らの攻撃をまともに受ければ、その時点で粉々に砕けて散るのだと持ち主に切実に訴えている。
 いっそ悲壮なまでに反響する刀身の軋みは、しかし未だに僅かの痛痒すら伴っておらず、破壊の運命を免れている。全ては使い手の技量あってのものだ。
 ケルベロスが破壊力、タカジョーが多彩さに優れているならば、ヴァルゼライドは技量にこそ優れていたと言うべきだろう。
 攻撃、回避、防御に反撃。あらゆる場面においてその技量は活かされ、足りない性能を補って余りある戦闘結果を彼にもたらす。
 斬る、打つ、薙ぐ、受ける、流す。余すことなく、全てが絶技。
 人が持ちうる当たり前の技術と勇気で、あらゆる不条理を捻じ伏せる。
 巧い。戦闘技能と判断速度が常軌を逸して凄まじすぎる。熟達や達人という言葉さえ、この絶技を前にしては侮辱にしかなり得ないだろう。人間という生物が生涯をかけてなお到達できるか分からない、これはそんな絶技に他ならない。
 狂的なまでに練り上げた修練の業が一挙一動から伺える。一眼、一足、一考、一刀に至るまで、悉くに意味があり、無駄な動きというものが微塵も存在しない。
 歯車のような正確さで暴威の乱打を凌ぐその姿、一体どれほどの修羅場を潜り抜ければ身につけられるのか、想像さえできはしない。

「ナルホドナ、貴様モマタ英霊ノ名ニ違ワヌ強者ダッタカ」
「ま、そうこなくちゃ面白くない」

 超人的な絶技を前に、しかし獣と少年は涼しい顔だ。むしろ、これくらいやれなくては英霊の名が泣くとさえ言い放ち、その精神は僅かも揺らいでいない。
 眼前の者達は、自分と争えるだけの強者。ならばここで滅ぼすのみ。それは三者に共通する思考であり、故にこそ彼らは不退転の戦鬼として振舞うのだ。
 願い、矜持、あるいは野望。各々が勝つための目的を有し、負けられない理由を持つが故、この戦闘の継続は当たり前の事象として成り立つ。

「だけど余興はここで終わりだ」
「貴様ラ全員、ココデ果テロ」

 言葉と同時、二者から放たれる圧力が急激に密度を増した。空気そのものが変質するかのような錯覚と共に、周囲の空間が魔性の圧に軋んでいく。
 先陣を切ったのはケルベロスだ。噛み合わされた牙の間から膨大な魔力が収束し、それを絶大規模の焔と化して放出する。
 あまりの熱量に空間さえ歪んで見えるそれは、まさしくケルベロスが番を務める冥府の業火に他ならない。されど常の炎のような無秩序な軌道は存在せず、極限まで圧縮し収束された炎熱はむしろレーザー光線にも等しい条光となって殺到する。
 焦点温度は優に5000度。鋼鉄を融解どころか即座に気化させるほどの熱量は、今や等身大の恒星と化して直線状のあらゆるものを消し飛ばしながら突き進む。もはや個人に向けて使用するものでは断じてなく、火神の加護でも持たぬ限りこれに耐えられる者など存在しないだろう。
 そしてそれは、一度目にしているタカジョーはともかく初見のヴァルゼライドにとっては未知の攻撃である。それ故に対応に差が生じ、瞬間移動で回避したタカジョーと違い、ヴァルゼライドはその場を離脱することもできずに真っ向から相対するしかなく。

「――――――!」

 鳴り響く轟音が、大気の灼ける残響と共に世界を赤く染める。
 放たれた赫炎の鉄槌は過たず、ヴァルゼライドを影も残さず呑み込んだ。
 これこそ必殺。地獄の猛犬が放つ浄化の炎はあらゆる敵対者を塵へと変え、生者の存在を許しはしない。
 だが、それでも。


840 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:53:06 9/ohwQuQ0

「まだだッ!」

 それでさえこの始末。両断された業火の向こうから鋼鉄の重量で響く声。
 極超音速の一刀は業火そのものを斬ったのではない。己の周囲の空間に、その剣威で真空の断層を発生させたのだ。
 無論、そのような苦し紛れの防御で防ぎきれるほど、ケルベロスの炎は甘くない。事実、ヴァルゼライドの肉体は所々が炭化し、全身から白い煙すら上がっている有様だ。
 だというのに、なんだこれは。通常ならば動くどころか命があるだけでも奇跡だというのに、鋼の英雄は一切その戦闘力を減じてはいない。
 いいやむしろ、攻撃を受ける前より内包する力が増しているようにも見える。

 これこそ英雄の持つ最大の力。【逆境にあればあるほど力を増して打倒する】のだという、常軌を逸した勇気と決意に他ならない。
 暴走する意志力が条理すら捻じ伏せて進軍する。気合と根性などという訳の分からない理屈によって限界点など容易く打ち砕く史上最大の異常生物。
 英雄譚に語られる勇者の如く、ヴァルゼライドは決して倒れない。

「だったらこんなのはどうだい?」

 声が中空より発せられ、同時に濃密なまでの闇の気配が辺り一帯を支配する。遥か上空に佇むタカジョーの仕業だ。
 宙へと浮かぶ彼の背中に展開された光の翼から、漆黒の何かが溢れ出る。一見して天使の翼にさえ見紛うような聖性から、対極の邪悪なる力の奔流が迸った。
 これこそ彼の保有する宝具の一、『光も届かぬ泥の深淵(ディープホール)』。タカジョーが発生させることの許された、暗黒の閉鎖世界への入り口そのものである。
 本来サーヴァントが持つ宝具は最大の切り札であると同時に最も秘匿しなければならない重要機密であるが、しかしケルベロスと金髪の軍人のどちらにも己の出自が知られている以上、そのような気遣いは無用である。
 形作られた深淵に呑み込まれた者は、誰であろうと抵抗すらできず消え去るのみ。かつて一国すら消滅させた闇の波濤はまさしく絶対消滅の強制執行であり、逃れられる者など誰一人存在しない。

 形成された闇の大瀑布が膨大な魔力と共にヴァルゼライドとケルベロスに向かって押し寄せて。

「例え世界が闇に覆われようと、人々の輝きを守り抜かんと願う限り、俺は無敵だ。
 来るがいい、明日の光は奪わせんッ!」

 乾坤一擲、ヴァルゼライドが二刀を翳し構えを取る。
 それは両翼を広げた巨鳥の如く、今こそ飛翔し敵を打ち砕くのだという激熱の決意が漲っている。
 全てを塗りつぶす漆黒を前に、しかし逃走や防御など微塵も考慮に入れていない。受けて立つと逡巡もなく前に出る姿は恐怖という感情が欠落しているようにしか思えない
 光熱に歪む二振りの刀身が、爆発的に上昇する魔力を受けて眩いばかりの光を発している。

「創生せよ、天に描いた星辰を―――我らは煌く流れ星」

 そしてここに、タカジョーの闇と相対すべくヴァルゼライドの宝具が再び姿を現す。

 紡がれるランゲージ。
 起動するアステリズム。
 覚醒の序説を唱えた瞬間、クリストファー・ヴァルゼライドに宿る星が爆光と共に煌いた。

Metalnova Gamma-ray Keraunos
「超新星―――天霆の轟く地平に、闇はなく」


841 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:53:43 9/ohwQuQ0

 ヴァルゼライドの星辰光たる、圧倒的な光子そのものが爆発的に膨れ上がった。
 それはまさしく極光の斬撃。世界を二分しかねない輝きの一閃は、冗談のようなエネルギーを伴い炸裂した。この新宿を囲む壁ごと斬り崩さんと、空の彼方まで一直線に直線的な軌道を描いていく。
 進行方向にあるものは、何一つ残らない。
 無事で済むなど絶対不可能。亜光速まで達した爆光が、タカジョーの体躯を容赦なく呑み込んだ。

 さらに……いや必然か。
 光が闇を打ち砕く。

「ぐ、おおオオオオオオオォォォ―――ッ!」

 タカジョーが生み出した暗黒空間を、光の刃はいとも容易く貫通した。
 闇への裁きであるように、物語において光(勇者)に討伐される闇(魔王)のように。星屑の光が、僅かな光明さえ届かぬはずの泥の深淵を完膚無きまでに討ち滅ぼす。
 公園跡そのものを呑み込まんとしていた漆黒の帳が、夜明けの太陽が如き光に照らされる。後には何も残らない。
 それはまさしく勝利の咆哮。全身の神経回路を瞬く間に焼き尽くす激痛と共に、あらゆる全てを吹き飛ばす。
 決着は轟音として轟くのだった。

「ナラバ、貴様モ後ヲ追ウガイイ!」

 そして、渾身の一撃を放った直後の隙を見逃すケルベロスではない。
 どれほど肉体を鍛えようと、どれほど修練を積み重ねようと、己が放てる最上の一撃の後には僅かな硬直が生まれてしまう。
 ならばこそ、人は修行によってその間隔を短くしようと努力を重ねるのだが、完全に失くしてしまうことはまず不可能と言っていい。
 それは眼前の英雄であろうと例外はなく、故に獣の一撃は回避不能の必殺として機能するが……

「甘いッ!」

 そんな戦術はヴァルゼライドには通用しない。逆側の腕に掴んだもう一刀が、再び超新星の輝きを煌びやかに顕現させた。
 刀身を歪める殲滅の光熱は未だ健在。ガンマレイは再び放出される。
 そも、ヴァルゼライドの星辰光は真名解放に際して放たれる一発限りの大技ではない。その本質は、自らを放射能分裂光を放つ一個の天体と定義することによる形態変化。言ってしまえば光熱の放出など余技に過ぎないのだ。
 故に宝具の効果は継続している。タカジョーに放った一撃で発動が終わっているなどと考えていたならば、それこそ考えが甘いと言わざるを得ないだろう。
 そして当然、世紀末を戦い抜いた冥府の獣にそんな甘さなどあるわけがなく。

「ソレハ此方ノ台詞ダ、軍属ヨ!」

 ケルベロスはあらかじめ攻撃の軌道を読んでいたかのように、ガンマレイの射線上から身を翻す。目標を失った放射能光は、空を切り裂く轟音と共に虚しく宙へと消えていった。
 それは悪魔的なまでに積み上げた研鑽と、第六感にも相当する超度の直感が為せる技だ。安直に放たれる直線など、このケルベロスを討つには到底足りない。
 躱しざまにケルベロスの口腔から放出されるは極限域まで高められた獣の咆哮。最早物理的な破壊力すら伴う絶大の空気振動は、常人であるなら肉体ごと粉砕できる暴威を以てヴァルゼライドに降りかかった。
 広域に広がる不可視の音波を躱すことなどまず不可能。当然の如くヴァルゼライドも甘んじて攻撃を受けるが、しかし耳から血を流しながらもその戦意はまるで減衰を見せていない。


842 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:54:10 9/ohwQuQ0

 そして両雄並び立ち、一種の膠着状態に移行する。極めて高度に互角の二者が同時に戦闘を開始する場合、決着は一瞬だ。相手の予想をどれだけ外せるか、自分の予測をどれだけ現実にできるか。その僅かなズレが、勝者と敗者を決定すると知っている。
 故の膠着。互いの脳内では何千何万の攻防を行っているものの、現実の肉体は1ミリとて動かない。
 行動を起こすのは、自らの勝利を確信した時。

 加速度的に場の圧力が密度を増していく。ほんの少しのきっかけさえあれば、その瞬間に両者は必殺を放つだろう。
 そんな張り詰めた糸のような緊張感の中にあって、それは突然訪れた。


【私を助けて、パスカル―――!】


 パスカル―――ケルベロスの脳内に、そんな必死の懇願が響き渡った。





   ▼  ▼  ▼





 真紅の閃光が空間を切り裂く。
 それを受け止め、火花を散らす銀光が一つ。

 三騎のサーヴァントが己が命を賭して戦っている戦場より約50m、そこでは全く別の戦いが繰り広げられていた。
 演者は三人。尻餅をつき、ただ身震いしかできない哀れな少女。身の丈ほどの長刀を苦も無く使いこなす美麗なる少女剣士。そして紅蓮の太刀を掲げる青年。
 展開されるのは、誰が見ても分かりきった光景である。
 すなわち―――現実離れした戦闘と、それに巻き込まれた不運な少女という構図。

 一気呵成の勢いで怒涛の連撃を繰り出すのは紅蓮に燃える刀を手にした青年だ。およそ人類では持ち得ないほどの膂力を以て、相対する少女の細い体を両断せんと剣を振るう。
 対する少女剣士は完全に受身に廻っている。青年が繰り出す斬撃の全て、捌き、いなし、流して無力化する。攻めに転じられていないとはいえ、彼女の持つ力量は青年のものと比べてもさほど隔絶したものではなく、実力伯仲、拮抗状態と形容しても間違いはないだろう。

 事の起こりは、三者のサーヴァントが戦闘を開始してすぐのこと。逃亡した刹那の目に飛び込んできたのは、睦月に刃を振り下ろさんとする青年の姿であった。
 当然の如く、彼女はそれを阻止せんと動いた。そのまま剣の打ち合いとなり早数分、未だに決着はついていない。

「お前は何者だ! あの剣士のマスターであるというのなら、お前はこの聖杯戦争に対し何を望む!」

 無言。刹那への返答は、ただそれだけであった。
 常人ならば耳を押さえるだろう声量の恫喝にさえ、青年は一切答えようとしない。その表情は徹底しての無表情。鬼気に歪む刹那とは対照的に、どこまでも静謐そのものの雰囲気だ。
 しかしそんな表情とは裏腹に、彼の剣筋は徐々に勢いを増していく。戦闘が開始されて以降、一合毎に圧力を増す剣は刹那の心中から余裕を完全に取り払っていた。
 刹那としても、最早この青年を両者無事のまま無力化するなどという甘い考えは既に消え去っている。ほぼ無力になっているとはいえすぐ隣に他のマスターもいる以上、一刻も早く青年を打倒したいのが素直な心境だ。
 ならば、何故それができていないのか。
 理由は二つある。


843 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:54:35 9/ohwQuQ0

「……」
「くっ、またか!」

 刀を構える片手とは別の手が懐へ入り、青年の手に「銃」が構えられる。されど、その銃口が定めるのは刹那とは全く別の方向。
 真っ黒な銃口が向かう先、それはへたり込み未だ動けずにいる少女―――睦月の方。

 都合三発、発射を伝える微弱な空気振動を従えて、直線的な軌道を描く銃弾が睦月に殺到する。
 刹那は横から射線上に移動、手にした大太刀「夕凪」を振るうことにより銃弾を宙から地面に叩き落した。
 無理な移動と体勢から斬撃を放ったことにより、刹那の重心と呼吸は一時的に乱れている。そして、それを見逃す青年ではない。
 放たれた銃弾すら追い越すのではないかと錯覚するほどの速度で一気に間合いを詰め、未だ腕が伸びきったままの刹那に紅蓮の刃を振り下ろす。刹那は辛うじて剣の軌道上に夕凪を配置し、後方に転げることで衝突の威力を殺しつつ回避した。
 息をつく暇もなく、即座に顔を上げればそこには既に刺突を放つ青年の姿。
 思い切り身を捻ることで死の運命を回避すると、翻しざまに夕凪を薙ぎ払い青年の胴を狙う。
 踏み込んだ足が地を削り、加速度が水のように全身の筋肉を伝う。
 円を描くように閃いた斬光は一つ。金属音を高く澄んだ空気振動もまた一つ。
 絶対の自信を以て放たれた払いは、しかし虚しく紅蓮の刃に阻まれ、青年の体は既に姿勢を整えて刹那と対峙するように構えている。まるでこちらの攻撃を全て予測していたような反応に、刹那は内心冷や汗を流す。

 これが、刹那が攻勢に出ることのできない理由の一つ。
 青年は、刹那のみならず睦月すらも攻撃対象と認識しているのだ。

 別にこれは、青年が殊更に邪悪だとか卑怯者であるということではない。
 何故なら睦月は巻き込まれた市井の民でもなければ、どちらか一方に味方する第三者というわけでもない。彼女もまた、自らの願いを持って戦いに臨んだマスターなのだから。
 すなわちこの戦いは刹那と青年の一対一でも、刹那と睦月の二人に青年が一人で挑む構図でもなく、一対一対一という三つ巴の乱戦なのだ。
 はっきり言ってしまえば、この状況でも尚睦月を守ろうと動く刹那の側こそ異常と言えるだろう。抱える必要のないハンデを背負い、その上で戦うなどそれこそ道理に反している。
 しかしそれが刹那の願いなのだ。願わくば誰も傷つけることなく、殺すことなく聖杯戦争から脱したい。それは己の手を血に汚さないというのもそうだが、それ以上に他者を見捨てることができないということの証左でもある。
 無論、いざとなればこの身を修羅と化すことも辞さないと考えてはいるものの……少なくとも、今この場において、刹那は睦月を見捨てる選択肢を取ろうとはしなかった。

「随分と手段を選ばないのだな。仮にも剣の道を志しながら、それでは師父に笑われるぞ」
「そんなものは存在しない」

 言葉と同時、静止状態にあった青年の体が突如として加速、七メートルの間合いを瞬時に零にする。
 音速すら遥かに超過する速度の剣閃を、刹那は辛うじて受け止めた。鍔迫り合いの体勢に持ち込まれ、軋む刀身が悲鳴めいた甲高い金属音を響かせる。
 睦月の存在に続く、刹那が攻勢に出られない二つ目の理由。それは、青年の予想外の強さである。

 最初の一太刀、その時点において、刹那は青年を大した脅威とは思っていなかった。何故ならその太刀筋はあまりに未熟だったから。
 膂力に速度、呼吸に殺意。そのどれもが一級品ではあったが、こと単純な剣の技量という面において、彼は分かり易すぎるほどに素人だった。
 いずれの流派はおろか、武道の基礎すら学んでいないだろう素直すぎる太刀筋。彼を構成する諸々の要素こそ人外めいたものであったが、実の篭らぬ剣など神鳴流の敵ではないと、それこそ刹那は侮っていたのかもしれない。
 その認識が間違いであったことは、数秒もかからず気付かされた。


844 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:54:59 9/ohwQuQ0

 確かに彼の剣は未熟な代物ではあったが、積み重ねてきた経験があまりにも違いすぎた。数え切れないほどの修羅場を潜り抜けなければ身につかないであろう戦術眼と、時に息を呑むほどの博打に打って出る豪胆さ。勝利の流れを嗅ぎ付け、そこに躊躇無く命を賭ける嗅覚の良さ。それらを支える圧倒的なまでの身体能力と知覚領域。何もかもが刹那とは違う。
 術理や合理など見当たらない故に、体勢を崩そうが足場が崩れようが構いもせず渾身の必殺が放たれる。その動きは術理と合理の中で生きてきた刹那にとって、最上のフェイントにすらなり得るもので。
 窺い知れぬほどの鍛錬と経験によってのみ成り立つ獣の強さ、その行き着く果てが青年の形に凝縮された剣鬼。刹那が青年に抱いた印象はまさしくそれだった。
 現状、青年の猛攻に対し、刹那は辛うじて神鳴流の対人技術を駆使して凌いでいるに過ぎない。それすら、これまでの戦闘から徐々に学習されているのは明らかだった。剣を交わす毎に刹那の技術は既知のものとなり、青年の対応力がすぐさまそれを上回る。事実、刃を重ねるごとに青年の振るう剣閃は動きの精度を増しているのだ。
 そもそもが刹那の扱う神鳴流とて、本来は人を遥かに上回る妖物を相手にするための剣術だ。それは青年が辿ってきた悪魔殺しの業と酷似しており、故に両者の剣は非常に似通ったものとなる。
 同じ土俵で戦うならば、経験と性能が上の者が勝つのは道理。
 足手まといと、単純な実力差。その二つは大きな壁となって刹那の前に立ちはだかる。

(まずいな、打開の方策が浮かばない)

 弧を描いて襲い来る光を視界の端に捉えつつ、刹那はそう思考する。脳内思考を続ける合間にも肉体の側は反射的に動き、横薙ぎに振るわれた一閃を身を屈めることで回避した。立ち上がりざまに斬り上げを繰り出すも、軽くいなされ腹部に蹴りが直撃する。
 衝撃に一瞬呼吸が停止する。その隙をついて青年が再び睦月に向けて発砲するも、何とか体を滑り込ませて叩き落した。
 刹那は思考する。可及的速やかに解決しなければならない問題、それはこの場において眼前の青年を何とかすることだった。何とかするとは、青年の無力化、もしくはへたり込んだ少女ごと戦線離脱である。
 しかしそのための方法が全く思い浮かばない。相手は自分以上の手練れである以上、よほどの奇策でも用いなければ勝利するなど絶対不可能。しかし刹那はそういった奇道には通じておらず、故にここで取るべきは少女ごと逃走し仕切りなおすことなのだが。

(この男、まるで隙がない……ここまで近接されている以上迂闊に背中を見せるわけにもいかないか)

 そも、青年が見逃してくれるはずもなし。現状の刹那は逃げるどころか、神鳴流の奥義を出す暇さえ見出すことができていないのだ。
 せめて一瞬の隙でもあれば、自分が忌み嫌う純白の翼を展開し状況を打開する一手となるのだが……この男、隙どころか疲労の色さえ一切見せない。既に肩で息をしている刹那とは大違いだ。
 
「分からないな」

 逡巡する刹那に、ふとそんな呟きがかけられた。
 目をやれば、青年が相変わらずの無表情のまま口を開いていた。問い返す暇もなく、再び言葉が紡がれる。

「君はその子を守ろうとしている。それ自体は分からなくもない。
 けれど、なら君は何故あのサーヴァントをそのままにしている?」

 あのサーヴァントとは、ランサーのことだろうか。
 何故そのままにしているのか、そんなものは自分こそ問いたい。
 そもそもなんであのような悪魔が自分に宛がわれてしまったのか、まずそこからして自分は納得していないのだ。


845 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:55:20 9/ohwQuQ0

「一目見れば分かる。君のサーヴァントは悪魔そのものだ」

 それについては全く異存はない。高城絶斗を名乗るアレは、名実共に悪魔でしかない。
 仮に脱出の機を得たのならば、真っ先に葬らねばならない妖物。今まで斬り捨ててきた妖怪など歯牙にもかけない悪辣さは、彼の主たる自分こそが誰よりも知っている。

「聖杯を得たいのならば他のマスターを守る必要なんてないし、足手纏いなら切り捨てればいい。聖杯の破壊を目指すのならば、あんな邪悪なサーヴァントは令呪で縛るなりしなくてはならない。脱出を目指すにしても同じだ」

 思えば、何故自分はあの悪魔を野放しにしているのだろう。
 曲がりなりにも自分の命令を聞き入れるからか? 否、あれは単なる気紛れだ。気分次第でこちらを裏切り、害を為すという現れに過ぎないだろう。
 縛りを入れなかった理由など、決まっている。
 それは、純粋なまでの【死の恐怖】。
 死ぬのが怖い。木乃香に会えず死ぬのが怖い。自分の人生を無意味にするのが怖い。
 だから、この〈新宿〉において最強の存在であるサーヴァントを失いたくはなくて。
 自身を害そうとする悪魔の機嫌を損ないたくなくて。

「最初の問いをそのまま返そう。君はこの聖杯戦争に何を望む」

 それは侮蔑ではなかった。
 まして義憤でも、嘲笑でもなかった。
 青年は刹那に何を望んでいるでもなく、刹那の何かを変えたいわけでもなく、刹那に何かを分からせたいのでもなく。
 単純に、刹那が何を考えているのかが分からなかったのだ。
 死の恐怖など、人として当たり前の感情など。
 一切共感できないとでも言うように。

「私、は……」

 何かが口を突いて出ようとした、瞬間。

 巨大な白い影が、すぐ横を通り過ぎるのを感じた。





   ▼  ▼  ▼


846 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:55:57 9/ohwQuQ0





 目の前の現実が何か、少女は正確に理解などしていなかった。
 いいや、もしかしたら何もかもが分かった上で理解を拒んでいたのかもしれない。
 銀光が舞う。火炎が唸る。弧を描き乱舞する光の全て、少女は余さず目に焼き付ける。
 人間の反応限界速度など遥か超越した剣戟は、最早高速の残影にしか映らない。刃が撒き散らす火花と響音のみが、辛うじてそれが剣の打ち合いであることを睦月に知らしめていた。
 睦月の傍に侍る幾多の鳥類が、傍目にも分かるほどの恐慌状態に陥って混乱し、それでも彼らの王に命じられた使命の縛りにより地を発つことを許されない。
 何故こうなったのだろうと、睦月は靄のかかったように鈍った思考で思い出す。



 三者のサーヴァントが乱れ討つ戦場より離れた睦月は、パスカルの命を受けた鳥たちの案内により退路をひたすらに突き進んでいた。
 睦月には彼らの言葉を理解することは叶わなかったが、しかし周囲の索敵と退路の確認を一手に担う彼らの案内により、睦月は非常に効率的かつ安全に撤退を進められていたと言えるだろう。
 事実、機動力でこちらを遥かに上回るはずの竹刀袋の少女の追撃を、睦月は完全に回避できていた。哨戒と索敵、圧倒的な人手の差は時に単純なスペック差すらも凌駕する。
 これなら何とかなるとさえ、睦月は考えていた。自分はあの少女には勝てないけれど、逃げるくらいなら何とかなると、そう心のどこかで慢心して。
 だからだろうか。目の前のことにばかり目が行って、周りのことが全く見えていなかった。
 自分を狙う者が竹刀袋の少女だけだと、一体誰が言ったというのか。

 突如として突き出された剣先を、睦月は躓くことで辛うじて回避した。それは動体視力の賜物では断じてなく、単なる幸運であることは言うまでも無い。
 その攻撃の出所は、何の変哲もない青年であった。能面のように感情の感じられない顔と、中肉中背の体つき。端的に言って街中に行けばいくらでもいそうな風体であったが、しかしこの場においては最大級の異常として機能する。
 鳥たちの警戒網にすら引っかからず、的確に睦月のいる場所へとやってくる戦略眼。そして直前の警告すら無かったということは、獣王の命を受けた動物たちの伝達すら間に合わない速度で襲来してきたことに他ならない。
 手にする刀は揺らめく紅蓮に燃えて。魔術に疎い睦月ですら、あれが神剣に相当するものだと本能的に直感する。
 この状況を一言で表すなら、それは絶体絶命というやつだろう。今の自分に対抗手段は皆無であり、最早命を刈られるだけの哀れな犠牲者でしかない。
 その身に宿る令呪すら、恐慌の前には忘却の彼方だ。迫り来る死の刃を前に、睦月はぎゅっと目を瞑って。

「―――何をしている、貴様ッ!」

 突如として乱入してきた少女の喝破に、今度は命を救われたのだった。



 そして現状に至る。
 手にした刃を振るい続ける二人を前に、睦月は未だに尻込みを続けていた。
 無論、今までに何度もこの場を離脱しようとは試みた。しかしその度に銃声が轟き、睦月の顔面のすぐ脇や、傍に侍る鳥の体を銃弾が突き抜けていくのだからたまったものではない。
 パスカルの伝令に羽ばたこうとする鳥もまた同じ運命を辿った。今や睦月の周囲には、十を越える鳥の死骸が転がっている。
 何故自分が今も尚生きているのか、それすら睦月には理解できない。刹那に庇われているのだという事実にすら、想像が及んでいないのだ。


847 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:56:17 9/ohwQuQ0

「……なん、で……たすけ……」

 漏れる声は既に意味ある言葉になっていない。駄々漏れる思考がそのまま音になって喉を溢れる。
 鎮守府では夜な夜な煩いとクレームの対象になっていた工廠の音すら子守唄に思えるような甲高い金属音がビートのように連続して耳に届く。その合間を縫って時折鳴り響く銃声が、幾度となく睦月の体を震わせる。
 訳が分からない。なんで、どうして、こうなってしまったのか。
 自分とて命を賭けているつもりではあった。聖杯戦争に来る以前より、深海棲艦との戦闘で修羅場には慣れているつもりだった。
 それが全くの見当違いであったことを、今になって痛いほどに思い知らされていた。

 サーヴァントどころか、このマスターと思しき少年少女を前にしただけでも足が竦む。一矢報いるどころか反応すらできない速度で交わされる戦闘は、最早睦月の理解の範疇を逸脱していた。
 何より恐ろしいのはあの目だ。何某かの強い思いを秘めた目。
 青年に見据えられた瞬間、睨まれたわけでもないのに睦月の体は石のように硬直した。そして否応も無く理解したのだ。【自分とは何もかもが違うのだ】、と。
 人は正体の判らないものに対して特大の恐怖を抱く。睦月にとって、それは目の前の青年という存在そのものが恐怖の対象であった。
 だからこそ動けない。ともすれば睦月の体に掠りかねないほど近距離で行われる剣戟、動こうとすれば即座に飛んでくる銃弾。最早暴風にも等しい剣閃による衝撃波。それらの影響も勿論あるが、それ以上に名も知らぬ青年の存在こそが、睦月の足をこの場に縛り付けていた。

「ひぅッ!?」

 ビシャリ、と。顔面に暖かい何かがかかる。
 思わず目を瞑り、しかし恐る恐る手をやれば、ぬるりとした感触が指を伝った。
 見下ろした掌は、真紅に染まった震える繊手。
 ふと傍を見やれば、そこには腹部を弾けさせた鳩が一羽。
 瞬間、心の軋みが更なる悲鳴を上げた。

「―――ッ!」

 無意識の心の変動につられ、三つ首の犬を模したトライバルタトゥーが赤い輝きを強める。

「たす……けて……」

 紡がれたのはか細い声。けれどそれで十分なのか、令呪の輝きは今や無視できないほどに増して。
 それに気付いた青年が、認識不可の速度で銃口を向けるけれど。


【私を助けて、パスカル―――!】


848 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:56:37 9/ohwQuQ0


 消失する一首の閃きと共に、純白の巨大な影が彼らの脇を駆け抜けた。
 それは魔的なまでの速度を備えて、敵手であるはずの刹那や青年さえも追い越し通り過ぎていく。
 すれ違う一瞬、青年と白貌影の目線が合ったような気がして。

「……」
「―――」

 けれど、それ以上の転進はなく。
 睦月ごと連れ去った白い影は、そのまま住宅街の彼方へ消え去った。

「……ッ!」

 そして、その間隙を縫うように刹那もまた行動を起こす。
 彼女の背から巨大な一対の翼が広がる。それはまるで天使のような輝きに満ちて、一度大きく羽ばたけば刹那の体は地上十数メートルまで一瞬で上昇する。
 いかな超人的身体能力を持つ青年であろうとも、人の身である以上は地に足つけなければ生きてはいけない。魔性では決してなく、翼を持たぬ人であるからこそ、彼は飛び立つ刹那に追い縋ることは不可能。
 彼女が考えたその推論は正解だ。ザ・ヒーローに飛翔する手段はない。故に互いの戦力に大幅な差があろうとも、一度飛び立てば干渉する術はなく……

「ふッ……!」

 そんな浅知恵など、彼は当に読んでいた。
 抜き手で放たれたヒノカグツチの投擲は一条の閃光となって飛来する。咄嗟に身を翻す刹那だが、完全にかわし切ることは叶わず脇腹に深い裂傷を負った。
 だが仕留めるには至らない。右手で脇腹を庇いながら、刹那はそのまま何処かへと飛び去っていく。

 そしてここに闘いはひとまずの終わりを迎えた。誰一人勝った者はなく、誰一人負けた者もいない、ひたすらに無為な闘いが。





   ▼  ▼  ▼


849 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:56:59 9/ohwQuQ0





 朝焼けの空を純白の翼が舞う。
 それはまさしく鳥のような羽を広げ、しかし人間大という規格外の巨大さを持った生物であった。
 桜咲刹那。鳥族の血を引く京都神鳴流の剣士。
 傍目には天使にも見えかねない美しさだが、今の彼女はそんな見た目の印象から来る聖性や優雅さなど微塵も持ち合わせてなどいなかった。

「なん……だったのだ、あれは」

 高層ビルの屋上に降り立ち、刹那は息切れの激しい声を漏らす。顔は汗で塗れ、裂かれた腹からは大量の血を流し、必死の形相は般若の様相を呈していた。
 これほどの疲労は長らく経験していなかった。肉体のみならず、その精神さえも数日間の苦行を成し遂げた時以上に疲れ果てている。
 これが聖杯戦争。侮ってなどいないつもりだったが、まさか初戦でここまで追い詰められるとは思って居なかった。

「や、無事で何よりだよセッちゃん。その様子だと、どうやら尻尾巻いて逃げることはできたみたいだね」

 横合いから軽薄な声が届く。いつの間にか姿を現したランサーが、いつもの如く見下したような声と表情でこちらを睥睨していた。
 ピクリ、と体が反応する。常より聞かされていた戯言だと理性は切って捨てるも、感情がそれを看過することを許さなかった。

「……それはお前も同じじゃないのかランサー。お前の役目はサーヴァントの撃破だろう、それもできずにおめおめと逃げてきたくせに何を言う」

 ぎり、という音が聞こえてきそうな形相で、刹那はランサーを睨みつけた。平和に生きる一般市民であればその時点で腰を抜かすであろう凶眼を受けてなお、ランサーは涼しい顔だ。

「ま、君の言うことも尤もだけどね。とはいえ倒すまでいかなくてもきちんと相手して君のところまで敵サーヴァントを行かせなかったことくらいは評価してもらいたいな。
 で、だ」

 微かな笑みをうっすら浮かべて、ランサーは刹那に顔を近づける。
 その表情は思わず見惚れてしまいかねないほどの綺麗さで、しかし全く光を宿していない瞳を近づけて、ランサーは刹那に問いかけた。

「君が取るに足りないと思ってた他のマスターは、果たして君が思う通りの存在だったのかな?」
「ッ!」

 その言葉に、刹那は思わず視線を逸らす。返答に音はなかったが、その所作が全てを物語っていた。
 裂かれた脇腹を無意識に庇う刹那を前に、ランサーは常と変わらない態度で続ける。

「どうやら思い知ったみたいだね、セッちゃん。そう、それが人の意志の強さだよ。その傷こそが君の慢心の代償とでも言うべきかな。
 これで分かっただろう? 誰も傷つけたくないなんてふわふわした物の考え方で乗り切れるほど、この戦争は甘くないんだってことがさ」

 ケラケラと笑いながら、ランサーは言葉を続ける。


850 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:57:20 9/ohwQuQ0

「でさ、ここから一体どうするんだいセッちゃん?
 実力も脳味噌も足りないってことは十分に理解できたんだ、ならここらで覚悟を固めてもいいと僕は思うんだけどね」

 相変わらずの軽口に眩暈がしそうだと、刹那は内心頭を抱えたい気分だった。
 自分が未熟者だということは嫌でも理解している。その上、頼るべきサーヴァントが正しく悪魔だという事実を背負って尚、自分は理想を貫けるのかと。
 一瞬だけ、迷いが生じて。

「……お前の戯言は聞き飽きた。それ以上口を開くな」
「ふぅん。ま、僕はそれでもいいけど」

 結局、言い返せたのは精一杯の強がりだけだった。

 それだけ言うと、ランサーは途端につまらなそうな顔で霊体化した。
 空気に溶けるように消失するランサーを横目に捉え、刹那は今度こそ全身から力を抜き嘆息する。

「……私には帰らなくてはならない場所がある。こんなところで死ぬわけにはいかないんだ……!」

 立ち上がり、階段へ続く扉へと向かう。
 この後どうするかなど考えていないが、ともかくこの場を離れることが先決だろう。
 思考が鈍る頭をはたき、無理やりに体を動かしてビルに入る。後には、垂れ流した血痕が点々と続いていた。
 だが、彼女は気付いただろうか。先ほど消えたランサーもまた、右腕を庇っていたことを。

 金髪の剣士との激突の際、相手の宝具の直撃をランサーは瞬間移動にて回避することに成功した。
 けれど決して無傷ではない。ほんの掠り傷とはいえ、右腕にうっすらと光の残滓を受けているのだ。
 故に今のランサーの体内では細胞が次々と破壊され、常人であるならば即座に狂死するほどの激痛が走っている。
 例え掠っただけの残滓であろうと体内に残留し続け全てを破壊する放射能分裂光(ガンマレイ)。彼がそれに侵されている事実を、刹那は知らない。


【桜咲刹那@魔法先生ネギま!(漫画版)】
[状態]魔力消費(中)、戦闘による肉体・精神の疲労、左脇腹に裂傷(気功により回復中)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]<新宿>の某女子中学の制服
[道具]夕凪
[所持金]学生相応のそれ
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争からの帰還
1.人は殺したくない。可能ならサーヴァントだけを狙う
2.傷をなんとかしたい
[備考]
・睦月がビースト(パスカル)のマスターだと認識しました
・ザ・ヒーローがバーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)のマスターだと認識しました。
・まだ人を殺すと言う決心がついていません

【ランサー(高城絶斗)@真・女神転生デビルチルドレン(漫画版)】
[状態]魔力消費(中) 、肉体的損傷(小)、放射能残留による肉体の内部破壊が進行、全身に放射能による激痛
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を楽しむ
1.聖杯には興味がないが、負けたくはない
2.マスターほんと使えないなぁ
3.いったいなぁ、これ
[備考]
・ビースト(パスカル)、バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)と交戦。睦月をマスターと認識しました
・ビーストがケルベロスに縁のある、或いはそれそのものだと見抜きました
・ビーストの動物会話スキルには、まだ気付いていません
・宝具『天霆の轟く地平に、闇はなく』が掠ったことにより、体内で放射能による細胞破壊が進行しています。再生スキルにより治癒可能ですが、通常の傷よりも大幅に時間がかかります。


851 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:57:58 9/ohwQuQ0





   ▼  ▼  ▼





 拠点となる家に逃げ帰ってから幾ばくか、睦月は一切口を開こうとはしなかった。
 精神的にどこか壊れたわけでも、あるいは錯誤に陥ったわけでもない。彼女は気弱な少女だが、それでも最後の一線で踏みとどまれる程度の修羅場は潜り抜けている。
 けれど、それでも。
 艦娘という責務から一度解き放たれれば単なる小娘に過ぎない睦月では、到底受け止めきれないほどの精神的重圧がかかっているのは事実であり。
 故にこその沈黙。朝靄が払われ澄み切った青空が広がるこの時間帯においてなお、彼女の周囲は暗く澱んでいる。
 カーテンも何もかもを閉じきって、少女は己の部屋の中に閉じこもったままだ。

「……」

 そして、彼女の従僕たるケルベロスもまた、自らの思考の海に埋没していた。
 無論のこと、動物会話による周囲の索敵等は欠かしていない。けれどそれ以上に、今の彼には考えなければならない事項が存在する。

(……マサカ、マサカナ……)

 令呪により睦月を確保して逃げ去る際に、ちらりと目にしたその姿。痩身の鋼のような体躯、翠緑色の服装、泰然とした雰囲気。
 それはまるで、遥かな過去に置いていかれた主のようにも見えて。

(アリエナイ事デハナイ……冥府ノ底ヘト旅立ッタ魂ガ舞イ戻ル事モアル。マシテ聖杯ヲ名乗ルナラバ、ソノ恩寵ノ一欠片デモ死者ヲ連レ戻セルヤモ知レヌ)

 覆水が盆に還ることも、死者が墓から這い出ることも、神の奇跡が地上に存在することも、パスカルは実体験から周知している。
 なにせ彼は英雄と神殺しに付き従い、神魔の蔓延る戦乱の世を駆け抜けた破格の魔獣である。ありえないこそがありえないのだと、何より彼が身に染みて理解していた。
 だから彼の考える甘い幻想も、可能性は決して零ではないと分かる。けれど。

 けれど、いくらここで考えても結局は推論に過ぎない。情報はどこまでも足りず、己が目で見た事実すらほんの僅かである。
 だからこそ、パスカルは何を置いてでも真実を確かめに行きたかったが、ここで睦月の令呪が行動を阻害する。
 睦月を助けるというその命令内容は未だに継続中だ。危機的状況から脱したとはいえ、この新宿は未だ死地。サーヴァントの追撃から完全に逃れたとは言いがたく、故にあと幾ばくかの時間パスカルは拘束されることになる。

(ダガ、本当ニ彼ガコノ街ニイルノダトスレバ、俺ハ……)

 白銀の獣はただ黙して機を待つ。その心中に、弾けかねないほどの情念を抱いて。
 ふと、空を見上げてみた。雲ひとつない青空はどこまでも突き抜けるようで、だからこそ思い出してしまうのだ。
 昔日の記憶。陽だまりに包まれた公園で、かの少年と戯れた遥かな過去。
 あの日に戻れたならば、どれだけ幸せなことだろう。だが、今の彼は飼い犬に非ず。そしてこの舞台もまた、平和なひと時の流れる日常ではないのだ。
 微かな未練と拭いきれない希望を胸に、パスカルは面を伏せて時を待つ。未だ治癒せぬ愛の病は、二人を静かに蝕んでいる。


852 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:58:21 9/ohwQuQ0

 彼らの道は未だ交わらない。
 孤独の英雄とその番犬の再会には、未だ機が熟していないのだと運命が如実に訴えていた。
 聖杯へ至る戦は、まだ始まったばかりなのだから。

 
【早稲田、神楽坂方面(山吹町・睦月の家)/1日目 午前8:00分】

【睦月@艦隊これくしょん(アニメ版)】
[状態]健康、魔力消費(中)、弱度の関節の痛み、精神疲労
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]鎮守府時代の制服
[道具]
[所持金]学生相応のそれ
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる……?
0.……
1.如月を復活させたい。でもその為に人を殺すのは……
2.出来るのならば、パスカルにはサーヴァントだけを倒してほしい
[備考]
・桜咲刹那がランサー(高城絶斗)のマスターであると認識しました
・ザ・ヒーローがバーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)のマスターであると認識しました。
・パスカルの動物会話スキルを利用し、<新宿>中に動物のネットワークを形成してします。誰が参加者なのかの理解と把握は、後続の書き手様にお任せ致します
・遠坂凛の主従とセリュー・ユビキタスの主従が聖杯戦争の参加者だと理解しました

【ビースト(パスカル)@真・女神転生】
[状態]霊体化、魔力消費(中) 、肉体的損傷(小) 、令呪『睦月を助ける』継続中。
[装備]獣毛、爪、牙
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.ザ・ヒーローの蘇生
2.先ほど垣間見た影は、まさか……
[備考]
・ランサー(高城絶斗)、バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)と交戦。桜咲刹那をマスターと認識しました
・ランサーが高い確率で、ベルゼブブに縁があるサーヴァントだと見抜きました
・戦闘中に行ったバインドボイスは、結構広範囲に広がってたようです。
・ザ・ヒーローのことはちらっとしか見てません。なので自分の知る主と同一人物なのか確信に至ってません。





   ▼  ▼  ▼


853 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:58:42 9/ohwQuQ0





【詳細は以上だよ、バーサーカー。僕はこれから翼のマスターを追跡しようと思う】
【了解した。これより私はお前の下に帰還する。先行してマスターの捜索に当たるといい】

 極めて短く会話を済ませ、そこで念話を打ち切る。必要最低限の連絡以外、今の彼らは必要としていない。
 マスターから供給される膨大な魔力で急速に修復されていく体を見下ろし、しかしヴァルゼライドはただ前のみを見据えて進撃する。

「手傷は負わせた。令呪も削った。だが足りん。ここで打ち倒せずして何が英霊か」

 蠅の王は星辰光に紛れてまんまと逃亡せしめた。しかし、確実に手傷は負わせたのだという手応えが得物を握る腕に強く感じている。
 冥府の番犬は主の令呪により撤退を開始した。令呪の補助がある以上、これより追跡するのは不可能に近いが、一画消費させただけでも良しとする。
 普通ならばそう思うだろう。しかし彼らはそうではない。確実に息の根を止めてこその勝利であると、言外に滲ませて追撃を開始するのだ。
 ヴァルゼライドは霊体化して主の下へと帰還する。ただ敵手を滅ぼすために。

 英雄は止まらない。涙を希望と変えんがため、男は大志を抱くのだ。
 勝者の義務とは貫くこと。故に止まらず、重ねて不屈。道は重いが、しかしそれを人々の笑顔に変えるため、男は鋼の剣となって邁進する。
 この選択が必ず世界を拓くと信じて―――光の英雄(殺戮者)はただその宿業を己に課して歩み続けるのだった。



【早稲田、神楽坂方面(早稲田鶴巻町・住宅街)/1日目 午前8:00分】

【ザ・ヒーロー@真・女神転生】
[状態]健康、魔力消費(中)
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]ヒノカグツチ、ベレッタ92F
[道具]ハンドベルコンピュータ
[所持金]学生相応
[思考・状況]
基本行動方針:勝利する。
1.一切の容赦はしない。全てのマスターとサーヴァントを殲滅する。
2.遠坂凛及びセリュー・ユビキタスの早急な討伐。また彼女らに接近する他の主従の掃討。
3.翼のマスター(桜咲刹那)を追撃する。
[備考]
・桜咲刹那と交戦しました。睦月、刹那をマスターと認識しました。
・ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると推理しています。ケルベロスがパスカルであることには一切気付いていません。

【バーサーカー(クリストファー・ヴァルゼライド)@シルヴァリオ ヴェンデッタ】
[状態]全身に炎によるダメージ、バインドボイスによる鼓膜破壊。
[装備]星辰光発動媒体である七本の日本刀
[道具]なし
[所持金]マスターに依拠
[思考・状況]
基本行動方針:勝つのは俺だ。
1.あらゆる敵を打ち砕く。
[備考]
・ビースト(ケルベロス)、ランサー(高城絶斗)と交戦しました。睦月、刹那をマスターであると認識しました。
・ザ・ヒーローの推理により、ビースト(ケルベロス)をケルベロスもしくはそれと関連深い悪魔、ランサー(高城絶斗)をベルゼブブの転生体であると認識しています。
・ガンマレイを1回公園に、2回空に向かってぶっ放しました。割と目立ってるかもしれません。
・早稲田鶴巻町に存在する公園とその周囲が完膚無きまでに破壊し尽くされました、放射能が残留しているので普通の人は近寄らないほうがいいと思います。


854 : DoomsDay ◆GO82qGZUNE :2015/10/21(水) 20:58:57 9/ohwQuQ0
投下を終了します


855 : 名無しさん :2015/10/22(木) 22:51:38 5MGKIe.oO
投下乙
どいつもこいつも序盤から派手にやっててヤバいヤバい……


856 : 名無しさん :2015/10/23(金) 00:45:16 VhKeEqLc0
投下おつー
この主人公ラスボス主従、どう見てもヴァルゼライドが主人公でフツヲがラスボスだよな……w


857 : ◆2XEqsKa.CM :2015/10/23(金) 13:17:01 1qJEYjwg0
>>830の予約を延長させていただきます


858 : ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:36:54 nZ4WoNKQ0
感想は後程。投下いたします


859 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:37:28 nZ4WoNKQ0
 高い所から眺める風景は、気持ちが良い物である。
ビル街の最中に聳える超高層ビルからでも良い、雲よりも高い所を飛ぶジャンボジェットの窓からでも良い、富士山の頂上からでも良い。
何故、高い所から目にする光景が良いものなのか。地上では仰ぎ見ない限りその全貌を目の当たりに出来ない物がちっぽけに見えるからか。
それともただ単に、高い所に自分がいると言う事実からか。確かにそれらもあるであろう。
しかし、一部の者は、違うと考える。旧約聖書に語られるバベルの塔の説話において、何故人は高い建物を建てようとしたのか。
それは、自分達の技術力の高さを見せつけようとしたのではなく、高い建物を建てる事で神に近付こうと考えたからだ。
その浅慮を神から咎められ、バベルの塔は雷であえなく破壊され、人は世界中に散り散りになり、結果、言葉の異文化と言う結果が生まれてしまったのだが。

 特殊な強迫観念を患ったと言うケースを除き、人が何故高い所を好むのか?
それは即ち、支配欲と征服欲等を筆頭とした、諸々の欲求を同時に満たせているような感覚になれるからである。
建物の大きさと高さは、強権を得た人間の特権と言っても良い。自らが勝ち得た高層建築の最上階から俯瞰する光景と言うのは、所謂勝ち組にだけ許されたビジョンなのだ。

 <新宿>に聳え立つ超大手レコード会社、UVM社は、東京タワーにも匹敵する程の高さを誇る、超高層建築の見本のようなビルである。
音楽会社に勤めて見たいと言う大学生や、この会社で名を上げたいと言うミュージシャンの憧れの御殿であるこのビルの最上階から眺める、
<新宿>の街並みや<亀裂>、そしてその裂け目の先に広がる他区の街並みは絶景と言う他ないらしく、天気の良い日には富士山すらも目視出来ると言うのは、
この会社に勤める社員やミュージシャン、バンドメンバー達の言である。UVM社に所属出来ている喜びをさぞ噛みしめられている事だろう。
社員や所属ミュージシャンですらこれなのだ。このレコード会社を率いる社長ともなれば、自身の社会的な立ち位置やステータスを実感出来ているに違いない。

 ……と言うのは、連中の勝手な思い込みと言う奴であった。
確かに、高い所からの風景は気持ちが良いものだとダガー・モールスだって思う。しかし、何事にも慣れと言うものがある。
毎日体験して慣れてしまえば、美味い食事や面白い小説も映画も飽きて来るものだ。風景にしたって、それは同じ事。
率直に言うとダガーは、慣れたと言うよりも最早ウンザリしていると言っても良かった。自社であるUVMの最上階から眺める、<新宿>の街並みにだ。

 <新宿>、いや、<新宿>が存在するこの世界と言い換えても良いか。
この世界が、嘗てダガーが活動していたサウンドワールドとは根本的に、何から何まで違う場所である事に気付いたのは、大分前の事である。
成り立ちも違えば、音楽があらゆる事象の前に立つと言う世界の法則もこの世界には無い。
だがもっと違う点は、この世界にはサウンドワールドの住民であるミューモンと呼ばれる生命体が一匹たりとも存在しないと言う点だ。
世界が違うのだから当然と言えば当然の事柄であるのだが、この世界に於いては非常に重要な事であった。

 結論から言えば、ダガー・モールスはUVM社の社長室から身動きが出来ない状態にある。彼の姿はこの世界の常識に照らし合わせれば、ありえない姿をしている。
頭の大きさは成人した人間の三倍以上も大きく、自身の肩幅よりも大きい横長のそれ。
元居た世界で、骨が通っているとは思えない位ブヨブヨしたその頭を、黒いクラゲのようだと揶揄されていた事もダガーは知っている。
ミューモン達が多数存在したサウンドワールドでもダガーの姿は目立つのだ。此処<新宿>で、彼の姿が目立たない筈がなかった。
無策で社外に出ようものなら、怪物扱いされる事は自明の利だ。いや、怪物扱いで済むのならまだ良い。この場合、UVM社の社長であると言う肩書が足枷になる。
国内最大手の企業の社長が怪物だったなどと言うニュースは、瞬く間に日本中を駆け抜けるだろう。そうなってしまえば即座に、<新宿>中の聖杯戦争参加者に、
自身が参加者であると割れてしまう。誰もが認める、詰みの状態と言うべきであろう。これを防ぐには、此処UVM社から一歩も出ないと言う方針で行くしかない。


860 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:37:39 nZ4WoNKQ0
 アーチャーのサーヴァントを召喚してからダガーはずっと、UVMの社長室に籠城していた。
外は愚か、自分がいるフロアーからも迂闊に出られないと言う事は、相当なストレスである。此処は間違いなく自分の会社であるのに、自由に全フロアを移動出来ないのだ。
事実上の軟禁とほぼ同義だ。最上階から眺める街の風景も、既に見飽きている。今では地上の光景の方が見たいとすら思っている程だった。
グレイトフルキングに音楽を作らせる為に、彼を監禁した因果が、今になって巡って来たのかともダガーは考えた。
全く、因果応報とはよく出来たシステムだとダガーは自嘲する。いや、全く笑えない事に気づき、ダガーは真顔になる。

 外に出たいのは事実と言えば事実だが、現状それが最も悪手である事には気付いている。
今彼が出来る最良の行動は、自らの中にも宿るメロディシアンストーンを音楽の力で増幅させ、魔力を生み出す事である。
これを行う事でいつかは、サウンドワールドで振るった強大な力を発揮出来る事だろう。幸い、ダガーが引き当てたサーヴァントは、アイドルとしての資質が強く、
彼女の身体に宿っているだろうメロディシアンストーンも、磨けばそれは強大な力の原石になると彼は踏んでいる。
故に今出来る事は、ダガーのサーヴァントである、アーチャーの那珂のアイドル性や歌唱力を磨き、
メロディシアンストーンを高いレベルのそれにまで昇華させる事。だが流石にそれだけでは不安が残る。
聖杯戦争と言うものはその名前が示す通り、本質的には力と闘争が物を言う催しである。此処UVM社だって、何時戦塵戦火に呑まれるか解ったものではない。
其処で、那珂をアイドルとしてではなく、サーヴァントとして利用する必要が出てくる。つまり、積極的にUVM社の外に出し――彼女はこれを遠征と呼ぶ――、
<新宿>の情報を集めさせ、弱そうな主従を見かければ積極的に戦いを挑み、改二と呼ばれる宝具の布石を打つ。これが重要になる。

 自分の身体的特徴のせいで、やる事なす事が無意味に多くなっているが、これは最早仕方がない事だとダガーは割り切る事とした。
全ては、音楽による全ての世界の制服の為に。この世界も、そして、志半ばで頓挫してしまった、サウンドワールドの支配の為に。此処は敢えて、雌伏の時を過ごしてやる事とした。

 紅色に光る瞳で、無感動に<新宿>の夜景を眺めるダガー。
全体的に薄暗い社長室に、身に覚えのない群青色の光が、自らの背後で生まれた事に彼は気付く。
何事だと思い振り返る。光源は、直に見つかった。聖川詩杏達に敗れた自分を此処まで導いた契約者の鍵が、一人でに青々と光っているのだ。


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861 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:38:01 nZ4WoNKQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 UVM社は<新宿>に本社を置く、日本最大のレコード会社である。
しかし、唯一絶対、或いは、国内で他に並ぶ者がいない音楽会社なのか、と言えば、それは少々驕りが過ぎる。
対抗馬がないわけではないし、此処に所属するミュージシャンだけが、超一流である訳ではないのだ。

 歌って踊れて愛想がよく、トークもバリバリこなせるだけがアイドルではない。
誰も見ていないその裏方で、地味で、地道で、薄皮を張り合わせて行くような努力を重ねに重ねられる一つまみの女性こそが、アイドルなのだ。
誰もが皆、より良いアイドルになろうと努力をし、誰もが皆、その中の頂点であるトップアイドルの地位を狙っている。
頂点と言う立場程、転ばせやすい所はない。少し努力を怠り慢心するだけで、その地位から人は転落する。
それを分かっているから、那珂は努力を欠かさない。歌や踊りを磨くだけではない、他の対抗馬を見て研究する事も、努力の内の一つである。

 UVM社は最上階、ダガーが業務を行う社長室とは別の小部屋である。
一般的には、楽屋、或いは休憩室とも言える場所だ。しかし、此処を楽屋や休憩室と言う、雑多なイメージを拭えない言葉で表現するのは、気が引けるだろう。
UVM社が用意する、アイドルや歌手の為の控室ともなれば、それは最早ホテルの一室と変わりがないのだ。
人一人を捕まえて、目隠しをした状態で此処まで案内し、この部屋を見てどんな印象を受けるか、と問われれば、多くの人物がホテルのスウィートルームと言うだろう。
広い部屋、絹の様な柔かさの絨毯、何十インチもある液晶テレビ、一人で寝るには大きすぎるベッド、シャワールーム、常にドリンク類を備えた冷蔵庫。
確かにホテルの高級ルームの印象を受けるだろうが、此処は事実、那珂の為にダガーが用意した一室なのである。
その証拠が、部屋を出て向かい側に存在する、那珂がいつも持ち歌の練習をしているスタジオであった。

 その部屋で那珂が、ベッドに腰を下ろしながら、区外で活動するバンドやアーティスト達の活動模様を、七十五インチもある液晶テレビで視聴していた。
彼らの歌唱力と、それを聞き熱狂している観客達の姿を見聞すると、自分もうかうかしていられないと言う気持ちになれるのだ。
特に今見ているバンドなど凄い。和服をベースにした衣装を身に纏った三人組の女性のバンドなのだが、これが実に、観客の心を捕らえている。
三人のビジュアルもそうである、ライブのパフォーマンス性もそうである。だが何よりも凄いのが、その歌唱力と演奏力だ。
和の楽器とメロディをベースに彼女らはライブを行っているのだが、これが、決して奇を衒っただけに終わっていない。
同じアイドルの那珂から見ても素晴らしいのである。さぞ日頃から練習と研究を欠かしていないのだろう事が見て取れる。
一流とは、かくあれかし。そんな事を那珂に強く思わせる、見事な演奏であった。そしてこれを見てると、自分も負けてはいられないと言う対抗意識が燃えて来る。

「よーし、明日も一日、頑張ろう!!」

 そう強く宣言し、テレビの電源を落とし、就寝しようとする那珂。リモコンに手を伸ばした、その時。
入室の許可を得る為のチャイムの音が鳴り響き、那珂は動きを停止させる。自分に用がある人物など大抵予想は出来ているが、念の為だ。
ドアの前にいる人物が誰なのか、ドアに設置された小型カメラで確認出来るモニタのもとまで移動し、彼女はその姿を確認する。
液晶に移り切らない程の、黒くて大きいクラゲの様な頭を持った、自分のマスター。深海棲艦の出来損ないを思わせるその人物は、ダガー・モールス。
今の自分のプロデューサー兼マネージャー兼、聖杯戦争におけるマスターである。
那珂はドアの電子ロックを解除する。彼女が玄関に向かうまでもなく、ダガーは部屋へと繋がるドアを開け、入室して来た。

「君に仕事だ、アーチャー」

 ドアを閉じ、部屋に入るなりダガーはその旨を告げた。

「アイドルとしての私に? 日頃の努力がとうとう!?」

「悪いが、サーヴァントとしての君に用がある」

 やや食い気味にダガーに詰め寄ろうとした那珂であったが、無慈悲に彼の方が那珂の思う所を否定した為、ガックリと肩を落とした。露骨に残念そうである。
とうとうレギュラー番組の一つを持たせられるか、大きな仕事が入ったのかと、那珂としては期待していたのである。


862 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:38:24 nZ4WoNKQ0
「きょ、今日はほら。夜も遅いから、お休みしようかと思ったんだけどな〜。夜更かしはお肌に悪いんだよ?」

「サーヴァントにそんな物は関係ないだろう」

 これまた鉄の様に冷たい口調でダガーは否定する。うぐっ、と那珂が言葉に詰まる。
彼には俄かに信じ難いが、目の前にいるサーヴァントは、触れもするし傷付けば血すらも流す。
であるのに彼女の体は、蛋白質で構成されていないのだ。那珂を構成する物質とは即ち、自前の、或いはダガー・モールスから供給される魔力なのだ。
魔力を以て、可能な限り肉体的特質を生前のそれに近づけているだけに過ぎない。つまり本質的には彼らは、尋常の物理法則の影響下の外にある者と言っても良い。
それであるから、彼らの肉体は、魔力で構成されている限りは老化もしないし飢えも起きない。那珂が気にする肌荒れなど、起きる訳がないのである。

「う〜……、わかったよぅマスター。それで、何をするの?」

 目の前のマスターを誤魔化す事は最早不可能だと考えた那珂は、大人しくベッドに腰を下ろし、両足をブラブラ動かし始めた。
観念した、と言った様子であるが、何処か不服な様子は拭えない。それ以上の事は、ダガーも突っ込まない事とした。

「何も戦ってこいと言っている訳ではない。少し、<新宿>の様子を見て来てくれないか」

「ここの?」

「そうだ」

 意図するところが読めない、と言った表情で、那珂はダガーの頭を覗き見て来る。

「契約者の鍵を通して、通達が来た。今日の0:00を以て、聖杯戦争が開催されたそうだ」

「嘘っ、早っ!? 私のステージは!?」

「すまない、用意出来なかった」

「アイカツは!?」

「出来ると思うのか?」

「やだやだ!! 歌い足りない踊り足りない!!」

 案の定か、と思いダガーは頭を抱えた。
目の前の存在は、サーヴァントと言うより、どちらかと言えば自らをアイドルだと認識しているフシがある。
那珂の名誉の為に説明しておくと、彼女自身は全くの無能かと言えば、それは嘘になる。
戦略面で素人のダガーは、一度彼女と聖杯戦争に関してのミーティングを行った事があるが、ダガーの戦略上の作戦の甘さを指摘する時に見せる、
『水雷戦隊の那珂』としての側面は、スタジオで持ち歌を熱唱している彼女からは想像もつかない程冷徹な物があるのだ。間違っても、彼女はハズレの類ではない。
ないのだが……欠点はこれであった。水雷戦隊としての那珂の顔も本当なら、アイドル活動をしている時の那珂の顔も本当の姿なのだ。
アイドルとして活動している那珂の頑張り振り等、凄いものだ。下手をしたら、サーヴァントよりもこっちの方が本業なのかと錯覚しているのではと思う程だ。
つまり那珂は、アイドルとしての意識が強すぎるせいで、聖杯戦争に関する意識が薄くなる傾向にある。
ダガーのミューモンとしての生態を加味すれば、それは決して欠点ではないのだが、今回はその欠点が噴出している形になってしまった。
此処は何とか、彼女の不機嫌を宥めてやる必要がある、とダガーは結論付けた。つくづく面倒だが、彼女は優秀な手駒だ。臍を曲げたままでは、支障を来たす。

「まぁ落ち着きたまえ。君に全く利益がない事ではないぞ」

「……本当?」

 ジトリとした目で那珂はダガーの方を見て来た。完全に拗ねている。

「先ず仕事自体は私が先程言った様な、<新宿>の様子の調査だ」

「何でそんな事するの?」

「私はこの姿だ。君以上に外に出れば目立つ」

 うんうん、と那珂が頷いた。さにあらん、下手すれば、艦装を装着した状態で街中で実体化したとしても、隣にダガーがいた場合、ダガーの方に視線が集まるだろう。
それ程までに、彼の姿はよく目立つ。何せ、人のフォルムをそもそもしていないのであるから。


863 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:38:52 nZ4WoNKQ0
「<新宿>に呼び寄せられてから、私は一歩もこのUVMから出ていない。それはそうだろう、私が外に降り立つと言う事は、途方もないリスクがあるのだから。
パソコンを通して<新宿>の街並みがどれ程の物か見てみたりもしたが、実際にその道を見て歩くのとでは大違いだ。故に私は、このUVMから外に出る、と言う事を諦めた。
だが、街並みを把握しておかねば流石に拙いだろう。其処で、君だ。アーチャー。君の単独行動スキルを以て、ある程度<新宿>を散策して来てくれたまえ」

「せめて私だけでも〜、って事?」

「そうだ」

 流石に、自分に付き合って、那珂までUVM社内で待機させておく必要性は皆無だ。
寧ろダガーよりも戦略面に明るい彼女にこそ、<新宿>と言う街がどう言った所なのか、見て欲しいのである。

「私も得をするし、アーチャー。君も得をするのだぞ、これは」

「? 何で?」

「君の目で、君に相応しいコンサートの場所選びをしてきたまえ」

 カッと那珂が目を見開く。食い付いた。

「君ほどの【アイドル】に【ライブ】をやらせないなど、レコード会社の指揮を執る者として失格の烙印を押さざるを得ないだろう。
君には、君自身の目で、【ライブ】を行うに相応しい場所を、今回の<新宿>の調査で見つけて来て欲しいのだ」

 アイドル、ライブ。この二つの単語を特に強調して、ダガーは説得を試みた。

「了解しましたマスター!!」

 凄まじい速度で那珂は即答した。ビッと背筋を伸ばし、敬礼をするその様は、如何にも軍隊仕込みと言う風格が漂って来る。
何とも現金なサーヴァントであるが、この程度で御せるのであれば、まだ扱いやすいし可愛い方であった。

 無論、ダガーが言った、ライブの為のステージを探す為でもある、と言うのは方便であった。
ダガーは那珂をアイドルとして振る舞わせる事には異存はないが、彼女の為の専用のステージを設けるつもりなど、更々ないのである。リスクが大きすぎる。
結局今回の調査の核は、最初にダガーの言った、<新宿>の調査が半分と、もう半分。那珂にサーヴァントと交戦して貰い、改二の条件を満たさせて貰うのだ。
まだまだ、ダガーはサウンドワールドで振るった力の半分も取り戻せていない。漸く、四分の一と言った所だろうか?
本調子には至らない。何とか嘗ての力を取り戻したいのである。

 何れにしても、那珂からの言質を取る事が出来た。
後は、那珂の調査の成功率を高める為の、『生贄』を用意する必要がある。そしてその役を担わされる存在は、既に決まっていた。
懐からダガーはスマートフォンを取り出し、哀れなるスケープゴートにTELを掛け始める。

「――私だ」

 威圧的な、口調であった。

「お前に緊急かつ秘密の仕事を与える。早急に本社に来い。以上だ」

 電話を切り、ダガーはズボンのポケットにスマートフォンを入れた。
「誰に掛けたの?」と、那珂が問うてくる。彼は答えた。

「君のマネージャーだ」

「本当!?」

 顔の周りに、花の咲き誇るエフェクトでも立ち現れるのではと思う程の輝かしい笑みを浮かべて那珂が言った。
今にも小躍りでも始めそうなテンションで、彼女はベッドに腰を下ろし、持ち歌である恋の2-4-11を口ずさみ始める。

 電話をよこした相手がUVM社に来るまで、三十分ほどの時間が掛かるだろうか。
その間は、この部屋で暇をつぶす事とした。上機嫌な那珂を横目に、ダガーはテレビの元まで近づき、リモコンでその電源を落とした。

「消しちゃうんですか?」

 ご機嫌な気持ちが消えないのか、喜びの感情の強い表情で那珂が聞いて来た。

「まぁな」

「そっか」

 これ以上、那珂も問うてくる事はなかった。
液晶テレビに映っていたバンドグループ達は、確かにダガーの目から見ても超一流のアーティストである事は疑いようもなく、BGMにするにはもってこいの音楽ではあった。
しかし、もといた世界でその名を馳せさせていた、徒然なる操り霧幻庵の。ダガーの計画を頓挫させた連中の演奏を、聞く気にはなれない。
苦虫を噛み潰したような表情で、ダガーは、黒曜石の様に艶やかな黒をした、電源の落されたテレビの液晶部分を睨みつけている。
彼女らはこの世界でも、人気のバンドグループなのであった。


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864 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:39:14 nZ4WoNKQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 UVM社に勤務する社員の一人、オガサワラは、負け組であると思っていた。
これは万人が認める評価と言う訳ではなく、彼自身の思い込みによるものだ。彼の業績は可もなければ不可もなくのノーマルなそれで、
ペースこそ遅いが、このまま頑張れば出世は出来るだろうと言う程度には仕事は出来る。 
そんな、窓際族とは言えないこの男が、何故自分の事を負け組だと思っているのか。
それは入社以降、それこそ入社面接の段階から、自分が人事に主張していたやりたい事を、一向にやらせて貰えないからに他ならない。

 オガサワラは単刀直入に言えば、マネージャー業務をやりたかったのである。
UVM社に社員として働きたい、と言う事のホンネは何か? 収入が良い、福利厚生もしっかりしている、と言った事もあるであろう。
だがこの会社の門戸を叩く者の中には、自分がプロデュースしたアイドルやミュージシャンを一流に育て上げたい、と言う野望を胸に秘めた者も大勢いるのだ。
彼はその野望を秘めた社員の内の一人であった。それを夢見て、オガサワラはUVM社に入社したのである。
しかし、流石に入社してすぐのペーペーに、希望通りにマネージャーをやらせるとは流石に思っていない。
事務も営業も経験したし、経理もやコールセンターもこなした。六年近くこの会社で下積みと経験値を積み上げ、さあ自分はもう準備は出来ているぞ、
と意気込んでから早四年が経過した。一行に、マネージャーの仕事に配属させて貰えない。

 自分には才能がないのだろうか、と今日も思い悩んでいたオガサワラの下に、電話が一本掛かって来たのだ。
電話の主は、なんとあの、UVM社の社長のダガーからである!! その仕事ぶりは大胆かつ繊細。
休む事を知らない程の超人的なスタミナの持ち主で、四六時中社内にいると言う。更に、『原石』を見つけ出す審美眼にも長けた、
UVMの誰もが認めるナンバーワンプロデューサーにして敏腕社長。しかし彼には謎が多い。
その最たるものが、社員は愚か株主にもその姿を見せないと言う事であろう。十年もUVMに勤務するオガサワラですらその姿を拝んだ事はない。
入社式にすら顔を見せなかった程だ。社内の至る所に設置されたスピーカーを通して指示を出す、と言う、他社では中々見られない命令系統を徹底させているダガーは、
余程の事では社員に電話を掛けて来ない。そんな彼が、このオガサワラに緊急の命令を下したのである。

 現在に至る。
数年前に購入した軽自動車を運転し、ダガーは、住まいの板橋区からUVM本社まで急いでいた。
ダガーから直々に命令が下るなど、ただ事ではない。オガサワラの頭にはそんな意識があった。
ただならぬ事が起きるかも知れない。故にオガサワラは、目的の場所まで急いでいた。

 目的地に到着したオガサワラは、UVM近くの駐車場に軽を止め、月にすら届きそうな程高いタワー状の建物である、UVMに走って向って行く。
守衛に社員証を見せ、入館の許可を得たオガサワラは、社内に入って行く。向かう先は、本社二階の応接間であった。
其処に着くころには、オガサワラは体中から汗を流し、ぜぇぜぇと苦しそうに肩を上下させていた。もう自分も三十過ぎである。
十代の頃の様な全力疾走は、もう出来る歳ではない事を思い知らされていた。

「ご足労いただき感謝しているよ、オガサワラ」

 応接間にも、ダガーの声を届けるスピーカーが設置されている。
その声を聞くや、オガサワラは、疲れてが瞬間的ではあるが吹っ飛んでしまい、慌てて背筋を正し始めた。

「ハッ、きょ、恐縮でございます!!」

 一見すればオガサワラは誰もいない部屋に一人で声を出しているように見えるだろう。
客観的に見ればそれは事実ではあるが、ダガーが社内に仕掛けたものはスピーカーと言う発信機だけでなく、声の受信機も設置しており、これにより社員との応答も出来るのである。

「電話でも話した事だが、君には一つ用事を頼みたいのだよ」

 オガサワラの身体が、強張った。


865 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:39:59 nZ4WoNKQ0
「長ったらしい前置きが嫌いだからな、単刀直入に言おう。君にプロデュースして欲しいアイドルがいる」

 数秒程、オガサワラの身体が、固まった。スピーカーを通して下された、ダガーの言葉の咀嚼に時間が掛かったのである。
ダガーが告げた言葉の意味を頭で理解した瞬間、それはもう、様々な感情が綯交ぜになった表情で、オガサワラは声を上げ始めた。

「ほ、ほ、本当ですかボス!?」

「嘘は吐かない。オガサワラ、お前は異動の度にマネージャーをやりたいやりたいと人事に希望していたな?
お前もUVMで働いて十年になる。もう新人ではないし、素人でもないのだ。そろそろ、お前の希望も叶えてやろうと思ってな」

 手の甲の皮膚をオガサワラは爪を立てて抓って見る。痛い。夢ではない!!
入社してからの悲願がようやく叶うと思うと、駐車場から此処まで走って来た疲労が全て、水で埃汚れを落とすように消え去って行く。

「オガサワラ。お前に担当して貰うアイドルは、どのマスメディアにもその存在を知られていない。宣伝すらもしていない
お前はそのアイドルを全く無名の状態からプロデュースしろ。だが、安心してくれ。確かに彼女は無名だが、才能は本物。
今まで彼女の存在を秘匿して来たのは、私としては彼女を、突如現れた新星、と言った触れ込みで彼女を推そうとしていたからだ。秘密兵器、と言う奴だな。
無論、お前にマネージャーをしてもらう以上、彼女の活躍のさせ方はお前に一任する。私のやり方に拘泥する必要はない。しっかりと仕事をしろ、オガサワラ」

「も、勿論ですボス!! 誠心誠意粉骨砕身、頑張らせていただきます!!」

 凄まじい勢いでお辞儀をするオガサワラ。入社以来の悲願が漸く叶った瞬間だった。
今日のこの瞬間から、睡眠をせず明後日の終業時間まで働けるのではないのかと言う程の喜び方であった。
スピーカーの通信を切る音に、オガサワラは気付かなかった。当たり前の事であるが、切れたスピーカーのその先で、ダガーが「馬鹿が」と漏らした事など、知る訳もなかった。


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866 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:40:16 nZ4WoNKQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ダガーが意図したオガサワラの使い道は、那珂の<新宿>調査を円滑に進める為のデコイであった。有体に言えば、生贄だ。
大抵のサーヴァントは、マスターを殺されればその時点で、詰みに等しい状況に陥ってしまう。魔力供給が断たれるからである。
サーヴァントとマスターの戦闘力には、大きな隔たりがある。其処で、マスターとサーヴァントが共に行動していた時、通常どっちを狙った方が楽か。
無論、マスターを狙った方が遥かに早い。それはそうだろう。しかしこれは少し考えれば自明の利であり、サーヴァントの側もこれを解っているから、そうはさせじとマスターを守る。此処から、サーヴァント同士の戦いに発展するのである。

 こう言った意識をダガーは逆手に取った。
余程注意深い存在でもない限りは、相手の主従は、マネージャーと言う触れ込みで那珂と一緒に行動しているオガサワラをマスターと誤認するだろう。
つまりオガサワラは、万一那珂がサーヴァントと露呈した時に、彼女がダガーの下へと逃げ果せられる為の保険である。
聖杯戦争の主従はマスターを狙うかも知れないと言う意識を利用した、撒き餌である。

 本来こう言った役割は誰でも良かった。アトランダムに決めても良かったのだ。
三千人を容易く超える従業員を擁するUVM社のなかで、何故オガサワラが那珂のマネージャー――デコイ――に選ばれたのかと言えば、
ダガーとオガサワラは、サウンドワールドで少なからぬ関係を持っていた事に起因する。
ダガーの認識では、オガサワラは出し難い無能であった。クリティクリスタと言う、自分が選んだアイドルグループを折角貸し与えたにも拘らず、
あの聖川詩杏が所属していたとは言え、有象無象のアイドルグループであるプラズマジカに対バンで敗れた程である。無能と言わずして、何と呼ぶ。
この世界にやって来て、NPCとしてのうのうと自社に所属していたオガサワラの、あのモアイに似た不細工な顔と小柄な体躯を見たら、
驚きよりも怒りの方が湧いてきたのである。制裁の意味も込めて、三千人超の従業員の中から、彼をデコイに任命した。こう言う経緯であった。

 ――そんな裏事情など、オガサワラが知る由もなく。
UVM二階の応接間で、そわそわと目当ての人物が来るのを期待していた。初めてデリヘルを注文した男子学生レベルの緊張ぶりだった。
あの後メールで、ダガーからこんなメールを送られて来た。「彼女は地方からやってきた女子高生で、<新宿>はおろか東京の事情にすら疎い。
夜の<新宿>は迂闊に出歩くと危険だと言う意味も込めて、軽く<新宿>の目ぼしい所を回って欲しい」と。
この程度はお安いごよう、と言うものである。少々狭くてむさくるしいかも知れないが、オガサワラは自身の軽自動車に那珂を乗せて、命令を果たそうとしていた。

 ガチャッ!! と、勢いよく応接間の扉が開け放たれる。
驚いた様にその方向に顔を向けると、二つのシニョンを茶味がかった髪で作った、オレンジ色の制服の少女がやって来た。
美麗と言うよりは可愛いに属する顔立ちで、清潔感とヒマワリの様な明るさで輝いていた。成程、一流のアイドルに成り得る素質はある。
これを、自分はプロデュースするのかと、オガサワラは気を引き締めた。

「UVMのアイドル、那珂ちゃんで〜す!! よっろしく〜!!」

 夜も十二時四十分を回っていると言うのに、昼の一時か二時みたいなテンションで、那珂と呼ばれた少女は自己紹介をして見せた。
那珂は早くも、UVMの顔でありシンボルだと思い込んでいるらしいが、オガサワラは突っ込まなかった。

「え〜っと、私については、聞かされて……ますよね?」

 少し疑問調子にオガサワラが訊ねる。

「も〜っちろん。私のマネージャーさんでしょ?」

 本当に、夢ではない。自分は本当に、マネージャーとしての仕事を任されたのだ!!

「それでは、積もる話はお車の中で。早速ですが那珂さん――」

「うんうん、それじゃ、行きましょう!!」

 そう言う事になった。


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867 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:40:35 nZ4WoNKQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「へー、じゃあオガサワラさんは私が初めてのマネージャーなんだね」

「そうなんですよ。苦節十年。漸く巡り巡ったチャンスなんです」

 オガサワラが運転手を務める、スズキのスペーシアの車内であった。
二人は早速打ち解けており、車内で軽い自己紹介を交わした後に、身の上話に花を咲かせていた。
互いの出身地やら、現在の住まい。オガサワラによる業界での苦労話諸々等、話す事は色々だ。
元よりこの業界は、トークの展開力が物を言う世界である。伊達にオガサワラも十年の時を其処で過ごしていない。
話に間が発生しないよう配慮された彼の話に、那珂も退屈はしていなかった。零れる笑みからも、それは伺えようと言うものであった。

「オガサワラさんは幸運だよ、この那珂ちゃんが担当アイドルになったんだもんね!!」

「ハハハ、全くです。これで、郷里の家族にも自慢が出来るってものです」

 そんな他愛もない事を話ながら、オガサワラは運転を続けている。
目指す当てなど特にはない。適当に、<新宿>の主要な街を車で周ったら、今日の所は取り敢えず、那珂の健康面を配慮してすぐに彼女を帰らす積りであった。
カーナビも使わず、当てもなくブラブラと車を走らせる。主要な大通りを通ったかと思えば、車の通りの少ない小道を走ったりと、一定しない。
流石にこれでは目的性がなさ過ぎる。次は歌舞伎町や西新宿の辺りでも案内するか? とオガサワラが考えていた、その時であった。

「? ねぇ、オガサワラさん」

「何かしましたか?」

 疑問調子で那珂が言葉を投げ掛けて来た為、オガサワラもそれに応えた。

「あれは一体、何なんですか?」

 言って那珂は助手席からフロントガラスの前方を指差した。

 那珂の指差した方向には、フロントライトと街灯の光に照らされた、正四角錐柱状の細長いモニュメントがあった。
車のライトの強い光に当てられたそれは、天から降り注がれたまま数十年は経過した槍の様な佇まいを見せている。
スマートフォンのカーナビアプリを起動、GPSで現在地を確認した所、<新宿>歴史博物館にまでやって来てしまったらしい。
現在位置と、<新宿>と言う『土地の歴史』から判断するに、あのモニュメントは――

「『慰霊碑』ですよ」

「慰霊碑、ですか? するとあれは……」

「<魔震(デビルクエイク)>の、です」

 ああ、やっぱりと言った風に那珂は納得した。
オガサワラは、地方からやって来たアイドルの為、東京の建物などには疎いから、解らなかったのだと解釈する。


868 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:40:50 nZ4WoNKQ0
 現代日本で起った、教科書に載るレベルの震災の顛末を見れば解る通り、震災とは一度起これば、行政、財政、景気などあらゆる面で影響を及ぼす。
無論、その殆どが負の影響である。震災復興の為に行政や立法活動は滞り、被災地の景気は一時的に大きく落ち込み、それを立て直す為に財を捻出する。
今でこそ<新宿>は持ち直しこそしたが、震災から十年程は、まさに暗黒期だった。
あちらこちらに散らばる建造物の瓦礫、それに埋もれた死者の数々。震災の為に大小の犯罪が被災地で多発し、国や自治体からの補償を求める被災者達。
東京都、もとい日本国は、首都東京の主要区の一つを何時までもこのような状態に陥らせる訳には行かないと、国の威信を掛けて<新宿>の復興に力を尽くした。
瓦礫は異様な速度で撤去された。これを一々最終処分場まで持って行くのは莫大な金が掛かる為に、<亀裂>へと棄てた。それでもまだ<亀裂は>埋まらない。
神憑り的な速度で仮設住宅やインフラ、道路や鉄道が整備しなおされた。普段からこれ位のやる気を以て道路整備を行えと言う批判が国中から起った。
国庫から莫大な金を惜し気もなく投下し、国内外から集まった寄付金や支援団体、軍隊派遣により、<新宿>は今の街に返り咲く事が出来たのだ。

 しかし復興を果たしたと言えど、<魔震>によって命を失くした、四万五千人と言う死亡者の数は消えはしないのだ。
行方不明者も死亡者にカウントするのなら、その数は倍以上の大台にも達する。
死亡者の数だけでも良いから、区内に墓地を立てるべきだと言う声も上がったが、これは却下された。
当たり前だ、四万五千人分の死亡者の墓地など、それこそ<新宿>の土地全域が墓場になりかねない勢いである。
納骨堂や屋内霊園で済まそうにも、四万人超と言う数字分を供養、彼らの分の墓石や施設を用意する事は並大抵の事ではない。
だからこその、慰霊碑と言うモニュメントなのだ。<魔震>が起った際には、<新宿>全土はまさに死者の山河と言う表現が相応しい状態で、
一歩歩けば死体か瓦礫を踏んでいる状態だったと言うのは、当時救出活動に当たっていた自衛隊員の言である。
そう言った状況であった事を加味して、現在の<新宿>の至る所に、こう言った慰霊碑が建てられているのである。
つまりこの慰霊碑は、<魔震>に遭い死亡してしまった被害者達の魂を慰める為の物であると同時に、墓地の類を用意は出来なかったがこの辺りで手打ちにして欲しい、と言う行政の意思表示の為のモニュメントであるのだ。

「でも何だか特徴的な形の慰霊碑ですね。何だか、何処かで見た様な形の……」

「オベリスク、ですか?」

「そうそれ!!」

 出そうで出ないクシャミのように、目の前のモニュメントの名前が思い浮かばなかった那珂であるが、オガサワラの指摘で漸く思い出した。
そう、この特徴的な形のモニュメントは、オベリスクではないか。日本特有のそれではなく、エジプトの古い時代の物であるとは那珂も知っている。
遠く離れたエジプトの記念碑或いは慰霊碑が、何故日本に建てられているのか。その事を那珂は聞いて見た。

「一目見て、慰霊碑のそれと解るから、だとは聞いた事がありますね。」

 オガサワラもそれが事実なのかどうかは解らない。
そもそもオガサワラが地方から上京する頃には、<新宿>は既にアジア有数の繁華街だったのだ。
直接的に被災したわけでもない、興味を払う筈などなかった。

 何にしても、<新宿>を案内するのである。楽しい場所である事を教える一方で、怖い所だと言う事も教えなければならない。
だが、湿っぽい話をするのは、違うだろうとオガサワラは考えていた。早い話、今この状況で<魔震>の話は、色気がない。
パーキングモードを解除し、ドライブモードにシフトレバーを変えた、その時だった。

「――? あれ? オベリスクにあんなのあったっけ?」


869 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:41:09 nZ4WoNKQ0
 キョトンとした表情で那珂が呟いた。今度は何が、と思い、オガサワラは目線をフロントガラス越しの前方方向から、
那珂の目線に合わせてオベリスクの先頭付近に向け始める。

 一匹の鳥が止まっていた。いや、あれは、鳥なのか?
オガサワラは動物の事などよく解らないが、大きい鳥と言えば、彼の中では鷹や鷲などと言った猛禽類だ。
だがそれらにしたって大きいのは、翼を広げた時、つまり『横』に大きいわけで、『縦』に大きいわけではない。
今オガサワラ達が見ている時は、明らかに縦長の上に、翼を広げている時の大きさが鷲や鷹に倍するそれなのだ。

 明らかにおかしいと思いよく目を凝らして――絶句した。
オベリスクの先端部分に止まっているその鳥は、人間の女の胴体と頭を持っているのだ!!
本来ならば両腕に置換されて然るべきその部位は、地上の如何なる鳥のそれよりも大きな鳶色の大翼に変化しており、
その脚部は人の肉など容易く切り裂けてしまいそうな程鋭い猛禽のそれになっている。
他の部分がリアルな猛禽のそれであるが故に、乳房をあられもなく露出したその人間の胴体部とのコントラストが、酷く不気味で怪物的だった。

 女性の上半身に、鳥の下半身を持った怪物。
ギリシア神話に造詣の深い者がオベリスクに止まる怪物を見たのなら、直に、ハーピー、或いはハルピュイアと言う名を連想した事だろう。
しかし原典のハーピーは偉大なる大地母神ガイアの息子であるタウマスと、大海の化身である神・オケアノスの子であり、
虹を司る女神のイーリスの姉妹と言う、由緒正しい神の系統に連なる女神なのだ。
目の前の怪物には、神の系譜に連なる存在が放つような神韻や神秘さの欠片もない。ただただ醜く、不快なだけであった。

 オベリスクの怪鳥の姿に漸く気付いた那珂。
ギロリ、とハーピーのできそこないの様な怪物が、オガサワラ達の乗るスペーシアを見下ろした。
鳥は夜目、と言う風説を怪物は覆していた。明らかに、フロントガラス越しのオガサワラ達の方を睨めつけているのだから。

「――始祖のくびきは砕かれたり」

 怪鳥は、狂った様なかん高い声で、歌の様なものを口にし始めた。

「此星は我らが産まれし星に非ず。我らが星の民が崇めし諸神はその姿を隠したり。清冽なる川の調べを司る女神も見えねば、猛々しき霹靂神(はたたがみ)も、縹渺たる夜空を司る神も、その崇信の名残欠片も感じず」

 尚も、怪鳥は歌い続ける。

「なれば、この地に響くは、始祖の雷霆。遠くに、近くに。かなたに、こなたに」

 ブンッ、と、髪を振りしだく。

「奈落のこつぼに落ちるが良い。我らはこの地に呪いを掛ける者なり」

 そう言うや、ターボチャージャーを搭載した自動車の様な初速を以て、その怪鳥はオガサワラの車へと向かって行った。
ボンネットに怪鳥の脚部が衝突する。巨人にでも殴られたが如き衝撃が車体に走り始め、車内にいるオガサワラ達を上下左右に揺らしまくる。


870 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:41:39 nZ4WoNKQ0
「きゃっ……!?」

 驚いた様な声を那珂が上げる。
重なった様々なアクシデントに、オガサワラは白痴に近しい状態に陥ってしまったが、直に最優先事項を思い出す。
このような危難に直面した場合、マネージャーが真っ先に優先すべきはアイドルの安全を確保する事だ。
那珂は未来のアイドルと言う高い商品価値を持った人物である事もそうだが、それ以前に未来ある未成年である。最優先で大人が保護せねばならない存在だ。

「那珂さん、この場は俺に任せて逃げて下さい!!」

 こうするのが、最善の方法なのは、当たり前の事であった。

「え、そ、その、大丈夫なんですか!?」

「任せて下さい、こう見えて高校大学と柔道で慣らした身ですから!!」

 二秒程逡巡する那珂であったが、危険な光を宿してオガサワラの方を睨みつけている怪鳥を見ると、何時までも迷ってはいられないと思ったらしい。
「……お願いします!!」、とそう言って那珂はスペーシアから飛び出し、一目散にその場から逃げ出していった。
怪物の方は逃げ出した那珂には興味がなかったらしい。と言うよりは、逃げた所で追いつくとでも思っているのだろう。何せ相手は地上を不様に走る人間で、此方は悠然と空を飛翔出来る魔鳥なのだから。

 車内から転がり出るオガサワラ。柔道をやっていたなど酷いにも程がある嘘八百だった。
そもそもこの男は文化系のクラブに所属していた為、運動などからっきしだ。だから、真っ当に勝負など挑まない。
彼の右手には車体の塗装用のボデーペンスプレーの缶が握られており、これを相手の顔に噴射しようとしているのである。

「クソが、とっとと離れろ!!」

 言ってオガサワラは目の前の怪鳥にスプレーを噴射しようとしたが、それよりも速く相手は翼を勢いよくはためかせ、突風を巻き起こす。
生物の単なる一動作によって生み出される風圧など、たかが知れている、と言う常識を根底から覆す程の勢いだった。
六m程もオガサワラは吹っ飛ばされ地面に不様に転がった。「ひいいぃ……!!」と情けない声を上げる。
家を出てから水の類を呑んで、膀胱に水を溜めていなくて良かった。年甲斐もなく、失禁でスーツを汚しそうになっていた。
いや、よくはない。自分はこれから、目の前の化物に嬲り殺される事が既に決定しているも同然なのだ。全く喜べない。

 折角任された大仕事を果たせず死ぬなんて嫌だ嫌だ、と心の中で叫び続けるオガサワラ。
化物が飛び上がり、十数m程の高さに滞空し始めた。猛禽の爪先は、彼の頭に標準を向けている。
これから何が起こるのか、朧げながらも予測出来てしまう自分が嫌になって来る。
砕けた腰でその場から逃げ果せようと、怪鳥に背を向け始めた、その時だった。

 ドゥン、と言う、鼓膜を強打させ、腹に響く様な重低音が、先ず鳴り響いた。その次の瞬間、世界が一瞬昼になったかの様なオレンジ色の光が頭上で輝いた。
何事かと思い、恐る恐る、オガサワラは怪鳥の方向に顔を向けた。
――化物は、いなかった。嘗てあの怪物が飛翔していた所には、橙色の焔の花弁と灰色の煙が舞い散っているだけである。
パラパラと、オガサワラの近くにこまやかな粒上の物が落下して行く。これは何だと思い、指で摘まんで見る。
それは、砂だった。やけに粘ついている。あの怪物の、血で濡れているのだろうか。

 ガクガクと膝と腰を笑わせながら、オガサワラは立ち上がろうとする。那珂の様子が、心配であった。



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871 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:42:00 nZ4WoNKQ0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「もう、那珂ちゃんのライブステージに相応しい場所を考えてる最中だったのに、空気読めてない!!」

 オガサワラが恐らくいるであろう、オベリスク上のモニュメントから二十m程離れた所に建てられたビルの屋上からであった。
其処で那珂は一人でプリプリと、怒気を露に一人で怒っている。何に対して憤っているかと言えば、それは当然、あの得体の知れない怪物であった。
あの時那珂は、震災からの復興からn年記念のコンサートを開き、其処で鮮烈なデビューを飾ろうか、と言うビジョンを脳内で思い描いていたのだ。
この<新宿>の住民にとってきっと<魔震>とは拭い難い負の思い出であり、忘れられない出来事の筈。
そんな出来事を吹っ飛ばすような明るい曲を以て、自分はアイドルデビューするのだ!! 
そんな妄想を膨らませていると、ニヘラと言う笑みが、止まらない。隠せない。
無論この目論見は、震災から今の年まで、キリの良い数字でなければ効力が半減する事は那珂も解っていた。
<魔震>が<新宿>を襲ったのは何時の事か、聞こうとしていた、そんな矢先に、あの空気の読めない魔鳥が姿を見せたのである。

 聖杯戦争の参加者の手による物だと言う事位、那珂には解る。この程度が見抜けないようでは、水雷戦隊失格だ。
聖杯戦争のセオリーに照らし合わせると、恐らくはキャスターが創りだした魔物、と言う事になるのだろうか。
艦娘として海上で戦闘を繰り広げていた那珂には、未だに聖杯戦争と言う催しはピンと来るものではなかったが、さしあたってはそんな解釈に止めて置く事とした。
これは後で、ダガーに優先して報告しておくべき事柄であろう事は、間違いなかろう。

 あの怪鳥は、消え失せていた。これでオガサワラは、命を取られる心配はなかろう。 

 那珂の白く、細く伸びた両腕に、彼女の可憐な容姿に全くそぐわぬ、鋼色の砲台が取り付けられていた。
彼女のアーチャーとしての、いや。艦娘としての象徴である、宝具・艦装を限定的に搭載。この宝具で、あの怪鳥を狙撃。粉々に爆散させた、と言う事である。
流石に地上にいる状態で連装砲を撃ち放てば、オガサワラも爆発の余波で無事では済まなかったろうが、都合よくあの化物が空を飛んだので、
これ幸いと言わんばかりに那珂が狙った。以上が、事の顛末だ。二十m程度の距離からの砲撃など、全く問題がない。
全く障害物のない状態であるのなら、三百m以上も離れた所からでも、着弾させられる自信が那珂にはあるのだから。

 那珂は考える。
恐らくあの怪物は、自分の事をサーヴァントだと認識出来ていなかったに相違あるまい。
那珂に限った事ではないが、艦娘と言う存在は、自らの象徴である艦装を外した状態であると、全くその力を発揮出来ないのである。
これは一見すればデメリットとしか思えない特質であろうが、逆に言えば、艦装を外した状態であるならば、誰がどう見ても普通の人間であると言う事も意味する。
この性質はサーヴァントと化した那珂にも受け継がれている。彼女は宝具、艦装を非展開の状態に限り、余程優れた察知能力の持ち主でない限りは、
自分の事をサーヴァントと認識出来なくさせるスキルを持っている。ダガーが己のサーヴァントに、アイドル活動などと言う本来ならば絶対許容してはならない約束を、
口約束の上でとは言え交わしている訳は、那珂のこの特殊なスキルに由来している。


872 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:42:16 nZ4WoNKQ0
 このスキルがある限り、確かに自分はサーヴァントだと認識され難くなるし、アイドル活動も出来る事だろう。
しかし、このスキルがある限り、マネージャーのオガサワラにも危難が及ぶ事も意味する。
今回はサーヴァントではなく、サーヴァントが生み出した雑兵が相手だったからまだ良い。
相手が正真正銘本物のサーヴァントであった場合、自分と常に行動する事になるだろうオガサワラは、当然要らぬ火の粉を負い被る事となる。

 那珂は一見すれば明るくぽわぽわした、戦闘など全くこなせそうもない女性に、見える事だろう。
しかしその実彼女は、常に轟沈と重傷と隣り合わせの、深海棲艦との死闘を演じて来た歴戦の艦娘なのである。
状況次第ではサーヴァントも、或いは敵のマスターですらも、その手に掛ける事に躊躇いはない。
そんな、女傑としての素質を裡に秘めた那珂でも、聖杯戦争とは無関係の。しかも、自分の為に頑張ろうとしている人物が死んで行くのは、良い気持ちはしない。

「……守ってあげなきゃねっ」

 艦娘が深海棲艦を相手に、鎬を削っていた理由は、人々の平和を海の上と底から脅かす怪物達から、人類と彼らが享受する平和を守る為であった。
この世界には深海棲艦は存在しない。そもそも<新宿>には海などない。故に那珂が、艦娘としての役割に固執する必要性は、ゼロに等しい。
そうであったとしても、彼女は艦娘であり、アイドルであった。自分に希望を見出した人物には、応えてあげるのが、艦娘ではないか。『アイドル』ではないか。
歌で、愛想で、行動で。彼らの希望を満たさせ果たしてやるのが、そう、アイドルなのだ。その意識は、忘れていない。

 この世界で那珂がその希望を果たさせる相手は、オガサワラと、そして、ダガー。この二人だった。
……しかし、那珂は気付かない。そのオガサワラの希望があわよくば命ごと絶たれてしまえば良いと言うのが、ダガーの本音であると言う事が。
そしてそもそもダガーの真の目的が、那珂をとことんまで利用し、サウンドワールドで見せた暴威をこの<新宿>でも振い、聖杯戦争を制する事に在ると言う事が。

 アイドルとはそもそも、偶像を意味する言葉である。
偶像は、崇拝される物であり、愛される物である。そして同時に――骨の髄まで利用される物でもあった。
那珂は、そんな事にも気付かずに、オガサワラの所へと向かって行く。花咲く輝かしい未来を夢見ながら彼の下へと向かうその姿は、何処までも一人の少女であった。



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873 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:42:30 nZ4WoNKQ0
【市ヶ谷、河田町(UVM本社)/1日目 午前0:45分】


【ダガー・モールス@SHOW BY ROCK!!(アニメ版)】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]スーツ
[道具]メロディシアンストーン
[所持金]超大金持ち
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯確保
1.那珂をとことんまで利用し、自らが打って出られる程の力を確保する
2.オガサワラには不様に死んで貰う
[備考]
・UVM社の最上階から一切出られない状態です
・那珂を遠征任務と言う名の<新宿>調査に出しています
・原作最終話で見せたダークモンスター化を行うには、まだまだ時間と魔力が足りません


【四ツ谷、信濃町方面(三栄町、<新宿>歴史博物館)/1日目 午前0:45分】

【アーチャー(那珂)@艦隊これくしょん】
[状態]健康、艦装解除状態
[装備]オレンジ色の制服
[道具]艦装(現在未装着)
[所持金]マスターから十数万は貰っている
[思考・状況]
基本行動方針:アイドルになる
1.何処か良いステージないかな〜
2.ダガーもオガサワラも死なせないし、戦う時は戦う
[備考]
・現在オガサワラ(SHOW BY ROCK!!出典)と行動しています
・キャスター(タイタス1世{影})が生み出した夜種である、告死鳥(Ruina -廃都の物語- 出典)と交戦。こう言った怪物を生み出すキャスターの存在を認知しました


874 : アイドル学概論 ◆zzpohGTsas :2015/10/24(土) 22:42:42 nZ4WoNKQ0
投下を終了いたします


875 : 名無しさん :2015/10/26(月) 03:33:44 vGAlCmxs0
投下乙です!
那珂ちゃんが可愛かったです(小並感)
ともかく、ハードな世界観を那珂ちゃんのキュートさが緩和する良い話でした
クラゲ社長が黒さを見せる中、那珂ちゃんの存在が冬の日だまりのようです
もう、聖杯戦争は放っておいて、那珂ちゃんがアイドルになる話で良いんじゃないでしょうか…………?


876 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:14:37 3rWp3aIA0
皆様投下乙です

>DoomsDay
さ、さわやかな朝の町に放射能ばら撒く奴があるか〜〜ww
パスカルはご主人様をチラ見したが会わないほうがいいのかもしれない予感
マスター煽りマンは肉体の内部崩壊が進んでるのにいったいなーこれはーで済むって凄いな、凄いぞ…
順調に新宿が魔界化していってて怖いです

>アイドル学概論
那珂ちゃん!アイカツは聖杯戦争ではできないんやで!
君のマネージャーだ→本当!?→消しちゃうんですか?→まぁな のセリフの流れが予言めいていてオサガワラって人が心配です…
NPCを守ろうと決意する那珂ちゃんはまさに新宿の天使、やりたがってるライブとかさせてあげたいですね!
ダガーさんはもう気持ちいいほどの悪役オーラを出しててこれからの悪巧みに期待!


予約分を投下いたします


877 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:17:16 3rWp3aIA0


<新宿>の夜の街は一貫して、剣呑な喧騒に満ちている。
暴力、享楽、謀計……色とりどりのざわめきが広く浅く波及していく都の中で、一際熱をもった点が一つ。
しかしその小さなライブハウスでは、心からの好意と歓声がむしろ清浄とした熱気を燃え上がらせていた。
壇上で歌い踊る少女は観客の視線と歓心を一身に集め、閉鎖された空間を一挙一動にて支配下に置いているといっても過言ではない。
揺れる金色の髪は妖精を連想させ、時に見せる妖艶な表情は女神と夜魔の間を行き来する。
歌声は観客の脳裏に染み込み、ステップは彼らの身体だけでなく心をも誘い、非日常の実感を与えていく。


――― 河の女神に守られて 嬰児は岸辺に流れ着く ――――

――― 羊の中で獅子となり 鍬を片手に神理を歌うよ ――――

少女の歌は、一つの物語のようでもあった。巷に、特に若者たちの間に広まる異界の、魔法を以て栄えた帝国の物語の噂を想起させる。
<新宿>の住民の一部が見た天上の都の夢は、その歌を聴くことでさらに多くの人間に広がっていく。
数日前に発表され、中小プロダクションの新人のデビューシングルとしては不自然なほど大々的に宣伝されたその曲は、<新宿>に根付き始めている。
数年〜十数年に1度現れる、歌手よりも歌の方が人々に強く焼きつく、そんな曲だと言えた。
そんな歌を若くして一種のカリスマ性さえ持つ見目麗しいハーフの少女が奉唱するのだ。
後ろ盾も持たず、芸能界で生まれたサラブレッドでもない彼女の身の上も、人々には好意的に受け止められた。
一時のムーヴメントに流されて驕る事もなく、小さなライブハウスでの仕事にも手を抜かず精力的にこなす少女を慕うファンは日に日に増え続けた。

――― 空より降りた智を授け 未開の世界を切り開く ――――

――― 険しい森も素敵な宝も 不変の時や竜の怒りだって ――――

――― 彼は構わず先に往く 神々さえも届かない ――――

――― 私の王国は永遠だよ 私たちのアルケアはそうきっと ――――

熱狂する観客の先頭、特等席に座っている男が、"アルケア"の単語を聞きつけて視線を上げた。
サイリウムを乱舞させる周囲のハイテンションに全く付き合うことなく、クラシックを聴くようにリラックスしていた男。
遮光性の低いサングラスから知的な眼差しを壇上の歌姫に注ぎ、満足そうに笑みをこぼす。
少女もまた、男の存在に気付き他の観客に向ける物と変わらない笑顔を返した。
おもむろに取り出したサイリウムを掌で弄びながら周囲の歓声をも歌曲の一部として飲み込む男の名はロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ。
ライブハウスに響き渡る曲、"アーガデウムから貴方まで"の作詞作曲を手がけたブームの仕掛け人であり……。
<新宿>の聖杯戦争のマスターの一人である。


878 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:18:39 3rWp3aIA0





「いやあ、いい舞台だったよ宮本くん! 私も童心に返って楽しめた……君のパフォーマンスは一級品と認めよう」

「フンフンフフーン♪ アイドルっぽかったかな〜?」

ライブが終わり、楽屋に顔を出したムスカを出迎えたのは、ステージ上の超然とした姿が見る影もない、ダラけた少女だった。
ムスカの職業は軍人である、適当で自由な雰囲気は快いものではなかったが、仕事を見事にこなした相手を見下すほどのものではない。
加えて彼の意識は既に自分の本来の血筋に向いており、己のサーヴァントという身近な見本に学び、『王』として自分の狭量な面を自省しようとする傾向にあった。
故にムスカは駆け寄ってくる男性に鷹揚に笑いかけ、円滑な関係を結ぼうと努める。男性は少女を担当するプロデューサーである。

「ムスカさん、昨日は申し訳ありませんでした。少々トラブルがありまして……」

「何、私は気ままな外国暮らし。一日や二日の予定変更など大した問題ではないよ」

ムスカの<新宿>でのロールは外国から魔界都市―――否、<魔震>より復興した廃都の調査に送り込まれた諜報員。
本国から来たという事になっている連絡員に、定時報告を口頭で行う以外には特に強制力のない役割である。
聖杯戦争の為に利用した者から送られてきた招待に応じたのにも特に意味はなかったし、それが一日順延した事にも関心は薄かった。
だが、少女の右腕半ばに包帯が巻かれているのを見て、ムスカの脳内に疑問符が浮かぶ。
数日前に初めて出会った時にはなかったのでステージ衣装の一部かと思っていたが、簡素な練習服に着替えた後も巻いているのだ。
ムスカが自分の右腕を見ていることに気付いた少女は、慌てたようにタオルで包帯を隠す。敏速な動きだった。

「……怪我をしたのかな? 最近のこの街は物騒だし、護衛でも雇った方がいいと思うがね」

「ん……んー。それはだいじょーぶ。多分だけど」

「暴漢に襲われたとか、レッスン中に怪我したとかではないのでご心配なく。明後日も市ヶ谷の方で野外ライブがありますし、よければ見に来てくださいね」

「大手のプロダクションとか音楽会社が来て、テレビ中継も入るみたいだからねー。やるぞ〜☆何かを〜」


879 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:19:22 3rWp3aIA0


男性プロデューサーが会話に割って入る様子を見ると、あくまで部外者のムスカに軽々に話すようなトラブルではないようだ。
それ以上の追求をやめたムスカだったが、そのトラブルによって少女が使い物にならなくなれば彼としては少し困る。
ムスカのサーヴァント・キャスターの宝具……『廃都物語』の搾取範囲を広げる為に打った手の一つでしかないとはいえ、この手段はリターンが特に大きかった。
<新宿>当世の文明、文化を研究し、苦心模索の末に辿りついた、アイドルという存在を媒介にした夢想の拡散。
少女の身に何かあった場合は、"代わり"を用いてこの計画を続行することになるだろう、ムスカはそう考えた。

「知り合いが生でテレビジョンに映るとは動悸を抑えられないね。どうだろうプロデューサーさん、君のプロダクションが抱える他の子女達にも、私から曲を贈りたいのだが」

「おお! では……」

「既に何曲か書き上げている。ネタには困らぬ境遇でね……宮本くんには合わない曲も出来てしまったし、他の娘にもチャンスをあげたいと君が言っていたのを私は覚えているよ」

キャスターから授かった知識を元に練ったマスター作の詩を、キャスター自身に添削させる事で美術品や骨董品と同じ性能を発揮するに至った魔性の曲。
歌い手の技量や影響力に大きく効果が左右されるが、少女の所属するプロダクションを自ら検分したムスカの見立てでは、そこには彼女に勝るとも劣らぬ才能を秘めたアイドルの卵が揃っていた。
彼女たちもスターダムに駆け上がる足がかりを得られ、ムスカは王になる為の力を彼女達の協力で民衆から吸い上げる事が出来る。
ムスカが学んだ現代知識風にいうならば、WinWinの関係という奴だ。

「一足先にデビューした宮本くんから見て、特に抜きん出た子はいるのかな? 参考までにお聞きしたいね」

「シキちゃんはお休みしてるしー、うーん、わかんなーい☆プロデューサ〜」

「はは、人選は進めておきます。細部は後日詰めましょう、ムスカさん」

「ああ。では私はこれで失礼するよ。……アーガデウムから!」

「貴方まで!フレデリカ〜☆ バイバイー、ムッシュムスムス〜」

少女がレギュラーを勤めるラジオの定型挨拶を交わして親愛を示しながら、ムスカは楽屋を立ち去った。
部屋を出て帰路に着く彼の顔には、先ほどまでの社交的な色は微塵も残っていない。
空になったステージの前を通り過ぎ、熱狂していた観客が今夜見る夢を思いながら、醜悪な笑みを浮かべていた。


880 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:20:26 3rWp3aIA0





「やあ、キャスター、久しぶり……なんだいこの部屋は……」

「『この部屋は君のラボにでもすればいいよ』……珍しいな、マスター。ここは私の陣地として活用させてもらっている」

結城美知夫が自宅……高級マンションの一室に足を踏み入れたのは数日ぶりの事になる。
賀来神父と最後の睦言を交わしたあの日から、結城は銀行の仕事がてら<新宿>中を歩き回って見聞を深めていた。
各地に拠点を築き、マスターとサーヴァントを探したり、土地勘を養ったりと精力的に活動する彼を、キャスター……ジェナ・エンジェルは特に気にかけてもいなかった。
裏で動く隠密活動の巧みさにおいてエンジェルは結城の手腕を疑っておらず、己の地盤を固める作業にマスターの協力が必要ではない以上、行動を共にすることを重要視しなかったのだ。
その作業の結果として、ところどころに科学レベルが数百年進んだかのような機械が犇めき、陳列された培養カプセルの中に肉塊や人間が詰まっている異常な空間がここにある。
目新しい光景を前に興味深げな結城に足早に近づき、懐に手を入れて一本の鍵を抜き取るエンジェル。矯めつ眇めつ、群青の輝きを放つ契約者の証を頭上に掲げた。

「おいおい、手癖が悪いなぁ」

「貴様が私に会いに来る理由など、聖杯に手をかけるため以外にありえまい。……やはりな」

「夜中に急に光りはじめてねぇ。周りの人間を誤魔化すのに骨を折ったよ」

「周りの人間。あの神父ではないようだが……どうやら私のマスターは禁欲とは無縁のようだな」

鍵を結城の懐に戻しながら、嫌味にならない程度の香水の芳しさの中から、彼の物とは違う体臭を嗅ぎ分けたエンジェルの眼が嫌悪に染まる。
旺盛な性欲を思う様解消しているらしい己のマスターだったが、褥を共にする相手は十や二十ではないらしい、全くもって気に食わない、と。
かえって面白そうに破顔しながらサーヴァントが放つ無言の掣肘を避わす結城が、銀行支給の鞄からA4用紙を取り出した。
差し出された紙片を受け取り目を通すエンジェルの表情は、ますます険しいものとなる。

「まったく、人を淫売みたいに言うのはやめてほしいね。ぼくは必要とあらば自分の本能に従って行動するし、悪趣味だ悪辣だと言われればそりゃあ否定は出来ないようなヤツさ。
 だが必要のない時に自分の本能を曝け出すほど野生的に生きてるつもりはないぜ。……例外は一つあったが、その原因はもういない。きみには話したよな、キャスター」

「なるほど、理性的に生きた結果がこのリストか」

「ハハ、理性的じゃなく都会的に、だねぇ。そう、彼らは<新宿>の有力者やその子弟たちさ。色々親しくさせてもらっているからね、貴重な情報源ってとこだ」

エンジェルの手元の用紙には、雑多な肩書きが付記された人間のプロフィールが連なった表が印字されていた。下はローティーンから上は還暦過ぎまで老若男女見境ない。
マスターが努力を重ねた単独行動による確かな成果を提示されてもなお、彼女の機嫌が好転する事はない。
結城はこのリストの全員と間違いなく肉体関係を結んでいると、エンジェルは確信していた。


881 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:22:09 3rWp3aIA0


「節操がなさすぎるぞ。貴様ほど軽蔑に値する人間も珍しいな」

「いくらでも軽蔑してくれ。僕たちは似たもの同士だ、仲良くはしてもご機嫌取りなんてまっぴらだからねぇ」

「……このリストの中には私が関与した人間はいない。これからも彼らを悪魔化させるのは控えよう」

「話が早くて助かるよ、キャスター。それをお願いしに来たのさ。交流中に相手が悪魔になるなんてごめんだからね……彼ら自身と彼らから流してもらった情報を教えておこうか」

リストを事務机の上に置いたエンジェルが、「聞こう」と短く答えながら、豊かな黒髪を苦悩に揺らす。
彼女にとって許容しかねる淫蕩なマスターの行動であったが、根底で自身と共有し共通する面のある彼がやっている事だけに複雑な感情があるようだ。
即ち、同属嫌悪と単純な侮蔑の感情が混ざり合って自身についても鑑みざるを得なくなるというアイデンティティの危機である。
とはいえ一種の悟りの境地に到達し、強力な精神耐性を持つ彼女であればこそ"頭痛の種"程度に収まっているのだ。
結城美知夫という真正の悪魔よりも悪魔らしい人間は、パスによって心と魂を繋げるサーヴァントのマスターとしては最悪の部類といえた。

「まずは彼、通称ゴメス・オーザック。新宿区の環境課長で、妻子ある男色家。逸物はやや右曲がりで、相手に屈辱を味わわせるのが好きなSッ気の強い男でね、うまくプライドを刺激してやれば一気呵成に腰を」

「やめろ、耳が腐る。 得た情報だけで構わん!

「そうかい?」

飄々と語り始める結城を見ながら、エンジェルはマスターの僅かな変化に気付く。
死と大望成就を目前にして最愛の神父を失い、心に空虚を感じていた、初対面のころの彼よりも僅かに熱がある。
その事について問いただすと、結城はニヤリと笑って契約者の鍵を示してホログラムを表示、討伐令が出された二組のうちの一つを指差した。

「この黒贄礼太郎ってサーヴァントが白昼の大量殺戮をやらかしたとき、近場で見ていてね。君たちの逸脱ぶりを改めて実感したんだよ」

「巻き込まれずに済んだとは日頃の行いが悪い割りには悪運が強い奴だな。それで、どうした?」

「ぼくの人生はまあ波瀾万丈だったが、それでもアレは常軌を逸していると思った。あんなものがいるこの聖杯戦争を引っ掻き回せると思うとね……かっての情熱も再燃するってものさ」

結城美知夫は生前、MWという力に惹かれ、それを得る為に奔走した。
自分の人生を台無しにさせたそのガス兵器を黒幕たちが傀儡に尻拭いをさせて現実から遠ざけようとする様を見て、MWこそが己の全てをかけて手に入れる価値があると信じた。
この狂人にとってMWとは自分を壊した憎悪の対象ではなく、壊れた自分の望みを叶える為の願望器だったのだ。
MW事件の黒幕などとは比べ物にならない力を持つサーヴァントたちの闘争の結果により得られる聖杯という奇跡は、MWを遥かに超える魅力的な道具として彼の眼に映っている。
暗く燃え上がる結城の情熱に、しかしエンジェルはさほど興味を引かれない。結構なことだな、と思うだけだった。

「ぼくがこれだけ頑張っているんだ、君のほうの仕込みも順調だと思いたいね。どうなんだい調子は……」

「順調だよ。ゴトウくん、検体人員のファイルを出してくれ」

「はい」


882 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:27:31 3rWp3aIA0


本来の空間より魔術的作用で拡げられた研究室の奥から、白衣の男性が姿を現す。
結城は少なからず驚いたが、動揺した様子もなくエンジェルに従うのを見て、悪魔化させた住民だろうと当たりをつけた。
アートマを得て悪魔の力を得た人間は、簡単には自我をなくさない。エンジェルほどのカリスマと技術を併せ持つ研究者になら、普段から付き従う事を望む者もいるだろう。
先ほどとは反対にリストを渡された結城は、内容を淡々と補足説明するエンジェルの声を聞きながらファイルをめくる。
その分厚い研究書に記された情報量は、少なからず結城の背中を汗で濡らせた。

「現時点で検体は235体。うち96体は能力不足等の理由で廃棄、さらにこちらに牙を剥いた42体を処分し、残り97体を経過観察中。現時点でサーヴァント級の力を持つ喰奴は4体と言ったところか。
 生存個体の種別分類は獣族21、飛天族13、魔族22、龍族9、鬼族15、鬼神族14、神族2、夜叉鬼1となっている。過去に例のない種類の悪魔もいて、暫定で分けた個体もいるがな。
 ここ<新宿>で見られる特殊な傾向としては、喰奴たちが夜、夢を見なくなったという報告がよく成されているな。原因は不明だが」

「よく他人に節操がないとかいえたものだな、きみも。何故ここまでやって討伐令を出されていないんだい」

フン、とエンジェルが鼻を鳴らす。彼女にとってはまったくの愚問だった。

「かのバーサーカーを擁する二人の討伐対象は、恐らくは魂喰いが目的で凶行に及んだのだろう。この街の秩序を、強すぎる渇望で乱したから未だ正体の見えない仕掛人に危険視されたのさ」

「戦力が主と従二人だけとは言っても強さは学生運動どころか軍隊並み、そんな勢力がガツガツ争うだけあって名称も戦争っていうんだ、戦場がムチャクチャになるのはしょうがないと思うがなぁ」

「何事にも、秩序の理解は必要さ。上辺を取り繕う役には立つ」

皮肉げに言うエンジェル。結城はなるほど、と相槌を打って、己のサーヴァントの内心を察したような事を口に出す。

「きみがやっていることは、秩序を乱すことじゃない、と」

「私は<新宿>の住民にアートマという力の烙印を与えているだけで、助言や指導をする事はあっても支配して操るようなことはしていない。
 巷で噂のミンチ殺人も、"欲求"を隠すだけの配慮と知恵のない処分対象……<新宿>の人間が選び行った選択だ。そういった個体は極力処理するようにしている。大半が役に立たないからな」

悪腫を燻りだして排除しているのだから、治安維持に貢献しているといっても過言ではないさ、と言うエンジェルに、露悪的な様子は見られない。
本気でそう思っているんだな、と結城は感じ、このサーヴァントが抱えるものについて思いを巡らせた。


883 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:29:54 3rWp3aIA0

「きみは人間って生き物を全く信じていないし、彼らを恨みに怨んでいるんだねぇ」

「? ……恨んではいないよ、マスター。彼らにはあるべき姿と迎えるべき末路があって、そこに正しく誘導してやるだけさ」

「大時代的を通り越して神話の領域だな、君の夢は」

「すぐに現実になる」

「ぼくの夢も、そうなってほしいもんだ。……賀来はここには来なかったのかい?」

ファイルの最後まで読み進めて、結城は意外そうにエンジェルを見る。
エンジェルの性格上、嫌悪する相手でも悪魔にして研究することは忌避すまい。
結城の自宅を賀来が訪れれば、あの偽者も当然魔の手にかかると結城は思っていたし、神父の人格を完全に模倣した存在がどんな悪魔に成り果てるのかと戦々恐々だったのだが。
エンジェルは、「訪れはしたがな、悪魔にはしていないよ」とだけ答えて、話を切り替えた。

「悪魔化ウィルスも在庫を切らした。失敗個体から回収した魔力で生成を賄っていたが、成功結果に収斂されてきたのでな。まあ本戦も始まったことだ、しばらくは新しい悪魔は作らない予定だが……」

「なんだい?」

「貴様の持病、どれだけ生きられるか危ういほど進行していると言っていたな。悪魔化して対処しておくつもりはないか?」

事も無げに言って、エンジェルは握手を求めるように腕を差し出した。
しかし、結城はそれには応えなかった。肩をすくめて、エンジェルに背を向ける。

「その必要はないよ、キャスター。痣は一つで十分さ」

「ファッションが先鋭化した街だ、アートマがどこに出来ても誤魔化せるだろう。現に喰奴たちは包帯や服で隠したり、そもそも刺青として隠していない者も多いぞ」

「あの神父に寝物語で悪魔の誘惑には乗ってはいけない、と聖書を語られてねぇ。自分に言い聞かせているようでもあったなぁ」

「強制はしない。貴様なら強力な悪魔になると思うのだがな……」

残念そうに言うエンジェルに、結城は好感を抱いた。
仮に結城が悪魔化した結果、サーヴァントとマスターの主従の契約にバグが生じてもこのキャスターは意に介さないだろう。
そのバグを利用して事態を好転させようとはしても、不具合がマスターに与える異常や苦痛など歯牙にもかけないと言い切れる。
他者を踏みにじる事を悪とすら思わず、使命として黙々とこなす。彼女は、本当の意味で人間である事をやめているのだから当然だ。
結城は破綻していく存在を見るのが好きだし、自分と同じく破綻した人間を弄ぶのは大好きだった。
玩具というには度を越して危険だが、エンジェルとの聖杯戦争は実に楽しいものとなるだろう。

「ぼくの部屋を作ってくれよ、キャスター。しばらくはここから銀行に通うからさ」

「いいだろう。私以外のサーヴァントが作ったらしき構造体も増えてきている。外出時はより注意する事だ」

天使と悪魔、混沌と混沌。現時点では、二人の聖杯戦争は概ね彼らの企図通りに進んでいた。


884 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:35:09 3rWp3aIA0


【市ヶ谷、河田町方面(砂土原方面・超高級マンション)/1日目 午前7:30分】

【結城美知夫@MW】
[状態]いずれ死に至る病
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]銀行員の服装
[道具]
[所持金]とても多い
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利し、人類の歴史に幕を下ろす。
0.とにかく楽しむ。賀来神父@MWのNPCには自分からは会わない。
1.<新宿>の有力者およびその関係者を誘惑し、情報源とする。
2.銀行で普通に働く。
[備考]
・新宿のあちこちに拠点となる場所を用意しており、マスター・サーヴァントの情報を集めています(場所の詳細は、後続の書き手様にお任せ致します)
・新宿の有力者やその子弟と肉体関係を結び、メッロメロにして情報源として利用しています。(相手の詳細は、後続の書き手様にお任せ致します)
・肉体関係を結んだ相手との夜の関係(相手が男性の場合も)は概ね紳士的に結んでおり、情事中に殺傷したNPCはまだ存在しません。
・遠坂凛の主従とセリュー・ユビキタスの主従が聖杯戦争の参加者だと理解しました。

【キャスター(ジェナ・エンジェル)@DIGITAL DEVIL SAGA アバタールチューナー】
[状態]健康
[装備]白衣
[道具]悪魔化ウィルス(残量極小)
[所持金]新宿住民の財布×犠牲者の数
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に勝利し、人類の歴史に幕を下ろす。
1.喰奴の経過観察、他の主従の情報収集に努める
2.手駒として仕えそうな喰奴以外は、時期が来れば処分する。

[備考]
・新宿全域に、キャスターが悪魔化させた住民(喰奴)が100体近く存在し生活しています。彼らの望みや嗜好を知り、観察していますが、ほとんどの喰奴に自分の情報は明かしていません。
・研究助手を志願した喰奴(後藤@喧嘩商売)のように、キャスターの存在を知る者もいるようです。(喰奴となったNPCの詳細は、後続の書き手様にお任せ致します)


885 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:36:33 3rWp3aIA0





翌日の生中継ライブの場所を調べ終わり、就寝しようとしていたムスカが群青色に輝く鍵に気付いた。
本戦の開始を告げるその内容に驚きながらも、サーヴァントに念話で知らせようとするも不発。
ムスカとタイタス一世が拠点として利用しているのは、百人町の一角に存在する高級ホテル。
しかし陣地はそのホテルの地下を異界化させて幾代のタイタス王の墓所を再現させた空間であり、そこにタイタス一世が籠もっていると外からでは念話は通じない。

「あそこにはなるべく足を踏み入れたくはないが……」

タイタス一世が"夜種"と呼ぶ異形が徘徊し、彼の意思一つで迷宮と化す危険地帯であるが、それ以上に死者の残留思念が漂うあの場はムスカにとっても不気味だった。
とはいえ、放置してタイタス王の降臨を待つには事が重大すぎる。
ムスカは寝巻きを正装に着替え、1階の一室に隠された墓所の入り口へ向かい、合い言葉により出現した光球に手を触れた。
下腹部から引きずり降ろされる印象を覚えたかと思えば、目の前の景色が薄暗い岩室へと変貌した。

【タイタス王よ! 私を御身の元へ導かれよ!】

墓所は複雑に入り組んでおり、何度か足を踏み入れただけのムスカでは歩き回るのは時間の無駄でしかない。
念話を送ってほどなく、眼前の岩壁が音を立てて崩れ、空洞ができた。
覗き込んでみれば、螺旋状の階段が構築されている。
一段飛ばしに駆け下りるムスカが額に大粒の汗を浮かべると同時に階段は途絶え、巨大な銀色の扉が立ちはだかる。
手を当てると、全くの抵抗なく扉は開かれた。

『……誰だ、この小人は』

「!?」

ムスカが見たこともない部屋に、荘厳な威圧を放つ声が届く。
響く声は一つだけではなかった。部屋のあちこちからささやき声やうめき声がムスカに浴びせられる。聞き覚えのある声は一つもない。
だがその不協和音の全てに、ムスカが己のサーヴァントから感じているイメージが潜んでいた。
それは、王の持つ威容だった。竜骨で造られた円卓に、霞のような魔貌の徒が腰を下ろしているのだ!
唯一人、円卓の奥の盛り上がった上座に腰掛ける始祖帝が、周囲の存在へ一層強い覇気に満ちた言葉を放つ。

「……彼の者は佳き人也。現世への繋ぎ手にして、我らの同胞」

「キャスター……彼らは、まさか……」

         ........
「ここに集うはタイタスのみ」


886 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:38:55 3rWp3aIA0


ムスカは、タイタス一世の能力はもちろん、彼が提供したアルケア帝国の史料をもそらんじている。
タイタス一世の言葉をその知識から推すれば、この場に集う偉霊の正体にも察しがつく。
彼らこそ、本来は墓所の玄室で眠りに就いている、タイタスの座を連綿と受け継いできた皇帝たちに相違なかった。
未だ実体を得ず、霊体にすらなりきっていない"過去の残骸"とはいえ、アルケアの歴代皇帝が墓所の最奥にて一堂に会していたのだ。
タイタス一世から魔力を供給されるまでは他に直接干渉する事のできない存在とはいえ、存在するだけで夜種などとは比べ物にならない恐怖を伝播する彼らに、しかしムスカは怯まない。
初代皇帝と対等な契約を結んだ自分が臆するなど、あってはならぬと胸を張る。それを後押しするように、タイタス一世の言葉が空を裂く。

「我が目下、十六番目の席に連座せよ。我が貴種(マスター)の言葉を聞こう」

「火急の用事だ、キャスター。お言葉に甘えさせていただくよ」

ざわつく霞をすりぬけ、円卓に並ぶムスカ。本戦開始の報を、タイタス一世へと伝達する。
『何故斯様な雑種を』『始祖帝は乱心めされたか』……敵意に満ちた言葉や視線がムスカに集中する。
始祖帝はムスカに示された契約者の鍵を昏く赤い瞳で見つめ、後継者たちの問答を無視していた。
討伐令のくだりを読み終えた彼が頬杖をつくと皇帝たちのざわめきは一瞬で静まり返る。
白髪の絶対者が口を開く前兆を察した彼らの様子を見て、ムスカはタイタス一世への憧憬を強める。これぞ王の姿ではないか、と。

「今日この時より真の戦いが始まるとは、これも因果か」

「キャスター、それはどういう……」

「そなたの尽力により、地上には帝都の夢が満ちた。今宵をもってして、魔都の天上に聖都が現出するはずだった」

初耳であったが、ムスカの心に多幸感の火が灯る。
<新宿>での活動は決して無駄ではなかった、成し遂げたのだ―――だが、今もって天空の城砦は現れていない。
混乱するムスカに、タイタス一世は静かに道理を説く。

「我らタイタスは、その瞬間を待ちわびここに集った。だが、永遠の夢は邯鄲の夢に堕ちた。この魔都には、我が彼岸たる魂が在るゆえに」

「キャスターの、彼岸……?」

「即ち、我慾に非ず。即ち、善悪に非ず。即ち、滅びへと進む惰弱。即ち、人界の否定者。彼の愚者が、己が夜種を地上に広め、我が夢の器を穢している」

「他のサーヴァントが、アーガデウムの完成を阻害しているという事かな」

「彼奴の思惑は知らぬ。その行動それ自体が、正真の夢に澱を混ぜるのだ」

ムスカには実感できない事なので理解が難しいが、とにかくキャスターの宝具『廃都物語』は万全に作用していないらしい。
ならばその原因を取り除かねば、と進言するムスカを、白貌の皇帝は制した。


887 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:42:23 3rWp3aIA0

「枝を切るより根を育てようぞ、貴種(マスター)。より広くから吸い上げ、より鮮明に地上を夢に侵すのだ」

「しかし……今以上となると、露呈のリスクが……」

「余に、案ありき。今宵告げられた啓が、それを策へと昇華させた」

「お伺いしたい、タイタス王よ」

タイタス一世の枯れ木のような腕が上がり、方陣が描かれる。
刹那、ムスカを除くその場の十二のタイタスの影がもがき苦しみはじめた。
タイタスの名を冠する者を魂縛する始祖帝の魔力が、扇状に放たれる。
程なくして空間に亀裂が入る。ボトリ、と暗室に何かが落ちる音がした。
ムスカは―――それに、視線を飛ばしたことを後悔する。あまりに醜い、死体の寄せ集めとしか言いようのない存在がそこにいた。


『ギ……フソ……タイタ……チウ……ハハ……』

「最も生に餓えた愛し子よ。英霊に墜ちた今、我が命令を受け付けぬそなたであるが……」

「タイタス十世……全てに公平な死を与えた、古王朝の終幕……」

ムスカの呟きに反応して、"タイタス十世"の目が肉隗に浮き上がった。墓所の迷宮に封じられた"タイタス二世"と並びこの場に参列していなかった十世の放つ腐臭は間違いなく、実在している。
そう、タイタス十世は受肉していた。他に干渉できない筈の身にありながら夜種を喰らい、おぞましい異形とはいえ実体を得たのは、彼が"死"に関する逸話を無数に持つタイタスだったからだろうか?
周囲を見渡し、触腕を伸ばそうとする十世であったが、始祖帝が照射する魔力の圧を浴びただけで、空間上に固定されたかのように動きを封じられている。

「……余とそなたが共にタイタスである以上、貴種(マスター)の令呪には逆らえぬと知れ」

「令呪……!?」

「この汚らわしくも美しい愛し子を、余は地上に解き放つ。それには、そなたの令呪の助けが必要だ」

細微な指示が念話でムスカの脳裏に届く。ムスカは同意すべきか、一瞬迷った。
令呪とは、マスターがサーヴァントに対し問答無用で上位に立てるほぼ唯一の手段。
三回消費すれば、サーヴァントを野放しにするのを許諾するようなものなのだ。
だが、ムスカは脳内の警鐘を振り払った。タイタス王は自分の才を認め、その絶大な力を惜しみなく貸してくれているのだ、と。
保険を減らす事を躊躇する様子など見せれば、相手をいたずらに警戒させてしまうだけ、と決断し、左袖をまくり令呪を掲げた。


888 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:44:39 3rWp3aIA0

「―――我がサーヴァントたる始祖帝に、令呪を持って進言する! 『タイタス十世に黒贄礼太郎の姿を取らせ、<新宿>の街に解き放て!』」

「令呪に応じ、タイタス十世に命じる。変貌し、貴種(マスター)に付き従え。その身が一度滅びるまで」

『ア……アコアア…レ…ロッ……コワレ……ル……』

ゴキゴキと異常な音を立てながら、タイタス十世が腐肉と髄液を撒き散らしながら、遠坂凛のバーサーカーを模した姿へと変わっていく。
息を呑む皇帝たちの間から、『姉さん……』『……駄目よ』という声が聞こえた。その方向を一瞬だけ振り向いて、タイタス十世の瞳からは光が消えうせる。
模した現物とは違い、彼には正気を保つことが出来なかった。狂気を守る事もできなかった。今の彼は虚無。放出された令呪の魔力がその全身を覆い、上辺だけを整える。
王家の墓所玄室に副葬品として捧げられ、各タイタスが保有する準宝具とも言える礼装の一つ、霊樹細工琴型弓は黒い魔力を帯びた棍棒のように成り果てていく。
外見だけは黒贄礼太郎となってムスカに跪き、微動だにしないタイタス十世を見遣りながら、タイタス一世が告げる。

「この者の悪名は地上に轟いている。アルケアを想起させる要素を加え、もう一度騒ぎを起こさせれば、悪名に彩りが付いて悪夢を広げるだろう」

「だがこの偽装がバレでもすれば、今度は我々が討伐令の対象に……」

「居場所も明かされぬ布告など……タイタスの名と我が貌が知れ渡る事は、余にとって鬼門足り得ぬ。夢を見る者が、数名増えるだけの事」

「豪気な御人だよ、貴方は。万事抜かりなく遂行しよう、キャスター。惨劇の舞台にもアテがある。無体にも再度無辜の民を虐殺する悪鬼の姿が、即座にこの街全体に広がる場所のアテがね……」

タイタス一世は以前より、巷に広がる遠坂凛とその連れ合いの悪名を利用できないか、と漠然と考えていた。
そんな事をしなくても廃都の想念は<新宿>に広まり、物語は完成すると踏んでいたから、余計な労力は使わなかっただけの話だ。
だが現状、より多大な魔力収集の必要が出てきた上に討伐令という餌に他のサーヴァントが釣られる展開を考えれば、これは令呪を一画使う価値は十分にある陰謀と言えた。
魔力の収集はどう転んでも早まり、地上の戦いを激化させる期待も持てる。仮にタイタス十世が失われこの聖杯戦争の間使えなくなるとしても、採算は合う。
存在そのものがアルケア古王朝という神話の最終節である十世は、バーサーカーとして暴れる姿を見せるだけで住民にアルケアへの想念を抱かせる。
莫大な暴力を預けられたムスカは、内心では恐れを感じていた。戦いなどする必要もなく勝てる……そんな期待は早々に打ち砕かれたのだ。
だがそれ以上に、王権を揮い己の優位性を分かりやすく証明できるとなると、蛮勇じみた興奮があることも否定できない。
生中継で新宿中が注目するイベントに冷や水をぶちまけ、愚民どもに支配されているという事を思い知らせてやれると思えば、ムスカの悪辣な野心が一層奮え立つ。


889 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:46:06 3rWp3aIA0


「万乗の才を持つ若人たちが亡くなると思うと心が痛むが……まあ、用済みなのだから仕方あるまい。せめて最期まで壇上の女王として看取ってあげねばな……」

下卑た笑みを浮かべるムスカに、悼みの感情などまるで感じられない。
彼にとっては自分以外の全てが、利用すべきものでしかなかった。
その本音が漏れていると気付き、慌てて顔を手で覆うムスカにタイタス一世が大らかな言葉をかける。

「その増上慢こそ、庶人に望めぬ血の成せるもの……貴種足る徴。そなたは間違っていない。汝の欲するところをなせ、それが余の法とならん」

「過分な言葉、感謝するよキャスター。君と私は一心同体だ!」

自分の王の血筋を認める発言に、ムスカのプライドとサーヴァントへの信頼感が膨れ上がる。
まるで親のように優しく、目指す王の姿に最も近い偉大なるパートナー。これほど利用しがいのある者もいない、と。
事実タイタス一世にとってムスカは、我が子のごとく愛すべき存在だった。








―――――そう、タイタス一世は、この部屋にいる全員を、己を愛するように愛していた。


890 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:49:39 3rWp3aIA0

【高田馬場、百人町方面(百人町三丁目・高級ホテル地下・墓所)/1日目 午前0:45分】

【ロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ@天空の城ラピュタ】
[状態]得意の絶頂、勝利への絶対的確信
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]普段着
[道具]タイタス十世@Ruina -廃都の物語-
[所持金]とても多い
[思考・状況]
基本行動方針:世界の王となる。
0.アルケア帝国の情報を流布し、アーガデウムを完成させる。
1.本日、市ヶ谷方面で行われる生中継の音楽イベントにタイタス十世を突撃させて現場にいる者を皆殺しにし、その様子をライブで新宿に流す。
2.タイタス一世への揺るぎない信頼。だが所詮は道具に過ぎんよ!
[備考]
・美術品、骨董品を売りさばく運動に加え、アイドルのNPC(宮本フレデリカ@アイドルマスター シンデレラガールズ)を利用して歌と踊りによるアルケア幻想の流布を行っています。
・タイタス十世は黒贄礼太郎の姿を模倣しています。模倣元及び万全の十世より能力・霊格は落ち、サーヴァントに換算すれば以下のステータスに相当します。
. 【クラス:バーサーカー 筋力D+ 耐久E 敏捷C 魔力D 幸運E- スキル:狂化:E+ 戦闘続行:E 変化:- 精神汚染:A- 呪わし血脈:EX】
 ※十世を直接的、間接的問わず視認すると、NPC・聖杯戦争の参加者に幸運判定が行われ、失敗するとアルケアの想念が脳裏に刻まれます。(実害は皆無だが、アルケアの夢を見るようになる)
・一日目の市ヶ谷方面の何処かで生中継の音楽イベントが行われます。(時間・場所の詳細は、後続の書き手様にお任せ致します)
・遠坂凛の主従とセリュー・ユビキタスの主従が聖杯戦争の参加者だと理解しました。


【キャスター(タイタス一世(影))@Ruina -廃都の物語-】
[状態]健康 『我が呪わし我が血脈(カース・オブ・タイタス)』を使用中(タイタス十世を召喚)
[装備]ルーンの剣
[道具]墓所に眠る宝の数々
[所持金]極めて多いが現貨への換金が難しい
[思考・状況]
基本行動方針:全ての並行世界に、タイタスという存在を刻む。
1.魔力を集め、アーガデウムを完成させる。(75%ほど収集が完了している)
2.肉体を破壊された時の為に、憑依する相手(憑巫)を用意しておく。(最有力候補はマスターであるムスカ)
3.人界の否定者(ジェナ・エンジェル)を敵視。最優先で殺害する。

[備考]
・新宿全域に夜種(作成した魔物)を放って人間を墓所に連れ去り、魂喰いをしています。
・『我が呪わし我が血脈(カース・オブ・タイタス)』で召喚したタイタス十世を新宿に派遣していますが、令呪のバックアップと自力で実体化していたタイタス十世の特殊な例外によるものであり、
 アーガデウムが完成してキャスターが真の姿を取り戻すまでは他のタイタスを同じように運用する事は難しいようです。
・キャスター(ジェナ・エンジェル)が街に大量に作り出したチューナー(喰奴)たちの魂などが変質し、彼らが抱くアルケアへの想念も何らかの変化を起こした事で
 『廃都物語』による魔力回収の際に詳細不明の異常が発生し、魔力収集効率が落ちています。


891 : 夢は空に 空は現に ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 05:50:41 3rWp3aIA0
以上で投下終了です。


892 : ◆2XEqsKa.CM :2015/10/28(水) 06:40:50 3rWp3aIA0
すいません
>>884

【市ヶ谷、河田町方面(砂土原方面・超高級マンション)/1日目 午前7:30分】



【市ヶ谷、河田町方面( 富久町・超高級マンション)/1日目 午前7:30分】

に修正させていただきます


893 : 名無しさん :2015/10/28(水) 09:51:51 qXg0I6z20

まさかVIPRPGからNPC候補が出るとは思わんかった


894 : 名無しさん :2015/10/28(水) 20:05:14 i3xd48iA0
投下乙です、すげー雰囲気だな…エンジェルたちもタイタス側も
十世の変容といいおぞましくて頽廃的
ムスカもムスカらしく驕ってるねえ


895 : ◆ACfa2i33Dc :2015/10/31(土) 01:05:14 UHWO8Jsk0
投下お疲れ様です
まず一つ報告を
タイタス1世のスキルに以下のスキルを追加しました
精神耐性:B
 精神攻撃などに対する耐性。数千の時を生きたタイタスは、既に人の持つ精神構造を逸脱している。
 Bランクまでの精神に干渉するスキル・宝具を無効化する。Aランクのものに対しても、抵抗率を上昇させる。
また、宝具の文面もわかりやすく書き直しました

感想を書かせていただきます

>アイドル学概論
那珂チャンカワイイヤッター!
混沌とした<新宿>の那珂で、いや中で那珂ちゃんの純粋さが心洗われるかのようです
対照的にダガー社長は色々と企んでますねぇ
……オガサワラを那珂ちゃんが見捨てるとは思えないので、正直裏目ってるような気もしますが

>夢は空に 空は現に
た、タイタスかっけぇ……!
いやほんとかっけぇ……!
ムスカのはしゃぎっぷりもいい感じですね、この先を考えると顔がニヤつきます
エンジェルと美知夫も中々に楽しそうですね、暗躍という言葉がぴったり嵌まる
あとフレちゃん……おお、もう……


896 : ◆zzpohGTsas :2015/11/02(月) 00:41:37 Ea70sq5s0
佐藤十兵衛&セイバー(比那名居天子)
ジョナサン・ジョースター&アーチャー(ジョニィ・ジョースター)
塞&アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)
ロベルタ&バーサーカー(高槻涼)
北上&モデルマン(アレックス)

予約します


897 : ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:55:51 8Rg2T96Q0
恐らくは前半後半に分けないととんでもない長さになる事が判明した為、そうやって投稿する事にします

投下します


898 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:56:29 8Rg2T96Q0
 嘗て、マケドニア帝国の版図を極限まで広げさせた征服王・アレキサンダーは、牛の様な顔をした不細工な馬、ブケファロスに騎乗していたと言う。
皇帝と呼ばれる言葉の語源にもなり、比類なき名将と称された、ローマ帝政の礎を築きあげた男、カエサルは、蹄の割れた馬に騎乗していたと言う。
英雄は、騎乗する馬を選ばないのか。それとも敢えて、名馬以外の馬に乗るのか。それとも、彼らが騎乗する馬は、全てペガサスが如き駿馬になるのだろうか。
――では、この男は果たして、如何なのだろうか? 

 ややくすんだ白色の獣毛に、所々に黒い斑点が生じた馬であった。
薹が立っている馬だった。十一歳、獣の世界で考えれば、老齢と言うべき馬であった。真っ当なジョッキーならばまずこれは愛馬にはしないだろう。
しかし、この馬に騎乗する男は憶えている。生前の相棒であり掛け替えのない友人だった男が、この馬を選んだ事は間違った判断ではないと評価していた事を。
そしてこの馬が、三千五百人を超える程参加者が、六千㎞もの超長距離を走破する一大レース、スティール・ボール・ランを共に駆け抜け、
弱音も吐かなかったタフな馬であると言う事を。ジョニィ・ジョースターはしっかりと認識していた。
スローダンサーは、ジョニィのもう一人の相棒であった。彼の走りを、ジョニィは己のマスターと同じ位に、信用していた。
信用はしているが……、やはり現実問題として、厳しい物がある事は、否めなかった。

 路地を抜け、大通りへと、灰がかった銅色魔腕を持ったバーサーカーが、弾丸の如き勢いで飛び出した。
数秒遅れて、黒い斑紋が身体の所々に刻まれた白馬に乗ったジョニィ達が、颯爽と大通りに躍り出た。
近場を通っていた通勤途中のサラリーマンが、腰を抜かし地面に倒れ込む。驚かせて申し訳ないとジョナサンは目配せする。
バーサーカーが消えた方向を直に感知したジョニィは、直に鞭をスロー・ダンサーに打擲する。嘶きを上げた後で、馬はその方向に疾駆した。

 馬が走る平均速度は、おおよそ時速六〜七十㎞程である。
どんなに優れたジョッキーが鞭を叩こうが、現実問題として馬に時速百八十㎞を出させる事は、不可能である。馬に出せない速度の限界を超えさえる事は、出来はしない。
ジョッキーは、どのような場面で馬に本気で走らせるか、優れた乗馬技術をどう発揮するかと言う人物であるのだから、これは仕方がない。
その当たり前の事実が、今のジョニィにはもどかしい。動く速度の地力に、余りにも差があり過ぎた。

 ロベルタが操る『馬』であるバーサーカー、高槻涼の移動速度は全くデタラメなそれであった。
ほぼ前を見ず後ろ向きで、時速二百km以上の速度で移動しているのである。しかも、ロベルタと言うマスターを抱きかかえながら。
馬と言うものは騎手と言う重石が存在しなければ、例え大穴と称される程勝ちの目が薄い馬であろうとも、独占首位を狙える程の生き物である。
つまり乗馬の世界に於いて、騎手と言うものは馬にとってこれ以上とない邪魔者なのだ。――その邪魔者を二人も乗せているのだから、相手に追い縋れる筈もなく。
スローダンサーの鞍に跨るジョニィの後ろに、黒髪の紳士が騎乗していた。
初夏の日の朝、葉っぱに付いた水滴のように透明(ピュア)な殺意を、ロベルタに向ける礼服のその男は、ジョナサン・ジョースター。
アーチャーのサーヴァント、ジョニィのマスターであり、ロベルタの追跡を彼に下した義の男。

 共にジョースターの名を冠するこの男達は、気付いていた。
ロベルタが駆るサーヴァント、高槻涼には、例え地球の寿命が尽きるその時までチェイスを続けようとも、追い縋れる事はないと言う事を。
余りにも移動速度が違い過ぎる。それに、優れた騎手であるジョニィは薄々ながら気付いていた。相手は、間違いなく本気で移動していないと言う事を。
恐らく本気で移動すれば、ロベルタの身体が無事では済まない程の速度で、本来ならば彼は移動出来るのだろう。
それを敢えて行わないと言う事は、あのバーサーカーも、狂犬を通り越して最早凶獣とも言うべきあのマスターを、慮っているのだろう。
見事な心意気だと、ジョナサンもジョニィも思った。だからこそ、共に葬られねばならない。
ロベルタは<新宿>に、凶禍しかもたらさない存在だから。生きているだけで、人々に涙を流させる存在だから。


899 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:57:08 8Rg2T96Q0
【ジョニィ、撃てるか?】

 背後のジョナサンが、自らの『馬』であるジョニィに問うた。
無論それは、ロベルタを、引いては高槻涼を狙撃して葬れるか、と言う事を意味する。

【距離は凡そ百m離れている。狙うには問題ない。命中するかどうかは、別としてね】

 無慈悲にも距離は離されているが、寧ろジョニィやジョナサンとしては、よくもあれだけの速度で移動する存在に、
この老齢に入りかけた馬が喰らい付けるものだと、逆に称賛していた。決して非難される事ではない。

 曲りなりにもアーチャーのサーヴァントとして顕界したジョニィにとって、高々百m程度の距離、ACT2で狙撃すれば相手の眉間すら撃ち抜ける。
それにも関わらずジョニィが爪弾を撃ちこめるか如何か微妙だと判断したのは、相手の反応速度から言って、弾丸を回避される恐れが強いからであった。
ジョナサンも、ジョニィが言わんとしている事を理解している。何故ならば彼も、戦闘に関しての造詣の深い、戦士であるから。

 西新宿と歌舞伎町の存在するエリアの境界線と言っても良い、新宿駅にまで、いよいよ高槻とロベルタの主従は到達せんとしていた。
急がせつつも馬体を全く上下に揺らさせない移動でジョナサンの主従がこれを追う。
凶獣となった女を抱く魔獣の姿は、余りにも速く移動している為に、人々の目には、銅色の残像が帯を引いている様にしか見えないだろう。
つまり何が起こっているのか、解らないと言う事だ。しかしジョナサン達の方は違う。人間の目が捉えられる程度の速度で、
しかも馬に騎乗した状態で道路上を走っているのだ。目立たない訳がない。道行く人の、注目の的であった。無論、これが悪目立ちである事は言うまでもない。

 敢えて人通りの多い所に逃走する事で、相手の正義感を揺さぶり、攻撃の手を止ませると言う、ロベルタの浅知恵は、功を奏していると見て間違いなかった。
現に、ジョナサンの主従は攻撃が出来ずにいる。ジョニィと言うアーチャーの切り札である、漆黒の殺意の凝集体とも言える、ACT4は、
一度放たれれば確実にあの主従を葬り去れる、と言う自負がジョニィにはあった。しかし、このスタンドには欠点があった。
それは、自分自身の、確実に『殺す』と言う目的意識は、ロデオに使う荒馬の如く、その殺意を以て相手を消す対象を選ばないと言う事だ。
つまり、放たれたACT4は、ロベルタだけを確実に殺すとは限らない。無論、ACT4はジョニィの心の海より生まれ出でたビジョンな為、
誰を殺すのかと言う命令を忠実に守る。守っているのに、暴走する時がある。例えばそれは、誰かを盾にされた時。
例えばそれは、ACT4が命中した部位を敢えて『斬り落とし』、誰かに向かってその部位を投げつけた時。
生前ジョニィはスティール・ボール・ランのレースの最終局面の時に、とある天才ジョッキーがACT4に侵食された部位を自らのスタンドで斬り落とし、
ジョニィの方に投げつけた結果、逆にジョニィの方が、彼自身のスタンドの黄金回転で消滅の危機に瀕した時があった。
自分自身ですらも、その殺意に呑まれうる可能性が存在するのである。赤の他人が、呑まれない筈がない。
ACT4を対策するのであれば最も正しい選択は、人ごみの中に逃れる事が一番と言えるだろう。無意識の内に、ロベルタの主従はそれを選んでいた。
それがジョニィには、もどかしい。街路樹と言う自然に黄金長方形を視認している為、ACT4を狙い打てる準備は何時でも出来ている。
しかし、自動車や二輪車、原付が往来を移動し、歩道に大量の人間がいるこの状況、かつ、背後にジョナサンがいるという手前、ACT4は到底発現できるスタンドではなかった。
……尤も、この場にジョナサンがいなければ、迷う事無くACT4を撃っていたのだが。


900 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:57:32 8Rg2T96Q0
 同じ様なジレンマを、ロベルタも抱いている事を、彼らは知らない。
遠坂凛、セリュー・ユビキタスの主従二組と、ロベルタの主従の違いは、指名手配の有無である。
この二組が指名手配をされて、自分が指名手配を喰らっていない、その最大の理由は、無暗矢鱈に人を殺しまくったか、と言う事が一種の基準となる。
武器の調達の為にヤクザのみを殺して来たロベルタは、自分以外にヤクザを殺して回る女の話を耳にした事がある。恐らくはセリューと呼ばれる女であろう。
こう言った行為は、表沙汰にならない方が良いに決まっている。だからこそロベルタは、銃に厳しい日本の社会において、
特に銃を所持していそうな武闘派なヤクザのみを敢えて狙って襲撃していたのである。
だがしかし、例え社会のカスであろうとも、殺し過ぎれば制裁が待ち受けているらしい。幸いロベルタはこれを免れる事は出来た。
自らの本名とサーヴァントのクラスが契約者の鍵を通じて露呈すると言う事は非常に拙い。言うなれば、本名と使う武器の情報が漏洩する事と、ほぼ同義なのだから。

 ロベルタの本音を言えば、自身のサーヴァントである高槻涼を用い、ジョースター達を此処で葬りたい所ではある。
しかし、状況が悪い。ロベルタから見た高槻の戦闘力は、どんなに低く見積もっても、核を含めた米国(ステーツ)が保有する全兵力全兵装以上であるが、
その力の程は白兵戦でのみに発揮されるそれではない。多数戦を面制圧する時に真価を発揮するそれであった。
つまり、高槻涼はその戦闘能力の高さが故に、本気を出せば近隣住民は当然の事、至近距離にいるロベルタですら業火で灰にされる恐れが強いのだ。
人を殺し過ぎれば主催者を称する者達からの確かな制裁が下されると知った今、無軌道な殺人は控えておきたかった。
そして、絶対にこのような所でロベルタは死ぬ訳には行かないのだ。主であるディエゴを爆殺した、薄汚れた灰色の狐を縊り殺すまで。
神の子の血を受け止めた黄金の杯が、彼らに神罰を下すその瞬間を目の当たりにするまで、自分は、生きていなければならないのだ。

 時に車線を疾駆し、時に車と人ごみを飛び越え、ロベルタらは遂に新宿駅周辺へと突入、そして時を待たずして、新宿三丁目方面に向かって行った。
既に彼我の距離は、百五十mにまで達しようとしている。馬自体の移動速度もそうなのであるが、所々に存在する信号機がジョナサンらには厄介であった。
時に移動速度を落とさなければ、自動車に衝突する恐れがあったからである。このまま時が推移すれば、誰がどう見てもロベルタらに逃げられてしまう事は明らかだった。

「ジョニィ、提案がある」

 ジョナサンは、そんな事を口にして来た。
最悪ACT2でも良いから撃ちこんで見ようかと考えていたジョニィは、意識をロベルタ達の主従だけでなく、背後のジョナサンにも向け始める。 

「君の宝具のスローダンサーを、僕の波紋で強化してみたいが、構わないかい?」

 ジョニィはスタンド、と言う一種の超能力を持ちこそすれ、彼の能力と言うのはそのスタンドが全てである。
それ以外の、小回りの利いた魔術と言う物を、彼は持たない。此処は役割を分担するべきであった。
ジョナサンが修めた波紋の技を以て、ジョニィの愛馬であるスローダンサーを強化させ、移動速度を跳ねあげようと言うのである。
今までジョナサンがこれを実行に移さなかったのは、波紋による肉体の強化は、慣れた生物以外では負担が掛かる恐れがあり、馬の命をも潰しかねないからだった。
波紋は、人間と勇気、そして生命への賛歌であると、彼の師は言っていた。そんな波紋の技術で、命を無駄にする事は師の教えに唾を吐く様な事なのだ。
それに騎手にとって自らが駆る馬は掛け替えのない相棒の筈。何の許可なく波紋を流すのは、道理がなっていないであろう。


901 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:57:44 8Rg2T96Q0
「構わない」

 ジョニイは静かにそう言った。

「僕も、このまま相手を逃がすのは悔しく思って来たな。マスター、君のペースで、その波紋を流してくれ」

「解った」

 言ってジョナサンは、スローダンサーの白色の体表に指先を置く。
この時、果たして彼は気付いていただろうか。自らが呼び出した、自らと同じ名前のアーチャーの瞳に、漆黒のプラズマの様な感情が、瞳の中で閃いていた事を。

 コオオオォォォ、と言う、人間の気道が発する呼吸の音とは思えない、独特の呼吸音が鳴り響いた。
これと同時に、ホースの先端から水が飛び出す要領で、ジョナサンの指先から、波紋の呼吸によって生み出された生命エネルギーが迸る。
優れたジョッキーであるジョニィは、即座にその効能を実感した。彼の愛馬である、十一歳のアパルーサであるスローダンサーは、老いてこそいるが、
だからこそ、経験に裏打ちされた無理をしない堅実な走り方が出来る馬なのである。その走り方が、明らかに若い馬のそれに変貌した。
軽やかで、蹄鉄の音を響かせる若々しいその走り方は、四〜五歳馬のそれである。そして、本当に波紋の効能を実感したのは、その次だった。
明らかに、移動速度が跳ね上がっている。おおよそ、馬の平均移動速度に、+時速三十〜四十㎞弱がプラスされているであろうか?
どんなに血統の良い名馬が、何の重石もなく馬を疾駆させた所で、こんな速度は出せはしないだろう。どんな鞭で馬体を叩くよりも、これは効果があると言うものだった。

「これ以上は無理なのかい、マスター?」

「馬体を潰す恐れがある。それは僕としても、望むべく所じゃない」

「解った」

 言ってジョニィは引き下がった。今のままですら馬体の影響的にはグレーゾーンなのに、これ以上の速度を出すと言うのなら、
スローダンサーにどんな影響があるのか解ったものではない。此処は大人しく、ジョナサンの言葉に従う事とした。
遅れてジョニィらも、新宿駅の入口にまで漸く到達した。映画の撮影か、とでも言いたそうな程の、道行くサラリーマンやOL、学生の奇異の視線を一挙に集める、注目の的であった。


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902 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:58:02 8Rg2T96Q0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 東京の夏と言うのは、東南アジアの国々や乾燥帯の砂漠の国、地中海に住む人間達にすら、暑いと言わせしめる程のそれであるらしい。
それは何故かと言われれば、湿気である。地中海や砂漠の国々は湿気がないカラッとした暑さの為に、風が吹けばまだ涼める。
東南アジアの国にしたって、その湿気た暑さは自然由来のそれであるから、まだ耐えられる。
東京の夏はこれに加えて、クーラーの排熱の暑さも加わって、それはもう、外国からの旅行客は愚か、地元住民ですら嫌になる程のそれになるのだ。
地元住民ですらウンザリする程の暑さなのだ。塞が、この気温を嫌にならない筈がなかった。

 イギリスの夏が懐かしいと塞はセンチュリーハイアットの一室で物思いに耽る。
この東京で過ごすには、空調の効いた部屋が必須だった。流石に、世界第二位の先進国の中で、特に等級の高いホテルである。
設備は一通り整っているし、人的サービスも申し分ない。業務を行うには持って来いの環境だ。
書類に目を通したり、聖杯戦争を乗り切るための思案をするには適している。何事も、仕事は楽をするに限る。
だが仕事を楽に行うとなると、相応の努力と金を払わねばならない。そして塞は、金にも努力にも、糸目をつける事はなかった。
警察や、区役所を筆頭とした行政機関に訴えかける努力だけでなく、それ以外。マスメディアや情報屋を動かす為の金だって惜しんでいない。
それらの努力と経費が結んだ果実が、今の塞の下に集まる情報量なのだ。この聖杯戦争においては、それこそ、金十kgよりも、価値がある。

「女の風呂ってのは長いな、アーチャー」

 革張りのクラブチェアに足を組み、肘掛けに腕を下ろすと言う、まるで一国の大統領の様な偉そうな座り方をしながら塞が言った。
部屋の中でも、サングラスと黒いスーツは欠かさない。この男にとっては最早、普段着と仕事着を兼ねた便利な服装そのものだった。

「見ての通りの髪型なんだもの、仕方がないでしょ?」

 ミネラルウォーターのペットボトルをその手に、ユニットバスから姿を見せた鈴仙が言った。
くるぶしにまで届きそうな程の長さをした、薄紫色のロングヘアだ。綺麗であるとは思うが、手入れも大変であろう。
一々風呂に入る度に長くていやにならんものか、と言うのは、男の塞の感想であった。

「……と言うより、部屋の中でもそのスーツ? 部屋着とかないの?」

「お前さんにゃ言われたくないな……」

 鈴仙は、塞が契約者の鍵で彼女を呼び寄せたその時から今日に至るまで、ずっと同じブラックスーツを着用していた。
無論、一張羅を着まわしていると言う訳ではない。全く同じ型のそれを都度着直していると言う徹底ぶりだ。此処までくると呆れてものも言えない。
……尤も、部屋着がどうのこうのと言っているのに、肝心の発言主の服装とやらが、日本の女子高生が来ているような夏物のセーラーである事が、その説得力を水に帰しているのだが。

 ――湯上りの服装がそれかよ……――

 サングラスの位置を調整しながら、塞は心中でそう思うのだった。


903 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:58:27 8Rg2T96Q0
「ともあれ、単独行動と情報収集、ご苦労様だったな、アーチャー。件の遠坂凛の居場所と、そのサーヴァントのバーサーカーの真名が解って、大収穫さ」

 言って塞は、懐から契約者の鍵を取り出し、それを掌の上で軽く弄ぶ。
渋る鈴仙を説得し、紺珠の薬を使わせたリターンは、十分だった。遠坂凛と彼女が駆るバーサーカーの位置、そのバーサーカーの真名、そして、ステータス。
これだけ得られれば、どのような対策を取れば良いのかも自ずと解って来る。鈴仙の申告したステータスが事実であるのなら、真正面切って戦うような相手ではない。
搦め手を駆使して戦う必要がある相手だ。運よく倒せれば令呪を一画貰えるし、縦しんばそれが嘘だとしても、聖杯戦争の主催者とコンタクトが取れる。
当然塞は、聖杯戦争の裏で糸を引く相手を全く信用していない。顔も見せずに、契約者の鍵から投影されるホログラムを通じて殺し合えと言うような無精者、
ビジネスの世界では信用して貰える筈がない。そんな相手を、塞の会話の土俵にまで引きずり出せれば、それはもう、一大収穫と言っても過言ではないのだった。

「紺珠の薬については、あまり気乗りがしないから、カードを切る場面をもう少し厳選してね」

 鈴仙も、塞が座る様なクラブチェアに腰を下ろしそんな事を告げて来た。
完璧な精度での未来予測を可能とする、紺珠の薬。しかし、未来が解ると言う事は何も良い事ばかりではない。
解らないからこそ良い事もある、と言う事を鈴仙はよく知っている。幻想郷では予測出来る未来の精々が、弾幕勝負での敗北程度だった。
しかしここでは、敗北とはそのまま座への送還――これを死と呼ぶかは微妙な所であるが――か死である。
如何に超自然的な存在と言っても、自分の死が視えてしまうと言うのは、中々にショッキングなのだ。

 元々鈴仙は、臆病な気質の強い女性だった。
今は度重なる戦闘の経験の末、そう言った性格も克服出来た……と思っていたが、あの黒贄礼太郎と名乗るバーサーカーは、別格。
鬼の膂力に天狗の速度、そして、満月が放つ狂気よりもなお狂った性質の持ち主なのだ。思い出すだけで、震駭が止まらない。
しかも、波長を操る程度の能力の持ち主である鈴仙には、解るのだ。アレは妖怪でもなければ、況してや悪魔ですらない。
人間だ。あの時鈴仙が視た黒贄礼太郎と言う男の波長は、人間のそれであったのだ。その事がより一層、鈴仙の恐怖を煽り、掻き立てるのである。

「ま、お前さんの宝具は切り札だ。エースのカードは早々切れるもんじゃないからな、そう言った局面にならないよう手筈は整えるさ」

 鈴仙が切り札を使う事に関して消極的である事は、塞も気付いている。
聖杯戦争ではマスターとサーヴァントは運命共同体の関係と言っても良い。なるべくならば、サーヴァントの意見も、尊重してやらねばならない。

「……さて」

 群青色に澄んだ契約者の鍵を、脇のデスクに置いてあったノートPCの傍に置いた塞は、懐からスマートフォンを取り出しながら言葉を続けた。

「この街で行われてる聖杯戦争についてだが、相当に状況が動くのが早い。正直な所、俺ですら情報処理で頭がパンクしそうな程だ」

「状況が動くのが早い、って言うと?」

「上落合のあるマンションの駐車場で、マンション住民の車のボディが融解し、ある車に至っては車体全体がエンジンなどの内部機関ごと鋭利な何かでバラバラにされた。
だけじゃなくて、そのマンションのある一室が、ハリケーンにでもあったかのように、家財の全てが粉々になる事件が起こったらしい」

「それ、何時の話?」

「十数分前だ」

「うそ!?」


904 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:58:51 8Rg2T96Q0
 鈴仙は如実に驚いた様な表情をして見せた。それは、彼女がシャワーを浴びている最中に、塞が浮かべていた表情と全く同じであった。 
<新宿>中に散らした情報捜査の為の記者から、塞がその事実を知ったのは、鈴仙のシャワー中の時であった。
この情報を記者から受け取って、思った事は三つ。一つは、先の通り戦局の動く速さ。二つ目が、<新宿>は狭い街である為、交戦の頻度も多くなるだろうと言う事。
そして最後が、情報面で優位に立てている自分達ですら、最早安心は出来ないと言う事だ。

「聖杯戦争が始ってから時期に八時間になろうとしている。その時点で、それだけの規模の戦いが起きてるんだ。
今はホテルでこうやって話し合いが出来ているが、時間の経過次第じゃいつ俺達もこんな状況に巻き込まれるか、知れたもんじゃない」

「対策は?」

「紺珠の薬を使い続ければ、或いはってレベルだな」

「う〜……」 

 実際問題、対策はこれしかない。
塞が打っておいた布石である、記者や行政、公的機関のコネクションを用いれば、ある程度自分に舞い込んでくる危難は予測は出来る。
しかし、塞の持っているコネと言うものは尽く一般NPCのそれである。超自然的な存在の見本市であるサーヴァントとの戦いを、一から十まで認識するには、
限界と言うものも見えてくる。つまり、思いもよらぬアクシデントは、塞の主従にも舞い込んでくる可能性は高いのである。
これが嫌と言うのであれば、紺珠の薬と言う切り札を切るしかないが、これは本当に、ここぞという局面でしか塞も鈴仙も使いたくない。
何度も何度も乱発する類のものでは、断じてないのである。

「NPCにサーヴァントの戦いを認識するのは酷だろう。先ず俺達が優先するべき事柄は、誰がどんなクラスのサーヴァントを引き当てたか?
そしてこれを認識した後で優先して得たい情報は、そのサーヴァントのステータスは? スキルは? 宝具は? この三つだ」

 紺珠の薬を用いれば、こう言った情報収集を行う事は容易い事。
鈴仙の話を聞くに、この<新宿>を跋扈するサーヴァント達は、サーヴァントの近くを直立していた塞を、鈴仙の反応を一切許さず一方的に殺せる者が、
少なくないのである。自分がまさか一切の抵抗も許せず殺されてしまう何て、と塞は何度も思ったが、紺珠の薬で見た確かな未来なのだ。あり得たifなのだろう。
鈴仙と言うサーヴァントは、この聖杯戦争においては、直接相手のサーヴァントを殺して回る、と言った荒っぽい使い方には適さない。
搦め手搦め手で推して行く使い方をせねばならないと言う事を、黒贄と接触を試みた未来の話を聞いて塞はそう考えた。
最悪、紺珠の薬を用いたとて、相手の戦闘力次第では、宝具もスキルも一切認識出来ないかも知れない。
しかし、其処を何とかするのが自分とサーヴァントの仕事である。此処で手を抜けば、待ち受けているのは任務の失敗ではない。文字通りの死だけだ。

「NPC達はサーヴァントやマスターの身体的特徴や、その位置の特定には容易いだろうが、そいつらがどんな戦い方をするのか、と言う事になると、危険な橋を渡らんとならない」

「直接戦う訳じゃないのよね?」

「賢いやり方じゃないな。危険しかない」

 人差し指をピッと立てて、塞は口を開いた。

「同盟さ」

 成程。確かに、同じ聖杯戦争の参加者同士が同盟を組む事が出来れば、ある局面までは有利に事を運べる事であろう。
だが、そんな簡単に上手く行くとも思えないし、同盟を組む相手にもよるだろう。其処についての見解を、鈴仙は目だけで塞に問うてみた。


905 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:59:08 8Rg2T96Q0
「俺が同盟として求める条件は、マスターが適度な無能で、サーヴァントが有能って組み合わせだ」

「理由は?」

「俺達の最終的な目標は聖杯の奪還だ。俺は、この聖杯戦争に参加している人物の全てが、聖杯を求めている、と言う『仮定』でいる。
何でも願いが叶うアイテムなんだ、そりゃ皆欲しがるさ。相手も聖杯を求めていて、かつ俺も聖杯を求めている。目的が同じだ、対立する事になる。
本当は聖杯なんていらない、って連中と組む事が出来ればそれが一番上手く事が運ぶんだが、そいつと組める可能性は低い。組めたらラッキー程度に考える」

 此処で塞は、スマートフォンの代わりに、ノートPC近くに置いてあった烏龍茶のペットボトルを手に取り、一口だけそれを流し込んでから言葉を続けた。

「さっきみたいな組み合わせが良いと思った訳はな、俺達はなるべくなら戦闘をこなさず聖杯戦争を切り抜けたい。んで、そう言った面倒事を全部相方である同盟相手に押し付けられると踏んだからさ」

「都合が良すぎないそれ? 相手も納得いかないと思うけど」

「行かせるのさ。そりゃ普通はそうは問屋が、って所だろう。だが俺達には他の主従にはない武器があるだろ?」

「……情報量」

「そう言うこった」

 口の端を、塞が吊り上げる。

「此処まで金をバラ撒いてバラ撒いて、築き上げた情報網だ。俺達が手中に収めている情報量は決して少なくない所か、最も多い方でなきゃならん。
この情報を餌に、相手に俺達と言う存在が如何に有能かをイメージ付けさせる。相手だって情報は欲しい筈だ、俺達を頼るだろうさ。情報は、戦闘力の高い奴に利用して貰うに限るって事だ」

「でもそれも、気付かれない? 私だって戦えない訳じゃないんだし、相手からしたら戦えるのに戦ってないって思われるんじゃない?」

「其処で、俺が求めた条件の、マスターが適度な無能ってところが活きて来る」

 説明を、鈴仙は促した。

「言うまでもなくサーヴァントは令呪と、現界するのに必要な魔力を供給していると言う事実がある以上、マスターにある程度従わなきゃならない。
故に相手のサーヴァントを操るんだったら、そのマスターを操る事が一番理に叶ってる。但し、アーチャー。お前さんの力で直接操るのは露骨が過ぎる。
サーヴァントに不信感と言ういらん種を撒く事になる。だから、マスターである俺が、説得と言う形で相手マスターを誘導する。
アーチャーだから裏方、後方を担当する。戦闘はそれ程得意じゃない。何だっていい、サーヴァントとの戦闘に陥った時、戦闘の比率を同盟側の方に多く押し付けられれば、俺達の得だ」

「要するに、マスター同士話し合っての決定なら、サーヴァントも文句は言わない、って事ね」

「あぁ。人並みの判断力こそあるが、俺の思惑に気づかない程度の無能が良いってのは、こうやって事を運びたいからさ。とびぬけて有能でも、無能でも駄目。それにこの人選にはもう一つメリットがある」

「それは?」

「同盟って言っても、同盟相手だって最終的には聖杯を求めている。当然最後の最後で対立して戦うだろう。
俺達が同盟を組む最大の理由は、聖杯戦争を中〜終盤の局面まで無傷でやり過ごしたいからだ。が、そうも行かないだろう。ある程度の手傷は負うだろうよ。
縦しんば計画が上手くいっても、最後に残った主従が、俺達と、有能なサーヴァントとマスターの組み合わせじゃ、最後の最後でしくじる可能性が強い。
これを避けたい。だからこそ、勝率を上げる為に、マスターが俺よりワンランク、ツーランク位無能が良いって事だ」

 ふーむ、と鈴仙は考え込む。
確かに、悪い見立てではない。理屈も理に叶っているし、メリットもハッキリしている。
実行に移せれば確かに、聖杯戦争を有利に進められるかも知れない作戦ではあった。


906 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:59:21 8Rg2T96Q0
「ま、そんな都合よく行くとは俺も思っちゃいない。結局俺が一番頼っているのは、俺のサーヴァントとその『宝具』だ。しっかり頼むぜ、アーチャー」

 最終的には、こう言った結論になるらしい。これもある程度ではあるが、鈴仙には解っていた事だ。
彼女の宝具と便宜上なっている紺珠の薬は、そもそも彼女の手によるものではない。彼女が師匠と呼んで尊敬するある女性が作り上げた薬である。
それが、生前自分が使用していたから、と言う理由で現在宝具となったものが、件の薬なのである。その便利さは、鈴仙も良く知っている。
全く、その女性、八意永琳には頭が下がる。こう言った局面においても役に立つものを生み出すなど、中々出来る事ではない。
鈴仙は確かに感謝していた。……生前、紺珠の薬のちょっとした実験台のように見ていた事は、忘れる事とした。

 ――ヴヴヴヴヴ、と、耳に響く程度の大きさの振動音を、塞と鈴仙の聴覚が捉えた。
机の上に置いた塞の携帯が、バイブレーションを起こす音であった。発信者を見ると、塞が<新宿>に張り巡らせた情報網を形成する、記者の一人であった。
携帯を手に取り、電話に出る塞。「もしもし」、と言う定型句を告げた後、塞は黙りこくる。
数秒経たずして、険しい顔になる。その眼が見えない程の遮光性のサングラスで瞳を隠していても解る。予想外の出来事が、起ったのだと。

「情報感謝する」

 言って塞はスマートフォンの通話を切った。

「どうしたの?」

 と鈴仙が訊ねて来た。答えるべく、塞が口を開いた。

「サーヴァント同士の戦いが起っているらしい」

 起った、と言った過去形ではない。現在形だ。「何処で」、と鈴仙が問うた。

「西新宿を通り過ぎて、歌舞伎町に向かったらしい」

 全く、戦局が動くのが早すぎる。鈴仙は愚か、塞だって驚きを隠せない。
自分達が京王プラザの部屋にいる間に、此処周辺で戦いが起こっていたと言うのか?
いよいよとなって、早く同盟相手を探さなければ、早期退場すらもあり得る事であった。
早く同盟相手、と言う名のスケープゴートを、見つけなければならないだろう。

 ……だがそれにしても。

「公道のド真ん中で馬を走らせるかね……」

 記者は言っていた。逞しい乗馬用の馬に、欧米系の青年二人が乗っていた事を。それは比喩でも何でもない。本物の馬に、彼らは乗っているらしかった。
馬に乗ってるその二名は、ドンキホーテか何かかと、突っ込む塞であった。


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907 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:59:38 8Rg2T96Q0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 依然として、距離は縮まらない。
ロベルタ達の方が九十㎞/h程も速いのだから、それは当然だ。
だが、彼女らを見失う事は、少なくなった。それだけでも、十分な成果である。

 時速百km近い速度で走る馬の上から眺める風景と言うのは、ジョニィもジョナサンも初めてであった。
人もビルも街路樹も、凄い速度で流れて行く。肌と髪の残像が、視界を掠め、消えて行くのだ。
波紋エネルギーは、馬の走る速度を強化している、つまりは、身体能力そのものを強化しているに等しい。
必然――このような芸当も可能になる。

 数十m先を、法定速度を数キロ上回っているか、と言う速度で走るオデッセイがあった。
このまま行けば、スローダンサーは確実にこれに衝突する。ジョニィは鞭で馬の尻を叩いた。
意を得たり、と言った風のスローダンサーは、勢いよく、跳躍!!
街行く人が見れば、夢の中にいるような光景であったろう。スローダンサーが、六m程の高さを飛び跳ねたのだ。
陽光の最中を、ビルの二階程の高さまで跳躍する騎乗馬と、それに跨る二人の男の風景は、叙事詩のなかで一騎当千の勇名を轟かせる騎士宛らであった。
スローダンサーが地面に着地する。飛び越したオデッセイから十m先の地点だった。何事もなかったかのようにスローダンサーは、走る。
遥か前を往く、ロベルタと、高槻涼の主従目掛けてである。

 ロベルタ達は、丸井の大型デパートの存在する交差点を、ジョニィらから見て左に曲がる。
直線状に逃げるよりも曲がり角を駆使して逃げ切る作戦に出たらしい。ジョニィらも、これを追う。
見た時には彼女らは新宿二丁目交差点を、右折するつもりであるらしかった。
馬の性質的に、狭い道を縫うように移動されたら、彼女らを取り逃してしまう。それだけは、ジョナサンは避けたかった。
それに裏路地は、どちらかと言えばあの女性の本分である。表に引きずり出して、あの女性は戦いたい。それが、ジョナサンとジョニィの思惑であった。

 ロベルタらの口の端が吊り上る、これで逃げ切れる、そう、思ったのであろう。
逃げるのはロベルタ達としても癪だった。彼女の目に映るジョニィのステータスは、高槻と比べるべくもない貧弱なそれ。
しかし、それを額面通りに受け取る程ロベルタも愚かではない。腕利き中の腕利きであったゲリラであった時のロベルタの勘が告げている。
あのステータスの裏には、何か途轍もないものが隠されている。少なくとも今この状況で、あの主従と戦うべきではない。
日本は南米やロアナプラと違い、兎角治安にうるさい国。だからこそロベルタも夜、しかも決まってヤクザを狙っていたのだ。
彼らとの決着は、相応しいシチュエーションが整うまで、御預け。それが、ロベルタの計画であった。

 ロベルタらの取った判断は、ジョナサンらから逃げ切ると言う意味では、全く正しい判断であっただろう。
馬と言う移動手段の性質を利用し、狭い路地に逃げ込むと言うのは、確かに間違ってはいない。
運が悪かったとすれば――彼女らが駆け込んだ新宿二丁目には、『聖杯戦争の参加者が一組存在していた』と言う事だろう。

「――――!!」

 瞬間の事だった。高槻は慣性を無視した凄まじい急ブレーキをかけ、二丁目に入る事の出来る交差点の地点で停止。
左腕を凄まじい速度で頭上に振り回した。パァンッ、と言う破裂音が鳴り響く。
すぐにロベルタはその破裂音が、此方に向かって飛来して来た何かを、高槻が迎撃した音だと気付く。
信じられない話だが、高槻、と言うよりサーヴァントには近代火器の類が通用しない。以前襲撃したヤクザの破れかぶれの発砲で気付いた事柄だ。
そんな彼に、迎撃を必要とさせる攻撃……サーヴァント以外に、それはあり得なかった!!

 餓えた獅子ですら、その場で腹を見せ命乞いをするのではないかと言う程の、憎悪と殺意が籠った目線で、高槻はある一点を睨みつけていた。
その方向にロベルタも目線をやる。優れた狙撃種でもあり、ゲリラでもあったロベルタは、常人とは比較にならない程の視力を持つ。
その視力が、下手人を捉えた。高さ十数mのビルの屋上。其処に立つ、鉢巻を付けた、成年男性。
彼の右腕は、明らかにロベルタ達の方に向けられていた。そして、彼の瞳もまた――自分と同じく、憎悪と殺意で、滾っていた。


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908 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 21:59:54 8Rg2T96Q0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 アレックスが此方に近付いてくるロベルタ達に気付いたのは、全くの偶然だった。
率直に言えば北上達は幻十の襲撃以降、他の主従について非常に神経質になっていた。
マスターである北上は令呪を失うだけでなく、片腕も、あの美しい魔人によって斬り落とされてしまったのである。
これで、警戒をするなと言う方がどうかしているだろう。アレックスはサーヴァントであるが為に、魔力さえあれば身体の回復速度は速い。
だが、生身の北上は、一度身体の何処かを失えば最早それまでだ。如何する事も、出来やしない。

 北上の気持ちが落ち着くまでは、アレックスは、此処新宿二丁目に誰か他のサーヴァントが来ないかと警戒の為、何処ぞのビルの屋上で街を見下ろしていた。
この際予め、クラスをアーチャーに変更するのを忘れない。本家本元のアーチャーの様な千里眼スキルこそはないが、
他のクラスよりも多少遠くが良く見えるようになるからだ。そうして街を監視していると――妙な物が、明らかに此方に向かって近付いて来るのを見かけたのだ。
灰銅の右腕を持った、鬼の如き風貌の少年が、女を抱えていると言うのが一つ。そしてもう一つが、二人乗りで、黒い斑紋が刻まれた馬に乗った二人組の男。
すぐに、彼らがサーヴァントだと気付いたのは言うまでもない。即座に臨戦態勢に入ったアレックスは、恐らくはロベルタらが近付いて来るであろうポイントを計算。
その近くの建物の屋上で待ち伏せし、彼女らが近付いてきた瞬間を狙って、光の魔術を放った。こう言う事である。高槻が振った左腕が防いだ攻撃と言うのは、この時のアレックスの攻撃であった。

「サーヴァント……!!」

 ロベルタがギリリと歯軋りを軋らせて言葉を漏らす。呼気が、蒸気になりかねない程の怒りが彼女の中で燃え上がる。
ゲリラを行うのであれば、地理の確認など基本中の基本。当然ロベルタは、<新宿>の聖杯戦争を行うに当たり、この街の地理を調べておいた。
狭い街だ。東京で行うのではなく、東京の中の地理区分のほんの一ヶ所で戦うと言うのだから、それも当然だ。
サーヴァント達とぶつかる機会も、一度二度では済まない事は、ロベルタも解っていた。だが、まさかこの局面でぶつかる事になろうとは。
事態は、最悪を極る。此処であのサーヴァントを無視して逃げるか、それとも、戦うか。決断をロベルタは迫られていた。そして、即座に下した。
此処は無視する。そう思い新宿二丁目方面に曲がろうとすると、再びアレックスの腕から光の魔術による光球が、弾丸並の速度で放たれた。
これを、高槻は再び腕を無造作に振う事で粉砕する。あのサーヴァントは、自分達と戦う気だと、ロベルタは考えた。
しかし、アレックスには本来そんなつもりはない。ロベルタらが向かう方向に、護るべきマスターである北上がいるから、アレックスは攻撃を行っただけだ。
此処に、認識のすれ違いが生まれていた。逃げる方向に拘泥さえしなければ、ロベルタは、アレックスから逃げられたのである。
そして――

「追いついた!!」

 ジョニィ達からも、逃げ切れたのである。
真正面の原付を馬の跳躍で飛び越したジョニィ。スローダンサーが地面に着地した瞬間、ジョナサンが道路上に着地する。
交差点の真ん中に佇む、四人の人物。そのうち二人は、アングロサクソンだ。更にその中の一人は、馬に騎乗している。
そしてもう一人は、ジーンズをボトムズに、トップスを安物の白シャツと言うコーディネートを着こなす白い肌をしたヒスパニックと、
少年の面影を残した、人型の『何か』。何か、と言うのは、少年の身体――特に顔面は、人間の物とは思えない程の、憤怒と憎悪の狂相を浮かべているからだ。最早人間かどうかすら、解ったものじゃない。

 このような情景であるから、街行く人々も、車道を往こうとする原付や自動二輪、自動車も、動けない。
信号が青になっても、皆動けずにいた。釘付け、と言った方が良いのかも知れない。
余りにも眼前の光景がそれこそ、ドラマの撮影でも行っているのだろうかと思う程の、非現実性で溢れていたからだ。

【マスター】

【どうしたんだい、ジョニィ】

【この場所に、サーヴァントが一人いる】

 平然とした態度で、ロベルタを睨みつけ続けているジョナサンであったが、内心では驚愕していた。
鉢合わせる可能性も、予測していないではなかったが、まさか本当に現実になるとは思ってもなかったのだ。


909 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 22:00:32 8Rg2T96Q0
 何処にいるのかと、念話で訊ねるよりも速く、件の人物は現れた。
近場の建物の屋上から、鉢巻を額に巻いた、全体的に青を基調とした民族服風の服に身を包んだ青年。
ジョナサンの目から見ても、ただならぬ力に彼が溢れている事が解る。サーヴァント――アレックスが俯かせた顔を上げ、四人の方に目線を向けた。
そしてすぐに、ジョナサンは気付いた。アレックスの瞳に宿る、凄まじいまでの憎悪を。しかし彼のそれは、ロベルタや、彼女が駆る高槻涼のそれとは違う。
言語化しろと言われれば、それは少し表現に困る。唯一ジョナサンが感じ取れた事を上げるとするならば、アレックスの憎悪は、『個人』に対する憎悪なのだ。
世界や境遇、運命に対して憤っているのではなく、特定個人に対して向けられる、とても人間的な憎悪。どちらかと言えば、ロベルタの抱くそれに近しかった。

 となれば、後はジョナサン、ロベルタにとっての関心事は一つ。
アレックスの性質、そして、この二名のどちらの側に着くのか。いやそもそも、二人を敵に回すのか。これであった。

 ――動いたのは、高槻の方であった。
今まで抱えていたロベルタを、自分達から見て後方に放り投げたのである。
一瞬何事かと混乱するロベルタであるが、直に自分が何をされたのかを悟り、空中で縦に一回転。停止線の直前に在ったセダン車のルーフの上に着地。

「アーチャー!!」

 ジョナサンがそう叫んだ瞬間、ジョニィは右手の人差し指と中指をロベルタの方に向け、ライフル弾のトップスピードレベルで、爪弾を射出した。
高槻が二名を睨みつけながら、両腕を広げる。その瞬間、金属に似た光沢を持った紅色をした彼の両腕が、茫と霞み始めた。
急激に嫌な予感を感じ取ったジョナサンとジョニィは、交差点の外まで飛び退いた、その瞬間だった。
ゴァッ!! と言う音を立てて、交差点内にある全ての物質が、粉々に砕け散り始めた。
信号機や電柱は破片以下の小ささの粒となり、標識と電燈は枯れ枝の様に圧し折れた後爆散。アスファルトで堅く舗装された道路は、砂場の様に粉々に変貌する。
無論それは、ジョニィが放ったACT2の爪弾にしても、同じ事だった。高槻に直撃する数m手前で、爪弾は胡粉の様に細やかな粉に変貌、即座に無力化させられる。
両腕を超高速で振動させる事で、文字通りの超振動を空間に発生させ、範囲内にあった全ての物を分子レベルにまで破壊する。これが高槻の行った事だ。
範囲内にいれば、ジョナサンは当然の事、ジョニィですら、無事では済まなかったろう。この攻撃を放ちたかったから、ロベルタを放り投げたのだろう。
つまり、あのバーサーカーは――ここからが、本気と言う事なのだろう。最早彼、高槻涼の思考には、逃げると言うネジは外されている。
目の前の敵を殺す、その気概で、溢れているのが良く解る。

 突如目の前で起った大破壊に新宿二丁目は大混乱に陥った。
街行く人々が蜘蛛の子散らした様に逃げ行く、車を運転していた者も、急いで車内から飛び出し、倒けつ転びつその場から逃走する。
突如として巻き起こった、超自然的な現象と以外表象の仕様がない、高槻の超振動攻撃を見れば、斯様な反応も、むべなるかな、と言うものであった。

「アーチャー、僕はあのマスターを追う」

 高槻から逃げ惑う無辜の一般人に交じって逃走するロベルタを見て、静かにジョナサンは告げた。
抜け目のない女だった。何も知らない人間がロベルタを見たら、『鬼に近い風貌の少年に攫われた哀れな外国人女性』、としか見えないだろう。
実際には違うのだが、この誤解をロベルタは利用した。今ならば、自身が聖杯戦争の主従とは違うと言うアピールも出来るだけでなく、NPC達への波風も立たない。
狡猾な女性だった。しかし、あの女性の本性を知っている以上、ジョナサンは生かしてはおかない。ロベルタは、此処で仕留められねばならぬ存在だった。


910 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 22:00:47 8Rg2T96Q0
「行けるか?」

 言外に、万が一あの鉢巻のサーヴァント以外の主従に遭遇した時は、どうするのか、と言う意味合いが込められている。
ジョナサンは何も言わず、右腕の前腕に刻まれた、大きな丸の中に二つの小さな円が二つ入った、同心円状の令呪をジョニィに見せつけた。
水面に小石を投げ込んだ時に浮かぶ波紋の様なその令呪を見て、ジョニィは得心した。「死ぬなよ」。
ジョニィはそう言って、高槻の居る交差点を大きく迂回するルートを選択したジョナサンを見送った。上手くいけば、ロベルタを回り込む形になるだろう。
ジョナサンの意図する所を察知して、高槻が動こうとする。しかしジョニィはこれを読んでいた。左手の人差し指を即座に高槻に付き指し、ACT2を射出させる。
これを相手は腕を振う事で弾き飛ばす。ビル壁にACT2が突き刺さった、その時には既にジョナサンは一同の視界から消えていた。取り敢えずの役目は果たした。
……後は。

「アンタを倒すだけだな、バーサーカー」

 物質的な質量すら伴っているのではと錯覚せずにはいられない程の、凄まじい憎悪を横溢させるバーサーカーを見て、ジョニィが言った。
魔獣と呼ばれたバーサーカーの瞳には、気の弱い者であれば狂死するやも知れない程の、桁違いの殺意で溢れていた。
お前を殺す、と言う意思が、ただ佇むだけで漲っている、桁違いの敵意である。

 しかし、ジョニィの殺意も、負けてはいなかった。

 もしも、殺意と言う物を可視化出来たのであれば、諸人はジョニィの瞳の中に、黒いプラズマめいたものが火花を散らしているのを見る事が出来ただろう。
凄まじいまでの指向性と目的性を伴った殺意であった。目の前のバーサーカーが、アーチャー自身を含めた世界全土に向けて、憎悪と殺意を発散させているのに対し、
ジョニィの方は、バーサーカー自身に対して『のみ』、極限閾の殺意を放射していた。
宿しているものは、同じ殺意。なのに、向けられるベクトルが、違っていた。個人か、或いは、個人を含めた辺土全てか。その違いである。

 ――ジャバウォックが、吠えた。
音の壁にそのまま叩き付けられたような大音響を皮切りに、ジョニィは構えを取り、第三者のサーヴァント――アレックスも動いた。
向って行く先は、狂気染みた姿を取るバーサーカー、高槻涼。彼はジョニィよりも、高槻を狙った方が得策だと、考えたらしかった。


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911 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 22:01:05 8Rg2T96Q0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 音の壁を打ち抜いて、ジョニィの右手からACT2の爪弾が、親指、小指、薬指から放たれる。
地面を蹴り抜き、サイドステップをする事で回避する高槻。彼が着地した先で、アレックスは鞘から引き抜いた緑色の剣――ドラゴンソードを振り被っていた。
剣を勢いよく振り下ろした、その軌道上に高槻は右腕を配置。ガギンッ、と言う、剣と生身がぶつかったとは思えないような金属音がけたたましく鳴り響いた。
見た目以上の頑強さをあの腕は有しているらしい。と言う事は、身体全体も、それに準ずる防御力を誇っていると見て、先ず間違いはないだろう。

 防御されると見るや、アレックスは高槻から距離を取ろうとバックステップを行う。
タッ、と砂地と化した交差点内に着地した瞬間だった。アレックスに向けて右腕を向けていた高槻、その伸ばした腕が、比喩抜きで、『物理的に延長した』。
これにはアレックスもジョニィも目を剥く。この様な隠し技があるとは、思っても見てなかった事が、この反応からも見て取れる。
しかし、ドラゴンソードを振う男は、高槻を相手に近接戦闘を仕掛ける気概があった男である以上、ジョニィよりは近接戦闘の心得がある男だった。
ジョニィはすぐに気付いた。まばたきを終えたその瞬間には、アレックスの持っているドラゴンソードが、長さ一m半程の、緑色の『槍』に変貌していたのを。
其処からのアレックスの動きは、速かった。スローダンサーの何倍にも匹敵する速度で、高槻が伸ばした魔腕の延長線上から飛び退いたのである。
目に見えて、敏捷性が上がっている。得物が剣から槍に代わっている事が、その原因なのだろうか。
すぐに対処しようとする高槻であったが、そうはさせじとジョニィが動く。いや、動いたのは――ACT2が生んだ、『弾痕』と言うべきか。

 よく注意を凝らせば、気付く事は出来たであろう。
ジョナサンをこの場から逃す際にジョニィが放った、ビル壁に突き刺さったACT2の弾痕と、
先程高槻が回避した親・小・薬指の爪弾が回避先の車のバンパーに刻んだ三つの弾痕。それらが独りでに動き、アスファルトや砂地を伝って、高槻の方に迫っている事に。
アレックスの方に伸ばした右腕を、高槻が元の長さに戻した時には、彼の足を伝って、弾痕は胸部にまで上り詰めていた。
其処で漸く、高槻が異変に気付いた――時にはもう遅い。ボグオォンッ!! と言う音と同時に、彼の足から伝っていった弾痕上の穴は、本物の、
爪弾で貫かれたそれの様な弾痕となり、高槻の胸部に、四つの血色の風穴を空ける事に成功した。
先程超振動を起こした時に破壊された爪弾は、ACT2の能力が最早使えない程爪が粉々になってしまった為に、このような攻撃が出来ずにいたが、
そうでなければ、これ以上となく不意打ちに適せる攻撃はないだろう。
事実、ステータス差だけで言えば大きく水を空けられていると言うレベルではない程の強さを誇る高槻にも、ダメージを与える事に成功した。

 しかし――この程度では、魔獣は止まらなかった。

「――――――!!!!」

 それは声と言うよりは、稲妻とも言うべき怒轟であった。
間違っても、生物の喉から迸るものとは思えない轟きが、高槻涼の口腔から解き放たれる。振動で、建物が微かに揺れる程の声量であった。
もしも、怒気と言うものが視覚化出来るのであれば、きっと高槻の身体は、紅蓮の炎で燃え盛っているに相違ない。
そう思わずにはいられない程の、怒りの程であった。

 ジョニィは此処で、鐙を蹴って、スローダンサーから跳躍。地面に着地をした頃には、スローダンサーの展開は終わり、<新宿>から消えていた。
ジョニィと言うサーヴァントにとって、スローダンサーと言う宝具は、彼の切り札とも言うべき牙(タスク)の最終形態を放つのに必要な、主軸の宝具と言っても良い。
これを態々解除し、己の足で地面に立った理由は、ただ一つ。馬は乗り物としての速度には優れているが、小回りの観点から言えば、
ジョニィが直に歩くのに比べれば、遥かに劣るからである。ただでさえあのバーサーカーは速度で圧倒的にジョニィに勝る。
ならば、スローダンサーを展開しておく必要はない。このような判断からであった。自分の足で動いた方が、良い判断と言うものだ。


912 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 22:01:19 8Rg2T96Q0
 アレックスが地面を蹴り抜き、一足飛びに高槻の方に向かって行く。
馬と言うよりは隼と形容すべき程の凄まじい速度で、槍の間合いに入った彼は、軌跡を捉える事すら難しい程の速さで、槍を上段から振り落とした。
対する高槻は、その槍が振り落とされるよりも、更に上を行くスピードで、槍の軌道から掻き消えた。

「後ろだ、ランサー!!」

 そう叫んだのはジョニィであった。この男がランサーなのかどうかは解らない。完全に、勘であった。バッとアレックスは反射的に背後を振り返る。
其処には高槻が、先程ロベルタが着地した車のルーフの上で、銃口状に変化させた右腕をアレックスの方に突きだして構えていると言う光景があった。
ドンッ!! と言う音が高槻の銃口の穴部分から響いた。反射的に、緑色の槍をプロペラの如くに高速回転させるアレックス。
アレックスの身体が、数十cmも、浮いた。槍を回転させた状態の直立姿勢のまま、だ。
驚きに彩られた顔を浮かべるも、直に事態を認識し、体勢を整えてから彼は地面に着地する。
コンクリート塊を破壊する程の堅さにまで圧縮した空気を、狙撃銃に倍する速度で高槻が放ったなど、二人はまさか夢にも思うまい。

 懐に備えておいた、ハーブとカモミールのハーブを乱暴に口に持って行き、それを食みながら、両手の指の爪の数をジョニィは確認する。
十本の指には既に、爪が完全に生え揃っていた。今日爪弾を撃ち放って初めて解った事であるが、サーヴァントになった事の恩恵か、
爪の生え揃う速度が生前よりも明らかに早くなっている。恐らくは、三十秒かそこらで新しい爪に生え変わる
これに、ハーブを噛む事で、ほぼ数秒の内に新しい爪が生えて来るのだ。齧歯類の歯の様であった。
数秒で爪が生え揃うなど、ジョニィにとってはこれ以上と無いメリットではある。だが、この数秒と言う時間が曲者であった。
あのバーサーカーは、自身の爪が生え揃う間に、数回は此方を殺して退ける程の敏捷性の持ち主である事に、このアーチャーは既に気付いている。
サーヴァント同士の戦いは、ゼロカンマ秒の時間の奪い合いと言っても良い。そんな世界に於いて、数秒のラグと言うのは致命的な隙である。
そんな厳然たる事実の中で、今最も肝要な事柄は、アレックスを此方の味方にさせた状態のまま、高槻を追い詰めると言う事柄であった。
ランサー――と、ジョニィは考えている――のサーヴァントは、少なくともあの恐るべきバーサーカーと多少なりとも近接戦闘を行える程度の力はある。
彼に前衛を任せ、自分は後衛を、と言う作戦を脳内で立てるのは、ごく自然な事柄であった。

 高槻の姿が、足場にしていた自動車のルーフの上から消失する。
踏込の勢いで、足場にしていたそのセダン車は、あっと言う間にスクラップよりも酷い鉄屑に変貌した。
生身の人間であるジョニィには、如何にも危険そうなあの右腕は勿論の事、あのバーサーカーの、人間としての面影を残した部位による一撃ですらも、
致命傷になり得るほどの勢いであった。一発も、最早もらってはならない。

 高槻は、ジョニィの前方で、右腕を振り上げていた。振り下ろせば、猛禽の如き形状の爪が、彼の身体を挽肉に出来る間合いである。
狂化をしている、とは言え、積み重ねてきた戦闘の経験は、消える訳ではないらしいとジョニィは悟った。
狂化によって理性を欠落させられた存在とは言え、戦闘では後衛から狙った方が良いと言う原則は、頭で理解しているらしい。
拙いと考える時間もない。ジョニィは反射的に左人差し指と中指を、己のこめかみに向ける。
今まさに右腕を振り下ろそうとした、その刹那。高槻はすぐに背後を振り返り、その勢いを利用して右腕を振り抜いた。
クリーム色の光の粒子が、彼の腕の辺りで細雪の如く舞い散っている。アレックスが放った、光の魔術を砕いた残滓であった。
ゼロカンマ二秒程遅れて、弾が肉を貫く音が鳴り響く。ジョニィの方からである。

 軽くサイドステップを行い、高槻が距離の調整を行い、先程の音源、つまり、ジョニィの方に軽く目配せをする。
其処に、ジョニィの姿はなかった。代わりに、彼がいた場所の地面に、黒色の渦が回転している。まるで溜まった水が排水口で渦を巻いているかのようであった。
これは何だと、疑問に思う暇すら、高槻には与えられない。アレックスが地面を蹴って、「あ」、の一音を口にするよりも速く間合いに到達したからだ。


913 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 22:01:39 8Rg2T96Q0
 中段の刺突が、高槻の胸部を穿たんと放たれる。
身体を左半身にする事で難なくこれを回避する彼であったが、即座にアレックスは槍の石突部分で追撃を加え入れようと試みる。
これも、軽くバックステップを行う事で高槻は回避した。着地を終えた瞬間には、彼の右腕は先程圧縮空気を放った時の様な銃口状のそれに変貌を遂げており、
この銃口をアレックスの方に向けていた。防勢に回るのは今度はアレックスの方であった。右方向に大きく距離を取るようステップを刻んだその瞬間、
銃口からドンッ!! と言う音が鳴り響き、圧縮空気が放たれた。スカを食った空気の弾丸は、軌道上の、鉄筋コンクリートのビル壁を砂糖菓子の様に砕いた。

 圧縮空気を乱射する高槻、これを、風の如き速度で走って回避するアレックス。
ガラスを薄氷の如くに粉砕し、鉄筋コンクリートの壁を飴のように破壊し、車体を見るも無残にへしゃげさせる。
歴戦の英霊猛将の類と言えど、直撃すればひとたまりもない一撃を、呼吸をするかのように乱発する高槻もそうであれば、
既に攻撃に慣れたと言わんばかりに、攻撃を回避し続けるアレックスもまたアレックスであった。

 聖杯戦争とは時として、神代の時代を生きた大英霊どうしが、現世に於いて、神話の再現を繰り広げる可能性すらあり得ると言う。
もしもそれが本当であれば、それはとても叙事詩めいていて。幻想譚めいていて、どれ程美しかったであろうか。
しかし、この魔都<新宿>で繰り広げられる、サーヴァント同士の戦いは、どうか。
其処には高尚さも神秘さも、華麗さも無い。憎悪に長ける魔獣と、魔人と化した勇者が繰り広げる戦いは、隠し切れない血香で、匂い立っていた。

 銃弾状をした、光の魔力を固めた弾丸を音速超の速度で射出するアレックス。
埒外の耐久力を誇る右腕で、それをガードするのはバーサーカーのサーヴァント、高槻涼。
まだまだ攻勢は高槻の方にある。言うなれば、余裕は彼の側にあると言っても良いと言う事だ。
その間高槻は、ずっと探し続けていた。渦と同時に消えた――いや、正確に言えば、『渦となって消えたジョニィ』の姿を。
これを探そうとした矢先に、アレックスが槍による中段突きを放って来た為に、彼の所在を探す事は不可能となってしまったのである。

 光の魔力で構成された球体を放つ魔術、セイントを放ちながら、アレックスは突進してくる。
クリーム色の光の球体を、圧縮空気の弾丸で粉砕する。続けて、その球体の後ろを追うようにに接近して来たアレックスに、続けて圧縮空気を放つ。
すると彼は、地面を舐めるような低姿勢の体勢を取り出し、そのまま接近。圧縮空気は外れ、ガードレールに衝突。脆い飴細工の様にそれを破壊する。
目に見えて頑強な、バーサーカーの右腕がダメであれば、生身の人間としての部位を攻撃する。そう考えるのは、自然な事であった。
今回アレックスが狙う部位は、脚部、特に脛だった。生身の人間同士の戦いなら、損傷を負ってしまえばそれだけで勝負があったも同然の箇所である。
そこを目掛けて彼は、ドラゴンスピアを横薙ぎに振るった。しかし、高槻の瞳には槍の軌道が見えている。穂先を回避しようと、跳躍、一撃を回避した、その時であった。

 腹部と左肩部、右脹脛を、何かが凄まじい速度で後ろから突き抜けて行く感覚を、高槻は憶えた。
そして、遅れてやってくる激痛。視界の先で、突き抜けた三つの何かが、十数m先の横断歩道の標識部分に衝突。
金属板部分は薄いベニヤ板みたいに切断され、ポール部分は抉り取られた。凄まじい運動エネルギーだ。


914 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 22:02:21 8Rg2T96Q0
 高槻は地面に着地するが、貫かれた痛みでこれが覚束なくなる。
地に足を付けた瞬間身体がよろけた、その瞬間を狙いアレックスはドラゴンスピアの穂先を脳天目掛けて振り下ろした!!。
そうはさせじと、瞬間的な速度で右腕を銃口状のそれから手の形に戻し、ガッキと穂先を掴み取り攻撃を防御する。
目線だけを、突き抜けた何かが飛来して来た方向に向ける高槻。攻撃の原因は、直に見つかった。
誰かが乗り捨てて行った、原付のスピードメーター部分から、人差し指と親指と中指の爪が剥がれた『手が生えている』のである。
よく見るとその腕は、先程ジョニィを巻き込んだ黒い渦から出ているのが解る。そうと解った瞬間、高槻は吼えた。
右手で掴んだ槍の穂先を強く握り締め、ドラゴンスピアを、今それを握っているアレックスごとその原付の方に投げ飛ばした。
時速数百㎞の速度で投げ放たれたアレックスは、成すすべなく背面から原付に衝突。ハンドルやサドル、メーターのガラス片や針などが空中に飛び散る。
アレックスにこそダメージを与える事は出来たが、黒い渦は既にその原付から逃れており、其処から数m離れた地点で、ギャルギャルギャルギャルと言う音を立てて、ジョニィが渦から現れ出でる。

 タスクACT3と呼ばれるこの能力は、黄金回転の力を自らに射出する事で、螺旋回転の究極の地点、無限に渦巻くどんな点よりも小さな最後の場所で、
自分の肉体を巻き込む事が出来るのである。その究極の地点とは『根源』の一部と言っても過言ではなく、つまりこのスタンド能力は、
爪弾の回転が停止する間、自らの肉体を根源或いは其処に近しい地点に潜航させる事で、ありとあらゆる攻撃から逃れられるのだ。
潜航させる肉体は何も身体全体と言う訳ではなく、身体の一部のみを外部に露出させる事も出来る。
こうする事で、根源に身体を潜らせつつ、攻撃をも可能とさせる、攻防一体となった強力な能力なのだ。

「チュミミミ〜〜〜〜〜ン……」

 ジョニィの背後に、奇妙な霊的ビジョンが浮かび上がっていた。
胴体はボディビルの上半身宛らに大きい逆三角形なのに、脚部と腕部は極端に細いと言うバランスの悪い体格。
顔は出来の悪いモアイを何処となく思わせる、滑稽なそれ。所々に、星の意匠が凝らされているのが特徴的である。
これこそが、牙の進化の第三形態。嘗て、黄金回転と言う技術について誰よりも詳しかったある男をして、自身とその系譜に連なる者達が積み上げて来た経験値の上を行くとすら思わせた能力の具現であった。

 ガァッ、と声を上げ、高槻は右腕を、アンダースローの要領で振り上げた。
超振動によって分子レベルにまで破砕された、アスファルトの砂粒が、右腕とぶつかった。
凄まじい速度で薙ぎ上げられたその砂粒は、摩擦熱により凄まじいまでの熱量を帯び始めた。優に五百度は超えていよう。
そんな熱砂が、指向性を以てジョニィの方に殺到したのである!! しかし、アレックスがこれを許さなかった。
すぐにジョニィの眼前まで飛んで行き、槍を高速で回転させる事で全てを弾き飛ばす。

「――やれ」

 アレックスはジョニィに対して言葉を投げ掛けた。此処に来て初めて、共闘関係が生まれた瞬間であった。
黄金回転は、止まらない。ジョニィの右腕が、消失した。消えたと言うのは、正確な言い方ではないかも知れない。
身体の一部を、渦に巻き込ませたのである。高槻は地面を蹴り、一直線にアレックスとジョニィの下へと向かって来る。

 右腕を横薙ぎに振う高槻、これをドラゴンスピアの柄の部分で防ぐアレックス。
積荷を限界まで搭載したトラックの衝突ですら、生ぬるいのではと思わせる程の衝撃がアレックスに叩き込まれる。
それを、浪蘭幻十と言う名のアサシンへの憎悪と、自身のマスターである北上を護ると言う意思、そして、勇者としてのちっぽけなプライドで何とか防ぎきる。
その間、ACT3の渦は、地面を移動し、一番近い位置にあるビル壁の三階部分まで伝い上り、その位置から、右腕がニュッと飛び出して来た。
三本の爪が中頃まで再生し始めているその手の小指と薬指から爪弾が放たれる。その事実に高槻が気付いた時には、首と腰を、ACT2で撃ち抜かれていた。

 血色の風穴から、ビューッと、凄まじい勢いで血が噴出して行く。
一瞬思考がフリーズした高槻の腹部をアレックスが蹴り飛ばし、その右肩に、ドラゴンスピアの穂先を超高速で叩きつけた。
ジョニィも、そして武器を振ったアレックスも、クリーンヒットであると、思わざるを得ない一撃。

 ――二人は、そう思っていたのだ。この時は、であるが。


915 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 22:02:38 8Rg2T96Q0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 軍用ヘリから射出される機銃とミサイルが、子供と、その親たちの身体を吹き飛ばして行く。
柔かいパンのように、頭や四肢が千切れ飛んで行く。悲しさと怒りに、涙を流した。

 球体状のロボットに追い詰められていた彼は、己の中に眠る魔獣の力を駆使し、その立場を逆転させた。
遂に相手を追い詰め、力尽くで操縦者がいるであろう機械のハッチを抉じ開けた。体中に点滴針を刺し、穴と言う穴にチューブを入れていなければ、
数秒と生きられない程痩せ細った少年が其処にいた。彼はハッチを開けられた瞬間、延命が効かなくなり、醜い金属の塊へと膨張した。悲しさと怒りに、また涙を流した。

 全ての元凶であると思っていた黒の男を殺したと思ったら、訳も分からず、黒の中に眠っていた白の人格が目覚め始めた。
日本を出、アメリカにまでやって来た目的である、大事な幼馴染の死を以て計画の完了と成す、と言った男の野望を頓挫させるべく、己の力を揮った。
――その力で、彼は、彼女を殺してしまった。神の卵が取り込んだ空間転移、それを以て白は、まんまと彼女を彼に殺させて見せた。

 深い『絶望』と『憎悪』、『悲哀』と『仁愛』が爆発した。
皮膚が張り裂け、筋肉が断たれるような感情の大渦の中で、一つの声が脳裏に響いた。その時の事を、今彼は思い出していた。

 ――我は汝……、汝は我……――

 そう、その声は、今の彼の脳裏にも響いていた。 

 ――嘗て我は、“汝と共に生き、汝と共に滅びる”と言った……あの時の事を憶えている……――

 声は、彼に告げる。

 ――今のお前にも、我は従おう――

 続けて、声は言った。

 ――選択の時だ。我は、汝の意思に従おう、高槻涼!!――

 ……この力は、昔、自分が何よりも恐れた力ではなかったのか。
進化の果てに、地球ごと全ての人類を葬り去る力を内に秘めた、危険極まりない力ではなかったのか。
思い出せない。思い出せないが、負けたくはなかった。だから彼は――高槻涼は、声に対して、肯んじた。

 ――『審判』の時は来たれり!!――

 人格が、高槻から声の主のそれに切り替わる。
高槻の人格の泡沫は、己の身体から湧き上がる、メルトダウンするような力の奔流を感じた。
後は、頑張ってくれ。声の男よ。自分の代わりに、この場の『闘争』を制してくれ。その猛々しい『勇気』を以て、事態を制してくれ。

 ……狂化した高槻には、魔獣の力を抑制する意思などなかった。

 『希望』は、死んだ。


.


916 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 22:02:59 8Rg2T96Q0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 高槻がジョニィ達との戦いで上げた声は、理性も悟性もなく、狂暴な感情のみに任せた咆哮ではあったが、それはまだまだ、人間としての名残を思わせる、
まだ人間が上げている声である事が解る。そんな声ではあった。

 しかし、今の高槻が上げている声は、全く違う。
数百トンもある様な金属塊と金属塊がぶつかり、勢いよくすれ合うような、轟音。
思わず耳を防ぎそうになるジョニィ達であったが、何とか塞がずにいられたのは、潜り抜けて来た死線の故であった。
いや――それだけではなかった。声帯の代わりに、雷雲がその位置に収まっているのではないかと言う程の爆轟を声から轟かせている高槻もそうだが、
それ以上に驚くべき変化が、彼に起っていたが為に、耳を両手で覆うに覆えないのである。

 高槻の身体が、少年の面影を残した体躯から、三mもあろうかと言う程の巨躯の何かに変貌して行っていた。
皮膚を裂き、筋肉を切り裂く様に現れたその怪物に変化するのに、高槻は苦しむ様子一つ見せない。
まるで皮膚の一枚下に、身の毛の逆立つようなその怪物が、初めから潜んでいたとしか思えない程変身はスムーズであった。
これが、本来の姿だった、と言われても、ジョニィもアレックスも、納得したであろう。

 二秒弱で、変身が終わった。
そして、其処に現れたのは、高槻涼の姿とは似ても似つかない、『鬼』としか言いようがない風貌の怪物であった。
身体の色は、変身前の高槻の右腕の様な灰銅色。しかし、体格も容姿も、変身前とは別の生き物であった。
極めて完成度の高い上半身と下半身の筋密度と、その大きさの比率。肩から伸びる、プロテクター上の部位。
触れただけで、人の皮膚は愚か、その筋肉まで切り裂けると思わせる程鋭利な爪を生やしたその手。
人間の時の高槻は、それは右腕だけにしか発現していなかったが、今の彼にはそれが両腕に発言している。
何よりも恐ろしいのは、その顔つき。これこそが、日本の伝承の中に語られる鬼の真実であると言われても、万民が納得する程の、厳めしく、恐ろしい風貌。
髪は、金属で出来た針を思わせるような質感を持った突起が何本も生えていると言う、剣山を思わせるようなそれである。
と言うより、その質感は毛髪――と思しき部位――のみならず、彼の身体全体を表した特徴と言っても良く、今の高槻は、生きた金属の生命体を思わせる姿であった。

「我は破壊の権化――ジャバウォック」

 高槻の口から、明白に、言葉が出て来た。
ジョニィもアレックスも瞠若する。今までの高槻は、明らかに、高ランクの狂化と引きかえに言語を失った事が見て取れる相手であったのに、
今の彼の口ぶりの、何と闊達な事か!! 狂化スキルが完全に消滅してるとしか思えない程、彼は見事に言葉を操っていた。

「よくもつまらぬ攻撃で我を滅ぼそうとしたな」

 その言葉は何処までも尊大で、威圧的で、自分こそがこの世で最も強い存在なのだと言う自負に満ち溢れた言葉であった。
先程、ジョニィのACT2で首を撃ち抜かれた痛みなど、初めから存在していないかのような喋り方。
人間の時のバーサーカーが負った傷は、今のバーサーカーには引き継がれないのか。
世界で一番高い山から投げ掛ける言葉の様な高慢さで溢れたその言葉はしかし、その風貌と、事実身体から溢れ出る、言葉に恥じない圧倒的な鬼風のせいで、全く虚勢を思わせない。

「魔獣の業火で、灰になるがいい。雑魚共が!!」

 高槻涼――いや、ジャバウォックが咆哮を上げる。 
戦端は、新たなる局面を迎えるのであった。


917 : カスに向かって撃て ◆zzpohGTsas :2015/11/07(土) 22:03:32 8Rg2T96Q0
前半の投下を終了します。引き続き、先程の予約を引き継ぎ、書き終わり次第後半を投下いたします


918 : ◆ACfa2i33Dc :2015/11/09(月) 23:09:14 yR2BIpj.O
投下お疲れ様です
どいつもこいつも格好いい……
初戦は散々な目にあったアレックスも善戦していますし、ジョニィのジョジョらしい戦い方もいい
しかしそれでもジャバウォックのヤバさは群を抜いていますね……
新宿こわれる

それと
一之瀬志希&アーチャー(八意永琳)
で予約します


919 : ◆zzpohGTsas :2015/11/12(木) 23:19:05 gcHpQo2.0
書き上げられるか解らないので、一応延長を宣言しておきます


920 : ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:51:31 IUFDcNis0
書き上げてから、北上さんが出ない事に気づきましたが、特に問題はありませんのでこのまま投下いたします


921 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:52:08 IUFDcNis0
 ジャバウォック、高槻涼の威容を見て逃げ惑う市民に混じり、ロベルタは街を走っていた。
最早市民は恐慌状態にあると言っても良く、蹌踉とした足取りで場から遠ざかろうとする者が殆どの中に在って、
ロベルタは、実に確固とした足取りでその場から急いで離れていた。もしも、潰乱状態の市民達の中に、ロベルタの今の状態に気付ける者がいたら、
きっと、妙に思える事であろう。そもそもロベルタは、あの化物が攫って来た人物なのではないのか? そんな、一番恐怖の最前線に立たされていた彼女が何故、一番冷静なのか、と。

 ウラを明かしてしまえば何て事はない、高槻とロベルタがグルであった、と言うだけだ。
だが、走り方こそ市井の一般住民のそれとは違うが、何かから逃げている、と言うのは本当の話である。
ジョナサン・ジョースター。自らの爪を拳銃並の速度で射出する、異端のアーチャーのマスター。
初めて言葉を交わした時、ロベルタは、何と甘い男なのだろうかと彼を嘲笑していた。
血が香り、死神が魂を刈り取らんと彷徨う、戦場の住民であったロベルタは、ジョナサンはこの聖杯戦争を生き残れはしないだろうと踏んでいた。
理想主義者と平和主義者は、買えないおもちゃを親にねだる駄々っ子と同じである。叶わぬ願いを求めて走る個人など、馬鹿を通り越して愚かである。

 ……だと、思っていたが。
糖蜜よりも甘い男だと侮っていた男から、情けも甘えも一切消え失せ、無慈悲で、それでいて激流の様な怒りが露になった瞬間、ロベルタは反射的に、
逃走の姿勢を取ってしまっていた。柔弱な平和主義者だと思っていた男の皮膚が剥がれてみれば、現れたのはロベルタも知ったる戦士の顔。
但し、戦士は戦士でも、彼女が掃いて捨てるほど見て来た、相手を絶対に殺し、自分だけは絶対に生き残って利益を掠め取りたいと言う、
カスにも劣る狗の如き戦士ではない。もっと別の、ロベルタの語彙と経験では表現出来ない程、高尚な物の為に戦う戦士。そんな印象を、彼女は抱いた。
その訳の解らなさと、今まで彼女が見て来た、如何なる男よりも明白な、『殺す』と言う意思をぶつけられた瞬間、彼女は逃げていたのだ。

 人生の多くをゲリラとして、殺しと戦いの世界に生きて来たロベルタは、聖杯戦争に参加しているマスターの中で、自身は屈指の実力者だと言う自負があった。
耐えて来た訓練の果てに得た戦闘能力、それをフルに生かした実戦経験。魔力の少なさと言う点が痛いが、他のマスターにはない重要な個性だと強く思ってもいた。
それを、粉々に打ち砕かれた。ジョナサンが放った殺意と敵意は、伊達ではない。こう言った敵意と言うものは、放つ存在の『強さ』に比例する。
先ず間違いなく、あの男と戦って、無事には済まない。ロベルタが下した結論が、これだった。一矢報いる事は、出来よう。
しかし、それでは意味がないのだ。ロベルタは絶対にこの聖杯戦争を生き残らねばならない。汚れた灰色の狐を地獄に叩き落とすその日まで、
ロベルタは、泥水を啜り、野草を喰らってでも生きる覚悟であった。

 逃走ルートを、市民が逃げ惑う大通りから、入り組んだ裏路地のルートへと変更する。
いや、逃走、と言う言い方は使うべきではないのかも知れない。より正確に言えば、『高槻涼の回収ルート』と言うべきなのだろう。
聖杯戦争の参加者、否、魔術師の特権と言うべきか。彼らには念話と呼ばれる、会話やノートテイクとは違う、思った事を口に出さず、
心の中で伝達させると言う技術が使えるようになっている。便利である事は言うまでもない、軍事技術に転用出来ればどれ程の変革を齎せるか。
わざと迂遠なルートで<新宿>二丁目を移動し、少々の時間が経過してから、高槻達が戦っている所に戻り、念話を以て高槻に戦闘の終了を報告、この場から立ち去る、と言うのが、ロベルタが考えた計画であった。


922 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:52:23 IUFDcNis0
 しかし、これは危険な綱渡りである。態々火事場に飛び込むと言う事もそうであるが、念話自体にも問題があるのだ。
先ず、引き当てたサーヴァントがバーサーカーと言うのが悪い。狂化により理性が大幅に欠如、言語は喪失と、コミュニケーションに致命的な難がある。
多少の意思疎通は出来る事は確認済みであるが、戦闘の昂揚に入った高槻に、念話による命令が通じるかどうか。
そしてもう一つの問題が、念話が有効に働く距離。ごく簡単な実験で試した事があったが、高槻に念話による命令が有効に働きうる範囲は、
彼を中心とした半径十m程度でしかない。それを超えた範囲での念話は、狂化した高槻にはほぼ意味を成さない。
半径十mにまで近づかねば念話に意味がなくなる。これは、何を意味するのか。それは、高槻を回収するには、ロベルタは鉄火場まで自分の足で行かねばならないのだ。
高槻涼と言うサーヴァントがその暴力を発散すれば、自分自身ですら粉砕しかねない。その暴力が直撃する、その範囲まで彼女は向かうのである。
リスクが、高すぎる。しかし、此処で令呪と言う切り札を切るのも、気が早すぎる。此処は、多少のリスクを覚悟せねばならない時であった。

 一年通して陽が一番高く上る夏の時期ではあるが、<新宿>の裏路地では、真昼にでもならない限り日は差さない。
<新宿>で聖杯戦争をするにあたりロベルタは、この街の裏路地、と言う名の、彼女自身がその暴威を余す事無く振える場所に既に目星を付けていた。
当然、道順はその際に覚えている。市街戦に於いて、ルートを頭に叩き込むなど基本中の基本。
今ではロベルタは、<新宿>どの道を行けば何処に繋がっているのか、と言う事を完全に把握している。今走るルートで、今のペースで走り続ければ、数分の内にジャバウォックの下へと到達出来る。

 もう少し、ペースを上げるか、と思い速度を上げ始めた、その時であった。
ロベルタの前方十m先の地点に、何かが頭上から勢いよく落下して来た。其処で勢いよく立ち止まるロベルタ。
着地の際に一切の音こそ立てなかったが、それは、人間だった。それも、頭が黒く、黒い紳士服を着用した、大柄なアングロサクソン。

 ジョナサンは、ロベルタと言う女性が裏路地を通るであろう事は予測出来ていた。
日の当たらない、日陰の世界の住人であるヤクザを狙って襲うと言う手口からの、簡単な憶測である。
仮にそれが嘘だったとしても、今回に限って言えば、裏路地を移動ルートに選ぶであろう事は予測していた。
ロベルタは確実に、バーサーカーのサーヴァントを後で呼び戻すであろうとジョナサンも思っていたのだ。必然的に、ジョナサンを撒いた後、
高槻のもとまで戻る必要がある。だが、今も市井の住民がてんやわんやの状態の大通りで、バーサーカーの下に戻るのは、要らぬ誤解を生む。
だからこそ、一端路地裏を経由する必要がある、こう考えたのだ。結局、この憶測はロベルタの心理を完璧に等しく読み当てていた。
もしもロベルタが、多少のリスクを覚悟で、来た道である大通りからジャバウォックを回収しに行っていれば、きっとジョナサンに出会う事もなかったであろう。

 尤も、ジョナサンにしてもこのような移動ルートを辿る様な事になるとは、思わなかった。
ロベルタの移動速度が、見た目の割には想像以上に速かったせいである。まさか彼女が過去、厳しい軍事訓練の末に人間の限界の閾値に近しい身体能力を得た女などとは、
誰も思わないだろう。この結果、ジョナサンは仕方なく、建物の屋上をそれこそ忍者か猿の様に跳躍して、ロベルタを追い詰めねばならなかった程だ。

「お――」

 追い詰めた、そう言おうとしたジョナサンであったが、その続きは、けたたましい銃声がかき消した。
コンマ一秒に迫る程の速度で、ヤクザから奪い取った拳銃を懐から取り出し、ロベルタが躊躇なくジョナサンの額目掛けて発砲したからである。
しかし、ジョナサンはロベルタのこう言った行動を読めなかった訳ではない。ヤクザの事務所を襲撃し、躊躇なく自分達を狙撃する人間である事は確認済み。
不意打ちの一発は、十分予測出来ていた。だからこそ、上体を大きく横に傾ける事でジョナサンは銃弾を回避して見せた。

「君がその気なら、僕は君の影すらも灼いてみせよう」

 堅く拳を握り締め、ジョナサンは口にした。
凛冽たる決意に満ちたジョナサンの顔つきとは対照的に、ロベルタの表情には、羅刹と見紛う程の殺意と敵意が鑿を当てて見せた様に刻まれていた。


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923 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:52:48 IUFDcNis0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 市街戦や室内戦で銃撃戦を行う上で、特に警戒するべきは跳弾である。
跳弾とは一般人が認識している以上に頻繁に起こる現象で、敵に向かって撃った銃弾が、跳弾で味方に直撃すると言う事故は、珍しくも何ともないのである。
銃とは、こと生身の生物相手にはこれ以上とない有効武器であるが、これが物質、特に石や金属に対しての破壊力となると、大きくその有効性が落ちる。
と言うのも、銃は弾道の角度と言うものに恐ろしく左右される武器であり、下手な角度で物に対して撃てば、日干し煉瓦ですら跳弾が起きる程である。

 だから本来、<新宿>、特に、ロベルタが今いる建物と建物との幅が三mもなさそうな狭い路地で、銃弾を撃つ事は好ましくないのだ。
この狭いルート、しかも鉄筋コンクリートの壁が両サイドに聳える場所で銃を撃てば、ほぼ確実に跳弾が起きるのだから。
――そんな事などお構いなし、と言わんばかりに、ロベルタは、ありったけの殺意を秘めてジョナサン相手に拳銃を撃ちまくっていた。
周りに味方がいるのならばいざ知らず、一対一の戦いで、跳弾を恐れて発砲を控えるようならば、殺されるのは自分自身なのだ。
躊躇も何もない。発砲音を恐れて人が集まろうが、知った事か。今は、目の前の敵を殺す事に、ロベルタは全意識を集中させている。

 腹部目掛けて銃弾を発砲するロベルタ。
腹部は一般的には急所に類する部位と言う認識は薄いが、人間の腹には大腸と言う部位が当然収まっており、其処には大便が溜められている。
此処を銃弾で撃ち抜かれると体内に便が飛び散り、感染症で死ぬリスクが増大する。戦場で撃ち抜かれればほぼ死んだも同然なのだ。
おまけに的も頭に比べて大きく狙いやすい。狙えるのであれば、頭よりも積極的に狙うべき箇所であった。
しかし、未来でも予測出来ているかのような直感力で、ジョナサンは弾丸を回避。その後、壁の方を『垂直』に駆け上がり、一定の高さまで到達した所で、
壁を勢いよく蹴り、ロベルタの方へと急降下。彼女の頸椎目掛けて、強烈な浴びせ蹴りを見舞おうとする。
彼女は、ジョナサンのこの一撃に、巨大な斧が振り下ろされるイメージを見た。バッと身体を勢いよく屈ませ、寸での所で蹴りを躱す。
髪の毛が数本、彼の靴に持って行かれた。反応が遅れたら持って行かれたのは、髪ではなく首の方であったろう。
毛根が頭皮から引き抜かれた、その痛みの電気信号で、ロベルタは反射的に、膝を勢いよく伸ばし、その勢いを利用して前方に向かって飛び込んだ。

 蹴りが躱され、地面にジョナサンが着地する。
飛び込んだ先でロベルタは膝立ちの状態になっており、ジョナサンの背中に銃弾を発砲した。狙いは肺である。
だが、まるで後頭部にも目があるのかと疑る程の勘の良い男だった。着地した、膝の力だけでジョナサンは何mも跳躍。
背面飛びの要領で、彼は銃弾を避け、ロベルタを飛び越し、彼女の三m背後に着地。信じられないものを見る様な目で、ロベルタは背後のジョナサンの方を振り返った。


924 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:53:31 IUFDcNis0
 ジョナサンが地を蹴り此方に向かって来る。
殆ど反射的に飛び退くロベルタ。ジョナサンが拳を引いた。殴り飛ばす気なのだろうか。彼我の距離は四m程も離れている、当たる筈はない。
しかし、軍人として培ってきた彼女の勘が、告げていた、何処でも良いから身体を動かせと。それに従い、右側の壁に身体を動かした、その時だった。
見間違いでも何でもない。ジョナサンの右腕が、直線状に『伸びた』。腕の長さ自体が、それこそ熱したチーズのように、二m程も伸びたのだ。
驚きに目を見開かせた時にはもう遅い、伸びた右拳が、彼女の左肩に突き刺さる。ゴキャッ、と言う厭な男が響いた。肩の骨を、砕かれた痛みが全身に伝播する。
ぐっ、と口から苦悶の声が上がる。拷問された時の訓練も受けている為、この程度では音を上げない。
寧ろ、利き腕が破壊されなかっただけ、まだ好都合だと考えた。伸びた腕――ズームパンチに使用した右腕を元に戻しているジョナサン目掛けて、
ロベルタは発砲。弾丸は、ジョナサンの鳩尾に吸い込まれ――刺さった!! だが、ロベルタの目にはどうにもおかしく映った。
彼の鳩尾に弾丸は命中したが、様子がおかしいのだ。背中を突き抜けた訳でもなければ、体内に残ったと言う訳でもない。
クラシカルな黒い紳士服でどうにも、弾の様子が掴み難い。目を凝らしたその瞬間、ジョナサンが勢いよく飛び出して来た。
ハッとした表情で、彼女は思いっきり身体を屈ませ、不様に横転。その場から距離を離す。彼女が先程まで背を預けていたビル壁に、ジョナサンの左拳がめり込んでいた。

 予め、はじく性質の波紋を身体に流しておいて良かったと、つくづくジョナサンは思っていた。
これがなければ、銃弾で致命傷を負っていたであろう。実際、彼に向かって放たれた銃弾は、刺さり、ダメージを受けたが、肉体を突き抜けるには至らなかった。
並の波紋戦士であれば、体内にまで弾が侵入していただろう。それを許さなかったのは、ひとえにジョナサンが極めて優れた波紋戦士だからに他ならない。

 そう言った、ジョナサンの素性を知らないロベルタは、化物でも見るような目で彼の事を睨んでいた。この程度のオモチャでは殺すには至らないのかと、歯噛みする。

 ロベルタが保有している拳銃は、ベレッタ92F。向こう――合衆国――ではメジャーな現行器である。
警官のみならず軍部でも採用している事で有名で、ロベルタもゲリラ時代使った事がある。そして、好きな銃ではない。
好ましくない国家である合衆国製の物であると言うのもそうだが、そもそもロベルタは重く、威力の高い銃を好む傾向が強い女性だ。
そう言った宗旨を曲げて、この銃を使う理由は、ただ一つ。これしか使える武器がなかったからである。
銃規制が非常に厳重な日本においては、ヤクザやマフィアの類が銃を持ちこむ事すら一苦労だ。ロアナプラと違い治安にはうるさいのである。
サブマシンガンやアサルトライフル、グレネードの保持など以ての外。従って、このようなケチな拳銃しかロベルタは奪えていないのである。


925 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:53:52 IUFDcNis0
 ――金だけはある癖にケチなアウトロー……――

 と、何度この国のマフィアの類に愚痴ったかは解らない。
彼女が愛用するミニミやグレネードさえ入手できていれば、目の前の気取った男など、そのまま挽肉であった。
それが出来ない事に、イライラが募って行く。左肩を砕かれた痛みですら、忘れられそうな程であった。

 マガジンに込められた弾丸は、残り数少ない。
アジトに行けば数十丁もの拳銃が保存されているが、今は二丁だけ。弾薬もあるにはあるが、目の前の男が相手では、装填している間に殺されるのがオチだ。
だからここは彼女は――逃げる事にした。但し、尋常の方法では逃げられないので――尋常じゃない方法で逃げる事とした
出来るかどうかは微妙な線ではあるが、やるしかない。ロベルタの目線は、ビルに備え付けられたクーラーの室外機に向けられていた。
ジョナサンとロベルタを挟む二つのビルは雑居ビルであるらしく、二階部分にも三階部分にも、室外機は露出されている状態だった。
彼女は、最初の跳躍で一階部分の室外機の上に乗り、其処でまた、室外機が凹む程の勢いでジャンプ。
二階部分の室外機に、片手の力だけでしがみ付いた。彼女の意図する所を知ったジョナサンが、追いかけようとするが、その頃には彼女は二階の室外機の上に上っていた。
其処で彼女は、ベレッタを発砲し、地上のジョナサンを迎撃する。これを彼は回避。再びロベルタが室外機から跳躍、三階部分のそれにしがみ付き、
再びその上に一秒経たずしてよじ登る。追い縋ろうとするジョナサンであったが、ベレッタで牽制射撃をロベルタは行い、行動を封殺する。
両サイドの建物の階数自体は、屋上部分を含めて五階まで。つまり、室外機はあと一つしかない。
其処目掛けてロベルタは最後の跳躍を行い、しがみ付き、室外機の上に降り立つ。此処まで来たら、もうしがみ付く為の室外機を探す必要などない。
これを蹴り抜き、思いっきり跳躍。凄まじい脚部の筋力で蹴り抜かれた室外機は、ガコンッ、と言う音を立てて接続部から外れ、地面へと落下して行く。
ガシッ、と、屋上の柵部分をロベルタが握り締める。片腕の腕力だけで、鉄柵をよじ登って行き、ある高さまで着た瞬間、鉄棒競技の大車輪の要領で、
大きく一回転。雑居ビルの屋上に降り立った。――その瞬間だった。

 ガクンッ、と、腰が抜けるよう感覚をロベルタは憶えた。一瞬膝を付きそうになるが、柵を掴む事で何とか免れる。
FARCに志願入隊して間もない頃を思い出す。あの頃は地獄の様なシゴキと訓練にも耐性がなく、訓練が終わったその時など、膝や腰がガクガクになり、
全身を襲う筋肉痛で死ぬような思いであった。あの日の感覚と今の感覚は似ていた。
動くのが気怠い。しかし此処で動くのを止めては殺される。自らの身体に喝を入れ、その場から逃げ去ろうとしたその時――見た。
目線の先百と余m程先の交差点地点で戦う、ジョナサンのサーヴァントと正体不明の乱入者のサーヴァント。
そして、あと一人。自分が全く見た事もない姿をした、巨大な鬼の様な姿をした何かを。


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926 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:54:30 IUFDcNis0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 口から火を吐く生き物、と言うものは、国を問わず、どの人物も昔から抱くイメージの一つである。
あり得ないものを呼気として吐き出す、その事に非日常性と、幻想性を感じるのかも知れない。
アレックスは口から火を吐く生物の典型例、それこそドラゴンやキメラとも戦った事があるが、ジョニィはそう言った存在と対峙するのは、初めてだ。
そしてジョニィは――叶う物なら、そう言った存在と戦うのは今日で最後にしてほしいものだと、心の底から思っていた。

 タスクACT3の能力を用い、黄金回転の渦の中に潜航するジョニィ。
渦の中から見える風景は、熾烈と言う言葉ですら生ぬるい、戦場の風景だった。

 嘗て高槻涼の姿をしていた、自らをジャバウォックだと名乗るバーサーカーは、その口から紅蓮の炎を吐き出していた。
炎は地面の砂粒を一瞬でガス蒸発を引き起こす程の温度で、この炎が車体に当たった瞬間、内部のエンジンとガソリンに引火、大爆発を引き起こす。
車の爆発につられてまた、後ろの車両も爆発し――と、地獄とは、まさに此処の事を言うのだと言われても、ジョニィは信じる事が出来た。
魔獣が吐き出す地獄の業火を、アレックスは回避し続ける。走る、跳ねる。最早、防げる威力の範疇を超えた温度の為、槍で弾く事すら彼はしていなかった。

 黄金回転の時間が切れそうになったジョニィは、渦から飛び出し、その姿を露見させる。
ジャバウォックとの距離は二十m弱も離れており、交差点からかなり先の場所だ。此処からジョニィは、ACT2の爪弾を左手から射出させまくる。
魔獣は、避けない。そして、身体に何の変化もない。銃創すら出来上がっていないのだ。
アーチャーとして現界し、優れた視力を持つに至ったジョニィは、何が起ったのか見えていた。爪弾が、気体になって消滅したのである。
何かの熱を纏っているのか、と考えたジョニィの考えは正しい。今のジャバウォックの体温は、飛来した弾丸すらも一瞬で気化させる、八千六百度。
バーサーカーは本来対魔力を持たないサーヴァントであるが、この熱源により、物理的な干渉力に対する防御力をも兼ねた、天然の対魔力スキルを保有しているに等しい状態と言っても良い。

 身体に纏われた温度の故に、アレックスは完全に攻めあぐねている状態にあると言っても良く、接近の為に近付いたその瞬間、
彼は膨大な熱によるダメージを受ける、と言うやり取りを何度も繰り返していた。損傷覚悟での一撃を何度か加えはしたが、ジャバウォックの肉体自身が埒外の耐久力を誇る為に、全く決定打には至らない。

「目障りな羽虫め」

 言ってジャバウォックは、その右腕を、竜巻の様な勢いで振るい、アレックスを迎撃する。
攻撃の予兆を読んだアレックスは、何とか数m程飛び退いて攻撃を躱すが、衣服の腹部分をバッサリと斬り飛ばされていた。
攻撃の『おこり』を読んでいて、かつ無造作な攻撃ですらこれなのだ。本腰を入れて攻撃を入れていたどうなっていたのか、解ったものではない。

 自らの身体の魔力を燃焼させ、アレックスは、自分が戦っている地点を中心とした直径二十m地点全体に、クリーム色の光を浴びせ掛ける。
アレックスが使う光の魔術は、単体を攻撃するものはセイント、複数体を攻撃するものはスターライトとラベル分けがしてあり、この攻撃は後者のものだった。
これまでアレックスが全体のものを放たなかったのは、ジョニィが近くにいた事もそうなのだが、自分が範囲攻撃を使えないとジャバウォックに誤認させたかったからだ。
目論見通り、不意を打たれた形になった魔獣は、直にスターライトの神秘の熱光を浴びせられ、ダメージを負った……筈である。

 ――効いてるのかよ……これ――

 直撃は、絶対にした。客観的に見てもアレックスの目から見ても、それは確実だ。
全くダメージを与えられているように見えないのも、客観的に見てもアレックスの目から見てもその通りであった。
ジャバウォックの灰銅色の身体、その表面の薄皮一枚、溶かす事も出来ていない。スターライトは神聖な熱光で相手を焼く、神秘の一撃と言っても良い。
しかし、神威の光とて目の前の、莫大な灼熱を纏った存在には効果が薄いと言うのか。
接近し、強烈な一撃を叩き込む他ないのだろうが、超高熱を纏っているため、それも難しい。流れは、完全に悪い方向に変えられていた。今やアレックス、そして、ジョニィの共通見解である。


927 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:54:53 IUFDcNis0
 相手の攻撃手段を完全に封殺したと認識したジャバウォックは、右手の爪を大きく開き、その掌を開放させる。
ジャバウォックの掌にはカメラの『絞り』に似た器官が取りつけられており、その事に気づけたのは、その絞り部分をバッと見せつけられたアレックスのみ。
空気の弾丸が放たれる物かと思い、槍を構えるアレックス。しかして、魔獣の右手に収束するエネルギーを見て、何かがおかしいと思い始めた。
光る砂粒めいたエネルギーが、絞りの部分に集まって行くそれを見て、急激に嫌な予感を感じ始める。この間、コンマ二秒にも満たない。
そう思った時には、既にアレックスの身体は横っ飛びに移動せんと砂地の地面を蹴り抜いていた。
それと同時に、ジャバウォックの右掌からエネルギーを収束した光線――俗に、荷電粒子砲と呼ばれる白色の熱線が放たれた。

 アレックスの幸運は、荷電粒子砲が放たれるより前に、地面を蹴って跳躍する、と言うアクションを起こせていた事であろう。
そしてそもそもの不幸は、放たれた攻撃が、空気砲ではなく、荷電粒子砲そのものだった、と言う事であろう。

 円周六十cm程の荷電粒子砲は、アレックスの右脇腹を半ば近くまで抉り飛ばして消滅させ、背後に列を成して駐車されていた、
嘗て市民が乗り捨て逃げ出した車両を、渋滞の最後尾まで貫いた。焦点温度六十万度を容易く超えるその粒子砲の温度に当てられ、
粒子砲が通った側の車線の車は全て、内部のガソリンやエンジン機構ごと車両が大爆発。あっと言う間にその車線は、ガソリンの燃える臭いと溶けた金属、
そして炎だけが敷き詰められた地獄の回廊さながらの風景に変貌した。

「ごあがっ……!!」

 地面に槍を突き立て、バランスを失って倒れそうになるのをアレックスは防いだ。
肉体の一割近くを今のアレックスは消滅している状態と言っても良く、これにより急激に体重が低下。
突如として体重が十%程も消えてしまった事と、体中が燃えあがる様な激痛の為に、直立姿勢を維持する事が難しくなってしまったのだ。

 この程度で済む事が出来たのは、せめてもの幸いと言うべきだったろう。
あのアーチャーのサーヴァントは、自身の事をランサーと呼んでいたが、それは間違ってはいない。
今のアレックスは宝具の力で、自身のクラスをランサーに変えているのだから。聖杯戦争の基本七クラスに自由に変身出来、その性質をとっかえひっかえ出来る宝具。
その中で、最も敏捷性に優れたランサーのクラスで戦っていたからこそ荷電粒子砲に反応出来、避ける体勢に移行出来たのだ。
それ以外のクラスであれば、もっと大きな風穴が身体の何処かに空いて、今度こそ本当に消滅していた事は間違いなかった。

 しかし、アレックスの幸いなど、その程度だ。九死に一生を、程度に過ぎない。
死に掛けの状態なのは厳然たる事実であるし、そもそも危難は全く去っていない。ジャバウォックは依然として此方に標的を定めている。
腹部の消滅部に治療の為の魔術を当て、痛みを先ずは和らげる。アレックスが出来るのはそれだけで、全力で動くには、圧倒的に治癒に掛けられる時間と魔力が足りない。
クソが、と悪態が口から漏れる。こんな所で死ぬ訳には行かないのだ。あの美貌のアサシンをこの手で葬り去るまで。
北上を元の世界に戻すまでは。聖杯戦争が始まってから一日と経っていない時に退場なんて、したくない。

 ジャバウォックが一歩一歩、大地を踏みしめるようにアレックスの方に向かって行く。
八千六百度の体温を持った鉱物の怪物が、と言われればアレックスが直面している状況の絶望さが伝わるかも知れない。
地面は物理法則化の埒外にある体温によりマグマ化した後、一瞬で気化し、長い間その体温の持ち主がその場にいるせいか、
<新宿>二丁目地点の交差点は酷い陽炎で、酷い立ち眩みでも起こしているかのような歪みが起り始めるのみならず、気温も何十度も上昇していた。


928 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:55:06 IUFDcNis0
 爆熱を伴った死が、アレックスの方に近付いてくる。チリチリと衣服が焦げだし、皮膚が凄い勢いで乾いて行く。
最早これまで、と言った言葉がこれ以上となく相応しい、とアレックスの中の冷静な何かが考え始めた、その時であった。
――ボグオォンッ!!、と言う音が五度連続で鳴り響いた。
ジャバウォックの方からである。何故、その音が生じたのか、その経過を目を開けて目の当たりにしたアレックスには解る。
地面を移動し、魔獣の足元から胴体部まで伝って行く、渦上の弾痕。それが、胴体に三つ、首に一つ、顎部分に一つ移動した瞬間、
本物の弾痕になり、貫かれたようなダメージを彼に与える事に成功したのである。
これはそれなりのダメージを与える事には成功したらしく、ジャバウォックの表情が歪んだ。
いや、痛がっていると言うよりは、不愉快そうに思っているだけかも知れない。それだけでも十分な成果だ。
周りを見渡すと、ジャバウォック達から十m程離れた地点で、黒い渦から上半身だけを露出させたジョニィが、乱暴にハーブ類を口にしていた。
よく見ると、この爪を射出するアーチャーの両手には、最早爪と言う爪が殆ど存在しない状態であった。
ACT3を自身に使うのに左手の爪を二つ、先程のACT2の弾痕をジャバウォックに全て見舞うのに右手の爪を全部撃ち尽くしたのだ。
ACT2の『爪弾そのもの』を命中させても、爪が到達する前に高熱で燃え尽きる。では、ACT2が生んだ『弾痕』は、その高熱で燃えるのか?
結論を言えば、燃えなかった事はジャバウォックの鉱物の身体に空いた本物の弾痕を見れば明白な事。つまり、損傷を与えられはしたのだ。

 全弾命中した事は、客観的にはサルにでも解る。
しかし、それが有効打になったかどうかは、優れた射手、或いは、その弾丸を射出した者にしか解らない。
賭けても良かった。間違いなくあのバーサーカーは、大したダメージを受けていない。ジョニィの見解が、それであった。

「……遊びが過ぎた様だな、我も、貴様らも」

 メキ、メキ、と、固着された金属の棒を、絶対に曲がらない方向に無理やり曲げてみた時の様な音が、ジャバウォックから鳴り響いた。
ジャバウォックが纏う超高熱の体温が発生させる、空間の揺らぎが最高潮に達する。
サウナとほぼ同等の温度を得るに至った、<新宿>二丁目交差点。ジョニィとアレックスの身体からはこれでもかと汗が噴き出してくる。
真っ当な人間ならその気温で意識が朦朧として来る所だろうが、今の二人はそれ所ではなかった。

「おためごかしはここまでだ。詰まらぬ破壊ではない――」

 言った瞬間、ジャバウォックの右掌の絞り部分に、キィン、と言う音を立ててエネルギーが収束して行く。
直感的に、アレックスは考えた。違う、と。あれは先程放った、荷電粒子砲のエネルギーとは全く異質かつ別次元。
収束して行くエネルギーの一粒一粒に、先程放った粒子砲の全エネルギー量に倍する威力が凝集されており、それが彼の掌に集まって行くのだ。
もしもこのエネルギーを、『破壊』のみに利用したとしたら? もしもこのエネルギーが、自分達に放たれたら?
自分達は、この世に存在したと言う証すらも残さず消滅するだけでなく、この<新宿>と言う街自体が、いや、東京その物が消滅してしまうのではないか。

 アレックスの見立ては、全く正しいと言わざるを得ない。
それは科学的な見地から言えば、握り拳一つ分程集める事が出来れば、地球上の全文明を地球ごと消滅させるに足る程のエネルギー体で、
現代技術ではティー・スプーン一杯分生み出すのにも莫大な電力と大層な化学装置がなければならない程の物質であった。
俗にいう、『反物質』。彼はこれを、人間が己の身体の中で血液を生み出すような感覚で、自身の体内で生成させる事が出来るのだ。

「我が本物の破壊とやらを見せてやろう!!」

 アレックスはこの攻撃を破壊するには、もしもの力が必要だと悟った。
ジョニィは、このバーサーカーを葬り去るには、自らの切り札である牙の殺意を極限まで高めたあのスタンドが必要だと悟った。
しかし、それらを行うには最早、遅すぎて――――――――


.


929 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:55:26 IUFDcNis0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――なんて、力強い姿。
遠くで戦うジャバウォックを見て、ほう、とロベルタは息を吐いた。
高槻涼と言うバーサーカーは、あの人間の時の姿が真の姿だと思っていなかった。彼女が視認出来る、高槻のステータスやスキル、宝具を見ればそれは解っていた。
あれこそが。あの交差点地点で戦う灰銅色の鬼こそが、高槻自身の『真の姿』なのだと、彼女は信じていた。
百m以上離れていても解る、溢れんばかりの殺意。数々の死線を掻い潜って来た、ロベルタの骨の髄をも振わせる程の覇風。
以前ロベルタは高槻を見て、米国の全兵力全兵装と彼の力は同等以上、だと言う認識でいた。今は、違う。
今の彼であれば、地球上の全国家が保有する軍事力に、大きな差を着けられる事だろう。それは夢想でも何でもない。このロベルタ自身が保証している事なのだ。間違いは、全くなかった。

「アレが、魔力消費の……!!」

 強力なサーヴァント程、魔力消費が甚大になる。聖杯戦争の基本である。
高槻は基本的にはロベルタに対しては忠実なバーサーカーであった。霊体化をしろと言われればするし、大人しくしろと言われればその殺意の片鱗も見せない。
正真正銘の魔獣と化した高槻の魔力消費量は、平時の倍以上に跳ね上がっており、魂喰いを済ませたロベルタにも相当な負担になっていた。
このままでは、魂喰いして補充した分の魔力も、危ういかも知れない。中々の荒馬のようだと、自身が引き当てたバーサーカーについて考えていたその時だった。
ダンッ、ダンッ、と言う音が、ロベルタが先程、室外機を利用して屋上まで昇って来た側から聞こえて来たのだ。

 ――その音が途切れた、と同時に。
ジョナサン・ジョースターが宙を躍った。彼は壁を蹴って上空に、また壁を蹴っては上空を移動を繰り返し、ロベルタが現在佇立するビルの屋上までやって来たのだ。
ジョナサンが着地するよりも速く、腰のベルトに差していたベレッタを引き抜き、セーフティを解除、顔面目掛けて発砲する。マガジンの弾丸はこれで切れた。
そんな事など御見通しであると言わんばかりに、ジョナサンは顔面の辺りを、丸太と見紛う様な太い両手で多い、弾丸を防御。
ロベルタの側からは解らないであろうが、彼女の撃ち放った弾丸はジョナサンの腕に刺さりこそしたが、纏わせた弾く波紋の影響で、
中に食い込むまでには、至らなかった。どちらにしても、弾丸が決定打になっていない事だけは理解したらしく、ジョナサンの着地と同時に、
大きく距離を取ろうと飛び退いた。ジョナサンが疾風の様な速度で迫る。その巨体と搭載した筋肉の量も相まって、鋼の塊が素っ飛んでくるようなプレッシャーを、
ロベルタは感じた。牽制がてらに、ロベルタは右手に握っていた『拳銃自体』をジョナサンの方目掛けて放擲した。
発砲されると思ったジョナサンは慌てて両腕によるガードを行おうとするが、飛来するものが銃弾ではなく、それを放つ為の拳銃であった事を知り、
怪訝そうな表情を浮かべた。その隙を、ロベルタは狙う。懐に隠し持っていた、もう一つのベレッタを引き抜き、ジョナサンの心臓目掛けて発砲する!!
これが狙いだったと気付いたジョナサンは、銃口の照準から急いで弾道を計算、右手甲を其処に配置する。
石のようなジョナサンの拳に、弾丸が完全に没入した。じくじくと、血が甲を流れ、伝い落ちてゆく。

 破裂するような発砲音が、二回響き渡った。
ロベルタが握る拳銃は、ジョナサンの脚部に狙いを定めていた。急所は当然警戒されている為、余程上手く不意を撃たない限り、
ジョナサンは被弾してくれない。ならば、足を狙撃し、動きだけでも鈍らせておこうと、作戦を変更したのである。
意図に気付いたジョナサンは、やや膝を曲げてから、跳躍。弾く波紋の応用である。人体のちょっとしたアクションだけでも、驚くべき身体能力を発揮出来るのだ。
貫くべき対象を失った弾丸は、地面のコンクリートに当たり、跳弾。チィンッ、と言う音を立てて、屋上の金属柵の一本にカチ当たる。
少しの屈伸運動からの跳躍で、何mも飛び上がったジョナサンは、七m程背後に存在する給水タンクの上に着地――そして。信じられないような表情を浮かべ始めた。


930 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:56:05 IUFDcNis0
 ロベルタは一瞬だけ奇妙に思ったが、ジョナサンの目線の先にあるものが、何だったのかを即座に思い出す。
彼の目にはきっと、力強くて、雄々しい姿に変身した自身のバーサーカーの姿が映っているに相違あるまい。
そして、その極めて暴威的で、圧倒的な、力そのものと言っても良い勇姿に、身震いをしているのだろう。
唖然としているジョナサンの姿に隙を見出したロベルタは、ベレッタを発砲。だが、流石に何時までも呆けているジョナサンではなかった。
弾丸はスカを食い、遥か彼方へと一直線に飛来して行く。弾の軌道から言って、数㎞先まで、貫くべき対象は、空気以外には存在しない。

 ジョナサンが如何移動するのかそのルートを即自的に計算。
予測した移動ルートの方へと身体を向けたその時――気付いてしまった。
掠めた視界に映ったのは、自らが操るバーサーカー、高槻涼の姿。狙撃用ライフルで遠方の相手を狙撃する事も多かったロベルタは、視力に非常に優れる。
故に、遠方視には自信がある。と言っても、あの目立つ姿のバーサーカーは、常人並の視力の持ち主でも、数百m以上離れていたとしてもそれと気づけるだろう。
常人の倍以上優れた視力を持ったロベルタが、非常に目立つ姿をした現在の高槻涼の姿を見たからこそ、異変に気づけたのである。

 ――彼の右手に収束して行く、莫大なエネルギーを。

 それを見た時ロベルタが先ずイメージしたのは、C-4や手榴弾などと言った、軍人にはお馴染みと言っても良い爆弾の類であった。
だがそれでは、まだ威力が足りない。次に浮かび上がったのは、爆撃機が投下する砲弾やクラスター爆弾等の大威力のそれであった。
まだ、足りない。次に浮かび上がったのは、大陸間弾道ミサイルなどいった、一発で首都や国家に甚大な被害を与えられるレベルの火器であった。
それでも、まだ。次に浮かび上がったのは、核弾頭。正真正銘一国、下手したら世界その物を終わらせかねない、人類が生み出したソドムとゴモラの業火。

 ――尚、その威力は計れなかった。
核以上のエネルギーが、其処に収束していると、ロベルタは一発で理解出来た。
人類が生み出した神の雷霆、それ以上の威力の兵器とは、果たして何か。それを放てば、どうなるのか。星が割れるのか?
そして自分は、無事で済むのか? 確かな予感が、彼女にはあった。あれを放てば、間違いなくジャバウォックは勝利する。
そして、自分を含めた<新宿>の街及び、東京全土が滅び去ると。其処に広がるのは魔獣の勝利と瓦礫の山だけであって、其処には自分がいないのだと言う事を。
彼女は、即座に理解してしまった。

「――令呪を以て命じるッ!!」

 理解してからの行動は速かった、
ロベルタの右上腕二頭筋の辺りに刻まれた、三本の爪痕に似た形をした令呪が、激しく光り輝いた。
あれを放たれれば、間違いなく自分は終わる。決して、あれだけは放たせては行けない、空虚な一撃だ。

「その姿を解除した後、私の下まで来いッ!!」

 ロベルタの言葉を直に認識したジョナサンも、即座に行動に移った。
右腕前腕部に刻まれた、水面に生じた波紋めいた形をした令呪に意思を込め、彼も叫んだ。

「ジョナサン・ジョースターが命じる――」

 波紋の一画が、激しく揮発し始めた。

「この場に来るんだ、アーチャー!!」



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931 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:56:21 IUFDcNis0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 急激に、ジャバウォックの右掌に収束して行くエネルギーが、散り散りに消失して行く。
東京を破壊してなお余りある力を秘めた、エネルギーの収束体は、完全に無害なそれに変貌し、虚空へと散って行く。
それと同時に、ジャバウォックが雄叫びを上げ始めた。苦しんでいるとか、痛がっていると言うよりはむしろ、激怒している、と言った印象を、
ジョニィとアレックスは憶えた。魔力切れでも起ったのか、と考えてしまったのも、無理からぬ事であったろう。

「おのれぇ……、我と、我が主の意思を縛る売女めが!! 我が破壊を妨げると言うか!!」

 誰に対して言っているのか、即座にジョニィもアレックスも理解した。間違いなく、ジャバウォック自身のマスターについて言及している。
どうやら、人間時のバーサーカーの意思と、今の姿になったジャバウォックの意思は、根本的に違うものであるらしいと、この時になって初めて彼らは気付いた。

「憎し!! 憎し憎し!! 我の破壊は我の意思のみに非ず!! 我と、我が主である高槻涼の――」

 其処まで告げた瞬間、ジャバウォックの金属的かつ大柄な身体は、風化した様に粉々になり、宙を舞い飛んで行った。
其処に現れたのは、あの魔獣よりも一回り小柄な、あの青年の姿。ジャバウォックに変身した時に衣服は弾け飛んでしまったらしく、
完全な全裸の姿で、彼は佇立していた。青年の身体つきは決して貧相ではなかったが、先のジャバウォックの姿と比較すると、痩せた子供にしか見えなかった。
青年がジャバウォックに変身していたと言うよりも、ジャバウォックと言う大きな着ぐるみの中に青年が入っていた、と言う言い方の方がまだ信憑性がある。
この青年、高槻涼が、本当に、肺腑を抉る様な恐怖を見る者に与えるあの魔獣に変身していたとは、ジョニィやアレックスには信じられなかった。

 そして、彼の姿がまばたきするよりも速く、その場から消え失せた。
移動した、とジョニィは思ったが、アレックスはランサーに変身し、優れた敏捷性と反射神経を保有していると言う現在性から、違うと解っていた。
アレは移動と言うよりも転移と言った方が良い。高槻自体は、何処にも移動しようとする素振りを見せていなかった。佇立した状態のまま消えたのである。となれば、転移以外に、ありえない。

 高槻が消えてから、二秒程経過したその時であった。
ジョニィの姿もまた、その場から消え失せていた。ACT3が生み出した、黄金回転の渦ごと、何処ぞに消え失せた。
その場にただ一人、アレックスだけが、残される形になる。よろよろと槍を杖代わりに立ち上がり、右脇腹の傷を、彼は癒し続ける。

「ヘッ、仲間……外れかよ」

 今は、それの方が良いかも知れない。
のろのろとした動作で霊体化を行い、アレックスはその場から消え失せる。今は、北上が心配であった。

 マグマ化した地面。片側の車道を舐め尽くすように埋め尽くされたガソリンの炎。局所的に凄まじい勢いで跳ね上がった気温。
圧縮空気により砕かれたビル壁の数々。砂地になった交差点。無政府状態の国家宛らのこの風景は、誰が信じられようか。日本の首都の風景の一つであった。
凄惨な爪痕だけが、其処に残される体となった。



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932 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:56:46 IUFDcNis0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 高槻が、先ず現れた。
突然の出来事に、狂化した表情なりに混乱した様子が彼に浮かび上がっていた。
事情を把握しているその最中に、ジョニィがジョナサンの近くに現れたのは、僥倖であった。
彼らが、自らのマスターが令呪を用いてこの場に呼び寄せたと気付いたのは、殆ど同時の出来事である。

 最初に行動に移ったのは、黄金回転の渦から上半身だけを露出させたジョニィの方だ。
再生を終えていた左手の爪を四本、ロベルタの足元に射出させる。弾丸が床に着弾してから、ロベルタは、自分が攻撃された事を知る。
だが、渦上の弾痕が、コンクリートの剥げた床に刻まれ、それが自身の方に近付いている事を、彼女はまだ知らない。
ジョニィが意図する所を理解した高槻は、即座に彼女を抱き抱え、柵の上にまで飛び上がり、その上に絶妙なバランス感覚で直立する。
彼は先程の交差点で、ACT2の弾痕が地面を這って、生物の身体を伝うのを見た。この弾痕を以て、マスターを殺害しようとした事は御見通しであった。

 再生を終えた右手の小指、薬指、親指の爪を射出し、高槻の脚部を狙撃するジョニィ。
ダンッ、と言う音と同時に、高槻が弾丸の射線上から消えていた。足場になっていた金属柵は、圧し折れ破断している。
彼は後ろ向きの状態のまま、建物の屋上と言う屋上を次々と跳躍して移動して行き、その場から離れて行く。
呼吸を三回終える頃には、高槻達は豆粒の様に小さくなって行き、彼我の距離はACT2では最早狙撃が不可能な程の距離にまでなっていた。

「逃げられたな」

 ACT3の黄金回転が終わり、渦から全身を引っ張り出すジョニィ。その瞳には、若干の悔しさと、黒い炎の様な殺意が燃えたぎっていた。

「君の落ち度じゃないさ、ジョニィ。僕達には情報が少なすぎた」

 それは、ジョナサン自身を戒める言葉でもあった。
予想外に苦戦してしまった。波紋法を習得していないにも関わらず、凄まじいまでの運動神経であった。
今は亡き師から波紋を学ぶ前の自分であったら、どうなっていたかは全く分からない。ツェペリには全く、感謝してもしきれなかった。
ロベルタの身体能力が予想外のそれであったとは言え、もう少し自身にもやり方があったのではないかと、ジョナサンは思わずにいられない。
取り逃した事を悔しがっているのは、ジョナサンもまた、同じ事であった。

「次は僕も、『本気』を出す。彼女らを野放しにする訳には行かないからね」

 と、言うのはジョニィの言。彼もまた自分と同じく、大敵を逃した事を悔しがっているのだろうとジョナサンは判断した。
尤も……それは、当たらずとも遠からず、と言った所であり、必ずしも正鵠を射ている訳ではないのだが。

「――そうだ、ジョニィ。あの時一緒に戦っていたサーヴァントは?」

「彼か。あのバーサーカーとの戦いでかなりの重傷を負っていたよ。放っておいたら、拙いかも知れない」

「そうか。直に向かおう、ジョニィ」


933 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:56:59 IUFDcNis0
 言外に、助けに向かおうと言っているような物であった。
一時とは言え、ジョニィの方に加勢してくれたのである。ひょっとしたら、同盟を組めるかも知れないと、ジョナサンは考えたのだ。
……無論ジョナサンも、あの時アレックスの瞳に燃えていた、個人に対する憎悪の炎を、忘れていた訳ではない。
あれ程強烈な負の意思など、中々忘れられるものではない。だが、何にしても最初に話し合う事は、重要であった。
例え無駄だと解っていても、ジョナサンはロベルタを相手に最初に交渉に移った男である。こう言ったスタンスは、今も変わりはない。

「君がそう言うのであれば、僕もやぶさかじゃあないんだが……中々難しいかも知れないな」

 言ってジョニィは親指である方向を指差した。彼が指差す方向に目線をやったジョナサンは、得心した。
主戦場となった<新宿>二丁目交差点付近に、続々と、この国の警察官達が集まって来ているのだ。
更に良く目を凝らすと警察官達がこれから現場検証をしようとしている所を取り巻く様に、たくさんの野次馬達が集まっている。

 考えてみれば、当たり前の事であった。
衆目の目線が集まる所で、馬に乗って競争劇を行った挙句、往来のど真ん中でサーヴァント同士の戦いを隠さず披露したのである。人が集まらない方が、どうかしている、と言うものであった。

「……なるべく、人に見つからないように工夫しようか、ジョニィ」

「言われなくても」

 言ってジョニィは霊体化を行い、それをジョナサンが確認するや、裏路地方面にビルから飛び降りた。
出来れば、御苑の子供達やその母親に、事がバレなければ良いなと思うも、直にそれは無駄なのだろうな、と諦めるジョナサンであった。
ついつい、十九世紀のイギリスにいるつもりで馬に乗ってしまったが、それが悪手だった事に、漸く彼は気付くのであった。




【歌舞伎町、戸山方面(<新宿>二丁目)/1日目 早朝8:10分】

【ジョナサン・ジョースター@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]左腕、鳩尾に銃弾直撃(鳩尾のものは既に銃弾が抜けたが、左腕には没入)、肉体的損傷(小)、魔力消費(小)、激しい義憤
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]不明
[道具]不明
[所持金]かなり少ない。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を止める。
1.殺戮者(ロベルタ)を殺害する。
2.聖杯戦争を止めるため、願いを聖杯に託す者たちを説得する。
3.外道に対しては2.の限りではない。
[備考]
・佐藤十兵衛がマスターであると知りました
・拠点は四ツ谷・信濃町方面(新宿御苑周辺)です。
・ロベルタが聖杯戦争の参加者であり、当面の敵であると認識しました
・<新宿>二丁目近辺に、謎のサーヴァント(アレックス)及び、彼のマスターがいるであろうと推測。彼を助けに行こうと思っています




【アーチャー(ジョニィ・ジョースター)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)、両手指の爪を幾つか消失
[装備]
[道具]ジョナサンが仕入れたカモミールを筆頭としたハーブ類
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を止める。
1.殺戮者(ロベルタ)を殺害する
2.マスターと自分の意思に従う
3.次にロベルタ或いは高槻涼と出会う時には、ACT4も辞さないかも知れません
[備考]
・佐藤十兵衛がマスターであると知りました。
・拠点は四ツ谷・信濃町方面(新宿御苑周辺)です。
・ロベルタがマスターであると知り、彼の真名は高槻涼、或いはジャバウォックだと認識しました
・ランサーだと誤認したアレックスの下に、現在向っています




【モデルマン(アレックス)@VIPRPG】
[状態]肉体的損傷(大)、魔力消費(大)、憎悪、右脇腹消失、霊体化
[装備]軽い服装、鉢巻
[道具]ドラゴンソード
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:北上を帰還させる
1.幻十に対する憎悪
2.聖杯戦争を絶対に北上と勝ち残る
[備考]
?交戦したアサシン(浪蘭幻十)に対して復讐を誓っています。その為ならば如何なる手段にも手を染めるようです
?右腕を一時欠損しましたが、現在は動かせる程度には回復しています。
?幻十の武器の正体には、まだ気付いていません
・バーサーカー(高槻涼)と交戦、また彼のマスターであるロベルタの存在を認識しました
・現在北上の下へと向かっています


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934 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:57:11 IUFDcNis0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「貴方を責めている訳じゃないわ、ジャバウォック」

 今自らを抱き抱えて、突風のような速度で移動する全裸の青年に対して投げ掛けられた声は、非常に優しいものであった。
そして熱と同時に、脊椎を突き刺すような凄まじい狂気で、その声が彩られていた。

「ただ少し、驚いてしまっただけ。私をも葬り去る程の火力を持った貴方に、ね」

 高槻の表情は仮面の様に動かない。ただ、ロベルタを抱えて、遠くに移動するだけ。
屋根から屋根へ、時には裏路地に降り立ち、また跳躍。再び屋上かその一つ下の階の、転落防止のためのフェンスか給水タンク、クーラーの室外機の上に降り立ち、
再び跳躍。再び遠くへと移動する。一足で二十〜三十mもの距離を跳躍する、高槻涼の脚力よ。

 ロベルタは全く、高槻、いや、正真正銘の魔獣――ジャバウォック――と化し、破滅の一打を<新宿>に加えようとした事に、怒りの様子を見せていなかった。
寧ろ、脊髄が熱っぽく燃え上がり、陰唇が濡れそぼる程の興奮を覚えていた。このサーヴァントは、自分がまだまだ知らぬ、真の切り札を有していたと思うと。
その切り札が、この<新宿>に集うサーヴァントの中で最強に等しい力を持っていると思うと。怒りよりも先に、褒めて称えたくなるのだ。

 核より凄まじい兵器。それは、軍人上がりのロベルタにとってどんな意味を持った言葉であるか。
それは即ち、軍人を含めた諸人が連想する所の、最強の兵器。ありとあらゆる行為に対する抑止力。
高槻涼は、それを個人で成す者。高槻涼は、それを個人で上回る威力の兵器を生成出来る究極の生命体。神とは正しく、このサーヴァントの事を指すのだと、ロベルタは強く信じていた。

 高槻涼を上手く操れば、自分は絶対に、この聖杯戦争を勝ち抜ける。
誰が来ようとも、魔獣の圧倒的な暴威で粉砕出来る。そう思えば思う程、ロベルタは酔ってくる。
どんなバーボンやウィスキーよりも、強烈な酩酊感と多幸感を味わえる存在。それこそが、このバーサーカーなのだ。

 砕かれた左肩の痛みも、この感情の前には和らげられる。
だが、あの気取った紳士服の男に対する怒りを、ロベルタは忘れていない。今は、状況が悪すぎたから逃げ出した。
しかし、高槻涼の使い方を学び、その力を完璧に理解した瞬間こそが、あの主従の最期である。
あの男は、自分の影すらも灼いて見せると言って見せた。ならば自分は、影すらも破壊して見せるのだ。
今自分を抱き抱える、暴力の権化たる魔獣・高槻涼、もとい、ジャバウォックの爪と炎によりて、だ。

「次は、絶対に殺して見せましょう、ジャバウォック。私と貴方なら、きっと……」

 右手で高槻涼の頬を撫でながら、熱っぽくロベルタが言って見せた。
高槻は何も答えない。ロベルタを危難から遠ざける為に、今も跳躍を続ける。……本当に、それだけか?
高槻涼と言う男の人格の一抹、その百分の、いや、千分の一の、人格の一分子が、そんな疑問を抱いた。
自分はもしかしたら、マスターを遠ざける為じゃなく、別の何かからも逃げているのではないのか?

 自分の中に眠るのは、あの魔獣だけの筈である。


935 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:57:35 IUFDcNis0






 ――では、瞳を閉じた自分の瞼の裏に映る、自分のマスターの様な狂相を浮かべる金髪の少女は、果たして誰なのか?





【四谷、信濃町方面(京王プラザホテル周辺)/1日目 早朝8:10分】

【ロベルタ@BLACK LAGOON】
[状態]左肩甲骨破壊、魔力消費(中)、肉体的損傷(中)
[令呪]残り二画
[契約者の鍵]有
[装備]銃火器類多数(現在所持している物はベレッタ92F)
[道具]不明
[所持金]かなり多い
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲るために全マスターを殺害する。
1.ジョナサンを殺害する為の状況を整える。
2.勝ち残る為には手段は選ばない。
[備考]
・現在所持している銃火器はベレッタ92Fです。もしかしたらこの他にも、何処かに銃器を隠しているかもしれません
・高槻涼の中に眠るARMS、ジャバウォックを認識しました。また彼の危険性も、理解しました
・モデルマン(アレックス)のサーヴァントの存在を認識しました




【バーサーカー(高槻涼)@ARMS】
[状態]異形化 宝具『魔獣』発動(10%)
[装備]なし
[道具]なし
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:狂化
1.マスターに従う
2.破壊(ジャバウォック)
2.BAKED APPLE(???)
[備考]
・『魔獣』は100%発動で完全体化します。
・黄金の回転を憶えました



.


936 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:57:53 IUFDcNis0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「チッ、見えなくなっちまったな」

 目を細めて、般若か鬼女と言われても納得する程の、恐ろしい風貌の女と彼女の馬であるバーサーカーと、
彼らを追うジョナサン・ジョースターとそのサーヴァントのアーチャーの行方を探す十兵衛であったが、全く見つからない。
京王プラザホテル周辺で戦うかと思いきや、そのまま彼らは、自らのバーサーカーに乗り、また呼び出した馬に乗り、此処から遠ざかって行った。
十兵衛は京王プラザの結構高層部分の非常階段から、階下の風景を眺めている。非常階段からでも、その風景は圧巻である。
大抵の建物が、十兵衛の目線の下に来るのだから。そこからでも、馬に乗ったジョナサン組と、ロベルタ組の姿は見えない。
それ程までに彼らは遠くに向かったのである。ある程度の進路方向までは、十兵衛も確認出来ていた。
しかし、<新宿>駅周辺の辺りまで彼らが向かった瞬間、もうお手上げであった。理由は単純明快、建物が入り組んでいて最早物理的に見えなくなったからである。
建物に阻害されては、例え天体望遠鏡を持って来たとて見えはしないだろう。何処か見える所まで移動してくれないものかと、
ジョナサンらが消えて行った方向から推測した、現在彼らがいるであろう地点に向けて十兵衛は目を凝らすが、無理なものは無理だった。

 まさかあのお人よしの男に、『自分達の戦いぶりが見られないよう』に、と言った配慮は出来はしないだろう。
一言二言喋っただけだから如何ともし難いが、あのジョナサン・ジョースターと言う男はかなり人が良い。
十兵衛にとって、自分にとって友好的なスタンスの人格者と言う存在は、=骨の髄まで利用してやっても良い人間と言う事である。
もっと言えばただの馬鹿だ。でなければ白昼堂々宝具と思しき馬を展開させ、行動のど真ん中を疾駆させる筈がない。
見た所、あのバーサーカーの移動速度は相当な物であった。対して馬に乗ったジョナサン達の移動速度は、馬の生態的な移動速度相応。
追っている内に、意図せずして十兵衛が視認不可能な所まで向ってしまった、と言うのが真相なのであろう。それが十兵衛にとって厄介な結果を齎してしまった事に、彼らは気付いていなかった。

「はぁ〜、クッソ。サーヴァント同士の戦いを見れると思ったんだがな」

 無駄な努力はしない、漁夫の利、濡れ手に粟、ゴネ得。
それが、佐藤十兵衛の行動方針である。要するに、自分の手を汚さない。これが一番重要なのだ。
しかも、彼が引き当てたサーヴァントはセイバー、一般的には最優――あれを見る限りとてもそうは思えない――のサーヴァントであり、
その最優のサーヴァントで、このような手汚い作戦を取る事に意味があるのだ。佐藤十兵衛の喧嘩は驚く程考えられており、それ自体が一種の舞台の様なものである。
こう言った喧嘩を展開する上で、最も重要なファクターとなるのが、情報量だ。前もって情報を制している物は、喧嘩の――殺し合いの趨勢すらも制する。
十兵衛は肉体こそは完成されているが、格闘技経験と実戦経験が、『プロ』と呼ばれる存在に比べて希薄である。だからこそ、狡猾に狡猾に進めるのだ。
強いサーヴァントを引き当てました、ならばそのサーヴァントの力を十分に発揮するよう真正面から戦いましょう。
そんな事は十兵衛に言わせれば偏差値二十五の人間がする事であり、勝率を高めたいのであれば、強い上に情報や舞台すらも制する必要があるのだ。

 それを初っ端から挫かれた十兵衛は、かなりトーンダウンしていた。
自分達が血と汗を流して、サーヴァント同士の戦いを経験してみよう、等と言う事は十兵衛はしたくない。
他人に血と汗を流させて、聖杯戦争におけるサーヴァント同士の戦いとはどのような物なのか、それを彼は知りたかったのだ。
このような機会、早々訪れはしないだろう。その千載一遇のチャンスを逃してしまった十兵衛は、かなり残念な物であった。

 ――と言うか


937 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:58:10 IUFDcNis0
「あのベニヤ板は何やってんだよオラァ!!!!」(此処に墨文字がフキダシ外に表示される漫画的表現が挿入される)

 そうである。自分の引き当てた馬である、セイバーのサーヴァント、比那名居天子が来ないのである。
飛行が出来るサーヴァントではあるが、その移動速度は大して速くはない――それでも、十兵衛の全力疾走よりは遥かに速い――事は、確認済みである。
それを加味しても、遅い。あの移動速度で、障害物のない空を移動し続ければ、今頃は十兵衛の下に到着している筈なのだ。
なのに、来ない。なめてんじゃねーぞ。

 これはもうセイバーと同棲して、痛いほど解った事であるが、比那名居天子は相当な不良娘である。
この場合の不良と言うのは、非行少女と言う意味でなく、我儘と意味である。
話を聞くに、どうやらあのセイバーは元々はやんごとなき御家の令嬢と言った立場に近しい存在であり、傅く者もそれなりにいた身分であると言う。
早い話が、お嬢様気質であり、箱入り娘であると言うべきか。つまり、外部の事情に特に疎い。
特にこの<新宿>は、そもそも彼女が住んでいた所に曰く、外界と呼ばれる世界に近しい場所であり、常々天子が行ってみたいと思っていた所でもあるのだと言う。
その様な所であるから、彼女は家の中にいるより、外へ外へ、と言ったアウトドア指向の傾向が強いのである。
話だけを聞くのであれば、外に興味を持った深窓の令嬢、と言った風に思えるかも知れないが、実態はそんな可憐なものでなく。
兎に角我儘、兎に角自分の実力に自信あり、兎に角目立ちたがり屋。恐ろしく我が強いのである。
十兵衛のちょっとした発言で臍を曲げる、今は十兵衛の方が金を持ってるのだからなんか奢れ、
自分が目立てるような異変――これの意味が十兵衛には解らない――解決の筋道を立てろだの、かなりの無理難題を吹っ掛けて来る。かぐや姫かお前は。
自身の境遇を語る時に、天子は自分が他の天人達から、不良天人呼ばわりされた事について随分とご立腹だった事を聞いた事がある。
……その性格を見る限り、そりゃそんな扱いになるだろうとは、面倒くさいから十兵衛は言わなかったが。

 いよいよもって、余りにも暇だから、最近携帯に落とし込んだ音ゲーアプリ。
DB69(シックスナイン)でもプレイしようかと思い立ち、スマートフォンを取り出した、その時であった。

「ごめ〜ん十兵衛、待った?」

 きっと、別れたくなるような彼女と言うのは、自分から待ち合わせの時間に遅れたらこんな事を言うのだろうな、と十兵衛は考えた。
非常階段の手すりの外側を、ふわふわと浮かびながら、布製のハンドバッグを持って、比那名居天子が霊体化を解き始めた。

「今来た所だよ」

 誰が聞いても大嘘と解る様な発言。
しかし、此処でマスターの意を汲まないのが比那名居天子と言うセイバーである。

「あそ、ならよかった。いやーごめんね十兵衛、お菓子選んでたのと、サーヴァント同士の戦いを観戦してたら、ついつい忘れちゃった」

「テメーとくし丸に買い出し行ってて遅れた癖に、その上悠長に菓子なんて――っておい、ちょっと待て」

「何?」

「サーヴァント同士の戦いを見てたってのは……」

「言葉の通りよ。此処から結構離れてた所で、サーヴァント同士が戦ってたのよ」

 ――捨てる神あれば何とやら。だった
結果的に天子が遅れた事により、自分が一番知りたかった情報を入手出来る機会が得られそうである。

「それで、どんな奴が戦ってたよ」

「ん〜、余り遠くを見るのには自信ないけど、全員若い男だったわよ」

 手すりの外側から内側に移動し、踊り場部分から上の踊り場に移動する為の階段の一段に腰を下ろしながら、天子は話し始める。
此処までは十兵衛の見たアーチャーとバーサーカーの特徴と完全に一致する。


938 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:58:32 IUFDcNis0
「んで、遠目から見て、解りやすい特徴とかなかったか?」

「解りやすい? ん〜……あっ、一人は何か馬に乗ってたわ。途中で降りたけど」

 ビンゴであった。それは確実に、ジョナサン・ジョースターと言う男に従っていたアーチャーのサーヴァントだ。

「一人は確か、凄いうるさい声で叫んでたから、多分バーサーカーじゃないかしら? それで、そのバーサーカーを相手に、二人で――」

「待て」

「何よ、話してる所じゃない」

 話を途中で遮られ、むくれる天子。

「単刀直入に言って、セイバーが見たサーヴァントは俺がさっき見たサーヴァントとみて間違いない。だが、俺が見たのは二人だった」

 そう、数が合わないのだ。サーヴァントが三人いたなど、と言うのは。

「あそう? でも確かに三人居たし……あの場所にもう一人、サーヴァントの主従がいたんじゃない?」

 んな適当な、と思ったが、確かにその通りかもしれない。
東京都二十三区全域ならいざ知らず、新宿区一つに限定するのであれば、佐藤十兵衛が元居た<新宿>も、狭い所であった。
となれば、ジョナサン達が移動した先に新手のサーヴァントがいると言う事も、確かにおかしくはない。

「遮って悪かったな、続けてくれないか」

 その後、天子から語られた事柄は、こう言う事になった。
件のバーサーカーを相手に、アーチャーと思しきサーヴァントと、新手のサーヴァントは手を組んで戦っていた事。
途中でバーサーカーが、元の姿とは似ても似つかない、チープな表現であるが、鬼の様な姿をした怪物に変身した事。
それまでは上手く追い詰めていた二名であったが、変身された瞬間戦況が変化した事。
その鬼は火を噴き、マスタースパーク――何の事は十兵衛は解らない――よりも凄まじい光線を放った事。
誰がどう見ても二人を殺せた筈なのに、そのバーサーカーが変身を解き、もう一人のサーヴァントごと何処ぞに消え失せた事。

 そんな事を、十兵衛に天子は話した。

「……成程ね」

 言って、顎に手を当てて十兵衛は考え込む。
その様子を真顔で、天子は注視していた。……その手に、小ぶりの真空パックを持ちながら。
ビニール製のその真空パックには、『コ口口』と書かれていた。巷で話題の、本物の果実宛らの触感が楽しめる、新感覚のグミ菓子である。
それを噛みながら、天子は今までの事を報告していた。非常階段がまことにグレープ臭い。

 先ず天子が語った事柄から解る事の中で兎角重要なのが、そのバーサーカーは絶対に真正面から戦ってはいけない事だ。
人間状態の時の戦闘力は兎も角、その『鬼』と呼ばれる姿をした時には、どうなるものか解ったものではない。
そして次に重要視するべきなのが、アーチャーと共闘した謎のサーヴァントの存在である。ひょっとしたら、このサーヴァントも利用出来るのではと十兵衛は思っていた。
こう思った訳は簡単で、あのお人よしのジョナサンのサーヴァントであるジョニィと、一瞬たりとも共闘したと言う事実があるからだ。
事と次第によっては、互いに手を結ぶ程度の柔軟性があるサーヴァント。と言う事を知れただけでも、十分過ぎる程の収穫であった。


939 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:58:45 IUFDcNis0
 そして、謎も多い。
一つが、ジョナサンが呼び出したアーチャーの存在だ。そもそもアーチャークラスなのに馬に騎乗していた、と言う事も十兵衛には謎であったが、
実際の彼の戦い方も、天子からして見たら謎が多かったと言う。辛うじて爪を飛ばしていた事だけは彼女も理解していたが、
訳の解らない技術でバーサーカーを追い詰めたり、自分に爪弾を撃つ事で、自分の姿を消していた等、その発言は何処か要領を得ない。
尤も、これは例え十兵衛が見たとて、サーヴァントのやる事。原理不明であるのには代わりはないので、責めるのは酷だと思いそれ以上の追及はしなかった。
気がかりな点のもう一つに、ジョナサンとバーサーカーのマスターの行方がある。天子に、二名の行方を聞いても、それは解らないと返って来た。
十兵衛はジョナサンの事を過小評価しているが、それは性格面での話である。正直な話、あの男と本気で喧嘩をした場合――自分は確実に殺られる、と言う確信があった。
それ程までに、ジョナサンと十兵衛の戦力差は掛け離れている。恐らくは師である入江文学ですら、勝てる保証はゼロだろう。
だからこそ、ジョナサンがどんな戦い方をするのか知りたい所ではあったが、天子は見失った、と言う。
恐らくは彼女もまた、複雑に入り組んだ<新宿>の建物に阻害され、マスター同士の戦いを見れなかったのだろう。故にこの話題は、これ以上追求しない事とした。
収穫はゼロじゃない。それだけでも、合格点と言うものであった。

「どう、解ってた事だけど、私ってば凄い役立つでしょ?」

「あぁ、すっげぇ役立つ。イングランドのジョン王並だわ」

「誰それ?」

「イギリスじゃ並ぶ者がいない君主だよ」

「へぇ博識ね」

「その時歴史は動いたを図書館で見まくったからな」

 真実を語れば間違いなく激怒するので、十兵衛は黙っておいた。 
十兵衛は、天子が持って来た手提げ袋に手を突っ込み、適当な菓子を一つ手に取る。
ハードな触感が売りの、梅味のグミとやらを開封し、それを口に運んだ、その時であった。
カン、カン、と、階段を下りる音が聞こえて来た。【従業員みたいだな、霊体化しとけ】、十兵衛が天子に念話を行う。
これについては特に異論はなかったらしく、大人しく天子は霊体化を始めた。

 梅味のグミを噛み締めていると、その人物が、先程まで天子が座っていた階段から降りて来た。
遮光度の極めて高いサングラスを着用した、全身ブラックスーツの長身男性。
タモさんの出来損ないみてーな奴だな、と十兵衛は思っていた。そして同時に、明らかに従業員ではねーな、とも。



.


940 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:58:59 IUFDcNis0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 ――このホテルにサーヴァントがいる。
そう鈴仙に言われた時、塞は本気で腰を抜かしそうになった。
ホテルを拠点に聖杯戦争の主従が、と言う可能性は当然塞も考えた。
だからこそ、自分達が拠点としている京王プラザは、特に重点的にその存在がいるかどうか炙り出した。
結果は、安心出来るものであった。この主従にとって、此処京王プラザに聖杯戦争の関係者がいないと言うのは、当然の認識であったのだ。

 それが、突如として崩された。
<新宿>二丁目で起ったと言う、謎の怪奇現象及び、怪人物達の激しい戦闘。
こう言った現象があったと、塞と協力関係にある警察関係者のリーク情報を聞いていた、その最中であった。
鈴仙の口から、このホテルにサーヴァントがいると聞かされたのは。

 戦闘を行ったとされる現場に足を運ぶ予定でいた塞であったが、予定を急遽変更。
遠くの鉄火場より、近くの危難だ。この拠点を失うのは、塞としても得策ではなかった。
早急に対策を打つべく、塞達は、そのサーヴァントの気配が感じられる地点――三十九階非常階段へと、実体化した鈴仙を引き連れて足を運んだのである。

 そうして足を運んだ先に居たのは、菓子を口に運んでいる、学ラン姿の青年であった。
皮膚の張り具合から言ってハイティーン・エイジである事が解る。だが同時に、そうと感じられない雰囲気にも溢れていた。
簡単な話で、学ランの下からでも解る、その筋肉の量であった。本物の中国拳法を学んだ塞には、解る。
この青年の筋肉が、生来の物であり、それに加えて厳しいトレーニングを積んで得た、本物のそれであると。

 この青年を、塞は知っている。
父親は官僚、母親は栃木県の都知事、と言う超エリートの血筋。ちょっとした情報通を突けば、出てくる情報であった。
佐藤十兵衛。それが、この青年の名前である。そして、<新宿>の街に散らばっている、通称佐藤クルセイダーズと言う意味不明な一団のボスであった。

 塞は、今の今まで、この青年の事はさして重要ではないと思っていた。
マークするべき対象の一人として数えてはいたが、佐藤クルセイダーズにしたって、単なるガキが粋がっているだけだと思い、その優先順位は下の方に設定していた。
――今は、違う。何故、このホテルの非常階段に、この男がいるのか? 偶然にしたって、出来過ぎているし、考えられない。
日本はテロにうるさい国である。こう言った著名な宿泊施設は、危険物の持ち込みには神経質なのだ。
不届き者の侵入経路として、下水道と非常階段はオーソドックスかつ鉄板過ぎて、真っ先に警戒される箇所である。当然ホテルの側も、此処に警備を配置している。
それを掻い潜って、この男が此処にいると言うのは、ハッキリ言って、キナ臭いを超えて、限りなく黒に近しいグレーに等しい領域であった。

「子供が遊ぶ所じゃねーぜ、坊や。高い所は好きなのは解るがな」

「良い眺めだろ? 此処で菓子を食うのが好きなんだ」

 言って十兵衛が、菓子を口に運びながら塞に対して返した。

「どうやって此処までやって来たんだ、坊や。非常階段に居たら怪しまれるぜ、とっとと帰んな」

「やけに突っ掛って来るな、オッサン。従業員には見えねーが、何もんだアンタ」

「通りすがりの、メン・イン・ブラックって奴だな。このホテルには仕事で来てる」

「へぇ、そりゃド偉い身分で。俺には、オラついたタモリにしか見えなかったぜ」

 話して見て、解る事もあるものだとつくづく塞は思う。
かなり生意気で、そして、社会的ステータスに恵まれた両親を持っている為か、かなりイキがっている。
要するに、何処にでもいる、親の威を借りた生意気なガキ、と言う認識であった。


941 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:59:13 IUFDcNis0
【塞】

【油断はするなよ、アーチャー。此処で戦うのは、正直得策じゃねぇ】

 非常階段と言う現在地点からでも解る通り、非常に狭い。
人二人、ギリギリ横に並んで通れるかと言う程狭いのだ。此処でサーヴァント同士の戦いを繰り広げようものなら、双方共倒れになりかねない。
身体能力には自信がある塞ではあったが、流石にこんな最悪のフィールドで戦う程ではない。何とか、落としどころを発見しなければならなかった。
――そんな、時であった。

「――あ、アンタ思い出した。あの時の兎でしょ」

「えっ」

 今の今まで、塞の後ろで大人しく立ち構えていた鈴仙が、素っ頓狂な声を上げ始めた。
は? と、間抜けな声を十兵衛が上げると、彼の隣に、超絶ウルトラ問題児、天界が誇る不良天人、比那名居天子が霊体化を解いて、その姿を現した。
余りにも唐突な出来事だった為に、十兵衛や鈴仙は愚か、努めて大人の態度で振る舞っていた塞ですら、間抜けな表情を隠せない。

 腰まで届く、青空の様に透き通った青さをしたロングヘア。
桃の葉っぱと果実の意匠がこらされた特徴的な帽子。そして、オーロラを模した飾りのついたロングスカート。
鈴仙には見覚えのある人物である。と言うより、あって当たり前であった。何故なら嘗て、彼女はこの少女と戦った事があるのだから。
幻想郷で嘗て起った異変の中で、特に自分本位かつ、自作自演の気が強かったあの事件。博麗神社の倒壊事件の黒幕だった天人――比那名居天子その人だった。

「どっかで見た事ある顔だと思ってたけど……思い出してみれば確かにそうだわ。確かえ〜っと……あぁ、鈴仙・優曇華院・イナバだっけ? 本当に長い名前よね」

 ――真名を、当てられた。

「アーチャーッ!!」

 その事を認識した瞬間、バッと塞は飛び退き、踊り場付近まで飛び退いた。
正体を当てられた鈴仙は、直に臨戦態勢を取り、手すりの向こう側の空中を浮遊。瞳を赤く輝かせ、指先を十兵衛の方に向け始めた。

 佐藤十兵衛は、黒だった。
自分が今まで保有していた情報の中で、最も優先順位の低かった青年が、ぶっちぎって一番高い序列に変動した瞬間であった。

「馬鹿!! 何でいきなり正体表すのこのペチャパイ!!」

 十兵衛としても、自らのサーヴァントが唐突に霊体化を解くとは思ってなかったらしく、心の底から悪態をつきはじめた。

「どうせシラ突き通しても気付かれるわよ。相手は確か、波長を操る能力だった筈だから、サーヴァントの索敵範囲も広いし……って言うか此処に来たって事は、私達が主従だって気付いているからだろうしね。あと、最後の発言は訂正しなさい!! もう聞き逃さないわよそれ!!」

 凄まじくどうでも良い事で癇を起こし出す、佐藤十兵衛のサーヴァント。だが、それは本当にどうでも良い事だった。
あろう事か、鈴仙と言うサーヴァントの本質まで当てられた流石に妙に思った塞は、即座に念話を以て鈴仙を問い質しに掛かる。


942 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:59:39 IUFDcNis0
【アーチャー、目の前の存在を知ってるか?】

【……比那名居天子。私が元々住んでた所の住民の一人よ。恐らく該当クラスは……セイバーか、ライダー。かなり短絡的で我慢が効かない子供だけど、実力だけは確かよ。注意して】

【お前の能力について、どれ程知ってる?】

【紺珠の薬以外の全て、って言う認識で差し支えないわ】

【結構。まともにやり合うのは危険だな】

 塞が鈴仙の能力を優秀だと思っている最大の理由は、その能力が一目見ただけでは、どのような能力なのか判別が付き難いと言う事がある。
相手の攻撃を防ぐ宝具、障壁波動だけを見たら、奇特な魔術を操るアーチャーだと錯覚するだろう。
精神干渉を行う面から見たら、極めて強力な精神攻撃を得意とするアーチャーだとも誤認するだろう。
常に実体化をしていてもサーヴァントだと認識されない所からも、認識阻害に優れたアーチャーだとも思うだろう。
しかしその実、それら全ては鈴仙と言うアーチャーが操る特殊能力、『波長を操る程度の能力』の応用であり、結局は一つの能力に収斂されるのだ。
まさか相手は、実は一つの能力で、極めて幅広い分野を賄えている等とは、余程の確証がない限り辿り着けないだろう。

 ――その確証を掴まれてしまえば、アーチャーとしての鈴仙の実力が損なわれるのは、当然の理であった。
サーヴァントだと認識され難く、かつ、攻撃の正体が掴み難いのが最大のメリットである鈴仙の長所が、完全に潰されていた。
理由は単純明快。鈴仙と目の前のサーヴァント、比那名居天子が生前知り合いだった、と言う、鈴仙も塞も、そして、十兵衛ですらも予想外のエラーで、
塞の聖杯戦争を潜り抜ける計画は、早速翳りを見せ始めたのだ。確かに、生前から鈴仙と言う存在を知っていれば、秘匿性等無意味極まりない。
こんな現象、予想も出来ないし、回避も出来る筈がなかった。

 この場で十兵衛を逃す訳には行かない。
隠密性に特に優れたアーチャー、という利点が、早くも崩れ去ろうとしている分水嶺なのだ。
『千里の堤も蟻の穴から崩れる』と言う言葉があるが、今空いた穴は蟻の穴所ではない。何とかして、塞がねば拙い穴であった。
だが、口封じに殺すのは、この状況下では得策ではない。相手も恐らく、それは同じ事だと考えているだろう。

 腹の探り合い状態。
機先を制すべく動いたのは、塞の方であった。

「落ち着けよ坊や、お前も解ってるだろ。此処で戦えば、双方無事じゃすまねーだろ」

 まずは、戦闘を回避する事が重要であった。
その為には、この場で戦う危険性に訴える必要があったが、これに関しては、短い言葉で相手も理解するだろう。
こんな場所で戦えば、魔術も何も持たないマスターだ。待っているのは転落死という、これ以上と無くつまらない結末だけだった。

「安心しろよ、タモリのオッサン。こんな場所で戦う程、俺も馬鹿じゃねぇ」

 これについては、十兵衛も同意だったらしい。諸手を上げて、従順の意を示した。

 ――これで、懸念の一つはクリアー出来た。その次に問題となるのは、この男の処遇だった。

【アーチャー、目の前のサーヴァントは強いか?】

【強いわよ。直接的な戦闘になったら、私ですら敵わないわ。精神を操ろうにも……、変に頑固だし、正直難しいわね】

【成程。つまりは、こう言う事か】

 表情には億尾にも出さないが、心の中で塞は、ニヤリと笑って見せた。


943 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 01:59:55 IUFDcNis0
【『優秀なサーヴァント』、で間違いはない訳か】

【まぁ、一応はね】

【解った。なら後は確かめるべくは……】

 其処でいったん、塞は念話を打ち切った。

「坊や、俺もお前も、結構拙い状況なの、解るかい?」

「何がだ?」

「お前はその気になれば、俺のサーヴァントの能力が何なのか、何が出来るのか知れる。俺もその気になれば、お前のサーヴァントが何なのか、何が出来るのか理解出来る」

「……そりゃそうだな。如何も、俺の所の馬と、アンタの所の馬は同郷出身らしいしな」

「どうだ、此処で、『同盟』を組んでみないか?」

 鈴仙が、目を見開いた。十兵衛と天子が、ピクッと反応を見せた。

「悪い事じゃあないだろう。互いに手札が解っちまう状態なんだ。このまま争うのは、馬鹿のする事だ。此処は穏便に手を結ぼうぜ」

「お前の事を信用出来ない」

 こんな事を言われる等、塞には織り込み済み。此処からが、塞の手腕の見せ所だった。

「そう言うなよ、『佐藤十兵衛くん』」

「――!!」

 こう言う時、フルネームで相手の事を呼ぶ、と言うのは、思わぬ一撃になる。
このような、互いに名前を知らない状況だと、相手が思い込んでいる時には、思考領域に空白を与える、良い一撃になるのだ。

「佐藤クルセイダーズだっけか。十字軍は最終的には失敗に終わっただろ、験が悪いから名前を変えた方が良い」

「……どこで知ったんだ? そんな情報をよ」

「同盟を組んでから教えてやるよ。今は互いに信用が出来ないからな」

 其処で塞は、両ポケットに手を突っ込み、十兵衛など興味もない、と言った風情で、階段を上って行く。
つられて鈴仙も、手すりの内側の踊り場へと降り立ち、彼の後を追う。

「意思が決まったら、四十一階の非常階段の所まできな。それで、さしあたっての商談は成立だ」

 そう告げて、塞達は非常階段を上って行く。少なくとも、考える時間はやる。それが、大人と言うものであった。


944 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 02:00:08 IUFDcNis0
【……本当に、あれと同盟を組むつもり? 塞】

 念話で、心配そうな声音で鈴仙が訊ねて来る。
今回の一件で、死にかけていた不安感が呼び戻されたらしい。数多の英霊が登録されていると言う、英霊の座。
その数は千を超え、万にも届こうか。その中から、同郷の者が同じ舞台に呼び出されているのだ。天文学的確率であろう。
そんな、悪い意味で奇跡的な出来事に出くわしたのだ。不安になるのも、無理はない。

【俺だって組みたくはないな。だが、あれは俺達の監視下に置いておかなきゃ、かなり拙い】

 先程も述べた通り、鈴仙の能力はかなり攻略も特定も難しい、強力な力なのだ。
特定がし難い、と言う利点が潰されるのは、非常に宜しくない。だからこそ、この利点が潰されると言う恐れを、逆に潰しておく必要があった。
これから築き上げられるのは、同盟ではない。どちらかと言えば、互いに手札を知り尽くした者同士が行う、相互監視に近しい関係であった。

【鈴仙、あのサーヴァントは、間違いなく強いんだな?】

【性格を除けば】

【それで妥協はしてやる。俺がさっき言った、『同盟を行うに相応しい条件』を辛うじて満たしている】

 それは、先程塞達の宿泊する部屋で、彼が言っていた、聖杯戦争を潜り抜ける上で、自分達にとって有利になる同盟相手の条件。
『マスターが適度な無能で、サーヴァントが優秀』、と言う組み合わせ。鈴仙はそれを憶えていた。

【あのマスターは、無能だと】

【一言二言喋って解った。官僚の親父さん、都知事のおふくろ。つまりはお坊ちゃんだな。かなりプライドが高い】

 それは鈴仙も見ていて思った。波長を観測せずとも解る程、解りやすい性格だ。

【んで、人より優位に立とうとする。俺をタモリだ何だと挑発したろ? あの時から、此処に俺が来る事がおかしい事だって認識してたと思ってる。
だから、カマを掛けてみたんだろうな。ああやって、解りやすい挑発で、俺が馬脚を現すのを期待したんだろうよ】

 確かに、真っ当な人間ならば、そんな事を行う必要性がない。

【そして、決定的な事は、やっぱりガキだって事さ。佐藤クルセイダーズの事を当てられた時、かなり驚いてたろ? まぁ解ってた事だが、情報量については、俺の方に分があるって事さ】

 比較する事自体が、酷な事であろう。
片やイギリスの調査室に所属する、本物のエージェント。片や何て事はない、ボンボンの子供。
情報収集能力に、どっちが秀でていますかと聞かれて、後者であると答える人間は、百人中四人もいないのではないか?

【プライドが高くて、人より上じゃないと気が済まなくて、そして、情報量に乏しい。だけど、少しは頭が回る。つまりは――適度な無能の条件を満たしたマスターだ】

【……来ると思う?】

【来るさ。適度に頭が回るんだ。情報の重要性位は、解る筈さ】

 本当にぶっちぎった馬鹿だったら、この非常階段で戦おうとするだろうし、塞の提案を蹴って此処から逃げ出そうともするだろう。
本音を言えば、そのどちらもが、塞にとって非常に困る選択であり、もしもやられていたら、聖杯戦争から退場していたのは塞達の方だったかもしれない。
それを行う事は先ずないだろうと、塞は踏んでいた。何故なら相手は、適度に小狡い無能だから。それ位のリスク計算位は、出来るから。
適度にリスクが計算出来るよりも、全くリスクが計算出来ない馬鹿の方が、時として予想外の行動をおこし、厄介な行動を起こす事が間々ある。
そう言った存在の行動を予測する事は、難しい。だが、適度に頭の良い無能なら、ある程度行動の幅が予測出来る。

 これならば――同盟相手としても相応しい。優秀なサーヴァントを動かしつつ、マスターを手練手管で操れる。
同盟を組む理由としては、余りにも予想外のエラーで、塞としても正直不服であったが、そんな事を言っている場合ではない。
一先ずの危難は、クリアー出来そうかと、静かに、ほう、と息を吐く塞であった。



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945 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 02:00:22 IUFDcNis0
【西新宿方面(京王プラザホテル非常階段41階)/1日目 午前8:15分】

【塞@エヌアイン完全世界】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]黒いスーツとサングラス
[道具]集めた情報の入ったノートPC、<新宿>の地図
[所持金]あらかじめ持ち込んでいた大金の残り(まだ賄賂をできる程度には残っている)
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を獲り、イギリス情報局へ持ち帰る
1.無益な戦闘はせず、情報収集に徹する
2.集めた情報や噂を調査し、マスターをあぶり出す
3.『紺珠の薬』を利用して敵サーヴァントの情報を一方的に収集する
4.鈴仙とのコンタクトはできる限り念話で行う
[備考]
・拠点は西新宿方面の京王プラザホテルの一室です。
・<新宿>に関するありとあらゆる分野の情報を手に入れています(地理歴史、下水道の所在、裏社会の事情に天気情報など)
・<新宿>のあらゆる噂を把握しています
・警察と新宿区役所に協力者がおり、そこから市民の知り得ない事件の詳細や、マスターと思しき人物の個人情報を得ています
・その他、聞き込みなどの調査によってマスターと思しき人物にある程度目星をつけています。ジョナサンと佐藤以外の人物を把握しているかは後続の書き手にお任せします
・バーサーカー(黒贄礼太郎)を確認、真名を把握しました
・<新宿>二丁目の辺りで、サーヴァント達が交戦していた事を把握しました
・佐藤十兵衛の主従と遭遇。セイバー(比那名居天子)の真名を把握しました。そして、そのスキルや強さも把握しました




【アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)@東方project】
[状態]魔力消費(小)、若干の恐怖
[装備]黒のパンツスーツとサングラス
[道具]ルナティックガン及び自身の能力で生成する弾幕、『紺珠の薬』
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:サーヴァントとしての仕事を果たす
1.塞の指示に従って情報を集める
2.『紺珠の薬』はあまり使いたくないんだけど…
3.黒贄礼太郎は恐ろしいサーヴァント
4.本当に天子と組んで大丈夫……?
[備考]
・念話の有効範囲は約2kmです(だいたい1エリアをまたぐ程度)
・未来視によりバーサーカー(黒贄礼太郎)を交戦、真名を把握しました。
・この聖杯戦争に同郷の出身がいる事に、動揺を隠せません



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946 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 02:00:39 IUFDcNis0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「本当に組んでよかったの? 十兵衛」

 天子が此方の顔を見上げて来る。
正直彼女の方は、同盟を組む事について、かなり不服だったらしい。それが、身振りと表情に実に良く表れている。

【念話で話せ、声で話すのは危険だ】

【……わかった】

 素直に天子が呑んだ。

【互いに尻尾を掴まれてるからな。掴まれちまった者同士、組んだ方が賢いと思ってね】

【馬鹿ね、向こうの言葉聞いたでしょ? 『佐藤クルセイダーズ』の事、向こうは完璧に把握してたのよ? 情報網は圧倒的にあっちの方が上よ】

 天子は不良天人、と言う極めて不名誉な綽名を賜っているが、頭が悪いと言う訳ではない。
あの時塞が口にしていた、佐藤クルセイダーズ。その意味をしっかりと理解していた。
つまりは、十兵衛に同盟を組ませるよう、釘を刺して置く、と言う意味があの言葉にあったのは火を見るより明らかだ。
イニシアチブは、完璧に向こうに握られている状態だ。これは、プライドの高い天子には許せる事柄ではなかった。イニシアチブは、握りたい側なのだ。

【セイバー、一つお前さんのイメージを聞きたいんだがよ】

 天子の質問に答える前に、十兵衛がそんな事を言い始めて来た

【一般的に、人間年齢の十七歳って聞いたら、どう思うよ】

【子供】

 天子の方が見た目的には子供に見えるだろうが、彼女は天人である。
地上の人間の時間の物差しでは計り難いだろうが、何百年と生きている人物なのだ。そんな彼女にしてみれば、人間の十七歳等、ガキも同然であろう。

【だろうな。お前の認識が正しい。だが人間ってのは妙な奴でよ、高校生は中防をガキって認識して、大学生は高校生をガキと認識する。
んでもって二十歳超えた、特に大学卒業した奴、それ以外を押しなべてガキと見做す。向こうのタモリが幾つかは解らねーが、向こうもそう思ったろうよ】

 それは、十兵衛の事を坊やと呼んでいた事からも、窺える。

【聖杯戦争に参加した、十七歳のガキ。ついでに質問に付き合ってほしいが、これについてのイメージはどう思うね】

【そりゃもう足手まといの無能よ。何で参戦したの? って感じ】

【そのイメージを利用させて貰ったよ】

 ニッと、十兵衛が、恐ろしく厭らしい笑みを浮かべて、更に続けた。

【そりゃそうだよな、俺だって、同じ年齢の奴が聖杯戦争に参加したら、利用しようと努力するさ。大の大人が、そう考えない筈がない。
あのイキったタモリは、何て言った? 佐藤クルセイダーズって言ったよな? 正直言われた時は俺も驚いたが、その意図を考えたらその発言を何でしたか、答えは一つしかねぇ」

【それは……?】

 グミを一つ口に持って行き、咀嚼。飲み下してから十兵衛は言った。


947 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 02:00:59 IUFDcNis0
【情報面で優位に立っているのは自分の方だと、思わせたいからに決まってるだろ】

 あの状況下で、あんな発言をする下心など、一つに決まっている。
自分の方がお前より優位な所にいるのだと、アピールしたいからに他ならない。
そして、そのアピールの末に、何を得たいのか? 佐藤十兵衛と言う主従を操れるイニシアチブ、より言えば、手綱である。

【事実、情報面での優位は、アイツにあるのは事実だろう。佐藤クルセイダーズ何て言う少人数グループの名前を知ってるんだからな。だが、それは悪手だったな】

 危機に直面した生物は、通常、闘争、或いは、逃避のどちらかを取る傾向にある。
だが、それが全く同種の生物と対峙した場合、此処に、威嚇と降伏が加わり、実質的には四つの選択肢を取捨する事となる。
あの時塞は、情報面で自分達がどれ程有利だったか、と言う事を十兵衛に示した。これは、四つの分類の内、『威嚇』に相当する事となる。
非常階段と言う狭い空間に於いて、空を飛べる上に、アーチャー、つまり、飛び道具を放てるクラスは、戦闘を行う上で多少なりとも有利の筈。
この利を活かさず、最初に取った行動が威嚇である、と言う事はだ。この時点において、塞達には勝算はかなり低く、楽してこの場を納め、後々有利に事を運びたい、と言う下心があったからに他ならない。

【あの時、あいつらは逃げるか、自滅覚悟で俺を殺してれば、もっと別の結末があったのかもな】

 京王プラザホテルから眺める、<新宿>の街並みは壮観であった。何と言うべきか、<新宿>が自分のものになり、全てが己の足元にあるような錯覚すら憶える。

【……何がしたい訳? 十兵衛】

 此処で初めて、天子は、十兵衛が意図する所を単刀直入に訊ねに来た。

【忠臣蔵で有名な大石内蔵助は、義に篤い切れ者と言うイメージがある一方で、キチガイみてーな放蕩振りだったと言う。遊郭に行っては女を買って、傍目から見たら狂ってる位女を囲ってたらしいな。つまりは、『佯狂』だ】

 空になったグミの袋を放り捨て、十兵衛は更に続ける。

【傍目から見たら、とても切れ者には思えない振りを続ける事幾年、油断しきった吉良上野介を、赤穂浪士四十七名引き連れて、見事討ち入り成功しました、とさ】

【馬鹿のフリして、取り入るって訳?】

【出来れば深入りして共依存するような関係は、避けたい所だな。俺が理想とする所はそうだな……】

 側頭部を指先でポリポリと掻きながら、十兵衛は、上手い表現を探ろうとする。

【ある程度の日数が経過するまであのタモリと付き合って、んで情報だけをある程度得たら、トンズラこくって所】

【結局、情報だけは利用するのね。……それはつまり】

【タダ乗り】

 フリーライダー。要するに、義務を果たさず、利益だけを得ようとする卑怯な人間である。
要するに十兵衛は、塞から情報だけを頂いて、用が済んだら即おさらばすると言うのである。
その用が済んだ時とは即ち――向こうが絶体絶命のピンチに陥った時であろう。つまりは見捨てるのだ。尤もそれは、向こうとしても同じ事なのだろうが。
何せこちらは、サーヴァントの真名と宝具を、掴んでいるに等しい状態なのだ。タダで逃がす訳には、行く筈がない。

【向こうは俺の事を、ガキだ無能だと信頼してくれてるからこそ、同盟を申込んで来てくれた】

 十兵衛は一歩一歩、確かな足取りで非常階段を上って行く。

【期待に応えてやらなきゃ、スゴイシツレイ、って奴だぜ? セイバー】

 ニヤリ、と言う擬音が付きそうな程良い笑みを、十兵衛は浮かべ始めた。
二秒程真顔だった天子だったが、彼女も、ニヤリ、と言う笑みを浮かべた。

【この悪党】

【褒めても何もでねーよ】

 天子も、十兵衛の後を追うように、非常階段を上り始めた。
遥か高みから眺める<新宿>の風景と青空は、とても空闊としていて、清々しい気分にさせてくれるのだった。



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948 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 02:01:11 IUFDcNis0
【西新宿方面(京王プラザホテル非常階段41階/1日目 早朝8:15分】

【佐藤十兵衛@喧嘩商売、喧嘩稼業】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵] 有
[装備]不明
[道具]要石(小)、佐藤クルセイダーズ(10/10)
[所持金] 極めて多い
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争から生還する。勝利した場合はGoogle買収。
1.セイバーと合流する。
2.聖杯戦争の黒幕と接触し、真意を知りたい。
3.勝ち残る為には手段は選ばない。
[備考]
・ジョナサン・ジョースターがマスターであると知りました。
・拠点は市ヶ谷・河田町方面です。
・金田@喧嘩商売の悲鳴をDL販売し、ちょっとした小金持ちになりました。
・セイバー(天子)の要石の一握を、新宿駅地下に埋め込みました。
・佐藤クルセイダーズの構成人員は基本的に十兵衛が通う高校の学生。
・セイバー(天子)経由で、アーチャー(ジョニィ・ジョースター)、バーサーカー(高槻涼)、謎のサーヴァント(アレックス)の戦い方をある程度は知りました
・アーチャー(鈴仙・優曇華院・イナバ)の存在と、真名を認識しました
・塞と同盟を組む予定でいます

 高野照久@喧嘩商売、喧嘩稼業が所属させられていますが、原作ほどの格闘能力はありません。




【比那名居天子@東方Project】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]スーパーの買い物袋、携帯電話
[所持金]相当少ない
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を異変として楽しみ、解決する。
1.一旦家に帰ってからマスターと合流する。
2.自分の意思に従う。
[備考]
・拠点は市ヶ谷・河田町方面です


949 : かつて人であった獣達へ ◆zzpohGTsas :2015/11/14(土) 02:01:25 IUFDcNis0
後半の投下を終了いたします


950 : 名無しさん :2015/11/14(土) 09:28:20 X085ALC60
前後編投下乙です
ジャバウォックのバーサーカーっぷりが途轍もない
朝っぱらから公道で怪物が暴れ、車が爆発するという非常事態に新宿の平和は風前の灯って感じですね…
ジョニィの防御無視技も、アレックスの変幻自在な攻め手も寄せ付けないARMS完全体はヤバイ
反物質砲とか新宿くらいの街なら百回は消し飛ばせそうで本当ヤバ…<<<2.BAKED APPLE(???)>>> あっ(察し)
十兵衛は下手に出てナメさせ戦法を取るようですが隠し切れない性格の悪さが頼もしくもあり不安でもありますね
ペニ板サーヴァントが下手するとバーサーカーとかよりまともに交渉できなさそうな分彼の暗躍に期待したい
塞は早速その情報量を活かした立ち回り、強い 部屋に帰ったら公道大爆発事件の情報が沢山流れてきて忙殺されそう
アレックスの帰りを待つ北上さんがFate/Zeroのソラウのようになってない事を祈りながら、感想を終わります


951 : ◆3SNKkWKBjc :2015/11/14(土) 23:26:31 YIFtMRrk0
長作投下乙です!
Wジョナサンたちの新宿の時代背景を無視した騎乗っぷりやアレックスとの共闘シーンなど見所が満載。
ジャバウォックに限らないけどバーサーカーってやっぱり何かと面倒(戦闘規模的な意味)で
今回の戦闘で一般人にもある程度聖杯戦争を把握された以上、新宿全体で動きがありそうです。
何気、十兵衛組は情報が溜まって行くのでそれをどう生かしていくか見物です。


952 : ◆zzpohGTsas :2015/11/16(月) 00:29:43 lrVRyFHY0
英純恋子&アサシン(レイン・ポゥ)
予約します


953 : ◆ACfa2i33Dc :2015/11/16(月) 22:09:31 pfGEs0x60
延長します


954 : ◆ACfa2i33Dc :2015/11/19(木) 20:38:20 qBgZo6mMO
申し訳ありません、現在投下できる環境にないため予約を一旦破棄します
予約がなければ土曜には投下できます


955 : ◆zzpohGTsas :2015/11/19(木) 23:57:14 wNSIorfE0
投下します


956 : 死なず学ばず、死んで学ぶ者は誰? ◆zzpohGTsas :2015/11/19(木) 23:57:46 wNSIorfE0
 内憂外患と言う言葉がある。
本当に噛み砕いて説明すれば、内にも外にも敵がいると言う状況の事を指す。
言うまでもなく、極めて厄介な状況であると言わざるを得ない。外に敵がいると言うのならば、詮方ない事で納得が出来る。
だが、本来は味方である、と言う想定でなければならない内部にすらも敵がいる。これが厄介なのである。
内部、解りやすい例を挙げるならば、チームと言うべきか。自分のチームにいるのがすべからく自分の味方である、と言う『想定が崩される事』は問題である。
想定の崩壊は猜疑を生み、猜疑が亀裂を生じさせ、亀裂がチームの決裂と言う、最早修復不可能な断裂を生み出す。
こうなってしまえば後は、外敵によるクリティカルの一撃で、敗北、或いは、死が与えられるだけである。

 三(にのつぎ)香織――もとい、レイン・ポゥは、基本的には人生の多くを一人で過ごして来た少女である。
但しこの場合の一人と言うのは、親兄弟、一族郎党が死に絶え、友人と言う友人もいない、正真正銘の天涯孤独と言う意味ではない。
心境を理解してくれる人間が、少なかったと言う意味で、一人なのである。
物心ついた時には親がいなかったような気がする。長い間姉と二人きりの生活だった。そして、その姉が、顔も見たくない位の屑だった事は、
サーヴァントとして召喚された今でもよく覚えていた。縫い針で傷にならない程度に刺されたりもした。冬場なのに水風呂にも入れられたりした。
窒息寸前までクッションで顔を抑えつけられたりもしたし、ペンチで舌先を伸ばされたりもした。
姉は、自分が優秀な側面を発揮する事は許さなかった。だから、あらゆる面でレイン・ポゥこと三香織は、姉より劣っていなければならなかった。
姉より優れてはならず、少しでも杭が出ようものなら、姉から手ひどく叩かれる。そんな生活が、何年も続き、その度に彼女は孤独になって行く。
あの小生意気でゲスな妖精であるトコの手で、魔法少女へと転身していなければ、人生の何処かで自殺を敢行していたかも知れない。
その意味では、あの妖精には感謝してもしきれない。魔法少女になってから、彼女の姉は逆に、彼女に頭が上がらなくなった。
『何故か』階段から足を転ばせて三日間会社を休んだ、その日から、である。

 親と言う模範が、幼年・思春期の多感な時期に存在せず、唯一頼れる筈だった姉が、そんな調子。
そんな時に、実に下卑た妖精の手により、魔法少女と言う過ぎたオモチャを与えられた人間。それが、彼女、アサシンのサーヴァント、レイン・ポゥなのだ。
まともな人間の筈がない。レイン・ポゥは自分本位で、利己的で、楽して金を稼いで豪奢な生活をしたい。そんな性格の持ち主である。
また送った境遇のせいか、基本的に人は信頼していない。仲間等、以ての外である。彼女は自分の仕事に関しては、殆ど一人で遂行して来た。
仲間なんていた所で、ギャラが減るだけではないか。精々が、盾になるか捨て石になるか程度の役割しか期待出来ない。
そしてそれは、その仲間にしても同じだろうと彼女は考えていた。無能な仲間を数人抱え込むよりは、一人の方が、動き易い。それが彼女の美学だった。

 ――そしてその、無能な……と言うよりは、厄介な爆弾と共に、生活せねばならないのだ。
癪に障る話である。如何してこうも自分は、依頼主(クライアント)との星の巡り合わせが悪いのかと、歯軋りをしたくなる。

「アサシン、一つ聞きたいのですけれど」

「何」

 ぶっきら棒に、ルーム・サービスの握り鮨を口に運びながら、レイン・ポゥが言った。

「私の腕に換装出来る武器、連射が出来るガトリング式の銃か、一発の威力が高いライフル式、どっちが良いと思うかしら?」

「私が知るかっ」


957 : 死なず学ばず、死んで学ぶ者は誰? ◆zzpohGTsas :2015/11/19(木) 23:58:00 wNSIorfE0
 突き放すようにレイン・ポゥは言った。特に気にする風でもなく、当座の彼女の依頼主……もとい、マスターである少女、
英純恋子は、顎に手を当てて、机の上においてある換装式の銃器の数々を見て、再び考え込み始めた。

 朝起きて、聖杯戦争の開催を契約者の鍵から投影されたホログラムで知ってから、純恋子はあの調子であった。
「ついに始まりますのね……」などとのたまう彼女の瞳に、隠し切れない期待の光が輝いていたのを思い出す。頼むから大人しくしていて欲しい。

 召喚されてから今日に至るまで、マスターと共に生活し、彼女と触れあい、解った事が一つある。 
マスター、英純恋子と、彼女のサーヴァントであるレイン・ポゥは、反りが全く合わない。聖杯戦争に対するスタンスが、正反対と言っても良い。
レイン・ポゥのクラスは、アサシンである。つまりは暗殺者だ。このクラス自体に、不満がある訳ではない。聖杯戦争のクラスに自分を割り当てるとしたら、寧ろ妥当だ。
当然、暗殺者には、暗殺者のやり方と言うものが有る。それは、自分が暗殺者だと如何に気付かれず、そして、如何に自分が今から殺しに掛かるかを気取られないか。
これが重要なのだ。このやり方を忠実に守る事で、生前、自分よりも遥かに格上の魔法少女を葬る事に実際成功している事からも、このやり方がどれ程正しいか窺い知れよう。

 如何もこのマスターは、そのやり方の正当性、と言うより、アサシン(レイン・ポゥ)の使い方を分かっていないと見える。
自分も打って出ようとする気概が、身体からこれでもかと言う程に発散されているのだ。
無論、自分から戦おうとする姿勢は一概に駄目と言えるものではなく、寧ろマスターも危険に晒されると言う聖杯戦争の都合上、純恋子の心構えは当然の物である。
このマスターの最大の問題は、アサシンが最もその実力を発揮出来る、不意打ちと言う方法ではなく、真正面から正々堂々彼女を戦わせようとするのである。
アサシンと言うクラスに割り振られた事からも凡その察しはつくかも知れないが、レイン・ポゥの能力は暗殺に特化した魔法少女であり、直接の戦闘は不得手である。
が、彼女自身もそれなりに場数を踏んで来た魔法少女である。対等、或いは少し上程度の実力の魔法少女を、工夫で葬って来た経験はゼロではない。
戦闘も、確かにこなせる。しかしそれは、賢い選択ではない。汗をかかない疲れない、血も流さないしリスクも無い殺しを行うのに、全ての努力を費やす。
それが、魔法少女、三香織のやり方なのである。――そのやり方を、純恋子と言うマスターは全否定していた。
レイン・ポゥは生粋の暗殺者である。言うなれば、生き汚く、狡猾な性格である。対して純恋子は、お嬢様気質でプライドが高い。
自分も戦闘の場に赴かねば気が済まない、レイン・ポゥに言わせればガンガンオラオラ系である。……人は見かけによらない、と言うか何と言うべきか。
お嬢様はお嬢様らしく、こう言った所でのほほんとしているか、出向くにしても、他参加者が見られない所で指示を飛ばして欲しい。

 要するに英純恋子は、聖杯戦争と言うステージを軽く見ているのだ。
今も換装可能な銃器を真剣に選ぶ姿からは、アサシンを呼び出し、暗殺に失敗した時の仕切り直しの為のそれを選んでいる、と言うよりは、
自分が直接戦闘に打って出る時に用いる武器を選んでいる、としか見えない。この時点で、聖杯戦争と言うより、殺し合いを舐めている。
レイン・ポゥの見立てでは、この聖杯戦争にも、真正面から戦った場合自分の能力が全く機能しないサーヴァントは、当然いると見ていた。
虹を操る自身の能力は、一度こう言う能力だとタネが割れてしまえば実に攻略が容易い――但しこれは他の魔法少女全般にも言えた事――。
だからこそ、不意打ち闇討ちを、レイン・ポゥは上等としているのだが、それを説明してなお、純恋子は自分に直接戦闘をさせようとしている。

 ――何でこう言う女に限ってセイバーとかバーサーカーが来ないんだろうね……――

 心の中で愚痴を零すレイン・ポゥ。
こう言う性格の女性にこそ、三騎士やバーサーカー等のサーヴァントが相応しい筈なのに、何故か宛がわれたのは自分である。
余りの適当さに、驚きを通り越してビックリしてしまう。

 最期は不可抗力で自分を裏切ってしまったとは言え、生前の相棒が懐かしかった。
笑ってしまう程小悪党で、ゲスで、しかし、自身が唯一心を開いていた魔法の妖精。
このような境遇になって、解る事であった。彼女、トコは、自分にとって最優のパートナーだったのだと。


958 : 死なず学ばず、死んで学ぶ者は誰? ◆zzpohGTsas :2015/11/19(木) 23:58:32 wNSIorfE0
 とは言え、全面的に純恋子が使えないマスターなのかと言えば、そんな事はない。
特に優れていると思う面も、彼女にはあった。金である。彼女の最大の武器は、英財閥の令嬢と言う地位から来る、潤沢極まりない財源なのだ。
ハイアットホテルと言う、国内でも随一の超高級ホテルのワンフロアを何日も貸し切りに出来るだけでなく、レイン・ポゥに好きなルームサービスを頼んでも問題ないと、
太鼓判を押して来た。今現在レイン・ポゥが食べている鮨、ルームサービスのサービス表を確認した所、六千円以上するらしい。
値段も一切確認せず、他人の金で寿司が食べられると言うので頼んだが、後から頼んで目が飛び出そうになった。
因みに計算した所、召喚されてから今日まで、レイン・ポゥは十三万弱分のルームサービスを平らげている事になる。彼女も彼女で容赦がなかった。
ホテルのワンフロアを貸し切っている、と言う事実にしたってそうである。高級ホテルを階層一つを貸し切っているのである。
一日に掛かる料金だって、五十、六十万ではきくまい。それに今純恋子達が拠点としている部屋を見てみるが良い。
スイートルームなど、漠然としたイメージしかレイン・ポゥにはなかったが、実際に宿泊して見ると、凄い以外の言葉を失う。
生前の自分の部屋の四倍以上はあるのではないかと言う程広々とした空間、恐ろしく凝った部屋のデザイン、
貴族が使っていると説明されても納得してしまう洒落たバスルーム、使う事はないだろうが業務が捗る事請け合いのワークエリア。
漫画やドラマの中でしか見られなかった全てが、其処にはあった。これ位が当たり前ではなくて? と自分に言っていた純恋子の顔を思い出す。死んでしまえ。

 それにしても、金と言うのはある所にはある物だと、レイン・ポゥは世の不条理さを憎んでしまう。
一般的な魔法少女の多くは、ギャラの為に仕事を遂行する。魔法少女などと言うメルヘンな言葉を用いているが、魔法の国と言う組織に組み込まれてしまえば、
人間世界のサラリーマンと全く大差がない。かく言うレイン・ポゥも、結局は金の為に動いていたような物である。
魔法少女になっても、金は入用になる。魔法少女にならなくても、金はある所にはある。解っていた事であるが、こうまでその現実を見せつけられると……何だか釈然としない。

「ねぇマスター」

「何でございましょう?」

 散々悩んだ末に、ライフル式の兵装を手に取りながら、純恋子が言葉を返した。その武器で行くんだ、と言う疑問は、この際レイン・ポゥは無視する事とした。

「前言ってたアレさ、結果出た?」

「……あぁ、調査の事ですわね? 勿論、英財閥の調査室を動かしましたわ。ですが……」

「です、が?」

「聖杯戦争の開催が思ったより早かった物ですから、まだ結果の方が出ていませんの」

 残念そうな口ぶりで、純恋子が言った。
自分のマスターとしては正直この少女は不適格極まりない人間ではあったが、流石にこれは、責めに帰すべき事柄ではないだろう。

 今から二日程前、レイン・ポゥは純恋子にこのような提言を行った事がある。英財閥の力を用いて、<新宿>を調査して見たらどうだ、と。
無論訝しんだ純恋子であったが、この魔法少女は、「マスターが戦うのに相応しい主従を予め知っておくのも良いでしょ」、と丸め込んだ。
その時は純恋子は納得していたが、無論、レイン・ポゥの本心は其処にはない。レイン・ポゥの本当の狙いは、自分が殺せそうな主従に当たりを付ける事であった。
より正確に言えば、マスターである可能性が高い人物を探す事、であろうか。アサシンと言うクラスが主に暗殺のターゲットとする存在は、サーヴァントではない。
その手綱を握る、マスターの暗殺を主だった仕事とするのである。その為、アサシンを引き当てた主従が腐心すべきは、聖杯戦争に参加している主従は誰で、
アジトは何処か、その察知なのである。そもそもサーヴァントと言う存在は、マスターから供給される魔力で世界に顕現している超常存在だ。
つまり、マスターが殺されればサーヴァントを退場する。故に、人よりも遥かに強いサーヴァントを狙うよりも、マスターを狙った方が合理的であると言うのは、レイン・ポゥでなくても誰もが考える事柄であった。


959 : 死なず学ばず、死んで学ぶ者は誰? ◆zzpohGTsas :2015/11/19(木) 23:58:50 wNSIorfE0
 英財閥お抱えの調査室に命じた事は、身体の何処かに『トライバルタトゥー』を刻んだ者は誰かの調査。これは、令呪の発見の意味がある。
<新宿>は、純恋子やレイン・ポゥ、もとい三香織の知る東京都二十三区の一つである新宿区の面影を強く残す都市である。早い話、ファッションも多様だ。
この街でタトゥーを入れている人間などそれこそゴマンといる。それに、聖杯戦争の参加者も馬鹿ではなかろう、令呪が発現すれば、その部位を隠す事は解っていた。
それ故に純恋子達は、『主観から言ってタトゥーを入れている事が考えられないような人物』を発見したら、報告を義務付けるように命令を下していた。
また、経済界や政界にも影響力を持つ英財閥の力を利用し、純恋子は、医療機関にも手を伸ばした。無論、令呪を刻んだ者が診療に来ていないかの調査の為だ。
結果は、今日に至るまでそれらしい報告は、今の所ゼロ。医療機関にしても、入れ墨を刻んだ者はいるにはいたが、それはヤクザ者が刻むようなそれであって、
令呪のそれでは断じてなかった。尤もこう言った結果は、純恋子もレイン・ポゥもある程度は予測出来ていた。
本命は、もう一つの命令。より広義的に、『不審な人物はいないか』、と言う調査命令を下していた。
その最たる例が、今世間を賑わす大量殺人鬼のバーサーカーと遠坂凛、仔細こそは知らないが百名超の人間を殺したバーサーカーとセリュー・ユビキタスと言う外国人達だ。
サーヴァントは見方を変えれば、これ以上とない兵器であり、オモチャである。参加者の中には、聖杯戦争の本戦まで待てず、
無軌道な行動を行っているであろう人物も、当然予測が出来る。現にそう言った主従は、実際に存在した。
尤も、契約者の鍵を通じ、早速主催者なる人物から事実上の指名手配を喰らうような主従は稀であろうが、大抵の場合は世間の話題の俎上にも上がらず、
裏で上手くやっている筈だ。その裏で上手くやっている人物とは、果たして誰なのか。これを、彼女らはあぶり出そうとしたのである。

 ――とは言えこれも、簡単に事は運ばないだろうとは、二人も思っていた。
如何に英財閥の調査部と言っても、相手がサーヴァントを従えているとなると、分が悪い。
仮に調べるとしても、ゆっくりと時間を掛ける必要がある。一昨日調査を命じて、早速目星を着けられるのか、と言えば、そう上手くも行くまい。

「結局、自分の足を使うしかないのかね〜」

 やだやだ、と言った風に、最後の寿司を口に運ぶレイン・ポゥ。
「そうなりますわね」、と口にした純恋子の顔は、何処か嬉しそうであった。本当にこいつは……、と名状しがたい感情が身体の中で燻って行く。

「取り敢えず、進捗の方を聞いて見ましょうか、多少なりとも、進展はある筈でしょうから」

「そね」 

 二日程度の猶予では大した事は調べ上げられてはいないだろうが、聞いて見ない事には、解らない。
財閥の者を呼び出す為のスマートフォンを取り出す純恋子。「電話終わったらルームサービスになんか甘いデザートとか頼んどいて〜」とリクエストするレイン・ポゥ。
はいはい、とそれについて了承する純恋子。幾らでもルームサービスを頼んでよいと言われれば、躊躇なく頼む事が出来る。
他人の金で食べる鮨もステーキも、実に美味しかった。働くのが、それはもう馬鹿らしくなる位に。


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960 : 死なず学ばず、死んで学ぶ者は誰? ◆zzpohGTsas :2015/11/19(木) 23:59:15 wNSIorfE0
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「あー……お呼びでしょうか、純恋子お嬢様……」

 純恋子の呼び出しに了承し、彼女らが拠点としているフロアーまでやって来たのは、スーツを着た小柄な男だった。
頭は見事なまでに禿げ上がっており、肌は病的なまでに白い。陶磁の様な白と言うよりは、長年陽のあたらない洞窟で生活して来た生物の様な、不健康な白さだ。
彼の名は、霊体化して部屋で待機しているレイン・ポゥも知っている。良くこの場所へとやって来て純恋子に報告を行う事があるからだ。
名をエルセンと言う。日本の財閥に所属する人員なのに、外人なのかと思われるが、グローバル化が進んだ現代、しかも英財閥レベルの組織では、外国人の構成員など珍しくないのだ。

「呼び出した理由は、先程説明した通りです。覚えていますでしょうね、エルセン」

「あ……確か……、入れ墨の事と、不審な人物の……」

「結構。早速ですが、説明なさい」

 帝王学を知悉し、極めた風な人間の様な気風を漂わせながら、純恋子は続きを促した。威風堂々、そんな言葉が実に相応しい。
堂々としている事は悪い事ではないが……如何してその気質が、聖杯戦争に於いて好ましくない方向に動くのかと、レイン・ポゥは全く疑問だった。

「あー……、仔細を記した書類を此処に置いておきます……。概要を、ザックリと説明させて貰いますね」

「良いでしょう」

 言ってエルセンは、純恋子が足を組んで座る椅子の近くまで歩いて行き、付近のテーブルに、それまで手に持っていたブリーフケースをドンと置いた。
此処に、英財閥が誇る調査部の調査結果が入っているのだろう。全部見るとなると、中々の手間かも知れない。果たして自分のマスターが、
一々精読してくれるのだろうかと、レイン・ポゥの脳裏に一抹の不安が過った。
ケースを置き終えたエルセンは、数歩後ろに下がり、自分達が知り得た情報の報告を行おうとした。彼は立ちっぱ、純恋子は仰々しく座りながら、の関係だった。

「始めに、入れ墨……あっ、トライバルタトゥー、って言うんでしたか……。それに関しては、何と言いますか……、一般的な入れ墨も含めると、
それを彫り入れている人物は<新宿>には相当数いる為に、怪しい……と思える人物のピックアップは、未だに出来ておりません……」

 これについては予想出来ていた事だ。目くじらを立てる程ではない。「続けなさい」、冷たく突き放すような口調で純恋子が言った。

「あー……次の、怪しい人物……と言いますか、これに関しても、<新宿>には多いのですが……。此方で、特に妙だな、と思った事を優先してお伝えする、と言う形で……」

「構いません」

「そ、それでは説明させていただきますね……」

 ……前々からレイン・ポゥは気になっていたが、如何してこのエルセンと言う男は、人をイラつかせる様な話し方をするのだろうか。
人を騙す演技力には自身のある彼女であったが、そんな自分でも、イライラを隠せないかも知れないとエルセンを見ていてつくづく思う。
そんな人物と話していて、全く怒りの片鱗すらも見せない純恋子は、かなりの大物なのではないか、とも。


961 : 死なず学ばず、死んで学ぶ者は誰? ◆zzpohGTsas :2015/11/19(木) 23:59:42 wNSIorfE0
「先ず、一番怪しい人物からお教え致します……。し、知らないと言う事はよもやないでしょうが……、あの、遠坂凛と言う女子高校生……」

「えぇ、知っています」

 レイン・ポゥもその名前は知っていた。何せ、現状唯一と言っても良い、近代メディアに露出してしまったバーサーカーのマスターであるのだから。
と言うより、二人が聖杯戦争の参加者であると言う事実は、真っ当な情報環境に身を置く人物であるのならば、誰だって推測が出来るであろう。
黒礼服のバーサーカーの、流れるような殺人手腕。あれを見て、サーヴァントだと思わない聖杯戦争の関係者が、どうかしている。

「その遠坂凛が、市ヶ谷に住んでいる事が解りました」

「成程、近づかない方が宜しいですわね」

 表面上は至極尤もな事を言って、エルセンの報告に相槌を打つ純恋子。
特に驚いた様子がない事が、レイン・ポゥから見ても解った。と言うより、この魔法少女自身も、さして驚いてはいなかった。
寧ろこの主従に関しては、早期に見つかる方が当然だとすら思っていたのだ。百五十にも超える人物を殺害した、極悪人。
世間の人間が彼女らに抱くイメージがこれである。当然、そんな凶悪犯を警察が野放しにする訳がない。
ましてや今現在この主従は、殺す事が出来れば令呪が一画報酬として貰えると言う、正真正銘の賞金首である。
故に皆、血眼になって捜索するであろう。そして、早期に舞台から退場する事も、十分予測していた。故に、目撃談の一つや二つ、拠点が何処なのか。
それが割れた所で、今更驚くに値しないのである。

【向うの、そこ?】

 レイン・ポゥが念話で訊ねた。

【私達が行くには及びませんわ。こんな無軌道な主従、私達がむざむざ足を運ぶまでもありません。他の主従にでも手柄は与えます】

 意外そうな目でレイン・ポゥは己がマスターの事を見た。
繊細そうに見えて驚く程好戦的な性格の純恋子の事、絶対に向かうと思っていたのだが、アテが外れた。
臆したと言うよりは、どうやら自分達が戦うにこのバーサーカー主従は相応しいと思っていないように見える。
レイン・ポゥとしては、このバーサーカー達の性質さえわかれば、令呪が貰えるのだから、即座に殺しに行きたかったのだが、生憎、契約者の鍵から投影された情報は、その肝心要のサーヴァントの性質が伏せられている。待ちの一手でも、特に問題はない。

「他に目ぼしい情報は?」

「あー……、次に話す情報は、確定情報と言うか、信憑性は高いが、あくまでも疑い段階の事柄何ですが……」

「お話しなさい」

「わ、解りました……。続いて話す情報は、<新宿>で頻繁に起こる、ヤクザ殺しの情報です。そ、その……ヤクザの意味の説明を、致しましょうか……?」

「それ位は解ります」

 解るんだ……、とレイン・ポゥは驚いた。が、後で考えて、この女なら知っててもおかしくないなと考える事にした。 

「これはあまり表沙汰になってはいませんが……、<新宿>ではこの頃頻繁に、暴力団が組ごと壊滅される案件が増えています。組の壊滅、つ、つまりは……組員全員皆殺し、です」

「表沙汰になっていない、と仰りましたが、歌舞伎町で起った、マンション住民が全員殺された事件は違いますの?」

 今から数日前、歌舞伎町のラブホテル街に建てられたとあるマンション。其処に住んでいた住民が全員、文字通り一人残らず殺される事件があった。
この事件、本来的には世間の話題に上がる事がない事件であった。と言うのもこのマンション、立地場所からおおよその推測がつくだろうが、
住んでいる住民は全員ヤクザやその舎弟達であり、近隣住民やその筋の人間からそのまま、『ヤクザマンション』と呼ばれる程の異次元空間だったのである。
ヤクザは、自分達に間に起った事件を警察に任せる事を非常に嫌う。自分達の間に起った抗争の尻拭いも出来ないのは、面子に関わる事柄だからだ。
だから本来的にはこの事件は、そのヤクザ達が面子に掛けて解決に向かわせるそれであった、筈なのだ。
しかしこのマンションに住んでいた住民は、全てヤクザであったと言う訳ではなく、一割程度、ヤクザと接点のない所謂カタギの住人が生活していた。
ヤクザマンション殺害事件、と現在俗に言われるこの事件が、特に話題になっている理由。それは、その一割のカタギの関係者及び遺族、親族が、
何処かで彼らが殺された事を知り、警察に被害届を出した事から、表社会に露呈したのである。現在ではこの事件は、先の遠坂凛の主従が行った大量虐殺に並んで、特に世間的にも注目が集まる事件となっていた。


962 : 死なず学ばず、死んで学ぶ者は誰? ◆zzpohGTsas :2015/11/20(金) 00:00:36 RELkfWCE0
「い、今から報告する事柄には、確かに……、そのマンションの事件の犯人、と思われている人物もいます。ですが……それとは別に、裏社会ではもう一つの、ヤクザ関連の事件があるんです……」

「それは?」

「あー……、結局、そのマンションの事件が何で有名になってしまったかと言えば、殺した住民の中に、ヤクザ達と全く接点のない……、俗に言う『カタギ』の人間がいたからです」

 これは事実、その通りであった。当該事件がニュースでも取り上げられる経緯を知れば、明らかな事柄だった。

「もう一つの事件が、全く話題にならないのは、そちらの方は……明白に、『ヤクザだけを殺している事件だから』です」

 成程、確かにエルセンの言った通りであれば、表沙汰になる事はあるまい。身内だけで粛々と処理が出来るからである。

「警視庁や警察庁とコンタクトを取りました所……、最も有力と考えられる、それぞれの犯人の情報がリークされました」

 エルセンが話を続ける。

「先ず、ヤクザマンションの事件ですが……此方の件で犯人だと目されている人物は、『セリュー・ユビキタス』と言う外国人女性です」

 今度は純恋子もレイン・ポゥも目を見開いた。繋がった。
遠坂凛とバーサーカーの主従と全く引けを取らない人数を、如何して、バーサーカーを引き当てたとは言えあの主従が殺せたのか。
それは、ヤクザマンションの住民達を全員殺したからである、と考えれば、辻褄は合う。

「如何してその人物が、犯人だと解ったのですか?」

「え、え〜っと……何て事は、ありません。押収した監視カメラの映像に、しっかりと殺害の瞬間が映っていました」

「警察の方は、どれ程そのセリューと言う女性の情報を掴めているのです?」

「住所年齢氏名、電話番号、家族構成まで」

「其処まで解っていて、如何して全く捕まらないのですか?」

 普通、其処まで情報が掴めているのであれば、今頃は遠坂凛に並ぶ有名人の筈である。

「あー……これは本当に、聞いただけの話なのですが……逮捕に向かった警察関係者が全員、行方不明になっているんです……」

「行方不明……?」

 訝しげに顔を顰める純恋子。

「セリュー・ユビキタスが、落合方面に住んでいる事は既に解っています。当然警察も、其処まで覆面パトカーで向かい、住まいのアパートを包囲したんです……が」

「が……?」

「今から逮捕に向かう、と言う連絡を最後に……消息が途絶えたみたいなんです……」

【マスター……】

【バーサーカーが何かやった、とみて間違いありませんわね】

 セリュー・ユビキタスと言う女性が既に聖杯戦争参加者であると露見された今、こう考えるのが最も至極真っ当な事柄であろう。此方の主従は、少々知恵が回るらしい。油断は出来ない。

「逮捕に向かった警察関係者の行方不明がニュースにならないのは……、向こうも公言こそしませんでしたが、警察の面子に掛けて職務中に消息不明になった事を表沙汰にさせる訳には行かない……、と言う考えがあるものかと……」

 そう考えるのが自然かも知れない。
警察はヤクザ以上に、面子に拘泥する組織だ。バックボーンが国である上に、警察自体が他の組織以上に面子と体裁を気にする組織だからである。
そんな組織が、自分達の恥部を表沙汰にするとは思えない。行方不明になったと言う事実をボカしつつ、セリューを逮捕しようと、今頃は躍起になっているに相違ない。

「セリューに関しての詳しい情報や住所は、先程渡したブリーフケースの中の書類に記載されています」

「解りました。……それで、もう一つの、表沙汰になっていないヤクザ関係の事件とは?」

「あー……、此方の方は、情報源がヤクザなどの裏社会の住民である為、かなりあやふやな所がありますが……」

「問題ありません」

 政財界にすら極めて強い影響力を与える事が出来る英財閥は、ある意味でヤクザより怖い組織と言っても良い。
そもそもの保有する財力からして違い過ぎるのだ。きっと、権力と金の力と言う、この世で最もエゲつない力でねじ伏せて、情報を得たんだろうなぁ、とレイン・ポゥは推測した


963 : 死なず学ばず、死んで学ぶ者は誰? ◆zzpohGTsas :2015/11/20(金) 00:00:53 RELkfWCE0
「此方も、件の犯人は、監視カメラに映っていましたが……これが何とも……」

「何です?」

「あー……、此方に関しては、本名も住所も解っておりません。日本国民であるかどうかも、今のところは解りません」

「……それでは実質、何も掴めていないのと同然ではありませんか?」

「いえ……この話を切り出したのは、その犯人がかなり特徴的な姿をしていたからでして……」

「姿?」

「……メイド服を着用していたんです……」

 ――数秒の沈黙の後、眉間を人差し指で軽く押さえながら、純恋子は口を開いた。

「……冗談で言っているようには見えないので、何も言わない事と致しましょう」

 純恋子もレイン・ポゥも、そのヤクザ殺しの人物が、何故メイド服を着用していたのか、その理由を考えようとした。
恐らくは、セリューと違い、監視カメラの存在に気づいていた、と言う推測が先ず浮かび上がった。後々特定される可能性を低減させる為に、メイド服を着用し、攪乱したのではないだろうか。

「そのメイド服の人物についての情報はそれで結構です。仔細は、書類に纏めてありますね?」

「はい」

「宜しいでしょう。他に何か情報はありましたか?」

「あー……此処からの報告は、あくまで噂程度の情報、何ですが……」

「構いません」

「では順繰りに説明して行きます……。先ずは、UVM社の社長の噂です」

「UVM」

 その言葉を口にする純恋子。純恋子もその会社の事はマークしている。と言うのも、純恋子の知る新宿区に、そんな会社は立っていなかった筈だからだ。
此処が本来の新宿区とは違う歴史を歩んだ、『<新宿>』だからこそ存在する企業なのかも知れないが、それでも、マークするに越した事はない。

「何でもあの会社の社長は、人間ではないと言う噂が少しだけ立っておりまして……」

「人ではない、と言いますと?」

「あー……黒いクラゲめいた姿をしていたような気がする……、と言った、今一要領を得ない目撃談でして……」

 なんだそりゃ、とレイン・ポゥも思ったが、既に聖杯戦争は始まっている。何が起きてもおかしくないのが聖杯戦争である。
なれば、芸能界に非常に強い影響力と発言力を持ったUVMの社長が実は悪魔だった、と言う突拍子もない馬鹿らしい話も、途端に無視出来ない話になる。
と言うのも、これは聖杯戦争に関するゴシップに限った事ではないが、噂と言うものには大抵ルーツとなった何かが存在するのである。
話を多くの人々に伝播して行く伝言ゲームの途中で、尾ひれが付いたりするのが、噂の常であるが、大抵はルーツの核となった部分は変わらない。
この場合の噂の核とは、即ちUVM社の社長であるダガー・モールスなる男は、人間とは思えない容姿をしているか、或いは、人間離れした何かを持っているか、
と言う事だった可能性が高い。何れにせよ、そう言った噂がある以上は、マークしておくべきであろう。

「他に何かありますか?」

「あー……そう言えば、『メフィスト病院』なる場所ですが」

「それに関しては結構です」


964 : 死なず学ばず、死んで学ぶ者は誰? ◆zzpohGTsas :2015/11/20(金) 00:01:14 RELkfWCE0
 すぐに純恋子はエルセンの話を打ち切った。
と言うのもこの主従は、エルセンからの報告を受けるまでもなく、その病院の名前を知っていたからだ。
曰く、治せぬ病気などこの世にない病院。曰く、何世紀も先を往く極めて進んだ医療技術と医療装置。曰く、安すぎて逆に法に触れるレベルの診療費。
そして――余りにも美し過ぎるとされる、その院長。その噂は、ネットで調べれば何万件とヒットする程であり、噂の種類に居枚挙に暇がない。
先ず間違いなく、聖杯戦争の主従、それも、キャスターを引き当てたと言う事がすぐに解る。
レイン・ポゥは、街のど真ん中に病院の姿をした拠点を立てる何て、と、そのサーヴァントの判断に訳も解らずにいた。
流石の純恋子も、そのキャスターが何を思っているのか、理解に苦しむ程であった。恐らくは多くの主従が、この病院の存在を認知しているに違いあるまい。
それにも関わらず今の所誰も、この病院に戦闘と言う形でコンタクトを取った形跡がない事を見ると、考える所は皆同じらしい。
それは、『不気味』。度が過ぎたノーガードは、攻め手に逆に不信感を与える事が出来る。このメフィスト病院もまさに、その手合いであった。
何れにしても、英純恋子にとっては、真の女王となるには避けて通れない道。レイン・ポゥにしても、第二の生を受けるには無視出来ない施設。時が進めば戦わねばならない事は、十分に予想出来た。

「他に何かありませんか?」

「他に……ですか。現状我々が調べられた事柄は以上で……あー、一つだけ、報告するべき事が」

「何でしょう?」 

「実はどうも……、我々と同じように、<新宿>を調査している人物がいるらしいんです」

「私達の様に……ですか?」

 疑問気な調子で純恋子が言った。

「純恋子お嬢様が我々に<新宿>の調査を命じるよりも前に、<新宿>中の記者や公共機関、警察や自治体に金をばら撒いて、情報を自分に伝えるように頼んだ男が……」

 この情報に注目したのは寧ろレイン・ポゥの方である。
自分達と同じような手段を用いて情報を集める主従は、冷静に考えればいないとも限らないだろう。
だが、その為に多額の金銭を用いる、と言う手段の方が寧ろこの場合重要であった。それはつまり、この聖杯戦争の舞台である<新宿>には、
純恋子や、一部の大企業の社長を除き、秘密裏に多額の金を持ち合わせた人間が潜伏し、しかもその人物が、戦争関係者である可能性が高いと言うのだ。
今の所結構純恋子の所にも情報が集まるには集まるが、そもそもこのマスター自体が、そう言った情報を蔑ろにする傾向が強い。
情報を積極的に集め、積極的に活用して行く主従は、現状一番警戒せねばならない存在であった。

「その男が何者なのか解りますか?」

「あー……『塞』、と言う名前の男で、黒いスーツに黒いサングラスを付けた男だと言う事は解りましたが……それだけです。
情報の連絡に使う電話番号は本命のものではなく、恐らく複数ある電話番号の一つだと思いますし、メールアドレスも然り、です。
……また声にしても、元の声に加工するソフトを用いても最早戻す事が不可能なレベルで声質を変えられる、高度なボイスチェンジャーを使っているらしく、
声で特定する事も不可能です。無論……、拠点の発見など、以ての外。相当な手練である事が、予測出来ます……」

 ――そう言うマスターと組みたかったんだけど――

 話を聞くに、相当狡猾かつやり手のマスターである事が、レイン・ポゥには解る。
そう言う主従と行動を共にしてこそ実力が発揮出来るのに、何で自分のマスターはアサシンクラスの自分を直接戦闘で運用しようとするのか。
そしてその自信が何処から来るのか、全く理解が出来なかった。

「解りました。その塞と言う男の事については、警戒しておくように。現状の情報は、以上ですね」

「あー……はい」

「後の事は書類に目を通しておきます。下がりなさい、エルセン」

「わ、わかりました」

 言ってエルセンは、ドアの方まで下がって行き、その場で一礼。すごすごと、部屋から去って行くのであった。
あの男が部屋から去った瞬間、レイン・ポゥは霊体化を解除。ブリーフケースの置いてある机の方まで向かって行く。


965 : 死なず学ばず、死んで学ぶ者は誰? ◆zzpohGTsas :2015/11/20(金) 00:01:42 RELkfWCE0
「目星はついた?」

 とりあえず聞いて見る。

「方針を立てるのには、ある程度役立つかも知れませんわね。そして、解った事はもう一つ」

「何さ」

「大抵の主従は、上手くやっているようだ、と言う事です」

「それが普通なの、普通」

 一部の例外を除けば、大抵の主従は自分達が参加者だとバレないように努力する物だし、積極的な戦闘は、通常は控えるものなのだ。
積極的な戦闘にしたって、呼び出したサーヴァント次第では全くの悪手と言う訳でもなくなる。強いサーヴァントを召喚したのならば、そう言った作戦もアリだ。
純恋子の言う通り、<新宿>で行われる聖杯戦争は、皆上手くやり過ごしているような感を覚える。自分達も、それに倣うべきなのだが……。

「……先程エルセンが知らせた情報の内、明白に拠点が割れている所は、遠坂凛、セリュー・ユビキタス、メフィスト病院、UVM社の、四つでしたわね」

「うん」

「どこに行きたいか、アサシンに決めさせてあげますわ」

「ねぇ、私アサシンって言うクラスの使い方、何度説明したっけ?」

 自分の演技力を以ってしても、こめかみに浮かぶ青筋が消せないのが、レイン・ポゥには解る。
如何あっても、自分を連れてサーヴァントと直接戦闘をしたいらしい、このマスターは。

「自分の足で目的に向かって得られるものもありますわよ。フィールド・ワークと言う奴ですわね」

「アンタの所の財閥のNPC派遣すりゃいいだけの話でしょこの馬鹿!!」

「アサシン、確かにそれがベターかも知れませんが、冷静に考えて下さいな。彼らはそもそもNPC、サーヴァント達が起こす超常現象について、全て理解する事は難しいのではないのでしょうか? つまり、報告時に認識の齟齬が生まれる可能性があると言う事です」

 何が腹ただしいかと言えば、純恋子のこの言葉が正論であると言う事だった。
そう、彼女の主張の通り、NPCによる調査には限界がある。と言うのも彼らには聖杯戦争の知識がなく、サーヴァントを縦しんば目撃したとしても、
全くその現象が理解出来ないか、最悪殺される可能性だってある。故に、聖杯戦争の主従の確実な情報を集めたいなら、ある程度のリスクを侵す必要があるのだ。

「それに、アサシン。そもそもこの調査の目的は、何でしたか、覚えています?」

「は? そりゃアンタ、カモな主従を探そうと――」

「違うでしょう、いい加減になさい」

 ……思い出して来た。と同時に、急激に嫌な予感が身体を襲った。

「私が戦うに相応しい主従の選定、それこそが今回の調査の目的だった筈ですわよ」

 そう、多額の金をばら撒いてまで、調査部を<新宿>中に派遣した訳は、何だったか。
レイン・ポゥとしては、組しやすいマスター達を探す為であったが、そもそも純恋子に説明した方便は、戦うに相応しい主従を見つける為、であった。
無論この場合の相応しいと言うのは、弱いとか言う意味ではなく、『女王である自分が戦うに相応しいサーヴァント』と言う意味なのは間違いない。此処に来て、完全に方便が裏目に出てしまった。

「遠坂凛の主従は、私としては選んで欲しくはありませんが、アサシンの選択であると言うのであれば、それに従いましょう。さぁ、何処に行きましょうかしら?」

「ナシっての駄目なの?」

「残念ながら」

 身体が萎みそうになる程の量の溜息を堪えながら、レイン・ポゥは顔面を右手で抑えた。
選ばねば、ならないようである。その間純恋子は再び、武器の選定に入り始めた。物凄く真剣に選んでいるその姿から、本気である事が窺える。
臓腑を削られるようなストレスを感じながら、レイン・ポゥは相手を選び始める。魔法少女になっても、サーヴァントになっても、ストレスによる内臓系の圧迫は消えないらしい。嫌な知識が、また一つ増えてしまった。



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966 : 死なず学ばず、死んで学ぶ者は誰? ◆zzpohGTsas :2015/11/20(金) 00:02:00 RELkfWCE0
【西新宿方面(ホテルセンチュリーハイアット)/1日目 午前8:30分】


【英純恋子@悪魔のリドル】
[状態]意気軒昂、健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]サイボーグ化した四肢
[道具]四肢に換装した各種の武器(現在は仕込み式のライフルを主武装としている)
[所持金]天然の黄金律
[思考・状況]
基本行動方針:私は女王
1.願いはないが聖杯を勝ち取る
2. 戦うに相応しい主従を選ぶ
[備考]
・遠坂凛&バーサーカー(黒贄礼太郎)、セリュー・ユビキタス&バーサーカー(バッター)の所在地を掴みました
・メイド服のヤクザ殺し(ロベルタ)、UVM社の社長であるダガーの噂を知りました
・自分達と同じ様な手段で情報を集めている、塞と言う男の存在を認知しました
・現在<新宿>中に英財閥の情報部を散らばせています。時間が進めば、より精度の高い情報が集まるかもしれません




【アサシン(レイン・ポゥ)@魔法少女育成計画Limited】
[状態]健康、霊体化、半端じゃないストレス
[装備]魔法少女の服装
[道具]
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1.マスターを狙って殺す。その為には情報が不可欠
2.マジ何なのコイツ……
[備考]


967 : ◆zzpohGTsas :2015/11/20(金) 00:02:11 RELkfWCE0
投下を終了いたします


968 : 名無しさん :2015/11/21(土) 01:08:42 y19CKM.60
投下乙です
クッソ面倒な純恋子に草


969 : ◆ACfa2i33Dc :2015/11/22(日) 04:10:08 wbhukF2M0
投下お疲れ様です。

土曜日を数時間遅れて申し訳ありません、投下します


970 : Brand New Days ◆ACfa2i33Dc :2015/11/22(日) 04:11:44 wbhukF2M0

 午前の7時。
 いつもより早く目が覚めた一之瀬志希は、これまたいつもより早く外出の支度を整え、そしてこれもまた普段よりもいち早く玄関の扉に手をかけドアノブを回そうとしたところで、

【マスター】

 不意に霊体化したアーチャーに呼び止められて、動きを止めた。
 体が跳ねるような錯覚。あるいは、本当に飛び退いてしまったか。
 少しだけ遠ざかったドアノブを未練がましく見つめながら、志希は続くアーチャーの言葉を待つ。

【本当に行くのかしら?】

【……ダメ?】

 返答の念話を送りながら、志希はなんとはなしに肩の後ろの様子を窺った。
 そんなことをしても当然霊体化している永琳の表情は見えないが、なんとなく咎められているような心持がするせいか、志希はついそうしてしまう。

(まるで、先生に怒られてるみたいな気分になるなー)

 永琳本人に怒っているつもりがなくとも、彼女の持つオーラは志希にとっては教師のようで、どうにもやりにくい。
 あるいはこのやりにくさは、永琳がこれまでの人生で会ったことのないタイプ故かもしれない。
 海外の大学で飛び級していた彼女にとっても……いやむしろ、なまじ天才だからこそ、長すぎる年月を生きた永琳の"月の頭脳"とさえ言われる知恵の泉は、未知のものだ。
 文字通りケタが違う。

【否定はしないわ。私達が聖杯戦争に対して持っている情報は、正直少ない。
 手掛かりに成り得るものは、できるだけ拾っておきたいのは確かよ】

【じゃー、呼び止める必要ないじゃんー】

【自覚が必要だと言うことよ。"鍵"の通告は見たでしょう?
 今から外に出れば、何が起きても不思議ではないということ。わかっているわよね】

【……わかってるけどー】

 今からおよそ7時間前。志希を無理矢理ここに連れてきた藍色の鍵は光り、ホログラム投影によって志希と永琳に通達を行った。
 曰く、聖杯戦争の開始。
 曰く、ふた組の主従への討伐令。
 曰く、その主従の罪状は『大量殺人』であるということ。

【今から出ていく街中では、大量殺人犯か、その同類とすれ違うかもしれない。
 ……もっとも、部屋の中にいても何が起こるかはわからないわけだけど】

【ぶー】

【だから、自覚の問題なのよ】

 志希にも一応のところ、永琳の言いたいことは理解できる。
 要は覚悟の問題なのだ。たとえ志希にそのつもりがなくとも、運命は向こうからやってくる。
 ただのアイドルである志希に、容易くそんな覚悟が決められるかは別の話だったが。

【……それでも行くしかないでしょー。ホンモノじゃないって言っても、同じ事務所の子のことだし】

【そ。……少し前に周囲を確認したけど、少なくとも見える範囲には不審なものはなかったわ。
 安心はしていいけれど、もしもの時の警戒は怠らないように】

【……ありがと】

 志希には色々言いはするが、実際永琳は志希のためによくやっていた。
 彼女の自負もあるのだろうが、あるいは永琳の従者としての気質ゆえかもしれない。
 内心にそれを心強くも思いながら、志希は改めて玄関のノブに手をかけた。


971 : Brand New Days ◆ACfa2i33Dc :2015/11/22(日) 04:12:07 wbhukF2M0
 ◆

 ……時を少し遡る。
 "契約者の鍵"が、その管理者からの通告を志希と永琳に伝える数十分前。
 志希の携帯電話に、ひとつの連絡が入った。

「もしもしー?」
『フンフンフフーンフンフフー♪ あ、シキちゃん?』
「あれ、フレデリカ?」

 電話をかけてきたのは、志希と同じプロダクションに務めるアイドルの宮本フレデリカだった。
 『元の世界』での志希の友人のひとりで、この<新宿>でもその関わりは消えていない、と志希は記憶している。
 志希が休暇を取ると伝えた時は、「似合わなーい、明日は雨振るかもー♪」などと言われてしまった。
 ここ最近は、新曲がヒットしラジオやライブに引っ張りだこになっている、と風の噂で聞いていたが。

「何か用事ー?」
『んー……。ライブ終わって、ついさっき聞いたんだけどさー……チカちゃんがね、倒れちゃったんだって』

 横山千佳。
 志希、そしてフレデリカの所属するプロダクションに同じく所属しているアイドルである。
 年齢は9歳で、志希達アイドルの中でも最年少。
 魔法少女に憧れる、無邪気な女の子。そのはずだ、と志希は思い返す。

「倒れたって……なにかの病気?」
『倒れたっていうか、起きてこないっていうか……』

 志希がフレデリカから話を聞いた限りでは、こうである。
 3日ほど前。
 横山千佳は仕事の前日に<新宿>を訪れ、ホテルに宿泊していた。
 翌日。仕事の時間になっても起きてこない千佳を不審に思ったプロデューサーが、彼女の泊まっている部屋を確認したところ、眠ったまま目覚めない姿を発見した。

 医師の診察にも関わらず、原因不明。
 身体的にはなんら異常はないはずなのに、意識は眠ったまま戻ってこない。
 突然の奇病。そう表現するしかないであろう。

 ――だが。志希には、その原因に心当たりがあった。

「……お見舞いとか、いっていいかなー?」
『プロデューサーに電話してみたらいいんじゃない? アタシはちょっと忙しいから、明日はムリなんだけどっ』
「忙しい? あー、最近仕事いっぱいあるみたいだねー」
『そーそー、明日のお昼の2時に市ヶ谷で生中継の野外ライブあるんだよね。シキちゃんも来てくれると嬉しいなー』
「んー、予定がついたらー? それじゃまたねー」
『バイバイ、シキちゃん☆ アーガデウムから、貴方まで!』

 フレデリカの別れの言葉を聞きながら、志希は電話を切る。
 そして――これこそ、彼女を知る者が見れば目を剥いて驚くだろうが――大きな溜め息を吐いた。

「ゆ〜めならさ〜めればい〜いのにな〜……」

 つい先日と同じように、小唄でも口ずさむようなリズムで言葉を紡いで行く。
 いきなり発生した、原因不明の眠り病。
 これが聖杯戦争に関連のない事項だとは、志希には思えなかった。


972 : Brand New Days ◆ACfa2i33Dc :2015/11/22(日) 04:12:43 wbhukF2M0
 ◆

 歌舞伎町・戸山方面、東京医科大学。
 事前に連絡を入れていたからか、早い時間から訪問した志希を、千佳に付き添っていた両親とPは快く見舞いに入れてくれた。
 ベッドで眠ったままの横山千佳の顔は穏やかで、とても奇病に侵されているとは見えない。
 確かめるように志希が軽く頬をつついてみるが、やはり何の反応も見せなかった。
 それを確認してから、霊体化したままの永琳が眠る千佳の顔を覗き込む。

【アーチャー、どう?】

 アーチャー、八意永琳は薬師である。
 であるならば、それが例え原因不明の奇病であっても、診察し病の元がなにであるかを突き止めることが可能なのではないか、というのが志希の考えであった。
 そのために見舞いにやってきたのだと言ってもいい。
 永琳としても、家を出る際の会話で言ったように聖杯戦争についての手がかりを得ることができるかもしれないならば無駄ではないと同意はしている。
 そして永琳の眼は、確かにこの奇妙な眠り病の原因を捉えたのだ。

【これは、呪いね】

【……呪い?】

【ええ。それも、割と大掛かりな部類。この少女の魂を抜き取り、何処か別の場所へと持ち去っている】

 そんな非科学的な、と思いかけて、今自分が置かれている状況が非科学そのものであることを志希は再度自覚する。

 ――彼女も、永琳も知らぬ。
 かつて異世界で復活の刻を迎えようとした白貌の帝。
 その廃都の上に建つ町、帝国の悪夢に襲われた土地で、始祖の呪いを受けた子供達が、菫色の目覚めぬ眠り、忘却界での輪唱へと誘われていたことなど。
 千佳を襲った――そして、この<新宿>で、密かに幼い子供を襲っている――眠り病が、それの再来であることなど。

【治せる?】

【すぐには無理ね】

 期待の色が籠った、志希の念話。しかしそれへの永琳の返答は、芳しくなかった。

 薬。実のところ、聖杯戦争の準備期間中に永琳は幾つかの薬を作り置いていた。
 幻想郷でも、永琳が人間の里の里人たちに売っていたのは基本的に置き薬であり、保存の利く薬を作ること自体は難しくもない。
 市販の栄養ドリンクや医薬品、あるいは天然由来の材料を使って、永琳は傷病に効く薬を見事に作成してみせた。

 が、この呪いは話が別だ。
 肉体を離れ、連れていかれた魂を呼び戻すような霊薬など、容易く作成できるわけもない。
 幻想郷の永遠亭ならばそれでも材料の確保はそこまで難しくはなかったろうが、この<新宿>では彼女が薬を作るのには手間がかかる。
 既に神代を捨て去り、幻想を置き去ったこの現代の街は、神話の霊薬を作るには不適切だ。
 無論、永琳にかかれば、不可能ではない。必要なのは、材料か時間。
 だが同時に、その2つの制約がある以上、効力の高い霊薬を作れる数は限られている。
 ただでさえ既に聖杯戦争は始まっているのだから。永琳が霊薬を作るとすれば、それは仮主である一之瀬志希のためにのみ使われるのが望ましい。


973 : Brand New Days ◆ACfa2i33Dc :2015/11/22(日) 04:13:24 wbhukF2M0

【プロデューサーの話じゃ、『メフィスト病院』に移すのも考えてるって話だけどー……】

【……『メフィスト病院』、ね】

 志希の念話に現れたその名前に、永琳の念話に溜め息のような色が混じった。
 <新宿>に突如現れた、冗談のような名前の病院。
 まるでその名前の通り悪魔への願いの如く患者を治療し、そして名前に似合わぬ破格の安値の対価しか請求しないという、それこそ御伽話の名医のような存在。
 それがサーヴァントの所業であることは、志希にも永琳にも自明の理だった。
 だが、何故そのような業を行うのか、という理由は皆目見当がつかない。
 診療に訪れる一般人を相手に魂喰いを行っているのではないかとも考えたが、『患者として来たならば、あらゆる者を治療する』――つまり、全ての患者があの病院から戻ってきているということ――という評判から聞くに考え難い。
 永琳としてはその神の如き業前には興味こそあったが、同時にその得体の知れなさを警戒し手出しはおろか、近づくことも避けてきた。

【大丈夫かなー、サーヴァントが関わる病院なんて行って】

【評判から聞く限り、安全だと思うけれど。あるいはその方が私よりも早く済むかもね】

 いっそ志希が付き添い、あるいは見舞いとして潜りこむというのも考えたが、おそらくはキャスターの陣地であることを考えると永琳が霊体化していても察知される危険が大きい。
 向こうの思惑が読めない以上軽率な行動は慎むべきか、あるいは思惑を読むために敢えて虎口に跳び込むか。
 どちらもメリット・デメリットは存在するが――

【……行ってみる? メフィスト病院】

【それもいいかもしれないわね。相談って体ならば、ひとりで行っても邪険にはされないでしょう】

 志希のその決断を、永琳は否定しなかった。
 どちらにしろ、手がかりはほとんどないと言ってもいい。
 危険を避けて安全策をとり続けるのも一種の戦略ではあるが、それは同時に"取り残される"危険をも孕む。
 『<新宿>からの脱出』という志希の目的から考えても、他の主従との接触は悪いことばかりではない(それが敵対的でなければ、という話だが)。
 仮主とはいえ、永琳にマスターである志希を蔑ろにするつもりはなかった。
 それは元々の永琳の在り方が、従者であるが故。
 そして従者の優秀さとは、主の我侭をどれだけ通し、目的を達成させられるかなのである。


974 : Brand New Days ◆ACfa2i33Dc :2015/11/22(日) 04:13:49 wbhukF2M0

【歌舞伎町、戸山方面・東京医科大学/1日目 午前8:30】

【一之瀬志希@アイドルマスター・シンデレラガールズ】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[契約者の鍵]有
[装備]
[道具]
[所持金]アイドルとしての活動で得た資金と、元々の資産でそれなり
[思考・状況]
基本行動方針:<新宿>からの脱出。
1.メフィスト病院に接触し、情報を得たい。
2.午後二時ごろに、市ヶ谷でフレデリカの野外ライブを聴く?(予定が入らなければ)
[備考]
・午後二時ごろに市ヶ谷方面でフレデリカの野外ライブが行われることを知りました。

【八意永琳@東方Project】
[状態]十全
[装備]弓矢
[道具]怪我や病に効く薬を幾つか作り置いている
[所持金]マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:一之瀬志希をサポートし、目的を達成させる。
1.周囲の警戒を行う。
2.移動しながらでも、いつでも霊薬を作成できるように準備(材料の採取など)を行っておく。
[備考]
・キャスター(タイタス一世)の呪いで眠っている横山千佳(@アイドルマスター・シンデレラガールズ)に接触し、眠り病の呪いをかけるキャスターが存在することを突き止めました。ただし、明確に呪いの条件を理解しているわけではありません。


975 : Brand New Days ◆ACfa2i33Dc :2015/11/22(日) 04:14:01 wbhukF2M0
投下終了です。


976 : ◆zzpohGTsas :2015/11/22(日) 23:30:52 l9oWo/DM0
感想を言います

>>DoomsDay
凄い、このバーサーカー住宅地に放射線撒き散らしてるのに凄い正統派主人公っぽいムーブしてる……。
やってる事は<新宿>にもNPCにも凄い優しくないのに、言動と戦ってる相手のせいで、凄い勇者っぽく見えるのは本当に不思議ですね。
マスターから事前に警告されたのにバインドボイス喰らったりする当たり、その残念なお頭の程が窺い知れるのがちょっと可愛い。
そして戦闘の方は、流石の一言。圧倒的な魔獣の膂力と、フツオとの共闘で培った戦闘経験で攻め立てるケルベロス。
魔王としての実力と、矮小化されたとは言え様々なスキルで相手を追い詰めるタカジョー。
そして、それらの強敵を相手に、人間としての力だけで果敢に喰らい付き、遂にはタカジョーの痛手を与えることに成功したヴァルゼライド。
この三者の、まさに魔人らしい戦いぶりは本当に見てて楽しいし、燃える。そしてその一方で行われる、マスター同士の戦い。
<新宿>でも強い方のマスターである刹那をして、苦戦は免れない程の強さであるザ・ヒーローくんとの激しい戦い。
そしてそれを見て恐れを抱く、一般人の睦月との対比が実に良い。結果的に戦闘は両者共に痛み分けになってしまいましたが、此処から果たしてどうなるのでしょうか。
ザ・ヒーローご一行は深追いするなって言われたのに刹那を追おうとしてますし、結構こいつら方針ガバガバっすね……。
此処でタカジョー君を倒しちゃうとヤバい事になるのに、果たしてヴァルゼライド君は気付くのでしょうか?

ご投下、ありがとうございました!!

>>夢は空に 空は現に
この本編で特にすげーなぁと思ったのが、タイタスとムスカのやり取りですね。
原作自体、物語の随所に様々な詩的なフレーズが組み込まれていましたが、この本編でも実にそれが良く取り入れられている。
二週目になると夜這い未遂の挙句プレイヤーにSP贈呈おじさんになるタイタス1世とは思えない程のカリスマ振りと、その策謀の深さ。
流石に千年以上の長きにわたって帝国を裏から操り、そして現代にもその魔の手を伸ばしていた神代の王だけはありますね。
そして一方、タイタスから目下最大の敵として睨まれた、結城ペア。余命幾許もないからこそ必死に生きている、と言えば聞こえは良いでしょうが、
その実やっている事は何よりも邪悪な、<新宿>中にチューナー化させたNPCをバラまいて、場に混沌を呼び込むと言う行為。
キャスターのジェナもノリノリですし、早速志希ちゃんと親交の深いフレデリカがその魔の手に掛かってしまったようで、もう後の展開が凄い悲劇的になりそう。
今後は、誰がチューナーになるのか。そして、どんな悪魔になるのか、と言う事が、<新宿>に於いての一種の注目になるでしょうね。

ご投下、ありがとうございました!!


977 : ◆zzpohGTsas :2015/11/22(日) 23:31:04 l9oWo/DM0
>>Brand New Days
新宿聖杯でも屈指の当たり鯖である永琳のフォローが光る作品ですね。
マスターとしては恐らく唯一と言っても良い完全な一般人枠である志希ちゃんを、体力回復用の薬や、優れた知識でサポートする永琳の姿は実にらしい。
その一方で、普段通りのテンションで強がりつつも、変わりつつある<新宿>の空気と自分と関係のあるNPCの漸進的な変化を、いよいよ認識し始める志希ちゃん。
日常が徐々に聖杯戦争のそれで浸食されて行き、いやがおうにもそれに巻き込まれて行くマスターの構図が、実に良く描写されている。
そして個人的に嬉しいのが、永琳先生とメフィスト先生を引き合せようと言う所。
やはり引き合わせますよねー、同じ医術を学んだ者同士ですし、どんな事を二人は話すのか。正直、凄い関心があります。

ご投下、ありがとうございました!!


978 : ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 00:58:19 9KVIjEEM0
このレス含めて残り22レス程度しかないので、埋めネタ代わりに番外編的なのを投下します
時系列的にはOP開催より以前の、勝手な日常話です。真には受けないでください

それでは投下します


979 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 00:58:56 9KVIjEEM0
 ――英純恋子、578万円

 洋の東西を問わず、茶の世界と言うものは、凝り出すと金がどんどん消えて行くものである。
少し知識が付いて来れば、茶葉に凝り出し、良い茶葉を美味しく味わおうとすると、今度は茶器等の道具類を選び始め、
皆で一緒に茶を楽しもうと考え出すと、茶菓子の類にも手を伸ばして見たり、と。この世界は非常に奥深いのである。
奥深さは、金銭がどの程度必要になるのかと言う事の証明だ。内奥まで足を運ぼうとすると、趣味と言うのは往々にして金と言うものが入用になる。茶と言うものも、それは同様である。

 純恋子も、茶は好きである。日本茶でも中国茶でも、ハーブティーでも。
嫌いなものはないが、好きなものはなんといっても紅茶である。茶会だって何度も開いた事がある程度には、知識もあるし愛着もある。
英財閥の令嬢が開催する茶会ともなると、皆が「英財閥が主催する茶会なのだから、何かしらある筈」と言うバイアスに囚われる。
早い話、期待されるのだ。用意する茶葉、茶うけ菓子、紅茶器の類、そして、余興等々。英財閥程にもなると、茶会は開いて単に終わり、では済まされない。
開いた以上は、客に百点満点のサービスを提供せねば、失格なのである。その事を純恋子は、よくよく認識していた。

 純恋子が拠点とするハイアットホテルのワンフロア。
其処には彼女らがプライベートを過ごすスィート・ルームの他に、夕食や朝食を楽しむ為の専用の一室が用意されていた。
本来此処は宴会場と言うべき施設であり、その名の通り団体客がパーティを楽しむ時、或いは、企業が会議を行う為に提供される物である。
このようなサービスは一流ホテルでは珍しいものではなく、ハイアットはこの他にも結婚式場の提供サービスも行っている。
ハイアットホテルに幾つもある宴会場の内一つは、現在純恋子が宿泊しているフロアに存在し、彼女がフロア丸ごと借り切っている為、
当然、彼女はこの宴会場のサービスを当然の様に享受する権利がある。つまりホテルの側は、現在その宴会場を彼女に貸し切っている状態と言っても良い。

 その一室に、純恋子と、彼女が呼び出したアサシンのサーヴァントである、レイン・ポゥの二人がいた。
五百平方mと言う、キャッチボールすら普通に出来そうな程広々とした一室の真ん中に、純白のテーブルクロスを敷いた長大なテーブルが用意されており、
その上に、レイン・ポゥ、もとい生前の三香織が購入していた衣服の数十〜数百倍の値段はあると言うカップやソーサーが幾つも並んでいた。
カップには格調高い香りを放出する琥珀色の液体が注がれており、その傍に置いてあるソーサーには、単体で食べても満足出来そうなアップルパイが置かれている。

「足りないのであれば、幾らでもかわりを用意いたしましてよ」

 カップの指かけに指を通しながら、純恋子は言った。当然用意はこれだけで終わりではない。まだまだ紅茶にも茶菓子も、控えがあるらしい。
レイン・ポゥは純恋子の真向いの席、つまり、長方形のテーブルの縦の辺に座っている事になり、純恋子から最も遠い位置にある。

 ああ、確かに。高い茶葉を選んだのだろう、紅茶は非常に美味しい。茶菓子のアップルパイだって、何枚でも食べられる。
とても贅沢だと思うし、実際、楽しめた筈なのだ。この部屋が、本当に、二人だけしかいないのならば。

 ――レイン・ポゥの隣で、カタカタと物と物とがぶつかり合う音が小刻みにかつ連続的に響き渡っていた。
カップから唇を離し、ソーサーにおいてから、彼女はテーブルの両サイド、横辺に座る人『物』達に目をやった。


980 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 00:59:09 9KVIjEEM0
「美味シイ紅茶」

「流石デスワ純恋子様……」

「ウン、美味シイ……」

 極めて抑揚のない声で、それらは言葉を口にしていた。
身に着けている衣服は紅茶で濡れている。口元までうまく紅茶が運べず零してしまったのと、縦しんば口まで運んだとしても、紅茶が呑めず、唇から顎、顎から首へと、
紅茶が伝い落ちて、その衣服やテーブルクロスを汚してしまうのである。

「ねぇ、一つ聞いていい?」

「何でしょう?」

「このガラクタ達、何?」

 努めて触れないようにしていたが、もう流石に無視出来ない領域に至ってしまったので、レイン・ポゥは訊ねてみた。
二人だけで茶を楽しむのであれば、自室のスウィート・ルームででも出来る。宴会場を貸し切ってお茶会を開くと純恋子が言いだした時、何で其処にしたんだろうと、
レイン・ポゥは疑問だった。そして指定場所に辿り着いた時、更に意味が解らなくなった。テーブルには既に、十二『体』の人形が席に付いていたのである。めいめいの服装を身に着けた、十二人の、女性を模した人形が。

「場のにぎやかし、ですわ。二人だけでは味気ないですし、急遽、私の友人を模してつくらせましたの」

「すっごい目障りなんだよね」

 目の前で堂々と紅茶を零したりする人形と同席するのは、正直気が滅入るなんてレベルじゃない。
紅茶の味が感じなくなるレベルで不愉快なのだ。おまけにとってつけた様な機械音声。堪らなく破壊したくなってくる。
と言うより、場を賑やかしたいのであれば、別所で待機している執事や財閥の構成員でも呼べばいいではないか。まだエルセンと一緒の方が、百億倍マシであった。

「前々から思ってたけど、マスター……頭おかしいとか言われない?」

「そんな事はないですけれど。座学の類は得意ですわよ」

「一般的な常識とやらを私は身に――」

「ウン、美味シイ……」

 話を遮られた事に腹を立てたのと、いい加減目障りなのとで、レイン・ポゥはカッとなって、掌から七色の虹の剣を、
十m程も伸ばしそれを横薙ぎにブンッと振るった。人形が一切の抵抗を許さず、胸部の辺りから切断され、床の上に転がった。
その様子を、何て事をするのだこのサーヴァントは、と言った風な、野蛮人を見る様な目で見つめる英純恋子。
「お前が言えた義理か」、と声を大にして言いたいレイン・ポゥ。切断されてもなお、床に転がった人形が機械音声を止めないので、イライラは更に募るばかりだった。


981 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 00:59:34 9KVIjEEM0
 ――ソニックブーム、1万3千円

 ある時期までこの男、シガキサイゼン(志垣最善)と呼ばれる男は、実に不幸な男であった。
元々は都内の美術大学に通い、一流の画家にならんと夢を追い続けていた若者だった。
特に墨絵には自信があり、何時の日かきっと、この絵で以て大成するのだと言う野望を抱いていた。
しかし美術の世界は、兎角道具に金が掛かる世界だ。筆、絵具、描く為の紙。何をするにも金が要る。
だからシガキは美大に通う傍ら、高給ではあるが労災の危険性が高い工場で、道具代を稼いでいた。

 当たり前の事であるが、美術の世界は『腕』が命である。腕が物理的に動かなくなったとあれば、それは最早美術の世界では死んだも同然だ。
その工場で働く以上は、命よりも大事な腕が危険に晒される事をも意味する。だがその時のシガキはこう思っていたのだ。
自分だけは、大丈夫。ちゃんと気を付けるから。命よりも大事な腕や指を、危険に晒すようなマヌケはしないから、と。
その余りにも無根拠な自信のツケを、彼は己の身体で支払う事となった。不注意で手首から先をプレス機で挟み、骨や神経をズタズタにされたのは、数年前。
右手首は最早、何十年とリハビリを積もうが動かす事すらままならない程の重傷になってしまい、切除するしかないと告げられた時、シガキは本気で死のうとすら思った。
しかし、そんな度胸もなかった。会社から降りた労災補償で、シガキは、腕の神経と同調し、辛うじて指先を動かす事が出来る義手を取り付けたが、
これが実に、苛々する。元々値段相応の性能しかない義手である事もそうなのだが、やはり、生まれ持った生身の手に比べれば、その性能は格段に落ちる。
ましてや墨絵の世界は、繊細と言う言葉でもなお足りない程の細々とした技量が求められるのである。
義手などと言う大味な動きしか出来ないそれで墨絵を描く事など、不可能だ。

 ある時期までは、親からの仕送りでヤケ酒を呷り、大学にも行かない日々が続いた。
俺には生きる希望なんてもうないんだ、それが一人になった時のシガキの口癖であった。
そんな生活が二か月程続いたある時、大学で取っていた墨絵の講義で、提出物を求められている事を、親しい友人のメールから知った。
この講義担当は優しい性格で、シガキの現在の境遇を慮り、本来は出席を取るのだが彼に関しては出席しなくても良く、最低限の提出物だけを出せば単位を出してやる、
と言うらしいのだ。此処で、そう言った配慮を無碍にはしたくないと思う中途半端さが、シガキの特徴であった。
此処で彼は、何を思ったか、右手の義手で筆を取り、墨絵を描き、それを提出したのである。――それが、その教授の琴線に触れた。
絵自体の上手さは、他の生徒のそれよりも当然ながら格段に落ちる。しかし、それを補って余りある、迫力と言うべきか、兎に角ダイナミズムに溢れていたのだ。
義手と言う動かすのに不自由する部位で描く以上、描く側も必死になる。だが必死に描いた所で、所詮は義手なので、綺麗な絵は絶対に掛けない。
実際に仕上がった墨絵も不細工な物であったが、それ故に見る者に伝わる気魄や鬼気は、尋常のものではない。
黒い墨からいやがおうにも香る、描き手の必死さ。其処に教授は惹かれた。そして、シガキを大学まで呼び出し、彼にこうアドバイスした。「お前はこのまま、その義手を誇りに思い、墨絵を描いて行くのだ」、と。

 ――そして、現在に至る。
教授からアドバイスを貰い、しょうがなく義手で墨絵を描き始めてから、六年近い歳月が経った。
普通の墨絵師がかける時間の倍以上の時間を掛けて墨絵を仕上げ、それをコンクールに提出する。
それが、最優秀賞に輝き、名が売れ始めたのが、五年前。審査員は障碍者である自分に配慮しているのだ、と言う同じ絵師の誹りも随分受けて来た。
こう言った心無い批判に叛骨心を抱いたシガキは、怒りを抱き、更に墨絵を仕上げて行く。そしてそれがまた、優秀な賞を受賞する。それが、繰り返される。
気付いた時には、シガキは日本は愚か世界でも著名な美術家の一人になっていた。不自由な動きしか出来ない義手で墨絵を仕上げる、叛骨の画家。
何時だったかそんな風な説明をされていた。今では自分を慕う芸術家は相当数に上るらしく、障碍者の希望としても、機能しているらしい。


982 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 00:59:47 9KVIjEEM0
 思わぬ形で、夢が叶ってしまった。
当時は憎い憎いとすら思っていた右手の義手も、今では自分になくてはならない相棒だった。
これ以外の義手は、もうつけない事としている。一つは、自分の不注意で本来の右手を失ってしまったと言う戒めの意を込めて。
一つは、これからも墨絵師としての自分を支えてくれるであろう、大事な仲間として。

 現在では頻繁にテレビにも出る事があるシガキは、お忍びで、<新宿>某所に存在する寿司屋に足を運んでいた。
金にゆとりが出来、目立ったコンクールも無い暇な時期は、インスピレーションを高めると言う意味でも、身体を休める事がシガキには多くなった。
そんな彼の趣味は、寿司の食べ歩きである。魚市場へ足を運び、評判の高い寿司屋や、世間的には名の知られていない店など、自分好みの店を見つけるのだ。
今彼がいる店の評判は、聞いた事がない。この街では飲み屋の方が儲かる上に、立地条件が立地条件だ。寿司屋は少ないし、人の入りもそれなりだ。
なのに今シガキがその店にいるのは、野暮用を終えて帰路へとつく時に、洒落た外観のこの店を発見したからである。ここで夕食を取ろう、そう考えた。

「タマゴ……いや、中トロだ」

 大将に注文を頼むシガキであったが、ついつい、貧乏であった時期の名残で、タマゴを最初に頼みそうになった。
最早やけ酒を呷り、親の仕送りがなければ生活が出来ない苦学生であったシガキサイゼンは死んだのだ。
少しぐらい、贅沢をしても良いではないか。そう思い、中トロを頼んだ。手際よく、店主がそれを差し出して来た。
キラキラと光る油がピンク色の魚肉にこれでもかとのった、美味そうな中トロ。それを手で掴み、醤油につけ、口元に彼は運んで行く。
美味い。この店は当たりであった。自分以外の人の姿が少ないのが、信じられない程であった。仕込みも良くしているし、シャリの管理も万全なのだろう。
良い隠れ家を発見したと喜びながら、シガキは今度は旬のものを頼み始めたのだった。

 ――一方、その隣に座るフマトニこと、ソニックブームは何を頼むか悩んでいた。
ここの所は懐事情が宜しくない。元々金は潤沢にあった訳でもないのに、寿司を頼んでばかりいては、懐が寂しくなるのは当たり前の話だった。
ソウカイヤと言う一大メガコーポと言う後ろ盾が存在しない以上、この世界に於けるフマトニの立場は、元の世界よりも一段も二段も弱くなるのは当たり前の話だ。
それにも関わらず、ソニックブームが寿司を頼む訳。それはひとえに、ニンジャにとってスシが重要な意味を誇るアイテムである、と同時に。
元の世界ではそれなりの身分であった、と言う思いがフマトニからは未だに消えていない事が大きかった。とどのつまりは――見栄だ。

「サンマ……いや、赤身だ」

 大将にオーダーを行うフマトニ。それを受けて彼は、慣れた手つきで握り始めた。
【……妥協してそれですか】、と言う声が念話で聞こえて来た。放っておけ、セイバー=サン。


983 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:00:04 9KVIjEEM0
 ――アイギス、1万円

 秋せつらと言うサーヴァントは生前、人捜し(マン・サーチャー)である以上に、せんべい屋だった事を強く主張している。
本当ならばこんな職業は引退したいところだったらしいが、需要と供給のバランスがそれを許さない。
せつらの人捜しの腕前は、区内は愚か区外でも評判が高く、<新宿>で探してほしい者や物があるのならば、この男に頼めば間違いないと言われる程だ。
そして事実、せつらは様々な依頼を遂行してきた。その実力には、異論が挟まる余地がない。それを本人は時々嘆いていた。
いい加減僕にせんべいを焼かせるのに専念させてくれないのかな、と。せんべい屋としてのせつらの年収は三千万円程だったが、人捜しとしてのせつらの年収は、
その十倍以上に達する程だ。それだけ需要があると言う事だ。そしその需要はついに、彼の命が潰えるその時までなくなる事はなかった。

 聖杯戦争の舞台である仮初の<新宿>においても、せつらは人捜しのサーヴァントとして、その実力を発揮せねばならなくなっていた。
流石にせんべい屋のサーヴァント、ボイラーなどと言うクラスで呼ばれるのは御免蒙る所であるが、聖杯にからすらも、サーチャーとして認識されていたとは。
色々と、複雑な気分になると言うものであった。

「それで、で、あります。サーチャー」

「何かな」

 相好を崩しながら、せつらは言った。
進化の過程で、或いは、どのような遺伝子の配列になれば、このような男が生まれるのか、と思わざるを得ない、そんな美に、アイギスも戸惑う。
美は追及をし過ぎると、美しいとすら認識されなくなる。極め過ぎた美は、純度が高すぎるが故に、人間的な要素とは隔絶した所に位置づけられる。
美の究極地に到達した時、人は、人として認識されなくなる。怪物として、認識されるようになるのだ。その事をせつらを呼び出してからアイギスは強く認識していた。

「……何故、せんべいを焼いているのでしょうか?」

 アイギスにはそれが疑問であった。
ホームセンターから取り寄せた七輪と、墨。ネットの通販でやはり購入したうるち米と、醤油等々。
それを巧みに利用し、せつらは流れるような動きでせんべいの型を作り、七輪でそれを焼き、次々に仕上げていた。
香ばしい香りが、部屋の中に溜まって行き、換気の為に空けた窓からその匂いがふんわりと外へと出て行く。
今のアイギスの拠点にカウンターの類があれば、人の一人や二人、誘蛾灯に誘われる虫の様に購入しにくるのではないかと思われる程の、せつらの手腕であった。

「もしも聖杯に辿り着いたら、僕もどうしようかなと考えていてね――」

 せつらは語り始める。

「大それた願いもないし、受肉でもしようかな、ってね。今度こそは、平凡にせんべいを焼くのも、いいかなって」

「だから、今練習していると?」

「君も食べるかい?」

「私は……食べる機能が存在しませんので」

「冗談だよ」

 笑みを浮かべてせつらは、次の煎餅を焼き始める。誰に与えるでも売るでもないのに、一袋分の煎餅を焼くとは、物好きな男だった。

 ――やはり、好意でせんべいを渡したのが間違いだったのでしょうか……?――

 せつらが呼び出されてから一日たった頃、アイギスはせつらに煎餅を渡した事を少し後悔する。
「まずい」、と言った時のせつらの顔が忘れられない。不興を買ったのだろうかと思いその時は内心恐れたが、そんな事はなくてその時はほっとした。
……今にして思えば、怒られた方が、マシであったのかも知れない、と思わざるを得ないアイギスであった。


984 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:00:21 9KVIjEEM0
 ――佐藤十兵衛、8800円

 不安な気持ちで、佐藤十兵衛は自宅の一室でスマートフォンを弄っていた。
受験の結果待ちの時ですら、此処まで緊張をした事はなかった。何せ彼にとって中高受験等、それこそ遊びにも等しかったからである。
落ちる気がしなかった、と言うのは十兵衛の言だ。プレッシャーや緊張には、強い。そんな自負が、この青年にはあった。

 それが今は、嘘の様に緊張している。
心臓に陰毛並の剛毛が生えているのではと思わざるを得ないこの男が、何故此処まで緊張しているのか。
それはひとえに、自分のサーヴァントが今現在行っている行為の顛末を案じているからに他ならない。

 結論から言えば、十兵衛が引き当てたサーヴァントである比那名居天子は、現在近所のスーパーに買い物に行っている
無論、そんな事をした時のリスクが計算出来ない程十兵衛は愚かではない。絶対やめろと断ったが、相手は世間知らずの問題児、嵐を呼ぶ不良天人比那名居天子だ。
そんな事を素直に聞くようであれば、誰も不良だとは言わない。外界の様子をこの私が見に行くっていってんのよ、素直に認めなさい童貞と言われた時には、
睾丸がないと解っていても高山で意識を昏倒させてやりたかった程である。が、このサーヴァントの不興を買うのはハッキリ言って面倒極まりない。
仕方ないから外面上はひきつらせた笑みを浮かべつつ、十兵衛はそれを了承。但し、そのままの服装では天子のそれは目立ちすぎる為に、現在の住まいに置いてあった、
妹の萌の服装に着替えさせつつ、近所のスーパーに向かわせた。

 これで、誰が見た所で今の天子は、外面だけは無駄に綺麗なガキにしか認識されないだろう。
だがそれはNPCが見た時の場合であり、聖杯戦争の参加者が視たらその時点で、アウト。それを十兵衛は危惧していた。
要するに比那名居天子は、元々住んでいた所がド田舎――と言う認識――であった事も相まって、現在の外界、つまりそのド田舎の外側の世界について、
興味津々なのである。だったら俺が案内してやると言っても、私は一人で<新宿>を散策してみたいの一点張り。
プライドが高く、お嬢様気質。そんなキャラクターは、二十一世紀の創作物を漁れば幾つも出て来るが、実際にそんな存在と話して初めて解った事が、一つ。
ハッキリ言って、面倒くさい事この上ないと言う事だった。ストレスが順調に蓄積されて行くこの感覚、かなりどうにかなりそうな十兵衛であった。

「――戻ったわよ〜」

 ノックも何も無しに、天子は室内に入って来る。完全に、自分の部屋と言う認識であった。
手に持ったビニール袋ははちきれんばかりに膨らんでおり、俺の金で随分買いこんできやがったな、と言う事を一目で十兵衛は見抜いた。

「……そんで、何を購入されて来たんだ? お嬢様」

「そりゃもう、日々の糧よ」

「菓子は糧って言わねーよ、間食だ」

 サーヴァントは食事の必要もないし、況してや天子は、安い弁当は肌に合わないと言って憚らない。
そんな彼女が唯一認めるのは、所謂御菓子の類。こればかりは、天界で供される菓子とは一味違って、悪くはないのだとか。


985 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:00:33 9KVIjEEM0
「まぁまぁいいじゃない。もうすぐ昼食でしょ? 十兵衛のご飯も買ってきて上げたから」

 自分の菓子と俺の弁当の比率が9.999:0.001の癖によく言いやがるぜ、と言いたい十兵衛だった、グッと堪えた。

「ほう、そりゃ助かるわ。んで、何を買って来たんだ」

「はいこれ」

 言って天子は、ビニール袋から、スーパーの惣菜弁当に売っている典型的な唐揚げ弁当と、大量の春菊が入ったビニール袋を十兵衛の前に差し出した。

「ちょっと待って!! 何コレ」

 唐揚げ弁当は、まあ異存はない。問題は、春菊の方であった。

「春菊だけど」

「いや、俺、ピーナッツと春菊嫌いなんだが」

「知ってるけど」

「知ってる」

「いつもピーナッツを私に食べさせたでしょ」

「食べさせた」

「その意趣返し」

 人の金で何晒してんだと、流石に十兵衛も切れた。天使も逆切れし始めた。
双方共に我儘で、プライドが高い。どちらも全く、精神レベルが似通った主従だと、二人は気付かないのであった。


986 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:00:49 9KVIjEEM0
 ――雪村あかり、2000円

 茅場カエデこと雪村あかりは、自分の演技力に絶対の自信を持っている。
幾つものドラマに出演、遂にはレギュラーポジションとしての地位を勝ち取る程であり、自らのうなじに埋め込まれた、
触手兵器が齎す凄まじい激痛を、全く痛くないと思わせる程の凄まじい精神力。
それら全ては、今もエンドのE組で、何食わぬ顔で教鞭を執っているあの破壊兵器、通称殺せんせーを殺す為に、現在は発揮されている状態だ。
姉の仇を取るまでは、あかりは自分を偽り続ける。そう、全てはその為の演技なのだ。
彼女の無念を晴らそうと、あかりは死を覚悟で必殺の触手を埋め込んだ。例え後々に待ち受けている物が避け得ぬ破滅だと知っていても、
彼女はそれを承知で受け入れた。それ程までに、彼女の覚悟は深く、重い。そして現在、あの地球破壊兵器はそれを全く認識出来ていない。
殺るなら、今しかない。そんな時期に、彼女は<新宿>へと呼ばれたのだ。全く想定外のエラーだったが、聖杯が、どんな願いでもかなえると言うのなら。
この世界でもやる事は変わりはない。全ての参加者を殺しつくし、聖杯へと至るまで。自分が引き当てた手札は、恐ろしいまでの存在だ。
勝ちの目がゼロだと言う事はあり得ない。後は勝って勝って、勝ちまくる。それしかなかった。

 ――それはそれとして、だ。

「……」

 黙々と、雪村あかりは、コンビニで購入したプリンやゼリー類を口に運んでいた。
後にはグミの類も控えており、幾ら年頃の女子中学生の食事とは言え、糖分に偏り過ぎている、と。
思わざるを得ない、そんな三時の一幕だった。

「……何か言いたそうだね、アーチャー」

 言ってあかりは、真正面で、壁に背を預け瞑目しているバージルを見て、言った。

「……何も言うつもりはない」

「……そう」

 再び、腹の中に石でも詰め込まれたような静寂が、場を支配した。
一分程経過して、再びあかりが口を開いた。

「そんなに財政的に余裕がない筈なのに、なんでそんな菓子なんて喰らってるんだ……って、突っ込むのなら今の内よ」

「黙って食え」

 今にも宝具である閻魔刀を抜きはらいかねない程の気魄で、バージルが言った。
黙々とプリンを口に運び続けるあかり。買っておいたそれがなくなったので、今度はティラミスを取り出した。
チョコ味のそれは、如何にも万民受けする味なんだろうと、あかりは勝手に想像した。


987 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:01:01 9KVIjEEM0
「……正直ね、何か小言の一つや二つ言ってくれないと、凄い居た堪れないんだけど」

 流石にもう面倒くさくなったのか、バージルはその場で霊体化をし、あかりの目の届かない別室へと移動し始めた。
正直自分だって、食べたくてこう言ったプリンなどを食べているのではない。

 確かにプリンやゼリー、ティラミスは好物と言えば好物だった。
元は天才子役と言えども、雪村あかりは女の子である。年相応のものは好きであるし、年相応の悩みだってある。
甘いもの、取り分けて柔かい触感のものが好きになったのは、何時頃の事だったろうか。考えるまでもない。触手兵器を埋め込まれてからだった。
あれを埋め込んで以降あかりは水に対して本能的な忌避感を抱くようになったし、甘いものが特に好きになった。
これは触手兵器を埋め込む前にデータを閲覧していた為に、あかりもそう言ったリスクは認識していたが、此処まで強くなるとは思わなかった。

 激痛に比べればまだ我慢出来る餓えではあるが、それでも、限界は来る。
と言うよりも、激痛に比べて、耐えねば死ぬ、と言う程でもない程度の苦しみだからこそ、解消したいのである。
前者の方は耐えられねば本当に死ぬ為に、必死に耐える事が出来るのだが、後者の方は、別段耐えられなくても死ぬ訳ではないから、ついつい解消に走ってしまう。
その結果が今の、大量のプリンやゼリー、ティラミス等であった。

 つくづく、触手兵器としての本能が憎い。
口にこそ、武士の情けのつもりなのかは解らないが、バージルは全くあかりの現在の食事に突っ込まなかった。
それがかなり悲しいと言うか、哀れっぽいと言うか。まだ小馬鹿にする発言の一つや二つ、送ってくれた方が、まだ救いがあると言うものであった。

「……おいし……」

 プラスチック製のスプーンで、ティラミスを掬って、あかりは口へと運んで行った。
如何にもなジャンクフードと言った風情でありながらも、チョコの味とココア味のスポンジのバランスが実に素晴らしい、研究された味だった。
一人で食べる甘味は美味い……訳もなく。はあ、と大きなため息が口から漏れ出るあかりであった。


988 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:01:33 9KVIjEEM0
 ――伊織順平、1200円

 W大学の御膝元の街である高田馬場周辺は、数多くの食事屋が店を開く場所である。
ラーメン屋もあればカレー屋もあり、大衆食堂もあるし、夜になれば居酒屋も暖簾を出し始める。
それだけに、伊織順平はゲーセンが終わるといつも、何処で何を食べようか迷うのだ。
S.E.E.Sと忘れられない体験を送った、あの埋め立て島の繁華街よりも賑やかな、高田馬場の街並み。
今は昼飯時なのか、道すがらサラリーマンよりも、明らかな学生風の男女の姿が目立ち始める。
この時間になるとそろそろどの店も混み始める頃合いだ。なるべくならば早く決めたい所である。

「今日は何喰いたいよ、えーこー」

 今順平が言ったえーこー、本来ならば栄光と書いてはるみつと読む。
彼は順平が呼び出したサーヴァントであり、例え真名とは違う読み方であろうとも、クラス名で呼ばない、いやそれどころか、
自らのサーヴァントを実体化させると言う愚を、リアルタイムで彼は犯している事になるのだが、露呈する心配は全くない。
と言うのも、彼、ライダーのサーヴァントである大杉栄光は極めて隠匿性の高いサーヴァントであり、余程相手がそう言ったスキルについての看破能力が高くない限り、
先ず一目でサーヴァントだと露見しない。それを解っているからこそ順平は実体化させているのである。

「そうさなぁ……正直この街は初めてだし、お前に任せる気でいたんだが、たまには俺が決めないとな。お前にばかり決めさせるのも、しんどいだろうしな」

「おっ、配慮してくれるって訳? 照れるね〜、この色男」

「ハッハッハ、生きてた頃は両の指でも数え切れない程の女と付き合って来たからな……っと、アレが良いんじゃないか?」

 と言って栄光はある一方向を指差した。
それは、小洒落たカレー屋であり、聞いた事もない店名から推測するに、フランチャイズの類でない事が解る。
カレーショップ『じゅんぺい』。それが店の名前らしい。こいつ絶対に俺と同じ名前だから選んだな、と順平は思った。
ぞろぞろと人が並び始めている。並んでしんどくならないのは、今のタイミングを置いて他にない。
栄光が食いたいと言っているのだから、それでいいだろうと思い、順平達は並び始めた。

「見ろよ順平、食の殿堂。辛党が行き着く究極の境地だとよ。大きく出たな。食ってみたくねぇか?」

「ハハハ、お前、一番辛いカレーって言うのはさ、俺も一度食った事あるよ。スパイスでルーがペースト状になってんだよ。もう辛くて食えなくてよ、翌日トイレに行くのも苦痛なレベル何だぜ?」

「へー……や、ビビってる訳じゃないが、今日は中辛程度で済ませてやるよ」

「はは、そうすっか。辛すぎる奴食うと数時間後に後悔するからな、俺もそれ位の辛さにするか」

 店の回転率は速いらしく、順平達はすぐに店内のカウンター席に案内された。
自分達のすぐ後ろに並んでいた男二人組は、テーブル席へと案内された。何を頼もうかなと思いメニューに目を通すと、自分達の後ろにいた男達が、それなりに大きな声で話を始めた。

「私達は、辛党を自称しているんだが、もうこの世の中にある辛いと言われる物は全て食べつくしちゃ、しまったんだよ。なぁ?」

 言って、スーツを着た男は付添と思しき青年に同意を求めた。コクコクと男は頷いた。

「はぁ……そうですか」

 店員の、不良風の男が興味無さそうに返事した。

「で此処では、そんな僕らでも食べた事のない、と言う極上のカレーを提供していると聞いたんだが?」

「ありがとうございます。仰る通りでございます。ン゛ン゛ッ」

 其処で少したんが絡んだのか、一拍置いてから、その店員は話を続けた。

「お客様に相応しいカレーを、提供しておりますので。どうぞお楽しみ下さいませ」

「もう待ちきれないよ、早く出してくれっ!!」


989 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:01:46 9KVIjEEM0
 どうやら、此処のカレーはそんなに美味しいらしい。
やはり辛い方が美味しいのだろうかと思い、順平は頼み直そうとしたが、もうメニューは注文してしまったし、厨房で作っている店員達も早速手をつけ始めた。
今更頼み直すのは、少々勇気がいるところだった。

 待つ事、数分。順平達の下に、オーソドックスなカレーと、グリーンカレーが届けられた。
それに遅れて、一番辛いカレーを頼んだ客二名に、件のカレーが運ばれて来た。

「おっ、確かに辛いし汗もかくが……これはこれで美味いな」

 適度に水が欲しくなる辛さ、スパイスがしみ込んだビーフ。そして、研究された堅さの米。成程、これは美味い。満足の行く味である。

「ヒー、辛ぇ……。グリーンカレーって言うからには控えめだと思ったのによ〜……」

 初心者が陥りがちな間違いである。
野菜を使ったカレーだからそんなに辛くないと思われがちであるが、実際グリーンカレーと言うものはどのカレーショップでも怏々に、
中々辛い位置にポジショニングされている物である。「頼んで失敗したなぁ」と順平は笑っているが、此処で彼に食べさせるのも、栄光の男が廃る。何とか完食しようと、スプーンを動かし始めた。

「あー、もう勘弁してくれ……!!」

「勘弁してくれ、と言うのは、私達のカレーにケチをつけると言う事で、宜しいんですかね?」

「お客様いけませんねぇ、最初に言ったはずですよ、御残しは一切許しませんと」

「誰か殺してくれ……」

「これでは辛党の名が泣くな!! なお前もそう思うよな!!」

「全くで御座います。この程度で辛党などと……」

「素晴らしい……これこそ辛党だな!!」

 向こうは向こうで、想定外の辛さであったらしく、かなりの地獄絵図が展開されていた。
このカレーに限り頼んだ以上は完食前提(意味不明)らしく、店員が必死に彼らにそのカレーを食べさせている。
無論手ですくったりではなく、ちゃんとスプーンを使っている。食品衛生法に触れるからだって、ハッキリわかんだね。

「……頼まなくて良かったな、順平」

「……あぁ」

 両者共に、コップの中の水をグイッと一杯あおりはじめる。
熱くなった口内に、冷たい水の心地よさが、とてもよく染みるのであった。


990 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:02:03 9KVIjEEM0
 ――ルイ・サイファー、780円

「マスター」

「何かな?」

 エクトプラズム製の椅子に腰を下ろし、その金髪の紳士は優美な笑みを浮かべて言葉を返した。
中世魔女狩りの時代に、当時の異端審問官やその母体である基督教の幹部達が、その尽くを焚書したとされる、幻の書物を、彼は読んでいた。
黒山羊の頭に人間男性の胴体と言う、邪悪で冒涜的な姿をした邪神・バフォメットとの乱交会であるサバトに参加した一人の魔女が著したとされる書物。
彼の邪神と饗する暗黒の晩餐の様子と、彼から授けられた様々な冒涜的な魔術の数々を記したとされるその幻の魔術書(グリモア)に、彼は目を通していた。

 何故、当時の歴史の覇者が、影も形も残すまいと努めた魔術書が、このメフィスト病院に存在するのか?
そして、この病院に君臨する、白き闇が形を成したとしか思えない魔人は、どのような手練手管を用いてこれを手に入れたのか?
恐らくその謎を解明出来る者は、誰一人としているまい。何故ならば、思考の海に潜った所で、その院長の姿を見れば、謎など吹っ飛んでしまうからだ。
――ああ、この男ならば、手に入れてしまうかも知れないと。その畏怖すべき美を以て、彼の邪神の方から魔術書を献上しに来ても、おかしくないのだ、と。
悪魔を魅了し、邪神を惑わし。夢魔(リリス)をも嫉妬に狂わせかねない程の美を持つ男、ドクター・メフィストなら、と。

「貴方は食事を摂らなくても問題はないのかね?」

「機を見て近くの食事屋に足を運ばせて貰っているよ」

「嘘は吐かない方が身の為だ。それとも、君には食事の必要性はないのかな」

 フフッ、と不敵な笑みをルイは返すばかり。身体が焼かれんばかりのメフィストの美を受けても恬淡とした態度を崩さぬ、底なしの精神力だった。

「天使はその位階が引き上げられればられる程、身体を構成する要素が物質的なそれから、霊的なものに変化して行く。エーテル、霊素、炎、雷、光。
特に熾天使ともなれば身体の全てが余す事無く神聖かつ霊的なそれであるから、生の人間はそれを直視すれば精神的な均衡すらも崩れかねない。
つまりは、飢えや老い、病の苦しみとは無縁と言う訳だな。……貴方にそれを説明するのは、天使に讃美歌の意味を聞かせる様なものであろうがな」

「いや勉強になったよ、流石だなメフィスト」

 と、ルイは言うが、本当に参考になったのかどうかは、解らない所であった。

「マスターの身体は特に劣化が著しい。無理やり此処に来た代償だ。本来は必要ないのだろうが、今は、人間が食べるような食事を摂ってみるのも、良いのではないかね」

「少しの酒があれば、如何にでもなるさ」 

「禁酒は健康な身体への第一歩だ、マスター」

「ルキフグスみたいな事を言わないでくれたまえ……おっと」

 余計な事を言ってしまったと言った風に、少し悪戯っぽい笑みをルイは浮かべた。
茶目っ気のつもりであろうが、既にメフィストは、この男の正体を解き明かしている。
今のメフィストにとってルイと呼ばれる男は、xやyの解き明かされた方程式の様なものなのである。


991 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:02:16 9KVIjEEM0
「まぁ、食事を摂る分には問題はないか。頼むものは、君に任せるとしよう」

「ほう、宜しいのかね」

「君が何を好む所とするのか、気になるのでね。まさか霞を食べている訳でもあるまい?」

「理想とする所ではあるがな。解った、そう言う事ならば、十数分程待ちたまえ」

 そう言ってメフィストは、黒檀の机の上に置かれた内線で、メフィスト病院の何処かに連絡。
子機を元の場所に置き始めてから、十数分。緩やかな時間が流れ始めた。メフィストは、黒檀の机に置かれた、エドガー・ゲイシーが著したとされる、
アカシックレコードについて記された三十ページ程の小冊子に目を通し、ルイの方は先程の書物に目を通す。
そんな時間が流れていると、空気分子をスクリーン代わりに、映像が、メフィストの目の前に展開された。
「出前の方がお見えになられました」、若い男性のスタッフはそう告げた。

「此処に転移させたまえ」

 言ってからのスタッフの行動は迅速だった。
すぐに、メフィスト病院に届けられた、出前の商品が、黒檀の机の上にまで転移させられた。
魔術書をパタンと閉じ、ルイはその方向に目をやった。中華風の丼にはラップがかけられており、その内部で蒸気が蟠っている事がルイにも解る。
成程、確かに美味しそうではある。――が。

「これは何かな、メフィスト」

 この男に口説かれれば、至上の幸福を味わった末、石ころですらその場でダイヤに代わるのではないか、と言う程の美を持った男が頼むものとは思えなかったので、ルイは改めて問うてみた。

「タンメン、だが」

「好物なのかね?」

「如何も、私に勝手なイメージを当て嵌める輩が多くて困るのだがな」

「成程、失礼した」

 言ってルイはにこやかな笑みを浮かべて、黒檀の机に近寄って行く。
丼は、二つあった。ルイの分、メフィストの分。時刻は、十二時を回っていた。院長にしても、昼食時であるらしかった。


992 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:02:40 9KVIjEEM0
 ――北上、400円

 一人で自炊して解った事であるが、スパゲティと言うのは本当に偉大な発明だと北上は思う。
必須栄養素である炭水化物を摂取出来る点が先ず良い。つまりは、米やパンの代替物になる。
次に、安い。有名会社が打ってある、一束を細い紙で纏めてあるタイプは通常よりも割高になるが、それ以外、茹でる量を自分で決められる、
結束以外のタイプの奴は、量も多い上に値段も通常より安い。これを北上は購入している。
お次に、手軽に作れる。今ではスーパーに行けば、パスタを電子レンジで茹でる事が出来る専用の容器と言うものが売られており、
それを利用すれば鍋に水を張ってゆで上がるのを待つ、と言うのではなく、レンジでチンすれば二分か三分其処らで出来上がるのだ。
そして何よりも、それなりに美味い事である。但しこれはパスタソースに左右されるが、それを差し引いても、美味いのである。
正直北上からすれば、イタリア人が発明したものの中では、ピザと並んで偉大な発明と言っても良いだろう。こればかりは、評価をせざるを得ない。

 <新宿>で演じるロール上、北上が使う事を許されている金銭量は少なめである。
故にそれなりに節制を志さねばならない。しかし、艦装を外されたとは言え、艦娘は本質的には人間に限りなく近い生命体である。
通常は燃料やボーキサイトが一番効率の良いエネルギー摂取源であるのだが、彼女らの優れた所は、人間が摂取する食事からでもエネルギーが賄える事に在る。
サイボーグと言うものは、電気や石油で動くよりも、人間が取る食事からエネルギーを摂取できるタイプが科学的にも一番の理想体である。
故に彼女らは兵器と言う観点から見れば、極めて高い完成度を誇る決戦兵器でもあるのだ。
艦娘がそう言った目で見られていた事は、北上に限らず艦娘の誰もが否定しないし、それは仕方がない事だとも考えていた。
だが多くの艦娘は、食事は、次の戦闘に繋がる栄養摂取プロセスとみるよりも、艦娘の人間としての欲求を満たす重要な行為であると認識していた。
これは彼女らを指示していた提督にしても同様で、彼女らの休息時間、特に食事や睡眠、風呂回り等、かなり気を使っていた程である。
それ程までに、艦娘にとって食事と言う行為は重要なのである。

 だがそれにしても……。

「随分とグレード下がったな〜」

 苦笑いを浮かべて、ちゃぶ台の上に置かれたスパゲティを見つめる北上。
赤々としたミートソースが乗っかった、オーソドックスなそれ。ソースは通常スパゲティと別売りである事が殆どで、だからこそ北上は、
そう言ったソースを買わず、家に買い置きしてあった醤油とシーチキンを混ぜたものをかけて食べていたのだが、今回は、ちょっと奮発した。
所謂、ちょっとした贅沢と言う奴ではあるが、艦娘として働いていた時期に比べれば、随分と食事の質が落ちたものだ。
あの頃はしっかりと栄養が考えられた食事の他に、間宮がとても美味しいデザートを作ってくれたりもした。
そして、同じ艦娘と笑いながらそれらを口にしていた。あの頃はもう戻らない。皆艦娘としての役目を終え、各々の道に進み始めた今となっては、だが。

「もう少し栄養を考えてみたらどうなんです? マスター」

 ちゃぶ台の向かい側に座る、アサシンのサーヴァント、ピティ・フレデリカが進言する。
彼女の机の方にも、スパゲティが置いてあった。北上のそれと同じ、ミートソースだ。

「栄養バランスを考えた食事だと、金銭のつり合いがねー……」

 栄養バランスと言う物を考慮した場合、必然的に野菜を購入しなければならなくなるのだが、この野菜と言うものがまた安くはない。
今の北上の所持金では、少し購入するのが躊躇われる。確かに栄養を万遍なく摂取した方が良いと言うのは正論中の正論だが、それは理想論でもある。
バランスをしっかり考えるとなると、相応の出費が必要となる。つまり、健康な肉体と言うものは、ある程度の金をかけねば、買えないのだ。
少なくともこの聖杯戦争中においては、北上は健全な食生活は買えない。悲しい話であるが。

「マスター、健康な食生活は十分な睡眠と十分な洗髪に並んで、重要な要素です」

「洗髪……? 何で其処で洗髪が出てくるの」

「髪が傷みますから」

「はぁ」


993 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:02:53 9KVIjEEM0
 肉体面の健康に訴えるのではなく、髪の綺麗さに訴えかける理由が、北上には理解不能だった。
北上も艦娘であり、女である以上、美容にだって拘りたい。だが、美容を志すと言うのは、健康な食生活以上に金が掛かるものだ。
少なくとも、聖杯戦争中はそれ程神経質になる要素でもない。北上はそう意見した、が。

「駄目です」

 一蹴された。

「北上さん、貴女は私のマスターであると同時に、一人の女性なのです。女であると言う事は、そう簡単に捨てて良い事柄ではありません」

「や、捨てるつもりはないんだけど」

「少なくとも、です。女である以上は、最低限美容には拘りましょう。食生活はその一歩。明日からで宜しいですから、改善して行きましょう」

「うーん……うん」

 どうにも釈然としないが、食生活を正そう、と言う意見は正直尤もな所はある。
他ならぬ自分が呼び出したアサシンの進言である。はいはいといって、無視するのも心苦しい。
スパゲティを購入した近所のスーパーでは、ブロッコリーが安かったはず。あれを茹でてマヨネーズをかけるだけでも、大分違うだろう。
そんな事を思いながら、北上は、湯気を今も立たせるスパゲティをフォークで巻き、口元へと運ぼうとした。それに倣いアサシンも、スパゲティを巻き始めた。

「あれ? ねぇ」

「如何かしましたか?」

「や、気のせいかな? 一瞬アサシンのスパゲティに黒くて細いパスタが混じってた気がするんだけど……気のせい?」

「気のせいでは?」

「そうかな……おっかしーなぁ、焦げた奴何てない筈なんだけど」

 アサシンが問題ないと言うのならば、そうなのだろうと思い、取り敢えずパスタを口に運ぶ。
北上の髪の毛が十本ほど、フレデリカのパスタに混じっている等、まさか夢にも思うまい。


994 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:03:19 9KVIjEEM0
 ――セリュー・ユビキタス、330円

 立場上地方から上京し、親の援助で一人暮らし、警察官を目指していると言うセリューは、必然的に使える金額が限られてくる。
この<新宿>におけるロールは、そのまま使える金額や、行使出来る権限にダイレクトに関わってくると言っても良く、セリューは特に、制限を多く受けていた。
使用可能な金銭などその最たる例で、必然、切り詰めなければならなくなる。

 人間、思わぬアクシデントで懐に入る金額が減った時、真っ先に切り詰める候補に挙がるのは、食費である。
人と食は切っても切り離せない重要な要素であるが、生活を送る上で絶対に欠かせないインフラ料金などとは違い、即座に切り詰められる上に、
目に見えてその効果が表れるのが、食費なのだ。だから人間は、生活のグレードを落とさねばならない局面に直面した時、先ず食事から如何にかしようとするのだ。

 元々、もといた所でセリューが職務を全うしていた、帝都警備隊も、其処まで給金が良かったわけではない。
何せ彼女は下っ端だ。公務員とは言えど、そう言った給金の格差はある。だからこそ、一部では汚職と言うものが罷り通っているのだが。
尤も、給金が少ないからと言って、文句を垂らした事はあれど、今の仕事を辞めようと思った事は一度もない。
何せセリューは、正義を全う出来れば、それで良いのだ。正義を成す事が出来れば、サラリーの低さの不満など、吹っ飛んでしまう。
セリュー・ユビキタスと言う女性は、そんな女だった。

「さ、出来ましたよ!!」

 言ってセリューは、如何にも安っぽい、ニトリか何処かの家具量販店で購入したちゃぶ台の上に、今日の昼食を広げ始めた。
電子レンジで温め直した今朝の米、インスタント味噌汁。そして、カットされたキャベツに辛味噌を乗っけた物。
……以上、七月某日の、セリュー・ユビキタスの昼食だった。

「……」

 セリューのサーヴァントであるバーサーカー、バッターは寡言である。多くを語らず、必要な時しか言葉を喋らない。出来る者は多くを語らないのである。
ジッと、セリューはバッターの事を見つめていた。真珠の様に白い瞳が、セリューを射抜く。

「……毎度思うが、質素な食事だな」

「何も食べられないよりはマシですって!!」

 それはそうである。何も食べられない人物からすれば、セリューの食事は豪華なものに見えるだろう。
他人の食事をとやかく言う筋合いは、バッターにはない。極端な話、セリューがカップヌードルを啜っていた所で、何の興味もない。だが――


995 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:03:30 9KVIjEEM0
「何故俺も付き合わねばならない、お前の食事に」

「食べられる時に食べないと、いざという時に身体が動きませんよ。帝都警備隊時代も、その教えは徹底されてましたから」

 セリューの様な、緊急出動が多い職場だと、食事は愚か睡眠ですらも不定期な事が多い。
その為、眠れる時には眠り、食べられる時には食べる、と言うのは彼女の様な職業に就く人間には、基本中の基本であるのだ。
そう言った仕事を行っていた時期があるセリューにとって、このように、好きな時に食べ好きな時に眠れる時間と言うのは貴重なそれである。
貴重ではあるが、それをかまけてダレた生活を送るのは宜しい事ではない。決められた時間に、三食食べる。それがセリューの<新宿>での日常だった。
好ましい事ではある。だが――

「俺は食事を摂る必要がない」

 鉄の様に厳しい口調でバッターが言った。
ちゃぶ台には、食事が二人分用意されていた。一つは言わずもがな、セリュー・ユビキタスのもの。
そしてもう一つ、セリューの物より多めに米が盛られた茶碗側が、バッターのもの、であった。
バッターにそもそも食事が不要と言う訳ではなく、サーヴァントはそもそも魔力で構成された存在の為、食事の必要性がないのだ。
その事をセリューに何度も訴えているが、彼女はそれを憶える気配が全くない。寧ろ、一緒に食べた方が美味しいじゃないですかと言う始末だ。

 ――存外、我が強い女なのかも知れないな……――

 バッターの事を見つめるセリューの瞳に、悲しいものが過り始めた。
このまま拗らせるのも面倒なので、仕方なくバッターはちゃぶ台に近付き腰を下ろした。彼女の笑顔に、晴れやかな物が戻りだす。
頂きます、と言う元気な声が、狭い部屋中に木霊しはじめるのであった


996 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:03:47 9KVIjEEM0
 ――遠坂凛、0円

 現代の科学では人間の身体の六割近くが水で構成されていると証明されている事からも解る通り、人にとって水分はこれ以上となく重要な要素である。 
尤もこれに関して言えば、現代の科学で説明せずとも、例え千年二千年前の人間に説明しても、皆は納得するであろう。
最古の哲学者である古代ギリシアのタレスが、万物のアルケー(根源)は水であると説いていた。
四大文明と言うものの多くが、潤沢な水量を誇る大河の付近で栄えていた。これらの事柄から、古の人々もまた、水がなければ生きて行けないと本能で察知していたのだ。

 人の身体には脂肪と言う緊急のエネルギー源が備わっており、例え何も口にする事がなくとも、数十日は生きられるメカニズムになっている。
しかし、水を口にしないで生活するとなると、生存可能日数は、食物を口にしないで生きられる日数の十分の一を切る可能性が高いのだ。
人の身体は水で以て、生きる上で欠かせない化学反応を起こすシステムになっているからである。これらの事実から解る事は、つまり人は、
例え食事を摂っていなくても、水だけはあれば、何とか一月近い日数を凌ぐ事が出来ると言う事であった。

 だが、遠坂凛は、まさか自分が、其処までの極貧生活に陥る事はないだろうと思っていた。
馬鹿な弟弟子のせいで家の財政は往時に比べかなり悪化したが、それでも、食う物に困る程生活に困窮した事はただの一度としてなかった。
それも凛が、しっかりと家計をつけ、生活に必要な金銭と、魔術師として活動するのに必要な資金を用意調達していたからである。
真面目に打ち込んでいれば、生活に困る事はない。況してや自分が、明日食う物にも困る程落ちぶれるなど、ない筈だ。そう思っていたのだ……。

 現在凛は、死体だらけであった居間にちょこんと座っていた。
此処も昔は死体で溢れていたが、流石に気が滅入るので、自分が呼び出した最悪のバーサーカーに片付けさせた。
それでも、畳に染みついた血痕は消えない。うっかり死体の破片の名残であった大脳の破片を踏んだ時は、本気で絶叫しそうになった。
かなり、現状での遠坂凛の精神は危うい所まで来ている。冬木での堂々とした、如何にも育ちの良いお嬢様然として気風は最早存在しない。
あのバーサーカーの気まぐれに神経質になり、何時誰が此処を襲撃して来るか、と言った不安に押し潰されそうになる一人の少女が其処にいるだけだった。

 それだけでなく最近は、碌に睡眠もとっておらず、食事も摂っていない為か、栄養状況も酷い。
その食事であると言うのだが、不幸な事に、黒贄が奪ったヤクザの邸宅には食糧がそれ程存在しなかった為、食べ置きも出来ない。
何か外で買いに行こうにも、自分の顔と名前は全国規模で売れてしまった為に、それも事実上不可能。黒贄に買い物に行かせるなど以ての外。論外だ。
ヤクザの死体から財布を奪い、出前を頼む……と言った事も考えたが、それだけは、最後のプライドが許さなかったので、やめた。

 では現在、遠坂凛は何を口にしているのか。彼女は今湯呑を手にしていた。其処には氷を入れた水が、張られている。
其処に、食塩を数g入れたもの。それが、現状の凛の昼食であった。現状、持ち金も少なく、邸宅に備蓄されている食料もかなり少ない
一日一食生活。それが、今の遠坂凛の基本であった。彼女は己の資材を一切無駄に出来ない状態なのだ。それが故に、この食事とも言えない食事だ。
塩分は人体の必須栄養素の一つ。水分は、最早説明不要。その二つの栄養素を無駄なく摂取できる食塩は、何と優れた食物か――。

 と言う自己暗示が、通用する訳がない。
どう足掻いても食塩水は食塩水だ。腹は膨れないし、そもそも本当に栄養を摂取出来ているのかも解らない。
本当に……どうしてこうなってしまったのだろうかと、考える事が凛には多くなる。完全に、末期の人間の思考であるとは、彼女は気付いていなかった。

「……はぁ……」

 食塩水の入った湯呑をテーブルに置き、其処に凛は突っ伏した。夜までは動くのをよそう。エネルギーの無駄であった。

 ちなみに黒贄は別室で、相変わらず自分だけの作業に没頭していた。
金に困ったら食塩水が良いと言うのは、実は彼のアドバイスであった。水と塩だけで四十日弱も生活していたと、彼は誇らしげに語っていた。
当然、お前のせいでいらない困窮を味わっているのだと、遠坂凛は身体の中のエネルギーが無駄に消費される事をお構いなしに、激怒したのだった。


997 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:04:13 9KVIjEEM0
 ――ジョナサン・ジョースター、0円

 新宿御苑周辺を拠点にし、子供達と遊び始めてから幾日か経った頃。
子供達の母親と一緒に、昼食をこの場所で食べる事がジョナサンには多くなった。
断るのも失礼だと思い、一緒に食べる機会がジョナサンには多い。この申し出はありがたくもあった。
この世界に於いてジョナサンのロールと言うものは、もといた世界の時の様な、名家の生まれと言うそれではないのだ。
有体に言えば、元の世界での潤沢な財力と言うものが、この世界で消滅している状態と言っても良い。
今日の糧に困る程困窮している、と言う訳ではないが、それでも、なるべくの節約は志したい状況である。
そんな中で、子供達の母親の申し出は、有り難く頂戴するべき干天の慈雨であった。空腹も満たせるし、子供達や親との親交も深められる。悪い事ではなかった。

「お料理が上手ですね、宮城さん」

「あら御上手ですわね、ジョースターさん」

 言って、まだまだ三十にもならないだろう若い女性が、照れ臭そうにそう言った。
彼女が持って来たタッパーには卵焼きやタレのかかったミートボール、ドレッシングのかけられたレタスやキュウリ、トマトのサラダ等、
色取りも良く栄養もしっかりしてそうで、何よりも美味しそうな雰囲気がこれでもかと漂っていた。
他の母親が持って来た弁当箱やタッパーにも、めいめいの料理が中に込められており、各々の家庭の雰囲気と言う物を、ジョナサンは感じ取る事が出来た。

「へへ、こうは言ってるけど、母さんは余り料理得意じゃなくて、何品かは冷凍食品なんだぜ、ジョジョ」

「コラ、圭介!!」

 言って、宮城と呼ばれた母親は、自分の子供である、如何にも腕白そうな風貌をした子供を叱った。
顔が赤らんでいる所から、どうやら本気で恥かしかったらしい。周りの母親達も、クスッと笑い始める。

「はは、圭介君。お母さんが折角お料理を作ってくれてるんだ。そう悪く言うもんじゃあないよ」

「はーい」

 如何にも悪ガキそうな風貌をしているが、圭介と呼ばれたこの少年が素直な性格をした子供である事はジョナサンも、当然母親の宮城も知っている。
若い時分に親に隠れてタバコを吹かしていた自分に比べれば、全然可愛げがある方だと、ジョナサンも思っていた。

 宮城が握ったお握りのサランラップを剥がし、口に運んでいると、近くで「コラッ」と、またしかる声が聞こえてきた。
今度は宮城のものではなく、別の母親からだった。この声は、佐藤と呼ばれる、やや小太りの女性のものだったか。

「駄目でしょう奈美。お箸の使い方がまた間違ってる」

「だって〜……」

 言って奈美と呼ばれた黒髪の少女は、面倒くさそうな表情を浮かべた。
如何も話を推測するに、子供の箸の使い方が間違っている事を、佐藤は叱りつけているらしかった。
ジョナサンが生きた時代に於いて、日本と言う国は極東の一島国であり、まだまだ取るに足らない小国と言う認識であった。
<新宿>に導かれ、現代の日本と英国の関係を歴史書で学んでみた所、百年以上前と比較した場合、完全に立場は逆転していると見て間違いはなかった。
自分の死後に一次大戦と言うものが勃発し、イギリスの国力は疲弊。それを皮切りには、イギリスは沈んでは少し浮かび上がり、また沈むを繰り返しているらしかった。
永遠の絶頂など存在しない、と言う事をまざまざと見せつけられたジョナサン。やはり、紳士的に、そして、謙虚に生きるのが重要だと言う事を認識させられた瞬間だった。


998 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:04:25 9KVIjEEM0
 少なくともジョナサンの生きた時代では日本と言う国の立場はまだまだ弱小のそれであった為に、彼は日本の文化についてまだまだ勉強不足な側面が多い。
食の様式についてもそれは同様で、箸だなどと言う道具など、つい最近知った位であった。
見た所細長い木の棒で食事を挟むと言う単純な道具であるらしいが、どうやらそんな道具にも、正しい使い道と言うものが有るらしい。食文化とはつくづく、面白いものだ。

「だって〜、これでもちゃんと食べられるもん」

 そう言って奈美は自分の箸の握りを母親に見せる。
正直何処が間違っているのかジョナサンには皆目見当もつかないが、この国の常識に照らし合わせれば、間違った握り方らしい。

「全く、そんな握り方じゃ笑われるわよ。皆見てないようで、そう言う所はしっかりとみてるものよ」

「え〜……」

 言って奈美は、ジョナサンの方に目線を向けた。助け船を出してほしい、と言う事だろうか。

「奈美ちゃん、お母さんの言う通りだよ。テーブルマナーって言うのにはね、皆はうるさいんだ。今から学んでおかないと、大きくなってから笑われるよ」

 フォローしてくれるかと思いきや、逆に母親の方に加勢した為、一瞬だけ驚いた表情を奈美は浮かべる。
やがて、観念したように、箸の持ち方を母親のそれに似せて持ち始める。彼女にはかなり難しいらしく、かなり四苦八苦していた。

「ありがとうございますジョースターさん。流石はテーブルマナーの国ですわね」

「本当ですね。きっと子供の頃から厳しく仕込まれて、さぞ食事時のマナーもしっかりなさっていたのでしょうね」

「……ハハハ、お恥ずかしい」

【何で乾いた笑みを浮かべるんだ、マスター】

 誰がどう見たって褒められているのに、何故か複雑そうな笑みを浮かべるジョナサンであった。
まさかテーブルマナーに関しては昔は本当にダメダメで、父親からも厳しい折檻をされていたなど、まさか言える筈がないのであった。


999 : 新宿のブランチ ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:04:54 9KVIjEEM0
さしあたって投下終了です


1000 : ◆zzpohGTsas :2015/11/23(月) 01:07:36 9KVIjEEM0
【次スレ】
ttp://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/12648/1448208416/


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